苦労人戦記 (Mk-Ⅳ)
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プロローグ

始めましての方は始めまして、Mk-Ⅳと申します。
他の作品で知っている方は、本作も目を通して頂きありがとうございます。

本作は書籍、漫画、アニメの設定や描写が混ざっていますが、寛大な心で深くツッコまないで頂けると幸いです。


合衆国軍統合技術研究本部――合衆国の最新技術の研究を行う機関が納められた建物内に設けられた『特別派遣魔導技術部』――と表記された室内で。マフィアと見られそうな凄みを帯びた鋭い眼光をしており、黒髪のショートヘアの碧眼の軍服を纏った、20代中盤と見られる男性が椅子に腰かけ。側にあるテーブルに置かれたラジオから流れる放送に耳を傾けていた。

名はトウガ・オルフェス。特別派遣魔導技術部ー―通称『特派』所属の航空魔導士で階級は中尉である。また、合衆国人の父と極東にある秋津島皇国人の母を持つハーフでもある。

 

『ライン戦線において帝国軍は依然後退を続けており、専門家からは帝国にこれ以上の戦争継続は困難であろうとの意見が多く出ております――』

 

ラジオからは欧州で繰り広げられている、帝国とフランソワ共和国との戦争に関するニュースが流れており。戦局は共和国優勢であり、帝国の敗北で終結するであろうと分析する声が専門家らの討論が繰り広げられていた。

だが、それを聞いていたトウガの表情は疑念の色を浮かべていた。

そんな中、ドアがノックされたので、トウガは入室を促す。

 

「お~い、そろそろ演習の時間だぞぉ」

 

部屋に入ってきたショートカットの金髪碧眼の男性が、トウガに気さくに話しかける。ロイド・フレッド――トウガと同年代の特派所属の主任技師である。

特派は、従来とは異なる新機構を搭載した、次世代の演算宝珠を開発するために設立され。ロイドはその天才的頭脳を見込まれ、若くして主任に抜擢されたのだ。

また、トウガとは幼馴染であり、互いに気心知れた仲でもある。

彼はトウガの側まで歩み寄ると、テーブルに広げられていた地図を覗き込む。

 

「そんなに信じられないのか?帝国が負けるってのが」

「俺の見立てでは、共和国相手なら後数年戦えるだけの余力がある筈なのだ。それをこうも戦線を下げるとはな…」

 

そういってトウガがロイドに向けていた視線をテーブルに戻すと、ライン地方の地図の上に赤と青の駒が対峙するように置かれていた。

そして、赤い駒――帝国側は西部工業地帯ギリギリまで後退しており。もし、帝国の工業力の要であるこの地を失陥すれば、かの国に戦う力は残されないことになる。

 

「帝国が餌をぶら下げているようにしか見えんのだよ」

 

だからこそ共和国にとっては最高級の料理にしか見えず、それを食べて下さいと言わんばかりに見せつけられれば、喰らいつこうとするのは必然であった。

 

「罠だと?」

「ああ、共和国の連中が喰いついたら、一網打尽にする腹積もりなのだろう」

 

トウガが共和国を示す青い駒の1つを指で弾くと、もう一つの駒とぶつかり共に弾け飛ぶ。

 

「そして、首都パリースィイを占領後、残存戦力を殲滅あるいは降伏させてこの戦争はおしまいだ」

 

赤い駒を共和国首都のある場所に置くトウガ。それを顎に手を添えて興味深そうに見ていたロイドが、ほほぅと感嘆の声を漏らす。

 

「そうなると俺らの派遣もなくなるか」

 

テーブルに腰かけ、笑みを浮かべるロイド。

合衆国では共和国側に立ち欧州の戦争に介入すべきとの声もあるも、民衆の大半は否定的であり、表立っては中立の立場を取っている。

だが、万が一帝国が勝利し、欧州に覇権国家が誕生することを恐れた大統領ら介入推進派は、志願者で構成された義勇兵の派兵を計画しているのだ。

その中には実戦データ収集という名目で、特派も含まれているのである。だが、共和国が敗北し終戦となればその機会を失うこととなるのだ。

 

「大変結構なことだ。軍人は働かないことこそがベストなのだからな」

 

軍隊とは存在することで抑止力となり、その力を行使することなかれ、というのがトウガの自論なのである。

 

「ま、俺としては帝国が開発した新型を見たかったがねぇ」

 

情報部が得た情報では、帝国が特派で開発中の新型と同等の性能を誇る宝珠の開発に成功し、実戦に投入しているとのことで。ロイドとしては非常に興味を惹かれる内容であった。

 

「見たければ1人で行ってこい。その間俺は羽を伸ばさせてもらう」

「別にそこまでして見たくはねぇよ。俺がここにいるのはお前の夢(・・・・)を叶えるためだからな」

 

それに、俺も戦争は嫌いだからな、と付け加える友の言葉に。トウガは表情は変えないも、口元に僅かに笑みを浮かべる。

 

「では、夢のために働くとしようか」

「あいよ」

 

トウガが椅子から立ち上がると、部屋から出て更衣室に向かい、軍服から黒色の身体に密着するタイプのアンダーウェアへ着える。

そして、格納庫へ通じるドアを開けると。作業中の多数の整備兵が動き回っており、邪魔にならないよう配慮しながら進んでいくと。ハンガーに固定された白色に塗装された鎧のような物体が見えてくる。

これこそ特派で開発中の新型宝珠であり。関係者からは『ネクスト』と呼ばれ、『魔力を持たない者でも術式の行使を可能とすること』をコンセプトとしている。

電力を魔力に変換可能な新型のジェネレーターを搭載することで、魔導士の最大の欠点である、先天性に依存した絶対数の少なさを解消することができ、安定した戦力の供給が将来的に可能となる。

現状では魔力への変換効率が十分ではないため、攻撃と機動力に魔力の多くを割かねばならず。防御面の補助として、全身を装甲で覆うため、従来のものと比較して装置全体が大型化しまっているのが難点である。

 

「装甲を前より軽くしたのに合わせて、色々いじったから気をつけろよ」

「了解だ」

 

一足先に到着していたロイドの忠告に答えながら、トウガは主を迎え入れる様に装甲を開放していた相棒に、背中を預けるようにして乗り込む。すると装甲が閉じ全身が装甲に包まれ、空気を抜く音と共に最初から身体の一部だったかの様な一体感を感じる。

同時にシステムが立ち上がり、異常がないことと、ロイドら整備班が離れるのをを確認し。傍らに懸架されていた専用のライフルを右手で保持すると装甲を固定していたアームが外される。

ライフルに異常がないことを確認し、格納庫の出口へと歩みを進めていく。

 

『管制へ、こちらパイオニア1。出撃準備完了』

『こちら管制。パイオニア1へ離陸を許可する』

 

通信機で管制とのやり取りを終えると。飛行術式を起動させて体を浮かび上がらせ、宝珠の出力を少しずつ上げてゆっくりと上昇させていき。出力が安定したのを確認し、大空へと飛翔するのであった。

 

 

 

 

合衆国内にある演習場――その上空を、中隊規模の航空魔導部隊が逆V字陣形で飛翔していた。

彼らは合衆国軍戦技教導隊所属であり、合衆国軍の精鋭の中の精鋭と言える実力者達である。

 

『アグレッサー1より各員。そろそろ指定空域だ、気を引き締めろよ!』

 

中隊長の言葉にそれぞれ答える部下達。その誰もが緊張を孕んだ表情をしており、熟練者揃いの彼らでも緊張状態に置かれる事態が起きることを示唆していた。

そんな中でも最後尾にいる若い魔導士は、どこか余裕が感じられる――というより周りの者達の反応を不思議そうに見ていた。彼は着任したばかりの新任であり、今回の演習の内容を説明されても先任者らが実戦さながらにまで緊張している理由が思いつかなかった。

 

『アグレッサー11、何で皆さんこんなに緊張しているんですかね?相手はたったの1人ですよ?』

 

彼は斜め前を跳ぶ先任に通信を繋ぐ。作戦行動中に私語は厳禁だが、どうしても聞いておきたかったのである。

そう今回の演習相手は魔導士とはいえ1人、大してこちらは中隊最大数である12人。勝負にすらならない戦力差であったのだ。

 

『その1人を俺達は何度も相手にして、1度も白星を挙げたことがないんだよアグレッサー12。だから皆今回こそはって意気こんでんのさ、無論俺もな』

『…そんなに凄いんですか新型の宝珠は?』

 

世界最高と言われる合衆国、その精鋭たる彼らがそれほどまでに苦汁を味あわされていることに、彼は驚愕する。演習の恒常化を防ぐためとのことで、彼にだけは演習相手の詳細が伏せられているのである。

 

『接敵すれば嫌でも分かるアグレッサー12。来るぞ!』

 

バレないように通信していたつもりだったが、ベテランの中隊長にはお見通しだったらしい。

お叱りを受けると同時に、上空から大規模の魔力反応を感知した。

 

『ブレイク!ブレイク!避けろ!』

 

中隊長の指示に従い僚機らが散開するのに、無意識に合わせて回避軌道を取ると。先程まで自分達がいた空間を、上空か飛来した眩いばかりの閃光が箒線上に横切っていった。

 

