IS Infinite Stratos 《炎翼》の輝き (クレイモア地雷)
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prologue ver.1 春雨と回顧/ifの世界線

はじめまして。正直眠いんで誤字脱字、矛盾設定ばっかだと思います
よろしこ

初話はほぼ話に関係ございませんよ
間違ってるとこあったら言って

期待しないで次をお待ちください


雨が、降っていた。

 

 

灰色の空から滴り落ちてくる春雨は、がれきの上で立ち尽くす少年に生暖かく降り注いでいた。

 

世界は彼に畏怖し牙をむき、大多数を守るために行使された力の答えは粉微塵にされ、打ち捨てられた現実だった。

 

あたりを見渡す彼の目は、どこまでも暗く濁っていた。

 

雨はまだ、止まない。

 

少年は回想する。彼の頭をよぎるのは在りし日の光景。彼の人生は飛び降り自殺しているかのようであった。また時々あった幸せがベランダに引っかかった死にきれない自殺者のごとく彼を苦しめる。

 

「超能力」とでも表現しようか。所謂人間には、そもそもこの地球上には、この宇宙上には絶対に発生しない力。一般相対性理論、質量保存の法則やらを軽く飛び越えるその力、それを彼は生まれつき持っていた。人間は変わる事や変わっているものを極端に恐れる。生物としての本能だ。あり得ないものを、彼の背中からチロチロ瞬く炎を持った我が子を親は簡単に捨てた。いやそもそも子供として認識していなかっただろう。海に捨てられた赤子は当然のように生き返り、養護施設に入れられる。養護施設に預けられた彼は束の間の幸せを手に入れた。友達も出来た。彼の視界は暗転する。再びベランダから落下する。彼は小学校に入学する直前に研究所、という所に攫われ、ありとあらゆる地獄を見せつけられた。実験、と称された凄まじい拷問の中で肉体は消し飛び、或いは斬り飛ばさられ、あるいは打たれ、或いは潰され。最早脳味噌のみになって培養液の中に浸かっていた彼の精神はとうの昔に崩壊していた、しかしそれと裏腹に彼の「超能力」は際限なく進化して行く。彼は、いや人の形すら保っていない実験動物はある日再び覚醒した。

 

 

少年は目覚める。燃えている最新設備の中で、傷ひとつない再生した体で。辺りには自分を散々痛めつけてくれた化け物どもの残骸が転がっていた。全裸の彼の背中からはまるでこの世の欲望を全て煮詰めたような焔のような三対の翼が広がっていた。

 

それからの人生は特に明記するものでもない。殺し殺され、すぐに復活し、化け物と罵られさっさと殺す。同年代の日本人が中学に入学する頃、彼はフリーランスの傭兵となっていた。

 

その日、いつものように一人で炎の翼ー《炎翼》ーの力を彼の獲物に供給している必殺必中、爆発炎上する火炎弾を放出する悪魔のようなアサルトライフルを片手に悠々と殲滅戦を行なっていると、敵拠点で慰み者となって居たであろう運命の少女と出会った。恐らく眉目淡麗だったであろう少女は見る影もない。世界で誘拐、というのは然程珍しくもない。スラム街からぶんどってきたり、若しくは、監視カメラのない街角から連れ去ったり。最早目を潰され何も見えてなく、気配で「終わり」に気づいたであろう少女に彼はいつものように《炎翼》を振るって一思いに消しとばしてやろう、と思い

 

 

助けて

 

 

《炎翼》が、止まる。いつものように、どうして生きているのかもわからない程ぐちゃぐちゃになってしまった人間も、自分が世界の頂点に立ったと勘違いしたバカ共も、平等に屠ってきたその翼は彼女の目の前で止まっていた。

一目惚れだった。四肢を落とされ、目を潰され。普通の人は十中八九痛ましいと、穢らわしいと、可愛そうとでも判断する悪質な状態の彼女を彼は美しいと、可愛いと、綺麗と、全部全てを一切合切自分のものにしたいと。化け物は、人に愛されなかった怪物は、突然変異の例外は、親という存在から一片たりとも貰えなかった「愛」という感情を始めて全身の細胞で、全身全霊で本能から理解した。

《炎翼》は不定形であり彼が引き起こす〈超能力〉の源である。仕舞うことも、彼が自分の第三の腕として普段から形作っている鞭状にする事も、虫状の翅にすることも、人間の心を読み取ることも、銃や剣、武器に力を纏わせることも、空間を切断することも、他人の身体を創り上げることも、或いは全身を消し飛ばされても何もなかったかのように悠然と復活するすることすらできた。

《炎翼》をしまい、彼は彼女に問いかける。「生きたいか」と。自分は貴女を愛してしまった。貴女さえ良ければ着いてきてくれるか、と。行く果てすら分からない俺を愛して欲しい、と。

 

彼女は、誰も気づかないほど微かに首を落とした。

 

彼の《炎翼》が彼女を優しく包み込む。不死鳥の再生の様に。

 

初めて誰かを愛した。彼女は「化け物」という外殻に「人間」という中身を吹き込んでくれた。凡ゆる正の感情が、初めて感じられる。喜び、楽しみ、嬉しさ、慈しみ...!

 

ー嗚呼、

このために俺は産まれてきたのか!

 

彼女を包み込んでいた《炎翼》が解ける。そこには長い黒髪を持ち、涼やかな二重の、丁度彼を点対称として女性にしたかのような美少女がいた。

 

ーーー名前は?

 

---忘れた。

 

---名前は?

 

---知らない。

 

心底どうでもいいことなのに二人同士に吹き出して笑った。彼は彼女と、彼女は彼と、同じ感情を共有できるのが嬉しくて、楽しくて。

 

 

---行こうか 何処かは分からないけど

 

---ええ 行きましょう、何処とも知らない場所へ

 

---初めて会ったとは思えない。俺は君が大好きだ!

 

---私もあなたが、大好き!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー彼の人生は、転落である。幸せというベランダから、再び暗闇へと墜ちて行く。

 

「化け物」を排除する声、が何処とも知らぬ所で上がっていた。確かに彼は弱気を助け、強気を挫く。非合法的な研究機関を潰し、悪政を敷いていた権力者を自分たちに変わって倒してくれた。だけど、でも、怖い。もし彼が私たちを殺しにきたら... そんな身もふたもない

声が、よりによって少年の手で救われた場所から上がり始めた。人間という生物は一定層集まると思考力を失い、代わりに制御できぬ力を得る。得てして身に余る力は暴走する。

...「化け物」を排除する部隊が設立された。

 

数ヶ月後、彼女は彼との愛の結晶を身籠った。彼は彼女を深く抱きしめる。 例えようもなく 嬉しかった。

「人間」の中に、今度は守るべきもの、という概念が追加される。どうなってもこの力で守ってやる、と。

 

十月十日たち、彼女は臨月に入る。その日、大雨が降っていたのに自分たちのアジトの周りに住んでいる人々は何故か夜になっても帰ってこなかった。そのため、彼は自分で産婆の代わりをする。

 

彼女は長い戦いを終え、例えようもなく愛おしい愛の結晶を彼女は自身の胸に抱く。彼は感動していた。命と愛の結晶に。

 

...彼は慢心していた。しかし彼を責めることはできないだろう。

...運命はいつも残酷だ。そいつはとびっきり嫌な性格をしていて、そして...

彼のことが大っ嫌いなんだろう。

 

彼が席を外している間、産褥に横たわる彼女に、彼女と愛の結晶に向かって手榴弾が投擲される。 奇しくもその炎色は彼の《炎翼》と心底似通っていた。

 

轟音が鳴り響く。そこに人がいた、という証拠が跡形もなく消し飛ぶ。

 

帰ってきた彼に張り付いた笑顔と燃え始めている部屋、沢山の銃口、 転がってきた、...最期の驚きが張り付いた彼女の...血塗られた横顔、

 

ああ、嗚呼、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!???!?!!??!!!

 

窓の外で彼を嘲笑うかのように雨脚が強まって行く。

 

 

 

ー彼の人生は転落である。束の間の幸せは終わった。「守る」と決意したものは跡形もなく消え去り、「人間」を構成していたものが燃え散り、

 

...彼は「化け物」へ、帰り咲く。

 

 

その日、彼がいた大陸は《炎翼》により「原子の塵」へと変わった。

 

国連はかねてより噂されていた「化け物」と敵を断定、すぐさま核弾頭をぶち込む。対して彼の《炎翼》は一本数十キロを超え、遥かな敵へ怨嗟の表情を作る。《炎翼》を払う。勝負は初めから分かっていた。全ての核弾頭はあろうことか動作を停止し、逆再生の様な軌道を描き、さらにその核弾頭が二つに、四つに、八つに、十六に倍々と同質量のまま《増え》全ての都市へ投下された。

 

こうして、「化け物」の物語は冒頭へと戻る。

 

 

雨は未だに、止まない---

 

 

 

 




裏設定...「彼女」は実は「彼」の妹。化け物産んじゃった夫婦が今度こそはとハッスルしてできたけど目離してるスキに拉致られちゃったよ☆って話
まあ手榴弾で消し飛んじゃいましたけど

うざいとかあったら言ってください 出来る限り直しません。

...スマホで書いてるんで投稿スピード激遅です
期待しないで待っててね


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prologue ver.2 睡眠と転移/世界で二人だけの超能力者

息抜きっていいですよね。
僕はシエスタというスペインの文化が大好きです。


目が、覚めた。

 

悲しい悪夢を見ていた、ということだけしか覚えていない。記憶は急速に薄れていく。頬を一条の涙がつたっていた。

 

春眠暁を覚えず、という言葉がある。しかし実は、人間は21日間同じ行動を繰り返すとそれが習慣となる。という研究結果が出ている。その為、休みの日だからといって9時10時まで寝ていると週明けに取り返しのつかないことや起きるのがとてもつらくなってしまう事になるのであり、再び同じサイクルに戻すにはまた21日間繰り返さなくてはならない

 

 

…長々滔々と語り、結局のところ何が言いたいのかというと、

 

 

 

―二度寝しよう

 

…彼は再び永劫の睡眠へと帰っていった…

 

 

 

 

 

「ぉぉぉぉきろバカ兄貴いいいぃぃぃぃぃ!!!」

 

いや、二度寝するバカに吶喊をかけてくる彼の妹の姿。本日はめでたい憲法記念日である。この出来事に深く感謝し、その祝日に敬意を表し惰眠をむさぼるのが栄えある日本国民としての責務だろう。と、彼の部屋の扉と鍵を足に()()()()()()ドロップキック一発で突破してくるメスゴリラに対して、彼は()()()()()()()()事で対処した。

 

 

 

さて、ようやっと平穏が戻ったところで自己紹介をば。

 

 

 

俺の名前は雪村悠一、超能力者である。

 

 

 

 

 

…うん、恐らく言いたいことは分かってる。おおよそが「雪村なんて苗字珍しっ!」若しくは「アニメorマンガで見た」

だろう。じつは雪村という苗字の人は少ない。関西地方に少数いたかどうかだった。雪村さんがいたら名乗り出てくれると嬉しい。友達になろうじゃあないか。

という冗談はさておき、現実問題「おれ、ちょーのーりょくつかえるんだぜー!」と幼稚園児、小学生の会話を聞いていると微笑ましい気持ちになるだろうが、高学年くらいからヤバいやつ認定、中学生以上ではその出来事を後々事あるごとに思い出し、布団の中でギシギシアンアン体をよじらせるハメになるだろう。

 

しかしながら、超能力というのは何故か自身と妹の体に生まれつき宿っている。自分がまだ小学生だった頃、祖父母両親は交通事故で全滅。乗っていた俺と妹は生き残り、妹は人のいい親戚の家へ預けられた。中学生になってからは再建したこの家に帰ってきてるがな。Q.なんで生き残ったの?答えは簡単、I am Psychics.っと、こんな具合だろうか。

 

俺の超能力は何故か≪炎≫というカタチをとって顕現する。全身—特に背中から生える不定形の翼のようなものは、超能力を発動させる時には必須のキーである。逆に言うと翼をはやさないと超能力は発動不可能、なんだよなぁ。ということは≪炎翼≫をだし、超能力を自由に行使する自分は、恐らく世界中の軍隊を相手取っても勝てると思う。いや、うぬぼれじゃなくてマジで。

 

≪炎翼≫自体も便利である。本気の上限下限は分からないけれども-100℃くらいから4000℃くらいは余裕で出せた。得物や身体に巻き付けてそれを強化することはもちろん、≪炎翼≫と共にはじき出す「必殺技」は500km位を原子の塵に帰す。つか炎なのに−100℃って訳がわからない。

 

とまあこんな力を持っていてもあまり意味はないわけである。普通の学校生活で≪炎翼≫はほぼ100%使えないし、東京駅から「必殺技」を放ったら京都付近まで原子の塵だ。

やってられん。まったくもってやってられん。どうやら世界は超能力者にやさしくないようである。

 

…そろそろ限界まで眠くなってきたので大人しく眠ろうと思う。

 

おやすみなさい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が寝た後、切り分けられ断絶した空間の中で。

 

彼が寝返りを打ち、うつぶせになった後、何の前触れもなく背中から≪炎翼≫が噴出した。それは瞬く間に断絶した空間内を覆い、内部は炎で満たされた。包まれてから数秒後、突如として凄まじい光が発生。それは怒って一階にいた妹すらひっくり返る程の光量を発揮し、驚きあきれた妹が上に行ったとき、彼、雪村悠一はベットから消えていた。

 

 

 

 

 

 

  この日、この時、この時間。世界でたった二人の超能力者のうちの片割、雪村悠一の存在は世界から消失した。




はい、これは超能力者、雪村悠一くんがのんびりISの世界を回るお話です。

彼の妹はやっぱり≪炎翼≫が出ます。けれど彼ほどではなく背中からしか出ませんし、彼がアタッカーだとすれば彼女はトリッカーですね。いや、援護にすら回れないかも。彼が出した空間分割も破れませんでした。


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第1章 始まりと化け物の絶望
Ver.1 Who are you?/ Where am I !?




嗚呼眠い。何もしたくない。


かたい地面に打ち付けられ、彼は目を覚ました。正確に言えば痛みから目が覚めた。

 

なんやこれむっちゃ痛いやんけ!と思う前にヤバいまたやらかした!という思いがせりあがる。要は彼は寝ている間にミスって超能力が発動したと思ったのである。数年前、夕食のうどんと共にダルヴァザの地獄の門に飛んだときは心底驚いた。いやぁあれは大変だった。昼間の地獄の門は妙にしょぼかったのを覚えている。あん時助けた女の子は元気かなぁ?

 

...と、まぁくだらないことに思考を巡らせていると、目の前に一人の女性がいる事に気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之束は二十余年生きてきた中で、おそらく一番びっくりしていた。ISの第四世代機の着工に取り掛かり、それがほぼ完成しようとしていた時、突如として凄まじい光が沸き起こり一人の少年が現出したのである。少なくとも、世俗から「天災」とよばれている自分が全くもって気付かなかった相手に、世界中の調査機関がいくら探しても全くわからなかったこの拠点を探し当てた少年に、束は油断なく相手を見据えて質問を投げかけた。

 

 

 

 

 

   「「お前、誰?」」

 

 

 

 

 

...質問は見事にかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

雪村悠一はこの出来事に完全に驚き、また目の前の変人ファッションおばけに警戒していた。少なくとも目の前にいるこの女が、恐らく自分以上に頭がいいこと、使用方法が全く分からない機械がゴマンと置いてあるこの部屋、何しろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対して。そして一番の理由として、「こんなファッションセンスしているやつがまともなわきゃない!!!」という自身の直感に従って。なんだこのファッションセンスは。ひとり不思議の国アリスじゃないか。あとしばらく寝てないだろお前。「視認」しなくても一発だ。目の下の隈、微妙にガサガサの肌、ぼっさぼさの髪、役満だ。32000点だ。

 

 

様々なことに一瞬で考えをはじき出した末に、今現在パジャマ姿の超能力者は、≪炎翼≫を出すのは危険すぎる、と判断を下した。あまり相手に情報を与えたくなかったのと、なるべく情報が欲しかったため。Takeは好きだがGiveは嫌いだ。というやつである。しかしながら不意打ちにも十分対処できるよう、また「超能力」の方を行使できるよう服の下で小さく炎を瞬かせながら。

 

こうして二人揃って仲良く同じ質問を繰り出したのである。

 

 

 

 

案外この二人、似た者同士なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやなんなのさお前。急に私の家に入ってきてさ、礼儀というものが全くないのかな?」束は尋ねる。「そもそもどうやって入ってきたのさ、君、えぇっとパジャマでいいや。おいパジャマ。答えろ」

 

 

「いや悪いな、勝手に入ってきちゃってさ。さっきまで家で寝てたはずだってのに...。そもそもここどこだよおい、えぇっと変人ファッションおばけ。さっさと出ていくわ」

 

 

「おい誰が変人ファッションおばけだよパジャマ。まあいいや、いや全くもって宜しくないけど、ここにあるもん見られても困るし、大人しく研究材料になるか抵抗して研究材料になるか選べ。」

 

 

「選択肢一つじゃねえかボケ。ヤダよ」

 

 

「そ、じゃまぁ...」

 

 

 

 

   —研究材料確定ね!

 

 

 

 

ファッションおばけが指を鳴らした次の瞬間、何もない空間からピンク色のレーザーが四本放出され、それらは光速で中空を奔り、肘膝を完全に貫く、はずだった。

 

 

 

 

雪村悠一は≪炎翼≫すら出していなかった。光速で迫るレーザーに対し、彼は数多所持している「超能力」のうちの一つ、「固定」を使い、それらを空中に「固定」した。

 

 

「これをお前に返却しようか?」と問いかける。

 

 

対しておばけの答えは、「何、それ。何でPICを使えているの?君、男だよね?何でISの機能が使えているの?」という疑問だった。恐らくあれは自身が開発した宇宙開発用パワードスーツ、ISことインフィニット・ストラトス ー最も本来の使い方はされていない悲しい現実があるがー の機能の一つ、PIC、パッシブイナーシャルキャンセラーの応用である。先程の会話と応答の最中、様々な方法を使って目の前のパジャマを観測していた。パジャマは間違いなく男であったし、ISを埋め込んだりしている様子もなかった。だからこそ畏怖したのである。何なのだこの男は。

 

 

一方、雪村は雪村で驚愕していた。先程の会話と応答の最中、「視認」「観測」「透視」「望遠」「統括」など様々な「超能力」を使い、自分がいま世界のどこにいるかを確認しようとしたら、まず自分が海の底、ハイテクノロジー潜水艦内にいることが判明した。次に目の前の変人の細胞が人間とは大幅に異なっていることが分かる。最後に自分の家を探すと、それが見つけられなかった。彼の「超能力」「望遠」「透視」は地球の裏側まで見透かす。いま現在自分がマリアナ海溝にいようが、埼玉の実家は直ぐに分かるはずだった。いや、厳密に言えば家はあった。しかしそこには持っている写真を数年老けさしたような両親、それと知らない子供が二人そこで暮らしていた。

 

 

ふんふむ、と雪村は考える。--平行世界かな?これ。

そして声を張り上げる。どこぞの世界の異能を打ち消すウニ頭の少年のように。

 

 

 

 

「不幸だああぁぁぁーーーっっ!!!」

 

 

 

 

篠ノ之束は人生史上一番混乱した日だっただろう。少なくとも普段の彼女を知るものにとっては有り得ない行動に出たのである。それ程彼女は混乱していたのかもしれない。不法侵入したパジャマは突然動作を停止したと思うと土下座のような体制に移行し、不幸だ、と声を上げるパジャマに対し、

 

「とりあえず、お茶...飲んでく?」と、お茶を差し出したのだった。

 

 




雪村は「固定」を使った時は、背中からちょっとだけ≪炎翼≫を出していました。
≪炎翼≫を出していないと彼は「超能力」を使えません。≪炎翼≫は服の上から出すことも可能です。でないと困りますしね。


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Ver.2 変態と天災/思考回路の差異

盈虧って言葉が好き




映画「君の名は。」のネタバレ入ってます。



出された玄米茶をすすりながら、雪村悠一は思考を巡らせる。

 

 

状況を整理しよう。少なくともここは平行世界だということが分かった。以上。

・・・いや、以上じゃねぇんだよ。どうしようか。世界の座標がわかんない今実際問題積みかけているのであるんだよなぁ。これが恐らく並行世界でない以上。

 

平行世界と並行世界はまったくもって違う。たしか並行世界は並列な世界、つまりはifの世界である。もしあの時ああしてれば、というアレである。それに対して平行世界は、言ってしまえば作品単位での違いである。文字通り世界が違うためそのフォーマットも変わってくる。海鳴町や学園都市や駒王町や冬木市や風都は世界がどのルートを通っても決して一緒にはならないのである。もし一緒になったらそれはそういう世界として決定される。映画「君の名は。」がいい例だろう。糸守町に瀧くんが行った後、「世界の強制力」により、LINEの内容がどんどん消滅していった。少なくともあの時の世界では宮水三葉は死亡していたのである。それが尽力により、糸守町の住人は()()()()()()()()()。世界が新しく構築されてしまい、()()()()()のである。

 

 

それはともかく、恐らく妹は「干渉」「捜索」「探知」「追跡」「放出」などを行使しながら自分に向かって何らかのシグナルを送って来るだろう。あいつはそういう奴だ。自分側も同じことをし、見つかったら「反射」「共鳴」などを使ってシグナルを送り返せばいい。なに、そう悲観的になる必要はないのだ。例え根無し草の無一文だろうが、何年かかろうが妹のいる元の世界に帰る。壮大な迷子だ。絶対に家に帰ってやる。そして妹にただいま、と言ってやるのだ。あいつは意外とさみしがり屋な面も持っているからな。

 

 

 

 

篠ノ之束は落ち着きを取り戻し、彼のことをゆっくり観察していた。彼は完全に丸腰であり、完全に寝起きの相貌である。なのにここにピンポイントで入ってきた。自らの知的好奇心を満たしてくれそうな相手に科学者としての心はいやが上にも高鳴る。恐らくこいつは私と話ができるくらいには頭がいい。それは唯一無二の親友では残念ながら不可能だろう。私が0を1にする天災だとしたら、こいつは1を100に、1を-100に、小数に虚数にと千変万化なことができる天才だろう。そんな密かな胸の高鳴りをみせる彼女に対して彼はがばりと頭をあげ、

「とりあえずお前風呂入ってこい」

と大人のladyに対して百点の回答を答えたパジャマに、束はこれまた百点のジャンピングニ―ドロップをプレゼントした。

 

 

 

 

 

 

衝撃でよろけた彼の手がISに触れる。途端にISは光輝き、起動した。

凄まじい知識の流入に、しかし彼の処理能力はそれをさばいていく。

ふと気が付くと彼はそれを装着していた。

起動した恩恵なのか彼は前後左右上下、360度を見渡すことができている。これすごいな。普通の人なら酔いそうなもんだが。いや、それに対して脳内に干渉もしているのかな?

 

 

「悪い、なんか起動しちまった」

 

 

それに対して彼女は、「なんで男が起動できるんだよ...」と、もはやあきれ果てていた。




後から見返すと心底恥ずかしい文章になっていることってよくありますよね。


それはそれとしてフリガナの振り方が全然わからない...

アクセラレータ
一方通行     みたいにやらないととできない


誰か教えてくれ


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Ver.3 契約と入学/出逢いと始まり

本当にルビが振れない...


