オレのギャングアカデミア! (ジャギィ)
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1話

アニメのナランチャがカッコ良すぎて衝動的に書いてしまった。あと完全に声優ネタです。他の小説も書いてる途中なのに何やってんだか

だが、1つだけ偉そうな事を言わせてもらう。オレは「正しい」と思ったから書いたんだ。後悔はない…こんな世界とはいえ、オレは自分の『信じられる小説』を書いていたい!



※警告 “ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風”終盤の重大なネタバレが含まれます!!漫画またはアニメのネタバレを避けたい方はブラウザバック推奨です!!







覚悟はいいか?オレはできてる


ふわふわと、ふわふわと、クセのある黒髪にオレンジのターバンをつけた少年、ナランチャ・ギルガはローマの街の空に浮いていた

 

正確に言うならば、その()()()

 

『オレ…死んじまったのか…?ボスのスタンドにやられたのか…?』

 

眼下の街の路地で、仲間たちが倒れたナランチャの肉体を見て叫んでいる姿が見えた。普段は頭の悪いナランチャでも察していた。何より、魂が理解していた

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ミスタ…トリッシュ…ジョルノ……ブチャラティ……』

 

しかし、不思議と不安な気持ちがナランチャにはなかった

 

なぜなら自分がやられても、仲間たちならきっとボスを倒してくれる…そう心から信じていたからだ

 

『オレ、行くよ……絶対ボスを倒せよ!みんな!!』

 

浮遊感を感じながらナランチャの魂は白に包まれ、ローマの空から姿を消した

 

 

 

 

 

そして次にナランチャは、小さな感覚と共に意識が目覚めた

 

(え…なんだ、コレ…オレ、死んだはずだよな?)

 

命の役目を終えたナランチャに次などなかったはずだ。しかしナランチャは確かに意識がハッキリしていた

 

(オレ、水の中にいるのか!?この感覚、間違いねぇ!でも息ができるぞ!それに体が思うように動かせねえし、目も開けられねーッ!クソ、どうなってやがんだ!!)

 

仲間たちがオレを蘇らせてくれたのだろうか?いや、もうオレにどうすることもできなかったはずだ!

 

立て続けに続くわけの分からない状況にナランチャはただただ混乱するしかなかった。そして状況はさらに動く!

 

ギュウゥゥ!!

 

(あ、頭が締め付けられてる!しかもどんどん引きずりこまれている!!ま、まさか新手のスタンド使いの攻撃か!?)

 

自分はもう死んでいるのに、そんなことを考えるほどナランチャは余裕がなかった。締め付ける感覚は頭から胴体、胴体から腰、そして脚へと増えていく

 

(ウゲェーッ!!顔が締め付けられて、い、息ができねえ!このままじゃ殺られる!『エアロスミス』ッ!!)

 

命の危機を感じたナランチャは自身の()()()()で抵抗を試みた

 

だが、目を閉じていてもわかるはずの生命エネルギーの塊が、ナランチャは感知できなかった

 

(エ、『エアロスミス』がでない!!ま、まさか、オレが死んじまってるからスタンドが出ないのか!?てことはここは“地獄”かなんかなのか!?)

 

混乱が極まったナランチャはもはや何もできなかった。体を動かそうにも力が弱すぎて、強い圧迫感に抵抗できない

 

(チクショー!クソ野郎が、どこのどいつだ!ゼッテェー許さねえ!!)

 

悪態を吐くしかできないナランチャは思いつく限りの罵倒を心の中で叫び続け…

 

ビチャッ ドシャーン!

 

頭から落下した

 

(イッテェ──!!!)

「ホッギャ──!!!」

「やった!無事産まれましたよインコさん!!」

 

ナランチャは締め付けから解放されたと同時に、眩しい光がまぶた越しに感じた。しかし頭から落ちた痛みでそんなことはどうでもよくなっていた。聞こえてくる声を気にするヒマもなかった

 

「ハァー、ハァー、ハァー。本当ですか?本当に無事なのですか?」

「大丈夫です!元気な男の子ですよ!ホラ!」

「オギャー!オギャー!」

「よかった…!!」

 

ある程度痛みが引いてきたところで、ナランチャは()()体と同じ大きさの手に持ち上げられた

 

(い、息ができるようになったけど、どうなってんだ!?オレ、でけぇ手に持ち上げられてんのか!?オレの体を持ち上げられるなんて、この「手」がスタンドか!?)

「お母さん、赤ちゃんですよ」

「はい…!」

 

背中のビニール手袋の感覚が、柔らかく優しい手のひらの暖かさに変わる。その感覚にナランチャは不思議と「母性」を感じた

 

(なんだろう…この感覚……母さんの手を握った時みたいななつかしい感じがする……)

 

ふと湧き上がってきたのは、ナランチャが過去に何度も感じた、既に亡き母との優しい思い出

 

ナランチャは誰が自分を持ち上げているのかが知りたくなった

 

(まぶしい…)

 

暗い感覚に慣れていたおかげでなかなか開けられないまぶたを、ゆっくりと馴らしながら目を開いていく

 

そしてナランチャの目に映ったのは、眩しい照明を背後に目尻に涙を浮かべながら微笑む、緑色の髪をした女性だった

 

「産まれてきてくれてありがとう出久(いずく)…私がお母さんよ…」

(母……さん……)

 

ナランチャは確信していた。目の前の女性は髪の色も顔つきも自分の知ってる母親とは違う。だが、この人も自分の母親なのだと

 

奇妙な安心感に包まれながら、ナランチャは再び意識を手放した



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2話

ちまちま投稿していきます


ナランチャが緑谷出久と呼ばれる赤ん坊に転生を果たして1週間後…ナランチャは車の中でベビーシートに座りながら、外の景色を見渡していた

 

(スゲェー、日本にはビルがたくさんあるって聞いていたけどマジだったんだな。あ、イタリア語の看板。アツアツのピッツァが食いてえなァ…)

「えー、あー」

「ふふ。楽しそうね、出久」

「そうだな。病院では元気を有り余らせていたからな」

 

車の助手席に座っている今世の父親と母親がナランチャをチラッと見ながら嬉しそうに笑っていた

 

でも、ナランチャに分かるのは両親の態度と表情だけだった

 

(父さんと母さん、うれしそうだな。でも何言ってんのかサッパリわかんねー。オレを見ながらイズクって何度も言ってるからそれが今のオレの名前なのかな。イズク…イズク…変な名前だな)

「うー」

 

そう、生粋のイタリア生まれイタリア育ちであったナランチャには日本語が全く分からなかった。日本のあるアニメが好きではあるが、どちらかというと雰囲気や世界観を楽しんでたので日本語がわかるというわけではなかった

 

それでもこの国が日本だと分かったのはそのアニメのおかげでもあった

 

(……オレ、本当に生まれ変わったんだな……)

 

ナランチャは最初、自分の置かれた状況が全く理解できてなかった

 

緑谷出久として生まれ変わって次に目を覚ました時は、満足に動かせない体を無理やり動かしながらベッドから降りようとしたり、大声で叫んで(実際は泣いて)威嚇したりしたが、0歳児の肉体では脱出など不可能であった

 

1週間ほど経ってようやく冷静に考え出したナランチャだが、もともと何かを考えたりするのが苦手なナランチャは難しく考えるのをやめた。そのまま新しくできた家族と一緒に、車でどこかに向かっているのだった

 

そしてナランチャには、今3つの悩みがあった

 

1つは分かりやすく日本語が分からない。イタリア語なら当たり前のように話すことも聞くこともできるが、日本に住んでいる以上そんな機会はまずないだろう

 

2つ目は自分の能力

 

(…『エアロスミス』!)

