|剣士《The Fencer》だが、それだけじゃない (星の空)
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ありふれたで章 プロローグ

「ミィ〜~~~」

黒い浴衣を着崩した豊満な身体を持つ女性はある程度の手当をした白猫を誰にも見つからないであろう所に下ろした。

黒い浴衣を着崩した女性の名は「黒歌」といい、下ろした白猫に一、二度撫でながら……

「ゴメンね、白音。こんな不甲斐ないお姉ちゃんで……」

と呟いた。

その直後に、

「探せ!!!まだこの辺りにいるはずだ!!!」

「分かった!俺は此方を探すからお前らは彼方を探せ!!!」

空から声がした。それもそうだろう。蝙蝠のような翼を生やした人型の何かが複数いたのだ。

「ちっ、…………もう来たか。白音、ここにいてね。ここにいたら誰かが助けてくれるはずだから。…………元気でね。」

黒歌は白音にそう言い残したらその場を去って行った。

「………………たぞ!!!………………な!!!」

それと同時に先の蝙蝠人らが彼女を追ってここを去って行った。

「ミィ〜〜~~~」

白猫の白音は黒歌の言っていた事を幼いながらに理解していた。己がいては姉は助からないし、己も助からない。だから姉は己をここに隠すことで己の安全を確保し、姉は1人だと確実に逃げ切る事が出来るのだと。

しかし、怖い。寂しい。雨の日故かはたまた姉という心の拠り所を失い、心が荒んだのか、寒い。

白音は1人ポツンと自分の身を丸める事で暖を取っていた。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

白音が丸まってから1時間後……白音は己が隠れている所が丸見えな、己を隠しているバリケードとなっている物の反対側から何者かがやってくるのを感じて警戒する。

「…………………………む、白猫か。そこまで警戒せずとも良い。それよか、傷だらけな上にこのような雨時だと早死するではないかの?儂の家に暫く留まっても構わん故、一緒に来るかえ?」

現れたのは、雨の日で若干暗く感じる日なのに、そんな事関係ないと言うが如くキラキラと耀く桃を若干含んだサラサラとした銀髪を腰辺りまで伸ばし、眼は左眼は大きな傷が着いて尚且つ失明したのか閉じており右眼は1部では神の血筋という象徴たる深紅だが眠たいのか半眼、鼻は小ぶりで、口は凛々しいの一言でしか表せない。

服装は丈が膝以上太腿半ば以外までしかない道着(薄)と短パンを穿いている。

そんな、今の自分と同じくらいの少女?男の娘?であった。

白音は黒歌の言いつけを守り、その者に歩み寄り、抱えられた。

「…………ふむ、嫌じゃろうが1度湯に浸からぬとならんな。我慢したまえ。…………おっと、言い忘れておったが、儂の名は涼愛。紫呉涼愛千嗣(シグリアセンジ)という。よろしくのう。」

「ミィ〜~~~~」

そうして、1人と1匹はそこを離れた。

 

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それから5分後に赤髪で傲慢な少女が悠々と歩んで、

「そこに貴方がいるのは分かってるわ。でも、貴方を虐げない。大事にしてあげる。……だから、私の眷属になりなさい!」

そう言って、白音がいた所に顔を出すと何もおらず、

「ッ!!?何もいないじゃないの!!!おにぃ様の話だとこの辺にいるって言ってた筈……………………もう、恥ずかしい!」

その少女は1人劇をした事を黒歴史として残し、逃げ帰った。

 

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これを書き始めた訳は何となく。
先に書いてた作品が行き詰まったため、これを書いて発散。
そんな気分で書いております。


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あれから…………

???side

 

「ふぁあああ~、よく寝──────」

 

パァンッ!!!!!!

 

テーテテテー!テテテーテーテーテー!テーテテテー!

 

「おめでとうございます!!!貴方で5那由多人目の転生者です!!!」

「───まだ……夢か…………おやすみ。」

俺は目が覚めたらいきなりクラッカーが鳴り、どこかで聞いたようなファンファーレが流れ、黒髪黒目で白の浴衣を着たこれと言った特徴のない少女が訳分からんことを宣ったので、俺はどうやら未だに夢の中にいるらしい。

よって、夢から覚めるために再びベッドに潜った。

「はい、おやすみなさいませー………………じゃない!!!寝ないでくださいお願いします!お願いしますから!」

俺が寝ようとしたら潔く特徴無き少女が寝かせてくれそうになったが俺を揺さぶって起こそうとする。

「はぁ、なんだよこんな時間に。早く寝らせろ。」

「はい!率直に言って貴方は死にました!死因は心不全です!!!」

「ふぅん、で?」

「え、何かないんですか?こう…………嘆いたり狂乱したりって…」

「死ぬことは分かってた。こちとら昔っから心臓が悪かったからな。」

「………………そうですか…………よし、もう一度人生に挑戦しませんか?」

「なんだそりゃ?」

「転生です!先程申したように貴方であらゆる生物が死した中で5那由多人目丁度で死んだのです。数の節目に丁度死したものには転生する事が出来ます。」

黒髪黒目で白の浴衣を着た少女がポケットをゴソゴソと探り、あったと呟きながらくじ箱を取り出した。

「って、今のどこに入ってた?明らかに入らねぇだろう?」

「?あぁ、これですか。これは四次元ポ──です。ド───ンをもろパクしました。っと、この中から1つだけ引いてください。」

少女に言われたように適当に1枚引く。

出てきたのは某運命の杯争奪戦に出てきたセイバーのタロットカード。

「はい、セイバーですか。なら、剣に関わるお願いを一言でタロットにして下さい。」

「へぇ、そんじゃまぁ、俺が願うのは1つ。Fateシリーズの主要キャラでセイバー適正者の全ての強さ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)と全てのスペック、全ての武知雄のみだ。」

何故、直ぐに答えることができたのかと言うと俺は内心嬉しかったのだ。俺の親族は皆金目当てで安楽死させようとせがんで来る程だ。そんなことに嫌味が刺していたらぽっくりと逝き、転生だ。やり直せることが嬉しいのだ。

俺の願いを聞き届けたのか幾つか白いモヤがタロットに入り、そのタロットが俺の胸の中に入っていった。

「ふぅ、特典って奴が決まったのはいいが………転生先って何処だ?」

「それは決まってますよ?なんと、パワーインフレの激しいハイスクールDxDの世界です。ですが、あくまでハイスクールDxDの世界を主とした世界なので何があるかは分かりません。場合によっては私以外の存在が勝手に転生させた者も現れるかもしれません。なので十分注意して下さい。」

色々と事情があるっぽい。が、早く行きたいという思いが大きいがまだ気になることがあるので聞いておく。

「なぁ、自分の能力を確認するにはどうしたらいいんだ?」

「それなら…………よし、ステータスオープンと唱えてください。言わなくとも念じるだけでいいので。」

「了解、ステータスオープン。」

 

✲✲✲

真名 紫呉涼愛千嗣(シグリアセンジ)

出典 ---

地域 日本

属性 混沌・中庸

隠し属性 星

性別 男の(娘)

筋力:A+

耐久:B+

敏捷:EX

魔力:EX

幸運:A

宝具:EX

スキル

直感:SS・騎乗:EX・神性:A+

勇猛:A・怪力:A++・軍略:D

雲耀:A・極地:EX・天眼:A

不断:A+・無辺:A+・対魔力:EX

黄金律:A+・竜殺し:EX

陰陽魚:A・新陰流:A・神通力:A++

魔力放出:EX・戦闘続行:EX

陣地作成:C・カリスマ:C

巨獣狩り:A++・皇帝特権:EX

根源接続:EX・自己暗示:A++

神秘殺し:A++・聖騎士帝:EX

沈着冷静:B・武の祝福:B+

文明浸食:EX・星の紋章:EX

無刀取り:A-・竜種改造:EX

心眼(真):A+・心眼(偽):A+

仕切り直し:S・無窮の武練:EX

麗しの風貌:B・叡智の結晶:A

騎士の武略:B・聖者の数字:EX

精霊の加護:A・直死の魔眼:A-

不屈の意志:A

宝具

全て遠き理想郷(アヴァロン):EX・結界

無垢式・空の境界(むくしき・からのきょうかい):EX・対人

三千大千世界(さんぜんだいせんせかい):EX・対人

約束された勝利の剣(エクスカリバー):A++・対城

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー):A++・対人

無毀なる湖光(アロンダイト):A++・対人

涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトン・レイ):A++・対城

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード):A++・対軍

勝利すべき黄金の剣(カリバーン):A+・対人

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン):A+・対軍

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク):A+・対軍

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー):A+・対軍

壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム):A+・対城

軍神の剣(フォトン・レイ):A・対軍

絶剱・無穹三段(ぜっけん・むきゅうさんだん):A・対界

六道五輪・倶利伽羅天象(りくどうごりん・くりからてんしょう):A・対人

破滅の黎明(グラム):A・対人

悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール):B+・対人

招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア):B+・対陣

己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー):B・対人

風王結界(インビジブル・エア):C・対人

不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー):C・対人

燦然と輝く王剣(クラレント):C・対人

射殺す百頭(ナインライブズ):C~A+・対人

十二の試練(ゴッド・ハンド):C〜A++・対人

✲✲✲

 

「へぇ、名は既に決まってんのか。あとは容姿がどうなるのかと、一応慣らさねぇとな。」

ステータスを見て独りごちたら、それを聞いていた少女は答えてくれた。

「あぁ、それなら少し待っててください。えぇと、確かこの辺に…………あった!」

そう言って取り出したのは大きな鏡である。俺はすぐさま見て、絶句した。

なんせ、キラキラと耀く桃色を若干含んだサラサラとした銀髪を腰辺りまで伸ばし、眼は左眼は色んな人物が混じった影響か虹色に輝き、右眼は1部では神の血筋という象徴たる深紅だが眠たいのか半眼、鼻は小ぶりで、口は凛々しいの一言でしか表せない。

服装は丈が膝以上太腿半ば以外までしかない道着(薄)と短パンを穿いている。

その姿が鏡に写っているのである。

「え、誰ね此奴。」

「それは貴方の転生後の姿です。文句を言われても変更などは出来ないのでご了承ください。それと、力の確認をしたいのならばこの空間でちゃっちゃとやって下さい。この空間に居れば居るほど、転生先が神代などの古き時代となるので。」

「え゛ぇ゛ッ!?」

少女に言われて急いで確認した。それでも量故に1時間以上かかった。

「それでは、紫呉涼愛千嗣さん。転生後に幸が多からんことを。」

「あぁ、そうじゃのう。少女よ、色々とありがとうな。では、達者でな。」

儂は、1時間以上いた影響で声が凛としたものになり、口調がのじゃ口調となってしまった。

そんなことを考えながら天門(転生先に向かう門)を通って行った。門の中を暫く歩いて、たどり着いたら何処かの空中要塞の中央に降り立った。

「ふむ、うろ覚えじゃが……確かシャルルマーニュの我が儚き栄光よ(シャルル・パトリキウス)かのう。此奴はしばし置いといてまずは家を買わんといかん。」

儂はそう独りごちながらパトリキウスを動かして、日本のある街に向かった。

そこは駒王町の隣町である璃緒市である。パトリキウスから降りて、街を散策する。時代からして昭和だろうか、未だ戦争ないしは天皇神聖視が続いていた。

儂は周りから視線を向けられてはおるがそんなことを気にせずに役所に入る。

道中、運良く7億円を拾った(・・・・・・・・・・)ので、儂からしてかなり立地のいい区画を一括払いで買い、直ぐに向かいそこにパトリキウスを埋め、端に対侵入用防壁を建て、陣地作成で認識阻害の魔術をかけた。

この壁は、登ることや中を覗くことも不可能な大きさである。

それから数十年間パトリキウスに篭もり、能力の研鑽に励んだ。

しかし、面白みもなんも無いのである時、パトリキウスから出て、日本を1周することにした。



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旅……

儂は旅に出てから日本を1周したのだが、それだけでは何か足りなかったので、今度は世界1周をすることにした。

だが、今は戦争真っ只中でそう簡単に国外に出ることは叶わない。

そうそう、日本を1周している時に出会った大久保殿に助言をしたり、稀に政府へ赴いて各地の現状を教えたりと、日本の中枢を牛耳りかけたりしていた事があったかのう?

まぁ、大久保殿が暗殺されたことを知ったら暗殺者を暗殺して置いたが、大久保殿の信念故に助言をしていたが、いなくなったので関わる事はないだろうと今は一切行ってない。

取り敢えず日本の京都に今はいる。

因みに服装は転生時から変えてない。不潔だと思うだろうが、あの少女はちゃっかりと自動洗浄効果を付けており、毎日午前0時に身体事綺麗にしてくれるので楽だ。

矢張り、戦時中故にピリピリとした空気が流れている。

気楽に出来ないので、人気(ひとけ)が無い神社に寄り、休憩をとる。

「む?そこの嬢ちゃん、こんな時間にこんな所にいて良いのか?」

神社の中から1人の若干厳つい青年が出てきて、儂に問いかけた。

「愚問じゃな。儂はこの様な仕様じゃが、それなりの歳はあるし、あと、せめて嬢ちゃんではなく坊主と呼べ。儂はれっきとした男子じゃ。」

「む、そうか、すまぬ。して、その坊主とやらは如何様でこの社に参った?」

「なに、この御時世戦時中故に皆緊張しておる。このようでは気楽に観光すら出来やせぬ。童よ、何か心躍る何か無いかのう?」

「ふむ、我が家へ来るか?我が家は少々特殊でな、皆この御時世を諦観しておる。そなたを招けば何か変わるのではないかと思うたのだが?」

「かかか、諦観とな。童の一家は神か何かかえ?」

「おうともさ。我が名は素戔嗚尊。何処かしこで小耳に挟むくらいはしたであろう。」

「ほうほう、日本国の戦神の1人かえ。儂の名は紫呉涼愛千嗣。数多の神話系統の有名な剣士を継ぎし者。とはいえ、剣は全て物質を持った概念体じゃがの。」

「ほう、何れ剣で立ち会おうではないか!まぁ、上がれ。此処からでも我が家に行けるのでな。」

「そうか、ならば遠慮なくお邪魔するぞ。」

儂は素戔嗚尊ことすーさんの案内の元、日本神話の本拠地である高天原に招待され、その地へ向かった。

高天原で暫く過ごしている間に終戦したので、伊邪那岐と伊弉冉尊の次女である月読命ことヨミをお伴に世界1周の旅に出た。

何故月読命がついてきたのかと言うと、シスコンを焦らした天照から一時逃げるためである。これは伊邪那岐も協力してくれており、帰って来るまでの間に矯正しておくとの事。

それからは2人でのんびりと世界を回った。

時に邪神クトゥルフをSAN値がガク落ちしながらも撃退したり、ゼウスというギリシアの主神がヨミ(外見故に儂もじゃが)を犯そうと襲って来たが3日間に渡る激闘の末、気が付いたヘラが耳を引っ張って連れて帰ってくれたので助かった。儂が主神を倒すと色々と問題が発生するので困っていたのだ。

次日、詫びとして育て型の天候を操る権能を貰った。そのあとはヨミが月女神アルテミス殿と何やら話しておったが儂は冥府の神ハデスの胃薬必須な日常の愚痴を聞かされておりあまり聞くことは出来なかった。

その次にインドラと出会ったのだが、食い物で馬が合わず喧嘩に発展。

誤って無垢識・空の境界を使ってしまい、インドラの神格の1部を削ってしまった。

それ以来お互い不干渉となった。このままだと星が危ない。

因みに、インドラが槍を投擲してきたのを神秘殺しで弾いたらオーストラリアまで飛んでいき、エアーズロックの4分の3を消してしまった。

その時点で平成に突入間近となっており、儂とヨミは帰ることにした。アメリカ側は特にこれと言ったことは無い。

ただ、第四次聖杯戦争に巻き込まれ彼の英雄王と大々的に相対、征服王が固有結界を直ぐに貼らなかったら今頃聖杯戦争開催地は更地と化していただろう。

その後、イレギュラーにより英霊らが座に帰ることが出来ず、そのまま現界して過ごす事となった。

そのイレギュラーにより、儂は左眼を負傷してしまい、今は右眼1つで行動している。傷はそのままである。

聖杯はこっそりと大聖杯を浄化してきたのでもう大丈夫だろう。序に間桐雁夜という人物から桜という少女を託された。

そんなこともあり、やっと高天原に帰ってきた。

シスコンを焦らした天照は矯正されており、代わりに恋愛ごとに興味津々な少女となっていた。ヨミは安心してホッとしておったな。そのあとはすーさんや建御雷のタケさんと武の立会をしてパトリキウスに帰った。

行きは1人だったのに、帰ってきたらかなりの所帯となっていた。

儂こと紫呉涼愛千嗣。

何故かここまで着いてきた月読命。

雁夜に託された間桐桜。

聖杯戦争が終えて直ぐにマスターと別れた騎士王。

儂という存在が面白いのか着いてきた英雄王。

自分が住めそうな所がないからとこれまた着いてきた征服王。

赤枝騎士団筆頭は泣き黒子を抉り取っただけでその後どうなったかは分からない。

仮面を被った集団は劇団ザイードとして世界各地を転々としている。

カエル顔の狂信者はバカをしていたので儂がマスターごと殺った。

黒い兜の狂戦士は雁夜の死と共に消えた。その前に騎士王とちょっとしたやり取りをして狂化が晴れてから座に返った。

彼はイレギュラーが起こる前に返ったので、ここには残っていない。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

「して、そなたらは儂に着いてきたのは構わん。が、このあとは如何様に過ごすのだ?儂はそろそろ学校に通わねばならんが…」

儂は気になったことを皆に問う。

(オレ)は璃緒市に会社を経ちあげておく。相応に楽しめるであろうからな。」

英雄王は既に決まっていたようだ。

「私は近くの神明神社で巫女をしておくので大丈夫です。」

ヨミはヨミで大丈夫らしい。

「ううむ、聖杯から得た知識を元に教員になるのもまた一興。うむ、生前では体験出来なかった事をなそうではないか。」

一瞬、体格が似ているためバカテスの鉄人を連想してしまった征服王。

「ならば、皆が居ない間私は桜の面倒を見ておきます。」

最後に騎士王は1人、留守番をして桜の面倒を見てくれるようだ。

そんなこともあり、儂は中学に転校という形で通うことになった。どうやらヨミは神明神社の巫女ではあるが、早朝と晩辺りだけいたらいいようでヨミも儂と同じ学校に通うこととなっておったわ。

学校名は璃緒須中という璃緒市中枢の学校である。

 



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事件?

「ねぇ涼愛、今更なんだけどさ………なんで僕にだけ転生者だって事を教えたの?」

儂とヨミは転校(編入)先の璃緒須中で担任となる符山深琴先生に教室へ案内されている時にヨミは小声で儂に問うてきた。

「何故、か。それはお主だけ気づいておらんかったからじゃよ。天照やすーさん、伊弉冉尊殿、英霊達は皆儂の自己紹介時に直ぐに気づいておったよ。皆、お主が儂の事を知った時の反応を見て苦笑いじゃったであろう?」

それにヨミは納得したのか、あるいは恥ずかしかったのか無言となった。

そう言えば今何を着ているのかと言うと、ヨミはどこにでもあるようなブレザーだが、儂は何故か同じブレザーであった。なので、今まで着ていた和服に近づくように改造した和を感じるブレザーにした。下半身はスカートじゃが丈を少し長くし、そのスカートの内にはいつも穿いていた短パンを穿いておる。

暫く外を見たりしていたら符山の先公がある教室の前に来たら立ち止まってこちらに向き

「それでは紫呉涼愛さんと躄月(イザツク)さんは呼ぶまでここで待っててください。」

そう言い残して2-Aクラスに入って行った。

「いよいよじゃな。ヨミよ、お主も人間の暮らしをしかと楽しむと良い。」

「う、うん。」

ヨミが頷くと同時に、教室ないから轟音が響き渡る。どうやら、テンプレよろしく転校生が来たことが嬉しいのだろう。

「では!入ってきて下さい!!」

符山の先公から呼ばれたので儂から先に入って行く。儂とヨミが入って来たら男子が嬉しがり、女子は若干ガッカリしておる。しかし、中には可愛いなどと言う百合気質な者もいるようじゃ。

「それでは、右から紫呉涼愛千嗣さんと躄月読命さんです。一言挨拶をお願いします。」

「うむ、我が名は先程符山の先公が述べたように紫呉涼愛千嗣と申す。先に述べておくが………儂はれっきとした男子じゃ。そこの所を間違えぬ様よろしくな。」

『………………』

「…………む?どうかしたかえ?」

『そんな馬鹿なぁ!?!?!?』

矢張り、儂がこの形で男子であることが有り得ぬらしい。

「……あ、ははは。僕は躄月読命だよ。あぁ、僕は一人称がこれだけど女だから安心してね。」

等と自己紹介をして空いておった席についた。そのあとはホームルームとなり、符山の先公が今日1日の予定を申しておった。

ホームルームが終えたら儂は近くにいた童に御手洗の場所を聞いて御手洗に向かった。

教室内ではヨミが質問攻めにあっておったが儂は気づかぬ振りをしてそそくさと去った。

今日1日はそうやって質問攻めを避ける事で助かったがのう。

放課後は部活とやらはやらずに即下校じゃ。

「うぅ〜酷い目に合いましたよ~。なんで涼愛はあの集団から逃げ切れるのさ?」

「儂には心眼と直感がある。故に逃れただけじゃ。それは置いておいて、お主は学校とやらを楽しめそうか?」

「うん。戦争が終わってからかなり経つけど…あの時は諦観していたからね。下界にも楽しいこともある。まぁ、都合上この中学って奴だけしか行けないだろうけどね。」

「まぁ、とりあえずは過ごしてみよ。」

 

璃緒須中学に転校(編入)してから1年が経ち、高校受験の季節となった。

この1年間を軽く説明すると

・転校(編入)した4月

騎士王(アルトリア)がマスターの現状を知ってマスターと仲直り

企業AUO(英雄王)が世界進出し、ブームとなった

征服王が雷王荒鬮(らいおうあれく)として儂が通うつもりの璃緒須高校の歴史科教師として就任。

劇団ザイードがテレビ出演。パトリキウス在住者全員茶を吹いた。

赤枝騎士団筆頭がわざわざここまで来て、征服王のマスター出会った童が筆頭のマスターの跡継ぎとして確定した事を教えに来た。黒子は治っておらず、そのおかげでマスターとの仲を取り戻せて忠義を尽くしていたようだ。

桜の中にいる虫を全て抜き取ることができ、中にいた害虫は繋がっているもの全てを焼き払うことで事なきを得て、桜はちゃくちゃくと精神を取り戻しており、近いうちに笑顔を取り戻すだろう。

ヨミが儂の事を獲物を狙うような視線をむけてくるようになった。何かの琴線にでも触れたのであろうか?

儂は良く散歩に出て桜の花をのんびりと眺めておった。

5月、

ゴールデンウィークに因んで英雄王が異常なほど輝いていた。

騎士王は笑顔を取り戻した桜と良く遊んでいる。というより、いつの間にか幼稚園に桜を通わせており、騎士王本人は先生をしておった。

征服王は言わずもがな、教師の鑑みとして全国的に有名となっていた。

劇団ザイードは金銭面でトラブルが発生して1週間ほど活動休止しておったが無事に戻ってきた。

赤枝騎士団筆頭は今は時計塔の守護騎士として裏で知らぬものはおらず、魔術師で危険な者には忠告をしたりして留めたりしている。

ヨミは最近趣味に走り出した。らのべ?というさぶかるちゃー?にハマったそうだ。転生前に読んだ覚えはあるがうろ覚えなため、儂もヨミから借りて読むこともある。

6月、

英雄王、騎士王、征服王らとパトリキウス内の闘技場で模擬戦を日夜執り行ったり、桜に少しだけ勉強を教えたりした。

あぁそうそう。雨の日に璃緒市で見かけない気配を見たので、そこに向かうと傷だらけだが手当された白猫がいたので連れ帰って丁寧に手入れをした。

風呂に入りたがらなかったが、儂は身体を隅々(・・)まで洗って湯に浸かったのだ。すると、その白猫…………人間に変化したのだ。それも女子に。流石に目の前にいた白猫が女子になった事に度肝を抜かして絶叫。白猫の女子は儂のアレを見て発狂。慌てて駆けつけたヨミは裸の男女が密室にいた事に興奮。

割かし冷静な騎士王対応のもと落ち着いたので良かった。

7月、

白猫こと塔城白音(とうじょうしろね)が同じクラスに編入。

それによって、6月いっぱい桜と共に白音を愛でていた騎士王が若干ショックを受けていた。

英雄王はAUOから新たな携帯、スマホを発表。利用者やそれに連なる商品を売り出すもので経済面がかなりのお祭り騒ぎとなった。

璃緒須高校の教師(ゲス)の1人が女生徒を強姦。征服王がブチ切れて折檻&牢屋にぶち込み、襲われた女生徒に親味になって対応し、その女生徒は男性恐怖症になったとはいえ、引きこもりとなって社会復帰すら出来ない状態から緩和させた。どうやら征服王はカウンセリングすら出来るようだ。

劇団ザイード、芸能界にまで出世。……貴方方は暗殺者の集団ではなかったのですか?

赤枝騎士団筆頭はそこまで変わった様子はない。

ヨミは学校のマスコット化した白音を1人にさせたら何が起きるか分からないからと常に白音のそばにいる。

儂は鍛錬を中心に中国拳法を齧る程度で独学したり、その他の武術を試す程度で習っておる。

8~11月

これといって何も怒ることはことは無かった。ひとつだけあるとしたら、散歩中に日本へ遊びに来ていたインドラとばったり遭遇久しく好きな食い物が変わったかもしれないと互いに思い互いに語ったのだが、ジャガイモの食べ方で儂はフライドポテト派でインドラはサラダ派と馬が合わず喧嘩に発展。今度はアメリカのグランドキャニオンの谷がかなり増えた。前回のこともあり互いに自重していたとはいえ矢張り星に少なからず影響を及ぼしたようだ。

12月、

日に日にヨミが距離を近づけてきた挙句、クリスマスの日に食われた。どー〇つしたと言えば分かるであろう。

なんでも、高校を一緒に行けないから寂しく感じていたようだ。まさかここまで焦らしていたとは……儂もまだ未熟というわけじゃ。

大晦日は高天原にておおいにはしゃぎ回った。

1月、

英雄王と征服王以外はヨミのお手伝い。

英雄王からのお年玉で200万も貰った。

英雄王が和服に初挑戦し気に入ってた。

儂らは英雄王の大盤振る舞いに苦笑い。

2月、

節分のためだけに両面宿儺を復活させ、本格的な鬼退治。

3月、

桜のひな祭りを皆で挙って行い、とんでもないこととなった。

大まかなものではこんなものだ。

そして、4月は儂らは中学3年になり受験に悩む年となった。

 

「それにしても、あと1年で終わりかぁ。素戔嗚から悪魔共が隣の駒王町を不当占拠しちゃってるからその問題の解決をしなきゃいけないんだよねぇ。」

「ふむ、ヨミが高校を通えるようにするにはその悪魔なる種を絶滅させたら良いのかえ?」

「……涼愛さん、それは危険思想です。せめて追い払うと言ってください。最近ははぐれ悪魔が黄泉に送られてきて伊弉冉尊様が胃薬生活になってきてるんですから。」

「む?ココ最近忙しそうであったのはそれが原因かの?そうであったら手が出せぬな。それよかお主らはそ奴らの対策を練らぬて良いのか?話だと悪魔の駒(イーヴァル・ピース)とやらを埋め込まれたら埋め込んだ奴に忠誠を誓わねばならぬのだろう?誓わず逃げればはぐれ認定とも聞いたぞ。」

「僕は神だから対策しなくてもいいんだよ。」

「……私は以前涼愛さんから紹介された李書文さんに師事してもらって仙術を主に妖術と中国拳法を教えて貰っています。確か来週から悪魔の駒を弾く術を習う手筈となっております。」

「成程、ならばそれといった対策はなくとも構わんな。彼の三王は上位に入る強さじゃ。超越者が出てこぬ限りは問題あるまい。」

儂らは悪魔対策をしながらパトリキウスに帰宅?帰城?した。

それから、体育祭や文化祭、修学旅行などがあり儂ら……特にヨミははっちゃけるように楽しんだ。じゃがココ最近ヨミは小柄ながらに妖艶になったのう。

まぁそんな生活の中、とあるアクシデントがあった。

ある日、商店街を猫状態の白音を抱えて歩いておったのだが商店街内の十字路にたこ焼き屋があるのだが、そこに人集りが出来ていたのだ。

「あのなぁ、慰謝料払えやばばあ!謝れば良いって訳じゃねぇんだぞゴラァ!!」

どうやら、少年が祖母に買うて貰ったたこ焼きを運悪くチンピラにぶつけてしまい、チンピラの服を汚してしまったようだ。

「すいませんすいません。これで勘弁をしてください。すいません。」

少年の祖母が財布から3万ほど渡そうとした。が、チンピラは

「ンなもんで足りるわけねぇだろうが!!舐めとんのかゴラァ!!」

少年の祖母の胸ぐらを掴み恐喝する。

それを少年が「やめろォ!おばあちゃんをいじめるなぁ!」とチンピラの足をポカポカと叩く。

「うるせぇ!!」

チンピラはそれを蹴り上げて少年は頭を地面に殴打して昏倒する。それを気にせずに少年の祖母から財布と金目の物をぶんどって祖母さんを落とす。

チンピラは財布の中身を確認して、また祖母さんに恐喝し始めた。

「あんなぁババア、こんなんじゃ足りねぇんだよ!!舐めてんだろてめぇ!!」

『え?』

絶句してしまった。祖母さんの財布には伝説のブラックカードと200万、クレジットカードが多数あり、十分すぎである。

いい加減胸糞悪くなってきたので介入しようとしたが、儂よか先に出た者がいた。

その者は祖母さんとチンピラの間に入ったらサラリーマンが驚嘆するほどの綺麗な土下座をして、

「祖母と弟が申し訳ございませんでした!!!!!!!!!!」

と、後に聞けば商店街の外まで響いてきたそうだが……それほどの大きな声でチンピラに謝った。

祖母さんと昏倒からちょっとだけ立ち直った少年、野次馬は絶句。

チンピラはいい気になってその者の頭を蹴ったり、すぐそこの自販機から買った熱々の飲み物をぶっかけたりしても

「本当に申し訳ございませんでした!!!!!!!!!!!!!!」

としかし言わず、最終的にチンピラは近くに何故かまだあった石焼き芋機の中で熱された石をその者……同校に通う男子生徒の背中(服の中)に2~3個入れた。

それでもその者は

「ッ………………申し訳ございませんでした!!!!!!!!」

諦めずに謝る。チンピラは何を思ったのか着ていた服の中からライターを取り出した。

直感と心眼で未来を見た。この後にその者が火に炙られるのを。流石に儂は見過ごせなかったのでいつもは意識して音を立てなかった下駄の音を鳴らしてチンピラの方に拍手をしながら歩み酔った。白音は肩に乗せている。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

それは唐突だった。

 

カランコロンカランコロン

 

パチパチパチパチ

 

そんな音が野次馬の中から鳴り響く。野次馬らは涼愛が歩むのを拒まず、道を開ける。

「そこまでじゃ。」

凛とした声が響く。野次馬や祖母さん、チンピラは涼愛苦笑い注目する。

涼愛はそんなことを気にせずにまずは昏倒していた少年のもとに歩み寄って症状を確認。

「ふむ、軽く脳震盪を起こしただけか。して、そこのチンピラよ。お主は今何を成そうとした?」

立ち上がり未だに尻餅を付いている祖母さんを立たせ、最後にその者のもとに来て耳元でこう囁く。

「その忍耐力は素晴らしいし、そこの母上殿と少年を守ろうとする覚悟。誠に大儀であった。儂も人のことを言えぬが野次馬共はガン見して見ぬ振りをする気らしい。お主はちと休め。あ、服が皮膚と付いてはならぬ故に脱ぐことをオススメする。」

その者の服を脱がしながらそういい、土下座を辞めさせてから楽な体制を取らせる。

「それで、チンピラは答えぬのか。」

「な、なななんだよ!!!!」

「お主は今先程、そこの者を火炙りにしようとしたであろう?儂の目は少々特殊での、意識すれば4〜5分先の未来を観測することが出来る故に流石にこれは見過ごせず介入させて貰った。」

『えぇぇ……』

野次馬らは言われように申し訳なさと未来観測に半信半疑な感じで声を出す。

「それはそうと…………ココ最近の話なのじゃが、最近この辺には当たり屋がいると警視庁から知らされておっての。なんでも、被害にあっとるのは老人(・・)ないしは年端も行かぬ子供(・・・・・・・・)じゃと聞いてな。」

涼愛がその一言を呟くとチンピラは青ざめ、野次馬は「あっ、」と気づいてきたようだ。

「このような大人数の前で明かされては流石のお主も諦めざるを得まい。そこの者がお主を謝りまくっておる間に確認も済んだからの。被害者の証言によるとチンピラじゃと。それ、お主じゃろう?諦めてお縄につくんじゃな。なんせ、過失暴行罪に当たる事をしておるんじゃし。」

「…………るせぇ。うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇぇぇぇぇんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

チンピラは手に持っていたライターを捨てて懐から果物ナイフを出して涼愛に切りかかる。

野次馬らは咄嗟に逃げるか、涼愛という少女(・・)を庇おうと飛び出るが間に合わない。

チンピラは涼愛にそのまま袈裟懸けで切り裂こうとした。

「…………悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファブニール)

涼愛は小声でそう呟き、チンピラは気にせずに切り裂く。

しかし、

 

キィィンッ!!!!!!!!!!