それじゃ、契約の最終確認と行こうか。

 

俺の望みは唯一つ、元の世界に帰ること。

 

そっちの目的は俺の≪炎翼≫及び「超能力」の研究。

 

俺は基本的にお前の利益になるよう行動し、お前は俺の面倒ごとの片づけ。

 

俺は元の世界の座標が見つかったら即帰還する。その後はお前持ちだ。

 

————じゃ、精々よろしく頼むぜ、天災。

 

 

 

 

 

 

 

数十か月後、洋上、IS学園1年1組。

 

織斑一夏は目の前の、クラスの副担任山田先生——どう見ても先生には見えない童顔——の、凄まじく主張している大きいナニかに目を取られつつ居たたまれない表情を作っている。自分一人を除き全員女子、つまり99%の女子高に何故か入学した自分の運命を呪いつつ、現実逃避に浸りたかった。

 

————事の始まりは3か月ほど前に遡る。彼の家には両親がいない。唯一の肉親はどこかへ毎日働きづめだ。そんな姉を助けようと思った彼の志望校は学費が安く、また就職率が高い藍越学園。その受験日が今日に迫っていた。

藍越学園は偏差値も高く、カンニング防止のためか別の施設を借りて試験を行っていた。そのためか彼は会場内で迷い込み、ちょっとした好奇心からたまたまそこにあったISに触れてしまった。

 

 

有り得ないはずの男性がISを起動したというニュース。彼は彼自身が望まなくとも世界中を上へ下への大混乱に陥れ、結果この学園にぶち込まれた。————そんなこんなで今現在に至る。ふと教室を見渡すとクラス中全員が全員、こちらを注視していた。まさに孤立無援、四面楚歌。幼馴染の篠ノ之箒は助けてくれなかった。助けてmy sister————

 

その様な中でとうとう自己紹介の番が回ってきてしまった。仕方なく彼は立ち上がり、

 

「えー...っと織斑一夏です。」ここから話が繋がらなくなってしまった。どうしよう。考えてた事が全部吹っ飛んだ。あっ待ってそこの女子、そんなに期待しないでお願いだから。つかよく見たらクラス全員期待の籠った目で見てるじゃねえか。よしこうなったらこうしよう。俺は男だ。

...なんてことを3秒間という自己紹介の内では少し長い空白の間、高速で考えた末、思考がまとまり次に言う台詞が定まった。

 

「以上です!」

 

あ、クラスの全員がコントのようにずっこけた。仲いいね君たち。今日初対面でしょ?

 

「自己紹介もまともにできんのか」

 

次の瞬間パカァン!!というヒトの頭から出てはいけない凄まじい音が彼の頭から炸裂する。彼の視界は真っ白に染まり、刹那、全身を突き抜けるような痛みが襲った。数秒後何とか痛みから回復し、自分の頭をひっぱたいた人物を見据えると、そこに仕事に行っているはずの姉がいた。何でここに自分の姉が。

 

「ち、千冬姉!?何でここ———

 

パカァン!

 

「学校では織斑先生と呼べ」

 

千冬姉は手に出席簿を持っていた。凄いな出席簿って。それであそこまでの威力が出せるんだ。とっっっても痛い。

 

千冬姉は山田先生と少し会話をした後教壇へ登りとても通る声でこう宣言した。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

わぉ、独裁者みたい。

 

と、その突っ込みは千冬姉のファンだと言うクラスメイトのソニックブームにぶっ飛ばされた。

 

話が進み、千冬姉が切り出した。

 

「さて、今から諸君らも気になっているだろう、そこの空席に入ってもらうクラスメイトを紹介する。」

 

入ってこい、と彼女が声を掛けるとドアが開いた。

 

その一瞬、全員の息が止まった。

 

何故なら入ってきたのはIS学園の男子制服を着た男だったからだ。

 

 

 

 

 

甚だ不本意ながら学校に通う事になってしまった。と雪村は考える。どうやら束の親友の弟である織斑一夏がISを動かしてしまったらしい。それはめでたいことだなァ、と呟き充てがわれた部屋へと帰ろうとしたところ陰ながらの護衛に従事して欲しいと言われた。あくまで学園内でいいからと。正直冗談じゃない、と断りたかった。世界を大混乱に陥れるのはこいつの特技だ。1人目でびっくりなのに2人目なんて出てきたら世界はオーバーフローしてしまうだろう。しかしながらこれを蹴ると契約は棄却になってしまう。面倒ごとは大嫌いだ。俺は細かいことは全部やっておけよ、と一言兎に言っておき、部屋に戻った。ISの基礎知識と経験は数週間「委託」やら「管理」やらを使って数日で身につけた。まあ学園生活も何とかなんだろ。

教壇に立ち、自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 

ドアが開き、入って来た彼は俺のことをチラッと見るとポッケから手を抜き、悠々と自己紹介を始めた。

 

「皆さんはじめまして。世界で2番目に男性でISを動かした雪村悠一です。好きなことは寝ること、嫌いなことは面倒ごと。趣味はバイク、特技はなし、よろしくしてくれてもしてくれなくてもなくても構いません。また一々構って貰わなくとも結構です。こんな御世代ですからね。一応よろしくお願いします。」

 

...奇妙奇天烈な自己紹介を終えた彼は千冬姉に「ところで織斑教諭、自分どこ座りゃあいいんですかねぇ?」と質問し、もっとまともな自己紹介をしろ、と軽く引っ叩かれていた。




一応言っておくと、彼はまともな人間生活を送る気は全くありません。学園内での一夏に対する護衛くらいしか考えておりません。


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Ver.4 会話と睡眠/疑惑ばっか

基本即興で書いているのでそのうち矛盾や齟齬やら沢山出てくるでしょう。
僕はこっそり直して知らんぷりするでしょう。


IS学園 1年1組は開始早々驚愕に包まれていた。その様な報道は一片たりとも聞いていなかったし、前もって聞かされてすらいなかった。その驚愕に応えるように織斑千冬は話を再開する。

 

「あー、諸君たちの混乱もわかる。何しろ急すぎたものだったし、彼個人を守るためにも情報操作を行わせてもらったのだ。どうか彼もこのクラスの一員として迎え入れてほしい。」

 

 

「そういうことです。恐らく一年間、宜しくお願い致しますね。」

 

 

 

 

 

...嘘はついていない。しかし彼女は本当のことを言うつもり毛頭はなかった。

 

数日前、IS学園全教員に急遽緘口令と共に聞かされた「2人目の男性IS操縦者が見つかった。」というニュース。更に後輩の新人教師、山田真耶と共に学園長室にて言われた、彼を私に託すという意向、そしてさらに続けられた真実として、この少年は稀代の天災にして行方も知らぬ親友、篠ノ之束がこの学園に織斑一夏の私的な護衛として寄越して来た、ということ。

 

 

数時間後、彼女はどう見ても寝顔の盗撮写真だろ、という写真を調査書に貼った少年と向き合っていた。彼の名は雪村悠一。埼玉県のとある市出生、とある公立小学校及び中学校卒業。という()()()()()()()()()を見ていた。聞けば彼はとある地方で虐待を受けていたところを()()()束に拾われたのだとか。生まれた時から親に虐待されていたため、戸籍や名前すらなかったのだ、と。

 

確かに筋は通っている。しかしながら彼をどうしても信頼することが出来なかった。それは女の勘として、嘗て世界の頂点に立ったブリュンヒルデとして、人間の本能として、全てが警鐘をならしていた。

人は生きていく故に少しは隠し事をするものである。しかしこいつは何かを()()()()()()()。運悪く今年はあんなにもISから遠ざけていたにも拘わらずISを動かしよった愚弟が入学してくる。彼自身は温和で飄々とした性格をしているだろうが、彼の背中に背負っているだろうものが、彼女の不安をどうにも駆り立てた。

 

 

 

 

 

 

 

織斑一夏はいたく感動していた。いきなり前人未到の地に放り出された様な感覚だったのに、頼れるガイドが現れた様な気分だった。休み時間、早速彼の下に行き、人混みを掻き分け話しかけてみる。

 

 

「初めまして!俺は織斑一夏!これから宜しくな!」とシンプルイズベストな挨拶を試みる。すると彼は読んでいた「現代の日本とその行く末」と書かれていた新書から目を上げ、女子に絡まれ、若干疲れたような顔を見せながら

 

 

「ああ、俺は雪村悠一。クソ兎からお前の名前だけの護衛とやらが入っている。まあ好きにしてくれ。無視するでも分からないことがあれば聞きに来るでも。出来ればあまり付き合わないでくれ。」と、彼の声からは女子の熱気と好奇の視線に晒され、もっと疲れた様子が浮かんできた。

 

ん?クソ兎?名前だけの護衛?と思う暇もなく「ちょっと、いいか?」と突然昔良く聞いた声が聞こえる。もしかして箒、箒か!?と思う前に横から飛んでくる声。「積もる話でもあるんだったら外で話してきなさいよ。俺は寝るから。」と、どこまでもゴーイングマイウェイな性格を貫いていた。

 

 

 

 

 




束としては彼がIS学園に入って自分には出来なかった普通の生活を送ってほしい、という願いも一割くらい入っています。九割型はISを通じて≪炎翼≫及び「超能力」のデータを採取したい、ですけどね。


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Ver.5 自由と固執/話を聞いていない男

やっとこさルビが振れるようになりました。わーい、やったぁ。
ググったら一発で出てきました


「ちょっと、よろしくて?」

 

二時間目が終了し、体を動かしていると、一人のお嬢様的女子が話しかけてきた。雪村はその特徴的な金髪ドリルにどっかで見たような既視感を覚える。ああそうだ、こいつは確か―――

 

「イギリスの代表候補生のセシリア・オルコットさんだったっけか。何の用だい?」と質問してみた。

 

 

「あら?わたくしのことを知っていらして?」

 

 

「ああ、失礼だが君の試合を幾つか見させて貰った。特に君のレーザーライフルの取り回しは十分参考にさせて頂いたよ」

 

とあたり触りのない返答を返しておいた。

 

彼女はISの国家代表候補生にして専用機持ちである。彼女のISは『ブルー・ティアーズ』だったっけか。確かに67口径のレーザーライフル『スターライトmkⅢ』からはじき出される正確な閃光は他の操縦者にとって厄介の一言だろうか。そして最大の特徴であり、本機と同じ名前を冠する自立兵器『ブルー・ティアーズ』だろうか。というか何でエゲレスは機体名と代名詞となる兵器名を同じにしたのだろうか。一番厄介なのは彼女本人ではなくこれがどっちを指しているのかが分かりづらいという事だろう。何だっけ、そうだ『ブルー・ティアーズ』だ。いや自立兵器の方だ。やっぱり厄介だ。俺は面倒くさいのが大嫌いである。そうそう、こいつは、まあ、あまり気にしなくていいだろう。これを稼働している最中は彼女自身は動けない、という明確な弱点があるし、BT兵器最大の特徴の偏向射撃(フレキシブル)が使えないという弱点もある。まあ俺の敵ではないだろう。

 

そんな下らない事を考えていると、彼女は彼女で勝手に納得してくれたのか、

 

「まあ、もし分からないことがあったら私が教えてあげますわ」

 

的なことを言って織斑の方向へ去って行ってくれた。ま、恐らく彼女の中身は女尊男卑にまみれているだろう。会話の節々からその様な気が漏れ出していた。かといって今の世界情勢や彼女の思考回路に一々文句を言ってもしょうがないし、言ってもあの兎に憂さ晴らしの蹴りをぶち込むしかないだろう。あるいは男ばっか見下しても何も始まらない、と言う事に気がつけば話は別だろうが、あいにくそこまでわざわざ手を貸してやる義理もない。一々そんな面倒くさい事に首を突っ込む暇もないのだ。一刻も早く俺の家に帰りたい。妹の作ったホワイトシチューが食べたい。嗚呼、日に日にホームシックならぬワールドシックは増してゆくばかりだ。

 

 

俺は織斑が何らかの彼女の逆鱗に触れたのか、怒鳴り散らしているセシリア・オルコットと若干怯えている織斑を見て、小さく笑った。イケメンめ。ざまあみろ。

 

 

 

三時間目、織斑姉が教壇に立ち、どうやらクラス代表とやらを決める事を述べた。自推他推問わず、更にこれは一年間変更がないらしい。冗談じゃない。絶対やってたまるかってんだ。ただまあそう簡単にほっといてくれないのがこの教室であり、この世界だ。

 

「はいっ。私は織斑くんを推薦します!」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「私は雪村君!」

 

「じゃあ私も...」

 

だろうね。うん。知ってた。俺は背中と服の間にこっそりと≪炎翼≫を現出させ、「委託」「管理」「分配」などの知恵を総動員してどうやって織斑に押し付けようか考えていた。

 

「待って下さい!納得がいきませんわ!」

 

お、彼女が立候補してくれた。こりゃあ重畳。俺は彼女がクラス代表を努めてくれる事に期待し、早々に思考を切り替えた。俺は因果律と≪炎翼≫の関連性、簡単に言うと、俺が擁する≪炎翼≫及び「超能力」は通常の物理法則を軽く捻じ曲げる。これは因果律に対しても効果を発揮するのではないか。と言う話に思考を潜らせた。

 

 

…「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 

そもそもこの特異的過ぎかつ莫大な力を秘めている≪炎翼≫のエネルギーは一体どこから発生し、賄われているのか。

 

 

…「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 

このエネルギーは明らかに超自然的なものである。これは俺がこの世界にトバされて来たものと関係があるのだろうか。あの兎なら平行世界ならともかく並行世界は容易く超えてきそうだ。しかし、今現在アイツは俺に与えたISからデータを取っている。それでもこの前「サッパリわからなーい!」と言う泣き言が飛んできたため、天災ではない俺が理屈で理解するのは難しいだろう。

 

 

…「大体文化的も後進的なこの国にいること自体屈辱だというのに!それを珍しいから…」

 

 

凄まじい勢いで文句を言い続けるセシリア・オルコット(イギリス代表候補生)。別に彼女がどうなろうと知ったこっちゃないが一応この国にも白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫があるのを彼女は知っているのだろうか。あれは経済白書だっけか、「最早戦後ではない」というフレーズは。

 

 

…「イギリスだって対したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 

いやそれは違うだろ織斑。イギリスにも美味い料理を出す店は確かにある。具体的には日本料理店だ。いやイギリスにも美味い料理はある…?あったっけ…?あくまで俺が行った中で美味い料理は…オレンジ?

 

 

…「決闘ですわ!」

 

 

いやこの国には決闘罪というのがある。最もほぼ使われることはないが。「決闘罪二関スル件」だったっけか。応じたものは六月以上二年以下の懲役だっけ。いやIS学園(ここ)では独自の法があるんだっけ。

 

 

…「それでいいよな!悠一!」

 

 

意識が急浮上する。回答に関する思考が高速回転する。≪炎翼≫及び「超能力」を従える高性能な彼の頭脳がはじき出した答えは、

 

 

「いや、文化的に遅れてはいないさ。特に高度経済成長期の目覚ましい発展には目を見張るものがある。君たちは知っているかい?新三種の神器というものを。Color television・Cooler・Carの三つだ。3Cともいわれるね」

 

 

 

 

 

 

 

「…いつの話題ですの、それ」

 

 

 

 

 

 

空気が、冷え固まった。

 

 

 

 




雪村 「空気を「固定」「調整」!!」

世界の座標をさっさと見つけて帰るのでセーフ。


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Ver.6 邂逅と洋梨/軽い質疑応答

評価もらえました。かなりビックリ。ありがとうございます。


今回若干回想。
一回消しました。サーセン


つまり、だ。

何の力もない織斑が代表に持ち上げられている事にキレたセシリア・オルコットが日本がなんだー。と割とどうでもいい方向に怒ったと。いや、まあ分からなくもないよ?けどね、あんた代表候補生でしょうが。しかしながら織斑も負けてはいない。メシマズがなんだー。とこちらも訳分からん方向にキレ返したと。うん。、まあこれもまた分からなくもない。だけどね、お前ももう高一でしょうが。生温かぁい目で嗚呼、自分の若さを思い出す...的な視線で見守ってりゃいいでしょうが。悔しかったんなら強くなればいいさ。幸いあと三年間くらいはあるんだからさ。そんでもって決闘だー。となったと。いいよ。存分にやんなさいよ。ただね、唯一分からんのがさ。

 

 

「なンで俺まで決闘要因に含まれてるンですかねェ!?」

 

 

おいこらこっち向けよ織斑ァ。俺ァ怒らねェからよォ。

 

 

あの後的外れな事を言った俺に対し、織斑姉はそれはそれは素晴らしいものを俺の頭に頂戴してくれた。曰くまともに話を聞いておけと。いや、誰が好き好んで痴話げんかに首を突っ込まなきゃならんのさ。意味が分からん。その様な類のことを申し奉ったら二激目がすっ飛んできた。お前も推薦されていたのを確かに私は聞いたぞ。そんな悪魔の声が薄れゆく意識に確かに響いた。

 

 

そんなこんなで放課後。俺は逆恨みから織斑の面倒を少なくとも代表決定戦が終わるまでは見ないことを決意し、一人帰宅の地についている。俺の部屋はまあ、相部屋はしゃーないとして、何故か二年生のところにあった。まあいいや。機が来たら直ぐに一人部屋にしてもらおう。念の為「透視」で部屋の中を見渡す。

すると、とても愉快な格好をした女がいた。恐らく水着の上にエプロン。どうやらこの世界で変人ファッションおばけは徐々に感染しているらしい。想像してみよう、織斑姉がフリフリファッションドレスを着ているところを。山田先生がボンテージにパピヨンマスクを着け、手に鞭と蝋燭をもって授業をしているところを。あれおかしいな、これを出席簿に変えたらまんまいつもの織斑姉だ。

 

意を決して俺はドアを開ける。嗚呼素晴らしきかな我が「超能力」。 そこには「透視」したのと寸分たがわぬ光景が広がっていた。ふむ。健康的な肉体だ。普通のJK生活をしていたら()()()つかないだろう筋肉。お前どこのもんだよ。幾度となく修羅場を潜り抜け来ているのがひと目でわかるその肉体を「観察」する。しなやかな獣を思わせるそれはシミ一つなく自分の目の前に呈された。

 

 

まあそれはそれとして。俺は部屋に目を通す。————広い部屋だった。ホテルのスィートルームレベルのこの部屋は、普通ではまずお目にかかれない最新設備をそろえていた。————最も兎の研究室に比べればガラクタみたいなモンだが。

 

 

「もう!話聞いてるのぉ!」出し抜けに大きな声が響き渡った。

 

 

「ああごめん。俺の信じる聖書には「変人ファッションおばけを信じるな」と書いてあってね。まったくもって聞いていなかった。もっかい最初から。ハイ。」

 

 

俺は彼女が持っていた扇子で頭をひっぱたかれた。解せぬ。「この頭をひっぱたく音がいいね」と君がいったから四月三日(今日)は頭殴記念日。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで。お前はどこの回しもんだ。」

 

本当に先程と変わらない声色の雪村の声が染み渡る。彼女は怪しすぎる。といっても雪村本人に害悪をもたらす存在ではないだろうが。

 

「名字からして政府の御犬様の更識さんかな?正直迷惑してるぞ変人ファッションおばけ2号」

 

更識は口角を吊り上げ、話す。「よく気付いたわね。1号が大いに気になるけども、確かに私が更識家17代目当主の更識楯無よ。よろしくね。」

 

と扇子で口元を覆い隠しながら挨拶して来る。その眼は対象物が害悪と分かった瞬間消し飛ばしてきそうな危険な光をはらんでいた。

 

 

「だろうな、ラ・フランス。おおよそ俺の保護1割監視9割っていったところだろ。何しろ俺は怪しすぎるからなぁ」

 

 

「ええ。あなたが篠ノ之博士のところから送られてきた人間ってところまでは理解している…」って誰がラ・フランスよ!」

 

 

()()ねぇ。苦笑する俺の横で彼女は続ける。

 

「まあいいわ。いやよくないけど。あなたに最初に聞いておきたいんだけど...

 

 

————貴方は、敵?

 

 

瞬間、彼女は自身のISを展開し俺にデカいランスを突き付けていた。ついでどこからともなく湧き出た水が俺の全身を覆う。大分喧嘩っ早いこったで。雪村は自身のISを瞬間的に展開、周囲の水を消し飛ばした。

 

 

「もし仮に俺が敵だったら、お前、今ので死んでたぞ」

 

 

そこは彼女も理解していたようで、

 

「ええ、あなたがそうならないように祈ってるわ」

 

 

と、軽く返してきた。

 

 

雪村はベットに倒れこみ、彼女は脱衣所に向かう。去り際に、独り言のように、

 

 

 

————信じてるわよ。

 

 

 

 

 

———なにが信じてるわよだ。紙より薄い口約束なんざ信じるやつなんざ顔を拝んでみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————調子狂うんだよなぁ。兎にしろ、織斑にしろ、こいつにしろ。

 

 

ああクソッタレ。無条件な信頼なんか直ぐに消し飛ぶ。俺ら兄妹が何度も何度も味わってきたことだろ。思い出せよ、あの道端で轢かれているイモムシでも見たかのような眼を。恐怖にひきつった眼を。信頼なんか直ぐに消え去る。

 

 

 

 

 

 

…それでも、世界を超えて、今回ばかりは、今回ばかりは、と期待している自分に心底苛立ちを覚えながら。

 

 

 

 




楯無→洋梨→ラ・フランス
いつものツマらんギャグです。雪村はいつもこれを使って話を逸らしたりしてます。


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Ver.7 語らいと殺伐/試合前の一コマ

織斑先生って学生時代、SM女王のバイトしてそう


数日後、対オルコット、織斑戦が数日後に迫った日の夜。

ふと楯無が雪村へと話しかけてきた。

 

 

「そういえば、オルコットちゃんや織斑くんと戦うことになったんでしょ。訓練する気はないの?」

 

 

「必要ないね。そもそも俺が勝つ必要もないさ。適当に手ェ抜いときゃ女尊男卑のセシリア・オルコットの気も晴れるだろうよ」

 

 

「...駄目よ」

 

 

はァ?と彼女の方を振り返る。彼女は何故か真剣な表情でこちらを見ていた。

 

「彼女は女として、彼女自身の家の誇りをもって君たちを倒そうとしている。本気でやらないと失礼になるわよ」

 

 

ふぅ、と息をつく。「あのさぁ、どちらかというと俺は巻き込まれた側だ。そもそもこの戦いに意味はない。クラス代表の座と対価に女尊男卑と奴らに目を付けられたくないしね」

 

百害あって一利なし、という奴だ。

 

 

厄介なことに奴らはISを神聖視している。傍から見ていたら馬鹿じゃねぇの?としか思えないのにだ。信仰すんなら信仰するでどっかの山奥にコアでも奉ってひたすら拝んでりゃいいのに一々男にいちゃもんをつけてくる。迷惑千万極まりない。彼女らの頭の中ではISは凄い。それを使える私たち女も凄い。だから男はこれに従え、と。その愉快な頭はどうやったら製造されるのか。プラントを見てみたい。そして毎回思うのがすごいのはISじゃなくてそれを作った篠ノ之束だろうが、と。

 

話がそれた。つまりはそういうやつらにとってブリュンヒルデの弟である織斑一夏ならともかく、何の後ろ盾もない(クソ)は格好の宿敵だろう。俺は面倒ごとは大嫌いだ。ゆっくりと学園に潜伏し、世界の座標を見つけてさっさと帰るに限る。そして妹の作った生姜焼きをゆっくり食べるのだ。

 

ともかく、そんなめんどい奴らのやっかみに時間を割く訳にはいかない。だからバレない範囲で手を抜くつもりだった。

 

 

枕から顔だけを出している楯無はそんな雪村を見て、

 

 

「ちゃんと戦ってくれないと、ある事ないこと織斑先生に言っちゃうぞ♪

 

例えばボンテージにパピヨンマスクつけていた織斑先生のコラージュ作って爆笑していたこととか...」

 

 

「はぁ!?俺を殺す気かよお前は!!」

 

 

「言われたくなかったら、ちゃんと戦いなさい」

 

 

雪村は頭を掻きむしりながら、

 

「分かった分かった。その代わりセシリア・オルコットと女尊男卑の奴らへのフォローはお前がしておけよ。俺ぁぜってぇやらんからな」

 

 

「ふふっ。そこはおねーさんに任せなさいって♪」

 

 

「はいはい。任した任した」

 

 

 

 

同時期、仮想訓練ルームにて、セシリア・オルコット。

 

彼女はAI上に仮想敵を出現させ、最高ランクに設定したそれを、互角以上に追い込んでいた。縦横無尽に空を翔けるビットは敵の急所を的確に貫き、スターブレイカーmkⅢの射撃が相手のガードを崩す。とどめの一斉射撃で仮想敵のシールドエネルギーは0となった。

 

部屋から退出し、一息つくセシリア・オルコット。そこに喜びの顔は、自信の表情はなかった。思い出すのは彼女の父親。いつもいつも誰かの顔を見てはへこへこ頭を下げていて、強きものものに媚をうる表情がべったりへばりついていた。そんな父親を彼女は心の底から嫌悪し、軽蔑し、差別し続けた。

 

そんな中現れた二人の男。一人は何の頭も力もない男のくせに自分に食ってかかってきた織斑一夏。もう一人はこの教室に何の意味もないと言わんばかりにまるで頓珍漢な発言を繰り返す雪村悠一。織斑一夏のあの反抗的な視線と雪村悠一のあの何の興味を持ってないというあの視線。彼女は二人の事をまるで理解できなかった。男のくせにあの生意気な視線。生物というのは理解できない者には負の感情を示す。彼女は彼らのことが心底憎たらしく、また彼女も知れない所で恐怖を感じていた。

 

 

 

 

悪いことは往々にして重なるものである。

織斑一夏はその言葉を思い出していた。

 

 

「なぁおい箒。俺はさ。ISのことについて教えろっつったよなぁ!!!」

第一ピットに織斑の悲鳴が響き渡る。どうやら篠ノ之箒が教えてくれたのはISではなく剣道だったみたいだ。

悪いことはさらに重なる。副担任の悲痛な声が聞こえてきた。

 

 

「織斑くんのISが、届きません...」

 

 

ああそんな泣きそうな顔しないで。後ろで悠一が山田先生を泣かせたな?いい度胸だ地獄を見せてやる。といったとてもイイ笑顔でこちらを見ている。雪村が一息ついた。山田先生の頭をポンと軽く撫で、

 

 

「山田先生、織斑のISはいつ頃届きますかね?」

 

 

「え、えっと...少なくとも三十分は掛かっちゃうかも...しれません...」

 

 

なるほど、と雪村。

 

 

「じゃあ、四十分持たせます。織斑、その間に初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)やれるよな」

 

 

「お前、セシリアって代表候補生だっけ?とにかくすごいやつなんだろう!?お前、大丈夫――――

 

 

台詞は最後まで言えなかった。いつでも飄々とふざけている二人目は、山田先生の時のように俺の肩に手を載せて、

 

 

「――――俺を信じろ」

 

 

と薄く微笑んで見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば織斑」

 

 

「何――――

 

 

再び台詞は最後まで言えなかった。悠一の万力のようなヘッドロックが俺の頭を締め付けたからだ。

 

 

「お前、何、山田先生を、泣かしてんだ、ああ?」

 

 

「いっ、いてえ、悠一、やめろ――――

 

 

「お前たち、何をふざけている」

 

 

「「あ」」

 

 

 

 

 

第一アリーナAピット内の時間は折檻と血みどろに彩られ、騒がしく過ぎていった――――

 




次回、雪村の専用機。


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Ver.8 相対と驚愕/この場の支配者

これは自分の独断と偏見なんですが、一夏、箒、千冬アンチで性格ぶっ壊れすぎて内容まで破綻してるのがよくありけり。



第一アリーナの中央に佇むセシリア・オルコット。無表情の裏には隠し切れない暗い感情が渦巻いていた。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは二人の視線。一人は敵意を、一人は嘲笑を。彼女がこの一週間毎日事あるごとにフラッシュバックして来たことだった。

 

 

(見ていてくださいませ。お母さま。きっとこのわたくしが憎き男を打倒して、そして...

