だれかの心臓になれたなら (sakana1234)
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#0と#1
人々は、なぜ生きているのだろう……
生きる理由があるのだろうか……
俺は、生きている価値すらないのかもしれない…………
俺は、小学生の時までは、みんなと同じで楽しく暮らしていた。
そう、ごく普通の小学生として、生きがいを持って生きていた。
友達と遊ぶのが楽しかった。一緒に話すことが楽しかった……
だけど、今は違う。
俺は、独りぼっちだ。
こんな、孤独な世界に、俺はいたくない………
生きる理由も見つからない………
『死んでしまおう』
小学生の頃の俺は、どこにでもいる普通の少年だった。
友達も10人程度いて、勉強はできるが、図工等は苦手。
とにかく、誰にもいじめられることなんてなかった、普通の少年だった。
しかし、俺の人生が狂ったのは中学生からだった。
中学1年生、俺はとある女子に恋をした。
中学生に入ってから初めてで来た女子の友達だ。
毎日のように一緒に話したり、遊んだりしていた。
しだいに、その子のことが気になり出し、気づけばいつでもその子と一緒にいた。
そんな奇跡的な出会いがあった反面、最悪な出来事が起こった。
遠出していた両親が事故を起こしてしまったのだ。
2人とも緊急搬送され、1週間に及ぶ入院生活の後、両親はほぼ同時に死んでしまった。
「あああああっぁぁぁ!!!!!!」
俺は、それから丸1日、泣き止むことはなかった。
俺は精神的な病にかかり、学校に通うことも難しくなっていた。
そして、恐れていたことがついに起こってしまった。
「おい、独りぼっち、彼女にも捨てられちったなぁwwwww」
「ざまぁみろwwwww」
そう、クラス、学年のみんなからいじめられ、さらには俺の彼女と言われて傷ついたのか、しだいにいつも仲の良かった大好きな女子からも嫌われてしまい、俺は不登校になりかけていた。
死にたい。
死にたい。
死にたい。
死にたい……
死にたいっ………
一体、俺は、どうして生まれたのだろう。
生きる理由なんて何もない。
俺は、雨の降る中、外をぼんやりと歩いていた。
いっそ、このまま死んでしまおうか……
俺が死んだところで悲しむ人は誰もいない。
逆に喜ぶんじゃないか…?
俺に、生きる希望をくれ………
誰か……
誰かっ………!!
俺は、道路の真ん中で雨に溺れていた。
「大輝くん。そんなところにいたら、風邪ひいちゃうよ?」
ふと、隣から声がした。
「はい、傘貸してあげる」
それは、隣のクラスの女子、天野雛さんだった。
「えっ…?」
「傘、ないんでしょ?返してくれればいいからさ!」
「何で、話しかけるの…?」
「なんでって、心配だから」
「話したこともないのに…?」
「話したことなかったらダメ?」
「いや………俺に話しかけてくれた人、久しぶりだったからさ」
彼女は、俺に光をくれた。
「こうやって、女子と歩いたのも、いつぶりだろう……」
俺は小さな声でつぶやいた。
「ん?なんか言った?」
「いや、何でもないよ……」
俺は、こんな寒い中なのに、どこかぬくもりを感じた。
この感覚、久しぶりだな…
でも、実際は……
その子が、そっと俺の手を握っていたのだ……
俺は、そのことに気付かないまま、ずっと歩いていた……
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#2
~雛視点~
今日は土曜日。
図書館に読書でもしに行こうかな……
わたしは、思いついたことはすぐにやるタイプだ。
つまり、そろそろ雨が降る、という時間に図書館に行ったのだ。
もしかしたら、運命の人に会えるかも……
傘2本持ってこうかな~~
わたしは、そんな呑気なことを考えながら歩いていた。
鼻歌でも歌いながら歩いていると、10分程度で市立図書館についた。
意外とあっという間だったなぁ、運命の人いなかったか……
なんで一人なのに傘を2つも持っているんだろう……
周りはそう思っているだろう。
はぁ……持ってこなきゃよかったなぁ……
そのまま、気になっていた本を1時間程度読み、帰宅しようと席を立った。
図書館を出て1分程度たつと、ぽつぽつと、雨が降り始めた。
「あ、もう降ってきちゃった……」
わたしは、片方の傘をさすと、ゆっくりと歩き始めた。
もと来た道をゆっくりと、なるべく時間をかけて……
大きな通路に出ると、歩いている人は誰もいなかったが、道路の真ん中で雨に溺れている同年代くらいの男子を見つけた。
あれは………誰だろう…なんであんなところに……
不思議に思い、少し近づいたその時、パッと思い出した。
大輝くんだ…!
