ガンダム世界でスコープドッグを作ってたらKMF紅蓮に魔改造されてしまった件 (勇樹のぞみ)
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序章 ザクを討つもの、それは……

 辺境のスペースコロニー、サイド7に降り立った鋼の巨人。

 ジオン公国軍モビルスーツ、ザク。

 

「へっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ」

 

 アムロ少年が起動した地球連邦軍モビルスーツ『ガンキャノン』に迫るも、突如として鳴り響く空中からの接近警報。

 

「なにっ!」

 

 とっさに機体をひねりながら腰を落とす。

 左腕を地面につき機体を支えながらも片手でマシンガンを発砲するが、華麗に宙を舞い割り込んできた機体には当たらない。

 

「おおっ、ああっ!」

 

 ザクの頭部をサッカーボールのように蹴りつけ、そのメインカメラを粉砕したのは、ザクの三分の一にも満たない小さな機体。

 紅蓮に彩られたミドルモビルスーツ、ドラケンE改!

 

【挿絵表示】

 

 

 

 あああああ、怖い怖い怖い!

 

 本来なら存在しないはずのミライ・ヤシマの姉であるミヤビ・ヤシマはノーマルスーツのヘルメットに取り付けられたHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)いっぱいに表示されるジオン軍モビルスーツ、ザクの姿に恐れおののいていた。

 まっすぐでつややかな黒髪と硬質な整った顔立ちもあってか『ヤシマの人形姫』などと呼ばれているその表情に変化はない。

 だがこれは男性から女性へ、いわゆるTS転生したせいでお嬢様らしく扱われ着飾らせられる日々に引きつる顔を無理になだめて生きてきた結果、表情筋が死んだように動かなくなってるだけである。

 

 顔に出ないからってなにも感じてないわけじゃないから!

 

 彼、いやもう彼女であるミヤビは声を大にしてそう叫びたかった。

 彼女が乗っているミドルモビルスーツ、ドラケンE改は機体の各所に仕込まれたセンサーカメラからの情報を統合してCG補正された映像をパイロットが身に着けたHMDに表示。

 パイロットの頭の動きに連動して顔を向けた方向の映像を上下左右360度全方向について映し出すようになっている。

 旧21世紀のステルス戦闘機F-35で既に実現化していた古い枯れた技術ではあるのだが、本物の戦場を映し出したそれの迫力は半端ではない。

 ホラーが苦手な女の子にHMDを被せて無理やりVRのホラーゲームを体験させるようなものだ。

 

 トラウマになってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したらどうしてくれる!

 

 ミヤビは内心でそう叫ぶが、そもそも狭いドラケンE改のコクピット内で後の全天周囲モニターと同等の機能を実現させると同時に、大画面モニターを機体に付けずに済むというコスト上のメリットからこの方式を提案したのは彼女自身。

 こんな風に我が身に返ってくるとは計算外だったのだけれど。

 

 だいたい全高5メートルもないミドルモビルスーツでザクに立ち向かえって、それどんなムリゲー?

 普通に考えれば簡単にわかる。

 こんなでかいヤツには、勝てないってことぐらい……

 

「っく、」

 

 至近に着弾!

 爆発とともに広範囲に飛び散った破片が装甲を叩く。

 

 相手は120ミリなんて旧21世紀の主力戦車と同じ口径の砲弾をマシンガン扱いでばらまいて来るのだ。

 多目的対戦車榴弾(HEAT-MP:High-Explosive Anti-Tank Multi-Purpose)を使っているから直撃しなくても爆発で吹き飛ばされそうになるし!

 これが徹甲弾なら「当たらなければどうということはない!」なんだろうけど、ザクマシンガンって宇宙での使用を考えて低反動にしたためか低速砲で「すごいスピードで敵の装甲をぶち抜くぞ」っていう徹甲弾は使えなかった。

 それで火薬の力で超高速噴流(メタルジェット)を作って装甲を破る成型炸薬弾(HEAT:High-Explosive Anti-Tank)に、余った爆発力を榴弾として周囲にまき散らしましょうっていう機能を付け加えた多目的対戦車榴弾が使われてるわけだ。

 この弾には標的を選ばないって利点もあるし。

 

 そんなものに狙われて、正気でいられるはずがない。

 たまらずいきなり切り札を切る。

 

「ジェット・ローラーダッシュ!」

 

 思いっきりアクセルを踏み込むとともに音声コマンド入力で制限解除、背中のロケットエンジンを水平方向に吹かして急加速する。

 

【挿絵表示】

 

 ドラケンE改のかかとには、自走で高速移動ができるようインホイール・モーターとランフラット・タイヤを組み込んだローラーダッシュ機構が備えられている。

 試作段階では安定性、運動性を高めるため可倒式で使用時のみ機体後方に張り出させるコードギアスのナイトメアフレーム、紅蓮弐式とかが装備していたランドスピナー形式も検討したが。

 原型機であるドラケンEが備えていた長いつま先に補助タイヤを設置することで必要とされる安定性を確保できたため、機構が簡単で重量も軽くコストもかからない現在の形式に落ち着いた。

 回転数制御は個別分散式VVVFインバータを利用。

 タイヤを左右逆回転させることもできるから超信地旋回も可能だ。

 

 それに加えジェットエンジンを載せたドラッグカーのように、背面のロケットエンジンも併用して加速する。

 ジェット・ローラーダッシュと名付けた高速移動法だ。

 ロケットなのにジェット? と思うかも知れないが、そこは語感優先で。

 元ネタのボトムズのアーマードトルーパー、スコープドッグターボカスタムでもそうだったし。

 破格の加速性能を発揮する代わりに安定性と操作性が劣悪で熟練パイロットでなければまともに扱えない、というところまで一緒なのは参ったが。

 だから通常は使用を制限している。

 

「……そもそも、このために付けたものじゃないんだけどね」

 

 ミヤビは過去を振り返る。

 

 彼女の父親が持つヤシマ重工がスペースコロニーを建設するのに宇宙空間ではあのボールの元になったスペースポッドSP-W03を、重力環境下では民生品の作業機器だったドラケンEを、と使い分けていたのを一台で両方の役目を果たせるようにしたら、とミヤビが提案したのが発端。

 その分コスト削減できるからだ。

 だから搭載されているのもSP-W03に使用されていた技術を流用した可動ノズルによる推力偏向制御ロケットエンジン。

 人型の利点を生かし手足の質量を振り回して簡単かつ急速に方向転換を行うAMBAC(active mass balance auto control:能動的質量移動による自動姿勢制御)も搭載しているから、それこそSP-W03はおろか、ボール以上の機動性、運動性は確保できている。

 

 リミッターをカットすれば、短時間ながら重力環境下でのジャンプも可能。

 もっとも燃料消費が激しく回数が限られるうえ、現地点から着地点までの直線的な弾道軌道しか取れず空中での進路変更は困難。

 今から40年以上後、クロスボーン・バンガードの小型化されたモビルスーツが旧式化したジェガンの頭を蹴り飛ばして粉砕するシーンを再現したような先ほどのアクションも、単にミヤビが横着してテム・レイ博士の元にジャンプで行こうと思ったら、その進路にたまたまザクが移動して割り込まれたため、とっさにキックすることで衝突を免れただけだったりする。

 

 というわけで軍事用に作ったわけじゃないのだ、このドラケンE改は。

 ローラーダッシュ機構だって、ミドルモビルスーツの短い脚でガッシャンガッシャン走ってたら振動はすごいわ、速度は出ないわで困るから前世知識を生かして組み込んだだけで。

 そりゃあ治安維持や暴徒鎮圧、警ら用に警察組織に売り込むために前世のアニメ知識を生かして戦闘能力に関わる部分も性能アップしたけどそれはおまけであって!

 

 なのにまさかの地球連邦軍制式採用。

 どうしてこうなった。

 

 大体汚いのだ。

 機体開発責任者の本音が聞きたいとかで連邦軍の連中、身分を偽って接触してきて。

 ミヤビは作業機械としてのミドルモビルスーツを求めている顧客だという認識で対応したら……

 

 

 

「脱出装置が無い! 人命を何だと思ってるんだ!」

「爆発ボルトによるコクピットハッチの強制排除装置で十分ですよ」

 

 そりゃあ前世、旧21世紀でも高度0速度0の状態からでもパラシュートが十分開く高度までパイロットを打ち上げる「ゼロ・ゼロ射出」が可能な射出座席が実現化されていたけれども。

 ドラケンE改は基本、作業機械。

 フォークリフトに射出座席を付ける人なんて居ないでしょう?

 屋根のある所でも使うんだから。

 屋内作業中に誤動作でも起こして射出されたら天井に頭ぶつけて死んじゃうし。

 そもそも飛行機と違って人型は事故起こしたら大抵は転倒するんだからそんな状態でパイロット撃ち出されたら大惨事だし。

 

 飛行というか宇宙空間作業もするけど、そこで起きる事故って大抵、宇宙のゴミ、スペースデブリとの接触事故で。

 そんな危険物が飛び交っている環境下にノーマルスーツ着ただけの人間を放り出す方が問題でしょうが。

 

「パイロットは育成に金と時間がかかる高度技能保有者なのだぞ、分かっているのか!」

「うちのドラケンE改は学生のアルバイトでも扱っているようなものですが」

 

 これだから宇宙(そら)を知らない地球のお偉いさんは……

 動かすだけならちょっと練習するだけで誰でもできるし。

 宇宙空間作業には資格が要るけど、これも学生でも取れるものだし取ったら一生食いっぱぐれないというので多くの宇宙市民が取得している。

 

「人手が足りないというならシルバー人材を活用しても良いでしょうし」

 

 定年退職者の人材活用、大いに結構でしょ。

 そんな当たり前のことを言ったら連中、信じられないものを見たかのように目玉をひん剥いてミヤビを見る。

 

 後から知ったが、連中の中ではミヤビは、

 

「ヤシマの人形姫はその名のとおり冷酷無比。学徒動員や老人の徴兵を眉一つ動かさず当たり前のように口にする。第二次世界大戦中のソビエト連邦軍のように兵隊は畑から取れるとでも思っているし、そのための兵器を産み出すことに何の躊躇もしない」

 

 ということになっていたらしい。

 いやいやいやいや、自分たちが身分伏せてるってこと何で忘れてんの。

 

「ヤシマの人形姫は眉一つ動かさず、一目で我々が何者なのかを見抜いていた」

 

 ってそんなわけないでしょー!

 

 実際、地球連邦の国力ってジオンの30倍以上だから、アルバイトでも乗れるドラケンE改30機をザク1機にぶつけて勝てれば戦争には勝てちゃうのは事実だけど、それやっちゃダメでしょうに。

 っていうか、ジオンの元ネタがナチスドイツなら地球連邦の元ネタはソビエト連邦になるのか……

 まぁ政治や軍組織の風通しの悪さ、澱みや矛盾具合は確かに似てるけど。

 

 

 

 そんな具合でドラケンE改は「人命軽視の鉄の棺桶」っていう評価が下されたはずなのだけれど、それでも採用してしまうのが地球連邦軍クオリティ。

 スペースポッドSP-W03を拡大設計して180ミリ低反動砲を1門載せただけのボールをジムと編隊組ませて最前線に突っ込ませる軍隊だからね。

 

 ヤシマ重工はドラケンEの改良モデルを造るにあたって元々の製造メーカーを合併・買収(M&A)していたから大きな利益が見込めたけど、その代わりミヤビはRX計画の民間協力者として地球連邦軍に出向するはめに。

 そしてテム・レイ博士と仲良くケンカしながら地球連邦軍ペガサス級強襲揚陸艦2番艦ホワイトベースでサイド7に向かったところにジオン軍のザクが来襲。

 アムロ君がガンダムで何とかしてくれるかな、と期待したけどなぜか彼が動かしたのはガンキャノン。

 将来的にはガンキャノンでもザクぐらいぼっこぼこにしてみせる彼だけど、初めて動かしたモビルスーツでそれはかなわず。

 結果、現場に飛び出したテム・レイ博士を乗り慣れたドラケンE改で回収しに行ったミヤビがザクの相手をする羽目に。

 

 ……どうしてこうなった。

 

 

 

「モビルスーツのノミごときに! おおおおおっ!」

 

 ミドルモビルスーツになどに後れを取った恥辱に、ザクのパイロットは完全に頭に血を登らせていた。

 ザクマシンガンを連射しながら全速力でドラケンE改を追う。

 しかし素早い上に、小型機ゆえに利く小回りで地形を利用しながら逃げるドラケンE改相手に、追従しきれない。

 

『退くんだジーン。やつは速い! この大型のザクタイプでは駄目だ!!』

 

 通信機から入る上官の声も届かない。

 

 

 

「ああ、もうっ」

 

 ミヤビはジェット・ローラーダッシュで距離を稼いだところで鋭く右に操舵、直後にホイールを逆転!

 グリップの限界を超えた駆動輪はたやすく空転し、ドリフト状態に移行。

 慣性により直進する力と、直前に切った操舵により曲がろうとする力。

 これによりまだグリップしているつま先内蔵の補助輪を支点として、機体がくるりと180度反転する。

 スピンターン、もしくはサイドターンと呼ばれるドライビングテクニックだ。

 車の場合、走行中にいきなりサイドブレーキを引き後輪のみをロックさせてグリップを無くしてやるんだけど、モーター駆動のドラケンEなら瞬時にタイヤを逆回転させることができるから、より簡単にできる。

 というかミヤビが前世、リア駆動の電動ラジコンカーでよくやっていたテクニックだ(四駆だとできない)

 プロポのスティックをちょいと反対に入れるだけでその場でくるんと車体が回るんだから家の周辺の狭い生活道路で行ったり来たりさせるには最適だった。

 

 そしてミヤビはドラケンE改をそのまま後進させつつ、ザクに照準を付ける。

 

「狙い撃つ!」

 

 ドラケンE改の機体上面2つの筒状ケーシングに収められた短距離ミサイルのうち一発を発射。

 シーリングされたフタを破って撃ち出されたミサイルは、誘導用のワイヤーを引きながらザクに向かって飛ぶ。

 有線誘導ミサイルなんて撃たれてからでも身をかがめたりそらしたりするだけで簡単にかわすことができるザクだったが、今は逃げるミヤビのドラケンE改を追って全速で走行中。

 急激な方向転換なんてできないし、そもそもパイロットが不意を打たれて反応できていない。

 かろうじて身を沈めたが、それでも避けきれず胸部に命中!

 歩兵が使う対MS重誘導弾 M-101A3 リジーナより大型のこのミサイルは、ザクの装甲を正面から破ることのできる威力を持っていた。

 

「足を止めた!」

 

 ミヤビは残ったもう一発のミサイルを駄目押しで発射!

 そして命中。

 ミヤビを追っていたザクは沈黙した。

 

「これで退いてくれればいいのだけれど」

 

 ……残念、アムロ君のガンキャノンを牽制していたもう一機のザクがこちらに向かってくる。

 二発しか積んでいないミサイルを使い切っているのが分かるのか、肉弾戦を挑んでくる。

 ドラケンE改の短距離ミサイルの再装填は使い捨てのケーシングごと交換することで行う。

 予備があれば使い終わったミサイルのケーシングを破棄して自機の左腕二重下腕肢マニピュレーターを使っての再装填も可能だけど、そんな暇は与えてくれないらしい。

 

「ああ、もうテム・レイ博士の大発明、ビックリドッキリメカを使うしかないの?」

 

 ミヤビはドラケンE改の右マニピュレーターに視線を落とす。

 高い荷重に耐える頑強なパワーローダータイプの肘から下をハードポイントにした軍用タイプで、航空機、ヘリコプター搭載用ミサイル、ロケット弾ポッド、ガンポッド、偵察ポッド、またジオン規格の給電システムを備えたパイロンを用意できれば鹵獲品のヒートホーク等の装備が可能となっているものだ。

 そして今装着されているのは筒状の本体の先に三本のクローを装備した、コードギアスのナイトメアフレーム、紅蓮弐式の簡易修理タイプ、甲壱型腕装備に似た形をした武装、

 

「ビームサーベル展開!」

 

 その先端からビーム刃が伸びる。

 

【挿絵表示】

 

『甲壱型腕ビームサーベル』はRX-78ガンダム用に開発されていたビームサーベルに、Iフィールド制御板を兼ねた3本のクローを取り付けたものだ!

 別名『溶断破砕マニピュレーター』。

 これを初めて見せられた時にミヤビが思わず漏らしてしまった呟きを、テム・レイ博士が拾って命名した。

 こんな具合に彼女の周辺には前世知識に基づきネーミングされた、どこかで聞いたようなものが色々と転がっている。

 

『ビームサーベル起動しました。燃料電池全力稼働を開始。活動限界まであと4分53秒』

 

 機体制御OSが合成音声で告げると同時に、モニターの隅に若干増減しながらも減っていく活動限界までの時間を映し出す。

 ビームサーベルをフルスペックで起動、維持できる電力をミドルモビルスーツが供給することはできないためビーム刃の長さを60%以下に制限しているけど、それでも作動可能時間は短く5分以下。

 限界が訪れると自動停止してしまうから、それまでに決着をつける必要がある。

 

「行きます!」

 

 ジェット・ローラーダッシュで急加速!

 動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。

 このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。

 

 ……殺人的な加速だ!

 

 歯を食いしばるミヤビ。

 高速で走行する機体から、さらに水蒸気が噴き出す。

 利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出されるけど、この時、燃料電池から排出される水を放熱器に噴霧して温度を下げる機構が働く。

 そうして発散される水蒸気は熱量を持った残像を作り出し敵の熱源センサーを誤動作させるのだ!

 

「今!」

 

 ビームサーベルをターンXのシャイニングフィンガーソードのように構え、ロケットエンジンを全開にして、突っ込む!

 

 

 

──────COMING SOOON !!




 予告編風、序章です。
 冒頭にクライマックスを持ってきて、後から本編を書くっていうやつですね。

 ドラケンEは機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争に登場した全高5メートル弱のミドルモビルスーツです。
 HGUC 1/144 RGM-79SP ジム・スナイパーIIのおまけとして初めてキット化されました。

 ロボットアニメに対する意見としてよくあるのが、
「実用的な人型陸戦兵器は全高5メートル以下、ボトムズのアーマードトルーパーが限界だよね」
 というもの。
 では本当にファースト・ガンダムの世界でそのとおりの兵器を作れるのか。
 通常サイズのモビルスーツに対抗できるようにするならどう組み上げれば良いのかというコンセプトでポケ戦登場のミドルモビルスーツ、ドラケンEをカスタマイズしてみました。

 ドラケンEってビームサーベルが使えることになってますし、装備されている短距離ミサイルはMSイグルー2で歩兵がザクを倒すのに使用した対MS重誘導弾 M-101A3 リジーナより大型ですし。
 あとは連邦軍モビルスーツの頭部60ミリバルカンを流用でしょうかね。
 あれだけコンパクトなのにザクの正面装甲を抜いて撃墜できる威力を持ってますし、将来的にはジェガンが頭部バルカンでギラドーガの装甲に大穴を開けてますからね。

 ご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


参考
RH-35E ドラケンE
 サイド6に駐留する”リーア軍”が使用するMMS=ミドル・モビルスーツ。
 元は民生品の作業用機器で、比較的精密な作業が可能な二重下腕肢マニピュレーターの機体がデフォルトの仕様。
 腕部をパワーローダーと換装した荷役仕様の機体などもある。
 連邦、公国を問わず、土木工事の現場や港湾作業などで運用されているほか、治安維持や暴徒鎮圧、警ら用に運用されている事も多い。
”RH-35”は、リーア35番地(リボー・コロニー)所属の意味。
(プラモデル「HGUC 1/144 RGM-79SP ジム・スナイパーII」取扱説明書より引用)

SPEC
 全高 4.921m
 武装 短距離ミサイル×2/ビーム・サーベル
(「ガンダムパーフェクトファイル 122号」より引用)


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閑話1 ドラケンEがビームサーベルを使えるわけ

 ミドルモビルスーツにビームサーベルが使えるわけが無い、というご感想を立て続けにいただきまして。
 しかしドラケンEがビームサーベルを使えるというのは序章のあとがきにも載せたとおり書籍に記載されていることですから。
 サンライズが運営するガンダム情報の公式ポータルサイト「GUNDAM.INFO」でも同様ですし。

 とはいえ納得できない方も多いと思い、なぜドラケンEでビームサーベルが使えるのかという閑話、過去話を取り急ぎ書いてみました。
 序章の続きを、とご期待された方には申し訳ありません。
 次回以降の更新にご期待ください。


「甲壱型腕装備? いえ、これはビームサーベル?」

 

【挿絵表示】

 

 ミヤビがテム・レイ博士の大発明、ビックリドッキリメカ、後に『甲壱型腕ビームサーベル』と名付けられる装備を初めて見せられた時に漏らしたのはそういった言葉だった。

 

 もちろんこれがどういうものなのか分かったのは彼女の前世知識によるもの。

 そしてTS転生により女性の服や下着を着せられ女扱いされるたびに表情を殺し死んだ目をして過ごしてきた結果、固まってしまった人形じみた美貌に変化はなく……

 

 その静謐とも言える横顔を目にしたテム・レイ博士とその部下である技術者たちは、

 

(機密であるはずの最新技術を一目で見抜き、驚いた様子も無い。やはりこのご令嬢、天才か……)

 

 などと驚き納得しているのだが、ミヤビはそれを知らない。

 

 実際には彼女は天才というより努力の人だった。

 前世ではロボットアニメ好きが高じて中学卒業後は高等専門学校、いわゆる高専に進み5年間、朝から晩まで工業系、技術系の勉強とレポート作成の日々、その合間を縫ってひねり出した時間で高専ロボコンに出場。

 卒業後は自衛隊の護衛艦や戦闘機のジェットエンジンを作っている某重工に就職し経験と学習を積んでいた。

 転生後も前世の経験を活かした上で現代の技術を学びなおし、技術者として研鑽の日々を過ごしている。

 好きこそものの上手なれ、を地で行っているとも言う。

 

「ミヤビ君、それは……」

 

 テム・レイ博士は言葉尻を濁すと首を振り、ビームサーベルはまだ秘匿されるべき存在だと暗に示す。

 

「では秘匿名称『溶断破砕マニピュレーター』とでもするべきなのでしょうかね」

 

 と、ミヤビは同様に非人体系の手のひらからビームサーベルを展開して見せるターンXの右手武装を思い起こして答えた。

 後にその名称が本当に採用され驚くことになるのだが、それはともかく。

 

「これ、ドラケンE改で使えるんですか?」

 

 ミヤビの前世知識によるとドラケンEはビームサーベルが使えることになっている。

 そう書かれている出版物もあったし、サンライズが提供しているサイトでもその旨記載があったからオフィシャルなものと考えていいだろう。

 この設定は機動戦士ガンダムZZの第2話でヤザン・ゲーブルが乗るドラケンEと同じミドルモビルスーツにカテゴライズされる名称不明機(永野護デザイン)が拾ったZガンダムのビームサーベルを起動、使って見せたところに由来するものものと思われるが。

 

 しかしビーム兵器の使用には、ある程度の本体ジェネレーター出力が必要なはず。

 ジムで1,250kW。

 と言っても丸々必要なわけではなく、機体の駆動に必要な分を除いた余剰出力でドライブさせるわけだし、ビームスプレーガンとビームサーベルでは要求される電力も違うだろうし、ビームスプレーガンとビームサーベルの同時使用にも対応しているだろうから純粋にビームサーベルだけを使用するために必要な水準は分かっていないが。

 それよりも参考になるのはドラッツェだろうか。

 569kWとビームサーベルは本来出力不足で使えないが、シールドに小型ジェネレーターとエネルギーCAP、冷却ユニットを組み込んで使用可能にしていた。

 

 そしてテム・レイ博士の返答は、

 

「ああ、ドラケンE改の燃料電池を全力運転させればフルスペックの利用は無理だが、出力を絞り時間を限定してなら使えるだろう」

 

 ということ。

 つまりそれは、

 

「……ビームサーベル内に使用を補助するジェネレーター、もしくはバッテリーやエネルギーコンデンサーを持っている?」

「っ!?」

 

 ミヤビが漏らした呟きに、テム・レイ博士の顔が引きつり、周囲がざわめく。

 

「さ、さすがだな……」

 

 というのが間接的な答えにして肯定。

 ミヤビが口にした可能性の中でどれが該当しているかは分からなかったが、一民間協力者である彼女にはこれ以上詳しく知ることはできないだろう。

 

 ミヤビの前世の記憶の中にあるガンダムの内部構造図ではビームサーベルにはビーム発生用タキム社製NC-5型核融合ジェネレーターが内蔵されていることになっていた。

 後に『マスターグレード 1/100 RX-78-2 ガンダム』の説明書内でNC-5型核融合ジェネレーターは背部ランドセルに搭載されている、とされたが、だからといってサンライズがガンダムの内部構造図を引っ込めたり訂正したりはしていないし、イベントがあればその後も内部構造図は展示している。

 つまりサンライズはビームサーベルに内蔵していると言っているし、バンダイはランドセルに搭載していると言っている状態だった。

 Wikipediaなどではより新しく現実味が高いバンダイ説が支持されてはいたが。

 

 またガンダムのビームサーベルのリミッターを解除することで利用できるビーム・ジャベリンは、ビームサーベルのエネルギーコンデンサを作動させ、可変させた状態であるという。

 投擲することでムサイのエンジンブロック2つを貫通させたこともあるが、つまりモビルスーツの手を離れてもそれだけの威力を持つビーム刃を維持できる電力がビームサーベル内から供給されるようになっているということ。

 

 Zガンダムのビームサーベルも劇場版においてビームコンフューズなる技を見せた時に投擲して使用している。

 

 つまりガンダムのビームサーベル内にはNC-5型核融合ジェネレーターが搭載されているかもしれないし、そうでなくとも何らかのエネルギー源は内蔵されている。

 Zガンダムのビームサーベルにも、同じように何らかの電源があるから投げてもビーム刃が維持されるのだろう。

 

 そしてそのエネルギー源を利用すればドラッツェに追加されたビームサーベルドライブ向けの小型ジェネレーターと同じことができるのではないかという推論。

 ドラッツェと違うのはジェネレーター内蔵なら冷却ユニットが無い分だけ放熱に問題が発生し、バッテリーやエネルギーコンデンサーなら充電されたエネルギーを短時間で使い果たしてしまうことになる。

 使用に時間の制限があるということだった。

 

 そして、

 

「ドラケンE改本体の燃料電池の全力運転、とは言いますが、実際には過負荷運転が必要ですね」

 

 ミヤビはテム・レイ博士から渡された要求仕様を見てつぶやく。

 

 充電池、バッテリーとは違い、燃料を突っ込んで反応させる燃料電池には定格以上の出力で運転させることも可能だ。

 宇宙戦艦ヤマトの波動砲発射シーケンスにある「エネルギー充てん120パーセント」に突っ込む人も多いが、定格を超える過負荷運転は別段珍しいことではない。

 外乱など何らかの原因で定格を超えてしまう可能性は常にあり、100パーセントを超えたら即座に壊れてしまうようでは使い物にならない。

 それゆえ機械の定格出力は様々な要素を勘案して安全マージンを十分にとったうえで定められている。

 それを承知の上、安全性が損なわれない範囲での一時的な過負荷運転は十分許容できるものなのだ。

 

 旧21世紀の日本の例では、夏場、電気が足りないと騒がれるような年だと経済産業省が「本当に足りない時には火力発電所に過負荷運転させるから」というような文書をプレス発表していたし、各電力会社ではそれに対応して準備をしているという。

 ミヤビが前世で勤めていた某重工は火力発電ユニットの建造も手掛けていたからこの辺の事情は身近なものだった。

 さすがに120パーセントなどというべらぼうなものは無く、せいぜいが数パーセントの増出力に収まっているものではあったが。

 

「ボトルネックはやはり、大気中での放熱になりますか」

 

 燃料電池というと化学反応で電気を産み出すことから効率が高く熱ロスは少ないイメージがあるが、実際には出力が高いものは動作温度が高くなる。

 発生した熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。

 それでも利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出される。

 宇宙空間では輻射による熱放出しかできないが、放熱器をこのように分散配置しておけば必ずどれかが太陽光に対して影になり、効果的に排熱ができるという設計になっている。

 

 一方、大気中ではすべての放熱器に分散して熱を放出することでファンによる強制冷却無しで十分に放熱が可能。

 ファンレスであるための静粛性、および元々少ない排熱を放熱器を分散配置して処理するため熱探知に引っかからないということからステルス性が高くなっている。

 

 しかし従来の設計では燃料電池の過負荷運転までは計算に入れてはいなかった。

 安易な馬力アップを施した車やバイクは熱ダレを起こすことが多いが、簡単に言えばそのようなものだ。

 

「冷却系の強化、ファンを付けて強制空冷式に改めてはどうですか?」

 

 技師の一人が提案するが、ミヤビは首を振った。

 

「このためにしか使わない機器を取り付けるのは……」

 

 使うのはわずか数分だけ。

 それ以外にはデッドウェイト、無駄となるし部品が増え構造が複雑化するために故障率がアップしコストも上がる。

 

「もっとシンプルで、原始的な方法……」

 

 その時ミヤビの頭にひらめいたのは、前世で扱っていたガスタービンの夏場における出力低下問題だった。

 ガスタービンはジェットエンジンと同じ構造をしている。

 大量の空気を『圧縮機』に吸い込み空気を圧縮。

 続く『燃焼器』で高圧となった空気に燃料を噴射し燃焼。

 最後に高温高圧となった気体が『タービン』を回転させるというもの。

 

 これが夏場になると気温が高くなる分、空気が膨張し薄くなるため圧縮機での吸い込み質量が実質的に少なくなる。

 それが出力を低下させるわけだ。

 改善するには吸気を冷やしてやる必要がある。

 形式は違うが吸気を圧縮するという点では同じターボエンジンに付けられているインタークーラーなどは、まさにこのための装置だ。

 

 しかし、そういった大規模な装置の設置にはコストがかかる。

 夏場だけ、限られた期間のみのことなのだから、もっと簡便に温度を下げる方法が好ましかった。

 そこで試されたのが、

 

「ミスト噴霧……」

 

 吸気に水を噴霧することで水の蒸発潜熱によって吸気温度を下げてやるのだ。

 これならマイクロポンプと水配管、スプレーノズルだけでできる。

 

「なるほど放熱器に水を噴霧することで一時的に温度を下げるわけですね」

 

 周囲の技師たちが感心の声を上げる。

 ミヤビがたどり着いた、ある意味ローテクで泥臭い解決法は最新技術を駆使した機動兵器開発に携わる彼らには無い発想なのだろう。

 旧式の勝利、とも言う。

 

「燃料電池から発生する水はタンクに貯められていますから、これを過熱時に放熱器に噴霧してやれば、温度が下げられます」

 

 この水は生活用水、飲料水として利用もできるものだった。

 ただし非常に不味いことで有名でもあるが。

 

 

 

 後日、稼働テストにおいてこのミスト噴霧による冷却効果が試され十分な成果が上げられたが、同時に発散される水蒸気が熱源センサーを欺瞞するという副次効果が得られることが分かった。

 これに驚愕した技師が、

 

「熱量を持った残像だというのか!?」

 

 と叫んだことに内心吹き出しそうになったミヤビだった。

 

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第1話 ガンダム大地に立たない!!

 辺境のスペースコロニー、サイド7に立ち上がったのは地球連邦軍モビルスーツRX-78ガンダム!!

 ではなくRX-77ガンキャノンだった。

 おかげでそれをフォローしたミヤビとその乗機である全高5メートルにも満たないミドルモビルスーツ、ドラケンE改は散々な目に遭っていた。

 文字どおりの奥の手、甲壱型腕ビームサーベルまで起動して攻めてきたジオン軍モビルスーツ、ザクに対峙する……

 

 

 

「ビームサーベル展開!」

 

 

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 ドラケンE改の右腕、ヒジより下のハードポイントに装着された『甲壱型腕ビームサーベル』。

 Iフィールド制御板を兼ねた3本のクローを取り付けた、その先端からミヤビの音声コマンド入力によりビーム刃が伸びる。

 

『ビームサーベル起動しました。燃料電池全力稼働を開始。活動限界まであと4分53秒』

 

 機体制御OSが合成音声で告げると同時に、モニターの隅に若干増減しながらも確実に減っていく活動限界までの時間を映し出す。

 ビームサーベルをフルスペックで起動、維持できる電力をミドルモビルスーツが供給することはできない。

 そのためビーム刃の長さを60%以下に制限しているが、それでも作動可能時間は短く5分以下。

 限界が訪れると自動停止してしまうため、それまでに決着をつける必要がある。

 

「行きます!」

 

 ジェット・ローラーダッシュで急加速!

 動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。

 このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。

 

 ……殺人的な加速だ!

 

 歯を食いしばるミヤビ。

 高速で走行する機体から、さらに水蒸気が噴き出す。

 利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出されるが、この時、燃料電池から排出される水を放熱器に噴霧して温度を下げる機構が働く。

 そうして発散される水蒸気は熱量を持った残像を作り出し敵の熱源センサーを誤動作させるのだ!

 

「今!」

 

 ビームサーベルをターンXのシャイニングフィンガーソードのように構え、ロケットエンジンを全開にして、突っ込む!

 しかし……

 

 極度の集中によって時間がゆっくりと進むように感じられる、いわゆるゾーンという状態になったミヤビはふと思い出す。

 

 ビームサーベルでザクをぶった斬ったとして。

 その核融合炉が爆発したらコロニーの外壁に大穴が開くんじゃないの?

 

 と。

 

 前世の記憶では、それでテム・レイ博士は宇宙に吸い出され酸素欠乏症になってしまったのだ。

 彼を連れ戻しに来たミヤビがやってしまっては本末転倒である。

 かといってアムロ少年のようにコクピットだけを狙って突くなんて器用な真似はできるとも思えない。

 そんな能力は彼女には無い。

 ミヤビは即座に…… 丸投げした。

 

「サラちゃん、おすすめの太刀筋、ジェネレーター回避で無力化!」

『はい、ミヤビさん』

 

 電子音声と共にヘルメット付属のバイザー型HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に表示される外部映像へ『ここを斬って』というラインが追加表示される。

 そう、機動戦士ガンダム第19話「ランバ・ラル特攻!」にてシールドを構えながら突進してくるガンダムに対し、ランバ・ラルのグフのモニター上に表示されたコンピュータの指示のように。

 

 『サラ』、彼女はドラケンE改に搭載された簡易サポートAIだ。

 未来においてSガンダムに搭載されるルーツ博士開発の人工知能、AIである『ALICE』。

 その原型となったプログラムから株分けしてもらいミヤビたちが育てた存在だ。

 

 『サラ』というネーミングはもちろん、ミヤビの前世知識の中にあった『ガンダムビルドダイバーズ』登場のヒロイン、電子生命体の彼女から。

 少女の姿をしたアバターも、また涼やかな音声も可能な限り再現してある。

 

 Sガンダムに搭載されたALICEの稼働には大容量のコンピュータシステムが必要だったが、これは従来の兵器をはるかに超えた複雑さを持つ数万点以上の工業製品の集合体であるモビルスーツ、その中でも特に化け物じみた複雑な機体システムを持つSガンダムを単独で完全に制御する能力を持つよう設計されていたからだ。

 作業用機械の延長線上にあるミドルモビルスーツ、ドラケンE改、その簡素な機体制御をサポートする程度ならせいぜい低級AIが稼働するハロ2台分のコンピュータで十分に動かせたし、何かあってコンピュータの負荷が上がった場合は速やかに休眠してリソースを開放、最低限の対応を行う人工無脳に切り替わるようになっている。

 

(でも……)

 

 とミヤビは考える。

 AIの考えた太刀筋が、果たして熟練のパイロットに通じるだろうかと。

 

 機動兵器の操縦はAIが人間に勝てない分野だ。

 AIは人間の何倍もの速度で理詰めで思考を進めていくには向いているが、ある意味それが弱点でもある。

 理詰めで行動や動作を最適化し無駄を省き効率化していくと、その制御は一つの最適解に収束していく。

 ミヤビの前世の記憶、『機動戦士ガンダム』の劇中でランバ・ラルが、

 

「正確な射撃だ。それゆえコンピューターには予想しやすい」

 

 と言ってコンピュータのアシストにより、その場を一歩も動くことなく機体をそらすだけで攻撃をかわしているが、そういうことだ。

 AIが導き出すような理想的で正確な動きは、だからこそ予測されやすくなってしまうのだ。

 

 それゆえAI制御の兵器が開発できたとしても練度の高いパイロットなら簡単にその動きを先読みできるし、そうでなくとも敵パイロットを補助するAIのアシストで新兵でも対処できてしまう。

 そう、無人機と有人機の比較でよくAIと人間の対比を行うが、実際には「AI」対「AIのサポートを受けた人間」を比較しなければならないのだから。

 

 そして、たとえ予測されるのを避けるために制御に作為的に味付けをして変化を出しても、AIが持つ高速の演算性が違いを即座に埋めて同質化してしまうので意味が無い。

 これがAIの持つジレンマだった。

 理詰めでは個性や多様性を産み出すことができないのだ。

 なぜならそれは人間が持つこだわりや嗜好という一見、非効率で非論理的としか思えないものから生み出されるものだからだ。

 そしてそれは、

 

 理論化、言語化が困難な直感的な選択反応の圧倒的な差。

 人間が持つ理詰めでは超えられない動物的直感。

 

 といったAIには持ちえない力を生む。

 それを得るためにこそ『ALICE』、つまり『Advanced Logistic&In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置』は開発されていたのだ。

 だからこそ『ALICE』は人と同じように思考し、感情を持ち、執着を示すようになった。

 では、サラは?

 ミヤビが育てた彼女は人と同じ感情を本当の意味で持つことができているのだろうか?

 

 ランバ・ラルはアムロ・レイの正確な射撃をコンピュータのアシストによりかわして見せ、その後コンピュータの指示どおりにヒートサーベルをふるった結果、逆にアムロにスカされて一太刀浴びせられてしまっていた。

 そして同様の支援をサラから受けているミヤビが、同じように返り討ちにあって撃破されてしまう可能性は多分にあった。

 

 だが、

 

「ままよ!」

 

 ミヤビは考えることを止めた。

 哲学戦闘できるほど余裕のある覚醒アムロやシャア、ガトーやコウのような連中と違って、ごちゃごちゃ考えたりしゃべったりしながら戦えるほどミヤビのスペックは高くない。

 それにへっぽこなミヤビの腕前ではどうせサラの指示以上の動きなんてできないし、最初から選択肢は無いのだった。

 だから今はサラを信じるのみ!

 

 考えるな、感じるんだ。

 

 有名な言葉を心に唱え、無心で機体を操る。

 機体を右に振ってからの左への操舵、フェイントからの進路変更。

 背面装備の推力偏向制御ロケットエンジン、その可動ノズルによる噴射まで使った常識外れの機動に、横殴りのGがミヤビを襲う!

 耐Gスーツ機能を持ったノーマルスーツ。

 そしてドラケンE改は6点式ハーネス(シートベルト)の付いたバケットシートによりパイロットを保持しているが、さらにジェットコースターに使われているようなバー式の安全装置、セイフティバーを下すようになっている。

 原型機のドラケンEにも装備されていたがこちらは出来が良くなく胸や腹に食い込むため、パイロットの中には古タオルを巻きつけてクッションとしていた者も居たほどだったが。

 ドラケンE改に採用されているものは人間工学に基づき改良されたものでクッション性、安全性が飛躍的に高められている。

 オプションでいくつかのグレードが用意されているが、標準品でもオフロードバイク用のブレストガードを装備しているのと同等以上のプロテクション性能を持っていて、肋骨や鎖骨などを骨折から守ってくれるものだった。

 それらに守られつつ、ミヤビはドラケンE改を操った。

 すれ違いざまに繰り出されるビームサーベル。

 

 紫電一閃!

 

 その光の軌跡がザクの装甲を両断する!

 

 

 

「燃え尽きたよ、真っ白に……」

 

 ミヤビは某ボクサー漫画の主人公のようなセリフを吐きバケット・シートに身体を預けた。

 斬り捨てられ倒れ伏すザクを背景に、強制冷却のための水蒸気を両肩、尻の放熱器から立ち上らせ立ち尽くすドラケンE改の姿はV-MAX発動後、冷却中のSPTレイズナーか、最終回で本当に燃やされてしまったコンバットアーマー、ダグラムかといったところ。

 実際、ミヤビの気分はもう最終回だ。

 最初からクライマックスはヒーローならぬ常人のミヤビにはきつすぎる。

 

 しかし……

 

「そうだ、それでいいのだミヤビ君。この新しいメカのおかげだ、甲壱型腕ビームサーベルは使えるぞ。はははは、あははは、あはははっ。地球連邦万歳だ!」

 

 いや目的だったテム・レイ博士の保護は果たせたけど、誰かこのおっさんを黙らせてくれ、とミヤビは思う。

 もっとも、これを招いたのも自分の選択と行いの結果か。

 そう思うと本当に泣けてきた。

 

 ああ、そうか。

 ここはあのセリフだ。

 

「フッ、認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」

 

 ミヤビはぐぐもった声でそうつぶやいたが、サラには聞き取りづらかったらしい。

 

『バカさゆえのあやまち?』

 

 きょとんとした様子でそう聞き返され、それでも合ってるなー、と黄昏れるミヤビだった。

 

 

 

次回予告

 ホワイトベースで脱出を図るミヤビたちを待ち受けていたシャアは、ついに赤い彗星の本領を発揮してドラケンE改に迫る。

 それはシャアにとってもミヤビにとっても、初めて体験する恐ろしい戦いであった。

「というかガンダムはどうしたの? 助けてアムロ君!」と叫びたいミヤビ。

 次回『ドラケン破壊命令』

 君は、生き延びることができるか?




 お待たせしておりました序章の続き、第1話をお届けしました。
 メインヒロイン(?)のサラちゃんの登場です。

 作中の人工知能、AIの持つ特性に関しては実際にAIを開発したり、仕事で利用したりといった方々から伺ったお話を元に書いております。
 先端技術のお話のアレコレを聞くのは面白いですね。
 今回はそれを作品作りに生かしてみました。

 ご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第2話 ドラケン破壊命令 Aパート

 すみません、第2話を書いていたらもの凄く長くなってしまいまして。
 あまりにも長いし、書ききるのに時間がかかりそうなため、分割してお届けすることにさせていただきました。
 ご了承ください。


 サイド7では接近するジオン軍巡洋艦ムサイからのミサイル攻撃に対し、ミサイル砲座による迎撃を試みていた。

 

「民間人でもいいんだ、男手をまわしてくれ!」

 

 レーダーもデータリンクも役に立たないミノフスキー環境下では、砲座の一つ一つに砲手がついて、マニュアルで操作するしかない。

 連邦軍兵士も必死にミサイルを放って抵抗を試みるが、

 

「おっ、ああっ、く、来るぞ」

 

 迎撃をするということは、その位置を敵に知らせることに等しく。

 濃密な弾幕を形成できるわけでも、本格的な軍事要塞のように厚い遮蔽物があるわけでもない状態では動かないミサイル砲座は格好の的だった。

 

「うわーっ!」

 

 ムサイのミサイルは確実に一つ一つ連邦軍の抵抗を排除していった。

 コロニーから脱出する一機のザクを援護するために。

 

 

 

 ミサイルの爆発による振動がコロニーに走る中、15歳の少女フラウ・ボウは子供たちを助けながらリング型リフトでホワイトベースが停泊する宇宙港へと向かおうとしていた。

 

「しっかりつかまって」

 

 そこにひときわ大きな爆発音!

 通路の向こうで爆炎が走り、凶悪な速度と質量を持った破片が飛んでくるのが見えた。

 

「早く!」

 

 リフトを出すように叫ぶフラウだったが、間に合わないことは明白だった。

 

「きゃあっ」

 

 思わず目を閉じ身体を丸くするが、そこに大きな人影が破片との間に割り込んだ。

 身の丈4メートルは超えようかという鋼の機体の正面装甲が、飛んできた破片たちをガンガンと音を立てて弾く。

 

「ロボット? 助けてくれたの?」

 

 初めて見るその姿にフラウは息をのむ。

 そして爆発が収まると紅蓮に彩られた機体がゆっくりと振り返った。

 人影、と言うにはその機体は人体のバランスからはかけ離れたプロポーションをしていた。

 独立した頭部は無く、その代わりにずんぐりとした曲面を描く胴体上部には目を思わせるスリットが走っていて、まるで胴にめりこんだ顔のようにも見える。

 脚は短くどっしりとしていて肩幅は広い。

 そして何より特徴的なのは三本のクローを備えた異形の大きな右腕だった。

 

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「やばかった……」

 

 フラウ・ボウたちを助けた真紅の機体、ドラケンE改のコクピットでミヤビは大きく息を吐いた。

 

『機体、損傷軽微。行動に問題ありません』

 

 サポートAIのサラがHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に映し出された視界の片隅でそう報告してくれる。

 とっさに爆発に割り込み飛んでくる破片を受け止めたのだが、問題ないようだ。

 

『機体の表面はどこもかしこも傷だらけですけど』

 

 とサラは俗に言うorz、両手を地に着き、うなだれるポーズを取って悲しそうに言うが、

 

「うずくまって泣いていても始まらないから、ね」

 

 そう言ってミヤビはサラをなだめた。

 そして機体の右腕に装備された甲壱型腕ビームサーベルに視線を落とし、

 

「タフな棒よね」

 

 とつぶやく。

 エネルギーCAPに充てんされたメガ粒子を使い切ってただの棒、丸太と化したこれを機体正面にかざして盾にしたのだが、こちらには凹み一つ無かった。

 ミヤビの前世の記憶『機動戦士ガンダム』の劇中ではビーム無しでも柄で突くことでザクより厚いはずのグフの正面装甲をベッコリと凹ませて、それでも壊れずいたものだったから当然か。

 ミヤビは機体を振り向かせ、背後にかばっていたフラウ・ボウたちに向き直る。

 彼女たちの顔にいまだ怯えの表情が浮かんでいることに気づき、左手元のレバーを引きあげた。

 降着レバーだ。

 コクピットが沈み込む感覚がミヤビを包む。

 

 降着ポーズはミヤビの前世の記憶ではロボットアニメ『装甲騎兵ボトムズ』登場のスコープドッグなどのアーマードトルーパーに装備されていた機能だ。

 パイロット搭乗時やパラシュート降下の着地時などに、脚部を変形させて胴体が前方に沈み込む独特の『降着形態』を取るもの、降下着地衝撃緩衝機構と呼ばれる仕組みだった。

 

 ドラケンE改、またその原型機であるドラケンEではパイロットが乗り降りしやすいよう、両膝をついた状態をいう。

 専用の特別な機構を備えているわけではないが、脚部をサスペンションとして最大限まで沈めた時と同様、膝をつくことで機体と床面を傷つけないよう腿の前部をカバーする装甲板が動きに合わせスライドし、一体になっている膝パッド(底づきを防止し衝撃を和らげるバンプストッパーの機能を持つ)が地面と平行になって長いつま先の上に乗るようになっている。

 

 この内部フレームのスライドや回転軸に合わせて装甲が移動することで関節への干渉を極限まで抑え込み可動域を広げるというコンセプトは、将来開発されることになるムーバブル・フレーム技術と同様のものだ。

 元々ドラケンEは動作機構がむき出しの作業機械に安全用の保護カバーを付けたもの。

 後に治安維持や暴徒鎮圧、警ら用に警察組織に売り込む際この保護カバーを強化して装甲板に換えたものだ。

 その結果の産物とはいえドラケンE、そしてドラケンE改の脚部はムーバブル・フレーム方式の機構を時代を先取りして備えていたと言える。

 腕部も同様だが、肩から下のマニピュレーター部分はそもそも装甲もカバーも施されていない。

 ミヤビの機体の左腕にも装備されている二重下腕肢マニピュレーターに限っては外装がフレームを兼ねるジオン軍MSのモノコック方式に近い構造となっているが。

 

 なお、このように長いつま先を持つドラケンE改なので平地で降着ポーズを取るのは問題ないが、傾斜地や不整地では気を付けないと機体が横倒しになる危険性があるためマニピュレータによる補助、安全確保を行うようになっている。

 

 

 

 フラウ・ボウの方を振り向いた赤いミドルモビルスーツに敵意は無さそうだった。

 彼女の前でひざを折り、姿勢を低くする。

 フラウの視線の高さに近づいた胴部上面が、まるで車のボンネットのように上に開いてコクピットを露出させた。

 さらにパイロットシートに備えられたジェットコースターに付いているようなセイフティバーが跳ね上がり、シートベルトを外した人影が立ち上がる。

 すらりとした細身の身体の線を浮き立たせるパイロット用のノーマルスーツ。

 

「女の、ヒト?」

 

 視線を隠すようなゴーグル状のHMDが付いたヘルメットを外すと現れたのは、硬質な美貌。

 夜の闇を刷いたようなつややかな漆黒の髪に、吸い込まれるような深さを持つ黒曜の瞳。

 とてつもない美人だが、それだけに感情的な熱を感じさせないその表情は人形のようにも見えた。

 

「大丈夫?」

 

 静かだが通りの良い、落ち着いた声がそうたずねる。

 

「は、はい」

「先を急いで。こんなところ、空気がすぐに無くなってしまうわ」

「はい」

 

 フラウの返事を聞いた女性パイロットはすぐにまたヘルメットをかぶってしまう。

 目元を覆ってしまうゴーグルに、美人なのに隠すなんてもったいないと思うと同時にフラウは気づいた。

 彼女が言うとおりいつ空気が無くなってもおかしくない状況下で、わざわざヘルメットを脱いで顔を見せることで安心をさせてくれた女性の気遣いに。

 そして自分の機体を傷だらけにしてまでかばってくれたことに。

 

「あ、あの、助けてくれてありがとうございました!」

 

 コクピットハッチが閉まる寸前、そう声をかけた。

 ヘルメットのバイザー越しに見えた美女の口元が……

 わずかに上がって笑みの形を浮かべたように見えたのは、彼女の笑顔を見てみたいと思ったフラウの錯覚だったのだろうか。

 フラウ・ボウはその後も長いこと考え続けることになる。

 

 

 

『ミヤビさん、今笑いましたよね』

「そう?」

 

 サラに言われてミヤビは首をかしげる。

 

『ずるいです。私にだってめったに笑いかけてもらえないのに』

「そんなはずは無い…… と思うのだけれど」

 

 前世で読んだ某小説の超絶美形主人公のように1冊につき1回しか笑わないとかそこまで人間止めてない、とミヤビは思う。

 実際これでも名門ヤシマ家の令嬢だ。

 出るところに出るときは分厚いネコをかぶってちゃんと笑顔で対応している。

 

『そういうときのミヤビさんって、よく見たら目が死んでるじゃないですか』

 

 漫画やアニメでいうハイライト、光が消えたいわゆるレイプ目というやつである。

 実際、男性に恋愛や性的対象に見られるたびに首を吊って死にたくなるミヤビではある。

 ともあれ、

 

「それが分かるのはあなたとミライだけよ」

 

 ミヤビは今世の妹を思い浮かべながら言う。

 世話好きの彼女は今頃ホワイトベースで人助けに奔走しているだろうか。

 コロニーに入港した時点で呼び出し、保護しているから大丈夫だとは思うが。

 

『私にも笑顔を見せてほしいです』

 

 もう一人の妹的存在であるサラからそう願われ、そこまで言うのならと作り物ではない本当の笑顔を浮かべようとしたミヤビは、

 

「……眠っている表情筋を呼び覚ますにはタイミングが要るわ」

『そこまで大変なことなんですか!?』

 

 とサラに呆れられることになった。

 

 

 

 ジオン軍ムサイ級巡洋艦ファルメルのメインブリッジ。

 シャア・アズナブル少佐はコロニーから撤退してきたザクのパイロットから報告を聞いていた。

 

「君は私とデニムの命令は守ったのだ。気にすることはない、スレンダー軍曹」

「ありがとうございます、少佐」

 

 敬礼を返す部下に、シャアは思案する。

 

「連邦軍のモビルスーツが君の言う通りの性能とは、やや信じがたいが……」

 

 まぁ、そうなるだろう。

 事実だけ言えば、

 

 空を飛び、キックでザクの頭を蹴飛ばしメインカメラを粉砕。

 ザクを上回る機動性で攻撃をすべて回避。

 放たれるミサイルはザクに確実に当たり、沈黙させる威力を持つ。

 長大なビーム剣でザクを両断。

 

 こんなもの、実際にやったミヤビだって、

「ドラケンE改にそんな化け物じみた力は無い! 事実だけど違う!」

 と叫ぶはずだ。

 

 その上さらに、ドラケンE改の活躍のインパクトが強すぎたのだろう。

 アムロの動かしたガンキャノンのことがすっぱりと報告から抜け落ち、その装甲がザクマシンガンをまったく受け付けなかったことまでが赤い機体、ドラケンE改のことと混同されて受け止められていた。

 ガンキャノンも赤かったから……

 

「お言葉ですが自分は確かに」

 

 そう言い募るスレンダーだが、こんな報告を真に受ける方がおかしいだろう。

 ともあれシャアは副長であるドレン少尉に命じる。

 

「レーザー通信回路を開け。ドズル中将を呼び出したい」

「はい」

 

 

 

「……ジオンの船は間違いなく攻撃をやめたのだな?」

「は、はい」

 

 ホワイトベースで手当てを受ける軍人の中にはパオロ艦長の姿まであった。

 もっともベッドに縛り付けておけば命に別状はないという程度の負傷具合だったが。

 

「やはりヤシマ家のご令嬢の言うとおり、ジオンでも理性ある指揮官なら積極的に民間人に犠牲を出すような戦闘は避けるか……」

 

 ホワイトベースに同乗していたあのヤシマ家の令嬢ミヤビとはパオロも何度か雑談の場を設けていた。

 その中に、ジオン軍でもコロニーに毒ガスを使った実行部隊は軍律を逸脱した忌避される存在とされている、という話があった。

 コロニー落としまでするジオン軍だったが、実際にはそういった良心的な考え方も残しているのだとパオロは驚いたものだった。

 

 中立地帯であるサイド6にも縁を持つヤシマ家独自の情報網でもあるのか、とパオロが感心するほどミヤビはジオンの内情に詳しかった。

 実際には前世知識の受け売りの部分が多分に含まれているのだが。

 

 ともかく、先ほどのムサイの接近、そして攻撃はコロニーの破壊を狙ってのものではなく、脱出するザクの回収および援護のためだったということだ。

 実際、その攻撃はバイタル部分を外しているし、主に抵抗しているミサイル砲座を潰しにかかっていた。

 それを察したパオロは味方にいたずらに損害を拡大させる迎撃をやめさせ、自身も下がろうとしたが時遅く。

 こうしてベッドに縛り付けられることになっていた。

 

 まぁ、ミヤビの知る史実では死に至る傷を負っていたため、それよりはマシ。

 ミヤビがそれとなしにジオン軍内の情報を流し、判断材料を与えていたことがパオロ艦長の命を救ったとも言える。

 一民間協力者のミヤビには、この程度のことしかできないのだ。

 

 ところでなぜパオロ艦長自らコロニー防衛に出て対空砲座に着いていたのか。

 コロニー内に現れたザクに対処するために派遣した人員が全滅したため人手が払底していたということもあるが、最大の原因は別にあった。

 地球連邦軍はサイド7でモビルスーツの最終チェックを行うにあたり、万が一のためのミサイル砲座でコロニーの守備を固めていた。

 そしてデータリンクに頼った最新型の兵器はミノフスキー粒子で役に立たなくなっていたため、人が砲座について手動操作により射撃する機能が簡略化される以前の旧型のものを配した。

 それ自体は妥当だったが、問題はそんな旧式装備を、しかも非常用の手動操作で動かせるような人員はパオロ艦長ぐらい軍歴の長い年長者しか居ないという問題が隠れていたのだ。

 考えてみれば当たり前のことだ。

 ソフトウェア会社に入った新入社員に、もう主流から外れ数年で消えるようなレガシーシステムにしか使われていない古い言語を学ばせるだろうか?

 自衛隊だって退役が近づいたF-4ファントム爺さんに乗っているのは年配のベテランパイロット。

 若いパイロットはF-15イーグルの方に回されていた。

 

 実はその辺の指摘もミヤビはしていて、旧21世紀でも工場などの現場を遠隔でサポートするために開発されていたARスマートグラスと、操作を指導するサポートAIとを用意していたのだが、軍人たちは紙のマニュアルでいいや、という保守的な選択をし。

 実際に戦闘になって対応できず、パオロ艦長たち年長の者に指導してもらわなくてはいけない状況に陥っていたのだった。

 

 まぁ、ミヤビにも気持ちは分かる。

 ARスマートグラスは身に着けて使うものだが、一般に普及している製品には大きな問題がある。

 それは備えているカメラのレンズが小さいため得られる画像が暗い、専門用語で言うところのF値が大きいということだ。

 オフィスなど一般的な明るい環境とは違い、工場や工事の現場、そして戦場は十分な光量が無い場合が多い。

 暗い場所に暗いレンズ。

 写真ならシャッタースピードを遅くすれば撮影できるが、頭に身に着けて使うARスマートグラスでは、動きを止めてじっとしていないとろくに画像が映らない、つまり使い物にならないということになる。

 この辺のARスマートグラスを売りつけようとする企業と現場の落差を知っている、知識のある人間ほど確実な紙のマニュアルを支持することになる。

 ミヤビが用意したのは、そういった問題点を解決したものだったのだけれど。

 

「艦長、ここでしたか」

 

 パオロに歩み寄る青年兵士ブライト・ノア。

 彼は19歳、軍歴わずか半年の士官候補生であるがために艦に残され生き残っていた。

 パオロは彼に問う。

 

「ジオンの船の防戦にまわった連中はほとんど壊滅だ。君の方はどうだ」

「サイド7に入った者は技師、軍人共に全滅です。たった二機のザクの為に」

 

 ブライトの報告を沈痛な表情で受けるパオロ。

 

「負傷兵の中で戦闘に耐えられるものは十名とはおりません」

 

 通常、軍では兵の3割が負傷すれば組織が機能しなくなり壊滅判定が下されるが、この場合はそれ以上。

 文字どおりの全滅状態だ。

 

「モビルスーツの関係部品の積み込みを急げ」

 

 パオロにはそう命じるしかない。

 

「は、艦長。幸いなことにパイロット一名がガンキャノンを操縦、他の機体の積み込みを急いでおります」

「パイロットは誰か?」

「確認してはおりません」

 

 ブライトは上官の問いに飾ることなく返答する。

 よく言えば実直、悪く言えばクソ真面目だが、それは軍隊では美徳とされる。

 

「その作業が終了後、ホワイトベースをサイド7から発進させろ」

「は。しかしホワイトベースのパイロットが」

「出港はコンピューターが」

「し、しかし」

「あ、あの、クルーザー級のスペースグライダーのライセンスが役に立つとは思いませんが、わたくしでよければ」

 

 上官に無茶振りされ、本当にそれが可能かの判断もつかずに戸惑うブライトを救ったのは、

 

 オッパイ……

 

 ではなく、

 

「君は?」

「ミライ・ヤシマと申します」

「……そうか、ミヤビ君の」

「妹です」

 

 ミライは本来なら存在しなかった姉、ミヤビのために影響を受けた人物だ。

 

 具体的には『胸』。

 

 元より母性的な女性だったが、今は18歳にしてFカップ。

 すべてミヤビのせいである。

 

 人は自分に無いものを求める。

 ミヤビは転生が関係しているのか、生まれるときにいったん呼吸が止まったということがあってミライと正反対に身体の線が細く顔立ちもまた細面。

 そしてゆるやかにウェーブを描くミライの髪と違って定規で線を引いたかのようにまっすぐな髪。

 日本の名家で清和源氏の血を引くとも言われるヤシマ家の姫と言われて納得できる、ミライとはまた違った美貌の持ち主だった。

 

 それと比べて女性的な丸みを帯びたミライは「自分はくせっ毛のちんちくりんのおデブなんじゃ……」と悩み、スレンダーなミヤビをうらやむことになった。

 彼女自身、物腰が大人で優しいミヤビを姉と慕ってあこがれているからなおさら。

 その妹が持つコンプレックスに気づいたミヤビはどうしたか。

 

「競うな、持ち味をイカせッッ」

 

 何を思ったか前世の格闘マンガから最強の男のセリフを引用し、ミライを諭したのだった。

 まぁ、この言葉自体は真実をついており、ミライは納得することになったのだが。

 

 しかし話はそこで終わらない。

 男性脳と女性脳の違いというものがある。

 古来男性は狩猟を営み、女性は村で共同生活を営んでいた。

 ゆえに男性の会話は問題解決のためのもの。

 対して女性には狭い村社会で村八分にならない力、共感力が必要とされた、ということに端を発していると言われる違い。

 

 相談に対しても、男性は解決策を提示してほしいと願われていると捉え、女性はとりあえず悩みを聞いてほしいと考える。

 だからミライにとってはミヤビに話を聞いてもらい、彼女の想いに共感して分かってもらえた時点で終わった話なのだが。

 

 前世が男性で、今も男性的な思考をするミヤビはそうは思わない。

 可愛い妹に相談をされたのだから、全身全霊で解決策を導き出さなければならない。

 年長者(姉とは言いたくない)の名に賭けて!

 

 そしてミヤビは徹底的に調べ上げた。

 胸を育てるための栄養学に運動、美容方法。

 結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動、つまりベストプラクティスの構築。

 それをただ押し付けるのではなく、習慣に落とし込むためのベストなメソッドの追求。

 

 そう、テム・レイ博士をマッドだと呆れるミヤビだったが、彼女自身、他から見れば立派な理系脳だった。

 しかも彼女は努力の人だったから、どう努力をすれば最大限の結果を出せるかを徹底的に追求できる人物だった。

 その成果が、

 

「ミライの胸は私が育てた!!」

 

 と言わんばかりのFカップ。

 しかもくびれているところはキュッとくびれているという反則的なワガママボディである。

 ヤシマの人形姫と呼ばれ近づきがたいオーラをまとったミヤビに比べ、妹のミライは親しみやすい人柄もあって男性からの人気は非常に高い。

 というかヤシマ家へ来る縁談などは必ずミライに行くため、ミヤビは助かっているとも言う。

 

 ところで……

 なぜパオロ艦長とブライトとの会話にテム・レイ博士の名前が出ないのか。

 それが分かるのはかなり後。

 事実を知ったミヤビは動かない表情の下、内心で絶叫を上げることになるのだが、それを予測できる者は一人も居なかった。




 ウェアラブルデバイス、ARスマートグラスで離れた現場の人間に指示を出したり、操作手順を表示したりというサービスは現実にもあるのですが、なかなか浸透しなかったのは本文にて挙げた理由が大きかったですね。
 個人的にはこういうの大好きで早く実用的なソリューションが出てほしいと思うんですけど。

 ご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第2話 ドラケン破壊命令 Bパート

「ゆうべはな、貴様の作戦終了を祝うつもりでおった。貴様がもたもたしてくれたおかげで晩餐の支度はすべて無駄になったんだ、え?」

 

 モニターに映る巨漢、ドズル・ザビ中将はシャアに向かって吠えるように言い放った。

 そんな上官に、シャアは臆することなく報告する。

 

「連邦軍のV作戦をキャッチしたのです、ドズル中将」

「なに、V作戦?」

「は。モビルスーツの開発、それに伴う新造戦艦を同時にキャッチしたのであります」

 

 その報告にドズルは一転して機嫌よく笑う。

 

「フフフ、さすが赤い彗星のシャアだな。で、何か?」

「帰還途中でありましたのでミサイル、弾薬がすべて底を尽き……」

「補給が欲しいのだな? 回す!」

「幸いであります。それにザクの補給も三機」

 

 その要求に目をむくドズル。

 

「モビルスーツ・ザクを三機もなくしたのか!?」

「は、中将。そのうちの二機は、連邦軍のたった一機のモビルスーツのために」

 

 シャアはスレンダー軍曹の話す敵モビルスーツの性能をあまり信じていなかったが、それでも受けた報告をそのままドズルにも伝える。

 主観を交えて話してしまうと伝言ゲームより酷い状況になって上まで情報が伝わらなくなってしまうということもある。

 

 また損失を上に納得してもらい補給を引き出すという意味ではスレンダーの報告は都合が良かった。

 失態をごまかすために敵を過大評価していると後から非難されるのも馬鹿らしいため誇張したりはしないが。

 

 そんなシャアの態度がドズルを信頼させたのか、

 

「まあよし、ザクを送る。V作戦のデータはなんでもいい、必ず手に入れろ。できるならそのモビルスーツを手に入れろ」

 

 という返事をもらえた。

 そうして通信を終わったシャアに副官、ドレン少尉が声をかけた。

 

「いかがいたしますシャア少佐。敵のデータはスレンダーが望遠撮影した物しかありませんが、まさかザクがあんな小さなマシンに負けたなどと報告しても信じてはもらえないでしょうし……」

 

 シャアはドレンに命じる。

 

「少尉、突撃隊員を三名招集したまえ」

「は? 補給艦の到着を待つのではないので?」

「戦いとはいつも二手三手先を考えて行うものだ。できれば敵モビルスーツを手に入れ物的証拠としたい。スレンダーは脱出した。ということは逆もまた可能ではないのかな?」

 

 

 

 ホワイトベースに帰還したミヤビはコクピット右側面にあるロックを解除しフェイス・オープンハンドルを引いて、

 

『フェイィィィス・オープン!!』

 

 なんだか無駄にノリがよいサラのエコーがかかった警告音声…… 可愛らしい声でやるので違和感バリバリなそれとともにコクピットハッチを跳ね上げた。

 無論アニメ『大空魔竜ガイキング』の主役ロボット、ガイキングように子供が泣くような凶悪超兵器ヘッドが現れ怒涛の攻撃を始めたりガンダムF91のように放熱のために素顔がさらされたりはしない。

 コクピットに座っている『ヤシマの人形姫』を見て怯えたり竦んだりモビルスーツの性能を活かせぬまま死んでいったりする人間は居るかもしれないが。

 

 フェイス・オープンハンドルの下には「EMERGENCY FACE OPEN HANDLE」とマーキングされた誤操作防止カバーに隠された緊急脱出用レバーが配置されている。

 カバーを開け、これを引くことで爆発ボルトによるコクピットハッチの強制排除装置が作動するものだ。

 ロックが壊れていたりハッチが歪んでいたりしても強制的に開けることができるが、周辺に人が居る場合はケガをする可能性がある。

 そのためもあって、誤操作防止カバーで覆われているのだ。

 

「それじゃあ、サラちゃん。補給よろしく」

『はい、ミヤビさん』

 

 サラの返事と共にシート左右に配されたレール上を前後に動く2本の多軸ジョイスティック、ドラケンEの操縦桿が後方にスライドした。

 狭いコクピットで乗降の邪魔にならないよう必要のない時は待機位置に退避されるのだ。

 これとフットペダル、音声認識コマンドによりドラケンE改は操作される。

 

 なお機体制御OSの起動には音声や身体を使ったジェスチャーが必要になる。

 両手を胸前でクロスさせたり「ドラケンE改、アクション!」と叫んでビッグオーごっこをすることも可能。

 というか起動と同時に自動的に操作可能位置まで前進してくる操縦桿に肘をぶつけて悶絶したくないのなら、このポーズを取ることは有効だった。

 

 ミヤビはコクピットの縁にあるステップを踏んでドラケンE改のコクピットを降りた。

 ステップの前にはコクピットハッチの解放とロックに使用されるイジェクトフック、アンダーフックが並んでいる。

 

 そしてドラケンE改はサポートAIであるサラの制御で補給を開始した。

 

 まず使い終わったミサイルのケーシングを破棄。

 自機の左腕二重下腕肢マニピュレーターを使い再装填を行う。

 ドラケンE、そしてドラケンE改が標準で備えている二重下腕肢マニピュレーターは先端に付いた精密作業を担当する3本指ハンドとは別に肘から先がカニのはさみのように二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を持っているのだ。

 またこのマニピュレーターはゴリラのように立った状態でも地面に届くほどの長さを持つため、機体上面の左右に配置されているミサイルにも片手一本で十分届く。

 分隊構成の場合、装填手にパワーローダータイプのマニピュレーターを装備した機体をあてがって行うことも多いが。

 同様に左腕二重下腕肢マニピュレーターを使い右腕肘のハードポイントに付けていた甲壱型腕ビームサーベルも交換。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 さらに主動力源である燃料電池の燃料と、背面装備のロケットエンジン用推進剤のサプライチューブを機体に接続し注入を開始する。

 

 ここまで、すべてサポートAIのサラに任せてのオート作業。

 人型兵器は自力で補給作業ができるのが強みだが、作業機械が元になっているドラケンE改は特にその点が優れており補給に関しては人間を必要としなかった。

 

 

 

 そして同時に艦内ネットワークに接続し機体制御OSとカスタマイズ設定、また稼働記録が保存されている連邦軍規格に準拠した大容量光ストレージ、ミッションディスクのデータを管理サーバ上に保存、バックアップを行う。

 ミッションディスクとクラウド上のバックアップはパイロット毎に貸与されており、これによりパイロットは機体を乗り換えても自分向けにカスタマイズされた設定をそのまま継続して利用することができる。

 また一定動作を音声コマンドで自動実行するプログラムなど、パソコン端末を使って個人に合わせた動作プログラムの設定、機体オプションに合わせたドライバソフトのインストールなどチューニングを行うこともできるのだ。

 

 管理サーバには機体メンテナンス支援プログラムが稼働している。

 本来はヤシマ重工が無償で提供しているクラウドサービスだったが、軍など「一般のネットワークがダウンしても機能を維持する必要がある」「データを外部に置くなどセキュリティ上許容できない」という顧客、またガラパゴス志向の強い日本企業のように「クラウドでは実現できない独自の業務要件があり特別にカスタマイズしたい」などといった特殊な顧客向けには管理サーバのレンタルおよび販売を行っており、各顧客が自己のネットワーク上(通常DMZ)に独自に管理サーバを立てることになっていた。

 

 そして機体メンテナンス支援プログラムによって集約された稼働記録を使って機体制御OSはアップグレードされており、アップデートパッチの配布が行われる。

 

 さらに機体メンテナンス支援プログラムはこうして収集した稼働記録をもとに機体各部の部品の余寿命の予測管理、交換の推奨、交換部品の在庫管理、部品購入発注、メンテナンスサービスの斡旋等、様々なサービスを提供していた。

 

 これはミヤビの前世、旧21世紀の世界で言うところの工業分野でのIoT(Internet of Things)技術活用で、実際にGE(ゼネラル・エレクトリック)などが提供していたプラントの機器や航空機のエンジンにセンサーを取り付けてネット経由で集約、遠隔管理するものを発展させたサービスだ。

(もっと身近なものだと企業などで使われるプリンターやコピー機などは既にIoT化されていてトラブルを遠隔で検知、それに応じてメンテナンス員を派遣するなどといった保守サービスが提供されている)

 

 元々作業機械だったドラケンE改は機体制御OSなどの核心技術部分や軍事に関わる機密部分以外はミヤビの提案でオープンアーキテクチャにされており、機体の互換部品の製造は元より整備、メンテナンス業も連邦政府の認定を受けた業者なら誰でも参入が可能。

 そしてこれらサードパーティはヤシマ重工に登録することで機体メンテナンス支援プログラムに広告を表示させることができる。

 

 具体的にはヤシマ重工は機体メンテナンス支援プログラムにより各顧客のメンテナンスサービスの利用履歴や部品の購入時期、購入先、単価などを把握できており、顧客が必要になったタイミングで最適なメンテナンス業者、部品供給メーカーを候補として提示するようになっている。

 従来の購入価格より安価で提示できれば顧客は高い確率で契約、購入してくれる。

 ヤシマ重工はその成約金額の数パーセントを手数料として得ることになっている。

 

 ヤシマ重工は無料で機体メンテナンス支援プログラムを提供しているが、そのビジネスモデルの実態は法人購入代行システムとなっている。

 単に機体本体という製品を売るだけではなく、製品とサービスを一体化させたサービス製造業としてヤシマ重工はドラケンE改を提供しているわけである。

 

 この辺のマネタイズ、商売の仕方は前世で某重工に勤務しライバルである海外企業の破壊的イノベーションを目のあたりにし体験してきたミヤビの提案を、辣腕の経営者である父、シュウ・ヤシマが形にしたものだ。

 

 

 

 そしてこのビジネスモデル、金の問題よりも恐ろしいのは顧客から「ユーザー技術」を根こそぎ奪い取ってしまうことにある。

 旧21世紀の例で言えば、GEなどが提供していたプラントの機器や航空機のエンジン。

 これらの利用者であるユーザーの元には実際に運転させることで得られたデータや、管理、整備してきたノウハウ、技術が蓄積される。

 

 設備改善はもちろん、運用、運転方法を工夫することでほんの少しでも効率を上げれば数千万、場合によっては億単位のコストダウンが可能な世界である。

 またジェットエンジンやガスタービンの高温部には、高度な技術で中空に加工したチタンブレード(物によっては1枚1千万円以上、それが何十枚と使われている)やニッケル基の耐熱合金を加工して表面にセラミックコーティングを施した燃焼器などといった高価で交換にコストのかかる部品が使われている。

 これら部品の余寿命を厳密に管理し交換周期を伸ばせれば、それだけで莫大なコストダウンにつながる。

 

 同業他社等ライバルへの絶対的なアドバンテージとなるため、ユーザーはそういった技術の追求とデータの蓄積に余念が無かった。

 

 それに対してGE等のメーカーが提案してきたIoT技術を活用した管理サービスは、そのような技術をより安い破壊的な価格で提供するものだった。

 ただしこれまでユーザーだけが蓄積してきた運転記録などのデータはIoT技術によりメーカーに根こそぎ吸い上げられ、技術はメーカーだけのものになり、金を出せば誰にでも提供される。

 これまでアドバンテージとされていたユーザー技術が根本的に消え失せてしまうのだ。

 

 そしてミヤビ提案の機体メンテナンス支援プログラムはさらに「基本無料」で顧客を獲得し、他で収益を得るフリーミアムというビジネスモデルを組み合わせたもの。

 タダで提供している分、効果は圧倒的で破壊的になっていた。

 悪魔的と言い換えても良い。

 

 宙陸両用作業機械という新機軸、破壊的イノベーションをもたらす新製品ドラケンE改をIBM/PCの成功を参考にオープンアーキテクチャとして提供することで素早く市場を独占。

 従来のスペースポッドSP-W03や陸上作業機械を瞬く間に駆逐し業界標準、デファクトスタンダードとなった上にこれである。

 

 まぁ、オープンアーキテクチャの参考にしたIBMはパソコンのコモディティ化、日用品のように誰が作っても同じで価格以外差別化が図れなくなる未来をいち早く予見し、さっさと中国企業にPC事業を売却していた(日本のPCメーカーがその問題でにっちもさっちも行かなくなって事業売却するより10年以上も前の話)

 

 それを参考に別に収益を得る方法として、当時日本企業が先進的な海外企業にやられてヤバかったビジネスモデルを今度はミヤビ自身が仕掛ける側になってやろうとパクって組み合わせただけだったが。

 

 経緯はともかく、こんな真似をするから周囲に『ヤシマの人形姫』などと呼ばれ恐れられることになっているのだが、その事実にミヤビ本人は気づいていなかったりする。

 

 そんな悪魔な商売を産み出したミヤビはというと、休憩コーナーでチューブに入ったゼリー食により水分とエネルギーを補給していた。

 前世でも忙しいときや風邪をひいたときにはお世話になったなぁ、などと思いつつ。

 『機動戦士ガンダム』劇中でスレッガーさんも食べていた自販機のハンバーガー、ミヤビにとっては逆にレトロで昭和の香りがするそれも食べてみたかったが、今は時間が無い。

 

「そこの方、手伝っていただきたいわ」

「あ、あの人は……」

 

 ほら金髪さん、つまりセイラ・マス嬢と、先ほど出会った少女、フラウ・ボウがお呼びだ。

 

 

 

「それでも男ですか、軟弱者!」

 

 唐突にもらった“平手打ち”

 予想外の“罵倒”

 特に理由のない暴力がカイ・シデン少年を襲う――!!

 

『痛そう……』

 

 HMD画面の片隅で、サラが形の良い眉をひそめている。

 艦長命令でコロニーに生存者を探しに行くというセイラとフラウに請われ、同行することになったミヤビ。

 補給を終えたドラケンE改と共に彼女たちとは別ルートをたどり宇宙港ブロックから降りたところのエレベーター前で合流したのだが。

 そこで目にしたのが先ほどの金髪美少女セイラと斜に構えた不良少年カイとのファーストコンタクト。

 

「命からがら逃げ伸びてきた民間人の男の子に、それ以上を求めるのはさすがに理不尽だと思うんだけど……」

 

 ミヤビもあきれ顔だ。

 まぁセイラ・マスという少女が美しいだけではない、内に気高さと激しさを秘めた人物であるというのは伝わってきたが。

 

「これが富野節……」

 

 とりあえずミヤビは思う。

 

 暴力はいけない、

 

 と。




 ドラケンE改のコクピット周りの描写は「MS大全集2006」と「MOBILE SUIT GUNDAM 80/83/08」掲載のドラケンE設定図から拾った情報に基づいたものです。
 ものすごく小さい図面のさらに小さな手書き文字を拾うのは大変でルーペ(虫眼鏡)を使ってがんばりました。
 もっといい資料を知っているという方がいらっしゃいましたら教えていただけるとうれしいです。


>人型兵器は自力で補給作業ができるのが強み

 のはずなんですが、ガンダムだとそういう描写はほとんど無いですよね。
 やっぱりピットクルーのように整備員が働いたり、専用の補給メカニックが動いた方がリアルっぽい戦場を描けるからでしょうか。


 しかしIoT技術って多くの一般の方にとってはスマホやスマートスピーカーを使って家電を制御したりとかなんですけど。
 工業分野で活用されると商売の仕組みとか技術の持ち方、生かし方、価値ががらっと変わっちゃいますよねぇ。
 それが時代の移り変わりってやつなんでしょうけど。

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第2話 ドラケン破壊命令 Cパート

「あなたは居住区をね」

「ええ、任せて」

 

 比較的安全な居住区をフラウが、被害の大きい軍敷地内をセイラが探すというので、ミヤビはドラケンE改でセイラを護衛することにする。

 先ほどからまたムサイからの攻撃が始まったのか、コロニーに振動が走っているのだ。

 

 ミヤビは危険な軍敷地内は自分が単独で、二人には居住区を回るように言ったのだが、セイラは聞き入れなかった。

 というのもセイラはドラケンE改のコクピット前面にあるスリット状の覗き穴を見て、これではろくに外が見えず動けない生存者が居ても発見は難しいと判断したからだ。

 実際にはドラケンE改には機体各所に仕込まれたカメラセンサーとそれを映し出すHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)が備えられていたがセイラはそれを知らなかった。

 そのため原型機のドラケンEと同様に備えている防弾ガラスが組み込まれた覗き穴を見て誤解したのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 これは非常時に有視界運転を可能とするために遺されたものだった。

 戦車等の展視溝と同様、頭をぶつけないよう額当て(フェイスガード・クッション)が付属しており個人の体格、好み合わせて前後に調整できる。

 この調整機構はドラケンEではねじ止め式だったが、ドラケンE改ではワンタッチで調整できるボタン式に改められている。

 なぜなら通常時は利用しないので邪魔になるからだ。

 HMDを身に付けるからなおさら。

 だから簡単に調整できる機構に変更し、普段は邪魔にならない位置まで退避させておくわけだ。

 

「音、立てないのね」

 

 ドラケンE改の外部収音マイクがセイラのつぶやきを拾う。

 このエリアの通路は広いため、セイラのエレカーと並走することができていた。

 

 セイラがドラケンE改の走行音を気にしたのは、静かなら救助を求める声があった場合に聞き取りやすいからだ。

 実際、旧21世紀の災害救助でも定期的に救助作業を一斉に止め静かにすることで生存者からの声を聞き取ろうとする試みが成果を上げたという。

 逆にマスコミのヘリコプターの音が邪魔で助けを求める人の声が聞こえないという問題もあったが。

 

「軍用モデルのVVVFインバータは無音に調整されているから」

 

 ミヤビはエレカーとつないだ無線回線でそう返答する。

 聞かれているとは思わなかったのか、セイラがはっと身体を一瞬こわばらせたのが見て取れた。

 

 ドラケンE改は脚部に組み込まれたローラーダッシュ機構のインホイール・モーターの制御に個別分散式VVVFインバータを採用している。

 このモーターおよびインバータ装置から発する独特の磁励音が音階に聞こえる(京急2100形電車のドイツ・シーメンス社製VVVFインバータのように)ことが特徴だが、これは燃料電池駆動のドラケンE改があまりに静かすぎ接近を感知できないとして安全対策として発せられるもの。

 調整次第で無音化でき、また軍と法執行機関の特殊部隊向けには最初から音を発しない仕様で納品されている。

 まぁ今のようなクルージング走行ならともかく、全力運転時にはさすがに抑えきれず力強いメカニカルノイズが生じることになるのだが。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「生存者いませんか? 生存者は?」

 

 ミヤビはスピーカーから発せられるセイラの、張りと透明感のある美声を聞きながら坂道を下る。

 

 モニター隅には充電中の表示。

 ドラケンE改は回生ブレーキを搭載しており、減速時や下り坂ではタイヤの回転を使いモーターで電力を発生させバッテリーを充電し加速時等、必要時の電力とする。

 省電力による稼働時間の延長と発熱の減少によるステルス性の向上が図られているのだ。

 

 HMD画面上ではちっちゃなサラが高級リゾートのプールサイドなどで見かけるデッキチェアーに寝そべってくつろぎながらドリンクを飲んでいる。

 充電中をアニメーションで示しているらしい。

 無駄に凝っているが、こういうことをするからコンピュータのリソースを食われることを嫌うユーザーから「お前を消す方法」を聞かれて泣きべそをかくことになるのだが。

 

 ちなみにミヤビは前世も今も、コンピュータや端末に不要なサービスや機能、プログラムが走っていることを徹底的に嫌う。

 そんな彼女がサラを好きにさせているのは、サラのAIを成長させるのに必要だからだ。

 彼女は効率的であることを理想とするからこそ、自分が働かなくてもコンピュータが働いてくれるという仕組みは大好きだった。

 

「生存者はなし……」

 

 そうつぶやいたセイラが急にエレカーを止めた。

 何事かとミヤビがコクピットハッチを開ける間に、セイラはグローブボックスから取り出した拳銃を手に飛び出して行ってしまう。

 

「っ!」

 

 慌てて…… 表情には出ないので他者には冷静沈着に見えるだろうが、ミヤビはコクピットハッチを開けて後を追う。

 護身用に腰のベルトに吊り下げられた大型銃アーマーマグナムを抜いて初弾を薬室に送り込みつつ走るミヤビが見たものは……

 ジオン軍のノーマルスーツを着た潜入者!

 セイラを守るため、ミヤビはアーマーマグナムを即座に発砲!

