隠し事は誰にでも。 (JOKER)
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隠し事は誰にでも。

少年は夢を見た。その夢は自分が信じていたもの全てに裏切られ、絶望したが為に、全てを破壊しようとする少年。そして対峙している少女もまた、全てを殺そうと剣を手に持ち、殺意の篭もった目で少年を見つめ、佇んでいる。そんな非日常的な世界を見ていた。

 

「…ぁ………せ………。……の…………よ!」

 

少年は掠れるような声で何かを叫んでいる。しかしその声は少女に届くことは無い。少年の言葉を無視して、剣を持ったまま少年に飛かかる少女とそれに対し拳を振るう少年。二人が交差する瞬間、そこは眩い光に包まれ、その夢は終わりを告げた。

 

 

「……変な夢だな」

 

変な汗をかき、自分自身でも変な夢を見たと自覚する少年、東雲 春輝(しののめ はるき)は最悪な目覚めだと言わんばかりの不機嫌な顔でベッドから起き上がる。

春輝は高校二年生であり、口数が少なく、表情や感情もあまり表に出ないので、周りからよく誤解されてしまう性格だが、文武両道、眉目秀麗といった要素を持っているため、女子にはかなりの人気がある。同時に男子からの嫉妬は絶えない。

そして二階の部屋から降り、リビングに向かうと、テーブルの上には朝ご飯とお弁当が用意されており、書き置きがある。

 

「はるくんおはよ〜!ママは今日もお仕事が朝から早くてとっても大変なんです!でもでも、ママは頑張ってるんです!(ง •̀_•́)ง だから、はるくんも学校頑張ってね!お先に行ってきます!気を付けて、忘れ物のないように行ってらっしゃい!(*・ω・)/''' 」

 

「……いつもありがとう、母さん。いただきます」

 

春輝の母親、東雲 桜(しののめ さくら)は仕事の関係で朝は出るのが早く、夜も帰るのが遅いため中々春輝とは顔を合わせることが出来ない。(桜はよく春輝の寝顔を拝んでる)しかし、それでも少しの時間を見つけてはご飯を作っておいてあるのだ。言ってしまえば親バカである。1度だけ、お礼に懐中時計をプレゼントとして置いておいた次の日は、置き手紙からも伝わるくらい泣きそうなレベルで喜んでくれていたという。そんな優しさに少し顔を綻ばせ、感謝を込めて、食事をとる。

 

食事と片付けを終えて、弁当をバッグに詰めて学校に向かう春輝。ドアを開けるとそこには一人の少女がいた。

 

「おはよ〜春輝!」

 

「おはよう…。夏乃」

 

明るく挨拶してきた黒髪の少女、西条 夏乃(さいじょう なつの)は春輝と同じ学校に通う幼馴染みであり、春輝の恋人。とても明るく元気な性格であり、家柄の関係で剣道を極めている。その成績は全国一位である。

 

「えへへ、珍しいでしょ?私が先に居ることなんて滅多にないのに」

 

「そうだな…。朝の稽古はなかったのか?」

 

「あったけど、早めに終わらせてもらったんだよ」

 

「……それこそ珍しいな。あの人がそれを許すなんて」

 

「……今朝ね、変な夢を見たの」

 

それを聞いて春輝は顔には出さなかったが驚愕した。「変な夢」という言葉を聞き、それは今朝の自分にも起きた出来事だったからである。あまりの偶然に春輝は疑問を持ち、考えてしまう。

 

「あ、ごめんね!変な話しちゃって。行こっか!」

 

「え、あ、おい…引っ張るなって……」

 

夏乃は雰囲気が暗くなったことを察し、春輝の手を引っ張り学校へ向かう。しかし、春輝は夏乃の引っ張っていく手が震えていたことに気づいていた。

 

 

学校に着いた2人はさっきまで繋いでた手を離しながら教室に入る。しかしこの2人は来るのが早いため、教室に誰かがいるという訳では無い。

 

「今日も一番乗りだね〜」

 

「そうだな、でもそろそろ他も来るぞ」

 

2人がのんびりと話していると、教室に向かってくる足音が多くなってきて他の生徒達も教室に入ってきた。

 

「おはよう!春輝、夏乃」

 

「おはよ〜秋人くん!」

 

「おはよう、秋人」

 

教室に入ってすぐ、2人に挨拶をする少年、北上 秋人(きたがみ あきと) は春輝と夏乃と同じく幼馴染みである。敬語が口癖で、元気で真っ直ぐな性格をしているが、こだわりが強すぎる時もあるため、頑固と思われがちである。眼鏡をかけていて、見た目からも分かるような頭脳明晰な男子生徒である。

しばらく談笑していると、3人の元に歩いてくる1人の少女がいた。

 

「相変わらず仲がいいわね、あなた達」

 

「真冬ちゃん!おはよ〜!」

 

その少女、南 真冬(みなみ まふゆ)はこのクラスの学級委員長で、責任感が強く、しかしコミュニケーション力を持つ彼女はみんなの憧れとも言えるような人だが、一部からは堅い性格で関わりにくいという人もいるという。一部、というよりは彼女と関わっていないため、第一印象で決めつけてしまっている人が多数。

 

「………」

 

「…どうしたの東雲くん?私の顔をじっと見て……もしかして惚れた?」

 

「え!?春輝!私というものがありながら!」

 

「春輝も隅に置けないですね」

 

「……朝からやめろ。何でもない、というか気のせいだった。」

 

「…そう」

 

そんなやり取りを朝からしていると先生が教室に入ってきたので、みんな席に戻り、今日も普段と何も変わらない一日を過す。しかし、春輝はに気付いていた。具体的には分かっていないが、今日で何が変わる。根拠なんて何も無いが、この日常が終わるのではないか、なんて言う考えをしていた。

