ソードアート・オンライン 閃光の弟は鬼の剣士 修正中 (狂骨)
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結城家の次男
結城 昨斗 (ゆうき さくと)
身長 150 (ALOの時) それ以前は145
容姿 顔はアスナに少し似ているがツリ目でハイライトがない。 髪型は少々ボサボサでアスナと違い分け目がセンター。 侍のようなポニーテールにしている。(鬼滅の巌勝のような感じ)
アスナとは2つ歳が違う弟であり幼い頃から英才教育を受けてきた。
因みに姉とは別の中学に通っており、帰宅部。
元剣道部であり、得意としているのは抜刀術。その技は一般の人では目で追うことが不可能な程で、剣を持った時の動きを見た母親から『生まれてくる時代を間違えたかもね』と言われた事がある。
その上 体術も得意としており試合の際 体術を繰り出してしまい不正とみなされ退場した事がある。
因みに叫び声がとても大きく、最大限に発すれば大型の熊でさえすぐに逃げ出す程の轟音を出せる。
37度の熱があっても平然と動き回る程の馬鹿。本人は気づいていない。
若干シスコン気味かつ、行動力が半端なく、情報が確定したらすぐに動き出す程。
東京都にあるとある家にて
「すぅ…すぅ…」
一人の少年がベッドに寝ていた。男性にしては長い髪 そして透き通る肌 初見でみれば女性と見間違う程の容姿であった。
ジリリリリリリッ!!
ガチャ
突如 部屋に鳴り響いた目覚まし時計。耳を震わせる程の音量に少年は時計を叩き割るかのように乱暴に切り目を覚ました。
「朝……か」
目を覚まし、ゆっくりとベッドから起き上がった少年はカーテンの隙間から外の景色を除いた。日はまだほんの少ししか出ておらず薄暗かった。
時計を見るとまだ5時である。
「少しだけ…練習するか…」
その少年はベッドから降りると近くに立ててある日本刀を持ち部屋を出て行った。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
時刻は5時半
少しずつ太陽が昇り照らされて行く中、少年は 目を閉じゆっくりと刀の鞘に手を掛けていた。少年の前には少々長い木の枝が地面に刺されていた。
「(集中……集中…)」
心に何度も念じるとその少年はゆっくりと呼吸を整える。
そして
一閃
一筋の光が刀の先端から現れゆっくりとその木をすり抜けていった。
その木は切られた場所を境にそこから上が何当分もの小枝に切り分けられていき次々と地面に音を立てながら落ちていく。
「まだまだだなこりゃ…」
すると
「おはよう 昨斗」
後ろからふと声を掛けられた。振り向くとそこには少年と似つつも、やや丸みのかかった瞳や平均的にやや高めな背を持つ可憐な少女が此方を見ていた。
「明日奈か…」
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
俺の名前は 『結城 昨斗』
結城家の次男である。長男は別居中だ。
「また朝から練習してたの?」
そう言って横から声を掛けてくるのは俺の姉である『結城 明日奈』容姿端麗であり文武両道そして成績優秀というハイスペックな奴だ。
「あぁ…流石に3日もしてないとなるとキツイ…」
そう言い俺は手で目をまぐる。
俺の家は広い。豪邸とまではいかないが普通の家と比べて流石に大きい。俺らはリビングに入ると母親が先に座っておりコーヒーを啜っていた。
「遅いわよ二人共。私はもう済ませてしまったわ」
「ごめんなさい母さん」
「ごめん」
俺は席に座り朝食を手に取った。
この母親は俺ら姉弟に幼い頃から英才教育を受けさせてきた。今通っている中学は中々の難関であり、母親のお陰で受かれたと言っても過言ではない。その辺は感謝しているが何故かいつも冷たかった。
「勉強の方はどうなの?」
コーヒーを啜りながら聞いてくる。姉は前回もトップ圏内である事と志望校への問題はない事を知らせた。
「昨斗はどうなの?」
俺は朝食を食べる手を止めた。
「前回の考査では学年で3位だった。まぁ数学と理科は一位だけど、どうにも社会と英語で抜かれちゃった」
「そう。順調な様ね…明日奈は高校の範囲まで、作斗は残りの中学範囲を進めてしまいなさい。一番肝心なのは大学入試なんだから」
俺達にそう言い聞かせながら母さんはコーヒーを啜る。
姉である明日奈は勤勉であるため得意科目である数学と英語はもう進んでいた。俺も一応中学2年の範囲をもう始めている。
それから俺たちは朝食を済ませると学校へと向かった。
電車内にて、俺は後輩と話している明日奈から離れて一人で吊り革を掴んでいた。目の前にはとあるゲームの広告が貼り付けられていた。
『ソードアート・オンライン』略してSAO 本格的なVR技術が施されており、仮想世界へと降りることができるという。天才科学者である『茅場晶彦』と言う人が開発したらしい。
少し離れた所で俺と同じ中学生がはしゃぎながらその広告を見ていた。
「すっげ!もうすぐ発売か!」
「小遣い足りるかな…」
ガキか…まぁはしゃぐのも無理はないな。仮想世界なんて人間の夢だったしな。それを実現させるなんて凄い人だな『茅場晶彦』と言う人は。
俺は駅に着くと電車を降り学校へ向かった。
母さんの冷たい接し方…俺としては少し不満があった。
それから幾日たったある日だった。
「そんな…明日奈…!!」
俺の目の前には病院のベッドに敷かれ目を瞑ったまま横たわっている姉の姿があった。
コイツは興味本位でSAOを少しやってみたいと先に購入していた兄から借り、ハードを被った。だがあのゲームは発売されてからログアウトできないという事態が発覚し大量のプレイヤーが仮想世界に閉じ込められた。その数は万といく。明日奈もその一人だった。
横では母親も驚いていた。
「明日奈…あなた…なにやってるの…?ゲーム?ゲームですって…?結城家の人間として恥ずかしくないのかしら…?」
その言葉に俺は少し頭にきて母親に向かって言った。
「恥ずかしいというよりも今はそんな場合じゃないだろ…!?」
「…入試前だって言うのにゲームに手をつけるこの子がいけないじゃない。いっそこのまま仮想世界に取り残され…「ふざけるなよ…!」
俺は殺気を混じらせながら怒りの感情を込めながら母親を睨む。
「コイツだってそんな事ぐらい理解してる…!帰りたくても帰れねぇ状況なんだぞ!?」
「……」
俺がそう言うと母さんは自身の言葉の思い返し理解したのか、そのまま俯いた。
目が覚めないならばハードを外せば良いと思った人がいるようだがそれはタブーであった。そんな事を行った場合 ハードである『ナーブギア』から強烈なマイクロウェーブが脳を襲い破壊してしまうからだ。現在何百人もの人がそれで亡くなったらしい。故にプレイヤーは病院等の安全な施設で放置しておくのが1番の最善らしい。
俺は眠る姉の手に自分の手を置いた。
「必ず…帰ってこいよ…」
SAO内にて
取り残された皆は突然現れた仮想世界の創造者『茅場義彦』から脱出方法を聞きすぐさまパーティを組み攻略へと脚を踏み出した。その勇気ある者の中に明日奈もいた。彼女は誰よりも早く現実へと帰りたいと思っていた。自分をここまで育ててくれた親のため、そして自分と今までずっと一緒にいてくれた弟、そして兄のため、彼女は剣を持ち恐怖へと立ち向かっていた。
「行くぞアスナ!」
「えぇ!キリト君!」
横で共に剣を振る黒いコートを着た彼は明日奈や他の皆と共にゲーム攻略に身を乗り出した者の一人である。
『私(俺)は絶対現実に帰る!』
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姉のいない日常
姉が仮想世界に閉じ込められても結城家の日常は変わらなかった。
最初は混乱していたが父が一喝し明日奈は必ず帰って来る。無事にアイツが帰ってこれるようにここで折れてはいけない。と言い皆をまとめた。
俺もそう言われ何とか頑張るしかないと思った。だが、子供の俺には少しキツかった。幾日か経てば寂しさが溜まり少し涙を流したことがある。だが俺はそれを必死に抑え込んだ。それが幾日か続き半年が経つとその感情はだんだん薄れてきた。
それから俺の日常は少し変わった。
平日は夜遅くまで中学範囲を進め土日は姉のいる病院へ行く。それが習慣となった。
土曜日の今日もバスに乗り姉のいる病院に向かった。
病室に着くと俺はいつも変わらぬ姉の姿を見ていた。
「……」
今日あった事を話しても何も返ってこない。笑い話をしても何も表情を見せない。何をやっても姉が笑顔を見せる事は無かった。
「じゃあ…今日はもう帰るで……」
俺はそう言い病室を後にした。すると角から誰かとぶつかり相手を倒してしまった。
「大丈夫ですか?」
俺は倒れた相手に手を差し出し立ち上がらせた。
「あ、いえいえ。私のほうこそすいません…」
相手は俺より背が高いショートカットの女子だった。ここにいるという事はコイツも俺と同じ誰かの見舞いだろう。
「あの…もしかして結城作斗さん……ですか?」
いきなり名前を呼ばれ俺は少し驚いた。この女子とは面識は無いはずだが…
「なぜ私の名前を?」
「あの…前の剣道の大会の時に試合を見てたので…その時 私も出てたんです」
「…」
その大会に俺はあまりいい思い出が無かった。準決勝戦の時に対戦した相手を俺が剣道とは全く違う完全な『暴力』で病院送りにしたからだ。
「そうですか…では私はこの辺で」
そう言い俺はその女に背を向け出口に向かった。
「ちょ…ちょっと待ってください!」
「待ちません。もうすぐバスが来るので」
「いやその……出口の階段向こうですよ…?」
「////ッ!!」
その日、俺は初めて顔を真っ赤にした。
家に着いた俺はベッドに寝転がった。
昼間に会ったあの女子の所為で恥ずかしい目にあった……。
まぁそんな事はどうでもよかった。俺は取り敢えず机に向かい中学範囲を進めた。因みに俺は2年となり、いま自習しているのは中3の中盤あたりだ。このままいけば夏休みかそれぐらい前には中学範囲はほとんど終わるだろう。
高い学力を示しクラスでトップを取る。今のところできる姉へのサプライズだ。
「作斗様、夕食のご用意が出来ました」
「あぁ。いつもすいません」
俺は夕飯を食べるため下へ降りた。
その頃、SAOにて、明日奈は休憩のためとある宿へパートナーである黒い少年『キリト』と泊まっていた。
「そういえばアスナ、お前 弟がいるって言ってたけど…どんな奴なんだ?」
「え?」
唐突な質問にアスナは驚きながらもう〜んと考える。
「まぁ……普通の子なんだけど……怒ると…私より怖いよ…?」
「え…マジで…?」
キリトの冷や汗を垂らす質問にアスナは頷いた。
「うん。それに今の私の剣術でも絶対に勝てないくらいに剣道が強いの。それに多分…ソードスキルを使っても勝てないかもね…」
「え!?嘘だろ!?あれ……?ちょっと待て……弟さんの名前は…?」
「あ。『作斗』っていうの」
「ッ!」
その名前を聞いた瞬間、精神だけとなったキリトの頭の中に昔 自分の妹から聞いた話が再生された。
『お兄ちゃん、今日の剣道の試合さ、凄い人がいたんだよ!』
妹が顔を真っ赤にさせ興奮しながら語ってきた。
『どんな奴だったんだ?』
『あのね!竹刀を片手で持っててね それで相手の攻撃をすり抜ける様に流してたんだよ!でも何か反則しちゃって退場になっちゃったんだ…』
『そりゃ残念だな…んで、なんて名前なんだ?」
「えっとね…確か名前が…
【結城 作斗】
自分の妹が言ったその名前が何度も頭の中で再生された。
「なぁ…アスナ…」
「どうしたの?」
「いや…何でもない…おやすみ」
キリトはその事について聞こうとしたがやめておいた。聞いたらマズイと思ったからである。その判断は正しい。
現実世界ではもうすぐ夏となる時期だった。
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中学の終わり そして黒の剣士との接触
あれから数ヶ月が経ち俺は中学3年となった。その事を姉に報告したが姉は何も返してはくれなかった。
「はぁ…」
俺はため息をつくと部屋を出た。何故か今の俺の日常が変わりつつあった。
家に着くと即座に机に向かう。中学の範囲はもうすぐ終わる。
中学3年になってもこれの繰り返しだった。
それから時が経ち夏休みとなった。中学範囲は終わり今は復習している。
俺は熱い日でも鍛錬は欠かさなかった。いつも通り庭に木を立たせる。
「すぅ……」
目を閉じ心を落ち着かせ精神を全て刀の切先に集中させる。
集中…集中…
一閃ッ!!
俺は筋力を全て腕に集中させたと同時に刀を振るう。そして振るった後も筋力を緩めず速やかに切れた木片目掛けて更に剣を振る
「セィッ…!!」
何回振ったかは分からない。だが、刀を鞘に戻した時には切った木片は何十当分にも分けられていた。
後ろを振り返る。そこには微笑みながら自分の姿を見守っている姉の姿があった。風が吹くと同時に俺は正気に戻った。見るとそこには誰もいなかった。
「……早く帰ってこいよ…」
ーーーーーーー
ーーーー
ー
それからまた、幾日か時が進んだ。夏から秋へそして冬。中学もそろそろ終わりに近づき入試の時期となっていた。。俺は姉のいる部屋でずっと顔を見つめていた。
「もうすぐ…俺 入試なんだ…まぁ推薦だけど頑張るからお前もそっちで頑張れよ…」
俺は部屋を出た。寂しさ。そして姉を救えない自分への不甲斐なさに腹が立つ。悔しみのあまり歯を噛み締めた。
2024 11月 7日
この日俺はすぐさま学校から姉のいる病院まで走っていった。囚われていたプレイヤー達が次々に目を覚ましたからだ。
嬉しさのあまり俺は笑顔を出したまま走っていた。プレイヤーが目覚めたのなら、明日奈もそうだ。きっと起きている。そう思いながら俺はバスへ飛び乗り病院へ着くとすぐさま明日奈のいる病室へ走った。
「明日奈!」
俺は勢いよくドアを開けた。だが、俺の感情はそこから地へと落とされた。
「え……?」
そこにはいつも変わらず寝たきりの姉の姿が映っていた。
「何でだよ…?ゲームはクリアされた筈だろ…?何で…何で起きねぇんだよ明日奈!!」
俺は悲しみのあまり怒声を出してしまった。
「ふざけんなよ……起きて……起きてくれよ……起きてくれよ!!明日奈!!」
目から何かが出てきた。俺は何度も姉の名前を叫んだ。看護婦が俺を引き離そうとしたが俺は姉から離れなかった。途中 父さんが駆けつけ俺を沈静化してくれた。
ーーーーーーー
「落ち着いたか?」
「うん…」
俺は父さんのお陰で冷静になる事が出来た。父さんも父さんで辛いんだ…。
「確かに明日奈は目覚めていない。だが信じろ。他の皆が目覚めたんだ。明日奈だって必ず目覚めるさ」
俺の肩に父さんの手が置かれた。とても暖かく優しかった。
「そうだね…信じてみるよ…」
俺がそう言うと父さんはニッコリと笑ってくれた。
俺は明日奈に近づくと手を握った。
「さっきはごめん……でも、必ず帰ってこいよ明日奈」
何も反応が無くても俺は良かった。
「今日はもう帰りなさい。疲れただろう。父さんはまだやる事があるからな」
「うん」
俺は病室を出ると家へと戻った。目覚めなかったとしても待てば時期に目覚めるかもしれない。俺は目覚めた時のサプライズのため、1ヶ月後に控えた推薦試験の勉強を進めた。
そしてその1ヶ月後 俺は試験を終えその後すぐ発表された合格発表で受験を終えた。
俺は姉に報告する為に病室へ向かった。父さんもいるらしく丁度よかった。
「父さん」
病室にいくと父さんの他に知らない男がいた。
「あの…誰?」
俺がそう聞くと父さんが教えた。
「作斗、彼は向こうの世界で明日奈を守ってくれていた『桐ヶ谷 和人』くんだ。挨拶しなさい」
成る程。ネットの友達ってことか。取り敢えず挨拶だけはしとこう。
俺は手を差し出した。
「初めまして。私は結城家次男の『結城 作斗』です。向こうの世界では姉がお世話になりました」
「初めまして。俺の名前は『桐ヶ谷 和人』だ。向こうの世界では君のお姉さんにお世話になったよ」
握手をしてみると男性にしては少し柔らかすぎる。2年となると流石に筋肉が衰えるか。
俺は握手し終えると父さんに合格発表の事を知らせた。すると父さんは笑顔になり俺の肩を叩いた。
「流石は私の息子だ。明日奈もきっと喜ぶぞ」
すると、入り口から誰かが入ってくる足音がした。
「社長」
「ッ!」
この声に俺の感情は怒りに変わった。今まで聞いた中で1番頭にくるノイズ。俺はゆっくりと後ろを振り返った。
そこには眼鏡を掛けた成人男性が立っていた。だが、俺たち 兄姉弟にとっては1番嫌な奴だった。
須郷…!
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
俺はSAOをクリアした後 未だに目覚めないアスナの見舞いをしに病院へと向かっていた。
病室に着くとそこには未だにナーブギアを装着している姿があった。
俺は持ってきた花を棚に置いた。
すると入り口から誰かが入ってきた。
「やぁ桐ヶ谷君 いつもすまないね」
この人はアスナのお父さんだ。ゲームを攻略し終えた際に病室で会いSAOでの出来事を話したら凄いお礼を言われた。
「こちらこそ。いつもお邪魔してすいません…結城さん」
「いや、娘も喜ぶよ。いつでも来てもらって構わないよ」
そう言いアスナのお父さんは俺よりもデカイ花束を棚に乗せた。さすが社長…
「父さん 」
その時 入り口から少し高い声がした。その声の主はゆっくりと此方へ歩いてきた。
身長は小柄で髪が長い。一瞬アスナに見えてしまったが彼女と違いポニーテールにツリ目だった。妹さんかな?
「作斗、彼は向こうの世界で明日奈を守ってくれていた『桐ヶ谷 和人』くんだ」
いや…正確には守られていたな…ご飯とか凄い作ってもらってたし…
ん…?作斗…?
俺は聞いたことがあるような感じがしSAOでの会話を思い出した。
『私の弟の名前は『結城 作斗』っていうの』
ってことはこの子がアスナの弟か。少し似てるな…
そう思っていると作斗と呼ばれたアスナの弟は俺に近づき手を出した。
「初めまして。私は結城家次男の『結城 作斗』です。向こうの世界では姉がお世話になりました」
差し出された事に対し俺も手を差し出した。
「初めまして。俺の名前は『桐ヶ谷 和人』だ。君のお姉さんにはお世話になったよ」
握った瞬間 少しウッときた。見た目は小柄な事に対して腕の筋力がとても強かった。俺の筋肉が衰えているのか分からないがとにかく今まで握ってきた奴で1番強いと確証した。確かに怖いな…お前以上に…
その子は手を離すと結城さんと話し始めた。
するとまたもや入り口から誰かが入ってくる音がした。次に入ってきたのは眼鏡を掛けスーツを着用した人だった。
「あぁ。彼とは初めてだね。私の会社の研究所の主任だ」
「初めまして、私は『須郷 伸之』と申します。よろしく」
自己紹介尚且つ名刺を出され少し戸惑いながらも俺も自己紹介をした。すると凄い握手をされた。痛い…
「彼は腹心の息子でね。昔から家族同然の付き合いなんだよ」
「社長…その事なんですが…そろそろ正式に決めさせていただきたいのです…」
そういうと須郷さんは急に顔をしかめつかせ真剣さをだした。
「そうか…でもいいのかね?君はまだ若い。新しい人生だって…」
「いいのです。僕の心は昔から決まっています」
え?どういう事だ?この二人は何を話しているんだ?横を見ると弟である作斗は須郷さんを睨んでいた。
「明日奈さんが今も美しい姿でいる間にドレスを着せてあげたいのです」
その言葉で俺は理解した。須郷さんは明日奈と結婚するという事だった。
「そうだな…あ、もう時間だ。では失礼するよ。続きはまた」
そう言うと結城さんは病室から出て行った。病室には俺と須郷さんと作斗だけとなった。作斗は下に顔を向けたまま表情を見せない。
俺も驚いた。許婚なのか…?
「君はあのゲームで、明日奈と一緒に暮らしていたんだってね。だとしたら僕と君は少し複雑な関係になりそうだね」
「ッ!」
その時、須郷さん…いや、須郷の顔の色が変わった。
「さっきの話はね?僕と明日奈が結婚すると言う事だよ」
その顔に先程の面影はなくただ欲望に溢れた顔だった。
「そんな事…出来るわけが…!」
「確かに、法的な入籍はできないから僕が養子になると言う事かな…?まぁ、この娘は昔から僕の事を嫌っていてね」
そう言うと須郷は明日奈の顔へ手を近づけた。
その時だった。
「ッ!?」
病室に巨大な殺気が流れた。俺は辺りを見回した。こんな殺気…SAOでも感じた事がない…。見ると横にいた作斗が姿を消していた。須郷の方へゆっくりと首を回すとそこには、須郷の首筋に木刀を突き付けている作斗の姿があった。しかも作斗の表情は確実に殺す目だった。
「それ以上近づくな…」
言葉一つ一つに殺意が込められていた。須郷は手を止めると作斗を睨んだ。
「おいおい。何をしているんだい作斗君?もうすぐ君のお兄さんになるこの僕に」
「失せろ。お前の様な奴はいらねぇ。俺の兄は浩一郎だけだ」
「フン。君がどう言おうがもう変わらんよ。それに良いのかい?SAOの総合サーバーは君のお父さんの会社の僕が務めている部門に委託されている。つまり、君のお姉さんの命は僕が握ってい……」
その言葉は最後まで続かなかった。須郷が明日奈の顔へ再び触れようとした時 作斗の姿が突然須郷の横に現れその顔に向かってゆっくりと拳を打ち込んだ。
その拳によって須郷は吹き飛ばされ壁へと胴体を打ち付けた。
「なんだ?姉の命はお前が握っている?なら、今ここでお前を殺せばコイツが目を覚ますって事か?ハッ。冗談なら笑えないな。それが事実なら……
“縛り上げてしっかりと事情を聞かないとな…!!”
