面白いものが好きな彼の万事屋生活 (エンカウント)
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今までの日常に生クリームのトッピング

小説の書き方、投稿設定など上も下も鳥取も島根も分からない中での初投稿です。
頑張って慣れていきたいと思っているので、よろしくお願いします。

作者は原作を数巻ほどしか読んでいない知識不足のアホの子ですが、頑張って理解していきたいと思います。

文章が歪だったり、誤字脱字等あるとおもいますが、ハイハイができた赤ちゃんを見るような暖かい目で閲覧していただきたいです。

原作のお話全てを投稿する気力がない気がするので、どこかで終了してしまうかもしれません。



「万事屋銀ちゃん」というかぶき町に存在する何でも屋の従業員として、鈴鳴 竹仁(すずなり たけひと)は働いている。

 

彼は普段ならば9時ごろに出勤して、起きていなければ(一応社長である)銀時を文字通り叩き起こし、その後仕事がなければソファで本を読んだりして過ごしている。

 

(今日もどうせ、碌に仕事がないんだろうな・・・平和だってことは、いいことなんだけども。)

 

そう思いながら、彼は見慣れた玄関を開ける。

 

今は朝の9時。銀時は起きていない可能性だってある。そして、ヤツが出迎えることは100%ない。

 

なのに、目の前に人間がいる。・・・それも、彼の知らない、眼鏡の少年が。

 

「・・・・・・。」

 

知らない人間が笑顔を携えて彼を見ている。

 

誰だお前。彼がそう思っても仕方がないだろう、知らない子が目の前にいるのだから。

彼が眼鏡の少年を黙ったままじっと見つめていると(睨んでいるようにも見える)、

 

「・・・えーと、あなたが竹仁さん、ですよね?今日からここで働かせてもらうことになった志村 新八です、よろしくお願いします!」

 

少し視線をさまよわせたのち、眼鏡の少年は志村 新八、と名乗った。

名前と顔は頑張って覚えるとしてこの少年、今日から働く、と言っていた気がする。何故だ。

考え始めた次の瞬間には原因は特定された。銀髪赤眼天然パーマで死んだ魚の目をした、ここ万事屋の社長坂田銀時。やつだ。

 

「あー・・・うん。・・・俺の名前は鈴鳴 竹仁。まあ、よろしく。」

 

 

「はいっ!今日からよろしくお願いします、竹仁さん!」

 

元気な眼鏡少年との簡単な自己紹介を済ませた後、彼は銀時の居るであろう居間へと歩を進める。

 

「やあおはよう銀時、取り合えずこの少年をここで働かせることになった経緯を聞かせろそして殴る。」

 

「えっ、殴らないでくれる?俺悪いことなんて一切してねーから。」

 

銀時はソファに寝転がりながら読んでいたジャンプを少しずらし、こちらを見ながら抗議の声をあげる。 

 

「こんな純粋で真面目そうな子供をこんなよくわからん何でも屋の従業員にする羽目になったんだ、パンチ一発で許してあげる俺の寛大さを敬え馬鹿社長。」

 

「殴る時点で全然寛大じゃないよね?あと君のパンチ猪の突進レベルで痛いからやめて?」

 

「パンチは嫌か。なら腹か背中にドロップキックでどうですお客さん、きれいなお花畑を見せてやる。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください竹仁さん!僕がここで働かせてくださいってお願いしたんです。決して銀さんが何かやらかしたとかそういうんじゃないですよ!・・・別の意味で色々やらかしましたけど!」

 

銀時と竹仁の言い合いを止めようと新八が会話に割って入るが、不要な心配である。

 

「だいじょぶだいじょぶ、分かってるさ。この馬鹿がそんなアホをやらかすほどの馬鹿じゃないことぐらい。・・・別のアホならやらかしまくりの馬鹿だけどな。」

 

銀時を指差しながらため息混じりで伝える。そこら辺の線はギリギリ守っている馬鹿ということは理解していると。

 

「それ褒めてないね、逆にテメーをお花畑に送ってやろうかこの馬鹿従業員。」

 

「はいはい、んで?新八君、君がここの従業員になることになった経緯でも聞かせてよ、面白そうだし。」

 

銀時の挑発を叩き落としてソファに座り、新八にここで働くことになった経緯を話すよう促す。

彼との言い合いっこよりもそっちに興味が傾いたからだ。

 

「・・・。そうですね、僕最初、飲食店でバイトしてたんですけど・・・」

 

絡んできた天人を銀時が薙ぎ払い、その罪を新八へと着せて自身は逃げた。

逮捕されそうなところをぎりぎりで逃げたものの姉である志村 妙に見つかり、キックを食らい、銀時はボコボコにされ実家である剣術道場・恒道館に連れていかれた。

そこで、父の遺した借金を取り立てようと天人が押しかけ、借金の代わりに姉をしゃぶしゃぶ天国へと連れて行ってしまった。

姉を救うべく二人で遊郭船へと乗り込み、無事?姉を取り返したのだ。船は墜落したが。

その事件をきっかけに、ここ万事屋で働こうと思い、就職したと。

 

煎餅を食べながらだったが一応真面目に新八の話を聞き終えた竹仁は、

 

「痛ァッ!」

 

片腕以外を動かすことなく隣に座る銀時の鼻目掛けて静かに裏拳を放った。

 

「オイ!?俺人助けしたよね?殴られるようなことしてないよね?!」

 

「話の最初でやらかしてるわアホ。はぁ。・・・そーかぁ、新八も、新八の姉ちゃんも大変だな。それにしても・・・。金が必要なんだろう?ここ、給料出なさそうだけど、いいの?」

 

「・・・え、出ないんですか?給料・・・。」

 

「んー、どうかなぁ。俺は高校生のお小遣い程度の給料とご飯用意してくれればいいって言ったから、ここの基本的な給料の設定がどうなのかは分からない。・・・ちゃんと出せるのかい?給料。」

 

チラ、と鼻の周辺と、そこをおさえる手を赤く染めた銀時を見やる。

 

「新八一人の給料ぐらい出せるわ!あと鼻血止まんねえぞバカヤローティッシュ寄越せ!」

 

「ふーん、給料ちゃんと出してやれよ?色々大変らしいし。・・・・・ほらよ、ティッシュ。」

 

煎餅をかじりながら箱ティッシュを取りに行き、そのまま銀時の顔面へとフルスロー。

クリティカルヒット。

銀時が鼻をおさえ先ほどより悶え苦しんでいるが、彼は微塵も気にしていないといった様子だ。

 

「ちょっと竹仁さぁん!?あなたすごい暴力的な人なんですね!?」

 

新八が銀時の鼻を大量のティッシュで押さえながら、困惑したような瞳を彼に向けて話す。

そりゃ誰だって困るだろう、出勤初日に目の前で傷害事件を起こされたのだから。

 

「安心しろ、新八にこういうことをする日は、・・・多分来ないから。」

 

「その間と多分って言葉が不安すぎて安心できませんよっ!!」

 

はたして新八が竹仁による傷害事件の被害者となる日が来るのか。それはまだ加害者になるであろう彼自身にもわからない。

 

 

 




口調とか色々ごめんなさい。
読みづらい部分も多々あると思います。
この先、少しでも良くなるように努力したいです。

頑張ってボチボチ作っていきます。



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今日は出血が大サービス

おっ・・・お気に入りと評価、感想まで・・・すごく嬉しいです、ありがとうございます。

なので今日も頑張ります。
そして明日も頑張ります。



「・・・・・。」

 

竹仁はよく本を読む。

特にどのジャンルが好きとかはなく面白そうならなんだって読む。

 

彼がそんな自分について、最近分かった事がある。

 

「しるかボケェェェ!!金がねーなら腎臓なり金〇なり売って金つくらんかいクソッたりゃー!!」

 

「家賃ごときでうるせーよう〇こババア!!こないだアレ・・・ビデオ直してやったろ!あれでチャラでいいだろが!!」

 

それは、うるさい環境で本を読むのがあまり好きではない、という事。

 

「・・・・・・・・。」

 

竹仁はパタンと本を閉じて机に置き玄関へと向かう。

騒音の元凶を黙らせ静かな読書の時間を取り戻すため。

玄関付近に立っている銀時のやや斜め後ろに立ち、彼は口を開いた。

 

「うっせェェェんだよ!!こっちは今コ〇ン31巻読んでんだよ静かにしやがれェエエエエエ!!!」

 

「「オメーのほうがうるせーわッ!!」」

 

「うぐえっ!」

 

なんだか猛烈に理不尽な目にあった気がする、と痛みに耐えながら竹仁は思った。

うるさいからうるさいよって注意しただけなのだが、うるさいって言われた上に殴られたのだから。

 

これ以上は何言っても怒鳴られるか殴られるかモンゴリアンチョップなので、竹仁は大人しく引き下がることにした。

鼻から床に血をぼたぼたこぼしながら箱ティッシュが鎮座する居間へと戻っていく。

 

「あー・・・マジで痛ェ。おのれ銀時とババア・・・割と本気で殴ったでしょ。あぁ・・・いたい。」

 

赤い液体が次から次へとコンニチワしてくるそこをティッシュで押さえつつ、床にこぼしてしまった自身のトマトジュースを乾かぬうちにとできるだけ素早く拭いていく。

 

その途中彼の耳に誰かの叫び声が入ったが、知らぬ存ぜぬを決め込んだらしく黙ったまま拭き掃除を続けている。

 

「ちょっと、アンタ。」

 

玄関付近まで来たとき、まだいたらしいお登勢に声をかけられた。

 

「何?俺アンタのせいで予定にないトマトジュースの大安売り始めることになっちゃったんだけどどうしてくれんの。」

 

彼は、床を見ていた顔を上げて不機嫌そうな顔を作りお登勢を見やる。

 

「そりゃ悪かったねぇ、でもそれについちゃ銀時だって裏拳放ってただろ?そもそも、そっちが家賃を払えばアンタがケチャップまき散らす事態にはならなかったはずだけどねぇ。」

 

「おい、ケチャップだとなんか不健康っぽく聞こえるからやめて。・・・で?その俺に拳のプレゼントしてくれた家賃滞納馬鹿のアイツはどこいった。」

 

玄関から顔を出し軽く左右にふって探すような動作をして聞いてみるが、先程の叫び声と見当たらない姿で大体予想はつく。

 

すると、お登勢は指で階段のある方向の、ちょっと下を指し示した。

彼の予想通り、そこには銀時と新八が仲良く転がっていた。

 

恐らく銀時が突き飛ばされたか投げ飛ばされ、出勤してきた新八が巻き込まれたのだろう。

なんとも迷惑な話だ。

 

「はぁ。もういい、分かったよ・・・・。」

 

懐から財布を取り出し、数人の諭吉を差し出す。

彼は日雇いのバイトをたまにしているし、銀時のように金を使う癖もないので少しはお金を持っていたりする。

家賃全てを払いきるお金は持っていないが。

 

「ほら、お目当ての家賃。受け取ったら黙ってハウスしなゴールデンレトリババア。」

 

「誰がレトリババアだクソガキ!足りねえし!!」

 

竹仁は、また殴られた。

さっきのダメージにプラスされて酷いダメージなのだろう、一言も発する事無くうつ伏せでしんでいる。

 

(俺もうダメかもしんない。)

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あー・・・痛いなぁ・・・。」

 

両方の鼻にティッシュが突っ込んであるという間抜けな状態のまま先程から痛い痛いとこぼす竹仁。

そりゃ痛いだろう。短時間で同じ場所にクリティカルヒットを三回決められるだけではなく、財布にまでクリティカルヒットが及んだのだ。

 

「あの、銀さん。竹仁さんがアンタのせいで色々な面で大ダメージ負ってるんですけど。」

 

「知るか。ほっときゃ治る。」

 

「・・・あの、銀さん。今月の僕の給料ちゃんと出ますよね?」

 

「・・・・・。腎臓ってさァ、二つあるの、なんか邪魔じゃない?」

 

「そうか、じゃあ今すぐテメーの腎臓摘出してやるから机に横になれ道具持ってくるから。」

 

「ちょ、竹仁さん!?一瞬で全回復しましたねアンタ・・・ていうか道具って絶対チェーンソーとかそういう武器の類だよね?!」

 

何かと恐ろしい会話をする二人。それほどに万事屋の経済状況はひどいということだ。

電卓に竹仁の生贄プラス生活費の大部分マイナス五か月分の家賃、と入力して最後にイコールを押すとマイナスの値を示す。

 

竹仁はそれを三回繰り返し、窓から電卓を捨てた。

 

「まあそうカリカリすんなや。金はなァ、がっつく奴の所には入ってこねーもんさ。」

 

「誰のせいだと思ってんだ・・・。」

 

竹仁の言葉を聞き流しテレビをつける銀時。

 

「銀さん。うちの姉上、今度はスナックで働き始めて、寝る間も惜しんで頑張ってるんスよ・・・。」

 

「アリ?映りワリーな。」

 

「ちょっと!きーてんの!?」

 

新八の言葉も聞き流し、銀時は映りの悪いテレビをガンガン叩く。

すると、その背後から竹仁がゆっくりと近づき、銀時の後頭部をつかみゴスッとテレビにぶつけた。

 

「おぉ、はいった。バカになってきたテレビにバカは随分と効くらしい。一つ勉強になったな。」

 

「テメェ・・・仕返しのつもりかオイ。」

 

額から血を流してこちらを睨んでくるが、竹仁は無視してソファへと戻る。

 

『――――現在謎の生物は新宿方面へと向かっていると思われます。ご近所にお住まいの方は速やかに避難することを・・・』

 

「オイオイ、またターミナルから宇宙生物(えいりあん)侵入か?最近多いねェ。」

 

宇宙生物(えいりあん)より今はどーやって生計たてるかのほうが問題スよ。」

 

「・・・宇宙生物(えいりあん)よりも生計のほうが問題視されるってホントおかしいよね。」

 

竹仁が鼻に詰めていたティッシュをゴミ箱へと投げ捨て、天井を仰いで呟く。

 

(人間、追い詰められると物事の優先順位が一位とゴミの二種類にしか分けられなくなるんだなぁ。)

 

そんなことをぼんやり考えていると、ピンポーン、とチャイムが鳴った。

 

来客か、誰だろうと思って頭を元の位置に戻すと一瞬だけ見えた、走っていく銀時。

今からでは止めようとしても遅いだろう、はなから止めるつもりなんて彼にはないが。

 

ドガアッ!

「金ならもうねーって言ってんだろーが腐れババア!!・・・・・あれ?」

 

破壊音の後に、立ち上がって玄関へと向かう。

新八には居間で待っているよう伝えた、一応何があるか分からないので。

 

騒がしい。局長、とか貴様何をする、とか聞こえる。・・・局長。随分な人が来たらしい。

 

「おい、銀時・・・あのババアが家賃取り立ての時、静かにチャイムを鳴らすわけないだろう。最低でも破壊するぞ。」

 

「分かってたんなら教えろ。あ、スンマセン間違えたんで出直してきます。」

 

「待てェェ!」

 

制服を着た男たちの一人が銀時と竹仁に向かって拳銃をむける。

 

「貴様が万事屋だな?我々と一緒に来てもらおう。」

 

「わぁ、こえー。拳銃(ソレ)しまってよ。そういう危ない人にはついていっちゃだめって母さんに言われて育ったんだよね、俺。」

 

両手を力なく上げて男たちを馬鹿にするかのように笑って話す竹仁。

すると、鼻血を垂らしながらも復活したらしい男が口を開いた。

 

「そうか、幕府(おかみ)の言うことには逆らうなとも教わらなかったか。」

 

「・・・オメーら幕府の・・・?!」

 

「・・・・。」

 

「入国管理局の者だ。あんたらに仕事の依頼をしに来たのさ、万事屋さん。」

 

(幕府の人間ともあろうものがこんなところにくるんだ、絶対碌なことじゃない。)

 

そうは思うが、仕事の依頼を成功させればお金が入るかもしれない。そうなれば、家賃が払えて平和に本が読める。

なので今のところ従っておいて損はない気がする。内容によっては断るかもしれないが。

 

そうして銀時たち三人は局長さんたちが所有する黒い車へと乗り込む。おそらく仕事の場所へ向かうのだろう。

 

「入国管理局の長谷川泰三っていったら・・・天人の出入国の一切を取り締まってる幕府の重鎮スよ。それが一体何の用でしょう?」

 

誰だって疑問に思うだろう、それなりの権力を持った幕府の重鎮が何故万事屋なんかに依頼に来るのかと。

 

「万事屋、つったっけ。金さえ積めば何でもやってくれる商売人がいるって聞いてね。・・・ちょっと仕事頼みに来たのさ。」

 

「仕事だァ?幕府(てめーら)仕事なんてしてたのか。街見てみろ、天人どもが好き勝手やってるぜ?」

 

その言葉につられて、ふと窓の外を見る。

過ぎ去っていく景色には多くの天人の姿。昔はいなかったのだ、今の街の様子からはまるで想像できないが。

 

「・・・あ、コイツを片付ける仕事なら幾らでもやるけど。頼んでみない?安くしとくよ。」

 

「いや、絶対頼まないからね。軽く殺人の域までいっちゃってるし。頼んだら最後幕府の信用落ちまくりじゃん。」

 

「何いい人ぶっちゃってるのさ。()ったって隠蔽すればいいじゃん。あんたたち得意だろ、そーいうのはさ。」

 

「少し黙っとけ竹仁。一応ここは幕府の連中の車ん中だ。あと幕府の腐敗を利用して俺を始末しようとすんな。」

 

「チッ、ばれたか。」

 

顔を顰め舌打ちをする竹仁は、本当に残念そうだ。

 

「はぁ。・・・で?俺たちにどうしろってんだ?」

 

「あぁ、実は今、幕府は国を左右する程の危機を迎えてるんだが・・・」

 

局長さんの話によれば、今地球に滞在している央国星の王子が問題を抱えていて、その解決をしてほしい、とのこと。

政治には詳しいわけでもなく、皇子がどういうヤツなのか知らない銀時たちには仕事の内容を予想することができない。

 

危険が伴うような仕事でなければいいな、とそんなことを思いながら再び窓の外に視線をやった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「余のペットがの~、いなくなってしもうたのじゃ。探し出して捕えてくれんかのォ。」

 

とぼけたような声と容姿と内容と容姿に軽く殺意が沸いた。

いやその存在自体面白いけれども、それ以上に何かお腹の辺りがムカムカしてしまう。

 

三人とも同時に回れ右をして帰ろうとするが、慌てた様子の長谷川に止められた。

 

「オイぃぃぃ!!ちょっと待てェェェ!!」

 

「ふざけんな待たねーよ、ジャンプの発売を八時間前から待つほうが有意義。」

 

「君ら万事屋だろ?なんでもやるんだろ?・・・いやわかるよ!わかるけどやって!!頼むからやって!!!」

 

「うるせーなグラサン叩き割るぞうすらハゲ。」

 

「ああ ハゲでいい!ハゲでいいからやってくれ!!」

 

何があろうとこの馬鹿げた問題を平和なうちに解決したいらしく、否定と暴言を浴びながらも必死に三人に頼み込む長谷川。

 

その必死な姿は見ていて面白いが、幕府の関係者がどいつもこいつもこういうやつばかりなのかと思うと面白いを通り越して流石にあきれる。

 

「ヤバいんだよあそこの国からは色々金とかも借りてるから幕府(うち)。」

 

長谷川は、銀時の肩に手をまわし耳元でボソボソと幕府の金銭状況がやばいことを話す。

しかし銀時が心変わりを起こすはずもなく。

 

「しらねーよそっちの問題だろ。ペットぐらいで滅ぶ国なら滅んだほうがいいわ。」

 

「ペットで滅ぶ国なんて聞いたことないし有名になるんじゃね?ペットごときで滅んだ国NIPPONって。いいじゃんすごい面白そう。」

 

今結構テンション上がった、この仕事放棄してみようかな。

 

(・・・いや駄目だ。万事屋の状況を思い出せ俺、今はそっちが優先。)

 

頭を振って邪念を遠くまで吹き飛ばす。恐らくあの邪念が帰ってくることはもうないだろう。

 

「なんじゃ、ペットごときとは。ペスは余の家族も同然ぞ。」

 

「そういうんだったらテメーで探してくださいバカ皇子。」

 

「オイッ!バカだけど皇子だから!皇子なの!!」

 

長谷川が皇子にバカとつけた銀時の口をふさぐが自分もバカと言ってしまっている。

 

「アンタ、丸聞こえですよ・・・。」

 

ふと疑問に思う。

ペットを探して捕えるなら、局員を臨時で連れ出して探させればいい。

局長ともあろう人間がそこまで必死になって万事屋にこの依頼をさせようとする意味が分からない。

 

「なぁ・・・なんでペットの捕獲っていう下らない問題で俺たちを呼んだんだ?もしかしてそれ以上にヤバい案件でもくっついてたりすんじゃないの?」

 

「そうですよ。そのぐらいの問題、あんたたちでも解決できるはずでしょう?」

 

下手なことしたら人質を殺すとかお前の家に毎日生ごみ配達するぞとか、ヤバいもんがくっついてなきゃ絶対こんな必死にならない。

 

その疑問に対し長谷川は答えようとした。

 

「いや それが駄目なんだ! ペットっつっても――」

 

ズズンッ・・・

 

瞬間、地面が揺れ目の前に建っていたホテルが倒壊した。

地震、ではないだろう。それでは宿の破壊具合が尋常ではない。

 

なら、何故。

 

「は、え・・・?」

 

破壊された宿から見える、巨大な化け物。

それを見て驚く竹仁たちをよそに、皇子は嬉しそうに叫ぶ。

 

「おぉーペスじゃ!!ペスが余の元に帰ってきてくれたぞよ!!誰か捕まえてたもれ!!」

 

あれが自身のペットであると。あの化け物を捕まえてくれと。

いや無理だろうと誰が見てもきっと思う。

 

「ペスゥゥゥ!?あれがぁ!?ウソォォ!!」

 

「だから言ったじゃん!!だから言ったじゃん!!」

 

いつ言ったというのか。

 

(俺の記憶にはねーぞ。ペットがこんな・・・)

 

「こんな化け物だって!テレビで流れてる謎の生物だって!!・・・聞いてねーよォ!!」

 

思ったことを思ったまま叫ぶ。

だって何も説明しないから大した準備も必要ない、もしくは準備はこっちで済ませてあるから気にしないでついて来てくれベイビーってことだと思ってたから。

 

「こんなのどうやって飼ってたわけ?!」

 

「ペスはの~、秘境の星で発見した未確認生物でな。余に懐いてしまったゆえ船で牽引して連れ帰ったのじゃふァア!!」

 

のんきに話をする馬鹿皇子が、懐いたというペスに吹き飛ばされ木に激突した。

その光景を見て、ペスが皇子に懐いていると言う人間はどこにもいないだろう。

 

「全然懐いてないじゃないスか!!・・・ヤバイ!また市街地に出る!」

 

市街地へと動き出したペスの前に、二人の人間が立ちはだかる。

銀時と竹仁だ。

 

「銀さん、竹仁さん!」

 

「新八、しょう油買ってこい。今日の晩御飯はタコの刺身だ。」

 

銀時が木刀を構えるが、竹仁は武器を持たないまま、ペスを見つめている。

 

「俺はあんなのの刺身なんて絶対食べねえぞ。そもそも見た目似てるだけでタコだか分かんねえじゃねえか・・・。」

 

「刺身が嫌なら焼くか、よし、今夜はたこ焼きだ。・・・いただきまーす!!」

 

勢いよく銀時は走り出すが、

 

「させるかァァ!!」

 

長谷川の全力足ひっかけによって、脳天と地面が接触事故を起こすという自分じゃあまりできない体験をする羽目になった。

 

「・・・まあ、捕えろ、って言ってたし。お前全力で食べようとしてたし。そりゃ止めるよな・・・あぁ、どうしようもないっすねーオイ。」

 

諦めたようにその場にしゃがみ込み、片手で頭を抱える竹仁。

その竹仁に対し、ぶつけた頭を手で押さえながら抗議の声を上げる銀時。

 

「いだだだだ!止めてくるって分かってて黙ってたな竹仁ォ!・・・え、まさかほんとに無傷で捕まえろとか言っちゃう?無理だよ?そんなん。」

 

「そのまさかだ・・・。だから何とかしてもらおうとアンタら呼んだの!」

 

「無理無理!無理だって!!」

 

こんな化け物を無傷で捕えろなどと、碌な装備を持たない一般人には不可能な話だろう。

全くどうしたものか。

俺が今持ってる装備といえば、ウエストバッグに取り付けてある短刀ぐらいだ。

それに、殴る蹴るもやっちゃダメなんだろう。どうしよう詰んでね?

 

「ウワァァァ!!」

 

本格的にどうしようかと悩み始めた時、叫び声が聞こえた。

声の方向を見れば、新八がペスの触手に捕まっており、放っておけば数分後には食べられて死ぬであろうことはすぐに理解できた。

 

「「新八ィ!」」

 

咄嗟に二人は新八を助けようと走り出した。

が、長谷川に銃を突き付けられ、動きを止めた。

 

「勝手なマネするなって言ってるでしょ。・・・多少の犠牲が出なきゃ、あの馬鹿皇子は分かんないんだよ。」

 

「テメェ・・・。その為にウチの従業員エサにするってか?どーやら幕府(てめーら)本当に腐っちまったんだな。」

 

「奴らとは共生するしかないんだよ。・・・腐ってようが俺は俺のやり方で国を護る。それが、俺なりの武士道だ。」

 

「つまんねー武士道。銀時の武士道のほうがまだマシだ、よっと!」

 

話は終わりだと言わんばかりに竹仁は後ろ回し蹴りを放ち、長谷川の手から拳銃をはじき飛ばす。

その回転力を殺すことなく化け物の方に向き直り、走り出す。

 

それと同時に、銀時も走り出す。

銃なんかで止められると思ったら大間違いだ、俺も銀時もそんな雑魚じゃない。

 

「たった一人の人間と一国・・・どっちが大事か考えろッ!!」

 

「しったこっちゃねーな、んな事!」

 

触手を避けながら突き進み、叫ぶ銀時。

 

(俺もそんな大層な頭してないしねぇ。)

 

「新八ィ!気張れェェェ!!」

 

「気張れったって・・・どちくしょォォ!!」

 

メキメキと、噛み砕かれないように全力で抵抗する新八。

そこへ、銀時が触手を足場にしながら走ってくる。

 

「幕府が滅ぼうが、国が滅ぼうが関係ないもんね!!」

 

「あー、全く全く、関係ないねー。」

 

そう言って新八の目の前にひらりと降り立つ竹仁。

 

と同時に、新八は自身の体に巻き付いていた触手が足下を滑り、化け物の体内へと吸い込まれていくのが分かった。

え、と間抜けな声を出し驚いていると、上からも下からも掛かっていた重圧が消える。

 

急に圧が消えたので体が後ろに傾くのを感じたが、竹仁に腕を掴まれたため化け物の体内にダイナミックお邪魔します、ということにはならなかった。

 

「ほいっと。・・あとは、あいつにお任せでー。」

 

そう言って彼は、こちらへ突っ込んでくる人物の姿を仰ぎ見る。

 

「俺は、自分(てめー)肉体(からだ)が滅ぶまで、背筋伸ばして生きてくだけよっ!!」

 

そう叫び体内へと突っ込んでいく銀時。刹那、化け物はゴパン、と大きな音を立てて大量の血を吐き出した。

当然のごとく口のあたりにいた新八と竹仁は巻き込まれた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?銀さん。竹仁さん。」

 

「大丈夫じゃねえ、主に服と口の中が・・・おぇ・・・。」

 

「あー新八、お前もな・・・。・・・戻ったらお風呂入ろう・・・。」

 

自分たちの血ではない血で血塗れになりながら、三人は長谷川たちの元へと向かう。

 

 

「オイ聞いておるのか!」

「今回の件は父上に報告させてもらうぞよ長谷川!!」

 

そこには、青筋立てて怒る腐ったプリンみたいな色をした皇子がいた。

 

「あぁ、やっぱりね。大層ご立腹だぞあの皇子。局長さん、どうするんだろうな。」

 

どうするのか。疑問を口にした次の瞬間、答えは目に見える形で示された。

 

「うるせーって言ってんだ!このムツゴロー星人!!!」

 

殴ったのである。

彼は、外交にとって最悪な結果しか招かないであろう最低な選択をしたのだ。

竹仁にとっては面白くて良い選択だったが。

 

「あ~あ!!いいのかなぁ~?んな事して~!」

 

「知るかバカタレ。ここは侍の国だ、好き勝手させるかってんだ。」

 

煙草の煙を吐き出しながら話す長谷川。

そこだけ切り取って見れば良いこと言ってる気がするし、格好も決まってるように見える。

しかし現実は違う。

 

「でも、もう天人取り締まれなくなりますね。間違いなくリストラっスよ。」

 

まだ年若い少年に現実を見せられるという悲しきおっさんの図が今完成してしまった。

 

「え?」

 

「何が「え」だ。他の星の皇子殴り飛ばしといてはい無罪放免、なんてなると思ってんの?」

 

「あっ・・・。」

 

「馬鹿だな。一時のテンションに身を任せるやつは身を滅ぼすんだよ。」

 

 

現実は熱を出した頭にいつでも冷たい風を吹き当ててくれる。

 

 




彼は一部の幕府関係者に対して反抗的な部分があります。たぶん。





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急転直下大騒動

寒くなってきましたね。

こたつでお絵描きと、お話を考えるのが最近の楽しみです。


ある日の昼下がり、竹仁はぼんやりと散歩をしていた。

 

銀時と新八が夕飯の買い出しに行くというので、自身もどこかへ出掛けようと思い立ったからだ。

 

適当に寄った甘味処でゆっくりと団子を食べたり、知り合いと軽い立ち話をしたりと、ただぶらぶらと何処へ行くでもなく歩き回っていた。

 

まさに平和な一日そのものだった。謎の叫び声が聞こえるまでは。

 

「チクショォォォォ!!」

「うわぁぁぁぁああ避けてええええええ!」

 

何事かと振り向こうとした。

が、上体に走った激痛と衝撃で、それは叶うことなく視界はブラックアウト。

 

「・・・っあ゛ぁ゛!?」

 

我ながら出したことないような声で目覚めた気がする。

 

・・・。意識を取り戻したはいいが、何だろうかこの状況。

目の前には新八。そして銀時に担がれている俺。流れていく景色。痛む身体。

 

あぁうんそういうことね、原チャリで俺を轢いて拉致ったと。

 

俺が何したっていうんだよ。

 

「もうお目覚めテレビは見ねえ!だから金出せ竹仁!!」

 

「どっちも知るかボケェェ!!テメーのせいで死にかけたわ!!」

 

「いやあのラリアット食らっといて一瞬で目ぇ覚ますとか化け物だよアンタ!」

 

ラリアット?

じゃあ俺はただ轢かれただけじゃなくて、銀時の腕に轢かれたって事?

いや故意で知り合いに轢かれるってのも普通に考えておかしいけど何で腕?

 

「つーかなんなんだよ!用があるなら止まって話しかけろ、わざわざ轢くな!」

 

「わざわざ轢くかアホ!用がある度にお前を轢いてたら原チャリが壊れるわ!」

 

「はぁ!?原チャリの前に俺が壊れるわ!!」

 

「ちょ、二人ともやめて!銀さんちゃんと運転して!また誰か轢いたらどうすんですか!?」

 

これ以上この状態でぎゃあぎゃあ言い合いを続けられたら確実に事故が起こる。

すでに一人轢いてしまっている時点で相当ヤバイが、罪を増やすのはさらにヤバイ。

 

「またって、すでに誰か轢いてんのかよ。・・・さっきから動くことも話すこともしないそいつ?」

 

「はい・・・。」

 

「さっさと医者に診せないとヤバいんじゃない?」

 

早く医者に診せるために、止まりもせず俺を拉致するという金の要求方法を行ったと。

いやお前ら財布は?夕飯の材料買ったらなくなっちゃったやつ?

 

険しくなる視線を新八の後ろに乗っている人物から逸らすと、後ろから来た黒の外車に乗る男がこちらを見ていることに気づいた。

車も人間も厳つい見た目をしているが、新手の私服警察だろうか。

 

もしそうならばかなりマズイだろう、今の彼らは罰則を受けて当然の状態だ。

原チャリに四人乗っているというぶっちぎりの違反を現在進行形でかましているのだから。

 

「銀時、もっと速度あげ、」

 

カチャ。

 

「ろ?」

「ちょっ、何ィィィ!?」

 

男が拳銃を取り出し彼らに向けたのだ。

ヤクザみたいな私服警察だな、と彼は思っていたが本当にヤクザだったのだ。

 

あれ大変だ、今碌に身動き取れない。ちょっ——

 

パン!パン!

 

銃弾が2発発射された。

しかし、突如広げられた何かにぶつかり、その2発の銃弾はポロポロ、と力をなくし落ちていった。

銃弾を防いだもの、それは傘だった。

 

「・・・傘で防いだ・・・?」

 

銃弾を防ぐ傘なんて、まるで聞いたことがない。

驚き呆気にとられていると、

 

ガシャコン。

 

普通の傘からは絶対に鳴らないような音が鳴る。

いや銃弾を防いでいる時点で十分普通じゃないのだが。

 

ドドドドドド!

 

更に普通じゃないことが起こった。

傘の先端からマシンガンの如く弾丸が発射されたのだ。

そのおかげでヤクザの乗っていた車は蜂の巣になり木に激突、大破。追うことはもう不可能だろう。

 

(・・・うわぁすごい。ちょうおもしろい。)

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「お前ら馬鹿デスか? 私・・・スクーターはねられたくらいじゃ死なないヨ。」

 

さらっと衝撃的なことを口にする少女に、彼らは心配したのがちょっと馬鹿みたいに思えてしまった。

 

「コレ、奴らに撃たれた傷アル。もうふさがったネ。」

 

そう言って少女は襟を肩のあたりまでめくり、傷のあったであろう部分を露わにする。

そこには傷の痕らしきものはあるが、少女の言葉通り傷はふさがっている。

 

「お前、ご飯にボンドでもかけて食べてんの?」

 

「この回復力なんだ、絶対アロンア〇ファはかけてるぞこの娘。」

 

そうでなければそのベ〇マ並みの回復力は得られない。

 

謎の少女に呆れつつも彼は壁に寄りかかり座り込む、まだ上半身の痛みが消えないのだ。

 

この少女のようにボンドを食べていれば、彼は一瞬でこの痛みから回復していたのだろうか。

 

(・・・食べてるわけないんだろうけど。だとしたら・・・)

 

「まァいいや。大丈夫そうだから俺ら行くわ。お大事に~。」

 

少女が無事であることを確認し、銀時と新八はこの場から去ろうと原チャリに乗った。

 

ブォン。ッズガガガガ。

 

が、足踏みならぬウィリー踏みをするだけであった。

 

「おい竹仁乗るんじゃねえ降りろ。重量オーバーだろーが。」

 

「いや乗ってねえよ横にいるだろ。」

 

つーか俺に原チャリをウィリー状態にさせるほどの体重はない。

 

竹仁の言葉に銀時たちが振り返ると、そこには片手で二人乗った原チャリを止めている少女の姿が。

 

「ヤクザに追われる少女見捨てる大人見たことないネ。」

 

「この国ではな、原チャリを片手で止めるやつは少女とは呼ばん。マウンテンゴリラと呼ぶ。」

 

狩猟会にマウンテンゴリラの捕獲要請でも出すか・・・。

 

彼が呑気にそんなことを思っていると、先ほどのヤクザによく似た格好の男が数人現れた。

 

「いたぞォォこっち「オラァァアア!」ブグゥ!?」

 

竹仁は、少女を追うヤクザというのは奴等ではないかと、姿が見えた瞬間考えたがそれは大正解だったようだ。

 

一瞬で立ち上がって一番前にいた男の顎を蹴り上げ、足を素早く戻し逆の足で男の鳩尾部分を蹴って後ろにいた男たちにぶつける。

 

「ストライクゥッ?!」

 

脚を上げた状態で後ろから急に襟を引っ張られたため、彼は若干体勢を崩してしまう。

 

「目ぇ付けられるような事すんじゃねえよバカタレ!」

 

銀時に怒鳴られつつすぐに体勢を立て直し、仕方なく銀時たちの後を追う。

 

「あだだだ・・・。」

 

脚をブンブンしていたとき痛みをあまり感じなかったが脳内麻薬でも出ていたのだろうか、今になって痛みがダッシュで追いかけてきている。

 

「ああいう人たちに速攻で喧嘩吹っ掛けるやつがいますか普通!それともアンタが馬鹿なんですか!?」

 

「どいつもこいつも馬鹿馬鹿うるせェ!こんな女の子がヤクザに追っかけられてたら助けるだろ普通!」

 

「いやテメーの場合は面白がってるだけだろ。」

 

見抜かれたと言わんばかりに彼はスッと視線を逸らした。

 

確かに、あいつら叩いたら何かもっと出てくるんじゃないかなぁ、とか彼は思ったが。

しかしただ面白がって、って訳ではない。

面白いもの見せてくれた少女に対するお礼も含まれている。はずだ。

 

「・・・そもそもお前がコイツ轢かなきゃこんな事にはなってない!」

 

「それを言うならコイツがヤクザに追いかけられてなきゃこんな事にはなってねえ!」

 

そう、銀時がこの少女を轢かなければ彼が奴らを蹴飛ばすなんて事態にはならなかった。

なのに轢いた張本人ときたら、轢いた事を被害者である少女のせいにしている。

 

「・・?私、江戸(ここ)来たらマネー掴める聞いて、遠い星からはるばる出稼ぎに来たヨ。 私のウチ、めっさビンボーネ。三食ふりかけご飯。せめて三食卵かけご飯がいいネ。」

 

「いやそれあんま変わんないんじゃ・・・。」

 

三食ふりかけご飯が卵かけご飯に変わったって、確実に飽きる。

 

(俺だったら変わり映えしなさ過ぎて拒絶反応起こるぞいつか・・・。)

 

「そんな時奴ら誘われた。ここで働けば三食鮭茶漬け食べれるっテ。」

 

「なんでだよせめて三食バラバラのもの食べようよ。」

 

何故誰も彼も三食統一しようとするのか。最近の流行りか何かだろうか。

そんなことを思いながらT字路を右に曲がった時、ゴミ袋の山が見えた。

 

「あ、お前らそこのゴミと同化しといて。」

 

「オメーはどうすんだよ。」

 

「みんなのサンタさんになる!」

 

蔑むような視線を感じるが今からサンタさんになることは事実なので無視をする。

そしてゴミ捨て場からゴミ袋を一つ取り、来た道へ戻る。

 

「・・・サンタさんからの素敵な贈り物だ受け取れェェ!」

 

竹仁は、手に持つゴミ袋の中身を走ってくるヤクザたちに向かってぶちまけた。

袋の中には生ごみが詰まっていたらしく、周囲に異臭が漂う。

 

すぐさま銀時たちが隠れているゴミ捨て場とは逆方向の、左の通路へと走り出す。

少しでも彼らが動きやすくするために。

 

しかし、ヤクザたちの狙いはあの少女らしいので効果が出るかは不明だが。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・あぁ痛い疲れた帰りたい・・・帰っちゃおうかな。よし、帰ろう。」

 

息を整えるためゆっくりと歩く。

ヤクザたちは、撒いたらしく途中からその姿を見ることはなかった。

 

(・・・まぁ、アイツらが見つかったとしても問題ないか、怪力ボンド少女と銀時がいるし。・・・ん?)

 

竹仁の歩いている方向から原チャリに乗った銀時がやってくる。

その背後に人影が無いので1人なのだろう。

何故1人でいるのか。事情を聴くため正面から原チャリに向かって走っていく。

 

「うぉぉォォォ!?」

 

キキィィィ。

ぶつかる少し手前で、原チャリはうるさい音を立てながら左へ逸れ、止まった。

計画通り。顔に出さぬようにして歩み寄る。

 

「あぶねーだろうが!!テメーついにトチ狂ったか?!」

 

「狂ってない狂ってない。ちょっと話を聞きたくてさ。アイツらどうしたんだ?」

 

「ああ・・・今ジャンプ買うついでに様子見に行くところ。」

 

「・・・うん、つまり置いてきたのか。サイテーだな全く。後ろ乗っけろ、俺も行く。」

 

武装した怪力ボンド少女がいるとはいえ、子ども2人をよくあの状況でほっぽったものだ。

見つかっていたらただでは済んでいないだろう。

 

「え、お前乗ると進まなくなるからヤダ。」

 

「だから俺じゃねえよッ!!!」

 

銀時の頭をヘルメットの上からスパーンと叩きつつ、後ろに乗る。

 

いてぇなこの野郎、などと銀時はぐちぐち言うが、そんな事言っていたって仕方がない。

 

発進させた原チャリは少しずつ速度を上げていく。

 

迷いなく進んでいるあたり、彼らの居場所を知っているのか・・。と竹仁は思った。

そして、風を切って、次々に景色を追い越して、走る。

 

 

「・・・なぁ銀時。一つ聞くけどさ。」

 

「あ?どーした?」

 

「・・・なんで線路走ってんの?」

 

走っている、そう、線路を。

今彼らは線路を走っており、その横を普通に電車が走っている。

 

スッ、と竹仁の目が据わる。

 

「んー、もし捕まってたらゴミ箱に詰め込められて、線路に落とされて殺されるんじゃないかなって思ったから。」

 

「・・・うん、そっか。・・あぁ、少しでも運転ミスってみろ。俺たち死ぬから。」

 

もう彼には言い返す気すら起きない。

99%で当たりすらしないその推測のせいでこんな危険な事をしているのだ。

本当にふざけている。と。

 

「おー、いた。」

 

2人の視線の先には、ゴミ箱に入った新八と少女がいた。

・・本当にこの世界はふざけている。

 

「・・・・。」

 

もう、ほんとに何も言う気にならなかった。

 

(何コイツ計画とか知ってたの?パンチパーマになったことあるの?)

 

銀時がこの町に来てパンチパーマになった事は無いと分かっているが、なった事あるんじゃないかと。彼はそう考えてしまう。

 

そんなどうでもいい事を考えている間にも、どんどん電車は2人が詰め込まれているゴミ箱に近づいていく。

 

「うわァァァァ!」

 

「ったく、手間かけさせんじゃねーよ!」

 

「、銀さん!!」

 

銀時が、腰に差した木刀を抜く。

なんとなくやる事が分かってしまったが、電車に轢かれるよりはいいだろうと竹仁は心の中で手を合わせた。

 

「歯ァ食いしばれッ!」

 

「えっちょ!待ってェェェ!」

 

待っていたら少女と新八の合いびき肉が完成してしまう。

こねて焼いたらハンバーグの完成だ。

 

なりたくないなら我慢してくださいごめんなさいご愁傷さまです。

 

ドカァンッ!!

 

「っぶねェ!」

 

銀時が全力でゴミ箱を打ち上げたため、後ろにいた竹仁の元まで全力スイングの木刀が届いた。

そのままだったら直撃、死亡。だっただろう。

しかし、右手でギリギリ木刀を受け止めたので右手の犠牲だけで済んだ。

 

「ぎぃやぁああああああああ!!」

 

新八の悲鳴に、竹仁は、良くて骨折、悪くて骨折+内臓が大変な事に・・・なんて、不謹慎な事を考えてしまった。

 

「はぁ、生きてっかな。そっち回り込んで落ちたとこ行くぞー。」

 

「おー、分ぁったよ。あー疲れた。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

結果的には生きていたし、骨折などはしていなさそうだった。

打撲程度で済んだのだろう。

 

そして、彼らは駅のベンチに座っていた。

あの少女だけは連中の一人であろう男のパンチパーマを剃刀でスキンヘッドにしている最中だが。

 

無料でスキンヘッドにしてくれるとはなんとも優しい少女だ。

 

と、心に思ってもないことを無理矢理思ってみる。

そうでもしなければ数時間放心状態になりそうだからだ。

 

別に、彼にとって死んでしまうのはいいが、電車に轢かれたらとんでもなく痛そうだから。

 

「助けに来るならハナからついてくればいいのに。」

 

「わけのわからない奴ネ・・・シャイボーイか?」

 

「いやジャンプ買いに行くついでに気になったからよ。死ななくてよかったね~。」

 

「僕らの命は二百二十円にも及ばないんですか。」

 

ジャンプを広げて話す銀時に対して新八が切れている。

まあ、誰だって命を粗末に扱われたら怒るのが普通だろう。

 

「・・・。」

 

「おっ電車来たぜ早く行け。そして二度と戻ってくるな災厄娘。」

 

「うん、そうしたいのはやまやまアルが、よくよく考えたら故郷に帰るためのお金もってないネ。だからも少し地球(ここ)に残って金貯めたいアル。」

 

「ということでお前のところでバイトさせてくれアル。」

 

バリッ。

 

隣から何か音が聞こえたが、耳に入っても頭では理解できない。

少女の先程の言葉を頭の中でゆっくり処理するだけでもうすでに限界だからだ。

 

「じょっ冗談じゃねーよ!!なんでお前みたいなバイオレンスな小娘を・・・」

 

銀時が騒ぐも、言ってる意味が彼にはやっぱり理解できない。

 

「なんか言ったアルか?」

 

ドゴォ。

 

少女の言葉も、聞こえた音も何なのかどうしても理解できない。

 

「言ってません。」

 

 

「・・・・・・・あ?」

 

ようやっと理解した。

お金もってない、お金貯めたい、だから万事屋でバイトしたい。

そう、少女は言ったのだ。

 

「はァァアアアッ?!!」

 

「うるせーアル。」

 

ゴスッ。

 

(・・・かおいたい・・・。)

 

彼はついに永い放心状態に突入した。

 

 




「・・万事屋でバイトとか、無賃ろうど」

「何か言ったか?」

「・・いや?」


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人にはいろいろある

( ゚д゚)


先日、万事屋にもう一人、従業員が増えた。

 

名を神楽という。

見た目は可愛らしい少女なのだが、それはそれは大層なバイオレンス娘であった。

 

 

「おかわりヨロシ?」

 

そしてその少女が今お椀片手にご飯のおかわりを要求した。

それだけなら別に普通なのだが、その回数が尋常ではない。

確実に両の手で足りない回数をおかわりしている。

 

この娘、胃袋もバイオレンスであった。

 

「てめっ何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつーの。」

 

おかわりを要求されまくっているお登勢は流石に切れ気味だ。

神楽を軽く睨めつけてしまっている。

 

「ここは酒と健全なエロをたしなむ店・・・親父の聖地スナックなんだよ!そんなに飯食いてーならファミレス言ってお子様ランチでも頼みな!!」

 

「ちゃらついたオカズに興味ない、たくあんでヨロシ。」

 

「食う割には嗜好が地味だなオイ!!・・・ちょっとォ!!銀時!!何だいこの娘!!もう5合も飯食べてるよ!!どこの娘だい!!」

 

お登勢が、米を大量に消費する癖にご飯の付け合わせが地味すぎる神楽に対してツッコミを入れる。

そして流石に堪忍袋の緒が切れたのか銀時たちの方を向き怒声を上げる。

 

しかし、お登勢の視界にはげっそりとやつれた銀時と新八、二人の姿が。

 

「5合か・・・まだまだこれからですね。」

 

「もう、ウチには砂糖と塩しかねーもんな。」

 

二人とも食に関して一般家庭じゃあり得ない会話をしている。

相当な状況にまで追い詰められているのが見て分かる程だ。

 

あんなに憔悴して、どうしたのだろうかとお登勢が疑問に思ったとき、

 

ガラガラ...

 

店の扉が開き、ビニール袋を持った竹仁が中に入ってきた。

 

「ちょっと竹仁!〇ャイアント白田も真っ青なこの娘、一体どーしたんだい!?」

 

「さあ?拾った。まあどうにかしといてくれ。」

 

お登勢の怒声に対し竹仁は適当に答えて、銀時たちの座るテーブルへ向かう。

 

机にビニール袋を置いてソファに座り、二人に袋の中にある物を適当に食べるよう促す。

 

「ほら、適当に買ってきたから食べろ。・・・あの娘の分はババアに任せる。」

 

できればここであの娘の胃袋を少しでもどうにかしておきたい。

何故なら、今しがた万事屋に置いてきた食料では多分、絶対、ほぼ100%足りないからだ。

 

「うわぁありがとうございます竹仁さん!早速いただきますね!」

 

「おぉ、助かる。・・・ところで、食料は大量に買ったか?」

 

「・・・まぁ、買える分だけは買った。」

 

既に財布の中身は小銭しかない。

 

さて、あの食料たちで一体どのくらい持つのか。

もう考えたくないので思考を振り払うように団子にかじりつく。

 

もぐもぐと団子を咀嚼していると、

 

「オイぃぃぃ!!まだ食うんかいィィ!!ちょっと誰か止めてェェェ!!」

 

店内にお登勢の叫び声が響き渡る。

あの神楽の脅威でしかない食べっぷりを見て、叫ばない、驚かない輩はいないだろう。

 

「・・・銀時。そういえば神楽はどんぐらい食べてんだ?」

 

「あー、5合・・・いやそれ以上だな・・・。」

 

「本当に胃袋化け物だなあの娘は。・・・あ、店が破産するかどうか試そうぜ。俺アイツに賭けッ!?」

 

ゴス、と脳天をババアに殴られた。結構痛い。

 

「ふざけた娘を連れてきといてふざけたこと言うんじゃないよ。全く、あの娘は一体何なんだい。」

 

お登勢が呆れた顔で隣に座り、神楽について尋ねる。

 

「ええと・・・。地球(ここ)に出稼ぎに来たらしいんですけど、お金がなくて故郷に帰れなくなっちゃって、それで・・・何ていうか、おど・・・、預かった、っていうか。そんな感じです。」

 

それに対して新八が軽く説明をする。

 

「脅されて」と言いかけていた気がするがつっこんでも面倒くさいので聞かなかったことにする。

 

「ふぅん・・・。アンタもバカだねぇ。家賃も碌に払えない身分のクセに、あんな大食いどうすんだい?言っとくけど家賃はまけねぇよ。」

 

強制的に捨てようとしても腕力で制圧して居座るだろう。

痛い目に遭って更に無駄骨でした、なんてなるぐらいなら最初から諦めて置いておいたほうがいい。

だが、痛い目を見ない代わりに食料危機はこの先も続くだろう。

 

「んー・・・本当に、どうするかね。闇の商売でも始めるか。」

 

竹仁が99%冗談で構成された冗談を呟く。

警察の厄介になるのは嫌だから、犯罪とかそういったものには手を染めないようにしているのだ。

 

「やるならテメー一人でやってろ。・・・オレだって好きで置いてる訳じゃねぇよあんな胃拡張娘。」

 

銀時が神楽に対して軽く悪態をついたその時。

 

ガシャン!

 

銀時の横顔にコップがヒットし、破片が周辺に散った。

コップクラッシュをかまされた本人は机に倒れ伏している。

かなり強烈な一撃だったらしい。

 

「なんか言ったアルか?」

 

「「「言ってません。」」」

 

満場一致の答え。

神楽に下手な事を言えば何をされるか分かったものではない。

 

「アノ、大丈夫デスカ?」

 

恐ろしいバイオレンス娘に呆れ、視線をくわえた串の先に移した時カタコトの日本語で銀時に話しかける女性が現れた。

 

「コレデ頭冷ヤストイイデスヨ。」

 

「あら?初めて見る顔だな、新入り?」

 

その女性を視界に映すが確かに見たことがない。

恐らく入って一週間経つかどうかぐらいの新人さんだろう。

 

「ハイ、今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス。」

 

「天人か。アンタも神楽みたいにどっかから出稼ぎしに来たのか?」

 

見た目からして地球人ではないだろう。

ネコミミ生やした日本語カタコト地球人なんているわけない。

 

「ああそうさ、実家に仕送りするため頑張ってんだ、キャサリンは。」

 

「大したもんだ、どっかの誰かなんて己の食欲を満たすためだけに――」

 

ガシャン!

 

人間とは、過ちを犯して学習していく生き物。

しかしこの者、たった数分前の過ちから一片の学習すらしていない様子。

 

「なんか言ったアルか?」

 

「「「「言ってません。」」」」

 

溜め息をつき竹仁は、チラ、と銀時を見る。

この馬鹿の頭の中身を見てみたいもんだ、とそんな事を思いながら馬鹿の頭にガラスの破片をブスリと刺した。

 

「いってえな!!何しやがんだテメェ!!」

 

刺した瞬間勢いよく手を引っ叩かれ、銀時の頭に一瞬だけ装着した破片はどこかへ飛んで行ってしまった。

 

「いや、何べん目で脳みそ飛び出てくるかなって思って。」

 

「俺の頭は黒ひげ危機一髪じゃねえよ!!」

 

銀時が頭から血を流しながら叫んだ時、ガラガラ、と店の扉が開いた。

 

「すんませーん。」

 

入ってきた人物は警察手帳をこちらに見せてきたため、警察だろう。

もう少し早く入ってきてたら竹仁は殺人未遂で現行犯逮捕でされていたかもしれない。

 

「こーゆうもんなんだけど、ちょっと捜査に協力してもらえない?」

 

「なんかあったんですか。」

 

「うん、ちょっとね・・・」

 

警察が言うには、不法入国してきた天人による店の売り上げを持ち逃げする事件が多発しているらしい。

そしてこの辺にはそういった労働者が多いため、聞いて回っている、と。

 

「知ってますよ犯人はコイツです。」

 

間髪入れず銀時が神楽を指さしそう告げた。

 

ボキッ。

 

間髪入れず神楽が銀時の指を折った。

 

「おまっ・・・何さらしてくれとんじゃァァ!!」

 

「指が逆の方向いてる。スゲェ。」

 

指が曲がり得ない方を向いているのをこんな間近で見るのは初めてだ。

まあ他人だから感心していられるんだろうけれど、自分がそんな目に遭うなんて考えたくない。

 

「下らない冗談嫌いネ。」

 

「だとしても普通人の指へし折るか?」

 

何かある度にこんなバイオレンスな事を故郷でもしてきたのだろうか。

神楽に地球の常識は全く通用しないらしい。

 

「てめェ故郷に帰りたいって言ってたろーが!!この際強制送還でもいいだろ!!」

 

「そんな不名誉なご帰還ごめんこうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来るときも成功した、何とかなるネ。」

 

「不名誉どころかお前、ただの犯罪者じゃねーか!!」

 

ぎゃあぎゃあ。

 

うるさいったらありゃしない。

5本目の団子の二つ目を咀嚼し、目の前にいる騒々しい二人を眺める。

 

無賃乗車に不法入国・・・。

入国管理局は機能しているのだろうか。

いや、トップがあんなおっさんだった時点でもうダメか、大丈夫かな日本。

 

「・・・なんか大丈夫そーね。」

 

警察の人が安心したような呆れたような声でお登勢に言った。

 

「ああ、もう帰っとくれ。ウチはそんな悪い娘雇ってな――」

 

ブォンブォン、ブォンブォンブォン。

 

店の外から聞きなれた音が鳴った。

しかしいつも乗っているその持ち主は目の前にいる。

 

だったら、誰が?

立ち上がり、外が見えるところまで移動する。

 

 

「アバヨ、腐レババア。」

 

乗っていた人物はキャサリンだった。

原チャリの後ろに、盗品であろう物を大量に載せている。

 

「キャ・・・キャサリン!!・・・まさかキャサリンが・・・。」

 

慌てて扉から顔を出し、走り去るキャサリンを見るお登勢。

 

真面目な従業員だと思っていた人が、実は巷で騒がれている犯罪者だったらそれは誰でも驚くだろう。

 

「お登勢さん、店の金レジごとなくなってますよ!!」

 

「あれ、俺の原チャリもねーじゃねーか。」

 

自分の乗っている原チャリの音も聞き分けられないのだろうか。

それとも聞き分けた竹仁がおかしいのか。

 

「あ・・・そういえば私の傘もないヨ。」

 

一般的な傘はそう高く売れるわけもないのだろうが、夜兎族の持つ傘はもしかしたら高く売れるのかもしれない。

 

・・・・。

 

「あんのブス(あま)ァァァァァ!!」

「血祭りじゃァァァァ!!!」

 

この二人、怒り心頭である。

 

「ちょっ・・・何やってんの!?どこいくの!?」

 

パトカーの運転席と助手席に乗り込む銀時と神楽。

止めなければと思ったのだろう、狼狽えつつも遅れてパトカーの後部座席に乗り込む新八。

 

「あー、ご愁傷様キャサリン。お前のことは忘れた。」

 

手を合わせてご冥福を祈る。

 

「おいィィィ!ちょっと待ってェェェ!それ、俺たちの車なんすけど!!」

 

怒りの火がついてしまった彼らが警察の制止をまともに受け取るはずもなく。

 

ゴォォォオ・・・

 

彼らは怒りのままに、行ってしまった。

後は野となれ山となれ俺は知らん。

 

「竹仁、アイツら追いかけるよ。・・・悪いけど、あっちのパトカー借りるよ!」

 

お登勢が竹仁の服をつかみパトカーの元まで引き摺っていく。

知らんぷりはさせてもらえないらしい。

 

「はァ、わーかったよ・・・。俺も朝から血みどろニュースは見たくないし。」

 

竹仁は運転席に、お登勢は助手席に乗る。

エンジンをかけ発進、銀時たちの向かった先へとパトカーを走らせる。

 

「まさか、あの女が窃盗犯とはねぇ。泥棒は嘘がお上手だな。」

 

「そうだね、まったく、騙されたよ。」

 

お登勢は窓の外を見ているため、竹仁からは表情を見ることはできない。

 

「・・・ま、これからは用心しておくこったな。アンタのお人好しは直りそうもないし。」

 

世の中にはキャサリンのように自分を隠し、嘘をついて騙そうとしてくる輩がいる。

お登勢のようにあまり人を疑わないようなお人好しは簡単に騙されてしまうだろう。

 

「あ・・・いたぞ。」

 

川の向こう側にある路地から出てきたのは件の犯罪者。

そのキャサリンを見つけたのはいいけれど。

 

ボン!

 

直後、路地から銀時たちの乗っているであろうパトカーが出てきた。

 

(え?あそこ通ったの?お前ら何してんの?)

 

すごい勢いで追いかけていたのだろう、曲がることも何もできずパトカーは川につっこんでいった。

 

(本当にお前ら何してんの?)

 

「くく、っふふふ・・・ほらババア、行くぞ、っふふ。」

 

今はキャサリンの方を優先するつもりらしい。

銀時たちならば大丈夫だろうと。

 

「・・・何笑ってんだい・・・。ハァ。」

 

彼にとっては下手な漫才よりも面白いのだろう、笑いを止めようとしているのだろうが止まっておらず、肩が少し震えている。

 

パトカーから降り、口元を手で押さえ俯いた状態でお登勢についていく竹仁。

 

「そこまでだよキャサリン!!」

 

橋向こうにいるキャサリンをお登勢が大声で呼び止める。

その声に気づいたらしく、こちらを見ている。

 

「残念だよ。あたしゃアンタのこと嫌いじゃなかったんだけどねェ。」

「でもありゃあ、偽りの姿だったんだね。・・・家族のために働いてるっていうアレ。アレもウソかい。」

 

「お登勢サン・・・アナタ馬鹿ネ。世話好キ結構。デモ度ガ過ギル。私ノヨウナ奴ニツケコマレルネ。」

 

流石に空気を読んで黙る竹仁。

下手に口を開けばお登勢に殺されるかもしれないという危機を感じたからだ。

 

「こいつは性分さね、もう直らんよ。でもおかげで面白い連中とも会えたがねェ。」

 

「ある男はこうさ。ありゃ雪の降った寒い日だったねェ――――」

 

 

 

気まぐれで行った旦那の墓参り。

お供え物を置いて立ち去ろうとしたが、墓石が口をきいた。

「オーイババー、それまんじゅうか?食べていい?腹減って死にそうなんだ。」と。

 

「こりゃ私の旦那のもんだ、旦那に聞きな。」

 

そう言ったら、間髪入れずそいつはまんじゅうを食べ始めた。

 

「なんつってた?私の旦那。」

 

 

 

「――――そう聞いたらそいつなんて答えたと思う。」

 

「・・・・。」

 

竹仁は無言で短刀の柄に手をかけた。

キャサリンがこちらを向き、原チャリを発進させようとしているからだ。

 

しかし、お登勢に手で制されたため仕方なく手を下ろした。

 

「死人が口きくかって。だから一方的に約束してきたって言うんだ。」

 

「この恩は忘れねェ。アンタのバーさん・・・老い先短い命だろうが――」

 

――この先はあんたの代わりに俺が守ってやるってさ。

 

 

 

彼は、無言を貫き通せなかった。

 

「っふ、あはは。・・・あー、今日は楽しいことがたくさん。よく眠れそう。」

 

「一日中退屈だったらどーなるんだよ?」

 

「寝ないで探すかな。面白そうなこと。」

 

もしも退屈さに困ったなら、手っ取り早く目の前のバカを揶揄いに行くだろう。

 

「さて、犯人はどーにかなったし。俺、先万事屋戻ってるわ。じゃーなー。」

 

手をヒラヒラと振って万事屋の方へと歩き出す。

 

 

(近くに窃盗犯。あー怖いなー。)

 

テクテクと歩きながら、身震いすらしない体を両手でさすり、薄く笑った。

 

 

 

 




今年もあと少しですね。


みなさん、良いお年をお過ごしください。

私も、頑張って良いお年を過ごします。


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元には戻せません






「俺が以前から買いだめていた大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手ェ挙げろ今なら4分の3殺しで許してやる。」

 

「・・・んー、犯人が手ェ挙げなかったら?」

 

「全員殺す。」

 

「おかしいだろ。」

 

銀時の普段は死んだ魚のような眼が、今日は元気に活動中だ。

とっておいたチョコを食べられたせいで。

 

「4分の3ってほとんど死んでんじゃないスか、あと僕関係ないんで殺さないでくださいよ。」

 

新八は呆れ顔でお茶を飲んでいる。

銀時の甘い物に対する執着は常人が呆れてしまうほどだ。

 

「またも狙われた大使館。連続爆破テロ凶行続く・・・」

「・・・物騒な世の中アルな~、私恐いヨ、パピー。マミー。」

 

いきなり関係ない話題を話し出した神楽の鼻からは、赤い血が。

話題を変えようとする行動はやましいことを隠す為などと言われたりもするが、彼女の場合は・・・。

 

「・・・狙われてるのは大使館だし、日常生活に問題はないだろ。うん、気にしない気にしない。」

 

「話題変えてんじゃねーぞオイ。ったく幸せそーに鼻血たらしやがってこの娘・・・。美味かったか俺のチョコは?」

 

神楽の両頬を手でガッ、と掴み尋問する銀時。

あの鼻血と不自然さから、彼女が犯人だと断定したようだ。

 

「チョコ食べて鼻血なんてそんなベタな~。」

 

「そうだぞ銀時、神楽の鼻血はチョコ関係ないかもしれないじゃん。4分の3ぐらいは俺が食べたし。」

 

本に栞を挟み、膝の上に置いてさらっと自白する竹仁。

他人のチョコをほとんど滅した事について隠す気はないようだ。

 

「ふざけんなほとんどオメーが食ったんかい!!4分の3も食べてよく平気だなお前は!?」

 

「俺をなめんなよ、その程度の量じゃ鼻血なんて出ねーわ!!」

 

「いらないよその自慢!!全く羨ましくないから!!」

 

「通りで少なかった訳ヨ!!チョコ返せオルァァァ!」

 

ぎゃあぎゃあと騒がしくなる万事屋。

少し前までこんなに騒がしくなることはなかった。

 

「無茶言うな!もう既に胃の中チョコの敗戦で決定――」

 

ドカン!

