ぼっちが進む武偵道 (温野菜生活)
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プロローグ
緋弾のアリア。
原作が結構好きなので書きました。
在り来たりですが、暇つぶしにでも呼んでくれたら幸いです。
『ごめんね、とぉ君。普通の子供に産んであげられなくて、本当にごめんね……』
それは体の弱かった母が病院の一室で口にした言葉だった。
放課後に病院へ見舞いに行くと、母は決まってこの言葉を口にした。その瞳から一筋の涙を流しながら。
夕暮れの光に包まれた病室での光景を、僕は一生かけても忘れることはできないだろう。
*
四月。
クリーニングに出したばかりの
ちらり、タンスの上に置いた時計へ目を向けると時刻は7時50分。あと8分後には学校行きのバスが寮から出て行ってしまう。
「……始業式だし、鞄は空でいいかな」
と言いつつ、筆記用具だけは鞄の中に入れる。そしてそれを持って玄関へ……っとと、危ない危ない忘れるところだった。
向かうのは窓際にある台の上。そこに立てかけた一枚の写真。写るのは赤子を抱いた夫婦の写真。
「父さん母さん、いってきます」
今は亡き両親に挨拶を告げ、一人しかいない寮の部屋を出ると鍵を閉め、階段を降りバスの停留所へと向かう。
するとちょうどのタイミングでバスが到着。”東京武偵高校”と表示されたそのバスに乗り込むと、中には同じ制服に身を包んだ男子と女子が乗っており。
ぱっと見渡したところ、相手いる席がなかったので、吊革に掴まるとバスの扉は閉まり高校へ向けて動き出した。
”東京武偵高”。”武装探偵”縮めて”武偵”と呼ばれる者を育てる教育機関。武偵とは簡単に言えばお金で依頼を解決する”何でも屋”で、武偵法が許す限りどんな仕事でも請け負うことができる。
僕こと
僕の周りにいる生徒達も同様に武偵高の生徒であり、”普通”とは違う場所に住む人たちばかりだといえる。世間一般の子供達が人生で一度経験するかどうかの”死線”に幾度も身を置く、そんな学生たちを普通と呼ぶには身内贔屓があっても無理だろう。
(まぁ僕の場合、そんな皆とすら違うんだけどね……)
普通じゃない武偵高の中でも、僕は普通じゃない。そんな僕が一般人の世界で生きていける訳などなく、だからこそ武偵という道を選んだ。
それにここでなら、もしかしたら見つかるかもしれないと思ったから。
──僕が進むべき道、僕が守りたいと思えるものが
「は~い。私がこのクラスの担任になります、
2年A組。僕の新しく割り振られたクラスの教壇に立つ担任、
始業式の後で行われたくじ引きで決まった席、窓際の真ん中からクラスを見渡すと、昨年も同じだった生徒がちらほらといる。あと気になるのは、一つだけ空いた席。
新学年になって早々に休み……何かあったのかな。
「それじゃあ今から皆さんに自己紹介をしてもらいますねー。じゃあまずはー……昨年の3学期に転入してきたカーワイイ子からお願いしましょー」
前に来てくださいー、という先生の言葉に従い起立したのは、ピンクのロングツインテールの小学生……と見間違う程の容姿の女生徒だった。
教壇の上に立ってなお、小さいとわかるその少女は振り返り、自己紹介をしようと口を開いた時
「すみません、ちょっと事情があって遅れました」
そう言いながら後方から入室してきたのは、気怠げな表情を浮かべた男子生徒。名前は
どうやら空席の正体は遠山だったようだが……何はともあれ、こうして全員揃ったのはいいことだ。
するとそんな遠山を見たツインテの少女は、ゆっくりと右手を上げ人差し指で遠山を指差すと
「先生、あたしアイツの隣がいい」
自己紹介の言葉よりも早く、そんな爆弾的な発言を口にした。
そんな彼女の言葉にクラスメートはもちろんのこと、遠山本人ですらも驚いた表情を浮かべている。
予想外の出来事に空気が静まりかえる中、それをいち早く打破したのは制服を着崩した男子生徒の……確か
彼の「席変わりますよ」発言に遠山が困惑していると、ツインテ少女はつかつかと靴音を鳴らし、件の人物へと近づくと
「キンジ、はいこれ。さっきのベルト」
再度、そんな爆弾発言とともにベルトを投げ渡す。
そしてそんな発言に反応したのは、武藤ではない別の人物で。
「わかった、理子わかちゃった! これ、フラグバッキバキに立ってるよ!」
そう言い元気よく挙手しながら立ち上がったのは金髪の女生徒。ツーサイドアップの髪型に、改造したフリフリな学生服が特徴的な彼女は
発言からわかるよう、クラスの元気なアホな子担当の女生徒だ。
彼女が得意顔でつらつらと語る推理?にクラスのみんなは大盛り上がり。恋がどうたらと、各々が遠山に向けて質問や罵声などを浴びせていると
──ガガガァンッ!