「えあー!」

 

試しに能力の名前を心の中でつぶやいてみるが、1週間続けてできないことが簡単にできるわけがなかった

 

ナランチャが前世で住んでいたイタリアでは、人間の精神が具現化した超能力「スタンド能力」を持つ「スタンド使い」が多く住んでいた(例外として人間じゃないスタンド使いもいる)。当然ナランチャもスタンド使いの1人であり、ナランチャの精神がそのまま乗り移っているのだからスタンドもそのまま出ると思っていたのだが

 

(……やっぱり出てこねえ……)

「あえー…」

 

緑谷出久に生まれ変わってから1度もスタンド能力を出すことができなかった。1週間近くもスタンドが出せないという事実がナランチャの心を思いの外ネガティブにしていた

 

そしてナランチャが必死にスタンドを使えるようにしている3つ目にして最大の理由が…

 

とぅるるるる とぅるるるん

 

「ん?仕事の電話かな?インコ、すまないが取ってくれないか」

「分かったわ」

 

運転で手が離せない父親、(ひさし)がそう言うと、母親のインコ(引子)が後部座席のナランチャの横にあるカバンに向かって手をかざし

 

フワ────ッ

 

カバンが宙を浮いてインコの手まで引き寄せられた

 

(うおおおおおおッ!!!)

「うおーッ!」

「ん?どうしたの出久?」

 

ナランチャ(正確には出久)が突然声をあげたことにインコは疑問符を浮かべるが、ナランチャはそれどころではなかった

 

(また物を「引き寄せ」やがった!近くの物しか引き寄せてないし力も弱いみたいだけど、もしかしてブチャラティやジョルノみたいな近接パワータイプのスタンドなのか!?)

 

……そう、ナランチャはこの世界における人類の8割が持っている先天性の超能力“個性”をスタンド能力と勘違いしているのだった

 

病院の中でトカゲ人間や、氷みたいに冷たい息を吐くヤツや、体がゴムみたいに伸びてるヤツを見た時、ナランチャはそれはもう錯乱した。無理やり逃げようとしたのも、その光景を見てスタンド使いがいると思ったからである

 

とりあえず、ナランチャの現在の目標は日本語の習得、そしてスタンド能力を再び使えるようにすることである

 

(まだわけがわからねーがよォ〜、生きてるっつーんなら、トコトン生き抜いてやるぜ──!!!)

「うえ──!」

 

母音を叫びながら、この危機を脱するとナランチャは強く決意した



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3話

感想でナランチャのネタバレに関して言及されました。考えてみればアニメやってるタイミングだったからこういう人がいるはずなのに、配慮が足りないと痛感しました

ネタバレになってしまった人は大変申し訳ありませんでした。こういうことが今後もあると思いますが、これからも楽しんで読んでもらえると幸いです

……やっぱり声優ネタならこのすばinホルマジオの方が良かったかなぁ


ナランチャが日本語を聞き取れるようになるまでにかかった歳月、実に2年!!そして日本語をしゃべられるようになるまでかかった歳月は、これまた2年!!

 

本来赤ん坊というものは4、5ヶ月ほどで泣く以外の言葉を発する。そこから徐々に周囲の環境から言葉を吸収し、そこから1年2年も経てば、自然と話すことができるようになる

 

その肉体は幼くともナランチャの精神年齢は高校生ほどである。ゆえに言葉を難しく吸収してしまい、結果、ナランチャの言語能力は周囲よりも著しく遅れて成長した

 

しかし、言語の基礎を覚えてしまえば、ナランチャの成長速度は一気に速くなった!!もともと成長が活発な子どもの脳という点とナランチャの魂に刻まれた経験を踏まえれば、当然のことでもあった

 

そしてナランチャが生まれ変わってから4年が経った…

 

「かあさん、きょうのばんごはんなに?」

「今日の晩ご飯は魚よ、出久」

「うええ〜!オレはしでほねとるのにがてなんだよな〜」

「こら!ワガママばかり言わないの」

 

腰に手を当てて文句を言う出久に怒るインコだが、本気で怒ってるわけではないことはナランチャも分かっているため、大人しく椅子に座る

 

箸の使い方に悪戦苦闘しながら食事をしていると、つけてたテレビにある映像が映った

 

『HAHAHAHAHA!!!もう大丈夫!何故って!?私が来た!!』

「あ、オールなんとか」

「あら、オールマイトが出てるわね」

 

テレビに出てきたのは“平和の象徴”と呼ばれる最強のヒーロー“オールマイト”。見た目の画力が違うアメリカンな筋骨隆々の男だ

 

「出久、もしかしてヒーローになりたいの?」

「ううん。オレ、ぜんぜんきょーみないや」

「そ、そうなの?」

 

時々見せる子どもらしからぬ反応にインコは少し驚くが、きっとまだ何も分かっていないのだろうと自己完結した

 

当然そんなインコの考えとは裏腹に、ナランチャはある程度分かった上で興味がなかった

 

(ようするに犯罪者捕まえて金もらってるってことだろ。そんなの警察だってギャングだった頃のオレにだってできる)

 

周囲の子どもと比べて精神年齢が高いナランチャからすれば、ヒーローなんてその程度の認識でしかなかった

 

(それに、オレにとってのヒーローはブチャラティなんだ。男っていうのは、ああいう人のために働くものだ)

 

何より、母親が死に、父親に愛されず、友に裏切られ、ドン底に落ちぶれていた過去から自分を救って真剣に向き合ってくれた人物

 

前世で所属していたギャング組織のチームのリーダーであるブローノ・ブチャラティこそが、ナランチャのヒーローなのだから

 

「それと出久、来週“個性診断テスト”を受けるんだけど覚えてる?」

「えーっと…オレがどんな“こせい”をもっているかしらべるんだっけ?」

「そうよ。出久はどんな“個性”が出てくるか楽しみね」

 

“個性”のこともちゃんと理解しているナランチャも、実はほんのちょっぴりだけ、どんな“個性”が出るのか密かに楽しみにしていたのだった

 

しかし……

 

「諦めた方が良いね」

 

現実は非情である

 

「この世代じゃ珍しい…何の“個性”も宿ってない型だよ」

「それじゃ出久は!?」

「“無個性”、ということになるね」

「“ムコセー”…?」

 