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、どうなる?

 

 

 

彼女の両親は死んだ。

 

 

 

この事実は覆らない。

 

 

 

わたくしは、男を倒して、そして、それから何をしようと...

 

 

 

答えは、出なかった。なぜなら打倒すべき敵の一人、雪村悠一がAピットから姿を現したから。

 

 

余分な思考を消して目の前の敵に集中する。敵の顔は深くうつむいていて見えなかった。

 

 

きっと怖じ気いるのだろう。開放回線(オープンチャンネル)を開き、今ここで投降したら許してやってもよい、という旨を伝えた。

 

 

対する雪村はゆっくりと顔を上げる。そこにはこれからの試合には、多少の興味こそあれど、本気で自分の気を引くものはない、という怠惰な顔をしていた。

 

 

「始める前に一つあやまっときゃならないんだけどさ、自分は時間を引き伸ばせ、っていう役目を仰せつかってんのね」

 

 

「だから、本気で戦えなくて悪りぃな、って話」

 

 

この試合は、本来セシリア・オルコットと織斑一夏のもの。

 

 

だから、自分は早々に御退場する、という明らかな上から目線の言い訳(ちょうはつ)

 

 

 

 

それはセシリアの逆鱗を、容易く踏み抜いた。

 

 

 

 

 

 

第一アリーナのAピット。そこで織斑一夏は雪村悠一とセシリア・オルコットの試合を観戦していた。

 

雪村のISは黒く、紅いラインが縦横無尽に走っている。そして鴉の翼を思わせるような大型スラスターが四基、補助の小型スラスターが二基付いていた。そして最大の特徴として、スラスターの合間合間に取り付けられた、六つの何らかの()()()。機体名はプロミネンス。それは全体的にシャープな感じを思わせた。

 

 

カウントダウンが切られ、試合が始まる。

 

 

額に青筋を浮かべたオルコットがひたすらかつ正確な射撃を行ってくる。しかし雪村のアクションは右上部の放出口から何かを噴出させただけだった。目にもとまらぬ高速で振り回されたそれはオルコットのレーザーを全て消滅させていた。

 

 

 

 

 

 

セシリア・オルコットは困惑していた。自分が撃ったレーザーが、相手から見て左上部のスラスター、の上部の穴から出た何かに一瞬でかき消されたのだ。ハイパーセンサーで確認したそれは、セシリアにとって全く理解が及ばないものだったからだ。

 

 

(炎...?何でその様な非効率的なものが?いえ、主武装としては確かにありますが、その場合は前面に装備が展開させるはず。そしてあんな縦横無尽にねじ曲がったりしません。あれはいったい...?)

 

 

思考している間も射撃の手は休まない。ひたすら弾幕を張るかのように引き金を引き、しかしそれは雪村の不可思議な炎に消し飛ばされていく。セシリアは次の手を切ることにした。

 

 

「お行きなさい、ブルーティアーズ!」

 

 

ブルーティアーズ。それはこの機体の由来でもあり、ビットやスラスターとしても活躍する自立兵器。

そのうち四つが自機からパージし、雪村の周囲を取り囲む。

対して雪村は茫と突っ立っているだけだ。

 

 

 

 

「その余裕、いつまで持ちますか見物ですわ!」

 

 

 

 

取り囲んだビットが同時にレーザーを発射した瞬間、雪村の炎によって同時に四つのビットが破壊された。

 

 

 

 

セシリアが息を吞む。会場が静まり返る。ありえない、と。

 

 

 

 

 

雪村一人がただ動く。まるでただ一人、世界で動くことが許されているかのように。

 

 

 

 

 

≪炎翼≫を放出しながら雪村は自信なさげに呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき織斑に大口叩いちゃったけど...大丈夫かこれ。四十分持つかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

「...ま、精々かかってこい、代表候補生」

 

 

 

 

 

 

「そんな弱っちいと、ご尊父も悲しむぜ」




雪村「孤高、才能、圧勝ォォ!」
  
  「またオレ何かやっちゃいました?」


こんな小説でも見に来て下さる皆様に感謝を。


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Ver.9 挫折と奮起/感動と喜び


前話に致命的なものを入れ忘れていました。最終文です。

よろしかったら見返してみてください。ごめんなさい

そして今回雪村がかなりクズです。ご注意ください…


手が、冷える。

 

身体中の血液が、脳に集うのを感じる。

 

セシリア・オルコットはかつてないほどの激情に襲われていた。

 

 

「こ、の...男風情がァァァァァァ!!!」

 

 

レーザーライフルを乱射し、いつもの彼女の戦闘スタイルからは想像できない程の勢いで弾をぶち込んでいく。瞬時加速(イグニッションブースト)をかけ、雪村の位置に蹴りを叩き込む。

 

しかし雪村は何でもないかのようにそれを躱すと、大きすぎる隙を見せた彼女に≪炎翼≫を...

 

振るわないで逃げた。

 

舐められている?このわたくしが?何の力も持たない男風情に?高貴なるオルコット家の当主であるこのわたくしに向かって?ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!

 

 

「雪村ァァァァァァ!!!」

 

 

そこに雪村からの個人間秘匿回線(プライベート・チャンネル)が飛んでくる。

 

 

「おーおー、荒れてんねぇ。ノブレスオブリージュとは何だったのさ」

 

 

怒髪冠を衝く、と言う言葉がある。それはまさに今の彼女を指していた。

 

 

「ゆ”き”む”ら”ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ。何で今そんなに怒っているのさ。」

 

 

セシリアの思考が、止まった。

 

 

「今は戦闘中だよ、余所見すんなや」

 

 

静止した彼女の背中に容赦なくアサルトライフルの弾丸をぶち込む。

 

 

それは全弾命中し、シールドエネルギーが減少した。

 

 

 

 

 

何で...何でわたくしは怒っているのか?

 

 

簡単だ。男風情に馬鹿にされたからだ。

 

 

「違うでしょ。嘘つくんじゃないよ。」

 

 

簡単だ。オルコット家の誇りを貶されたからだ。

 

 

「それも違う。そんなこと俺が一度でも言ったか?」

 

 

簡単だ。わたくしの故郷であるイギリスを貶されたからだ。

 

 

「違うっつってんだろ。そんなこと俺は一回も言ってないでしょうが」

 

 

じゃあ何が。何がこのわたくしをここまで怒らせたのか...?

 

 

「何でそれを今現在敵である俺に求めんのさ。自分で考えろよ馬鹿」

 

 

じゃあ何が...何が...何が...?

 

 

 

 

 

 

 

 

焦りは自分の感情を狂わす。

 

 

いつしかセシリアは迷子になったか弱き子どものように顔を歪め、今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 

 

それを見る雪村の顔はつまらなそうな、まぁ高望みした俺が悪いか。といった顔。

 

 

最後のチャンスだ。とばかりに言葉をポロっと零す。

 

 

「俺の発言を思い返してみろよ」

 

 

発言...?

 

 

 

 

 

そして、そして彼女は否が応にも気づかされて、いや、気づいてしまった。

 

 

 

自分がひたすら目を背けていた、蓋をしていた、もう取り返しのつかない過去に。

 

 

 

本当にお前の父親は、かっこよくなかったのか?いやもっと単純だ。

 

 

 

そうか。そういうことだったのか。

 

 

 

 

自分でも驚くほど簡単に、腑に落ちた。

 

 

 

 

「お前はただ、認めて欲しかったんだよな。もっとしゃべりたかったんだよな。お前のお父さんとお母さんと三人でさ」

 

 

 

 

 

 

現実は非情だ。一秒だって待ってくれない。何であの時自分は両親に言っておかなかったんだろうか。いつもありがとうと。大好きと。何で。何で。

 

 

セシリアは小鹿のように震え、膝を折り、深くうつむいてしまった。

 

 

漸く気づいたのだ。あの時の自分の愚かさに。一番大切なものを失い、そのことに気づかず、その気持ちに蓋をし、十五年生きてきた自分の過ちに。

 

 

その罪の意識は、重みは(自縄自縛)、十五年という歳月には、到底支える事など不可能だった。

 

 

セシリア・オルコットの意志は、今、完全に、潰えて、

 

 

 

 

 

 

 

―――――今を生きなさい、セシリア

 

 

 

 

 

 

その声は男性にも、女性にも、あるいは機械の声にも、もしかしたら自分の声のようにも聞こえた。

 

 

 

その声が誰なのかは分からない。きっと世界最強(ブリュンヒルデ)にも天才(天災)にも、あるいは超能力者にすら分からないのだろう。

 

 

 

そんなことはどうでもよかった。ただ一言、自分を助けてくれた声に感謝し、彼女は再び立ち上がった。

 

 

 

―――――その眼から何よりも熱い、一筋の青い雫を流して。

 

 

 

 

 

 

 

 

雪村悠一は落胆していた。人間なんてこんなもんだ。人なんて一声かけりゃすぐに壊れてしまう。

 

 

彼女にカウンセラーを送んなきゃなぁ。そんなくだらない戯言を呟きながら、織斑がいるであろうAピットに個人間秘匿回線(プライベート・チャンネル)を繋いで謝罪を送る。

 

 

「あー、織斑?悪いな、男の約束破ることになっちまって」

 

 

そう言いながら雪村は手持ちの特殊アサルトライフルに≪炎翼≫のエネルギーを注ぎこんでゆく。せめて一撃で仕留めてやろう、そんな気持ちで。

 

 

しかし、帰ってきた声は若い女性(最強)の声だった。

 

 

「ほう、雪村。お前はあれが心折れた敗者だとでも言うのか。だとしたら私は貴様の目は、

 

 

 

―――――節穴にも程があるぞ」

 

 

 

 

 

それに気づけたのは「超能力者」としての勘だったのだろうか。音もなく瞬時加速(イグニッションブースト)をかけてきたセシリア・オルコットに対し、直感的に自身の片刃の大剣を打ち合わせ、更に≪炎翼≫二振り分のエネルギーを注ぎこんでやっと相殺できた代物。

 

 

 

爆速でぶっ飛んできた彼女の手には接近戦闘用のショートブレード、インターセプター。それを構え、彼女は彼を好戦的な表情で見つめる。その眼に凄まじいまでの光を灯して。

 

 

 

 

 

 

雪村悠一は笑っていた。人間の無限の可能性に心を躍らせ。

 

 

 

セシリア・オルコットも笑っていた。自分の忘れ物に気づかせてくれた相手に対して。

 

 

 

「お待たせいたしました。悠一さん。遅れた淑女にお許しを」

 

 

 

「何言ってんのさセシリア。紳士は待つのが努めだよ」

 

 

 

 

 

一呼吸つき、雪村悠一は簡潔に宣言する。

 

 

 

「今から()()()()、出すからな」

 

 

 

 

 

対してセシリア・オルコットも宣言する。

 

 

 

「さあ、踊りなさい。わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




改行くどかったですかね。一応スローの演出です。

あと一話くらいセシリア戦続きます




感想っ...!待ってます...!


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Ver.10 死闘と傲慢/彼の犯した罪



セシリア戦最終話。


蝶のように舞い、蜂のように刺す。

とあるプロレスラーにつけられたその異名は、今現在彼女に最も当てはまっている言葉だった。

 

 

彼女は左手にインターセプター、右手にスターブレイカーmkⅢを持ち、雪村悠一という圧倒的な壁に当たってゆく。

 

 

しかし雪村もさる者、彼は≪炎翼≫と片刃の大剣「靫葉(ゆぎのは)」を器用に振るい、未だに一発も被弾してはいない。そればかりか逃げる彼女に痛烈な一撃をかましていった。

 

 

現在、試合開始から30分、彼女のIS「ブルーティアーズ」の損壊レベルはCにまで達していた。

 

 

剣がはじかれ体制を崩すセシリア。そこに雪村の強烈な一撃がかまされるところを彼女は転がって避け、追撃のレーザーを彼の腹部にねじ込む、しかし横から飛び出してきた≪炎翼≫に全てが掻き消える。その時彼女は既に離脱を終えていた。

 

 

瞬時加速(イグニッションブースト)で逃げるセシリア。

 

 

 

 

 

 

 

瞬時加速(イグニッションブースト)とはエネルギーを放出、それを一度取り込み、圧縮して再放出するISの機構である。

 

そして瞬時加速(イグニッションブースト)の速度は使用するエネルギーに比例する。更にそれは()()()()()()()()()()()()()()という点がある。

 

 

————つまり、だ。

 

 

意味不明とは言え莫大なエネルギーの集まり≪炎翼≫。それらを瞬時加速(イグニッションブースト)へ回した時、どのような出来事が発生するのだろうか。

 

 

もちろん、普通のISでは耐えきれるはずもなく、普通の人間なら加速時のGで粉々になってしまうだろうだろう。

 

 

しかしそれが全てのISの生みの親であり、世界が生み出した希代の天災(ウイルス)が直々に作った代物で、操縦者が人類の数歩先を歩く「超能力者」だったらどうだろうか。

 

 

 

 

 

それにセシリアが気づけたのはただの運だけだったのだろうか。

 

 

 

普通のISの数倍の速度の瞬時加速(イグニッションブースト)で追撃して来た黒い残光は、それに伴う莫大な衝撃波を発生させ、彼女は木の葉のように吹き飛ばされた。

 

 

彼女は吹っ飛ばされた体制のまま、再び瞬時加速(イグニッションブースト)の世界に突入する。

 

 

それを見た彼は、飛ぶ彼女のルートを軸として周りを瞬時加速(イグニッションブースト)しつつ回転して、中心の彼女にアサルトライフルの弾を全てくれてやった。

個別瞬時加速(リボルバー・イグニッションブースト)と螺旋状の瞬時加速(イグニッションブースト)の併用。

とても微細な調整をしつつ自身は何十倍にも加算されたGに対応するマルチタスク。

それはまさに人間には到底なしえない神技だった。

 

 

セシリアが第一アリーナの床に転がる。

これは十分に響いただろう。雪村はそう確信する。≪炎翼≫を再び出現させて、一撃で葬り去るように。

 

しかし彼女はまだ立ち上がる。インターセプターを構え、満身創痍の体で。貴族の務めなどでは断じてなく、自分の意志でここに立っているのだと。

 

 

 

 

―――――思い返せばやはり「超能力者」としての慢心があったのかもしれない。

 

 

 

 

彼女は最後の瞬時加速(イグニッションブースト)をかけ、こちらに飛んできた。それを≪炎翼≫で迎撃する雪村。

 

 

≪炎翼≫に掠り、体制を崩され、彼女は不時着する。それを雪村は仕留めようと「靫葉」を携え、その首に振り下ろそうとして、彼は彼女の表情に気づいた。

 

 

(確かに彼女は敗北を覚悟した眼をしている。だけどまだ何か残っているような・・・?)

 

 

しかし勢いのついた「靫葉」は止まらない。それは、彼女の細首に、吸い込まれるようにして、

 

 

―――――「呼び出し(コール)」されたスターブレイカーmkⅢに止められた。

 

 

対価として砕け散るスターブレイカーmkⅢと僅かに目を見開く雪村。それに相反するように口の端を曲げるセシリア。

 

 

そして彼女の口から最後の最後に本当に、本当に少しだけ慢心した愚かな「超能力者」に罰として彼女は鉄槌を下した。

 

 

 

 

 

 

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六基あってよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ミサイル型のビットがスカート状の装甲から射出される。

 

 

しかし雪村も人類の数歩先を歩くものとしての意地を見せる。≪炎翼≫でミサイルを無理矢理からめとり、彼の後ろにぶん投げ、

 

 

―――――セシリア本人の対処が僅かばかり遅れた。

 

 

彼女が≪炎翼≫を割って突撃する。インターセプターが彼の装甲を叩き、当の昔に限界を超えていたそれがバラバラに砕け散り、そして、彼女のシールドエネルギーが0になった。

 

 

 

 

―――――試合終了。勝者雪村悠一。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在10時40分。試合時間40分ジャスト。

 

 

 

 

雪村悠一は織斑一夏との約束を完全に守りきり、しかし彼は呆然とした表情で、気絶したセシリア・オルコットを抱きかかえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雪村「はい雑ー魚ー!」

セシリア「ザクー」

雪村「 」




m9(^Д^)プギャーーー




途中で雪村が見せた彼女を軸にして回転がどうのこうのってやつ、分からなかった方はブルーインパルスのコークスクリューをご参照ください。


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Ver.11 不満と失望/二人のカタチ



うーん、絶不調


 

 

その後、気絶してしまい、ダメージレベルがCになってしまったセシリア・オルコットを除いた雪村悠一と織斑一夏との戦いが終わり、彼は薄暗い廊下を歩いていた。

 

 

あの後の織斑一夏との戦いは特に言うことは無い。ただ彼は彼なりに何かを学び、雪村と全力で戦い、散って逝ったことだけはここに記しておこう。

 

 

今現在彼の頭をよぎっているのはセシリア・オルコット戦で自分が、この自分が一撃を喰らったことだった。

 

 

彼は強い。恐らく世界中の軍隊を敵に回しても勝てるくらいには。しかしそれは不死身というわけではない。セシリア・オルコットの最後の一撃は彼の心に大きな悔恨を残していた。

 

 

もしあれが戦場であのブレードに毒でも塗られていたら。「回帰」やら「遡及」などを使って直せるだろうか。ではその「超能力」、強いてはその大元である≪炎翼≫が無効化されるようなことがあるならば…

篠ノ之束という大天才がいる事で、そのようなことも絵空事と嗤えなくなってしまった。

 

 

いつしか彼は第一アリーナの出口付近まで来ていた。彼は近くの器具庫の扉と自身の部屋の扉を「接続」して部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

負けた。織斑一夏は自分の部屋のベットの中で敗北の味をかみしめていた。

 

彼と彼女の戦いは凄まじいものがあった。彼女の目は圧倒的な壁に立ちはだかるチャレンジャーとして輝いており、彼の目は余裕と楽しみが踊っていた。

 

凄いと思った。ここで俺も戦えるんだと思った。その時の彼のどこまでも行ける。戦えると思った全能感はたとえようもなかった。

 

 

 

けど、それだけだった。

 

 

 

あの後、飛び出してきた自分に立ちはだかったのは少し悲しい顔をしていた悠一だった。勿論自分の全力を振り切った。しかし彼という壁は自分にとってあまりにも高すぎたのだ。

 

眼に負えないほどのスピードで振りぬかれる大剣。後ろにいる、と意識していたのにいつの間にか前にいた、そのことに気づかせない圧倒的な機動力。そして自分のISのことが全く分からなく、挙句の果てには自分の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)「零落白夜」の特性を理解しておらず、自爆を晒すという情けなさ。

 

三分で試合が終わり、回収されてゆく俺を悠一は心底つまらなそうな顔をしていた。

 

結局、自分はどこかで甘えてたのかもしれない。ISを動かし、この学園に入学し。根拠もない何かに助けられると信じて。

 

 

ドアの開く音がした。同居人である箒が帰ってきたのだ。

 

 

「なあ箒」と彼は問いかけた。

 

 

「どうした、一夏」

 

 

「強かったな、今日のセシリアと悠一」

 

 

「ああ、強かったな」

 

 

「…どうした一夏。少し様子がおかしいぞ?」

 

 

「…いやさ、ただ単に俺の弱さに気づいただけだよ」

 

 

んっ、と体を伸ばし、反対方向を向いて寝っ転がる。

 

 

「俺さ、守りたいんだ。ほら俺と千冬姉ってさ、両親いないじゃん?だからさ、いっつも千冬姉働いてばっかでさ、ずっと俺のこと守っててくれてさ。この学園入ってやっと力が手にはいったとおもってさ」

 

 

けどさ、と彼は続けた。「今日で思い知った。これは借り物の力で、俺はやっぱり守られる側なんだって」

 

 

「…つらいな、弱いのってさ」

 

 

箒はじっと耳を傾けていた。そして、

 

 

「一夏。強さというのは一つではないのだ」と諭す。

 

 

「雪村のような圧倒的な強さもある。一度は折れてもそこから立ち上がるオルコットのような強さもある。」

 

なら、と続け、

 

 

「お前の強さとは、何だ?」

 

 

「もちろん今答えを出さなくてもいい。そのかわりと言ってはなんだが覚えておいてくれ。たとえお前に守られていなくとも、救われた人がいることも」

 

 

「とりあえず今日は寝ろ!ゆっくりでもいい、強くなればいいんだ!」

 

 

と伝え、明日に備えて寝る準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーンだと回るしコミカルなシーンだと書きやすいんだけどなー
こういうのは大の苦手だ
正直≪炎翼≫ボンボコぶっ放してたほうがラク


そういえば雪村が前々話言っていた軽い本気というのは40分きっかりに終わらせる為に《炎翼》使った瞬時加速するよって宣言です


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Ver.12 呑気と煉獄/兎印の侵入者


意外とクソ回


 

さて、急だろうが今現在俺はドイツにいる。今日は平日、学校では前回中断されてしまった織斑対セシリア・オルコットの試合が始まろうとしている真っ最中だろう。なぜ俺がわざわざバレる危険性を推してまでこんなところに来ているのかって?