 

「「「「!?」」」」

 

突然、四人の騒がしい言い合いを止めるような音が響いた。

何事かと竹仁は本を机に置いて立ち上がり、全員が玄関へと向かった。

 

「なんだなんだオイ。」

 

玄関の外へ出て見えたのはスクーターの事故現場で、先程聞こえた音はその衝突音だったようだ。

 

「事故か・・・。」

 

起きた事を確認するように銀時が呟いた。

運転手は死んでいるようには見えないし、目立った怪我人もいなさそうなので恐らく大事には至っていないだろう。

 

「くらああああ!!ワレェェェェェ!!人の店に何してくれとんじゃアア!!死ぬ覚悟はできてんだろーな!!」

 

いや、大事に至りそうだ。

 

お登勢がスクーターの運転手の胸倉を掴みブチギレている。

事故で生きていたとしても今降臨した魔王の怒りによってあの人は死ぬだろう。

 

「手ェ合わせてんじゃないよ!ったく、早く止めなきゃ。」

 

ベシッ、と新八が静かに合掌していた竹仁の頭を叩く。

 

叩かれた頭をさすりながら彼は新八の後について階段を降り、お登勢の元へ向かう。

 

「よっしゃ!!今、永遠に眠らしたらァァ!!」

「お登勢さん怪我人相手にそんな!」

 

新八が、今にも運転手に殴り掛かりそうなお登勢を止め、運転手の怪我の状態を確認する。

 

「・・・こりゃひどいや。神楽ちゃん救急車呼んで。」

 

「こいつ電話の使い方とか「救急車ャャァアア!!!」使う以前の問題かよ!!」

 

そんな方法で来るなんて誰が想像できただろうか。

予想の範囲外から豪速球を投げてくるもんだから避けるに避けられない。

 

「誰が原始的な呼び方しろっつったよ。」

 

「せめて病院まで走るとかさ・・・。」

 

地面を良く見ると、手紙が多く散らばっている。

 

「飛脚かアンタ。届け物エライことになってんぞ。」

 

銀時がしゃがみこんで手紙を1つ拾い上げる。

こんなことになっては仕事どころではないだろう。

 

すると、飛脚のおじさんが銀時に届け物の1つであろうものを差し出す。

 

「こ、これ・・・。」

「これを、俺の代わりに・・・届けてください、・・・お願い。なんか大事な届け物らしくて、届け損なったら俺・・・クビになっちゃうかも。お願いしまっ・・・。」

 

そう言って飛脚はガクリと気絶してしまった。

 

「オイッ!」

 

急に頼まれた届け物に、若干見つめあう4人。

 

「場所とかは、書かれてなさそうですね。」

 

「あぁ、住所だけだな。」

 

「ふぅん・・・。んじゃ、行ってらっしゃい。俺本読むから。」

 

住所を見たが、少し遠そうだし面白くなさそうなので3人に丸投げする。

事故に関しては、すぐに救急車が到着して片付けもさっさと終わるだろう。

 

「ハウス。ポチ、いい子にしてろよ~。」

 

「テメーを地獄に届けてやろうか。」

 

軽口を叩きあい、竹仁は万事屋に戻り、彼らは届け先へと向かった。

 

 

 

ソファに座り、本を広げて読み始めるが何故か途中で読む気がなくなってしまった。

読む気が無いのに本を広げていても仕方がない。

そう思い、彼は本を閉じてソファの上に置いた。

 

ふと、机に置いてある神楽が広げていた新聞に彼の目が留まった。

 

 

『またも狙われた大使館 連続爆破テロ凶行続く』

 

 

大きく書かれた見出し。

それは最近発生している攘夷浪士による事件だった。

 

「・・・。」

 

警察はこの連続爆破テロの犯人を逮捕することはおろか、2回、3回と爆破を止める事も出来ていない。

 

大使館は常駐の警備員に加えて更に警備を固くしているはずで、正面はもちろん周囲からの侵入は難しいだろう。

 

攘夷浪士達だってただのバカの集団ではない。

中には頭のキレるものもいる。

 

 

・・・・・・・。

 

彼らが先程事故を起こした飛脚から受け取った、大事だという届け物。

その届け物に書かれていた住所は、向こうの方の地域。

 

そこには――

 

「・・・。」

 

まさかと思いつつも急いで外へ出て、下を見る。

 

そこには、スクーターに乗って逃げようとしている飛脚のゲジ眉男が。

 

(そうか・・・はめやがったな。)

 

手すりを飛び越え、上からスクーターを蹴倒す。

倒れた男に跨がり、腕を交差させて襟を掴み窒息しない程度に頸部を絞めあげる。

 

「お前らの(かしら)はどこだ、名前も教えろ。一応な。」

 

「うぐっ、しら、ねぇっ、ぐう!」

 

「そうか、言わなきゃ首へし折る。」

 

「わかっ、いう!いけだやホテルのっ、じゅうごかいっ、かつら・・・こたろう、さんだっ。」

 

この男によれば、池田屋ホテルの15階にこの男を含めたテロリストたちを纏めあげている桂 小太郎がいるらしい。

 

(本当だったら笑っちまうなぁ・・・。)

 

ぐ、と手に力を込め失神させる。

 

ぐったりしている男を担いで万事屋に戻り、縄で両手両足を縛り上げる。

 

また男を担いで下まで戻ってスクーターに乗り、届け物に書かれていた住所の地域に存在する、戌威星大使館へと向かう。

 

 

ぶーん。

 

 

(・・・いい子にしてられなかったなー。)

 

銀時たちに伝えにいくのだ。

どうも悪い子です、悪いことしてきます、と。

 

ちなみに爆破を止める気は最初からありません、大使館がどうなろうが知ったこっちゃないので。

 

ぶーんとスクーターを走らせ戌威星大使館に着いたが、そこにあるのは爆破の痕と警備兵、警察、野次馬ぐらいで、銀時たちの姿はない。

 

もしかしたら捕まってたり、爆破したのが銀時たちの届け物だと他の者たちに知られ、逃げたのかもしれない。

近くにいた野次馬に、当たり障りないように尋ねる。

 

「また爆破ですか。流石に犯人捕まりました?」

 

「ん?いや、逃げたらしいんだが、4人グループだったらしい。こわいねぇ、さっさと捕まえてほしいもんだ。」

 

(4人・・・そうか・・・。)

 

逃げたということは、投げ入れたり何なりして敷地内のあの場所で届け物が爆破してしまったのだろう。

そして、逃げようとして攘夷浪士の誰かに連れていかれた。

 

今頃攘夷浪士への勧誘でもされていそうだ。

 

 

・・・全くもって最悪だ。

 

「てかアンタ、何持ってんの?それ、人じゃ」

「あざっしたー。」

 

いっけね、コイツ持ってきてるの忘れてた。

 

野次馬の言葉を無視して竹仁は池田屋ホテルへとスクーターを走らせる。

 

 

ぶーん。

 

 

「・・・っは!?」

 

「おぉ、目覚めたか。下手に動いてみろ地獄に速達で運んでやるから。」

 

勿論、本気で()る気はない。

ただの脅しである。多分。

 

池田屋ホテルに到着し、スクーターを捨て置いて中に入り階段で15階まで駆け上がる。

 

 

バン、と襖を開けると、予期していなかった人物の登場に3人が驚く。

 

「竹仁?!」

「竹仁さん?!」

「竹ちゃん!」

「む?お前の仲間か?・・・!」

 

竹仁を見、すぐに部下が縛られた状態で担がれていることに気づいたのだろう。

桂は若干険しい目つきで竹仁を見ている。

 

その部下と思われる者たちの中には刀に手をかけている者がいたりと、かなり敵視されているのが分かる。

 

「お仲間さんとの感動の再会だ、泣いて喜ぶがいい。」

 

にっこりと笑って畳の上に縛られた男を捨てる。

その男を見て銀時たちは理解したらしい。

自分たちが踊らされたことに。

 

「・・・ソイツは、飛脚の・・・。そうか、俺達ゃ踊らされたっつうわけか。」

 

「竹ちゃん。ソイツすっごいプルプルしてるヨ。何したアルか?」

 

神楽にそう言われ、彼は男を始めてちゃんと見た。

涙目で小刻みに震えており、その姿はまるで小動物。

 

「ちょっと絞めただけ。あ、さっきの言葉もただの脅しだから安心しなー。」

 

竹仁は片手をヒラリと上げ、男にさっき言ったことは嘘だと告げる。

そんなことを言われても、すぐに安堵の表情を浮かべられるわけないが。

 

「脅しって・・・何したんスか。いややっぱ言わなくていいっス。」

 

何をしたのか聞いた新八は、すぐにやっぱ言わなくていいと言葉とともに両手を振って拒否の意を示す。

 

「さてと桂。大使館連続爆破テロと今回の事は全部お前の仕業ってことでいいんだね?」

 

真っ直ぐに桂を見据え、問い掛ける。

まさか今回の事は今までの模倣をしただけ、なんて事はないだろう。

 

「・・・たとえ、汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ。・・・・・銀時。この腐った国を立て直すため、再び俺と共に剣をとらんか。」

 

竹仁を見ていた桂は、視線を銀時へと向け持っていた刀を握り、己の前に掲げ言葉を続ける。

 

「白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ。」

 

 

(あ、そういえばこいつ元攘夷志士だった。)

 

 

 

 




主人公は銀時が元伝説の攘夷志士白夜叉であることを知っています。








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迷惑は爆破しても処理不可能

彼は遊ぶのが好きな模様。


その男、銀色の髪に血を浴び戦場を駆る姿はまさしく夜叉。

 

まさかそう言われているのが目の前にいる坂田銀時だと普段の姿からはまるで想像がつかないのだろう、新八は銀時を見つめたまま動かない。

一方で神楽はよく分かっていないようでその瞳には困惑の色も何も見えない。

 

「天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神・・・坂田銀時。我らと共に再び天人と戦おうではないか。」

 

「普段の姿がアレだからなぁ、2人とも想像つかないんじゃない?」

 

いつの間にか胡坐を掻いていた竹仁は、男の両手両足を縛っていた縄で遊び始めている。

だが、話はちゃんと聞いていたらしく縄遊びに夢中、という訳ではない。

 

「そうですね、銀さんが攘夷戦争に参加してたなんて・・・。」

 

「ウン、銀ちゃんダメダメだもんナ!」

 

竹仁の思った通り、2人とも銀時が大層な過去を所持していたなんて想像もつかないらしい。

普段のぐうたら姿しか見ていない者にとっては、当然の反応だ。

 

「ダメダメいうな、たまには俺だって真面目に働いてんだろーが!」

 

神楽の言葉に銀時が反論するが、普段の姿がああなので当然のごとく説得力はまるでない。

 

「ふ、全く・・・昔からお前の考えることは良くわからん。戦が終わり姿を消したと思ったらかぶき町でこのような仲間を抱え込んでいたとはな。」

 

「おーい俺はコイツに守られるような自律できてないガキじゃないよー。」

 

眉間にシワを寄せて結んだ縄をくるくる回しながら話す竹仁からは不機嫌オーラがふわふわ出ている。

ふわふわなので本気の不機嫌モードではない。

いつも買うお菓子が10円値上げしていた時ぐらいの不機嫌さだ。

 

「オメーのどこが自律してんだよ、好奇心旺盛なガキじゃねえか。オイ。オイやめろ。」

 

銀時が怪訝そうな顔で竹仁に向けて言葉を放つと、言葉の代わりに結んだ縄をべしべしと投げつけるという形で反抗された。勿論ダメージなんてない。

 

「ったく・・・あのなぁ、俺ァ派手な喧嘩は好きだが、こーいう陰気くせぇテロみてーなのは嫌いなの。」

「・・・俺たちの戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ京都の女かお前は!」

 

「バカか貴様は!京女だけでなく女子(おなご)はみんなネチネチしている。そういうすべてを含めて包みこむ度量がないから貴様はもてないんだ。」

 

銀時と桂が面と向かって何を話し出すかと思えば速攻で全く関係ない話へと脱線し始めている。

 

「バカヤロー。俺がもし天然パーマじゃなかったらモテモテだぞ多分。」

 

「なんでも天然パーマのせいにして自己を保っているのか哀しい男だ。」

 

「哀しくなんかないわ人はコンプレックスをバネにしてより高みを・・・」

 

「アンタら何の話してんの!!」

 

銀時の最初の台詞はまだ戦のことだったはずだが、それがいつの間にか女子(おなご)はネチネチしているだの、天然パーマがあーだこーだと話が脱線してしまっている。

 

新八が止めなかったら一体どこまで行っていたことか。

ちなみに竹仁と神楽はあっち向いてホイをして遊び始めたため、2人ともまともに話を聞くつもりはないのだろう。

 

「俺たちの戦はまだ終わってなどいない。貴様の中にとてまだ残っていよう銀時・・・国を憂い共に戦った同志達(なかまたち)の命を奪っていった幕府と天人に対する怨嗟の念が・・・」 

 

「ホイィイ!」

 

バシィンッ!!

 

「ってぇなオイィ!!叩くのは無しだぞ神楽ァ!!」

 

「アンタらうるさいよ少し黙れ!!」

 

あっち向けホイを食らった彼の目にはうっすらと涙が浮かんでおり、頬も赤くなっている。

その状態から、あの一撃はかなり痛かったことがうかがえる。

赤くなった頬を撫でながら、神楽に今度はしりとりをやろうと竹仁は提案し、再び遊び始めた。

 

「あの2人が邪魔してスミマセン・・・。」

 

新八がすごく申し訳なさそうに謝る。

おかげで話の内容が遥か彼方まで吹き飛んで戻ってきそうにもない。

 

「はぁ~。で、何の話だっけ。ヅラが天人にあっち向いてホイで負けたんだっけ?」

 

「ヅラじゃない桂だ、ついでにあっち向いてホイはしてないし負けてもない。・・・天人を掃討し、この腐った国を立て直す。我等生き残った者が死んでいった奴等にしてやれるのはそれぐらいだろう。」

 

銀時の拾ってきた全く関係のない話に桂がツッコミをいれつつ話を拾い直し、どうにか話は元の路線を走り始めた。

攘夷への誘いであることに変わりはないが。

 

「我等の次なる攘夷の標的はターミナル。天人を召喚するあの忌まわしき塔を破壊し奴等を江戸から殲滅する。だがアレは世界の要・・・容易にはおちまい。お前の力がいる、銀」

 

「掌底ぃぃい!!」

 

「いやだから攻撃すんのやめろ神楽ァア!!」

 

言葉しか使わない遊びでも神楽の暴力は発動してしまったらしい。

竹仁はしりとりを続けるたびに飛んでくる攻撃をどうにか避け、遊びの範疇を超えている気がするが一応しりとりで遊び続けている。

 

「アンタらさっきからうるせーよ!!」

 

「横入りすんじゃねえ!」

「横入りすんじゃねえヨ!」

 

ゴスッ。

 

2人の息ピッタリストレートパンチが顔面にクリーンヒットし、新八は背中からドサリと倒れてしまった。

 

「・・・僕参加してねーよ・・・。」

 

その言葉を最後に、新八は気を失った。

彼らにとっては言葉だけではなく会話文もアリらしく、もし最後の言葉をのばした場合はその際に発生する母音がしりとなるのだろう。

 

そして「ア」から言葉を始めてしまった彼は遊びに参加してきたと2人に間違われ殴られてしまったのだ。

 

「邪魔者は排除した。さてと神楽、「ア」だ。」

 

「大丈夫、私にまかせるヨロシ。強烈な一撃を決めてやるヨ。」

 

まだ神楽は攻撃することをやめるつもりはないらしい。

もしかしたらそういう遊びではないと分かっていないのかもしれない。

 

「いや、ちょっと待て神楽。これはそういう遊びじゃ―――」

 

バン!

 

彼が正しいしりとりのルールを説明しようとした時、襖が吹き飛んだ。

吹き飛んだ襖が元々あった場所から現れたのは――――

 

「御用改めである!神妙にしろテロリストども!!」

 

「えっ。」

 

黒い服に身を包んだ、武装警察「真選組」に所属する者たちだ。

武装警察という名の通り全員刀やバズーカなどの武器を所持している。

 

「しっ・・・真選組だァっ!!」

 

「イカン逃げろォ!!」

 

桂の部下である1人の男が大声で真選組だ、と周りに告げるように叫び、焦ったように全員に逃げろと桂が叫ぶ。

 

「一人残らず討ちとれェェ!!」

 

この場の上官らしき黒髪の男の合図とともに隊士たちが一斉に攻撃を仕掛けに来る。

竹仁は咄嗟に神楽と気絶した新八を肩に担ぎ、銀時が蹴り飛ばした襖の向こうへと走る。

 

「どーすんだよ!全員殺す気じゃんアレ!!」

 

銀時たち3人は届け物をしただけで、それが爆発物だとも桂たち攘夷浪士の計画だとも知らなかった。

そして竹仁は銀時たちを追ってここにきただけ。

 

しかし、真選組にとってはそんな事情があるとは知りもしない。

だから殺しに来る事は確実だろうが、彼らとしては爆破テロを行った攘夷浪士と同じように殺されるわけにもいかない。

 

「うむ、厄介なものにつかまったものだ・・・どうしますボス?」

 

「だーれがボスだ!!お前が一番厄介なんだよ!!」

 

「ヅラ、ボスなら私に任せるヨロシ。善行でも悪行でもやるからには大将やるのが私のモットーよ。」

 

今は誰がボスだ大将だとふざけている場合ではない筈なのだが、神楽はそれを理解できていないのかもしれない。

もしそうだとして、このままふざけられたら誰かが死ぬ、という未来がよく見える。

それだけは絶対に避けたいので竹仁は神楽を担いだまま注意する。

 

「んな戦国大名みてーなモットーどうでもいいからお前は少し黙ってろ!」

 

注意したはいいが、全員殺されずに済むにはどうしたらいいかという大きな課題の解決策を考えなければならない。

 

「オイ。」

 

その時、彼らの耳に聞いたことない男の声が入った。

声が聞こえた瞬間無視して逃げた方がいいという本能のまま竹仁は床を強く蹴って左の通路の方へ跳んだ。

しかし、銀時はそのまま声の聞こえた後ろをチラ、と見てしまった。

 

ズガンッ。

 

「ぬを!!」

「わお。」

 

部屋に入ってきた時に何か叫んでいた上官らしき男が、銀時に向かって刀による高速の突きを繰り出した。

しかしそれは、高速の床伏せによってギリギリ回避された。

 

流れるような攻撃と回避を間近で目撃した竹仁は、肩に担いだ2人をあの瞳孔開いた危険人物に近付かせたくないと思い、銀時を置いて通路の奥へと逃げる。

 

「2人そろって逃げるこたァねーだろ。せっかくの喧嘩だ、楽しもうや。」

 

男が銀時を見下ろしたまま警察としてはいかがなものかと思う発言をする。

その姿は警察というよりもチンピラやヤクザのようにしか見えなくもない。

 

「オイオイおめーホントに役人か?よく面接通ったな瞳孔が開いてんぞ。」

 

「人のこと言えた義理かてめぇ。死んだ魚のよーな目ェしやがって!」

 

「いいんだよいざという時はキラめくから。」

 

2人が相対して斬り合いになるかと思えば始まったのはふざけた言い合い。

 

男の言う通り彼の目は常日頃から死んでいるし、彼の言う通り男の瞳孔は驚くほど開いている。

 

男の目はいつも瞳孔が元気いっぱいなのだろうか。

そして彼の目がキラめいたことは一体何回あっただろうか。

 

些細な疑問を抱きつつ、竹仁はゆっくり奥の部屋へと進んでいく。

この戦いに加担する気は、彼にはない。

 

「土方さん、危ないですぜ。」

 

「「!」」

 

2人が対峙し、いざ斬り合いに発展するかという時、廊下の奥からまたも知らぬ声が聞こえた。

剣を交えていた2人がそちらを見れば、そこには薄い髪色の少年がバズーカを持って――

 

ドゴォンッ!

 

「うおわァァァ!!」

 

土方さん、と呼んだ男もろともその場を爆破した。

竹仁はその叫び声と爆破音を部屋の中で聞き、若干困惑した。

 

実際のところは知らないにしても、部下が上司を攻撃した、ように思えたからだ。

 

「生きてやすか、土方さん。」

 

自らの持つバズーカによって爆破したところへ移動し土方に声をかける。

 

「バカヤロー!おっ()ぬところだったぜ!!」

 

すると、床に尻もちをつく形で座り込んだ状態の彼から元気な返答があった。

取り敢えずは生きていたらしい。

 

「チッ、しくじったか。」

 

彼が生きていたことがこの少年にとってすごく残念だったのだろう、本人の目の前で舌打ちまでかましてしまっている。

 

「しくじったって何だ!!オイッ!こっち見ろオイッ!!」

 

こちらを見ろと言っているが、少年が土方の目を見ることないまま彼らは奥の部屋へと足を進める。

 

「副長、ここです。」

 

隊士の1人に示された部屋。

 

爆発に巻き込まれた人物はもう1人いたのだが周囲にそれらしい姿がなく、他の者たちとともにその部屋へ逃げ込んだのだと推測される。

 

そして、部屋の中では――

 

「あは、あははは!おまっ、その頭、あはははっ!ははっ、うぇ、げっほ、」

 

「笑いすぎですよ。にしても・・・髪増えてない?」

 

「竹仁テメーは後で髪引きちぎる。」

 

バズーカを食らって爆発した銀時の頭を見て竹仁が笑いまくっていた。

気を失っていた新八はこの部屋についてから意識を取り戻したらしく、笑いまくっている彼の隣でちょこんと座り込んでいる。

 

ちなみに意識を失っている間に何があったのかも一応竹仁が説明した。

 

「オイッ、出てきやがれ!」

 

「無駄な抵抗は止めな!ここは15階だ、逃げ場なんてどこにもないんだよ!」

 

部屋の外から大声でここから出てこいと言われるが彼らはそれで出ていくような律儀な連中ではない。

もしもここを出ていったって斬られるか殺されるか串刺しにされるか、だろう。

 

だとしてもここに逃げ場はなく、突入だって時間の問題。

 

・・すると、桂が懐から丸い物体を取り出した。

 

「?そりゃ、何のまねだ。」

 

「時限爆弾だ。」

 

銀時の問いに桂が爆弾だと答える。

 

「ターミナル爆破のために用意していたんだが、仕方あるまい。コイツを奴等におみまいする・・・そのスキに皆逃げろ。」

 

桂は爆弾を見つめたまま話す。

彼らをコレで吹き飛ばし逃げ道を作るというのだ。

 

しかし。

 

ガッ。

 

「!!」

 

銀時に胸倉を掴まれ、爆弾を手から落としてしまう。

 

「貴様ァ、桂さんに何をするかァァ!!」

 

部下の1人が怒鳴り声をあげるが気にする様子もなく銀時は話を始めた。

 

「・・・・・・桂ァ。もう、しまいにしよーや。てめーがどんだけ手ェ汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし時代も変わらねェ。これ以上、うす汚れんな。」

 

彼が桂を説得するかのように話を始めたよそで、神楽と竹仁の2人が時限爆弾を弄って遊び始めたが誰も気づいていない。

 

「うす汚れたのは貴様だ銀時。時代が変わると共にふわふわと変節しおって。武士たるもの己の信じた一念を貫き通すものだ。」

 

「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ、そんなもんのためにまた大事な仲間失うつもりか。」

 

シリアスな雰囲気が部屋中にぷんぷん漂っているが、竹仁と神楽の周囲だけはキャッキャッ、と楽しげな雰囲気が漂っている。

 

「俺ァ、もうそんなの御免だ。どうせ命張るなら俺は俺の武士道貫く。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る。」

 

普段の彼なら言わないであろう彼の信念が、言葉として表される。

 

銀時の言葉を聞き、これから桂はどうするのか――

 

「なあ銀時。」

 

その時、竹仁が普段と変わりない声で銀時を呼んだ。

 

「?」

 

「これ、弄ってたらスイッチ押しちゃったヨ。」

 

そして、その隣にいた神楽が手に持った爆弾を笑顔で差し出しとんでもないことを口にした。

 

部屋の中でそんな大惨事に発展しかけているとは微塵に思ってないであろう外のいる真選組の隊士たちは――

 

 

 

「オーイ、出てこーい。マジで撃っちゃうぞ~。」

 

そう言う土方の前にはバズーカを構えた隊士と、爆破直後の突入のために刀を構える者もいる。

 

「土方さん、夕方のドラマの再放送始まっちゃいますぜ。」

 

「やべェ、ビデオ予約すんの忘れてた。さっさと済まそう、発射用意!!」

 

仕事をさっさと済ませる理由が呑気そのものである。

真選組はお堅いのか緩いのか分からない。

 

そして、彼の言葉によって隊士たちがトリガーにかけた指に力を込めた、その時。

 

ドゴォォン!!

 

頭が爆発した男と、眼鏡の少年、傘を持った少女、金目の男がかなりの勢いで色々吹き飛ばしながら飛び出してきたのだ。

 

「!!」

「なっ・・・何やってんだ止めろォォ!!」

 

突然出てきた彼らに動揺したのだろう、隊士たちは狼狽えている。

 

「止めるならこの爆弾止めてくれェ!!爆弾処理班とかさ・・・なんか、いるだろオイ!!」

 

そう言う彼が差し出した手には、00:10と表示されている爆弾が。

 

「おわァァァ!爆弾もってんぞコイツ!」

 

「ちょっ、待てオイぃぃぃ!!」

 

爆弾に驚き、一斉に彼らから逃げていく隊士たち。

来てほしくないときに来て、助けてほしい時に逃げる。

 

「げっ、あと6秒しかねェ!!」

 

「仕方ねぇ、皆で心中するか。」

 

「馬鹿なこと言わない!ほら銀さん、窓、窓!」

 

彼が不吉なことを口走るが、その言葉を一瞬で切り捨てて新八が窓を指し示す。

だが、銀時はもう間に合わないだろうと感じたのだろう。

 

「無理!!もう死ぬ!!」

 

「神楽。」

 

「おう、任せるネ。銀ちゃん、歯ァ食いしばるネ。」

 

竹仁が神楽の名を呼ぶが、彼女は既に何かをしようとしている。

彼女は傘を構え、腕に力を籠めた。そして――

 

「ほあちゃアアアアア!!」

 

彼の考えていたことと、彼女のやったことは同じだった。

 

ギャイイン!!

 

「ぬわアアアアア!!」

 

見事に窓まで一直線に吹き飛んでいく銀時。

 

3秒。

 

ゴパン、と勢いよく窓を突き破り、彼は外へ投げ出された。

 

「ふんぐっ!!」

 

しかし、そんな状態でも彼は空を向いて大きく振りかぶった。

 

1秒。

 

ブオンッ!

 

そして、全力で爆弾を空へ投げた。

直後、時計は0秒を示し――

 

ドガァン!

 

派手な音を立てて爆弾は空中にて無事処理された。

 

「ぎっ・・・銀さーん!!」

 

「銀ちゃんさよ~なら~!!」

 

「おー、汚い打ち上げ花火だなぁ。」

 

1人は純粋に銀時を心配し、1人は心のこもっていない別れを告げ、またもう1人は彼について掠る事すらしていない。

 

1人の犠牲によって爆弾がホテル内で爆破するという惨事を免れることができた。

死んでなどいないのだけれど。

 

「もう!銀さんごと爆弾処理しようとしないでよ神楽ちゃん!!」

 

「竹ちゃんも同じこと思ってたアル。五分五分で打ち消しネ。」

 

「意味わかんない理論立てないで!」

 

新八は、銀時を吹き飛ばして爆弾処理をするという雑な事をした神楽にお怒りだ。

しかし、神楽の口からは謝罪の言葉も心配の言葉も無いあたり、やはり銀時の心配などしておらず罪悪感も微塵にないのだろう。

 

「あ、そうだ。いーから逃げるぞ2人とも。」

 

武装警察に討ち取られそうな状況だったことを思い出した竹仁が2人の腕を掴み上ってきた階段の場所へと走り出す。

だが、通路を左に曲がった先には――

 

「げ。」

 

「よお、随分と派手な事したじゃねえか。」

 

真選組がいた。

 

「戻っ・・・・。」

 

戻ろうとした先にも現れた。

 

3人の後ろと横は壁、前と横には真選組。

 

「・・・詰みましたね。」

「・・・詰んだな。」

「・・・詰んだアルな。」

 

見事に重なった諦めの声が通路に響く。

 

 

鈴鳴竹仁、志村新八、神楽、3名とも無事確保。

 

 





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アナログで主人公の見た目です。

上下黒色、上に着ている羽織は薄桜色です。



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日々の水やりは大事

ドカッ。

 

大江戸警察所と書かれた名板を靴裏で蹴ったのは、爆弾テロの仲間であるという疑いを掛けられ3日間取り調べを受け続けた4人の内の1人、坂田銀時。

 

テロリストだという嫌疑は晴れたものの長時間の取り調べによる疲れや警察への恨みなどのせいで彼らの顔は晴れやかではない。

 

「命張って爆弾処理してやったってのによォ、3日間も取り調べなんざしやがって腐れポリ公。」

 

「だから警察は嫌なんだよ、あいつら笑いもしないしちょっとふざけただけでめっちゃ怒るし・・・。つまんないったらありゃしない。おかげで心が死にそう。」

 

顔を両手で覆いながらそう言う彼の目の下にはクマができており、他の3人よりもよっぽど疲弊して見える。

 

「竹ちゃん、も少しここにいたら死んじゃってたアルか?」

 

差した傘を少しずらして神楽が彼の顔を覗き込む。

それに対し彼は、彼女に顔が見えるよう覆っていた手を外し眉尻を下げ笑って答える。

 

「うん警察による精神圧殺事件になってた、訴えようかな未遂で。」

 

「もういいじゃないですか、テロリストの嫌疑も晴れたことだし。」

 

伸びをしながら新八が彼らに警察に対する怨恨をそこら辺に捨てろと言う。

しかし彼のように簡単に恨みの感情を投棄出来るような者たちではない。

 

「どーもスッキリしねェ、ションベンかけていこう。」

 

この男は警察所の前で用を足そうとし、

 

「よっしゃ、私ゲロ吐いちゃるよ。」

 

またこの少女は吐瀉物を置き土産にしようとし、

 

「バカって書いとこ。」

 

最後にこっちは落ちてた石を拾い、壁に落書きをしようとしている。

 

「器の小さいテロすんじゃねェェ!!」

 

傍から見れば小さなテロリスト集団、通報されればまた警察送りになるかもしれない。

しかし、そうなる可能性が彼らの目にはまるで見えていないのだろう。

 

「アンタらにかまってたら何回捕まってもキリないよ!僕、先に帰ります!ちゃんと真っすぐ家帰れよトリプル馬鹿!!」

 

「・・・俺馬鹿じゃないよ・・・ちょっと疲れてるだけだよ・・・。」

 

流石に堪忍袋の緒がちょん切れてしまったらしく、3人を怒鳴り新八は1人でさっさと帰ってしまった。

馬鹿と言われた3人の内2人はその事をまるで気にした様子ではないが、竹仁だけは3日間の疲れと退屈のせいで精神が若干幼くなってしまい、怒られた事に対ししょんぼりとしている。

 

「オイオイどうすんだ、ボケ担当だけじゃ会話が成立しないどころか壊滅するぞ。」

 

「お前はボケ担当っていうか頭がボケてるだけだろ。」

 

一時的に疲れが回復する事があるらしい。

 

「オイコラ誰が老人のような白髪だらけの頭だって?」

 

「誰も髪の話なんてしてませーん。中身のこと言ってんだよー、やーい。」

 

「オメーは小学生か!っておまっ、どこにゲロ吐いて・・・くさっ!!」

 

「う、くさい・・・。」

 

2人の言い合いの途中、神楽が銀時の隣で犯行予告の通りゲロを吐き出してしまい周辺にゲロ特有の鼻をつくような臭いが漂う。

 

その臭いに戸惑っていると、警察所の方から、ピイイイ、と笛の音が聞こえ、1人のおっさんが壁を飛び越えて現れた。

 

「ん?」

 

何だろう、と銀時が現れたおじさんの方を見ると、

 

ザン、ズルッ、ガン!

「う゛え゛!」

 

おじさんは見事な三拍子で、着地して転倒して頭部を強打した。

 

「いだだだだだだ!!それに、くさっ!!」

 

「おじさん加齢臭独特だな、娘どころか誰も近付かなそう・・・ん?」

 

竹仁が周辺に漂っているキツイ臭いを何故かおじさんの加齢臭だと置き換え憐れむような目で見つめていると、

 

ピイイイ!

またも笛の音が聞こえ、警察の人が何人か急いだ様子で門から出てきた。

 

「オイそいつ止めてくれ!脱獄犯だくさっ!!」

 

彼女が吐き出した物の臭いが門のあたりまで届いているとは、やはり夜兎。人間とはまるで比べ物にならない。

 

「はィ?」

 

「?あれ?俺ちゃんと釈放されたよな。」

 

彼らは壁の向こうから現れたおじさんのことを言っているのだが、誰に向けたものなのかちゃんと理解出来ていない竹仁は彼らをボーッと見たまま思考を時速1kmで動かす。

 

しかしその低速ぶりでは理解して行動するまで何時間かかることか。

 

「ちっ!」

「!!」

 

銀時と竹仁が反応に遅れてしまい、神楽がおじさんに捕まってしまった。

彼女の戦闘能力を考えればおじさん一人に負ける訳はないだろうが。

 

「来るんじゃねェ!!このチャイナ娘がどーなってもいいのか!」

 

「貴様!!」

 

「大変だな神楽、お父さん束縛強くて。」

 

「オメーはいい加減そのボケた頭をどーにかしろ!!」

 

神楽が人質にされ大変な状況だというのに竹仁はボケたままで戻りそうにもない。

 

「オイそこの白髪、免許もってるか?」

 

「普通免許はもってっけど。」

 

脱獄犯のおじさんは、免許を持っているか銀時に聞く。

そんなの、もう車で逃げるという展開しか見えてこない――。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ブロロロ・・・

 

「なんでこーなるの?」

 

「zzz...。」

 

「おい起きろ、助手席だけ事故ってやろうか。」

 

運転しているのは銀時で、助手席に座っている竹仁は腕組みをしたままスリープモードだ。

そして後部座席にはおじさんと、人質にされたままの神楽が座っているが、彼女もまた彼と同じくスリープモードだ。

 

「ハァ・・・おじさーん、こんなことしてホント逃げ切れると思ってんの。」

 

「いいから右曲がれ。」

 

有無を言わせないような言い方で銀時に指示をするおじさん。

しかし捕まっているはずの神楽が鼻提灯を出しながらぐーぐー寝ているため危機感が半減している。

 

「今時脱獄完遂するなんざ宝クジの一等当てるより難しいって。」

 

「逃げ切るつもりなんてねェ・・・今日一日だ。今日一日、自由になれればそれでいい。」

 

説得の言葉に返ってきたおじさんの言葉に、銀時は何も言わなかった。

 

「特別な日なんだ、今日は・・・。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「みなさーん!今日はお通のライブに来てくれてありがとうきびウンコ!」

 

「とうきびウンコォォォ!!」

 

・・・着いたのは、寺門通というアイドルのライブ会場だった。

そして、会場に来ている他の観客たちと一緒に全力で叫んでいるおじさん・・・と、神楽。

その後ろで1人佇む銀時・・・と、隣で座って寝ている竹仁。

周囲との温度差で結露しそうな状態だ。

 

「今日はみんな浮世の事なんて忘れて楽しんでいってネクロマンサー!!」

 

「ネクロマンサー!!」

 

「じゃあ一曲目、『お前の母ちゃん何人?』!!」

 

聞いているのが母ちゃんだけだから、その母ちゃんの子どもはハーフなのだろうか。

天人がそこら辺にいっぱいいるこの時代では、母ちゃんが宇宙人だとしても不思議ではないだろう。

というかそんなことはどうでもよくて。

 

「・・・なんだよコレ。」

 

「今、人気沸騰中のアイドル寺門通ちゃんの初ライブだ。」

 

銀時の何だこれ意味わかんねえという問いにさらっと恥ずかしげもなくおじさんは答えた。

 

「てめェ人生を何だと思ってんだ!!」

 

「てめェ人の睡眠を何だと思ってんだ!!」

 

怒った銀時がおじさんに、そして怒った竹仁が銀時に踵落としを食らわせるが、今まで寝ていたくせに目覚めてから踵落としまでのスピードは目にも止まらぬ速さであった。

 

「テメーこの五月蠅さじゃ起きねぇくせに俺の声じゃ起きるのかよ?!」

 

「お前の声はマンドラゴラの悲鳴なんだよ自覚しろ。」

 

「残念だったな、悲鳴を聞いたお前は死ぬんだよ!!」

 

「そうだったちくしょう!!」

 

死亡確定だと知った彼は、やってしまったと至極残念そうに頭を抱えうずくまる。

その隣で勝ち誇ったような笑顔を浮かべ銀時は彼を見下ろしていた。

 

「喧嘩するんじゃない!お通のライブを一緒に楽しむんだ!さあ、L・O・V・E・お・つ・う!!L・O・V・E・・・」

 

別に喧嘩ではないのだがおじさんの目にはそう見えたのだろう、お通のライブを観て仲良くしろと言ってくる。

しかし彼らはそんな性格ではない。

 

「やってらんねェ、帰るぞ神楽。」

 

案の定さっさと会場を後にしようと、舞台に背を向け竹仁を引きずりながら神楽を呼ぶ。

 

「え~、もうちょっと見たいんきんたむし。」

 

「影響されてんじゃねェェェ!!」

 

「俺はここで寝ると決めた、放せ。」

 

「帰ってから寝ろ!!」

 

しかし神楽も竹仁も帰宅拒否。

竹仁を投げ飛ばしたい気分になったが一応ライブ中なので、諦めてぐるりと会場を見渡す。

会場のそこかしこから「L・O・V・E・お・つ・う」という彼女に向けた愛のメッセージが聞こえる。

 

「ほとんど宗教じみてやがるな、なんか空気があつくてくさい気がする。・・・!」

 

会場を見渡していた彼の目に留まったものが。

 

「もっと大きい声で!!」

 

それは、列に並んだファンの前で1人、舞台に背を向けて木刀を持ち監視するかの如く彼らを見ている少年は――新八だった。

 

「オイそこ何ボケッとしてんだ声張れェェ!!」

 

「すんません隊長ォォ!!」

 

普段の彼とは違い大声で人を怒鳴っている。

普段の彼からは想像もできない姿だ、服装もだが。

普段の彼なら誰かに対して大声を出したり、更に怒鳴るなんてしないだろう。

 

「オイ、いつから隊長になったんだオメーは。」

 

「僕は生まれた時からお通ちゃんの親衛隊長だァァ!!」

 

お通ちゃんの親衛隊長。それが彼の生まれ持った宿命だという。

 

「って・・・ギャアアアア銀さん?!ってなに引き摺ってんですか?!」

 

「粗大ごみ。もしくは生ごみだな。」

 

「竹仁さんに殺されますよアンタ。」

 

引きずられているというのに起きる気配がない。

もしも彼が起きていたら銀時がごみとなっていただろう、普段の彼だったなら。

 

「ていうか、てめーがこんな軟弱なもんに傾倒してやがったとは。姉ちゃんに何て謝ればいいんだ。」

 

「僕が何しようと勝手だろ!!ガキじゃねーんだよ!!」

 

まるで別人のような新八は更に反抗期へと突入したらしく、あんコラ、とすごい顔ですごいすごんでいる。

 

「ちょっと、そこのアナタ。」

 

階段の上から聞こえた、銀時に向けたであろう言葉。

そちらを見ると、1人の女性が立っていた。

 

「ライブ中にフラフラ歩かないでください、他のお客様の御迷惑になります。」

 

「スンマセンマネージャーさん、俺が締め出しとくんで。」

 

「あぁ親衛隊の方?お願いするわ。」

 

この女性は現在ライブを行っているアイドル、寺門通のマネージャーらしい。

 

締め出しとく、と彼は言ったが逆に〆られてしまうだろう。

 

「今日はあの()の初ライブなんだから、必ず成功させなくては・・・。」

 

そう呟くマネージャー。

銀時のような客によってライブが中止になったり、ゴタゴタで延期になったりとアイドルとしてやっていくのは色々と大変なのだろう、その言葉と表情には今までの苦労と彼女に対する愛情が見える。

 

「L・O・V・E・お・つ・う!!L・O・V・E・お・つ・う!!」

 

他の観客に負けじと大声を出すおじさんの姿をたまたま見つけたマネージャー。

 

「・・・・・・・!!アナタ・・・?」

 

どうも、ただの観客とマネージャーという関係ではないらしい。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・。」

 

目を開ければ自分以外は色も光も何もない、ただ真っ暗な空間。

確か自分はライブ会場の階段で寝ていて・・・。

 

「夢か・・・。」

 

ぼんやりとした視界。

立ち上がり手足が動くことを確認する。

走ったりジャンプしたりバク宙したりするが何も起こらない。

 

ずっとこのままだったら・・・。

 

「・・・。」

 

ただでさえ退屈で死にそうな日々を過ごしたというのに、これでは本当に死んでしまう。

絶望に駆られ始めたその時、目の前に自分以外の人が現れた。

 

「イーッ!イーッ!」

 

それはショッカー戦闘員だった。

最初は1人だけだったが2人、3人、と数が増えていく。流石夢。

 

「イーッ!!」

 

「ふふっ、あはっ、あはははは!」

 

ついでに攻撃してくるが軽く避けて全力の返り討ちを繰り出す。

少し倒したところで、カシャン、と足に何かが当たった。

見れば、それは刀だった。

 

「っふふふ、ハハハハ、酸欠で死ぬってこれ。」

 

拾い上げた刀を鞘から抜き放ち、次から次へとショッカーを斬り伏せていく。

もう絵面が大変すぎて笑いを抑える事が出来ない。

 

「イーッ!イーッ!!」

 

「あはっ、あははは、ゲホッ、勘弁して本当に死ぬ。」

 

そして正面にいたショッカーの心臓を一突きにし、刀についた血を振り払う。

心臓から血を噴出し倒れゆくショッカーの向こうに人影が佇んでいるが、ぼんやりと輪郭が浮かんでいるだけで顔も服装も分からない。

 

「お前で最後かー、んじゃラストサービスとして時間をかけて遊んであげよう!」

 

「・・・()()以外を知った貴方に私が負けると思ってるのですか?」

 

言葉を聞いた瞬間、目の前の影が何なのかが理解した。

 

「ふーん・・・この俺はいらないってか。まぁいいや、どっちが強いか試――――」

 

影を睨みつけるように見据え刀を構えたが、突如視界が揺れ――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――ぐえ!?」

 

何かに押しつぶされた。

何だ?と圧をかけてくる物体を見れば、それは新八だった。

 

「すっ、すんません!ってかここで寝ないでくれます?!」

 

「うるせェ、こっちは気持ちよく、いや、気持ちよく寝てたんだよ邪魔すんな。」

 

「ここ寝る場所じゃねーから!寝るなら家帰れ!!」

 

ライブ会場の移動場所で寝ているなど非常識極まりないし、今まで誰にも起こされなかったことも驚きだ。

 

すると、竹仁が何かに気づいたようにくるりとあたりを見渡す。

会場が別の意味で騒がしいことに気づいたのだ。

 

あたりを見渡した彼が見つけたものは、人間の二倍近くありそうなデカブツだった。

 

 

「お通ちゃ~ん!」

 

「オイ、何あれ。」

 

「あれは・・・会員ナンバー49だ!」

 

「いや誰?知らねーって。」

 

会員ナンバーなど言われても竹仁はメンバーではないので分かるわけがない。

だが会員ナンバー49のデカブツが騒ぎの元であることは確実だろう、お通の名を叫びながら彼女の元まで一直線に進んでいる。

 

「ハァ。俺だってなぁ、ただの粗大ごみじゃねぇんだよっ!」

 

「聞こえてたの?!」

 

だるそうに立ち上がり、会員ナンバー49の元まで走る。

その勢いのままデカブツを登り肩を足場にして飛び越え、正面に着地する。

 

「ついでに生ごみでもねェ!!」

 

真正面から鋭い蹴りを放つが、当たった音も衝撃もない。

それもそのはず、彼の蹴りはデカブツの脚と脚の間、それもちょうど真ん中を通ったからだ。

 

自分よりも身長が二倍ほどある巨体の腹に蹴りを食らわせるなど、どこかに上るでもしなければできない。

 

「・・・あ、そっぐべぁ!」

 

頭の上に?マークを並べ続けた彼だが理解したときには既に遅く、デカブツの平手打ちによって吹き飛ばされてしまった。

 

「アンタ結局生ごみじゃねえか!!」

 

「生ごみは臭いから粗大ごみにして・・・。」

 

よく分からない訂正を出すが、ごみであることには変わりない。

自分が銀時の言う通り粗大ごみであったというショックは大変なもので、もはや彼からは動こうとする気配すら見えない。

動くも動かないも生ごみも粗大ごみも別にどうでもいいが、このままではお通が危険だ。

 

「お通ちゃ~ん!!」

 

デカブツがお通にむかって手を伸ばす。

しかし、ビニール袋を被る何者かによってその手は一時的に止められた。

 

「だっ・・・誰だアレェェェ!?」

 

「お通ぅぅぅ!!早く逃げろォォ!!」

 

逃げろと叫ぶも、デカブツの一撃によってその何者かは吹き飛ばされてしまう。

 

「いけェェ!僕らもお通ちゃんを護れェ!!」

 

親衛隊長である新八を中心に、デカブツを止めようと一斉にかかる親衛隊。

 

「しっかり、しっかりしてください!」

 

一方、舞台の上では先程吹き飛ばされ気を失っているビニール袋の人にお通が必死に声をかけていた。

すると、

 

「あ・・・気がついた。」

 

そんなにひどい衝撃ではなかったらしく、彼はすぐに目を覚ました。

 

「無茶するねェアンタ。こんなバカな真似して・・・何者だい?」

 

マネージャーのその言葉に、彼は自分の正体を告げることが出来なかった。

 

「・・・ただのファンさ、あんたの。」

 

 

ドドン。

 

お通を狙っていたあのデカブツが、倒れ込んだ。

背中に「おつう」と書かれたハッピを着た彼の上に乗っていたのは、銀時と神楽、一応竹仁。

 

「てめぇ人を武器にするとかどんな神経してんだ!!」

 

「使い道のねぇごみを再利用してやったんだ、感謝しろ・・・・じゃなくて、おい、おっさん。」

 

言い合いを一旦中断し、彼が何かをおじさんに投げ渡した。

 

おじさんが受け取ったものは、紙に包まれた三輪のたんぽぽであった。

 

「そんなもんしか見つからなかった、百万本には及ばねーが後は愛情でごまかして。」

 

「いたいいたい放せ段差地味にいたいんだってば!」

 

竹仁の脚を銀時が掴んで引きずり、彼らは去っていった。

 

 

残されたおじさんは、彼から受け取ったたんぽぽをお通へと差し出した。

 

(バカやろう・・・あんな約束、覚えてるわけねーだろうが。)

 

(だが、この際覚えてよーが忘れてよーが関係ねーや。俺は俺の約束を護ろう。)

 

そうして、たんぽぽを受け取ったお通に背を向け、去ろうとする。

 

「あの」

 

しかし、扉を少し開けたところで彼女に呼び止められた。

 

「・・・今度はちゃんと、バラ持ってきてよね。私それまで、舞台(ここ)でずっと待ってるからさ、」

 

 

「お父ちゃん!」

 

彼女の言葉に何も返すことなく彼はバタンと扉を閉め、今度こそ去っていった。

 

「よォ、涙のお別れはすんだか?」

 

扉の向こうにいたのは、先程ベンチに座っておじさんの話を聞いていた銀時だった。

 

「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ、また必ず会いに来るさ。・・・今度は胸張ってな。」

 

 

被っていたビニール袋をぐしゃりと握りしめ、目と鼻から液体を垂れ流す不器用で優しいおじさんが、そこにはいた。

 

 

 

 

 

ちなみに竹仁は翌日ゴミ捨て場で目を覚ましました。





ゴミ捨て場に捨てられた主人公はしっかり寝たので次の日の元気はいっぱいでした。


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服の汚れには気を付けましょう

いつも閲覧ありがとうございます。


「よかったじゃねーか、嫁のもらい手があってよォ。」

 

パフェを食べながら銀時がそう話すが、その隣にいる神楽はラーメンの丼を掴み、箸やその他道具を使うことなく胃に流し入れるという並外れた事をしている。

 

「服にこぼすなよ、ラーメンの汁汚れは落ちにくいんだから。」

 

また、隣でその並外れた食べっぷりを眺めながら竹仁はあんみつをゆっくりと食べていた。

神楽の食べる姿を見る事に気を取られているため彼らの話は半分聞いているかどうか。

 

「帯刀してたってこたァ幕臣かなんかか?玉の輿じゃねーか、本性バレないうちに籍入れとけ籍!」

 

「それどーゆー意味。」

 

ガッ!とお妙が銀時の頭を掴んでパフェに叩きつける。

お妙によって発動された銀時の強制頭突きで食べかけのパフェは容器のガラスと共に無残な姿となってしまった。

 

「何神楽に対抗してんだ、お前じゃ勝てねーぞ?」

 

彼がパフェに突っ込んだのを見て、勘違いなのかわざとなのか分からないが神楽に対抗していると思ったのだろう、竹仁が冷めた目で彼を見る。

 

「これが対抗してるように見えんのか。眼科行け。」

 

彼が悲惨な状態である自身の顔面と汚れたテーブルを拭いている間に、お妙が話を進めていく。

 

「最初はね、そのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど・・・」

「・・・・・・気がついたら、どこに行ってもあの男の姿がある事に気づいて、ああ異常だって。」

 

そう語る彼女の回想には、八百屋の商品と同化していたり、車窓の外で走りながら思いを伝えたりしているストーカーが。

堂々としすぎていて一般的なストーカーを逸している。

 

「ハイあと30秒。」

 

「ハイハイラストスパート。噛まないで飲みこめ神楽、頼むぞ金持ってきてねーんだから。」

 

「神楽だから大丈夫だけど、金をまるで持ってこないのはどうなんだ?」

 

「きーてんのアンタら!!」

 

ジャンボラーメンを3分以内に完食するというチャレンジ中の神楽に気を向けている彼らは態度からして話を聞いていない。

自分の家族が犯罪行為を受けているというのにこのような態度を取られれば当然怒るわけで。

 

「あー、うん?聞いてるよ、ストーカーされて困ってるんだろ?」

 

竹仁は彼らの話を半分近く聞いていなかったが、頑張って思い出してみたら奇跡的に大切な部分は頭に残っていた。

 

「だとしてもどうしろって?仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ。」

 

「銀さん僕もう2ゕ月給料もらってないんスけど。出るとこ出てもいいんですよ。」

 

一般的な会社で給料未払いなど社員の決断一つで即訴訟ものだ。

万事屋も例外ではなく、今彼の決断によっては面倒な事になるだろう。

 

「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!成敗してくれるわっ!!」

「嘘つき給料未払いめ、俺が成敗してくれる。」

 

新八の正当な訴えによって彼はすぐさまお妙のストーカー被害を解決するべく立ち上がったが、竹仁のスプーンクラッシュによってすぐさま撃沈した。

 

「なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!」

 

彼が撃沈してすぐに、ストーカーは近くの机の下からガタガタと馬鹿正直に姿を現した。

 

「ホントにいたよ。」

 

まさかこんな近くで更にそんな場所にいようとは、この場の誰も思っていなかった。

流石ストーカーの中のストーカー、やることが違う。

 

「クソ、いってェ・・・あー、オイ、ストーカーと呼ばれてのこのこ出てくるとはバカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?」

 

「人は皆、愛を求め追い続けるストーカーよ。」

 

「んな持論をよく恥ずかしげもなく言えるね、相当な頭してんぞこいつ。」

 

あー鳥になっちまう、と腕をさすりながらストーカーに対し冷たい視線を遠慮なくバシバシ叩きつける。

しかし、そんな視線男は気にしていない。流石、異常なストーカーというべきだろうか。

 

「ときに貴様ら。先程よりお妙さんと親しげに話しているが一体どーゆー関係だ、うらやましいこと山の如しだ。」

 

「この人私の許嫁ですぅ。春にね、私たち結婚するの。」

 

「そーなの?」

 

「もう、あんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから、私の事は諦めて。」

 

咄嗟にお妙が銀時の腕に抱きつき、嘘をつく。

自分にはもう相手がいるから貴方を愛することはできません、と男に自分を諦めさせる為だ。

しかし逆に悪化してしまう事もあるかもしれないが、この男はどうだろうか。

 

「あ・・・あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォォォ!!」

 

「いやそんな事はしてないですよ。」

 

色々しているという彼女の告白に対し男はすさまじい顔でぶち切れるが、新八に冷静なツッコミを繰り出されている。

 

「いやっ!!いいんだお妙さん!!」

 

「良くないって言ったら俺と神楽であの世に送ってやったのに・・・。」

 

「仕方ないアル、アイツのゴートゥーヘルはお預けネ。」

 

竹仁は、つまんなそうに眉を顰め神楽の肩に乗せていた手を下ろす。

 

「アンタらに任せたら血祭りになりそうですから大人しくしててください。」

 

この2人に何かを任せていたらパルプンテが発動すると判断したのだろう。

 

自分たちを含め周りには客がいるため、せめてそれだけは避けたい。

だから、下手に動くよりも話し合いだけで解決したい、と。

 

至極まともだ。

 

「君がどんな人生を歩んでいようと、俺はありのままの君を受けとめるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように。」

 

「愛してねーよ。」

 

もし許嫁がいるという設定でケツ毛ごと男を愛していたらそれは不倫となり、この場は修羅場と化すだろう。

しかし、お妙には許嫁もいないし、この男を愛してもないのでその心配はない。

 

「オイ白髪パーマ!!お前がお妙さんの許嫁だろーと関係ない!!お前なんかより俺の方がお妙さんを愛してる!!」

 

そんな大声を出すのは他のお客様に迷惑である。

 

「決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」

 

それは銀時に迷惑である。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

どこかの河原の、橋の上。

そこに、決闘を見届けるため彼らはいた。

決闘する羽目になってしまった本人は厠へ行ったまま、まだ戻ってきていない。

 

「よけいなウソつかなきゃよかったわ。なんだか、かえって大変な状況になってる気が・・・。」

 

「大丈夫さ、サルの縄張り争いでも眺める感じで見てな。」

 

欄干の上に座り脚をぶらぶらとさせて遊びながら下の河原を眺める。

厠に行った銀時を待つ決闘相手の男がいるだけで、他に人影は見当たらない。

 

「大丈夫って言っても・・・あの人、多分強いわ。決闘を前にあの落ち着きぶりは、何度も死線をくぐり抜けてきた証拠よ。」

 

「あのなー、自分の心配もしたらどう?アイツが負けたらお前、あの男のものになっちまうんだからさ。」

 

望まぬお付き合いをする事になってしまうかもしれないというのに、彼女は銀時の心配をするばかり。

物理攻撃力も高いが、それに比例した優しさもあるらしい。

 

「それは、そうですけど・・・。でも、」

 

「心配いらないヨ、銀ちゃんピンチの時は私の傘が火を吹くネ。」

 

「ハハ、ま、そういうわけだからアイツの心配も自分の心配もしなくていいよ。」

 

この少女、いざという時はあの男を処分する気である。

言いはしないが、竹仁もいざという時は男を処分する気である。

 

「おいッ!!アイツはどーした?!」

 

「あーなんか厠行ってくるって言ってました。」

 

銀時が厠に行って十数分。

流石に戻って来たらしく、土手の方から姿を現した。

 

「来たっ!!遅いぞ大の方か!!」

 

「ヒーローが大なんてするわけねーだろ、糖の方だ。」

 

「糖尿に侵されたヒーローなんてきいたことねーよ!!」

 

どんなヒーローでも大と小は身体構造上しなければいけない。

それと、数多くのヒーローがいるのだから糖尿に侵されたヒーローの1人や2人、いてもいいんじゃないかと竹仁は思った。

 

「獲物はどーする?真剣が使いたければ貸すぞ、お前の好きにしろ。」

 

「俺ァ木刀(コイツ)で充分だ、このまま()ろうや。」

 

「なめてるのか貴様。」

 

木刀でも全力で振り回せば恐ろしい武器となりますよ奥さん。

 

そんなことを考えながら彼はニッコリ笑顔で2人のやり取りを眺めている。

ちなみに、奥さんとは彼の家の隣に住む頼りがいのある方である。

 

「ワリーが人の人生賭けて勝負できるほど大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃなんだが俺の命を賭けよう。」

「お妙の代わりに俺の命を賭ける。てめーが勝ってもお妙はお前のモンにならねーが、邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり好きにすりゃいい。」

 

賭けるものを自身にすることで、この決闘の勝敗でお妙の今後が左右されることは無くなる。

 

「勿論、俺が勝ったらお妙からは手ェ引いてもらう。」

 

彼の話している内容を理解し、お妙が欄干に手をかけ身を乗り出す。

 

「ちょっ止めなさい!!銀さん!!」

 

焦る彼女の頭に、ぽふっと誰かの手が乗っかる。

手を乗っけた本人は、気にすることなくそのままぽふぽふと頭をなでる。

 

「ちょ、何してるんですか。」

 

しかし、なでられている本人は流石に何事かと思ったらしい。

 

「ん?頭なでると落ち着くって聞いた事あったから。」

 

「竹ちゃん、それセクハラになるかもしれないヨ。」

 

神楽の言葉に、えっまじで?と、今度は彼が焦ったように手を離す。

セクハラの判断基準は、された本人による場合もあるが接触は割とアウトなので彼のように不用意に触ることはやめましょう。

 

「貴様ァァァ!!俺のお妙さんに何をしている!!」

 

「お前のじゃねーよ。」

 

お妙が鋭いツッコミをするが男の耳と頭にはまるで響いていない。

この男の耳と頭の構造上、もしかしたらこの決闘は無意味に終わるかもしれない。

 

「お妙ー、俺別にそういうつもりじゃないからね?」

 

「ええ、分かっていますよ。ただちょっとビックリしただけです。」

 

両手を上げて降参のポーズ、下心があっての行為ではないよというアピール。

お妙も彼の意図を理解したようだ。

 

「オイ、こっちに集中したらどうだ?それで負けたって、もう一回はナシだからな?」

 

「あぁ、それぐらい分かっているさ。・・・おい、小僧。お前の木刀を貸せ。」

 

新八が所持している木刀を渡すよう要求する、自身も銀時と同じ武器、木刀で()るためだ。

 

すると、カラン、という音と共に洞爺湖と書かれた木刀が男の足下に転がる。

それは、普段銀時が使用している木刀だ。

 

「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ。」

 

「銀さん。」

 

代わりに新八の木刀を受け取る。

これでどちらも木刀。武器による差は表れないだろう。

 

「勝っても負けてもお互い遺恨は無さそーだな。」

 

「ああ、純粋に男として勝負しよう。」

 

2人の男が対峙し、木刀を構える。

 

「いざ!!」

 

「尋常に」

 

「勝負!!!」

 

その言葉と同時に、相手に向かって一直線に走り出す。

 

そして――――

 

 

「あれ?」

 

男が素っ頓狂な声を上げる。

持っている木刀が知らぬ間に退化しているからだ。

 

「あれェェェェェェ!?ちょっと待て先っちょが・・・」

 

汗をダラダラと流し刀身部分が無い木刀を見つめ狼狽えるが・・・。

 

ゴッ!

「ねェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

銀時の一撃により男はザザザザ、と地面を転がっていく。

 

勝負は一度きり。

武器だって了承して使った。

 

ただ、己が知らなかっただけだ。

 

「甘ェ・・・天津甘栗より甘ェ。敵から獲物借りるなんざよォ~。厠で削っといた、ブン回しただけで折れるぐらいにな。」

 

天津甘栗の糖度がどれ程か分からないが、結構な甘さという事だろう。

 

「お前さんの考え不足ってことで銀時の大勝利ー。負けたんだから手ェ引けよー。」

 

ひょいっと欄干から河原へと降り、男に笑顔で敗北をもう一度突きつける。負けた時の約束も忘れずに。

 

「ぐ、貴様ァ。そこまでやるか!」

 

「こんな事のために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。すべて丸くおさめるにゃコイツが一番だろ。」

 

「コレ・・・丸いか?・・・」

 

一つの疑問を最後に、男は意識を手放した。

 

「よォ~、どうだいこの鮮やかな手ぐちゃぶァ!!」

 

ドゴォ。

 

新八と神楽が橋の上から銀時の上に、蹴り殺さんばかりの勢いで降り立つ。

 

「えっ痛そう。」

 

2人がそんな暴挙に出るとは考えもしていなかった竹仁は、少しばかり驚いている。

 

「あんなことまでして勝って嬉しいんですかこの卑怯者!!」

 

「えっ、落ち着け落ち着け。あは、あはははっ。」

 

ガッゴッガッ、と蹴ったり〆たり、2人の 暴力の嵐が 銀時を 襲う!

竹仁は2人を止めようとしているように見えるが、笑っているため本気ではない。

 

「見損なったヨ!!侍の風上にも置けないネ!!」

 

「神楽も、ほら、アハハハッ、おちっおちつけ。」

 

「新八ぃ!姉ちゃん護ってやったのにそりゃないんじゃないの!!」

 

決闘の敗北者だけでなく勝利者もボコボコである。

しかし銀時の方がボコられた回数は多いので、この姿だけ見ると彼が敗北者のようにも見える。

 

「もう帰る、二度と私の前に現れないで。」

「しばらく休暇もらいます。」

 

新八と神楽の口調と内容がガチである。

それぐらい彼を見損なったのだろう、2人とも振り返ることなくさっさと河原を後にしてしまった。

 

「何でこんなに惨めな気分?」

 

ムク、と身体を起こした銀時の隣に、彼がちょこんとしゃがみ込む。

 

「そりゃ子どもに罵倒されてボコボコにされりゃあね。」

 

「つーか目の前で俺がガキにボコボコにされてんのにそれすら笑うのかお前って奴は。止めようとかまるで思わないわけ?」

 

銀時は、よいしょと立ち上がり服についた汚れをパンパンと手で叩いて落としていく。

 

「・・・んー、」

 

銀時の後に続いて竹仁も立ち上がり、問いに対し軽く首を傾げて

 

 

「ざまあ味噌煮込みうどん!!」

 

 

と言い残しダッシュで銀時を置いていった。

 




彼らのお夕飯は味噌煮込みうどんでした。
勿論彼の嫌がらせです。



【挿絵表示】



お団子食べながら本を読んでいます。行儀が悪いですね。


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喧嘩は正々堂々と

頭突きって意外と痛いですよね。





「またお越しくださいませー。」

 

店員の言葉を聞きながら財布を仕事着の懐に仕舞い、店を後にする。

 

短い休憩を貰い、飲み物と軽食を買いに来たのだ。

ちなみに銀時は愚痴りながら、サボりながら仕事をこなしていたため休憩は許されませんでした。

 

店を出て歩き始めた時、

 

「なんですって?斬る?」

 

「ああ、斬る。」

 

「件の白髪の侍ですかィ。」

 

後ろから物騒な話が聞こえてきた。

話の内容からしてその白髪の侍を斬り殺そうとしているのだろう。

 

(・・・・・真選組だ。)

 

後ろをチラッと見てみると、真選組の隊服を着た2人組の男がいた。

初めて対面した池田屋の時の事が思い出される。

 

(白髪の侍ねぇ。)

 

その言葉から連想される人物を竹仁は1人だけ知っている。

 

しかし、斬り殺されるような事をした覚えはないはずだ。

1つだけ挙げるなら、桂の思惑にはまり大使館の敷地を爆破してしまったあの時だけだが、取り調べを受けて疑いは晴れたためあり得ないだろう。

 

この時点で彼は頭から「白髪の侍=銀時?」という計算式を消した。

それに、あれは白髪に見えなくもないけれど一応銀色の髪である。

 

真選組(うち)の面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの(かたき)とるって殺気立ってる。でけー事になる前に俺で始末する。」

 

何をしたわけでもないので、呑気に話を盗み聞く。

 

(へー、近藤さん。襲撃されたのかな。)

 

真選組のお仕事は攘夷浪士の捕縛を主としているため、攘夷浪士の襲撃を受ける確率は一般人に比べ遥かに高い。

しかし、単独で襲撃を仕掛けるとはとんだ度胸の持ち主だ。

 

「土方さんは二言目には「斬る」で困りまさア。古来暗殺で大事を成した人はいませんぜ。」

 

「暗殺じゃねェ堂々と行って斬ってくる。」

 

「そこまでせんでも、適当に白髪頭の侍見繕って連れ帰りゃ隊士達も納得しますぜ。」

 

(あの黒髪が土方。・・・適当にって、襲撃受けた割には扱い雑だね?)

 

人望がないなら隊士達はそんな激怒しない、だとしたら規模の小さな襲撃だったのだろうか。

もしくは、私的な喧嘩で一方的にボコられた、とか。

 

(ん?)