医者の先生から告げられた言葉を舌ったらずに繰り返すナランチャ

 

そう、ナランチャが憑依した緑谷出久は、現代では珍しい“無個性”の人間だったのだ。その事実を知ったナランチャは大きくショックを受けた…

 

(へぇー、オレ“無個性”なのか)

 

…わけでもなかった

 

もともとギャングに入団するまではスタンドもなしで、それも一時期浮浪児として劣悪な環境で生きてきたことを考えれば、“個性”が使えるだの使えないだのはどうでも良かった。母親と同じ“個性”だったら色々と楽なんだろうなーと考えていたくらいである

 

(スタンドの感覚は間違いなくある。でもなんで出ねえんだろうなーッ)

 

この4年間、ずっと『エアロスミス』を出せるように訓練を続けていたが、一向に良くなる兆しが見えなかった

 

なぜスタンドを出すことができなくなったのか。ナランチャはその理由がわからずじまいだった

 

無情な宣告の後、帰宅したナランチャは自分の部屋でプロペラ戦闘機のおもちゃを弄りながら色々と思いを馳せていた

 

(別にヒーローになりてえってワケじゃねーが、どうせならちゃんと勉強して、父さんと母さんを喜ばせてやりたいなぁ〜)

 

戦いが終わったら故郷でもう1回学校に通おうと思っていたナランチャは、今世は真面目に勉強しようと考えていたのだ。理解できるかどうかはともかく

 

ガチャ…

 

「出久……」

「…?」

 

ナランチャが振り返ると、そこには暗い表情で部屋を覗いているインコの姿があった。申し訳なさが滲み出た表情だ

 

それを見てナランチャは察した。きっと母さんはオレを“無個性”で産んだことに負い目を感じているのだと

 

「かあさん、オレ、だいじょうぶだよ。“ムコセー”でもきにしてないから」

「…………ッ!!!!」

 

ナランチャは気にしてない風にそう言ったし、実際に気にしてなかった。が、何も知らないインコからすれば『我が子が自分を気遣って精一杯強がっている』ようにしか見えなかった

 

インコは飛び込むように出久を抱きしめた

 

「ごめんねえ出久、ごめんね…!!」

 

ボロボロ泣きながら、子どもにこんな言葉を言わせてしまった自分自身を呪いながら、謝り続けた

 

そしてナランチャは、母親に泣きながら謝られるという初めての経験に困惑しながらも、その頭を優しく撫でた

 

泣いている自分にそうしてくれた、かつての母さんのように



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4話

多分次くらいに原作が始まると思います


ナランチャこと出久の“無個性”が判明した次の日

 

「おいデク!おまえ“ムコセー”なんだろ!」

 

現在通っている幼稚園で、金髪で爆発ヘアーの子どもが出久をデクと呼びながら話しかけてきた

 

この子どもの名前は爆豪(ばくごう)勝己(かつき)。緑谷出久の幼馴染で、ガキ大将的な存在である。ちなみに爆豪は4歳にしてもう漢字を読めたりする。出久の名前は間違って出久(デク)と呼んでいるが

 

「なんだ、カツキか。それがどうしたんだよ?」

 

最近よく突っかかってくるようになった幼馴染に対してナランチャは素っ気なく対応する

 

「“コセー”がないってダッセーな!オレはヒーローむきの“コセー”っていわれたぜ!やっぱりおまえよりオレのほうがすごいってことだよな!」

「どうでもいいだろ?カツキがつよい“コセー”をもっててもオレにはかんけいないじゃん」

 

これだ。ナランチャのこの態度が爆豪は嫌いだった

 

自分より箸の使い方も下手で、足も遅くて、あげく“個性”もないクセに、「爆豪なんて敵じゃない」と言わんばかりの態度が爆豪をムカつかせていた。最近自分よりも漢字を読めるようになってきたことも気に食わないことだった

 

「ナマイキだぞ!デクのクセに!」

 

そう言って爆豪はナランチャに殴りかかってきた

 

「フン」

 

所詮子どものパンチ。そう思ってナランチャはいつものようにギリギリで避けて

 

BOOM!

 

「あがぁ!?」

 

顔の近くにあった爆豪の掌が突然爆発して、ナランチャを吹っ飛ばした。これが爆豪の個性“爆破”。いわゆる“強個性”と言われる強力な能力であった

 

「爆豪くん!ダメじゃない、“個性”を人に使っちゃ!」

 

園児たちを見ていた保育士の先生が爆豪を注意する。しかし爆豪には注意などどうでもよく、初めてデクを倒してやったと笑い……

 

「てめ〜〜〜」

 

勝ち誇った爆豪の目には、片脚だけ立てて座り込んでいる出久の姿が見えた。強く擦れたのか、腕や顔から血がたくさん出ていた

 

「てめ〜〜〜!」

 

血が出てるほおの擦り傷に手を当てながら、ナランチャはドスをきかせた声を震わせ……そして!

 

「ブッ殺す!!」

 

怒りを爆発させた!

 

ドオオオン!!!

 

叫ぶと同時にナランチャの生命エネルギーが形となって、上空に飛ぶ。重厚なプロペラ音を鳴らすそれを見た先生が戸惑いながら言う

 

「ひ、飛行機!?」

 

ドルン!ドル ドルン!ドル ドルン!

 

そう、今ナランチャの体から飛び出した…このプロペラ戦闘機こそが、ナランチャの具現化した精神

 

『スタンド』である!

 

「おいデク!なんだそれ!」

 

出久の目の前で滞空する小型の戦闘機を“無個性”のデクが出したことに爆豪は混乱し叫ぶ

 

そしてナランチャはその疑問を、スタンドの名前で返す

 

「『エアロスミス』!!」

 

ナランチャはエアロスミスを操作する。そして爆豪を真正面から機銃掃射で撃ち抜く

 

ドガガガガガ!

 

「ぐえぇ──!!」

「キャアアアー!」

 

目の前で園児が蜂の巣にされるという光景に保育士の先生は悲鳴をあげた

 

「い、いてぇー!」

 

しかし脳裏に浮かんだ最悪の考えとは裏腹に、爆豪は地面で転がって痛がるだけだ

 

これはナランチャ自身も気づいてないことだが、ナランチャがスタンド能力を使えなかったのは決して『エアロスミス』を失ったからではなく、単に肉体の生命エネルギーが足りな過ぎたために『エアロスミス』を呼び出せなかったのであった

 

現にエアロスミスも本来の大きさとパワーとスピードを大幅に失っていて、人間を穴だらけにできる機銃掃射もせいぜいゴムボールをパチンコで撃った程度の威力になっていた。それでも4歳児には十分すぎるダメージだったが

 

そしてスタンドパワーを制御する闘争心。新しい世界に生まれてからはギャングの世界のように激しく感情を燃やす機会がなかったが、緑谷出久としての初めてのピンチが、スタンドを呼び出すきっかけとなった

 

動けない爆豪にナランチャは近づき

 

「ちっくしょおおおおお────────ッ!」

 

ドグォン!