 

結果はナイフの刃が折れて落ち、涼愛は無傷であった。服は自動再生によりもと通り。

「あぁあ、お主は殺人未遂の現行犯じゃな。あと、言い忘れておったがこの服防弾防刃防火防水防雷と優れておるからおいそれと破れはせんぞ?」

チンピラは絶望仕切った顔で諦め、膝を地に付けた。

その後は駆けつけた警察に連行され、少年と同校の生徒は救急搬送。祖母さんは少年の付き添いとしてついて行った。

儂や野次馬の1部は事件現場で事情聴取を受けた。

因みに、救急搬送のために来た人に500万円程渡して、少年や同校の生徒の入院治療費、余りはチンピラから受けた被害者への慰謝料として渡した。あのチンピラの様子だとはした金がないように思えたからだ。

「ふぅ。なんか……どこかであったシナリオじゃったな。確かあれは……」

「あの!」

「む?お主は璃緒須中の2代女神が1人ではないか。」

声を掛けてきたのは璃緒須中学にて知らぬ者はいないであろう白崎香織がいた。

そこで思い出した。

(もしや………この世界は“ありふれた職業で世界最強”も混じっておるのかのう。って、あの大義を成したあの者は南雲ハジメか!)

「あ、えぇと。あの子凄かったね。あそこまで耐えてる人初めて見た。」

「確かにのう………………ふむ、その顔からしてお主、初恋じゃな。それも一目惚れと来た。」

「うぇぅっ!?そんな!?まっさかぁぁ………………なんか……ストンと入っちゃった。貴女の言う通り見たい。」

「ふむ、未来観測をしてみたのじゃが……お主、天然じゃな。」

「?」

「高校2年次から途切れて分からぬが、それより前から過度に接触したが故に男子からは殺気、女子からは侮蔑の視線をあの者は受けておった。」

「どうして…………」

「じゃから先程言ったであろう。璃緒須中の2代女神と。お主とお主の友である八重樫一族唯一の娘はそう呼ばれておるのじゃぞ?それを自覚せねば……………よし、お主…………五感を鍛えてみるかえ?儂が観測した未来通りになりとうないならじゃが。」

「えぇ、いきなりっていうか…そんな言い方じゃあ頷かざるを得ないじゃんかぁ。」

白崎香織は己が一目惚れで初恋を自覚し、涼愛から観測した未来(原作)通りにならないように高校2年次の途切れるまでに視線を肌で感じたりその視線がどのような感情を含んでいるか分かるように鍛えるかそれを抽象的に述べられてから問われ、渋々頷いた。

「それでは名乗るべきじゃろうな。儂の名は紫呉涼愛千嗣。この様な形で声音じゃがれっきとした男子じゃ。」

「えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」

白崎香織は初めて知った事で驚愕していた。因みに涼愛に声をかけようとスタンバっていた1部の野次馬が血涙を流しながらダウンしたとか。

 



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5話

中学3年になってから数ヶ月が経った。

その数ヶ月間は白崎に武を叩き込んだ。

殺気やその他感情を肌で感じることが出来るできないでかなり違ってくる。

場合によっては対処も出来るからだ。

儂は何度も相対したことがあり、ダチである八重樫鷲三に白崎香織を紹介。未来観測で得た事を教え、回避するために五感を鍛えようと思ったのだが、基盤から教えた方がいいだろうと思い剣道をしている鷲三に合わせたのだ。ただ、それ以前に白崎の両親を説得しなければならない。

と思ったのだが、なんと白崎は母を説得し、父は母に尻を敷かれているため大丈夫だそうだ。

白崎が八重樫一族(・・)の門下生になった時に白崎の親友らしい雫と天之河光輝(勇者(笑))が驚愕。

白崎は基礎的な者は皆とするが、掛かり稽古の時はワンツー・マンで体幹等を含めて五感を鍛えていく。

偶に八重樫一族(・・)の門下生が剣術や体術等を習いに来たので教えておいた。

ある時に八重樫の中で儂を知らぬ者勇者(笑)を含めた道場(・・)の門下生が儂は強いのかを問うてきたので、鷲三と剣術の試合をして実力を示した。

その時に儂はこう告げておいた。

「敵を外見で判断し、見下したり見上げたりしてはならぬ。」

と。これは儂のような可憐?だからと甘く見ては痛い目をみるし、ヤクザだからと怖がっても、実は見た目脅しでしたじゃ呆れ果てる。なら、見た目以外で……出来れば内心の把握をしたり、オーラを感じたりすればいいという意味である。

雫や八重樫一族(・・)の門下生、八重樫道場(・・)の門下生の1部はその意味を理解したようである。勇者(笑)は出来てなかったが。

そんなこんなで、白崎を鍛えた結果、周りが自分に向ける感情を感じ取ることが出来た。

あとは、己をAとしてBがCに向ける感情を感じ取ることを教えるだけとなり、これも感じ取ることが出来た。

それが数ヶ月間の出来事である。

儂が八重樫家で夕食を頂いておる時に雫が今まで疑問に思っていたことを尋ねてきた。

「あの、紫呉涼愛さんは何故香織に武道を教えてるのでしょうか?」

「ふむ、香織は天然だ。」

「はい?」

何言ってんだこいつと言いたげな顔をする雫。

「そして、一目惚れと言う形で初恋を抱いた。」

「はい?えぇ!?」

「香織はあの性格からして積極的に攻めていくであろう。しかし、香織は学校でお主を含めて2代女神と呼ばれておる。そんな香織が初恋相手である同校の1人に構っておったら周りは何を思う?」

「それって………嫉妬かしら。」

「無論それもじゃが、殺気も放つであろうことは分かる。香織自信がその殺気の視線やそれ以外の感情を乗せた視線を感じることが出来れば攻め時や引き際を自然と覚え、初恋の相手に迷惑をかけることを減らすであろう。ふむ、明日には香織の初恋相手の情報を渡すつもりじゃ。相手を知ればより好きになるし、相手に合わすことも出来るからな。」

「感情を視線で感じる…………ですか。」

「あぁ。因みにお主のソウルシスターズは皆お主を尊敬しておる故に不埒な輩はおらんので安心せい。男子共は分からぬがな。あとは試合時等は相手の目を見よ。相手は必ず狙いを付けるために1度は目を狙いに定めるからの。稀にそれをふぇいく?として利用する生粋の剣士もおるがな。」

余計な一言を告げてから八重樫家を出てパトリキウスに帰宅した。

次日に南雲ハジメの情報をまとめた物を香織に渡して、香織は南雲に接触。なんとかさぶかるちゃーとやらを教えて貰い、共通の趣味を手に入れたようだ。

勇者(笑)はガン無視されて、南雲に当たろうとするも香織や香織に付き合わされてさぶかるちゃーを覚えた雫により当たれなくなっている。

儂はそれを見つつのんびりと日常を謳歌している。



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受験…………

香織に武を叩き込んでから約2年が経ち、儂と白音は高校2年次に上がった。

ヨミは件の悪魔の対策のために高天原に帰還した。かなり悲しがっていたし、あまり意味をなさない(・・・・・・・・・・)であろうがお別れ会じみた催しもした。

高校2年次になるまでの間香織とのわんつー・まんでの鍛錬は欠かしてない。そのおかげ?せい?か、低級の英霊……岡田以蔵クラスの輩とは渡り合える程に成長した。

因みに雫にも偶に教えてはいる。

中3のある時にいつもの所(昼食時に行く静かな所)に行くと男女の言い合い?話し合い?の声が聞こえた。

声の主は天之河光輝と白崎香織である。

内容的には、

「香織、最近付き合いが悪いけど…何か問題があったのかい?」

「うぅん、全然。」

「そうか!なら今日は龍太郎達と一緒にラウンド─ンに行こう!」

「ごめんね。私は今日も練習があるんだ。」

「なっ、昨日もそんなこと言ってたじゃないか!ほぼ毎日通って疲れないのかい!?いや、疲れてるはずだ!涼愛先生に香織を休ませる様に進言してくる!!」

「待って、最初は確かに疲れることもあったけど…」

「やっぱり疲れてるんじゃないか!!」

そんな会話をして天之河が憤りながら歩もうとしたが、いつの間にか地面に背を付けていた。それで少しは冷静になった様だ。

因みに何があったかと言うと、あの一瞬で香織が背負投をして落下時の痛みも起こさずに寝かしたのだ。

「最初はって言ったよね?それでね、天之河くん。私、好きな人が出来たの。でも、私って学校では2代女神って言われてるらしいの。認めたくないんだけどね。そんな私がその人にアピールしてたらその人に迷惑をかけちゃう。だから御師様に師事して貰って、周りからの視線から感情を読み取る鍛錬をしてもらってるんだ。周りからの視線で攻め時と引き際を見極めてからアピールをする。そうすれば視線に込められるであろう悪感情を少しでも緩和出来る。それに天之河くんは今、私に背負投をされたことに混乱して、私に好きな人がいることに困惑してる。違うかな?」

「ッ!?!?!?!?」

天之河光輝は驚愕した。

他所を向いている香織に自分が視線を向けていたのだが、今自分が思っていたことを当てられたからである。

因みに香織はこっそりと覗いている儂を見つけて内心では(なんで御師様がここにいるの!?)と、驚いている。

儂は天之河光輝の死角にいるため天之河光輝は気づいてない。

「天之河くん、まさかとは思うけど………私がずっと天之河くんと一緒にいるとでも思ってたの?」

天之河に向きながら天之河に問う香織。

「あ、あぁ。それは当たり前だろう?」

何当たり前なこといってんの?と言いたげな顔をする天之河。儂はそれを聞いて呆れ果てた。

「そんなことは絶対に無いよ。あのね、人には出会いがあれば必ず別れがある。それは離別、死別、喧嘩別れ、すれ違い、運命、などと別れ方が沢山ある。だからずっと一緒なんて絶対に無い。」

香織が天之河に啖呵を切ると同時にチャイムが鳴る。

「あぁ、チャイムが鳴ったから私は行くね。あと、私の恋の邪魔をしないでね。」

香織が去ったあと、1人残った天之河はこう呟いた。

「そこまで俺の事が好きなのか?」

内容的にはこんな感じだった。

最後に天之河が呟いた言葉を聞いた儂が思わず天之河の後頭部を殴って今の戯言を忘却させたのは悪くないであろう。

そして、学期ごとのクラス替えで天之河と坂本を3-Dクラスにして、香織や雫、香織の初恋相手である南雲ハジメを3-Aクラスにするなどして、香織の初恋が成就する様に図った。無論このクラスに儂やヨミ、白音もちゃんとおる。

因みにこのクラスの3分の2はあの時の野次馬の中にいた者達で構成されており、その者達の男子と1部女子はあの時の儂と香織の会話を聞いておったので香織が南雲ハジメに一目惚れしていることを知っているため、知らない者に教えたりして暖かい目で見ている。他のクラスからこのクラスに来たものが居れば皆が連携して香織の恋を邪魔されない様に図ったりしている。

しかし、南雲ハジメが座右の銘「趣味の間に人生」を掲げているためなかなか焦らしい。ただ、香織の恋が成就されるのならばとこのクラス内にいるオタクである清水幸利やヨミ、材木座義輝を中心としたオタク共が香織に南雲ハジメの趣味の内容を教えたり(無論、人による価値観の違いも教えている)、香織が南雲と会話を成立させたりするのに一役買って出たりしていた。

そして、クラス内のオタク(南雲の趣味・興味調べ担当)、腐女子(南雲の動向監視担当)、百合(南雲との接触者(女)の情報収集担当)、脳筋(対邪魔者担当)、頭脳派(南雲の生活を計算して、基本的にどこにいるのかを纏める担当)、スイーツ脳(香織の女子力アップ担当)などとある種の異常者共が束となって南雲の生活やその近隣の様子、南雲の両親の仕事等を徹底的に調べあげていたのにはプライバシーの侵害では無いのか?とヒヤヒヤしたが、特にこれと言って何もなかった。

ただ、唯一まともであったのが委員長の飯田天哉と苦労人の雫だけである。彼らのお陰で一線を保っていた。

因みに儂と白音はあまり役に立ちそうでなかったので脳筋共に混じっていたりする。

南雲家を大方把握して、休日に南雲が留守であり、南雲の両親がいる時に南雲家に突撃。事情を説明して外堀を埋める作戦を画作した。

香織の両親、父は断固拒否していたが娘である香織の般若の一言と母の笑わない笑顔に黙り込み、外堀を埋め始めた。

簡単な事で二人きりの時間を作ったり、デートをさせたりしている。

ただ、天之河という邪魔が入り(と交差点などでバッタリ出会い)そうになれば脳筋共が天之河の気を引いて事なきを得ている。稀に劇団ザイードが協力してくれるので尚更だ。

そして、いざ告白しようとする時期に受験シーズン到来でそれどころではなくなった。

幸い、南雲は璃緒須高校に進学する気だったので香織の恋を成就させるためだけに、

儂こと・紫呉涼愛千嗣、マスコット・塔城白音、厨二型オタク・材木座義輝、書籍型オタク・清水幸利、万能型オタク・加納慎一、軍事オタク・平野コータ、ネットオタク・粒咲あんこ、科学型腐女子・鈴木燈、本名不詳の腐女子・Y、布教型腐女子・金森羽片、末期な腐女子・神原駿河、ガチ百合であまり積極的に参加はしなかった・誘宵美九、お姉様一筋の・白井黒子、そのお姉様と呼ばれている・御坂美琴、乱闘好きな脳筋・岩泉翔、怪力女子・山城由依、ドジっ娘な・鳳ちはや、怪力で不良な・七海征十郎、何処ぞの坊ちゃんである・奴良リクオと護衛?な・青田坊と・粉雪氷麗、暴力嫌いな元武術家の・犬塚孝士、我らが真面目くん・飯田天哉、他には七之里呼吹、八重樫雫、天之河光輝、坂本龍太郎と儂が知る中ではこれだけ璃緒須高校に入学するそうだ。無論、香織もここに通うつもりである。

因みに天之河光輝と坂本龍太郎以外は皆3-Aである。3-Aから璃緒須高校に行く者達は家が近い等の理由もあるがやはり香織の恋の成就を見届けたいのであろう。まぁ、儂は知らぬが3-B、Cからも璃緒須高校に入学するつもりの者もおる。

そんなこんなで、ある日の授業で符山の先公監修のもと受験のための自習時間。

「ふと儂は思いついたのじゃが…………」

『?』

誰も喋らずに集中する中で儂が声を出したので、耳を傾けながらでも取り掛かっている。

「皆で泊まりがけの勉強会を開かんかの?無論、計画を立てねばなるまいがな。」

「勉強会は賛成だが、問題があるではないか。計画を立てるとしても衣食住の衣は各自で持ってこればいいし食は各自でお金を出し合えばいい。しかし、住となる会場はどうするのだ?皆と言っても有志で希望者が参加。男女が参加するとしても問題が起きてはならない。近隣には良さそうな施設はないぞ?」

儂の呟きに反応したのは隣に座る飯田天哉である。

「それは言い出しっぺの儂の家でよかろう。」

「ッ!!!!」

この言葉に強く反応したのは監修の符山の先公である。それもそうだろう。符山の先公は家庭訪問をしようとしても、儂の家には1度も来なかった。否、来れなかったのだから。

そして、周りもざわめく。符山の先公が来れなかったのに加え、この学校の人間は皆疑問に思っていたのだ。紫呉涼愛の家は何処なのか?と。

「し、静かに!」

符山の先公が静かにするよう呼び掛けてからは皆自習に取りかかった。

その日の昼休みに、儂と飯田、雫、奴良、Y、犬塚は席を合わせて食事をしながら自習時間に儂が言ったものの計画を建てていた。

「必要事項を確認するが、衣食住の衣は各自で準備、食は参加者でお金を出し合って近くのスーパーから材料を買ってくる、住は紫呉涼愛さんの家でいいんだな?」

「無論じゃ。此処から10分かそこらじゃから此処に集合してくれれば案内しよう。」

「それじゃああとは日にちと時間、何日間するのかとお金を幾ら持ってきたらいいかだな。」

「ンなもん参加者全員が終わるまででいいじゃねぇか。バイトとかで出たりすんだからそんときに金の補充とか着替えを変えてきたりすりゃいいだろ。」

「Yさん、それは長期となるが……親は怒らないのかい?」

「奴良は心配性だなぁ受験が終わった奴は別に家に帰っていいんだぜ?本番まで皆から教えて貰えりゃあいいだろ。」

「ふむ、確かにその方がええかのう。受験を終えた者が居座っては逆に邪魔となる場合もある故に、受験を終えた者は帰宅と。開始は今週末からでええじゃろう。」

「食費に関しては………一人当たり約1万持ってきて、足りない場合は1度帰宅して持って来るパターンだな。」

「えぇ。とりあえず紙に纏めて見たから皆目を通して。問題がなかったら符山先生に印刷して貰うから。」

「特に誤字とかも無いし大丈夫じゃない?」

「む、米印で強制ではなく有志であることを書いておいた方ええじゃろ。」

「強制と勘違いされても困るしな。」

「分かったわ。…………よし、それじゃ先生に渡してくるわ。」

一足先に食べ終わっていた雫がルーズリーフに今まで出した案を纏めた物を符山の先公にクラス全員分印刷して貰いに行った。

「話し合いで時間もそんなにないし、僕達も早く食べよ。」

奴良の指摘に話し合っていた皆が食いかけの弁当にがっつく。

今週末から長期勉強会を儂の家……パトリキウスでする事を決めて、金曜の放課後に1度帰宅して必要な物を準備してから参加する者は17時までに学校の校門に集合を掛けておき、クラスのほぼ全員が参加していた。南雲は香織に強く懇願されて渋々参加している。

「来たかの。それじゃあ案内する故、はぐれるでないぞ?」

因みに白音とヨミはパトリキウスで待っている。

皆は最初、儂の家がどのようなものかワクワクしておったのだが、パトリキウスに近づいてくると段々緊張していた。

そして、嘗て儂が造った壁の横を歩いている時には皆黙り込んでおり、パトリキウスへの入口に到着した。

「よし、着いたぞ。」

「着いたって…この辺って何処によ。」

どうやら皆はまだ気がついてないらしい。

「何処ってここじゃよ。」

儂はそう言いつつパトリキウスへの門を開く。

「ここって………………」

香織が壁に目を向けて、皆もつられて見る。符山の先公に限っては顔を青ざめている。

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?』

流石に何時も物静かな南雲でさえ大声で驚愕している。

「あ、あのあああのあのあのあのあのこここって、璃緒市の4分の1区画の大きさを有してるんじゃなななかったたっけぇ?!」

『ッ!?!?!?!?!?!?』

符山の先公の怯えた一言を聞いた皆も青ざめる。

「ええから早う入らんかい。」

『お、お邪魔します………』

皆が順に中に入る途中、1台のフェラーリがこちらに走ってきて門の前を通り過ぎたら門の真横がスライドして開き、フェラーリはブレーキやウインカーを使わずに綺麗に入る。

そんな様子に皆は絶句して固まる。数秒後に中に入ったフェラーリがバックして運転席が丁度歩道に来るようにして止め、窓を開く。その一つ一つに皆はビクビクする。フェラーリの窓から現れたのは言わずもがな英雄王である。

「おお、そういえば今日から勉強会を開くと言っていたな。」

『なっ、AUO社長兼代表取締役!?!?!?!?』

「そう驚くことでもあるまい?いいから早う入らんと勉強すら出来んぞ。」

「おお、紫呉涼愛よ。ベルギー担当から直送便でカカオを幾つか送ってもらったのでな菓子を作っておけ。我は楽しみにしておく。」

「え、御師様って料理出来るんですか?」

香織は自分の師万能説を思い浮かべてから儂に問う。それを皆が壁の内側を上京したお上りさんのように周りをキョロキョロと見ながら着いてきて皆が耳を傾ける。

「なに、まともに料理出来るのが儂くらいじゃからな。先の社長殿は食レポの練習のために調理室には此方1度も入ってはおらん。他は色気より食い気な腹ぺこ王と焼くことしか出来ん漢。変人集団は世界各国を回ってる故におらんし、白音はクトゥルフ神を生み出すわ、そこで精神統一しておる者は米を研げと言ったらクレンザーを取り出す始末。ヨミは朝夕忙しい故に料理をする余裕がなく、義妹に関してはまだ台所を任せる歳ではない。故に儂が料理するしかないんじゃよ。」

上から順番に

英雄王ギルガメッシュ、騎士王アルトリア、征服王イスカンダル、劇団ザイード、李書文、ヨミ、桜である。

とりあえず、中央の広間にまで来たら真ん中の円の中に皆を立たせる。それをエレベーターとして昇降させており、今は降ろしている。二つ下に着くと周りが壁で覆われ、1つだけ戸があるだけである。

皆はこのギミックに驚いている。儂は気にせずに中に入り、皆は慌ててついてくる。

中はパーティ会場の様になっており、部屋の中央に長机があり、クラス人数分の椅子がある。さらに左右にこれまた大きな戸があるだけである。

「よし、説明をするが、向かって右側が女子が寝泊まりする部屋で左側が男子が寝泊まりする部屋じゃ。無論それぞれに大風呂も用意しておるから安心せい。ただ、12時になると部屋におーとろっくがかかり、出入り出来ん。これは侵入対策でもあるから我慢して欲しい。まぁ、12時までに部屋に戻れば良いからな。」

とりあえず皆を席に座らせてから話を続ける。

「とりあえず時間が時間じゃから夕飯の支度をまずするかの。料理を出来るものは来てくれ。それ以外は風呂にでも入っておれ。風呂はそこの戸を開いたら目の前にある筈じゃからな。」

因みにパトリキウス内の構造は

最下層が英雄王の部屋で準最下層に残りの部屋とリビング+‪α‬、その上が今いる客間、1つ上に牧場と菜園があり内蔵されていた機械が育てている。最上層は英雄王のコレクションルームやパトリキウスに備えられている対地兵器や対空兵器、対海兵器が完備されており、地上層は広間とちょっとしたコテージがあるくらいだ。

夕飯を食べ終わって、皆が風呂に入り終わったらまた席に座らせてから話す。

「それじゃあ受験に向けて頑張ろうではないか。」

『おぉ~!!!!!!』

それから受験までみっちりと予習復習をし、互いに教えあったりして勉強会をした。

そして、皆は無事に受験を受けてAクラス総勢40人中全員が志望先の高校に受かった。

それが中3であった出来事である。祝杯として、パトリキウスの客間で特上霜降り肉のステーキを振舞ったり、屋内バーベキューをした。

高一ではこれと言った大事はなかったので割愛しよう。

 



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異世界転移…………

高校2年次となり、クラスはある種の混沌となっていた。

メンバーを紹介しよう。

1番天之河光輝(あまのがわこうき)。2番相川昇(あいかわしょう)

3番青田坊(あおだぼう)。4番飯田天哉(いいだてんや)

5番誘宵美九(いざよいみく)。6番犬塚孝士(いぬつかたかし)

7番岩泉翔(いわいずみかける)。8番遠藤浩介(えんどうこうすけ)

9番鳳ちはや(おおとりちはや)。10番金森羽片(かなもりうかた)

11番加納慎一(かのうしんいち)。12番神原駿河(かみはらするが)

13番粉雪氷麗(こなゆきつらら)。14番近藤礼一(こんどうれいいち)

15番材木座義輝(ざいきざよしてる)。16番斎藤良樹(さいとうりょうじゅ)

17番坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)。18番紫呉涼愛千嗣(しぐりあせんじ)

19番七之里呼吹(しちのさとこふき)。20番清水幸利(しみずゆきとし)

21番白井黒子(しらいくろこ)。22番白崎香織(しらさきかおり)

23番菅原妙子(すがはらみょうこ)。24番鈴木燈(すずきあかり)

25番園部優花(そのべゆうか)。26番谷口鈴(たにぐちすず)

27番玉井敦史(たまいあつし)。28番辻綾子(つじあやこ)

29番粒咲あんこ(つぶさきあんこ)。30番寺田一成(てらだいちなり)

31番塔城白音(とうじょうしろね)。32番中村恵里(なかむらえり)

33番永山重吾(ながやまじゅうご)。34番中野信治(なかのしんじ)

35番七海征十郎(ななうみせいじゅうろう)。36番七樂上羅(ならくうえら)

37番仁村明人(にいむらあきひと)。38番奴良リクオ(ぬらりくお)

39番野村健太郎(のむらけんたろう)。40番檜山大介(ひやまたいすけ)

41番平野コータ(ひらのこーた)。42番御坂美琴(みさかみこと)

43番宮崎奈々(みやさきなな)。44番八重樫雫(やえがししずく)

45番山城由依(やましろゆい)。46番吉野真央(よしのまお)

47番良公早愛沙(らくさあしゃ)。48番林檎悠里(りんごゆうり)

49番瑠維井治(るいいじ)。50番怜爲鍍堕甕寅智(れおなるどだういんち)

以上50名がクラスメンバーである。

そして、担任は雷王荒鬮(らいおうあれく)ことイスカンダルで副担任に去年新任された愛ちゃんこと畑山愛子(はたやまあいこ)である。

何より今年は最重要警戒年である。何故って?心眼と直感でする未来観測が今年の春で途切れているのだ。まぁ、’’ありふれた職業で世界最強”の地球での主要キャラがいるので大方異世界トータスに飛ばされるであろうことは分かっているので、外回りを対策しに回っている。まず、パトリキウスをトータスに転移できるようにしたり、出会ったことがあるクラスメイトの親に異世界転移について教え、暫くいなくなることを教えておく。他の神話や日本神話(ヨミ以外)にも教えておく。三王や桜、李書文にもパトリキウスごと飛ばされるであろうことはことを告げておく。

そして、日常的に生活をしていて気がついたのだがいつの間にやら天之河がこのクラスのリーダー核となっていた。ただし学級委員長は飯田である。

そんなこんなで過ごしていたのだが…それは起こった。

 

月曜日

それは休日明けでかなり憂鬱となる日である。

そして、擬似的な未来予知こと未来観測が途切れている日である。なので連絡網でクラスメイトの親御さんに今日起こる事を教えてパトリキウスを霊体化もとい儂の内に仕舞ってから学校に向かう。因みに騎士王と英雄王、桜と李書文、序に隣町である駒王町から異世界転移の匂いがしたとミルたんなるある種の化け物がパトリキウスの中におる。征服王は教師なので儂らより先に学校に行っておる。

儂は白音と共に学校に向かい、着いたのだがまだ誰も来ていなかったので、今まで描写したことはないが毎日の日課である宝具を磨く作業を開始した。

「……涼愛さん、さりげなくメタな思考をしないでください。」

「む、悟られたか。これは儂もかなり落ちぶれたのう。ヘラから詫びとして貰った権能も雷霆(ケラウノス)をも越えたのも時が経った事を意味しておるのかのう。」

「……いえ、ピリッと私の毛が反応したのでメタなものを悟っただけです。ですので涼愛さんが落ちぶれた訳ではありません。」

そんなやり取りをしている間に武器系の宝具を磨き終わり、着々とクラスメイトが教室に入ってくる。

大方揃い、あと5分か7分程で朝のホームルームが始まるくらいで南雲が教室に入ってきた。

それを檜山を筆頭とした近藤、中野斎藤が囲み、

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

とゲラゲラと笑う。それを聞いてムッとしたのはコータや慎一等の連盟のオタクチームを主とした璃緒須中出身者である。

檜山の言う通り、ハジメはオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。大人しくはあるが陰気さは感じさせない。単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。

世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。

関係ない話で言い忘れていたが、このクラスは2分割してるのではないかと思える何かがある。

飯田をリーダーと見立てたあの当たり屋事件を知っており、香織の初恋を成就させる連盟と、天之河をリーダーと見立てた当たり屋事件を知らず、南雲を侮蔑対象としている者達だ。

まぁ、清水が撮影してメモリ保存していた当たり屋事件の映像を見せたら女子達は侮蔑する事は無くなるだろうが。

それはさておき、南雲が席に座ったら連盟のオタク共が南雲のもとに行きオタク話を始める。

話は戻るが、なぜ檜山ら1部男子生徒が南雲に敵意や侮蔑をあらわにするのか。

その答えが彼女だ。

「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ。そしたら転〇ラが今後どうなるのかの予測を談義出来るのに。」

香織である。しかし、香織が混じってオタク話に交じったのを見た檜山をはじめとした連盟外のクラスメイト達が驚いていた。それもそうだろう。なんせ璃緒須高校ですら2大女神と呼ばれている白崎香織がキモオタと同じものを趣味としていると誰が思うだろうか。

「ごめんね香織さん。昨日一昨日はテスターのバイトで«モン〇ン»新作のエピソードをしてどうだったかをまとめなくちゃいけなかったんだ。」

さらに、徹夜でエロゲと馬鹿にしていたのに、まさかの某有名ゲーム企業の専属?テスターであることを宣ったので、今まで侮蔑していた訳が分からなくなるという自体に発展。

今までは徹夜でエロゲをして2大女神の1人である香織に世話を焼かれてもただそうとしないから侮蔑していたのに、実はテスターとしてのバイトで忙しく、徹夜をするハメに。しかも、別の観点から見たら将来の就職先が決まっているが故の余裕とも取れるので、南雲のことを知らずに侮蔑していた自分が馬鹿らしくなったのだ。未だに侮蔑している者もいるが。

後に香織から教えられたのだが、香織が南雲に挨拶をしたら連盟外の生徒らが殺気を南雲に放ち始めたのを読み取ったのでいっその事色々とバラして殺気を緩和しようと思い、南雲にオタク話をかけたそうだ。

「だから寝不足でさ。慎一達も────」

「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

南雲が話しているのを口を挟んだのは勇者(笑)である天之河と脳筋の坂上である。

雫は後方で額に手を置いて溜息を吐いていた。

((何処が世話を焼いてるんだ?!どっからどう見ても白崎さんは南雲にほの字だろう?!坂上も坂上でやる気ないって……仕事疲れに何言ってんだよ!!))

