脳筋魔術師の人理修復(仮題) (夢理庵)
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第0章 転生〜カルデア参加
第1節 物語(ゆめ)の中へ


はじめまして

ちょっとFGOの二次創作小説を書いてみようかなと思い立ったので投稿させていただきます

長いお付き合いになるか短いお付き合いになるかわかりませんが、よろしくお願いします


「うーっし、これで3章クリア、っと。あぁ疲れた。」

 

長い戦いを終え、シナリオを読み終えた俺は一旦スマホの画面をオフにするとそれを机の上に起き、そのままベッドへと倒れこんだ

 

枕元の時計はすでに結構な時間を示しており、かなりの間激戦を繰り広げていたことがわかり更に疲れが増した気分になった

 

「この先シナリオはどうなるんだろうな…ようやく拠点らしい拠点ができたけど、まだまだ敵は多いだろうし。」

 

そんなことを考えながらベッドに横たわりまどろんでいると、いつもストーリーやイベントのシナリオを読む度に感じていた思いがふと頭をよぎった

 

人類の未来を語る資料館にして、人類史の保障を成しえる組織『人理継続保障機関 フィニス・カルデア』

 

その初の戦い…特異点へのレイシフトにおいて死んでいった一人の人物、オルガマリー・アニムスフィア

 

魔術師の名門アニムスフィア家の当主であり、亡き父の跡を継ぎカルデアの所長を務めていた女性

 

その最期は、英雄の様に命を賭してなにかを成し遂げたが故の満足のゆくような物ではなく

 

―――いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……!誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!―――

 

悪人の様にその企みを真っ向からの勝負によって破られ見る者の心を晴らすような物でもなく

 

―――どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!? 誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!―――

 

あるいは凡人の様に特筆すべき事は無くとも平凡かつ平穏な物でもなく

 

―――やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない! 生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!―――

 

全幅の信頼を置く者に裏切られ、自らの生涯を嘆く悲壮な叫びと共に消滅するという、あまりにも、あまりにも救われない物であった

 

もし仮に彼女が死なずにその後のカルデアの戦いに参加していれば、どのような結果となったであろうか

 

数々の特異点とそこで出会う人々や英霊に対しどのような言葉を残したであろうか

 

多少の出来事には動じない主人公(とそれを通じて物語を見るプレイヤー)でさえ頭を悩ます様な珍妙不可思議なイベントに対しどのような反応を示したであろうか

 

新しいストーリーやイベントが始まる度に、いつも同じようなことを考えてしまう

 

これがきっとキャラを好きになったと言うことなのだろう、もっとも好きになった瞬間にそのキャラの生涯は終わっていたような儚い恋であった

 

「どーやったら所長って救えんのかなー、冬木のラストはともかく爆弾で体吹っ飛ばされるのはレイシフトしてからじゃ遅いし…いっそ先手取って…いや無理か…」

 

そんな感じのことをだらだらと考えながら、俺の意識は眠りに落ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井が映っていた

 

周囲の雰囲気からなんとなく、俺は今自分の居る場所がどこかの病院だと思った

 

(ん…?なんだ、この体の感じ。)

 

そこまで考えたところで、俺の視界に看護服を着た女性の姿が入った、入ったのだが…

 

(デカっ!?身長何メートル有るんだよ!?あぁこりゃまだ夢見てんな俺、巨大看護師の出てくる夢なんて気持ち悪、さっさと起きちまおう…)

 

そう思いながら目の前の巨大看護師を無視しようとすると、目の前の巨大看護師が表情を緩ませながらどんどんとこっちに近付いてくるのが見えた

 

軽く恐怖を覚えた俺が思わず叫び逃げようとしたその時だった 

 

「…うぇ、うぇぇ…」

 

あれ?声が出ない?しかも逃げようにも体も上手く動かない!?

 

無我夢中で体をジタバタさせていると、巨大看護師は緩んだ表情のままこちらを見つめ、

 

「あらあら、元気な子ね。これはきっと将来は活発な女の子になるわよー。お母さん大変ね。」

 

とか言っておどけた表情をしながら手を振ってきた。

 

…待て、今『女の子』って言ったか?