大輝くんは、隣のクラスで、中1のころからあこがれていた……
あの時は、すごくかっこよかったな……スポーツもできるし、勉強もできるし……彼の事を好きになる子は少なかったが、陰でずっと彼の事を想ってた。
だけど、大輝くんには1年生のころから彼女がいるとうわさされていた。
それがほんとかは分からないが、話したこともないし、フラれると怖いから告白する勇気など0に等しかった。
そして、彼の人生を大きく変化させたであろう出来事、両親が死んでしまったのだ。
それからは、クラスメイトからもいじめられ、彼女にもフラれ、今までの輝きはなくなってしまった……
「こんな世界なんて……」
きっと、そう思っているだろう…
彼にとって、もう生きる希望も何もないのだろう。
誰からも愛されることなどなくなり、誰かを愛することもなくなっただろう。
彼にとっての生きる理由……
わたしが、彼の生きる理由になれるかな………
わたしは、思い切って話しかけた。
「大輝くん」
ものすごくドキドキした。
だけど、彼を救ってあげないと。
もしかしたら、彼は誰でもいいから味方になってほしいのかもしれない。
わたしが、それになろう。
わたしは彼にもう1つの傘を渡した。
わたしが彼の生きる理由になるためには、まず仲良くならないと……
彼に死んでほしくない………
わたしは、彼に少しでも好意を持ってほしかった……
彼に、愛してもらいたかった。
愛を失った彼に、愛を取り戻してもらいたかった………
わたしは、そっと彼の手を握って、隣を歩いた。
ほんとは、わたしが彼を愛する理由がほしかっただけなのかもしれない。
だけど、彼に生きてほしいという思いは本当だった。
大輝くんは、わたしが手を握っていることなど気付いていなかった。
ふと、わたしが彼の立場だったら……と考えてみた。
親は亡くなり、学校ではいじめられ、愛する人には捨てられ………
こんな現実だったら、間違いなく自殺しているだろう…
希望を持って…大輝くん……
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第3話
~大輝視点~
次の日の朝、俺はいつも通り一人で学校に通い、いつも通り、誰からも避けられていた。
俺の方を見て笑いながら話している人がほとんどだ。
と、そのとき……
「大輝くーん!!」
廊下から声がした。
呼んでいたのは、俺だった……
そして、声の主は……
隣のクラスの雛だ。
「雛……」
俺は、急いで廊下へと向かい、雛を廊下の端へと連れて行った。
「何で、俺なんかに話しかけるの……」
俺はまず一言、そういった。
「なんでって……ダメなの?」
「そ、そうじゃないけど……」
そういう雛が可愛くて、ついそう答えてしまった……
もう、話しかけないでもらいたいのに………
「俺に、話しかけないで……」
俺は、自分の気持ちを伝えた。
ものすごく胸が痛かった。
本当は、雛とずっと一緒にいたい、話していたい……
だけど、俺と話してると、きっと雛もいじめられる……
それは嫌だ……!!
「ごめんね、私なんかが話しかけて……迷惑だったよね…じゃあ……」
そういって雛は、元気がなさそうに帰って行った。
「でも、これだけは言わせて」
雛は突然止まると……
「絶対に、死なないで…」
雛は、俺が自殺すると思っているのだろう……
俺には、生きる希望もないと思っているのだろう……
全部、その通りだよ……
雛が俺を救おうとしてくれてるのは分かってる…
だけどっ…
「死なないよ……だから、雛も、俺に話しかけないでくれ……これが、俺の願いだ」
俺は、きっぱり伝えた。
だけど、こんなの本心じゃない…
雛と一緒にいたいんだ…!