 

それは勿論邪悪なファッションおばけこと兎さんからのおつかい命令で、ビールを買ってこいとのことだった。うん、間違ってはいない。ただしそのついでにとある研究所をぶっ壊してこいとの言われただけで。後なるべく被害は甚大に、だそうだ。

 

 

「お邪魔しまーす!!」とばかりに見た目普通のビルの玄関を、≪炎翼≫をゼロコンマ何秒だけ展開し「破壊」を使って消し飛ばす。勿論顔は誤魔化しているさ。

 

 

思っていた通り中に人はいなかった。どうやらここは当の昔に潰された遺伝子強化試験体(アドバンスド)の男の子バージョンを再始動したいらしい。懲りずによくやるねぇ。ま、そんなにも男性IS操縦者が欲しいってのはわかるけどさ。というかもしこんなんが成功してたら織斑みたいなのになるのかな。あの無自覚天然女たらしに。あいつは多分ろくな死に方をしないだろう。近い将来ヤンデレにも刺されそうだな。

 

 

名前:   篠ノ之 箒

件名:

ごめん

 」

 」

 」

 」

さよなら

 

みたいな感じのメールが届くのだろう。というかしれっと出した兎の妹はあまりにもこの役柄に立てはまってたりする。ごめんな篠ノ之箒。

 

 

こういうのは地下ってのがお約束だ。さて、レッツラゴー!

 

 

 

 

 

 

 

そんないつも通り能天気で馬鹿な雪村と打って変わって研究所内は大混乱に陥っていた。とうとうこの実験がどこかにばれたか、と嘆くもの、慌ててISを出撃させようとするもの、大慌てで研究成果をまとめようとするもの、証拠隠滅のための起爆スイッチを押すものと十人十色だった。

 

暫くして漸く三機のISが侵入者(インベーダー)と接触する。侵入者は何故か顔の部分だけモザイクがかかったように見えず不気味な雰囲気を醸し出していた。一機のIS操縦者が投降を呼びかける。

 

 

「速やかに手を挙げて投降しろ!貴様はどこの所属だ!」

 

 

対した侵入者の答えは簡潔だった。男のような女のようなそれは一言、

 

 

「篠ノ之束のものだっていえば分かるか?」

 

 

「こっちの要求はデータの全棄却だ。それ以上は求めねぇよ」

 

 

実は数か月前からあるうわさが立っていた。篠ノ之束が傭兵を手にしたというものだ。その傭兵は炎のようなものを駆使しことごとく相手は潰されたと。

 

うわさが本当かどうかは分からない。しかしこの侵入者はその特徴と完全に一致していた。

 

IS操縦者もその真意を測りかねているのだろうか。やがてその侵入者を捕まえる為か動き出した。

 

元からわかっていたことだ。現在世界最強の兵器IS三機。対して丸腰の侵入者。差は歴然だった。

 

 

 

 

 

 

―――――当然、侵入者に悉く屠られていた。

 

 

「まあ、わかってたことだけどさ、何がしたかったんだ」

 

 

そう言い残し、彼は足を進める。そこには操縦者としての誇りやプライドが木っ端みじんになった敗者だけが転がっていた。

 

 

 

 

逃げてくる研究者を始末しながら進むと地下に行くにつれて焦げ臭い匂いが漂ってくる。遅かったか、と舌打ちをした。どうやら自爆装置が作動したようだ。

 

 

地下につくと端的に言って地獄が広がっていた。爆散した黒焦げの死体や血の赤、壊れた機械の欠片など少なくとも気分がよくなるものは一つも転がっていなかった。

 

 

 

―――――ふんふむ、生存者は0かな。データの破棄のみ確認しないとか。

 

 

そう考えると雪村は壊れているコンピュータに近づき、「復元」「遡及」を使って直す。それからデータが吸い出されていないかの確認を取り、改めてコンピュータを破壊した。

 

 

「動くな」、と声が聞こえた。

 

 

まーだ残党が残ってたんかい、と振り返ると黒いISに黒いISスーツ。黒ずくめにうさぎが銃を持ったエンブレムのこれはドイツのIS最強部隊、黒ウサギ隊ことシュヴァルツェ・ハーゼの皆さんでした。

 

 

…やべえ、バレた。

 

 

もちろん捕まる気なんて毛頭ない。さっさと逃げようとアレ?体が動かねえ。

 

 

「AICで貴様の動きを止めた。最終警告だ」

 

 

…出来ればこいつらに≪炎翼≫を見せたくはなかったんだけどなぁ。致し方ない。

 

 

 

 

 

 

その侵入者は何故か顔の部分のみハイパーセンサーで確認しても分からなかった。奴はこの地獄のような空間でひとり悠々と破壊活動を行っている。

 

この研究所が遺伝子強化試験体(アドバンスド)の再開をしていると聞いた時には頭にちが登った。人を滅茶苦茶な方法で生み出しておきながらいざ天罰が下りそうになるとその遺伝子強化試験体(アドバンスド)に頼るのだと言う。私はどうしても奴らが我慢できなかった。

 

しかしいざそこに着いてみると研究者は全員死亡していた。代わりに顔の部分だけモザイクがかったように見えない侵入者が一人。明らかに自然界ではあり得ないことが起こっている目の前の敵に、私の本能が最大級の警告を発していた。こいつはヤバい。

 

しかしそのような泣き言も言ってられん。私は誇り高きドイツ軍人だ。奴の動きをAICで止めつつ警告を行う。

 

次の瞬間信じられないことが起こった。奴の背中が燃え出したかと思うと、奴はAICの有効範囲内にいるのに平然と活動を再開したのだ。

そして奴は空間に溶け込むようにして消えていったのだった。

 

 

 

 

うん、まあ何とかなった。AIC、アクティブ イナーシャル キャンセラーは停止結界という、その中にいる物の慣性を停止する能力だ。言わば疑似的なベクトル操作である。自分はまず背中に≪炎翼≫を展開し、自身の体を「誘導」、そして「拡散」「隔離」し「移動」して消えたように見せかけたのだ。まあ何とかなって良かった。後はソーセージとビールを買って帰らないとなあ。もうそろそろ織斑とセシリア・オルコットの決着はついたころだろうか。

 

雪村はそんな呑気なことを考えながらのんびりドイツの街へと足を踏み出したのだった。

 

 

 

 





はい、ラウラとの邂逅でした。ナチュラルに人殺してますね。

それでは皆さんよいお年を。


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Ver.13 喧嘩と瀕死/放課後ジェノサイド

賀正。

あけましておめでとうございます。今年も本作品をよろしくお願いいたします。


ビールをウサギのもとに届け終わり、学園に戻ると丁度織斑とセシリア・オルコットの試合が終ったところだった。結果はセシリア・オルコットの勝利といったところだろうか。織斑もよく善戦したと思うぞ。いい時間までやっていたのを聞いていた。というかあいつすごいセンスだな。これが才能というものなのか。

 

 

織斑姉の疑いの視線をくぐり抜けて、俺は帰宅の途についた。てかなんであいつは俺を疑ってるんだ。怖えーよ。

 

 

俺が部屋に帰ると、にやにやした目でこっちを見てくる奴がいる。ご存知俺のルームメイト、更識楯無である。

 

 

「ね、ね、あれからセシリアちゃんと何ともなってない?」

 

 

「何を期待されてるんだかさぁっぱり分からないけどこっから「雪村さんのことを考えているとドキドキが止まりませんわ!はっ…これがもしや…恋?」なんて展開を待ち望んでいるんだとしたらお前はアホ決定だ。そんなことは100%ありえないね」

 

 

「あら?私は恋なんて単語一言も出してないわよ?」

 

 

「(いわれてみればそうだ。俺は何で今恋なんて単語を口に出したんだろう。というかセシリアのことを考えていると胸が痛くなってくる。これってもしかして…恋?)」

 

 

「人の心を勝手にアテレコするな。そもそもそんな感情持ってねぇっつうの」

 

 

「えっ…悠一くんって、もしかして…コッチ?」

 

 

「だからなんで女子は何でもかんでも恋愛にもっていこうとするかね。自分の出会いが限りなく少ないからって幻想を求めようとするんじゃないよ」

 

 

「あら、じゃあ私に男性経験があるとしたら?」

 

 

「そういうことを言う奴は100%処女って決まってんだよこの攻める価値のない城が」

 

 

 ぶちん、と何かが千切れる音が聞こえた。見上げると面白いくらいに青筋を浮かべた楯無がいる。

 

 

「ねぇ悠一くん?女の子には優しくしなさいって言葉を知っているかしら。ここできっちりと体に刻み込ませてあげましょうか」

 

 

雪村は当たった、というにやついた顔をすると続けた。

 

 

「ふむ、やはり正論や図星、事実をいい当てられると人は怒り出す、というというのが定石だがここでも見事に当てはまったようだね。つまり君は攻める価値のない城にして処…

 

 

口撃は最後まで発することが出来なかった。楯無が雪村の寝っ転がっているベットに凄い踏み付けを行ってきたからだ。わお暴力的。

 

 

「ぶ・ち・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね」

 

 

ありゃ怒らせすぎた。どうしたもん…

 

 

 更なる口撃はかけられなかった。彼女が自分のパンツを見られる事も顧みず、凄まじいまでの後ろ回し蹴りを見舞ってきたからだ。おいおいマジかよ。鎌鼬でも放ってきそうな蹴りだった。

 

 

「ふむ、扇情的なデザインの施されている黒ねえ。もう少しお子さま的なのがいいんじゃないかな。どうせ攻め…

 

 

とうとう返事は返せなかった。この女の子の尊厳を踏みにじった哀れな超能力者(クソ野郎)に対し、遂にヒトの言葉を忘れた女王()の怒りの鉄槌がアホの顎を見事に捉え、そのまま雪村は対戦車砲にも耐えうる窓ガラスをぶち破り、暗黒の窓外に落下していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 強くならなくちゃダメだ。俺がみんなを守るんだ。その思いから今日も俺はトレーニングを行っていた。今の力では越えられない強さの象徴(悠一)がここにはいる。セシリアも強かった。先日試合が終わり、俺は二敗したのにクラス代表についた。曰くどちらも身をひいたからだとか。俺はそれに答えて更に強くなってやるという感情が沸き起こってきていた。セシリアも俺のコーチについてくれた。強くなりたい。みんなを守れるようになりたい。その気持ちが俺を突き動かしていた。

 

 

悠一と再試合がしたい。ふと俺はランニングの最中立ち止まってそう考えた。雪村悠一。俺と同じ世界で二人しかいない男性IS操縦者。そして強い。この学校で一番なんじゃないか、ってくらいには。もう一度自分の超えるべき壁を見つめ直して、かつ悠一の突破口を見つけられるかもしれないという思いがあった。そう考えるとワクワクしてくる思いがあった。よし、悠一にお願いしてみよう。

 

 

 

そんな時だった。お誂え向きとばかりに窓が割れて、三階から転落してくる肉片を一夏が見つけたのは。

 

 

 

 

 

 






大晦日のワクワク感が好き。正月はのんびりと。


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Ver.14 再戦と学習/手札の切り方

寒いね。


一週間後。放課後の自主訓練の時間を使って織斑一夏は雪村悠一との戦いに挑もうとしていた。

 

 

 

 あの後、窓から落下してきた瀕死の雪村を助けた恩として一夏は雪村との戦いを取り付けた。ただ一つ予想外だったのはそこにセシリア介入してきたことだろうか。雪村はそれをめんどくさそうに可を出した。彼女は彼女で何かしら思うことがあったらしい。それから一週間、俺たちは最適なコンビネーションを目指すため、毎日ひたすら訓練を重ねた。

 

 

雪村は強い。それこそまだ勝ちの目も見えないほどに。それでもひたすら二人は訓練を重ねていた。彼女もまた、あの一戦で自身の抱えていた重みを取り払った雪村に感謝の言葉すら浮かんでこない。だからこそ挑ませてもらう。いつか彼に自分の強さを見せつけるために。

 

今はどうあがいても勝てないだろう。なら次はどうだろうか。その次は、とそれを繰り返す。彼女は自分の貴族の誇りをもってして、彼を倒してやると意気込んでいた。

 

 

 

そして今日、再戦の日。一週間のみの訓練だというのに彼と彼女の即席師弟コンビネーションは劇的なまでの強さを手に入れていた。雪村は中遠距離には≪炎翼≫、近接戦闘には靫葉(ゆぎのは)、アサルトライフル二丁、ビームライフル一丁を用いてくる。それを踏まえて織斑が徹底的な近接戦闘、セシリアが遠距離からの援護射撃。それで対応することにした。はっきり言って穴ぼこだらけの作戦だろう。しかしそれしか手がないほどに雪村は強く、俺たちは弱かった。

 

 

 

雪村がゆっくりと姿を現す。手には何も持っておらず、≪炎翼≫もだしていなかった。

 

 

試合開始のブザーが鳴る。その瞬間雪村の姿が掻き消え、目の前に雪村が現れる。手にはいつの間にか呼び出し(コール)したアサルトライフルを手に持っていた。

 なにが、と思っている暇すらなかった。咄嗟にガードし、そして、雪村はさながら前方宙返りのように真上に飛び上がり、空になるまでトリガーをひききった。

 

 

雪村は特別なことはしていない。ただ開始の合図と共に瞬時加速(イグニッションブースト)を発動し、手にアサルトライフルを呼び出し(コール)し、目の前で止まる。自分の印象を見せ付け、一瞬動きを止める為に。そしてアサルトライフルを引ききったのだ。

 しかし彼らも一週間伊達に練習して来た訳ではない。咄嗟の判断で弾を喰らいつつも前方に瞬時加速(イグニッションブースト)して逃げる。そして―――――

 

 

「おう、いい判断じゃないか」

 

 

二人の全身に悪寒が走る。二人の真上に雪村はいた。全身が悲鳴を上げるにもかかわらず瞬時加速(イグニッションブースト)中に織斑は体を捻って雪片弐型を呼び出し(コール)した。

 この雪片弐型は昔、彼の姉が使っていた物の改良型である。それの単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は「零落白夜」。その効果はエネルギーの消失。ISのシールドエネルギーを消し去るその能力は対IS戦では悪魔のような効果を発揮する代物である。

 しかし、雪村はそれには触れず≪炎翼≫を出現させ、スターブレイカーmkⅢを呼び出し(コール)していたセシリアと共に織斑を薙ぎ払った。≪炎翼≫の超高温のよりセシリアと織斑はそれぞれ四分の三くらいと半分ほどシールドエネルギーを減らされた。

 

 

ここまで10秒。雪村はその手に「靫葉(ゆぎのは)」を出現させる。そして彼は「靫葉」に≪炎翼≫を接続し、その刀身に炎をまとわせる。燃焼、というのはただの現象である。しかし彼の≪炎翼≫は違う。不定形でなおかつ質量の有無は自由である、という誰にも説明が付かない物となっていた。その為、切れ味のいい炎、といった訳の分からない代物も完成出来るのである。

 

十メートルほどになった巨大な炎。その質量が二人の頭上に振り下ろされた。

 

織斑は零落白夜とそれを打ち合わせる。≪炎翼≫は全く解析不能だがエネルギーなのである。雪片弐型はエネルギーを消失させる刀。織斑に取って相性は意外といいのかもしれない。しかし≪炎翼≫のエネルギーは無尽蔵だ。かち合いつつも消し去ることができていない。織斑は徐々に押され始めていた。

 

 

「おいきなさい、ブルーティアーズ!」

 

 

セシリアから四基のブルーティアーズが放たれる。しかし彼は残りの≪炎翼≫を使い、ブルーティアーズを打ち払ってゆく。それをみたセシリアがスターブレイカーmkⅢを使い、左手にはインターセプターをもって瞬時加速(イグニッションブースト)を使い雪村に吶喊して―――――

 

 

 

 

―――――残りの二本の≪炎翼≫に、二人は貫かれた。

 

 

 

シールドエネルギーが、切れた。

 

 




その頃、篠ノ之束の研究室にて。

束は気づいていなかった。雪村から貰った《炎翼》のかけらが一瞬で消失したことを。

それがまた、新たな戦いの火種となり、雪村の胃を痛めつけることを。


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Ver.15 外出と花/新たな始まり


人って簡単に死んでしまうんですよね。画面越しとはいえ毎回毎回楽しませていただきました。ありがとうございました。


 

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい

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朝七時半。首都圏中央連絡自動車道、あきる野IC付近を疾駆する一台のスポーツバイクがあった。専用機の生体反応と位置情報を誤魔化し、所謂無断外出を仕掛けた一人の男性IS操縦者。もちろん雪村悠一である。彼が態々バイクに乗ってまで外出をしたか。それは勿論バイクが好きだからである。いや違う、そういう意味ではなく彼の実家—————最も座標のみ同じの全く別人が住んでいるが————に行こうと思ったからである。理由は二つ。家に行けば彼の妹からの信号が飛んできているかもしれないと思ったからである。IS学園は神奈川県先の洋上に浮ぶ無駄にデカい無人島に存在する。まさか妹もそんな辺鄙な地で暮らしているとは思っていないだろう。もう一つの理由は大したことではないのだが、家の近くにある花屋にいきたいと思ったからである。部屋に生き物の痕跡がないのが寂しいと思ったからと、もう一つはあの楯無(たてなし)が口を効かなくなったからである。どうやらよっぽど攻める価値のない城壁は応えたらしい。有効な情報源が失われるのは痛い。だからめんどくささに足を引きずられながらもバイクを「収納」に「接続」して引っ張ってきたのだった。やはりこの超能力者(クソ野郎)、もう一遍顎を撃ち抜かれるべきである。

 

 

バイクを走らせ続けて更に一時間。ようやく自分の家に着いた。うん…わかっていたとはいえ少し来るものがある。自分の両親が健在で、知らない子供が住んでいることに少しばかりの嫉妬を抱いて。内装が少し増えた家に入る。勿論自身の存在を「分割」して。

のんびり珈琲を飲んでる母親や皿を洗っている父親に、飛び込みたくなったのは自分の心にとどめておこう。

 

 

自分の部屋があるはずの場所に足を踏み入れる。全く知らない俺が勉強しているのを見て少し気分が悪くなった。だが収穫はある。限りなく薄い「信号」らしきものを見つけたのだ。それから大まかな位置を特定する。そしてこちらからも「信号」を送り返した。

 

 

近所の花屋で花を買う。周囲の街並みは数十か月前と全く変わっていなかった。数十か月前、ゴールデンウィークに吹っ飛ばされてきたときはこちらは夏だった。再び春になり、漸く俺は元の身長を取り戻したのだ。あの時は気づいていなかったが俺の身長は少し縮んでいた。こう思うと体が焦るのである。このまま死ぬまでこの世界に閉じ込められたままなのかと。いざとなったら「遡及」で体を戻すとはいえ、問題はそこではない。俺の世界の時間も進んでしまっているだろう。そう考えると身を焦がすような焦燥感に体が苛まれるのである。

 お気に入りの店でラーメンを啜る。味も変わっていなかったが店長の親父さんが女将さんに代わっていたのは多少びっくりした。しかしながらやはり世界が変われば人も変わる、ということか、ラブラブカップルだったはずの店も女尊男卑に浸食されていた。

 俺は何も言わずに完食し黙って店を出た。外は春が咲き誇っている。もうすぐゴールデンウィークだった。

 

 

 道路が空いていたこともあり、一時くらいには学園に帰れた。今回の外出は決意と物悲しさを手にすることが出来たのだった。

 

 

 

 

八時 IS学園正面ゲート前

 

受付を探し一人歩く少女の姿がそこにはあった。片手にはボストンバッグしか持っておらず、この少女の快活さを慮ることができる。彼女は歩いていた。否、迷っていた。

 

 

(えーと、ここってどこよ。せっかく異国から遥々やってきたんだから使いくらいよこしなさいよね!)

 

 

近くに誰もいないからか心中を垂れ流す少女。そこにふらっと一人の背中が見えた。

 

 

(あっ、あの子に聞いちゃお!)

 

 

前述の通りこの少女は行動が早い。ずんずん近づき質問を仕掛けた。

 

 

「あの、ちょっといい?」

 

 

声を聞き、ふらりとこちらを向く人物。その子はだいぶ背が高い。更にボーイッシュな程に髪が短かった。

 

 

「…なにさ」

 

 

「声ひっく!」

 

思わず声に出してしまったがそれ程声が低いのだ。まるで男子か何かのような

 (…男子?)

 

 

そういえば極秘と話を聞いた。「二人目」が見つかったのだと。そうか、こいつが…

 

 

「ねえ、あんたが二人目?」

 

 

「ああ、そうだけど?全くもって生きづらい」

 

 

「そう。あなたが二人目の雪村悠一ね。私は凰鈴音。鈴でいいわよ」

 

 

名前まで知られているのかよ、と彼は頭を掻き、

 

 

「雪村悠一だ。よろしくしてもしなくてもいいぞ。俺的にはよろしくしてくれない方がいいんだけども」

 

 

とやっぱり奇妙な自己紹介をした。

 

 

「そう、じゃよろしくね!」と手を握って来る鈴に対し、ため息をつきながら彼は握り返した。

 

 

 

 

 

IS学園に、桃色の豪風が吹き荒れる————

 

 

 

 

 

 

 




夜。仕事が相当長引き、遅くに部屋に戻った楯無はテーブルに置いてあった鉢植えを見つけた。その藤色はヒヤシンス。花言葉は————



「ふふっ。かわいいとこあるじゃない。」

彼女は、寝ている彼の前髪を、そっとかき分けた。


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Ver.16 再会と受難/怠け者への罰


きっと一夏に本当に必要だったのは頼れる師匠的存在か、自分のことをもっと理解してくれる親友だったのでしょうね。弾では足りなかった。そうすれば守る守るに囚われることにはならなかったでしょう。最も雪村はめんどくさがり屋なので親友ポジにつくことはありませんが。


帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑くん、おはよう。ねえ、転校生のうわさ聞いた?」

 

朝、俺が席についていると、近くの女子から話題を振られた。今まで遠めに見ていた女子も今は仲良く話しかけてくれるようになった。昔はこれからの学校生活がどうなることやら本気で心配しかけたけども大分関係は改善されてきている。良かった。一時期は本当に女子しかいない空間だったからなぁ。

 

いや、それも大事だけど、

 

 

「転校生、この時期にか?まだ四月だろ?」

 

 

思い返すと四月の三日が始業式、今日が確か一七とかそんなのだったからまだ二週間しか経っていない。それなのにもう転校生とは。何かあったのだろうか。

 

 

「もしかして…その転校生って、代表候補生?」

 

 

「え、何で知ってるの?」

 

 

「いや、カンでいったんだけど」

 

 

当たったらしい。しかし代表候補生とは。代表候補生っていうことは少なくともセシリア、もしかしたら雪村くらいの腕をもったことだろ?

 

 

「何でも、中国かららしいよ」

 

 

「ほー、中国ねえ…」

 

 

中国かあ、中国と言えば一人の幼馴染を思い出す。弾とあいつとバカ騒ぎをして遊んだことが昨日のように思い起こされた。

 

 

…「ちょっと、聞いているのか、一夏!」

 

 

「うおぉ!」

 

 

思わず変な声を出してしまった。いつの間にかきていたセシリアと箒の話題は俺の指導を誰がするか、という話になっていた。ありゃ、どうしてこうなった。

 

 

「どちらの指導がいいのか、と聞いている」

 

 

ええ、困ったな。どっちがいいって言われても。

 

 

「わたくしは、一夏さんと共に学びたいと思っているのですわ!わたくしの戦闘スタイルは遠距離、一夏さんの近接戦闘とは相性抜群ですのよ!箒さんと違って一方的に教える立場とは違いますの!」

 

 

「わっ、私には今まで長い時間を積み重ねてきた確かな絆と信頼がある!剣道の帥として今まで私についてきた以上、一夏は私と戦いたいはずだ!

