短編集。またの名を駄文廃棄場。 (ゆらぎみつめ)
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転生したので死ににくい特典を選んだら……。1・2

 

 1

 

 

 

 十二の試練。

 

 fate/staynightに登場するヘラクレスが有する、生前の偉業を体現する十一個の代替え生命と、一度受けた攻撃に対して耐性を得る宝具。 

 

 賢者の石。

 

 鋼の錬金術師に登場する錬金術の到達点。膨大なエネルギーを有する魂を材料に生成される外法の産物。その力は等価交換の法則を容易くねじ曲げる。

 

 零時迷子。

 

 灼眼のシャナに登場する宝具。午前零時に持ち主の力を完全に回復させる永久機関。

 

 

 

 

 それらが転生者たる俺に与えられた特典であり、もう二度と死にたくないという願いを叶えるための力である。

 

 

 

 

 きっかけはありふれた事だった。

 

 飲酒運転のトラックに跳ねられ、その生涯に幕を下ろした俺に待っていたのは、神と名乗る者からの異世界転生への誘い。

 

 一も二もなく頷いた俺に与えられたのが上の三つの力である。

 

 もう二度と死にたくないと考えた俺が望んで手に入れた力。

 

 これで俺は死の運命から解放されると、喜んだのも束の間、俺はfate/zeroの世界に転生していた。

 

 fate/staynightのスピンオフにして前日譚。執筆者のせいか本編よりも数十倍鬱要素に満ち溢れた物語。

 

 その中でも一二を争うbadな陣営である間桐陣営の、バーサーカーに俺はなっていた。なんでさ。

 

 

 

 

 2

 

 

 

 fate/zeroの世界に転生。しかもバーサーカーとして。サーヴァント!?俺が?あの自称神様が仕組んだのか?何故?

 

 転生特典を渡されただけの一般人をサーヴァントにするとか、あの自称神様は頭は大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫じゃないから俺はこんなところにいるのか。

 

 こんなところにいられるか!私は帰らせてもらう!

 

 ……と。言えればいいんだがなあ。

 

 色々言いたいことはあるが、これ以上何をいっても意味はないだろう。

 

 むしろ貴重な時間がどんどん減っていくぶん無駄な行為である。クールになろうぜ旦那あ。

 

 とりあえずfate/zeroに転生したのはもう諦めるとしよう。どうしようもないのだから。

 

 そんな事よりこれからの動きを考えよう。

 

 fate/zero。すなわち第四次聖杯戦争。

 

 呼ばれしサーヴァントは、アルトリア、ディルムッド、イスカンダル、ジル・ド・レェ、百貌、………そして、ギルガメッシュ。

 

 どのサーヴァントも厄介な相手であり、今の俺では誰も倒すことは叶わないだろう。

 

 だがしかし、俺には原作知識がある。

 

 これから先の未来を知っている。

 

 だからまだ絶望に浸らないでいられる。

 

 だからこれから戦う事が出来る。

 

 その為にはまず俺の状態を把握する事だろう。

 

 俺の特典は三つ。

 

 一つは賢者の石。

 

 魂を燃料に奇跡を起こすもの。

 

 しかし今現在、俺にストックされている魂は俺一人ぶんである。この時点でかなり詰んでいる気がするが、次である。

 

 二つめは十二の試練。

 

 第五次バーサーカーであるヘラクレスが有する宝具であり、Bランク以下の攻撃を無効化。十一個の代替え生命をストックし、一度受けた攻撃に対して耐性を得る。これは心強いが、使っているのは元一般人である俺だ。過信は出来ないだろう。

 

 そして最後に零時迷子。

 

 午前零時に力を完全回復する宝具。これはかなり使える宝具である。自称神様の粋な計らいか、原作では存在の力を完全回復する物だったが、俺に与えられた零時迷子は魂のストック等も回復するらしい。現状、魂のストックが俺一人なのであまり意味がないが。

 

 三つの特典を改めて見るに、やはりまずは魂のストックを増やすべきだろう。

 

 そうでなければ戦えないし、生き残れない。

 

 幸い。といっていいのかどうかは分からないが、俺は受肉しているらしく、霊体化出来ないし、魔力の供給が不安定でもあまり不都合は感じない。これでマスターに依存する必要もあまりなくなった。

 

 さてはて、現状の状態を確認し終えたから現実に意識を戻すとするか。

 

 俺が今立っているのはあのサーヴァント召喚の魔法陣の中で、目の前には這いつくばっている白髪のおじさん。その斜め後ろには小柄なじいさん。そして離れた場所に蟲が蠢くプールのような場所があり、中から消え入りそうな悲鳴と嬌声が時たま漏れている。

 

 ……まだケイネス陣営に行きたかったな。うん。

 

 即座に現実から逃避したくなったが、それをこらえてなんとか現実に意識を縛りつける。

 

 原作キャラ救済も一応は頭の片隅に置いておくが、まずは生き残るために行動を開始しなければ。幸いにも、賢者の石のお陰か錬金術も使えるようだしな。

 

「サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ、参上した。お前がおれのマスターか?」

 

 とりあえず名乗りをあげ、這いつくばっている白髪のおじさんを見下ろす。因みに、俺の今の容姿はお父様ヤングバージョンである。パツキンだぜおい。

 

 ……。

 

 返事がない。ただの屍のようだ。

 

 これは不味い。まさかマスターが死んでしまうなんて。

 

 これは早急に治療をしなければ。(棒)

 

「いただきます」

 

「お主何を!」

 

 小柄なおじいちゃんが何か言っているようだがよく聞こえないなあ。

 

 俺は白髪のおじさんに近付くと、頭から食らいついた。

 

 サーヴァント故か、それともホムンクルスだからか、雁夜おじさ……白髪のおじさんは数秒で完食できた。ごちそうさまでした。

 

「待てそこは!」

 

 小柄なおじいちゃんが止めようと蟲を襲いかからせてくるが、サーヴァントにそんなものが効くはずがない。

 

 蟲の壁を掻き分けて俺は全裸の幼女、間桐桜を見つけ出すと同じように食らいつく。当然、雁夜おじさんよりも小さな間桐桜は瞬きのうちに食らいつくせた。

 

 気が付けば間桐臓硯の声も聞こえなくなっていた。まあ、魂を食われたらどうしようもないわな。原作通り間桐桜の中に間桐臓硯の魂が隠れていたからな。

 

 さて、とりあえず三人ぶんの魂のストックが出来たわけだが、まだまだ足りないな。相手は百戦錬磨の英雄達だ。せめて百や千は欲しい。

 

 それに今はまだ十時前だ。十二時まではまだ時間がある。それまでに増やせるだけ増やすべきだ。幸運にも、当てはあるのだから。

 

 

 

 

 

 移動三十分。探索三十分で俺は目的の下水道に辿り着いた。

 

 ここは原作でキャスター陣営が潜んでいた場所だ。

 

 一歩中に踏み出せば出るわ出るわ。冒涜的な触手をくねらせる海魔達が。

 

 試しに一匹食らえば生意気にも魂があるらしく、ストックが一つ増えた。自動召喚される魔法生命体的な何かだと思っていたが、都合がいいので補食しながら奥へと進んでいく。

 

 やがて海魔がいなくなった頃に丁度よく目的の場所に到着した。

 

 

 

 

 そこに広がっていたのは地獄のような光景だった。

 

 漫画版fate/zeroで見た光景よりもなお酷い。「作品」が所狭しと並べられ、キャスターの魔術によって無理矢理延命させられている「材料」達が呻き声を洩らす。

 

 賢者の石の材料にするつもりの俺が言えた言葉ではないが、これ以上見ていられず、当初の予定通り魂のストックを増やす作業を始めた。

 

 根こそぎ食らいつくし、ある程度賢者の石のストックもマシになってきた頃に、サーヴァントが近付いてくる気配を感じる。

 

 俺は柱の陰に身を潜め、機を待つ。

 

 しばらくして、異形じみた顔の大男と、チャラそうな外見の男が入ってきた。

 

 キャスターであるジル・ド・レェと、キャスターのマスターであり連続殺人鬼の雨生龍之介だ。

 

 まだアジトの異変には気付いていないのか呑気に談笑しながら歩いてくる。キャスターは何かに気付いたのかやや警戒しながらである。気が付かれたのは不安だが、ここに入ってきた時点でもう詰みである。

 

 二人の足元に影が忍び寄り、彼等が気付くよりも早く、影が地面から立ち上がり、一瞬で食らいつくした。

 

 鋼の錬金術師に登場したホムンクルス。「傲慢」の名を冠するセリム・ブラッドレイが使用した影の力である。

 

 賢者の石があるならと、試しにやってみたら出来た力で、補食もとい賢者の石のストックを増やすのに便利でお気に入りだ。尚、他の大罪のホムンクルスの力も使えたが、疑似・真理の扉は出来なかった。多分作らないと使えないのかもしれない。原作でそんな感じに書かれてたし。わざわざ作るメリットもあまりないので作るつもりは今のところないが。

 

 さて、二人仲良くキャスター陣営を頂いて目標を達成した俺はそそくさと間桐邸に戻った。これからする事は外では出来ないからだ。

 

 無人の間桐邸の中を進み、地下に着いた俺は時計をチェック。十一時五十五分。あと少しで十二時。これからする事には十分間に合う時間だ。

 

 賢者の石を体から取り出す。取り出すのは自分以外の魂全て。それを石として形作り、取り出す。賢者の石は拳大だった。おそらくキャスターという英霊の魂が関係しているかもしれない。拳大の賢者の石を片手に時計を見る。

 

 十二時を待つ。この後に起こる事を期待と不安を抱きながら時計の針を見つめる。

 

 そして針が午前零時を指し示し、変化は起きた。

 

 零時迷子。

 

 魂のストックが満たされる。手に持つ賢者の石はそのままに、今夜手に入れたストックが己の内側に満ちているのを感じる。素晴らしい。笑いが止まらないとはこの事だ。まさかこんな裏技じみた事が出来るとは。どこかのうっかり髭ではないが、この戦い、俺の勝利だ!……やべえ、フラグ立ったわ。

 

 一気にクールダウンした俺は、今夜の活動を終えて空き部屋のベッドで眠りに着いた。

 

 

 



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転生したので死ににくい特典を選んだら……。3

 

 

 

 

 召喚から五日経った。

 

 各陣営に動きはまだない。アサシンの脱落偽造もまだなので、俺はこの五日間、零時迷子を用いたストックの増殖に終始していた。あれから零時迷子は四回起動し、その度にストックを倍に倍に増やした。元のストックから考えると約三十二倍。サーヴァント三十二体ぶんの魂を俺自身を外して保有している事になる。聖杯が四回以上溜まるぜ。

 

 一応ホムンクルス製造の応用で小鳥型のホムンクルスを製造して冬木市全域に放っているが、今はまだ冬木市は平和だ。ハイアットホテル、遠坂邸、アンイツベルン城、教会、埠頭、市街地。その辺りを念入りに見ているがまだ動きはない。ケイネスはホテルを改造するのに忙しいし、時臣は引きこもり。アイリはまだ来ておらず、切嗣と舞弥はこそこそと工作中。愉悦麻婆はまだ綺麗。ウェイバーたんはマッケンジー宅でライダーといちゃいちゃ……。くっ、思考が腐っていく!キャスター陣営は既に処理しているからそこは安心である。

 

 さて、どうしようか。トッキーのザイード公開処刑まで大人しくするか、それとも何か起こすか。原作のランサーみたいにするのも悪くない。どうするか。

 

 悩んでいると、市内に放ったホムンクルスから報告を受けた。ザイード……。お前、輝いてたぜ!

 

 さて、はて、始まったものは仕方ない。今夜にでもランサーVSセイバーが始まるから、介入はその時か。

 

 俺はバーサーカーだが、原作のランスロットみたく金ぴかに喧嘩売りたくないし、セイバーに特攻しかけたくないし、ライダーに轢かれたくない。そもそも介入する価値はあるのかどうか。ふむ。

 

 今は午前二時ぐらいだから、後十時間以上は時間がある。…………寝るか。寝て起きたらいい案も出るだろう。

 

 サーヴァントだから睡眠にあまり意味はないが思考はリセット出来るだろうしな。

 

 

 

 

 起きた。午後八時を過ぎていた。

 

 ホムンクルスから埠頭でセイバーとランサーが戦闘を始めたらしいとの情報。寝過ごした。見事に寝過ごした。これは不味い。俺は何をするか決めきれていないまま、埠頭に向かう。とりあえず着いてから考える。そう決めた。

 

 

 

 

 それは誰にも気付かれる事なく、そこにいた。

 

 青みがかった鉛色の肌。耳がなく、体毛もない。目は白目が黒く、瞳は血のように赤い。唇がなく、歯が剥き出しで、体には赤いラインが走り、ラインの先は同色の点に繋がっている。黒いズボンのみで上半身は丸出しだが、鋭利に尖った猛禽類のような指先と金属質な光沢を放つ肌が侮りは禁物だと雄弁に語っていた。

 

 黄金のアーチャー、ギルガメッシュが『王の財宝』の射出口である黄金の波紋をライダーであるイスカンダルと彼の乗っているチャリオットに同乗するウェイバー・ベルベットに向けた瞬間だった。

 

 まるで邪魔するかのように現れたその存在に、ギルガメッシュは躊躇なく刃を向けた。

 

「邪魔をするな、下郎」

 

 射出口の一つから刃が放たれる。

 

 それは狙い違わずその存在に向かい、しかし片手でぞんざいに弾かれてしまった。

 

 その所業はこの場にいたギルガメッシュ以外の者に驚きを与えたが、刃を弾かれたギルガメッシュはすかさず弾丸を準備しており、間髪入れずに射出した。

 

 今度は八つの刃がそれに向けられるが、やはりその存在は最低限の動きで刃を弾いていき、最後に来た八つめの刃をギルガメッシュに投げ返した。

 

 ギルガメッシュは投げ返された刃を刃を射出する事で冷静に弾き、激昂した。

 

「穢らわしい手で我が財に触れたな、雑種」

 

 ギルガメッシュの背後に黄金の波紋が無数に現れる。これまでの倍どころの話ではない。その光景に他の面々は戦慄するが、奇妙な闖入者は動揺一つない。いやそもそも、そんな感情があるかどうかも定かではない。

 

「……時臣め。この我に退けとはな。まあよい。有象無象の雑種共よ!次に会うときまでに間引いておけ。我と戦うのは真の英雄のみでよい」

 

 今まさに、といった瞬間にギルガメッシュは黄金の波紋を消し去った。彼のマスターである遠坂時臣が令呪を用いて止めたのだ。ギルガメッシュは眉をしかめながらも聞き届ける事にしたようで、この場にいる全ての者達に捨て台詞を吐いて姿を消した。

 

 静寂。

 

 ギルガメッシュが去り、出来た空白の時間。奇妙な静けさを皆が感じる中、先に動き出したのはやはりあの闖入者だった。

 

「くっ!」

 

 金属音が響きわたる。

 

 セイバーの不可視の聖剣が敵対者の攻撃を防いだのだ。敵対者、この場に現れた異形の存在。彼らの中でその存在が何であるか、正確にはどのクラスのサーヴァントなのかがはっきりとした。

 

「バーサーカー……」

 

 セイバーのマスターとして振る舞うアイリスフィールが小さく呟く。バーサーカー。未だにその存在を確認できていないキャスターとバーサーカーのクラスの内、目の前の存在がどちらに該当するのか答えるまでもない。何故なら、最優とされるセイバーに接近戦を持ち込み、力で圧倒する者が魔術師のクラスであるキャスターである筈がない。

 

 セイバーの不可視の聖剣がバーサーカーの攻撃を防ぐ。バーサーカーの攻撃は単純だ。爪を使った攻撃と文字通り鋼の肉体を使った攻撃。それらをバーサーカー故に強化されたステータスで振るう。

 

「ぐっ!」

 

 セイバーが苦悶の声をあげる。ただの力任せならばセイバーは容易く相手を倒せただろう。だがこのバーサーカーは目が良すぎた。セイバーの動きを完全に見切り、素手ゆえの身軽さで的確に攻撃と防御を行っている。

 

 やがてセイバーがバーサーカーの猛攻に耐えきれなくなり、胸に一撃を貰った事で事態は動いた。

 

「悪いがセイバーとは俺が先約でな」

 

 ランサー、ディルムッド・オディナが破魔の槍にてバーサーカーの右腕を切り落とす。

 

「助太刀するぞ!」

 

 ライダーがチャリオットで突撃し、バーサーカーは轢き跳ばされた。恐ろしい事にバーサーカーは片腕でチャリオットを一瞬とはいえ止めた。もしも両腕が無事ならばもしかしたらがあり得たのかもしれない。

 

「感謝します。ランサー、ライダー」

 

「なあに、余の臣下になる予定の者達だ。助けるのは当たり前だろう」

 

「感謝するほどではない、セイバー。お前との勝負がまだついていないからな」

 

「あ、あり得ない」

 

「どうした、坊主」

 

「あのサーヴァントのステータス。まるで複数のサーヴァントが重なっているみたいに見える」

 

「なに?」

 

 ウェイバー・ベルベットがマスターとしてのスキルでバーサーカーを見るが、見えたのはまさに複数のサーヴァントが重なったかのような異様な見えかたをしていた。それに対してライダーが訝しげな声を上げた瞬間、この場に新しい声が出てきた。

 

「いやはや、まさか俺の腕を切り落とすとはな」

 

「なっ!」

 

 セイバーが声を上げ、倒れているバーサーカーを見る。

 

 バーサーカーは片腕でのそりと起き上がると、まるで何のダメージを負ってないかのように振る舞う。

 

 しかし今気になるのは先程の声の事だ。この場にいる全ての者が彼をバーサーカーだと思っていた。だから言語能力はないと思い込んでいた。だが違った。

 

「改めて自己紹介を。サーヴァント、バーサーカー。真名は無銘。名もなき英雄もどきだ。短い間だが宜しく」

 

 バーサーカーはこれまでの狂戦士の仮面を脱いでそう言った。

 

「ほう。理性あるバーサーカーか。どうだ、余の臣下にならぬか?」

 

「馬鹿かお前は!あぎゃん!」

 

 先に正気に戻ったのはライダーで、その発言に驚いたウェイバーは思わず突っ込み、凸ピンで沈められた。

 

 いつも通りのやり取りをしだした主従を見て、ランサーとセイバー、アイリスフィールも我に帰る。

 

「バーサーカーよ、片腕ではこれ以上戦えまい。退くというならば追いはしない」

 

 セイバーが聖剣をかまえ、そう告げる。三対一。しかも片腕である。これ以上の戦闘は無謀にすぎる。だがしかし、目の前の怪物は違った。

 

「これの事か?」

 

 バーサーカーがそう言ったのと同時、赤い放電と共に右腕が再生していく。数秒の内に右腕は金属質な腕に元通りになり、バーサーカーは感覚を確かめるかのように腕を振るい、コンテナを陥没させる。

 

「生憎と、再生能力には自信があってな。ちょっとやそっとじゃあ戦闘不能にすらならねぇのさ!」

 

「ぐあっ」

 

 瞬間、ランサーが吹き飛ばされた。

 

 気が付けばセイバーの目の前にはバーサーカーがいて、既に攻撃のモーションに入っていた。セイバーは咄嗟に聖剣を盾に攻撃を防ぐが、バーサーカーの指が鋭く伸び、セイバーの胸を貫いた。

 

「がっ」

 

 セイバーが崩れ落ち、ようやく反応出来たライダーが向かってくるが、その前にバーサーカーは目的の物を奪うと、その場からあっさりと撤退した。

 

 残されたのはコンテナにめり込み、動けないランサー。胸を貫かれ、膝をつくセイバー。そして、困ったように頬を掻くライダーとあわあわとしているウェイバーだけだった。

 

 ……そこに、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの姿はなかった。

 

 

 

 



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転生したので死ににくい特典を選んだら……。4・5

 

 4

 

 

 

 埠頭を後にした俺は、間桐邸の地下室に戦利品を持って帰ってきていた。まさか用心して最強の盾を使って行ったらギルガメッシュに絡まれるとは思わんかったわ。なんとか最強の目も併用して凌いだが。後はもうやけになってセイバーに八つ当たり気味に襲いかかったらディルムッドに右腕落とされるわ。ライダーにダイナミック轢き逃げをされるわ。散々だった。その後はディルムッドを怠惰の力で体当たりを決めて、セイバーには最強の矛を使い不意討ち。たまたま目の前にいたアイリスフィールを捕まえて逃げた。

 

 やべえ、原作崩壊待ったなしだ。流石にアイリスフィールを捕まえるのは不味い。原作でもバーサーカーが捕まえてたが、それはもっと後の話だ。序盤ではない。だが一度捕まえた敵マスター(仮)をリリースするのはまずあり得ない。ならばどうするか。今のうちに色々やるべきだろう。色々と。聖杯の器だしね。使い道は沢山ある。

 

 まずはアイリスフィールを喰らうとしますか。俺には食った相手の能力と知識をコピーする力があるからな。今までは良く分からなかったが、ようやく理解した。賢者の石により魂から情報を得ているのか、零時迷子の吸収の戒禁が発動しているのか、それとも両方か。まあ細かいことはどうでもいい。コピー出来る事が重要なので理由は後で考えるとしよう。

 

 アイリスフィールを喰らう。そして直ぐ様再構築を行う。原作のお父様が調子に乗っていた時にしたストックの魂に肉体を与えて生み出す所業だが、寸分違わず再構築をするのは意外に難しい。ようやく再構築を終えた頃には十二時を目前にした時だった。

 

 慌てて俺はいつものストック増幅を行う。六十四倍。サーヴァント六十四体分。聖杯が約九つ溜まるな。しかも今の俺はアイリスフィールを一度喰らったから、アイリスフィールの魂を基に聖杯を再構築、生成する事が可能になった。つまりガチで聖杯を複数持っているようなものである。やべえ、抑止力働かないよな?

 

 再構築されたアイリスフィールが目覚めるまで能力の考察でもしておくか。抑止力の事なんて考えるだけ無駄だしテンションが落ちるだけだ。前向きな事を考えよう。

 

 何故食らった相手の能力と知識をコピー出来るのか。考えてみたが恐らくは魂から情報を得ているからだろう。賢者の石は魂の集合体だ。個々の魂から情報が消える事はない。消える時は消費される時で、魂そのものが消える。魂から何故情報を得られるのか。その仕組みは良く分からない。零時迷子の吸収の戒禁が発動しているのかとも考えたが、はっきりとは分からん。十二の試練はそもそも蘇生魔術のストックであり、Bランク以下の攻撃を無効化。更に一度受けた攻撃に耐性をもつ能力なので除外だ。もしや根源に接続しているのかとも思うが、流石にありえないと判断する。結論として、能力と知識のコピーをするには魂が必要であるとしか分からなかったな。理屈はさっぱりだ。まあ、精々利用させて貰う事にしよう。今は出来るとだけ分かっていればいいのだから。

 

 それはさておき、だ。よくよく考えてみれば、わざわざアイリスフィールの目覚めを待つ事もない。受肉し、魔力も十分。魂のストックもそれなりだ。これ以上聖杯戦争に拘る必要がない。それにもう原作通りにならないのだから、いっそ滅茶苦茶にしてしまえばいい。であれば、大聖杯も取り込んでしまうとしよう。そうすれば後々の悲劇が回避されるし、聖杯を使う際の不安要素も完全に排除出来る。やるか。幸い、大聖杯のある場所は分かっているのだし。

 

 

 

 

 

 円蔵山。その地下にある大空洞「龍洞」。そこに設置された巨大な魔法陣。大聖杯。これがある限り、器を用意する限り何度でも聖杯戦争を行える代物。元は冬の聖女の魔術回路を拡張・増幅した魔術炉心。第三次聖杯戦争の影響でこの世全ての悪に汚染されたものの、その価値は計り知れない。

 

「まあ、もうこの世にはないんだがな」

 

 だがそれはもう過去の話。大聖杯の破壊もとい取り込みは簡単だった。賢者の石のストックで巨大化し齧り取って終わりである。霊脈への影響なんかはあるかもしれないがそこはここのセカンドオーナーに任せるとしよう。他力本願万歳。

 

 さて、目的は果たした。もうこの冬木市にいる必要はない。さっさととんずらこくとしよう。原作キャラ救済?キャスターを原作よりも早く討伐したので十分だろう。後はなるようにしかならない。原作キャラ救済の為に命をかけるなんてナンセンスだ。何様のつもりだ。馬鹿らしい。こんなところにいられるか!私は帰るぞ!今度はマジで帰れるから最高だわー。アイリスフィールも遅かれ早かれ切嗣が見つけるだろう。心残りは一切ない。さらば冬木市!○○先生の次回作にご期待ください!

