とある銀河級スペース蛮族帝国のあれやそれ (社畜のきなこ餅)
しおりを挟む

【とある帝国の婚姻事情】

Pixivにも出してる作品を一部改変し、全年齢仕様へ変更しての投稿です。
こんなものをハーメルン初投稿にしていいか悩みましたが、怒られたら消そうと思います。


 様々な生命体や自我を持った機械文明が宇宙へ飛び出して幾星霜。

 そんな中、地球がようやく宇宙に飛び出し異星人と正式に交流を始めた頃の宇宙暦2600年頃。

 

 

「前世から愛していましたぁ!」

 

「へ? ふぇぇぇぇぇ?!」

 

 

 銀河中心を挟んだ地球の反対側にある、二つの軍事帝国同士の記念式典の祝宴にて。

 とある帝国の皇太子が、祝宴の隅で所在なさそうに立っていたもう一つの帝国の末姫に人目を憚らず求愛していた。

 これだけならまぁ、皇室男子の暴走的な銀河あるある百景の一つ程度の珍事であるが……。

 

 求愛している男子は随分と体格が良く……その全長は尻尾含めると8mほど、尻尾含めなくても後ろ足から頭頂部まで約5m。

 更に其の姿形はヒューマノイド型ではなく、後肢が発達気味で背には大きな羽を持つ四足歩行型爬虫類……通称ドラゴン。

 かたや求愛されている女子は身長1.4mほどの小柄な儚い印象の美少女。

 ヒラヒラとしたドレスのお尻部分から伸びているふさふさの尻尾に、頭頂部から伸びている大きな狐耳を除けば一般的なヒューマノイド型である。

 ちなみに、その胸は豊満であった。

 

 

「そのキメ細やかな御耳に御尻尾! 春先にそよぐ風にたなびく花のような美しさ……恥ずかしながら一目で貴方に心奪われました!」

 

「え、えっと。その……ありがとう、ございます?」

 

 

 厳つい体躯に顔付きから出てきたとは思えないドラゴンの言葉。

 そんな彼から次々とかけられる褒め殺しと言わんばかりの言葉に、末姫の方といえば困惑しつつも頬を赤らめ俯く。

 

 彼女が所属する帝国、神聖稲荷騎士団と……皇太子が所属する銀河ドラグーン帝国は双方が宇宙に飛び出した頃から数えて約400年ほどの長い付き合いだ。

 たまにイデオロギーやら文化の違いで拗れかける事はあれども、それでもなお互いに結ばれた防衛協定や移民条約が切れたことは一度としてなく。

 年に何度も合同式典や演習の開催に、今も催しているような宴席を設ける程度に密接な関係を持っていた。

 

 なお、そんなに付き合いがあるのに何故皇太子が初めて末姫に出会い。末姫はといえば人慣れしてない反応を返してるかというと。

 何のことはない、皇太子は割とインドア派で式典参加をいつも理由付けしては出席を断っており、今回とうとう父である皇帝に首根っこ掴まれて参加させられただけであり。

 末姫はといえば、彼女の母であり神聖稲荷騎士団の最高責任者である祭司長の政治的思惑により今まで箱入りとして育てられていたからである。

 

 余談だが、その皇帝と祭司長はと言えば……。

 

 

「えぇいまだるっこしい、余の子なら黙って俺の妻になれくらい言わぬか」

 

「あの娘はいずれ家臣に宛がう予定じゃったのだが……いやしかし、コレは好機かの……?」

 

 

 銀河ドラグーン帝国製の、巨鳥の腿焼きを骨ごとバリバリ齧りながら皇帝はそこだ!押し倒せ!などと見物客気分に無責任に囃し立て。

 隣の席でちびちびと酒を啜っていた妖艶な美貌を持つ狐耳と九本の尻尾が生えた祭司長は、予想外の珍事に頭を抱えつつ政治的なメリットをブツブツと呟いていた。

 

 

 ようするにどういうことかって?

 

 

「絶対に貴方を幸せにします! どうかお嫁さんになってください!!」

 

「ふぇ?! は、はいぃ……」

 

 

 暴走する若い二人を止めるのが誰一人居ないって事である。

 他に止めそうな連中の様子を見てみれば。

 

 

「いやぁ、アイツ……女体に興味ない様子見せてたから兄として心配であったが、いろんな意味で安心であるな!」

 

「うむ、私が開国前の地球でこっそり仕入れたサブカルを幼い甥に与えたせいで、甥が引きこもりになった時はどうしたもんかと思ったがな」

 

「待て、諸悪の根源貴様かぁぁぁぁ!!」

 

 

 勲章を胸に付けた一際大柄なドラゴンがしみじみと頷き、隣に立っていた白衣のような衣を羽織ったドラゴンも追従しながら頷いていて。

 聞き逃せない事をほざいた白衣のドラゴンに、勲章ドラゴンは……。

 

 

「食らえ!超能力ラリアット!!」

 

「それ超能力かんけいなっ……あべし!?」

 

 

 割とその首をへし折りかねない勢いで全力で剛腕を白衣ドラゴンへ叩きつけ。

 死なない程度に致命的命中を食らった白衣ドラゴンは膝から崩れ落ち、どこからともなくやってきた衛兵ドラゴンに担架で運ばれていく。

 一方、神聖稲荷騎士団側はと言えば。

 

 

「ああ、おいたわしやおひいさま……あのような銀河級スペース蛮族の皇族に見初められてしまうなんて……」

 

「あの侍従長、その発言いろんな意味で国際問題です。落ち着いて落ち着いて」

 

「これが落ち着いていられますか! このままではおひいさまが、あのドラゴンの欲望のままにあれやそれやひぎぃなことに……!!」

 

「誰かー!侍従長止めてぇぇぇぇ!!」

 

 

 和装のような侍従服に身を包んだ、妙齢の女性がとめどなく溢れてくる涙をハンカチで拭い……ぎりぎりとハンカチを噛みちぎらんばかりに噛み始め。

 いろんな意味でギリギリすぎる危険発言をぶちまける侍従長を止めようと、一見女性にしか見えない神聖稲荷騎士団の男性貴族が必死に侍従長を止めようとする。

 だがしかしソレが火に油だったのか、侍従長さらにヒートアップ大炎上。色々な意味でヤバイ事を口走り始める始末。

 

 控えめにいって大惨事であった。

 

 なお本来、今開催している式典と宴は彼らの帝国が初めて防衛協定を結んだ記念の式典という……とてもとても大事な催し事である。

 だけれども、この状況においてその事を認識している人物は居なかった。

 

 

「お、皇太子が求愛して姫が受けたであるな。言質とったぞ! おい近衛、録音したな?!」

 

「モチのロンでございます」

 

「ぬぁっ?! しまったぁぁぁぁぁ!! たんま、ちょいたんまなのじゃぁぁ!!」

 

「残念、待たぬわぁ!!」

 

 

 なんせ、式典を進める立場である両国のトップがご覧のあり様なのだから。

 そんな訳で、記念式典自体はクソミソな大騒ぎとなったが、別の意味でめでたい結果に終わったのであった。

 

 

 そんなこんなで時は流れ。

 両国の政治的事情と都合、ついでに諸事情やら諸外国への通達やらなんやらが恙無く終わったことにより。

 神聖稲荷騎士団の末姫は、銀河ドラグーン帝国の皇太子へ嫁入りすることになったのである。

 

 

 

 

 

 

【とある帝国の婚姻事情】

 

 

 

 

 

 

 そして始まる、婚礼の儀。

 会場は銀河ドラグーン帝国の本星にある、巨体を誇る彼らに合わせて作られた皇族専用の巨大で荘厳な祭儀場である。

 

 奉仕種族である、動物の耳と尻尾の生えたヒューマノイド……ケモノ人が演奏する銀河ドラグーン帝国の伝統音楽が演奏される中。

 その演奏にも負けないほどの声量で、皇帝が粛々と祝辞を読み上げ婚礼の儀は進んでいく。

 

 

 ここで改めてであるが、彼ら……銀河ドラグーン帝国がどのような国であるか説明しよう。

 彼らの興りは、今から2600年ほど前にまで遡る事になる。

 

 その当時の彼らドラゴンには文明と呼べるモノはなかった、しかし文化は既に存在していた。

 現在は文明の補助なしではその翼で空を飛ぶことは出来ないが、昔のドラゴンらは魔法と呼ばれるものを使い自らの翼で空を舞い。

 時折腕試しとばかりに自分達を討伐しにくる人間や他種族を撃退し、時に知恵を求めやってきた者らに知恵を授けて日々を過ごしていた……だが。

 

 神を騙る高次元生命体らに唆された他種族間で、世界全体を巻き込む大戦が勃発したことにより事情は大きく変化する。

 

 その大戦はやがて、人間対他種族という構図へと変化していき、人間らは戦いのための武具の素材や道具としてドラゴンを狙い始め。

 他種族らは、ドラゴン達を自分たちの仲間へと引き込み大戦を有利に進めようと目論む。

 

 困ったのはドラゴン達である。

 ドラゴン達は総じて強い保守的な性質を持っており、自分たちの縄張りや一族を害されない限りは領域から出ようとしない種族総引き籠りだったのだから。

 彼らが無力で棒にも箸にもかからない存在ならそれも許されたであろう、しかしそうではなかった。

 そして、とうとう人間と他種族は。ドラゴンの我慢の限界を振り切ってしまう事件を引き起こす、その結果。

 

 人間、そして他種族の国家を次々と焼き払い。そして双方を先導していた神を騙る高次元生命体すらも殺害してしまう。

 だが、その犠牲は少なくはなかった。

 当時はまだ力を持っていた魔法や呪い、殺された人間や他種族に神らの今際の時に放たれたソレの狙いはドラゴンという種族の途絶だった。

 放たれたその力は、強い力を持つドラゴンの雄から魔力を徐々に奪うだけで……彼らを殺すには至らなかった、しかし。

 抵抗力の弱いドラゴンの雌はその強大な呪いに耐え切れず……は幼い者も子を抱えた者も関係なく全てが絶命してしまう。

 

 そして、雄しか残らなかったドラゴン達もまた成す術もなく滅ぶ、筈であった。

 だが彼らはとても、そう。 とても諦めが悪かった。

 徐々に失われていく魔力、そして飛べなくなる翼に焦燥を募らせながら彼らは必死に手段を模索する。

 その試みは遅々として進まなかったが、ある時一人のドラゴンが禁じ手とも言える策を提示したことで突破口が開く。

 

 生き残った人間や他種族の雌の胎を使えば良い、と。

 

 当初こそ難色を示すドラゴン達であったが、もはやここに至って一刻の余地も残ってはいなかった。

 結果から言えば、彼らの試みはギリギリの時点で成功を収めたと言える。

 産まれてきた女は母胎に近しい種族であったが、男はドラゴンらと見た目は変わりなかったのだ。

 この、滅亡を回避した記念として彼らは世界の統一暦を変更。この時を元年として文明の道を歩き始める事となる。

 

 その流れの中で、かつては長くあったドラゴンらの寿命は母胎種族とほぼ変わらないという事実が判明したりもしたが、もはや些細な事であった。

 ついでに、母胎として使っていた種族の雄らは年月の間に絶滅。女しかいなくなった奉仕種族をケモノ人として日々の奉仕や労働へと活用するようになった。

 

 

「いやぁめでたい!本当にめでたい! 皇太子よ、よい娘を見初めましたな!!」

 

「ははは、あ、ありがとう」

 

 

 やがて皇帝の祝辞が終わり、婚礼の儀は宴席へと突入。

 開幕から、大樽がごときジョッキ一杯分の酒を飲み干し出来上がった重臣が、宴の主役である皇太子にのっしのっしと近寄るや否や。

 無遠慮にその背中をばんばんと叩いて彼を祝福し、そんな勢いと空気に慣れてない皇太子は若干引きつりながら……。

 給仕として宴席で働いている、ケモノ人の侍従が二人がかりで抱えているグラスを受け取り。皇太子はその中身を勢いよく飲み干す。

 ドラゴン達は総じて酒飲みで蟒蛇である。しかし皇太子は下戸なのでグラスの中身はジュースであった。

 

 

「姫……いや皇太子妃様も、どうかお幸せに!」

 

「え、えぇと……ありがとうございます」

 

 

 豪快に笑い、酒臭い吐息を隠そうともせず言い放つ重臣に。

 嫁入りしてきた姫……もとい皇太子妃は若干引き気味になりながらも、微笑み祝福を受け取る。

 今も宴席で給仕で忙しなく働いているケモノ人と、皇太子妃の種族である稲荷は非常に似通った種族であるが成り立ちは大きく違う。

 

 

 彼女達は当初は野山を駆け巡る、野の獣とそう違いのない外見をしていた。

 しかし、ある時を境に恒星への信仰へと目覚め……当時星を闊歩していた人間に近しい美しい姿形を取るようになる。

 だが似ているとはいっても、その隠しきれない耳や尻尾から最初は強い迫害を彼女達は受け……それでも人間が大好きな彼女達は歩み寄りを止めなかった。

 

 その努力は、決して短くはない時を要しつつも実を結び。やがて彼女達は人間に寄り添い恒星を信仰しながら文明を築く手助けをし始め……。

 その中で、彼女らと人間が交わって産まれるのは女子だけだと判明したりしたその時。

 そんな時に彼女と人間が住まう星を、ある病が襲った。

 

 非常に感染力と致死性が強いそのウィルス性の病は、情け容赦なく星の人間と彼女達……稲荷達の命を次々と刈り取っていく。

 無論、稲荷達もまた、己に出来る事を必死に模索し人間らの病を癒そうと祈り、治療し、互いに寄り添い続けた。だが。

 その努力が結実した時には、星に人間は誰一人として生き残っていなかった。

 

 大好きだった人間がいなくなった絶望と悲しみに嘆き、信仰対象だった恒星に救いを希う稲荷達。

 そしてその時……奇跡が起きた。

 妊娠していた当時の祭司長が産み落とした子が、男の子だったのだ。

 元気な産声を上げる、狐耳と尻尾を持つ男の子……何故女子しか生まれなかったのに突然男子が産まれたのか。

 ソレはぎりぎりで克服できた病の置き土産だったかもしれないし、滅亡に瀕した世界の免疫だったかもしれない。

 

 だが、稲荷達はその事実を、信仰対象の恒星が齎した奇跡と受け取った。

 稲荷達は居なくなってしまった人間達との思い出を護るように文明を保持し、そして育み……その努力はかつての人間達は出来なかった星の海への進出を果たすまでとなった。

 その結果信仰対象だった恒星が、神でもなんでもない恒星だと判明して大きな社会問題を引き起こしたりもしたが……稲荷達なりにその事実をなんとか受け止める事も成功。

 

 男子の出生率の低さから、自然と女性優位の社会となったりもしているが、彼女達は今も文明を回している。

 

 

 なお、そんな稲荷達とドラゴン達の馴れ初めは。

 とある星系で互いの調査船がばったり鉢合わせた事だったりもする。

 

 

閑話休題

 

 

 そんな、少々歪な歴史と社会構造を持つ二国であるが。

 第三者は口を揃えてこう評する。 

 『戦争と美女美少女にしか興味のない銀河級スペース蛮族』と、『後ろ手に凶悪な得物を隠し持った狂信者』と。 双方ともろくでもねぇな。

 

 

 始まって数分こそ粛々と進んでいた婚礼の儀であったが、気が付けば飲めや歌えや踊れやのドンチャン騒ぎと化した婚礼の儀。

 銀河帝国同士の大事な婚礼の儀、あまりの無礼講に皇帝が待ったをかけると思いきや……。

 止めるべき皇帝が真っ先に、ノリノリで酔っ払いながら宇宙艦隊の提督と肩を組んで国歌を歌いだしたのだからタチが悪い。なお歌声は酷い様子。

 