 

容赦なく蹴りつけた!

 

「うがぁ!」

「こんなにちがでてるじゃあねーかぁ──ッ!」

 

ドガッ!ドガアッ!

 

「よくも!よくも!よくも!ブッ殺すッ!ブッ殺すッブッ殺すッ!」

「げ!が!うご!」

 

普段はおとなしい出久が鬼のような形相で爆豪を蹴りまくっている。あまりに普段とは違いすぎる出久の凶暴な一面に、園児は怯えまくっている。先生も園児とは思えない威圧感に手を出せずにいた

 

「ブッ殺すッ!ブッ殺…」

 

BOOOM!

 

「うげぇー!」

 

ずっと続くと思われた暴力の嵐はナランチャが爆音の後に吹き飛ばされたことで終わりを迎えた。見れば機銃掃射と蹴りでアザができた体を起き上がらせて掌を爆発させる爆豪がいた

 

吹っ飛んでいったナランチャは服の一部が焦げていた。“爆破”の個性をモロに食らったおかげだ

 

「よくもやりやがったなデクゥ!“ムコセー”でぜんぜんすごくねえクセに!」

「るせーんだよカツキ!てめーこそがきのくせに、ちょーしのってんじゃあねえぞぼけ!」

 

売り言葉に買い言葉。それに普段から互いに不満があったのもあって、2人のケンカはだんだんとヒートアップしていき……

 

「おれがいちばんすげえんだよ!!すごくねえおまえがエラそーにするんじゃねえ!!」

「『エアロスミス』!!」

 

ナランチャは『スタンド』を、爆豪は“個性”を、再び互いにぶつけ合うのだった

 

 

 

 

 

この日、2人が『スタンド』と“個性”を使った初めての大ゲンカによって、翌日の幼稚園は休みとなった。肝心の2人も大怪我を負うまでケンカを続けたため、3日間幼稚園を休むことになり…

 

「ホラ出久!早く勝己くんに謝りなさい!」

「勝己!アンタが先に手ェ出したんでしょ!アンタから謝りなさい!」

 

3日後、母親と一緒に2人は対面していた

 

「かあさん!オレぜったいわるくねーぜッ!カツキがさきになぐったんだからよぉー!」

「なんでオレからなんだよ!あやまるならデクからだろ!」

「「言い訳しない!!」」

 

ゴツン!!!

 

「「イッテェ───ッ!!」」

 

ナランチャと爆豪は、2人仲良くたんこぶを作る羽目になったのでした

 

チャン♪チャン♪



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5話

正直今回のあるシーンが書きたかっただけにこの作品を投稿したってのもあります

あとスタンドは周囲の反応とかを書きたいという理由からスタンド使いじゃなくても見えるという方針で書いていきます


最初にひとつ言っておく 時は加速する!

 

 

 

 

 

4月の頭、ナランチャは中学3年!!

 

人生で初めての受験のために彼は今、受験勉強をしているのだった…

 

「なぁカツキ〜。何か外天気いいしさあー、1日ぐらい勉強しなくたってさあー、何か今日は乗り気じゃあないんだよー」

「模試でE判定くらっといて寝ボケたこと言ってんじゃねぇよ!!受験舐めてんのかカス!」

 

……勉強していたのだが、ヤル気が全くない。トレードマークであるオレンジのターバンごと頭をかきながらグダグダしていた

 

そしてナランチャに頼まれて受験勉強を見ていた爆豪はそんなナランチャを罵倒するのだった

 

そう、あの爆豪が!!人の面倒を見ていたのだ!!スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃!!

 

初めて爆豪がナランチャと大ゲンカしたあの日以来、2人は何かと競い合うことが多くなっていた。やがて2人はライバルといえる関係にまで発展していた

 

爆豪はNo. 1ヒーローを越えるために、ナランチャはある目的のために、そろって同じ学校の同じ学科を受験することにしたのだが…

 

「√26×√55とか十分簡単だろうが!6×5が出来りゃ解けんだろ!」

「6かける5は、ろくご…」

 

ちょっと考えてからナランチャは答えを出す

 

「30?」

「分かってんなら早く解けや!もう半分出来てるようなモンだろ!」

「そーかッ!ろくご30ねッ!よしっ!」

 

爆豪のアドバイスを受けたナランチャは問題を解くべくペンを走らせる

 

そんな中、爆豪とよくつるんでるクラスメイトが言う

 

「しかしカツキもよくやるよなー。フツー面倒みるか?同じ受験先のヤツを幼馴染とはいえよォ〜」

「なんだかんだ言って緑谷のこと認めてるからな。これがツンデレってやつか」

「聞こえてっぞモブども!!」

 

問題を解きながらも小声を見逃さない爆豪’sイヤー。爆破的みみっちさ全開である

 

「やったーッ!終わったよカツキ…どう?」

「おせーんだよ。早く見せろ」

 

ひったくるように出久から問題集を取って答えを見る

 

『√26×√55=√28』

 

思わず無表情になる爆豪

 

「んだこりゃ……?」

「へへへ♡当たってる?」

 

ケッコー自信があったナランチャは爆豪に答えを聞いた

 

グザァッ!!

 

しかし次の瞬間、爆豪は手元にあったペンをナランチャの右頬に勢いよくぶっ刺した!

 

「ぁぎゃアアア───ッ!!」

 

あまりに唐突すぎる攻撃にナランチャは叫び声をあげるが、爆豪は憤怒の表情でナランチャの前髪を掴み顔を近づけて凄む

 

「このクソデクが!オレをナメてんのかッ!何回教えりゃ理解できんだコラァ!この……」

 

そしてナランチャの頭を一瞬高く上げて

 

「ド低脳がァ──ッ!」

 

ドグシャアッ!

 

思いっきり顔面を机に叩きつけた

 

それを見てたクラスメイトは呆れたようにつぶやく

 

「あーあ、切れた切れた、また」

「ろくご30ってやっておきながら、なんで30より減ってんだボケ!」

 

ドゴァ!ドグァ!

 

周囲の反応に気づかず、続けてナランチャを机に叩きつける爆豪

 

ピシィッ!

