僕らの明日 (蒼宙 伊月紀)
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未来をつかみとれ

「ひかくん勝負!!」

「嫌だ。杏うるさい。」

 

「あー!また負けたよ!次は勝つからなー!!」

「まだお前には負けねぇよ。俺をなめんなよガッハッハッ」

「えいちゃんそれ何回目?(笑)大虎は強いからがんば~」

風鈴が茶化すように永斗に声をかけた。いつもの取っ組み合い勝負だ。年齢や性別の差なんて気にしない、子供たちの声や足音が響く森。この日常が続くと思っていた-

 

~20✕✕年,8月~

この頃世界では戦争が続きどこも人員不足であった。日本は某国と同盟を結び戦争の支援を続けてきたが兵隊として派遣できる大人が不足してきた。そして最悪の時代が幕を開けたのだった-

政府が子供トラフィック法を制定したのだった。某国に輸出品として差し出すために子供狩りを行うのだ。その為、多くの子供が戦地へと連れていかれ血を流し命を失ってゆく。女子は某国の兵隊の世話をさせられたり囮として使われた。男子は兵士として前線に立たされ捨て駒として使われた。日本にはもうそれを止めてくれる大人は消えていた。僕達は自分で身を守り逃げ狂うしかないのだ。

 

それは僕、太陽が中学3年生の時に起きた。既に大人はほとんど地域に残っておらず、少数の老人と女がいるだけだった。もうそろそろ連れていかれるのかなと心構えはできていた。

とうとう僕達の地域にも子供狩りがきた。僕達が森から帰った時にはほとんど子供は残っていなかった。地域では数人でグループにして子供を逃がしていた。僕達も道院長が持っている森の中の小屋へ逃げることになった。

 

「先生あとから来てね!僕たち先に行ってるからね~!」璃空が言った。

「おうよ。先に行って隠れてろ。間違ってもここには戻ってくるなよ。わしの小屋んとこに畑あるけ食いもんはそこの食べてええけんの。」道院長、心配そうな顔してる。また会えるよね?

「わかってるって、もうここには家族残ってないし戻れねえよ。じゃあ絶対にまた会おうな!」大虎も心配なのかな。いつもより弱気だ。

「もう行くのか。俺んとこの倉庫に食いもんと飲みもんはあるから政府の奴に見つかんないように取りに行きな。電気と水道は通ってる。」近所のおじさんだ。小さなお店を切り盛りしてて森のふもとに倉庫があるらしい。

「おじちゃんもありがとね、じゃあ行ってきます。みんなも元気でね!」

「気をつけてけよー!お前らはわしの教え子じゃ。汚い大人に負けん元気持っとるけえ自信もってけ!」道院長、行ってくるね。

そして僕達の冒険が始まった。いつもの遊び場の森が昼なのに薄暗く見えた。用途が違うだけでこんなに見える世界が変わるものなのか?気が重い。

 

星流が先頭で小屋に入っていった。

「うわっ!埃っぽ、ここほんとに住めんのかよ。」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ、いけるいける!」

「杏うるさい。前見て歩け。」初めてはいる小屋にテンションが上がってるのか杏の声がでかい。電気がつかないのが生活するのに不自由になりそうだが他に問題はなさそうだ。

「意外と広いな、もう夕方だ。明るいうちに寝る準備しようか。」璃空がそれぞれに探検し始めた仲間を仕切る。

「ねえ、お風呂はどうするの?」龍哉が言った。僕はもう疲れたし正直寝たい。

「さっき見つけた川で水浴びするのはどうかな?どうする大虎。」歩きながらうろちょろしてたからだろうが永斗よく見つけたな。

「そうだな、夏鈴と杏先にしてこいよ。俺たちでここ片付けとくから。」

 

 

「ふぅ、ただいま~。次みんな入ってきなよ、終わってないのはうちとあんちゃんでやっとくから。」

「おぉそうか。じゃあみんな行くぞー。」泰和に続いて男子全員が小屋を出る。

「何かあったら直ぐに呼びにこい。お前らじゃ頼りないしな。」

「せいがいても大して変わんないだろうけどね~!」

「むしろ女の子の方が強かったりしてね。前の取っ組み合いでもあんに負けてなかったっけ?まあいいや、行ってくるね。」さすが永斗と龍哉、星流に厳しい。

 

「ずいぶん暗くなったな。今日は持ってきた食いもんでしのぐぞ。掃除したばっかだし汚すなよー。」大虎の言葉にみんなが従う、僕もそうだ。

「わかった。緑のリュックに食べ物入ってるよ。飲み物は赤。」僕と大虎は幼馴染だ。一緒に少林寺をならい始めて親友であり好敵手。アンフェアな考え方をせず仲間思いなことを知ってるから信頼できる。

「美味しいねー。ん?永斗どうかしたの、元気ないね。疲れたのかな?」璃空は周りをよく見てる。こういう風にいつも周りを気にかけてくれる。学校でも代表委員とか委員長やら任されてるらしい。

「僕達いつまでここにいるのかな…楓にまた会えるかなグスッ」楓(かえで)は永斗の弟だ。子供狩りで捕まったらしい。今日はずっと笑ってたがやはりダメージが大きかったんだね。とうとう大泣きしだして周りも涙ぐむやつらがちらほら。

「大丈夫、また会えるよ。自分たち強いじゃん!先生も言ってたでしょ、自分たちは大人に負けない。自信持てって。だからだいじょーぶ。」杏が自分も泣きそうになってんのを隠すかのように明るく言う。

