五百年の約束 (シバヤ)
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第1話

はじめまして、シバヤと申します
お楽しみ頂けたらと思います


「なんで──がこんな目に……儂がなっていれば!」

「そう言うな──。──はいつ死ぬかわからぬ。それに皆が救われるなら──ごほんっ、けほっ」

「もういい、喋るんじゃねぇ!余計辛くなるだけだ……儂が、絶対に作り上げてみせる!病魔だろうが怨念だろうが、全てを断ち切ることが出来る刀を! 」

「きっと──ならできる、病気がなく、皆が笑えるようにしてくれ。──との約束だ」

「ああ、約束だ!何代にわたるかわからねぇが絶対に!……なぁ、その、──も役目を終えて、儂も生まれ変わってたら……その時は儂と────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「またあの夢か……」

 

一人の男が一人の女の子に約束をしているところを夢で見る

お互い名前を言ってるけどそこは聞こえないし、最後に何かを言いかけて目覚めてしまう

言葉遣い、周りの景色、服装、他にもいろんなところを見た結果かなり昔というのはわかった

けれどなんでそんな夢を俺は見ているんだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名は操真(そうま)久遠(くおん)

穂織(ほおり)の街にある鍛冶屋操真の一人息子で高校生

操真家は古くから伝わり約五百年以上は続いている伝統ある家でこの街でもそれなりに有名なんだ

それに鍛冶屋と言っても少し前の代から陶芸やガラスの製造、金属加工なんかいろいろと始めているんだけどな

最初は刀や武具だけだったんだけど戦がなくなり、農具と移ったりしたけどそれでも収入が足りないからという理由でいろんなものを作ることになったらしい

 

「おう久遠、起きたか」

「父さん、おはよう」

 

操真(そうま)(かなめ)、俺の父親で鍛冶屋操真のただ一人の職人

俺は見習いで修行中だからまだ数えられないんだ

腕は本物で街の誰もが評判をよく言うほど

ちなみに剣の腕も本物だ

ご先祖さま曰く最高の武器を作るためには、最高の強さを持っていなければならない

と言ってたらしく、操真家は代々強さも磨いている

 

母は先生で街の外で働いていて、祖母と祖父は二人で今旅行しているためいない

だから今は父さんと二人で暮らしている

 

「朝の手伝いはいいから朝ごはん頼むなー」

「わかった、いつも通りでいいよな?」

「おう、任せる」

 

いつもは朝は手伝わなくてもいいぐらい依頼が少ないんだけど、今の時期はかなり忙しいから俺も手伝ってた

それは明日この街で春祭りが行われるからだ

 

春祭り、それは戦国時代の戦が始まりで、甲冑武者や馬に跨り街中を練り歩き、最後に建実神社で祈祷をするんだ

他にも巫女姫様が舞を奉納したり、御神刀である叢雨丸の担い手を探すアーサー王伝説に似たイベントなんかもあったり海外からの観光客に人気があったり

叢雨丸っていうのは穂織の土地神から授かった神刀のことだ。それで昔妖怪を斬り、穂織を救ったとかなんとか

 

それでうちがその祭りで使う甲冑や道具を作ったりするからこの時期はとても大変でね

それがやっと終わってこの後運びに行ったりしなきゃいけない

っと、いろいろ思ってるうちにご飯ができたか

 

「父さーん、ご飯できたぞー」

「これが終わったら向かうー」

「そう言って次の作業に入っていつまでも来なかった時があっただろ!先にご飯食べろ!」

 

この人は根っからの仕事人で一度作業入ると止めない限りいつまでも仕事してるからな……

 

「「いたたぎまーす」」

「それじゃあこの後は頼むな」

「わかったけど、父さんは?」

「オレは寝る!徹夜で疲れてるからな!」

「威張っていうんじゃねーよ……」

 

でもほとんどこの人一人でやったからなぁ

そこは口出しできないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、報告するってなると玄十郎さんにだよな

でも祭りってこともあるし先に建実神社に行って次に志那都荘に回るか

 

「……ん?」

 

なんだ?なにか空中を浮かんでいるように見えるけど……って女の子!?

もしかして幽霊か!?

……まて、俺はあの子をどこかで見たことがある気がする……

それにとても懐かしい気も……

 

「あれ、ちょっと目を離したらいなくなった。でも知らないはずなのに知っている気が、いや、絶対に知っている」

 

ともかく、これは仕事を終えてから考えないとな

はやく建実神社に向かわないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「む?何か懐かしい気配を感じたが……気のせいか」

 

うむ、そうじゃな。五百年も経っておるから生きているわけないか

それにしてもあやつのことを思い出すなんてのう

操真の者は元気にしておるのは知っておるが

 

「だいたいあやつはいつも約束は守っておったのにこんな時はいつまでたっても約束を果たしに来ないなんて意地悪なのじゃ!……って吾輩は何を期待しておるのか。生まれ変わりなんて人には無理な話だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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やっぱり神社の方にいたのか!

回り道しなくて正解だったな

 

「玄十郎さん!」

「おお、久遠君か」

 

穂織でも有名な旅館、志那都荘(しなつそう)の大旦那さんの鞍馬(くらま)玄十郎(げんじゅうろう)さん

今回の春祭りの実行委員長であり、依頼主でもある

還暦を過ぎてるって言うのにまだまだ若々しく、全く衰えが感じない

 

「君が来たということは品物が出来たということかな?」

「はい、それで報告しに来ました。あとは品物を運ぶだけです」

「そうか、あとはこちらでやっておこう。要くんと君だけでは大変すぎるからな」

「それは俺もやりますよ。製作作業は父さんがほとんどやりましたので」

「うむ、よろしく頼むな」

 

俺の仕事とといえば傷がないか、不具合がないか、そういうチェックがほとんど

修行中の身では補佐が精一杯だ

 

甲冑はそれなりに重い

それを俺一人でいくつも運ぶってなると……無理だ

例え父さんがいてもそれなりに時間かかるからな

 

「おや、操真君じゃありませんか」

「あ、常陸さん。常陸さんもお手伝いで?」

「はい。芳乃様は明日に向けて舞の練習をなされてるので、ワタシはこちらのお手伝いに」

 

俺の同級生のひとりで朝武(ともたけ)家に仕えている常陸(ひたち)茉子(まこ)さん

常陸家は忍者とかなんかって聞いたことあるんだけど本当なのか?

ちなみに芳乃様と言うのは朝武家の一人娘で建実神社の巫女、朝武(ともたけ)芳乃(よしの)様のことだ

穂織の人は親しみを込めて巫女姫様という

もちろん俺もそう呼んでる

 

「そうなのですか。俺は前日までが仕事だけど、巫女姫様は当日が本番だからな」

「そういえば甲冑も全て操真君の家でのお手製のものでしたね。それはお疲れ様でした」

「俺は見習いで何もしてませんよ。全部父さんがやりましたから」

「それでも操真君もお手伝いなされてますよね」

「そりゃあまぁそうですけど……」

「あは、本当いつも素直じゃないですね」

「お、俺はこういう性格なんです」

 

常陸さんは少し苦手なんだよな

なんというか、口で勝てないしいつの間にか弱み握られてそうで

別に仲が悪いって訳じゃないし、こう勝負で絶対に勝てない相手ってだけだ

 

「お、俺そろそろ行かないと!仕事がまだ残ってるし!」

「あっ、これは逃げましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物も運び終わり、今日の仕事は無事達成

後は明日の祭りを満喫するだけだ

時刻は五時ちょい過ぎだから田心屋(たごりや)にでも行くか。こっからすぐ近くだし

 

俺も父さんも甘党で、田心屋に行けばパフェをお持ち帰りしないと本気で怒られる

お互いそれくらい甘いものが好きなんだ

 

「こんにちはー」

「いらっしゃいませ!あっ、操真先輩!」

「こんにちは、小春ちゃん」

 

田心屋でちょうど出迎えてくれたのは、玄十郎さんの孫の小春ちゃん

兄の廉太郎とは友達で小春ちゃんとも長い付き合いになっている

まぁこの街が小さいから付き合いが長くなるのは当然ってこともあるけど

 

「お好きなお席にどうぞ!」

「ありがとう、今日はプリンと和紅茶を頼めるかな?それとお持ち帰り用のパフェを一つ」

「お持ち帰りはおじさんの?」

「そうだよ。田心屋に行くと何故か毎回バレるからね。最初は何度か本気で怒られて……」

「あはは、おじさんらしいね。少々お待ちください」

 

ここのパフェも美味しいけどプリンもいい

わらび餅なんてわらび粉から作ったこだわりの逸品だからな

何度来ても飽きることは無い

 

少ししてきたプリンを食べながら考えていた

あの女の子のこと

あれは……そうだ、夢で出てきた女の子と同じ顔だった

何故数百年前の子がここにいたんだ?

浮いていたし幽霊……いや、まだ死んではいない……はず

何故かわからないけどそういうのがわかる

でも考えたって何もわからん

それに長居する訳にはいかないしそろそろお暇しますか

 

「いつもありがとね、くーちゃん」

「芦花さん、その呼び方はやめてくれ」

 

俺を女の子みたいな呼び方で呼ぶのはこの店の店主、馬庭(まにわ)芦花(ろか)さん

面倒見がいいお姉さんなんだけど、名前が久遠だからくーちゃんと言ってからかってくる

 

「だってくーちゃんは顔もちょっと女の子っぽく中性的じゃない。だからくーちゃんでも問題ないと思って」

「俺はちゃんとした男だ。今は慣れたけど、昔はそれでよくからかわれてたんだよ」

「ゴメンゴメン、でも昔からそう呼んでるから名前の方が呼びにくくて」

「はぁ……全く。それじゃごちそうさま、また来るよ」

「ありがとうございました。おじさんにもよろしくね」

 

名前も久遠ってちょっと女の子っぽいし顔も母親似ということもあってよくからかわれてたんだよな

いじめじゃなかったんだけど、昔っからどうも納得がいってなかったのはあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おう、おかえり……田心屋に行ったな?お土産は?」

「ちゃんとあるよ、これ」

「ありがとな!夕ご飯の後のデザートだなー」

 

こういう所は子供っぽいんだよな

仕事になるとひたむきにまじめになるくせに

それより、聞くことがあったんだった

 

「なぁ父さん」

「ん?なんだ?」

「この街に幽霊とか七不思議とかあったりする?」

「なんだそりゃ、なんか変なものでも見たのか」

「変なものというか……女の子を見たけど浮いてたんだ。それに夢で見たけど何百年前の人だと思ったんだけど」

「お前……見えたのか?」

「その女の子のこと?見たけど」

「そうか……刀の声も聞こえるし、やっぱりお前がか……」

「なんだよ、わかるように説明してくれよ」

 

なんか自分だけ分かってるような言い方して気になるじゃん

それに見えたからなんだって言うんだ?

いくら聞いても答えてくれねーし

ただ一言「近いうちに全部わかる」ってどういうことだよ……

 

けれど俺はその時思ってもいなかった

春祭りで叢雨丸を引き抜いた青年が現れてから、五百年前と今、運命が動き出すなんてな




わかると思いますが最初の夢の部分の──は名前ですが、もちろんいずれわかるようになります

更新は不定期になりますが最後まで書けていけたらいいなと思っています


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第2話

「やっぱりあの女の子は夢に出てきた子か……」

 

昨日見かけた宙に浮いていた子

夢で見たと思ったけどあれは間違いない

でも俺の夢に出て来たってことは俺に関わりが?

それとも操真家のご先祖様と縁がある人か……

ご先祖様が残した書物でも探ってみるか

 

「おーい、久遠!オレは先に祭り行っちゃうぞー?」

「あいよー、ってか父さんも行くの?」

「ちょっと集まりがあってな。まっ、酒を飲みに行くもんさ」

「父さんが外に出るなんてそんなことだよな。でも今日は休みにしたんだからぶっ倒れないように飲んで来な」

「そこらへんは安心しとけ、ぶっ倒れちゃあしないからよ。そんじゃ行ってきまーす」

 

今日は春祭りの日だ

うちで作った甲冑がいろんな人に見られるんだよな

さてと、俺も支度して祭りに赴きますか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭りに来たはいいけど……

 

「よ、予想以上に賑わってるな。前来た時はこんな人いたか?」

 

ここ数年は修行のため仕事を手伝ってたから参加してなかったからな

まさかこの街にそれなりに人がいるなんて

それに海外の観光客もちらほら見える

 

さて、祭りで一人で歩くなんてつまらないからな

どっか探せば廉太郎や小春ちゃんがいると思うけど、玄十郎さんに手伝わされてるってこともあるかも

廉太郎が手伝わされてたら軽くからかってやるか

練り歩きが終わる前に健実神社によってそっから逆回りで探してみるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ巫女姫様の舞は始まってないようだな

そこまで人もいないから練り歩きの方を見に言ってるんだろう

 

「よっ、久遠じゃねーか」

「おう廉太郎、それと小春ちゃんも」

「操真先輩、こんにちは。」

 

小春ちゃんと一緒にいるのが廉太郎

小春ちゃんの兄で、俺の友達だ

よくナンパしたりしてるからだらしないけど、なんだかんだ良い奴だ

それにしてもよかった、これで一人で回ることはなくなったな

さすがに祭りに来てまでぼっちを味わいたくねーし

別に友達がいないとかそんなんじゃねーからな?