 

しかし爆豪の首元にカッターナイフの刃が突きつけられる。ナランチャが爆豪に突きつけたのだ。刺された右頬や鼻、唇から血を流しながらナランチャはドスを効かせた声で言う

 

「何だと……ド低脳って言ったな〜〜〜〜〜人を見下す言い方はよくない!殺してやる!殺してやるぜ〜〜〜〜カツキ」

「ンの野郎〜〜ッ!!」

 

もはや2人の怒りはピークに達していた

 

そのまま殺し合いでも始めかねない雰囲気がビシビシ伝わってくるにも関わらず、クラスメイトたちは「なんともないヨン♪」と言った感じなほど普通にしており

 

ガララ

 

「よーし!席につけ〜〜…って緑谷に爆豪!ケンカもほどほどにしとけよ!」

 

ピクリ×2

 

教室に担任が入ってきたことで2人の殺伐とした雰囲気は一気に霧散する。そしてそのまま黙って筆記用具を片付けると、ナランチャは自分の席に戻っていった

 

「えーおまえらも3年ということで!!本格的に将来を考えていく時期だ!!」

 

全員が席についたのを確認した担任は進路の話を切り出す

 

「今から進路希望のプリントを配るが、皆!!!」

 

手元にある進路希望のプリントを数枚手に取り

 

「だいたいヒーロー科志望だよね」

『ハ───イ!』

 

生徒全員(2人を除いて)が“個性”を使いながらの返事と一緒に宙にばらまいた

 

ヒラヒラと落ちるプリント、その中のある2枚にはこう書かれていた。名前は緑谷出久、爆豪勝己……

 

そして第一志望は雄英高校!学科はヒーロー科!

 

「へへッ」

「フンッ!」

 

ニィィ…

 

その言葉を聞いたナランチャと爆豪は、凶悪犯罪者みたいな顔で不敵に笑うのだった




√16だと4になって4√55で解けてしまうという指摘を受けたので急遽√26に変更しました


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6話

お気に入り登録数が444を超えたんで投稿です(今更


キーン、コーン、カーン、コーン…

 

今日の最後の授業を終わらせるチャイムが学校に鳴り響くと、教室の生徒たちはそろって帰りの準備を始めていた

 

「おーい緑谷!」

「ん?」

 

ナランチャもサイフをポケットにしまっているとクラスメイトの男子に話しかけられた。爆豪とよく一緒にいるヤツだ

 

「今日ゲーセンで新しい台出るらしくってよぉ、おまえも一緒に来ねえか?」

 

そう言って誘われたがナランチャは首を横に振る

 

「わりぃ、今日母さんから帰りにサラダ油とか買ってくるように頼まれててよ〜。あんま遅くなれねえから今日はやめとく」

 

それだけ伝えると手に持ったカバンを左肩にかけてナランチャは教室から出ていった

 

「なんだよ、ノリわりぃな〜ぁ」

「しゃーねえ。カツキでも誘うか」

 

通学路…

 

ナランチャはスーパーに向かうために別の道を通っていた

 

「……」

 

しかし、ナランチャは短いトンネルの中で急に歩くのをやめて後ろを見た。正確には、トンネルの地面にある()()()()()

 

GLOOP…

 

「ハァハァ…Mサイズの、隠れミノ」

 

するとその時!マンホールの蓋が吹き飛び、下水道から腐臭漂うヘドロのバケモノが現れナランチャに襲いかかった!

 

「よっと」

 

だが()()()()()()()()()()()()()()ナランチャは、振り向いてから後ろ向きに軽くジャンプして奇襲を躱す

 

「かわした…?」

 

完全に不意をついたのにあらかじめわかっていたかのように躱されたヘドロの体をした男は不可思議そうにする

 

そしてナランチャは、襲ってきた男の正体をつぶやく

 

「オメー…ヴィラン()かよ。いきなり襲ってくるたァいい度胸してるじゃあねーか」

「動かないでほしいなぁ〜君は俺のヒーローなんだ……。ちょっと体を乗っ取らせてくれるだけでいいんだ…俺が逃げ切る間な!!!」

 

ヴィラン(“個性”を無断使用する犯罪者。“個性”は法律で資格者以外むやみに使ってはいけない)はドロドロと体を動かしながらナランチャを乗っ取ろうと再び襲いかかってくる!

 

それを見たナランチャは無言で『エアロスミス』を発現させて機銃をヴィランに向ける。急に小さなプロペラ戦闘機が出てきてもヘドロヴィランは笑うだけだ

 

「なんだそれ!そんなチンケな飛行機がお前の“個性”か!?アマァァァ〜〜〜〜ッイィ!!!そんなんじゃ俺のヘドロの体には傷1つつけられ」

 

ブヂュン

 

「ぃぎゃアアーッ!!?」

 

しかしヘドロヴィランの言葉の続きは、激痛の絶叫に早変わりした

 

なぜなら、ナランチャが『エアロスミス』の最低火力の機銃で相手の目を撃ち抜いたからだった。眼球をえぐっただけだが失明には十分なダメージである

 

ヴィランは右目を抑えながらひたすら混乱した。ダメージを受けたのもそうだが、同業者(同じヴィラン)でもここまで躊躇も容赦もなく攻撃してくるものなどいなかったからだ。ヒーローなどもってのほかである

 

「情けねえ声出してんじゃあねぇよ。目ェつぶされたくらいでよォー」

 

攻撃してきた当人がヴィランの前に立つ

 

「テメェの体、全部がヘドロのハズじゃあねえ。だったらどうやって物を見たりメシ食ったりするかって話だもんな〜。内臓はどうなってんのかシラネーけど。それに体を自由にヘドロにできるなら()()()()()()()もっと早く移動してたはずだぜ……逃げてんのにそれをしねえってことは生まれつきの異形系の“個性”ってわけだろ?ええ?」

(なっ…なんだこのガキ!?()()()!!俺を見て逃げるどころか躊躇いなく攻撃してきやがった………このガキやべえぞ!!)

「ヒ、ィイ!」

 

逃げなければ!!!

 

後ろから追っかけてきてる奴よりももっとヤバい奴と出会ってしまったと感じたヘドロヴィランはマンホールに向かって踵を返し

 

「残念だけど逃げられないのさ!何故って?」

 

しかし出てきたマンホールから拳を突き上げて、追ってきた奴が現れる

 

「私が来た!」

 

筋骨隆々なV字の前髪の男は腕をめいっぱい引き下げ

 

TEXAS(テキサス)…」

 

ヴィランに向けて突き出した!

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

ブオッ!

 

そのパンチは凄まじい風圧を生み出し、流動体ゆえに掴むことが難しいヘドロの体をバラバラに吹き飛ばした

 

「ブェア──!!!」

 

“個性”の特性でバラバラになっても生きてるヴィランは、体をトンネルの壁にベチャベチャ打ちつけながら気絶した

 

そしてその光景を見ていたナランチャは、筋肉の男を見て名前を口にした

 

「オールマイト……?」

 

そう、今ナランチャの目の前にいるこの男こそ!

 

現代において“平和の象徴”と呼ばれるNo. 1ヒーロー『オールマイト』であった!!!