『光学術式!?』

 

光学術式――魔力を電磁波に変換して用いる術式で、収束させて熱線として放出することで相手にダメージを与えることができるが、これ程高出力なものを見るのは初めてのことであった。

 

『敵機捕捉!高度一万二千!』

『一万二千!?』

 

僚機からの報告に絶句する。魔導士の実用限界高度は六千とされており、仮にそこまで上昇したとしても低温からの保護や酸素の生成に多大な魔力を消費し、戦闘能力が大きく低下してしまう。その限界高度を超過しているにもかかわらずこれだけの火力を発揮するなど夢を見ていると言われても不思議ではなかった。

 

『うわ!?』

 

だが、至近距離に迫った光学術式によって気流が乱れて態勢が崩され、防殻で防ぎしれない熱量が肌を焼く痛みでこれが現実だと否応なしに叩きつけられる。

 

『アグレッサー5と8がやられた!?クソッたれ、前より威力が上がってやがる!』

 

態勢を慌てて立て直している間に、僚機から怒号と共に状況が伝えられる。眼下には被弾して戦闘不能と判断された5と8が高度を下げているのが見えた。

 

『総員上昇だ!高度八千で応戦せよ!』

 

今度は中隊長のから出された指示に度肝を抜かされる。そんな高度まで上昇して戦闘行動を行えば、自力での帰還は不可能になってしまう。

 

『下にいる他の隊が拾ってくれる!行くぞ!』

 

躊躇う12に11が叫ぶと上昇していく。そういえば、演習の補助役として他の中隊が参加していたがこういうことだったのかと納得すると、11の後を追って上昇を開始する。

高度が上がるにつれ順応する度にみるみる魔力を消費していき、更に次々と降り注ぐ光学術式を幻影(デコイ)を混ぜて回避せねばならず体力、集中力までもが削られていく。その間にも新たに2人が被弾し撃墜判定を受ける。

 

『あれが、ターゲット…!?』

 

遂に視界に捉えた演習相手――ネクストを纏ったトウガの、従来とは一線を画す姿に思わず目を見開く。その背部から伸びたチューブが接続された2本の大型のライフルの、横に伸びたグリップを持ち、左右の脇でそれぞれ挟むようにして保持しており。その銃口から、先程から自分達に襲い掛かってくる光学術式が放たれている。

 

『今度こそ勝たせてももらうぞ中尉!』

 

中隊長が発砲するのに合わせて統制射撃を開始した。

 

 

 

 

迫りくる狙撃術式をトウガは左右に体を振りながら回避していく。

想定ではこの段階で最低でも半数は落としておきたかったが、流石に最高練度を持つ彼ら相手では難しかったようだ。

反撃として、両手にそれぞれ保持している最新型ライフル『V.S.B.R.(ヴェスバー)』を放とうとするも。こちらの退路を確実に潰してくる相手の統制射撃に狙いを絞る余裕がなくなり、僅かの隙を見つけて発砲するも、難なく回避されてしまう。

 

『流石に手馴れているな』

 

宝珠の性能ではネクストが圧倒的だが、何度も演習を繰り返しているため対策が練られてしまっていた。

 

『ッ!』

 

遂に回避が間に合わず右肩部に被弾する。幸い掠れただけだが、このままでは直撃弾を貰うのも時間の問題だろう。

とはいえここまでの展開は既に『当たり前』となっている。高高度からの射撃で片が付いたのは初回のみで、その後は近接戦闘を挑まねばならない――つまり相手の土俵まで引き摺り下ろされるのが常となっていた。

 

『往くぞ、ネクスト!』

 

命を預ける相棒(宝珠)に語りかけ、V.S.B.R.を背部に格納すると。腰部に懸架されていた従来の魔導士用ライフルより小型のライフル――新型ライフルを右手に持ち、左前腕部に装備された小型のシールドに防殻術式を展開させ正面に構えながら宝珠の出力を上げ相手目がけて降下を開始した。

 

 

 

 

『突っ込んでくるぞ!弾幕を張れェ!』

 

中隊長の指示に合わせ、突撃してくるターゲットを火力を集中させて阻止しようとするも。防殻に全て阻まれてしまう。

 

『クッ早い!?』

 

重力に従っているとはいえ戦闘機と遜色ない速度を出すとは、つくづく航空魔導士の常識を破ってくれる新型だ、と心の中で悪態つきながらも、アグレッサー12は手を止めることなく引き金を引くが、やはり防殻に弾かれてしまう。

こちらが既に疲弊しているとはいえ、あれだけの速度が出ていれば、1発でも直撃すれば撃墜判定の筈だが、防御面でも規格外らしい。

お返しと言わんばかりに、新たに手にしたライフルから光学術式が放たれたので、回避行動に入るも――術式は彼らの眼前で爆発した。

 

『爆裂術式!?』

 

光学術式だったのに、本来は魔導士専用の実弾に魔力を込めて使用される爆裂術式を使用するとは、最早なんでもありではないか。

爆炎によって視界が遮られ攻撃の手が緩むと、数人のターゲットが爆炎を突き抜けて姿を現したっため、すぐに迎撃のすると、直撃したが全て幻のように掻き消え――その内の1体の背後に隠れていたターゲットは幻影が被弾するのと同時にバレルロールで回避すると突撃してきた。

 

『なッ!』

 

精巧に作られた幻影の反応に紛れられたため、反応が遅れた隙に肉薄してきたターゲットはライフルを発砲。瞬く間に3人が撃墜されてしまった。

 

『このッ!』

 

2人の僚機が銃剣に魔力を付加し左右から近接戦闘を挑んだ。

対するターゲットは右手のライフルを腰部に戻し、代わりに腰部左のアーマーに懸架されている2つあるの懐中電灯に似た形状の物を1つを手にすると、魔力で生成された刃と左腕の防殻で、振るわれた魔力刃をそれぞれ受け止める。

 

『もらったァッ!』

 

完全に動きが止まったターゲットの無防備な背中目がけて、銃剣突撃を敢行する。

すると、ターゲットの背部にあるライフルが独立して稼働し、銃口がこちらに向けられたではないか!

 

『――ッ!』

 

それをみた瞬間無理やり失速させ倒れ込むような態勢で高度を下げる。強烈なGがかかるも歯を食いしばって態勢を立て直すと、背部のライフルから放たれた機関銃の如き光学術式が先程いた空間に殺到していた。

調整することなく射撃モードを変更し、尚且つトリガーを引かずに発射可能とは驚くのも馬鹿馬鹿しくなる程新技術が盛り込まれている。

そして、左右から抑え込んでいた僚機を力づくで弾くと、その場で一回転しそれぞれの胴体を一閃し撃墜判定が出る。これで残るは3人となった。

 

『怯むな攻めろ!』

 

中隊長が発破をかけながら射撃し、それに続いてトリガーを引くも、ターゲットは幻影も用いて悠々と回避していく。

予測進路上に誘導系の空間爆破術式を仕込むも、初期照準を察知しているのかこれすら難なく回避されてしまう。

宝珠の馬鹿げた性能もさることながら、それを使用している魔導士の技量も、少なくとも教導隊と同等のものであった。

 

『そこだ!!』

 

軌道を見切って放たれた狙撃術式が、ターゲット背部の左側ライフルに直撃し火花を散らした。

 

 

 

 

「(直撃されたか!)」

 

被弾したのを認識すると、即座に左側V.S.B.Rをパージすると同時に爆発を起こし、その衝撃で態勢が崩れる。

 

『よくやったアグレッサー12!畳みかけるぞ!!』

 

急き態勢を直すも、この期を逃すまいと猛攻をかけられ、撃墜判定にはならないもいくつか被弾してしまう。

出力の関係で、防殻はサブジェネレーターを搭載した左腕にしか展開できないのは、やはり耐久面で不安が残るものだ。

それにしても被弾させたのは新しく着任した者か、若くして教導隊に選ばれただけあって、見事な技量であると心の中で称賛の声を送るトウガ。

 

『だが、負けてやるつもりはない』

 

幻影を最大出力で展開し撹乱すると、近場の雲の中へ身を隠す。

相手は深追いすることなく警戒しながら様子を見ており、緊張感が限界まで達するのを見計らうと、ライフルを右側へと投げる。

雲から出たライフルに反応した相手の内の1人が、反射的に発砲し破壊すると、意識が逸れた隙を突き腰部左側に懸架している魔力剣を右手に持ち突貫する。

雲を突き破ると、ライフルを破壊した者に生成した刃を突き立て撃墜判定とすると、近場にいた中隊長に斬りかかった。

 

 

 

 

陽動に引っかかった隙にまた1人撃墜され、遂に中隊長と自分だけが残った。単騎相手に中隊が壊滅状態とは悪夢としか言いようがなかった。

 

『まだだァ!!』

 

中隊長が銃剣で魔力刃と打ち合うも出力の違いから押されていく。援護しようにも。射線上に中隊長が入るように位置取りされてしまっていて発砲することができない。ならばと自分も銃剣を構え斬り込む。

 

『オオオオ!』

 

裂帛の気合と共に斬撃を放つも、左手でもう一つの懐中電灯状の物を手にすると、魔力刃を発生させ受け止められる。

何度か斬り結ぶが、2人がかりでも出力差で押され、銃剣を弾かれて無防備となった胴体に蹴りを入れられて弾き飛ばされる。

 

