松風危機一髪! (かえー)
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1話

「聞いてよ不知火!!」「うん?」

「いいこと思いついたの!!」「なんです?」

「松風って、男の子な気がするの!!」「…?」

「最近松風が話題みたいなの」「ほぉ」

「気になったから私が調べようと思うのよ!」「はぁ」

「そうすればこの学校の謎がまた一つ解き明かせるわ!」「へぇ」

「男子がいるってわかったら大ニュースよ!どうかしら不知火?」

 

腕を組んで不知火が数秒かたまる。本を置き眼を見開き、静かに告げた。

 

「しょうもないです、陽炎」

「い、いやなんでよ!確かにレーベちゃんは女の子だったけど松風が男説に関しては証拠が…!」

「…知りすぎない方が、陽炎の身に危険は及ばないと思いますよ」

「いやいや…流石にそれだけのことで…不知火?」

 

不知火がいた机の上には、先ほど不知火が読んでいた本だけが置いてあり不知火は忽然と姿を消していた。陽炎はニカリと笑うと立ち上がり作戦の準備を始めた。

数日前、陽炎は不知火とともに転入生あきつ丸とドイツからの交換留学生レーベが男性かどうかを検証した…あの手この手を使って手に入れたものは、担任足柄の未婚の情報と、反省文10枚の課題だった。陽炎はそこから人のグレーゾーンには踏み込まないと誓ったのだが……

 

「今回、松風男説の助手として…頼むわよ雪風!」

「お任せ下さい!大スクープ狙っちゃいますよ!!」

 

空き教室にて机を合わせ会議する二人。時刻は午後4時を回り辺りは帰る学生たちであふれかえっていた。今は再試期間で部活は停止しており陽炎は制服のままである。陽炎と雪風はお互いのメモ用紙を見合わせ情報を交換した。

 

「×日昼13時…1年生I氏はプリントを運んでいる時にこけそうになったところを松風につかまれ助かる。その時松風は投げキッスをして『次は気を付けてくれ』と笑って去っていった模様」

「なかなかやり手ね…私も有るわ、▲日午前10時、体育の時間に足をひねったK氏を御姫様だっこで保健室に連れて行ったらしい…後にK氏は『すごくドキドキしたけど、ものすごく恥ずかしかったわよ…』って言ってたわ!」

「…それ陽炎さんじゃないですよね?」

「違いますぅー!これは背の低いK氏ですー!でも他にもキスされたとか、ミスターコンに出たとか…男装して過ごしているとか…極めつけは男子トイレに入って行ったとか」

「うーん…私たちも実際に近くに行ってみませんか?3組はあまり一緒にならないので…」

「そうしましょ!じゃ、雪風行ってきてよ!私は陰で観察しているから!!」

 

うんと2人頷き、教室を出た。雪風はメモをしながら1年3組の前を通る。それを陽炎は壁から覗くが、3組の中には松風はいなかった。落胆して後ろを向いた雪風の前に松風が現れたのだ。

 

「どうしたんだい?」

 

わあっ!?とバランスを崩して後ろに倒れる雪風、すると松風は雪風を抱き寄せ、メモ帳を右手でキャッチした。雪風は急に体が熱くなりドキドキと胸が高まる。松風は雪風を立たせて二コリとほほ笑んだ。

 

「ごめんね急に後ろから話しかけて、今日はみんな帰ったんだ。また明日来てくれるかな?」

「は、はいぃ…///」

「後…君の名前は?」

「雪風ですぅ…///」

「そっか…うん、良い風に会ったよ、また明日ね」

 

雪風はすっかり松風の虜になってしまい、直接聞く事を忘れ手を振り見送ってしまった。その様子を見た陽炎は走って雪風の元へ向かった。

 

「雪風!どうだった!?」

「…松風さん……かっこいいです…」

「それは見ててわかったわよ!男か聞いた?」

「そんなことどうでもいいじゃないですか…松風さんはかっこいいんです…」

 

雪風は完全にメロメロになり、棒立ちになっていた。陽炎は教室まで雪風を引きずり椅子に座らせる。そしてダッシュで教室を出て松風の元へ向かった。

 

「松風さん!ちょっと聞きたい事があるんだけど!!」

「…えっ、なんだい!?」

「松風って実はおと…」

 

完全に質問が成立する直前、不知火が壁から現れ陽炎の足をすくった。陽炎は言葉が途中で止まり、何が起こっているか分からなかったが、いつしかの日を思い出していた。その後床に沈み気絶したのだった。

 

陽炎が目を覚ますと天井はピンク、下はシーツ、保健室のベッドの上に寝ていた。そして隣を見ると松風が添い寝していたのである。驚いた陽炎は声を出してしまい松風を起こしてしまう。松風はへへと笑い、陽炎の頭をさすった。

 

「大丈夫だったかい?君はいきなり転んで起きなかったんだよ?」

「そ、そうなの…貴方が助けてくれたの?」

「あぁ、心配になって保健室で見ていたら僕も眠くなってしまって…ごめんね?」

 

微笑む松風、陽炎の顔は真っ赤になり心拍数は運動後より早い。急に陽炎が寝返ったことにより、手を回していた松風は陽炎の上に覆いかぶさるように乗ってしまった。陽炎は目を見開き松風のまたに手を伸ばす。残り数センチ、その手に松風の手が絡み恋人つなぎになった。

 

「ま、松風…さん……?」

「…今、先生は会議中だから誰もこない。ここは僕と陽炎だけの空間なんだよ」

「はぁ…な、ちょっ、何を…///」

「お手やわらかに…宜しく頼むね」

 

陽炎は目の前が真っ白になった。

 

 

「って夢を見たのよ!気づいたら昨日教室で寝てしまっていてさーせっかくの部停無駄にしたわよー…」

「…そうですか。では、次からは誰かを傷つけない予定を立てるべきですね」

「なんだそれ…」「ふふ、なんでもないです」

 

不知火はくすりと笑った。この学校の七不思議…『女子生徒の中に男性が混じっている』は暴かれる事はなく闇へ葬り去られたのであった…



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