 

「ここにいるってことは、手伝いはないのか?」

「そうなんだ、今日は休みで父さんもどっかで酒を飲んでる」

「おじさんが外に出てるなんて珍しいですね」

「年に何回かしか休み取らないからね。その日以外は基本仕事してるから」

「な、なんかすごいですね」

 

よほどのことがない限り仕事優先の人間だからなぁ

夜に誘われてお酒飲みに行くこともあるけど無性に酒に強いから次の日には仕事やってるし

考えてもよくわからない人だ

 

「そういや久遠ってあのイベントに参加しないよな」

「あのイベント?」

「叢雨丸のことだよ」

「あぁ、あれか。だって叢雨丸から「あなたでは抜くことができない」って言われたからな」

「叢雨丸から言われた?それってどういうことですか?」

「そのまんまの意味、俺は刀とかの声が聞こえてね。ご先祖様の一人もそんな人がいたらしいしうちの一族だけだと思うよ」

 

操真家の稀代の天才と言われた俺のご先祖様、操真(そうま)智之(ともゆき)

俺と同じく作り出した物の声が聞こえてたらしく、俺と同じ歳にはもう一人前の職人に付いていた

さらに人の身でありながら神の力を宿した神刀を作ったなんて記載もあったんだけどその神刀はいまだに見つかってないから本当かどうかはわからない

 

「本当久遠の家ってよくわかんないよな」

「うっせ、そんなことよりそろそろ巫女姫様の舞が始まる頃だろ?」

「そうだよ!廉兄、操真先輩!見に行こう!」

 

実は俺巫女姫様の舞を見るのは初めてなんだよな

祭りの見どころの一つだし凄いって評判だからな、毎度楽しみだったんだがタイミングが悪くって

けれど今年はやっと見れるのか!

 

巫女姫様の舞が始まる

舞台の鈴の音が響き渡り、舞に目を奪われる

 

「……んっ?」

 

巫女姫様に獣の耳が生えてる?

さっきまではなかったよな

どうなってるんだ?

 

「なぁ廉太郎」

「なんだよ」

「巫女姫様のあの獣耳って何なんだ?」

「獣耳?そんなものついてないぞ?」

 

は?何を言ってるんだ?

あんな物がついてればわかる……ついてない?

 

「あれ、なくなってる?」

「疲れてるんじゃねーのか?きっと見間違いだよ」

「そう……かもな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの耳が気になって結局集中して見れなかった

一体何だったんだ?

 

「廉太郎ー!小春ちゃーん!くーちゃーん!」

「その呼び方をするんじゃない」

 

この呼び方をするのは一人しかいない

声のする方を見てみると、芦花さんと……あれは誰だ?

俺や廉太郎と同い歳ぐらいに見えるが

 

「うん?なんだ芦花姉」

「どうしたの、お姉ちゃん」

「って……あれ?お前、将臣か?」

「あ、本当だ!お兄ちゃん!」

 

廉太郎と小春ちゃんの知り合いか

芦花さんと一緒にいたってことは芦花さんとも

……あれ?これは俺だけが知らない奴だよな?

 

「久しぶりだな、二人とも。そっちは?」

「なんだ、久遠のこと知らなかったっけ?じゃあ紹介するよ。操真久遠、この街一の鍛冶屋の息子だ」

「操真久遠だ、よろしくな」

「俺は有地将臣、廉太郎と小春とは従兄妹なんだ」

 

なるほどな、それで二人と知り合いだったわけだ

……なんだ?将臣から何かを感じる

こんなものを人から感じるのは初めてだ

もしかして、叢雨丸が言ってた、「選ばれし者が現れる」って言ってたのはこういうことなのか?

 

それにしても穂織に来たのは久しぶりなんだな

廉太郎と小春ちゃんと話し込んでるし

 

「くーちゃんどうしたの?」

「いや、久しぶりに会ったってことはやっぱり話したいことがたくさんあるんじゃないかって思って」

「まー坊は穂織の外に住んでるからね、それに旅館の手伝いはおばさんがいつもしてたからね」

「有地……旅館の手伝い……もしかして将臣って都子さんの息子?」

「そうだよ、もしかして気が付かなかった?」

「都子さん自身とあまり会ったことないからな、旅館の手伝いの時に何度かうちに来たぐらいだから」

「そりゃあわからないかー、まー坊と会うのも初めてっぽいからね」

 

確かに今日で初めて会うよな

それになにか違う雰囲気を感じたんだ

会ったら忘れることはないはず

 

「バーカバーカ」

「ブースブース」

「なんかいつもの兄妹喧嘩が始まってないか?」

「全く二人とも……、はい、ヤメヤメー、兄妹のじゃれ合いはそこらへんで」

「そういうところは変わらないな、お前ら……」

 

昔っからこんなんだからな

慣れた身としては仲のいい兄妹喧嘩にしか見えない

俺は兄妹なんていないから少し羨ましいと思うよ

 

「それよりも玄十郎さんはどこにいるかな?」

「祖父ちゃんなら今は中にいるよ」

「ほら、例のイベントが行われてるから」

「あー、アレねー」

「???例のイベントって?」

「伝説の勇者イベント」

「なんだそりゃ」

「御神刀・叢雨丸のことさ、担い手じゃなければ抜けないって話聞いたことないか?」

「御神刀……あー、アレか……話は知ってるけど、実物は見たことないんだよな」

 

叢雨丸を引き抜くことが出来るかチャレンジするというイベント

これが結構観光客に受けてるらしく、抽選じゃないと中に入れないらしい

俺も挑みたかったんだけど声を聞ける体質だから挑む前に引き抜けないってわかっちゃったからな

 

「……お前が担い手かもな」

「何か言ったか?」

「なんでもない、それより玄十郎さんに挨拶しにいくんだろ?行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三十人近くは並んでるな

それに女性も数人見えるし外国人もいる

 

室内に大きな岩があり、そこに日本刀が突き刺さってる

あれがこの穂織の御神刀・叢雨丸だ

刀身は美しく、輝くような銀色の光を放っている

いつか俺もあんな刀を作ってみたいもんだ

 

……なんだ?刀が震えてる?

いや、本当に震えてる訳じゃなく俺にはそういう風に映って見えるだけだ

何か、共鳴してるというのか?

 

「実際抜けないもんなの?」

「抜けない抜けない、どれだけ力を入れても、一ミリたりとも動かないんだよ、あれ」

「俺もやったことあるけど無理だったな。押しても引いても全く動かない。なんか腹が立ったから、横方向に力を入れてみたんだけど、それでもビクともしやしない」

「そんな扱いすんな、例え御神刀とは言えそう無茶な扱いされると悲鳴をあげるんだぞ」

「悪かったよ、でもその程度で悲鳴をあげるくらないなら、今までのチャレンジですでに折れてるって絶対」

「そういう問題じゃない、俺には実際に聞こえたんだからよ」

 

普通に使うか、長持ちするように大切に扱っているとまるで寝ているかのように声がしないか感謝の言葉を述べるとこが基本だ

逆に壊れたり、扱いが悪いと悲鳴や愚痴を言う

俺にはそんな声が聞こえるんだ

けど常に聞こえるわけじゃなく意識を少し傾ければ聞こえると言うわけだから常日頃声が聞こえて静かな時がないってわけじゃない

 

「フッ、ンンンンンンーーーーーーーーッッ!!」

「ンィィィィィーーーーーーーッッ!フンガッフッフッ!」

「フッ、ンンンーーーー!ゥワッショォォォォォイッ!」

 

めちゃくちゃ筋肉がついてる外国人のマッチョが何人もチャレンジしてるがビクともしない

叢雨丸から声は……しないか

けど今日は刀がいつもと違うように感じた

つまり……今日誰かが叢雨丸を抜くことになる

 

さて、チャレンジする人が終えて玄十郎さんに呼ばれて将臣がチャレンジか

部屋の中には俺たちぐらいしかいないけどみんな将臣に視線を向けてる

将臣が柄をしっかりと握りしめたその時、叢雨丸が認めたような気がした

 

「──ふんっ」

「「わっ」」

「マジかっ」

「引き抜くんじゃなく折るとは」

「……はて……?…………は?」

 

そりゃ驚くか

誰も抜けなかった刀を自分が折ってしまったんだからな

何度も元の位置に戻そうとしてるし、まぁ無理だけど

 

「あ、あ、あ、あ、あ……ははははは、あはははははは、笑える、なにこれ、あはははは、うけるー、ほら廉太郎、見てみろよ。ほら持ってみろって!」

「ちょっ、お前っ、俺に押し付けようとすんな!こっちくんな!俺は関係ない!」

 

あまりの衝撃にパニックになってるし廉太郎に押し付けようとしてるし……

それにしても夢の女の子を見かけたり、叢雨丸が引き抜……折られたり今年はなにかといろいろ起きてるな

だから……何かの前触れか……

 

「あー……そろそろ晩飯の時間かなー」

「あー……アタシ、そろそろ戻らないとー……お仕事しなくちゃねー」

「あー……私も、宿題がー」

「待って置いていかないで!一人にしないで!」

「落ち着け、パニクってるぞ」

「落ち着いていられねぇよ!」

「じゃあ一言だけ、叢雨丸は生きている。俺には無理だけど完璧に直せる」

 

大抵の刀は折れたらそこで死ぬことになる

けれど叢雨丸はまだ生きている

声はしないけど、生気みたいなのが感じられるんだ

 

「ほ、本当か!?」

「ああ、だからとりあえず安心しろ。今から玄十郎さんに話してやるからここで待ってろ」

さて、どう説明したものか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「玄十郎さん、叢雨丸のことで話しがあります」

「うむ、久遠君はどう見る」

「折ったのは想定してませんでしたけど彼が選ばれたのはわかっていました」

「それも叢雨丸から声を聞いたのか?」

 

玄十郎さんは俺が物から声を聞けることを信じてくれてる数少ない人だ

俺のご先祖様も知ってるし、信頼もあるからな

 

「今回は少し違い、叢雨丸からいつもと違う感覚がありました。それも将臣が柄を握ったら安定したためそこで確信を得ました」

「そうか……」

「それともうひとつ、俺、いや人の技術でいうとご先祖様の智之様以外では直せませんが、叢雨丸は今も生きているし直ることができます。だから将臣を責めてやるのは……」

「わかっておる、さて、ワシはそろそろ将臣と話をするから久遠君は帰りなさい。また変わったことがあれば報告をする」

「わかりました、その時はよろしくお願いします。ではこれで失礼します」

 

祭りだけで済むと思ったんだけどちょっと長引いたから夜になっちゃったな

はやく帰らないと

 

「いま、またあの夢の懐かしい感覚が?」

 

近くにあの子がいるのか?

話したいことや聞きたいことがある

けれど辺りを見回しても誰もいない……

まだ機会はある、次に話せればいいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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物の声が聞ける、吾輩の気配もわかる

本当に生まれ変わりおったのだな、智之

いや、今は久遠と言った方がよかろう

まさか五百年前の約束のためだけに生まれ変わりおるとはな

でも吾輩は嬉しいぞ、何年経とうが変わっておらんからのう

さて、吾輩のご主人となる者はあそこじゃな

 

「ふむ。お主が、吾輩のご主人か?」




原作主人公である将臣が出てきました
良き友人として絡んでいけるようにしていきたいです


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第3話

読んでくださってる方ありがとうございます!


叢雨丸、それは昔の朝武家の人が神から授かった御神刀

何百年と前に人柱によって、妖を祓い、戦に勝利を導いたとされる

その後は岩にささり、選ばれし者だけが抜けるという状態になっていた

昨日そんな叢雨丸が抜けて(折って)からはや一日が経った

俺としてはあの後将臣がどうなったかが気になるんだけど、それは報告待ち

 

「久遠、悪いが買い物頼む。夕飯の材料がもうないんだよ」

「そんなの父さんが行けば……行くわけないか」

「お金は多く渡すから帰りに田心屋にでも寄ってこい。もちろんいつもの土産は頼むな!」

「どうせそれが目的なんだろ、わかったから後で行ってくるよ」

「おう!頼むな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

適当に買い物を済ませ、早足で田心屋に向かう

実の所は自分のお金を使わずに田心屋で何か食べていいからいつもより楽しみなんだ

お土産は後でお金貰えるけど自分の分は自分で払ってるからな

でも今日はお小遣い減らないしついてるぜ!

 

「おや、くーちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは、芦花さん。空いてる席でいい?」

「今は人が少ない時間だからね、大丈夫だよ」

 

俺はだいたい混んでない時間帯を選ぶんだ

甘いものを食べる時はゆっくりしたいからっていう理由だけでだけど

 

「今日は抹茶パフェとグリーンティーで。あといつものお持ち帰り用のパフェを」

「いつもパフェ食べてるようだけどおじさん血糖値とか大丈夫なの?」

「驚くことになんにもないんだよ。健康体そのもの」

「それならいいんだけどね。ちょっと待っててね」

 

うちの家族の大体が甘いもの好きなんだけどみんな糖尿病にならなかったり、血糖値も正常と健康なんだ

もちろん俺もよく甘いもの食べるけどなんともない

我が一族の不思議の一個だ、ってそんなにないけど

 

「はい、お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

「ありがと、それじゃあいただきます!」

 

やっぱりパフェは最高だ……

そしてこの甘いものを食べる時が俺の中でも至福の時間だ

いっそ永遠に続けばいいと思ってしまうほどだ

食べ終わってからの少しの虚無感が辛い

 

「はい、お持ち帰り用のパフェ」

「ありがと、いつもの事ながらまた近いうちに来るから」

「たまにはおじさんに来るようにって言っておいてね」

「りょーかい、芦花さんの言葉と甘いものの誘惑があればすぐに出てくるはずだよ」

 

さてと、用事は済んだし家に帰るか

もうじき日も沈むし、今日は夕ご飯食べてさっさと寝るに限るかな

 

「どうしよう、どこかに落としちゃったかも!」

「山の中で遊んでたからそこかも!でももう夜になっちゃうよ……」

 

ん?