『クッ!?』

 

態勢を立て直していると、その間に両手の魔力刃を合わせ長大な1本の刃に変化させ、中隊長に向け横薙ぎに振るう。

中隊長は銃剣に流す魔力を上げて受け止めるが。拮抗したのは一瞬だけで、ターゲットの魔力刃は銃剣を紙のように両断し、そのまま中隊長を斬りつけ撃墜判定が出る。

 

『コノォォォォオオオオ!!』

 

せめてもの抵抗としてライフルを構え狙撃術式を連射するも、ターゲットは再び分割させた魔力刃で斬り払いながら接近してくる。

そして、何発も撃つとトリガーを引いても弾が出なくなった。

 

『弾切れッ!』

 

それを見計らったように、ターゲットが地面を蹴るように軽く上昇しながら横回転して突撃してくると、引いていた右脚が振り抜かれ、防殻を突き抜け咄嗟に受け止めたライフルをへし折りその衝撃で吹き飛ばされる。

激しく揺さぶられる視界の中、投擲された魔力刃が迫って来るのが見え、胴体に直撃すると撃墜判定が出されるのであった。

 

 

 

 

演習を終えた帰投するトウガ。ネクストをハンガーに固定し解除すると、ロイドが出迎えてくれる。

 

「よう、お疲れさん。今回の感想は?」

「耐久面で不安は残るが、ようやく実戦に出せるレベルになったな。最もその機会がいつになるか分からんがな」

 

開発許可こそ出ているものの、その内容に懐疑的な意見が多く、資金が十分に出ておらず開発は難航していたのだった。

 

「ま、ないなら無いが一番だけどな」

「そうだな」

 

そんな話をしていると、整備士の1人が慌てた様子で格納庫に入って来た。

 

「大変だ!帝国がライン戦線を突破して、共和国の首都に進軍を開始したってよ!」

 

その言葉に格納庫内が騒然となる。

 

「それは本当か?」

「あ、中尉。ラジオではそのように…」

 

トウガの問いに歯切れ悪く答える。どうやら確定した情報ではないらしい。

一先ずロイドと共にラジオのある休憩室に向かうと、ラジオの周りには人だかりができていた。

 

『急報です!ライン戦線で後退を続けていた筈の帝国軍が、共和国軍を破り首都のパリースィイへ進軍を開始したとの情報が入りました!まだ詳細は不明ですが、現地では前線から巨大な爆炎が上がり、離れていたにも関わらず立っていられない程の激しい地面の揺れが起こったとの情報も…』

 

ニュースキャスターが情報を伝えているも、余程現地が混乱しているのか情報が不十分で困惑した様子が伝わってくる。

 

「これでこの戦争も終わりか…。お前さんの予想通りになったな」

 

ロイドが感心したように肩を軽く叩いてくる。

 

「そうあってほしいがな…」

 

だが、何故かトウガの心には、言い知れぬ不安を感じてしまっていたのだった。



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第一話

「綺麗だな」

「ああ」

 

トウガの呟きに、柵に両肘を乗せて寄りかかるロイドが同意する。

彼らの眼前には、雲一つない晴れ晴れとした空模様と大海原が広がっており、降り注ぐ太陽光が海面に反射しキラキラと宝石のように輝いていた。

2人が現在いるのは、合衆国所属の連合王国本土行きの輸送船であった。

 

「まさか、戦争が続くとはなぁ…」

 

どうしてこうなったと言わんばかりに項垂れるロイド。

ライン戦線にて共和国主力を撃破した帝国は、首都を占領することに成功した。だが、残存していた共和国軍は抵抗の意思を消さず、態勢を立て直すために南方大陸の植民地へ逃れようとした。

それに対して帝国は――何もしなかった。投降を勧告することはおろか、追撃する素振りすらせず逃れていく残党の背を見送ったのである。

 

「どうやら帝国の参謀方は勝利の仕方は知っていても、使い方(・・・)については無知らしい」

 

腕を組んで海原を眺めながら語るトウガの目は冷ややかであった。まるでこの場にいない者達を無能と罵りたいかのようであった。

聞いた話では、帝国の参謀将校らは終戦に向けた交渉すらする前に、こぞって酒宴を設けていたと言うではないか。トウガからしてみれば、何故そのような考えに至ったのか理解に苦しんだ。彼らは自ら捨てたのだ、勝利という最高の形で戦争を終わらせられる機会を永遠に。

 

「おかげで俺らも戦争に参加だ。やってらんねぇぜ」

 

深く溜息をつくロイド。帝国の犯した過ちの結果、逃れた共和国残党に協商連合残党も加わり、彼らは『自由共和国』を名乗り祖国を取り戻すため帝国に宣戦を布告した。帝国のこれ以上の拡大を恐れた連合王国上層部は、この動きに同調して対帝国戦への参加を決意、その準備に入る。

そしてトウガとロイドの祖国合衆国は、友好国である連合王国の要請を受け。以前より行っていたレンドリース等の物資の支援だけでなく、義勇兵の派遣も決定し、特派も実戦データの収集として予定通り参加することとなった。

 

「まぁ、これ以上は何を言ってもどうにもならん。やれることをやるだけだ」

「だな。んじゃ俺はネクストの整備してるわ」

 

そういって船内に戻っていくロイド。新機軸の技術を多数導入しているネクストは、最近になってどうにか実戦に耐えられる状態となったが、未だ不安定な面が多く細かな調整が必要であった。

本来なら実戦に投入するのはまだ先の筈だったのだが、とある理由で予定より早められることとなったのだ。

 

「『ラインの悪魔』か」

 

1人となったトウガはある単語を漏らした。それは帝国のとあるネームドの異名であった。その存在が確認されたのは共和国との先端が開いた初期のライン戦線からであり、単騎で精鋭の航空魔導中隊を壊滅させる等の驚異的戦果を挙げ。確認されて僅かな帰還で五機撃墜すればエースと呼ばれる航空魔導士の世界で、撃墜スコア六十を叩きだし、いつしか帝国の武力の象徴として敵対国家を恐れさせた。

そして、そのラインの悪魔率いる航空魔導部隊によって、協商連合と共和国は甚大な被害を受け。対帝国戦への参加を決めた連合王国は、航空魔導戦力を抑えれば帝国の力を大きく削げると考え、合衆国に義勇兵は航空魔導士を中心として編成するよう要請してきた。

それを受けた合衆国軍部は、対ラインの悪魔用の戦力として、トウガとネクストの早期の投入を決定したのであった。

 

「(連合王国より提供された資料では、ラインの悪魔は年端のいかない幼子であったが…)」

 

そう、ラインの悪魔として畏怖の念を抱かれているのは、10代になったばかりと見られる幼女であったのだ。

映像でその姿を見た時は何かの冗談かと信じたかったが、合衆国に亡命してきた協商連合の軍人でラインの悪魔を目撃した者と話した際、彼はこう言っていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは幼女の皮を被った化け物だ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怯えきった表情で話す彼を見て、それが真実だと確信したトウガ。それと同時にあんな幼子が戦争に駆り出されている現実の無常さに虚しさも感じていた。

 

「やはり戦争等するものではないな」

 

陰鬱になった気分を間際らわせるため、適当にデッキをぶらつくこうと決めるトウガ。なんとなく船の進行方向に合わせて歩くと、少しして船首に辿り着くと不意に足を止めた。

視線の先には本来は長いのであろう後ろ髪を団子状に纏めた金髪の女性がおり、その身は協商連合の軍服で包まれていた。彼女はトウガに気づいた様子はなく、船の侵攻方向を向いジッと立っていた。

日輪照らされたその姿は、まるで神話や伝承に出てくる聖女のような神々しさがあり、彼女のいる船首はまるで聖域のように見えて近づくのが躊躇われた。

 

「……」

 

引き返すべきかと考えていると、突風が吹いたので被っている軍帽が飛ばされないよう抑える。

 

「あ!」

 

だが、船首にいた女性は間に合わず軍帽が飛ばされてしまう。

 

「よっと」

 

風向きがトウガの正面からだったため、軍帽がこちらに向かって飛んでいき頭上を越えようとしたので手を伸ばして掴む。

視線を女性に戻すと、軍帽を追いかけようとこちらを向いており視線が合わさる。よく見ればラインの悪魔程ではないが幼さが残る顔立ちをしており、少女と言って差し支えない年齢だと見受けられた。虫も殺せないと言われても不思議でない雰囲気を纏い、協会で祈りを捧げているのが良く似合いそうであり、軍服を纏っているので酷く不釣り合いに見えてしまう。

 

「……」

 

そのことに驚愕と困惑で固まっていると、少女の視線が自分も手にある軍帽に向けられる。

 

「あの、ありがとうございます」

「ああ、海は突風が良く吹く、気をつけた方がいい」

 

少女に声をかけられハッと、現実に戻されたトウガは、少女に歩み寄り軍帽を手渡す。

 

「私、自由協商連合第一魔導連隊所属、メアリー・スー訓練生です」

「特別派遣魔導技術部所属、トウガ・オルフェス魔導中尉だ」

 