 

自分の体を確認してみようにも、上手く動かない体では首を動かすことすらままならない

 

どうしたものかと思っていると、俺が居る場所の周りにいくつものショーケースの様な物が見えた

 

そしてその中にはどれにも赤ん坊が入っており、人の名前の書かれたラベルが貼られた物もいくつか見られた

 

そして俺も…良く見てみると、同じようなショーケースの中に入れられていた

 

つまり―――

 

(俺、赤ん坊になってんのか?それも女の。おいおい、どんな変身願望だよ俺ェ…)

 

夢とは言え、大した状況になってしまったものだと我ながら感心してしまう

 

起きたら夢占いでもしてみるか、と思いながらうとうとする俺が自らの置かれた状況に気付いたのは、それから五度目の覚醒で全く同じ景色を見た時であった

 




ちなみに筆者はFGOのストーリー、実はそこまで進めていません…

タイトル画面が未だに1.5部仕様のまんまです、現在下総攻略中


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第2節 生き残るため、カルデアへ

前回投稿からちょっと空いちゃったけど、遅筆なのとPCがバグって
二回くらい原稿飛んだからでまだ失踪はしてませんよ~


作中でのグランドオーダー開始は2015年説と2016年説があるらしいのですが、本作では原作アプリの配信日準拠で2015年をグランドオーダー開始日としています


生後まもなく母親らしき人物に抱えられ病院から大きなお屋敷に連れて行かれた時には「大金持ちの令嬢なんて親の財産頼りで人生勝ち組コースじゃん、やったぜ。」と心の中で小躍りするくらいに目の前の両親共々喜んでいたのだが、両親の口から次々と発せられる「未来の3代目当主」「どれほど偉大な魔術師になるか」「いずれは時計塔で」などというフレーズを聞いているうちに、自分が現実的な世界ではなくいわゆるFate世界の魔術師の家系に生まれたということがわかった

 

この時点では勝ち組人生を謳歌しつつゆるゆる魔術の研究でもやって、聖杯戦争が起こればサーヴァント同士の対決の観戦でもしてみようか、あるいはサーヴァントを召喚して参戦してやろうかなどとまだ楽観的に構えており、両親が俺に魔術の教育を始めた時にもそこまで真剣に打ち込んでいなかった

 

しかし俺が10歳になろうかとしていたある日、何か面白いものがないかと忍び込んだ父の部屋で見つけた歴史年間に書かれていた「1990年、カルデアにてマリスビリー・アニムスフィアが疑似地球環境モデル・カルデアスを完成させた」「2004年、冬木の聖杯戦争においてセイバーが勝利した」という文言を見た辺りから、俺の悠々自適な勝ち組魔術師ライフ計画はもろくも崩れ去っていくこととなった

 

どうやらFate世界と言っても最も自分に関係深い、そう生まれ変わる直前にプレイしていたゲームであるFate/Grand Orderの世界に転生してしまったようだ

 

これには一つ大きな問題点が存在する

 

このまま時が進めば確か2015年にはゲーティアによる人理焼却が発生する、これは恐らく存在するであろうカルデアのマスターが自分の知っている物語と同じプロセスで解決してくれれば再び活動できるとしても、その一年ほど先に待っているのはクリプターによる人理漂白である

 

こちらの方は自分が物語の結末を知らないうちに転生してしまったがために、カルデアのマスターらがどのような方法で事態を解決するのかがはっきりとわかっていない

 

あり得ない話だとは思うがもし彼らが『漂白された世界を回復させる手段は無く、残された人類によって再び歴史を紡いでいく』なんて結論を選んだ場合には当然世界もろとも漂白されたままになるだろうし、最悪のケースとしてそもそもカルデアのマスターたりうる人物が存在しなかった、あるいは彼らが人理修復に失敗した場合には人理は焼却された状態から修復されないまま終わってしまう

 

そのため俺が進むべき道は、『人理焼却までに、スタッフでもマスターでも良いのでカルデアに参加する』一択となった

 

なので、その日以降俺は両親が突然の心変わりに心配するくらいに目の色を変えて魔術の修得に力を入れるようになったのだが・・・

 

「平凡・・・あまりにも平凡・・・」

 

15歳の時に至ったのは、単に魔術を学ぶだけでは人理焼却の年である2015年までにカルデアのスタッフに抜擢されうる人材となるのは不可能だという絶望的な結論であった

 

人類史を存続させるという尊命の下に、カルデアには魔術・科学の区別なく優秀な研究者が集められたと聞いており、その中に入り込むためにはやはり自らの出自を活かして魔術師としてカルデアのスカウトの目に止まろうと思ったのだが、これが上手く行かなかった