何やら子供たちが困っているようだな

ここで見て見ぬふりをしたら名前に泥を付けるもんだな

 

「どうしたんだ?」

「あ!操真お兄ちゃん!」

「何か困り事でもあるのか?兄ちゃんが話聞いてやるよ」

「うん。実はね、今日山で釣りをして遊んでたんだけど大切なお守りを無くしちゃって……」

「でももうすぐ夜だから山の中には入っちゃいけないし……」

 

この街には夜に山には入っていけないっていう決まりみたいなものがある

穂織の街の伝承で妖が出て危ないとかそういう話があるから入っちゃ行けないんだ

 

「……わかった。なら兄ちゃんが今から取りに行ってやるよ」

「ホント!?でも山には入っていけないって……」

「心配すんな、誰かにバレる前にサッと行ってサッと戻ってくりゃいいんだよ。絶対に見つけといてやるから明日、うちの鍛冶屋に来てくれ」

「ありがとう!操真お兄ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、これいつもの」

「おう、待ってたぜ!」

「そういや、後でちょっと出かけてくる」

「そりゃあ構わんが、どこに行くんだ?」

「ちょっとブラッとな。すぐ戻ってくるから」

「待て、お前山に行く気だろ」

 

クソ、早速バレたのかよ

というか勘が鋭すぎるだろ、うちの父親は

 

「日が沈んだら山には入ってはいけないって知ってるだろ」

「わかってる。けど子供たちと約束をしたんだ、大切なお守りを取ってきてやるって。例え伝承があるから山に入っちゃ行けないとしても、約束を破る方がご先祖に叱られる」

「…………」

「父さん!」

「……そういうことなら仕方ねぇ、それならさっさと戻ってこい」

「……わかった!」

 

理解ある人で良かった

これが普通の親だったら絶対に止められていたからな

こういう時があるから親が父さんで良かったって思える時がある

 

「それからこれを持ってけ」

「これって……木刀?」

「何も無いよりはマシだろ、真剣はさすがに捕まっちまうからな」

「わかった、それじゃ行ってくる!」

「飯は勝手に食べてるからなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり夜の山だけあってかなり薄気味悪いな

いくらお化けとか怖くなくてもずっとはいられる気がしない

本当にさっさと戻るに限るな

確か釣りをして遊んでたって言ってたから川沿いのここら辺にあると思うんだけど……

 

「おっ、あったあった。お守りって言ってたからこれだよな」

 

よし、捜し物は見つけたし家に戻るか

そんなに時間かからなかったから何事もなく終わるな

やっぱり伝承は伝承、妖なんているわけがないよな

 

そう思った時後ろで物音がした

 

「!な、なんの音だ!?」

 

何かドサッっていう音から結構な重さを持っている音がしたけど

とりあえず近くに行ってみるか

何かあるかわからないけど、確認してみないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音がしたのはこの辺りだったよな

それに音も大きかったからさほど離れていないと思うんだけど

 

「人が倒れて……あれは将臣!?」

 

なんで将臣がこんな所に!

いや、それよりも擦り傷と切り傷だらけだ

もしかしてあそこから転げ落ちたのか?

ん?右肩の部分だけ傷の具合がおかしい……

これはいったい……

 

「おい将臣、しっかり……おいおい、なんなんだよお前……」

 

将臣を起こそうとしたらあとを追いかけるようにして何かが近づいていた

でもそれは生き物とは言えず、泥の塊のような、そんなものだった

右肩の部分はこいつがやったのか?

再び動き──、いや、攻撃してきやがった!?

 

「らぁっ!!」

 

持ってる木刀で何とか軌道をずらす

その触手みたいな物の軌道がずれて、地面を叩いたが激しい音が鳴った

 

「あっぶねぇ……、あんなもん当たりゃ痛いだけじゃすまねぇじゃねぇか」

 

けれどこんな木刀なんかでいつまでも戦ってなんていられねぇ

逃げるとしても将臣を担ぐとなると逃げ切れる自信もねぇ

クソッタレ!どうすりゃいいんだよ!

 

──刀を抜け

「次はなんなんだよ!?というか刀なんでどこにも」

──声が聞こえるんだろ?それは物の本当の性質を聞き出すためのもんだ。だからその持ってる物の声を聞け

「声が聞けるってまさか……いや、考えてる時間はねぇ!僅かな声だけでも!」

 

目をつぶり、攻撃が来ないうちに木刀に意識を向ける

本来の名前、作った人、使い方、効果

これだけ聞けりゃ十分だ!

目を開けるとよくわからない生物が攻撃しようと動きかけてる

 

──名前は聞いたな?では呼び、引き抜け。儂が作った究極の一振り、神器から頂いたその名前を

「────都牟刈村(つむかり)

 

名前を呼びながら木刀を引き抜くと、木刀の刀身が鞘となり、目をくらますほどの銀色の光を放った

目を開けるとそこには銀一色の刀を持っていた

鍔は無く、柄は木刀の部分そのまま

けれど刀身の部分には、峰さえも刃と同じように銀色に輝く刀身が付いていた

 

「これが、ご先祖様が作った神刀・都牟刈村。これならいける!」

 

泥も光によって動けなかったのか何もしてこなかったが前を向けば動き出していた

けれどその動きは全て見えていた

都牟刈村を持っていると敵意を向けてる相手の動きが読めるんだ

ギリギリ避けれる歩数だけ下がり、その直後に斬る

手応えは十分にあり、泥は霧散するように消滅した

 

「これが智之様が残した神刀……うっ!?」

 

また急に眩しく光って……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは……どこだ?

刀が急に光ったから目をつぶったけど、次に目を開けたら今いた所じゃないし……

何が起きたんだ?

 

『こうして顔を会わせるのは初めてだな。お前が儂の生まれ変わりみたいなものか』

「あなたは……智之様ですか」

『おう、そうだ。こうして何百年先の子孫と話すなんて変な感じだな』

 

このお方が、操真智之様

操真家で一番の職人であり、強さも一番の人

そして未だに超えられず、操真の家に生まれたら誰もが目指すべき目標

 

『さて、時間がねぇからさっさと話しちまうぞ。儂は神刀を作った後に神々に呪われちまってな、なんでも人が神の力を得るのはありえないとされていて、それで天罰として衰弱死しちまったんだ。それで済めば良かったんじゃがどうやら人間以上神未満という中途半端になっちまってあの世でも地獄でもない所をさまよっていた。そして今、久遠が生まれたのと同時にお前の中に入ったんだ』

「それが智之様の過去というわけですか。でも何故俺があなたの生まれ変わりになれたのですか?それに呪いって一族にかかったりするんじゃあ……」

『んなもん簡単な話だ。儂とお前が瓜二つなぐらい似てるからな、ちなみに顔じゃなくて性格とかそっちのことじゃぞ。呪いに関しては心配すんな。儂を超える才能があればどうなるかわからんが、今の世代は刀なんぞ作らんからな、人の世のためになるもんを作ってる限りは呪いはかからんだろ』

 

俺と智之様が似てるのか、それはとても光栄な事で嬉しい

それにこうして話してることが自慢出来ることだからな

呪いの事は、何も無いのはいいけど智之様の才能を超えたらどうなるかわからないのは怖いな

 

『儂の事はこんなもんでいいだろ、次は頼みたいことがある』

「それはだいたいわかります。あの子の役割を終わらせ、解放させることですよね?」

『話が早くて助かる、その通りだ。そのためにはまず朝武家の呪いをとけ。そうしなければ何もできん。呪いについては本人達に聞け』

「は、はい。わかりました」

『ちっ、もう時間か。都牟刈村を扱えるから儂の魂はお前の魂と一つになる』

「一つにですか?」

「ああ、儂の過去、果たす約束、全てわかるはずだ。全部お前に託す。もしかしたらまた話すことが出来るかもな────頼んだぞ、久遠」

 

智之様は光の玉となり、俺の中に入ってきた

その直後に、いろんなものが流れてきた

書物では知ることが出来ない生前のこと、あの女の子の名前や過ごした日々、そして最後にかわした約束

俺は、智之様の生まれ変わりとして認められたんだ




ちょっと長くなりそうだったので2話にわけちゃいました
一つになったといっても人格が変わるわけではありません

次で芳乃が初めて出ます
後はレナだけどまだちょっと先かな…


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第4話

読んでくださってる方ありがとうございます!
これからも楽しくなるよう書いていきますので、よろしくお願いします!

今回の話にはムラサメちゃん√でのネタバレがあります


気がつけばさっきと同じ場所にいた

さっきまでのは幻……というわけじゃない

思い出そうとすれば俺が生まれるより前の何百年前のことまで思い出すことが出来る

俺は託されたんだ

 

「ご主人!それに……久遠!」

 

今なら懐かしい理由がわかる

俺じゃないけど、感覚も共有されてるんだ

でも今はそれよりやることがある

 

「何があったかは後で聞いてくれ、今は将臣を運ぶ方が優先だ。君が見える人に助けを呼んで欲しい!」

「やはり吾輩が見えるのだな、わかった!ご主人の事は頼む!」

 

将臣を運ばなければいけないな

建実神社か志那都荘か

どっちにしろ山を抜けないと

都牟刈村を鞘に収め腰に刺し、将臣をおぶって歩き始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し歩いたところであの子が戻ってきた

名前を呼びたいけれど……まだダメな気がするんだ

 

「助けは呼んだがここからでは時間がかかる、吾輩が道案内をするからついてきて欲しい」

「わかった、ありがとな」

「あれ……?俺は……?」

「将臣!気がついたか!?」

 

良かった

なんとか意識は戻ったようだな

 

「ご主人!吾輩の声が聞こえるか!しっかりせんか、ご主人!」

「ムラサメ……ちゃんに、久遠……?龍成君は?」

 

ムラサメ?

それが今のこの子の名前なのか?

それにムラサメってあのムラサメ様ってことになるのかよ……

 

「迷子はすでに警察に見つけておる!安心しろ!」

「そっか……それはよかった……」

「バカ!意識をたもてよ!運ぶこっちの身にもなれ!」

「久遠の言う通りだ!迷子よりもご主人が危ないくらいだ!助けは呼んでおるし今は建実神社に向かっておる!それまでちゃんと意識を保て、ご主人!」

「ああ……わかった、よ……」

「おい将臣、将臣!」

 

声にも反応しなくなったかよ

仕方ねぇ、最後までちゃんと運んでやらぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人をおぶってるためかなりスピードが落ちたから山から出るのに時間がかかった

それでもさっきの泥が出てこなかったのはこっちとしては助かった

 

「ムラサメ様!それに……操真君!?」

「芳乃と茉子か!」

 

巫女姫様に常陸さん?

この二人にもこの子が見えるってのか

でもそんなの今は関係ねぇか

 

「巫女姫様、今は彼を運ぶことが優先です。申し訳ありませんが、休ませれる部屋まで案内お願いできますか?」

「は、はい!こちらです!」

「それと常陸さん、この腰の刀を預かってくれませんか?運ぶのに少し邪魔になってしまって」

「これのことですか?刀ではなく木刀のようですけれど」

 

もしかして、叢雨丸が担い手にしか抜けないように都牟刈村も担い手にしかわからないのか?

 

「それです。すみませんがお願いしますね」

 

すぐ部屋につき、将臣を横にした

そんなひどい傷はなさそうに見えるが俺は医者じゃないから細かいことまではよく分からない

 

「みづはさんは呼んであります。ムラサメ様のおかげで早く呼ぶことが出来たのでもう少しで来ると思います」

「そうですか、ありがとうございます。巫女姫様」

「その前にお話があります。どうして操真君は山の中に入っていたのですか?」

「これを探していたんです。子供たちと約束をしましてね」

「それでも夜の山には入ってはいけないって知っていますよね」

「もちろんです。でも俺にとっては一度した約束は果たさなければならないのです。そのために山の中に入りました」

「そういうとこは昔から変わらないのう、智之。いや、今は久遠じゃな」

「人の性格ってのはなかなか直らないものだよ、あ──ムラサメ」

 

危ない危ない、もう少しで名前を呼ぶところだった

それに俺は彼女のことをムラサメ様なんて呼べない

そう呼んでしまったら、約束を破ることになってしまう

 

「操真君もムラサメ様のことが見えるのですね」

「でもその態度はどうかと思いますよ!」

「よいのじゃ、芳乃。吾輩も久遠に態度を変えられたら困る」

「ムラサメ様がそう仰るのなら……」

「さて久遠、いろいろ話してもらっても構わんか?」

「わかった」

 

山で将臣を助けたこと、あの泥に襲われたことを話した

 

「祟り神を祓った……ということですか」

「祟り神……あの泥のことですか。でもまさかそんなものが山に居るなんて」

 

あんなものが山の中にいるんじゃ入っていけないっていうのは納得出来るな

でも昼には遭遇したことは無いし、山の中に入ってもいいってことからどうやら活動は夜らしいな

 

「神刀・都牟刈村とな……その刀について詳しく聞きたいが構わぬか?」

「もちろんだ……と言いたいところだが明日にしてもらいたい。この刀はさっき使えるようになったばかりなんだ、疲労がかなり来てる」

 

さっきのあの泥を消したといい、都牟刈村を使ったといい、将臣を運んだといいかなり疲れることをした

これ以上何かをしろとなると正直無理かもしれない

 

「そうじゃの、それにご主人にも話したいのだろう?」

「一応な、そういうことですから一旦帰らせて貰いますが」

「……わかりました。では明日もう一度ここに来てもらってよろしいでしょうか。その時にこちらも祟り神などについてお話します」

「それで構いません。では、これで失礼します」

 

俺はその場を後にした

流石に疲れた

ご飯食べて、風呂入ってさっさと寝るか

それで明日説明するからいろいろと考えておかねーと

 

「……見送りはここまででいいぞ?」

「昔から吾輩の気配にはよく気づくな、智之」

「幼なじみなんだ、そりゃわかるさ──綾」

「その名を知っておるということは、やはり生まれ変わりおったのだな」

「当たり前だ、約束しただろ?」

 

何年経とうが絶対に約束は守る

それが操真智之という人だ

俺もどんなことだろうと約束は果たすから、そういうところも似てたってことだな

 

「五百年前の約束を今でも覚えておるなんて、それに吾輩との約束は絶対に守っておったしな。本当に阿呆な奴じゃ」

「うるせっ、俺は元々こんなんだったんだよ」

「あははっ、そうだったな!」

「それより綾……いや、ムラサメって今は呼んだ方がいいよな」

「うむ……吾輩も久遠と呼ぶからそうしてくれ」

「人の時の名前で呼ぶのはムラサメの役目が終えて、自由になってから呼ぶよ。五百年の約束だ、少し伸びようが我慢くらいしないとな」

 

俺はたった数十年しか生きてないがムラサメは人柱になってから今までずっと、智之様は死んでからずっとこの穂織にいたんだ。それも何百年と

なら少しくらい時間が伸びたって許してくれるだろう

 

「五百年の約束か……、ところであの最後の言葉は本気なのか?どうせ吾輩をからかっておったのだろ?」

「何言ってるんだ、俺が今までに約束事に冗談を言うことなんてあったか?」

「な、なななななな!?」

 

おーおー、ゆでダコのように真っ赤になっちまってよ

だいたいあの雰囲気で冗談なんか言えないって普通わかるだろ

 

「ほ、本気で言っておるのか!?吾輩は、その……昔の姿のままだから……む、胸とか小さいのだが……」

「大きさなんて関係ねぇだろ、そんなの気にしてたら最後にあんなこと言わねぇぞ?」

「ご主人とは違うのだな」

「将臣がどうかしたのか?」

「それがの、すり抜けると試させたら触れられて……胸を揉まれたのだ……その時にぺったんやらまな板やら……」

「ちょっと息の根止めてくる」

「阿呆!それでは助けた意味がないでは無いかぁ!」

 

それはそうだけど、この話にはムカつくな

それにまな板やぺったんだ?