たどたどしい口調で名乗りながら、これまたたどたどしい動作で敬礼する少女――メアリーにトウガも返答する。

自由協商連合魔導連隊――協商連合から亡命してきた者達からの、志願者で構成された義勇兵の中核である魔導部隊のことである。

とはいえ。その構成員の大半はついこの間まで民間人として過ごしていた素人であり、彼女もその1人なのだろう。そんな彼女らの訓練は連合王国に到着してから行われるので、メアリーの未熟な動作も仕方のないことであった。

 

「……」

「あの、何か」

 

思わずまじましとメアリーの顔を見ていると、彼女は不思議そうに首を傾げる。

 

「いや、すまない。その失礼なことを聞くが、だいぶ若く見えるが君はいくつになる?」

「今年で15になりました」

 

15歳――それは義勇兵として参加できる最低年齢ではないか。魔導士になれるのは先天的に素質を持ったものだけなので、必要数を確保するため他の兵科より兵役可能年齢が低くされているのだ。

 

「…なぜ志願を?その年齢ならやれることはいくらでもあるだろうに」

 

年齢制限に関しては止むを得ない措置であって、大人の誰もが決して若い世代に戦争してほしいという訳ではなかった。

 

「志願した時にも良く言われました。でも、私にしかできないことで、お世話になっている合衆国の人達に恩返ししたかったんです。それに、私の力が少しでも早く戦争を終わらせることに役立てられれば、父みたいに犠牲になる人を減らせるかもと思って…」

「父君は軍人だったのかい?」

「はい、航空魔導士でした。でも、半月程前に帝国との戦いで…」

 

そう言って悲しそうに俯くメアリー。その両の手は強く握りしめられて震えていた。

 

「母君は反対されたのではないかね?」

「…凄く反対していました。合衆国でお世話になっていた祖母もです」

「…まさか、家出同然で志願したのか?」

「…はい」

 

俯いたまま弱弱しく答えるメアリーに、思わず天を仰ぐトウガ。できることなら、今すぐにでも親御さんの元に投げ返したい気分だった。

 

「なんと親不孝な…。夫殿を亡くされたばかりで、傷心されているだろう母君の側にいてあげるのが、君のすべきことだったのではないのかね?」

「それは、悪いことをしたと思っています。帰ったらちゃんと謝らろうって…」

 

腕を組んで強めの口調で言い聞かせるように語るトウガに、申し訳なさそうに俯くメアリー。

とは言っても、今更引き返すことなどできはしないことも事実なので。大きく深呼吸して心を落ち着かせるトウガ。

 

「すまないきつく言い過ぎた。君の言っていることも間違いではない、力を持つ者の義務――ノブレスオブリージュという考え方もあるからな」

「それ、父も同じことを言っていました。『魔導士は限られた者にしかなれない、そして自分にはその資格があった。だから国を、愛する人達を守れる軍人になった』って」

 

どこか懐かしさそうに胸に手を当てるメアリー。父親の言葉を噛みしめているのかもしれない。

 

「良き父君だな。軍人の鏡だ」

「はい、自慢の父です」

 

父親を褒められたのが余程嬉しいのか、花の咲いたような笑みを浮かべるメアリー。心から父を愛しているのだろう。

 

「ならばそんな父君を悲しませないよう。そして、ご家族に謝れるよう生き残らないとな」

 

彼女の肩に手を置いて言い聞かせるように語るトウガ。未来ある若ものが、大人の犯した罪で死んでほしくなかった。

 

「はい!」

 

それにメアリーは力強く答えるのであった。



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第二話

『連合王国臣民の皆様、私は、ここにお伝え致します。帝国が、あの恐るべき軍事国家が今や我らにその鋭鋒(えいほう)を向ける日を迎えてしまっていることを』

 

トウガら義勇兵が連合王国本土に到着して2ヶ月程が過ぎた。

その間王国の精鋭魔導士部隊との演習や、ネクストの調整をしつつ情勢を伺う日々を過ごしていた。

欧州の戦乱は、帝国が自由共和国が展開する南方大陸へ侵攻し泥沼の戦いを繰り広げていた。そして、統一歴1925年11月1日――遂に連合王国は帝国との戦端を開く準備が整ったとして、首相チャーブルが全国民に向けてその旨宣言がなされていた。

 

『さて、紳士淑女諸君、それでは我々の最悪の時代に乾杯しましょう。そして、願わくば我らが子孫に言わせたいものではありませんか。その時代こそが、帝国にとって最良の時代だった、と。そして今、永久の祖国が味わう最悪の時代に乾杯!』

 

至る所から歓声が響く。それをトウガとロイドは、彼ら特派に貸し与えられた兵舎の一室で聞いていた。

 

「始まったな」

「ああ、もう後には戻れん。勝つまで突き進むまでだ。俺達もな」

 

椅子の背もたれを前にしてそこに肘を乗せて座り、演説を聞いていたロイドが神妙な顔つきで語り掛けると。壁に背を預けて寄りかかって立っていたトウガも同じ表情で答える。

賽は投げられた。国家総動員戦という、どちらかの国が完全に壊れる(・・・)まで行われる殺し合う、人類が今まで経験のしたことのなかった未曾有の戦火に飛び込むのだ。生きて帰れる保証などどこにもなかった。

 

「頼むから死んでくれるなよ?お前がいないと退屈でしょうがねぇからな」

「そちらもな。前線に出ないとはいえ、戦場では何が起きるか分からんのだからな」

 

互いに誓い合うように拳を突き合わせる両者。彼らの『夢』はまだ始まったばかりなのだ、こんな所で終わるつもりは毛頭なかった。

そうしていると、部屋のドアがノックされる。トウガが入室を促すと、1人も男性が入って来る。

 

「2人ともいるな」

「ドレイク中佐、ご足労頂き恐縮です」

 

敬礼する男性に対し、トウガとロイドは姿勢を正して返礼する。

男性の名はサー・アイザック・ダスティン・ドレイク。海兵魔導部隊の指揮官で、演習等を通じて親しくなった中でもある。魔導師としての能力の高さのほか、経験豊かな野戦将校として信頼できる人物だ。

 

「首相の演説は聞いてもらえただろうか?」

「ハッ、我々の出番も近いようですな」

「ああ、と言ってもラインの悪魔の動き次第になるがな」

 

彼はライン戦線末期にラインの悪魔率いる部隊と交戦しており、その脅威を肌で感じ取った人物でもあった。

そのため彼の部隊は対ラインの悪魔対応を最優先で行うこととなっており、特派は彼の指揮する部隊と行動を共にすることになっている。

とはいえ、現在ラインの悪魔とその部隊は、南方大陸に配置されていることが確認されているので、当面は予備戦力として後方待機となりそうではあるが。

 

「ご期待に添えるよう努力致します」

「それにしても、あのネクストと言う宝珠は凄いものだな。我が隊にも是非とも欲しいものだ」

 

羨むように語るドレイク。多くの部下を預かる身としては、質の良い装備を求めるのは当然と言えるだろう。

 

「残念ながらアレは試作型で量産性は考慮していないので。1つ作るのに、貴国の最新型30機分はかかるのでオススメしませんね」

 

どれだけ優れた性能を持とうとも、単独で行えることには限度がある。それよりも均一な戦力を複数揃え有機的に運用するのがベストなのだ。結局の所戦いは数が多いほうが勝つものである。

 

「そもそも機密の塊ですからね。他国に輸出できるようになるまでどれだけかかるか…」

「私が現役の間までには無理そうだな。まぁ、こればかりは仕方ないか」

 

ふぅ、と息を吐くドレイク、本気で残念そうに見えた。

 

「それ程ラインの悪魔の部隊はやっかいなので?」

「ああ、中隊と軽く当たっただけだが。ラインの悪魔は当然ながら、末端に至るまでネームドクラスときたもんだ。それが1つの生物であるかのように襲い掛かってくるなど、悪夢以外の何物でもないな」

 

ラインの悪魔の部隊の規模はおおよそ増強大隊48人。確かに相手取る側からしたら脅威としか言えなかった。

 

「それでも敵である以上叩くまでですな。自分がラインの悪魔を撃墜すれば、どうとでもなるでしょう」

「ハハハ、頼もしいな、貴官には期待しているよトウガ中尉。君ならあの悪魔も討ち取れるだろう」

 

期待の籠った目しながらトウガの肩に手を置くドレイク。それは、演習で彼の実力を確かめた故のものであった。

 

 

 

 

連合王国本土に来て早半年になろうとする中、メアリーは他の訓練生と共に鍛錬に明け暮れた日々を過ごしていた。

厳しい選抜試験を乗り越えて、無事航空魔導士としての訓練が新たに始まり、四苦八苦しながらも本日の過程を終えて帰投する。

 

「あ~終わった終わった」

「腹減った~」

 

着陸して格納庫へ向けて歩いていく同僚が、教官に聞こえないように注意しながら、思い思いに雑談する。軍属となったとは言え、年齢層が若い者が多いこともあって、スクールライフの感覚が抜けきっていなかった。

 

「早くシャワー浴びた~い。ね、メアリー」

「うん、そうだね」

 

それはメアリーもであり、訓練は厳しいが充実した気分を味わっていた。

 

「あれ、あれって何だ?」

 