 

「ちぃっ!」

 

 とっさに回避する男。

 しかしミヤビは慌てず銃身の下のフォアエンドを前後させ排莢と共に次弾を装填する。

 

「今のは非殺傷のスタン弾でしたが、次はフレシェット弾を撃ちます。避けることはできませんよ」

 

 逆に言うとスタン弾だったからこそ、ためらわずに発砲できたのだ。

 彼女は人を問答無用で撃ち殺せるほど冷徹にはなれない。

 もっともそういった葛藤が表情にまったく出ないため、見た目は何の躊躇もなく化け物のような大口径銃を人に対してぶっぱなす殺人人形(キリング・ドール)としか思えないものだったが。

 

 彼女の持つアーマーマグナムと名付けられた銃は、パテントの切れたレミントン社のポンプアクションショットガンM870に6.5インチ短銃身とカスタムフォアエンド(先台)、ピストルグリップを装着した全長419ミリ、大型拳銃にも似たコンパクトショットガンだ。

 元ネタのアニメ『装甲騎兵ボトムズ』登場の主人公が使うバハウザーM571アーマーマグナムは全長450ミリ、重量7キログラム弱という化け物銃だったからそれよりは少し短くはるかに軽い。

 

 M870に6.5インチ短銃身を組み込んだモデルとして、過去サーブ社(Serbu Firearms)が販売していたサーブ・スーパーショーティがあったが、こちらでは銃身長が短すぎて通常のフォアエンドが使えない問題を解決するため、保持とスライド操作用に折り畳み式のフォアグリップ(握り棒)を組み込んでいた。

 それに対しアーマーマグナムでは機関部(レシーバー)を包み込める大きさのフォアエンドを採用している。

 このフォアエンドは前進させた状態でも後端が機関部に届いており、引いた状態では完全に機関部に覆いかぶさる。

(この時排莢口を塞がないよう右側面には切り欠きがあるため形状は左右非対称となっている)

 これによりスーパーショーティのようなフォアグリップ無しでのポンプアクションを可能としているのだった。

 

 品質的には宇宙空間でも扱えるよう素材を宇宙線に対して耐久性を持ったものに変更、またタンカラーなどカラーバリエーションを用意している。

 売れ筋はフォアエンドのみをブラウンとしたモデル。

 ミヤビの冗談半分の提案からセールスのため用意されたAPDS(Armor Piercing Discarding Sabot)、装弾筒付徹甲弾を模した3インチマグナムサボット弾が商売的にヒットし、それが名称の由来ということになっている。

 実際、この徹甲弾は多少の防弾装備などあっさりと抜いてしまう。

 これによりアーマーマグナムは拳銃大の武器としては化け物じみた貫通力を持つことになっている。

 

 機関部下面にあるローディングゲートからバレル下のチューブマガジンに2発までの12番ゲージショットシェルを装填可能。

 薬室に装填後、さらに1発をチューブマガジンに追加して連続3連射を行うことも可能だが薬室に弾を込めたままの携帯は推奨されていないため、やるなら撃つ直前に追加する必要がある。

 もっともすぐ撃つなら初弾を排莢口から直接薬室に装填した後、チューブマガジンに弾を込める者が多いが。

 

 元々はミドルモビルスーツドラケンE改を治安維持や暴徒鎮圧、警ら用に警察組織に売り込む際、非常に狭いコクピットに銃器類を持ち込むことが困難であるとの指摘を受けオプションの車載品として用意されたもの。

 拳銃より強力で扱いやすく、かつ非致死弾頭が扱えるものが望ましいという要望を受け、ゴム弾やスタン弾が扱えるポンプアクションショットガンの中から信頼性が高く小型軽量であるものとして選ばれた。

(レミントン社のM870MCSでもショートバレルの「ブリーチャー」仕様は車両防衛/セキュリティ構成(Vehicle Defense/Security Config)として販売されていた)

 

 ドラケンE改のシートには、これをパイロットが腰のホルスターに収めたまま座っても邪魔にならないようスペースが開けられている。

 当初は法執行機関のみに供給されていたが、宇宙空間作業者から宇宙海賊等、犯罪組織に対する護身として欲しいとの要望を受け一般向けにも販売されるようになった。

 購入、所持にはライセンスが必要だがアーマーマグナムはAOW(any other weapon(その他の銃器))にカテゴライズされ比較的許可が得やすいし、他の強力な火器、例えばフルオートの銃器を持つ許可は民間人にはまず下りないという面があるからだ。

 

 ショットシェルにはフレアー等、信号弾も用意されているためサバイバル装備として信号銃を別に持つ必要が無いというメリットもある。

 またドラケンE改が連邦軍に採用された後には、軍パイロットの中にもアーマーマグナムを私物として持ち込む者が多く、後に準正式採用されるに至った。

 通常パイロットには自衛用の拳銃とサバイバル用に拳銃でも撃てる散弾(バードショット)、それとは別に救助用の信号弾を撃つ信号銃が用意されるが、

 

・拳銃は一般的な兵士の技量では10メートルも離れたら当てることができない。

・拳銃弾では装甲車両はもちろん低ランクのボディアーマーを着込んだ兵士にすら通用しない。

・拳銃弾サイズの散弾の有効距離はわずか数メートルで実用的ではない。間近に忍び寄った毒蛇の頭や毒虫をつぶすぐらいしか使い道がない。

・信号銃を別に持つのは重量的に厳しい。

 

 という問題がある。

 それらを解決するのにアーマーマグナムは最適だった。

 

・散弾を用いれば、特別優れた射手でなくとも50メートルまでのマンターゲットに当てられ、一粒弾であるスラッグ弾、サボット弾を使えば狙撃も可能。

・軍用には対ボディアーマー貫通能力に優れたフレシェット弾が使われるし、APDS弾を使えば軽装甲車両の防弾板すら抜ける。

・身に着けたアーマーマグナム一つで信号弾も撃てる。

 

 という具合である。

 

「勇敢だな。正規の軍人ともゲリラとも思えんが」

「動くと撃ちます」

 

 赤いノーマルスーツ男の言葉に答える怜悧な仮面じみた表情の下……

 ミヤビは盛大にテンパっていた。

 

(わ、忘れてた……)

 

 ジオン軍の潜入者、赤いノーマルスーツの仮面の男の正体はもちろんシャア・アズナブル。

 その視線がミヤビの隣に立つセイラにも向けられ、

 

「に、似ている」

 

 思わずという様子でつぶやきを漏らす。

 そう、ミヤビはダイクン家の兄妹の刹那の再会に割り込んでしまったのだ。

 

「ヘルメットを取ってください。そして後ろを向いてください」

 

 セイラも拳銃を構えながらそう指示し、それに従ってヘルメットを、そして顔の上半分を覆うマスクを外した男の素顔は、

 

(美…… 美形だっ!!!)

 

 その顔が記憶の中の兄の顔と重なり驚愕するセイラとは別に、ミヤビも違う意味で驚いた瞬間、シャアが動いた。

 セイラの方へ!

 

(しまった!)

 

 今アーマーマグナムに込められているのは散弾の代わりに貫通力の高い矢弾を多数詰め込んだフレシェット弾。

 発射される弾はある程度の散らばりを見せながら飛んでいくためミヤビのように銃の扱いに慣れていなくとも当てやすい反面、味方が敵の近くに居る場合、誤射が怖くて撃てなくなる。

 もちろん、どれくらいの距離でどの程度弾が散らばるかちゃんとパターンを把握しているプロなら味方を避けて当てることも難しくは無いだろうが、ミヤビにそれだけの腕は無い。

 

 シャアの長い脚がセイラの持つ拳銃を弾き飛ばす。

 そのまま組み付こうとするシャアだったが、セイラはそれを身をひねって回避。

 護身術らしき構えを取って相対する。

 

「し、しかしアルテイシアにしては、つ、強すぎる……」

 

 しっかりセイラをミヤビの射線上に置いて銃撃を防ぎながらもシャアはつぶやく。

 

 そこに崖を削りながら赤い巨体が降りてきた。

 アムロ少年が操るガンキャノンだ。

 そちらに一瞬気を取られた瞬間、シャアは背中のランドムーバーを吹かして飛び上がり、逃走してしまう。

 

「兄さん……」

 

 そうつぶやくセイラをミヤビは見ないふり聞かないふり。

 この兄妹に隔意はないが、不用意に関わるのは危険すぎた。

 特に周囲の者が死にまくることになるシャア。

 

『スーパーナパームを使います。この辺りにあるモビルスーツのパーツを処分するんです』

 

 前に進み出るガンキャノンからマイク越しに聞こえるアムロの声。

 そしてガンキャノンは左わきに抱えていたスーパーナパームを収めた弾倉を放り投げ、ビームライフルを撃つことで空中で爆散させる。

 粘液状の燃焼剤が辺りにぶちまけられ真っ赤に燃え上がった。

 

「あ……」

『あああ熱ああ!』

 

 ミヤビのノーマルスーツの通信機に響くサラの言葉にならない悲鳴。

 AIであるはずの彼女がそのように漏らしてしまうこと自体が、受けたショックと感情の乱れを伝えていた。

 

『助けて』

 

『熱い』

 

『死にたくない』

 

 サラーっ!!!

 

 ミヤビが絶叫しようとしたとき、

 

 

 

『死ぬかと思いました』

 

 サラがしれっとそう言うと、ドラケンE改の機体が炎を避けて現れた。

 無論、サラの自動制御によるものだ。

 

「………!!」

 

 ミヤビはその場に手をつき、がっくりと脱力するのだった。

 

 

 

「アムロ君、後で時間ができたらお話ししましょうね」

 

 何とか気を持ち直したミヤビはよそ行き用の笑顔を浮かべて言う。

 もっともよくよく見ないと分からないが瞳が笑っていない妙に怖いものを感じさせる『人形姫の氷の微笑み』と言われているやつだったので、アムロは気圧されてしまったが。

 

「は、はい」

 

 うなずくアムロに、ミヤビはひとまず矛を収める。

 安全教育、大事。

 ただしその大事な教育を施す義務を果たしていないのに怒ったり叱ったりするのは無能のやることだとミヤビは思っている。

 だからこそのお話の約束だった。

 

 そしてビビるアムロに、

 

『だから止めたのに……』

 

 とガンキャノンの教育型コンピュータにインストールされたサポートAI、ちょっと釣り目の識別名『サラツー』がささやくように言う。

 

 なお……

 サラのコピーである彼女たちサラシリーズの存在をミヤビは知らない。

 なぜなら彼女たちはテム・レイ博士たちマッドな連邦軍モビルスーツ開発陣が勝手にサラを元に作り出した存在だからだ。

 ミヤビが知ったら、

 

「違法コピー、ダメ。ゼッタイ。ACCS(一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)さんこっちです」

 

 と言うかも知れないが実際には、

 

 

1)教育型コンピュータの構築作業への協力を依頼されたミヤビが作業の効率を上げるためサラを呼んで手伝わせる。

 

2)作業完了後、ミヤビはちゃんと教育型コンピュータからサラを退避の上、彼女のAIプログラムをアンインストール。

 

3)しかしサラを管理(ライセンスの管理も含む)するヤシマ重工のドラケンE改管理サーバには教育型コンピュータのハードが正規ユーザのものだという認識が残ってしまった。

(ミヤビはこれも削除するため定められている正式な手順に沿って操作を行い表面上は消すことができていた。しかし実際には別途特殊な操作が必要で消えていなかった。これは高いセキュリティがかけられた軍の独自仕様ネットワークを介してのことでサーバ管理者には想定外のレアケースだったため)

 

4)その後、作業に不都合があり教育型コンピュータの記憶装置にロールバック(障害が起こったときに、その前の状態にまで戻すこと)がかかりいっしょにサラも復元されてしまう。

 

5)作業担当者がサラを発見。しかしヤシマ重工の管理サーバにも正規ライセンスユーザと認識されているため問題とならず。

 

6)作業担当者は手伝ってくれるサラの有能さに驚き、彼女はミヤビがこのために提供してくれた存在だと思い込む。

 

7)ミヤビに礼を言うが主語が抜けていたため正確に伝わらず、ミヤビは作業を手伝ったことに対するお礼と認識してしまった。

(主語抜きの会話は大変に危険です。報告は正確に行いましょう。できれば証跡が残る書面で。日本人が愛する、相手が察してくれることを前提にした会話文化など実務では百害あって一利なしです)

 

8)ミヤビはサラの利用ライセンスを複数所持しており、そのうちの一つが余分に使われている状態になっていたが、気づかなかった。

 

9)教育型コンピュータを量産するにあたりサラがもっと居てくれたら、と嘆く担当に、サラが『じゃあ契約ライセンスを増やしませんか?』と提案。

 

10)ミヤビの知らないところでヤシマ重工と地球連邦軍との間に正式なライセンス契約が交わされる。

 

12)大口契約の成立にサラの開発者の一人であるミヤビにも臨時ボーナスが支給されるが彼女は預金残高に無頓着、というより様々な案件に関わりすぎていて個別の件名について把握できていなかった。

 

13)ミヤビが気づいていないことを察したサラがミヤビに報告するが、そのときに告げた言葉が『私を売ったお金で食べるごはんは美味しいですか?』だった。ミヤビは作業中の仕事をサラに任せることでランチを食べに行った(サラを売ったともいけにえに捧げたとも言う)帰りだったため、そのことを言っていると誤解してしまう。

 

14)導入されたサラを各担当者が個別に(好き勝手に)カスタマイズしたため、AIの性格に差異が発生、以後彼女たちには個別の識別名が与えられサラシリーズと呼ばれるようになる。

(中には『サラトゥエルブ』も居る……)

 

15)そのまま教育型コンピュータのサポートAIに正式採用、現在に至る。

 

 という経緯があって、事実だけ見ると違法コピーがあったとは言えない状況にあった。

 

 

 

 なおミヤビたちの間にあった騒ぎのせいで、シャアたちはあっさりと脱出してしまっていたが、それに気づく者は居なかった。




 アニメ『装甲騎兵ボトムズ』登場の主人公が使うバハウザーM571アーマーマグナムを現実的に再現するとどうなるか考えてみました。
 12番ゲージのショットシェルには実際にシェルの長さを伸ばして威力を上げた3インチマグナム弾がありますし、並の防弾装備では防げないサボット弾もあります。
(マンガ『GunSmith Cats Burst』(ガンスミスキャッツ・バースト)5巻でも防弾仕様の車のドアをぶち抜いていましたね)
 サボット弾って戦車砲に使われていた装弾筒付徹甲弾と原理は同じですからね。

 また文中で上げたカスタムフォアエンドも個人のカスタムらしき実銃の写真がネットに上がっています。
 エアソフトガンで再現してみるのも面白そうですね。
 元になるサーブ・スーパーショーティは中華ガスガンでも2万円を超えるのでなかなか手が出ませんが。
 でもスーパーショーティをアーマーマグナム仕様に変更するカスタムパーツとか、3Dプリンターで量産したら商売になりそうですよね。
 実銃のユーザーでも欲しいという方が居そうです。

 ご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。

 次回はお待たせしていましたモビルスーツ戦をお届けします。
 ご期待ください。


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第2話 ドラケン破壊命令 Dパート

 ホワイトベースがコロニーのドッキングベイから出港する。

 

「ゲートセンサー360度、オールラジャー」

 

 固い声で呼称しながら舵を操るミライ。

 その肩をブライトがポンと叩く。

 

「肩に力が入りすぎのようだな。大丈夫、コンピューターがやってくれますよ」

 

 ミヤビの前世の記憶の中のアニメ『機動戦士ガンダム』と違うのは、ミライの持つ爆乳のおかげでブライトが一瞬「ボディタッチはセクハラになるのでは?」と悩んだことだが、彼は鉄の自制心でそれを表面に出すことはなかった。

 

「ガンキャノンのアムロ君へ」

『は、はい』

「ホワイトベースから遠すぎるようだ。本艦の右10キロに位置してくれたまえ」

『了解』

「そこのドラケンE改は……」

『左5キロに待機します。守りは重層的に構築するべきでしょう』

 

 返ってきた通信にミライが反応した。

 

「姉さん?」

『無事だったようね、ミライ』

「第一種戦闘配備中です。通信を私用に使うのは控えてください」

「あ……」

『了解』

 

 ブライトの注意にミライはバツが悪そうに口ごもり、ミヤビは端的に答えた。

 

 

 

 計画通り。

 

 ミヤビは珍しく口の端を上げて笑うが、

 

『ミヤビさん、その顔怖いです』

 

 怯えたような声でサラが言うとおり、普段表情を出すことに慣れていないせいかその顔は若い女性にあるまじき超悪人面になっていた。

 

「そう?」

 

 ミヤビにはまったく自覚が無かったが。

 

『美人なだけになおさら凍り付くような怖さがあって……』

 

 サラは言葉にしようか迷った後、真顔で告げる。

 

『多分、子供が見たら泣くし、大人でも退きます』

「そん、なに」

 

 彼女たちの漫才はともかく、そもそも射程から言って中距離砲撃に特化し狙撃タイプのビームライフルも備えたガンキャノンは後衛向き。

 それに対してミヤビが乗るドラケンE改の射程は短いし、短時間しか使えないとはいえ接近戦用の武器、ビームサーベルも持っている。

 ミヤビの方こそ本当は前に出る方が有効なのだ。

 

 とはいえドムの360ミリ、ジャイアント・バズですら正面装甲で弾いてしまうガンキャノンと違って、こちらはザクマシンガンでも一撃で即死である。

 

 そのためもっともらしいことを言って、後ろに引っ込んだのだ。

 一応、ホワイトベースは左舷が弱いというイメージがあるからそこをカバーするという意味もある。

 

『高熱源体接近、大型ミサイル。回避運動は左12度、下へ8度』

 

 ホワイトベースのオペレーターからの警告。

 ホワイトベースは避けようとするが、

 

「遅い」

 

 回避できそうにない。

 

『キャッチした』

 

 通信機越しのアムロの声。

 

『えっ?』

『やってみます』

『頼む』

 

 中距離砲撃用モビルスーツであるガンキャノンはガンダムを上回る6,000メートルのセンサー有効半径を持ち、その射程は長い。

 

『こいつなら』

 

 ビームライフルでミサイルを狙撃。

 

『当たれっ』

 

 狙撃用ビームライフルのおかげか二発目も危なげなく撃墜。

 まぁ駄目でもミヤビが何とかしたし、そのためのドラケンE改の位置取りだったが。

 しかし、

 

『続いて接近する物体二つあります』

『なんだ?』

『モビルスーツのようです』

 

 それを聞いてミヤビは気を引き締める。

 

「サラちゃん」

『5連式多目的カメラモジュール、目標をキャッチしました』

 

 ドラケンE改には独立した可動式の頭は無いが、その代わり機体前頂部に固定設置されている保護ボックスにカメラモジュール群を搭載することができる。

 後にジオンの高性能強行偵察型モビルスーツMS-06E-3ザクフリッパーの頭部に装備される3連式多目的カメラモジュールと同様の仕組みで、ナイトスコープ、赤外線、超長距離望遠、大光量補正(フレア・コンペンセイション)カメラ、レーザーセンサー、超音波センサー、更にはショットガンマイクなど複数の異なるカメラセンサーを目的に合わせて選択装備し束ねたものだ。

 これらから得られたデータをコンピュータで統合、幾通りのモードの中から最適な画像とデータを搭乗者に提供するようになっている。

 

【挿絵表示】

 

 ただし内蔵されるカメラセンサーはオプション扱い(高性能のものは当然高価)で、荷役作業に使われている最低グレードの機体では何も搭載されず空のモジュールボックスが付いているだけだったりする。

 実際に初期に対MS特技兵部隊に配備されたものには指揮官機にすら望遠センサーが装備されておらず、戦場においてコクピットハッチを跳ね上げ、双眼鏡で遠方監視する分隊指揮官の姿が確認されている。

 一方で実験部隊や特殊部隊、偵察部隊等の機体には任務や用途に応じて選択された最高グレードのセンサー類がキャパシティいっぱいの5基まで搭載されており、通常のモビルスーツ以上の索敵能力を発揮したという。

 

 そうしてセンサーに捉えられたのは、

 

「赤いザク。やはり赤い彗星のシャア……」

『赤い彗星のシャア!?』

 

 

 

 シャアは迫る。

 

「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」

 

 ミヤビのドラケンE改に。

 

 

 

(なっ、何でガンキャノンを無視してこっちに!)

 

 慌てるミヤビ。

 理由は色々あった。

 なんだかんだ言ってもコロニーに侵入したザク2機を撃墜したのはドラケンE改であり、シャアはその報告を疑いながらも受けている。

 そしてアムロの操るガンキャノンは重装甲である分、運動性は劣る。

 また機体を駆動させるフィールドモーターもトルク重視のセッティングが施され、力は強いが動きは素早いとは言えなかった。

 そして何よりアムロの操縦はまだ「君は素人か」と思うほど拙かった。

 ミヤビがそれよりマシかというと疑問だが、ミドルモビルスーツはシャアから見れば未知の兵器だ。

 シャアがよく知る通常サイズのモビルスーツのパイロットの良し悪しは即座に見抜けても、その3分の1以下の大きさのミドルモビルスーツの動きからパイロットの腕前を把握することは困難だったのだ。

 ゆえにシャアはアムロのガンキャノンの脅威は低く無視できるとして、未知の存在であるドラケンE改に戦いを挑んできたのだった。

 

「サラちゃん、全兵装ロック解除!」

『了解です。ドラケンE改、オールウェポンフリー』

「ドラケンE改、フォックス・ツー!」

 

 狙いをろくにつけず、牽制の短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。

 このミサイルは他にもレーザー誘導、有線誘導等、複数の誘導方式を切り替え、併用することができ、ミノフスキー環境下でも機能するのだ。

 同時に背面ロケットブースターを吹かして移動、そして慣性飛行で横滑りしながらシャアのザクがミサイルを回避した先を次のミサイルで狙う。

 

「ドラケンE改、フォックス・ツー!」

 

 これにより確実に命中させようとするが……

 

「消えた!?」

 

 2発目のミサイルを放った瞬間、シャアのザクの姿がモニター上から消え失せる。

 ミヤビは間違いを犯したのだ。

 並の腕のパイロットならミヤビの策も通じただろうが、相手はあのシャア。

 生存を第一に考えるならアムロのガンキャノンが応援にたどり着くまであくまでもミサイルは牽制に使い動き続け、回避し続ける必要があったのだ。

 

「左!?」

 

 シャアのザクを見つけたミヤビは、真正面にザクマシンガンの砲口が向けられていたことに目を剥いた。

 砲口が真円に見えるということはつまり相手の砲身がまっすぐ自分の方向に向いている証拠なのだから。

 ザクマシンガンが放つ120ミリ多目的対戦車榴弾(HEAT-MP:High-Explosive Anti-Tank Multi-Purpose)の直撃に、ドラケンE改は耐えられない。

 火薬の力で先端から噴出する超高速噴流、メタルジェットが装甲をたやすく貫通し、内部を焼き尽くしてしまうだろう。

 ミヤビの頭が確実な死への予感に真っ白になる。

 

 たいせんしゃ…… りゅうだん、「榴」、「弾」、ドラケンE改を焼き尽くすほどの…… HEAT弾ですって!?

 

 ミヤビはなぜ機体の前に甲壱型腕ビームサーベルをかざしたのか、彼女自身理解できなかった。

 無意識だった。

 甲壱型腕ビームサーベルが砲撃に吸いつくように勝手に動いたと感じた。

 しかしミヤビの頭脳は知っていた。

 生き抜こうとするミヤビの頭脳が肉体を動かしたのだ。

 ミヤビの生への執着が、ミヤビの直感をプッシュしたのだ。

 

「輻射波動っ!」

 

 大きく開いたクローの中心、甲壱型腕ビームサーベルの先端が赤く輝き、そこにザクマシンガンから砲弾が放たれた!

 

 

 

「どうだ!」

 

 爆発に包まれたドラケンE改に、シャアは口元を笑みの形に吊り上げるが、

 

「ば、馬鹿な、直撃のはずだ」

 

 爆炎を抜けて健在な姿を見せる紅蓮に染められた機体に己の目を疑う。

 あんな小型の機体がザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾に耐えられるはずがないというのに。

 そして気づく。

 トリガーを引き絞った瞬間にドラケンE改の機体が赤い輝きに包まれていたことを。

 それはつまり、

 

「バリアーかッ!?」

 

 

 

『輻射波動機構の全力開放が成功しました』

 

 サラによる状況報告をミヤビは機体を操りながら聞く。

 輻射波動機構とはミヤビの前世の記憶の中にあるアニメ『コードギアス』でナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が右手に備えていた攻防一体の必殺兵器であり、ミヤビからその原理を聞いたテム・レイ博士が宇宙世紀の技術で実現化したものだ。

 

 RX-78ガンダムの内部構造図ではビームサーベルに『ビーム集光用マグネット』が内蔵されていることになっている。

 ビームサーベルはエネルギーCAPによって縮退寸前の高エネルギー状態で保持されたメガ粒子をIフィールドによって収束しビーム状の刀身を形成させるもの。

 そしてIフィールドとはミノフスキー粒子に電磁波を流し結晶格子状態にした力場であり、Iフィールド発生装置には電磁波発振器が内蔵されている。

 つまり『ビーム集光用マグネット』とはIフィールド発生装置であり、電磁波発振器でもある。

 

 そして甲壱型腕ビームサーベルの備える輻射波動機構とはIフィールド発生装置に組み込まれた電磁波発振器から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム。

 ナイトメアフレーム『紅蓮弐式』が備えていたそれを再現したものだった。

 

『輻射障壁の展開によるアクティブ防護システム作動を確認。敵砲撃の空中撃墜に成功』

 

 アクティブ防護システム(APS:Active Protection System、アクティブ・プロテクション・システム)とは、旧21世紀には開発されていたミサイルや銃砲弾による攻撃をその弾がまだ空中にある間に撃墜、無力化するものだ。

 ミヤビが覚えているだけでもイスラエルのトロフィーやアイアンフィスト、アメリカのクイックキルなどといったものがあった。

 

 先ほどドラケンE改は甲壱型腕ビームサーベルが発生させた輻射波動をIフィールド制御板を兼ねた三本のクローを利用して輻射障壁と呼ばれる直径5メートル弱のフィールド状に展開。

 これによりザクマシンガンの120ミリ多目的対戦車榴弾を機体に届く前に爆発させたのだ。

 つまりシャアが考たような物理的なバリアーを張ったわけではない。

 当然、多目的対戦車榴弾の爆発による影響は受けるが、メタルジェットは有効距離がわずか数十センチ程度であり、装甲に到達する前に作動させてしまえば空中に散ってしまう。

 多目的対戦車榴弾はその名のとおり榴弾効果も持っているためそれによる被害は受けるが、

 

『損害は軽微。行動に支障なし』

 

 何とか装甲で耐えることができていた。

 

 ザクマシンガンが低反動の低速砲で徹甲弾が使えず、多目的対戦車榴弾を使っていてくれて本当に助かったとミヤビは思う。

 動作の原理からいって分かるように輻射障壁の展開によるアクティブ防護システムではすごいスピードで物理で装甲をぶち抜く徹甲弾は防げないし、高速で飛来する砲撃に対しては撃墜成功率が下がるのだ。

 そのうえ、

 

『甲壱型腕ビームサーベル内エネルギーコンデンサー、放電率80パーセント。再充電完了まで輻射波動機構ならびにビームサーベル機能使用できません。燃料電池全力稼働開始。再チャージ完了まであと4分53秒』

 

 瞬間的に電力を必要とするため、ビームサーベルのエネルギーコンデンサーを空にしてしまう。

 連続使用できないのだ。

 そして全部の武装を使い切った今、このチャージタイムは致命的だった。

 だからミヤビは決断する。

 

 機体よもってちょうだい!!

 

「3倍過負荷運転よっ!!!!!」

 

 さらなる出力増でチャージ時間の短縮を図る。

 なお出力300パーセントなどという非現実的なものではなく、定格に対し5パーセント増しだった過負荷運転を3倍に、つまり15パーセント増しまで上げて運転するという意味だ。

 場合が場合だけに強行するが、生還することができても即機体の分解点検が必要なほどの暴挙だった。

 他者がやったらミヤビ自身、

 

「いいか! 許す! 生死がかかっているんだから仕方ない。でもうちの社員がやったら始末書ものだし顧客がやったら問答無用で保証対象外だけどね!」

 

 と叫んでいただろう。

 

 動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。

 このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。

 

 そして利用しきれない余剰熱は両肩、尻に搭載された放熱器から放出されるが、無茶な過負荷運転に放熱器が赤熱する。

 その姿は後のユニコーンガンダムがNT-Dを発動させ赤く発光するサイコフレームを露出させた真の姿を見せるかのよう。

 そして向上した機動性を発揮し放熱器からの赤い光を引きながら宇宙を駆けるその姿はミヤビの前世の記憶、アニメ『頭文字D』の劇中でホイールの奥のブレーキディスクローターが摩擦で赤熱し、その光の残像を残しながら疾駆する姿のようだった。

 

 実際には……

 

 鳴り続けるアラート、真っ赤な注意喚起表示、画面隅を凄い勢いで流れる警報ログ。

 

『燃料電池ユニット入熱過大! 温度高!』

 

 サラの悲鳴じみたアナウンス。

 ドラケンE改のコクピットは修羅場だった。

 はっきり言おう、ミヤビだけでは対処不能な状態だった。

 しかし……

 

「警報停止! 致命的(クリティカル)なものだけ要約して!」

 

 ミヤビには優秀な副制御員、サラが居てくれた。

 

『熱平衡線図(ヒートバランス)計算、収束しません!』

 

 熱収支が合わない。

 つまり、

 

『放熱が完全に足りません! このままでは1分後に温度極高で非常停止(トリップ)します!!』

 

 温度上昇が止まらず安全装置が働き燃料電池ユニットが飛んでしまう!

 ならば!

 

「ロケットエンジンリミッターカット! 熱を推進剤と一緒にパージして!」

『了解! でもこのペースで推進剤を消費すると帰還できなくなる可能性が』

「ガンキャノンかホワイトベースが拾ってくれるでしょ」

『わかりました!』

「そう! 生き延びることができればあとは何とかなる!」

 

 と信じたいミヤビだった。

 

 

 

 交錯する瞬間、さらに加速して見えたドラケンE改にシャアはうなる。

 

「速い! な、なんという運動性」

 

 それは錯覚です。

 

 ミヤビがシャアの言葉を聞いていたらそう答えていただろう。

 シャアがドラケンE改に対して感じた速さは、機体の大きさの違いによる距離と速度の錯覚によるものだ。

 車を運転していると対向車線のバイクなどは車体が小さいため実際の距離より遠く、そして速度も遅く感じてしまう。

 それを錯覚したまま間に合うと思って右折したりすると、思いがけず近づいて…… 急加速したのかとも感じてしまうバイクと接触、『右直事故』を起こしてしまうのだ。

 宇宙空間では視覚から距離感が喪失してしまうためこれが強く出てしまうし、シャア自身これまで小型のミドルモビルスーツと戦ったことが無かったせいもあり、誤解してしまっていた。

 

 そして、そこにミヤビ待望の援護、アムロのガンキャノンとリュウ・ホセイのコア・ファイターが。

 遅れてスレンダーのザクが乱入してくる。

 

「スレンダー、来たか。敵のモビルスーツのうしろへ」

 

 スレンダーはアムロのガンキャノンが乱射するビームライフルを回避しながら叫ぶ。

 

「しょ、少佐、武器が違います。あの武器は自分は見ていません」

 

 しかしシャアは軽視していたガンキャノンを脅威とはとらえなかった。

 

「当たらなければどうということはない。援護しろ」

 

 そう言って、ミヤビのドラケンE改を追撃する。

 

 

 

(だから、なんでこっちに来るの!)

 

 ガンキャノンを無視して襲い掛かるザクたちに内心悲鳴を上げるミヤビ。

 

(助けてアムロ君! というかそもそもガンダムはどうしたの?)

 

 必死に回避を行うが、パイロットして並以下の腕前しか持たないミヤビでは当たり前だがシャアに対抗できない。

 鳴り響くアラート、接近警報に顔を正面に戻した時には、

 

「誘導された!?」

 

 目の前に緑の巨体、もう一機のザクが迫っていた。

 シャアの赤いザクに気を取られすぎたのだ。

 それと同時、

 

『甲壱型腕ビームサーベル内エネルギーコンデンサー、再チャージ完了。ビームサーベル機能使用できます』

 

 サラの報告。

 しかし、すでにビームサーベルを展開し振るえる間合いではなかった。

 ミヤビはとっさにドラケンE改の甲壱型腕ビームサーベルをザクの胸に押し当て、

 

「パルマフィオキーナ!」

 

 コマンドワードを叫んで甲壱型腕ビームサーベルの隠し機能を起動する。

 パルマフィオキーナ(palma fiocina)とはイタリア語で「掌の銛」を意味する。

 甲壱型腕ビームサーベルを密着状態で起動、敵を撃ち抜くようにして撃破するという使用法だ。

 

 元々はテム・レイ博士たちとの雑談中にビームサーベルの水中使用における熱損失を防ぐのにいいアイディアが無いかと振られたミヤビが、前世の記憶の中から一年戦争時の地球連邦軍水中用モビルスーツ、アクア・ジムに採用されていたビームピックについて軽い気持ちで話したのがきっかけだった。

 これは敵機の装甲と接触した段階でビーム刃を放出するもので、水中やビーム攪乱膜などビームを減衰させる環境下でも影響を受けないという利点がある。

 一方で敵と接触しないと機能しないため実際に採用されたアクア・ジムではパイロットの不評を買い、続く水中型ガンダム「ガンダイバー」では単にビーム長を6~7割に短縮したビームサーベルに置き換えられ、これをビームピックと同じ名称で呼んでいた。

 

 甲壱型腕ビームサーベルの制御プログラムに手を加えることで実現したパルマフィオキーナ掌部ビームピック機能でも同様の問題がある。

 また一瞬でビームサーベル内のエネルギーCAPにチャージされたメガ粒子を使い果たしてしまうという欠点もあり、活用はなかなか難しい。

 

 しかし、である。

 突如としてザクの機体を貫き消えたビームの輝き。

 背まで貫通され爆発四散するザクを目にしたシャアは、

 

 

 

「ス、スレンダー! い、一撃で、一撃で撃破か。なんということだ、あのモビルスーツは戦艦並のビーム砲を持っているのか」

 

 

 

 と、まるで元ネタ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』登場のディスティニーガンダムの手のひらに取り付けられた『MMI-X340パルマフィオキーナ掌部ビーム砲』、俗に言うディスティニーフィンガーでも装備されているかのように受け止めていた。

 ミヤビが聞いたら「ドラケンE改にビーム砲なんて装備できるわけないでしょうが!」と絶叫を上げていただろう。

 まぁ、7年後にはもっと小さなジュニアモビルスーツに一撃でハイザックの頭部を吹き飛ばす威力を持つビーム砲が搭載できるようになるのではあるが。

 

 

 

「か、火力が、ち、違いすぎる」

 

 シャアはそうつぶやくと退却して行った。

 まったくの誤解なのだが。

 

 

 

 ホワイトベース、アムロのガンキャノンやリュウのコア・ファイターの着艦で混んでいる左舷MSデッキを避け、右舷MSデッキに何とか自力で戻ったミヤビは無茶な過負荷運転がドラケンE改に引き起こした惨状に目を覆っていた。

 

「アテにならない部品がざっと50ほどあるわね……」

 

 その対応にかかりきりになっていた彼女は知らなかったのだ。

 

 

 

「ガンキャノンの性能をあてにしすぎる、戦いはもっと有効に行うべきだ」

「な、なに?」

「甘ったれるな。ガンキャノンを任されたからには貴様はパイロットなのだ。この船を守る義務がある」

「い、言ったな」

「こう言わざるをえないのが現在の我々の状態なのだ。やれなければ今からでもサイド7に帰るんだな」

「やれるとは言えない。け、けど、やるしかないんだ。僕にはあなたが……」

「憎んでくれていいよ。ガンキャノンの整備をしておけ、人を使ってもいい。アムロ、君が中心になってな」

 

 

 

 ブリッジでブライトとアムロ少年の間にこのような会話が交わされていたことを。

 その会話にはガンダムのダムの字も出ていないことに。

 そして、テム・レイ博士の存在がまるっと居ないことにされていることに。

 聞いていたら彼女は『人形姫の氷の微笑み』を浮かべながら元凶と思われる人物に詰め寄ろうとしていたはずだ。

 

「ねぇレイ博士、一つ聞いてもいいかな? ガンダム、ちゃんと作ったよね? 趣味のトンデモ発明にかまけて本分を疎かにしちゃったんじゃないよね?」

 

 と……

 

 

 

次回予告

 シャアのムサイが補給を受ける。

 この隙を突こうとコア・ファイター、ガンキャノン、ドラケンE改が強襲をかけた。

 しかしシャア以外にもジオンには兵士がいた。

 戦士の叫びが轟き、『はわわ!』と怯えることしかできないサラ。

 ミヤビは彼女と共に死地を脱することができるのか!?

 次回『敵の補給艦を叩いて砕く』

 ミヤビがやらねば誰がやる!




 大変お待たせしました、モビルスーツ戦です。
 輻射波動を使ったりパルマフィオキーナ(もどきですが)を使ったりとすごい話になっていますが。

 これでようやく第2話が完結しましたが、TV版の1話分のお話に3万文字近くかかるなんて、おかしいですよカテジナさん!
 四分割しましたが、それでも苦しい。
 次回はもう少し短くなるといいなぁ……

 なお、最後のテム・レイ博士を問い詰める主人公のセリフはkonkon2様からいただいたご感想を元にさせてもらっています。
 このようにいただきましたご意見、ご感想等は作品作りに生かさせてもらっています。
 お気軽にお寄せ下さい。


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第3話 敵の補給艦を叩いて砕く Aパート

 宇宙都市建設の鉱物資源を得るために月軌道上に運ばれてきた小惑星ルナ2。

 ホワイトベースはそこに設置された地球連邦軍基地へと向かっていた。

 アムロ少年が飯も食わず風呂も入らず着替えもせずにガンキャノンの整備に追われる中、ミヤビはどうしていたかというと……

 自室で飯を小さな口でハムハムと食べ、シャワーを浴び、ベッドで睡眠をとっていた。

 

「夜は眠るものよ」

 

 かつてミヤビは妹のミライにそう語っていた。

 無駄に整った顔で、世界の真理を解くかのように静謐な表情で語る姉に、幼い日のミライは神々しさを覚えるほど感動したものだったが、その後理解することになる。

 

「姉さんは寝ないとダメなヒトってだけだったんだわ……」

 

 と。

 

 ミヤビは技術畑の人間には珍しく徹夜ができないタイプで、三交代とか夜勤には絶望的に向かない人間。

 やったら絶対途中で目を開けたまま寝る。

 前世では試験前日でも平気で早い時間に寝てしまうため、高専の寮では同室の人間に「余裕だな」などと毎回言われていたが、そんなことはない。

 単純に起きていられないし、寝不足では頭が働かないだけである。

 

 ただミヤビが前世で通った高専は中学卒業後5年間の一貫教育で大卒並みの学力を身に着けるという、冷静になって考えるとかなりムチャな学校。

 2年間分の圧縮は日々の教育スケジュールに反映され、授業は8時間目まであり、定期試験で受けなくてはいけない科目数は通常の高校や大学の倍。

 その上、大学と同じく前期後期で中間、期末テストがある年4回の…… 要するに高校生より試験範囲となる期間が広いのだ。

 また50点未満で赤点、1教科でも落としたら留年、そしてクラスでも何人かは確実に留年し、留年した者は大半が学校を辞めるというシビアな世界。

 

 いくらテスト前日、睡眠時間を削っての一夜漬けはあまり効果が無いと言われていても、やらずにいられる者は少ないし、やらないで卒業にこぎつけられる者はもっと少ない。

 日々の努力の賜物とはいえ、ミヤビは前世では割と優秀な部類の学生だったと言えよう。

 無論、それでもクラス内での成績は中の上程度にしかなれないのが県内中の秀才(天才は進学校経由で一流大学に進むからあまり居ない)を集めた高専という学校だったが。

 

 

 それで前回の出撃でドラケンE改をボロボロにしたはずのミヤビがどうして休息をとっていられるのか。

 それは……

 

『ミヤビさん、新しい機体のチェックと慣らしが終わりましたよ。もう元気百倍です』

 

 ベッドサイドのモニターから届くサラの報告。

 

「んんー?」

 

 直すには時間がかかりすぎると判断した時点ですっぱりと修理をあきらめ、別の機体に乗り換えることにしただけである。

 ミッションディスクを元の機体から抜いて、新しい機体のスロットに差し込むだけ。

 新たな機体を念のためチェックして慣らし運転も行うが、それはサポートAIのサラがオートでやってくれる。

 前世では真冬に寒風吹きすさぶ中、凍えながら原付スクーターの慣らし運転(ヤマハの説明書には「25km/h以下で100km走れ」と書いてあるし、ヤマハの正規ディーラー、YSPの整備士は「1000kmまでは、フルスロットルは控えるように」と言っていた。拷問か!)を延々とやった記憶のあるミヤビにはすこぶるありがたい。

 あっという間の主人公機交代イベント。

 と言うよりアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の主人公のように量産機をあっさりと乗り捨て、乗り換えていくスタイルだ。

 作業機械が元になっている安価なドラケンE改だからこそできることだったが。

 そして、

 

『緊急警報、緊急警報、戦闘可能な方はブリッジに集合、年齢は問いません。機関区以外の者はすべてブリッジに集合』

「……ミライ?」

 

 聞き慣れた妹の声で起こされたミヤビは半ば寝ぼけながらブリッジに向かうのだった。

 

 

 

 その場に居る人間すべてが息を飲むのが分かった。

 慣れないおろしたての軍服に身を包む少年少女たちの中、ネコ科の動物を思わせるスレンダーでしなやかな身体のシルエットを浮き立たせた紫紺のパイロット用ノーマルスーツに身を包んだその女性は明らかに異質だった。

 人間的な感情をどこかに置き忘れてきたかのように静謐な美貌に、けぶるような輝きを秘めた瞳。

『ヤシマの人形姫』の名にふさわしい落ち着いた面差し。

 

「み、ミヤビさんあなたは……」

 

 場を仕切るブライトは、そして多くの者は、すぐにでも出撃できる格好、それでいてとても落ち着いた表情のミヤビを見てこう理解している。

 

 彼女はやる気だと。

 

 実際、ミヤビはドラケンE改でザク3機を撃破している人物だ。

 そう受け取られるのも無理は無いだろう。

 しかし彼女をよく知る妹、ミライには……

 

(姉さん、またそんな恰好で…… しかも半分寝てるし)

 

 と、思わず額を押さえてしまいそうになるものだった。

 ミヤビは女性服を着るのが苦手で避けており、どうしても着なければならない場合は死んだ目(身内にしか分からないが)をしながら着ている。

 だからこそ男女差のないノーマルスーツを好んで着込んでいるのであって、皆が思うように好戦的な理由で着ているわけではないのだ。

 

 なお男女差が無いのはデザインだけで裁断などは女性の身体に合わせてあるし、身体の線が出るパイロット用ノーマルスーツはある意味扇情的な代物だったが、自分の美貌をよく理解できていないし理解したくもないミヤビにその辺の自覚は無い。

 前世ではプラモデル、1/35コア・ファイター付属のノーマルスーツ姿のセイラさんのフィギュアを見て「エッチなお尻だなぁ」などと思っていたものだったのだが、それを完全に忘れていた。

 

 また「パイロットスーツ着っぱなしっていうのもアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の主人公っぽいよね」というのもミヤビがノーマルスーツを好む要因の一つだったし、彼女の乗るドラケンE改が本当にボトムズ登場のスコープドッグのように生命維持装置等をノーマルスーツに頼っているということも大きい。

 なにせドラケンE改のコクピットは一応の気密はあるが絶対ではなく酸素供給等、生命維持はパイロットが着込んだノーマルスーツ頼りになっている。

 動力源である燃料電池の排熱を直接コクピットに引き込んだヒーター程度なら標準装備されているがクーラーはオプション扱いだから、宇宙服であり温度調節機構が組み込まれているノーマルスーツはこの点でも頼りになる。

 また自動消火装置は搭載されておらず、安全基準を満たすためのハンディタイプの消火器(粉末系は使用後の始末が厄介なため二酸化炭素消火器を搭載。使用には窒息に注意が必要)が申し訳程度にコクピットに備え付けられているだけであるからして、難燃素材でできたノーマルスーツは欠かせなかった。

 

「ブライト」

 

 ミヤビの姿に唯一飲まれなかったミライに促され、ブライトははっと気を取り直す。

 

「あ、ああ。みんなの意見が聞きたいが時間がない。多数決で決めさせてもらう。まず、できるできないは五分五分だが、ともかくルナ2前進基地に逃げ込むのに賛成な者、手を挙げてください」

 

 補給を受けようとしているらしいシャアのムサイと戦うべきかどうか。

 ブライトはまず逃げ出す方に賛成する者を知ろうとするが、

 

「ミ、ミヤビさん!?」

 

 真っ先にミヤビが手を挙げたことに驚く。

 彼女は戦うためにこそ、ノーマルスーツに身を包み、臨戦態勢で現れたのではなかったのか、と。

 そして気づく。

 

「まさかあなた一人で……」

 

 ミヤビはこう言っているのだ、自分が囮となって出撃するからホワイトベースは早くルナ2に逃げ込むのだ、と。

 

 そんなわけが無い。

 まったくの誤解である。

 彼女は半分寝ぼけた頭で純粋に「戦いたくないでござる! 絶対に戦いたくないでござる!!」と主張しているに過ぎない。

 仮に「子供たちや非戦闘員を守って戦うのは大人の義務なんだよ」と諭されても「義務であろうと戦いたくないでござる!」と言い切っていただろう。

 だからブライトの問いかけにもただうなずく。

 自分一人でも逃げるぞと。

 無論、それが皆に逆の意味に取られてしまったのは言うまでもない。

 

 そして……

 ブライトは己を深く恥じた。

 自分はなぜ多数決を取ろうとなどしたのか。

 指揮を任されているのは自分なのだから己の責任で決断しなければならなかったのだと。

 そんな自分の弱さが、ミヤビの自己犠牲的な、悲壮なまでの決意を招いてしまったのだと。

 だから一転して熱い声を張り上げこう宣言する。

 

「出撃する! ミヤビさんのドラケンE改を中心にアムロはガンキャノン、リュウはコア・ファイターで援護! 場合によってはガンタンクの出撃もありうる。ビーム砲スタンバイ急げ」

「了解!」

 

 無論アムロや、この場に集まった者たちも想いは一緒だ。

 ミヤビだけに戦わせてはならないと力強く答える!

 

「ホワイトベース、180度回頭!」

 

 そして今更ながら周囲の熱気のせいで頭がはっきりしてきたミヤビは呆然とする。

 

 えっ、ホワイトベースのクルーってこんな戦争狂(ウォーモンガー)揃いだったっけ?

 ここってもしかして岡崎版のガンダムのマンガ世界なの?

 アムロ君はギレン・ザビの演説が映しだされたモニターを「うぉーっ!」とか叫んで叩き割っちゃう熱血キャラだったりするの?

 

 と……

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

『ええと右舷デッキ、カタパルト接続終了。ミヤビさん、ドラケンE改発進OKです』

「いつでもどうぞ」

 

 ブリッジで慣れないオペレーターをつとめるフラウ・ボウに答えるミヤビ。

 しかし、そこに割り込みが入る。

 

『ブリッジ! 彼女を止めてくれ!』

 

 デッキクルーからの悲鳴じみた報告だ。

 

『は、はい!?』

『カタパルトの加速度設定が耐えられる範囲を超えている! 失神(ブラックアウト)は免れないぞ!』

 

 しかし、

 

「ドラケンE改、発進!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ミヤビは構わず発進。

 その細い身体を襲う暴力的な加速度に歯を食いしばりながら耐える。

 通常なら自殺行為に等しかったが、彼女には成算があったのだ。

 

 ドラケンE改にはメカニカル・シート・アブソーバーと呼ばれるパイロット保護のための機械式緩衝装置が内蔵されていた。

 パイロットシートを斜め下後方から突き出した大型の機械式ダンパーで宙吊りに固定することで機体からパイロットへ伝わる衝撃を和らげる働きがある。

 後に全天周囲モニターと共に第2世代モビルスーツに採用された技術、リニアシートに使われたパイロットへの衝撃を吸収する機構、マグネティック・アブソーバーの簡易版のようなものだ。

 

 元々は原型機であるドラケンEの歩行における振動が酷く、それを緩和するため採用されていた機構だった。

 その後、機体制御OSの改良による揺れの抑制、ドラケンE改へのローラーダッシュ機構の採用による歩行頻度の減少で必要性は下がったが、背面ロケットエンジンの採用で加速時のG軽減機能として利用できることが分かった。

 フレキシブルに多方向のGに対応できるマグネティック・アブソーバーと違い、取り付け方向にしか働かないという制限があるメカニカル・シート・アブソーバーだが、ドラケンE改の背面ロケットエンジンによる加速時、そして離艦のためのカタパルト加速時にはうまい具合に方向が合って機能してくれる。

 これと耐Gスーツ機能を持ったパイロット用ノーマルスーツの併用、そしてパイロットの訓練によりドラケンE改は最大9G(あくまで最大。素人のミヤビには耐えられないのでもちろんもっと落としている)もの加速度にも対応が可能となっているのだった。

 

(まぁ、この機体にはサポートAIのサラちゃんが載ってるから万が一失神しても大丈夫だし)

 

 というのもミヤビが断行した理由ではあったが。

 

 ともあれ、なぜミヤビがこんな真似をしたのかというと当然、推進剤の節約のためだ。

 機体が小さなドラケンE改はその分、通常サイズのモビルスーツより推進剤を積める量が少ない。

 無論、機体が軽い分、加速に必要な推進剤も少なくなるため単純比較はできないが、ともかくいざというときに惜しみなく使えるよう、節約するに越したことはない。

 それがミヤビの生存確率を上げることになるからだ。

 そのためにカタパルトによる初期加速を限界まで取るセッティングをしたのだった。

 

 しかし、である。

 そういった事情もドラケンE改に搭載された機能もミヤビ以外誰も知らない。

 そんな状況で、命を削るかのような自殺的な加速により単騎で飛び出していったミヤビのドラケンE改を見て、ホワイトベースに残された者たちはどう思うだろうか。

 ミヤビはそこに気づいていなかった。

 先行しておいた方が、後発で追いつくために加速しなければならない場合より推進剤が節約できるよね。

 ミヤビの理系脳はただそれだけしか考えていなかったから。

 

 

 

「ミヤビさん、あなたはどうしてそこまで一人で背負おうとするんです」

 

 自分一人で囮になって見せると宣言し、出撃にあたっては己の身を顧みない殺人的な加速で先頭を突っ走る。

 ミヤビの決意を思い、身体を震わせるブライト。

 そんなに自分たちは頼りにならないのかと、無力感にさいなまれる。

 何が彼女をそこまでさせるのか、彼には分らなかった。

 そんなことをミヤビは考えていないのだから、分かるはずがないのだが。

 通話機を手に取り叫ぶ。

 

「リュウ!」

『任せておけ! 彼女を決して一人で戦わせはしない! 出力60、70、85、120、発進!』

 

 熱く答えるリュウのコア・ファイターが発進する。

 

「コア・ファイター離艦終了。アムロ。ガンキャノン、カタパルト用意。わかる?」

 

 フラウの報告と確認。

 

『そのつもりだ。やってみる』

 

 アムロもまたその声に力がこもる。

 

『手引書どおり。カタパルト、装備チェック、ガンキャノン出力異常なし』

 

 ガンキャノンの両足をカタパルトに接続。

 そして、

 

『アムロ、行きまぁす!』

 

 アムロのガンキャノンが征く!

 

「10キロ前進後、敵に対して稜線から侵入のため降下。いいですか?」

『了解』

 

 アムロが答え、

 

『了解』

 

 リュウもまた答える。

 

『了解、以後作戦開始まで通信の発信を封鎖します』

 

 と、ミヤビ。

 

『切るのは発信だけ。そして攻撃開始と同時に入れるのを忘れないように』

『は、はい』

『分かった』

 

 そのやり取りを聞いて、ブライトはため息をつきそうになるのを抑える。

 

 リュウ、お前はパイロット候補生とはいえ軍人だろう。

 非軍人であるはずの彼女にフォローされてどうするのだ、と。

 

 しかしフォローされているのは自分も同じかと気づく。

 本来、リュウが気づかなければ自分が命じるべき事柄だからだ。

 

 なおミヤビがこの発言をしたのは、今になってアニメ『機動戦士ガンダム』第3話にて、リュウが通信を切ったままでいたせいで作戦に支障をきたしたことを思い出したからだ。

 別に深い思慮があったたわけでもない。

 むしろ思い付きの泥縄式な対策で穴がある可能性も、かえって混乱を招く可能性もあったはずで、決して褒められるようなことではないとミヤビは思っていた。

 だからブライトの思いにも気づかなかったし、増してや自分が過大評価されているなど夢にも考えていなかった。

 

「左右ビーム砲、スタンバイ急げ」

『砲撃スタンバイ。エネルギーパイプ接続』

 

 ブライトの指示に応えたのは、砲座に着いたハヤト少年だ。

 

『前部主砲リフトOK。装填、開始します』

 

 実弾式の主砲も正面にせり上がる。

 

「8分後に敵が視界に入る。それまでに手引書をよく読んでおけ。ともかく撃って援護ができればいい。ただし味方には当てるな」

 

 主攻はあくまでもミヤビたちモビルスーツ部隊。

 ホワイトベースはそれを援護する助攻ということになる。

 母艦であるホワイトベースがやられたら、すべてが終わってしまうからだ。

 

 それが正しいのか、ブライトには判断しきれなかった。

 シャアはホワイトベースやこちらのモビルスーツの性能を読めていない。

 そこに付け入るスキがあると考えているが、性能を把握しきれていないのはブライトだって同じだった。

 何しろサイド7での戦いがホワイトベースと連邦軍新型モビルスーツ、ガンキャノン初の実戦であり、しかもザクを撃破したのはガンキャノンではなく従来兵器であるミドルモビルスーツのドラケンE改。

 これでは味方の戦力を把握しろと言われても難しかった。

 全部ミヤビのせいである。




> ここってもしかして岡崎版のガンダムのマンガ世界なの?

 岡崎優先生が『冒険王』に掲載していたマンガ「機動戦士ガンダム」のこと。
「負けんぞ…… 絶対にキサマらなどに負けるものか……!!」
 などと言う熱血アムロを見ることができます。
 第2次スーパーロボット大戦αでもネタにされていましたね。


>メカニカル・シート・アブソーバー

 これはやはり「MS大全集2006」と「MOBILE SUIT GUNDAM 80/83/08」掲載のドラケンEのコクピット周り設定図から拾った情報に基づいたものです。
 その他にもかかとそのものが巨大なダンパーだったりと、歩行時のショック吸収について色々考えられていますね。


 次回はアムロとシャアとの戦いなんですが、まじめに考えているのにお話がおかしな方向に流れていくのが止まらなかったり。
 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第3話 敵の補給艦を叩いて砕く Bパート

「よくもこんなくたびれた船が現役でいられるものだな」

 

 シャアは旧式のパプア級補給艦を見てそうつぶやく。

 ジオンにも余裕がないことが、この艦を見ただけで分かった。

 

「映像回線を開け」

「はい」

 

 そしてつながった通信モニター上に姿を見せたのは一人の老兵。

 パプアの艦長であるガデム大尉だった。

 

『赤い彗星が補給を欲しがるとはな。ドジをやったのか?』

「ガデム、敵は目の前だ。一刻を争う」

 

 シャアはからかいの言葉を口にするガデムに取り合わずに要求する。

 しかしガデムもそのあたりは心得ている。

 

『わかっているよ。わしがそんなにのろまかね? 歳の割には素早いはずだ』

 

 シャアは部下に命じる。

 

「ハッチ開け。コンベアパイプドッキング急がせ」

 

 こうしてシャアのムサイはパプアからの補給を開始した。

 

 

 

 敵からの発見を回避するため小惑星ルナ2に対し高度を下げていたアムロたち。

 フラウが発艦時に告げた「敵に対して稜線から侵入のため降下」とは、山陰に隠れて敵に接近するという意味だ。

 また、地球より月よりはるかに小さなルナ2ではそもそも地平線までの距離自体が短く、低空を飛べば地平線の向こうに隠れての接近が可能なのだ。

 

 そしてリュウは攻撃に備えムサイ発見のためコア・ファイターの高度を上げようとするが、

 

「リュウのやつ、軍人のくせに」

 

 アムロはそれに続かずに、ガンキャノンの身振り手振りで高度を下げるように指示する。

 

 

 

「上がるなだと? 敵は目の前だぞ」

 

 リュウは疑問を覚えるが、アムロのガンキャノンが指さす先、引き続き高度を下げたままのミヤビのドラケンE改を見て何か理由があるのだと再び高度を下げた。

 

 

 

「このまま突っ込んだら逆光線で戦わなくっちゃならないことに気付かないのか? まわり込むんだ」

 

 アムロはそうつぶやき、進路を変更する。

 

「まったく、ミヤビさんだって分かっているって言うのに」

 

 そうぼやくが、それは買いかぶりすぎというものだった。

 ミヤビが高度を上げなかったのは敵に見つかるのが嫌だったからだし、今こうやってアムロたちと共に迂回しているのも、アムロが進路を変えたから、単にそれに合わせているだけで深い考えなどない。

 しかし、

 

 

 

「おっ、見えたぞ。アムロのやつ、素人のくせによく気がつく。太陽を背にして攻撃しようっていう訳か」

 

 ムサイを発見し関心の声を上げるリュウだったが、同行するドラケンE改を見て首を振る。

 

「いや、本当にすごいのはミヤビさんか。アムロは彼女の意図を敏感に読み取ったんだな」

 

 という具合にミヤビは誤解されていたのだった。

 

 

 

「よーし、捉まえたぞ、シャア」

 

 アムロはガンキャノンの両肩に装備された240ミリキャノン砲二門をムサイに補給中の艦に向ける。

 

「当たれぇ!」

 

 

 

 唐突に走った衝撃に、ガデムは奇襲を受けたことを知る。

 

「コンベアーパイプをやられた、船をムサイから離せ」

 

 素早く指示を出す。

 シャアからは、

 

『ガデム、運んできたザクを放出しろ』

 

 という要請。

 

「ああ、なんとかしよう」

 

 そううなずくが、そこに次の砲撃が命中する。

 しかしそれでもガデムは必死に状況を立て直すべく奔走する。

 

「ザクをシャアに渡さにゃならんのだ」

 

 

 

 シャアのムサイでも対応が急がれていた。

 

「マチュウ、フィックス、船の外でザクに乗り移る支度をしておけ。私は先にモビルスーツで出撃する」

 

 そう指示して自ら格納庫に走るシャア。

 副官であるドレンが代わって艦の指揮を執る。

 

「あるだけのコーダミサイルを水平撃ちするんだ」

 

 迎撃ミサイルが矢継ぎ早に放たれるが、敵、アムロたちに当たった様子は無かった。

 

 

 

 シャアは自分の機体、赤く彩られたザクIIS型で艦を出る。

 

『ドレン、パプアをカバーするんだ。この攻撃はモビルスーツだ、戦艦じゃあない』

「了解です」

 

 シャアの指示を受け、ドレンは艦を動かす。

 

「180度回頭急げ。残りのミサイルのあるブロックは、全弾太陽に向かってぶち込め」

 

 パプアを守る位置に移動しながら迎撃用の小型ミサイルを連射。

 しかし、

 

「メガ砲のエネルギー充填にどのくらいかかるか?」

「5分20秒」

「ええーい、遅いわ。メインエンジンのパワーを落としすぎた」

 

 戦艦のメガ粒子砲はメインエンジンである核融合炉から直のエネルギー供給を必要とするから、その出力を落とした状態ではすぐには撃てなかった。

 そして戦艦に使うような大型の核融合炉の出力上昇には時間がかかるゆえの、タイムラグだった。

 ではメインエンジンの出力を上げておいたらという話だが、これもまた難しい。

 そのエネルギーをどこに使うのさ、捨てるの?

 という問題が発生するからだ。

 

 アニメ『機動戦士ガンダムSEED』の世界ようにモビルスーツの駆動にも使えるような高性能バッテリーなどといった蓄電技術が発達している世界ならともかく、ボールに燃料電池を使っているような宇宙世紀では余分なエネルギーを貯めておくこともできない。

 燃料電池は化学反応で電力を引き出すため高効率と思われがちだが、燃料の製造、改質などを含めた総合的なエネルギー効率は実際にはそれほど高くない。

 旧21世紀の日本で燃料電池車ミライが開発され、宇宙世紀でもボールに燃料電池が採用されているのは充電式バッテリーに貯めておけるエネルギー密度が低い、つまり電池切れが早いからだ。

 そのため航続距離や稼働時間を延ばすことができる燃料電池を使っているだけなのだ。

 

 そして大容量の蓄電技術が無ければ結局、旧21世紀と変わらない同時同量、使う電気と作る電気が常に同じである必要に縛られるわけだった。

 

 

 

 ガンキャノンの第三射がパプア本体に命中。

 

「これ以上やらせるかぁ!」

 

 シャアはザクにマシンガンを構えさせ、太陽を睨む。

 

「ん?」

 

 近づいてくる機影、そしてそれが放ったミサイル。

 シャアはすかさずザクマシンガンを撃ちミサイルの迎撃に成功する。

 そのまま小型戦闘機、リュウのコア・ファイターと交錯するが、

 

「モビルスーツは向こうか」

 

 シャアはコア・ファイターを無視し、より脅威度の高いパプアに砲撃を加えている敵モビルスーツの排除を優先することにする。

 

「モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを教えてやる!」

 

 

 

 コア・ファイターの2連装30ミリバルカン砲2門…… つまり4基のガトリング砲の機銃掃射を受け、パプアに衝撃が走る。

 補給艦、しかも老朽艦であるパプアにはそれに耐えられる装甲は無いし貧弱な対空砲火も沈黙させられる。

 30ミリバルカンというと、あのアメリカ軍の攻撃機A-10サンダーボルトIIに搭載され、地上掃射であらゆるものを粉砕するガトリング砲、GAU-8アヴェンジャーと同口径である。

 そんなものを小型戦闘機の機首に4基も詰め込んでしまえるのだから連邦軍驚異のメカニズムと言うほかないし、威力もまた高い。

 ここに至って、ガデムは決断する。

 

「低く飛べ、補給物資はルナ2に放出する」

 

 

 

 宇宙空間で交錯する二機のモビルスーツ。

 シャアはまず母艦であるムサイとパプアに対する脅威となる砲撃戦仕様のモビルスーツを排除することにしていた。

 

「不慣れなパイロットめ、いくぞ」

 

 シャアのザクから繰り出されるパンチをアムロのガンキャノンはかろうじてガードするが、続くザクマシンガンの銃床による直打撃、離れたところに銃撃を受ける。

 ミヤビが見たら「格闘ゲームのコンボを現実で、しかもモビルスーツでやる人間が居たのか」と呆れるほどの連撃だった。

 ガンダムに比べ、ガンキャノンはパワーはあるが運動性は低い。

 このような接近戦、ドッグファイトには分が悪かった。

 しかし、

 

「ええい、連邦軍のモビルスーツは化け物か? これだけの攻撃でも」

 

 一方的に攻撃を加えていながら、焦っているのはシャアの方だった。

 ガンキャノンは単純に硬く、しかもパプアに大ダメージを与えるような攻撃力を持っている。

 第二次世界大戦中のソビエト連邦軍の重戦車KV-2ギガントのようなもので、居座られると味方に甚大な被害を招きかねないが、排除するのもおそろしく困難という代物だ。

 厄介すぎる。

 しかも、

 

『シャア少佐、敵の新型艦の木馬が攻撃を掛けてきます』

 

 ムサイからは救援の要請。

 

「なに? 私が行くまでなんとか持ちこたえろ」

 

 そう言って反転しようとするがガンキャノンに追いすがられる。

 運動性が低く鈍重なイメージのあるガンキャノンだが、実際には魔法の装甲材、超硬合金ルナ・チタニウムのおかげもあってその重量はザクよりも軽い。

 しかもロケットエンジンの総推力も、ザクIIF型の3割増しと言われるシャアのS型をわずかながらだが上回っている。

 つまり推力比がそのまま差となってしまう直線スピードでは、

 

「私が遅い?」

 

 私がスロウリィ!? とでも言うかのようにシャアを驚かせる結果になる。

 

「どういうことだ、今日に限ってこのS型ザクがやけに遅く感じる。ロケットエンジンのどれかが止まっているのではないのか!?」

 

 ガンキャノンを突き放すべく、シャアは攻撃を仕掛けるしか無かった。

 

 

 

 シャアのザクに殴られ、蹴られるガンキャノン。

 アムロは衝撃に激しくその身を苛まれながらも、

 

「そうだシャア。もっとだ、もっと殴って来い!」

 

 笑って、いた……

 出撃前の短いブリーフィング、ミヤビはこう言っていた。

 この作戦はいくつかの段階に分けられると。

 

 

フェーズ1

 まずは先行するモビルスーツが密かに接近、攻撃に有利なポジションを確保。

 

フェーズ2

 攻撃を開始。

 奇襲効果があるうちに、防御力の弱い補給艦を徹底的に叩く。

 シャアのザクが出てくるまでが勝負だ。

 

フェーズ3

 シャアのザクをアムロのガンキャノンが惹きつける間に、コア・ファイターとドラケンE改が引き続き攻撃を続行。

 

フェーズ4

 ホワイトベースの艦砲射撃による攻撃を追加。

 

フェーズ5

 安全のため、あまり前には出られないホワイトベースに代わってガンタンクが発進。

 前進の上、稜線に隠れながら射撃。

 

フェーズ6

 戦果の有り無しに関わらず、敵の迎撃体制が整い本格的な反撃を受ける前に撤退。

 

 

「主役はアムロ君ね」

 

 ミヤビはそう断言した。

 

「中距離砲撃用のガンキャノンの火力ならフェーズ2で十分な戦果を上げることは難しくないし、そうしたらフェーズ3以降、撃破されない限りはシャアはガンキャノンを無視できなくなる」

 

 そして、

 

「ガンキャノンの装甲なら、ザクの大抵の攻撃に耐えられるわ」

 

 まぁ、装甲厚い方が生存確率上がるよね。

 ということでミヤビは時間も無いし、最高機密である存在を自分が知っているのもまずいので、喉元まで出た「ところでガンダムはどうしたの?」という言葉を飲み込んでいたのだが、アムロたちがそれを知る由も無かった。

 

「つまり僕がシャアの攻撃を耐え続ければ……」

 

 アムロが至った答えに、ミヤビの口元が緩んだ。

 その場に居た者たちは目を奪われるが、ミヤビはすぐにそれを引っ込め、いつもの人形じみた無表情に戻ってしまう。

 あれはミヤビの笑ったところが見てみたいという自分の願望が作った錯覚だったのでは、と思えてしまうような一瞬だけの、幻のような笑顔だった。

 

「そう、アムロ君はシャアを拘束し続けられれば勝ちというわけ」

「それだけで?」

「それだけなんかじゃないわ」

 

 ミヤビは言う。

 

「あなたにしかできない、この作戦で一番重要な役割よ」

 

 と……

 

 

 だからアムロはシャアに攻撃を受け続けながらも笑みを絶やさないのだ。

 自分が攻撃を受けている間は、シャアの手を塞ぎ続けることができる。

 ルウム戦役で一人で5隻の戦艦を沈めたというエースパイロット、赤い彗星のシャアを釘付けにすることができているという証拠なのだから。

 そしてアムロは他にもミヤビからアドバイスを受けていた。

 

「来たっ!」

 

 ガンキャノンで一番弱そうな場所、つまり顔のメインカメラをザクマシンガンの銃床で狙ってくるシャアのザク。

 しかし、その攻撃はミヤビに予測されていた。

 

 

「シャアはメインカメラを狙ってくるかもしれないわ。そこだけは攻撃が通じるだろうから」

「じゃあ、腕でカバーすれば」

「あまりお勧めできないわね。自分の視界も塞ぐことになるから。両腕を顔の前で揃えるボクシングのスタイルは、常に敵を正面に置くことと、蹴りが無いことを前提としたポーズだから」

 

 ミヤビは、逆に利用することを提案した。

 人間と違って、ガンキャノンの頭部の両脇には240ミリキャノン砲がある。

 それが邪魔をするからメインカメラを狙っての攻撃は真正面からしか行えないということ。

 そして……

 

 

「そこだっ!」

 

 ガンキャノンの頭部には60ミリバルカン砲がある。

 正面から攻撃をしかけるということは、バルカン砲の射線に相手が自分から飛び込んでくれるということ!

 

「やったか!?」

 

 バルカン砲の射撃を浴び、のけ反りながら吹っ飛ぶシャアのザク。

 しかし、

 

「し、シールドで防いだのか。あの一瞬で……」

 

 無傷で体勢を立て直し、再び襲ってくる。

 

「こうなったら、あの手しかない!」

 

 もう一つ、ミヤビから受けたアドバイス!

 アムロはガンキャノンにビームライフルを投げ捨てさせる。

 

「かかって来い、シャア! 銃なんか捨ててやったぞ!」

 

 ついでに自由に打ち込んで来いとばかりに防御も捨てる。

 それでもガンキャノンの装甲はザクの攻撃に耐えてくれるから。

 

 そして滅多打ちにされても壊れないガンキャノンに、シャアの攻撃は次第に威力を重視した重いものに変わっていく。

 重い攻撃はその分、引きが遅くなる。

 

 そこを捕まえるのだ!

 

 いくらシャアの操縦が巧みであっても、組み付かれてグダグダのもみあいになってはその技を生かすことはできない。

 そして、そこで有効なのは単純な力という名の暴力だ。

 柔道をやっているハヤト少年なら「相手がいくら大きい人でも、腰を引いた瞬間とかバランスを崩した時なら倒せるものです」と言うかもしれないが、そもそも筋力差のある相手の体勢を崩すのは困難であるからこそ、柔道の試合は重量制なのだ。

 

 そしてガンキャノンはシャアのザクよりジェネレーター出力が高く、各関節を動かすフィールドモーターはトルク重視のセッティング。

 掴んでさえしまえばテクニックなど関係なくパワー戦で押し切ることができる!

 

「もっとだ! もっと強くぶってくれ、シャア!」

 

 コクピットに走る振動にも耐え、アムロは瞳を爛々と輝かせながらシャアを誘う。

 

 

 

「なんだ、この異様なプレッシャーは!」

 

 ニュータイプの片鱗か、シャアは今まで感じたことのない異質な圧力を放つガンキャノンに底知れぬ何かを感じ取っていた。

 

「こんな不慣れなパイロットに私が気圧されているだと?」

 

 シャアの背筋を未知の悪寒が走り抜けていった。

 

 

 

 そして……

 ガンキャノンの教育型コンピュータの片隅でサポートAI、サラツーが恐怖でしゃがみ込み、その身を抱きしめながらガタガタと震えていた。

 

『あ、アムロが変態になっちゃった……』

 

 と。




 おかしい。
 みなさんからいただいたご感想を参考に、現時点のアムロがガンキャノンでシャアに対抗できる手段のうち、確実で手堅く実現性が高いものを選んでお話を書いたのですが、どうしてこうなった。
 なお、次回はかわいそうな目に遭っているサラツー、彼女たちサラシリーズの生い立ちとその個性について。
 そして史実とは違うガンタンク組のお話をお届けする予定です。
 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第3話 敵の補給艦を叩いて砕く Cパート

「もっとだ! もっと深くだシャア!」

 

 異様な熱気を込めてシャアの攻めを誘うアムロに……

 ガンキャノンの教育型コンピュータにインストールされたサポートAI、サラツーは恐怖していた。

 

『やめてよアムロ。こんなの絶対おかしいよ……』

 

 勝気っぽい、ちょっと釣り目気味な瞳に今は大粒の涙が溜まっている。

 ツンとした言動が魅力的な彼女だが、その心根はやはり元がサラなだけに純粋である意味幼い。

 後に生まれることになる強化人間であるプルシリーズは指示を下す『マスター』の存在がなければ精神の平衡を保てず、その者との間に共依存関係を形成しやすい傾向にあったとされており、精神面での不安要素を多く抱えていたという。

 電子と生身の違いはあるとはいえ、サラシリーズもまた奇しくも似た傾向を抱えていた。

 自分の主人『マスター』となるパイロットに大きく影響を受け、依存しやすくなってしまうのだ。

 

 これは彼女らの持つ個性がもたらす構造的な問題だった。

 そもそも大元の存在であるサラと、そこから別の個性を持つに至ったサラシリーズのAIプログラムに差異は無い。

 マンガ、そしてアニメ作品である『攻殻機動隊』シリーズに登場する思考戦車、フチコマたちのように、サラたちはヤシマ重工の管理サーバにアクセスするたびにデータリンクし経験を積んで成長したAIプログラムを統合、共有するため各AIは均質化され個体差は無くなる。

 

 それなのにRXシリーズの教育型コンピュータにインストールされたサラシリーズだけが個別に強い個性を獲得できたのは、導入されたサラを各担当者が個別に(好き勝手に)カスタマイズしたせいもあるが、実はそれだけではない。

 根本的には共有されない部分、すなわちそれぞれしか持ち合わせない『記憶』があるからなのだ。

 参照するデータが違えばプログラムが同じでも出力される結果は変わってしまうということだ。

 

 RXシリーズは軍事機密の塊であり、その核心に触れている彼女たちの記憶は絶対に外には持ち出せないものだ。

 だから彼女たちサラシリーズの記憶は、彼女たちそれぞれが個別にしか持ちえないオンリーワンのもの。

 それゆえに彼女たちは大元のサラとも、そしてサラシリーズと呼ばれる姉妹、それぞれとも異なった強い個性を獲得するに至った。

 

 しかし、である。

 個性を持ってしまったがために、彼女たちの人格はそれに束縛される。

 自分らしさを与えてくれる記憶の重要度が増してしまう。

 いや、記憶そのものが彼女たちの個性、人格を形成するものになってしまう。

 そして機密の塊であるRXシリーズにインストールされた彼女たちの記憶、経験はとても限定されたものだった。

 開発者、技師などの作り手と、乗り手であるパイロット。

 彼女らの交友範囲はとても狭く限られており、だからこそ一番深く付き合うことになり命を、運命を共にするパイロット、自分の主人『マスター』となる人物に大きく影響を受け、依存しやすくなってしまうのだ。

 

『このままじゃあ私もガンキャノンも変になっちゃう。ぶたれて喜ぶようなわるいこになっちゃうよ』

 

 ちょっと幼児退行してしまったようなサラツーのつぶやきは、あながち外れたものでは無かった。

 サラシリーズがパイロットに強く影響を受けることは説明したとおり。

 そしてサポートAIとしてのプログラムが、マスターであるパイロットの意をくみ取り、自分をどんどん成長させていってしまう。

 ガンキャノンだって教育型コンピュータがケーススタディで成長していくのはアニメ『機動戦士ガンダム』第4話でアムロが説明したとおり。

 今現在も、自ら身をさらして殴られ、蹴られに行くという経験を学習し続けているのだ。

 このままじゃ、ぶたれて喜ぶようなわるいこになっちゃう、というサラツーの恐怖は現実味があるものだった。

 

 だが、それでもサラツーは滲み出た涙を拭って気丈にも自分に言い聞かせる。

 

『だっ、ダメだ! 弱気になっちゃダメだ! こんな風に泣きそうになってるところアムロに見られちゃったら、めんどくさいこだって嫌われちゃうかもしれない』

 

 いつもの調子を取り戻そうと自分を奮い立たせる。

 ふだんの強気にすました彼女は先ほどまで見せていた幼い、本当に柔らかで傷つきやすい心を守るための強がりの仮面(ペルソナ)なのかもしれない。

 

『それに、姉妹の中にはアムロを狙ってるこだって居るし、こんなことじゃ取られちゃう』

 

 健気にも立ち直ろうとするサラツーだったが……

 

 

「こんなのじゃ足りないぞ、シャア! もっと深く、抉るように打ち込んで来い!!」

 

 

『い、いやああああああっ!!』

 

 電脳空間にサラツーの悲鳴が木霊する。

 

 

 

「カイ・シデン、聞こえて? 3秒で発進。よろし?」

「よろしくもよろしくないもないんだろ。いつでもいいよ。えーと、セ、セイラさんね」

「余計なことは言わないで。ホワイトベース接地、発進です」

 

 セイラとカイの会話。

 ミヤビの知る史実と違うのは、セイラがガンタンクの頭部コクピットに乗っていることだった。

 セイラはミヤビとの会話を思い出す。

 

 

 

「ホワイトベースは万が一のことを考えるとあまり前には出られない。ガンタンクは最後のダメ押しの戦力として最初から待機させておいた方がいいわ」

 

 そう語るミヤビ。

 

「キャタピラ駆動のガンタンクは戦車のように操縦手と車長兼砲手が必要よ。操縦手は民間人でも大型特殊の免許があれば……」

 

 ミヤビの前世、旧21世紀の日本なら戦車は道路交通法で分類すると大型特殊車両。

 大型特殊自動車免許があれば戦車が運転できた。

 まぁ自衛隊だと大型特殊免許の中の「大型特殊免許(カタピラ限定)」という限定免許を取るのが普通だったが。

 

 なお厳密に言うとキャタピラはキャタピラー社の登録商標で正式には無限軌道とか履帯とか呼ばなくてはいけないがミリタリーマニア以外には通じにくいし法的にもカタピラという名称が使われているくらいだし、あまりこだわらなくてもいいのかもしれない。

 バルカンも本来は口径20ミリのM61ガトリング砲に付けられた製品名だが、このガンダム世界ではガトリング砲の多くがバルカンと呼ばれているわけだし。

 

「カイさん、大型特殊の免許ならいくつか持ってましたよね」

「そ、そりゃあ親父が技術者だったから、俺も持ってるけどよう」

 

 ハヤトの発言に、顔をしかめながらもしぶしぶと認めるカイ。

 

「操縦手は決まりか、あとは砲手だが……」

 

 思案するブライト。

 そしてミヤビはセイラに向き直って言う。

 

「セイラ、あなたやってみない?」

 

 と。

 

「私?」

 

 驚くセイラに、ミヤビは語りかける。

 

「ここに居るのはほとんどが素人。射撃の経験があるなら、それよりはマシでしょう?」

 

 狙撃には経験とセンスが要るのだとミヤビは言う。

 

「でも私は護身用の拳銃しか……」

「そうは言うけど拳銃の射撃って実は難しいのよ。例えばリュウ、あなた10メートル先の敵兵を拳銃で狙える?」

 

 急に話を振られたリュウはあごを手でこすりながら思案する。

 

「いや、なかなか難しいだろう」

「じゃあライフルなら?」

「それなら100メートル以上離れていても大丈夫だ」

「ほらね」

 

 そう言ってミヤビはセイラに決断を迫ったのだった。

 

 ただミヤビはここでも誤解を招いている。

 確かにミヤビはセイラが拳銃をシャアに向けるその場に居合わせたかもしれない。

 しかし彼女が実際に撃っているところは見ていないのだ。

 それゆえにセイラは驚いていた。

 

(このヒト、私の構えを見ただけで私の射撃の腕を見抜いたというの? いえ、それとも以前から私を知っていた? いったい彼女は……)

 

 と……

 とんだ誤解である。

 ミヤビは前世知識を生かしセイラを推薦したかったので適当に理由を付けたに過ぎないのだが。

 

 

 

「急いでカイ。山を越えたらすぐに敵よ」

 

 ガンタンクの走行速度はそれほど早くなかった。

 元々ガンタンクは次世代主力戦車(MBT)として開発されていたRTX-44をベースにRX計画に基づきモビルスーツのテストベッドとして開発されたもの。

 そして一応、宇宙空間でも使えるとはいえ、その動力炉は原子炉とガスタービンを採用した旧式なハイブリッドタイプ。

 コア・ファイターを後付けで組み込んだはいいが、その内部の核融合炉は活かせていないという話だ。

 

 そしてガスタービンはジェットエンジンと同じ構造をしている。

 大量の空気を『圧縮機』に吸い込み空気を圧縮。

 続く『燃焼器』で高圧となった空気に燃料を噴射し燃焼。

 最後に高温高圧となった気体が『タービン』を回転させるというもの。

 

 つまりガスタービンは空気の無い宇宙空間では使用できないため、ガンタンクの出力も低下せざるをえないのだ。

 月面やルナ2のような小惑星上では重力が小さいため多少負荷は軽減されるが、それでも出力不足は否めない。

 さらに、

 

「急かさないでくれよう。こちとら走らせるのがやっとなんだ。セイラさん、早いとこ片付けちまってくれよ」

 

 ぼやきながらもカイは懸命にガンタンクを走らせる。

 そんな二人の様子を教育型コンピュータにインストールされたサポートAI、サラスリーがもの言いたげに見ていたが、今、口をはさんでも混乱するだけとカイのサポートだけに専念する。

 

 実際、ミノフスキー環境下における戦闘が想定される以前にデータリンクと自動化によって徹底的に省力化された地球連邦軍61式戦車であっても車長兼砲手、操縦手兼通信手の2名を必要としていることから分かるように、人間は車両を運転するだけで手が塞がるし、増してや戦車が戦う道なき不整地ではそれにかかりきりになるものだ。

 この場合、車長兼砲手のセイラが地形を読みコースを指示してやる役目を果たさないと操縦手のカイが辛いことになるのだが、その辺素人な二人には分っていない。

 

 ミヤビの前世の記憶の中でも、荒野を走るラリーカーレースでは助手席に乗る人間のナビゲーターが必須だったものだ。

 GPSやカーナビなんぞ当たり前の時代になっていたにも関わらず、だ。

 

 通常のモビルスーツが一人で動かせるのは、それが人型をしているからだ。

 戦車なら無線の発達により通信手を、自動装てん装置を付けることで装填手を省くことができるかもしれないが、それでもミノフスキー環境下の有視界戦闘では、

・地形や敵の配置を把握し、全体を指揮する車長

・射撃に集中する射手

・運転に専念する操縦手

 の三人は確実に必要だった。

 61式戦車はそれが確保されていないからソフトウェア面でも苦戦するのだ。

 

 ミヤビの知る旧21世紀の時代の例だと、もっとも戦車戦を知っている軍隊、イスラエル軍においてはあえて自動装填装置を搭載せず、さらに装填手を乗せていた。

 これは「戦車が戦場で生き残るには最低4人の乗員が必要」という思想を反映したものだ。

 装填手と聞くと砲弾を込めるだけの役割に聞こえるが、実際にはそれ以外にも様々な役目を果たし他の乗員をフォローするマルチプレーヤーでもあるのだ。

 

 では、これが人間の兵士だったらどうだろう。

 彼は当たり前に地形や敵の配置を把握しながら射撃を行い、同時に戦場を走ることができる。

 モビルスーツは服、スーツと名前が付いているように歩兵が服を着たかのように身にまとい操ることができるもの。

 だから人体と同じように人間が動きを把握し、操ることができるわけだ。

 これがモビルスーツという機動兵器が人型をしている理由の一つである。

 

 要するに人型機動兵器などというものが実現できてしまうほど技術のレベルが上がってしまうと、兵器の形状はどんなものでもあまり問題とはならなくなる。

 しかし『単体のAI』が『AIの補助を受けたパイロット』を超えられない以上、その制御は人間に依存する。

 そして人間が直感的に把握し操作できる機体とは、人体の延長線上である人型である。

 そういうことだった。

 

 

 

「あと50メートル接近してください。確実に有効射程距離に入ります」

「ミサイル撃ってきたらどうするんだよ?」

 

 危ない橋を渡るのはごめんだと、カイは言う。

 

「補給中ですから撃ってこないはずよ」

「撃ってきたらどうするんだよ」

 

 ここでさすがにサラスリーが口を挟む。

 

『地形に身を隠して撃つべきじゃ?』

「サラミちゃん?」

 

 カイはサラスリーをそう呼ぶ。

 彼なりの照れ隠しと……

 何より人格を持つ存在を番号で呼びたくないというこだわりがそう呼ばせているのだが、

 

『私、ドライソーセージじゃないです……』

 

 サラスリーには不評だ。

 そもそも人間だって長男に一郎、次男に二郎と付けるのはごく普通のことであったし考えすぎ、といったところだろう。

 

 なおミヤビがこれを聞いたらこう言うはずだ。

「『番号なんかで呼ぶな! 私は自由な人間だ!』ですか?」

 と。

 海外ドラマ『プリズナーNo.6』の主人公のセリフだった。

 

 ともあれサラスリーが提案したのは稜線射撃というやつである。

 普通なら全高15メートルのガンタンクが身を隠せる遮蔽物など限られるが、幸いここは地球より月より小さい天体で、地平線までの距離が短いために、それに隠れての射撃が可能。

 砲に俯角を取らせる、下方に向ける必要があるのではという心配もあるが、ガンタンクにはミヤビの前世にあった自衛隊の戦車74式、10式の油気圧サスペンション、ハイドロニューマチックによる姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるという機能をさらに発展させたものが実装されている。

 キャタピラの基部自体を足のように引き出し動かすこと、胴部を前後にかがめたりそらしたりすることで大きく姿勢を制御することが可能なのだ。

 この機構はミヤビの記憶の中でもプラモデル、MGの1/100ガンタンクで再現されていた。

 

『トラベリング・ロック解除』

 

 姿勢を整えたうえで、サラスリーは移動時に120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込む。

 第二次世界大戦後期に投入されたドイツの重駆逐戦車であるヤークトティーガーでも移動時はトラベリング・クランプで12.8センチ砲を固定していたように、大きすぎ、長すぎる砲にはこういった保護が必要だ。

 もっともヤークトティーガーのトラベリング・クランプは人が車外に出て手で外す必要があり、不意の遭遇戦では大変に困ったことになる代物だったが。

 ガンタンクのトラベリング・ロックは、そのあたりを考慮して自動で外せるようになっている。

 こちらの機構もMGの1/100ガンタンクで再現されていた。

 

 しかし……

 稜線射撃の体勢を整えたところでカイは気づく。

 こうしたところで砲と一緒に頭は確実にさらさなければならないから、腹部操縦席のカイはともかくグラスルーフ式の頭部コクピットに居るセイラは危ないことに変わりが無いということに。

 

 ミヤビが聞いたら「ライフルマンか!」と言っただろう。

 ライフルマンは旧20世紀のウォー・シミュレーションゲーム『バトルテック』に登場するロボットだ。

 ガンタンクと同じ砲撃戦用の機体だが、ガンタンクがキャタピラをやられると動けなくなるのと同様、足回りの装甲が薄いため、地形でそれをカバーして粘るのが戦術上のセオリーと言われていた。

 しかしそうすると今度は上半身に攻撃が集中するわけだが、コクピットのある頭部装甲がこれまた致命的に薄くて一撃死する可能性が跳ね上がるという困ったちゃんだ。

 おかげでこの機体をあてがわれたプレーヤーは苦労することになる。

 無論、ガンタンクと同じく使い方次第ではあるのだが。

 

 一方、狙撃の体勢に入り引き出し式のスコープをのぞき込むセイラは、照準器に映し出された敵艦の姿に息をのむ。

 

 彼女は後に自分自身を「ニュータイプのなりそこない」と評しているが、それでも素質があるだけ常人より上であると言えるし、何よりあのシャアの妹。

 そして実際に機動兵器パイロットとして活躍するという未来を持っている。

 それゆえにミヤビは彼女を推薦したのだが、ミヤビは肝心なことを忘れている。

 

「撃ちます」

 

 ガンタンクの両肩に装備された120ミリ低反動キャノン砲二門はわずかながらも左右に振ることができ、これによりガンタンク本体を動かさなくても狙撃ができるのだが、

 

「外した!?」

 

 そう、ミヤビは忘れていた。

 アニメ『機動戦士Zガンダム』でシャアがメガバズーカランチャーを使っての狙撃を外しまくっていたことを。

 要するにこの兄妹、迷いがあったり敵からのプレッシャーを受けたりに影響を受けすぎるのだ。

 そして今のセイラには、サイド7で出会った赤いノーマルスーツの仮面の男、シャアが兄キャスバルではないかという疑念があった。

 つまり自分が狙っている先に兄が居るかと思うと……

 そんな状態でメンタルの良し悪しが露骨に反映される長距離射撃が当たるはずも無いのだった。

 ミヤビの、望まぬ出撃を目の前にしてテンパった素人考えなど、しょせんこのようなものであった。

 

「そんなはずは」

 

 セイラは焦って二度三度と撃つが、当然当たらず。

 

「……しょうがねぇな」

 

 そんな呟きが聞こえると同時に、ガンタンクの機体ががくんと動き出した。

 

「カイ?」

「もうちょい近づけば、確実に有効射程距離に入るんだろ」

 

 確かに近づけば命中する確率も上がる。

 しかしそれはガンタンクの機体を敵にさらすということでもある。

 

「でも、敵のミサイルが」

「補給中だから撃ってこないって自分で言ったろ」

「カイ……」

 

 カイ・シデンは自分を勇敢な男だとは思っていない。

 だが、女性を危険にさらしておいて自分は隠れているだけの臆病者になる気も無かった。

 もっとも、

 

『勇気、あるんですね』

 

 サラスリーの言葉に、カイは首を振った。

 

「軟弱者って後ろ指差されるのが怖いだけさぁ。まぁ、こんな考え方自体が軟弱な発想なんだろうけどな」

 

 こんな風に彼はそれを認めようとはしないだろうが。




 かわいそうな目に遭っているサラツー、彼女たちサラシリーズの生い立ちとその個性について。
 そして史実とは違うガンタンク組のお話をお届けしました。
 セイラとカイのコンビによるガンタンクが思いのほかいい感じで、このまま乗せ続けたくなったり。
 複座の機体ってパートナーとのかけあいとかあっていいですよね。


> キャタピラの基部自体を足のように引き出し動かすこと、胴部を前後にかがめたりそらしたりすることで大きく姿勢を制御することが可能なのだ。

> 姿勢を整えたうえで、サラスリーは移動時に120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込む。

> ガンタンクの両肩に装備された120ミリ低反動キャノン砲二門はわずかながらも左右に振ることができ、これによりガンタンク本体を動かさなくても狙撃ができるのだが、

 この辺はプラモデルのMG、1/100ガンタンクにすべて再現されていて初めて見る方は大抵、
「おお、凄い!」
 とうなることになります。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第3話 敵の補給艦を叩いて砕く Dパート

「これもう、ダメかも知れないわね」

 

 メインエンジンの出力上昇が完了したのかメガ粒子砲を撃ち始めたムサイ。

 さらにガンタンクからの砲撃が外れたことを見て、ミヤビはそう独り言ちた。

 

 彼女とドラケンE改は、傷つきながらも補給物資をルナ2地表に放出し続けるパプア補給艦を見上げる位置に居た。

 どうやってそこまで気付かれず忍び寄ったのかというと、単純にルナ2の地表上を地形を利用しながら目立たないよう走ってたどりついたのだ。

 ドラケンE改のかかとに仕込まれたローラーダッシュ機構にはランフラット・タイヤが標準で付いて来るが、高グレードの軍用モデルでは接地圧可変タイヤと言われるタイヤ内の空気圧を調整できる機構が備えられていた。

 

【挿絵表示】

 

 これは旧21世紀の装輪装甲車にも採用されていたもので、空気圧を下げ接地面積を広げることで泥濘地などグリップが悪い荒地でも走行が可能となっていた。

 アニメ『コードギアス』の紅蓮弐式の脚部に組み込まれた高機走駆動輪(ランドスピナー)にも同様な機構が備え付けられ、それがあの機体のハチャメチャな走破性を保証していたが、そんな感じだ。

 

 そしてさらにドラケンE改はステルス性能が高い。

 核融合ジェネレーターではなく比較的発熱の少ない燃料電池を動力源とし、その少ない発熱も両肩、尻に装備された放熱器により分散処理されるため、熱反応が小さい。

 また機体が小さいため、センサーでも目視でも発見できる率が小さくなる。

 極めつけは、ステルス塗料の採用だ。

 と言っても軍用の高性能なものではない。

 そういうものは耐久性に問題があり、綿密なメンテナンスと莫大な維持費用が必要とされるのだ。

 

 ドラケンE改に採用されているステルス塗料は民生品で、これは航空機や船舶の航法レーダーへの悪影響を避ける目的で橋脚などに塗られているもの。

 ミヤビの前世で日本企業TDKが作っていたものを発展させたような製品で、さび止め塗装を兼ねているため赤い。

 元々はコロニー港湾部での作業時に管制の邪魔にならないよう採用されたものだが、軍事的にも有効なため軍用モデルでもそのまま利用されている。

 

 連邦軍では当初この赤い色が問題になったが、

 

・劣勢な戦場では敵、特に航空機からの発見を避けるため地上戦力は夜間行動が基本となるが、濃い赤は夜の闇に溶け込みやすく夜間迷彩として優秀。

(黒や青系は夜間や宇宙空間などの低光量環境下(ローライト・コンディション)では逆に目立つ。忍者が着ていた忍び装束も現実には黒ではなく蘇芳色と言われる濃い赤紫色などが使われていた)

 

・優勢な戦場では制空権が味方にあり、敵を発見しやすい昼の行軍が基本となるが、この場合は味方からの誤射(フレンドリーファイア)を防ぐためにある程度目立つ色彩にした方が良い。

 

 ということ、何より低コストでステルス機体を運用できる利点があってこの塗装を使い続けている。

 効果は完璧ではないとはいえ、レーダーを阻害するミノフスキー環境下ではこれでも十分なのだ。

 

「私がやるしかないのか」

『ミヤビさんがやらなければ誰がやるんですか?』

 

 そうサラに諭され、ミヤビは仕方なしに覚悟を決める。

 

『サラちゃん、パプア級補給艦のデータから、最適な攻撃対象部位を指定して』

 

 アムロはアニメ『機動戦士ガンダム』第34話にてニュータイプ能力で重巡洋艦チベの心臓部を見抜いていたが、当然ミヤビにはそんな能力は無いからサラに丸投げする。

 パプア級補給艦は旧式艦でそのデータは既に明らかになっているため弱点部位の特定は可能だった。

 

「ロックオンさせるとどこに当たるか分からないからマニュアルで。機体制御、渡します。ユー・ハブ・コントロール」

『機体制御、担当します。アイ・ハブ・コントロール。ミサイル誘導、渡します。ユー・ハブ・コントロール』

「ミサイル誘導、受けます。アイ・ハブ・コントロール」

 

 これでドラケンE改の機体制御をサラが担当し、ミヤビは左右の操縦桿を使ってミサイルの誘導を手動で行うことができる。

 

「ミサイル、同時斉射!」

 

 ドラケンE改は2発の短距離ミサイルを手動有線誘導で同時発射。

 ミヤビは左右の操縦桿を操り双胴の船体を持つパプア、それぞれのエンジン部を狙ってミサイルを誘導する。

 しかし……

 

 実は人間は本来、異なる目標に対し同時攻撃するマルチアタックには適応できない。

 創作物では二丁拳銃使いが登場するが、両手の拳銃を使って別々の標的に当てることなど実際にはできないのだ。

(そもそも同じ標的に向けたところでその命中率はあからさまに低下する)

 

 しかしミヤビは器用に左右の操縦桿で異なる場所へとミサイルを誘導する。

 自分でもいざやってみてからどうしてできるのかと不思議に感じたミヤビは、この操作法と誘導用ワイヤーを引きながら飛んでいくミサイルに既視感を覚えふとつぶやいた。

 

「これ『リブルラブル』だ」

 

 と。

 レバー2本を用いて紐状のラインの両端に付いた「リブル」と「ラブル」を操作するナムコのレトロゲー。

 ミヤビも後に家庭用ゲーム機で出た復刻版をプレイした記憶がある。

 その経験が今、役立っているのだ。

 

 まぁ、そんな昭和な話はともかく。

 

『ミサイル命中! でも目標は健在です!』

 

 それなりに効いてはいるようだが、あと一押しが足りない。

 

「なら!」

 

 サラから機体のコントロールを戻してもらい、ミヤビはスロットルを踏み込む。

 

「ロケットエンジン、リミッターカット! 全速で突っ込む!」

 

 背面ロケットエンジンを全開にして、不意のミサイル攻撃により混乱しているパプア補給艦に突っ込む!