 

 

 

 

 その後の顛末。

 

 聞いた話だが、結局原作通りになったらしい。冬木の大災害も起きたらしく、どうしてそうなったのか全く想像できない。冬木を出る際、キャスターの魂を二つ解放して聖杯完成に支障のないようにしたのが裏目に出たのだろうか。

 

 キャスターに囚われていた子供達もちゃんと元の体で返し、雨生龍之介は警察に送り届けたのが間違いだったのだろうか。分からない。世界には修正力でもあるのだろうか。……ありそうだなあ。抑止力なんてものがあるんだ。あってもおかしくはない。まあ、今の俺にはどうでもいい事か。

 

「お父さん、いくよー!」

 

「さあ、どこからでも来ていいよ桜ちゃん!」

 

 庭から黒髪の父と娘の楽しげな声が聞こえてくる。

 

 魔術など関係ない日常。平和である。

 

 

 

 

 

 5

 

 

 

 

 

 第四次聖杯戦争から十年が過ぎた。

 

 本来ならば第五次聖杯戦争が開かれる時期だが、俺が大聖杯を喰らったせいでもう二度と聖杯戦争は開かれないだろう。うん。イイコトシタナー。

 

 さて、そんなことよりもこの十年を振り返ってみるとしよう。まず間桐雁夜と間桐桜だが、魔術に関わらない日々を過ごしたお陰か、本当の親子より親子らしく仲良く暮らしている。最近では雁夜は隣の人妻と仲が良い。テメェ懲りてねえな。何?未亡人だからセーフ?知らんわ!桜は何か知らんが妙にボディタッチやスキンシップが増えている。鈍感じゃないから好意を抱かれているのは分かるが、幼い頃から知っているから複雑な気分だ。最近は体つきが良くなり過ぎているからうっかり手を出しそうで怖い。ていうか時々黒い。

 

 俺自身はかなり強くなった。ストック増殖は一京から先は数えていないが毎日続けている。これ本当に抑止力働かないか不安である。だがやめない。影の国にも何故か知らんが行けた。おっぱいタイツ師匠ことスカサハに会い、何度か稽古をつけて貰った。殺して死なないからといって最初から難易度ナイトメアってどういう事なんすかねぇ。ある程度稽古を受けると寝所に誘われたので行ったら、桜が膨れた。まさかバレるとは。スカサハ直伝のルーンで隠蔽したのに何故。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。宝石爺がやって来たりもしたが、色々冬木の大聖杯に関して聞かれた後、第二魔法に関する魔導書を渡して帰っていった。何しに来たのか分からんが、まあ気にするだけ無駄だろう。それよりも桜の機嫌を治す方が大切だ。

 

 

 

 

 



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間桐臓硯に転生したらいろいろやっちまった件。1

 

 

 

 

 俺の名前は間桐臓硯。

 

 転生者である。

 

 前世の俺はどこにでもいるような変態な高校生だったが、ある日突然転生トラックとかいう意味の分からない代物でオーバーキルされ、気が付いたら神様を名乗る光の塊に適当なチート能力を詰め込まれて転生させられた可哀想な男である。

 

 しかも転生先が間桐臓硯だ。あの間桐臓硯である。

 

 あの五百年を生きた妖怪であり、蟲を使い間桐桜を陵辱したり聖杯の欠片を埋め込んだりとやらかしまくった人外の外道。その癖過去は正義に燃えた男だというのだからなんともいえない。

 

 そんな男である。

 

 しかも本編である第四次、第五次まで約五百年経たないと原作に立ち会えないという絶望的な問題がある。

 

 流石に俺は原作のキャラ達に会いたいからと人を喰らう吸血鬼擬きの化け物にはなりたくはない。

 

 だが折角間桐臓硯に転生したのだし、完全な不老不死でも目指してみるのもいいかもしれない。そしてサーヴァントといちゃいちゃえろえろしたい。

 

 それに自称神様からチート能力も貰ったのだ。

 

 目指してみるのも悪くはないだろう。

 

 ......そう思っていた頃がありました。

 

 だが実際、蓋を開けてみればあまりにデタラメな事が起きていました。

 

 それは、俺のチート能力だ。

 

 まず一つ目、人類最高の頭脳。

 

 完全記憶能力、並列思考、高速思考、高度演算。人間の限界を極めたような頭脳で、正直アトラスの錬金術師達が涙目になるような廃スペックである。

 

 二つ目、肉体改造。

 

 生物の肉体を自由自在に改造出来る力。やろうと思えばどんな姿にもなれ、また若返りやなんかも可能な力。しかも、更に魂の改造まで可能であり、魂の物質化という本来ならば第三魔法と呼ばれるものをたった数秒で行える。というかやっちゃった。アインツベルン涙目である。泣いていいよ、うん。

 

 三つ目、絶対催眠能力。

 

 対象に言葉を用いて絶対催眠をかけられる力。この力はたとえ神ですら抗えず、聞いた時点で能力者の思うがままにされてしまう力。色々妄想が捗る力だ。ぐへへへ......。

 

 以上のチートを使い、俺は二十になる頃には立派な魔術師になった。

 

 そして、日本に向かった。

 

 何故なら今の西暦は千五百年。つまり、あのキャラの生前に出会えるかもしれないのだ。

 

 そう。ノッブとおき太に!

 

 行かなくてはならない。

 

 魔術協会からは惜しまれたが、この野望には遥かに及ばない。

 

 あまりに五月蝿いので、片手間で作ったいくつかの魔術礼装を寄贈して黙らせ、胸一杯に期待を抱えて出発した。

 

 そして、それから約五百年後、第四次聖杯戦争が始まった。

 

 原作の始まりである。

 

 

 

 



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間桐臓硯に転生したらいろいろやっちまった件。2

 

 

 

 

 第四次聖杯戦争がいよいよ始まるわけだが、ここに来るまで本当に長かった。それはもう長かった。

 

 まず織田信長ことノッブには無事に出会えた。

 

 その父親の代から臣下として仕え、ノッブが生まれ、教育係になり、親密(意味深)になり、共に戦場を駆けた。

 

 そして本能寺の変が起き、俺は歴史の表舞台から姿を消した。

 

 それから約三百年後には聖杯戦争が始まった。

 

 第一次はやはり儀式がまともに出来ず、仁義なき殺し合いに発展。俺は召喚したバーサーカー(ヘラクレス)で無双してちゃっかり聖杯獲得。適当な願いを叶えてもらう。

 

 第二次は色々ルールを加え、更に令呪も与える。第一次では俺だけ令呪を作って持っていたので余裕でした。今回もバーサーカー(ランスロット)を召喚して無双。聖杯獲得。今回も適当な願いを叶えてもらう。

 

 問題の第三次。アインツベルンはやはりアヴェンジャーを召喚した。が、予め知っていたので対策済み。特製の魔術礼装で正も邪もない純粋な魔力の塊に変えて聖杯に叩き込んだ。むしろナチス・ドイツとダーニックがうざかった。が、無事に聖杯は完成し、そ知らぬ顔で獲得。適当な願いを叶えてもらう。三度目という事で流石にアインツベンと遠坂から文句を言われたが、かたや反則、かたや特に目立った事をしていない奴に言われる謂れはないと突っぱねる。

 

 そして第四次。遠坂桜を引き取ったが原作みたく蟲蔵で陵辱などせず、ちゃんとした魔術師としての教育を行う。間桐の魔術刻印はもうこれ以上先がないから株分けか新たに家を興させるしかないだろうが、まあ、原作よりは百倍マシなのだから文句は言わせん。

 

 間桐雁夜は原作通り家を飛び出していたが、桜の事で一度帰ってきて色々話をし、なんとか納得したのか再びどこかに行ってしまった。

 

 そうなると間桐の魔術師は俺しかいないので今回の聖杯戦争も俺自身が出る事になりそうだ。

 

 正直下手な奴出して聖杯戦争が狂ったら余計手間だし大変だから仕方がない。

 

 さて、そうなるとサーヴァントはどれにするか。......原作通りバーサーカー(ランスロット)で行くとしようか。愉悦愉悦。

 

 

 

 

 side.アインツベルン

 

 

 

 ドイツにあるアインツベルンの城にて、衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンは此度の聖杯戦争に参加する他のマスターについて話し合っていた。

 

「――しかし問題は、あの男がどう出るかだ」

 

「第一、第二、第三次の聖杯戦争を勝ち取ったマスター。間桐臓硯の事ね」

 

「ああ。確かに言峰綺礼は恐ろしいが、しかしこの男ほどではない」

 

 アインツベルンに婿養子に入り、第四次聖杯戦争におけるアインツベルンのマスターとなった『魔術師殺し』衛宮切嗣は、机に広げた資料のある一枚の書類を指で叩いた。

 

 その資料には青髪の見目麗しい青年が映った写真が付いている。

 

 その男の名は、間桐臓硯。

 

 間桐家現当主にして、約五百年もの長きに渡り生き永らえてきた人外。

 

 聖杯戦争を三度勝ち抜いてきた真の強者であり、現代に生きる魔術師の中でも五本指に入るであろう存在。

 

 その出自は、元々ロシア系の魔術師であり、何を思ったかある程度魔術師として学問を修めると、日本に渡った変わり者。

 

 当時の魔術協会に惜しまれるほど有能な魔術師だったが、日本に来るや否や尾張の織田勢力に属し、共に戦場を駆けたと耳を疑う事をしでかした大うつけ。一応、神秘の秘匿は十分に気を使っていたようで、全く魔術を使わずに参加していたらしい。これは当時の魔術協会によって調査され、真実とされているが、正直魔術師が魔術を使わずに戦場に出る時点で大変な気狂いにしか思えない。

 

 それから織田信長が本能寺の変にて自決してからは一旦歴史の表舞台から姿を消し、次に現れたのは幕末の新撰組。当時天才剣士でありながらも病弱であった沖田総司と共に戦場を駆けたと言われている。

 

 それから新撰組が解体してからは再び姿を消したが、それからは歴史の裏で協会の封印指定執行者と講師をバイト代わりにこなしては冬木にて聖杯戦争に参加したりなど好き勝手に行動している。

 

「この男には僕がとる戦術の全てを把握されていると判断した方がいい。僕がフリーで活動していた時期に何度か遭遇した事がある。その時に少し矛を交えたが、相手にさえしてもらえなかった。魔術師としての腕は超一流。ロード・エルメロイですら足元にも及ばない上に、実戦経験もあまりに桁違いだ。かの第六天魔王と天才剣士と肩を並べた事もある。更に他の魔術師とは違って科学を毛嫌いしていないどころか、むしろ科学の利点と魔術の利点を上手く利用する器用さがある。間違いなく、彼は今回の聖杯戦争最強の敵だ」

 

「弱点はないのかしら」

 

「戦闘面に関してはまずないね。恐ろしいことにサーヴァント並の戦闘能力だ。第三次では単独でアインツベルンのサーヴァントを打倒しているぐらいだし、もしも天寿を全うすれば確実に英霊の座に迎えられるだろう。だが、だからといって他の面にしても大した弱点もない。人質になるような縁者もいないし、いたとしても人質の価値がない」

 

「......手詰まりね」

 

「ああ。だがなんとかしてみせる。僕の望みは何としてでも叶えてみせる」

 

「ええ。あなたなら出来るわ。キリツグ」

 

 

 

 

 

 side.遠坂

 

 

 

 

 冬木にある遠坂邸地下にある魔術工房には、二人の男の姿があった。

 

 一人は上品な赤のスーツに身を包んだ顎髭を蓄えた男性。

 

 もう一人はがっしりとした体躯をカソックに収めた男性だ。

 

「......やはり今回も間桐の翁は参戦するようだ」

 

「間桐の......。あの『聖遺物狂い』がどうかしたのですか?」

 

「ああ。彼は今回も聖杯戦争に参加するらしいんだ」

 

「たしか第一次から第三次までの全ての聖杯戦争で勝利を収めた魔術師でしたか」

 

「そうだ。聖杯戦争始まりの御三家の一つ。間桐の現当主にして五百年を生きる大魔術師。彼の偉業は今尚魔術協会で語り継がれ、その影響力は未だ根強い」

 

「そんな男が何故また聖杯を?」

 

 カソックを着た男、言峰綺礼は尋ねながらも大した興味はないのか手元の資料を読んでいる。

 

 その資料にはボサボサの髪に目が死んだ魚のような男の写真が映っている。

 

 この場にいるもう一人の男、遠坂時臣はそんな綺礼の様子を一瞥し椅子に体重を預ける。

 

「彼にとって聖杯とはそこらの便利な魔術礼装の一つでしかないが、しかしだからといって放置していい代物でもない。だから悪用されないように手に入れておこう。その程度の気持ちで彼は聖杯戦争に参加している」

 

「彼は根源を目指さないのですか」

 

 魔術師にとっての到達点。

 

 根源に至る事。それだけのために数多の魔術師達は魔導の道を歩む。中には魔術使いと呼ばれる者達もいるが、そんな者達は少数だ。間桐臓硯は聞いた話だけで判断すれば魔術師の典型といっていい。そんな男が何故、聖杯を得ながらも未だに根源へと至らないのか。もしかしたら。綺礼の脳裏にそんな思考が過る。

 

 だがその淡い希望は、自身の師によって否定された。

 

「いいや、彼も根源を目指す魔術師の一人だ。ただ聖杯には頼らず、己の魔導による根源の渦への到達こそを望んでいる」

 

 お陰で聖杯による根源への到達は今現在も可能である。

 

 間桐の翁の目指す己の魔導のみでの根源の渦への到達はたしかに素晴らしい理想だろう。

 

 だがそこにあるのならば一も二もなく飛びつくのが魔術師ではという思いもある。

 

 優雅ではないが、それが魔術師だと理解している己からしてみても、間桐の翁は魔術師としてとても誇り高い人物だと認めている。

 

 だからこそ。

 

 遠坂時臣は重いため息をついた。

 

 彼は強敵である。

 

 時計塔のロードよりも、魔術師殺しよりも、尚強大な敵である。

 

 五百年を生きる大魔術師。その実力は己に計れる領域には既にないだろう。宝石爺。大恩ある大師父と並べても見劣りしないのではないか。凡才たる我が身からすればどちらも魔導の遥か先を行く魔術師である。そう見えて仕方がない。

 

 それ故に養子に出す宛に困っていた次女の桜を安心して任せることが出来たのだが。かの魔術師の下で研鑽を積めばあるいは、そう思ってしまうぐらいには期待もしていた。

 

 今はその全てが心を重くする。

 

 やはりかの魔術師に勝てないのではないか。

 

 ネガティブな思考が止まらない。

 

 だがそれでも、それでも今回の聖杯は遠坂の物となる。という思いもあった。

 

 絶望的な状況でありながら、その闇を切り裂く希望を己は既に手にしている。

 

 机の引き出しから小さな箱を取り出す。

 

 中には世界で最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石が入っている。

 

 これを用いれば、考えうる限り最強のサーヴァントを召喚出来る。

 

 古代ウルクの王ギルガメッシュ。彼を召喚出来れば遠坂の勝利は確定といってもいい。

 

「綺礼。この戦い、我々の勝利にて幕を引こう」

 

「はい。我が師よ」

 

 

 

 

 side.時計塔

 

 

 

 ロンドンにある時計塔にて、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは聖杯戦争に関する資料を眺めながら、分かりやすく頭をかかえて項垂れていた。

 

 その隣では婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが、自らの爪をつまらなそうに眺めながら横の婚約者を冷たく見下ろしている。

 

「ケイネス。いつまでそうしているの」

 

「ソラウ......」

 

「聖遺物が盗まれたのは過ぎたことよ。代わりにランサーを召喚出来たのだから良かったじゃない。貴方の考案したアイディアもちゃんと機能しているし、何も頭を抱える必要なんかないわ」

 

「ソラウ。しかし......」

 

「なに?」

 

「いや、たしかに聖遺物の件以外は万事上手く行った。だがな......」

 

 ケイネスは言いずらそうに視線を下に向け、二つの目と目が合い、思わず上を向いてしまった。

 

「あ、主......!」

 

「ええ。全て上手く行ったわ。召喚するサーヴァントの逸話を正確に把握していなかったせいで私が魅了にかかってしまったけどね」

 

「私が悪かったソラウ!だからお願いだ!そろそろ機嫌を直してもらえないだろうか?」

 

 頭を下げるケイネス。それを見下ろすソラウ。

 

 そして、ソラウの下から声が慌てて割って入った。

 

「お待ちください我が主よ!悪いのは全て私です!ですからどうか!頭を上げてください!頭を下げるのは私ですから!」

 

「ええい黙れ!それ以上どうやって頭を下げる気だ貴様は!」

 

 ソラウの下。四つん這いになり彼女の椅子になって頭を垂れていた男は、つい先程ケイネスが召喚したサーヴァントのランサーである。

 

 真名はディルムッド・オディナ。

 

 フィオナ騎士団の筆頭騎士にして、愛の黒子により主君の妻を望まずとも奪ってしまった男。最期は主君から見殺しにされた経歴を持つが、己の婚約者によって椅子にされている姿はあまりに哀れで、婚約者に魅了をかけた狼藉者と思っていても見ていられない。

 

 既に魅了を自力で解いているソラウは、ランサーの背を椅子に足を組み替え、ケイネスを睨んだ。

 

「ケイネス。この事はあの方に伝えておきますね」

 

「ま、待ってくれソラウ。あの方には、あの方にだけは伝えないでくれ」

 

 途端、冷や汗を垂らし始めたケイネスは、しかし何を言っていいのか分からずわたわたとするばかり。

 

 ケイネスの脳裏に過るのは、師と仰ぐ一人の魔術師の姿が。

 

 間桐臓硯。

 

 ケイネスが未だ若き学生であった頃に出会ったその男は途徹もなく優れた魔術師だった。

 

 当時既に天才の名を欲しいままにしていたケイネスに挫折と敗北を味あわせた男であり、また、魔術師としての在り方とソラウとの仲を取り持ってくれた恩師である。

 

 彼には時計塔にいる大体の魔術師にとって頭が上がらない存在だが、ケイネスは個人的に更に頭が上がらない。

 

 まずあの頃の天才の名に天狗になっていた鼻をへし折られ、当時の自分の最高傑作といっていい論文をその場で全て事細かく訂正をされて敗北を味わい、魔術師としての科学蔑視の在り方を身一つで戦場に直接叩き込まれる事で矯正され、ソラウとの仲を互いに愛し合う関係になるよう仲を取り持ってくれた。

 

 それ故に、ケイネスは彼に逆らえない。

 

 あれから十年以上経ち、今や自分も講師をしているが、未だに顔を会わせれば頭を下げるばかりだ。

 

 そんな彼にこの失敗を伝えたらどうなるか。

 

 根性を叩き直す名目で死徒狩りに連れていかれるか、それともソラウの前で過去の恥ずかしい話を延々と話されるか。

 

 とにかく自分が精神的に破滅する未来しか見えない。

 

「ソ、ソラウ」

 

「ケイネス」

 

 静かな、しかし断罪するかのような冷たい声音。

 

 それを聞いた瞬間、ケイネスは死を連想した。

 

「諦めなさい」

 

「ソラウウウウウ!!!」

 

 

 

 

 side.とある未熟な魔術師

 

 

 

 ウェイバー・ベルベットは回想する。

 

 かの偉大なる魔術師との邂逅を。

 

 それはある種の神との邂逅に等しかった。

 

 彼と出会い、会話した事は今も尚この胸に焼き付いたかのように鮮明だ。

 

 間桐臓硯。

 

 五百年の年月を生きた大魔術師。

 

 まだマキリ・ゾォルケンを名乗っていた頃、衰退を始めていた家を二十代の若さで立て直し、突如日本に渡った男。

 

 日本に渡った理由は分からないが、彼ほどの魔術師にしか分からない深遠なる理由があったに違いない。

 

 彼の偉業によりもたらされた物は当時の魔術協会をして度肝を抜くものであったらしいが、それは今尚魔術協会で取り上げられる代物で、一時期嘘か真かかの魔術師の論文、礼装を調べる学問を立ち上げるかどうか議論されたとさえ言われている。

 

 そんな魔術師であるから、ウェイバーは最初鼻持ちならない時計塔のほとんどを占める血統主義の魔術師だと見下していた。

 

 だから実際に会い、彼と会話したウェイバーは己の勘違いを恥じた。

 

 ――代の浅い魔術師が代を重ねた魔術師を超える。なるほど、素晴らしいアイディアだ。それを現実の下に出来たならば、君は魔導の歴史に名を残すだろう。

 

 最高傑作と自負する論文を彼に見せた後の感想だ。

 

 その瞬間、ウェイバーはあまりの事にその後の会話が全く頭に入らなくなったが、しかし著名な魔術師に認められた高揚感に支配された彼にはどうでも良かった。

 

 やっと自分の才能が認められたのだ。

 

 嬉しくないわけがない。

 

 その時の事を何度思い返してみても胸が張り裂けんばかりに高鳴ってしまう。

 

 だからこそ、その論文をあの講師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに見せた時の事を思い出すだけで腸が煮え繰り返った。

 

 ――くだらん内容だ。こんな物をあの方に読ませたのか?正気を疑うぞウェイバー・ベルベット君。

 

 心底失望したと、怒りすら滲ませた言葉をケイネスは投げつけた。

 

 許せなかった。

 

 己の全てを否定されたように感じて。

 

 だからつい出来心でケイネスに送られる筈だった聖遺物を盗んだ。

 

 そして聖杯戦争の事を知り、直ぐ様日本に渡った。

 

 己の才能を証明するために。

 

 

 

 

 

 



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間桐臓硯に転生したらいろいろやっちまった件。3

 

 

 

 

 いよいよ第四次聖杯戦争が始まった。

 

 開戦の合図はやはり遠坂時臣による茶番である。

 

 正直この猿芝居に何の意味があるのか俺は前世を含めて理解出来ない。

 

 ある程度戦いに慣れた者達からしたら違和感があり過ぎるし、自分を殺そうとしたかつての弟子を無事に教会に辿り着かせるのはまずあり得ない。

 