 

まず、前述の両親の言葉にもあったように俺はこの家の3代目にあたる魔術師になる訳だが、確かFate世界における魔術師は魔術回路や魔術刻印の存在のため代を重ねるほど優秀とされていたはずである

 

魔術師の家系において3代目というのはあまり多くの代を重ねたとは言いづらく、実際に魔術回路は20本ほどと書物曰く平均程度の本数しかなかった上継承した魔術刻印も父と祖父の2代で作られたというだけあってそこまで優れたものではない、と父は言っていた

 

ではそれらの逆境を覆すだけの才能が俺に有ったか、と言われれば答えは否である

 

道を決めたあの日以降必死に魔術の修得に勤しんできたが、ある程度の所からそれ以上の成長が望めなくなり、限界が見えたかと思ったところで魔術の師である父から「私を超えたお前に、もう私から教えることはない」という衝撃的な言葉を貰い、結論に至った訳である

 

両親曰く、まだまだ始まったばかりなのだから焦る必要はない、もう少しして時計塔で学べばもっと成長できるはずだ、と温かい言葉をかけてくれてはいるが正直このままではマズい

 

当然両親には人理焼却のことなど伝えていない(よほど未来予知の魔術の才能にでも開花してない限り、言ったところで信じてもらえないか狂人扱いされるだけである)ので、俺の焦っている本当の理由が伝わるわけもないのである

 

間違いなくこのままでは人理焼却までにカルデアに参加できない→人理修復という偉業の一切から蚊帳の外となり最悪の場合人理もろとも最期を迎えるという死のコース一直線となってしまう

 

焦った俺はとにかく一歩前進するためのヒントを掴もうと、家に有った書物という書物を読み漁り参考となるものを探し続けた

 

父も、父の話によると祖父も治癒魔術を得意としていたため魔術刻印が治癒魔術に特化してできているらしく、他の魔術が凡人の域を出ない中で治癒魔術だけは多少秀でていたのでそれを伸ばそうと医学や薬学についての文献を探し、時には魔術の領域を飛び出し一般用の医学書や薬品の本を両親に頼んで購入し読みふけることもあった

 

そんな努力が功を奏したのか、18歳の時にようやくある一つの魔術薬の開発に成功した

 

『生命の土(ソリ・ヴィーテ)』とラテン語で名付けた軟膏状の魔術薬は、傷口にそのまま使えば純粋な治癒能力を示しある程度の傷であれば一瞬で塞ぎ、治してしまうというそれだけではありふれた魔術薬に過ぎないが、その真価は『魔力を流した時』にある

 

『生命の土』に魔力を流すと、それによって『生命の土』自体に組み込まれた魔術式が励起し、周辺の細胞にアポトーシスと細胞分裂を超高速で連続して起こさせる魔術が発動する

 

蝶魔術(パピリオ・マギア)を参考としたこの魔術により傷の修復速度が増すのは勿論、その真髄は『切断された四肢・胴体などの再結合による復元が可能である』ということにある

 

通常手首などの再生となるとかなり高度な治癒魔術を要求されるものであるが、『生命の土』を使えば俺レベルの魔術師でも切断された部分が存在していれば『失われた部分を再生させる』のではなく『切断面を再結合させる』ことで復元させることができるのだ

 

ネズミを使った実験では、尻尾や四肢と言った末端部分は問題なく再結合し、胴体や頭部といった致命的な部分を切断した個体でさえ迅速な復元を行えば問題なく生存していることが確認された

 

しかし突貫工事で作り上げたが故に課題点もまだまだ多く、復元に時間をかけ過ぎたりあまりに多くの断片に切断した・・・例えば試しに『十七分割』した個体ではパーツ単位が死んでしまうためか切断部の復元はできてもそのまま死んでしまうため当初目指していた『どのような状態からでも肉体を復元する万能薬』レベルには到底至っておらず、またそもそも人間の体での実験は行っていないためこの効果が人体にも正常に働くかは不明である

 

これらの問題は今後の課題として研究して、特に人体の切断部に使用した際の効果の確認はこの先実践していく他ないだろう・・・幸いにもこの先使う機会はたんと有るはずなので、そこでデータを取っていくこととしよう

 

『生命の土』の完成を伝えたとき、両親は俺の生まれたときと同じかそれ以上の喜びを見せていた

 

父はこれまでの研究の成果を論文にまとめ時計塔に送ればすぐにでも生徒として迎え入れてくれるだろう、と言っていたがそうする気は全くなかった

 