まるで一喝するかのように鳴り響いた銃声に、クラスのざわめきは一気に消沈。そして発砲主であるツインテ少女は顔を真っ赤にさせ、ふるふると小刻みに体を震わせると
「れ、恋愛だなんてくっだらない!」
彼女とは対照的に、真っ青になったクラスメートたちへと向け
「全員覚えておきなさい! そういうバカなこと言う奴は……」
まるで忠告するかのように言い放った。
「──風穴あけるわよ!」
*
授業といっても今日はガイダンス程度のもので、特にこれといった内容はなく進んでいき。時は昼休み。
購買でパンと飲み物を買った僕は教室へとは戻らず、一人校舎の屋上へと向かう。普通ならば友達何人かを連れてー、とかなんだろうけれど、あいにくと僕にはその友達がいない。
顔を知っている程度の知り合いはいるが、昼食をともにする程の仲の人は片手でも十分すぎるほどだ。いや、もしかしたら片手すら必要としないのかもしれない。
たぶん他人から見たら相当悲しい絵面なんだろうけれど、僕にとってはこれが当たり前。昔からこれが僕の”普通”だから、もう寂しいなんて感情すら忘れてしまった。
屋上へ続く階段を登り、鉄製のドアノブを回し扉を開くと。目の前には青色のキャンパスがこれでもかと広がっていた。
扉近くの地面に座り、壁に背を預け菓子パンの包装を開ける。一口かぶりつき、モグモグと咀嚼をしながらぼうっと空を眺めていると。
この屋上へ向かってくる誰かの気配を感じ、扉の方へ視線を向ける。
「ったく、酷い目にあった……」
そんな愚痴と共に現れたのは、僕同様に購買の袋を手にした遠山だった。
遠山はすぐに僕の存在に気づき、視線をこちらへと向け
「おぉ、桐山もここで食ってたのか」
「うん、まぁね」
「悪いけど、俺もここ使わせてもらってもいいか?」
「うん、いいよ」
別にそんなの許可取るほどのものじゃないと思うけど。
遠山は「悪いな」と言いながら、僕とは反対側に腰を下ろす。そしてパンを取り出し、包装を破いて一口。
「そういや、桐山とこうして二人でいるのは久しぶりだな」
「そうだね。一年の二学期以来かな」
拙いながらも会話をつなげてくれる遠山。僕自身、人とのコミュニケーションが苦手だから、こうして繋いでくれるのは助かる。
遠山は元は僕と同じ強襲科に所属していたが、一年の二学期に
理由は去年の冬に起きた一つの事件。それがきっかけだということはわかっている。だがそれを直接本人に聞いたことはない。
それがやすやす聞いてはいけない類のものだって、そうわかっていたから。
「今日はどうしたの?」
「どうしたって……ああ、朝のことか」
「うん。遅れてきたから……何かあったの?」
「あぁ、ちょっとな……」
そう言い、疲れた表情で今朝起きた出来事を語る遠山。
話を端的にまとめると、どうやらチャリジャックに巻き込まれたようだ。それでその際にあのツインテ少女、
「なんというか……お疲れ様」
「お前ぐらいだよ、そうやって労ってくれるの。クラスの奴らと言ったら、面白がる奴らばっかりで正直辟易してたんだ」
「うん、本当にお疲れ様」
この学校の生徒たちは良くも悪くもノリが良すぎる。今の遠山からしたら相手にするのは相当疲れたことだろう。
もしも僕が遠山の立場だったら……考えただけでも恐ろしい。クラスメートとはいえ他人に囲まれるなんて、あぁ、想像だけで気分が……。
「おい顔色悪いぞ? 大丈夫か?」
「う、うん……ちょっと、人に囲まれるの想像したら……うぷ」
コミュ障が安易に想像するんじゃなかった……。あぁ、すっごく気分が悪い。
「ったく、よく強襲科でやっていけてるなお前は」
呆れたような、感心したような声で漏らす遠山。
そんな遠山に背中をさすられながら、僕の昼休みは過ぎていった。
*
夕方。授業も終わり、特にこれといった用事もないので学校を後にする。
寮へ続く道を一人歩きながら、夕焼けに染まる空を眺める。
休み明けだから、こうして帰るのも久しぶりだな。一人歩く夕焼けの帰り道、あぁ昔を思い出す。あの頃もこうやって、一人で家まで帰ってたっけ。
友達もいなく、一人ぼっちで過ごした小学校の6年間。ずっとずっと、友達の”と”の字もない、灰色どころか真っ黒な6年間だったな……。