 この事に関しては優雅とか関係ない。

 

 魔術師の師弟が殺し合い、負けた方が生き残る事など稀だ。特に遠坂時臣のような典型的な魔術師は何がなんでも始末をつけるだろう。例え友人の息子であろうとも。

 

 ま。終わった事だ。一々掘り返すことでもない。猿芝居であろうが多少は他陣営に動揺は与えられただろうしな。それが支払った代償に釣り合うかどうかはともかく。

 

 さて、現在はあの茶番の夜から一夜明けたお昼時。

 

 俺はお洒落なカフェにて優雅なティータイム中である。

 

 因みに一人ではなく、相手がいる。

 

 雪のような美女と男装をした美少女の二人組だ。

 

 彼女達は此方を睨みながらも大人しくティータイムを共にしている。

 

 あの男ならばともかく、彼女達が昼間の、こんな人目のある場所で事をかまえる事はないだろう。

 

 だからこそこうして余裕をもって優雅にティータイムを満喫をしているのだが、やはり彼女達の動きは固い。

 

 仕方ない。口は上手くないがどうにかして彼女達の緊張を解すとしよう。

 

「そう構えないでほしい。私もこんな所で事を起こすつもりはないよ」

 

「......それを素直に信用するとでも?」

 

「思っていないが、本当にこの場で事を起こすつもりはないのも確かだ」

 

 どうやらアイリスフィール・フォン・アインツベルンは信じられないようだ。当然だが。

 

 ま。信用はともかく緊張はしっかり解すとしようか。

 

「ところで隣の君、食べたいなら好きに注文して構わないよ。私の奢りだ。遠慮はいらないよ」

 

「な、何を!私は別に!」

 

「そうかい?時折メニューを見てたからそうだと思っていたんだが。なに、本格的に戦闘が始まるだろう夜までまだまだ時間もある。君のマスターもそれぐらいの我が儘は許してくれるだろう」

 

「く、あ、アイリスフィール」

 

 男装の少女は俺の言葉にかなり気持ちを揺さぶられたらしい。隣のアイリスフィールに情けない視線を向けている。

 

「......そうね。ここは素直に御馳走してもらいましょうか」

 

「アイリスフィール!」

 

 男装の少女はアイリスフィールの許しが出た瞬間すぐに店員を呼び出して大量に注文していく。それでいいのか腹ペコ王。俺が勧めたとはいえ素晴らしい変わり身だ。

 

 横のアイリスフィールは出来の悪い我が子を見るような表情をしている。

 

 うん。実に和やかだ。これが聖杯戦争で敵対中のマスターとサーヴァントの食事風景である。これを見ているかもしれない衛宮切嗣の心中を思うと愉悦が満たされていく。ご飯三杯は固いな。

 

 と。どうやらケイネスのサーヴァントが他のサーヴァントを誘い始めたらしい。気配をビンビン感じる。でもこの分だと彼女達がランサーに気付くのは原作通りもっと先になるだろう。俺もわざわざ誘いに乗るつもりはない。とりあえず今はまだ。

 

 それに、食い物の恨みは恐ろしいからな。

 

 食事をしている獅子(セイバー)を刺激したくはない。

 

 

 

 

 side.衛宮切嗣

 

 

 

 

「何をやっているんだ......」

 

 とある高層ビルの一室にて。

 

 スコープ越しに見えているのは己の妻とサーヴァントが敵である恐らくマスターだろう男が向かい合った食事風景である。

 

 あまりの事に切嗣は銃を落としかけたが、すぐに気を取り直すと再びスコープを覗く。

 

 そこには最初の剣呑さが嘘のように談笑している三人の姿が。

 

 特にセイバーが心を開きすぎていると感じる。

 

 己の彼女に対する態度を考えれば不思議じゃないが、敵マスターであろう男に気を許して、万が一にでも鞍替えでもされてはかなわない。

 

 アイリにはその辺のケアは丸投げしているので言うほど心配はしていないが、相手が相手である。

 

 どんな手を使ってくるのか想像すら出来ない。

 

 アイリに付けた盗聴器から会話が漏れてくる。

 

『ああ、そうだ。衛宮切嗣についていくつか話があるんだが、聞きたいか?』

 

『キリツグの話?』

 

『ああ、まだ傭兵だった頃の彼の話だ』

 

『へえ』

 

 不味い。己の中の何か直感的なものが警鐘を鳴らす。

 

 現に、今まで上っ面ばかりの会話しかしていなかったアイリが興味を引かれて露骨に興味を示した。

 

『彼の部下に久宇舞弥という女性がいるだろう?』

 

『......ええ』

 

 一段。落ちるアイリの声。

 

 初めて聞いた妻の声に切嗣はひくりと喉がひきつった。

 

『元はとある戦場で拾ったらしいが、今では彼の右腕ともいえる存在だ』

 

『ふうん』

 

 更に一段。落ちる。

 

 切嗣は思わず銃を下ろして盗聴器を切りたくなったがなんとか踏みとどまる。

 

 尚も盗聴器から紡がれる舞弥についての会話は、正直冷静に考えればあまりに正確で深い事情まで突っ込んでいて、普段の彼ならば危機感に襲われているだろう。

 

 だが今の切嗣には別の事が気になってそれに気が付かない。いや、危機感ならある。それは彼に対してではなく、彼の正面に座る顔の見えない己の妻にたいして。

 

『ああ。そういえば最近は予行演習と称して彼女と関係を......』

 

「う、うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 たまらず切嗣は銃を放り投げ、盗聴器の電源を切った。

 

 精神攻撃は基本である。

 

 切嗣はそう口にする彼の姿を思わず幻視した。

 

 その後、久宇舞弥に慰められる魔術師殺しの姿があったが、幸いにもそれを目撃する者は彼女以外にはいなかった。

 

 

 

 

 side.■■■

 

 

 

 

 夜。コンテナが多く並ぶ埠頭にて、開けた場所で二人の男女が火花を散らしていた。

 

 一人は二槍を手繰る魔貌の騎士。

 

 もう一人は青のドレスのようにも見える鎧を着た可憐な騎士王。

 

 二人はその圧倒的なまでの武を競い合い、ただただ死闘を繰り広げる。

 

「どうしたセイバー!動きが鈍いぞ!」

 

「くっ!」

 

 二槍を見事なまでに操る騎士、ランサーからの声に騎士王、セイバーは負傷した左手が原因か動きがややぎこちない。

 

 必滅の黄薔薇。

 

 ランサーの宝具であり、回復を阻害する呪いの槍。

 

 

 

 

     ■以降書けなくなり断念■

 

 

 

 

 



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衛宮士郎のダイジェスト上(※下はありません)

 

 

 

 

 

 俺の名前は衛宮士郎。

 

 転生者である。

 

 気が付いたら神様を名乗る老人に適当な能力を与えられて転生させられた哀れな男である。

 

 前世の記憶はなし。原作知識と現代知識以外はなく、後は前世の嗜好があるだけ。

 

 未練がないのはいいがなんだかなあ。

 

 与えられた能力は超速学習能力。

 

 一を知り十を知る。一の鍛練で百の成長をする。

 

 神様が与えた力故か倍率千倍の超学習能力で、一日何かを頑張れば二年以上頑張った成果が出るチートな能力。

 

 これがあれば人生強くてニューゲームな楽勝人生が約束されているが、しかし転生するのはfateである。

 

 あの慢心王やら愉悦麻婆やらヤンデレ後輩、果てはエミヤ絶対殺す幼女や士郎スレイヤーな紅茶とかがいる世界だ。

 

 衛宮士郎は固有結界持ちであり体内に全て遠き理想郷なる現存する宝具。更には魔術師殺しの衛宮切嗣の義理とはいえ息子である。

 

 死亡フラグしかない。もはや世界に殺意が満ちている。

 

 どうしたらいい。

 

 というか目が覚めたら切嗣がお亡くなりになられていた。

 

 まさかのここからスタートですか。そうですか。

 

 こんな中途半端な知識で生き残れと。神様絶対許すまじ。慈悲はない。

 

 これから第五次聖杯戦争まで原作通りの行動を取ればルナティック難易度の原作そのままで足掻かなければならない。

 

 ふざけるな。

 

 そんなの出来るか。

 

 俺は『衛宮士郎』ではない。

 

 そんな地獄を歩めるか。

 

 ならばどうすればいいのか。

 

 魔術を誰かに教えてもらう。

 

 周りにまともな魔術師がいない。遠坂凛がいるが、対価が何もない。

 

 原作でも魔術的な何かを切嗣は遺さなかったのだ。この衛宮士郎にも同じだろう。

 

 冬木から逃げる。

 

 固有結界持ちにして全て遠き理想郷持ちの衛宮切嗣の息子だぜ?行き着く先は地獄だ。まだこのまま聖杯戦争に挑んだほうが遥かにマシだ。

 

 死ぬ気で鍛えて聖杯戦争に挑み、因縁を断ち切る。

 

 一番堅実で現実を見据えた案だが、俺に主人公補正なぞないし、正義の味方を目指していない。原作知識はあれど、それは『衛宮士郎』だからこその物語だ。俺には無理だ。

 

 ならばどうする?

 

 外道と呼ばれてもかまわない。何をしてでも運命を切り開く。

 

 それしかない。チートはともかく、中身は普通の俺だ。手段など選べない。ならば容赦は要らず、躊躇も要らない。

 

 俺は、絶対にこの世界を生き残ってやる。

 

 ……そうと決まったら、早速始めるとしようか。生き残る為の一手を。

 

 俺の年齢は今現在十二才。中学一年生。第五次聖杯戦争まで残り五年。

 

 余裕はない。だが死ぬ気で頑張ればなんとかなるかもしれない。そんな短い時間。しかしやると決めたのだ。歩みを進めるのだ。

 

 死した衛宮切嗣の横で俺は胡座をかき、精神を統一する。

 

 魔術回路を、造り上げる。

 

 針の穴を通すような繊細な作業だが、幸いにも以前の『衛宮士郎』の記憶がある。なんとかなる。

 

 魔術回路を造り上げた。回路の数は十数本。

 

 やはり『衛宮士郎』は完全に回路を開ききれていないようだ。

 

 再び、魔術回路を造り直す。

 

 今度は二十七本。『衛宮士郎』の本来の数だ。

 

 チートのお陰か、一度やれば次からは恐ろしいほどに上手く出来る。素晴らしい。神様ありがとう。

 

 魔術回路は出来たので、次の作業に移る。

 

 横にある衛宮切嗣の亡骸に近付き、魔術を行使する。

 

 ――解析。

 

 解析する。

 

 何もない。大した事は分からない。

 

 ――解析。

 

 解析する。

 

 何もない。大した事は分からない。

 

 ――解析。

 

 解析する。

 

 何もない。大した事は分からない。

 

 ――解析。解析。解析。解析。何度も続ける。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 何度目か。すっかり衛宮切嗣が冷えきってしまった頃にようやく、待ち望んでいた答えが現れた。

 

 衛宮切嗣の起源。「切断」と「結合」。その情報を手に入れた。そして起源弾の情報を得る。更に衛宮の魔術刻印の情報も得た。得たのだ。解析という無意味に等しい魔術で、衛宮切嗣の力を。

 

 流石チートだ。あり得ない事をこんなにも簡単に出来るとは。下手したら封印指定レベルの事をやらかしてしまった事は努めて無視しつつ、俺はついでに解析した衛宮切嗣の記憶からそれを投影する。

 

 起源弾。トンプソン・コンテンダーもセットで投影する。

 

 最初はハリボテだったが、二度三度と繰り返すうちにオリジナルの領域へと近付いていく。

 

 五度目には本物と寸分違わない出来になったと満足出来た。次に衛宮の魔術刻印の投影も挑戦する。

 

 剣ではないので魔力の負担が大きいが、今は無理をしてでもこの作業を完遂せねばならない。今を逃せばこれを手にいれる機会など永久に来ないのだから。

 

 そして、これも満足のいく出来になったら作業を終えた。

 

 これでようやく魔術師として地に足がつく目処がたった。

 

 後は交渉が上手くいけばいいのだが……。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、交渉は成功した。

 

 交渉相手は遠坂凛。

 

 交渉材料は衛宮切嗣の起源弾。プラス衛宮の魔術刻印。

 

 交渉目的は遠坂凛に魔術について師事を仰ぐこと。

 

 快く引き受けてくれた。わけではないが、今持っている魔術師としての全財産と、俺が今行っている魔術の訓練。知識の欠落等々彼女のお人好しの部分をこれでもかと刺激する内容に思わず引き受けてしまった。という感じであった。

 

 魔術回路を毎日造り直す作業を何回かやった俺だが、実際にやってみた感覚からすると本当に自殺行為で、チートがなければ絶対にやらなかっただろう行為である。

 

 まあ、それはもういいか。

 

 魔術の師事を仰げたのだ。良しとしよう。

 

 ちなみに言峰綺礼についてだが、今は海外に出張しているらしく、会う事は出来ないそうだ。そもそも会いたくないのでかまわないと伝えたらやや遠坂凛の好感度が上がったようで、夕食をご馳走してもらった。美味であった。

 

 それからというもの、俺は週に二日ぐらいの感覚で遠坂凛から魔術を教えてもらった。お陰で原作士郎よりも暗示に掛かりにくくなったり器用になったが、やはり『衛宮士郎』らしく、その他の才能がほとんどなかった。チートのお陰でなんとか並み程度には出来るが、それでもやはり投影魔術には遠く及ばない。後解析の魔術も。やはりあの夜やらかしてしまったらしく、俺の解析の魔術は最早無意味な魔術ではなく、魔術師に使えばその起源から魔術特性、属性、得意魔術から肉体の状態など様々な情報を盗みとれる代物になってしまっていた。これ以上いけば封印指定待ったなしの魔術である。遠坂凛に試しに使ってみたところ、彼女の表面的なステータスのみしか情報は得られなかった。魔術の情報を守るような魔術でもあるのだろう。しかし問題は、遠坂凛の表面的なステータスだった。彼女の現時点での肉体的なステータスが俺の脳内に展開されたのだ。そうして出来るのは遠坂凛の隅々まで再現された映像。眼福である。遠坂凛にばれて偉い目に遭わされたが焼きついた情報はそう簡単には消せないのだ。ふはははは。

 

 遠坂凛の修行の合間にやる自主訓練では投影魔術を主に行う。最初はそこら辺のがらくたから。次に刃物。更に次に魔力の籠った物。そして最後に全て遠き理想郷の投影である。セイバーを召喚する場合、十中八九返却する事になるので、今のうちに渡すための練習と、宝具投影の鍛練。全て遠き理想郷のレプリカの確保の為である。全て遠き理想郷の投影自体は簡単である。体内に埋め込まれているためか、手に取るように分かる。が、これをその要素をなしに理解をしてやれと言われたら匙を投げるような代物だ。宝具投影の鍛練の為に何度も投影するが、一線を越えた先は依然人知を越えたまま。理解の欠片も掴めない。こうなると原作同様、セイバーに返却した後は投影出来なくなるだろう。聖杯戦争までになんとかしなければいけない。更に、全て遠き理想郷に刻まれた所有者の記憶を投影・再現した結果。かなりの戦闘経験と、セイバーの記憶が記録として取得出来た。ナイスちっぱい。じゃない。そうじゃない。記憶の中にちらちら映った円卓の騎士の宝具の数々は参考になった。これでより戦闘力を上げられる。流石にサーヴァント相手にタイマン張れないが、少なくとも人間相手なら圧倒出来る力は欲しい。勿論、肉体の鍛練もかかさない。チートのお陰で技術だけではなく、肉体も超速で鍛えられる為かなり楽しいので思わずやり過ぎてしまう。身長が伸びなくなる可能性があるのであまり筋肉はつけられないのがネックだが。それに毒物等に対する耐性も身につけていっている。チートで耐性もバンバンつくので他の鍛練より断然楽である。後はサーヴァントのスキルを修得出来るかの鍛練も行っている。例えばエミヤの固有結界は魔力や練度的には十分だが、しかしほとんど何もないので展開して世界からの修正力に耐性をつけるだけの鍛練になりつつある。まだ人間の技っぽい李書文の圏境は八極拳を極めていけばいいらしいので毎朝余計な筋肉をつけないよう気を付けながら鍛練している。気を扱う技術は魔術とは違って健全な感じがして気分も大分違うので息抜きにもやっている。言峰綺礼の八極拳は人体破壊に特化したものらしいから俺は治療に特化したやつにしてみたい。ていうかしないと死にそうだ。『衛宮士郎』はボロボロになりやすいし。全て遠き理想郷あっても不安すぎる。後は魔法に到達している無茶すぎる佐々木小次郎の燕返しだが、これは毎日佐々木小次郎の得物である物干し竿を原作知識頼りに投影して記憶を再現しながら素振りしている。それと沖田総司の縮地からの無明三段突きも同じく。乞食清光とか菊一文字則宗なんか暇があれば実物を見に行きたい。

 

 そんなこんなで順調に過ごしていたら、間桐慎二と友人になり、間桐桜と対面した。

 

 やべえ。レイプ目とか死んだ魚の目とかそんな次元じゃねぇ。もっと恐ろしい何かの目をしていた。

 

 『衛宮士郎』はこんな状態の彼女をあの大和撫子系ヤンデレに変えたのか。すげえよ。ていうか俺には荷が重すぎるんだけど!?

 

 とりあえず優しく接し、料理を振る舞ったり教えたり、遊びに行ったりしていたらいつの間にか慕われてました。というか原作並みに恋心を覗かせていて鈍感のふりしてやり過ごさないと一気に距離を詰めてきそうで怖いみたいな状況に。間桐桜ってこんなにちょろかったのか?いやまあ、あんな家で過ごしていたら確かにこれだけの事で幸せを感じても仕方ないか。普通の幸せなんて、まずあり得ないからな。そう考えると彼女の好意をスルーするのはちょっと良心が耐えられない。正直生き残るだけで精一杯だが彼女を救う方法を考えてもバチは当たらないだろう。そうなるとより多くの鍛練をしなければならないな。他人も助けるのだ。今よりもっと実力を身につけなければ。とりあえず遠坂凛にもう少し多く時間を割いてもらいたい。まあ、なんとかなるだろう。彼女自身も未だ未熟で時間が多くとれないのだが最近はなんかこう半分バトラー染みた事もしていて精神的な防壁が下がってるというかフラグが立ってそうというか。まあ、なんとかなる。

 

 ちなみに、間桐慎二に解析擬きの魔術を使い、魔術の知識を拝借した。間桐の魔術は結構為になる。令呪関係の知識に通じるし、遠坂凛の教える魔術とは違い、かなり深い部分まで間桐の魔術を知る事が出来た。間桐臓硯は何をしているのか。魔術回路をもたない人間に知識を与え、そのまま放任とか、よほどどうでもいいのか。それとも罠なのか。とりあえず罠はなかった。間桐慎二に魔術の痕跡は全くなかった。俺の解析擬きの魔術は進化して痕跡を全く残さない。間桐臓硯ほどの魔術師を誤魔化せるかどうかは分からないが、まあ大丈夫だろう。間桐臓硯は衛宮切嗣の息子である俺を警戒して桜を送り込んだのだ。多少の魔術の痕跡は俺が何らかの警戒をしたのだと判断するだろう。御三家である間桐の者達だ。衛宮切嗣の息子である俺が警戒するのは当然の理屈だ。間桐桜にも解析擬きの魔術は使ったが、特にあちら側からのアクションはない。間桐桜は何の反応も示さなかったし、彼女の心臓に巣食う間桐臓硯も気づいた様子はなかった。お陰で聖杯の欠片を解析出来たし、間桐臓硯を殺す事も可能になった。彼女の記憶も覗いたが、あまりに凄惨な記憶に最低限の情報を得たら他は忘却した。

 

 原作の『衛宮士郎』はバイトをしていたが、俺は死亡フラグを折るために忙しいのでしていない。臨時でお金が必要になったら衛宮切嗣の遺したお金か、不法投棄された家電製品を修理してリサイクルショップに売り払って金にしている。後はパソコンで試しに株をしたりして金策している。黄金律が欲しいが無いものは仕方ない。パソコンもチートのお陰か一日で大体の事を把握して、一月も経てば投影まで使って無駄に性能のいい自作のパソコンを作るまでになった。が、間桐桜に秘蔵の画像や動画を見られたのは不味かった。その日からスキンシップが増えたしラッキースケベ的な展開が多発した。よく考えなくとも間桐桜の仕業である。洋モノなのが悪かったのか。セイバー似の女優ばかり集めたからか。貧乳が多めだからかおっぱいを重点的に強調してきやがる。三重のプロテクトをかけてたのになあ。恐るべし大和撫子系ヤンデレ。そろそろ刺されそうだ。

 

 かなり危ない事もしている。魔術回路を造り、自分に移植するという、『衛宮士郎』よりも頭のおかしい危険な行為だ。

 

 そもそも魔術回路は代を重ねていき、少しずつ増やしていくような代物だ。それにしたってかなり外法な手段を使わなければならないのに、それを一代で増やすというのだ。どれだけの事をしなければならないのか知れたもんじゃあない。が、俺には投影という素晴らしい魔術がある。これで俺自身の魔術回路を投影し、移植する。正に俺にしかできない手段だ。だが魔術回路を増やすということは内蔵を増やすのと同じと言われている。そのまま移植すれば流石に俺でも死ぬだろう。なので、ワンクッション工程に加える。間桐の魔術で投影した俺の魔術回路を核に使い魔を作成。それを体に取り込み、即席の魔術回路として使う。また徐々に肉体に馴染ませ、魔術回路を時間をかけて移植していく。元は自分の魔術回路だ。拒絶反応は起きにくい筈だ。一匹につき二十本の魔術回路を有した使い魔を五匹取り込む。これで上手くいけば魔術回路が百二十七本になり、魔力量は五倍以上になるだろう。もしも上手くいかなければすぐさま使い魔を体外に出さなければならないが、その時はその時だ。また別の手段を考えよう。

 

 

 

 

 あっという間に数年が過ぎた。

 

 聖杯戦争まで残り二年。中学三年。

 

 魔術の腕はかなり上がった。投影以外の魔術に関してはエミヤを凌駕するだろう。

 

 魔術回路を増やすのもなんとか上手くいった。事後報告で遠坂凛に報告したらボコられたが、俺の身を案じての為に甘んじて受けた。全治三ヶ月の骨折である。魔術回路の数はあれからも増やし続け、今では千本はある。ちなみに遠坂凛に化け物を見るような目で見られた。確かカレーシスターが三百ぐらいだからその三倍以上か。確かに化け物だ。でもまだまだ増やすつもりである。

 

 無駄に有り余った魔力を宝石魔術に使う宝石に貯める作業を何度かすると、衛宮の魔術刻印を返してもらった。有り難く受け取り、すぐさま刻印を移植した。チートのお陰ですぐに体に馴染み、薬の世話にもならなかった。遠坂凛が羨ましげに睨んできたが何故だろうなあ?