 

白髪の侍、規模の小さな襲撃ないしは私的な喧嘩、帯刀していたストーカー、あの、河原での決闘・・・・・

 

 

(・・・いや、そんなわけないか。)

 

もしそうなら、ストーカー退治をしたこちらが斬られなければならないという理不尽な話になってしまう。

 

ちょいと考え事をしていた間に仕事場に着き、あの2人がいる方向を見たが大分距離が離れていた。

竹仁にとってはこれから仕事をしなければならないので、後ろを歩いていた真選組の2人の事などもう関係ないが。

 

梯子を使って屋根に上がり、資材を抱えている銀時に懐から取り出したおにぎりを差し出す。

 

「おにぎり作っといたから食べろよ。」

 

「絶対毒入りだろ誰が食べるか。」

 

彼の脛を軽く蹴ってから銀時は抱えていた資材を下ろしに行った。

 

「ひどいなぁ。」

 

ちょっと残念そうにおにぎりをビニール袋に入れ、適当な場所に置いて仕事を再開する。

 

 

「おーい、兄ちゃん危ないよ。」

 

後ろから聞こえた声はいつものだるそうな声で、危険をまるで感じられない。

もしかしたら銀時には危険を伝達させる機能が標準装備されていないのかもしれない。

 

ガシャァン!

「うぉわァアアアァ!!」

 

「あっ・・・危ねーだろうがァァ!!」

 

「オイ銀時ィ!テメーはどうなってもいいが通行人に怪我させんなよ!」

 

これで通行人に怪我でもさせようものなら、また警察のお世話になってしまう。

 

ただでさえ仕事をしない上に警察のお世話になっていては銀時の分のお給料は確実にナシになる。

それは避けたいので、一応通行人に謝るべく銀時が降りたであろう場所を屋根の上からのぞき込む。

 

「あああああ!!てめーは・・・池田屋の時の・・・。」

 

警察に通報されるとかそれ以前に、警察に怪我させるところだったようだ。

それも、ただの警察ではなく、先程物騒な話をしていた真選組の者たち。

 

「そぉか・・・そういやてめーも銀髪だったな。」

 

ただの関係ない作業員を装いながら、音を立てないようゆっくりと梯子を下りていく。

 

「えーと、君、誰?あ・・・もしかして多串君か?アララすっかり立派になっ、ごふ!」

 

背後から押しかかる形で、銀時の頭を地面に叩きつけた。

 

「「!」」

 

「すみませんねぇ警察さん、この馬鹿が迷惑かけて。埋めとくんで許してください。」

 

申し訳ないなんて思っていないが、それを言ったら相手が確実に怒る気がするので、取りあえず最大限の笑顔を作って謝罪の言葉を口にする。

 

「オーイ2人とも!早くこっち頼むって!」

 

「はいはーい。・・本当にすみませんでした。じゃ、お仕事お気をつけて。」

 

黙ったまま動かない銀時を担いで梯子を上り、屋根に上がってその辺に彼を放り捨てる。

彼を仕事のできない状態にしてしまったが、それはまあ仕方ないという事で。

 

「あぶね。」

 

背後に怪しい気配を感じ振り向いた彼の顔面に、パンチが飛んできた。

竹仁は咄嗟に出した左手でどうにか受け止めたが、気を抜いていたため若干驚いた。

 

「顔面で受け止めろや。」

 

「このまま屋根の下まで投げ飛ばしてあげよーか?」

 

しかめっ面の銀時に対し、竹仁はニッコリ笑顔で返す。

 

「遊んでねーで仕事しろ!!」

 

向かい合ったまま沈黙し動かない2人の頭に、ベシッ、とおじさんの強烈な一撃がヒットした。

 

「いてェな何すんだハゲ。」

 

「はいはい、ちゃんと仕事しような銀時君。」

 

一時的とはいえ彼らは雇われている身のはずだが、銀時の態度は最初からこの通り酷いままだ。

しかし、仕事をしない訳にはいかないので、銀時は渋々といった様子で、対する竹仁は意気揚々とした様子で仕事を再開する。

 

「バカヤロー金槌はもっと魂こめてうつんだよ。隣を見習ったらどうだ。」

 

職人の言葉は抽象的になる時があるが、竹仁の場合頑張って金槌を振り下ろしているだけだ。

金槌に魂を分け与えてやる気など竹仁にはこれっぽっちもない。

 

「あ?なんでコイツを見習わなきゃならないわけ。チンパンジーを見習ってた方がましだわ。」

 

「あ?こっちだってお前に見習われるのなんざ御免なんだよ。黙ってゴリラの下僕に成り下がってろ。」

 

「いいから黙ってちゃんとやれ!!」

 

このまま言い合いが続けばいつまで経っても仕事が終わらない。

おじさんの喝によって、銀時を睨んでいた竹仁はハァと溜め息をついて仕事を再開する。

 

相変わらず銀時のやる気はないが。

 

 

「・・・爆弾処理の次は屋根の修理か?節操のねェ野郎だ、一体何がしてーんだ。」

 

黙って仕事をしていると、背後から聞き覚えのある声が飛んできた。

 

(うーん、来ちゃうかぁ。)

 

もしかしたら本当に銀時の事なのかもしれない。

だとしたら近藤さんと言われた人物があのストーカーで、真選組の者だという事か。

 

さてこれからどうなるのか、といつでも戦えるように周り、特に土方の動きを注意しながら竹仁は黙って仕事を続ける。

 

「爆弾!?あ・・・お前、あん時の。」

 

「やっと思い出したか。あれ以来どうにもお前のことが引っかかってた・・・、あんな無茶する奴ァ真選組(うち)にもいないんでね。」

 

最初の内はもし銀時ならめんどくさいな、帰ってくれないかな、とか思っていたが、これは一戦交わらせてから帰ってもらった方が後々この事を考えなくてよくなるので楽かもしれない。と竹仁は思った。

 

それに、もう土方が勘付いているように見える。

 

「近藤さんを負かす奴がいるなんざ信じられなかったが、てめーならありえない話でもねェ。」

 

「近藤さん?」

 

竹仁はたまに道具をいじってサボりつつ、仕事をしながら黙って2人の会話を聞く。

 

(斬り合いするってなったら向こうの仕事済ませよ。)

 

「女とり合った仲なんだろ。そんなにイイ女なのか?俺にも紹介してくれよ。」

 

「?」

 

土方が刀を銀時に投げ渡した、そろそろ正々堂々とした斬り合いが開始されるだろう。

刀を受け取った銀時は何故渡されたのか分からなかったが、土方があの男の知り合いであると気付いたらしい。

 

「お前あのゴリラの知り合いかよ。・・・にしても何の真似だこりゃ・・・」

 

「!!」

 

ガッ!

 

土方が銀時との距離を一気に詰め、刀を横に薙ぎ払おうとした。

 

しかし、2人を見ていた竹仁が一瞬の内に土方の目の前に立ち塞がり、刀を振るおうとした腕を掴んで止めたため斬る事は叶わなかった。

 

「不意打ちかぁ。暗殺じゃなくて正々堂々斬るって言ってたよね?」

 

「てめェ、話聞いてやがったのか。」

 

あんな往来で堂々と話をしていれば聞こえるに決まっている。

聞かれて嫌なら屯所でもどこでも済ませてから来なさい、だ。

 

「はーい超聞いてましたッ!」

 

土方の言葉に即答しつつ頭突きをかまし、相手が少し怯んだ隙に刀のリーチから逃れる。

土方は、竹仁を睨みながら舌打ちをし、予想していなかった攻撃によって崩した体勢をすぐに立て直した。

 

「オイオイ危ねぇだろ、いきなり何しやがんだおめーは。」

 

「ゴリラだろーがなァ、真選組(オレたち)にとっちゃ大事な大将なんだよ。(こいつ)一本で一緒に真選組つくりあげてきた、俺の戦友なんだよ。」

 

「へー、アレ大将だったんだ。ま、俺はお邪魔だろうし仕事に戻るよ。精々頑張るこった、心配なんてしてねーから。」

 

これからこっちの屋根ではマジの斬り合いが始まるので、道具を持って移動。

斬り合いの中仕事をするなんて彼らにとっても竹仁にとっても邪魔すぎるため、別の場所の修理仕事を先に終わらせようという事だ。

 

どちらに向けたか分からない言葉を最後に彼は手をフラフラと振り、背を向けて去っていく。

 

「てめーが人を心配する日にゃ江戸が終わるな。」

 

銀時の言葉に反応を見せる事なく、竹仁の姿は屋根の向こうに消えた。

きっと、2人の斬り合いが終わるまで戻ってくる事はないだろう。

 

「お前見捨てられてんじゃねぇか。まぁ、斬る手間が省けて助かるが。」

 

「お前じゃあ、アイツを斬るのは骨が折れると思うぜ?」

 

「ふん、強いも弱いも関係ねェ。誰であろうとも、俺達真選組の道を遮るならば(こいつ)で・・・」

 

「叩き斬るのみよォォ!!」

 

ガゴォォン!

 

真選組を汚すこともその道を遮った覚えもない屋根に会心の一撃が直撃してしまった。

土方の会心の一撃によって、周囲に砂塵が巻き起こる。

 

 

(・・・まさか屋根を()った音じゃないよな、勘弁してくれ。)

 

まさにその通りで、彼の仕事が増えるどころかどやされるかもしれない。

だとしても止めるつもりなどないが。

 

 

「刃物プラプラ振り回すんじゃねェェ!!」

 

土方の背後の砂塵からバッ、と姿を現した銀時は、彼の側頭部を蹴り飛ばした。

後ろを振り向いていたため前転するように体勢を崩したが、その回転のまま下から銀時の左肩を斬り付けた。

 

流石に特殊警察だけあって剣術は相当なものだろう。

 

ドシャア、と双方倒れ込む。

 

「なんだ?オイ。銀さーんてめっ遊んでたらギャラ払わねーぞ!」

 

「うるせェェハゲェェェ!!警察呼べ警察!!」

 

呼べと言っても目の前にいる人が警察ですが。

そんなツッコミは喉の奥にしまい込み、彼が仕事を中断しているのは仕方がないという事を説明する。

 

「今ちょっと面倒な客が来ててさ、まぁすぐ終わるから見逃してやってよ。」

 

「はぁ?客ぅ?・・・しゃあねえな、5分以内に終わんなかったらギャラなしにすっからな!」

 

「おぉ、ありがと~。」

 

5分もあれば決着はつくので、時間をくれたおっちゃんに感謝する。

万事屋の経済状況は大変だというのに、銀時の分のお給料が無くなっては困る。

 

彼に面倒な客が来ている間にこっちが終わるよう気合を入れて仕事を進めていく。

 

(帰りに米と夕飯の食材買ってかないとなぁ。・・あ、そういえば今日ピーマン安売りじゃん。ラッキー。)

 

今日の夕飯は大体決めてあり、主にピーマンの肉詰めとポテトサラダ、あとは適当に作るか買うかしてお惣菜を足す。

お夕飯を想像しながら、ふーんふん、と鼻歌まじりに手を動かす。

 

そんな呑気な彼とは裏腹に、あちら側では斬り合いが進んでいく。

 

 

シャン。

 

今まで鞘に納まっており見えなかった銀色を、一気に太陽の下へと晒す。

 

(フン・・・いよいよくるかよ。)

 

これで、刀を使った本当の斬り合いが始まる。

刀を構え、一直線に走り出す。

 

(命のやりとりといこうや!!)

 

「うらアアアアア!!」

 

ザゥ!

 

振り下ろした刀から手に伝わる感触。

 

(斬った!!)

 

しかし、実際に斬ったものと彼が斬ったと思ったものは違った。

 

目の前にあるのは血を流した銀時ではなく、彼の斬撃により二つになった手ぬぐいだけ。

 

(なに!?)

 

気付いた時にはもう遅く、土方の左側には銀時の姿が。

 

(かわされた!?斬られッ・・・)

 

銀時が、刀を振るった。

 

ザゥン!

 

 

 

...カラン。

 

しかし、屋根に転がったのは負傷した土方ではなく、折れた刀身だけ。

 

「はァい、終了ォ。」

 

銀時が肩を押さえて斬り合いは終わりだと告げる。

確かに刀が折れた以上終わらざるを得ないだろう。

 

流石に折れた刀を使ってまで彼を斬ろうなんていう強い殺意を土方は持っていない。

 

 

 

(ふーんふん、・・・ん?終わったかなー。)

 

直感だかなんとなくだか分からないが、今の音で斬り合いが終わった気がした。

どちらの勝ちかなど始まる前から分かっているので、わざわざ見に行ったり聞いたりはしない。

 

「おいハゲェェ!!俺ちょっと病院行ってくるわ!!」

 

しかし銀時は負傷したらしく、病院に行ってきます。

病院に行くのでは、5分の時間を貰った意味がない。

 

ハァ~、と大きなため息が出る。

 

(客のせいって事にしてお給料ナシ、免れられないかな。)

 

あーもういいやなるようになれ、と彼はお給料について考えるのをやめた。

仕事を終わった後のご飯の時間だけを考える。

 

 

少し経ってからこちらに来た銀時は、左肩を負傷していた。

 

「うわ痛そう。辛子味噌塗ってあげようか?」

 

そんな事をされたら、切り傷に塩を塗るよりも酷い痛みに苦しむだろう。

 

「やめろ、俺はカチカチ山の狸じゃねェ。」

 

「アハハ、まぁ行ってらっしゃい。霊に手当してもらいに。」

 

「んなサービスあるわけねーだろアホが!!」

 

いらない言葉をくっつけ、彼は銀時を見送る。

幽霊の類が苦手だという事を知っているため、竹仁はたまにソレで遊んでいる。

 

(毎日やったら睡眠不足で倒れるんじゃね?)

 

それは流石に木刀でサヨナラ案件に突入するはずなので、やらない。

 

やってみたい気持ちを抑え、竹仁はよいしょ、と道具を持って立ち上がる。

今立っている場所の修理は終えたが、向こうの屋根と、恐らく破壊されたであろう所の確認、そして度合いに応じた修理をしなければならない。

 

(よし、じゃ今度はあっちか。)

 

道具を持ったまま移動すると、寝転がっている土方と屋根の破損した部分が見えた。

土方にちょっかいを出すわけでもなく、彼はすぐに破損した瓦と板の取り外し作業を始める。

 

 

 

「おい、お前最初から勝ち負け分かってたんじゃねぇか?」

 

沈黙が数分流れた後、真面目に作業をしていた竹仁は、寝転がっていた土方に突然話しかけられた。

 

「・・あぁ。口開いたと思ったらソレ?」

 

竹仁は当然、勝ち負けは分かっていた。その上、死人が出ないとも。

だから特別何かを言ったり止めるような事はしなかった。

 

「・・・そりゃねぇ。じゃなきゃ殺人を目の前にして仕事に戻らねーよ。・・・はい。」

 

その辺に転がっていた刀を鞘に戻し、銀時に渡そうとしたおにぎりと共に土方に渡す。

当然の如く、彼は怪訝そうな顔をした。

 

「・・・なんでおにぎりも渡した?」

 

「それアイツの分。食べねえって言われたからお前にやる。」

 

「お前が食べればいいじゃねえか。」

 

「やだよ。だってもう昼食食べたし。アイツを負傷させたご褒美だと思って食べてよ。」

 

「・・・やっぱ見捨てただけだろお前。」

 

銀時を負傷させたから褒美、なんてどこの殺し屋だろうか、と。

 

「アハハ、どっちだろうね。」

 

「ハァ。まあいい、食えばいいんだろ。」

 

「わー、ありがとう。」

 

ラップを少しはがして土方はおにぎりを口にした。

 

「・・・・ごっふ!?げほっ、苦ェ、っオイてめ、これ毒とか、げほっ。」

 

2回ほど咀嚼した次の瞬間盛大に吐き出した。

毒の心配はない。毒を盛って人に害を与えようという趣味は竹仁にはないからだ。

 

「ブフッ、大丈夫、ふふ、毒じゃないよ。」

 

懐からポケットティッシュとビニール袋を取り出し、土方に渡す。

ティッシュで拭くなりして袋に捨てろという事だ。

 

「おぇ、お前、これ食った奴の反応見て楽しもうってだけだろ。」

 

食べかけのおにぎりと使用済みティッシュを袋に入れて口を縛り、こちらにポイッと投げてきた。

仕掛けたのは自分なので片付けぐらいはするつもりだ。

 

「そーだよ。アイツには食事テロしすぎて警戒されまくってるからできないし。」

 

「・・せめて食べ物は止めろ。」

 

「うーん、そうだね。やめるよ。万事屋にも、従業員が増えちゃったからね。」

 

竹仁は、あの子どもたちに対し食事テロをしようという気が無い。全く起きない。

なので、万事屋ではこれから食事テロを絶対しないようにしよう、と彼は決めた。銀時単体にならいつかするかもしれないが。

 

「へェ、万事屋ねぇ。胡散臭ェ商売してんだな。」

 

「うん、アイツの足も臭ェよ。」

 

「どうでもいいわ。」

 

「だろうね。」

 

試しに近所の猫を寝ている銀時の足に近づけたら、その猫はすごい形相になっていた。

きっととんでもない臭いだったのだろうと推測できる。

 

そればっかりは、好奇心が湧いたとしても嗅ぎたくない。一生湧く事はないだろうけど。

 

破損した瓦の取り外しが終わり、板の状態の確認をする。

板の破損は1~2枚で済んでいたため、すぐに直して瓦の張り替えに移る。

 

目の前の屋根から目を離すことなく修繕作業を進めていく。

 

「なぁ、土方って副局長とかその辺の役職だったりすんの?」

 

顔を上げることなく興味本位で尋ねる。

局長である近藤と共に真選組を作り上げてきたなら、土方もそれなりの役職に就いていると思ったのだ。

 

「副局長っつか、副長って呼ばれてんな。意味は変わらねぇと思うが。」

 

「ふーん、苦労しそうだねぇ。・・・お迎え来てるしさっさと仕事に戻ったら?」

 

足音をたてずに接近してきたようだが、気配があるので無駄だ。

作業の手を止めて後ろを見れば、先程土方の隣にいた少年が立っていた。

 

「おや残念、バレちまいましたかィ。」

 

「ドッキリとか企まなくていいよ少年。さっさと副長さん連れてお帰りくださいな。」

 

「言われずとも。さぁ土方さん、土に還ってくだせェ。」

 

「誰が還るか!!」

 

少年がいきなり土方に死んでくれと言ったが、ただの揶揄いだろう。

揶揄いにしては少し度が過ぎてるようにも見えるが。

 

「うん。ちゃんと土に還しといてね。」

 

「テメーも頼むんじゃねェ!!」

 

「うるさいですぜ土方さん、黙ってくだせェ。あと刀返せ。」

 

上下関係が厳しそうだと最初は思っていたが、意外とそうでもない所があるらしい。

イメージと違う彼らの姿を見て竹仁はクスクスと笑う。

 

「こんな大きい犬飼ってるなんて大変だねェ真選組は。」

 

「誰が犬だ!テメーら叩っ斬るぞコラァ!!」

 

叩っ斬ると言っても、先程まで持っていた刀は少年に返してしまったし、彼の物であろう刀は銀時の一撃によって折れてしまっている。

 

すぐにその事を思い出し、土方は渋面を作った。

 

「そんな刀でやれるもんならやってみろィ。」

 

年が近そうな新八とは違い、この少年の煽り性能がかなり高い。

 

「ハハハ、真選組って意外と賑やかそうだねェ。ま、次会う時は斬り合いも殺伐とした空気もナシでよろしく。じゃあね、副長さん、少年。」

 

これ以上話し込んでいては仕事が終わらないため、こちらからさくっと話を切る。

 

「そうですねィ。あと俺の名前は沖田総悟、っていいまさァ。ま、苗字でも名前でも好きに呼んでくだせェ。」

 

「んじゃ、沖田君って呼ぼう。で、俺の名前は鈴鳴竹仁。自由に呼んでくれていーよ。」

 

笑顔で自己紹介をする。

 

「えぇ、好きに呼ばさせてもらいますぜ。それじゃまたいつか会いましょうや、兄貴。」

 

「じゃあな。」

 

別れの挨拶をして、2人とも去っていく。

 

「おー、ばいばーい。」

 

土方と沖田の姿が見えなくなってところで屋根に向き直り、止まっていた作業を再開する。

 

周囲から人がいなくなったため、作業音しか聞こえない。

 

 

新八と神楽は今頃何をしているだろうか。

今日のテレビは面白いものがやるだろうか。

 

誰もいないから、取り留めのない事がポワポワと浮かんでくる。

 

 

一旦作業の手を止め、遥か頭上の青い空を仰ぎ見る。

 

(・・・兄貴ねぇ。まあ年齢的にそうか。)

 

彼は沖田の年齢を知っているわけではないが、あの見た目的に20歳は超えてなさそうだ、と考えた。

 

(もし、弟がいたら・・・なんてねぇ。)

 

あのぐらいなのだろうか。それとも?

 

生まれてから20数年、彼は家族について考えた事がある。

 

自分の隣に母親がいたら?目の前に父親がいたら?

一緒に遊ぶ兄、弟、姉、妹がいたら?

双子とか、三つ子だったりしたら?

 

もし。もし、普通の家庭に生まれていたら。

 

 

・・どれだけ考えたって無駄。それが昔に出た、答え。

 

答えを出した時に感じた、空しさだけはよく覚えている。

 

 




無事夕飯の食材と安売りのピーマンを買えました。

彼は普通に料理ができます。難しいものでなければ。


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可愛いものにも牙はある

 

『――――え~、続いてのニュースです。先日来日した央国星のハタ皇子ですが、新設された大江戸動物園を訪れ~~』

 

部屋の掃除をしていた手を止め、竹仁はテレビに映ったハタ皇子の頭についている触覚を凝視している。

 

「アレ千切りたい。」

 

「やめてください逮捕されますよ。」

 

「・・・うん、諦める。」

 

退屈極まりない警察所で取り調べを受けたあの3日間は割とトラウマみたいなものだ。

あんな危険レベルの疲労を感じたのは初めてかもしれない。

 

(・・・アレ、チャンスだったのになぁ。)

 

あの時は殺意が欲求を上回ってしまい千切る気にもならなかったのだ。

冷静になって考えれば、あの時殺意のままにブチリとやっておけばよかったと思う。

 

そうそう会えるような人物ではなさそうだし、もうあの触覚を取り外せるような機会はなさそうだ。

仕方がないのでアレを取りたいという欲求を抑え、掃除を再開する。

 

「邪魔だー早く起きろォ銀時ィ。ソファコロコロするからぁ。」

 

ソファに横たわる銀時の横にしゃがみ込んで少し大きめの声で話しかけ、粘着カーペットクリーナーを横にカタカタ振るも起きる気配はない。

 

「いや銀さんが起きないのはアンタが銀さんを殺殺(コロコロ)したからでしょうが。」

 

何故銀時を殺殺(コロコロ)するような事態になってしまったかと言うと、

 

掃除をしている時に、片付けたジャンプを銀時が取り出そうとしたので掃除中だから後にしろと言ったら読書ぐらい別にいいだろと返され、それに対してまた言い返し・・・という具合で言い合いとなり、最後に竹仁が腕力を以って銀時を黙らせたからだ。

 

「あーもう、仕方ないなぁ。よっ・・・・っと。」

 

動かない銀時を担ぎ上げて反対のソファまで運び、そのまま銀時が横たわっていたソファに戻ってコロコロ掃除を始める。

 

「床に捨てないんですね。」

 

普段ならそうしただろうが、新八がキレイにモップをかけてくれたので回避したのだ。

まぁ床もソファも、毎日歩くなり座るなりしていれば汚れてしまうけど。

 

「ただいまヨー。」

 

その時、神楽がおつかいから帰ってきた。

 

「あ、おかえり。」

「おかえりー。」

 

「トイレットペーパー買ってきてくれた?」

 

新八が神楽に尋ねる。

 

「はいヨ。」

 

神楽が手渡したものは確かにトイレットペーパーだ。1ロールだけだが。

基本的には12ロール、18ロールなど、長期用に幾つか入ったものを買ってくるはずだ。

 

やはり身近な所から「普通」というものを教えなければならないらしい。

 

「・・・神楽ちゃんあのさァ・・・。普通何ロールか入ったやつ買ってくるんじゃないの。これじゃあ誰かおなか壊したら対応しきれないよ。」

 

「便所紙くらいでガタガタうるさいアル。姑か、お前!」

 

竹仁は、コロコロしたまま首を動かして呆れる新八と怒れる神楽の方を見る。

その瞬間、彼の目は2人の更に向こう側に居る白い物体に留まった。

 

その物体が犬であると理解したが、大きさが通常の犬の比ではない。

 

「・・・そうだぞ新八、何個か入った物だと言わなかったお前が悪い。」

 

2人とも白い犬について何も言わないので、もしかして自分にしか見えてない?と若干落ち着きを失っている。

 

「何僕のせいにしてんだ!アンタだって何も言わなかったでしょうが!あ、銀さん起きたんですね。」

 

新八の言葉の通り、銀時は強制睡眠から目を覚ました。

 

しかし、目が覚め身体を起こした時見知らぬデカい犬が視界に入ったので、寝惚けてるのか?と思って目を擦るも目に映る光景は何も変わらない。

 

「あ、うんおはよう?じゃなくてオイ竹仁テメー、・・・なんだその馬鹿面。」

 

一旦白い犬の事から逃避して、自分を眠らせてくれた竹仁に文句を言おうとしたが、目を見開いて白い犬の方を見つめる顔を見て文句はどこへやら。

 

「馬鹿とはなんだ、目の体操してたんだよ。・・・2人とも、そのワンちゃんどしたんだ?」

 

馬鹿面という指摘に対し彼は苦しすぎる言い訳を返す。

その後、両手で拭く仕草をして顔を元に戻し、気になっていた白い犬が何なのか2人に尋ねる。

 

「え?ぎゃああああああああ!なにコレェェェェ!!」

 

新八は白い犬がいる事に今気付いたらしく、悲鳴を上げた。

それに対して神楽は、何事もないかのように竹仁の問いに答える。

 

「表に落ちてたアル。カワイイでしょ?」

 

「落ちてたじゃねーよ。お前拾ってくんならせめて名称の分かるもん拾ってこいや。」

 

「定春。」

 

「そうか。定春っていうのか、いい子いい子。」

 

コロコロをソファの上に放置して定春の元まで移動し、その頭を撫でる。

名前についても、その存在についても既に疑念など消え失せたらしい。

 

「何納得してんの?!明らかに今つけたろ!!」

 

「あとコレ、首輪に挟まってたヨ。」

 

神楽が、2つに折られた紙を差し出す。

それを新八が受け取り、書かれている内容を声に出して読む。

 

「えーと・・・『万事屋さんへ 申し訳ありませんがウチのペットもらってください』。」

 

「うんいいよ。」

 

先程から定春を撫で幸せそうな竹仁は、その手紙のお願いを快諾する。

2人はそうとはいかないが。

 

「お前は一旦黙れ。・・・それだけか?」

 

「(笑)と書いてあります。」

 

「笑えるかァァァァァァ!!(怒)」

 

「うわっ!!」

 

明らかに馬鹿にしたような最後に銀時は(怒)を露わにし、手紙をバリッと引き裂く。

 

「要するに捨ててっただけじゃねーか!!万事屋っつったってなァボランティアじゃねーんだよ!!捨ててこい!!」

 

「嫌アル!!こんな寒空の下放っぽいたら、死んでしまうヨ!!」

 

捨ててこいという銀時の言葉に、神楽は全力で抵抗する。

本気で定春を飼いたいらしい。

 

「血も涙も金もない奴め。定春の一匹や十匹ぐらい飼えるだろ。」

 

片手で定春を撫でたまま銀時に対し冷酷な目を向ける。

こちらも本気で飼うつもりだ。

 

「いや十匹は無理ですよ面積的にも。」

 

この万事屋に定春十匹を入れたら自分たちの生活スペースは極僅かになってしまう。

そして金銭的にもエサ代、その他諸々の経費を考えて飼う事は不可能だ。

 

「定春なら大丈夫さ一人でもやってけるって。分かってくれるよな、定は・・・」

 

バグン。

 

「あ。」

 

ス、と銀時が同意を求めるように定春の頭を撫でようとした時、頭部を丸ごと食べられてしまった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「定春ぅ~!!こっち来るアルよ~!!」

 

ドドドドドド!

 

「ウフフフフフ!!」

 

少女と犬がじゃれ合う。

その字面だけなら微笑ましいものだろう。

 

しかしこの絵面はどうだろうか。

神楽が笑顔であるためギリギリそう見えないだけで、少女が巨大犬に襲われかけているようにしか見えない。

 

そして、神楽を追いかける定春の背中には、成人男性が四肢をだらんとさせて乗っかっている。

 

「・・・・・・いや~スッカリ懐いちゃって。ほほえましい限りだね新八君。」

 

「そーっスね、女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ銀さん。」

 

どこか遠い目をしてベンチに座り、彼らを見つめる銀時と新八は包帯でグルグル巻きだ。

懐かれていない、その上定春をどうにかする腕力をもたない彼らは定春に怪我をさせられる一方だった。

 

「僕らには懐かないくせに何でアイツとソイツには懐いたんだろうか、新八君。」

 

「神楽ちゃんの場合襲われてるけどそれをものともしてないだけですよ、銀さん。」

 

2人の視線の先には、突進してくる定春を片手でいなす神楽が。

夜兎族でなければできない芸当だろう。

 

「なるほどそーなのか新八君。」

 

「はい。まぁ・・・竹仁さんの場合は、ただ本当に懐いてるだけじゃないですかね、銀さん。」

 

「ふむ、アイツは犬と同レベルって事かねしんぱげふッ。」

 

銀時の額にどこからか飛んできた石が直撃した。

まぁ、どこから、なんて言わずもがな。

 

「誰が犬と同レベルだって?」

 

神楽が銀時たちの座るベンチの元へと走っていき、竹仁は手についた砂汚れをパンパンとはたき落としながら、神楽の後について彼らのもとへと歩いてきた。。

 

「ったく・・・お前ら楽しそーだな、オイ。」

 

「うん。」

「ウン。私、動物好きネ。」

 

神楽はベンチに座り、竹仁はベンチの後ろに立って背凭れに両肘をつき公園を眺める。

 

「女の子は皆カワイイもの好きヨ。そこに理由イラナイ。」

 

「・・・アレカワイイか?」

 

ドドドド!

 

突進してくる定春の前に立ち、竹仁が手を広げる。

 

「さーだーはーるー。すとっぷ。おすわり。いい子いい子。」

 

彼の言葉に従うように定春は突進の勢いを止め、おすわりをした。

おすわり状態の定春に抱きつき、彼は動かなくなった。

 

「カワイイヨ。こんなに動物に懐かれたの初めて。」

 

「いや、あの人にしかまともに懐いてないような・・・。」

 

彼女にとっては動物の方からやってきてくれる事が懐いているという認識なのだろう、きっと。

 

「私、昔ペット飼ってたことアル。定春一号。」

 

その定春が一号ならこの定春は二号だろうか。

 

「ごっさ可愛かった定春一号。私もごっさ可愛がったネ。定春一号、外で飼ってたんだけど、ある日私がどーしても一緒に寝たくて親に内緒で抱いて眠ったネ。」

 

「そしたら思いの他寝苦しくて、悪夢見たヨ。」

 

「散々うなされて起きたら定春・・・カッチコッチになってたアル。」

 

ぐすっ、と彼女は涙を流すが、隣の2人は泣けばいいのか笑えばいいのか分からねぇ、といった表情をしている。

 

「そりゃあ、悲しいね。でもこの定春なら、そんな心配はないだろ?」

 

定春に抱きついていた彼はいつの間にか胡坐をかいて3人の方を向き、話を聞いていたらしい。

 

「ウン、この定春なら力のコントロール下手な私ともつりあいがとれるかもしれない。神様からのプレゼントアル、きっと・・・。」

 

定春を撫でながら少し寂しそうな顔をする神楽。

余程定春一号の時悲しかったのだろう、やはり笑うという選択肢はバッドエンドでしかなかったようだ。

 

「あ、酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ。」

 

「買ってらっしゃい。」

 

「定春のことヨロシクアル!」

 

「任せろー。」

 

フワフワと手を振って、竹仁は去っていく神楽を見送る。

 

「・・・お任せするわ。」

 

彼ら2人では、何かしようとしなくても怪我だらけにされてしまうので、大人しくまともに懐いている竹仁に丸投げする。

 

しかし、そう簡単に物事が運ばないのが現実である。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ストップ定春!その少年食べちゃダメ!隣は別にいいけど!!」

 

竹仁が、大声をあげる。

疾走している定春の背中に乗り、首にしがみついたまま。

 

なぜかと言えば、先程から定春が2人を全力で追いかけまわしている状態なのだ。

 

「テメェェ!俺を食わそうとしてねーで止めろや!!」

 

「そうですよふざけてる場合ですか!!止めてくださいって!!」

 

「だぁああもう!わぁったよどうにでも止めりゃいいんだろ!?」

 

ごめん定春、と心の中で謝り、一気に定春の背中から眼前まで跳躍する。

跳躍する際に上体をひねり、その勢いのまま全身を定春の方に向け、目を覆い隠すように腕を広げて抱きつく。

 

「うぐぇっ。」

 

しかし、定春の勢いはそのままであるため鳩尾の辺りに大ダメージが入り、その衝撃で意識が一瞬だけ遠のく。

 

(頼む止まって、鳩尾死ぬ。)

 

目を隠されたら、定春は獲物を追うのをやめると信じたい。

 

「「ぎゃあああああ!!」」

 

2人の叫び声が聞こえるが、気にする余裕はない。

地面に着地したら、定春は動きを止めるか、そのまま突っ走り続けるか。

 

(後者だったらどうし――)

 

キィィィィ、ドカン!

 

突如響いたブレーキ音と衝突音を最後に、彼の意識は闇へと放り出された。

 

 

 

 

 

 

「う・・・?」

 

眠っているような意識の中で目を開ければ、すりガラスから覗いたような視界。

 

「――ですか皇子?私ら、ただのチンピラですな。」

 

何が起きたのか、意識を失う直前の状況と痛む身体からなんとなく予想がついた。

 

視線を声の方に向ければ、黒い車に2つの人影。

そして、車の上には、白い大きな生き物。

 

「これは保護だ!こんな貴重な生物を野放しにはできん!」

 

一気に意識と視界がクリアになる。

 

(・・・ぬかせバカ皇子が。定春はお前らなんかにやらねぇ。)

 

痛い目見せてやる、と竹仁は口を悪党のように歪ませた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ゆくぞ。・・・クククク、またコレクションが増えちゃった。」

 

「へェ、他人のものを掻っ攫った挙句コレクション呼ばわりとは、見下げたクズだな。」

 

竹仁は、ハタ皇子の右側に座ったまま笑顔で短刀を鞘から引き抜く。

 

「え?ギャァアアア!!いつの間に!?」

 

ハタ皇子と、じぃが車に乗り込んだ時からそこに座っていたはずだが、まるで気付かなかったらしい。

 

「うるさい黙れ。運転手、車を止めな。・・・コイツがどうなってもいいのか!!」

 

片腕を皇子の首に回して身動きを取りづらくし、短刀を皇子の首・・・ではなく触覚に突き付けた。

 

「狙うとこそこぉおおお!?」

 

「当たり前だ!取り外してみたいんだよコレ!!」

 

その時、コンコン、と車の窓を叩く音が聞こえた。

そちらを見れば、窓を叩く手と見慣れた着流しの袖が。

 

短刀を持つ手でパワーウィンドウのスイッチを操作し、窓を開ける。

 

「おい短刀貸せ、縄切る。」

 

「いたんだなお前、後でちゃんと返せよ。」

 

差し出した短刀の柄を掴むと、手は引っ込んだ。

銀時が定春を救出するならば、この者たちを脅す意味はなくなる。

 

(んー、罰って事で終わるまで脅してようか。)

 

「上にも誰かいるのか!?・・・なっ・・!!」

 

「うオオオオオオ!!」

 

じぃが窓から顔を出し上を見ようとしたその時、背後から怒りの形相で全力疾走してくる神楽が目に入った。

 

「チャイナ娘がものスゴイスピードで・・・!!」

 

「定春返せェェェェェ!!」

 

定春を攫われた怒りは半端ではないようだ。

こんな状態の神楽に追われたら大抵の人間は全身が縮み上がって切り干し大根になってしまうだろう。

 

「誰だ定春って!?」

 

「くっ、来るなァ!!」

 

ガシャ、と運転したままじぃが拳銃を取り出し、神楽に向かって発砲しようとする。

 

「神楽!今銀時が――」

 

開けっ放しの窓から見えるじぃの手首を捻って銃を落とし、竹仁は銀時が定春の救出作業をしていると伝えようとするが。

 

「ほァちゃアアアア!!」

 

ガシャァアン!

 

伝えるのが遅かったため神楽は止まれるはずもなく、そのままフルスイングで車体を吹き飛ばした。

 

しかし、神楽は傘を振るった数瞬後に定春が乗っていた事を思い出し、竹仁が乗っていた事を理解した。

 

「あ。」

 

ドシャァア!

 

「定春ゥゥゥ!竹ちゃんん!」

 

神楽の叫びも空しく、吹き飛ばされた車体は川へと落下した。

 

「う、・・・う。」

 

神楽は、また同じ事をしてしまった、今度は竹仁までも、と自責の念に駆られ涙を流す。

 

「お嬢さん。」

「かーぐらちゃん。」

 

その時、地面に手をついて涙を流す彼女に小さく影が差し、2人分の声が耳に入った。

顔を上げればそこには、しゃがんだまま笑顔で神楽を見つめる竹仁と、木の枝に座る銀時と定春が。

 

「何がそんなに悲しいんだィ。」

 

銀時は、またも定春を撫でることに失敗し手首から先を思い切り噛まれている。

 

「ぎぃやぁぁぁぁ!!」

 

「こんな馬鹿が生きてた事かな。」

 

冷たい目で銀時を一瞥し、ボソッと呟く。

 

「竹ちゃん、銀ちゃん、定春!!」

 

2人+1匹がそろって無事に生きてると分かって安心し、嬉しそうな顔をする。

 

「定春ッ!竹ちゃん!よかった、無事でホントよかったヨ!!」

 

枝から降りた定春と、竹仁の両方に抱きつくもよく見れば定春に腕を噛まれている。

痛そうだが、大丈夫なのだろうか。

 

「おっと。・・・そりゃ、どうも?」

 

竹仁は、困ったような笑顔を浮かべて定春と神楽を撫でる。

 

「銀ちゃん、飼うの反対してたのに、なんで。竹ちゃんは、分かるけど。」

 

竹仁は、定春の事を最初から飼う気でいた。

しかし、銀時は最初から飼う事に反対していた。

 

当然、何故銀時が定春を助けたのか分からないのだろう。

 

「俺ァしらねーよ。面倒見んならてめーで見な。オメーの給料からそいつのエサ代引いとくからな。」

 

「・・・アリガト銀ちゃん。給料なんてもらったことないけど。」

 

給料が2人に払われた事は1度もない。

子どもたちに何てハードな生活をさせているんだと竹仁は改めて思う。

 

「アハハ、引く給料すらねーってのにな。・・・さて。万事屋に帰るぞ、神楽、定春。」

 

「ウン!」

 

「ワンッ!」

 

万事屋の前に捨てられていた定春によって引き起こされたこの騒動も、やっと終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「てめー短刀どっかいったってどういう事だオイィ!!」

 

「あの状況じゃどっかいったって仕方ねえだろ!!」

 

「知るか!!借りたもんは返せって習わなかったかこのボケナスッ!!」

 

「ごふっ。」

 

そして、こちらも終わりを迎えた。    





どっかいった短刀は、彼自ら数時間かけて探し出しました。


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団子は素朴でいい

私はみたらしが好きです。




「愛だァ?夢だァ?若い時分に必要なのはそんな甘っちょろいもんじゃねーよ。」

 

「いや、若い頃から愛も夢も捨ててたら頭のネジ外れた人間になっちまうぞ。」

 

いきなり愛も夢もいらんと語り出した銀時に対し、手元を見つめたまま竹仁は反論する。

彼は今りんごをうさぎさんの形にカットしている。

 

「うるせぇ、カルシウムさえありゃ全て上手くいくんだよ。」

 

「いや、愛とか夢っていう人生に大事な諸々はカルシウムで左右されるような弱っちいもんじゃないと思うよ。うん。」

 

銀時の口から出てくるカルシウム最強説に顔を上げる事無く竹仁はまた反論する。

もしもカルシウムで全て上手くいくなら、人間も天人もカルシウムを求めるゾンビと化しそうだ。

 

「うるせぇ、受験戦争、親との確執、気になるあの娘。とりあえずカルシウムとっときゃ全てうまく」

 

「いくわけねーだろ!!幾らカルシウムとったってなァ車にはねられりゃ骨も折れるわ!!」

 

見事なツッコミの通り、新八の脚の骨は先日車に撥ねられたせいでポッキリ逝っている。

その為彼は現在入院中で、銀時ら3人はそのお見舞いに来た、という具合だ。

彼らに新八を見舞う気持ちがあるのか甚だ疑問だが。

 

「いや、カルシウムを摂り続けてれば新八の骨だってチタニウム合金並みに」

 

そんな新八のツッコミに対しても、彼の方を見る事無く竹仁は反論する。

 

「なるわけねーだろ!!人間にカルシウムを合金へ変換させる機能はねーよ!!」

 

「いやいや、実際銀時の頭がほら、こんな馬鹿みたいにフワフワに、いてっ。」

 

見てみろと言わんばかりに、竹仁はりんごを切るのに使用している短刀の切っ先を銀時の頭に向ける。

しかし、誰が馬鹿だふざけんなと言われ頭を叩かれた。

 

「あの、病院で病院送りにされるような事しないでくださいよ。」

 

この調子で言い合いにでも発展したら病院に迷惑だし、竹仁が短刀を振り回したら命の危険だ、と新八は思ったのだ。

 

「分かってるよ。息する間もなく墓場に送ればいいんだろ。」

 

そう言って短刀を少し持ち上げ、刀身をジッと見つめる。

新八の言っている事を理解する気は彼にはないらしい。

 

「ちげーよ!するなって言ってんだよ!!」

 

「安心しろ新八、どこにもコイツの血1滴すらつけることなく葬るからよ。」

 

そう言って銀時は腰に挿してある木刀に手をかける。

 

「そもそもやめろって言ってんのが分かんねーのか!!」

 

暴力沙汰を起こすなという意味で言ったはずなのだが、病院を介さなければセーフだの、血痕をつけなければいいだのとおかしな解釈をされている。

 

「やかましーわ!!」

 

流石に話し声が騒がしかったらしく、彼らは看護師から注意を受けた。

 

「他の患者さんの迷惑なんだよ!!今まさにデッドオアアライブをさまよう患者さんだっていんだよ、ボケが!!」

 

看護師としては結構攻撃的な言葉遣いだが、この看護師が怒鳴れば誰であっても黙らせることが出来そうだ。

 

「あ・・・スンマセン。・・・オイオイ、エライのと相部屋だな。」

 

「ええ、もう長くはないらしいですよ。僕が来てからずっとあの調子なんです。」

 

彼らの視線の先には、人工呼吸器やチューブを取り付けられたまま眠っている爺さんが。

だが、その爺さんのベッドの周りには医療関係者以外の人間が見当たらない。

 

「そのわりには家族が誰も来てねーな。」

 

「あの歳までずっと独り者だったらしいですよ。相当な遊び人だったって噂です。」

 

「ふぅん。ほい新八、うさぎさん。」

 

「あ、どうも・・・ってクオリティ高ッ!」

 

竹仁から渡された皿に乗るりんごのうさぎは、りんごを8等分にし、皮を耳に見せて・・・といった形ではなく本物の兎のようにカットされている。

 

「ちゃんと残骸捨てろよ。」

 

「ん。」

 

バッグから取り出した手ぬぐいで短刀を綺麗に拭いて鞘に納め、うさぎさんの残骸を袋にまとめる。

 

「じゃ、そろそろいくわ。万事屋の仕事もあることだし。」

 

銀時が椅子から立ち、次いで片付けを終わらせた竹仁が立ち上がろうとした時、

 

「万事屋ァァァァァ!!」

「ぎゃああああ!!」

 

突如デッドオアアライブを彷徨っていた爺さんが叫びながら跳ね起き、人工呼吸器やチューブが勢いよく外れた。

突然の出来事にこの病室にいる者達はみな一様に驚き、主治医らしき者に至っては悲鳴を上げた。

 

「今・・・万事屋って・・・言ったな・・・。それ何?なんでも・・・して・・・くれんの?」

 

フラフラヨロヨロ、ぜーぜー。

この爺さん、ベッドから降りて彼らの方に歩いてくるものの途中で死んでしまいそうだ。

今にも死にそうな状態でフラフラと寄ってくる姿は、幽霊のよう。

 

その姿に、銀時たちは若干の恐れを覚える。

 

「いや・・・何でもって言っても死者の蘇生は無理よ!!」

 

「いや、できるかもよ。ザキ。」

 

竹仁は壁にもたれかかったまま手を銃のようにさせ、爺さんに向かってバキューン、と死の呪文を放つ。

 

「逆だアホ!ちょ、こっち来んな!」

 

「のわァァァ!」

 

シャラン。

 

座り込み、意味が分からず混乱する銀時の目の前に一本のかんざしが差し出される。

彼は、頬が引き攣るのを感じながら訳も分からず目の前の物を見つめるしかできなかった。

 

そして、かんざしを差し出した爺さんはそのまま万事屋への依頼内容を口にした。

 

「コ、コレ。コイツの持ち主を捜してくれんか?」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「団子屋『かんざし』?そんなもん知らねーな。」

 

「昔この辺にあったって聞いたぜ。」

 

「ダメだ俺ァ三日以上前のことは思い出せねェ。それよりよォ銀時、お前たまったツケ払ってけよ。」

 

たまったツケ・・・それ三日以上前の事思い出してんじゃん、と思うが口にはしない。

それについては銀時自身の問題なので、どのぐらいたまってようが彼の知った事ではない。

 

重さのない串をくわえて、特に何も考えずに竹仁は空を見上げた。

 

「その『かんざし』で奉公してた綾乃って娘を捜してんだ。娘っつっても五十年も前の話だから今はバーさんだろーけどな。」

 

「ダメだ俺ァ四十以上の女には興味ねーから。それよりよォ銀時、お前たまったツケ払ってけよ。」

 

「そうかい。・・・じゃあいくか。店主、ハイこれお金。みたらし8つ持ち帰りで。」

 

財布から持ち帰り用の団子の代金、ちょうどを取り出して店主に手渡す。

 

「あ、そのまま」

 

「出すわけねーだろ。」

 

銀時の言おうとした事が分かった竹仁は速攻拒否した。

銀時が勝手に1人で来て勝手にツケていった分を彼が払うわけない。

今日みたいに一緒に寄って食べたのなら払うが。

 

店主から団子を受け取り、団子屋を後にする。

 

「さて、どうする?ここら一帯の七十近い人間に尋ねて回るか。」

 

「絶対日ィ暮れる。この辺りについて詳しそうなやつに聞いた方がいいだろ。」

 

「この辺に詳しくても、団子屋の娘がどこにいるかなんて分かる訳もないと思うけど。分かったらそれはそれでこえーし。」

 

五十年も前にいた娘の現在の居場所など知っている方がおかしい。

親交があるとかならば分かるが、それでも五十年という時間は環境の変革には十分だ。

 

その時、隣にいた神楽が元気な声を上げた。

 

「ナァ、私良い事思い付いたヨ!よぉく聞くヨロシ!」

 

「へぇ。何々、教えて。」

 

「定春に捜させるネ!」

 

「ふざけてんのかーおーい。捜せるわけねーだろ。」

 

「うんいいね、そうと決まれば早速万事屋に戻ろう。」

 

銀時が、無理だできるわけないと否定するも、対する竹仁はいいねそうしようと賛成した。

 

「おい決まってねーよ、何勝手に銀さん賛同したことにしてんの。」

 

立ち止まり、2人の背中に抗議の声をかけるも彼らの歩が止まる事は無く。

すると、竹仁がクルリと振り返ってサムズアップした。

 

「最初からお前は数に入ってない。」

 

「しばくぞテメェ。」

 

前にいる2人に追いつくため、止めていた歩を再び進める。

そして彼らは、定春にかんざしの持ち主を捜してもらうべく万事屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「オーイ、やっぱよォ、無理じゃねーか?五十年も経ってんだ、匂いなんか残ってるかよ。」

 

銀時が定春のリードを持ったまま項垂れる。

しかし、定春を挟んで向こう側にいる竹仁が反論する。

 

「定春なめんなよ、お前の鼻と違って嗅覚鋭いから。過去の匂いすら嗅ぎ取るから。」

 

「いや何で鼻だけ時間旅行しちゃってんの。できるわけねーだろ。」

 

「銀時、諦めたらそこで試合終了だよ。」

 

笑顔で短刀の柄に手を乗せるが、定春によって遮られているので彼の姿は銀時からは見えない。

けれどいつも言い合いをしているだけあってその言葉が、途中でやめたらあの世に送るよ、という意味だと分かったようだ。

 

「お前の手によって人生終了ってか?もういい、無理だって分かるまで付き合ってやるよ仕方ねぇ。」

 

「大丈夫、きっと見つかるネ。定春はやればできる子、YDKヨ!」

 

「やってもできない子かもしれねーだろ。・・・ん?オイ定春!お前家戻ってきてんじゃねーか!!散歩気分かバカヤロー!!」

 

万事屋から出発し、定春の歩く通りに進んだら万事屋に着いた。

 

定春がここに戻ってきた理由を彼は適当に考え、特定の人間への精神攻撃をする。

 

「・・・持ち主は既に死んでいて、万事屋に取り憑いている?」

 

「馬鹿な推測してんじゃねえよ!!」

 

案の定相手が怒ったので竹仁は適当に謝る。

 

「はいはいすんません。・・・定春?」

 

すると、定春はスナックお登勢の扉のすぐ前まで歩いていき、バンバン、と前足で扉を叩いた。

 

「オイまさか・・・。」

 

扉を叩くという明確な意思表示をされては、定春は本当に匂いを嗅ぎ取り銀時らをその持ち主の元へ導いたと思わざるを得ない。

 

少し経ってから、叩かれた扉を開けてお登勢が姿を現した。

 

「なんだよ家賃払いに来たのかイ。」

 

「お前、こちとら夜の蝶だからよォ、昼間は活動停止してるっつったろ。来るなら夜来いボケ。」

 

昼間は活動停止しているというのは本当らしく、若干不機嫌そうだ。

 

「そりゃー悪い事した、ごめんねぇ綾乃さん。」

 

片手を顔の前に上げて謝る素振りをする。

 

「ぶふっ、いや、いやいやお前!こんなのが綾乃なわけねーだろ!」

 

アハハハハハ、と神楽と銀時は声をたてて笑う。

 

「なんで私の本名知ってんだィ?」

 

お登勢から、本名が綾乃だという肯定の言葉が出てきてしまい、いよいよ認めざるを得ない。

 

「「・・・。」」

 

黙る2人をよそに、竹仁と定春はじゃれ合う。

 

「ハハハハ。定春君はひじょーに優秀な子だぁ。いい子いい子。」

 

銀時は、まだお登勢が綾乃だという事実を認められないらしい。

 

「ウソつくんじゃねェェェババァ!!オメーが綾乃の訳ねーだろ!!百歩譲っても上に『宇宙戦艦』がつくよ!!」

 

『宇宙戦艦 綾乃』。

地球の1つや2つ、軽く消し飛ばせそうだ。 

 

「オイぃぃぃ!!メカ扱いかァァァ!!」

 

「いーじゃん強そうで。」

 

「よくねーよ!ったく、お登勢ってのは夜の名・・・いわば源氏名よ。私の本名は寺田綾乃っていうんだイ。」

 

「なんかやる気なくなっちゃったなオイ。」

 

不服そうに互いを見る銀時と神楽。

明らかに馬鹿にしたような言葉と態度にお登勢がキレる。

 

「なに嫌そーな顔してんだコラァァァ!!」

 

その時店の電話が鳴り、お登勢は電話を取るため店の中へ戻っていった。

 

「まーまー、ババーを持ってけば依頼完了だし。」

 

「まぁ、そりゃそうだけどよ・・・。」

 

「銀時!新八から電話だよ。」

 

先程鳴った電話は、新八からのものだったようだ。

 

「あ?なによ。」

 

「なんかジーさんがもうヤバイとか言ってるけど。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「非常に危険な状態だ。君、知り合いだよね?そろそろ覚悟しといた方がいいよ・・・。」

 

「・・・しかしアレだな。女遊びの激しい人だと聞いていたが・・・誰一人として最後を看取りに来てくれないとは寂しいもんだな。」

 

「・・・君だけでも、死に水とってやってくれ。」

 

そういわれた新八の顔は、悲しそうだ。

今日初めて出会った人間だとしても、目の前で誰かが死んでいくのはとてもつらいだろう。

 

「先生、脈が弱まってきました。」

 

「いよいよか。」

 

その場にいる全員が、爺さんの死を覚悟したその時。

 

ゴガシャア!

 

勢いよく窓を破壊して何かが突っ込んできた。

それは、白くて大きな犬。

新八もよく知る、定春だった。

 

「ギャアアアアアア!!」

 

この医者にとってこの日は心臓に悪い1日だっただろう。

1日に2回も叫び声をあげる出来事があったのだから。

 

「おい、じーさん。連れてきてやったぞ。」

 

そうして、かんざしを挿したお登勢が爺さんのベッドの正面に立った。

 

「い゛っ!?お登勢さん!?」

 

銀時の言葉が聞こえたのだろう、爺さんの瞼がゆっくりと持ち上がる。

 

「先生ェェェ意識が・・・!!」

 

「オイきーてんのかジーさん。」

「依頼したのアンタでしょ。」

 

銀時と竹仁が爺さんの頭を両サイドから引っ叩いた。

いきなりの暴挙に医者が銀時の腕を掴み、怒る。

 

「ちょっ何やってんの君たちィ!!」

 

「意識をハッキリさせようかと。ハハハ。」

 

五十年ぶりの綾乃さんを、ちゃんと見れるように。

 

「かんざしはキッチリ返したからな・・・。見えるか、ジーさん?」

 

「・・・綾乃さん。」

「アンタやっぱ、かんざしよく似合うなァ・・・。」

 

泣き笑いをしながら話す爺さんに、綾乃はニッコリと微笑んだ。

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「・・・バーさんよォ。アンタひょっとして覚えてたって事はねーよな?」

 

「フン、さあね。さてと・・・団子でも食べに行くとするかイ。」

 

「ん・・・ああ。」

 

お登勢の姿が年若い娘のように見えた銀時は、目をゴシゴシと擦った。




あんこも好きです。



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ハムと春雨のサラダ





カコン。

 

竹筒が支持台を叩き、綺麗な音を奏でる。

 

純和風の庭に、大きな日本家屋。

 

そして、その家の中では銀時、竹仁、新八の3人が依頼者から話を聞いていた。

神楽は庭で鹿威(ししおど)しを眺めている。

 

「・・・いや、今までも2日3日家を空けることはあったんだがね。さすがに1週間ともなると・・・。連絡は一切ないし、友達に聞いても誰も何も知らんときた。」

 

娘が家を何日も空け、長期外出の理由は分からない、連絡もないとなれば親なら誰だって心配するだろう。

 

しかしまぁこの人の話を、銀時は内容をちゃんと理解して聞いているように見えない。

目の下にクマが出来ておりひどくボーッとした状態で、湯呑を傾けすぎて中身が零れている。

 

昨日、新八の忠告を碌に聞きもせず飲み歩いた結果、無事二日酔いになりましたとさ。

 

「親の私が言うのも何だが、キレイな娘だから何かよからぬことに巻き込まれているのではないかと・・・。」

 

銀時は依頼者から差し出された写真を受け取り、竹仁が横からその写真を覗き込む。

 

「ん゛・・・松崎〇げる・・・。」

 

依頼者には聞こえないように、俯いて服の袖を口に当てて呟く。

 

「そーっスねェ。なにか・・・こう巨大な・・・ハムをつくる機械とかに巻き込まれている可能性がありますね。」

 

「んぐっ・・・ごほん、かもですね。」

 

笑いをこらえるのに必死で、彼の顔は若干赤くなっている。

 

「いやそーゆんじゃなくて、なんか事件とかに巻き込まれてんじゃないかと・・・。」

 

「事件?あー、ハム事件とか?」

 

「んぐふッ。」

 

とどめの一撃。

とうとう彼は撃沈し、俯いたまま後ろを向いてしまった。

 

「オイ大概にしろよせっかくきた仕事パーにするつもりか。」

 

本当にパーになりそうだ。

銀時は二日酔いでまともに会話できるような状態ではないし、そんな彼のせいで竹仁は先程から笑い声を上げそうになっている。

 

「でもホントコレ、僕らでいいんですかね?警察に相談した方がいいんじゃないですか。」

 

「そんな大事にはできん。わが家は幕府開府以来徳川家に仕えてきた由緒正しき家柄。娘が夜な夜な遊び歩いているなどと知れたら一族の恥だ。」

 

「ゲホッ、だから、俺たちに依頼したんですね。」

 

どうにか回復したらしいが、袖を口に当てたままだ。

 

「うむ。そういうわけだから、なんとか内密のうちに連れ帰ってほしい。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あー?知らねーよこんな女。」

 

店員に写真の女性について尋ねるが、やはりそう簡単に情報は得られない。

今までで得られた情報と言えば、この店によく来ていたという事ぐらいだ。

 

「ふーん、この店によく来てたって聞いたんだけど。」

 

「んなこと言われてもよォ兄ちゃん。地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ・・・名前とかは?」

 

困ったことに名前を聞かれた。

何故なら、彼はこの人の名前を記憶していないのだ。

 

「あぁ、えっとねェ・・・、神楽ァ。」

 

視線を泳がせ、神楽に助けを求める。

 

「えっ。えーと、ハ・・・ハム子・・・。」

 

彼女も知らなかった。

こうなるなら名前ちゃんと聞いとけばよかったと、若干後悔する。

 

「ウソつくんじゃねェ明らかに今つけたろ!!そんな投げやりな名前つける親がいるか!!」

 

「忘れたけどなんかそんなん。」

 

神楽が、なんかそんなんだと答えるも絶対そんなんじゃない。

合っている可能性があるとすれば、最後の「子」だけではなかろうか。

 

「オイぃぃぃ!!ホント捜す気あんのかァ!?」

 

「あるよ、あるある。うん。」

 

捜す気はあるのだが、いかんせん名前を憶えていない。

捜す気が無いと、そう捉えられてしまっても仕方がない気がする。

 

この店員が写真の女性について何も知らないことは分かったので、竹仁は他の者に聞いて回る事にした。

 

「んー、二手に分かれて聞いてこっかぁ。俺はこっち側聞いて回るから、神楽は向こう側お願い。」

 

「ラジャー!」

 

神楽と別れて、カウンター席に座っていた適当な客に尋ねる。

 

「あのー、すみません。この写真の女性捜してるんですけど、何か知りません?」

 

「あー?いんや、知らねえな。」

 

しかし、得られたのはこの客がハム子について知る事は何もないという事だけ。

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

礼を言ってまた別の人に聞こうと歩き出した時、後ろから声をかけられた。

 

「竹ちゃん!」

 

「あれ、神楽?どうかしたか?」

 

声をかけてきたのはさっき分かれたばかりであるはずの神楽だった。

何かあったのか、それとも何か情報を得られたのか。

 

そう思いすぐに神楽の方を向けば、彼女よりも図体の大きな、ハム製造機から誕生してそうな人が――

 

「んぐッ、」

 

「急にどうしたアルか?」

 

どうしたのか聞くつもりが、逆にどうかしたのかと聞かれてしまった。

 

今日1日、声をたてて笑いそうになる度に頑張って止めているので、明日は筋肉痛だろう。主に腹筋が。

 

何回か小さく深呼吸をして落ち着いてから、竹仁はその人物を指差して問うた。

 

「・・・それは?」

 

「ハム子ネ。」

 

「・・・そっか。うん、銀時たちの元へ戻ろうか。休もうか。」

 

そう言って、銀時たちが座っているはずの席へと歩き出す。

きっと彼女は疲れのせいで見間違えているのだ。

 

「?竹ちゃん、疲れたアルか?」

 

「いや?大丈夫、俺は疲れてないよ。」

 

疲れてるのは神楽の方だろ?と言おうとしたが、先に神楽が口を開いた。

 

「あ、新八~!もうめんどくさいから、これでごまかすことにしたヨ。」

 

疲労のせいでハム子と見間違えたとかではなく、ただ単にごまかそうとして連れてきただけだった。

 

「どいつもこいつも仕事を何だと思ってんだチクショー!」

 

「アハハ。多分疲れちゃったんだよ。休ませてあげて。」

 

「疲れたからって、適当すぎるでしょ。そもそもこの人女じゃなくて男だし。ハム子じゃなくてハム男だし。」

 

「ハムなんかどれ食ったって同じじゃねーか、クソが。」

 

チッ、と舌打ちまで加えて、年頃の女の子とは思えない発言をする。

そんな風に話せるならいつも標準語で話せるんじゃないかな、と思う。

 

日常会話に支障をきたしているわけではないので、竹仁にとってはどちらでも構わないが。

 

「何?反抗期!?」

 

その時、ずっと棒立ちだったハム男がその場に倒れ伏した。

 

ドサッ。

 

「ハム男ォォォォ!!」

 

「じゃあな、お前はいいやつだったよ。」

 

「いやアンタ、コイツの何を知ってるんですか!?」

 

「おクスリやってるとか。」

 

「よくそれだけでいいやつって言えたな!」

 

目が天国を見ていたし、喋ることも、何かに反応を見せることもなかった。

その事から竹仁は、なんとなくこの男は危ないおクスリをやっていそうだと思ったのだ。

 

いいやつだとは思ってないが。

 

「あー、あと俺やるから!お客さんはあっち行ってて!・・・ったくしょーがねーな、どいつもこいつもシャブシャブシャブシャブ。」

 

シャブでしゃぶしゃぶ始めそうなぐらいシャブシャブ連呼している店員が、倒れた男の所へやってくる。

どいつもこいつも、という事は、現在この店にかなりの数のヤク中がいるのかもしれない。

 

「え、ここそんなにシャブやってるやついんの?」

 

「あぁ、この辺で最近新種の麻薬(クスリ)ってのが出回っててな、それをやるやつが増えてるんだ。相当ヤバイやつらしーから、お客さんたちも気を付けなよ!」

 

シャブ男を持って、店員は店の奥へと消えていった。

 

「・・・ご忠告どおり一旦ここから離れて、定春に捜させてみようかね。2人とも、定春連れて依頼者の家で待ってて。」

 

この店に麻薬が蔓延した状態で聞き込みを続けていたら、この2人がヤク中による事件やら事故やらに巻き込まれるかもしれない。

それは避けたいし、定春に捜させた方が聞き込むよりもすぐにハム子が見つかるかもしれないのだ。

 

事実、50年経っているかんざし1本から持ち主を見つけ出したのだから。

 

「あぁ・・・そういえば、かんざしの持ち主も定春が捜しあてたんですもんね。」

 

「うん。だから今回も、衣服とかの匂いで捜せるんじゃないかって。」

 

しかし、神楽がその提案を拒否した。

 

「定春にハム子の匂い嗅がせたくないヨ!絶対臭いネ!」

 

「お願い、本当に嫌がるならやめるからさ。ほら、酢昆布でも何でも買っていいから。新八も。」

 

財布からお金を出し、2人に手渡す。

買収なんだろうけど、買収しようとかそういうつもりは彼にはない。買収なんだろうけど。

 

「なんかすみません・・・。」

 

「・・・しょうがないアル。嫌がったらやめるからナ!」

 

「うん、分かってるよ。んじゃ、俺は銀時(アイツ)引き摺って依頼者の家に直接行くから。」

 

「分かりました。じゃあ、また後で。」

 

「うん、後でね。」

 

笑顔で手を振り、2人と別れる。

 

「・・・さーて。ちゃっちゃと引き摺って行きますかね。」

 

クルリと店内に向き直り、トイレを目指す。

彼の行き先を直接目にしたわけではないが、二日酔いの日は良く厠にこもったりしているので、そこに居ると思ったのだ。

 

 

順調にトイレへの道を進んでいたら、目の前に集団が現れ行く手を阻まれた。

見た目からして常日頃から人を簀巻きにして海に沈めてそうな連中だ。

 

すると、連中の1人が銃を取り出し竹仁に突き付けた。

 

「てめーだな?俺たちのことをコソコソ嗅ぎ回ってるっていうヤツは。」

 

「ん?人違いじゃない?俺、そこら辺の犬のフンほども君たちに興味ないよ。」

 

この後殺しに来るだろうと予想されるので、笑顔で挑発する。

 

「貴様ァ!・・・チッ、いいぜ。そんなに知りたきゃ教えてやる。宇宙海賊”春雨”の恐ろしさをな!」

 

「いい歳して海賊ごっこ?やめなよ、ママが泣いちゃうぜ?」

 

すぐに目の前に突き付けられた拳銃を掴み、相手の首の下辺りを蹴り飛ばす。

 

敵の手の力が緩んだ隙に拳銃を奪い、数人の脚に何発か鉛玉を撃ち込む。

 

「クソがッ、死ねェェ!!」

 

「やだよ。」

 

敵の1人が勢いよく武器を振り上げて突撃してきたので、軽く避けつつ足を引っかけて転ばせ、脚を撃ち抜く。

 

斜め前方にいた敵との距離を一気に詰め、空いている手で顔面を殴り腕を撃つ。

その敵を足場にして、敵の背後に居た2人の肩の辺りを撃ち抜き、もう1人横にいた敵の顔面に拳銃自体を投げつける。

 

その時、左腕と腹部に痛みが走った。

咄嗟に足場から降りて確認すると、ナイフが突き刺さっている。

 

(チッ、油断した。)

 

心の中で舌打ちをし、右手で左腕に刺さったナイフを、左手で腹部に刺さったナイフを引き抜く。

 

「今だァ!!」

 

前方から敵が2人、チャンスだとばかりに武器を構えこちらに突っ込んでくる。

 

「何が?」

 

自身の血が付いたナイフを投げる。

投げたナイフが2人の腕と肩に突き刺さり、その痛みで怯んだ隙に2人の顔面を同時に殴り飛ばす。

 

「ふざけやがってェェ!」

 

「ふざけてないよ?」

 

剣での刺突をしゃがんで回避し、アッパーを食らわせてからのハイキックで壁に叩きつける。

 

すぐに落ちていた剣を拾い、突っ込んでくる敵の剣の切っ先を見据え、構える。

そして、斬撃を受け流すために剣を勢いよくぶつけた。

 

ガキィン!