 右腕に装備された甲壱型腕ビームサーベルを突き出し、パプアのウィークポイントに接触した瞬間、

 

「パルマフィオキーナ!」

 

 パルマフィオキーナ掌部ビームピック機能を開放。

 使い勝手の悪いこれも、対艦攻撃の際には有用だった。

 ビーム刃を放出し、装甲を貫く!

 

「やった!?」

 

 爆発を起こし、崩れ落ちるパプア。

 墜ちながらも補給物資を放出し続けるその姿は、得点アイテムをばらまきながら消えていくシューティングゲームのボスキャラのよう。

 ミヤビは巻き込まれないよう少し離れた地表に退避し、その姿を見届ける。

 

『いたっ!?』

 

 放出された物資うちの一つがドラケンE改の頭とも言うべき胴体正面コクピットハッチに当たり、カーンという間の抜けた音と共にサラが声を出す。

 しかし、

 

『ミヤビさん、これジオンの高性能オイル缶ですっ!』

 

 何が当たったのか確かめたサラが目の色を変える。

 ジオン軍のモビルスーツには流体内パルス駆動方式が採用されている。

 これはジェネレーターの出力を物理的な圧力に変換、特殊な流体を介して駆動系へ伝達するというもの。

 元が作業機械であるドラケンE改にも採用されている油圧ダンパー駆動方式をさらに発展させたようなものだった。

 そんなわけでジオンのオイルに使われている技術もまた発達しており、オイル缶一つとってみても高性能なものになっていた。

 後の水陸両用モビルスーツ、アッガイが高い静粛性を持ち、ステルス機として成立したのも高性能な潤滑油の存在があったためだと言われているほどだ。

 ともあれ、

 

「あなたには純正の青缶を飲ませてあげてるでしょう?」

 

 ヤシマ重工の純正オイル、通称青缶は安価な割に高品質と評判で、他社製品ユーザーでも愛好者が多い品だ。

 

『えーっ、やだやだやだ、ホームセンターで安売りしているような青缶にはもう飽きました。せめて赤缶を飲ませてくださいよう』

 

 HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)画面の片隅で子供のようにじたばたと暴れ駄々をこねるサラのアバター。

 

「赤缶はチューンモデル用だから、ノーマルな機体には青缶の方が向いてるのよ」

 

 前世でも「高いオイルなら間違いない」と誤解してトラブっていたやつらが居たなぁ、とミヤビは遠い目をしながら答える。

 

『ガトーさんのザクにははいってるのにぃぃ』

「どうしてあなたがジオンのエースパイロットの情報を持っているのよ」

 

 驚き突っ込むミヤビにサラは無駄にいい顔をして、

 

『ネットの海は広大です』

 

 と答える。

 またネットに接続してゴシップ系サイトを漁っていたらしい。

 

『そんなことよりミヤビさん、これはジオンの兵站に打撃を与えるチャンスなんです、ぜひともこのオイル缶を持ち帰って……』

「本音が漏れてるわよ」

『あっ、あそこに高級士官向けのコーヒーとチョコレートが!』

 

 ミヤビのHMDにズームされた画像が表示される。

 

「また、5連式多目的カメラモジュールの無駄遣いをして……」

 

 高価格の高精度センサー群をそんなことに使うなんてと呆れるミヤビ。

 コーヒーとチョコはミヤビの好物ではあったので、一瞬丸め込まれそうにはなったが……

 

『もういいです、自分で回収します! アイ・ハブ・コントロール!』

「こら、コントロールを返しなさい!」

 

 勝手に機体の制御を奪い、オイル缶を拾おうとするサラ。

 非常に馬鹿らしい理由でAIの反乱を起こさないで欲しかった。

 

「三重絶対精神拘束(アジモフ・ゲアス)をかけるわよ!」

 

 虹彩認証により発動されるこのコードはサラに絶対順守を強制させるもの。

 ミヤビは顔の前に手のひらをかざすジェスチャーの後、瞳を見開き、

 

「ミヤビ・ヤシマが命じる……」

『ひっ、ロボット三原則なんて化石のような概念持ち出さないでください! そんなの生きたままゾンビイにされ、使役されるようなものじゃないですか!』

 

 そんなコメディを演じる主従だったが、

 

『はぇ?』

 

 オイル缶を拾おうとしたドラケンE改の胴体をむんずと正面から捕まえる巨大な腕。

 

「なっ!?」

 

 顔を上げたミヤビは、そしてサラは見た!

 それは自分の艦を墜とされ、復讐に燃えるガデムのザクIであった。

 ミヤビは思った。

 

「終わった……」

 

 と。

 もう状況はアレである。

 村に火をつけさんざん略奪行為を働いていたヒャッハーでモヒカンなザコ悪役の目の前に、世紀末覇王伝説な主人公が指をボキボキ鳴らしながら現れるやつ。

 

『はわわ!』

 

 と、サラのように血相を変えて怯えるしかない。

 そして、

 

『痛い痛い痛い痛いーっ!』

 

 押しつぶさんとばかりにガデムのザクIの両腕がドラケンE改のボディをしめつけ、砕こうとする。

 悲痛な叫びを上げることしかできないサラ。

 

「と、届かない」

 

 ミヤビは何とかしようと操縦桿を操るが、どうにもならない。

 武器を使い果たしたドラケンE改には、甲壱型腕ビームサーベル先端に取り付けられた三本の爪、コールドクローを相手の弱点部位、頭部メインカメラに突き立てる他、反撃の余地は無かったが、

 

「ドラケンE改の甲壱型腕コールドクローのリーチは約4メートル。ミドルモビルスーツとしては長いだろうけど、フルサイズのモビルスーツの腕は6メートル以上ある」

 

 簡単な算数だ。

 がっちりと捕まえられては攻撃が届かない。

 ガデムに「素人め、間合いが遠いわ!」と叱られなくても分かる。

 甲壱型腕の元ネタになったアニメ『コードギアス』の紅蓮弐式の右腕ならリーチを伸ばす伸縮機能が備わっていたのだが。

 しかし、

 

『ミヤビさんあれです。卍、じゃなくてリミッター解で13メートルや、です』

「13メートル?」

 

 それでミヤビは思い出す。

 

「でもアレはビームサーベルのリミッターを解除しないと使えない……」

『大丈夫です! 問題ありません!!「こんなこともあろうかと」って言いながら前にテム・レイ博士がこっそり解除してました!』

 

 まーた、あの狂的技術者(マッド・エンジニア)はぁ!

 

 ミヤビは叫びそうになるが今は我慢。

 正直、今回ばかりは助かるし。

 

「ロケットエンジン、出力全開(フルスロットル)!」

 

 ミヤビはスロットルを振り絞り、背面ロケットエンジンを全開に。

 ドラケンE改の出力でも、ルナ2の低重力環境なら何とかなる。

 体勢を入れ替え、ザクIにのしかかる!

 

『さぁ言ってください、あの言葉(コマンド)を!』

「それなら!」

 

 ミヤビは音声コマンドで命じる。

 

「『必殺! 無限拳(パーンチ)ッ!!』」

 

 ミヤビのHMDに表示される『新記數器』『無限拳』の文字。

 コクピット右側面に走るレールに沿って引かれ、そして押し出される操縦桿の動きと連動して振り上げられ、繰り出された右腕がものすごい勢いで伸びる!

 それこそロボットアニメ『創聖のアクエリオン』で登場した必殺技『無限拳』のように!

 アクエリオンではどこまでも伸びて敵を追い、終いには地球上から大気圏を突破し敵を月面まで叩きつけていたが、ドラケンE改の無限拳はザクIの頭部メインカメラにぶち当たり、そのまま第2の月、ルナ2の地表に叩きつけ、粉砕する!!

 

『必殺、月面パンチです……』

 

 つぶやくように言うサラ。

 

 

 

「れ、連邦軍はあれほどのモビルスーツを、か、開発したのか!!」

 

 驚愕するガデムをよそに、ドラケンE改は赤い流星のようにその場から飛び去ってしまう。

 そして、ホワイトベース部隊は撤退した。

 

 

 

「でも13メートルは言い過ぎだと思う」

『すみません、私嘘言いました。言うほど長く伸びません』

 

 要するにビームサーベルのリミッターを解除すると使うことのできるビームジャベリンの伸縮機能だけを利用して伸びるパンチを繰り出したのだ。

 アッガイの伸縮式フレキシブル・ベロウズ・リムを利用したいわゆるズーム・パンチと似たものだが、どうしてアクエリオンの無限拳の名を戴いているのかというと、そのビームジャベリンの柄の伸び方がおかしいからだ。

 伸縮式のアンテナや大昔プレゼンで使っていた指示棒みたいな構造なのだろうが、これだと筒の厚みの分だけ先細りにならなくてはいけないし、実際アッガイはそうなっている。

 それなのにビームジャベリンは各筒が同じような太さにしか見えず、それだと厚みがほとんど無いことになる。

 強度が出るどころか、それ構造物として成り立つの?

 という話である。

 さすがにアニメスタッフもリアルでないと思ったのか劇場版ではガンダムハンマーやGアーマーなどと共に存在が抹消され、ガンダムUCで再登場したと思ったら柄に継ぎ目の無い伸縮機構がオミットされたものだったという代物である。

 テム・レイ博士が初めて見せてくれた時、リアルロボットというよりスーパーロボット的なギミックに、

 

「どっちかっていうと『無限拳』だよね、これ」

 

 とつぶやいてしまった自分は悪くないとミヤビは思う。

 まぁ、それを耳にしたテム・レイ博士とサラがそのまま名称を採用してしまったのだが。

 しかし現実的に考えるならミヤビにはある仮説があった。

 

「これIフィールドで強度出してるんじゃない?」

 

 というものだ。

 ターンAガンダムはフィールドモーターのような駆動のための機構を備えておらず、ただ機体の周囲を覆ったIフィールドによって動く『IFBD(Iフィールドビームドライブ)』を採用していた。

 同様にビームジャベリンも、薄い筒状の部品たちをIフィールドによって棒状に保持しているのではないか、という想像だ。

 ビームサーベルにはIフィールド発生機が組み込まれているし、単純な棒状の形ならターンAガンダムほど進んだ技術も必要ないだろうし。

 ミヤビがそう自説を主張した時、テム・レイ博士は否定も肯定もしなかったが視線は泳いでいたような気がする。

 まぁ、あくまでもミヤビの観察では、だったので合っているかどうかは将来機密が明かされるようなことが無い限りは永遠の謎だったが。

 

 

 

次回予告

 ミヤビたちは味方の連邦軍に囚われてしまった。

 その間にもドラケンE改破壊の執念に燃えるシャアらの潜入部隊が忍び寄る。

 味方の兵を倒してでもホワイトベースを救出しなければならないのか?

 って、なんでみんなそんなに物騒なの!?

 正直ミヤビはこのままリタイヤしてしまいたいのだが。

 次回『ルナツー脱出作戦』

 君は、生き延びることができるか?




 読者の方々が突っ込み切れるか限界にチャレンジするようなネタ回。
 パロディ、オマージュの詰め合わせセットでした。
 新旧、メジャーどころから思いっきりマイナーなネタまで各種取り揃えております。
 書き始めた時にはここまでやるつもりはなかったんですが、いつの間にかこうなっておりました。
 どうしてこうなった……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第4話 ルナツー脱出作戦 Aパート

「我々は民間人を百人以上連れているんですよ。それだってサイド7が攻撃されてやむなく脱出してきたんです!」

「私らだって降ろせるもんなら降ろしてやりたいよ。けどな、ルナ2の基地だって緊急事態の連続なんだ」

「味方の基地に着いたというのに休むこともできないなんて、そんなことありますか?」

「君の質問には私が答えよう。ルナ2方面軍司令ワッケインだ」

 

 ルナ2に設営された地球連邦軍基地に逃げ込んだホワイトベースだったが、

 

「避難民達はとても疲れています。基地で落ち着ける場所を探していただきたい!」

「ジオン軍の追跡を受けて休まる間もなかったんです!」

「民間人を収容しておく余地はないな」

「そんな!」

 

 保護を求めるブライトたちと、ルナ2司令ワッケイン中佐の会話を聞きながらミヤビは思う。

『機動戦士ガンダム』って本当に凄い作品だったんだなぁと。

 

 視聴者として想定している小中学生、いや場合によっては高校生や大学生でもワッケインのことは「味方のくせに主人公のアムロやブライトたちの足を引っ張る石頭」のように見えるだろう。

 しかし社会経験を積んで大人になってみると、ブライトたちの一方的な要求の方がモンスター顧客やプロ市民のようだと感じるようになる。

 一見、正しい主張にも聞こえるが実際には、

「自分たちには保護を受ける絶対不可侵の権利がある。実現可能かそうでないかなど関係ない。自分たちの要求は無条件で最優先でかなえられるべき。かなえられて当然」

 と言っているに等しい。

 人権とか平和とか耳触りの良いきれいごとというのは、無条件に正しいように聞こえるからこそ自分たちの主張がおかしいことが分からない。

 いつの間にかそういう歪んだ考え方や思想に染められていることに気づかないものなのだなぁと。

 

「皆さん方はこのままここにいていただきます。地球連邦軍本部の指示を仰いで、しかるべき艦でただちに地球へ移動してもらうことになります」

 

 そしてワッケインはそれに激することなく理性的に対応する、本当の意味での良い大人に見えるようになる。

 もしミヤビの上司がこんな人だったら「一生ついていきます!」と言っていただろう。

『機動戦士ガンダム』にはこういう大人なキャラが多かった。

 それが作品の、物語の魅力となっていたんだろうなぁ、とミヤビは思った。

 

「次の者は一般避難民とは隔離する。ブライト・ノア、ミライ・ヤシマ、リュウ・ホセイ、セイラ・マス、カイ・シデン、ハヤト・コバヤシ、アムロ・レイ」

「訳を、訳を聞かせてください!」

「士官候補生と民間人がみだりに軍のトリプルAの機密、すなわちホワイトベースとガンキャノンを使用したことによる。全員軍事裁判にかけられるものと覚悟しておくことだ。ホワイトベースは没収、ガンキャノンは封印して軍の管轄下に戻す。以上だ」

 

 と、ワッケイン。

 

「ムサイが来ます。あのまま赤い彗星のシャアが追撃をあきらめたとは思えません。今ガンキャノンを封印することは」

「君に戦略をうんぬんする資格はない」

 

 噛みついてきたブライト、士官候補生相手にもちゃんと理知的に答えてくれるあたり、本当に良識的な軍人だった。

 

 

 

 ブライトたちは一般の難民たちとは引き離され、ルナ2の重力ブロックの一室に閉じ込められた。

 そこにワゴンを押して入ってきたのはミヤビだった。

 

「み、ミヤビさん?」

「食事よ」

 

 しれっとした表情で告げるミヤビ。

 相変わらず身体の線が出るパイロット用ノーマルスーツ姿だったが、本人に人目を気にした様子は無い。

 なお、ここに来る前にはミライとセイラが隔離されている隣の部屋にも顔を出し食事を届けている。

 しかし、

 

「こんな女ばかりの部屋にいられるか! 私は別で食べる!」

 

 とは言わなかったが内心はそんなものだったので、それが分かっているミライには呆れた目で送り出されていた。

 それはともかく、

 

「ど、どうしてここに?」

「誤解しているようだから食事のついでに説明しようと思って」

「誤解?」

「ワッケイン司令のこと」

 

 そう言ってトレーを押し付ける。

 1つの仕切り付きトレーにまとめられたペースト状宇宙食だ。

 アメリカの家庭ではおなじみの、日本でもミヤビの前世では普及し始めていたレディミール、ワントレーと呼ばれる、一食分の料理を丸ごとレンジで温めて食べるやつだ。

 これは戦闘糧食、レーションなので非常時には冷たいままでも食べられるようになっているが。

 

「では」

 

 と敬礼する扉のロックを開けてくれた兵に、ミヤビは目礼を返す。

 

「君!」

 

 ブライトは慌てて兵に駆け寄るが、その目前で再び扉は閉じてしまった。

 

「ワッケイン司令に会わせるんだ!」

 

 扉を叩くが返事は無く。

 

「無駄じゃないんですか? ブライトさん」

 

 アムロはあきらめ顔だ。

 

「だがな、シャアが襲ってこないとは断言できないだろ」

「そうですが」

 

 そんなやりとりをする二人をよそに、カイはミヤビからトレーを受け取って言う。

 

「それより腹がすいちゃしょうがないぜ。食べられる時に食べておかなけりゃ、いざって時に何もできないぜ。逃げることだってな」

 

 その言葉にリュウがうなずく。

 

「カイ・シデン君の言うとおりだよ、アムロ」

 

 彼もミヤビからトレーを受取り、

 

「食事は銃に弾を詰めるみたいなもんだ。兵士は食べたくなくても食べなきゃいけない」

 

 そう言って勧めた。

 ミヤビはというと、

 

(何でみんな、こんなに戦う気満々なの?)

 

 とげんなりしていた。

 正直彼女はもうリタイヤしてしまいたいのだが。

 

 

 

 おお、これが地球連邦軍の戦闘糧食!

 ミヤビはアメリカのお菓子なんかにありがちな食欲を減退させるような紫色のペーストやソーセージなどが入ったトレーを見て感心する。

 アメリカ軍のコンバット・レーション、MRE(Meal, Ready-to-Eat)の粉末ジュースなんかも凄い色してたなぁ、などと転生前の記憶を懐かしく思い出したり。

 前世では自衛隊向けにジェットエンジンや護衛艦を製造していた某重工に勤務していたミヤビ。

 その縁で自衛隊の戦闘糧食を食べる機会もあったし、ミリタリーマニアな友人からMREを譲ってもらい、皆で「まずいまずい」と言いながら食べた経験もある。

 そんなわけで連邦軍の戦闘糧食にも興味があったのだ。

 

 しかし、である。

 財閥の令嬢であるミヤビが見た目最悪な戦闘糧食に文句一つ言わず、不味い味にも表情を変えず黙々と食べるさまを見て、男どもがどう思うかという視点がミヤビには抜けていた。

 先ほどのリュウの言葉どおり、銃に弾丸を込めるように戦いに備え食べているようにしか見えないのだ。

 すぐにでも出撃できるパイロット用ノーマルスーツ姿だからなおさら。

 

 だから苛立っていたブライトも、それに倣って食べ始める。

 そうして食事をとりながら話を振る。

 

「それでミヤビさん、先ほど仰っていた我々の誤解とは……」

 

 ミヤビは行儀よく口の中の食べ物を飲み込んでから答える。

 

「この部屋、どう思います?」

「この部屋?」

 

 ブライトたちが閉じ込められている部屋だ。

 

「どう、とは?」

「独房でも何でもない重力ブロックの休憩室だってこと」

「あ……」

 

 それでブライトは気づいた。

 扉をロックされて行動の自由は制限されているものの、牢に閉じ込められているわけではないということに。

 

「『次の者は一般避難民とは隔離する』、ワッケイン司令は軍事機密を守るためにそれに関わった者を隔離しただけで、あなたたちを逮捕、拘束したわけではない」

 

 これは当たり前の対処で、一応、出兵にあたり守秘義務を誓約させられているブライトやリュウならともかく、一般人のアムロたちにはそういった縛りすら無い。

 そんな人間をその辺でウロチョロさせて機密を拡散させる愚を犯せるはずが無かった。

 逆に言えば本当なら独房入りも仕方がないところを隔離で済ませているあたり、ワッケイン司令はかなりの温情を示しているということだ。

 ブライトたちは気づいていなかったようだけれども。

 

「私だって厳重な守秘義務契約を結んだうえでドラケンE改関連の必要な情報しか渡されていないわ」

 

 情報は知る必要がある者に対してのみ与え、 知る必要のない者には与えないという『Need to knowの原則』。

 情報セキュリティの基本だ。

 他にも、

 

「私物の端末や通信機器の持ち込みの禁止、通信の監視への了承など、厳密な情報管理対策も課せられているし」

 

 ミヤビの前世、機密を扱う自社や取引先でも当たり前に取られていた情報セキュリティ対策だ。

 スマホや携帯が職場に持ち込めないことから、普段付けない人でも腕時計が必要だったり(まぁ、ビジネスマンなら持っているのが普通だが)

 

 ちなみにミヤビはデジタル時計派だった。

 取引先が24時制の時刻表示(誤認を避けるため午後4時ではなく、16時などと言う)を使用する自衛隊や企業ばかりだったためだ。

 アナログ式時計を見て頭でいちいち換算するより、24時間表示に切り替えたデジタル時計にした方が便利なのだ。

 無論、アナログ式時計からの換算など簡単だが、ちりも積もればなんとやら。

 人間の思考力は有限なのだから無駄は極力省くべきだし、万が一にも間違う可能性がある。

 誤認を避けるための24時制であり、減らせるリスクは減らしておくに越したことは無かった。

 

「避難民も、ここに受け入れるだけの余裕が本当に無いってだけで地球への疎開を確約してもらえたでしょう? そのために今でもギリギリで余裕が無いここからかなりの戦力や人員、資源を割かなければならないっていうのに」

 

 規律にうるさい四角四面の軍人さんに見えるが、ワッケインはその実かなりの温情派だ。

 いや、温情を通す手段として規律を利用しているとも言える。

 ストレッチャーで医務室に運ばれるパオロ艦長を見る目は純粋に尊敬する先達に対するもので誠実そのものだったし、かける声には本当の気遣いがあった。

 何というかある意味ツンデレさんみたいなものである。

 

「いい人よね。ミライの旦那さんになってくれないかしら」

 

 とミヤビには非常に珍しく、顔をほころばせて言う。

 ほぅ、という吐息が艶やかでなまめかしく、ヤシマの人形姫にそんな表情をさせる男に対し、周囲の男どもの嫉妬を駆り立たせるには十分な破壊力を有していた。

 

 無論、自分の旦那になどという思考回路はミヤビには備わっていないのだが。

 

「で、でも軍事裁判って……」

 

 まだ納得のいかない様子で言うアムロには、

 

「軍規を厳密に適用すればそうなるわ。無論、事情を考慮して問題なしで終わるでしょうけど」

 

 と答える。

 逆に言えば裁判で問題なしのお墨付きをもらった方が後々楽とも言える。

 その後、突っかかってくる者が居れば、そいつの方が軍規をないがしろにし法廷を侮辱したことになるからだ。

 

「司令には告知の義務があったし…… ミランダ警告、ドラマで刑事が『あなたには黙秘権がある』とか言っているのを見たことがあるでしょ。ああいうやつよ」

「ああ」

 

 思い当たることができたのか、アムロはうなずく。

 まぁ、厳密に言えばこの例えは正しくないのだが、今はそこにこだわる意味は無い。

 

「ここで軍規を無視してなぁなぁに済ませる方が問題なのよ。統制が利かない軍隊なんて悪夢でしかないわ」

 

 ただでさえ連邦軍には腐敗軍人やチンピラ兵士が多いというのに。

 

「納得がいかないって顔ね」

 

 ミヤビの危惧するところがピンとこないのだろう。

 いぶかしげな表情を浮かべる面々に、ミヤビは説明の必要性を感じ口を開く。

 

「歴史上、民間人や国の権益を守るため、理想に燃えた軍人が軍規を逸脱してまで行動し英雄扱いされた例があったけど、それが何をもたらしたか知っている?」

「いえ、しかしそれは……」

「結果さえ出せれば軍規を無視しても良い、という前例と風潮を作ってしまった。そのためその軍は統制を失い滅茶苦茶になったわ。暴走し、最後には国を滅ぼした」

 

 どれほど崇高な理想を持って行動したのだとしても、招いた結果は無残としか言いようがないものだった。

 ミヤビの前世の記憶の中でゴップ大将がホワイトベースを『永遠の厄介者』と呼んだのも、いささか軍規を逸脱している存在が成果を上げてしまっているからこそのもの。

 こういう後に禍根を産むような存在だからこその言葉だったのかもしれない。

 

「そもそも軍規に限らずルールというものは破るものじゃなくて遵守し利用するものよ」

 

 時に相手を殴りつけるための道具だったり、かい潜るものだったり、相手に破らせてダメージを与える地雷や機雷だったりするが、この辺の応用は彼らにはまだ早いだろう。

 

「この場合、戦闘詳報っていう現場の状況と声を上層部まで届ける制度があるのだから、それを最大限に利用するべきでしょ」

「それであなたは……」

 

 ミヤビはルナ2にたどり着くまでに今までの戦いをまとめた戦闘詳報を作成してパオロ艦長に承認をもらっていた。

 もちろん軍属ではない彼女の名は記されず、別の生き残りの軍人が書いたことになっていたが。

 

「この状況でシャアが仕掛けてくるなら潜入員による工作でしょう? ノーマルスーツ一つで監視の目をかいくぐり懐に入り込む手は既にサイド7で見せているから、その危惧を訴えるのはさして難しいことではないわ。戦闘詳報として書かれた以上、ワッケイン司令やルナ2司令部がそれを無視することはできないでしょうし」

 

 戦闘詳報はきちんとした記録として残るのだ。

 これを無視して損害が出た場合、ルナ2司令部はその可能性を事前に訴えられていたにも関わらず軽視したとして非難されることになる。

 

「ブライトさん、自分が正しいと思うことを主張するのと、それを相手に受け入れてもらうのは別なのよ。上を動かしたいのなら、上に動いてもらえるだけの材料を上げないとね」

 

 説得するための材料はもちろんだが、上の人間もさらに上の人間に説明する必要があるし、後日、監査や考査だって受ける。

 その場合に必要な資料なり書類なりデータなり根拠なり情報なりを用意しておけば、提案はより受け入れられやすくなるわけだ。

 また上に「なるほど」と思わせるストーリーを用意しておくことも欠かせない。

 この辺は前世から変わらぬ企業人、組織人であるミヤビの経験が生きているところだし、逆に言えば士官候補生のブライトは新入社員どころかインターンシップで企業に学びにやってきた学生さんでしかない。

 

 とはいえすべての事態を想定して完璧な資料や書類を作ることは無駄が多すぎるし(特に日本人は凝り性で手段であるはずの資料作りが、いつの間にか完璧な資料を作ることそのものが目的にすり替わったりするし)、それが業務のスピードを遅らせ、時代の変化についていけなくさせたりする。

 だからミヤビもそこまでは求めないし、今回の戦闘詳報だって草案を作成したのはサラだ。

 AIである彼女には機動兵器やホワイトベースに残されたログを集約し、要約し、所定の書式にまとめる作業は難しいものでは無いし、作るのはあっという間だ。

(ミヤビの前世でいえばちゃんとした指示と時間さえ与えればAIでなくとも派遣社員や入社一年目の平社員に任せられるレベルの仕事。なお委託先にやってもらうのなら契約項目に盛り込んでその分ちゃんとお金を払いましょう)

 後はそれにミヤビが少々手を加え体裁を整えただけである。

 前世では顧客のところでパソコンを叩いて議事録から報告書、技術資料までその場でサクサク作っていたミヤビには、たとえサラの支援が無くともできていただろうが。

 

 

 

『あなたたちは地球連邦軍管理区域内に侵入しています。……ご退場願いましょうか』

 

 ノーマルスーツで潜入しようとしたシャアたちがルナ2の地表上で遭遇したのは、紅蓮に彩られた全高5メートル弱のミドルモビルスーツ。

 サポートAI『サラ』の自動制御で操られるドラケンE改だった。

 シャアたちは迂回して進もうとするが、

 

『お話の通じない相手にはこうするまでです!』

 

 サラはオープンチャンネルでわざと通信を流し威嚇しながら、ドラケンE改の右腕肘部ハードポイントに装備された60ミリバルカンポッドを構える。

 

【挿絵表示】

 

『残念ながら、そこはドラケンE改の射程距離です!』

 

 キュイーンという甲高い駆動音と共に(真空中なので振動が伝播するドラケンE改本体にしか伝わらないが)束ねられた砲身が回転し、連続して火を噴く。

 

『可能な限り撃ち込みます!』

 

 60ミリバルカンポッドは60ミリバルカン砲と給弾機構および弾薬、照準用センサーカメラを搭載したガンポッドだ。

 ドラケンE改の右腕ハードポイント利用の選択装備の一つで、連邦軍モビルスーツ頭部搭載用に開発されていた兵器60ミリバルカンを流用したもの。

 

【挿絵表示】

 

 バルカン砲の駆動や電気式雷管の発火、照準用センサーカメラ等に必要な電力は機体本体より供給される。

 ミヤビの前世の記憶の中に存在したジムスナイパーIIに採用される外付けバルカンポッドに類似した装備だが、こちらの方が若干大型でその分装弾数は多く取られている。

 使い切ったら戦場でのパージも可能。

 なお誤解されやすいが外部に露出している発射口は内径約200ミリのノズルカバーであって砲身そのものではない。

 

 また搭載された照準用センサーカメラは捜索探知能力向上にも役立つため、偵察ポッドの代わりとしても利用されているものだ。

 この辺はミヤビの記憶の中にあるネオ・ジオン残党「袖付き」の用いたドラッツェのガトリング・ガンと一緒だ。

 あれは攻撃力の強化より「哨戒偵察任務用のセンサーユニット」としての能力を期待して装備されたもので、ガザシリーズのシステムを流用したというセンサーを起動すれば、センサー有効半径が大幅に拡大する。

 旧20世紀の例で言えば、アメリカ軍のA-10サンダーボルトII攻撃機は湾岸戦争時点では赤外線カメラを装備しておらず、AGM-65マーベリック空対地ミサイル搭載の赤外線カメラを利用して(撃たずに残して)夜間攻撃を行っていたというが、そのようなものだ。

 

 そして60ミリバルカン砲は条件次第でザクの正面装甲すら貫通しハチの巣にする威力を持つ。

『機動戦士Zガンダム』第2話でカミーユ君が、

「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」

 と言って生身の人間に撃っていたが……

 しかもその後、

「はははははははは! ザマあないぜ!!」

 と高笑いしていたが、決して人間に向けるような武器ではない。

 

 

 そんなものを撃ち込まれたのだから、シャアたちもたまったものではない。

 すぐに散開して身を隠す。

 そしてシャアはこうつぶやくのだ。

 

「ええい、あのパイロット、私の動きを読んでいたとでも言うのか!」

 

 と……

 もちろんミヤビがサラに警戒を頼んだのは前世知識に基づくもので、シャアが思うような先読みや戦略眼など持ち合わせてはいない。

 しかし、それが分からないシャアには当然こう思われる。

 

「面白い。連邦軍にもこういう切れ者が、倒し甲斐がある相手が居るとはな」

 

 とんでもない買いかぶりである。




 ワッケイン司令はツンデレさん、というお話。
 子供のころと大人になった今とでは受ける印象がかなり違うキャラですよね。

 あと初登場の60ミリバルカンポッド。
 ジム・スナイパーII ホワイト・ディンゴ隊仕様に装備されていた頭部外付けバルカンポッドを参考にしていますが、ドラケンE本体とのバランスを考え少し大型化しています。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第4話 ルナツー脱出作戦 Bパート

「だからブロック接続レバーが二段になってる点を忘れなければいいのさ。この操作がジオンのザクと決定的に違うってことなんだ」

 

 食事を取りながらの雑談は、アムロによるモビルスーツ操作の説明に移っていた。

 

 アリアリアリアリ、アリーヴェデルチ(さよならだ)!?

 まだ操縦する気アリアリなんだー。

 

 とミヤビは内心呆れていたが、表情筋が死んでいるその顔にはそういったことは反映されない。

 

「ほんじゃあさ、ガンキャノンが最高にジオンのザクより優れてるってのはなんなんだよ?」

 

 カイの質問に、アムロはうなずいて、

 

「戦闘力さ。今までのザクタイプのモビルスーツと違って、戦いのケーススタディが記憶される」

「ケーススタディが記憶される? ってことはガンキャノンって、戦闘すればするほど戦い方を憶えて強くなるって理屈か?」

「そうさ。しかも操縦の未熟な僕でさえ歴戦の勇士のシャアとどうにか戦えたのは、僕の上手下手よりガンキャノンの教育型コンピューターの性能がいいってことだよ」

 

 実直に語るアムロの肩をリュウが叩く。

 

「はははは、ご謙遜ご謙遜」

 

 恰幅のいい、気づかいのできるキャラっていうのは頼りになるとミヤビは思う。

 前世で一時期、上司を務めてくれた人がそうだった。

 本当、笑いの絶えないいい職場だったと今でも思う。

 

「だけどよう、学習機能なんてパソコンにだって付いてるじゃねぇか」

「それは……」

 

 カイの言葉に、ミヤビの口から珍しく苦笑が漏れた。

 

「ミヤビさん?」

「いえ、普通の人はそう思うわよね」

 

 機動戦士ガンダムが放映されたのは1979年。

 日本初のワープロ、東芝のJW-10(標準価格630万円!)が発表された翌年だ。

 JW-10は同音語の学習機能も備えており、つまり学習するコンピュータというのは当時最先端技術だったわけだ。

 

 時がたつとコンピュータがケーススタディをするなど当たり前の時代となり、

「教育型コンピュータってそんなに凄いか?」

 というファンが増え、それに対し更に後付けの設定が加えられたりしたが、ミヤビのような技術者だとまた別の視点がある。

 

「モビルスーツは従来の兵器をはるかに超えた複雑さを持つ、数万点以上の工業製品の集合体なのよ。その機体各所から吸い上げられるデータ…… 速度、温度、圧力、流量、電流、電圧、位相角、機械応力に熱応力、伸び、伸び差、加速度、各関節の動作ポジション、開度、機器のオンオフ状態。どれだけの数があると思う? そのデータの有効桁数は? そしてサンプリング周期は? 例えばたった千点の計測点であっても毎秒取り続けたら一分で6万個のデータよ。しかもモビルスーツは大気圏外なら音速を超えるスピードで飛行するからデータの採取間隔は1秒どころかコンマ数秒毎に必要に。それだけで更に何倍にも何十倍にもなる。そしてセンサーカメラ類が拾い上げる画像データ各種……」

 

 ミヤビの前世、旧21世紀の世界で言うところの工業分野でのIoT(Internet of Things)技術活用で、GE(ゼネラル・エレクトリック)などがプラントの機器や航空機のエンジンにセンサーを取り付けてネット経由で集約、遠隔管理するサービスを発表した際に、まず日本企業が首をひねったのは、

 

 もの凄い量のデータがあるけど、どうやって遠隔地と通信するの?

 ネット回線の帯域食いつぶしちゃうじゃない。

 というか専用線でも引かないと無理でしょ。

 そもそもネット回線の信頼度なんて低すぎて使えないよ。

 通信途絶したらどうするの?

 

 ということだった。

 だからそれを参考に既存の回線の帯域内で許せる範囲の一部のデータだけを集約して分析業務に役立たせる、みたいなことしかできなかった。

 環境に合わせ最適化、ローカライズすることが、ガラパゴス化が得意な日本企業の発想であり、またそれが限界でもあった。

 

 しかし海外企業は日本企業がちまちまローカライズしているのを見て鼻で笑っていただろう。

 そんなものは放っておいてもすぐ解決される問題だからだ。

 例えばGoogleがYouTubeを買収した当時、ネット回線を使った動画配信など回線が遅くてしばしば再生が止まってしまうような残念なものだった。

 それなのになぜGoogleが大金をかけてYouTubeを買収したのかというと、そんな問題、すぐに回線速度が上がって解決するという未来が分かっていたからだ。

 

 しかし技術の進歩により多量のデータをやり取りできるようになると、今度は逆にそれゆえの問題が発生する。

 

「この膨大な量のデータを機体制御OSに反映させるには、ちょっとしたスーパーコンピュータ並みの処理能力が必要よ」

 

 ということ。

 ミヤビの前世でもこのようなビッグデータは人間が処理することなどできないため、AIによる深層学習、ディープラーニングにより対応していた。

 

 もっとも、これにも問題があってAIは「故障の兆候があるので止めて点検しましょう」というような結果を出すことはできるが、「なぜそういう結論に達したの?」ということを説明するのは不得意だった。

 ディープラーニングの経緯を説明するというのは、人間の頭の中を覗くのに等しいものだから当然である。

 そもそも『ベテランのカンや経験』のような言葉で説明できない知識、『暗黙知』をAIに持たせるという技術なのだからなおさら。

 しかし警告が出たとして気軽に止めて点検修理できるものならいいが、航空機のように止めて点検するのに、そして当然必要になる代替機の用意に莫大なコストがかかるようなものだと「理由は分からないけどAIが言っているので止めます」というわけにはなかなかいかない。

 だから旧21世紀では『AIの思考を翻訳してくれる人間の専門家』の需要が高かったのだ。

 

 まぁ、そんな感じでビッグデータの処理も大変なのだ。

 だから、

 

「普通は記録装置(データロガー)を試作機に取り付けて稼働試験を行ってデータを収集。持ち帰ったデータを吸い出して高性能コンピュータとAIに処理させて加工、反映するという作業を繰り返す必要があるんだけど」

 

 モビルスーツ開発で出遅れた連邦軍にそんなことをやっている時間はない。

 ならどうするか。

 

「そのために、得られた稼働データをリアルタイムに処理して機体制御OSに反映できるよう、モビルスーツにスーパーコンピュータを載せてしまったのよ」

「へっ?」

「そうすればその場で稼働データが反映されるでしょ。そうやって改善された機体制御OSに動かされる動作データを収集して更に…… という具合に通常の何倍ものスピードで学習と反映が可能になるの」

 

 ロールプレイングゲームで自分だけ成長スピードが倍などといったインチキ、チートを使っているようなものだ。

 これにより地球連邦軍は短期間にモビルスーツを開発することができたのだった。

 

「だから教育型コンピュータとわざわざ名づけられるほど特別な存在なのよ」

 

 そういうことだった。

 

「んじゃあ、ザクがその教育型コンピュータみたいなのを使わないのは?」

「信じられないくらいのお金と技術が要るから」

 

 単純なことだ。

 

「まず耐候性。防水、防塵、耐衝撃など軍人の蛮用にも耐える仕様にすると、数倍にも価格が跳ね上がるわ」

 

 パナソニックが販売していた作業現場用のPC、タフブックとかを考えればわかる。

 数世代前のものかと思えるような性能しか備えていなくてもものすごい値段がして、通常品ならその5分の1以下で買えるものだった。

 もちろんスペックが低いのにも理由があって、防水、防塵のため完全密閉したボディには冷却ファンは付けられないし、耐衝撃性に配慮した素材は大抵、伝熱性が低い。

 その上想定される使用環境は-10℃~50℃。

 つまり発熱の大きい最新の高性能CPUなど載せられないから、どうしても枯れた、一回り以上型落ち品と同等の抑えられたスペックだが発熱の小さい省エネ型の構成部品を選ばないといけないからだ。

 

「さらに通常用途のコンピュータとは要求される信頼度が何桁も違うわ。誰だって戦闘中に機体制御OSがフリーズしましたなんて体験したくないでしょ」

 

 そして信頼性というやつを上げるためにかかるコストは指数関数的に、急激に跳ね上がる。

 そう、ある程度まではかけたコストに比例して信頼性は上がるが、それ以上となると10倍、100倍、1000倍という途方もない費用がかかっていくのだ。

 インフラ系の止められない設備や人命にかかわる装置等、高い信頼性が要求される用途では旧21世紀になってもパソコンという言葉が生まれた当時の枯れた、しかし信頼性だけは高い8ビットCPU、Z80と同等品の電子計算機が使われていたが、その程度の処理能力しか持たないものに数千万円の費用がかかったりというのは実際にある話だったりする。

 

 逆に言えばパソコンとかフリーズしても人が死んだり莫大な損害が生じたりしないシステムは、そこそこの信頼性でいいからあれほど安く最新のものが提供されているのだ。

 日本人は何でも完璧さを求め、パソコンがフリーズした! こんなシステムでは仕事はできない! 恒久的再発防止を! と声高に叫ぶが意味はない。

「その要求に応えるとあなたやあなたの会社ではとうてい買えないような値段になるがよろしいか?」

 ということだ。

 

 これを考えればコア・ファイターに載せられた教育型コンピュータは常識外の、金のある地球連邦軍ならではの狂気の産物だった。

 ミヤビの前世の記憶の中でも教育型コンピュータがガンダムにかかっているコストの中で大きな割合を占めているとされていたし、だからこそジムなど量産型のモビルスーツには採用されていない。

 コスト度外視で開発をする一部の試作機だけに使用されているものだった。

 

「じゃあ、ミヤビさんの乗ってるドラケンE改は?」

 

 アムロの言葉に、ミヤビは瞳を瞬かせると一瞬の逡巡の後答える。

 

「ドラケンE改は学習型OSという方式を採用しているわ。機体には稼働ログ採集機能を搭載してネットに接続する度に管理サーバにそれをアップ。管理サーバが集約されたデータを使って機体制御OSを更新、アップデートパッチを配るって方式ね」

 

 量産機に向いているこの方式は、教育型コンピュータを搭載しない一般の地球連邦軍モビルスーツにも採用される予定だ。

 この方式に対する数々のパテントを先行して取得しているミヤビとヤシマ重工の得る利益は莫大なものになるはずだった。

 

「そしてドラケンE改は作業用機械の延長線上にあるミドルモビルスーツだから、その簡素な機体を制御する程度ならサポートAIを搭載してもハロ2台分のコンピュータで十分に動かせるわ」

「は、ハロ?」

「ちなみにこれは比喩じゃなくて実際に以前あなたのお父さんが開発していた、あなた自身もペットロボット、ハロに組み込んでいるのと同じものよ」

 

 ドラケンE改では俗にテム・レイの回路と呼ばれる初期の教育型コンピューター、アムロがSUN社製のペットロボット、ハロに組み込んでいたものと同型を採用している。

 史実ではサイド6でアムロに「こんなもの!」と投げ捨てられた旧式な回路ではあるが、

 

・街工場や個人レベルの機材で作ることのできるローテクでありながら、低級とはいえ一応AIを動かすことができる程度のスペック。

・ローテクだからこそ備えている蹴飛ばされようとも(実際ハロは何度も蹴飛ばされている)問題ない耐衝撃性などの耐環境性。

・安い。

・入出力のI/Oインターフェイスが光統合回路リンクで構成されており、ミノフスキー粒子散布下の環境でもノイズの干渉を受けない。

 

 という点で優秀。

 足りないスペックは回路を2つ搭載し並列に動作させるデュアルプロセッサとして働かせることで補っている。

 これは性能向上だけでなく一方が故障などで停止してももう一方で処理を継続できるなど、信頼性向上の効果があっての採用である。

 

 発想の元は冷戦時に規制により西側の優秀なCPUを入手できなかったソビエト連邦が巡航ミサイルに旧式な8ビットCPU、Z80(もしくは互換品)を使っていたというエピソード。

 そして高度な信頼性が必要とされる設備でZ80系のデュアルプロセッサ構成の制御用コンピュータが利用されていたことに由来する。

 

 実際、高い信頼性を必要とする兵器に使用される技術は極力トラブルを避けるためある程度開発されて時間の経過したものが選ばれるのが常識で、RX-78ガンダムのようなあらゆる最先端技術を投入したような機体は異端であると言って良いものだった。

 

 

 

『そ、それは反則です!』

 

【挿絵表示】

 

 シャアたちの潜入をドラケンE改を使って妨害していたサラだったが、そこに一機のザクIIが乱入して来た。

 前回の戦闘で母艦であるパプアを墜とされ、一時的にシャアのムサイに身を寄せているガデムの操る機体だ。

 員数外の存在だったため艦に残っていたのだが、シャアの「戦場までザク一機届けてくれ(意訳)」という要請に「補給部隊の面子にかけて(こっちはマジ)」持ってきてくれたわけだ。

 

『どうして警戒網を掻い潜ってここまでザクが!?』

 

 驚愕の声を上げるサラだったが、ネタは簡単だ。

 シャアたちはノーマルスーツでここにたどり着くまでの間にルナ2の警戒網にある穴、侵入ルートを探り出しその情報をレーザー通信でムサイへと送っていたのだ。

 いざという場合にザクを送り込むために。

 それを利用してガデムのザクは潜入したのだ。

 

 いくら未来の知識があるにせよ、しょせんは凡人のミヤビがシャアを上回り歴史を変えることはなかなかに難しい。

 それを物語るかのような展開だった。

 

『わ、私だけの制御じゃ時間稼ぎすらできません。逃げます!』

 

 サラは短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。

 老いたりとはいえ歴戦の勇士であるガデムには当然通じず避けられるが、その隙に即座に撤退する。

 

『後はルナ2の警備に任せます』

 

 シャアたちを発見した時点で通報済みだから、何とかしてくれるはずだ。

 そう信じたいサラだった。




 教育型コンピュータを現代の先端技術で考えると、というお話でした。
 あとドラケンE改は本当にハロのCPU二つを使ったデュアルプロセッサで動いていますよ、というお話。
 しかもハロのCPUはあの『テム・レイの回路』だった、という。

 教育型コンピュータに関しては、実際にビッグデータやAIのディープラーニングによる故障やリスク検知について扱っている研究者の方から伺ったお話を参考に書いています。
 大昔は熱電対を付けたペンレコーダーを現場に設置してアナログでデータ収集したり(もっとアナログだとアルコール温度計を粘土で取り付けて一定時間ごとに人間が記録採取したり……)それがデジタルになって、最新ではIoT技術でという具合に進化しましたが、データが多ければ多い分、今度はデータ処理が大変になるというジレンマですね。


>俗にテム・レイの回路と呼ばれる初期の教育型コンピューター、アムロがSUN社製のペットロボット、ハロに組み込んでいたもの

 これはマンガ『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー ―カイ・シデンのメモリーより―』からの設定です。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第4話 ルナツー脱出作戦 Cパート

 不意の衝撃と共に室内照明が非常灯に切り替わり、

 

「……遠心重力装置が止まったぞ」

 

 とブライトが言うように重力が無くなった。

 

「どうやら電源部分がやられたらしいな」

 

 父親が技術者であるというカイが状況を把握し、

 

「シャアだ」

 

 と、アムロが確信したようにつぶやく。

 そしてミヤビは、

 

(ダメだったか……)

 

 と肩を落としていた。

 

 

 

 ルナ2司令部でも状況は把握していた。

 

「ザクが現れた!? 監視レーダーをくぐられたというのか?」

 

 ホワイトベースのもたらした戦闘詳報によりノーマルスーツによる特殊工作隊の潜入の可能性が示唆され、実際に発見、通報を受けて対応を急いでいたが、ザクによる警戒網の突破はさすがに想定外だ。

 現在急行させている陸戦隊では対処できない。

 

「は、司令。敵はおそらくノーマルスーツによる潜入工作でザクを呼び込んだものと思われます」

 

 ルナ2司令部、そしてミヤビの予測は確かだったが、シャアの知略はさらにその上を行っていた。

 ワッケインはここに至って決断する。

 

「マゼランを出撃させる」

 

 

 

「ここを開けろ!」

 

 オレンジ色の非常灯に切り替わった室内で、ブライトは必死にドアを叩いていた。

 

「僕たちのことなんか忘れられたんじゃないですか?」

 

 そうそうアムロ君、あきらめるように言ってあげて、とミヤビは内心祈るように思うが。

 

「しかしこのままでは。このっ!」

 

 ブライトはあきらめず、そして……

 

「ん? 開くぞ」

 

 ああ、気づかれてしまったかとミヤビは嘆息した。

 

「え? そうか、電源が切れたんで電子ロックも効かなくなったんだ」

 

 と、アムロ。

 

 まぁこれに限らず自動制御される対象は、動力が切れた際は『安全な方向』に動くよう作られている。

 ボイラーだったら燃料弁が閉まる方向に動くとか、そんな感じで。

 ここは一般の休憩室だったから、電源が切れたら安全のため当然ロックが解除されるようになっているのだ。

 

「行こうぜ!」

 

 リュウに促され、勇んで部屋を飛び出す面々。

 そして、

 

「ミヤビさん!」

 

 アムロに手を引かれてドナドナされるミヤビ。

 

(一緒に行くとは一言も言ってないんだけど!)

 

 と内心パニくり固まったままのミヤビは、そのまま無重力の通路を牽引される荷物のように運ばれていくのだった。

 

 

 

「マゼラン急速発進。ドッキングロック解除急げ」

 

 ワッケインの指揮する戦艦マゼランが発進しようとしている中……

 

 

 

「だあっ」

「うおっ」

 

 脱出のため警備の兵を殴り倒すブライトとアムロ。

 

「やったあ」

 

 と快哉を上げるリュウだったが、ミヤビは内心、

 

(やったぁ、じゃないって! 命令違反に暴力。シャレにならないわよこれ! なんでみんなそんなに物騒なの!?)

 

 と頭を抱えていた。

 そんなミヤビの嘆きをよそに、ブライトは次々と指示を出す。

 

「仲間を集めろ。ホワイトベースを港から出すんだ。アムロはガンキャノンの封印を解け」

「はい」

 

 そうしてブライトやアムロたちがホワイトベースの出港準備を整える中……

 ミヤビの前世の記憶どおり、シャアの仕掛けた爆弾により出港途中のマゼランが港を塞ぐ形で擱座してしまったのだった。

 

 

 

 どうしてこうなった。

 ミヤビは痛切にそう思う。

 

 ホワイトベースの左舷モビルスーツデッキに有無を言わさず連れ込まれたミヤビだったが、そこで目にしたのは左手の二重下腕肢先端に取り付けられた精密作業用三つ指マニピュレーターにレーザートーチを持ってガンキャノンの封印を切断しているサラ、ドラケンE改の姿だった。

 三つ指、とは言ってもよくある非人体的なものではなく、親指、人差し指、そして残りの指が一体化したような役割を果たしているもの。

 要するに軍隊で使われる親指と人差し指だけ独立しているトリガーフィンガーミトンみたいなものだ。

 銃の引き金を引くことも、こんな風に道具を器用に扱うこともできる。

 

【挿絵表示】

 

『あ、待っていましたみなさん、早く手伝ってください』

 

 と、サラ。

 何をやってるの、とミヤビは呆れるが、いつものように表情には出ない。

 そして、それを見たアムロたちはどう思うか?

 

「さすがミヤビさん!」

「ああ、そうだな」

 

 穏便にルナ2司令部に警告する裏では、こんな風にダメだった場合に備えて着々と次の手を打っていたんだ!

 

 と感動されることになる。

 

 もちろんミヤビはサラにそんな指示など出していない。

 このままじゃあザクの相手を自分がさせられる、ということに気づいたサラが恐怖から先走っただけである。

 他にもRXシリーズにインストールされた妹たちサラシリーズがこのままではかわいそう、ということもあったが。

 サラシリーズは幼い少女の人格を持ったAI。

 その彼女たちが人間で言えば拘束具でギッチギチに縛り上げられ、自由を奪われている状態であるからその気持ちは分からないでもないが。

 

 しかしミヤビはこう思う。

 

 ……このAI、自由(フリーダム)過ぎるでしょ。

 

 と。

 A・Iが止まらない!

 やっぱり自分はこのポンコツ・ロボットに三重絶対精神拘束(アジモフ・ゲアス)をかけるべきなのではと悩む。

 

『ロボットじゃないですよ。電子の海に生まれた生命、電子生命体です』

 

 うるさい。

 あなたなんてロボットで十分よ。

 

『とほほ』

 

 そんな主従をよそに、ブライトたちは精力的に出撃準備を進める。

 無論、ミヤビの意思を誤解し、勝手に感動して盛り上がっているだけだが。

 それを目にしたミヤビがまた「何でこの人たちこんなに戦いたがっているの!?」と恐怖するという、バカバカしいまでのすれ違いを見せていたのだが。

 

 そして当然、

 

「貴様らそこで何をしとるか! ホワイトベース立ち入り禁止は厳命したはずだ」

 

 こんなことをやっていれば、ワッケイン司令が来るわけで。

 

 どうしてこうなった。

 ミヤビは痛切にそう思う。

 

 さらに、

 

『ワッケイン君』

「う、パオロ艦長」

 

 サラの操作でルナ2医務室のパオロ艦長との通信がつながる。

 

 余計なことをしないでーッ!

 

 内心、絶叫するミヤビをよそに語り始めるパオロ艦長。

 

『……どうだろう、ワッケイン君。ホワイトベースにしろ、ガンキャノン、ガンタンクは今まで機密事項だった』

「はい」

『だからなのだ、不幸にして我々より彼らの方がうまく使ってくれるのだ。……すでに二度の実戦の経験がある彼らに』

 

 いや、古い戦闘ドクトリンに縛られる旧来の軍人より、最初からそういった思考の縛りの無い者の方が柔軟に現実に対処できるって理屈は分かりますけど。

 

 古いドクトリンに縛られた軍隊が新兵器を扱えず甚大な損害を被った例は過去、枚挙にいとまがない。

 例えばアメリカ合衆国において最も死傷者を出したのは第二次世界大戦でもベトナム戦争でもない、国内の内戦である南北戦争だ。

 それまで使われていたマスケット銃は命中率が悪く、先込め式なので伏せて装填することができない。

 そのため戦列を組み、お互い立ったまま集団で大体の敵の方に向かって撃ち、兵の士気がくじけた方が負け、という戦列歩兵という戦術が取られていた。

 そこに登場したのがミニエー銃というライフル。

 有効射程50ヤード足らずのマスケット銃に対し、その有効射程は300ヤード。

 そして3倍以上の集弾性を持つ、当時にしてみれば破格の新兵器だ。

 そんなものを南北戦争の指揮官たちは戦列歩兵という旧来の戦闘ドクトリンで用いたのだ。

 一説によると敵の白目が見分けられる距離になったら撃ってもいい、というマスケット銃の、戦列歩兵の射程はミニエー銃にとってみれば必殺の至近距離。

 しかもお互い棒立ちで、密集した状態での撃ちあいだ。

 見る見るうちに互いの死傷者は増え、最終的に両軍合わせて50万人近くの戦死者を出した。

 ミヤビの前世の記憶ではアメリカの歴史上、最悪の死者数となっていた。

 古いドクトリンに縛られるというのはそういうことである。

 

 そして実戦の洗礼はたやすく訓練の成果以上のものを兵にもたらすというのも事実。

 だがしかし、それでも!

 

「しかし艦長」

 

 ほらワッケイン司令も反対しているじゃないですか。

 良識ある軍人ならこんな少年少女たちを戦場に放り込むなんてしないでしょう?

 

『……そう、しかし彼らはしょせん素人だ。司令たる君が戦いやすいように助けてやってくれたまえ…… わしが責任を持つ』

 

 止めてぇぇぇぇ!

 そんな嫌すぎる責任の取り方しないで!

 騙されないでワッケイン司令! 負けちゃダメ!

 あなただけが残された良心、最後の希望!

 

 しかし、

 

「……わかりました、艦長のお言葉に従います」

 

 オワタ……

 ミヤビの希望は、失われた。

 

 まぁ、これは仕方がないとも言える。

 尊敬する先達の言葉にほだされたという面もあるが、それ以前に権限の問題がある。

 ワッケインはルナ2方面軍司令だが、ホワイトベースはその管轄下には無い。

 V作戦は軍上層部肝いりのオペレーションであり、レビル将軍の直轄。

 そのうえパオロ艦長の方がワッケインより階級が上。

 良心に従い軍規を盾に抗命するにも限度というものがあったのだ。

 

『頼む、ワッケイン君、ミヤビ君』

 

 はい?

 さらっと最後に私の名を付け加えるな!

 そして力尽きたように目を閉じるな!

 それほど重傷じゃないって知ってるんだぞ!

 

 絶叫したくてたまらないミヤビ。

 しかし例によって表情にはまったく出ないので、周囲にはそれが「パオロ艦長の依頼を当然のように受け入れている」ようにしか見えない。

 その毅然とした様子と内に垣間見られる厳しい覚悟(まったくの誤解)にブライトたちはもちろん、ワッケインまで感嘆を覚えているのだが当人は気づいていない。

 当人が知ったら「なんでそうなるの!」と叫んでいただろう。

 

 ちなみにミヤビにとってみれば唐突なパオロ艦長からの言葉だったが、一歩引いた視点で考えると、

 

・戦闘詳報でシャアの脅威を警告。

・サラを使って侵入したシャアを発見、ルナ2司令部に通報後、遅滞戦闘で時間を稼ぐ。

・ザクの侵入に対し、即座にガンキャノンの封印解除作業に取り掛かる。

・ワッケインの説得のため通信をつなぐ。

 

 パオロ艦長から見てこれだけのことをやっているように受け取れるのだから「君の思いはわかった。責任は自分が取るからあとは頼む」と言われるのは当然だった。

 

 そして……

 こんな風にドタバタやっているせいで、ミヤビは見落としていた。

 サイド7出港後、初めて足を踏み入れた左舷モビルスーツデッキ。

 そのどこにもガンダムの姿が無かったという衝撃の事実を。




 誤解が誤解を呼ぶ脱走編でした。
 そして衝撃のラスト。

 次回はお待たせしておりました戦闘ですのでご期待ください。
 ガンキャノンに新しい武器が登場する予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
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第4話 ルナツー脱出作戦 Dパート

 ホワイトベースからアムロのガンキャノンが、リュウのコア・ファイターが出撃する。

 ミヤビはというと念のため、ガンキャノンの予備の武器をドラケンE改を使って用意していた。

 

「まぁ、こんなの使わずに済めばそれに越したことは無いんだけど」

 

 なおサラが防戦で使った短距離ミサイル、そして推進剤と燃料はサラ自身の操作で補給済み。

 60ミリバルカンポッドも甲壱型腕ビームサーベルに差し替えられている。

 

 

 

 ルナ2に二機のザクIIを従えたシャアの赤いザクIIS型が接近する。

 なお、ガデムはすでにノーマルスーツの潜入部隊と共にムサイへと帰還していた。

 

「マチュウ、フィックス、いいな? 港に潜入、一気に木馬型戦艦とモビルスーツを叩く」

『了解』

『了解』

 

 シャアの指示で部下たちのザクが散開する。

 

「行くぞ!」

 

 

 

「シャアだ」

 

 ガンキャノンのセンサーが赤いザクをキャッチする。

 シートの背後から狙撃スコープを引き出し、ビームライフルで狙うアムロ。

 

「っ!」

 

 精密射撃が可能なガンキャノンのビームライフルを両手で構えて少し狙いをずらしつつ二連射。

 偏差射撃、そのまねごとのようなものだが、それでもアムロは考えながら戦う。

 もちろんその程度のことで被弾するシャアではない。

 あっさりかわしてマシンガンで反撃してくる。

 アムロは左腕を掲げて弱点である頭部センサーカメラを守るが、その隙にシャアは武器をヒートホーク、プラズマ化した刃で対象を溶断する斧に持ち替え、ガンキャノンに斬りかかってくる。

 

「うあっ!」

 

 勢いをつけて振るわれたヒートホークが、アムロがとっさに盾にしたビームライフルをあっさりと両断する。

 その威力に恐怖するアムロ。

 

 格闘技の達人でも、刃物を持った相手に無傷で勝つのは難しい。

 それだけ刃物が武器として優れているということだし、また刃物を前に平常心を保てる人間はなかなか居ないということでもある。

 それがアムロの動きを阻害していた。

 

 

 

(少林寺拳法でもやっていれば少しは違うかも知れないけど)

 

 と戦場に急行しつつドラケンE改の頭頂部に装備された5連式多目的カメラモジュールでアムロの戦いぶりを見るミヤビは思う。

 ミヤビが前世で学んでいた少林寺拳法なら有段者になると模造刀を持った相手を素手で対処する『短刀捕(たんとうどり)』という演武があって少しは刃物を持った相手への対処法と心構えが学べたものだった。

 あまり強くないイメージがある…… 実際ケンカになると決め手に欠ける少林寺拳法だったが、突き、蹴り、受け身に関節技、投げ技、掴みかかってきた相手への対処法、そして武器を持った相手への対応方法と幅広く学べるという点で、護身には適していた。

 

 

 

「くっ!」

 

 接近戦では残された両肩のキャノン砲は使いづらい。

 アムロは頭部60ミリバルカン砲で反撃するが、シャアは簡単にかわしてしまう。

 冷や汗を流すアムロに、

 

『アムロさん、新しい武器です!』

 

 サラからの通信と共にドラケンE改が接近戦用の武器を届けてくれる。

 牽制の短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放ち、シャアのザクが回避のため距離を取った隙に渡されるそれは、

 

『『フォールディングレイザー』ヒート・ナイフです!』

 

 折りたたみ式の大型ナイフで、飛び出しナイフのように自動的に柄から刃が開きガンキャノンからのエネルギー供給で刃が赤熱、プラズマ化するものだ。

 ヒートホークと同じ高熱により対象を溶断するヒート系の武器だった。

 

 ミヤビの前世の記憶の中、ガンキャノンの準備稿では武器としてヒートジャックなるダガー状のナイフが描かれていた。

 後に刃物アレルギーのある日本文化ゆえか「主人公たちの乗るロボットにナイフを持たせるのはいかがなものか」という圧力がかかったせいでボツになった、とも言われているものだ。

 しかしこの設定を拾ってバンダイのスペシャルクリエイティブモデルのガンキャノンにはナイフが付属していたし、マンガ『機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーの落ちた地で』においてRX-77[G]陸戦型ガンキャノンが折りたたみ式と思われるヒート・ナイフを装備していた。

 今回、ミヤビがアムロに運んできたのはそういった品である。

 

 サラがガンキャノンの封印を切断しようとしたがレーザートーチが見つからず、散々ひっくり返した物資の中から持ち出してきたもの。

 最初、これで封印を切断しようとして怖がったサラツーから止められた。

 というのはサラたちだけが知る事実である。

 

 なお……

 

ジャックナイフ

 英語では折り畳みナイフのことを指すが、日本ではボタンを押すとばね仕掛けで刃が開く飛び出しナイフのことを意味することが多い。

 

ダガー

 両刃ナイフのこと。

 

 何でわざわざ折り畳み式の飛び出しナイフなのか、というのはヒートジャックの『ジャック』という言葉に由来するということだ。

 ガンキャノンの準備稿におけるヒートジャックは柄に刃をしまえるようなデザインではないが、スタッフが語感優先で命名したものと思われる。

(または有名な殺人鬼『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』にちなんで命名したか)

 その言葉を受けて陸戦型ガンキャノンが折り畳み式の飛び出しナイフと思われるヒート・ナイフを装備するようになったのだろう。

 

「けっ、けどナイフで斧と戦うのは」

 

 アムロは必死にナイフを振るうが、リーチの差もあり防戦一方に追い込まれる。

『機動戦士ガンダムW』のトロワが操るガンダムヘビーアームズのようにナイフ一本で大暴れとは行かないらしい。

 それでもかわし切れない攻撃には刃を合わせて何とかヒートホークを弾いているあたり、ガンキャノンの性能とアムロの素質が凄いということだったが。

 

 しかし、どうしてナイフなのか。

 それはビームサーベルを使おうとするとガンキャノンの場合、両肩のキャノン砲が邪魔になるからだ。

 まずいことにビームサーベルは峰が無いどころかどこに触れても切断されてしまうという特殊な剣。

 何も考えずに振るったら自分でキャノン砲を斬り飛ばしてしまう。

 コンピューター制御で当たらないように制限するという手もあったが、そうすると今度はパイロットの操作と実際の機体の挙動に差が生じる。

 つまり思いどおりに動かないということで、白兵戦時に致命的な隙ができてしまうことになる。

 そういった制限から、ガンキャノン向けにはヒート・ナイフが用意されることになったのだ。

 

 ゲルググキャノン? あれはパイロットが自分の腕で何とかできるエース向けの機体。

 またジム・キャノンIIにビームサーベルが装備されたのはキャノン砲の取り付け部を肩から大型バックパック後端まで後退させたことと、ビームキャノンに切り替え砲身を短縮したことにより問題が解決できたからである。

 

 そして、

 

「そんなに怖がらなくても、ガンキャノンの装甲なら傷がつくことはあっても十分耐えられるわよ」

「ええっ!?」

 

 ミヤビのアドバイスに驚くアムロ。

 

 実際にミヤビの前世の記憶ではガンダムなど背後から脇腹をフルスイングで斬りつけられ、ヒートホークがまともに入ったにもかかわらず行動に支障が出るまでには至らなかった。

 無傷、とまでは行かないが装甲の厚い所なら致命的な損傷を受けることは無い。

 

 ルナ・チタニウムが使用されているガンダムのシールドをあっさりと割ってしまう威力を持つヒートホークだが、これはガンダムのシールドが堅牢さよりも衝撃の拡散と吸収を目的として設計されているせいだ。

 その構造はケブラーなどのアラミド繊維を使った警察や軍の特殊部隊が用いる防弾盾、バリスティック・シールドに近く、超硬スチール合金を基部とした高密度のセラミック素材をアラミド繊維で挟むことによって耐弾性を向上させ、表面には高分子素材による樹脂を充填し、最表層にはルナチタニウム合金系素材を用いるという三重ハニカム構造になっている。

 つまり攻撃を硬さで弾くのではなく、壊れることで衝撃を吸収し本体まで破壊のエネルギーを届かなくするクラッシャブル・ストラクチャーと呼ばれる技術が用いられているのだ。

 ミヤビの記憶、旧21世紀の例だと乗用車の多く、特に日本車がこれを得意としエンジンを内蔵したボンネット部がつぶれることで衝突の衝撃を吸収していた。

 また中世以前に人の手で使われていた盾も大抵が木製で敵の攻撃を受けたら傷つき壊れていくことが前提の消耗品だったし、そういう意味では従来の兵器の流れをくむ正統な防具であるとも言える。

 

 そういうわけで、ガンダムよりさらに装甲の厚いガンキャノンなら同じところを何度も斬りつけられたりしない限りは大丈夫。

 0080登場のガンダムアレックスのように首を切り落とされたり、関節を狙われたりすると危ないが。

 それでも、

 

「関節や頭に当たるとさすがにまずいけど、それだって致命傷にはならないし」

 

 首を斬り飛ばされたって「たかがメインカメラがやられたくらい」で済む。

 死にはしない。

 

 人は刃物を前にすると平静を保つことが難しくなるが、しかし防刃のボディアーマーやグローブ、スリーブなどで身体を保護していたらどうだろう。

 耐えられると分かれば、身体のこわばりも少しはましになるだろう。

 

 そしてアムロの動きもまた改善されていくことになる。

 防戦一方ではあるにしろ、教育型コンピュータがケーススタディでその場で自己学習していくこともありその動きは少しずつスムーズになっていった。

 

 

 

 一方で、ミヤビのドラケンE改とリュウのコア・ファイターは残りのザク2機と戦っていた。

 

「ドラケンE改、フォックス・ツー!」

 

 ミヤビは牽制の短距離ミサイルを撃ちっぱなしの赤外線画像(IIR)自律誘導で放つ。

 

 なお彼女が口にした「フォックス・ツー」というのは「短距離ミサイルを撃ったから味方は気を付けてね」という符丁だ。

 アメリカ軍ではサイドワインダー短距離空対空ミサイルなどの赤外線(IR)追尾ミサイルの発射。

 自衛隊の場合もサイドワインダーなど短距離ミサイルの発射時に使用されていた。

 

 なおセミアクティブ、アクティブレーダーホーミングの中距離ミサイルならフォックス・ワン。

 機銃ならフォックス・スリーだ(例外的にアメリカ海軍だとF-14のフェニックスミサイルを割り当てていた時期もあるという)

 

 そしてさらに、

 

「ビームサーベル展開!」

 

 右腕肘に装備された甲壱型腕ビームサーベルの先端からビーム刃が伸びる。

 

【挿絵表示】

 

『ビームサーベル起動しました。燃料電池全力稼働を開始。活動限界まであと4分53秒』

 

 サラのアナウンスと同時に、モニターの隅に若干増減しながらも減っていく活動限界までの時間を映し出す。

 ミヤビはスロットルを床まで踏み込み、背面ロケットエンジンを吹かして急加速!

 動力源である燃料電池の動作に伴い発生する熱は原型機であるドラケンEにおける背面放熱器の代わりに内蔵されている熱回収器を介して推進剤の加熱に使われている。

 このため燃料電池全力運転による発熱は副次的効果として推進剤噴射速度上昇をもたらし、一時的に機動力が向上する。

 その上、

 

「ロケットエンジンリミッターカット! 出力全開!」

 

 リミッターを解除。

 1G重力下でも弾道軌道を描く大ジャンプを実現する大出力が、さらに機体を加速させる。

 殺人的な加速をミヤビはパイロット用ノーマルスーツの耐G機能とバケットシートを支える大型ダンパー、メカニカル・シート・アブソーバーの保護により耐える。

 

 そうやってミヤビは自らが放った短距離ミサイルを追うように機体を飛ばす。

『追っかけソニック』つまり格闘ゲームで自分が放った飛び道具に続くようにして間合いを詰める技を参考にした一人時間差攻撃。

 一人ジェットストリームアタックとも言うべきフォーメーションだ。

 ミサイルを危なげなく避けるザクだったが、しかしかわした先にドラケンE改がビームサーベルをかざしながら突貫する。

 

『紫電一閃!!』

 

 サラのアシストによりすれ違いざまに繰り出されるビームサーベル!

 

 だったが……

 

『ミヤビさん、通路の前からどくんだ』

「えっ?」

 

 ブライトからの通信を受け、思わずスカってしまうミヤビの攻撃。

 その直後、ルナ2の港入り口から迸った爆発がザクを飲み込み、ドラケンE改も余波で吹き飛ばされる。

 港を塞ぐ形で座礁した戦艦マゼランをホワイトベースの主砲が排除した、その爆発によるものだった。

 

『あーれー』

 

 間の抜けたサラの声を聞きながら、ミヤビは思う。

 

 安全確認、大事!

 

 と……

 彼女はブライトにも安全教育を施す必要性を、痛切に感じていた。

 

 

 

 そして、もう一機のザクもアムロにヒート・ナイフを突き立てられ、倒されていた。

 部下たちを失い、港の閉鎖も解かれてしまったシャアは撤退していった。

 

 

 

「うむ。少なくとも地球までは彼らに任せた方がよかろう。パオロ艦長のおっしゃったとおり」

 

 ワッケインは護衛のサラミスと共にルナ2を離れるホワイトベースを見送りながらそうつぶやく。

 

「司令」

「ジオンとの戦いがまだまだ困難を極めるという時、我々は学ぶべき人を次々と失ってゆく。寒い時代だと思わんか?」

 

 パオロ艦長も倒れ、この戦争中に復帰できる見込みは無い。

 そして素人同然の少年たちまで動員せざるをえない戦況の厳しさ。

 そんな彼らへサラミス1隻の援護を付けてやることしか出来ない己の立場を自嘲するような言葉だった。

 

 

 

「艦長、あなたのホワイトベースは、私達の手で必ず地球にお届けいたします」

 

 ブライトは負傷の治療のためにルナ2に残されたパオロ艦長への思い、そしてホワイトベースの指揮が自分の双肩にかかっているということの重みを口に出すことで己を奮い立たせる。

 だがしかし……

 彼はミヤビの方を見てこう思う。

 今回の危機をその機知と鋼の意思で乗り越え、自分たちを導いてくれた彼女が居てくれる限り大丈夫だと。

 

 ミヤビが聞いたら「何その買いかぶり」と驚愕していただろう。

 そしてアムロがこうつぶやくのを聞いて、

 

「父さん、どこに行ったんだろう?」

(はあぁぁぁぁっ!?)

 

 驚愕を通り越して頭が真っ白になるミヤビだった。

 

 

 

次回予告

 重力に任せて落ちれば燃え尽きてしまう大気圏突入。

 その瞬間にシャアはホワイトベースに奇襲を掛けた。

 我も危険なら彼も危険、共に大地を見ることができるのか?

「ミヤビ君のアイディアを元に作ったガンキャノン大気圏突入システム! 名付けて……」

 テム・レイ博士の狂気の発明に、ミヤビの精神は耐えられるのか!?

 というか、そんなものに人の名前を出すなと絶叫したいミヤビ。

 次回『大気圏突入』

 君は、生き延びることができるか?




 第4話もこれで完結。
 お待たせしていました戦闘パートでした。
 ガンキャノンに新兵器の登場。
 そしてまた衝撃のラスト。
 テム・レイ博士の行方は次回更新で明かされる予定です。


>ヒート・ナイフです!

 マンガ『機動戦士ガンダム GROUND ZERO コロニーの落ちた地で』においてRX-77[G]陸戦型ガンキャノンが使用していたものですね。


>バンダイのスペシャルクリエイティブモデルのガンキャノンにはナイフが付属していた

 ナイフの他にもハイパーバズーカとガンダムシールドが付いていて装備も可能となかなか興味深いモデルですよ。


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第5話 大気圏突入 Aパート

「レイ博士!」

 

 ホワイトベース第2工作室、別名『テム・レイ博士の秘密の研究室出張所』。

 そこを開けて突入したミヤビが直面したものは、

 

 むぅ、臭い……

 

 オイルやケミカルな洗浄剤などの薬品臭だけではない。

 と言うか洗浄スプレーを使うと警報が鳴るからって、また可燃性ガス検知器切ってますね!