 

 サーヴァントの技術の再現についてだが、エミヤの固有結界は主に古刀等、日本に存在する武具が大半を占めるがそれなりに貯まってきた。世界旅行は学生にはちょいキツいです。李書文の圏境は不完全ながら出来るようになった。八極拳も治療特化のものになったし、順調である。佐々木小次郎の燕返しはまだまだかかりそうで、沖田総司の無明三段突きも同じく。縮地はそれなりに身についてきた。このままいけば二年後の聖杯戦争までにはそれなりの形には仕上がるだろう。

 

 後、パソコンの秘蔵の画像や動画に大和撫子系巨乳の類いを追加したら間桐桜の攻勢が落ち着いた。いやはや、あれからプロテクトを更に追加した筈なんだがな。まあ、落ち着いたのならそれでいいよ。うん。正直遠坂凛似の物もあったがあれはあえてプロテクトもかけずに学業関連のフォルダに紛れ込ませているからバレる心配はないな。……フラグじゃないよな?

 

 

 

 

 二年経ち、いよいよ聖杯戦争開始まで後二ヶ月ほどとなった。

 

 俺はややフライングになるだろうが英霊召喚を行うことにした。

 

 理由としてはセイバーとの信頼関係の構築と、とあるサーヴァントの確保が目的である。

 

 既に一人前の魔術師程度の実力を持っている俺は特に問題なくセイバー。アルトリア・ペンドラゴンの召喚を成功させた。アホ毛が素晴らしい。

 

 とりあえず友好的に話しかけ、信頼関係の構築の為に食事に誘う。この世界に転生してから料理はただの一日も欠かさず行ってきたのでチートも相まって凄まじい事になっている。なのでこれをセイバーに食わせたらどんな反応をするのか楽しみだ。

 

 号泣だった。

 

 まさかの号泣だった。

 

 一口口に入れた瞬間、セイバーはまさしく雷を受けたかのように硬直し、次の瞬間には涙を滝のように流した。

 

 なんというかセイバーが可哀想になったのでどんどんおかわりを勧めた。うん。当時の食事が雑だったのは分かったから。うん。

 

 その後、俺の分まで根こそぎ食いつくしたセイバーに謝られるも気にしてないと返して聖杯戦争についての話し合いを始めた。

 

 

 

 

 それから、とある館で片腕を失った瀕死の封印指定執行者であるバゼット・フラガ・マクレミッツを確保し、手厚く治療して仲間に加え、またある場所でマスターを殺し、消えかけていたキャスター・メディアを確保し契約する。

 

 更にアサシンを召喚しようとした魔術師を発見するが、わざとサーヴァントを召喚させた後奪い取るために見逃す。

 

 そして、召喚されたサーヴァントは静謐のハサン。マスターはハサンの毒により死に至ったので契約するためにすかさず姿を現し、毒を無効化し無事契約した。令呪も三画丸ごと入手し、更に死んだ魔術師の魔術刻印その他礼装なども有り難く頂戴する。

 

 ちなみに、静謐のハサンの毒をどうやって無効化したかというと、答えは簡単。安心安定のチートである。毒に対する耐性をチートで身に付けたのだ。

 

 流石に宝具級の毒であるため、右手に気を集めて毒に対する耐性を引き上げ、更に魔術で右手より先に毒が回らないようにして握手をした。

 

 最初の数秒間はこの世のものとは思えない激痛を味わったが、少しずつ痛みが引いていき、やがてなんともなくなると気を拡散してどんどん毒に慣らしていき、それも問題なくなると魔術を解除してようやく耐性が完全になったと判断したら左手でも手を握ってみた。柔らかい手である。しばらくそうしているとハサンはおもむろに俺の唇を奪い、ディープキスを行った。ファーストキスでした。ポッ。セイバーがキレるが何処吹く風である。じっくりと味わうようにディープキスを堪能したハサンは忠誠を誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没1

 タイトル通り今ある小説をリメイクしようとして、失敗した奴です。

 ・没にした理由

 元の文章をもとに編集を繰り返したため、全体の流れがぎこちないし不自然。元の文章と新しい文章が不協和音を奏でているため。
 

 


 

 

 

 

 我輩は転生者である。前世の記憶は原作知識しかない。

 

 どうやら事故で死んだらしい俺を、なんか真っ白な世界で出会った神様が暇潰しに転生させてくれるとおっしゃった。なので、チートを頼んだら自力で手に入れろと問答無用で鋼の錬金術師の世界に叩きこんでくれやがった。

 

 そして心折にも、もとい親切にも、力を手に入れるまで強制的に無限にやり直すーーつまりループするようにした。おまけにアイテムボックスという、ループしても初期化されない無限に収納、永久に保存出来るfateの王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)的なものを持たされて。

 

 ループを終わらすにはチートを手に入れる事が必要で、神様が告げたチートとは即ち、始まりのホムンクルス曰く神と呼ばれるもの。それを神様は手に入れろと言っている。

 

 ーーなんて無理ゲー。しかし手に入れなければ無限にループを繰り返すなんて言われればやるしかない。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、原作知識という心強い代物のお陰で神の力を手に入れる為に必要な道筋は分かっている。

 

 ……問題はその道筋がルナティック通り越してヘルモードな点だが。

 

 はあ。どうなることやら。

 

 

 

 

 最初のループ。

 

 アメストリスのなんの変哲もない一般家庭に生まれる。

 

 本当に普通の一般人の家であり、原作に介入する以前に介入する糸口すらないほど。

 

 なのでとりあえずは錬金術を学び、今回のループは諦めて次のループに期待する事にした。

 

 

 

 次のループ。

 

 前回のループにて、前世の知識と生涯をかけて錬金術を研鑽し続けた結果、一流と言えなくもないレベルに至った。更に寿命で死に至る前に人体錬成を行い、錬成陣なしでの錬成を可能にした。

 

 真理の扉に全身対価にされたが無事ループして本当に安心した。正直二度と味わいたくはない。

 

 さて、二ループめであり三度目の人生なわけだが、前回と変わらず一般の家庭に生まれた。流石に同じ家ではないが、一般家庭という意味ではそうは変わらない。

 

 今回のループも研究にあてるつもりだが、今回はシンに向かい、錬丹術を学ぶことにした。

 

 出来れば気を読む技術も学びたいが、それはついででいいだろう。欲しければまたループを繰り返せばいい。

 

 ……まあその前に、砂漠を越えなければな。

 

 

 

 三ループ目。

 

 無事砂漠を越えてシン国に辿り着いた俺は、早速錬丹術を学び、その合間に気を読む技術についても学びとこれまでのループと変わらない生を過ごした。

 

 その結果、錬丹術と気を読む技術をマスターする。

 

 錬丹術をベースにした錬成陣の構築に時間を費やしたりと、とても有意義なループだった。

 

 そして三ループ目の今回。とりあえず錬金術も錬丹術もある程度学んだが、この後どうすればいいのか分からなくなった。

 

 一旦整理するとしようか。

 

 最終目標は神を手に入れること。

 

 手に入れるためには国土錬成陣を使い、星の真理の扉を開かなければならない。

 

 維持には数千万単位の大量の賢者の石が必要。

 

 賢者の石の材料は人間の魂である。

 

 お父様含むホムンクルス達を欺き、上を行かなければならない。

 

 ……ふむ。

 

 ホムンクルス達を出し抜くのもそうだが、賢者の石を作り上げるのも難易度が高い。それに賢者の石の材料は人間の魂だ。人を殺してまでチートを手に入れたくはないが、錬金術の基本である等価交換を踏まえれば当たり前の対価と理解出来てしまう。

 

 どうすればいい。

 

 人を殺したくはない。

 

 しかし無限ループも嫌だ。

 

 ならどうすればいい。

 

 考えろ。

 

 考えなければならない。

 

 そうしなければこれまでの努力は。技術の研鑽は無意味になる。

 

 考えろ。

 

 原作主人公エドワード・エルリックは考えて答えを見つけただろう。

 

 あらゆる困難を乗り越えただろう。

 

 そう、己を魂一個分の賢者の石として使うような事をしてまで……!

 

 ーーそうか。その手があったか。

 

 そうだ。俺は賢者の石を持っているじゃないか。正しくはその原材料だが、確かに持っている。

 

 ならば、迷うことはない。

 

 俺は俺自身を対価に神を手に入れよう。

 

 それこそが俺が辿り着いた真理だ。

 

 

 

 

 数百ループが過ぎた。

 

 神を手に入れるために己自身の魂を賢者の石に精製する研究を続けて数百ループが過ぎた。独学での賢者の石の研究は困難を極めたが、幾度もの失敗と死を繰り返してようやく完成した。

 

 俺自身を賢者の石にするので一歩間違えれば死ぬため、必要な分だけを抽出して精製するのは至難であった。

 

 だが代わりに、新しい発見もあった。

 

 俺はこれまで何度もループをしてきたわけだが、ループするたびに前回のループで得たものも引き継いでループしていたのだ。

 

 つまり体を鍛えれば、鍛えた分だけ次のループに引き継がれ、強化された状態でループが始まったりなど。

 

 更にこのループの引き継ぎは加算限定らしく、例え前のループで四肢を失っても次のループでは何事もなく五体満足で生まれる事が出来た。

 

 そしてそれは魂も例外ではなかった。

 

 ようやく完成した錬成陣で魂を半分賢者の石に精製しても、次のループにはすっかり元通りになっていたのだ。

 

 それを知って俺はある事を閃いた。

 

 閃いたなら善は急げ。

 

 俺はすぐさま精製した全ての賢者の石を取り込んだ。

 

 元が自身の魂であるためか、特に拒絶反応は起きなかった。

 

 そして今度は取り込んだ賢者の石を再び賢者の石として抽出し、魂も再び半分を残して賢者の石として精製して抽出した賢者の石と合わせてアイテムボックスに仕舞う。本当にアイテムボックスは便利である。ループを越えて生物以外ならなんでも持ち越せるのだから。それに盗まれる心配もない。本当に便利だ。

 

 次のループ。俺の魂は一人分より僅にだが、確かに大きくなっていた。

 

 やはりか。

 

 一度でも加算されたもの、鍛えたり手に入れたものなら、例え失ったとしても次のループにはその分を加算した状態でループされるらしい。

 

 これはいい事を知った。

 

 それに活路を見出だした俺はループのたびに、前のループで精製した賢者の石を一度全て取り込み、すぐに精製出来るだけの賢者の石を精製し、アイテムボックスに保管するのを繰り返した。何度も何度も。毎回感覚で一人分の魂を残して精製するのは神経がすり減るような作業だったが、それだけの価値はあった。

 

 なんせ、増大する魂の総量を賢者の石に換算して簡単に計算したら恐ろしい数値を叩き出したのだから。

 

 最初の俺の魂を1とし、その半分である0・5を賢者の石にし、アイテムボックスに入れて次のループで取り込む。すると次のループでは魂の総量が1・5人分となる。更に半分の魂0・75を石にして次のループで取り込み、2・25人分の魂となる。そしてここから安全をとって一人分の魂を残して1・25を精製し、次のループに取り込んだ。その作業をループにして百ループは繰り返した。

 

 その結果、

 

 198070406285661000000000000000人分の賢者の石を手に入れる事が出来た。

 

 漢字にすると十九(ジョウ)八千七十(ジョ)四千六十二(ガイ)八千五百六十六京千兆人分。

 

 五千万人の賢者の石ではしゃいでいたお父様が可愛く見える数字である。

 

 正直やり過ぎたかもしれない。

 

 だがまあ、これで賢者の石は十分な数を手に入れた。過剰かもしれないが、うん。いいとしておこう。

 

 次は戦闘技術を鍛えよう。ホムンクルス達を相手するのにある程度の強さは必要である。

 

 賢者の石でごり押ししても勝てそうだが、念には念を入れよう。

 

 幸い、戦闘技術を磨く機会には恵まれているからな。

 

 

 

 

 更に数百ループ後。

 

 今更な話だが、ループ先はランダムである。ある時は大富豪の、またある時はスラムの孤児に生まれ。更に時期もかなりばらつきがあり、原作から大体百年ほど前までの間をランダムにループしている。

 

 なので正直原作に関わる時間よりも、それ以外の時間が圧倒的に多い。下手したらループ中一度も原作どころか原作キャラに会うことなく終わる事が何度もあった。

 

 まあ、賢者の石の精製にしても、戦闘技術を磨くにしても、原作に関わらない方が捗るから好都合なんだが、うん。折角だから原作キャラに会いたいなんていうファン心理なんてものがないわけでもない。生前の記憶はないのにそんなのは残ってるとか、前世の俺は一体どんな人間だったんだろうな。

 

 閑話休題。

 

 数百ループを戦闘技術を磨くために消費した結果、素の身体能力がバグった。戦車を片手で持ち上げて百メートル以上投げたり、銃弾を見切ったり、自動車より速く走ったり、砲弾が直撃しても軽症で済んだりと最早どちらがホムンクルスか分からない意味不明さ。

 

 更にシンを含めた様々な国の武術を学習していった結果、最早タイマンで俺に勝ちうる存在はこの世界には存在しなくなった。あ、お父様とプライドは別である。

 

 そんなわけで、戦闘技術も十分磨いた俺は、いよいよ神を目指す事に決めたのだった。

 

 ちなみに、賢者の石を増やす作業は今も惰性で続けている。単位が無量大数を越えてからは数えるのをやめたが。それでも未だに作業は継続中である。

 

 さて、神である。

 

 神を手に入れるには国土錬成陣が必要で、その為にはホムンクルス達が邪魔。

 

 戦闘技術と賢者の石を手に入れた俺に負けはない。

 

 ……と、言いたいが油断は出来ない。

 

 なので原作知識を頼りにホムンクルス達が単独になった時を狙い闇討ち。各個撃破する事にした。

 

 グリード、ラスト、グラトニー、エンヴィー、スロウス、ラース、プライドと原作のタイミングで次々に撃破していく。能力欲しさに七体全て取り込んでみたが、荒ぶる魂が気持ち悪くてすぐに吐き出した。魂の格が違いすぎて内在闘争に負ける気は全くしないが、狂乱する魂と同居するなんぞあまりいい気分ではない。原作のリン・ヤオとヴァン・ホーエンハイムを尊敬するよ。マジで。

 

 最後に残ったお父様だが、国土錬成陣を使う前に賢者の石のごり押しでボコボコにしてから取り込み、賢者の石をその場で解放して消滅させ、フラスコの中の小人の状態にまで弱体化したのを外に解放して始末した。

 

 これでホムンクルス達の力を全て手に入れる事が出来たが、神を手に入れるためには国土錬成陣を使わなければならない。

 

 あまりしたくないし、神を手に入れたお父様から奪うのもこうも簡単にはいかないだろう。

 

 どうしたものか。

 

 

 

 次のループ。

 

 七体のホムンクルスの力を手に入れた。今までも賢者の石を使えば似たような事が出来たが、それよりもちゃんとした形の能力として手に入れたような感覚がする。

 

 ついでにお父様の力も手に入れたため、国土錬成陣を逆に利用する事も可能になったかもしれない。

 

 そして、膨大な数の記憶も手に入れてしまった。

 

 恐らく取り込んだクセルクセス人達の記憶だろう。

 

 これはいらなかった。正直ループを繰返していなかったら精神崩壊していたかもしれない。危ないなホント。好奇心で賢者の石なんか取り込むんじゃなかったよ。お父様の知識はありがたいけどな。

 

 さて、神を手に入れる方法だが、とりあえず原作でグリードがしようとした横取りを俺もする事にした。

 

 やり方は簡単。人柱やお父様達が集まる地下の空間に気配を消して侵入。お父様が国土錬成陣を発動し、中心に立つ瞬間を狙う。具体的にはグリードが失敗した直後、お父様が勝利を確信した瞬間、背後から最速のホムンクルスの力でぶっ飛ばして中心を奪う。

 

 するとなんという事でしょう。

 

 国土錬成陣が発動し、神を手に入れる事が出来ました。

 

 当然アメストリス人の賢者の石は即座に解放し、神だけを内側に残す。

 

 お父様とプライドをさくっと倒し、唖然とする原作キャラ達を前に、俺は堂々と宣言する。

 

「神はこのダンテがいただいたわ!」

 

 尚、最後のループは女性として生まれたことをここに記す。

 

 

 

 これにて無限ループは終わりを告げた。

 

 永い永い時を生きた。

 

 正直転生も憑依もお腹一杯だ。

 

 だがこれで未だ特典を手に入れただけという。

 

 うん。ふざけんな。

 

 本当に神様の考えることは分からない。

 

 だけどまあ、次で最後だ。

 

 精々最後の生を楽しむとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーえ?おかわり?

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没2

 

 

 

 

 俺はループから解放された。

 

 ……のだが、それは最初のループであり、まだ後四つあるとの事。そういえば転生特典て複数だったりしますよねー。神様太っ腹ー。ふざけんなくそが。

 

 そして次のループはfate/stay nightの世界。やべえ。神の力でも安心出来ねぇ。

 

 今回のループ終了条件は無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を手に入れる事。

 

 うん。無理ゲー。

 

 型月屈指のチート二つとか。まず無理である。

 

 正直鋼の錬金術師の世界は原作知識さえあればどうにかなる世界だが、fate/stay nightの世界はそういう次元じゃない。主人公はバンバン死ぬし人理崩壊するし混沌過ぎる。神の力でもかなり辛い。

 

 まあ、もっとも、神様の意向で鋼の錬金術師の世界で得た力はループの間は没収するらしく、再びゼロからのスタートになるのだが。ご丁寧にアイテムボックスの中身も空にされていて夢も希望もない。

 

 神は死んだ!むしろ◯ね!

 

 そんなこんなで心機一転、fate/stay nightの世界でのループは始まった。

 

 

 

 

 悲報。俺氏衛宮士郎に転生。しかもループ転生先も衛宮士郎固定。なんでさ。

 

 あの数多あるルートの大半がBAD ENDでお馴染みの主人公で料理が得意でブラウニーな少年とか。ええ?もう一度いうけど、なんでさ。

 

 どうせならギルガメッシュに転生させてくれよ神様。

 

 ……まあ、考えようによってはまだ優しいループなのかもしれない。

 

 無限の剣製を手に入れる目処が最初からあるのだから。

 

 鋼の錬金術師の世界でもそれぐらいして欲しかった。

 

 どうやって王の財宝を手に入れるか全く見当もつかないけどな!

 

 というかアイテムボックスあるから要らなくない?ダメ?そですか。

 

 仕方ない。手始めに無限の剣製を手に入れて、王の財宝の事は後で考えよう。そうしよう。そうでなければ絶望で折れそうだ。

 

 

 

 

 最初のループ。

 

 冬木大災害を経験する。正直鋼の錬金術師の世界で内在闘争を経験していなければヤバかった。この世全ての悪はアカン。アインツベルンぜってえ許さねえ。原作を生き残ったら真っ先に潰してやる。

 

 その後衛宮切嗣に引き取られ、魔術を教わり、月下の誓いを経て、俺は第五次聖杯戦争に向けて本格的に準備を始めた。

 

 魔術回路を毎日作る鍛練を原作と同じように行う。そうでなければ宝具の投影に耐えうる魔術回路は手に入らない。原作士郎よりも切嗣から魔術に関しては多く学んでいるので簡易的な結界や暗示、治癒や修復等の魔術も使えるが、五十歩百歩だ。あまりあてには出来ない。流石投影特化。

 

 投影の魔術で投影出来る刀剣類を増やすために度々旅行にも出掛けた。博物館や展示会等を巡って古刀や神秘に満ちた物を見聞きし、投影出来るように鍛練を欠かさなかった。

 

 肉体の鍛練も並行して行う。鋼錬金術師の世界で鍛えた身体能力は初期化されたが、記憶と経験は残っているのでそれを基に戦える肉体を作っていく。最低でも鋼の錬金術師の世界ループ終盤レベルの身体能力は欲しい。

 

 間桐桜、間桐慎二とは切嗣が存命の頃から知り合っていて、既に友好関係である。原作通りに間桐桜は衛宮邸に通うようになったが、スルーでいいだろう。今の俺にはどうにもならない。桜ルートは今の俺には難易度が高過ぎる。

 

 そうして、色々と備えて過ごしていたらあっという間に時は過ぎ、聖杯戦争が始まった。

 

 

 

 

 高校二年に上がり、そろそろ聖杯戦争が始まるかという頃。

 

 夢を見た。

 

 聖剣を手にした少女の夢を。

 

 俺は頃合いだと判断し、夜の学校でランサーに殺されるへまをせず、自宅で余裕を持ってサーヴァント召喚を行った。

 

 召喚されたのはやはり、セイバーである騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

 

 魔力のパスはしっかり繋がっており、宝具は頻繁に使用出来ないが通常の戦闘に問題はないだろう。原作と同じく霊体化出来ないらしいので、藤村大河や間桐桜には切嗣関係でホームステイに来た子として紹介するしかないだろう。

 

 原作士郎程ではないが料理は出来るのでセイバーに料理を振る舞いながら聖杯戦争について話し合う。流石にエロゲ主人公並のコミュ力はないが、一時的に協力し合うぐらいにはコミュニケーションは取れる。ちなみにその日はある程度の方針を決めて眠りについた。

 

 尚、寝室は同じである。アサシンを警戒したセイバーに圧され、仕方なく同じ部屋で就寝である。いくら原作より多少は魔術が出来るとはいえ、キャスターに狙われたらどうしようもないので認めざるを得なかった。

 

 しかし流石はメインヒロイン。可愛いな。

 

 青はオワコンと最近では赤やら黒やらに押されているが、うん。思わず令呪を使っていけないことをしてしまいそうだ。実年齢はともかく、今の俺は現役高校生だからね。性欲旺盛な時期だから仕方ないね。

 

 まあ、流石にそんなくだらないことに令呪は使わないけども。メディアの元マスターみたいにはなりたくない。

 

 

 

 

 次の日、藤村大河と間桐桜に一週間学校を休むことを伝えた。ホームステイにきた設定のセイバーの世話を焼くことを理由に強引に納得させたはいいが、後が怖い。

 

 仕方ないと諦め、朝食を食べた後セイバーと一緒に買い物に出掛けた。

 

 数日分の着替えを用意するためである。

 

 いくら本人が女を捨てたとかいってもまごう事なき美少女だ。霊体化出来るならともかく、出来ないなら常に鎧を着させておくのも良くない。間桐桜はいいが藤村大河に不審に思われるのは不味い。無駄に野生のカンが働くから厄介だ。

 

 途中、ゲーセンに寄ったり、ぬいぐるみをプレゼントしたりとしながらも買い物を終え、家に帰ろうとすると目の前に雪の妖精がーー。

 

 

 

 

 ループである。

 

 まさかのイリヤ遭遇で死亡である。

 

 原作より強いからって油断した。

 

 バーサーカーにぺしゃんこにされてデッドエンド。次のループへゴーである。ちくしょうめ。

 

 そしてループした先は月下の誓い直後だった。

 

 まさかのここからループとか。

 

 いやまあ、都合がいいからいいんだけどさ。今回のループはサービスが行き届いていて怖い。

 

 とりあえず現状を確認しよう。

 

 魔術回路を確認。二十七本。本数に変化無し。やはり増やすなら他から持ってくるしかないようだ。これは原作を終えてから考えるとしよう。

 

 次にアイテムボックスの中身を確認。前ループで投影した物等が大量にあった。投影たのしかった。

 

 そして体の調子を確認する。子供の姿に戻っているが前回のループ分身体能力は上がっている。ふと体に違和感を感じて調べてみれば、なんと俺の体が全て遠き理想郷(アヴァロン)に近い代物になってしまっていた。なんでさ。まさか前回のループで体に埋め込まれたままだった全て遠き理想郷をいつものループみたいに取り込んで転生してしまったのか。その証拠に体の中にはもう一つの全て遠き理想郷が確認できた。できてしまった。正直全て遠き理想郷と融合するなんてどんなデメリットが生じるか全く見当がつかない。まさかのニループめからこんなぶっとんだ展開になるとは思わなんだ。

 

 けれど色々と確認していくうちに、メリットが数多くあるのが確認出来た。

 

 まず、全て遠き理想郷の投影が可能になった事。セイバーとの繋がりがない状態でも投影出来るようになっており、投影した劣化品とはいえ全て遠き理想郷を投影出来るようになったのは素晴らしい利点だ。

 

 次に投影にかかる負担が軽くなっている事。これも多分全て遠き理想郷と融合したお陰だろう。未だ固有結界に手は届かないが、切り札の負担が軽くなるのはいい。

 

 最後に治癒力がかなり上がっている事だ。全て遠き理想郷のお陰か、軽い怪我なら数秒で完治してしまうレベルだ。また体も遥かに頑丈になっており、サーヴァントの攻撃でも数回は耐えられそうだ。

 

 これなら今回のループはかなりいいところまでいけるだろう。

 

 先ずは聖杯戦争を生き残る事。それが大切なのだから。

 

 

 

 

 やったぜ。さんるーぷめだぜい。

 

 再びイリヤエンドとか。俺は成長しないのだろうか。馬鹿野郎。

 

 バーサーカーは鬼門。せめてエミヤならまだなんとかなりそうなのに。ちくしょうめ。

 

 投影のレパートリーとしてヘラクレスの斧剣と勝利すべき黄金の剣(カリバーン)が増えたのはいいが、ヘラクレスのは筋力が足りないので使えなかった。エミヤの腕を移植すればいいのだろうが、桜ルートはまだ早いし、まず原作通りに腕を移植出来るか分からないので期待出来ない。勝利すべき黄金の剣(カリバーン)はヘラクレスを一度に七度殺せる聖剣なので投影出来るようになって本当に嬉しい。うん。

 

 身体能力も短時間ならばサーヴァントと戦える程度に馴染んで来ているが、それだけ。本気を出されたらどうしようもない。

 

 とりあえず原作を生き残ることが最優先だ。頑張ろう。

 

 

 

 

 七十ループ後。

 

 ようやく原作を生き残ることが出来た。

 

 まさか原作に近しくなるよう行動したら簡単に行けるとは思わなかった。

 

 あまりにどうしようもなかったから原作通りにしてみれば、あっさりと原作を生き残ることが出来た。俺の努力は一体……。

 

 まあいい。

 

 お陰でエミヤの腕入手に成功したのだから!