確かにあの頃の僕の場合一人でいた方が都合が良かったからいいんだけど、その代償でコミュ障になっちゃったんだよなぁ……。
なんて小学校の時の記憶を思い出しながら歩くこと30分と少し。学園島を出た僕は歩き慣れた町並みを進んでいき、いつも使っているスーパーへと足を向ける。
冷蔵庫に食材がなかったので色々と買い足し店を出て、再び家路をなぞる。
そしてようやく寮へとたどり着くと、門の前には天を仰ぐ遠山の姿が。
「……なにしてるの?」
「……桐山か。ちょっと部屋を追い出されちまってな」
「追い出される……? 一人部屋で?」
「ああ、侵入者のせいでな」
侵入者。遠山のいうそれが誰なのかは聞かないでおくが、このまま外にいるっていうのはあまりにもかわいそうだ。
「僕の部屋に来る?」
「え、いいのか?」
「まぁ、僕も一人だし」
そうして遠山を連れて、僕は人生初のクラスメートを自宅に招くという偉業を達成したのであった。
会話? もちろん、そこまで弾まなかったよ。まぁ仕方ないよね。
感想等お待ちしております。
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その身に流れるモノは
遠山がチャリジャックに襲われた翌日。
昨日は何もなかったかのように平穏な時間が流れた午前。一般科目を受け終え、昼休みを経た後は午後の専門科目の実習だ。
クラスメートたちはそれぞれ自分の専門科目の場所へと移り、僕自身もまた、強襲科の専用施設へと足を向ける。
その途中
「お〜い、とっおるーん!」
聞きなれたアホっぽい声が聞こえる。確かこれは峰の声で間違いはないはずだ。
ぼっちな僕とは違い人気者の彼女のことだ。また今もどこかの誰かと楽しくお喋りをしているんだろう。
なんてことを考えつつ、強襲科へ向ける足を進めていると。ぽんっ、と急に誰かが僕の肩を叩き、突然の出来事に驚いて体が跳ね上がる。
だ、誰だよ、急にボディータッチしてくるやつは⁉︎ 急にそんなことされたら、その、びっくりするじゃないか!
肩に手を置く誰かに心の中だけで怒鳴りつつ、ゆっくりと振り返ると
「も〜、無視するなんてひどすぎ〜! ぷんぷんがおー、だよ!」
「……峰、さん」
金色のツーサイドアップの髪、そして特徴的なフリフリな制服。僕の肩に手を置いていたのは、我が校で知らない人は皆無であろう人気者、峰理子その人だった。
峰はその柔らかなほっぺたを膨らませ、上目遣いで睨みつけてくる。しかしその仕草や表情すらも可愛らしく、ぼっちな僕はその表情一つで言葉を詰まらせてしまう。
というかさっきの”とおるん”って、もしかして僕のことだったの? さすがにそれは僕じゃわからないよ。だってあだ名を呼ばれるなんて初めてなんだもん。
あ、言ってて悲しくなって……はこないな。うん、だって事実だもん。
「それで、僕に何か用?」
「うん! 理子ね、とおるんにちょーっと手伝って欲しいことがあるの!」
「手伝って欲しいこと……?」
「そう! 手伝ってくれる?」
こてん、と可愛らしく首をかしげる峰。本当に一つ一つの仕草がキュート過ぎて、僕からしてみればたまったものじゃない。
しかし手伝って欲しいことか。なんで強襲科でもそこまで突出したわけでもない僕なんだろう。
とはいえ、困っているクラスメートの頼みを断るわけにはいかない。言っておくが、断じて断り方がわからないのではない。ないったらない。
「いいけど、何すればいいの?」
「うわーいありがとー! それじゃあ理子についてきて!」
両手をバンザイし、ぴょんぴょんと飛び回る峰。
本当は強襲科の授業があるんだけど、まぁ単位は順調にとってるし、少しくらいサボってもいいか。
*
そうして峰に連れてこられたのは、武偵高の第二グラウンドだった。
なんでこんなところにとは思いつつ峰の背中を追って歩くと、たどり着いたのはグラウンドの片隅にある体育倉庫。
「あの、峰さん……そろそろ手伝いの内容を」
「んー? えっとねー、知り合いの
「それって、遠山の……」
「そ、キーくんが被害にあったチャリジャック事件のやつの」