今から時計塔で学んで魔術師としての力量を付けたところでもはや猶予は後1年か2年しかなく、また時計塔で学ぶよりも先に俺にはやるべきことが有ったのである

 

さてどのようにして相手方と連絡を取ろうかなどと考えているうちにどうやら相手の方からこちらを見つけてくれたようで、ある日突然屋敷にスーツ姿の男が数人俺を訪ねて来たとメイドから聞いたときには思わず心の中でガッツポーズを決めたものである

 

俺の期待通り男達はカルデアのスカウトマンであり、齢18にして独自の魔術薬を開発した優秀な能力と一定水準以上の治癒魔術の才能、そして医学薬学の知識を買って俺をカルデアの医療スタッフに迎え入れたいとのことであった

 

当然だが両親は反対した、まぁそれは当然のことでこの先時計塔で学ばせて優秀な魔術師に育て上げいずれはこの家を継いでいくであろう大事な一人娘をどこぞとも知れない『天文台(カルデア)』の、しかも医療スタッフにするだなんて話は到底受け入れられるわけもないのだ

 

だが両親の意見に反し、俺が出した答えは当然イエスであった

 

何故ならそれこそが俺が必死に魔術の修得や研究をしてきた一番の目的であり、チャンスをみすみす逃すつもりはなかったのである

 

そこからはもうトントン拍子に話は進み、必要最低限の荷物をサクッとまとめると娘のとち狂ったような行動にただただ泣きはらす両親を背に、俺は18年ほどの生活ですっかり住み慣れた屋敷を出た

 

(ごめんなさいお父さんお母さんメイドさん、いつの日かまた会いましょう)

 

そんなことを心の中で思いつつ、男達に促されるまま車に乗り込むとカルデア到着まで機密保持のために外さないようにとアイマスクとイヤホンを渡された

 

(正直言うとカルデアがどこにあるかもう知ってるんだけどな・・・まぁそんなの口走ったらこの場で消されかねないから言わないけど)

 

アイマスクとヘッドホンを付け、真っ暗な世界でよくわからない不気味な音楽(後で聞いた話だとどうやら正確な時間をわからせないようにするための一種の音声魔術だったらしい)を聞き続け、ようやくアイマスクを外されたときそこにはゲームの画面で見慣れたカルデアの景色が広がっていた

 

時は2013年6月17日、人理焼却およびグランドオーダー発令まで残り773日

 

この世界に生まれ変わった俺こと魔術師『宿名 美琴(すくな みこと)』は目論見通り、カルデアに医療スタッフとして参加を果たしたのであった




人物紹介

宿名 美琴
 
・読み:すくな みこと
・誕生日:11月9日
・血液型:A型
・身長:165㎝
・体重:秘密
・イメージカラー:艶のある黒
・特技:治癒魔術(と言うよりそれ以外の魔術は平凡)、魔術薬の研究
・好きなもの:美味しい食べ物
・苦手なもの:不明
・天敵:高等な術式の魔術(理解できないので)
この小説の主人公
 
・略歴
元々は平凡な男性大学生だったのだが、自宅でFate/Grand Orderをプレイ後にウトウトしていたところ、次に気がつけばなぜか女の赤ん坊のになってFate/Grand Orderの世界に転生していた
 
・人物
転生後魔術師の教育を受けたが、両親とも根っからの魔術師という性分ではなかったため感性は一般人と大差はない模様

幼い頃に男性じみた行動や仕草を両親に叱られて以降、あまり感情を表情に出さないようにしてきたため周りからは何を考えているかよくわからない人物と評されがちである
 
・能力
3代と短いものの魔術師の家系に生まれ、属性は水と土の二重属性で魔術回路を起動させる為のイメージは『心臓から抹消までの血流』である

家系が短いこともあり宿名家の魔術としての明確なスタイルは存在しないが、歴代当主である祖父・父ともに治癒魔術を専門としてきたことから魔術刻印も治癒魔術を主体としたものになっている

現時点では実戦レベルで使える魔術はほぼ無く、自ら開発した魔術薬『生命の土』による傷の治療・肉体の修復が唯一の能力である


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第1章 炎上汚染都市:冬木
第3節 打算と誤算と理由を知った日


宿名 美琴はカルデアの医療スタッフの一人であり、治癒魔術に長けた魔術師である

 