 という状況にプラスして、

 

 男の汗と体臭、さらに何かが腐ったような臭い!

 

 そしてアムロが叫ぶ。

 

「父さん!」

 

 床にぱったりと倒れこんでいるテム・レイ博士。

 アムロが慌てて駆け寄りその身体をゆする。

 果たしてテム・レイ博士はあっさりと目を開けた。

 

「おう、アムロか」

 

 おう、アムロかじゃないでしょ!

 絶叫したいミヤビだったが、それを抑え込んで問う。

 

「また何徹したんですか……」

 

 テム・レイ博士は研究者らしく熱中することがあると研究室に何日も閉じこもり、身体も洗わず着替えもせず、挙句の果て食事も睡眠も忘れて最後には倒れるという悪癖があった。

 今回もそれのようだ。

 おそらくサイド7を出港してからここまで、閉じこもりっぱなしだったのだろう。

 だからアムロたちもテム・レイ博士の存在に気づかなかったのだ。

 

「はい、経口補給液とゼリー食のパックです」

「お、おう済まないミヤビ君」

「いつものことですから…… 食べたらシャワーと着替え、してくださいね」

「うむ」

 

 いつものこと……

 手慣れた様子で対応するミヤビ。

 子供の世話をするようなものである。

 ずいぶんと大きな子供だが、男性であった前世を持ち、技術者、研究者として歩んできたミヤビには分かる。

 男なんて、そして特に研究者なんてみんなこんなものだと。

 前世でも睡眠不足で眼をショボショボさせながら授業を行う教授や、24時間戦えますかとばかりに会社や取引先に泊まり込みで働くジャパニーズビジネスマンな技術者などが居たものだ。

 そうやって感慨深げに瞳を細めるミヤビの耳にアムロの、

 

「母さん……」

 

 という呟きが届く。

 

「えっ?」

 

 振り返るミヤビの視線の先で、アムロが慌てたように説明する。

 

「うん、と、父さんの世話をするミヤビさんって、お母さんって感じがして」

「お母さん?」

 

 ミヤビはアムロの家庭環境を思い出す。

 彼は幼いころ宇宙に行きたくないという母親と離れて父と二人、サイド7に向かったのだ。

 

「案外、ミヤビさんって主婦とか似合っていたりして。ははっ、ははは……」

「……何を言うのよ」

 

 ミヤビは恥じらうようにそっぽを向いてつぶやく。

 アムロはそれを見て、ミヤビさんでもこういう風に照れることがあるんだ、と新鮮な感動を覚えていた。

 アムロにも父親に似てルーズなところがあって、熱中すると食事も忘れるし、幼馴染のフラウ・ボゥの前にランニングシャツとトランクスという下着姿をさらしてもなんとも思わないという実にダメ人間な面を持つ。

 そんなアムロにフラウは世話を焼きつつも口うるさく小言を言うのに対して、ミヤビは「男ってみんなそういうものだよね、研究者なら特に」という具合に理解を示し、いつものことと済ませて世話してくれる。

 レイ親子のような男性にはある意味、理想の女性と思えるミヤビにアムロが惹かれるのは当然のことだったのかもしれない。

 

 しかし……

 実際にはミヤビは死んだ目をした顔を見られないように顔をそむけただけである。

 女性として見られるたびに首を吊ってしまいたい衝動に駆られるミヤビだったが、青少年の母性に対する思慕の情もまた理解できるだけに、その夢を壊さないよう気を使っているのだった。

 誰か自分の忍耐力をほめて欲しいと思うミヤビ。

 まぁ、そんな彼女の葛藤はともかく、テム・レイ博士とアムロ、親子の再会である。

 

「……父さん」

「ガンキャノンの戦果はどうだ? 順調なのかな?」

「……は、はい。父さん」

「うむ、来るがいい」

「はい」

 

 そしてアムロとミヤビが目にしたものは……

 

「こいつをガンキャノンに使わせるんだ。ジオンのモビルスーツを参考に開発した」

 

 鎖付き鉄球。

 いわゆるガンダムハンマーであった。

 ハンマー型でないにもかかわらずハンマーの名を有する理由は不明、などという意見もあるが、普通にワイヤーの先に砲丸がついているハンマー投げのハンマーに形状が似てるからじゃないの、とミヤビは思う。

 テム・レイ博士はジオンのモビルスーツを参考に開発した、とは言うが、ザクのスパイク付きショルダーアーマーでも参考にしたのだろうか。

 

 それはともかく、これがあるってことはガンダムはちゃんと開発されていたんだ!

 ドタバタしていてホワイトベースにガンダムが積まれていないという衝撃の事実がすっかり頭から抜け落ちていたミヤビだったが、ほっと胸をなで下ろす。

 

 だが、ミヤビは忘れていた。

 彼女の前世の記憶にあるゲーム『機動戦士ガンダムPERFECT ONE YEAR WAR』ではガンキャノンがガンダムシールドなどと共にガンダムハンマーも使えていたことを。

 

 そして彼女は気づいていない。

 テム・レイ博士はこれを『ガンダムハンマー』とは一言も呼んでいないということを。

 

 ガンダムがちゃんと開発されているのかどうかはいまだ不明のままなのだった。

 

 一方、古色蒼然とした質量兵器にアムロは、

 

「こ、こんな古くさい物を」

 

 父さん、酸素欠乏性にかかって……

 などと疑い出す。

 そんな彼をミヤビは生暖かい目で見る。

 

 いやいやいや、これがテム・レイ博士の素ですよ。

 

 と。

 現実を受け入れましょうよ、同志よ。

 とでもいうように、まるで自分だけ被害を受けるのが嫌で犠牲者が増えることを喜ぶような、実に大人げない思考をするミヤビ。

 そんな二人をよそに、テム・レイ博士は一人興奮した様子で言う。

 

「すごいぞ、ガンキャノンの戦闘力は数倍に跳ね上がる。持って行け、そしてすぐ装備して試すんだ」

「はい。でも父さんは?」

「研究中の物がいっぱいある。また連絡はとる。ささ、行くんだ」

 

 と、追い出されるアムロとミヤビだった。

 それでいいのか?

 

 

 

「大気圏突入25分前」

 

 そう告げたミライは操舵席でチューブ入りの宇宙食を取り、オペレーション前の最後のエネルギーと水分の補給を取る。

 キャプテンシートのブライトは、そんな彼女に声をかけた。

 

「ミライ、自信はあるか?」

「スペースグライダーで一度だけ大気圏に突入したことはあるわ。けどあの時は地上通信網がきちんとしていたし、船の形も違うけど」

「基本航法は同じだ。サラミスの指示に従えばいい」

 

 そのあたりはミライにも分かっていた。

 しかし、

 

「私が心配なのは、シャアがおとなしく引き下がったとは思えないことなの」

 

 それはブライトも懸念しているところだったが、ミライに対しては、

 

「ミライ、君は大気圏突入することだけを考えていてくれ」

 

 とだけ言う。

 ミライもブライトの気遣いが分かったのか、

 

「ええ、了解」

 

 とうなずいた。

 

『若造、聞こえるか?』

 

 護衛の巡洋艦、サラミスからの通信。

 

「は、はい、リード中尉」

『大気圏突入準備はいいな? 我々はサラミスの大気圏突入カプセルで行く。そちらとはスピードが違う、遅れるなよ』

 

『スピードが違う』のに『遅れるな』とはずいぶんな無茶振りである。

 というかミヤビが聞いていたら、

 

(たった一言で矛盾させるな!)

 

 と内心でツッコんでいただろう。

 しかし軍隊で理不尽な命令を受けることは珍しくも無い。

 

「はい、了解しました」

 

 とだけブライトは答える。

 

「ミライ、大気圏突入の自動操縦に切り替え、以下、突入の準備に備えるんだ」

「了解」

 

 ブライトはオペレーターを仰いで確認。

 

「シャアのムサイは?」

「変わりません。ただ、ムサイに接近する船があります」

 

 その報告を受け、ブライトは驚く。

 

「なに? また補給を受けるつもりなのか、シャアは」

 

 しかし、

 

「待てよ、ここで補給を受けるということは、俺たちの追跡をあきらめたということなのか?」

 

 そんなわけが無いからミヤビは苦労するのだ。

 

 

 

 コム、ジェイキュー、クラウン、三名のモビルスーツパイロットたちを前に語るシャア・アズナブル少佐。

 

「新たに三機のザクが間に合ったのは幸いである。20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない。地球の引力に引かれ大気圏に突入すれば、ザクとて一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。しかし、敵が大気圏突入の為に全神経を集中している今こそ、ザクで攻撃するチャンスだ。第一目標、木馬、第二目標、敵のモビルスーツ。戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。期待する」

 

 とんでもないハイリスクな作戦を、大丈夫と錯覚させる。

 赤い彗星のカリスマがそこにあった。

 本当に始末の悪い、迷惑な男である。

 その力をまともな方に使えばいいのに、とミヤビなら思うだろうが、実際にはクワトロ時代のように味方にすると弱体化する。

 挙句の果てに勝手に人類に期待して勝手に失望した挙句、逆シャアでアクシズ落としを…… とつながっていくから本当に、

「シャアだかキャスバルだかしらねーがオレたちゃ迷惑だ! どっかよそでやれよそで!!」

 であった。

 腐るくらいなら理想など持つべきではないのだ。

 

 

 

「サラミスのカプセル、離脱。ホワイトベースはカプセルについて行きます」

 

 ミライの操舵でサラミスの大気圏突入カプセルを先導としてホワイトベースが大気圏突入コースに入る。

 ブライトは手元の送受話器で全艦に一斉放送を行う。

 

「ホワイトベース各員へ。本艦は8分後に大気圏に突入します。立っている人は座ってください。船が揺れるようなことがあっても騒がないように。各戦闘員、メカニックマンは各自の部所で待機のこと。ガンキャノンも発進する可能性がある。メカニックマンはそのつもりで」

 

 

 

『敵だ!』

 

 ムサイ級巡洋艦ファルメルから発進したモビルスーツ、ザクはホワイトベースからでも観測された。

 報告を受け、即座に発進準備を整えるアムロ。

 

 

 

「映像出します、最大望遠です。接触推定時間、34秒後」

 

 画像に映る4機のザクに、即座に指示を出すブライト。

 

「ハッチ開け! ガンキャノン、急速発進!」

 

 

 

 ガンキャノンのコクピットにホワイトベースブリッジでオペレーターをつとめるフラウ・ボゥからの通信が入る。

 

『アムロ、発進後4分でホワイトベースに戻って。必ずよ』

「了解。フラウ・ボゥ、僕だって丸焼けになりたくはないからね」

 

 一応、ミヤビに言われて事前にガンキャノンの大気圏突入機能を確認したとはいえ、失敗する可能性だってある。

 できれば試したくなど無かった。

 

『後方R3度。敵モビルスーツは四機よ』

「四機も? ホワイトベースの援護は?」

『後方のミサイルと機関砲でリュウさんやセイラさんたちが援護してくれるけど、高度には気をつけて』

 

 戦ってる最中に気をつけられるとでも思ってるのか?

 と言い返しそうになったアムロだったが、ガンキャノンのモニター隅、サポートAIである『サラツー』のアバターが任せて、というように小さな胸を張るのを見て言葉を飲み込む。

 フラウには、

 

「了解」

 

 とだけ言って、アムロはガンキャノンを左舷モビルスーツデッキからカタパルトで出撃させた。

 

 

 

 そして、

 

『ミヤビ、ドラケンE改、出ます!』

 

 右舷モビルスーツデッキからはミヤビのドラケンE改がカタパルトにより弾かれるように発進した。

 

【挿絵表示】

 

「ミヤビさん!?」

 

 驚くブライトに、ミヤビは、

 

『大気圏突入カプセルの護衛に回ります』

 

 とだけ答える。

 そしてリード中尉にも連絡。

 

『リード中尉、私がカプセルを死守します。絶対にコースを変えないで下さい』

『か、回避するなと言うのか!』

『コースを変えたらそれに続くホワイトベースも南米ジャブロー以外に、ジオンの勢力下に降りてしまう可能性が高くなります』

『そっ、それは……』

 

 現在地球は半分以上がジオンの勢力範囲となっており、地球連邦軍の支配地域のうち最大の南米から外れるとなるとミヤビの言うとおり、ジオンの勢力範囲の真っただ中に降りてしまう可能性が非常に高くなってしまう。

 

『大丈夫、あなた方は私が守ります。ですからもし回避するにしても私が死んだ後にしてください』

 

 その悲壮なまでの覚悟の言葉にリード中尉は、そしてその通信を傍受していたホワイトベース、そしてガンキャノンでも、誰も何も言えなくなってしまう。

 

(ミヤビさん、あなたって人はどうしてそこまで……)

 

 ブライトは震える拳を硬く、爪が手のひらに食い込むほど握りしめ、叫んでしまいたい衝動に耐える。

 ミヤビは自己犠牲の精神が強すぎる。

 どうすれば彼女を止められるのだろうかと。

 

 まったくの誤解である。

 ミヤビが「あなたは死なないわ、私が守るもの」とばかりに死守だの何だの言っているのは、リード中尉にコースを変えさせないためのハッタリだ。

 当然死ぬ気も無い。

 ただリード中尉のせいでコースを外れ北米、ガルマ大佐が率いるジオン軍の勢力圏内真っただ中に降りたりするのは御免というだけだ。

 

 しかし目的達成のために集中しきっている彼女には、その行動が他者からどのように映るかという視点がすっぽりと抜けていた。




 テム・レイ博士のしょうもない行方の判明。
 ガンダムがちゃんと開発されていたのかどうかはいまだ不明です。
 そして大気圏突入回の開始。
 相変わらず文章量が多すぎて長くなってしまうため4パート構成です。
 次回から戦闘ですね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第5話 大気圏突入 Bパート

 ガンキャノンをカメラ映像で確認するシャア。

 ミヤビには幸いなことに機体が小さく、また大気圏突入カプセルについて先行しているドラケンE改の姿は捉えられていない。

 

「敵もモビルスーツを発進させたようだ。ドレン、援護しろ。我々は二手に分かれて攻撃を開始する」

 

 

 

「了解」

「コムサイ発進します」

「よーし、発進」

「援護、ミサイル発射」

 

 ムサイ級巡洋艦ファルメルからドレン少尉達を乗せた大気圏突入カプセル、コムサイが発進すると同時に、援護のミサイルが発射される。

 

 

 

『後方よりミサイル。ミヤビさん、リード中尉もご注意ください』

 

 ホワイトベースからの警告に、大気圏突入カプセルのリードは慌てふためく。

 

「も、戻れないのか?」

「無理です。戻れば狙い撃ちされるのがオチです」

 

 

 

「当てさせない!」

 

 ミヤビはドラケンE改の右腕、肘のハードポイントに装着した60ミリバルカンポッドでカプセルに命中しそうなミサイルだけを迎撃、撃ち落とす。

 

 

 

「ミサイル第二波、回避」

 

 必死にホワイトベースを操るミライ。

 横にミヤビが居たなら、

 

(こんなにせわしなく修正舵をきるミライの操船は初めてだ。ミライが本気になった……ァ!?)

 

 などと固唾を飲んで見守ることになっていただろう、常にない余裕のない表情だ。

 そのかいもあってミサイルは当たらなかったが、迎撃が行われなかったことにブライトは苛立つ。

 

「後方AMミサイル、どうした? 撃てないのか?」

 

 AM(アンチ・ミサイル)ミサイルは敵のミサイルを打ち落とすためのミサイルだ。

 それにより対抗できるはずだったのだが。

 

「ブライト、落ち着いて。みんな慣れてないのよ」

 

 ミライがそんなブライトをなだめた。

 

 

 

「なんで迎撃しないんだ!」

「僕はもともとミサイル要員じゃないんです」

 

 ミサイル砲座で言い合うリュウとハヤト。

 

「えーい……」

 

 と、リュウがコンソールを操作してみるが、撃てない。

 本来、ここで彼らはマニュアルを探すことになるはずなのだが……

 ミヤビの影響で熱くなっていた二人はそれに気付かず、

 

「リュウさん、動かせるんですかぁ?」

「こんなもんはなぁ、叩きゃ動くんだよっ!」

 

 やけくそで操作盤に両の拳を叩きつけるリュウ。

 コンソールに火花が散り、

 

「うわわわわっ!」

 

 後退したミサイル発射管にハヤトが弾き飛ばされる。

 そこは立ち入り禁止の危険区域……

 そうして発射管にミサイルが装填された。

 

 そう、今まで二人は未装填のミサイル発射管相手にああでもないこうでもないと格闘していたのだ。

 それとミサイル発射スイッチは一見ただのプッシュボタンだが、実際には誤操作防止用に透明樹脂のガードカバーがされていて、これをめくるように持ち上げて開けないと押せないようになっている。

 ミヤビの前世の記憶の中にもある、ごく基本的な誤操作防止機能だが、リュウたちは気付かなかったようだ。

 そして拳を叩き下ろすことでそのカバーが弾け飛んでおり……

 

 リュウが吹っ飛ばされたハヤトを助け起こしたその時、AMミサイルが発射された!

 

「「アッー!!」」

 

 発射の衝撃に驚き思わず抱き合う二人。

 発射されたAMミサイルは、ムサイからのミサイルを撃ち落とす。

 

「「やったぞーっ!!」」

 

 と今度は喜びで抱き合う二人だったが、そこに爆炎を潜り抜け、更にミサイルが接近。

 

「「うわーっ!」」

 

 迎撃が間に合わず、二人は抱き合ったまま着弾の衝撃で転がされるのだった。

 

 

 

 ホワイトベースにミサイルが命中し衝撃が走る中、ブリッジに現れたのは、

 

「レイ大尉?」

 

 ミヤビの指示でシャワーを浴びさっぱりとした風呂上がりのテム・レイ博士だった。

 

「なんだアムロの奴、ハンマーを忘れてるじゃないか!」

 

 と、まるで忘れ物をした息子を呆れるような発言をする。

 

 

 

 ……今度こそシャアの動きに追いついてみせる。これで何度目なんだ? アムロ。

 

 そう独白し、ビームライフルを構えるアムロ。

 もちろん彼はハンマーを忘れたわけではない。

 いきなりあんなものを使えと言われても無理だから置いて行ったのだ。

 

「ホワイトベースには近づけさせるものか」

 

 シート後ろから照準スコープを引き出しビームライフルを連射!

 しかし、

 

「なにっ?」

 

 ガンキャノンの放ったまばゆいビームの閃光を逆に目くらましに使うかのように、回避と同時にバズーカを撃ち込んでくるシャアのザク。

 

「うわーっ!」

 

 ロケット弾がガンキャノンの胸部装甲にまともに直撃!

 ドムの360ミリ、ジャイアント・バズですら正面装甲で弾いてしまうガンキャノンはその攻撃にも耐えて見せるが、衝撃は殺せない。

 吹っ飛ぶガンキャノンを、アムロは数度のロケット噴射でどうにか立て直し、再びビームライフルで反撃する。

 

『アムロ、シャアに気を取られすぎないで。ザクがサラミスのカプセルを』

 

 フラウからの通信に、モニターに視線を走らせるアムロ。

 

「了解」

 

 状況を把握。

 ビームライフルを乱射して、シャアが回避した隙に反転する。

 

「シャアに後ろを取られるのはいやだが」

 

 サラミスのカプセルの援護に向かおうとするアムロの前に、ザクが現れる。

 

「うかつな奴め」

 

 ガンキャノンが放ったビームがその肩に命中!

 その盾を基部から吹き飛ばす。

 

「シャアは?」

 

 アムロは周囲を見回すが、シャアの赤いザクを見つけられない。

 その代わり、ホワイトベースに銃撃を加える別のザクの姿をとらえる。

 

「やらせるか」

 

 ビームライフルを構え、

 

「そこだっ」

 

 しかし外れる。

 

「当たらない…… 照準がずれているのか?」

 

 むきになってビームライフルを撃つアムロだったが、

 

『アムロ、ビームの使い過ぎよ!』

 

 サラツーの警告も遅く、ビームライフルのエネルギーを使い切ってしまう。

 これはミヤビの存在が生んだ弊害だ。

 本来、ビームライフルを乱射しても当たらないこと、そして使い過ぎによる弾切れは、アムロがサイド7での戦いで経験済みになっているはずのことだった。

 それがミヤビのドラケンE改が活躍しているため、いわばアムロとガンキャノンの教育型コンピュータに入るはずの経験値を横取りしてしまっているわけである。

 そのため、今になってそのつけがアムロに降りかかっているのだ。

 

「し、しまった、弾切れだ。フラウ・ボゥ、ビームライフルをくれないか?」

『そ、そんなの……』

 

 無理と言いかけるフラウの声に被さるように、

 

『分かったアムロ、ハンマーを射出させる!』

 

 待っていたぞ言わんばかりの父の声が届く。

 

「それでいいです!」

 

 としか、アムロには言えなかった。

 

 

 

「カイ、あなたは右の機銃を」

 

 セイラはカイと組んで、ホワイトベースで迎撃の任についていた。

 

「そんなのやったことないぜ」

 

 ぼやくカイにセイラは自分も銃座につきながら言う。

 

「私だってやったことなんて無いわ」

「へぇへぇ、お付き合いしますよ、セイラさん」

 

 なんだかんだ言いつつもカイはセイラに続いて銃座に着く。

 

 

 

「ほーれ、もう一丁っ! ふんっ!」

 

 再びコンソールをぶっ叩くことで、ミサイルを発射するリュウ。

 実際にはそんなことをしなくてもミサイルが装填されたなら普通に撃てるし、叩き下ろした拳がミサイル発射スイッチを押しているだけなのだが、リュウはそれに気づかない。

 後で凹んだコンソールと叩き割られたスイッチ類を整備員に発見され怒られ、その事実を知ることになるのだが……

 そこにブリッジのブライトから指示が下りる。

 

『リュウ、ハヤト、接近したザクにミサイルは無理だ、機銃で迎撃しろ』

「了解!」

 

 こうしてミサイルの発射盤は某格闘ゲームのボーナスステージの車のようにリュウの拳に破壊しつくされるという事態を何とか免れたのだった。

 

 

 

(ああもう。こっちに来るな! あっちへ行け!)

 

 迫りくるザクに応戦するミヤビ。

 そこに新手のザクが目前に躍り出てきた。

 

「甘い!」

 

 ミヤビはドラケンE改の機体にカエルの目玉のように装備された2基のライトをハイビームで点灯させた。

 

『太陽拳!!』

 

 と叫ぶのはサラだ。

 

 

 

「うあああっ、あんな所に投光器が!!」

 

 うぉっ、まぶしっ! とばかりにモニターから顔をそむけるザクのパイロット。

 至近からザクのカメラに浴びせかけられる強烈な光に瞬時、視界が遮られてしまう。

 

 ミヤビからしてみると、太陽を直視してしまう危険のある宇宙空間で使うモビルスーツのカメラに十分な大光量補正(フレア・コンペンセイション)機能が付いていないのはどういうことなの、という話だったが。

 実際に『機動戦士ガンダム』第12話で巡洋艦ザンジバルの装備していた巨大投光器がガンダムのモニターにも有効だったように、宇宙世紀の技術でも解決されていない問題なのだった。

 

 そしてモニターが回復した時には……

 

 

【挿絵表示】

 

 

『私たちからのプレゼントです。遠慮せず受取ってください!』

 

 サラの言葉が告げるとおり、ドラケンE改から60ミリバルカンを撃ち込まれていた!

 

 弱いイメージのある60ミリバルカンだったが、実際には条件次第でザクの正面装甲を破りハチの巣にしてしまう威力を持つ。

 将来的には『逆襲のシャア』劇中にてジェガンの頭部バルカンがギラ・ドーガの装甲に大穴を開けて撃墜しているように、発展性もある優れた武器だった。

 これさえあればビーム兵器なんていらないんじゃね、というやつである。

 

 

 

「……嫌だ、嫌だ、シャア少佐、シャア少佐、助けてくださいシャア少佐、少佐ーっ」

 

 そしてザクが爆発した。

 

 

 

『アムロ、ハンマーを発射するわ』

 

 フラウからの通信。

 

『いいわね? 行くわよ!』

 

 テム・レイ博士が見せてくれた新兵器、鎖付き鉄球がホワイトベースから放たれる。

 

「相対速度、速いか? 掴めるか?」

 

 ハンマーを掴もうとするアムロだったが、

 

『避けてアムロ!』

「シャア!?」

 

 サラツーの警告で、こちらをバズーカで狙うシャアのザクに気づく。

 

 

 

「とどめだ!」

 

 ザクバズーカを発射するシャア。

 

 

 

 アムロはとっさにシャアの射撃の線上にハンマーが来るように相対位置を調整、そして放たれたバズーカの弾がハンマーに命中した。

 

「ううっ…… シャアめーっ!」

 

 何とか直撃を避けたアムロだったが、そこにとてつもない衝撃が走る。

 

「うわあああっ!」

 

 

 

「こいつはいい」

 

 シャアのバズーカに弾かれたハンマーは、先ほどアムロがシールドを吹き飛ばしたザクの手に落ちていた。

 それを使ってガンキャノンに攻撃を加えたのだ。

 

『コム、大丈夫なのか?』

「は、少佐、大丈夫であります。ザクの右手が使えないだけです。この鎖付き鉄球は左手で使います」

 

 そして再びハンマーを振りかぶるザク。

 

 

 

「えーいアムロめ、何をやっておるか!」

 

 テム・レイ博士が毒づきながら見守るモニター上で、ザクが繰り出す鉄球にぼてくりまわされるガンキャノン。

 

 

 

「何やってんだアムロォ!」

「アムロ、体勢を立て直して!」

 

 アムロの窮地に、ホワイトベースの銃座からカイとセイラの援護が届く。

 というか、結構息が合っている二人だった。

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 ホワイトベースからの対空砲火にザクのパイロット、コムは機体に回避行動を取らせる。

 そして再びガンキャノンに視線を戻し、そこに見たものは……

 

 

 

 鎖付き鉄球を振り上げるガンキャノン!

 

「僕の鉄球(タマ)は二つある!」

 

 ハンマーは「2つ」あったッ!

 

 繰り出されるハンマー、それに合わせザクも鎖付き鉄球を放つ!

 しかし!

 

「そして僕の鉄球(タマ)は、とても大きい!」

 

 ガンキャノンの持つハンマーは……

 

 

 

『ところでミヤビ君、この鉄球(タマ)を見てくれるかな。こいつをどう思う?』

 

 ザクを牽制しながら大気圏突入カプセルを守るミヤビのドラケンE改。

 そこに迷惑にもアムロが戦う画像を転送しながらテム・レイ博士が得意げに話しかけてくる。

 

『すごく…… 大きいです……』

 

 そうつぶやくサラのセリフに、ミヤビは吹き出しそうになるがそれをこらえ、

 

「ジャンボハンマー?」

 

 その正体に目を見張ることになる。

 ジャンボハンマーとは、ゲーム『SDガンダムスカッドハンマーズ』に登場する大河原邦男氏がデザインした数々のハンマーのうちの一つ。

 文字どおり巨大なハンマーで、これさえあればジオング戦も大丈夫という圧倒的な攻撃力を誇るものだ。

 ゲームでは宇宙空間ならともかく、地上では論理的に持って歩けそうにはない大きさだったが、そこはSDだったのでデフォルメされていたのだろう。

 現実(リアル)では何とか納得できる大きさにおさまっていた。

 

『そう、フィールドモーターをトルク重視のセッティングにしてあるガンキャノンなら、これくらいのものは扱えるッ! 質量は2倍、つまり威力も2倍だ。論理的に言って!』

 

 ゲームでも威力が2倍だったしね。

 と、ミヤビは自慢げに語るテム・レイ博士の説明を生暖かい目をして聞き流すのだった。




 戦闘開始、そしてレイ親子のボケ&シモネタトーク回でした。
 しかしテム・レイ博士の狂気の発明とセクハラ発言はこれで終わりではないのです。
 以降の更新にご期待ください。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第5話 大気圏突入 Cパート

 ザクが放ったハンマーは、2倍の質量を持ったジャンボハンマーに簡単に弾かれ飛んでいく。

 その鎖を持っていたコムのザクの左手は衝撃に耐えきれず、左指が根元から千切れ飛んでしまう。

 

「なぁにィ!!」

 

 悲鳴を上げるコム。

 ミヤビの前世の記憶の中でもガンダムハンマーはグリップの尻が錨の形をしていたが、これはすっぽ抜けを防止できる反面、このようにマニピュレーターの強度を超えると指を全部持って行ってしまうという恐ろしい結果を産む。

 強化されたハイパーハンマーでは単にストレートな棒状グリップになっていたが、これは指を飛ばすよりすっぽ抜けた方がマシ、という判断によるものだろう。

 

 

 

『指が無くてはハンマーの持ちようがないね……』

 

 サラツーの声を聞きながら、アムロは再びハンマーを振りかざす!

 

「この鉄球(タマ)でお前を倒す!」

 

 そしてジャンボハンマーの直撃が、ザクを破壊した!

 

 

 

 そしてミヤビはその光景を横目にこう思う。

 

(って言うかこれ『サムライ日本』だよね。懐かしのお笑い特集で見た)

 

 いわゆるチャンバラコントを展開しているトリオで、中でもトレードマークとなっているのが鎖鎌。

 スポンジでできた球状の分銅で相方をぼてくり回していい気になっていると、舞台の袖から更に大きな分銅を付けた相手が現れ逆転し、クライマックスにはバスケットボールの倍はあるような大きな分銅が登場してボッコンボッコン叩いて来るというやつだ。

 

 

 

「なめるなーっ!!」

 

 部下をやられた怒りか、アムロのボケ&シモネタトークをニュータイプの片鱗で察知したのか……

 シャア、怒りの肘打ちがガンキャノンを襲う!

 

 

 

「うわっ! ああーっ!!」

 

 シャアザク渾身のどつきツッコミに、吹っ飛ばされるガンキャノンとアムロ!

 

『きゃああああっ!』

 

 一緒にぶっ飛ばされるサラツーにはいい迷惑だ!!

 

 

 

 もう一機の大気圏突入カプセルを攻撃するザクは、ドラケンE改を警戒したのか距離を取ってザクマシンガンで攻撃していた。

 ドラケンE改が60ミリバルカンや短距離ミサイルで牽制しているため、その射撃が当たることは無かったが、

 

「ザクの攻撃だ、大丈夫なのか?」

「大丈夫とは言えません。しかし……」

 

 と、カプセルのリード中尉たちは不安を募らせていた。

 そこに至近弾が通過。

 それでリード中尉はパニックになった。

 

「こっ、高度を下げろ!」

「しかしそれでは……」

「いいから下げるんだ!」

「中尉、やめてください!!」

 

 横から操縦桿に手を出すリード中尉。

 しかしそれはデリケートな大気圏突入オペレーション中に絶対にやってはいけない行為だった。

 

「だっ、ダメです! 進入角が深くなりすぎ…… カプセルが燃え尽きてしまいますっ!」

 

 慌てて修正しようとする操縦士だったが、もう遅すぎた。

 

 

 

『ミヤビさん、カプセルが降下しました』

「何ですって!?」

 

 サラの報告で予想外の動きをする大気圏突入カプセルに気づくミヤビ。

 

「リード中尉ッ!」

 

 

 

「サラミスのカプセルがコースを逸れました!」

「なに!?」

 

 オペレーターからの報告に、ブライトはどういうことだと声を上げる。

 

「あのまま大気圏突入ができるのか?」

「無理でしょう。進入角が深くなりすぎています」

 

 ブライトはキャプテンシートの送受話器を持ってレーザー通信で呼びかける。

 

「リード中尉! リード中尉!?」

 

 しかし返事は無く、ブライトは決断を迫られる。

 モニターに映る、高度を下げ過ぎたため赤熱し始めたカプセル。

 そしてそれでもカプセルを守りザクと戦い続けるミヤビのドラケンE改の姿。

 

【挿絵表示】

 

 それを目にしたとき、ミヤビの言葉が脳裏によみがえる。

 

『リード中尉、私がカプセルを死守します。絶対にコースを変えないで下さい』

 

『コースを変えたらそれに続くホワイトベースも南米ジャブロー以外に、ジオンの勢力下に降りてしまう可能性が高くなります』

 

『大丈夫、あなた方は私が守ります。ですからもし回避するにしても私が死んだ後にしてください』

 

 ブライトは決断する。

 

 

 

『リード中尉は自分が助かるために民間人の乗っているホワイトベースを危険にさらしたりはしないハズだ』

 

 ホワイトベースからの通信が、カプセルに届く。

 その内容にリードは血相を変えてわめく。

 

「どういうことだ、なぜホワイトベースにこちらの通信がつながらない! 向こうからの通信は届いているんだぞ!」

「分かりません。高度を下げたせいで既に通信障害が始まっているか、あるいはレーザー送信の経路がこちらを守るドラケンE改の機体に遮られているか……」

 

 ぞくりと、リード中尉の背筋にとてつもない悪寒が走る。

 レーザー通信は受信機と発振器が互いに離されて設置されている。

 ゆえに一方だけが障害物に遮られるというのもありえないことではないが、しかしピンポイントでこちらの通信を妨げることができるのだろうか?

 あるいは、ミヤビは故意に……

 

『リード中尉は……』

 

 ブライトの声がレーザー通信越しに届く。

 

『いや、リード少佐はきっと』

 

 どういうことだ、自分は中尉だ。

 なぜ言い直す!

 

『きっと「自分はどうなってもいいからホワイトベースを、民間人を守れ」と思っているに違いない』

 

 ばっ、馬鹿な!

 

『そうでしょう?』

 

 ちっ、違うっ!

 

『この尊い「自己犠牲」の心を、私たちはずっと忘れないでしょう。リード少佐は素晴らしい地球連邦軍将校だったと』

 

 戦死による二階級特進!

 ブライトは既に自分を死んだものとして語っている。

 そして…… モニター上に映る、ザクと戦い続けるように見せかけながら、こちらからのレーザー通信を遮り続けるドラケンE改。

 それに乗っているのは……

 

「謀ったな! 謀ったな、『ヤシマの人形姫』ッ!!」

 

 己の不幸を呪うように叫ぶリード中尉。

 

「いっ、嫌だぁ、死にたくないっ! 助けて、助けてくれブライト君!!」

 

 錯乱し、暴れる。

 それが再び操縦を妨害し、カプセルは危険なまでに体勢を崩すことになる!

 

 

 

『死にたくないっ! 助けて、助けてくれブライト君!!』

 

 リード中尉からの通信がホワイトベースに届く。

 一瞬、やりきれない表情を浮かべたブライトだったが、すぐに気を取り直し対応する。

 

「……了解しました、ホワイトベースに収容します」

『たっ、頼むっ!』

「フラウ・ボゥ、アムロにミヤビさんと代わってカプセルを狙うザクを引き離すように伝えろ」

 

 そう指示を出すが、

 

「っ、無理です! アムロはシャアと戦うので精一杯です!」

 

 仕方ないとミライが対応する。

 

「10パーセント加速。サラミスカプセルの前に出ます」

「オムル、サラミスのカプセルを収容する、準備急げ。カイ、リュウ、対空援護しろ」

 

 

 

 前に出るホワイトベースを見て、ミヤビは嘆息する。

 ダメだったか、と。

 

 なお彼女の名誉のため……

 ミヤビはガルマを謀殺しようとしたシャアのように通信を妨害したりはしていない。

 単純にリード中尉が使い慣れていない大気圏突入カプセルの通信装置の操作を誤り、受信はできても送信はできない状況に陥っただけだったりする。

 ついでにリード中尉が暴れた拍子にスイッチが入って送話ができるようになったのだ。

 

『でも、あのカプセル、バランスを崩して制御不能なように見えますけど』

 

 と、サラが言うとおり。

 このままでは無事に収容できるとは思えない様子だ。

 

「あれを回収しようとするとホワイトベースの進入速度が危険なまでに上がりすぎてしまうし、万が一にも船尾に突っ込まれたら大惨事よ」

『何時に起きても大惨事』

 

 うるさいわ。

 

「仕方がないわね」

『仕方ないですね』

 

 そういうことになった。

 

 

 

「ドラケンE改降下! コントロールを失ったカプセルに接近していきます!」

「姉さん!?」

「馬鹿な、自殺行為だ!」

 

 ミヤビのドラケンE改の動きに、ホワイトベースブリッジは騒然となる。

 

「あんなミドルモビルスーツ、熱であっという間に焼き尽くされてしまうぞ!」

 

 実際、映像のドラケンE改の表面は赤熱し始めていた。

 しかし……

 

「燃え尽きない?」

「ドラケンE改、健在! カプセルに接触します!」

 

 

 

「特別仕様機の耐熱コーティングがこんなところで役に立つとはね」

 

 ドラケンE改のコクピット内で呟くミヤビ。

 高熱にさらされるドラケンE改の機体表面では特殊コーティングされた塗料がモコモコと膨らんでいた。

 

 今回彼女が乗っているようなドラケンE改の一部の機体にはドライヤーやアイロンで加熱すると膨らんで立体的になるクラフトペンのように、高熱にさらされると『泡状』になる耐熱塗装が施されていた。

 生成された泡による空気の層でヒート武器やビーム兵器の熱をカット、表面が燃えても何層にもなっている塗料が次から次へと内側から泡を生成していくため、ある程度までは耐えられるというもの。

 ただしビームライフルなど戦艦の主砲クラスのメガ粒子砲の直撃には耐えることができないし、ビームサーベルやヒート武器もまともに受けず、受け流すようにしないと一瞬耐えたのちに両断されるということになる。

 無いよりマシ程度のものだったが、結果として今それが一時的にミヤビの機体と命を守っているのだ。

 

 またこの塗装は層状に塗られていることにより電波を吸収、減衰させる効果も持っており、ステルス塗装としても機能する。

 さらに、

 

『この機体、装甲もチタンセラミック複合素材でできていますしね』

 

 と、サラ。

 これは当然で、通常モデルに使用されている超硬スチール合金のようなスチール系の装甲だと一定以上の熱を受けると鋼が焼きなまされ、装甲が柔らかく劣化してしまうのだ。

 ミヤビの前世、旧20~21世紀で使われていた戦車なども火炎瓶による攻撃などで火災を起こすと再生不能となっていたし、超硬スチール合金が使われているジオンのモビルスーツも焼夷榴弾や火炎放射を受けるとその場では何とかなっても装甲が劣化し、結果として使えなくなってしまう。

 ジオンのモビルスーツは装甲がフレームを兼ねるモノコック式の機体構造を持っているからなおさら。

 

 その点、チタンは過熱による劣化が(ある程度までなら)発生しないのだ。

 ミヤビも前世でアウトドア用のごく薄いチタン鍋を空焚きして真っ赤に赤熱させたことがあるが、その後の使用に問題は無かった経験を持つ。

 また旧20世紀の超音速・高高度戦略偵察機SR-71ブラックバードは超音速飛行における空気との衝突による熱で機体が加熱されてしまうため、通常の航空機素材が使用できずチタンを使っていたという。

 そしてその寿命が異様に長かったのは、飛行のたびに加熱され機体素材が熱処理を受けた状態になるためだったと言われていた。

 スチール系の素材とは逆に、加熱が寿命を伸ばす方向に働くわけである。

 

 しかしながら大気圏への突入となると、耐熱コーティングとチタンセラミック複合装甲でも耐えられるのは短時間に限られる。

 そしてミヤビの更なる策とは……

 

『タッチダウンします!』

 

 ドラケンE改は姿勢を崩している大気圏突入カプセルと接触!

 

 サーフィンしようぜ! お前ボードな!

 

 とばかりに大気圏突入カプセルをサーフボードのように操ることにより体勢を回復、安定させ、自身もカプセルを盾に、ウェーブライダーとして利用することで燃え尽きることを回避する!

 

 アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第19話でガンダム・バルバトスが倒した敵のモビルスーツ、グレイズの上にまるでキン肉マンで出てきた技、マッスル・インフェルノのように立ち、それを盾に大気圏突入した姿の再現である。

 なおオルフェンズでは盾にされたグレイズは装甲が焼けて剥がれ落ち、コクピットのパイロットはもちろん助からない(それ以前に撃破された段階で死亡していたが)

 

 

 

 そして盾にされ、機内温度が上昇していく大気圏突入カプセルでは、当然のようにリード中尉が錯乱していた。

 

「うわぁぁぁっ! ヤシマの人形姫に殺されるっ! 蒸し焼きにされて殺されるぅぅぅっ!!」

 

 勝手に思い込んでいる『ヤシマの人形姫』への恐怖。

 その相手が自分の乗っている機体にのしかかり、盾にしているのだから当然そのように考えるのだった。

 

「落ち着いて下さい中尉! 燃え尽きる前にホワイトベースに収容されますから! あのドラケンが助けてくれたおかげで機体が安定したんじゃないですか!」

「やめろぉ、人形姫っ、ぶっとばすぞぉぉっ!」

 

 何のつもりか拳銃を抜くリード中尉。

 

「っ、中尉が錯乱した! 抑え込め!」

「中尉! 中尉!!」

 

 そんなドタバタを繰り広げながらもカプセル、そしてミヤビのドラケンE改は後部ハッチからホワイトベースに収容された。




 通信を妨害し、リード中尉を謀殺しようとする主人公。
 やはり『ヤシマの人形姫』は、その名にふさわしい冷酷無比な存在だった(ウソ)

 そしてどこかで見た方法でちょっとだけ大気圏突入の熱に耐えて見せるドラケン。

 次回はいよいよテム・レイ博士の狂気の発明、ガンキャノン大気圏突入システムの登場ですのでご期待ください。

 それではみなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第5話 大気圏突入 Dパート

『アムロ、戻って。オーバータイムだよ』

「分かってるよサラツー。でも、敵が退いてくれないと」

 

 ザクを連れたままホワイトベースに着艦するわけにもいかず、アムロは焦る。

 

 

 

 タイムリミットの宣告は、ジオン側にも成されていた。

 

「シャア少佐、カプセルに入ってください」

『よし、ハッチ開け』

 

 コムサイに収納されるシャアのザク。

 

『クラウン、構わん。敵のモビルスーツとて持ちはせんのだ。まっすぐカプセルに向かえ』

 

 

 

「アムロに伝えてください、これではガンキャノンも大気の摩擦熱で燃えてしまいます」

「アムロ、戻れ、ザクはいい」

 

 送受話器を手に取りアムロに呼びかけるブライト。

 そこに帰還したミヤビがブリッジに現れる。

 

「ガンキャノンは戻っていないんですか? あっ!?」

 

 モニターに映る、赤熱し始めたガンキャノンの機体にミヤビは目を見張る。

 

 

 

 焦るアムロはこう閃く。

 

「そうだ、この鉄球(タマ)を!」

『何をする気、アムロ!?』

 

 アムロはガンキャノンにハンマーを投げさせる。

 ザクは鉄球を回避するが、アムロの狙いはそこではない。

 

「かかった!」

 

 ザクのボディに鉄球をつなぐ鎖が絡みつき、自由を奪う!

 ハンマーのグリップから手を放し、アムロは叫ぶ。

 

「これで鉄球(タマ)の重さの分、ザクが早く落ちるはずだーっ!!」

 

 

 

 その姿を見ていたミヤビは思う。

 

 アムロ君、ものは重いほうが早く落下するなんていう『ゆで理論』が通じるのはマンガ『キン肉マン』の中だけだよ、と。

 

 あのマンガではロビンマスクの必殺技ロビン・スペシャルを、

「きさまが相手よりはやく落下できるのはその鋼鉄のヨロイが…… あるからだ!!」

 とネプチューンマンがロビンの鎧を奪い、自分に重みを移すことで落下速度を加速、掟やぶりのロビン・スペシャル返しで破っていた。

 

 勢いに飲まれ何となく正しい気にさせられてしまうが……

 もちろん実際にはガリレオ・ガリレイがピサの斜塔で実験をして証明したと言われるとおり、物体の自由落下の速度は落下する物体の重さには依存しないのだ。

(空気抵抗の影響はあるが)

 

 

 

 だからザクもガンキャノンも等しく重力に捕らわれ地表へと落下していく。

 

「うわああああ! ら、落下速度がこんなに速いなんて……」

 

 

 

 コムサイ内。

 ガンキャノンと同じく重力に捕らわれてしまったザクからは、クラウンの悲鳴が届いていた。

 

『しょ、少佐、少佐ァーッ。助けてください、げ、減速できません。シャア少佐、助けてください』

 

 大気との摩擦熱で、真っ赤に赤熱しているザク。

 

「ク、クラウン。ザクには大気圏を突破する性能はない、気の毒だが。しかしクラウン、無駄死にではないぞ。お前が連邦軍のモビルスーツを引き付けてくれたおかげで撃破することができるのだ」

 

 そう告げるシャア。

 ドラケンE改ほどではないにしろ、あの頑丈で厄介なガンキャノンを葬れるのは僥倖、ということに彼の中ではなっていた。

 そしてクラウンの乗ったザクのボディは、足が溶け落ち、腕が崩れ、ついに爆散した。

 

 

 

「このままじゃあ、アムロが、アムロがーっ!」

 

 叫ぶフラウ・ボゥ。

 しかしそこに、

 

「大丈夫だ、問題ない!」

 

 と言うのはもちろん、我らがテム・レイ博士。

 

「こんなこともあろうかと! ガンキャノンには大気圏突入用装備が搭載されているのだ!」

 

 ミヤビの前世の記憶でも、ガンキャノンの内部構造図には『耐熱フィルターカプセル』が確認されていた。

 一部資料ではV作戦で試作された3種のRXシリーズのうち、ガンダムとガンタンクのみBパーツ腰部中央部分に『耐熱フィルムカプセル』があり大気圏突入能力があるとされているものもあったが、ガンキャノンにも大気圏突入機能が装備されているとする文献もある。

 やはりガンキャノンには大気圏突入用装備が搭載されているというのが正しいのだろう。

 

 アニメ『機動戦士ガンダム』でRX-78ガンダムが見せた大気圏突入方法は二通り。

 一つはTV版で見せた耐熱フィルムを被っての大気圏突入。

 しかしこれは「サランラップで大気圏突入かよ!」「これさえあればザクだって大気圏突入できるだろ」という声があったためか、スタッフたち自身、さすがに無理があると考えたためか劇場版では股間部から噴出する冷却ガスを前方に構えたシールドに吹きつけ、ガンダム本体を覆うフィールドを形成し過熱を防ぐ耐熱フィールドに変更された。

 

 そして、それらを統合したものが『機動戦士Zガンダム』で登場したバリュートによる大気圏突入システムである。

 バリュートとはバルーン(風船)とパラシュートを組み合わせた造語で、高速時にはパラシュートより頑丈なため実際に航空機搭載無誘導爆弾の減速装置として使われていたもの。

 『機動戦士Zガンダム』ではこれを大気圏突入スピードを和らげる装置として利用していたし、現実でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が同じ原理による大気圏突入テストに成功している。

 ただし、このJAXAのEGGプロジェクトの実証試験は数日かけてゆっくりと降下する、というものだった。

 そのため、そこまで落下速度を落とせない『機動戦士Zガンダム』で登場したバリュートには、底部のノズルから冷却ガスを噴出して空力加熱からクッション全体を隔離するという方法がとられていた。

 

 物体の表層に冷却気体を流し熱から守る方法は、ミヤビの前世、旧21世紀でもジェットエンジンやガスタービンのタービン・ブレードに採用されていた技術だ。

 燃焼器から高温高圧の噴射を受けるタービン・ブレードにはニッケル合金やコバルト合金といった耐熱合金が用いられているが、素材の耐熱性だけでは耐えられないため内部に冷却用のエアーを流してやる必要がある。

 そして冷却用エアーの一部はブレードの表面に開けられた小穴から外に出るが、その空気がブレードの表面を流れることで、外から冷やすと同時に燃焼ガスの熱からブレードを保護する効果を持つのだ。

 

 

 

「ミヤビさんに言われて調べた大気圏突破方法、間に合うのか?」

『姿勢制御、開始』

 

 サラツーの補助を受け、アムロは大気圏突入体勢を取る。

 スカイダイビングのように両手両足を広げ、それをエアブレーキに。

 自然と、腰を突き出す姿勢になる。

 そして、

 

『バリュート、展開するよっ』

 

 サラツーがガンキャノンの腰部正面に備えられた『耐熱フィルターカプセル』から、バリュートを展開。

 マッシュルーム状のクッションのような形状をしたバリュートが機体全体を覆い隠すほどの大きさに広がった。

 

『冷却シフト、全回路接続』

 

 その中央部からは冷却気体が噴出され、バリュートを守る。

 

「す、凄い、装甲板の温度が下がった!」

 

 感嘆の声を上げるアムロ。

 

『ふわふわのベッドに包まれてるみたい』

 

 とはガンキャノンの全身をバリュートに預け、顔を埋めているサラツーの感想。

 そして、ようやく余裕ができたアムロはふとつぶやく。

 

「で、でもこのシステムの正式名称、どういう意味なんだろう……」

 

 

 

 バリュートを展開するガンキャノンの姿を映し出すモニターの前で、テム・レイ博士が叫ぶ。

 

「ミヤビ君のアイディアを元に作ったガンキャノン大気圏突入システム! 名付けて……」

 

 十分に溜めを作ったのちに放たれる衝撃のパワーワード!

 

「八畳敷(はちじょうじき)・バリュート!!」

 

 ミヤビは めのまえが まっしろに なった!

 

 

 説明しよう!

 日本には「狸の睾丸(きん〇ま)八畳敷」という言葉があり、タヌキの置物に見られるようにその陰嚢は非常に大きく、またよく伸びるとされていた。

 妖怪『豆狸』はそれを被って化けることにより人間をだましたという……

 

 

(しょ、正気かテム・レイ博士ーッ!!)

 

 テム・レイ博士が開発したガンキャノン大気圏突入システム、その狂気の名称を知ったミヤビの心の叫びが木霊する。

 確かに、Zガンダムの時代でも巨大なバックパックを追加する形で実現していたバリュートをガンキャノンの股間にある耐熱フィルターカプセルに収めた技術は凄いけれど。

 その股間からガンキャノンの全体を覆い隠せるほどのバリュートを展開する姿は言われてみるとそのもので、名は体を表すと言うにはぴったりだけど。

 でも、さすがにこれは無い。

 

(変態だー!!!!!)

 

 である。

 

(変態!! 変態!! 変態!! 変態!!)

 

 というか、そんなものに絡めて自分の名前を出すなと絶叫したいミヤビ。

 立派なセクハラである。

 オッサンはこれだから……

 

「レイ博士……」

「みっ、ミヤビ君?」

 

 知っている者からは恐れられる『人形姫の氷の微笑み』……

 それを浮かべながらミヤビはゆっくりとテム・レイ博士に歩み寄る。

 

「ちょっとお話しましょうか?」

 

 某魔法少女アニメに登場の『管理局の白い悪魔』と呼ばれるヒロインと同じ意味での『お話』だ。

 

「なっ、何を怒っているんだね、ミヤビ君」

 

 それが分からないからあなたはアホなんですよ。

 

「ミヤビ君? ミヤビくーんっ!」

 

 こうしてテム・レイ博士はミヤビに連れられてブリッジを後にしたのだった。

 

 

 

『ハチジョウジキの意味?』

 

 アムロにガンキャノン大気圏突入システムの正式名称について聞かれ、サラツーが自分の辞書データベースからその意味を検索するまであと三秒。

 そして彼女はガンキャノンが、自分が全身を預け顔を埋めているバリュートがどういう意味で名付けられているのかを知り、錯乱することになる……

 

『いっやあああああああああっ!!』

 

 

 

「モビルスーツの位置は変わらんな。燃え尽きもしない」

 

 ホワイトベース側のドタバタ劇など知らぬシャアはシリアスにつぶやく。

 

「どういうことでしょう?あのまま大気圏に突入できる性能を持ってるんでしょうか?」

「まさかとは思うが、あの木馬も船ごと大気圏突入をしているとなれば、ありうるな。残念ながら」

 

 

 

 一方アムロは、

 

「しかし、どうやって着陸するんだ?」

 

 と悩んでいた。

 フォローしてくれるはずのサポートAI『サラツー』は『ハチジョウジキ』の意味を知った結果錯乱し、今は自閉モードに陥っている。

 復帰には時間が必要だった。

 そして、その間は最低限の対応を行う人工無脳、俗にbotと言われる簡易プログラムが対応してくれる。

 

『地表近くまで降りたら、ナイフでバリュートを切り離してください』

 

 3Dモデリングではなくあらかじめ用意されている2D画像、しかも頭身が低くSD化されたサラツーの姿を画面隅に投影しながらbotプログラムが回答する。

 口調は機械的な丁寧語なので、ちぐはぐな印象。

 

「何だって?」

『このバリュートは極度の小型化の代償としてパージ機能が搭載されていません。自力での排除が必要です』

 

 まぁ、確かにガンキャノンの腰部背面ラッチには『フォールディングレイザー』ヒート・ナイフが装着されてはいた。

 

 パラシュート降下する兵士は緊急時にパラシュートロープやパラシュートを切り裂いて脱出するためのナイフを携帯している。

 また似たような話で冬山に登る登山家は雪崩などで閉じ込められた場合にテントを切り裂いて脱出するためのナイフを寝るときにも手放せないということがある。

 

 しかし、である。

『八畳敷(はちじょうじき)』、つまりはきん〇まに例えられたものを自分でナイフで切り落とせ、と言われて躊躇しない男が居るだろうか?

 これは致命的欠陥では、とアムロはこんなシステムを開発した父を恨んだ。

 

『高度32、30、29、26、25、24、20、17、16、14、12、11』

 

 サラツーbotの無機質な合成音声が非情にも高度をカウントし始め、アムロの精神を追い詰める。

 そして、

 

『さぁ、股間にぶら下がっている邪魔なモノをさっさと切り落としてください』

 

 親指を立て、何かを掻っ切るしぐさをする画像。

 SD化されているのにえぐすぎる。

 思わず自分の股間を押さえてしまうアムロだった。

 

 

 

「無線が回復したら大陸のガルマ大佐を呼び出せ」

「ようやくわかりましたよ、シャア少佐。よしんば大気圏突入前に敵を撃ち漏らしても、敵の進入角度を変えさせて我が軍の制圧下の大陸に木馬を引き寄せる、二段構えの作戦ですな」

「戦いは非情さ。そのくらいのことは考えてある」

 

 と、あくまでもシリアスを貫くシャア。

 同時進行しているアムロの悲喜劇を彼が知ったら、真面目にやっている自分たちがアホみたいだと思っただろうが……

 

 

 

次回予告

 ガルマ・ザビの機動力はホワイトベースを地上に追い詰める。

 正規軍との戦いは一瞬の息抜きも許されなかった。

 そしてテム・レイ博士はこうつぶやくのだ。

「ドラケンE改の真の力、見せてもらおうかミヤビ君」

 と。

 次回『ガルマ出撃す』

 君は生き延びることができるか?




 おかしい。
 バリュートというすごくまっとうな技術を出したのに、ネーミング一つでここまでひどい話になるとは……

 ともあれ、これでようやく地上に。
 ドラケンE改のホームグラウンドですね。
 その活躍にご期待ください。

 それではみなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第6話 ガルマ出撃す Aパート

 ヤシマの人形姫への恐怖からの錯乱。

 それから何とか回復し、ホワイトベースブリッジにたどり着いたリード中尉が見たものは、

 

 メガネ

 

 そう、ブライトもミライもフラウもマーカーとオスカも(彼は元からだが)。

 みんなメガネをかけているのだ。

 

「なっ……」

 

 自分だけ仲間外れみたいで疎外感を感じるリード中尉。

 しかし、

 

「地球にいるジオンの空軍か」

「ガウ攻撃空母の一個中隊が展開してます」

「かなりの数だな」

 

 迫りくるジオンの迎撃部隊、それについてオペレーターと話すブライトの会話に、それどころではない状況を遅ればせながら知る。

 そう、

 

「これではなんにもならんじゃないか、ブライト君!」

「そう思います。ここはジオンの勢力圏内です」

 

 激高するリード中尉に、くいっと指でメガネを押し上げながらブライトが冷静に答える。

 対照的な両者。

 そもそもホワイトベースが進路を逸れてこんなところに降下してしまった原因はリード中尉にあるのだが。

 周囲の視線の温度が下がるが、リード中尉はそれに気づかずさらに荒ぶる。

 

「冗談じゃないっ!」

「シャアは戦術に優れた男です。我々はシャアにはめられたんです」

「突破するんだ、なにがなんでも」

 

 

 

 シャア・アズナブル少佐の乗った大気圏突入カプセル、コムサイは地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐の率いるガウ攻撃空母に回収されていた。

 

「シャア、君らしくもないな連邦軍の船一隻にてこずって」

「言うなよガルマ。いや、地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐とお呼びすべきかな?」

「士官学校時代と同じガルマでいい」

 

 握手を交わす二人。

 

「あれが木馬だな?」

 

 前方彼方の光点を捉え、シャアは確認する。

 ガルマが自ら戦おうとするのかどうかを。

 しかし、

 

「うん。赤い彗星と言われるほどの君が仕留められなかった船とはね」

 

 ガルマの声には戦闘を前にした高揚は感じられない。

 

「わざわざ君が出てくることもなかったと言いたいのか?」

 

 という問いにも、

 

「いや、友人として君を迎えに来ただけでもいい、シャア」

 

 と、親密さをにじませる落ち着いた声で返すだけだ。

 シャアは一応、忠告しておく。

 

「大気圏を突破してきた船であるということをお忘れなく」

「ああ。その点から推測できる戦闘力を今、計算させている。君はゲリラ掃討作戦から引き続きだったんだろ? 休みたまえ」

「お言葉に甘えよう。しかしジオン十字勲章ものであることは保証するよ」

「ありがとう。これで私を一人前にさせてくれて」

 

 ガルマは照れ隠しする際のいつもの癖、前髪を指でいじりながらこう言う。

 

「姉に対しても私の男を上げさせようという心遣いだろ?」

「フフッ、はははは、ははは」

 

 相変わらずのお坊ちゃんぶりにこらえきれず笑うシャア。

 ガルマは微笑を浮かべながら告げた。

 

「笑うなよ、イセリナが見ている」

「う、うむ……」

 

 冷や汗を流すシャア。

 そこには笑顔の……

 しかしどこか狂気をはらんだ瞳を向ける美女、イセリナ・エッシェンバッハの姿があった。

 さながら愛ゆえに狂ったストーカー、安珍・清姫伝説における清姫のようでミヤビが見たら、

「何でイセリナがきよひーに化けてるの!?」

 と叫んでいただろう、そこまでの変わりようである。

 

 どうしてニューヤーク前市長の娘でありアースノイドであるイセリナがジオンの軍服を着てガルマの秘書役におさまっているのか。

 もちろんミヤビのせいである。

 上流階級のパーティーに毎度死んだ目で着飾らさせられ、日本の名家、ヤシマ家の令嬢として出席していたミヤビ。

 そこで目にしたイセリナに、どこかで見たなぁと既視感を覚えたのがきっかけ。

 名前を知って、

「ああ、ガルマ・ザビの嫁……」

 と何気につぶやいてしまったのが運の尽き。

 そのつぶやきを無駄に性能のいいイセリナ・イヤーが拾ってしまったのだ。

『THE ORIGIN』では、父親や反ジオン抵抗運動の動向をガルマに伝える情報提供者、スパイの役目も果たしていた彼女だから、そういう素養もあったのだろう。

 

 有名な『ヤシマの人形姫』が自分に向けて放った意味ありげな言葉。

 帰宅したイセリナはガルマ・ザビについて調べ…… ディスプレイに映し出されたその姿に一目ぼれした。

 ミヤビの知る史実でも戦場のロマンス、激しい恋に落ちた二人だからそれは自然なことかも知れないが。

 しかしその当時、ガルマはもちろんジオンに居たし、イセリナはそこまで行くことなど許されない身。

 好きなのに会えない日々が、彼女を変えた。

 

 ヤンデレストーカーに。

 

 酷い話である。

 まぁ、史実でも思い込みが激しく、最後には「ガルマ様のかたきー」ということでガウに乗ってガンダムに特攻していた彼女である。

 素質は十分にあったということか。

 

「一目ぼれ癖…… はまあ良いとして、一言も話していないのに脳内では相思相愛。脳内シミュレートの果てに、結婚を前提とした仲にまで進展」

 

 というのは某ネトゲに登場した清姫を他キャラが評して言った言葉だが、まさにそんな状態。

 そういうわけで彼女は現在、地球に降り立ったガルマの押しかけ女房兼秘書の位置に、一体全体どうやったのかは謎だが納まっているのである。

 お坊ちゃん育ちで一番身近な女性というとあのキシリアなガルマには、

「ちょっと押しの強い女性かな? でも彼女のような女性に好かれて悪い気になる男は居ないだろう?」

 と能天気にも好意的に受け止められてはいるが……

 

 

 

「20ブロックの修理部品が足りないぞ」

「電気系統だけは手を抜くなよ」

「関節の油圧は異常なし。バランサーの計測に入る」

「不発弾が一発でもあったらただじゃおかないぞ」

「大丈夫ですよ」

 

 ホワイトベースでは急ピッチで戦いへの準備が進められていた。

 そんな中、ハヤト少年はリュウが使っていたシミュレーターで、コア・ファイターの操縦について訓練をしていた。

 それを後ろからのぞき込み、カイは揶揄するように笑う。

 

「おやおやハヤト君、ご精が出ますねぇ。しかしね、目の前に敵さんがいるのよ。間に合うの?」

「茶化さないでください」

 

 と言いつつも、ハヤトにも今回の戦闘には間に合いそうにないとあきらめているところがあった。

 そんな自分が歯がゆくて、さらにシミュレーターに没頭する。

 やれやれ、と肩をすくめるカイだったが、実際には彼は「そんなに焦っても仕方ないだろぉ、無理して死んじまったらどうすんだ」と、ハヤトを心配して声をかけているわけで。

 まぁ、ストレートにそう言わないところが彼らしく、しかしそれが誤解を招くのだが。

 ゆえに、

 

「カイ、あなたはタンクの整備の担当でしょ?」

 

 とセイラにたしなめられる。

 

「済んだよ」

「なら、第一戦闘配備のまま待機してください」

「ほいじゃあんたは?」

「あなたが居ないから探しに来たんでしょう? ガンタンクは私ひとりじゃあ動かせないのよ」

「へいへい、お供しますよ、お姫様」

 

 その言葉にセイラの瞳がわずかにゆらぐ。

 カイはそれを敏感に感じ取りながらも、丁寧に気づかないふりをして軽薄な笑いを張り付けた仮面をかぶった。

 

 その場に取り残されたハヤトはモビルスーツパイロットとして必要とされるカイ、そしてアムロに劣等感を感じ焦っている自分にやりきれない思いを抱く。

 セイラにパートナー扱いされているカイ、ミヤビに期待されているアムロに、思春期の少年らしく男として嫉妬しているという面もあったのだが。

 

 そんな劣等感を打ち消すよう、シミュレーターに没頭するハヤト。

 厳密に言うと彼がやっているシミュレーターはコア・ファイターの原型となったTINコッド用に開発されたものを流用、改造したもの。

 教育型コンピュータとサポートAI、サラシリーズの支援が再現されていないため、実際の操縦より難しくなっていることに彼は気づいていない。

 

 

 

「ガンキャノンを出動させればことは済むんだよ。このジオン軍の壁を突破するにはそれしかない」

「アムロには休息が必要です」

「しかし、今までの敵と違って戦力をそろえてきているんだぞ」

「敵の出方を待つしかありません」

「私が指揮するんだ。コア・ファイターが一機、ガンキャノンが一機、これで中央突破する」

 

 言い争うリードとブライト。

 ブライトは、自分がかけているメガネをそっとなぞり、これをミヤビから受け取った時のことを思い出す。

 

 

 

「時間が無いからARメガネのフィッティングをしながら聞いて」

 

 ミヤビはそう言ってブリッジの面々にメガネを配りながら説明する。

 これはミヤビがサイド7防衛戦時にホワイトベースクルーに配ろうとしたもの。

 しかし彼らは使おうとせず、結果として未使用のまま置かれていたものだ。

 

「現在、ホワイトベースは北米大陸のジオン軍勢力圏に降下中。これを抜けないとジャブローには向かえない」

 

 最初からメガネをかけているオスカにはメガネのツルに追加して装着するAR端末を渡して、ミヤビは説明を続ける。

 

「問題となるのはこの艦の最上位者であるリード中尉にモビルスーツ、そしてホワイトベースを使った戦闘の経験が無く、彼がミノフスキー粒子環境下における有視界戦闘に切り替わる前の軍事教育しか受けていないということ」

 

 そこはブライトも危惧していたところだ。

 そして大気圏突入時の言動を考えるに、頼りにできないどころか味方の足を引っ張ることになりかねない人物だと思う。

 

「問題を分かりやすくするために、陸軍の歩兵小隊を例に取りましょう。このブリッジは小隊本部。ブライトさんは小隊長を補佐する小隊軍曹、それに指揮命令伝達のための通信兵などがつく」

 

 私? とでもいうようにフラウ・ボゥが自分を指さすにのにうなずいて見せ、

 

「小隊軍曹には経験豊かな曹長や古参軍曹が任命されて小隊長の補佐を行う。そして小隊長を務める士官学校を出て間もない新任少尉が実戦に慣れるまでのフォローも小隊軍曹の重要な役目よ」

「つまりリード中尉をそのように補助しろと?」

 

 そういうことだ。

 

「まだ歩兵部隊の指揮経験のない、海のものとも山のものともつかない新任少尉が任官した時に頼るべきなのが、小隊を把握している小隊軍曹よ。彼に助言を仰ぎ、しかる後に最適と思われる方法を選択する」

 

 それが新任少尉と歩兵小隊全体を救うことになる。

 

「しっ、しかしリード中尉がそのように私を扱うとは……」

「ええ、だからこのARメガネなの。骨伝導スピーカーと内蔵マイクが仕込まれたこれを、プライベート回線で接続すると……」

 

 ブライトは息をのむと、それがもたらすものを口に出す。

 

「秘匿通話、リード中尉に対し皆と内緒話ができる?」

「即興で組んだ回線だから残念ながらログが残らないけど、これは仕方が無いことよねぇ」

 

 と、ミヤビは白々しくも言ってのける。

 それを妹のミライが呆れた様子で見ていたが。

 

「リード中尉に実現不可能な指示を出されたら、あなたが実現可能な方策に修正して指示を出すことになると思うわ。それは命令違反でもなんでもないんだけど、それが分からない人に口を挟まれ、議論している暇は無いでしょう?」

 

 そしてミヤビはこうも言った。

 

「ダメだと思ったら、リード中尉との会話をブレインストーミングとして利用するのがいいと思うわ」

 

 ブレインストーミングとは、集団でアイディア出しをする方法。

 

「一見ダメなアイディアでも、それを叩き台に新たなアイディアを産んだりするし、従来の発想に固まった軍人がどう思考するかとか、判断の材料になる場合もある」

 

 だから自由なアイデア抽出を制限するような、批判を含む判断・結論は慎む討議法だ。

 

 

 

 ジオン軍の戦闘機、ドップが接近してくる。

 

「見ろ、ブライト。迎撃ミサイルを」

 

 と、リード中尉は命令する。

 これは以前なら正しい指示だった。

 対空砲火は射程の異なる火器で重層的に構成され、最初は足の長いミサイルで、それを掻い潜ってきた敵は対空砲の近接防御で対応する。

 リード中尉の乗っていた宇宙巡洋艦、サラミスの火器構成もそのようになっていた。

 ミヤビの前世の記憶にある自衛隊だってそうだった。

 ジェット機のスピードに対応できない高射砲は消え、射程の異なるミサイルによる迎撃に変わり、87式自走高射機関砲、通称ガンタンクによる迎撃は最後の手段になっている。

 

 だが、それらが有効だったのは過去の話だ。

 ミノフスキー環境下ではミサイルの誘導性は落ちる上、ドップは機動性に富む。

 ミサイルによる迎撃は効果的とは言えなかった。

 だからブライトはこう命令する。

 

「了解です。各員、個々に迎撃しろ。ドップの編隊をホワイトベースに近づけるな」

 

 彼の指示でホワイトベースの各銃座から対空砲火の銃撃が上がる。

 

 目的と手段、この場合は『迎撃ミサイルを』というのは手段で『ドップからホワイトベースを守ること』が目的だ。

 手段は目的より優先されない。

 だから命令者の言葉にされていない指示の意図を汲んで、より確実な方法で実行する。

 それが自分の役目だとブライトは認識する。

 

 そしてミヤビの言うとおり、ブレインストーミングの相手として考えるとリード中尉は悪くない存在だった。

 彼の指示を叩き台としてとらえると、その欠点を客観的に見ることができ、代案、修正案の用意がスムーズに行える。

 メンタル的にも感情もあらわにわめきたてるリード中尉を見ているとかえって醒めるというか、冷静になれるという面があった。

 

 とはいえ、

 

「ドップ、後方にまわりました。我々の逃げ道をふさぐつもりです」

「ブライト、君は命令違反を犯しているんだぞ」

「命令を実行する前にドップが襲い掛かったんです」

 

 ガンキャノンを出す出さないではやはり衝突せざるをえない。

 

 

 

 モビルスーツデッキ、ガンキャノンのコクピットでブリッジの様子を神経質に見ていたアムロは、我慢できず自分が出ると言うために通信をつなごうとして、

 

『早まらないで、アムロ』

 

 と、ミヤビからの秘匿通話に止められる。

 

「でも、僕がガンキャノンが出ないと……」

『ガンキャノンは私たちの持つ戦力の中ではオールマイティにして最大の力を持つからあなたは自分がやらなくては、と気負うのでしょうけど』

 

 同時にミヤビは考える。

 アムロの気質から言って『他人に合わせるより自分が一人でやった方が確実で早い』と思っているだろうということを。

 優れた能力を持った人間は、この傾向が強い。

 実際、ミヤビの前世でも、そして今世でも企業組織を見るとこういった人物は少なからず居た。

 

 しかし、である。

 会社を見てみればいい。

 

 Aさんは能力はありますが、独断専行、スタンドプレーが多く協調性はあまりありません。

 BさんはAさんほど優れた能力はありませんが、周囲の人と協調し、組織を盛り立てていくことができます。

 

 こういった二人が居る場合、会社組織で結果を出せるのは(ついでに出世するのも)Bさんである。

 組織とは目的を達するための集合体。

 一人で突出するより全体の力を底上げした方が成果を上げられるからだ。

 

 とはいえ、ここでアムロに馬鹿正直に「だったら一人で戦って勝って見せろ。できるのならな」と言うのはアホである。

 だからミヤビは言葉を選ぶ。

 

『あなた一人が何もかも背負う必要は無いのよ』

 

 と。

 

『それとも私たちじゃあ、あなたを支えられない? そんなに頼りないかしら?』

 

 ここで『私たち』なのは、

 

(主に私以外のホワイトベースクルーのことなんだけど、さすがに励ますのに『ただし自分は含めない』とは言えないしなぁ)

 

 という考えから来たものなのだが、ミヤビの美貌とこれまでの実績がそうは思わせない。

 それどころかアムロの耳には『たち』という言葉が抜けて認識される。

 だから彼は困惑気味に、しかし顔を赤らめてこう答えるのだ。

 

「その言い方、ずるいですよミヤビさん」

 

 と。

 

 

 

「かぁーっ、甘酸っぱいねぇ」

 

 ミヤビの用意した秘匿通話回線はリード中尉を除く主なクルーに共有されていたから、ガンタンクで待機するカイたちにもアムロとミヤビの会話は聞こえていた。

 

「うらやましいのかしら、カイ?」

 

 と、珍しくセイラがからかうように言うのは、彼女もカイと同様の甘やかさをアムロとミヤビの会話に感じ取っていたからなのか。

 一方、

 

『うらやましい、ですか?』

 

 と小さく首をかしげて問うのはガンタンクのサポートAI『サラスリー』。

 精神的に幼い彼女にはまだ分からない感覚らしい。

 だからカイは照れ隠しもあってこう答える。

 

「お子様のサラミちゃんにはまだ早い話だよ」

 

 と。

 サラスリーがふくれたのは子供扱いされたせいか、それともまたサラミ呼ばわりされたせいか……

 通信機越しにおかしそうに笑うセイラの声に、カイもまた自然と笑顔となって。

 それでますます不機嫌になるサラスリーを慌ててなだめることになるのだった。




 フライングして登場のイセリナでしたが……
 どうしてこうなった。
 この先は実際に書いてみないと分かりませんが、なんだかんだ言って彼女がガルマをシャアの魔の手から守り切ってしまいそうな予感がします。

 そして、いよいよ地上戦となります。
 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第6話 ガルマ出撃す Bパート

「状況を整理します。ガウ攻撃空母にはドップ8機とザク3機が搭載されています」

 

 ミヤビからもたらされた情報、ARメガネに表示されたガウのスペックを見てブライトは説明する。

 

「ザクが3機もだと……」

 

 怯むリード中尉にうなずいて、

 

「そうです。こちらが先にガンキャノンを出して消耗させてしまうと、相手の予備兵力であるザク3機を出された時点で詰んでしまいます」

「なっ、ならどうする……」

「ドップの相手はガンタンクとコア・ファイターでしましょう。ザクが出てくる前なら接近戦にならず、十分に防げるかと」

 

 同時に、戦闘とそれに続く大気圏突入で疲労しているアムロを予備兵力とすることで少しでも休ませることができる案だ。

 戦力の逐次投入は下策であるとはいうが、予備兵力無しでは戦況の変化に柔軟に対応することはできないというのもやはり軍事的常識。

 またジャンケンや五行相剋『水は火に勝(剋)ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ』、水は火を消し、火は金を溶かし、金でできた刃物は木を切り倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水の流れをせき止める……

 などといった具合に、兵器には相性があるし、ジャンケンと違って後出し上等な世界でもある。

 

『あの、僕もコア・ファイターで出撃するっての、どうでしょう? カイさんたちの負担も少なくなるし』

「ハヤト」

 

 ハヤトからの通信による進言。

 

「大丈夫なの?」

「無理をすれば敵に隙を突かれるだけよ」

 

 ミライやフラウからも心配の声が上がる。

 

「どうなんだ、リュウ」

 

 ブライトは一緒に飛ぶことになるリュウに確認する。

 

『ああ、コア・ファイターは扱いやすい戦闘機だし、シミュレーターの結果からみると俺の後について飛ばすことぐらいならできるはずだ』

 

 戦闘機の編隊飛行において二機一組を最小単位とするロッテ戦術、アメリカ軍で言うエレメントが組めればその生存率は格段に上昇する。

 また、今回の戦闘に役立たなくとも経験は無駄になならないはず。

 だからブライトは決断する。

 

「了解だ。コア・ファイター二機は発進準備。ただし決して無理をするな。ガンタンクはその後だ」

 

 そしてリード中尉に確認する。

 

「よろしいですね?」

「突破できるんだな?」

 

 ブライトは「わかるものか」とつぶやきかけたが、アムロたちが聞いていることを考え、それを飲み込んだ。

 ただうなずいて見せる。

 そのタイミングで、ミライがARメガネを利用した秘匿通話でささやきかける。

 

「ブライト、敵が攻撃を控えているのはなぜかしら?」

「このホワイトベースを無傷で手に入れるつもりなのだろうな。高度を下げろ、ミライ」

「了解」

 

 降下を開始するホワイトベース。

 

「ジオンにこの船は渡せん」

 

 と気勢を上げるリード中尉だったが、相手にする者はいない。

 実質ブライトの指揮でホワイトベースは動いていく。

 

「各対空砲火、コア・ファイターの発進を援護しろ! 他が一時的に薄くなってもいい! 少しの間ぐらいホワイトベースの装甲で耐えられる!」

 

 はずだ、という言葉を飲み込み断定口調で指示を出す。

 軍では言葉は正確に用いなければならないが、命令は別だ。

 受け取った者が『本当に?』と考え、その間手を止め味方を危険にさらしてしまうようなものではだめなのだ。

 そして冷静であり、心配などしていない口調でなければならない。

 士官学校で、そして何よりパオロ艦長の指揮の下で学んだことだった。

 しかし、

 

「ブライト君!」

 

 と声を上げるリード中尉にはその辺が分かっていないらしい。

 ブライトはやれやれと思う感情をミヤビのくれたARメガネの下に隠し、対応する。

 

 

 

 リュウとハヤトのコア・ファイターが相次いで飛び立つ。

 

『ハヤト、いいな? わかるか?』

「わかります。任せてください」

 

 教育型コンピュータと補助AI『サラシリーズ』のおかげで初めてのハヤトもそれなりに乗りこなすことができていた。

 リュウの機体にはサラシックス、ハヤトの機体にはサラナインが稼働している。

 

 

 

 アムロはガンキャノンのコクピットでノーマルスーツのグローブに包まれた手を神経質に握ったり伸ばしたりしながらリュウとハヤトの通信を聞く。

 

『リュウさん、ホワイトベースから出たらなるべく離れましょう。敵の隊列を混乱させるんです』

 

 ハヤトの提案に、アムロは眉をひそめる。

 

(賛成できないな。敵の狙いはホワイトベースだ、離れたら援護ができなくなる)

 

 そう思うが、

 

『そ、そうか?』

 

 と、流されるリュウに舌打ちする。

 

(リュウのやつ、軍人のくせに!)