大きさを気にするなんてまだまだだな、将臣

大きかろうが小さかろうがそんなもの些細な問題じゃないか

 

「吾輩の事は気にするな、それより本気で言ったおったのか……」

「その事の答えについては全てが終わってからでいいさ。だからまずは朝武家の呪いをとかねーとな、だからゆっくり考えてくれ」

「久遠も協力してくれるのか!久遠がいてくれるなら吾輩としても心強い!」

「ああ。それじゃあ俺はそろそろ行くよ、また明日な」

 

そういって頭を撫でる

この感覚、魂が一つになった影響かとても懐かしい

 

「この撫でられ方も久しいのう……ん?」

「どうした?昔はこうやってよく頭を撫でてただろ?」

「何故吾輩に触れることが出来るのだ!?」

「それは知らないが……智之様は神刀を作ったり、人間以上神未満の存在になったとか言ってたから、その魂と一つになったから触れるんじゃないのか?」

「ふむ、魂のような吾輩と魂だけだった智之と一つになった久遠。お互い魂だけという共通点があるのが触れる理由か?」

「考えたって答えがわかるわけじゃない、それにこうやって触れるのが答えでいいだろ?」

「そうじゃのう……くすぐったいが気持ちいいのう……えへへ」

 

この笑顔は昔から変わらない

夢でも見せてくれたものそのまんまだ

それに今は記憶にもある

 

「それじゃ今度こそ行くな」

「……あっ……」

「そんな顔するな、またいつでもやってやるからさ。五百年やってやれなかった分たくさんな」

「そうじゃな、さっさと会いに来なかった分たくさんして貰うとするかのう」

「ははっ、わかったよ」

 

ほんの少しという短い時間だけど会話出来ただけでとても嬉しかった

これは智之様の魂の影響だろうけど、俺自身も喜びを感じていたんだ

けれど五百年

彼女は五百年もの間ずっと穂織を見守ってきたんだ

中には巫女姫様や常陸さんみたいに話せることができた人もいると思うけど、ほとんどの人は姿が見えず、ひとりぼっちのようなものだ

 

「あまりにも辛すぎるだろ……あの時病気にかかっただけだって言うのに!なんでここまで悲しい運命を背負わせられてるんだよ!」

 

全部終わらせてやる

朝武家の呪いをといて、この穂織を縛ってるものを解いて、彼女のこれからを喜びある未来に変えるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「芳乃、茉子。ご主人はどうだ?」

「今のところは何もありませんが……みづはさんが来るまでは何とも……」

「ふむ、そうか」

「それよりもムラサメ様、操真君とはお知り合いだったのですか?」

「それに学院にいる時と雰囲気が違いましたね。ムラサメ様を見ることが出来たということは芳乃様の耳のことも見えるのでは?」

「恐らく茉子の言う通りだ、それに久遠は吾輩にも触れることが出来たからのう。雰囲気の事はすまぬが吾輩から言っていいのかわからぬからな……、明日久遠から聞いておくれ」

 

あやつの事だ、隠し事はしないと言い張って自身のことは全部言うつもりじゃろう

叢雨丸を引き抜いたご主人にも話したいと言っておったからな

 

「有地さんの他にムラサメ様に触れることが出来るなんて……。私たちにも知らないことが多すぎですね」

「吾輩もついさっき知ったことが多いからわからないことが多い。でも智之の子孫だから何をしでかしても不思議ではないのだがな」

 

智之は昔からおかしなところがあったからのう

それでも今も吾輩のことを考えてくれる大切な幼馴染だ

それに吾輩が人柱になる前に……

 

「なななな何を思い出しておるのだ吾輩はぁ!」

「ム、ムラサメ様!?」

「ど、どうなされたのですか!?」

「なんでも!なんでもない!気にするな!」

 

このことは言わせないようにしなければ……

いくらなんでも恥ずかしすぎる!




やっとすれ違っていたムラサメちゃんと会話させることに出来ました…

祟り神の存在も知ったし協力する気満々なのでこれからは芳乃や茉子とも絡ませるつもりです


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第5話

読んでくださる方、いつもありがとうございます


「芳乃様、やはりちゃんと説明をされるべきではないでしょうか?」

「僕もそう思うよ」

「お父さん……でも……」

「将臣君にも影響があることは、今回のことでハッキリした。少なくとも、将臣君に関わることぐらいは説明が必要だよ、芳乃」

「……わかりました。でも、必要なことだけですから、約束して下さい」

 

俺の目の前で、何やら事情がありそうなことが話されてる

それは何かと言うと昨日、迷子を探している途中で、祟り神というものにに襲われたことが関わっている

そのせいで山から転がり落ち、骨折はしてないけど擦り傷や切り傷、オマケに打撲と多少の怪我をしてしまったんだ

久遠に助けられたらしいし、朝武さんや常陸さん、ムラサメちゃんと周りのみんなに心配をかけてしまった……

それと朝武さんから獣耳が出てきたのも祟り神に影響してとか……

今からそれを説明してくれるらしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は昨日、巫女姫様の言われた通りに建実神社に来ていた

祟り神や呪いについて説明してもらう代わりに俺の事も説明するために

 

「すぅー……はぁー……よし、ごめんくださーい」

 

今考えたけど朝早くから来てよかったのだろうか?

でももう来てしまったものは仕方が無いか

 

「おや、久遠君。おはよう」

 

出てきたのはこの神社の神主、安晴様

巫女姫様の父親だ

性格はとっても優しく、まさに娘思いのいい父親の姿がよく見える

 

「おはようございます、安晴様。朝早くから来てしまい申し訳ありません」

「ああ、その事については芳乃から聞いてるよ。まずは上がって」

「はい、失礼します」

 

居間に上がらせてもらうと、巫女姫様、常陸さん、ムラサメ、将臣と全員揃ってる

話すべき相手は全員いるようだな

 

「おはようございます。巫女姫様、常陸さん、それからムラサメ。朝早くから来てしまい申し訳ありません。それと将臣は元気そうだな、良かったよ」

「昨日はありがとな、久遠」

「おはようございます。今から有地さんに祟り神のことをお話するつもりでした。なので操真君も聞いてください」

「はい、わかりました」

 

俺はいろいろなことを説明してもらった

穂織の街に伝わる伝承に出てくる叢雨丸、あれが本物の特別な刀であること

それ自体は声を聞いていたからわかっていたことだ

だが、その事実から妖に関しても本当に存在していたということになる

そこら辺は甘く考えすぎていたな……

 

次に祟り神

無差別に襲いかかるわけではなく、妖に強く憎まれてるものが対象になるらしい

それに祭りの時に見た巫女姫様の耳は、その憎まれてる者に対する呪詛現れと言われてるらしい

この耳が生えてる者は祟り神に襲われる

つまり前に俺が見たものは本物だったってことだ

それが朝武家の呪い、俺がとかなければならない呪いだ

将臣が襲われた理由は叢雨丸の担い手になったから

でも俺も襲われた理由はなんだったんだろう

 

穂織の街はイヌツキって意味悪く言われていることもある

その原因は、この耳も関係していたのか

始めに朝武家の姫様に耳が生えたのは、ムラサメにしか見えなかったけど、時が経つにつれて見えるようになり、良くない噂が広まってしまった

そして祟り神が穂織の地で暴れ回ったこともあり、良くないことが重なり、イヌツキという呼称を生んでしまったと

 

そして巫女姫様の舞について

あれは穢れ祓いの儀式、舞を奉納することで、土地の穢れを祓っているという

でも舞の奉納だけでは全てを祓うことは出来ず、後は直接祓って対処しなければならない

 

俺が知らない時に、巫女姫様と常陸さん、ムラサメはこんな苦労をなさってたなんて……

 

「今お話できるのはこの辺りまでです」

「ありがとうございました。だいたいの事情はわかりました。では次は俺の事をお話します」

 

俺は昨日の出来事

一応話したが安晴様にも一から説明するため、山で将臣を見つけ祟り神と戦ったこと、都牟刈村のこと、智之様とのこと、全部話した

 

「都牟刈村……まさか智之はそんなものを作りおったとは……」

「これを作ったのはお前がきっかけだぞ?」

「吾輩が?」

「あん時言ったろ、絶対に作り上げてみせる、病魔だろうが怨念だろうが、全てを断ち切ることが出来る刀をってな。でも完成する前にお前は人柱になっちまった……」

 

ムラサメが流行病にかかる前に、もっと早く究極の一を求めていれば俺もムラサメもこんな所にはいなかった

だがそうすると、朝武家の呪いも解くことができなくなると考えると、今の選択も一つの答えかもしれんな

 

「それに叢雨丸は神から授けられたが都牟刈村は人の手で作られたから違う部分がある。それは折れたら元に戻せないことだ」

「その刀には叢雨丸以上の神力があるが、神力で何とかならんのか?それに智之の魂とくっついた久遠でも駄目なのか?」

「俺じゃあまだ智之様の技術には追いついてないんだ。この刀を作り上げるには智之様と同等かそれ以上の技術が必要になってくる」

「ふむ、やはりいくら人の手で神の力に至ったとしても、そこいらが限界か……」

 

これが限界ではなかったんだ

でもこの刀を作った後に神々により、天罰が降り、衰弱死してしまった

だから作ろうにもこの先を作ることが出来なかったんだ

 

「あの、一ついいですか?」

「なんでしょうか、巫女姫様」

「話を聞いたところによるとムラサメ様と操真君のご先祖様である智之様はお知り合いだったのですよね?」

「ええ、幼馴染だったので本当に小さい頃からの付き合いですね」

「それで智之様と魂が一つになり、記憶などを引き継いだからそのような態度を?」

「はい、その時に説明をなさらずすみませんでした」

「そういう事でしたか、なら操真君は人だった頃のムラサメ様をご存知だったと」

「常陸さんの言う通りです。だから俺は、ムラサメに対しては敬ってはいけないんです。そうしたら彼女との約束が果たせなくなる……」

 

絶対にムラサメのことを神のようなものとしては見てはいけない

最後まで人として見なければいけないんだ

幼い頃から一緒で、人柱になる直前まで一緒にいた(おれ)だけは……

 

「この事は、要さんには話したのかい?」

「はい、そしたら全て知っているかのような反応でした。どうやらこの神刀を扱える者は、智之様の生まれ変わりか、何かの関わりがあると先祖代々伝わる書物にと……」

「そうかい……話してくれてありがとう、久遠君」

「いえ、これくらいのことならいつでもお話します。巫女姫様、一つお願いが」

「お願いですか?」

「はい。祟り神を祓う際、俺も連れて行ってください」

 

俺は剣の腕にも自信がある

相手が負に連なる者なら都牟刈村があれば負けることは無い

けれど、巫女姫様の答えは俺が思っていたのと違うった

 

「それはダメです。この事はかなり危険なのです。それにこれは朝武の……いえ、私の問題です。お父さんが言った通り、山に入ったりしなければ、有地さんと操真君にまで危険が及ぶことはないはずです。祟りは私がなんとかしますから」

「いや、何とかって……」

「一人で何とかなる問題ではないはずです!」

「それでも今すぐには解決とはいかないかもしれません。有地さんにはしばらく不自由を強いることになってしまい、申し訳ないと思ってきます。ですが、絶対に何とかしますから。私に任せてください」

 

と言うとどこかに行ってしまった

おそらく舞の練習だろうが……

だけど一人でどうにかなるんだったら今頃解決できてるだろ

 

「すまないね、久遠君。芳乃は結構頑固者で」

「いえ、ですが俺としても力にはなりたいと思います」

「ありがとう、君がいてくれるのは、僕としては心強いよ」

「はい!……そう言えば将臣に不自由とかどうとかって言ってたけど、ここでお世話になっているのか?」

「その事についてなんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?将臣が巫女姫様の婚約者に!?」

「叢雨丸を引き抜いた以上、こちらにいてくれた方がいいからね。後は本人達次第なんだけど」

「その事は、常陸さんも?」

「はい、と言ってもつい最近知ったばかりですけどね」

 

でも叢雨丸の担い手になったからには祟り神に狙われる

不用意に街から出す訳にはいかないか

でも婚約者とはな……流石に想像の範疇を超えてるわ

 

「……いろいろとありがとうございました。俺はここで失礼させていただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうするか……

夜に入って祟り神を祓ったとしても、巫女姫様について行ってもどちらも良い顔をされないことがわかってる

こういう場合、どういう行動を取るべきなんだ……

 

「何を辛気臭い顔をしておるのだ」

「ムラサメか、将臣についていなくていいのか?」

「うむ、いろいろと考えるなら一人の方が良いからな。山には入るなと言っておいたから無闇に近寄ることはせんだろう」

「そっか、将臣には危ないことはさせられないからな」

「それを言うなら久遠もだぞ?」

「俺?」

 

それなりの強さはあると自負してるし、都牟刈村を持ってれば相手の動きの未来予知も出来る

そうそう危ないことはないと思うけど

 

「本当に昔っから変わらんのう、お主は芳乃に危ない目に遭わせたくないと絶対に一人で戦う。それを繰り返して見ろ、いつかの時みたいに倒れてれも吾輩は昔と違いなんとも出来んのだぞ?」

「あー、そんなこともあったっけ。そん時はムラサメが母上を呼んで、後から看病してくれたっけ」

「覚えておるならよいが、今と昔では違う。何が良い方法なのかちゃんと考えて行動せい」

「ああ、わかった。でもどうにかして巫女姫様を説得して山に入らねぇとな……」

 

呪いをとく鍵を見つけるんだからどうにかして山に入らないといけねぇからな

とりあえず、夜に行動してみるか




少し長くなってしまったので祟り神との戦いは次の話にします


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第6話

昨日の子供たちは家に戻ってしばらくしたら来て、お守りは無事に渡すことが出来た

お礼を言われたけど、人になにかして言われるお礼はいつも気持ちいいもんだな

 

夕飯を食べ、それなりに時間が経った

それに山の方から変な気配を感じる

前までは感じたことは無かったけど、都牟刈村を持ってからわかるようになったってことは祟り神っぽいな

 

「父さん、山に行ってくる」

「わかった、気をつけて行ってこい」

「……前みたいに止めないのか?」

「前と今じゃ状況が違う。お前はご先祖さまに託されたんだろ?それに山に呪いをとくためのヒントがあると思ったんだ。ならまずは動いてみろ、結果はそれからだ」

「……サンキューな」

 

父さんには感謝しきれない、本当にいい師匠を持ったもんだ

早く山に向かわないと!