分かってる、わかってるさ……だけどね…
「雛が嫌な思いしたら、俺も悲しい……だからっ」
「わかったよ……大輝くんが願うなら……もう、話しかけない。だけど、嫌いにならないでね…」
雛は、俺の言葉を遮って、そういった……
嫌いにならないで…?
そんなの、当然だろ……
~雛視点~
大輝くんともっと話したい……
生きる希望を持ってもらいたい…
そう思って話しかけたけど……
やっぱり、大輝くんには足りないか……
わたしなんか…
でも、大輝くんがわたしの心配をしてくれているということは、分かった気がする。
その気持ちだけでも、ものすごくうれしかった…
だけど、話しかけないなんて…できる気がしない…
「でも、大輝くん。たまになら、相手してよ」
わたしは笑顔でそういって、クラスに戻っていった。
やっぱりだ……
クラスに戻ると、みんなの視線がわたしにあった…
「もしかして、大輝のこと…?w」
そんなささやき声が聞こえてきた…
ああ…せっかく大輝くんが心配してくれたのに、手遅れだ……
ごめんね。
~大輝視点~
クラスに戻ると、一部の男子が俺の周りによってたかって来た。
「さっきのやつ、隣のクラスの雛だよな?」
「お前あいつとなに話してたんだよ?」
「まさか、好きだとか??www」
「お前に恋なんか似合わねーよw」
こう言われることは分かっていたが……
雛のことでこう言われると、いつもの何倍も腹が立つ。
「何が悪いんだよ……恋して何が悪いんだよ!!!!!」
俺はそういうと、席に戻って一人読書を始めた。
そのうち授業が始まり、俺はいつも通り端で教師の話を聞いていた。
俺は、雛のことが好きなんだな……
雛は俺の事、どう思ってるんだろう…
少しでも好意を持ってくれてるのかな……
そんなことを考えているうちに授業はすぐに終わった。
~雛視点~
はぁ……どうしようかなぁ…
大輝くん、話しかけようかな…
誰もいない所なら、いいかな…
わたしは、手紙を書いて大輝くんの靴箱に入れ、体育館裏で待っていた。
来るかな……
すると……
わたしの前に、大輝くんがやってきた……
~大輝視点~
「どうしたの?呼び出して……」
俺は疑問に思っていたことを聞いた。
「あのさっ。わたし、大輝くんの心臓になりたいの!」
雛からは、予想外の答えが帰って来た。
「心臓……?」
俺は、一瞬何のことか分からなかった。
「今、大輝くん、なんで生きてるの?」
そう、俺には生きる理由なんてないのだ。
「生きる理由ってこと…? ないけど…」
「だから、その生きる理由になりたいんだよ……わたしが大輝くんの心臓になって…」
ようやく意味が分かった…
雛は、俺を本気で救おうとしてくれてるみたいだ……
「心臓か……ありがとう。ぜひ、俺の心臓になってよ」
俺はそういった。
これは、本音だった。
雛が俺の生きる理由なんだ……
こんな世界でも、雛がいれば生きていける…逆に雛がいなきゃ…生きていけない……心臓ってそういうことか。
雛は笑顔で帰って行った。
俺も、少し間をあけてから一人で帰り始めた。
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第4話
1週間後の朝…
俺は最悪な目覚め方をする。
電話がかかって来たのだ、それも、雛から。
「どうしたんだろう、こんな時間に」
つい昨日交換した携帯に雛から電話がかかってきたのだ。
「今日、休むから、ごめんね」
雛はそういって、電話を切ってしまった。
「休むのか……俺も学校休もうかな……」
雛がいない学校なんて行きたくもない。
しだいに、俺はそう思い始めていた。
結局、今日は休むことにした。
親は、俺の事など気にも留めず、もうすぐ中1の妹にかかりきりだった。
つまり、俺が休もうがどうしようが、気にすらしていないということだ。
「何で、休んだんだろう……」
俺は、不思議に思っていたが、まだ眠かったため、そのまま寝てしまった……