連盟はもちろん今まで侮蔑していた連盟外の生徒らの1部で気づいた奴も心が重なった。

「あぁ、おはよう。八重樫さん、天之河くん、坂上くん。仕方ないよ、最近競争率が上がってるんだから。」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

光輝がハジメに忠告する。光輝の目にはやはり、ハジメは香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。

「馬鹿を申すでないぞ光輝。南雲のバイト先とライバル社の競争率が上がり忙しいと南雲は申したというのにお主はそれが分かっているなら直すべきだと申すか。競争率をどうやって直すのじゃ?申してみぃ。そもそもの話し、そんなことをしたら1発で営業妨害として起訴されるぞ?それに……」

「?天之河くん、なに言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

香織が南雲にほの字であることに気づいてない男子が南雲を呪い殺さんばかりの殺気を放ち、檜山達四人組に至っては昼休みに南雲を連れて行く場所の検討を始めている。

が、ほんの一瞬だけちびる程の威圧が放たれて静まる。

「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」

どうやら光輝の中で香織の発言は南雲に気を遣ったと解釈されたようだ。

どれだけご都合主義なのだろうか。此奴は。

そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り雷王の先公が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、仕事疲れの南雲が夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。

そんなハジメを見て香織が微笑み、雫はある意味大物ねと苦笑いし、1部男子達は舌打ちを、女子達は呆れの視線を向けるのだった。

 

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昼食の時間となり、オタク共が南雲の席の周りに集まる。というより、周りの机を除けて広くし、風呂敷を大きく広げ各自でマイ箸とマイ皿を用意する。

そこに涼愛と白音、連盟メンバーが座っていく。そして、涼愛が縦横30計900平方×10段の重箱をも出して広げる。

そう、連盟メンバーは当番制で場所取りをしており、1人700円払うことで涼愛特性の弁当が食えるのだ。

因みに払う金の量が多いほど中身が豪華になっていったり、要望道理の品を入れてもらえたりするシステムでもある。

喧騒で目が覚めたであろう南雲も直ぐに風呂敷内に座ってから食べ始める。1クラス合同勉強会の時に連盟メンバーは涼愛の作った料理の味が美味く、それ以来虜なのである。

教室内は購買組が既に飛び出していったので人数が減っており、それでも儂らの所属するクラスは弁当組が多いので三分の二くらいの生徒が残っており、それに加えて四時間目の社会科教師である畑山愛子先生(二十五歳)が教壇で数人の生徒と談笑していた。

「おおっと、なくなる前に来れてよかった。」

教室に雷王の先公が入って迷うこと無く連盟のいるもとに来て儂を持ち上げてから座禅を組んで儂を膝上に座らせる。そう、900平方が10段の重箱なのは雷王の先公も一緒に食べるからである。

そうしていたら、

「皆珍しいね、教室でお弁当食べてるの。一緒に食べてもいいかな?」

「うむ、余は一向に構わんぞ。」

教員が許可を出したので香織も風呂敷内に座って自分の弁当を食べ始める。

「南雲くん、良かったら私が作ったの食べる?」

「ん?いいの?ならいた「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝を一瞬睨んだが直ぐにキョトンとした香織。天然なのだが、中学の時に邪魔をしないよう忠告したのにバリバリに邪魔をする天之河に嫌味が指している彼女には、光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないようだ。

「え?なんで天之河くんの許しがいるの?」

素?で聞き返す香織に思わず連盟メンバーの内数人が「ブフッ」と吹き出した。

「それは───」

天之河が香織の問いに答えようとしたが空気が凍ったせいで出来なくなった。

原因は天之河の足元で純白に光り輝く円環と幾何学きかがく模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

自分の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆!教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。

数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。ただ、重箱と風呂敷も無くなっていた。

「チーすっ。涼愛の弁当食いに来………………あり?どこ行った?」

他のクラスで今の今まで教員に押し付けられた仕事をして終えたから昼飯を食いに来たが誰もおらず昼飯抜きとなってショックを受けるYであった。




因みに他の作品キャラ(原作キャラ)は描写が少なくなると思います。稀にしか出ません。


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事情説明…………

爆発的な光量にクラスメイトの大半が目を瞑る中、儂はずっと開けており、先の魔法陣を脳内に記録し、周りを見たら白地に金の刺繍ししゅうがなされた法衣のようなものを纏まとっているおっさんコスプレイヤーが30人ほど手を組んで祈りを捧げていた。

その時に、縦横十メートルはありそうなその壁画があり後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていて、背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている美しい壁画からねっとりと粘つく何か物色するような視線を感じたので爪楊枝に10兆ボルトの雷霆を纏わせて視線に放ち、視線の主に攻撃が当たったのを確認したら警戒をしながらも昼飯を食べる。連盟メンバーの中でマイペースな奴らは既に食べる事を再開している。

「ま、マイペースだな。あんたら。」

犬塚が軽くツッコミを入れてから食べることを再開した。それに気づいた他の連盟メンバーも食べることに集中して食べ切った。

因みにマイペースだったのは羽片と雷王の先公、儂、ちはや、義輝、呼吹、白音である。

食い終わって風呂敷と重箱を片付けたらパトリキウス内に送っておく。

そして、皆が向いている方を向くと、

「────────聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

丁度自己紹介していた所だった。イシュタルという名ものは大体が曲者であったはず。

イシュタルに案内されて今は儂のパトリキウス内にあるテーブル程ではないがかなり大きいテーブルがある装飾された部屋に来て、上座に近い方を右側に愛ちゃん先公、天之河、坂上…………と続き、左側に雷王の先公、儂、飯田…………と続いておる。序に言えば左側の最後尾に南雲が座り、その隣に香織は座っておる。檜山が何故香織があそこにいる。と睨んでおるが、今は置いといてもいいじゃろう。

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!

こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさんらを凝視しておる。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのがの……

左側の上座にいる雷王の先公、儂、飯田は惑わされなかったがの。

儂ら3人はテンプレ道理ならば………と警戒してイシュタルを睨めつける。

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

そう言って始めたイシュタルの話は予想通りのテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。

要約するとこうだ。

ここは異世界、名をトータス。この世界には3種族おり、人族、魔人族、亜人族という総称を持つ。

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

それが、魔人族による魔物の使役だ。

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。

これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

イシュタルはどこか恍惚こうこつとした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

儂としては狂信者の集い場の中枢にいることに吐き気がしてきた。

オタク共は儂の顔を見て、1発でダウトだと把握したらしい。

【先程、エヒトと目を合わせたぞ。奴の目的は依り代探し。】

【なぬー!それでは下界に降臨するのが目的なのか!】

【いや、冷静に考えたら要因がある筈。そのエヒト出ないと対象出来ない奴が現れるのか、エヒト自身がこの世界を破壊しようとしているかのどちらかのはず。】

【なら、その2つを重点的に警戒して置けばいいね。】

オタクらと目で会話をしていたら、

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

愛ちゃん先公がイシュタルに抗議をする。それを見たクラスメイト達は和み出した。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

愛子先生が叫ぶ。

雷王の先公は一言も喋らずにずっとイシュタルの目を見ていた。

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

パニックになる生徒達。

誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。

儂はその目の奥に侮蔑が込められているのが分かった。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。それに、香織をチラ見したら香織も侮蔑の視線に困惑している。

未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

[のう、それは本気で言っておんのか、小僧(・・)?]

しかし、威圧的な怒気が発されて皆が黙り込む。

[自分の都合がいいようにしか考えておらん平和ボケした小僧風情が………………なんと言った?]

天之河は涼愛が戦争が怖いのだろうと、言った。言ってしまった。

「涼愛、戦争が怖いのは分かる。でも大丈夫!俺が世界も皆も救って守って見せる(・・・・・・・・・・・・・・・・)!!!!」

「ッ!?いかん!?」

[戦争のせの字すら知らん若人の小僧風情が粋ガッ!?!?!?]

涼愛が天之河の軽率な言葉でブチ切れて神性を解放しようとしたので、雷王の先公……否、征服王イスカンダルは武骨な剣を出して柄先で脊髄を殴打して気絶させ、当分前に英雄王から英雄王の親友である天の鎖を腕輪サイズの物を4本預けられていたので涼愛の両腕両足に付けて椅子に寝かせる。

「あまり軽率な言葉発するな、天之河光輝。」

「え、雷王先生…………その剣はい「こらぁ!!教師たるものが生徒に暴行なんてするんじゃありません!」

天之河が何か言っていたが、まず愛ちゃんを鎮めなければならない。

「すまんすまん。だが、ああしてないと天之河光輝は消されていた(・・・・・・)。そんな予感がした。それは後でいいとして、天之河光輝、貴様は戦争がどんなものか分かっておるのか?貴様のような人間全てが聖人君子である考え方は戦争に意味は無い。即刻捨てろ。出なければ生き残れんぞ。それに、此奴を見縊るでないぞイシュタルよ。此奴、エヒトとやらが余達を召喚する時に使われた魔法陣を解析しておったからな。近い内に何か分かるであろうな。おおっと、これだけは言わせてくれイシュタルよ。1ヶ月の猶予が欲しい。」

「ちょ、雷王先生!?何故戦わないのですか!?」

「馬鹿を言うな!!!!!!!天之河光輝、先程から言うとるではないか!!!!!!!軽率な言葉を発するなと!!!!!!!この地へ唐突に招かれてタダでさえ精神的にきつい状態で人殺し等させたら手に負えなくなる!!!!!!!1ヶ月の猶予で参戦反対の意志を個人個人で決めさせぬと手遅れになるぞ!!!!!!!」

イスカンダルが言っていることを要約すると、

親に会えないなどで精神的にショックを受けている者に無理に戦わせたりしたらいずれガタが来て敵の的にされてしまう。1ヶ月の猶予である程度この世界に慣らして、人殺しをしても隙を見せないくらいにならなければクラスメイト内で死人が出て手遅れになり、死人が出ました。となったら親御さんに面目が立たないし悲しむ。

そういう意味を含んだ言葉である。

しかし、言っている相手は自分の都合がいいようにしか考えていない男である。

天之河は今のを「平和ボケした軟弱者が!!1ヶ月の猶予でへっぴり腰のままでいるかいないかを決めろ!!じゃないと魔人族が攻めてきて己の身すら守れんぞ!!」と解釈したのである。流石は勇者(笑)クオリティ。

雫は雷王先生の言葉の意味を理解し、未だに悩んでいた隣に座る生徒……園部優花に雷王先生が言った言葉の意味を教える。園部は納得をしてさらに隣に教える。オタク共は義輝が厨二発言として捉え、雷王先生が言った意味を理解し、隣に厨二発言として捉えたら意味が分かることを教えた。坂上に言っても脳筋なので意味が無いし、光輝側なので光輝が捉えた意味の方に走る。

「そうじゃなければ困る。何が困るかはイシュタルとやらも分かるであろう?彼らの心は熟してない。故に命を奪うことに躊躇いも生じる。今一度こいつらに決心するまで、そして、この世界で生き残る術を学ばせて欲しい。あ、訓練などは護身術を主に頼む。」

結局、戦争に参加するかは1ヶ月後に再確認することになった。しかし、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。

まぁ、雷王先生が言った1ヶ月の猶予とはそういった現実逃避から現実を認めるまでの期間でもあるが。

儂は気絶したふりをしながら主武装をどれにするか悩んでおった。

イスカンダルは涼愛がそんなことを考えていると予測し苦笑いしながらそれとなくイシュタルを観察した。彼は時間が無いとでも言うようにあまり表情には出てないが不満な顔を浮かべている。

連盟メンバーはそこそこ勘づいていた。イシュタルが事情説明をする間、上座にいる2名を無視して語った天之河を中心に観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。

正義感の強い天之河が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。

以前涼愛が言っていた狂信者は手段を選ばない。という言葉が何となく分かったイスカンダルは念話で涼愛と涼愛の中のパトリキウス内にいる彼らに人族要警戒を伝えておくのであった。

 



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すてーたすぷれーと…………

征服王イスカンダルこと雷王荒鬮の1ヶ月の猶予という生徒達のカウンセリング、この世界の常識や地理の熟知、既に戦う意思のある者に戦闘訓練や、戦う気の無い者に自己防衛術を教えたりするための期間を設けてもらうという頼みを了承してもらった。

どちらにしろイシュタルは部下達が召喚した者たちがロクに戦えないだろうと予測していたのか、ここが聖教教会本部のある山であり、麓にはハイリヒ王国という国家がある。そのハイリヒ王国に召喚された勇者達の受け入れ態勢を整えてたらしい。

そんなことをイシュタルが言いながらも今は聖教教会の正面門にクラス全員は来ていた。ここから下山しハイリヒ王国に行くらしい。

聖教教会は神山の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。おそらく魔術で生活環境を整えているのだろう。

クラスメイト達は、陽光を反射して煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れておる。

儂は前世でアニメだが、日輪と黄昏(偽)の衝突時の輝きに認めておったのでそこまで見蕩れはせんかった。

因みに気絶したふりを未だに続けており、雷王の先公におんぶされている。

自慢気なイシュタルに催促され先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。

ここで儂は気が付きましたアピールをしつつ雷王の先公の背から降りる。

周りをよく見たら、大聖堂で見たのと同じ素材で出来ておった美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。

台座には巨大な魔法陣が刻まれておった。柵の向こう側は雲海故に大多数の生徒が中央に身を寄せる。儂は堂々と柵の上に座ったがの。

クラスメイト達は中央に身を寄せようともやはり興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

その途端、足元の魔法陣が燦然と輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。

どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのじゃろう。ある意味、初めて見る〝魔術〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎじゃ。

「ううむ、この陣、何か物足りんのう。ヴィマーナに描かれておる陣より雑な面が大きいし。」

そう、儂は先程台座に刻まれていた魔法陣を他で見たことがあるのだ。それも、この台座のものよりさらに複雑怪奇な構造で、分かりづらいのじゃ。しかし、ヴィマーナにある陣を理解し他に構築出来れば儂の機動力が上がるので、諦める事をせんかったのじゃ。

そんなことを思いつつパトリキウスを神山より上空に待機させておく。

ミルたんが飛び出そうとしておったので適当な街……ブルックに降ろしておいた。

それが後にどうなるのかは…………分からない。だが、魔法少女(ミルたん)漢女な店主(クリスタベル)が揃うと………考えることを辞めよう。

そんなことを脳内で考えておったら雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。

儂は素晴らしい演出だと苦笑いをしてしもうた。なんせ、雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟という構図をそのまま表しておるのじゃから。儂らのことだけでなく、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理はないじゃろうな。

儂にとって、この世界はとてつもなく歪んでおる。なにせ、この世界には異世界に干渉できるほどの力をもった超常の存在が実在しており、文字通り〝神の意思〟を中心に世界は回っているのじゃからな。

儂らの帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の胸三寸なのであろう。凄く不愉快故に1度はぎゃふんと言わせたいものじゃな。それはさておき、徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、儂はヴィマーナの陣解析と並行して先程見て記録した陣の解析も進めるのであった。

台座が王宮の塔に合着したら台座から降り、そのまま真っ直ぐに玉座の間に案内された。

教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。儂らが何者か、ある程度知っておるようじゃな。

儂は先程から震えておる白音の傍に寄って頭を撫でてやりながら歩幅を合わせて歩む。

やがて美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放ったのであった。。

イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。天之河等や連盟メンバーの各分野リーダー、一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢ごうしゃな椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって(・・・・・・)待っておった。

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。

それだけではなくレッドカーペットの両サイド……左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでおった。

玉座の手前に着いたらイシュタルは儂らをそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようで国を動かすのが〝神〟であることが確定した。

そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

その頃儂は内心でリリアーナ改造計画を建てておった。エリヒドは言いなりとなっておるので無理、ルルアリアは表舞台には顔をあまり出さないので無理、ランデルは若すぎるから無理、よって残ったリリアーナに儂が未だ尚、香織に教えている武と神に頼り過ぎない政策の例をいくつも教えるつもりである。

その時リリアーナの背筋が凍ったらしい。

後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようである。

連盟よ、今こそ再び立ち上がるぞ。地球にいた時より忙しくなるであろうな。連盟メンバーは悟ったのか覚悟を決めていた。

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたが非常に美味だった。

ランデルがしきりに香織に声をかけようとしてたが、此度は緊急として連盟メンバー総員でさり気ない妨害をして声をかけさせなかった。

王宮では儂らの衣食住が保障され、訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。

しかし、1ヶ月後までは意味が無いのじゃがな。

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。

儂は訳あって白音と同じ部屋にして貰ったがの。部屋の中には儂がいつも使っておるベッドの4分の1しかないベッドとデスク、チェアしか無く、もの寂しかった。

明日も早いじゃろうから猫化した白音を抱き枕にして寝た。

 

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次日、儂を含めたクラスメイトらと先公2人は訓練場に招集されていた。

雷王の先公は1ヶ月の猶予を貰えなかったのかと心ん中でかなり狼狽えておる。

それは杞憂じゃったがの。

まず、儂ら全員に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見るクラスメイト達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかと飯田が問うたのだが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落ごうほうらいらくな性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいじゃ。

儂もその方が気楽で良かった。儂はこのような口調故に上から目線だと捉えられるときがよくあるのでな……。

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

なるほど、と頷きクラスメイト達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。

 

✲✲✲

 

紫呉涼愛千嗣_17歳_男(の娘)_レベル:1

天職_剣士(セイバー)

筋力:2000

体力:∞

耐久:700

敏捷:8000

魔力:∞

魔耐:∞

技能:魔力攻撃無効・物理耐性・剣術・怪力・言語理解

特殊«+黄金律»«+聖騎士帝»«+星の紋章»«+麗しの風貌»«+聖者の数字»[+神性][+神通力][+皇帝特権][+根源接続][+自己暗示][+文明浸食][+竜種改造][+叡智の結晶][+精霊の加護][+陣地作成]

魔眼«+天眼»[+心眼(真)(偽)][+直死の魔眼]

特攻«+無辺»[+竜殺し][+巨獣狩り][+神秘殺し]

技術«+騎乗»«+雲耀»«+極地»«+不断»«+軍略»«+陰陽魚»«+新陰流»«+無刀取り»[+武の祝福][+仕切り直し][+無窮の武練][+騎士の武略]

精神«+直感»«+勇猛»«+戦闘続行»«+沈着冷静»

魔力«+魔力放出»«+魔力操作»«+魔力感知»

英霊化[+神話][+宝具]

 

✲✲✲

 

儂のはこの世界のものと、英霊としてのものが混じってあった。

咄嗟にステータスプレートを場所と見立てて偽造した。

 

✲✲✲

 

紫呉涼愛千嗣_17歳_男_レベル:1

天職_剣士(セイバー)

筋力:200

体力:200

耐久:700

敏捷:800

魔力:500

魔耐:---

技能:魔力攻撃無効・物理耐性・剣術・怪力・天眼・雲耀・無辺・極地・直感・勇猛・沈着冷静・聖騎士帝・麗しの風貌・限界突破・言語理解

 

✲✲✲

 

魔耐に関しては技能の魔力攻撃無効があるおかげ?せい?で表示されなかったが、大体これくらいが妥当だろう。

因みに雷王の先公はステータスプレートに垂らす血滴の量を感覚で計って垂らすことで妥当な数字にしていた。

偽造したと同時にメルド団長からステータスの説明がなされた。

「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に〝レベル〟があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

なるほど……ゲームみたくレベルが上がるからステータスが上がるという方程式ではないらしい。

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」

メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

ふむ、儂は剣士(セイバー)じゃったのう。転生時に引いたあれと同じとは運命とは皮肉なものよ。

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

この世界のレベル1の平均は10らしい。

儂は歩法で誰にも気づかれぬように移動して南雲のステータスを確認する。

 

✲✲✲

 

南雲ハジメ_17歳_男_Lv:1

天職:錬成士

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

 

✲✲✲

 

なんとも見事なオール10のステータスである。今儂が南雲の肩を力加減せずにつつくだけで南雲はこの世とばいちゃすることになるな。

メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

✲✲✲

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

✲✲✲

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

ぴったり南雲の10倍である。今頃南雲はちぃとの権化だとか思っておるのじゃろうな。

天之河は団長の称賛に照れたように頭を掻く。

因みに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。

しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜くのは見え見えである。

それに、技能=才能である以上は先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。

これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

儂では英霊化の[+神話]や特殊の«+黄金律»が該当するのであろう。

と思えば、南雲から乾いた笑みが零れ始める。分かるぞ童よ、最弱であることを自覚したのじゃな。

とうとう南雲に報告の順番が回ってきて南雲は潔くメルドにプレートを見せた。

今まで規格外のステータスばかり確認してきたメルドの表情はホクホクしている。この顔からして多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

そのメルドの表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートを南雲に返した。

おい、そのようなことをすればどうなるか分かっておるのか?

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

歯切れ悪く南雲の天職を説明するメルド団長。

おいおい、そんなことを言ったら………………

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

ほら言わんこっちゃない。

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

檜山が、実にウザイ感じで南雲と肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に非連盟の南雲嫌いな男子はニヤニヤと嗤わらっている。

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

メルドの表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗しつように聞く檜山。

本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。

事実、香織や雫などは不快げに眉をひそめている。

香織にほの字のくせ、何故にそれに気がつかないのか。そんなことを考えながら南雲らを見ておれば南雲は投げやり気味にプレートを渡しておった。

南雲のプレートの内容を見て、檜山は爆笑した。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。

「ぶっはははっ~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

次々と笑い出す南雲嫌いの生徒達に香織が憤然と動き出す。しかし、その前にウガーと怒りの声を発そうとする人がいた。愛子先生だ。

「こ「のう、愛ちゃん先公よ、ステータスはどうであった?」らーって今はそんなことより南雲くんを────」

その愛ちゃん先公の行く手を儂はさり気なく妨害する。そうした結果どうなるのかは分かるであろう。

「なんで私の(・・)南雲にそんなことをするのかな?」

香織が怒気を込めた声を発したのである。しかし、儂は思わず額に手を置いて溜息を吐く。

香織の奴、理性より欲と情が勝って「私の(・・)」なんて言いおって。後である程度のことは理性が勝るようにせねばな。

「え、し白崎さん?」

笑っていた南雲嫌いの生徒達は香織が怒ったことに思わず黙り込む。唯一檜山がしどろもどろに香織の名を呼ぶ。

「早くそれをハジメくんに返して。私ね、前々から言いたかったんだけど、檜山くんみたいな人は大っ嫌いなの。だって、この歳になって10才の子供と同じ行動しか取ってないじゃん。それにハジメくんを集中的にいじめてるし。私がハジメくんに近づくことの何がいけないの?オタクだから?だったら私もオタクだよ?平凡だから?別に平凡でもいいじゃん。気弱だから?気弱でも強い所は必ずあるよ。私がハジメくんに近づいたら行けない訳はどこにもないじゃん。檜山くんがハジメくんを虐める必要なんてないじゃん。だったらハジメくんをもう虐めないで。貴方達も絶対にね。」

斎藤の手に握られている南雲のステータスプレートをぶんどってから南雲の元にまで行く。

しかし、南雲は両膝と両手を地面に付けていた。何故って?香織が檜山をディスったのだが、実は南雲にも結構ダメージが入っていたのだ。南雲にダメージが入らないようにオブラートに言わなかったりするところ、香織が天然なのは変わらないようだ。

「あれ?ハジメくん、大丈夫?はいこれステータスプレート。」

「あ、ありがと。香織さん。」

香織は南雲を立たせてからステータスプレートを渡す。

(か、香織さんって力強くない?お、怒らせないようにしよ。)

(やった!ハジメくんに触れた!この調子で頑張ろ!!)

【おんしら分かっておるな?】

【勿論さ!】

【天之河と檜山があの二人を邪魔しないよう妨害だな!!】

【【ああ!!!!!!!】】

儂はアイコンタクトで連盟メンバーと会話した後、南雲に続いてメルドにステータスプレートを提示する。

「おぉ、次は千嗣か。どれどれ…………………………なにぃ!?勇者である光輝の数倍だと!?!?!?」

『ッ!?!?!?』

クラスメイトは無論、訓練場内にいるクラスメイト達を鍛えるための師達らも驚愕していた。

「何らおかしな所はあるまい。このすてーたすぷれーととやらは己の格を示しておるのじゃろう。出なくば己の血を垂らす必要などあるまい。このぷれーとに垂らした血は生かされておるし繋がりもある。じゃから数値化されたものが上昇するんじゃよ。」

「だ、だが…………イシュタル様の話によると1番強い者が勇者だと神託を授かったとか…………」

「阿呆。1番偽善者ぶってる(・・・・・・・)の間違いじゃろう。でなければ勇者はお主らの話に疑いを持つであろう。偽善者ならば真偽を問わずに直ぐに頷くじゃろうからな。それに、あまり誇示はせぬがこう見えて儂、元の世界では5番目くらいに強いし。」

因みに1番は夢幻龍グレードレッドという次元の狭間に住まう龍神。

2番は無限龍オーフィスというグレードレッドから次元の狭間を追い出された静寂を好む龍神。今はパトリキウスにある全ての音を遮断する部屋に篭っている。

3番はORT。死徒二十七祖第5位タイプ・マーキュリー。次元の狭間によく行き狭間にいるグレードレッドと日夜殺し合いをしている地球外生命体。

4番は儂と同じくらい強い英雄王ギルガメッシュである。幾数多の聖剣魔剣の担い手として個ならば儂が強く、無尽蔵の宝具を有して圧制ならば英雄王が強いのだ。

何処ぞの贋作者が「貴様は王であって戦士ではない」と言いきれるように、英雄王は王として個を圧制する。

儂は英雄王が宣った「忍耐の極地に至った男」の力を持ちつつ剣の担い手という個として圧制を超える。

それが続いておるのだ。

閑話休題

「ならばメルドに問うが戦うということを一切知らぬ小僧と蘇りし神話の決戦に身を置いておる儂、どちらが強いか分かるであろう?」

最後にこの言葉を耳元で囁いてから元いたところに戻る。メルドは儂が囁いた言葉の意味を理解したのかこの強さに納得をしていた。

 




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おるくす大迷宮…………

メルドからステータスプレートを渡されてから丁度1ヶ月が経った。

今、召喚された全員が王宮の謁見の間におり、クラスメイト達は二手に分かれていた。

「荒鬮さんが言った1ヶ月の猶予。いかがでしたかな。今一度確認します。戦争に参戦する者は左手側へ。戦争に反対する者は右手へ移動してくだされ。」

イシュタルに促されてクラスメイト達は左右に別れた。

左手側の参戦する者は出席番号順に

天之河光輝、相川昇、岩泉翔、遠藤浩介、近藤礼一、斎藤良樹、坂上龍太郎、菅原妙子、園部優花、谷口鈴、玉井敦史、辻綾子、寺田一成、中村恵里、永山重吾、中野信治、七海征十郎、七樂上羅、仁村明人、野村健太郎、檜山大介、宮崎奈々、八重樫雫、吉野真央、良公早愛沙、林檎悠里、瑠維井治、怜爲鍍堕甕寅智、雷王荒鬮の29人が参戦し、

右手側の反対する者は出席番号順に

青田坊、飯田天哉、誘宵美九、犬塚孝士、鳳ちはや、金森羽片、加納慎一、神原駿河、粉雪氷麗、材木座義輝、紫呉涼愛千嗣、七之里呼吹、清水幸利、白井黒子、白崎香織、菅原妙子、鈴木燈、粒咲あんこ、塔城白音、南雲ハジメ、奴良リクオ、平野コータ、御坂美琴、山城由依、畑山愛子の25人が反対である。

雷王荒鬮に関しては引率として参戦側に行った。

「分かりました。明日から早速…………という訳にはいかないのですよこれが。実は最後、迷宮にて魔物を狩る訓練を全員でして貰いたい。そこでレベルを上げることと初めて魔物の命を奪うことを知って貰いたい。」

唐突に言われたことに雷王の先公が約束と違うことを指摘しようとしたが、理に叶っていることを言われて声が出せず、全員が行くこととなった。

その1日後、儂らはホルアドという宿場町にまで来ておった。

そういや言い忘れておったわ。この1ヶ月の間の出来事をな。

まず、参戦する気が召喚されたときからある天之河とそれについて行く坂上、天之河の勇姿を見たいと言って行った女子共やこの世界をゲームだと思い込んでおる馬鹿共が初日から訓練に参加して、それ以外はこの世界について詳しく知るために図書館で書物を漁ったり、既に解明されている1部の魔物の弱点等を調べたり、この世界の者に直接師事したりして情報やこの世界なりの常識を学び、そこから自己防衛だけでも出来るように訓練に参加している者もいた。

まぁ、最初から訓練をしている天之河らと明確な差があったので儂がちょくちょく手を加えることで追いつかせておった。

南雲に関してはオタク共が躍起になって対処しておった。あ、香織も一緒にの。

じゃがある時にそれは起こった。結果を言うと檜山らが懲りもせずに三度南雲を虐めたのである。しかも南雲は右の腕の皮膚が爛れるという重症を負わされた。

香織は檜山らが少しは懲りて南雲にちょっかいを出さぬと思っておったので香織は完全に檜山らを見限った。

香織と共に来ていた天之河が「訓練を怠けて───」などとほざいておったからこの世界の常識を問うたら地球の常識を出してきたので儂が纏めたこの世界の常識のレポートを天之河に叩きつけたわ。

そんなこともあって、今日になった。

話は戻るが、部屋決めがあり、

天之河と坂上、相川と清水、青田と奴良、飯田と犬塚、誘宵と鈴木、岩泉と平野、遠藤と野村、鳳と金森、加納と材木座、神原と粉雪、近藤と檜山、斎藤と中野、儂と山城、七之里と塔城、白井と御坂、白崎と八重樫、菅原と園部、谷口と中村、玉井と寺田、辻と良公、粒咲とみ宮崎、永山と仁村、七海と七樂、吉野と怜爲鍍、林檎と瑠維、メルドと雷王、愛ちゃんは1人と決まった。

あ、ほんとに今更なのじゃが…儂、性別男子なのに何故か制服はブレザーだし(改造したが)、ここの王宮ですら女子物の衣類しか渡されておらんのじゃよ。

儂は気落ちしながらも指定された部屋に入る。どうやら山城は儂よか先に入っていたようじゃ。

「おぉ!!私と同室なのは涼愛ちゃん(・・・)かぁ!!今更だけどあたしは山城由依、よろしく!!」

「あ、あぁ。儂は知っておるであろうが紫呉涼愛千嗣。このような形ではあるがれっきとした男子じゃ。ったく、何故に王宮の者らは女子物の衣類しか持って来ぬのだ。」

「なんと!!リアルガチな男の娘(・・)だとは!あ、あたしのことは由依って呼んで。それとちょっといい?」

由依は椅子から立ち上がり儂の背後に立つ。そしたら、

「えいっ!!」

両腕を広げて抱きついてきた。が、相手は儂。極地を使って回避して天井に張り付く。

そうなると抱きつこうとして飛びかかっておった由依はコケる。

「ぬわぁッ!?!?ててて。なんで躱すのさぁ?」

「儂は抱くのは出来るが…抱かれるのは……なんと申すか…とらうま?なのじゃよ。」

少女趣味な騎士王が儂を着せ替え人形にした挙句着ぐるみ型のパジャマを着せられたら飛び付いてきて、全身をまさぐられたのは忘れたいもんじゃ。

「ふぅん。ならいっそう抱き────」

 

ゴンゴンゴンッ!!!