 

 桜ルートに入り、紆余曲折ありエミヤの腕移植。その後色々あって死亡し、次のループへ。

 

 ループを越えたため、エミヤの腕は完全に取り込まれ、無限の剣製を入手。

 

 エミヤの記憶と経験。投影魔術にサーヴァントとしての霊的強度も少しだけ手に入った。

 

 とても素晴らしい成果である。干将・莫耶も投影出来るようになったしね。

 

 これで後は王の財宝のみだが、手に入れる目処が立たない。

 

 原作通り時計塔に来たが、さてどうするか……。

 

 

 

 

 百ループが過ぎた。

 

 原作の衛宮士郎のように世界を回ったり、正義の味方して処刑されたり、間桐桜を助けるために奔走したり、遠坂凛と結ばれたり、執行者になったり。

 

 浅上藤乃の歪曲の魔眼を手に入れたり、衛宮士郎専用の魔術刻印を作ったりもした。そのせいで封印指定にもされたが、それは余談である。

 

 様々な衛宮士郎の可能性というか、未来というか。とにかく様々な結末を迎えたわけだが、王の財宝を手に入れる術は未だ見当もつかない。

 

 なので、聖杯に願うことにした。

 

 聖杯であれば、無茶な願いも叶うだろう。余程の馬鹿げた願いでもない限り。

 

 その為に俺は、聖杯を創造する。

 

 冬木の聖杯は使い物にならない。ならば新しく作るしかない。

 

 だから手始めに魔術回路を増やすことにした。

 

 稀代の人形師である青崎橙子に五桁に及ぶ魔術回路を持つ義手を造ってもらい、移植した。一本増やすだけでも大変な魔術回路を無数に持つ義手だ。移植すればまともに魔術を扱えなくなる代物らしいが、どうせループを利用するつもりだったので遠慮なく着けさせてもらった。ついでにエミヤの赤原礼装を内蔵した義手も造ってもらい、移植した。

 

 次に、間桐の魔術の修得。

 

 何ループか前に、間桐桜を救うついでにマキリの魔術に関する資料は根こそぎ手に入れていたのでこれは時間をかければ比較的容易に修得出来た。

 

 その次はアインツベルンの魔術。

 

 アインツベルンを襲撃し、聖杯の製造法を含む資料を根こそぎ奪い、魔術師として終わらせた。起源弾は便利だ。ついでにイリヤを助け出し普通の暮らしが出来るようにした。この時イリヤの聖杯としての理論をすっ飛ばして結果を現出させる魔術特性を再現したものを青崎橙子に加工してもらい、体に移植する。最後に遠坂凛から遠坂の魔術について学んだ。

 

 その後、アインツベルンの魔術を基に新しい大聖杯の創造に入り、並行して外付けの魔術回路を青崎橙子作の義手を投影で大量に用意し、ループの度に移植を繰り返した。刀剣以外の投影は大変だが不可能ではないのでどんどん行った。

 

 そうして揃ったのは、数百のループを越えてようやく完成させた大聖杯と小聖杯に、数百のループの間増やし続けた七騎のサーヴァントに匹敵する魔力を生み出す魔術回路。俺は考えた。聖杯を発動出来るだけの魔力さえあれば七騎のサーヴァントはいらないんじゃないか。と。

 

 小聖杯に魔力を注ぎ、願望機として完成させる。その願望機を使用し、大聖杯を俺の魔術回路に融合。これにより、俺そのものが聖杯と成った。

 

 さて、これで王の財宝を手に入れる事が出来る。

 

 英霊の座にアクセスし、ギルガメッシュを読み取り俺自身にインストールする。

 

 プリズマ☆イリヤにて、エインズワース家が置換魔術により造り上げた英霊の力を人の身で扱えるようにした魔術礼装。それを聖杯の力で再現する。

 

 だが問題点として、かの英雄王をインストールする事は、あの自我の塊を己の内に入れるという事で、無事ではすまないという事。

 

 だが俺にはループがある。ギルガメッシュをインストールしたと同時に、聖杯の力でもって自害する。ループする際、俺の人格だけが残る事はこれまでのループで理解していた。それで次のループにはギルガメッシュの力を手に入れた俺だけが残る。

 

 今回のループ終了である。

 

 千ループ近い数を費やしたんだ。

 

 成功しなければ困る。

 

 さあ、やろうか。

 

 

 

 

 ……次のループ。

 

 ギルガメッシュの力を得るのは見事成功した。

 

 王の財宝も、エアも、全てを我が物とする事が出来た。

 

 お陰で今回のループが最後になるだろう。

 

 ……うん。

 

 だけど、何故に俺はギルガメッシュとして転生しているのだろうか。

 

 今回のループは本当に親切なのか心折なのか分からない。

 

 だが凡人に神様の考えなんて読める筈もない。

 

 俺に出来るのはループをいかに早く終わらせるか。それだけである。

 

 よし、この世界のループが終われば後は三つ。頑張るぞう。

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没3

 

 

 

 

 今回のループはNARUTO世界。

 

 ループの終了条件はNARUTO世界最強のチート、大筒木カグヤの力を手に入れる事。

 

 原作知識という心強い代物のお陰で大筒木カグヤの力を手に入れる為に必要な道筋が分かっているのだが、さて、どうしたものやら。

 

 

 

 

 最初のループでは十代の若さであっさりと逝った。

 

 うん。あっさりと。

 

 転生した時代はなんと、うちはと千手が殺し合う戦乱の時代。未だ一国一里のシステムすら存在しない原作開始百年ほど前。無理ゲーである。

 

 人を殺す経験も、戦争に参加した経験もあるのだが、流石にループ初期の子供スペックでは限界がある。

 

 これまでのループで鍛えた戦闘能力も万全には程遠く、子供でありながら出された初陣にて見事その幼い命を散らした。

 

 なんて事だ。最初のループでこうもあっさり死ぬとは。ちくしょうめ。

 

 だが問題ない。まだ一度死んだだけ。まだ絶望するには早い。

 

 何度もループし、何度も死に、何度も繰り返す。

 

 ループ転生先は毎回バラバラで、ある時はとある小さな一族、あるいは商人の、あるいは普通の村人として転生し、死ぬ。当事者でなくても、巻き込まれて死に、理不尽に死ぬ。そんなことはとうの昔に経験済みだ。

 

 ならば恐れることはない。

 

 どうせ条件を満たさない限りループは続くのだ。

 

 キリキリ次のループに行こうか。

 

 

 

 

 次のループは普通の村人として転生した。

 

 これなら初陣で死ぬなんてこともない。忍びだったら目も当てられないが。

 

 とりあえずの目標を寿命で死ぬことと定め、俺はこのループを生きる事にした。

 

 千里の道も一歩から。まずは死なないことが最優先である。

 

 その為に死ぬ気で忍者の修行をした。

 

 NARUTO原作で行われた修行方法。

 

 木登り。水面歩き。影分身を用いた高効率修行などなど。

 

 他にも様々な修行を行った。

 

 忍びの基本的な技術は最初のループで学んでいるので修行のレパートリーには事欠かない。

 

 そんな感じで寿命で死ぬその瞬間まで修行を続け、このループは終わった。

 

 

 

 

 三ループめ。

 

 再び忍び一族に生まれたが、前回のループで人生丸々修行にあてて鍛えまくったお陰でスペックはかなり向上している。

 

 これならば子供の身であっても十分生き残れるだろう。

 

 チャクラも大の大人ほどあり、膨大なチャクラが前提条件の多重影分身の術を用いた修行も出来るようになっている。とはいえ、ナルトみたく千人とか馬鹿みたいな数は出せず、辛うじて二十人ほど出せる程度だが。それでもかなり効率は良くなった。

 

 それと今更な話だが、神様の粋な計らいか、数えきれないほどのループを経て未だに記憶が薄れない。ループはfate/stay night世界を除けば毎回赤ん坊からであり、生きた年数で言えば数千年以上は余裕に過ぎているにも関わらずだ。まあ、それで助かってるから文句を言うつもりは全くないが。ただ生前の俺はにわかだったのか、原作知識にしては微妙にあやふやな部分があるのが難点だが。

 

 

 

 

 とんで百ループめ。

 

 数十のループを越えて、俺はかなりの実力を有する忍びになった。チャクラも尾のない尾獣と呼ばれるほど膨大で、人柱力とタイマンを張れるほど。

 

 だが数十のループを経て、様々な忍び一族に転生しているのに一度も血継限界のある一族に転生していない事が気がかりだ。血継限界は珍しいため偶然なだけかも知れないが、もしも偶然でなければ俺は最終的に外法に手を出さなくてはいけなくなる。偶然だといいのだが。

 

 

 

 

 更にとんで三百ループめ。

 

 偶然ではなかった。

 

 ループ数が三百回を超えても血継限界の忍び一族には一度も生まれず、いずれも凡庸な一族生まれだった。

 

 これはいよいよもって外法に手を出さなくてはならないのか。

 

 そもそも原作の輪廻眼やら、人柱力やらが外法の筆頭格だった。

 

 最初から外法に手を出すのは確定していた。

 

 あまりに甘い考えだった。

 

 人の身に余るチートである。生半可な覚悟で手に入れようなどと虫が良すぎたのである。

 

 そんな事は今まで当たり前の事だったというのに、それを失念していた。

 

 それからのループは、純粋な忍としての技をひたすら磨くことに腐心した。

 

 血継限界を奪うには相応の実力が必要だからだ。

 

 ループを終わらす為には大筒木カグヤの力を手に入れる必要があるが、その為には十尾と輪廻眼がいる。

 

 十尾はまず輪廻眼に目覚め、一尾から九尾までの尾獣を集めなくてはならず、輪廻眼は永遠の万華鏡写輪眼と、千手柱間の細胞、インドラとアシュラのチャクラを手に入れなければならない。

 

 この中で一番最初に取るべきは写輪眼だが、しかしうちは一族はあのマダラが率いる一族である。適当なうちはの誰かから写輪眼を奪うにも難易度は高い。幻術対策もそうだが、下手につついて万華鏡を開眼する奴が現れても大変だ。幸いにも、アイテムボックスがあるので、ゲットして即自害からの次のループ。というコンボが出来るので、安全な場所で移植するなりなんなり出来る。というかそれが一番確実な手だろう。しかし問題はそれがあっても難易度が高いということだが。

 

 なので、まず先に柱間細胞を手に入れる事にした。

 

 その理由は、恐らく千手柱間は若い時に死亡していると判断したからだ。

 

 何故なら、基本穢土転生で喚ばれる時の姿は死んだ時の姿である。その事から、千手柱間は木の葉設立後から何年かで死亡している事になる。NARUTO世界でのループは何故か必ず柱間やマダラと同時期に生まれるので、長生きすれば死亡した柱間の遺体を墓から奪うことが出来るというわけだ。難易度も比較的達成しやすいのもポイントだ。

 

 その為には木の葉所属になり、火影の墓に近付ける地位につき、遺体を奪える実力を得る。それらの条件を揃えた上で柱間細胞を手に入れる。

 

 そうして柱間細胞を手に入れたら次はうちはの写輪眼だ。

 

 写輪眼の開眼条件は感情に左右されるから早めに手に入れたい。ループを繰り返し過ぎたからか、感情の起伏が小さくなっていてかなり厳しい。特に死に対する恐怖はかなり薄い。木遁があればその分入手出来る確率も高くなるだろうから頑張らなければ。

 

 

 

 

 ふははははは!やったぞ!手に入れたぞ!柱間細胞を!

 

 ループ四百回半ば。木の葉隠れの里に所属し、千手柱間の遺体を納める墓の警備係になる事が出来た。そして二代目火影、千手扉間が他里の影との会談に向かった隙をついて千手柱間の遺体を奪う事に見事成功した。

 

 この時のために本来の実力を隠し、中忍程度の実力と周囲を欺いたのが功を成した。

 

 既に四百ループ、最低でも数千年近く忍びをしているのだ。弱い筈がない。血継限界はないが五属性の忍術は全て性質変化も形態変化もマスターし、高難度の高等忍術も修得。陰陽遁もそこらの有象無象には負けはしないし、体術も八門全て、八門遁甲の陣まで開け、既に三度開いた事もある。医療忍術も綱手の再生忍術・創造再生を一応再現できる程度には腕を磨いた。幻術と仙術に関してはまだまだ心許ないが、まあ並みの忍び相手なら十分すぎる。まあ、仙術は人獣形態としかいえない有り様だが、戦えないことはないから問題はない。うん。蛙人間て誰得なんだろう。

 

 まあともあれ、千手柱間の遺体を奪った俺はそのまま里抜けし、前もって用意していたアジトに向かった。

 

 そこで柱間細胞を抽出し、遺体をアイテムボックスに入れてからすぐに移植した。細胞の鮮度は医療忍術でなんとか取り戻し、安全装置として全身に呪印を刻み、この時のために調合した秘薬を服用して。

 

 既に追っ手は放たれた事だろう。千手扉間も急いで引き返し、俺を探し始めている頃だろうし、あまり猶予はない。

 

 柱間細胞を移植して激痛の走る体を引きずるように、アジトを後にする。

 

 流石は柱間細胞。恐ろしい生命力だ。呪印によって柱間細胞の力を抑えているにも関わらず体がバラバラになりそうになる。

 

 細胞が馴染むのにどれほどの時間がかかるだろうか。それとも死んで次のループに向かったほうがいいのか。

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

 次のループ。

 

 まさか千手扉間があんなに早く俺を見つけるとは思わなんだ。

 

 なんとか逃げようとしたがどうにもならなかったので、次のループに期待して呪印を解除。柱間細胞を暴走させた。千手扉間は飛雷神の術で逃げたので無事である。俺は柱間細胞の暴走により大木と成り果ててご臨終だったが。ぎゃあー。

 

 ……よくよく思い出してみれば、千手扉間がクーデターに巻き込まれて命を落とすタイミングで実行すれば良かった。うっかりしていた。遠坂家のうっかりが移ってしまったのだろうか。恐ろしい。

 

 そして次のループ。柱間細胞が馴染みきっており、千手柱間には劣るが木遁が自在に扱えるようになっていた。やったぜ。

 

 更になんと、なんとループ転生先が千手一族である。ひゃっほー!まさかの千手。柱間細胞のお陰だろうが、初の血継限界の一族ーー正確には柱間だけが木遁に目覚めただけで血継限界の一族とはいえないが。ーーだ。

 

 これで目標へとぐっと近付く事が出来る。何故なら千手一族はうちは一族と並ぶ忍び一族。戦ではうちはを雇われたら千手を雇え。といわれるほどで、そのせいで幾度も鎬を削っている間柄だ。つまり、写輪眼を手に入れる絶好のチャンスということだ。この機を逃す手はない。絶対に写輪眼を手に入れなければ。

 

 

 

 ヤバイわー。マジヤバイわー。

 

 うちはマダラと千手柱間ヤバイわー。

 

 何あれ。何なんあいつら。化け物過ぎるわ。

 

 尾獣同士の戦いの方がまだマシってどういうことなの。

 

 目的の写輪眼があっさり手に入り、予備の写輪眼も大量に入手出来たので、調子に乗って千手柱間とうちはマダラの戦いを観戦しに行ったのだが、そんな感想しか言えなかった。

 

 それは最早戦いではなかった。

 

 例えるならば、災害。山が崩れ、地が割れ、天が轟く、世にも恐ろしき災い。

 

 チャクラ量でいうなら俺もあれぐらいの事は出来るが、あの二人のようには出来ない。

 

 それほどの戦いだった。

 

 正直土影が絶望するのも納得の光景だ。原作を知っている俺ですらそうなんだから、この世界の人々にとってはまさに神話に語られるような強さだろう。

 

 千手柱間とうちはマダラ。両雄の戦いが終わりを告げ、戦場から姿を消した後、俺はこそこそと戦場跡に向かい、ある血のついたクナイを手に入れた。

 

 その後、手に入れたクナイに付着していた血とほんの少しの肉片を移植し、ついでに写輪眼も移植した。

 

 これで俺は千手柱間とうちはマダラ両方の血肉を手に入れたのだった。

 

 それから紆余曲折あり、そのループ中に万華鏡写輪眼を開眼した。ミラクルである。

 

 更に晩年、千手柱間の遺体を全て取り込み、命を落とした。

 

 

 

 

 次のループ。

 

 普通の村人に転生した。

 

 何ループか振りに忍び一族以外に転生したのでのびのびと過ごす。

 

 前回のループで万華鏡写輪眼に目覚めたので更にテンションが上がる。

 

 右目は大国主(オオクニヌシ)。左目は八上比売(ヤカミヒメ)といい、形は赤地に黒い六枚の花弁の形をしている。そして右目が融合。左目が分離の力を宿す。要は物質融合能力であり、他者の肉体や無機物と融合したり、一つの物を二つ以上の物に分離する事も出来る。頑張れば須佐能乎にも使えたり出来る。主な使い道は物質と一時的に融合する事で障害物や攻撃をすり抜ける神威モドキに、血継限界の一族の肉体と融合し、命を奪わずに血継限界だけを奪い切り離す事も可能である。言ってしまえば音の四人衆、右近と左近の力の上位互換のようなものだ。これにより、血継限界を相手を殺さずに奪う事が出来るようになった。

 

 ちなみに前回のループでの死因はこの万華鏡写輪眼の力を使って千手柱間の遺体と完全に融合したためである。オリジナル並みの力を手に入れた為に肉体がついていかず、ぽっくり逝ってしまった。まあ、予想できていたから晩年に行ったわけだが。

 

 しかしそのお陰で仙術を完璧に使いこなす事が出来るようになった。柱間細胞を完全に取り込んだ為か柱間と同じ隈取りが現れたし、一瞬で自然エネルギーを溜めることも可能になった。流石柱間細胞。俺が何ループもかけて修行して蛙人間だったのに一発で完全になるとか。……天才てずるいね。うん。

 

 そして万華鏡写輪眼と柱間細胞の二つを手に入れた俺は、……調子に乗った。

 

 テンションのままに尾獣を捕らえに行き、九尾をゲットして人柱力になった。

 

 九尾は強かった。流石は主人公のパートナーにして最強の尾獣である。人柱力になったはいいが、万華鏡写輪眼と柱間細胞が無ければあっという間に食い殺されていただろう。

 

 正直調子に乗り過ぎた。反省している。後悔もそれなりにしている。

 

 だがやらかしは、これだけではなかった。

 

 九尾で味をしめた俺は、更に他の尾獣にも手を出していった。

 

 これまでのループの経験から尾獣の居場所は大体把握していたので探す必要はない。ただ確実に尾獣を捕らえられる力があれば良かった。

 

 そうして、気が付けば全ての尾獣を手に入れた後だった。

 

 後悔先に立たず。

 

 やらかしの報いはすぐに訪れた。

 

 一尾から九尾まで全ての尾獣を集め、膨大なチャクラを手に入れた俺だが、あまりに膨大な力に制御が利かず、仕方なく呪印で大半の力を封印するはめになった。

 

 これで後は輪廻眼さえあれば六道仙人化出来るが、制御出来ない力に更に強大な力を手に入れるなんて自殺行為を、頭を冷やした俺に出来る筈もなく、誰も来ないような僻地に隠れ潜み、今生を力のコントロールにあてる事にした。

 

 

 

 次のループも村人だった。

 

 前回は老衰でぽっくり逝くまでずっと力の制御にあてたお陰か、晩年にはなんとか制御をものにする事が出来た。

 

 が、しかし、今回のループになってとんでもない事態が起きていた。

 

 なんと、全ての尾獣のチャクラが丸々引き継がれていたのだ。

 

 コントロールに俺の前ループを食い潰した尾獣達のチャクラが、丸ごと。

 

 しかもチャクラを制御支配していた尾獣達の人格はなく、ただ力だけが体内に存在している。気を抜けば一国を消し飛ばしかねない莫大なチャクラが丸々。これは不味い。これでは何時周囲を焦土に変えてもおかしくはない。

 

 失念していた。

 

 こうなる事は分かっていただろうに。

 

 仕方なく再び力の制御にループを費やすことになった。

 

 必死に力を制御し、なんとかまともに運用できるようになったのは老衰一歩手前。

 

 これからは絶対に調子に乗らない。

 

 そう決心し、次のループに向かった。

 

 

 

 次のループ。

 

 今回はなんとうちは一族に転生した。

 

 永遠の万華鏡写輪眼フラグである。

 

 そしてフラグ回収は早くに訪れた。

 

 今生の父親は万華鏡写輪眼を開眼していたらしく、戦死した際に万華鏡写輪眼だけが帰ってきた。戦ではこういうことがよくあるから嫌になる。早速眼を交換し、永遠の万華鏡写輪眼になったので一応の目的は達成した事になるのだが、複雑な気分だ。はあ。

 

 尾獣の力をほぼコントロール出来るようになった。前回のループを丸々費やしたお陰である程度は制御出来るようになったので、より精度を高めるために戦そっちのけで修行ばかりしていた。