これから起きる最悪な事態に気付かずに……
~雛視点~
昨日の夕方
わたしは大輝くんと連絡先を交換して家に帰って来た。
「やっと連絡先もらえた~~」
その日はとても嬉しくて、ついはしゃいでいた。
すると……
「あ、いたっ……」
わたしは、思い切り転んで、頭を金属にぶつけてしまった。
そして、そのまま気絶してしまった……
家族がわたしのことに気付いたのは、わたしが気絶した約3時間後だ。
両親は出かけていて、帰って来たところ、わたしが倒れているのを見つけた。
「雛!!どうしたの!!?」
「とにかく、救急車呼べ!!」
それから3分後、すぐに救急車がやって来た。
救急隊員はわたしを連れて、救急病院へと直行した。
そして、翌日知らされたわたしの病名は……
「脳しんとうです。今すぐ入院が必要です。」
「入院……」
わたしが入院と聞いてまず思いついたことは……
大輝くんに、会えなくなる……
大輝くんに、どう伝えたらいいだろう……
とりあえず、このことは内緒にしよう………
~雛の両親視点~
わたしたちは、雛を病室に送った後、担当医の先生に呼ばれた。
何の話だろう……
「申し上げにくいのですが………雛さん、このままだと、助からないかもしれません……」
「えっ……」
わたしたちは、何も言えなかった……
先生に文句を言っても治るものではない……
でも、このことは……
雛には言わない方がいいだろう………
わたしたちはそう思い、そのことを胸に潜めていた……
~雛視点~
わたしの病気…治るのかな……
わたしは不安に思っていた……
もしわたしが死んでしまったら………
大輝くんはどう思うだろう…
死んじゃうかな……
いや、そんなのダメだ!!
死ぬとか考えちゃ……
わたしは生きる!!!
そして次の日から過酷な入院生活が始まった……
この病気を治して、大輝くんの前に出なきゃ……
でも、大輝くん、不思議に思っちゃうかな……
お母さん、入院してるっていっちゃったかな……
絶対に、絶対に……治して見せるからねっ!!
そして入院生活1週間後、わたしがベッドで寝ていると、隣のベッドから、2人の女性の話し声が聞こえてきた。
「隣にいる女の子、脳しんとうで死んじゃうかも、って噂よ……」
「やだ!!あんまり大声で言わないでちょうだい、聞こえたらどうするのよ!」
「知ってるわよ、きっと…可哀想に……」
死んじゃう……?
そんなこと、聞いてないよ……
なんでわたしが知らないのに隣の女の人たちが知ってるの……
なんで、教えてくれなかったの……
でも、良かった…
今知ることができて……
死んじゃうかもって知らないまま、大輝くんに気付かれない所で死ぬの嫌だから……
せめて、大輝くんに見守られながら死にたい……
これが、わたしのかすかな願いだった………
~大輝視点~
あれから1週間。
雛は一度も学校に来ていない。
理由は……
脳しんとう。
入院生活らしい。
そして………
死んじゃう可能性があるらしいということを、今日初めて知った……
急に朝電話があったのだ…
俺は大急ぎで電話に出ると、雛はこう言った。
「わたし、死んじゃうかもしれない……ごめんね…」
「ど、どういうことだよ!!病気か…?」
「確定ではないけど……死んじゃう可能性が高いみたい……だけど…わたしは最後まで大輝くんの心臓として生き続けるから、わたしが死んでも、新しい心臓を見つけて、生きていってね……」
「ちょ、雛!!」
雛はそれだけ言うと、電話を切ってしまった……
こんなの………
こんなの…………
あってたまるかよ…!!
とにかく今日は下校したらすぐに病院に向かおう。
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第5話
俺は下校すると全速力で走り、約1キロ先にある市立病院へと向かった。
3分後、俺は病院につき、階段を駆け上がった。
俺は、手あたり次第に病室を探し始めた。
雛は……雛はどこにいる!!!