あらゆる魔術に通じている訳ではないが治癒魔術に関してだけは非凡な才能を持ち、その研究の過程で得ていたという医学・薬学の知識もそうだが何より18歳という若さで独自の魔術薬を開発したという経歴をカルデアは買っていた

 

紛う事なき凡才の魔術師たる父親の教えと独学だけでこれだけの研究成果を挙げたのだからと今後の成長を見越しての採用であったのだが、彼女がカルデアに所属してから2年ほど経った現在、カルデアの上層部はその選択を誤ったものだと判断していた

 

カルデアの医療スタッフとなって以降、彼女は新たに革新的な魔術薬を生み出したということもなく、魔術師として急成長を見せたという訳でもなく、傍目にはただただ年月を過ごしているだけのようにも見えていた

 

勿論調べればそのようなことはなく、例えば他の魔術師の指導を受け魔術薬の改良や魔術の修得・研究を日々繰り返し、医療部門のトップであるロマニ・アーキマンの指示の下医療スタッフの一人として職員の健康管理や安全衛生に尽力していた

 

ただその成長や成果はカルデア上層部の望んでいたレベルには到底及ばず、この程度の才能であったならば代わりに雇用すべき優秀な魔術師や専門家は多く居たはずであった

 

ならば彼女を解雇して新しい人材を招けば良いかと言えば話はそう簡単なものではなく、それにはカルデアの性質が関係していた

 

彼女をカルデアまで移送した際に到着までの間一切の視覚・聴覚・時間感覚を奪っていたことなどカルデアという組織・あるいはその施設は所属人員・機能・位置情報に至るまで全てが機密情報の塊の様なものであり、そこに一度入った人間を追い出すと機密情報を持ち出される可能性が生じてしまうのである

 

古今東西、このような秘密組織は来る者を拒むことはあっても去る者を許すことはあってはならず、かと言ってこのような理由で口封じなど出来るはずもない

 

そしてもう一つ、カルデアには宿名 美琴を手放せない理由が存在した、それこそが彼女のカルデア追放を誰よりも早く訴えた人物であり、カルデアの所長を務めるオルガマリー・アニムスフィアがその後も彼女を目の敵にしている一番の理由であった

 

「いよいよこの時が来たのね・・・。」

 

彼女以外誰も居ない、薄明かりの広がる所長室でオルガマリーは誰に言うわけでもなく、一人ぶつぶつと呟いていた

 

「大丈夫、Aチームの精鋭も、彼らを含めた48人のマスターも、それを支える優秀なスタッフも用意した、大丈夫、グランドオーダーは成功するわ。」

 

これから始まらんとする一大事業を前に、オルガマリーは青白い顔を俯かせながら重圧ですり切れそうな心を必死で支えるように、ひたすら自らに安心の言葉を言い聞かせていた

 

「・・・ふぅ。」

 

しばらくして、ようやく若干の安堵を得たのであろうか

 

少しだけ血色のよくなった顔を上げ、オルガマリーは机の上の資料に目をやった

 

「ギリギリではあったけど、なんとか48人目の候補者が見つかって助かった・・・あの宿名 美琴なんかに頭を下げる羽目にならなくて済んで、本当に良かったわ。」

 

資料にはグランドオーダー発令直前に適合者発見確率ほぼゼロと言われた日本で奇跡的に発見された、100%のレイシフト適性を持つ少女・・・48人目のマスターのデータが載せられていた

 

遡ること1年前、マスター候補者選抜のためのデータ測定を行った結果、宿名 美琴には高いレイシフト適性およびマスター適性が有ると判明した

 

その結果を受け、レフ・ライノールらカルデアの上層部は宿名 美琴の医療スタッフからマスター候補者への配置転換を提案したが、これに3名が反対した

 

1人はカルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア

 

彼女はマスターとしてレイシフトを行う上で必要となる実戦的な魔術能力が美琴に不足していることを理由に配置転換に反対した

 

1人はカルデア医療部門代表、ロマニ・アーキマン

 

彼は美琴が医療スタッフとして現場で重宝しており、医療部門の現状から人員を減らす余裕がないことを理由に配置転換に反対した

 

そしてもう1人は、宿名 美琴

 

彼女は配置転換に反対する理由を語らなかったが、所長であるオルガマリー・所属する部門のトップであるロマニ・そして本人が反対していることからこの配置転換の提案は採用されず、しかし高いレイシフト・マスター適性を持つ人員をいたずらに放置しておく余裕はカルデアにはなかったため、グランドオーダー発令までにマスター候補者が十分に集まらなかった場合の補欠要員として扱うことで決定がなされた