その言葉を聞いた瞬間 須郷は顔を抑えながら病室から出て行った。
「ッチ…逃げたか…すいません和斗さん。見苦しいところを見せてしまって」
そう言い俺の方へ顔を向け頭を下げる作斗に少し恐怖感を得た。
「私はもう帰ります。また来てください」
そう言い作斗は病室から出て行った。
「アスナ…俺はどうすれば……」
その時 携帯が鳴り出した。見るとエギルからだ。内容は『明日の昼に来い。見てほしいものがある』との事だった。
俺は『わかった』とだけ返信した。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーー
翌日、俺は東京のとあるバーへと来ていた。
「よう。待ってたぜ」
出迎えてくれたのは肌の黒い筋肉質のおっさん。コイツの名前は『エギル』かつてSAOで一緒に戦った仲間だ。
「で、見てもらいたいものって…」
俺は早々にカウンターへ着くと昨日の事について聞いた。するとエギルはPCを取り出しある画像を見せた。
「これって…鳥籠…?」
その画像はある風景の写真だった。複雑な形状をした巨木の先端に一つの鳥籠がぶら下げられていた。
「これはあるゲームの中の画像だ。その鳥籠がネットに上げられていてな。ちと、画質は悪いが拡大してみるとこんなのが写っていた」
「ッ!」
俺は目をまさぐりながら見た。そこには、アスナの姿があったからだ。
「アスナ!なんで!?」
「詳しい事は分からん。取り敢えずこれは知ってるか?」
そう言いエギルは俺にあるゲームソフトを見せてきた。
「SAOの後に発売された安全性のある『アミュスフィア』というハードと一緒に発売された『アルヴ・ヘイム・オンライン』という人気ソフトだ。通称 ALO。さっきの画像はこのゲームの中の画像だ。レベルなしでPK推奨だと。まぁ属に言えばソードスキルなし魔法ありのSAOだな」
「そんなハードなゲームが人気なのか?」
「あぁ。何でも『飛べる』らしいからな。ま、滞空時間ってのがあって無限には無理だが」
そう言いエギルはソフトの裏側にあるマップの中心を指差した。
「プレイヤーは九つの種族に分かれてこの『世界樹』というところを目指しているらしい。それで、とあるプレイヤーが五人肩車をしながら飛んでったところ奇妙なものが写っていたんだと。それでその鳥籠が写って解像度をギリギリに引き上げ拡大したのがこれって訳さ」
そう言いエギルはアスナの写真を指差した。俺はソフトの裏側に表示してあるゲーム会社に目がいった。
『RCT PROGRESS』
そして思い出した。このゲームは須郷のいる部門で作り出されたゲームだという事を。
「エギル…このソフトもらって良いか…?」
「構わんが…行くのか?」
「あぁ…これに写っているのは確かにアスナだ…俺が絶対助け出してみせる…!」
俺がそう言った時
「そうか。そのソフトの中にアイツがいるって訳か」
「「ッ!?」」
突然 入口の方から声がした。聞き覚えのある声 俺がゆっくり振り返るとそこには アスナの弟である作斗が立っていた。
「作斗…」
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妖精の国へ
バーの中は異様な空気に満ちていた。原因である昨斗はゆっくりとキリトへ足を近づけた。
その一方で昨斗と初めて会うエギルはキリトへと訪ねた。
「誰だソイツ。お前の知り合いか?」
「あぁ…アスナの弟だ」
「そうか。俺は『アンドリュー・ギルバート・ミズル』だ『エギル』と呼んでくれ。あんたのお姉さんにはSAOではお世話になったぜ」
「『結城 昨斗』です。姉がお世話になりました」
出された手に昨斗も手を差し出した。握手したと同時にエギルは冷や汗を流した。
「凄えな…とんでもねぇ筋肉してやがるぜ…何かやってるのか?」
「はい。陸上、剣道 を。陸上は小学の頃 に短距離と投擲をやっておりました」
「だからこんな身体つきしてるのか…」
昨斗の経験のあるスポーツの内 陸上は身体全ての筋肉を扱うスポーツだった。昨斗は外見は小柄だがその割には筋肉の量がスポーツ選手と同等である。
「それで…さっき 桐ヶ谷さんに話していた事を聞かせていただきましたが…本当なのですか?」
「あぁ。アンタのお姉さんらしき人が確かにいたらしいぜ」
「成る程。桐ヶ谷さん。私も行きます」
「良いのか…?それにハードは…」
「すぐ買いに行きます。通帳は自分で管理してますから」
そう言い昨斗は紙に何かを書くと和人に手渡した。
「携帯番号です。私は今日の夜7時にログインします。では、失礼」
そう言い昨斗はすぐに店から姿を消した。
「俺もウジウジしてらんねぇな」
「お前も早く行きな。因みにナーブギアでもできるからな」
「サンキュー」
そして和人もエギルの店を後にした。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
俺は店を出た後 すぐに家電量販店へ行きアミュスフィアとALOを購入した。金は父さんが合格祝いだと言い出してくれた。
家に着き夕食を済ませると俺はそれをセットし装着した。
「リンクスタート」
すると突然目の前が真っ暗になり画面が現れた。
「凄いな…明日奈がやりたいという気持ちも分かる」
『ようこそ。ALOの世界へ。まずは貴方の分身となるアバターを九つの種族から選んでください』
見ると目の前に何やら変な奴が現れた。おそらくモデルだろう。
種族を選んでいく内に取り敢えずもうめんどくさくなったから『シルフ』というものにした。名前は本名を避けるとして『ムゲン』にした。
『容姿はランダムに作成されます。よろしいですか?』
YES
『それでは幸運を祈ります』
すると視界が光に包まれ気づけば上空にいた。
「何で落ちてるんだ?まぁいっか。ん?」
その時 目の前が暗くなりどこが何処だか分からなくなった。
「え?何だ……ぐへッ!?」
すると頭に衝撃が来て俺はそのまま仰向けに倒れた。
「いてて…何処だここ?」
見ると先程よりも景色が全く違う場所だった。
俺は起き上がり辺りを見渡した。現実とは全くかけ離れた景色。凄いな…。
すると、またもや誰か降ってきた。よく見ると顔が桐ヶ谷に似ている。
「お前……桐ヶ谷 和人か?」
「え…?って事はお前が昨斗か?」
「あぁ。こっちではその名前では呼ぶな。ここでは『ムゲン』だ」
「………」
何だ?そのコイツ頭逝ってるのような目は。
「まさか…厨二病ですか…?」
「殺すぞ。名前が浮かばなかったから昔見てたアニメの刀の名前にしたんだよ」
「すまんすまん…と言うか口調すげぇ変わったな…それに髪も…」
コイツの言う通り今の俺の見た目は黒に近い緑色の髪で後ろ髪は背骨までのポニーテール、前髪は首筋まで伸びていた。
「どうでも良いだろ。んで?お前のニックネームは?」
「あぁ。ここでは『キリト』と呼んでくれ」
「桐ヶ谷のキリで和人のトか?」
「正解だ」
成る程。取り敢えず姉のいる『世界樹』とやらまで行くか。いつまでも油は売っとれん。
「あぁちょっと待ってくれ」
そう言うとキリトは画面を表示させた。何をやってるんだ?取り敢えず俺は準備運動も兼ね武器を出してみた。武器は多種類あり初期装備が一つずつ用意されていた。取り敢えずこの片手剣というものにした。
選択すると手に光が集められ光が収縮するとその装備が出てきた。しかも意外と軽い。
取り敢えず近くの木に向かって振ってみた。
「フッ!」
手に筋肉を集中させ水平に薙ぎ払う。すると木はあっさりと切れた。
「すげえな。こりゃ」
武器を仕舞うとキリトの所へ戻る。すると何故かもう一人増えていた。性別は女でまだ幼くキリトの膝に座っていた。
「誰だそいつ?」
「あぁ。会うのは初めてだったな。コイツは『ユイ』SAOのNPCだ」
「NPC?」
「分かりやすく言えばゲームの中にいるキャラクターかな?ユイ挨拶しな」
「はい!」
するとソイツはキリトの膝から降りると俺に向かって走り頭を下げてきた。
「初めまして!私は『ユイ』と申します!ママの弟さんですよね?」
「ママって明日奈の事か?」
「はい!」
「へぇ…」
俺は視線をキリトに向け武器を展開した。
「……SAOで何があったのか知らんが…取り敢えず一回殺してやろう…」
「わぁぁ!!!待て待て待て!説明するから武器をしまえって!」
それからキリトの話を聞きだいたい理解した。この娘はSAOのステージで倒れていたところをコイツと明日奈に助けてもらいそれ以降 ママやパパと呼んでいるらしい。そしてもう一つ コイツと明日奈が互いに両思いである事。
「そうか…」
俺は武器を納める。
「あれ…?弟ならここで反論とか入れてくるんじゃないのか…?」
「明日奈が良ければそれでいい。あのゴミクズ(須郷)に渡すよりはマシだ」
そう言い俺は横にいる『ユイ』という娘に手を出した。
「俺は『結城 昨斗』だ。ここでは『ムゲン』だ。よろしくなユイ」
「はい!よろしくお願いします!ムゲンおじさん!」
そう言い俺の手を元気に握ってきた。ていうかコイツ身長高くねぇか?俺とあんま変わらねぇじゃねぇか…なんか屈辱だな…。
「おじ……まぁいい。キリトよ。世界樹まで行くぞ?」
「はいよ。『ユイ』飛ぶにはどうすれば良いんだ?」
「はい!まず自分の背中に羽がある事をイメージしてください」
そう言われた俺らはイメージした。すると背中から虫のような羽が生えてきた。というか気づけばコイツは『ナビゲーションピクシー』という小さい妖精に変身していた。
「次に利き手を前に握るように出してください。するとコントローラーが現れます」
言われたとおりにやってみると変なリモコンが出てきた。
「前に出すと飛行で後ろに出すと下降し左右で旋回します」
「うぉ!?」
「凄いなこりゃ…」
俺たちはコントローラーを前に出したと同時に身体が浮いた。
「ボタンを押せば加速 放せば減速です。因みに飛べるのは羽が出ている間でしばらくすると消えて一定時間休ませなければいけません。
「成る程」
俺はコントローラーを後ろに倒し下降すると着地した。キリトは未だに飛行しているが。
「ん…?」
何かが聞こえる…そう言えばこの種族は耳がいいらしいな…。
「ユイ、近くに何かいるようだが…」
「はい。プレイヤーみたいですね…しかも複数です」
「取り敢えずここが何処だか教えてもらうか…行くぞキリト」
俺達は音のする方角へ行ってみることにした。
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー
私は今 一緒のパーティであるレコンと一緒に空を飛び領地へと急いでいた。
「リーファちゃん!待ってよー!」
「頑張って。もうすぐ領地だから…!」
その時 レコンの背後から黒い影が現れた。間違いない。『サラマンダー』だ!
「危ない!」
「うわ!?」
レコンは間一髪で避けたが体制が悪く相手が追撃を仕掛けてきた。
「戦闘は避けられないようね…」
私は武器を出し構えた。
「フン。速さだけが取り柄のシルフ二人で攻撃重視の4人にどう勝とうというのだ?」
「身の程知らずめ。取り敢えず殺そう」
二人がそう言い私目掛けて飛んできて武器を振り下ろしてきた。
私は武器で防いだがパワーに負けてしまいそのまま森へと突き飛ばされてしまった。
「リーファちゃん!」
「私の事はいいからアンタだけでも逃げなさい!」
森に落ちた私は巨木を背に4人のサラマンダーに追い詰められていた。
「これで終わりだ」
そう言いサラマンダーの一人が私に向かって武器を振り下ろしそうとした。
その時
「いでぇ!?」
空から誰かが降ってきた。その人は黒い髪に黒い服装をしていたから『スプリガン』だと一目で分かった。装備を見る限り初期のもの…どうしてこの森に…?相手のサラマンダーも驚き武器を下ろし少し離れた。
「何やってんだ」
するともう一人降りてきた。装備を見ると緑を強調した服装同じ『シルフ』だった。その人は地面に突っ込んだスプリガンの頭を持ち上げて抜くと私やサラマンダーを見た。
「お兄さんたち〜?寄ってたかって女の子一人いじめるのよくないよ?」
スプリガンがそう言った時 サラマンダーの一人が青筋を立てランスを構えて突進してきた。
「初心者如きが!俺たちに口出ししてんじゃねぇ!」
「ッ!逃げ…「取り敢えずコイツらは敵ってことでいいのか?」
私が逃げるよう言おうとした時 そのサラマンダーの胴体が切られていた。いや、それだけじゃない。上空にいるリーダー格のサラマンダーを除いて残る二人も切っていた。切ったのはスプリガンじゃないもう一人のシルフだった。
「う…うん」
「聞く前にやっちゃってんじゃん…」
そのシルフは剣を納めると上空にいるサラマンダーに目を向け剣をまた構えた。しかも構えが時代劇でよく見る侍の居合の構えだった。
「さて、残るはお前だ。どうする?」
するとサラマンダーは武器を下ろした。
「やめておこう…もうすぐソードスキルが900にいくところだからね。失礼するよ」
そう言い残りのサラマンダーは去っていった。
サラマンダーの姿が見えなくなると私は2人の方へ顔を向けた。し助けてくれたとしてもシルフは分かるけどスプリガンは他種族。油断はできない。
「私はどうすればいいの?お礼を言えばいい?それとも逃げればいい?」
「どっちでもどうぞ。それに俺が決めることじゃないし」
そう言うとスプリガンは隣にいるシルフに視線を向けた。するとシルフの子は目を鋭くした。
「お礼なら別に構いません。ですが、逃げるなら私達の質問に答えてからにしてください」
2人とも敵対の意思はない…私は警戒を解いた。ただもう一つ問いたいことがある。
「でも、なんでスプリガンがこんな所に?領地ならもっと遠くの筈よ?」
「いや…道に迷った…」
「え…?領地はずっと東の筈じゃない…?」
方向音痴にも程がある。内心笑いながらも私は2人にお礼を言った。
「助けてくれてありがとう。私はリーファよ」
「俺はキリト」
「私はムゲンです」
「そう。2人とも。良かったからこの後 一杯どう?お礼がしたいの」
私は2人を誘った。サラマンダーじゃないからシルフ領に来ても問題ないだろう。
すると2人はオーケーしてくれた。
そして私達は空を飛び領へと戻った。
ただ不思議な事にスプリガンは初心者で飛ぶのは下手だけどもう1人の子は初心者なのにすぐ飛べておまけにスピードが速かった。
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世界樹の秘密
俺は自分と同種族である『リーファ』という奴に連れられ本来自分が来るはずだったシルフ領へと来ていた。
というか…
「何でお前 ぶっ倒れてんだ?」
「逆になんでお前は無事なんだ…?」
「知らん」
俺が地面に埋まったキリトを引っこ抜いていると街から知らない奴が手を振って走ってきた。
「リーファちゃーん!無事だったんだ!」
「あ、レコン」
「誰だ?アイツ」
「私のパーティなの。リアルでも知り合いなんだ」
「そうか」
走ってきたソイツは横にいるキリトを警戒した。
「な…!?なんでスプリガンがこんなところに!?」
「あぁ。この二人は私を助けてくれたんだ」
「そうなの!?」
するとキリトは腕を出す。
「よろしくな。俺はキリトだ」
「あぁどうもどうも…」
俺も手を出した方が良いのだろうか。取り敢えず挨拶はしておこう。
「私はムゲンです。よろしくお願いしますレコンさん」
「え!?あぁよろしく!」
すると俺たちはリーファに連れられバーみたいな場所へと着いた。因みにレコンは途中で帰った。
ーーーーー
ーーー
ー
バーに着くと飲み物や食い物を出された。
「電脳世界なのに味がする…成る程…味覚も反映されるのか」
「君……本当に初心者ね…」
俺は食べ終えるとリーファという女に聞いた。
「率直にお伺いします。この世界で1番高い木について教えていただきたいのですが」
「『世界樹』の事ね。このゲームはね、この世界の真ん中にある世界樹の頂上を目指すの。そしてそこにいる妖精王に喝見すれば高位種族『アルフ』に転生することができて滞空時間が無制限になるの」
「だったら皆で協力すればいいんじゃねぇか?なのに何で未だに攻略されてないんだ?」
キリトがそう聞く。俺も思った。
「アルフに転生できるのは最初に喝見した種族だけ。だからプレイヤー同士での戦闘が多いの。でもね、妖精王に会いに行くためにはその入り口にある『グランドクエスト』をクリアしなければならないんだけど…そこにいるモンスターがメチャクチャ強いの。だから誰もクリア出来てないわ」
「成る程…」
俺は立ち上がる。
「どこいくの?」
「その『世界樹』とやらまで」
俺はそう言いキリトに目で合図した。
「待って!世界樹までの道のりは!?グランドクエストはどうクリアするの!?」
「道のりは他の人に。グランドクエストは知りませんが。情報をありがとうございます」
そう言い俺は情報提供に対して礼を言いバーを出ようとした。すると手を掴まれた。
「貴方達二人だけじゃ不安……私が連れていってあげるわ」
何故俺たちの為に?初めて会ったばかりだというのに…
「初めて会ったばかりの人に迷惑は掛けられません」
「いいの!もう決めたもん!それに私だって世界樹に行ってみたいって思ってたし丁度いいわ!」
俺とキリトは一度顔を見合わせてキリトが「お願いしようぜ」という表情をうかべ承諾する事となった。
「じゃあ私はこれでログアウトするわ。明日の午後3時ね!」
そう言いソイツは消えていった。
「キリト。俺もここでログアウトする」
「分かった。じゃあな」
俺はログアウトした。
ーーーーー
ーーー
ー
ムゲン達がログアウトしてから数時間後
青い空が広がる世界樹の頂上にある鳥籠の中にて、一人の少女が目の前にいる小鳥に手を伸ばしていた。
その時 鳥籠の扉が開かれると同時にその小鳥達は驚き飛び去って行った。
「気分はどうだい?ティターニア」
「…」
その男は入ってくるとその少女に近づいた。
「その希望が無くなった表情…最高だよ。切り取って飾っておきたいくらいだ」
「…ならそうすればいいでしょ?システム管理者の貴方なら何でも思い通りのはずよ」
そう言いその少女は男を睨む。
「また連れないことを。僕が今まで物理的に君に手を出した事はあるかい?ティターニア」
「その変な名前で呼ぶのはやめて。私は明日奈よ…『須郷』さん」
須郷と呼ばれた男はやれやれと手を振ると扉を開ける。
「興ざめだ。また来るよ」
そう言い出て行った。
明日奈は座っていた椅子から立つと外に広がる無限の雲海を眺めた。
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世界樹へ
翌日 今日は休日のため 3時からログインした。
ーーーーー
ーーー
ー
着いたのは昨日のバー 見るとリーファが先に来ていた。
「早いですね」
「まぁね。というか何でムゲンはいつも敬語なの?」
「馴染みのない人にはだいたい敬語です。貴方と馴染めたらタメ口で話しますよ」
「別に今からタメ口でも構わないよ?」
「いえ。これは私なりの礼儀でもあります。それと…キリトテメェ…なにそこでみてんだぁ…?」
「あははは…バレちゃった?」
ムゲンが殺気を出すと立っている位置とは死角になっているテーブル席の陰からキリトが姿を現した。
「いや〜二人がいい雰囲気で話すもんだったから」
「殺すぞ。あぁすいませんリーファさん。見苦しいところをみせてしまって」
「あ…いいって!いいって!(こんな口調なら敬語の方がいいかな〜…)」
あまりにもの変わりようにリーファは引くと同時に敬語のままでいてもらいたいと思った。
「じゃあ行こうか。付いてきて」
ーーーーーー
外に出た二人はリーファに案内され武器や物資をやり取りする商業地へと連れられた。
「出かける前に準備は不可欠よ。自由に回って」
そう言われるとキリトとムゲンは別々に分かれ武器やアイテムを見て回るようになった。
ーーーーー
ーーー
ー
俺はキリトと別れ片手剣を売っている場所へと来た。
見れば初期装備よりいいものがたくさんあった。
「取り敢えず片手剣にするか…何かいいのありませんか?」
すると武具屋の人がちょいと待っとれと言うとガサゴソと漁った。
「コイツはどうだい?」
すると目の前に何やら怪しげな雰囲気の日本刀を出された。椿は黒いが燃え盛る炎のような刻印が刻まれていた。
「ソイツは最近発見したものだが…生憎俺は日本刀とかあまり使わないからどうしようか迷ってたのさ」
「でしたら…私に売っていただきませんか?」
「マジか!?買ってくれるのか!?」
「はい。私はリアルでも日本刀を持っているので扱いには慣れています」
「そうか。よし!毎度あり〜!」
俺は日本刀を受け取ると通貨であるユルドを渡した。何故か凄い安くしてもらい得した。
後は装備だな…この格好は何か好かない…。
ーーーーー
ーーー
ー
しばらくして、キリトはリーファと合流しムゲンを待っていた。すると
「ん?おーい!」
キリトはムゲンの姿を見つけ手を上げた。リーファもその方向へ顔を向けた。その瞬間二人はガンッと固まる。
そこには和服を纏い、日本刀を下げたムゲンが立っていた。更に和服の下にはタイツと、レギンスを纏っており、和風なだけでなく、何かとスポーティーな雰囲気も漂わせていた。
「お待たせしました」
『………』
「どうしました?」
「いやその…サムライみたいだな…て」
リーファがそう言うとキリトも頷いた。ムゲンは現実と同じくサムライヘアーかつ武器が日本刀のため、見た目は完全なる武士である。
「日本刀の方が何かと使いやすいので。では行きましょう」
「うん…こっちよ」
リーファはムゲンに言われると案内を再開し二人を領の中で1番大きい建物へと案内した。
「スッゲェデカイなこりゃ…このてっぺんから飛ぶのか?」
「そう。高度が稼げるからね。行くよ」
そう言いリーファは二人の手を引くと中へと案内した。
ーーーーーーー
中へと入ったムゲンはその内装に驚きの声を上げた。
「うわぁ…!」
巨大な入り口を抜けた先には巨大な広場があり、中心には受付が設置され、その受付を通り過ぎていくプレイヤーが背後にある階段や入り口へと抜けて行った。
「成る程…ここでクエストを受注したり仲間と集合したりするのですか…」
「その通り。さ、こっちよ」
その時であった。
「リーファ!」
後ろから男性の声が聞こえリーファを呼び止めた。リーファは止まると振り返る。そこには他のプレイヤーとは一味違う装備をしているシルフが立っていた。
「こんにちは…シグルド」
「パーティから抜ける気なのか?」
「まぁね」
その問いにリーファが頷くと、そのシグルドという男性は額に眉を寄せる。
「残りのメンバーに迷惑がかかるとは思わんのか?」
「…パーティはいつ抜けても自由…それが約束だったでしょ?」
「だがお前は既に俺のパーティとして名が通っているんだぞ?理由もなく抜けられてはこちらの面子に関わる!」
「…」
その言葉にリーファは何も返せなかった。すると横にいたムゲンが突然前に出た。
「何だお前?」
「初めまして。今日からプレイを始めた新人のムゲンです」
そう言いムゲンはゆっくりと頭を下げる。初対面の人に対しては敬語かつ自己紹介するこの姿勢はムゲンなりの礼儀なのである。
「初心者が何のようだ」
「私達は大事な用があります。それには彼女の力が必要不可欠なのです。なので申し訳ありませんが少しの間だけでいいので彼女をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ふざけるな」
ムゲンは丁寧にシグルドへと頼んだ。それに対しシグルドは更に表情を険しくさせる。
「何故 初心者のお前如きに俺のパーティが付き合わされねばならんのだ?」
「ですが彼女はパーティを抜けると仰っていますが?」
「そんなものは知ったことか。ちゃんとした理由が無ければ脱退は許さんぞリーファ!」
「…」