「俺たちで楓助けらんないかな…?」

「龍哉、それどういうこと?」璃空が聞く。

「だから、俺たちで捕子所に乗り込んで助け出せないかなーと…」

「提案するなら自信を持って言え。いいんじゃないのか?僕も兄ちゃん取り戻したい。」

「それいいね!うちもしたい!」夏鈴が言い出すと周りもその空気に流され士気が高まってくる。

「いい案ではあると思うけど、自分達にできるのかな…?」

「璃空。俺達ならできる。俺達にはこんなにも仲間がいる。それにこのままここでいつまでも暮らせるわけじゃない。自分を信じろ、そして仲間を信じろ。」大虎の強い言葉に僕達も心うたれた。

「やろう。僕達ならできる。」

「鋼のように強い男になるぞー!」泰和が叫ぶように言う。

「いや待って、うちら女子だから!」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ、自分鳥なりたーい!」

「じゃあん~、間をとって羽(は)鋼(がね)でどお?」冗談なのか本気なのか璃空がまとめる。

「なら「はこう」って読んだ方がかっこいいだろ。」星流が呟いたが、思いのほか声が大きかったようだ。

「「「いいねそれ!!」」」テンションが高くなった数人が賛成して星流が退く。

「絶対に勝つぞー!!」

「「「おー!!!」」」

こうして羽鋼団ができたのだった。意外と軽い理由。一人一人の思いはだいぶ強いけど。

 

 

 




はじめまして!蒼宙 伊月紀と申します
まだまだ未熟ですが、皆様に楽しみを届けれるようなお話が書けるように日々精進していきたいです!!
応援よろしくお願いします!


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新しい生活と強い絆

こうして始まった僕らの生活だが、昨夜のような真剣な空気はあれ以来ない。今はおじちゃんの倉庫へ食べ物を取りに来ている。倉庫にはたくさんのダンボールが積まれていた。これだけあればしばらくは生活できそうだがいつまでもつのかはわからないな…

「たーくん、これも持ってくー?」夏鈴が倉庫の2階から聞く。夏鈴は少林寺を習う前に体操教室に行ってたから身体能力が高い。今もダンボールで狭い中をすらすらと抜けていく。

「おう、食いたいもんと飲みもんはとりあえず持ってけ。」

「水とかの箱は重いから俺とひかで行くよ。男は強くないとな!」泰和…お前、僕がダンボールに背が届かないの見てたのかよ。まあ水のダンボールは上に積まれてないし好都合だがな。

 

「ん~!やっぱみんなで外で食べるのはええね~!」

「永斗こぼしてるよ!もう少し落ち着いて食べろよ。」龍哉が言うが永斗には聞こえてなさそうだ。小屋で食べると汚すからと外で食べることになったが正解だったな。今はお昼頃で森の中でも暖かい。

「みんな、静かに聞いてくれ。今日から少林寺を毎日練習しないか?読本は持ってきた。大人と戦うんだし強くないといけないだろう、どう思う。」

「確かにそうだな。今の俺らの力じゃ勝てないな。」星流が珍しく勝気じゃない。いつもなら大虎にも勝気なのに。(勝ったことはほぼほぼない。)

「じゃあこれで決定だね。」璃空が話を進めてくれてみんなでこう決めた。

 

・朝は掃除、倉庫へ物資を取りに行く

・10時~12時まで練習

・お昼は外で食べる(誰かさんが汚すから)

・2時~4時まで練習

 

こうして話がまとまり絶対ルールとなった。

 

 

~12月~

もう随分寒くなった。羽鋼団ができてからみんな練習に打ち込んで夏より強くなった。

「おーいあんずー、そこから降りてこーい。」

「わかったー!」

「また本読んでたのかよ。」

「うんっ!この本の作者さんがね……」またこれ長くなるぞ。杏は本の事になるととんでもなく饒舌だからな…

「まあいい。もう冬だし寒いから木の上にいない方がいいぞ。風が当たるだろ。」

「そうだねぇ、ん~気をつけてみるよ。あっひゃっひゃ」

最近こいつも一人でいることが増えた。前まではウザイほどについて来てたのにな。

 

「ねぇ!このポテチ開けていい~?」

「永斗、1人で食べないでね~!」

「大丈夫、大丈夫!りんは心配性だなぁ~。にひひ、泰和じゃないし食べないよ~」

「おい!それどういうことだよ!」

「そのまんまじゃないか。前科あるしな。」

「そう言いながらせいも前にグミ1人で隠れて食べてたよね。」

「なっ!龍哉見てたのかよ!」

「わっはっはっはっは」

「大虎の声響くから近くで聞くと耳痛い」

「すまんすまん(汗)」

 

ガサッガサッガサッガサッ

「おい、誰か来たぞ、ドア囲め。静かにな。(ヒソッ)」

皆の表情が真剣になり頷く。あの夏にはなかった顔だが今は頻繁に見られる。

ガチャン

「どりゃ!!」

「おい待て!わしじゃい!落ち着けぃ!」

「「「あれ、先生!?」」」

「おうよ。いやぁ、心臓に悪い。」

「ごめんごめん、やっと会えたね。政府の奴らは?」大虎が代表して聞く。他の奴らは喜んで先生にへばりついてるのが多い。とても小学生高学年と中学生には見えないぞ。

「…政府の奴らは子供がいないことをわかったらしくほかのところへ狩りに行った。」

「…?そうなんだ。無事でよかった。」…間があったな。大虎も気づいてるようだ。

「今お前らが何をしようとしとるかは知らんができる限りの力になろう。」

「それは力強い。助かるよ。」



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