1人の同僚が空を見上げて何かに気づいたように声を上げた。

その視線を追うと、1つの人影が空を駆けていた。術式で視力を強化してみると、それは全身を白色の鎧のような者で覆っており、重厚そうな見た目に反して縦横無尽に宙を舞っている。

 

「共和国の魔導士かな?」

「でも、なんか違くないか?」

 

共和国の魔導士の装備は、騎士鎧に通ずるデザインをしてるのが特徴であった。

だが、空を舞っているのは似てはいるも、まるでSF小説なんかに出てきそうな未来感を感じさせる姿をしていた。

 

「綺麗…。それに楽しそう」

 

その飛び方を見ていたメアリーは人知れず呟いていた。自分達の幼稚な飛行とは比べ物にならない程洗礼された飛行をしており、まるで野原を駆け回る子供のように自在に飛んでいた。

他の者達も感嘆の声を上げていた。

 

「あ、戻ってきた」

 

飛んでいた魔導士はゆっくりと高度を落とし始め、自分達とは少し離れた格納庫の前に、慣れた様子で難なく着地すると、兜に当たる部分に手を添えて外すとその素顔が晒され、見知った顔に思わずあ、とメアリーの口から漏れた。

 

「オルフェス中尉…」

「何メアリーあの人のこと知ってるの?」

「うん、こっちに来る時に乗った船で知り合って」

「いいな~!めっちゃカッコイイじゃん!」

 

整備士と見られる人達と何やら話し合っているトウガを、女性組が興奮気味で見ている。

メアリーには良くは分からないが、言われてみると彼の顔立ちは整っているのだろう。

 

「ねぇねぇその後は?」

「その後?」

「あの人と会ったりしてるのかって話よ!」

「いや、ないけど…」

 

そう答えると、ええ~やらもったいないやら友人らが騒ぐが。訓練で忙しかったし、そもそもただの訓令生が理由もなく会えるとは思えないが、彼女らは何を期待しているのメアリーには分からなかった。

 

 

 

 

飛行試験中に一度帰投しロイドと整備士らと検証していると、訓練を終えて撤収しようとしている訓練生を見かけ、その中にメアリーがいることに気がつくトウガ。

 

「……」

 

彼女と目が合うも、私的に異性と関わる経験をしたことがないのでどうすべきか迷うも、とりあえずぎこちなくだが、軽く手を振ってみると向こうも同じように返してくれた。すると、周りにいた女性訓練生から黄色い声とやらが上がった。

そして、ロイドが驚愕に染まった顔でガンガンと腕の装甲を叩いてくる。というか整備士達も同じ顔をこちらを見ている。

 

「何だ?」

「いや、何だ?じゃねぇよ!?何、あの仲良さそうな娘は!」

 

謎の興奮をしている相棒に、メアリーと知り合った経緯を説明するトウガ。

 

「やだ、お前も隅におけないじゃないの!そういうのは早く言いなさいよ、もう!」

「何で嬉しそうなのだ?」

 

おばさん臭い口調と仕草をしながら、肘で脇の装甲を小突いてくるロイド。正直気色悪い。

 

「別に対して親しくもないが。偶然知り合っただけだからな。というよりそんなに驚くな」

「女っ気とは別次元に生きていたお前が、さっきのやり取りをしていただでも奇跡なんだよ馬鹿野郎!」

 

とりあえず馬鹿にされていることは理解できたので、拳を握り締めて熱く語る馬鹿を蹴り飛ばすトウガであった。



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第三話

統一歴1926年3月17日

トウガとロイドは兵舎の一室にて、テーブルに広げられた地図をそれぞれ困惑の色が混じった表情で眺めていた。

 

「連邦が帝国に宣戦布告したのは間違いないのだな?」

「ああ、確定情報が来た。2日前に戦端が開かれたそうだ」

 

統一歴1926年3月15日――帝国北東部に位置する列強『ルーシー連邦』が帝国に侵攻を開始したのである。新たなる対帝国戦への参加者に連合王国を中心とした連合諸国は――困惑した。

元々帝国と連邦は不可侵条約を結んでおり、これまでの戦役を完全に傍観する構えを見せていたにも関わらず、突如帝国に襲い掛かったのである。その理由が不明過ぎて各国は反応に困ってしまっているのである。

 

「にしても連中どうゆうつもりだ?共和国を見殺しにしておいて、今更帝国と戦り合い始めるなんざ?」

 

ロイドも理由を探ろうと思考するも、一向に思い当たるものがなかった。

帝国と先端を開くのなら、ライン戦線で共和国と死闘を繰り広げている時に襲い掛かれば良いものを、今更になってからの合理性が皆無なのだ。

 

見殺しにしたから(・・・・・・・・)、だろうな」

「見殺しにしたからだと?」

「うむ。まず、連邦は権力闘争の果てに『恐怖』の上に成り立っている国家だ」

「ああ、暇があれば粛正やってるなあいつら」

 

共産主義と言うイデオロギーに染まった連邦は、その理想をい実現しようとした結果。政府の一部の人間が富を独占し、その富を巡って政府内で血を血で洗う闘争が繰り広げられていた。

 

「その結果、連邦政府内には常に『自分の寝首が掻かれるかもしれない』という疑心暗鬼が渦巻いているのだろう。そして、それは対外政策に対しても当てはまる」

「ふむ。つまり『周辺の国家が、自分達を危険視して襲い掛かってくるのでは?』とビビってる訳か」

「特に近年は軍部の者を大量に粛正したために、防衛機構が機能不全を起こしているから尚更だろうな。そして連邦にとって最も脅威となる国家はどこだと思う?」

「お隣の帝国だな。だから不可侵結んでたんだろ」

 

連邦の近隣諸国の中で、最も優れた軍事力を持つのが帝国であった。

 

「そうだ。連邦にとって、帝国は恐怖の象徴と言っても過言ではなかろうな。その帝国が自分達と同じ列強の共和国を蹴り飛ばした。そして次に連合王国とも交戦状態に入った訳だが、もしも帝国が連合王国までも打ち倒したら、欧州で帝国に立ち向かえるのは連邦のみとなる」

 

地図上の帝国を示す駒を手にすると、連合王国本土にある駒を弾きながら置くトウガ。

 

「そこまで考えて、帝国が不可侵を守るのか?自分達に牙を剥かない保証はあるのか?強大となった帝国に立ち向かえるのか?と、いった疑問が積み重なった結果が今回の宣戦布告に繋がったのだろうよ」

「うん?つまり、なんだ。連邦の奴ら帝国と戦うのが怖くて共和国を見捨てて、その結果帝国と単独で戦う可能性が出てきたから怖くなって『やられる前にやれ』理論で今更喧嘩売ったってのか!?」

 

そんな馬鹿な、と言いたそうな顔でトウガに視線を向けるロイド。余りにも馬鹿馬鹿しい、それこそ子供のような理屈で連邦が戦争を起こしたことが信じられなかった。

 

「俺にはそれしか理由が思い当たらんな。最早連邦は我々とは世界を見る『目』が違うのだろうな」

「…お前の説が正しいとすると、連邦は帝国を根絶やしにするまで止まらんってことになるが?」

「ああ、人類が文明を得てから行われてきた利益を求めての戦争ではなく、互いの生存をかけた『殲滅戦争』とでも呼ぶべき原始的なものとなるだろうな」

「怖いねぇ。こんなのと最悪やりあうことになるのかね?」

 

資本主義を掲げる合衆国は、共産主義という相反する主義を掲げる連邦を最大の仮想敵国としており、将来的に軍事的衝突が起きる可能性を危惧していた。

 

「たら、ればの話をしても詮無きことだ。今は目の前の(帝国)に集中しよう。それで連邦の首都が襲撃された件だが」

「それも間違いないようだ。開戦早々に、例のラインの悪魔率いる部隊がモスコーを空襲したらしい。政府機関は軒並み破壊され、あちこちに帝国の旗が突き立てられたって話もある」

 

顎に手を添えて思案するトウガ。状況から考えて魔導士部隊が行うべきは前線部隊の支援だが、首都へ突撃するとは上層部が指示を出したのか、現場指揮官の提案なのかは不明だが。いずれにせよ恐るべき豪胆さと言わざるを得なかった。

 

「動きが早いな、連中予め潜っていたな」

「開戦前から越境していたってのか?」

「連邦が動員の兆しを見せて仕込んでいたのだろうな」

 

国境から首都までの距離と襲撃までの時間を考慮すると、その可能性が濃厚であった。

 

「そのことから考えるに、隠密性重視の軽装備であっただろうにこの戦果だ。やはり恐ろしいまでに高度に練成されているな」

「仮にだが、連合王国首都に同じことを仕掛けられた場合は?」

「対処は難しいだろうな。現状本土の対空網は足の遅い爆撃機を想定したものだからな。魔導士なら帝国との前線になる南部にある陣地を容易に迂回可能だ。まあ、できる対策なんて警戒網の増強と直掩の魔導士を配備するくらいだろうな」

「そうすると、他が手薄にならねぇか?」

「そこを突かれる可能性は否定できんな。奴らの存在事態がある種の(デコイ)となる訳だ」

 