 

「千嗣殿はいるか!!明日の策を弄じたいので連盟メンバー総長として来て頂きたい!」

義輝から急に呼ばれたので

「およ?この口調から何かあったな。スマンが由依よ、儂はしばし出ておる。気になるならついてこれば良い。女子にはあまり関係ないのでな。」

由依にそう言い残してこの部屋を出る。由依は気になったのかついてきている。

加納と材木座の部屋に連盟メンバーは集合した。連盟メンバー総員が1つの部屋に集ってはかなりきつい。

なので、最近見つけて構築したこの世界で言う空間魔法とやらを使って広くした。

『おぉ、広がった。』

「儂らをこの世界に招いた召喚陣を解析して見つけた1部の魔術じゃ。いや、この世界では空間魔法と言えば良いかの。と、そんなことより、策を弄じたいと申しておったが何かあったのかえ?」

「檜山が動いたから警戒して追跡したのだが…途中白崎さんを見つけてから角に隠れてな。」

儂が問うたら檜山の隣室の平野が何処かで拾ったであろう枝と石で現場を現し始めた。

石が4つあり、1つは部屋の中、1つは女子側の部屋の辺りに1つ、廊下の角曲がり道に1つ曲がり道の先にある階段の近くに1つ置き、部屋の中にあった羽根ペンで部屋の中に南、女子側に白、廊下の角に檜、階段近くに平と書いた。

平野は言葉を続ける。

「こんな感じで白崎さんは南雲の部屋に向かい、それを檜山が白崎さんにバレないように凝視。最後に白崎さんが南雲の部屋に入る時には殺さんばかりの殺気を発していた。俺はここからオタクの知識を活かしてこう考えた。明日の迷宮攻略にて檜山は南雲を何かしらの要因で殺すないしは孤立させるかもしれんと。これは白崎恋の成就連盟にとって由々しき事態だ。檜山が南雲にアクシデントを起こさせない策を考えた方がいいと思ったのだ。」

「確かにそうだね。」

万能オタクである加納が同意した。

「だって、こういった迷宮攻略の時大体アクシデントが発生するのが付き物だもん。」

「だが、アクシデントが何か分からないからどうしようもねぇんじゃねぇか?」

七海が適切な指摘をする。アクシデントによっては南雲と檜山以外が合うことだってあるのだから。

「アクシデントに付き物なのは天井落下や落とし穴、矢が飛んで来るトラップもあったら、毒ガスを放出されたり目的地外に転移したりする。そういったものが多い。マイナーな物は壁が迫るものやモンスタートラップという魔物の巣窟という部屋に閉じ込められて全ての魔物を倒さない限り部屋から出れないなんてことがあったりするね。1番厄介なのは今現在敵と仮定している魔人族と遭遇することかな。」

加納から言われたトラップの種類や厄介なことを言われて黙る連盟メンバー。

「ふむ、分からぬのがネックか。ちょいと待っておれ。擬似的な未来予知は出来る故に調べて観よう。」

そう言って、久々に未来観測をする。

結果は、

「こりゃあ厄介以上に呆れ果てるわな。」

「な、何見たのよ。」

「一言で告げれば、魔物がル〇ンダイブして女子共はビックリして勇者(笑)が怖がったと勘違いして聖剣ブッパからの壁崩壊で鉱石出現香織見蕩れ檜山メルドの忠告無視して鉱石触れて転移からの幻獣1匹と骸骨ワラワラじゃ。」

『何やってんだ勇者。』

連盟メンバー総員の心の声が零れた挙句に一致した。

「これでアクシデントの予想は着いた。なら、件の天之河と檜山を要警戒。場合によっては無理やり止める。そして、南雲と白崎さんが離れ離れにならないように頑張ろう!」

『あぁ!!!!!!!』

儂は皆に伝えてない事がある。それは、南雲が奈落の底に落とされることは勿論。…………儂や連盟メンバー、雷王荒鬮というイレギュラーが居ないことである。

まぁ、観測したのは正史であるので平行世界のうち1つであるこの世界は何かが正史とズレていることがある筈だ。

 

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昨日、策?を弄してからこの日、オルクス大迷宮の20層まで行く事となり、今はオルクス大迷宮の入口前にいる。

オルクス大迷宮の入口はまるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

なんでも、ここですてーたすぷれーとをちぇっくし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

儂は全く意に介してないが、クラスメイト達は、お上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルドの後をカルガモのヒナのように付いていった。

早速迷宮に入ったのだが、迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁であった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

本当に大したことがない魔物が出てきて、一行に飛びかかってきた。

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

天之河は純白に輝くバスタードソードを赤ん坊の反応速度より遅い速度で振るって数体をまとめて葬っている。

※涼愛以外のクラスメイトには視認出来ない程の速さです。

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というにはそこまで聖属性が強くない剣である。

儂はあれを聖剣と言われて噴き出したくらいじゃ。

坂上は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

雫は、サムライガールらしくまた、儂と同じ(準英霊と人間では差がある)〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。本来の刀であればもっとキレがあったじゃろうがな。

クラスメイト達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、儂ら達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。

しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

メルドの言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのじゃが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

儂からしてみればすてーたすや有用性のある武具防具でどーぴんぐじみたことをするクラスメイト達より、15層辺りにおる地道に鍛えてきた冒険者達の方が倍強いと思うのじゃがな。

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

その点はトラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがあるそうで、魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだそうだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるらしく八割以上はフェアスコープで発見できるとの事。ただし欠点もあり、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

その点、儂が直感であることと範囲を言うことで埋めている。

まぁ、儂らが素早く階層を降りれたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルドからも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

メルドのかけ声がよく響く。

因みに儂が組むチームには、儂と平野、白音、呼吹、瑠維である。

儂が剣士(セイバー)、白音が拳闘士、瑠維が冒険家という前衛組で

呼吹が暗殺者という天職で短剣二刀流で遊撃、平野は狙撃手という弓使いなのだが百発百中なので後衛は彼1人だ。今度矢が無限に出る矢筒をあげよう。

瑠維の戦い方が某土管を潜り冒険する兄弟の弟分の様な戦い方なのに噴き出した。服も緑色のあれで、しかもそれがあーてぃふぁくととのことである。

暫くして休息に入った。連盟メンバーは誰にも悟られないように連携して香織と南雲が向き合えるようにしてその他が介入出来ないようにする。

だが、そのせいで誰も、涼愛さえも気がつかなかった。檜山が憎悪の感情を込めた視線で南雲の方を向いていた事に。

休息をやめて一行は二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通らしい。儂は儂でオルクス大迷宮の最下層までをほぼ把握していたりする。

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているそうなので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはず……だった。

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。儂が構築した空間魔法の枠に入る転移魔法は現代にはないらしく、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると、先頭を行く天之河達やメルドが立ち止まった。訝しそうなクラスメイト達を尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のと遭遇したようだ。

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

メルドの忠告が飛ぶ。

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がったのだ。

壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

豪腕だからなんだと言うのだ?儂はそう思うのだが腕力が強く、クラスメイト達では危ないのだろうと予測した。

メルドの声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返し、天之河と雫が取り囲もうとするも足場が悪く思うように囲むことができない。動きからしてそう感じとれる。

ロックマウントはロックマウントで坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、そのロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

儂は極地を使い、その場と天之河らの前を点と点で繋いで移動する。瞬間移動である。直後、

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

体にビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう天之河達。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

「喝ッ!!!!!!!!!!!!!!」

がしかし、儂が一喝することで魔力による咆哮による麻痺を魔力攻撃無効により解除してロックマウントを聖剣無毀なる湖光(アロンダイト)で切り刻む。因みに防具は不貞隠しの鎧(シークレット・オブ・ペディグリー)である。

ロックマウントの背後にいたロックマウントが岩を掴んで投げてきた。その岩は儂を超えて行く。それを見た儂はアイコンタクトで連盟メンバーに勇者(笑)がやらかす旨を伝える。連盟メンバーは身構えた。

咄嗟に動けない前衛組の頭上を更に越えて岩が香織達へと迫る。

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

儂が観測した未来通り、投げられた岩もロックマウントであり、空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は正しくル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。儂は見えず、後で教えられたのじゃが、妙に目が血走り鼻息が荒かったそうだ。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

慌ててメルドがダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感とご都合主義思考の我らが勇者(笑)天之河光輝である。

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。天之河の脳内はどうなっているのか解剖して調べてみたいわ。

彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣(ただの光剣)が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

「ぬっ!?」

メルドの声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを涼愛ごと攻撃し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、メルドにゲンコツをされた。

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が!!こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!前方にはまだ千嗣がいたのだぞ!!」

メルドが破壊された壁に指を指しながら怒鳴る。

その先には破壊された壁の瓦礫の中から出てくる無傷の紫涼愛とその拍子に涼愛の後方にいた他のロックマウントらが涼愛に首チョンパされるところであった。

天之河がメルドに謝罪しながらメルドに指された所を見ると確かに涼愛がおり、自分の懇親の一撃を受けて無傷であることに驚いた。

途端、首にチリっと痛みがしたので目を向けると自分の首革1枚の所に涼愛が持っていた剣があり、目の前に涼愛がいた。

「な、何をす「ちっ、腕が鈍ったか。……何をするんだなどとほざくなよこの餓鬼!!!!!!!貴様は何用で儂に刃を向けた!?返答次第ではその首刈り取ったるわ!!!!!!!」

流石の儂も頭に来た。儂の後方に投げられたロックマウントはメルドが対処するだろうからいいとして、此方に残っていたロックマウントを警戒していたら天之河による儂の認識外からの攻撃。まさか味方から攻撃されるとは思っておらんかったので技能の魔力攻撃無効を発動する前に攻撃を受けてロックマウントごと壁に追いやられてしまった。どうやらあの聖剣(光剣)は感情によって攻撃力が変わるようだ。

魔力放出をギリギリ抑え、理性を優先させて問う。

「そ、それは香織達に死の恐怖を与えたからで………」

「ほう…………そんなんじゃから貴様は自分の都合がいいようにしか考えておらんと言うておるのだ!!!!!!!香織らはロックマウントが変態の如き表情でル〇ンダイブをされて気持ち悪がった(・・・・・・・)というのに貴様は香織らが死に怯えた(・・・・・)と自己解釈して儂が前方にいることを知っていて(・・・・・・・・・・・・・)も尚、天翔閃を放ちおって!!斬し「あれ、何かな?……キラキラしてる……」ぬぅ。」

香織は天之河も見限ったのか、儂と天之河のやり取りを無視して先程破壊された壁に目を向けているので儂や天之河、儂と天之河のやり取りをヒヤヒヤとして見ていた騎士達やクラスメイトらも目を向ける。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

グランツ鉱石とは宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

「…………辞めておけい。あれは転移系のトラップじゃ。触れたら何処かに飛ばされるぞ?」

儂は天之河に侮蔑の視線を1度向けてから首から無毀なる湖光を離し、香織の元による。

天之河に向けた視線は香織の天然な所に救われたな。という意味を込めた侮蔑の視線である。

「素敵……」

トラップであってもやはり美しいく、メルドの簡単な説明を聞いた香織は頬を染めながら更にうっとりとして一言零した。

そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫を含めた連盟メンバーとあと一人だけは気がついていたが……

「だったら俺らで回収しようぜ!」

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルドと連盟メンバーだ。

「こら!勝手なことをするな!転移系のトラップだと言われたばかりだろう!」

「ッ!?総員檜山を抑えろ!」

しかし、檜山は聞こえないふりをしながら妨害をする連盟メンバーを蹴落としたり避けたりしてとうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

メルドは、止めようと檜山を追いかける。儂も極地で檜山の横に瞬間移動をするも一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

「ふむ、転移魔法はこのようなものか………なんて呑気なことを行っとる場合では無い!」

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、儂らの視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

儂らが転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルしかなさそうじゃな。天井も高く二十メートルと低い。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートル程と狭く、しかし、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまじゃな。儂らはその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

彼なりに早く大きく轟かせた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

と。

 

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橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

儂は無毀なる湖光から幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)に変更しておく。

そして、十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現した。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスであろう。じゃが、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付いておるが……

メルドが呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

メルドの鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

「あ」

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーが弾け散った。

「あー、あー。よし!彼奴の口調に似せたが出来たかの?む?お主はそんな所で座っとらんではよ行かんか。南雲が策を弄じておる故に時間を稼がねばならん。」

南雲を指さし、女子生徒がそちらを向くと確かに南雲は顎に指を添えて思案していた。

そして、何かの確認をするように手を地面に付けて錬成し、何体かのとらうむそるじゃーを奈落のそこに流して頷き、天之河の元に駆け出した。

「お主も早う前へいけ。生き残りたくば理性を保つのじゃな。儂は、あの木偶の坊を狩る。」

女子生徒にそう告げてから駆け出して勢いを付ける。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之河達には難しい注文だ。

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、天之河は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の天之河達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

苛立つ雫に心配そうな香織。対処出来るのだが、それをすると人間で居られなくなる(・・・・・・・・・・)。故に迷っていた。

その時、一人の男子が天之河の前に飛び込んできた。

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

驚く一同に南雲は必死の形相でまくし立てる。

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

南雲を言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした天之河の言葉を遮って、南雲は今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する一同。

「あれが見えないの!?節穴なの!?!?みんながパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

天之河の胸ぐらを掴みながら地味にディスって指を差す南雲。

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さや割と冷静な連盟メンバーが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る天之河は、ぶんぶんと頭を振ると南雲に頷いた。

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長に振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波が南雲達を襲う。咄嗟に、南雲が前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。天之河達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド達の背後にいたことと、南雲の石壁が功を奏したようだ。

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

天之河が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

二人がベヒモスに突貫する。

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!でも白崎って呼んで!」

天之河の指示で香織が走り出す。南雲は既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。

天之河は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

坂上と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

坂上と雫が天之河の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

先ほどの攻撃は文字通り、天之河の切り札だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では、治療が終わったのか、メルドが起き上がろうとしている。

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

その先には……無傷のベヒモスがいた。

低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

「ボケッとするな!逃げろ!」

メルドの叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った天之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

どうにか動けるようになったメルドが駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

「お前等、動けるか!」

メルドが叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。

メルドが香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくる南雲の姿を捉えた。

「坊主!香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」

南雲にそう指示する団長。

天之河を、光輝だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも敵わないということなのだろう。

メルドは唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。

そんな団長に、南雲は必死の形相でとある提案をする。それはこの場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただしあまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、南雲が一番危険を請け負う方法だ。

メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。

「……やれるんだな?」

「やります」

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる南雲に、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

メルドはそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど天之河を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルドに向いている。

そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルドは、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

「吹き散らせ――〝風壁〟」

詠唱と共にバックステップで離脱する。

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルドがいた場所に着弾……しなかった。

メルドの離脱と入れ替わるように何かがベヒモスと衝突してかなり後方まで下がらせたのだ。

何かはベヒモスがいた所に立ち、南雲はベヒモスの頭部が地面にめり込んだら錬成して動きを封じようとしてたが、あのような対処のされ方に毒気を抜かれ、メルドはベヒモスという巨体を押し飛ばすほどの余力を持ったものがいた事に驚愕していた。

が、ここがチャンスと思い

「坊主!走るぞ!!そこのお前もだ!!香織は光輝の回復だ!!」

香織に回復された騎士達が坂上や雫を抱えて走り出し、メルドが天之河を抱える。

「およ?この程度で逃げ切れるかえ?ならあと一撃放ったら下がろう。主らは先に走っておけい。」

メルドは走り出し、香織も天之河の回復のためについて走る。南雲は何か……涼愛の2メートル程前にベヒモスの脚の半分の高さの壁を作ってからメルドの後を追う。

「つまづかせるためか。」

メルド達は走る。未だ混乱している彼らの元へ。しかし、

 

─────邪悪なる竜は失墜し

 

己が感じたことがない程の莫大な魔力につい足を止めてしまう。が、先程の何かだと分かったら走り出す。

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達や冷静な1部のクラスメイト達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほど涼愛が助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。

「なぬー!?矢が切れたぁー!?!?!?」

 誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

「――〝天翔閃〟!」

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が発するカリスマに生徒達が活気づく。

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共が!」

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、天之河達の活躍と相まって効果は抜群だ。

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。

 

──────世界は今、洛陽に至る

 

メルドが先程感じた莫大な魔力が更に膨れ上がり、クラスメイト達や騎士達は無論、トラウムソルジャーでさえ目が無いのに動きを止めてそちらをガン見している。

そこには一条の黄昏な閃光が伸びており、その一撃がベヒモスに振り下ろされた。

そして、ハッキリと聞き取った。

 

──────幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

と。それは北欧神話に類する神話、ニーベルンゲンの歌にて出てくる邪竜を殺し邪竜の血を浴びて一部を除いて不死と化した竜殺しの英雄が担う魔剣の名である事をクラスメイト達はハッキリと認識した。

その一撃がベヒモスに届くと地が揺れ、この階層にいる全員が高く打ち上げられ、天之河やメルド達騎士達はちゃんと着地したが、クラスメイト達は天井にぶつかり尻もちを着くように落ち、南雲に至っては天井の無い場所だったのでクラスメイト達よりも更に高く打ち上げられトラウムソルジャーの壁の向こう側に飛ばされる。

「南雲くん!?!?」

香織が急いで手を伸ばすもたわず。

「お主に言われた通りに戻って来たぞメルドよ。」

何か…………涼愛は幻想大剣・天魔失墜の余波がここまで大きいなどと認識しておらず、南雲が打ち上げられていることに気づいてなく。

「御師様!南雲が!?」

香織にそう言われて気づいた涼愛が南雲の落下予想地点に極地で移動。

このままだったら無事に全員帰還出来る。………………そう思っていた。

憎悪が南雲を襲いかかった。涼愛が南雲をキャッチする直前に威力の高い火球が南雲に直撃して涼愛の後方…………奈落の底に落ちていったのだ。

「んなッ!?!?」

涼愛が振り返り手を伸ばすも、振り返った拍子に当たった小石が橋の側面に当たる。それによって橋が崩壊し始めた。誰か1人でも乗ったら崩壊する程脆くなっていたのだ。

その間、火球がクラスメイト側から南雲目掛けて放たれたのを見てから直ぐに駆け出した香織。迷いもせずに手元に刀を取り、抜刀術で未だ動きを止めているトラウムソルジャーを全滅させて縮地(・・)で奈落の元まで来て飛び降りようとしたが、涼愛に羽交い締めにされて止められる。

「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

飛び出そうとする香織を涼愛が必死に羽交い締めにする。香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとする。

このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。今の香織を離せば、そのまま崖を飛び降りるだろう。それくらい、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。いや、悲痛というべきかもしれない。

「香織っ、ダメよ!香織!」

飛び出した香織に追いついた雫も涼愛に協力して香織を止める。が、雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無「落ち着け香織!!儂がお主に説いたことを忘れたか!!物事で感情が理性より勝るならばそれ以上の理性で感情を抑え、常に冷静に物事を対処せよと!!それに………………お主の想い人はお主に護られぬとならん程ヤワじゃなかろう!!今この時代においては頂きに届く程の覚悟と忍耐を見せたあの時を思い出せ!!お主が南雲に惚れたあの時を!!!!!!!」

奈落の手前では暴走する香織を涼愛や雫が抑えている中、上層に続く階段では、

「檜山あぁぁぁぁぁぁぁ!?何故だ!?何故南雲を奈落に落としたぁぁぁ!!!!!嫉妬か!?!?嫉妬で南雲を奈落に落としたのかあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?貴様も白崎さんを見ていたら直ぐに分かっていたはずだろう!?白崎香織が南雲ハジメに恋簿を抱いていたことに!?まさか南雲がお前より劣っているとでも思っていたのか!?」

火球を放ったであろうもの…………檜山を檜山より後方にいた材木座義輝が胸倉を掴んで壁に押し付けていた。

材木座は打ち上げられて直ぐに落ちて後方を確認したときに見たのだ。檜山が火球を放ち、それを操作して南雲にぶつけて奈落に落としたのを。

檜山は打ち上げられて落ちたときに南雲がトラウムソルジャーより向こう側に飛ばされたのを見たのだ。そして目測で火球を当てたら南雲という自分より劣っていながら香織と一緒にいた存在を消すことが出来ると確信し、背後に人がいることに気づかずに放ったのだ。

そして、この構図に至ったのだ。

「へへへ、これで白崎は…………」

件の檜山は脳内で何かを妄想をしているために材木座の言葉を聞いていない。

連盟メンバー総員(総長と副長を除く)は明らかな侮蔑の視線を送っていた。

そして、薄々と感じていた。白崎香織は人間を辞めたのだ(・・・・・・・・)と。

彼女は南雲との恋を成就させ、幸せになるためには手段を選ばなかった。が、個人だとたかが知れる。しかし、一目惚れから始まり、今では愚直なまでに想い続ける覚悟と気持ちを知った連盟メンバーは彼女のために、彼女の恋が成就するように、彼女が染めようとしたことを代わりに染めてでも協力した。そして、その頃から近づいた頃にこの始末だ。

彼女は南雲がこのような目に会わないように様々な観点からの視線とそれに乗せられた感情を読むために涼愛に師事して五感を鍛えたりもした。なら、涼愛という人外クラスの……世界トップクラスから、家庭の幸せを守るための最後の手段として何かしらの力を授かっているはずだと。そう予測していて、今も、この世界には無いはずの刀を何も無いところ(・・・・・・・)から取り出した(・・・・・・・)時点で人間で無いのは確かだ。

だが、それでも、彼女の幸せを願うのはいっぴとたりとも変わらない。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

メルドはこの亀裂が入った彼らの関係を気にしつつ地上に向かう。

光輝と千嗣の性格によるもの、大介による南雲殺害による千嗣曰く連盟メンバーの怒り、大介、南雲、香織三者の痴情のもつれ、その他勢が南雲の死と共にようやくここが現実であると受け止めて、死というものを感じたことによる精神的なショック、あげたらキリがない程の問題が浮上したことにため息を吐く。

あの後何があったかと言うと、メルドはまず暴走する香織を気絶させ、猛る材木座を1度宥めて、妄想に浸る檜山を現実に戻し、上層を登ってホルアドの宿に戻ったのだ。

宿に戻ったら檜山を部屋に入れて、監視にアランを付けておいた。近藤はアランのいた部屋に移動だ。

…………このお陰であるボクっ娘の陰謀が果たせず、運のいい方へ流れた。何がとは言わない。

後日王宮に帰還した。




なんかグダグダになりましたが気にしないでください。
次回は王宮に帰還してからです。


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再戦………………

迷宮攻略を行った日から5日が経過していた。

そしてここ、ハイリヒ王国王宮内で召喚者達に与えられた部屋の一室にて八重樫雫は暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。

あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

それに厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るのだ。致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

雫は、王国に帰って来てからのことを思い出し、香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも、同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

「はぁ、そこまで思い詰めた顔をするでない。ここは儂に任せてお主はちと外に出て心を落ち着かせい。」

そんなことを思っていたら部屋にいるもう1人が声を掛けてきた。

「そんな事言われても…………貴方も何か食べてきたらいいじゃない。貴方、この5日間ずっと飲まず食わずでそこから1歩も動いてないじゃない。餓死しても知らないわよ涼愛。」

「それはそうじゃろう。香織は想い人が行方不明となったことによるショックで眠っておる。その要因をつくった儂の落ち度じゃ。南雲も恐らく落ちてからも飲まず食わずでおるじゃろうし…これは儂の罪滅ぼしじゃし、香織に打たれる覚悟もある。故に香織が目を覚まして儂を罰するまでここから動く気はない。」

扉付近に王宮に帰還してから1度も動いてない涼愛は誰がどう見ても痩せこけていた。

雫は涼愛を心配して忠告をする。だが、確固たる意思で微動打にしない涼愛。

「雫よ、汝は香織が眠ったままで良かったと思っておるじゃろうが、儂は真実を曲げずに話す。香織を試すという面もある故に止めるでないぞ。」

真実とは、香織が眠る5日間の王国側の言動を平野から聞いており、それを偽ることなく香織に全てを話す。

この場では関係無いことだが、クラスメイト達は精神的なショックなどで籠り気味である。

特に檜山なんかは大きいだろう。

なんせ、涼愛に触れたら発動する転移系トラップであることを言われたのにも関わらず触れて、あの様な窮地に陥れた挙句、南雲を殺した(ことになってる)のである。

周りからは軽蔑の視線を向けられていたたまれなくなり部屋に籠りきりだ。出入口にはアランという騎士が常についている。

「あなたが知ったら……怒るのでしょうね?」

話を戻すが、あの日から一度も目を覚ましていない香織の手を取り、そう呟く雫。

医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。

雫は香織の手を握りながら、「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と、誰ともなしに祈った。

その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

「!?香織!聞こえる!?香織!」

「ぬっ?」

雫が必死に呼びかける。すると、閉じられた香織の目蓋がふるふると震え始めた。雫は更に呼びかけた。その声に反応してか香織の手がギュッと雫の手を握り返す。

儂は閉じていた左眼を開けて2人の行く末を見守る。

そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

「香織!」

「……雫ちゃん?」

ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら香織を見下ろす雫。香織はしばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」

そうやって体を起こそうとする香織を補助し苦笑いしながら、どれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

「五日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた雫が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、香織が記憶を取り戻す方が早かった。

「それで……あ…………………………南雲くんは?」

「ッ……それは」

苦しげな表情でどう伝えるべきか悩む雫。そんな雫の様子で自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど香織は出来ていない。

「……嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは……訓練かな?訓練所にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して?雫ちゃん」

現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎ南雲を探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

雫は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。

「……香織。わかっているでしょう?……ここに彼はいないわ」

「やめて……」

「香織の覚えている通りよ」

「やめてよ……」

「彼は、南雲君は……」

「いや、やめてよ……やめてったら!」

「香織!彼は死んだのよ!」

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら雫ちゃんでも許さないよ!」

イヤイヤと首を振りながら、何とか雫の拘束から逃れようと暴れる香織。雫は絶対離してなるものかとキツく抱き締める。ギュッと抱き締め、凍える香織の心を温めようとする。

「離して! 離してよぉ! 南雲くんを探しに行かなきゃ! お願いだからぁ……絶対、生きてるんだからぁ……離してよぉ」

いつしか香織は“離して”と叫びながら雫の胸に顔を埋め泣きじゃくっていた。

縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。雫は、唯々ひたすらに己の親友を抱き締め続けた。そうすることで、少しでも傷ついた心が痛みを和らげますようにと願って。

どれくらいそうしていたのか、窓から見える明るかった空は夕日に照らされ赤く染まっていた。香織はスンスンと鼻を鳴らしながら雫の腕の中で身じろぎした。雫が、心配そうに香織を伺う。

「香織……」

「……雫ちゃん……南雲くんは……落ちたんだね……ここにはいないんだね……」

囁くような、今にも消え入りそうな声で香織が呟く。雫は誤魔化さない。誤魔化して甘い言葉を囁けば一時的な慰めにはなるだろう。しかし、結局それは、後で取り返しがつかないくらいの傷となって返ってくるのだ。これ以上、親友が傷つくのは見ていられない。

「そうよ」

「あの時、南雲くんは私達の魔法が当たりそうになってた……誰なの?」

 現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎ南雲を探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。

「のう、ようやっと眼を覚ましたかえ、香織。」

「あ、御師………………様…………」

香織は涼愛に声をかけられてそちらに眼をやる。香織は「あ、御師様いたんだね。」と言おうとしたが出来なかった。

なんせ、先に言ったように涼愛は誰がどう見ても痩せこけていて、香織が眠っていた間は一切ものを口にしなかったのだ。治癒師という天職故に香織は直ぐに分かったのだ。だが、

「御師様…………なぜ、何も口にしてないのですか?」

飲まず食わずでいることには疑問を持った。

「お主には儂を罰する義務がある。儂が宝具(・・)の真名を開帳なぞせんかったら南雲はここにおったであろうからの。儂の責任じゃ。お主の怒りが収まらんじゃろうが、煮るなり焼くなりすれば良い。その前にお主が眠っておる間に何があったのかは教えておこう。」

涼愛はやや早口で帰還直後のことを香織に教えた。

帰還を果たし南雲の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然としたものの、それが“無能”の南雲と知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

国王やイシュタルですら同じだった。強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。

だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。中には悪し様に南雲を罵る者までいたのだ。

もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた。まさに、死人に鞭打つ行為に、雫は憤激に駆られて何度も手が出そうになった。

実際、正義感の塊である天之河が真っ先に怒らなければ飛びかかっていてもおかしくなかった。天之河が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、南雲を罵った人物達は処分を受けたようだが……

逆に、天之河は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、天之河の株が上がっただけで、南雲は勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。

「汝はどうする?汝が何をしようと儂は咎めん。汝が雫にした問いじゃが、檜山じゃよ。儂が飛び降りようとした汝を抑えてる間に香織恋の成就連盟会員No.7の材木座が目撃しての猛ておったそうじゃ。」

「恋の………………成就連盟?」

「えぇ。貴方の一途さに行く末が気になってどうせなら幸せになってもらいたいからって躍起なってたわよ。貴方に南雲くんの趣味を詳しく教えたのもそれが理由だそうよ。因みに私は会員No.2……副長よ。」

「そっか」

「恨んでる?」

「……うん。……復讐すらしたいと思う。でも、それだと変わらない。だからそんなことはしない。」

「そう……」

俯いたままポツリポツリと会話する香織。やがて、真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、雫を見つめる。そして、決然と宣言した。

「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない」

「香織、それは……」

香織の言葉に再び悲痛そうな表情で諭そうとする雫。しかし、香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。

「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。……でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」

「香織……」

「私、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと。……雫ちゃん、御師様」

「なに?」

「力を貸してください」

「……」

「……」

 雫はじっと自分を見つめる香織に目を合わせ見つめ返した。香織の目には狂気や現実逃避の色は見えない。ただ純粋に己が納得するまで諦めないという意志が宿っている。こうなった香織はテコでも動かない。雫どころか香織の家族も手を焼く頑固者になるのだ。

普通に考えれば、香織の言っている可能性などゼロパーセントであると切って捨てていい話だ。あの奈落に落ちて生存を信じるなど現実逃避と断じられるのが普通だ。

おそらく、幼馴染である天之河や坂上も含めてほとんどの人間が香織の考えを正そうとするだろう。

だからこそ……

「もちろんいいわよ。納得するまでとことん付き合うわ」

「雫ちゃん!」

 香織は雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」と、どこまでも男前な雫。現代のサムライガールの称号は伊達ではなかった。

「……のう、お主ら……目に毒故にその体制は辞めてくれんかの。」

「「???」」

「……なんか…………百合百合しい。」

香織は雫の膝の上に座り、雫の両頬を両手で包みながら、今にもキスできそうな位置まで顔を近づけているのだ。雫の方も、香織を支えるように、その細い腰と肩に手を置き抱き締めているように見える。

つまり、激しく百合百合しい光景が出来上がっているのだ。ここが漫画の世界なら背景に百合の花が咲き乱れていることだろう。

 

(///ω///)ボッ

 

直ぐに2人は気づいて正す。

2人のその様子を目を逸らしながら言葉を続ける。

「それと、儂が何時南雲が死去したと申した?」

「「え?」」

「儂はしょっちゅう南雲の背後に立ってまぁきんぐしておってな。」

涼愛が言いたいことを香織と雫は理解してきたのか、香織は希望に満ちた顔に、雫は若干驚愕した顔となる。

「このまぁきんぐは対象が死なぬ限りは永続で反映される。そして、南雲は今、位置的に全200層からなるオルクス大迷宮の101層まで湧いた滝に流されて生き長らえておる。」

「それじゃあそこに行けば………」

「香織よ、期待するのはまだ早い。ここからが問題なんじゃよ。南雲が落ちた階層が真のオルクス大迷宮の1層であり、そこに湧く魔物が全てベヒモスの倍以上のすぺっくを誇る(・・・・・・・・・・・・・・・・)んじゃ。そのせいで南雲は左腕が欠損しておる。が、逆に言えばそれだけで済ませておる南雲の強さがよく分かるのう。南雲の元に着きたくば相応の強さがいるの。ベヒモスを1分内に倒せる様になれば追いつけるかものう。」

南雲があっている危機に真っ先に駆けつけたい香織はそれを堪えて涼愛に言った。

「なら、道中に鍛えて下さい。お願いします御師様。」

ベットの上にいても、正座をして頼み込む香織。それは覚悟を表していた。

「あいわかった。儂でよければなんなりと、じゃな。じゃがその前に、儂を罰するまでは儂は何もせんからの。」

「えぇ!?」

香織が雫と共に南雲のもとへ向かう決意をしたとき、戸が開いた。

「雫! 香織はめざ……め……」

「おう、香織はどう……だ……」

天之河と坂上だ。香織の様子を見に来たのだろう。訓練着のまま来たようで、あちこち薄汚れている。

あの日から、二人の訓練もより身が入ったものになった。二人も南雲の死に思うところがあったのだろう。何せ、撤退を渋った挙句返り討ちにあい、あわや殺されるという危機を救ったのは南雲なのだ。もう二度とあんな無様は晒さないと相当気合が入っているようである。

そんな二人だが、現在、部屋の入り口で硬直していた。訝しそうに雫が尋ねる。

「あんた達、どうし……」

「す、すまん!」

「じゃ、邪魔したな!」

雫の疑問に対して喰い気味に言葉を被せ、見てはいけないものを見てしまったという感じで慌てて部屋を出ていく。そんな二人を見て、香織もキョトンとしている。しかし、聡い雫はその原因に気がついた。

香織は涼愛に正座して礼をしているのだが、あの角度から見たら丁度香織が雫の股の間に顔を突っ込む形となっていたのだ。

雫は深々と溜息を吐くと、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げた。

「さっさと戻ってきなさい!この大馬鹿者ども!」

雫の怒号が部屋に響き渡った。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

その部屋は以前涼愛によって拡張された部屋であった。

そこに香織恋の成就連盟メンバーは集っていた。

「今日ここに集まってもらったのは他でもない。南雲が檜山に奈落の底に落とされた。だが、我々が気落ちする必要はない!!我々が成すことは1つ!!白崎香織の恋を成就させることだ!!ならどうするか?そんなもんはまだ考えない!!だが、総長は必ず何かしている!!」

「何かって、なんだよ…」

「ほらそこ!!気落ちするな!!総長が何かするとしたら、南雲にマーキングしてたり、今からでも迷宮に向かう気かもしれんのだぞ!!総長は強いから行けるだろうが、我々はそこまで強くない!!なら、強くなればいい!!違うか!?」

会員No.7材木座義輝が皆に発破をかける。材木座の総長便りな所には呆れるが、材木座のこういうポジティブな面は好意的に捉えることが出来る。

「確かに材木座君の言う通りだ。だが、強くなると言っても限りがあるではないか。」

飯田が当たり前のような指摘をする。

「その限りを超えることが出来るから限界突破という言葉があるのだろう!!!ならば俺たちにも出来るはずだ!!いや、俺たちもするんだ!!そして南雲を救い出す!!!」

それを正論で返して材木座は宣言した。

この時に香織が覚悟を決めて雫と涼愛に協力を申し出たりしている。

材木座に触発されて、連盟メンバーらが次々と立ち上がる。

「よし!お前ら!!今まで鍛えてきたことを御復習いして、課題を見つけるぞ!!!」

『おぉ!!!!!!!!!!!!!!』

連盟メンバーらは一斉に訓練所に向かう…………前に自室に戻って装備の手入れをしてから向かう。

 

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香織が目覚めてから数日後、

天之河、坂上、雫、香織、谷口、中村の勇者パーティ、

永山、野村、遠藤、辻、吉野のバランスが取れたパーティ、

先日監視が解除された檜山、斎藤、中野、近藤のパーティ、

儂こと紫呉涼愛、平野、白音、小吹、御坂、白井という変則的なパーティ、

寺田、七樂、良公、林檎、怜爲鍍というこれといった情報がないパーティ、

奴良、青田、粉雪、飯田、加納、材木座の連盟メンバーのみのパーティ、

以上のパーティが再びオルクス大迷宮にやって来ていた。

何故これだけなのかと言うと理由は簡単だ。話題には出さなくとも、南雲の死(そういうことになっている)が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。“戦いの果ての死”というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛ちゃん先公と雷王の先公じゃ。