 中には、ケモノ人の侍従に鼻の下を伸ばしながらセクハラをするドラゴンまでおり……。

 そんなセクハラをかましてるのが科学庁の長官であるから始末が悪く。

 ついでにセクハラされてるケモノ人に拒絶の意志が見えるかといえば、割とノリノリで受け入れ悦んでいるのだからもうどうしようもない。

 

 お世辞にも上品とは言えないそんな有様に、嫁入りしてきた姫が……。

 

 

(私、とんでもない所にお嫁に来ちゃいました……)

 

 

 ふさふさとした毛並みの大きな尻尾をしょんぼりさせ、狐耳までぺたんと倒した事を誰が責められようか。

 

 だがしかし、あまりにもあまりな光景とは言え銀河帝国同士の婚礼の儀。

 嫁入りしてきた相手が非常に不景気な顔をしているという事に、心無い人物なれば手ひどい言葉をぶつけかねないモノだが。

 

 婚礼の儀の際には大体いつも、みんなこんな顔してるよなー。と呑気なドラゴン共は誰一人気にしない。

 色んな意味でどうしようもない連中である。

 

 だが、そんな皇太子妃となる少女に対して気を配りその憂い顔を払おうとするドラゴンが奇跡的にも一人存在した。

 

 

「……困ったなぁ、父上に兄上。叔父上まであんなにはしゃいじゃって」

 

 

 困ったように頬をかきながら呟くは、嫁入りした姫の伴侶となる巨体の皇太子。 

 そんな声に、少女はハッと耳を立てて上目遣いに隣の男性を見る。

 

 

「ごめんね、姫……じゃなかった我が君。彼らも悪いドラゴンじゃ……うん、多分悪いドラゴンじゃないんだけどさ……ハメを外しちゃうとつい、ね」

 

 

 一般的に強面と称される彼らドラゴン、何も知らない子供が見たら泣きかねない強面の顔つきでなお困ったように笑うという若干器用な皇太子。

 そんな彼の言葉と顔に、姫もまたつられるように笑みを綻ばせる。 

 

 

「皇太子様」

 

「なんだい?」

 

 

 互いに微笑み合いながら見つめ合う二人。

 そんな若干甘酸っぱい空気が二人の間で流れている中。

 

 一方。

 

 

「隠し芸、超能力空中浮遊!!」

 

「おお!? 本当に浮かんでる!」

 

「超能力って公言してる時点で隠し芸もクソもねーよバーカ!!」

 

 

 皇太子の異母兄である宇宙艦隊の提督が後ろ足で胡坐をかき、そのままの姿勢ですぃーっと空中へ浮かんでおり。

 その芸に対して空き瓶やら空のジョッキが投げつけられての、どったんばったん大騒ぎが繰り広げられていた。こいつらどうしようもねぇな。 

 

 一瞬皇太子と皇太子妃がそんな騒ぎへそろって視線を向けるも、互いに向き直ると軽く頷き合う。

 どうやら、とりあえず気にしない事にしたらしい。

 

 

「不束者ですが……よろしくお願いします……ね?」

  

「うん、こちらこそ……幸せになろう、姫」

 

 

 逆に、なんだか恥ずかしくて言えなかった言葉を言うチャンスだとばかりに皇太子妃ははにかみながら口を開き。

 その言葉に虚を突かれた皇太子はきょとん、とした後飛び上がりたい気持ちをこらえながら頷き互いに誓い合った。

 

 なお、超能力空中浮遊を披露した提督は、投げつけられた大樽が頭に直撃しノックアウトされていた。

 

 

 そんな尊くない犠牲を出しつつも、宴は夜が更けるまで続き……。

 皇帝が息子と義娘となる二人へ祝福の言葉を告げ酔い潰れることで、閉宴となる。

 

 そして宴が終われば……。

 

 

 やってくるのは初夜、いわゆる後は若い二人に任せて……という時間である。

 

 

 

 煌びやかではないが、それでもそれなりに調度品が整いつつ……。

 最近宇宙へ飛び出したという、銀河の反対側にある地球のサブカルチャーなゲームや映像作品のポスター等があちこちに張られている部屋。

 

 その部屋の中央にある、ドラゴンが二匹は余裕で転がれそうな寝台にて。

 帝国の若き皇太子は後ろ足で座りながらそわそわと尻尾を揺らしていた。

 

 皇太子の脳内にあるのはただ一つ、花嫁となった姫と今から迎える初夜への期待のみである。

 

 

(あー、やばい。やばい。姫のはにかんだ顔にあのサラサラの髪や尻尾思い出すだけで、滾る)

 

 

 婚礼の儀では紳士的な態度をひたすら通す事に成功していた皇太子であったが。

 何のことはない、ストライクど真ん中な好みのお嫁さんの姿にいっぱいいっぱいなだけだった様子。

 

 なお本来は、成長と同時に世話役のケモノ人とニャンニャンな事になるのが当たり前な、銀河ドラグーン帝国の皇族男子であるが。

 酷く残念なことに彼は……幼いころに触れた、科学庁長官の叔父がどこからともなく仕入れてきた地球のサブカルチャーに触れた事で。

 長期間女性と接していなかったインドア派男子がごとく、女性の趣味と童貞を拗らせていた。どうしようもねぇ。

 

 なお、種族男子総パリピ気味なドラゴン共の中では皇太子のような男子はかなりの少数派に属することは言うまでもない。

 

 

「皇太子、失礼致します」

 

「は、はいぃ!」

 

 

 部屋の中にある小さな扉……妻となる女性用のプライベートルームの入口である扉をノックされ。

 声をかけられた皇太子は寝台の上で飛び跳ね、上ずった声を返し……彼の返事を聞いたケモノ人の侍従は、ゆっくりとその扉を押し開ける。

 

 皇太子は無意識に生唾を飲み込みながら、ゆっくりと開かれる扉へ首を向け。

 期待や欲望とかが入り混じった視線で、扉から出てくるであろう女性の姿を待つ。

 なおこの時点で彼の思考は、文章化が憚れる程度に酷い状況である。

 

 

「ささ、中へどうぞ」

 

「はい……」

 

 

 姫の世話役として宛がわれた、竜角と竜尻尾の生えたケモノ人の侍従に促され。

 体の線がわずかに透けて見えるが、大事なところは何故か見えない羽衣のような衣装を纏った花嫁が皇太子の部屋へと入ってくる。

 

 その清楚な仕草と恥じらい、そして自分の性癖と欲望に刺さる仕草と衣装を見た皇太子は。

 全身を、暴徒鎮圧用のイオンディスラプターで貫かれたがごとき衝撃を受け、地味に一目惚れ状態だった姫への想いを倍率ドン、更に倍する。 

 

 

 なお余談であるが、姫の付き人となったケモノ人は侍従筆頭であると同時に、実は皇太子の異母姉でもある。

 婚礼の儀ではあまりな扱いであったが、それなりに姫の存在を帝国なりに重要視はしてるらしい。

 

 

「それでは、ごゆるりと……」

 

「あ、あの……私、本当に大丈夫なんですか……!?」

 

 

 後は若いの二人でゆっくりと……と言わんばかりに下がろうとする侍従筆頭に。

 大丈夫とは前もって言われていたが、そうは言ってもいろんな意味で心配な姫は侍従筆頭の袖を掴み。

 中々に逼迫した表情で問いかける。そりゃそうだ。

 

 

「ええ、大丈夫ですよ姫……いえ、皇太子妃様。 こちらに嫁ぐ際に、処置を受けられましたでしょう?」

 

「は、はい。お薬を打たれた後、なんだかドロっとした液体の詰まったポッドに入れられました」

 

 

 下手しなくても私死んじゃう、と思わず命の危機を感じてしまった姫……もとい皇太子妃であるも。

 侍従筆頭の言葉にうなずいて答え、ならば大丈夫ですよ。とそっと背を押され皇太子の前に差し出される。

 

 色々あった末に、ケモノ人はドラゴンの繁殖相手としてジャストフィット(意味深)する性質を獲得したのだが。

 たまにそうじゃないケモノ人も居たり、姫のように他文明から嫁入りする女性もたまにいる。

 ソレらに対しても対応出来るよう、紆余曲折の末に高い技術をドラゴン達は習得したのだ。

 

 なお、他文明の科学者からは銀河レベルの努力の方向音痴と大評判なのは言うまでもない。

 

 

 

 そんなわけで、皇太子は嫌いじゃないがそれでも怯えを隠せない皇太子妃は。

 ふるふると震えながら、そっと皇太子を見上げる。

 

 そんな皇太子の趣味に元々致命的命中を叩き出していた、皇太子妃の儚い姿に。

 その欲望は臨界突破、これが宇宙戦艦のエンジンなら爆裂四散の末に虚空の塵となるレベルにまで高まっていた。

 酷い話である。

 

 

「……うん、すごく綺麗だ……おいで」

 

「は、はい……」

 

 

 内心で拍手喝采ガッツポーズし脳内皇太子たちが万歳三唱する中な、妻となった皇太子妃へ大きな手を差し伸べ。

 ドラゴンにとっては羽のように軽く、そして柔らかな体を持ち上げ……。

 

 

 やがて、二つの影は一つとなり。

 ちょっとケダモノっぷりを暴走させた皇太子の声と、なんとか命の危機なく受け入れた皇太子妃の声が寝室に響き始め……。

 

 

 そこまで見届けた侍従筆頭は、そっと音もなく部屋から立ち去る。

 その際に私を娶ってくれる人はいないかしら、などと世の無常を嘆いた侍従筆頭の声を聞き取る人物は悲しきことに誰も居なかった。

 

  

 ちなみに、皇太子と皇太子妃の体の相性は抜群に良かったせいか。

 後日、新たな皇族が皇太子と皇太子妃の間に生誕したとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日、謁見の間にて。

 

 

「……お二人の初夜については、以上です」

 

「うむ、そうであるか。監視と報告ご苦労」

 

 

 侍従筆頭から、皇太子と皇太子妃の初夜と相性について報告を受けた皇帝は満足そうに頷き、侍従筆頭を労う。

 謁見の間には二人とは別に、ドラゴンがもう一人いて……。

 

 

「いやー、弟が性癖と童貞拗らせたって聞いたときは焦ったけども。なんとかなるもんであるな!」

 

「それな。いやー……地球のサブカルチャー舐めておったわ、いやほんと」

 

 

 神妙な顔で呟く、胸に勲章を幾つも付けたドラゴン……皇帝の子の一人であり、帝国が誇る常勝提督。

 そして、その言葉に追従するように皇帝は頷き……二人してHAHAHAHAHA!と豪快に笑う。

 

 

「まー、これで盟約も果たせたし神聖稲荷の方は顔繋ぎが継続できて良し。余らは童貞拗らせてた皇族男子の性癖直撃な嫁とれて良し」

 

「まさにWin-WInであるな!」

 

「……この会話、神聖稲荷の上層部が聞いたらなんて言うのでしょうか」

 

 

 いやーよかったよかった、などと呑気に笑いあう皇族二人の様子に頭痛をこらえる侍従筆頭。

 ちなみに神聖稲荷騎士団は女尊男卑気味の風潮があり、軍事や政治は主に女性が回しており……一見女の子にしか見えない男性は主に家庭に入るのが通例な文明だったりする。

 なお、銀河ドラグーン帝国は……その反対に男尊女卑の風潮が強いスペース脳筋蛮族国家である。

 

 

「まぁ大丈夫じゃろ、今の祭司長って余の婆様の妹の孫娘であるし」

 

「遠いようで近いようで、やっぱり遠いそんな血縁関係!」

 

「兄上は黙ってて下さい」

 

 

 妹である侍従筆頭にぴしゃりといわれ、ソンナーなどと言いつつしょんぼりする提督を他所に。

 余談であるが、神話の時代ならいざ知らず。今世においてはドラゴンらの平均寿命は100年程度だったりする。

 

 

「血縁もあるしまぁ大丈夫大丈夫、それにまぁ帝国は連盟の治安維持やら仲裁やらしっかり働いておるしの」

 

「最近は外銀河からやってきた触手生命体もぶちのめしたであるしな!」

 

 

 仮に文句があっても、吾輩ら切り捨てたりは奴らにはもう出来んよ、と薄ら寒い事を呑気に告げる皇帝。

 おまけに宇宙に出た当初からの付き合いでもあるし、と人情を後付けする辺りがこの皇帝タチが悪い。

 

 

 

 

 そんなわけで、帝国と銀河は今日も平和です。 

 




拙作を読んでいただきありがとうございました。
こんな感じの短編を世界観共通で書いていこうと思いますので、よろしければお付き合い頂けますと幸いです。

こんなネタ見たいってあったら、活動報告のネタリクエスト受付所へどうぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【とある帝国の駐屯事情】

活動報告にネタを投げてもらった内容を一部盛り込んで第二話を颯爽と出してみるテスト。
地球のサブカル汚染を今回は入れれなかったので、次回その辺りをネタにしたい所存です。


 

 とある銀河の辺境の、小惑星が入り混じるデブリ帯。

 その中に幾つか光明に偽装されつつ連結された小惑星がある。

 

 ソレらを良くみてみれば、いくつもの対空砲台やミサイル発射口等で武装をしている。

 では、どこかの帝国の宇宙基地なのかと言えばそれを示す紋章はどこにもペイントされてはおらず。

 今も宇宙基地の停泊所に係留されている大小様々なサイズの宇宙船は、その全てがデザインの統一などされていなかった。 

 

 それもその筈、彼らは寄る辺なき無法者の集団。

 騒乱があるところに潜り込んでは欲望を満たし、騒乱がないところを理不尽に荒らして自らの懐を癒す悪名高き宇宙海賊であった。

 

 そんな無法者の集団が集まり、酒に違法薬物、ついでに資源や嗜好品をかけてゲームに興じているスペースが宇宙基地の中に幾つも存在する。

 悪意の集団が集まる場所、当然……彼らに相応しい悪徳と欲望が渦巻く様子を見せている。のが今までの光景であった。

 

 だが、ここ最近彼らの表情は分かりやすい種族もわかりにくい種族も一様に顰め面を浮かべており。

 今も酒場で管を巻いてる集団の中の、直立するタコのような海賊がテーブルに乱暴にジョッキを叩きつけ恨み言を吐き出す。

 

 

「畜生!あのくそったれの売女ども! あいつら俺の兄弟を殺しやがった!!」

 

「おめーんところもか、オイラんとこは命は無事だったが『積荷』まるごと捨てる羽目になっちまったよ」

 

 

 タコ型星人の言葉に頷きながら、対面に座っている人型の軟体生物のような男は自棄気味に口の役割を果たす触手を数本グラスにつけ。

 ズゾゾゾゾ、とまるでストローで飲むかのように酒を吸い上げる。

 

 

「かー、お前も災難だな。『積荷』は何だったのよ?」

 

「勿論『淫魔』さ、高く売れるんだよなアレ」

 

「なるほどねぇ……おめー、よく無事だったな」

 

「『積荷』の中身を教えてやって、商品を詰めたコンテナごと宇宙に放り出したのさ」

 

 

 宇宙船の貨物スペースには酸素や必要最低限の生命維持が施されていたが、コンテナ単体にはそんな高級品を宇宙海賊が用意する筈もなく。

 宇宙へ放り出されたコンテナの中身の大半は、救出されるも既に息絶えていた事は言うまでもない。

 

 彼らがこの宙域で行っている後ろ暗い商売、それは何時の時代にも存在する人身売買である。

 今現在において『淫魔』の売買は禁止されているが……。

 違法であるがゆえに欲しがる顧客が大枚をはたいてでも手に入れようとし、その歪な需要と供給の状況が彼らのような存在の跳梁跋扈を許す土壌にもなってしまっていた。

 

 

「だけどよぉ、この宙域もそろそろ近くの宇宙基地に目ぇつけられてんだろ?」

 

「だろうなぁ。そもそもこの宙域のすぐ隣、『淫魔管理会』の宇宙基地作られて結構経つしな」

 

「でもまぁ、あいつらは臆病者だし。艦隊来る前にトンズラしちまえばいいか」

 