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7話

投稿でーす。アニメの黄金の風も折り返しになってきましたね

どの話も面白かったです。特にギアッチョ戦の出来は感動レベルでした。朝日が昇ったあたりで鳥肌立ちました


「いやぁすまないね!!わざわざ詰めるのを手伝わせてしまって!」

「いいよ別に。ただでコーラもらったし」

 

オールマイトがヴィランを退治してから20分後

 

オールマイトは流動体のヴィランを拘束するためにペットボトルの飲み物を開けたのだが、中身を捨てるわけにはいかないのでちょうど近くにいたナランチャにコーラをあげて、飲み干した後ヴィランをペットボトルに詰めたのだった

 

その際ナランチャも手伝ったことでオールマイトはお礼を言うのだが、ナランチャは無愛想に返事するのだった

 

「じゃあオレ、もう行くから」

「あれ!サインとかいらないのかい!?」

「イラネ」

「ガーン!」

 

「平和の象徴」と呼ばれるNo. 1ヒーローとしての人気を自覚しサービス精神も旺盛なだけに、迷いないナランチャの返事にオールマイトは結構ショックを受けるのだった。ヒーローを目指し始める時期の子供に言われたのも大きい

 

そのまま頼まれた買い物をするために歩くナランチャ

 

「ちょっと待ったァ!!」

 

しかし道を塞ぐようにオールマイトが前に立ったため、足を止める

 

「なんだよ」

「ヒーローとして君に言っておかなければならないことがどうしてもあってね」

 

そう口にするオールマイトの声音はヒーローとしての重みを感じさせるものだった

 

「今回君を巻き込んでしまったことに関しては本当に申し訳なかったと思っている。しかし……」

 

ポケットに入れていたヴィラン詰めのペットボトルをナランチャに見えるように取り出す。ナランチャに中のヴィラン、正確にはナランチャが潰した目の部分を見せながら言葉を続ける

 

「例え自分の身を守るためとはいえ“個性”でみやみやたらに人を傷つけてはいけない。いくらなんでもこれはやり過ぎだ」

「……やらなきゃオレがやられてたじゃあね〜か」

「だとしても他にも方法はあっただろう?逃げるとか時間を稼ぐとか救けを求めるとか、あれだけ冷静だったなら十分可能だったはずだよ」

 

 

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……

 

 

 

スタンド使いの元ギャングとNo. 1ヒーローの視線がぶつかる

 

「………いやあすまない!つい説教くさくなってしまったね私!」

 

緊迫した雰囲気を先に解いたのはオールマイトの方だった

 

「時間がないから私はもう行かせてもらうよ。でも、さっきの言葉は忘れないでほしいッ。どんな力も正しく使いこなせるようになれば…」

 

背中を向けたオールマイトはペットボトルを尻ポケットに入れると、最後にナランチャに振り向いてサムズアップ!

 

「君もヒーローになれる!!!」

 

ドギュゥゥン…!

 

「HAHAHAHAHA!」という残響を残しながら、オールマイトはひとっ跳びで街の彼方まで消えていった

 

「…「オレもヒーローになれる」ね」

 

1人になったナランチャは跳んでいった方向を見ながらそう呟いた

 

(“個性”みたいに強弱をつけれるならなれたかもしれねェけど、オレのは『スタンド』だ。どれだけスタンドパワーが消耗していたところで絶対に重傷になるからな〜、ヒーローになんかなれる訳がねえ)

 

オールマイトは知る由もないが、ナランチャは前世で何人ものスタンド使いを見てきた。その中には殺人ウイルスをバラまく能力、周囲の人間を無差別に老化させる能力、肉体や機械類を喰い尽くす肉塊の能力etc.etc

 

覚悟がキマりまくったギャングの世界だったから一切手加減しないというのもあったが、どう扱っても殺傷にしか活用できないスタンドだってあったのだ

 

この世界の“個性”だってそうだ。存在が希少だったスタンド使いと違い人類の8割が“個性”を持っている。ならば必ず存在するハズなのだ、救助になど絶対使えない“個性”が

 

「ア、やべぇ!はやく買い物済ませねーとッ!」

 

母親からのお願いを思い出したナランチャは、急いで街に向かって走り出したのだった

 

 

 

 

 

シュゥゥゥゥ……

 

「ぐうぅ…!あ、危なかった…もう少しでバレてしまうところだった……」

 

一方、とある街にあるビルの屋上で1人の男が胸を押さえながら苦しく呻いていた。顔や体はガイコツのように痩せこけて、触覚のようにピンと伸びていた金髪はチカラなく萎びていた

 

この姿を見ても誰も信じないだろう。しかし、この男はあのオールマイトである!オールマイトの本当の姿(トゥルーフォーム)なのだ!

 

「しかし、不思議な子だった…」

 

オールマイトが思い出していたのは縮れた緑髪にオレンジのターバンをつけた学ランの中学生だった。下手な裏社会のヴィランなんぞ圧倒してしまうような『スゴ味』を睨まれた時にオールマイトは感じた

 

「さて、早くこのヴィランを警察に届けねば…」

 

そう言いながら尻ポケットに突っ込んでいたペットボトルに手を伸ばす

 

スカ…

 

「え…?」

 

しかし、伸ばした手は空を切るだけ

 

(ポケットにない…ま、まさかッ…)

「まさかッ!HOLY SHIT!急ぐあまりに!」

 

そう。オールマイトは焦ってその場を離れたばかりにペットボトルが途中でなくなっていたことに気づくのが遅れたのだ

 

思わずフェンスを掴んでネイティブに叫んだ



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8話

黄金の風、新しいOP来ましたね。最終回付近ではどの辺がキンクリされてるのか楽しみで仕方ありません

あとタイトルの「俺」のところを「オレ」に変えておきました。作中でも「オレ」だからね


「えーと、モモ肉とキャベツ、ケチャップに味の素にサラダ油…あとキッチンペーパー〜〜。よしッ、全部あるな!」

 

夕刻、商店街近くのスーパーで買い物を済ませたナランチャは、買い物メモとレジ袋2つの中身を交互ににらめっこしていた

 

BOOM!!!

 

「ン?」

 

ナランチャが帰ろうとしたその時、商店街の方から聞き覚えのある爆発音が聞こえた。音の方を見れば、商店街の入り口に多くの野次馬が殺到していた

 

ナランチャは1番近くにいたよく会う魚屋の店主に声をかける

 

「なあーオヤジ、なんかあったのか?」

「おお、緑谷のボウズか。中学生の子供がヴィランの人質にされててな、ヒーローたちは手をこまねいてんだよ。よく見りゃああの制服、ボウズのとこの中学じゃあねえか?」

「フ〜ン…」

 

そう言われたナランチャは軽く背伸びをするが野次馬が邪魔で見えない

 

「オッサン、ちょっとどいてくれよ〜」

「! 君は…」

 

ナランチャは前にいた金髪のガリガリに痩せた男を押し退けて野次馬の中を突き進み、最前列に移動する

 

すると視線の先に写っていたのは……オールマイトが捕まえたハズのヘドロのヴィランと、ヘドロに捕まりながら必死に抵抗する幼馴染(爆豪)の姿だった

 

「!!」

 

その瞬間、その眼は日和った中学生のものから、覚悟を決めたギャングのものに変わった

 

バッ!