 

そのためグランドオーダー発令の予定日が近づくに連れ、あと1人マスターの数が不足していたこともあってオルガマリーの機嫌と気分はどんどんと悪くなり、時には美琴と鉢合わせしただけで癇癪を起こすこともあった

 

しかしそれも、期限ぎりぎりで48人目のマスターが見つかったことで杞憂に終わった、きちんとした人員が完璧に揃った以上、グランドオーダーの成功は約束されている

 

この時、オルガマリー・アニムスフィアは心の底からそう思っていた

 

そして時を同じくして、オルガマリーの悩みの種であった宿名 美琴は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッピバースデイ、トゥーユー♪ハッピバースデイ、トゥーユー♪」

 

明るい調子で歌を歌いながら、誰も居ないカルデアの食堂で一人俺はカシャカシャと軽快な音を立てて生クリームを撹拌していた

 

そろそろ中央管制室ではファーストミッションの説明会がされている頃合いだろう

 

俺の記憶が確かなら、そこでレムレムした主人公が所長に平手打ちを食らって退場、マイルームでロマニと談笑してたところでレフ教授謹製の爆弾が爆発・・・といった流れだったはずだ

 

さて、そこまでわかっているなら何故止めようとしないと思うかも知れないが、実際問題今の俺では能力的にも影響力的にも止めることが出来ないというのが悲しい現実である

 

例えば爆弾を止めてしまえば?医学薬学や魔術の知識はそれなりには有るが爆弾の解体に必要な知識なんて持ち合わせていない上、相手は魔神柱フラウロスことレフ・ライノールだ

 

設置した爆弾に魔術的な何かを施され、誰かがそれを見つけた瞬間爆発するなんて細工をされてた日には間違いなく俺は木っ端微塵に吹っ飛ぶ羽目になってしまう

 

ではレフ教授の正体や目的、背後に潜む黒幕の存在を告発してしまえば?人理焼却の話を両親にしなかったのと同じで末端の一医療スタッフに過ぎない俺がどうこう言ったところで狂人の戯れ言で流され、俺を危険視したレフ教授に裏でひっそり始末されるのが落ちだ

 

なので現状俺に出来ることはなく、せいぜい今後のためにできることをしておくだけ

 

その『できること』の一つが、今やっているコレである

 

「ハッピバースデイ、ハッピバースデイ♪ハッピバースデイ、トゥーユー♪」

 

事前に焼いていたスポンジケーキに缶詰のフルーツと生クリームを挟み、回りを生クリームでコーティングしながら表面をならす

 

本来なら新鮮な果物を用意したいところだったが、物資補給のタイミングと上手く合わなかったので今回はこれで我慢して貰おう

 

「ハッピバースデイ、トゥーユー♪ハッピバースデイ、トゥーユー♪ハッピバースデイ、ディア・・・」

 

ケーキの上に残りの生クリームとフルーツで飾り付けをし、最後に溶かしたチョコレートでメッセージを書く

 

ケーキの上のメッセージは『HAPPY BIRTHDAY MASH』、しかし今回はそこにもう一つの意味を込めて

 

「シールダー♪ハッピバースデイ、トゥーユー♪」

 

完成したマシュの誕生日ケーキ―今年のは彼女の16歳の誕生日と、デミ・サーヴァントとしての誕生を同時に祝う特別な物だ―を箱にしまうと、冷蔵庫の奥の方へとしまい込んだ

 

俺がカルデアの医療スタッフとして着任してしばらくした頃、マシュ・キリエライトの診察に関わらせて貰う機会があった

 

そこでふと、話のメインキャラクターとお近づきになっておけば後々メリットがある・・・マシュの場合ならピンチの時に守ってくれそうだと思い、Dr.ロマンにマシュの担当に加われないかと頼んでみた

 

一目見た瞬間かなり重度の患者だと思った、治癒魔術師の端くれとして、医学を学んだ者として力になりたいなど適当な文句を並べたら、Dr.ロマンはその言葉に感激したのかあっさりと俺を信用してくれ、そこからはマシュの診察に同行させて貰ったり、時には俺一人でマシュを診察することもあった

 