 

しかし敵の力が強かったのか、自身が持っていた剣を弾き飛ばされてしまった。

 

(あれ?)

 

仕方がないので予定を変更し腕をおさえて膝蹴りからのその敵を背負い投げ。

振り向き、前からやってきた敵の袈裟斬りを横に移動して躱し、腹を蹴り飛ばす。

 

だが、なぜか倒れなかった。

彼なりに力を籠めて蹴ったはずだったのだが。

 

(うーん?)

 

こちらも予定を変更して顔面を殴り飛ばすことにし、拳に力を入れた。

その時、ようやく気づいた。

 

手にうまく力が入らないことに。

 

(・・・そのせいか。)

 

剣を弾かれたのも、蹴りで敵が倒れなかったのも。

 

先程のナイフに麻痺毒か何かが塗られていたのかもしれない。

ていうかそれ以外考えられない。

 

なんだか攻撃する気が失せてしまったので回避に徹する。

しかし、攻撃をせずとも力は入らなくなっていく。

 

こんな状態で、全員を床に転がすことなどできない。

かといって店の外まで逃げるのも不可能。

 

避けるたびに、動作が鈍くなっていくのがよく分かる。

そして、もう避けるのつらい、割と頑張ったしよくね?と思ったその時、ジャストタイミングで敵の蹴りをもろに食らった。

 

「ッ・・・じゃすとぉ・・・あぁ、いってェ・・・。」

 

蹴り飛ばされ床に倒れるが、精神的にも身体的にも立ち上がる事などできない。

 

「ッハハ、残念だったなァ。」

 

「・・・そうかな。」

 

確かに、万事屋の子ども2人に金銭的な方面で大変な思いをさせたまま死ぬのは残念だ。

できるなら、銀時に説教と暴力のハッピーセットを送ってから死にたい。

 

「まぁ、このお礼は後でたっぷりさせてもらうからなぁ。楽しみにしてろよ?」

 

竹仁にとっては、ぜんっぜん楽しみではないのでわざと当たり所を悪くして死んでやる事にした。

 

(くるしいのは・・やだから、なぁ・・・)

 

春雨の1人に何かを嗅がされて、彼の意識はどろりと溶け出し闇一色に染まった。

 





普通に麻痺毒とか食らったら呼吸困難にもなりそうですよね。

気にしないでくれたら嬉しいです。



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ごちそうさまでした


別のタブ見ようとしてホームを押すっていう。




「・・・。」

 

覚醒と睡眠の間を強制的に歩かされているという、快であり不快でもある感覚。

聴覚と視覚が僅かながら働きだすが、思考は椅子で休んだまま動く気配がない。

 

「――攘夷派の者でしょう。もう1人妙な侍がいましたが、そっちの方は騒いだ客と一緒に始末しましたよ。」

 

「あまり派手に動くなと言ったろう。こちらも幕府の連中をおさえこみ見て見ぬフリをするにも――」

 

働き始めた聴覚と視覚は、休んだまま動かない思考を見て働くのをやめてしまった。

あと少しだけ休みましょう、と。

 

 

 

 

 

 

再び、ぼやりと意識が浮上する。

 

「うー・・・あとじゅっぷ・・・ん?」

 

「さっさと目ェ覚ませ。ここはお家じゃねーんだぞ?」

 

先程とは違い、意識がゆっくりとではあるが明瞭になっていく。

腕が拘束され、目の前には店にいた連中の仲間であろう者達がいる事が分かった。

 

「・・・うーん、あと30分ぐらい、寝かせ――」

 

その時、先程意識が微妙に戻った時に聞こえた会話をフッと思い出した。

耳から入ってくる話の内容をその時はまるで理解できなかったけれど、今なら分かる。

 

もう1人妙な侍がいましたが、そっちの方は騒いだ客と一緒に

 

――始末しましたよ。

 

言葉を途中で止めたまま、口を閉じる。

 

「・・・。」

 

妙な侍が銀時だという証拠はない。

自分にとってこいつ等は全員悪党なので、確かめるとかする気もない。

 

「自分の立場を理解したか?・・・なら教えろ、桂の居場所をな。」

 

この声は確かに、先程聞こえた声と同じもので。

声の正体はどんな野郎かとそちらを見れば、長髪で耳の尖った男がいた。

 

「・・・さぁ、桂の居場所?知らないなぁー。」

 

「とぼけんじゃねぇ!お前が攘夷志士だってのは分かってんだ、死にたくなけりゃさっさと教えろ!!」

 

前髪をガッ、と掴んで怒鳴る男を彼は冷たい目で見る。

 

「知らねえっつってんだろ。放せ。」

 

髪を掴む手ごと相手を頭突きしてから片足立ちになり、股間を思い切り蹴る。

 

脚に違和感はあるし、疲労感もある。

けれど、店内の時みたいな酷い痺れは感じられない。

 

「てめェッ、」

 

短剣を構えた敵を蹴り飛ばす。

 

他の敵を無視して壁まで走り、壁際にいた敵を踏み台にして一気に壁を上る。

そして、剣を構えて立っている長髪の男を視界にしっかりと捉える。

 

「「陀絡さんッ!」」

 

「チッ、めんどうな・・・。」

 

「死ねェエッ!!」

 

ここには知り合いなんていないので殺意丸出しでも問題ない。

剣の振り下ろし攻撃を難なく躱して一気に踏み込み、首に狙いを定めて前蹴りを放つ。

 

ドグシャッ。

 

脚を離せば、痙攣し血を吐く陀絡は力なく床に倒れた。

首を壁と渾身の蹴りに挟まれて潰されたのだ、恐らく絶命しただろう。

 

陀絡の死体を蹴って下に落とし、自身も降りる。

 

「みんなもコイツみたいになろっか。」

 

言葉だけではなく、陀絡を軽く蹴飛ばして示す。

将を殺せば、その他の兵の士気は下がるものだと教わった。

 

「ひっ、怯むなァ!やれェッ、!?」

 

敵の1人が号令し全員が攻撃を仕掛けようとした時、突如目の前に血の付いた真剣を持つ銀髪黒服の男――銀時が現れた。

 

「オイ、面接官怖がらせねーでくれよ。楽しい海賊ライフが送れなくなっちまうだろーが。」

 

「・・・あー、うん、ごめん?」

 

陀絡の始末したという言葉は幻聴か何かか、それとも人違いか。

それでも、簡単に敵の言葉を信じてしまった自分の馬鹿さに飽き飽きする。

 

その時、爆発音が大きく響き渡った。

 

ドドンッ、ドォン!

 

爆発の衝撃で若干よろめくも、すぐに体勢を整えた。

 

「っと、まぁいいわ。コイツら倒すぞ。」

 

「うん、がんばれ。」

 

「オメーも戦え!」

 

「えー、手ェ拘束されてんだけど。」

 

とは言いつつも仕方なく回避多めの蹴りメインで敵を攻撃していく。

銀時も、真剣を使って次から次へと敵を斬り伏せていく。

 

「あのなぁ、1人蹴り殺しといて何言ってんだ。」

 

「殺したのはアレだ、ほら、必要に駆られたから。後は別にお前がやればいい事じゃん?俺寝てていいじゃん?いや寝てたら死ぬ?」

 

「随分と元気そうではないか。」

 

聞き覚えのある声。

そこには、海賊のコスプレをした桂が両手に爆弾を持って立っていた。

 

さっきの爆発で、もしかしたらいるんじゃないかと思った。

銀時だけならばわざわざ爆弾を使ったりしないだろうからだ。

 

「やっぱり桂、お前もいたか。」

 

「いいや違う。俺は桂じゃない、キャプテン・カツーラだッ!!」

 

その言葉と共に持っていた爆弾を敵に向かって投げ、攻撃する。

本気なのか遊びなのか、自身が手配犯の桂であると隠す気がまるで感じられないのが困ったところだ。

 

「・・・この子、大丈夫?」

 

「あぁ、元からだ。もう治しようがねぇから諦めろ。」

 

銀時によれば、桂は残念な事に手の施しようがないらしい。

 

しかし、元からとは言っても攘夷戦争時は今よりかまともだったような記憶がある。

昔の事だし、何より興味関心を基に誰かを見るなんてまるでしなかったから、記憶に残っていないだけかもしれないが。

 

「・・・よっ、と。これで終わりかね。」

 

銀時が、最後の1人を斬り終えたようだ。

視界には銀時、桂、自分以外にこの船に立つ者の姿は映っていない。

 

「あぁ、ではこの船から降りるぞ。」

 

この船に残る理由が無くなった彼らはすぐに船から降りた。

竹仁の手枷を外す事を忘れずに。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、疲れた。まーでもありがとねぇお2人さん。おかげで死なずに済んだよ。」

 

もし、この2人がここに来なければ自分は死んでいただろうか。

考えたってもうそっちの結果を知れる日は来ないので意味はないけれど。

 

「お前、まともに礼言えたんだな。ビックリだわ。」

 

「馬鹿にしてんのか。ああ、その怪我してる部分にお礼した方が良かった?」

 

拳を握り、左上半身に狙いを定める。

戦いの最中ずっと左腕を使っていなかったし動きづらそうだったので、そこを怪我していると思ったがどうだろう。試してみよう。

 

「やめんか怪我人同士で。いいから今日は大人しく帰って休め。」

 

桂に止められたが、怪我人を本気で殴ったりするほど自身の道徳観は腐っちゃいない。

ちょっとした冗談だ。多分。

 

「いや俺は何かしようとしてねーよ。」

 

「はいはい、じゃあ帰りましょうかね。」

 

ベルトを外して血の付いた上着を脱ぎ、血が見えないように畳んで肩にかけベルトを黒服の上から着け直す。

この上着を着た状態では職質なり通報なりされかねないが、それに比べて黒い服なら血はあまり目立たない。

 

「くれぐれもこの件のように、危険な事に巻き込まれないよう気を付けるのだぞ。」

 

歩き出しながら、桂の言葉に振り返る事無く片手を上げる。

そして、少し進んだところで小さく呟く。

 

「向こうからやってきちゃ気を付ける意味ないけどねー。」

 

もしも気を付けて歩道を歩いていたとして、いきなり車が突っ込んできたら避けきれないだろう。

そんな反射神経を持てるなら持ちたいけれど、難しいものだ。

 

「全くだよ。俺達ゃ人探ししてただけだっつーのに。」

 

「・・・もっと武装しようかな。」

 

今回のような、変な事に巻き込まれた時のために。

 

「戦争でも始めるつもりか?」

 

「いやいや、護身とか逃走用にだよ。」

 

戦争規模で武装したら近隣住民どころか江戸に住む者たちにとって不安でしかない。

というかそこまでするお金がそもそもない。

 

「ショットガンとかガトリング砲担いで万事屋来んなよ?」

 

「話聞いてた?殺人用に武装する気はないからね?」

 

そんな重装備をして町を歩いていたらもれなく職質だ。

 

「そうだ、武装警察さんに就職したらどうだ?天職じゃねーの?」

 

「アハハハハ、話聞けよ。」

 

笑いながら胸の辺りを軽く殴る。

うっ、と小さなうめきが彼から聞こえたが、話を無視した罰だ。

 

「あ。そうだ、お前さんのその上着貸してくれね?」

 

銀時を軽く殴ったことで彼の頭に1つの懸念事項が生まれた。

 

「別に構わねえけど、どうすんだ?」

 

「アイツら依頼者んとこで待たせたままなんだよ。だから、一応見に行く。」

 

こんな何時間も待っているとは思えないが、それで律儀に待っていたら申し訳なさすぎる。

それに、遅れまくっといて怪我してたーなんてバレてみろ。僕ら放っといて何喧嘩なんかしてんだって怒られる。

 

この上着を着てベルトで止めれば怪我した部分は見えない、よしバレない怒られない、という事だ。

 

「は?あー、お前知らねえんだった。・・・アイツらなら、俺とハム子共々ヅラんとこに連れてかれた後、ハム子を家に届けさせて万事屋に戻らせといた。」

 

「ふーん、そっか。待たせてないならいーや、よかったよかった。」

 

新八と神楽を待たせていない事が分かれば、別にハム子が見つかったとかその他諸々はどうでもいい。

 

「普通に考えてこんな何時間も律儀に待ってる奴がいるかよ。」

 

「そうだねー、短気な銀時君にゃ絶対無理な話だねぇ。」

 

「喧嘩売ってんな?怪我治ったら覚えてろよテメェ。」

 

脚を狙った小さな蹴りを、竹仁はひょいっと躱す。

そしてそのまま近くの路地に入っていき、銀時の方を振り返った。

 

「やーだね、返り討ちにしてやりますー。んじゃぁなー。」

 

前を向いて歩きだし、ゴミが散乱していたりする路地を進んでいく。

 

江戸に来て数年経つが、未だに別の土地へ行こうという気は起きない。

自身が育った村を除けば滞在記録は最長だろう。

 

おかげで今歩いてきた路地のような、近道やら裏道やらにも詳しくなった。

 

相変わらず己の勤め先である万事屋は仕事がないし、お金もない。

それに、攘夷志士の活動に巻き込まれて殺されそうになったり、ストーカーを撃退した人が殺されそうになったり。

 

万事屋での生活は大変だし、身近で危ない事が起こったりするけれど。

 

「ハハ、全く、面白いなぁ。」

 

未来の事なんて分からないが、一生ここで生きていくんじゃないかなぁ、なんて思ったりしてしまう。

 

江戸に来る前は、絶対考えられなかったのに。

 

 



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花見は1人より大人数

もしも風が超強かったら、桜って一瞬で丸はげになっちゃうんでしょうか。





江戸は桜が次々と満開になり、見る者を惹きつける季節。

 

そして、桜の木々の下では、銀時、竹仁、神楽、定春が志村姉弟に誘われ花見をしているところだ。

 

「ハーイ、お弁当ですよー。」

 

お弁当を取り出したお妙は普段と変わらない穏やかな表情だ。

 

あの決闘から、警察でゴリラな近藤によるストーカー行為が行われていなければいいなと竹仁は思っている。

実際のところどうなのか聞きはしないけれど。

 

「誘ってくれてありがとう、それにお弁当まで。ほんとごめんね。」

 

「姉弟水入らずの所に邪魔しちまってワリーな。」

 

「いいのよ~、2人で花見なんてしても寂しいもの。ねェ、新ちゃん?」

 

彼女の言う通り祭りやパーティーなどは、人は少ないより多い方が良いだろう。

 

「お父上が健在の頃はよく3人、桜の下でハジけたものだわ~。さっお食べになって!」

 

「じゃ遠慮なく・・・。」

 

お妙に促され、銀時が重箱の蓋を開けた。

その重箱の中には、

 

「なんですかコレは?アート?」

 

黒い物体が鎮座していた。

 

「私、卵焼きしかつくれないの~。」

 

鎮座していた黒い物体、それはお妙の料理。

まさかこの世に黒一色で彩られた卵焼きが存在しようとは誰が想像できただろうか。

 

「そっかー。美味しそうだね、頂きます。」

 

見た目で判断するのは良くない。竹仁はそう思い、その物体を食べる事に。

 

卵焼きの端を千切り取り口に運んで咀嚼し、買ってきたお酒をコップに注いで飲む。

その躊躇ない彼の様子を見て、銀時は驚いている。

 

「躊躇なく食うのかよ。大丈夫か?”卵焼き”っつーより”焼けた卵”だぞコレ。」

 

「卵が焼けていればそれがどんな状態だろーと卵焼きよ。」

 

「違うよコレは卵焼きじゃなくてかわいそうな卵だよ。」

 

「いいから男は黙って食えや!!」

 

あーだこーだと黒い卵焼きに文句を言う銀時の口に、ガパンとお妙が卵焼きを突っ込んだ。

 

そして、神楽は眉を寄せ汗をダラダラと流しながら卵焼きを食べていた。

明らかに食事の際にする顔ではない。

 

「これを食べないと私は死ぬんだ・・・これを食べないと私は死ぬんだ・・・。」

 

「暗示かけてまで食わんでいいわ!!()めときなって!僕のように目が悪くなるよ!」

 

「アハハ、新八の目ってゴホェッ!」

 

卵焼きを食べていた竹仁が、笑って話を始めたかと思ったら吐血して倒れた。

彼には吐血するような持病はないので、間違いなく黒い卵焼きの影響。

 

「竹仁さんんん!?ちょっ、救急車ァ!!」

 

竹仁が突然吐血した事に当然新八は慌てるが、当の本人は慌てる様子もなく大丈夫だと告げる。

 

「ゲホッゲホッ、あぁほらあれだ、昨日トマト、飲み過ぎて・・・。」

 

昨日隣の奥さんに頂いたトマトジュースを、読書しながら3本も飲んでしまった。

しかし、トマトジュースの摂り過ぎと吐血は一切関係ないだろう。

 

ケホケホと小さく咳をしながら、取り出した手拭いで口元と血が付いたところを拭く。

 

「ガハハハ!全くしょーがない奴等だな。どれ、俺が食べてやるから。このタッパーに入れておきなさい。」

 

突然、この場に居るわけない人物の声が聞こえ、全員の視線が自然とそこに集まった。

彼らの視線の先には見た事あるゴリラが1匹、タッパーを持って座っていた。

 

「何レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!どっから湧いて出た!!」

 

ドパン!

 

「たぱァ!」

 

お妙が近藤の顔面に掌底を決め、更には彼に跨り暴行を加え続ける。

ここに現れたという事は、あの決闘で近藤のストーカー行為を抑える事ができなかったという事だ。

近藤の諦めの悪さに自然と重いため息が出てしまう。

 

「はぁ、決闘した意味ねーじゃん。武士で警察なんだから約束の1つは守ろうよ。」

 

「全く、アレが警察なんて世も末だな。」

 

「悪かったな。」

 

銀時の言葉に即座に返事をした声は聞き覚えのあるもので。

そちらを見れば、服こそ違うものの真選組所属であろう大勢の男達に、見知った顔が数名。

 

「オウオウムサい連中がぞろぞろと。何の用ですか?キノコ狩りですか?」

 

「アレだよ銀時、勝手に群れからはぐれたゴリラの捕獲に来たんだよ。」

 

「近藤さんはゴリラじゃねえ。次言ったら叩っ斬るぞコラ。」

 

土方は、常時開きっぱなしの瞳孔をもう少し開かせて刀の柄を握った。

今にも刀を抜きそうな彼から視線を外し、竹仁はコップにお酒を注いで口をつける。

 

「別に誰がはぐれゴリラとか言ってねーんだけどね。まぁいいや、御用は何ですか?」

 

「チッ・・・そこをどけ。そこは毎年真選組が花見する時に使う特別席なんだよ。」

 

わざわざ話しかけてきた理由は、お前らそこをどけという事だった。

しかし、周りに他の花見客はちらほらいるものの場所なんていくらでも空いている。

 

「どーゆー言いがかりだ?こんなもんどこでも同じだろーが。チンピラ警察24時かてめーら!」

 

「副長さんは24時間年中無休でチンピラだよねー。アハハハ。」

 

その開いた瞳孔だけで、その辺のチンピラよりチンピラだ。

笑顔で酒を飲み続ける竹仁を無言で睨み続ける土方に、マジの危険を察知した新八。

 

流石にこれ以上はやめてもらおうと、新八は竹仁を注意した。

 

「アンタは黙っててください!」

 

「いいか次変な事言ったら殺す。」

 

瞳孔を開いて自身を睨む土方の目を彼はジーッと見つめ、口を開いた。

 

「変な事。」

 

「殺す!!」

 

今度こそ刀を抜いた土方を沖田が羽交い絞めにして止める。

 

「まぁまぁ、落ち着いてくだせェ土方さん。俺達ゃ花見の場所なんて別にアスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ。酒のためならアスファルトに咲く花のよーになれますんで。」

 

「そーッスよ。俺達ゃ酒飲めりゃどこでもいいッスわー。」

 

えらく場所にこだわる土方とは違い、沖田を初め他の隊士はそこまでこだわりが無いようだ。

 

「うるせェ!俺だってどーでもいーが、こいつらのために場所変更しなきゃならねーのが気にくわねー!!

 

しかし、彼らが気に食わなかっただけで土方も場所に対するこだわりは無かったようだ。

 

「大体、山崎に場所取りに行かせたはずだろ・・・どこ行ったアイツ?」

 

「ミントンやってますぜミントン。」

 

沖田の言う通り、彼らから少し離れたところで山崎はラケットを振っていた。

 

「山崎ィィィ!!」

 

「ギャアアアア!!」

 

ガッゴッバキッ。

 

「ほらチンピラじゃんすぐ手が出るじゃん。」

 

副長からの場所取りの命を捨ててまでミントンをやるならば、いっそどこかのチームの選手にでもなったらどうだろうか。

山崎と呼ばれた人が殴られている様子を眺めながら黒い卵焼きを千切って食べ、お酒を飲む。

 

「アンタさっき吐血したこと忘れたんですか!」

 

「なんとなく食べなきゃ殺される気がして。」

 

誰に、とは言わない。

 

「誰も殺しませんよ!はい、もう食べなくていいですから。」

 

「はい、じゃあ食べません。」

 

新八は彼が手にしていた黒い卵焼きを取り上げ、重箱の中に戻して蓋をし手の届かなそうな隅へと移動させた。

すると、近藤を粛正していたはずのお妙が戻ってきたので結果を尋ねる。

 

「ゴリラの始末どうだった?」

 

「ふふ、次は確実に仕留めるわ。」

 

素晴らしい笑顔で殺人予告をする女性がここにいる。

正直、竹仁にとっては真選組の者達よりもお妙の方が恐い。

 

「アレ結構しぶといだろうから、頑張れ。」

 

銀時の一撃を食らってもなおストーカーを続ける強者なのだ。

生温い攻撃では持ち前のしぶとさで立ち上がり、ストーカーし続けるだろう。

 

そして、お妙に始末されそこなった近藤は土方の隣に立ち、血を垂れ流している。

 

「まァ、とにかくそーゆうことなんだ。こちらも毎年恒例の行事何でおいそれと変更できん。お妙さんだけ残して去ってもらおーか。」

 

「いやお妙さんごと去ってもらおーか。」

 

「いやお妙さんはダメだってば。」

 

流石ゴリラ、お妙に対する執着が並みではない。

近藤のストーカー行為も、土方が止めたって聞かないのだろう。

 

「何勝手ぬかしてんだ。幕臣だか何だか知らねーがなァ、俺たちをどかしてーならブルドーザーでも持って来いよ。」

 

自分達はブルドーザーでもなければどかせないと銀時が挑発する。

 

「ハーゲンダッツ1ダース持って来いよ。」

 

ハーゲンダッツ1ダースでも持ってこなければどかせないと、お妙が。

 

「フライドチキンの皮持って来いよ。」

 

フライドチキンの皮でも持ってこなければどかせないと、神楽が。

 

「一発芸見せてー。」

 

一発芸でも見せてくれなきゃどかせないと、竹仁が。

 

「・・案外お前ら簡単に動くな。」

 

最初の銀時こそ簡単ではないにせよ、1人1人が要求を出すごとにその規模は小さくなっている。

竹仁に関しては無料でできる。

精神的に有料となってしまう者もいるかもしれないが。

 

「面白ェ、幕府に逆らうか?」

「今年は桜じゃなくて血の舞う花見になりそーだな・・・。」

 

「はーいせんせぇ、お巡りさんが一般市民斬るのはよくないと思いまぁす。」

 

竹仁が挙手をし、ちょっとうざめに言う。

 

言ってしまえばただの花見をする場所。

そんな事で一々人を斬っていたら、毎日死人が何人も出ていそうだ。

 

「テメーは一々発言がむかつくんだよ。三回ぐらい死んどくかコラ。」

 

土方が刀の柄に手をかけた事で、後ろの男達も戦闘態勢に入ったが。

 

「待ちなせェ!!」

 

「「!」」

 

突如沖田の声が響き、全員が動きを止めた。

 

「堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたァいただけねーや。ここはひとつ花見らしく決着つけましょーや。」

 

そして、ヘルメットを被りピコピコハンマーを持った沖田が叫ぶ。

 

「第1回陣地争奪・・・叩いてかぶってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃ!!」

 

「「「花見関係ねーじゃん!!」」」

 

「てか第1回って事は第2回とかやる気あるって事?」

 

かくして陣地争奪戦、叩いてかぶってジャンケンポン大会が始まった。

 

 

 

 

 

 

「いけェェ局長ォ!!」

 

「死ねェ副長!!」

 

「誰だ今死ねっつったの!!切腹だコラァ!!」

 

土方が、死ねと言った者に切腹を命じるも真選組は人数が多いので特定は難しいだろう。

 

「死ねェ銀時ィ!」

 

「流石に分かるわボケェ!その頭叩き潰してやろうか!!」

 

それに比べて万事屋は人数が少ないので特定は簡単だ。

 

「俺の頭は金属製だ、お前の攻撃なんか効くかよ。」

 

「いいぜ、試してやるよ。」

 

台の上に置かれたピコピコハンマーを掴み、銀時は立ち上がる。対して彼は気にした風でもなくお酒を飲んでいる。

 

「オイぃぃ!!アンタら別の戦い始めんじゃねェ!!」

 

新八に怒鳴られ、銀時は仕方なく元の場所に戻りピコピコハンマーも台の上に戻した。

銀時が元の位置に座ったことを確認し、山崎が説明を始めた。

 

「・・・えー、勝敗は両陣営代表三人による勝負で決まります。審判も公平を期して両陣営から新八君と俺、山崎が務めさせてもらいます。」

 

「勝った方はここで花見をする権利プラスお妙さんを得るわけです。」

 

「何その勝手なルール!!あんたら山賊!?それじゃ僕ら勝ってもプラマイゼロでしょーが!!」

 

確かにあちらだけ獲得できるものが多く、誰もが不公平だと感じるだろう。

なので、山崎がこちら側に報酬を加えた。

 

「じゃ君らはプラス真選組ソーセージだ!屯所の冷蔵庫に入ってた。」

 

「要するにただのソーセージじゃねーか!!いるかァァァ!!」

 

新八はいらないと言うが、他の者たちはそうでもないようだ。

 

「ソーセージだって、いいじゃん頑張れ~。」

 

「よし任せろ、気張ってこーぜ。」

 

「オウ。」

 

「バカかー!!お前らバカかー!!」

 

報酬にソーセージが加えられ、彼らのやる気が上がっている。

それでいいのかと思うところはあれど、やる気が出たなら本人的にも良いのだろう。

新八的には良くないみたいだが。

 

「それでは一戦目、近藤局長VSお妙さん!」

 

「姉上無理しないでください、僕代わりますよ。」

 

姉を心配して新八が交代を申し出たが、お妙は大丈夫だとその申し出を断った。

 

「いえ、私がいかないと意味がないの・・・あの人、どんなに潰しても立ち上がってくるからもう疲れちゃった。全て終わらせてくるわ。」

 

「いえーい、頑張れお妙~。」

 

新八は思った、頑張らないでくださいと。

相手の肩を持つ気はないが、これから起こるであろう事が彼女の()を見ただけで予想できてしまったのだ。

 

(マズいよ、だってあの()は・・・)

 

竹仁は楽しそうにお酒を飲んでいるが、新八は冷や冷やドキドキだ。

けれどもお構いなしに争奪戦は進んでいく。

 

「ハイ!!叩いてかぶって、ジャンケンポン!!」

 

(・・・()る気だ!!)

 

お妙がパー、近藤がグー。お妙の勝ちだ。

しかし近藤が攻撃を防ぐべく素早くヘルメットを被った。

その間にハンマーが届くことはなく、ルール上はまたジャンケン、だ。

 

「おーーっと、セーフぅ!!」

 

「セーフじゃない!!逃げろ近藤さん!!」

 

「え?」

 

近藤は、新八の言っている意味が分からないようだが当然だ。

ハンマーが届く前にヘルメットを被ったのでセーフだし、逃げるなんて選択があるようなゲームでもない。

 

普通分かる訳ないだろう。まさか自分がルールを外れた殺人の標的になるなんて。

 

天魔外道皆仏性四魔三障(てんまげどうかいぶつしょうしまさんしょう)成道来魔界仏界同如理(じょうどうらいまかいぶつかいどうじょり)一相平等(いっそうびょうどう)・・・」

 

ゴゴゴゴゴ、と恐ろしいオーラを纏って詠唱するお妙は何を発動させる気か。

お妙の必殺技かそれとも天堂無心流の奥義か何かか。

 

「ちょっ・・・お妙さん?コレ・・・もうヘルメット被ってるから・・・ちょっと?」

 

一方、詠唱を始めたお妙に対し近藤は戸惑いを隠せないようだ。

ここで、意味が分からずとも新八の言葉に従っておけば彼は死なずに済んだだろう。

 

そして、次の瞬間。

 

ドゴォ!!

 

ピコピコハンマーが、ヘルメットを粉砕し被っていた者を瀕死状態にさせるなぞ誰が想像できただろうか。

その一撃で近藤は鼻血と涎、涙を垂らしながら昇天した。

その光景に、周囲にいる者達が口を開けて驚愕している。

 

「局長さん討伐完了ー。アハハハッ。アハ、アハハハ。」

 

しかし、竹仁はお妙の一撃必殺にも近藤の戦死にも驚いた様子は見せず笑ってお酒を飲んでいる。

 

「局長ォォォォォォ!てめェ何しやがんだクソ(アマ)ァァ!!」

 

隊士達が局長を沈めたお妙に今にも掴みかからん気迫で怒鳴るが、

 

「あ゛~~~やんのかコラ。」

 

「すんませんでした!」

 

逆にお妙の恐ろしい気迫に負け、土下座して怒鳴った事を謝罪した。

江戸の治安を守る真選組がたった一人の女子(おなご)に負けるなんて大丈夫なのだろうか。

それともお妙が魔神並みに強すぎるだけなのか。

 

「えーと、局長が戦闘不能になったので、一戦目は無効試合とさせていただきます。」

 

ピクリとも動かない近藤が2人の隊士に運ばれていく。

戦闘不能にされたとはいえあの決闘が無意味だったのだ。回復すればまたストーカーし始めるかもしれない。

 

「・・・とどめさしとこうかな。」

 

「何警察の前で堂々殺人しようとしてるんですか。」

 

「チッ冗談だよ。」 

 

彼の目の前で思い切り舌打ちをし、竹仁は視線を近藤から逸らした。

 

「・・・。えー、二戦目の人は最低限のルールは守ってくださ・・・」

 

「!!」

 

ガッゴッバキッドカドコガン!

 

「おおおお、もう始まってんぞ!速ェ!!ものスゲェ速ェェ!!」

 

沖田と神楽の戦いは1回1回が秒も経たない内に終わっており、2人とも常人の域を飛び越えてしまっている。

速すぎて勝敗の判断は本人にしかできなさそうだ。

 

「あまりの速さに2人ともメットとハンマー持ったままのよーに見えるぞ!!」

 

「神楽もすごいけどさ、沖田君強すぎじゃない?あの子人間?」

 

「沖田隊長は実力こそ真選組最強とうたわれてますけど、れっきとした人間ですよ。」

 

竹仁の疑問に山崎が答えるが、夜兎族の神楽と渡り合う者がいるなんて流石武装警察だと彼は感心する。

 

「隊長。そりゃ最強ならなるかぁ。若いのにすごいねぇ。」

 

「おお!!そうこうしてるうちにこっちはもっと苛烈に!!・・・あれ!?ちょっと待て!!」

 

「2人とも明らかにメットつけたままじゃねーか!?ハンマーないし!何かジャンケンもしてねーぞ!!」

 

最初こそルール通りの試合だったはずなのに、今やただの殴り合いだ。

これは一戦目と同じく無効試合となってしまいそうだ。

 

「もー殺し合いでよくない?それなら絶対に勝ち負け決まるじゃん。」

 

「よくねーよ!オイぃ!ルール守れって言ってんだろーがァァ!!」

 

ただの殺し合いならば倫理や道徳に問題は発生するがどんな道具や戦法を使っても問題なんて発生しない。

 

「しょーがない、最後の対決で決めるしかない。銀さっ・・・」

 

「「オ゛エ゛エ゛」」

 

先程飲み比べを始めていた銀時と土方、両名とも短時間で見事に酔っ払いへと転化したようだ。

最終戦が酔っ払い同士の戦いとは、無効試合になる気しかしない。

 

「オイぃぃぃ!!何やってんだこのままじゃ勝負つかねーよ!!」

 

「しょーがねェ、俺が単独勝利決めてくるわ。」

 

あの2人を沈めようと竹仁はやおら立ち上がったが、新八に止められた。

 

「やめろ!乱入こそ無効試合になるからやめろォ!」

 

「えーじゃあどうすんのさ、あの酔っ払いどもで。」

 

指差した先では顔を赤くし、明らかに酔っていると判断できる2人。

まともな試合ができる訳無い。

 

「オイ邪魔すんじゃねーぞ、俺ァまだまだやれる。シロクロはっきりつけよーじゃねーか。」

 

「このまま普通にやってもつまらねー。ここはどーだ、真剣で”斬ってかわしてジャンケンポン”にしねーか!?」

 

「上等だコラ。」

 

「お前さっきから「上等だ」しか言ってねーぞ。俺が言うのもなんだけど大丈夫か!?」

 

「上等だコラ。」

 

酒の影響とは恐ろしいものだ。

頭の良さそうな土方が、上等だ、しか言えない機械のようになってしまっている姿を見て竹仁はそう思った。

 

「」

 

そして、酔っ払い同士による一戦目のジャンケンが始まった。

 

「いくぜ。」

 

「「斬ってかわして、」」

 

「ジャンケン」

 

「「ポン!!」」

 

出した手は、銀時がチョキで土方がパー。

銀時は勝ったので斬る側、負けた土方はかわす側だ。

 

「とったァァァァ!!」

 

ジャンケンに勝利した銀時が勢いよく刀を横一閃に滑らせた。

ザン、と何かを斬った音がしたが、斬られたのは土方ではなく桜の木で。

 

対する土方は定春を銀時と見間違えてジャンケンしており、グーしか出さない定春に文句を言う始末。

定春はグー以外出せるわけ無いのだからそりゃ文句も出る。

 

そんな彼らの様子を眺めていた竹仁は、またしても立ち上がった。

 

「よし2人とも殺る。」

 

「もう勝手にしてください。」

 

新八は全てを諦めた。

 

「まずはお前だ銀時ィ!」

 

その辺に落ちていたピコピコハンマーを拾って銀時に殴りかかる。

しかし腕を軽く掠っただけで直撃には至らなかった。

 

「んなナマクラが効くかよ!オラぁぁ!!」

 

銀時が真剣で斬りかかるが、剣筋はフラフラだ。

竹仁も酔っ払っているとはいえ自我を見失うほどではないので、簡単に避けて次の一撃を繰り出す。

 

「使用者がそんなんじゃ刀がかわいそーだぞ銀時ィィ。」

 

竹仁はハンマーを振り回し、銀時は真剣を振り回し。

途中から土方にも殴りかかったりと、もう手の付けようがない。

というか止める人間がどこにもいない。

 

全く、花見をしに来た時とは比べ物にならないくらい騒がしい花見となってしまった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

見知った庭に、見知った家屋。

そして、縁側に立つ自分の視線の先には大きな枝垂桜。

 

無意識の内に、昔の夢を見ているんだと理解した。

何故なら、目線がいつもより随分低いし、何よりこの村は既に存在しない。

 

 

「あの桜が気に入ったか?」

 

と、後ろから師匠に声をかけられて少し驚いたのを覚えている。

突然だったからという事もあるけれど、稽古場に行かずに桜を眺めていた事への叱責が無かったからだ。

 

「・・・あれは、さくらっていうんですか?」

 

自分の意志とは別に、勝手に口が動く。

 

「ああ。美しい色だろう。」

 

「はい。」

 

隣に立って庭の枝垂桜を眺める師匠の横顔は、穏やかなものだった。

そんな師匠の表情を見たのは、後にも先にもこの時だけで。

 

「あの桜はな、この村を守る御神木なんだ。」

 

「ごしんぼく。ですか。」

 

「そうだ。お前もあの桜のように、国を守る立派な侍となるのだぞ。」

 

「はい。なれるように、どりょくします。」

 

今だったら、誰がそんなもんになるかバーカ、と言って逃げ出すだろう。

 

でも、何も知らなかった子どもはそんな事できるわけもなくて。

だから与えられた教えを、疑う事も知らずに飲み込むしかできなかった。

それが正しいのだと。

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・。」

 

麻痺した意識が、朧気ながらハッキリとし始めた。そのまま目の前をボーッと眺める。

 

 

・・どうやら自分の部屋に帰ってきていたようだ。

酔って騒いでいたのは覚えているが、その後の事を彼はよく覚えていない。

 

気付いたら夢を見ていた。

 

折角楽しい花見をしたというのに、それを冷まさせるような夢。

 

今しがた見た夢を上書きしたい。

痛む頭とありもしない睡魔に知らんふりをし、竹仁は無理矢理目を閉じた。

 





【挿絵表示】


はい、お酒飲んでます。


お酒は20歳になってから。
成人が18歳になるそうなので、飲酒できる年齢も変わるんでしょうか。


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河童はキューリがお好き?

 

今、自分は森の中を歩いている。

 

何故森の中にいるかと言えば、獣狩りをするために入った。

そして、運良く狩る事が出来たイノシシを縄で縛って担ぎ銀時達の居るであろう場所へ戻る途中。

 

来た時に木に付けた目印を確認しながら。

とんでもない方向音痴という訳ではないけれど、一応。

 

(〇ンゼルと〇レーテルみたい。)

 

しかし、彼らのようにパンくずを道標にするのは自分だったらしない。

もったいないので。

 

(・・・あれ?そういえばどっちが女の子だっけ。)

 

ヘ〇ゼルの方が女の子っぽいと思ったが、グ〇ーテルも女の子のような名前だ。

 

確か牢屋に閉じ込められてたのが男の子で、そっちがどっちだ?

ていうか魔女ってヘン〇ルとグレ〇テル、どっち食べようとしたんだ?

あ、かまどに魔女をぶち込んだのは女の子だから・・・いやでもどっち

 

「だぁっ!」

 

足が何かに引っ掛かり、べしょっ、と正面から地面と接触事故を起こした。

考え事をしていたせいで注意が散漫になっていたのだろう。

 

「ちょっと、大丈夫ですか?」

 

「あぁうん、」

 

前方から聞こえた新八の声に鼻の辺りを押さえながら顔を上げると、何故か池に向かって正座してる3人。

そして彼らの正面に全身緑色の河童がいたので、思わず凝視してしまった。

 

「ばんごはん・・・。」

 

「晩御飯ってお前、この河童の事じゃねーよな?」

 

銀時に疑いの目を向けられるが、驚いて言葉が詰まっただけであの河童を晩御飯にする気は無い。

 

「河童を食べる趣味はないよ。それにしても、河童なんて初めて見たなー。」

 

身体を起こしてその場に胡坐をかき、河童をマジマジと見つめる。

 

「だから河童ってなんなんだ訳分からん。オッサンにゃ海老名っつー名前があんだよ。」

 

「ふーん。で、海老名さん。ウチの銀髪バカが何したんですかね?」

 

「何で俺だけだ。」

 

「こいつらが俺を釣り上げた挙句蹴飛ばしたせいで眼鏡がホレ、割れちまったんだよ。オッサンだってな、最初から謝ってればこんな事させてねーよ。」

 

そう言って海老名はレンズにひびが入った眼鏡のヨロイ部分を持ち小さく動かした。

 

「あの、ホントスンマセンでした海老名さん。僕の眼鏡も割りますんで、勘弁してください・・・。」

 

「よ~し。よく謝ったな、ボク。ご褒美にほらビスケットだ。」

 

新八の手に置かれた海老名からのご褒美ビスケットは水気150%でべっちょべちょだ。

その味は多分、生臭味だろう。

 

「まァ割れたのが眼鏡の方で良かったよ。これでお前、もし皿が割れてたら流石のオッサンもキレてたね。お前ら全員ボコボコだったよ。」

 

「え?俺何かしたっけ。」

 

「お前は存在自体が悪、ってオイ。何ナチュラルにイノシシの解体ショー始めてんだテメーは。」

 

銀時の視線の先では、竹仁によるイノシシの解体ショーが行われていた。

耳を塞ぎたくなるような解体音が聞こえてくる。

 

「だって、持ち帰るなら袋に入れときたいじゃん。」

 

イノシシを担いで帰ったら怪しい人だし、そのままでは袋に納まらない。

だから、解体作業を行っているのだ。

 

「いいか、俺の皿だけは。この皿だけは何人たりとも触れさせね・・・」

 

「!」

 

池へと戻っていく海老名に向かって、何かが勢いよく飛んでいく。

そしてその飛来物はガン、と鈍い音を立てて彼の頭の上にある皿に直撃した。

 

「ぐはっ!」

 

「「ああああああ!!」」

 

「え、何どうしたの、大丈夫?」

 

銀時と新八の叫び声に手を止めて立ち上がり、竹仁は彼らの方を見た。

そこには、池にうつ伏せで浮かんでいる海老名の姿が。

 

「皿割れたァァァァ!!」

 

「大変だァァァ!!皿割れたぞ!!何が大変なのか知らんけど!!」

 

確かに頭の皿が割れてしまっている。

銀時の言う通り何が大変なのか分からないが大変そうだ。

 

「あ、ゴッメ~ン。ゴルフの素振りやってたら手ェすべっちゃった~。」

 

すると、後ろから声が聞こえ、偉そうな態度の男が現れた。

その男の周りには、いかにも金で雇われたようなチンピラ風の男達がいる。

 

「だから早く出てけって言ったじゃ~ん。ここはアンタの家じゃない、俺の土地なんだよ~。この池もそこの草も土もぜ~んぶ、俺が買い取ったんだからさァ。」

 

「あ、そうなんですか?じゃあこれ、どうぞ。」

 

偉そうにしている男から漂う小者臭に、少しちょっかいを出してみたくなった。

なので、イノシシから取り出した内臓を両手に持ち男に差し出す。

 

この土地に存在する何もかもがこの男の物だというなら、獲ったイノシシもこの男の物なのだろうから。

 

「ひィ、そんなの誰がいるか!持ってくんなグロイ!」

 

案の定怖がってくれたようで、こちらとしても嬉しい限りだ。

 

「いやでもコレアンタの土地で獲っちゃったんです。なので返そうかと。」

 

「かっ、返さなくていいから!早く捨てろ!!」

 

「そーですかー、分かりました。」

 

見えるところにベチャリと捨てて、イノシシの解体場に戻る。

 

「と、とととにかくアンタ!これ以上俺の邪魔するっていうなら、それ相応の覚悟はしておく事だ!」

 

海老名を指さしてそう言い残し、男は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

魚とイノシシの肉に木の棒を刺し、焚火の周りに配置する。

 

その焚火を囲むように皆で座り、神楽は海老名の割れてしまった皿の修復をしていた。

テープで、だが。

 

ペタペタ。

 

「オラ、直ったアルヨオッサン。」

 

パリン。

 

「アレ?今パリンっていわなかった?」

 

「気のせいですよ。」

 

海老名が今しがた聞こえた不穏な音に1つの疑念を抱くが、知らせない方がいいだろう。

皿がテープでどうにか直った瞬間破壊されたなんて。

 

「オッさんよォ。引っ越しするってんなら手伝うぜ。」

 

「よけいなお世話だバカヤロー。・・・・、アレ見ろ。」

 

銀時の提案を余計なお世話だと一蹴した海老名は、言葉と視線で池の中に見える妙な物体を示した。

 

「妙なもんが見えるだろ。ありゃ昔俺が乗ってきた船だ。」

 

その妙な物体の正体は、船だった。

船と言っても、この池にはあの大きさの船が通れるような川は繋がっていない。

とすると、海老名の乗ってきたという船は海や川で利用される船ではなく。

 

「海老名さん、アナタ天人なんですか?」

 

この時代、天人がやってくるなんてそう珍しいものでもない。

 

「俺達の種族は清い水がねーと生きられねー。」

 

「その昔、俺達の星は天変地異で水を失い皆新天地を求め旅立った。そして俺がたどり着いたのがこの水の星、地球よ。」

 

「たまげたよ、こんなキレーな星があったなんて。あの頃ぁ天人もほとんどいなかったし、宝石独り占めした気分だった・・・。」

 

「だが、俺の姿は地球人にとっちゃ化け物以外の何物でもねェ。迫害され、俺は池に戻り孤独に生きるようになった。」

 

「人はよォ、他人の中にいる自分を感じて初めて生きてる実感を得るんだ。俺は生きる場所は得たが、死んでたも同然だった。」

 

「・・・あいつに会うまでは。」

 

自身の事を話す海老名に目もくれず、銀時は焼いた魚を手に取り食べようとしている。

竹仁もまたイノシシの肉がちゃんと焼けているか確認して神楽と新八に肉を渡し、自身も食べ始めた。

 

一応全員、話は真面目に聞いている。

 

「そいつは、いつの間にか池のほとりにいたんだ。なーんにもせずにただずーっと池眺めてんだよいつも。」

 

「俺も最初は隠れてたんだがそのうちバカらしくなってな。」

 

 

『お前、いつもそこで何やってんだ?』

 

水面から半分ほど顔を出し、木に寄りかかって座る少女に話しかけた。

最初こそ少し驚いていたようだったが、海老名の問いかけに少女は普通に答えた。

 

『部屋にいても一人だからつまんなくて。どうせなら自然(ここ)で一人でいようと思ったんだけど。・・・二人だったんだね。』

 

 

「娘は肺を患っていた。人に伝染(うつ)る病だ。腫物扱いされて部屋に隔離されてたところを忍んで出てきてたのさ。」

 

「誰でもいいから話し相手が欲しかったのさ。俺もアイツもな。」

 

「オ゛エ゛」

 

話の途中に銀時は焼き魚を一口食べたが、すぐに吐き出した。

独特な見た目をしていたが、見た目通りの味だったのだろう。

 

「食べ物粗末にすんなよ。魚が可哀想だろ。」

 

「じゃあテメー食ってみろ。食えねーだろうけどな。」

 

「・・・聞いてんのか?」

 

「あ、ごめん。聞いてるよ。」

 

海老名の言葉に、話の途中だった事を思い出し謝罪する。

彼は少し怪訝そうな顔をしていたが、すぐに続きを話し出した。

 

「・・・それから、アイツと語る時間だけが俺の生きる時間になった。他愛もない話しかしなかったが楽しかったよ。」

 

 

 

『おじさんはいいね。』

 

『何が?』

 

『こんなキレイな水の中自由に泳げて。私、小さい頃から身体弱かったから泳いだ事なんてないんだ。』

 

『一度でいいから、自由に泳いでみたいよ。透明な世界を・・・。』

 

『・・・・身体治しゃいい。』

 

『無理よ、もうずっとだもの。』

 

『バカヤロー人生は長いんだぜ。』

 

『オメーが身体治すまでここは俺が護っといてやるよ。キレーなままでな。・・・だから、さっさと身体治してきな。』

 

『分かった。約束だからね、おじさん。』

 

『おおよ。』

 

肺を患った少女と結んだ、1つの約束。

それが、海老名がこの池にこだわる理由だった。

 

 

 

 

 

 

4人は、海老名と少女が約束を交わした池全体を眺められる位置に佇んでいた。

 

「約束っつったって、何年前の話だよ。」

 

「さあ。・・・乗ってきた船があんなになるくらいですから。少なくとも、その娘さんはとっくに・・・。」

 

「うーん、あの人からはお前と同じバカのにおいがする。」

 

銀時の方を向き、自身の鼻をちょっとつまむ。

そんな仕草をした彼の頭を、銀時は左手で潰さんばかりに掴む。

 

「誰が四六時中河童みてーな生臭臭(なまぐさしゅう)を体から解き放ってるって?その鼻もぎ取ってやろうか?」

 

「痛い痛い。鼻もげる前に頭もげる。」

 

頭を掴む腕をスパーンと引っ叩くと、銀時は腕を下ろし歩き出した。

 

「ったく。ほら、さっさと行くぞ。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

時刻は満月が浮かぶ夜中。

 

池の近くで怪しい動きをする者が数人。

それは、まだ明るい時分に銀時達の前に現れた男達だった。

 

「よーし準備いいな。じゃ、頼むわ。」

 

「へーい。」

 

髪の分け目の溝が深い男の合図とともに、2台のブルドーザーは動き出した。

 

「クク・・・腐れ河童。俺ももう我慢の限界だよ。池ごと土の下に埋めちゃうもんね~。」

 

「でも、大丈夫なんですかね。河童の祟りとか。」

 

隣でキャディバッグを持つ男が呟く。

 

「バカかお前は!河童なんているわけないだろ。ありゃただの天人だ。」

 

 

「・・・ったく。夜中に何でこんな事しなきゃならねーんだ。」

 

ブルドーザーを操縦する男が悪態をつくが、重機はゴゴゴ、と順調に進んでいく。

しかし、突如ブルドーザーはガクン、と大きく揺れ、動きが止まった。

 

「んだオイ、止まっ・・・」

 

ズゴゴゴゴ。

 

「!!」

 

男が操縦席から身を乗り出して前方を見れば、トン単位の重さがあるブルドーザーを素手で止めている何者かがそこにいた。

 

「私四郎河童アル!おじさんキューリちょうだい。」

 

それは、背中には甲羅、頭には皿、そして全身緑色という明らかに河童の見た目をした少女。

 

「ぎゃあああグハッ!」

 

「駄目だよ四郎~。こんな奴にキューリ貰おうとしちゃあ。」

 

背後から男の頭頂部に肘打ちを放ったのは、これまた河童の見た目をした青年だった。

 

「そう言うなら二郎がキューリ採ってきてヨ。」

 

「仕方ないなぁ。じゃ、太郎と三郎も連れて皆でレッツ強盗だ。」

 

「よっしゃ、皆でキューリパーティーするアル!」

 

「行くぞ、全国のキューリ農家を襲撃だァ!」

 

「お前ら何しようとしてんだァァ!!」

 

意気揚々に歩き出そうとした2人に、新八のツッコミが物理的にも炸裂した。

痛む頭を押さえながら、竹仁は振り返った。

 

「何すんの三郎、お前だってキューリ食べたいだろ?」

 

「その設定いつまでやるんですか。いいから早く帰りますよ。」

 

さっさと帰ろうとする新八に、神楽はその場にしゃがみ込んで抗議する。

 

「私をここから動かしたいならキューリを寄越すアル!」

 

「めんどくせェェ!!分かったよ!明日キューリ買ってきてあげるから!ホラ帰るよ!」

 

「魔女にかけてもらった河童の魔法、朝になったら解けちゃうネ。だから今欲しいアル!」

 

しゃがみ込んだまま不貞腐れる彼女の首根っこを、遅れてやってきた銀時が掴んで引き摺っていく。

 

「オメーはどこの〇ンデレラだよ。解ける時間もかかった魔法もちげーし。」

 

「そこはまぁ、和の国のシ〇デレラって事で。」

 

「いや・・・和の国のシン〇レラ、投獄エンドしか見えませんよ。」

 

舞踏会に河童が現れたらとんでもない騒ぎになるだろう。

なにせ河童は妖怪なのだから。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あれ?竹仁さん、どっか行くんですか?」

 

「うん、今日熊鍋しようかなと思って。ちょっと行ってくる。」

 

ガラリと玄関を開け、一歩外に出る。

 

「え、スーパーに熊肉なんて売ってましたっけ?」

 

「行くのスーパーじゃなくて山だよ。じゃあね、0円で買ってくるから。」

 

彼は笑顔で扉を閉めた。

そして、閉まった扉の向こうに見えていた人影は歩き出したらしく、見えなくなった。

 

 

「・・・えぇ!?」

 

少し前に彼が閉めていった扉を勢い良く開けて下の通りを見渡すが、姿は見当たらなかった。

 

 

今日の晩御飯は、量がいつもより多くなるかもしれない。

 

 

 

 

 

 






「オイそこの血みどろサンタ。」
「・・あれ、副長さんじゃん。何、熊肉欲しいの?」
「は?熊肉?」
「頑張って獲ったんだよ。熊鍋しようと思ってさ。」
「・・・中身、見せろ。」
「別にいいけど。はい。」
「・・・はァ、紛らわしい事してんじゃねえよ・・・。」
「何なの?もう行っていい?」
「あぁ、好きにしろ。」


サンタさんの袋の中身は獣臭かった。


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裏なんて悪い事ばかり

ダラリとした、いつもと変わりない万事屋の日常。

 

いつものように銀時がつけたテレビは、中央に新人アイドル寺門通を。

そして、彼女を取り囲む多数の記者達の姿を映し出した。

 

報道によれば、どこぞの誰かとお付き合いをしています、との事だった。

 

そんな報道に興味の欠片もない銀時は酷くつまらなそうだ。

 

「あんだっつーの、ガキの色恋なんざどーでもいいんだって。それよりドラマの再放送はどうしたの?ピン子と春恵の対決はどーなったの?」

 

「ピン子と春恵いよいよ決着かと思われた時、地球に恐怖の宇宙帝王軍襲来!ピン子と春恵が協力して帝王を倒し終わりヨ。」

 

「マジでか!!なんで知ってんの!?」

 

「昨日で最終回だったもんね~、定春。」

 

「んだよチクショー見逃したぜ!!もうピン子に会えねーのか俺は!?」

 

「そんなに会いたきゃ新八と同じ事してろ。2人一緒に別の世界線まで飛ばしてやるから。」

 

本から視線を逸らす事無く日めくりカレンダーを秒でめくっている新八を指さす。

床には未来の日付が記された紙が大量に散乱してしまっている。

 

「はァ、新八ィ。んな事しても別の世界にも時空にもいけねーぞ。現実から逃げてんじゃねーよ!」

 

「思春期の恋する男子は大変だねぇ。・・・めんどくせぇ。」

 

竹仁だって、新八が複雑怪奇な感情に振り回されるお年頃だというのは理解しているが。

 

恋心に振り回される男子の扱いがよく分からない。

なので触れる事すらもうめんどくさい。

 

「アイドルなんぞに惚れるからんな事になるの。分をわきまえろ、俺もお天気お姉さんのファンだけどその辺は割り切って」

 

『続いてのニュースです。お天気お姉さんとして人気をはくした結野アナが、先月結婚していたことが』

 

ビリビリビリビリビリ。

 

「あらら、2人とも別の時空へ行ってしまったアル。」

 

新八と同じく現実逃避を開始した銀時に対して、竹仁はお前も分をわきまえろなんて思ったり。

 

「・・・。」

 

無言で本を机上に投げて立ち上がり、2人の背後に移動する。

 

そしてそれぞれの後頭部を左と右の手で掴み、

 

「時空の旅2名様ご招待だオラァアッ!!!」

 

ドゴォッ!

 

音速を超えんばかりの勢いで2人の頭を壁に叩き付け、仲良く旅立たせた。

 

〇月×日、今日は新八が銀時と共に、竹仁による傷害事件の被害者となった日であった。

 

「時空っていうより地獄に逝かせたようにしか見えないアル。」

 

「え?乗せる列車間違えたかな。まぁ別にどうでもいいや。」

 

何事もなかったかのように彼がヘラリと笑ってソファに戻った時、来客を知らせるチャイムが鳴った。

 

「はーいはい、今出ますよー。」

 

いつもなら新八が出るところだが今は生憎と旅行中のため、代わりに竹仁が玄関へと向かう。

 

ガラリと開けた玄関の先にいたのは、テレビで取り上げられていた人物で。

 

「あれ、アイドルさんが万事屋(ウチ)に来るなんて珍しい。・・ま、中にどーぞ。」

 

「どうも。」

 

お通の前を歩いて彼女を居間まで誘導する。

 

「適当に座っててくださいな。今お茶入れるから。」

 

台所で急須に茶葉とお湯を入れて湯呑と一緒に盆にのせ、居間に戻る。

 

机に盆をのせて湯呑をお通の前に置く。

 

すると、恐る恐ると言った様子で話しかけられた。

 

「あの・・・アレ、大丈夫なの?」

 

お通の視線の先に何があるかなんて、事件現場を作り上げた張本人は見なくても分かる。

 

「あぁ。大丈夫、俺と神楽だけでも依頼はちゃんとこなしますよ?」

 

お通の前に置いた湯呑にお茶を注ぎ、彼女とは反対側のソファに座る。

 

「いやそういう事じゃなくて。」

 

「んー?言いたい事がちょっと良く分かりませんけど。・・・今日はどういったご依頼で?」

 

「え、えぇ・・・。うーんと、これなんだけど。」

 

しばし戸惑っている様子だったお通がおもむろに取り出したのは1枚の紙。

 

机上に置かれたその紙には、『男と別れろ さもなくば 殺すトロベリー』とお通を脅迫する内容が書かれていた。

 

「あー。脅迫状の類ですか、っわ。」

 

話の途中、突如左側から襲ってきた木刀の刺突攻撃を上体を少し逸らして避け、目の前の木刀を掴む。

木刀の柄を握る銀時を見ると、前髪の隙間から湿布が見え隠れしている。

 

「もう帰って来たんだ、おかえり。」

 

「あぁただいま。つーことで今度はテメーが行く番だ。」

 

「やめよーな、お客さん来てんだから。久々の依頼だろ?」

 

そう言われ、銀時はうぐ、と言葉に詰まった。

そんな彼の様子を見てから、竹仁は掴んでいた木刀から手を放した。

 

銀時は溜息を1つつき、彼の隣に座り木刀をソファに立てかけた。

 

「ほい、これがこの子んとこに送られてきたんだってさ。」

 

机上に置かれていた紙を手に取り、銀時の前に差し出す。

それを受け取り、書かれた内容を確認した彼は率直な感想を口にした。

 

「んだこの知性のカケラもねー言い回し。・・・アンタのファンの仕業か?」

 

「こんな手紙が事務所に何通も送られてくるの・・・。怖くて父ちゃんに相談したら、アンタならなんとかしてくれるって。」

 

「あの親父か・・・元気でやってんの?」

 

何の話かよく分かっていない竹仁は、はてなマークを浮かべたまま笑顔で黙っていた。

人のつながりってのは不思議なもんだと思いながら。

 

「ウン。この話したらまた脱走するって大騒ぎしてた・・・。」

 

「フン、そりゃ親父がバカやる前に何とかしなきゃな。」

 

「それじゃ力になってくれるんだね。」

 

「だが犯人の目星付けるにしてもアンタのファン何人いるって話になってくるな。」

 

「それに、犯人はファンだけとも言えないだろうし。相当な人数になるだろーねぇ。」

 

窓の外に目をやり、竹仁はやれやれと言った様子で溜息をつく。

 

「別れりゃいいじゃん!」

 

突然横から乱入してきた声に、全員がそちらを向く。

 

「別れりゃすべて丸くおさまる話じゃん。」

 

酢昆布をくちゃくちゃと音を立てながら食べる彼女は淡々とそう告げた。

・・すべて丸く、とは言ったがその選択は確実に依頼人の心が丸く収まらない。

 

「い、嫌だよそんなの。考えられない。あの人は芸能界で唯一私に優しくしてくれたんだから。」

 

「ケッ!男なんて女にはみんな優しいもんなんだよ、小娘が!!」

 

幼気な女の子が口にするような言葉ではない。

 

神楽がこんな物言いをするようになってしまったのは、ドロドロ愛憎劇ばかりの昼ドラを見過ぎたせいか。

 

改善した方が良いのかと少し考えてみたけれど、自分の思うように生活しているなら別にいいか、という結論に竹仁は至った。

 

「い゛っ!!」

 

思考していた数秒にも満たない僅かな時間を遮るように、何かを叩くような音と短い呻き声が聞こえた。

 

「犯人がしぼれないなら、はりついて護るだけです。」

 

その声は、最初に現実逃避を始めた人物のものだった。

 

しかし、服装がいつもの袴ではなく親衛隊装備。

そんな彼の額にも、湿布が1枚鎮座していた。

 

「この志村新八、命に代えてもお通ちゃんを護ってみせる!!」

 

「おかえり。まぁ。熱意があるのはいい事だけど。程々にな。」

 

「はい。あ、竹仁さん。」

 

「うん?どうかし」

 

ガンッ。

 

いきなり飛んできた木刀が竹仁の眉間辺りに直撃し、彼はソファに倒れこんだ。

横になったまま身じろぎもしないその様子から、意識を失っているであろう事が窺える。

 

竹仁は無意識の内に油断していた。

依頼人、しかもお通の前で新八が何かするわけないと。

 

「よくやった新八。ナイスシュート。」

 

「流石にあの威力は酷いと思ったんで。」

 

「え、えぇえ、大丈夫なの・・・?」

 

「僕らこれ以上の事されたから。ちょっとぐらいなら大丈夫。」

 

「いたそーアルな。」

 

竹仁の少し長い前髪の隙間から覗く直撃場所は赤くなっており、痛そうだ。

彼の意識はないが。

 

そんな状態の彼を放置したまま、他の者達は万事屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

眉間の辺りに貼った湿布をなで、周りに聞こえないよう緩く溜息をつく。

 

湿布が貼られたそこは、軽く押すと鈍い痛みが走る。

これでは、思う存分定春のもふもふな毛並みに顔をうずめる事など出来やしない。

押し付けない程度に気を使いながら、定春をもふもふするしかない。

 

また溜息をつき、手元の録音機を眺める。

画面には1秒、また1秒と時間が積まれていく。

 

「・・・あぁ、今日はそのぐらいでござる。・・・・あぁ、時間はある。いいでござるよ。・・・・・」

 

今自分は厠の一番奥の用具入れの中で扉にもたれるようにしゃがみ込んでいる。

何故なら、先程から誰かと電話で話をしているお通の彼氏、GOEMONの会話内容を録音するため。

 

アイドルや芸能人に関して雑誌などを片っ端から調べ尽くしたが、その中でも彼が一番怪しかった。

女性とは遊んでばかりで、本命がいた事などほぼ無いに等しい。

 

なのにお通と本気のお付き合い?遊び人の彼が?

それに、報道陣の前で話したのはお通だけで、GOEMON本人の口からお付き合いしているなどの話は出てきていない。

 

彼を怪しんではいるが、お通に脅迫状を送っていないのならばそれでいい。

疑わしい人物から除外し、他の人間を調査しに行くだけだ。

 

「・・・・・・・まさか、こんな騒ぎになると思ってなかったでござる。あの女、マスコミの前で全部喋りやがったんでござるよ。」

 

相手の長い話を聞いていたらしい彼が、また話し始めたと思ったら。

 

(当たった?ビンゴ?マジ?俺運良くね?)

 

「まだ手も何も出してないのに冗談じゃないよ。こっちは来年大河ドラマも決まったし。・・・・そうそう、それでこっちも何とかしようと思ってさ。」

 

「・・・アイツの事務所に送り付けてやったでござるよ。・・・脅迫状。」

 

全て話してくれたGOEMONに感謝しつつ、また溜息をつく。

 

「やっぱり遊び慣れてない女はダメでござるな。ちょっと優しくしてやっただけでスグ本気でござるもん。・・・これで女性ファン減ったでござるよ~。」

 

「・・・あの女?あれは別にいいでござろう。どうせスグに消え」

 

ドゴシャア!