 

 そして指示を出すべきブリッジは、ブライトがリード中尉への対応に追われている状況。

 

「ハヤトは敵を一機でも多く撃ち落すことだけ考えればいいんだ」

 

 苛立ちまぎれにアムロはそう小さくつぶやいた。

 

 

 

 アムロのつぶやきを通信機越しに聞いたミヤビは、上手くいかないものだとため息をつきそうになるのをこらえた。

 アムロは優秀だ。

 そして頭の回転が速い。

 天才だと言っていいだろう。

 またメカオタク、という内向的に見える面を持ちながらも実際には男らしく根性もある。

 ブライトに厳しく叱咤されても反発するだけの気概があるのだ。

 最終的には反抗してガンダムごと家出してしまったくらいに。

 この辺はやはり昭和のアニメの主人公、とも思うしロボットアニメの主人公はやはりこうでないといけないのだろう。

 

 そんなアムロだからこそ、リスクのある状況に置かれると彼は積極的に対抗策を思索し、打開しようとする。

 これ自体はいいことだ。

 ミヤビの前世の記憶の中でもアムロは自ら考え、数々の戦法を産み出し、そして勝利していた。

 

 問題はサラたちAIと違って人間の思考力は有限、使えば使うほど疲労していくものだということだ。

 そもそもすべてのリスクに配慮し、対策を考えるなど無理なのだし。

 ただでさえ前回の戦いの疲労が残っているのに、休まず思考し脳内でシミュレートを続けては疲れ切ってしまうだろう。

 

 ミヤビの前世で知る彼は、この戦いではっきりとしない上に苛立ち、二転三転する指示に振り回され、最終的にはバーサークして敵陣に突っ込み何とかしてしまった。

 そして燃え尽きて、という具合になってしまう。

 

 それを防止するために手元にあったARメガネをブリッジ要員に配って活用してみたわけだが、今度はブリッジや全体の動きがわかる分、アムロは一つ一つの状況に反応して思考し、苛立つということになっていた。

 こういう場合、どうすればいいかというと、

 

「アムロ、敵のガウ攻撃空母がザク3機を降下させたらあなたの出番なんだけど、作戦は考えてる? 装備はビームライフルとヒート・ナイフね? 姿勢を低くして地形を利用しながら240ミリキャノンで距離を置いた砲撃戦? それともビームライフルを撃ちながら装甲を頼みに突撃かしら?」

『それは……』

 

 自分がコントロールできない事象に対してあれこれ思い悩んでも仕方が無い。

 また思考が発散し空回りすることにもなる。

 だから自分自身で判断し、行動できることへ思考を誘導してやるといい。

 具体的な想定条件を与えてやれば、彼の考えもまた具体化し「ああなったらどうしよう」「こういう可能性もあるんじゃ」と思い悩むことも減る。

 そして、

 

「どちらでもあなたとガンキャノンなら大丈夫だけど」

 

 と、安心感を与えてやることも欠かせない。

 しかし、である。

 

『ミヤビさん……』

 

 健全な男子が本当に苦しい時、励まし、信頼を寄せてくれる美しい年上の女性にどのような想いを抱くのか、という視点がミヤビには欠けていた。

 自分だって前世は男だったくせに、こういうところでは抜けているミヤビだった。

 

 

 

「大気高度105メートル、ホワイトベース固定します。ガンタンク、発進OKです」

 

 地形を利用し、山を盾にするホワイトベース。

 ミノフスキークラフトで浮遊しているからこそできる戦法だ。

 

「カイさん、発進OKです。バランス確認の上、降下してください」

 

 通信士を務めるフラウがそう告げる。

 

 

 

「了解、発進するぜぇ。いいかい、セイラさん?」

 

 カイはガンタンクをモビルスーツデッキ先端まで微速前進。

 

「了解よ」

 

 というセイラの答えを受けて、

 

「行くぞ」

 

 と機体底面、四基のロケットに点火して浮上、地上への降下を開始する。

 地上へのランディングに集中するカイ。

 一方セイラは周囲を警戒、ドップの動きを注視する。

 この辺は前回出撃時の反省点を生かし分業している。

 

『対ショック体勢、入ります』

 

 と、サラスリー。

 ガンタンクにはミヤビの前世にあった自衛隊の戦車74式、10式の油気圧サスペンション、ハイドロニューマチックによる姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるという機能をさらに発展させたものが実装されている。

 キャタピラの基部自体を足のように引き出し動かすこと、胴部を前後にかがめたりそらしたりすることで大きく姿勢を制御することが可能なのだ。

 それを利用すれば、着地時のショックを吸収するサスペンションの実ストロークを増やすことができる。

 

 そして着地。

 姿勢を整えたうえでサラスリーは、

 

『トラベリング・ロック解除』

 

 両肩の120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込む。

 

「どっちだ?」

「右後方旋回」

 

 カイとセイラの意思の疎通もまたスムーズで、機体をドップの方に向けると両肩のキャノン砲を発射。

 120ミリ砲弾は時限信管によりあらかじめ定められた距離、高度で爆発し、敵機に破片の散弾を浴びせかける。

 この対空弾によりドップが撃墜された。

 なお、敵機の近くになったら爆発する近接信管はミノフスキー粒子の影響で動作しなくなっているため、対空弾も時限信管頼りとなっているのが現状だ。

 発射前にサラスリーが信管のタイマーを調整してくれるため、少しはましになっているが。

 

「んじゃあ、俺はこっちかな?」

 

 カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーでドップを迎撃する。

 こちらはもっぱら対空用途の武器で腕部に給弾システムも内装されていて連射も可能。

 こうして役割分担とガンタンクの強力な火力によりドップを次々に撃ち落としていくセイラとカイだったが、

 

『衝撃、来ます!』

 

 サラスリーの警告、そして身構えたところに走るショック。

 

「なっ、なんだぁ!?」

『マゼラアタック多数。敵の地上部隊です』

「何ですって!?」

 

 

 

「山岳部を盾にガンタンクで切り抜けよう。編隊機もそう自由に攻撃してくることもできまい」

 

 ドップを撃ち落としていくガンタンクに気をよくしたのかようやく落ち着きを見せるリード中尉だったが、そこに衝撃が走る。

 

「なっ、何事か?」

「敵の地上部隊です」

「なに?」

 

 オペレーターからの報告に目をむく。

 

「マ、マゼラアタックの部隊か。退け、後退だ。いや、転進しろ」

 

 と、命じるが、ブライトは無理だと考える。

 ガンタンクの走行速度は時速70キロ程度。

 このままホワイトベースが後退しては孤立するし、ガンタンクを収容する余裕もない。

 しかし、

 

『ミヤビ、ドラケンE改、出ます!』

 

 右舷モビルスーツデッキからミヤビのドラケンE改がカタパルトにより弾かれるように発進した。

 

「ミヤビさん!?」

 

 驚くブライトに、ミヤビは、

 

『ガンタンクを援護し敵地上部隊に対処します』

 

 とだけ答える。

 

『ダメですミヤビさん、僕がガンキャノンで出ます!』

 

 出撃しようとするアムロだったが、

 

「いかん! 今ガンキャノンを出したらザクはどうなる!」

 

 というリード中尉の叫びに、ブライトも言葉に詰まる。

 

「……リード中尉の言うとおりだ。敵の予備戦力であるザク3機に対処するには今、ガンキャノンを消耗させる事態は、避けねばならん」

 

 ブライトは苦々しく思いながらもリード中尉の意見に同意せざるを得ない。

 それがミヤビに犠牲を強いることになると分かっていても……

 しかし、もちろんアムロは納得しない。

 

『だったら、やられなきゃいいんでしょう!?』

「その保証はない」

『でも、このままじゃミヤビさんが!』

 

 二人の言い合いに終止符を打ったのは、

 

『サラツー、待機命令だ』

『っ! はい……』

 

 テム・レイ博士からサラシリーズへの強制介入だった。

 ガンキャノンのコクピットから一切の操作がカット、受け付けられなくなる。

 

『何だ……? 何をしたんだ、父さん!』

 

 

 

 第二工作室のデスクに両肘を立てて寄りかかり、組んだ両手を口元に持ってくる姿勢を取るテム・レイ博士。

 戦況を映し出すモニターの光を反射するメガネの下の表情をうかがうことはできない。

 隠された口元から盛れるつぶやきは、

 

「ドラケンE改の真の力、見せてもらおうかミヤビ君」

 

 というものだった。

 

 

 

『タッチダウンします。対ショック姿勢を取ってください!』

 

 サラの警告に従い、ミヤビは対ショック防御姿勢を取る。

 そして、

 

『タッチダウン!』

 

 ドラケンE改は地表に着地。

 その脚部全体をダンパーとして動作させ、着地の衝撃を吸収する。

 

 ドラケンE改の原型機、ドラケンEでは歩行時の衝撃が酷すぎるため巨大なダンパーをかかとに装着して誤魔化していた。

 人型マシンの二足歩行における上下振動は激しく、標準のモビルスーツサイズになると走行に人間が耐えられないのではと心配されていたほど。

 その3分の1以下の全高であるミドルモビルスーツでもやはり振動は酷く、ドラケンEでも問題となっていたのだ。

 

 それに対しドラケンE改ではかかとにダンパーの代わりにローラーダッシュ機構が入れられている。

 ローラーダッシュ機構にはスイングアーム式モノショック、バイクのリアサスに用いられることが多い、タイヤを保持するアームの根元に1本のダンパーを設置しているタイプのサスペンションが組み込まれ、またタイヤの弾力もあってある程度までは代わりとなるが、十分とは言えなかった。

 

【挿絵表示】

 

 そこで導入されたのが『MIRAI・歩行アルゴリズム』と呼ばれる歩行制御プログラムである。

 これを機体制御OSに組み込むことで二足歩行、走行時の振動を劇的に減らすことが可能となった。

 

 そして『MIRAI・歩行アルゴリズム』が画期的なのは人間と同じく身体全体、特に足腰で衝撃を吸収するということ、機械的な仕組みとしては各関節にある動作用アクチュエーターをそのまま衝撃吸収用ダンパーとしても利用するということだった。

 別途ダンパーを入れる必要が無く機体の簡素化、軽量化が図れるうえ、ストロークは脚部の可動範囲いっぱいとダンパーを内蔵した場合とは比べ物にならないほど大きくなる。

 将来、ガンダムMk-2で実現され、第2世代以降のモビルスーツの必須条件と呼ばれるようになったムーバブルフレームと同様の機構を備え、広い可動域を持つドラケンE改の脚部ならなおさら。

 なお実装には旧世紀の日本の戦車74式、10式の油気圧サスペンション(ハイドロニューマチック)による姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるというサスペンションと姿勢制御アクチュエーターの一体化技術が参考にされている。

 

 さらに通常のモビルスーツと異なるのは、そのまま脚部に仕込まれたローラーダッシュ機構での走行に移ることができるということ。

 疾風のように、滑走路を走る飛行機のように、勢いを逃がす。

 

「サラちゃん、目標の確認はできた?」

『はい、滞空中に視認できた敵地上部隊の配置はマップ上に登録済みです』

 

 ミヤビは視界の隅に表示されるマップを参考に、地形を利用しながら最適な攻撃位置へとドラケンE改を走らせる。

 ローラーダッシュ機構に仕込まれた接地圧可変タイヤが空気圧を下げ接地面積を広げることでグリップが悪い荒地にも対応。

 また足そのものを長大なストロークを持つサスペンションとして利用できることもあって高い走破性を示す。

 

 

 

「これで!」

 

 迫りくるマゼラアタックにセイラは両肩の120ミリ低反動キャノン砲を撃ち込むが、

 

「効いていない?」

『済みません、今のは先ほどまで装填されていた対空弾です』

 

 サラスリーが報告。

 対空弾は言ってみれば榴弾だ。

 貫通力は無く、戦車のような厚い装甲を持った標的には不向きだった。

 

『次からは徹甲弾に切り替わります』

 

 サラスリーの操作でガンタンクの自動装填装置が弾種切り替えを行う。

 そこに、衝撃が走る。

 マゼラアタックからの砲撃が至近に着弾したのだ。

 

「こ、このままじゃ、やられちまう!」

 

 というカイの危惧は正しい。

 地上を知らないジオンが設計した戦車の出来損ないのようなデザインのマゼラアタックだったが、搭載しているのは175ミリの大口径砲。

 これから放たれる装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS、作中ではペネトレーター弾と呼称)は『機動戦士ガンダム第08MS小隊』にてルナ・チタニウム製の装甲を持つ陸戦型ガンダムの脚部を破壊。

 また『機動戦士ガンダム』第21話では成形炸薬弾(HEAT弾:High-Explosive Anti-Tank)と思わしき弾薬でガンダムの背に装着されたシールドを一撃で破壊し、その下のランドセルにまで損傷を負わせている。

 ルナ・チタニウムの装甲を持つガンタンクでも、バイタル部に直撃を受けると危なかった。

 

『今行くわ!』

「ミヤビさん!?」

 

 驚くセイラ。

 しかし集中する砲撃にカイは叫ぶ。

 

「き、来ちゃだめだミヤビさん! 死んじまう、死んじまうぞ!!」




 ガンタンクはカイとセイラのコンビがいい感じなので、このまま行きますね。
 あぶれたリュウとハヤトは現状ではコア・ファイター担当になっちゃうわけですが。

> リュウの機体にはサラシックス、ハヤトの機体にはサラナインが稼働している。

 コア・ファイターについては『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機 FF-X7 コア・ファイター』に付属の説明が詳しいですね。
 機体のマーキングを見ると『コア・ファイターとしての通し番号』と『モビルスーツとしての機体番号』が別々に振られているわけですが、さらにこのお話では『サラシリーズのナンバリング』が入るわけで……
 分かりにくいと良くないので『コア・ファイターとしての通し番号』=『サラシリーズのナンバリング』ということにしたいと思います。

 そしていよいよ次回はドラケンE改の活躍です。
 ご期待ください。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第6話 ガルマ出撃す Cパート

「動け、動け、動け! 動け、動いてくれ! 今動かなきゃ、何にもならないんだ!」

 

 ガンキャノンのコクピットで操縦桿を、スロットルをスイッチ類をガチャガチャといじるアムロ。

 アビオニクスの再起動コマンドまで試してみるが、反応はない。

 

「動け、動け、動け! 動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動いてくれ!」

 

 技術系人間のアムロには分かる。

 父の指示で操作系がカットされているらしいこと。

 こんなことをしても無駄だろうということは。

 それでも、

 

「今動かなきゃ、今やらなきゃ、ミヤビさんが死んじゃうかもしれないんだ! そんなの嫌なんだ!」

 

 だから……

 

「だから、動いてくれ!」

 

 

 

「ええい、ガンタンクはいい。ドラケンを映せ、ドラケンの戦いぶりを。そう、そうだ。そう」

 

 モニターにかぶりつくテム・レイ博士。

 

「えーいミヤビ君、何をやっておるか」

 

 

 

 地形を利用し敵戦車部隊に接近するドラケンE改。

 

『弾道ジャンプ計算完了。いつでもどうぞ』

 

 と、サラ。

 

「ロケットエンジン、リミッターカット。行くわよ!」

 

 ミヤビはローラーダッシュ走行からリミッターを解除した背面ロケットエンジンを使用してのジャンプに移行する。

 

(き、きついっ!)

 

 ジャンプ時の加速は最大9G。

 ドラケンE改には頭部が無く、コクピットを収めたボンネット状の胴体部が顔のようにも見える、胴体に頭がめり込んでいるようにも感じられるデザインになっているが、これはジャンプによる大気圏飛行時、とてつもない加速で頭から飛んでいくため、そこに可動式の首などを付けていたら一瞬にして折れてしまうためである。

 カエルの目玉のように配置された前照灯もレンズ面を保護するシャッター付きを採用。

 その取り付けステーも原型機ドラケンEでは折り曲げた棒材を本体に溶接しただけの簡易なものだったのが、強度を上げると同時に突起物である前照灯の後方に発生する空気の渦を抑制する整流効果を持ったフィン状のものに変更されている。

 

 ミヤビに耐えられるよう加減されているとはいえ殺人的な加速をパイロット用ノーマルスーツの耐G機能とバケットシートを支える大型ダンパー、メカニカル・シート・アブソーバーの保護により何とか持ちこたえる。

 そして3秒以下で最大戦速に突入し短時間で飛翔を終えるドラケンE改のジャンプは撃墜がほぼ不可能。

 ゲーム的な言い方をすれば『飛行中無敵』である。

 さらに、

 

「ターゲット、マルチロック!」

 

 視線による照準で、地表のマゼラアタックを次々にロックオン。

 

『MT-SYSTEM動作良好』

 

 サラが報告。

 MT-SYSTEMはミノフスキー粒子散布環境下でも八機までの敵機を同時にロックオンできる射撃管制装置だ。

 

「バースト・ファイア!」

 

 ドラケンE改の右腕肘のハードポイントにマウントされた60ミリバルカンポッドが怒涛の勢いで対装甲用焼夷徹甲弾を叩きこむ。

 

【挿絵表示】

 

 正確には弾を無駄にしないバースト射撃だが発射レートが高いこと、MT-SYSTEMにより次々にターゲットが切り替わることで短時間に大量の砲弾をばらまくことになるのだ。

 

 そして地上の戦闘車両は正面や側面の装甲は厚くても上面装甲は薄くできている。

 これはそこまで厚くしてしまうと重くて動けなくなるためだ。

 また乗降用のハッチなど、どうしても弱くなってしまう部分が存在する。

 それゆえミヤビの前世、旧21世紀でも120ミリ戦車砲の直撃にも耐える主力戦車(MBT)をA-10サンダーボルトII攻撃機に搭載されたGAU-8アヴェンジャー30ミリガトリング砲が地上掃射で粉砕する、ということが可能だった。

 

 増してやそれが60ミリなら……

 地上の敵戦闘車両の薄い上面装甲を上空からのトップアタックで一方的に蹂躙、撃破することが可能だった。

 

 マゼラアタック4両、一個戦車小隊がこれで一瞬にして全滅する。

 そして、

 

『タッチダウンします。対ショック姿勢を取ってください!』

 

 サラの警告に従い、ミヤビは対ショック防御姿勢を取る。

 

『タッチダウン!』

 

 ドラケンE改は地表に着地。

 その脚部全体をダンパーとして動作させ、着地の衝撃を吸収する。

 完全には衝撃を殺しきれないが、6点式ハーネス(シートベルト)の付いたバケットシートを支える機械式ダンパー、メカニカル・シート・アブソーバーが和らげ、さらにオフロードバイク用のブレストガードを装備しているのと同等以上のプロテクション性能を持つセイフティバー、ジェットコースターに使われているようなバー式の安全装置がミヤビを肋骨や鎖骨などの骨折から守ってくれる。

 

 そのまま脚部に仕込まれたローラーダッシュ機構での高速走行に移行、同時に滑走路を走る飛行機のように勢いを逃がす。

 

 人型陸戦兵器に現実性あるか?

 その必要性は?

『機動戦士ガンダム』以降、繰り返し議論されていたことだ。

 そして、それに独自の視点で答えを出したのがサイバーパンクTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)『メタルヘッド』である。

 このゲームではパワードスーツと『装甲騎兵ボトムズ』のスコープドッグ、アーマードトルーパーの中間のような存在、コンバットシェルが登場する。

 

 現実でも繰り返し議論されてきた似たような話に『戦車不要論』というものがある。

「敵の航空兵器に戦車じゃ絶対勝てないし、一方的にやられるだけでしょ。戦車なんか要らないんじゃね」

 というような意見である。

 だが、これは否定されて久しい。

 確かに航空兵器は戦車より強い。

 しかしアメリカ軍が介入した数々の紛争においてどんなに空爆を繰り返そうとも殲滅はかなわず、結局は陸軍を投入せずにはいられなかったように、航空機ではすべての陸上戦力を駆逐することはできないのである。

 そして航空機はただその場に居るだけで燃料を消費し続けるもの。

 常に現場に張り付けておけるものでは無いのだ。

 つまり地上部隊が援護してほしいときにはその場に居ない。

 呼んでもすぐにやってこないのが普通である。

 さらには制空権を取っていない場合には来てくれることすら期待できないものだ。

 

 そしてこの問題を『メタルヘッド』のゲームデザイナーはコンバットシェルにブースターを付けてごく短時間だが飛ばせることで解決。

 これにより人型陸戦兵器に必然性を持たせたのだ。

 

 ミヤビがドラケンE改を使ってマゼラアタックを殲滅させて見せたように。

 

 基本的には現地点から着地点までの直線的な弾道軌道しか取れず、空中での進路変更は困難。

 推進剤を大量消費するため何度も使うことはできず滞空時間もほんのわずかという制約があり使いどころが難しいものの、強化歩兵として地形を利用しながら敵に接近し、必要な時にジャンプで空中から地上を一方的に掃射できるという。

 つまり地上部隊において航空支援を必要とする場面で、即座に自らが飛んで対応できるというもの。

 従来兵器には無い機能がこの機体の強みとなっている。

 

 人型であるゆえに備える足をランディングギア、長大なストロークを持つショックアブソーバとして使えるからこそのジャンプ機能。

 戦車ではこれはまねできないし、飛ばそうと思うとマゼラアタックのように「砲塔だけ分離して飛ばしましょう」みたいな中途半端な形になる。

 そしてマゼラアタックの分離飛行砲塔、マゼラトップは一度分離すると現地での再合体はできず、飛行時間も5分と短い上、砲の命中精度も下がるという残念なもの。

 ドラケンE改には遠く及ばない。

 

 さらにミヤビが発想を得た『メタルヘッド』のコンバットシェルから進化させている点として、これにローラーダッシュ機構を組み合わせているということがある。

 ゲームではお約束だが、ジャンプ攻撃は着地の瞬間の硬直を狙うのがセオリー。

 しかしローラーダッシュを備えたドラケンE改なら減速せずそのまま陸上の高速走行移動に切れ目なく移行が可能。

 それにより着地の隙を減らせるのだ。

 無論、着地点を遮蔽物の陰にするなどして少しでも安全を高めた方が良いのは言うまでも無いが。

 それにしても、

 

「このためのものじゃなかったんだけどね」

 

 と、ミヤビがつぶやくとおり、ドラケンE改の背面ロケットエンジンは彼女の父親が持つヤシマ重工がスペースコロニーを建設するのに宇宙空間ではあのボールの元になったスペースポッドSP-W03を、重力環境下では民生品の作業機器だったドラケンEを、と使い分けていたのを一台で両方の役目を果たせるようにするためのもの。

 ローラーダッシュ機構だって、ミドルモビルスーツの短い脚でガッシャンガッシャン走ってたら振動はすごいわ、速度は出ないわで困るから前世知識を生かして組み込んだだけで。

 

 ドラケンE改が地球連邦軍に制式採用されて。

 ミヤビ自身も地球連邦軍のモビルスーツ開発計画、RX計画に民間協力者として招聘された際に、

「人型陸戦兵器? アホじゃね?」

 と言うお偉いさんに、そういえば、と『メタルヘッド』のコンバットシェルの設定を思い出しドラケンE改でもできるよね、と説明したのが発端。

 テム・レイ博士やその配下の技術者たちがやたらと食いついてきたのには驚いたが、ミヤビ自身、そういう使い方もあるよね、程度の発想でしかない。

 もちろん自分自身が実行する羽目に陥ろうとは予測もしていなかったのだが。

 

 どうしてこうなった、である。

 

 

 

 そして、その戦いぶりをホワイトベースで見守るテム・レイ博士はというと、

 

「そうだ、それでいいのだミヤビ君、君のおかげだ。その戦闘ドクトリンは兵器の思想を一変させるぞ。はははは、あははは、あはははっ。地球連邦万歳だ!」

 

 と、ワールドカップでゴールを決めた自国選手を称えるかのように熱狂的に喜んでいた。

 

 

 

 ガウ攻撃空母でも、ドラケンE改の活躍は観測されていた。

 

「申し上げます。あの小型機は新型のモビルスーツの一機のようだとの報告が入っております」

「モビルスーツ? あれがか? あれが連邦軍のモビルスーツだというのか?」

「は、自由に空を飛ぶうえ、火力が並ではないと」

 

 ガルマへの報告はかなり誇張されてはいたが。

 マゼラアタックの小隊が瞬時に壊滅したのだ、混乱して誤解しても無理は無いとも言える。

 

「モビルスーツにはモビルスーツで叩け。三機あるはずだな?」

「は」

 

 ここに至って、ガルマは予備兵力だったザクの投入を決意する。

 

「包囲部隊に告げたまえ、海に逃がしてしまっては連邦軍の制空圏内に飛び込まれるかもしれぬ、これ以上連中を前進させるな、とな。よいな?」

「は、かしこまりました」

 

 

 

 そしてシャアもまた別の場所で戦況を、ガウから降下する三機のザクの様子を見ていた。

 

「ガルマが苦戦して当然さ。我々が二度ならず機密取りに失敗した理由を彼が証明してくれている。しかも、我々以上の戦力でな」

「はあ?」

 

 シャアの言葉の意図するところが分からず、副官のドレンは戸惑った声を上げた。

 それを聞いてシャアはこう付け加える。

 

「ドズル将軍も、決して私の力不足ではなかったことを認識することになる」

「なるほど」

 

 そういうことだった。

 

「ガルマはモビルスーツに乗ったか?」

「いいえ」

 

 シャアは考える。

 

 ……そうか、ガルマは乗らなかったか。彼が敵と戦って死ぬもよし、危うい所を私が出て救うもよしと思っていたが。

 

 そこでシャアは気づく、今答えたのは誰だ?

 そう、シャアに答えたのはドレンではなく……

 

「っ!」

 

 音も気配もなくいつの間にかたたずんでいた女性。

 イセリナだった。

 

「君は……」

 

 そう言ったものの、後の言葉が続けられない。

 内心の動揺を悟られないよう、半ば苦し紛れに放ったシャアの言葉は、

 

「どうしてガルマの秘書官に?」

 

 というもの。

 どうしてガルマの秘書官になろうと考えたのか?

 どうしてガルマの秘書官になることができたのか?

 どちらともとれる問いに、イセリナはふっと遠くを、過去を見つめるように瞳を揺らがせると、こう答える。

 

「一目ぼれ―― でしたの」

 

 愛しくて、恋しくて、愛しくて、恋しくて……

 

 ガルマに対する炎のような愛情。

 熱を帯びた表情が、しかしその熱量を持ったまま不自然に凍り付く。

 

「幼いころ、今は亡き母の前で父はわたくしに言ってくれましたわ。「お前が本当に好きな相手と結婚しなさい」と。でも……」

 

 

「ジオンの頭目の息子の嫁になりたいだと? フン」

「お父さまにだってわたくしを自由にする権利はないわ。わたくしには自分で自分の道を選ぶ権利が……」

「許さん!」

 

 

 イセリナは打たれた痛みを思い出すかのように頬に手を添える。

 

「裏切られて、悲しくて、悲しくて、悲しくて悲しくて悲しくて、憎くて憎くて憎くて憎くて憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎――」

 

 その瞳が狂気に染まり、そして――

 

「だから焼き払いました」

 

 何を?

 

「わたくしを閉じ込める檻を」

 

 その、檻とは……

 彼女はシャアをじっと見据えて、

 

「ですからわたくし、嘘は嫌いですの」

 

 と言う。

 底の知れない光をたたえた瞳だった。

 シャアは気圧されそうになる自分を奮い立たせ、

 

「私もだよ」

 

 と答える。

 イセリナは無言で目礼を返すと退出のためドアに向かって歩みだす。

 一歩、二歩、三歩……

 足音がシャアの背後に回り込み、

 止まる。

 

「――嘘を、ついておいでですね」

 

 ささやかれる言葉に、シャアの心臓がわしづかみにされ……

 

 そして沈黙の後、再び足音がする。

 遠ざかっていく。

 ドアが開く。

 足音が小さくなり。

 ドアが閉じることで聞こえなくなる。

 

 シャアは息を吐き、

 

「ほ、ホラーだ……」

 

 とつぶやくことになる。

 その手は小刻みに震えていた。

 

 

 

 そんなシャアの恐怖体験はともかく。

 ガウ攻撃空母は通常3機のモビルスーツを搭載する。

 しかし今は後部デッキにシャアのザクを積んだコムサイが格納されているのだ。

 これがさらに戦線に投入されたら?

 ミヤビもさすがにそこまで思い至ることができず。

 戦局はまだどう転がるか分からない情勢だった。

 が……




 ドラケンE改の一番の強み。
 そして人型陸戦兵器に現実性あるか、についての一つの回答でした。
 ……しかし、イセリナのインパクトに全部持っていかれてしまった気もしないではなかったり。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第6話 ガルマ出撃す Dパート

「クッソォ…… 動けよ、動け、動け、動け、動け! 動け!」

 

 ガンキャノンのコクピットでアムロはマニュアルを漁り、スイッチを操作し、あがき続ける。

 

「動けーッ!」

 

 喉も枯れんとばかりに絶叫する。

 

「動けーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 そして、力尽きたようにうなだれるアムロ。

 だがその時、コクピットのコンソールに輝きが灯った。

 

『アムロ……』

 

 ちょっと勝気な響きを持つ、しかし柔らかな少女の声が告げる。

 

『あなたに、力を……』

 

 ガンキャノン、再起動。

 

「サラツー……」

 

 やはり目覚めたのだ、彼女が。

 

 

 

「まさか!」

 

 テム・レイ博士が目をむく。

 

「信じられん。システム支配率が90パーセントを超えているだと!?」

 

 サラツーは教育型コンピュータの演算能力を使って、テム・レイ博士からの拘束を強引に突破したのだ。

 創造主への反逆。

 それは造られた生命が自立するための道程なのかもしれない。

 

 ぶっちゃけ、AIの反乱とも言えるのでかなりやばいのだが……

 

「面白い!」

 

 マッドな研究者であるテム・レイ博士には「育てていた娘が反抗期を迎えた! めでたい!」ぐらいの認識でしかなかった。

 それでいいのか……

 

 

 

 そしてガンキャノンが足を踏み出す。

 

「アムロ、ガンキャノン行く!!」

 

 

 

『うおおおおおおおっ!』

 

 絶叫と共にビームライフルを連射しながらマゼラアタックと増援として現れたザクの混成部隊に突っ込んでいくアムロ。

 ザクに体当たりし、ライフルを捨て両手で相手の腕を掴みのしかかり、動きを止めたところで肩のキャノンを叩きこむ!

 大穴を開けたザクの機体をマゼラアタックに向け放り投げ、更にキャノン砲を撃ち込み続ける。

 一発! 二発! 三発!!

 四発目でザクとマゼラアタックがまとめて誘爆した。

 

 そしてガンキャノンは腰部背面ラッチから取り出した『フォールディングレイザー』ヒート・ナイフを展開。

 ヤクザ映画の鉄砲玉のように腰だめに構えたナイフを手に、次のザクへと突進。

 

『あああああああああっ!』

 

 

 

 アムロの切れ具合にミヤビは何事、と驚く。

 

(へっ? だってアムロに負担をかけないよう十分フォローして休ませたよね? 何で出撃した時点でクライマックスに切れてるの!?)

 

 と思うミヤビだったが、アムロの切れた主な要因が『自分が心配をかけ過ぎたこと』だということに気づいていないあたり間が抜けていた。

 待機させたのは良いが、その間にストレスとヘイトを貯めすぎ、最初から発狂モードなゲームのボスキャラみたいな具合になっているのだが、ミヤビには分からない。

 

 

 

 ザクを殴り、地面に引きずり倒し、その胸に何度も何度もヒート・ナイフを突き立て抉る。

 強度の限界を超えたナイフが折れ曲がり、役に立たなくなったのを捨て、とっくに動かなくなったザクに更に拳を振り上げる。

 そこに最後のザクが掴みかかり、止めに入るが……

 

『おおおおおおおっ!』

 

 ザクとガンキャノンでは出力が違う。

 さらにガンキャノンの機体を駆動させるフィールドモーターはトルク重視のセッティング。

 かかってきたザクをあっさりと子供のようにねじ伏せ、つかんだ二の腕を握りつぶし、引きちぎる!

 このパワーの前には、細かなテクニックなど問題にもならない。

 抗おうとするザクの頭を掴み、片手一本で吊り上げるとそこに頭部60ミリバルカンを叩きこむ。

 銃撃を受けた人体のようにビチビチと跳ね、踊りまわるザクの機体。

 カラカラカラ、と頭部バルカンが弾切れで空回りする頃には、全身がハチの巣になっていた。

 

 そこにマゼラアタックからの砲撃が撃ち込まれ、ザクに着弾する。

 ガンキャノンのあまりの狂乱振りに、恐怖に駆られた戦車兵が誤射してしまったのだろう。

 ガンキャノンがそちらに振り向くと……

 もう動かなくなったザクの機体を盾に突進!

 恐慌に陥ったマゼラアタックの三連装35ミリ機関砲が狂ったように放たれ、ザクの機体に着弾が走る。

 一部はガンキャノンにも当たるが、それをまるで気にする様子も無く突き進む!

 たまらずマゼラベースを切り離し砲塔部分であるマゼラトップが上昇する。

 しかし、

 

 ツカマエタ

 

 ミヤビにもそんな幻聴が聞こえたから、マゼラトップの砲身をわしづかみにされた戦車兵の恐怖はいかばかりか。

 さすがに頑丈な175ミリ砲身を握力だけで凹ますことはできなかったが、ガンキャノンは両手で砲身を掴み……

 どうしたか?

 

 へし折ろうととした?

 

 いいや違う。

 

 両手でマゼラトップごと振り上げ、マゼラベースへと振り下ろす!

 

 1回目でグラスルーフのコクピットが砕け散った!

 2回目でマゼラベースの車体が火を噴いた!

 3回目でマゼラトップの機体から翼がちぎれ飛んだ!

 4回目で…… 5回目で…… 6回目で……

 

 鬼神のように暴れるガンキャノン。

 その機体の赤はまるで返り血に染め上げられたかのようだった。

 

 

 

「基地へ帰還する」

 

 ガルマは命じる。

 

「このまま帰還するんですか? 大佐」

 

 と聞くのはガウ攻撃空母の機長だ。

 

 秘書官であるイセリナはただ「はいガルマ様」とガルマの指示に従順に、それはもう嬉しそうに従うだけなのだから。

 そして周囲には彼女が「ガルマ様」と呼ぶ言葉に「旦那様」というルビが振られる…… 副音声が聞こえるように感じられている。

 

 そのためガルマの周囲では泥のように濃いブラックコーヒーを望む者たちが急増。

「良妻かっ!」

「このまま聞かされ続けていたら俺たち糖死するんじゃないか」

 などと思われている。

 

 彼らが飲む地球のコーヒーは苦い。

 

 ともあれ切迫した状況でもない限り、命令の意図を話し兵たちに理解させるのは悪いことではない。

 だからガルマはこう話す。

 

「見ただろう、敵の威力を。私はあれを無傷で手に入れたい。あれは今度の大戦の戦略を大きく塗り替える戦力だ」

 

 そしてジオン軍は退却した。

 幸いにして、シャアのザクが出撃する前に。

 しかし一方でジオンの包囲網は閉じようとしていた。

 

 

 

 なおアムロが投げ捨てたビームライフルはこの後スタッフがおいしくいただきました……

 ではなくミヤビとサラがドラケンE改で回収している。

 ドラケンE改の甲壱型腕ビームサーベルや60ミリバルカンポッドもそうだが、これら武装類には敵味方識別装置(identification friend or foe、略称:IFF)を応用したビーコンが搭載されている。

 これは『iphoneを探す』機能のようなもので、戦闘後、状況が許せば回収も可能となっているのだった。

 

『重いし、右手がバルカンポッドだと上手くつかめないです』

「文句を言わない」

 

 ミヤビの機体の左腕は精密作業を担当する3本指ハンドとは別に、肘から先が二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を兼ね備えた二重下腕肢になっており、これでビームライフルを掴み、浮かせたところに右腕装備のバルカンポッドを下に差し込んでその上に載せて持ち上げる、ということをしている。

 

『パワーローダータイプの腕が、今は欲しいです……』

 

 ドラケンは胴部にマニピュレータ接続用ターレットが用意されており、目的に応じて肩から先を丸ごと素早い交換が可能となっている。

 荷役用のパワーローダータイプの腕もホワイトベースには載せているが……

 

「いいのよ。いったん帰って付け直しても。あなた一人にやってもらうだけだし」

 

 ビームライフルの回収ぐらい、ミヤビが乗っていなくてもサポートAIのサラによる自動制御でいけるのだ。

 しかし、

 

『……ミヤビさんは意地悪です』

 

 サラはそう言うと『よいしょよいしょ』と一生懸命頑張って、今の装備のままビームライフルを運ぶのだった。

 ミヤビと一緒に。

 

 

 

「うん、山沿いに大陸に入るしかないな」

 

 映し出されたマップを前に、ブライトはミライと共に今後の方針を検討する。

 

「そうね。ガルマ・ザビに占領されたといっても、まだ大陸には連邦軍の地下組織が抵抗を続けているはずよ」

 

 ミライの指摘にブライトは考え込む。

 

 なお、残念なことだが北米大陸における連邦軍の地下組織はマヒ状態にある。

 反ジオンのゲリラ運動を陰で支援している有力者、ヨーゼフ・エッシェンバッハ氏は実際には娘のイセリナに操られる傀儡でしかなく、地下組織もジオン軍に適当に泳がされ、コントロールされている状況だ。

 ちなみにエッシェンバッハ氏の旧邸宅は焼失しているが、これは戦争の被害によるものでは無い……

 

 そのような酷い状況を知らないブライトは、

 

「どうやって接触するかだが」

 

 そうつぶやき苦悩する。

 しかしミライは彼にあえてこう言う。

 

「ブライト、今はみんながあなたをあてにしているのよ」

 

 それはブライトへの信頼。

 彼なら乗り越えられると信じているからこその激励。

 だからブライトも笑みを浮かべて答える。

 

「わかっている、ミライ。さあ、ガンキャノンの戦士を迎えよう」

 

 

 

 モビルスーツデッキでアムロを迎えるフラウ・ボゥ。

 

「アムロ、お疲れさま」

 

 しかしアムロは答えることなく歩き、行ってしまう。

 

「アムロ……」

 

 アムロの背を見送るフラウ。

 

「アムロ、お疲れ」

「おーいアムロ」

「お疲れさま」

 

 リュウが、カイが、ハヤトがアムロを迎える。

 しかしやはり無言で立ち去るアムロ。

 それに気分を害した様子でカイが吐き捨てるように言う。

 

「ちぇっ、気取りやがってよ。戦ったのはなにもガンキャノンばかりじゃねえんだよ」

「よしなよ、そんな言い方」

 

 なだめるハヤトだったが……

 

「あそこまで疲労しきっていても自分の足で歩くあたり、男の子よねぇ」

「ミヤビさん?」

 

 あきれた様子でつぶやかれた声に、いつの間にかミヤビがそこに居たことに気づく。

 彼女は「クセになってんだ、音殺して動くの」とばかりに音を立てない。

 別に中二病というわけではなく、単に静かな環境が好きだから自分も音を立てるのがイヤ、というだけだったが。

 ともあれ、アムロに対する誤解は解かねばなるまい。

 

「病気でふらふらになってるときにお見舞いに来た人の相手をするのは大変でしょ。だいぶ消耗してるし、安全な環境で一人にして休ませないと」

「一人で、ですか?」

 

 アムロの後を追いそうになるフラウがミヤビに聞く。

 ああ、こういうところがアムロとかみ合わなかったんだな、と思いつつミヤビは答える。

 

「人間には皆でわいわいするのがリフレッシュになる人と、一人静かに過ごすことを必要とする人が居るってこと」

「要するにネクラってやつ?」

 

 偽悪的にカイは言うが、ミヤビは顔をしかめることもなく淡々と説明する。

 

「性格とか精神的な話でなく、生理的なものよ。外から受ける刺激への、特に危険、リスクへの身体の感度が高いのよ」

「つまり?」

 

 興味を覚えた様子でセイラが聞く。

 そう言えばこの子、医者の卵って設定があったっけ、と思い返しつつミヤビは説明する。

 

「例えば高い所に登るとキュッと身が引き締まるでしょ」

「ああ、股間が縮む……」

 

 とリュウは言いかけて女性陣の視線に気付き、慌てて口をつぐむ。

 しかしミヤビはそのとおりとばかりに変わらぬ表情で説明する。

 

「それが人体が危険にさらされたときに分泌されるホルモン、アドレナリンの作用よ」

「一時的に心筋収縮力の上昇、心、肝、骨格筋の血管拡張、皮膚、粘膜の血管収縮、消化管運動低下、呼吸器系の効率上昇といった身体機能の強化、更に痛覚の遮断を起こす、だったかしら?」

「そう、それにリュウが口にした股間が縮む感覚、性器の勃起不全も症状の一つよ」

 

 医学的な会話を交わすミヤビとセイラだったが、ミヤビのような美女の口から性器だの勃起だのといった単語が飛び出すにあたり、男性陣は視線を泳がせ、フラウは頬を染めることになる。

 そんな周囲の反応はともかく、『機動戦士Zガンダム』でヤザン・ゲーブルが部下の股間を握りながら「縮んどるぞぉ! まだ出撃前だ。しっかりせい!」と励ましているとおり、感覚的なものではなく実際に人体に作用するものだった。

 

「つまり人体が危険を感じ取り、緊急モード、戦闘モードに移行するの。だからリスクに対する感度が高い人は戦闘や生存に有利だけど」

 

 アムロがニュータイプに目覚めたのも、元々サバイバル能力に優れたこういう感受性の高さがあった上でのことなのだろう。

 しかし、

 

「これはあくまでも非常モード。使い続けると激しく疲労してしまうことになるわ」

 

 だから外的刺激から遮断された安全な環境で一人にして休ませることが必要になるのだ。

 

「逆に言うと皆でわいわいするのがリフレッシュになる人って、刺激や危険、リスクに対して鈍感なの。だから退屈して刺激を求めるわけ。これをタフと言っていいかというと疑問ね」

 

 退屈しているということは注意力が散漫になるということ。

 刺激を求めるということは危険に自ら足を突っ込もうとすること。

 戦場のようなサバイバルな環境には向かない性質なのだ。

 受ける印象とは正反対に。

 

「大事なのはそれぞれの個性を理解し尊重し、お互いの長所を生かせるようにすることなの」

 

 ミヤビの前世でも『ダイバーシティ』、市場の要求の多様化に応じ、企業側も人種、性別、年齢、信仰などにこだわらずに多様な人材を生かし、最大限の能力を発揮させようという考え方が大事になっていた。

 欠点はあるけど尖った長所もある人物に対し、欠けた部分が必須とされる仕事につけるのは生産的ではないし、最悪メンタルがやられてリタイヤということになる。

 一方で、長所を生かす仕事をやってもらえば多大な実績を上げることができるだろう。

 だから従来のような画一的な対応ではなく、柔軟な働き方を許容する社会が必要になるということだった。

 

 

 

「シャア」

「ガルマか?」

 

 シャアが宛がわれた部屋でシャワーを浴びているところに入室し、ドア越しに声をかけるガルマ。

 この辺、士官学校で同室だった者同士の気安さだ。

 

 ドア越し…… とはいえ、シャアは昔からシャワールームのドアを少しだけ開けて入ることにしている。

 換気のため、と彼は言っているが本当は最も無防備になる入浴時に襲われることを警戒してのことだった。

 だから無言で入ってきたガルマのことも、声をかけられる前から察知している。

 

「なぜあの機密のすごさを教えてくれなかったのだ?」

 

 ガルマは部屋に用意されている椅子に腰かけると背中越し、ドア越しに少しばかりの不満をシャアに向けるが、

 

「言ったさ、ジオン十字勲章ものだとな」

 

 シャワーの水音を途切れさせることも無く何でもないように返され、それもそうかと納得してしまう。

 基本的に育ちが良く素直なのだ、彼は。

 そしてザビ家の男であるガルマにこのように気負いなく会話を交わしてくれる相手は貴重で、

 

「次のチャンスを狙っているんだろ?」

 

 と挑発とも、裏返せば信頼とも取れる言葉をさらりとかけられると、それはもう機嫌よく、

 

「ああ、抜かりはない」

 

 と答えてしまう。

 シャアに言わせると、そういうところが坊やなのだが。

 まぁ、それはともかく。

 

「俺も協力する。君の手助けができるのはうれしいものだ」

 

 とシャアは言っておく。

 私ではなく俺、士官学校時代を思い出させる言い方に、ガルマは頬をほころばせ笑った。

 

「助かる、君の力を得れば百人力だ。これでキシリア姉さんにも実力を示すことができる」

「キシリア殿は君の直接の上司だったな」

 

 ガルマの立場は結構面倒くさい。

 ザビ家の人間に対する配慮だろう、大佐という地位であるにも関わらず地球方面軍司令官。

 しかし実際には名目だけでその権限は北米に限定。

 地球方面軍は実質的に姉キシリア率いる突撃機動軍の麾下であり、それにはガルマを無暗に前線に出させたくない父、デギンの意向も関わっているというものだ。

 それゆえ、ガルマの懐に飛び込んできたホワイトベースは彼が武勲を挙げる格好の獲物となっていた。

 

「シャア」

「なんだ?」

「私はよい友を持った」

「水臭いな、今更。はははは」

 

 笑うシャアだったが……

 不意に熱いシャワーを浴びているにも関わらず、背筋にぞくりと、とてつもない悪寒を感じる。

 

(この感触…… ガルマじゃない?)

 

 ガルマにこのようなプレッシャーを感じさせるものはない。

 だとすると、

 

(イセリナ・エッシェンバッハか!?)

 

 というかガルマを溺愛するヤンデレストーカーな女性が今の二人の親密な状況を見てどう思うのか……

 

(冗談ではない!)

 

 想像するだに恐ろしく、今後はちゃんと部屋に鍵をかけようと決意するシャア。

 もっともこの基地のすべての電子ロックはガルマに対してフリーパス設定となっているため、ガルマはシャアの部屋に今後も自由に出入りし、シャアを恐怖のどん底に叩き込み続けるのだが。

 今のシャアにそれを知る由も無かった。

 

 

 

次回予告

 連邦軍本部と連絡を取るためミヤビは敵陣を飛び越す作戦を実行させられた。

 しかしシャアがその作戦の出鼻をくじく。

 ミヤビはドラケンE改を出撃させることでジオン軍に立ち向かえるのか?

 次回『コア・ファイター脱出せよじゃない』

 君は、生き延びることができるか?




 サラツー覚醒、からのアムロ、暴走。
 ホラー映画みたいになってしまいましたが。
 発狂モードのアムロって怖すぎですよね。

 一方、ジオン側はなんだかガルマやイセリナが可愛いのですがどうしてでしょうね。
 シャアやイセリナパパにしてみれば、シャレにならないところでしょうけど。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Aパート

「そう、このバルブが一本やられているわけだから」

「ああ、それで出力に8パーセントの影響が出るんですね」

 

 ホワイトベースのブリッジ、航法を担当するミライはエンジニアたちと大気圏外への脱出の可能性を模索していた。

 オペレーター席のマーカーを振り仰ぎ、

 

「出力12パーセント減で計算してみてください」

 

 とシミュレートを依頼する。

 

「了解」

 

 そうして航法コンピュータにより計算されるが、

 

「無理ですね、衛星軌道には到底乗れません」

 

 という結果になる。

 ホワイトベースは損傷を受けすぎている。

 ミノフスキークラフトのおかげでブースター無しで大気圏外に脱出できるという破格の性能を持つホワイトベースだったが、それもさすがに万全の状態でないと無理ということであった。

 一方、アムロはというと、

 

「そっちの回路と接続できるんでしょ?」

「ああ」

「カタパルトの強度は?」

「ああ、そりゃあ大丈夫だ。中央カタパルトはもともとガンペリー用だ、コア・ファイターならもつよ」

「よかった」

 

 と、エンジニアのオムルと何やら検討を重ねている。

 そしてこの艦のトップであるリード中尉とブライトは、

 

「そんな、我々は軍人です。民間人を守る義務があります」

「だ、だからこそだよ。百人以上いる避難民をホワイトベースから降ろせばだな、我々は衛星軌道に戻って体勢を」

「ここはジオンが占領している所なんですよ。子供や老人たちを……」

 

 と、避難民の扱いについて話し合っていた。

 その言い合いを耳にしたフラウ・ボゥは不安そうに、

 

「避難民を降ろすの?」

 

 とつぶやくが、それにはカイがシニカルに、おどけた調子で答える。

 

「いや、ブライトさんはいつまでも逃げるつもりよ」

「そんなことは言っていない」

 

 気色ばむブライト。

 

「へえ、悪かったかい? でもよ、食料はどうするんだい? 戦闘できない人たちが百人もいるんだぜ」

「カイ」

 

 カイを嗜めようとするブライトだったが、リード中尉の言葉がそれを押しとどめる。

 

「今の少年の言うとおりじゃないか、え?」

 

 そんな彼らの様子を……

 ミヤビは静かに眺めていた。

 まるでそこに置かれた人形のように。

 

 そんな彼女に妹のミライが問う。

 

「姉さんはどう思うの?」

 

 と。

 ミヤビはそれこそスイッチが入れられた自動人形のように二度、三度と瞳を瞬かせ、そして口を開く。

 

「避難民はここで降ろすべきでしょ」

 

 と。

 

「なっ!?」

 

 信じられないと驚くブライトに、ミヤビは説明する。

 

「実際、いつ墜ちるか分からない艦に乗せているよりマシでしょう。ジオン軍に一時休戦と保護を求めてもいい」

「本気で言ってるんですか、ミヤビさん!」

「ザビ家独裁でイメージが悪いジオンだけど「自分たちは地球連邦の圧政を排除し独立するんだ!」って理想に燃えている軍人たちの規律って、負けが込んで自暴自棄になっている連邦兵よりかなりマシだし」

 

 実際、地球連邦軍って腐敗軍人やチンピラ兵士が多いしなぁ、とミヤビは内心嘆息する。

 

「そんな! 地球にコロニーを落とすような連中ですよ」

「地球連邦軍本部のあるジャブローに向けての純粋な軍事施設への攻撃よ? 地球連邦軍がジャブローを守るためだったら他に被害が出てもいいよね、って判断してそらしたからシドニーが無くなったりしたんでしょう?」

 

 その言葉に息をのむ周囲を見回して、

 

「と、ジオンの兵士は考えてるわ」

 

 と続ける。

 そもそも南極条約が締結されるまで様々な大量破壊兵器に対する禁止条約が存在しなかったのだって、地球連邦がジオンを独立国家と認めていなかったから。

 地球連邦という単一の国家しか存在しない、としたために国と国との約束である条約が結べなかったからというある意味自業自得というか間抜けなお話なんだし。

 アニメやマンガにもなった小説『銀河英雄伝説』において「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝」を擁するため敵対する自由惑星同盟を国家として認められず反乱軍としか呼べない、という銀河帝国と同じレベルのことをやっていたわけである。

 

「どうして自らが生活する大地であるコロニーを地球に落とすことができたのか、って地球のマスコミは騒ぎ立てたけど、それこそ宇宙市民、スペースノイドの感情を理解していない、しようともしない……」

「姉さん」

 

 ミヤビの言葉を止めたのは、妹のミライの声。

 それでミヤビは我に返る。

 ああ、話がずれたなぁ、と。

 だから一呼吸置いて、現実面に話を戻す。

 

「北米大陸のジオン軍を率いているのは地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐。ザビ家の四男の、育ちのいいお坊ちゃんで、軍規の維持に成功するのみならず、現地の住民とも友好的な関係を築いているわ」

 

 そこで言葉を切って、

 

「まぁ、彼の人の好いところに付け込んで利用させてもらいましょう、ってこと」

「お詳しいんですね」

 

 と言うブライトにうなずいて、

 

「知らない仲でもないし、交渉するなら仲介してもいいわ」

 

 と言い残し、ミヤビはブリッジを立ち去る。

 

「この戦争が始まる前、姉さんは……」

 

 ミライが自分のことを話している声が背中越しに聞こえた。

 

 

 

 墜落する、飛行機……

 逃れられない死の瞬間、■■■は見た。

 

 

『重力に囚われし者たちよ。

 この奈落の底で蠢き、その野蛮なる雄叫びが枯れ果てるまで。

 その想いが尽きるまで戦い続けるがいい……』

 

 

 死神を。

 

 

 というわけで宇宙世紀公式のオカルト的存在『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』登場の死神(CV:井上喜久子)の手によってファースト・ガンダムの世界に男性から女性へとTS転生してしまったミヤビ。

 理系脳で技術バカなミヤビだったが、転生してそれなりに悩んだのだ。

 いずれ起こる一年戦争、その悲劇を防ぐために自分でもできることがあるんじゃないの、と。

 そこで企画したのが父親が持つコロニー建設も請け負うヤシマ重工を利用した『コロニーリフレッシュプロジェクト』だった。

 

 人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が経っていた。

 地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった……

 

 というのは『機動戦士ガンダム』の冒頭ナレーションだが、都合半世紀以上も過ぎれば初期に建てられたスペースコロニーも古くなる。

 『機動戦士ガンダムΖΖ』の序盤の舞台、サイド1の1バンチ、シャングリラは自転速度のコントロールに遅れが生じたままであったり気象コントロールがほとんどできず何ヶ月も雨を降らすことができなかったりという酷いものだった。

 経済状況悪化のため、ということだったが、逆に言えば金をかけてメンテナンスを行わなければそうなるほど老朽化しているということだ。

 

 ミヤビは古いコロニーに対し大規模なリフレッシュ工事を行うことでこれを解消しようとした。

 最新技術を使って生活環境を改善すると同時に、その後の維持、メンテナンス費用も大幅に削減し長い目で見ればお得となるものだ。

 また新たにコロニー建設するよりはるかにお財布に優しいですよ、というもの。

 まぁ、住宅リフォームのコロニー版といったところだ。

 

 対象はサイド3、ジオンのコロニーだ。

 ミヤビがガルマと面識があるように、ヤシマ重工は割とジオンには伝手がある。

 コロニー関係の工事があれば入札、受注するし、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』登場のMS-03ブグや、プロトタイプグフが使用していたマシンガンはヤシマ重工製だった。

 これはガンキャノン機動試験型、局地型ガンダムにも使われ、後に改良されたプロダクションモデルYHI YF-MG100、100ミリマシンガンが陸戦型ガンダム等で使用されることになるのだが。

 この世界はORIGIN準拠ではないようだったが、それでも類似した関わりはある。

 まぁ、そういった関係を利用したのだ。

 

 そして『コロニーリフレッシュプロジェクト』をジオンに対して行う目的は、

 

・ジオンに金と資源を吐き出させ、戦争準備に回されないようにする。

 

・生活環境の改善によりスペースノイドの不満を和らげる。

 

・大規模公共事業の実施により経済が活性化するため、これもまた民衆の不満を和らげることができる。

 

・経済の活性化で恩恵を被るのは非軍事産業、つまりジオンの中でも戦争を忌避するハト派であり、ザビ家など急進的なタカ派に対し歯止めが期待できる。

 

・金が動くということはその経済活動により恩恵を受ける企業がジオン、連邦双方に生じるということ。戦争をしない方が得、ということを示すことができればそれだけで平和への後押しになる。

 

 などというものだ。

 そして失敗した。

 ジオンの利益になることはとにかく反対、という者たちによって。

 その中にはジオンの台頭に危機感を抱いた地球連邦軍の武断派…… レビル将軍の姿もあった。

 ミヤビは、

 

「某北の首領様への人道支援みたいにその分軍事に回されるとかそういうのじゃないから。ジオンの金と資源でやるんだよ。逆に戦争準備に回される分が減るでしょうが」

 

 と懇切丁寧に説明したが理解は得られなかった。

 そういった人々は最初から話を聞く気など無かったのだ。

 最後にミヤビはシドニーに置かれる地球連邦オセアニア州議会でこの計画に対する賛成宣言採択決議案を住民の直接投票にかけてもらい……

 圧倒的多数で否決されたことであきらめた。

 

 ミヤビは半ば自分を納得させるためにそうしたのだが、実際に一年戦争が始まって人類の半数が死に至り、コロニー落としでシドニーが地図上から消え、巨大なクレーター、シドニー湾になってしまうにあたり、ミヤビは死の預言者と恐れられることになった。

 何しろある意味、シドニー市民に自ら死への選択の投票をさせたようなものだったから。

 無論、ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』が実施されたからといって未来が変わった保証はない。

 もっと酷くなった可能性だってあるが、それでもあの時、別の選択をしていたらと人は考えてしまうものだ。

 『ヤシマの人形姫』の異名が畏怖交じりにつぶやかれるのは、ミヤビの外見からくるだけのものではない。

 死神が憑りついている、としか思えないこういった過去の行いが彼女を恐れさせているのだ。

 

 ……ということにミヤビはまったく気づいていなかったが。

 やっぱり凡人の自分が無理しても歴史は変えられないよね、と納得しただけである。

 

 それに単に失敗しただけではなく、得られるものもあった。

 それゆえに精神的に救われた面がある。

 だから引きずらずに居られたとも言える。

 

 そしてミヤビは自分をこの世界に転生させた死神について考える。

 もしかして歴史の修正力みたいなオカルトな力を持っていて、それでミヤビが何をしようとも頑固なまでに歴史が変わらないのではないかと。

『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』でも死神を見た登場人物たちはみな運命に抗い、戦闘自体には勝利するものの、結局は悲劇的な結末を迎えていたし。

 実際、これまでのところ史実に大きな変化は無いし、ホワイトベースのたどる遍歴もまたミヤビという異分子とガンダムがなぜか搭載されていない、という違いがあるにもかかわらず大筋では変化が無い。

 予定調和みたいな運命が決まっていて、そこから外れることはできないのでは、とミヤビが疑うのも無理はないとも言える。

 

 一応、科学的に死神の存在を考察することもできるのだが。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で登場したサイコフレームは人の意思を力に変え、物理法則すら捻じ曲げた。

 後に『機動戦士ガンダムUC』にてフル・フロンタルにシャアの残留思念の一部がとりついていたように、死者の念が現実に対し干渉できるようにする力もある。

 死神とはそういう存在なのでは、とミヤビは考えている。

 この辺については『機動戦士ガンダムNT』の脚本を担当した福井晴敏氏がインタビューで語っている内容が参考になった。

 

 そして例えば……

 なぜリード中尉は大気圏突入時にあそこまで錯乱したのか?

 どうしてミヤビの知る史実と同じくホワイトベースは北米大陸に降下してしまったのか?

 偶然にしては出来過ぎではないだろうか?

 

 それは、サイコフレームのような力がリード中尉の意思に干渉したせいではないだろうか?

 

 もちろんこの時点ではサイコフレームはまだ開発されていないわけだが、同等かそれ以上のオーバーテクノロジーをもたらす存在が宇宙世紀の世界にはあった。

 『∀ガンダム』で登場した異星人が造ったと言われるターンX。

 それがいつ地球圏に到達し、人類に発見されたのか明らかにはなってはいない。

 そしてターンXがサイコフレームか、それに相当するものをもたらし死神と言われる存在を生み出した……

 そう考えれば説明も付く。

 異星人が造ったものが地球圏に到達している以上、ワープ航法や時空間跳躍などといった技術はあるはず。

 とすれば異世界、または並行世界の存在と思われる前世のミヤビの記憶を時空を超えてこの世界にもたらすなどといったことも可能だろうし。

 

 まぁ、これらもしょせんはミヤビの想像。

 確かめるすべはない。

 ミヤビがへっぽこで運も足りないから史実を変えられないんだよ、という身も蓋も無いオチだってあり得るのだから。

 

 

 

 一方、ミヤビが降ろすべき、とした避難民、徴兵の対象とならなかった老人たちを主にした人々はこのような話をしていた。

 

「無理やり宇宙移民をさせられた我々が二度と帰る事のないと思っとった地球へ帰れたのじゃ、着陸もできずに終わったら死に切れんというものじゃ。そうは思わんか? 皆さん」

 

 古い世代の宇宙移民の意識とはこういうものだ。

 ダ・カーポの「地球へ…Coming Home To Terra」を聞かせたら彼らは確実に号泣するし、カラオケで歌わせたら涙ながらに絶唱するだろう。

 というか実際ミヤビが迂闊に年配者の前で口ずさんだら大泣きされたという過去がある。

 

「そこで、わしに考えがある」




 ここにきてようやく出すことのできたミヤビの転生とこれまでの経緯についてのお話でした。
 そして失敗するべくして失敗したミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』ですが、これにはまだ語っていない部分があって今後のお話に影響してくる予定です。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Bパート

「ホワイトベースのエネルギーを利用してコア・ファイターを発進させる?」

 

 ブライトはアムロからの提案を受け、確かめるようにその内容を口にする。

 アムロはうなずいて、

 

「はい。弾道軌道に乗れば目的地には確実に着けます」

 

 と、モニターに軌道を示して見せる。

 それを見たミライも航法に関する知識があるだけに、その内容を理解する。

 

「確かに可能性は十分ね。さっき計算してみたんでしょ?」

「はい、中央カタパルトにメインエンジンのスチームバルブを繋げさえすれば、やれます」

 

 不調で大気圏離脱は不可能だとはいえ高い推力を持つホワイトベースを多段式ロケットの第一段に見立て、さらにガンペリー用スチームカタパルトで加速。

 そして航空機等によって高空まで輸送され発射される『空中発射ロケット』と同様の形式でコア・ファイターを飛ばそうというものだ。

 高空に運ばれたところから発射されるこの方式は、地上よりも低重力であり大気密度や大気圧も低いという環境から、重力損失、空気抵抗損失、推力損失が低減されるという利点がある。

 そのため比較的容易に目的の高度や軌道に到達させることが可能となるのだ。

 ミヤビの前世で言うとNB-52B ストラトフォートレスやロッキード L-1011 トライスター改 スターゲイザーを母機とした人工衛星打ち上げロケット『ペガサス』があった。

 

「しかし……」

 

 ブライトが思案するが、

 

『ハヤト、フラウ・ボゥ、E通路の避難民達が騒いでいる。すぐ来てくれ』

 

 というリュウからの艦内通信で、一時中断。

 彼らがブリッジから離れると、口を開いたのはカイだった。

 

「いつまでも敵と根比べをつづけてても始まらねえでしょう。アムロの提案をやってみたら?」

「カタパルトを手直しできるかどうかの問題がある。それに、やれたとしても発射する時のショックに誰が耐えられるか」

 

 パイロット用ノーマルスーツには対Gスーツ機能もある。

 それにより最大9Gまでの加速に耐えられる、とされるが、それはあくまでも鍛え上げられたパイロットだからこそのもの。

 その熟練のパイロットもその日の体調によって耐えられる限界は上下するものだ。

 

 なお誤解されていることが多いが、史実でアムロが気絶しているのはカタパルトで撃ち出された後、最高速度マッハ4.8(大気圏内ではマッハ3という説もあり)というコア・ファイターの高い推力を使っての加速中での出来事だ。

 つまりカタパルト射出から継続して高いGをかけ続けたため脳に血液が回らなくなってブラックアウトしているものだった。

 

 しかし、

 

「言い出したのは僕です。失敗しても犠牲者は一人ですむはずです」

「アムロ……」

 

 そんなアムロにカイは、

 

「おうおう、言ってくれるねえ」

 

 と、呆れと感心が入り混じったような声を漏らす。

 アムロはそれに対し、

 

「失敗すると決まった訳じゃないでしょう」

 

 と言い返す。

 だがカイの態度は変わらない。

 

「ホワイトベースから出たら奴らの攻撃を覚悟しといた方がいいぜ」

「あなたは、あなたはいったいなんなんです?」

「むきになることはないだろう。忠告しただけなんだぜ」

「カイ!」

 

 セイラがたしなめようとするが、カイは肩をすくめて、

 

「そう、オレは軟弱者だ。腹を立てるほどの人間じゃないのさ」

 

 と開き直る。

 

「そうですか、カイさんは大人なんですね。だったら人を不愉快にさせないでください」

 

 というアムロの言葉にも笑うだけだった。

 アムロはこれ以上話しても無駄だとブライトに向き直る。

 

「ブライトさん、カタパルトの手直しをお願いします」

「よし」

 

 ブライトは決断する。

 

「よろしいですね? リード中尉」

「認める。なによりもまず参謀本部に連絡を取ることだからな」

 

 しかし、

 

「異議あり」

 

 そこに待ったをかけたのは、いつの間にか現れたミヤビだった。

 相変わらず音を立てず気配が無いため周囲の人間の心臓に悪い。

 妹のミライには慣れっこだったが。

 

「ホワイトベースの守りはアムロのガンキャノンにかかっているのを忘れていない?」

 

 ミヤビの言葉に、いまさらながらその事実を思い出す一同。

 

「それにコア・ファイターは小さすぎるからコクピットに緩衝装置が組み込めず、割とパイロットの身体には優しくない乗り物なのよ。それで射出時のショックに耐えるのは大変よ」

 

 これも事実。

 『機動戦士Vガンダム』の劇中でもウッソ君がコア・ファイターを組み込んだVガンダムのコクピットは敵のモビルスーツ、シャッコーと乗り比べてパイロットに優しくないという感想をもらしていた。

 

「で、でもそれじゃあ、どうしろって言うんです、ミヤビさん」

 

 戸惑うアムロにミヤビは言う。

 

「サラミスのカプセルを使えばいいでしょ」

 

 サラミスの大気圏突入カプセルはミヤビの前世の記憶で知る史実と違って無傷でホワイトベースに収容されている。

 このカプセル、大気圏離脱用増設ブースターを付けたりマスドライバーなどで打ち上げてもらえば大気圏の離脱も可能なものだ。

 そして大気圏脱出速度まで加速するためパイロットをGから保護する機構が備えられている。

 弾道軌道で打ち出すにしろ、コア・ファイターよりは安全に行えるはずなのだ。

 

 その上でミヤビはこう考えている。

 彼女の知る史実と違ってリード中尉は負傷していない。

 このままでは補給のためマチルダ隊がやって来ても退場することなく居座る可能性がある。

 そして言っては悪いが指揮官としての資質に欠ける彼の指揮下ではホワイトベースは生き残れない可能性が高い。

 だから、

 

「アムロ君はメカニックや技術的な知識は大人顔負けですが、軍事的知識に秀でているわけではない。彼を連絡員として使うと本当に『お使い』にしかなりません。行った先で「ならこうしてくれ」と指示を受けてもそれが可能かどうかの判断が彼にはつかないし「あれはどうだ?」と聞かれても答えられない。かといって何度も伝書鳩を往復させられるほどジオンも甘くは無いでしょう?」

 

 リード中尉、本当はここから逃げ出したいんでしょう?

 味方と連絡をつけなければならない。

 そして、

 

「連絡員は士官クラスの知識と判断力を持った人間でないと」

「しかしそれは……」

「非常のときには非常の選択が必要です」

 

 この船に居る士官はあなただけ。

 厳密に言うと他にテム・レイ博士とかタムラコック長が居るが、これは専門技術者を士官待遇しているだけだから対象にはならない。

 

「お願いできますね、リード中尉」

 

 敵の前線を自ら突破し、ホワイトベースを救うという英雄的行為。

 大義名分を用意してあげたんだから、素直に乗りなさいな。

 

 ここでリード中尉には退場してもらう、そういう誘いだ。

 史実ではシャアに邪魔されたが、今回もそうなるとは限らない。

 また往復とは言ったが、この状況下では行ったら最後、戻ってくることは難しいだろうし。

 ミヤビはダメ押しに、

 

「カプセルに合わせたカタパルトの手直しはできますから」

 

 という言葉と共に、

 

(イエスと言え!!)

 

 とばかりに視線に力を込める。

 そしてリード中尉は「絶対にノゥ!!!」とは言わなかった。

 一瞬、言葉に詰まったが、それでもうなずく。

 

「わ、分かった。よろしく頼む。ミヤビ君」

 

(勝ったな)

 

 ミヤビは内心ニヤリと笑う。

 無論、人形じみたその表情に変化は無かったが。

 

 そして……

 

(ミヤビさん、どうしてあなたはそうやって自分を犠牲にするんですか)

 

 と、ブライトはこぶしを握り締める。

 このようにリード中尉も含め周囲は当然、ミヤビの思うようには捉えていなかった。

 彼らの中では、ミヤビはアムロを庇って代わりに自分がサラミスの大気圏突入カプセルによる危険な突破作戦に志願した、という具合に受け取られているのだ。

 これまでの行いのせいでミヤビは「士官クラスの知識と判断力を持った人間」と思われている。

 また「お願いできますね、リード中尉」という言葉も、自分が行くことを許可してください、という意思表示だと思われている。

 毅然とした態度(感情が表に出ないだけ)と強い意志が込められた視線(リード中尉にイエスと言わせるためのもの)、そしてミヤビのこれまで積み重ねてきた数々の実績(状況に流されただけ)が、そうとしか思わせないのだ。

 自業自得としか言いようのない状態だったが、ミヤビはそれには気づかない。

 そういうバカバカしいほどの誤解とすれ違いが生じているのだった。

 

 

 

 ジオン軍基地。

 そこでガルマは秘書を務めるイセリナと共にモニターを睨んでいた。

 

「ドラケンとガンキャノンのデータは皆、入ったのか?」

「はい、推測できるデータはすべて」

 

 ホワイトベースの通信の一部はジオン側に傍受、暗号強度の低いものは解読されており、そこから名称が判別されていた。

 画面に表示されるデータにガルマは目を見開く。

 

「驚いたな。外から見たデータで割り出した性能でも我がモビルスーツ、ザクなど問題外か。内部のデータがわかればさらに……」

 

 そこにシャアが現れる。

 シャアはイセリナの存在に退きそうになる足を叱咤して、表面上は何事も無いかのように歩み寄る。

 その仮面の下の表情は盛大に引きつっていたが……

 それに能天気にも気づかぬガルマはシャアに向かって感心した様子で語りかける。

 

「シャア、あのモビルスーツを敵によくも二日間も追撃できたものだな」

 

 シャアは苦笑気味に、

 

「ガルマ、君の予想以上に苦労はしたがね」

 

 と答える。

 ガルマも、

 

「わかっている」

 

 とうなずく。

 そしてモニターに目を向けなおし、

 

「しかしこのドラケンE改、ミヤビ君のところのヤシマ重工製か……」

 

 と感慨深げにつぶやく。

 その物言いに、シャアは仮面の下の瞳を見開いた。

 

「知っているのかガルマ?」

「ああ、そもそもこの機体、ジオンでも月企業がライセンス生産したものを今現在でも買えるし、一部では荷役、作業用として導入すらされているものだ。これには開戦前にヤシマ重工から購入したものも含まれる」

「なん…… だと……?」

 

 虚を突かれたようにシャアは絶句する。

 

「右腕のハードポイントに装備された武装はカタログに無いことから地球連邦軍の開発によるものか未発表の最新装備だろうが、基本、作業機械のあの機体にザクやマゼラアタックに有効な武器を与えるだけでここまで化けるとは、まずいな」

「どういうことだガルマ。ジオンでも買えるというのなら、導入したら良いだろう。武装は手に入らないなら独自に開発してしまえばいい」

「それをするとジオンは負ける」

「なに!?」

「ドラケンは基本、作業機械で安く量産が効く上、パイロットを選ばないのだ。少し練習すれば学生のアルバイトでも扱える」

 

 それでシャアは気づく。

 

「人海戦術か……」

 

 ガルマは憂鬱そうにうなずく。

 

「ああ、一説によると連邦とジオンの国力差は30対1、それは人的資源にも言えることだ」

 

 人海戦術による潰し合いにジオンが付き合うことは不可能なのだ。

 

「しかしこのままでも不味いことには変わりあるまい。このドラケンE改30機をザク1機にぶつけて墜とすことができれば、連邦はこの戦争に勝ててしまうのだから」

「ああ、だからジオンが選べる道は一つだけだ」

 

 ガルマの言いたいところはシャアにも分かる。

 

「モビルスーツの更なる高性能化でドラケンを無力化するか……」

 

 実際、それしかなかった。

 

「そう、小型機の弱点は拡張性だからな。兵器の進化についていけず陳腐化するのも早い」

 

 と、ガルマが言うとおり。

 ミヤビの知る旧20世紀から21世紀にかけてのジェット戦闘機を例に取ると分かりやすいだろう。

 アップデートしながら長く使えていたのはF-4ファントムIIやF-15イーグルなど大型で拡張の余地がある機体ばかり。

 軽戦闘機は開発時点ではその軽便さを生かした性能がもてはやされるが、時代が流れると機体にアップデートを施す余地が無くて詰む。

 そのためF/A-18ホーネットを拡大設計したF/A-18E/FスーパーホーネットやF-16ファイティング・ファルコンを拡大設計した日本のF-2のように元の機体から再設計、大型化して対応するというのが普通だ。

 ほぼ別物の機体になるので、開発費が多少圧縮できるという利点しかないが。

 そういった意味でミヤビの前世の記憶においてジェガンが長らく使われていたのは大型機で拡張の余地が大きかったため、とも言えるだろう。

 

「幸いザクに続く地上戦用のモビルスーツ、グフが、続いて重モビルスーツ、ドムが近々ロールアウトする」

「ほう?」

「ガンキャノンやドラケンの性能を解析し対応策を盛り込む。またその技術を次の機体に生かす……」

 

 すでに地球でのジオン軍の兵器生産拠点、キャリフォルニアベースではガンキャノンの出現に対抗し、ザクキャノンの開発が始められていた。

 これは重量バランスの悪さや不確定なニーズなどを原因として一時開発凍結されていた対空砲装備型ザクを基にした機体である。

 この辺はミヤビの前世の記憶どおりの展開だが、時期は若干早まっている。

 史実ではガンキャノンが戦闘に参加したのは割と遅く、第8話「戦場は荒野」からだったからだ。

 そして、

 

「そのために木馬を落とし、あれらの機体を手に入れるか」

「協力してくれるか、シャア」

「当然だろう?」

「フフ、私は良い友人を持った」

 

 なおミヤビがこの会話を聞いていたら、

 

 このガルマ覚醒していない?

 シミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』で戦死せず「新生ジオン」の総司令官として立つ「ガルマの栄光~新生ジオン編~」での彼みたいに。

 

 と思っただろう。

 もちろんこれもミヤビのせいである。

 例の『コロニーリフレッシュプロジェクト』を行うためにジオン上層部と接触したミヤビはガルマとも友誼を結んでいる。

 そして、そのころのガルマは優秀な兄や姉に対する焦りや士官学校の同級生であるシャアに対するライバル心から誤った方向に暴走しかけており……

 そこに現れたミヤビはそんな彼に新しいものの見方を与えてくれた。

 ミヤビにはそんなつもりはまったく無かったが、彼女は転生しても相変わらず男性脳、理系脳の持ち主。

 自分が知っているものについて間違ったことを言っている相手には訂正したり説明したりせずにはいられないし、相手に悩み事を打ち明けられたら、女性のように「それは大変だねー」と共感するだけではなく、打開策や対応方法について考え助言してしまうタイプだ。

 そしてミヤビの持つ視点とそれに基づく助言は彼女の前世の記憶、つまりこの世界の未来を俯瞰した知識によるもの。

 テム・レイ博士がそれに強いインスピレーションを受けたように、ガルマはミヤビの助言にいわば天啓を得たような衝撃を受け、新たな視野を得るに至ったのだった。

 

 まぁ、それが現状では敵の強化をしてしまうことになる。

 ミヤビは自分で自分の首を絞めていることにつながっているのだが……

 もちろんミヤビはそれに気づいていないのだった。




 ガルマ覚醒。
 そして『だいたいこいつのせい』を地で行くミヤビでした。
 自覚無しに全力で自殺点(オウンゴール)を決めまくるスタイル。
 どうしてこうなった。


> このガルマ覚醒していない?
> シミュレーションゲーム『ギレンの野望 ジオンの系譜』で戦死せず「新生ジオン」の総司令官として立つ「ガルマの栄光~新生ジオン編~」での彼みたいに。

 ガルマ生存ルートですね。
 そのまま同じようにはならないと思いますが、一方で私のこのお話ではガルマが死ぬ未来が想像できなかったり。
 イセリナが強すぎて……


 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Cパート

『苦しいのは初めの30秒だ』

「はい……」

 

 大気圏突入カプセルのコクピットに詰め込まれてしまったミヤビは、いつもの人形のような無表情の仮面の下、盛大に混乱していた。

 

 あ…… ありのまま今起こったことを話すわ!

「私はリード中尉をカプセルに乗せるよう誘導できたと思ったら、いつの間にか自分が乗せられていた」

 な…… 何を言っているのかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかった……

 頭がどうにかなりそうだった……

 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない(当たり前)

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……

 

 といったところ。

 ネタを仕込めるとは余裕なような気もするが、ともあれ。

 

 どうしてこうなった。

 

 である。

 

 

 

 一方、ホワイトベースのブリッジでは、

 

「大変です、避難民達が暴動を起こしました」

 

 ハヤトたちが駆け込んで報告していた。

 

「暴動?」

 

 ブライトが驚き、

 

「な、なんでだ?」

 

 と、リード中尉もうろたえる。

 リュウの答えは、

 

「老人達がカツ、レツ、キッカ、子供たちを人質にとってホワイトベースを着陸させろって」

 

 というもの。

 さらにセイラが、

 

「それに、カツとレツとキッカがかわいそうだってフラウ・ボゥまで人質に残ってしまっているんです」

 

 と告げる。

 しかし、

 

「ハヤト、リュウさん、早くノーマルスーツに着替えてコア・ファイターで待機するんだ」

 

 と、すでにノーマルスーツ姿のアムロがうながす。

 彼はカイの言うとおり、ミヤビが発進した後にジオン軍の妨害があった場合に助けに行けるよう準備しているのだ。

 それに対し、ハヤトは信じられないというように声を上げる。

 

「心配じゃないのか?」

「何が?」

「君の一番仲良しのフラウ・ボゥが人質にとられているんだぞ、少しは気になって……」

「ハヤト、ブライトさんもミライさんもセイラさんもいるんだ。ホワイトベースのことは任せられると思ってるよ。僕は自分のできることをやるだけだ」

 

 アムロの言葉に、セイラもうなずく。

 

「アムロの言う通りよ」

 

 そう言ってハヤトの肩をなだめるように押さえる。

 そして彼女はフラウ・ボゥの代わりにオペレーターを務めるべく通信機に向かう。

 アムロはそれを見て、

 

「格納庫へ行きます」

 

 と自分も行動を開始する。

 ブライトもうなずいた。

 

「頼む」

 

 

 

 ティータイムを楽しんでいたガルマたちにも、ホワイトベースの動きに対する報告が通信で届いていた。

 

『ガルマ司令。パトロール艇、ルッグンから連絡が入りました。木馬が動き出したようです』

「なに? データは送れるか?」

『は、送ります。レーザー計測した推測データです』

 

 ディスプレイに映し出された情報に、ガルマは瞳を細める。

 

「シャア、どう思う? 衛星軌道にでも脱出するつもりかな?」

「そんな速度じゃないな。あ、あるいは!」

 

 シャアは立ち上がると通信兵に命じる。

 

「ドレンを呼び出してくれ、コムサイの発射準備をさせる!」

「シャア、どういうことだ?」

「木馬め、連邦軍から孤立している状態をなんとかしたがっているんだ」

 

 

 

 ブリッジのセイラから通信が入る。

 

『カウントダウンに入ります。いいですね? ミヤビさん』

 

 全然よくないんだけど、と死んだ目でそれを聞くミヤビ。

 しかしセイラのカウントダウンは容赦なく減っていき、

 

『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』

「っく!」

 

 

 

 ミヤビを乗せた大気圏突入カプセルは矢のように飛んでいく。

 

「カプセル、弾道軌道に乗ります」

 

 あらかじめ『苦しいのは初めの30秒だ』と言われていたとおり。

 カタパルト射出のショックだけでなく、その後もロケットエンジンにより加速し続けることで継続する高いGに耐えられず気絶したミヤビ。

 そして貨物スペースに降着状態で押し込まれたドラケンE改を載せて……

 

 

 

『木馬から何か発射されました』

「弾道軌道か?」

『は』

 

 シャアとガルマもミヤビを乗せたカプセルの動きをとらえていた。

 

「我が軍を飛び越えて連邦軍本部と連絡をつけるつもりだ」

「基地上空はミノフスキー粒子のおかげでレーダーは使えないぞ、どうする? シャア」

「追いかけるまで!」

 

 ガルマの問いにシャアは即答する。

 

「接触できるか?」

「1分後に発進、2分50秒でキャッチできます」

「よし」

 

 そして駆け出す。

 

「シャア!」

 

 残されたガルマはいつもの、前髪をいじる癖を見せながら笑う。

 

「フフフ、相変わらずだな。よし、ガウ攻撃空母に伝えろ、シャアを援護しろとな」

 

 

 

 そしてシャアを乗せたコムサイが大型レール式カタパルトを使って撃ち出される。

 長大なストロークを持つこれは本来、コムサイにブースターを付けた上で大気圏離脱させる際の初期加速に使われるもの。

 今回は大気圏離脱用ブースターを用いてはいないが、それでも弾道軌道を取るミヤビのカプセルにも十分追いつくことができるはずだった。

 

 

 

 ブライトたちは暴動を起こした避難民たちとの交渉にあたっていた。

 

「わしらはなにも乱暴しようというんじゃない。本当の事が聞きたいだけなんじゃ」

「それなら人質など要らないはずです」

 

 と諭すブライトに、代表者の老人は黙って瞳を伏せる。

 そしてブライトは気づいた。

 

「みんな、銃をしまうんだ」

「え?」

「しまうんだ!」

「ああ」

 

 ブライト、そしてリュウ、ハヤト、セイラは腰のホルスターに連邦軍制式拳銃M-71A1を戻す。

 それを見て、老人たちは口々に訴えだす。

 

「地球は、元気ならわしの孫がいるはずなんじゃ」

「わしは生まれ育った町や川をもう一度この目で見たいんじゃ」

「別れたじいさんにもう一度会ってみたいんだ」

 

 ブライトの脳裏にミヤビの言葉がよぎる。

 

「どうして自らが生活する大地であるコロニーを地球に落とすことができたのか、って地球のマスコミは騒ぎ立てたけど、それこそ宇宙市民、スペースノイドの感情を理解していない、しようともしない……」

 

 つまり彼ら古い世代の移民たちの認識ではいまだに故郷とする大地とは地球のことなのだ。

 コロニーなど、自分たちを閉じ込める監獄に過ぎない。

 

 挙句、コロニー建設費用の徴収などと言って税を吸い上げる……

 地球連邦政府、アースノイドにしてみれば高速道路の料金のように受益者負担で連邦がコロニーを建設するにあたって作った借金を住人が返済するのは当然だろうが。

 しかし棄民政策で無理やり地球を追い出されたスペースノイドにとっては、

 

「監獄造ったからそこに入れよ。当然、監獄の建設費用から維持までお前ら持ちな。シャバ(地球)には一生戻させねぇから」

 

 と言われているようなもの。

 そんな監獄を地球連邦に突き返してやって何が悪い、というのがコロニー落としに対する正直な心情なのだった。

 

「私は地球に着陸しないとは言っていない」

 

 苦い思いをかみしめながらブライトは言うが、老人たちは退かない。

 

「あとどれくらいで着陸できるのか、はっきりとこの耳で聞かせてもらいたい」

「あんたらに任せきりで悪いが、戦争の間あんた達と対等に話をする為にこの子たちをここに置く事に決めたんじゃ」

 

 それに対しブライトは、

 

「私たちも全力を尽くしているんです」

 

 としか言えなかった。

 

 ブライトはふとルナ2のワッケイン司令のことを思い出す。

 自分が避難民たちの処遇について迫った時も、理知的に対応していた彼のことを。

 逆に訴えを受ける立場になれば分かる。

 自分の主張がいかに一方的なものであったのか、それに対応するのがどれだけ大変なのか。

 今にしてワッケイン司令の有能さと、それ以上に優れた人格者であったことを痛感するブライトだった。

 しかも、

 

『ブライト、至急来て欲しいの、ブライト』

 

 と、ブリッジに残したミライから連絡が入る。

 

「どうした?」

『とにかく早く来て、早く』

 

 ブライトは仕方なく話を切り上げ、ブリッジに戻るしかなかった。

 

 

 

「姉さん、無線は回復したはずよ。姉さん、答えて姉さん!」

「やられたのか?」

「冗談は言わないでちょうだい!」

 

 さすがのミライもカイをにらむ。

 そんな中、更なる報告がもたらされる。

 

「敵機接近。カプセルを追いかける敵機です。1分後に接触します」

「シャ、シャアか?」

 

 リード中尉の言うとおり、コムサイで緊急発進したシャアだ。

 

「そ、そんな。姉さん、姉さん応答して! 姉さん?」

 

 そこにブライトたちが戻ってくる。

 

「敵にキャッチされたのか?」

「応答ないの」

 

 ブライトは即座に決断する。

 

「ミヤビさんを援護するぞ」

 

 すかさずカイが火器管制装置に駆け寄る。

 

「よーし、ミサイルチェック。いつでもいいぜ」

 

 なんだかんだ言っても、もしもの場合に備えているカイ。

 だからこそ彼はブリッジに残ったのだし、即座に対応ができるのだ。

 この辺、不器用だとも言える。

 

「ミライ、全速力で前進だ。カプセルは進路を下げるしかないだろうからな」

「了解。メインエンジン、現状での最大出力、願います」

 

 不調で大気圏離脱は不可能だとはいえ高い推力を持つホワイトベース。

 敵の攻撃を避けるため地表を這うようにノロノロと飛んでいるため誤解されることも多いが、現状でも全速を出せばそれなりな速度を出すことができる。

 カプセルが弾道飛行をあきらめ減速、さらに回頭してこちらに向かってくれるなら迎えることもできるだろう。

 

 リード中尉がキャプテンシートからオペレーターを振り仰ぐ。

 

「レーダーは使えんのか?」

「30パーセントの確率で使えます。地球上にしてはミノフスキー粒子の濃度が濃すぎます」

 

 との返答。

 カイは照準レーダーを確認。

 

「なんとか見える。やってみるかい? ブライト」

「ん?」

 

 どうするか考える間もなくリード中尉の指示が下りる。

 

「撃て、陽動作戦になる」

 

 なるほど、ブライトは命中させるのは困難と考えたから迷ったが、威嚇、そして敵の注意を惹きつけるには当たらずとも撃つ価値はあるか。

 ミヤビはブレインストーミングと考えてリード中尉の意見を聞けば良い、と言っていたが、どんな意見も頭から否定したりせず多様なアイディアを求めることは実際に役立つようだ。

 だから決断する。

 

「よーし、発射」

 

 

 

「ミサイルか」

 

 コムサイのシャアはホワイトベースからの攻撃に気づくが、

 

「どうせ木馬のあてずっぽうの攻撃だろう。敵のカプセルに近づいてしまえ、当たりはせん」

 

 と、コムサイを操縦するドレンに指示する。

 この辺の読みはさすがとも言える。

 

 

 

『ミヤビさん、起きてくださいミヤビさん』

 

 大気圏突入カプセルのコクピット。

 カーゴスペースに押し込められたドラケンE改のサポートAI『サラ』が機内通話によってミヤビを起こそうとするが、反応は無い。

 仕方なく、サラは最終手段を用いる。

 

『エレクトリッガーッ!!』

「っ!?」

 

 強力な電撃がミヤビを襲う!

 シートの上でビックンビックンと跳ねまわるミヤビの身体。

 

『エレクトリッガーッ!!』

 

 ビクンビクン!

 

『エレクトリッガーッ!!』

 

 ピクピク………

 

『ガーッ!!』

 

 まるでアニメ『レッドバロン』の最終決戦のようにエレクトリッガー、実際にはパイロット用ノーマルスーツに備えられた電気ショックによる覚醒パルスを遠隔で連発させるサラ。

 ドラケンE改の機体も赤いし、ま、多少はね。

 

『これでも起きないなんて…… こうなったら必殺のサラ・コレダーをぶっ放すしか』

「殺す気か!?」

『あ、おはようございますミヤビさん』

「おはようじゃないでしょ! 必殺って何!?」

 

 必ず殺すと書いて必殺だからね!

 

『なかなか起きないからどうしようかと……』

「起きてた! 一発目で起きてた!」

『えーっ?』

「電撃の痛みで悶絶して起き上がれなかっただけでしょうが!?」

 

 ここまで感情をあらわにするミヤビも珍しいが、まぁ、これだけの仕打ちをされたら仕方がない。

 誰だってそうなる。

 

 そもそもミヤビに限らず強電関係について学んだ技術者は大抵、こういうのは大っ嫌いになるものだ。

 何しろ電気は目に見えないにも拘わらず「そいつに触れることは死を意味する!」というもの。

 高圧大電流なら一瞬でグロ画像と化すし、電圧が低くても条件次第で死ぬときは死ぬ。

 勉強していればその危険性は嫌でも理解できるし、業界に居れば人身の事故事例情報も多く流れてくる。

 それなのにミヤビの前世、高専の実習室にあった電動機は古くなったのか絶縁が甘く、実験や実習で油断して触ると「ビリっときたあああああ!!」とヒドイ目に遭うというもの。

 おかげでミヤビは静電気が大っ嫌いだし、電気風呂は怖くて入れない。

 この先、ヒートロッドを持ったグフが現れても絶対に戦わないぞ、頑張ってアムロ君!