これは……叢雨丸の気配も動いている?

ということは将臣とムラサメも山に入るのか、急げば合流出来るな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山に入ったはいいけど、巫女姫様と常陸さんはどこに……

それに将臣とムラサメも見つけないといけねぇってのに……

 

「かぁごめ、かごめ。かーごのなかの鳥はー、いーついーつでやる。夜あけのばんにー」

「なんでそのチョイスにした!?怖いからやめろ!」

 

この歌声はムラサメで驚いてる方は将臣だな?

というかムラサメってお化けとか怖いもの苦手なんじゃ……歌まで歌ってなんか余裕がありそうだ

この何百年の間に克服でもしたのかな

 

「ムラサメ!将臣!」

「ぴゃーーっ!?」

「おわっ!?」

「あっ、すまねぇ。なんか驚かせてしまったようだな」

「く、久遠か」

「こ……こ……」

 

なんだ?ムラサメがなんか言いかけながらプルプル震えてるけど

というかやっぱり怖いのは克服してなかったか

 

「この阿呆ーー!!今のは本当に怖かったのだぞーー!!」

「あっ、ちょっ、やめっ、悪かった!悪かったから殴るんじゃねぇ!」

 

ムラサメに頭をポコポコ殴られた

全く痛くはなかったんだけど

 

「それより、久遠。お前がなんでここに?」

「んなもん簡単なことだ、女の子二人があんな危ねぇ奴と戦ってるのを知ってるのに呑気に家にこもってられねぇだろ。逆に聞くけどなんでお前もここにいるんだ」

「俺もそうだよ。ただの見栄かもしれないけど、じっとしてるよりはマシだ」

「いや、何か行くための目的があるならいい。何もないよりは全然マシだ。安心しろ、俺が全部フォローしてやるから」

「久遠は強いのか?」

「まぁな、わかりやすく言えば玄十郎さんから一本は取れる」

「祖父ちゃんからか……それは納得だな」

 

玄十郎さんはこの街でもかなりの実力があるからな

歳だからなんて考えると普通に痛い目見ると思うし

むしろ普通の若い人よりも動けるぞ?

 

「よし、行くか。このまま真っ直ぐ進めばいいのか?」

「うむ、大丈夫だ」

「そうか。……将臣、緊張するのはいいが、それで動けなくなるなよ?」

「わかってる、けど昨日襲われたところだしな」

「心配するな、吾輩がついておる。それにご主人は叢雨丸に選ばれたのだ。神から授かった特別な刀に選ばれたのだぞ。もっと自分を信じろ」

「自分ほど信用できない存在はいないものだぞ!!」

 

なんか卑屈になってないか?

この調子で大丈夫か心配になってきたぞ……

叢雨丸を抜いて選ばれたんだ、もっとポジティブに考えてもいいと思うが

ん、話してるうちに二人に追いついようだな

 

「あ、有地さんに操真君?」

「来てしまわれたんですか……」

「ど……どうしているんですか!山には入らないようにって言ったのに」

「だってこれは、俺も深く関わってる問題だから」

「俺はまぁ、約束を果たすためにですよ」

 

まず朝武家の呪いをとかなければならない

そのためにはその相手を知る必要がある

祟り神と戦うことによって何かヒントが得られると思ったんだ

もしヒントも得られなかったとしても、さっき将臣に言ったように女の子を見捨てるほど、腐ってはいないさ

 

「芳乃様、こうなってしまった以上、仕方ないと思います。お二人はもう来てしまいました。帰る途中に祟り神に襲われる危険もあるとは思いませんか?」

「そ、れは……ぅっ、にゅぅぅぅ……」

「叢雨丸に選ばれたのは、決して偶然ではない、選ばれた意味があるはずだ。だからご主人もおった方がいいと、吾輩は思うのだ」

「もう知りません、勝手にすればいいです。でも、絶対に大人しくしていてください」

「ではご主人、叢雨丸を抜け」

「ああ」

 

将臣が叢雨丸を鞘から抜き放つ

相変わらずの刀身だな、見事なものだ

そのままムラサメが刀身の中に入り、神力が宿る

 

「では、俺も戦闘態勢に入るか──行くぞ、都牟刈村」

 

木刀から刀を抜く

その銀一色の刀身は、月の光によってさらに輝き、叢雨丸よりも神秘なものを放っていた

ちなみに都牟刈村の名前を呼んだのは雰囲気作りだ

決して名前を呼ばなきゃ抜けないってわけじゃあない

 

「その刀が……都牟刈村」

「綺麗ですねぇ……」

「むむむ、刀身の美しさといい、神力の強さといい、全体で負けておる気がするぞ……」

 

初めて刀を見せた感想はバラバラだった

この剣を見た時常陸さんと同様の意見はしたけど、ムラサメはなんで悔しがってるんだろう

さあ、祟り神いつ来る──いや、来たか!

 

「ここに来てしまったものは仕方ありません。ですが有地さん、操真君。祟り神の穢れは私がはらいま──すにゃぁっ!?」

 

ほう、叢雨丸の力によるのかわからないけど祟り神がいつ来るか将臣もわかったみたいだな

それで巫女姫様を押しのけ、祟り神の一撃を叢雨丸で受け止めるとは

なかなか見込みがありそうだな

 

だがまだまだ甘いか

恐怖心が勝って動けてない

む?次は巫女姫様が将臣を助けたか

なんだかんだいい連携が取れてる……と言っていいかわからんが助け合ってはいるな

 

「あ、あっぶなっ!?」

「下がって下さい!ここは私が!」

「待った!危ない!」

「にゃっぷっ!?」

 

ダメだ、入りずらい、むしろ邪魔に感じる

何を遊んでるんだか

 

「仕方ねぇ、常陸さん。俺が祟り神を止めますから二人を下がらせてもらってもいいですか?」

「わかりました!」

 

触手が将臣たちに当たりそうになった寸前で踏み込み、刀を当てる

弾き返した後にひるまずに来るが未来予知のおかげでどこから来るかわかるから全てはじき返す

 

「今のうちに下がって!」

 

よし、なんとか二人を下がらせたな

このまま打ち込んでもいいが、様子見だ

俺も下がるか

 

「「何をするんですか!?」」

「なっ、それは私の台詞ですっ。怪我をしていたかもしれないんですよ」

「危なかったのは朝武さんも!あんな真っ直ぐ突っ込んだりして!」

「あそこからヒラリとかわす予定だったんです!」

「それを言うなら、俺の方だって!」

 

この二人は目的のことを忘れてないか?

敵の目の前で言い争うなんて昔か俺と常陸さんがいなければとうに全滅しているぞ?

 

「お二人とも、仲良くじゃれ合うのは、時と場合を選んでいただけないでしょうか?」

「「でも──」」

「今の二人はただの邪魔だ、今自分たちが何をしてるか考えろ。こんな所で死にてぇのか?」

「操真君の言う通りです。今は目の前の祟り神に集中してください」

 

──ったく、これからもこう続いたら命がいくつあっても足りなくなる日が来るぞ?

それとこっちが話してるから隙があると思って攻撃してくるんだよなぁ

 

「──甘いんだよ」

 

俺たちの脳天目掛けて振り下ろす攻撃が来るけど、危機に関する予知は通常よりもかなりはやく見える

だからそれをどの位置で受け流せばいいかの判断がゆっくり出来る

 

「今ならっ!」

「ダメです、芳乃様!正面からでは──」

「チッ!功を焦りすぎだ!」

 

刀を鞘に収め、一気に駆け抜ける

これは最も俺が得意としている型、居合道だ

巫女姫様に当たる攻撃をギリギリのところで受け止める

操真家は代々自分に合う型を見つけ、鍛える

だから父さんとも型が違うから基礎しか教えてもらってないんだ

俺は正直言うとそこまで力がなく、鍛治も何とかやれるってほどだ

だから力よりも技と速さを鍛えた結果この形になった

 

「将臣!やれ!」

 

俺の後ろを走っていた将臣に叫ぶ

無我夢中で刀を振り下ろしたが、祟り神の身体を斬り裂いても、切り口から黒いもやを立ち昇らせるだけで消滅はしてない

 

『浅いっ!』

「ならもう一度俺が!」

 

もう一度鞘に収め駆け出そうとしたが、必要なかった

祟り神の前に巫女姫様が立ち塞がったんだ

 

「このぉぉぉぉっ!」

 

鉾鈴が振り下ろされ、その身体に突き立てられた

祟り神は縫い付けられたように動きを止め、最後に将臣が叢雨丸を振るって、祟り神は消滅した

 

「はぁ……やっと終わったか」

 

なんか一人で戦った時よりも疲れたな

未来予知をする時目でそのビジョンが見えるから集中して、意識を切り替えないと酔いかける

それを遮られたから正直戦い辛かった

巫女姫様の耳は消えてたから穢れは祓えたということか

さて、帰るか──

 

「わけありますかぁぁーー!」

 

なんだ!?巫女姫様がなんか叫んでるけど

って振り返ったら……服がはだけている巫女姫様の姿があった

 

「なななななんてことをするんですかぁ!?叢雨丸を使ってこんなことっ、いやらしい、ヘンタイ、最低ですっ」

「み、巫女姫様!これを羽織ってください!多少はマシになるかと!」

 

俺はすぐ様に来ている羽織を差し出す

ただの着飾りで来ていた羽織だけど、膝のところまであるから服ぐらい隠せるだろう

 

「有地さん、貴方という方は……」

「あ、いや、ちょっと待った!これはわざとじゃなくて!」

「凄いですね!芳乃様には傷一つつけず、布だけを一刀両断出来るだなんて!ワタシ、その腕前に感動しました!」

「いや、これは別に俺の業ではなくて、偶然で──」

「将臣?何しでかしてくれてるんだ?」

「く、久遠?その妙に優しそうな笑顔はやめてくれ?かなり怖いぞ!」

「妙に冷静に会話しないで下さい──ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山を降りた俺たちは、巫女姫様の家に上がっていた

 

「それで?」

「えーっと……?」

「ですから、どうしてこんな無茶をしたんですか。「来ないで」と言ったはずなのに」

 

今将臣が説教?をされている

俺はまぁ多少なりとも実力があるからな

それで何とか免れた

ここで将臣の気持ちをぶつけて納得してもらえればいいが

それは大丈夫だろう、何かと芯がありそうだからな

 

「でもやっぱり今後は家で大人しくしているべきです、危険です」

「いや、手伝う。危険だとわかっていることを、押し付けるわけにはいかないから」

「……強情な人ですね。頭、固すぎです」

「朝武さんには負けるよ」

「そっ、そんなことはありません!どう考えても、有地さんの方が強情です!石頭ですよ」

「いいや、頑固なのは朝武さんだよ。普通今の流れは「しょうがないですね」って折れるところだよ。意地っ張りだなぁ」

 

……この夫婦喧嘩をいつまで見てればいいんだ?

仲が悪いとか言ってるわりには全然良さそうじゃないか

 

「本当にいつまで続くんだか」

「止めなければ永遠と続きそうだのう」

「でも仲良いのは素晴らしいことですよ。とはいえ……お祓いの最中、祟り神を前にしてじゃれ合うのは止めていただきたいのですが」

「あ……はい……すみませんでした」

「わ、わたしも……ごめんなさい」

「わかっていただければいいんです」

 

なんか意外な一面だなぁ

こんな巫女姫様と常陸さんの姿は学院じゃ見ることはできないぞ?