愛ちゃんは当時、遠征には参加しておらんかった。作農師という特殊かつ激レアな天職のため実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛ちゃんがいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

雷王の先公は参加しようとしたのじゃがイシュタルに足止めされた挙句、馬車が出発したため参加出来なかったのだ。

愛ちゃんが南雲の死亡を知るとショックのあまり寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、全員を日本に連れ帰ることができなくなったということに、責任感の強い愛ちゃんは強いショックを受けたのだ。

雷王の先公は予感していたために覚悟はしていたそうじゃ。というのは建前で本当の事は儂から聞いとるのでわりかしショックなどは少ない。

だが、戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。

愛ちゃんの天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛ちゃん先公が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛ちゃんの抗議を受け入れた。

結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティーや連盟メンバーのパーティ+‪αのみが訓練を継続することになった。そんな儂らは、再び訓練を兼ねてオルクス大迷宮に挑むことになったのだ。今回もメルドと数人の騎士団員が付き添っている。

今日で迷宮攻略六日目が経ち、現在の階層は六十層だ。1日10層ぺぇすで進んでおる。確認されている最高到達階数まで後五層である。

じゃが、天之河らは現在、立ち往生しておる。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのであろう。

儂らの目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないのじゃが、やはり思い出してしまうのじゃろう。特に香織は奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かん。

「香織……」

雫が心配そうな呼び掛けに強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、雫に微笑んだ。

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

「そう……無理しないでね?私に遠慮することなんてないんだから」

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

雫もまた親友に微笑んだ。香織の瞳は強い輝きを放っている。そこに現実逃避や絶望は見て取れない。洞察力に優れ、人の機微に敏感な雫には、香織が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった。

(ふむ、感情に身を任せるようなことはないから大丈夫なようじゃが、馬鹿2人のちょっかいをどうするかのう。)

香織の覚悟は本物だ。じゃが、南雲が関わっておるものは感情に身を任せるようなことが多々あった。勇者(笑)が余計なことを申して香織が激昴せぬと良いが。

香織と雫の覚悟。そんな空気を読まないのが勇者クオリティー。天之河の目には眼下を見つめ諦めない覚悟を再確認した香織の姿が、南雲の死を思い出し嘆いているように映らせておるようじゃ。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんでいるのだと無理に結論づけた。故に思い込みというフィルターがかかり、微笑む香織の姿も無理をしているとしか見ていない。

そして、香織が南雲を特別に想っていて、生存しているなどと露ほどにも思っていない天之河は、度々、香織にズレた慰めの言葉をかけてしまうのだ。

「香織……君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない!前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

「ちょっと、光輝……」

「雫は黙っていてくれ!例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

「はぁ~、何時もの暴走ね……香織……」

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと、光輝くんも言いたいことは分かったから大丈夫だよ」

「そうか、わかってくれたか!」

「南雲くんが死んだことが嬉しいんでしょう?まだ生きてる事は分かってるもん。なのに落ちただけで死んだ(・・・・・・・・・)なんて事は無いよ。」

「そんなことはない!だが、この高さじゃ「香織の言う通りじゃ天之河。この迷宮の中間地点には地下水脈がある。南雲はそれに巻き込まれて流されたわ。」

天之河に口を挟んで言う。口を挟まれた事に不服そうな顔をしながら口答えをする天之河。

「また君か。変な事を言って香織を惑わせないでくれ!!」

「変な事は言っておらんぞ?儂は南雲にまぁきんぐ?というじぃぴぃえす?のような魔術で常に南雲の位置が分かるようにしたんじゃ。故にまだ生きてる事は常に分かっておる。今は…………150階層(・・・・・)におるな。む?此奴は……」

「泥棒猫…………ッ!!!」

『どうした?』

儂が南雲の位置を把握しておる事を言って天之河を黙らせて南雲の現状を調べたら丁度、謎の少女を助け、蠍もどきと死闘を繰り出しておった。

そしたら、香織から怒気と共に一言呟いた。それは皆疑問を持ったようじゃが、この事を香織に教えたら暴走しそうじゃな。

そのようなことを儂は内心思っておった。

「香織ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!」

いきなり怒気を孕んだ香織を宥めたのは中村恵里と谷口鈴だ。

二人共、高校に入ってからではあるが香織達の親友と言っていい程仲の良い関係で、天之河率いる勇者パーティーにも加わっているかなりの実力者じゃ。

中村恵里はメガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人である。性格は温和で大人しく基本的に一歩引いて全体を見ているポジションだ。本が好きで、まさに典型的な図書委員といった感じの女の子である。実際、図書委員である。

谷口鈴は、身長百四十二センチのちみっ子である。もっとも、その小さな体には何処に隠しているのかと思うほど無尽蔵の元気が詰まっており、常に楽しげでチョロリンと垂れたおさげと共にぴょんぴょんと跳ねている。その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在だ。

そんな二人も、南雲が奈落に落ちた日の香織の取り乱し様に、その気持ちを悟り、香織の目的にも賛同してくれている。

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

高校で出来た親友二人に、嬉しげに微笑む香織。

「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、南雲君め!鈴のカオリンをこんなに悲しませて!帰ってこなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」

「す、鈴?それは香織が悲しむから……」

「細かいことはいいの!そうだ、死んでたらエリリンの降霊術でカオリンに侍せちゃえばいいんだよ!」

「す、鈴、デリカシーないよ!香織ちゃんは、南雲君は生きてるって信じてるんだから!それに、私、降霊術は……」

谷口が暴走し中村が諌める。それがデフォだ。

何時も通りの光景を見せる姦しい二人に、楽しげな表情を見せる香織と雫。ちなみに、天之河達は少し離れているので聞こえていない。肝心な話やセリフに限って聞こえなくなる難聴スキルは、当然の如く天之河にも備わっている。

全く、公正が出来んことが悔しい。

「恵里ちゃん、私は気にしてないから平気だよ?」

「鈴もそれくらいにしなさい。恵里が困ってるわよ?」

香織と雫の苦笑い混じりの言葉に「むぅ~」と頬を膨らませる谷口。中村は、香織が谷口の言葉を本気で気にしていない様子にホッとしながら、降霊術という言葉に顔を青褪めさせる。

「エリリン、やっぱり降霊術苦手?せっかくの天職なのに……」

「……うん、ごめんね。ちゃんと使えれば、もっと役に立てるのに……」

「恵里。誰にだって得手不得手はあるわ。魔法の適性だって高いんだから気にすることないわよ?」

「そうだよ、恵里ちゃん。天職って言っても、その分野の才能があるというだけで好き嫌いとは別なんだから。恵里ちゃんの魔法は的確で正確だから皆助かってるよ?」

「うん、でもやっぱり頑張って克服する。もっと、皆の役に立ちたいから」

中村が小さく拳を握って決意を表す。谷口はそんな様子に「その意気だよ、エリリン!」とぴょんぴょん飛び跳ね、香織と雫は友人の頑張りに頬を緩める。

中村の天職は、“降霊術師”である。

闇系魔法は精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。

降霊術は、その闇系魔法の中でも超高難度魔法で、死者の残留思念に作用する魔法だ。聖教教会の司祭の中にも幾人かの使い手がおり、死者の残留思念を汲み取り遺族等に伝えるという何とも聖職者らしい使用方法がなされている。

「…………降霊術……のう。」

独りでに呟く。なんせ、間接的にじゃが儂の右眼に傷を付けた輩で本体は他人を巣食うという。何より、逃げ足が素早い。

「ちっ…………死して尚儂の脳裏にチラつくか、間桐臓硯。」

儂の認識じゃが、英霊召喚は降霊術に類するものじゃ。神代で死した英雄の霊の1部を魔力のみで物理体を創って宿させるんじゃからそう認識しても間違いではないはずじゃ。

もっとも、この世界の降霊術の真髄は其処(聖職者ry)ではない。この魔法の本当の使い方は、遺体の残留思念を魔法で包み実体化の能力を与えて使役したり、遺体に憑依させて傀儡化するというものだ。つまり、生前の技能や実力を劣化してはいるが発揮できる死人、それを使役できるのである。また、生身の人間に憑依させることでその技術や能力をある程度投影することもできるらしい。

会話をしておる女子四人の姿を、正確には香織を後方から暗い瞳で見つめる者がいた。

檜山大介である。あの日王都に戻ってしばらく経ち、謹慎と監視が解除されてからは案の定、あの窮地を招いた檜山には厳しい批難が待っていた。

檜山は当然予想していたのか、唯ひたすら土下座で謝罪するに徹しておった。こういう時、反論することが下策以外なのは流石の檜山も知っておったようじゃな。特に、謝罪するタイミングと場所は重要である。

檜山は天之河の目の前で土下座をすれば確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想し狙っておったのは直ぐに分かった。

その予想は正しく天之河の許しの言葉で檜山に対する批難は連盟メンバー以外からは収まった。香織は檜山に特大な殺意を抱いておったが特段責めるようなことはしなかった。この事を察したのは1部の感が鋭い者らで、檜山は計算通りと、土下座して見えぬ顔をニヤニヤと嗤っておったわ。

もっとも、雫や意外な事に御坂は薄々檜山の魂胆に気がついており、本心ではなかったことに嫌悪感を抱いたようじゃがの。

チラリと檜山を見てみれば、悦びを感じさせる笑みが浮かぶ檜山。

「おい、大介? どうかしたのか?」

檜山のおかしな様子に、近藤や中野、斎藤が怪訝そうな表情をしておる。この三人は今でも檜山とつるんでいる。元々、類は友を呼ぶと言うように似た者同士の四人。一時期はギクシャクしたものの、檜山の殊勝な態度に友情を取り戻していた。

もっとも、それが本当の意味での友情と言えるかは甚だ微妙ではあるが……

「い、いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」

「あ~、確かにな。あと五層で歴代最高だもんな~」

「俺等、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性なさすぎだろ」

「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」

檜山の咄嗟な誤魔化しに、特に何の疑問も抱かず同調する三人。

戦い続ける自分達を特別と思って調子づいておるのは小悪党が小悪党たる所以じゃろう。王宮でも居残り組に対して実に態度がでかい。横柄な態度に苦情が出ているくらいじゃ。しかし、六十層を突破できるだけの確かな実力がある(儂にとってはチャンバラ同然じゃが)ので、強く文句を言えないところである。

もっとも、勇者パーティーには及ばないので、彼らも光輝達の傍では実に大人しい。小物らしい行動原理である。

儂らは特に問題もなく、遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

付き添いのメルドの声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感を孕む儂以外。

その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がった。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣じゃった。

「ま、まさか……アイツなのか!?」

天之河が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

坂上も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルドだ。

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド。それに部下が即座に従う。だが、天之河がそれに不満そうに言葉を返した。

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう負けはしない!必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

坂上も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルドはやれやれと肩を竦め、確かに今の天之河達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び天之河達の前に現れた。

「グゥガァアアア!!!」

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが天之河達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が一人。

香織である。香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く」

今、過去を乗り越える戦いが始まった。

儂は皆がベヒモスに集中する中、破滅の黎明(グラム)軍神の剣(フォトン・レイ)をそれぞれの手に持ち、十二の試練(ゴッド・ハンド)を発動させ、不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)を脱いで動き易くした。

その時の儂は獲物を見つけた時のような獰猛な顔じゃったと御坂に後から言われたの。



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大英雄………………

先手は、天之河だった。

「万翔羽ばたき天へと至れ“天翔閃”!」

曲線状の光の斬撃がベヒモスに轟音を響かせながら直撃した。前は“天翔閃”の上位技“神威”を以てしてもカスリ傷さえ付けることができなかったのじゃが、何時までもあの頃のままではないという天之河の宣言は、結果を以て証明された。

「グゥルガァアア!?」

悲鳴を上げ地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていたのだ。

「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、涼愛達は右側から!メルド団長達は僕達の援護をお願いします!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

天之河が矢継ぎ早に指示を出す。メルド直々の指揮官訓練の賜物だ。

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」

メルドが叫び騎士団員達はベヒモスの攻撃に出た天之河らの元にそれぞれ走り出した。

が、

ベヒモスと儂らの間に大きな何かが落ちてきた。

それを一言で表すなら、鉛色の巨人(・・・・・)であった。

「なんだ!?!?」

「あれは……………………サイクロプス………………なのか?……だが、サイクロプスは単眼のはず……奴はなんなのだ。」

いきなり現れた存在に天之河らは無論、騎士達でさえ、足を止めてしまった。

鉛色の巨人は落下した状態から立ち上がり、傍にあった岩を削ったような荒い巨剣を手に取る。

そして、10メートルはあった距離を一瞬で詰めた。その時には剣を振りかぶっていた。

最初に狙われたのは……………………香織である。

「ッ………………香織!?!?」

彼らの中でいち早く反応したのは雫であるが圧倒的に間に合わない。

遅れて天之河やメルドも反応する。

 

────切られる

 

誰もがそう思った。しかし、ここには準英霊である存在が1人いることを忘れてはならない。

鉛色の巨人が振り下ろした巨剣を紅く輝く宝石の様な剣が塞き止めた挙句、弾いた(・・・)

「可可可可可ッ!!!!!!!まさかこのような地でお主と合間見えようとは…………何故に貴様がこの世界におる!?!?!?!?」

準英霊…………紫呉涼愛千嗣が破滅の黎明(グラム)で弾いたのだ。

『驚くんかい!?』

涼愛が知っている様なことを叫んで、この世界の何処かで会ったのかと思えば違うらしく、涼愛の驚愕した表情を見て、天之河らは挙って突っ込む。

鉛色の巨人が再び攻撃にでるが、涼愛がもう片方の手に持つ近未来的な虹色の剣の刃を鞭の様にしならせて鉛色の巨人にぶつけて後方に押し飛ばした。

「曰く、ヘラクレス(・・・・・)は12の難業を乗り越えその末に神の座へ迎え入れられたと言われる。」

「え、ヘラクレスって…………」

「のう、香織よ、ようく見ておけ。汝に託した力は扱いによってはこの領域に至る。あぁ、天之河よ、ベヒモスが今か今かと待っておるので相手をしてやったらどうじゃ?無論その他もじゃ。」

指した方向にはベヒモスがうずうずと待ち構えていた。しかし、ヘラクレスの方を強く警戒しているのが分かる。

涼愛はそう言い残してヘラクレスと同等の速さでヘラクレスの目前に移動し、背中を蹴りつけて天之河らの後ろ嘗てとらうむそるじゃーが跋扈していた場所に飛ばす。そして、そちらに向かうために天之河らとすれ違う。

「千嗣!!!あの巨人を知っているのか!?!?」

見たことが無い存在にメルドは……経験則から分かる。あれはベヒモスの比ではないと。ベヒモスより厄介な存在を容易く相手取る涼愛に尋ねた。

「知っておるが、それはまたいずれ。今は目の前の敵に集中せい。」

涼愛にそう言われた天之河らは渋々と戦闘を開始する。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

戦闘を開始してから10分20分或いはそれ以上が経っていた。

「後衛は後退しろ!」

天之河の指示に後衛組が一気に下がり、前衛組が再び取り囲んだ。ヒット&アウェイでベヒモスを翻弄し続け、遂に待ちに待った後衛の詠唱が完了する。

「下がって!」

後衛代表の中村から合図がでる。天之河達は、渾身の一撃をベヒモスに放ちつつ、その反動も利用して一気に距離をとった。

その直後、炎系上級攻撃魔法のトリガーが引かれた。

「「「「「“炎天”」」」」」

術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、さながら太陽のように周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた“炎天”は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。

絶大な熱量がベヒモスを襲う。あまりの威力の大きさに味方までダメージを負いそうになり、慌てて結界を張っていく。“炎天”は、ベヒモスに逃げる暇すら与えずに、その堅固な外殻を融解していった。

「グゥルァガァアアアア!!!!」

ベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。

そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。同じく、呆然としていた天之河が、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

「そうだ! 俺達の勝ちだ!」

キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる天之河。その声に漸く勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド達も感慨深そうだ。

そんな中、未だにボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

「香織?どうしたの?」

「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

苦笑いしながら雫に答える香織。かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんも……」

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんじゃない」

「えへへ、そうだね」

先へ進める。それは南雲の安否を確かめる具体的な可能性があることを示している。答えが出てしまう恐怖に、つい弱気がでたのだろう。それを察して、雫がグッと力を込めて香織の手を握った。

その力強さに香織も弱気を払ったのか、笑みを見せる。

そんな二人の所へ天之河達も集まってきた。

「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う天之河。

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」

「うん、平気だよ、天之河くん。皆の役に立ててよかったよ」

同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ天之河の言葉に心に影が差した。

「これで、南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

「「……」」

天之河は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。どうやら、天之河の中で南雲を奈落に落としたのはベヒモスのみ(・・)という事にしているらしい。それは全く違う。すぐそこにいる檜山が南雲に火球を当てて奈落に落としたのだ。

だが、天之河はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せば南雲は浮かばれると思っているようだ。基本、人の善意を無条件で信じる天之河にとって、過失というものは何時までも責めるものではないのだろう。

なかった事にしている天之河の言葉にショックを受ける香織。

雫が溜息を吐く。思わず文句を言いたくなったが、天之河に悪気がないのは何時ものことだ。むしろ精一杯、南雲の事も香織のことも思っての発言である。ある意味、だからこそタチが悪いのだが。それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。

若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

「カッオリ~ン!」

そんな奇怪な呼び声とともに谷口が香織にヒシッと抱きつく。

「ふわっ!?」

「えへへ、カオリン超愛してるよ~!カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

「も、もう、鈴ちゃんったら。って何処触ってるの!」

「げへへ、ここがええのんか?ここがええんやっへぶぅ!?」

谷口の言葉に照れていると、谷口が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが谷口の脳天に炸裂した。

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は私のよ?」

「雫ちゃん!?」

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

「鈴ちゃん!?一体何する気なの!?」

雫と谷口の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。

「あっ、涼愛ちゃんはどうなったの?」

『あっ』

が、谷口がふと呟いたことにベヒモスを討伐して感慨していた皆が思い出した。

「そうだった!急いで助けに行かなければ!!」

天之河がそう捲し立てて走っていく。

「あ、こら光輝!」

それにメルドが慌てて止めようと追いかけ、皆もそれに続く。

涼愛とヘラクレス?が戦っているであろう所に皆が来た。が、両者はいなかった。

「うへぇ、なんじゃこりゃぁ…………」

が、谷口が零した言葉に皆が同意した。なんせ、土地の面影が一切無いのだ。地面はボコボコでクレーターばかり、壁は幾つも崩壊しているのだ。

ベヒモス戦に集中していたお陰で(・・・)見てなかった。

「……それより……何処に行った?」

メルドの言葉に「はっ」となって周りを見渡すも両者の影1つない。

そう思っていた。そしたら、上から塵が落ちてきて振動が響く。

「な、なんだ?」

「こ、このパターンはもしかして!?」

ベヒモスの気を逸らすことしか出来なかった平野が驚愕した面持ちで天井を見る。それにつられて皆も見るが何も無い。

「なんだよ………何もねぇじゃねぇか。」

檜山が愚痴った。

途端、今までベヒモスと戦っていた橋上の天井が崩れ、そこからかなり傷ついた涼愛とヘラクレス?が現れた。

「えぇー……天井ぶち抜かれたんすけど…………」

騎士の1人であるアランが呆然としていた。

天之河が助けに行かなければ!!と駆け出そうとしたが、香織が手を出して止めた。

「香織!?のけてくれ!!このままだと彼が!!!」

「天之河くん、彼は私に見てろって言ったの…………この意味分かる?回復は要らないってこと。要するに援護は必要無いって言ってるんだよ。それに…………あの戦いの中に交じれるの?」

香織が指した方向には、涼愛とヘラクレス?両者の剣戟が残像を残し、それ以外は全て火花しか見えないのだ。

そこに進展があった。ヘラクレス?が岩の巨剣を下から上に袈裟懸けをして涼愛を天之河らの元まで弾いたのだ。それも、致命傷と言えるほどの大きな傷と致死量を上回る血を流してだ。

「いやぁぁぁぁぁ!?!?!?」

辻の悲鳴が上がる。

「んな!?彼奴!!!」

天之河が憤り、突貫するが白音に妨害された。

「何故止めるんだ!!!彼が死んでしまう!!!君は助けないのか!?」

「確かに止めたいです。ですが、まだ終わってません。私の本能がそう言っています。」

白音の動物?的な感性だと、涼愛はまだ何かを隠している気がしたのだ。

「何を言ってッ!?!?」

白音の感は当たっていた。なんと、涼愛の傷が塞がり始めたのだ。

そのまま全てが塞がると何事もなかったかのように立ち上がる。

「ふぅ、流石は彼の大英雄。理性が無くとも太刀筋は一切乱れんか。聞いておらんかったが、主は何用でこの世界に参った?」

ヘラクレスは問いの意味が分かったのか、巨剣で地面を掘りギリシア語でこう書いた。

[我が世界の愛し子、奪われた。阿頼耶とガイアに愛し子奪還と奪った奴に制裁する。派遣された。来たらそこの娘、人間違う。気になり攻撃した。貴殿と相対、分かった。貴殿と同じ擬似英霊。すまん。]

と書いてある。

これは言語理解の技能を持つ天之河らにも読めて、「阿頼耶?ガイア?」と困惑している。

とりあえず事情が分かった。彼がこちら側なのは僥倖だ。だが、そうなると、ややこしいことをメルドに言わぬとならんし、上に報告されては対策されてしまう。

とりあえずヘラクレスとはサーヴァント契約を結んで基本は霊体化して貰う。

そして、ここにいる皆には他言無用だときつく言っておいた。

 



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緊急事態………………

「後退!」

天之河の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取る。

次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。

巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

自然の猛威がそのまま牙を向いたかのような壮絶な空間では生物が生き残れる道理などありはしない。ほんの数十秒の攻撃。されど、その短い時間で魔物達の九割以上が絶命するか瀕死の重傷を負うことになった。

「よし! いいぞ! 残りを一気に片付ける!」

天之河の掛け声で、前衛組が再び前に飛び出していき、魔法による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一匹一匹確実に各個撃破していった。全ての魔物が殲滅されるのに五分もかからなかった。

戦闘の終了と共に、天之河達は油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘をたたえ合った。

「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」

感慨深そうに呟く天之河に雫が注意をすると、脳筋の坂上が豪快に笑いながらそんな事を言う。そして、天之河と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。その様子に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉みほぐした。これまでも、何かと二人の行き過ぎをフォローして来たので苦労人姿が板に付いてしまっている。まさか、皺が出来たりしてないわよね?と最近鏡を見る機会が微妙に増えてしまった雫。それでも、結局、天之河達に限らず周囲のフォローに動いてしまう辺り、真性のお人好しである。

「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど……どう?」

周囲が先程の戦闘について話し合っている傍らで、香織は己の本分を全うしていた。すなわち、“治癒師”として、先程の戦闘で怪我をした人達を治癒しているのである。一応、迷宮での実戦訓練兼攻略に参加している十五名の中には、もう一人“治癒師”を天職に持つ女の子がいるので、今は、二人で手分けして治療中だ。

「……ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」

「お、おう、平気だぜ。あんがとな」

香織に治療された檜山が、ボーと間近にいる香織の顔を見ながら上の空な感じで返答する。見蕩れているのが丸分かりだ。近藤の方も、耳を赤くしどもりながら礼を言った。前衛職であることから、度々、香織のヒーリングの世話になっている檜山達だが、未だに、香織と接するときは平常心ではいられないらしい。近藤の態度は、ある意味、思春期の子供といった風情だが……檜山の香織を見る目の奥には暗い澱みが溜まっていた。それは日々、色濃くなっているのだが……気がついている者はそう多くはない。

二人にお礼を言われた香織は「どういたしまして」と微笑むと、スっと立ち上がり踵を返した。そして、周囲に治療が必要な人がいないことを確認すると、目立たないように溜息を吐き、奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた。

「…………まだ…………これからなんだよね………ハジメくん」

自身のアーティファクトである白杖を、まるで縋り付くようにギュッと抱きしめる香織の姿を見て、雫はたまらず声をかけようとした。と、雫が行動をおこす前に、ちみっこいムードメイカーが、不安に揺れる香織の姿など知ったことかい! と言わんばかりに駆け寄ると、ピョンとジャンプし香織の背後からムギュッと抱きついた。

「カッオリ~ン!!そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~!ぬっとりねっとりと癒して~」

「ひゃわ!鈴ちゃん!どこ触ってるの!っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ!だから甘やかして!具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

「お、おっぱ……ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」

「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

「……はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょうが……立ってるせいで……」

だたのおっさんと化した谷口が人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸をまさぐり、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。ついでに谷口と香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している谷口を何時ものように中村恵里が苦笑いしながら介抱する。

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……」

「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だったりする。雫は、香織の滑らかな髪を優しく撫でながらこっそり顔色を覗った。しかし、香織は、困った表情で、されど何処か楽しげな表情で中村に介抱される谷口を見つめており、そこには先程の憂いに満ちた表情はなかった。どうやら、一時的にでも気分が紛れたようだ。ある意味、流石クラスのムードメイカー谷口(おっさんバージョン)と、雫は内心で感心する。

「……頑張りましょう、香織」

雫が、香織の肩に置いた手に少々力を込めながら、真っ直ぐな眼差しを香織に向ける。それは、親友が折れないように活を入れる意味合いを含んでいた。香織も、そんな雫の様子に、自分が少し弱気になっていたことを自覚し、両手で頬をパンッと叩くと、強い眼差しで雫を見つめ返した。

「うん。ありがとう、雫ちゃん」

雫の気遣いが、どれだけ自分を支えてくれているか改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える香織。雫もまた、目元を和らげると静かに頷いた。……傍から見ると百合の花が咲き誇っているのだが本人たちは気がつかない。天之河達が何だか気まずそう視線を右往左往させているのも雫と香織は気がつかない。だって、二人の世界だから。

「今なら……守れるかな?」

「そうね……きっと守れるわ。あの頃とは違うもの……レベルだって既にメルド団長達を超えているし……でも、ふふ、もしかしたら彼の方が強くなっているかもしれないわね?あの時だって、結局、私達が助けてもらったのだし」

「ふふ、もう……雫ちゃんったら……」

南雲との再開を信じて、今度こそ守れるだろうかと今の自分を見下ろしながら何となく口にした香織に、雫は冗談めかしてそんな事をいう。実は、ずばり的を射ており、後に色んな意味で度肝を抜かれるのだが……そのことを知るのはもう少し先の話だ。

ちなみに、この場にいるのは光輝、龍太郎、雫、香織、鈴、恵里の他、永山重吾を含める五人及び檜山達四人、良公達6人と涼愛を除いた平野達5人の26人であり、メルド団長達は七十層で待機している。実は七十層からのみ起動できる三十層と七十層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのであるが、流石にメルド達でも七十層より下の階層は能力的に限界だった。もともと、六十層を越えたあたりで、天之河達に付き合える団員はメルドを含めて僅か数人だった。七十層に到達する頃には、彼等は既に天之河達の足を引っ張るようになっていたのである。

メルドも、そのことを自覚しており、迷宮でのノウハウは既に教えきっていたこともあって、自分達は転移陣の周囲で安全地帯の確保に努め、それ以降は天之河達だけで行くことにさせたのだ。

たった四ヶ月ほどで超えられたことにメルドは苦笑い気味だったが、それでも天之河達に付き合う過程で、たとえ七十層でも安全を確保できるほどの実力を自分達もつけられたことに喜んでいた。彼らもまた実力を伸ばしていたのである。

涼愛に至っては、

 

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「なに?雷王の先公に出した任務から雷王の先公が戻って来ないじゃと?彼奴また性懲りも無く寄り道しおって……ちと連れ戻しに行ってくるわ。」

 

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と、雷王の先公を探しに出ていき、今はここにいない。

「そろそろ、出発したいんだけど……いいか?」

天之河が、未だに見つめ合う香織と雫におずおずと声をかける。以前、香織の部屋で香織と雫が抱き合っている姿を目撃して以来時々挙動不審になる天之河の態度に香織はキョトンとしているが、雫はその内心を正確に読み取っているのでジト目を送る。その目は如実に「いつまで妙な勘違いしてんの、このお馬鹿」と物語っていた。

雫の視線に気づかないふりをしながら、天之河はメンバーに号令をかける。既に八十九層のフロアは九割方探索を終えており後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。今までのフロアの広さから考えてそろそろ階下への階段が見えてくるはずである。

その予想は当たっており、出発してから十分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら身長に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で十メートルほど降りた頃、遂に天之河達は九十層に到着した。

一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた天之河達。しかし、見た目、今まで探索してきた八十層代と何ら変わらない作りのようだった。さっそくマッピングしながら探索を開始する。迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく天之河達。探索は順調だった。だったのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

「……どうなってる?」

一行がかなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて天之河が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、天之河の疑問に同調しつつ足を止める。

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、天之河達がこの九十層に降りて探索を開始してから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、この進み具合。それは単純な理由だ。未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していないからである。

最初は、魔物達が天之河達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

坂上と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

「……光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

雫が警戒心を強めながら、天之河にそう提案した。天之河も、何となく嫌な予感を感じていたので雫の提案に乗るべきかと考えたが、何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないし、八十九層でも割りかし余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかと考えて、答えを逡巡する。

天之河が迷っていると、不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

「これ……血……だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、匂いを嗅いだりして詳しく確認した。

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

天之河の反論に、永山は首を振る。永山は、坂上と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、坂上と違って非常に思慮深い性格をしている。その永山が、臨戦態勢になりながら立ち上がると周囲を最大限に警戒しながら、天之河に自分の考えを告げた。

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が始めて。それはつまり……」

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

あとを継いだ雫の言葉に永山が頷く。天之河もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

「ここが終着点という事さ」

天之河の言葉を引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。天之河達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

天之河達が驚愕したように目を見開く。女のその特徴は、天之河達のよく知るものだったからだ。実際には見たことはないが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……

「……魔人族」

魔人族が現れたのだ。

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

天之河達の目の前に現れた赤い髪の女魔人族は、冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、驚きに目を見開く天之河達を観察するように見返した。

瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。体にピッタリと吸い付くようなデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだった。しかも、胸元は大きく開いており、見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れていた髪を、その特徴的な僅かに尖った耳にかける仕草が実に艶かしく、そんな場合ではないと分かっていながら幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。

「勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

「あ、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレた天之河が、その勢いで驚愕から立ち直って魔人族の女に目的を問いただした。

しかし、魔人族の女は、煩そうに天之河の質問を無視すると心底面倒そうに言葉を続ける。

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

「な、なに?来ないかって……どう言う意味だ!」

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

天之河達としては完全に予想外の言葉だったために、その意味を理解するのに少し時間がかかった。そして、その意味を呑み込むとクラスメイト達は自然と光輝に注目し、天之河は呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨みつけた。

「断る!人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

天之河の言葉に、安心した表情をするクラスメイト達。天之河なら即行で断るだろうとは思っていたが、ほんの僅かに不安があったのは否定できない。もっとも、坂上や雫など幼馴染達は、欠片も心配していなかったようだが。

一方の、魔人族の女は、即行で断られたにもかかわらず「あっそ」と呟くのみで大して気にしていないようだ。むしろ、怒鳴り返す天之河の声を煩わしそうにしている。

「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」

お仲間には相談せず代表して、やはり即行で天之河が答える。そんな勧誘を受けること自体が不愉快だとでも言うように、天之河は聖剣を起動させ光を纏わせた。これ以上の問答は無用。投降しないなら力づくでも! という意志を示す。

後ろで、永山や雫が内心で舌打ちしつつ魔人族の女より周囲に最大限の警戒を行う。二人は場合によっては一度嘘をついて魔人族の女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていたのだが、その考えを天之河に伝える前に彼が怒り任せに答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ。

普通に考えて、いくら魔法に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。この階層の魔物を無傷で殲滅し、あまつさえその痕跡すら残さないなどもっと有り得ない。そんなことが出来るくらい魔人族が強いなら、はなから人間族は為すすべなく魔人族に蹂躙されていたはずだ。

それに、この階層に到達できるほどの人間族26人を前にしても魔人族の女は全く焦っていない。戦闘の痕跡を隠蔽したことも考えれば最初に危惧した通り、ここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。何が起きても不思議ではない。

そんな二人の危機感は、直ぐに正しかったと証明された。

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど……あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ!という破砕音と共に、雫と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった。

「ぐっ!?」

「がっ!?」

二人を吹き飛ばしたものの正体は不明。魔人族の女の号令と共に、突如、天之河達の左右の空間が揺らいだかと思うと、“縮地”もかくやという速度で“何か”が接近し、何の備えもせず光輝と魔人族の女のやり取りを見ていたクラスメイト達に襲いかかったのだ。