リーファの人権を無視したシグルドの発言 並びに自分の姉へ会いに行く邪魔をするシグルドに対しムゲンは少し青筋を浮かべた。
「別に理由なんていります?」
「なに?」
突如としてムゲンが発した言葉にシグルドは目を鋭くさせながらムゲンを睨む。
裏にいるキリトやリーファはやめろという表情を浮かべるがムゲンには見えず続ける。
「別に抜けても死ぬ訳じゃありませんし、チームを抜ける抜けないも本人の自由ではないですか。それ程まで縛るという事は彼女がいないと_____
______成り立たないぐらい弱いチームという事ですか?」
「「「…!!!」」」
その言葉はシグルドを怒らせるものに十分であった。ムゲンから放たれたその言葉を耳にしたシグルドは眉間に皺を寄せ腰に掛けてある剣に手を伸ばした。
「貴様…いい加減に…!!!!」
その時であった。
「こっちのセリフなんだよクソが…!!!」
「!?」
突如として地の底から響く低く威圧感のある声が響いた。その声に怒りを露わにする寸前であったシグルドはその手を止めると同時に額から冷や汗を流し始めた。
その一方で、ムゲンは鋭い目を向けながらシグルドへと足を進めた。
「お…おい…やめろ…って!」
「黙ってろ黒染め」
「黒染め!?」
背後から制止の声を掛けるキリトを一蹴したムゲンはシグルドへと迫ると、彼の剣を握る腕を掴んだ。
「さっきから初心者初心者ってうるせぇんだよ。なら経験者が偉いのか?」
「ぐぅ!?」
そう言いムゲンはシグルドの腕を掴む握力を更に強めた。それによってシグルドの顔が次々と苦痛に苦しみ始めていく。
それに対してムゲンは強く言い放った。
「大事な用事があるって言ってんだろ。たかがゲームで面子とか名声とか、そんなくだらねぇ事でグダグダ言ってんじゃねぇよ。ドカスが…ッ!!」
「……!」
その威圧はシグルドをベテランから初心者の精神状態へと戻していった。シグルドはゆっくりと剣を柄に戻すと歯を噛み締めながら唸り、その手を振り払った。
「今回は特別に許してやる。次はないぞ!」
「知るか。んな捨て台詞どうでもいいからさっさと失せろ」
「く…!!」
吐き捨てられたムゲンの言葉にシグルドは眉に皺を寄せながらも身を引いた。
「リーファ…レネゲイドになるなり死ぬなりもう好きにしろ!いずれ後悔するぞ!」
そう言いシグルドは自身のパーティらしきプレイヤーと共に去っていった。
「レネゲイド…?何ですかそれは?」
ムゲンはリーファに尋ねる。するとリーファは俯きながらムゲンの手を引っ張っていった。
ーーーーーーーー
塔のてっぺんへ来た3人は空を見上げた。
「すげぇな…手が届きそうだ…」
キリトは目の前にあるように見える青い空に手を伸ばした。
「この空を見たらね。なにもかもちっさく見えてくるの」
そう言いリーファは空を仰ぐ。
「いい機会だとは思ってたの。レネゲイドになってしまったとしてもいつかここを出て行こうかなって」
そのレネゲイドという単語にムゲンは疑問を浮かべる。リーファは説明した。
「領地を捨てた人はレネゲイドっていって他の種族や自分の種族から蔑まれてるの。でも、何でだろう。どうしてあんなに縛ったりするのかな…羽があるのに…」
リーファは少し悲しみのある表情を浮かべた。それに対しムゲンは述べた。
「羽がある以前に出て行くのもいかないのも自由ではありませんか?選択する権利は誰にでもあります」
「まぁ、そうだよな。縛りつける方がおかしい」
ムゲンの言葉にキリトも同意見であるのか云々と頷いた
その時
「リーファちゃ〜ん!」
後ろのゲートの扉が開きレコンが泣きながら走ってきた。
「ひどいよ。行くなら前もって教えてくれればいいのに…」
「ごめんごめん!」
するとレコンはある事をリーファへ聞く。
「それより…パーティ抜けるんだって…?」
その問いにリーファは頷く。
「あんたはどうするの?」
「決まってるじゃないか。僕も行くよ。この剣はリーファちゃんに捧げるって決めたからね!」
「いや、別にいらない」
レコンはガクンと落ち込むと真剣な表情を浮かべる。
「僕も行く…て行きたい所だけど…しばらくシグルドのパーティに残るよ」
「何で?」
「ちょっと…調べたい事があるからね。キリトさんムゲンさん」
そう言いレコンは横にいる二人に目を向けた。
「彼女は強いですがよくトラブルに突っ込んでしまう事がよくあるので気をつけてください」
その忠告にリーファは「ちょ…」と恥ずかしく頬を染めるが二人は頷く。
それから三人はレコンと別れそこから世界樹の森へと飛んで行った。
ーーーーーーー
飛行中キリトはリーファへ先程の彼の事について問いかける。
「彼、現実でも友達なんだろ?」
「それがどうかした?」
「いや、何かすげぇ仲いいから恋人なのかなって」
「は!?違う違う。彼はただのクラスメイトだから」
そう言いリーファは否定する。するとキリトの胸ポケットからユイが顔を出し危険信号を発した。
「パパ!前方よりモンスターが向かってきます!その数3体です!」
ユイの忠告通り 目の前からは大型の鳥のような肉食獣が三体こちらへ向かってきた。
「肩慣らしには丁度いいな。3人いるから丁度いい♪」
「そうね」
そう言いキリトとリーファは剣へと手を伸ばし構えた。するとムゲンが前に出て2人を手で制した。
「俺がやる」
「え!?いやムゲンだけじゃぜった…キャ!?」
リーファの制止も聞かずムゲンはすぐさま飛び出すと鳥人間に向かう。
そして近づくと刀の柄を掴み全身に筋肉を集中させた。
「邪魔です…」
その言葉と共に刀を抜き向かってくる3体全てを一網打尽にするかの如く 広く鋭い抜刀術を放つ。
「ギャァァァ!」
3体のモンスターは全て粉々に斬られると青くデジタル化し消失していった。
その様子をキリト達はただ見る事しか出来なかった。
「リーファ…見えたか今の…」
「いや…全く見えなかった…ムゲンって一体何者…?」
「俺も分からん…」
現実では干渉したことがないリーファはもちろん 接触したキリトでさえも彼の得体が知れなかった。
「早く行きましょう」
『は…はい…』
ーーーーーーー
その後3人は森の中で休憩した後 洞窟へと足を踏み入れた。
その時 キリトはスプリガンの特性によって何かがつけて来るの察知した。
「おいリーファ、あれは何だ?」
そう言いキリトは暗闇の中でうごめくコウモリらしき生物へ指をさした。その瞬間リーファの目が変わりすぐさま2人の手を引き走り出した。
「おい!?どうしたんだよ!?」
「今のはサラマンダーの追跡モンスターよ!まさか見られてたなんて!」
「マジか!?ってことは…」
「もう向かってきてる!。急いで街に行きましょう!そこへ着けばPKもできなくなるわ!」
「了解!」
キリトとムゲンはリーファから手を離すと走り出した。洞窟を抜けると広い湖が現れ目指す先には街へと続く巨大な橋が設置されていた。
「もうちょっと!」
街まであと数十メートルだったその瞬間 目の前に巨大な岩の壁が現れた。それにより街への入り口が封鎖され先へ進む事が出来なくなってしまった。
「ッ!土魔法ね。しかも高位の…これを使えるなんて相当手練れな奴もいるみたいね」
「じゃ、戦うしかないって事か」
「ッ…人の邪魔しやがって…」
キリトやリーファそしてムゲンは武器を出し向かって来るサラマンダーへ備えた。
すると前方から盾を持つ兵士数人を戦闘に陣形を組んだサラマンダーの軍が姿を現した。
するとキリトはある提案をリーファへした。
「リーファ…君の剣の腕を信用してない訳じゃないが…ここはサポートに回ってもらえないか?後ろで回復役に徹してほしい…その方が俺やムゲンも戦いやすい…」
「了解。任して」
そう言いリーファは後退した。
「随分と多いな……ムゲン、やれるか…………やれるどころか殺るな…」
キリトは隣に立っているムゲンに聞こうとし首を向けたがすぐに正面へ向き直した。額や腕には青筋が立っており明らかにお怒りな様子だった。
「あぁ。俺はただ単に姉に会うためだけに来てんのにこんな真似されちゃ流石に腹が立つ」
そう言いムゲンは刀を持つ手に筋肉を集中させた。
「行くぜ…!」
「あぁ…!」
キリトの合図と共にムゲンもサラマンダー目掛けて走り出した。すると前衛守備の盾を持つ3人が前に現れ構えた。
「はぁッ!!」
キリトは大剣を力任せに盾目掛けて振るった。大剣と盾が擦れ合い辺りの空気が震える。すると後方にいる数人の魔導師らしきサラマンダーが呪文を唱えた。すると盾を持つ兵士達がみるみる回復していった。
「ッチ…」
すると
「少しは頭を使え」
その言葉と共にムゲンが飛び出し跳躍すると前衛部隊を飛び越え後方にいる魔導師達目掛けて刀を振るった。
「死ね…!」
「ぎゃぁぁ!!」
ムゲンは刀を全方位に振り回し回復部隊を全滅させた。これにより盾部隊への回復路は絶たれた。
「それに道幅もあるんだから普通に素通りする事もできるだろ?」
「えぇまぁ……て!おいよそ見すんな!」
「あ?」
既に遅かった。
気づいた時には巨大な火の玉が迫りムゲンを包んだ。
「ムゲンッ!!!!」
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猛炎の将 そして怒る鬼
回復部隊を斬ったムゲンに無数の火玉が炸裂する。
「ムゲンッ!!!」
キリトは炎で包まれたその場所へ向かって叫ぶ。後ろではリーファも涙を流していた。
「そんな……」
すると相手のリーダーらしき男が再び魔法を唱え今度はキリト達へ向かって火属性呪文を放とうとした。
その時
「いてぇじゃねぇか……」
燃え盛る火の中から声が聞こえた。相手は呪文を中断するとその場へ目を向けた。見るとそこには目を血走らせ怒りの表情を浮かべたムゲンが立っていた。
ムゲンは血管が湧き立つ手で刀を握り締めるとその血眼を敵へ向ける。
「マジでぶち殺す…!」
地から響くような声と共にムゲンは刀を持つと前にいる敵目掛けて飛び出した。
「ゔぁぁぁッ!!!」
「!?」
呪文を唱えようとするが、ムゲンの怒りに満ちた表情に圧倒され上手く呂律が回らず唱える事が出来なかった。
そして、ムゲンに捕らえられた最初のプレイヤーは身体を左右に真っ二つに切断された。
「な…何だコイツ……!?」
「あ…アイツの情報だとまだ新入りだろ…!?」
作斗は刀を持ち直すとリーダー格の男へ目を向けた。
「ひ…!?じ…呪文を早く…!!「しね」
グシャァ
言い終わる前に相手のリーダー格の男の首が飛ぶ。そしてその体制から横にいる相手の胴体を右から左下に掛けて斜めに振り下ろす。
「ヒィ…!?」
2人を始末したムゲンは3人目の男へと目を向ける。その時 向こう側からキリト達が静止の声を掛けてきた。
「待ってムゲン! ソイツ生かしといて!いろいろ聞き出したいから!」
そう言われたムゲンは刀をしまう。
その後 相手から情報を聞き出すとキリトがいやらしい目でいろいろとアイテムを相手に送った。つまり交換という形で穏便に済ませた。
ーーーーーーー
「あ〜疲れた…」
その後 3人は街へと入るとベンチに座る形で休んでいた。
「いやぁ〜さっきは凄かったな」
「そうか?」
ムゲンはキリトへ目を向ける。リーファも頷く。
「というかムゲンって剣さばき上手いよね!現では何してるの?」
「剣道と陸上を少々。剣道は身体の殆どの筋肉を使うのでそれを鍛えるために陸上をしていました」
そう言い買ってきた飲み物を口にする。今は少し落ち着いており表情も穏やかさを取り戻していた。
するとリーファが一旦ログアウトするといい。電子の肉体から意識を離した。
「さぁて、少し休憩してリーファが来たらまた出発しようぜ」
「あぁ」
ムゲンは立ち上がると容器を投げ捨てる。
その数分後 突然リーファが目覚めすぐさま行かなきゃと叫ぶ。
「どうした!?」
「ごめん2人とも…私…急いで行かなきゃいけない用事ができちゃった…説明する時間もないしここにも帰ってこれないかもしれない…」
「じゃあ、移動しながら話すとするか」
「え?」
キリトはムゲンへと目を向けるムゲンはため息をつきながらも頷く。
「どっちにしても、ここからは足を使わなきゃ出ていけねぇんだろ?行くぞ」
そして3人はその場から走り街を出た。
先程の橋を走っている中 リーファは事情を伝えた。
「40分後に蝶の谷でシルフとケットシーの領主の会談が始まるの」
「成る程。1つ聞きますが…それで何のメリットが?」
「領主を撃てば情報が漏れて最悪の場合 シルフとケットシーの間で戦争。しかも領主を撃てばその領に蓄積されている資金の三割を奪う事ができるの」
そう言うとリーファは2人へ目を向ける。
「だからねキリト君 そしてムゲン。これはシルフ族の問題なのスプリガンである君や初心者である君がこれ以上付き合ってくれる理由はないわ」
「んん?それは聞き捨てならないねぇ」
そう言いキリトは立ち止まるとリーファへ目を向けた。
「俺はここまで案内してくれたし喜んで手を貸すよ。ムゲンもそうだろ?」
するとムゲンは頬をかきながら答える。ムゲンはこう見えて義理堅いのだ。恩は恩で返す。
「まぁ…そうだな。いろいろと教えてくれたから…」
「…!2人とも…ありがとう…!」
涙を流しながら礼を言うリーファにキリトは微笑むと2人の腕を掴んだ。
「ちょっと急ぐぞ」
一気に駆け出した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ぶべびばばべび」
早すぎるその速度にリーファは悲鳴をあげムゲンは風圧で顔が変形していた。
周りに潜むモンスターの軍団をすり抜けながらキリト達は外へと出た。
「よっしゃ脱出!」
「死ぬかと思った……」
そして3人は羽を展開させるとすぐさま会談の場所へと急いだ。
ーーーーーー
一方 会談の場所では緊迫した空気が流れていた。
「おやおや、サラマンダーがここへ何の用だ?」
「ふん。状況を見ればわかるだろう?シルフの領主殿」
シルフの領主である和服を纏った美女プレイヤー『サクヤ』が相手へ問い掛ける。
「要するに会談を機に私達を倒そって訳ね。どうやって知ったのかしら?一般のシルフやケットシーにも伝えてないのに」
「勘というやつだよ」
ケットシーの領主である『アリシャ』は推測を立て質問をする。
状況は既に遅し 今まさに3つの勢力がぶつかろうとしていた。
その時
空から何かが飛来してきた。それは飛来すると同時に両者の間に砂煙を発生させ視界を遮った。
「双方 剣を下ろせ」
その言葉と共に砂煙がはれた。そこにはサラマンダーに向かって対峙するキリトの姿があった。
「誰だ…?あのスプリガンは…」
突然の出来事にサクヤやアリシャは理解できなかった。すると横からリーファが姿を現わす。
「どうしてここに?それに誰だ横にいるシルフは…」
「簡単には説明できないけど…私達の運命はあの人次第ってことよ…あ、因みにこの子は初心者のムゲン」
「どうも。初心者プレイヤーのムゲンです。よろしくお願いしますサクヤさん」
「あ…いやどうも初めまして…」
唐突な挨拶にサクヤは戸惑いつつも自分の名を名乗った。そうしている間に相手の大将が姿を現した。
それは巨大な体躯に強面 そしてなにより背中に背負っている異形な大剣が特徴的なプレイヤーであった。
「スプリガンが何の用だ?」
「俺の名はキリト スプリガンウンディーネ同盟の大使だ!この場を襲うからには我らスプリガンウンディーネ同盟とも決裂したという事になる。つまりサラマンダーと他の4種族同士での戦争となるぞ」
「大使?はっ。護衛1人つけていない奴が大使だと?まぁいい」
するとその男性は背中にある剣を抜く。
「俺の剣を30秒耐えたら大使として信じてやろう」
「分かった…随分な自信だな」
そう言いキリトも剣を抜く。SAO生還者でありながらも目の前の敵に少し圧倒されていた。
一方でサクヤ達は汗を流していた。
「マズイな…あの両手剣は恐らく『魔剣 グラム』…それを装備しているとなるとアイツは『ユージーン』将軍で間違いない…」
「嘘でしょ!?」
横にいるリーファは驚く。サクヤ曰く ユージーン将軍はサラマンダー領主の『モーティマー』の弟でありパワーだけならALO最強と言わしめる程の実力者だった。
すると戦いが始まったと同時にキリトが近くの岩盤へと吹き飛ばされた。
その一部始終を見ていたリーファは訳が分からなかった。
「何で!?今すり抜けてなかった!?」
「グラムにはオフェンス時に非実体化してすり抜けるエクストラ効果が付与されているんだよ」
「そんなメチャクチャな!?」
アリシャの説明にリーファは更に驚きキリトを見る。もうそろそろ30秒たつ頃だった。
その時
「遅い…もういい俺が行く」
そう言い1人のプレイヤーがリーファ達の前を通り過ぎて目の前で闘っている2人へと向かっていった。
「お…おい!初心者である君がどうこうできるようでは!「邪魔です」
サクヤが止めようと肩を掴んだがムゲンは乱暴に振り払う。そしてムゲンは目の前の2人目掛けて飛んだ。
ーーーーー
一方でキリトは今 ユージーンから距離を取っていた。
「おい!もう30秒経ったんじゃねぇか!?」
「悪いな。気が変わって斬りたくなってきた…!」
そう言いユージーンが武器を構えた時 キリトの肩を誰かが叩く。
「どけ。俺がやる」
「はぁ!?いや、アイツメチャクチャ強いぞ!?今のお前でもさすがに無理があるって!」
キリトがそう言い拒否した瞬間 ムゲンの目が変わった。
「“どけ”」
ただ発せられたその言葉にはとてつもない威圧感が込められていた。キリトは分かったと言い譲る。
「何だ?選手交代か?ま、別にいいがな。今度の相手はシルフか」
そう言いユージーンは武器を構える。その時 ムゲンの両手に赤い血管が湧きだった。
「どいつもコイツも……そんなに俺の邪魔が楽しいか…?そこまでして邪魔したいのか…?」
ムゲンの顔にはいつもの面影は無かった。ユージーンは一瞬 身体を震わした。
今まで見たことも無いような血走った目そして顔中に首から湧きだつ筋 そして感じたことも無いような殺気 目の前にいるのは本当にシルフなのかと思う程であった。
ムゲンは多大なるサラマンダーの妨害に値する行為に激怒していた。ムゲンは血走らせた目を見せると地の底から響くような声で言った。
「お前ら全員…ただじゃ済まさねェゾ…!!」
「面白い。ではいくぞ!」
ユージーンは剣を構えて振り下ろした。だがその振りをムゲンは躱す。
それで終わる訳ではなくユージーンは何回もムゲンに向かって剣を振るった。
だが、全て躱されていた。
「なぜだ…なぜ当たらん…!」
ユージーンはイラつき始め振る度に少しずつボロが現れ始めた。
するとムゲンは刀の柄に手をかけた。
「さっきから見てれば…随分とバカにしてるな…そんなハエが止まるような速度で俺を倒せるとでも…?ハッ!最強と呼ばれてるわりには大したことないんだなァ!」
「黙れ!」
ユージーンは更に剣を振るう。だがそれも避けられる。
「防御した際にすり抜けるといったがそんなものただ剣で受け止めず体で避ければいいだけの話だ。お前のようなワンパターンのような動きは今まで目が腐るほど見てきたよ」
「ほざけッ!!」
そう言い立て続けに放たれる振りを全て躱す。作斗にとって、ユージーンの動きは素人同然なので避けるのは容易い事だった。
ーーーーーー
一方で初めて見るムゲンの戦闘にサクヤ達は目を丸くしていた。
「すごい…あのムゲンという少年は何者なんだ?ユージーンの剣を全て避けている…」
「ほ…本当に初心者なの!?いくらなんでもルーキーの動きじゃないよ!?」
「私も驚いてるわよ…回廊の時なんか比べものになんない…それにムゲンの顔……」
リーファや周りの皆はもちろん 先程の表情の面影がどこにもない怒りに満ちた表情を見て汗を流していた。
「凄く…怒ってる……」
「あんな表情…今まで見たことねぇな…」
この場にいる誰よりもムゲンと付き合いが長いキリトでさえも彼の表情に驚きを隠せなかった。
特にキリトが驚いている点は適応能力だった。キリトはSAOで複雑な動きへ対しての感覚などを身につけているが、ALOの飛行には未だに慣れていない。だというのに、VRMMOは今回が初めて かつ飛行経験が少ないであろうムゲンがあそこまで華麗な動きをしている事に驚きを隠せなかった。
ーーーーーー
「はぁッ!」
ヒュン
ユージーンの力のこもった一撃をムゲンはやはり容易く避けた。ユージーンはスタミナを消費したのか少量の汗を流していた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「どうした?もう終わりか…?」
「貴様…先程から避けてばかり…つまらん!つまらなすぎるぞ!お前も剣を振ったらどうなんだッ!」
ユージーンは避けてばかりでいるムゲンに対し怒りをぶつけた。だが、その言葉によってムゲンの今まで溜まっていた怒りがドス黒い感情と共に爆発した。
ピキ
「つまらない……だと…?」
その瞬間 目がもう人間ではない程 血走ると同時に首だけでなく顔の周りから筋が隆起した。
そして、
「ふざけてんじゃねぇぞッ!!!!」
その場にいる皆が驚く程の怒声を上げた。
「俺は大事な用事があるっつうのに…テメェらときたら行く先々で悉く邪魔ばかりしやがって……うぜぇ…本当にうぜぇ…。目障りなんだよッ!!ワザワザお前のチャンバラごっこにも付き合ってやってんのにつまらない?ハッ!笑えねぇなッ!!俺はこんな茶番に付き合ってる暇なんざねぇんだよッ!!」
腹の底から吐き出されるような怒声と罵声。口調が完全に変わっていた。キリト達にとってはまるで別人のような感覚であった。だが、目の前にいるのはいつものムゲンであるがもう声を掛けても止まらない程にまで怒りが溜まった誰にも手がつけられない状態であった。恐らく キリトやリーファが止めようとしても容赦なく攻撃してくるだろう。
すると、ムゲンの怒りに後ろにいるサラマンダー達が次々と反論し始めた。
「お…俺たちは『アルフ』に転生したいが為にやってるんだぞ!?」
「そうだ!それが醍醐味だろ!?」
「そんな事も理解できねぇのかよ!?」
ユージーンの後方から大量の反論の声がムゲンへ降りかかってきた。
“なんだ…俺は…そんなくだらない理由で妨害されていたのか…”
その瞬間
ムゲンの顔から何もかもが消え去った。
だが、一つ残った感情がある。
それは …『目の前にいる相手全員を確実に葬る』という怒りの感情だった。
「くだらねぇ。もういい。お前らを全力で斬り刻む…!!」
ムゲンはもう止まらない。目の前の自分にとって障害物であるユージーン、そして烏合の衆であるサラマンダーの団体全員を完膚無きまでに叩き潰すまでは。
ユージーンは先程とは全く雰囲気が変わった事に驚き、その薄気味悪さに冷や汗を流していた。
「二度と邪魔できない様に…してやるよ…!トカゲがぁ…!!」
ムゲンは今まで納刀していた刀を抜いた。
刀身が柄が擦れ合う音とともにその姿を露わにした。
現れたのは 血のようにドス黒い色の刀身だった。
ムゲンはその刀身をもつ刀をこびりついた汚れを落とすように縦に払うと、その刀をまるでペン回しをするかのように軽く指先で回すとその切先を向けた。
「“消えろ”」
「!?」
そう言い放った瞬間。ムゲンはその場から一気に飛び立ち、殺意が込められた一振りをユージーンに向かって放つ。だがユージーンはそれを間一髪で受け止めた。
「は!惜しかったな!」
ユージーンは受け止めた事により微量な勝機を確認した。だが、次の瞬間 恐ろしい斬撃の嵐がユージーンを襲った。
「ぬぉ…!?」
その斬撃は吹き荒れる嵐のように次々とユージーンの剣へと襲いかかってきた。
何とか攻撃に移ろうとするも、その隙は無い。攻撃に移ろうとした瞬間、その斬撃が襲い掛かってくるからだ。
「(な…何だこの動きは…!?コイツ…初心者じゃねぇのか!?だとしたらこの剣捌き…リアルでも刀を握っていた事になるじゃねぇか!?)」
荒れ狂う斬撃を受けたユージーンは推測を立てながらも防御していた。
ガンッ!