 

「にしても、久々の憑依でちょっと疲れた」

「ムラサメでも疲れるのか?」

 

俺も確かに疲れたけど、今回は二回目だ

もう都牟刈村には慣れたし、力の使い方も覚えた

あとはどう神力を燃費よく使っていくかという問題だけだな

 

「気力を消費するというか……なんかこう、精神的に疲れるのだ」

「俺がした方がいいことはあるか?」

「いや、この程度なら平気だ。休めば朝にはいつも通りになっておる」

「前に、眠る必要はないって言ってなかったか?」

「普通にしておればともいったはずだぞ?今回のような場合には、流石に吾輩も休む。まあ、何か用事があったら吾輩のことを強く念じろ。そうすれば吾輩に届く」

「わかった。と言っても、流石に今日は何もないと思うけど」

「ではな、ご主人、芳乃」

「ちょいまち、ムラサメ」

 

消えるムラサメを止め、ちょいちょいって手招きする

 

「ん?なんじゃ?久遠」

「今日はお疲れさん」

 

頭を撫でてやる

頑張った子には褒めてやらないとな

 

「皆の前では恥ずかしいではないか……」

「なんて言いつつ喜んでるのはバレバレだぞ?ほら、今日はここまで、あまりやりすぎると一回のありがたみがないし休む時間がなくなるからな」

「むう、仕方ないのう。ではな、久遠」

 

その言葉と共にムラサメはすぅーっと姿を消す

 

「さてと、では他に用件がなければ、ワタシも戻ろうと思うのですが」

「なら俺も行きますから送っていきますよ」

「一人でも大丈夫ですよ」

「ならせめて途中まででも、夜道は何かあるかわかりませんし」

「うーん……そうですね、途中までなら」

 

都牟刈村は腰に刺してるし、特に忘れもんはないよな

 

「では俺もこれで失礼します」

「わかりました。お二人とも、おやすみなさい」

「おやすみ」

「はい、おやすみなさいませ。それでは」

 

こうして、俺と常陸さんは建実神社を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、常陸さん、ひとつ聞きたいことが」

「なんですか?」

「祟り神と戦ってる時の衣装や武器のクナイから本当に忍者なんですか?」

「はい、ワタシ忍者なんですよ。要さんから聞いてないんですか?」

「……え?父さんは知ってるんですか?」

「このクナイも要さんが整備してくださってるんですよ」

「そうなのですか。鍛治については一人前にならないといろいろと教えてくれないからそれで常陸さんのことも話してくれなかったかもしれないです」

 

これは今も我が家に伝わることで、修行中の者は修行に必要なことしか教えてもらえないんだよな

そうしないと覚えることが多すぎて技量が上がらないからってお祖父ちゃんと父さんが言ってた

 

「要さんは仕事一筋の方ですからね。それはわかるかもしれません」

「常陸さんからも見てそう思っちゃいますか。なんかお恥ずかしい」

「でもいいお父さんだと思いますよ。それでは次はワタシがお聞きしたいことが」

「はい、俺に答えられることなら」

「では、ムラサメ様と幼馴染とは聞いたのですが本当にそれだけなのですか?」

「……なぜそう思いに?」

「ムラサメ様と会話する時は仲が良さそうで幼馴染っていうのはわかるのですが、決めては最後の頭を撫でたことですね。あの時のお二人の表情はいつもと違いましたし」

 

やっぱり常陸さんはよく見てらっしゃる……

なんかあのわずかな時間で弱みを握られた気分だ……

 

「あの、黙秘権を使用するのは……」

「あは」

「……わかりました、話しますよ。……あの子と俺は幼馴染で幼い頃から一緒にいました。やがて俺は鍛治職人となり、他の子とは関わりがなくなり周りの人は客としてだけしか思っていませんでした。でも彼女だけはいつでも俺に関わってきて、ただ一人客としてではなくて、ずっと親しい幼馴染と見てきました。でも次第に……」

「もしかして、好きになっちゃったんですかぁ!?」

「……まぁ、そういうことです。でも彼女は流行り病にかかってしまった。そうして自ら人柱になることを選びました。だから俺は約束をしたんですよ。病魔だろうが怨念だろうが、全てを断ち切ることが出来る刀を作り上げるって」

「それが都牟刈村なんですね?」

「はい。だからあの子が人に戻れば今の医療技術で治るかもしれないし、この刀でも何とかしてやれるかもしれない」

 

だから、穂織にある呪いをとかなければ

あの子が人に戻る方法はあるかわからないけど、でもあの子も安心して過ごすことが出来ない

 

「でもムラサメ様は人に戻ることが出来るのですか?」

「それはまだわからないけど、でもそうしなければもう一つの約束が果たせない……」

「もう一つの約束ですか?」

「あっ!しまった……」

「あは、予想はついてますよ。プロポーズなさったんですよね?」

 

ちょっと話しただけでここまで探られるか……

でも常陸さんなら言いふらしたりしないだろうからまだ安心はできるか

 

「何百年と想い続けてまた再会出来たってことですよね。何か運命を感じますし素敵だと思いますよ!ワタシは操真君を応援しますからね!」

「ありがとうございます。その、このことは内緒にして貰えませんか?」

「もちろんですよ。こんな素敵な話、そう言いふらしたりしません。それにワタシ忍者ですから、口が堅い方なんです」

「そうですか、それは良かった」

「あっ、ではワタシはこっちなので。いろいろとお話してくださってありがとうございました」

「いえ、俺も昔のことを思い出せて懐かしく思えて良かったです。ではおやすみなさい」

 

最後の約束を果たすことが出来るのか?

ムラサメを人間の姿に戻すなんて全く思いつかない

もしも可能性がないなら……

 

「いや、何弱気になってんだ。俺らしくねぇ」

 

ないんじゃなく作るんだろ

それにまだわからないことだらけだから、いずれ見つかるかもしれない

諦めるのは、全ての手段が意味がなく終わった時だけだ

その時まではまだ諦めねぇ、何があろうと




少し補足ですが、久遠の服装は着物に羽織を羽織ってる服装です
イメージで言うとぬら孫のリクオみたいな感じです

初めてのお祓いが終わったから次から学院生活の始まり!


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第7話

 

「手首は大丈夫か?」

「気づいてたのか」

 

一度目からのお祓いから一週間ちょっと

またお祓いがあったんだ

そこで俺は樹の幹を刀で打ってしまい、手首を痛めてしまったんだ

 

「振り方が悪いからそうなるのだ。斬るのに技術は必要なくても、前後の動きに関してはご主人が何とかするしかない」

「叢雨丸がもっと何でもスパスパ斬れれば、こんなことにならないのに」

 

あの時、朝武さんの服を斬ったのは、あくまで霊的な影響があるからだ

現実の物に対しては、そこまで切れ味がよくない

 

「……もしかしてナマクラなのか?」

「違いますぅー、ナマクラじゃないですぅー、叢雨丸の責任にしないで下さーい」

 

まあ技術のない俺が、スパスパ斬れる物を振り回しちゃ危ないだろうから、その方がいいかもしれないけど

 

「でも、最初は岩に刺さってただろ?」

「アレは物理的に刺さっていたのとは違う、なにより叢雨丸はこの世ならざるモノを斬るための神刀!現世の切れ味など関係ないのだ!」

「"神刀"っていうより"妖刀"にしか思えないけどな」

「ななっ失礼な!どこが"妖刀"だというのだ!」

「持ち主になったら、変なのに取り憑かれちゃったしなぁ……」

「吾輩は妖怪でも、ましてや幽霊でもない!そのような言い方は誠に遺憾である!」

「じゃあ"幼刀"っていうのはどうだろう?あ、"幼刀"ってピッタリじゃない?」

「屈辱っ!屈辱だぞ、ご主人!」

 

だってゴリっとしてたしなぁ……

 

「今、とても不快なことを考えたであろう」

「………」

「目をそらした〜、それに"幼刀"などと久遠の耳に入ってみろ、ご主人、ただじゃすまされないぞ」

「なんで久遠なんだ?」

「久遠は吾輩のことを大切に想ってくれておるからな、それに久遠が怒ったらとんでもなく怖いぞ〜?」

 

あの時の笑顔を思い出す……

あれからでもわかる、久遠は本気で怒るとめっちゃ怖いやつだ……

うん、久遠の前では幼刀と言わないようにしておこう

言ったら多分殺される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてのお祓いから一週間ちょっとで二度目のお祓いがあった

その結果はスムーズに物事がすすみ、誰も怪我せず無事に終われたんだ

ただ、将臣が刀の振り方がなってないのが不味いんだよな

この先何か考えないと

 

「おい久遠」

「何?」

「朝からこっちのこと手伝ったり、朝飯やら作るのはいいけどさ、今日から学院だろ?」

「……何故今言う?」

「もうまずい時間だから。学院生活が始まったこっちのことはいいのに」

「それを先に言えよ!本当にまずい!いってきます!」

 

始業式初日から遅刻なんて洒落になんねぇぞ!?

もう全力は全力で学院まで走らないと!

 

鵜茅学院

俺が通ってる学院でこの穂織唯一の学院だ

元は武道館で剣術道場が使っていたけど徐々に門下生が減り、今では改装し学院となってるわけだ

ちなみに学年のクラスは一つで、全学年合わせても百人もいない

つまり顔ぶれがずっと同じなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……着いたぁ……」

「ギリギリだな久遠、また朝の手伝いか?」

「ああ、廉太郎……おはよう」

 

中条先生はまだ来てない

よし!ギリギリセーフ!

 

「操真君、おはようございます」

「おはようございます。ギリギリでしたね」

「はぁ……おはようございます。巫女姫様、常陸さん。あれ?将臣は?」

「有地さんは職員室に行ってますよ」

「転校したからいろいろと確認とかあるということですかね、わかりました」

 

その後すぐに先生と将臣が来た

転校生ということで挨拶をし、次に始業式があった

話だけだから眠くなるし始業式とかって嫌なんだよなぁ

そんな式もあっという間に終わるものだけど

 

 

「なんだ将臣、帰らな……そうか、なんか呼ばれてるんだっけ」

「そうなんだよ」

「先生の用件に心当たりはありますか?」

「いやー、全然。転入に関する手続きとかかな?」

「ん?まだ終わってないのか?そういうのって意外に量が多いんだな」

 

俺は生まれた時からこの街だからな

転校なんてしたことないからそんな書類やら手続きとかしたことない

まっ、ここは気長に待つべきか

 

「すみません、遅くなりました」

「待たせてしまったようで、申し訳ない」

 

みづはさん?

もしかして用件って、あの時の怪我の確認とか穢れのことかな?

 

駒川みづはさん

この街で数少ない医者の一人

前に将臣が山から転がり落ちて怪我をした時に見てくれたのもみづはさんだ

 

「初めまして、有地将臣君。私は駒川みづは、この街で開業医を営んでる者だ」

「有地さんが山で怪我をしたときに診察してくれたのが、みづはさんです」

「みづはさんはこの学院の嘱託医でもあるんです」

「そうだったんですか、その節はお世話になりました」

 

確かに巫女姫様はみづはさんを呼んだって言ってたっけ

でもあの時は想像以上に疲労があったからな

うん、仕方ない仕方ない

 

中条先生は教室を後にする

 

「みづはさんは、挨拶のためにわざわざこちらに?」

「芳乃様の確認にもね。叢雨丸を抜いたことによる影響は、何かあったりしますか?」

「特には。私自身は、いつもと何も変わりありません」

「良かった、安心しましたよ。それと操真君、君に何かあったりは?」

「俺ですか?いつも通りですけどどうしてですか?」

「君も触れなかったとはいえ祟り神と戦ったのだろう」

「あー、何にも言ってませんでしたっけ。でも都牟刈村を持ってれば穢れは自然と落ちるのでなんの心配もいりません」

 

あれは叢雨丸よりも強力で負の力を断ち切るからな

担い手である俺は穢れとかそういうのを一切受け付けなくなったんだ

 

「そうかい、それならばいいんだ。でも何かあったら言うように」

「もちろんですよ、ところで将臣になんの用で?」

「丁度学院に用事があってね。ついでと言ってはなんだけど、有地君の様子を見ておこうと思って」

「俺に確認してたし穢れのことですか」

「それもあるし、頭を打っていたからね。あくまで念のためだよ。それじゃあ有地君、保健室まで一緒に来てくれるかな?」

「はい」

「そんじゃあもう用はないし帰るかな。ムラサメ、将臣のことは頼んだぞ」

「うむ、吾輩がついておるからな。心配はいらんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても都牟刈村は凄いんですね。穢れを落とせるなんて」

「叢雨丸よりも強い神力を待ってますからね。時を超えるほどの想いを込めて作っただけのことはありますよ」

 

本来はムラサメの病気を治すためにと病気を消すために作ったものだからな

こういう効果があるとは思ってもなかったさ

 

「智之様は凄いお方ですね、普通何百年と想い続けられる人なんていないと思いますよ」

「鍛治だけにしか頭になかった人なので、そんな人に唯一構ってくれたのがあの子だけだったんですよ」

「今のお二人の関係を見ているとわかります」

「………」

「茉子?どうしたの?」

「いえ、ムラサメ様のことをお話する操真君は活き活きしてるな〜と思いまして」

 

え!?俺そんなだった!?

あんまり意識せずにしてたけど……うわぁ、なんか恥ずかしい!

 

「そ、そんなことはないですから!あ!俺はこっちの方なので!失礼します!」

「あは、逃げられてしまいましたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後ダッシュで家に帰っちゃったけど……

はぁー……また変なところ見せちまった……

これでまたからかわれそうな気がするな

ま、なっちまったものは仕方ない、切り替えよう

 

俺は都牟刈村に意識を集中する

さぁ、声を聞かせてくれ

 

──汝、我に何を求める

「俺は強くなりたい、だから教えてくれ。お前のことを」

──我の生まれた意味を知ってるか

「ムラサメが流行り病にかかって、その時に病魔でも怨恨でも断ち切れる刀を作ると約束したから」

──左様、それが我の力となる

「相手を想う気持ちってことか」

──今の我は創造者の魂にのみ反応しておる。汝の魂にも反応すればより強く力を得れるだろう

「わかった、それがこの都牟刈村の力を強力に出来るんだな」

 

集中を切り、意識を戻す

神の力を宿してるためか昔の刀なのか話し方が古風だよな

それにしても想いの力……

今は智之様にしか反応してないって言ったけど、一体どうすればいいんだ?

 

「何してるんだ?」

「今都牟刈村と話してたんだ。神力の増加の仕方を聴けたんだけど……」

「その顔は自分に何が足りないのか分かってねぇ顔だな。なら公民館行くぞ。久々に手合わせするか」

「そっか、考えるより実戦だよな」

 

想いがなんなのかわかるかもしれない

それに父さんの強さの秘訣も

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公民館について、俺と父さんは竹刀を構える

都牟刈村より軽いからなんか違和感を感じる

 

「手合わせする前に聞きたいんだけど」

「何だ?」

「父さんは誰かを想って強くなったとかってある?想いの力が神力に繋がるって都牟刈村が言ってたんだけど」

「なんだ、そんな簡単なことか。そりゃお前、千早のことに決まってるだろ」

「母さん?」

 

千早は俺の母さんの名前だ

穂織の外に出て学校の先生として働いてる

なんで外に行ったかと言うと、この街以外にもいろいろと見たいからって言ってた

 

「ああ、俺は何にも大切な物はなかったんだけど千早と出会ってから全てが変わったからな。だから好きな人のために強くなるって決めたんだ」

「それが父さんの強くなった理由……」

「おら、そろそろ始めっぞ!」

 

父さんが竹刀を構える

俺とは違い一撃ごとに力を乗せてくる戦法だ

これは剣道じゃない、手合わせだからお互いの型で思いっきり打ち合う

 

「はぁっ!」

「っらぁ!」

 

振り下ろされる一撃を受け止めるが、めちゃくちゃ手が痺れる!