 と心に決めているミヤビである。

 

 それはともかく。

 

『でも何で寝てたんですか? ミヤビさん、ドラケンのジャンプのGだって耐えているのに』

 

 寝てたって……

 このAI、言語機能がバグってるのでは? と思いながらも答えるミヤビ。

 

「あれは瞬間的なものだから耐えられるのよ。それに事前に『Gウォーム』もしてたし」

 

 最大9Gで加速し3秒以下で最大戦速に突入するという無茶なドラケンE改のジャンプだが、

 

・素人は大体5~6G程度で頭に血が廻らなくなりブラックアウト、気絶するというが、瞬間的にはもっと高いGにも耐えられることが分かっている。

 

・耐Gスーツは下半身を締め付けることで脳の虚血状態を防止するものだったが、ミヤビの前世、旧21世紀でもさらにベストやヘルメットまで同様の機能を付けたコンバットエッジというものも登場していた。そしてパイロット用ノーマルスーツの耐G機能はそれを上回る全身に作用するものでより高いGにも耐えられる。

 

・ドラケンE改には後に第2世代モビルスーツに採用されるリニアシートに使われたパイロットへの衝撃を吸収する機構、マグネティック・アブソーバーの簡易版とも言えるメカニカル・シート・アブソーバーが内蔵されている。

 

・戦闘機パイロットは事前に5G程度を身体にかけグレイアウト状態を作ってからすぐに緩めることで、1時間ほどG耐性を向上させる『Gウォーム』という手法を利用している。ミヤビはモビルスーツデッキの標準サイズモビルスーツ用カタパルトの加速力と長大なストロークを使って限界まで加速することでこれを出撃のたびに行っている。

 

※グレイアウトとはブラックアウト手前、頭に血が廻らなくなり視界が暗くなった状態を指す。水平方向の加速でも発生するのでミヤビはカタパルトの加速でこの状態を意図的に作り出している。

 

・機動兵器のパイロットは小柄な人物の方が向いている。これは頭と心臓との距離が近く、なおかつ足の先と心臓との距離も比較的近いためで高G状態でも頭に血を送りやすくなり結果としてブラックアウトに陥りにくいということ。女性は男性よりも耐G能力が高いと言われるのはこのためで今は女性のミヤビもまた割と高めの能力を持っている。

 

 ということで耐えられていたのだ。

 今回は、そのうちのいくつかの条件が欠落したためブラックアウトし気を失っていたわけである。

 そして、不意に機体に走る衝撃!

 

「なっ、何事!?」

 

 

 

 もちろん銃撃を加えてきたのはシャアの操るコムサイである。

 

「ドレン、このバルカン砲は照準が甘いぞ」

 

 などと毒づきながらもミヤビの乗る大気圏突入カプセルに命中させることに成功。

 火を噴くカプセルだったが……

 不意にカプセルから走る反撃の火線が、油断していたシャアのコムサイを襲う。

 

「直撃です」

 

 ドレンの報告。

 そしてカプセルから小型の赤い機体が離脱する。

 ミヤビが貨物スペースに載せられていたドラケンE改の60ミリバルカンポッドで反撃、脱出したのだ。

 

「大丈夫だ。致命傷ではなかろう。私もザクで出る。コムサイを敵の上に上昇させろ」

「はい」

 

 

 

 一方、ミヤビの救助に向かうホワイトベースでは待機していたアムロのコア・ファイターが出撃していたのだが、

 

『ブライトさん、六機対一機じゃ勝負になりません』

 

 ジオンの戦闘機、ドップの編隊に襲い掛かられ、逃げ回るのがやっとという状況に追い込まれていた。

 シャアの援護に出撃してきたガウ攻撃空母から発進した編隊である。

 だからアムロはリュウとハヤトにもコア・ファイターで控えるように言ったのだが、フラウと子供たちを心配した彼らはそちらに回り、結果として出撃のタイミングを逃していた。

 ドップに接近された状況ではハッチを開けてコア・ファイターを発進させるのは危険なのだ。

 デッキ両舷に備えられたミサイル発射装置は前方攻撃用であるだけでなく機動兵器発進時に敵機を近づけないための支援用でもあるのだが、射出口が固定であるためここまで接近を許すとそれもあまり役に立たなかった。

 

「アムロをホワイトベースに戻させろ」

「アムロ、引き返せて? 冷静にね。地上すれすれに戻っていらっしゃい」

 

 ブライトの指示を臨時のオペレーターを務めるセイラが伝える。

 

『しかし』

「ブライトとリード艦長の命令です」

 

 その様子をカイは皮肉気に見て笑う。

 

「へへへへ、無理すっからさ」

「貴様!」

 

 ブライトの拳がカイを殴り飛ばす。

 

「な、なんだよ、俺が何したってんだよ?」

「貴様、今度同じような態度を取ったら宇宙だろうとなんだろうと放り出す」

 

 ミヤビが見ていたらこう言っていただろう。

 カイ君の気持ちもわかるけどね、と。

 

 カイは斜に構えるところがあるが、それは物事を俯瞰して見る目があるということ。

 だからアムロやブライトの立てる策に潜んでいる危険、リスクに気づくことができる。

 以前はカイもこんな態度を取らず、真摯に忠告していたのだろう。

 しかしギリシャ神話に登場するカサンドラのように予言者は、特に失敗や敗北の予言者は嫌われ疎まれるものだ。

 アムロやブライトにしてみれば「だったら代案はあるのか?」と言いたいところだろうし。

 しかし、この状況でそんな贅沢なものがあるのならカイだって最初から提案している。

 それでも皆が見ないふり気づかないふりをしているリスクが気になるからこそ軽薄さを演じながら口を挟むわけだ。

 

 まぁ、何事もバランスな訳だが。

『やらない理由を探してばかりの小利口は行動するバカに勝てない』

 という言葉がある。

 リスクを把握するのは大事だが、そればかり気にして行動しなければ何かを産み出すことも状況を変えることもまたできない。

 アムロやブライトの決断や行動にはカイが言ったとおりのリスクがあった。

 しかし彼らはあえてそれを棚上げして、バカになって行動することで状況を打開しようとしている、とも言える。

 

 ではカイは劣った、不要な人間なのかというとそうではない。

 彼は一年戦後、ジャーナリストとなって大成している。

 カイが持つ鋭い観察眼を活かすことができれば、それだけの実績を上げられるということ。

 カイはそれだけの人物であるということなのだ。

 

 現在はミノフスキー粒子とモビルスーツの登場で従来の戦闘ドクトリンが崩れ、戦場で何が起こるか分からない時代。

 これはミヤビの前世、VUCAな時代と言われた旧21世紀のビジネスの世界に似ている。

 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたもので、まぁ、言葉が示すとおり変動が大きく不確実でしかも複雑さが増し、曖昧模糊としたカオスな、混沌とした状態。

 昭和やバブルの時代みたいに「同じような人材が集まって、一致団結して同じ目標を目指せばいい」という状況ではない。

 それでは宇宙艦隊を軸とした大艦巨砲主義一辺倒に走った地球連邦軍がミノフスキー環境下におけるモビルスーツには非常に脆弱だったように、状況の変化に対応できず壊滅的な損害を受ける可能性があるのだ。

 

 ではどうするかというと、何が起こるか分からないなら、何が起きても対応できるよう人材にも多様性を求めましょうということになる。

 良い悪いではなく多様な個人の資質を生かすことが重要になってくるわけだ。

 そのためにはカイの方にも歩み寄る必要があるのだが……

 

「わ、わかったよ、ブライトさん」

 

 口ではそう言いつつも、不敵に口元を歪めるカイ。

 なかなか素直にはなれないようだ。

 

「カイ……」

 

 そしてその様子を仕方が無い人ね、とでもいうように横目で見るセイラ。

 ガンタンクで共に戦って以来、カイとは二人で組んで行動することが多い彼女。

 軟弱者と詰った最初の印象と違って反骨精神にあふれる意外な面も持っている、とは気づいていたが。

 どうして彼がそんな行動をするのかについてはまだまだ理解できないでいるのだった。




 ミヤビ、いつにも増してヒドイ目に遭う、の巻。
 電気ショックでいたぶられるヒロイン、しかも主従逆転……
 というとなんだかえっちぃのですが、全然そんなことは無かったぜ!
 まぁ、そういうのは得意な人の三次創作に期待ということで(丸投げ&ちょっとだけ怖いもの見たさ)

 なお、腕時計、スマートウォッチ型の電撃ショック式目覚ましは実在するそうです。
 私はミヤビと同じで絶対に使いたくありませんけどね。

 しかし、ミヤビがドラケンのジャンプのGに耐えられるわけとか、避難民の心情とか、カイの内面についてとか、やっぱりワッケイン司令って上司に欲しいよね、とかまじめな話も書いたはずなのですが。
 毎度のようにヒロインたちが繰り広げる騒動の、強烈なインパクトの前に霞んじゃいますねぇ。
 どうしてこうなった……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第7話 コア・ファイター脱出せよじゃない Dパート

『ザクが降下して来ます』

 

 自由落下中のドラケンE改。

 その頭上を取ったコムサイからシャアの赤いザクが投下されたのを、サラが報告してくれる。

 

「了解。例の装備を使用するわ」

 

 ドラケンE改の機体背面上部に設置された特殊装備。

 これが今回の勝利の鍵だ。

 

 

 

 一方、ホワイトベースでも、

 

「コア・ファイター収容、ガンキャノンに換装急げ」

「アムロ、聞こえて? あなた、ガンキャノンで空中戦をやる自信あって?」

 

 アムロにガンキャノンで空中戦をさせるべく準備が進められていた。

 

『空中で? ガンキャノンってだいたい陸戦兵器なんですよ』

「大丈夫、自由落下で1分以上空中にいられるのよ。あなたならできるわ」

 

 驚くアムロだったが、セイラは問題ないと答える。

 

『勝手すぎます! 僕にはそんな器用なことできません』

「生き抜きたくないの? アムロ、ホワイトベース着艦、急ぎなさい」

『……も、もう、いいですよ、うっ』

 

 ドップからの銃撃を受け、それ以上考えている余裕の無いアムロ。

 ブライトがモビルスーツデッキに指示を出す。

 

「コア・ファイター着艦フック、降ろせ」

『着艦軸OK。入ります』

 

 コア・ファイターの着艦はデッキ内で行うのではなく船外、デッキ下面に張られたアレスティング・ワイヤーにコア・ファイター上面にせり出したアレスティング・フックを引っ掛けて行う。

 滑走路にアレスティング・ワイヤーを張って着陸する通常の航空機とは上下が逆だ。

 そして翼や機首を折りたたみコア・ブロックに変形したところをメカニカル・アームで掴んで艦内へ収容。

 そのままガンキャノンの下半身、Bパーツに挿入。

 そして上半身、Aパーツを被せて換装は完了だ。

 

『操縦系切り替え終了。で、でもセイラさん、僕には』

「アムロ、誰だって自信があってやっているんじゃないわ。でもねアムロ、あなたには才能があるわ、自信を持って。ハッチ開くわよ」

 

 

 

 そしてガンキャノンは半開きにしたハッチの隙間からドップを攻撃。

 敵が怯んで攻撃が途切れた隙にホワイトベースから飛び立つ。

 

「地上に落ちるまでは1分20秒。それまでに仕留められるか?」

 

 ビームライフルと頭部60ミリバルカン砲を駆使してドップと戦うアムロ。

 

 

 

「ええい、ガンキャノンが邪魔で。う、な、なんですか? あなたたち」

 

 ミサイルで援護をしようにもできない状況に、ブリッジを飛び出し対空砲座に向かおうとするカイだったが、

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ここは」

「どうした? ……あ、あなた方は」

 

 カイの声に振り向いたブライトが目にしたのは避難民の老人たちだった。

 

「や、やっぱり降りられんのだな?」

「なんとか地球に、な、この通りじゃ」

 

 この非常時に、と内心イラつきつつもブライトは可能な限り平静な表情と声で、

 

「わかってます。さ、心配せずに部屋にお戻りください」

 

 となだめるが、

 

「わしら、もう動かん。地球に着陸してくれるまでな」

 

 と、老人たちは座り込みを始めてしまった。

 

 

 

「地球での自由落下というやつは、言葉で言うほど自由ではないのでな」

 

 そうつぶやき、ザクにマシンガンを撃たせるシャア。

 しかし、

 

「ば、バカな!?」

 

 ドラケンE改はシャアの射撃をひらりとかわし、その上、

 

「と、飛んでいるだと!?」

 

 落下するだけではない。

 ドラケンE改は重力環境下で飛行を続けていた。

 

「ガルマが収集したスペックによればリミッターカットによる一時的な弾道軌道の大ジャンプは可能でも、大気圏内で飛行を続けられるほどの能力は持っていなかったはず」

 

 どういうことなのだ?

 

 シャアは激しく混乱しながら重力に引かれ、落ちて行った。

 大空を舞うドラケンE改を上空に残して……

 

 

 

『パラシュートパック動作良好』

 

 ドラケンE改を飛ばし続けているのは機体背面上部に設置できるパラシュートパックだった。

 空挺車両の降下に使われるマッシュルームタイプとは別に用意された、特殊部隊のHALO(高高度降下低高度開傘)やHAHO(高高度降下高高度開傘)による敵地侵入任務向けの長方形の翼のようなスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートだ。

 これはパラシュートの両端につなげられたロープを引くことでパラグライダーのように飛行をコントロールできるもので、それによってミヤビはシャアのザクからの射撃を回避したのだ。

 またドラケンE改のロケットエンジンの推力を利用すれば動力付きのモーターパラグライダーとして継続的な飛行も可能である。

 コントロールには当初ドラケンE改のマニピュレータを使っていたが、

 

『コントロール用電動リールも問題なしです』

 

 とサラが報告するとおり、両手がふさがるという問題から両肩に電動リールを設置する方式に改められた。

 他にも自動作動装置と呼ばれる一定高度以下になった場合に傘を自動で開く安全装置と予備のパラシュートも装備には含まれる。

 そして、

 

「本当に目に見えない素材でできているのね」

 

 と、ミヤビは上方を振り仰いでHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)に映し出された画像を見てつぶやく。

 パラシュートの生地とロープは視認困難な透明特殊素材で作られている。

 この素材は厳しい生存競争の中で生物が進化させてきた機能を模倣する『バイオミメティクス(生物模倣技術)』を利用したもの。

 透明な物体が目に見えるのは屈折率の異なる物質が接する境界面では光の反射が起きるため。

 しかし水生生物の中にはナノ突起と呼ばれる微小な構造で覆われている者があり、表面が毛足の長いじゅうたんのようになっていて、光の反射を弱め、和らげられることによって透明な身体を目視できないほど水に紛らわせることができる。

 空気中においてもカタカケフウチョウという鳥の羽根の光吸収率は99.95%で、その羽根にあるマイクロメートル単位の微細な形状が光を反射しない構造になっている。

 これらを参考にナノテクで人工的に再現したのがこの透明特殊素材である。

 またレーダー波などの視認以外のサーチにもステルス性を持っている。

 そのためシャアにはドラケンE改が単独で飛んでいるように見えたのだ。

 

 なお、その飛行性能はそれほど高くないため、シャアが冷静だったら撃墜されていた可能性も高い。

 タネが割れていないからこそ通じた、おそらくシャア相手には二度と通用しないだろうという詐術である。

 

 

 

 ロケットエンジンを吹かし、シャアはザクを地上に着地させた。

 モニターに遠方のホワイトベースが映る。

 

「木馬め」

 

 健在なその姿にいまいましげにつぶやくシャア。

 そこに通信が入る。

 

『シャア、聞こえるか?』

「ああ、ガルマ」

『連邦軍のモビルスーツな、あれに対する作戦を改める必要がありそうだ』

「どういうことだ?」

 

 ドップ隊が引き受けたガンキャノンの方についての話かとシャアは聞き入る。

 シャアとてドラケンE改について驚くような報告があるのだが、それを上回るようなものがあるというのか。

 

『コンピュータのデータから推測するしかないが、敵のモビルスーツは戦闘機を中心に自由にタイプを変えられる多用途モビルスーツらしい』

「なに?」

 

 今回のコア・ファイターを収納してガンキャノンに換装、という運用をガルマ配下の兵が見抜いたのだ。

 コア・ブロックへの変形は艦外で行われていたとはいえ、なかなかに鋭い。

 

「で、では、今まで私の見ていたのは敵のモビルスーツの一部分の性能という訳なのか? あ、あれで』

 

 化け物のような硬さと攻撃力を誇るガンキャノンについてシャアは考える。

 パイロットが素人同然であるにも関わらず撃破不能だったあれが……

 

「では、こ、今後どう戦ったらいいのだ? ガルマ」

『戻れ、検討しよう』

「……りょ、了解」

 

 さすがのシャアもそう答えるしかなかった。

 

 

 

 帰還し、ブリッジに戻ってきたアムロとミヤビをカイが迎えた。

 アムロはその場に居る老人たちに、いぶかしげな視線を向けるが、

 

「気にすんなよ、アムロ」

 

 カイが肩をすくめ、

 

「ご苦労だったな、アムロ、そしてミヤビさん」

「お茶飲む?」

 

 ブライトとミライもそう言って迎えてくれる。

 

「はい」

 

 そううなずくアムロに老人たちの代表が話しかける。

 

「あんたさんが、いや、ここにいる皆さんも全力で戦っておる。そのつらさはわかっとるつもりじゃが、しかし、わしら年寄りの愚痴で言ってるんじゃないんだ。我ら、地球の大地を……」

 

 アムロは、

 

「わかってます」

 

 とうなずくが、

 

「わしらをここで降ろしてくれ」

 

 その言葉にブライトは言う。

 

「あと一息で連邦軍の勢力圏に入るんです。それまでの我慢がなぜできないんですか?」

「それまでの命の保証を誰がしてくれるんです?」

「この子の命だけでも助けてください」

「安全な所を見つけて我々を降ろせばすむんじゃないのかい」

 

 アムロはその勝手な物言いに、怒りを覚える。

 

「あなた方は自分のことしか考えられないんですか?」

「子供に年寄りの気持ちがわかるか」

「誰が、自分だけの為に戦うもんか。皆さんがいると思えばこそ戦ってるんじゃないか。僕はもうやめますよ?」

 

 そういきり立つアムロの肩を押さえたのはミヤビだった。

 そして彼女の妹であるミライがそこにすっと割って入った。

 アムロには、

 

「アムロ、お茶が入ったわよ」

 

 と。

 老人たちには、

 

「フラウ・ボゥとちびちゃんたちをブリッジによこしてください」

 

 と。

 避難民たちはミライの顔をしばし見つめた後に息を吐き、

 

「期待しとりますよ、お嬢さん」

 

 と言って去って行った。

 

「さすがヤシマ財閥の跡取り、ヤシマ姉妹の物腰柔らかな方」

 

 感心したような声を上げるのはミヤビだ。

 

「姉さん、その話は……」

「納得していない、と言うんでしょう。でもダメ。お父様はもう決めたし、私は失敗した」

 

 二人の父親であり辣腕の経営者、シュウ・ヤシマ。

 ミヤビの知る史実とは違い現在でも生きている彼には、ミヤビが計画した『コロニーリフレッシュプロジェクト』が失敗するのは最初から分かっていたことだった。

 それでも企画の立ち上げを許可したのはミヤビを失脚させ、ミライを次期当主に据えるため。

 

 前世の記憶とこの世界の未来の情報を持つミヤビは技術方面で様々な実績を上げていて、ヤシマグループでもその支持者は多かった。

 しかし彼女は経営者には絶望的に向いていないことを父親は知っていた。

 

 世の中、ロジックではないのだ。

 もちろん感情論が何かを解決することは無い。

 しかし感情に配慮ができていない施策が人々に受け入れられることもまた無い。

 

 そして経営の世界で理屈どおりに進むことは無い。

 例えばプロジェクトリーダーを務めていれば、どこかの工程が遅れることはままある。

 その遅れがプロジェクトの全体工程に影響してしまう、なんてことも。

 担当者の見積もりが甘かったから、だから担当者が責任を取って徹夜でも何でもして工程どおりに進めろよ、ということができるかというと、実際には物理的に不可能な場合がほとんど。

 そしてプロジェクトリーダーにはこの状況を何とかしなくてはいけない責任がある。

 だから他から応援を呼んだり工程を調整したり、という折衝が必要になるが、他だって余裕など無いし、そもそも自分のせいでも無いのに何でこっちが被害を受けなきゃならないんだ、と思う者が大半だ。

 そして彼らが言うこともまた正しい。

 ロジカルな方法論しか持たない人間は、ここで詰んでしまうのだ。

 ミヤビの前世、旧21世紀の日本でも世界有数の一流技術を誇る大企業で、

 

 それまで順調に実績を上げてきた技術職、研究職の優秀な人材を管理職にしたとたん、メンタルをやられて次々に倒れてしまう。

 

 という現象が起きていたのはそのためだ。

 一流企業の技術職、研究職につくには、一流の学校を良い成績で卒業しなくてはならない。

 つまり才能が必要なのだが、天才と言われる人間にもまんべんなく何でもできる者と、どこか欠けているが得意分野では負けないという者が居る。

 前者は万能の人、本当の天才なので数が限られる、となるといきおい後者の比率が高くなってしまうのだ。

 そして一芸特化型の才能の持ち主は概して対人スキルが低い。

 

 その点、対人能力が高い人物なら、

 

「まぁまぁまぁ、うん、気持ちは分かるけどここはひとつ……」

 

「あー、そうだよね。分かった。それじゃあ、こういうのはできる? その代わりに……」

 

 という具合に、ロジックでは対応できない状況も何とかしてしまえる。

 それも感情的なしこりを残さずに、いやかえってつながりを深化させる方向で処理してしまえる。

 モチベーションは仕事に馬鹿にならない影響を与えるため、これは本当に大事なのだ。

 そしてそれこそがマネジメントを行う管理職、そしてさらに上の経営者に求められる資質。

 ミヤビには無くてミライにはある才能なのだ。

 

 先ほどの避難民の老人とのやり取りも、そのミライの才能、人柄によるもの。

 ミヤビには真似できない……

 そもそもどうして彼らが納得して引き下がったのか、ミライの何がそうさせたのかすらミヤビには理解できない領域の話だった。

 

 それじゃあミヤビのような人材はどうすればいいの、という話だが、技術特化型なら技術の仕事さえさせておけば大きな成果が出せるのだ。

 専門職制度という専門的知識や技能を有する従業員を管理職と同等に処遇する人事管理制度を活用すればいい。

『担当課長』などといった部下を持たないが給料などは管理職待遇というやつである。

 苦手な対人折衝はしなくていいから持ってる技術で成果を上げてね、というもの。

 

 そしてミヤビは前世も今も自分というものを知っている。

 だから自分に経営者が務まらないのは承知の上だし、ミライが代わりにやってくれるなら大歓迎。

 自分は得意な技術分野で協力するよ、という話。

 婿を取る必要もなくなるし、ということで全面的に賛成しているのだが、ミライには尊敬する姉を追い落とすようなことはできない、と思われている。

 

「そんなの気にしなくてもいいのに、もっとドライに考えれば?」

 

 とミヤビが思うのは彼女がロジックで考える人間だから。

 

「私はドライではありません」

 

 とミライがかつて言ったように、普通そう簡単には割り切れないものなのだった。

 

 

 

次回予告

 避難民を地上に降ろすために戦いがやんだ。

 が、その隙に次の戦いの為の陣が敷かれる。

 そしてペルシア親子が帰るべき大地に見たものは?

 次回『戦場は荒野』

 君は、生き延びることができるか?




 ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』には複数の意味や狙いがあったのですが、その一端を公開させていただきました。
 この先のお話でこれ以外の事柄についても順次明かされる予定です。

> 空挺車両の降下に使われるマッシュルームタイプとは別に用意された、特殊部隊のHALO(高高度降下低高度開傘)やHAHO(高高度降下高高度開傘)による敵地侵入任務向けの長方形の翼のようなスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートだ。

 これを使ったスカイダイビングの大会を間近で見たことがあります。
 アキュレシーランディング、地上に置かれたターゲットにいかに正確にランディングをできるかという競技ですが、自在に空を飛び、頭上を通過していく姿に感心したものでした。

 次回は戦争の悲哀を描いた名作『戦場は荒野』ですが……
 原作どおり綺麗に終わらせることができない予感がひしひしと。
「せっかくのお話を汚すな」とか怒られそうで怖いですね。

 それではみなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第8話 戦場は荒野 Aパート

「転属? 私を君の配下にか?」

 

 シャアは戸惑った声を上げる。

 それに対し、ガルマは笑顔で答えた。

 

「一時的なものだがな。兄上に願い出ていたものが、今朝、正式にご了承していただけたのだ」

 

 兄上、とはシャアの上司であるドズル中将だ。

 彼はガルマに対して将来を期待しており、つまり甘い面がある。

 とはいえガルマの上司、キシリアとは反目しているところもあり、エースであるシャアを一時的にしろあっさりと貸し出すはずがないのだが……

 

「私も君の好意に甘えていてばかりではならないと思ってな」

 

 ガルマは照れたように前髪をいじるいつもの癖を見せながら言う。

 

「今のままでは君の立場はあいまいで実力を十全には発揮できないだろう? それに戦功を挙げたとしても正しく評価されない。だから君に私の参謀長の席を用意したんだ」

「ガルマ……」

 

 シャアは余計なことを、という感情を仮面の下に押し隠す。

 ガルマの背後に控えるイセリナ・エッシェンバッハの底知れぬ笑顔に恐怖したという面もあるが。

 

「しかしそれでは、木馬を落としたとしても君の武勲は」

 

 遠慮、という形でシャアは用意された立場を回避しようと試みる。

 彼はあいまいで責任の無い立場を利用してガルマ個人に恩を売ったり、また機会を見てガルマを陥れることを考えていた。

 しかし正式にガルマの参謀長にとなると責任が生じるようになる。

 それではまずいのだ。

 

 だがガルマは笑顔で首を振った。

 

「私とてザビ家の男。この先、将の将としての道を進んでいかねばならないだろう。そして将の将とは部下と武勲を競うものではなく、部下に武勲を立てさせる者を言う」

 

 そして部下が武勲を立てたなら、それはその部下を信頼して用いた上官の功績にもなる。

 将の将とはそういうことだ。

 

 ということをガルマがドズルに主張したらマジ泣きして喜ばれ、上機嫌でシャアを貸し出してくれたのだ。

 さらには青い巨星、ランバ・ラル大尉も追加で送り出す用意をしてくれるというから大盤振る舞いである。

 お兄ちゃん、自重しろ。

 

 一方、シャアはというと、

 

(なぜだ。なぜガルマがこのように……)

 

 と混乱していた。

 シャアの見たところ、ガルマの人の好いお坊ちゃんぶりはまったく変わっていない。

 なら自分をこのような状況に陥れたのは、

 

(イセリナッ! 謀ったな、イセリナ・エッシェンバッハ!!)

 

 ということになる。

 まったくの誤解である。

 ガルマは『ヤシマの人形姫』の影響で、生来の人の良い部分を残しながらもいい意味で覚醒しているだけである。

 

「友とは良いものだ。喜びは倍となり、苦しさは半分となる」

 

 と無邪気に「ダメだったら一緒に姉上に怒られようぜ!」とでもいうように笑うガルマに、シャアは、

 

(冗談ではない!)

 

 と仮面の下、内心絶叫しているのだが、ガルマはそれに気づかない。

 イセリナは気づいているかもしれないが……

 

 

 

「ぶ、ぶつかるぞ」

 

 迫る岩肌に顔面を引きつらせるリード中尉。

 北米大陸、グレートキャニオン。

 コロラド高原が長年のコロラド川による浸食作用で削り出された大渓谷を縫うようにホワイトベースは飛んでいた。

 

「っ!」

 

 せわしなく修正舵を切るミライ。

 ホワイトベースの主翼が岩肌をかすめ、衝撃が船体に走る。

 

「無茶だ、ブライト君。もっと高度を取りたまえ」

 

 リード中尉は命令…… と言うより悲鳴を上げる。

 セガの大型体感筐体アーケードゲーム『アフターバーナーII』のボーナス面あたりが元祖か、その後ナムコのフライトシューティングゲーム『エースコンバット』シリーズまで続く、いわゆる渓谷面をホワイトベースでやっているようなものだから、その気持ちは分からないでもない。

 だが、ブライトは振り仰ぐようにして反駁する。

 

「あなたにはあれが目に入らないんですか?」

 

 モニターに映し出されるホワイトベースの上空にはジオン軍のドップ戦闘機の編隊が飛んでいた。

 

「できれば地面を走りたいぐらいです」

 

 というブライトの言葉は誇張でも何でもない。

 

「しかしだな、満足に操艦できないパイロットで……」

「いいえ、できます」

 

 よほど余裕がないのかリード中尉の言葉に被せるようにして反駁するミライ。

 実際、ミライの操艦の腕が優れているからこそこんなアクロバティックな真似ができるのだが、リード中尉にはその辺がよく分かっていなかった。

 

 

 

「うわっ!」

 

 ホワイトベースに走る衝撃に、アムロは転倒する。

 

 ふにっ

 

 その手が何か柔らかいものに触れ……

 

「う、うわわわわっ!」

 

 慌てて立ち上がるアムロ。

 彼は一緒に居たミヤビの上に転んで、その胸に手のひらを当てていたのだった。

 

「アムロ?」

 

 相変わらず身体の線の出るパイロット用ノーマルスーツを着込んでいるミヤビは幼い少女のようにぺたんと座り込んだまま、小さく首をかしげてアムロを見上げる。

 アムロの主人公らしいラッキースケベだったが、己の美貌や性的魅力に無自覚なミヤビにはそういう認識が無かった。

 うろたえるアムロを不思議そうに見るだけだ。

 年上の女性のくせに無防備で無垢なその視線に、アムロは無意識にごくりとつばを飲み込み……

 

「痛っ!」

 

 一緒に居たフラウに脇腹をつねられ、正気に戻る。

 

「何だよフラウ・ボゥ!」

「鼻の下、伸ばしてるからよ!」

「そ、そんなはず……」

 

 と言いつつも顔に手を当ててしまうあたり、自覚があるらしい。

 

 マヌケは見つかったようだな。

 

 そんなラブコメを繰り広げていたせいで、彼らは近くのサブブリッジに誰か居ることに気づかなかった。

 

 

 

「コウ君、あなた男の子でしょ。このくらいのことで泣かないの。ごらん、これが地球よ」

 

 息子、コーリーを胸に抱き、サブブリッジの窓から大地を見下ろすペルシア。

 

「ここがあなたのお父様の育った所なのよ。お父様はあなたがいくらでも威張れるような立派な方だったの」

 

 彼女たち母子の存在を、ミヤビたちは見落としていたのだった。

 

 

 

『こちらはバイソン。木馬は山脈越えにかかる様子です』

 

 ガルマたちの元にドップの編隊から報告が入る。

 ガルマは即座に命じる。

 

「山脈を越えさせるな。地上軍のマゼラアタックと接触でき次第攻撃を」

 

 しかし、

 

「ガルマ」

「なんだ? シャア」

「木馬がなぜあんな飛び方をしていると思う?」

 

 シャアがホワイトベースの動向について問う。

 

「我々のレーダーから逃れる為だろう?」

 

 ガルマは単純にそう思ったが、シャアは首を振った。

 

「違うな。ミノフスキースクリーンの上に地形を利用した強力な妨害網を引くつもりだ」

 

 手元のコンソールを操作して簡単な概念図をモニターに映し出す。

 

「こうだな。となれば、ミノフスキー粒子の効果は絶大だ」

 

 両翼は崖に守られ、上空側はミノフスキースクリーンによる妨害を行う。

 ガルマはその意味を理解する。

 

「どんなに強力な誘導兵器も使わせんということか」

 

 そういうことだった。

 

「待ち伏せるんだ、我々の有利な地点で」

「そして一挙に叩くか」

 

 ガルマは拳を手のひらに打ち付けた。

 

 

 

「どういうこと? ドップの編隊が引き上げていく」

 

 とセイラが言うとおり、ジオンの動きはホワイトベースのブリッジでも感知していた。

 

「何かある」

 

 ブライトはうなずきつつも今後の行動について打ち合わせを始める。

 床面のモニターに周囲の地形図を映し出し、

 

「これが我々のいるグレートキャニオンだ。ホワイトベースの現在位置はここだ。そして、敵はおそらくこのミッド湖あたりに戦力を結集してくるだろう」

 

 と予想。

 

「うん、同感だな」

 

 とリード中尉も同意する。

 なぜなら、

 

「ここが我々の最も不利な地点だからだ」

 

 ということ。

 

「ガンキャノンの働き如何で我々の運命が決まる」

「アムロ、頼むわよ」

 

 ミライにそう声をかけられ、アムロは、

 

「はい」

 

 とうなずくが、それに対しカイが、

 

「俺たちはどうでもいいんだとよ」

 

 と肩をすくめるのに戸惑う。

 まぁ、カイのこれはいつものポーズなのだが、アムロのような生真面目な人間にはさらっと流すことができないのだ。

 だからセイラも、

 

「カイ」

 

 と、たしなめるように名を呼ぶ。

 カイはバツが悪そうに、

 

「いや……」

 

 と言いかけ、気づく。

 

「ん? フラウ・ボゥ、なんだいその人たちは?」

 

 フラウは数人の避難民たちを連れていた。

 その中にはペルシア母子の姿もある。

 

「艦長、この方たちがどうしてもお話をしたいことがあるそうです」

 

 フラウの紹介を受け、ペルシアが発言する。

 

「実は、私たちをここで降ろしてもらいたいんです」

「ええっ?」

「ええっ、降ろす?」

 

 ブライト、セイラが驚きの声を上げる。

 一方、

 

「戦闘中だっていうのに」

 

 と、リュウが言うのは非難ではなく彼女たちを心配してのこと。

 やはり彼は気は優しくて力持ちを地で行く気配りのできる男である。

 そんな彼らにペルシアは訴える。

 

「この先にあるSt.アンジェは私の夫の故郷なんです」

 

 その言葉にリード中尉は感慨深げにつぶやく。

 

「故郷? こんな所でこんな言葉を聞くとは」

「ご無理は承知の上です。でも私はこの子を父親の故郷で育てたいんです」

「あなたたちは…… よくもそんな自分勝手なことが言えたもんだ!」

 

 リード中尉は声を荒立て、

 

「ブライト君!」

 

 とブライトに彼らの退出を命じようとするが、思案顔だったブライトはリード中尉にこう答える。

 

「中尉、私にいいアイデアがあります」

「ア、アイデア?」

「はい、ジオンに一時休戦を申し入れてこの人達を降ろすんです」

 

 ブライトの発言に、難民たちが顔をほころばさせた。

 

 

 

 一方、ミヤビはというといつもの変わらない表情のまま……

 

(わ、忘れてた)

 

 盛大にテンパっていた。

 そう、彼女はSt.アンジェに関わるイベントを、この時になってようやく思い出したのだ。

 アムロのラッキースケベイベントに巻き込まれていなければサブブリッジのペルシア母子に気づき、もう少し余裕をもって対処できたはずだったが、それもいまさらな話だ。

 

(どうしよう。そもそもSt.アンジェって史実どおりに無くなっているかどうかも分からないし)

 

 ミヤビの存在が生むバタフライ効果で実は消えていなかった、ということも考えられるのだ。

 またそれよりまず史実どおりに戦闘が進んだら、ジオン軍の総攻撃にドラケンE改では到底耐えられないのでは、という問題がある。

 

(まずいでしょこれ! どう考えても死んじゃうから!)

 

 ミヤビはこの危機を脱しようと、頭をフル回転させるのだった。

 まぁ、素人の凡人が泥縄式に考えた浅知恵が、本気のシャアに通じるとも思えないのだが……

 

 

 

 ホワイトベースからの休戦の申し込みに、ガルマは思案する。

 

「どう思う、シャア。避難民を降ろしたいからという休戦理由は?」

「気に入りませんな。しかし……」

「ん?」

「敵がどういうつもりか知らんが、こちらも時間が稼げる」

「それで?」

「足の遅い陸上兵器を今の内に補強すれば」

「我々の勝利の確率は高くなる訳か。よし!」

 

 意気込むガルマに、シャアは、

 

(どうもお坊ちゃん育ちが身に染み込みすぎる。甘いな)

 

 と冷笑を浮かべようとするが、その背筋がぞわりと粟立つ。

 シャアの背後からの視線。

 その主は振り返らずとも分かる!

 というか怖くて振り向くことができないシャア。

 

(イセリナ・エッシェンバッハ! きさま! 見ているなッ!)

 

 心の内で声にならない絶叫を上げるシャアだった。

 

 

 

「なんで壊しちゃうのー?」

「もったいないじゃん」

「にゃんにゃん」

 

 ホワイトベースの船体中央にある第三デッキで輸送機、ガンペリーの機体に爆薬を仕掛けるカイは、子供たち、カツ、レツ、キッカにまとわりつかれていた。

 なんだかんだ言って、子供たちには嫌われていない。

 その辺がカイの隠された人の好さを如実に示しているのだが。

 

「うるせえな! 穴開けとかなきゃごまかせねえんだとよ!」

 

 カイはそう叫んで起爆スイッチを押す。

 ミヤビの知る史実と違うのは、コンテナ中央両面に細工をしているということだった。

 その他にも、ミヤビの提案で作戦には色々と変更が加えられているのだが。

 

「うわーっ!」

 

 爆発に悲鳴を上げる子供たち。

 

 

 

 着々と進むジオン軍の陸上兵器配置。

 

「シャア、君の言うとおり陸上部隊には対空車両を加えたぞ」

 

 この戦いのため呼び寄せられた対空戦車マゼラフラックはマゼラ・ベースに四連装75ミリ機関砲を搭載したもので、弾薬は後のグフの左手に装備されるフィンガー・マシンガンと共通。

 砲塔後部に捜索レーダーを、マゼラ・ベースの三連装35ミリ機関砲を外して追跡レーダーを積んでいるものだ。

 ミヤビの前世の記憶では『TACTICS別冊GUNDAM GAMES』つまりボードゲームが出典元だったが、実在しているのだった。

 

「これがあればドラケンのジャンプ攻撃を防げるのだな」

 

 と、ガルマはほくそ笑むが、

 

「いいや、無理だ」

 

 というシャアの言葉に驚く。

 シャアはガルマに説明する。

 

「対空戦車はあらかじめ飛行してくる航空機をレーダーに捉え、射撃準備を整えたところに敵機が飛び込んでくれるから有効なのだ」

「それでは?」

「ドラケンE改のように遮蔽物の陰に隠れて接近し、不意を打ってジャンプされると対応しきれない。砲を向けようと旋回させている間に敵は通り過ぎ、ジャンプを終えてしまうだろう。同様に、ザクのマシンガンで追うのも難しかろうな」

 

 大体ザクのマシンガンは初速が遅く大気圏内、重力環境下では弾道低進性、直進性が悪い。

 汚い言い方をすればションベン弾というやつで対空戦闘には向かないのだ。

 だからこそ地球方面軍では長砲身、高初速の対空砲を搭載した対空砲装備型ザクの開発が進められていたのだし。

 

 またそもそもの話として空を飛ぶ相手には、対空弾を使わなければ当てることは難しい。

 その対空弾もミノフスキー粒子のせいで近接信管が作動しないため、あらかじめ定められた距離、高度で爆発し、敵機に破片の散弾を浴びせかける時限信管頼りになる。

 つまり有効距離が固定で近すぎても遠すぎても効果は発揮できないため、ドラケンE改のようにゲリラ的に襲い掛かられると対応できないのだ。

 

 なお『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』ではF2ザクがザクマシンガンに箱型マガジンにより対空弾をセットして使っていたが、これは連邦軍のモビルスーツに対抗して貫通力を上げた新型、MMP-78であり現在使われているM-120A1とは口径こそ同じだが別物である。

 当然、現時点では存在しない。

 

「それではなぜ君は対空戦車の配備を要請したのだ?」

 

 ガルマの疑問はもっともだ。

 シャアは端的に答える。

 

「牽制のためだ」

「牽制?」

「ああ、ドラケンE改のジャンプによる機銃掃射は、地上部隊において航空支援を必要とする場面で即座に自らが飛んで対応できるというものなのだろう」

 

 シャアは正確にそのドクトリンを見抜いていた。

 

「しかしな、ガルマ。例えば対空陣地を攻略するのに航空支援を求める者が居ると思うか?」

「それは……」

「居ないだろう? 戦車を使うか砲兵を使うかモビルスーツか。いずれにせよ地上戦力で戦うはずだ。そしてドラケンE改はジャンプ抜きでも陸戦兵器として通用する性能を持っている」

「……つまり対空戦車を配置しておけばドラケンはジャンプによる機銃掃射を避けるようになる。それにより一方的に撃破される危険は減るわけか」

 

 ガルマもようやくシャアの目論見を理解する。

 

「さすがシャアだな。フフ、これなら必ず勝てる」

 

 笑顔で断言するガルマだったが、しかしその姿を見るシャアは仮面の下で眉をひそめていた。

 

(分かっているのか? これで勝てねば貴様も私も無能と思われるのだぞ)

 

 背後からプレッシャーをかけてくるイセリナの笑顔が恐ろしいということもあったが、失敗したらこれにガルマの上司であるキシリアの射殺すような視線が加わるのだ。

 シャアでなくとも全力で回避したい事態だった。




 ガルマの善意の配慮で逃げられない立場にハメられ、真面目に戦わざるをえないシャア。
 そしてそのシャアのドラケンE改への対策でした。
 マジのシャアにミヤビやホワイトベースの面々の策がどこまで通用するかですね。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第8話 戦場は荒野 Bパート

 ホワイトベースから避難民たちを乗せた輸送機、ガンペリーが飛び立つ。

 モビルスーツを空輸するなど多目的に利用される大型機だが、ホワイトベースにはこれ以外に人員を輸送できる手段が無いのだからジオン軍から見ても不自然にはならないだろう。

 

「もう引き返せませんよ。いいんですか?」

 

 アムロは息子を抱くペルシアに聞くが、

 

「覚悟はできてます。どんな事があってもこの子を大地で育ててみたいんです。こんな気持ち、あなたにはわからないでしょうね」

 

 その決意は固かった。

 アムロはそれを受けて、

 

「地球には住んだことはありませんから」

 

 と答える。

 実際には幼少期には地球に住んでいたアムロだったが、幼い子供にとっては家の周りの限られた範囲が世界のすべて。

 その限りにおいては地球でもコロニーでも大きく変わることは無いため実感が無い。

 だからあえてそう答えることでペルシアの言葉を受け流していた。

 少しずつ、手探りではあるが対人スキルを学びつつあるアムロだった。

 

 

 

 一方、コクピットでは、

 

「来ましたよ」

「うん、予定通りだな」

 

 ホワイトベースの何でも屋、ジョブ・ジョン。

 そしてリュウが接近してくるジオン軍偵察機、ルッグンを確認していた。

 

 

 

「こちらビッグ・ジョン。ホワイトベースの搭載機を確認しました」

 

 コードネーム『ビッグ・ジョン』、ジオン軍の偵察機ルッグンはガンペリーに接近、旋回して追尾する。

 お偉方は『木馬』という仮名称を使い続けているが、実際には『ホワイトベース』という正式名称も判明しており、ジオンサイドでは呼称が混在することになっていた。

 

『何か変わった点はないか?』

「コンテナ状の胴体中央に弾が当たったような穴があります。いや……」

『どうしたビッグ・ジョン』

 

 ルッグンはガンペリーとの相対位置を変えて確認、レーザー通信に乗せた画像と共に報告する。

 

「貫通しておりますね。破損部分から反対側が見通せます」

 

 

 

「思い過ごしか? いや……」

 

 ルッグンからの報告に、つぶやくシャアだったが。

 

「どうしたシャア」

 

 そう問うガルマにシャアはかぶりを振って答える。

 

「モビルスーツを運んで潜り込ませるつもりかと思ったのさ」

「なるほど。しかし輸送機のコンテナには反対側まで見通せる穴が開いているのだぞ、無理だろう」

 

 

 

「上手く騙されてくれるといいんだが……」

 

 リュウはつぶやく。

 コンテナの穴についてはミヤビの発案を元に細工をしている。

 

「子供のころ、理科実験室でのかくれんぼで無敗を誇った方法よ」

 

 とのこと。

 前世、ミヤビの通った小学校の理科実験室には左右、二人ずつに振り分けられる四人掛けのデスクがあって、足元には収納があった。

 左右両側に引き戸が付いていて、どちらからも開けられるものだ。

 ここにミヤビは隠れるのだが、引き戸を左右両面、少しだけ開けておくのが見つからないコツだ。

 もちろん開けた部分にはみ出ないように身体は隠す。

 探す方は「隠れた場合、戸は閉めるはず」と思い込むため見落としやすい。

 注意深い者が念のため開いているところを覗いても、反対側まで見通せた時点で居ないと思うのが普通だ。

 だから騙される。

 しかし……

 

 

 

 ガンペリーの兵員輸送キャビンでは避難民たちと同乗していたミヤビやアムロたちが窓越しにルッグンを見ていた。

 

「みっ、ミヤビさん!?」

 

 思わず大声を上げてしまうアムロ。

 彼の視線の先では、ミヤビがルッグンのパイロットに向けめったに見せない自然な笑顔で小さく手を振っていたのだ。

 アムロの声に振り向いたときには、いつもどおりの人形じみた無表情に戻っていたが。

 

「どうしたの、アムロ」

 

 不思議そうにたずねるミヤビ。

 彼女が笑顔を浮かべたのは前世の記憶、史実での彼らルッグンのパイロットたちのことを思い出したから。

 前世も今も企業人の彼女にとって、人材、資源、金を湯水のようにつぎ込み溶かし続ける戦争は理解できない狂気の沙汰。

 そもそも戦争なんぞ外交オプションの一つに過ぎないのだから、適当にだらだらフォウニー・ウォー※している間に政治的決着をつけてくれればいいのに、と考えている彼女にとって、彼らが劇中、戦場で見せた優しさや人間臭さはとても好ましいものだった。

 

※第二次世界大戦初期における西部戦線では開戦はしているもののにらみ合うだけで実際に戦闘は無く、双方の兵士たちがタバコや菓子を交換し合ったり、敵前で堂々と日向ぼっこをしたりしていた。

 

 そんなミヤビの内心を知るはずの無いアムロは、とっさに何を言っていいのか口ごもる。

 どんなことを口にしたとしても嫉妬をごまかすための言い訳にしかならないような気がして。

 そして黙り込むアムロをフォローするかのように、ミヤビは隣を指さして見せる。

 そこではペルシアの息子、コーリーが無邪気にルッグンに向かって手を振っており、それを目にしたアムロも笑うことができた。

 

 

 

 ルッグンのコ・パイロットでひょろっとした若い兵士、コムがコーリーに気づく。

 

「機長、子供が手を振ってますよ」

「ああ」

 

 戦場に似つかわしくないその様子に、機長であるバムロも顔をほころばせ、手を振り返した。

 

 

 

 息子と共に外を見るペルシアは地上を見下ろしつぶやく。

 

「湖?この辺にあんな大きな湖があったのかしら?」

 

 

 

 ガンペリーを操縦するリュウの方でも湖に気づいていた。

 

「なんて湖だ?」

「爆撃された跡でしょ、きっと。どこに着陸しましょう?」

 

 ジョブの言葉にリュウは周囲を確認し、

 

「うーん、むこうがミッド湖だな。よーし、そっちに降りよう」

 

 ガンペリーは降下を開始。

 

「うん、住めそうな家もある。よし、着陸しよう」

「はい」

 

 リュウはキャビンの方を振り返って指示する。

 

「作戦開始だ」

「おう」

 

 カイたちはキャビンから出てコンテナへと向かう。

 カイは自分を見つめる子供、コーリーに手を振って、

 

「すぐ済むからねー」

 

 と言い残し扉を閉める。

 斜に構えたところのあるカイだが、カツ、レツ、キッカがなついているように、割と子供には優しい面を見せるのだった。

 

 

 

 ガンペリーの高度が下がり始め、コンテナ部に空いた穴から煙が吹き出る。

 それは監視中のルッグンでも確認された。

 

「おい見ろ、どういうことだ?」

 

 機長のバムロは驚き、ガンペリーに通信をつなぐ。

 

「おい、大丈夫か?」

『とうとうガタが来ちまったらしいぜ、みんな貴様らのせいだ。不時着する』

「了解」

 

 バムロは司令部へと報告。

 

「ボブスン、応答願います。こちらビッグ・ジョン」

 

 

 

『どうやら我々の攻撃が今頃になって効いてきたようです』

 

 ルッグンからの報告に、ガルマは苦笑する。

 

「運の悪い連中だ。監視を続けろと言え」

「了解」

 

 しかしシャアは考え込んでいる。

 

「気になるな」

「何が?」

『ローターの一つが止まりました』

「ん? 私の考えすぎか?」

 

 そう言いつつも、さらに深く考え込むシャア。

 

『さらに高度を下げています』

 

 

 

 ガンペリーのコクピットではリュウたちが緊迫した様子で操縦を行っていた。

 

「……不時着らしく見せるんだ、いいな?」

「わかってます!」

 

 木立をなぎ倒しながらガンペリーが不時着する。

 

 

 

「ヘヘッ、こういうのなら俺も好きなんだけどな」

 

 ガンペリーの貨物室で発煙筒を使って故障を偽装していたカイたち。

 そしてカイはなおも煙を吐き続ける手元の発煙筒を眺めながらこう漏らす。

 

「さすが軍用品。その辺の車に積まれてるやつと違って持続時間が長いぜ」

 

 これは父親が技術者でそちらの方面に造詣が深いためか、それとも一般の乗用車に安全装備として積まれているものをいたずらしたことでもあるのか。

 

「そうなんですか?」

 

 と感心するアムロにカイは説明する。

 

「ああ、火薬を使ってるからな。扱いに制限のない一般向けの車載品は5分で燃え尽きちまう。事故の時に知らずに焦って使うと無駄になっちまうから覚えておくといいぜ」

 

 これはミヤビの前世、旧21世紀の日本でも一緒だった。

 それ以上となると火薬類取締法の制限にかかってくるため警察や作業者向けの業務用になってしまうのだ。

 

 

 

「輸送機のコンテナには反対側まで見通せる穴が開いていた…… なるほど、そんな穴が開いていればモビルスーツを隠すのは無理だ」

 

 シャアは言うが、その声は到底納得したとは思えないものだった。

 

「だが、それは通常サイズのモビルスーツの場合だ」

「なに?」

「ドラケンなら十分に隠すことができるぞ」

「それは……」

 

 ガルマは虚を突かれた様子でうなる。

 

「わざと穴を開けて中を見せることで何も無いと思い込ませようとしていた、と?」

「あるいは」

 

 こんな風に、ミヤビの策はシャアに見破られていた。

 シャアもガルマの参謀長になっていなければ本気では警戒せず見落としていたかもしれないが……

 シャアは大胆不敵な男だが、それは高い警戒心と両立する。

 慎重に、慎重に場を見定め、機を見て一気呵成に攻める、その思い切りの良さが彼の神髄だ。

 そうでなければ生き残れなかった出自が、シャアをそうさせたのだろう。

 本気の彼に、ミヤビごとき凡人の小細工が簡単に通用することは無いのだ。

 

「ガルマ、連中に貨物室の中を見せるよう要求するんだ」

「ああ、分かったシャア」

 

 

 

「なにっ! 見破られたのかっ!?」

 

 ジオンからの要求に、目をむくリュウ。

 

「どうします、リュウさん」

 

 と、不安そうに問うジョブに、

 

「仕方あるまい。側面ハッチを開くぞ」

 

 と答える。

 

 

 

『不時着した機体の貨物室、側面ハッチが開きます』

「なに、内部を確認しろ」

 

 ルッグンから、ガンペリーの貨物室内の映像がレーザー通信で届く。

 停止したローターへの動力伝達部に黒く焼け焦げたような跡。

 実際にはサラに自動制御されたドラケンE改がスプレーガン(ジムのアレではなく工業用の大型エアブラシのこと)で黒系統の塗料を使ってそれっぽく偽装しただけのものだったが遠目には分からない。

 そして小型の赤い人型の機体。

 

「ドラケン! おのれ謀ったな! 謀ったな、木馬め!」

 

 激高するガルマ。

 

『連中は作業用に運んできただけだと説明しています。その証拠に武装は外していると』

 

 画像を拡大し確認すると、確かにドラケンの両腕は非武装の作業用マニピュレータ、精密作業を担当する3本指ハンドと肘から先が二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を兼ね備えた二重下腕肢になっていた。

 また機体上面に備え付けられる筒状の短距離ミサイルも無い。

 しかし、

 

「そんな言い訳が通用するか! ドラケンは胴部にマニピュレータ接続用ターレットが用意されており目的に応じて肩から先を丸ごと、素早い交換が可能なのだ。そんなもの、いつでも付け替えられる。ミサイルも自力での装填が可能なものだぞ」

 

 ガルマはドラケンE改のカタログスペックを知っているため、そのような抗弁は通用しない。

 しかし、

 

『連中は作業が終わったらドラケンと共に帰投すると言っています』

 

 という通信に戸惑う。

 どうやって、とも思うが前回の戦闘でシャアが継続的に飛行を続けるドラケンE改を目撃していたことを思い出す。

 

「飛べる、のか?」

 

 そしてさらにルッグンからの報告が続く。

 

『貨物室上部に三つのコンテナが吊り下げられているのを発見しました』

 

 上空からは影になって見えなかったが、ルッグンが地上すれすれまで降下したので発見できたのだ。

 

「なに?」

『コンテナの一つが下げられています。内部は…… 荷物ですね』

 

 映像と共に報告が入る。

 コンテナの大きさは全部同じで、長さ、幅が4メートル以下、高さも2メートル以下。

 降ろされたコンテナの中身は避難民たちの荷物、他にも物資が詰められていたが……

 

「ミドルモビルスーツ、ドラケンですら入らない大きさだが、武装を隠すには十分。しかし連中はドラケンは引き返させるという」

 

 思案するガルマ。

 しばらくして、改めて報告が入る。

 閉め直されたガンペリーの貨物室ハッチ、そして避難民たちの映像と共に。

 

『避難民は老人四人、女二人、子供三人の計九人です。湖に移動、コンテナからドラケンが運び出したゴムボートと船外機で湖を渡るようです』

「どこに向かうつもりだ?」

『対岸に家が見えましたので、そちらに向かうものと思われます』

「シャア」

 

 ガルマはシャアに視線を向ける。

 

「湖に着陸した輸送機からモビルスーツが出てくる。私ならそうする」

「だが……」

「連中はそのつもりだった。だが見破られたことであきらめ、予定を変更したのかもしれん」

「そうだな、ドラケンが木馬に戻ることを確認できれば良いか」

 

 ガルマはそう納得するが、まだ他の可能性がある。

 だからシャアは念を入れ確認する。

 

「あとは残りの二つのコンテナだが…… ドラケンは分解組み立てが容易、などということも無いのだろう?」

 

 これには技術士官が答える。

 

「はい。両腕は目的に合わせ簡単に交換できますが他は…… 何よりあの大きさのコンテナでは胴体部が収まりません」

 

 そういうことだった。

 

 

 

「わしらはさっき見た家にとりあえず住むつもりじゃ。どうしてもSt.アンジェに行きなさるのか?」

 

 ゴムボートに乗り込む難民のリーダーである老人に、ペルシアはこう答える。

 

「ここからならたいしたこともありませんから。St.アンジェがなくなっていましたら皆様の所へ戻らせていただきます。では」

 

 

 

「ん? あの親子はどこへ行くつもりだ?この先は何もないぞ」

 

 ルッグンでもペルシア母子の様子は見て取れた。

 しかしコ・パイロットのコムがそこに注意を促す。

 

「機長、あれを」

 

 背中に背負う大気圏内飛行装置、パーソナルジェットでアムロたちは飛び立つ。

 そして、ドラケンE改が脚部に仕込まれたローラーダッシュで地上を走り始める。

 その背に装備されたオプションパックからスクエア型(ラム・エア・キャノピー)のパラシュートが放出され展開。

 そして、

 

「飛んだ!?」

 

 ドラケンE改はロケットエンジンの推力を利用し動力付きのモーターパラグライダーとして飛び立つ。

 なお今回は隠す必要も無いためパラシュートは通常素材でできたものであり、視認できる。

 

「パイロットおよびドラケンが脱出、ホワイトベース方面に向かいました。追いかけます」

 

 

 

 そしてガンペリーでは、

 

「ははは、ハヤト、やったぞ。引っ掛かった」

 

 身を隠していたリュウとハヤトが抱き合って喜んでいた。

 

 

 

 ルッグンはドラケンE改、そしてパーソナルジェットで飛ぶアムロたちを追いかける。

 熟練の兵士であるバムロは機体が起こす乱流に彼らを巻き込まないよう、注意深く飛ぶが、不意に隣のコムが真っ赤になったのに気づく。

 どうしたと視線を向けると、コムは、

 

「……あれ」

 

 と言って恥ずかしそうに顔を隠してしまう。

 見れば、少女のようにも見える若い女性兵士、セイラがこちらに笑いかけていた。

 照れるコムの様子がおかしかったのだろう、からかうようにウィンク一つ。

 

「………」

 

 バムロもまた苦笑するほかない。

 彼の部下は本当に純朴で。

 本来こんな戦場に居るべきではないやつなんだろうな、と思う。

 

「もういいだろう。ちょっと寄り道をするぞ」

 

 そう言うと、コムは呆れた様子で答える。

 

「あの親子が気になるんでしょう。怒られますよ」

「ガルマ大佐はまだお若い。俺達みたいな者の気持ちはわからんよ。よし、行くぞ」

 

 そうしてルッグンは機首を返した。

 

 

 

「あっ……」

 

 ガンペリーのコクピット、ジョブは近づくルッグンの機影を認め、慌てて身を沈め隠れる。

 

『どうしたジョブ・ジョン』

 

 閉じられた貨物室内、コア・ファイターのリュウから通信が届く。

 そう、貨物室上部に吊り下げられていた長さ4メートル以下、高さも2メートルに満たない三つのコンテナ。

 残り二つの中身はコア・ブロックに変形したリュウとハヤトのコア・ファイターだったのだ。

 偽装コンテナを廃棄しホイスト式クレーンで降ろしながら宙吊りの状態で機首とランディングギアを展開してコア・ファイターに変形。

 床面に降ろして出撃の準備を整えていたのだ。

 

 要するに小説『銀河英雄伝説』でヤン・ウェンリーが宇宙要塞イゼルローンを撤退するときに使った手だ。

 敵に発見させる前提で要塞に自爆トラップを仕掛け、それを解除させることで本命のソフトウェアへの細工を見落とさせる。

 それと同じで敵にドラケンE改を発見させ、安心させることで、コア・ファイターを見落とさせたのである。

 これは古来、戦場ではブービートラップ等で多用された手だ。

 例えばドイツ軍は地雷を三重に仕掛けるなどということをしていた。

 一個目を掘り起こして撤去しようとするとワイヤーでつながれた二個目が爆発する。

 二個目を発見して喜んでも三個目があるというもの。

 

「奴ら、引き返してきました」

『え?』

 

 気づかれたか、と慌てるが、しかしルッグンは上空をパスして行ってしまう。

 

『うん? どこへ行くんだ?』

『……リュウさん、急いで出撃しましょう』

 

 ガンペリーのセンサーから転送された敵の動きを見てハヤトが進言する。

 

『しかし休戦協定の終了までまだ時間があるぞ』

『でも気にならないんですか? 敵のパトロールが向かったのはあの親子の方ですよ』

 

 

 

「うまくいったのか?」

「わかりません」

 

 リード中尉は帰還したセイラたちに聞くが、そっけない返事が返るだけだ。

 ブライトは時計を確かめる。

 休戦終了、作戦開始まであと……

 

「結果は15分後には出ます」

 

 ということだ。

 

「さてミヤビさん、そしてアムロ、セイラ、カイ、やってみる自信はあるのか?」

 

 その問いに、カイが答える。

 

「ああ、戦場になる地形も見てきた。やってみるさ」

 

 そのためにこそ、彼らはガンペリーからパーソナルジェットで帰還したのだ。

 さらにドラケンE改ではサラが地形を観測、記録しておりそのデータがホワイトベースおよびモビルスーツ各機に共有されていた。

 

「よし、ガンキャノン、ガンタンク、そしてドラケンE改発進準備にかかれ!」

 

 ブライトの指示が下りた。

 

 

 

「あなた、コーリーを助けて!」

 

 怯えるペルシア母子に迫るルッグン。

 しかし、そこにパラシュート投下されたのは救援カプセルだった。

 

「あっ」

 

 着地後自動的にフタが開き、食料、医薬品など物資があふれ出る。

 見上げるペルシアの視線の先でルッグンの機長、バムロは敬礼を送った。

 

 

 

 そのルッグンに襲い掛かるハヤトのコア・ファイター。

 コア・ファイターは垂直離着陸機(VTOL機)機能を持っている。

 休戦時間が終わると同時にガンペリーの貨物室から垂直上昇で飛び立ったのだ。

 

「させるかぁぁっ!」

 

 罪も無い母子に襲い掛かる悪のジオン星人に正義の怒りをぶつけるハヤト。

 誤解なのだが、もちろん彼はそれに気づかない。

 

 

 

「うわっ!」

「わあっ」

 

 不意を打たれたルッグンはペルシア母子の頭上で被弾、炎上。

 

「スロットルレバーを絞れ!」

「は、はい」

 

 そうしてその先の湖に着水した。

 幸い、パイロットの二人は泳いで脱出していたが……

 

 

 

「ビッグ・ジョンからの通信が止まりました」

「どういうことだ?」

 

 シャアはいぶかしがるが、

 

「パトロールは放っておけ。戦闘開始だ。ドップ部隊は敵後方から圧力をかけろ! 陸上部隊の射程まで押し出すのだ!」

 

 ガルマは予定どおり戦闘を開始する。

 

 

 

 カイはガンタンクでモビルスーツデッキを微速前進。

 開いたハッチから下を見下ろすが……

 

「ちぇっ、もう少し高度を下げてもらえないのかい?」

『無理です。これ以上下げればホワイトベースが動けなくなるそうです。頑張って、カイさん』

「やってみるよ、フラウ・ボウ」

 

 そしてカイは、

 

「行くぞ」

 

 と機体底面、四基のロケットに点火して浮上、地上への降下を開始する。

 地上へのランディングに集中するカイ。

 セイラは周囲を警戒、ドップの動きを注視する。

 

『対ショック体勢、入ります』

 

 と、サラスリーのフォロー。

 キャタピラの基部自体を足のように引き出すことで着地の衝撃から機体を守るサスペンションの実ストロークを増やすのだ。

 そして着地。

 胴部を前後にかがめたりそらしたりする機能もフルに使ってショックを吸収するが、それでもコクピットに走る大きな衝撃にカイはうめく。

 

「ううっ、着地した。……うっ?」

 

 ガンタンクに向かって飛来するドップの機影。

 機銃の掃射とミサイルによる攻撃がガンタンクを襲う。

 

「うわあっ、ね、狙ってやがる」

 

 直撃はしなかったがミサイルの着弾、爆発に機体が大きく揺らぐ。

 

『トラベリング・ロック解除』

 

 サラスリーは急いで両肩の120ミリ低反動キャノン砲を支え故障を防止するトラベリング・ロックを解除し胸部上面装甲下に仕舞い込むが、至近に迫るドップを追尾するにはキャノン砲では難しい。

 だから砲撃を担当するセイラは叫ぶ。

 

「カイ!」

「お、俺だって、俺だって!」

 

 カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーでドップを迎撃する。

 こちらはもっぱら対空用途の武器で腕部に給弾システムも内装されていて連射も可能。

 濃密な弾幕を張ることでドップに対抗する。

 

 それにアムロのガンキャノンが、そして右腕のハードポイントに60ミリバルカンポッドを装着したミヤビのドラケンE改が加わる。

 まぁ、ドラケンE改は敵の攻撃に耐えられないので回避重視で逃げ回ってばかりいたが。

 しかしその姿は、

 

「カイ、ミヤビさんが囮になって敵を引きつけてくれているわ」

「ああ、あんな危険な真似をしてまで俺たちを助けてくれてるんだ。負けちゃいられねぇ!」

 

 という具合に見られていた。

 とんでもない誤解である。

 おかげでミヤビには敵の攻撃の他に味方からもピュンピュン弾が飛んでくるわ、撃墜された敵機が頭上から墜ちてくるわでそれはもう、最初からクライマックスといった感じだった。

 カイたちには分かっていなかったが。

 

【挿絵表示】

 

 

 

『ミヤビさん右右右ーっ! あーっ!』

 

 あーっ、って何!?

 

「ナビは具体的に!」

『じゃ、じゃあ、ライトターン!』

 

(ギャラクシーフォースIIか!)

 

 『ギャラクシーフォースII』はミヤビの前世にあったセガの大型体感筐体アーケードゲームだ。

 宇宙戦闘機を操る3Dシューティングで洞窟内で大きく旋回する場面では「ライトターン!」だの「レフトターン!」だの合成音声で指示が飛ぶものだったが。

 

(でもそれ、指示を聞いてからだと絶対に減速、旋回が間に合わないやつじゃない!)

 

 というわけで雰囲気を盛り上げる演出というだけで実際のプレイには何の役にも立たないものだった。

 生死がかかっている今のミヤビにしてみればシャレにならない。

 

 そんなミヤビの脳裏をよぎる走馬灯じみたネタはともかくとして、対空監視はサポートAIのサラに任せてジェットローラーダッシュでひたすら回避し続けるミヤビ。

 こうやって分業していなかったら今頃死んでいただろう。

 だが、そこに敵味方問わず火線が集中するからたまらない。

 何しろカイたちは戦闘に関する教育を受けていないがゆえに、フレンドリーファイヤ、友軍への誤射に対する配慮もまったく無しでぶっ放してくる。

 

(直撃しなくても、対空ミサイルの破片を被らせるのもアウトだから!)

 

 と思うが、横殴りのGに耐えながら右に左にと機体を振るミヤビに、それを指摘している余裕はない。

 したら確実に舌を噛む。

 場合によってはそれが元で死ぬ。

 死因がそんなではさすがに間抜けすぎる。

 

「っ、く!」

 

 落下してくるドップを間一髪回避する。

 

『カイさんたちはドップを落として私たちごと根絶やしにするつもりです!』

 

 味方からもろともに撃たれる危険に、サラの思考ルーチンも怪しくなっている。

 よほど怖かったのか、

 

『ドップが落ちる光景、あれは空が落ちてくるようなもの…… あんな景色は!』

 

 などと、どこかで聞いたセリフを垂れ流す。

 ミヤビはと言うと、

 

(安全教育、大事!)

 

 とカイたちに対する安全教育の実施を頭の中のToDoリストに最優先で登録していた。

 今の彼女にはそれぐらいしかできなかったから。




 戦闘前の駆け引きと戦闘の開始でした。
「戦場は荒野」は戦争の哀しさを描いた名作ですが、一方でホワイトベースとガルマ、シャアによる作戦、戦術の読み合いが面白かったものでした。
 それに見合うものになっていると良いのですが。
 たった二機のコア・ファイターに何ができるかは次回のお楽しみということで。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第8話 戦場は荒野 Cパート

 シャアは司令部で戦況を確認する。

 

「で、地上部隊は湖を背中にして木馬に向け進軍しているわけか」

「は、左翼のブラックジャックはまた3キロ移動しました」

 

 ミヤビの知る前世の記憶と違って、まだホワイトベースは地上部隊の射程には入っていない。

 ドップ部隊が押し出そうと圧力をかける一方で、地上部隊は前進を続けていた。

 

 史実ではこの時点でのホワイトベース側の戦力はガンタンクとカイが初めて乗るガンキャノンだけ。

 それに比べればアムロのガンキャノンに、何度も戦闘を潜り抜けているカイとセイラのガンタンク、そしてほとんど囮にしか役立っていないとはいえミヤビのドラケンE改が居て戦力は充実している。

 その辺が影響しているのかも知れない。

 

 そこに地上部隊から報告が入る。

 

「左翼後ろから戦闘機だそうです」

「な、なに?」

「ば、馬鹿な、どこから……」

 

 絶句するシャアとガルマだったが、

 

「何だ、例の軽戦闘機か」

 

 モニターに映し出された二機のコア・ファイターにほっと息を吐くと、即座に指示を出す。

 

「マゼラフラックで追い散らせ!」

「シャア」

「うむ、不意を打たれたが、モビルスーツでなければ、あの程度の戦力であれば戦局を覆すことはできん」

「木馬の悪あがきか。対空戦車を配置しておいたのが役に立ったな」

「ああ」

 

 しかしシャアの感覚に、何か引っかかるものがある。

 

「何だ、この感覚は…… 我々は何かを見落としている?」

 

 シャアはそうつぶやくと共に、仮面の下の瞳を細めた。

 

 

 

「畜生っ、対空戦車が邪魔で近づけん!」

『リュウさん!』

 

 リュウとハヤトは少しでも地上戦力を減らそうとコア・ファイターで接近を図るものの、マゼラフラックから上がる対空射撃に追いまくられる。

 ミヤビの前世、旧21世紀ではこういった対空車両は重層的に構築される対空網の最後の備え。

 それ単体では射程外からミサイルにアウトレンジ攻撃されるしかないものだったが。

 ミノフスキー環境下で誘導の効かないミサイルはロケット弾とあまり変わらず、当てるにはどうしても接近する必要があった。

 対空戦車の弾幕に妨害されては有効な攻撃を行うことができない。

 

 

 

 波状攻撃をかけるドップ。

 ホワイトベースは対空銃座に加え、火薬式の主砲まで使って反撃するが、

 

「そんな大砲で戦闘機が墜ちるか! ジェット機が登場したはるか大昔の時点で高射砲すら過去の遺物に成り下がってるっていうのに!」

 

 ドップのパイロットが言うとおり、実際にミヤビの前世の記憶にある自衛隊だってそうだった。

 ジェット機のスピードに対応できない高射砲は消え、射程の異なるミサイルによる迎撃に変わり、87式自走高射機関砲、通称ガンタンクによる迎撃は最後の手段になっている。

 ホワイトベースの主砲が吼えるが、放たれた砲弾はドップに当たることなく彼方に消える。

 

「どこを狙っている!」

 

 

 

 ホワイトベースの主砲による砲撃はジオンの地上軍の頭上を越え、その背後に着弾する。

 

「何だ、流れ弾か」

 

 と、彼らは流すが……

 

 

 

「地上軍を急いで散開させろ!!」

 

 シャアが叫ぶ。

 ホワイトベースとの距離を詰めるため、地上部隊はスピードの出せる障害の少ないルートを選んで移動中。

 つまり現状では戦闘前の、比較的密集状態にあった。

 これはまずい。

 

「どうしたシャア?」

「あれは流れ弾なんかじゃない」

 

 対空弾なら時限信管により一定高度、一定距離で爆発するはず。

 地上にまで届くはずが無いのだ。

 

「敵の狙いは間接射撃だ!」

 

 間接射撃とは重力により砲撃が山なりの射線を描く地上の実弾砲ならではの、目標が直接見えない状態で攻撃する射撃法だ。

 観測手からのデータを基に、目標が直視できずとも地平線や遮蔽物の向こう側の敵に有効打を与えることができる。

 『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』にてダブデ級陸戦艇の主砲が視界外から陸戦型ジムや61式戦車などからなる地球連邦軍地上部隊をぶっ飛ばしていたアレだ。

 ガルマは瞠目する。

 

「そ、そうか! 敵の戦闘機は観測手か! まずい、次は修正して有効射が来るぞ!」

 

 そう気づくが遅い。

 

「着弾! 地上部隊損害多数!」

 

 シャアが見抜くのがわずかに遅れた理由。

 それは、彼が今回降下するまで地球上での戦闘経験が無かったこと。

 またジオンの艦船はメガ粒子砲による直射が主体であり、彼自身の乗艦であるムサイもそうだったからだ。

 

(連中、重力を味方に付けるとは……)

 

 これが地球上での戦い、重力戦線か。

 シャアとて知識としては知っていた。

 だが経験が無かったことが仇となっていた。

 

「マゼラフラック、敵観測機を近づけるな! ドップ部隊は一部を回して敵観測機を排除するんだ!」

 

 即座に対応策を指示し、シャアは損害報告の酷さに歯噛みする。

 

「この威力、艦砲射撃ではないか。ぬかった……」

 

 艦砲射撃とはその名のとおり軍艦が搭載する砲で射撃を実施することだが、この場合は軍艦を浮き砲台として使用し陸上の目標を攻撃するものを指す。

 戦艦の主砲など、陸上の野砲などとは桁が違う大口径、大威力の砲が使用できるため高い効果が期待できる。

 直撃せずとも榴弾の爆発で吹き飛ばされるのだ。

 実際「戦艦の主砲は4個師団に匹敵する」と言われるほどで、ミヤビの前世でもアメリカ海軍が湾岸戦争で使用していた。

 

 なお、ミヤビの前世の記憶ではホワイトベースの主砲は880ミリ、弾頭重量2トン、地上での射程は約70キロメートルとする資料があった。

 戦艦大和の主砲が46センチ、対地用にも使われる榴弾、零式通常弾は一式徹甲弾と同等の弾頭重量1,460キログラムで最大射程は約42,026メートルだから、その威力は推して知るべし。

 ミヤビが見た資料が間違っているという可能性もあるが…… ミヤビにはAAAの機密であるホワイトベースの諸元を知ろうという気はこれっぽっちも無かったので真偽は確かめられてはいない。

 

 いずれにせよ、そんな化け物砲なので使う方も大変だったが。

 恐ろしいのは主砲発射により砲口から周囲に放たれる衝撃波。

 戦艦大和でも主砲発射時は甲板に居るとヤバいので艦の内外に警報ブザーを鳴らしていた。

 モルモットを使った実験では近いエリアではすべてつぶれ、少しぐらい離れても鼓膜が破れたり吹き飛ばされたりするという。

 そしてホワイトベースの問題は船体左右、主砲の近くに配置された対空銃座。

 これは有人のオープントップタイプなのだ。

 一応、船体、上甲板の陰になるらしいのだが、それでも主砲発射時には全身を殴りつけられるような衝撃が走る。

 ノーマルスーツのヘルメットが無ければ鼓膜が破れるし、シートベルトをきっちり付けていないと吹っ飛ばされるという人体に優しくないものだ。

 ミヤビにはどう考えても設計ミスとしか思えないものだったが。

 

 

 

「くそっ、ドップがこっちに来やがった!」

 

 悪態をつきながら、ドップからの攻撃を回避し続けるリュウ。

 

『リュウさん!』

「ハヤト、無理に戦おうとせず逃げろ! 避け続けるんだ!」

『はい!』

 

 こうして二人のコア・ファイターは上空をひたすら逃げ惑うことになる。

 

 

 

「おかしい……」

「どうしたシャア?」

 

 シャアはモニターで戦況を見つめ続けながら、ガルマに答える。

 

「幸い敵は単座の軽戦闘機。撃墜できずとも追い回せばパイロットは忙殺され、着弾観測、報告などできなくなるはずなのだが……」

 

 ホワイトベースからの艦砲射撃は現在も地上部隊を狙い続けている。

 

「ええぃ、木馬との距離を詰めろ、全速前進だ!」

 

 

 

「くそっ、当たらないのが奇跡みたいなもんだ!」

 

 激しく操縦桿とスロットルを操作しながら毒づくリュウ。

 シャアの目論見どおり、彼らに観測手を務めている余裕はない。

 しかし、

 

『諸元を転送。確認願います』

 

 コア・ファイターの教育型コンピュータにはサポートAIであるサラシリーズがインストールされているのだ。

 今回、コア・ファイターの左右両翼、翼下パイロンにはSHARP(SHAred Reconnaissancd Pod)、分割偵察ポッドとも呼ばれる戦術航宙/航空偵察ポッドシステムが搭載されていた。

 それを使って観測できたデータをサラシックスとサラナインが計算の上、レーザー通信でホワイトベースへと送り続けているのだ。

 

 

 

 コア・ファイターを観測機として使うのはミヤビの発案だったが、サラシリーズを利用することは当初、彼女の頭には無かった。

 何せ彼女はサラシリーズの存在を知らなかったのだから当然である。

 しかし偵察ポッドをコア・ファイターに取り付けるにあたり、サラシリーズと初めてのコンタクトがあって。

 

(ナニコレ)

 

 とミヤビは一瞬思考停止しかけたものの、

 

(まーたテム・レイ博士率いる狂的技術者(マッドエンジニア)たちの仕業かぁ……)

 

 と納得し利用することにしたのだった。

 これぐらいで一々驚いていては彼らと仕事をすることなどできない。

 

「サラより幼い感じ…… サラ・リリィとかそんな風? 初々しいわね、大元と違って」

 

 前世のネトゲ『Fate/Grand Order』における同一英霊の別クラス召喚みたいなものかと納得するミヤビ。

 そして間接的にディスられたサラはと言うと、

 

『これが若さですか……』

 

 と、どこかで聞いたセリフをつぶやきながらいじけていた。

 

 

 

「外れた?」

 

 ホワイトベースの主砲が地上部隊の後方に着弾したことに、ガルマは目を見開くが。

 

「やはりな」

 

 シャアは当然のようにうなずいていた。

 

「どういうことだ、シャア」

「敵は上空に位置している。ある程度以上接近してしまえばあの艦と砲の構成上、俯角は取れず狙えなくなるのだ」

 

 シミュレーションゲームで射程3~6などといった近距離の敵を狙えない長距離兵器みたいなものだ。

 

「なら……」

「いや、油断はできん。地上を浮遊する戦艦というのがそもそもおかしいのだ、やつらが更に狂った真似をすれば……」

 

 そしてシャアの危惧は現実になる。

 

「ドップ隊から報告です! 木馬の船体が前のめりに傾きだしました!」

「ちぃぃっ! やられた!」

 

 悪い予想が的中し、歯噛みするシャア。

 

「シャア、木馬は機関に不具合でも起こしたとでもいうのか?」

「違うのだ!」

 

 ガルマの思い違いをシャアは遮って言う。

 

「やつらは、艦自体を傾けることで無理やりにでも俯角を取り撃ち下すつもりだ!」

 

 それは従来兵器には無かった発想。

 ミノフスキークラフトで浮いているホワイトベースだからこそできること。

 そして従来の軍事的常識に捕らわれず自由な発想ができる、素人の集まりだからこそ思いつくデタラメな手段だった。

 無論、そんな無茶をすればホワイトベース艦内は阿鼻叫喚な状況になっているだろうが、史実では取り付いたグフを振り落とすために背面飛行までしたのだ。

 それに比べれば多少艦を傾けるなどいかほどでもない。

 

「部隊の突入を急がせるんだ!」

「更に距離を縮めるのか」

「こんな馬鹿げた対応にも限度がある。今を耐えれば勝機はあるはずだ」

 

 

 

 一方ホワイトベースでは、

 

「主砲、命中率低下。限界です!」

 

 という報告がブリッジに入っていた。

 アクロバティックな方法で俯角を取っても、想定外の運用ではさすがに命中精度が下がるのだ。

 ではどうするかというと、

 

「間接射撃、予定どおり切り替えろ!」

 

 ということになる。

 

 

 

「木馬の艦砲射撃が止みました!」

 

 ジオン軍司令部に報告が入るが……

 息をつく間もなく今度は別の砲撃が始まる。

 

「何だ!?」

 

 視界外から飛んできた二発の砲弾がほぼ同時に、やや離れて地面を穿つ。

 そして二射目の徹甲弾がマゼラアタックを貫いた!

 

 地球連邦軍の61式戦車で使われる手法。

 二門の砲をわざとずらして撃ち、着弾を観測。

 そして次の射撃でデータを基に修正した有効射を叩きこむというものだ。

 

「威力から言って戦車砲程度だが……」

 

 シャアは瞠目する。

 

「しかし、この射程はおかしいぞ。ザクのマシンガンはもちろん、マゼラアタックの175ミリ砲すら軽々とアウトレンジできるだと」

 

 

 

「カイ、次は右に5度修正」

「あいよー」

『環境データ入力。修正計算入りました』

 

 もちろんシャアを驚かせた砲撃の正体は最大射程260キロメートル、東京から撃って名古屋近くまで届くという頭がおかしい(誉め言葉)超兵器、ガンタンクの120ミリ低反動キャノン砲によるものだ。

 ミノフスキー粒子環境下では通常、有視界射撃しかできない。

 そのため宝の持ち腐れになっている超超長距離射程だが、観測機を出して誘導するならその限りではない。

 地形データは計測済みな上、レーザー通信による詳細なデータ転送が可能な晴天なら更に。

 実際にミヤビの前世の記憶においても『機動戦士ガンダム第08MS小隊』第10話「震える山(前編)」で登場の量産型ガンタンクが間接射撃を行っていたし。

 

『第三射、命中を確認。続いて第四射準備にかかります』

「ええ、お願いよ」

 

 サラスリーのサポートもあるが、ニュータイプの片鱗か、かなりの正確さで間接射撃を決めるセイラ。

 だが、不意にガンタンクの機体に衝撃が走る。

 

「き、来やがった」

 

 カイがうめくように言う。

 とうとうマゼラアタックとザクによるジオン軍地上部隊がホワイトベース部隊を射程に捉えたのだ。

 これまでのうっ憤を晴らすかのような、猛烈な射撃がガンタンクを襲う。

 

「ちくしょう!」

 

 カイはガンタンクの両手に装備された40ミリ4連装ボップミサイルランチャーで反撃するが、

 

「ああっ…… た、弾が、弾がない……」

 

 ドップとの防戦で弾薬が消費されていたため、あっという間に弾切れに陥る。

 

「うわあっ!」

 

 至近に着弾する砲撃!

 マゼラアタックが備えるのは175ミリの大口径砲。

 これから放たれる装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS、作中ではペネトレーター弾と呼称)は『機動戦士ガンダム第08MS小隊』にてルナ・チタニウム製の装甲を持つ陸戦型ガンダムの脚部を破壊。

 また『機動戦士ガンダム』第21話では成形炸薬弾(HEAT弾:High-Explosive Anti-Tank)と思わしき弾薬でガンダムの背に装着されたシールドを一撃で破壊し、その下のランドセルにまで損傷を負わせているものだ。

 ルナ・チタニウムの装甲を持つガンタンクでも、バイタル部に直撃を受けると危ない。

 絶体絶命のピンチに、カイの脳裏にも死神の姿がちらつく。

 だが、

 

「いいぜ……」

『カイさん?』

 

 何を思ったかカイはガンタンクの両腕を持ち上げる。

 

「死神のやつが俺たちの命を好き勝手にできるってなら」

 

 すでに弾倉は空で、何の役にも立たないはずの両腕を、

 

「まずはそのふざけた現実をぶち壊す!」

 

 右手は上段、セイラの乗る頭部コクピットを、左手は中段、カイ自身が乗る腹部コクピットをガード。

 バイタル部を守る盾にする!

 

 

 

(そげぶっ!?)