「ちげぇねぇ!」

 

 

 先ほどの怒りや不景気そうな空気はどこへやら、げらげら笑いながら酒の入ったジョッキを二人は飲み干し。

 そうと決まれば話は早い、とばかりに近場で飲んだくれていた自らの船のクルーへ声をかけ集め始める。

 

 

「おう野郎共! 次に狙うのは、淫魔共の移民船だ。がっぽりかっさらって稼ぐぞ!」

 

「おいおい、俺らの分も残しておけよ?」

 

 

 ジョッキを掲げるタコ型星人、宇宙海賊船のキャプテンである男の声に様々な種族の荒くれは思い思いの返事をジョッキを掲げて返礼し。

 さっきまで一緒に呑んでいた、口から触手の生えた人型軟体生物の船長は半笑いでタコ型星人の頭を軽く小突く。

 

 しかし、彼らが次の稼ぎに出ることは未来永劫無かった。

 その次の瞬間、宇宙基地を襲った轟音と衝撃とともに彼らが屯していたスペースが吹き飛ばされたのだから。

 

 

 

 

 

【とある帝国の駐屯事情】

 

 

 

 

 

 ここで少し時間を巻き戻すと共に、宇宙海賊らが拠点を置いていた宙域付近に勢力を構える『淫魔管理会』について説明しよう。

 

 この帝国は狂的な受容主義を掲げ、平和的な交流を尊ぶ帝国なのだが……。

 その国是が故に、領内を荒らしまわる宇宙海賊に頭を悩ませていた。

 

 肉体を持つ精神生命体とでも言うべき、独特な生態を持つ彼……否彼女達は女性しか存在せず。

 他種族の男性との交流や、時には女性同士の交流によって自分達の種族を維持している。

 彼女達にとっての最大の娯楽、そして生命維持活動は他者との精神的肉体的交流なのだ。

 

 故に、彼女達は他者を傷つけるという手段に本能的忌避感を強く、いざ戦おうとする際も初動が遅く。

 艦隊が到着する頃には、宇宙海賊はとっとと逃げ出してしまっているという事が多々起こっていた。

 

 このままでは帝国が宇宙海賊の食い物にされ続けてしまう、しかしなかなか対応が上手くいかない。

 そんな彼女たちが頼ったのは、250年前に発生した大戦争。通称『天上の戦争』と呼ばれた時に結成され今も続く星間連盟『光明協定』の一員である。

 愉快な銀河級スペース蛮族の、銀河ドラグーン帝国であった。

 

 

 星間通信にて、窮状と宇宙海賊の悪辣さを訴えられ助けを求められた銀河ドラグーン帝国。

 普通の帝国なら断る話である、宇宙海賊は戦力としては驚異ではないものの、非常に面倒な相手なのだから。

 だが、宇宙海賊にとって非常に残念なことに……銀河ドラグーン帝国は普通ではなかったのである。

 

 表向きの建前は、もはや形骸化して久しいと言えども連盟を組んだ仲間の危機を見過ごすのは誇り高き戦士のすることではない、という物であり。

 割と隠せていない本音は、肉体的な交流を喜ぶ美女種族のお願い断るなんてありえないだろ、常識的に考えて。である。  どうしようもねぇなこいつら。

 

 

 そんなこんなで、銀河ドラグーン帝国から淫魔管理会の宇宙基地に増援として幾つもの戦力が送られたワケである。

 そして、時間は宇宙海賊の荒くれが宇宙を漂うデブリの仲間入りをしたその時にまで戻り……。

 

 

《こちらアサルト1、目標への思念誘導魚雷の着弾を確認!》

 

 

 全長30mほどの流線形の船体、その中のコクピット部に腹這いとなった姿勢で収まっているドラゴンが……宇宙海賊基地のセンサーに引っかからないギリギリの場所で待機している艦隊へ、初弾の命中を報告する。

 彼もまた、銀河ドラグーン帝国から派遣された戦力の一人であり……宇宙海賊基地直近にある、淫魔管理会の宇宙基地唯一のドラゴンである。

 

 

《了解しました、こちらも艦隊を前進させます。指定の位置で待機を……》

 

《というわけでアサルト1!これより吶喊する!》

 

《え、えぇぇぇぇ?! ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!!》

 

 

 ドラゴンからの通信に、ピッチりとした全身タイツ状の宇宙服に身を包んだ……小柄で凹凸に乏しい体を持つ淫魔の艦隊提督は通信を返し。

 最も危険な奇襲を引き受けてくれた銀河ドラグーン帝国の戦士と、一刻も早く合流しようと艦隊に前進を命じようとするも。待てとお座りができない犬がごときドラゴンの吶喊宣言に、泡を食って必死に静止を命じる、が、ダメ!

 進路を塞ぐデブリの排除を命じつつ、艦隊に前進を命じる。

 その間にも、待てもお座りも出来なかったドラゴンは流線形の船体のアフターバーナー全開で突撃しており……まともな船長ならば取らない機動をとりながら、宇宙海賊基地への攻撃を止める事なく続ける。

 

 コレには銀河ドラグーン帝国の船と戦士が色んな意味でおかしいという事もあるが、それ以上にその独自の船体構造が起因している。

 通常の30~40m級のコルベット級といわれる宇宙船でも、船長に操舵士、機関部要員に火器管制要員と少なくない人員を必要とする。

 そして、人員が多くなればなるほど指示の伝達にタイムラグが生じ、そのわずかな時間が時には衝突事故の原因にもなるからこそ……例え可能だとしても普通の船長はやらないのである。

 

 一方で銀河ドラグーン帝国のコルベット級は、その制御を全て一人のドラゴンが行う大型の宙間戦闘機ともいうべき構造をしている。

 専用のコクピットに腹這いに収まったドラゴンの両手と両足と尻尾をフルに駆使するという、機体制御システム……で終わる事はなく。

 そこに、首元に施され取り付けられた神経接続コネクタへ、コクピット部から延びたケーブルを差す事で正に人機一体ともいうべき所作を可能としているのだ。

 

 言うまでもないが、他文明からは頭おかしい扱いを受けている。残念でもなく当然であった。

 

 

《くそったれがぁ! なんでクソトカゲが出張ってきてんだよ!?》

 

《うるせぇ!泣き言ほざく暇があったら撃ちまくれぇ!!》

 

 

 混線する無線が宙域を戦う船に等しく届き……その叫びに呼応するかのように生き残った宇宙海賊基地の砲台、そして緊急発艦した海賊船達が応戦を開始。

 次々とレーザー砲にプラズマ砲、果てはミサイルすらを過剰なまでに一機の宙間戦闘機へと殺到させる。

 全弾直撃すれば、一般的な巡洋艦ですら轟沈させうるその弾幕、だが宇宙海賊を嘲笑うかのように宙間戦闘機は巧みに機体を制御し、虚空を漂うデブリをダンスパートナーに踊るかのように次々と回避。そして。

 

 

《やべぇ、かわせぇぇ!》

 

《む、むりだお頭……ぎゃぁぁぁぁ……》

 

 

 最大船速のまま、宇宙海賊の艦隊内に突撃。すれ違いざまに先鋒を務めていた駆逐艦へ、大型実弾砲と念導式誘導プラズマ砲を進呈しそのままの速度で宇宙基地へ肉薄。

 もはや声にならない宇宙海賊基地から届く命乞いの通信を聞きながら、パイロットであるドラゴンは情け容赦なく全武装のロックを解除し……。

 一撃の下に、宇宙海賊基地を沈黙させた。

 

 あまりの速度で成され、そしてあっけない自分たちの基地の終わりを一瞬呆けて見届けてしまう宇宙海賊艦隊

 だが、彼らとして修羅場をくぐっている悪党。すぐに気を取り直し宇宙基地だった場所を通り過ぎ遥か彼方へ飛び去った、彼らの言うクソトカゲの宙間戦闘機へ追いすがって追撃を始めようと艦隊を反転。

 

 その行為が、悪徳を積み続けた彼らがとった最期の愚行で……。

 長年、苦汁をなめさせ続けられた淫魔達の艦隊にとって、何よりも素晴らしい最期の善行であった。

 

 

 その後、宇宙海賊基地とそこに駐留していた宇宙海賊の艦隊の殲滅が確認された。

 

 

 

 そんなこんなで淫魔管理会の宇宙基地へと戻る帰り道。

 右往左往する宇宙海賊の艦隊との激闘に、淫魔管理会の船に少なくない損傷が目立つ中……。

 淫魔管理会の艦隊に寄り添うように、のんびり巡行モードで虚空を往く銀河ドラグーン帝国の宙間戦闘機は無傷で飛んでいた。

 この辺りが、彼らが頭のおかしい脳筋スペース蛮族と呼ばれる原因の一つなのは言うまでもない。

 

 

《ありがとうございますアサルト1、貴方のおかげで我々は犠牲を出す事なく任務を達成できました》

 

《お役に立ててそいつは何よりだ》

 

《です、が! 何故突撃をしたのですか! そんなに私の命令聞けませんか!?》

 

 

 ガサゴソと、コクピットに収まったまま宇宙食のビスケットをばりばり齧る呑気なドラゴンの様子にブチ切れる淫魔管理会の提督。当然の権利である。

 どこの世界に、コルベット級の船一隻で敵艦隊を要する宇宙基地に突撃し、宇宙基地を消し飛ばした挙句そのまま舞い戻り、無傷で大戦果を挙げるバカがいると思うか。

 

 

《いやぁ、そういうわけじゃねぇよ?本当だよ?》

 

《……ではなぜですか?》

 

《そっちのが話がはえーと思っただけさ》

 

《死ぬかもしれませんよ? あんな戦い方をしていては》

 

《その時は、笑ってくたばるさ》

 

 

 通信ウィンドウ一杯に映る、幼い風貌の淫魔提督のふくれっ面に気まずそうに目を逸らすドラゴン。

 言い訳に若干力がない程度にはたじたじである、しょうがないね。

 

 実際、ドラゴンにとって淫魔達の艦隊運用は見ててもどかしい程度にじれったかったのは事実であり。

 彼自身も自分が吶喊しなければ、被害者は出ていたからいいじゃんという想いは持っている。

 だがしかし、涙目でこっちを通信ウィンドウ越しに睨んでくる幼い風貌の淫魔に口答えしない程度には彼にも分別があったらしい。

 

 ともあれ、大規模な近場の基地の殲滅を完遂した淫魔管理会の艦隊と銀河ドラグーン帝国の出向兵。

 これで安心して枕を高くして眠れるかと言えば、そういうわけにもいかないのが昨今の悲しき銀河事情である。

 

 宇宙海賊という存在は当たり前だが一枚岩ではなく、宇宙海賊と一口に言っても十把一絡げの組織が居り……今回殲滅されたのはその中の一つに過ぎないのだ。

 彼と彼女達の戦いはここからが本番なのである。

 

 

 

 ある時は、廃棄されたブラックホール観測所を拠点にしている宇宙海賊を相手どり……。

 

 

《気を付けて下さい!ブラックホールの影響で緊急退避が困難となってます!!》

 

《そいつぁいい、宇宙海賊共も逃げにくいだろうから皆殺しにし易いな!》

 

《あーもう違いますよぉぉぉ!?》

 

 

 またある時は、移民船が襲われている状況に急行し護衛しながら宇宙海賊の艦隊を叩き潰し……。

 

 

《クソッタレのクソトカゲめ!お気に入りの人形相手に腰振ってろってんだ!!》

 

《うるせーバカヤロー!人様に迷惑かけてんじゃねぇ、死ね!!》

 

《子供の口喧嘩じゃないのですから……》

 

 

 これまたある時は、銀河ドラグーン帝国や淫魔管理会が所属している星間連盟『光明協定』に加入していない帝国が裏で糸を引いている宇宙海賊を粉砕した。

 その際、政治的事情や問題から一時は見逃さないといけない状況になりかけるも。

 

 

《なっ、殺すのか私を?! そんな事をしたら国際問題になるぞ!?》

 

《知るかボケ! 他国の臣民攫って売買したクソ野郎がどの口でほざきやがる!》

 

《わ、私達も戦います! これは私達の国が背負わないといけない問題です!》

 

《いいからそこでお前らは止まってろ! 頭の悪い出向兵が命令聞かずに暴れだした、これはソレだけの話だ!!》

 

 

 口惜しそうに、悲しそうに逃げ出そうとする宇宙海賊艦隊を見送るしかない淫魔提督の様子に、ドラゴンが一人吶喊。

 機体を半壊させつつ、宇宙海賊の艦隊を旗艦以外爆散させ敵の首領の捕縛に成功したりと結構な事をやらかす。

 

 当然、彼らの後ろ盾となっていた帝国は国際チャンネルを通じて銀河ドラグーン帝国と淫魔管理会へ、開戦も辞さない勢いで猛抗議。

 だがしかし、割と彼らの陰湿さにイラっときていた銀河ドラグーン帝国の皇帝はこの抗議を一蹴。

 むしろ逆に、余らと本気で殺り合うんかアァン?と宇宙海賊顔負けの声明とセットで、出向させていなかった主力艦隊を総動員しこれ見よがしに軍事演習を開始。

 

 後日、後ろ盾になっていた帝国からは非公式にごめんなさい許して下さいという謝罪文と宇宙海賊に繋がっていた後ろ盾帝国の重臣の処刑映像が銀河ドラグーン帝国へ送られ、この騒動は幕引きとなった。

 

 

閑話休題

 

 

 銀河の反対にある地球の映画作成会社に作らせたら、エピソード6くらいにまで繋がりそうな宇宙海賊大掃除キャンペーンは何のかんの言ってようやく落ち着きを見せ始め。

 淫魔管理会の艦隊と、出向兵であるドラゴンが所属している宇宙基地でのんびりできるようになった頃には。

 淫魔提督と出向兵ドラゴンの仲が急接近していた。

 

 淫魔提督から見た出向兵ドラゴンの最初の印象は、まぁ当然最悪であったが共闘している内に見直し、良いところが気になり始め。

 トドメに、とある帝国の重臣と繋がっていた宇宙海賊を男らしく叩き潰した姿を見せられた瞬間、完全に惚れてしまったらしい。割とチョロかった。

 

 

「あ、あのさ。お弁当作ったんだけど、食べる?」

 

「ん? おう、もらうぜー」

 

 

 やがてそんな二人は、宇宙基地で休暇を過ごすたびに展望台やレクリエーションスペースでデートをしている姿が目撃され始める。

 たまったもんじゃないのは、そんなラブってコメってる姿を見せられる宇宙基地の職員達である。

 

 

「まーた、提督とあのドラゴンいちゃいちゃしてるよ」

 

「気にしちゃ負けじゃない? ってちょっとー、ブラックのコーヒー買ったのに砂糖入ってんだけどー?」

 

「目を覚ませ、それはどこをどう見てもブラックコーヒーだ」

 

 

 他文明から移民条約によって移民してきたらしい、淫魔とも違う直立する鳥。平たく言うとペンギンじみた宇宙人がげっそりとした調子で呟き。

 そんな彼をどうどうと宥めながら、同じく移民条約によって移民し今も宇宙基地で働く巨大キノコ宇宙人が自販機で買ったコーヒーを啜り……何故かコーヒーに溜息を漏らす。

 

 無論、この宇宙時代の自販機に温かいコーヒーを頼んだら熱されたサイダーが出てくるような事は早々あるわけない。

 そうしている間にも二人の関係はどんどん進み、ついでに宇宙基地職員らに独身の無常さを味合わせていく。

 

 なお余談であるが、彼に限らず淫魔管理会のあちこちに出向させられたドラゴンの大活躍により、彼女らの銀河ドラグーン帝国への好感度は鰻上りである。

 しかし現場のドラゴン達は、彼女が出来たぜヤッター。もしくはモテモテでヤッター、などと呑気な物である。

 

 

「ねぇねぇダーリン」

 

「どうしたんだい? ハニー」

 

「うふふ、呼んでみただけ♪」

 