「うぅ!?」
そして、最後の一振りでユージーンは大きく後退されるも何とか斬撃の嵐を防いだ。
「つ…強いな…お前。現実でも刀を扱っているのか?」
その質問にムゲンは答える様子は見せなかった。それどころか、次の攻撃へと移ろうとしていた。
「テメェに教える義理はねぇ」
「!?」
あれ程の動きをしたというのに、未だ疲れを見せてはいない様子にユージーンは驚く。
そして、その言葉と共に新しい一撃が放たれた。
「ぐぅ!?」
ユージーンはすぐさまガードをする。またあの斬撃の嵐が来るのか?そう思い防御体制を取る。
だが、これが命取りとなった。
「ガハァッ!?」
ユージーンの右胴体が貫かれた。フェイント。いや、先程の攻撃ではないものがくるのは気付いていた。
だから剣を振ろうとした。だが、それよりも早くムゲンはユージーンの身体へと攻撃をあてたのだ。
つまり、ムゲンはユージーンの反応速度を上回る程のスピードで剣を振り回したということだ。
「ぬんッ!!」
一撃を見舞われたとしても、ユージーンは怯まなかった。咄嗟に剣を水平に振る。だが、それをムゲンは状態を後ろにそらし、まるでバク宙するかのような動きで避けた。
「うぉおおお!!」
ユージーンは離れたムゲンへ向け 雄叫びを上げながら剣を振るう。それも右肩から入るようにだ。これだと流石に避けるのは難しくなる。だが、こんな技など、ムゲンにとってはただの子犬だ。
「ゴォォォォ…」
嵐のような呼吸音と共に、ゆっくりと肺に酸素を溜め込むと呼吸を止め腕に筋肉を集中させた。
その瞬間
ガンッ!
「なに!?」
ユージーンの持つグラムが弾かれた。これは予想外の展開だ。グラムは本来 剣をすり抜ける効果を持つ。これはシステムであるので必ず起こる事だ。だが弾かれた。周りから見ている者達は目をまさぐっていた。
ーーーーーー
「な…何が起きたんだ!?グラムが弾かれたぞ!?」
「もしかして…バグ!?」
もちろん 大抵の人は皆 バグだと思うだろう。だが、そんな中でSAO生還者のキリトと、速さで動体視力が高いリーファは一瞬だが見えていたのだ。
「サクヤ…これはバグなんかじゃない…ムゲンは…グラムに二回触れたんだ…!」
「ど…どういう事だ!?」
「一瞬だけだけど…ムゲンの刀が突然 グラムに触れてすり抜けたの…けど…ムゲンはその体制のまま…一気にまたグラムへ向かって剣を振った…」
「なんだって!?あの距離で剣が届く前に2回も触れるなんて…どれだけの早業が必要だと思っているんだ!?」
皆も信じられないようだが、現にその現象は目の前で起きているのだ。信じるしかないだろう。
確かにグラムは連続ですり抜ける事はない。だからと言って2回もグラムへ刀身を当てる事を考える者はまずいないだろう。ましてや相手が攻撃してくる時に。
皆の目は再び二人へと向いた。
ーーーーーーー
「…!」
ユージーンは戦慄していた。目の前の敵は確実に自分の何倍も強い。ただでさえ攻撃力が高いグラムの剣をいとも簡単に躱した上に 相手の剣をすり抜ける反則級の効果を持つ透過でさえ、通じない。『化け物』だ。コイツには確実に勝てない。
ユージーンの戦意がほぼ落ちてきていた。
だが、それでも相手はまだまだ余裕だった。
「もうそろそろ終わりにするか…お前にはもう飽きた」
刀をまたもやペンのように振り回すとムゲンは刀を鞘へと戻す。
そして
「…!」
「グァァァァァァァッ!!!!」
ムゲンの目が太陽に照らされ光ると同時に 気づけばユージーンの手足の指そして手首足首が全て切り刻まれていた。
見ると作斗は状態を比較しながら刀をまるで抜刀するかのような姿勢を取っていた。
「“終わり”だ…!」
「ぐぁぁぁ!!!!」
ドォンッ!!
その一言と共にムゲンは全身の筋肉を集中させた一閃を放つ。身体を真っ二つにされたユージーンは炎となりリタイアとなった。
「ま…まじかよ…将軍が…」
ALO最強とされる将軍が撃破された事により、サラマンダー達は冷や汗を流した。すると、 ユージーンを葬ったムゲンの血眼が残りのサラマンダー達を捉えた。
「さて…次はテメェらの番だ…!1人100回斬り刻むまで現実に返サねェゾ…?」
「ヒィ!?」
「な…なんだコイツ…目が人間じゃねぇ…!?」
その目を見たサラマンダー達は怯えの声をだす。確実に人間の目ではない。
例えるなら“鬼”だ。
ムゲンは殺意を解くつもりなく。それどころか更に濃い殺気を湧き上がらせた。
そして刀に筋肉を集中させるとサラマンダー達に向かおうとした。
すると、誰かがムゲンの肩に手を置いた。
「やめろ。もう目的は達成したろ?」
「あ…?」
見ると、キリトがいた。だが、ムゲンは手を退けると首筋へ刀を突きつけた。
「邪魔をするな。お前から殺すゾ?」
「これ以上やるとガチで戦争になっちまうからやめとけ」
「……ッ…」
流石にこれ以上相手側を殺すとなると本当に戦争となり兼ねない。まずいと思ったのか舌打ちをするも怒りを解きいつもの表情へと戻った。
「ふん。感謝しろよお前ら。次くだらねぇ真似してきたら殺すからな…?」
ムゲンの獣のような鋭い目にサラマンダーの誰もが反論できなかった。
その気になれば…自分達なぞいつでも葬れるという事を悟ったのだ。
ーーーーーーー
「これでユージーンは元に戻るはずだ」
そう言いサクヤは目の前にあるユージーンの炎に復活する薬を投与した。すると炎が一瞬光ると同時にユージーンは復活した。
「俺は負けたか。約束は約束だ。お前を大使である事を領主に伝えておく」
「おぅ」
「その前にいいか?」
そう言いキリトへ面を向ける。キリトは頷く。するとリーファに抱き抱えられ着地してきたムゲンは刀をしまうとユージーンへと歩み寄ると忠告した。
「モーティマーとかいう領主であるお前の兄に伝えとけ。次邪魔したら殺すってな。勿論お前もだ」
「き…肝に命じておく…だが、お前とはまた闘いたいものだ」
「俺の目的が果たされたならいつでも。現実でもいいがな」
「フッそれもいいかもな。さらばだ」
そう言うとユージーンは部下を引き連れ領地へと引き返していった。
サラマンダー達の姿が見えなくなるとサクヤ達はキリトへと礼を述べた。ムゲンにも礼を述べようとしたが先程の言動に一同は沈黙していた。
するとムゲンは振り返りリーファへと話しかける。
「リーファさん。世界樹というのは先程見えたあれですか?」
「え…うん…」
リーファは頷く。するとムゲンは何も言わずに羽を展開するとその場から飛び去っていった。
その姿を誰も追う事はなかった。
その後 奇襲を仕掛けてきた犯人が『シグルド』であることをリーファから明かされサクヤによってシグルドは追放となった。
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直葉と作斗
私はサクヤと別れキリト君と一緒にアルンへと向かっていた。
先程の一件は大問題にはならずすぐに収束となった。けど、1つの不安があった。
ムゲンのことだ。
あの子は一体何者なのだろう…そしてあの子が口にしていた“目的”も…『姉に会うため』とは一体なんなのだろう…。キリト君は知っているのだろうか…
私は聞いてみた。
「ねぇキリト君…さっきのムゲンが言ってた『姉に会うため』ってどういうことなの…?」
するとキリト君は答えた。その表情にはやや悲しみの面影があった。
「実はな…ムゲンの姉はSAOの事件に巻き込まれたんだ。クリアした後もずっと目が覚めなかった。だが、世界樹でアイツの姉が発見されてな。自分も行くと言ってこの世界に来たのさ」
「そうだったんだ…じゃあもう2年くらい喋ってないのか…」
「あぁ。ムゲンのお父さんが言うには ほぼ毎日 見舞いに来ていたらしい」
「だからあんなに必死だったんだ…」
私は今までの事を思い返す。そう思うと私は少し罪悪感を背負った感じがした。だから私は決めた。
「だったら、早く見つけてあげなくちゃね!」
最初の森で助けてくれた恩、サクヤやアリシャさんを助けてくれた恩 を返すため私もその子の姉を見つけてあげる事を決めた。
「ありがとな」
「さぁ!急ぐよ!」
私はスピードを上げアルンへと飛んだ。
ーーーーーーーー
「何故ダァ…何故開かん…!!」
一方で 目的地であるアルンでは1人のプレイヤーが最難関クエストであるグランドクエストへと挑戦していた。
このクエストはソロから大規模パーティまで参加が可能であるが幾人ものプレイヤーが挑戦したが誰もクリアできなかった。だがそんな最難関なクエストをその少年1人が受けていたのだ。
その少年は鬼の如き強さで向かってくる無数のガーディアンを切り捨て必死の末に 遂に奥までたどり着いた。だが、あったのはただの壁 クリアする入り口らしきものはどこにもなかった。
それに対してその少年は激怒していたのだった。
「(く…ガーディアン供がくる…一旦出直しだ…!)邪魔ダァァぁぁ!!!!!」
その少年は叫ぶと向かってくる無数のガーディアンを刀で八つ裂きにしクエスト入り口へと戻っていった。
ーーーーーーー
「わぁ〜!ここがアルンかぁ〜!」
リーファとキリトはついにアルンへと到着した。辺りは夜となっており大都市であるアルンの街中の光が夜を照らし神秘的な光景を生み出していた。その光景にリーファは目を輝かせマジマジと夜景を見つめていた。
「よし、今日は宿でも取って明日にでも行くか!」
「うん!」
そして2人はログアウトした。
ーーーーーーー
次の日
キリトこと本名 桐ヶ谷 和人は雪が降る中 1人の妹と供に病院へと来ていた。
病院へとついた和人は未だ目を覚まさない明日奈へと歩み寄る。
「明日奈…今日は妹を連れてきたよ」
そう言いながら和人は手を握る。
その様子を見ながら直葉は花を近くに置く。
すると病室のドアが開く音がし ロングコートを纏った1人の少年が入ってきた。
和人はその姿を見ると手を挙げ挨拶をする。
「よう。お邪魔してるぞ 作斗」
「和人さん…いつもありがとうございます」
そう言い作斗は入ると動きを止めた。そこには一度 会った直葉が立っていたからだ。
「貴方は…」
「ど…どうも…」
直葉も少し固まると手をゆっくりあげて挨拶する。
「何だ?お前ら会ったことあるのか?」
「うん。結構前に一度だけね」
「成る程。作斗 コイツは俺の妹の桐ヶ谷 直葉だ。同じ剣道をやってるから仲良くしてやってくれ」
「……そうですか。私は弟の結城 作斗です。よろしくお願いします。直葉さん」
「あ…よろしくお願いします」
作斗は足を進め直葉へ手を差し出す。直葉も動揺するが手を差し出し握った。
すると和人は飲み物を買ってくるといいその場から離れる。
部屋の中は作斗と直葉だけとなった。
「えぇと…お久しぶりですね」
直葉は何とかこの重たい空気を断ち切ろうと言葉を出した。それに対して作斗は何気なく返す。
「そうですね。だいたい数ヶ月ぶりでしょうか」
因みに2年の夏以来 数ヶ月おきだが何度か会っていた。だがあまり話すことはなく。毎回素通りという形だった。
「……」
無言が続く。直葉はこう見えて緊張していた。全国でトップクラスの強さを持つかつ可憐な容姿に直葉はどう話しかけたらいいか分からなかったのだ。
そんな時でも作斗はブレる様子を見せることなく黙々とキリトと自分が持ってきた花を花瓶に入れた。
「どうしたんですか?ずっと立ちっぱなしでは疲れますよ?」
ずっと直立していた直葉を不思議に思ったのか作斗はパイプ椅子を用意して直葉の側に置いてあげた。
「す…すいません…」
直葉はオロオロするもゆっくりと座った。
その時 直葉は一瞬だけだが、作斗の表情が悲しみに満ちた表情へ変わるのを見た。
故に直葉は思った。
「(作斗さん…私と同じなんだ…)」
直葉は目の前にいる作斗と自分の兄が帰って来る前の自分の姿を重ねた。
「あの…寂しいですよね…お姉さんがいないと…」
その問いに対し作斗はゆっくりと返す。
「はい。唯一の姉なので。早く目を覚ましてほしいです」
そう言い作斗も椅子に座る。
「かれこれ2年は話していません。いつ目を覚ますのやら」
「……」
直葉は自身よりも酷い境遇にいる作斗に何も言葉を掛けることが出来なかった。
「まぁどうあれ、私はただ待つだけです。明日奈が帰って来るのを」
そう言うと作斗は「では失礼」と言い残し部屋から出て行った。
その姿を直葉は見送る事しか出来なかった。
「いや〜遅くなった。コーヒー売り切れててさ。あれ作斗は?」
「今帰ったよ…」
そう言う直葉の顔は少し哀しみが混じっていた。
「そうか…アイツと仲良くできたか?」
「うん…ちょっとだけね」
そう言い直葉は窓の景色を見る。
「(何で…作斗さんはあそこまで隠すんだろう…それに…あの後ろ姿…)」
直葉はとあるオンラインゲームの中で出会った少年の姿を思い浮かべ作斗と重ねた。
「まさかね…」
外には空からゆっくり降ってくる雪が景色を染めていた。
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グランドクエスト
何故だか分からない。
アイツといるとあの日の自分を思い返してしまう。
作斗は帰りのバス停で雪が降る中 直葉の顔を思い浮かべていた。同じ剣道をやっているのが原因なのか忌々しいあの日の出来事が頭に入ってきた。
“お前の所為だ!”
“お前が俺たちの剣道を汚した!”
“お前なんかさっさと退学しちまえ!”
脳内に響き渡るあの日の声。それを思い出すだけで少量の涙が流れてきた。
“大丈夫だよ。作斗は何も悪くない”
それと同時に、あの日 自分が涙を流した時 明日奈が掛けてくれた暖かい言葉が頭の中を駆け巡った。それと同時に恨みの声が掻き消されすこしだが頭の中がスッキリした。そして作斗は姉に今すぐ会いたい 話したいという欲が再び芽生え始めた。
「予定変更だ」
そう言い突然作斗は携帯を取り出すと母親へ連絡した。コール音が数回鳴るとガチャリと音が鳴った。
『あら、作斗じゃない。どうしたの?』
「母さん…今日だけでいいから病院で明日奈と一緒にいてもいいかな…」
『……いいわ。今回だけよ。病院の人に迷惑はかけないようにね』
母親から許可が下りると同時に作斗は病院に戻り和人や直葉に遭遇しないように遠回りだが明日奈の部屋へと向かった。
「…もういないな」
和人達がいない事を確認した作斗はカバンからアミュスフィアを取り出した。母親には内緒で勝ったので電源を落とした場合はずっとカバンの中にしまってあるのだ。
「あとは看護婦さんに許可を取るだけだな。明日奈、今日中にお前を絶対助けてやるからな」
そう言い作斗は未だ目を覚まさない明日奈へ顔を向ける。
その後 特別な許可を得た作斗は明日奈の病室の壁に寄りかかるとコンセントをさしアミュスフィアを起動させた。
「リンクスタート」
ーーーーーー
「……よし。早く行くか」
作斗ことムゲンは宿から出るとアルンの街へと出た。
「(どうするか…上には行ってみたものの…何か必要な道具でもあるのか…?」
作斗はどうすればあの壁を突破できるのか考えていた。ガーディアンは何とかなる。だが、あの白い壁の向こう側に行かなければどうにもならない。ここまでの出来事に作斗はまずこのゲームはクリア不能として作られている事 を予想した。
「おーい!ムゲン!」
「ん?」
すると後方から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとキリトとリーファが手を振りながらこちらへ歩いてきた。
「何だお前らか」
「ったく。いきなり一人で行くなって」
「すまん。それより…キリト。壁を突破するにはどうすればいい?」
「壁…?何だそれ?」
「それがな…」
ムゲンはこれまでの経緯を話した。グランドクエストでてっぺんまで辿り着いたのは良かったのだがそこからが行き止まりだということを告げどうすればいいか聞いた。
するとリーファがプルプル震えすぐさまムゲンの肩を掴み顔を近づけた。
「うそ!?グランドクエスト突破したの!?ソロで!?どうやって!?」
リーファが肩を揺らしながら言うとムゲンはアウアウしながら「落ち着いてください」と言った。
「突破した訳ではありません。ただガーディアンの大群を抜いててっぺんまできたら壁だったんです。ですので突破までには行き届いていません」
「そうか…どうすればいいんだ…」
その時
「ママです…ママがいます…!」
キリトの胸ポケットから顔を出したユイが世界樹の上を見ながら呟いた。
「本当か!?」
「はい!このプレイヤーIDはママのものです!座標はまっすぐこの上空です!」
キリトはユイが指差す方向を見ると歯を噛み締め羽を展開させるとすぐさまその場に目掛けて飛び上がった。
「ちょ!?キリトくん!」
「…」
「ムゲンまで!?」
キリトが飛び去ったと同時にムゲンも羽を展開させ跡を追った。
ーーーーーー
一方で先に飛んだキリトは世界樹のてっぺんを目指していた。
雲を突き抜けると巨大な葉が生い茂る世界樹の頂上が見え始めキリトはあと少しと言いその場へ向かった。
その時
ギィイイインッ!