最初から、最大限の警戒網を敷いていた雫と永山はその奇襲に辛うじて気がつき、咄嗟に、狙われている生徒をかばって見えない敵に防御態勢を取ったのである。

雫はスピードファイターであるため防御力は低い。そのため揺らぐ空間に対して抜刀した剣と鞘を十字にクロスさせて衝撃の瞬間を見計らい自ら後方に飛ぶことで威力を殺そうとした。しかし、相手の攻撃力が想像の遥か上であったため、防御を崩され腹部を浅く裂かれた上に肺の空気を強制的に排出させられる程強く地面に叩きつけられた。

永山は、“重格闘家”という天職を持っており、格闘系天職の中でも特に防御に適性がある。“身体強化”の派生技能で“身体硬化”という技能とお馴染みの“金剛”を習得しており、両技能を重掛けした場合の耐久力は鋼鉄の盾よりも遥かに上だ。自らの巨体も合わせれば、その人間要塞とも言うべき防御を突破するのは至難と言っていい。

だが、その永山でさえ“何か”の攻撃により防御を突破されて深々と両腕を切り裂かれ血飛沫を撒き散らしながら吹き飛び、たまたま後方にいた檜山達にぶつかって辛うじて地面への激突という追加ダメージを免れるという有様だった。

ガラスが割れるような破砕音は谷口が雫の臨戦態勢に合わせて予め唱えておいた障壁魔法を本能的な危機感に従って咄嗟に張ったものだ。場所はパーティーの後方。そこに“何か”あると感じたわけではなく、何となく雫と永山の位置からして自分は後方に障壁を展開するべきだとこれまた本能的あるいは経験的に悟ったからだ。その行動は極めて正しかった。谷口の障壁がなければ、三つ目の空間の揺らめきは、容赦なく永山のパーティーメンバーを切り裂いていただろう。

だが、味方を見事に守った代償に、障壁破砕の衝撃をモロに浴びて谷口もまた後方へ吹き飛ばされた。運良くすぐ後ろに中村がいたため、受け止めることに成功し事なきを得たが、ほかの雫と永山を切り裂いた二つの揺らめきと同じく、三つ目の揺らめきも直ぐさま追撃に動き出したため危機は未だ終わってはいない。

突然の襲撃に、反応しきれていないクラスメイト達を三つの揺らめきが切り裂かんと迫った、その瞬間、

「光の恩寵と加護をここに! “回天”“周天”“天絶”!」

香織がほとんど無詠唱かと思うほどの詠唱省略で同時に三つの光系魔法を発動した。

一つは、切り裂かれて吹き飛び、地面に叩きつけられた雫と永山を即座に癒す光系中級回復魔法“回天”。複数の離れた場所にいる対象を同時に治癒する魔法だ。痛みに呻きながら何とか起き上がろうともがく二人に淡い白光が降り注ぎ、尋常でない速度で傷が塞がっていく。

次いで、少しでも気を逸らせば直ぐに見失いそうな姿なき揺らめく三つの存在に雫達に降り注いだのと同じ淡い白光が降り注ぎ纏わりつく。すると、その光はふわりと広がって空間に光の輪郭が出現した。

光系の中級回復魔法“周天”。これは、いわゆるオートリジェネだ。回復量は小さいが一定時間ごとに回復魔法が自動で掛かる。この魔法は掛かっている間、魔力光が纏わりつくという特徴がある。香織は、その特性を利用し、回復効果を最小限にして正体不明の敵に使用することで間接的に姿を顕にしたのだ。

白光により現れた姿は、ライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物だった。命名するならやはりキメラだ。おそらく、迷彩の固有魔法を持っているのだろう。姿だけでなく気配も消せるのは相当厄介な能力ではあるが、行動中は完全には力を発揮出来ないようで、空間が揺らめいてしまうという欠点があるのは不幸中の幸いだ。

なにせ、クラスメイトの中でもトップクラスの近接戦闘能力を持つ雫と永山を一撃で行動不能に陥れたのだ。恐るべき敵である。この上、完全に姿を消せるとあっては、とても太刀打ち出来ない。今までの階層の魔物と比較すると明らかにこの階層の魔物のレベルを逸脱している。

そのキメラ三体は、纏わりつく光など知ったことかと追撃の爪牙を繰り出した。目標は、雫、永山、谷口の三人だ。だが、その爪牙が三人に届くことはなかった。なぜなら、三人の眼前にそれぞれ三枚ずつ光の盾が出現し、キメラの一撃で粉砕されながらも、微妙に角度をずらして設置していたために攻撃を間一髪のところで逸らしたからである。

光系の中級防御魔法“天絶”。“光絶”という光のシールドを発動する光系の初級防御魔法の上位版で、複数枚を一度に出す魔法だ。“結界師”である谷口などはこの魔法を応用して壊される端から高速でシールドを補充し続け、弱く直ぐに破壊されるが突破に時間がかかる多重障壁という使い方をしたりする。この点香織は、光属性全般に高い適正を持つものの、結界専門の鈴には及ばないためそのような使い方は出来ない。精々設置するシールドの微調整が出来る程度だ。

しかし、今回はそれが役に立った。谷口の強力な障壁が一撃で破壊された瞬間に、香織は、自分の障壁では役に立たないと悟り、攻撃をいなす方法を選択したのだ。もっとも、全く同じ攻撃が、予想通り来るとは限らないので、イチかバチかという賭けの要素が強かった。上手くいったのは幸運である。

攻撃をいなされた三体のキメラは、やや苛立ったように再度攻撃に移ろうとした。稼げた時間は一瞬。問題などないと。しかし、一瞬とはいえ、貴重な時間を稼げた事に変わりはない。その時間を天之河達が逃すはずはなかった。

「雫から離れろぉおお!!」

永山はいいのか?とツッコミを入れてはいけない。天之河は、怒りを多分に含ませた雄叫び上げながら“縮地”で一気に雫の近くにいたキメラに踏み込んだ。天之河の移動速度が焦点速度を超えて背後に残像を生み出す。振りかぶった聖剣が一刀のもとにキメラの首を跳ねんと輝きを増す。

同時に、坂上も永山を襲おうとしていたキメラへと空手の正拳突きの構えを取った。直接踏み込んで攻撃するより、篭手型アーティファクトの能力である衝撃波を飛ばしたほうが早いと判断したからだ。坂上から裂帛の気合が迸り、篭手に魔力が収束していく。

さらに、吹き飛ばされ谷口を受け止めていた中村が片手を突き出し、谷口と同様、危機感から続けていた詠唱を完成させ、強力な炎系魔法を発動させた。“海炎”という名の炎系中級魔法は、文字通り、炎の津波を操る魔法で分類するなら範囲魔法だ。素早い敵でも、そう簡単には避けられはしない。

天之河の聖剣が壮絶な威力と早さをもって大上段から振り下ろされる。坂上の正拳突きが、これ以上ないほど美しいフォームから繰り出され、それにより凄絶な衝撃波が砲弾のごとく突き進む。中村の死を運ぶ紅蓮の津波が目標を呑み込み灰塵にせんと迸った。

だが……

「「ルゥガァアアア!!」」

「グゥルゥオオオ!!」

一体どこに潜んでいたのか。光輝達の攻撃がまさに直撃しようかというその瞬間、三つの影が咆哮を上げながら光輝達へと襲いかかった。

「「ッ!?」」

突然の事態に天之河と坂上の背筋を悪寒が襲う。二体の影は、それぞれ天之河と坂上に猛烈な勢いで突進すると、手に持った金属のメイスを豪速をもって振り抜いた。

咄嗟に、天之河は剣の遠心力を利用して身を捻り、坂上は突き出した右手の代わりに引き絞った左腕をカチ上げて眼前まで迫っていたメイスを弾く。天之河はバランスを崩し地面をゴロゴロと転がり、坂上は、メイスを弾いた後の敵の拳撃による二撃目を受けて吹き飛ばされた。

天之河と坂上に不意を打ったのは体長二メートル半程の見た目はブルタールに近い魔物だった。しかし、いわゆるオークやオーガと言われるRPGの魔物と同様に、ブルタールが豚のような体型であるのに対して、その魔物は随分とスマートな体型だ。まさに、ブルタールの体を極限まで鍛え直し引き絞ったような体型である。実際、先程の不意打ちからしても、膂力・移動速度共にブルタールの比ではなかった。

一方、中村の方は直接攻撃を受けたわけではなかったが、受けた心理的衝撃の度合いはむしろ天之河達よりも強かった。なぜなら、押し寄せる炎の津波を、突如割り込んだ影が大口を開けたかと思うと一気に吸い込み始めたからだ。ヒュオオオ! という音と共に、みるみると広範囲に展開していた炎が一点へと収束し消えていく。その影が全ての炎を吸い込むのに十秒程度しか掛からなかった。

炎と熱気が消えた空間からは、体から六本の足を生やした亀のような魔物が姿を現した。背負う甲羅は、先程まで敵を灰に変えようと荒れ狂っていた炎と同じように真っ赤に染まっている。

と、次の瞬間、多足亀が炎を吸収しきって一度は閉じていた口を再びガパッと大きく開いた。同時に背中の甲羅が激しく輝き、開いた口の奥に赤い輝きが生まれる。まるで、エネルギーを集めて発射寸前のレーザー砲のようだ。

その様子を見た中村が、表情に焦りを浮かべた。魔法を放ったばかりで対応する余裕がないからだ。だが、その焦りは、腕の中の親友がいつも通りの元気な声で吹き飛ばした。

「にゃめんな!守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る“天絶”!」

刹那、谷口達の前に十枚の光のシールドが重なるように出現した。そのシールドは全て、斜め四十五度に設置されており、シールドの出現と同時に、多足亀から放たれた超高熱の砲撃はシールドを粉砕しながらも上方へと逸らされていった。

それでも、継続して放たれる砲撃の威力は、先程のキメラの攻撃の上を行く壮絶なもので、一瞬にしてシールドを食い破っていく。谷口は歯を食いしばりながら詠唱の通り次々と新たなシールドを構築していき、“結界師”の面目躍如というべきか、シールドの構築速度と多足亀の砲撃による破壊速度は拮抗し辛うじて逸らし続けることに成功した。

逸らされた砲撃は、激震と共に迷宮の天井に直撃し周囲を粉砕しながら赤熱化した鉱物を雨の如く撒き散らした。

「ちくしょう!何だってんだ!」

「なんなんだよ、この魔物は!」

「くそ、とにかくやるぞ!」

そこまでの事態になってようやく檜山達や永山のパーティーが悪態を付きながらも混乱から抜け出し完全な戦闘態勢を整える。傷を負っていた雫や永山も完全に治癒されて、それぞれ眼前の見えるようになったキメラに攻撃を仕掛け始めた。

雫が、残像すら見えない超高速の世界に入る。風が破裂するような

 

ヴォッ!

 

という音を一瞬響かせて姿が消えたかと思えば次の瞬間にはキメラの真後ろに現れて、これまたいつの間にか納刀していた剣を抜刀術の要領で抜き放った。

“無拍子”による予備動作のない移動と斬撃。姿すら見えないのは単純な移動速度というより、急激な緩急のついた動きに認識が追いつかないからだ。さらに、剣術の派生技能により斬撃速度と抜刀速度が重ねて上昇する。鞘走りを利用した素の剣速と合わせれば、普通の生物には認識すら叶わない神速の一閃となる。

嘗て涼愛から教えられた技である。

先程受けた一撃のお返しとばかりに放たれたそれは八重樫流奥義が一“断空”。空間すら断つという名に相応しく、銀色の剣線のみが虚空に走ったかと思えば、次の瞬間には、キメラの蛇尾が半ばから断ち切られた。

「グゥルァアア!!」

怒りの咆哮を上げて振り向きざまに鋭い爪を振るうキメラ。しかし、その攻撃は虚しく空を切る。既に雫は反対側へと回り込んでいたからだ。そして二の太刀を振るい今度はキメラの両翼を切り裂いた。

「くっ!」

速度で翻弄し着実にダメージを与えていく雫。しかし、雫の表情は晴れず、それどころか苦虫を噛み潰したような表情で思わず声を漏らした。それは、思惑が外れたことが原因だった。雫は本当なら最初の一撃でキメラの胴体を両断するつもりだったのだが、寸でのところで蛇尾が割って入り斬撃が届かなかったのだ。二太刀目も胴体を切り裂くつもりが、斬撃が届くより一瞬早く身を屈められて両翼を切り裂くに留まってしまった。

キメラは、雫の速さに付いてこられていない。しかし、全く対応できないというわけでもなかったのだ。姿が消せる上、かろうじてとは言え雫の本気の速さに対応してくる反応速度。本当に難敵である。さっさと倒して他の救援に向かいたい雫としては、厄介なことこの上なかった。

その後も、三太刀目、四太刀目と剣を振るい、キメラの体に無数の傷をつけていくが、どれも浅く致命傷には遠く及ばない。それどころか、キメラは徐々に雫の速度を捉え始めているようだった。雫の表情に焦りが生まれ始める。

さらに、雫にとって、いや、雫達にとって悪いことは続く。

「キュワァアア!!」

突然、部屋にそんな叫びが響いたかと思うと、雫の眼前で両翼と蛇尾を切断されていたキメラが赤黒い光に包まれて、みるみる内に傷を癒していったのだ。香織の“周天”は、ほとんど意味がないほどに効果を落としてあるので、いくら浅い傷といえどそう簡単に治ったりはしない。雫は目を見開き、癒されていくキメラに注意しながら叫び声の方をチラリと見やった。

すると、いつの間にか高みの見物と洒落こんでいた魔人族の女の肩に双頭の白い鴉が止まっており、一方の頭が雫の方を、正確には雫の眼前にいるキメラに向いていたのだ。

「回復役までいるって言うの!?」

難敵にやっとの思いで傷を与えてきたというのにそれを即座に癒される。唯でさえ時間が経てば経つほど順応されて勝機が遠のくというのに、後方には優秀な回復役が待機している。あまりの事態に、思わず雫が悲鳴を上げた。

「うらァ!!!」

双頭の白い鴉に矢が放たれるが、ひょいっと飛んで避ける。

「ち、ちょこまかと!!!!!!!」

平野である。平野が弓で双頭の白い鴉を狙いいたのである。何故鴉を狙ったのかは聞かないでおこう。もしかしたら油断している魔人族の女の頭を穿てたというのに。

見れば、雫だけでなく、他の場所でも同じように悲痛な叫びを上げる仲間達がいた。

天之河の方も、支援を受けつつブルタールモドキと戦っていたようで、ブルタールの胴体には肩から腰にかけて深々と切り裂かれた痕がついていたのだが、その傷も白鴉の一方の頭が見つめながら叫び声を上げることで、まるで逆再生でもしているかのように癒されていく。

坂上や永山の方も同じだ。坂上が相手取っていた二体目のブルタールモドキは腹部が破裂したように抉れていたり片腕が折れていたりしたようだが、雫が相手取っていたキメラを癒していた白鴉の頭が同じように鳴くとみるみる癒されていき、永山の相手だったキメラも陥没した肉体の一部が直ぐさま癒されていった。

「だいぶ厳しいみたいだね。どうする?やっぱり、あたしらの側についとく?今なら未だ考えてもいいけど?」

天之河達の苦戦を、腕を組んで余裕の態度で見物していた魔人族の女が再び勧誘の言葉を光輝達にかけた。もっとも、答えなど分かっているとでも言うようにその表情は冷めたままだったが。そして、その予想は実に正しかった。

「ふざけるな!俺達は脅しには屈しない!俺達は絶対に負けはしない!それを証明してやる!行くぞ“限界突破”!」

魔人族の女の言葉と態度に憤怒の表情を浮かべた天之河は、再びメイスを振り下ろしてきたブルタールモドキの一撃を聖剣で弾き返すと、一瞬の隙をついて“限界突破”を使用した。

神々しい光を纏った天之河は、これで終わらせると気合を入れ直し、魔人族の女に向かって突進した。

 “限界突破”は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。

天之河は、魔物の強力さと回復が可能という事実に、このままでは仲間の士気が下がり押し切られると判断し、“限界突破”を使用して一気に白鴉と魔人族の女を倒そうと考えた。

天之河の“限界突破”の宣言と共に、その体を純白の光が包み込む。同時に、メイスの一撃を弾かれたブルタールモドキが天之河の変化など知ったことではないと、再び襲いかかった。

「刃の如き意志よ光に宿りて敵を切り裂け“光刃”!」

天之河は、ブルタールモドキにより振るわれたメイスを屈んで躱すと、聖剣に光の刃を付加させて下段より一気に切り上げた。

先程も、“光刃”を使って袈裟斬りにしたのだが、その時は、深手を与えるにとどまり戦闘不能にすることはできなかった。しかし、今度は“限界突破”により三倍に引き上げられたステータスと、光の刃の相乗効果もあってか、まるでバターを切り取るようにブルタールモドキの胴体を斜めに両断した。

一拍遅れて、ブルタールモドキの胴体が斜めにずれ、ドシャ! という生々しい音と共に崩れ落ちる。天之河は、踏み込んだ足をそのままに、一気に加速すると猛然と魔人族の女のもとへ突進した。

天之河と魔人族の女を隔てるものは何もない。いくら魔人族が魔法に優れた種族といえど、今更何をしようとも遅い。このまま、白鴉ともども切り裂いて終わりだ。誰もがそう思った。

その瞬間、

「「「「「グゥルァアアア!!!」」」」」

「なっ!?」

空間の揺らめきが五つ。咆哮を上げながら天之河に襲いかかった。四方を囲むように同時攻撃を仕掛けてきたキメラに、天之河は思わず驚愕の声を上げ眼を大きく見開いた。

咄嗟に、急ブレーキをかけつつ身をかがめ正面からの一撃を避けつつ右から襲い来るキメラを聖剣の一撃で切り伏せる。そして、身にまとった聖なる鎧の性能を信じて、背後からの攻撃を胴体部分で受けて死の凶撃を耐え凌ぐ。

だが、出来たのはそこまでだった。左から迫っていたキメラの爪に肩口を抉られ、その衝撃に吹き飛ばされているところへ包囲の外にいた最後の一体が飛びかかり両足の爪を天之河の肩に食い込ませて押し倒した。

「ぐぅう!!」

食いしばる歯の隙間から苦悶の声を漏らしながら、止めとばかりに首筋へ牙を突き立てようとするキメラの顎門を聖剣で辛うじて防ぐ。両肩に食い込む爪が、顎門を支える力を奪っていき限界突破中であるにもかかわらず上手く力を乗せられず、徐々に押されていく。

「光の恩寵よ、癒しと戒めをここに“焦天”!“封縛”!」

天之河のピンチを見た香織が、すかさず、光系の回復魔法を行使した。“焦天”一人用の中級回復魔法だ。先ほど使った複数人用の回復魔法“回天”より高い効果を発揮する。しかし天之河の両肩にはキメラの爪が食い込んでおり、このままでは癒すことができない。

なので同時発動により、光系の中級捕縛魔法“封縛”を行使する。“封縛”は、対象を中心に光の檻を作り出して閉じ込める魔法だ。香織は、その魔法を天之河(・・・)にかけた。天之河を中心に光の檻が瞬時に展開し、のしかかっていたキメラを弾き飛ばす。

両肩から爪が抜けたことにより、“焦天”が効果を十全に発揮して、瞬時に天之河の傷を癒していった。

同時に、谷口達を襲っていたキメラと多足亀の相手をしていた後衛組の何人かが、天之河を襲おうとしているキメラ達に向かって攻撃魔法を放った。ただそれなりに距離があることと香織の“周天”が施されていないために動いていても見えにくい事から狙いは甘く大したダメージは与えられなかった。

それでも、天之河が体勢を立て直す時間は稼げたようで、聖剣を構え直すと、治癒されながら唱えていた詠唱を完成させ反撃に出た。

「“天翔剣四翼”!」

振るわれた聖剣から曲線を描く光の斬撃が揺らめく空間四つに飛翔する。狙われたキメラ達は、“限界突破”により強化された天之河の十八番に危機感を抱いたのか、咄嗟にその場を飛び退いて回避しようとした。

だが、そこで、

「捕らえよ “縛印”!」

香織のほとんど無詠唱と言っていい程の短い詠唱により、光系中級捕縛魔法“縛印”が発動する。回避しようとしたキメラ達の足元から光の鎖が無数に飛び出し、首、足、胴体に絡みついた。キメラの力なら引きちぎることも難しくはないが、一瞬、動きを止められることは避けられない。

結果、四体のキメラは、天之河の“天翔剣”の直撃を受けて血飛沫を撒き散らしながら絶命した。

天之河は、魔人族の女に向き直ると聖剣を突きつけながら睨みつける。

「残念だったな。お前の切り札は俺達には通用しなかった。もう、お前を守るものは何もないぞ!」

天之河の言葉を受けた魔人族の女は、そんな天之河に怪訝そうな、というか呆れたような表情を向けた。内心、「なぜ、今更、そんなこと宣言する必要がある? そのまま、即行で切りかかればいいじゃない」と思っていたからだ。

天之河の方は、追い詰められているはずなのに、余裕の態度を崩さない魔人族の女に苛立っていた。最初のキメラ、次のブルタールモドキ、そして今のキメラ。その全てが奇襲であったことも、天之河を苛立たせる原因だ。「不意打ちばかり仕掛けて正々堂々と戦おうとしない。自分は高みの見物。何て卑怯なやつだ!」と。

「……別に、切り札ってわけじゃないんだけど」

「強がりを!」

「まぁ、強がりかどうかはこいつらを撃退してからにしたら?こっちは、“異教の使徒”とやらの力もある程度確認出来たから、もう用はないしね」

「なにをいっ『きゃぁああ!』ッ!?」

魔人族の女が面倒そうに髪をかき上げながらそんな事をいい、それに対して光輝が問いただそうとしたその時、後方から悲鳴が響き渡った。

思わず振り返った天之河の目に映ったのは、更に五体のブルタールモドキとキメラ、そして見たことのない黒い四つ目の狼、背中から四本の触手を生やした体長六十センチ程の黒猫が、一斉に仲間に襲いかかり、永山のパーティーの一人で彼の親友でもある野村健太郎が黒猫の触手に脇腹を貫かれている光景だった。悲鳴を上げたのは同じく永山のパーティーの一人である吉野真央だ。

「健太郎! くそっ、調子に乗るな!」

「真央、しっかりして! 私が回復するから!」

同じパーティーメンバーである遠藤浩介が、野村を貫く触手をショートソードで切り裂き、怒りの炎を宿した眼で黒猫を睨み斬りかかる。

野村が苦悶の声を上げながら崩れ落ちたことに茫然としている吉野に、やはり同じパーティーの辻綾子が叱咤の声を張り上げながら、直ぐさま治癒魔法を発動した。ちょうど、遠藤が受けた切り傷を癒そうと詠唱を完了していたのは幸いだった。

「なっ、まだあんなに!」

後方を振り返って、いつの間にか現れた新手に天之河が驚愕の声を漏らす。

「キメラの固有魔法“迷彩”は、触れているものにも効果を発揮する。その可能性を考えなかった?ほら、追加いくよ」

「ッ!?」

いきなり現れた大量の魔物に、劣勢を強いられる仲間。それを見て、天之河が急いで引き返そうとする。そんな天之河に、キメラの“迷彩”効果で隠れていただけだとタネ明かしをしながら、更に魔物をけしかける魔人族の女。彼女の背後から、四目狼と黒猫が十頭ずつ天之河目掛けて殺到する。

「くっ、ぉおお!」

黒猫の触手が途轍もない速度で伸長し、四方八方から天之河を襲った。天之河は聖剣を風車のように回転させ襲い来る触手の尽くを切り裂き、接近してきた黒猫の一体目掛けて横凪の一撃を放った。天之河の顔面を狙ったせいか、空中に飛び上がっていた黒猫には避けるすべはないはずだった。天之河も「まず一体!」と魔物の絶命を確信していた。

しかし、次の瞬間にその確信はあっさり覆される。何と黒猫が空中を足場に宙返りし、光輝の一撃を避けたのだ。そして、その体格に似合わない鋭い爪で天之河の首を狙った一撃を放った。

辛うじて頭を振り、ギリギリで回避した天之河だったが、体勢が崩れたため背後からの四つ目狼による強襲に対応できず、鎧の防御力と限界突破の影響で深手は負わなかったものの、勢いよく吹き飛ばされ元いた場所あたりまで戻されてしまった。

それに合わせて、明らかに逸脱した強さを持つ魔物達が追い詰めるように天之河達を包囲していく。全員必死に応戦しているが、一体ですら厄介な敵だというのに、それが一気に増えた上、連携までとってくる。しかも、一撃で絶命させなければ、即座に白鴉が回復させてしまう。

香織と、同じく“治癒師”の天職をもつ辻綾子と香織が二人がかりで味方を治癒し続けているからこそ何とか致命的な戦線の崩壊は避けられているが、状況を打開する決定打を打つことができない。

天之河が“限界突破”の力をもって敵を蹴散らそうとするが、魔物達も天之河に対しては常に五体以上が連携してヒット&アウェイを繰り返し決して無理をしようとしないので攻めきることができない。

雫の“無拍子”による高速移動も、速度に優れた黒猫と“先読”の固有能力をもつ四つ目狼の連携により対応され、手傷は負わせても致命傷を与えるには至らない。

必死に応戦しながらも、次第に、クラスメイト達の表情に絶望の影がちらつき始めた。そして、その感情は、魔人族の女の参戦により更に大きくなる。

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴大地が産みし魔眼の主宿るは暗闇見通し射抜く呪いもたらすは永久不変の闇牢獄恐怖も絶望も悲嘆もなくその眼まなこを以て己が敵の全てを閉じる残るは終焉物言わぬ冷たき彫像ならばものみな砕いて大地に還せ!“落牢”!」

その詠唱が完了した直後、魔人族の掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて天之河達の方へ飛来した。速度は決して早くはない。今の天之河達の中に回避できないものなどいない。一見、何の驚異も感じない攻撃魔法だったが、それを見た先ほど腹を触手で貫かれた野村健太郎が、血を失ったために青ざめている顔に更に焦りの表情を浮かべて叫んだ。

「ッ!?ヤバイッ!谷口ィ!!あれを止めろぉ!バリア系を使え!」

「ふぇ!?りょ、了解!ここは聖域なりて神敵を通さず!“聖絶”!」

切羽詰った野村の指示に谷口が詠唱省略した光系の上級防御魔法を発動する。輝く障壁がドーム状となって天之河達全員を包み込んだ。もっとも、“聖絶”に敵味方の選別機能などないので、ドーム状の障壁の中には多くの魔物も取り込んでしまっている。“聖絶”は強力な魔法なだけあって消費魔力が大きい。なので、普段ならこんな無意味な使い方はしない。しかし、野村の叫びが、魔人族の女から放たれた魔法の危険性をこれでもかと伝えていたので、できる限り強力なバリア系の防御魔法として、咄嗟に“聖絶”を選んだのだ。

谷口が“聖絶”を展開した直後、灰色の渦巻く球体が障壁に衝突した。灰色の球体は、障壁を突破しようと見かけによらない凄まじい威力で圧力をかける。谷口は、突破させてなるものかと、自身の魔力がガリガリと削られていく感覚に歯を食いしばりながら必死に耐えた。

と、魔人族の女から命令でも受けたのか、魔物の動きが変化する。複数体が一斉に谷口を狙い始めたのだ。

「鈴!」

「谷口を守れ!」

中村が谷口の名を呼びながら魔法を放って接近するブルタールモドキを妨害する。谷口を中心に中村とは反対側でキメラや四つ目狼と戦っていた斎藤良樹と近藤礼一が、野村の呼びかけに応えて谷口の傍に駆けつけようとする。が、“聖絶”の維持で動けない谷口に、隙間を縫うようにして黒猫が一気に接近した。野村が、咄嗟に地面から石の槍を発動させて串刺しにしようとするが、黒猫は空中でジグザグに跳躍すると、身をひねりながら石の槍を躱し、触手を全本射出した。

「谷口ぃ!」

「あぐぅ!?」

野村が谷口の名を呼んで警告するが時すでに遅し。触手は、咄嗟に身をひねった谷口の腹と太もも、右腕を貫通した。更に捉えたまま横凪に振るって谷口の小柄な体を猛烈な勢いで投げ捨てた。

谷口は、血飛沫を撒き散らしながら、背中から地面に叩きつけられて息を詰まらせる。そして、呼吸を取り戻すと同時に激痛に耐え兼ねて悲鳴を上げた。

「あぁああああ!!」

「鈴ちゃん!」

「鈴!」

その苦悶の声を聞いて香織と中村が、思わず悲鳴じみた声で谷口の名を呼ぶ。直ぐさま、香織が回復魔法を行使しようと精神を集中するが、それより谷口の施した光り輝く結界が消滅する方が早かった。

「全員、あの球体から離れろぉ!」

野村が焦燥感に満ちた声で警告を発する。だが、谷口の鉄壁を誇った“聖絶”と今の今まで拮抗していた魔法だ。今更、その警告は遅すぎた。

結界が消滅し、勢いよく飛び込んできた灰色の渦巻く球体は、そのまま地面に着弾すると音もなく破裂し猛烈な勢いで灰色の煙を周囲に撒き散らした。

傍には、倒れて痛みにもがく谷口と駆けつけようとしていた斎藤と近藤、それに野村。灰色の煙は、一瞬で彼等を包み込む。魔物の影はない。着弾と同時に、一斉に距離をとったからだ。

灰色の煙はなおも広がり、光輝達をも包み込もうとする。

「来たれ風よ!“風爆”!」

天之河が、咄嗟に、突風を放つ風系統の魔法で灰色の煙を部屋の外に押し出す。

魔法で作り出された煙だからか、通常のものと違って簡単に吹き飛びはしなかったが、”限界突破”中の天之河の魔法は威力も上がっているので、僅かな拮抗の末、迷宮の通路へと排出することに成功した。

だが、煙が晴れたその先には……

「そんな、鈴!」

「野村くん!」

「斎藤!近藤!」

完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤と近藤、下半身を石化された谷口、その谷口に覆いかぶさった状態で左半身を石化された野村の姿があった。

斎藤と近藤は、何が起こったのかわからないという様なポカンとした表情のまま固まっている。谷口は、下半身を石化された事で更なる激痛に襲われたようで苦悶の表情を浮かべたまま意識を失っていた。

一方、谷口を庇いながら、それでもなお一番被害が軽微だった野村だが、やはり激痛に襲われているらしく食いしばった歯の奥から痛みに耐えるうめき声が漏れていた。野村の被害が軽かったのは、彼が“土術師”の天職持ちだからだ。土属性に天賦の才を持っており、当然、土系魔法に対する高い耐性も持っている。

魔人族の女が発動した魔法を瞬時に看破したのも、あの魔法が土系統の魔法で野村も勉強していたからだ。土系の上級攻撃魔法“落牢”。石化する灰色の煙を撒き散らす厄介な魔法だ。ほんの僅かでも触れれば、そこから徐々に侵食され完全に石化してしまう魔法で、対処法としては、バリア系の結界で術の効果が終わるまで耐えるか煙を強力な魔法で吹き飛ばすしかない。しかも、バリア系は上級レベルでなければ結界そのものが石化されてしまう上、煙も上級レベルの威力がなければ吹き飛ばすことが出来ないという強力なものだ。

「貴様!よくも!」

天之河が、仲間の惨状に憤怒の表情を浮かべる。天之河を包む“限界突破”の輝きがより一層眩い光を放ち始めた。今にも、魔人族の女に突貫しそうだ。

だが、そんな天之河をストッパーの雫が声を張り上げて諌める。そして、撤退に全力を注げと指示を出した。

「待ちなさい!光輝!撤退するわよ!退路を切り開いて!」

「なっ!?あんなことされて、逃げろっていうのか!」

しかし、仲間を傷つけられた事に激しい怒りを抱く天之河は、キッと雫を睨みつけて反論した。天之河から放たれるプレッシャーが雫にも降り注ぐが、雫は柳に風と受け流し、険しい表情のまま光輝を説得する。

「聞きなさい!香織なら、きっと治せる。でも、それには時間がかかるわ。治療が遅くなれば、手遅れになる可能性もある。一度引いて態勢を立て直す必要があるのよ!それに、三人欠けた上に、今、あんたが飛び出したら、次の攻勢に皆はもう耐えられない!本当に全滅するわよ!」

「ぐっ、だが……」

「それに、“限界突破”もそろそろヤバイでしょ?この状況で、光輝が弱体化したら、本当に終りよ!冷静になりなさい!悔しいのは皆一緒よ!」

理路整然とした幼馴染の言葉に、天之河は、唇を噛んで逡巡するが、雫が唇の端から血を流していることに気がついて、茹だった頭がスッと冷えるのを感じた。雫も悔しいのだ。思わず、唇を噛み切ってしまう程に。大事な仲間をやられて、出来ることなら今すぐ敵をぶっ飛ばしてやりたいのだ。