「もー、しょうがないなーハニー♪」

 

 

 宇宙基地職員、ついでに淫魔提督の部下である淫魔らが気づいた頃には時すでに遅く。

 互いにダーリン、ハニーと呼び合うどこに出しても恥ずかしいバカップルが誕生していた。

 せめてもの救いは、提督として働いている淫魔提督、そして兵士として戦っているドラゴンはきっちり仕事を果たしているところだろうか。

 しかし……たまに、バカップルの惚気が通信に混ざるせいで、艦隊の兵士らは慣れ始めつつげんなりさせられるという状況なのは内緒である。

 

 

「なぁシイタケよう」

 

「どうしたのテバサキ、ついでにアタシャシイタケなんて名前じゃないわよぅ」

 

「俺もテバサキじゃねーよ、どーすんだよあの二人。げんなりするってレベルじゃねぇよ」

 

「アタシャもう慣れたわよ、この際いっそアタシらもくっつく?」

 

「生憎、俺は同姓でくっつく趣味ねーよ」

 

「何言ってんのよ、アタシャ女だよ」

 

「マジで?!」

 

 

 そんな二人のイチャつきを目にするのが当たり前になりつつあった、宇宙基地職員コンビのペンギンと巨大キノコが愉快な会話を繰り広げる中。

 彼らの今後はさておき、今この宇宙基地はさり気なくカップル結成が流行り始めていた。

 

 淫魔とお近づきになるべく銀河の反対からやってきた地球人類が淫魔とカップルになったり、淫魔同士で百合の塔を建てたり。

 淫魔とは関係ない移民種族同士のカップルが作られたりと、宇宙海賊が跋扈してる間は想像もできなかった幸せな空気が流れ始めていた。

 若干ここの空気ピンク色なんじゃね。と誰かが突っ込みを入れたがその発言は黙殺されたらしい。

 

 その間にもドラゴンが単騎で出撃しては宇宙海賊の基地を消し飛ばしたり、艦隊とセットで出撃して宇宙海賊を殲滅したり。

 ついでに、どこぞの宇宙海賊と繋がっていた帝国の悪党が暗躍しようとして踏み潰されたりと事件は相変わらず続くも……弛まない程度にゆるく桃色な空気が宇宙基地を包む中。

 

 

「ね、ねぇダーリン」

 

「どうしたんだいハニー、君に憂い顔は似合わないよ?」

 

「え、えっとね……赤ちゃん、出来ちゃったみたいなの」

 

「……フゥゥ! やったじゃないかハニー!」

 

 

 宇宙基地に係留している艦隊提督の懐妊である、さすがにお前ら避妊しておけよ!と宇宙基地職員総出で突っ込むが出来たもんはしょうがねぇ、と大騒ぎ。

 何のかんの言って淫魔提督は、淫魔管理会の中ではベテランかつ重要な指揮官である。そんな存在を懐妊したから解任なんて言ってる場合じゃない。

 だがしかし、そのままギリギリまで軍人させるのは人道的にどーなのよ。と淫魔管理会の理事会は紛糾。彼女達は平和主義であるがゆえに、軍人の福利厚生にも熱心なのだ。

 

 ちなみに余談だが、下手人である出向兵ドラゴンはと言えば……さすがにでかすぎるやらかしに。宇宙基地の展望台の天上から逆さにつるされる羽目となったが、大した問題ではないので割愛する。

 

 

 ともあれ、艦隊指揮官は必要。ついでに出向兵ドラゴンを問題児として返品するには、戦力と抑止力的に厳しいというのが悲しき実情であった。

 更に、今も逆さ吊りにされているドラゴンは淫魔提督が本国へ帰されるなら自分もついていくと公言するから始末に負えない。淫魔管理会の理事会員にドラゴンは本気でごめんなさいすべき案件である。

 そんなこんなで、淫魔管理会と銀河ドラグーン帝国の間で色々と協議が進み、その結果。

 

 

 新兵を含めた宙間戦闘機4機と、宙間戦闘機を4機までドッキングし補給が可能な全長約100mサイズの駆逐艦が一隻銀河ドラグーン帝国の本国から、増援として寄越される事で一旦解決となった。

 懐妊したことで一時解任となった提督の代わりは、士官学校卒業したての首席新米提督がつくことになったらしい。 彼女が今回の事件で、一番貧乏くじを引かされた存在なのは言うまでもない。

 

 

 

 そんなこんなでドタバタしたけども、淫魔管理会と銀河ドラグーン帝国は今日も平和です。

 なお、今回の騒動の主犯とも言うべきドラゴンは増援としてやってきたドラゴン達に袋叩きにされる事で、ケジメを取らされたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 




そんなわけで拙作の2話投稿完了です。
読んで頂き、誠にありがとうございました。

ちなみにですが、ドラゴン出向兵君が乗ってる機体はゲーム的にはコルベットです。
そこに、自作MODで武装スロットを水増しした上で、別MODの追加武装を搭載してるのが彼の乗機の正体だったりします。
(本来はSスロット3つ、もしくはミサイルスロット1つにSスロット1つ程度しかコルベットは積めない)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【とある帝国の科学事情】

活動報告にて「shou11」様から頂いたネタを下に、書きたかったネタを大爆発させました。
やりたい放題やらかしたが、割と満足いく出来になったと自画自賛です。


 

 

 

 淫魔管理会の領域の端の方にある宇宙基地で、やらかした出向兵ドラゴンが展望台の天井から逆さ吊りにされていた頃。

 銀河の反対側辺りにある地球の、とある投稿式動画サイトにて一つの動画が上げられた。

 

 題名は、『銀河ドラグーン帝国の新兵器映像入手したったwww』という題名の良く出来たCG映像。

 その中身は、銀河ドラグーン帝国の正式採用機である宙間戦闘機によく似た宇宙船が宇宙を飛び回り……時に人型ロボットへ変形して戦うという内容だ

 その人型ロボットは時に宙間戦闘機形態で弾幕をかいくぐり、人型形態へ変形しては大型戦艦を単独で轟沈させた上に補助装備無しで有人惑星への大気圏突入すらも成功させる代物であった。

 

  

 

 当たり前であるがそんな代物、銀河ドラグーン帝国は作ってもいないし考えてもいない、地球の趣味人が作った創作意欲が爆発したネタ映像でそれ以外の何物でもない。

 しかし、その出来が良いCGと男の子の中の中学二年生を強く刺激する内容は爆発的な人気を叩き出し、やがて派生作品すらをも生み出していった。

 だが……何事もなければ、誰も気に留める事なくそう言えばそんなものもあったね、などと言われたであろう一過性のブームの作品。

 

 

 だがしかし、本家本元の銀河ドラグーン帝国のとあるサブカル映像好き皇太子がその映像作品を発見した事で風向きと雲行きが怪しい方向へ転がっていく。 

 

 

 それはある、銀河ドラグーン帝国の昼下がりの事であった。

 

 

「地球の娯楽文化って凄いなぁ、こんな映像レベルを個人で作れるなんて」

 

「本当ですね、貴方」

 

 

 見つけた切っ掛けは、お腹の大きくなってきた妻を行楽に連れ歩くわけにもいかない、だがしかしかつて見てたような美少女満載の映像作品を見せる度胸もない。

 そんな折に、叔父である科学庁長官から……地球の面白いホームページのサイトを皇太子は教えられたのである。

 

 

 ちなみに唐突な余談だが、ドラゴンの大きく爪の生えた手は精密作業に向いていない。

 そんな彼らが何故精密機器を操作できるのか、その秘密は今も皇太子の首元にケーブルが刺さっている神経接続コネクタにある。

 

 この、ドラゴンが産まれると同時に植えつけられる神経接続コネクタは、脊椎部にまでその線を体内で伸ばしており接続された機器を思考のみで制御する補佐をする優れモノなのだ。

 その制御内容は……家庭の電子機器の操作や、身体洗浄機の操作、更には宇宙船の制御にまでと多岐に渡るドラゴンにとってケモノ人と同じぐらい手放せない大事な一品である。

 

 

閑話休題

 

 

「あ、貴方! この御仁、まるで稲荷みたいですわ」

 

「本当だ、地球にも稲荷っていたんだねぇ。CGで構成してるってことは個人情報保護なのかな?」

 

「きっとそうですわ、声が野太い御仁ですけどソレもあってこのような手法をお取りになられてるんだと思います」

 

 

 一度新たな玩具を与えられた夫婦は、二人して顔を突き合わせてモニタを見つめ、様々な動画を二人で和気藹々と眺めていた。

 ちなみに、皇太子よりはるかに小さな身重の皇太子妃は……皇太子が胡坐をかいたスペースに皇太子妃がすっぽりと収っている。

 皇太子妃曰く、守られていると強く実感できてこの格好が好き。との事だ。

 

 そんな時である、オススメ映像にとある趣味人が作り上げた、捏造満載の新兵器(笑)の映像作品が出てきたのは。

 

 

「ええっと何々……『銀河ドラグーン帝国の新兵器映像入手したったワラワラワラ』だって……?!」

 

「え、えぇ?! なんで遠く離れた地球がそんな映像を?!」

 

 

 余りにもセンセーショナルな題名に、末席に位置するサブカル中毒の皇太子とはいえ皇族は皇族。

 その顔を引き締め、首元のコネクタに刺さったケーブルを通し、その映像作品の再生を始める。

 

 

「……なんだか、凄く旧式のシミュレーターに出てくる宇宙みたいな映像だね」

 

「そうなのですか?」

 

「うん、兄上に無理やり訓練させられた時のシミュレーターだと、もっとちゃんとした宇宙だったよ」

 

 

 まず真っ先に目につくのが宇宙の作りものっぽさ、そこで皇太子が不思議そうに首を傾げる。

 一方、皇太子妃は宇宙に出たのが彼ら夫婦の馴れ初めである宴席と、その後の嫁入りのための航行のみだったのでいまいち違いが分かっていなかった。

 

 

「お? これかな、なんか凄いカラフルな塗装だけど。うちの正式採用機に似てる……でもなんか変だなぁ、スラスターの位置とか武装の配置とか」

 

「でも、かっこいいですわよね。こんな機体が先陣を切って戦果を挙げると、士気が上がりそうです」

 

 

 見慣れた正式採用機に似てるけども、なんだか違和感を感じる映像内の宙間戦闘機に首を傾げる皇太子。

 一方、狂信……もとい熱心な宗教主義軍事帝国出身の姫君は、その機体が活躍することによるメリットに着眼していた。

 

 

「あ、敵が出てきましたわ……あらまぁ凄い、こんな弾幕を苦も無くかわしてますわ」

 

「正規兵なら簡単に潜れそうな弾幕だけどなぁ……あ、なるほど。あの変なスラスター配置はこうやってぐりぐり動かして急制動かける為だったんだね」

 

 

 口々に好き勝手な感想を述べながら、それでも映像作品に見入る皇太子と皇太子妃。

 皇太子妃のふわふわ尻尾も、皇太子の鱗まみれ尻尾のゆらゆらと揺れてる様子から結構楽しんでいるのは間違いない。

 

 そして映像は宙間戦闘機が、敵の大型戦艦へ肉薄するところまで進み。

 次の瞬間、起きた内容に夫婦揃って目を見開きあんぐりと口を開く。

 

 

「「へ、変形したー!?」」

 

 

 映像の中の宙間戦闘機が、サブカル中毒の皇太子をしてお前どんな構造してんだよって内容で変形した末に。

 腕部から放出した高エネルギー刃によって、大型戦艦をすれ違いざまに真っ二つにする姿に夫婦は二度びっくりする。

 

 

「こ、これは凄い……!」

 

「でも貴方、あんな構造してたら船体の耐久性はかなり落ちそうですわね」

 

「確かにそうだね、けど……一度も当たらない高機動性と、当てられる前に沈められる火力があれば決して非現実的じゃないよ。コレ」

 

 

 もしかしてこの拙いCG映像は、帝国の技術部がプレゼン用に片手間に作成したものなのだろうか? などと的外れな推測を始める皇太子。

 一方皇太子妃の方は、あんな変形するとパイロットのドラゴンさんが酷い事になりそうですわ。などと思いつつ眺めていた。

 

 

 ちなみに大真面目に考察し推測している皇太子だが、この映像作品を作った作者はそんな細かい事一切考えていないのは言うまでもない。

 そうやって話し合ってる間に映像作品は終了し、続けて別の映像をという気分でもなくなった皇太子は皇太子妃の体へ負担をかけないよう気を配りつつ、そっと立ち上がると。

 足早に部屋を駆け出していくのであった。

 

 

「んー……でも確かに凄かったのですけども、なんか引っかかるのですよね」

 

 

 科学庁長官である叔父の下へ、夫は行ったのだろうと思いつつ映像作品の紹介項目のページを、皇太子に作ってもらった翻訳リストとにらめっこしながら確認に入る。

 そして、程なくして彼女は見つけるのだ。 ただのジョーク映像作品であるという事実を。

 

 

「……意気消沈して戻ってこられるでしょうし、今からお慰めする準備でもしようかしら」

 

 

 叔父に指さして笑われかねない夫を不憫に思いつつ……おつきの侍従筆頭をそっと呼び出し。

 肩を落として戻ってくるであろう夫を慰めるための準備を進める。 出来た嫁さんな、皇太子妃なのであった。

 

 

 

 

 

【とある帝国の科学事情】

 

 

 

 

 

 

「ぶはっ、だーーーーっはっはっはっは!!」

 

「そ、そんな笑わなくてもいいじゃないか! 叔父上!」

 

「いやぁ、だってお前ぇ! あんなの本気にするヤツ、おらんじゃろ普通……ぶふぅっ! ぶわーーっはっはっはっは!!」

 

 

 皇太子妃の予想は見事にどんぴしゃり大当たり。

 例の映像作品について、科学庁長官を務める叔父の下を訪ねた皇太子は今まさに指を差され大爆笑されていた。

 

 

「おま、ぶひゅぅっ! あんなの、嘘八百にきまってんじゃ……らっはっはっはぁ!」

 

「く、くぅ……この外道ジジィめ……」

 

 

 皇太子よりも一回り大きい巨体で腹を抱え大爆笑を続ける科学庁長官。

 こんな態度と行動であるが、科学庁長官である。

 

 

「しかし長官殿、問題はありますぞ?」

 

「ひー、ひー……問題って、どうしたんかの?」

 

 

 笑いすぎて出てきた涙を指で拭いながら、控えていた長年の相棒でもある助手を務めると共に何人もの子を作った狼耳尻尾を持つケモノ人へ向き直る科学庁長官。

 ちなみに爆笑されまくった皇太子は、部屋の隅っこでうずくまり拗ねていた。

 

 

「前に長官殿、酒の席で地球の面白映像と銘打って荒唐無稽な人型ロボット作品の上映会されましたよね」

 

「あー、そういえばした気がするのぅ。ほとんど忘れておったが」

 

「アレを本気にした軍部が、合体変形する宙間戦闘機や宇宙戦艦の設計開発要望を提出してきております」

 

 

 能力と頭脳は銀河ドラグーン帝国トップを誇る科学庁長官ドラゴンであったが、酒が入ると他の追随を許さないダメドラゴンへと転落する男。

 ソレが……皇太子の結婚式でも遠慮なく提督にラリアットを叩き込まれたりする、科学庁長官を務めるドラゴンの正体であった。 なお割と彼に近しい人物は皆知っている。

 

 

「……え? マジ?」

 

「マジでございます、どう致しましょうか」

 

「いやぁ、いやいやマテマテ。 あんなもん、戦術的優位性の確保どころか作る理由もメリットもないぞ」

 

「はい、私もそう思います。ですが……」

 

「な、なんじゃよ……」

 

「……いえ、私が口を出すよりこちらを見て頂く方が早いですね」

 

 

 それではVTR、どうぞ。という狼耳尻尾ケモノ人がリモコンをピッと押せば部屋が暗くなるとともにプロジェクタに光が灯り。

 何かの宴会会場と思しき場所にて、科学庁長官ドラゴンが豪快に酔っ払いながら弁をふるっていた。

 