 それに近接のダブルアタッカーとしても都合がいい。それにお前の指導はどうせ小難しい理論を並べるだけだろう!一夏がそれを理解できるとは到底思えん!」

 

 

「おい、しれっと俺の頭を馬鹿にするな!」

 

 

「あら、恐らく箒さんの指導もどうせドカーンとかバコーンとかその様なものでしょう!一夏さんならそれくらいではないとわからないかもやしれませんがそれで強くなれるとは到底思えませんわ!」

 

 

「しれっと…もういいや」

 

 

そんな二人とは裏腹に、クラスの女子たちはもう少しで行われるクラス代表戦について話していた。そういえば悠一は俺に強くなってほしい、って理由からクラス代表を退いてくれたのだ。悠一の分も頑張らなくちゃな。

 

 

 

 

今現在、その雪村は「THE HARRY POTTER AND THE PHILOSOPHER'S STONE」と書かれた英本の表紙を頭部に載せて、九と四分の三番線から眠りの国へと旅立っていた。

 

雪村は自分が心底面倒くさい、といった理由から代表の座を退いたことを話していない。それは言わぬが花というものであろう。

 

 

 

 

クラスの女子たちは口々に激励の言葉をかけて来てくれた。

 

 

「織斑くん、頑張ってね!」

 

 

「織斑くんなら大丈夫だよ!」

 

 

「勝てばフリーパスだよ!」

 

 

「ちょっと待てそれが目的かお前ら」

 

 

クラス代表戦で優勝するとデザートの半年フリーパスが配られるのだと言う。甘いものに目がない女子にはそれはたまらないものになるのだろう。ここの学校は全世界から多種多様な人間が集まってくる。それに対応するためにほぼ世界中の料理が揃っているのだ。つまりそれは世界中のスイーツが集まっているということでもある。

 

しかし、甘いものを半年間食べ過ぎると健康や体重に多大なる影響を及ぼしかねないことを理解しているのだろうか。

 

 

「でも女子はちゃんと主食を食べないで甘いものばっかり食べていると体重—————痛って!なんで叩いた箒!」

 

 

「なに、悪を成敗したまでだ」

 

 

ふと気が付くと俺の周りの女子はお腹に手をあてて、ブツブツ呪詛をまき散らしていた。怖いな。

 

 

「し、しかしクラス代表で専用機を持っているのはお前とあと一人だけだ、力を付ければ早々負けることはない…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「————————その情報、古いよ」

 

 

 

教室の入り口から、懐かしい声が聞こえる。とっさにそこを見ると中学校の時の見た目をそのまま大きくしたような少女がそこに立っていた。

 

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 

「お前…お前鈴か!?」

 

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 

「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」

 

 

「んなっ!? 言うに事欠いてなんてこと言うのよアンタは!」

 

 

おお、素に戻った。ついでに今の大声で悠一が椅子から転げ落ちた。

 

 

「ややっ!おお、火事?」

 

 

「おい」

 

 

「何よ!」

 

 

かけられた声に鈴が反応すると、凄まじい勢いで出席簿が叩き込まれた。わぁ、暴力的。

 

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

 

「ち、千冬さん……」

 

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

 

「す、すみません……」

 

 

「火事では…なかった」

 

 

「また後で来るからね!逃げないでよ!一夏!」

 

 

「逃げるったってどこに逃げるんだよ」

 

 

「さっさと戻れ」

 

 

「なら…敵襲?織斑姉の」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

そのまま鈴は二組に逃げ込み、千冬姉は再び凄まじい勢いで悠一に出席簿を叩き込み、悠一は二回目の夢の国へと姿くらまししていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みに入り、雪村は屋上で自作の弁当を摂っている。別に食堂に行ってもいいのだが、女子からの目線がうざったい。 別にその辺にいる女子の姿をコピってごまかしてもいいのだが一々そんなめんどくさいことに気を使いたくないのだ。俺は別に好き好んで女子とくっちゃべりたい訳ではないので気にしない。

 それよりもさっさと帰りたいのが本心である。未だに世界の座標は分からない。時間の流れ方だって違うかもしれないのだ。もしここでの一時間が向こうでの一年とか言われた日には大いにずっこけるだろう。気になって昼も寝られない。うん―――――今日は天気がいい。この真昼間…寝ない方が春の陽気に失礼だ。

 

そうしてまぶたが重くなり、眠りに、落下しそうに、なったとたん、

 

 

「やあ、ゆーくん」

 

 

はぁぁぁぁ、とおぉーきなため息が雪村の口から漏れた。

 

 

我が睡眠は遥か彼方へと飛び去ってしまった。返せよ、あの心地よきまどろみを。

 

 

「…なにさ」

 

 

「あははっ、ゆーくんとっても不機嫌そうだね」

 

 

「なに、って俺は聞いたんだけど」

 

 

「あのね、ごめんなさい」

 

 

「だから、なにさ」

 

 

ふ、と一息束は入れる。そしてとんでもない罪を通信でのたまって来やがった。

 

 

 

 

 

「もらってた≪炎翼≫の欠片が、なくなっちゃった♪」

 

 

「…た」

 

 

「え、なんていったの?」

 

 

「豚っつったんだよこのボケ!」

 

 

「え、ちょっ」

 

 

「なくなったんじゃなくてなくしたんだろうが!運動しねぇからないからそんなブクブク太んだよこのメタボ!ブタウサギ!馬鹿!天災なのはてめぇのその脂肪じゃねぇのかこのブス!」

 

 

急に語彙力の欠片もなくしてしまった罵倒が雪村の口から吐き出される。≪炎翼≫の欠片と共に語彙力までなくしてしまったのだろうか。

 

 

「なくしただぁ!?なくしちゃいけないものなんてその希少価値なんててめぇがいちばぁぁぁんよく知っているとぼかぁ思いこんでいたみたいだったねぇ!ごめんねぇお前に期待した俺がバカみたいだったわ!!あれがすごぉぉぉく価値のあるものだってことは束ちゃんには理解できなかったみたいだ!!」

 

 

「ごめん…なさい、ごめんなさい…」

 

 

「ないてもなぁぁぁんも解決しないんですよ!馬鹿!」

 

 

はぁはぁ、と一息つき、

 

 

「探してこい、以上」

 

 

と、通信をブチリと切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしたもんか、とひとりごちる。さっきは感傷的になりつい喚き散らしてしまったが、≪炎翼≫が自ら消失した可能性だってあるのだ。あれにはただの火として消えないような「設定」を「設置」していたのだ。そのことに気づき頭をかきむしる。眠気はどっかにすっ飛んでいた。

 

 

消失した先はどこだろうか、と雪村は考える。

 

 

(まぁ、ヘンなところに拾われていない可能性にかけるしかないんだけどなぁ)

 

 

だが、往々にしてこういうのは最悪の点で当たるものなのである。

 

 

 

雪村の受難は、終わらない。

 

 

 

 

 

 




そういえば、1000文字で毎日か、数日貯めて5000字かどっちがいいでしょうかね


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Ver.17 悲しみと痛み/闇の中へ



数十か月、世界の何処かにて


————ま、ISを希望の宇宙服とみるか、バットかグローブのように競技の道具としてみるか、はたまた戦場の殺戮兵器としてみるかは人それぞれだけどさ、あいつらは、自分が人を殺せる力を持っているってことが、人を殺すってことを本当にわかってんのかな?


帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 

 

 

 

それは、その日の夜の出来事だった。俺は≪炎翼≫のことで頭がいっぱいになりながら帰巣本能のみで部屋に向かって歩いていた。≪炎翼≫が消失した理由や、誰かに拾われた可能性、そして「≪炎翼≫自体が自我をもった可能性について」だ。

≪炎翼≫自体に意識も自我もない。こちらから「超能力」という形でアプローチをかけなければの話だろうが。もし何らかの偶発的要因で発生したとしてもそれは限りなく浅薄なものになるだろう。あっちへ行きたいや、何かを食べたいや、あるいは「帰りたい」…だろうか。もしかしたら「一つになりたい」も浮かんでくるかもしれない。

 

 

そんなことを考えていたからだろうか。部屋まであと少しの廊下を曲がった時に疾走してくる桃色の風(バカ)に気づけなかったのは。

彼女の意図しない頭突きはものの見事に俺の鳩尾に入り込み、動いているものは止めづらい、という慣性の法則に従って俺は後ろに跳ね飛ばされた。

そして壁に頭をぶち当て、脳震盪が発生した俺が最後に目にしたものは二振りにまとめられた所謂ツインテール。廊下を走ってはいけません。こんなシチュエーションな女の子との出会いはやってみたかったけどこうじゃない。様々な言葉が最期の俺の頭をよぎり、しかし発声することは出来ず、俺の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

「や、やっば…」

 

 

一夏がある約束を思い出してくれるどころか勘違いしていた。私の最大の想いを込めた約束だったのに。耐え切れず一夏をひっぱたいて出てきてしまった。もう頭の中がぐちゃぐちゃになって泣きながら廊下を走った。一刻も早く自分の部屋に戻りたかった。しかし廊下を曲がった時に何かに激突してしまった。

 

 

「痛いわね!どこ見て歩いているのよ!」

 

 

と、完全にあてつけな逆ギレを起こし、八つ当たりを仕掛けた途端、相手がヤバい事に気が付いた。雪村悠一。二人目の男性IS操縦者。それが白目を向いて、ピクピク痙攣しながら口から泡を吹いていた。完全に自分が轢いてしまった事故。そう、これは事故だった。悠一は何故か自ら後ろに飛び込み、壁に頭を強打して死んだ。いや、死んではないかもしれないけどもそういうことだ。頭から血を流しているけどこれは絵具だ。壁が凹み穴が開き亀裂が走って血がついているのはそういう壁紙だ。

 そう結論付け逃げようとする。例え意図せず事故を起こしても逃げたらそれはひき逃げだ、ということは知っているのだろうか。

 

 

「あーあー、私はなんも見てませーん」

 

 

「そう、おねーさんはちゃんと一部始終見てたわよ」

 

 

「おっ、おねーさんはちゃんと見てても私は…」

 

 

そこでようやく気が付いた。自分は誰と喋っている?

 

 

「あっあっ、なんか用事ができる気がするんで帰りまーす」

 

 

「逃がすわけないでしょ?」

 

 

「あっ、やだ、織斑先生!」

 

 

うえぇ!?と水色の髪のおねーさんとやらが後ろを見た瞬間に逃げる。ちなみにこの瞬間雪村の傷口を思いっきり踏みつけ、致命傷を与えた事に鈴は気づいていなかった。しかしそれで鈴はすっころぶ。具体的には湖となっている血に足を滑らして。

 

 

「痛ったいわね何よこれ…血ぃ!?」

 

 

「これは悠一くんの仕返しか呪いかはたまた因果応報というべきか…とにかく捕まえたわよ中国代表候補生、凰鈴音さん」

 

 

完全に捕まった鈴は、涙目でうなづくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「完全に俺は致命傷を負った。俺には織斑姉に訴える権利があるはずだ」

 

 

頭に包帯を巻き巻き、雪村は不貞腐れながらそう答えた。死んだと思った雪村はところがどっこい生きていた。≪炎翼≫とゴキブリ並みの生命力のおかげで。

こりゃ完全に作る必要が出てきた。「再始動」の点を。

 

 

「再始動」とは最近区分けした「超能力」のうちの一つである。リスクは高いがなかなか強いものである。「再始動」点を作ることによってそこにバックアップを置き、肉体が損傷した時に作り直すものである。肉体が完全に消滅した場合は作り直すのに二週間はかかるが。さらに最大二つしか点を置けない、ということや、一度使うと「再始動」の効果が切れることや、「再始動」点そのものが破損すると効果も切れる点、あと疲れるだとか様々な制約がある。めんどくさいかつピーキーなのでほおっておいたのだが本格的に稼働する必要があるやもしれん。

 

嗚呼、めんどくさい。実に、めんどくさい。

 

 

 

「で、言い訳を聞こうか」

 

 

「いや、あの…い、一夏が私との約束を覚えていてくれなかったのよ!」

 

 

「ほうほう、一夏が約束を覚えていなかったら廊下で俺に突撃してもいいと。ほーう」

 

 

「茶化さないの、悠一くん。で、なんて約束をしたの?おねーさんにはなしてみなさい」

 

 

「いや、あの、その…」

 

 

鈴は顔を真っ赤にして俯く。頭から煙が上がった。

 

 

「ハイハイ、こんなんでオーバーヒートしてんじゃないよ、どうせ告白したけどヘンな約束にすり替わってたーとかそんなもんでしょ。で、具体的になんて言ったのさ」

 

 

「す…」

 

 

「「す?」」

 

 

「酢豚を毎日食べてくれる?って…」

 

 

「……?あー、あのアホはただ飯食わしてくれると勘違いしたのか」

 

 

「そうよ!!あの一夏ったらぁぁぁぁ!!」

 

 

「ハイ、近所迷惑。で、それはいつ言ったのさ」

 

 

「えっと…離婚して中国に帰る時だから、中学二年生?」

 

 

「…あのさ、織斑も織斑だけど若干お前も悪い。確かに改変して伝えたのはいいけど相手はあの織斑だぞ。普通気づくわけねえだろ。というか今の俺でも気づくのが遅れた。あの織斑なんだからもっとどストライクに行かないと無料ゲーだ。」

 

 

「じゃあ…じゃあどうしろっていうのよ…」

 

 

簡単な話だ、と雪村は前置きし、

 

 

「襲えよ」

 

 

と、ド単純かつあまりにも短絡的な方法を提示してきた。

 

 

「なっっ…襲う?」

 

 

「そうだ。変化球が効かないなら直接好きっつってもおう俺も親友として好きだとかいって返されるに決まってる。だったもう襲え。織斑姉の目をかいくぐって既成事実を作ってしまえばもう逃げられん。あの性格だ。最後まで責任はとるだろう。今こそIS学園が出来て史上初、購買のコンドームが始めて買われ、使われるる時なのだ!」

 

 

「えっっ!購買にコンドームなんて売ってんの!?」

 

 

「ああ、誰にも気づかれんようこっそりとな」

 

 

「えっ悠一くん、私も始めて知ったわよ?」

 

 

「なんだ、生徒会長のくせに知らなかったのか」

 

 

「一夏と…セッ、セッ、セッ」

 

 

「ちょ、ちょっと見てくる!!」

 

 

と更識は駆け出した。

 

 

「え、本当に売ってるの?」

 

 

「馬鹿か、ここは99%女子校だぞ。そうじゃなくとも普通の高校だろうがIS学園だろうが女子校だろうが万が一にも高校の購買に売っているわけないだろう」

 

 

「は…?」

 

 

そしてこれは確認だ、と雪村は何故か自慢げにいった。

 

 

「こんなサルでも分かる嘘に騙されてあまつさえ顔を真っ赤にして全力疾走していったアイツは…

 

 

廊下をこちらに駆け抜けてくる音が聞こえる。雪村は急いで鍵を閉め、チェーンをかけた。

 

 

…まだ生娘だ」

 

 

 

 

 

「だましたわねぇぇぇぇ!!!」

 

 

「はっ!騙される方が悪い!この処女が、年齢=彼氏いない歴が!バーカバーカ」

 

 

「馬鹿って言ったわねぇ!馬鹿って言った方が悪いのよこの馬鹿ぁぁぁぁ!!」

 

 

凄まじい飛び蹴りが扉に襲い掛かる。扉は簡単に突破されその爪先は見事に雪村の顎を捉えた。雪村はこれが既視感というものか…と嘆きつつ、今夜二回目の闇に消えていく。

 

 

 

 

 

 

「悪は滅びた…」

 

 

「ほう、いろいろな所からクレームが届いている貴様こそが悪だとは思わんか?更識」

 

 

「…あ」

 

 

更識家17当主、更識楯無及び中国代表候補生、凰鈴音はこの夜、全治二週間の致命傷をその頭に負い、保健室に入院した。

 

 

 

 

 

 

 

 




最近嬉しいことがなんもない…


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Ver.18 戦闘と灼熱/一枚下の地獄

遂にその日が、きた。そう、かの朴念仁が罪を数える日だ。数日前に一夏に宣戦布告をして以来この日をずっと待ちわびてきた少女がいた。

 

そう、誰あろう凰鈴音である。長かった。非常に長かった。小5から中2までの3年間。中2から今日までの3年間。積もりに積もった情欲と恋慕、そしていつまで経ってもこちらを振り向かないもどかしさと腹立たしさ、それに突っ込んでゆけない自分のもどかしさの念、あるいは怨念は泰山をも上回り、長江よりも長かった。その清算が出来るという快感と試合前の興奮は彼女の目を二徹した翌朝の如くギラギラと輝かせ、口の端からはケンカ前のネコのような吐息がフシューッフシューッと漏れていた。

そう意気込んでいる彼女を客席からボーっと眺めている世界で二番目の男性IS操縦者。ベットで今日こそはのんびりしようとゴロゴロしていたのだが気づけば楯無に連れてこられ、雪村は心底迷惑そうに珈琲を啜っていた。

 

 

「悠一くんはどっちが勝つと思う?」

 

 

「さあね。未来なんて可能性は無限大だ。そんなもんは俺が知りたい。もしかしたら次の瞬間雷が降ってきて俺は焼け焦げて死ぬかもしれないな」

 

 

「そんなひねくれた答えを聞いているんじゃないのよ~」

 

 

手持ち無沙汰に雪村のほっぺをムニュムニュと動かす楯無。雪村はされるがままになっていた。————意外と柔らかいわねコレ。

 

 

「知ったこっちゃない。ま、善戦するだろうが織斑が劣勢になるだろうさ。凰の天才肌は織斑以上だ。ああ、でも意外と勝負はつかないかもね…聞けよ、ほっぺいじってないでさ」

 

 

「なるほどね…ああ、もう始まるわよ」

 

 

 

次の瞬間、けたたましいブザー音とともに試合の開始が宣言された。

 

 

 

 

 

試合開始とともに俺は真っ直ぐ突っ込んだ。ただ単にそれしかできないということもあったし、鈴に小細工は通用しない。そして鈴は第三世代のISに乗っている。もう単一仕様能力

ワンオフアビリティ

が発現しているだろうし、それが何なのかわからない以上、さっさと突っ込んで自分のテリトリーに引きずりこめ、って悠一が言ってた!…勘弁してくれ、俺の頭ではそこまで考えつかなかったんだ。

 

 

しかし鈴はそこはかとなく悠一と似た剣、双天牙月で俺と打ち合う。そのまま何合か打ち合わせる。…パワーが強いな、このままじゃ押し負ける!一度上に離して距離を取る。…取ってしまった。

鈴の非固定浮遊部位が展開する。次の瞬間凄まじい不可視の衝撃が俺を襲う!

 

 

「な…なんだこれ!」

 

 

「見えない衝撃、龍砲。さあ、これの餌食になりなさい!」

 

 

そのまま連続でそれを発射してくる。連射性能と不可視のタッグが反則すぎるほどに効いていた。なす術なく2、3発喰らってしまった。ただ咄嗟に脳裏を検索する。見えない衝撃、ならば話は簡単だ。見えるようにして仕舞えばいい。とささやくミニ悠一。いやそれができりゃ苦労しないって!……あ、成る程。地

 

 

一夏はそのまま真下に急降下する。そして鈴の衝撃砲の回避と同時に地面を這うように駆け抜ける!

衝撃砲は土埃をまき散らし、その全容がなんとなくつかめた!

 

 

「な、なによその軌道!」

 

 

「これで…決める!」

 

 

そのまま下からかちあげるように零落白夜を振るい…

 

 

 

 

 

…漆黒の侵入者が、降ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…数分前、試合開始直後。

雪村は束からの通信が入り、席を外した。

 

 

「なんだ」

 

 

「あのね、ゆーくん。そっち今いっくんが試合してるでしょ」

 

 

「ああ、それが?」

 

 

「束さんそこに無人機を送り込んだんだけどね、」

 

 

「おいちょっと待て…いや、いいや。どうせ天災のお前のことだ。俺には分からん。それで?」

 

 

「≪炎翼≫の位置がつかめたんだけどね」

 

 

「おお、朗報」

 

 

「無人機、乗っ取られちゃった♪」

 

 

 

直後、ズガン!と凄まじい音と振動が第一アリーナを揺らす。そこには不気味な格好をしたISがたたずんでいた。わぁ、きっしょ。なんだろう、この鳥肌が立つ感じ。言葉にできない不快感。

 

 

「…お前って案外、デザインセンスねえんだな」

 

 

「う、うるさいうるさい!そこはどうでもいいじゃん!」

 

 

「で、俺はあいつの駆除?」

 

 

「そう、よろしく頼むよ。これは契約ね」

 

 

「逃がした癖によく言うよ、メタボリックシンドローム」

 

 

「…おいもっぺん言ってみ」

 

 

ブチリと回線を切った。ざまあみろ。そのまま服の下にこっそりと≪炎翼≫を現出させ、「超能力」を起動する。「傍聴」「透視」「視認」「観察」「統括」………ふんふむ、どうやらこのアリーナは完全に遮断されているのか。レベルは4とね。また、まだ完全に≪炎翼≫が無人機を乗っ取れていないことも分かった。ま、もって数分か。

よし、とりあえず扉を開けるか。俺はアリーナの外壁に≪炎翼≫を突っ込む。そしてアリーナ全体と「接続」「融合」させ、無理やり扉をこじ開ける!

 

 

 

 

その時だった。絶え間なく「視認」していた中で、全ての扉を開けたにも拘わらず、木刀片手にどっかに迷走していく篠ノ之箒を発見したのは。

 

 

…まてまてまてまてなんでこの学校はバカばっかなんだよ。ちょっとストップちょっとストップ!嗚呼、めんどくさい。実にめんどくさい。つかなんであの二人は避難しないんだよ。攻撃せずにSE保存しておきなさいよ、ああ、零落白夜出してんじゃないよ!!

 

 

「おい織斑、なんで零落白夜出した!?」

 

 

「は?だって倒さなくちゃいけないだろ!」

 

 

「分かる、分かるんだけどちげえよバカ。教職員が来るまであまりSEを減らすなっつってんの。それともお前の力だけでそれ、倒せると思った?」

 

 

「ああ、倒す。倒さなくちゃいけない!」

 

 

ああ、もう、イライラする。面倒ごとが重なりすぎだ。お前の頑張る性格は非常に理解できるがそれを今発揮する時間じゃないんだつか教師の緊急発進

スクランブル

が遅すぎる!

 

 

「ああそう、じゃ好きにしろ!死んでも知らねえぞ!」

 

 

「ああ、好きにさせてもらう」

 

 

だめだこいつは。早死にするタイプだ。力量差が全く見えてない。倒すことに集中しすぎで周りが見えてない。

 

 

「一夏ぁっ!」

 

 

次はなんだ…篠ノ之!?うっそだろおまえあのバカ何やってんだ!?

 

 

「男なら…その程度の敵に勝てなくてなんとする!」

 

 

今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!

 

 

新たな熱源として放送室の篠ノ之を無人機がロックオンした。冗談だろオイ。

 

 

ハァ…しょうがない。本当にしょうがない。

 

 

バレたらそれまでだ。

 

 

 

 

 

次の瞬間、放送室は爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「箒ぃぃぃぃぃっっ!!」

 

 

まだ、箒が残ってたのに、噓だ、と脳が理解することを拒んでいた。

 

 

箒は死んでない、死んでない、死んで…

 

 

「う、うそ」

 

 

 

 

「さっさとけり付けろ、バカ」

 

 

「俺がいる。俺が来た。あとは好きにぶちかませ」

 

 

この声、いつも不機嫌そうな、というか今本気で切れてそうな声、

 

 

「いいから後ろだ!戦場で敵に背を向けるな!」

 

 

咄嗟に雪片弐式で受け止める。長い腕が俺をつぶしそうになっていた。

 

 

「私を忘れるんじゃないわよ!」

 

 

鈴がそれをはじく。そうだ、思いついた。

 

 

「鈴!俺の背中に衝撃砲を!」

 

 

「えっ!!なんで!!」

 

 

「いいから早く!」

 

 

「ああもう、どうなったって知らないわよ!」

 

 

悠一のを見て思いついた。瞬時加速(イグニッションブースト)

は取り込むエネルギーが多ければ多い程、それは速くなる!

 

 

「いっけぇ!」

 

 

超速の世界に飛び出した。フルチャージで放った零落白夜は見立て通り胴を真っ二つにぶった切り、大量の血液ではなく、部品をまき散らした。同時に限界を超えた俺と鈴のISが解除された。

 

 

「やった、勝った、おい悠一見ていてくれたか…」

 

 

 

 

 

 

 

ハイパーセンサーが何かをとらえる。不気味な音が聞こえる。噓だ、という思いが脳内を駆け巡った。

 

 

 

 

 

真っ二つになった半身から炎が噴き出す。炎が絡み合い、元に戻っていく。

 

 

 

 

 

次の瞬間、今度は紅蓮の炎が蛇のように放たれた。咄嗟に目をつぶる。

 

 

 

 

 

————————それともお前の力だけでそれ、倒せると思った?