「わかった!全員、撤退するぞ!雫、龍太郎!少しだけ耐えてくれ!」

「任せなさい!」

「おうよ!」

天之河は、聖剣を天に突き出すように構えると長い詠唱を始めた。今までは、詠唱時間が長い上に状況の打開にならないので使わなかったが、撤退のための道を切り開くにはちょうどいい魔法だ。

ただし、詠唱中は完全に無防備になるので身の守りを雫と坂上に託さねばならない。それは、天之河が引き受けていた魔物も彼等が相手取らなければならないということだ。当然、雫と坂上の二人に対応しきれるはずもなく、必死に応戦しながらもかなりの勢いで傷ついていく。

「撤退なんてさせると思うかい?」

そんなことを呟きながら、魔人族の女が天之河達の背後にある通路にも魔物を回し退路を塞いでいく。そして、何やら詠唱を始めた天之河を標的に自らも魔法を唱えだした。

だが、そこで始めて魔人族の女にとって不測の事態が起こる。

「「「「「ガァアア!!」」」」」

「ッ!?なぜ!」

何と、味方のはずのキメラが五体、魔人族の女を襲ったのである。驚愕に目を見開きながら、咄嗟に、放とうとしていた魔法を詠唱省略して即時発動する。高密度の砂塵が魔人族の女を中心に渦巻き刃となって、襲い来るキメラ二体を切り裂いた。残りのキメラの攻撃は、砂塵に自らを吹き飛ばさせることで何とか回避する。

魔人族の女は、「なぜ、あたしを!?」と動揺しながら襲いかかってきたキメラを凝視する。すると、あることに気がついた。それは、どのキメラも体が損壊しているということだ。あるキメラは頭がなかったし、またあるキメラは胴体に深い傷がついており、今もだらだら血を滴らせている。

「こいつら……」

そう、魔人族の女が気がついたように、彼女を襲ったのは天之河に切り捨てられた五体のキメラだったのだ。絶命したはずのキメラが立ち上がり、生を感じさせない雰囲気で自分を襲ってくるという事態に、魔人族の女はとある魔法を思い出し「まさか……」と呟いた。

「あなたに光輝君の邪魔はさせない!」

そんなことを叫びながら、手をタクトのように振るって死体のキメラに魔人族の女を包囲させたのは中村だった。

「ちっ! 降霊術の使い手か! そんな情報なかったのに!」

魔人族の女は、天之河達を待ち伏せる上で、一応、事前調査を行っていた。その中に、降霊術などと言う超高難度魔法を使う者がいるなどという情報はなかったため、完全に予想外の事態だった。中村が、“降霊術師”という天職を持っていながら、降霊術を苦手として実戦では使っていなかった事が、ここに来ていい方向に働いたのである。

中村は、苦手なんて今、克服する! とでも言うように強い眼差しで魔人族の女を睨むと、実戦で始めて使うとは思えないほど巧みにキメラ達を操り、魔人族の女を倒すというより、時間を稼ぐように立ち回った。

その間に、香織が谷口に向かって“焦点”と“万天”を行使する。メンバーの中で一番危険な状態なのは谷口だったため、まずは谷口に集中して治すことにしたのだ。“万天”は光系の中級回復魔法のうち状態異常を解除する魔法だ。しかし、石化の魔法はかなり強力な魔法のようで、解除は遅々としている。腹と腕に空いた穴は直ぐに塞がったが、流した血の量は既に相当なものだ。今すぐ安静が必要な重体である。石化が解けた瞬間に改めて足の穴も塞がなければならない。

左半身が石化している野村には、辻綾子がついて状態異常の解除に勤しんでいた。辻綾子の回復魔法適性が高い事ともあるが、野村の土系統魔法に対する耐性が高いことも相まって、かなりの速度で解除が進んでいる。既に足の石化は解除出来ていた。

しかし、それでも白杖を振るう香織をチラリと見やって辻綾子は唇を噛んだ。同じ、“治癒師”の天職なのに、術師としての技量は明らかに香織の方が上だった。香織は、野村より遥かに重傷の谷口を魔法の同時行使で治癒しながら、更に、天之河を守って戦う雫や坂上にも時折、回復魔法をかけているのだ。辻には、とても真似できない芸当である。こんな状況で十全に味方を癒せない事に悔しい気持ちが湧き上がると同時に、自分が情けなかった。

そんな辻に、治癒される野村は何か言いたげな表情をしたが、今はそんな場合ではないと思い直し、痛みを堪えながらブツブツと詠唱を続ける。

戦力の減少と天之河の戦闘中断により、相対する魔物が多すぎて満身創痍になりつつある檜山と中野、それに永山達と、中村は二人の治癒師を守りながら、限界が近い事を悟っていた。このまま行けば数分で自分達は力尽きると。

天之河の聖剣に集まる輝きがなければ、今にも泣きそうな中野あたりはパニックになって自殺行為に走っていたかもしれない。メンバーが、今か今かと待っていたその時は……遂に訪れた。

「行くぞ! “天落流雨”!」

天之河の掲げた聖剣から、一条の閃光が打ち上げられたかと思うと、その光は天井付近で破裂するように飛び散り、周囲の魔物達に流星の如く降り注いだ。

この“天落流雨”は、敵の直上からピンポイントで複数同時に攻撃するという光系の攻撃魔法だ。威力は分散しているため威力はそこまで高くはなく、本来は多数の雑魚敵掃討に用いるものだが、それでも“限界突破”中に使えば、五十層クラスの魔物くらいなら十分効果を発揮する爆撃のような魔法である。

ただ、異常な強さをもつ魔人族の魔物達には、さほどダメージにならなかったようで、精々吹き飛ばして仲間達から引き離すくらいの効果しか発揮しなかった。だが、天之河にとっては、それで十分だった。隙を作り、仲間が撤退出来る状況を作ることができれば。魔人族の女の方は、まだ、中村が操るキメラに手間取っている。

天之河はそれを確認すると、馬鹿みたいに詠唱の長いこの魔法の本領を発揮させた。

「“収束”!」

天より降り注ぎ、魔物達を一時的に後退させた光の雨は、天之河の詠唱によって再び聖剣に収束していく。流星が尾を引いて一点に集まる光景は中々に幻想的だった。天之河は、収束させた光を纏って輝く聖剣を、真っ直ぐ退路となる通路とその前に陣取る魔物達に向けて突き出し、裂帛の気合とともに一連の魔法の最後のトリガーを引いた。

「“天爪流雨”!」

直後、突き出された聖剣から無数の流星が砲撃のごとく撃ち放たれる。同じ砲撃でも光輝の切り札である“神威”には遠く及ばない威力であり、当然、退路を塞ぐ魔物達を一掃することなど叶わない。

本来なら、“神威”を使いたいところだが、詠唱が長すぎてとても盾となってくれている雫と坂上がもつとは思えなかったので仕方ない。

しかし、それでも“天爪流雨”は今の状況では最適の手だった。流星となって退路上の魔物達に直進した光の奔流は、着弾と同時に無数の爆発を引き起こした。砲撃を構成する無数の光弾がクラスター爆弾のように破裂したのだ。それによって衝撃が連続して発生し、魔物達は体勢を崩され大きく吹き飛ばされた。

「「「「ルァアアア!!」」」」

魔物達がきつく目を閉じたまま悲鳴を上げる。“天爪流雨”の副次効果、閃光による視覚へのダメージだ。間近で発生した強烈な光によって眼を灼かれたのである。混乱したように目元を手でこすりながら、闇雲に暴れる魔物達。

彼等は既に、退路上にはいない。通路に向かって一直線に道が開かれた。

「今だ!撤退するぞ!」

天之河の号令で、全員が一斉に動き出す。石化している近藤と斎藤は、永山が一人で肩に担ぎ、気絶している谷口は遠藤が背負った。野村は、まだ左腕が石化したままだったが、激痛を堪えながらも自力で立ち上がり、通路に向かって走り始める。

「チッ!逃がすな!一斉にかかりな!」

魔人族の女が残り二体のキメラを相手取りながら、無事な魔物達にそう命令する。魔物達は、その命令に忠実に従い即座に追撃に移った。キメラといい、四つ目狼といい、黒猫といい、足の早い魔物が多く、天之河達が引き離した距離は瞬く間に詰められていく。

と、そこで野村が身を翻し、痛みに顔をしかめながらも不敵な笑みを浮かべて右手を突き出した。

「土系統で負けるわけにゃあ行かねぇんだよ!お返しだ!“落牢”!」

先程の魔人族の女と同じく灰色の渦巻く球体が野村の手より放たれる。石化の煙を孕んだ魔法球が迫り来る魔物達の手前に着弾した。先程の魔人族の“落牢”が放たれたとき、魔人族の女が何も言わなくても、魔物達は、即座に距離をとっていた。なので、野村は、この魔法の危険性を教え込まれているのではないかと考え、撤退時の追撃に備えて詠唱しておいたのだ。

その、野村の推測は正しかった。灰色の球体が放たれた瞬間、突進して来ていた魔物達が一斉に急ブレーキをかけて、その場を飛び退き距離をとり始めたのだ。同時に、煙は煙幕にもなって撤退する天之河達の姿を隠した。

それに合わせて、遠藤が魔力の残滓や臭いなどの痕跡を魔法で消していく。遠藤の天職は“暗殺者”であり、そういった工作系の魔法に天賦の才を持っているので、そうそう追跡は出来ないだろう。

既に後方で小さくなった部屋の入口から、気のせいか悔しそうな魔物達の咆哮が響いた。

天之河達は、ボロボロの体と目を覚まさない仲間に悔しさ半分、生き残った嬉しさ半分の気持ちで口数少なく逃げ続けた。

 

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場所は八十九層の最奥付近の部屋。

その正八角形の大きな部屋には四つの入口があるのだが、実は今、そのうちの二つの入口の間にはもう一つ通路があり、奥には隠し部屋が存在している。入口は、上手くカモフラージュされて閉じられており、隠し部屋は十畳ほどの大きさだ。

そこでは、天之河達が思い思いに身を投げ出し休息をとっていた。だが、その表情は一様に暗い。深く沈んだ表情で顔を俯かせる者ばかりだ。皆、満身創痍であるが故に苦痛に表情を歪めている者も多い。

いつもなら、そのカリスマを以て皆を鼓舞する天之河も“限界突破”の副作用により全身をひどい倦怠感に襲われており壁に背を預けたまま口を真一文字に結んで黙り込んでいる。

そして、こういう時、いい意味で空気を読まず場を盛り上げてくれるクラス一のムードメイカーは、血の気の引いた青白い顔で、やはり苦痛に眉根を寄せながら荒い息を吐いて眠ったままだった。その事実も、皆が顔を俯かせる理由の一つだろう。

谷口の下半身は膝から下がまだ石化しており、香織が継続して治療にあたっていた。太ももの貫通した痕は既に完治している。後は石化を解除するだけだ。しかし、運悪く、谷口が受けた触手の攻撃は彼女の体から大量の血を失わせた。おそらく、重要な血管を損傷したのだろう。香織だからこそ、治療が間に合ったと言える。

もっとも、いくら香織でも谷口が失った大量の血を直ぐさま補充することは出来ない。精々、異世界製増血薬を飲ませるくらいが限界だ。なので、谷口の体調が直ぐに戻るということはないだろう。安静が必要である。

香織が、谷口にかかりきりになっているため、他の者はまだ治療を受けていない。当然、オブジェの如く置かれている斎藤と近藤の石化した彫像もそのままだ。谷口の治療が終わっても、次は彼等の番なので、自分達が治療を受けられるのは、まだ先であると分かっているメンバーはごく一部を除いて特に文句を言う素振りはない。単に、その気力もないだけかもしれないが。

薄暗い即席の空間に漂う重苦しい空気に、雫が眉間に皺を寄せながら何とか皆を鼓舞しなければと頭を捻る。元来、雫は寡黙な方なので谷口のように場を和ませるのは苦手だ。しかし、天之河が“限界突破”と敗戦の影響で弱体化して使い物にならない以上、自分が何とかしなければならないだろうと、生来の面倒見の良さから考えているのだ。本当に苦労人である。

雫自身、肉体的にも精神的にも限界が近い事も有り、だんだん頭を捻るのも面倒になってきて、もういっそのこと空気を読まずに玉砕覚悟の一発ギャグでもかましてやろうかと、ちょっと壊れ気味なことを考えていると、即席通路の奥から野村と辻が話しをしながら現れた。

「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ……もう限界」

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね……一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様」

「そっちこそ、石化を完全に解くのは骨が折れたろ? お疲れ」

二人の会話からわかるように、この空間を作成し、入口を周囲の壁と比べて違和感がないようにカモフラージュしたのは“土術師”の野村健太郎だ。

“土術師”は土系統の魔法に対して高い適性を持つが、土属性の魔法は基本的に地面を直接操る魔法であり、“錬成”のように加工や造形のような繊細な作業は出来ない。例えば、地面を爆ぜさせたり、地中の岩を飛ばしたり、土を集束させて槍状の棘にして飛ばしたり、砂塵を操ったり、上級になれば石化やゴーレム(自立性のない完全な人形)を扱えるようになるが、様々な鉱物を分離したり掛け合わせたりして物を作り出すようなことは出来ないのだ。

なので、手持ち魔法陣で大雑把に壁に穴を開ける事は出来るが、周囲と比べて違和感のない壁を“造形”することは完全に領分外であり、野村は一から魔法陣を構築しなければならなかったのである。

なお、辻綾子が野村について行ったのは、野村の石化を治療するためだ。

「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」

「……だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は……あっちも祈るしかないか」

「……浩介なら大丈夫だ。影の薄さでは誰にも負けない」

「いや、重吾。それ、聞いてるだけで悲しくなるから口にしてやるなよ……」

隠れ家の安全性が増したという話に、僅かに沈んだ空気が和らいだ気がして、とんだ黒歴史を作りそうになった雫は頬を綻ばせて野村を労った。

それに対して、野村は苦笑いしながら、今はここにいないもう一人の親友の健闘を祈って遠い目をする。

そう、今この場所には仲間が一人いないのである。それは、遠藤浩介。“暗殺者”の天職を持つ永山重吾と野村健太郎の親友である。特に暗いわけでも口下手なわけでもなく、また存在を忘れられるわけでもない。誰とでも気さくに話せるごく普通の男子高校生なのだが、何故か“影が薄い”のだ。気がつけば、皆、彼の姿を見失い「あれ?アイツどこいった?」と周囲を意識して見渡すと、実はすぐ横にいて驚かせるという、本人が全く意図しない神出鬼没さを発揮するのである。もちろん、日本にいた頃の話だ。

本人は、極めて不本意らしいのだが、今は、それが何よりも役に立つ。遠藤は、たった一人、パーティーを離れてメルド達に事の次第を伝えに行ったのである。本来なら、いくら異世界から召喚されたチートの一人でも、八十層代を単独で走破するなど自殺行為だ。天之河達が、少し余裕をもって攻略できたのも十五人という仲間と連携して来たからである。

だが、遠藤なら、“影の薄さでは世界一ぃ!”と胸を晴れそうなあの男なら、隠密系の技能をフル活用して、魔物達に見つからずメルド達のいる七十層にたどり着ける可能性がある。そう考えて、天之河達は遠藤を送り出したのである。

別れるとき、天之河は少し涙目だったが……きっと、仲間を置いて一人撤退することに感じるものがあったに違いない。例え説得として「お前の影の薄さなら鋭敏な感覚をもつ魔物だって気づかない!影の薄さでは誰にも負けないお前だけが、魔物にすら気づかれずに突破できるんだ!」と皆から口々に言われたからではないはずだ。

本当なら、光輝達も直ぐにもっと浅い階層まで撤退したかったのだが、如何せん、それをなすだけの余力がなかった。満身創痍のメンバーに、戦闘不能が三人、弱体化中の光輝、とても八十層代を突破できるとは思えなかったのだ。

もちろん、メルド達が救援に来られるとは思っていない。メルドを含め七十層で拠点を築ける実力を持つのは六人。彼等を中心にして、次ぐ実力をもつ騎士団員やギルドの高ランク冒険者達の助力を得て、安全マージンを考えなければ七十層代の後半くらいまでは行けるだろがそれ以上は無理だ。

仮にそこまで来てくれたとしても、八十層代は天之河達が自力で突破しなければならない。つまり、遠藤を一人行かせたのは救援を呼ぶためではなく、自分達の現状と魔人族が率いる魔物の情報を伝えるためなのだ。

天之河達は、確かに、聖教教会のイシュタル達から魔人族が魔物を多数、それも洗脳など既存の方法ではなく明確な意志を持たせて使役するという話を聞いていたが、あれほど強力な魔物とは聞いていなかった。驚異なのは個体の強さではなく“数”だったはずなのだ。

にもかかわらず、実際、魔人族が率いていたのは前人未到の【オルクス大迷宮】九十層レベルの魔物を苦もなく一掃し、天之河達チート持ちを圧倒出来る魔物達だった。そんな事が、そもそも可能ならもっと早く、人間族は滅ぼされていてもおかしくない。

つまり、イシュタルの情報は、あの時点では間違っていなかったのであり、結論としては魔人族の率いる魔物は“強力になっている”ということだ。“数”に加えて個体の“強さ”も驚異となった。この情報は、何が何でも確実に伝えなければならないと天之河達は判断したのである。

「白崎さん。近藤君と斉藤君の石化解除は任せるね。私じゃ時間がかかりすぎるから。代わりに他の皆の治癒は私がするからさ」

「うん、わかった。無理しないでね、辻さん」

「平気平気。というかそれはこっちのセリフだって……ごめんね。私がもっと出来れば、白崎さんの負担も減らせるのに……」

野村達が話している傍らで、魔力回復薬をゴクゴクと喉を鳴らしながら服用する辻が谷口の治療を続ける香織にそんな事をいった。同じ“治癒師”でありながら、香織と比べると大きく技量の劣る辻は、表面上は何でもないように装っているが、内心では自分への情けなさと香織にばかり負担をかけることへの申し訳なさでいっぱいだった。

「そんな事はない」と言う香織に苦笑いを返しながら、仲間の治療に向かう辻。彼女の治療により癒されていく仲間達の顔からは少しだけ暗さが消えた。そんな辻を、何とも言えない表情で見つめている野村だったが、治療の邪魔になるかと思い声はかけなかった。

「……こんな状況だ。伝えたい事があるなら伝えておけ」

「……うっせぇよ」

永山が、どこか面白がるような表情で野村にそんな事をいうが、本人は不貞腐れたように顔を背けるだけだった。

それから、数十時間。天之河達は、交代で仮眠を取りながら少しずつ体と心を癒していった。

 

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「うっ……」

「鈴ちゃん!」

「鈴!」

うめき声を上げて身じろぎしながらゆっくり目を開けた谷口に、ずっと傍に付いていた香織と中村が声に嬉しさを滲ませながら谷口の名を呼んだ。谷口は、しばらくボーとした様子で目だけをキョロキョロと動かしていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「し、知らない天井だぁ~」

「鈴、あなたの芸人根性は分かったから、こんな時までネタに走って盛り上げなくていいのよ?」

喉が乾いているのだろう。しわがれ声で、それでも必死にネタに走る谷口に、彼女の声を聞いて駆け付けてきた雫が、呆れと称賛を半分ずつ含ませた表情でツッコミを入れた。そして、傍らの革製の水筒を口元に持っていき水分を取らせる。

ごきゅごきゅと可愛らしく喉を鳴らして水分を補給した谷口は、「生き返ったぜ!文字通り!」と、あまり洒落にならない事を言いながら頑張って身を起こす。香織と恵中村がそれを支える。瀕死から意識を取り戻して即行明るい雰囲気を撒き散らすクラス一のムードメイカーに、今の今まで沈んだ表情だったクラスメイト達も口元に笑みを浮かべた。

しかし、その明るい雰囲気とは裏腹に谷口の顔色は悪い。疲労もあるだろうし、血が足りていないということもあるのだろう。青白い顔で目の下にも薄らクマが出来ており、見せる笑みが少々痛々しい。体を何箇所も貫かれて、それでも起き抜けに笑みを見せられるのは、間違いなく彼女の“強さ”だ。雫も香織も、そんな谷口に尊敬混じりの眼差しを向ける。

「鈴ちゃん。まだ、横になっていた方がいいよ。傷は塞がっても流れた血は取り戻せないから……」

「う~ん、このフラフラする感じはそれでか~。あんにゃろ~、こんなプリティーな鈴を貫いてくれちゃって……“貫かれちゃった♡”ってセリフはベッドの上で言いたかったのに!」

「鈴!お下品だよ!自重して!」

谷口が恨みがましい視線を虚空に向けながらそんな事をいい、中村が頬を染めて谷口を嗜める。周囲で何人かの男子生徒が思わずといった感じで「ぶっ!?」と吹き出していたが、雫がひと睨みするとスっと視線を逸した。

「鈴、目を覚ましてよかった。心配したんだぞ?」

「よぉ、大丈夫かよ。顔、真っ青だぜ?」

起きていきなり騒がしい谷口に、天之河と坂上が近寄ってくる。一時期、“限界突破”の影響で弱体化し、かつ、手痛い敗戦に落ち込んでいた天之河だったが、この即席の隠れ家に逃げ込んでからそれなりの時間が経っているため、どうにか持ち直したようだ。

「おはよー、光輝君、龍太郎君!何とか逃げ切ったみたいだね?えっと、みんな無事……あれっ、一人少ないような……」

「ああ、それは遠藤だろ。あいつだけ、先に逃がしたんだ。あいつの隠形なら一人でも階層を突破出来ると思って……」

天之河と坂上に、笑顔で挨拶すると、谷口は周囲のクラスメイトを見渡し人数が足りないことに気がついた。谷口は戦闘中に意識を喪失していたので、天之河達は彼女の疑問に答えると共に現状の説明も行った。

ちなみに、近藤と斎藤も既に石化は解除されていて鈴より早く目を覚ましており、事情説明は受けている。

「そっか、鈴が気絶してから結構時間が経っているんだね……あ、そうだ。カオリン、ありがとね!カオリンは鈴の命の恩人だね!」

「鈴ちゃん、治療は私の役目だよ。当然のことをしただけだから、恩人なんて大げさだよ」

「くぅ~、ストイックなカオリンも素敵!結婚しよ?」

「鈴……青白い顔で言っても怖いだけだよ。取り敢えずもう少し横になろ?」

香織に絡み、中村に諫められる。行き過ぎれば雫によって物理的に止められる。全くもっていつも通りだった。もう二度と、生きて地上に戻れないんじゃないかとそんなことまで考え出していたクラスメイト達も、敗戦なんて気にしないとでも言うような谷口達のやり取りに次第に心の余裕を取り戻し始めた。

が、そんな明るさを取り戻し始めた空気に、水を差す輩はいつでもどこにでもいるものだ。

「……なに、ヘラヘラ笑ってんの?俺等死にかけたんだぜ?しかも、状況はなんも変わってない!ふざけてる暇があったら、どうしたらいいか考えろよ!」

谷口を睨みながら怒鳴り声を上げたのは近藤礼一だ。声は出していないが、隣の斎藤良樹も非難するような眼を向けている。

「おい、近藤。そんな言い方ないだろ?鈴は、雰囲気を明るくしようと……」

「うっせぇよ!お前が俺に何か言えんのかよ!お前が、お前が負けるから!俺は死にかけたんだぞ!クソが!何が勇者だ!」

近藤の発言を諌めようと天之河が口を出すが、火に油を注いだように近藤は突然激高し、今度は天之河を責め立て始めた。

「てめぇ……誰のおかげで逃げられたと思ってんだ?光輝が道を切り開いたからだろうが!」

「そもそも勝っていれば、逃げる必要もなかっただろうが!大体、明らかにヤバそうだったんだ。魔人族の提案呑むフリして、後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部、お前のせいだろうが!責任取れよ!」

今度は、そんな近藤に坂上が切れ始める。近藤が立ち上がり、坂上が相対してにらみ合う。近藤に共感しているのか斎藤と中野も立ち上がって坂上と対峙した。

「龍太郎、俺はいいから……近藤、責任は取る。今度こそ負けはしない! もう、魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

握りこぶしを握ってそう力説する天之河だったが、斎藤が暗い眼差しでポツリとこぼした。

「……でも、“限界突破”を使っても勝てなかったじゃないか」

「そ、それは……こ、今度は大丈夫だ!」

「なんでそう言えんの?」

「今度は最初から“神威”を女魔人族に撃ち込む。みんなは、それを援護してくれれば……」

「でも、長い詠唱をすれば厄介な攻撃が来るなんてわかりきったことだろ?向こうだって対策してんじゃねぇの?それに、魔物だってあれで全部とは限らないじゃん」

天之河が大丈夫だと言っても、近藤達には、天之河の実力に対する不信感が芽生えているらしく疑わしい眼差しを向けたまま口々に文句を言う。ここで、天之河に責任やら絶対に勝てる保障などを求めても仕方ないのだが、どうやら、死にかけたという事実と相手の有り得ない強さと数に平静さを失っているようだ。

沸点の低い坂上が喧嘩腰で近藤達に反論するのも彼等をヒートアップさせている要因だろう。次第に、彼等の言い争いを止めようと口を出した辻や吉野、野村も含めて険悪なムードが漂い始める。

しまいには、坂上が拳を構え、近藤が槍を構え始めた。場に一気に緊張が走る。天之河が、龍太郎!と叫びながら彼の肩を掴んで制止するが、坂上は、よほど頭にきているのか額に青筋を浮かべたまま近藤を睨むことを止めない。近藤達の方も半ば意地になっているようだ。

「みんな、落ち着きなさい!何を言ったところで、生き残るには光輝に賭けるしかないのよ!光輝の“限界突破”の制限時間内に何としてでも魔人族の女を倒す。彼女に私達を見逃すつもりがないなら、それしかない。わかっているでしょ?」

雫が、両者の間に入って必死に落ち着くように説得するが、やはり効果が薄い。谷口が、フラフラと立ち上がりながら、近藤に謝罪までするが聞く耳を持たないようだ。香織が、いい加減、一度全員を拘束する必要があるかもしれないと、密かに拘束系魔法の準備をし始めたとき……それは聞こえた。

「グゥルルルルル……」

「「「「!?」」」」

唸り声だ。とても聞き覚えのある低く腹の底に響く唸り声。全員の脳裏にキメラや赤い四つ目狼の姿が過ぎり、今までの険悪なムードは一瞬で吹き飛んで全員が硬直した。僅かな息遣いすらも、やたらと響く気がして自然と息が細くなる。視線が、通路の先のカモフラージュした壁に集中する。

ザリッ!ザリッ!フシュー!フシュー!

壁越しに、何かをひっかく音と荒い鼻息が聞こえる。誰かがゴクリと喉を鳴らした。臭いなどの痕跡は遠藤が消してくれたはずで、例え強力な魔物でも壁の奥の光輝達を感知出来るはずはない。そうは思っていても、緊張に体は強張り嫌な汗が吹き出る。

完全回復には、今しばらく時間がかかる。谷口などは、とても戦闘が出来る状態ではないし、香織と辻も治癒に魔力を使いすぎて、まだほとんど回復していない。前衛組は、ほぼ完治しているが、魔法主体の後衛組も半分程度しか魔力を回復できていない。回復系の薬もほとんど尽きており、最低でも後数時間は回復を待ちたかった。

特に、回復役の香織と辻、それに結界師の谷口が抜けるのは看過できる穴ではなかった。なので、天之河達は、どうかまだ見つからないでくれと懇願じみた気持ちで外の部屋と隠れ部屋を隔てる壁を見つめた。

しばらく、外を彷徨いていた魔物だが、やがて徐々に気配が遠ざかっていった。そして、再び静寂が戻った。それでも、しばらくの間、誰も微動だにしなかったが、完全に立ち去ったとわかると盛大に息を吐き、何人かはその場に崩れ落ちた。極度の緊張に、滝のような汗が流れる。

「……あのまま騒いでいたら見つかっていたわよ。お願いだから、今は、大人しく回復に努めてちょうだい」

「あ、ああ……」

「そ、そうだな……」

雫が頬を伝う汗をワイルドにピッ!と弾き飛ばしながら拭う。近藤達も、どもりながら返事をして矛を収めた。まさに、冷や水を浴びせかけられたという感じだろう。

取り敢えず、危機を脱したと全員が肩から力を抜いた……その瞬間、

「ルゥガァアアアアア!!!」

 

ドォガアアアン!!

 

凄まじい咆哮と共に隠し部屋と外を隔てる壁が粉微塵に粉砕された。

「うわっ!?」

「きゃぁああ!!」

衝撃によって吹き飛んできた壁の残骸が弾丸となって隠し部屋へと飛来し、直線上にいた近藤と吉野に直撃した。悲鳴を上げて思わず尻餅をつく二人。

次の瞬間、唖然とする天之河達の眼前に、まだ相対したくはなかった空間の揺らめきが飛び込んできた。

「戦闘態勢!」

「ちくしょう!なんで見つかったんだ!」

天之河が、号令をかけながら直ぐさま聖剣を抜いてキメラに斬りかかる。動きを止められては姿を見失ってしまうので距離を取られるわけには行かないからだ。坂上が、悪態を吐きながら、外につながる通路の前に陣取って、これ以上の魔物の侵入を防ごうとする。

しかし、

「オォオオ!!」

「ぐぅう!!」

直後にブルタールモドキがその鋼の如き体を砲弾のように投げ出して体当たりをかました。そして、坂上に猛烈な勢いをもって組み付き、そのまま押し倒した。

その隙に、黒猫が何十匹と一気に侵入を果たし、即座に何十本もの触手を射出する。弾幕のような密度で放たれたそれは、容赦なく口論の時のまま固まった場所にいた近藤達に襲いかかった。咄嗟に、手持ちの武器で迎撃しようとする近藤達だったが、いかんせん触手の数が多い。あわや、そのまま串刺しかと思われたが、

「――“天絶”!」

「――“天絶”!」

十五枚の光り輝くシールドが近藤達の眼前の空間に角度をつけて出現し何とか軌道を逸していった。極々短い詠唱で、それでも何とかシールドを発動した技量には、誰もが舌を巻く程のものだ。十枚のシールドを出した方が谷口であり、五枚出した方が香織である。

ただ、やはり咄嗟に出したものである上に、谷口は体調が絶不調で、香織は魔力が尽きかけている状態だ。その事実は、シールドの強度となって如実に現れた。

 

バリンッ!バリンッ!バリンッ!バリンッ!バリンッ!バリンッ!

角度をつけて衝撃を逸らしているはずなのだが、それでも触手の猛攻に耐え切れず次々と砕かれていく。そして、その内の数本が、ついに角度のついたシールドに逸らされることなく打ち砕き、その向こう側にいた標的、中野と斎藤に襲いかかった。咄嗟に、身をひねる二人だったが、どちらも後衛組であるためにそれほど身体能力は高くなくない。そのため、致命傷は避けられたものの、中野は肩口を、斎藤は太ももを抉られて悲鳴を上げながら地面に叩きつけられた。

「信治!良樹!くそっ!大介、手伝ってくれ!」

「……ああ、もちろんだ」

隠し部屋に逃げ込んでからずっと何かを考え込んでいた檜山に、近藤は気を遣ってあまり話しかけないようにしていたのだが、流石にそうも言っていられない状況なので負傷した中野と斎藤を一緒に谷口の傍に引きずって行く。体調が絶不調とはいえ、魔力残量はそれなりに残っている谷口の傍が一番の安全地帯だからだ。それに傍にいる方が、香織の治療を受けやすい。

「くっ、光輝!“限界突破”を使って外に出て!部屋の奴らは私達で何とかするわ!」

「だが、鈴達が動けないんじゃ……」

「このままじゃ押し切られるわ!お願い!一点突破で魔人族を討って!」

「光輝!こっちは任せろ!絶対、死なせやしねぇ!」

「……わかった! こっちは任せる!“限界突破”!」

雫と龍太郎の言葉に一瞬考えるものの、確かに、状況を打開するにはそれしかないと光輝は決然とした表情をして、今日、二度目の“限界突破”を発動する。“限界突破”の一日も置かない上での連続使用は、かなり体に負担がかかる行為だ。なので、通常、“限界突破”の効力は八分程度であるが、もしかするともっと短くなっているかもしれない。そう予想して、光輝は他の一切を気にせず魔人族の女を倒すことだけに集中し、隠し部屋を飛び出していった。

隠し部屋から、大きな正八角形の部屋に出た天之河の眼に、大量の魔物とその奥で白鴉を肩に止め周囲を魔物で固めた魔人族の女が冷めた眼で佇んでいる姿が映った。天之河は心の内でこのような窮地に追いやった怒りと仲間を救う使命感で滾らせ、魔人族の女を真っ直ぐに睨みつける。

「ふん、手間取らせてくれるね。こっちは他にも重要な任務があるっていうのに……」

「黙れ!お前は俺が必ず倒す!覚悟しろ!」

天之河が、そう宣言し短い詠唱と共に聖剣に魔力を一気に送り込む。本来の“神威”には遠く及ばず魔人族の女には届かないだろうが、それでも道を切り開くくらいは出来るはずだと信じて詠唱省略版“神威”を放とうとした。

が、輝きを増す聖剣を前に魔人族の女は薄らと笑みを浮かべると、自身の周囲に待機させていたブルタールモドキに命じて何かを背後から引きずり出してきた。

訝しげな表情をする天之河だったが、その“何か”の正体を見て愕然とする。思わず、構えた聖剣を降ろし目を大きく見開いて、震える声で彼の名を呼んだ。

「……メ、メルドさん?」

そう、そこには、四肢を砕かれ全身を血で染めた瀕死のメルドがブルタールモドキに首根っこを掴まれた状態でいたのである。一見すれば、全身を弛緩させていることから既に死んでいるようにも見えるが、時折、小さく上がるうめき声が彼等の生存を示していた。

「おま、お前ぇ!メルドさんを放せぇッ!?」

天之河が、メルドの有様に激昂し、我を忘れたように魔人族の女へ突進しようとしたその瞬間、見計らっていたかのような絶妙のタイミングで、突然巨大な影が天之河を覆いつくした。ハッとなって振り返った天之河の目に、壁のごとき巨大な拳が空気を破裂させるような凄まじい勢いで迫ってくる光景が映る。

 

バギャァ!!