 

 原作?そんなものもありましたね。

 

 

 

 

 百ループが過ぎた。

 

 力のコントロールを完璧といっていい精度まで磨き上げ、万華鏡写輪眼の錬度もかなり高まった。

 

 順調なのだが、しかし輪廻眼には未だ開眼していない。うちはマダラの血肉を移植したが、あれではまだ足りなかったのだろうか。しかしだからといってうちはマダラと戦い、その血肉を奪うというのは厳しい。万華鏡写輪眼の能力は完全に使いこなせているといっても過言ではないが、須佐能乎に関しては未だ骨組み状態で一部しか発現できていない。やはり完全に力を制御出来るようになってからしか輪廻眼にはなれないのかもしれない。となるとひたすら修行を行うしかないか。

 

 

 

 更に百ループ経過。

 

 万華鏡写輪眼を完璧に使いこなすことに成功した。

 

 完成体・須佐能乎を発現できるようになったし、他の血継限界でもめぼしいものは粗方手に入れる事が出来た。

 

 例えば日向一族の白眼。

 

 なんとか日向の宗家から奪う事が出来た逸品。両目は既に写輪眼だったので両手の平に移植したら、次のループでは写輪眼と融合していた。両方の力を持つ眼へと進化したが負担が大きすぎて同時には使えず、どちらかに切り替えてしか使えないがそれでも破格の瞳術になった。

 

 かぐや一族の血継限界。

 

 骨を自在に操る血継限界であり、白眼と同じく大筒木カグヤ由来の由緒正しい力。

 

 そして血継限界ではないが、うずまき一族の封印術と生命力である。これにより、尾獣の力もかなり安定したし、体力もかなり増した。原作主人公と同じ血かと思うと中々に感慨深い。

 

 他にも血龍眼、氷遁や嵐遁などの血継限界も手に入れたが、上三つだけでも十分だったかもしれない。塵遁もあったが、あれは威力がありすぎて逆に使いどころがないのである程度使えるようになったらお蔵入りになった。

 

 こうして色々な血継限界を手に入れたわけだが、やはり輪廻眼には目覚めなかった。

 

 これはいよいようちはマダラの肉体を手に入れなければならないようだ。

 

 ふと、よくよく思い出してみれば絶好のチャンスがあった事を思い出した。

 

 そう、うちはオビトがうちはマダラのいるアジトに迷い込むときである。

 

 その時、うちはマダラは死ぬ。その直後にその死体を食らう。これほどベストなタイミングはない。それには長生きしなければならないが、尾獣を全て身に宿したからか、それとも血継限界をいくつも宿したからか、俺の寿命は格段に伸びている。だからそれは簡単に達成出来る問題だ。後は気付かれずに侵入し、うちはマダラの遺体をいただく事。うちはオビトをストーキングするだけでうちはマダラの場所は分かるから問題ない。問題は黒ゼツの監視を抜ける事だが、まあよし、やってやるぜ。

 

 

 

 

 幾つかのループ後。

 

 ようやくうちはマダラの遺体を奪う事が出来た。

 

 黒ゼツの監視を振り切り奪うのは至難の技だった。

 

 だがその苦労に見合う成果を手に入れる事が出来た。うちはマダラの遺体と融合した瞬間、輪廻眼に目覚めた。外道魔像はないからか輪廻写輪眼には目覚めなかったが、六道仙人化は出来た。完全体になるには外道魔像も取り込まないといけないが、大筒木カグヤに侵食されかねないので今はここで踏みとどまっておく。

 

 とりあえずあと一歩のところまで来れたが、せめて大筒木カグヤと正面から渡り合えるぐらいの力は欲しい。機会があるなら月に行き、転生眼も手に入れたい。俺はボス戦の前には出来るだけレベルを上げ、入念な準備をして挑むタイプだ。たまにテンションに任せて挑むときもあるがそれはそれである。仕方ないね。人間だもの。

 

 

 

 

 約三百ループ後。

 

 月に行き、転生眼強奪。大筒木ハムラの子孫の血肉も手に入れた。

 

 尾獣を再び集め直し、それぞれ十匹ずつになるように揃えた。

 

 戦闘経験を積む為に世界征服をした。

 

 ……うん。三行にまとめてみたが滅茶苦茶だな。

 

 まず、転生眼は便利なので大筒木ハムラの子孫には悪いが奪わせて貰った。お陰でチャクラ吸収能力と傀儡を操る力が強化され、戦闘能力が大幅に上がった。

 

 尾獣を再び集めたのはチャクラ量を増やすためである。大筒木カグヤは星そのものといっていい膨大なチャクラを有している。だからそれに打ち勝つために尾獣というチャクラのタンクを狙ったのである。普通に修行してチャクラを増やすより、尾獣を手に入れたほうが効率がいい。ちなみに何故九尾だけを狙わなかったかだが、九尾だけを集めるとチャクラが不安定になったので仕方なくそれぞれ十匹ずつ、合計九十体になるように集めた。これでチャクラは十分だろう。

 

 そして世界征服に乗り出したのは、戦闘経験を積む事を兼ねた世界平和への挑戦である。

 

 いずれ一国一里の形に落ち着き、仮初めの平和が訪れ、原作主人公の力で真の平和に辿り着くわけだが、予定を少し早めてもいいだろうと思ったからだ。まあ、原作に関わってみたいというミーハー根性もなくはない。うん。それにループする度に戦ばかりで鬱憤が溜まっていたというのもある。

 

 さて、世界を敵に回した世界征服の結果だが、挑戦したのは計三回。

 

 一度目はまさかのうちはと千手の一族が手を組み、更に様々な一族が一丸となって俺を倒すという原作の最終決戦を彷彿とさせる終わりを迎えた。

 

 六道仙人モードからの尾獣化。威装・須佐能乎の上に転生眼によるチャクラ無差別吸収、輪廻眼による無差別広範囲攻撃と何その無理ゲーな感じだったんだが、まさか倒されるとは思わなかった。

 

 ちなみに、俺の散り際に黒ゼツが介入しようとしたが当然その対策はしていた。このループで手に入れた万華鏡写輪眼に神威を仕込んでいたので、最期は月にエスケープしてご臨終した。

 

 二度目は後一歩のところまで追い詰めたが、やはりうちはマダラと千手柱間の二人に倒された。

 

 この世に存在する血継限界のほぼ全てを有し、膨大なチャクラと原作知識すら持つ俺を倒すとか、主人公補正強すぎてヤバい。

 

 三度目は流石に力ずくでは無理だと学習したので政治でどうにかしてみた。

 

 大名となり、今まで手に入れてきた力を平和的に振るって片っ端から様々な国を吸収合併し、世界統一を果たした。

 

 そしてそれに伴い、無数に存在する忍び里の統一化を促した。

 

 だがそんな事を面白く思わない黒ゼツが暗躍して不和を引き起こし、何度も妨害するので腹が立った俺はうちはマダラと千手柱間に黒ゼツの存在をほのめかし、始末するよう依頼した。

 

 するとなんということでしょう。

 

 半年の内に黒ゼツは封印され、遥か地下深くに埋められる事になりました。

 

 これにより、最大の不安要素が消えた。

 

 忍び里も順調に統一され、これにて完全な世界征服が完了した。

 

 千年もの間続く大国となったが、君臨すれども統治せずで、最低限の政は行い、後は全て部下に任せた。俺自身は力を磨く事に専念した。

 

 大筒木モモシキと大筒木キンシキとかいう奴らが来たりしたが、融合して食らいつくし、輪廻眼を頂戴した。お陰で忍術を吸収し倍にして放つという能力を得た。

 

 その後、千年も経てば流石に寿命が来たので、最期は外道魔像を取り込み、ついでに封印された黒ゼツも連れて太陽に突っ込んで消滅した。因みに輪廻写輪眼が額に開眼したが、無限月読なんぞする気はないのでラッキー程度に思って次のループに向かった。

 

 

 

 そして次のループ。

 

 前回のループにて、最期に外道魔像を取り込んだ事によって俺はこの世で大筒木カグヤにもっとも近い存在になった。後は無限月読を使えば大筒木カグヤが復活するぐらいには。だが俺の中には大筒木カグヤの意思はない。尾獣と同じで力だけ残して精神は消滅しているようだ。

 

 大筒木カグヤの力。正しくは神樹の力を制御するのでそのループは終わった。まさか不老不死とは思わず、気が付いたら千年以上修行していたのは驚愕ものだった。原作なんてとうの昔に終わっているので前回と同じように次のループに向かった。

 

 

 

 次のループ。このループでは原作を見守りながら、まだ手にしていない欲しかった物を隙を見て手に入れていった。

 

 原作終盤には、六道仙人化して輪廻写輪眼に目覚めたうちはマダラをそれ欲しさに丸ごと融合し食らい尽くした。幾ら最強の忍びとはいえ、六道仙人の年季はこちらが上である。呆気なく食い尽くせた。あの時の原作の登場人物の顔は見物だった。黒ゼツも面白いくらいに驚いていたので行き掛けの駄賃代わりに食らい、更にうちはサスケの輪廻写輪眼と万華鏡写輪眼、六道仙人から託された陰遁の力を奪い、うずまきナルトからは六道仙人としての力と託された陽遁の力を奪って無限月読を発動。大筒木カグヤを介さず、同じ神樹の力を持つ俺自身に世界中のチャクラをかき集め、完全に覚醒を果たした。

 

 完全覚醒したら今度は大筒木カグヤをも食らい、何もかもを食らい尽くした。

 

 その後、流石に空気が読めていなかったと反省し、このループで食らったものを一部除いて全て解放した。

 

 十尾を体から切り離して九つにばらし、同じくこのループの外道魔像も切り離して月に返還。更に外道・輪廻天生の術によりこの大戦で命を落とした者達を全員生き返らせ、うちはサスケとうずまきナルトの傷も癒し、陰陽遁の力を切り離して返した。後はうずまきナルトとうちはサスケを起こし、原作通りになるかは分からないが似たような展開になるようにし、前回、前々回と同じように次のループに向かった。

 

 

 

 

 そして次のループ。

 

 それが最後のループになった。

 

 前回のループで完全に覚醒した事により、俺は大筒木カグヤと同じになった。一度得た力は消費しても欠損しても次のループで元通りになる。前回は切り離したり消費したりしたが、一度俺の力になった物は必ず元通りになるため、今の俺は大筒木カグヤと同じ存在となった。むしろそれ以上か。尾獣がそれぞれ十匹分余分だし。

 

 つまり、いよいよこのループも終わる時が来たというわけだ。

 

 おそらく最後の仕上げに、この力を大筒木カグヤレベルに扱うことが出来るようになれば、俺はこのループから解放される。

 

 長かった。

 

 永かった。

 

 本当に。

 

 気のトオクナルヨウナ時間を過ごした。

 

 ーーまあ、後二つ残ってるんだけどね!

 

 はあ……。

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没4

 

 

 

 

 

 無事四つめのループに入った。

 

 ループ先はなんとあのBLEACHの世界である。

 

 なん……だと?

 

 まさかのネタ漫……いや、あのヨン様のいる世界とは。

 

 しかもループ終了条件は霊王の力の入手。

 

 なんでや。別に崩玉でも良かったじゃん。崩玉強いよ。マジ強いよ。だから別に崩玉でも良くね?ダメ?そですか。

 

 しかし霊王って確か最終的に陛下に取り込まれた筈だけど、まさか霊王手に入れるには陛下も手に入れないといけないとか?うわあ無理ゲー。未来改竄能力とかどう勝てと。未覚醒状態で狩らないと駄目かな。一護みたくやれないしなあ。はあ。

 

 やはり力とアイテムボックスの中身は没収されていて、再び零からの出発である。ちくしょうめ。

 

 しかもループの開始地点は虚圏(ウェコムンド)。まさかの(ホロウ)スタートである。なんでさ。そこは死神だろJK。いやまあ、確か死神は才能ないとなれなかったけどさあ。そこら辺はfate/stay nightのループの時みたくサービスして欲しかった。

 

 仕方ない。さっさとこのループを終えるために頑張るとしますか。

 

 ……ていうか虚ってことはほかの魂魄を捕食しなければならないの?マジ?

 

 

 

 

 色々すっ飛ばして百ループ後。

 

 虚圏舐めてた。普通に修羅の国だったわ。

 

 只の虚には地獄だった。何故虚が現世に行くのか分からなかったがあんな修羅の国なら納得だわ。マジで。

 

 アレなら現世の方がまだマシだ。死神がいるけどまだ虚圏よりは優しい。でもレベル上げが捗るのも虚圏なんだよなあ。難易度馬鹿みたいに高いけどそれ相応のフィードバックがあるわけで。お陰で今の俺は下級大虚(ギリアン)である。能力は擬態。虚を喰らい、その姿と能力を模倣する擬態能力である。喰虚(グロトネリア)に近いが、同時発動は出来ないので下位互換みたいな力だ。となるとアーロニーロを捕食したいがどこにいるか分からないのでどうにもならない。ヨン様に勧誘されるまで機会はお預けかな。

 

 ちなみに普通の魂魄は一度も食べていない。全て同族である虚である。

 

 最初はそれすら抵抗があったが、会う虚会う虚皆獣のようで、本能に忠実過ぎて同族意識など抱けるはずもなく。気が付いたら見敵必殺からの捕食を無意識に行っていたぐらい馴れてしまった。

 

 それと百ループも虚圏で共食いを行ったお陰か、感覚的に後少しで中級大虚(アジューカス)になれそうな感じだ。だがここは修羅の国、虚圏。そう上手くいくかどうか。

 

 

 

 二百ループ後。

 

 祝。中級大虚進化。

 

 目指せ最上級大虚(ヴァストローデ)

 

 中級大虚になったお陰で能力が大幅に強化され、同時に複数の能力を使えるようになった。益々アーロニーロを捕食したくなってたまらない。

 

 それはさておき。

 

 何ループ前かに試しに初めて現世に降りてみたのだが、どうやら原作まで大体千年以上ほど昔らしかった。これは良いことを知ったとほくそ笑んでいたのだが、何ループ前からかヨン様に勧誘されるようになった。破面にはなりたいが出来れば最上級大虚になってからがいいので会った瞬間自爆する変な大虚(メノス)化している。正直最上級大虚じゃないとこの先やってられないからなあ。インフレ的に。すまんが狐につままれたような感じをこれからも味わってくれたまえ。

 

 

 

 

 更に二百ループ後。

 

 ようやく最上級大虚になる事が出来た。

 

 能力も強化され、アーロニーロみたいな事も出来るようになった。しかもアーロニーロは日の下で力が使えないのにたいして、俺にはそんな制限がない。完全に喰虚を超えたのだ。でもアーロニーロは食うがな。同じような力を食らえば更に俺の力も強化されるだろう。仕方がないと諦めるがいい。

 

 それとヨン様の勧誘だがまだ断っている。ウルキオラやスタークのように、ヨン様に勧誘される前から破面(アランカル)化している奴等がいる上、ウルキオラに至っては刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダ・エターパ)なんて格好いいものがあるのだ。俺もアレはやってみたいのでまだ破面にはならない。破面化したら出来なくなるかもしれないし、どんな条件が必要なのかも分からないのだ。だから出来るだけ今のままで頑張りたいと思っている。だから自爆する変な大虚でゴメンね!

 

 

 

 

 五百ループ後。

 

 破面になった。

 

 気が付いたら仮面が砕けていて、体も人間みたくなっていた。超速再生能力は消えず、逆に全能力は強化されている。刀は無いが、破面化している影響で鋼皮(イエロ)があり、探査回路(ペスキス)響転(ソニード)も使えた。斬魄刀を手に入れるにはやはり崩玉を使わなければならないのだろうか。

 

 後、俺の能力だがどうやら喰虚とは実際はかなり違うらしい事が分かった。

 

 きっかけは幸運にもアーロニーロを見つけ、捕食出来た時である。

 

 俺の能力は擬態能力だと思っていたのだが、実際は再現する能力だったのだ。NARUTO世界の写輪眼のようなもので、素質や力があるならば再現出来るものは虚に限らず、死神や滅却師の力でも可能というある意味反則のような代物。わざわざ喰わなくてはいけないのは再現に必要な素質や力を得る為である。

 

 これによって俺はよりループ達成に近付いたといっても過言ではない。なんせ、これまでのループ世界で手に入れた力すら再現出来るのだから。それほどの力だ。正直ヨン様の手下になる必要もなくなった。ただ崩玉は欲しい。どうするか。崩玉を手に入れるにはヨン様か浦原喜助から奪うしかない。が、ヨン様から奪うのは不可能に近いのでなし。浦原喜助から奪うのは朽木ルキアの義骸から奪えばいいのでまだ簡単である。更に崩玉は未完成だからヨン様と浦原喜助の物を融合させなければならないが、浦原喜助のを二つ合わせたら完成するかもしれない。……可能性の話だが。ヨン様のは死神の力を集めた物らしき描写があったから似たような事をすればいいのかもしれない。かもしれないばかりで不安になるが、とりあえず手に入れてから考えればいいだろう。

 

 

 

 

 百ループ後。

 

 なんとか崩玉を複数手に入れ、融合して完成させる事が出来た。

 

 そして、これで完全な破面となり、目当ての刀剣解放・第二階層も可能となった。

 

 更に崩玉と融合し、虚も死神も超越した存在に進化した。

 

 これで不死身の存在になった訳なのだが、しかしこれだけで霊王に至れるわけではないので、今度は死神の力も手に入れる事にした。

 

 やり方は簡単。死神の力を宿した魂魄を崩玉の力も借りて再現・創造する。俺の意思と記憶を与えた分身のような者達を生み出し、それらを尸魂界(ソウルソサエティー)に送り出して死神にする。それを定期的に行い、死神としての力と技術を磨いて本体に還元。あわよくば霊王に近付こう作戦である。滅却師(クインシー)の方は千年後。原作の時に手に入れるのもいいし、ループの時期的に陛下が封印される時を狙うのもいい。つまり、最早このループは終わったも同然。ふはは。

 

 

 

 

 五百ループ後。

 

 陛下を取り込むのは簡単だった。なんせ一番弱っている時を狙えばいいのだから赤子の手を捻るより簡単だった。

 

 陛下の力である与える力は分け与えた相手が死した時、その相手が持つ知識、才能、能力を得て無限に強くなる力だが、魂を取り込み続けなければ三重苦に戻るというデメリットがあった。が、崩玉と融合したからか、元々三重苦を持たないからか、そのデメリットを俺は持たなかった。ラッキーである。これにより、俺は尸魂界に送る死神から確実に力を徴収出来るようになった。

 

 その一方で、霊王の力は依然として遠かった。まず自力ではどうやっても霊王宮に辿り着けない。なので、原作のタイミングで侵入する事に決め、その為に相応の力を身に付けようと痣城剣八の融合能力とロカ・パラミアの反膜(ネガシオン)の糸を吸収した。

 

 そしてこの二つを手に入れた今、最早ループは終わったも同然である。

 

 反膜の糸と雨露柘榴(うろざくろ)

 

 共に特異な能力を有しており、これらさえあればわざわざ魂魄を尸魂界に送る必要もなくなる。

 

 まず虚圏全域に反膜の糸を伸ばし、手当たり次第に繋げていく。そして繋げたら、そこを介して陛下の力を使い、力をほんの僅かに分け与える。それを現世、尸魂界、地獄でも行う。

 

 そして待つ。

 

 能力で休眠状態となり、虚圏の地下深くで眠りにつく。

 

 それから永遠に近い時間が過ぎた。

 

 眠っていたので具体的にはどれほどの時間が過ぎたのかは分からないが、眠っている間に凄まじい量の力が俺に集まっていることから、恐ろしいほどの時が過ぎたのは確かなのだろう。

 

 月島さんのブック・オブ・ジ・エンドや他の 完現術(フルプリング)。護廷十三隊や十刃(エスパーダ)仮面の軍勢(ヴァイザード)星十字騎士団(シュテルンリッター)の力もあった。山爺の流刃若火もある。ユーハバッハの未来改竄の力すらも。弱体化している状態ではなく、霊王を喰らい、覚醒した力がだ。ちなみに零番隊の力も手に入れている。

 

 最早霊王を喰らったも同然で終了条件は達成しているが、まだまだ手に入れた力はある。

 

 そう、なんと主人公である黒崎一護や井上織姫の事象の拒絶や茶渡泰虎の力も手に入れていた。

 

 一体どれほどの時が流れたか本当に気になるが、まあそんなことはどうでもいい。

 

 問題なのは、最早全てが終わりを迎えているということだ。

 

 俺は虚圏の地下深くで休眠していたわけだが、目を覚ましたのは何もない真っ暗な空間だった。

 

 見る限り世界の均衡すら崩れ去り、何もかもが消滅した世界。

 

 俺が生きているのは霊王の力を有しているからか。

 

 手に入れた力の中に藍染の力もあることから、本当に全てが生き絶えた世界なのだろう。

 

 正直さっさとループを終えて最後のループに行きたいが、このままにしておくのもなんとなく気まずい。別に俺が滅ぼしたわけではないんだが。うむ。

 

 霊王の力を使い、世界を再構築する。

 

 様々な世界が混じりあった空間を切り離し、楔を打ち込んで世界を固定する。

 

 次に死に絶えた生命の代わりに、創造した魂魄で生命を生み出して現世にばら蒔く。

 

 後はしばらく様子を見て、ちゃんと補助なしで世界が自分で継続出来ると判断したら心置きなく次のループに向かった。

 

 これにてループ終了である。

 

 ……すっごく疲れた。

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没5

 

 

 

 

 最後のループである。

 

 俺はこの世界のループをクリアする事でようやくこの無限ループから解放される。

 

 ……のだが、今回のループはドラゴンボールの世界。やべえ。今から挫折しそう。

 

 そこでのループ終了条件は全王の力を手に入れる事。

 

 うん。無理。

 

 ドラゴンボール最強にして絶対の存在の力とか。まず無理である。

 

 正直NARUTOの世界とドラゴンボールの世界とでは強さのレベルが違う。パワーインフレの金字塔である。序盤で月は壊れるわ星は砕かれるわの世界だ。

 

 まあ、相変わらず拒否権はないから結局やるしかないんだけどね!