 

 

 

 

 

悠一の声が、今更のようにフラッシュバックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ver.19 ≪炎翼≫と激怒/従属者の増長

人には、誰しも逆鱗、というものを持っているのです。それは人それぞれ。家族であったり、信念であったりと。


いつも優しい人やのんびりしている人こそ、それに触れられた時はどうなるか


…わかりませんよ


ビームが発射される数秒前のこと。雪村はとうとう無人機を完全に乗っ取った≪炎翼≫に嘆息していた。

恐らくあの≪炎翼≫は完全に初期知能を獲得しただろう。今やらなきゃならんことはこいつらの排斥だ。≪炎翼≫の会話はなるべく聞かれたくないのだ。

 

 

≪炎翼≫が烈しく迸り、分断されたはずの半身が繋がっていく。まずいな。炎でも射出する気か!?

 

 

そこからの雪村の動きは迅速だった。放送室にいた雪村はエネルギーライフルを展開、無人機の射出口、頭部のレンズ部分にそれぞれ一発づつ当てる。次に三点バーストに切り替え、接近しつつ腹部を狙い、後退させる。そのまま≪炎翼≫を伸ばし、凰と織斑を回収した。ピットに近づき、織斑と篠ノ之、鳳を落としてから、反転して無人機に向かってゆく。無人機は体がまだ治っておらず攻撃を行える状況ではなかった。手に二丁アサルトライフルを展開、再接近しつつ弾をくれてやる。

 

 

「織斑先生、救援はまだ見込めない感じですかね?」

 

 

「ああ、済まない。数分前に全ての扉は解放されたのだが()()()()()I()S()()()()()()()()()()()()()()()()全ての出動ゲートが開かない以上、救援を見込むのは相当時間がかかるだろう」

 

 

そりゃあそうだ。そこだけ俺が「固定」「保留」「設置」を働かせている以上絶対に破られる心配はない。雪村は心の中で一人ほくそ笑む。

 

 

「なるほどなるほど。ならば遮断シールドは破れますかね?ホラ、客席とフィールドを分けているアレ」

 

 

因みに俺はこの瞬間も攻撃を続行している。靫葉を展開してすれ違いざまに再び胴体を真っ二つにしてやった。

 

 

「…それも無理だった。持てるだけの最大火力でも破壊されなかったのだ」

 

 

「なっ!最大火力でもですか!?」

 

 

うーん、なんだろうこのマッチポンプ。凄い申し訳なさそうな顔をしている織斑姉が可哀想になってきた。ああ山田先生泣かないで。すごい心が痛むからさ。

因みになんでさっさと倒さないかって?あいつがなんかの反応を見せそうなんだ。恐らく言語はしゃべれないだろうが「共有」で心を通わせる…っつったらヘンだけど。とりあえずテレパシー風味のことをしてみたくなったのだ。つまり進化待ちといったところかな。

 

 

「…じゃ、最後に一つ」

 

 

「…なんだ?」

 

 

「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

「……教師には敬語を使え。帰ってきたら原稿用紙5枚の反省文提出だ」

 

 

余計なこととはこういうことを言うのだろう。

 

 

 

 

向こうの動きが、止まった。どうやら完全にのっとったらしいな。さあ実験を始めよう。敵が、つまり俺の制御を離れた≪炎翼≫が無からどのような反応を見せるか、とても楽しみだったりする。

 

 

「A…aaa」

 

 

ふむ、言語は話せない、と。「共有」は…

 

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

 

うわ、なんじゃこりゃ。とにかく、帰郷の思いが強すぎてめんどくさいことになっている事だけは分かった。

 

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。―――――――――――――あ

 

え、何だよ!

 

一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい

 

 

……………ふーん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、だ。この拗らせ切った≪炎翼≫の塊が俺に帰りたがっていたはずが、どうやら自分主体に帰らせ()()()()()()つまり俺を取り込みたがっている、ということでいいんだろうか。

 

 

…取り込みたがっている、ねえ。この俺を。≪炎翼≫如きが。「超能力」しか使えないだけの無能が。

 

 

 

…何様なんだよコラ。調子こいてんじゃねぇぞ。

 

 

 

 

 

今現在雪村は心底キレていた。本来自分が行使すべき存在の≪炎翼≫が増長し、あまつさえ自分を従わせようとしたことに対して。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生、最初に誤っておきます。アリーナの修繕費、いくらかかるかわかりません」

 

 

 

 

 

 

「いいよ。いいだろう。ならばこの俺が潰す。≪炎翼≫如きが作り上げた脆弱な知能が、この俺に勝てると思うな!!」

 

 

 

 

 

 



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Ver.20 宵と緋/自作自演の幕引

戦闘が、始まった。

 

 

管制塔で見守る人物の反応は三者三様だった。

 

 

セシリア・オルコットは恐怖する。あんな化け物がこの世に存在していいのかと。

 

 

織斑千冬は悔やむ。本来ならば守らなければいけない相手に戦わせてしまっていることを。

 

 

更識楯無は呆れる。どこからこんな力が出ているのかを。

 

 

 

 

無人機が「気象」によって発現させた竜巻は、第二アリーナを暴風の渦に叩き込んでいた。そのせいでカメラはほぼ全損。雪村によって超強化された遮断シールドがなければ客席など跡形もなく消し飛んでいただろう。その暴風の中、雪村は何もないかのように佇んでいた。いや、雪村の周りだけ本当に何も発生していないのだ。雪村は「防衛」を発動させ、自身の周りのみ、完全に風を防いでいる。

 

 

「ほらほら、そんなもんか?」

 

 

一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つになりたい一つにな————————

 

 

「うるせえな!」

 

 

雪村が「相殺」を使い竜巻を消し飛ばす、と同時に「合流」で後ろに周りこみ靫葉を振り回す。しかしそこに無人機はいない。「模倣」を使いさらに後ろに周りこんでいた。雪村は体制を崩している。その無防備な腹に鋭い≪炎翼≫が叩き込まれ—————

 

 

「「虚像」だよマヌケ!」

 

 

靫葉が今度こそ愚頓な頭を分断した。今相手は視覚という有力な手を失っている。しかし雪村は油断をしていない。

 

 

「ま、だよなぁ」

 

 

「確保」を使い足から生えたレンズがこちらをぎょろりと見つめる。足の形が変形して槍のようになる、と同時にその槍が射出された。直撃を食らった雪村は大きく体制を崩す。好機と見たか、無人機は腕も槍に変化させて倒れた雪村に追撃してゆく。雪村は動かなくなった。

 

 

「そこでちゃんととどめを刺さないからこうなる」

 

 

―――――――――過去30秒に起こった「俺が攻撃され、倒れ伏した現在(みらい)を「変更」!

 

 

次の瞬間、強烈なボレーキックが無人機の腹部を打ち据える。「変更」された現在(みらい)により「攻撃され、倒れ伏した」ことが「変更」されたのだ。倒れた無人機の首根っこを掴んで雪村はセシリア戦の時に見せた、≪炎翼≫を使った瞬時加速(イグニッションブースト)上位瞬時加速(ハイパー・イグニッションブースト)を発動、無人機の後ろ半分をすり下ろしながら端まで移動した。

 

 

「今回は出血大サービスだ。原子一かけら残れると思うな!」

 

 

そのまま雪村は靫葉を召喚、大きく振りかぶると無人機の腹目掛け、一直線に突き出した。狙い通り腹をうがった靫葉はその勢いのままアリーナの壁に突き刺さり、無人機を完全に固定した。

 

 

――――――――「靫」という漢字には「うつぼ」という読み方がある。それは本来筒のカタチをしていて、中に矢を入れて持ち運ぶものだ。それを雪村は武器を入れて持ち運ぶという解釈に捉えた。つまり何が言いたいかというと、

 

 

雪村は、大剣という靫から、一筋の槍を取り出した。

 

 

――――――――魔槍・黄昏

 

 

雪村は助走をつけるため、一度下がる。雪村の「必殺技」は相手を文字通り原子の塵に帰し、ついでに半径500kmも塵に帰してしまうはた迷惑なものだ。そこで雪村は、何らかの触媒を使用し、規定量のみを放つ事で、塵に帰す範囲を縮められるのではないかと。結果として範囲()大幅に狭まり、より緻密なコントロールが可能になった。

 

 

黄昏が≪炎翼≫に接続され、灰から眩いばかりの緋に染まってゆく。

 

 

 

雪村は、再び超速の世界に突入し、その方向を「変更」し、高く飛び上がる。

 

 

 

 

それは原初の光。毎日繰り返される永劫の時の中でなお、人類を惹きつける神秘的な夜明け。

 

 

 

 

贋作(≪炎翼≫)め、さっさと帰ってこい!」

 

 

 

 

――――――――極光・白緋!

 

 

 

 

 

 

 

その輝は遠く離れた宇宙からも観測された。無人機に突き刺さった黄昏は原子の塵に帰すエネルギーを直接注入し、過剰分が光エネルギーとなって放出される。今回満身創痍の無人機を消すのに必要だったエネルギーはごくわずか。残りが全て光となって放出され、眩いばかりの爆発を発生させたのだ。

 

 

 

 

 

 

戦闘が終わったアリーナで、一人雪村は寝っ転がる。

 

 

「…逃がした」

 

 

あーあ、やってられるかってんだ。確かに俺は見た。≪炎翼≫の欠片が無人機から逃亡するのを。こんだけ力を見せてこんなオチとかありかよ。もうやってらんない俺は寝る。

 

 

 

 

――――――――≪炎翼≫は、俺を取り込んで何がしたかったんだろう。

 

 

 

答えは当然出るわけもなく、雪村の意識は微睡へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




いまっさらなんですが暫く更新できません
サーセン


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Ver.21 釣りと愉悦/愚者の懺悔


著しく遅れました。これからもまた著しく遅れます


 

あれから数日が経過した日の夜。雪村は一人で釣りをしていた。あの後盛大にぶっ壊したアリーナの文句を言われそうになったため、いっそいで反省文をだし、さっさと部屋に逃げ帰った。

 

 

今現在第二アリーナは完全に崩壊し、再建のめどすら立っていない状態である。そりゃあそうだ。内部で竜巻が発生したんだから。次の日からの追及はまあめんどくさいめんどくさい。あの武器はなんだ。だとか相手のお前と似た炎を噴き出す無人機はなんだ。だとかぶっ壊れたアリーナどうしてくれるんだ。だとか。最もこの質問は全部織何とか先生なんだけど。ホントに追及はめんどくさかった。俺が知るかってんだ。だから二十幾つになっても結婚出来ねえんだよ。恐らくあいつは婚約者がいても変な男に惚れて、最終的には外道主人公の部下に撃ち殺されて死にそうだ。

 

 

雪村は突如襲ってきた悪寒に体を震わせながらブチブチ文句をたれ続け、ついでに釣糸もたれ続ける。ふと来た流れにアワセを掛けて、あげてみるとそれは鮭だった…何でこんな所で釣れたんだろう。鮭の最南端って利根川じゃなかったか?ここ神奈川だぞ。

 

 

雪村は更に釣糸をたれ続ける。また何かが掛かる感触がした。釣りあげてみるとキスだった。キスねぇ。天ぷらにでもしようかな。もしこの後たくさん釣れたら捌いておすそ分けするのも一興だろう。と、誰かが近づいてくる音が聞こえる。

 

 

「ケガの調子はどうだい、篠ノ之箒」

 

 

「ああ…迷惑をかけたな」

 

 

「ああ、本当に迷惑だったよ」

 

 

「…………」

 

 

「で、お前は一体あそこでなにがしたかったんだい?」

 

 

「一夏の為に、応援を…」

 

 

「へぇ、ならお前はあそこに居ても被害を食らわないと思ったわけだ。つか、一夏の為にって、織斑に負担が掛かる事も考えなかったわけだ。ああ、もしかして自分が無人機の注意をそらしてその間に織斑が仕留めるって寸法だったのかい?そりゃあ驚いた。自分には考えも及ばなかったよ」

 

 

「どうなのそこ。さっさと答えろ。」

 

 

「…………」

 

 

「いや、黙ってたってわかんねぇんだよ。どうなの、それともまさか、まさかだけど、本当に何も考えてなかったわけじゃねぇよなぁ?」

 

 

「いや…その…」

 

 

雪村はふん、と鼻を鳴らし、

 

 

「結局お前は戦いをなめてたんだよ。そうだよなぁ。今までお姉ちゃんが守っててくれてたんだからなぁ。あいつは嫌いあいつは嫌いって大声で叫びながらその実お前はお姉ちゃんの名前に守られていることに付け上がり慢心し、傲慢になり、姉の名前だけでここまで突っ走ってきたんだよ」

 

 

ま、その結果があれだもんなぁ、と雪村は嘲笑う。冷笑する。こいつこのままじゃただのバカだろ、と。

 

 

「それともそうじゃないって言いきれんのか?」

 

 

雪村の言葉は彼女を酷く傷つける。それは言葉の辛辣さに加え、彼女自身が今まで必死に目をそらしてきた醜いものに顔を向けさせられたショックもあり、立ち上がることもできない程のダメージを与えていた。

だが雪村は知ったことかとばかりに話を続ける。

 

 

「で、剣道全国一位になっても戦場じゃ粉微塵にされるだけだぜ。そこんとこよく考えなさいよ、以上」

 

 

雪村は納竿し、さっさと退散する。これでこいつの意識が変わればよし、変わんなかったら所詮そこまでの人間だったってことだ。そこまで俺が口出す権利はないし、する気もない。依頼だったら話は別だが、まあ、そこまで期待しても意味はないだろうさ。

 

 

 

 

 

 

 

やっぱりこの学校は、この世界は、この人々は歪だ。歪極まりない。高々500機ほどしかないくせに軍事力を一新したとのたまう軍備。適性がある人間すら一握りなのに、乗ったことすらないのに、自分たちが頂点だとのぼせ上がる女とそれを当たり前のように受け入れる男。人は簡単に死ぬ、ということが分かっていないのにそれを競技として扱うこの世界と学校。それを創り出した篠ノ之束。

 

 

————————嗚呼、何もかもが狂っている。客観的に観察することのできない愚かな世界の管理者たちはこの先をどう動かしてゆくのだろうか。行く末を観察するのもまた一興。ま、遅かれ早かれその先は破滅だろうがな。

 

 

 

           楽しみだ。とっても愉しみだ。

 

 

 

 

 

 




雪村が好きな料理は甘露醤油ラーメンと銀鱈の西京漬け















あとマーボー


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Ver.22 訓練と顔合/二人の代表候補生

「ISの操縦技術について教えてほしいんだ」

 

 

と、釣りから数日たったある日の放課後、俺は突然篠ノ之に頼まれた。まぁ気持ちはわからなくもない。だけどね、

 

 

「俺に対価がないだろう?俺の放課後の貴重~な時間を割くんだ。せめて何らかの対価が欲しいんだけど」 

 

 

「対価…」

 

 

「そうだ、対価だよ。それともまさか本気で…失礼、電話だ」

 

 

 

 

「もしもし、なにさ」

 

 

『受けろ』

 

 

「は?」

 

 

『だから受けろって言ってんの、箒ちゃんの話を』

 

 

「えぇ…どこから聞いてんのさ。ただの変態じゃないか」

 

 

『そんなどうでもいいことじゃなくて。これは契約だよ。君がこの世界で生きてゆく為にも。さもないとちーちゃんにバラすよ。ゆーくんが「超能力者」だって…』

 

 

「超能力者?」

 

 

雪村は携帯電話を切りつつ、片手で虚空をかき回しながら、話を必死にそらしてゆく。挙動不審なそれは、余裕がなくなっているのが一目でわかる状態だった。

 

 

「あーはいはいはいはい篠ノ之さんッ!!不承雪村悠一、この任務不本意ながら謹んでお受けさせて頂きます!」

 

 

「そ、そうか。それは良かったが…」

 

 

雪村の受難とは裏腹に、放課後はのんびりと過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、始めんぞ」

 

 

数日後、無気力に呟かれたその言葉の発生源は誰あろう雪村悠一だった。ここトレーニングルームで雪村は篠ノ之箒の基礎的なパワーの確認から始めようと思ったのだ。篠ノ之は剣道をやっていることもあって少しばかりの筋肉はついていよう。本日は金曜日の放課後。時間はたっぷりと存在していた。

 

 

「さて篠ノ之。始める前に一つな。教えているのは俺だ。従え」

 

 

「案外雑だな…」

 

 

「どうでもいいだろ。つか、お前自身からは何の対価も貰っていない。別の人との契約だ、強くしてくれってな」

 

 

「誰が…」

 

 

「お前が嫌ってる奴だよ」

 

 

雪村のその言葉は箒に否が応でも一人の人物を思い出せさせた。世界を自分のもののように弄び、自分を一夏から話した不俱戴天の我が姉。篠ノ之束。

 

 

「雪村。それは…それは姉さん、篠ノ之束なのか?」

 

 

「そうだよ。あ、もしかして嫌ってる自分の姉がセッティングしたものだから受けないとでもいうつもりか?」

 

 

「ああ、そうだ。いくらこれがお前の指示でも…」

 

 

はあ、と雪村は息をつき

 

 

「自惚れるなめんどくさい」

 

 

と、返す。そのあまりにも適当な対応は箒の怒りに更にガソリンをぶちまけた。

 

 

「何がだ…何が自惚れるなだ!今まで散々見向きもしなかったくせに今度はお膳立てか?ふざけるな!」

 

 

「ふざけてんのはお前だ篠ノ之。何様だお前は。一体クラス対抗戦でどれほどの人間に迷惑をかけたと思っている。お前の身勝手な行動のせいでな、織斑と凰はお前が死ぬ瞬間を見せつけられたんだぞ」

 

 

 

「そ、それは…」

 

 

「ああ、別にお前が姉にどんな感情を抱いていても俺には関係ないしな。でもただ恨んでいても何の解決にもなんねえぞ。基本立ち止まっていても続きはない。殺す準備でもするなり姉を超える為に努力をしたりそれはお前の勝手だ。だけどな、師匠的立場の俺はお前が一応外道に堕ちないように見守る義務的なもんがあるからな、時々口出しはさせてもらうぞ。まあ得た結果はお前の自由だからな、お前ができればいい答えを得られるような努力は惜しまねえよ」

 

 

 

その答えはある意味では篠ノ之箒にとっての救いだったのかもしれない。この答えが姉に抱いていた劣等感から少しは解放されたのだから。この答えがこの先の未来にどう影響するのか、それは、まだ、誰にも計り知れないものだった。

 

 

 

 

 

再び数日後。雪村悠一が篠ノ之箒との訓練を取り付けて幾日か経った日のことだった。その日はいつも通りの一日が始まろうとしていて、クラスメイトは一部の例外を除き全員着席し、彼女たちの気品と調律を示していた。その一部の例外である雪村悠一は『ドグラ・マグラ 上巻』を枕に今日も寝こけていて、篠ノ之箒は凄まじい筋肉痛に身悶えつつ、辺りに湿布の匂いをまき散らしていた。そう、いつものように雪村は頭を叩かれ、HRが始まるという一日(幻想)が始まろうとしていたのだった。

 

 

 

織斑千冬と共に教室に入ってきたのは、小柄な銀髪の女子生徒とこの学校で二人しか着用していないはずの男子制服を着こんだ一人の金髪生徒だった。

 

 

 

 

 

 

「初めまして。シャルロット・デュノアといいます。よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

   IS学園に降り立った金と銀。これが何を表し、「超能力者」に何を引き起こすのかは、まだ先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Ver.23 編入と紹介/叩かれる二人



…………じゃ、私のアレを彼女に組み込むってことで、けってーい!


…………し、しかし本当に大丈夫なんでしょうか、万が一バレたら…


…………うーん、その時はその時で、また頑張ってね~


…………お、お待ちください、■■■■■■■■■!







少し前、どこかで交わされたかもしれない会話。


 

 

その瞬間、一年一組を構成するクラスメイトの口から凄まじいまでの衝撃波(ソニックブーム)が放射された。

その衝撃は窓をも貫き、ちゃんと防御していたはずの俺の耳を壊し、悠一は椅子から転がり落ちた。

 

 

「きゃああああああああーーーーっ!」

 

 

「だ、男子!三人目の男子!全員うちのクラスに男子!」

 

 

「今度は金髪碧眼美少年!守ってあげたくなる雰囲気の!」

 

 

「おっ、男の人…!」

 

 

「てっ、敵襲!敵襲かァ!?」

 

 

と、なかなか混沌(カオス)な空間になってゆく我がクラス。

 

 

あ、千冬姉が震えだした。これは相当まずいかもしれない。

 

 

「やかましい!」

 

 

ズドォンと振り下ろされた出席簿は教卓にヒビをいれ、教室は一瞬で静まり返った。悠一はひっくり返った。

 

 

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんから!」と山田先生が取り直して、隣の、これまた特徴的な少女にみんなの顔が向いた。

 

 

その少女はめんどくさいから、ただ伸ばしているかのような長い銀髪を持ち、左目には医療用などではなく本物の眼帯をはめ、右目はペンキか血かそんなので染めたかのように朱く染まっていた。

彼女はまるで全員に興味がないかのような視線をこちらに投げかけ—————いや、彼女の目はしっかりと一人の人物を見つめていた。その視線の先には…悠一?

 

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

 

「はい、教官」

 

 

突然軍隊的な返事で千冬姉の言葉に返事を返す彼女。千冬姉はめんどくさそうに返す。

 

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではおまえも一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

 

 

「了解しました」

 

 

その姿はどこまでも堅苦しく、彼女が軍人もしくは軍隊の関係者ということが想像できた。

これは千冬姉からちゃんと聞いた話ではないんだけど、千冬姉は一年ほどドイツ軍に出向していたらしい。最もこれは色々な人から断片的に聞いた情報だけど、それから俺は彼女がドイツ関係者ってことが多分分かった。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

…うん、ドシンプルな自己紹介をありがとう。これによって彼女の名前が判明した。でも名前だけの自己紹介ってどうなんだろう。みんな固まってしまっているじゃないか。ん?入学式?自己紹介?ブーメラン?知らないな。

 

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

 

「以上だ」

 

 

まるで誰かの自己紹介を再現するかのような自己紹介。ほら、山田先生が泣きそうな顔で固まっちゃったじゃないか。織斑一夏くん?だから知らねえって言ってるだろう。

 

 

「! 貴様が————」

 

 

ん?急に彼女がこっちを向いて近づいてきた。なんだ————————!?

 

 

 

 

 

 

スパァァン!!と快音がこの一年一組の教室に響き渡る。彼女が繰り出した女性の必殺技(ビンタ)は織斑一夏の頬を見事なまでに綺麗に打ち抜き、十月の長瀞のような色に染め上げ、織斑の脳は一瞬揺れた。

 

 

「何するんだよ!」

 

 

と、当然の権利として抗議の声を上げる織斑。しかしながら彼女、ラウラ・ボーデヴィッヒは全く介せずに、つかつかともう一人の男性IS操縦者、雪村悠一に歩み寄った。

 

 

「貴様の名前は?」

 

 

「織斑二秋だ」

 

 

「…………そうか。」

 

 

 

真顔のまま滅茶苦茶な大噓をついた雪村に対して、再び一撃を繰り出すラウラ。しかしそれは彼女自身の元上司、織斑千冬の手によって防がれた。

 

 

「いい加減にしろ、ラウラ。これ以上好き勝手なことをすれば他の生徒に暴行を振るったとして罰を与えるぞ」

 

 

「私は認めない。貴様らがあの人の弟であるなど、認めるものか!」

 

 

空いている席に着席するラウラ・ボーデヴィッヒ。それを見て織斑千冬はこれからを憂いため息をつき、

 

 

「いい加減ホームルーム中に眠るな、()()

 

 

「…………貴様の本当の名前は、なんだ?」

 

 

「さっきも言っただろう、もう忘れたのか、織斑二秋だァッッ!!」

 

 

「私は貴様を養子に取った覚えも、ましてや義兄弟の契りも交わした覚えもない。勿論これからもだ。人をからかうのもいい加減にしろ。分かったな雪村悠一」

 

 

「ふぇい、わがりまじだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、どうしてまたあの女は男装なんかしているのだろうか。教室に入ってきた際に二人を「観察」「視認」「透視」していたのだが多少興味を引くものが見れた。片方の身体は眼帯に覆われているほう、つまり左目は人には処理しきれない程の情報を収集出来るような構造になっている。あれは普段から使っていたらまず間違いなく精神に異常をきたすだろう。そんな感じのものだ。

 

もう一人は完全に女性だ。下半身には女性の象徴が据えられており、新生児の部屋や、骨盤の形、というかそんな回りくどいことをしなくとも腕や太股のラインからどう見ても女性だった。うん、CかDといったところだろうか。

 

 

…再び押し寄せてくるであろう受難と頭を穿つ大いなる痛みと衝撃に、雪村は盛大なため息をついた。

 

 

 

 

 



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Ver.24 起床と遠雷/ごたごたの始まり

————————待たせたな!(誰も待ってない)










ルパパトの最終話で大泣きしました


———————やぁ、こうして逢うのは初めてになるのかな?