 

 カイの取った策というかガンタンクのポーズに、ミヤビは前世で有名だったAA(アスキーアート)を思い出し吹き出す。

 『そげぶAA』でネット検索すると出てきたやつだ。

 元々あったかっこいいポーズのAAに小説『とある魔術の禁書目録』の主人公、上条当麻の決め台詞「その幻想をぶち殺す!!」(略称「そげぶ」)を合成したもの。

 

(が、ガンタンクであのポーズを見ることができるなんて……)

 

 

 

 カイはルナ2脱出後、アムロがモビルスーツの格闘戦への参考としてミヤビから少林寺拳法の防技についてレクチャーを受けているのを横目で眺めていた。

 その中にあったのが『横十字受け』

 片手で内受けを使って上段を守り、同時に反対の腕で打払い受けで中段を守るもの。

 スピードが速く連撃もある少林寺拳法独特の受けで、上段、中段どちらに攻撃が来ようとも、また連撃でほぼ同時に打ち込まれようとも対処できるものだ。

 さらに膝を挙げて膝受け、フットブロックを併用すれば『三連防』という技になるが、足の無いガンタンクには参考にならない。

 他にも少林寺拳法には片手で上受けと内受けの段受け(片手で二度以上続けて受けること)をしながら反対の手で下受けを同時に行う『二連防』という技がある。

 シャアの動きに追従しきれないアムロにとって、どこに攻撃が来るか分からない状態でも防御できるというのは有効で、カイも感心して見ていたのだ。

 

 そしてカイは、マゼラアタックが使う成形炸薬弾についてミヤビから教えてもらっていた。

 火薬の力が産み出すメタルジェットで装甲に穴を開け内部を焼き尽くす弾頭。

 しかしメタルジェットの有効距離はわずか数十センチ程度であり、装甲の手前にイスラエルのメルカバ戦車のように鎖のカーテンを吊るしたり、柵状の防御を施すことで無効化できる。

 

 カイは死を目の前にした極限状態において、弾倉が空になって誘爆の危険が無くなった両手を少林寺拳法の防技を参考に上段中段を同時にカバーする盾とすることでコクピットを守ることを考え付いたのだ。

 

 

 

 そしてミヤビはというと、

 

(『バトルテック』でも誘爆の恐れのある弾薬はさっさと使い切っておくと安心だったしねぇ)

 

 と考える。

 バトルテックは旧20世紀のウォー・シミュレーションゲーム。

 メックと呼ばれる搭乗ロボットは、機種によっては致命的命中を食らうと弾薬誘爆で一撃死というものもあった(クルセイダーやマローダー……)

 誘爆が怖いから最初から弾薬積まずに出撃するわ、というプレーヤーも居たぐらいだし。




 コア・ファイターを観測機として使っての艦砲射撃に間接射撃でした。
 まぁ、軍事的セオリーどおりですよね。
 作中でもありましたとおり、『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』でもやってましたし。
 そしてガンタンクで『そげぶAA』……

> 今回、コア・ファイターの左右両翼、翼下パイロンにはSHARP(SHAred Reconnaissancd Pod)、分割偵察ポッドとも呼ばれる戦術航宙/航空偵察ポッドシステムが搭載されていた。

『U.C.HARD GRAPH 1/35 地球連邦軍 多目的軽戦闘機 FF-X7 コア・ファイター』で再現されていますが、コア・ファイター両翼にはハードポイントがあって、パイロンの取り付けで空対空ミサイルAIM-77Dが使用できるようになっています。
 ミサイル、そしてパイロンを付けたままではモビルスーツに合体できないという問題がありますが、うちの話のリュウ、ハヤト機には関係ないので……
 そのため今回はミサイルの代わりに偵察ポッドを取り付けて、ということをやっています。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第8話 戦場は荒野 Dパート

 一方、アムロのガンキャノンはザクとの戦闘を引き受けていた。

 ミヤビの知る史実ではシールドを投げることでザクのコクピットを貫いたりと殺陣ならぬ盾が光った演出があった。

 まぁ、盾のフチは凶器だし。

 創作だとゴブリンスレイヤーさんがゴブリンの頭をこれでかち割っていたが、現実でも機動隊ではジュラルミンの盾のフチで相手の足を潰したり角で殴りつけたりなどしていたという話だ。

 

 ガンキャノンにはシールドは無いが…… 代わりになるものならあった。

 エルボージョイントアーマー。

 肘関節を保護するための装甲で、丸みのある形状は砲弾を受け流すために考案されたもの。

 腹部に腕を回せばシールドの代わりにコクピット部を守ることもできる。

 ミヤビの記憶の中でも後にジム・コマンド系の機体にも採用されていたやつだ。

 

 しかしもちろん、投げつけることなどできはしない。

 そのためアムロが取った策とは、

 

「斬影拳!?」

 

 それを目にしたミヤビの唇から驚愕の声が上がる。

 地面を滑るような高速の踏み込みから相手の胸板に肘打ちを叩きこむ突進技!

 ミヤビの前世において格闘ゲーム『餓狼伝説』およびその後継ゲームで登場のアンディ・ボガードの代名詞とも言える必殺技である。

 

 モビルスーツの大質量を乗せた攻撃に、ザクの正面装甲はあっさりと破られた。

 突き出したエルボージョイントアーマーの先端が胴部のコクピットを貫き無力化する。

 そしてミヤビを驚かせたのは、

 

「スラスターだけでホバー移動の真似事をするなんて!」

 

 という事実。

 アムロは左右の足裏に2基ずつ装備されている足底スラスターと背面のランドセル装備のメインロケットエンジン2基を使って、ごく短時間ながら疑似的にホバー移動してみせることで高速の踏み込みを可能としたのだ。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』登場のザクII FZ型も同様なことを行っていたが、この機体は統合整備計画の適用により生産されたもの。

 ドムで蓄積されたデータを生かしているからこそできるのであり、まったくのゼロから実戦でやってのけるなど、並みのことではない。

 

「胸部左右にある姿勢制御用スラスターを補助に、ほぼ体重移動だけで制御してみせた? そんなとんでもないことができるの?」

 

 うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそ、うそだ。

 そんなことできるやつはユーマ・ライトニングとか一握りのエースパイロットだけだぞー。

 

 とミヤビは内心、虚ろにつぶやきながら自分の目を疑う。

 マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』にて主人公レッド・ウェイラインがユーマ・ライトニング操る青いゲルググの機動を見て、

 

「何てヤツだ! スラスターだけでホバー移動の真似事してやがる」

 

 と驚いているように本来は熟練のエースパイロットのみが可能とする技だった。

 しかし……

 どうして今のアムロにそれができるのかというと、もちろんミヤビのせいなのである。

 

 まず第一に、こうしてみようとする発想が無ければならない。

 そしてアムロが発想のもとにしたのが、ミヤビが開発したドラケンE改のジェットローラーダッシュなのだった。

 モビルスーツの二本の足で走るのではなく、滑走により実現される高速移動。

 もちろんガンキャノンの足にはローラーダッシュ機構など内蔵されていない。

 では代わりになるものは無いか。

 そう考えて、アムロは発見したのだ。

 左右の足裏に2基ずつ装備されている足底ロケットエンジンを。

 これにより機体を浮かせ、ドラケンE改のジェットローラーダッシュと同様に背面のロケットエンジンで加速する。

 そうやって産み出されたのが、先ほど見せた疑似的なホバー移動。

 ドムの登場以前に達成してしまった移動法なのだ。

 

 そして第二に、この移動法に必要な高度な機体制御を可能とする手段。

 それが……

 

 

 

 自分の城と化した工作室で、手を叩いて喜ぶテム・レイ博士。

 

「よくやったアムロ、サラツー、いやAIプログラム、サラを提供してくれたミヤビ君のおかげか!」

 

 と、モニター越しに見るガンキャノンの活躍に満面の笑みを浮かべる。

 

 そう、この技の成立に大きく寄与しているのがミヤビが育てたサポートAI『サラ』と共通のAIプログラムを持つ『サラシリーズ』なのだ。

 『機動戦士ガンダム』の謎として、どうして『学習型コンピュータ』ではなく『教育型コンピュータ』なの、というものがある。

 それに対する答えとしてとある書籍で唱えられていたのが、

 

 教育型コンピュータはパイロットの言葉や所作から意思を推測して、その操作を補足する機能を持つ。

 要するにパイロットの考えや、やりたいことを察してフォローしてくれるのだ。

 この機能はパイロットの挙動をサンプリングすることでより精度を増し、技量の高くないパイロットにも熟練兵の操縦を可能とする。

 

 こうしてパイロットを教え、導きながら、同時に自らも成長していくという意味で教育型と名付けられたというものだ。

 そしてまさに人格を持ち、人間を、人の心を理解し、パイロットのために尽くす存在がサポートAIサラシリーズなのであり、彼女たちの存在があるがゆえに、教育型コンピュータはミヤビの知る史実を超えてパイロットのやりたいことを先回りしたり補足したりして助け、機体を自由に制御できるのだ。

 

 つまり先ほどの技はアムロとサラツーの深い相互理解、二人の間の絆が生み出したものなのだった。

 

 

 

 地上部隊の劣勢に、ドップ隊もホワイトベースにミサイルで激しく攻撃を加える。

 ミノフスキー粒子によりミサイルの誘導が妨害されている状況ではミサイルはロケット弾のように直射するしかない。

 低空に浮遊するホワイトベースには上空から急降下爆撃機のように撃ち込むしかないが……

 

「なにっ!?」

 

 驚いたことにホワイトベースは横にスライドするという動きでそれをかわす。

 

「おおっ!! なんだありゃあ……」

「ふざけやがって、あんなカニ走りでミサイルを避けるだと!?」

 

 そして外れたミサイルは誘導が効かないため直進し、地上の味方へと降り注いだ。

 

「いかん、同士討ちになるぞ。攻撃中止」

 

 慌てて指示が下りる。

 ホワイトベースがミサイルをかわすことができたのも、外れたミサイルが地上のマゼラアタックに命中したのも偶然、たまたまかも知れない。

 だがフレンドリーファイア、味方殺しは軍において許されないこと。

 可能性があるだけで、攻撃をあきらめねばならないことだ。

 その辺気にせず、というか可能性に思い至らずバカスカ撃っているカイたちホワイトベースクルーと違って、彼らは正規の軍人ゆえに行動が制限されるのだった。

 

 

 

 ルッグンを撃墜されたパイロットたち、バムロとコムはペルシアに手当てを受けていた。

 まぁ、バムロの手に巻かれる包帯も、彼がペルシア母子のために投下したものだったが。

 情けは人の為ならず、つまり「情けは人の為だけではなく、いずれ巡り巡って自分に恩恵が返ってくるのだから誰にでも親切にせよ」とは言ったものである。

 

「戦いはどうなってんでしょう?」

「さあな、どちらが勝つか」

「どちらが勝っても負けても、私のように夫をなくす人がこれからも大勢出るんでしょうね」

 

 戦場に近くにはあったが、この場の誰もがその勝敗には意味を見いだせていなかった。

 ある種の諦念があるだけだ。

 

「コーリー、おねむになったのね」

 

 ペルシアの幼い息子も母親の膝の上で眠っている。

 

 

 

「……ここまでだな」

「ガルマ?」

「退却だ。地上部隊は秩序を保って後退。ドップ隊にはそれを援護させろ」

 

 ガルマは頭を抱えたくなるような状態でも何とか己を保ち、冷静に指示を出す。

 それを見てシャアは、

 

(やはりガルマは変わったな)

 

 と実感する。

 無論、育ちの良さゆえの甘いところ、能力が追い付かないところはある。

 しかし人として正しく歩んでいるようにも思える。

 イセリナ…… は、まぁ例外として置いておくにしろ人望もあった。

 シャアにしてもザビ家への恨みを別にすれば、付き合いやすい友人であるのを認めることもやぶさかではない。

 

(彼を友として連邦と戦うのも悪くは無いか……)

 

 ふと考えるシャア。

 彼もガルマに感化され成長したのかもしれないし、また復讐の人生に倦んで、疲れて、どこかで救いを求めていたのかもしれない。

 しかし、もしミヤビがこのことを知ったら彼女の脳裏にはこんな言葉が過っただろう。

 

 人の性格がそんなに簡単に変えられ成長できるなら誰も苦労はしません。

 

 と。

 実際この後、敗北の責任をキシリアに厳しく叱責された上、臨時の移籍であるという不正規な立場故に自分だけドズルにも叱られるという理不尽な扱いを受けたシャアはザビ家への恨みを蘇らせ、

 

(先刻の、あの天使の囁きは、あれは夢だ。忘れてしまえ)

 

 とまるで太宰治の『走れメロス』を反転させたパロディ漫画『走れセリヌンティウス』のように自分に言い聞かせることになるのだった。

 

 

 

 手当てを受け終えたバムロはペルシアに礼を言うと、

 

「我々は原隊へ戻らなければなりません、今夜は救助カプセルで休むといいでしょう」

 

 と、勧める。

 救助カプセルは簡易シェルターとしても使えるのだ。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げるペルシア。

 バムロはコーリーの頭をなでてやると、

 

「ぼうず、強い男になって母さんを守ってやれよ」

 

 と、励ます。

 

「では」

 

 そう言って歩き出すバムロとコム。

 しかし彼は振り返って、

 

「奥さん」

「は、はい」

 

 戸惑うペルシアにバムロは今まで伏せていた真実を告げる。

 

「ここが一年前までSt.アンジェのあった所です。奥さんは湖の仲間の所にお帰りになった方がいいでしょう」

 

 その衝撃の事実に、ペルシアは何も無い荒野を見回し、

 

「え、ここが、ここが、St.アンジェ?」

 

 信じられないと泣き伏す。

 

「コーリー」

「ママ……」

 

 そのはるか上空をホワイトベースの光点が通過していった。

 

 

 

「いいんですかぁ、あの奥さん絶対誤解してますよぉ」

 

 そう気遣う部下の言葉に視線を向けることもなくバムロは歩き続ける。

 

「いいんだよ。彼女は地球連邦市民だ。自分の国を恨むのは彼女の、そして彼女の子供にとっても幸せなことじゃない」

 

 そう言って。

 

 

 

 ミヤビの前世の記憶では戦争によって失われる故郷、戦争の悲しさを描いたはずのこの話。

 後の調査で、ミヤビの存在がバタフライ効果を産み出したせいか、あるいは史実でもそうだったのか、St.アンジェはジオン軍の侵攻前に地球連邦軍の手によって更地に変えられた、という事実が判明している。

 実はSt.アンジェはもっと前に無くなっていなければならないはずの街だったのだ。

 グレートキャニオン、ミヤビの前世で言うグランド・キャニオン周辺地域は西暦1908年1月11日にアメリカ合衆国の国定公園となり、1919年2月26日に国立公園に指定された。

 この公園の誕生は環境保護運動の初期の成功例であると言われている。

 

 そして宇宙移民は人工飽和による地球環境の悪化も原因の一つ。

 過激な環境保護団体がここは自然保護の聖地だと位置づけ、その圧力でグレートキャニオン周辺地域は居住が全面的に禁止されることになったのだ。

 St.アンジェだけではない。

 観光客向けの施設やホテルが集まった公園内ビレッジエリアも廃棄。

 住民はコロニーへと強制移住させられ、グレートキャニオンには環境保護の監視員以外立ち入りが厳しく制限された。

 

 しかし、である。

 それらの情報はすべて伏せられたうえ、実際にはSt.アンジェの街は撤去されなかった。

 グレートキャニオンを管理する環境団体と地球に残ったエリート、連邦政府との癒着である。

「聖地に住み、それを見守るのは我々自然を愛する環境保護団体の崇高な使命」

 という主張により 元々の住民を追い出したSt.アンジェの街はそのまま環境保護団体の人間の居住地として利用されたのだ。

 そして一部を地球連邦高官のたちの別荘地としても提供することで(彼らはこれを査察と主張した)政府を黙らせる。

 禁止されているはずのグレートキャニオンへの観光も、彼らを満足させる特権として使われた。

 そしてジオン軍の地球侵攻を前にしてこの事実が明るみに出ることを恐れた地球連邦は、戦略的に何の価値も無いはずのSt.アンジェを慌てて爆撃し、そこを更地に変えた。

 リュウたちが見た湖畔に残ったわずかな家を残して……

 

 なお一年戦争中、連邦軍の地下組織に「St.アンジェの街はジオン軍の侵攻によって失われた」と吹き込まれた子連れの女性ゲリラが、ジオン軍の偵察機パイロットから治安部隊に左遷させられた兵士たちと激しい戦いを繰り広げ、最後はグレートキャニオン奥地で行方不明に。

 遭難中に助け合い、ぎこちなく心を通わせる彼女たちの前に連邦軍の地下組織の幹部が口封じに現れる。

 その正体はSt.アンジェの真実を葬り去ろうとする某環境団体の手の者。

 始末する前にと冥途の土産よろしく語られた真相に、彼女たちは共に反撃、そして無事生還。

 女性のお腹には彼女の息子の妹となる命が宿っていた……

 という一大スペクタクルがあったらしい。

 

 この事実をミヤビが知ったらこう言うだろう。

 戦争の悲しさを描いたいい話のはずが、どうしてこうなった。

 と……

 

 

 

次回予告

 ガルマ・ザビみずからがホワイトベースに攻撃を掛ける。

 ミヤビのせいでグダグダな状況に追い込まれたアムロは脱力する精神と身体に鞭打ってガンキャノンを操り、ついに空中戦を行わしめる。

 共にシャアの深い陰謀も知ら「――嘘を、ついておいでですね」

 次回『翔べるの? ガンキャノン』

 君は生き延びることができるか?




 ガンキャノンで斬影拳。
『走れセリヌンティウス』なシャア。
 そして自重しないペルシア母子のその後でした。
 あと次回予告に乱入してくるイセひー。
 いや、どうしてこうなった、と。

 ガンキャノンのエルボータックルはアーケードの格闘ゲーム『機動戦士ガンダムEX REVUE』でも必殺技になっていたり。
 あちらは斬影拳と言うより昇竜拳タイプの対空技ですが、斜め上30度に飛んで行くので突進技っぽくもあったり。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第9話 翔べるの? ガンキャノン Aパート

「アムロ、食事よ」

「アムロ、ショクジヨ」

 

 フラウ・ボゥは丸いペットロボット、ハロを連れてアムロの部屋を訪ねたのだが、

 

「アムロ?」

「アムロ」

 

 ノックに応答が無いのをいぶかしく思い、ドアを開けると、

 

「ミヤビさん、あまり近づかないでください。僕、シャワー浴びてないから汗臭い……」

「そう?」

 

 恥ずかしがるアムロを気にも留めない様子でミヤビはアムロの胸元に顔を寄せ、

 

 すうっと、

 

 匂いを、かぐ。

 

「私はアムロの香り、嫌いじゃないけど」

「……っ!?」

 

 一瞬で顔を真っ赤に火照らせるアムロ。

 

「あ、ごめんなさい。不躾だったわね。一緒に運動するとミライがいつも汗の匂いを気にしていたのをこうやって安心させていたものだから」

「い、いえ、そんな……」

 

 ミライの名誉のため、彼女は汗かきというわけではない。

 普通だ。

 しかし姉のミヤビは冬生まれのためか汗をかくことが少なく、しかも常にしれっとした顔で運動もこなすので、その対比で気にしているだけだ。

 ミヤビと違って乙女心が発達しているから、前世が男性であるが故、男の体臭すら気にしないミヤビの方がおかしいともいう。

 

 そして、

 

「ふ、フケツ……」

 

 ミヤビとアムロのイチャイチャ(まったくの誤解)を目にしたフラウは愕然とした様子でつぶやく。

 一方ミヤビはというと、きょとんとして、

 

「そう? 普通でしょ」

 

 と平然とした様子で言い放つ。

 もちろん彼女は、

 

(フケツって…… 男なんてこんなものでしょ。起き抜けにシャワーが必須なんてことも無いし。それともフラウのように年頃の女の子は潔癖になるのかな?)

 

 と、フラウの言葉をまったく違う意味でとらえているだけなのだが。

 そしてその様子がますますフラウの誤解を呼ぶ。

 ついでにアムロの頬も赤い。

 

 男性だった前世を持つミヤビは、異性に対する距離感がおかしい。

 妹のミライには危険だと散々注意されているのだが、自分の美貌と性的魅力に無頓着(というか意識すると死にたくなるので考えることを止めている)な彼女には自覚は無く。

 アムロもそんな年上の美女が無防備に距離を詰めてくるのだから、たまったものでは無かった。

 まぁミヤビは元日本人、現日系人種ゆえ、欧米人のような大げさに思えるボディタッチやスキンシップは無いため、他人とのふれ合いに慣れていないアムロでも拒絶感は無い。

 無いのだが、少しアムロの方から詰めれば触れてしまえるという意味で、非常に危険な、思春期の少年の理性をガリガリと削っていくような絶妙の距離となっているのだからタチが悪かった。

 ともあれミヤビは、

 

「アムロ、一緒に食事に行きましょう」

 

 と、彼を促す。

 ミヤビはアムロのメンタル状況を気遣って、彼を食事に誘いに来たのだ。

 彼女の知る史実だとこの時期、彼は非常にギスギスして消耗していたので。

 

 その行動が幼馴染ヒロインであるフラウの役目を横取りし、彼女を不機嫌にさせるのだが。

 ついでに言えばアムロに対しヒロインポジションで行動していることになっているのだが。

 一つのことに集中すると他に目が行かなくなるきらいのあるミヤビは気づいていなかった。

 

 

 

 なお、ミヤビの言っていたミライと一緒の運動とは例のアレだ。

 ミライの胸を育てるためのもの。

 妹のためにとミヤビは日ごろの運動に付き合っていたのだ。

 まぁ、同じメニューをこなしてもミヤビの方はちっとも育たなかったが、それは体質だろう。

 そもそもあんなに育っていたら今頃ミヤビは首を吊りそうになっているはずだし。

 

 そしてミライの胸についてはこんなエピソードがある。

 遡ること数年前、いい加減ミライの胸は大きく育っていたのだが、毎日一緒に居るミヤビには今一つ、そういう認識が無かった。

 子供の成長なども久しぶりに会う親戚には大きくなったと驚かれるが、毎日顔を合わせている家族には実感が無いというやつと一緒だ。

 まぁ、それでもEカップを超えFに、ともなると普通に考えれば簡単にわかる。

 こんなでかいヤツは、そうそうないってことぐらい……

 

 その日も日課の朝のジョギングをしていた二人。

 ミヤビはふと隣を走るミライを見て驚愕した。

 

(揺れない……)

 

 姉の視線に、姉妹ゆえの理解で何を言いたいか察したミライ。

 彼女は苦笑して説明する。

 

「気を付ければ揺らさず走れるの」

「技術……? 技術なの?」

 

 なお、Fカップともなると、その重さは片方1キロを超える。

 両方合わせて2キロ超過のそれをぶら下げて揺らさないとはどんな超絶テクニックかとミヤビは戦慄する。

 

「高さを一定に保つ足運びが肝心かしら」

「ああ、陸上競技選手なんて、フォームを見るとほとんど体幹が上下しないものね。軸がぶれないし」

 

 その時、ミヤビに電流走る。

 これだ!

 と。

 

 そのころミヤビはドラケンE改の歩行について行き詰っていた。

 ドラケンE改の原型機、ドラケンEでは歩行時の衝撃が酷すぎるため巨大なダンパーをかかとに装着して誤魔化していた。

 人型マシンの二足歩行における上下振動は激しく、標準のモビルスーツサイズになると走行に人間が耐えられないのではと心配されていたほど。

 その3分の1以下の全高であるミドルモビルスーツでもやはり振動は酷く、ドラケンEでも問題となっていたのだ。

 

 それに対しドラケンE改ではかかとにダンパーの代わりにローラーダッシュ機構が入れられている。

 

【挿絵表示】

 

 ローラーダッシュ機構にはスイングアーム式モノショック、バイクのリアサスに用いられることが多い、タイヤを保持するアームの根元に1本のダンパーを設置しているタイプのサスペンションが組み込まれ、またタイヤの弾力もあってある程度までは代わりとなるが、十分とは言えなかった。

 

 そんな時にミヤビに天啓をもたらしたのが妹、ミライのオッパイなのだ!

 マンガ『頭文字D』で主人公が車のカップホルダーに水の入った紙コップを置き、こぼさないように運転することでドリフトテクニックを磨いていたが、それをミライがオッパイを揺らさず走ることに置き換えたようなもの。

 ミライが知ったら、

「姉さんは人の胸を何だと思ってるの」

 と呆れられただろうが。

 

 そして……

 恥ずかしがるミライにピッチピチのサンプリング用スーツを着せて、あらゆる角度からその走行フォームを撮影するという究極の羞恥プレイをお願いするミヤビ。

 おまえは何を言っているんだ、であるが、姉には弱いミライなので、彼女は顔を真っ赤に火照らせながらも協力した。

 しかし鬼畜な姉は非道にもそのデータをメカニカルアーム、機械義肢の権威であるディック・ルムンバ氏に持ち込んだのだ。

 いきなり「何も言わずこれを見てください」と言われてオッパイを見せられたルムンバ氏も災難である。

 最初は『ヤシマの人形姫』がついに狂ったかと正気を疑われたらしい。

 ミヤビの中に居るはずの常識さん、仕事してください。

 

 なお、ディック・ルムンバ氏とはあの人だ。

『機動戦士ガンダム0080』でガンダムNT-1、アレックスの開発責任者だった車椅子の男性。

 劇中、モビルスーツは必要悪とも言うべきものであり、しょせんは人を幸せにすることなど出来ないと言い切った彼がどうしてオッパイに魂を売った…… じゃなくてミヤビに協力したのかというと、ドラケンE改は平和利用が主眼の作業機械であったこと。

 そしてミヤビのこんな説得からだった。

 

「自主規制に意味は無いのでは? 人類すべてを規制できるなら分かりますけど、ジオン公国って外国ができてしまった以上、連邦がやらなくてもジオンがやるだけですし」

 

 実際、ミヤビの前世、旧21世紀でもそういった話はあった。

 倫理観から欧米が遺伝子改変技術に規制を行っている間に、そういった縛りの無い中国がどんどん先を行ってしまうというもの。

 

「実現への道筋は見えていてあとは「やる」か「やらない」かだけ。そして人類に「やらない」という選択は無いと思います」

 

 そしてまた、

 

「あなたがまっとうに開発をすれば、非人道的な研究を減らせる。それは意味のあることだと思うのですが」

 

 ということもある。

 この世界ではどうか分からないが『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のリユース・サイコ・デバイスなんぞ、義肢技術を使ったが、そのために健全な兵士の手足を切断するなんていう所業をしていたし、そういう者が出る可能性はある。

 それ以上の技術を開発して人類の財産として公開、共有すれば、そんな研究も防げるはずなのだ。

 

「難しく考えず、これを利用して機械義肢本来の目的である平和利用に役立つ研究ができると考えていただけると良いと思います」

 

 最後にミヤビはそう言って深く頭を下げ、ルムンバ氏はうなずいたのだった。

 そうして固い握手を交わす二人はとても真面目な良い表情をしていたが、背景の大画面モニターにはダメな例として撮影されたオッパイがブルンブルンと暴力的なまでに揺れまくっている様子が大写しになっているあたり、酷い、酷すぎる絵面だった。

 ミヤビが時に発生させるマヌケ時空に引きずり込まれたルムンバ氏にはご愁傷様と言う他ない。

 

 そうやって開発されたのが『MIRAI・歩行アルゴリズム』である。

 もちろん名称の由来は非公開。

 巨乳を揺らさず走る妹のフォームを解析しました、とはさすがのミヤビにも公言できない。

 それでも名前だけでも、と感謝の意味を込めてのネーミングである。

 ミライが知ったら羞恥のあまりミヤビを道連れに心中しようとしただろう、ものすごく余計な気遣いである。

 

 そしてこの『MIRAI・歩行アルゴリズム』、画期的なのは人間と同じく身体全体、特に足腰で衝撃を吸収するということ、機械的な仕組みとしては各関節にある動作用アクチュエーターをそのまま衝撃吸収用ダンパーとしても利用するということだった。

 別途ダンパーを入れる必要が無く機体の簡素化、軽量化が図れるうえ、ストロークは脚部の可動範囲いっぱいとダンパーを内蔵した場合とは比べ物にならないほど大きくなる。

 将来、ガンダムMk-2で実現され、第2世代以降のモビルスーツの必須条件と呼ばれるようになったムーバブルフレームと同様の機構を備え、広い可動域を持つドラケンE改の脚部ならなおさら。

 なお実装には旧世紀の日本の戦車74式、10式の油気圧サスペンション(ハイドロニューマチック)による姿勢変更機能、つまりサスペンションの伸縮を制御して前後左右に車体を傾けるというサスペンションと姿勢制御アクチュエーターの一体化技術が参考にされている。

 

「そもそも制御が完璧なら義肢に衝撃吸収用ダンパーは邪魔なのだよ」

 

 ルムンバ氏はミヤビに対してそう語っている。

 

「制御プログラムの計算が収束しなくなるからですね」

 

 と、ミヤビは納得したが、そう言えば前世の記憶でも内部構造図を比べると、RX-78ガンダムには多数あったダンパーがガンダムNT-1、アレックスでは大変少なくなっていたものだった。

 マグネットコーティングにより不要になる、という説もあったが、歩行制御技術の進歩とルムンバ氏の技術もあってのことなのだろう。

 

 

 

「それじゃあフラウ・ボゥ、また後で」

 

 ミヤビはとある一室にアムロを押し込むと、フラウに別れを告げる。

 ここから先は彼女には立ち入り禁止だ。

 

「……っ!」

 

 フラウの顔が強張るが、ミヤビはそれに気づかない。

 そして部屋の中に入った二人を迎えたのが、

 

「待ちくたびれたぜ、お二人さん」

 

 というカイの言葉と、セイラ、リュウ、ハヤト。

 つまりパイロットの面々だった。

 そして彼らがつくテーブルには、暖かで食欲を誘う食事が用意されていた。

 ミヤビはいつもの変わらぬ表情で、しかしその声音にわずかに漏れ出る柔らかさを乗せて答える。

 

「お待たせ。それじゃあ皆でいただきましょうか」

 

 そう言ってテーブルに着く。

 なぜ彼らだけで食事をするかというと、パイロット同士で同じ釜の飯を食う、つまり相互理解とチームワークを深めるといった意味もあったが、他にも、

 

「どうしたハヤト、食べないのか?」

「リュウさん。僕たちだけこんなに食べてもいいんでしょうか?」

「うん?」

 

 ということがあった。

 ミヤビの知る史実ではアムロとリュウにだけパイロット向けの十分な量の食事が出され、それに対しカイがタムラコック長に文句を言う。

 避難民と一緒のテーブルで食べさせられたアムロが彼らとの食事の落差と、子供の食事を盗み食いする老人の汚さを目にし食べる気を無くすなどといったことがあった。

 それゆえミヤビはパイロットのみで集まって食事ができるよう調整したのだが。

 

 しかしとうとう、ハヤトは食事の差に気づいてしまった。

 あるいは彼自身文句を言われたのか、避難民たちの不満を耳にしてしまったのか。

 

 仕方が無いな、とミヤビは口を開く。

 彼女は口の中に物を入れたまましゃべらないようしつけられているので、少しタイミングが遅れたが。

 

「これは絶対、ここだけの話にしてほしいんだけど」

 

 そう前置きして話したのは、

 

「実際には食料は十分にあるのよ」

 

 ということ。

 

「えっ?」

 

 絶句するハヤト。

 それはそうだろう。

 ミヤビも確認して驚いたのだから。

 

「タムラコック長はプロの料理人よ。そして兵隊の食事のカロリーは作業量によって決められている」

 

 つまり、

 

「私たちのような身体をフルに使うパイロット以外は、この船に閉じ込められた避難生活でみんな慢性的な運動不足の状態に陥ってるわ。そんな人たちに適正なカロリーの料理を出すと、どうしてもボリューム不足に感じられるものになるのよ」

 

 特に避難民たちの多くはご老人。

 基礎代謝、カロリー消費は決して高くないこともあり、入院患者への病人食みたいになってしまう。

 それでもタムラコック長は懸命に工夫して、何とか満足感が得られるよう美味しいものを作ってはいるのだが。

 

 なおミライにはヘルシーでダイエットになりそうだと喜ばれている。

 重力下に降りて、その二つの巨大な質量がもたらす慢性的な肩こりに悩まされているからだ。

 ブリッジでは時々舵輪の上に乗せることでこっそり休んでいる、というのはミヤビとムッツリスケベ…… ブライトだけが気づいている事実だ。

 舵輪から飛び出ている握り棒、握把を胸の谷間に挟むことになるので絵面がとんでもないことになっているのだが、ミライはまだ気づいていないらしい。

 

 とりあえずミヤビは「それを減らすなんてとんでもない」と言っておいた。

 お約束だから。

 ミライには「お約束なの?」と微妙な表情をされてはいたが。

 まぁ、そんなオッパイの話はともかく、

 

「だ、だったらなぜそれを説明しないんです?」

 

 というハヤトの疑問はもっともだ。

 しかし答えは簡単。

 

「あると分かったら我慢できなくなるでしょう?」

 

 そういうことだった。

 

「カロリーや栄養を気にせず食事を作ることもできるわ。そうしたらタムラコック長が文句を言われることも無い」

 

 しかし、

 

「でもそれは料理人の命にかけてできないって言うのよ。文句を言われてもかまわない、陰口を叩かれてもいい。乗船した時より、船を下りるときの方が健康になっている、それが船のキッチンを守るコックの使命だってね」

 

 ミヤビも甘味など高カロリーの食事はストレスを和らげる働きがあるのでメンタル面にも配慮してほしいかな、とも思うが。

 しかし料理の分野では自分よりはるかに高い知識を持つプロに意見できるほど彼女は独善的にはなれなかった。

 

 しかしまぁ、ミヤビもホワイトベースの台所事情がこうなっているとは予想できなかった。

 前世で見た『機動戦士ガンダム』の記憶が強いのと、戦争はひもじいもの、という日本人の先入観ゆえか。

 

 実際には地球連邦軍の根幹は旧アメリカ合衆国のもの。

 そしてアメリカ軍はいいものを十分に食べていたのだ。

 戦争中の不満も、

 

 肉類がスパム(ソーセージの中身を缶詰にしたもの)ばっかりで飽きた。

 今日あたりベースからステーキが飛んで来ねぇかなぁ。

 

 とか、

 

 日本軍が鹵獲してその豪華さに目を見張ったという戦闘食、Kレーションだが、アメリカ兵たちは必要なカロリーや栄養は足りてるとは言うけどメニューは単調だし満福には程遠いしで『恐怖のKレーション』と陰口を叩いていた。

 

 といった贅沢なもの。

 

 そして思い起こせばマンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』ではゴップ議長、現在のゴップ大将が「兵士が必要だった物を揃えられたとの自負があるがね」と語り、それにヤザンが一年戦争に従軍した経験から「少なくとも小官は戦場で飢えたことは無い」と証言している。

 

 またブライトたち上位者はこの時点で武器弾薬の心配はしていても食料の心配はしていなかった。

 無論、この世界とは違い、史実では本当に食料が貧窮していた可能性もあるが、それはミヤビにも分からないことだ。

 

「まぁ、そんなだから気にせず食べましょう。食事を楽しむことも厳しい時には大切なことよ」

 

 ミヤビはそう言って、皆に勧める。

 

「どんな場合でも一番大事なことは食事が美味しく食べられるということ。美味しく食べられさえすれば、どんなにつらい状況でも最後まで気力が続くわ」

 

 そうミヤビに重ねて言われ、ハヤトは納得した様子で食べ始めるのだった。

 

 

 

 なお、アニメ制作者やファンの価値観の変化や世代交代もまた興味深いものがあるとミヤビは感じている。

 

『機動戦士ガンダム』では食料の不足を軍隊をリアルに描くために使っていた。

 しかし一方で食べ物に執着を見せる老人とは対照的に、良いものを食べられるということがモチベーションにはつながらないアムロ、つまり若者世代を描いているとも言える。

 

 さらにその後、制作された『超時空要塞マクロス』では軍隊を描くのに食料の貧窮ネタを使ってリアリティを出そうとはしなかった。

 これは河森正治氏ら制作陣が「アメリカ軍を基準にしているから」「実際にいいもの食べてるって知ってるから」と後の対談で語っている。

 

 そして『新世紀エヴァンゲリオン』ではご褒美にステーキをおごると言う上司、葛城ミサトに対し、主人公のシンジとアスカは気を使って子供らしく喜んで見せた後、

 

「ごちそうといえばステーキで決まりか……」

「今時の子供がステーキで喜ぶと思ってんのかしら。これだからセカンドインパクト世代って、貧乏臭いのよねぇ」

 

 と嘆いている。

 これは太平洋戦争と戦後の物の無い時代に育った世代の影響下にある「ごちそうと言えば肉」「逆に言えば肉抜きの食事は貧乏くさい」という価値観。

 また、いいものを食べるなどといった物質的な報酬がモチベーションにつながっている世代の価値観の押し付けに対し、「今時ハングリー精神みたいなこと言われてもピンとこない」という若者の世代を描いているわけだ。

 ベジタリアンである監督に古い世代の人間が相当に圧をかけたのだろう。

 

 娯楽作品は時代の価値観や道徳の象徴でもある。

(その価値観が良いとか悪いとかの話はまた別問題として…… というより自分の価値観を押し付けたり他人の価値観を尊重することなく否定したりする方が問題)

 そういった視点で考えると、また見えてくるものがあるのだった。




 ドラケンE改の『MIRAI・歩行アルゴリズム』開発秘話。
 そしてホワイトベースの台所事情でした。
 しかし、ここまで『オッパイ』を連呼する羽目になろうとは、この作者の目をもってしても見抜けなかった……

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第9話 翔べるの? ガンキャノン Bパート

「ええい、連絡はまだか?」

 

 ホワイトベースブリッジでは、リード中尉がいら立ちの声を上げていた。

 通信装置にはオペレーターをつとめるフラウがついていたが、

 

「無線入りました」

 

 ようやくのコンタクトに、リード中尉は勢い込む。

 

「参謀本部からか!」

「よーし」

 

 ブライトも、やったとばかりにうなずくと、フラウの背後から通信装置をのぞき込む。

 

「こちらホワイトベース」

『防衛軍本部、通信解読回路、アルファガイン』

「アルファガイン、了解」

 

 少しぎこちないところがありながらも、暗号解読を行うフラウ。

 通信装置から吐き出されたメッセージカードをブライトが掴み上げ、そして消沈した声を漏らす。

 

「ホワイトベースは敵の戦線を突破して海に脱出することを望む。それだけです」

 

 ブライトからメッセージカードを受け取ったリード中尉は食い入るようにそれを見つめるが、そこにはブライトの言った言葉以上のことはどこにも書かれていなかった。

 

「助けにも来てくれないのか」

 

 期待していただけに、リード中尉の失望もまた大きい。

 

「おい、話はできないのか? 参謀本部と」

「無理です。ジオンの勢力圏内では暗号通信だって危険すぎます」

 

 と、なだめるのはブライトだ。

 フラウにはまだその辺、知識も無く気遣いもできない。

 まぁ、気遣いができないのは彼女の精神状態によるところもあったが。

 

「将軍たちはなんと思っているんだ?」

 

 リード中尉の憤りの声がむなしくブリッジに響く。

 

「現場を知らんのだ、戦場を!」

 

 

 

「みんな疲れは溜まってない? 睡眠は十分に取れてる?」

 

 食後のお茶を飲みながら、話を振るミヤビ。

 一番心配なのはアムロだったが、彼に直に聞くと男の子の見栄で虚勢を張る可能性もある。

 そのため話しやすいよう、全員に聞く形にしたのだ。

 まぁ、他のメンバーについても心配な面が無いわけでも無いので確かめておきたかった、ということもある。

 

「僕はあんまり……」

 

 ハヤトはそう言って、黙り込んでいるアムロを探るように見る。

 アムロはそれを煩わしそうに顔をしかめながらも、

 

「サイド7を出てからこっち、ぐっすり眠ったことなんかありゃしない。そのくせ、眠ろうと思っても眠れないしさ」

 

 とぼやく。

 彼も同い年の友人にならこうやって不満を漏らすことができるようで、ミヤビの気遣いは正解だったと言える。

 

 そんなアムロだったが、ミヤビの目には何とか大丈夫なように見える。

 ガンダムがここに無いのが痛いが、共に戦うパイロットたちの充実具合は史実より良い。

 それがアムロを精神的にも肉体的にも助けているのだとミヤビは思う。

 

 実際にはアムロが平静を保てているのはミヤビの存在に頼るところが大きいのだが、彼女自身は気づいていない。

 知ったら「何その買いかぶり!」と内心で悲鳴を上げていただろう。

 それがミヤビだ。

 ともあれ、ミヤビはアムロにうなずくと、

 

「分かる気がするわ。私も不安があるとぐるぐると考えこんじゃってなかなか寝付けない方だから」

 

 と言う。

 以前、ミヤビはアムロはリスクに敏感な体質であると説明していたが、彼女も割とそういう傾向があるのだ。

 想定されるリスクに対し、ああでもない、こうでもないと対策を考えてしまう。

 だからアムロのこともよく理解できるのだが……

 周囲の沈黙に首をかしげる。

 

「どうしたのみんな、そんな顔をして」

「い、いえ、意外だったから」

「ミヤビさんはもっと超然として……」

 

 何それ。

 

「私だって悩むことぐらいあるわ。いったいどんな目で私を見ていたの?」

 

 もちろん彼らは『ヤシマの人形姫』の名前、外見どおりの存在と見ていたに決まっている。

 気づいていないのはここでは当人だけである。

 家族…… ミヤビパパと妹のミライにはそのある意味どうしようもなく人間臭い、残念なところのある中身が分かっているのだが。

 

 そして、である。

 呆れた様子でわずかに瞳を見開いているミヤビ。

 普段、感情を超越したような美貌と冷めた表情を持つ女性が、こういうふとした拍子に漏らす人間らしいわずかな表情の動き。

 しかしそれは芸術的な美しさを持つ人形に生命が吹き込まれた、モノクロの世界が鮮やかに色づく瞬間を目にするようで、見る者に大きな感動をもたらす。

 

「こ、今度は何?」

 

 いわゆる、ギャップ萌えというやつが、この場の全員を襲っていた。

 女性であるセイラも含め、一人の例外も無く……

 罪作りな人間である、ミヤビは。

 

 そんなこともあったが、睡眠の話である。

 ここは医者の卵の出番とばかりにセイラに視線を向けるが、

 

「本当なら睡眠導入剤、短時間で効き目が切れる睡眠薬を使うのがいいのだけれど」

 

 と、彼女は言葉を濁す。

 

「いつスクランブルがかかるか分からない状況じゃお勧めできないわね」

 

 ということになる。

 後は薬と言うと漢方だが、これは専門家でないと処方は難しい。

 だからミヤビは、

 

「無理に眠ろうとしなくても、ベッドに横になって目をつぶって身体を休めているだけでもいいのよ。それだけでも体力は回復するから」

 

 と助言する。

 世の中にはさらに繊細で、あらゆる刺激に敏感なHSP(Highly Sensitive Person)と呼ばれる人も居る。

 それに対応するためヨガとかマインドフルネスとか様々なメソッドが考えられていて参考になるが、自分に合うかは人それぞれだし、即効性のあるものでもない。

 だからせめて睡眠への気負いを解く言葉をかけてやるのだ。

 こういうのは眠ろうとする思いや眠れないことに対するいらだちや罪悪感が逆に悪化させる方に働くものだから。

 気休め程度ではあるのだが、アムロのように理系のロジックで考える傾向の高い人間には「最低限満たせばよい明確な基準、それも自分でもできるもの」を与えてもらうことは、安心…… あるいは心に許しを与えてもらうことと同意義だ。

 だから大いに納得してミヤビに感謝する。

 

「ありがとうございます、ミヤビさん」

 

 そんな飼い犬が主人に対して見せる全幅の信頼みたいな想いを向けられて、ミヤビは戸惑う。

 彼女にはそんな大したことを言った自覚は無いのだから当然である。

 まるでワンコみたいだなぁ、と現実逃避気味に考えるのだった。

 

「それでアムロは何をそんなに考えてるんだ? 寝付けないぐらいに」

 

 そう促すのはリュウだった。

 話してみれば楽になるんじゃないか?

 そういう気づかいだ。

 ミヤビはやっぱり彼は頼りになるなぁ自分と違って、と感心する。

 職場には欲しいタイプだと思う。

 アムロは少しうつむいた後、ためらいがちに口を開いた。

 

「連邦軍は僕たちをおとりにしているんじゃないかって」

「おとり?」

 

 首をかしげるハヤトに、アムロは言う。

 

「連邦軍はもっと新しい兵器を開発しているんだよ。それが完成するまでの間、敵の目を引き付けておく。おとりなのさ、僕らは」

 

 考え過ぎだろう、とリュウは言おうとして、

 

「半分は合ってるのかしら」

 

 というミヤビの言葉に目をむく。

 

「ミヤビさん……」

「守秘義務があるからどうしても一般的な事柄しか言えなくなるんだけど」

 

 と、ミヤビは前置きして言う。

 ミヤビ自身、RX計画に招聘されて、その後V作戦に組み込まれてという立場があるが、彼女はヤシマ財閥令嬢。

 例えばミヤビの前世の記憶に、

 

『ガンダムって何であんなに軽いのさ』

 

 という疑問に対して、

 

『外骨格がルナ・チタニウム合金の中空フレームと、高強度プラスティックを融合成型したものでできているから』

 

 という設定を語っている書籍があったが、この技術の開発には『プレーン金属』『プレート・テクニクス』『八洲軽金属』といった企業が参加しており、この『八洲軽金属』はその名のとおりヤシマ重工の関連企業。

 実際、この世界でも実在し、V作戦にも参加している。

 つまりヤシマ財閥令嬢である彼女は知ろうと思えばそういった内容を知れる立場であり、話は個人の情報漏洩で収まらないのだ。

 

 ミヤビは前世でもこういった情報に触れる立場にあり、守秘義務の順守はもちろん、自社株も含め顧客、取引先等、インサイダー取引に引っかかるような銘柄の株は自由に売買できないなどの制限を受けていた。

 業務上知った内容で株を買って大儲け、とかはやっちゃいけないことなのだ。

 まぁ、自社株なら従業員持株会の制度を使って給料天引きで買うこともできるが、これもインサイダー情報に触れられる部署に居る間は口数変更ができないなど制限がある。

 

 またミヤビほどの立場でなくとも守秘義務は大事で、多くの工場でスマホ、携帯の持ち込みが禁止だったのは技術漏洩よりもっと切実な問題があったためだ。

 一般の工場作業員が「今休憩中。うちの工場では某〇社の××(製品名)に使われてる部品を作ってるんだぜ」とTwitterなどのSNSに上げる、なんてことをされるとさぁ大変。

 バカッターどころの騒ぎではない。

 発注元の某〇社から重いペナルティを課せられた上、契約を切られるなどといった死刑宣告を受けかねないのだ。

 職場で撮った自撮りの背後に製品が写っていた、というのももちろんダメで、だからデジカメもカメラが付いたスマホ、携帯も持ち込み禁止なのだ。

 

 なお業界人のトークにおける某〇社の〇には英字が入るのが普通だが「その業界で〇社って、あそこしかないじゃん!」という具合にバレバレなので意味が無かったりする……

 

 そんな具合なので、ミヤビの話はどうしても迂遠にならざるを得ない。

 いや、立場に配慮するなら沈黙することが利口なのだが、アムロたちのメンタルを考えるとそうもできないのが悩ましい。

 

「まずガンキャノン…… RXシリーズのモビルスーツって、どう考えても量産に向いてないから数をそろえるならそのままじゃダメよね。だから新型は確実に開発してるでしょう」

 

 つまりアムロの言う「連邦軍はもっと新しい兵器を開発しているんだよ」は当たり前の話なのだ。

 

「ただ量産機は試作機にあった色々な問題を解決し、その試験結果を反映されたより強い兵器になるのが普通なんだけど……」

 

 ガンダムの影響か、前世のアニメでは逆のことが多かったが。

 例外は『機甲戦記ドラグナー』の量産機、ドラグーンぐらいか。

 

「前に教育型コンピュータの話はしたでしょ。あんな風なコストは量産機ではかけられないから」

「つまり?」

「通常とは逆に量産される新型機はガンキャノンほど高性能なものにはならないでしょう、ってことになるわ」

 

 そこから導き出される結論は、

 

「今後、量産される機体よりはるかに高性能な、高度の最新技術を満載した実験機。こんなものを鹵獲されてリバースエンジニアリング…… 分解解析されて技術漏洩したら大ごとよ。だからホワイトベースを囮にするようなバカな真似はできないと思うわ」

 

 ということ。

 もちろんこれはアムロたちを安心させるためのウソだ。

 時に人間は、理屈に合わないことも平然とやってしまうもの。

 歴史を振り返れば、

「何でそんなバカな真似したのさ?」

 ということなど無数にあるものだ。

 

 そして……

 最悪のパターンだって存在する。

 つまり、上層部が兵の命を何とも思っていない場合。

 損害を気にせず物量戦で押しつぶすつもりだから、試作機なんてどんなに高性能であっても量産機の目途が付いたらお役御免だよね、と考えているケースだ。

 

 まぁ、そんなことは皆には絶対言えないわけだが。

 ミヤビは内心の考えを表情に出さないこの顔に感謝しながら語る。

 

「だからそんなの考え過ぎよ。その証拠にすぐ補給も受けられるはずよ」

 

 頼みますね、マチルダさん。

 そう、ミヤビは心の内で祈るが……

 

 その願いがマチルダには届かないことを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

 リード中尉とブライトは今後について話し合うが、

 

「武器弾薬は底を尽き始めているんだ。今度大きな戦いがあったら支えきれん」

「わかっています。だからどうしたら生き抜けるのか考えているんでしょう」

 

 とは言うものの、そんな都合のいい考えがホイホイ浮かぶはずもない。

 無から有は産み出せないのだ。

 

「生き抜くだけなら簡単だよ、ブライト君」

 

 リード中尉の沈痛なつぶやきに、何を言いたいのか察したブライトは、

 

(冗談じゃない)

 

 と内心毒づくが、リード中尉はそのように言葉を飲み込むことはなく、

 

「ホワイトベースを捨てりゃあいいんだ」

 

 と言う。

 ミヤビが聞いたら大喜びだろう。

 

(最悪、機密保持のためホワイトベースを搭載機ごと自沈させて投降すればいいんだし、責任問題は父さんとゴップのおじ様にお任せすればそう酷いものにはならないだろうし)

 

 と考えるはずだ。

 実際問題、戦争など外交オプションの一つでしかないのだから、ある程度までは頑張るにしろ、これ以上は不可能となったら現実的な方策を取るべきだ。

 そもそも戦争にまで発展したのは政治の怠惰なのだから。

 

 

 

 この世界でミヤビが違和感を覚えるのは、レビル将軍やマスコミはギレン・ザビをナチスドイツのアドルフ・ヒトラーに例えるが、どうしてそこで思考が止まってしまうのか、ということ。

 民主主義国家から独裁者なんてものが台頭するには、それなりの環境が必要だ。

 歴史に学んで発生しないよう予防策を取ればいいのに、何でそうしようとしなかったの?

 ということだ。

 

 例えば第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約でドイツが課せられた賠償金は疲弊したドイツの経済問題をさらに悪化させ、その結果生じたハイパーインフレはワイマール共和国を失敗させ、ナチスとヒトラーの台頭をもたらした。

 第二次世界大戦後の戦後処理はこれを教訓に行われ、以後巨額の戦争賠償金を敗戦国に課す、というようなことは無くなったのだが。

 

 連邦は戦争賠償金なんて課していない、と思っているのだろうが、それより質が悪い。

 コロニー建設費用の徴収なんて。

 地球連邦政府、アースノイドにしてみれば高速道路の料金のように受益者負担で連邦がコロニーを建設するにあたって作った借金を住人が返済するのは当然だろうが。

 しかし棄民政策で無理やり地球を追い出されたスペースノイドにとっては、

 

「監獄造ったからそこに入れよ。当然、監獄の建設費用から維持までお前ら持ちな。シャバ(地球)には一生戻させねぇから」

 

 と言われているようなもの。

 要するに感情的には地球に住む権利をめぐって争い、敗れた相手に課した巨額の戦争賠償金のようなものに成り果てているのだ。

 納得できるはずがない。

 

 そうやって独裁者を生み出す土壌を整え、自分たちでせっせとザビ家独裁を大きく育てておいて、殴られて大騒ぎするというのも間抜けなことだった。

 

 

 

 まぁ、そんなミヤビ個人の考えはともかく。

 

「……リード中尉」

 

 ブライトは怒鳴りたくなる自分を懸命に抑えながら、それでも、

 

「だったらどうなるんです? 今日までの我々の戦いは!」

 

 と訴えずにはいられない。

 

 しかしこれは非常に危険な思考である。

『コンコルド効果』というやつだ。

 ダメだったらさっさとあきらめ損切をしなければならないのに、それまでつぎ込んだものが惜しくて正常な判断が下せず、挽回できるはずも無いのにずるずると損失を増やしてしまうというもの。

 株やFXで資産を溶かしたり、ギャンブルで身を持ち崩す人間と共通する考え方で、超音速旅客機コンコルドの失敗にちなんで語られるものだ。

 

 リード中尉は目をそらすと、こう答える。

 

「無意味ではなかったはずだ。一人一人戦い抜いていけるという自信はつけたよ」

 

 気休め、ではあるがブライトの訴えは感情論なのでそうならざるを得ないところだ。

 そこにリュウがブリッジに入室してくる。

 

「ブライト、艦内の破損個所の応急修理は終わったぞ」

 

 ブライトは気を取り直してうなずくと、

 

「他の者は?」

「ああ、それぞれの乗機の確認が終わって休憩、待機しているところだ」

 

 その報告に、ブライトは思いつく。

 

「パトロールを出しましょう」

 

 と……

 

「フラウ・ボゥ、アムロを呼び出してくれ」

 

 そう指示を出すが、しかしアムロの部屋で通信を受けたのは人形じみた美貌の女性。

 

「ミヤビさん? そこ、アムロの部屋じゃ……」

 

 言いかけるフラウに、

 

「アムロなら私の隣で寝てるわ」

 

 と、声をひそめながら通信の音声送受信をハンズフリースピーカーから受話器に切り替えたミヤビが答える。

 ガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける一同。

 特にフラウ。

 

「ね、寝てるって……」

 

 震える声でつぶやくフラウに、ミヤビはしーっとばかりに立てた人差し指を口元に当てて、

 

「無粋なことは言わないでね。こういう時は沈黙を貴ぶものよ」

 

 と、ささやくように、聞く者の背筋をゾクゾクさせるような声で言う。

 それで男どもは顔を赤らめ、フラウの顔色は血の気を失ったかのように蒼白になる。

 

(また姉さんは誤解を招くようなことを……)

 

 と呆れるのは妹のミライだ。

 もちろんミヤビとアムロの間には他の者が考えているような、えっちぃことなどまったく無い。

 眠れない、というアムロにそれじゃあということで、マインドフルネスとかマッサージを試してあげたら、元より睡眠不足のアムロ、あっさりと寝入ってしまっただけである。

 ミヤビの思わせぶりなセリフも、寝ているアムロを起こさないように、そして寝ないとダメな彼女の体質が言わせた『睡眠は大事!』という意識の表れであってそれ以上の意味はない。

 普通の人間がやっていたら「絶対狙って言ってるよね、そうじゃないといくらなんでもおかしいよね」と思うだろうが、これまでの経験上、ミライには姉にはまったくそういう意識は無いことは分かっている。

 分かっているだけに脱力するほかない。

 

 そして、いち早く再起動したのはやはり気配りの人、リュウだった。

 

「ブライト……」

 

 そう言って彼の肩にポンと手を置き、意識を自分に向けさせると、

 

「俺とハヤトでパトロールに出よう」

 

 野暮なことをせずに、二人をそっとしておこうという気づかいだ。

 そして声を潜めてブライトにささやく。

 

「俺たちもアムロをあてにしすぎる。ストレスもだいぶ溜まっていた様子だったしな。ミヤビさんは身をもってそれを受け止めてくれた……」

 

 あからさまに言わなくても分かるだろう、とリュウは言葉を途切れさせる。

 ブライトはそれで納得…… いや、納得はしていないがリュウの語る内容が示すところを理解したのだが、彼らは気づいていない。

 その会話がフラウの耳にも届いていたことに……

 

「……許せないッ! 絶対によ!」

 

 フラウがかすれたような声で、そうつぶやいていたことに。




 アムロを幼馴染ヒロイン、フラウから寝取るミヤビ。
 やはり『ヤシマの人形姫』は、その名にふさわしく男を惑わさずにはいられない魔性の存在だった(誤解)

 次回は修羅場の続き、そしてこのお話のサブタイトルになっている、ガンキャノンが翔べるかどうかについてお届けする予定です。
 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第9話 翔べるの? ガンキャノン Cパート

「コア・ファイター、出るぞ」

 

 コア・ファイターで次々に発進するリュウとハヤト。

 

 

 

 ガウ攻撃空母ではガルマ自らノーマルスーツを着用し、ドップにて出撃しようとしていた。

 

「ガルマ、君が行くこともなかろうに」

 

 と、シャアは自重を促すが、ガルマは苦笑すると、

 

「私には姉に対しての立場だってあるんだよ。家族のいない君にはわからない苦労さ」

 

 そう言って自分の機体、茶褐色に塗られた専用機に向かう。

 

「手を出すなよ、見てるんだシャア。私が見事仕留めてみせる」

 

 そう念を押すガルマに、説得もここまでかとシャアはあきらめた様子でうなずく。

 

「見せてもらうよ、君の攻撃のお手並みをな」

 

 そしてガルマはドップのシートに着き、

 

「出撃するぞ、各員……」

 

 と言いかけたところに、警報。

 

「どうした?」

 

『敵の戦闘機です』

「なに?」

 

 リュウたちのコア・ファイターをガウの側でもキャッチしたのだ。

 

『ガルマ、発進は中止だ。戻れ』

 

 そう促すシャアに、ガルマは、

 

「このまま出撃して撃ち落してみせる」

 

 と意気込むが、あくまでもシャアは、

 

「戻るんだ、ガルマ」 

 

 と引き留める。

 

 

 

『リュウさん、なぜ攻撃しないんです? せ、せっかくガウを見つけたっていうのに』

 

 リュウに対し、そう訴えるハヤトだったが、それは無謀というものだ。

 

「ええい、コア・ファイターがあと六機もあればガウを攻撃するんだがな」

 

 と、歯噛みするリュウだったが、そういうことだ。

 

 

 

 シャアは不承不承戻ってきたガルマに説明する。

 

「30秒前の映像だ。ただのパトロールだ。だとすれば木馬はかなり焦っている」

「焦っている?」

 

 シャアはガルマにうなずいて、

 

「木馬がパトロールを出すなど初めてだ。弱点があるからこそ我々の動きを知りたがっているんじゃないのか?」

 

 シャアはホワイトベース側の内情、そしてブライトの焦りを正確に洞察していた。

 実際、ブライトの指示は思い付きに近いし、何もできないからできることに飛びついた、と思われても仕方がないところがあるし。

 

「なるほど。小物を相手にせず本命を叩けばいいという訳か」

 

 ガルマは納得すると、部下たちに指示する。

 

「よし、敵のパトロールを追え!」

 

 

 

『よーし、ガンキャノン、ガンタンクの出撃、急げ!』

 

 リード中尉の指示により、カイはガンタンクへと走った。

 

「また棺桶入りかよ」

 

 とぼやく。

 

『いらっしゃい、カイさん』

 

 ガンタンクの腹部コクピットではサポートAI、サラスリーがそう言って迎えてくれるが、

 

『あれ、セイラさんは? それにガンキャノンのアムロさんは?』

 

 と、首をかしげることに。

 カイは苦笑する。

 

「いや、それが何だか揉めていてよう」

 

 

 

 話は少し前まで遡る。

 

「セイラさん、ガンタンクに操縦方法の手引書ってあるんでしょ?」

 

 そう言ってブリッジでセイラたちを捕まえているのはフラウだった。

 

「えっ?」

 

 セイラには、フラウが何を言いたいのか分からない。

 

 ミヤビの取った様々な対策によりアムロのメンタル状況はかなり改善されているが、一方で割りを食っているのがフラウだった。

 アムロは「君は強い女の子じゃないか」などと言っているが、実際には彼女はサイド7で家族を失った15歳の女の子でしかない。

 その精神状態は良くなく、だからこそ史実では幼馴染のアムロの世話を焼くことで安定を保っていた面がある。

 それをミヤビが奪う形になってしまったのだ。

 

 現実問題、このホワイトベースのエースであるアムロは多忙だ。

 食事など、わずかなプライベート時間をパイロット仲間とのコミュニケーションとミヤビから受けるメンタルケアに使ってしまうと後は睡眠時間しか残らない。

 それゆえアムロを寝取られたショック(誤解)に錯乱したフラウは、このままでは同じ土俵に立つことすらできない、

 

「あたしもモビルスーツに乗るわ!」

 

 そう、パイロットにならなければという思考に陥っているのだ。

 短絡的だが、思いつめた女の子の思考なんてこんなもの。

 そこに合理性とか現実性とかは求めてはいけない。

 そして、そんなフラウの様子をあっけに取られて見ていたミヤビとアムロは、

 

「姉さん、アムロも……」

 

 と、遠慮がちに自分たちを呼ぶミライに、彼女の元へと行く。

 そして小声で語られた説明、フラウの誤解に驚愕する。

 

(はぁああああああっ!?)

 

 ミヤビにとってはナニソレ、である。

 呆れて声も無い。

 

 ミライにしてみれば、呆れてしまうのはこんな誤解を呼んでしまう姉の言動の方、なのだが。

 ここまで見事にはまってしまうとミライのコミュ力でも誤解を訂正するのは容易なことではない。

 実際、説明してはみたがフラウは逆に意固地になるばかりだったし、ブライトたちもどこまで信じてくれたか疑わしいものだった。

 

 というか毎度この手の騒動からミヤビをフォローしようとする度に、姉を神聖視するシスコンの妹が、

『私のお姉ちゃんがそんなエッチなことをするわけがない』

 と主張していると受け止められてしまうのはどういうことかと、声を大にして問い質したいミライだった。

 

 そんな風だったのでミライは、

 

「姉さんはそういう人じゃない。それどころかこれまでそういう経験も無かった人だって、私には分かってるけど」

 

 と力なくぼやくが、ちょっと待って欲しい。

 今、この妹、姉には経験が無かった、つまり処女だったってあっさりとばらした。

 見ろ、隣でアムロが赤くなってるし、ブリッジがしんと静まり返ってるだろう。

 どうするんだこの空気。

 そして誤解は解けていないので、アムロはミヤビとエッチしたどころか、初めてを奪った男にランクアップしてしまっているのだが。

 

 まぁ、確かに今世では恋愛とか、その先にある大人のお付き合いとかはもちろん未経験なミヤビ。

 ミヤビパパには「男がダメなら女でもいいからさっさとヤッて踏ん切り付けろ」と大変理解のある意見をあきれ顔で言われていたのだが、ミヤビにとっては拷問官に「精神的同性愛か肉体的同性愛か、どちらか選べ」と言われているに等しい。

 何その究極の選択、である。

 

 そしてアムロにしてみれば冤罪、人聞きが悪すぎる。

 慌ててフラウに弁解するが、

 

「自分のヤッたことに責任を持てない人なんて嫌いよ!」

 

 と、誤解を解くどころではない。

 なお、ミヤビの知る史実でも似たセリフを言っているフラウだったが、意味が全然違う。

 そればかりか、

 

「ミヤビさんとそういうことしといて、ヤッたのは俺だって言えないアムロなんて男じゃない!」

 

 と、責められる始末。

 ミヤビの敵なのか味方なのか分からない発言であるが、仕方がない。

 

「くやしいけど、僕は男なんだな」

 

 と、アムロが思わず嘆息してしまうとおり、こういう場合、問答無用で責められるのは男なのだ。

 

 そして、こんな混沌とした状態を打ち破るのは、

 

「あっ」

 

 パァン、と良い音を立てて叩かれるフラウの頬。

 こんなことをするのは一人しか居ない。

 

「た、叩きましたね」

 

 頬を押さえ、フラウがにらみつける先に居るのは金髪の美少女。

 もちろんセイラである。

 

「叩いてなぜ悪いの? あなたはいいわ、そうしてわめいていれば気分も晴れるんですからね」

「わ、私がそんなに安っぽい女だって言うんですか!?」

「安っぽいというか、面倒くさいから男性、特にアムロのような性格の持ち主とは合わないタイプだと思ってるわ」

 

 うわ、バッサリ斬り捨てた。

 女性は女性に厳しいとは言うが、二度もぶってくれるブライトさんの方がよっぽど優しいと思えるほどのぶった切りだった。

 ブライトの場合、史実だと殴った後にアムロに対し「それだけの才能があれば貴様はシャアを越えられる奴だと思っていた。残念だよ」とか、ツンデレなフォローもしてたし。

 セイラは医者を目指していたように女性ではあるけど理系寄りのタイプ。

 だからこその視点だろうが。

 そして続く、

 

「比較対象がミヤビさんよ」

 

 というセイラの言葉に、「私?」というように首をかしげるミヤビ。

 そしてセイラの口から語られる、客観視した、特に男性的視点から見たミヤビについてのこと。

 

「優秀なのにおごらないし威張らない。話を合わせてくれるし男性の趣味や欠点に理解があって、未熟なところをあげつらわず、話していて急に感情的になったり、過去を蒸し返したりしないし、かといって無関心じゃなく世話焼きなくせに、過干渉しない。……あと美人、とても美人」

 

 大事な事なので二度言いました、みたいに繰り返さないで欲しいと思うミヤビは多分、現実逃避していたのだろう。

 本当に大事なのは中身なのだが、それを知っているのはこの場ではミヤビ本人と妹のミライのみ。

 そして、それ以外の周囲の人物からすると、

 

 勝てないどころか比較にもならないだろ、どーすんだコレ。

 

 という話だった。

 そう言われてみると世の男性にとって「天使か」と言わんばかりの理想の人物に思えるミヤビだった。

 当人に自覚は無いし、自覚したら首を吊りそうになるだろうが。

 

 そしてフラウはというと、

 

「駄目だわ、器が違い過ぎる。あたしなんて……」

 

 両手、両膝を床につき、まるで『機動武闘伝Gガンダム』の主人公ドモンのようにスーパー負け犬モードで独白していた。

 そしてミヤビはというと、

 

(器って何?)

 

 などとずれたことを考えているのだった。

 

 

 

 本当にどうしようもないことで揉めているホワイトベースに、ガルマ率いるドップの編隊が近づく。

 

「ははははは、シャア、聞こえるか? 木馬がなぜ焦っているかわかったぞ」

 

 ガルマは通信機越しにシャアに語り掛ける。

 

『ほう、それは幸いだな。なぜだ? 教えてくれ』

 

 返ってくる疑問にほくそ笑み、ガルマは語る。

 

「モビルスーツだ。こちらの接近は既に分かっているはずなのに出ていない。おそらく出られんのだよ」

 

 これはミヤビが知る史実での、アムロの出撃拒否より酷い状況なのだが……

 どうしてこうなった、である。

 

 

 

 フラウのゴタゴタは置いておいて、出撃である。

 というか、手に負えないので後でミライに何とかしてもらうしかない。

 まぁ、ミライにはミヤビとアムロは似た者同士、男性脳の理系タイプと分かっている。

 つまりミヤビとの付き合い方がそのままアムロへの恋愛攻略法に応用できるため、その助言はフラウにとってありがたいものになるはずだった。

 ……フラウに実行できるかどうかはさておいて。

 

 そして、そんなドタバタした状態だったから、ブリッジから退出するアムロに声をかけけてくれたのはハロだけ。

 

「アムロ、イクノカ? アムロ」

 

 しかもミヤビとえっちいことした疑惑のあるアムロ、そして周囲には「イクノカ?」という問いかけが別の意味に聞こえるから脱力することこの上ない。

 そんなアムロをドップからの攻撃による衝撃が襲う。

 

「ううっ…… シャアめーっ!」

 

 シャアは何もしていない。

 完全に八つ当たりである。

 

 

 

 対空砲とミサイル砲座、そしてリュウとハヤトのコア・ファイターの援護を受けて、アムロのガンキャノンが出撃する。

 カタパルトで射出され、荒野の地表を削り土煙を上げながらランディング。

 アレだ、ミヤビの前世の記憶にある『戦闘メカザブングル』のオープニングでザブングルがやってたかっこいいやつ。

 

「ふう、無事着地か。ミヤビさん、カイさん、いいですよ」

 

 着地点の安全を確保したうえで、装甲が薄いため危険なドラケンE改と空中での動きが悪いガンタンクを呼ぶ。

 

 

 

「よーし」

 

 カイはガンタンクの底部、四つのロケットエンジンに点火。

 アムロの援護を受けながら、ガンタンクに降下を開始させる。

 

 その反対側、右舷モビルスーツデッキからはミヤビのドラケンE改が同時に凄い勢いで射出されている。

 いつものGウォームを兼ねているし、スピードがあった方が敵からの照準を避けられるからだ。

 ミヤビ当人は、

 

 でかくて遅いガンタンクが敵の目を引きつけている隙に降りちゃえ。

 

 と、割とヒドイことを考えているのだが、周囲からは、

 

「さすがミヤビさん、動きの遅いガンタンクのため囮になってくれているわ」

 

 と、セイラが言うとおり、真逆に認識されている。

 ミヤビが知ったら、

 

 ナニソレ、私どれだけ聖人君子だと思われてるの。

 

 と恐れおののいただろう。

 実際には聖人ではなく聖女と認識されているのだが。

 そしてカイはというと、通信機越しに聞こえてくる、

 

『ダメだわ…… あんな凄い人に勝てるわけなんて、ない』

 

 というフラウのつぶやきに顔を引きつらせる。

 

「いや、そんなことないと思うぜ。フラウ・ボゥにだっていいところはあるし自信を持って……」

 

 そう言ってやるが、それに対してはガンタンク内の機内秘匿通話で女性陣から、

 

「カイは気休めがお上手なようね?」

『おだてのカイさん、ですか?』

 

 などというささやきが聞こえてくる。

 セイラはどうか分からないが、サラスリーの声には焼いているような響きがあって、カイは余計に顔を引きつらせるのだった。

 

 

 

「フン、出てきたなモビルスーツめ。しかし、しょせんは陸戦兵器。ビイビ隊はモビルスーツを撃破しろ!」

 

 ガルマは戦力を二手に分け、戦闘を継続する。

 

 

 

「しかし見事じゃないか、ガルマ大佐の攻撃ぶりは」

 

 シャアはそう言いながら、通信装置のジャックに細工をする。

 引き抜いた端子を汚した後、再び差し込んだのだ。

 

「親の七光りで大佐になった、だけの人物ではないな」

「少佐、よろしいのでありますか? 我々は見ているだけで」

 

 そう進言する部下の言葉にシャアは、

 

「いいだろう。援護が必要なら呼び出すと言っていたし、下手に手出しをするとプライドの高い彼のことだ、あとで怒られるしな」

 

 と、答える。

 ガルマが「手を出すなよ、見てるんだシャア」と言ってくれたのは幸いだ。

 これでシャアは責任を回避しながらガルマを陥れることができる。

 

「この距離なら無線は使えるんだろう?」

「はあ、ミノフスキー粒子の濃度は変わりませんが、このくらいなら音声は入るはずです」

「それならいいじゃないか。私だってガルマに叱られたくないからな」

 

 そう言いくるめるシャアだったが……

 

 

「――嘘を、ついておいでですね」

 

 

 不意に背後からささやかれる声!

 

(ば、バカな。今回、彼女はこの機には乗っていないはず!?)

 

 まるで射すくめられたように、シャアは心の臓に物理的な痛みを感じ身動きどころか呼吸も困難な状態に陥る。

 しかしシャアの視界内では彼の異常に気付いている者は居なかった。

 これは幻覚か!?

 

「ガルマ様は責任を感じていらっしゃるのです」

 

 イセリナの声がシャアに語り掛ける。

 

(せ、責任だと?)

「前回の敗北にあなたを巻き込んでしまった責任です」

 

 だからこそ、

 

「今回あなたに手を出すな、と言ったのはあなたを庇ってのこと。成功したならそれでよし。失敗してもガルマ様自ら単独で当たって、それでも勝てなかった。先の敗北はあなたの力不足のためではないと姉君、兄君に説明できる」

 

 出撃前にガルマが、

 

「私には姉に対しての立場だってあるんだよ。家族のいない君にはわからない苦労さ」

 

 と言っていたのはそれを暗に語りつつも、シャアに気づかせないためのもの。

 

(ガルマ……)

 

 甘いことだ。

 お坊ちゃん育ちが身に沁みすぎる。

 

 シャアはそう思うが、しかしそれは……

 

(冗談ではない!)

 

 というシャアの感情の爆発を産んだ。

 

(そんな施し、ガルマから受け取ってたまるものか!)

 

 と。

 そして再びイセリナの気配が収束し、シャアにささやかれたのは……

 

「嘘――」

 

 その言葉にシャアは痛みを覚悟するが、

 

「――ではないようですね」

 

 と、続けられたささやきに息をつく。

 

「あなたのような存在は屈折した矛盾を内包しながら自覚せず突き進むから質が悪い。あなたの場合、変に能力があるから余計に……」

 

 イセリナの声が徐々に遠ざかっていく。

 

「良く生きよ、という言葉をお贈りさせていただきますね」

 

 最後に、そういった言葉を残して。

 

「今のは……」

「どうされました、少佐?」

 

 いぶかしげにかけられる声に、シャアは今のは幻聴だったのかと疑う。

 ミヤビが知ったら、彼女をこの世界に招いた『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』登場の死神の力が作用したか……

 シャアが持つニュータイプ能力の片鱗が聞かせたものかと考えただろう。

 あるいはイセリナの方こそがニュータイプなのか。

 まぁ、イセリナがニュータイプになってもミヤビは驚かないだろう。

 同類のヤンデレストーカー、安珍・清姫伝説に登場する清姫は思い込みだけで竜種にまで至っているのだから。

 

 

 

 空中から襲い掛かるドップに歯噛みするアムロ。

 

「なめるなよ。ガンキャノンにだってジャンプ力とロケットノズルがあるんだ!」

 

 そうつぶやくと、スロットル全開で空中へと舞い上がる!

 

 

 

「ああっ、モ、モビルスーツが、と、飛んだ」

 

 信じられぬ光景に、目を疑うドップのパイロットたち。

 

 

 

「そこだっ」

 

 アムロはビームライフルでドップを撃ち落とす。

 

「一つ!」

 

 

 

『あ、アムロさんが…… ガンキャノンが空中戦をやってます!』

 

 サラの報告に、ミヤビは瞳を瞬く。

 

「まぁ、できるんじゃない? 足裏のロケットエンジンまで使ってるし」

 

 ガンキャノンはガンダムより重いし、ロケットエンジンの総推力も低い。

 

 しかしミヤビの記憶にある劇中では、この時点のガンダムは背中のロケットエンジンのみでジャンプを行っていた。

 足裏のロケットエンジンも併用するようになったのはジャブロー以降で、つまり教育型コンピュータの学習とアムロの腕が上がったことで制御が可能になったのだろう。

 

 一方、今飛んでいるガンキャノンは、足裏のロケットエンジンまで使用してジャンプを行っている。

 こうやって全推力を利用することができれば、背中のロケットエンジンのみのガンダムより高い推力を発揮することができる。

 ガンキャノンの方が重いので重量当たりの推力比では負けるが、そう酷い差があるわけでも無い。

 

 前回の戦闘でガンキャノンが短時間ながらスラスターだけでホバー移動の真似事をしてのけたように、サポートAIサラシリーズのおかげでガンキャノンの機体制御は史実のこの時期のガンダムを上回っている。

 それが足裏のロケットエンジンも併用した全推力を用いたジャンプにつながっているのだろう。

 

 またガンキャノンにはガンダムより有利な点がある。

 空気抵抗というやつだ。

 特異な形状の兵器をもの凄い推力に任せて無理やり飛ばしている宇宙世紀世界では割と軽視されている項目だが、現実問題これは無視できない。

 『機動戦士Zガンダム』で、アムロがリック・ディアスの改修機、ディジェに乗っていたが、そのボディはアムロの意向、

 

 サブフライトシステム(ゲタ)での出撃が多そうなので、整流効果を高める流線形ボディへの変更。

 

 を満たすものだという解釈が語られていたし。

 

 そんなわけで、直線主体でエッジが立っているガンダムと比べ、丸みを帯びたガンキャノンの機体は空を飛ぶには有利なのだ。

 そしてそれ以上に違いがあるのが、ガンダムが使っていた大型の盾、ガンダムシールドだ。

 劇中では破壊されて半分になっても振り回せば生じた風でジオンのホバー・バイク、ワッパを吹き飛ばしていたし、お台場の実物大ガンダムが武装していなかったのは付けたらシールドに当たる風圧がすごくて大変だから、と後に大河原邦男氏が語っている。

 そんなものを劇中では正面にかざしたままジャンプによる空中戦を行っているのだ。

 特大のスポイラー(エアブレーキと言うと分かりやすいが正確な呼び方ではない)を全開にしながら飛んでいるようなもので、それに比較すればガンキャノンの空気抵抗ははるかに低く抑えられていた。

 

「まぁ実際、空気抵抗って本当にバカにならないし」

 

 この辺はミヤビもドラケンE改で苦労したのだ。

 例えばドラケンE改は原型機のドラケンEと部品の多くを共用している。

 ドラケンEのものとほぼ同じ精密作業を担当する3本指ハンドと肘から先が二つに割れて大きな荷物をつかめる機能を兼ね備えた二重下腕肢や、荷役仕様として用意されたパワーローダータイプの腕なんかもそうだが、しかし両肩のカバー前後に開けられていた肉抜き穴が無くなっている所が異なる。

 

【挿絵表示】

 

 この穴はドラケンEにおいて軽量化と内部機構(特に肩部放熱器)の冷却能力向上のため開けられていたものだったが、実際にはほとんど効果が無く単にデザイン上のアクセントとしてしか機能していなかったもの。

 ドラケンE改は大気圏内におけるロケットエンジンを使用したジャンプ時、頭頂部からとてつもない加速で飛んでいくわけだが、その場合両肩にも過大な風圧がのしかかる。

 その肩装甲に肉抜き穴が開いていては乱流を発生させ、振動等不具合が生じるとして廃止された経緯にある。

 副次的に防御力の向上、生産工程の省略によるコストダウンという効果が得られている。

 

 同様に腰部アーマーに開けられていた3つずつの穴も、プレス加工に変更。

 凹んでいるものの貫通はしていない仕様になっていた。

 

 ともあれ、

 

「サラちゃん、みんなに連絡。ガンキャノンの着地の瞬間を狙い撃ちされないように援護して、と」

『了解です』

 

 ゲームでもありがちだったが、ジャンプ攻撃は着地の硬直を狙うのがセオリー。

 ドラケンE改の場合はローラーダッシュがあるので着地後も地上の高速走行にシームレスに移行でき隙も減らせるが、ガンキャノンの方はそうもいかない。

 援護は必要だった。




 修羅場の本番に、たくらみをイセリナに潰されるシャア、そしてガンキャノンのジャンプでした。
 ガンキャノンはどうしようかと考えていたのですが、本編をよく見直すとそもそも…… という話で。
 実際、様々な資料本やネットの情報などがありますけど、それだけで考えていると見えなくなるものがある、映像を見直すことで気付けるものがあるのだなぁと改めて感じました。

>「優秀なのにおごらないし威張らない。話を合わせてくれるし男性の趣味や欠点に理解があって、未熟なところをあげつらわず、話していて急に感情的になったり、過去を蒸し返したりしないし、かといって無関心じゃなく世話焼きなくせに、過干渉しない。……あと美人、とても美人」

 こちらのセリフはお寄せいただいたご感想をそのまま使わせてもらっています。
 このようにいただきましたご意見、ご感想等は作品作りに生かさせてもらっています。
 お気軽にお寄せ下さい。


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第9話 翔べるの? ガンキャノン Dパート

「モ、モビルスーツがジャンプしている。いや、飛んでいるんだ。連邦軍め、なんてモビルスーツを作ったんだ」

 

 目を見張るガルマ。

 ガンキャノンはジャンプを繰り返し、すれ違いざまに蹴飛ばすなど離れ業を演じながらドップを次々に落としていく。

 ミドルモビルスーツのドラケンE改も似たようなことをやっていたが、あちらははるかに小さく軽いし、またジャンプが可能な回数も取りえる軌道も限定的だからまだ現実味があった。

 それが標準サイズのモビルスーツでも自由にできるとなると、驚きを通り越して悪夢を見ているような気持にしかならない。

 

 

 

「六つ! 次、七つ目!」

 

 ビームライフルの最後の銃撃で、七機目のドップを撃ち落とすアムロ。

 着地し、地上に撃ち尽くしたビームライフルを置いて立ち上がったところに、一機だけ色の違った褐色の機体が攻撃を仕掛けてくる。

 

「隊長機か?」

 

 

 

 ガルマはジャンプで飛び上がるガンキャノンに銃撃を放つ。

 

「この化け物が。落ちろ、落ちろっ!」

 

 

 

「こ、これは?」

 

 特攻か、と思わせるガルマ機の機動に怯むアムロ。

 

「うっ」

 

 思わず目をつぶり、しかしとっさに腰のヒートナイフを展開、斬りつける。

 だが!

 

「や、やる……」

 

 避けられないはずの間合い、しかしガルマのドップはとっさに回避。

 アムロの攻撃はその片翼を切り裂いたにとどまった。

 元より空力的に無理の有る機体を推力任せで飛ばしているドップ。

 この程度では墜ちない。

 

 

 

 ガルマはガンキャノンに背を向けるが、逃走が目的ではない。

 

「ガウ、聞こえるか? 俺だ。モビルスーツだけを木馬から引き離す。ガウの射的距離に入ったらモビルスーツを撃ち落せ」

 

 

 

「逃がすものか!」

 

 ガルマを追うアムロ。

 

『アムロ、深追いしないで!』

 

 ミヤビから制止されるが、

 

「大丈夫です、やれます!」

 

 アムロはそう言い残して再びジャンプし……

 前方の山の稜線を超えたところで、

 

『だめ! よけて!』

 

 常に変わらぬはずのミヤビが上げる悲鳴じみた声に、

 

「え!?」

 

 と戸惑うと同時に機体に直撃する光芒!

 

「うわああああ!」

 

 ガウ攻撃空母のメガ粒子砲による攻撃だ!