 

「ぎゃああああ!!」

 

「・・・。」

 

突然の破壊音に竹仁は少しばかり驚いたが、ここから出ていく事はしない。

罰が当たるなら、当たればいい。と。

 

「ひっ・・・ひぃぃぃぃ!!なっ・・・なななんだお前!」

 

「お前~、それでも人間か~。お前の母ちゃん、」

 

しかし、聞き覚えがありすぎる声が耳に入り、閉じていた瞼を開ける。

立ち上がって体の向きを変え、ドアノブに手をかけようとした時。

 

もう1人、厠に入ってくる何者かの気配を感じ動きを止めた。

 

何人(なにじん)だァァァァァ!!」

 

「ひぃぃぃ!!」

 

パシッ、と何かを掴む音についで聞こえてきたその人物の声は。

 

「ハイ、それまぁでェよォ~。」

 

この状況で一言も発さない一般人はいないだろうし、新八がいるという事は銀時もいるわけで。

ドアノブにかけようとして止まっていた手を静かに下ろす。

 

「・・・銀さん。」

 

「写真でも撮っとけ。2度と悪さできねーようにな。・・・んで。」

 

 

 

「そこで何してやがる?」

 

「え?」

 

どういう事かと新八は銀時を見る。

しかし、彼の視線は一番奥の用具入れを向いたまま。

 

銀時が言葉を静かに響かせてから数秒経った後、用具入れの扉が開いた。

 

「・・・お前かよ。」

 

「うん俺でした。・・・・、これじゃあの子、落ち込みそうだねぇ。」

 

破壊された個室を一瞥もせずにそう告げる。

 

すると、新八は少し悲しげな表情をした。

一番あってほしくなかった結果だからだろう。

 

「だーいじょぶだって。あの子には絶対裏切る事の無い最強の親衛隊長さんがいるからね。」

 

「分かんねーぞー。新八だっていつか他のアイドルに乗り換えたりとか、」

 

「それは絶対ねーから!!!」

 

GOEMONを放置したまま厠を後にして玄関を出ると、これから帰宅予定らしいお通が立っていた。

 

「お通、依頼についてだけど。じゃあ新八、後はよろしく。」

 

新八の肩を軽く叩き、万事屋へと戻るため歩き出す。

 

「え。あぁ・・・ハイ。分かりました。」

 

「神楽ー、けーるぞー。」

 

「はいヨー。」

 

外で彼らを待っていた神楽を銀時が呼ぶ。

 

「ご飯冷める前に帰って来いよ。じゃなきゃご飯をロシアンルーレット形式にしちまうぞ。」

 

新八がそれに返事をしたのか、そもそも彼に聞こえたかどうかは分からない。

 

「それやるとご飯が可哀想だって毎度言ってんだろーが。やめろ。」

 

「毎度俺の腹に納まってたんだから、可哀想じゃないよ。うん。」

 

「ご飯独り占めは良くないアル。私に寄越すヨロシ。」

 

「はいはい、独り占めはもうしないよ。」

 

20にも満たない子どもが万事屋に来てからは、ご飯攻撃をしようという気は起きなくなった。

そんな事をするよりただ普通に食卓を囲んでいる方が、自分としては楽しいのかもしれない。

 

なんて事を考えながら、彼は知らず笑みをこぼした。

 

「ところで、それどうするつもりだ?」

 

「それ?どれの事言ってるんだい?」

 

意味の無い嘘を笑顔のまま返す。

 

「マスコミにでも売るつもりか?」

 

「うーん?ちょっと何言ってるか分かんない。」

 

銀時にそれらしい事を少しも言ったわけではないというのに、気付くとは思わなかった。

何回か浮気調査等で使った事はあるので、多分それでだろう。

 

何にせよ話す必要はない。

こんな不快感たっぷりの記録なんて、どうせ家に帰ったら消すのだから。

 

 

 




最近、諸事情でゲームが楽しいです...。


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遊び過ぎにご注意

「味噌ラーメンお待ち遠さま!」

 

「ありがとう。」

 

目の前に置かれたラーメンはいつもと変わりなくとても美味しそうだ。

彼は気が向いた時、この店に食べに来る。

 

心の中で頂きますと挨拶をし、麺に箸をのばす。

 

「らっしゃいませー!!」

 

「・・・あれ、兄貴じゃねぇですかィ。」

 

麺をすする直前で聞こえてきた声に、彼は麺を咥えたまま動きを止めた。

 

「隣失礼しやすね。あ、大将。醤油ラーメン1つ。」

 

そう言って沖田は竹仁の隣、空いている右側の席に座った。

知り合いの入店に驚いて咥えたままだった麺達をどうにか口に納め、もぐもぐと咀嚼する。

 

「・・・。・・・良く気付いたね。」

 

服は普段着ではなく作業着だし、店の入り口は竹仁の座っている席からだと若干斜め後ろなので顔が見えるとは思えない。

 

「えぇ、いつも以上にアホみてーな髪してますぜ。」

 

「・・・うん?あぁ、髪がどんな癖っ毛だろーが生きるのに問題はないから。」

 

彼が気付いた理由は髪だった。確かに今日の竹仁の髪型は変かもしれない。

普段は所々勝手にはねる程度なのだが、今日は前髪の一部分がブリッジしてるような状態になっている。

 

しかし、どこぞの銀髪のように常に大惨事世界大戦みたいな事にはなってないと彼自身思う。

実際20数年間生きてて髪が変だとか気になった事は無い。

というより、自身の髪をあーだこーだと気にする気もない。

 

「生きるのに問題が発生するような癖っ毛持ちなんて聞いた事ねーですぜ。」

 

「はは、まあいないだろうけど。居たら居たで面白そうだね。」

 

「首から上が地獄絵図になってそうですけどねィ。」

 

「うわー、そんな見た目してたら家から一歩出ただけで通報されそう。」

 

「どうですそんな刺激的ヘアーにしてみちゃあ。毎日がドキドキですぜ。」

 

きっと、生活に欠かせない外へ出るという行為が超上級ミッション並みの難易度まではね上がる。

 

「そーいうドキドキはいらない。心臓どっか行くって。」

 

生活をしていたら心臓がどこか行くだけではなく毎日1つ内臓を消費しそうだ。

 

「醤油ラーメンお待ち遠さま!」

 

「お、どーも。・・安心してくだせェ。その時はちゃんと逮捕するんで。」

 

割り箸を割って、沖田も食事を始める。

 

「勧めといて結局逮捕するんだね?犯罪者じゃないのに。」

 

「え?兄貴、桂の部下なんじゃ」

 

「んぐふっ。ゲホゲホ、ゴホッ。オエ、」

 

胃まで行こうと喉の辺りまで移動した水達がUターンしてきた。おかえり。

 

彼は、決して沖田の言葉に動揺したとかではない。

何気なく視線をやった店内のテレビに、見覚えのありすぎる面々が映っていたからだ。

 

「動揺しすぎですぜ?逮捕していいですかィ?」

 

とんでもないタイミングで映ってくれた彼らをビンタしたいが、存在は画面の向こう。

 

「ゲホッ、いいわけない、違うってアレだよ。テレビ。ゲホッ。」

 

「えぇ、分かってますぜ。・・・知らされてなかったんですかィ?」

 

分かってるくせに逮捕するとか言った彼をビンタしたいが、そんな事をした日には本当に彼は逮捕されてしまうかもしれない。

ポケットからハンカチを取り出し、口元と机を拭く。

 

「はぁー・・・、知らなかったね。昨日と今日は万事屋行ってないし。」

 

「ソレは万事屋への依頼じゃないんで?」

 

沖田は箸を持ったまま竹仁の着ている作業着を指した。

 

彼らが生放送のテレビに出ているという事は、仕事場に竹仁以外の万事屋の人間はいない。

屋根修理の時のように、万事屋への依頼ならば他の者がいるのではないかと思ったのだろう。

 

「うん、万事屋とは別にバイトしてるからね。たまにだけど。」

 

「万事屋の収入だけじゃ生きてくのは大変って事ですかィ。」

 

「・・・まぁ最近はそうだね。従業員増えたし。」

 

そう、万事屋には新八と神楽、それに定春も追加された。

食費が前とは比べ物にならないぐらい掛かるようになった為、ある程度そっちに回すようにもなっていた。

それ程神楽と定春の食費が恐ろしいのだ。

 

金銭関係は置いといて、人が増えて賑やかになったのは嬉しい気がする、なんてボーッと考えながら彼は水の入ったコップを口に付けた。

 

「んげふっ。ゴホッゲホッゴホッ、」

 

先程と同様、胃へ移動する為に喉の入り口付近まで行った水達が再び戻ってきた。

反抗期なのかもしれない。

 

「またですかィ。その調子じゃいつか肺炎になって死にますぜ?」

 

「ゲホッ、誰がなるかチクショー。」

 

睨みつけた画面の先には、変装した桂小太郎と、その隣には謎の生物。

MCが謎の白い生物をエリザベスちゃんと言っていた気がするが、どこの女王様だろうか。

 

「旦那方の時と同じ反応してましたけど。あの人兄貴のご友人か何かですかィ?」

 

「本気で言ってるなら今すぐ眼科行ってきな。」

 

再びハンカチで口元を拭いながら、彼は沖田を軽く睨んだ。

 

「ええ、冗談ですぜ。・・ちょっと厠行ってきまさァ。」

 

「ん、行ってらっしゃい。」

 

沖田が席を立ち、厠の方へと歩いて行った。

 

会話をする相手が一時的にいなくなった竹仁は、残り少なくなったラーメンを食べながらテレビを眺める。

いつの間にか話は進んでおり、何やらペット同士の対決が始まるらしい。

 

『このフライドチキンの骨を先にくわえ持ち帰った方が勝ち。飼い主の誘導もけっこーですよ。』

 

MCが説明をするが、銀時と桂の飼い主同士が睨み合ったり、神楽がプロデューサーになっていたりとスタジオは混沌としている。

出演者がこのメンバーである時点でまともに事が運ぶとは思っていない。

 

そんな状況でもどうにか話は進んでいき、もうそろそろ対決が始まるのではというところだ。

 

「で、どうですかィ。旦那方と桂は。」

 

厠から戻ってきた沖田は元の席に座り、食事を再開する。

 

「おかえり。ペット同士で対決するらしいよ。もう始まるんじゃない?」

 

「へェ。お宅の犬、勝てるといいですねィ。」

 

「そーだねぇ。」

 

どうせなら定春に勝ってほしいな、と竹仁は思う。

エリザベスも絶妙に気持ち悪い見た目が結構好きだが、やはり定春の可愛さには及ばない。

 

『位置についてェェェ、よ~~い』

 

『ど~~ん!!』

 

掛け声とともにフライドチキンの骨が投げられ、定春とエリザベスはほぼ同時に走り出した。

 

『ああーっと、これはっ・・・!!』

 

『おわァァァァァ!!』

 

『バカおめっ、あっちだって!いだだだ!』

 

走り出した勢いのまま、定春はフライドチキンの骨ではなく銀時に噛みついた。

飼い始めた時からの噛み癖は今でも健在のようだ。

 

「・・・お宅ちゃんと躾してます?」

 

「えぇ、いつもモフモフしてます。楽しいです。」

 

「分かりました、してないんですねィ。」

 

『ものスゴイスピードだ!!一見不利と思われたエリザベスちゃん、スゴイスピードで駆けてゆく!!』

 

『アレ!?気のせいか!?一瞬オッサンの足のよーなものが・・・アッまた見えた!!』

 

走りにくそうな見た目をしているエリザベスだが、かなりのスピードで骨を追いかけていく。

しかし、白い身体部分と水かきのような足の部分との間に、脛毛の生えたオッサンみたいな脚が見え隠れしている。

 

「・・・エリザベス速いなぁ。銀時のせいで定春負けそう。」

 

エリザベスのオッサンみたいな脚に関してはあえて無視をする。

 

「旦那、一応被害者だと思うんですけど。」

 

「大丈夫ちょっと歯と歯の間で遊ばれるなんていつもの事だから。」

 

「その調子じゃいつか旦那死にますぜ。」

 

「・・・しょーがない。死なない程度に()るようちゃんと躾しとこうかな。」

 

「言葉が矛盾してますぜ。・・おっと。」

 

その時、沖田の方から携帯の着信音らしきものが鳴った。

彼は隊服から携帯電話を取り出し、パカリと(ひら)いた。

 

「誰から?」

 

「兄貴ィ、代わりに出てくれやせん?」

 

こちらに見せてきた携帯電話のディスプレイには、知り合いの名前が表示されていた。

 

「え。んー、じゃあ。どーなってもいいなら構わないけど。」

 

「ええ、お任せしやす。」

 

沖田から携帯電話を受け取り、外に出るべく席を立つ。

 

「大将、ちょっと外出るね。」

 

「おぉ、食い逃げすんなよー?」

 

大将の返事に苦笑いを浮かべ、店の引き戸を開けて外に出たところでボタンを押す。

 

『総悟ッ!!テメー今どこにいやがる!!』

 

いきなり聞こえた大音量に思わず携帯電話を耳から遠ざける。

そのまま電話を切りたくなった。

 

しかし、どうなってもいいなら、とは言ったものの任された手前このまま放棄するわけにはいかない。

 

なので、言ってる内容がちゃんと聞こえ、尚且つ鼓膜が傷付かない、適度な距離まで電話を耳に近づける。

 

『巡回サボったくせにテレビ局に桂がいるっつーメールはしやがって!!さっさと現場来い!!来てねーのお前1人だけなんだよッ!!』

 

店を出てすぐの道で電話をするのは通行人の邪魔になりそうだったので、薄暗い、人通りの無さそうな近くの細い路地に入る。

 

『・・・・オイ総悟、無視してんじゃ』

 

「アハハハハッ。あーあ、大変だね。お仕事サボった沖田君も探して桂もとっ捕まえなきゃいけないなんてね。」

 

『・・何でテメーが総悟の携帯に出んだ?』

 

「そんなの俺が沖田君の携帯を持ってるからに決まってるじゃん。」

 

『そうじゃねぇ。何でテメーが総悟の携帯持ってんだ?』

 

「何でだと思う?当ててみな。」

 

このまま普通に沖田の居場所を教えて仕事に戻させるのはつまらない。

なので、彼はこの電話相手ともうちょっと遊ぶ事にした。

 

『ふざけんじゃねえ、こっちゃ今から桂捕まえなきゃなんねーんだよ。さっさと答えろ。』

 

「じゃあ教えないし、沖田君も返してあげない。」

 

『あ゛?テメー・・・、いや、あり得ねーな。アイツがテメーなんぞに負けるわけがねえ。』

 

「俺、戦ったなんて言ってないけど。相手の制圧は武力だけって考えが真選組らしいよねー。」

 

これまでの話から、土方が導き出す答えはどちらかと楽しみに待つ。

 

しかし、土方にとって自分は信用などまるで出来ない人物であると竹仁自身知っている。

だから出てくる答えなど分かっているようなものだ。

 

平和的な、事実である方の答えが出てくるわけもなく。

 

『・・・テメーは、あの時斬っておくべきだったな。』

 

「怖いなぁ副長さん。俺ただの一般人なのに。」

 

『どこがだ。テメーはもう一般人じゃねえ。立派な犯罪者だ。』

 

「お遊びが過ぎたかなぁ。・・・じゃあさ、かぶき町の端にある『騙遊屋(へんゆうや)』っていう店の隣にある路地。そこに来てよ、教えてあげるから。」

 

『・・・随分潔いじゃねぇか。いいぜ、そこで待ってろ。綺麗に真っ二つにしてやる。』

 

「はいはい、また後でねー。」

 

そのままブツリと通話を切って携帯を閉じ、路地を出る。

店の引き戸を開けて店内に入り、沖田の隣に立って携帯を渡す。

 

「副長さんが俺を真っ二つにしに隣の路地に来るって。だからサボってないで一緒に仕事に戻りなさいな。」

 

「・・・どんな会話したかは聞かないでおきまさァ。って事で俺は土方さんを真っ二つにするとしますかねィ。」

 

「副長真っ二つ作戦ね。俺が真っ二つになる前に成功させてよ?・・・じゃ、大将ご馳走様ー。」

 

お釣りが出ないよう財布から2人分のお金を取り出し、大将に渡す。

 

「あ、真選組の子。お金もらいましたよ。」

 

「?あぁ、そうですかィ。んじゃ、ご馳走様でした~。」

 

店を出て、竹仁は指定した路地に入り土方が来るのを待った。

一方、沖田は路地の外で土方が来るのを待っていた。

 

 

 

 

「・・・あれ?何か知らない隊士さん達までいる。」

 

パトカーで路地にやってきたのは土方だけではなく、他数名の隊士もいた。

土方と同じく警戒心と殺気を混ぜたような気配が彼らからも感じ取れる。

 

「まさか本当に待ってるとはな。大人しく投降してアイツの居場所教えるってんなら真っ二つにしないでやるが?」

 

「うん。ねぇ、馬鹿正直にここに来てくれたのは嬉しいんだけどさ。」

 

「あ?」

 

「コレが罠だとかさ、思わなかった?」

 

この状況に似つかわしくないニッコリ笑顔を浮かべてみせる。

実際、似つかわしいのかもしれない。目の前の者達が、これが茶番劇であると知らないだけで。

 

「ふん。罠があるようにゃ見えねぇし、浪士どもが来たって叩っ斬りゃいいだけだ。」

 

「アハハ、そこら辺の浪士どもだったら良かったのにね。」

 

そこら辺に蔓延っている攘夷浪士程度ならば、彼ら真選組の敵ではない。

竹仁の言葉に、土方は眉間の皺を更に深くした。

 

「・・・そりゃどーいう意味だ。」

 

「こーいう意味だ土方コノヤロォオッ!!!」

 

ズガァアン!!

「「「ギャアアアアアッ!!」」」

 

路地に彼らの叫び声が響き渡る。

 

しかし、綺麗に振り下ろされた沖田の一撃が土方に直撃する事は無く、地面を深く抉るだけとなった。

背後からの急襲に驚いた真選組の面々は、尻もちをついたまま攻撃を仕掛けた人物を見上げる。

 

「そっ、総悟!?お前っ、・・・はっ。まさか洗脳され」

 

「てるわけねーだろ一遍死んでくれや土方さん。」

 

刀を鞘に納め、沖田はいつものように土方に悪態をつく。

その様子を見ていた竹仁は、お腹を押さえて笑う。

 

「アハハハハッ、いやー、ごめん。アハハ、楽しかったです。フフッ、」

 

「チッ、揃って騙したっつう事か!斬り殺されてーのかテメーらァ!!」

 

「それはお断りで。じゃあね沖田君、お仕事頑張ってー。」

 

片手をヒラりと振ってから作業着のポケットに両手をつっこみ、真選組の者達に背を向けて歩き出す。

 

・・・すると、背後でザリッ、と砂利を強く踏むような音がした。

 

「副長ッ!」

 

その音にすぐさま振り向いた竹仁の目には、刀を高く掲げた土方の姿が映り――

 

ドガァッ!

 

「・・・あ。ごめん。」

 

反射的に刀を持っていた土方の両の手を思い切り横に蹴り飛ばし、壁にたたきつけてしまった。

 

蹴りの衝撃で土方の手から離れた刀が、地面に転がっている。

 

「副長っ、大丈夫ですか!?」

 

「流石兄貴、容赦が微塵もねぇや。」

 

隊士達が土方のところへすぐさま駆け寄るが、沖田だけは後からゆっくりと歩いてくる。

 

「いや、これは仕方なくない?いきなり斬りかかられたら誰だってビックリするだろ?」

 

「旦那にも負けて今度は兄貴にも負けて。こりゃー土方さんショックで死んじまわァ。つーか死ね。」

 

「誰が死ぬかッ!!クソッ。」

 

土方はキレながらも落とした刀を拾い上げ、そのまま鞘にしまった。

 

「沖田君、俺勝負した覚えないよ?・・てか早く仕事に戻ったら?桂捕まえんだろ?」

 

「誰のせいでこうなったと思ってんだ。チッ、・・行くぞてめーら。」

 

不機嫌丸出しで土方は表の道へと歩いていき、他の隊士達がそれに続く。

 

「へーい。兄貴、お代ありがとうございやしたー。」

 

沖田の言葉に片手を上げ、今度は何も起こらない事を祈って家路につく。

そういえば、遊んでいたせいで定春とエリザベスの対決は最後まで見れていなかった。

 

(明日、3人の誰かにでも聞けばいっか。)

 

 

 

 



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ジャンプ聖水火事親父

私もいつか花粉症になるのでしょうか・・・。





かぶき町にある、万事屋からほど近いごみ捨て場。

そこに、2人の男がごみを抱えてここに来ていた。

 

ちなみに今日は燃えるごみの日と定められている。

しかし、1人は燃えるごみ、と書かれたごみ袋を所持しているものの、その隣にいるもう1人の男は燃えるごみの日に出してはならないブツを両手に携えていた。

 

「ジャンプは燃えるごみで出していいはずだ。だって読んでたら何か燃えるもん。」

 

そう、どこからどう見ても雑誌類であるジャンプを携えていた。

その銀時の謎理論に呆れつつ、竹仁はここまで運んできたごみ袋を投げ捨てる。

 

「そりゃお前が燃えてるだけだ。あ、それならお前を燃えるごみとして出してあげるよ。」

 

「人間は燃えるごみじゃねーよ!!」

 

「「ごふっ!!」」

 

突如ごみ箱から手と足を生やしたお登勢に背後から蹴り飛ばされ、銀時と竹仁はその場に倒れ伏した。

 

「オイ銀時、雑誌は古紙の日の水曜に出せって言ってんだろーが!てめーいつになったらごみの分別できるようになんだ?」

 

2人はむくりと起き上がり、地面に転がされたせいで服に付いた砂やごみをはらった。

 

「はあ、一生無理じゃない?コイツがそんな難しい事出来るわけないじゃん。」

 

「そのぐらいやろうと思えば出来るわ!あのなぁ、俺ァ燃えないごみが嫌いなんだよ!何だよ燃えないって。ほんとは燃えるのに出し惜しみしてるみてーじゃねーか。」

 

「ごみが出し惜しみなんかするわけねーだろ。あっごめんお前は出来たな。」

 

「誰がごみだ!!」

 

「ふん、とにかくそれ持って帰りな。最近ごみ捨て場で放火が多発してて規制も厳しくなってんだから・・・。」

 

そう言い残し、お登勢は咥えていた煙草を足元に吐き捨て去っていった。

お登勢をその場で見送った後、銀時は持ってきたジャンプを見つめ呟く。

 

「・・・・・めんどくせェなぁ。」

 

「そっか、なら燃やすか。」

 

「やめろ。」

 

竹仁の口からごく自然に提示された選択肢を銀時は速攻で却下した。

速攻で却下された事に彼は少しばかり不満そうだったが、すぐに普通の選択肢を提示した。

 

「じゃーちゃんと持ち帰れよ。」

 

「はぁ。だよなぁ。・・・ん?アレ?ちょっとォ!?ウソォォ!?ここもボヤ騒ぎ!?」

 

彼らの視線の先では置いてあったごみ袋の山が燃え始めており、放っておけばどうなるかは簡単に想像できる。

考えずとも、その原因はお登勢が捨てていった煙草だと予想できる。

 

「よかったじゃん火ィ点ける手間省けて。」

 

「だから燃やそうとすんな!既に別んとこ燃えてるけど!」

 

「それなら早いとこ消さないとなー。って水ねーじゃん。あららーどうしよう。」

 

竹仁は自分の頭に手を乗せて若干困ったような顔をするが、その声音からはまるっきり危機感が感じられない。

 

「あららーどうしようじゃねーよ!やべーぞコレ!・・・・はっ!」

 

「・・・出るかな?いや大丈」

 

「何汚ぇ事しようとしてんだ。」

 

消火という名の立ちションをしようとしている銀時の首根っこを、背後にいた竹仁が中々の力加減で掴む。

その声音と表情から、彼が怒りの化身になる3秒前である事が分かる。

 

「ちょ、ちょっと待て。だってほら、他に手がない、」

 

ブバァァァ!

 

「「!!」」

 

真横からいきなり散水され、2人は驚き水の飛んできた方を見る。

そこには消火器を持った1人の女性が立っていた。

 

「とうとう尻尾つかんだぜ。連続放火魔さんよ~。この”め組”の辰巳に見つかったからにはてめー生きては帰さ・・・」

 

ジャアアア・・・

 

「あの~。あんまりジロジロ見ないでくれない?」

 

銀時の立ちションを間近で目撃してしまった辰巳と竹仁。

数秒の無言の後。

 

「うぉわぁぁぁぁ!!」

「きたねーんだよ!!」

 

ゴン!

ドス!

 

1人は手に持っていた消火器で銀時の頭部を殴りつけ、またもう1人は銀時の脇腹にミドルキックを放った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「だァ~からそれはお前、俺の聖水でだな。火を消そーとしてただけなんだっつの。」

 

「ウソつくんじゃねェこの変態放火魔が!!汚ねーもん見せやがってトラウマ決定だよチクショー!」

 

「ホント俺達放火なんてしてないって。こいつの場合わいせつ罪とか環境汚染罪とか食器用洗剤かもしれないけどさ。」

 

縄でぐるぐる巻きにされた銀時と竹仁は、放火なんてやっていないと主張するが辰巳はこの2人を犯人だと思い込んでいるため、このまま話し続けたとしても説得は難しいだろう。

 

「オメーは火ィ点けようとしてたろーが!っつーわけでコイツの事半殺しにしてくれや!」

 

「俺はあんなやり方しねェジャンプだけキレイに燃やす!!っつーわけで俺無罪!よかったね俺!!」

 

ガッツポーズは縄で縛られており出来ないので、竹仁は代わりに床を靴底で蹴った。

 

「てめーら女だと思ってなめてたらいてまうぞコラァ!?こちとら火消しになった時から性別なんざティッシュにくるんで捨てたんだコノヤロー!!」

 

2人がふざけだしたと勘違いした辰巳が怒りだすが、彼らは決してふざけているわけではない。

いたって真面目である。

 

「だったらオメー、股間の一つや二つ見たって問題ねーだろうが!!ティッシュに優しく包んで捨ててくれや!!俺だってちょっと恥ずかしーんだからな!」

 

「そっちの話じゃねぇ!!放火の話だよ!!」

 

「だからやってねーって言ってんだろ!!」

 

これは今日万事屋にも家にも帰れないかもしれないと、竹仁は表情に出す事なく静かに落胆した。

 

「なんだなんだうるせーな。」

 

その時、奥から同業者であろう数人の男達が現れた。

 

「こちとら非常の時の為に睡眠とってんだよ。静かにしろバカヤロー。」

 

「みんな!放火魔捕まえたぜ!」

 

「だーから違うってぇええ!俺達放火出来そうなもん持ってないし!!」

 

「辰巳、そいつらだってどーせハズレだろ?今週だけで8人も無罪の奴連れてきてんだぜ。」

 

その言葉に竹仁は男を凝視した。

1週間で8人もの人間が冤罪でここへ連れて来られていた事に驚いたのだ。

 

「放火魔しょっぴくだか何だか知らねーけどよ、同心気取りも大概にしとけや。余計な真似して周りに迷惑ばっかかけんじゃねぇバカヤロー!」

 

強面の男が不機嫌さを醸し出し、怖さが増している。

子どもが見たら恐くて逃げ出すんじゃないかと男の後ろの壁を眺めながら竹仁は思った。

 

「火消しは火事を未然に防ぐのも仕事だろーが!!こいつァ間違いねーよごみ捨て場が火元っていう手口も放火魔と同じ、」

 

辰巳は男に対し反論するが、

 

ジリリリリ!

 

「!!」

 

『三丁目角の豆腐屋より火災発生、火元は店の横のごみ捨て場の模様。至急現場へ直行せよ。くり返す、』

 

その途中で火災の発生を知らせる警報とアナウンスが入った。

 

「よし、野郎ども行くぞ!!」

 

「「はいよ!!」」

 

火災発生を知らせるアナウンスが入ってすぐ、男達は素早く出動準備に取り掛かった。

 

「だから言ったじゃん、だから言ったじゃん。」

 

「疑いは晴れたかな?じゃ、俺帰るわ。」

 

自身に巻き付いていた縄を一瞬で切ってその場に落とし、立ち上がる。

 

「縄解くの早、てか俺の縄も解いてけ!」

 

「別にいいけど、どうなっても知らないからね。」

 

短刀を握ったまま、竹仁は銀時の背後にしゃがみ込んだ。

 

「オイ、わざと手元狂わせる気だろテメー。」

 

「あっ手元が狂ったー。」

 

短刀を逆手で持って銀時の縄を切り始めたが、順手に持ち替え呑気な声と共に銀時の頭部めがけて短刀を突き出した。

その攻撃を、銀時は上体を勢いよく横に逸らす事でギリギリ躱した。

 

「っぶねェェ!!クソ、言うんじゃなかった!」

 

「言わなくてもやったけどね。」

 

全ての縄を切り終わり、短刀をしまって竹仁は立ち上がった。

 

「はぁ・・・。ま、そんな気はしてたけどな・・・。」

 

銀時は、辰巳の方を見ながら小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

「一応家に連絡しといたから、もうスグ家族が迎えに来てくれるだろ。」

 

「あ?余計な事すんじゃねーよ。」

 

「銀時ー、俺その辺お散歩してくるわー。じゃーねー。」

 

外に出てすぐに、竹仁はヒラヒラと手を振って万事屋のある方向とは逆に歩き出した。

 

「おー。あの世だろーが地獄だろーがどこでも勝手に行ってろー。」

 

(・・・死ねってかあの銀髪め。)

 

大して怒りなどの感情が湧かぬまま、彼はさして多くもない人の波の中へと紛れていった。

すぐに銀時と別れた事で、迎えに来た神楽による暴力を図らずも回避していた事を知らぬまま。

 

 

 

 

 

 

「さァ、丁か半か!」

 

「丁!」「半!」「半!」「半!」「丁!」「じゃあ、丁で。」

 

壷振りの言葉に参加者は次々と丁か半か、どちらに賭けるか決めていく。

全員が均等に丁と半に分かれたので、時間がかかる事無く彼らの目の前で2つの賽は姿を現した。

 

「・・・シロクの丁!」

 

「よしっ、当たった!」「クッソまた負けたァ!」

 

など周りからは落胆と歓喜の声が聞こえる。

いつの時代も、ギャンブルは衰える事を知らぬ娯楽だ。

 

(・・・やめよ。)

 

席を立って木札の精算をし、外へ出る。

今まで様々な種類の賭け事をやってきたが、未だにその娯楽程度の賭け事を心の底から楽しいと思えた事は無い。

 

けれど、こういった賭け事が好きで良くパチンコへと出かけている者を彼は知っている。

 

いつも負けてばかりで、勝った回数など恐らく指で数えられる程度。

だというのに彼はパチンコをやめない。

 

そんな彼の姿を見て、竹仁は改めてギャンブル依存症って怖いなぁと思うのだった。

銀時が依存症と診断される程の依存具合なのかどうかは医者ではないので竹仁には分からないが。

 

鉄火場から外に出てからは、特に行く当てもなくただボーッとしながら適当に町中を歩いていた。

そしてなんとなく目に留まった団子屋に立ち寄り、団子を1本だけ買って縁台に座りのんびり食べていると。

 

「待ちやがれェェ!!俺から逃げられると思うなよォ!!」

 

突然銀時の怒号が聞こえ、竹仁は声の聞こえた方に目を向けた。

すると少し遠く、反対側にある路地から走って誰かを追う銀時の姿が出てきた。

 

(何してんだアイツ。)

 

そんな銀時の姿を見てから竹仁はやおら立ち上がり、彼の後を追って歩き出す。

銀時が出てきた路地へと歩を進めていると、その路地付近から煙が上がっているのが彼の視界に映った。

 

(火事の犯人でも追ったかね。ご苦労なこった。)

 

そうして銀時の出てきた路地の前まで来ると、建物の中から数刻前聞いた声が彼の耳に入り、窓辺にいる爺さんの姿をその目は捉えた。

 

(・・・なーにしてんだろ、俺。)

 

ここに入りたいと思ったわけでもないのに、なんとなく足が動き建物の中へと入ってしまった。

 

火事が起きていると分かっているが、建物の中を普段通りに歩く。

違う事といえば靴を脱いでいないという事だけ。

 

階段の前まで来ると、ガシャァン、と何かが大きく壊れたような音と、誰かの叫び声が建物内に響き渡った。

 

その音が聞こえた時、彼は少しだけ足を止めてしまったがすぐに階段を上り始めた。

 

「・・ふざけんじゃねーよ!!」

 

「辰巳、てめーも火消しのはしくれなら何が一番に優先されるべきか分かってんだろ?迷ってたら救えるもんも救えなくなるぞ。・・・かつては俺もお前を救うためにお前の父ちゃん母ちゃん見捨てたんだ・・・。」

 

「だから、それはっ・・・!」

 

(なるほどねぇ。)

 

何故、辰巳のような女性が火消しとして働き、更には性別をティッシュにくるんで捨てたのか。

それは、助けてくれて、育ててくれた親父さんに恩を返したい、力になりたい、などと思ったからなのだろう。

 

そんな大事な話を続けられてもこちらとしては一向に構わないが、この状況では構わなければならない。

 

「因果な商売だな、火消しってのは。だからテメーを巻き込みたく、」

 

「こんにちわーあったかくていいお天気ですねー。」

 

会話の途中だが彼にとってそんなの関係ない。

生きて帰れば、時間の許す限り話なんて幾らでも出来る。

 

「あ、アンタは・・・。てか、何でこんなとこに!」

 

「まーなんでもいいじゃん、全員生きて帰れるならさ。えーっと辰巳、爺さん外に連れてってあげて。そのオッサンは俺がちゃんと連れてくから、さ!」

 

オッサンの上に乗っていたデカい棚を両手で押し上げ、元の位置に立て直す。

 

「・・・。あぁ、任せろ。」

 

辰巳は少し迷いを見せた後、大きく頷いてから爺さんを連れてこの場を離れていった。

それを確認してから、邪魔な瓦礫をポイポイッとその辺にどかしていく。

 

「帰ったらいっぱいお話して、仲良くしてあげなよー。いつもは知らないけど、あん時喧嘩してたように見えたし。」

 

銀時と共に辰巳に連れていかれ、ぐるぐる巻きに縛られ尋問されていた時だ。

彼の目には、あの時の2人はただの意見の合わない同業者程度にしか見えなかった。

 

それがどうだろう。

目の前の人間は辰巳を救い、どれほどの時間か分からないが一緒に過ごし、彼女を育ててきた人だとは。

 

「はは・・・。そうだな、俺なりに仲良くさせてもらうさ。」

 

「辰巳にとっちゃ大事な育ての親なんだろうし、冷たくしちゃ駄目だよー。旅行行くとか一緒に美味しいもの食べるとかしてあげなよー。」

 

瓦礫を全てどかし終わり、怪我をしたオッサンを背負って出口を目指す。

 

「良く知らねぇアンタにとやかく言われるなんてな。」

 

「嫌なら言われなくなるように努力しなよ?」

 

建物を出ると、路地の入口辺りに心配そうな顔をした辰巳が立っていた。

他にも、謎の男を脇に抱えた銀時や野次馬、火消しの人達もいたが。

 

辰巳の元まで行き、その場にオッサンを降ろした。

 

「一応骨と内臓は無事なんじゃない?でもちゃんと病院行くんだぞー。」

 

「あぁ。ほんとに、助かった。ありがとう。」

 

「・・なるべく親父さんと喧嘩しないようにね。それじゃ。」

 

辰巳の感謝の言葉に正しいか分からない返事をし、竹仁は野次馬のいる方とは逆、路地の奥へと消えていった。

あの不器用そうな親父さんの、焼けた姿を見ずに済んだ事に安堵しながら。

 

 

 

 

 

(・・・・やっぱ、違うよなぁ。)

 

 

 



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床で寝ると体が痛い

うぐ...





今日の朝に万事屋へと出勤してから、新八はある事を気にしていた。

 

それは、床で寝ている竹仁の事だ。

服装も普段目にしているものではなく紺色の着物だし、何よりちょっとやそっとじゃ起きない事。

 

彼は、最初定春の身体にうつ伏せになって上体を預けた状態で寝ていた。

 

少し経ってから他の万事屋の面々が起き始めたため新八は1度竹仁に声をかけたが、起きなかった。

そして定春が神楽と共に散歩へ出かけた事により、定春の背中から床に投げ出されたのだが目を覚ます事は無かった。

 

・・・こうも長い時間床で寝ていたら身体に良くないのでは、と新八は思い、竹仁の隣にしゃがんで声をかけた。

 

「竹仁さん、起きてください。そんな眠いなら家帰って寝てください。」

 

「ほっとけ新八。そいつはごみ捨て場でも普通に寝られる人種だぞ。」

 

頬杖をついてボーッとしていた銀時が、彼の事を放っておけと言ったが新八は首を縦に振らない。

 

「どこでも眠れたとしても、床で寝たら身体に良くないでしょ。ほら、竹仁さん!起きてください!」

 

先程よりも大きめの声で呼び、肩を小さく揺すった。

 

深く眠りこけていた竹仁でも流石に意識を引き戻されたようで、僅かにだが瞼が持ち上がった。

そして床に放り出されていた片腕をゆっくりと上げ、新八の腕を掴んだ。

 

「っいだだだだ!!ちょ、怒ってます!?起こした事!!」

 

握り潰そうとするかのような握力で。

骨が軋むような痛みに新八が声を上げるも竹仁はぼんやりとしたままで、掴む力を緩める気配はない。

 

「折れる!折れるってちょっと銀さん助けてください!!」

 

「まさに寝たバカを起こす、だな。」

 

銀時は木刀を持ち、新八の反対側に立って竹仁の顔面に狙いを定めて腕を振り上げた。

 

「オイ。」

 

しかし、銀時が木刀を振り下ろすと同時に銀時と新八、どちらのものでもない声が2人の耳に入った。

その声を聞いた銀時は顔面に当たる寸前で、振り下ろした木刀を止めた。

 

「一生起きられなくさせるつもりか?」

 

横になったまま、眠そうな目で銀時を睨みつけた。

本気で屠ろうとする気配を感じ取り、寝惚けていた竹仁は一気に覚醒したのだ。

 

何故木刀を振り下ろされる事態になったのか理解していない彼に対し、銀時は顔の前で止めていた木刀をさげ、溜息をついた。

 

木刀が顔の前からいなくなってからすぐに起き上がった竹仁は、何故か新八の腕を掴んでいる事に気付いた。

 

あぁ。目を覚ます直前に、定春に抱きつく夢を見ていたような・・・。

 

そして今掴んでいる部分には、結構強く握ったような跡がついている。今は緩めの力で掴んでいるが。

 

「お前が新八の腕へし折ろうとしなきゃこんな事にはなってねーよ。」

 

「・・・へい、申し訳ないっす。新八ごめんよ、腕大丈夫?」

 

定春だと思って掴みましたとは言わない。

常日頃からあの力で定春を掴んでいるんじゃないかと疑われかねないからだ。

 

「ははは、まぁ・・・。折れてはないんで。」

 

「ったくよー、寝るなら誰もいないとこで寝やがれ。お前を起こそうとした奴毎回怪我する羽目になんだろーが。」

 

「眠れるなら普通に寝て起きてるっての。眠れないから寝間着のまんま定春のもとへ来たんだよ。」

 

床で寝たせいで凝ったのか、首を回し肩を回し伸びをしながら話をする竹仁。

 

「眠れないって・・・不眠症にでもなったんですか?」

 

「どーせバイトがつまんなかったとかそんな感じだろ。」

 

昨日と一昨日竹仁は警備員のバイトで、万事屋に姿を見せていなかった。

となれば原因はそのぐらいしかない、という事だ。

 

「残念、プラスヤクザの襲撃で百点満点。ちなみにお前の答えは5点。補習確定です。」

 

「5点!?点数配分おかしいだろ!!」

 

答えはバイトと、ヤクザの襲撃の2つ。100÷2=50。問題によって点数に違いがあれど1つ50点前後のはずだが。

竹仁は抗議する銀時に対し、目を丸くして驚いたような表情をした。

 

「えっ?おかしいの!?」

 

「あぁお前の頭がな!!」

 

「うわー先生を侮辱しましたね?退学をオススメします!!」

 

「お前ら2人ともその言い合いから退学しろ!!」

 

いつものように始まった言い合いに対しキレた新八が2人を怒鳴る。

新八の言葉を素直に聞き入れ、竹仁は窓の外を数秒だけ眺めた。

 

「・・はいはい、分かりましたよ。じゃ散歩でも行ってくるわ。」

 

「道に迷っておまわりに迷惑かけんなよ。」

 

「これでも俺お前より長く江戸に住んでんだけど?」

 

居間を出る時に飛んできた言葉に対し、特に考えもせず適当に返す。

そして竹仁が玄関でわらじを履いていると、新八が居間から顔を出した。

 

「竹仁さん、その辺で寝たりしないでくださいね。」

 

竹仁が、途轍もなく眠ければ所かまわず眠ろうとする人間だと知っている新八。

彼としてはまだ少し眠そうな竹仁を思っての言葉だったのだが、バカにされてると思ったのか若干睨むような目つきで竹仁は新八を見た。

 

「お前は俺を何だと思ってんだ。まぁいいや、行ってきまーす。」

 

だが新八の言葉を気にしたのは一瞬のようで、すぐにいつもの調子に戻った彼はのんびりとした歩調で万事屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(・・・あ、神楽だ。)

 

小さな木のスプーンでカップに入ったアイスをつつきながら歩いていると、前方少し遠くにある団子屋の縁台に座る神楽の姿が目に入った。

その隣に座る、本来神楽が話をしたり、一緒に団子を食べたり出来るはずもない者の姿も一緒に。

 

この国の現将軍の妹君。

確かそういう偉い人のはずだよなぁと、何で神楽と一緒にいるんだろうなぁと疑問は湧いたが、仲が良さそうなので彼にとっては何の問題も無い。

 

しかし、2人のいる団子屋の先に、黒い服が見えている。

 

姫は顔を隠す事もしていない。

奴らは真っ直ぐこちらへと歩いてくる。

 

このまま2人が座ったままで、彼らが歩いてくるなら鉢合わせだ。

もし、姫を捜せという命を受けていないとしても、何故か外にいる姫に気付けば連れて行ってしまうだろう。

 

それを神楽が簡単に許すかどうか。

姫の正体を知らないとしても、真選組に連れていかれる姫の姿を黙って見ているとは思えない。

知っているなら尚更黙っているわけがない。

 

真選組がボコられたって彼の心は痛まないけれど、神楽に何かあった場合は落ち込んでしまうだろう。

 

(んー、よし。神楽が真選組をボコったらお邪魔しよう。)

 

少し悩んだ後そのように決めて顔を上げると、もう、2人の前に土方が立っていた。

 

姫は大人しく立ち上がったが、その腕を椅子に座ったままの神楽が掴んだ。

そして、ニタ、と悪そうな笑みを浮かべ、口にくわえていた団子の串を勢いよく土方に向けて飛ばした。

 

土方が飛ばされた串をはらいのける隙に神楽と姫は竹仁とは反対の方向に逃げ出した。

 

「オイッ待てっ!!」

 

逃げ出した神楽が土方の静止の声を聞くわけもなく、そのまま逃げ続ける。

 

「確保!!」

 

その言葉と同時に、腕の部分だけお空の彼方へ吹き飛んだような隊服を着た隊士達が一斉に現れた。

 

「皆ファンキーになったねぇ。似合ってるよ、うん。」

 

「思ってねーだろ。・・・それより、邪魔すんじゃねーぞ。したら斬る。」

 

土方が背後から現れた竹仁を鋭く睨むが、彼は土方を一瞥もする事無く逃げた2人の姿を見上げている。

 

「しないよ。・・・あーあ、あんなとこに・・・。仕方ない、邪魔しないからこれ持っててよ。」

 

「は?おい!」

 

竹仁は手に持っていたアイスのカップを、押し付けるように土方に渡した。

そして2人の後を追うように、壁の出っ張りや置いてある物を足場にして屋根へと上る。

 

その頃アイスのカップを押し付けられた土方は若干の戸惑いの後、押し付けられた物に視線をやった。

カップの中には抹茶味のアイスが入っており、そこには垂直に、キレイに割り箸が刺さっていた。

 

箸の刺さっているものがご飯ではないけれど、それはまさに仏箸というもので。

 

「・・・死ねってかテメェェ!!」

 

土方は怒りのままに抹茶アイスの入ったカップを地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

神楽とそよ姫の後を追ってたどり着いたのは、よく知らない建物の屋上。

そこに設置されているタンクのような物の前に2人はいた。

 

後を追ってきた自分を警戒して逃げ出さないよう、竹仁は柔らかな口調で神楽に話しかけた。

 

「やぁ、神楽。早速質問です。アイツらから逃げ出したのはどうしてですか?」

 

「・・・。・・・そよちゃんと今日1日友達って、私約束したヨ。だから、助けるアル。自由になりたい、そよちゃんの為に。」

 

そよちゃん。

神楽は、そよ姫を姫ではなく、1人の人間として。友人としてみている。微笑ましくて仕方がない。けれど。世の中、そう上手くはいかないのだ。

 

「・・そう。でもよく考えな。2人がここから逃げて、運良くバレずに済んだとしても。・・・一生隠れて生きる事になるよ。姫様には生まれ持った立場がある以上、俺達のように過ごす事はできない。」

 

2人が逃げたとしても、笑って過ごす事の出来ない日々しか待っていない。

逃げ出す事は簡単でも、その後が大変なのだ。例えは悪いが、脱獄のように。

 

「う・・・。でもっ・・・」

 

「えぇ、分かっています。・・ずっとなんて、無理だって。・・・ですから、今日1日だけと決めていました。」

 

何か言い返そうとした神楽を遮ってそよ姫が口を開き、ゆっくりと立ち上がった。

諦めたような表情をするそよ姫の言葉に、竹仁は少し首を傾げた。

 

「・・うぅん。私は、姫様が1日だけでも城から逃げた事、嬉しく思ってますよ。神楽と出会って頂けたようですから。」

 

「・・・そう、ですね。あ・・・そうだ。優しい女王サンに1つ、ズルい事、言ってもいいですか。」

 

「・・・?」

 

僅かに微笑みながらそよ姫は神楽の方を向き、何を言われるのかと神楽は少し不安そうにそよ姫を見つめた。

 

「女王サンがずっと友達でいてくれたら、私、城内に戻っても寂しくなんてないです。・・・だから、ずっと友達でいてくれませんか。」

 

「・・・!ウン、そよちゃん。・・・私達、ずっと友達ヨ!」

 

神楽の不安そうだった瞳は驚きで少し見開き、次いで嬉しそうに細まった。

向かい合う2人の周りにある見えないキラキラオーラを、竹仁は眩しそうに見つめる。

 

「・・・いーなぁ。友達ってどんな感じか知りたい。仲間に入れてくれません?」

 

「嫌に決まってるヨ。お前はその辺の石ころと遊んでればいいアル。」

 

他人の心に土足で入り込むような人を見るような目つきで神楽は竹仁を睨んだ。

 

けれども、彼としては2人が羨ましかっただけで、本気で言ったわけではない。

冗談と受け取ってくれかは不明であるが。

 

「せめて石ころ()遊ぶとかにしてほしかったな。」

 

「んー、じゃあ壁とお友達ってのはどうですか?」

 

「姫様?俺そんな寂しがりじゃないです。・・・さて、ちょっと失礼します、よっと。」

 

返事がてら目の前の2人を抱っこするように両手に抱え上げ、一気に近くの屋根に降り立つ。

 

「わっ。」

「ウオ。」

真選組(アレ)が癇癪起こす前に戻らないとねー。」

 

急な事に2人が驚くも、竹仁は足を止める事無くひょいひょいと順番に降りていく。

 

「よし、無事に帰還、っと。」

 

竹仁は最後に人家の屋根を軽く蹴って跳び、地面に着地する。

 

が。

 

「・・・竹ちゃん?どうしたアルか?早く放してヨ。」

 

両手に人を抱えたまま着地するという事を、竹仁はした事が無かった。

屋根から飛び降りる事だって、滅多した事がない。

ちょっと障害物とか人とかを飛び越える感覚で、跳んでしまった。

 

受け身は取れるわけもないし、その上脚全体を使っての衝撃緩和などをろくにせず着地した。

 

まあ、つまり着地の衝撃で足が痛いのだ。

 

「・・・あしいたい・・・。」

 

竹仁は痛みに嘆きながらも、どうにか2人を抱えていた両手を放す。

 

「・・・もうちょっと考えて行動しろヨ。」

 

「はい・・・。う、神楽、姫様とちゃんとお別れの挨拶してね・・・。」

 

ギギギ、と音が鳴りそうな程ゆっくり立ち上がり、竹仁は痛みでちょっとだけゆがんだ笑顔を2人に向けた。

 

「分かってるヨ。・・・そよちゃん、また会おうネ。」

 

「うん。また会おうね、()()()()()。」

 

 

2人が満面の笑みで別れた後、そよ姫は真選組のパトカーに乗り込みお城へと帰っていった。

 

 

神楽はその後ろ姿を、見えなくなっても見送り続けた。

 

 

 



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悪徳な勧誘業者はタコ殴り

時間をください。





ピンポーン。

人の気配があまり感じ取れない万事屋に、チャイム音が響く。

 

「坂田サーン。オ登勢サンノ代ワリニ家賃ノ回収ニ参リマシタ。開ケテクダサーイ、イルノハワカッテマスヨ。」

 

今日家賃回収に来たのはお登勢ではなく、この前捕まったはずのキャサリンだった。

 

万事屋の事情を知っての詐欺かな、と思いながら竹仁はソファに寝転がりつつあやとりをしていた。

他の3人は机の下に潜り込んでいるのだが、1人分だけどうにも入りそうになかったのだ。

 

「坂田サーン、アホノ坂田サーン。」

 

「いいか絶対動くなよ。気配を殺せ、自然と一体になるんだ。お前は宇宙の一部であり宇宙はお前の一部だ・・・。」

 

「宇宙は私の一部?スゴイや!小さな悩みなんてフッ飛んじゃうヨ!」

 

「うるせーよ静かにしろや!」

 

「アンタが一番うるさいよ!」

 

「ねー見て見て、天の川!」

 

竹仁はソファから起き上がり、机の下の小さな騒ぎを気にもせず嬉しそうに3人の前にしゃがみ天の川を見せた。

しかし、銀時はこの状況にはまるで合わないにこにこ笑顔の竹仁になんとなくイラついた。

 

「どーでもいいわ!!」

 

イラっとしたまま竹仁の片腕を掴み、力づくで天の川を形成する紐を彼の指から抜き去った。

その一連の行動に、一瞬驚いたような表情を見せた竹仁だったが。

 

「・・・人の努力を速攻で無下にするなんて良い度胸してんじゃねーか。」

 

その瞳に怒りを宿して銀時を睨み、そして両頬を千切れそうな勢いで引っ張った。

 

「とえう!!ほっへはとれう!!」

 

「暴力ハヨクナイデスヨー。」

 

「俺の天の川破壊したコイツが悪い。」

 

キャサリンの声に普通に返事をする竹仁だが、それが間近で聞こえる事については気にしていないのか気付いていないのか。

他の者達も、超至近距離にキャサリンがいるにも関わらず驚きの声1つあげない。

 

「ソウダッタンデスネ。人ノ物ハ壊シチャダメデスヨ、坂田サン。」

 

「でもあの状況で天の川見せた俺も悪いんだろうけどねー。」

 

自身の非もあったと認めるような事を言い笑顔に戻った彼は、銀時の頬から手を放した。

 

痛みから解放された銀時は赤くなった頬を押さえながら竹仁を睨みつけたが、彼は銀時ではなくある1人を見つめていた。

 

「ジャ、五分五分ッテ事デスネ。」

 

竹仁は小さく頷いた後、玄関の方を眺めながら首を傾げた。

 

「・・・ねぇ、玄関鍵閉めなかったっけ?」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「キャサリンは鍵開けが十八番(おはこ)なんだ。たとえ金庫にたてこもろーがもう逃げられないよ。」

 

「そっかー。家の人いない時間狙えば空き巣で稼ぎ放題じゃん、良かったね。」

 

「そんなんで稼ぐつもりサラサラねーよ!!・・・・とにかく。金が無いなら働いて返してもらうからね。」

 

床のモップ掛けをする銀時と新八に、テーブルや椅子を拭く竹仁。

そして、雑巾がけをする、神楽。なのだが。

 

ガシャァン!!

 

彼女の雑巾がけはかなりのスピードで、進んだ先にある机を破壊した。

 

「ッチャイナ娘ェ!!雑巾がけはいいからおとなしくしてろォ!!バーさんのお願い!」

 

お登勢が慌てて神楽に何もしないよう叫ぶ。

もしこのまま何かさせていれば、働いて返させるどころか働かせる場所がなくなる事になるだろう。

 

ただの雑巾がけでさえ破壊活動に繋がってしまう神楽に、竹仁は声を押さえて笑う。

しかし笑っている事がお登勢にバレ、後頭部をスリッパによってはたかれた。

 

「笑ってる暇があるなら手ェ動かしな。」

 

「・・はーい。」

 

若干不貞腐れつつも掃除に戻る。

 

「ソレガ終ワッタラ私ノタバコ買ッテキナ。」

 

「てめーも働けっつーの!」

 

「しかしバーさん、アンタももの好きだねェ。店の金かっぱらったコソ泥をもう一度雇うたァ・・・更生でもさせるつもりか?」

 

「そんなんじゃないよ。人手が足りなかっただけさーね・・・。」

 

その時掃除をしていた竹仁が戻ってきたのだが、両手を背に回しており何かを隠しているように見える。

何かを隠しているような状態のまま彼は笑顔で2人に近づき、隠していた物を見せた。

 

「ほーら、ゴ×ブリだんご!」

 

それは彼がよく身に着けている短刀なのだが、刀身部分にはゴキ×リが3匹仲良く突き刺さっている。

とんでもない団子を作った本人は楽しそうにしているが、お登勢はそんな物を見せられたって心は高揚しない。

 

むしろ怒りが湧いてくるだけだ。

 

「・・・働きもせず何おぞましいもん作ってんじゃお前はァァッ!!」

 

「ぐへぁっ!」

 

竹仁はお登勢に投げ飛ばされ、床に叩きつけられた。

 

「・・・ったくこのバカは・・・。ハァ、アンタもさっさと働、」

 

気絶している竹仁をそのままにお登勢は顔を上げて銀時がいたはずの場所を見るが、誰もいない。

 

代わりに、開いていなかったはずの店の入り口が開いていた。

まるで誰かが出ていったかのように。

 

 

 

 

 

 

「・・・。」

 

目を覚ますとそこは真っ白な天じょ、ではなく見た事ある天井だった。

彼が今横になっているのも真っ白な、ではなく店のソファ。

 

人の声や物音がしない事を不思議に思い起き上がって店内を見渡すが、タバコを吸っているお登勢しかいない。

 

「目ェ覚めたかい。なら真面目に仕事しな。よく言うだろ、遊ぶのは勉強終わってからだって。」

 

「遊びと仕事を両立するのって大事だよね。」

 

「いいから黙ってコレ、捨ててきとくれ。」

 

「はいはい。」

 

指し示された荷物を両手で抱え、引き戸を開けるために右足を扉にひっかけた。

 

「じゃ、行ってき」

「お登勢さんっ!えっ、」

 

そして扉を開けるというまさにその瞬間、自分ではない誰かによって勢いよく引き戸が開かれ、右足が予期せぬ大移動を起こしてしまい竹仁はバランスを崩した。

 

そんな状態の彼のもとへ、予期せぬ至近距離体当たりをかます事になってしまった新八。

 

全員まとめて床へダイブ。

 

「あだっ。」

「ぐぇっ。」

 

さっき天井を見つめたばかりだというのに、竹仁はまた同じ天井を見つめる事となった。

 

「す、すみません!急いでて・・・。」

 

焦りながらも起き上がった新八に苦笑しつつ、彼は上体を起こした。

 

「ははは。いやうん、元気でよろしい。・・・それよりどうしたのさ。そんな急いで。」

 

「あ、はいっ。その、キャサリンが―――」

 

新八は神楽と一緒に今しがた聞いてきたという、キャサリンとクリカンという男の会話を要約しながら話した。

キャッツパンチという窃盗グループにもう一度入らないかと、脅しに近い形で誘われているようだ。

 

「へェー、そうなんだ。」

 

しかし、話を聞き終えたお登勢の口から出てきたのはそっけないと感じられるものだった。

 

「そうなんだ、ってお登勢さん!このままじゃキャサリン、また泥棒になっちゃいますよ!」

 

「ほっときゃいいんじゃね。いつかやると思ったヨ俺ァ。」

 

座ったまま銀時の真似をする神楽のその表情、喋り方は、まさに銀時そのものである。

 

「すごーい。似てるね。」

 

「銀さんだ。ちっちゃい銀さんだ。」

 

その時店の玄関が開き、紙袋を抱えた銀時がやってきた。

 

「そうそう、ほっとけほっとけ。・・・芯の無い奴ァほっといても折れていく。芯のある奴ァほっといてもまっすぐ歩いてくもんさ。」

 

銀時が紙袋から取り出し机に置いたのは、どこかで見た事ある人物を模したフィギュア。

 

「なんだイ、コレ。」

 

「お天気お姉さん結野アナのフィギュアだ。俺の宝物よ、これで何とか手を打ってくれ。」

 

銀時はお登勢に無言で背負い投げされ、ガシャァンと扉を破壊する派手な音をたてながら店からたたき出された。

 

「ったく・・・バカばっかりだよ。アンタらもさっさと出ていきな。」

 

一連の流れを見ていた竹仁は、呆れたように溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

てくてく、少し前まで居た飲み屋よりも随分静かな道を歩く。

コンビニで買ったさきいかをモチャモチャと頬張りながら。

 

 

そして、食べ歩く事数分。

たどり着いたのは3丁目の工場。

 

許可がいるのかもしれないが、気にせず敷地の中へと進入する。

そして忍び込んだ建物の中を慎重に移動し、ちょうど新八が話していた奴らであろう男達が見える部屋の、窓の下に座り込む。

 

もし、キャサリンがの答えがYESならばまとめてしばき倒し、NOならキャサリンだけしばかない。

 

目の前で犯罪の芽がニョキニョキ生えるかもしれないならまとめて摘んでしまおうかな、という事だ。

 

(ん、いか終わりそう。帰りに違うの買おうかな。)

 

もぐもぐもぐもぐもぐ。

いかをもぐもぐと食べ続け袋の中はあと2、3切れほどといったところで、誰かが男達の元へとやってきた。

 

「・・・来たかァキャサリン。そーだよ、その眼が見たかった。キャッツパンチここに再結成、」

 

直接見ているわけではないので、彼らが何をしているのかよく分からない。

けれど、声だけ聞ければいい。

 

「・・・・何の真似だ?」

 

「・・・悪イケドモウ盗ミハデキナイ。勘弁シテクダサイ。」

 

聞こえたキャサリンの答えに感心しつつ、竹仁は残りのいかをまとめて口の中に放り込んだ。

 

モグモグ。

(うん、おいしいおいしい。)

 

「ああ!?何言ってんだテメェ。ババアがどーなってもいい・・・・・」

 

「・・・アノ人ニダケハ手ヲ出サナイデクダサイ。ソノ代ワリ私ヲ煮ルナリ焼クナリ好キニシテイイ。」

 

脅迫じみた誘いを断られて、あの男達はイラついているだろう。

 

脅している時点でキャサリンを本当の仲間などと考えてるわけがなかったのだ。

結局あの男達は思い通りに動いてくれる有能な奴が欲しかっただけで。

 

「・・・上等だこのクソアマァ!!」

 

ひどい罵倒と、場面を見ずとも暴力を振るったと認識できる音が頭に響く。

 

男の言葉と振るったであろう暴力に心が冷えてしまったので、ナイフを取り出し窓を飛び越えた。

そして、瞬時に誰がどこにいるか把握し、キャサリンを蹴った男の脚めがけてナイフをぶん投げる。

 

ドスリと生々しい音をたて、投げたナイフはキレイに突き刺さった。

 

「ッ!?ギャアアア!なっ、」

 

二コリと笑い、竹仁は男にゆっくりと近づく。

 

「お前らと違って変わろうとしてんのにね。笑顔で送り出すとかできないの?」

 

いつかの、誰かみたいに。

 

「ひっ、1度泥につかったやつがっ、変われるわけねーだろ!そいつは一生、泥の道歩くし―――」

 

口の辺りを蹴り飛ばし、竹仁は男を強制的に黙らせた。

 

「よっし、お掃除完了っ!」

 

男の脚からナイフを引き抜き、土管から上半身だけを覗かせ呆れたようにこちらを見ている銀時を見やる。

 

彼が入っている土管の隣2つには、男の仲間2人がそれぞれ逆さになって丁度よく収まっていた。

 

「ちったァ手加減してやれよ、っと。・・・まぁ、類は友を呼ぶとはよく言ったもんだな。お前、ロクな人生送ってきてねーだろ?」

 

土管から出てきた銀時は、土管に収まったままの男の方を少しの間見ていた。

 

「お前もだろー。」

 

「うるせぇ。そーだろうけどお前に言われると何かムカつく。」

 

「あはは、誰かに胸張れるよーな人生送ってこなかったんだー。エロ本でも盗んだの?」

 

「盗んでねぇ拾っただけだ。じゃなくてお前、そろそろ殴っていいか?木刀で。」

 

「坂田サン、暴力ハ駄目デスヨ。」

 

「そーだよ通報しちゃうよ?あと俺今は家に帰っておつまみ貪りたい気分だから。」

 

懐からさきいかの空袋を取り出してぶんぶんと振り、どれ程貪りたいか伝える。

それを見た銀時は、呆れたように溜め息をついた。

 

「はぁ。貪るほど食ってたらもうおつまみじゃねーだろ。」

 

「じゃ、おむさぼり。うん、おむさぼり食べたいんで帰りまーす。みんなおやすみ~。」

 

「あぁ、永遠におやすみしてろ。」

 

「オヤスミナサイ。」

 

遠回しに死ねと言われたが、無視して家の近くにあるコンビニを目指す。

 

 

 

その途中、真っ黒な空を見上げ、輝く美しい光を眺めた。

 

(ついた泥も走ってりゃいつかキレイさっぱり、ねぇ。)

 

銀時の言っていた言葉を頭に思い浮かべる。

 

キャサリンはきっと、お登勢の下で真面目に働く良い従業員となるだろう。

けれど、自分はどれだけ突っ走ったってキレイな人間にはなれないだろう。

 

小さい頃から天人を殺すために育てられて、攘夷戦争に参加して。

 

そうして始めて敵を斬り殺した時、感触が手に、感情が心に残って。

達成感、背徳感、高揚、充足感、安堵・・・

 

それが何か、今でも良くは分からないけれど。

感情を抑制されて育った自分には、とんでもない刺激だったはずだ。

 

笑顔を浮かべた覚えがないのに、笑顔で敵を殺し続けるぐらいには。

今昔の事を思い出したとしても、笑っていたとは思えない。

 

けれど、銀時に冗談ではないトーンで言われたのだから、酷い笑顔を浮かべていたのだろう。本当に。

 

そしてその姿が周りの者にどう映ったか。

 

狂気に支配され、敵を殺し続ける者。

血に飢え、敵を殺し続ける者。

 

―――いつからか、彼は『狂飢(きょうき)』などと呼ばれ始めた。

 

10代前半の子どもが、恐ろしい殺戮者な訳無いと。

だから妖怪だとか、誰かしらの恨みが具現化した存在だとか、あらぬ事まで言われて。

 

(敵倒してただけなのになぁ。・・・それほど酷い顔だったんかな。)

 

どんな顔をしていたのか、今となっては確かめようがない。

何故なら、鈴鳴竹仁という人間が、狂飢、などと呼ばれた人間と同一人物だと知る者は誰一人としていないから。

 

教えれば「ああ、お前が?」となる人間がいるにはいるが、教えるつもりは全くない。

そんな事教えたって誰も喜ばないし、一銭の得にもならないから。

 

(・・・でもまさか、江戸で普通に生活してる、なんてねぇ。)

 

戦から離れる前の自分では想像できなかった。

ただの町人Aのように過ごす未来を。

 

 

人通りのない道を歩きながら、竹仁は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 






そんなこんなで攘夷戦争の参加者でした。あららぁ。

銀時含め他の戦争参加者は気付いてません。
彼が成長したせいですね。身長もちゃんと伸びたので。


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悪い子には一撃

いつもありがとうございます。





 