 

『~~と、いうわけでぇ! 可変合体機構は決して無駄ではなくぅ! 十分な効果がみこめるものであるとぉ、主張するぅ!』

 

『なんと素晴らしい! 必要に応じて形態を変える事で機動性と戦闘力を高い次元にまとめるとは!』

 

『然り! あの駆逐艦との合体変形もよいですな! なんせ、今のご時世駆逐艦に宙間戦闘機をドッキングさせないといけない事情も、減っておりますし』

 

『宙間戦闘機ではサイズ上限界のある出力を、駆逐艦サイズの動力で補い。更に複数宙間戦闘機を合体することで動力を連結、出力を倍増させる……脱帽ですな』

 

 

 そして、VTRの中では酔っ払いのノリノリの妄言理論を脳筋気味な軍人ドラゴン共が拍手喝采しながら大喜びで受け入れていた。

 口ではもっともらしいこと言ってるが、映像をよく見るとその目がカッコいいし欲しい、俺も乗りたいと少年のように目を輝かせているのだから、もうどうしょうもねぇ。

 

 余談だが、100m級サイズの銀河ドラグーン帝国の駆逐艦は4機ほどの宙間戦闘機をドッキングし牽引することが可能である。

 これは宙間戦闘機の推進剤の消耗を抑える目的もあるのだが、狭いコクピットに長期間閉じ込められっぱなしになる宙間戦闘機パイロットのケアの目的の方が強い。

 その為、船体サイズ上宙間戦闘機よりかは頑丈であるものの、火砲を搭載するより居住性を重視した結果……駆逐艦一隻の戦力は言うほど高くないのが実情なのだ。

 

 そして、昨今の銀河情勢から宙間戦闘機を満載した駆逐艦は割と出番のない艦種だったりする。

 

 

閑話休題

 

 

「…………叔父上」

 

「………………どうしよ?」

 

「どうしよ? じゃないですよぉ叔父上ぇ! どこをどう見てもアンタの撒いた種じゃないですかぁ!?」

 

 

 いつの間にか、拗ねていた皇太子がVTRの内容を見つめたのちに叔父である科学庁長官ドラゴンを詰問。

 詰問された科学庁長官ドラゴンはきまずそーに目を逸らしながら、ぽつりと呟きその内容に全力で応じは突っ込みを入れる。

 

 

「ちなみにでありますが……」

 

「やめて、儂それ以上聞きとうない」

 

「この時に使われたプレゼン資料は宴席に出席していた提督や将軍から一部の部下らへ配布されております」

 

「聞きとうないって言ったじゃんかぁぁぁぁ!!」

 

 

 ぬわぁぁぁ、と頭を抱える科学庁長官ドラゴン。清々しいまでに見事な自業自得であった。

 先ほどまで指差しで大爆笑された皇太子はといえば、そんな叔父の姿に若干溜飲を下げつつそっと部屋から退出しようと抜き足差し足移動し始め。

 

 

「こーうたーいしぃぃぃ、ちょぉっと手伝ってくれないかのぅ?」

 

「は、放せぇぇぇぇぇ?!」

 

 

 ぬるりと姿勢を直した科学庁長官ドラゴンに肩を掴まれ捕獲された、地味に不憫な皇太子である。

 

 

「大丈夫大丈夫、痛くしないから! ちょっと皇太子から皇帝陛下に上奏してもらうだけだから!!」

 

「叔父上がしろよ?!」

 

「無理だ! 儂、皇帝陛下に既にこれ以上お前の無理難題は聞かんって釘刺されてる!」

 

「何やったの?!」

 

 

 下手しなくても不敬罪まっしぐらな行為と発言を繰り返す科学庁長官ドラゴンの言葉に、皇太子思わず突っ込んだ。

 細かい事情は省くが、真っ当な帝政社会だとこの科学庁長官ドラゴン。3回は斬首される程度の事をやらかしている。

 有能だという理由で、裁かれるべき存在が裁かれないという帝政独裁政治の闇が、地味にそこにはあったりするが。今は関係ないので割愛する。

 

 

 

 

 で、結局どうしてどうなったか。

 

 

 

 

 

「えー、というわけで。 兵器進化のブレイクスルーの為、という名目で予算と期間をもぎ取って参りましたー」

 

「やったー」

 

「作っていいんですか? 完全変形宙間戦闘機作っていいんですか?!

  

「合体変形もいいぞ!」

 

「ヤッター! 皇太子殿下ばんざーい!!」

 

「ばんざーい!」

 

 

 ゲッソリとした顔つきで、集められた科学庁の研究者ドラゴンらの前に立ちプロジェクト発足について報告する皇太子がそこにいた。

 ちなみに諸悪の根源である科学庁長官ドラゴンは、関係各所への根回しと資材調達。ついでに政治力学の調整に相棒の狼耳尻尾ケモノ人と一緒にコキ使われていた。

 

 

「で、その上でですが諸君には以下の最低要求スペックを実現できる船を作っていただきます」

 

「えーっとなになに?」

 

「『意味のある変形機構の実装』に、『パイロットが操縦できる構造』」

 

「それに、『船体耐久と装甲は正式採用機より同等かそれ以上』」

 

「中々に無理難題ですなー。お、宙間戦闘機と駆逐艦双方ともある程度のサイズアップは容認頂けるのですね」

 

「……あ、大剣型携行装備は許可できないって書かれてる。がっかりである……」 

 

 

 ふむふむなーるほど、とホログラフィックモニタに表示された要求スペックのめぼしい個所を読み上げてく研究者ドラゴン達。

 そんなに無茶を感じない要求に、研究者ドラゴン達わーりと余裕を見せていた。次の瞬間に口を開いた皇太子の言葉を聞くまでは。

 

 

「なお、実地試験機体のロールアウトはジャスト一年後であるものとする」

 

「「「「「ファーーーーーーーーーー!?」」」」」 

 

 

 研究者ドラゴン共の絶叫じみた悲鳴が研究室に響き渡る。

 一年間もの開発猶予、と思われるかもしれない。だがしかし。

 既に仕上がった船体に、新型兵装をぽんぽん付け替えるならまだしも……完全に一からの船体設計の開始である。

 更にコルベット級サイズである宙間戦闘機は生産に約一か月、駆逐艦は約二か月も生産に要する。これは即ちだ。

 

 

「せ、設計に10か月かけれるから。余、余裕では?」

 

「ふへへ……何言ってんだ、実機の変形テストや試験考えるともっと早く終わらせねーと……」

 

「もうだめだぁ、おしまいだぁ」

 

 

 無理無茶無謀を通して道理をこじ開けるデスマーチ、それが今この瞬間確定したのである。

 なお、何故一年後なのか……何故かといえば、丁度一年後に銀河ドラグーン帝国のみならず彼らが属する『光明協定』全国家を挙げての記念週間と式典があるのだ。

 どうせやるなら、そこで出そうぜ。コレは余の勅命である。 などと悪魔のような笑みで皇帝が言い放ったとかなんとか。

 

 

 泣きたい逃げたい放り投げたい、だが皇帝陛下直々の勅命だから泣いてもいいけど逃げれないし放り投げれない。

 そんな悲痛な空気に包まれる研究員達、そんな彼らを……巻き込まれたとはいえ皇太子は見捨てる気はなかった。

 

 覚悟を決めた顔で研究員達に一旦退出する旨を皇太子は伝えると、急いで宮殿へと戻り……。

 

 しょんぼりしながら皇太子が帰ってくると思っていた皇太子妃は、悲壮な覚悟をキメた夫の様子に侍従筆頭とともに困惑。

 更に、しばらく研究室に泊まり込みで手伝いをすると言われたのだから皇太子妃の困惑は更に加速する。当然だ。

 

 まぁ、夫婦の話し合いは多少長引くも、出産が近づいたら必ず帰ってくるという約束と引き換えに皇太子は、嫁から手伝い出張を許可された。既に尻に敷かれているのかもしれない。

 そうやって舞い戻ってきた皇族の風格を纏う皇太子の様子に、右往左往していた研究員たちは気合を入れ直す。

 

 

 そして、銀河ドラグーン帝国の技術史に残る……無駄に高い技術を無駄のない無駄な設計に使い込んだ、と言われる開発プロジェクトがスタートした。

 

 

「元々の事の発端だった、地球のサブカルチャー映像を資料としてとにかくかき集めてみる。何か突破口が開けるかもしれない」

 

「お願いします、皇太子殿下!」

 

「ちょっとー主任ー! ここのフレーム、変形するとぽきゃってシミュレータで折れたんだけどー!?」

 

 

 研究者としては門外漢な皇太子、彼は自分が出来ることを必死に模索し。研究員が必要とするものを?き集める。

 時には自分の趣味から、時には無茶ぶりをしてきた腐れ外道な叔父である科学庁長官ドラゴンを更に酷使して調達し。

 

 

「誰だぁぁ、こんなアホな計算式ぶち込んだヤツ! こんなんじゃ戦闘機動に耐えれんだろ!?」

 

「誰がアホだ! 限界ギリギリまで追い詰めないと他に影響出るんだよ、ここは!!」

 

 

 時には協力し、時には互いの持論と意見をガンをつけ合いながらぶつけ合い。

 研究者達は、目標すらもしっかり定まっていなかった代物への道筋を固め、そして一歩ずつ確実に作り上げていく。

 

 

「皇太子、大至急宮殿へお戻り下さい! 皇太子妃様が産気付きました!!」

 

「えっ!?」

 

「皇太子殿下、お戻り下さい! ここは俺達でなんとかします!」

 

「み、みんな……」

 

「何、ここで完成させてしまっても。構わないだろう?」

 

 

 実機生産を含めると、ぎりぎり。本当にギリギリのタイミング。

 あと少しで、可変合体式宙間戦闘機と可変合体式駆逐艦の設計が仕上がるというところで、皇太子妃が産気づいた旨を侍従筆頭が報告。

 命よりも大事な妻との約束、しかしともに戦い続けた仲間を置いていくかのような行為に一瞬葛藤する皇太子であった。

 

 だがしかし、彼らとて一人前の銀河ドラグーン帝国の研究員。不敬罪一歩手前な勢いで乱暴に皇太子の背中をひっぱたき、急いで妻の下へ戻れと送り出した。

 後ろ髪を引かれながら研究室を飛び出していく皇太子、それを満足げに笑みを浮かべながら見送る研究員達。

 さぁ、最後の追い込みガンバルゾー!と彼らはその逞しい腕を突き上げた、その瞬間。

 

 そして、致命的な設計不具合を示す絶望のエラー音が研究室に鳴り響いた。

 

 

 妻が無事、元気な男の子。ドラゴンを産み落としたのを見届けた皇太子が、一週間後研究室に戻って見た光景は。

 真っ白に燃え尽きた研究員ドラゴン達が、完璧な設計図を仕上げ死んだように崩れ落ち爆睡している姿だった。

 そう、彼らは間に合わせたのだ。己の命と睡眠時間を丸々削る事で。

 

 

 

 

 そして、4機の可変合体式宙間戦闘機と1隻の可変合体式駆逐艦は秘密裏に辺境の宇宙基地で建造が開始され。

 予期せぬ形で、銀河にその姿を見せ活躍する事となるが。

 

 

 科学庁長官ドラゴンのポケットマネーで、ド派手な打ち上げパーティを日夜繰り広げ続ける皇太子と研究員ドラゴンにとってはまた別の話であった。

 色々と不備もあったけど、そんなわけで銀河ドラグーン帝国の科学庁は今日も多分平和です。

 

 

 

 




今回も拙作をお読みいただき、誠にありがとうございます。
なお、12月16日現在。私の知る限りにおいても合体変形戦艦はどのMODにもありませんし、作者もそんなMOD作れません。

娯楽に乏しい銀河ドラグーン帝国のアホ達が、頑張ってごり押してやらかしちゃった感じです。
酷い話だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【とある地球の未知遭遇】

本銀河の地球の立ち位置説明会。
本当はこの話で、皇太子一家が地球へ遊びに行くヨ!する予定だったのですが、思った以上に文章が膨らんだので、旅行は次回へ持ち越す事となりました‥・。

実プレイだと、ゴキ型異星人が闊歩する死の惑星になってた地球ですが、今回は書きたいネタ優先で、地球人類存命にしました。
ついでに、宇宙暦は2600年代ですが。地球の西暦は2020年とかそのぐらいの現代です。


 

 

 この銀河には幾つもの種族、そして文明が存在している。

 愉快な銀河級スペース蛮族こと銀河ドラグーン帝国に、気付いてないのは自分達だけな狂信者集団こと神聖稲荷騎士団。

 そして、存在自体が発禁処分モノと一部界隈で評判となっている淫魔管理会。更にこれらの文明以外に幾つもの文明と銀河帝国がある。

 

 これらの文明を銀河帝国たらしめているモノは何か。

 それは広大かつ有機生命体の生存を許さない、宇宙空間を不自由なく航行し星の光を超える術こと通称『FTL技術』と呼ばれるモノを獲得しているか、否かである。

 では、その技術の獲得に至っていない……『PreFTL文明』と総称される、知的生命体文明の扱いはどういう扱いか?

 

 

 分かりやすい回答例として、まずは銀河ドラグーン帝国から見たPreFTL文明から見てみよう。

 

 

「PreFTL文明? まぁ技術レベルにもよるけど戦士として見込みあるなら見守ってもいいんじゃない?」

 

「たまーに内乱で自滅しとるけど、まぁそれも自分らで選んだ闘争の果てだしの」

 

「んだんだ、もう少し分別守って殺し合えとは思うが。愚かとは思わねぇな」

 

 

 問いかけるドラゴンによって若干回答にブレこそ出るものの、凡その回答はこうなる。

 彼らの根底にあるものは、権威と闘争なのだ。故にこそ戦争に対する決定権を持つ権威者が選んだ闘争は尊重するし、その結果も彼らは嘲笑わないのである。

 

 ちなみにPreFTL文明が美少女、美女ばかりの場合。

 

 

「「「そりゃお前、自滅する前に大切に保護して育てて懐かせるに決まってるだろ。常識的に考えて」」」

 

 

 こうなる。故にこそ銀河級スペース蛮族なのだ。

 

 

 

 では視点を変え、神聖稲荷騎士団の回答を見てみよう。

 

 

「惑星間航行前文明ですか? そうですねぇ……まずは陽光様の教えを広め、導いてあげるべきだと思います」

 

「そうじゃのう、無知である事は罪にあらず。なればこそ妾らが教えを説き、誤った道へ進む前に正道を諭すのじゃ」

 

「違う神を信仰していたら? それもまた彼らの選択でしょう、そうする理由もあるでしょうしね。 陽光様の偉大さを教える事に違いはありませんが」

 

 

 稲荷によって口ぶりスタンスこそ異なるが、どこぞの銀河ドラグーン帝国に嫁入りし現皇太子妃含め、割と自文明の宗教を広めることに疑問を感じていない。

 なお、陽光様というのは稲荷達にとっての主神であり信仰対象である恒星の尊称である。

 

 ちなみに、PreFTL文明側が教稲荷達の教義や信仰を愚弄したり、信仰自体を真っ向から否定した場合どうなるかと言うと。

 

 

「? 不思議な事仰りますわね、そんな人なんて『居るわけない』じゃないですか」

 

「然り然り、そのような輩なぞ『居るわけない』。陽光様は全ての恵みの源であり、偉大な存在なのじゃからな」

 

「そうそう、そんな人種『居るわけない』ですとも。ええ」

 

「「「うふふふふふふふふふふ」」」

 

 

 こうなる、だからこそ彼女らが狂信者と言われているが無自覚だからタチが悪い。 こいつらは常識人だと思った? 残念、長年銀河ドラグーン帝国と付き合ってる程度にはこいつらも変人だ。