 

(考えすぎか……。いや、偶然にしては嫌な偶然だ。)

 

春輝は今朝見た夢を思い出していた。あの非現実的な、非日常的な夢を。その夢に現れた少年と少女の顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東雲春輝と西条夏乃の顔を。

 

 

 

 

時は過ぎて、学校が終わり、みんなで下校している最中だ。

 

「今日の数学の抜き打ちテスト全然分かんなかった〜!みんなはどうだった?」

 

「問題ない」

 

「楽でした」

 

「余裕よ」

 

「くっ!分かっていた……っ!けど、それでもこいつらの余裕な表情を崩してやりたかった……っ!!」

 

この4人の中で一番成績が悪い夏乃は今にも地面に膝をつくのではないかと言うくらい悔しがっている。

そんなこんなしている内に分かれ道になり、春輝と夏乃、秋人と真冬に分かれてそれぞれの帰路につく。

 

「またね〜!」

 

「また明日ですね!」

 

「ええ、また明日ね」

 

「……また、な」

 

これは俺達が決めた(ほぼ夏乃)挨拶であり、さよならじゃ寂しいし、また会うから「さよなら」じゃなくて「またね」みたいにしようとしたからである。だが、春輝は少し言い淀んでしまった。普段表情や感情が表に現れないからこそ、その違和感に気付いた夏乃は2人になった時、声をかけた。

 

「春輝どうしたの?さっきもだけど、やっぱり朝から今日変だよ?調子でも悪い?」

 

夏乃は春輝に対する違和感に気付いたのではなく、気付いていたのだった。それに対して春輝は驚く訳もなく、優しい笑顔で、しかしどこか寂しげな表情で夏乃を抱きしめ呟く。

 

「夏乃は……よく見てるね」

 

「え、ちょ、春輝!?ここ道のど真ん中なんだk…「怖いんだ」……え?」

 

急に抱きしめられた夏乃は顔を赤くし、最初は戸惑ったが、それより驚くことがあった。初めてだった。夏乃にとっても、春輝自身にとっても、ここまで感情を漏らし、表情を見せる春輝は初めて見た。それほどまで彼の中では追い込まれていた。

 

「今朝、夏乃が『変な夢を見た』って言ってただろ?その夢……多分俺も見たんだ」

 

「!?」

 

「同じかどうかは分からないけど、変な夢を見たって言った後に握ってきた夏乃の手が震えてたのも分かった。だからきっと、その夢は夏乃にとって……俺達にとって怖いもの、見せられたくなかったものだと思ったんだ」

 

「……」

 

春輝の言葉を黙って聞く夏乃。その反応が答えを出していると春輝は察した。

 

「……。だから、先に言っておきたい。…………大好きだよ、夏乃」

 

「…ありがとう、春輝。私も……大好きだよ。だから、もう安心して……。全部終わらせるから……」

 

2人はしばらくその場で抱き合って、お互いの想いを伝え、強く抱き締め合った。

その後、2人はそれぞれの家に帰り、また後である場所で落ち合うと約束した。

 

 

約束した場所で春輝は夏乃を待っている。そこは街を一望できる学校の近くにある裏山。その頂上で春輝は静かに待っている。そうすると、後ろから足音が聞こえてきた。振り向くとそこには夏乃がいた。ただ、それはいつもの夏乃ではない。血塗れた服や肌、殺意の篭もった目、右手には鋭い剣。そして左手には、秋人の首があった。

 

「…どうしてこうなっちゃったのかな………」

 

「っ!?……秋人が、何かしてたんだな?」

 

吐き気や訳の分からない感情が春輝の心を襲ったが、理由もなく夏乃がこんなことをするはずが無いと思っていた。それ故に、耐えて問いかけることが出来た。

 

「……そうだね、秋人くんは……私を実験に使っていたの」

 

「……実験?」

 

「そう、私は秋人くんの人体実験の被験者になってたの。その実験は『感情の反転』っていう実験だったの。結果から言えば実験は成功。だからこうして、春輝のことを殺したくて堪らないって、憎いって思っているんだもの。」

 

そう言いながら、秋人の首を放り投げる夏乃。しかし、その表情はどこか悲しげな表情を帯びていた。

 

「なるほどな、そんなことがあったんだな……」

 

「……信じるの?嘘かもしれないんだよ?」

 

「あぁ、信じる」

 

夏乃の言うことに一切の疑問を持たず、受け入れる。この2人には並ならない絆がある。だからこそ、春輝に対する夏乃の憎悪は異常なのだから。それでもすぐに殺さないのは自制が効いてる、2人の絆の強さを見誤った秋人の失敗なのかもしれない。

 

「……夢とは少し違うかもね。夢の時、春輝は裏切られたことに絶望して、叫んで、私を止めようとした」

 

「そして夏乃も俺を殺すために切りかかる。そんな場面だったな」

 

そう言いながらお互い歩いて距離を縮めていく。

 

「でも…俺には出来ない。俺はどこまでいっても、俺のままだった」

 

その言葉の意味は言わずとも通じた。でも、それでも夏乃は嬉しかった。気付けばお互いは目の前にいて、夏乃は涙を流しながら抱き着いた。これの結末がどうなるのか分かっていたかのように。

 

「……春輝………大好き、だよ……。だから、一緒に……」

 

「俺も、大好きだよ。今度は絶対に、幸せにしてみせるから」

 

お互いにその言葉を最後に夏乃が剣を春輝の背中から刺し、自身にも貫通させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜あ、なんか思ってたのと違ったなぁ……。ま、今度はどうなるのか、楽しみにしてるよ(*^^*)」

 

裏山より高い塔の上で懐中時計をもって呟く人影がいたのは誰も知らないままに。



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