きっかけは打算に満ちた思いつきでも長い間接していれば自然と情というのは湧くもので、診察以外の場所でもマシュと会話をするようになり、今日のようにマシュの誕生日やAチームの首席になった時などめでたい時にはケーキを作ってあげることもあった

 

「流石に食堂なんかにまで爆弾はしかけてない・・・よな?せっかくのケーキが吹っ飛んじまったら倍恨むぜ、レフ教授。」

 

周囲に誰も居ないが故の男言葉で一人つぶやき、食堂を後にする

 

この後の俺の動きは決まっている、他の医療スタッフにDrを探してくると端末で伝えてから、あらかじめ確認しておいた48人目のマスター用の部屋へ向かい、そこで彼らと一緒に爆破の瞬間をやり過ごす

 

他のどこの区画が安全だったかがわからない以上、『100%安全だった』と言えるあの部屋以外に向かうのは危険であり、特に所長とマシュ他のマスター達が居る管制室に向かうのは明らかな自殺行為だ

 

「うし、連絡終わり。さて、そろそろ向かいますかね。」

 

メッセージを送り終えた端末を白衣のポケットにしまい、安全地帯である48人目のマスターの部屋へと向かおうとしたところで、突然先ほどしまったばかりの端末から着信音が鳴り始めた

 

折り返しの連絡でも来たのかと思い確認すると、そこにあった名前は『オルガマリー・アニムスフィア』

 

能力不足や補欠要員の件で睨まれまくっていた所長からの突然のコールに嫌な予感を募らせつつ、通話を始める

 

「はい、こちら宿名 美琴です。」

 

「宿名 美琴・・・時間が無いので端的に伝えます。48名のマスターの内1名のファーストミッション参加が見送られることとなったので、そのマスターの代替要員としてあなたのファーストミッション参加を命じます。10分後準備を整え管制室に来なさい、以上です。」

 

所長は不機嫌そうな声で要件だけを伝えると、俺に一切の反論もさせず返事も待たず通信を切ってしまった

 

俺は自分の計画がご破算になったことを悟り、同時に大量の冷や汗が湧き出てくるのを感じていた

 

マズい、マズいマズいマズい

 

所長直々の招集命令と言うことは、俺が行くまでファーストミッション・・・冬木へのレイシフトは行われないはずだ

 

マシュと所長以外のマスター全員がコフィンに入っていたという原作の描写から見て、おそらく爆弾が爆発したのはレイシフトのタイミングだろう

 

レフ教授が心変わりして別のタイミングで爆発させてくれれば助かるが、このまま命令を無視して安全地帯に逃げ込んだところで俺を捕まえに来た所長に見つかって管制室に連行され、他のマスター共々爆死させられる未来が待っている

 

考えろ、どうすればこの事態を逃れられるのか!

 

自室に向かう廊下を足早に駆けながら、必死に考えを巡らす

 

俺がこの世界に、前世で直前まで遊んでいたFate/Grand Orderの中の世界に生まれ変わったのは、()()()()()()()()()()ためじゃないだろ!

 

「・・・所長と、心中・・・?」

 

足を止め、ふと言葉を口にする

 

この世界に転生して以来、時々考えることがあった

 

自分は『どうして』この世界に生まれ変わったのだろうか?

 

この『どうして』には2つの意味がある、すなわちどうして(How)どうして(Why)

 

このうち後者(Why)についての答えが、今出ようとしていた

 

生まれ変わる直前・・・そしてあのゲームをプレイしている時いつも、俺は何を考えていた?

 

あぁそうか、そういうことだったのか

 

「面白ぇ・・・やってやろうじゃねえかよ!!」

 

覚悟を決め、再びカルデアの廊下を走る

 

準備を終え、管制室に到着したのは所長の連絡からちょうど10分後のことであった

 

時は2015年7月30日、人理焼却およびグランドオーダー発令まで残り・・・0日

 

宿名 美琴、一世一代の大勝負の幕が上がる

 




カルデアに所属して以降、美琴は目立った活動をしていません

魔術薬の改良はマイナーチェンジ止まりだし、同僚の医療スタッフ以外で仲が良かったのもマシュくらいで他人とあまり接してはいませんでした

これには「あんまり目立つとレフに目を付けられて最悪消される」「誰が生き残るかわからない以上、必要以上に仲が良い奴を作るとそいつが死んだときしんどい」といった理由が絡んでいます

一応、水面下では色々と仕込みをやっておりましてそれらが今後出てくる予定です


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