 

 

お天道様が人々の真上でスキンヘッドのように輝く時間帯。

万事屋一行はファミレスでとある人物から依頼について話を聞いていた。

 

「私的にはァ~何も覚えてないんだけどォ。前に何かシャブやってた時ィ、アンタに助けてもらったみたいな事をパパからきいて~。」

 

とある人物というのは、前までシャブ浸しになっていた娘だった。

 

「シャブ?覚えてねーな。あー、アレですか?しゃぶしゃぶにされそーになってるところを助けたとかなんかそんなんですか?」

 

「ちょっとォマジムカつくんだけど~。ありえないじゃんそんなん。」

 

「そーですね、しゃぶしゃぶは牛ですもんね。」

 

「いやー、あの時はチャーシューになるとこでしたねー。危なかった危なかった。」

 

「アンタ一体何の話をしてんだよ!」

 

「あははは、冗談冗談。ほら銀時、アレだよ。俺が春雨にGo to Hellされそうになった時のアレ、シャブ中だったっていう、えーと・・・あの、ほら。老胃四胃(オイシイ)破無子(ハムコ)さん。・・・でいいや。」

 

竹仁は視線を泳がせながら頑張って名前を作り出すが、当たる確率なんて0に近いもので。

 

「オイィ!聞こえてんぞ最後!!名前全然ちげぇし!!」

 

「んー?あぁハイハイあのハムの!」

 

ようやっと何の事かを思い出したようだが、肝心なところを思い出せていない。

思い出せないというより、知らないのかもしれないが。

 

「ふざけんなオイ!もうマジあり得ないんだけど!頼りになるって聞いたから仕事もってきたのにただのムカつく奴じゃん!」

 

「お前もな。」

 

神楽が速攻で繰り出したツッコミに竹仁は通路の方を向いて吹き出した。

幸い、飲み物は口に含んでいなかった。

 

「あははははっ。神楽は正直者だねぇ。うん、良い事だよ。」

 

「今のはどう見たって良い事じゃねーだろ!!」

 

「す、すんません。あのハム子さんの方はその後どーなんですか?」

 

「アンタフォローに回ってるみたいだけどハム子じゃないから公子(きみこ)だから!」

 

「えー、少し離したらハムに」

 

全て言い終わる前に、新八が竹仁の口元にバシッと手のひらをたたきつけ黙らせた。

竹仁が不満そうに眉根を寄せながらコップに手を伸ばすと、新八は手を下ろした。

 

「・・・麻薬ならもうスッカリやめたわよ。立ち直るのマジ大変でさァ、未だに通院してんの・・・もうガリガリ。」

 

「何がガリガリ?心が?」

 

「金だろ。心も体も元気いっぱいにしか見えないし。」

 

メロンソーダを飲みながら、竹仁は捜索時に見た写真とさして変わらない目の前の人間を見る。

 

「痛い目見たしもう懲りたの。でも今度はカレシの方がやばい事になってて~。」

 

「彼氏?ハム子さんアンタまだ幻覚見えてんじゃないですか!!」

 

「オメーら人を傷つけてそんなに楽しいか!!」

 

フォロー役だったはずの新八がいきなりボケをかましたせいで、竹仁はメロンソーダを吐き出しそうになった。

コップをテーブルに置いて顔を伏せ、声を殺して笑う。

 

「・・・コレ。カレシからのメールなんだけど。」

 

公子から渡された携帯の画面には、彼氏である太助という男からのメール内容が表示されていた。

 

 

太助より

件名:マジヤバイ

--------------

本文:マジヤバイんだけどこれマジヤバイよ

   どれぐらいヤバイかっていうとマジヤバイ

 

 

太助からのメールの内容を確認した銀時は、画面を見たまま口を開いた。

 

「あーホントやべーな。こりゃ俺達より病院に行った方が良いかもな。」

 

「学校の方が良いんじゃね?」

 

「頭じゃねーよ!!」

 

頭の問題じゃないと公子が否定するが、この文面からは太助が表現力を著しく欠如しているとか、語彙力を失っているとか。

本人の頭の具合ぐらいしか読み取れないのだから、誰だって心配したくもなるだろう。

 

「実は私のカレシ、ヤクの売人やってたんだけど~。私がクスリから足洗ったのを機に一緒にまっとうに生きようって事になったの~。」

 

「けど~、深いところまで関わりすぎてたらしくて~。辞めさせてもらうどころか~なんかァ、組織の連中に狙われだして~。とにかく超ヤバいの~。それでアンタたちの力が借りたくて~。」

 

(何も知らない末端の売人なら、すぐ辞めさせてもらえそうだけどなぁ。)

 

もしかしたら太助は、スパイだとかただの売人以上の地位を持つ人間だとか。

 

考えてみたって依頼をこなしに行く事には変わりない。

相手や内容がどんなものであろうと、一応依頼は依頼なのだから。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

彼らは港に置いてあるコンテナの上に居た。

公子からの依頼、太助という男を助け出すために。

 

その為に立てた作戦がこれだ。

縄を付けた銀時が下まで降りて太助を救出したら、上で待機している3人が縄を引っ張り2人を引き上げる。

 

作戦の為に調達した縄を銀時の腹の辺りにぐるぐると巻き付け、外れたりしないよう後ろで固く結ぶ。

そして、後ろにいる新八と神楽に縄を持たせる。

 

下からは、数人の会話が聞こえてくる。

詳しい内容はよく聞き取れないが男の焦ったような声は聞こえてくるので、恐らくその人物が太助だろう。

 

「よーし準備完了。じゃ、逝ってこい銀時!」

 

ゴンッ。

 

意気揚々と発された言葉に、銀時は言葉ではなく木刀で返事をした。

 

「・・・いてーんですけど。殴る相手間違ってんですけど。」

 

竹仁は痛む頭を押さえ、無言で殴ってきた銀時に抗議する。

 

「ごめんちょっと手が滑っちまったわー。」

 

「じゃあ足も滑らせて頭から落っちゃいなよ。」

 

笑顔を浮かべ、右手を思いっきりサムズダウン。

手がそんなに滑りやすいなら、足だって10歩に1回ぐらいの確率で滑るだろう。

 

2人が言い合っている間にも、下ではガチの鬼ごっこが進んでいる。

 

「何ふざけてんのよアンタら!さっさとしなさいよ!」

 

「あーはいはい。すんませんね、っと。」

 

怒った公子に対し銀時は雑に謝り、コンテナから飛び降りた。

銀時が降りてすぐに竹仁が下を覗くと、顔を金属マスクで覆ったような男が倒れており周囲には仲間らしき者、地面に座り込む太助と思われる者もいた。

 

「だいじょぶそーかな。よし2人とも、」

 

準備してね、と後ろを振り向き2人に言おうとした竹仁の目は、隣を通り過ぎる公子の姿を捉えた。

あれ?と思い目で追うが既に公子の姿はコンテナの上にはなく、手遅れとなってしまった。

 

「竹仁さん、え、あの人・・・。」

 

「その辺にでも置いてくれば良かったアル。」

 

「・・・仕方ないんで、勝手に作戦変えまーす。」

 

ベルトにさしていた木刀を抜き、竹仁はコンテナから飛びおりた。

そして1人の敵に狙いを定めて木刀で殴り飛ばし、近くにいたもう1人の敵もろともコンテナに叩きつける。

 

「バカな事しねーでくれないかな。穏便に済ませようとしたのに、さっ!」

 

敵の眼前へと素早く移動し、木刀で鳩尾に突きを繰り出す。

すぐに銀時は身体に付けた縄を外して立ち上がり、木刀を抜く。

 

「オイ、これじゃ強行突破するしかねーじゃねーか。」

 

「いんじゃない?敵さんは痛い目見て、俺は楽しめる。まさに一石二鳥ってやつ。」

 

上からの攻撃を竹仁は一歩横に動いて躱し、敵の顔面を蹴り飛ばす。

 

「それはオメーだけだ!ったく、行くぞテメーらぁ!」

 

「了解です課長!!」

 

銀時と竹仁がそれぞれ木刀などを使って敵を薙ぎ払い、2人の後ろを太助と公子がついていく。

 

「だーれが課長だ!課長の仕事危険と隣り合わせすぎだろ!!」

 

「じゃあ社長で!!」

 

「だーれが社長だ!・・・ごめん社長だったわ!!」

 

「そうだっけ!?」

 

「そうですけど!?文句でもあんのかオラァ!!」

 

「ありませぇん!!」

 

 

お互い大声で話しながら、敵を殴って蹴って叩きのめして吹き飛ばして。

結構な数を倒したはずなのだが、終わりが見えてこない。

 

「ねーのかよ!!つかこれどーいう事!?チンピラ1人の送別会にしちゃあえらく豪勢じゃねーか!!」

 

「きっと優しい組織なんだよ!そーだろ!?そーなんだろ天然クソモジャァア!!」

 

これはもしかしなくても、という思いが頭の中をよぎりまくってしまい、つい口調が荒くなる。

だって、たかが売人が辞めようというだけでこんな大量の構成員を送り、送別会を開くなんざ普通あるわけない。

 

「誰が天然クソモジャだ!!これはなぁオシャレカツラなんだよ!!」

 

カツラである事を分からせるために、何故かカツラを取った太助。

そして、その頭の上には、ヤバい粉であろう物が入ったプラスチック製の袋が、テープで張り付けられていた。

 

「・・・オーイ。モノ隠したのどこかぐらい自分で覚えておこーや。」

 

「認知症なんじゃないかな。お若いのに可哀想なこって。っと。」

 

太助の頭に隠されていたお薬に気付く者が何人も出てきたが、気にする事無くまた1人、また1人と敵を倒していく。

 

 

そうして敵を何人も倒したところで、チラリと太助と公子の方に目をやれば。

 

(・・・うわー。)

 

公子の首には鎌の刃部分があてがわれており、人質となっていた。

一般人である彼女が、ここで首を切られ死なれては流石に寝覚めが悪くなる気がするので。

 

木刀をすぐにしまい、倒した敵の脚を掴んで振り回し周りにいた敵を雑に一掃する。

 

そして公子達の方を振り向いて走り出そうとした時、公子の方を見ていた太助が全力で踵を返し走り出した。

お薬は頭に付けたままで。

 

そして、太助は逃げながら酷い言葉を吐く。

 

「その女なら好きなよーにしてくれていーぜ!あばよ公子!お前とはお別れだ!!」

「金持ってるみてーだから付き合ってやってたけど、そうじゃなけりゃお前みたいなブタ女ごめんだよ!」

「世の中結局金なん」

 

ドゴォ!!

 

人質となった公子の前から逃げ出した太助は、上からとんでもない威力の叩き潰し攻撃を食らって、地面に出来たヒビの中心で眠りについた。

 

眠りブタとなった太助の隣に立って数秒考えこんだ後、竹仁は万事屋の面々に聞こえるよう声を張った。

 

「・・・よっしみんな!食材ある事だし今日はポークソテーにしまァす!!」

 

「食材ってオメーまさかそいつの事じゃねーだろうな!?」

 

「は?こんなの使ったら新八と神楽がお腹壊しちゃうでしょ!!」

 

銀時の推測に対し、竹仁はあり得ないとばかりに木刀の先で太助の腹をバシバシ叩いて否定する。

 

「・・・確かに、んな薄汚ねーブタ食ったら腹ァ壊すわな。」

 

戦闘に一区切りついた銀時が太助に近づき、手を伸ばしてべリべリ、と薬の入った袋をテープごとはがす。

すると、まだある程度の数が残っている組織の者達が銀時達を問い詰める。

 

「てめーら、敵なのか味方なのかどっちだ!?」

 

「うん?少なくとも仲間ボコボコにした奴が味方なわけねーだろ。」

 

クスクスと笑い、竹仁は明らかに彼らをバカにしたような態度をとる。

 

「そーさな、どっちでもねーよ。それよりホラコレ、こいつとそのブサイク交換しよーぜ。」

 

公子を解放する為、銀時はお薬の入った袋との交換を要求する。

 

「・・・・・お前から渡せ。」

 

「なーにびびってんだか。」

 

たっぷり10秒ちょっと黙ってから出された声に、銀時は呆れつつも袋を彼らの頭上へと少し高めに投げた。

 

「アイツ投げやがった!」

「オイ、誰かとれ!」

 

投げられ、宙を舞う袋の下では群がっていち早く取り返そうとする奴らの姿が押し合いへし合い、おしくらまんじゅう状態。

けれど、袋の行先は彼らの手元なんぞではなく。

 

――ズパンッ。

コンテナの上で待ち構えていた新八によってキレイに一刀両断され、お薬の入った袋はただのごみへと変わった。

入れ物を無くした粉状のお薬は、狼狽える彼らの目の前でそこら中へ飛散していく。

 

「あぁー大切な転生郷が!!お前ら、拾え拾え!」

 

困難を極めるであろう回収作業を大人数で、しかも必死に行っているのだから竹仁の目には何とも滑稽に映る。

 

(砂糖に群がる蟻を観察してた方がマシだなぁ。)

 

あのちっちゃい生き物が、トコトコ歩いて、砂糖をちょっとずつ運んで。

 

公園の隅で何時間も、砂糖を置きながら蟻を観察して。

そうして遊んでいたら通報されたが。

 

もう1回観察しようかなぁなんて考えながら、竹仁は銀時達の後についてその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

奴らのいた港から逃げて、ここは橋の上。

 

「マジあり得ないんですけど。太助、助けてくれって言ったのに何でこんなことになるわけ~?」

 

「ありえねーのはお前だろ。どーすんだソレ。」

 

銀時にあり得ないと言われた通り、公子は自分を騙し続けていた太助を捨てる事無く背中に負ぶっていた。

 

「あははは、きっといつか愛に目覚めてくれる~、とか馬鹿げた事抜かすんなら橋ごと叩き潰すぞ。」

 

そんなロマンチック、この世で起こる確率はほぼ無いだろう。本でしか見た事ない。

それに、今公子が負ぶっている男は金にしか興味が無いと言ってもいいだろう。

 

実際、金がありそうだからという理由で好きでもない人間と恋人ごっこをしていたのだから。

 

「竹仁さん。とんかつを作る時は少し叩くといいって言いますけど、流石にそれはやり過ぎですよ。」

 

「お前ら最後までそれか。」

 

「あぁ、こいつ逃すと彼氏なんて一生できなさそーだからか?世の中には奇跡ってもんがあるんだぜ?」

 

「そんな哀れみに満ちた奇跡いらねー。」

 

「えー。貰えるもんは貰っといた方が良いと思うけどなぁ。」

 

貰えるものは貰え、とは言ったが竹仁にだって貰って嬉しくないものはある。

 

例えば貰いゲロ。

貰った事はないが、以前飲み会に参加した際に貰いかけた事はある。

その時の事を思い出して若干気分が悪くなってしまい、竹仁はその事を忘れようと下を流れる川に目をやった。

 

少しして視線を川から自身の前方に戻すと、公子は太助を負ぶったままこちらに背を向けて歩きだしていた。

 

「こんなヤツに付き合えるの、私ぐらいしかいないでしょ・・・。」

 

「・・・何なんだありゃあ。」

 

「恋人というより、親子みたいですね。」

 

恋人というよりも親子のように見えてしまうのは、彼女が彼氏を背負うという事があまり見られないからかもしれない。

 

「あんな母親俺ならグレるね。」

 

「あはは、アレは子どもに反抗されまくるタイプに見えるねぇ。」

 

彼女が高校生ぐらいの息子や娘と毎日言い争う姿が容易に想像できてしまう。

 

親というのは、存在する数だけ違う考えを個々が持っているから見た目だけでどういう考えをするのか育て方をするのか一概には分からないものだ。

親だけでなく、生きとし生ける他の者にも言える事なのだが。

 

 



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旅行にトラブルはつきもの

 

 

世の中では、購買欲を駆り立てたりするために様々なキャンペーンやイベントなどが行われたりしている。

今手元にある1枚の福引券も、同じ分類のものだろう。

 

出てきた色や数字によって、設定された景品が貰えるというもの。

 

その福引を行える場所は店を出てすぐのところにあり、帰りがけに行えるのが良い。

わざわざ少し距離のある所まで行って福引だけして帰る、となると面倒くさいのだ。

 

なんて事を思いながら、並べられた景品を眺める。

 

「へぇ、ジュース結構種類あるね。まぁ、神楽には無難にコレでもどうかなぁ。」

 

スチール製の缶に入ったD.D.レモンを指し示す。

ここの福引では1~5等までが設定されており、5等ならば何種類かあるジュースの中から1本、自由に選ぶ事が出来る。

 

「・・・いや、お客さん。まだやってませんよね?」

 

「そうヨ、なに最初っから諦めてるアルか。」

 

「うん?大人ってのはそういうもんだよ。」

 

「そんな大人になんてなりたくないアル。」

 

ムスリ、と不機嫌そうにしながら、神楽は持っていた福引券を係員に渡した。

 

「だろうね。ほら、3等はお米だよ。頑張って引きな。」

 

「オウ!任せるヨロシ!」

 

神楽から不機嫌さは消え、元気に回転式抽選機を回し始める。

ガラガラと音をたてながら抽選機は回り、すぐに排出口から色のついた玉が吐き出された。

 

次の瞬間、目の前で係員が当たり鐘を思い切りガラガラと鳴らし、鼓膜に突き刺さるような声が周辺に響き渡った。

 

「うおぉぉぉ出たァァァ!!おめでとーございます!!1等ですぅ!!」

 

「おー、うるさい。すごいじゃん神楽、強運の持ち主だと思うよ。」

 

耳を軽く塞いでいた竹仁の言葉に、神楽は荷物を抱えたままエヘン、と胸を張った。

 

彼女が引き当てた1等の景品は、旅行券だった。

それも国内の観光地などではなく、宇宙への。

 

まさかこの旅が相当大変なものになるとも知らず、神楽は竹仁の腕を引っ張りながら、竹仁は神楽に引っ張られながら、万事屋にいる2人にも知らせようといつもより急ぎ足で戻った。

 

 

 

 

 

 

「たーだいまー。」

「ただいまヨー!」

 

元気に玄関を開け、2人は万事屋へと戻ってきた。

 

「神楽、荷物片付けとくから。2人をビックリさせてきなよ。」

 

一旦台所に入りそう告げると、神楽は数舜迷った後、抱えていた荷物を差し出した。

 

「オウ。じゃあ言ってくるアル!」

 

旅行券を持つ手を背中に隠し、嬉々として台所から居間に向かう神楽を見送り、竹仁は買った物を冷蔵庫にしまったり、所定の位置に置く作業に移った。

 

その頃、神楽は2人に福引で当たった旅行券の事を話すため、引き戸を開けて居間に入ったところだった。

 

「おかえり神楽ちゃん。」

 

新八が神楽に声をかけるが、返事をする事無く彼女は机の前で仁王立ちしていた。

銀時と新八は、そんな神楽を不審そうに左右のソファから見た。

 

「・・・・・?」

 

「何やってんだオメー。」

 

「ムフフ。・・・ひざまずくアル愚民達よ。」

 

「「あ?」」

 

()が高いって言ってんだヨこの貧乏侍どもが!!工場長とお呼び!」

 

「女王様の方が良いんじゃねーのか、工場長?」

 

「女王様なんかより工場長の方が生産的だから偉いアル!やせこけた工場長とお呼び!」

 

「ちょっと神楽~、なんか話が違う方に行ってる気がするんだけど?」

 

大丈夫?と少し心配そうな顔で引き戸を開け、竹仁は居間に入ってきた。

 

「あ、竹仁さんもおかえりなさい。・・・トイレットペーパー、買ってきてくれましたよね?」

 

「うん、買ったよ。ちゃんと会計中に思い出したから。」

 

Vサインをし、頼まれていた物はバッチリ買ったと示す。

しかし、新八は話を聞いて苦笑を漏らした。

 

「会計中って、もう最後の工程ですよね。ホントギリギリじゃないですか。」

 

「買ったから問題なし。それより神楽、その事言わないと。あ、銀髪には右ストレート付きで。」

 

竹仁は、神楽が背中に隠した手を指さした後、銀時を指さした。

 

「おい何か聞こえたぞ。」

 

「ウン。ケツ拭く紙なんかより素敵な紙をご覧あれアル!」

 

1度頷いてから、神楽は嬉しそうな笑顔で後ろに隠していた旅行券を2人に見せた。

それを受け取った2人は、同時に驚きの声を上げる。

 

「宇宙への旅!?」

「こっ、工場長ォオオオアアア!?」

 

旅行券を見ていた2人のうち銀時だけに右ストレートが飛んできたが、どうにかスレスレで回避。

右ストレートを繰り出した本人は、やや不満そうにしながらも拳を下げた。

 

「ちょっと、避けないでよ。右ストレート付き旅行券なんだから。」

 

「ふざけんなデメリット付き旅行券とか聞いた事ねーぞ!!」

 

「そりゃそうだろ俺が今デメリット付けたんだから。」

 

「・・・。」

 

ヘラリと笑ってみせた竹仁に対し、銀時は頬が引き攣るのを感じながら静かに睨んだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

旅行券を当てた万事屋一行は、出発地点であるターミナルに来ていた。

そして、係の人に止められていた。

 

「・・・お客様、ペットの連れ込みは禁止になっておりまして。」

 

「違うヨ、人形だヨ。」

 

「そんで俺はこの人形を操る傀儡子(くぐつし)です。」

 

定春に抱きつき、竹仁は変な角度から説得を試みる。

 

「いや・・・人形はハァハァ言いませんよね。」

 

「俺がそうするよう操ってんだよ分かれよ。」

 

「じゃあ止めてみてくださいよ。」

 

「そんな気分じゃないんで拒否します。」

 

止められるわけ無いので、ふい、と顔を背ける。

 

「嘘つけェ!絶対操れてねーだろ!!」

 

「大丈夫アル。定春人形、ここ来るまでずっと竹ちゃんの言う事真面目に聞いてたヨ。」

 

そう話す神楽の後ろからは、他の客に噛みつく定春を必死で止めようとする竹仁の声が聞こえてくる。

誰が見ても、操れてなどいないと分かる。

 

「聞いてないよね!?アレ自由に動き回っちゃってるよね!?・・・お客様ァァ!!大丈夫ですかァ!?」

 

「大丈夫です!」

 

「お前じゃねーよ!!」

 

「・・・あ゛~なんじゃ気持ちよく寝ちょったのに。フライトの時間かや~。」

 

「お客様・・・、恐れ入りますが頭の方がフライトしかけております。」

 

どこか聞き覚えのある声に、竹仁は定春にしがみついたまま今までの記憶を漁る。

 

「なんじゃ~頭ァ?なんかズキズキするの~、昨日飲み過ぎたきに。アッハッハッハ!」

 

「いや飲み過ぎたじゃなくて飲まれております。」

 

(あー、っと・・・声のデカい人・・・。・・・じゃなくて、坂本・・・辰馬、だったっけ。)

 

名前を思い出せたとしても、結局初対面のフリをするので特に意味は無い。

恐らく、彼に会った事があると辰馬は分からないだろうから。

 

(だってもう何年前?俺だって成長期来ますし?いつまでも低身長じゃございませんし?)

 

記憶の中の自分は、見上げなければ他の攘夷志士達の顔は見れなかった。

という事は、今より10cm以上低かったのは確実だ。今は170ちょいあるようなないような感じなので。

 

うーん懐かしいなぁ、なんて昔を呑気に思い返せる平和な今がとても心地よい。

この自分には、こっちの方がお似合いなのだろう。

 

定春にしがみついたまま顔をもふもふの毛並みに押し付け、目を閉じる。

暫くそうしていれば、夢の中へ行きかけるのは当然で。

 

しかしそれを阻止するかのように、にゃあ、とどこかで猫の鳴き声が聞こえたような気がした。

 

その声に重たい瞼をゆっくりと開け、定春にしがみついたまま辺りを見回すも、声の主が見つかるわけなくて。

 

「・・・はぁ。」

 

少し落ち込んでしまった気分を表すかのように、自然と口から溜息が出た。

そこでようやく、竹仁はある事に気が付く。

 

(・・・・、あいつらどこ?)

 

そう、他の3人の姿が見当たらない。

それどころか先程いたゲートの手前ではなく、ゲートを超えた先のフロアにいる。

 

「定春ストーップ俺達迷子、人生に迷える子羊の如く迷ってるよ。ていうかいい加減ソイツ放しなさい。お腹壊しますよ!」

 

声をかけても、定春は辰馬に噛みついたまま放そうとはしない。

 

もしかしたら噛み心地が良いのかもしれない。人によって噛みやすさがそれ程変わるとも思えないが。

 

「ん~?なんじゃあ、上に誰かおるんか?」

 

「・・・イマセンヨー。」

 

裏声を使うが、喋っている時点でいると言っているようなもの。

そう気付いた時にはもう時すでに腐ったお寿司。

だが。

 

「そうかおらんか~。聞き間違いかの~アッハッハッハ!!」

 

(本当に馬鹿だ・・・。)

 

攘夷戦争中、辰馬は他の攘夷志士と馬鹿でかい声で話したり馬鹿騒ぎしたりしていた記憶があるが、常時頭が空なのはあまり変わっていないようだ。

 

しかし2度目となれば流石に気付くかもしれないので、先程の音量では声を出せなくなった。

小声なら大丈夫そうだが。

 

そしてもう1つ、辰馬の歩に合わせて定春も進むので、進行方向的にはこのまま定春と辰馬を何もせず放っておくと、次の船に乗るだろう。

 

銀時達が乗る船かどうか分からないが、ここで定春を置いて戻るわけにもいかない。

ならば辰馬を引っぺがそうか、とも思ったがそんな事したら恐らく辰馬の頭が大惨事になる。

 

喋れない、そして定春を置いていけない。引っぺがせない。

 

という事で竹仁は黙したまま目の前のもふもふを永遠に楽しむ事にし、他への興味を遮断した。

 

 

 

 

 

 

「んー・・・。」

 

一体どのぐらい黙ってもふもふしていただろうか。

更には目を瞑っていたという事もあり、半分程寝ていたような気分だ。

 

「・・・さだはるぅー、ここどこぉ。」

 

目の前の真っ白い毛並みを薄目で認識しながら、話しかける。

 

「ワン。」

 

「うー、・・・そうだった・・・。」

 

定春が喋れるわけなかった。

その事実を認識出来ていないあたり、自分はひどく寝惚けているのだという事ぐらいはなんとなく理解できた。

 

だって、自分で周りを見渡せば済む話なのだから。そして寝起き状態の竹仁はその事に気付いてすらない。

 

今もほら、しっかりと目を開けて周りを見ようとせずに、誰かに聞こうとしている。

次に竹仁がその標的としたのは、未だに定春に噛みつかれている人。

 

そして、寝起き特有の寝惚け頭のまま、竹仁は辰馬に話しかけてしまった。

 

「おーい・・・さかm」

 

それはまさに一瞬。一瞬で頭が冴えた。一瞬で目が覚めた。

初対面であるはずの自分が、坂本辰馬の「さ」から「ま」までの一文字ですら知っているわけがないのだ。

 

(あっぶねー。昔の知り合いとの接し方なんざ知らねーし・・・。)

 

それは銀時や、桂でもそうだ。

初対面の設定なら何ら支障はないのだが、もしお互い知り合いだったらどうするのか。

別に自分がどういった存在か知れたって構わないが、昔を知っている人間との接し方を知らないため、なんとなく困るのだ。

 

(はぁ・・・。・・・で?ここは、船の中か。)

 

若干冷や汗が出た気もしたが、無視して辺りを見回す。

どうも船の中の通路を歩いているようだ。

 

船内を見回した時、他の乗客が有りえない物を見るような目つきで自分達の方を見ていたが、恐らく襲撃事件にでも見えているのだろう。

 

それは、当然だろうなと竹仁は思う。

巨大な犬が成人男性に噛みつき、その巨大な犬の上に成人男性が乗っかっているのだから。

 

とは言っても、竹仁はこの状態を変えようと何かするわけでもなく定春の上でボーッとしていた。

寝起きはボーッとしたくなる性質なのだ。それは、特に朝が多い。

 

(みそしる・・・さばのみそに・・・やきじゃけ・・・おつけもの・・・・・)

 

ドン!

 

突然の鈍い音に、考え事と呼べる代物ではない考え事をしていた竹仁は少し驚いた。

 

どうやら扉を開けた音と、その扉が何かにぶつかった音のようだ。

定春の上からでは、扉に添えられた辰馬の腕らしきものと、開いている扉しか見えないので詳しくは分からないが。

 

「あ~気持ち悪いの~。酔い止めば飲んでくるの忘れたきー、アッハッハッハ・・・。」

 

「・・・あり?何?なんぞあったがかー?」

 

「・・・あ、みんないたぁ。やっほーい。」

 

銀時達を見つけた竹仁は、若干寝惚けたままにっこりと笑った。

 

「コノヤロー、定春と竹ちゃんば返すぜよォォ!!」

 

「あふァ!!」

 

神楽が辰馬の顎を蹴り上げ、その衝撃が定春を伝ってこちらへ来る前に、竹仁は定春から飛び降りた。

久しぶりに床に降り立った竹仁は、神楽に蹴られ床に転がっている辰馬を気に留める事無く欠伸をしながら3人に歩み寄る。

 

「ふあー・・・。改めておはよーう、みんな。」

 

「いや、今何時だと思ってんですか。」

 

時間を確認する道具を持ち合わせていないため、さて今は何時なのだろうかと竹仁は首を傾げた。

すると、斜め後ろにいた銀時が驚いたような声を上げた。

 

「こっ・・・、こいつァ。」

 

「?銀さん、知り合い?」

 

「・・・。」

 

竹仁は新八と同じように銀時を見たが、新八と同じような事は思ってない。

 

その事に何となく口から細い溜息が出た、その時。

 

ドドォン!!

 

船内全体に耳を塞ぎたくなるような爆音と、衝撃が響き渡った。

 

「えっ、俺の溜息破壊力強すぎじゃね?」

 

「なわけねーだろアホかアンタ!!」

 

新八の否定に、そっかー、と胸を撫で下ろしたが、今船の中は安心できるような状況ではない。

あんな大きな爆発があれば、船の航行に酷い支障が発生するだろう。

最悪、墜落という事だってあり得る。

 

「たっ、大変だァ!操舵室で爆発が!!」

 

「わァお。操縦士、全員死んだんじゃない?そして俺達も死ぬんじゃない?」

 

「ちょっと、恐ろしい事言わないでくれます!?」

 

「フフ、終わりだよお前ら。天人に迎合する売国奴どもなど皆死ねばよ、グフッ。」

 

「あー、でかい虫がいるなぁ。」

 

困った過激思想を垂れ流していたテロリストの頭を、笑顔で思い切り踏みつけた。

 

その後も呑気にテロリストの頭を踏み踏みしていると、船が一層大きく揺れ多くの者がその場に倒れざるを得なくなった。

竹仁もその内の1人だったが転ぶだけでは済まず、ゴン、と鈍い音をさせて頭を椅子にぶつけてしまった。

 

痛む頭を押さえてその場に蹲り、気になった事を新八に尋ねる。

 

「うぇえ・・・。新八ぃ、俺の頭から何か出てない?大丈夫?」

 

「で、出てないと思いますよ。つーか出てたら死んでますよソレ。」

 

そっかぁ、と頭を押さえながら安心していると、倒れている乗客らしき者が急に大声を上げた。

 

「どっ、どなたか宇宙船の操縦経験のある方はいらっしゃいませんか!?操縦士が、全員負傷してて!」

 

それを聞いた竹仁は、倒れている辰馬の方を見た。

 

船が好き、いつか宇宙に行くなどと言っていたのを記憶している。

自分が戦を離れた後に彼がどうなったのかは知らないが、もしかしたら宇宙船を操縦できるまでに進化しているかもしれない。

 

この船を操縦できるか辰馬に尋ねるため立ち上がろうとしたが、それは必要なかった。

銀時が、辰馬のモジャモジャ頭をひっつかんで操縦室のある方向へと走り出していたからだ。

 

「イタタタタ!何じゃー!」

 

「ちょ、銀さん!?」

 

新八の声が聞こえたのか聞こえなかったのか分からないが振り返る事無く走っていく背中を少し目で追った後、竹仁は立ち上がった。

 

「・・・俺達も行こっか。馬鹿に船任せたらもっと悪化しそうだし。」

 

「そうですね、一応、行ってみましょう。というか、あの人銀さんの知り合い・・・なんですよね?」

 

「そうなんじゃない?じゃなきゃ髪掴んで引きずってかないと思うけど。」

 

新八の疑問にしっかりと答えずに、新八や神楽、定春と共に小走りで銀時達の後を追う。

 

「それにしてもすっごいモジャモジャだったアル。もしかしたら銀ちゃんよりモジャモジャヨ?」

 

「うん。僕もよく見たわけじゃないけど、結構モジャモジャだったよね。」

 

「君達何普通に会話してんの。まるっきり状況と合ってないよ。」

 

先程の爆発で船内はパニック状態、船自体も損傷しておりどこかに墜落する恐れだってある。

だというのに、他人の特徴的な髪の話をしていられる精神的余裕を若くして持つ彼ら。竹仁はそれを素直にすごいなぁと思う。

 

良い事なのかは別として。

 

「・・・っと、いたいた。銀時、大丈夫か?船破壊しようとしてないよな?」

 

「その心配はねーよ、あいつに任しときゃ。・・・昔の馴染みでな、頭はカラだが無類の船好き。銀河を股にかけて飛び回ってる奴だ・・・。」

 

銀時の言葉に返事をするでも、相槌を打つでもなく竹仁は黙って聞く。

 

「坂本辰馬にとっちゃ、船動かすなんざ自分の手足動かすようなモンよ。」

 

(あ、名前話した。じゃあ名前知っててもおかしくないね。)

 

隠す、というのは案外大変なのだと思う。

相手はどこまで知っているか、自分はどこまで知っていてもおかしくないか。など考えて話をしたりしなければならないから。

 

とはいえ竹仁の場合は絶対にバレたくない、という訳ではないので全力で隠しには行かない。

ゲームに近い感覚で、まあ、何となく気を付けよう。と緩めに隠している。

 

銀時と再会した時も同様だった。その感覚を久しく忘れていたため、懐かしい。

 

なんて、昔を思い出している場合ではなかった。

 

唐突にその事に気付き、現実に引き戻された竹仁。

そんな彼の目の前では、何故か辰馬が操縦士の脚を担いで「行くぜよ!!」などと叫んでいた。

 

そして銀時に殴り飛ばされた。

 

「はぁ・・・。本当に大丈夫?いっその事悪足掻きなんてやめて乗員乗客まとめて心中しちゃう?」

 

彼らの所へトコトコと歩いて近づき、竹仁は小首を傾げた。

 

「心中って、アンタそれ前も言ってませんでした!?諦めんの早すぎません!?」

 

「人間死ぬ時は死ぬんだよ。」

 

「お前ポジティブに見えて割とネガティブな部分あるよな。」

 

「金時、いい加減放してくれんかのー。舵を探して動かさん事には本当にみんな死んでしまうぜよ。」

 

辰馬の舵を探して、という言葉に、神楽はその辺に転がっていた操縦士を持ち上げた。

 

「銀ちゃん、コレは?」

 

「これじゃねー事だけは確かだよ!!」

 

「え、そうなの?俺、もうどこにでも行ける気がするんだけど。」

 

膝裏が肩に当たるように足首を持って、リュックを背負うように操縦士を担いだ竹仁はその場でぴょんぴょんと軽く跳ねる。

 

「1人で勝手にどっか行ってろこの馬鹿が!」

 

「ぐはぁっ!」

 

その場で跳ねていた竹仁は、腹を銀時に蹴り飛ばされ担いでいた操縦士もろとも床に衝突した。

 

そして、床と衝突した彼は痛む腹を押さえつつそのまま横になっていた。

自分を放置したまま、同じ部屋の中で繰り広げられる喧騒をBGMに。

 

「銀さん、コレっすよコレ!・・ふん、ぐぐぐ!うう、ビクともしない!!」

 

「ボク、でかした。あとはワシに任せ・・・、うェぶ!」

 

「ギャー!!こっちくんな!」

 

命の危機だというのに、いつもの万事屋と何も変わらない空気だ。それに安心していた事は秘密で。

 

ずっと寝ている訳にもいかないかなぁ、と思い起き上がるが、出来る事があるかと問われれば笑顔のまま無言を貫くしかない。

 

しかし、出来る事があるかないか、必要か不必要か、損か得か。それだけで人間は動くのかと言えば、答えはノーだろう。

実際周りにいる者達はやりたいように、自身の魂に従って生きている者が多い。一応、自分も含めて。

 

「やー、大違い。」

 

笑顔で口にしたその言葉は、誰かに聞こえる事は無かった。

 

上体を起こしたままの体勢からよっこいせ、とおじさんみたいに掛け声を発してから立ち上がる。

何やら舵を囲むように立ち、言い合う3人と今まさに階段を上がって舵に近づく辰馬を見上げた竹仁は、後を追うようにして階段を上がる。

 

「オウオウ、素人がそんなモンさわっちゃいかんぜよ!・・このパターンは3人でいがみ合ううちに舵がぽっきりっちゅーパターンじゃ。それだけは阻止せねばいかん!」

 

舵を操縦しようと辰馬は今までと同じく一歩、足を踏み出した。

しかしその一歩は床を踏みしめる事無く瓦礫に引っ掛かり、途中で止まった。

 

そうなれば、本体がどうなるかなんて想像できる。

 

「ふぬを!!」

 

当然転んだ。いや、転ぶだけならまだいい。

辰馬は転ぶどころか、目の前にあった舵を転んだ勢いのまま掴み根元からもいだのだ。

 

ドサッ・・・。

 

舵と共に辰馬の倒れ込む音が、うるさいはずの船内でやけに静かに響いた。

 

「アッハッハッハッ。そーゆーパターンで来たか!どうしようハッハッハッアアアアア!?」

 

後ろから一連の破壊活動を見ていた竹仁は無言で辰馬を抱え上げ、壁に向かって全力かつ素早く叩きつけた。

ドガァ、と身体のどこかを骨折しそうな音がしたが、誰もそんな事気にしない。

 

辰馬を壁に叩きつけた竹仁は、無言のまま横になり目を閉じた。

 

「・・・おやすみ。」

 

「ちょっとォォ!?それ後ろに永遠に、って付いてませんよね!?違いますよね!?」

 

はて、この状況で付けない理由は無いだろう、と思いながら彼は眠りについた。

次に目を開ける時が来るのか、ワクワクしながら。

 







辰馬の口調に関してですが、お許しください。




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困った時の根性頼み

 

 

前回、知らない星に向かって落下していく船の中、次に目を覚ます時が来るのか分からない眠りに就いた竹仁。

 

・・・その結果としては、一応目を覚ました。

 

のだが、目を覚ます事無くそのままポックリ逝った方が楽なんじゃないか、と思うくらいの灼熱地獄に他の乗客共々、身を置く事になってしまった。

 

(あー、地面で焼肉できそう・・・。)

 

空に浮かぶ2つの太陽に照らされて恐ろしい熱気を放つ砂の大地を、じぃーっと眺める。

始めて来る灼熱の星にテンションを上げたいところだが、まともな装備もしておらず、その上何時脱水症状やら熱中症で死ぬか分からないため上げられない。

 

というかもうそんな元気がない。

 

(はぁ、だから死ぬ時はサクッと死にたいのに・・・。)

 

暑い空気を肺に取り込み、吐き出す。

近くにいる銀時達が静かなので、その音がやけに大きく聞こえる。

 

「・・はっ!!」

 

突然聞こえた辰馬の声に、何も考えずボーッと地面を眺めていた竹仁は多少ビクッとした。

そして緩慢な動作でそちらを向くが、馬鹿にする元気も、殴る元気も湧かない。

 

「・・・ハハ、危ない危ない。あまりにも暑いもんじゃけー、昔の事が走馬灯のように駆けめぐりかけたぜよ。何とか助かったってのに危なか~。」

 

「助かっただァ?・・・コレのどこが、助かったってんだよ・・・。」

 

ここはまさに灼熱の世界。

あと数時間経てば、ここにいる全員が死ぬ事となるだろう。

 

「こんな一面ババアの肌みてーな星に不時着しちまって、どうしろってんだ?」

 

「絶望の中で死にゆくがいいー、的な?」

 

「何かネガティブが進行してねーか。」

 

銀時が言うにはネガティブ、らしい思考がこの状況で周りに伝染したら良くないかなぁと思った竹仁。

暑さに歪めていた顔を笑顔に変換し、ポジティブっぽい事を言おうと口を開く。

 

「・・・うん。台丈夫、キっと皆助カルって。」

 

「・・・言語障害起こしてねえか?」

 

「無理すりゃそんくらい起こるだろ。」

 

笑顔を一瞬で消し、焦点が合わなくなってきたような気がする目で銀時を軽く睨みつける。

 

元気な時は元気なのだが、彼の場合元気がない時は徹底的に無い。朝目が覚めてから夕陽が差し込む時間になるまで、ただボーッとして過ごした事さえある。

 

そういった元気が無い時に、もし無理して何かしていたらどうなるのか。帰る事が出来たなら試そう、と竹仁は思った。

 

「言語障害って・・・そんなの聞いた事無いですよ。・・・?あれ、神楽ちゃん?どこ行くの?」

 

彼らが会話している間に、神楽が静かに立ち上がりどこかに向かって歩き出していた。

こんな暑い中、わざわざ砂しかない大地のどこへ行こうというのか。気になるのが普通だろう。

 

「ちょっと喉乾いたから、あっちの川で水飲んでくるヨ。」

 

「川ってどこ!?イカンイカンイカン!その川渡ったらダメだよォォ!!」

 

新八が慌てて神楽に呼びかけるが、その声を無視して彼女は船から離れるように歩き続けていく。

明らかに危険な症状が出ている神楽を見て、竹仁は納得したように小さく頷いた。

 

「あ、・・・やっぱあれ偽物なのか・・・。」

 

「アンタも見えてんスか!?ちょっと、その川渡らないでくださいよ!?」

 

そう言い残して新八は神楽を連れ戻す為、急いで彼女のところへ走る。

 

そして、神楽の脚を掴んでこちらに無理矢理引っ張ってくるまでの流れを、竹仁はぼやける視界の中でただぼんやりと捉え、彼らの会話もぼんやりと聞く。

けれど、彼は望んでぼんやりと見たり聞いたりしているわけではなく、この燃えるような暑さに身体の機能がやられてしまったのだ。

 

時が進むのに合わせて竹仁の意識は静かに、そしてゆっくり熱に溶かされていった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(あつい。・・・あつい。・・・あつくてしかたがない。)

 

いつものように、一面真っ黒な世界をただ1人歩き続ける。うだるような、酷い暑さを感じながら。

 

「誰かー・・・。水・・・。あっ、やっぱ麦茶がいいな・・・。」

 

ここで水を飲んだとしても意味は無さそうなものだが、人間なのだから暑ければ水が欲しくなるものだ。

とはいえ、ここには要望に応えてくれる人も何もいない。

 

溜息をつき、立ち止まる。

しばらく歩いてみたものの何かが現れる気配は無い。

 

なので次は座ったまま、ただひたすら待つ事にした。事が起こるか、目が覚めるのを。

 

「・・・暇・・・。」

 

どれ程の時間が経っただろうか。時計も日の光もないこの世界では、時間が過ぎている事をまるで感じられない。

夢の中でこんなに放置されるなんて・・・、と重い溜息をつく。

 

『ねぇ。』

 

溜息をついた次の瞬間、耳元で機械のような声が鳴った。

驚く間もなく座った状態から前方へと飛んで、振り返る。

 

『そんな警戒しなくてもいいじゃん。』

 

そこには、今の自分と同じ姿の自分がいた。

目も口も弧を描き、ニコニコと上機嫌そうに。

 

「・・はは、冗談よせよ。お前、絶対悪い事するだろ。」

 

『アハハ、大正解。』

 

そういうと目の前の自分は今まで閉じられていた瞳を開き、こちらの瞳を射抜いた。しかしその瞳は自身と同じ金色などではなく、どす黒い赤。

 

「・・・っ。」

 

そして色の違う瞳に射抜かれた瞬間、自分は操り人形と化したかのように動けなくなった。

血のように赤い瞳から視線を動かす事も、身体を動かす事も。

 

動けない。動かせない。そんな状態の自分を笑顔で見つめたまま、奴は近づいてくる。

 

「っ来るな帰れ!ハウス!!」

 

『俺犬じゃないんだけど。』

 

眉尻を下げて、ゆっくり近付いてくる人間は少し困ったような顔をする。

 

「知るか!!」

 

『それとねぇ、俺の帰る場所ココ。いいの?帰って。』

 

ココ、と人差し指で差されたのは心臓の辺り。

 

「・・・!じゃあ旅に出ろ2度と帰ってこなくていいから!!」

 

『ええーヤダなぁ。じゃあ、こうする。』

 

もう1度伸ばされた手は何かにぶつかる事無く心臓の辺りから体内にズルリと入ってくる。

そのまま躊躇せず心臓を鷲掴みにし、・・・潰した。

 

ぐちゃり。気持ちの悪い嫌な音が、手で握り潰される嫌な感触が、遅れて全身に伝わっていく。

 

「ぁ・・・」

 

硬直していた身体から力が抜け、受け身も取れないままその場に倒れ込む。

息が出来なくなり、指先から体温がどんどん無くなっていく。

 

ここは暑かったはずなのに。寒い。苦しい。

こんな苦しい目覚め方、この先そうあって欲しくないと願いながら、彼は夢の中で死んだ。

 

 

 

『・・・お前も大変だなぁ。』 

 

そして、倒れたままの自分を動かして顔を覗き込み、彼はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「・・・さん、――竹仁さん!」

 

「・・・うぇ?」

 

名を呼ばれ、夢の世界の住人となっていた竹仁は少々驚きつつも返事になっていないような返事をした。

 

その拍子に額に乗っていた何かがずり落ちたらしく、それにさえ若干驚きつつ何だろうと思い手に取ってみれば、それは冷たいタオル。

 

「大分うなされてましたけど・・・、大丈夫ですか?それに、体調の方も。」

 

具合を尋ねつつ差し出された水入りのコップを、少し迷ったのち受け取る。

 

「・・・あぁ、ありがとう。具合はだいぶ良いよ、うん。・・・うん?」

 

具合は大分良いが、クソみたいな夢を見せられて彼の気分は最悪。しかし、表に出さぬようニコリと笑う。

 

そして、渡されたコップを持ったまま、あれ、そういえばここはどこだろうと辺りを見渡す。

 

記憶が途切れる前は、焼けるような大地の上に座っていたはずだった。

しかし、今彼がいるのは大地ではなくベッドの上。更には点滴を行うための外筒が腕にぶっ刺さっている。

 

とすると、考えられる理由としては1つしかない。

 

「・・・救助、来たの?」

 

疑問形を使うのは、救助が来たところを見ていない為仕方ないといえよう。

その正解が分かっているとも言える疑問に、新八はしっかりと答える。

 

「えぇ。坂本さんの私設艦隊、だそうで。皆、助かりましたよ。」

 

「そっかー、アイツのね。それは良かった。君らの死ぬ姿なんて見たくないからね。」

 

「僕らの死ぬ姿見る前にアンタが死にかけてましたけどね。」

 

「あ、だよねー。あはははは、はは、・・・おーい、顔怖いよ新八君。」

 

竹仁が笑っている途中で見た新八は、少し苦しそうにしながら睨むように彼を見ていた。

 

「・・・アンタ、何で笑ってられんだよ。僕らがどれだけ心配したと思ってんですか!」

 

「えー・・・、うーん。君らって優しいよねぇ。うん、えーっと、あれだ、ごめんなさい?」

 

「なぜ疑問形!!」

 

「?良く分からないから俺の頭に聞いて。」

 

「だから聞いてんでしょーが!しっかりしろ所有者!!」

 

一応心配しているので新八は竹仁の頭を叩いたりはしないが、代わりにベッドの端をべしべし叩いている。

 

「はっは、無理っす。責任放棄します。」

 

「ふざけんな!」

 

「だってほら、自分の思い通りにならないものとかあるじゃん?欲望とか、欲望とか・・・あと欲望とか。」

 

はないちもんめだって、アイツ欲しいソイツ欲しいと欲望丸出しのゲームだ。

だから、人間は欲望を力に色々と作ったり成し遂げたりする生き物じゃないかな、と思う竹仁であった。

 

「どんだけ欲望に弱いんスか・・・。・・はぁ、もういいです。アンタが能天気な馬鹿だって事はよく分かったんで。」

 

「うーん、それは一生分からなくていいやつだね。・・・・ん?」

 

不意に人々の悲鳴やら叫び声で外が騒がしくなっている事に気が付き、同時に部屋の外へ出る為の扉を見た2人。

 

「・・・何かあったんですかね、ちょっと見てきます。アンタ絶対そこから動くなよ。」

 

「えっ、うん。分かっ」

 

ゴゴ、ゴゴゴ・・・。

 

分かった、と言い終わる直前、地を抉り何かが這い出てくるような音が、低く鳴り響いた。

実際、この船を押し上げる形で巨大な何かが這い出ているのだろう。目でも体でもわかるくらい船が傾いているのだから。

 

扉を開け出ていこうとした新八と、若干見つめ合う。音は、まだ鳴っている。船も、傾いたまま。

 

「・・・。絶対、動かないでくださいよ。」

 

「はいはい。」

 

とは言ったものの、この状況で動くな、のコマンドはエラーが発生して実行できない。

外には今しがた出ていった新八に加え銀時や神楽達がいるだろう。自分の目で彼らの安全を確認したくもなる。

 

「よっと。」

 

点滴の筒の正しい外し方なんて知るわけないので適当に取り外し、置いてあった短刀を掴んで走る。

足元が少し頼りない感じがするが、起きたばかりだから、と無視をして外を目指す。

 

「撃てェェェ!!」

 

外に辿り着いてみれば、1番に視界に入ったのは触手を生やした虫のような、甲殻類のようなバカでかい生き物。

大砲を食らわせているようだがあの生き物が死んでくれそうな様子はない。

 

短刀を鞘から抜き、しまえる物を持っていない為鞘をその辺に放り投げる。

 

そして、走り出す。

辰馬が捕らえられている触手めがけて。他に誰かが捕らわれている様子は何故かなく、それは竹仁にとって躊躇しなくて済んだので助かった。

 

距離を測りつつ大きく跳躍し、辰馬の居る位置より下のところで触手を切り裂く。

刀身が一般的な刀のように長くもないので一撃で切り落とす事は出来なかったが、竹仁にとっては辰馬が解放されてくれればそれで十分なのだ。

 

切り裂いた触手の残った部分を足場にして落ちてくる辰馬を上手くキャッチし、船の甲板が見えなくなる前に急いで船に投げ飛ばす。

 

そこから一瞬で振り返り、自身に迫る他の触手を瞬時に捉えてから全て切り裂き直撃を免れる。

 

辰馬を持ったまま船に跳んでいれば恐らく2人とも捕まっていただろう。

2人して死んでは意味が無い。

 

既に甲板は見えない事から、ここから船の上に戻るのは不可能。

一旦地面に降りなければならないため、すぐに足場にしていた触手から降りる。

 

降りたとはいえ、そこはまだ砂蟲の上。この場から早く離脱しなければ地中に逃げていく砂蟲共々地面の住人となる恐れがある。

 

そうはなりたくないので、急いでこの場から逃れるため走り出した。

 

「っ、」

 

が、突如眩暈に襲われて焦点が定まらないまま、よろよろと酔っ払いのように歩く事しかできない。

このまま攻撃でも受けようものなら怪我は確実。捕まれば死は確実。

 

(はは・・・。)

 

すぐさま死を悟った竹仁だったが、その悟りは次の瞬間無意味と成り果てた。

 

――ドンドン、ドン!

――ズパンッ。

 

ここからでも聞こえる銃声が数発と、叩き潰すような音が背後で鳴り響く。

何の音かと気にはなったものの、ここで振り向いては根性でギリギリ保っている平衡感覚が完全に崩れ去ってしまう。

 

「――うぐぇっ!」

 

と、平衡感覚を保ちつつ出せる力を使って前に進んでいたが、突如身体が浮き、歩いていた時よりもはるかに速い速度で砂蟲から離れていく。

 

運ばれる振動と眩暈が合わさってまともに頭が働かないが、自分を運んでいる人間と運ばれている事実はどうにか理解できた。

 

「・・・っはーギリギリセーフ。ったく、手間かけさせやがって。」

 

「おぇえ・・・・・どうも、ありがとさん・・・・。」

 

ぐらぐらぐらぐらぐりとぐら。銀時が立ち止まった後も、竹仁には世界が酷く揺れているように感じられる。

それでも、意識のあるうちはちゃんと歩いて帰りたい。

なので、脚をばたつかせて銀時に下ろせという合図を出し、どうにか地に足を付ける。

 

 

しかし、歩く以前に下りる事自体がアウトだった。

地に足が着いた気がした瞬間上下左右空と地面何もかも分からなくなり、視界がブラックアウト。

 

 

竹仁にとって久しぶりの宇宙旅行は、この通り散々なものとなったのだった。

 

 

 




「えーと新八君?これ、何?」
「縄ですけど?」
「そうじゃなくて、何で縄が俺の首と足首に付いてんだって話。俺いつから犬猫になったのさ。」
「動くなって言いましたよね?」
「いやでも、これやりすぎだよね。少しでも船揺れたら首締まるんだけど?」
「アッハッハッハ!!ボクはスパルタじゃのぉ!」
「お前はどっかいけ!うるさ、っぐぇ!げほっげっほ、ねぇ!ちょっと!死ぬ!俺地球に着く前に死ぬってェェ!!」
「アッハッハッハッハ!!」
「だから笑ってんじゃねぇよ!!うるせぇ!!」


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大爆発日和

銀魂は永久に不潔ですね...。


窓から入る日の光によって、彼の意識は少しずつ浮上してくる。

 

「んー・・・。」

 

しかし、先日の散々な旅行のせいで疲れが溜まっていたのか中々覚醒せず、もう日の光が辺りを照らしまくっている時間だというのにまだ布団の上をゴロゴロしている。

 

「・・・あー。」

 

覚醒しきらずにゴロゴロする事数分、彼はようやく現実世界を直視し始めた。

そして、ゆっくりと上体を起こして暫く目の前をボーッと見つめる。

 

「・・・・・・・。・・・ごはん。」

 

意識があるのかないのか分からない目で5分程目の前の壁を見ていたが、突然呪いが解けたかのように立ち上がり、台所へと向かう。

 

1人分の米を研いで適量の水を入れ、炊飯器にセットしたら炊飯ボタンを押す。

次に味噌汁用のお椀を取り出し、インスタント味噌汁の具と味噌を入れてお湯を注ぐ。

 

そしてゆっくりと味噌汁を飲みながら、ご飯が炊けるまで郵便受けに突っ込まれていた新聞を適当に広げて適当に読む。

 

 

「・・・ふ、あはははっ。あは、うわー。」

 

しばらく読んでいるとある記事に目が留まり、彼は思わず笑ってしまった。

その事件の犯人の格好と名前が、あまりにもおかしくて。

 

・・・またも出没、怪盗ふんどし仮面。

白いブリーフにふんどしを被った変態が、娘達の下着ばかりを盗んでそれを江戸中の男達にばらまいているらしい。

言うなればサンタの変態版。プレゼントは子どもではなく大人に。

そして、そのプレゼントの中身も変態仕様。純粋な子どもは欲しがる事の無い代物だ。

 

困った人達が多いなぁ、と思いつつ新聞をめくり次の記事を読んでいく。

 

 

そうして新聞を適当に読んでいると、炊飯器から炊飯完了を知らせる音が鳴った。

 

 

「ん、よいしょ。」

 

炊飯器から炊けた際の音が鳴ったので、新聞を畳んで机に置いて立ち上がる。

炊けたお米を釜から取り出してお皿の上におにぎり2つ分乗せ、塩をふって握っていく。

 

何かしら料理を作る気が起きないという事で、彼の今日の朝食は塩おにぎりと飲みかけだがインスタント味噌汁。

 

「いただきまーす。」

 

海苔も具も無いただ塩ふって握ったおにぎりを食べて、味噌汁も飲む。

 

 

(・・・この後は・・・)

 

もぐもぐと食べながら、この後の事を考える。

休めと新八に言われたが、何日も家の中だけで過ごしていたら頭からキノコが生えて謎の病原菌が発生してくるだろう。

 

江戸の見慣れた町並みを眺め歩くだけでも、キノコが生えなくなるぐらいには楽しい。

という事で、この後の予定はいつものように散歩。

 

 

「はい、ごちそーさまでした。」

 

ご馳走様もちゃんとして、皿と手を洗う。

片付けが終わったところで出掛ける用意をし、家を出る。

 

「・・・?」

 

玄関に鍵をかけて歩き出した時、庭に何か落ちているのが視界の端に映った。

落ちている物に近付き、それを拾い上げる。

 

「ぬいぐるみ?」

 

落ちていたのはくまのぬいぐるみ。一体誰の物だろうか。

もし家にあったとしても窓からぬいぐるみをぶん投げる事はしないし、した覚えもない。

隣人の落とし物、にしては距離がある。前の道からポイ捨てされた物かもしれない。

 

など過程を考えても結果が変わる事は無いので、貰う事に。

 

「じゃ、お留守番しててな。」

 

一旦部屋に戻ってぬいぐるみを机に座らせ、また家を出る。

そして、常と変わらぬ顔をしている江戸の町を眺めながら歩く。

 

 

平和な散歩の途中、竹仁はあるものが目に留まった。

 

(・・・局長さん?かな、あれ。)

 

何かを詰め込んだ風呂敷を背負って歩く近藤の姿。

その顔からは憂いや悲しみなどは感じられず、平常通りに見える事からどこかから追い出されたりして風呂敷を背負っている訳ではなさそうだ。

 

(何運んでるんだろう?)

 

1度気にしてしまうと、何となく気になってしまう。

真選組に関係するものなら他の隊士が運びそうだし、個人的な物の可能性が高い。

 

個人的な・・・物・・・。というと、ストーカーしている姿しか思いつかない。

 

(そういえば向こうって・・・。)

 

志村姉弟が住む恒道館のある方角だ。

 

こうなると竹仁の悪い予測は止まらない。お妙を手にする為に洗脳などの強硬手段に出ようとしているとか、新八を味方にする為の道具か何かが入っているとかそもそも恒道館に何か手を加えようとしているとか

 

「――させるかァァア!!」

 

「ぐはぁあっ!?」

 

竹仁は近藤の悪事を阻止する為、がら空きだった後頭部に飛び蹴りを放った。

 

もし真選組のトップが悪事を働いたとなれば、近藤を信じて日々の仕事をしている者達が辛い思いをする羽目になる。

誰も悲しまない、辛い思いをしない未来にするにはこれしかないと冷静じゃない竹仁の頭は考えたのだ。

 

「い、いきなり何するんだ!!」

 

「局長さんが悪事働かないように説得しようかと思って。」

 

「いや説得って何を!?」

 

「とぼけないでよ。ね、死ぬ覚悟はできた?」

 

「あれ!?説得どころか息の根止めに来てる!?」

 

「あはは、冗談だよ。それで、」

 

気になっていた風呂敷へ視線を移すと、落とした時の衝撃のせいか中身が少量出ていた。

 

・・中に入っていた物、それは・・・

 

「・・・死ぬ覚悟はできた?」

 

「それ2回目ェ!!待ってコレには理由(ワケ)があるんだよ!!」

 

地雷。風呂敷の中身に詰まっていたのは地雷だったのだ。日常生活では用途が見出せないブツ。そんな物、戦争を起こすつもりでもなければ普通持たない。

 

「お妙さんの下着を盗んだ卑劣な悪党を撃退する為に使うんだよ!!」

 

「あぁ。・・・・、アレかな?怪盗ふんどし仮面?」

 

下着を盗む卑劣な悪党、その言葉で思い浮かべたのは今朝の新聞にも載っていたふんどし仮面と、目の前の人間。

 

下着泥棒はしないかもしれないが、相応の犯罪行為はしているため竹仁の中でこの男は変態という位置付けだ。

 

「そうそうソイツ!!分かってくれた!?」

 

「うん。ねぇ、俺もその変態仮面見てみたい。」

 

「そうか、協力してくれる有志は大歓迎だぞ!」

 

「ははは。」

 

竹仁は協力するなんて一言も言ってないのだが、無駄に話が長くなるだけなのでその事は言わない。

 

そして、一発で変態と分かるあの風貌を見れたらいいな、とわくわくしながら恒道館までの道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「いいかー相手はパンツの量より娘の質を求めてる真性の変態だ、だからまたここに必ず忍び込んでくる。そこを叩くぞ。」

 

「わーわー、イェーイがんばれぇー。」

 

「フンドシ仮面だかパンティー仮面だか知らねーが、乙女の純情と男の誇りを踏みにじったその所業許し難し。」

 

「いえー、やっちまえ~。フゥー。」

 

「さっきから合いの手がうるせーんだよ!!フンドシ仮面より先にテメーを鮮血で染めてやろうか!!」

 

「ん?俺この色気に入ってるから、遠慮しとくよ。」

 

そう言って着物の襟の部分を触るが、勿論そっちの意味じゃない事を竹仁は理解している。

その上で適当な事を言うのは勿論、ふざけているからだ。

 

「服の事じゃねぇよ!!」

 

「まぁまぁ。ていうか、何?ここ戦場にでもなるの?新八と俺以外武装してるし。」

 

銀時はいつもの木刀に加え胴丸を装備しており、神楽はヌンチャクを振り回している。

女性であるお妙ですら薙刀を装備し、やる気満々だ。

 

「えぇ、そうですね。・・・それより、アンタ安静って言葉の意味知ってます?」

 

新八の問いに竹仁は首を傾げ、ニコリと笑ってみせる。

 

「おかーさんのお腹の中に捨ててきたから分かんない。」

 

「じゃあ取ってきてください。」

 

「無茶言うな。」

 

それは、手術でもしなければ取りだせない。つまりジャック(竹仁)がブラック(犯罪者)になる。

というか親のいない彼には、手術ではなく誰かから騎馬戦の要領で奪い去るしか方法はなかった。

 

(よし、変態(アイツ)から奪うか。)

 

奪う、とは言っても言葉の意味は忘れていない。遊ぶのが好きなだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

夜の帳が降りてから随分と時間の経った夜更け。

彼らは庭の低木達に隠れるようにして泥棒を待ち構えていた。

 

「・・・ちょっと、全然泥棒来る様子無いんですけど。コレ、ひょっとして今日来ないんじゃないんですか?」

 

「大丈夫だよ、来るって。」

 

「何を根拠に言ってるんですか?約一名諦めたのか熟睡してますし。」

 

「あぁ、ガキはねんねする時間だからな。仕方ねーだろ。」

 

銀時が言うように、良い子が眠りに就く時間はもうとっくに過ぎてしまっている。

泥棒が夜に姿を現すのは当然なのだが、それにしても来なさすぎると新八は思ったのだ。

 

「予告状来たわけじゃないんなら仕方無いと思うよ?」

 

「起きてたんですか・・・。」

 

「うん、悪い子だからまだ寝ない。ていうか、娘さんの下着があるなんてどう嗅ぎつけるんだろうね。」

 

起きてはいるが、竹仁は腕を組み、目を瞑ったまま話す。

 

「千里眼を持ってるに決まってるアル。それで一緒に干されてる娘の下着と臭いパパの下着を見極めてるネ。」

 

「それはないわ神楽ちゃん。お父さんと娘の下着を一緒に洗う家庭はそうそうないもの。」

 

思春期に入ったほとんどの女の子が嫌がるだろう。お父さんのパンツと自分のパンツが一緒に洗われる事を。

 

「いや、そこ!?千里眼の方があり得ませんよ!」

 

「オイでけー声出すんじゃねーよ。泥棒にバレたら全部パーだぞ。」

 

「パーなのはオメーらだよこのクソ暑いのによ!」

 

「そーだそーだパーなのはお前の頭だけで十分なんだよ。」

 

今度は目を瞑ったままではなく、しっかり目を開けて竹仁は銀時の頭をジト目で睨んだ。

 

「テメーら簀巻きにして山に捨ててやろうか!?」

 

そこからはもう皆で取っ組み合いの喧嘩。竹仁は早々に離脱したが。

 

「あーもう止めて止めて喧嘩しない!」

 

喧嘩を始めた皆を近藤が抑えようとするが、こうなっては止められないだろう。

そこで、無理に止めようとするのではなく、それぞれを落ち着かせる為に1つ提案をする。

 

「・・・皆暑いからイライラしてんだな。よしちょっと休憩、何か冷たい物でも買ってこよう。」

 

「あずきアイス!」

 

「なんかパフェ的なもの!」

 

「ハーゲンダッツ!」

 

「僕お茶!」

 

近藤の提案に、取っ組み合いの喧嘩をしていた彼らはそれぞれ順番に、しっかりと自分の欲しいものを伝えた。

その様子を傍観していた竹仁は、クスリと笑ってしまった。

 

「はは、・・俺も気分転換に行こうかな。皆いるなら大丈夫そうだし。」

 

「まぁ買い物にかかる時間だって5分や10分ぐらいだ。奴は現れんだろうよ。」

 

「そうだね、江戸は広いから――」

 

ピッ。

 

話しながら歩いていた竹仁は、前方にいる近藤の辺りから何か電子音がした事に気付いたが、それが何の音かは理解できなかった。

 

ドォンッ!!