 

 そんなこんなで心機一転、ドラゴンボールの世界でのループは始まった。

 

 

 

 

 一ループ目。

 

 なんの変哲もない一般家庭の子として生まれる。

 

 この始まりは本当に懐かしい。

 

 どれくらい懐かしいかというと二度と体験したくないぐらいには。

 

 さて、気を取り直してどれほど動けるかの確認を始める。

 

 まあ、力は全て没収されたので大体は各世界の技術がどれくらい使えるかの確認であるが。

 

 その結果、ある程度は使えることが分かった。

 

 まず忍術。

 

 精神エネルギーと身体エネルギーを掛け合わせてチャクラとするのが忍術である。ドラゴンボール世界の気は色々な呼び方があったりするとんでもエネルギーなためかある程度のコツを掴めば出来た。血継限界である氷遁や木遁も出来たため、ドラゴンボール世界ではNARUTO世界のルールがあまり適応されないらしい事が分かった。

 

 瞳術。

 

 使えない。平凡な一般家庭だしね。そりゃ使えないわ。

 

 六道仙術。

 

 上に同じ。仙術はなんとか出来たのでまあ満足。

 

 戦闘技術。

 

 体を鍛えれば普通に使えた。まあ、記憶だからね。使えるわな。

 

 そんな感じで、現時点での戦闘力を理解した俺は、どうせだからと趣味に走った。

 

 どうせこれが最後の世界である。少しくらい気を緩めてドラゴンボール世界を生きる事にした。

 

 その手始めとして、漫画の技を再現してみた。

 

 まずドラゴンボールのかめはめ波。舞空術、瞬間移動、界王拳。

 

 ワンピースから、六式や覇気。刀語から虚刀流。Fateシリーズから燕返し、無明三段突き、圏境。他にも様々な二次元の技の数々。ドラゴンボールの世界という混沌とした世界に来たのだ。いずれ来る終わりの時まで楽しむのも悪くないだろう。何より、強くなるのは確かなのだから。

 

 

 

 

 二百ループ目。

 

 全ての技を再現。習得する事が出来た。流石ドラゴンボールの世界。無茶が効きすぎる。怖い。

 

 技の再現をするために、まずはこの世界の武術や技術から学んだ。ある程度の心得はあるが、本格的なものはあまり学んでこなかったからだ。

 

 それで大体五十ループは費やし、一流レベルの腕を得た。俺が目指すのはそれで初めてスタート地点に立てるようなものばかりなのでようやくといったところである。

 

 その過程でドラゴンボールを集め、願いを叶えたりした。写輪眼の再現を頼み、なんとか万華鏡写輪眼までは再現する事が出来た。須佐能乎は無理だったが、大国主と八上比売の力は取り戻せた。これでループ終了に向けての布石は打てたので満足である。

 

 武術や技術を学ぶ過程で仙人となり、長寿の力を得た。亀仙人と同年代なので原作開始まで数百年は時間があるが、今は技の再現が重要なのでそこら辺は今は気にしない。

 

 もう五十ループをかけて技の再現を全て再現するに至る。次にそれらを原作よりも使いこなし、上回るように磨きをかけるためにもう百ループ消費した。

 

 そして、全ての再現、及び昇華を達成した俺はようやくループの終了に向けて動き始めた。

 

 

 

 

 次のループにて。

 

 一旦強くなるための修行をほどほどにし、ドラゴンボール世界の科学技術を学ぶ事にした。ドラゴンボール世界の科学技術は色々役に立つものが多いからな。学んでおいて損はないだろう。

 

 カプセルコーポレーションに入社したいが、原作数百年前だから存在しないのでそれまでは別の場所で技術を学ぶしかない。いや、いっそのこと超能力とか魔法も学んでみるか?幸い、時間は無限にあるのだから。

 

 それから更に百ループ。粗方の技術を吸収する事に成功する。

 

 ドクターゲロの技術やブルマの技術を盗めたのは幸運だった。ヤムチャとベジータマジごめん。

 

 ついでに隙を突いてセルの幼体を得て融合。更に人造人間も全て吸収し、完全体セルと同等の力を手に入れた。無差別に人間を捕食するのは止めておいた。今更そういう罪悪感はないが、それよりも効率のいい方法があるからである。

 

 自爆である。

 

 セル編において、主人公が犠牲になり、その直後に核が残っていたが為にパワーアップして復活。完全体セルからパーフェクトセルになったあの絶望を読者は忘れない。

 

 なので自爆をする事にしたが、折角なのでパーフェクトセルも欲しいから人造人間を全て吐き出し、主人公達から遠く離れた場所で結界を張って気と自爆の被害を外に出さないようにして更に核にも自爆で壊れないよう結界を張って、自爆。

 

 結果。

 

 自爆からのパワーアップは成功した。第一形態にまで弱体化していたが、パワーアップ後はパーフェクトセルになっていた。一度は完全体まで至っていたからか無事にパワーアップ出来たようだ。これを俺は何度も繰り返した。いつかのループで手に入れ、大量生産を可能にした仙豆をアイテムボックスから取り出し、回復。そして自爆。回復。自爆。回復と何度も繰り返す。パーフェクトセルが生まれるまで何度でも。

 

 そしてパーフェクトセルが生まれ、主人公達に敗れるその瞬間に密かに介入。核を確保して吸収し、再びレベル上げの作業に戻る。次に魔人ブウが復活した際には、正直虫けら同士の戦いを見ているような気分になるぐらい強くなっていた。サイヤ人式レベル上げマジヤバイ。魔人ブウをサクッと吸収し、ついでにバビディとダーブラも吸収。サッと消える。そしてレベル上げ。魔人ブウを吸収したお陰で再生能力とスタミナがカンストした。なんだこのチート。なので折角大量生産出来た仙豆がいらなくなってしまった。核も要らず、肉片からでも再生が可能なのでレベル上げが捗る捗る。

 

 そんな感じで日々を過ごしていると、ある日空から一人用のポッドが降ってきた。

 

 何事かと見てみるとなんと、中には瀕死のブロリーが!

 

 しめしめと吸収させてもらい、更にチート化。再びレベル上げに勤しむ。が、自爆し過ぎたせいか、一度の自爆では瀕死にならなくなり、それでも続けたら自爆しても瀕死どころか傷一つつかない訳の分からない再生能力か防御力を手に入れていた。なので自爆に代わるレベル上げとして太陽へのダイブを考えた。強敵との戦いもいいが、その場合破壊神ビルスが来ても困るからあまり気は進まない。かなり強くなった筈なのだが未だに勝てる気がしないからな。その点太陽はいい。様々な悪役が最期を迎えた無慈悲な処刑台。そこならば今の俺でも瀕死になれるだろう。

 

 そして、俺は太陽に身投げした。

 

 何重にもバリアを張り、気で肉体を強化してのダイブである。しかし流石は太陽である。あっという間にバリアは砕け、気で強化された肉体は瞬時に燃え尽きる。これだ。これでまたレベル上げが出来る。痛覚などの感覚は鈍くしているので然程苦痛ではないが、一瞬でも気を抜けばその瞬間には跡形もなく燃え尽きる環境だ。気力が尽きるのが先か。肉体が燃え尽きるのが先か。精々破壊神ビルスに一撃与えられるくらいには強くなりたいと思いながらレベル上げに意識を傾けた。

 

 

 

 

 気が付いたら太陽を泳いでいた。

 

 まさかの太陽克服である。

 

 始めてから何年経ったかは分からないが、気が付いたら太陽でバタフライである。驚きである。

 

 太陽をぬくい、としか感じない時点でもはやレベル上げには使えないのは理解していたが、まさか太陽を克服出来るとは夢にも思わなんだ。

 

 これ以上ここでのレベル上げは不可能。次はどこにいけばいいのだろうか。……ブラックホールかな。重力の渦。流石にあそこに行けば瀕死になれるだろう。勢いあまって死んでしまってもまた次のループで挑戦すればいい。太陽から飛び上がり、ブラックホールを探しに宇宙を舞う。もはや呼吸も食事も必要としないし、寿命も仙人化諸々の影響で問題ない。気長に探すとしようか。

 

 

 

 

 ブラックホールを克服した。やったぜ。

 

 どれほどの時間が経ったか分からないが、気が付いたらまた克服していた。高重力下での戦闘はかなり良さげだったんだがなあ。まあ、最近は自分でも重力を重ねて強化していたからとっくに克服していたとも言えるが……。ふむ。太陽もブラックホールも克服してしまったわけだが、どうするか。やはり強敵との戦いしか選択肢はないのか。どうなのか。

 

 

 

 

「破壊」

 

 

 

 

 次のループ。

 

 なんだろう。こんな展開前にもあったような。

 

 まあいい。

 

 まさかの破壊神ビルスと遭遇。即破壊である。驚きである。というか何故に問答無用で破壊だったのか。虫の居所が悪かったのか、それとも危険とみなされるほどに俺が強くなっているのか。どっちか。ま、答えは分かっているけどな。

 

 なんせ、前回のループでビルスの右腕を奪ったのだから。どちらかなんて尋ねるまでもない。

 

 あの時、破壊神ビルスの破壊により、俺は破壊された。しかし、運良く肉片が残った。極小さな、目に見えないレベルの細胞片。そして、久しく忘れていた瀕死からの再生が始まり、力を得て復活した。そして隙を晒した破壊神の右腕を瞳の力で奪い吸収した。次の瞬間、本気の破壊により、今度こそ破壊された。

 

 そして次のループ。今回のループにて俺は右腕分だけ破壊神ビルスである。つまりその分だけ破壊の力を手に入れたというわけだ。これで破壊の力に対抗する術も、そして逆にその力を使う事も可能だろう。これで次は破壊神ビルス全てを食らいつくせるだろう。

 

 が、まずは、この力に慣れる事からだな。流石に神の力か。大筒木カグヤの力とはまた違った扱いづらさだ。だけど使いこなすには一ループで充分だ。

 

 

 

 

 

 五百ループ後。

 

 破壊神ビルスの力は予想通り一ループで使いこなす事が出来た。

 

 そしてビルスとウィスに勝利し、吸収出来たのは比較的早めのループだったか。

 

 しかし、全王は遠かった。

 

 破壊神だろうが天使だろうが、大神官であっても遠かった。

 

 全王の消滅の力は格が違った。まず食らえば防御も再生も不可能。回避も出来ない。ザマスとかいう奴やヒット、他世界の破壊神や天使も吸収したがどうしようもない。神龍を吸収したり、願ったりしても見たが、何の効果もなかった。

 

 だからと何度も全王に挑んでいても、全く進展はない。

 

 あまりにもどうしようもない事態に、俺は真正面から挑む事を止め、搦め手で行くことを決意した。

 

 

 

 

 次のループ。

 

 あっさりと全王の一部を奪うことに成功した。

 

 方法は簡単。料理やお菓子を献上し、彼の細胞片が食器などに付着するのを待つ。それを細胞片が手に入るまで行った。それだけである。簡単過ぎて涙が出てきた。

 

 手に入れた細胞片はクローン技術でクローンの生成に使用し、出来たそれを吸収した。

 

 これで俺は全王の力を手に入れる事が出来た。

 

 後はこれをオリジナルより使いこなせるように修行すればいいだけ。今回のループは比較的簡単だったな。

 

 

 

 

 二千ループ後。

 

 ……なわけがなかった。

 

 全王の力を手に入れたのはいい。だがいざ力の修行に入ろうとすれば全王の邪魔が入った。

 

 どうやら力を使ったら全王に気付かれるらしかった。

 

 しかしそれでもと繰り返し繰り返しループを重ね、ようやく力を使いこなせるようになったのが千ループ目。全王ともなんとか互角になり、戦いになるようになってきたのもその頃。宇宙ごと消滅されたりなんだったりされながらも全王と戦い、相討ったのが更に千ループ後。全王を討つ事が出来るようになったのは大きな一歩である。この調子でループを重ね、全王の力を超える。その為にはなんだってやってみせよう。

 

 

 

 二千ループ後。

 

 

 

 オリジナルの全王を丸ごと吸収した。

 

 これにてループは終わり。

 

 まさかこんなにも苦戦するとは。これまでの世界でのループより長い時間かかったかもしれない。

 

 だけどまあ、これでループは終わったのだ。

 

 ようやく転生する事になるが、それまでは少しばかり休憩してもかまわないだろう。

 

 はあ、疲れた。

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「神か」

 

「おめでとう。これで君は転生特典を全て手に入れ、無事転生する事が出来る」

 

「正直もう転生はお腹一杯なんだが?」

 

「おいおい、まだ転生特典を手に入れたばかりじゃないか。まだまだ満足してもらっちゃ困るよ」

 

「と言われてもな」

 

「なに、これから転生する世界は君を退屈させはしないよ」

 

「どうだか。神の力を手に入れ、世界の創造も破壊も可能な俺を満足させられるものがあるのか?」

 

「あるさ。なんせ、君の同類がうじゃうじゃいる世界なんだから」

 

「転生者か!」

 

「いぐざくとりー。まあ、君みたいな方法で力を手に入れた奴はいないだろうけどね。しかし転生者の力は君を殺しうる可能性を秘めている。素晴らしいと思わないかい?」

 

「悪くはないな。ループしない、正真正銘最後の世界だ。それくらいが丁度いい」

 

「よし。じゃあ早速転生させるね!」

 

「ああ」

 

「ちなみに転生先の世界は魔法少女リリカルなのはだから」

 

「ああ。ん?魔法少女?」

 

「そ。魔法少女」

 

「魔法少女かー」

 

「うん。それと君にもう一つ転生特典をあげよう。というよりこれも君が手に入れた転生特典だから、返すというのが正しいかな」

 

「うん?」

 

「君が今までのループで築いてきた絆。それを特典としよう。君専用の英霊の座みたいなものだね」

 

「え?」

 

「つまり君が絆を結んだ相手をサーヴァントのように召喚したり会話出来るようにするわけだよ。良かったね。普通のサーヴァントと同じく再召喚も出来るから、永遠に一緒にいられるよ」

 

「な」

 

「いやあ、リアル修羅場なんて中々拝めないから今から楽しみで仕方ない」

 

「ま、待て!」

 

「それじゃ、またね。転生者君。次に会う時を楽しみに待っているよ」

 

「うわあああああああああ!」

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没6

 

 

 

 

 

 チートを手に入れ、転生した先は魔法少女リリカルなのはの世界。

 

 転生する際にされた神様の注意によると、この世界は原作の世界ーー二次元の世界ではなく、あくまでも無限に存在する並行世界の中から一番原作に酷似した世界から選ばれた世界であり、二次元と勘違いしてはいけないとのこと。

 

 ちなみに俺がループさせられていた世界もそうらしく、既に身に染みて理解していた身としては今更の話だった。

 

 だが、いざ転生してみればそこは遥か過去の世界。

 

 未だ類人猿すらいない古代生物が闊歩する時代だった。

 

 ーーえ?

 

 何がどうなっているのか理解出来ない。理解出来るけど理解したくない。

 

 まさか、まさかの古代スタート、だと!?

 

 未だ人間という種が存在しない世界に転生させるとか神様は一体何を考えているのか。

 

 一度その脳ミソ引きずり出して調べてやりたいぐらいに意味が分からない。

 

 原作十年二十年ならまだ分かる。百年前でもなんとか理解出来る。

 

 しかしおよそ五百万年以上前の世界に転生させる意味が全く、これっぽっちも理解出来ない。

 

 思わず視界に入った山を一つ消し飛ばしてしまうぐらいには理解出来ず、俺は頭を抱えた。

 

 更に転生したばかりの俺はかなり不安定な存在らしく、今まで手に入れてきた力同士が反発しあいながら一つの肉体の中で渦巻いている。

 

 神様に奪われていた力が一度に返却されたせいだろう。

 

 肉体が人の姿からかけ離れた形をとっていて、絶えず流動し変質したりと不安定である。

 

 とりあえず今は悠長に悩む時間はないな。まずは力を完全にコントロールする事に集中するべきだ。

 

 下手したらこの地球らしき星どころか隣接する次元世界まで消し飛ばしかねないからな。

 

 

 

 

 転生してから千年ほど経ち、ようやく力の完全掌握に成功した。

 

 流石は五つの世界で頂点に君臨する力達だ。上手く反発しあわないように馴染ませていくのは苦労した。

 

 これでようやく落ち着いてこの古代地球に転生した理由について考えることが出来る。

 

 因みに姿形は自由に変化させられるようになったので適当な人の姿をとっている。

 

 神様はこの世界をリリカルなのはの世界と言っていたが、原作まで大体五百万年ぐらい空白の時間が存在するのは何故か。

 

 あの神様が間違えたとも思えない。恐らく故意に俺を古代に転生させた。その意味は?

 

 転生者?

 

 いや、俺と同じように古代に転生する転生者はまずいないだろう。転生者はまず原作の時間軸に転生を願うだろうし、そうでなくても現代に転生する事を願う筈。神様が故意にそうしない限り。

 

 だが俺を転生させた神様はともかく、他の神様とやらがそうするとは何故か思えない。

 

 なら別の理由か。

 

 全くその理由に思い当たらない。

 

 幾度ものループを経験したが、元は凡人だ。神様の思惑を理解出来る筈もないか。

 

 仕方ない。

 

 五百万年とちと長い時間だが原作まで適度に暇を潰しながら過ごすとしよう。

 

 ただ待つだけならばこれまでのループと比べればイージーだ。

 

 原作が始まれば神様の思惑も知ることが出来るだろう。

 

 既に未来視によってこの世界が魔法少女リリカルなのはの世界と確認は取れている。

 

 原作に至るまでの歴史も元いた世界の歴史と相違ないのも確認済みだ。

 

 ならば原作が始まるまでの間、人類史を見物して暇を潰すとしよう。

 

 世界各国の英雄達をリアルタイムで見る。成り行きだが悪くない案だ。

 

 この世界でのギルガメッシュやアーサーも見てみたい。いや、この世界では物語にしか存在しなかったか?まあいい。そうであっても十二分に楽しめるだろう。

 

 ああ、早く人類が生まれないものか。

 

 

 

 

 ようやく類人猿らしき生物が生まれた。

 

 百万年ぐらい経った頃だろうか。

 

 気分が良かったので思わず力を与えてしまった。

 

 大した力ではなく、ほんの少し他の個体より優れる程度の力だ。大丈夫大丈夫。

 

 そういえば、神様から貰った英霊の座的なものだが怖くて未だに覗けていない。大丈夫大丈夫。もう少し後で覗いても大丈夫。大丈夫な筈。うん。

 

 

 

 

 更に二百万年が過ぎた。

 

 進化し、より人間らしくなった個体についまた力を与えた。

 

 前に力を与えた個体の子孫でもあったから感慨深い。

 

 この頃から進化のスピードは加速し、百数十万年も経てば現行人類が生まれた。

 

 それにより、ようやく人類史が始まった。

 

 これから人類史に名を轟かせた英雄達が生まれ、偉業を果たし、歴史に名を刻む。

 

 さぞ見応えがある暇潰しになるだろう。

 

 ……だがその前に、そろそろ転生者対策に色々仕込んでおくとしようか。

 

 転生者には期待しているが、それで無関係な人間を巻き込むのは本意ではない。

 

 無意味な犠牲はいらない。

 

 ならばどうするか。

 

 原作通りに進むならば被害が少なからず発生するし、転生者という存在がいるならば被害の拡大も縮小もあり得る。

 

 ーー極論。転生者さえいるならば別に原作はいらない。

 

 うん。そうだな。それにしよう。

 

 それなら話が早い。

 

 原作がどうして原作たりえたのか。

 

 それはこの地球に魔導師による組織が存在しなかったからだ。

 

 地球は魔法にたいして何の対抗手段も持たない。だから原作では時空管理局という組織に干渉されたし、ジュエルシードや闇の書に何も出来なかった。

 

 ならば組織を作ろう。

 

 外から訪れる超常的な存在に対処する組織を。

 

 ループのお陰で組織を作った経験なら豊富にある。何も問題はない。

 

 思いついたなら即行動だ。

 

 まず組織を作るためには人が必要である。

 

 外からの脅威に対抗でき、人類の守護者足り得る資格を有した者達が。

 

 俺はそれに心当たりがあった。

 

 英雄である。

 

 人類史に名を刻むであろう英雄達こそ守護者に相応しい。

 

 彼らに力を与え、抑止力とする。

 

 これだ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………これ型月の抑止力まんまやん。

 

 いや、流石にエミヤみたく酷使するつもりないし、あくまでも任意で守護者にするし。うん。

 

 ま、まあいい。

 

 次は与える魔法についてだ。

 

 俺の力はNARUTO、ドラゴンボール、BLEACH、fate、鋼の錬金術師の五つの世界の技術だ。

 

 その内、魔法がある世界はドラゴンボール、fateの二つのみ。

 

 だがfateの魔術はどちらかというと戦闘ではなく研究の為に研鑽されるもので、根元に至るためのもの。ドラゴンボールの魔法はユニーク過ぎるし、与えるには強過ぎる。

 

 リンカーコアを使うリリカルなのは世界の魔法をそのまま与えるのもいいが、それだと普通の魔導師はともかく、転生者を相手にするのは不安が残る。

 

 いっそ魔法以外の力を与える事も考えるべきか。

 

 しかし、力を与えるというとユーハバッハを思い出すな……。

 

 ーーそういえば、滅却師の血装って魔術回路に似ているな。

 

 ……ふむ。

 

 滅却師の血装を魔術回路の代わりにするというのはどうだろうか。悪くないアイディアかもしれん。

 

 都合よく、現行人類にはその先祖に与えた俺の力が受け継がれているわけだし。

 

 これに少し力を足せばリンカーコアがあろうがなかろうが関係なく、俺が選んだ守護者に値する者全てが魔法を扱えるようになるだろう。

 

 更に他の力も混ぜてみるのもいいかもしれない。

 

 これはテンションが上がるな!

 

 

 

 

 紀元前を過ぎ、西暦が始まった。

 

 構築した新しい魔法を人に与え、問題点を洗いだして改良する。そしてそれをまた人に与え、と繰り返していくうちに西暦になっていた。

 

 何かに熱中していると時間があっという間に過ぎるな。

 

 お陰で新しい魔法形式が完成した。

 

 名付けて血統回路式魔法。

 

 まんまである。

 

 先祖から受け継がれた力に更に俺の力を足すことで使用可能になる魔法。

 

 血管を回路に見立てて発動する魔法形式である。プリズマ世界のイリヤのあれに近いが、あれとは違って肉体へのダメージはない。そこら辺はかなり念入りに設計している。基本魔法として滅却師の静血装、動血装、聖隷を扱える。ただし用いるのは魔力であり、聖隷は魔力の絶対隷属となっている。ミッドチルダ式やベルカ式の魔法も使用出来、リンカーコアと回路を同時に使用して静血装をしたまま砲撃なんて真似も出来る。

 

 悪用禁止のために俺か血統回路式魔法を使える者から直接力を分け与えられなければ使用出来ないようにしてある。当然、遺伝もしない。親が立派でも子がそうであるとは限らない為だ。相応しくない者に魔法を与えるつもりはない。まあ、リンカーコアがあれば血統回路式以外の魔法は普通に使えるわけだが。そこまでは知らん。

 

 他にも幾つかルールを定め、それを破ればペナルティを負うように設定している。死にはしないがかなりの激痛を味わい、回路の色が青から赤に変わるといった具合に。

 

 その中には魔法の秘匿も含まれている為、魔法の存在が表に出ることはなく、歴史は俺が知るものと大差なく紡がれている。

 

 せめて人類が自力で魔法を見出だすまでは秘匿するつもりだ。

 

 いきなり魔法の力を人類に与えてもろくな事にはならないだろうからな。

 

 それぐらい俺は人間を信用している。

 

 

 

 

 西暦に入ってから少し経った頃、外の世界から侵攻を受けた。

 

 アルハザードと呼ばれる場所から来た魔導師だといい、原作のミッドチルダ以上の技術力を有し、ロストギアクラスの兵器を大量に戦場に投入可能な戦力を有していた。

 

 控えめに言って頭がイカれている連中で、ジェイル=スカリエッティ以上にマッドな奴等が掃いて捨てるほど存在した。

 

 この地球に目をつけたのも俺が作った血統回路式魔法が理由である。

 

 この世界を守るために作った魔法が、逆にこの世界に災いを呼び寄せる事になった事態に溜め息しか出てこない。

 

 その時代の守護者達は外から来たアルハザードの魔導師にたいして最初は交渉で何とかしようとしたわけだが、何が何でも魔法の秘密を手に入れたいアルハザードの魔導師と、世界を守護するための力である魔法を秘匿したい守護者達とでは噛み合わず、しまいにはしびれを切らしたアルハザード側からの宣戦布告によって戦争が始まった。

 

 いかに守護者でも、技術力があり、ロストギアクラスの兵器を大量に投入する魔導師が相手では力足りず、その時代の守護者だけではなく、過去に守護者として活動していた英雄達までもサーヴァントとして呼び出し、戦場に送り込むはめになった。戦争は熾烈を極め、最終的には俺が直接前に出て戦争を終結させた。

 

 流石に周辺の次元世界をまとめて消し去るような兵器を使われては堪らないからな。

 

 ーーそして、アルハザードは滅びた。

 

 アルハザードは虚数の海に沈み、その存在はお伽噺となった。

 

 原作通りといえば原作通りだが、なんだかな。

 

 まあ、過ぎた事はどうでもいい。これからの話をしようか。

 

 今回の戦争を経て守護者システムは大幅な修正が必要になった。

 

 今回のように現役の守護者達で対応出来ない場合、その度に俺が直接干渉するのでは守護者がいる意味がない。

 

 なので現役の守護者でどうにもならない事態に陥った場合、過去の英雄達を守護者としてサーヴァントの身で召喚し対処するシステムを構築。更に、そもそも力の差や技術力がかけ離れ過ぎていて戦いにならないといった事がないように、守護者に能力と道具を貸し与える事にした。

 

 以上の要素を守護者システムに追加した。安定した戦力を揃え、同じ土俵で戦えるようにするために。

 

 尚、サーヴァントとして再び守護者の使命を果たした者には報酬を与える事にした。流石に新しい命は与えられないが、サーヴァントとして現世を楽しむ時間くらいは与えられる。その方がやる気が出るだろうしな。

 

 

 

 

 

 アルハザードとの戦争から数百年が経ち、千年が過ぎ、原作まで残り数十年を切った頃、再び外の世界から侵攻を受けた。

 

 相手は時空管理局。

 

 原作崩壊の足音が聞こえる……!