 余談だが、銀河ドラグーン帝国内でも恒星信仰は特に拒む理由もないのでそのまま受け入れられており、熱心なドラゴンの信者も居たりする。

 そのうち信仰を拗らせた、蛮族と狂信を混ぜ込んだ究極蛮族が産まれるかもしれないが、今すぐじゃないから特に危惧はされていない。

 

 

 

 なんだかもう酷い回答例ばかりになってきたので、最後に淫魔管理会の回答はどうなるか。

 

 

「FTL前文明にどう接するか? そんなの、すぐに啓蒙して皆一緒に仲良く気持ちよくなるのが一番じゃない」

 

「そーそー! 戦争で滅んじゃったりしたら可哀想だし、そうなる前に楽しい事教えないとね!」

 

「うんうん、人型も爬虫類型も鳥型も、みんな仲良くが一番だよー」

 

 

 前二つの文明が割と酷い回答事例だった為、一見平和な回答に見える淫魔管理会である。

 実際彼女達はPreFTL文明への啓蒙活動に銀河の中でも一際熱心であり、彼女達の助力によって銀河へ飛び出した文明も少なくはないのだ。

 

 問題が一つあるとしたら、彼女らに啓蒙された文明は総じて性的に奔放な文化を得る傾向が強いが。直ちに実害はない為放置されている。

 

 

 ならば、FTL技術を自力で獲得し立ての……巣立ったばかりの雛鳥のような文明にはどう接するか。

 関係ないとばかりに、自分達のエゴを押し通してくる。かと思いきや。

 

 

「自分らの足でしっかり立てるようになったのなら、まぁ相手の国是尊重するよ。戦争吹っ掛けてきたら思い知らせる形になるけどね」

 

「自らの信仰、信念を掲げて飛び立ったでしょうし……無理矢理教えを広めたりはしませんわ。布教はしますけどね」

 

「うんうん、自分達で宇宙へ飛び出せたのなら立派だよー。直ぐにお友達になりましょう、大丈夫痛くしないから!」

 

 

 割と、宇宙に飛び出したばかりの新参者を尊重する傾向が強いという、驚きの回答が出てくる。隠しきれてないエゴが透けて見えるのは内緒である。

 ともあれ、こんな具合にPreFTL文明と。FTL獲得したての文明では彼らに限らず、銀河全体でも大きく扱いが異なってくるのが、銀河共通の認識なのだ。

 

 

 

 ちなみに、代表回答例として抽出した三国から見て……銀河中央を挟んだ反対側にある。割と銀河の辺境に位置する地球はどういう立ち位置かと言うと。

 後一年銀河に飛び出すのが遅かったらどこぞの狂信者、ないし性的奔放文明が嬉々として啓蒙に乗り出す程度には崖っぷちギリギリセーフだったらしい。

 

 

 

 

 

【とある地球の未知遭遇】

 

 

 

 

 

 そんな今時、特撮作品や映画ですらやらないような地味な危機を気づかぬ間に乗り越えていた地球さん。

 銀河帝国としての彼らは、惑星内国家の指導者らを代表とした民主制で国家を運営する、科学技術を信奉し……人民と平等と、安定した平和を尊ぶごく一般的な国家である。

 地球に住む人民らは、いやそんなことねぇよ。とたまに声を大にして突っ込む事はあれども、とりあえずそういう事になっている。

 

 そんな地球の国家体制だが、銀河の反対側に住まう愉快なナマモノらとは国家の性質上あまり相性が良くない方向性にある。

 平和と平等さを美徳とする彼らにとって、銀河ドラグーン帝国は理解の及ばぬ蛮族で。

 更に、彼らの盟友である神聖稲荷騎士団は目に見えぬ神を至高と掲げる国家的狂信者と来たもんだから大変だ。

 淫魔管理会? 彼女らが仲良くできない文明をこの銀河で探す方が難しいから除外する。

 

 銀河全体が仲良く戦争を繰り広げていた時代なら、即日敵対宣言待ったなしな程度の相性の悪さ。だが今の銀河は全体的に安定している以上そこまで性急に事が運ぶ事はなく。

 それでも、互いの不幸にならないよう距離を置いて互いに無関心を貫く、そうなるのが本来ならば必然であった。

 そう、『本来ならば必然であった』。

 

 

 

 それは、ある晴れた昼下がり。

 かつて形骸化していた地球の国家連合をまとめあげ、かつて国連と呼ばれた組織の施設を流用した統治施設は、今日もようやく迎えた宇宙時代への希望を胸に抱えた職員らが明るい明日を信じながら働いていた。

 そしてそれは、数ある銀河帝国の一員となった地球……改め、地球国際連合の首相もまた同じで。

 

 

「漸く、木星と金星の資源採掘施設稼働の目処が立ったか」

 

「はい首相。当初は議会でも採算が取れるかどうかで紛糾したもんですが……予想をはるかに上回る資源採掘量に、議会は態度をコロリと変える有様ですよ」

 

「何時の時代も連中は変わらんなぁ」

 

「ええ、全くです」

 

 

 優雅に紅茶を啜りながら、朗らかに笑いあう白髪の目立つ壮年の地球人男性と同年齢程度の頭髪の薄い地球人男性。

 首相と呼ばれた男性はかつて、地球国際連合内のアメリカ合衆国にて前大統領を務めた辣腕政治家で、そして頭髪の薄い方は彼が最も信を置く側近であると共に親友であった。

 

 彼らは互いに大して面白くもないジョークを交え会話しながら、書類の決裁と今後のスケジュールについて話し合っていく。

 その仕事は勤め上げた大統領以上に多忙であるも、その日は幸いにして溜まった仕事に本腰を入れて取り組める程度には平穏であった。

 

 だが、平穏という物は得てして予期せぬタイミングで最悪の形で粉砕されると相場が決まっているものである。

 

 

「しゅ、首相!!」

 

「なんだね騒々しい!」

 

「まぁまぁ、余りカッカすると残り少ない毛髪も死滅するぞ? ……で、どうしたのかね?

 

「は、はい! 銀河ドラグーン帝国から通信が……!」

 

「……え? あの、銀河の反対側にあるあの軍事大国?」

 

「はい!!」

 

 

 慌ただしく駆ける足音、そして乱暴に開かれる執務室の扉。

 あまりにも突然すぎるその行為に、側近の頭髪が薄い首相の親友は額に青筋を浮かべて職員を厳しく叱責するも……緊急事態かもしれない、と気を引き締めた首相は側近を宥め。

 そんなに薄くないはず……と自らの頭髪を自覚してなかった側近が、自らの頭に手を当てているのを尻目に、職員へ優しく問いかける。

 

 そして飛び出た予想外の大国の名前に、首相思わず思考が停止。

 気を取り直し、同じ名前の新たなご近所さんかな?と一抹の願いを込めて確認するが、ダメ。

 

 首相、思わず白目を剥きそうになりつつ、大きく深呼吸。

 

 

「まぁ落ち着こう、そう落ち着こう。こういう時は紅茶を飲むのが一番だ……通信の内容は?」

 

「そ、それが内密な話だということで私共にも話してもらえず……」

 

「……待て、その口ぶりだと一方的な通信ではなく、相手は今も……?」

 

 

 職員と自身に言い聞かせながら、地味に小心者な首相は手を震わせながらカップを手に取り気持ち優雅に紅茶を啜る。

 嫌な予感を感じたらしい側近が、頭髪に手を当てたまま職員へ問いかけその質問に職員が頷いた瞬間。首相の小心者センサーはアラームを発し始め、

 

 

「……ぎ、銀河ドラグーン帝国の皇帝が。今も首相が通信に出るのを、向こうで待ってます」

 

「ぶっふぅぅぅぅぅ!?」

 

「うわっ、きたな?!」

 

 

 予想の斜め上どころか真上をすっ飛び成層圏を飛び越えていった回答に、首相思わず口に含んだ紅茶を噴き出す。かかりそうになった側近が失礼なことを言いながらとっさに回避。

 

 

「す、すぐ通信室へ向かおう!」

 

 

 慌てて口元を拭いつつ椅子を蹴倒すように首相は立ち上がり、職員とともに執務室を飛び出していき。

 回避運動のせいで、一拍遅れた側近もまた大急ぎでその後を追っていく。

 

 

 そして到着するは、様々な電子機器や観測機器が所狭しと配置された地球国際連盟の技術の粋が詰まった部屋の一つである通信室。

 その部屋の中央にある、大きな映像通信用モニタの前に首相は佇まいを直すと……通信室職員へ目線で合図を送り、通信を開く。

 

 モニタに映り出されたモノ、それは……地球人類を凌駕する巨躯を持つ、豪華絢爛な衣装と装飾に身を包んだドラゴンであった。

 地球人から見たら、余りにも衝撃的すぎるその姿に首相一瞬白目を向きかけるが、ド根性で踏み止まる。

 通信モニタ越しとはいえ、相手は資料で見た皇帝そのもの。隔絶した国力差がある相手に、無様な姿は見せられないという首相の意地が彼を奮い立たせていた。

 

 

『いやー急な通信すまんのう、執務中だったかの?』

 

 

 だがしかし、そんな首相の想いと裏腹に銀河ドラグーン帝国の皇帝めっちゃフランクでした。

 

 なお、皇帝の口の動きはあってないのに彼は地球の言語の一つである英語を流暢に喋っている。

 コレは地球国際連盟驚異の技術力……ということでは、残念ながらない。

 銀河ドラグーン帝国側が、地球国際連盟の言語を解読翻訳し、自動でリアルタイムで翻訳しているのだ。

 なお……言語を解読し翻訳したドラゴンの社会研究者は、宇宙に出たんなら言語ぐらい一つに統一しろよバカヤロー! と叫んで不貞寝したのは内緒である。

 

 

「い、いえ丁度休憩中でした」

 

『そっかー、なら良かった。宇宙に出たてで苦労しておるみたいじゃが、なんぞ困ってはおらんかの?』

 

 

 隠しきれない冷や汗を流しながらも、社交辞令を返した首相の言葉に皇帝は強面な顔に笑みを浮かべて頷き……。

 まるで、遠くからやってきた若者に手助けを申し出る親切な老人がごとき言葉を、首相へ投げかける。

 

 困惑するのは首相、ついでに相手から見えないところで聞いている側近と通信職員である。

 近場にある巣立ちたての文明ならまだ理解できるが、決して近くない銀河の反対側にある大国の皇帝が言うにはあまりにも無責任すぎる言葉だからだ。

 

 

(皇帝の狙いはなんだ? 資源……はありえない、領地としても地球は遠すぎる……もしかして、地球人そのものか?!)

 

『? 随分と顔色が悪いが大丈夫かの? 代表たるもの体調管理は大事じゃぞー』

 

「は、ははは……お気遣いなく」

 

 

 顔色悪いのはおめーのせいだよ!!と全力で叫びたい首相だったが必死にこらえる。

 自分の癇癪一発で地球人類滅亡なんてなった日には、死んでも死にきれないしそんな事で重すぎる十字架なんぞ首相は背負いたくない。誰だって背負いたくない。

 

 

『まぁ挨拶はこれぐらいにしてじゃな……少々頼みたい事があるんじゃよ』

 

(っ! そらきた!)

 

「……なんでありましょうか?」

 

 

 お前らが欲しがるものなんてねーよ!というか用意できねーよ! という内心で叫ぶ気持ちを必死に抑えつつ、生唾を飲み込みながら皇帝へ首相は問う。

 既にスーツの背中は冷や汗でぐっしょりと濡れ、不快な感触を首相へ伝えている上に気のせいか胃痛までもが首相を襲い始めている。

 

 

『いやのぅ、国交結ぶついでに。余の息子一家をそちらで旅行させてやりたくてのぅ』

 

「…………は? りょ、旅行でありますか?」

 

(ま、まさかこの皇帝……飄々とした様子で言っているが、まさか……?!)

 

 

 無理言ってすまんのー、などと朗らかにほざきつつ爆弾発言をぶち込んできた皇帝の言葉に目を見開く首相。

 首相の脳裏に閃くは……かつて地球であった第二次世界大戦、その引き金になったと言われる欧州のとある国で……某国の王族が暗殺された事件。

 

 

『そちらも宇宙に出たてで忙しい中、こんな事頼むのも心苦しいんじゃがのー』

 

「も、申し訳ありません。 私一人の一存では、そのような大事すぐに返答できかねます」

 

『む? お主が代表なんじゃろ? ならパパっと決めればよいじゃろ』

 

「わ、私共は民主主義の下政治を行っておる所存が故……!」

 

 

 辺境の地球に旅行に出かけた皇太子一家の暗殺、そして暗殺を止めれなかったことを理由にした干渉と侵略。

 一度悪い方向へ転がった首相の思考は、加速する胃痛共に最悪の方向を想定していく。

 

 それでも、必死に声を絞り出し時間稼ぎになんとか成功。

 一々意見募らんと決められないとか、やっぱ不便じゃのー。などとモニタの向こうでほざいてる皇帝に首相は半ば殺意すら感じつつ。

 皇帝の、色好い返事期待しておるでのー。という呑気な言葉と共に通信は終わった。

 

 なお、皇帝はそんな大層な事欠片も考えていない。仮にあったとしてもやる時は真正面から殴りに行く宣言と共に宣戦布告するだけである。

 

 

「……首相、とんでもないことになりましたな」

 

「……そうだな……急ぎ、議員を招集してくれ。今進めてる事案を止めてでもだ!」

 

「了解でありますよ、と」

 

 

 お通夜のような空気が広がる通信室に、側近は驚きと衝撃を超越した他人事のように呟く。

 その口ぶりを咎める、否。咎められる人物は通信室には一人としていなかった。

 皆、今の通信を夢だと結論付け。ふかふかのベッドに飛び込んで忘れたい衝動に駆られていたのだから。

 

 だがそれでも、首相にはそれすらも許されることはなく。

 首相は死んだ鯖のような目をしながら、疲れ果てた声で側近へ指示を出し、側近もまた応答するとともに通信室を出て行った。

 

 

 ここで一つ、疑問が残る。

 何故、銀河に飛び出したばかりの地球が大国とはいえ……銀河の反対側にある銀河ドラグーン帝国の存在を知っているか、である。

 地球国際連盟の諜報機関の努力? ありえない、彼らは確かに地球では最高峰の諜報員であるが、既に銀河を往く先達には及ばない。

 宇宙時代到来により進化した技術によってその情報を得た? それこそ不可能だ、彼らの技術力では今だ太陽系に隣接した星系をおぼろげにしか察知できない。

 

 では、どうして知っているか。それは……。 

 

 

「この度は難儀な事になったようで、心中お察しします」

 

「こちらこそ、我が国の問題なのに駐在大使にまでご足労頂いて本当に申し訳ない」

 

「気になさらないで下さい、我々はこのような事態の為に貴国に駐屯させて頂いているのですから」

 

「その言葉だけでも、我々は救われますとも」

 

 

 地球国際連盟内の大国代表である議員、人類が集まる中強い存在感を放つ直立するハエトリソウのような異星人。

 彼か彼女か定かでないが、ともかく彼らはシルドールと呼ばれる狂的なまでに科学技術を信奉し他者を受容する国是を持つ種族で……。

 銀河へ飛び出し宇宙帝国の一員となった地球を、PreFTL文明時代から観測所を建てて見守り続けた先達である。

 

 そして……。

 

 

「貴方方から頂いた銀河危険文明リストのトップ5の文明から、まさか通信が入るとは思っていなくて……」

 

「でしょうなぁ、正直私も通信ログを見るまでは信じ切れなかったですとも」

 

 

 現代銀河の作法もタブーも知らない地球へ、先輩からのささやかなプレゼントとして彼らが把握している銀河帝国の情報を進呈した文明だ。

 ちなみに、地球の衛星軌道上へ地球国際連盟が宇宙基地を建造し終えた瞬間、シルドール達は地球へ真っ先に大使を送ったりしている。

 無論、その地球人類から見たら奇怪としか映らないシルドール達であるが、何のかんの言って地球が銀河に飛び出して数年が過ぎた今。

 地球の一部地域を除き、シルドールは宇宙の先輩としてそれなりに敬意を持たれている。

 