目の前の空間が歪むと同時にキリトの体が弾かれた。つまりこの先は侵入が不可能という事だった。
だが止める事なくキリトは何度もその場へ体当たりを繰り返した。
何度も何度も
その時
「キリト君!そこから先はいけないんだよ!」
そう叫び跡を追ってきたリーファがキリトの腕を掴み制止を呼びかけた。
「く……」
だがキリトは止めようとはせずまた体当たりを繰り出そうとした。
「ヴォオオオオオ!!!!」
ムゲンも雄叫びをあげると何度も何度も拳や蹴りを壁に目掛けて繰り出していた。
だが、いくらやっても目の前の壁が壊れる事は無かった。
「ムゲンもやめて!いくらやっても無理だよ!」
「ッ…」
ムゲンは舌打ちをするとラッシュを中止し下がる。
そんな中 ユイはその壁へと手を当て頂上に目掛けて叫んだ。
「ママ…私です…気付いてください…ママぁぁ!!!!」
ーーーーーーー
その声がすると同時に 世界樹の鳥籠に囚われていたアスナは突然響いた声に目を覚まし眠っていた身体を起こすとすぐさま籠の間から雲海を見た。
「今の声…ユイちゃん…」
アスナは何度も響く声を頼りに辺りを見回し声の主であるユイを探した。
「私は…私はここにいるよ!」
アスナは雲海の下へ自分がここにいることを念じ叫んだ。だが返事は返ってこなかった。
「…そうだ!何か落とすものがあれば!」
アスナは自分がここにいることを教えるため何か落とすものはないかと辺りを見回した。
「あった…!」
アスナは隅に落ちていたカードキーらしきものを拾うと籠の隙間から雲海の下目掛けて投げた。
「お願い…気付いて…!」
ーーーーーーー
そして下ではキリトは何度もその壁へ攻撃を繰り返していた。
「くそ…何なんだよこの壁は!」
「私も…警告モードで呼びかけてみたのですが…返事がありませんでした…」
「うぅ…」
キリトは攻撃をやめ世界樹の頂上を見上げた。
その時
木々の間から何かが太陽に照らされ光りながら落ちてきた。
その落ちてきたものをキリトは受け止めると見た。
「これは…」
落ちてきたものはどこでもある一般のカードキーだった。
「何だこのカード…リーファ、何だか分かるか?」
「いや…そんなアイテム見たことないよ」
リーファも知らないとなるとキリトには何も分からない。キリトはそのカードキーをタップしてみたが画面が表示されず何も起きる事は無かった。
するとユイがカードを掴むと同時に目を大きく見開く。
「これは!システム管理用のアクセスコードです…!」
「てことは!これがあればGM権限が行使できるのか!?」
「いいえ…ゲーム内からシステムへアクセスするには…対応するコンソールが必要です…私にもシステムメニューは呼び出せないです」
「そうか…でも、何の前振りもなくこのカードが落ちるわけないもんな…」
「はい!恐らくですが…ママが私達に気付いて落としたんだよ思います!」
「気付いてはくれたが…どうすれば……」
キリトはどうすればいいのか分からず歯を噛み締めた。
その時 ムゲンが二人の間に入り謎のカードへ目を向けた。
「……行くぞキリト」
「どこにだ…?」
「グランドクエストだ。そのカードなら使えるかもな」
「何で分かるんだ…?」
キリトは落ち込みながらもムゲンに問う。
「さっき俺が話しただろ。グランドクエストとやらのてっぺんまで行った時に白い壁があったって。もしかしてそのカードキーがキーアイテムじゃないのか?」
「……そうか…?……いや、そうかもしれない!ムゲン!案内してくれ!」
「あぁ」
キリトは表情を一変させるとカードをしまいムゲンと共にすぐさま地上へと戻った。
ーーーーーー
地上へと戻ったキリトはムゲンの案内の元 グランドクエストの入り口である世界樹の根元へと辿り着いた。
着いた二人は門へと近づくとウィンドウ画面が表示される。
『グランドクエスト〈〈世界樹の守護者〉〉へ挑戦しますか?』
キリトとムゲンは何の迷いもなく『YES』を選ぶ。
「言っておくが…ガーディアンの数は尋常じゃない。倒すんじゃなく突破する事だけを考えろ」
「あぁ」
ムゲンの忠告にキリトは頷くと二人は開いた門から中へと進む。
ーーーーーーーーー
目の前は真っ暗だった。
その中を二人の足音が響く。
「取り敢えず助ける事出来ねぇから囲まれたら自分で何とかしろよ」
「あいよ」
すると辺りに光が差し内部が明らかとなった。そこは広場のように広く周りには無数の鏡がはられていた。そして上を見上げると天井のような壁が見えた。
ムゲンは天井を指差すとキリトへ伝えた。
「あそこだ。そのカードを使えばあそこを突破出来るかもしれねぇ。まぁ予想だがな」
「了解。行こうぜ!アスナに逢いに!」
「鼻からそのつもりさ…!」
二人は同時に飛び上がった。
その瞬間 目の前に広がる無数の鏡のうち 数十枚が光り出しそこから巨大なガーディアンが姿を現した。
「 邪魔だぁぁぁぁー!!!」
キリトは叫びながらそのうちの一体へ剣を振るい首を斬り飛ばし瞬殺した。
「ハッ!ストレス発散には丁度いい…!!」
ムゲンは得意の抜刀術で自分の目の前にいるガーディアン4体を一網打尽にした。
だが相手は待つ事なく次々と現れて始めた。気づけば天井が見えない程にまで上空が敵に覆い尽くされていた。
「ッチ…敵がもうあんなに…行くしかねぇ!」
キリトは飛び上がるとガーディアンの軍隊目掛けて突進した。
その時 キリトは動きを止めた。
ガーディアンの群れが一斉に槍をこちらに目掛けて投げてきたからだ。無数の槍がキリトに目掛けて放たれ避けようしたものの避けきれぬ数だった。
「うぐ……ヤバイどうすれば…」
その時
「退けッ!!」
誰かが目の前に現れ自分を下へと突き飛ばした。
「…!ムゲン!」
自分を突き飛ばしたのはムゲンだった。そして放たれた大量の槍は全てムゲンへと流れていった。
「ヴォオオオオオ!!!!!!!!!」
ムゲンは雄叫びを上げ刀を抜くと迫り来る槍目掛けて刀を振るった。
刀は赤い線を生み出し美しい弧を描きながら次々と槍を弾いていった。
だが
「うぐ…!」
流石のムゲンでもこの量は捌ききれず攻撃の雨が止んだ頃には体力の9割を持っていかれた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
ムゲンゲームで一度も感じた事がない『疲れ』に襲われた。それはムゲンの身体を次々と蝕み機能を低下させていった。
気づけば目はもう閉じかけ向かってくるガーディアンの姿は捉えることはできなかった。
そして数人のガーディアンの槍がムゲンの身体を貫いた。
「ムゲェェェェンッ!!!!!」
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明かされる真実そして世界樹の大団円
痛い
ゲームなのになんでこんなに痛いんだろう。
相手の槍が昔の事のように心臓ではなく心に突き刺さってきた。
辺りは真っ暗になってもう何も分からなくなった。
あれ?だんだん視界が…
目を覚ませば目の前にはキリトとリーファがいた。
「ここは?」
「グランドクエストの入り口だよ。すまんな…俺がヘマしちまった…」
「…(あぁ。確かコイツを庇って俺が死んだんだっけ?いや…そんなことはどうでもいい)」
「もう一度行くぞ…」
「……大丈夫なのか?」
「あぁ。さっきのような事がない限りもう大丈夫だ」
「分かった。それじゃ行くか」
ムゲンは立ち上がると再びキリトとグランドクエストへと挑戦するため扉に近づいた。
「……なんのつもりですか?」
二人の手をリーファが掴んだ。その目には涙が溢れていた。
「二人とも…もう無茶はやめてよ…ムゲンもそうだしキリト君も…他の方法を探そうよ。世界樹にいる人だったらサーバー側に問い合わせれば何とかなるよ!何でこんな無茶するの!?」
「……リーファ…確かにその方法もあるが…それは無理だ…」
キリトはリーファの提案を断ち切る。
「何で!」
「そのサーバーを管理してる奴が俺の姉を苦しめてるクソ野郎なんだよッ!!!」
その時 初めてムゲンは敬語ではなく、怒りの口調でリーファへ叫んだ。
「え…どういうこと…?」
「このゲームのサーバーは俺の姉を苦しめてる奴が管理している…だから姉の命はアイツに握られてるんだよ…それを直接話して返してもらえると思うか?返さねぇから直接行こうとしてるんだよ!」
「やめろムゲン。少し落ち着け」
キリトは歯を食いしばり叫ぶムゲンをなだめるとリーファに顔を向けた。
「リーファ、俺たちを心配してくれるのは嬉しい。けど…俺たちは何があっても行かなきゃならないんだ。俺の恋人でもありムゲンの姉でもある……『明日奈』のところへ」
「え…?今なんて…」
「ん?『明日奈』俺の恋人でありムゲンの姉だ」
その名を聞いた瞬間 リーファはゆっくりと二人から離れた。
「嘘……だってあの人は病室で寝たきり……まさか………『お兄ちゃん』と『作斗』さん…?」
その呼び方で呼ばれたキリトは目を見開く。
「お前…『スグ』か…!?」
するとリーファはキリトの胸倉を掴み壁に押し付けるとグラグラ揺らした。
「どういうこと!?ねぇ!明日奈さんが世界樹にいるってどういう事なの!?ねぇ!教えてよ!」
「わ…わわ分かった!分かったからスグ落ち着いて…」
キリトは妹である直葉の気迫に押されつつもここに来た経緯 そして何故 明日奈がここへ囚われているのかを話した。
すると直葉ことリーファは落ち着くと涙を拭いた。
「そうなんだ……でもねお兄ちゃん…私…お兄ちゃんと血は繋がってないけど…ちゃんとした妹なんだから…少しは頼ってよ…」
「あぁ。今まで一人ぼっちにさせてごめんな」
キリトは涙ぐむリーファの頭を撫でた。
「兄妹話は済んだか?」
「あぁ。待たせたな」
「なら行くぞ」
「了解。スグ 、最初のワガママだ。俺たちを援護してくれ」
「うん!……てちょっと待って!いくら私一人でも回復魔法は限度があるよ!」
リーファの言う通りだ。普通リーファの回復魔法は一回の詠唱につき一人までしか回復できない。それが二人となると流石に無理がある。
「俺は別にいい。全部 キリトにやれ」
「でも…作斗さん一人だけじゃ…」
すると
「リーファちゃ〜ん!」
街から聞いたことのあるような声がした。3人がそこへ目をやると領地を去る際に別れたレコンがこちらへ走ってきた。
「レコン!?アンタ サラマンダー達に捕まってたんじゃ…!?」
「へへん!隙を見て全員毒殺してやりました♪それよりも今はどういう状況…?」
レコンは今の状況が飲み込めずリーファに聞く。
聞かれたリーファはこれまでの経緯 かつ世界樹へ攻略しようとしていることを伝えた。
「なるほど。だったら先に行ってて。すぐ準備してくるから!」
そう言いレコンは走り去っていった。
「ちょっとレコン!ていうか足早!?」
レコンが去った後 また3人だけとなった。
「おい。早くしろ。待ってる時間はない」
「そうだな。アイツもあの調子だとすぐに来る。ユイ、いるか?」
「はい。どうしました?」
キリトはユイを呼び出すと先程戦ったガーディアンについて聞く。
「あのガーディアン達について何か分かったか?」
「はい。ステータス的には一般のモンスターとは然程変わりません…ですが出現数が多すぎます。あれでは単体もしくは大人数の団体でも攻略は不可能でしょう…」
「そうか…まぁ一人で上まで行った奴が横にいるけどな…」
「?」
そう言いキリトはジト目で横にいるムゲンを見た。
「おじさんはともかく!パパのスキル熟練度なら瞬間的な突破は可能です!」
「成る程。よし、行くか」
「うん!」「あぁ」
そして3人は世界樹の門を開き中へと進んでいった。
ーーーーーーー
2人は再び来た。明日奈の目の前に立ち塞がる巨大な壁の前に。
「スグにムゲン、危なくなったら全速力で撤退してくれ。無闇なゲームオーバーは避けたいからな」
「その言葉そっくりそのまま返すぞ。まずお前はお前で自分の事を第一に考えろ」
「そうでした…」
「あははは…」
ムゲンに先程の失敗を指摘されキリトは納得してしまう。その様子をリーファは苦笑しながら見るも魔法の詠唱の準備を始めていた。
「本当にいいんだよね…作斗さん…」
「あぁ。回復は全部キリトに回せ」
この状況下なので作斗はいつもの丁寧口調をやめていた。それは己が目の前の敵に集中するため本来の自分を出さなければいけないからだ。
しばらくして、3人の目の前に無数のガーディアン達が鏡から現れた。
「行くぞ作斗!」
「あぁ…!!」
そして2人は一気に飛び上がりガーディアンの群れへと向かった。
2人の行く手を阻もうと数十体のガーディアンが前に出て立ち塞がった。
「はぁぁ!!」
キリトは大剣を横に振り回し数体のガーディアンを真っ二つにしそこから更に大剣を振り上げ3体のガーディアンを串刺しにした。
「っ…やっぱりキリがない…」
およそ10体のガーディアンを斬り伏せたキリトの目の前にはまだ数多くのガーディアン達が残っていた。
一方で、ムゲンは目を血走らせながら自分目掛けてやってくるガーディアン達を次々に斬り伏せていた。
「雑魚どもが…邪魔をするな…!」
ムゲンは首に筋を隆起させると空気を吸い込み肺に大量に溜め込み呼吸を止めた。
そして腕の筋肉を隆起させるとそこから数十体のガーディアンの群れに目掛けて飛び立ち刀を四方八方に振り回した。
よって一瞬のうちに数十体のガーディアンを片付け終えた。そしてムゲンはすぐさま上へと向かっていき自分に向かってくるガーディアンも同じように次々と斬り伏せた。
ーーーーー
「す…すごい…一瞬であんなに…」
一方で、下で回復役に徹していたリーファはムゲンの立ち回りに圧倒されていた。
「あれが作斗さんの実力…試合じゃ見たこともない…」
リーファはムゲンを仮想と現実の姿とで照らし合わせた。
「あれでもまだ本気じゃなかったんだ…」
その時 数十体のガーディアンがリーファ目掛けて飛んできた。
「嘘!?」
リーファは魔法の詠唱をやめすぐさま剣を抜く。
「ていっ!」
リーファは剣を振るい数体を片付けるも残りのガーディアンに周りを囲まれてしまった。
「く…」
あたりがガーディアンに埋め尽くされ普通の人ならば戦意を喪失するがリーファはなんとか切り抜けるため次々に向かってくるガーディアンを倒した。
だが、
「がはぁ!」
多勢に無勢。一体を斬り捨てた瞬間に背後を数体のガーディアンに狙われて槍を刺されてしまった。
「うぅ…」
リーファは体制を崩すも何とかその数体を撃破した。だが 動きが鈍くなり目の前から剣を振り下ろすガーディアンの姿を捉えることが出来なかった。
「(ごめんね…お兄ちゃん…作斗さん…私…もうだめみたい…)」
リーファは心の中で自分の終わりを悟り目を閉じた。
その時
「ヴァァァァァ!!!!!」
「!」
突然 上から響いた雄叫びにリーファは意識を覚醒させ目を開いた。そこには自信を囲んでいたガーディアンを全て斬り伏せているムゲンの姿があった。
「作斗さん!」
リーファは涙を溜めて名前を叫んだ。それに対しムゲンは耳を貸すことなく再び上へと飛び上がっていった。
「私なんかのために…ここまで降りてきてくれたんだ…」
リーファは上を見上げまだ多いガーディアンの群れ達を相手にしているムゲンを見た。
「ありがとう…作斗さん…私も頑張るよッ!!」
リーファは涙を拭うと魔法の詠唱を始め消費しきっていたキリトの体力を回復させ、また詠唱し今度はムゲンの体力を回復させた。
すると、
「どうやら、間に合ったようだな?」
「いや〜装備を整えるのに時間かかっちゃったな〜」
背後から聞いたことのある声がしてリーファは振り向いた。そこには、
「サクヤ……アリシャ…それに皆!」
龍にまたがっているケットシーの軍団を率いているアリシャそして シルフの軍を率いているサクヤがいた。
「僕もいるよ〜!!」
そしてシルフ軍の間からレコンが姿を現した。
「レコン!皆どうしてここに…?」
「レコンから聞かせてもらったぞ。だったら私達も協力しようじゃないか」
「会談の時は助けてもらったからね!その恩返しだよ!」
「みんな……ありがとう…!!」
リーファは再び涙を流した。
「さて、これだけいれば難易度も流石に下がるだろう。反撃の狼煙をあげようじゃないか!」
『おぉぉぉぉ!!!!!』
サクヤの鼓舞と共にシルフ隊は雄叫びをあげた。
「ケットシードラグーン隊 全員ブレス用意ッ!」
「シルフ隊エクストラアタック用意!」
アリシャとサクヤの合図とともにドラグーンが口内にシルフは剣にエネルギーを溜めた。
「撃てぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「放てぇぇぇぇぇ!!!!!!」
2人の合図と同時にドラグーン達は溜めたエネルギーを一気に解き放ち目の前にいる数百体のガーディアンを次々に撃破していきシルフも剣からエネルギーを放出し、同じようにガーディアン達を撃破していった。
ーーーーーーー
「すごいな…これは頼もしい援軍だ!」
上で戦っていたキリトとムゲンは参上したサクヤ達に驚いていた。
「これなら行けるかもな!」
「あぁ」
2人は一気に飛び上がりまたガーディアンへと向かっていった。
ーーーーーーー
一方で、一斉攻撃を終えたシルフ隊を率いるサクヤは扇子を広げ天へ掲げた。
「さて、そろそろ本格的に攻めようか…全員突撃ッ!!」
『おぉぉぉぉぉ!!!!!』
サクヤの扇子を用いた合図によりシルフ隊そしてケットシー軍団はガーディアンの群れに向かった。
それに対抗するためガーディアンの群れも一斉にこちらへと向かってきた。
「ここは私達に任せろ。お前は急いで上にいけ!」
「分かった!」
サクヤの言葉にリーファは頷き ぶつかり合う軍勢の中を切り抜け上にいるキリト達の元へと飛んだ。それに続くように残りの軍勢もガーディアンへ向かっていった。
「じゃあ僕も…」
「君はここにいたまえ。私の手助けを頼むよ」
「はい…」
サクヤはリーファを追いかけようとしたレコンの襟を掴むと笑顔で頼みレコンは渋々了承した。
ーーーーーーー
リーファはキリト達の元へ着くとキリトの後ろへ回る。
「スグ!?」
「後ろは任せて!」
キリトは一瞬苦い顔をするもすぐに笑顔となり「頼むぜ!」と叫んだ。
新たに絆を取り戻した兄妹は次々と敵を斬り伏せていった。そしてムゲンも次々と敵を斬り捨てそれに続くようにシルフ&ケットシーの軍団もガーディアンへと向かっていった。
その時
ガーディアン達の群れに穴が空き そこから上へと繋がる道ができた。
「行ける!作斗!」
「…!」
キリトの合図にムゲンは頷くと2人はそこへ向かって飛んだ。
「お兄ちゃん!これ使って!」
リーファは自分の剣をキリトに向かって投げた。
「ありがとよ!!」
キリトは剣を受け取ると己の剣と重ね合わせ一つの巨大な剣を作り上げた。
「行くぞッ!作斗!しっかりついてこいよ!」
「はいよッ!」
ムゲンはキリトの後ろにつく。
キリトは剣を天に掲げそのままガーディアンの群れへと飛んだ。
剣の切先から生み出された青い衝撃波が次々と向かってくるガーディアンの群れを消滅させていった。
「うぉおおおおおおおお!!!!!!!」
明日奈に会いたい。その思念を込めた突撃は途絶えることなく次々とガーディアンの海を突き進んだ。
「お兄ちゃん…いって……いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
「うぉおおおおおお!!!!!」
後ろから聞こえたリーファの声に応えるかのようにキリトはさらに雄叫びをあげ速度を上げた。
そして
光が再び差し込み 遂にガーディアン達の壁を乗り越え扉の前へと到達した。
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姉との再会そして具現化する鬼の怒り
ガーディアンの壁を乗り越え 遂に上へと辿り着いたキリト達。そしてその姿を見届けたサクヤは笑みを浮かべるとすぐさま全員へ撤退命令をだした。
「お兄ちゃん…作斗さん…頑張って…!」
リーファは姿が見えなくなっても その壁の向こうにいるキリトとムゲンに向かって心からエールを送りその場から撤退した。
ーーーーーー
一方で、ガーディアンの軍を突破した2人は扉の前へと来ていた。
「成る程 確かに壁だな」
キリトは世界樹入り口でムゲンの言葉を思い出し扉をベタベタとさわっていた。
「ユイ。できるか?」
「はい!」
キリトはユイを取り出すと世界樹上空で入手したカードキーを手渡した。ユイはカードキーに触れると光だしすぐさま2人へ手を差し出す。
「転送されます!パパ!ムゲンおじさん!手を!」
2人はユイの手を掴んだ。それと同時に2人の姿が光に包まれ消えた。
ーーーーーー
光に包まれ転送された場所は 辺りに雲海がある世界樹の巨大な枝だった。
「ここが世界樹の頂上か…」
キリトは上を見上げる。
すると ピクシーの姿ではないユイが何かを感じ取り走りだした。
「ユイ!?」
「ママです!こっちにママがいます!」
「なんだって!?行くぞ作斗!」
2人はユイに付いていき世界樹を更に上へと登っていった。
走る中 障害物や枝分かれする道などはなかったので3人は 全速力で向かっていった。
すると 巨大な鳥籠が見えた。
「あれは!」
作斗は目を見開く。あの日 エギルの店で見たあの鳥籠と重ね合わせる。まさしくそれそのものだった。
「あの中に…!」
明日奈がもう目前にいる事を確信した作斗は脚に筋肉を集中させ一気に駆け出した。
「おい!?」
ーーーーーーーー
あれから…幾日たっただろう…。私がこの場所に来て…。
机に顔を乗せながら辺りの景色の音に耳を傾けていた。
数時間前 ユイちゃんらしき声が聞こえたけど…それ以来何も起きなかった。
「(早く会いたい…)」
私は心の中で願った。
恋人であるキリト君に娘であるユイちゃん 。そして仲間であるエギルさん達に……
そして…現実の世界でずっと待っている作斗に…
「うぅ……会いたい…!」
私がそう強く願った時
「ママ!」
「!」
聞き慣れた声が鳥籠の入り口から聞こえた。そこに目を向けると娘であるユイちゃん。そして恋人であるキリト君が立っていた。
「え…!?キリト君…?ユイちゃん…?」
私は現実なのかどうか目をパチクリさせた。
夢じゃない。来てくれたんだ。
「ママー!!!」
駆け寄ってくるユイちゃんを私は力一杯抱きしめた。
「ユイちゃん…会いたかった…!」
「私もです…会えてうぅ…嬉しいです…!」
「明日奈。無事でよかった」
「キリト君…!ありがとう…来てくれたんだ…!」
私がキリト君に駆け寄ろうとした時 キリト君は待ったと手を出した。
「俺よりもお前に会いたい奴を連れてきたぞ?」
そう言いキリト君は後ろの鳥籠の影に指を向けた。
「え?誰?」
「おーい!恥ずかしがってないで来いよ〜!」
「うるせぇよ。別に恥ずかしがっちゃいねぇよ」
キリト君がそこへ向けて声をかけた時 1人の長髪の女の子が姿を現した。 前髪がセンターで分けられ鎖骨まであるポニーテール、私とよく似た顔。そして 聞いたことのある声
え…?もしかして…
私はその女の子……いや男の子の正体を悟った。
「作斗……?」
「あ…あぁ…久しぶりだな明日奈…」
私は涙が止まらなかった。 SAOの世界に閉じ込められてからずっと会いたかった たった1人の弟。
それが今 私の目の前に立っていた。
「作斗…大きくなったね…!」
「フン。お前も元気そうで何よりだ…さて、早くこの世界をでるぞ。話は現実に戻ってからだ」
「うん!いっぱい話そうね…!」
私は涙を堪えきれず流しながら頷いた。
その時
ユイちゃんの姿がデジタル化した。
「パパ…ママ……おじさん…にげ…」
「ユイちゃん!」
ユイちゃんはそれだけ言うと消えてしまった。
私は何が起こったのか分からなかった。
次の瞬間 私達の身体が地面に叩きつけられた。
それと同時に辺りの景色が変わり黒い空間になった。
「ハッハッハッ。どうだい?身体が動かないだろ?」
この声…まさか!