祟り神何かよりももっと強く見える……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、クソっ!」

「おら、もっとかかってこいよ」

 

打ち合ってから三十分以上はやり合ってる

お互い本気でやり合ってるっていうのに父さんはなんで息が切れてないんだよ!

 

「うぉぉ!」

「ふんっ!」

「ちっ!」

 

どこから攻めても防がれる

……もう一度考えてみるんだ

何が強さの源になるのかを

敵は目の前にいるが、待ってくれてる今しか出来ないんだ

目を閉じて思い浮かべろ

俺が何を守りたいのかを!

 

『久遠!』『智之!』

 

「これが、俺の力だぁ!」

「ほう……」

 

だけど、その一撃も弾き飛ばされてしまった

これでもダメってなるともう何にも……

 

「さっきの一撃は良かった。何を思い浮かべた」

「……ムラサメ」

「それは智之様がいるからって訳じゃないよな?」

「……ああ、智之様と俺の名前を呼んでるのが思い浮かんだ……」

「……くくっ、あーはっはっは!!結局は俺らの一族はみんな同じってことだな!」

 

みんな同じ?

ってことはお祖父ちゃんも曾お祖父ちゃんも御先祖様もみんな好きな子のために強くなったってことなのか!?

 

「腹減ったな、今日は外で食べてくか!」

「さすがに俺も父さんも今日はご飯作る気力ないだろ」

「おう!そういうことだ!久遠は何食べたいんだ?」

「すぐには決まらねーよ、少しは考えさせてくれ」

 

これで少しは強くなったのかな

それにしても智之様と同じで俺はムラサメのことが……

いや!考えるのはやめだ!そういう気持ちは全部終わってからだ!




もう少しで新年になりますがこれからもなるべく早いペースで書いていくつもりです
今年もあとわずかですがお付き合いお願いします


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第8話

読んでくださる方が少しでもいることが励みになります…!
これからもよろしくお願いします!


 

朝早く、朝食を食べる前に動きやすい格好になってっと

なんか最近走ってなかったから訛ってるかもな

 

「なんだ、早朝ランニングか?」

「朝手伝ってなかったときしてたろ、今はそんなに忙しくないしな」

「そうか、気をつけてなー」

 

祭りとかこの街が繁忙期になるとうちもかなり忙しくなるけどそれが過ぎると地元民からの依頼しかないからな

朝は俺もやることないし放課後も本当に必要ない限りは遊んできてもいいって言われてる

だから朝はランニングしているんだ

 

……なんだ?今ムラサメが怒ったような気がしたんだけど……

ま、どうせ将臣が貧乳派じゃなく巨乳派とか言って怒らせたんだろうな、きっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランニングを始めてから結構経つが体力も落ちてなさそうで何よりだ

これならまたペース上げてレベルアップしていこうかな

ん、浮いてる女の子にひとりの男子といえば

 

「よっす。将臣、ムラサメ」

「く、久遠!?」

「おはよう、こんなところで何をしておるのだ?」

「ランニングだよ、少しでも身体を鍛えないといけないからな。そんな二人こそ何してんだ?」

「ほら、ここの景色って都会じゃ見れないだろ?それに空気も綺麗だからちょっと散歩に」

「そこが田舎のいいところでもあるからな。それじゃおれは行くから、また学院でな」

 

将臣はあんなこと言ってたけど本当は違うんじゃないか?

でも何をしようと個人の勝手だし詮索する必要もないけど……気になるな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり久遠も鍛えてるんだな」

「それに昔からのようじゃな、感心感心」

「でも久遠は強いのになんで今も鍛えてるんだ?何か強くなる必要でもあるのか?」

「ん?ご主人は知らんのか?操真家の言い伝えでな、強い武器を作るためにはまず自分が強くならないといけないという言い伝えがある。と言っても智之の阿呆が考えたことでな」

 

強い武器を作るために自分も強くならないといけない……か

何となくだけどわかるな

 

「ご主人、そろそろ行かないと。玄十郎も待っておるぞ?」

「そうだな、早く行かないと!」

 

追いつくのにどれぐらいかかるかわからないけど、久遠には負けないようにしないとな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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退屈な学院も終わり、俺は今は暇を持て余している

今は特に大きい依頼もなければ、あっても皿とかうちでは簡単に作れるものばかり

正直言うとこのままじゃ収入が少ない

でも時期が時期だから仕方ないし、また観光客が賑わう時期になったり祭りが始まればそれなりに稼げて黒字になる

まあ、お金のことは何にも心配はないんだけど

 

それより今の俺のことだ

何もやることが無いぞ

田心屋は……週三って決めてるから今日行ったらあとが行けなくなるからやめとこう

となると剣の鍛錬でも……

 

「わっ!」

「どわぁぁ!?」

「いつもは気配に鋭いというのに考え事しておる時に脅かしがいがあるのは変わらんの〜」

「それでも上から来るのは反則だろ!」

 

後ろからなら足音でわかるけど上からじゃ声かけられるまでわかんねーって普通

 

「それで何を考えておったのだ?」

「いや、特にやることないから何をしようかと」

「そんな事のために無駄に集中しておったというのか」

「いいだろ別に」

「それよりも暇なのか……うむ!吾輩が話し相手になってやろう!」

「おう、それは助かるな。それにムラサメと話すのも久しぶりで楽しいし」

「吾輩も楽しいからのう、では久遠の部屋へ向かうぞ!」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで俺の部屋に来たんだ?

でもムラサメは普通の人には見えないから俺が独り言言ってる痛い人みたいに見えるのか

そう考えると俺の部屋の方がいいのか

 

「殺風景な部屋じゃな、他に何かないのか?」

「あるのはここの漫画だけだ、他は教科書とかそんなもんだ」

「もっと趣味とか作ってみたらどうだ?」

「甘いものを食べ歩きするっていう立派な趣味があるんでね。お金かかるから食べ歩きは月一だけど」

「そうか、久遠は生まれ変わりだから食べることも出来るのか……」

「そうか、お前は魂だけだもんな。すり抜ける以上食べることも出来ないのか」

 

これはちょっと申し訳ねぇな

こういう気の回らなさは本当に俺らしい

 

「うむ……さすがに興味が無いわけではないからな。生前と比べるとどう違うのだ?」

「そうだな……俺の母上の料理よりは何倍も美味い料理がたくさんって言ったらわかるか?」

「智之の母上殿の手料理……あれはとても美味しかったがあれよりも美味しいとはな……」

「余計気になるようにしちゃったか。ならお詫びがてらにムラサメもどうすれば食べ物を食べれるようになるか考えておいてやるよ」

「そんなこと出来るとは思わないが、期待しないで待っておるよ」

 

俺や将臣はムラサメに触れられる

これがなにか直接的なヒントになってくれればいいんだけ

 

「あっ、そういや将臣は朝本当に散歩目的でいたのか?」

「すまぬがその事はご主人から口止めされていてな」

「やっぱりそうだよな。素直に言えるならあん時隠してないか」

「いずれわかるだろうからその時まで待っておくれ。久遠ならすぐバレそうじゃがな」

「あまり俺を買いかぶるなって」

 

手がついついムラサメの頭に伸びる

なんかクセになってるんだよな

 

「こうやって撫でられると、つい人の温もりを思い出してしまうな」

「俺と将臣以外には触れられる人はいなかったのか?」

「姿を見ることは出来ても、触れられることはなかったのだ」

「……そうか」

 

少ししょんぼりとした顔になったからついわしゃわしゃってしてしまう

 

「コラ!もう少し丁寧にやらないか!」

「将臣にも言えば断らないだろうし、今は俺もいる。だから人の温もりが恋しくなったらいつでも言えや」

「久遠……そうだな!ご主人にはプルンプルンの方が好きとか言ったからその罰で、久遠には生まれ変わる今までの分撫でてもらわんとな!」

「将臣……そんなこと言ったのか……。それはいいとして、いいぜ。この数百年分はちゃんと埋めて、それからあとだっていつでも撫でてやるよ。また俺との約束だ」

 

約束があればこうしていつでも出会えるんだ

例えそれが何年と間が開くことになっても

 

「うむ、約束だな。む、ご主人が移動しよるな、吾輩もそろそろ帰るとしよう」

「もうそんなに時間経ったのか、今日はありがとな」

「吾輩も楽しかったぞ。ではな、久遠」

 

そのまますぅーっと消えてしまった

こうして長話したのは随分と久しぶりだったな

 

「おい久遠、一人で喋ってたってことはさっきまであの子がいたのか?」

「ああ、なんか悪いな。独り言聞かせてたみたいで」

「いや、お前の楽しそうな声が聞けて何よりだ。廉太郎君や小春ちゃんとは遊んでたようだけど、小さい頃から俺の仕事ばっかり見てたもんな」

「そういやそうだっけな」

「だからお前にはもっと友達と遊んで欲しいと思ってるんだよ。この仕事の道は何年とかかるんだしな」

「わかった。それに今の学院生活は楽しいからな、友達だって沢山いるし」

 

そうだな、もう少しは鍛治の事じゃなく、友達と遊ぶことも考えてみるか

今の時間は今しか過ごせないんだからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、身体中が痛い……」

「お、おお。随分と打ち込まれたようだな、ご主人」

「明日は身体中が悲鳴をあげてそうだ……ムラサメちゃん、なんか機嫌良さそうだけど何かあった?」

「そうか?先程まで久遠と話をしておったのだが」

「きっとそれだと思うよ。久遠はムラサメちゃんと昔からの付き合いだったんだろ?だからきっと懐かしくなって機嫌もいいんだよ」

「ふむ、そんなものかのう」

 

話してる時に昔のことも出てきておったし、懐かしくも思った

それにあの温かさも懐かしくもあったな……




将臣が玄十郎に特訓してもらうところまで来ました
レナが登場するまでもう少しです


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第9話

これが今年最後の話となります!
皆様良いお年をー!


「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

ここ数日で少しずつペースを上げていってるが特にキツイと感じることは無い

むしろ気持ちよく走れている感じがする

さて、あとは学院周りを走って帰るとするか

 

それなりのペースで学院に着いた時に人がいることに気がついた

こんな朝早くから誰かいるのか?

少し覗いてみよう

 

「あれは……将臣と玄十郎さん?」

 

やってるのは……基礎トレーニングだな

でも俺よりも厳しい気がする

ちょっと挨拶していくか

 

「おはようございます。玄十郎さん、将臣」

「おお久遠君、おはよう」

「はぁ……はぁ……おはよう、久遠」

「お疲れさん、これってトレーニングですか」

「うむ、将臣から言い出したことでな」

「祟り神と戦う時、俺だけ足を引っ張るわけにはいかないからな。協力するって、自分の意思で決めたんだ」

 

将臣の言葉から意思が伝わる

なるほど、これは見どころのありそうだ

 

「あっ、だけどこのことは朝武さんたちには……」

「ん?ああ、内緒にしててやるよ。こういうのって周りに知られたくないからな。っと、俺はここで失礼します」

「気をつけて行くんだぞ」

「はい、ありがとうございます。将臣、学院でな」

 

こりゃ俺も負けてられないな

今は実力差があるとしても、このままじゃ抜かされちまうかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もうチャイムの時間ですね。それでは今日はここまでです」

 

さーてと、今日も授業が終わった終わったー

学生にとってはこの開放感がたまらん!

 

「それでは、みなさんまた明日、くれぐれも事故に遭わないように気をつけてください」

 

周りのみんなも帰り支度をしてたり、すぐに教室を飛び出したりしてる奴もいる

そんな中、将臣が朝武さんに何かを聞かれてたけど逃げるようにして教室から出ていった

あの様子からだと放課後にも玄十郎さんとトレーニングしてるんだな

で、それを隠すためにさっさと出て行ったと

 

「……あやしい……」

「どうなされたんですか?巫女姫様」

「いえ、有地さんが何かあやしいんです」

「ふむ、確かにあの行動じゃあやしいでしょうな。ですが気長に待ってみてはいかがですか?」

「操真君は何かご存知ですか?」

「いえ、俺は何も」

 

嘘をつくのはちょっと罪悪感というか、悪い気がするけど将臣との約束だからな

男同士の友情ってやつだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は田心屋に行く日だ

この日は俺にとっての至福のひととき

さぁて、何を頼むか今から決めておくかなー

む、上からまた気配がする

 

「久遠ー」

「なんだ、今日は驚かせに来たんじゃないのか」

「お主に一度やったことは効かないじゃろ?小さき頃同じことをしたら二度目は全部通じなかったのを覚えておるからな」

「五百年前というのによく覚えてるな」

「それは……久遠、智之との思い出だからな。忘れることは出来ぬ」

「そ、そっか。俺じゃなく智之様って言うのはわかるけどなんか俺も照れるな」

「久遠と智之は今や同じ存在だ、つまり吾輩が智之と過した時間は久遠の過去でもあるのだぞ」

 

魂の一体化、生まれ変わり

だから俺の過去は生前の智之の過した日々ってことでも同じになるって言うことか

 

「というか将臣についていなくていいのか?あいつはお前のご主人だろ?」

「久遠は知っておるが朝と夕方は鍛錬をしておってな。それで、今日も暇なのか?」

「いや、今日は週に少ししかない日だ。田心屋、甘味処に行くんだ」

「甘味処かぁ、でも吾輩は食べることは出来んからな……」

「……そうだ!」

「どうしたのだ?」

「甘いものを食べてる時の俺はいつもよりも深く考えられるんだ。それに目の前にお前がいれば前に約束した食べさせてやるってことでいい案が思いつくかもしれない!」

 

俺は何か考え事をする時だいたい甘いものを食べてるからな

それに糖分は脳を活性化させるらしいし

 

「ふむ、それじゃついて行くとするかのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

「こんにちは、芦花さん」

「くーちゃんいらっしゃい。今はあまり人がいないしお好きな席でいいよ」

「ありがとう」

 

俺は入口に近い席に座る

目の前にはムラサメが座ってる

なんか一人じゃない時って珍しく感じるな

 