 

ナランチャは野次馬を押しのけ、ヘドロのヴィランに直進で走り出す!

 

『『『!?』』』

 

その行動はそこにいた誰もを驚かせた

 

「馬鹿ヤロ──!!止まれ!!止まれ!!!」

 

ヒーローの1人が静止の声を上げるがナランチャは止まらない。一方ヘドロヴィランは飛び出してきたのが自分の右目を奪った忌々しいガキだと気づき、怒りが湧き上がる

 

「あのガキ、また邪魔しに来やがったか!」

(デクッ!!?)

 

ヘドロで覆った爆豪の体を操り右腕を上げるが、そこをナランチャが狙う!

 

「『エアロスミス』!!」

 

ドガガガガ!

 

ドバ!ドバ!ドバ!

 

しかし機銃の弾丸は腕周りのヘドロを吹き飛ばすだけ

 

「バカがッ!ヘドロで覆ったんだぜ!?並みの攻撃が効く訳ねェェーだろぉぉお!!」

 

BOOOM!

 

その腕を横薙ぎに叩きつけ、ナランチャを爆殺した

 

ガシッ!

 

だが、ヘドロのない右腕を掴む者!ナランチャは傷1つついていない。手に持っていたカバンで爆破を遮ったからである

 

「何!?」

「効かなくていいんだぜ。ヘドロ吹き飛ばすのが狙いだからよォ──!」

 

そのまま爆豪の掌をちょうどヴィランの左目の前に動かし、ナランチャは叫ぶ

 

「カツキィッ!!」

「ッ…!」

 

行動の意図を即理解した爆豪は意識を集中して“個性”を使う

 

閃光爆破(スタングレネード)!!!!』

 

カッ!!!

 

すると普段の爆発とは違う、相手の意識を奪うことに特化した光と音の爆発が掌から起こる

 

「がああああ〜〜〜!!!?」

 

少し距離が届かなかったため気絶まではしなかったが、ヘドロヴィランの隙を大きく作るのには充分すぎた

 

「気ィしっかり持てよカツキ────!」

 

自分のスタンドと爆豪の間に2つの買い物袋を挟み、『エアロスミス』をヘドロ内の爆豪めがけて突撃する

 

バリバリバリ!バシャア!カツン ガツン!

 

買い物袋の中身がバラバラになりながらも徐々に爆豪を押し出しヘドロ内を移動させる。袋は爆豪を高速回転するプロペラで傷つけないための緩衝材なのだ!

 

ドッパァン!!

 

やがて『エアロスミス』は爆豪と一緒にヘドロの塊を貫通する!爆豪はブチまけられた買い物袋の中身と共に落下する

 

「げほぉ!…ッハア!ハァ、ハァー!」

「や、やったぞ!人質が!」

 

ずっとヘドロに捕まって呼吸すらできなかった爆豪は思いっきり息を吸う。人質のおかげで動けなかったヒーローたちも無事に安堵する

 

しかし安堵したのもつかの間!

 

「くおのッ!!ガキィガァァア!!」

 

ついてない状況、人質の奪還、同じガキに2度もしてやられた事実にヴィランは完全にキレた。目の前にいたナランチャを体内に捕え、ヘドロの水圧で首を締め付けた!

 

「なッ…デク!!」

「ま、マズイ、また人質を取られたぞ!」

 

逆上したヴィランは血走った眼で叫ぶ

 

「ぜってェェェェ許さねェッ!!2度も俺の邪魔しやがって!タダじゃあ殺さねえ!体内に入り込んで、肺も腸もグチャグチャに潰して、ケツの穴から内臓全部ブチまけてぶっ殺してやるぅううッ!!」

 

恐怖の悲鳴を上げさせるため、体内に侵入するためにナランチャの口だけをヘドロの表面上に出す。そして体内に入ろうとヘドロを口の前に持っていき…

 

「……今日よぉ……」

 

その時、唐突にナランチャが何かを言い出す。命乞いか遺言かと思ったヴィランは無視をして

 

「唐揚げなんだよな…ウチの晩飯が…」

「………ハァ?」

 

急に今晩の献立を言い出したナランチャに、ヴィランは思わず動きを止めた

 

「オメー唐揚げ知ってるよな?ポッロ()のモモ肉とか小麦粉でまぶしてから油で揚げた料理だぜ…今日はそれの買い物を頼まれてたんだよ…」

「……テメェ、何言ってやがる?」

「特にサラダ油を切らしてたから2本買ってきてくれって言われたんだよなあ…」

「テメェーッ、この状況で何言って…!」

 

ブクブク…ポタ ポタ

 

「はッ!」

 

その瞬間、ヴィランはようやく気づいた。自分のヘドロ内の中で穴だらけになったプラスチック容器、そして表面に浮かび上がってる液体の臭いに

 

「さっき袋を挟んだのはクッションにするため()()()()()ねぇー。オメーの中に、油をぶちまけるのも目的だったんだぜ…」

「お、俺の中に油が…!ま、周りは火の海なんだぞ、正気か!?ま、マズイ!」

 

このままでは油に点火してしまう!それを恐れたヴィランはナランチャを抱えながら近くのマンホールに逃げ込もうとした

 

グアアアアア!

 

しかし、ヴィランは忘れていた。自分が人質にしているガキは躊躇なく攻撃してくるイカれたガキだということを!

 

低空飛行する『エアロスミス』はヴィランの近くまで寄ると下部に取り付けられた小さなソレを切り離す!ソレの正体は!

 

「ば、ばくだー」

 

ドグァァァ───ン!!

 

「ギャァアアアアーッ!!!!」

 

爆発による火種が油に着火し、ヘドロヴィランの体をメラメラと燃やした。あまりの熱さにヘドロ内の物を全て吐き出し、ゴロゴロ転がったナランチャはヘドロを落としながら立ち上がる

 

「ハァー、ハァ──。ちくしょう、買い物袋がよォ──、全部焼けちまったじゃあねーかよォ───!でも、ま…ヘドロに溺れない平気な場所ってのは見晴らしがいいぜェ───ッ」

「ぐがぎぎぃ───!!ごおお、ごぉのッ」

 

火だるまでのたうち回るヴィランは熱さと痛みに苦しみながらも必死にナランチャを見つけて、怨嗟の絶叫を上げる

 

「ぐぞがぎィィ!!ぶっぐおご、ロォ──────オオオオッ!!!」

 

メラメラ燃え盛る体で焼き殺そうとヘドロを伸ばす。それを見たナランチャは『エアロスミス』を呼び

 

バチャッ

 

「!」

 

そのヘドロの触腕は突如現れた太い筋肉の腕に阻まれた

 

「情けない…本当に情けない!」

 

体から煙を出し、喀血しながら

 

「子供が命懸けで戦っているのに、大人がそれを見ているだけなど!!」

 

オールマイトはそれでも笑顔を見せる

 

「プロはいつだって命懸け!!!」

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)!!!!!』

 

パァァン!!