「まったく。ネズミが入り込んだと聞いてみればとんだドブネズミ2匹が紛れ込んできてくれたよ」
須郷…!
ーーーーーーーー
突如現れた王冠を身につけた須郷はキリト達を謎の力で床へ押し付けていた。
須郷の姿を確認した瞬間 作斗の目がユージーンと対峙した時と同じようになった。
「現れたなゴミクズが…!」
「おやおや、そんな汚らしい呼び方はやめたまえよ。ここでは『妖精王 オベイロン陛下』と呼べ!!!」
「うぐぅ!?」
須郷は地に伏せている作斗を脚で踏みつけた。それによって作斗は苦痛の声を上げる。それを眺めながら須郷は踏みつける足を動かし押し付けた。
「どうだ?動けないだろ?次のアップデートで導入予定の『重量魔法』だけど強すぎたかな?」
「脚をどけろっ!」
作斗は叫ぶと須郷の脚を無理やり退かせ、フラフラになりながらもゆっくりと状態を起こした。
「おやおや、立ち上がるなんて凄いなぁ作斗くん。だったらこれはどうかな!」
その瞬間 作斗の全身が再び床へと叩きつけられた。
「ガァァァ…ッ!!!」
その威力は先程の比ではなかった。作斗の身体が更に床へと叩きつけられ、なんと床が軋み始めると陥没した。
「ハハハハハ!!どうだ!重量倍増だよ?ざっと10倍はいくかな?」
「やめろ須郷!それ以上作斗に手を出すな!」
「何を言ってるんだい?この子はもうすぐ兄になる僕を病室で殴ったんだよ?弟を教育するのが兄の務めだ。そうだろ?」
そう言い須郷はキリトの背負っている剣へと手を伸ばすと手に取り、此方を睨みつけるキリトに目を向けた。
「まさか君は僕が本気でこのプログラムを作ったと?違うよ。僕の本命は思考そして記憶操作研究だよ!300人に及ぶ元SAOプレイヤーによってその研究はもう8割型は完成しているのさ!どうだ素晴らしいだろ?まさに神の技術さ!ハッハッハッ!!」
「須郷…貴方のやったことは許されない事よ!」
「許さない?誰が?残念ながらこの世界で神はいない。僕以外にね!」
そう言い須郷は大剣を明日奈へと向けると明日奈の両手を鎖で繋ぎ吊るした。
「…!おい!何をする気だ!」
「何って君達の魂を改善する前に余興としてね」
そう言い須郷は明日奈の身体を次々となぞるように触った。その瞬間 作斗の顔に筋が隆起した。
「やめろ!汚ねぇ手で触んじゃねぇ!」
「ハッハッハッどうだい作斗くん?自分の大事なお姉さんが憎き僕に弄ばれてる姿は?」
作斗は怒りを露わにしゆっくりと重力を押しのけ立ち上がろうとした。その姿に須郷は舌打ちをすると作斗への重力魔法を解除した。
「ほんっとにしぶといね君は。いいよ。相手してあげるよ。掛かってきな?」
そう言い須郷は怒りの作斗に向かって勝負を仕掛けた。それに対し作斗は剣を抜くとすぐさま須郷に向かって斬りかかった。
だが次の瞬間 須郷の姿が消え 背後からとてつもない痛みが襲ってきた。
「ゔぁぁぁぁぁ!!!!!!」
背後には須郷が立っておりキリトの大剣で作斗の胴体を貫いていた。それによってその場に作斗の叫び声が響き渡りアスナは目を瞑ってしまう。
「どうだい?いくら動体視力が良い君でも見えなかっただろ?僕のスピードをMAXに設定してあるんだよ」
そう言い須郷は剣を胴体から引き抜くと今度は作斗の脚へと大剣を振り回し、切り離した。
「あ"あぁぁぁぁ!!!!!」
「ハハハハハ!痛いだろう!?君のペインアブソーバを0に設定してあるからね!痛みがそのまま伝わってくるのさ!」
「作斗!やめなさい須郷!」
作斗の悲鳴が響く中、明日奈は須郷へと制止の声を掛けるも、須郷は止まる様子を見せなかった。
「僕を殴った罰だ!たっぷりとお返ししてあげるよ!」
「あ"ぁぁぁぁぁぁ!!!!
須郷は次々と作斗の手足を切り落とし遂には四肢がなくなり胴体だけとなった。
「そんな…作斗…!!」
「嘘…だろ……」
あまりにもの悲惨な光景に明日奈は直視出来ず涙を流し始めた。
「あ…あがぁ……」
「このままじゃ終わらせんぞ!システム権限!プレイヤー『ムゲン』の体力を全回復!」
須郷が叫ぶと同時に作斗の失われた四肢が復活すると同時に体力も全回復した。
よって作斗は立ち上がる事が出来たが身体がよろめき始め、終いにはなんと床へと倒れてしまった。
「うぁ……何でだ…!?痛みが…」
「痛みは残るように設定してあるのさ!」
「…!?」
その言葉と共に、目の前まで歩いてきた須郷は地に伏せる姿を嘲笑うかのように見下ろすと、ゆっくりと大剣を引き上げ、作斗の胴体を貫いた。
「グァァァァァァァッ!!!!」
身体の奥底から伝わってくる鮮明なその痛みに作斗は再び悲鳴を上げるも、その後、気を失うかのようにゆっくりと状態を倒した。
「ふぅ〜スッキリした。これで病院での無礼は許してあげるよ。そこでゆっくり見ておいで。大好きなお姉さんが僕に犯される様をね…!」
そう言い須郷は大剣を作斗に刺したまま再び明日奈へと近づく。
だが、須郷は手を止めた。
「…何で立ってられるのかな?」
そう言いながら須郷は振り向いた。そこには満身創痍でありながらも 全身に筋を隆起させ目を血走らせている作斗の姿があった。
「常人ならショック死する程の痛みを与えたのに…人間なのかい?君は」
「ゔぉおおおお!!!!」
すると作斗は獣のような雄叫びを上げながら須郷に向かって刀を振り下ろした。だが須郷にそれはあっさりとかわされ逆に鳩尾にカウンターを当てられてしまった。
「がぁぁ……」
「フン。現実でやった場合は痛くないと思うが生憎パワーもMAXに設定してあってね。プロボクサーに本気で殴られたのと同じかそれ以上の痛さかな?」
須郷の強烈なパンチが鳩尾に入り込むと同時に作斗の目からハイライトが消え吹っ飛ばされた。
「さぁ。今まで数々の無礼に対し褒美として『爆裂魔法』をプレゼントしよう!綺麗な花火を見せてくれよ!」
「ッ!」
それを聞いたキリトは咄嗟に叫ぶ。
「やめろ須郷!そんなことすれば死ぬぞ!」
今の作斗に高威力のある爆裂魔法を撃てば鮮明なる痛みに精神が耐えきれず確実に廃人になってしまう。そう悟ったキリトはすぐさま制止を呼びかけた。だが、須郷の目は変わる事なく作斗へと狙いを定めていた。
「ハハハハ!!知った事か!喰らえッ!!」
そして須郷の手が輝き出した直後__
_____作斗の身体が爆炎へと飲み込まれた。その瞬間 明日奈の目から涙が溢れでた。
「いやぁぁぁぁぁ!!作斗ォォ!!!」
ーーーーー
爆炎の中 微かに残った作斗の意識が目の前で泣き叫ぶ明日奈の姿を捉えた。
「(明日奈……折角会えたのに……まだ試験合格したこと話してないのに……)」
その時 作斗の視界に笑い崩れる須郷の姿が映し出されると同時に少しずつ心が壊れ始めた。
「(須郷……殺す…殺す……殺す…殺す…ころす…コロス…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス
コロシテやるッ!!!!!!」
『ヴァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!』
その瞬間 作斗の心が崩壊し怒りが頂点に達した。
ユニークスキル 『超覚醒』 発動
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覚醒そして帰還
俺は…何をやっているんだ。
床に押し付けられながら俺は目の前に燃え盛る炎をただ見つめる事しか出来なかった。
「あははは!!見事に命中したよ!しかも当たったと同時にあの爆発のエフェクト!綺麗だね!正に人間花火!あははは!」
「須郷…!お前…よくも作斗をッ…!」
怒りが抑えられなかった。ここまで来れたのは作斗のお陰でもある。そして何度も作斗のお陰で窮地を脱せた。口調は荒かったが作斗はこの世界でスグと同じ最高の仲間だった。だが、目の前でその存在が打ちのめされるのをただ見ている事しか出来なかったのが凄く悔しい。
その時 目の前にある燃え盛る炎が突然消え、その場所に
“何か”が立っていた。
「…!!」
「作斗……?」
皆は目を見開いた。
そこには 和服を身にまとい 漆黒のポニーテールをたなびかせている作斗の姿があった。
だが 俺たちが1番驚いたのはその顔だった。
「何だおまえ…!その顔は…!」
その顔には
赤く染まった目玉の中に黒く輝く鋭い瞳をした目があった。だがそれだけでない。なんとその目が6つに増えており右頬の殆どに黒い炎のような痣が浮き出ていた。妖精としての性質がまったくなくなっており妖精というより……もはや化け物だった。
鼻を中心に3対となっている鋭い瞳は俺たちを見つめていた。
「何だその姿!そんな姿はプログラムに入れてないぞ…!?」
須郷は汗を流しながら目の前にいる作斗へ剣を向ける。
「作斗……作斗…なの…?」
「……」
明日奈はゆっくりと作斗へ話しかけた。だが、頷こうとも首を横に振ろうともしなかった。
作斗は六つの目玉を須郷に全て向けると腰に下げてある刀の鞘へゆっくりと手を掛け抜いた。すると同時に刀にドス黒い渦が巻き始め刀身を包み込んだ。
「何だ…?やるのか?ならさっさとこい!」
須郷は相手が戦闘態勢を取ったと思い俺から奪った大剣を構えた。
「……」
その時
作斗の姿が突然消え須郷の背後から刀を振り下ろそうとした姿勢で現れた。
「ッ!後ろかぁ!」
須郷はスピードを生かし作斗の一太刀を受け止める。だが、作斗は止めることなく次々と須郷へ刀を振った。
それはまるで6本の腕があるようだった。
「何だこのパワーとスピードは!?さっきとは桁違いじゃないかぁ!?」
見る限り 作斗が押していた。だが途中から須郷も応戦をし始めた。
2人の戦いを見ていた俺はある感情に襲われた。
悔しい。
年下のアイツに任せるしかできない自分が悔しかった。
本来ならば俺が守るべきなのに…。
何もできないのは凄く悔しい。
けど…仕方がない…奴はGM…敵う相手じゃ…。
「諦めるのかい?それはあの日の戦いを汚す事になる」
突然俺の横から誰かの声がした。聞いた事のある声だった。
「私にシステムを上回るような力をみせて未来を悟らせるようなあの戦いを」
「…アンタは…」
俺は声のする方に顔を向けた時 そこには誰もいなかった。
ただ、声だけははっきりと聞こえた。
「立ちたまえ。キリト君」
ーーーーーーーーー
一方で謎の変貌を遂げた作斗は最初は優位に立っていたものの、すぐに調子を取り戻した須郷に押されてしまった。
「ハハハハハ!どうしたどうした!?変貌しても大した事はないんだなぁ〜!?」
「…」
須郷は圧倒的なスピードを生かし周りから作斗へ次々と斬撃を繰り返していた。それに対し作斗はただ刀を振り回して防ぐ事しか出来なかった。
「作斗!もいいからやめて!これ以上やられたら貴方の命が危ういのよ!!」
明日奈は泣き叫びながら作斗へ呼びかける。作斗の体力は既にペインアブソーバーが0の状態で何度も尽きている。人間で言えば何度も死亡している事と同じだ。だが尚も作斗はそれに耳を貸す事はなかった。
その時
「弟ばっかりに任しちゃいられねぇな…」
「…!キリト君!」
倒れていたキリトがゆっくりと起き上がった。それを見ていた須郷は作斗を吹き飛ばすとこちらへゆっくりと歩いてきた。
「はぁ。君もまだ起き上がるんだ。まぁいいさ。どんなに抗おうとも僕に勝てないよ?GMである僕にはね?」
「……」
キリトは須郷の言葉に耳を貸すことなく口を開いた。
「システムログイン…ID『ヒースクリフ』…」
するとキリトの周りにウィンドウが表示された。
「…!何だ!そのIDは!?」
「システムコマンド…管理者権限変更…ID『オベイロン』をレベル1かつ全ステータスを標準値に!」
その言葉とともに周りから光が消え去った。
「な!?僕より高位のIDだと!?ありえない!僕はこの世界の王であり創造主だぞ!つまり神だ!」
「そうじゃないだろ。お前は盗んだんだ。その世界を。住人を。そしてその玉座の上で1人勝手に踊ってたのさ」
「なんだと…!?このガキが!システムコマンド!オブジェクトID『エクスキャリバー』をジェネレイトッ!」
須郷は叫び武器を召喚しようとした。だがその叫びに答えることは無かった。
「言うことをきけ!このポンコツが!」
するとキリトは叫んだ。
「システムコマンド!オブジェクトID『エクスキャリバー』をジェネレイト!」
その叫びに答えるかのように目の前の空間が歪みそこから黄金に輝く劔が現れた。
「言葉一つで伝説の武器を召喚か…」
キリトは後ろで倒れ伏している作斗へ目を向けた。
「よく頑張ったな。あとは任せろ」
次に明日奈の方へと顔を向ける。
「すぐに終わらせる。もう少し待っててくれ」
「うん…!」
明日奈が頷くとキリトはその剣を手に取り須郷へ向けて投げた。
「さぁ。勝負と行こうか。アンタにはその高性能の剣を譲ってやるよ」
「ッチ!ガキが!ぶっ殺してやる!」
須郷はエクスキャリバーを手に取りキリトの持っていた大剣を投げ捨てた。
キリトはオブジェクトIDによって自分の大剣を召喚すると構えた。
「決着をつける時だ。泥棒の王と鍍金の勇者とな!オベイロンのペインアブソーバをレベル0!」
「な…!?なんだと!?レ…レベル0だと!?」
須郷は冷や汗を流す。これから来る本格的な痛覚に恐れたのだ。
「逃げるなよ…あの男はどんな場面でも臆した事はなかったぞ!『茅場晶彦』は!」
「なんだと…!?茅場だと!?何故だ!貴方はなぜ死んでまで僕の邪魔をするんだ!なぜ僕の欲しいものを奪っていくんだ!!」
「須郷。お前の気持ちは分からなくもないが…俺はアイツのようになりたいとおもった。お前と違ってな」
「く…このクソガキがぁぁぁぁ!!!!!」
その言葉に須郷は激昂し剣を振った。
だが、キリトはその剣を受け流し須郷の頬へ傷をいれた。
そして本格的な痛みが須郷の身体を襲った。
「痛い…!痛いよぉ!!」
『痛い』その言葉に反応しキリトの額から筋が立った。
「痛いだと…?お前が明日奈に与えた苦しみは…作斗に与えた苦痛は…こんなもんじゃねぇッ!!!!!」
そう叫びキリトは激昂しながら剣を横に振るい須郷の胴体を上半身と下半身とで切り離した。
「うぎぁぁぁぁぁぁ!!!!」
須郷は襲いかかってくる痛覚に耐えることが出来ず泣き叫んだ。
そしてキリトは上半身にある頭を鷲掴みにすると上へと投げた。
「あとはお前に譲る…やれ!作斗!」
その言葉に須郷は目を動かした。見ると目の前に倒れていた筈の作斗が六つの目を向けながら刀の柄に手を掛けていた。
そして
作斗の 須郷に対する膨大な恨みの込められた一閃が須郷の頭部を両断した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
須郷は激しい断末魔をあげると嘆きながらデジタル化し消えていった。
その様子をキリトは微笑みながら見ていた。
全てが終わるとキリトは明日奈の鎖を解き抱きしめた。
その様子を変貌した作斗は見届けるとウィンドウを開く。
「作斗…!?待ってよ!」
「おい!」
2人の止める声に耳を貸すことなく作斗は姿を消してしまった。
「行っちゃった…」
「あぁ…でも、すぐに会えるさ」
キリトの言葉に明日奈は頷いた。そしてキリトは「俺も戻ったらすぐ会いにいくよ」とだけ言い残し明日奈をログアウトさせた。
ーーーーーーーー
目が覚めると 美しい月の光が病室を照らしていた。
懐かしい外の景色に目は釘付けだった。
見ると花が供えてあった。とても美しかった。キリト君や作斗が何度も来てくれたんだ。
カタッ
すると突然 横から音がした。見るとナーブギアに少し似ているハードが落ちていた。
「作斗……ずっと一緒にいてくれたんだ……」
私はすぐそこに作斗がいた事を悟った。
けれども…なぜ姿が見えないんだろう…。
そう思うアスナから死角にある病室の入り口には吐き捨てられた血があった。
ーーーーーーー
一方 その病院の暗い廊下では脚を引きづりながら壁に手をつけながらゆっくりと階段を降りている少年がいた。
「(アイツの性格からすると……必ず報復にくる……早く行かねぇと…)」
自分の姉が目覚める前に病室を去った作斗は激痛が走る身体を引きづりながら下へと降りていった。
「(く…確実に…フルで動けば大量出血だな…)」
ーーーーーーー
目が覚めると 妹の顔があった。
「スグ…?」
「お兄ちゃん!」
抱き着いてくる妹を俺は受け止めた。
「やっと…終わったんだね…!」
「あぁ…俺…行ってくるよ」
「うん!きっと明日奈さんも待ってるよ!えっと……私も…行っていいかな…?」
「あぁ。行こう」
俺たちは自転車を漕ぎながら急いで所沢へと向かっていった。
そして一時間ぐらい経った頃 ようやく所沢の病院へと着いた俺達は裏口から侵入し病室へと向かった。
「お兄ちゃんこんな事していいの…?」
「取り敢えずあとで……院長に土下座すれば大丈夫だろ…」
「大丈夫なの!?」
そんな会話をしながら入り口を目指した。
すると 車のドアが開く音が聞こえ 俺たちの目の前に誰か知らない人の影があった。暗闇でよく見えなかった為 俺はぶつからないように横に避けた。
その時 その影が俺に向かって何かを振り回してきた。
それはペナントナイフだった。
俺の腕から何か生暖かいものが流れ出し俺はその場に尻餅をついてしまった。
「お兄ちゃん!大丈夫!?」
その時 光に照らされその影の正体が露わになった。
「遅いよ…キリト君…僕が風邪ひいたらどうするんだい?」
『須郷』だった。
顔中に筋が立ち目が血走っていて狂暴な表情を浮かべていた。
「あの人が…」
「あぁ…アイツが明日奈を苦しめていたヤツだ…!」
「酷いことするよねぇ。まだ痛覚が消えないよ」
「須郷…お前はもう終わりだ…大人しく法の裁きを受けろ!」
「終わり?何が?僕を欲しいっていう企業は山のようにあるんだよ?研究を重ね完成させれば僕は真の王に…神になれるのさ。だから…」
「っ!」
須郷の血走った目が俺達を捉えナイフを向けてきた。
「君は殺すよ!」
「スグ危ない!」
一緒にいたスグを俺は突き飛ばし何とか須郷のナイフを避けた。
「なんだ?一緒にいるのは妹か?ハハハハ!!好都合だ!まず僕から全てを奪った罰として妹を目の前で惨殺してやろう!」
「…!やめろ須郷!スグに近づくな!スグ!逃げろ!」
俺は腹の底から声を出した。だが須郷は止まらず 尻餅をついているスグへゆっくりと近づいていった。
「スグ!」
俺は何とか立とうとした。だが筋肉運動をしなかった為か疲労が出て上手く立ち上がる事が出来なかった。
「ハハハハハ!!死ねぇ!」
「…ッ!」
須郷のナイフが振り下ろされた時
そのナイフが誰かの手によって止められた。
須郷は汗を流し震えながら自分の目の前にいる影を見た。
「な……何でお前がここに…!」
「……!」
そこには髪を解き目を血走らせた作斗が立っていた。それに加えてスグに向かって振り下ろされたナイフを手で受け止めていた。
いや
受け止めれていない。自分の手を代わりに刺して止めていたんだ。
「何でここまで来れた!?あれだけの痛みならば数日は動けなくなる筈だぞ!?」
「く…くくくかかか…ハハハハハ!!」
その顔からは正気が失われていた。血走った目を剥き狂うように笑っているその表情は不気味だった。
作斗は何も言わず狂うように笑いながら須郷の手を掴むとナイフを抜いた。傷口からは大量の血が流れ次々と足場を赤く染めていた。
「ヒィ!?ぼ…僕に触るなぁぁ!!」
バンッ!