 

 

——————…えっと、どちらさま?つか、ここどこさ。全く見当つかないんだけど

 

 

——————別に俺が誰だろうが君が誰だろうがどうでもいい。些末な問題だ。それよりも君、どうだい?こちらの世界に来て何か変わったかな?

 

 

——————…特に何も。

 

 

——————噓はつかないほうがいいね。過去の意思は噓では欺けない。君は確かに元の世界に戻りたいのだろう。君と君の妹の心はいつも一緒だ。しかし、最近ほんの少し、ほんの少しだけ考え始めているんじゃない?この世界もいいもんだってさ。

 

 

 

——————……で?確かに俺は少しだけだけど最近思い始めている。ここもいいもんだってな。だけどよ、やっぱり俺は妹のところに帰りたい。なぁ、家族と一緒にいたいって感情は持っちゃダメなのか?

 

 

——————…いや、そんなことはかけらも言っていないだろう?分かっているさ、君が本当に、本当に元の世界に帰りたがっている事も、逆説的に言えばほんのかけらしかこの世界に未練がなく、すぐに切り捨てられる範疇だと言う事も。

 

 

——————じゃあ、何でまた俺をこんなところに呼び寄せたんだよ。

 

 

——————これは先達からの忠告だ

 

 

——————忠告ぅ?

 

 

——————そう、君を見てるとなんか俺の跡をたどりそうで怖くてね。君は強大な力を持ち、くらーい過去を持ち、そして守るべき物を持っている。言うなればヒーローといったところか。たった一つの大切な物を守るために世界を敵に回せる系の。

 

 

——————お褒め頂きありがとう。それが?

 

 

——————うん。君はその大切な物を守る為に多くの物を切り捨てるだろう。そして世界に敵が一つもいなくなった時に、大切な物にやっと手が届いた時に、切り捨てて来たものから足をすくわれるんだ。そうして君の手にはなーんも残らない。残ったのは君とその余りある強大な力だけだよ。

 

 

 

——————そうか、それは困るな。

 

 

 

——————ああ、相当困るだろうさ。

 

 

 

——————どうせ、答えは自分で探せとかいうのだろう?お前が誰だかわからんがお前の性格は大体わかった。

 

 

 

——————察しがいいじゃあないか。おや、そろそろ時間だ。ま、残念だけどお別れだ。全部このことは忘れちゃうだろうから、まあせいぜいこれから頑張るんだね~

 

 

 

——————おいなんだその適当な〆は

 

 

 

——————ああ…そうだ、一つ言い忘れていた。

 

 

 

——————なんだい?

 

 

 

——————転校生2人と織斑一夏、この三人に気を付けたまえ。

 

 

 

——————転校生2人と織斑ぁ?あの三人がどうしたのさ。。

 

 

 

——————いやね、彼らの、うーん、歪みというものだろうか、それが君に新たな心労を引き起こさせるよ。

 

 

 

——————そうか

…面倒ごとは大っ嫌いだ。

 

 

 

——————まあ精々頑張り給え、雪村悠一。応援しているよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目が覚めた。数日間篠ノ之との訓練に付き合い、彼女の身体を壊れない程度にボロボロにして来た雪村だったが、流石に疲労がたまりすぎるのは良くないと思い、IS学園の休日に合わせて土日は休みとしていた。

 

 

夢の内容はあまり覚えていなかった。どっかで見たような顔と対面していたような気もするが…と反芻している間にもスルスル記憶は抜けていく。

 

 

本日は休日、土曜日、Suturdayである。低血圧気味の彼は上半身を起こしてボーっと虚空を見つめている。隣の楯無は既にいなくなっていて、枕もとのデジタル時計は午前九時を表示していた。

 

 

のそりと起き上がり、冷蔵庫から2Lの天然水を取り出す。コップに移し替え飲んでいるとだんだん頭が冴えてきた。

 

 

ふと、通信が入る。発信者は…メタボリックシンドローム?誰だっけ。

 

 

「…はい、どちら様?」

 

 

「表示!いい加減失礼だよゆーくん!!温厚な束さんもそろそろ怒るぞー!!!」

 

 

ああそうか、表示を変えたのを完全に忘れていた。

 

 

「ああはいはい、運がよかったらいつか変えるよ。で?」

 

 

んもう、とため息をつき、

 

 

「やっぱりそうだねぇ、ゆーくんの言う通りさ!」

 

 

「じゃあ…」

 

 

「うん」

 

 

女。これが何を意味するのかはもはや明確だろう。

 

 

シャルロット・デュノアねえ。世も末だ。

 

 

 

 

 

 

「いやーフランス政府もまさかこんな手を打ってくるなんてねぇ!束さんもびっくりだよ。どうしてこんなのがばれないと思ったんだろうね?束さんは今この情報を全世界に公開したくなる衝動に駆られているよ!」

 

 

「やめなさいよめんどくさい、まあ100%俺か織斑の情報だろうなあ、めんどくさい、ああ、めんどくさい。俺はこの状況から一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られているよ」

 

 

「もう、そんなこと言わずにさあ、じゃあ、情報面は束さんがばっちし守るからさ、ゆーくんはいっくんの護衛ね、まあないだろうけど暗殺とかの指示があるかもしれないからね」

 

 

「はいはい分かった分かった、頼むから面倒ごとは引き受けないでくれよ、まったくもう…」

 

 

通信を切り、ため息をついた雪村は遅めの朝食でも摂ろうかと、足を食堂に向けた。

 

 

 

 

 

 

「遅いよ、まったくもって遅い遅い」

 

 

「くそっ!何で当たらねえ!!」

 

 

「一夏さん、援護を…きゃあ!」

 

 

「バレバレだよ、オルコット、ハイパーセンサーを忘れるな」

 

 

(一夏!私がすぐ真後ろに付く!お前は突っ込め!)

 

 

「分かった!」

 

 

雪村は、コッソリ後ろに迫っていた鳳をショートブレード「葵」で叩き落しつつ、アサルトライフル「ヴェント」で体制を崩しつつあるセシリアに弾をくれてやる。それと同時に瞬時加速(イグニッションブースト)で上方に回避、突っ込んで来ていた二人に後ろから切り裂いた。

それと同時に設定していた5分をタイマーが知らせる。何とか時間内にシールドエネルギーを削りきれた。

 

 

 

その日の午後、織斑に、特別に!と訓練を頼まれた雪村は、くっついてきた代表候補生の二人と織斑、篠ノ之と対峙し、戦闘訓練を行っていた。対価は何かをおごる、という至極大雑把なものだったが雪村はそれでも了解していた。どうやら雪村は今夜、学食で一番高いA5黒毛和牛ステーキをおごってもらうようである。こいつ、鬼か。

 

 

「もう!全然当たんないじゃないの!」

 

 

「当たり前だ、だれが好き好んで当たりに行くんだ」

 

 

「さ、最後どうやって見ていましたの…全く見えませんでしたわ」

 

 

「ハイパーセンサーの応用、やればできる…じゃなくてお前はやれなきゃ駄目だろスナイパー」

 

 

そしてだ、と雪村は振り返り、

 

 

「まず篠ノ之」

 

 

呼ばれた篠ノ之はビクッと体を震わせつつ、

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「いや、別に叱ろうって訳じゃない。お前は最近視点が広くなり始めている。昔のお前ならまず間違えなく後先考えずに突撃していただろうしな。その点今日は周囲に気を配れていた。まあ、始めてすぐだしな、コンビネーションは後からでもいいだろうよ」

 

 

「そ、そうか…それは良かった」

 

 

「次に織斑、お前だ。正直言ってこの中で一番弱い。無論他が代表候補生で専用機持ちだということもあるだろうがそれにしてもだ。お前のカッツカツ機体でどこまでできるかはお前次第なんだ。あせれよ、置いていかれるぞ。」

 

 

「おう、分かった!」

 

 

「次にお前ら二人だ。オルコット、お前は第一に並行思考の運用と近接戦闘だ。一番最初の俺との戦闘で剣だして突っ込んできただろう、それはどうした?」

 

 

「それは…その、あれ以来イメージが思い浮かばなくて…」

 

 

「そうか、まあそれはそれだ。それよりも並行思考処理が一番重要だ。援護がなくなれば前衛は崩れる。崩れたら結局はお前しかいなくなるんだからな」

 

 

雪村は振り向き、続ける。

 

 

「最後に凰、お前。ささいな事で一々逆上するな。そんくらい」

 

 

「…わかってるわよ、そのくらい」

 

 

「…まあいいや。よし、以上。かいさーん」

 

 

呑気に解散宣言を放った雪村の声にみんなはそれぞれの練習に戻ってゆく。今日は休憩の予定だったが篠ノ之に余裕があるのなら個人練習を再開しようかな、と考えていた雪村に一人の人物が現れた。

 

 

シャルル・デュノア。フランスの代表候補生。フランス大手IS製造メーカーデュノア社の御曹司にて三人目の代表候補生。

 

 

実は雪村自体はISに乗れてはいない。≪炎翼≫をISに無理やり接続し、ISを誤認させて乗っている状態だ。

その雪村を除くと人類唯一の例外だったはずの織斑一夏。それを覆すかの如く現れたシャルル・デュノア。

 

 

しかしながら、こいつも例外ではなかった、というわけである。さすがに人類最強の(ゴリラ)、わが師織斑千冬やドジっ子ヤンデレ虚数きょぬーのヤマヤ、その他何やってるかようわからん上層部が見逃すわけもないだろうから何らかの意図が合ってスパイという建前でこの学園に放り込まれたのだろうか。

 

 

「やあ、初めまして。僕の名前はシャルル・デュノア。この前、授業の時にあいさつできなくてごめんね。君は雪村悠一だよね。よろしく!」

 

 

ふむ、Hello,my mame is Charles Dunois, and Are you a Yukimura Yuichi! nice to meet you! と中学一年生の英語の教科書に出できそうな文章をどうもありがとう。君たちは何の教科書を使っていたのだろうか。俺はSunshineだった。

 

 

そんなことはどうでもよく、なぜ接触してきたか、は当たり前だが近づくためだろう。データを取ることや、頃合を見計らって自らの正体をあかし、懇ろな関係に陥らせる事で男性操縦者の庇護下に入ればそれはそれはホクホクだろうしな。今回は偶々近くにいた俺に声をかけたということだ。

 

 

「ああ、初めまして、知っての通り雪村悠一だ。よろしく頼むよ」

 

 

と、あたり触りのない答えを返しておく。

 

 

「それにしてもさっきの訓練凄かったね!僕、感動しちゃったよ!」

 

 

「そうか、それは何よりだ。いつかは代表候補生である君の操縦も見てみたいものだ」

 

 

「ううん、僕なんて全然大したことないよ。それよりも、今度僕も入れてくれないかな?」

 

 

「ああ、それなら織斑に言ったらどうだ。俺は普段から参加していない。今回特別に参加しただけで普段はあんまり織斑と訓練していないんだ」

 

 

さて、織斑と俺を分断した。どう動いてくるだろうか。人類最強の姉という絶大なバックアップを誇る織斑。突然現れた所在不明な俺。君はどっちを選択する!?

 

 

「……そっか!じゃあ織斑君に頼んでみるよ!」

 

 

少しの間目をそらしたシャルル・デュノア。彼は織斑を選択した。ふむ、性格上の問題だろうか。この前の授業の時に織斑と会話をしていたからな。そのときに面識があるのだろう。あの時のヤマヤは凄かった。凄まじい砲撃をあいつらにぶっ放していたからな。

 

 

…彼女がどこまでデータを採取してくるかはまだわからない。束が織斑の似非データを仕込んだ話を聞いたため、データの心配は全くしていないが彼女の目的が暗殺やハニートラップなのだとしたら話は別だ。最悪の場合彼女を排斥しなければならなくなってしまう。それはそれで面倒くさい。

 

 

 

だが、それでもなお、雪村の顔はのんびりと緩んでいた。それは油断か慢心か。

 

 

 

…それともこの世界を楽しみ始めた証左なのか。

 

 

 

 

それは誰にもわからない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

未だ不穏な動きを見せるシャルル・デュノア。

 

 

 

更に行動が過激になってゆくラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 

 

気づいてはいけない真実に気づいてしまった織斑一夏。

 

 

 

そして、「超能力者」雪村悠一が下す決断とは。

 

 

 

次回、「交差」

 

 

 

科学と魔術が交差する時、物語は始まる――――――――

 

 




いや、本当に申し訳ございません。漸く我が受験が終了しまして、春からは医療関係の大学に入学できそうです。


のんびり更新してゆきますので、これからもどうぞよろしくお願いします。


UAだけでも励みになってますぜ、お兄さん方。


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Ver.25 鍛錬と大嵐/死闘の予感


…………大変長らくお待たせいたしました。前回書き進められそうですぅー!!なーんて調子こいてた発言をかましまくってた私でしたがパソコンに触る機会がなくなってからというものまー書かなくなるわ書けなくなるわ。FGO始めてからスマホが手から離せなくなるわで大変でした。今現在四章です。

とりあえずエタることは恐らくないので大変気を長くしてお待ちいただけたら幸いです。







――――――――待て、しかして希望せよ!


 

しんとした武道場を、何回目かのブザーの音が切り裂いた。それと同時に箒は畳を蹴り、一直線に飛んでくる。たちまち三畳を食いつぶした彼女の運動エネルギーは、即座に蹴りの勢いに上乗せされた。その回し蹴りを雪村は軽やかなステップを踏んで下がり、二撃目の頭部を狙う、突き刺すような左後ろ蹴りを腕肘で受け流した。そのまま倒れこむ動作で軸足を払う。妙に軽いそれは、果たして彼女が払われたと同時に地面を蹴り、上方に飛んでいたからだった。その身を半回転させつつ軸足となっていた右足で鋭いかかと落としを喰らわす箒。しかし雪村はとっくに射線から抜け出していて、受け身を取りつつも地面に転がった彼女に容赦ないサッカーボールキックを喰らわした。

えづきながらも立ち上がった箒。と、丁度再び一分のブザーがなる。

 

 

篠ノ之の動きはメキメキと改善されて来ている。と俺は感じていた。始めてから約二週間、筋肉痛に苛まれていた彼女の身体をコントロールしつつ、基礎訓練を多段に盛り込んだ前半と、とりあえず空手、八極拳、洪家拳を適当に混ぜ込んだ武術をしみこませる実践的な後半に分け、戦闘訓練を積ませていた。無論ISの訓練も必須だが、先ずは自分の体しか頼れるものがない状況化での練習がいいと判断したらしく、俺もそれに同意だった。

この学校、つか、この世界ではもはやISが神格化され始めている気がする。勿論オーバーな言い方だが決して間違えではない気もする。ISを無効化する装置とかあったら戦場で丸裸だ。その先は真っ暗か、はたまた真っピンク(同人誌)か。情報は漏れるわ戦力が大きくそがれるわでえらいこっちゃな。

 

 

「今日は終わりにしよう。体に負担をかけ過ぎた」

 

 

一分間隔で休みと開始を繰り返すタイマーを止めて、篠ノ之と向き合い、今回気づいた点を指摘してゆく。さっさと着替えて出てゆこうとしたとき、どこかで爆発音が聞こえる。「傍聴」「透視」「視認」を見渡した所で、

 

 

 

 

 

 

黒き嵐が、顕現していた。

 

 

 

 

 

 

その展開は彼女にとって急すぎた。自らの恋路を邪魔するライバルと今日こそはとばかりに決闘をつけようとした時、かの銀髪がこちらを睥睨していることに気づいた彼女はあくまでも紳士的に訓練に誘った。しかしながら帰ってきたのは挑発の嵐。いくらなんでも限度がある態度に灸でも据えてやろうと飛び出したのが間違いだったと身に染みてそれを感じていた。

もはやベクトル操作の一端であるAIC。Active Inertial Canserと呼ばれるそれは結界内の物を余さず静止させるといったもので、これは彼女の実力も相まって全方位、全方向に鉄壁のディフェンスを敷いていた。更に遠距離に大型レールカノン、中距離にワイヤーブレード、近距離にプラズマ手刀と「一度つかんだら離さない」を地でゆく戦闘スタイルに彼女らは翻弄され続けていた。

 

 

そして、遂にライバルがダウンした。しかしダメージレベルがDを超えているにも関わらず、ただひたすらに拘束したワイヤーブレードで二人の首を圧迫してゆくラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女の目的はただ一つ。織斑一夏をここに呼び出し、殺すこと。

 

 

 

「いい加減にしなさい、この狂犬…!」

 

 

「狂犬を呼ばれるのは些か不愉快だな、英国貴族。なかなか愉快な格好になってきたじゃあないか」

 

 

「あら、そこまでおっしゃられるなら同じ格好にさせてあげてもよろしくてよ、そういえばドイツ史ってなんであんなにも重たいのでしょう、ただ負けた、と書くだけなのに」

 

 

「……ほざいたな、塵屑めが!!」

 

 

それと同時にワイヤーブレードがきつくしまってゆく。抵抗していたセシリア・オルコットの手の力がゆっくりと抜けてゆき、最後まで所持していたショートブレードが手から滑り落ち、地面に転がって、からん、と音が鳴った。




……死んでませんからね?


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Ver.26 暴走と暴走/逆鱗を刺激された獣



ごめんなさい。やっぱバイトと学校と教習所はきついわ。


 

 

俺はシャルルにつられて走っていた。なんでも鈴とセシリアがあの転校生と戦っている、と。でも二人を信じていない訳じゃないけど、あの転校生は強すぎる。もしかしたら二人でも勝てないかもしれないほどには。そうこうしている合間にも明らかに模擬戦では出ないはずの鋼鉄が拉げる音が断続的に響いていた。

 

 

「織斑先生ッ!今第一アリーナで!!」

 

 

「分かっている!今私もそちらに向かっているから早急に戦闘を止めさせろ!それとだ、織斑。いいか、お前は手を出すな!冷静な対応を心掛けろよ!!」

 

 

耳を触る千冬姉の声が今回ばかりは鬱陶しい。強引に回線を切断すると俺は更にギアを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は慌てて武道場と第一アリーナの手頃なドアを「接続」し、ピットに躍り出た。

 

 

「いい加減そこまでにしてもらおうか、ラウラ・ボーデヴィッヒ。それ以上はさすがに見過ごせないね」

 

 

「ほう、だれかと思ったらまともな意思疎通も不能な第二操縦者か。丁度いい。貴様もここで倒れろ腑抜け」

 

 

「嫌だね、めんどくさい。なんだってお前のエゴにつき合わされなきゃならないのさ。やるなら一人でやってなさいよ。腑抜けで結構だから――――――――」

 

 

そこで俺は一端言葉を切り、心底見下した(バカにした)相貌でこう答える。

 

 

「――――――――他人を巻き込むなよ間抜け。そんな態度じゃあ国力というものが知れるぞ代表候補生。

男の子の一人や二人呼び出すのによそに迷惑をかけてるんじゃ躾けた教官や国はさぞかし無能で無価値な三下なのだろうなぁ」

 

 

 

 

 

 

「…………いい覚悟だ雪村悠一。この私にそこまで吐いた罪。この世に一片の痕跡残さず消し潰す」

 

 

「やってみろよ、間抜け」

 

 

 

 

 

 

 

前提として雪村悠一はキレている。怒りを覆いつぶす為にいつも以上にべらべらべらべら廻る口が何よりの証拠だ。彼が嫌いなことは多々ある。神速の出席簿や一々小競り合う生徒会長(クソ水髪)。ただ、それはまだ鬱陶しい部類に属するものであり、本当に嫌いなことはどんな策略策謀姦計詭謀を使ってもブチ殺す。それが雪村悠一だ。

その嫌いなことの一つという逆鱗にアッパーを喰らった雪村は決して顔こそ彼女への嘲りで覆い隠しているが、その実今にも≪炎翼≫を背中から顕現させて消し飛ばしたい欲に駆られていた。

 

そして相対するラウラ・ボーデヴィッヒもまたキレていた。ただでさえ百度殺しても殺したりない織斑一夏に加え人生そのものといっていいほどの存在である教官、織斑千冬を愚弄した雪村悠一。自分をからかっているだけなら彼女は痛い目にあわしただけで許しただろう。しかしさきほどの会話で自分の誇り(ドイツ軍人)人生(織斑千冬)をこれでもかと踏みつけてくれた。その借り、今ここで消し飛ばさなくては申し訳が立たん。私を辱めたという罪、最早四肢をちぎり、泣いて許しを請いても遅い。

 

 

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒが肩のレールカノンをぶっ放す。それが開幕の合図だった。≪炎翼≫だけを現出させた雪村は全身に「強化」をかけ、一直線にラウラへ飛びかかる。何かが飛んでくるのを第六感のみでよけたラウラはほとんど倒れこむように後ろによけた。だが≪炎翼≫六本は意思を持ったかのように、あるいは支配者の怒りを体現するようにラウラを弾き飛ばす。反対側の壁にめり込むように吹っ飛ばされたラウラは追撃してくる何かに備え、AICを発動させる。果たして飛んできたのはレールカノンの弾丸だった。雪村はいつの間にか自分のIS「プロミネンス」を起動していて、二人の傍らに立っている。

 

 

「悪いね、織斑じゃなくて」

 

 

「…い…え……すみません、雪村さん。あなた、から教わったものが、発揮できずに………」

 

 

「…………、いいから、今は寝ていなさいよ」

 

 

つつっ、と一筋のラインを目尻から引いた彼女は、ゆっくりと気絶した。それをずっと見守っていた雪村は徐に二人を抱きかかえるとスラスターに火を入れる。

 

 

「戦場で敵に背を向けるとはな。見下げ果てた精神だ。全く、私が今ここで消し潰さなくては気が済まん」

 

 

「ほーう、一々こんなことも見過ごせずにネチネチネチネチ文句を言うとはな。まるで道路にこびりついたガムの吐き捨てのようだ。どんな教育を受けてきたのかが分かるぞ。そしてそれにだ」

 

 

一呼吸置いた雪村がギロリ、とこちらをみた気がした。

 

 

 

 

「別にお前みたいなゴミカス如き、一々見なくても潰せるんだよな、俺」

 

 

 

 

めり込んで、地面に倒れ伏したラウラに全方向から何倍にも膨れ上がった≪炎翼≫が迫ってくる。

 

 

「なっ…!」

 

 

慌ててAICを発動するラウラ。しかし全くかすりもせずにそれは直撃すした。

 

 

「な、何故だ!AICの作動は問題ないはず、それなのに、なぜ!」

 

 

そのまま≪炎翼≫は纏わりつくように彼女の体をしばりあげる。何のこれしき、とばかりに振り払うラウラ。が、それは切断されず、それどころかもがけばもがくほど強く締め付ける。

 

 

「なあ羽虫。何で目立つことを嫌うこの俺がここまでキレてるかわかるかなぁ……まぁ分かるわけもないか。教えてやろうか?」

 

 

ラウラはそれには答えられなかった。≪炎翼≫がISの装甲をも融解させるだけの熱量を発しそれどころではなくなってきたからだ。

 

 

「なあ、答えろっつってんだよ、なあ」

 

 

まずい、このままでは、

 

 

「おい、答えろよ」

 

 

「おい」

 

 

「おい」

 

 

ベキベキベキベキャッッ!!と。

 

 

 

 

 

しかし、そのような未来は訪れなかった。

 

 

「おい…………!雪村!一端落ち着け!」

 

 

片割れが、主人公が、この状況を打破できる人間が漸く登場した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は、ラウラを止め、みんなを助けるためだった。

けれど、いざこの場所についてみたら雪村が、人が変わったかのようにラウラを蹂躙している最中だった。

雪村しか使えないその際物中の際物単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、≪炎翼≫。それがアリーナを覆いつくし、ラウラはもはや息絶え絶えのようだった。

 

 

「やめろっ!!雪村っ!!」

 

 

と、一応は声をかけてみるものの、反応する気配すら見せなかった。ハイパーセンサーで雪村の顔を覗いてみてぞっとした。雪村は一切の感情を表に出していなかった。しかしながら顔は青筋が浮いている、など生易しい物ではなく、顔全体に張り巡らされるほどの、化け物の様な顔つきになっていた。

 

 

気づいたら体のほうが動いていた。

 

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)を繰り出し、≪炎翼≫を体全体で受け止めるような体制で留める。

無論無事ではなく、機体を「貫通」した4本の≪炎翼≫がじりじりと白式を焼き焦がし、残り2本を受け止めている雪片弐型も悲鳴をあげていた。

 

 

 

 

そして、時は今に巻き戻る。現状状況は最悪と言っても過言ではなく、ラウラはISが解除され意識がぶっ飛んでおり、自分はあと少しで崩れる寸前である。 悠一は普段の飄々とした気配は全くなく、暴走状態のバーサーカーモード。どうしたら打破できる…!