そして6階まで上がり、603号室に入った時……
「大輝……くん…?」
「…雛っ!!」
雛の姿が見えた瞬間、俺は雛のもとへ向かい、強く抱きしめた。
雛はびっくりしたのか、頬が真っ赤だった。
「死ぬなよ……!雛っ!!!」
俺は、さらに強く抱きしめた。
雛は、抱きしめ返してきた。
「死にたくないよっ!!生きたい!!!!!」
雛は大きな声で叫んだ。
そのとき、雛の母親が病室に入って来た。
「雛……わかっちゃったのね…」
その瞬間、雛は泣きながら叫んだ。
「何で、言ってくれなかったの!!!」
「ごめんね……でも、希望を持ってほしかったから……」
「でも、お母さん…わたし、自分が死ぬかも、って知らなかったら、大輝くんに気付かれないまま死んでたかも……」
「大輝くん……?」
雛の母親は、俺の事を知らないようだった。
「俺の……心臓です」
俺はそういった。
すると、何かを理解したのか、雛の母親は部屋を出ていった。
「大輝くん……」
雛は、小さな声で俺を呼んだ。
「……好きだよ」
雛は俺にそういった。
「大輝くんの事、中学に入った時から、ずっと好きだった……この前、やっと話せたのに……それに浮かれて頭を打つなんて、ホントバカだよね……」
……俺のせい…
「俺のせいか……やっぱり、俺は誰かとかかわると、人を不幸にするんだ……」
「そ、そんなことないよ!!」
「俺がいなければ……君は今頃、もっと素敵な暮らしをしていたかもね……」
「大輝くん……そういうところ、嫌いだよ」
俺は、雛の言葉に少し驚いた。
「もっと、自信を持ってよ…!」
雛は俺に言った。
「わたしは……大輝くんの事が大好きだから!!大輝くんの生きる理由になりたかったから!!!いじめられても、我慢して生きてたんだよ……大輝くんも、わたしの心臓なの!!大輝くんがいなかったら、きっともっと早くに自殺してた……大輝くんがいてくれて、ほんとによかったよ……」
雛はいつの間にか涙を流していた。
俺も、泣かないように我慢していたのに、ついに泣いてしまった……
「俺も、雛に励まされた……こんな世界、生きる価値もない、と思っていた俺に、雛は話しかけてくれた……あの時、ホントは、ものすごくうれしかったよ……」
これは、俺の本音だった。
「それと……俺も…大好きだから」
俺はぼそっと言った。
「え?なんて??」
雛はとぼけている。
「え、いや聞こえたでしょ?」
「聞こえなかったよ~、もう一回言って!しっかり!!」
俺は仕方なく、雛の耳元により、少し大きな声で言った。
「俺も………大好きだよ」
俺は照れながらも、この時間を楽しんでいた……
「ありがとっ。絶対、死なないから!!!」
俺は、雛の笑い声を後ろに、病室を出た。
~雛視点~
わたしは大輝くんを見送ると、頭をおさえた……
頭痛が……
それは、尋常じゃない痛みだった……
嫌だ、嫌だっっ!!
死にたく……ないっ!!!!!
しかしそのあと頭痛は悪化し、緊急オペとなった……
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第6話(最終話)
~大輝視点~
次の日の朝、また電話があった。
今度は……雛の母親からだった…
「大輝……くん?」
「……はい」
俺は小さな声で答えた。
悪い予感しかしない……
「雛ね、昨日緊急オペして……医師によると、あと1週間ももたないかもって……雛から頼まれて……大輝くんに来てほしい、って…」
俺は一瞬目がくらんだ……
あと……1週間………!!
俺は、何も言わずに電話を切ると、病院まで走っていった。
ただ一心に……雛の事だけを考えて………
病院につくと、大急ぎで階段を上り、雛の所へ向かった。
「雛!!!」
俺は大声で叫び、雛の隣に行き、手を握った。
「大輝くん……」
「死ぬな!!!!!」
「死にたくないよ……!生きたいよ!!!」
雛は叫ぶが、あまり声が出ないのか、ほとんど聞こえてこない。
「いっそ、俺が代わってあげたい……!!雛が死ぬなら、代わりに俺が……!」
俺は泣きながらそう言った。
決して、できない願いだけど……
「でも……運命だよ…!」
雛は言うと、涙を流し始めた。
「死にたい俺は、今日もこうして息をしているのに……生きたい雛は………明日を見失って……こんな運命、嫌だ…!」
俺は叫んだ。
俺は死んだっていい、いっそのこと死にたい!!!