須郷は腕を震い作斗の手を無理やり引き離した。引き離された作斗はダメージが残っているのか、一瞬状態がよろめいていた。
「お前さえいなければ…お前のようなゴミがいなければぁぁ!!!」
「!」
須郷は悲鳴を上げながら作斗の脇腹に向けてナイフを刺した。
「作斗!」「作斗さん!」
そのナイフは深く入り込み 切り口から大量の血液が溢れ出てきた。その血液は手から流れている血液も含めて大量に流れ落ち、足元を血の海に変えていった。
「…!」
見ると作斗の目から光が消えていた。
「はぁ…はぁ…ようやく死んだか…!」
そ…そんな……
「さ…作斗…さん…」
諦めかけていた。だが、その時、俺達の目の前には衝撃の光景が広がった。
「……!?」
須郷の表情が今まで見せたこともない程まで恐怖に埋め尽くされた。
「な…何で動けるんだよ!!」
泣き叫びながら後退ろうとする須郷の腕には血で真っ赤に染まった作斗の腕が力強く絡み付いていた。その掴む手はあれだけの大量出血をものともしないかのように握力が弱まることは無かった。
「こ…これだけ出血すれば!普通の奴からすれば致死量にいたるんだぞ!?なぜだ!?」
その瞬間
「ふふ……フフフフ…ハハハハハハ!!!」
作斗が笑い出した。だが、決して良い笑いなどではない。目は血走らせ、血が湧き出ているというのに悲痛の声すら出さない。
確実に『発狂』していた。
「ハハハハハハ!!!!」
作斗は笑いながら須郷へ向かって拳を振った。
「がばぁ!?」
その拳は顔面に命中し須郷の身体を吹っ飛ばした。
だがそれだけでは終わらず作斗は血だらけになりながらもゆっくりと須郷へ近づいていった。
「やめろ作斗!それ以上動けば出血多量でホントに死んじまうぞ!!」
だが俺達の声は届くことなく血を垂れ流しながら首と顔中から筋が立ち怒りの込もった血走った目を須郷へ向けながら近づいていった。
「ヒィ!?く…来るな!僕に近づくな化け物め!」
「ヴァァァァァ!!!」
その叫びに耳を貸すことなく作斗は地の底から響くような唸り声をあげ須郷の顔を掴み出し車体へと叩きつけた。
ガンッ!
「がぁ…ご…ごめんなさい…!ゆ…ゆるじでくだざ…い!ち…調子にのっでずいまぜ…」
ガンッ!
泣き崩れた須郷の謝罪に耳を貸すことなく作斗は何度も叩きつけた。何度も何度も。
そして須郷は遂に耐えきれなく限界がきたのかその場で気絶した。だが作斗は止める意思を見せず気絶した後も尚須郷の頭を車体へと叩きつけた。
「(まずい…このままじゃ須郷が死ぬ…そうとなりゃ作斗は殺人罪だ…!)」
俺は状態を起こし作斗を止める方法を考えた。今の作斗は恐らく数人の大人でも抑えられない…筋力が大幅に下がった俺なら尚更だ…。
その時だった。
「もうやめて!」
「ッ!」
スグが涙を流しながら作斗へ手を回ししがみついた。それと同時に作斗の動きも止まった。
「お願いです作斗さん……戻ってきてください…!」
「……」
スグの訴えが届いたのかどうか分からない。だが、その直後に作斗の動きが急に止まり須郷への攻撃が止んだ。すると顔や首筋から隆起していた筋が消え血走った目も落ち着きを取り戻したようにゆっくりと閉じた。
「ふぅ……よかった…」
「お兄ちゃん!作斗さんの意識が!」
「…!?」
その後 作斗は駆けつけた複数の看護婦達に緊急治療室へと運ばれていった。
ーーーーーーーーー
何故だろう……身体中が痛い……まるで本物の刃物で切り裂かれた痛さだ…。
須郷の頭を車に叩きつけた後の記憶がない…。
俺は真っ暗の中 何も思い出せずただただ彷徨っていた。
死んだのか…?俺は……。
____と…! ___くと…!作斗!!
誰だ?誰かが俺を呼んでる…。
声のする方を見ると凄く明るい場所があり声はそこから聞こえてきた。
それにつられるように俺の脚はゆっくりとその場所へと動いた。
作斗…!作斗…!!
「あぁ……すぐ行く……」
誰の声なのか分からないが…聞いたことのあるような声だった。すると違う声も聞こえてきた。
作斗…! 作斗さん!
俺はその声が聞こえる場所へゆっくりと進んだ。すると 目の前がまた暗闇に包まれた。
因みに今回の作斗の顔は黒死牟だと思ってください。
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姉弟の再会そして忌まわしき過去
暗闇の中で光る方向へと歩んだ作斗の視界が突然暗くなり 少しずつ景色が鮮明としてきた。
「……ここは…」
目が覚めると作斗の目の前には涙を流している明日奈の姿があった。
「…!作斗!」
「ふぎ!?」
明日奈は目覚めた作斗を見た瞬間 涙を流しながら胸に抱き締めた。
「よかった…目が覚めて…!」
「……苦しい…ていうか何があった…?」
作斗は状況を知るため明日奈から離れると問い掛ける。すると明日奈は泣きながら答えた。
「作斗は…一週間も意識がなかったんだよ…!出血が酷くてあと少しでも遅かったら死んでたんだよ!お姉ちゃん本当に心配したんだから!」
「……ごめん…」
すると作斗の目からも涙が溢れ出てきた。二年間感じる事の出来なかった姉の温もり それが今まで堪えてきた悲しみをゆっくりと溶かしていった。
「けど……よかった……姉ちゃんに……やっと会えた…」
作斗は涙を流しながら『明日奈』ではなく幼き日々の呼び方にしながらその身を明日奈の懐に寄せた。
「私も嬉しいよ…ただいま。作斗…!」
明日奈も涙を流しながら作斗を抱き締め頭を撫でた。
それから数分後
落ち着きを取り戻した作斗は外の景色を見た。時刻は夜中であり 外の月の光が部屋を美しく照らしていた。
「よっ…うぐ…!?」
作斗は立ち上がろうとした時 身体中に謎の痛みが走る。
「ちょ!まだ動いたらダメよ!」
明日奈は起きようとする作斗を制止させた。作斗は何かおかしいと思い腕を動かしてみるとまたもや鋭い痛みが襲ってきた。
「ッ…あのゴミクズにやられた時の痛みがまだ残ってたのか…」
やはりペインアブソーバが0の状態で身体を何度も切り裂かれたのでその痛みは重かった。
「ごめんね…お姉ちゃんの所為で酷い目に合わせちゃって…」
「何言ってんだ。悪いのは全部あのゴミクズだ。明日奈が謝る事じゃねぇよ」
再び涙を流す明日奈の目を作斗はティッシュで拭き取った。
「んで…お前は大丈夫なのか?二年間以上も動いてないとなると歩くのがキツイだろ?」
「その事なら大丈夫。ちゃんとリハビリ受けてるから歩けるまでには回復したよ」
「そうか…なら…よかった…」
安心したのか作斗の身体からまたもや疲れが現れ起き上がった上半身が再び倒れた。
「もう少し寝る…」
「うん。おやすみ。明日はキリト君や妹さんも来るから」
「そうか…ていうか何でお前と同室なんだよ」
「ふふ♪久しぶりに作斗と同じ部屋で寝たいなって♪」
「小学生か…まぁいいや。おやすみ…」
作斗は布団を被ると意識を落とした。
作斗が寝たのを確認すると明日奈も自分のベッドへと戻り静かに眠りに入った。
「それかこのまま朝まで話そっか!」
「はよ寝ろ」
ーーーーーーーー
翌日の正午
作斗は今 泣き崩れている直葉に抱きつかれていた。
「うぐぅ……ざぐどざん……ほんどによがっだでずぅ!!!」
「あ…いや分かったのでもう泣くのはやめてください…ていうか和人よぅ…テメェ兄なら妹を泣き止ませろよ」
その言葉にリンゴを剥いていたキリトは「ん〜」と考え込むと拒否した。
「今は泣かせてやれ。俺や明日奈は勿論だけど直葉が1番心配してた様なモンだからな。お前の治療が終わってこの一週間 毎日来てたんだぞ?」
「そ…そうなのか…」
「そうだよ。ちゃんとお礼言いなさい」
「はい…」
和人や隣のベッドにいる明日奈に諭された作斗は自分の腹に顔を埋めて未だに泣いている直葉に苦労をかけたと思い包帯を巻かれた右手で頭を撫でた。
「私はもう大丈夫ですよ。心配をおかけして申し訳ありません。それとありがとうございます。毎日私の見舞いに来てくれて」
その言葉に直葉は泣き止むと顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔が未だに治らず 言うまでもないが埋めていた作斗の腹部は涙と鼻水でびっしょびしょだった。
「うぅ……もう泣くのは止めてください。私はこの通り生きていますよ」
「でも私の所為で大怪我を……」
「こんなもの軽い怪我ですよ。そんなに心配する事ではありません。ですからもう泣き止んでください」
「うぅ……はい…」
ようやく直葉は泣き止むと作斗から離れた。そして作斗は包帯の巻かれている右手の指を動かした。
「(……思うように動かねぇし変な感覚だ…恐らく血が足りん…)」
貧血と思い込んだ作斗はどうしようかと考えていた。
すると
「作斗さん。口開けてください」
「え…」
見るとリンゴに楊枝を指しそれを片方の手で添えながら落ちないように持っている直葉がいた。
「い…いや自分で食べられるので…」
「いえ!作斗さんの右手が治るまで私がご飯とか食べさせますから!」
「そこまでしなくても……」
その様子を隣にいるゲームでできちゃった婚の2人は微笑みながら見守っていた。
「キリト君とそっくりで頑固ね。妹さんも」
「あぁ。アイツは一度決めた事は絶対に変えない奴だからな。それにしても…作斗ってグイグイくる相手には弱いんだな…」
「まぁね…」
一方で作斗は初めて他の女子からやられるかつ押しに弱い故にどうすればいいのか分からなかった。
「はい。あーんしてください」
「う…あ…あーん……」
作斗のあいた口に直葉はそっとリンゴを入れた。
リンゴが入った事を認識した作斗はゆっくりと味わいながら咀嚼した。
「美味しいですか?」
「…蜜が入ってて凄く甘いです…」
「よかった!」
「ッ!/////」
直葉の見せた満面な笑顔を見た瞬間 作斗の頬が赤く染まった。すると恥ずかしみを隠す為かベッドに潜り込んだ。
「え!?ちょ作斗さん!?」
ベッドの中で作斗は激しく鼓動する心臓を抑えながら葛藤していた。
「(な…なんだこの感覚は…!?アイツの顔を見た瞬間…へんな感情が…!)」
「作斗さん出てきてください。食べないと治りませんよ?」
「す…すいません…(気のせいだ…多分俺は疲れてるんだ…)」
そう思いながらも作斗はまたリンゴを受け取った。
それから作斗は昼食までも直葉に食べさせてもらう羽目になり気が休まる事は無かった。
食事を食べ終えた頃
「ちょっと明日奈のリハビリについてくるよ」
と言い2人は病室を出た。
後に残ったのは直葉と作斗だけだった。
「……貴方は行かないのですか?」
「いえ。作斗さんを1人にする訳にはいかないので私が一緒にいますよ」
「……(どうしよう…1人になりたい気分だが…コイツが出て行く気がしない…)」
作斗はどうにか1人になる為直葉が病室を出て行く言い分を考えた。
「どうしたんですか?」
「うわ!?」
いきなり顔を覗き込んできた直葉に作斗は驚いた。
「な…なんでもありません…」
赤面しながら驚く作斗に直葉は微笑んだ。
「ふふ。作斗さんってゲームでは仏頂面でしたけど意外と可愛い面もあるんですね」
「うぅ……」
直葉の言葉に作斗はまたもや現れた恥ずかしさを隠そうと布団を頭からかぶった。
「しばらく寝ます…」
「分かりました」
作斗は狸寝入りをし直葉が去って行くのを待つ事にした。
5分ぐらい待ったがまだ帰った気配がしないためもう少し待つことにした。布団の中はずっといると暑い為そろそろ出たい頃だ。
すると
カツ…カツ…カツ…
靴の音がし入り口の方へと消えていった。
「(…もういったか……)」
作斗は布団から顔を出した。部屋を見渡すと直葉の姿はなかった。
「ふぅ…ようやく休める…」
顔を出しながらベッドへと横たわるとそのまま眠りについた。
「スゥ…スゥ…」
ーーーーー
ーーー
ー
一方で退室した直葉は帰ったのではなく部屋の花瓶の水を交換の為、一時的に退室していたのだ。
水を入れ終え鼻歌を口ずさみながら病室へ戻った。
「よっこらしょと…あ…作斗さん顔出して寝てる…」
直葉は自分が帰ったと思い込み熟睡している作斗の側によるとその寝顔に顔を近づけた。
中性的な顔立ちの為 寝ている時の顔は緊張感や警戒心がなくなりとても清らかな表情となっており普段とは全く印象が違うだろう。
「初めて見るなぁ作斗さんの寝顔…すごく可愛いなぁ……ふわぁ…私も少しだけ…」
睡魔に襲われた直葉は椅子に座りながら作斗の布団に顔を乗せると目を閉じた。
ーーーーー
ーーー
ー
「……ぐか…コイツ……まだここにいたのか……」
数時間後 目を覚ました作斗は帰ったと思っていた筈の直葉が自分のベッドに顔を乗せて寝ている事に驚く。
「……(なんで俺に近づこうとしてくるんだこの女は…たった一度助けただけで…)」
頭に手を当てながら作斗は困惑した。するとベッドがやや揺れた為か直葉も目を覚ました。
「あ…すいません。私も寝てしまって」
「…別に構いません。そろそろ帰った方がいいのでは?もう夕方ですよ」
「え?あ!もうこんな時間!じゃあ失礼しますね!」
直葉はコートを着用するとそそくさと退室していった。
「…」
「いい雰囲気だったね♪」
「!?」
すると突然隣のベッドから声がし、見ると明日奈がニコニコしながらこちらを見ていた。
「見てたのか…」
「うん。いよいよ作斗にも春が来たんだな〜。お姉ちゃん嬉しいよ〜」
「ふざけんな。何故俺があんなガキに。それに女に興味はない」
「そうな事言って〜…直葉さんが一緒にいる時 凄く顔 赤くしてた癖に〜♪」
「!」
明日奈の嫌らしい笑みの攻撃に作斗は数時間前の事を思い出し赤面した。
「あれはただ気が狂っただけだ!あの女を好きになった訳じゃねぇからな!」
「……ツンデレ?」
「はっ倒すぞ」
作斗はモヤモヤとする気持ちを抑え込もうとベッドに寝転がった。
「ッチ!あと数日もこんな事が続くなんて最悪だよ!」
「そう?私は嬉しいかな〜♪キリト君来てくれるし♪」
「あっそ!(何なんだこの感覚は!)」
作斗はそれだけ言うと眠りについた。
翌日
「ふぅ…」
病院内にあるリハビリ施設にて、作斗は男性医師が付き添いの元、身体検査を受けていた。
あれ程の重傷だったというのに、傷口は完全に塞がれており、歩行能力も完璧に回復していた。
「うん。もう異常は無さそうだね。退院しても大丈夫だよ」
「はい。ありがとうございます」
若干引きながらも異常が無いことを伝えられた作斗はお辞儀をすると掛けてあるタオルを手にして身体を拭いた。
「すげぇ回復力だな…入院して間もないのに…」
「うん…流石に私もびっくりした…」
「筋肉が凄い…」
明日奈や付き添いである和人もその様子に驚いていた。
横にいる直葉の言う通り作斗の筋肉は凄まじく 決してマッチョとは言えない細い身体だが血管や腹筋の割れがくっきりと出ていた。
「…」
作斗は明日奈達から距離を取るようにリハビリ施設を後にした。
その様子を皆は見送る。が、直葉は少し複雑な表情を浮かべていた。
「なぁ明日奈。作斗って昔からあぁなのか?ヤケに直葉や俺を避けてる様に見えるんだが…」
その質問に対して明日奈は顔を暗くさせた。
「いや…昔は自分から積極的に人に話しかけていて凄く明るかったよ。けど…あの日から突然変わっちゃったの…」
そう言うと明日奈は座りながら2人へと話した。
あの日
作斗が剣道で犯してしまった事を。
ーーーーーーー
それはSAO事件が始まる一年前の事だった。
ある剣道の大会で私は作斗の試合を見に行ったの。
「面!」
「一本!終了!」
初戦で勝った作斗は満面の笑みでギャラリーにいる私に手を振った。
「明日奈ー!!勝ったよー!!!」
「うん!」
「君はあの子のお姉さんかな?」
「はい。弟がお世話になっております」
「彼は素晴らしいよ。あの技術…そして顧問である私が不在でも皆を引っ張っていくリーダーシップ性。おそらく次期部長は彼になるだろう」
作斗は活発な他に新入部員でありながら先輩や顧問が不在の時でも他の皆を引っ張っていて纏めていたらしく部員全員から慕われていたらしい。
私は作斗に飲み物を買って届けてあげようと思いその場を離れ自動販売機へと向かった。
「えぇと作斗は……スポーツドリンクでいっか」
ガタン
私はドリンクを作斗に渡そうとした時に道が分からなくなりどうしようかと迷っていた。すると
「何かお困りですか?」
私は知らない他校の同学年の人に話しかけられた。
話しかけてきたのは作斗よりも短いが男子としては長い髪と高い身長をもつ美形の人だった。その人も道着を着ているから選手だろうと私は思った。見る限り私と同い年だろう。取り敢えず私は選手の人がいる場所を聞いた。
「それでしたら私も向かうところです。一緒に行きますか?」
「はい!お願いします!」
私はその人に弟がいて同じ剣道をやっている事を話した。
「成る程。私も貴方の弟さんの剣道を先程見ました。すごいですね。動きがとてもしなやかです」
そう話していると入り口に着きそこに作斗の姿が見えた。
「ここですね。では私はこの辺で」
そう言うとその人は会場の中へと入っていった。
「あ!明日奈!」
彼とすれ違った作斗は私に向かって駆け寄ってきた。
「お疲れ様。はいドリンクだよ」
「ありがと!」
そう言い作斗はドリンクを受け取ると凄い勢いで飲んだ。
「ぷはぁ。じゃ。皆のところに戻るよ」
「うん!残りの試合 頑張ってね!」
作斗は走りながら部員の皆のところに戻っていった。
そのまま私も上のギャラリーに戻り再び観戦した。猛々しく剣を振り声を上げながら相手に向かっていくその姿は凄くカッコよかった。
そして
お昼後の試合の時 事件が起きた。
相手は私に道案内をしてくれた人だった。合同試合のため 1年も2年と当たることとなり体格的に作斗が不利だった。けど負けないでほしいと思い私は心から作斗にエールを送った。
試合が始まると同時に 両方ともすぐさま剣を構えて打ち合いになった。
けど見ている中 私は作斗の剣の振り方が妙におかしい事に気付いた。
まるで 相手の竹刀を抉り取ろうとするかのような動きだった。
パンッ!!