拠点攻防において、基本的に襲撃する側は仕掛けるタイミングを自由に選べるの有利とされている。更に拠点が複数ある場合は、防衛側は戦力を分散させなければならないのである。

そこに帝国は、驚異的な戦果を誇るラインの悪魔とその部隊をチラつかせることで、こちらは嫌がおうにも注意向けなければならず、そこから生まれる隙を突くことも可能となっていた。

 

「これ以上ない程有効な嫌がらせだな。これまでの行動を見ても常識外のことを仕掛けてくるから厄介極まりないな」

「逆に言えば始末できれば帝国の手札を大幅に減らせる。リスクが大きい程リターンも大きいものさ」

 

辟易した様子のロイドに対して、トウガは口元に笑みを浮かべる。

 

「相変わらず恐れ知らずで頼もしいよ。期待してるぜ兄弟」

「任せろ、俺達が作り上げたネクストが負けることはない」

 

互いの絆を確かめ合うように、拳を合わせそれぞれ笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

「…嫌な天気だな」

 

連邦の宣戦布告から1月程過ぎたある日、トウガは特派にあてがわれた格納庫の入り口に立ち、雲行きの怪しい空を見上げていた。

連合王国と帝国は、ドードーバード海峡を挟んだ航空戦が繰り広げていた。

連合王国が陸戦戦力を増強し、欧州大陸へ乗り込んでくる前に帝国は決着を着けるべく本土への侵攻したいも、海軍力では逆立ちしても連合王国には敵わない。

そのため航空戦力による制空権を確保し、戦局を有利に運びたい帝国と、それを阻止したい連合王国の空戦戦力が激しくぶつかり合っていた。

 

「(これでは索敵に支障が出てしまう…)」

 

雲量が多く雨も降り始めている影響で航空監視網に穴ができやすく、攻勢をかけている帝国からすればまたとない機会であった。最も友軍同士の通信にも障害が出るのため襲撃する側のリスクも大きく、大人しくしている可能性も高いが。どうにも嫌な予感が拭えなかった。

 

「にしても、せっかく獲物が来たってのにお留守番とは、何をしに来たのかねぇ俺ら」

 

そんなトウガの気を紛らわせようとしてか、ネクストの整備をしていたロイドが愚痴りだした。

実は連邦首都襲撃から少しして、ドードーバード海峡での戦域にラインの悪魔率いる部隊の出現が確認されていたのである。当然対応部隊指揮官であるドレイクが出撃を上層部に要請するも、却下されてしまう。

 

「連合王国側の懸念も理解できる。仕方のないことだ」

 

首都の防空網の整備が完了していないため、連邦と同じ醜態を晒したくない上層部の意向で、対応部隊は首都の防衛に貼り付けられ、必然的に特派も待機を余儀なくされているのである。

トウガとしては同じカードを安易に切ってくるとは思っていないも、連合王国の戦略に口を出せる権限はなく、ラインの悪魔が襲撃してくる可能性がゼロでない以上無駄とは言えないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を遮らんばかりにサイレンがけたたましく鳴り響いた。

 

「ッ!敵襲か!」

 

サイレンを耳にすると同時に、衣服を脱ぎ棄て着こんでいたウェアのみとなると、ネクストへと駆け寄る。

 

「ぁあ!?本当か!間違いないんだな!」

 

司令部と通信しているロイドが焦りを見せながら叫んでいた。どうやら余程事態は深刻らしい。

 

「状況は?」

「南端防空ラインに帝国航空魔導士部隊と、大規模な航空編隊の接近を感知した!」

 

即座に防空図を記憶から引っ張り出し思わず舌打ちするトウガ、その距離ではもう本土の防空部隊の迎撃は間に合わない、となると…。

 

「迎撃はどうなっている?」

「即応可能なのは義勇軍航空魔導部隊だけで、そいつらにやらせるってよ!」

 

最近になってようやく飛べるようになった者が大半の、本来は戦力として数えるべきではない部隊。それを投入せねばならないとは最悪極まる。

だが、ロイドの口から更なる悲報がもたらされる。

 

「更に悪い知らせだ。敵の航空魔導士部隊は、ラインの悪魔率いる部隊だ」

「何ッ!?」

 

目を見開くトウガ。まともな迎撃態勢がとれない状況で、よりにもよって相手が帝国最精鋭とは悪い冗談としか言いようがなかった。

 

「確かドレイク中佐が顔を見せに行っていたな、共に迎撃に出るだろうが、練成不十分の部隊では蹴散らされるだけだ。俺も出る、ネクストなら間に合う距離だ、許可を取っておいてくれ」

「あいよ、行ってこい!」

 

言うや否や、ネクストを身に纏い出撃態勢に入るトウガと手回しに走るロイドだった。

 

 

 

 

給料に見合わない仕事を押し付けられる事態は避けたい。それが帝国軍第二〇三航空魔導大隊指揮官ターニャ・フォン・デグレチャフの信条であった。

だが、軍隊と言う完全縦社会に属している以上。上からやれと命じられれば断れないのが現実だった。当初は連合王国本土への地上襲撃任務評価試験を行うべく出撃したのだが、悪天候のため作戦は中止されるも、代わりに墜落した爆撃機の搭乗員を救助するよう命じられたのだ。

 

「大隊長、敵が距離を取るようです!」

「…弱兵とみて少し嬲ってみるつもりだったが。切り替えが早い。予想以上に、対応が機敏だ。私としたことが、見誤った」

 

現在は救助が完了するまで敵部隊の足止めを行っており、出てきたのは碌に動けない低練度の部隊であったが。指揮系統は驚く程判断が早かった。

 

「少佐殿、いかがされますか?」

「今更引けるか!混戦に持ち込み続けるしかあるまい。喰らいつき続けろ!距離を取られては、何のために切り込んだか分からなくなるぞ!」

 

ターニャは先陣を切り突撃すると、敵の混乱を拡大させるべく、ルーキーと見られる拙い飛行で逃げる敵兵に射撃を集中させると、部下もそれに続く。

まともな回避もできていない数名の敵兵が風穴を空けて落下していき、カバーに入ってきたマトモな動きをするものを狙い撃っていく。

 

「あァアアアア!!!」

 

ルーキーらしき1人が、憤怒の顔を向けながら銃剣に魔導刃を展開して突っ込んできた。

面倒だが僚機らは分散しており、自力で対処するしかなく。手にしている短機関銃は弾切れを起こしているので、空のマガジンを投げつけ気を取られた隙に、突撃した勢いを乗せた木製のストックを腹部に叩きつけた。

顔が良く見える距離となり、苦悶に呻く声が甲高かったので見てみると、成人していないようなうら若き女性だったが。武器を持って戦場にいる以上遠慮する必要はないので、新たなマガジンを装填し銃口を向け――

 

「――ッ!?」

 

本能的に後ろへ跳び退くと、自分がいた空間を光学術式が通過していった。

 

「新手か!」

 

飛来した方向へ索敵すると目を見開く。

 

「なんだ、早い!?」

 

従来の魔導士を優に超える速度で、未知の反応の魔導士が接近してきていた。

想定外の事態に動揺が走るも、歴戦の猛者だけあってすぐに術式を展開し発砲する。

迫る無数の弾丸を新手の魔導士は軽々と回避していくと、お返しと言わんばかりにライフルを発砲してきた。

回避しようとしたターニャの目の前で、放たれた光学術式が爆発を起こし視界を塞がれてしまった。

 

「ッ爆裂術式だと!?」

 

常識外の現象に、流石のターニャも思わず動きを止めてしまう。

 

「!そこか!」

 

右側から気配を感じて短機関銃を向けると、敵魔導士が爆炎を突き破って突撃してくる。短機関銃を浴びせるようとするも、違和感に気づく。

 

「デコイかッ!」

 

背後から殺気を感じ振り向くと、敵魔導士に懐まで潜り込まれていた。

 

「がァッ!!」

 

加速の乗った蹴りが腹部にめり込み、骨が折れる感触と共に吐血しながら吹き飛ばされるのであった。

 

 

 

 

『あの程度では仕留られんか…』

 

蹴り飛ばしたラインの悪魔に対してトウガは、敵の手腕に感嘆する。

不意を突いて先手を打てたものの、防殻を強化しながら衝撃と同じ方向に跳ぶことで思っていた以上にダメージを与えられなかった。簡単に堕とせるとは考えていなかったが、初見でこうも対応できるとは、流石の反応速度と言えよう。

 

 

『畳みかける!』

 

ライフルを向けて追撃しようとするも、別方向からの射撃に阻まれてしまう。

 

『これ以上はやらせん、やらせんぞ!』

 

敵魔導士らがオープンチャンネルで叫びながら、ライフルを連射して接近してくるので、回避しながら応射する。

 

『オルフェス中尉!来てくれたか!』

 

義勇軍部隊と共に出撃していたドレイクより通信が入る。状況を見るに、本来指揮を取るべき者は既に撃墜されてしまっており、部隊も半壊状態であった。

 

『敵はこちらで引き受けます。その間に態勢の立て直しを』

『1人で戦う気か!?』

『もうじき本土防衛隊も上がってきます。それまでの時間稼ぎは可能です』

 

防衛戦である以上、敵を倒す必要はない。撃退できればそれでいいのだ。

 

『…わかった。無理はするなよ!』

『了解です』

 