とりあえず、手伝いの内容は把握した。しかしそれはそれで疑問は残る。証拠品集めならなおさら強襲科の僕ではなく、探偵科に所属する人の方がいいのではないかと。
とはいえ、僕にそんな発言をする勇気などなく、黙って彼女の仕事の手伝いを行う。
体育倉庫というだけあり、中は跳び箱やらコーンやらテントやらと、様々な用具が入り乱れていた。
そんな体育倉庫の光景を目の当たりにし、確かに一人でこの中から証拠品を探すのは面倒くさいなと、僕を誘ってきた理由に納得する。
「さてさて、なーにか証拠はあるのかにゃー?」
なんていいながら、峰は体育倉庫の中へと足を進め証拠品を探し始める。僕も彼女に続いて体育倉庫の中に入り証拠品を探すが。
思い返せば、確か昨日のうちにこの場所は調査されているはず。そうそう証拠品なんて見つかるのだろうか。
「ねぇねぇとおるん」
倉庫内を探していると、不意に峰が話しかけてくる。
「とおるんってさ、なんでいっつも一人でいるの? 友達とか作らないの?」
あらやだこの子、なんてことをズバッと聞いてくるのかしら。あまりにも単刀直入過ぎて僕、心に綺麗な切り傷ができそう。
しかしこれくらいのことでぼっちは挫けない。一人の時間を耐え抜いてきた忍耐力は伊達ではないのさ。
とはいえ「友達とか作らないの」か。うんうん、友達の多い彼女からしてみれば、僕の境遇は不思議でたまらないんだろうね。
でもね峰よ、君は一つ思い違いをしているよ。
「……友達の作り方、わからない」
作らないんじゃないの、作れないの。もしも作れるようなコミュ力あったら、今頃一人屋上でパンを貪ってないどいない!
まぁ、昨日は久しぶりに他人とお昼を共にしたけど。そしてお部屋へお招きしたけれど……あれは成り行きでってやつだから、友達とかそういうのは関係ないと思う。
「あー……そっかぁ」
離れているので表情は見えないが、それでもわかる。「ヤベー答え返ってきた」って思いながら苦笑いしてるんだろう。
だけど実際に友達の作り方わからないの。というか友達の定義がわからないの。何を持って”友達”と呼べるのか、他人との線引きが僕にはわからない。
たぶんこれ言ったらもっとドン引きされるんだろうな。だから言わないよ。
僕の一言でどんよりとした空気が流れる。倉庫内がやや暗いせいもあってか、非常に居心地が悪くなる。
さすがの峰も、この空気では発言がしにくいかと、先ほどの発言をやや後悔していると
「じゃあさ、理子が友達になってあげる!」
「……へ?」
思いもよらぬ言葉につい、そんな気の抜けた声が漏れてしまう。
今なんて言った? トモダチニナッテアゲル? 何それなんて呪文?
「だ〜か〜ら〜、理子が最初のお友達になってあげるって言ってるの!」
「とも、だち……? 峰さんと僕が?」
「そそっ!」
……なんというか、さすがはコミュ力の塊。僕では一生言えないことを平然と言ってのける。そこに痺れたり憧れたりはしないけど、素直に感心してしまう。
「ねねっ、いい提案でしょ?」
いい提案って……いや、峰 本人がそれでいいのならいいんだけど。
「僕でいいの?」
「もちもちっ! で、とおるんのお返事は?」
お返事はって……うぅむ、これは困ったことになった。僕は友達とかどういう関係のことを言うのか知らないから、そういう人との付き合い方とかわからないし。もしかしたら峰に不快な思いをさせてしまうかもしれない。
それに何より、僕の側にいたら……傷つけてしまうかもしれない。でも、せっかくの峰の好意を無下にするわけにも……。
そんな数秒が一時間にも感じる程に考え、考え抜いて
「峰、さん」
ようやく棒は決断をする。
「こんな僕でいいなら、その……お願いします?」
「むふふ、りょーかい!」
そんなこんなで、僕は人生初の友人というものを手にした……らしい。
すると峰は僕の方へとやってくると、ポケットの中から携帯を取り出し
「じゃあ連絡先交換しよ!」
「ささっケータイ出して!」と、半ば強引に僕の携帯電話を奪取する。そしてカタカタと電話のキーを操作……って、何そのスピード。人の指ってあそこまで早く動くの?