 

理解する暇を与える事無く目の前の近藤が爆発したからだ。

 

「・・あぶねーなぁ、急に爆発しないでくれよ局長さん。」

 

「多分暑かったせいアル。」

 

「んなわけねーだろ、自分で仕掛けた地雷踏んだんだよバカだね~。」

 

銀時が言い終わってから数秒間、その場の全員が沈黙した。

自分で仕掛けた地雷を、踏む。場所を覚えているなら普通発生しない事故。

 

だとすると近藤がミスをしたか、もしくは・・・

 

「・・・アレ、ちょっと待って。ひょっとして地雷どこに仕掛けたか、皆覚えてないの?」

 

竹仁は、その言葉を聞いて頭上にはてなマークを浮かべた。

 

「?なんで?覚えてなくても・・・、」

 

「・・・あっ、俺達ここから動けない。」

 

設置した地雷の位置を把握していない。それはつまり下手に動けば爆発するという事。

しかし、今更気付いたってもう遅い。

 

「そうですよ!!どーするんですかもう泥棒とか言ってられませんよ!!」

 

運良く泥棒が爆発してくれたとしても、確保しに行けない。

警察を呼んでも、恐らく警察が爆発する。

 

つまり、新聞配達のおじさんが爆発してしまうという事だ。

 

「アハハハハハ!滑稽だ!滑稽だよお前ら!!」

 

さてどうしましょう、と困り果てる彼らの耳に、こちらを嘲笑う声が入る。

当然、全員の視線がそちらに向く。

 

「あ、あいつは!?」

 

そこには、ブリーフ穿いて頭からフンドシ被った半裸の変態がいた。

一発で変態と分かる装い。流石は変態。

 

「パンツのゴムに導かれ今宵も駆けよう漢・浪漫道!怪盗フンドシ仮面見参!!」

 

「最悪だァァァ!!最悪のタイミングで出てきやがったァァ!!」

 

フンドシ仮面の登場に新八は頭を抱えているが、隣の人は腹を抱えていた。

 

「うはははは、本当に半裸でフンドシだ。あははっ、ふへ、あははは!」

 

「アッハッハッ、なんだか俺の為に色々用意してくれていたよーだが無駄におわっ」

 

ゴッ!

 

「あっははは、やったーナイスヒット。」

 

投げた石ころがフンドシ仮面に直撃してくれた事に、竹仁はピースして喜ぶ。

そして石を投げつけられたフンドシ仮面は、直撃の衝撃によって後ろに倒れ込んでしまった。

 

「急に戦闘モードっすね竹仁さん・・・。」

 

「十分笑ったからねぇ。さーて、お妙、これ貰ってくね。」

 

お妙の持っていた薙刀を緩く掴んでそう言えば、彼女は少し戸惑いつつも薙刀を手放した。

 

「いいですけど・・・どうするんですか?ここから動けないのに。」

 

「あれだ、棒高跳びの要領で頑張ろうかなーって。来たからにはちゃんと捕まえないとね。」

 

薙刀を棒代わりにして、向こうまで跳ぶ。という事だ。

 

受け取った薙刀を構えて、ギリギリまで塀に寄る。

その時、倒れていたフンドシ仮面が復活したらしく、緩慢な動作で再び立ち上がっていた

 

「ぐっ・・・、やるな。しかし、その前に盗んでしまえばいい事!!」

「そんじゃ、」

 

低木のギリギリまで走って全力で跳躍し、薙刀の刃先を地面に突き刺す。

 

 

ピッ。

「マジかよ。」

 

ドォオンッ!!

 

爆煙、爆風、爆発音。全てが共に響き渡る。

 

「ちょっとォオッ!?」

 

ついでに新八の叫び声も響き渡る。

 

竹仁が建物側へ移動するのに必要な地面との接触数は、たったの一点だけだった。

だというのに地雷はそこにあり、爆発。なんとも運が悪い。

 

「ふはははは、」

 

その爆発を見たフンドシ仮面は、勝ったとばかりに笑ってみせた。

 

しかし、それは間違い。

何故なら爆発した竹仁が、刃部分の消えた薙刀を構えて煙の中から姿を現したからだ。

 

「な――」

 

ダンッ。

 

1回屋根を思い切り踏みしめてから、顔を驚きに染めたフンドシ仮面めがけて刃の無い薙刀を振り抜く。

 

ゴスッ、と鈍い音をたてて強烈な一撃が決まり、フンドシ仮面は意識を遥か遠くまで吹き飛ばす事となった。

 

「よっしゃー、俺の勝ちー。いぇーい。」

 

薙刀を持ったまま両腕を暗い空に向けて緩く突き出し、笑ってみせる。

接触回数を減らす為に棒高跳びという手を使ったが、この場合地雷が爆破しようがしなかろうが結局建物側には辿り着く予定だった。

 

爆発しない方が余計なダメージを追わなくて済みそうだったが、爆発したおかげでフンドシ仮面は動きを止めた。

爆発して正解だったのかもしれない。しないでほしかったと彼は思っているが。

 

「うーん。まぁいっか。」

 

「おーい生きてるかー?あぁ、こりゃ死んだな。」

 

「いや返事する時間くれよ!」

 

竹仁は返事をする時間の無い問いかけにイラッとしつつも、薙刀を持ったままフンドシ仮面を担いで地面に降りる。

 

ピッ。

「嘘やん。」

 

降りた場所から聞き覚えのある電子音が聞こえ、竹仁の口からはやっちまったとばかりに関西弁が出た。

そして回避する間もなく、

 

ドォンッ!!

 

彼は爆発した。

 

「あぁああ!!ちょっ、大丈夫ですか――」

 

突然爆発した竹仁に、新八が低木を超えて駆け寄ろうとした次の瞬間。

 

ピッ。

「あっ。」

 

ドォオンッ!!

 

こちらも、回避する間もなく爆発した。

 

「・・・お前らバカか?そこは危険地帯だってさっき話したばっかだろーがよ。」

 

爆発した2人を呆れたように見る銀時を、竹仁は地面に倒れたまま八つ当たりのように睨みつけた。

 

「・・・忘れてましたよーちくしょう・・・。」

 

「同じく・・・。」

 

「・・・はは、あはははっ。」

 

「どうしたんですか、急に。」

 

新八は、急に仰向けになって笑いだした竹仁を思い切り不審がる。

突き刺さる新八の視線を無視して、真っ黒な空を見上げたまま一言返す。

 

「別にー。」

 

(・・・流石に、楽しかったね!なんて言ったらビンタされるか鋭利な視線が突き刺さるかだし。)

 

余計なリスクを負う必要なんてどこにもない。

 

取りあえずニコニコ笑って楽しんで、毎日過ごせばいいのだ。

 

 



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晴れのち曇り

この日、万事屋にはとある依頼人が来ていた。

その依頼人というのは、万事屋の下でスナックお登勢を営んでいるお登勢だった。

 

「源外を黙らせろ?」

 

「毎日毎日うるさくて仕方ないんだよ。」

 

そう言うとお登勢は、ふぅ、と煙草の煙を溜息代わりに吐き出す。

その顔には苛立ちや疲れなどが見て取れる。

 

「あー、いっつもガチャガチャいじってるからな。そりゃ迷惑だろうね。」

 

「アンタ平賀と仲良かったろ?ちょいと本気で黙らせてみてくれないかね。」

 

仲が良い・・・?と竹仁は首を傾げる。

彼は今までに何度か工場に遊びに行く事はあったが、そこまで仲が良いとは思えない。

 

しかし今そこは議論の対象ではないため、気にしないようにして話を進める。

 

「んー。ありゃ無理だろもう。諦めてミサイルでもぶち込んだら?」

 

「それ諦めてるって言わねーよ。怒り極めた奴のやる事だぞ。」

 

社長椅子に座ってジャンプを読んでいる銀時だが、依頼である為一応話は聞いているようだ。

話を聞いている態度には見えないが。

 

「とにかくだ。説得だけで終わるならアタシらもそうしたいんだよ。」

 

「・・・はいはい。やるだけやってみるけど期待はすんなよ。」

 

「安心しな、期待なんざサラサラしてないよ。」

 

「じゃあ今すぐミサイルぶち込んでこいや。」

 

結果に1ミリの期待もしてないなら来んなと、竹仁はお登勢に向かって中指を立てた。

速攻で引っ叩かれた。

 

 

 

 

 

 

一行は騒音の原因である工場の前までやってきたが、中から聞こえてくる音はかなりうるさい。

耳を押さえていても、うるさいと感じる程だ。

 

「近くに来ると本当にうるさいですね・・・。」

 

「あはははは、ほんとにねー。」

 

「笑ってねーで説得してきな!うるさくてかなわんよ、まったく。」

 

「はいはい、そんじゃ・・・」

 

お登勢に言われ、依頼解決の為竹仁は数歩前に出る。

 

「げーんがーい!俺とお話しーましょー!」

 

口の両端に手を添え、大きな声で呼びかける。

 

しかし、静かなら聞こえるにしても今この一帯は騒音に包まれている。

普通に考えて彼の声が聞こえるわけ無い。

 

「そんな声で聞こえるわけねーだろ!!説得する気あんのかィ!?」

 

「あるよ。げんがーい、声はかけたからなー。」

 

そう話しながら竹仁は近くのガラクタの中から1つスパナを拾い上げ、シャッターの前に戻る。

 

そしてシャッターに向かって地面を抉るように右足を踏み込み、スパナに全身全霊全力を込めてシャッターを殴りつけた。

 

ガッシャァァン!!

 

全力をもって殴りつけた場所には穴が開き、竹仁が手を放せば突き刺さったままのスパナがよく見える。

 

「よし。」

 

小さくガッツポーズをしつつ、全てをやり遂げたような笑顔で呟いた。

当然、何がよしなのかは周囲の誰も分かっていない。

 

「何がよしなんですか!?シャッター破壊しただけですよね!?」

 

「だって声かけたって無駄だし。こうするしかない。」

 

この騒音の中で、外からの人の呼び出しなどまともに聞こえるわけがない。

ならば騒音の中でも聞こえる音を出せばいい。彼はそう習った。

 

「普通に開けちゃダメなんですか!?」

 

「つまんねーじゃん。」

 

「つまんねーからって人んちのシャッター破壊するんですかアンタは!!」

 

新八が彼のやり方を批判するのは当然だろう。

友達の家にお邪魔する時、玄関を破壊して入るような輩などほぼいない。

 

その時、破損したシャッターがガラガラと開いて中からゴーグルをつけた人物が姿を現した。

 

「あっ、源外!やっほー久しぶぇっ!」

 

シャッターを開けて出てきた源外に対し竹仁は笑顔で挨拶をするが、その途中でチョップを食らった。

源外がかなりお怒りの様子である事が窺える。

 

「この呼び出し方やめろって何回も言ってんだろクソガキ!!」

 

「いーじゃん乱暴に呼び出さないと出てこないって言われたんだもん!!」

 

チョップされた頭を押さえつつ、竹仁は反論する。

 

「だもんじゃねーよ!!次やったらアイツらとエンドレスリアル鬼ごっこさせんぞゴラァ!!」

 

「えっマジ?分解していいの!?」

 

源外は、おかしな呼び出し方をさせないようにカラクリ達とリアル鬼ごっこさせる、と言ったはずなのだが彼は逆に目を輝かせている。

カラクリ達と自分以外誰もいない・邪魔しない=好き勝手やっていいという思考なのだろう。

 

「そうは言ってねーだろ!!頭大丈夫か!?」

 

「大丈夫大丈夫、だから隣の子貰っても――」

 

確実に当初の目的を忘れている竹仁の頭を、銀時は掴んだ。

 

これ以上放っておいたら、きっと彼は延々と別の事をし続ける。

それなりに見知った相手だというから一応やらせてみよう、と銀時は思ったのにこれでは話が全く進まない。

 

「お前はここに何しに来たんだっけか?」

 

「・・・源外を黙らせに来ましたー。」

 

若干バツが悪そうに両手を上げる。

 

「その言い方だとこのジーさん殺しに来たみたいに聞こえるアル。」

 

「もうさ、神楽の言う通り()った方が楽なんじゃない?」

 

「本人の前でよく平然と言えるなこのアホ。」

 

目の前で不謹慎な事を言う竹仁の背中を、源外がベチンと叩く。

 

「あと言っとくが工場はたたまねぇからな。分かったらとっとと帰れ!」

 

「オイ三郎!アイツら力ずくで、ってお前!何乗ってんだ降りやがれ!!」

 

視線の先には、三郎に乗っている竹仁。

とても楽しそうだ。お父さんに肩車をされて喜ぶ息子のように。

 

「行けー三郎!源外を黙らせろ!」

 

「御意。」

 

「いや御意じゃねーって、ギャァアア!!」

 

三郎は何故か創造主ではない人間の命令に従い、自身を作り出した人間を吹き飛ばした。

吹き飛ばされた源外を見て、竹仁はその技術力に感心するのだった。

 

 

 

 

 

 

「うわ~、カラクリの山だ。これ全部平賀サンがつくったんですか?」

 

新八が工具類の入った段ボールを抱えたまま、建物内に置いてある多くのカラクリ達に驚きの声を上げる。

人型の物が多いが、小さなおもちゃや動物型なども置いてある。

 

「そ、いっつもガチャガチャガチャガチャ。ホント飽きないよねぇ。」

 

「飽きるわけねーだろ。じゃなくててめーら何勝手に引っ越しの準備進めてんだァ!!ちきしょオオ!!縄ほどけェ脱糞するぞコノヤロォォ!!」

 

縄で縛られ柱に固定されている源外が喚くが、引っ越しを進める彼らの手は緩まない。

源外には微塵も大人しくする気が無いと判断して、ここから無理矢理引き離す事にしたのだ。

 

「オイ、茶頼むわ。」

 

銀時は引越しの手伝いもせずくつろぎながら三郎に命令を出しているが。

しかし命令は命令なので三郎が拒否する事もない。

 

「御意。」

 

「三郎ォォ!!てめェ何こき使われてんだァ!!助けんかい!!」

 

「だったら自分の声にしか反応しないように作ればいーじゃん。」

 

三郎はこき使われているというより、プログラムされた通り動いているだけだ。

 

「こうなるなんて想像できるわけねーだろ!!」

 

「そりゃそうかもねぇ。・・・よし三郎、あの銀髪にそのお茶かけろ。」

 

銀時に聞こえないよう、お茶を取りに来た三郎へ小声で命令を出す。

 

「御意。」

 

新しく出された命令に従う三郎によって、熱々のお茶がジャバジャバと銀時の頭にかけられる。

 

「あ?――っつァアア!!あっつ!!!」

 

「ぶっ、アハハハッ!あはっ、ひぃ、あははははっ、あっつそー!」

 

熱さに悶える銀時を見て竹仁は爆笑している。

 

「おいっ!!コレ誤作動起こしてんじゃねーか!?」

 

「んなわけねーだろ!!三郎はこいつらの中でも傑作だぞ欠陥なんざあるわけがねぇ!!」

 

竹仁が命令を出した時三郎は2人から離れていたため、その事実を知らない。

そのため銀時が三郎に何らかの欠陥があると思ってしまっても仕方がないだろう。

 

「あー、うん、さっきも言ったけど誰の命令でも聞くってのはどうかと思うよ?ほら三郎、あのじーさんをパンチ。」

 

竹仁が脚で源外を指せば、三郎はそこまで移動し、縛られて動けない源外を殴った。

 

「ぶはっ!このっ・・三郎ォォ!!あの茶髪殴れェ!!」

 

「御意。」

 

源外の命令通りに繰り出される三郎のパンチだが、竹仁は荷物を抱えたまま一歩下がって攻撃を避ける。

そして、彼は三郎に対して笑いかける。

 

「三郎、10分間お座り。」

 

「御意。」

 

言われた通り、三郎はその場にちょこんと正座した。

 

「よしよし良い子だね。じゃ新八、神楽!さっさと引っ越し済ませるよ!」

 

2人に声を掛けてから荷物を抱え直し、引っ越し先に向けて歩き出す。

その後ろ姿を、呆れたように新八は眺めた。

 

「・・・製作者よりも使いこなしてる、ってどうなんだろう・・・。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

人通りが少なく広い河原に、ガラクタにしか見えない機械が山のように積まれている。

これは全部源外の所から持ってきたものだ。

 

周辺の迷惑にならないように、そして源外が作業できる環境の確保。

この2つの間を取って、人の少ない所へ作業場所を移動させるという措置がとられたのだ。

 

「これでヨシと。ここなら幾ら騒いでも大丈夫だろ、好きなだけやりな。」

 

「好きなだけってお前・・・、みんなバラバラなんですけど・・・。なんて事してくれてんだテメーら。」

 

中には無傷の物もあるが、運びやすいようにとバラバラにされた物が多い。

粉々に破壊されているわけではないので一から作るよりも時間は掛からないかもしれないが、それでも直すには時間がかかるだろう。

 

「そのぐらい騒がしかったんだろ。ドンマイ。」

 

「安心するネ、サブも無事アル。」

 

「御意。」

 

乗っている神楽に三郎は返事をするも、何かが足りていない。

 

「御意じゃねーよなんか形違うぞ!腕ねーじゃん腕!!」

 

「腕を瞬殺なんて流石だね。」

 

そんな事、並大抵の人間にはできるものではない。

 

「感心してんじゃねーよ!!どーすんだ!これじゃ祭りに間に合わねーよ!!」

 

そう叫ぶ源外は、地面を拳で叩き焦りを露わにしている。

 

「祭り・・・って、あれ?鎖国解禁ニ十周年の?」

 

「そうだ、それに珍しく将軍様も出てくるらしくてよォ。そこで俺のカラクリ芸を披露するよう幕府から命がくだってたんだよ。」

 

「ふーん、すごいね。でもどうしよっか、こんな事になっちゃったし。」

 

そう、カラクリ達を運ぶ際、腕や脚などもぎ取った個体がある。

それを今から直すとなれば、徹夜はしなければならないだろう。

 

「・・・間に合わなかったら、切腹モンだぞ。」

 

「あヤベ。カレー煮込んでたの忘れてた。」

 

切腹モン。その言葉で竹仁を除く万事屋一行は速攻で帰路についてしまった。

勿論、神楽は三郎の腕を持ったまま。

 

「オイぃぃぃぃ!!三郎の腕返せェェェ!!」

 

「あははは、諦めて作り直しな。」

 

三郎の腕が持っていかれた事に激昂する源外を竹仁は笑って宥める。

 

「笑い事じゃねーぞ。ったく、なんて奴らだ・・・。」

 

「・・・アンタ、大丈夫なのかィ?」

 

お登勢が源外に話しかけるが、いつもの調子ではない。

心配しているような、様子をうかがうような感じだ。

 

「・・・やるしかねーだろ。徹夜で仕込めばなんとか・・・。」

 

「そーじゃなくて、息子サンの事だよ。・・・・・アンタの息子、確か幕府に・・・」

 

「・・・・お登勢よ。年寄りが長生きするコツは、嫌な事はさっさと忘れる事だよ。・・・それに、今はコイツらが俺の息子だからな。」

 

お登勢は、機械を見上げる源外の背中をしばし眺めた後、こちらに背を向けて静かに帰っていった。

 

 

「・・・何やら大変なようで。」

 

ガラクタの1つに腰掛けたまま、竹仁は源外に声をかけた。

 

「そう思うならさっさと手伝え。俺が大体やるから、仕上げやれよ。」

 

源外に工具を投げ渡され、竹仁はゆっくりと立ち上がる。

 

「はいはい、分かってるって。せっかちは早死にするよ?今適当に考えたけど。」

 

「適当ばっか抜かしてんじゃねーよ。」

 

「いーじゃん迷惑って訳でもないんだしさぁ・・・。」

 

その会話を最後に、源外と竹仁は黙って仕事を進めていく。

 

 

そうして少しばかり時が経ち、集中して仕事をしていた竹仁はふと誰かの気配を背後に感じた。

振り返ってその人物を確認した途端、全身の細胞が一時停止した。

 

まさかここで会う事になるとは思ってもみなかった人が。そこにいる。

 

 

高杉晋助。鬼兵隊総督。今現在最も危険だと言われる攘夷志士。

 

驚きで一瞬停止していた表情筋を動かし、怪しまれないようニコリと笑って話しかける。

 

「・・おにーさん、何か御用?」

 

(左目・・・。)

 

包帯で隠されている、高杉の左目。

何があったのかを彼は知らないが、見えないのだろうと推測する。

 

そして、左目ジロジロ見るとこだったあぶねー死ぬ気か自分、とカラクリ達に目をやる。

 

「あぁ。ちょいとじーさんに用があってなァ。」

 

「は?俺に?」

 

「へぇ、多分カラクリ関係じゃない?源外って言ったらそれしかないし。アハハハハ。」

 

源外に1度視線を移してから、カラクリの頭を一撫でする。

怪しまれてはならないと、視線などに結構な注意を払いながら彼はニコニコと笑う。

 

「・・・それは褒めてんのか?」

 

「さあ?」

 

(・・わー顔怖いっすよ高杉サン、はやく帰ってくれないかなー。)

 

特に、目。表情も、微妙に笑っているように見えるが笑っていない。

 

「・・ったく。で?用ってなんだ?」

 

「・・・そうだな。その前にアンタ、席を外しちゃくれねェか?」

 

高杉が視線を竹仁に向けたその瞬間、彼は思った。ここ離れなかったら俺死ぬんじゃね?と。

 

目の前の人間はかつて銀時達と共に名を轟かせた者。下手に戦ったら死ぬ。

 

だが、ここに来た時自分達を殺さなかったという事は、本当に話をしに来ただけかもしれない。

もし源外を殺しに来たのならついでに自分も纏めて殺してしまえばいい話であるし。

 

 

・・・取りあえず源外をここで1人にしても殺される危険性は無いだろうと考え、彼はこの場を離れる事にした。

 

「ふーん、あんま聞かれたくない話なら聞かないよ。じゃ源外、なんか買いに行ってくるわ。欲しいもんとかある?」

 

「緑茶でも頼むわ。あと変なもん買ってくんなよ?」

 

「買わないよ。そうだ、おにーさんは?何かいる?」

 

彼の表情筋はニコニコと元気いっぱいだが、心の中はどんより曇りまくりだ。

 

「いや、俺ァいい。」

 

「そっか、じゃあ行ってきまーす。」

 

笑顔で手を振り、2人に背を向ける。

背を向け歩き出した竹仁はすぐに笑顔を消し、重い溜息をつく。

 

銀時や辰馬のように攘夷活動から離れた者だったのなら、いつ出会っても問題は無かった。

しかし高杉は現役バリバリで超危険な攘夷志士と聞く。

 

祭り、将軍、危険な攘夷志士、大切な息子を幕府に殺された江戸一番のカラクリ職人。

 

喜ばしくない事に材料は揃ってしまっている。

残念ながら、楽しいお祭りにはならなそうだ。

 

空を眺めて、彼はまた溜息をついた。

 

 



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曇りのち煙

( ゚д゚)


( ゚д゚):;*. グハッ


既に日は大分傾き、鎖国解禁20周年記念の祭りはとうに始まっている今日この頃。

 

源外と万事屋の面々は、全てのカラクリを完成させる為に河原で作業をしていた。

帰ったはずの銀時、新八、神楽はお登勢に言われ、作業を手伝う為にここへ戻ってきたのだ。

 

そのおかげもあってか、直しの時間を設けても源外が見せものをする時間までには確実に間に合う。

 

ガチャガチャと最後のカラクリの、腕の神経部分を接続し終わり、竹仁は一歩下がって完成したカラクリの全身を眺めた。

 

「・・よっしゃーできた気がする!気がするっていうかもう完成でいいやめんどくせえ!」

 

今度はその場に座り、並べられているカラクリ達を眺めた。

急ぎで作業を進めたせいで隅々まで完璧とは言えないが、一応全てのカラクリが完成した。

 

「まさかお前が物1つ壊さず作業出来たなんてな。」

 

「・・・アンタ、そんなに物ぶっ壊しまくってんですか・・・。」

 

「知ーらねー。そんなん一々数えないし。」

 

「人のモン壊しといて知らね、って大丈夫か?お前いつかじーさんに殺されんぞ。」

 

確かに竹仁は殺されそうだ。1回遊びに行ったら2つぐらい壊してるのだから。

 

「大丈夫大丈夫。たまーに、お詫びとしてお酒あげたりしてるから。」

 

「サソリ酒とかな。普通の日本酒とか持ってこれねーのかオメーはよ。」

 

「無理。」

 

普通に日本酒やら焼酎やら持っていったら、真面目に謝罪してるような気分になるから持っていかないようにしている。

 

「ったくお前は・・・。ホラ、いーから全員祭りでもどこでも行ってこい。最後のメンテナンスすっからよ。」

 

源外はやれやれといった感じで硬貨の入った巾着を雑に投げ渡し、さっさと背を向けた。

そのぶっきらぼうな態度にありがとうとか言ったら負ける気がする竹仁は、代わりに溜息をつく。

 

「頑張れよ、見せもの腹抱えて馬鹿にしてあげるから。」

 

「言ってろクソガキ。」

 

「へいへい。そんじゃ行きますか、お祭り!」

 

「ウン!早く行くアル!!」

 

「そーですよ!銀さんもほら早く!」

 

「分ぁってるって、元気だなオメーら。」

 

大人2人が子ども2人に連れていかれるという形で、彼らは祭り会場へと向かった。

しかし竹仁だけは、橋の上に佇んでいた高杉の存在のせいで心穏やかではなかったが。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

日が沈み、普段ならこの時間は黒に覆い隠される。

しかし、今日は祭りの明かりが夜の闇をかき消し、人々の喧騒を照らし出している。

 

竹仁は彼らとは一旦別れ、独りぼっちで屋台を見て回ったりしていた。

 

すると彼のすぐ前に、夜を溶かしたような隊服を着た人間達を見つけた。しかも事件現場。土方が山崎を蹴りまくっているという。

 

「・・まぁ。副長ともあろうお方が部下に暴力なんて・・・。」

 

「あ、竹仁さん・・・。こんばんわ・・・。」

 

「やっほー。」

 

地面に転がったまま挨拶をする山崎は、状態からして相当ダメージを受けていると分かる。

真面目そうなのに何したんだろう、と竹仁は若干気になったが、山崎よりも土方の方が律儀そうなので聞かない事にした。

 

「どっから湧いてきやがったテメー。」

 

「湧くって、俺にゲームのモンスターみたいな仕様はありませんけど。」

 

湧いて出るモンスターみたいなのは攘夷志士の役目だろう。真選組が勇者側だとして。

竹仁はそこら辺の町民Aもしくは城の兵士Bみたいなものだ。

 

するとそこへ、局長である近藤勲が空になったたこ焼きの箱を持って現れた。

 

「おぉ、お前も祭りに来てたんだな!ところで」

 

「殴っていい?」

 

「何で!?まだ何も聞いてないのに!!」

 

このストーカーの言おうとした事、竹仁は大体分かってしまっている。十中八九、お妙の事だろうなと。

本当にタフな男である。

 

「あぁごめん、口すら開けなくていいよ。」

 

「えっ、俺口臭い?」

 

「いや局長、そういう意味じゃないと思いますよ。」

 

普通に会話に参加してきたが、山崎の顔には土やら暴力の痕跡が未だにくっついている。

 

「はぁ・・。おいザキ、近藤さん。警戒は怠らないでくれよ。将軍に何かありゃ俺達の首が飛ぶって言ったろ。」

 

「ははぁ、お仕事大変ですねぇ。・・なぁ、その将軍様ってここにいるんだよね?ちょっと入っていい?ついでに昇天させていい?」

 

「いいわけあるか!!てか将軍の命がここに侵入するついでっておかしいだろ!」

 

「あははは。いやいや冗談だよ?将軍の首取っても面白くないし。」

 

将軍が殺された日には、世の中は大混乱になるだろう。

それに伴い幕府の人間が権力争いを始めそうなので、将軍殺害は今のところお断りだ。というか安易に人は殺さないようにしている。

 

「面白くねぇ、か。なら面白けりゃ取んのか?」

 

「えっ、取っちゃうの!?」

 

鋭い目つきの土方と、驚いた様子の近藤を笑顔のまま無視し、竹仁は持っていたりんご飴を一口かじり、口を開いた。

 

「・・・・・・やだなぁ俺がそんなサイコパスな訳無いじゃん?」

 

「その間が信用ならねぇ、ていうかお前が信用ならねぇ。」

 

「うん、誰かに信用してもらう気無いし丁度いいね。おめでとう。」

 

その言葉に近藤は複雑そうな顔をしていたが、竹仁には表情の意味が良く分からなかった。

なので彼は考え、1つの結論に至った。遂にストーカーのし過ぎで頭にエラーが発生したのだと。

 

その答えに納得した時、ちょうど花火が祭り会場を照らし出した。

 

――ドンッ、パァン!

 

「・・お、始まったぞ。江戸一番のカラクリ技師、平賀源外の見せものが。」

 

「わぁ、綺麗だねー。」

 

その後も次々と打ち上げられる花火は、源外の作ったカラクリによるものだ。

 

高杉との接触もあり、源外は本当に将軍の首を取りに来るかもしれない。

ただ花火を上げ、カラクリによる見せものを行って、終わるかもしれない。

 

確たる証拠が無いとは言え、何か起こる恐れが高かったので、竹仁は手っ取り早く半数ほどのカラクリにちょっとした機械を仕掛けた。

懐にある装置を起動させれば、命令を出す回路がお陀仏する。

 

(おかげで祭りが全力で楽しめねーぞどうしてくれんだ。)

 

金魚すくいやヨーヨー釣りなど、やりたかったのだが手が塞がってしまうので諦めたのだ。

 

(腹いせにたくさんゲテモノ酒持ってこ。)

 

恐る恐る酒を飲む源外の姿を想像し笑っていた竹仁は、ふと気付いた。

源外の隣にいる三郎の砲門がこちらを向いている事に。

 

「・・・あれ?」

 

ショーを始めるのだろうか。しかし何かを撃つにしてもこちらに向いていては客に当たる。

 

・・・これはもしかしたら止めた方が良いのかな、と懐に手をつっこんだ竹仁は思い出した。

 

三郎にはその機械がついてない事に。

 

(そうだった唯一の完成体だったんだぁぁぁ・・・。)

 

完成体をいじくり回してたら確実に何してんだテメーとなってしまうからだ。

さぁ破壊的手段を取らざるを得ない状況だ、と若干焦り始める。

 

そして、扇子で将軍の方向を指したまま源外が何か喋るのを見た竹仁は、太腿につけたホルスターから拳銃のようなものを取り出した。

 

これは対人用ではないし、そもそも実戦を想定して作った物ではない。

レールガンみたいな物を作りたくて作った超半端物。使用電力も本物と比べれば極僅かなものだ。

 

前に作ったまま試用していない為、どうなるかは知らないが物は試し。

取りあえず彼は三郎の腕を狙ってトリガーを引いた。

 

――バァンッ!

 

「い゛っ、」

 

拳銃よりも強い破裂音が響くと同時に走った腕の痛み。

ろくに改良もしなかった不良品だ。漏電でも起こしたのだろう。

 

なんて、それより気にしなければならないのはこの後だ。

 

目の前に広がる煙幕。

直前の映像を思い返せば、三郎が煙幕弾を撃ち、それを弾丸が撃ち抜いた事が分かった。

 

爆撃しなかったのは、煙幕で真選組を混乱させ、大量に作ったカラクリ達で攻撃を仕掛けるつもりだったのだろう。

 

でなければあのカラクリ達と、この煙幕の意味が無い。

 

(犯罪の片棒担いじゃったってやつ?まあバレなきゃいいか。あーあいたいいたい。)

 

逃げ出す客を横目に、竹仁はりんご飴の最後の一口を食べる。

もぐもぐ口を動かしていると、右肩に何かが乗っかった。

 

「オイ、お前・・・」

 

「はい?なんすか?」

 

「知ってたのか。ヤツが将軍狙う事を!」

 

土方に突然胸倉を掴まれ、竹仁は一瞬驚き目を丸くした。

しかしすぐに笑顔になり、手首を使ってりんご飴の残骸が付いた割り箸をぶんぶん動かす。

 

「たまたまだよたまたま。Do you know TAMATAMA?」

 

「それぐらい知ってるわ!!」

 

「それは良かった。じゃあ周り見てみ?」

 

こうしてやり取りをしている間にも、左右から現れた何体ものカラクリがこちらへと向かってくる。

 

「チッ・・・テメーこっから動くんじゃねぇぞ!動いたら叩っ斬る!」

 

「わーこわいなー。」

 

手を放し、土方は将軍護衛の仕事をこなす為に刀を抜き、走っていく。

 

そうして土方がどっか行ったところで竹仁は今度こそ懐にある起動装置のボタンを押し、カラクリ達につけた機械を起動させた。

途端に機械が取り付けられていたカラクリ達は糸が切れたように倒れていく。

 

そして、残ったカラクリと真選組が戦いを繰り広げる。

竹仁はその戦いのど真ん中にいるので、当然カラクリは狙ってくる。恐らく判別能力は無いのだろう。

 

「あ、そうだ。」

 

カラクリが、竹仁を潰さんと腕を振り下ろす。

それを一歩横に移動して避け、腕を振り下ろした事で地面に近くなったカラクリの顔に、竹仁は自分の顔を近づける。

そして、命令を出した。

 

「おすわり!」

 

カラクリはその場に正座した。動く気配は感じられない。

 

「マジかよ。」

 

まさか本当に、命令を聞いてくれるなんて竹仁は思っていなかった。

 

ふと、竹仁の頭に1つの解決策が思い浮かぶ。

このカラクリが命令を聞いたとなれば、他のカラクリも命令を聞く可能性がある。

 

・・・拡声器でもあれば最高だった、と若干面倒くさそうに頭を掻き、大きく息を吸う。

 

からの全身に力を籠め――

 

 

「――おすわりィイイイッ!!!」

 

竹仁は、血管がぶっちぎれるんじゃないかというぐらいに全力を籠めて叫んだ。

その声は祭り会場に響き渡った。さっきの銃声よりも、だ。

 

かなりの労力を使ってしまったようなので一度深呼吸をし、状況を確認しようと顔を上げる。

 

 

残っていたカラクリ全員、素直に正座していた。

 

「・・・。ぶっ、」

 

効果があった事に彼は嬉しく思った。その可笑しな光景に少し驚きもした。

しかし面白い。戦っていたカラクリ達が正座している事も、この状況に戸惑っている真選組の者達も。

 

(やっべ写真撮りたい。・・・あ。いやそれより)

 

「オイ。」

 

「・・・・。」

 

その声に対して反応を見せないまま、竹仁は脱兎のごとく駆け出した。

楽しいお祭りが大騒動へと変わった上に警察官とお話なんて拒否したいのだ。

 

「待ちやがれェェエ!!」

 

「嫌でェェす!!」

 

人が全くいない祭り会場を、大人2人が全力で駆ける。

 

・・・しかし、鬼ごっこはそう長くは続かなかった。

 

「土方さーん、死にますぜー。」

 

2人はその声を聞いた瞬間、あっやばいと思った。しかし。

 

ドガァァン!

 

思ったその時にはもう遅く、全てが爆発した後だった。

爆音と共に鬼ごっこをしていた2人は吹き飛ばされ、地面と仲良しこよし。

 

「・・・総悟ォォォテメェェェ・・・。」

 

「・・・躾ぐらいちゃんとしたらどう・・・?」

 

「お前・・・アレが俺の言う事聞くと思ってんのか?」

 

聞くわけないと竹仁は真っ先に思った。

しかし、ここで後ろ向きな事を言ってはいけない。

 

「仮にも副長だろ頑張れ!やれば出来るさ!!」

 

「出来るわけねーだろ!!だったらテメーがやってみたらどーだ!!」

 

「人に丸投げするのは良くないと思いまァす!」

 

「すいやせん、うるせェんで1回黙ってもらっていいですかィ?」

 

2人の元までやってきた沖田はバズーカをこちらに向け、黒い笑顔を浮かべていた。

 

「「・・・ごめんなさい・・・。」」

 

勿論、2人とも逆らえなかった。



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海は危険がいっぱい

黒のタンクトップに黒のパーカー、黒のズボンで黒のサンダル。

あとライフル型麻酔銃の入った黒い袋。

 

今日はえいりあん退治をするらしく、海の近くもしくは海上での活動となるためこの格好。

 

そして家を出る時、そういえば自分はいつも黒しか買わないなぁと竹仁は気付いた。

けれども、毎日元気に過ごせてる彼にとって割とどうでもいい事でした。

 

「行ってきまーす。」

 

海は。どうにも、気乗りしない。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

トコトコ、目的の海岸目指して彼らは移動中。

 

「・・お前それ、何入ってんの?」

 

黒い袋を指差し、銀時が尋ねる。

 

「ん?ただの麻酔銃だよ。眠らせた方が痛くなさそうだし。」

 

「優しいんだか分からない優しさだね・・・?」

 

今回は長谷川も一緒だ。この前まで局長だった人間が、万事屋と一緒にお仕事。

人生は大変だ。

 

「うーん、こっからじゃえいりあんらしき姿は見えないね。でも魚類とかなら見えなくて当然か。」

 

アスファルトの道路から砂浜、そして海を見渡すが、特にえいりあんらしき存在は見つけられない。

 

「あそこに行ってみましょうよ。誰かいるかもしれませんし。」

 

あそこ、と新八が指差した先には所謂海の家と呼ばれる建物。

 

「そーだな。」

 

銀時が小さく頷き、歩き出す。

 

 

 

ジュウジュウ。

焼きそばを焼く音、そして匂いが辺りを漂う。

 

「は?えいりあん退治?え?ホントに来たの?」

 

事情を知る人を探すためにやってきた海の家では、1人のおじさんが焼きそばを作っていた。

その他には誰もいない。客も従業員も。

 

「あーそォ、アッハッハッいや~助かるよ~、夏場はかき入れ時だってのにさァあの化け物のせいで客全然入らなくて参ってたのよ~。」

 

そこまでボーッと話を聞き、竹仁は定春の頭を数回撫でた。

 

「よし定春遊ぼうッ!!」

「ワンッ!!」

 

「うるせぇ急に大声出すな!!」

 

定春の隣でボーッとしてたかと思えば、元気に走り出す竹仁。

そして、定春も彼を追うように走っていく。

 

「行ってきまァす!!」

 

「行ってらっしゃい!!」

 

半ば怒ったように、銀時は1人と1匹を見送った。

見送られた側の1人と1匹は、浜辺を元気そうに走る。

 

「わーい端っこまで行ってみよう!」

 

「ワンッ!」

 

走る走る。砂を蹴り、輝く空を眺め。

 

 

 

 

「あははははは、――は?」

 

定春のリードを持ったまま走っていた竹仁に突如影が降りた。そしてその事に気付いた彼が視線を背後に向けた時、既に目の前は真っ白。

 

ドォンッ。

 

一般的な犬が飛びつくのとは違い、定春の場合車が抱きついてくるようなものだ。

なので、立ったまま受け止める事が出来るわけも無く竹仁は圧し潰されてしまった。

 

「・・・定春くーん?」

 

「ワンッ!」

 

「ワンじゃないよこのわんぱく犬め・・・。」

 

定春の元気な返事に呆れながら、竹仁は顔を上げる。

すると目の前を横切るように移動する小さな生き物の存在に気付いた。

 

「・・ヤドカリ?ていうか息し辛い、定春ごめんどいて・・。」

 

その言葉でようやく定春は上からどき、解放された竹仁は立ち上がって砂を掃う。

そして胡坐をかき、様々な色に輝く半透明な貝を持つヤドカリを定春と一緒に観察する。

 

「綺麗だね。」

 

「ワン。」

 

「・・・・。」

 

ササ、サササ、と砂の上を移動する小さなヤドカリ。

それを死んだ目で竹仁は見つめる。

 

1匹、また1匹とせわしなくヤドカリ達は歩く。

 

「・・ワウ?」

 

地面の方を向いたまま動かない竹仁の様子を窺うように、定春が彼の頬を頬で撫でた。もふもふ。

 

我に返った竹仁は、ニコリと笑い両手で定春を撫で回す。

 

「ヤドカリさん美味しいのかなーって思ってさ。食べないけどね。」

 

「・・・貝殻拾いでもしよっか。定春用のネックレス作ってみたいし。」

 

「ワンッ!」

 

作ってみたいとは言ったものの、一体いくつの貝殻が必要となる事か。

個数的に無理ならば冠に変更しようと思いながら、竹仁は貝殻を拾い始めた。

 

 

 

 

 

 

「竹ちゃんさっきから何してるアルかー?」

 

神楽の声に、竹仁は意識を足元から外した。

 

「・・・あぁ、貝殻拾いだよ。定春のネックレス作ってみたくなってね。」

 

「えー、定春だけズルいアル。私のも作ってヨ!」

 

神楽だって女の子。それに、ちょうどアクセサリーや服に興味を持ち始めるお年頃だ。

 

「あはは、売り物みたいなのは作れないよ?いいの?」

 

「ウン!そもそもそーゆーお店に入った事無いアル!」

 

「あー・・そもそも知らないってやつね、いつか見に行く?」

 

「行きたいアル!」

 

神楽の青く、大きな目が輝く。

こういう目は苦手だなぁ、と竹仁は足元の貝殻に視線を落とし、拾った。

 

「そんじゃ、依頼とか用事とか無い日にね。」

 

「じゃあ明日行こうヨ。依頼なんて多分、っていうか絶対来ないアル。」

 

「そうだね、じゃあ明日。もし依頼が来たらあの2人に任せればいいだろーし。」

 

そこで、もしもの時に依頼を丸投げする2人、銀時と新八がいたはずの海の家辺りを見やるが、長谷川の姿しかない。

 

「・・・あぁ、海か。・・でもさ、えいりあん出たらアレで対処できると思う?」

 

浮き輪でプカプカ海の上を漂う銀時に、クロールで泳ぐ新八。

あと何故か木でできた十字架に磔にされているおじさん、は何となく無視。

 

とにかく、人間だと海の上では動きが制限されてしまう。

逃げる事はおろかえいりあん退治なんて更に難しくなるだろう。

 

「大丈夫ヨ、皆が対処出来なかったら私がどうにかするアル。」

 

海水浴は出来ないだろうしどうするのか。気になって神楽の方を見た竹仁。

視線の先の神楽は、大人が複数いなければ運べなさそうな大岩を軽々と持ち上げていた。

 

これを食らえば、如何なるえいりあんでもただでは済まない。

 

「・・・うん、それだとアイツら巻き込まれるかもしれないけどね。」

 

ちょっとでもコントロールミスがあってはならない。

それに、この大岩が引き起こす水しぶきでも人間が溺れるには十分な威力になる。

 

「私を信じるネ!ヘマの3つや4つ、するわけ無いアル!」

 

「1つや2つもしちゃいけませんよ神楽さん・・・。」

 

「そこはあれヨ、誰にでも失敗はあるって事でヨロシクするアル。」

 

「誰にヨロシクするのさ。地獄の閻魔とか?」

 

誰にでも失敗はある、だから罪なんてありません!

そんな言い分が通じる世界があるなら1回滅べばいいと竹仁は思った。

 

 

 

「オイぃ!2人とも逃げろォ!!」

 

長谷川の突然の大声に驚き、そちらを見てから竹仁は海を見た。

 

銀時と新八の後方に、サメのヒレらしきものが。

 

「・・あららー。」

 

「後ろ!!志村後ろォォ!!」

 

そして、ヒレだけ見えていたえいりあんがジャンプし、海面から姿を現した。

磔になっているおじさんを丸太ごと口に咥えながら。

 

「えいりあんやって来ちゃった。あーあー。」

 

「食べ応えありそうな見た目アルな。」

 

「神楽、あんなの食べちゃダメですよー。」

 

呑気に会話しながら、竹仁はえいりあん退治用に袋に入れて持ってきたライフル型麻酔銃を取り出す。

麻酔弾を装填して準備完了レッツ射撃タイム。

 

「麻酔銃で撃つから、その後はお任せしますよ神楽さん。」

 

麻酔で動きが鈍ったら、神楽の投げる大岩であの世へ行ってらっしゃい。

雑な作戦だが今のところこれしか思いつかない。

 

「オウ、粉々の木っ端微塵にしてやるアル!!」

 

1度置いた大岩を再び持ち上げる。

 

その隣で竹仁はえいりあんに照準を合わせ、トリガーを引いた。

パァン、麻酔弾が発射され、目視では確認できないが竹仁は当たったと感じた。

 

事実、少し動きが鈍っている。

 

「よーし神楽ー、やってしまえー。」

 

「ダメー!!お嬢ちゃんそれは投げちゃ」

 

「ウォオオオオッ!!」

 

「あああああ投げたぁあああああ!!」

 

長谷川の止める声なんて聞こえませんとばかりに、神楽は大岩をぶん投げた。

 

ゴシャッ...。

 

飛んで行った大岩は鈍い音をたて、えいりあんがいた辺りで砕け散った。

 

えいりあんの生死は、海へと沈んでしまい確認できない。

そして、食べられそうになっていたおじさんの生死も確認できない。

 

生死が確認できるのは陸に向かって泳いでいる銀時と新八だけ。

 

「・・・ご冥福を祈りまーす。うん、」

 

ぺち、と手を合わせて目を閉じおじさんの冥福を雑に祈った。

 

ザパッ。

 

「あ。」

 

「?」

 

水の音と、神楽の声。

目を開けた先には、海から姿を現したえいりあん。

 

だが、彼は焦らない。魚類はえら呼吸だってどっかの本かテレビで見たような気がしたから。

 

(あれ、えいりあんに魚類とかあるのかな。)

 

彼が何をどう疑問に思おうが、えいりあんはお構い無しにこちらへと泳いでくる。

 

けれどえいりあんは襲い掛かるなどせずに浅瀬の手前で動きを止め、ペッ、と何かを吐き出した。

 

それは食べられて死んだ、と思っていたおじさんだった。

 

「生臭っ、おえ。」

 

全身が生臭いおじさんを吐き出したえいりあんは、ゆっくりと方向転換をして海へ帰っていく。

 

「・・・あれー?まさかの敵意元からナシってやつ?」

 

「うー、お魚食べたかったアル・・・。」

 

「いや、だから食べちゃダメだって・・・。」

 

お腹が空いても消費期限が過ぎてる物とか、知らないキノコなどは食べない方が良い。

 

(お腹は満たせても、食べた後が辛いからなー・・・。)

 

経験則。





という事で、次回は神楽、定春とお出掛けする話になります。




どうしよう・・・。


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MはマダオのM

 

 

万事屋の玄関をガラガラと開け、竹仁は一応、一応自身の職場に出勤。

出勤しても、今日は仕事もせずにすぐに出掛けてしまうが。

 

靴を脱いで居間に行こうと廊下を歩けば、寝起きらしくまだ眠そうな様子の神楽とすれ違う。

 

「おはよう神楽。」

 

「おはよーアル・・。」

 

そうして居間に来れば、来たばかりの新八がこちらを振り返る。

 

「おはよう新八。」

 

「おはようござ、・・。あの、その猫どうしたんですか。」

 

新八の視線の先には、竹仁に抱きかかえられている1匹の白猫。

玄関開けてからここに来るまでずっと抱きかかえていた、白くてちょっとふくよかな猫。

 

「近所の猫をちょっと拝借してきた。」

 

「返してらっしゃい。」

 

当然だが即返却願い。万事屋にこれ以上ペットが増えるのはいささかよろしくないという事だ。金銭的に。

 

しかし、それに対する竹仁の返事は拒否ではなく。

 

「返すよ。任務達成したら。」

 

拒否ではないものの、後半の意味が新八には良く分からなかった。

 

「任務、って何するつもりですか。」

 

その疑問には答えず、竹仁はしー、と口元に人差し指をあてた。

 

すると、銀時が寝ている部屋の前まで静かに移動し、襖にそうっと手をかけた。

そしてゆっくり、音をたてないように開け、部屋の中へと進入する。勿論気配を殺して。

 

足音もなるべく立てないようにしてゆっくり銀時の傍まで歩み寄り、竹仁は猫を両手ではさむように持った。

 

そして。寝ている銀時の顔面に、猫ちゃんのお腹が来るようにセットすれば。

 

「任務完了。」

 

「どこが!?銀さんの顔面に猫置いただけじゃねーか!!」

 

「ふっふっふ、見てみなよ。」

 

指を差された銀時の方を、新八が再度見ると。

銀時は布団の上で足をバタバタさせ、猫を引き剥がそうともがいていた。

 

「ちょ、え?猫になんかしたんですか?」

 

「してないよ?空丸はくっついたら剥がれないってだけで。」

 

「なんですかソレ!」

 

急いで新八が猫の空丸を引き剥がそうと引っ張るが、まるで離れない。

 

「あ、爪食い込むから引っ張んない方が良いよ。」

 

「じゃあどうやって取るんですかこの猫!」

 

「はははは、うん、楽しかったしもう取るよ。」

 

言い終わり、竹仁は銀時の顔面にしがみついている空丸を再び両手で掴んだ。

 

「もういいよ空丸。」

 

そうして彼が空丸を持ち上げれば、いとも簡単に銀時の顔面から離れた。

 

「ぶっは!、てっめ、コノヤロォオ!!」

 

腕を振り上げ向かってきた銀時に対し、竹仁は殴られないように数歩後退する。

 

「行け空丸。」

 

そして、直前で竹仁が銀時に向かって空丸をぽいっと投げれば、再び彼の顔面にくっついて。

 

「よっしゃ。」

 

「よっしゃじゃねーよもうやめろや!!神楽ちゃんもう準備出来てますよ!!」

 

苦しむ銀時を放って開いた襖の先に目をやれば、呆れた様子で立っている神楽。

 

「遊んでねーでさっさとしろヨ。」

 

「あぁごめんごめん。空丸ー、帰ってこーい。」

 

「にゃあん。」

 

一鳴きした空丸は銀時の顔面から離れて床に降り、しゃがんだ竹仁の腕の中へと戻った。

一方空丸に2回も引っ付かれた銀時は、ぜえぜえと苦しそうに息をしている。

 

「お前、・・マジ、1回死んでくれや・・・。」

 

「だったら頑張って殺してねー。」

 

死ねと言われて死んであげる程、竹仁は優しくない。死んでほしいなら殺しに来てください。

 

ひら、と手を振って銀時に背を向けた竹仁は、何かを思い出したようにウエストバッグに手を入れた。

 

「神楽、コレ昨日言ってたやつ。はいプレゼント。」

 

手を入れたウエストバッグからネックレスを取り出し、神楽に手渡す。

 

金のチェーンに、その半分ほどの長さでパールとシェル型の貝を交互に付けたネックレス。

そして、真ん中の貝に垂直に通した細いリングには、オパールと貝殻がぶら下がっている。

 

「ウオォ。何か綺麗アル!」

 

「すごいですね、・・っていうかコレ、本物ですか?」

 

新八が聞いたのは、パールやオパールの事だ。

まさか本物を使う訳、とは思っているが本物のような見た目をしているから分からない。

 

「さあ。家にあるヤツ適当に使ったから分かんない。」

 

首を傾げてみせた竹仁に、新八は呆れてしまった。

自分の家にある物なのに分かんないのか、とかまさか人の物勝手に拝借してんじゃないか、とか。

 

「使って大丈夫なんですかソレ・・・。」

 

「いーのいーの。誰かに怒られるわけでもないし。」

 

「窃盗罪で通報しといていいか。」

 

「お前は給料未払いで通報しとくわ。」

 

先程まで空丸の窒息攻撃で苦しい思いをしていた銀時は、どうにか復活したらしい。

顔中空丸の毛が付いており、爪が食い込んだ痕も血と共に付いている。

 

「あはは、痛そう。」

 

銀時は竹仁を睨み舌打ちをしたが、何も言わず洗面所へと歩いていった。

 

すると、その後にゆっくり近づいてきた定春が竹仁の顔をベロリと舐めた。

 

「・・・うん、定春のはもう少しね。それに自分の大きさ理解した方が良いよ。」

 

「何で言いたい事分かるんですか・・・。」

 

「何となく?」

 

「ねー、後ろ、これ。付け方分からないアル。」

 

困った様子の神楽の代わりに金具をとめる為、竹仁はネックレスの両端を受け取る。

 

「うん、見ずにってのは難しいよコレ。はい、できた。」

 

「ヤッタァ!なぁ、どうアルか?」

 

「・・似合うか、って意味だと、洋服の方が良さそう?」

 

例えば、白のワンピースとか。

服との組み合わせは良く考えずに作っちゃったな、と竹仁は少し頭を傾げた。

 

「あぁ。確かにそうですね。」

 

「なんだヨー。」

 

「ごめんよ。もしまた作る時は服に合うようにするから。」

 

ふぁっしょんって難しいんだな、と竹仁は知った。

 

「さ、そろそろ出掛けよっか?」

 

「そうアル、早く行こうヨ。」

 

「ワンッ。」

 

神楽と定春の返事にニコリと笑い、竹仁は定春をモフりながら玄関まで歩く。

 

玄関で靴を履いた後に扉を開けたら、元気に行ってきますの挨拶。

 

「ちゃんといい子にしてるんですよー新八ー、銀時くーん。」

 

「うぜーよさっさと行ってこい!!」

 

「あはは、行ってらっしゃい。」

 

銀時に怒鳴られ新八に見送られ、彼らは万事屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

万事屋を後にし、お店に行く前にまず拝借してきた空丸を返却しにきた2人と1匹。

具体的に空丸を拝借したのは1人だけだが、通り道に返却場所があるのでついでにという形だ。

 

「よいしょっと。」

 

定位置である塀の上に大人しい空丸を置く。

空丸は、いつもこの場所で通る人を眺めている。多分ボーッとしているだけだが。

 

竹仁が塀の上に座る空丸に向かってまたねと手を振る。

すると、挨拶し返すかのように空丸はにゃぉんと鳴いた。

 

抱っこしたい気持ちを押さえ、空丸に背を向けて2人と1匹は再び歩き出す。

 

「・・やっぱ、こっちの言葉分かってんのかなぁ。」

 

「定春だって分かってるアル。きっとその子も分かってるヨ。」

 

「ワンッ!」

 

「うーん・・、半分窒息させて殺す、とか言っちゃってたけど大丈夫かな。成長に悪影響が出そう。」

 

「大丈夫アル。ちょっと鬼畜に成長するだけネ。」

 

「それはやだなぁ。誰彼構わず襲い掛かるギャング猫になったらどうしよう。」

 

顔に傷をこさえ、銃片手にタバコを吸う空丸。

流石に愛嬌は無い。ハードボイルドなかっこよさはそこらの猫より大アリだが。

 

「それは責任取って飼うしかないアル。」

 

「毎日血だらけになりそうでこえーな。別にいいけどさ。」

 

「いいのかヨ。」

 

そんな希少種がいるなら大歓迎である。

しかし一日中家にいる日がそんなに無いので、飼いたくても生き物を飼う事はしない。

 

そうしてボーッと考え事をし、町並みをボーッと見ながら、ボーッと歩いていると。

 

「・・うわ。」

 

「ボーッとしてたくせに急にどうしたネ。」

 

ボーッと歩いていたかと思えば見たくない物を見た時のような声を出し歩を緩めた彼に、神楽は怪訝そうな顔を向ける。

 

「うん、神楽、定春に乗ってくれる?」

 

「?何かあったアルか。」

 

急にどうしたのかを疑問に思いながらも、神楽は定春に乗る。

 

「アレだよ、あの黒いの。」

 

黒いの。定春に乗ったまま竹仁の視線を追いかけ、黒いものを探せばすぐに何の事か理解する。

黒い隊服の真選組所属である土方ともう1人、名を知らぬ隊士が、巡回だろう、前方を歩いていた。

 

「チンピラ警察じゃねーかヨ。あれがどーかしたアルか?」

 

ちょっとね、と言いながら、竹仁も定春に乗る。

 

「じゃあ定春、左の奴を軽く轢き逃げしてください。後でちょっと高いドッグフード買うから。」

 

「ワンッ。」

 

定春は少し嬉しそうに鳴き、無邪気に走り出した。

ドドドド、獣が道を駆ける重い音を鳴らしながら、土方目掛けて。

 

その地鳴りのような音に、何の音だと振り向いた彼を前足で踏みつけ、竹仁と神楽を乗せた定春はそのまま走り去っていく。

 

「副長ォォオ!?」

 

隣にいた隊士の叫び声が、辺りにこだまする。

しかし、犯人が止まる事は無い。轢き逃げなので。

 

「あははは。定春ー、その角右に曲がって着物屋の隣ねー。」

 

「ワンッ!」

 

「うさは晴れたアルか?」

 

ただの悪戯にしては、少し暴力的。銀時相手ならまだしも、土方相手に。

 

十中八九、あの祭りの後の事だろうと神楽は思ったのだ。

 

滅茶苦茶疑ってきやがってあの野郎タバコくせーしやっぱ警察嫌いだわ1回滅びろ、などなど竹仁がソファの上で三角座りをしながら愚痴っていた事を覚えているから。

 

「あっはは、晴れた晴れた。残ってた飛行機雲が消えた気分だよ。」

 

「小さすぎダロ。」

 

その程度のうさで轢き逃げしているのだから、でかい雨雲にでもなったら建物1つ爆破しそうだと神楽は思った。

しかし、この男がそこまでうさを溜め込む事などあり得なさそうだ、とも思いながら、神楽は視界の端に見える膝を引っ叩いた。

 

 

 

 

 

 

土方を轢き逃げした道を右に曲がった、着物屋の隣。

全面ではないがほとんどガラス張りの、洋風なお店がそこには鎮座していた。

 

「おー・・・。スゴイ。何かいっぱいあるヨ!」

 

「そりゃ、一応ちゃんとした?お店だからね。」

 

ちゃんとした、と言っても高級店ではない。しかし、品数があり、ちょうどよいお店だ。

正面の自動ドアから、2人は定春も一緒に店内へと入る。

 

そして、キョロキョロと店内を見回していた神楽は、入って左側にあるイヤリングやピアスの場所に行って眺めたり手に取ったり。

 

「・・ねーねー、ピアスとイヤリングって何が違うアルか?」

 

「ん、ピアスは耳に穴を開けて付けるんだよ。他にも鼻とか舌とか。で、イヤリングは開けないやつ。」

 

「あ、穴開けるって、ドリルとか使うアルか。」

 

「それじゃ耳大変な事になるぞ。・・ちゃんと開ける用の道具あるから。」

 

「これで耳たぶ挟んでバチッ、っとやってハイ出来上がり。」

 

「何でわざわざ耳に穴開けたりするネ。作った奴ドMだったアルか?」

 

「そういうものだって認識しとけばいいよ。あと作った奴がドMかは気にしなくていいよ。」

 

ピアスを誕生させた人間が、耳に穴をあけられて喜ぶMだろうが人の耳に穴開けて喜ぶSだろうが今を生きる自分達にはどうでもいい事だ。

 

しかし神楽は作った奴がドMかもしれない事を気にしているのか、それとも耳に穴を開ける事を気にしているのか、ピアスよりもイヤリングを見ている時間の方が遥かに長かった。

多分、作った奴の性癖なんて気にしてないだろうけど。

 

ひとしきり見終わったのかいつの間にか神楽はその隣へと移動しており、定春に埋もれていた竹仁は後を追うようにコーナーの近くへ。

 

すると、商品を手に持った神楽がこれはなにアルか、と竹仁に尋ねる。

 

「あぁ。それはチョーカーだよ。首に巻いて付けるやつ。」

 

「へぇー、要するに首輪って事アルか?」

 

「うん、まあ。そうなんだけど。・・首輪って言っちゃうとさ、道徳とか倫理的に問題アリじゃん?」

 

人間が付ける、となると奴隷だとか、悪い意味が連想されてしまう恐れがあるので。

 

「あとドMに見られるヨ絶対。」

 

「確かにそうだね、つかさっきもMの話したよね。なに、アクセサリーってM要素満載?」

 

「そうヨ、多分これだって首輪つけられて喜ぶドMが作ったアル。」

 

首輪しながら、アレ?これアクセサリーになるんじゃね?俺イケてね?とか言ってたというのだろうか。

 

「何かやだな、興奮しながら発明したって事だろ?」

 

「ウン、あとネックレスは首吊ってるマダオが元ネ。」

 

「M限界突破してんじゃん生死彷徨っちゃってんじゃん。」

 

「・・ていうか、アクセサリーはオシャレ用だからね?どんな経緯で作られてよーがオシャレ用だからね?」

 

最初のネックレスがどれほどマダオの怨念が籠められてようが、他のネックレスに関係は無い。

 

「でも呪いの剣みたいに呪われたアクセサリーがあるかもしれないアル。」

 

「呪われた物が市販されてるってどういう事?てか余計な事考えないで適当に好みの物とか、似合いそうなのとか探してみなよ。」

 

そう言われ、神楽はチョーカーを首元にあてたり、指輪をはめてみたりするが、どれも反応はいまいち。

そして、たくさん吊り下げられているイヤリングを眺めていた神楽は、うーんと唸ってから、竹仁の方を向いた。

 

「自分じゃ似合うのとか、よく分からないアル。なんか適当に選んでヨ。」

 

「えー・・・。神楽に似合うやつ?」

 

指輪、ペンダント、イヤリング、などなど竹仁は、アクセサリーをつけた神楽の姿を想像してみる。

 

「うーん。・・神楽って元気いっぱいなイメージだし。髪飾りとかなら・・・。」

 

神楽はまだ14歳。顔も、大人っぽさはほとんど感じられない。

だから、アクセサリーを付けるにはまだ早いかもしれない。ピン止めやバレッタなどの髪飾りならば似合いそうだが。

 

「ぶー。ガキだって言いたいアルか。」

 

「そんな悪く言ってないって。ほら、彼氏とSMぷれいするような歳になったらまた考えてみなよ。」

 

「SMぷれいするようになったら大人アルか。」

 

「いや、彼氏作るような歳になったら、って意味だから。」

 

SMぷれいはただの冗談。

MとかMADAOの話をしていたせいか、何となく思いついたので言っただけ。

 

なのにこの子、やる気である。

 

「よおし、頑張って習得するアル!」

 

「あのね神楽、そーゆーのはもうちょっと大人に」

 

なってからにしようか。

 

その言葉が音になる事は無かった。

突然体が浮いて、視界がブレて。

 

気付いた時には。

 

ドガッシャァアン!!