 

「ぶべェッ!!」

 

ヘドロヴィランに向かって近距離パワー型のスタンドをも上回るパンチを放つ。その威力は風圧だけで物理攻撃の効かないヴィランを爆散させ、ヴィランや商店街についてた火を吹き飛ばし、上昇気流を起こすほどだった

 

「…スッゲェ──…」

 

ナランチャもこの圧倒的パワーにはそんな感想しか出なかった

 

ポツッ ポツッポツッ…

 

やがて上昇気流で出来た雲から雨が降り注ぎ、雨音をかき消すほどの歓声が響いた



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9話

こっちの作品はおひさです。やっと書けたので投稿です


ヘドロヴィランを捕獲して30分。商店街の火は完全に鎮火し、ヴィランも大怪我を負ったとはいえ問題なく連行された

 

そして野次馬とヒーローが3人をそれぞれ囲む姿があった

 

1つ目は今回のヘドロヴィラン事件の功績者として注目されてるオールマイト。マスコミの取材を笑いながら受けている

 

2つ目は捕まりながらも必死にヴィランに抵抗した爆豪。捕まりながらも意識を保っていたタフネスと“爆破”という強個性をヒーローたちから賞賛されていた

 

そして3つ目が…

 

「なぜあんなことをしたんだ!?君が危険を冒してまで救けに行く必要はなかったんだぞ!」

「しかも“個性”を使って戦うなど完全に犯罪だ!!お前のしたことはヴィランと何も変わらない!!」

 

同じくヒーローに囲まれているナランチャだった。ただしその内容は心無い批判の嵐で、ナランチャはその場でうずくまりながら頭を抱えていた

 

「………」

 

黙り込むナランチャに人の話を聞けと怒る大人(ヒーロー)たち。しかしナランチャは今、別のことを考えていた

 

(オレはカツキを救けたかっただけなのに大人たちは怒ってる…オレ、間違ってたのかな……?)

 

精神年齢でいえばもういい年齢なのだが、もともと子供っぽい精神のナランチャ。そして精神とは肉体に引っ張られるものであるので、今のナランチャはかつて限界までに追い詰められてる精神状態だった

 

このまま何も考えたくないナランチャはさらに塞ぎ込み

 

『甘ったれた事言ってんじゃあねーぞッ!このクソガキがッ!もう一ぺん、同じ事をぬかしやがったら、てめーをブン殴るッ!』

「ハッ!!」

 

その時、ヒーローの声が聞こえたナランチャは思わず顔を上げた。見えるのはヒーローではなく自分を叱る大人たちの顔だった

 

(そうだ、オレはあの時ブチャラティに救けられたんだ……無関係なだけのガキのオレをブチャラティは救けてくれた………)

 

そう考えると、ナランチャはだんだん目の前の大人たちにムカムカし始めて

 

「聞いているのかねッ!!?」

「……ウッセェよ」

「何……?」

「ウッセェェ──っつってんだよ!!」

 

我慢できずに大声で叫んだ。突然のナランチャの豹変に大人たちが怯む

 

「さっきから黙って聞いてりゃあよォ〜〜〜〜、オレがヴィランと戦ったとか“個性”を使ったとか……じゃあオレが救けなかったら、誰がカツキを救けたっつ──んだよォ!」

「そんなの、相性のいい“個性”のヒーローやオールマイトが来れば…」

「オレが戦ってなきゃ、どっちも間に合わず逃げられてたじゃあねーかよ!」

 

ナランチャの言葉は正論だった。ナランチャが戦った5分という時間があのヘドロヴィランの自由時間だったかもしれないことを考えると…大人の1人は爆豪をチラリと見てブルリと震えた

 

「だがお前のしたことは法律違反でしかない!!未成年だろうと許される訳がない!」

 

そしてその反論も正しかった。ヒーローや一部の大人が持つ“個性許可証”がない限り、ナランチャの戦闘行動は間違いなく違法でしかなかった

 

「だったらなんだよ?」

「え…」

 

だから、ナランチャのなんてことない反応に大人たちは面食らった

 

「オレはよォー、「正しい」と思ったからやったんだ。後悔はねえ…こんな世界でも、オレは自分の『信じられる事』をやるだけだ!」

 

かつて命令されることを望んだナランチャは幼馴染を救けた自分の行動を信じて決めた。それは確かな『成長』だった

 

ナランチャはカバンを持つと爆豪の方へ行き帰りを催促する

 

「帰ろーぜ、カツキ」

「………ああ………」

 

長い沈黙の後の返事を聞くとそのまま一緒に帰ろうとする2人

 

「コラッ!!まだ話は半分…」

「……チッ!」

 

GRAP!

 

「へ?」

 

しつこく付きまとう連中に嫌気がさした爆豪は、舌打ちしてからナランチャに自分のカバンを(無理やり)持たせて、制服の襟首を掴む

 

BOOOOM!!!

 

「うおおおおッ!?」

「なッ!!?」

 

そしてその場の全員に考えるヒマも与えず、“爆破”を使って跳躍、野次馬の外側に脱出した

 

「ボケっとしてんなやクソカスデク!!テメーが帰るっつったんだろが!!」

「だからっていきなり飛ぶ奴があるかよッ!!」

「察しろクソが!!」

 

爆豪から始まった罵り合いをしながら2人は走って逃げていった

 

 

 

 

 

「テメーまたド低脳って言いやがったな〜〜〜殺すぞカツキ!!」

「できるモンならやってみろや!!ブッ殺し返してやっからよぉ!!」

 

ある程度離れた静かな住宅街まで離れても2人のケンカは終わらなかった。カッターナイフと爆発で威嚇し合う怖すぎる中学生が夕焼けに照らされていく

 

『…………』

 

沈黙が続く中、急に爆豪がナランチャに叫ぶ

 

「……おいデク!なんで俺を救けやがった!」

「あん…?」

「恩売ろうってか!?あ!?なあ!?救けた俺を見下して上に立ったつもりかァ!!?」

「イミわかんねー……」

 

長年、幼馴染として過ごすが、未だに爆豪の無駄に高過ぎる上昇志向が理解できなかった

 

「1回だ!!!」

 

そんなことを思っていると、爆豪はナランチャに大きく宣言する

 

「俺はお前に救けられた!お前もさっき俺が救けてやった!だからお前は俺に恩なんざ作ってねぇんだよッ!!クソが!!」

 

息を吐くように暴言を吐き捨てて先をズカズカ歩いていく爆豪。しかしナランチャは爆豪の言いたいことをなんとなく理解していた

 

『さっきの借りは確かに返したぞ』ということだ

 

「ったく、カツキも素直じゃあねえ〜なァ〜〜」

「そのニヤケ面やめろや!!」

 

結局のところ、特に大きなわだかまりも作ることなく2人はいつも通り帰路につく

 

 

 

「私が来た!!」

「うお!?」

「…ッ!!オールマイト…!?」

 

……には、もう少し時間がかかりそうだった



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