ものの数秒でことを終えた峰は携帯をこちらへ投げ返し、キャッチしたその画面には彼女の連絡先が登録されていた。てかなにこれ、『リコりん♪』って……友達同士ってこれが普通なの?
「ふふっ、とおるんの初めて、奪っちゃった♪」
あの、その言い方やめてくれませんか? なんか卑猥な感じに聞こえてしまうんで。
「それじゃあ、これからよろしくねっ、とおるん♪」
「あ、うん……よろし──っ!」
わずかな悪寒を感じ、倉庫の入り口に目を向けると。そこにはこちらに
発砲準備万端のセグウェイに背を向けている峰は気づいていない。
「──峰ッ!」
「へ? おわわぁっ⁉︎」
峰の腕を掴み、強引にこちらへ引き寄せる。まん丸の目が驚きでさらに大きく開かれ、小さく華奢な体が僕の胸へと吸い込まれる。
──ダダダダダダッ‼︎
直後に乱射される銃弾。武偵高の体育用具は防弾性ということもあり、跳び箱の後ろ側へと身を隠す。
「わわわっ、乱れ打ちだー!」
こんな時でもアホっぽさを忘れないところはさすがは峰というところか。
というか、なんでこれは僕たちを狙っているんだ? もしかして証拠品を集めに来た僕たちを消すため? でもそれだったら昨日の調査が妨害されなかったのが不思議だから、おそらく狙いは個人。
僕と峰のどちらか、それかまたは両方を狙った……
「まさか武偵殺し⁉︎」
”武偵殺し”。爆弾やあのセグウェイのようなマシンガンを使い、《武偵のみ》を狙って犯行を繰り返す犯罪者のことだ。
昨日遠山もセグウェイで追われたって言ってたし、今僕たちを襲っているものとみて間違いはない。
「武偵殺し⁉︎ だったら理子達殺されちゃうの⁉︎」
「そんなこと、させるわけがない」
セグウェイの台数は視認できるだけで4台。対してこちらは二人。手数では完全にこちらが負けているし、峰に戦闘は期待できない。
となると、僕があれを全て片付けるしかないか。
「峰、できるだけ身を屈めてて。絶対に、顔は上げないで」
「うにゃ⁉︎」
峰の頭を軽く押さえ下げさせる。
それは彼女に被害が行かないようにするため。そしてもう一つ、
(あぁ、これを使うのは久しぶりだなぁ)
学ランのポケットから取り出したのは、銀紙の包装を施されたチョコレート。俗に言う”ウィスキーボンボン”というやつで、包みを開けると即座に口に放り込む。チョコレートの甘さとアルコールの独特の香りが口を満たし、ごくん、とそれらを一気に飲み込む。
別に糖分欲しさにチョコを食べたわけでも、最後の晩餐をしたわけでもない。これはこの状況を打破する鍵を開くために必要なことなのだ。
「……ふうぅ」
体の中、湧き上がる何か。まるで血が沸騰するかのように、体を熱が侵していく慣れない感覚が全身を走る。
頭に何かが生まれる違和感を感じると同時に、そこには二本の小さな”角”が生え、爪は伸び獣のような鋭利なものへと変わる。
ここまでくればもう大丈夫。これならあれをすぐに片付けられる。
近くにあった防弾性の体育マットへ手を伸ばし、数キロはあるそれを片手で軽く持ち上げる。
そして一瞬、銃声が止んだその隙をつき、跳び箱の後ろから一気に身を晒しセグウェイ達へ向けて走りだす。
無論そんなことをすれば、銃弾の雨霰をお見舞いされるが。手に持った防弾マットを壁になるように投げつけ、雨を防ぐ傘のように銃弾を回避。
次にマットを飛び越えると、視界を防いだせいで対処に遅れたセグウェイのうち一台を発砲し破壊。そして着地と同時にもう一台のセグウェイを
だがそこにはすでに僕の姿はなく、見事に
これで4台、全てのセグウェイを破壊し終えた僕は、息を整え熱くなった血を冷ます。
生えていた角はその姿をなくし、爪も元どおりに。湧き上がっていた何かも鳴りを潜め、これでようやく”元の僕”へと戻ることができた。
これが僕が普通とは懸け離れた武偵高においても”普通じゃない”最大の理由。
何を隠そう僕には”人以外”の血が──”鬼”の血が流れているのだ。
まぁ、設定が厨二っぽいなーって。
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