その時 相手の竹刀が手から離され作斗へ一本となった。本来ならここで一旦竹刀を下げるけど…何故か作斗はそれを後ろに投げ捨てた。
突然の行動に体育館中の人が静かになった。審判が下がるよう言うが作斗は止まらずゆっくりと籠手を外しながらその人へゆっくり近づいた。
その時 作斗の足がその人の胴を蹴った。陸上をやっていて筋肉がついている作斗の蹴りは重い装備を装着しているその人を簡単に倒した。
そこから作斗は乱暴にその人の面を外すと顔へ向けて何発も殴った。
周りの先生が一斉に止めに入り何とか事は収まったけど相手へ怪我を負わせた上に審判の指示を無視した事で作斗は退場となった。
その後 作斗は同じ部員の皆からイジメられるようになって先生からも罵倒を浴びせられて強制的に退部させられた。
けど…後から真実が発覚した。相手の人が作斗と同じ部員をリンチし強制的に棄権させた事が判明した。
ーーーーーーー
「それから作斗は別人のように変わって他人と関わりを持たなくなってしまったの…」
「そうなのか…アイツはただ部員の仇を取ろうとしただけなのにな…酷いもんだな」
「…」
和斗は初めて会ったときの姿を思い出した。 明日奈とは違う冷たい瞳に誰にでも敬語を使う。そうとなると見当がつく。直葉は何も言えずただ立ち尽くす事しか出来なかった。
「作斗はどう思ってるんだ?そのことに」
その問いに明日奈は答えた。
「凄く恨んでた。勿論 イジメられた事に対してだけど本当の事が分かった瞬間に皆は謝らずにただ『なんだ』って感じに済ませたらしいの。その時期と同時に助けられたその子も部活を辞めたらしいの」
「酷いもんだな。謝りもナシとは」
直葉も悲しみの表情を浮かべていた。
「作斗さん…そんなに辛い事があったんですね…」
「うん…その上私が2年間も独りぼっちにさせちゃったから…本当に悲しい思いをさせたとおもってる…」
「……」
直葉は冬に会った時を思い出した。
彼は たった1人の心を許せる大切な人を無くしても、決して涙は見せず、ただ 普通に振舞っていた。だが、ずっと耐えていたのだ。自分よりも辛い過酷な日常を2年間も。
ーーーーーー
一方で作斗は自動販売機へと来ておりジュースを購入していた。
「ふぅ…」
そしてそれを一気に飲み干し疲れた体に成分を与えると病室へと戻った。
その時
「あれ?作斗じゃん」
「!」
後ろから声を掛けられた。声の質からして同じぐらいの年。だがその声を聞いた瞬間に作斗の額に青筋が立つと同時にあの忌々しい大会の日を思い出させた。
「貴方は…『木村』さんですか…」
「ちっす!いやぁお前もこの病院で入院してたのか〜!感動の再会だな!」
その少年は笑いながら作斗の肩をバンバンと叩いた。この男の名は『木村 海斗』作斗と同じ剣道部員だった者だ。だがそれにつれ作斗の筋はだんだん増え始め目も凶暴性を剥き出しになりかけていた。
だがここで動くとなると流石に不味いと思い下手にでないように作斗は敬語で喋る。
「お久しぶりです。木村さん。なんの御用でしょう?」
「え?何って実は俺もSAOから帰ってくることができてさ〜!そんでリハビリして終わって歩いてたらお前を見かけて話そうと思ったって訳よ!」
「そうですか…ですが生憎私にはそんな時間はございませんので」
そう言い作斗は立ち去ろうと背を向けた。すると木村は笑いながら肩へと手を回してきた。
「おいおいなんでそんな他人行儀なんだよ。俺ら親友だろ〜!?久しぶりに話そうぜ!」
その瞬間、作斗の怒りが露わとなり、身体の表面へと出た。
「触るな」
作斗は手を掴むと引き離した。そして充血し怒りに満ちた目を木村へ向けた。
「お前と俺が親友?面白くない冗談はやめろ。お前 あの日に言った言葉…忘れてねぇだろうな…?」
「え?あの日?あーね。お前が相手を殴った事か。何か言ったっけ?」
「『剣道を汚しやがって。お前なんかもう友達でもなんでもねぇ。消えろ』…ハッキリと覚えてるぞ」
「あ〜。言ったなそんな事。いやぁ悪かったよ。まぁでも良かったじゃん?真実が証明されたんだし!」
そう言い笑顔を見せる木村。だが、それが作斗をさらに怒りへと導いてしまった。作斗はこの場で木村を八つ裂きにしたい感情に襲われた。だが、病院内の上に相手は筋肉が衰えており万が一手を出せばこちらが悪い。そうとなると最悪 強制退院の可能性も出てくる。それだけは避けようと思い作斗は必死にその感情を抑えた。
だが木村は更に言葉を続けた。
「でもさぁ。あれはお前にも悪い点はあったんじゃね?無理にあんな殴らなくても普通に剣道でやれば問題にならんかったし。まぁ自業自得ってやつなのかな?あとお前のいなくなった後の剣道も何か熱が抜けたみたいで涼しくなったし意外と楽しかったわ」
「ッ!」
その時 作斗の怒りが再び頂点へと達した。
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鬼の迷い
「クソがぁぁぁッ!!!!」
木村の放ったその一言により昨斗の怒りは頂点へと達した。怒りと共に吐き出されたその怒声は周りの看護婦や患者が尻餅をつく程 恐ろしかった。もちろん一番至近距離にいた木村も尻餅をつくどころか身体中から汗を垂れ流した。
「な…なんだよいきなり!?」
「…!」
昨斗は血走った目を向けると倒れた木村の胸ぐらを掴んだ。
「調子にのりやがって…!俺があの時どんな心情だったのか知らねぇだろ!仲間だった奴らから罵倒され挙句は退部!そして謝りもなしに軽く済まされたこの気持ち…テメェに分からねぇだろッ!!」
「ひぃ……!?」
怒りを吐き出した作斗はまさに鬼の表情だった。木村は恐怖のあまり涙を流しアッサリと謝罪をした。
「わ…わかった!俺が悪かった!あ…あの時の事は謝る!だ…だから許してくれ!な!?」
「今更謝ったって……許す訳ねぇだろぉぉぉぉぉ!!!」
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
昨斗は怒りに任せ握りしめた拳を木村の顔に目掛けて放った。
その時であった。
「やめてください!」
「…!」
昨斗の放たれた拳を直葉が両手で抑えた。それと同時に周りの看護婦も集まり 昨斗から木村を引き剥がした。木村は失神しており下半身から液体を流していた。
「放せッ!小娘がぁぁっ!!!」
「落ち着いてください!今の作斗さんが殴ってしまうと間違いなく作斗さんが悪くなってしまいます!お願いですからやめてください!」
「うるさい どけッ!!」
作斗はまるでバーベルのように自分よりも大きい直葉を無理矢理 引き離すと木村の顔へ再び拳を打ち込もうとした。
「あの時はよくも好き勝手言いやがったなぁあ!!!!」
「作斗さん!!!」
その後はもうメチャクチャであった。
暴れ始めた昨斗は止まる事なく木村へと拳を放とうとし、直葉は腰にしがみつく形で止めようとしたものの、昨斗は止まらなかった。だが、途中で駆けつけた数名の介護職員達に取り押さえられた事で何とか落ち着きを取り戻し、木村から手を離した。
「……」
落ち着きを取り戻した昨斗は数分ほど、荒い息を吐くと、周囲の人々に対して頭を下げた。
「ご迷惑をおかけして…申し訳ありませんでした…」
そして、頭をあげるとすぐさま病室へと戻るべく、足を進めようとした。
すると
「!?」
「昨斗さん!!」
突然と踏み出そうとした昨斗の足がふらつき、その場へと倒れようとした。それをそばに立っていた直葉はすぐさま支える。
「あの…彼は私が連れていくので」
そう言い昨斗を支えた直葉は駆け寄ろうとした職員達に頭を下げると、彼に肩を貸しながらその場を後にするのであった。
ーーーーーー
病室へ着いた直葉は昨斗をベッドへゆっくりと座らせた。
「昨斗さん…大丈夫ですか?」
直葉は顔を見ようとしたが昨斗は下を向き何も表情を伺うことはできなかった。
姉と会えたというのに かつて自分を孤独へと追いやった元凶と会った事によって再び昨斗の目は光を失い心は闇の奥深くまで沈み込んでいった。
何がいけない?自分の何がおかしかった? 友達を助けた事?暴力を振るった事?
何がいけないんだ?
助けて何がおかしいんだ?
助けてダメだったのか?皆のために…皆のためにやったことなのに……
何故 責められなければならないんだ…
『お前なんか剣道やめちまえ!』
『この恥晒しが!』
『お前はもう退部だ。今すぐ帰れ』
次々と勝手に再生されてくる同期や顧問の罵声罵倒に昨斗の精神はだんだん 壊れ始めた。
「クヒ……クヒヒヒヒヒ……」
「!?」
その瞬間 昨斗は俯きながら頭を掻き毟り狂ったように笑いだした。
「昨斗さん!?どうしたんですか!」
すると
作斗の顔があげられ その表情が露わになった。
「ッ!」
その表情を見た瞬間 直葉は言葉を失ってしまった。
突如としてあげられたその顔は大量の涙でぐしゃぐしゃになっていたのだ。
だが、泣こうとする自分を必死で隠すかのように昨斗はまだ堪えていた。けれども、流れる涙がその辛さを物語っており、流れる涙は増え続け 床をビシャビシャに濡らしていった。
「…」
直葉は怒りや悲しみを堪え続ける昨斗を見ていると段々と心が締め付けられる感覚に見舞われていた。
そんな中 直葉は再び俯いた昨斗に近づき問い掛けた。
「辛かったですよね…」
「何がだよ……」
直葉はゆっくりと肩に手を添える。
「もう…隠さなくてもいいですよ…辛かったんですよね…助けただけなのに…あんなに酷い事を言われて…」
「なぜ…その事を…」
昨斗は目を見開いた。直葉は明日奈から聞いた事を話した。
「明日奈さんから聞きました。あの日、昨斗さんが失格した原因を」
「だからなんだ…?」
それを聞かされた昨斗の身体が震え始め奥底から詰まった恨みが吹き出してきた。
「お前に…何も知らないお前に…何が分かるんだ…。仲間の為にやった事を咎められ 罵倒され 挙げ句の果てに見捨てられ…そして唯一 信頼のできる姉 を二年間も失った…この気持ち…テメェになんか……テメェに…なんか……!」
「…」
怒りながら訴える昨斗の目から再び涙が溢れ始めた。
「…グゥ……何なんだよ…何で…こんなに…」
昨斗は溢れ出てくる感情に逆らおうとするが涙がそれを遮った。
すると
感情を抑え込もうとする昨斗を直葉は優しく背中に手を回し包み込んだ。
「…もういいですよ…我慢しなくて…泣きたいなら泣いてください。私が側にいますから」
直葉の言葉に作斗の感情を抑え込む鎖が切れた。
昨斗は直葉に抱きしめられながら今まで抑えていた感情を全て吐き出すように目から涙を流した。そしてそれを受け止めるように直葉は優しく何度も作斗の背中を撫でていき、見守るのであった。
ーーーーーーー
ーーーー
ー
それからしばらくして、涙が枯れてようやく落ち着きを取り戻した昨斗は直葉へと頭を下げた。
「すいません…お恥ずかしい姿を見せてしまって…」
「いいですよ。さ、横になってください」
傍にいる直葉は作斗の身体を横にさせると、布団を掛けてあげた。
「では、私はこれで」
「はい。ありがとうございます」
作斗のお礼に直葉は微笑むと病室を後にした。
ーーーーーー
廊下を歩いていると 和人がトイレの前で壁に身体を預ける形で立っていた。恐らく明日奈のトイレ待ちだろう。
「あれ?もう帰るのか?」
「うん。長居すると迷惑だしね。先に帰ってるから」
「あぁ」
そう言うと直葉は手を振りながら去っていった。
すると、丁度入れ替わるかのように明日奈がトイレから出てきた。
「あ、ごめん待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だ」
和人は出てきた明日奈と病室へと向かった。見ると、昨斗が静かに目を閉じて眠っていた。
「…じゃ…俺もそろそろ帰るわ…」
「…うん…!」
昨斗を起こさないように、和人は小声で明日奈に手を振るとそそくさと帰っていった。
そして頷いた明日奈も彼が見えなくなるまで手を振り見送ると、病室に入りベッドへと横になった。
すると、
「…こんな感情は初めてだ…」
「起きてたんだ」
突然昨斗が目を覚まし、口を開いた。明日奈は最初から分かっていたらしく、驚きはしなかった。
「アイツに言葉をかけられ…諭されてから…ずっとアイツの事が頭に浮かんでくるようになった。その上 考える度に心拍数が上がる…」
昨斗の遠回しの様な言い方に明日奈はニヤリと笑みを浮かべた。
「それは“恋”だね」
その言葉に昨斗は少し頬を染めた。
「これが…恋なのか…」
昨斗は目を空へと向けた。夕焼けに染まる空。彼の心は一人の少女に少しずつ惹かれていった。早く明日になって…彼女に会いたい。自分の心を照らしてくれた太陽『桐ヶ谷 直葉』に。
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クリア記念パーティそして2人の進展
次の日 俺は退院となった。
医者からはもう異常はないので退院して結構だと言われた。退院すると直葉に会えなくなると思い俺は最初は嫌だと思った。だが、前の騒ぎを起こしたとなると病院側も早く出て行って欲しいと思っているから了承した。
因みに明日奈も同じく退院だ。明日奈と和人は特別に設置された高校に入学するそうだ。直葉はさいたま市にある女子校に通っているらしい。
「…」
もう会えなくなるのか。アイツに…
脳内に直葉が浮かんだ。二度とという訳ではないが、定期的には会えなくなる。そう思うと少し寂しさが出てきた。
ーーーーーーー
しばらく作斗はいつものような調子が出ず、暗い雰囲気を纏いながら高校へ通い始めた。
周りの新しく仲間となるクラスメイト達はいつも空を見ている作斗を不思議そうな目で見ていた。
そんな日が5日くらい続いて、ある日の金曜日、学校が終わり、作斗は暇を持て余そうと図書館へ行こうとした。すると、
〜♪
「?」
いきなり携帯の着信音が鳴り、見ると明日奈から『この後 暇?もし暇なら家の近くの駅に来て』と書かれていた。
「は?」
ーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーー
明日奈に誘われた作斗は髪を結びながら言われた場所へと来た。すると、遠くから明日奈と和人が歩いてくるのが見えた。
「なんだ…デート帰りか。……ん!?」
よく見ると2人だけではない。後ろにもう1人いた。それは自分が少しの想いを持っている相手である直葉だ。
「お待たせ。さぁ!行こう!」
「…どこに?」
「どこにってバーだよ『エギル』さんが経営してる」
「あそこか…ってなんでだよ?」
いきなりすぎる明日奈の話に作斗はついていけなくなり質問ばかりする。
「まぁ取り敢えずついてきてくれ」
そう言われた作斗は和人達の後をついていった。
ーーーーーー
今の状況はとても気まずい。4人は少し狭い通路を歩いていた。目の前の明日奈と和人が歩いており、後ろは作斗とその隣を直葉が歩いていた。
「…」
作斗はとても緊張しており、心臓がバクバクと激しく鼓動していた。会えたのは嬉しいが、何を話したらいいのか分からずただ黙っていた。
「…」
対して隣を歩いている直葉も同じだ。作斗が顔を向けると頬を紅く染めながらそっぽを向いてしまう。
因みになぜ直葉がこうなったのかというと数時間前
ーーーーーー
学校が終わり、明日奈と共に直葉を待ち、直葉が来ると突然和人は切り出したのだ。
「お前…作斗が好きだろ?」
「///!?」
図星のようだ。直葉の頬は瞬時に真っ赤に染まった。和人は義妹の反応にニヤニヤ明日奈は苦笑していた。
「う…うん…」
直葉はモジモジとしながら認める。
「何度も助けてもらったし…それに……」
「「それに?」」
「……放っておけないような気がして…」
モジモジとしながらも素直に理由まで喋った直葉に和人と明日奈は完全にベタ惚れだと言うことを悟る。
「けど…作斗さんはどう思ってるのかなぁ…多分 鬱陶しいと思われてるかも…」
直葉は俯くも、明日奈は、直葉がいなくなった後の作斗の反応を思い出し話した。
「別にそんな事ないよ?直葉さんがいなくなった後 作斗が『アイツの事を思うたび…鼓動が強くなる…』って言ってたから♪」
「おい、さりげなくモノマネするなよ」
さりげなく声真似までしながら作斗が直葉にも気がある事を話すと直葉は明日奈へ詰め寄った。
「ほんとですか!?」
「う…うん…ほんと…(凄い…本当に好きなんだ…)」
直葉の反応に若干引きながらも真実を伝えた。すると、直葉はパァッと顔を明るくさせた。
「それでだ、今からエギルのバーに行くんだが、スグはもちろん作斗も誘おうと思ってるんだ」
「ふぇ!?」
「てな訳で、早速 作斗がいるところまでいくか」
「お〜!」
「ちょっと!?まだ心の準備が!?」
作斗に会う準備が整っていないにも関わらず両サイドから脇に手を通され連行されていき
今に至る。
「……」
「……」
二人共無言が続く中、とうとう直葉か切り出した。
「作斗さん…」
「は…はい」
直葉はそっと手を差し出した。
「手…繋ぎませんか…?」
「!?」
作斗は戸惑うが、ゆっくりと手を差し出し繋いだ。何とも胸糞悪い光景だろう。彼女いない歴=年齢の作者にとってこの空気を見ていると今すぐにでもぶち壊してやりたいくらい腹が立つ。
「お〜い。着いたぞ〜」
『!?』
和人の声と共に二人の意識は現実に戻った。気づけばバーが目の前にあった。結果的に言えば二人が手を繋ぎだしたのは店の前だった事になる。周りから見れば何ともシュールな(笑)
和人は扉に手を掛けると扉を開けた。
カランカラン
ドアに設置してある来客を知らせる鐘が暗い店内に鳴り響いた。
すると
パァーンッ!
パン!パーンっ!
部屋が明るくなると同時に目の前からクラッカーが鳴り響いた。そこにはかつてSAOで和人や明日奈達と共に戦った仲間達がいた。
「キリト!」
『SAOクリアおめでとうッ!!!』
「え!?」
突然のお祝いの言葉と共に壁に大きく『congratulations!』と描かれた垂れ幕が降ろされた。突然のサプライズに和人は困惑するも髪を左右にピンで止めた少女が飲み物の入ったグラスを掲げ音頭をとる。
「では!かんぱ〜いッ!」
『かんぱ〜い!』
その少女の音頭と共に皆はグラスを掲げた。優雅なカフェは一瞬にして賑やかな酒場となった。
「ええと…これは?」
「ふふん♪主役は最後に登場するもんでしょ?だからアンタには少し遅い時間を伝えたのよ!」
フンと鼻を伸ばしながら胸を張る少女。この少女の名は『篠崎 里香』ゲーム名は『リズベット』ゲーム内で鍛冶屋を営んでいた少女プレイヤーだ。彼女もまた『SAO生還者』の一人である。
「さぁて私も飲むぞ〜!」
「やれやれ…」
そう言い彼女は持っていたグラスの飲料を口に運んだ。その雰囲気の中 和人はカウンターへと向かった。
一方で作斗と直葉は周りの雰囲気に乗れず 隅でひっそりと飲んでいた。
すると
「やぁやぁ!君達がキリト君の妹とアスナの弟ね〜?こっちに来な!是非 話したいと思ってたところなの!」
「え!?ちょ!?」
「!?」
気分がハイテンションになっている里香に連れられ直葉はもちろん 男である作斗も女子グループに混ざる事となった。
「ふむふむ…見る限り 明日奈とそっくりね…男としての要素が感じられないわ」
そう言い里香は作斗の身体を舐め回すようにジロジロと見る。
「聞いたわよ?何でもメチャクチャ筋肉がすごいらしいじゃない」
「えぇ…まぁ…それ程では…」
「ちょっと見せてよ」
里香に言われ仕方がなく作斗は制服のブレザーを脱ぐとシャツを捲り上げ腕に力を込めた。すると、細い腕から血管が湧き出し、力強いコブが現れた。
「うほぉ!?凄い!」
「凄いですぅ…!」
その筋肉は里香と隣にいる『シリカ』こと『綾野 珪子』も驚いていた。すると 和人と飲んでいた男性陣の中でサラリーマンの男性が話しかけてきた。
「ちょいとお嬢さん方〜、この美少年 借りるぜ〜」
そう言うとその男性は作斗をカウンターへと引っ張っていく。
「よっと。連れてきたぜ」
「サンキュー。クライン」
作斗は和人の隣に座らせられた。すると、目の前にコーヒーが出される。
「今日はサービスだ。好きなだけ飲んでってくれ」
「えぇ…?」
突然のサービスに作斗は動揺する。すると、その隣から和人が訪ねてきた。
「そうだ、お前に聞きたい事がある。あの時 の事、覚えてるか?」
「あの時…?」
作斗は首を傾げる。和人が聞きたい あの時とは、作斗が突然 変貌した時だ。
「お前が須郷から爆裂魔法を受けた直後、六つ目のバケモノに変身したんだ。覚えてないか?」
「……」
コーヒーを口にしながら思い出してみる。あの時、自分は不思議な感覚を味わっていたのだ。現実にはないような。
「あの時…変な感じだったな。周りが一瞬白く見えたと思いきやいきなり鮮明になって、んで、アイツの動きが多少見やすくなった。それに手元も狂うかのように滑らかに動けた」
「ステータスMAXの動きを追えるとか どんな動体視力してんだよ…。要するにバグが起きたと言う訳か…まぁ、無理に茅場のプログラムを弄ったから何処かで誤作動でも起こしたんだろう」
「私の身にそんな事が起きていたんですか。知らなかったですね…」
エギルの推測に作斗は納得するとコーヒーを口にする。すると、隣にいる和人が聞いてきた。
「なぁ作斗。お前はこの後どうするんだ?ALOは」
「……」
その言葉に作斗は一瞬黙り込むもすぐに答えを出した。
「少しだけだが、やる。姉を助けるために初めてやったが、意外と面白かったからな」
それを聞いた和人は笑みを浮かべた。
「そうか!そりゃあよかった。一度 お前とガチで対戦したいと思っててさ!」
「ほぅ……今でもいいが?タイマンで」
「それは遠慮しとく…」
それから作斗は和人から入院していた間の出来事を聞かされた。
犯人である須郷は見事に逮捕。取り調べでは茅場晶彦へ罪を全て被せようとしたが、部下の1人が重要参考人として招かれ、全てを自白した。だが、それでも諦めようとはしなず、自分に暴行を働いた作斗までも道連れにしようとしたが、幸にも防犯カメラの死角となっていた為、その証拠はなく、信じてはもらえなかったらしい。
また、今回の事件を機にRCTは解散。作斗の父の会社は大きな打撃を受けた様だ。
「っ…親父には悪い事をしちまったな…」
「いや、あの親父さんの事だ。息子や娘を手に掛けた奴なんて養子にしたくないだろうよ」
そう言い和人もコーヒーを口にする。
「お〜い男子〜!!そんな場所に固まってんじゃないわよ〜!!」
それから、賑やかなパーティーは続いた。腕相撲でエギルが作斗に負けたり、明日奈が幼い頃の作斗の事を話しそれに対し作斗が赤面したり、女装カラオケで作斗が無双したりと、
完全に作斗を弄ぶのが主流となっていた。
いろんな意味で。
そんな賑やかなパーティーが終わると皆はそれぞれ解散していった。だが、このパーティーで、直葉と作斗がくっつく事は無かった。2人とも両想いなのにどうした物か、と和人と明日奈は悩んでいた。
去り際に、何とか連絡先は交換できたようで、 2人共それだけでも良しとしたようだ。
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