 

 ーーまあ、うん。こうなるかなあとは思ってたよ。

 

 原因は俺が守護者達に与えた道具。

 

 俺がループした五つの世界から持ってきた様々な道具が管理局の目に留まったらしい。

 

 控えめにいってロストロギアクラスの道具が殆どだからな。聖杯とか崩玉とか。

 

 それら全てが俺の管理下にあるといっても、管理局としては、はいそうですか。と放置出来る筈もない。

 

 守護者達の中には俺の事を神と同一視している奴等もいるせいか、神から与えられた道具を管理しようなどとほざく奴等にはあまりいい顔はしなかった。俺としても原作の管理局を知るがゆえに守護者達を正しいと思えるが、俺の行動が裏目に出て戦を招いている事態にとても頭が痛い。

 

 そして戦争が始まったが、大変なことになった。

 

 ……管理局が。

 

 考えてみれば当たり前の話だ。

 

 アルハザードを仮想敵として強化した守護者達に管理局が叶う筈もなく。

 

 あっさり敗北。

 

 管理局はすぐさま軍を引き返して引きこもってしまった。

 

 知ってた。

 

 うん。まあ、そうなるよな。

 

 ロストロギアを自由自在に振り回す敵とか厄介だよな。うん。

 

 分かるぜ。その気持ち。

 

 守護者達もそうだった。

 

 だから戦力を揃えた。

 

 力を与えた。

 

 その結果がこれである。

 

 原作を知っている身としては複雑だが、こうなる事は守護者を考案し作り上げた時から分かっていた事である。

 

 まあ、管理局にはちょっと大人しくしていてもらおう。なに、代わりにジュエルシードも闇の書も解決してやるんだ。な?それでいいだろう?うん?

 

 

 

 

 ーーその後の話だが、管理局はこの世界を第97接触禁忌世界とし、以後干渉をしてくる事はなかった。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ……………………わけではない。

 

 真正面から来る事がなくなった代わりに、秘密裏に潜入しての守護者やこの星の調査をするようになった。

 

 見つけ次第守護者達が対処しているが、数は一向に減らない。

 

 むしろ手口がだんだんと巧妙化しており、守護者達の目も時々振り切るようになっている。まあ、俺の目は誤魔化せないので少し早いか遅いかの違いしかないが。

 

 投入されている奴等も最近は傭兵や賞金稼ぎのようなならず者まがいの連中が主で、管理局が直接人員を送るのは稀である。ただそんな奴等が多いせいで被害が少なからず出てきてしまっているのがなあ。

 

 守護者達の対魔導師戦闘における経験値を積めるのは有り難いが、被害が出ているのは見逃せない。守護者達も頑張っているのだが。俺があまり手を出すのもよくない。……どうするべきか。

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没7

 

 

 

 

 

 ーー二十一の青い光を放つ石を身に纏った金色の魔女が世界を焼き尽くす。

 

 

 

 ーーこの世界にあり得ざる力を喰らい尽くし、神をも喰らわんと猛る怪物の姿。

 

 

 

 ーーこの身を貫く十字槍を握る女。

 

 

 

 

「……夢か」

 

 原作開始まで残り五年を切った。

 

 転生者達が次々にこの世界へと転生してきているわけだが、俺に届きうるレベルの存在は未だ現れず。

 

 どころか中途半端に強い力を持っているせいで問題を起こしまくっていて守護者達が大変忙しい。並の守護者では対処出来ないような力を持っている者が多いから本当に厄介な存在である。

 

 俺も転生者だが、流石に四才児は口説かないしな。

 

 このままでは俺に届きうる存在どころか、悪戯にこの星を掻き回す存在になりかねない。今でも守護者が対処出来る限界を大幅に越えてしまってしている。これ以上は流石に遠慮願いたい。試しに未来視でこの星の未来を見てみれば、ろくな未来は見えない。俺に届きうる可能性はあるが、そこに希望はない。ハッピーエンドもない。滅びのみしかない世界だ。そんなものを俺は認められない。こんな筈じゃなかった未来など、この星にはいらない。

 

 ーーだから、それに至る要因は消さなければ。

 

 転生者。

 

 神から与えられた力を我が物顔で振り回し、世界を壊す愚か者共。

 

 だが、しかし、かといって俺以外の転生者を根絶やしにしてもどうしてか世界は滅ぶ。恐らく神が関係しているのだろう。詳しい事は分からないが、酷い話だ。

 

 だから転生者を間引く。絶滅させるのではなく、管理しやすいよう間引く。特典を奪うのも世界の滅びに直結するから下手に奪えない。だから管理しやすい数になるよう間引けばいい。

 

 現時点でこの世界にいる転生者はざっと一万人以上。その内原作とか関係なく平和に過ごしているのが一割。原作介入を狙う転生者が九割。その内、他の転生者を排除するために過激な行動を取るのが七割。そして原作とか関係なく暴れる転生者が少なくない数存在する。

 

 この中に俺に届きうる存在が生まれるかもしれないが、あの未来を許せる理由にはならない。

 

 この世界に転生してからずっと、人類の始まりから見守ってきた。

 

 力を与え、自らの身を守る術を与えた。

 

 知恵を与え、進化を促した。

 

 それだけの長い年月を、この星で生きてきた。

 

 この世界は、転生者如きのくだらないいざこざで滅ぼすにはあまりに愛着が抱いてしまった。

 

 故に、我が全身全霊を持って転生者を律するとしよう。

 

 まず手始めに、BLEACHの世界で破面のロカ・パラミアから奪った反膜の糸を使い、この星に存在する全ての転生者と繋がり、あらゆる情報を得る。そして得た情報を元に戦術を構築。準備を終えたら、同世界のユーハバッハから奪った力によって海鳴市の影の中に世界を創造する。そしてそこに全ての転生者達を影を通して引き摺りこんだ。

 

 俺はユーハバッハの姿を借り、創造されたばかりで何もない世界に飛ばされて動揺している転生者達の前に姿を現した。

 

 さあ、始めようか。

 

 楽しい楽しい蹂躙を。

 

 

 

 

 それは突然だった。

 

 気が付いたら、地平線まで白い空と地面が広がる世界に連れてこられていた。

 

 前世で神様のミスとやらで死に、お詫びとして魔法少女リリカルなのはの世界に転生させてもらって四年弱。そこまで強力な特典を選ばなかった私は原作には極力関わり合いたくない気持ちで大人しく生きてきた。

 

 なのになんだこれは。

 

 いきなりだ。

 

 家で原作のストーリーを思い出し、ノートに書き記していた時に、いきなり私はこの場所に連れてこられた。

 

 少し落ち着いてくると、ここには私以外にも連れてこられた者がいるに気がついた。

 

 あちこちから怒号や悲鳴が飛び交い、聞くに耐えない雑音が溢れている。

 

 連れてこられた者達を見てみると、ある共通点があった。

 

 銀髪オッドアイ。金髪赤眼。アルビノカラー。またはアニメや漫画にいたような顔。総じて不自然なほどに顔が整っていたりで、喋る内容も似たり寄ったり。

 

 転生者だ。

 

 ここにいるのは全員転生者なんだ。

 

 そうと気付いた瞬間、私は一気に血の気が引き、心臓が一際大きく鼓動を打った。

 

 不味い。

 

 予感が背筋を走る。

 

 集められた転生者。

 

 神様は転生させた者達には不干渉だと言っていた。それは他の神々との協議の結果定められたルールであり、絶対だと。もし破れば、他の神々によって消滅させられるのだと。

 

 ならばこの状況は転生者によるものだ。

 

 それもとてつもなく強大な特典を持った転生者だ。でなければこんなにも大勢の転生者を一度に、一方的に拉致する事は出来ない。

 

 集めた理由は?

 

 私達転生者を一方的に集めた理由は?

 

 転生者狩り。

 

 転生者の中には同じ転生者を狩る者がいると知り合いの転生者から聞いた覚えがある。

 

 その目的はハーレム建設のための障害を排除するために、転生者の持つ特典を奪うために、または好き勝手自由に生きるのに邪魔だから。様々だ。

 

 ではこれを起こした転生者は何が目的か。

 

 分からない。怖い。私はただ平穏に暮らせればいいのに。それだけなのに。なんで。どうして。

 

 私はーー。

 

「初めまして。転生者諸君。私の名はユーハバッハ。君達転生者を管理する者だ」

 

 現れたのはある程度歳を経た男。

 

 その姿を私は知っている。

 

 BLEACHに出てくる最後の敵にして、滅却師の父。

 

 ユーハバッハ。

 

 その男の姿をした転生者がそこにはいた。

 

 突然現れた元凶らしき男に、一部の転生者達が怒号を上げ、神様から授かったのだろう力を振るう。

 

 が、しかし、それらは一瞬で蹴散らされた。

 

 男が軽く手をはらっただけで、大量の武器も、光の柱も、その意味を失った。

 

「今日この瞬間、この場所に君達転生者を拉致したのは私だ」

 

 男は何もなかったかのように言葉を紡ぐ。

 

 その足元には数十人の転生者が倒れているが、気にも止めていない。いや、そもそも認識しているかどうかすら怪しい。それだけの力の差が存在していた。

 

「何故こんな事をしたのか。理由を今から説明しよう」

 

 倒れていた転生者の一人が、男が背を向けたのをチャンスと見たのか武器を手に襲いかかった。

 

「未来を見たのだ。この世界がこれから辿る滅びの結末を」

 

 転生者は見えない何かに弾かれたかのように空に打ち上げられ、鈍い音をたてて地面に墜落した。

 

「転生者達によるいざこざにより、この世界は遠くない未来、滅ぶ」

 

 未来を見た。

 

 それはつまり、あの男は原作のユーハバッハと同じように未来視の力を有するという事。

 

 未来視という事は、その先の未来改変能力もあるかもしれない。そんな相手をどう倒す。不可能だ。原作の一護は、多くの仲間のお陰で倒すことが出来た。

 

 しかし今この場にいる転生者で、協力してあの男を倒せるのか。

 

 不可能だ。

 

 ここにいるのは、皆この男の術中に嵌まった者ばかり。それはつまり、この場にいる転生者の力では男に勝てないという事だ。一ヶ所に転生者を集め、その目の前に姿を現したのは自信の現れに他ならない。

 

 そして私は戦闘系の特典ではない。そもそも戦えず、あの男が首を刎ねるのを待つのみ。

 

「故に私は、転生者を管理する。世界を滅ぼさないために、無意味な争いを起こさないために」

 

 男はそういい、邪悪に微笑んだ。

 

「さあ、平和の為の礎となれ」

 

 そこから先は語るのも憚れる。

 

 それでも尚、ただ一つ。語るとするなら、あの男に逆らう事の愚かさを、私達はその魂に刻まれたのだ。

 

 

 

 

 いやあ、激戦だったぜ。

 

 一万人を超える転生者達との戦いをダイジェストで終わらせ、後処理の時間である。

 

 先ず原作介入組の内、危険思想を持つ七割から原作知識と転生特典、前世の記憶を奪い、元いた場所に返却する。その際、周囲の記憶改竄と被害の対処を忘れずに行う。その他原作介入関係なく暴れる転生者も同様の処理を行う。

 

 転生者の特典を奪う方法だが、意外に簡単だった。

 

 神様の特典というから奪えるか分からなかったが、なんの事はない。魂に雑に貼りつけてあるだけで、魂に干渉する技術があれば簡単に剥がせるし奪えた。神様よ。もう少しちゃんとしようぜ。転生者が可哀想だ。それに奪ったからといって世界が滅ぶこともなかった。やはり全ての転生者を滅ぼす事が駄目なのだろう。本当に面倒な話だ。

 

 残りの転生者で戦う力を持たない者は保護か、自衛の為に訓練を、戦う力を持つ者は徒に周囲に危害を加えないように釘を刺し、そして全ての転生者達に最低限の決まりを作って守らせた。

 

 そして影の中に造り上げた世界を見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)とし、転生者達の交流場所兼監視塔としてそこに城を築いた。

 

 よし。これでこの星に訪れる滅びの要因は大体取り除けた。後は周辺の次元世界も確認しておこう。

 

 ふう。やり過ぎないようにやらないといけないのは本当に面倒だ。

 

 

 

 

 ーーいい人でした。

 

 ユーハバッハの外見に騙されたけど、無秩序で混沌とした転生者達に最低限の決まりを作り、それを守らせることで規律を敷き、それによって戦えない転生者は守られ、戦える転生者は自重し、転生者同士の衝突も目に見えて少なくなった。

 

 やってる事が転生者専用の警察みたいで、とても助かっている。

 

 一万人近くいた転生者も今は二千人に満たない数しか残ってないけど、殺したわけじゃない。中には殺されてもいいぐらいの事をやらかしている奴でもちゃんと生かしている。……前世の記憶と特典は没収されてるけど。それは仕方ない。

 

 最低限の決まりにしてもあってないようなもので、

 

 一つ、転生者同士の殺し合い禁止。

 

 一つ、精神干渉系能力の悪用禁止。

 

 一つ、原作介入は自己責任。

 

 一つ、転生者関連の事物の取り扱いは慎重に。

 

 一つ、その他モラルに反しない事を心がけること。

 

 以上、五つの決まりを守れば自由にしていいらしく、普通に過ごす分には何の問題もない。原作介入を禁止しているわけでもないから、原作介入組の転生者達も不満はないようだ。

 

 今のところユーハバッハと名乗る転生者、姿から陛下と呼ばれている彼が行っている転生者の監視と保護は十全どころか過保護なくらいである。

 

 彼が影の中に造った世界、見えざる帝国は転生者ならば何時でも影から出入りする事が出来、そこに築かれた巨大な城にある施設の利用や転生者同士の交流が出来るようになっている。

 

 例えば、城の中には転生者が寝泊まりするための部屋が用意されており、朝昼晩の食事におやつも合わせて全て無料で提供されている。家がない転生者やそれ以外の人にも重宝されている。

 

 戦えない転生者の為の修練場などの施設もある。指導役の先生が常に常駐していて、その面子に私が一番驚いた施設でもある。なんせ、指導する先生はNARUTO、ドラゴンボール、BLEACH、fate/stay night、鋼の錬金術師から選ばれており、うちはマダラと千手柱間がいたり、孫悟空とベジータ、ブロリーがいたり、ヨン様がいたり、エミヤやアルトリアがいたり、お父様がいたりと色々凄い事になっていた。うん。かおす。しかも転生者というより、まるで本人みたいで生きた心地がしなかった。特にブロリーとヨン様。エミヤは食堂と掛け持ちらしく、あまりいないけれど。いる時はかなり人気である。無限の剣製の熟練度が本物クラスというか本編以上なので学ぶことは多いようだ。

 

 転生者由来のアイテムを保管する宝物庫もあって、そこには黄金の玉座があり、英雄王ギルガメッシュがいる。性格は原作よりマイルドだがAUOなので会話には注意が必要である。現に調子に乗った転生者が血祭りに上げられた。ヤムチャしやがって。

 

 転生者由来の生物を飼育する自然公園もある。ポケモンだったりアラガミだったりが住まうカオスその二である。ここの担当はエルキドゥで、たまにギルガメッシュのところにいて不在だったりする。私の特典である霊視で下級大虚が見えたので極力近付かないようにしている。

 

 転生者に教える学校のような場所もある。そこで教えるのは学校で習う事から、魔術や魔法まで幅広い。担当は衛宮士郎とそのハーレムである。衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜、イリヤ、バゼット、カレン、ルヴィアのメンバーは、主に前世と現世合わせても低年齢の転生者に勉強を教えている。人気ヒロインなのでそれ目当てに来る転生者もいるけど、どう見ても衛宮士郎のお手つきだから希望はない。強引な手段を取ろうとする転生者はハーレム直々に袋叩きにされるので素直に諦めるのが吉。

 

 他にも転生者達の知識を集めた図書館、担当はライダー・メデューサ。エミヤや衛宮士郎がいる食堂。涅マユリ率いる技術開発局などがある。

 

 正直これらを用意出来る時点で陛下は転生者の中でも別格である。原作みたく敵の首領でなくて本当に良かったと思うよ。マジで。

 

 まあ、それでも転生者の中には不満を持つ奴もいるみたいだけど、表立って反発する転生者がいないのは良いことなのか悪いことなのか。

 

 

 

 

 



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転生するらしいのでチートを頼んだら リメイク版没8

 

 

 

 

 

 私はその日、運命に出会った。

 

 お父さんが事故で入院し、大変になった家族に迷惑をかけないよう一人ぼっちでいた私は、いつものように一人で公園にいたら、知らないおじさんに襲われた。

 

 私がいい子じゃなかったからこうなったのかな。

 

 そう、諦めながら思った瞬間、横から凄い助走をつけて跳び蹴りをおじさんに当てた女の人が現れた。

 

 その人は白く綺麗な髪に、まるで宝石のような赤い瞳をした美人さんで、私は思わず見惚れていた。

 

 その人は倒れたおじさんに馬乗りになると、一言二言何かを話しかけた後、あっさりと解放した。

 

 また襲いかかってこないかと心配したけど、女の人はお話ししたからもう大丈夫って言ったの。

 

 大体の奴は一発かましてお話すれば聞いてくれるとその人は締めくくり、その通りに起き上がったおじさんは私に謝った後警察に行きました。

 

 その時私の頭の中に閃いた事は決していい子の考える事じゃなかったと今になっては思うけど、その時の私はそれしかないと思い込んでいて、女の人の名前すら聞かずに家に帰ったの。

 

 そして、出迎えたお兄ちゃんに走った勢いのまま突っ込んで、何もないところで躓いて、そのまま頭からお兄ちゃんにぶつかってしまいました。

 

「かっはッ!」

 

「恭ちゃんの恭ちゃんが!?」

 

「なのは!?」

 

 お母さんとお姉ちゃんが何だか焦った声を上げたけど、私は気にも止めずに叫んだ。

 

「お兄ちゃん!私を鍛えて!」

 

 

 

 

 それから数年。

 

 私は、運動音痴を克服し、並みの大人なら素手で制圧出来るようになっていた。

 

 周りからは聖祥の白い悪魔とか魔王とか呼ばれているけれど、私はただお話をしているだけ。ちゃんと話せば皆分かってくれるから、私はなんと言われようとかまわない。

 

 ただあの日出会った女の人のようになりたくて、私は今日も頑張るのだ。

 

 

 

 

 私はその日、運命に出会った。

 

 私が気味の悪い三人の男の子達に囲まれて困っていた時、助けてくれた猫。もとい女の人に出会ったのが始まりだった。

 

 その人は魔法が使えたり猫に変身したり魔法少女に勧誘したりと訳が分からない、とにかく意味不明な人だった。美人で結構ボインやったけども!

 

 けれど、私はそれ以来一人ぼっちじゃなくなった。

 

 親を早くに失って、父の友人が後見人になってくれたけれど遠くにいて一度も会ったこともなく、付き合いのある大人といったら病院の担当医である石田先生ぐらい。足のせいで学校にも行けず、一人で過ごす日々。

 

 そんな日々も彼女と出会ってからは変わった。

 

 というか変わり果てた。

 

 気が付いたら庭に妙にふてぶてしい黒猫がいたり、屋根裏からおかっぱ頭の忍者みたいなお姉さんが現れたり、白い仮面を被った黒いのがいたり、クローゼットの中から出所不明の大金が雪崩れてきたり。

 

 ……うん。

 

 極めつけに、私の足は家に前からあった本の呪いだとかで魔法であっさり治してしまい、四年経った今では足のリハビリもとっくに終わり、復学して普通に学校に通い、今では皆勤賞更新中である。

 

 なんだろう。なんか違う。なんかこう、な?例えるなら魔法少女の第二期の薄幸のヒロイン枠でその健気さでファンのハートをがっちりキャッチする感じだったのに台無しにされた感じがするんよ。

 

 なんやろな、これ。

 

 まあええわ。とりあえずそろそろ学校だからあの子達呼びに行こか。

 

 あの時から一緒に過ごしてきた大切な家族を。

 

 今日も私の一日は始まる。

 

 願わくば、こんな日々がずっと続きますように。

 

 

 

 

 

 私はその日、運命に出会った。

 

 いきなりだった。

 

 いつものようにリニスに魔法を教えてもらっていたら、突然時の庭園全体が大きく揺れ、激しい爆発音が響きわたった。

 

 リニスは授業を中断すると私とアルフを安全な場所にいるように言って何処かへ慌てて向かっていった。

 

 この時の私は何か嫌な予感がして、リニスの言いつけを破ってお母さんの所を目指した。

 

 そして、お母さんのいる場所に辿り着いたとき、私は見た。

 

 お母さんとリニスを襲う白髪の男の人と、その男を一撃で叩き潰す白髪の女の人を。

 

 それからの事は急過ぎて私にもよく分からない。

 

 私には姉がいて、実は姉のクローンで、お母さんが病気で先が長くないとか。

 

 そんな事実を知って、ショックを受ける暇もなく姉が生き返って、お母さんの病が治って、うん。

 

 気が付いたら私は小さな姉と優しくなったお母さんと、リニスとアルフも一緒に過ごしていた。

 

 正直その時の私には意味が分からなかったけど、今なら分かる。

 

 私は幸運だったということが。

 

 だから私は、あの人、うちはカエデに憧れた。

 

 悲劇を喜劇に変えるあの人に。

 

 

 

 

 

 

 



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