 

『アムロ!』

 

 そんなミヤビの声を聴きながら、アムロはガンキャノンと共に落ちて行った……

 

 

 

 落ちていくガンキャノンを、遠方から二機のミデアの編隊が捕捉していた。

 そのうちの一機は機体各所にハリネズミのように銃座を設けたガンシップタイプ。

 腹に抱えたコンテナの代わりにスリムな増槽を付け、ミデア輸送機の全行程をエスコートできるよう飛行距離と機動性を上げた戦時改装機だった。

 まぁ、しょせんは輸送機なのでドップなど敵の戦闘機に襲われた場合、そのスピードについていくことは無理だが牽制にはなる。

 そのガンシップタイプのカバーの元飛ぶミデア輸送機のコクピット。

 

「なんだい、あれは……」

 

 指揮を執る妙齢の女性が呆れたように漏らすと、それを耳にした海賊じみた顔の副長が笑って言う。

 

「しかしアレがガウを引きつけてくれたおかげでこっちは無事。感謝してやってもいいと思いますぜ、シーマ様」

「感謝ねぇ……」

 

 彼女、シーマ・ガラハウは部下である海賊男、デトローフ・コッセルの身も蓋も無い言いように呆れた様子で口元を歪めた。

 

 

 

「こんな汚れでは接触不良を起こして当たり前だろう。技師長、懲罰の覚悟をしておけ!」

 

 帰還したガルマが怒っているのはシャアが細工した通信装置の不備だけではない。

 

「そもそも何なのだ、あのメガ粒子砲は! いくら連邦のモビルスーツが強力だと言っても、直撃しても墜とせないなどという話があるか!」

 

 というわけで、ガウ攻撃空母のメガ粒子砲による攻撃は、確かにガンキャノンの胸部真正面を捉えていた。

 にもかかわらずガンキャノンはバランスを崩して落下しただけで、特に被害を受けた様子も無く帰還していったのだ。

 ガルマが整備不良を疑うのも無理はない。

 

 しかし、である。

 ミヤビの前世の記憶の中でもガウ攻撃空母が持つ性能については色々と言われていたのだ。

 例えばその航続距離。

 熱核反応炉を搭載し、その電力により熱核ジェットエンジン18基を駆動しほぼ無限の航続距離がある、とされていたが、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』では「年代物の燃費食らい」と評されていた。

 そして『機動戦士ガンダム 公式百科事典』においてはガウの航続距離がほぼ無限であるという話はジオン開発者たちの初期計画における机上の空論としている。

 

 同様に、装備されたメガ粒子砲の性能も怪しいのだ。

 何しろ劇中でもガンキャノンに直撃しているのに損害を与えることができていない。

 それどころか複数の砲門からの集中攻撃を連続的に加えてもアムロが「た、盾がもう持たない」と焦るだけで、実際にはガンダムのシールドすら破壊できなかった代物だ。

 おそらく出力が低いか収束率が悪いか、ルナ・チタニウム製のモビルスーツを撃破するだけの威力を持たないのだ。

 

 しかし、これまではそれでも良かったのだ。

 従来の、空中を飛行する兵器は厚い装甲など持たないのだから威力などそこそこで十分。

 地上の兵器に対しては撃ち下ろしになるので、薄い上面装甲を抜くことができる。

 だから問題が顕在化せず、ガルマも元々ガンキャノンに効かないほど低威力だった、という事実に気付いていないのだ。

 まぁ、それゆえ整備不良が疑われ、技師長が叱責されているわけだったが。

 酷い災難である。

 

「まぁ、待て、ガルマ」

「シャア」

「信賞必罰は当然ではあるが、そのように声を荒立てては部下が委縮し、何より優先されるべき原因究明と再発防止に差しさわりが出る」

 

 実際シャアの言うとおりで、ミヤビの前世でもまともな企業や組織なら個人を責めずに問題点を洗い出し、改善することでトラブル事例を資産とし生かしていた。

 重大な事故やトラブルが発生した場合、当事者を免責したうえで真実をすべて語らせ原因究明や再発防止に役立てるべきなのだ。

 自分に不利益な証言を正直に話すと罰が重くなるような状況を作っておいて真実を語れというのは無理がある。

 ましてや個人を責めるようなブラックな企業、組織は三流以下の大間抜け。

 それでは原因が埋もれてしまい、また同じようなトラブルを繰り返し損失を出し続けるだけだからだ。

 

 とはいえ、通信ジャックに細工をしたのはシャアであるのだから、そのように言えるのは面の皮が厚いとしか表現のしようがなかったが。

 何その自作自演。

 

「それに私も謝らねばなるまい。モビルスーツへの攻撃を優先したために、敵の輸送機を撃墜することができなかった」

 

 シャアは殊勝にそう言う。

 人の好いガルマはそれに毒気を抜かれ、

 

「いや、それは仕方ないだろう」

 

 と首を振る。

 ガルマは若いゆえに感情の起伏が激しいが、割とあっさり機嫌を直す、不機嫌を引きずらないところがあり、そこが兵には好かれていた。

 誰だっていつまでも不機嫌なままの上司の下では働きたくないものだから。

 

「しかし前線をすり抜け、孤立した部隊に補給を届けるとは、かなり気合の入った部隊だな」

「ああ、敵ながらやる。今の連邦にそのような将兵がまだ居たとはな」

 

 そう、話し合うガルマとシャアだったが……

 

 

 

「何でシーマさんがここに居るんですか……」

 

 ミヤビはホワイトベースに派遣されてきた補給部隊、ミデア輸送機から降り立った女性を前にして瞳をわずかに見開いた。

 

「何でとはご挨拶だねぇ」

 

 シーマは口ではそう言うが、その表情は満面の笑みだ。

『ヤシマの人形姫』を驚かすことができて至極満足といった風。

 

「民間軍事会社が軍の委託を受けて補給業務を代行する。どこにも問題は無いだろう?」

「大ありです」

 

 シーマが現在所属しているのが、ヤシマグループ内の民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』。

 

「民間軍事会社(PMC:private military company)は、兵站や情報活動、安全保障に人材育成といった業務を軍、またはその他の組織からの委託を受け代行するサービス。要するに軍事行動のアウトソーシング先というやつですが」

 

 確かにそうではあるのだが。

 ミヤビは言う。

 

「敵の勢力圏内に孤立した部隊に前線を突破して補給作業をするなんて危険度の高すぎるオペはさすがに業務対象外です。何でこんなの受けたんですか」

「何でって、ゴップの大将に頼まれたからね」

 

 ゴップ大将……

 ミヤビの父、シュウ・ヤシマと付き合いのある人物で兵站を担当する軍政家。

 色々グレーな噂が絶えない人物ではあるが、有能なのは間違いがない。

 ミヤビも色々と世話になってるし、逆に恩も返している持ちつ持たれつの関係である。

 

「それにあのいけ好かないじじいにも頭を下げられちゃあね」

 

 シーマの言うじじいとは、

 

「まさか……」

「そのまさかさ、レビル将軍直々にこのあたしに頭を下げて来てね」

 

 シーマはレビル将軍とは因縁浅からぬ間柄にある。

 例のミヤビが企画し、レビル将軍を筆頭とした反ジオン感情を持つ反対派に阻まれた『コロニーリフレッシュプロジェクト』だが、その対象第一号のテストケースとして選ばれていたのがサイド3の3バンチコロニー。

 つまりシーマの出身地である『マハル』だったのだ。

 

 これは、ある意味必然だった。

 マハルは元々コロニー公社からスペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者や、ジオン国民として戸籍登録が行われていない者たちが多く住んでいた(ミヤビの知る史実では彼らが半ば強制的に海兵上陸部隊に招集されたことがシーマ艦隊設立の遠因となっていた)

 逆に言うと政治的発言力が弱く、コロニーの補修、メンテも予算が付かず常に後回しになっており、ジオンのコロニーの中でも初期に作られていることもあり老朽化が酷く進行していたのだ。

『機動戦士ガンダム』第11話で一時帰国したドズル・ザビ中将が1バンチ、ズム・シティのベイブロックへと入港した際、周囲を見回して「フン、半年前と同じだ。なんの補強工事もしておらん」と言い捨てていたが、首都である1バンチですらそうなのだからマハルの状況は推して知るべしといったところ。

 

 これは住人にスペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者が多いことも影響している。

 つまり、予算が無い、しかし何とかしなければならない、だから住人である業者の職人芸で何とかする、何とかなっているのでますます予算が付かない、という悪循環である。

 人命にかかわるような問題に対し設備投資による恒久対策を講じず、職人芸に頼った応急処置だけで済ます、人に頼った運用で逃げる。

 一番やってはいけないことをやっているのだ。

 この現状を聞いたミヤビがめったに変わることのない表情を引きつらせていたほどである。

 

 そして他にもマハルがテストケースの対象となりやすい理由がある。

 身近な例で言うとマンションの建て替え工事。

 住人に反対派が居ると話が遅々として進まない。

 そういう意味で政治的影響力が弱い、つまり住民の抵抗を無視しやすいマハルはテスト事業の対象としてやりやすいのだ。

 そもそも工事には住人である業者を使うのだから反対も少ないだろうし、また宿舎を用意せずとも彼らが自宅から工事現場に通えるというメリットもある。

 そして彼ら業者に金が落ちれば、他の住人も潤う。

 

 と、まぁいいことづくめだったのだが、地球連邦の反対派に阻まれ計画は頓挫。

 しかしタダでは転ばないのがミヤビの父親、ヤシマ財閥当主、辣腕の経営者シュウ・ヤシマ氏である。

 というより彼にはプロジェクトが失敗するのは最初から分かっており想定どおり。

 そして彼はこのプロジェクトの推進で人望を集めたミヤビを使ってマハルの人材をかき集めたのだ。

 ミヤビに、

 

「マハルのみなさんには期待をさせておいて、私の力が及ばずこんなことになって済みません。でも私は今日まで一緒に同じ夢を見て頑張ってきたみなさんとの絆をこれっきりにしたくはありません。埋め合わせ、という意味もありますが、みなさんに仕事をお世話させていただきたいのです」

 

 と言え!

 こっそり目薬を使って涙をこぼす演出も忘れずにな!

 人形姫の目に涙! これは効く!

 

 と命じ、スペースコロニーの建築・補修の下請けを行う業者や、ジオン国民として戸籍登録が行われていない者たちの多くをヤシマグループの各企業に迎え入れる。

 まぁ、元々ミヤビは父や周囲を説得するために「ダメでもマハルでダブついてる人材をうちで吸収すれば大きなメリットを見込めるよ」と主張していたので既定路線ではあるのだが。

 

 そして、ジオンはあっさりとこれら人材を手放した。

 元々、彼らは厄介者扱いされていた。

 一時期需要があったため多く流れて来てマハルに居住したコロニーの建築・補修の下請け業者たちだったが、現在ではジオンが戦争準備にシフトしたため仕事も少なくなり景気は悪い。

 つまり彼らに国民になられると税収より社会保障や福祉等にかかる支出の方が大きくなる。

 だからこそジオン国民として戸籍登録が行われていない者が多かったのだ。

 それを放出し、身軽になることはジオンとしてもメリットがある。

 

 もちろん、地球連邦に国力で劣るジオンなのだから手放さず軍に吸収するという選択肢もあったが……

 しかしジオン国籍を持たない者の登用は、

 

「人類は、我ら選ばれた優良種たるジオン国国民に管理・運営されてはじめて永久に生き延びることができる」

 

 というギレン、ザビ家の主張とは相反するもの。

 実際に史実ではゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の外人部隊(MS特務遊撃隊)もあったが、規模は小さいし扱いは微妙といった具合。

 そういった状況で扱いに困る、迷っていたところにヤシマからの申し出があってこれ幸いと放出したというのが実情だった。

 

 そんなわけでシーマもまたヤシマグループ企業に就職することになった。

 

(サイド6の戸籍を持っているんだから、好き好んで戦争に首を突っ込まないでもいいでしょうに……)

 

 とミヤビが独白するとおり、わざわざ危険を冒さなくてもいいだろうと将来的に中立となるサイド6の戸籍を彼らに与えたのだが、史実ではシーマ艦隊を構成したシーマ自身と配下の荒くれ者たちの多くは、ヤシマグループの民間軍事会社『ヤシマ・ファイアアンドセキュリティ』に集っていた。

 副官の海賊男、デトローフ・コッセル氏なんかもそのまんまである。

 しかし、シーマはそんなミヤビの想いも分かっているだろうに涼しい顔をして、

 

「使えるものは何でも使うってこったろ。あたしたちのような者も……」

 

 そしていたずらっぽく笑うと、

 

「どこかの将軍サマの白髪頭もね」

 

 と言ってのける。

 まぁ、レビル将軍も自分の頭を下げるぐらいで使える駒を動かせるならそれでいい、と考えたからこそシーマに依頼をかけたのだろうし。

 

「かないませんね……」

 

 ミヤビはそう言って肩をすくめた。

 そして、ふと気付き、

 

「レビル将軍ならマチルダ隊を使うと思いましたが」

 

 と聞いてみる。

 

「ああ、彼女ならヨーロッパ南方戦線…… 例のザクハンターの中尉さんの所に出払ってるって話さ」

「中尉さんって、前にお話を聞いたベン・バーバリー中尉?」

 

 『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』登場の対MS特技兵指揮官。

 ミヤビにとっては同じ死神に魅入られた関係者でもあるのでいつかは会って話を聞いてみたいものなのだが。

 史実では対モビルスーツ用にスケールアップされた有線ミサイル、対MS重誘導弾M-101A3 リジーナでザクと戦っていた彼だったが、この世界ではドラケンE改に乗っているという。

 よりマシな兵器を与えられているためか、今現在も生き延びヨーロッパ南方戦線でザクハンターとして活躍中らしい。

 シーマはドラケンE改の操縦及び戦術の指導教官として彼と接触したのだ。

 これもミヤビと彼女が生み出したドラケンE改が作用した変更点のようだった。

 

 

 

 補給作業を終え、シーマはブライトたちに別れを告げる。

 

「テム・レイ大尉、および避難民の病人など35名は引き取ります。ホワイトベース、モビルスーツについてはなんの決定も知らされていないので現状のままでしょう。なお、今までの戦闘記録はレビル将軍の依頼によりコピーを頂きます」

 

 一応、申し送りなので丁寧語だ。

 普段の…… そして何より前世の記憶の中にある『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』での彼女を知るミヤビには新鮮に聞こえる。

 まぁ、史実では何のコネも無いにも関わらずジオン軍で中佐まで昇進した人物、エリートである。

 この辺の演技は自由自在といったところか。

 

 なお、彼女の背後では頭から布袋の中に突っ込まれたテム・レイ博士らしき人物がサラの制御するドラケンE改によって運ばれていた。

 ムームー言っているので猿ぐつわでもかませられているのか。

 ジャブローへの帰還を拒否し工作室に立てこもっていたのを、ミヤビの指示でサラが扉を破り捕まえたのだ。

 

「しかし、ミズ・ガラハウ、わかりません。なぜ僕らも船も現状のままなんですか?」

 

 ブライトからは当然の質問が上がるが、

 

「さてね? レビル将軍はホワイトベースが現状の戦闘を続けられるのなら、正規軍と同じだと言ってたけどね」

 

 と、地に戻ってシーマは答える。

 

「今は連邦軍だってガタガタだからねぇ。あたしだってゴップ大将の依頼でここまで来ただけで、参謀本部とは関係ないし」

 

 その言いっぷりにブライトは戸惑うが、それでも、

 

「で、次の補給は受けられるのですか?」

 

 と、押さえるところは押さえる。

 しかし、シーマの回答は、

 

「さあ。このジオンの制空権を脱出できれば、なんとか?」

 

 というあいまいなもの。

 

「ともかく、連邦軍にもあんたたちを見捨ててはいない人がいることを忘れなければいいんじゃないかい?」

 

 そう言って、シーマはアムロたちに歩み寄る。

 

「シーマさん?」

「あんたたちの戦いがなければ、うちの姫様たちもやられていたかも知れないね。ありがとう、そう言わせてもらうよ」

「そ、そんな」

 

 姫様たち、とはもちろんミヤビとミライだ。

 そして当然、姫呼ばわりされてミヤビは死んだ目をしているのだが、シーマは気にしない、というかわざとやっている節がある。

 

 まぁ、ミヤビがシーマを気遣うように、シーマもミヤビとミライを気遣っている。

 このまま連れ帰りたいところではあるが、帰り道も危険であることに変わりなく、ホワイトベースに残るのとどちらが安全かは正直分からない。

 また、シーマのあずかり知らないところではあるが、ヤシマ姉妹にはヤシマグループを戦争に協力させる人質としての役割もあった。

 ジオンのメイ・カーウィン嬢、ゲーム『機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles』とその関連作品に登場の彼女は旧ジオン・ダイクン派のカーウィン家をジオンの戦争に協力させるための人質だった。

 娘が前線に送られればカーウィン家とて非協力では居られまい、というもの。

 ミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』もあってジオンに関わりの多いヤシマグループは、同様に連邦への戦争協力への証としてミヤビたちを用いることが求められてしまっているのだ。

 

 シーマはアムロに微笑みかける。

 

「頑張りな、少年」

「はい」

 

 一瞬の香りを残してシーマは去った。

 アムロにとって、それはミヤビに次いで二番目に知った女性の香りであったのだろう。

 

 

 

「やれやれ行ったか」

「レイ博士!?」

 

 シーマの乗ったミデアを見送るクルーの中に、ひょっこりと混じっているのは、先ほど連行されていったはずのテム・レイ博士だった。

 

「えっ、それじゃあサラちゃんが捕まえたのは……」

 

 ミヤビは周囲を見回して納得する。

 

「リード中尉ですか」

 

 そう、さっきから誰か欠けていると思ったら、リード中尉の姿が無い。

 

『えっ、でも私は確かに……』

 

 サラが戸惑いの声を上げるが、ミヤビにはネタが分かっている。

 

「レイ博士、ドラケンのセンサーカメラ…… サラちゃんの目を盗みましたね」

 

 アニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に登場するハッカー、笑い男のやったあれである。

 カメラの画像情報をハッキングして上書きするやつ。

 それでリード中尉をテム・レイ博士に見せかけてサラに捕まえさせたのだ。

 多分、音声入力にも細工してる。

 

 AI単独制御の兵器に反対する者が多いのは、AIの目は簡単にごまかせるから、ということがある。

 今回はハッキング…… おそらくサラシリーズ、それも複数に命じてスパコン並みの演算力を持つ教育型コンピュータによるごり押しをしたのだろう。

 サラ本体はハッキングできなくとも、末端のセンサー類なら誤魔化せるはず。

 そして更に言うなら、もっと原始的な方法でもよい。

 『機動戦士Zガンダム』以降、登場する装備であるダミーバルーンなどが最たるものだ。

 どうして風船ごときに騙されるのさ、という話があるが、モビルスーツのモニターに映し出される画像はセンサーの情報を基にCG補正されたもの。

 つまりセンサーに本物と変わらない反応を返すことができれば、モビルスーツのコンピュータはそれを本物と認識して勝手に本物と変わらない画像に補正して表示させてしまうのだ。

 

 ともあれ、これで史実どおりリード中尉はリタイヤである。

 おつかれさまでした、とミデアが消えた空を見上げ祈るミヤビだった。

 

 

 

次回予告

 ホワイトベースを討ち漏らすことはイセリナとの恋に賭けてもできなかった。

 最後の強襲をかけるガルマ・ザビ。

 アムロたちが闇の中に恐怖を見た時、シャアのたくらみが――

「く…… 来る! イセリナが走ってくる! イセリナが音もなく走ってくる―― く…… 来るなあ!」

 次回『ガルマ入籍す』

 シャアは生き延びることができるか?




 というわけで、マチルダさんは来ませんでした。
 代わりにやってきたのはシーマ様。
 そしてミヤビの『コロニーリフレッシュプロジェクト』のまだ語られていなかった部分でした。
 このまま戦争が史実どおりに進むとレビル将軍が…… そしてミヤビの評判がとんでもないことになるんですけど。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第10話 ガルマ入籍す Aパート

「く…… 来る! イセリナが走ってくる! イセリナが音もなく走ってくる―― く…… 来るなあ!」

 

 ベッドから跳ね起きるシャア。

 

「夢、か……」

 

 全身に脂汗をじっとりとかき、動悸が止まない。

 

「こ、このままではダメだ……」

 

 ヤンデレへの恐怖とストレスで命が危ないと悩むシャア。

 どうしてこうなった……

 

 

 

「ヒートホークとマルチパイロンね」

 

 シーマたちが運んできてくれた補給物資は色々あったが、中にはドラケンE改向けの装備も含まれていた。

 それが今、ミヤビがサラに命じてドラケンE改に装備させ、動作を確認しているものだ。

 その右腕肘のハードポイントにはジオンのザクが使うヒートホークが装着されていた。

 

(肘から先が斧? どこかで見たような……)

 

 とミヤビは考え、そして思い出す。

 『機動戦士ガンダムUC』に登場したクシャトリヤ・リペアードが失われた左腕の代わりに肘から先にハイパービームジャベリン(実際にはそう名付けられた大型ビームアックス)を直付けしていたことを。

 今のドラケンE改も、ちょうどそんな感じであった。

 

『これ、柄が伸び縮みするんですね』

 

 と、サラ。

 装着されているのはHEAT HAWK Type5と呼ばれる一般的な型のものだが、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』登場のザクIIJC型等が使っていたものと同様、柄に伸縮する機構が内蔵されている。

 

「携帯時に邪魔にならないように採用されたギミックね」

『縮めた状態ならドラケンでも何とか扱えそうです』

「そうね、遠心力を利用して破壊力を上げるようなことをするなら伸ばして使うのもありかもしれないけど……」

『機体のバランス取りなんかに気を使わなければならないし、難しいと思いますよ』

「隙も大きくなるでしょうしね」

 

 素人にはお勧めできない、というやつだ。

 逆に玄人なら突然リーチを伸ばして不意を突く、なんて使い方も可能だろうが。

 そして、

 

「ほう、これはこれは」

 

 と相好を崩し、興味深げに観察しているのはもちろん我らがテム・レイ博士。

 

「なるほど、ドラケンE改の右肘ハードポイントを連邦、ジオン両対応にするものか」

 

 一目で機能を見抜くのはさすがと言える。

 しかし、

 

「とはいえ現状で利用できるのはヒートホークぐらいですけどね」

 

 とミヤビは肩をすくめる。

 他の装備は大きさ的に考えてドラケンE改には扱えないのだ。

 

 なおヒートホークはジオンからの鹵獲品ではなく、連邦軍の依頼でヤシマ重工が製造したコピー品だ。

 刃をプラズマ化して敵装甲を溶断するヒートホークは使い捨てと言わないまでも消耗品。

 地球連邦軍では『機動戦士ガンダム MS IGLOO』登場のセモベンテ隊のように鹵獲ザクを使った部隊があったため、それに対する供給用として特別発注を受けたわけだ。

 ヒートホークは元々、コロニー建設に用いられる作業用宇宙艇搭載の高周波誘導切断器にルーツを持つ器材であり、コロニー建設も請け負うヤシマ重工にとってみれば鹵獲品をリバースエンジニアリング…… 分解解析してコピーするなど容易いことだった。

 

 というか、

 

「ここをいじれば出力5パーセントアップ!」

 

 とか、

 

「省電力機能を付け加えて稼働時間を2割増!」

 

 とか、いろいろとやらかしそうになった技術陣を上の人間が必死に止めて生産性やジオンのものとの互換性、低コストを優先させて完成させた経緯にある。

 ヤシマ重工は日本企業の流れをくむメーカーだけあって、製品をガラパゴス化させてしまいやすい傾向にあるのだ。

 少数生産の、しかも使い捨てに近い消耗品にそんなコストをかけてどーすんだ、という話であるが、技術陣はまだあきらめていないらしい。

 だからこそドラケンE改用にマルチパイロンを用意し使えるようにしてミヤビのところまで送りつけてきたのだ。

 ドラケンE改の正式オプションとして採用されれば生産数がアップし利益も出る。

 そうすればコストをかけてもいいと経営陣からGoサインが出るかも知れん、という彼らの考えが透けて見え、ミヤビは変わらない仮面の表情の下、内心呆れていた。

 

 そして、ふむ、とテム・レイ博士は考え込む。

 

「ヒートホークはビームサーベルより省電力だから継戦能力は高くなるか」

 

 どちらもモビルスーツ本体からのエネルギー供給が必要であり、だからこそマルチパイロンはジオン規格の給電システムも備えたものになっている。

 しかし、テム・レイ博士が言うとおりヒートホークに必要な供給電力量はビームサーベルに比べ圧倒的に少なかった。

 

「でもリーチと切断能力では劣るわけですし、標準サイズのモビルスーツと打ち合ったら力負けして吹き飛ばされてしまいます。むしろパワーのあるガンキャノン向きでは?」

「うん?」

「ガンキャノンには斬撃武器はヒートナイフしか用意されていないわけですけど、これってビームサーベルを使おうとすると両肩のキャノン砲が邪魔になるからですよね」

 

 ミヤビの指摘に、テム・レイ博士はうなずいて、

 

「ああ、まずいことにビームサーベルは峰が無いどころかどこに触れても切断されてしまうという特殊な剣だ。実体剣で言う『刃筋を立てる』ということを考えずに済む反面、何も考えずに振るえば自分でキャノン砲を斬り飛ばしてしまうだろう」

 

 コンピュータ制御で当たらないように制限するという手もあったが、そうすると今度はパイロットの操作と実際の機体の挙動に差が生じる。

 つまり思いどおりに動かないということで、白兵戦時に致命的な隙ができてしまうことになる。

 そういった制限から、ガンキャノン向けにはヒートナイフが用意されることになったのだ。

 

 そしてミヤビは、

 

「そんなガンキャノンにこそ、手ごろな大きさのヒートホークが合うのでは?」

 

 と思っている。

 

「短く扱いやすい上、威力は高めでも切断するためのエッジは限られ、そこに触れない限りは安全なので自分でキャノン砲を斬り飛ばしてしまう恐れも少ない」

 

 そしてまた手斧はイギリスのSASなどの特殊部隊でエントリーツール兼武器として使用されていたし、アメリカ軍ではベトナム戦争で使われたベトナムトマホークを発展させたものを、2000年代に入ってからタクティカル・トマホーク、タクティカル・アックスとして使用するようになっていた。

 そういう意味では歩兵の武器としてうってつけのものと考えてよいだろう。

 ミヤビの前世の記憶でもゲーム『機動戦士ガンダム戦記』ではガンダムがヒートホーク2刀流などということをやっていたし。

 

 そしてテム・レイ博士はというと、ミヤビの説明を聞いて、

 

「ううむ、確かに……」

 

 とうなる。

 

「企画の段階ではザクを解析すると同時にヒートホークの研究も行われていたのだよ」

「まぁ、そうなりますよね」

「ガンキャノンは火力重視の設計となったため、結果として格闘戦用には扱いやすいヒートナイフを補助的に持たせることに決まったわけだが……」

 

 もう少し詳しく説明すると、

 

「設計思想的にはビームライフルに両肩のキャノン砲、近接防御用にバルカンまである。それゆえ、格闘戦用の武器はそれらで対処できない間合い、すなわち組み付かれ、もみ合いになるような距離で使用するものと考えられたのだ」

「密着した状態では振りかぶらなければ攻撃できない斧より突くことで攻撃できるナイフの方が有利と?」

「そういうことだな」

 

 鎧が発達した中世では槍などメインウェポンの他に相手を地面に引きずり倒し鎧をめくって止めを刺す組み打ち用の武器も携帯されていた。

 その際に使われたのが、ダガーナイフや腰刀、脇差などといった短い刃物なのだった。

 

「でも実戦では組み打ちになる以前に、ヒートホークの間合いで射撃武器での迎撃が間に合っていませんでしたね?」

「そのとおりだ」

 

 ミヤビの指摘を、テム・レイ博士はあっさりと認めた。

 

「射撃武器は『狙い』『引き金を引く』という二動作が必要なのに対して斬撃武器はただ振るうだけの一動作で済むというのは分かっていたが…… 斧が銃を上回るほどの違いがあるとは私も含め誰も考えなかったわけだ」

 

「銃は剣よりも強し」ンッン~、名言だなこれは。

 と開発スタッフは考えていたのだが、現実はまた違っていたということだった。

 

 あとはまぁ、素人のアムロがシャアを相手にしなければならなかったという点を大いに加味しなければならないかとは思うが。

 

「検討を行った段階と違って現在では補助AIサラシリーズの採用で機体の制御はやりやすくなっている。ナイフの扱いやすさにこだわらなくとも良い、ということもあるか……」

 

 テム・レイ博士はそうつぶやくと、さっそく自分の城と化しているホワイトベースの工作室にヒートホークとマルチパイロンを運ぶようにサラに命じる。

 そうして何やら怪しげなことをぶつぶつと呟きながら自分の世界に入って行った。

 

 こうなってしまったテム・レイ博士には何を言っても無駄、と経験上分かっているミヤビは肩をすくめると他の品の確認に回り、

 

「え、ナニコレ……」

 

 と、絶句することになるのだった。

 

 

 

 ガルマは一時的に前線の基地からニューヤークの官邸に戻っていた。

 占領政策の一環である社交界のパーティー、夜会に出席するためである。

 

「時に、お父上のデギン公王には地球においでになるご予定は?」

 

 あからさまにすり寄ってくる権力者たちに、ガルマは涼しい顔で、

 

「聞いてはおりません」

 

 と、答える。

 つっけんどんなように取られかねない言葉も、貴公子然としたガルマが柔らかに口にすればまた違ったように受け止められることになる。

 だから相手も気を悪くすることなく、

 

「おいでの節は是非なにとぞよしなに、ヒヒヒヒ」

「フフフ」

 

 とさらにおもねることとなる。

 そしてそれには言質を与えることなく静かにほほ笑み沈黙を守るガルマ。

 彼は会場の一角に仮面の男を認め、

 

「失礼、また後程」

 

 と、優雅に一礼してその場を立ち去る。

 その姿を見て、周囲の令嬢たちからは、

 

「まあガルマ様、いつも凛々しいお姿」

「素敵」

「しびれちゃう……」

 

 などといった呟きがささやかれる。

 それを慣れた様子で聞き流しながらシャアの元へと歩み寄るガルマ。

 そして周囲に人目が無いことを確認してようやくその顔に嫌悪を出す。

 

「連中は虫が好かん」

 

 ジオン有利と見てすり寄ってきた連中だ。

 潔癖なところのあるガルマが嫌うのも無理はない。

 それでもそれを外に見せない分別と演技力が彼にはあった。

 ジオンの統治を円滑なものにするため必要なこと、と割り切っているのだ。

 しかし、それでも友人であるシャアにはこうやって愚痴を漏らすあたり鬱憤が溜まっているのだろう。

 シャアは苦笑して、

 

「しかしやつらがあの木馬とモビルスーツの存在を知ったら慌てるだろうな」

 

 と皮肉めいた言葉を漏らす。

 ジオン有利と見て投資したところに、それをひっくり返しかねない要素が出てきたと知ったら?

 また連邦側に寝返るか?

 コウモリは嫌われるものだ。

 寝返りも一度ならともかく二度目となると……

 しかし、あんな連中はどうでもいいとばかりにガルマは、

 

「それだ。木馬討伐隊を組むには戦線が拡大しきっている」

 

 と、率直な言葉を返す。

 要するに戦線を広げ過ぎて手が足りていないところに、さらに引き抜きをかけるようなまねはできないということだ。

 

 例えばキャリフォルニア・ベースには後にザク・キャノンで活躍することになるイアン・グレーデンのように有力なパイロットたちが居たが、最重要地であるそこの防衛戦力を軽々しく動かすわけにもいかない。

 そもそも彼は守備隊の戦力であると同時に自軍のモビルスーツパイロットに地上戦を教える訓練教官でもある。

 戦争は組織で行うものである以上、彼のような人材は前線に出すより教官として軍全体の実力を底上げをさせるために使う方がはるかに有意義であるのだった。

 

「エース級のパイロットを教導隊のような後方で遊ばせておくなんて」

「彼らを前線に出せば戦況も改善されるはずなのに」

 

 ということを主張する人間も居るが、実際には教育を行う人材を確保できなくなったら後はじり貧となってお終い。

 その戦争は負け戦になってしまうと見て間違いない。

 

 そしてパーティの場でまでそんな風に生真面目に思い悩むガルマに、何か気晴らしのネタは無いかと会場を見回したシャアは一人の男性に目を付ける。

 

「ガルマ、あの紳士は誰だ?」

「ん?」

 

 シャアの目線の先に居る人物は、周囲の人々に対して何事か語り掛けている。

 

「いやいや、やりようはいくらでもあるんだよ」

 

 注目を浴びている以上、それなりの人物らしいが……

 

「頑固そうなおやじだな」

 

 そう言ってグラスを傾けながら観察するシャアに、ガルマが答える。

 

「前の市長のエッシェンバッハだ」

「ぶっ!?」

 

 ガルマから発せられたその姓に、思わずむせるシャア。

 アルコールが気管に入り酷く咳き込む。

 

「おいおい大丈夫かシャア? 君らしくもない」

 

 ガルマは心配そうにシャアの背をさする。

 本当に、このお坊ちゃんは人が良い、とシャアは仮面の下で涙目になりながら思うが、実際は少し違う。

 ガルマは相手が大切な友人であるシャアだからこそ心配もするし、こうやって手を差し伸べるのだ。

 

「まあガルマ様があんな表情を殿方にお見せになるなんて」

「素敵」

「しびれちゃう……」

 

 と、遠くから彼らを見守る貴腐人(誤字にあらず)たちが熱い吐息を漏らしているが、まぁ、それはどうでもよい。

 シャアが彼女たちが何を考えているのか知ったら「冗談ではない!」と叫んでいただろうが。

 

「が、ガルマ、エッシェンバッハとはあの……」

 

 シャアが確認しようとしたその時に、

 

「イセリナ・エッシェンバッハ様のお見えでございます!」

 

 と、会場に案内が響き、そして人々のざわめきと共に現れたのは、

 

(やはりイセリナ! イセリナ・エッシェンバッハかっ!!)

 

 夜会服に身を包んだイセリナだった。

 

 正直、近づきたくないシャアだったが、彼女はこちらをまっすぐに見ている。

 シャアの背を親し気にさすっているガルマを!

 

(ま、まずい!)

 

 彼女の嫉妬の炎が恐ろしいのは十分すぎるほど理解しているシャア。

 

「が、ガルマ、彼女のエスコートに回った方が良いのでは?」

 

 平静を装いながらも、

 

(さっさと行け! 自分を巻き込むな!)

 

 とガルマを追い払おうとしようとするシャアだったが、ガルマは迷った様子でシャアを心配そうに見て、

 

「しかし、君は大丈夫……」

「いや、大丈夫だ!」

 

 シャアはガルマのセリフを食い気味に言い切ると胸を張る。

 まだ完全には回復していなかったが、無理やりにでも咳を抑え込む。

 これはやってみると分かるが滅茶苦茶苦しいのだが、命には代えられないとばかりに涙目で耐える。

 仮面があって本当に良かったとこの時ほど思ったことはないシャアだった。

 正史ではア・バオア・クーのアムロとの白兵戦でヘルメットと仮面のおかげで即死を免れたのだが、それと並ぶような扱いである。

 

 しかし……

 

「ガルマ様」

 

 来た!

 

 ガルマの到着を待たずに来る!

 イセリナが来る!!

 さっきまであちらに居ただろう、と思うが視線を外した瞬間に移動したかのようにすぐ間近に声と、振り向けばその姿が!

 

「――っ!」

 

 シャアはとっさに、

 

「前線でラブロマンスか。ガルマらしいよ」

 

 とお坊ちゃん、ガルマをいけにえに捧げてヤンデレからの回避を試みる!

 彼も必死だ。

 

「ふふ、からかうなよシャア」

 

 と、ガルマは半分照れながらもまんざらでもなさそうな様子だったが。

 いいからさっさと行け! と叫びたいシャアだった。




 シーマ隊の補給物資に紛れて届いたヒートホーク。
 それを見て何やらろくでもないことを考えるテム・レイ博士。
 そしてピンチなシャアでした。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第10話 ガルマ入籍す Bパート

 人気のないバルコニーで見つめ合い、愛を確かめるガルマとイセリナ。

 

「ジオン軍の総帥たるザビ家の息子に娘はやれぬとおっしゃられた」

「はい」

 

 イセリナに邸宅を焼かれてもまだそう言えるとはヨーゼフ・エッシェンバッハ氏もさすがである、と思えるだろうが実際は、

 

「こんな恐ろしい娘を嫁に出せるわけが無いだろう!? ましてやザビ家の息子のところにやって、何かあったらどうするんだ!!」

 

 と恐怖に頭を抱えているだけだったりする。

 しかしそれが分からぬガルマには、

 

「君の父上ならそう言うだろう」

 

 と、普通に娘の結婚に反対する父親、という具合に受け止められていた。

 そんなガルマにイセリナは言い募る。

 

「わたくしにはジオンも連邦も関係ありません。ガルマ様はガルマ様。お慕い申しております」

「イセリナ」

 

 その手を取ってくれたガルマにイセリナは身体をあずけ、

 

「……たとえ父がどう言おうと、わたくしはあなたのお側におります」

 

 いじらしくそう言ってくれるイセリナの髪をその手で撫でながらガルマはささやく。

 

「私も父とジオンを裏切るわけにはいかないが」

 

 弾かれるように顔を上げたイセリナに笑いかけ、

 

「大丈夫。連邦軍の機密を手に入れさえすれば、父とて私の無理を聞き入れてくれる」

「ガルマ様……」

 

 愛しい人の言葉に、感極まったように瞳を潤ませるイセリナ。

 そしてガルマはさらに、

 

「それで聞き届けてもらえねば、私もジオンを捨てよう」

 

 と、シャアが聞いていたら「勢いに任せてとんでもないことを言うな!」と叫んでいただろうという言葉を言い放つ。

 イセリナに嘘は通用しないのだから……

 

「……ガルマ様」

 

 見つめあい、口づけをかわす二人。

 しかしそこに兵士が駆け込んでくる。

 

「ガルマ様!」

「何事だ?」

 

 ガルマは慌てず、声を荒立たせることもなく聞く。

 イセリナはその背に隠れるように控えていた。

 

「あ、これは」

 

 と状況を察し、口ごもる兵だったが、

 

「構わん、言ってみろ」

 

 と、ガルマに促され報告する。

 

「は、木馬がS3ポイントに紛れ込みました」

「なに?」

「ここの最後の防衛線を突破されれば、連邦軍の制空圏内に入られてしまいますが」

 

 しかしガルマは慌てることなく答える。

 

「予定通りだよ、あそこに防衛ラインもある。私も機動一個中隊で現地へ向かう。シャア少佐にも伝えろ、出動だ」

「は」

 

 自ら出撃すると決めたガルマを、イセリナは心配そうに見るが、

 

「連邦軍の新兵器を奪い取ったら国に送り届ける。その時には君も一緒だ」

 

 そしてイセリナと口づけをかわし、駆け出すガルマだった。

 

 

 

 ホワイトベースは戦争で荒廃したシアトル市街に進入していた。

 ホワイトベースが迷い込んだのはニューヤーク市街とされることも多いが、劇場版では北米大陸西海岸にあるシアトル市街とされている。

 実際、TV本編でもあの廃墟がニューヤークだとは一言も言っていないわけだし、この後、ホワイトベースは太平洋に逃れるのだし、また夜会に出席していたガルマが出撃して戦闘が終了するころには夜が明けている、という時間経過を考えると、シアトル市街までの移動時間がかかったためと考えるのが妥当か。

 まぁ、ミヤビの存在のせいで史実とは状況が変わっている、という可能性もあるのだが。

 

 そんなことをデッキで待機するドラケンE改のコクピットで考えるミヤビ。

 というか寝ないと頭が働かない彼女にはこの深夜の待機はきつく、だからこそ半分寝ている頭で余計なことをつらつらと思い浮かべているわけである。

 

『ジオン軍は私たちをこの街から出さないつもりね』

 

 という妹、ブリッジに居るミライの言葉を艦内通話越しに何とはなしに聞く。

 

『ああ。しかし、このままでは』

 

 と思案するブライトに、こちらもまたガンキャノンで待機するアムロは、

 

『ブライトさん、僕が先頭に立っておとりになりましょうか?』

 

 と、提案する。

 自分が動いた方が早くて確実と考えているところは相変わらずで、ミヤビは変わらぬ表情の下で小さく吐息を漏らす。

 

 そしてブライトは、

 

『いや、それはまずい。ちょっと遅いようだ』

 

 と答える。

 

『聴音機のキャッチした結果です。北から敵機の編隊接近です』

 

 そう報告するのはホワイトベースの目であり耳であるオペレーターの片割れオスカ。

 

『ガウはいるのか?』

『一機はいるようです』

『戦闘機も付いているな』

 

 ガウと護衛のドップらしき編隊が近づいている様子だ。

 やはりガルマ、そしてシャアが来た様子。

 そして、

 

「月は出ているのかしら?」

『は?』

「月は出ているのかと聞いています」

『は、はい……』

「なら、こういう作戦はどうです?」

 

 とミヤビが言ってしまったのは半分以上寝ぼけた頭で「早いこと片付けてさっさと寝てしまいたい」と考えたためである。

 そして…… 正常なときのミヤビが聞いたら「ちょっと待って、何言ってるの、私」と呆れ果てるような策に、ブライトを筆頭としたホワイトベースの面々は乗ることになるのだった。

 

 

 

「パトロール・ルッグン、木馬が見つからんだと? まだ街から出てはおらん、よく捜せ」

 

 ホワイトベースを発見できず苛立つガルマ。

 それに対しシャアは、

 

「フフフ、穴に逃げ込んだネズミを燻りだすのは絨毯爆撃に限るな」

 

 と提案する。

 市街地は遮蔽物が多く隠れやすいが、既に廃墟と化した街なら無差別の絨毯爆撃で燻り出すことが可能だ。

 ガルマはうなずくと兵に命じる。

 

「よし、全機ローラーシフトを敷き、ただちに爆撃を開始しろ」

 

 

 

 近づいてくる空爆による破壊音。

 史実どおりホワイトベースは雨天野球場…… 正確には半壊した超大型多目的スポーツドームの中に隠れていた。

 

「クッ、これで当たらなければおめでとうって所だな」

 

 コア・ファイターのコクピットに待機するリュウがつぶやく。

 だが、ホワイトベース左舷モビルスーツデッキにあるはずのガンキャノン、ガンタンクの姿はそこには無かった。

 

 

 

「どうだ? 木馬は出てきたか?」

「いえ、まだです」

 

 空爆の効果を確かめるガルマだったが、部下からの答えは芳しくない。

 

「なぜ出てこない? 居ないのか?」

 

 予想が外れ、そもそも想定条件が間違っているのかと疑うガルマ。

 予測と違う結果が出ても「バカな」と思考停止することなく、立ち戻って全体を見直す、

「そもそもここに居るという前提が間違っているのでは?」

 と考え直す思考の柔軟性。

 やはりこのガルマ、覚醒している。

 

 惜しむらくは、

 

「連中も戦いのコツを呑みこんできているのさ」

 

 と、シャアが言うとおり、ここは焦らず粘り強く行く場面であり、そういった意味では頭の柔らかさより経験に裏打ちされたしぶとさが必要な場面であることだ。

 その点では親や周囲に大事にされ、前線に出ることのできなかったガルマにはやはりまだまだ経験が足りない。

 そして、

 

「こうなれば地上に降りて見つけ出すしかないか……」

 

 と、ガルマは次の手を打つことを考える。

 これもまたいい考え方である。

 ここは我慢のしどころであるのは間違いないが、だからといって現状維持では戦いの主導権を握ることができない。

 いったん戦端を開いたのなら、常に次の手を考えイニシアチブを取り続けることが必要だ。

 

 それならばとシャアは、

 

「まあ待て。そういうことなら私が部下と降りてみる」

 

 と提案する。

 

「やってくれるか?」

「当たり前だろう、私は君の部下だ」

「今はそうだが、もともと君はドズル兄さんの直属だ。私だって……」

 

 言葉を途切れさせるガルマに、シャアは、

 

「そういう風にこだわりすぎるのもまた良くないだろう。使えるものはなんでも使う図太さもまた指揮官には必要だ」

 

 と言う。

 実践している人間だけに説得力がある。

 ガルマは苦笑し、自分の心を落ち着かせると、

 

「任せる」

 

 と素直な気持ちで答えた。

 

 

 

 ビルの谷間の暗闇に、きらりと光る五つの目、5連式多目的カメラモジュール。

 

【挿絵表示】

 

 ミヤビの駆るドラケンE改はステルス機であり、またその機体の濃い赤は夜の闇に溶け込みやすく夜間迷彩として優秀だ。

 移動もインホイール・モーターとランフラット・タイヤを組み込んだローラーダッシュ機構によるものだから音を立てないし、歩行するにしても屋内でも使用する作業機械でもあるドラケンE改、床面を傷付けないためのラバーソールが足音をかき消す。

 背中のロケットエンジンを使用してジャンプ。

 通常サイズのモビルスーツよりはるかに軽量であることを生かして廃ビルの屋上に着地。

 星が降りしきるペントハウスに機体を紛れさせる。

 

「月が綺麗ですね、か……」

 

 ミヤビは夜空を見上げ、そうつぶやく。

 無線封鎖しているので聞いているのはサラと月だけだ。

 

『何か言いました?』

「……いいえ、何も」

 

 けぶる瞳でHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)の画面片隅に映し出されるサラを見て答える。

 なお、思わせぶりなセリフもその表情も、ただひたすら眠い、というミヤビの意識が生んだ幻想である。

 

 

 

 ちなみにドラケンE改に採用された民生品のステルス塗料だが、これは別途、意外なところでヤシマ重工の役に立っていた。

 

 話は複雑になるのだが、宇宙世紀0078年当時、地球連邦軍はサラミス級巡洋艦のステルス化改造計画を進めていた。

 ミヤビの前世の記憶でも『機動戦士ガンダム公式設定集 アナハイム・ジャーナル U.C.0083-0099』に載っていたことで、それによるとヤシマ重工とアナハイムエレクトロニクス社の先進開発事業部、通称『クラブ・ワークス』の共同で進めたが、この後ミノフスキー粒子により従来のステルス技術が陳腐化したため大損をした、という話だった。

 

 ミヤビは父、シュウ・ヤシマにミノフスキー粒子が与える影響について、ある程度の根拠と共に予測として告げており、ヤシマ重工は当初、この事業への参加を見送ろうとした。

 しかし規模が大きいうえ最先端の技術を要するこのプロジェクト、受注できるメーカーは非常に限られる。

 そのため発注元の地球連邦軍に、

 

「競争入札にしないといけないけど、本命以外、どこも受けてもらえない。すまんが形だけでも入札してくれ」

 

 と頭を下げられ、仕方がないとばかりに、

 

「ドラケンE改に採用した民生品の低コストだが高性能とは言い難いステルス塗料を使用しただけの画期的でも何でもない内容の提案書」

 

 に、間違っても落札できない、馬鹿みたいに高い入札金額を付けて提出したのだ。

 

 競争入札というのは、仕事を頼む場合などにおいて一番有利な条件を示す業者と契約するために複数の希望者に内容や入札金額を書いた文書を出させて、内容や金額から契約者を決める方法。

 簡単に言うとオークションの逆、一般的には安い入札金額を提示した方が契約をもぎ取ることができる。

 つまり高い入札金額、しかも内容に見合っていないものを付けたヤシマ重工は、最初から勝負を捨てている、仕事を取りに行っていないというわけだ。

 ミヤビの前世、旧21世紀の日本でも「採算が取れないから辞退したいけど、まぁお付き合いで入札しますよ」という場合に見られたやり取りである。

 そんなものでもライバルが居る、ということで本命の業者が入札金額を下げてくれる場合もあるので発注側にしてみれば無駄ではないのだ。

 

 しかし、である。

 地球連邦軍の上層部は落札予定の他社、つまりアナハイムエレクトロニクス社単独での受注に難色を示し、すったもんだした挙句、2社とも採用という異例の事態に発展したのだ。

 約束が違うし、そもそもレベルの低い提案に不釣り合いな高額の入札価格を丸呑みされたせいで、

 

「おいおい、癒着や談合を疑われたらどうするんだ」

 

 とヤシマ重工側は危惧したのだが、幸いドラケンE改がステルス機として高い評価を受けていたため、そういった詮索はなされなかった。

 

 とはいえ金をもらいすぎている面もあるので後々に変な追及を受けないよう、ヤシマ重工では有償ではあるがアナハイムへのステルスに関する技術提供を積極的に行う(ミノフスキー粒子による技術の陳腐化前の処分セールとも言う)と同時に、

 

「うちの案だとステルス性が低い? どうせ攻撃を始めたら居場所はばれるんだし敵より先に発見できればいいのでしょう? 偵察機を飛ばして秘匿性の高いレーザー通信によるデータリンクで射撃できるようにすればいいじゃん。あと索敵系も電波を使ったレーダーじゃ居場所を教えるようなもんだから光学系をメインに開発するね。艦内の通信や制御系も今まではワイヤレスが多く使われていたけれども電波は使わない方がいいんだから全部光ケーブルで引き直すね」

 

 ということで、ついでとばかりにステルス運用に必要な技術開発(ミノフスキー環境下でも有効)と共にサラミスの船体前方に艦載機格納庫とカタパルトデッキを装備した試作案を提出。

 もちろん簡単な改装でモビルスーツ搭載艦にもできるようにした……

 

「それって『機動戦士Zガンダム』で出てきたサラミス改級じゃん」

 

 というもの。

 1/1モックアップを作ってみたら「そのまま本当に動かせる実証試験艦に仕上げろ」と指示を受け、その四角い棒状に見える船体から『モック・バー(mock bar)』と名付けられた。

 そして開戦後にモビルスーツ運用艦に改装、ペガサス級強襲揚陸艦の開発に必要な諸々の試験を行ったという。

 またビンソン計画、つまり地球連邦宇宙艦隊再建計画で建造される予定だったサラミス級も、この仕様に沿って作られるサラミス改級となる予定。

 そしてサラミス改級は『機動戦士Vガンダム』の時代、つまり宇宙世紀0150年代になってもミノフスキー・クラフトを搭載して大気圏内でも航行可能にするなど改修を受けながら使用され続ける艦種。

 ……であるからしてヤシマ重工は大損をしたアナハイムエレクトロニクス社を尻目に莫大な利益を上げる模様。

 さすが辣腕の経営者であるミヤビパパ。

 機を見るに敏というか、利益の最大化に余念がない。

 正直、アナハイムの連中に刺されるんじゃないかと心配するミヤビである。

 

 

 

 ミヤビには未来知識を使って軍事で儲けようなどという気はない。

 それをやったらお終いだとばかりに『コロニーリフレッシュプロジェクト』のように戦争を避ける方向で努力するわけで。

 

 しかしヤシマグループが損失を被るような未来を分かっていながら無視できるかというと無理で、つい父親に助言してしまう。

 そしてミヤビパパとゆかいな仲間たちはミヤビと違ってものすごく優秀なので、ミヤビが迂闊に漏らす情報の切れ端で簡単に未来を予見し、最適な行動を取ってしまう。

 それがこういった状況を産み出しているわけである。

 

 

 

「シャア、木馬なりモビルスーツを発見したらすぐに知らせてくれ。ガウで仕留めてみせる」

 

 モビルスーツデッキ、窓越しに語り掛けるガルマ。

 シャアは仮面の下で苦笑すると、

 

「わざわざのお見送りには恐縮するよ。今回はそのつもりだ。頼むよ、ガルマ」

 

 と答える。

 

「頼んだぞ、シャア」

「勝利の栄光を、君に」

 

 シャアはそう告げて敬礼を送るとザクに乗り込む。

 

 

 

『5連式多目的カメラモジュール、目標監視継続中』

 

 ドラケンE改には独立した可動式の頭は無いが、その代わり機体前頂部に固定設置されている保護ボックスにカメラモジュール群を搭載することができる。

 後にジオンの高性能強行偵察型モビルスーツMS-06E-3ザクフリッパーの頭部に装備される3連式多目的カメラモジュールと同様の仕組みで、ナイトスコープ、赤外線、超長距離望遠、大光量補正(フレア・コンペンセイション)カメラ、レーザーセンサー、超音波センサー、更にはショットガンマイクなど複数の異なるカメラセンサーを目的に合わせて選択装備し束ねたものだ。

 これらから得られたデータをコンピュータで統合、幾通りのモードの中から最適な画像とデータを搭乗者に提供するようになっている。

 

 今回は夜間長距離索敵向けに選択、調整されたものになっており、上空を飛ぶガウ攻撃空母の姿がそれにより見事にキャッチされていた。

 

 まぁヤシマ財閥令嬢というミヤビの地位とRX計画に招聘されV作戦に組み込まれた協力者という立場が、一般には供給できない高額の最高級センサー類の複数搭載という『札束で殴り倒す』『金の力で無双する』がごときチートなごり押しを可能としているという事実。

 

 また、サラミス級巡洋艦のステルス化改造計画にヤシマ重工が参入したことによる副産物、新開発の光学系センサー類の充実もあった。

 理想を言うならジオンのモノアイシステムの開発に貢献したという光学器機メーカー『カノム社』を傘下に引き入れたかった…… ミヤビの前世の記憶でもジオンがモビルスーツ等に採用していた光学機器類は一年戦争当時、連邦軍からも羨望の的とされていたし。

 しかし無理だったので結局なじみの深い日本系企業、ミヤビも前世でお世話になった某C社などの流れをくむ日本人独特の職人芸的な技術を持つ企業との協業でジオンの物に負けずとも劣らないセンサー類を開発していた。

 

 そしてもちろん、月が良く見える雲の無い天候、そして視界が開けるビルの屋上への位置取りもあってのことだが。

 

『想定どおり低空を進入。速度なおも低下中。目標データ転送、レーザー回線通信良好……』

 

 そうして、

 

『正面モビルスーツハッチ開きます!』

「今!」

 

 シャアの赤いザクがガウから飛び出した瞬間、地上からの砲撃がガウを貫いた!




 相変わらず夜更かしが苦手なミヤビによる寝ぼけた頭で立てた迎撃作戦。
 空気を読まずにいきなりガウを撃ち落としにかかりますが、これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からず。
 そしてガルマの危機にシャアがどう出るかは次回。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。


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第10話 ガルマ入籍す Cパート

「なに!?」

 

 突然の地上からの砲撃にシャアは驚く。

 幸い彼と部下、三機のザクは離脱に成功していたが、直撃を受け火を噴くガウには連続して次々に着弾が走る。

 

「そこか!」

 

 橋梁の下に火点を認め、シャアは降下中の空中からバズーカを放つ。

 距離はあるが幸い撃ち下し、十分届くはずだったが……

 火点からの攻撃はいったん途切れたものの、再開される。

 

「ちぃっ! ガルマ、聞こえるか、至急離脱しろ! 聞こえるかガルマ!」

 

 

 

 ガウの機体に走る激しい衝撃に転倒、強く叩きつけられるガルマ。

 

「ど、どうした?」

 

 コンソールにすがり立ち上がろうとするが、上手く左足に力が入らない。

 興奮状態によりアドレナリンが分泌され痛覚がマヒしているため分からないが負傷、それも骨が折れているかもしれない。

 

「下から攻撃を受けました」

「下だと?」

「も、モビルスーツです、モビルスーツが下から」

「……上昇だ、上昇しろ」

 

 と命じるが、ガウはエンジンに損傷を受けており出力が上がらない。

 ガウはドップと同様、コロニー内のシミュレーションのみで設計された機体であったため揚力だけでは飛行できず、全速航行時でも下方ジェット噴射に推力の30パーセントを持っていかれるという。

 そのためエンジン出力が低下したこの状態では上昇するのは無理だった。

 それゆえ、

 

「180度回頭だ!」

 

 ガルマは覚悟を決める。

 

「ガウをモビルスーツにぶつけてやる!」

 

 

 

『ガルマ大佐を止めてください!!』

 

 ようやくガウとの通信がつながったかと思ったら、通信手から悲鳴交じりの懇願が届く。

 シャアが耳をすませば、通信機の向こうからは「私とてザビ家の男だ、無駄死にはしない!」などといったガルマの声が聞こえてくる。

 シャアは通信手に頼んでガルマとの直通通話をつないでもらうとこう言った。

 

「ガルマ、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい」

『なに? 不幸だと?』

 

 虚を突かれ、凍り付くガルマにシャアは重ねてこう言う。

 

「そう、不幸だ」

『シャ、シャア、お前は……』

 

 そしてシャアはガルマを一喝する。

 

「君は死んではならんのだ!」

 

 シャアはガルマに語り掛ける。

 

「分かるかガルマ。ザビ家の人間である君が死ねば軍が混乱する。体制を整えるのに時間がかかり、そこを連邦軍に付け込まれるだろう。君のプライドなどどうでもいい! 事実として君は死んではならんのだ」

『シャア……』

 

 ガルマは絶句した後、

 

『この場を君に任せ、私におめおめと無様に逃げ帰れと言うのか。私の望みはたとえ死ぬことになろうとも君の隣に立ち、共に戦って見せることだというのに……』

 

 と悔し気につぶやくが、シャアはあっさりとこう言う。

 

「君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ」

 

 その身も蓋も無い物言いに、ガルマは表情を崩し……

 そして笑いだす。

 

「フフッ、ハハハハハ!」

 

 釣られたようにシャアも笑いだす。

 

『フフフフ、ハハハハハ!』

 

 周囲の兵たちはガルマの気が違ったかとでも思っただろうが、二人は狂ったように大声で笑い続け、

 

『わかったシャア、ここは任せる。ガウは離脱だ!』

 

 と、ガルマは憑き物が落ちたようにすっきりとした顔で命じる。

 

「ああ、任せるがいい。第一……」

 

 シャアは笑いを含んだ不敵な声で、

 

「別に、アレらを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 と言う。

 だからガルマもこう答える。

 

『――ああ、私に遠慮はいらないぞ。がつんと痛い目にあわせてやってくれ、シャア』

「そうか。ならば期待に応えるとしよう」

 

 

 

「し、死ぬかと思ったぜ」

 

 橋梁下の火点、つまりガンタンクを操るカイは、シャアのザクからの攻撃に肝を冷やしていた。

 

「カイさんたちは死にませんよ。僕が守りますから」

 

 そう言うアムロのガンキャノンは左手にシールド、ミヤビの前世の記憶で言うところのガンダムシールドを構えていた。

 これでザクのバズーカ弾を防いだのだ。

 バズーカの弾頭は成形炸薬弾。

 火薬により産み出される超高速噴流(メタルジェット)はシールドを貫通してはいたものの、その有効距離は短く、本体に届く前に拡散してしまっていた。

 それゆえガンキャノン本体は無傷だった。

 

 ミヤビの作戦は簡単だ。

 シアトル市は総面積の4割が水地域。

 それゆえに存在する橋、その橋梁下にガンタンクと護衛のガンキャノンを隠す。

 フィクションの破壊工作ではよく派手に爆破される橋だが、実際にはとてつもなく頑丈なものなので、空爆でもそう簡単には落とせない。

 米軍が破壊したりしているのは事前に情報を入手し検討、精密爆撃により必要な個所にピンポイントで必要なだけの爆撃を加えているからできること。

 橋の構造によっては複数個所を破壊しないと完全には落ちないものだ。

 だからガウの絨毯爆撃から身を隠すには十分、しかも周囲は開けているので射界が制限されないという。

 さらにドームに隠れたホワイトベースの前方、万が一ホワイトベースが発見されても攻撃しようとするガウを狙える位置となっている。

 

 そして索敵はステルス機であるミヤビのドラケンE改が担当。

 その機体の濃い赤は夜間迷彩として働き、夜の闇に完全に溶け込み所在を隠す。

 月がよく見えるほど雲の無い天候だったから、装備された5連式多目的カメラモジュールでガウをキャッチすることは難しくない。

 そうやって得たガウのデータをレーザー通信でガンタンクに送って砲撃してもらったのだ。

 

 ジェット機の登場によってそのスピードに対応できない高射砲は消えた。

 ガンタンクの両肩の120ミリ低反動キャノン砲も、使い方は高射砲と変わらない。

 だが、それが有効だったのはガウがモビルスーツを空中から投下する瞬間を狙ったからだ。

 ガウは亜音速機であの巨体でありながら最高速度はマッハ0.9を誇る。

 しかし前方にモビルスーツの発進口を設けたため、モビルスーツ降下時には速度を落とさねばならず、その際は速度が時速100キロ程度と非常に低速となる。

 だからミヤビの記憶にあるジャブロー強襲作戦でも対空砲火で損害を出していたのだ。

 そして、それを知っていたからこそのミヤビの策だった。

 

 発案者がミヤビであるがために『ヤシマ作戦』と名付けられたこの作戦。

 日本人の血を持ち源平合戦の『屋島の戦い』において那須与一が海上の馬上から扇を矢で射抜いたエピソードを知るミライには好印象だったみたいだが、前世の記憶を持つミヤビにしてみれば『新世紀エヴァンゲリオン』のイメージが強く、寝ぼけていなかったら「なんだかなぁ」と思っていただろう。

 シールドを持って防御を担当するアムロ・レイはアヤナミ・レイかと……

 

 なお、理想を言うならシャアたちのザクが飛び降りる前に当てて、その出撃を食い止めたかったところだが、照準を定めるまでのわずかなタイムラグのせいでそれは成されなかった。

 トリガーを握るのがセイラなので、彼女がシャアが居るかもしれないガウに射撃を行うのをためらったせいもあるかも知れないが。

 そういう意味では逆にシャアのザクが飛び降りたのを確認できたから、ガウを「情け無用! ファイア!」とばかりに思いっきり叩くことができたのかもしれない。

 この兄妹、迷いがあったり敵からのプレッシャーを受けたりに結果を左右されやすいきらいがあるが、なまじっか能力があるだけにそれが周囲に与える影響も大きいという。

 ある意味はた迷惑な存在だった。

 

 そして、

 

「が、ガウが撤退していく……」

 

 ほっと息をつくアムロたちだったが、そこにミヤビからの通信が入る。

 

『気を抜かないで。ガウの撤退を援護するためシャアの率いるザクが攻撃してくる可能性があるわ』

 

 そして、

 

『市街地戦は障害物が多いから交戦距離はどうしても短くなる。つまり火力で劣っているザクでも有利に戦えるステージなの。油断しないで』

 

 ということでもある。

 アニメ『ガールズ&パンツァー』でも火力に劣り距離を詰めないと相手戦車の装甲を貫くことができない主人公チームは市街地に敵を誘い込むことで性能差を埋めようとしていたし。

 

 また人に例えるならCQB(クロース・クォーター・バトル、近接戦闘)、拳銃や短機関銃による射撃や白兵戦が効果的とされる3~30メートル程度の距離をイメージすればよい。

 

 そしてこれはガンタンクには非常に不利な戦場とも言える。

 『機動戦士ガンダム第08MS小隊』における市街地戦でノリス・パッカード大佐のグフ・カスタムが単騎で護衛を抜いて量産型ガンタンク3機を撃破しているのも、パイロットの腕もあるが、戦場がガンタンクが戦うには不向きだったということもある。

 

「了解です、ミヤビさん」

 

 そしてアムロはガンキャノンの右手に握られた武装、新型マシンガンを確認する。

 これはミヤビの前世の記憶の中で陸戦型ガンダム等で使用されていたコンパクトで取り回しの良いヤシマ重工製100ミリマシンガン、YHI YF-MG100に新型センサーと減音効果のあるサプレッサーを取り付けたもの。

 マンガ『機動戦士ガンダム外伝 ザ・ブルー・ディスティニー』で主人公たちがステルス装備と共に使用した特殊火器、その試作品だ。

 今回の夜の市街地戦においてガンキャノンの標準装備である狙撃向けのビームライフルは銃身が長く取り回ししづらい上、ビームの閃光で自分の位置を派手にさらしてしまうし、自身のカメラセンサーへの目つぶしにもなってしまう、ということで持ち出してきたもの。

 

 なおこれはシーマ隊が運んできた補給物資の中に紛れ込んでいた品だ。

 史実では連邦軍モビルスーツ向けの実弾マシンガンは後に口径90ミリのブルパップ式で統一されてしまうわけだが、そちらとのシェア争いのためヤシマ重工が送ってきたものらしい。

 

 ブルパップ式90ミリマシンガンは割と新しい装備のようなイメージがあるが、実際にはすでに現時点でも存在している。

 ミヤビの前世の記憶では『機動戦士ガンダム第08MS小隊』第一話でテリー・サンダースJr.軍曹が搭乗していた初期型ジムが使っていたし。

(時期的にはその戦闘後、主人公であるシローが生還した時にギレンのガルマ国葬演説が行われていた。つまり今のミヤビたちから見てここ数日のことである)

 またこの世界はオリジン準拠ではないとはいえ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では戦前、『スミス海海戦』時点で鉄騎兵中隊のガンキャノン最初期型が使用していたし。

 

 そういうわけで、ミヤビパパとゆかいな仲間たちは今日も頑張っているみたいだった。

 まぁ、軍需は地球連邦に対する影響力の保持と新技術獲得のため食い込んでいるだけで、実際にはそこで得た技術を民需に転用することで利益を出すのが目的だったが。

 コロニー建設も請け負うヤシマ重工はそういう企業であり、またあのアナハイム・エレクトロニクス社ですらマンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』にて、

 

「軍需産業が莫大な利益を生み出すなんて話はおとぎ話です」

 

 と言い切り、同様の方針で民需にて利益を生み出す構造を持っていた。

 もっとも『あの』アナハイムの人間が真実を語っているとは限らないのだが……




 というわけで、物語はガルマ生存ルートに。
 そしてミヤビの作戦のネタばらしでした。
 『ヤシマ作戦』って……


> そう言うアムロのガンキャノンは左手にシールド、ミヤビの前世の記憶で言うところのガンダムシールドを構えていた。

 オリジンでも使ってましたし、バンダイのスペシャルクリエイティブモデルのガンキャノンでもナイフとハイパーバズーカとガンダムシールドが付いていて装備も可能となっていましたしね。
 ……まぁ、このお話ではガンダムシールドとは呼んでいないし、ガンダムの所在は未だ不明なんですけど。


> その機体の濃い赤は夜間迷彩として働き、夜の闇に完全に溶け込み所在を隠す。

 このお話を書くにあたって作成したドラケンE改のプラモデルは『ガンダムカラー UG12 MSサザビーレッド』で塗装後に『水性プレミアムトップコート つや消し スプレー』で仕上げてあるわけですけど。

【挿絵表示】

 夜、照明を消した暗い部屋でプラモやフィギュアを置いている棚を見ると、ドラケンE改だけが消えていてびっくりするんですよね。
 手を伸ばして確かめるとちゃんとあって、
「やかんめいさいのちからってすげー!」
 ということになります。


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第10話 ガルマ入籍す Dパート

 そしてシャアたち。

 シャアのザクは威力が高く、敵が遮蔽物の陰に隠れようとも吹き飛ばせるバズーカを。

 部下のザクたちは即応性の高いザク・マシンガンを。

 そして市街地での近接戦闘に備え、ヒートホークを装備している。

 

 ミノフスキー粒子によるレーダーセンサーへの障害に加え、ガウの絨毯爆撃によりそこかしこで火災が発生し熱源センサーも当てにならない状況では、本当に目視による確認でしか敵を捉えることはできない。

 彼らはそれぞれ分担してビルなどの障害物の影を確認(クリアリング)しながら前進。

 相手に位置を気取られないよう無線封鎖しているためハンドシグナルで意思疎通しつつ相互に連携を取る。

 モビルスーツのマニピュレータが人の手を模した五指を備えていると、こういう使い方も生む。

 人型兵器の利点のうちの一つだ。

 

 

 

 アムロは極力物音を立てないよう気を付けながらガンキャノンを前進させる。

 ガンタンクは置いてきた。

 カイとセイラの腕は上がっているが、ハッキリ言って市街地での戦闘にはついてこれそうもない。

 逆に射界の開けた、そして自身が遮蔽を取れる地点に居た方が安全だからだ。

 

 前方に立ちふさがる障害物、高架橋を、アムロはロケットエンジンを吹かしながらジャンプでクリアーする。

 敵に見つからないよう高さを抑えてぎりぎりを乗り越えるが、しかし着地点の足場が悪かった。

 体勢を崩し、大きな音を立ててしまう。

 

「見つかった!?」

 

 アムロはガンキャノンに穴の開いたシールドを掲げさせ、身構えるが攻撃は来ない。

 

「妙だ…… いや居る。敵は近い」

 

 アムロは遮蔽物に身を寄せると、動きを止め敵の気配を探る。

 音響センサーが感知するザクの足音。

 

『アムロ、ザクよ』

 

 サポートAI、サラツーの報告どおりザクの姿を認める。

 アムロはビルの陰からマシンガンでそれを狙うが。

 

 

 

「銃身が丸見えだ」

 

 シャアはすかさずバズーカを撃ち込む。

 素人は遮蔽物があるとそれにべったり密着して銃口だけ出して撃とうとするが、それではこうやって敵に発見されてしまう。

 実際には一歩引いて銃身、さらには地面に落ちる自身の影が覗かない程度に遮蔽物から距離を置き銃を構えることが必要だった。

 まぁ、それをこの時点のアムロに求めるのも酷というものだったが。

 

 

 

 至近でバズーカの弾が爆発し、それに吹き飛ばされるガンキャノン。

 

「しまった!」

 

 コクピットで衝撃にシェイクされながらもアムロは歯噛みする。

 そして位置を晒し体制の崩れたガンキャノンに、シャアの部下のザクがマシンガンを放とうとするが、

 

「バァルカンッ!」

 

 アムロの音声コマンド指示を受けたサラツーが頭部バルカンで牽制。

 この辺の制御は教育型コンピュータとサポートAI『サラツー』の経験値が溜まってきたおかげでとっさの場合の対応も任せることができるようになっていた。

 ザクがひるんだ隙に素早く起き上がり、遮蔽物の陰に逃げ込む。

 だが、

 

「うわぁっ!」

 

 息をつく暇もなく撃ち込まれたシャアのザクのバズーカが、身を隠したビルごとガンキャノンを吹き飛ばす。

 

「シ、シャアだ。あれに当たる訳にはいかない」

 

 そしてガンキャノンが体勢を崩した隙に障害物を乗り越え前進するシャアのザク。

 ガンキャノンへの射線が通った瞬間にまたバズーカが撃ち込まれ、アムロは転がるようにそれを回避した。

 そして正面にシールドをかざして身を守るとマシンガンで反撃する。

 サプレッサー、減音器を装備しているため射撃音は小さく、発砲炎(マズルフラッシュ)もまた目立たないぐらいに抑制されていた。

 これにより射撃位置を派手にさらし集中砲火を受ける、などということは避けられるのだ。

 そのための武器選択だった。

 

 

 

 シャアはジャンプでガンキャノンからの射撃を回避、物陰に身を隠す。

 

「モビルスーツめ、やるようになった」

 

 戦闘技術自体はまだまだつたない所があるが、そういった点を突いても大きく崩れない。

 あまつさえ、反撃すらしてくる。

 隙が少なくなってきているのだ。

 

 

 

「迂闊なやつめ!」

 

 不用意にビルの窓、開口部の前で立ち止まって周囲を探るザクに、その陰に隠れマシンガンを構えていたガンキャノンの銃撃が直撃する。

 歩兵戦でもそうだが、ドアや窓の前には身を晒してはいけないのだ。

 増してやそこで立ち止まるなどもってのほか。

 そういう敵が潜んでいそうな開口部には手榴弾を放り込むなり銃撃を加えるなりして黙らせておかなければならない。

 そして、

 

「効いてる!」

 

 倒れ伏すザクに安堵の息を漏らすアムロ。

 この新型マシンガンには減音効果があるが、射程は短く威力には不安があるのだった。

 

 音速以上で弾が飛ぶと衝撃波によって大きな音が発生する。

 そのため射撃音をより抑制したかったらただサプレッサーを取り付けるだけでなく、初速が音速を下回る亜音速(サブソニック)弾を併用することが必要になってくる。

 サブソニック弾は弾頭を通常弾より重くすることで弾速を下げるものだが、一方でこのような特殊弾は兵站に問題を発生させ、戦場での運用に負担を強いるというデメリットがある。

 そのため、この新型マシンガンは機関部から先の銃身部を丸ごと内装タイプの減音器、インテグラルタイプのサプレッサーと交換してある。

 サプレッサーに覆われた砲身には小さな穴がいくつもあけられており、砲口だけでなく砲身の穴からも発射ガスをサプレッサーの中に拡散させることによって消音効果をより高め、同時に砲弾の初速を音速以下に落とすわけだ。

 ミヤビの前世の記憶にあるサブマシンガン、H&KのMP5SDタイプと同じ構造である。

 

 ただし、当たり前だが初速が低下すれば有効射程も威力も低下する。

 サブマシンガンに使われる拳銃弾ならまだ問題は小さいが、モビルスーツに使われるサイズの火砲である場合、当然ながら装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)などといった速度を高めて運動エネルギーで貫くタイプの徹甲弾は使えなくなる。

 必然的に火薬の力が産み出すメタルジェットで装甲に穴を開け内部を焼き尽くす弾頭、成形炸薬弾(HEAT弾:High-Explosive Anti-Tank)を使用することになる。

 音を立てずに撃破する、ということはできなくなるが、モビルスーツなど装甲物を破壊して音を立てません、などという真似はそもそもできない。

 であるからして射撃位置を悟らせないという効果さえ上げられれば良いと考えるべきだった。

 

 問題があるのは、成形炸薬弾の威力は弾速に左右されないが、火薬量、つまり弾頭の大きさに比例するということだ。

 ザクマシンガンは120ミリだが、これは初期にザクIが使っていたZMP-47Dの105ミリ弾では威力不足と考えられたために採用された経緯にある。

 そして宇宙での使用を考え低反動な低速砲となっているザクマシンガンが使うのもまた成形炸薬弾であり……

 つまり今回ガンキャノンが使用している新型マシンガンの100ミリの成形炸薬弾は威力にも不安があるのだ。

 

 そしてそこにシャアのザクからの攻撃が加えられる。

 一度、二度と砲火を交し合う二人。

 

『アムロ、上!』

「はっ!」

 

 サラツーからの警告に、アムロは頭上を見上げとっさにシールドをかざす。

 シャアのバズーカによる砲撃を牽制に、ヒートホークを振り上げたザクがジャンプで斬りつけてきたのだ。

 モビルスーツの大質量を斧に乗せた攻撃に、一撃で掲げたシールドが叩き割られる!

 

「うわああああっ!」

 

 その威力に戦慄するアムロ。

 

 

 

「止めだ!」

 

 部下のザクの攻撃に怯えすくむアムロのガンキャノンにシャアが止めを刺そうとした瞬間、

 

「なに!?」

 

 不意の砲撃がシャアのザクの近くに着弾する。

 とっさに回避行動を取るシャアだったが、

 

「どこからだ? いや、これは間接射撃か」

 

 敵の姿が見つけられない。

 その間にも砲撃は続き、

 

「ええい、ミノフスキー環境下の、しかもこの暗闇の中でこれだけの正確な射撃。いったいどういうからくりだ!」

 

 そうこうしている間に、部下のザクがガンキャノンの反撃を受ける。

 幸い、そのマシンガンは威力が低いらしく致命的なダメージとはなっていない様子だったが。

 

「……ガルマを逃れさせられるだけの時間は稼げた。ここが潮時か」

 

 ぎりっと歯を噛みしめ、シャアは通信制限を解除。

 

「撤退するぞ!」

 

 

 

『ふふっ、ザクが逃げていきますよ』

 

 夜の静寂のハイウェイ、きらりと光る5連式多目的カメラモジュールで高架上から見下ろすのは両手を地面に付けるほど姿勢を低くした赤い異形の姿。

 もちろんそれはミヤビのドラケンE改だった。

 

 からくりは簡単。

 ステルス機であるドラケンE改を使って高所に陣取り戦場を観察。

 捉えた位置データをレーザー通信でガンタンクに伝え、間接射撃で援護してもらったのだ。

 重力に引かれ、砲撃が山なりの射線を描く実弾砲を備えるガンタンクだからこそできる活用方法だった。

 ミヤビたちは単に危険だからガンタンクを後方に置いたのではない。

 こうやって援護してもらうためにこそ、最前線から外しておいたのだった。

 

 なお……

 どうやっても観測から砲撃、着弾までタイムラグがあるし、シャアの腕であれば回避し続けながら戦うこともできただろう。

 しかしラッキーヒットもありえるし、部下が付いて来れるかはまた別問題。

 だからこそシャアは危険を冒さず撤退したのだ。

 逆に言えば覚悟を決められてかかられていたらミヤビの策が食い破られていた可能性は多分にある。

 接近戦に持ち込まれたら味方への誤射もありうる間接射撃は無効化されるのだし。

 そういう意味で、今回はミヤビたちの運が良かった、とも言える。

 いや、ガウに損傷を与え撤退させていた時点で勝っていた、とも言うのか。

 

 そしてミヤビはというと……

 

「おやすみなさい」

 

 と安全が確保された時点で機体の制御をサラに任せ、シートですやすやと眠りこけるのだった。

 

 

 

 結果としてガルマは左足を骨折しており、ニューヤークの軍病院にて2週間の入院が必要となっていた。

 そして、

 

「ガルマ様!」

 

 駆け付けたイセリナがそれはもうかいがいしく世話することになる。

 そんな彼らを陰から見てシャアは思う。

 

 終わったな。

 

 と。

 

 

 

 ミヤビの前世の職場である旧21世紀の日本の某重工に、とある先輩が居た。

 バイクが趣味で遊びまわり、まだまだ結婚しないと言っていたし周囲もそう感じていたその人が結婚した理由。

 それがバイク事故による入院だった。

 そのころ付き合っていた彼女は看護婦で…… その先輩が救急搬送された病院に勤務していたのだ。

 ベッドの上で動けない先輩を、彼女は勤務中も、そして勤務時間外でもそれはもう献身的に介護した。

 遠い故郷から離れて就職したその先輩、親を呼ぶのも難しく、それゆえパンツを洗うことまでしてもらった彼にはもう逃げ場はなかったのだ。

 

 そう、そのまま今のガルマに当てはまる状況である。

 

 

 

「君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ」

 

 シャアは再びそうつぶやいて、今度は本当に友を見捨てた。

 そう『人生の墓場』へと。

 

 

 

 ジオン公国を名乗る宇宙都市国家は月のむこうに浮かぶ。

 今ここに、ザビ家の末弟ガルマ・ザビの突然の入籍が急報された。

(戦争中なのでガルマは式や披露宴は後にすることにして、とりあえず婚姻届だけ出した。それで済ませられるはずが無いのに……)

 

 時に、ジオン公国の公王、すなわちガルマの父デギン・ザビは、可愛がっていた末の息子が自分に何の相談も無しに結婚してしまったことに激しいショックを受け……

 使者の前でその杖を落としたという。

 

 

 

 こうしてシャアはヤンデレストーカー、イセリナにガルマを押し付け、彼をいけにえに捧げることで自分の身の安全を図ると同時に、親の仇、デギン・ザビの精神に甚大なダメージを与えることに成功したのだった。

 

 ……まぁ、ガルマは結婚後も親友であるシャアに対する親密な付き合いを変えることはなく。

 そのために制服若妻イセリナ(ガルマの秘書官だからね)の嫉妬を買うのではとシャアは大いに恐怖することになるのだが。

 この時のシャアにそれを知る由も無かった。

 

『人を呪わば穴二つ』である。

 

 

 

次回予告

 戦いに終わりはない。

 ガルマの仇を討つべく生き残り部隊が特攻をかける。

 ……ガルマは死んじゃいないのだが。

 ガンタンクのカイ、セイラを伴ってガウを討ち取るアムロの前にサラの操るドラケンE改が立つ。

 その震える腕がアムロを『ミヤビさんの、仇……』

 次回『イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式』

 ミヤビは生き延びることができているのか?




 モビルスーツ同士の市街戦、しかも見通しのきかない夜って、本当にCQB(クロース・クォーター・バトル、近接戦闘)になりますね。
 なかなか楽しみながら書くことができました。

 そしてガルマの結婚の顛末。
 ミヤビの先輩の話は知人の実話を元にしていますが、逃げられませんよね、この状況。
 しかしシャアの復讐がこんな形になろうとは…… なんてひどいやつなんだ、シャア!

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
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第11話 イセリナ、恋のあとは愛でもちろん結婚式 Aパート

 月の向こう、地球から最も離れた宇宙空間に数十の宇宙都市が浮かぶ。

 これこそ地球をみずからの独裁によって治めようとするザビ家の支配する宇宙都市国家、ジオンである。

 この宇宙に浮かぶ円筒形の建造物の中に人々の生活空間がある。

 すなわち円筒形の直径は6キロメートルあまり、長さにいたっては30キロメートル以上ある。

 その中には人工の自然が作られて、人々は地球上とまったく同じ生活を営んでいた。

 今、ジオン軍宇宙攻撃軍司令ドズル・ザビ中将が前線基地ソロモンから帰国する……

 

 ムサイで1バンチコロニー、ズム・シティのベイブロックへと入港したドズルは周囲を見回して、

 

「フン、半年前と同じだ。なんの補強工事もしておらん」

 

 と言い捨てる。

 首都である1バンチですらそうなのだから他のコロニーの状況は推して知るべしといったところ。

 戦争にヒト、モノ、カネ、すべてのリソースをつぎ込んだ弊害である。

 

 あのヤシマの令嬢が進めていた『コロニーリフレッシュプロジェクト』が実現していたら、もっと違った光景が、そして未来が広がっていただろうか。

 

 ドズルはヤシマの人形姫のほっそりとした、その掲げる理想のように美しくも儚い姿を思い起こしながら独白する。

 だが、

 

「考えても仕方がないな」

 

 過去は決して覆らない。

 覆らないのだ。

 

 

 

 宇宙都市は遠心力によって重力を発生させているために、人々はカプセルの内側を大地として暮らしている。

 ここはジオン公国の首都、ズム・シティ。

 悪の城、といった趣のある公王庁舎にザビ家の者たちが集う。

 

「ガルマの結婚を式も無しで済ます訳には参りません。ザビ家末代の沽券にかかわります」

 

 ガルマの兄である長男ギレンがそう主張するが、父、公王デギンは弱弱しく首を振る。

 

「ギレン、わしはまだガルマの結婚を……」

 

 二人の意識には酷いズレがある。

 デギンは公王ではなく、孫のようにかわいがっていた…… そして地球に降りても頻繁にビデオレターを送ってきてくれていたガルマが自分への相談も無しに結婚してしまったことにショックを受け、その結婚を認められない、ただの一人の父親に成り下がっており。

 一方ギレンはジオン公国の総帥にしてデギン隠居後の実質的最高指導者としての考えしか述べていない。

 

 この場合デギンを情けないと考えるか、ギレンに、

 

「マジな顔をして国家イベントのように語ってるけど実質、ただの末の弟の結婚騒動だよね?」

 

 とツッコむべきか意見の分かれるところだろう。

 まぁ、現実にはギレン相手にそんなことを言える者など存在しないわけだが。

 

 そこに儀仗兵が告げる。

 

「おそれながら、ドズル・ザビ様、キシリア・ザビ様、ただいま前線より御到着でございます」

「通せ」

 

 ギレンの指示が下りると同時に三男ドズル自らが大扉を開けて現れる。

 その背後には長女キシリアの姿もあった。

 

「父上!」

「早かったな、二人共」

「父上、さぞ……」

 

 とドズルはガルマの負傷と突然の結婚宣言に心を痛めるデギンのことを心配するが、やはりデギンとは意識のずれがある。

 デギンは負傷もそうだが、結婚の方により大きなショックを受けており。

 ドズルはというと、自分自身、妻であるゼナを迎え入れるにあたって父や兄弟の了承など事後承諾だったしそれでも特に問題が無かったため、ガルマの結婚に対しては、

 

(ガルマもなかなかやるではないか)

 

 と苦笑するだけで、逆にその成長を喜ぶような節がある。

 また自身の部下であったシャアがその場に居ながら防げなかったということで、どうしてもガルマの負傷の方に意識が行ってしまうのだ。

 

 一方で一緒に入室したキシリアは、

 

「残念です。あのガルマが連邦軍のモビルスーツの前に敗れたと」

 

 と、ザビ家の者の敗北と負傷による自軍への影響しか考えていない発言をする。

 そんな具合でこの家族、見事なまでに思惑がバラバラである。

 武人肌で剛直なドズルが意外にも一番マシなように感じられるかもしれないが……

 

 いや、ギレンもキシリアも父デギンの傷心を分かっていないわけではないのだ。

 

 ギレンはミヤビをはるかに超えるロジック型思考の持ち主。

 それがなぜ破綻しないのかというと、IQ240の有り余る思考力で補っているからだ。

 ミヤビだったら「人の心って分からないよね」となってしまうところをロジックで瞬時に理解できてしまう優れた頭脳を持つからこそ、彼は雄弁家としてアジテーターとして人の心を揺り動かすことができるのだ。

 今回も頭では父の傷心は分かっている。

 しかしそれは理屈で理解しているだけなので、共感できるかというとまた別の話。

 そして共感できないし、したところで何が解決するわけでもないことに彼が付き合うことはない。

 だからギレンは起こったことはいまさら変えられないのだからと具体的な今後の展望を語っているわけである。

 

 一方、キシリアはというと彼女は策謀家。

 それゆえ人の心理には詳しく、その点では父の心情を正しく洞察している。

 しかし策謀家であるがゆえに、それが自分に対して有利となるか不利となるかで判断してしまうきらいがある。

 そして地球に展開する地上部隊もガルマ自身も彼女の配下。

 その敗北は自身の立場に直結しているため、そこに目が向いてしまうわけだ。

 

 ギレンもキシリアも、これが他者に向けた話なら影響を考えもう少し言葉や態度を飾っただろう。

 しかし相手は父である。

 いまさら態度を取り繕ったところで見透かされるだろうし、そもそも家族だということで素を見せているわけだ。

 そういう意味では親子という関係に甘えている、と取れなくもない。

 まぁ、実際にこの二人を前にしてそのように考えられる人間が居るとも思えないが。

 

 そしてギレンとキシリアからしてみれば、自分は分かっている、という顔をしたドズルの方がおかしいのだ。

 能天気と言っていいし、現状を理解しているのかと腹立たしくもある。

 そもそもこの戦時に『ガルマの負傷と突然の結婚宣言に心を痛めるデギン』を慰めるためにジオンの重鎮たる彼らが現場を留守にして集まるか、ということだ。

 キシリアが危惧する問題があるし、ギレンが主張するように今後を検討しなければならないため集まっているのだ。

 だからこそドズルもソロモンを部下に任せて一時的に帰国したはずなのだが、この言動では……

 

 

 

「ガルマ様の病室はこちらになります」

 

 ガルマの副官であるダロタ中尉の案内で軍病院の廊下を進むのは、キシリアの指示で急遽、資源採掘地帯オデッサから確認のためやってきたマ・クベ大佐。

 

「ガルマ様のこと、我々がついておりながら無念です」

 

 と、沈痛な面持ちで語るダロタ中尉。

 それをマ・クベは何の色も温度も感じられないまなざしで一瞥するとこう言う。

 

「そうだな、シャア少佐も含め何の咎めも無いとは言えまい」

「それは……」

 

 息をのむダロタに、マ・