と、急に通信が入る。

 

 

「束さん!?」

 

 

「いっくん!?ちょっと手伝ってもらえる!?もらうよ!?」

 

 

有無をいわさない、という強い口調の束さんの声が響いた。すると、悠一の動きが鈍くなる。今だ、と思う前に動いていた。無理矢理拘束を抜け出し、ほっと一息つく。

 

 

 

 

その一息が、命取りとなった。

 

 

 

 

悠一の背中から、()()()()()()≪炎翼≫が装甲をぶち抜いて飛び出してくる。貫かれた右肩は、もう動かなかった。

 

 

 

 

しかし、この状況で織斑一夏は雪村に≪炎翼≫を全部回せる、という大快挙を成し遂げたのだ。

その隙は暴走状態で思考力が干上がっている雪村には致命的だった。

 

 

 

 

凄まじい勢いですっ飛んできたショートブレード「葵」が装甲の解除された雪村にぶち当たる。そのまま雪村はゆっくりと倒れていった。

 

 






雪村嫌いなことリスト
言い換えれば逆鱗。

自分が価値を見出したものを第三者が壊してしまうこと








妹の危機 必要とあらば地球吹き飛ぶ


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Ver.27 開始と直前/ひと時その2


やあ、二か月ぶりだよ。


夢を、見ていた。ある男の一生を追った物語だった。つまらなく、お涙頂戴の三流映画のような人生だったと記憶している。その男?女?それとも………

………神経を落ち着かせる。訂正しよう。ひっどい物語だった。これをスプラッター映画として見るには最高の一級品だった。だんだん目が覚め、内容が欠落していっている今でもそれは脳裏に気色悪くこびりついていた。研究所の一面や、戦場で敵を屠りまわっている姿は、暗部に入って幾年月経った自分が久々に酸い味を覚えた。

 

 時計の針は午前三時を回っている。風呂桶の湯を一杯ぶちまけたかの様な膨大な汗はこのまま二度寝を許しそうな雰囲気になかった。

 仕方なく替えの下着やパジャマ、シーツを用意していると、何の前触れもなく同居人が目を開けた。

 

 

「起こしてしまったかしら…?」

 

 

世界で二人だけの中の一人はまだ夢の中を揺蕩っているようで、虚ろな双眸は遥か上の景色を見渡している様だった。

 

 

ふと、彼がこちらを向く。その瞳から一筋、無垢な水が滴り落ちる。

 

 

 

それは、まるで、生涯彼が吐き出せなかった悲しみを、代替しているかのようで。

 

 

 

少女は、少年のように、少年の心に寄り添うように、涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ代表候補生及び男性操縦者()暴走事件から数週間が経過した。ぬぁぜか二人には一切のお咎めはなく、一方的に機体を破砕された英中は割を喰ったような感じになって、俺は申し訳ないと思ったような思ってないような気持ちになっていた。なーんでまたあんな理性蒸発のバーサーカーモードになったのかは今でも分からぬ。俺は俺であの暮らしに楽しみでも、はたまた気の休めでも覚えていたのだろうか?

 ま、こんな事をいちいちくよくよし、たまに自己嫌悪に陥りつつ、O教諭の薄気味悪いやさしさについ、ついつい本音が零れ落ちた次の瞬間、一日ぶん経過した日付に戦慄したりしていると、まるで亜光速のようにトーナメントの日となっていた。

 

学年別トーナメント。それは一年生が必死に稼働させるのをああ、あんな時もあったなぁ。と二年が上から目線で懐古し、二年生がやった一年分の苦労を三年がまぁ、私たちに比べればまだまだね。と先輩風をビュンビュンなびかせ、三年生が就職の為、より良いところを(ファンサービス)をスカウトに見せつけているところを教諭が冷酷に、残酷に成績をつけるところを見せつけられるとても悲しい戦場である。

そんな中、隣の織斑くンと私雪村くンは揃ってスクリーンを見上げつつこれまた揃ってバカみたいに口を開けていた。

 

 

 

 

「なぁ織斑」

 

 

 

スクリーンには、一年トーナメントの一覧表。

 

 

 

「あぁ悠一」

 

 

 

事前にペアとして申請しなかったものはランダムで決められた、らしい。

 

 

 

「こんなことって、あるんだなぁ」

 

 

 

運命の一回戦。表示されているのは織斑・デュノアペア。

 

 

 

「ほんとになぁ」

 

 

 

そして、対戦相手。ランダムペアのラウラ・ボーテウィッヒ。

 

 

 

「あのゴリラかそれとも上の判断かなぁ」

 

 

 

そして、俺。

 

 

 

「ここまで相性が最悪なペアなんて五劫が擦り切れるほどないんじゃないのか」

 

 

 

「いよぅし、何かけるか織斑!食堂の最高級黒毛和牛でどうだ!」

 

 

 

「誰がかけるかそんな不利なもんに!あ、でも仲間割れ誘えるかも」

 

 

 

「はッ!いざ仲間割れしたら俺が≪炎翼≫で吹き潰すだけだからな!客席もろとも」

 

 

 

「馬っ鹿じゃねえの、お前!」

 

 

 

「ほおう?ほっほう?卿は前回の現代IS理論の小テスト、おいくつでございましたかな?残念ですがこれにてlectureは中止とさせていただきましょうぞ?」

 

 

 

「まっ、待ってくれ、待つんだ悠一!」

 

 

 

「賭け事とは何だ?ゴリラとは何だ?」

 

 

 

「事実でございます。…ん?」

 

 

 

「あ」

 

 






大学生活ってほんとに時間取れないね。


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Ver.28 求道と求道/憎悪の果て

夏休み。超ヒマ。


剣戟、剣戟、またまた剣戟。銃声が響き轟音が客席を揺らし、プラズマが空気を焼き大剣が大地を割る。

 

 試合が始まってまだ数分しかたっていないというのにもかかわらず、試合は見るものを引き寄せるような展開へと移り変わっている。強大な力をもつ代表候補生を前に一人目こと織斑一夏は果敢に食らいつき、その間を縫うかのようにフランスの三人目は相対する二人に銃撃を放っている。そしてそれをものともしないドイツの冷水。シャルル・デュノアの銃撃をAICで留め、突っ込んでくる織斑一夏を留め、退避する二人にワイヤーブレードで痛烈な一撃を放ってくる。彼彼女ら3人の熾烈な競争は見る者の心を大いに踊らさせていた。いや、一人忘れていた。奴は早々に自分の得物「靭葉(ゆぎのは)」をしまい、二丁のアサルトライフルで応戦していた。

 と、言っても雪村は今回開始直前にラウラ・ボーデウィッヒから、何もするな。貴様は一歩たりとも動くな。というより私の視界に入るなうざったらしい。とのご高説を賜ったため、拗ねてその辺を漂い、時に思い出したかのように弾を撃ち、流れ弾に見せかけて生徒会長のいるほうに撃つ。そんな事をずっと繰り返している。彼女からは後で覚えてなさいよ、という顔で睨まれた。 

彼は大変申し訳なさそうな顔を取り繕っていたがもちろん反省はしていない。後悔もしていない。このような人物を日本語では最低と呼称する。

 そんな閑人はいざ知らず、三人の戦闘は更に苛烈なものとなっていた。

 

 

 

 舞台は中盤へと移ろい変わりゆき、ラウラ・ボーデヴィッヒの内心は焦りを感じていた。というのも二人の連携が意外と攻めがたく、ここ一番のところで逃げられてしまっていたからだ。それは目の前を飛ぶ煩わしい蚊に寸前で逃げられてしまうと同義であり、彼女を烈火の如き憤怒へと導いていた。

 怒りは視野を狭窄させる。その間隙を突かれデュノア…といったか、フランスの代表候補生の連射が直撃してしまう。

 

 

「やった、シャル!」

 

 

…あああああッツ!!うざい汚い煩わしいッ!何故、何故この様な雑魚が、弱者が、貴様なんぞ教官の汚点に過ぎないというのに、この、この、この—————

 

 

「雪村ァァァァァァッッッ!!!」

 

 

「へい?」

 

 

「貴様も、貴様も手伝え、この害虫どもを捻り潰す…!」

 

 

「ああ、それは別にいいんだけど前方注意ね?」

 

 

その言葉を聞き、反射的に振り向くと、飛んでくるのは織村一夏とその手に掲げた二つの手榴弾。

ISの視野は確かに360°だ。しかしながら普段の、通常の生活で使っている視界なんて、たかが知れている。

 

 

だから、だからこそ彼女は自身の恥部であり、汚点であり、切り札をここで使う。

 

 

「なぁぁめぇぇるなあああぁぁぁぁ!!」

 

 

雄叫びとともに左目の眼帯が取れ落ちる。その下にあったのは黄金の瞳、人を超越するもの。

 

 

単品なら息を呑む程に美しいはずのそれは、彼女の銀髪赤目には致命的なまでに似合ってはいなく、むしろ彼女の肉体美を演出するのには邪魔ですらあった。

 

越界の瞳(ヴォータン・オージェ)。それは、脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした肉眼へのナノマシン移植処理であり、もはや疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは脳への途方もない負担と引き換えにもはや時間停止とも見間違うかの様な視界を手に入れる。そして彼女はそれをもって織斑一夏と手の内の手榴弾を同時に制止させようとして————

 

 

全身を、稲妻のような悪寒が駆け巡る。

 

 

背中に回っていたフランス候補生。その盾がはじけ飛び、第二世代中最凶の攻撃力を持つ兵装が飛び出してくる。

パイルバンカー「灰色の鱗殻(グレー・スケール)」。その威力は二つ名が保障している。

 

 

盾殺し(シールド・ピアーズ)……!!」

 

 

その一瞬が仇となる。一瞬目を話した隙に彼は離脱を終えていた。ご丁寧にレールカノン二丁を破壊するように置かれた二つの手榴弾によって。

 

 

 それは正に手術台の上にのし上げられた俎板の鯉に他ならなかった。無論この状態を逃す二人ではない。彼の白剣が割れ、中から澄んだ湖のような蒼白い光が漏れ出す。それ等が寄り集まり剣を形づくる。

 

 

「これで…終わりだッ……!」

 

 

――――――――終わる?この私が?

 

 

ふざけるな、ふざけるな。ふざけるな! 私が、私の、私のことを貶めた貴様を生かしておく理由などありはすまい!貴様をこの手で教官の前で無様に首をねじ切った後、なめ腐った根性をしている旧型のフランス候補生も必ずや縊り殺す!

この学園にたかるハエどもも同じだ。全員全くもって力を持つのに相応しくない。私自ら土からやり直させてやろう。まだだ。まだ足りん。教育もなっていない。教員どもの四肢を割いたうえで本国に送り返してやろう。最後に、最後に最も、最も最も最も憎き雪村悠一。貴様だけは早々に殺させん。指先から足先からじっくりじっくり燃やしつくしてやろう。全身の痛覚を同時に「起動」させるのも良い。生きるのに必要な器官のみを「回復」させつつ永遠に殺し続けるのも良い。そして教官の前で…!前で? 

 

 

 私は…私は何を言っているのだ?何故…何故ここまでの殺意を?

なんだ…なんなのだこの沸き起こる力は!嫌だ嫌だ嫌だこんなものは望んでいない!私が欲しいものは闇のどん底にいた私に、誰もが見捨てた私にたった一人手を伸ばしてくれた我が恩師に報いる為だというのに!私が望んだ力は教員を変えてしまった忌々しい織斑一夏と雪村悠一を殺す程度の力だというのに!誰か

 

 

誰か 助けて たすけ

 

 

 

 

 

『汝、自らの変革を望むか?』

 

 

 

 

私に力を。本体をも超える力を。

 

 

 

この時点で彼女の意識は消滅した。それに呼応して仕込まれていた二つのシステムが起動を始める。一つは彼女を道具として効率よく使い捨てるシステム。もう一つは

 

 

……ある人物への殺意のみで造られた、悪魔のシステム。

 

 

 

 

 

【Valkyrie Trace System】......boot.

 

 

 

 

≪炎翼≫ 起動。



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Ver.29 大恐慌と大苦戦/m#ET

待っている人がいたら心底びっくり



奥さん聞きました?こんなところに半年も放置していた小説があるんですって!


突如、彼女の体から異変が生じる。彼女の乗る機体、シュバルツィア・レーゲンの外装がさなぎの内部のようにドロリと溶けだし、急速に再構築を始めていた。

 

 

「おいおい楯無、あれなんぞ?」

 

 

「知らないわよ!今こっちで解明と増援、後避難の手配をしているから、雪村君にはそっちの足止めを要請するわ!できるなら対象の沈黙も!」

 

 

「えぇー、自分に期待持ち過ぎじゃねえ?」

 

 

「あなたさっきまでなんもしてなかったんだからSE余りまくってんでしょ!

……頼んだわよ」

 

 

あと、こっちを狙って撃っていた恨みは絶対忘れないわよ、という非常に不吉な伝言を残して通信は切断された。

 

 

「さぁ、めんどくさいことになってきたぞ!!」

 

 

見ればヒト型に収束してきたそれは、身体の関節の至る所から血のような炎を吹き出し、カクカクと破損寸前のロボットが倒れそうな、不死鳥が炎に包まれ復活するような、完成に向かいつつも崩壊しているような奇妙なアンバランスさを持っていた。

 

 

炎はやがて背中へとまとまり、一対の翼となって顕現する。

 

 

 <html>

 <body>

 

  MceVc a#e 

 

 </body>

 </html>

 

 

…嘘だろ!

 

 

「織斑ああァァッッ!!伏せろおおおっっ!!」

 

 

次の瞬間、翼が()()()()()()()()()、浮遊する。飛び出した≪炎翼≫はさながら二匹の蛇のように頭上で絡まりあい、見る間に膨張していく。そして、その炎の塊がピタリ、と動きを止め、消えるように凝縮した。

 

 

その爆発は本来ならばアリーナを全壊どころか影すら残らないレベルで消し飛ばすはずだった。

雪村は咄嗟に「遮断」「隔離」「分離」「分割」その他数種類の「超能力」を補助、バックアップとして最大限に自分と織斑、及びアリーナを守ったはずだったが、如何せん相手の威力が桁違いすぎた。また、余り余人に自らの能力を晒したくなかったというのもあり、≪炎翼≫六本で展開したことによる出力不足が原因だったのかもしれない。

――――つまるところ。

 

 

「ゔっ……げっほごほっ…ごはっ」

 

 

ビシャビシャと真っ赤なものが辺りに広がる。

雪村は全身のありとあらゆる穴から血を垂れ流していた。目から、耳から、鼻から、口から、上から、下から。

なんてことはない、殺し切れなかった衝撃を全て体内に「転移」させただけである。

 しかしながら代償は少なからず存在している。身体のカタチこそ無理矢理保っているものの、内臓は衝撃により残らず消し飛んだすっからかん状態であり、命の危険どころの話ではなかった。

 それは彼が「超能力者」という人外にカテゴリされる存在でなければの話だが。

 

 

「遡及!」

 

 

身体にダメージを負った事実を「あった」から「なかった」に変更!

 

 

と、彼は無理矢理回復した。が、無論それは大きな隙になってしまっていた。

 

 

<html>

 <body>

 

  g#eT/ i#N 

 

 </body>

 </html>

 

 

≪炎翼≫が伸びる。音速を超えて肉薄したそれは雪村の機体を容易く貫く。突き出た≪炎翼≫は枝分かれし取って返し再び貫く。弾ける。焼き尽くす。執拗に何度も。何度も。何度も。

 

 

「お”おぁッ!!」

 

 

だが雪村も負けてはいない。自らの背中から顕現させた≪炎翼≫を振り回し、拘束を引きちぎる。解放された瞬間、「飛翔」を使い、一瞬でアリーナの屋上まで移動した雪村は「回帰」で身体と機体を回復しつつ織斑のところまで急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

最初は純粋な怒りだった。俺と悠一を侮辱したあいつは俺の姉の力まで侮辱してきたからだった。

だけど、だけど。足が一歩も動かない。怒りがくすぶっているはずなのに、仇を討ちたいはずなのに…

そんな感じにひたすら二の足を踏んでいるさなかにも殺し合いは進んでゆき、その間に悠一は何発も攻撃をくらい、とても辛そうな表情で戦っていた。

 速い。相手のスピードが、悠一のスピードが。強い。一瞬一瞬の攻撃の重さが、悠一が引けない俺という存在の重さが。勝てない。俺では舞台に上ることすら許されない……!

 

 

そんな時だった。悠一がこちらに転がってきたのは。

 

 

 

あの一瞬の攻防で何があったのか。それは自分にはわからない領域にあった。しかしただ唯一分かることとして、彼は俺をここまでかばってボロボロになっているという事実だった。

それは考えなくともそれは分かることだった。寄生されている人物(ラウラ・ボーデヴィッヒ)は俺のことを娼嫉していたし、そもそもこの場で一番弱いのは俺だ。ならば奴が俺を狙い、悠一がかばったと考えるのは当たり前だった。

 

 

「悠一……ごめん、どうすればいいのかが、わからな、くて」

 

 

ここはもはや戦場となっている。戦場で迷いがあり、恐怖で逃げ惑うことすら出来ない人間の果てなんて分かりきっている。

しかしながら数ヶ月前まで本当に、本当にただの一般人だった彼に最善の行動を取らせるなんてことは無理難題に決まっている。更にいえば今現在ISですら捉え切れない、言葉通りに異次元の怪物同士が殺し合いを繰り広げている。言うなればISとISが戦っている最中に生身の人間が介入するのと同義だ。いや、それよりもっと差は大きいのかもしれない。この中に首を突っ込んで生還できる人間など世界を見ても数人いるかも怪しい。

 

 

だからこそ雪村は織斑一夏を許した。もとより怒ってなどないのだが。

 

 

「あー、うん、それについては全然いいんだけどさ、」

 

 

と、雪村は続ける。

 

 

「正直お前を奮起させるつもりはなかった。一般人を戦場に立たせるなどただの外道に過ぎない。ただ……」

 

 

雪村は苦虫を噛み潰したような苦しみ迸った顔を向ける。

 

 

「今のお前を守りつつ戦闘を続行するのはやはり不可能だ。どうやっても守り切れない」

 

 

周りの被害を考慮せずに存分に戦え、と言われれば30秒もあれば決着がつく。しかしながらいずれは帰るとはいえ、この男がこれまでの生活を手放すはずもなかった。

 

 

だから、だから。

 

 

「ここでお前を奮起させなければならない。

……織斑、あいつはお前の姉を汚したぞ。お前の努力も汚した。お前を貶めるために友達にも手をかけた。……ああ、こんな陳腐な言葉じゃない、いいか、こっぱずかしいしめんどくさいから一言でいうぞ。

 

 

彼は嘆息し、顔を赤らめた後、真剣な表情でこちらをを振り向き一息に言った。

 

 

「助けてくれ」

 

 

 

「頼む」

 

 




ヒント・前回と今回の≪炎翼≫の中身は違う


≪炎翼≫語、解読しようと思えば出来ます


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Ver.30 決着と救済/亜空間にて

いつになったらこの小説終わるん?


「……わかった」

 

彼の渾身の請願に対し、少年は簡潔に返答した。少年の足はがくがくと震え、もう片方は今にも死に絶えそうな満身状態だった。端から見れば誰もが即座に彼らは敗北と断ずるだろう。

 

 

 

 

だが。

 

 

 

だが、それが何だ。彼は助けを求め、少年はこれに答えた。ならば負ける道理などどこにもない。普段万能を謳う超越存在が欠け、そこを埋める幕引きの一撃。それはこの日この場所でしか()られぬ最高のショウに他ならないだろう。

 

 

そして、もう一方の理由は至極単純なことだった。それこそ――

 

 

 

――――少女を助けるために命を張る男達が、負けるはずなどないのだから。

 

 

 

 

 

とはいえ、状況は相も変わらず絶望的だった。だが、二人は立ち止まれない。立ち止まらない。足に活を入れて立ち上がり、気力を以って剣を振るう。織村一夏がマシンガンのように射出された≪炎翼≫を即座に打払い、いつの間にか後ろに回っていた雪村が大剣とともに斬りかかる。しかし、ラウラの背中から再度噴き出した≪炎翼≫は容易く雪村を吹き飛ばす。立ち上がった織斑一夏の前に雪村がゴロゴロと転がってきた。

 

 

――「織斑」

 

 

その口は何も語らなかったが、その目は次に全霊をかけることを語っていた。

 

 

すなわち、殺すか、殺されるか。

 

 

――「分かった」

 

 

それに対し、完結に答える。今の二人にもはや言葉は不要だった。

 

 

次の瞬間、はじかれたように左右に別れた二人。右の雪村は≪炎翼≫を使い急上昇。そのまま≪靭葉≫を下に真っ逆さまに墜ちてきた。

 

左の下からは織斑。蛇のように奔った白光がかち上げるように腹部に食らいつく。

対する黒い雨(シュバルツィア・レーゲン)の動きは、なかった。ただ、≪炎翼≫を動かしただけだった。

 

 

<html>

 <body>

 

  o(db o(db 

 

 </body>

 </html>

 

先程のように≪炎翼≫を絡ませる。圧縮した≪炎翼≫を解き放つ。

 

 

はずが。

 

 

()()()()

 

 

ハイパーセンサーでコンマ数瞬意識を落とす。半壊したアリーナの天井。そのさらに上の太陽付近。

学園汎用機ラファール・リバイブに身を包み、白煙立ち昇るライフルを構えつづけるその姿。黄金に輝くその髪が、強く輝く碧い目が。決して折れぬ高嶺の花が。

 

 

 

そこに立っていた。

 

 

(……ありがとう、セシリア)

 

 

 

 

 

 

二人の思いが重なった瞬間、二つの()が、いびつな不死鳥を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泥のような裡から抜け出す感覚があった。二人は身を起こし自身の安否を確認する。織斑一夏とラウラ・ボーテヴィッヒ。二人は今どことも知れない場所にいた。

 

 

 

15年間か、或いは1秒にも満たない時間だった。二人は互いに互いの人生を、汚点を、無力を、無様さを、欠点を、挫折と敗北を見た。

 

 

 

――そしてそこから無理矢理に歩き出せる芯の強さを見た。

互いが互いの努力を認めていた。胸に残る蟠りが消えてゆくのを共に感じていた。

 

 

 

「ところで、ここは……」

 

 

「私も初めての体験だ。恐らく……」

 

 

ISコアの同調。ここの異空間はそれが原因とラウラは推測する。実際、このような現象はどの教科書にも論文にも載ってなかった……気がする。いや、きっとそうだ。いや全く読んでないとかそんなんじゃないから。

 

ところで悠一はどうしたのだろうか。彼の姿がどこにも見当たらなかった。最後の記憶を参照にしてみても二人が同時に突っ込んでいったところで止まっていた。この現象がコアが深いところで接触したというのなら彼もこの場にいてもおかしくはないのだ。

 

 

そう思った瞬間、暗闇がひび割れ、ラウラと俺は激しい光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

無限に続く蒼穹。そうとしか言い表せないようなところだった。いまだ現実ではないことは感覚で理解が出来る。何しろ二人が呼吸を失う程美しかったから。その不思議な空間に俺は千冬姉と昔観た映画、千と千尋の神隠しの海原電鉄のシーンをふと思い出した。

 

 

青々とした空。どこまでもどこまでも果てしなく続いている水平線。東の果てから立ち上る巨大な入道雲。水面の上に立っている俺たちの下には魚の群れが悠々と泳いでいた。

 

 

二人はしばし壮大さに圧倒され、立ち尽くしていた。

 

 

「……ここは?」

 

 

「残滓の寄せ集めだよ」

 

 

自分たちの疑問に応えるように、一本だけ生えていた木の後ろから一人の男が姿を現した。

 

 

 



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