 

天之河は、本能的に左腕を掲げてガードするが、その絶大な威力を以て振るわれた拳はガードした左腕をあっさり押し潰し、天之河の体そのものに強烈な衝撃を伝えた。ダンプカーにでも轢かれたように途轍もない速度でぶっ飛び壁に叩きつけられた天之河。背後の壁が、あまりの衝撃に放射状に破砕する。

「ガハッ!」

衝撃で肺から空気が強制的に吐き出され、壁からズルリと滑り落ち、四つん這い状態で無事な右腕を頼りに必死に体を支える天之河。その口から大量の血が吐き出された。どうやら、先の一撃で内臓も傷つけたらしい。“物理耐性”の派生技能[+衝撃緩和]がなければ即死していたかもしれない。

脳震盪も起こしているようで、焦点の定まらない視線が必死に事態を把握しようと辺りを彷徨い、そして、見つけた。先程まで天之河がいた場所で拳を突き出したまま残心する体長三メートルはあろうかという巨大な魔物を。

その魔物は頭部が牙の生えた馬で、筋骨隆々の上半身からは極太の腕が四本生えており、下半身はゴリラの化物だった。血走った眼で光輝を睨んでおり、長い馬面の口からは呼吸の度に蒸気が噴出している。明らかに、今までの魔物とは一線を画す雰囲気を纏っていた。

その馬頭は、突き出した拳を戻すとともに、未だ立ち上がれずにいる天之河に向かって情け容赦なく濃密な殺気を叩きつけながら突進した。天之河がうずくまる場所の少し手前で跳躍した馬頭は、振りかぶった拳を天之河の頭上から猛烈な勢いで突き落とす。天之河は、本能がけたたましく鳴らす警鐘に従ってゴロゴロと地面を転がりながら、必死にその場を離脱した。

 

ドォガガアア!!

 

直後、馬頭の拳が地面に突き刺さり、それと同時に赤黒い波紋が広がったかと思うと轟音と共に地面が爆ぜた。まさに爆砕という表現がぴったりな破壊がもたらされる。これがこの馬頭の固有能力“魔衝波”である。内容は単純で、魔力を衝撃波に変換する能力だ。だが、単純故に凄まじく強力な固有魔法である。

“物理耐性”の派生技能[+治癒力上昇]により、何とか脳震盪からだけは回復しつつある天之河は、必死に立ち上がり聖剣を構えた。その時には、もう、馬頭が眼前まで迫っており再び拳を突き出していた。

天之河は、聖剣を盾にするが左腕が完全に粉砕されており、右腕一本では衝撃を流しきれず再び吹き飛ばされる。その後も、何とか致命傷だけは避けていく天之河だったが、四本の腕から繰り出される“魔衝波”を捌くことで精一杯となり、また最初の一撃によるダメージが思いのほか深刻で動きが鈍く、反撃の糸口がまるで掴めなかった。

「ぐぅう!何だ、こいつの強さは!俺は“限界突破”を使っているのに!」

「ルゥアアアア!!」

苦しそうに表情を歪めながら、“限界突破”発動中の自分を圧倒する馬頭の魔物に焦燥感が募っていく天之河は、このままではジリ貧だと思いダメージ覚悟で反撃に出ようとした。

だが……

 

ガクン

 

「ッ!?」

その決意を実行する前に、遂に、天之河の“限界突破”の時間切れがやって来た。一気に力が抜けていく。短時間に二回も使った弊害か、今までより重い倦怠感に襲われ、踏み込もうとした足に力が入らず、ガクンと膝を折ってしまった。

その隙を馬頭が逃すはずもない。突然、力が抜けてバランスを崩し、死に体となった天之河の腹部に馬頭の拳が

 

ズドン!

 

と衝撃音を響かせながらめり込んだ。

 

「ガハッ!」

血反吐を撒き散らしながら体をくの字に折り曲げて吹き飛び、天之河は再び壁に叩きつけられた。“限界突破”の副作用により弱体化していたこともあり、天之河の意識はたやすく刈り取られ、肉体的にも瀕死の重傷を負い、倒れ込んだままピクリとも動かなくなった。むしろ、即死しなかったことが不思議である。おそらく、死なないように手加減したのだろう。

馬頭が、天之河に近づき首根っこを掴んで持ち上げる。完全に意識を失い脱力している天之河を、馬頭は魔人族の女に掲げるようにして見せた。魔人族の女は、それに満足げに頷くと隠し部屋に突入させた魔物達を引き上げさせる。

暫くすると、警戒心たっぷりに雫達が現れた。そして、見たこともない巨大な馬頭の魔物が、その手に脱力した天之河を持ち上げている姿を見て、表情を絶望に染めた。

「うそ……だろ? 光輝が……負けた?」

「そ、そんな……」

「や、やだ……な、なんで……」

隠し部屋から出てきた仲間達が、吊るされる天之河を見て呆然としながら、意味のない言葉をこぼす。流石の雫や香織、谷口も言葉が出ないようで立ち尽くしている。そんな、戦意を喪失している彼等に、魔人族の女が冷ややかな態度を崩さずに話しかけた。

「ふん、こんな単純な手に引っかかるとはね。色々と……舐めてるガキだと思ったけど、その通りだったようだ」

雫が、青ざめた表情で、それでも気丈に声に力を乗せながら魔人族の女に問いかける。

「……何をしたの?」

「ん? これだよ、これ」

そう言って、魔人族の女は、未だにブルタールモドキに掴まれているメルドへ視線を向ける。その視線をたどり、瀕死のメルドを見た瞬間雫は理解した。メルドは、天之河の気を逸らすために使われたのだと。知り合いが、瀕死で捕まっていれば、天之河は必ず反応するだろう。それも、かなり冷静さを失って。

おそらく、前回の戦いで天之河の直情的な性格を魔人族の女は把握したのだ。そして、キメラの固有能力でも使って、温存していた強力な魔物を潜ませて、天之河が激昂して飛びかかる瞬間を狙ったのだろう。

「……それで?私達に何を望んでいるの?わざわざ生かして、こんな会話にまで応じている以上、何かあるんでしょう?」

「ああ、やっぱり、あんたが一番状況判断出来るようだね。なに、特別な話じゃない。前回のあんた達を見て、もう一度だけ勧誘しておこうかと思ってね。ほら、前回は、勇者君が勝手に全部決めていただろう?中々、あんたらの中にも優秀な者はいるようだし、だから改めてもう一度ね。で? どうだい?」

魔人族の女の言葉に何人かが反応する。それを尻目に、雫は、臆すことなく再度疑問をぶつけた。

「……光輝はどうするつもり?」

「ふふ、聡いね……悪いが、勇者君は生かしておけない。こちら側に来るとは思えないし、説得も無理だろう?彼は、自己完結するタイプだろうからね。なら、こんな危険人物、生かしておく理由はない」

「……それは、私達も一緒でしょう?」

「もちろん。後顧の憂いになるってわかっているのに生かしておくわけないだろう?」

「今だけ迎合して、後で裏切るとは思わないのかしら?」

「それも、もちろん思っている。だから、首輪くらいは付けさせてもらうさ。ああ、安心していい。反逆できないようにするだけで、自律性まで奪うものじゃないから」

「自由度の高い、奴隷って感じかしら。自由意思は認められるけど、主人を害することは出来ないっていう」

「そうそう。理解が早くて助かるね。そして、勇者君と違って会話が成立するのがいい」

雫と魔人族の女の会話を黙って聞いていたクラスメイト達が、不安と恐怖に揺れる瞳で互いに顔を見合わせる。魔人族の提案に乗らなければ、天之河すら歯が立たなかった魔物達に襲われ十中八九殺されることになるだろうし、だからといって、魔人族側につけば首輪をつけられ二度と魔人族とは戦えなくなる。

それはつまり、実質的に“神の使徒”ではなくなるということだ。そうなった時、果たして聖教教会は、何とかして帰ってきたものの役に立たなくなった自分達を保護してくるのか……そして、元の世界に帰ることは出来るのか……

どちらに転んでも碌な未来が見えない。しかし……

「わ、私、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

誰もが言葉を発せない中、意外なことに中村が震えながら必死に言葉を紡いだ。それに、クラスメイト達は驚いたように目を見開き、彼女をマジマジと注目する。そんな中村に坂上が、顔を怒りに染めて怒鳴り返した。

「恵里、てめぇ!光輝を見捨てる気か!」

「ひっ!?」

「龍太郎、落ち着きなさい!恵里、どうしてそう思うの?」

坂上の剣幕に、怯えたように後退る中村だったが、雫が坂上を諌めたことで何とか踏みとどまった。そして、深呼吸するとグッと手を握りしめて心の内を語る。

「わ、私は、ただ……みんなに死んで欲しくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

ポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ中村。そんな彼女を見て他のメンバーが心を揺らす。すると、一人、中村に賛同する者が現れた。

「俺も中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ?あぁ?」

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか?俺達全員?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇが!」

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。檜山の言う通り、死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。

しかし、それでも素直にそれを選べないのは、天之河を見殺しにて、自分達だけ生き残っていいのか? という罪悪感が原因だ。まるで、自分達が天之河を差し出して生き残るようで踏み切れないのである。

そんなクラスメイト達に、絶妙なタイミングで魔人族の女から再度、提案がなされた。

「ふむ、勇者君のことだけが気がかりというなら……生かしてあげようか?もちろん、あんた達にするものとは比べ物にならないほど強力な首輪を付けさせてもらうけどね。その代わり、全員魔人族側についてもらうけど」

雫は、その提案を聞いて内心舌打ちする。魔人族の女は、最初からそう提案するつもりだったのだろうと察したからだ。天之河を殺すことが決定事項なら現時点で生きていることが既におかしい。問答無用に殺しておけばよかったのだ。

それをせずに今も生かしているのは、まさにこの瞬間のためだ、おそらく、魔人族の女は前回の戦いを見て、天之河達が有用な人材であることを認めたのだろう。だが、会話すら成立しなかったことから天之河がなびくことはないと確信した。しかし、他の者はわからない。なので、天之河以外の者を魔人族側に引き込むため策を弄したのだ。

一つが、天之河を現時点では殺さないことで反感を買わないこと、二つ目が、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い詰めて選択肢を狭めること、そして三つ目が“それさえなければ”という思考になるように誘導し、ここぞという時にその問題点を取り除いてやることだ。

現に、天之河を生かすといわれて、それなら生き残れるしと、魔人族側に寝返ることをよしとする雰囲気になり始めている。本当に、天之河が生かされるかについては何の保証もないのに。殺された後に後悔しても、もう魔人族側には逆らえないというのに。

雫は、そのことに気がついていたが、今、この時を生き残るには魔人族側に付くしかないのだと自分に言い聞かせて黙っていることにした。生き残りさえすれば、天之河を救う手立てもあるかもしれないと。

魔人族の女としても、ここで雫達を手に入れることは大きなメリットがあった。一つは、言うまでもなく、人間族側にもたらすであろう衝撃だ。なにせ人間族の希望たる“神の使徒”が、そのまま魔人族側につくのだ。その衝撃……いや、絶望は余りに深いだろう。これは、魔人族側にとって極めて大きなアドバンテージだ。

二つ目が、戦力の補充である。魔人族の女が【オルクス大迷宮】に来た本当の目的、それは迷宮攻略によってもたらされる大きな力だ。ここまでは、手持ちの魔物達で簡単に一掃できるレベルだったが、この先もそうとは限らない。幾分か、魔物の数も天之河達に殺られて減らしてしまったので戦力の補充という意味でも雫達を手に入れるのは都合がよかったということだ。

このままいけば、雫達が手に入る。雰囲気でそれを悟った魔人族の女が微かな笑みを口元に浮かべた。

しかし、それは突然響いた苦しそうな声によって直ぐに消されることになった。

「み、みんな……ダメだ……従うな……」

「光輝!」

「光輝くん!」

「天之河!」

声の主は、宙吊りにされている天之河だった。仲間達の目が一斉に、天之河の方を向く。

「……騙されてる……アランさん達を……殺したんだぞ……信用……するな……人間と戦わされる……奴隷にされるぞ……逃げるんだ……俺はいい……から……一人でも多く……逃げ……」

息も絶え絶えに、取引の危険性を訴え、そんな取引をするくらいなら自分を置いてイチかバチか死に物狂いで逃げろと主張する天之河に、クラスメイト達の心が再び揺れる。

「……こんな状況で、一体何人が生き残れると思ってんだ?いい加減、現実をみろよ!俺達は、もう負けたんだ!騎士達のことは……殺し合いなんだ!仕方ないだろ!一人でも多く生き残りたいなら、従うしかないだろうが!」

檜山の怒声が響く。この期に及んでまだ引こうとしない天之河に怒りを含んだ眼差しを向ける。檜山は、とにかく確実に生き残りたいのだ。最悪、ほかの全員が死んでも香織と自分だけは生き残りたかった。イチかバチかの逃走劇では、その可能性は低いのだ。

魔人族側についても、本気で自分の有用性を示せば重用してもらえる可能性は十分にあるし、そうなれば、香織を手に入れることだって出来るかもしれない。もちろん、首輪をつけて自由意思を制限した状態で。檜山としては、別に彼女に自由意思がなくても一向に構わなかった。とにかく、香織を自分の所有物に出来れば満足なのだ。

檜山の怒声により、より近く確実な未来に心惹かれていく仲間達。

と、その時、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

「ぐっ……お前達……お前達は生き残る事だけ考えろ!……信じた通りに進め!……私達の戦争に……巻き込んで済まなかった……お前達と過ごす時間が長くなるほど……後悔が深くなった……だから、生きて故郷に帰れ……人間のことは気にするな……最初から…これは私達の戦争だったのだ!」

メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

天之河達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付いたのは同時だった。

「魔人族……一緒に逝ってもらうぞ!」

「……それは……へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そう言うの」

「抜かせ!」

メルドを包む光、一見、光輝の“限界突破”のように体から魔力が噴き出しているようにも見えるが、正確には体からではなく、首から下げた宝石のようなものから噴き出しているようだった。

それを見た魔人族の女が、知識にあったのか一瞬で正体を看破し、メルドの行動をいっそ小気味よいと称賛する。

その宝石は、名を“最後の忠誠”といい、魔人族の女が言った通り自爆用の魔道具だ。国や聖教教会の上層の地位にいるものは、当然、それだけ重要な情報も持っている。闇系魔法の中には、ある程度の記憶を読み取るものがあるので、特に、そのような高い地位にあるものが前線に出る場合は、強制的に持たされるのだ。いざという時は、記憶を読み取られないように、敵を巻き込んで自爆しろという意図で。

メルドの、まさに身命を賭した最後の攻撃に、天之河達は悲鳴じみた声音でメルドの名を呼ぶ。しかし、天之河達に反して、自爆に巻き込まれて死ぬかもしれないというのに、魔人族の女は一切余裕を失っていなかった。

そして、メルドの持つ“最後の忠誠”が一層輝きを増し、まさに発動するという直前に、一言呟いた。

「喰らい尽くせ、アブソド」

と、魔人族の女の声が響いた直後、臨界状態だった“最後の忠誠”から溢れ出していた光が猛烈な勢いでその輝きを失っていく。

「なっ!? 何が!」

よく見れば、溢れ出す光はとある方向に次々と流れ込んでいるようだった。メルドが、必死に魔人族の女に組み付きながら視線だけをその方向にやると、そこには六本足の亀型の魔物がいて、大口を開けながらメルドを包む光を片っ端から吸い込んでいた。

六足亀の魔物、名をアブソド。その固有魔法は“魔力貯蔵”。任意の魔力を取り込み、体内でストックする能力だ。同時に複数属性の魔力を取り込んだり、違う魔法に再利用することは出来ない。精々、圧縮して再び口から吐き出すだけの能力だ。だが、その貯蔵量は、上級魔法ですら余さず呑み込めるほど。魔法を主戦力とする者には天敵である。

メルドを包む“最後の忠誠”の輝きが急速に失われ、遂に、ただの宝石となり果てた。最後のあがきを予想外の方法で阻止され呆然とするメルドに、突如、衝撃が襲う。それほど強くない衝撃だ。何だ? とメルドは衝撃が走った場所、自分の腹部を見下ろす。

そこには、赤茶色でザラザラした見た目の刃が生えていた。正確には、メルドの腹部から背中にかけて砂塵で出来た刃が貫いているのだ。背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

「……メルドさん!」

「……メルドさん!」

天之河が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から天之河に目を転じ、眉を八の字にすると「すまない」と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

直後、砂塵の刃が横凪に振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失って

 

ドシャ!

 

と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

咄嗟に、間に合わないと分かっていても、香織が遠隔で回復魔法をメルドにかける。僅かに出血量が減ったように見えるが、香織自身、もうほとんど魔力が残っていないので傷口が一向に塞がらない。

「うぅ、お願い! 治って!」

魔力が枯渇しかかっているために、ひどい倦怠感に襲われ膝を付きながらも、必死に回復魔法をかける香織。

「まさか、あの傷で立ち上がって組み付かれるとは思わなかった。流石は、王国の騎士団長。称賛に値するね。だが、今度こそ終わり……これが一つの末路だよ。あんたらはどうする?」

魔人族の女が、赤く染まった砂塵の刃を軽く振りながら天之河達を睥睨する。再び、目の前で近しい人が死ぬ光景を見て、一部の者を除いて、皆が身を震わせた。魔人族の女の提案に乗らなければ、次は自分がああなるのだと嫌でも理解させられる。

檜山が、代表して提案を呑もうと魔人族の女に声を発しかけた。が、その時、

「……るな」

未だ、馬頭に宙吊りにされながら力なく脱力する天之河が、小さな声で何かを呟く。満身創痍で何の驚異にもならないはずなのに、何故か無視できない圧力を感じ、檜山は言葉を呑み込んだ。

「は?何だって?死にぞこない」

魔人族の女も、光輝の呟きに気がついたようで、どうせまた喚くだけだろうと鼻で笑いながら問い返した。光輝は、俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐに魔人族の女をその眼光で射抜く。

魔人族の女は、光輝の眼光を見て思わず息を呑んだ。なぜなら、その瞳が白銀色に変わって輝いていたからだ。得体の知れないプレッシャーに思わず後退りながら、本能が鳴らす警鐘に従って、馬頭に命令を下す。雫達の取り込みに対する有利不利など、気にしている場合ではないと本能で悟ったのだ。

「アハトド!殺れ!」

「ルゥオオオ!!」

馬頭、改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し“魔衝波”を発動させた拳二本で宙吊りにしている天之河を両サイドから押しつぶそうとした。

が、その瞬間、

 

カッ!!

 

光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、天之河が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ!という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまった。

「ルゥオオオ!!」

先程とは異なる絶叫を上げ、思わず天之河を取り落とすアハトドに、天之河は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

ズドォン!!

 

そんな大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

天之河は、ゆらりと体を揺らして、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が天之河の体へと収束し始める。

“限界突破”終の派生技能[+覇潰]。通常の“限界突破”が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、“覇潰”はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の天之河では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

だが、そんな事を意識することもなく、天之河は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、天之河の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。

魔人族の女が焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を天之河にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。しかし、天之河は、そんな魔物達には目もくれない。聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。

「お前ぇー!よくもメルドさんをぉー!!」

「チィ!」

大上段に振りかぶった聖剣を天之河は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる魔人族の女を袈裟斬りにした。

砂塵の盾を作りながら後ろに下がっていたのが幸いして、両断されることこそなかったが、魔人族の女の体は深々と斜めに切り裂かれて、血飛沫を撒き散らしながら後方へと吹き飛んだ。

背後の壁に背中から激突し、砕けた壁を背にズルズルと崩れ落ちた魔人族の女の下へ、天之河が聖剣を振り払いながら歩み寄る。

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

ピンチになれば隠された力が覚醒して逆転するというテンプレな展開に、魔人族の女が諦観を漂わせた瞳で迫り来る天之河を見つめながら、皮肉気に口元を歪めた。

傍にいる白鴉が固有魔法を発動するが、傷は深く直ぐには治らないし、天之河もそんな暇は与えないだろう。完全にチェックメイトだと、魔人族の女は激痛を堪えながら、右手を伸ばし、懐からロケットペンダントを取り出した。

それを見た天之河が、まさかメルドと同じく自爆でもする気かと表情を険しくして、一気に踏み込んだ。魔人族の女だけが死ぬならともかく、その自爆が仲間をも巻き込まないとは限らない。なので、発動する前に倒す!と止めの一撃を振りかぶった。

 だが……

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダンを見つめながら、そんな呟きを漏らす魔人族の女に天之河は思わず聖剣を止めてしまった。覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく魔人族の女。

天之河の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その天之河の瞳を見た魔人族の女は、何が天之河の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに天之河は更に動揺する。

「……呆れたね……まさか、今になって漸く気がついたのかい? “人”を殺そうとしていることに」

「ッ!?」

そう、天之河にとって魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだ。実際、魔物と共にあり魔物を使役していることがその認識に拍車をかけた。自分達と同じように、誰かを愛し誰かに愛され何かの為に必死に生きている、そんな戦っている“人”だとは思っていなかったのである。あるいは無意識にそう思わないようにしていたのか……

その認識が、魔人族の女の愛しそう表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された。否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ“人”だと気がついてしまった。自分のしようとしていることが“人殺し”であると認識してしまったのだ。

「まさか、あたし達を“人”とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

「ハッ、“知ろうとしなかった”の間違いだろ?」

「お、俺は……」

「ほら?どうした?所詮は戦いですらなく唯の“狩り”なのだろ?目の前に死に体の一匹(・・)がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

天之河が、聖剣を下げてそんな事をいう。そんな天之河に、魔人族の女は心底軽蔑したような目を向けて、返事の代わりに大声で命令を下した。

「アハトド!剣士の女を狙え!全隊、攻撃せよ!」

衝撃から回復していたアハトドが魔人族の女の命令に従って、猛烈な勢いで雫に迫る。天之河達の中で、人を惹きつけるカリスマという点では天之河に及ばないものの、冷静な状況判断力という点では最も優れており、ある意味一番厄介な相手だと感じていたために、真っ先に狙わせたのだ。

他の魔物達も、一斉に雫以外のメンバーを襲い始めた。優秀な人材に首輪をつけて寝返らせるメリットより、天之河を殺す事に利用すべきだと判断したのだ。それだけ、魔人族の女にとって天之河の最後の攻撃は脅威だった。

「な、どうして!」

「自覚のない坊ちゃんだ……私達は“戦争”をしてるんだよ!未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!何が何でもここで死んでもらう!ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!」

自分の提案を無視した魔人族の女に天之河が叫ぶが当の魔人族の女は取り合わない。

そして、魔人族の女の言葉に天之河が振り返ると、ちょうど雫が吹き飛ばされ地面に叩きつけられているところだった。アハトドは、唯でさえ強力な魔物達ですら及ばない一線を画した化け物だ。不意打ちを受けて負傷していたとは言え“限界突破”発動中の天之河が圧倒された相手なのである。雫が一人で対抗できるはずがなかった。

天之河は青ざめて、“覇潰”の力そのままに一瞬で雫とアハトドの間に入ると、寸でのところで“魔衝波”の一撃を受け止める。そして、お返しとばかりに聖剣を切り返し、腕を一本切り飛した。

しかし、そのまま止めを刺そうと懐に踏み込んだ瞬間、いつかの再現か、ガクンと膝から力が抜けそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

“覇潰”のタイムリミットだ。そして、最悪なことに、無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺したように一切動かないというものだった。

「こ、こんなときに!」

「光輝!」

倒れた天之河を庇って、雫がアハトドの切り飛ばされた腕の傷口を狙って斬撃を繰り出す。流石に傷口を抉られて平然としてはいられなかったようで、アハトドが絶叫を上げながら後退った。その間に、雫は、天之河を掴んで仲間のもとへ放り投げる。

光輝が動けなくなり、仲間は魔物の群れに包囲されて防戦するので精一杯。ならば……自分がやるしかない! と、雫は魔人族の女を睨む。その瞳には間違いなく殺意が宿っていた。

「……へぇ。あんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」

「……そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」

魔人族の女は、白鴉の固有魔法で完全に復活したようでフラつく事もなく、しっかりと立ち上がり、雫をそう評した。

雫は、天之河の直情的で思い込みの激しい性格は知っていたはずなのに、本物の対人戦がなかったとはいえ認識の統一、すなわち自分達は人殺しをするのだと自覚する事を今の今まで放置してきた事に責任を感じ歯噛みする。

雫とて、人殺しの経験などない。経験したいなどとは間違っても思わない。だが、戦争をするならいつかこういう日が来ると覚悟はしていた。剣術を習う上で、人を傷つけることの“重さ”も叩き込まれている。

しかし、いざ、その時が来てみれば、覚悟など簡単に揺らぎ、自分のしようとしていることのあまりの重さに恐怖して恥も外聞もなくそのまま泣き出してしまいたくなった。それでも、雫は、唇の端を噛み切りながら歯を食いしばって、その恐怖を必死に押さえつけた。

そして、神速の抜刀術で魔人族の女を斬ろうと“無拍子”を発動しようと構えを取った。が、その瞬間、背筋を悪寒が駆け抜け本能がけたたましく警鐘を鳴らす。咄嗟に、側宙しながらその場を飛び退くと、黒猫の触手がついさっきまで雫のいた場所を貫いていた。

「他の魔物に狙わせないとは言ってない。アハトドと他の魔物を相手にあたしが殺せるかい?」

「くっ」

魔人族の女は「もちろんあたしも殺るからね」と言いながら魔法の詠唱を始めた。“無拍子”による予備動作のない急激な加速と減速を繰り返しながら魔物の波状攻撃を凌ぎつつ、何とか、魔人族の女の懐に踏み込む隙を狙う雫だったが、その表情は次第に絶望に染まっていく。

なにより苦しいのは、アハトドが雫のスピードについて来ていることだ。その鈍重そうな巨体に反して、しっかり雫を眼で捉えており、隙を付いて魔人族の女のもとへ飛び込もうとしても、一瞬で雫に並走して衝撃を伴った爆撃のような拳を振るってくるのである。

雫はスピード特化の剣士職であり、防御力は極めて低い。回避か受け流しが防御の基本なのだ。それ故に、“魔衝波”の余波だけでも少しずつダメージが蓄積していく。完全な回避も、受け流しも出来ないからだ。

そして、とうとう蓄積したダメージが、ほんの僅かに雫の動きを鈍らせた。それは、ギリギリの戦いにおいては致命の隙だ。

 

バギャァ!!

 

「あぐぅう!!」

咄嗟に剣と鞘を盾にしたが、アハトドの拳は、雫の相棒を半ばから粉砕しそのまま雫の肩を捉えた。地面に対して水平に吹き飛び体を強かに打ち付けて地を滑ったあと、力なく横たわる雫。右肩が大きく下がって腕がありえない角度で曲がっている。完全に粉砕さてしまったようだ。体自体にも衝撃が通ったようで、ゲホッゲホッと咳き込むたびに血を吐いている。

「雫ちゃん!」

香織が、焦燥を滲ませた声音で雫の名を呼ぶが、雫は折れた剣の柄を握りながらも、うずくまったまま動かない。

その時、香織の頭からは、仲間との陣形とか魔力が尽きかけているとか、自分が傍に行っても意味はないとか、そんな理屈の一切は綺麗さっぱり消え去っていた。あるのはただ“大切な親友の傍に行かなければ”という思いだけ。

香織は、衝動のままに駆け出す。魔力がほとんど残っていないため、体がフラつき足元がおぼつかない。背後から制止する声が上がるが、香織の耳には届いていなかった。ただ一心不乱に雫を目指して無謀な突貫を試みる。当然、無防備な香織を魔物達が見逃すはずもなく、情け容赦ない攻撃が殺到する。

だが、それらの攻撃は全て光り輝くシールドが受け止めた。しかも、無数のシールドが通路のように並べ立てられ香織と雫を一本の道でつなぐ。

「えへへ。やっぱり、一人は嫌だもんね」

それを成したのは谷口だ。青ざめた表情で右手を真っ直ぐ雫の方へと伸ばし、全てのシールドを香織と雫をつなぐために使う。その表情に淡い笑みが浮かんでいた。

鈴は、内心悟っていたのだ。自分達はもう助からないと。ならば、大好きな友人達を最後の瞬間まで一緒にいさせるために自分の魔法を使おうと、そう思ったのだ。当然、その分、他の仲間の防御が薄くなるわけだが……鈴は内心で「ごめんね」と謝り、それでも香織と雫のためにシールドを張り続けた。

谷口のシールドにより、香織は、多少の手傷を負いつつも雫の下へたどり着いた。そして、うずくまる雫の体をそっと抱きしめ支える。

「か、香織……何をして……早く、戻って。ここにいちゃダメよ」

「ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

雫を支えながら眉を八の字にして微笑む香織は、痛みを和らげる魔法を使う。雫も、無事な左手で自分を支える香織の手を握り締めると困ったような微笑みを返した。

そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う香織と雫を見下ろし、「ルゥオオオ!!」と独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

谷口のシールドが、いつの間にか接近を妨げるようにアハトドと香織達の間に張られているが、そんな障壁は気にもならないらしい。己の拳が一度振るわれれば、紙くずのように破壊し、その衝撃波だけで香織達を粉砕できると確信しているのだろう。

今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にして、香織の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。

「ああ、これが走馬灯なのかな?」と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた香織だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって始めて“好き”だったのだと自覚した。生存を信じて追いかけた。

だが、それもここで終る。「結局、また、誓いを破ってしまった」そんな思いが、気がつけば香織の頬に涙となって現れた。

再会したら、まずは名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を……自然と紡ぐ。

「……ハジメくん」

その時、正史とは異なるイレギュラーが発生した。

 

ピシィッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「AaaaaalalalalalalalalalalalalalalalalalalalaaaaaaaaaaaaaaaaIii!!!!!!!!!!!!」

聞き覚えのある声の雄叫びと落雷の如き轟音が魔人族の女より後方から響きこちらに向かって来た。

いきなりだったので天之河も香織もクラスメイト達も攻める魔物達も魔人族の女も皆、其方に目を向けて驚愕した。アハトドに勝るとも劣らない体格をした猛牛2頭が棘の生えた車輪を持つチャリオットを引いて此方に向かって来ていた。しかもチャリオットには今まで教会側が出した任務に出ていた雷王先生が乗っていた。

「チィっ!?」

魔人族の女と魔物達は躱したが、既に香織達に攻撃を繰り出していたアハトドは躱せずに体当たりをされて吹っ飛ばされた。

「貴様ら、大丈夫かぁ!!!」

『先生ッ!?!?!?』

「おぉよ!!!未知なる世界に心踊らせ汝らを蔑ろにした馬鹿だ!!!余には教師としての資格はないであろうな!!!!ガハハハハッと笑うべきではないか、すまん。だが、よく持ち堪えた。後は余らに任せい!!!」

宝具遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)を発動させたことによる余波?で未だピリリッと雷を纏いながら豪語した。

 




なんかコピペのし過ぎてすいません!
彼を出すタイミングがなかなか合わず、結局南雲登場をかっさらうこととなりました。
さて、雷王先生こと、イスカンダルが言った「余()」とは一体誰なのでしょう。


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