「死にたい俺を救ってくれたのは、雛だよ……雛がいたから、こんな世界でも生きていようと思えたんだよ……」
俺は本音を伝えた。
「でもね、大輝くん……人間は、いつかは死んじゃうんだよ……仕方ないの………」
「でも、やっぱり悲しいよ……どうしてこんなに悲しいんだろ……」
大事な人が死んでしまうのは悲しいこと……
だけど、誰しもいずれ死んでしまう………
「早すぎるよ…!!そりゃ悲しいに決まってるじゃん…」
俺はいうと、雛の手をより強く握った。
「大輝くん……残りの1週間……ずっと一緒に過ごしたいよ……」
雛はそういった。
「いいよ……1週間、ずっと一緒にいるよ。最期の時まで、ずっと一緒にいようね……!」
俺は涙ながらに言うと、雛の隣に座った。
病院の看護師にも無理を言い、1週間ずっと一緒にいることにした。
買い物にも行くけど、5分もせずに帰るようにしている。
そして、5日間、ほぼずっと一緒にいた。
部屋にいる時は、ずっと手をつないで、一緒に話をしていた。
話題もほとんどないけど……
6日目、そろそろ1週間が経つとき、急に機械の数値が変化した……
ついに、この時がやって来たのか……
「大輝くんっ……はぁ……苦しいっ!!!」
俺は急いで救急ボタンを押して、医師を呼んだ。
しかし、雛は口を動かして、何かを言おうとしてる……
「だい……きくんっ……!死な…ないでねっ!!!」
当たり前だろ……
「俺が雛に贈る、最期の愛の言葉だよ……聞いてねっ」
俺は息を吸うと……
「今まで、本当にありがとう…!大好きだよ……!!!」
俺は今までで一番涙を流しながら言った。
「……うん!!」
雛は笑顔でそういうと、オペ室へ連れていかれた……
翌日、俺は病室に座っていると、担当の医師がやって来た。
「雛ちゃんは……残念ながら、お亡くなりになりました」
医師は申し訳なさそうに言った。
「次は、俺がだれかの心臓にならないとな……」
俺はぼそっと言うと、雛のもとへ行き、雛にあることを伝えようとした。
雛は、ベッドに寝かされていた。
もちろん、もう、意識はない。
俺は雛の耳元でささやいた。
「俺の地獄で、君はいつでも絶えず鼓動している心臓だよ……俺も、だれかの心臓になれるように、がんばるよ……!だから、これからもずっと、俺の心臓でいてくれ……」
俺はそういうと泣かないうちに家に帰った。
それから7年後、すっかり俺も社会人だ……
あれから毎年、雛の命日にお墓に行き、1年の出来事を全て話している……
今日は、ちょうど命日だ……
今日は、雛にとっておきのお知らせをしないと……
「雛……俺、とうとう心臓になれたよ……俺、彼女ができたんだ……こんなこと雛に言うのもなんだけど…これからは、その人のために、いつまでも、幸せに生きていくよ。俺が、心臓になって……家族を守るから、見守っててね」
俺は花を供えると笑顔で帰っていった。
雛は、俺の心の中で、いつも励ましてくれている……
雛のためにも、幸せに暮らさないと………
~おしまい~
いよいよ終わりました……
ちょっと悲しい終わり方になっちゃったけど、僕はこの最期が一番いいと思います。
大好きな人に見守られて、死んでいく……
これほどいいことはあるでしょうか………
歌詞の一部分しか書いていませんが、書いていてものすごく、切なくなりました。
てことで、次は、もっと明るい曲を二次創作しようかな!!!
次も見てくれると嬉しいです!!!
それでは、また逢う日まで。
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