 

主に背中の痛みを感じながら、店の天井を見上げていた。

 

「やったー!キレイに決まったアル!!」

 

そして神楽はガッツポーズ。

投げ技が決まって嬉しそうだ。

 

「・・・SMどころかただの殺人ゲームじゃねーか・・・。」

 

このまま何も知らずに成長したら。

彼氏は夜兎族でない限り身が持たないだろう。SMぷれいをする気なら。

 

まだ知らぬ神楽の未来の彼氏に、竹仁は心の中で合掌した。

 

 

 



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顔をつっこむのは段ボールだけにしましょう



_(:3 」∠ )_ ちーん


夏。

夏と言えば、怪談。という人は少なくない。むしろ多いのではないだろうか。

 

 

・・怖いもの見たさ、という言葉も良く言ったものだと思う。

人はダメだと抑えつけられるほど見たくなってしまうのだ。

それで廃墟に行ったりして憑りつかれ、取り返しがつかなくなって結局は霊媒師だのなんだのに頼る羽目となる。

 

 

自業自得。と言うのかもしれないが、本人達にとっては本当に困っている事。

 

だから、その心を利用するというのは。多分よろしくないんじゃないかなーと、竹仁は首を傾げた。

霊を祓える力があるなら良いのだ。しかし、自分達にそんな力はない。

 

なのに、霊媒関係の仕事したら受けるんじゃないかって。

そう言い出すあたりこの上司は周りをよく見ているというか狡賢いというか。

 

「祓えもしないのにやんの?・・それともアレか?お前に憑りつかせればいいのか?」

 

顔を上げないまま、竹仁は読んでいる本のページをペロリとめくる。

 

「あのなぁ、幽霊なんざいるわけねーだろ。ちょちょっとそれらしくやりゃどうにでもなるんだって。」

 

いるわけねぇ、と言うがその類がかなり苦手だという事を竹仁は理解している。

本人がこの先ずっと認めようとしないであろう事も。

 

「うーん・・まぁ、確かにオバケ退治ってこの時期受けそうですし。いいかもしれませんね。」

 

「そーだねぇ。でも詐欺行為に該当するよね?やるのは別にいいけどさ。」

 

真面目な少年だと思っていた新八ですらこの話に乗ってしまっている。

意外とただの常識人という訳ではない。のだろう。多分、良い意味で。

 

「大丈夫ネ、変装すれば誰も私達だなんて分からないアル。」

 

「そーだねぇ。でも俺が気にしてんのはそこじゃないんだよね?別にいいけどさ。」

 

「そうと決まりゃさっさと支度だ!早くしろよー。」

 

「そーだねぇ。だけどもしバレたら全責任をお前になすりつけて宇宙に捨てる。これは決定事項ね。」

 

バ〇バインで増えたくりまんじゅうよろしく宇宙へ。

だが、もしもの話である。正体がバレなければいいだけ。

 

「バレたら宇宙廃棄決定かよ。つか行く気ねーなら大人しくお留守番してろ。」

 

ソファに座ったまま本から視線を動かさない竹仁に、銀時は呆れた様子だ。

 

「そ・・・、いや、行くよ。・・ちょっと待って、今犯人が愛人のベイリニアか後妻のアンヴェリーか友人のアレイスターか弟のガロンか推理してんだから・・・・。」

 

「犯人候補多すぎだろ。」

 

「うん、最初の8ページじゃ流石に分かんねっす。」

 

「はいはい黙って留守番してろ。」

 

「・・・。」

 

頭の中で銀時をお空のお星さまにしつつ今読んでいるページの番号を覚え、竹仁は仕方なく本を閉じた。

 

「・・・銀時は宇宙の塵となったのだ。」

「お前が塵になれ。」

 

ガン、と銀時は彼の脛を蹴りつけるが、彼は笑って蹴られた場所をさする。

もし本気で蹴られていたら、・・まあ笑ってはいられないだろう。

 

「わー痛い痛い。・・・で?誰だか分かんないようにすりゃいいんだよね?」

 

「ウン、特に顔隠すもんはちゃんとしろヨ!」

 

「あー、そっか。うん、適当に探してみるよ。」

 

バラクラバやガスマスクといった、如何にも危ない人です感を出すようなものは避けつつ、顔を隠せる物。

 

 

・・確か、いつかのお祭りで買った・・・

 

(・・ひょっとこの・・・、・・・。・・・狐の方が良いか。)

 

 

 

 

 

 

竹仁は、変装のために黒と青の中華服に紺の羽織、狐の面を選んだ。

そして、他の者達の変装がどんな事になっているか楽しみにしながら、彼は万事屋の玄関を開けた。

 

そして紺の羽織と狐の面をつけてから、皆がいるであろう居間へと向かう。

 

すると、こちらに背を向けて立っていた一番背の高い男が目に入ったので、迷わず短刀の切っ先を突きつける。

 

「金を出せ。」

 

「わりーな。出す金がねーや。」

 

「うん。そういえばお前、強盗に対して最強の種族だったわ。」

 

大体奪っても意味がないような金額しか持ってないからだ。

面の下で憐れむような顔をし、突きつけていた短刀を鞘にしまう。

 

振り向いた面々に、竹仁は笑った。

 

銀時は、包帯ぐるぐる巻き。

 

神楽は帽子を被りサングラスをかけている。髪は包帯ぐるぐる巻きの銀時ほど隠れていないが、服や帽子が上手く合わさっておりあまり気にならない。

 

そして新八は尼僧の格好に鼻メガネという、普段の平凡さを打ち消す変装。

 

全員の変装は上手くいっている。いっているのだが。

 

「怪しさの含有量が多い気がする。」

 

「霊だの何だのを仕事にすんだ、怪しくてなんぼだろ。」

 

「そーいうもん?」

 

だからといって、やると決めたのだから今更あーだこーだ言うつもりはない。

銀時の言う通り、ちょちょっとそれらしく振舞う。それだけで仕事が完了するのだ。

 

(うーん・・・、罪悪感か?コレ。・・まぁいいや。よく分かんねーしほっとけ。)

 

さぁ仕事だ仕事。・・詐欺だけど。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

お祓いなどなど承ります、と触れ込みながら歩いて回るが、一向に依頼人は現れない。

 

仕方ないと言えば仕方ないが、万事屋を出てからそろそろ1時間が経つ。

暑いなー帰って冷蔵庫に顔つっこみながらクリスマスソングでも歌いたい気分だなーとちょっと憂鬱になりながら、竹仁は仕方なくテコテコと歩く。

 

「・・あ、あの~・・・。」

 

「・・はい?」

 

仕方が無いので、冷蔵庫に頭をつっこめない代わりにクリスマスソングを頭の中で演奏していた竹仁だったが、横から控えめなトーンで声を掛けられた。

 

それは見間違えるはずもない、あの真っ黒な真選組の隊服。そして、名前も一応知っている人間。

真選組監察の、山崎退。

 

(あ~、え~。え?職質・・・、ならいいけど・・・バレた訳じゃないよな。)

 

心が若干重くなるが、竹仁は山崎の次の動きや言動に警戒した。

しかし次に山崎の口から出てきた言葉で、その警戒は霧散する事となる。

 

「・・拝み屋って聞いたんですが・・・お祓いをお願いしても?」

 

「・・あぁ。ハイ。構いませんよ。うん。えぇ、場所は?あー、屋根裏部屋ですね?」

 

警戒が失せた反動で言動が怪しくなっているが、山崎はあまり気にした様子ではない。

 

「いや、屋根裏部屋っていうか・・真選組の屯所全体、を見てもらいたいんですけど。」

 

「あー、はい。はいはい。うん、分かりました。早速拝見するとしましょう。」

 

「ありがとうございます。・・あの、あまりこの事は言いふらしたりしないでいただきたいんですけど。」

 

「・・・あぁ。ハイ。大丈夫ですよ。」

 

最初の依頼人が、真選組。

バレたらバラされる。・・事は無いだろうけれど面倒臭い事になるのは確か。

 

・・頭の中のキレイな冬景色が、一気にブリザード景色へと変わった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

山崎の後につき、真選組の屯所へとやってきた万事屋一行。

 

「局長!連れてきました。」

 

「オウ山崎、ご苦労!」

 

「街で捜してきました、拝み屋です。」

 

「どうも。」

 

挨拶をしたところで部屋から顔をのぞかせたのは、竹仁が一番面倒臭いと思っている、土方。

勿論彼ら全員、土方から疑いの目を向けられた。

 

「何だこいつらは・・・、サーカスでもやるのか?」

 

「やるなら火の輪くぐりがしたいですね。」

 

「え?」

 

「冗談です。」

 

ペコリと小さく頭を下げる。

ここで下手に追及されたりしたら・・困る。とにかく困る。

 

「・・あらっ、お兄さん背中に・・・」

 

「なんだよ・・・背中になんだよ。」

 

銀時と神楽が、ごにょごにょと話をし出す。

竹仁は混ぜてほしいなぁなんて思うが、表には出さない。

 

「ププッ、ありゃもうダメだな。」

「死期が視えてますね。ご愁傷さまでした。」

 

土方を揶揄う目の前の2人に便乗し、竹仁はウソの死期を宣告する。

 

「なにコイツら、斬ってイイ?斬ってイイ!?」

 

初対面とはいえ胡散臭い連中にこんなに言われたら、それは斬りたくもなるだろう。

正体が知られた状態だったら既に斬られているが。

 

「先生なんとかなりませんかね?このままじゃ恐くて一人で厠にも行けんのですよ。」

 

「任せるネゴリラ。」

 

「アレ、今ゴリラって言った?ゴリラって言ったよね?」

 

「言いましたね。」

 

「え、否定しないんだ?」

 

若干傷付いた様子の近藤を無視し、彼らは依頼を終わらせるためにまずは屯所の中を見て回る事に。

 

 

その途中、竹仁は当然単独行動へと移り、調査という名の物色紛いの行為をした。

盗んではいないのだが、戸棚に何が入っているかゴソゴソ調べたり、机の上の物をガサガサ調べたり。

 

(まぁ屯所だし。そこまで面白そーなものはないよなー。)

 

自宅ならともかく、仕事場に不必要なものを持ち込みまくる人はそういない。

真選組のような組織は尚更。

 

(あ、でもマヨネーズ・・・。)

 

物色途中に見つけた、大量のマヨネーズ。

見つけた時、彼は笑いそうになった。

 

1本2本どころの話ではなかったため、どれ程のマヨ好きなのだろうかと。

あんなに摂取したらカロリーの管理が大変そうだなと思いながら、彼は廊下を歩く。

 

そして角を曲がると、厠に入る人の足が視界の端に見え、扉はゆっくりと閉まった。

 

人が入った厠から目を離すと、壁に止まった虫、植えられた樹、障子。変哲のない景色が見える。

 

しかし一番目につきそうなものが、先程出会った者達以外全く見当たらない。

 

 

そう、数十人は軽くいるであろう隊士達だ。

全員仕事でいない、というのは局長、副長、一番隊隊長がいるため無い。

 

 

(・・・お祓いの依頼だし。・・・・いやぁまさか、ハハハ。)

 

まさか。幽霊が怖くて、祓うまでは臨時休業にします。

 

・・あるわけないない、と思考を振り払うように竹仁は人の気配がたくさんする部屋の障子を開けた。

 

障子を閉じた。

 

(・・・・。)

 

再び障子を開け、部屋の中を確認する。

中には布団が並べられており、男達がそれぞれ横になっていた。

 

(・・ああ~・・・、お昼寝タイムか。休憩は大事だからねーうんうん。よかったよかった。真選組が意外と優しい場所で安心したよ俺は。あははははは・・)

 

(・・違うよねぇー。大体の奴お昼寝の顔じゃなかったし・・・。)

 

同時刻に部屋にいる全員が悪夢を見て魘されるなんてどんな奇跡。

はぁ、と彼の口からは自然とため息が出た。臨時休業などではなく。幽霊が怖くて寝込んでます。

 

「・・・う~ん・・・。」

 

(幽霊とかものともしない人達ばっかだと思ってたけど・・。)

 

意外と怖がりが多いんだな、と思いながら竹仁は魘されている隊士の1人に近づき、肩を軽く揺すった。

しかしその隊士は布団の中で魘されたまま、返事をする様子がない。

 

「・・おーいー。おーきてー。」

 

もう1度揺するが、唸るだけでやはり起きない。

 

「・・ぅ、ぐ・・」

 

「・・おーい。おきなきゃころすぞー。」

 

ドスッ。

顔の横に短刀を叩きつけても、その上軽い殺気を叩きつけても起きない。

 

「・・チッ。いーやめんどくせ・・・。」

 

起こすのは諦め、竹仁は短刀をしまいつつ立ち上がる。

詳しい事情を聞く事が出来たとしても、お祓いなぞ出来ない自分達にはどうもできない。

 

そう割り切ってから、竹仁は部屋を後にした。

廊下に出て人気の全く無い周囲を見渡してから、そろそろ合流しなきゃ、と歩き出す。

 

 

すると、角から土方が姿を現した。

 

 

彼は廊下に立つ竹仁の存在に気づいたらしく、足を止める。そして面をつけた男をジロリと睨んだ。

 

それが疑いの目ならば、特に問題はなかった。この格好を怪しまない人間ではないと分かっているから。

しかしこの目は。少なからず殺意が籠っている。

 

ぶっ殺す、という程ではなくとも、よーしサクッと()るから首を出せ、ぐらいの。

 

 

・・・・もしかしなくても。

 

 

 

「バレてる?」

 

「分かってんなら話は早ぇ。ここで叩っ斬られるか捕まるか選べ。」

 

「ん?落差すごくない?死ぬか生きるかじゃん?デッドオアアライブじゃん?」

 

「分かった前者だな。覚悟しろ。」

 

「いやっ、俺答え出してないよね!ぎゃー殺される!!」

 

土方の目の前から横庭へと逃げ、屯所の屋根へと飛び乗る。靴下が汚れるなど気にしてる場合ではない。

 

「降りてこいテメェ!!轢いた分お返ししてやらァ!!」

 

「あっ主にそれね!だよね!詐欺程度で人斬る訳無いもんね!!」

 

何日か前、確かに轢いた。定春に乗って、彼は確かに土方を轢いた。

あの時隣にいた隊士は無傷のため、彼らを覚えていたのだろう。

 

「たりめーだ!浪士はともかくテメーらみてーなヘンテコ詐欺師まで斬ってられるかってんだ!!」

 

「でも俺は斬るつもりなんだよね!」

 

「あぁそうだな!」

 

「よーし逃げろッ!」

 

今いる場所から、反対方向へ。

靴下で瓦の上は移動し辛いがさっさと銀時達を連れて帰らなければ・・・

 

(・・・いや待て。何でバレ・・・、)

 

 

・・そこで彼は気付いた。

 

最初に会ってから今の今まで、土方とは会話もしていないし顔も合わせていない。

その時バレた様子は無い。

 

(・・・あ~。あーーー。)

 

その原因は、庭にある大きな木に吊るされていた。ぐるぐる巻きで。

 

 

その場で1回屈伸し、まずは銀時を惨殺救出するべく短刀を取り出す。

 

そして、銀時を吊るす縄めがけて短刀をぶん投げて切り落とし、自身は屋根の上から大きな岩の上へと飛び降りる。

縄を切断された銀時だが、逆さまの状態で自分を支える縄が切れればそのまま重力に従うわけで。

 

ゴスッと鈍い音をたて、重力に従った銀時は頭から地面へと落っこちた。

 

「―ッテメェ!!首折れたらどうしてくれんだ!!」

 

「折れてないからセーフで。」

 

「折れる寸前だわアホ!!・・ってか取れねえ!結び目取りやがれ!」

 

痛みと竹仁に対する怒りでバタバタと銀時は暴れるが、頑丈に結ばれているせいか縄が解ける気配は無い。

 

「ねー沖田君、あの長い芋虫駆除しといてくれない?」

 

「へい。」

 

竹仁の駆除依頼に、沖田は普段通りのテンションで刀を抜く。

するとその時、竹仁を追ってきた土方が刀を持った状態で現れた。

 

「へい、じゃねーよ総悟!ソイツも捕まえろってんだ!!」

 

「その前に元凶捕まえに行ってきなって副長さん。」

 

そう言って竹仁は言葉を詰まらせた土方を無視し、吊るされている神楽の肩を右手で支える。

そうして縄をブツリと切れば、肩を支えている分銀時の場合とは違い、神楽は頭からではなく足から着地。

 

「、っと。」

 

そして縄の結び目も切ってぐるぐるとほどけば、無事解放。

 

「なんかふらふらするアル・・・・。」

 

「逆さにされてたからねぇ・・、しばらく座って休んでた方が良いよ。まだだけど、新八もなー。」

 

新八も神楽の時と同じように支えながら縄を切断、ぐるぐるぐるぐるやっぱ巻き過ぎだろコレと思うほどぐるぐるしてから、解放。

 

「よし完了~。」

 

「じゃねーよ1人残ってんだろーが!!」

 

「えっ?どこ?」

 

驚いたように神楽を見、新八を見、適当にキョロキョロさせ残った1人なんてシリマセンという風に彼は銀時を揶揄う。

 

「ダメですぜィ兄貴、出発前の点呼はちゃんとしなきゃ。」

 

剣先で銀時をつっついていた沖田だったが、結び目に刀を引っかけてから少し横に動かして結び目を切断した。

 

「それもそうだね。・・・はーい新八くん、いちばーん。」

 

「ぃちばーん・・。」

 

木にもたれかかって休む新八が、ダルそうに答える。

律儀にも手を上げており、竹仁はもう少しで笑うところだった。

 

「・・神楽ちゃんにばーん。」

 

「オイ何で新八が1番で私が2番アルか。納得いかないアル。」

 

座ったまま神楽がぶーたれるが、彼は新八の方が年上だから1番にしただけである。諦めてもらうしかない。

 

「そこら辺は諦めてくださーい。はい銀時くんきゅうじゅうさんばーん。」

 

「あれ、従業員そんないたっけ?」

 

「なわけねーだろ!!万事屋に100人近くも入れるかってんだ!!」

 

本気で疑問に思っていたらしい近藤に対し苦笑しつつ、竹仁は上げていた手を下ろす。

 

「・・局長さんって意外とバカだよね。」

 

お妙に対しストーカーをし続けるとは並みの人間がする事ではないし、銀時との勝負をしても諦める事は無かった。その上点呼の偽番号を信じたのだから、竹仁はもう近藤の事を素直というか、単純バカというか。そういう部類の人間だと思っている。

 

「ソレひどくない!?」

 

「えー、相応の評価をしたまで」

 

と話の途中、竹仁の頬に一筋の傷が出来、付けていたお面の右端が一部無くなった。

その原因は土方の刀。頬をちょっぴりサクッとスッパリ斬ったのだ。

 

「・・死にたくねーならさっさと消えろ。てめーらのバカに付き合ってやるほどこっちは暇じゃねぇんだ。」

 

さっき殺すって言ってなかったっけ?という疑問は引っ込め、刀身をつんつんつつく。

 

「はっはっは、幽霊の怖さで隊士の多くが寝込むほどだもんねェ。今怖くて怖くて仕方ないんじゃないの?」

 

お面の口元に手を緩く当て、表情が見えない代わりに小馬鹿にしたような声を出す。

すると次の瞬間、頬の横にあった刀が向きを変えて垂直に下へと滑る。が、竹仁は体の向きを変えて刀を避けた。

 

「腕無くなっちゃうじゃん。幽霊怖いからって八つ当たりしないでよ副長さん。あははははは。」

 

「ププ、ほんとアル。トイレ一緒についてってあげようか?」

 

「武士を愚弄するかァァ!!・・トイレの前までお願いしますチャイナさんッ!!」

 

「お願いすんのかいィィ!!」

 

憤慨した後すぐさま頭を下げトイレまでの付き添いをお願いする辺り、そういったプライドはどこかに捨ててきたのだろうかと竹仁は思う。

 

「いやーさっきから我慢してたんだ。でも恐くてなァ。」

 

「ホラ行くヨー。」

 

(ちゃんと付き添うあたり優しいよねー。俺だったらついてく振りして置いてくのに。)

 

「オイィ!アンタそれでいいのか!?アンタの人生それでいいのか!?オイ!!・・・・・てめーら、頼むからこの事は他言しねーでくれ頭さげっから。」

 

「・・・なんか相当大変みたいですね。大丈夫なんですか?」

 

「情けねーよ。まさか幽霊騒ぎごときで隊がここまで乱れちまうたァ。」

 

「ははは、大変だねー。」

 

一気に半分以上の人間が寝込んでしまうのだから、それはそれは仕事への影響は多大なものだろう。

別に自分が所属している訳でも無いので、彼はそこまで大変だなーなんて思っていないが。

 

「相手に実体があるなら刀で何とでもするんだがな・・。無しと来ちゃあこっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねぇ。」

 

「え?何?おたく幽霊なんて信じてるの?・・痛い痛い痛い痛い痛いよ~お母さ~ん!ここに頭怪我した人がいるよ~!!」

 

「ほい来た。」

 

そう言って竹仁は土方に向かって素早く短刀を振りかざした。

 

「ほい来たじゃねェ!!殺す気かァア!!」

 

しかし短刀を振る速度はさほど早くないので、最初の一撃以外は本気では無い事が分かる。

最初の一撃だけ、竹仁はそれなりに力を込めていた。

 

「じっとしててよー。頭の怪我は早く直さなきゃ、ね?」

 

「いや字ィ!字違ェぞオイ!!」

 

「ダメですよ竹仁さん。逮捕されちゃうかもしれないでしょ。」

 

新八が竹仁の上着を掴み、行動を阻害する。

服を掴む新八の目をきょろりとのぞき込み、彼は仕方ないと言った様子で返事をした。

 

「・・はーい。」

 

「素直でよろしい。」

 

「わーい褒められたー。あはははー。」

 

そうして笑う竹仁は、冗談や嘘などではなく本当に嬉しそうだ。

 

「なんか、どこまでも能天気な人ですねィ。」

 

「アイツほぼ毎日頭の中お花畑だからな。たまに荒れるけど。」

 

「荒れるってアレですかィ。突然暴力を振るいだすとか?」

 

DVならぬY(ヨロズヤ)V.

しかし、それは。

 

「日常茶飯事だな。・・・なんてーか、年相応に戻る?みてぇな?」

 

「それ荒れるって言います?」

 

「言わないよね。ソレも普通に俺だし。」

 

新八に褒められて?にこにこ状態の竹仁が、いつの間にか横にしゃがんでいた。

 

「うえ、聞こえてたのかよ。」

 

「俺の聴力なめんなよ、教室の端で悪口言ったって聞こえるからな!」

 

はははは、と笑う竹仁からは未だにお花が飛んでいるように見える。

 

「それは至って普通の事じゃ?」

 

「確かにそうとも言う。・・さて、神楽んとこ行ってくるわ。」

 

ヒラ、と手を振り、少し前に厠へ向かった2人を追うように歩き出す。

 

「神楽ちゃんの?・・じき帰ってくると思いますけど、どうかしたんですか?」

 

「そーだねぇ。どうかした訳じゃないけど。一応ね、一応。」

 

新八に理由を尋ねられるが、竹仁は困ったような笑顔を見せるだけ。

 

「いーから言えっての。めんどくせーな。」

 

「・・はいはい。ねぇ副長さん。今日非番の人は?」

 

「いると思うか?」

 

大半の隊士が寝込む事態となっている今の状況で、いる訳がない。

 

「だよねー。じゃ、寝込んでる人以外で和服来てる人は?」

 

「?いるわけねぇだろ。」

 

例外はあるだろうが、勤務中の隊服の着用は基本。

 

「だよね。じゃあ、・・真っ赤っ赤な和服着る隊士さんっている?」

 

1人で屯所をぶらぶらしていた時に見えた、脚。そして、僅かに見えた赤い着物の裾。

そして、隊士が寝ている部屋に空いた布団は無かった。

 

「・・・、お前そりゃ――」

 

 

 

―――――ッぎゃあああああああッ!!!

 

突然辺りに響き渡った悲鳴に、土方は強制的に言葉を切らされた。

 

 

「・・・あーほら。局長さんが犠牲になっちゃったじゃん。救出失敗だよコレどうすんの?」

 

真選組の中で現状無事が確認されていた近藤の悲鳴。

これはもう、幽霊と遭遇してしまったと決めつけたって仕方がない。

 

「言ってる場合かッ!行くぞ総悟!!」

 

「分かってまさァ。」

 

急いで走り出した土方と沖田の後を追い、3人も走る。

 

「神楽大丈夫かなー。だいじょぶそうだけどだいじょぶかなー。」

 

「ちょっと、もう少し心配したらどうです!?」

 

「そりゃ心配だけどさ?・・・あの子逆に幽霊とかぶっ飛ばしそうじゃんか。」

 

「・・まぁ。確かにそうですけど・・・。」

 

庭から走り、全員は厠へとたどり着いた。

 

「ゴリラー、どうしたか~?」

 

神楽の声が聞こえる事から、遭遇したのは近藤だけだという事が分かる。

そして、銀時は厠の引き戸を乱暴に開けた。

 

「神楽!」

 

「神楽ー、だいじょぶそ?・・だね?」

 

「私はだいじょうぶヨ、でもゴリラがチャックに皮挟めちゃったアル。」

 

「なんだよ、来て損した。」

 

神楽の言葉を聞きあからさまに不機嫌顔になる竹仁。

 

「アホかてめーは!どけっ!!」

 

土方は怒りつつも、悲鳴を上げた近藤の状態を確認しなければと、焦りつつガンッ、と扉を蹴破った。

 

個室の中には・・・、パンツすら履いてない状態で三点倒立のように便器に顔をつっこんでいる近藤。

 

竹仁はすぐさま神楽と新八の視界を塞いだ。少年少女の見ていい代物じゃない、と。

 

「・・なんでそーなるの?」

 

「怖がり方が器用だね。」

 

「どこがですかィ?」

 

便器に顔をつっこむところが。

 






('、3[____]


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こうかはいまひとつのようだ

便器から無事に回収された近藤は、目を覚ます事無く布団で横になっている。

たまに、微かな唸り声をあげる事もあるが酷く魘される、という事は今のところ無い。

 

 

「・・何で分かったんだ、近藤さんが襲撃受ける事。」

 

疑いの視線を寄越し、土方は竹仁にそう問うた。

局長さんの衝撃の姿で忘れてはくれなかったか、と思いながら竹仁はお面を外し、訳を話した。

 

「・・ほら、さっき1人でぶっしょ、・・見て回ってる時に見えたんだよ。厠に入ってく人の、赤い着物の裾が。」

 

「お前今物色って」

 

ガッ。

竹仁は、斜め後ろに立っていた銀時の足の指を笑顔で思い切り踏みつけ、言葉を遮った。

かなり強めに指を踏みつけられた銀時は、すぐに反撃として脳天チョップを食らわせた。

 

その反撃に対し竹仁は銀時の足の指を踏みつけたまま、無言で振り返って胸倉を掴んだ。

すると銀時も胸倉を掴み返し、

 

「あーもうやめてくださいよ!こんな時に!!」

 

あわや数日に1回は起こる謎の喧嘩が、屯所で起こる寸前だった。

しかし今の万事屋には真面目な部下がいる為、数日に1回近くの喧嘩もすぐに阻止されるか、寸前で終わるか、となっている。

 

新八や神楽が万事屋に来る前は、今よりも物が壊れるなどの被害が出ていた。

 

「そうネ、やるならごみ捨て場とかごみ処理場でやってこいヨ。」

 

「そうだね。明日朝一に出すよ。」

 

新八と神楽の仲裁に、仕方ないといった風で竹仁はニコリと笑った。

 

「いや時間とか場所の問題じゃなくてそもそもやらないでくれます?」

 

彼ら2人は専ら万事屋で言い合いだの喧嘩だのを始める。

町中で始められるよりマシだと新八は思っているが、止めに入ったり説教したり、意外と疲労の元にもなっている。

 

(両方僕より力強いし・・。)

 

大の大人2人の下らない喧嘩を、まだ未成年の新八が止めるのは文字通り、毎回骨が折れそうなのだ。

折れた事は無いが、とばっちりは食らった事がある。

 

その時は朝から晩になるまで、正座でお説教コースだった。当然の報いである。

 

と、喧嘩が未然に防がれた所で、寝ている近藤に異変が。

 

「うぐっ、・・う、あ、赤い・・・おんなが・・。」

 

「なんかゴリラが魘され始めたアル。」

 

「・・・はァ、近藤さーん。寝言なんざいい年してみっともねーですぜー。」

 

近藤の傍にしゃがみ込んだ沖田は、掛け布団をぽふぽふと叩く。

それを見ていた竹仁も、同じように近藤の傍にしゃがみ込み脛の辺りを連続でチョップしている。

 

「勝手に他の人と別れて次の日死体で見つかる人そのものだったよね。厠だし、仕方ないけどさ。」

 

こんな殺人犯がいるかもしれない部屋にいられるか!俺は自分の部屋で寝る!

と言って翌朝死体で発見されるパターン。

 

「ええ。でも今回は近藤さん1人でしたけど、複数人一緒にぶっ倒れてた事もありますぜ。」

 

「マジ?範囲攻撃もできるの?それじゃもう勝てなくね?」

 

「あの、もし範囲攻撃なら神楽ちゃんも危なかったんじゃ・・・。」

 

「そうか、じゃあその幽霊、男だけ狙うとか、男に恨みがあるとかじゃね?」

 

そう言いながら竹仁はやおら立ち上がり、寝ている近藤の元へテコテコと歩み寄る。

 

「はァ?幽霊なんて非科学的なモンいるわけねェ。昔ゴリラが泣かした女が嫌がらせに来てんだろ。」

 

「近藤さんは女に泣かされた事はあっても泣かせた事はねぇ。」

 

2人がそうして会話をしている間に、竹仁は屯所にあったマッキーを取り出し近藤の顔面に髭を描いたり額に肉と描いたり、落書きしまくっている。

そして、何故か沖田は上司であるはずの近藤に絞め技。

 

「じゃあオメーが昔泣かした女が嫌がらせに来てんだ。」

 

「そんなタチの悪い女を相手にした覚えはねェってかやめろオメーら死にてェのか。」

 

青筋を浮かべた土方が、ゆらりと立ち上がる。

しかし2人は聞こえてませんとばかりに見向きもしない。

 

「よしよし、良い出来だ。沖田君押さえててくれてありがとね。」

 

「いえいえ。」

 

近藤の顔面は落書きだらけの酷い有様だ。

その上、マッキーは油性である為そう簡単には落ちないだろう。

 

「いえいえじゃねーよ、お前は何上司んとこ絞め技で押さえ込んでんだ。」

 

「頼まれたんで。」

 

「そうか。オイ総悟、そいつ斬ってくれ。」

 

「嫌です。」

 

「不審者の言う事は聞いて上司の頼みは聞かねえのか。良い度胸してんな。」

 

サラッと不審者と表現されたが、竹仁は流して部下の反抗期への対策を提案する。

 

「なら言い方変えれば?靴舐めるんでアイツ斬ってください沖田さん、ってのはどう?」

 

沖田の方を見て小首を傾げる。

しかし、彼は顎に手を当てて僅かに嫌そうな顔をした。

 

「靴が汚れるんで却下ですねィ。」

 

「そういえばそうか。靴に唾ついたら汚ねーもんな。そりゃ嫌だわ。」

 

うんうん。同意を示すように2回、大きく頷いてみせる。

 

「テメーら頭の天辺からつま先まで真っ赤に汚してやろうか。」

 

青筋を立て、土方は抜いた刀を横から2人に突きつける。

しかし2人とも臆する様子は微塵もない。

 

「冗談だって副長さん。本気出したらこんな侮辱じゃすまないよ?」

 

 

・・やんのかテメェエッ!!

今度こそ土方は刀を振り回して、2人はリアル鬼ごっこをおっぱじめた。

 

その一部始終を見ていた銀時が溜息を吐き、頭を掻く。

 

「・・アホらし。一生やってろバカども。オラ新八、神楽、帰んぞ。」

 

「あぁはい、・・・あの、銀さん。」

 

 

 

「・・・何ですかコレ?」

 

新八がそう言って自身の右手を持ち上げると、銀時の左手が一緒に持ち上がった。

つまり、手繋ぎ状態である。

 

そしてもう1人、新八の逆側、銀時の隣にいる神楽も同様に銀時と手繋ぎ状態。

 

その微笑ましいんだか大爆笑した方が良いのか分からない状況を、竹仁は壁を背にして見ていた。

 

何故そんな余裕があるかと言えば、鬼ごっこは沖田によって一時的に停戦しているから。

と言っても、沖田が土方を羽交い絞めにしているだけである。

 

「お前らが怖いだろーと思って気ィつかってやってんだろーが。」

 

「やめろ離せ銀時、そいつらに悪性の天パ菌がうつる。」

 

「あぁ!?」

 

「銀ちゃん、手ェ離してヨ。汗ばんでて気持ち悪いアル。」

 

神楽の言葉を最後に流れた、数秒の静寂。

それは、銀時が幽霊に対し苦手意識があると周囲が理解する時間でもあり。

 

(・・まぁ。怖がってんの丸わかりだし、ね・・・。昔っから。)

 

彼が、銀時は幽霊の類が苦手だと記憶したのは、攘夷戦争の頃、皆で集まって行った怪談話のおかげ。

まさかこうして彼を揶揄うのに役立つなんて、竹仁は彼と再会するまで少しも思っていなかった。

 

 

「銀時、」

 

「・・んだよ。」

 

名前を呼び、竹仁はニコリと人当たりの良い笑顔を浮かべた。

その意図が分からない笑顔に、銀時の注意は自然とそちらへ向いた。

そこで。

 

「あっ赤い着物の女ッ!!」

 

沖田が外を指差しながら叫べば。

 

ガシャアン!!

 

疾風のごとく銀時は押入れに突っ込んでいった。

 

「どうした?・・ふふふふ甘味でも見つけたか?ふふっ、」

 

銀時の驚きように、竹仁は笑いで声を震わせながら喋る。その静かな笑いが治まる様子は、今のところ無い。

 

「・・はぁ、何やってんスか。銀さん。」

 

「・・。・・いや、ムー大陸の入り口が・・・。」

 

「ふふっおま、お前、む、ムーたいりぶふっ、っふふふ、」

 

「笑いの沸点低すぎダロ。」

 

「だってあんなに、」

 

ふと視線をやった、銀時が突っ込んでいった押入れの、隣。

そこには大きな壺があり、更にはその大きな壺に、上半身を丸ごと突っ込んでいる真選組副長が。

 

「土方さん、何をやっているんですかィ。」

 

「・・・いや、マヨネーズ王国の入り口が・・・。」

 

土方の言い訳を聞いた後、竹仁は仰向けに倒れて静かに死亡した。

笑いの沸点を一気に突き抜けすぎて、秒も経たずに。

 

 

そして、この気絶のせいで彼はホラー映画のような体験をする事となる・・・。

 

 

 

 

 

(・・・・、・・・・・・、むーたいりく・・・まよ・・・。)

 

強制終了したかのように気絶した竹仁の意識が、水の中からゆっくりと浮上するように回復していく。

ゆっくりと鮮明になる意識と今までの記憶。寝ていたい気分を殺し、彼は目を開いた。

 

(・・・・・・)

 

気絶した時、彼は仰向けに倒れたので目を開ければ天井が見えるはずだった。

なのに目の前にあるのは天井などではなくて。

 

恐ろしい顔をした女の顔だった。

 

「・・・・。」

 

女の顔を視認してから2度、竹仁はぱちぱちと目を瞬かせた。

寝惚け頭を少しずつ、稼働させていく。

 

 

まだ少し寝惚けているが、竹仁は構わず女の赤い着物の襟を無言のまま掴む。

 

 

そして女を庭の方へとぶん投げた。

 

――ドォンッ!!

 

 

目が覚めてからここまで、ホラー映画のような体験だったが幽霊の類は竹仁に対し効果がほぼ無い。

彼にとって幽霊などは恐怖の対象などではなく、基本興味の対象でしかないのだ。

 

そんな一興味の対象でしかない女の衝突によって屯所の塀は損壊したが、最早彼はそんな事気にしはしない。

一応、衝突に至ったまともな理由があるからだ。

 

「さーて依頼完遂といこうか?まずは成仏するまで殴る。」

 

ゆらりと立ち上がり、肩をグルリと回す。

幽霊は物理で退治可能か。楽しい楽しい実験の開始である。

 

「・・・ま、まってくだ、さ・・・・・。」

 

女が消え入りそうな声で懇願するが、竹仁は知りませんとばかりに近づく。

 

「未練があるなら言ってみな。待つつもりは微塵も無いけどね?」

 

お前は無断で真選組の人達を襲いまくったでしょ。

と思うが口にはしない。会話するだけ無駄だと考えているからだ。

 

女の襟を掴み、さぁ実験開始だとばかりに拳を振り上げたが。

 

 

「オイちょっと待てェェ!!」

 

廊下を走ってきた銀時に対し、竹仁は首だけ動かして確認し、チッと舌打ちをする。

 

「なに。一緒に実験したい?」

 

「は!?何のだ!?・・・、まぁ、いい、いいから、ソイツを捕まえ・・られるよな?殴ったし・・。」

 

捕まえる、という事は大方生け捕りにしろという意味だろう。

なので、竹仁は思い切り嫌そうな顔をした。

 

「嫌そうな顔してんじゃねーよ。」

 

「じゃあ。真選組1日観察権くれるなら良いよ。」

 

「あげるわけねーだろ。」

 

「心狭いね。」

 

側溝並みじゃん?と嫌そうな顔まま、竹仁は女を土方の方へポイッと投げ渡した。

 

 

 

 

 

 

「あの~、どうもすいませんでした~。」

 

女が逆さまに吊るされたまま、謝罪の言葉を口にする。

 

竹仁は眠い目を擦りながら、その女の前に立っている真選組の者達の隣で胡坐をかいていた。

ここが戦場だとか、精神が疲れてる訳でもないのに寝ずにいるのは、彼にとってご遠慮したい事なのである。

 

(ねむ・・・。)

 

「私、地球で言ういわゆる蚊みたいな天人で。・・最近会社の上司との間に子供が出来ちゃって、この子産む為にエネルギーが必要だったんです。」

 

(ふーん・・・投げ飛ばしちゃったけど大丈夫かな・・、ねむ・・・。)

 

いくら敵を殺したって罪悪感の芽生えない竹仁でも、今回の件に関しては流石に罪悪感は芽生える。

 

お腹の子には何の罪も無い。

例え、女と上司が恋人、もしくは夫婦と呼ぶような間柄でないとしても。

 

(・・せめてご両親に愛されて育ちますよーに。)

 

 

「あの人には家庭があるから、私1人でこの子育てようって、」

 

(んぇ?)

 

両親に愛されるよう祈った次の瞬間の出来事だった。

まさに無意味。祈っても、父親である男が、この女のお腹の中にいる子どもを愛し続ける可能性は・・・。

 

(オイオイオイまさか分かっててお前、えっちしちゃったの?その相手は確実に悪だけど、え?どこの昼ドラ?)

 

「それで血を求めてさまよってたら、男だらけでムンムンしてる絶好のエサ場を見つけて、つい・・」

 

最早女の言葉など、耳に入りようがなかった。

この騒動の裏に、ドラマのような実話が存在していたとは全く思わなくて。

 

(まともな責任も取れねぇのに?え?そういうお勉強してこなかったの?子ども可哀想じゃね?)

 

頭の中で言葉がぐるぐるするが、一旦。一旦、頭を空っぽにさせる。

そして、もう1度考えをまとめ直し、

 

 

「殺す。」

 

ガゴォンッ、木に吊るされている女の顔スレスレで、割と強めに木の幹を蹴り飛ばした。

 

「・・、え、ちょ!?ダメだよ!!?」

 

突然の行動と3文字の言葉に焦り、近藤は目の前の肩を掴んだ。

すると、振り向いた彼はすぐ何かに気付いたように、ニコリと笑う。

 

 

「間違えた。」

 

「どこを!?」

 

たった3文字の短い言葉をどう修正するというのか。

それが、近藤含めその場にいる者達には分からなかった。

 

「兄貴、ここ警察なんで。発言には気を付けた方が良いですぜ。」

 

じゃら、取り出した手錠が朝日を受けて鈍く光っている。

 

「いやーホラ、眠くてさぁ。布団1つ貸してくれない?それか屋根でいいから貸して?」

 

「ならさっさと帰ったらどうです?」

 

「・・・。・・そうする。」

 

少し考え込み、竹仁はすぐに沖田の提案を肯定した。

 

そして彼は塀に飛び乗り、向こうへと消えていった・・・ように全員の目には映ったが。

沖田だけは違った。竹仁が乗り越えた辺りの塀に自らも半分だけ腰掛け、屋根の上を確認すると。

 

 

(・・・やっぱ帰ってねぇし。)

 

面倒臭いので屋根の上にいた人間に気付かぬふりをし、沖田は塀から降りてガムを口に含んだ。

 



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クーリングオフ

すみません。

そして、いつもありがとうございます。(人・∀・*)


 

その日は1日、疲れた日だった。そしてつまらない日でもあった。

 

しかしつまらないのは今日始まった事では無く、工場でバイトを始めた日からだった。

何故かと言えばその工場には活気が無く、更には働いている人が常に疲れているような目をしていた。

 

だから、空気を読んで静かに仕事をしていた。朝から晩まで。

 

そんな変わり映えのしない生活を何日も送ったせいで、退屈だ、退屈だと思い続けていた。

 

そして、このつまらないバイトが終わりを告げた今日。

さっさと家に帰って、さっさとご飯を食べ、さっさとお風呂に入った。

 

風呂から上がり、布団までやってきた彼には1つ予想している事がある。

 

それは、悪夢を見るかもしれない。という事だ。

 

そう。つまらないなぁと感じる日々を送れば送るほど、竹仁は何故か悪夢を見る確率が高くなるのだ。

1回だけだが、実験した事もある。

 

(まぁ、・・いいや。どうせこのままじゃまともに寝れないだろうし・・・、)

 

押入れの奥に手を伸ばす。

 

「あった。」

 

取り出したのは一振りの刀。

 

赤を基調としており、そこら辺にある刀よりも美しく装飾されたものだ。

しかしこれは美術品ではなく、ちゃんと戦いにも使える。

 

(懐かしい。)

 

刀を取りだしたのには理由がある。

 

ここ最近、浪人から幕府の人間まで、多くの者が餌食となっている事件が発生している。

その下手人は天人らしく、被害者のほとんどが刀を取られているために刀狩り、などと呼ばれている。

 

(刀狩りってアレ・・・明智・・、ん?・・・。まぁいっか。)

 

さてさて楽しい事をしよう。

 

それで思いついたのが下手人との殺し合い。

しかし、楽しい事をしたいなら定春をもふもふしに行けば良い話。彼がそれに気付くのは、朝、万事屋へ出勤した後だったが。

 

そんな事にも気付けぬまま、睡魔がへばりついているような感覚で彼は夜の江戸へと繰り出した。

 

 

 

 

・・・一時間後、彼は裏路地を歩いていた。

 

(いねぇぇ・・・。)

 

この広い江戸で、会う予定の無い人間と遭遇する確率は低いものだと想定できそうなはずだが、寝不足気味の彼は気付かない。

 

・・さっさと見つけて、生きるか死ぬかの楽しい戦いをする。生きられれば今日明日は良く眠れる。

死んだら、まぁ。それまで。楽しい最期を迎えられて良かったですね、だ。

 

どちらでもいいから、早く見つけて遊びたい。ひたすら速足で歩き続ける。

 

(はぁ・・・。)

 

路地を抜け、竹仁は辺りを見渡す。すると、橋の上に2つの影がある事に気付く。

 

そして、少し遠いため細かい部分までは見えないが2人とも武器を持っている。

 

(ん、あれだったりする?する?)

 

期待の芽がにょきにょき生えるのを抑えもせず、速度を緩めて近付いていく。向こうは気付かない。

 

ある程度近付いたところで、1人が吹き飛ばされ、倒れ込んだ。

 

違うなら良い。嘘言ってでもコイツと戦ってしまえ。

そう考え、竹仁は男に話しかける。

 

「こんばんわ、こんな夜に何してんだい?」

 

あっ自分もだ。

言った直後にそう気付く。こんな時間にぶらぶらと出歩く人間はそういない。

 

(まぁいいや。さて、どうでるかな?)

 

 

・・・、

 

男は何か考えているようで、しばしの静寂が流れた。

 

「・・・貴様、その腰の獲物は・・・。」

 

その言葉に、竹仁は心の中で悪い笑みを浮かべた。

心の中とは裏腹に、顔にはにっこり笑顔が浮かんでいる。

 

「これ?うん、これがどうかした?」

 

「・・小僧、ワシと勝負しろ。」

 

「うん。いいよ。」

 

竹仁はそう答え、ぽん、と柄に手を置く。

 

その瞬間、岩慶丸は素早く持っていた武器を構えた。

 

しかしその防御に意味などなく、男の脚は切り裂かれた。

岩慶丸は目を僅か見開き、背後を振り向く。

 

「・・・驚いたぞ。この鋼の肉体を切り裂くとは・・・、」

 

「へー、鋼かぁ。すごいね。玄武族?の特徴だっけ?」

 

「その通り。・・・ふふ、妖刀「星砕」。ようやく、見つけたぞ。」

 

その言葉に、竹仁の視線は自分の持つ刀と相手を何度か往復する。

 

「・・・・いや、コレ。そんな恐ろしい名前じゃないから。」

 

星を砕くなんて、そんな恐ろしい刀を持った覚えない。竹仁は苦笑する。

 

「ほう、そうか。だが関係無い。その刀、欲しいのは変わらぬ。」

 

追い求めてきた刀ではない。・・だが、岩慶丸は落胆する訳でも無く、笑ってみせた。

戦闘終了とはならずに済み、竹仁は喜んだ。

 

「あははは。――そりゃぁいい。」

 

一直線に駆け、刀を振り下ろす。それを薙刀で防ぐ岩慶丸。お互いの武器が交差する。

 

ドスリ。

 

「――ッ!?」

 

薙刀と刀が交差した次の瞬間にはもう、ナイフが男の左目に突き刺さっていた。

 

いつナイフを取り出した?その岩慶丸の疑問は、すぐに消えた。

刀を持つ側の、ひら、とはためいた袖の中。彼の腕には、ナイフホルスターがついていた。

 

「ちゃんと見ないと。」

 

注意するような声が聞こえた時、岩慶丸はすぐさま竹仁を蹴り飛ばした。

が、男の肩と足に、2本のナイフが突き刺さる。その上、左胸から左肩にかけて切り裂かれた。

 

「ッ・・・、」

 

(あぁ楽しい、楽しい、)

 

これ以上攻撃を食らってたまるか、と男は薙刀を振るう。

しかし、竹仁は刀で薙刀を地面に叩きつけ、そのまま横に向けて男の脚を切り裂く。

 

さて、そろそろ心臓か頭にでも一撃、と思ったが、彼は歩を進めずその場に留まった。

何もせず動きを止めた目の前の男に、岩慶丸は警戒した。

 

「・・もう時間だし、帰るわ。」

 

「・・・!」

 

目の前の男の言葉と視線で、岩慶丸は気付いた。複数人の走る音がすぐそこまで来ている事に。

 

 

「――お前らッ!そこで何してるッ!!」

 

「んじゃーねー。」

 

警察の姿が見えた、と同時に彼はその場から走り去る。

岩慶丸に刺さったままのナイフは・・・取ってる時間が無いので、諦めて置いていくしかない。

 

「待てェッ!!」

 

このまま走って家に帰りたいが、追いかけてくる警察(やつら)を撒かなければ帰れない。

 

速度を落とさぬように気を付けて走りながら、道から外れて人家の屋根や細い路地など次々に移動していく。

 

(・・あっ、猫だ。見た事ない。可愛い。)

 

明日明後日、まぁいつでもいいや、遊びに行こう。そう考えながら家を目指す。

 

警察のいる逆方向へ、逆方向へ。

 

 

 

「・・んしょっと。」

 

結構な距離を移動した後、乗っていた人家の屋根から降りて周囲を見渡す。

警察らしき人物は見当たらない事に安堵し、ゆっくり家を目指して歩き出す。

 

 

 

 

ただいまぁ。誰もいない静かな家に入り、疲れた声で挨拶をする。

当然返事はない。

 

自分の部屋に直行し、布団の上に座って壁に凭れ掛かる。

 

そのまま、ボーッと壁の写真を眺めた。・・時計を見た。・・・・本棚を、見・・・・

 

 

(・・・・、・・ん?)

 

 

ちゅんちゅん、ぴぃぴぃ。

 

覚醒してから少し経ち、彼は現在の状況を理解し始めた。

いつの間にか雀が外で鳴いていて、窓から優しく朝日が入り込んでいる。

 

「・・・あぁ。朝か・・・。」

 

 

今日は特に予定もないので。彼はのそのそと出勤準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

久しく体験していない眠りから目覚めた後、竹仁はまだ朝と呼んでも問題ない時間に出勤し、ソファの上で寝ていた。

 

と言っても、仰向けになって本を顔に乗せているだけだが。

実際は起きている。その証拠に定春を撫でる手は全く止まる気配が無い。

 

だから、テレビから流れて来る音も、神楽が電話をする声も、全部聞いていた。

 

『――十二回払い、月々たったこれだけで夢のボディーが手に入っちゃうんだから~!』

 

(運動と健康的な食事、じゃダメなのかな・・・。)

 

「ワウッ。」

 

(・・そう。)

 

彼自身、最近定春との会話が成立している事に少々驚き始めている。

 

(・・・まぁ、神楽は女の子だからね・・・。)

 

「ワンッ。」

 

キレイなものや可愛いものが好きだったり。体型を気にしたり。

女性は、いくら歳を重ねても女性だ、と。教えられたその時は、何を言ってるんだこの人?としか思わなかった。

 

(・・・今なら分かるかもなぁ。)

 

「クゥン・・。」

 

悲しそうに小さく鳴く定春に、竹仁はすごいなぁと感心する。

会話してるかもしれない。という事もだが、動物には自分たちの感情が伝わる。それは本当だったんだな、と。

 

(・・・。でも定春はガチのエスパータイプ・・・。)

 

「ワンッ。」

 

この会話?が竹仁にとって楽しい反面、ちょっと恐いなぁ、と思う事がある。

それは、突然定春が人語を話したりなんてしたら・・・

 

どうしよう?そう思ったと同時に、その思考を吹き飛ばすような平手打ちが頭部にスパァンッ、と決まった。

顔に乗せていた本は落ちるし、痛いし。竹仁はイラッとしたので叩いてきた人間を睨みつけた。

 

「ってぇなー、なんだよ。」

 

「呑気に寝てねーで止めろや!!」

 

怒る銀時が指差すのは、神楽。

テレビショッピングで買い物しまくっていたの止めろやクソ野郎寝てんじゃねぇ。

 

そういう事だな。終始起きていた竹仁はすぐに理解する。

 

「いや寝てねーし。お前らが出掛ける前からずっと起きてましたー。」

 

「なら尚更止めろよ!!」

 

「あのなぁ。人間ダメって言われた事ほどやりたくなるだろ?」

 

後でその欲求が大爆発するぐらいなら、今ここでテレビショッピングとはどんなものか、知った方が良いんじゃないかなぁと思ったり、定春をなでなでしてたいし、別にいいかなぁとか思ってたり。

後者は口にしない方が身の為なので、絶対に言わない。

 

「だからって最初から何もしない奴があるかァ!」

 

「いーだろクーリングオフ出来んだから!良かったな。」

 

「あぁ。お前が説明とか面倒臭がらなきゃもっと良かったんだがな。」

 

その嫌味に竹仁は、寝てますとばかりに目を閉じて思い切り無視。

はぁぁあ。呆れたような、銀時のデカい溜息が耳に入る。

 

「・・神楽。スグ返してこい、今ならまだ間に合うからよ。」

 

「おいおい冗談きついぜジョニー。」

 

「誰がジョニーだ!!」

 

完全にテレビに影響されてしまっている神楽にツッコミを入れ、銀時は床に置いてある商品を拾い始めた。

 

「・・あの寝坊助野郎は使い物にならねーからな。手伝え新八、全部返しに行くぞ。」

 

「ハーイ。」

 

この商品達を返さなければ、とんでもない請求が万事屋に来る。

ただでさえ日々の生活が大変である率が高いというのに。

 

だが、欲しくて購入したものを返品されてしまうのは、買った本人からすればやめてほしい事だろう。

 

「や~め~ろ~や~ジョニー!マクスウェル!」

 

その言葉は無情にも却下されてしまう。日々カツカツの万事屋で、無駄遣いは自殺行為に近いのだ。

 

銀時と新八、2人は多くの商品を抱え、再び出掛けて行った。

 

「っんだよチキショー!!あたいがダブルバーガーになってもいいってのかよォ!!」

 

商品を返しに行く2人の背中を最後まで見届け、神楽は居間のソファにダイブした。

 

「神楽大丈夫。ダブルバーガーになんてならないよ。」

 

そんな豪勢な食事する金、ここにある訳無いじゃん。

目を閉じたまま、現実を告げる。

 

「・・・。」

 

定春をもっこもっこと触り続ける間も目を閉じたままの竹仁を、神楽は不満いっぱいに見つめた。

 

しかし 効果は 無かった。

 

仕方なく立てかけてあった木刀を手にし、神楽は玄関に向かう。

すると、定春と竹仁が後ろからトコトコついてくる。

 

「神楽、どこ行くの?・・持ち主ボッコボコ大作戦決行?」

 

「しねーヨ。・・コレ、売ってくるアル。」

 

まぁー悪い子。

そう言った男の頭を、神楽は木刀で軽く殴った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

もこもこ。定春のほっぺたを触りながら、竹仁は神楽と一緒に鑑定結果を待っていた。

神楽と定春についていった理由としては木刀に値段を付けてくれる店があるのか、興味が湧いたからだ。

 

(あったら怖いな。ソレ通販物だし。)

 

「・・・きったねー木刀だなぁ。それになんかコレ、カレー臭くない?え?コレ買い取れって言うの?」

 

店主から返ってきたのは、当然と言えば当然の言葉だった。

 

なんとなく、このまま引き下がるのもつまんないなぁと思い、竹仁はバッグから何かを取り出す。

 

「・・今ならこの良く分かんない金属片を付けて30000円で売ってやる。喜べや。」

 

「何でアンタが偉そうに値段決めてんだよ!それに高すぎるだろーが!!」

 

「じゃあ割引して20000、」

 

「高ぇって!それに、こりゃウチじゃ引き取れねーよ。・・そっちの生き物なら買っても」

 

ズゴッ。

店主の後ろの壁に金属片が突き刺さった。

顔を青ざめさせた店主とは裏腹に、投げた張本人は特に何か言うでもなく神楽達の方を見た。

 

「だってさ。どうする?」

 

「しょーがないネ、他当たるヨ。」

 

「ワンッ。」

 

木刀を店主から受け取り、全員店を後にした。

 

 

2軒目。

 

「くさっ!なんかカレー臭いよコレ。それに洞爺湖ってコレ土産物じゃないかィ?いらんよ、こんなの。」

 

「はぁ。そっすか。」

 

駄目だった。

 

 

3軒目。

 

「俺はなァカレー嫌いなんだよ。ハヤシライスは好きだけどな。」

 

「知らねーよシチュー食ってろ。」

 

店主の極めて個人的な理由で買い取り拒否を食らった。

 

 

4軒目。

 

「これは買い取れないけど~、お嬢ちゃんなら買っ」

 

――ドゴァッ!!

不穏な言葉を高速で遮り、竹仁の拳が男の顔面に突き刺さる。

 

首が折れんばかりの一撃を食らった男は、ゴガシャァ、と轟音を立てて店の壁すらぶち壊し向かいの建物にめり込んだ。当然顔面は悲惨な事になっている。が、彼らの知った事では無い。

 

竹仁は何事も無かったかのように手を掃い、神楽の方へと視線をやる。

 

「残念だけど、そろそろ帰る?どこも買ってくれなさそうだし・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・?おーい?」

 

声を掛ける竹仁を無視して、神楽は木刀を持ったままどこかへと歩いていく。

 

 

「・・おーい。」

 

定春と共に神楽の後ろについて歩き、もう1度声を掛けるがやっぱり返事はない。

 

その後は無言で、ついてゆく。

 

 

 

すると、橋の真ん中で欄干の方を向いたまま、神楽は立ち止まった。竹仁も同じように止まった。

そして。神楽は木刀を持った手を振り上げ・・・

 

「・・なんで誰も買ってくれないアルかぁ!!この役立たずがァァッ!!」

 

ゴシャッ、ドガッ。

橋の解体工事が始まってしまった。

 

(粉々だぁ。すごい、怒りがすごい。)

 

彼女がこれ程までに怒ってしまうのは、当然と言えば当然。

ネットショッピングで買った物は全て返却されてしまったし、売る為に持ち出した銀時の木刀はどこも買い取ってくれない。

 

「大体ロクに給料も貰えねーってのによォォ!どうやってほしいモノ手に入れろゆーかアン!?」

 

そもそも、給料が無いから。何にも買えない。

 

ガッ、ゴシャッ。凄い勢いで橋が削られていく。

 

(橋じゃなくて本人殴らないのかな。)

 

それをしない辺り、彼らのお人好しさが見て取れる。

一般的な会社だったら、既にブタ箱の中だ。それなのに万事屋の社長は毎日気の向くまま、自堕落に生きている。

 

(明日生ゴミの日だよな・・。よし。)

 

何かを決心し、竹仁は未だに橋を攻撃し続けている神楽に声を掛ける。

このまま橋を破壊してしまえば、市民生活に支障が出るからだ。

 

「おーい、かぐら」

 

ッゴシャァアッ!!

「「きゃああああ!」」

 

声を掛けるも既に遅く、本当に真っ二つになってしまった橋にすごいなぁと感心するけれど。

もう1度、今度は歩きながら神楽に声を掛ける。

 

「神楽ー。」

 

 

「・・・気、済んだ?・・帰ろ?」

 

よいせ、と隣にしゃがみ、顔を少しのぞき込む。

 

「・・・・帰るに、帰れないヨ。」

 

「?・・・あぁ。プリン勝手に食べたとか?」

 

「ちげーヨそれはお前ダロ。」

 

その指摘に笑顔のまま横へと逸れる視線。

神楽は呆れ、溜息をつく。

 

「・・大事にしてた物、勝手に持ち出しちゃったから。きっと怒ってるアル。」

 

少し悲しそうな神楽のその言葉に、ちょっとばかりキョトンとした後、彼は困ったように笑った。

 

「そういう事かぁ・・。」

 

その時。橋向こうから何かが、武器を持って飛びかかってくるのを、彼女は見た。

 

「・・・!」

 

「神楽。大丈夫、」

 

竹仁が神楽の手から、木刀を貰い受ける。

 

ギィンッ、

そして瞬間的に振り向き、攻撃を防いだ。

襲い掛かってきた男を見て、彼は笑う。

 

「コレは立派な通販物です。」

 

竹仁は見た事がある。前に、銀時が通販で木刀を購入しているところを。

だから、こだわりはある、のかもしれないが替えの効くものなので世界に1本だけだー、とかそんな大事なものではない。

 

安心してくれると嬉しいなぁ、と考えたところで、男を押し返そうと彼は片足を前に出したが。

 

「あれ?」

 

そこに足場が無い。

 

理由は先程、神楽が破壊したから。

 

・・・・この短時間ですっかり失念していた事実に、竹仁は頭が一瞬真っ白になった。

 

憂いを帯びた神楽の声が、彼の耳に届く。

 

「アホかヨ。」

 

(多分そうだッ!)

その言葉が声に出る事は無く、岩慶丸と竹仁は一緒に川へと落ちていく。

 

バッシャーンッ!

 

下が川とはいえ、痛いものは痛い。しかも深くはないので身体のどこかしらが川底にぶつかるわけで。

 

「いったぁ・・。」

 

身体が痛むが、寝ているわけにはいかない。取りあえず、上体を起こす。

 

「まさかここで再び出会う事になろうとはな。」

 

「嬉しくねぇ・・・。」

 

「今度こそ見つけたぞ。その木刀、まさに「星砕」にふさわしき威力。」

 

(コントか?通販物ってさっき目の前で言ったはず・・・。)

 

だが竹仁にとって、岩慶丸がコレを通販物だと思おうが思わまいがどちらでも構わなかった。

 

木刀をしっかりと握り込み、立ち上がる。

 

「・・・あの刀も手に入れたかったが、まぁ、いい。」

 

「はぁ。タフだねぇじーさん・・・。」

 

片目を失明させ、脚やら上半身に傷をつけた後だというのにその木刀を寄越せ、など。

 

というか、それよりも彼には一つ気になっている事がある。

さっきから右目の上から下へ何かが流れてってるのだ。

 

ただの水とは違う感覚に、べちょ、と手のひらを当てる。すると、痛みが増した上に、水で少し薄まった血が付いた。川に落ちた際、出来た傷だろう事は分かり切った事。

 

しかし幾ら血が出ているとはいえ、元気に活動できれば特に問題はない。

 

「・・・さて。」

 

水と血で濡れ、纏わりつく髪を横や後ろに視界の邪魔にならないように流し。

鬱陶しさが幾分か消えたところで、手にした木刀を掲げた。

 

 

「――なァにしてくれんだクソジジィイイッ!!」

 

怒りのままに、思い切り斬りかかる。

ガギィイッ!

 

当然、ただの大振りでは防がれる。だが、彼の目的は眼前の男を倒す事ではない。ストレス発散だ。

 

「(頭ぶつけたせいで)馬鹿になったらどーしてくれんだッ!!」

 

ギィンッ!!

もう一撃。これもやはり防がれる。

 

「なんか血ィ出てるし痛いし服だって洗濯しなきゃいけねーしィイッ!!」

 

ガィンッ!

 

「えーっと・・・、なんか動き辛いしさァアア!!!」

 

少し考えるように動きを緩めた後、すぐ木刀を振るう。

 

その一撃は、下からくる。岩慶丸は防御態勢をとったが、衝撃は一切来ない。

何故なら、竹仁が木刀を今までのように振るわず、上に向かって投げたからだ。

 

「・・ッ!!」

 

全身で危険を感じ取った岩慶丸は、反射的に横へと跳んだ。

 

――ドバッシャァンッ!!

跳んだ直後に聞こえた音は、人間の腕力で出せる音ではない。

それもそのはず、その攻撃を仕掛けたのは神楽だからだ。

 

しかし、岩慶丸が彼女に攻撃を仕掛ける暇も、感心してる暇もない。

 

「とうっ。」

 

避けてすぐの所を狙った竹仁のローキックが、ゴスッ、と音をたてて決まる。

ロクに防ぐこともできず、まともに食らっただろう事が男の表情からも良く分かる。

 

「っぐ、」

 

岩慶丸は壁側へと飛ばされ、その場に膝をついた。

 

しかし2人がそれ以上追撃することは無く、竹仁は男を見つめたまま神楽から木刀を受け取る。

その様子を見ていた岩慶丸は、膝をついたまま苦笑した。

 

「・・・ふっ、面白い。」

 

「うん?あぁ。うん、面白れぇよね。」

 

「ホントアル。」

 

ガブ。

 

神楽が頷くと同時に、岩慶丸の頭に痛みが走る。

背後から定春が頭部に噛みついたのだ。銀時に噛みつく時と同じように。

 

「ッ!!」

 

岩慶丸はすぐに定春に向かって薙刀を振るおうとする。

 

「その子可愛いだろ?定春って言うんだよねぇ。」

 

しかしその薙刀に足を乗せられ、動かせない。と同時に、木刀が首元に当てられる。

 

 

だが、岩慶丸とて武者修行を長い年月続けてきた男。素直に降伏する者ではない。

 

空いている右手で木刀を掴む。その時の岩慶丸の目には、僅かに驚いたような表情をした竹仁が映り。

その瞬間に、チャンスだ、と思ってしまった。チャンスな訳が無かったのに。

 

 

相手の体勢を崩す為、岩慶丸は掴んだ木刀を捻るようにして引っ張った。すると、木刀は抵抗もなく竹仁の手から離れた。

 

それは別に岩慶丸の力が強かったとか、奪い方が上手かった訳ではない。

ただ単に彼が離しただけ。

 

一切ない抵抗に男が驚いた隙に、竹仁はその場にしゃがみ込んだ。

 

そして彼の背後から姿を現した、小さな少女。

それがこの戦いで岩慶丸の見た最後の映像となった。

 

「ッうらァアアッ!!」

 

ドゴァッ!

 

どれだけ刃の効かぬ皮膚を持っていたとしても衝撃に強いとは限らない。

事実、神楽の渾身の一撃で岩慶丸は気絶した。

 

「ワンワンッ。」

 

気絶して動かない男にガブガブと噛みつく定春を宥めるように撫でる。

 

「食べちゃダメだぞ定春~。」

 

そして、流血したまま町を歩く訳にもいかないので。

川の水で血を簡単に洗い流して、バッグから出したびちょびちょの手ぬぐいを絞り血が出ている額に巻き付ける。

 

「でもコイツどーするアルか?」

 

「ほっとけほっとけ。」

 

そう言い、神楽の手を掴んで僅か傾斜になっている川の壁を上った。

 

「・・じゃ、今日は帰るね。木刀、銀時(アイツ)に返してやりなよ。」

 

「ウン。分かってるヨ。」

 

「ワンッ。」

 

2人とも、笑顔でサムズアップ。意思疎通はしっかりと成された。

恐らく定春も、何をするかなんとなく分かっているのだろう。

 

「じゃーね、気を付けて帰るんだよー。」

 

「オウ!」

 

「ワンッ!」

 

手を振り合った後お互い背を向け、帰路についた。

 

 

次の日。

万事屋には折れた木刀が転がり、顔に湿布を貼った主がいたという。

 

 




「どーだ神楽の一撃は!」
「やっぱテメーかコノヤロォォォ!!!」

ぎゃーぎゃー。

「・・・何があったの?」
「計画的犯行があっただけアル。」


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