 

「しかしまぁ、あのログ内容からそう警戒する必要もないでしょう。 あの帝国は攻めると決めたら、もっと簡潔に通信を送った上で艦隊を向けるでしょうから」

 

「そ、そうなのですか?」

 

 

 人間の頭を丸のみ出来そうなほどに大きい、ハエトリソウ的頭部を開いたり閉じたりしながら安心させるような口調で述べるシルドールに。

 悲壮な決意と覚悟を半ばキメていた首相は、まるで肩の荷が降りたかのように大きく安堵のため息を零す。

 

 

「ですが…………問題がないわけでも、ないですな」

 

「ど、どのような問題でしょうか?」

 

 

 え?あるの問題? と言わんばかりの首相の表情、彼らの会話を見守っていた議員らもシルドールの言葉に生唾を大きく飲み込む。

 

 

「銀河ドラグーン帝国というのは数えるのが馬鹿らしいくらい、非合理的な変わった風習を持つ銀河級蛮族なのですが……」

 

「あ、やっぱり。蛮族って認識なんだ……」

 

「しっ、黙ってろ」

 

 

 蔓のような腕部をうねうねと動かしつつ呟いたシルドールの言葉に、議員が思わず呟きそんな議員を隣に座っていたフランス代表議員が止める。

 

 

「ドラゴンの子、彼らにとっての男子が産まれて半年経ったら生誕した惑星とは異なる環境へ,共に短期間の旅行へ出るというのがあるんですな」

 

「半年? また随分と……その程度では、ろくに体も出来ておらず危険なのでは?」

 

「ああ、彼らと地球人類の成長は大きく差異があります。半年も経てば地球人類でいう5歳程度の扱いになりますな」

 

 

 生後半年の赤子を連れて、違う星への旅行に行くという不条理極まりない風習に、理解できないとばかりに議員が恐る恐る挙手しながらシルドールへ質問し。

 彼の言葉に、シルドールは発言を遮られたことを気にする事なく、疑問に応える。 ついでに疑問に応えられたドイツ代表議員は、宇宙って広いと白目を向いて呟いた。

 

 

「しかし、何故そのような風習があるのでしょうか……?」

 

「我々もそこまで詳しくは……ただ、あえて違う環境へ免疫が整ってきた子を連れて行くことで強靭な子へと育てる目的があるのでは、と我らの社会研究部は推測しております」

 

「……そして、そうやって強靭な体を持ち育ったドラゴンはやがて、銀河に名を轟かせる戦士となるですか……ゾっとしませんな」

 

 

 シルドールの言葉にひそひそと話し合う地球国際連盟の議員達。

 なお真実は、割と種族本能的に親バカになり易い父親ドラゴンが数少ない娯楽である他星へ家族旅行に出かけるというのが、慣習レベルで染みついた習性で。

 その結果違う環境に晒された幼いドラゴンが、適応し強靭になっているというだけである。

 

 

「と、少し話が逸れましたな」

 

「逸れてたのか」

 

「大使殿、割と話好きだからよく話が横道に逸れるんだよな……」

 

「何か?」

 

「「いえ何も」」

 

 

 ヒソヒソと話し合う議員達。

 そんな彼らへシルドールはくるりと振り返り、慌てて二人の議員は異口同音に首を横に振る。

 紳士的だし襲われることはないとわかっていても、シルドールのインパクトがありすぎる外見は彼らにとって若干恐怖であった。

 

 

「ともあれ、問題は今回来るという皇太子の奥方が稲荷神聖騎士団の姫君だったってところでありますな」

 

「神聖稲荷騎士団というと、あの狐耳尻尾の美少女ばかりの文明の?」

 

「ですな、彼女ら……男性もいますが便宜上こう言いますね。彼女らは狂信的な信仰を持っておりましてな……」

 

 

 直近で結婚し子供が出来た皇太子とその一家と言うとそれしかないですしな、と呟くシルドール。

 そんな彼の発言に食いつくは、去年日本代表議員として就任した若き議員だ。 ちなみに彼の前任者は、俺は淫魔と懇ろになるぞぉぉぉ! と叫んだ後宇宙のどこかへ旅立ったらしい。

 

 

「まぁその、彼女らの国とは300年ほど前でしょうか。 我が国と大戦争を繰り広げた事がありましてな」

 

「スケールが大きい話ですな……」

 

「その時の記録によると、その大戦争の切っ掛けは当時の我が国の代表者が神聖稲荷騎士団の宗教を、徹底的にこき下ろしたからだそうです」

 

「何故、そんな事を……」

 

 

 余りにもスケールが大きい年月の話に議員らは思わず遠い目になりつつ、呟く。

 ちなみに先ほどから静かな首相は、激しい胃痛を感じ側近から差し出された胃薬を飲み始めていた。

 

 

「あの頃の我が国は恥ずかしながら、今以上に科学信奉を拗らせてたそうでしてな。 存在しない神を信仰する者に未来はないとか、侮辱の通信を送ったみたいで」

 

「そ、それでどうなったのですか?」

 

「まぁ、その相手にもそれなりの痛手は与えたそうですが。最終的に我々が敗北したとのことです、当時の我が国と神聖稲荷騎士団の国力差は我が国が圧倒的に優勢だったそうですけどね」

 

「やべぇ、狂信者やべぇ……」

 

「で、でもほら。 嫁入りしたわけですし、そこまで狂的な信仰はないのでは……?」

 

 

 地球人類と接するシルドール達の紳士的態度からは想像もできない、過去のシルドールらのやらかしにどよめく会議室。

 さらに、単独で優勢と思われていたシルドールを叩きのめした、神聖稲荷騎士団の危険性を多少理解し戦々恐々と議員らは背筋に冷や汗を垂らしつつ。

 一抹の望みをかけ、一人の議員がシルドールへ問う。が。

 

 

「逆に聞きましょう、信仰の中枢である祭司長の一族の娘が。簡単に信仰を捨てると思えますか?」

 

「……思えませんなぁ」

 

 

 ハエトリソウなシルドールは、地球人類にもわかりやすいぐらいに溜息を吐くジェスチャーと共にその問いに答え。

 知ってた、とばかりに質問を投げかけた議員は乾いた笑い声を上げながら白目を剥いた。

 

 

「まぁ、そういうワケで……我々の主観的なものの見方になってしまいますが、神聖稲荷騎士団出身である皇太子の奥方への注意は最大限に払うべきかと」

 

「……なんとか理由付けて、旅行訪問断れないかなぁ」

 

 

 警戒すべきだと思っていた銀河ドラグーン帝国以外に出てきた、思わぬ伏兵に遠い目をした首相を誰が責めれようか。

 

 

「それはオススメできかねますなぁ、なので。政治的な問題や信仰的問題を誘発しない国の旅行のみに、留めるのがまぁ次善策として有力ではないでしょうか」

 

「それしかないか……」

 

「しかし、そうなるとどの国に絞る? ここはやはり、首相の祖国でもある合衆国が最適では?」

 

「い、いやソレよりもドイツの方がよろしいかと。銀河ドラグーン帝国は質実剛健な武力を尊ぶと聞きます、前大戦の史跡や博物館等を見てもらえば……」

 

「いやいやいや、それよりもロシアとかどうでしょう? 国も広いですし巨躯のドラゴンでも不自由なく観光できるのでは?」

 

 

 それなりの見返りも期待できるでしょうしね、と続けるシルドールの言葉に議員は互いに視線を交わす。

 その視線の意味は、出し抜いて自らの国へ誘致し祖国の利益を少しでも他者より多く受容しようとぎらついていた……なんてことはなく。

 むしろ、必死に互いに着火済み導火線のついた爆弾を投げ合うかのように、他国へ文字通りぶん投げようとする悪足掻きを示していた。

 

 

 そして、火のついた爆弾を投げ合うチキンレース式ボール投げは。

 

 

「こ、ここは日本とかどうでしょうか!? かの国は包括的な信仰を持ちつつ先進的な技術や文化、おもてなしの精神を持っております!」

 

「おお!それもそうだな!」

 

「うんうん、日本なら安心だ!」

 

「なぁぁぁぁ?!」

 

 

 このままでは皇太子一家をおもてなしする羽目になりそうになっていた、中国代表議員がとっさにボールを投げた先。

 ソレは、この宇宙時代にも地味に小足を繰り出し合うような牽制を互いにしあっている、日本であった。

 

 投げられたボールは、ひっそりと息を潜め気配をニンジャのように隠そうとしていた日本代表議員に直撃。

 とっさに日本代表議員が返そうとするも、時すでに遅く。

 日本がホストとして、皇太子一家を責任をもっておもてなしするという事で、会議の流れは終結した。

 

 思わず首相へ視線で助ける日本代表議員。

 助けを求められた首相、その懇願するかのような視線を真正面から受け止めると。

 

 

「今回の歓待で必要な予算、及び資材は地球国際連盟名義で全て負担する。 すまないが……地球の未来を、頼む」

 

 

 とてもたのもしい死刑宣告を告げるのであった。

 

 

 

 

 

 一方そのころ銀河ドラグーン帝国宮殿の一室にて。

 

 

「ちちうえーちちうえー! ちきゅーって、どんなところー?」

 

「うーんそうだねぇ、とても楽しい本や映像作品が一杯ある星だよー」

 

「あらあら、貴方ったら」

 

 

 皇帝から、新型機開発達成の褒美として与えられる、地球への旅行へ和気藹々と放す皇太子一家が居た。

 皇太子の長男は、父親である皇太子よりはるかに小さく。小柄な母親が両手で抱えられる程度の大きさであるも……たどたどしくはあるが、しっかりと受け答えをしており。

 そんな親子を、母親である皇太子妃はとても微笑ましそうにニコニコと笑みを浮かべて見守っている。

 

 

 

 銀河の反対側にある地球では現在進行形で大惨事というか紛糾中であるものの。

 銀河ドラグーン帝国の皇太子一家は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 





皇太子妃「なんか酷く失礼ですわねぇ。敵対してない文明の信仰まで目くじら立てませんのに」

だけど、真正面から信仰否定されたり侮辱されたら、幼竜な長男がなく程度に怖い貌をする皇太子妃であった。
 

そんなわけで、第4話お送りさせて頂きました。
多分今回の話で一番被害被ったのは、前任が雲隠れした上に無茶ぶりされた日本代表議員さん。
彼はきっと、どこぞの淫魔管理会の宇宙基地で淫魔とニャンニャンしてる前任者探し出してぶん殴っても許される。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【とある帝国の地球訪問】

うーん………。
書きたいネタだったが、いざ文章にすると凄い難しい、いずれ書き直すかリベンジしたいです。

1/27 誤字、及び作中作の名前をそのものずばりから、それっぽい別物に変えました。


 

 

 

 『遠く離れた銀河帝国の皇太子一家が地球を来訪する』というニュースは、程なくして地球国際連盟首相からの発表により地球全土を嵐のように駆け抜けた。

 既にそこそこ見慣れてきた、等身大ハエトリソウ植物人なシルドールとはまた大きく違う巨躯のドラゴンという来訪予定者のその姿。

 そして、聞き慣れない名前……銀河ドラグーン帝国、という国家の存在は世界全体の報道攻勢の過熱化を引き起こす。

 

 正式に政府筋へ取材を行い、どのような人種でどのような国家なのか。と適切な報道をする報道局も勿論存在した。

 しかしそれ以上に、無責任に騒ぎ立て。実際にドラゴンや稲荷と対話したことのない無責任な事象専門家らの論調が、正論を押し流していき……。

 中には、違法に宇宙海賊から仕入れた銀河ドラグーン帝国のハーレム文化や宇宙蛮族っぷりを面白おかしく報道する局までもが現れ始めた辺りで。

 

 

 地球国際連盟の首相、ちょっとコレ放置するとパパラッチ起因で地球滅亡するんじゃね? と今更初手の発表で大失敗したことに気付いた。

 

 

「と、言うわけでどうしよう。諸君」

 

「いっそ、直前まで秘密裏に動くべきだったかもしれませんなぁ。ドラゴンの巨躯は隠せないですけども、無責任な報道内容が彼らの逆鱗に触れない保証ないですし」

 

「逆鱗……果たして銀河ドラグーン帝国のドラゴンに、伝承にあるような生物学的な逆鱗ってあるんですかねぇ」

 

「確かに気になるが今は置いておこう、取り急ぎやりすぎた報道局へ圧力と規制をかけるべきでは?」

 

 

 銀河ドラグーン帝国皇帝からの通信から一か月後、さらに頬がこけゲッソリとした首相が途方にくれた様子で議員へ案を求めていた。

 なお、もう一週間後には皇太子一家は地球へ旅行しに来るという時期である。

 

 

「ソレしかないか……しかし、彼らがおとなしくするだろうか?」

 

「まぁ大半は反発してやらかすでしょうなぁ」

 

「地球の滅亡の危機かもしれんというのに、何が彼らを突き動かすというのだ……」

 

「報道の自由と権利とやらでは? その自由と権利で自分らの首をすっとばしては意味がないと思うがね」

 

 

 喧々囂々と話し合う議員達、彼らも大なり小なり報道機関には苦しめられある事ない事を書きたてられた経験から、誰もがここぞとばかりに報道機関への恨み言を呟いている。

 その中で、割と強権をふるっている中国代表とロシア代表は、面倒なら二度と喋れないようにすればよい。という旨を言い出すが、さすがにそれはまずいと人道的見地からそのプランは廃止される。

 

 

「幸い、旅行先は全てホストに一任する。と皇太子が言ってるそうですから、徹底的に情報封鎖したうえで検問しようと思います」

 

「しかし日本、そうすると君のところの野党が黙ってはいないんじゃないかね?」

 

 

 腹を括った表情をした日本代表議員が切り出し、その彼ららしくない強気な態度に思わず振り返る他国の議員達。

 そんな彼の言葉に、遠距離から某ロシア人プロレスラーへ遠距離攻撃を繰り出し続ける逆毛のアメリカ軍人じみた牽制をし続けてきた、中国代表は思わず彼の国事情からそんなことを問いかける。

 

 

「まぁ十中八九与党への攻撃材料にするでしょうけども、我々の国のせいで地球滅亡なんていう十字架背負いたくないですよ」

 

「それもそうだな……」

 

 

 自分だけが死ぬならともかく、他者どころでもない、地球全土の危機の引き金なんざ引きたくないという日本人の民族根性が滲み出る回答に、思わず他国の議員らも神妙な顔で頷く。

 

 

「こちらの工作員をそちらに派遣しよう、日本のマスメディアや野党の対応が得意な連中がいる」

 

「それは助かります……ってちょっと待て、今なんて言った?」

 

 

 百戦錬磨の中国産狸爺痛恨の失言、どうやら彼も地味に焦っていたらしい。

 そんな中国議員と日本議員のやり取りを尻目に首相は遠い目をして虚空を、そしてその先にあるであろう宇宙を見上げていた。

 これもう、ダメかもわからんね。って思って。

 

 

 そんな具合に地球の政治事情がゴタつきながらも時は流れ、地球にとっては永遠に来てほしくなかった皇太子一家の来訪日。

 首相は痛む胃を、側近は増えた抜け毛を想い頭をそれぞれ抑えながら宇宙基地の、サロンにて刻一刻と迫る銀河ドラグーン帝国の『艦隊』を待つ。

 そう『艦隊』である。

 

 地味にでもなんでもなく、自らの子や孫に惜しみない愛情を注ぐ親バカな皇帝。

 彼は息子であり最も信頼を寄せている、実績に裏付けされた実力を持つ実子の提督とその艦隊を、皇太子一家の送迎の為に動員したのである。

 なお当の便利に送迎に使われた提督は、二つ返事で引き受けたらしい。相変わらず妙なところで軽い一族だ。

 

 

「首相、どうやら銀河ドラグーン帝国の艦隊が太陽系にジャンプアウトし、こちらの地球基地へ接弦の為に向かっているそうです」

 