ドレイクらが一度後退を始めたのを確認すると。敵魔導士に向けて突撃し、互いに旋回しながら、デコイによる撹乱を織り交ぜて撃ち合う。

 

「(できるな…!)」

 

従来の宝珠では多数の術式を同時に使用できないため、飛行と攻撃が優先され、デコイのような攻撃に直接結びつかない術式は軽視されているのだが。ラインの悪魔とその部隊は積極的に用い被弾率を下げている。

当人らの技量もさることながら、複数の術式を問題なく使用できる宝珠もかなり高性能であった。

 

「(なる程、見事としか言いようがないな!)」

 

部隊全体がこれだけの能力を持っているのならば、諸列強の精鋭が歯が立たないのも納得ができた。故に出し惜しみなく攻めるべきと判断した。

V.S.B.R.を肩で背負うように展開し高出力で照射させると、敵魔導士に回避されるも余波に煽られて態勢を大きく崩した。

トウガはその隙を逃さず1人に向けてライフルを発砲、放たれた光学術式は防殻を貫き敵魔導士の左腕の肘から先を消し飛ばす。

 

「逸らされたか!」

 

直撃コースだったが、防殻を強化して軌道そ逸らしたようだ。やはり練度が恐ろしく高い。

 

『少尉ィィィイイイ!!!』

『よせ!来るな!!』

 

他の敵魔導士らがカバーしようと集まって来るが、被弾した敵魔導士はこちらの狙いを見抜いたようで止めようとする。

だが遅い、敵部隊を薙ぎ払うべく再びV.S.B.R.を照射しようとするトウガ。

 

『ムッ!』

 

別方向から飛来した狙撃術式を、左腕に展開した防殻で防ぐ。

V.S.B.R.を格納して飛来した方角を向くと、口に吐血の後を残したラインの悪魔が憤怒の表情でこちらを睨みつけながらライフルを構えていた。

 

 

 

 

想定外――ターニャの今の状況はそう表現するしかなかった。

有利に運んでいた戦局を、たった1人の魔導士の登場でこうも押し返されるなど冗談ではなかった。

しかもその新手の魔導士は見たこともない形状をしており、自分や203魔導大隊に匹敵する能力を持っているとは悪い夢を見ている気分になる。

 

「(クソッ、なんで私がこんな奴を相手にせねばならんのだ!)」

 

自分はただ後方で文化的な生活を送りたいだけなのにこの仕打ち、これが神を名乗る存在Xの仕業ならやはり奴は悪魔以外の何物でもない。

 

「(ともかく、この状況をなんとかせねば!)」

 

たった1人によって自分のキャリアに傷がつけられる等、許せるはずがない。やむを得ないが奥の手を使うしかないらしい。

 

「…主よ、我に敵を撃ち滅ぼす力を――」

 

呪い(・・)の言葉を紡ごうとした瞬間、救助を指揮させていた副長のヴァイスから、救助が完了したとの通信が入る。

 

『01!新たな魔導士部隊が接近してきています!』

 

別の部下からの通信に、感知術式で探ると。先程後退した部隊の他に、師団規模の魔導反応が接近してきていた。本土の防衛部隊が上がってきたのだろう。

目的を達した以上、これ以上の戦闘は無意味。ならば撤退するのが得策とターニャは判断したのだった。

 

 

 

 

ラインの悪魔の魔力量が増大し始めたため警戒していると、どこかと通信する素振りを見せ、こちらを牽制しながら部隊を纏めて撤退していく。

 

『引いてくれたか…』

 

追撃するだけ無駄なので、警戒を解かずに待機しようとすると――

 

「アアアアァアアアア!!!」

『!?』

 

背後からドレイクらと共に後退していたメアリーが、雄たけびを上げながら単独で追撃しようとしているではないか!

 

『スー少尉!待て追うな!!』

 

トウガは慌てて彼女を追いかけ羽交い絞めにして止める。

 

「返せ!!それはお父さんの、お父さんの銃だッ!!!」

『落ち着け少尉!クッなんだこの力は!?』

 

トウガを振り払おうともがくメアリー、その力にネクストが悲鳴を上げる。彼女にネクストを上回る魔力量はない筈なのにである。

 

『ええぃ!止むを得んか!』

 

このままでは彼女を止められないと判断し、術式で電流を流すトウガ。

 

「キャッ!?」

 

ビクンッと体を震わせて意識を刈り取られたメアリーの動きが止まる。そんな彼女をトウガは『お姫様だっこ』と呼ばれている形で抱え直す。

 

『少尉君は…』

 

先程発言や驚異的な魔力量といい、彼女の身に何が起きたのか、疑問がトウガの心の中で渦巻くのであった。



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第四話

「…酷いものだな」

 

ラインの悪魔との戦闘の翌日。友軍の損害報告を受けていたトウガは、思わず感想を吐露する。

迎撃出た義勇軍魔導部隊は、大半が戦死か負傷による戦線離脱という壊滅状態となっていた。

 

「全滅しなかっただけマシだろうよ。相手さんが殲滅目的で来なかったのが幸いだわな」

 

どうやら敵部隊の目的は本土に墜落した友軍の救助だったらしい。そのため遅滞とを目的とした嫌がらせ程度の攻撃しかしてこなかったようだが、それで未練成とはいえ大隊を1個中隊で一方的に翻弄するとはタチが悪いとしか言いようがなかった。

 

「それで頼んでいたものは?」

「ああ、解析できたよ。撤退直前にラインの悪魔の魔力量が跳ね上がっていやがった」

 

ロイドが見せてきた用紙には、ネクストに記録させていたラインの悪魔の魔力量が、一瞬だけ大幅に上昇していることが記されていた。

 

「似たようなことが過去に何度か確認されている。あの悪魔、実力を隠して戦ってやがるな。にしても単独でこの魔力量叩きだすとは、人間なのかすら怪しくなるな。人造的に生み出されたって言われた方が納得できるね」

「なんでもいい。敵なら墜とすだけだ」

 

最後の方は興味なさそうな様子のトウガ。彼にとっては敵の正体等よりも、自分にとって倒す必要があるか否かのみが重要であった。

 

「ま、それもそうだがね。それはそうと、例のお気に入りの娘の所には見舞いに行ったんか?」

「お気に入り?」

 

なんのことだ?と言わんばかりに首を傾げるトウガに、盛大に溜息をつくロイド。

 

「スーって義勇軍の娘さんだよ」

「ああ。この後行くが、お前も来るか?」

「行くか!1人で行かんかいィ!」

 

ズレたことを言う友に、全力でツッコむロイドであった。

 

 

 

 

ロイドに部屋から蹴り出されたトウガは、義勇軍の兵舎を訪れていた。

メアリーの部屋に辿り着くと扉をノックし。部屋からどうぞ、という声が聞こえると扉を開けて入室する。

部屋には軍服に身を包み、至る所に包帯を巻いたメアリーがトランクに荷物を纏めていた。

 

「あ、オルフェス中尉…」

 

トウガの顔を見たメアリーは、どこか気まずそうに顔を伏せる。

 

「どこか具合が悪いのかね?なら軍医に…」

「いえ、そういうことではなく…!」

 

体調がまだ優れないのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。他に原因があるのかと話題を変えることにするトウガ。

 

「そうか。…それは同室の者のかね?」

「…はい。昨日の戦闘で…」

 

部屋の状況と経験からの推測を述べると、トーンの下がった声で肯定するメアリー。

戦死者の遺品整理。軍属の長いトウガには慣れてしまったことだが、初めての経験である彼女には堪えるものがあるだろう。

 

「私より歳が上だからって、よく気遣ってくれたいい人でした。なのに…」

「それが戦場だ。どんな善人であれ悪人であれ、弾丸1つで死んでいく」

 

いつものように話していた者が、数刻後には物言わぬ死体となっているのが当たり前の世界、それが戦争であった。

 

「……」

「戦争というものが理解できただろう少尉。今ならまだ間に合う、君は家族の元に変えるべきだ」

 

奇跡的に生き残った新兵の中には、ストレスで精神に変調をきたす者も出ていた。多少の演技をすればその者達と共に本国へ戻ることもできる。

今はまだ耐えられているメアリーだが、それがいつまでも続く保証はない。彼女が戦争に壊されてしまう姿をトウガは見たくなかった。

 

「それはできません。私には、やらなければならないことがありますから」

「やらなければならないこと?」

 

だが、その願いを拒むように顔を上げたメアリー。その目には確かな怒りが宿っていた。

 

「ラインの悪魔を、父の仇を討たないといけないんです」

「仇?ラインの悪魔がかね?」

 

メアリーの言葉に眉を顰めるトウガ。彼女の父がどのように戦死したのか、具大的にはしならかった筈だったが、どのような確証を持ったのだろうか。

 

「はい、奴が持っていた短機関銃は、父と別れる前に私がプレゼントしたものだったんです」

「どうして、そう言い切れるのかね?」

「銃には父のイニシャルを刻んでもらったんです。あの短機関銃にはそれがありました」

「…奴が帝国では採用していない物を用いているのは気になっていたが。それなら納得ができんでもない、か」

 

ラインの悪魔が手にしていた短機関銃は、森林三州誓約同盟と呼ばれる中立国にある連合王国出資の企業製であり、鹵獲品でもなければ帝国の者が手にすることはできないのである。

 

「そうか、それでラインの悪魔を無理にでも追撃しようとしたのか」

 

あの時の鬼気迫る様子の彼女を思い出すトウガ。確かにそうなるのも無理べからぬことであろう。

 

「その、申し訳ありませんでした。取り乱してしまい、酷いことを言ってしまって…」

 

しょんぼりとした様子で俯いてしまうメアリー。もしや先程から元気がないのはそのことが原因なのだろあうかと見当をつけるトウガ。

 

「理由が理由である以上仕方あるまい。反省してくれているのなら俺はそれで構わない」

「あ、ありがとうございます!」

 

特に気にしていないことを告げると、安堵したように顔を上げるメアリー。心なしか大分元気になったようにも見えた。

 

「それで、話を戻すが。仇を討ちたいという君の気持は理解した。だが、憎しみだけで戦ってもらいたくはないな」

「!?なぜです!家族の仇を討つのが悪いと言うのですか!?」

 

否定されたのが予想外だったのか、憤慨した様子で詰め寄って来るメアリー。

 

「悪いとは言わん、それが人間なのだからな。ただ、それだけで戦うべきではないと言っているのだ」

「?」

 

これだけでは伝えたいことを理解できていない様子のメアリーに、トウガがいいかね、と言葉を続ける。

 

「我々軍人が戦うのは、あくまで戦争を終わらせるため、そして国を家族を大切な人を守るためだ。君も言っていたな、戦争で自分のように大切な人を失う悲しみを広げないために、そのために戦争を終わらせるたくて志願したと」

「…はい」

「それは敵――帝国も同じだ。彼らも守るべきもののために、戦っていることを忘れてはいけない。それを忘れ、感情だけで戦っていては戦争は終わらず、最後は何も残らなくなってしまう。国も愛する人達もな」

「……」

 

沈黙して顔を伏せるメアリー。考えは伝わっただろうが、それでも仇を討ちたいという想いは捨てれないのだろう。

 

「すぐに理解はできないだろう。今は心の片隅にでも留めておいてくれ」

「…わかりました」

 

トウガが肩に手を置き、諭すように語り掛けると、メアリーはゆっくりと頷くのであった。

 

 

 

 

悪魔と矛を交えてから数日経ち。トウガは連合王国内にある演習場にいた。

 

「……」

 

いつも以上に険しい顔をした彼の目の前には、合衆国義勇軍の若き航空魔導士が、10名程横並びに規則正しく立っていた。

 

「…今日から俺が諸君らの指揮を執ることになった、トウガ・オルフェス中尉だ。よろしく頼む」

 

疲労が滲んだ声で話すと、部下となる者達が敬礼しながら応じる。

 

「(どうしてこうなった…)」

 

そんな彼らを、どこか遠くを見る目で見ながら過去を思い起こすのだった。

 

 

 

 

「俺に義勇軍の指揮を執れだと?」

「んだ」

 

秋津島皇国で好まれている煎餅という菓子を頬張りながら、辞令を送って来る上官兼友を不機嫌そうに睨みつけるトウガ。

 

「この前の戦闘で、指揮官経験のある者がいなくなっちまったからな。代わりが来るまでの繋ぎってことでよろしく」

「部隊の指揮経験はないのだが…」

 

士官学校卒業と同時に特派に所属し、以降単独行動しかしてこなかったトウガのとって、いきなり指揮官――それも中隊規模を率いろと言われても納得のできるものではなかった。

 

「それでも、碌に経験ない素人同然にやらせるよりもマシだろうよ」

「……」

 

ロイドの正論に反論できないトウガ。ベテラン組が身を挺した結果、義勇軍で無事だったのはメアリー始めとする新兵だけとなってしまった。上としても手段を選ぶ余裕がないということだろう。

 

「ま、そんなに長くはならんだろうから我慢してくれや」

 

 

 

 

「あの中尉。どうかされましたか?」

 

隣に立つ副官であるメアリーの声に意識を戻すトウガ。どうやら考え込み過ぎていたらしい。

 

「いや、何でもない。さて、隊長として言っておきたいことは、昨日の戦闘で諸君らは多くの仲間を失ったが、その上で言わせてもらう。憎しみだけで戦わないでほしい」

 

トウガの言葉に部下らはざわつきだす。

 

「戸惑うのも当然だろう。スー少尉には既に話しているが、何も憎しみを捨てろとは言っていない。ただそれだけで戦うべきではないのだ。諸君らが戦った帝国兵も、君ら同様守るべきもののために戦っている同じ人間だということを忘れないでもらいたい。我々はあくまで国を仲間を愛する人を守るために戦うのだ」

「お言葉ですが中尉!」

 

困惑する部下の中から1人の男性――メアリーとさほど年が変わらないため男子と言える年齢だが――が、不満の色を隠さず声を上げた。

 

「何かなハーゲル准尉」

「奴ら帝国は民間人すら焼き殺す非道な連中です!誇りある我らと同列に語らないで頂きたい!」

 

ハーゲルと呼ばれた男性の言葉に、他の者達も同意するような視線を向けてきた。

空気が悪くなったことに、メアリーが戸惑いながらもハーゲルを止めようとすると、それをトウガは手で制止した。

 

「准尉それはアレーヌ市のできごとを踏まえての発言かね?」

「その通りであります!」

 

昨年、帝国がフランソワ共和国とライン戦線で対峙していた時期に。帝国の補給の要であったアレーヌと呼ばれる都市で共和国シンパが武装蜂起し、浸透強襲した共和国軍と共に占拠する事態が発生。

帝国の補給を大幅に阻害し、戦線の瓦解を狙い持久戦を狙う共和国軍。戦時国際法によって非戦闘民への攻撃が禁じられていることもあり、有効な手立てを持たない帝国は苦戦すると思われた――が、帝国は即座にアレーヌへ進軍し、市民ごと都市を攻撃したのである。

この暴挙に対し共和国を始め各国家が帝国を非難し、交戦国はこの出来事を例にして『帝国は残虐で卑劣な敵である』とプロパガンダに利用していたのである。

恐らくハーゲルら義勇軍の新兵は、連合王国が『用意した』帝国という国家の実態を教えられたのだろう。智謀策謀三枚舌が国技と言えるかの国が用意したものだ、さぞ素晴らしい国にされているのだろう。――その中に真実がどれだけ含まれているか甚だ疑問だが。

 

「では、諸君らはその件に関する帝国の言い分を知っているかね?」

「は?いえ…」

 

言い淀むハーゲルや、知っているか?といった様子で互いの顔を見合わせる他の部下。メアリーにも視線を向けてみると、首を横に振った。

当然であるか、と内心思うトウガ。彼らのような年若い者達、特に戦時下で自国の正義のためと志願した者は視野が狭くなりやすく、大人に教えられたことを素直に信じ込むものだ。

 

「いいかね。帝国は攻撃開始前に再三の勧告を行っており、攻撃時には既にアレーヌ市には『民間人はいなかった』と述べている。つまり、帝国が攻撃したのは『共和国兵』なのだよ」

「そ、そんなの詭弁では!」

「そうだな詭弁だな。だが、国際法には一切抵触していないという見解を出している憲法学者は少なくないし、俺もそう考えている。それに非難されるなら共和国も同様だ、ともな」

「あの、それはなぜでしょうか中尉?」

 

メアリーが遠慮がちに問いかけるも、反論したいというよりもトウガの考えが知りたいといった様子であった。

 

「いいかね。この件での共和国の作戦は『民間人がいるから手荒なことはしないだろう』という前提で立てられている。つまり、本来守るべき市民を盾としているのだよ。君たちは市民の影に隠れて戦うことが誇りになるのかね?」

「それは…」

 

トウガの言い分に、ハーゲルらは反論できず沈黙する。

トウガの考えとしては、共和国の犯した過ちは相手の――帝国の人間性、善意をあてにし過ぎてしまったことであろう。長年の戦争で疲弊した状態で更に追い詰めれば、帝国でなくとも手段を選ばなくなるのは自明の理と言えよう。

 

「とは言っても、別に俺はこの件で、どちらが正しいか悪いのかを決める気はない。どちらも己を守るために必要なことをしただけなのだからな。戦争なんてのは、とにかく自分が守りたいものを守れることを考えるくらいがちょうどいいのさ。それ以外のことを考え出すとキリがなくなるからな」

 

人間の善悪など、個人の立ち位置よっていくらでも違ってくるのだから、絶対的な基準を設けることなどできはしないのだ。

自分の正義だけを信じ続ける真面目な奴は、必ずろくなことをしなくなる。だから正義だ悪だと深く考えず、適度に生きていく方が真っ当に生きていけるものだ。

 

「まぁ、俺みたいに不真面目に生きる奴は、お偉いさんに嫌われるから出世したい奴は真似をせんことだ」

 

俺は出世に興味がないから問題ないんでな、と付け加えるトウガに、反応に困る部下達。

 

「さて、不満はあるだろうが、これも社会勉強だ。諦めてくれたまえ」

 

堅物そうな外見と裏腹に。なんとも言えない締めくくりをするトウガに、一抹の不安を覚える一同であった。



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