「とうとう来ちゃったかぁ……アレ、気のせいかもしれないけど。なんか縮尺おかしくない? シルドールの戦艦よりはるかに大きい戦艦が一隻映像に見えるんだけどさ」

 

「なんでも、タイタン級という。この銀河でも所持、運用できる帝国が非常に限られている超巨大戦艦だとのことです」

 

「うわぁい、粗相一発即滅亡が現実的になってきたぞぉ」

 

 

 側近の言葉に胃を痛めつつ白目を向いて、どこかに夢の国へ旅立つための扉ないかなぁ。なんて本格的な現実逃避を始め虚ろに笑う首相を誰が責めれようか。

 側近もまた、自らの頭に手を触れてみれば……ハラリハラリと大事な長い友達が抜けていくのを実感している。

 

 サロンに備え付けられたモニタに映像が浮かび、そこに表示されているのは宇宙時代開始時に見学させてもらった、シルドールの艦隊をはるかに上回る規模の大艦隊。

 その艦隊は、タイタン級宇宙戦艦を中央に配置しその両翼を固めるように、ドレッドノート級がそれぞれ1隻の合計2隻が配置されていて。

 その周囲を取り囲むように、夥しい数の駆逐艦が4機の宙間戦闘機を連結搭載した状態で宇宙を飛んでいた。

 

 

「何あの艦隊、主力艦隊動かして地球滅ぼしにきたの?」

 

「落ち着いてください首相、タイタン級はともかくとしてもシルドールから受け取った銀河ドラグーン帝国の主力艦隊よりかなり規模が小さいです」

 

「数を大幅に減らしてあの規模かよ」

 

 

 白目を向いて呟く提督、すかさず訂正を入れる側近。

 その内容から推察できる、相手のバカバカしいほどまでに強大な軍事力に初老の男性とは思えないほどに乱暴に吐き捨てる首相。彼を誰が責めれようか。

 

 

「ああでも、かつて昔存在したらしいコロッサス級は所持してないようですよ?」

 

「なんだねその、名前から聞くに嫌な予感しかしない艦種は」

 

「惑星を木っ端みじんに吹っ飛ばす、巨大プラットフォームじみた兵器らしいです」

 

「あったとしても持ってこられてたまるか、そんなもん……!!」

 

 

 不幸中の幸いですな、と虚ろな目でワッハッハと笑う側近の脇腹を肘で強めに小突きつつ、血を吐くような呻き声を出す首相。

 

 

「ついでにトドメのご報告が」

 

「なんだね、もう私お腹いっぱいなんだけど」

 

「なんでも、宇宙海賊に援助を受けていたらしい……来訪予定だった皇太子一家を襲撃する計画を立てていた地球出身の過激派団体を、あの艦隊が捕獲したとのことです」

 

「……何その阿呆の集団、何するつもりだったの?」

 

「どうやら、途中の宙域に潜んで皇太子一家を襲撃して地球の意地を見せるつもりだったとか、向こうからの拷問報告書で上がっておりますな」

 

「……君に首相の任授けるから、私逃げていい?」

 

 

 ダメです、逃がしませんぞーっと笑いながらガッシと首相の肩を掴む側近。

 その力は思いの外強く首相には振りほどく事はできず、それでも悪足掻きで逃げ出そうと離せー! と叫びながら首相はもがく。

 そんな彼を、側近は今もはらりはらりと残った髪の毛を落としながら、笑顔のままがっしり捕獲。国家の首脳とは思えない酷い光景であった。

 

 しかしそんな事をしてる間にも、銀河ドラグーン帝国の旅行護衛艦隊は地球の宇宙基地へと接舷。

 首相と側近は、宇宙ってこんなに蒼くて綺麗だったんだなぁ。などと宇宙ステーションの窓から覗く光景に心を癒されつつ、職員や議員らと共に……。

 貨物の搬入出用ゲートの前で、ずらりと並ぶ。

 通常の人種向けのゲートでは、皇太子妃や皇太子の子である皇孫は通れても件の皇太子や提督が通れないための措置であった。 

 

 

 なお余談であるが、人間の形すら保っておらずも生命活動は続いていた、元過激派だった肉塊は別口で地球国際連盟の宇宙基地の警備部門へ引き渡された。

 その余りにも情け容赦のない所業に、PTSDを発症した人員もいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

【とある帝国の地球訪問】

 

 

 

 

 

 そんな具合に地球の重鎮の胃壁を削っていた愉快な来訪者こと、銀河ドラグーン帝国は……。

 当初こそ色んな意味で激しい衝撃を与えていたものだが。

 

 

「こちらが、わが国でも長い歴史を誇る神宮となっております」

 

「ナルホド トテモ オモムキブカイ デスネ」

 

 

 皇太子一家を案内する、日本政府の案内役の言葉に片言の日本語を話しながら頷く皇太子がそこにいた。

 その隣では、全長1mちょいほどのコロコロした体型の皇太子子息を抱き抱えた皇太子妃が微笑みながら、そっと寄り添っている。

 

 その周囲には様々な人種の、国籍豊かな地球特殊部隊ドリームチームによる警戒線が張られているのはご愛敬である。

 一番気の毒なのは、観光してたら予想外な状況に巻き込まれた一般市民なのは言うまでもない。

  

 

「ジシンモ オオイカンキョウト キキマス ソレラヘノソナエモ ジュウブンノ ヨウデスネ」

 

「ええ、昔からの知恵と伝統の賜物です……しかし皇太子殿。日本語がお上手ですね?」

 

「ニホンノ エイゾウサクヒンデ ベンキョウ シマシタ」

 

 

 当初はなんとか中へはいってもらおうと計画していた日本政府であったが、神宮を一目見た皇太子は自分が入ると逆に迷惑かかるなと判断。

 片言の日本語で案内役に外から見える範囲での案内を提案し、今もこうやって案内される形となったのであった。

 ちなみに皇太子妃は少し残念に思いつつも、宇宙に出たばかりの文明にも配慮する伴侶の姿に惚れ直していた。 意外とチョロい嫁である。

 

 ついでに、自国の文化財への配慮をしてくれた皇太子への日本側からの好感度も上がっていた。 実にチョロい。

 

 

「へぇ、どのような作品ですか?」

 

「ソウデスネ ガールズ アンド タンク トカデ ベンキョウシマシタ」

 

 

 皇太子の映像作品という言葉に驚き、同時に自国の文化が遠い宇宙の異星人にも受け入れられている事に喜ぶ日本政府の案内人。

 そして、笑顔の皇太子が口にした作品の名前に笑顔のまま凍り付いた。

 

 日本政府の案内人は、日本が海外へ誇る大手アニメスタジオの作品や映画作品だとばかり思っていたところに、傑作だと評判とはいえ美少女アニメが出てきたことに一瞬思考停止。

 ついでに皇太子は、固まった案内役の様子に首を傾げ。

 その会話が聞こえていた、野次馬の一般市民は携帯でSNSに拡散していた。

 

 余談だが、皇太子子息は退屈そうに皇太子妃に抱き抱えられたまま大きく欠伸をしている。

 

 

「そ、そうですか……」

 

「ニホンノ エイゾウサクヒン スゴイデス ガンドゥム トカ ハジメテミタトキハ オドロキマシタ」

 

「……ガンドゥム作品も見られたのですか。 ちなみにどのシリーズが一番お好きで?」

 

「ワタシハ ショダイ デスネ」

 

「……私もです」

 

 

 吹き出た汗をハンカチで拭いつつ、案内役は案内任務を再開……しようとしつつ、皇太子の言葉に目を光らせる案内役。

 彼もまた隠れオタクで、そして一歩間違うと大惨事になりかねない質問を皇太子へ問いかけ……。

 皇太子の言葉に、渋い顔をし続けていた案内役満面の笑みを浮かべ、皇太子の手に比べとても小さな右手を差し出し。

 皇太子もまた、彼の仕草にそっと右手の大きな人差し指を差し出して、握手をした。

 

 今ここ、遠い異国の地において本来ならば交わる事などなかった二人の友情が産まれたのである。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 マスメディアへの牽制や混乱を避けるため、行先をぎりぎりまで伏せつつの皇太子一家の日本旅行は自転車操業でありながらも無事続き。

 最終日となったその日の事、皇太子が行き先について我儘を述べる。

 ソレは…………。

 

 

「ココガ スベテガツドウマチ アキバ デスネ!」

 

 

 オタクと、それ以外も普通に集う街秋葉原への訪問である。

 当然揉めた、そりゃもう揉めた。

 どのぐらい揉めたかというと、そこそこ仲良くなっていた日本政府の案内役が全力で声を大にして止めたぐらい揉めた。

 

 しかし皇太子もまた、黙っていない。

 自分自身が行使できる最大限の権限を最大限持ち出し、交渉を続ける。

 その結果……。

 

 そろそろ開催が近づいてきた、銀河ドラグーン帝国を含めた光明協定の記念式典に案内役と彼が選ぶ人員を皇太子の名において賓客として招待する、というところで決着がついた。

 後日、この件に関して地球国際連盟の首相と側近がそろって胃壁に穴を開けたのは言うまでもない。

 

 

 それはさておき。

 

 

「皇太子ー! あなたでかいんだから、程々にしてくださいよー!?」

 

「ワカッテマスヨ」

 

 

 拡声器片手に皇太子へ大声を張り上げる案内役、彼の姿に何も知らない特殊部隊人員は何やってんだあのバカと焦り。

 彼の苦労を知っている特殊部隊人員は、今日も彼頑張ってるなぁ。なんて優しい目で見守っている。

 

 ついでに、秋葉原の街を行く一般市民は総じて携帯を皇太子一家へ向けて無遠慮に写真を撮影し……特殊部隊人員に、問答無用で止められている。

 控えめに言って大騒動であった。

 

 

「で、何が欲しいんですか?」

 

「ガールズアンドタンク ノ シュジンコウタチノ ゲンテイフィギュア」

 

「貴方、もう隠そうともしてねぇな!?」

 

 

 赤裸々に恥ずかしそうにしつつ欲しいものをぶっちゃけた皇太子に、案内役全力で突っ込む。

 決して長くない期間であったが、オタクトークは二人の仲を急速に深めていた。 趣味の合う仲間を見つけたオタクは割と早く仲良くなるものである。

 

 ちなみに、もはやそんな二人から置いてけぼり気味な皇太子妃と皇太子子息が何をやっているかであるが……。

 彼女達は彼女達で、鼻歌交じりに雑多な街並みを皇太子の傍らで眺めては楽しんでいた。

 

 

『ねーねーははうえー!』

 

『どうしたの? 坊や』

 

『なんであの女の人、あんな恰好してるのー?』

 

『……さぁ? なんででしょうね』

 

 

 目をキラキラしてはしゃぎながら、割と露出多めなコスプレ姿でゲームショップの呼び込みをしていた店員について母親に尋ねる皇太子氏億。

 尋ねられた母親は、若干教育に良い街ではないですわねぇ。などと思いつつ目を逸らして答えをはぐらかせていた。

 

 ちなみにそんな皇太子妃と、抱き抱えられるサイズの皇太子子息のペアは見物人からは一等人気の被写体となっていた。

 皇太子? ちょっと離れれば見咎められることなく全体図を撮影できるので、割と後回しにされている様子。

 

 そんな具合にワイワイやってれば、当然見物人はさらに増え……増えた見物人は思わしくない連中を引き寄せるのが道理で。

 

 

「お、皇太子。この店にあったみたいです、入手も出来ましたよ!」

 

「スバラシイ! クンショウモノ デス」

 

「ソレ、軍事大国の皇太子としてどうなんですか?」

 

 

 案内役が、ショップ店員と話し合い入手した限定フィギュアが詰まった袋を抱えて皇太子へ見せ、皇太子が破顔一笑大はしゃぎしたその時である。

 

 

「おらどきな役人!」

 

「銀河ドラグーン帝国の皇太子さまですね? 私国営放送の……!」

 

 

 人ごみをかき分け、特殊部隊人員の網を潜り抜けやってきたTV局のスタッフ達が、案内役を突き飛ばし現れたのは。

 

 皇太子の目の前、倒れ込み袋を手放した案内役の目の前、少し離れた位置で様子を見守っていた皇太子妃と皇太子子息。ついでに見物人と特殊部隊員。

 彼らの目の前で、限定フィギュアが詰まった袋がスローモーションさながらに落下。

 

 案内役の脳裏に、限定フィギュア粉砕によって地球滅亡という未来が一瞬のうちに生々しく思い描かれる。

 

 

『アレ壊れたら旦那様悲しみそうですわねぇ。困ったお人ですわ』

 

 

 そして地面に叩きつけられる寸前で、左腕で息子を抱き抱えながら皇太子妃がその右腕を袋へ伸ばし。

 神聖稲荷騎士団の中でも一際強い、祭司長の血族ならではの強力な念力でその袋の落下をふわりと止めた。

 

 

『……はぁぁぁぁぁ……ありがとう我が君、アレ落ちて壊れたら凄く悲しかった』

 

『はしゃぐのも結構ですけど、あまり醜態を晒さないで下さいね? また叔父上様に嗤われちゃいますわよ?』

 

『う゛っ、肝に銘じます』

 

 

 目の前で繰り広げられた超能力による光景に、割り込んできたスタッフらが固まってる中皇太子妃はそっと皇太子へ一言、その言葉に我を失い楽しみすぎていた皇太子は反省。

 妻が超能力で止めていた袋をそっと、潰さないように掴むと倒れたままの案内役へ指を差し伸べる。

 

 

「ダイジョウブ デスカ?」

 

「あ、ああいえ……申し訳ありません皇太子殿、警備が不十分だったようで……」

 

「ナニヲシテモ クセモノハ デルモノデスヨ」

 

 

 我を取り戻したTV局のスタッフらが喚くのを気に留めることなく、二人和気藹々と話し続け。

 業を煮やしたアナウンサーが、再度二人の間に強引に割り込もうとする。次の瞬間。

 

 

「ソレグライニ シテオキナサイ」

 

 

 相手にするのもバカバカしいとばかりにアナウンサーを一瞥し、片言な日本語で警告を発する。

 それならば、と皇太子妃へカメラとマイクをTV局スタッフは向けようとするも、それより先に皇太子は手を皇太子妃と子息へ差し伸べ。

 限定フィギュアを持った手を、反対側の腕で大事な家族を抱え込む。

 

 

「アア ゴアンシンヲ コンナレイギシラズノセイデ ユウコウ ガ クズレタリハシナイデスヨ」

 

「皇太子殿の寛大な心に、深く感謝を……」

 

「キミトボクノ ナカジャナイデスカ」

 

 

 宇宙の蛮族や、薄汚い宇宙トカゲなどと喚くスタッフらが特殊部隊員らに引っ立てられていくのを横目に見つつ。

 顔面蒼白の案内役を安心させるかのように、皇太子はその強面な顔でにこやかに微笑み。

 その言葉に、萎縮しきった案内役の様子に困りつつも苦笑いする皇太子なのであった。

 

 

 ちなみに、この一連の流れを目の前で見る羽目となった……フィギュアショップの店員は後にこう友人に愚痴ったらしい。

 俺の目の前で地球滅亡の危機が始まり、そしてひっそりと解決した。と。

 

 

 

 

 

 

 後日、問題の行動を起こしたTV局の行為が見物客らからのSNS発信によって拡散。

 洒落にならない行為と言動を繰り返したとして、相応の処罰がスタッフと彼らを擁していた局に下されたとかなんとか。

 

 

 

 割と考えなしだった皇太子のせいで、危ういところまで行きかけたけども。

 機転の利いた皇太子妃も居たおかげで、地球はなんとか平和なようです。




【悲報】地球滅亡のお知らせ【おのれマスゴミ】
こんな速報スレが立ったとか立たなかったとか。

なお、本作において特定国家や個人、企業団体を貶める意図は一切ございません事を改めて明記させて頂きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。