「くくっ、くーちゃんとはな」

「やめろ、笑うんじゃない」

「でも合っておるぞ?久遠は少し女子の顔つきじゃからな」

「うっせ、これでも父さんじゃなく母さん似で良かったと思ってるんだから」

 

父さんに似たら今頃暑苦しい顔になってたかもしれないな

多少女の子顔だ中性的だ言われようがそっちの方がましだ

 

「芦花姉ー」

「はーい、ご注文をどうぞ」

「今日はわらび餅と抹茶で。あとそれとお持ち帰り用のパフェを二つ」

「二つ?一つじゃなくて?」

「ちょっと夜に考え事する予定だから。俺が考え事する時は決まって甘いもの食べるのは知ってるでしょ?」

「そういうことね。でもあまり糖分取りすぎて糖尿病とかになっても知らないよ?」

「だいじょーぶ、糖分は俺の生命エネルギーだから」

「はいはい、ちょっとまっててね」

 

でも確かに糖尿病とかになったら怖いな……

でもうちの一族ってみんな甘党のくせに健康体なんだから俺も大丈夫……なはず

 

「一つは父上殿へのお土産でわかるが、二つ目は本当に自分用なのか?」

「何言ってる、お前用だよ」

「本気で考えるつもりなのか?」

「当たり前だ、成功するか失敗するかわからねぇのに挑まないのは初めっから負けだ」

 

これは鍛治職人の魂、というか俺が決めてることだ

まず何事にも挑まなければならない

成功しようが失敗しようがそれは経験になる

でも挑まなければ何にもならない

だから俺が死ぬようなことだったり、とてつもなく危険なこと以外はだいたい挑むようにしてる

 

「お待たせしました。わらび餅と抹茶です。パフェはいつも通りに渡すからね」

「ありがとね」

「それではごゆっくり〜」

「さてと、いただきます」

 

まずムラサメが触れるものを考えるんだ

俺と将臣は触れられる、けど巫女姫様や常陸さんは触れられない

他にも物はすり抜ける……か

 

「ムラサメ、俺と将臣以外にも触れられる物はないのか?それか俺たちが関わるものとか」

「そうじゃな……そういえばご主人の服は掴めてたな、もちろん着ておる時だけじゃが」

「じゃあ今の俺の服は掴めるか?」

「うむ、掴めると思うぞ。ほれ」

 

確かに服は引っ張られてる

つまり身につけてるもの、触れる人が関わればムラサメも触れるってことか……

 

「何パターンか試してみる価値はありそうだな」

「本当に思いつきおったのか!?」

「ああ、どれも試してみる価値はある。俺の部屋で実験だ」

 

ちょうどわらび餅も食べ終わった

本格的なわらび粉を使ってるし上質な砂糖を使ってるこの品はかなりこだわってる物だ

さすがおじさんだな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用意するものはパフェとスプーン

というかこれしか必要ない

 

「さて、実験を始めるか」

「何やら物騒な言い方じゃのう……」

「まあ、そう言うな。とりあえず思いついたのは三パターンだ。一つ一つ試していくぞ」

「うむ、よろしく頼む」

 

俺には触れられる、それと俺が身につけてるものにも触れられる

このヒントによって導き出された一つ目の答えだ!

 

「俺の服にも触れるってことは俺がスプーンですくってあーんしてあげれば食べれるんじゃないかって思ってな。これが一つ目だ、やってみるぞ」

「お、おぉ……あ、あーん」

 

差し出したスプーンにパクッと食いつくムラサメ

しかしその表情は明るくはならなかった

 

「……ぐぬぅ……」

「なんか変化あるか?」

「なんの味もせぬ」

 

なるほど、スプーンで食べさせるのは無理と

ムラサメがスプーンから口を離すけど、スプーンにはクリームが残ったままだ

 

「これはダメと」

「三つあると言っておったな?」

「ああ、スプーンが無理なら次は直接的だ」

「直接的?どういうことだ?」

「スプーンでは俺が持ってるスプーンに乗ってるクリームと間接的になってしまう。なら次は直接的にするために俺の指をスプーン代わりにするんだ」

「ふむ……つまり、吾輩に久遠の指を舐めろというのか?はしたないと思うのだが……」

「今更そんなこと気にする関係か?それに指を舐めることよりも恥ずかしい思い出もあると思うんだが」

「そう言われるとそうじゃな……ではその方法で、よろしく頼む」

 

パフェを指ですくって、ムラサメに差し出してみる

 

「ほれ」

「……あ、あーーん……ん……んんっ!?」

 

おっ、表情が明るくなったし瞳が輝いている

この方法ならいけるってことか

というかムラサメのやつ、俺の指を丹念に舐めだし始めた!?

 

「んっ、れろ、れろ、ちゅぅぅぅ……」

「おいっ!ちょっ、待て!」

「んぷ……くおんのゆび……あまくて、おいひい……れろれろ」

「くっ、くすぐってぇ……」

 

指を舐められるのって以外にくすぐったいんだな

 

「んっ……んん? ちゅぽん……ぱぁぁぁ、はぁ……はぁ……」

 

……なんか艶めかしい……それに色目も感じてしまった

 

「久遠、味がしなくなったぞ!おかわり、おかわり!」

「ああ、はいはい」

 

またパフェを指ですくうとムラサメが飛びつくように俺の指を咥えこんだ

 

「んじゅる……んっ、れろれろ……んんーっ♪あま〜ひ、ちゅ、ちゅ……ちゅぽん、ぷぁ、はぁ……」

「どうだ?美味しいか?」

「うんまいっ!甘くて美味、なんて素敵な食べ物であろうか!」

「そうかそうか、考えた甲斐があったよ」

「はぁぁ……よもやここまで美味だとは……久遠、もっともっとぉ〜!」

「わかったわかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後全部食べて、どうやら満足になったようだ

こう嬉しい顔をされたらこっちまで嬉しくなるな

 

「ところで久遠、方法は三つあったと言っておったが最後はなんだったのだ?」

「ああ、それはだな。まず、俺がパフェを食べます」

「ふむ」

「次に、俺の口とムラサメの口をくっつけます」

「ふむ?」

「最後に、パフェの中身をムラサメが舐めとります。以上だ」

「ふ……む……?久遠、吾輩の勘違いでなければ、接吻を行うことになってしまわぬか?」

「そういうことだ、だからこれは最後に持ってったんだ」

「バ、バカを言うでない!いいいいいくら久遠が相手とはいえ、せ、接吻などっ、出来るわけがなかろうか!まだするには早いわ!」

 

そうだよな、キスして食べ移しなんてさすがに俺でも抵抗があるからな

……ん?今まだ早いって言わなかったか?

 

「おい、今の最後の意味ってどういう」

「今の言葉?……なななななんでもないぞ!?」

「いや、そんな動揺されても説得力が」

「ぱふぇ美味だったぞ!いろいろと考えてくれて感謝しておるぞ!吾輩はそろそろ行くからではな!」

「お、おい!」

 

最後早口でさっさと行っちゃうし……

でもあの言葉に反応して同様してるってことは……少しは期待してもいいんだよな?




少し時系列がズレましたがムラサメちゃんのパフェの話を入れました
次こそはレナが出ます!笑


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第10話

あけましておめでとうございます!
新年一発目となります!


 

今日は土曜日

依頼された物をまとめて俺が届けに行く日だ

うちは平日で父さんが作り上げて、休日で俺が届けに行くようになってる

それでも上手く連携が取れてるってことだ

 

「次は……向こうに行ったところか」

「あのー、すみません。少しよろしいでありますか?」

「はい、なんでしょうか?」

 

話しかけられたのは金髪の女の子

歳は同じくらいかな

大きなキャリーバッグがあるが海外からの観光客かな?

 

「実は迷ってしまいまして、少し道を教えていただきたいのです」

「なるほど、わかりました。それでどこに向かいたいのですか?」

 

道に迷ってしまったのか

確かにここら辺は都会と違って目印になるものが無いからな

 

「ここなのですが、地図を見てもわからなくなってしまいまして」

「えーっと……ああ、それならそこの坂を下ればこの目印のところに着きますよ。そうすればこの地図通りすぐです」

「そうでありますか!ありがとうございます!とっても助かりましたよ!」

「いえ、俺も役に立てなら何よりです」

 

人の役に立てるのはいつも嬉しいもんだな

しかし……あの女の子から感じたものはなんだ?

そうだ、これは将臣と似たものを感じたけど……

一体なんだろうな

 

「きゃああああぁぁぁぁっ!?」

「うわああああああっ!?」

 

今のはさっきの子の悲鳴!?

それにもう一つあった!けどなんか聞き覚えがあるような……

とりあえず向かってみないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂を下ってみたらさっきの女の子と将臣、それに常陸さんがいた

二つ目の悲鳴は将臣のものだったのか

 

「先程悲鳴が聞こえたけど……大丈夫そうだな」

「さっきの親切な方ではありませんか!」

「おや、何かしてあげたんですか?」

「道案内をしてあげただけですよ。それよりも何もなさそうで何よりです」

 

どこも怪我してなさそうだし、笑顔でいるから間違いない

 

「心配をおかけして申し訳ないでした。わたしはレナ・リヒテナウアーであります」

「俺は操真久遠、よろしく」

「彼女は志那都荘の新しい従業員の方で留学のために来られたそうですよ」

 

なるほど、それで大きい荷物というわけか

 

「じゃあ、紹介も終わったようだし、これからどうしようか?旅館には三時までに行けばいいって言われてるから、まだ少し時間があるけど」

「あの……希望を言ってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。行きたい場所がありますか?」

「実は……わたし、ずっと走り回っていたせいで……昼食もまだでありまして、大変お腹が空きましたぁぁ〜〜」

 

そういや、俺もお昼食べてないからお腹空いたな

家出ててからずっと配達してたんだっけ

 

「あはは、じゃあ、どこか食事に行こうか」

「何か食べたい物はありますか?」

「スシ!テンプラ!焼き鳥!」

「寿司ならここら辺で美味しい場所知ってるが」

「意外な情報網だな、久遠って食べることすきだっけ?」

「甘いものはな。ただいろいろな所を回ってるからそれなりに情報が入るし、途中で食べたりするんだよ」

 

一回家に帰ってなんてしたら面倒だからな

続きがあろうが終わりだろうが外食する時が多いんだ

 

「じゃあ操真君、案内してもらってもいいですか?」

「ええ、もちろんです。確か次の配達場所もすぐ近くだし、先にこっちの仕事を済ませても構いませんか?」

「はい!大丈夫でありますよ」

「ありがとうございます、それでは行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配達を終えて、俺が知ってる寿司屋に入った

ここは何回かお邪魔してるから味が美味いのは知っている

 

「にぎりのセット、ワサビアリアリでお願いします!」

「俺はワサビ抜きのやつお願いします」

「あいよ!」

「おっすし、おっすし〜。お寿司が食べられるなんて感謝感電飴あられですよ〜」

 

なんか微妙に違ってないか?

 

「リヒテナウアーさんは、どうしてわざわざ日本に留学に?」

「昔から日本が大好きでありましたので。あ、レナでヘーキですよ」

「でもなんで東京とかじゃなく、わざわざ穂織に?」

「それはですねー、わたしのgreat-great-grandfatherが、穂織を訪れたことがあるのですよ」

「高祖父のことかな、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんだな」

「はい、わたしのお祖父ちゃんが、日本の話を沢山聞いたそうです。それをまた子供に伝えて。ですので、一族郎党みんな日本が好きですよ」

 

なるほどな、お祖父ちゃんとかからの話を聞けば子供なら憧れて来たくなるもんだ

 

「それでレナさんも、日本に興味を持ってここに?」

「はい!穂織では留学生の体制が整っておらず……旅館の見習いで頼み込んで、ようやく留学ができました」

「確かに、留学なんて一度も聞いた事ない話だからな。それで働きながら留学を?」

「それにわたしの家は裕福ではありませんので。働きながら留学、とてもありがたい話であります!」

「何か困ったことがあったら言って。力を貸すから」

「いつでも構いませんよ」

「もちろん俺もです。気楽に言ってください」

「はい、ありがとうございます」

「へい、にぎりお待ち」

 

おっきたきた

寿司なんて食べるのは久しぶり……だけど食べるのは少し待つか

これはただの勘しかないんだけど

 

「わお!おっすし、おっすし〜〜〜♪よっと」

「あ、お箸……ちゃんと使えるんですね」

「家でお母さんが日本の料理を調べて作ることもありましたので、お箸も慣れたものでありますよ。茶碗蒸しにカレーに雑炊、色々作ってもらいましたよ!」

「うん。むしろスプーンで食べるものばっかりだけどね」

「では、いただきます」

 

本当に箸の使い方上手だな

器用に使って、玉子を持ち上げてるし

 

「あーん……んっ、んんーー。ほんのり甘くて美味しいですね!」

「喜んでもらえてよかった」

「ありがとうございます、マコ」

 

次は雲丹の軍艦

あの勘は俺の杞憂だったか?

いやでもまだあれが乗っかってる物は食べてないから様子見だ

 

「んむ……んんー。これも美味しいですね!これはなんという魚ですか?」

「それは雲丹だね。魚ではないんだけど……英語だとなんだっけ?UNI?」

「確か……シーアーチン?」

「おー!きいたことはあります。イタリアの方でも食べられますね」

「多分それかな」

「こんなに美味しい物だったのですね。素晴らしいです!それでは、次は……これ、知ってます。イカですね。あーん──ンンっ!?」

 

こりゃビンゴだな

ワサビは無理っぽいと来た

顔は真っ赤で涙流してるほどだし

 

「とても、おいひぃ、れす……うう……」

「全然美味しそうに見えないけど……」

「もしかしてワサビ、ダメでした?」

「でもワサビ抜きを頼んだのは久遠だよな?」

「ああ、俺だ。というかこれはもしかしたらと思って頼んだんだ。レナさん、俺はワサビ平気なので交換しましょうか」

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

さて、それじゃ俺も食べるとするか

ワサビは……まぁ増し増しじゃなければ食べれるから普通に平気だ

 

「あむ……うん、これくらいの量はいい」

「久遠、こうなることわかってワサビ抜き頼んだのか?」

「いや、外国人でもワサビ平気な人はいると思うから。食べれる場合と食べられない場合どっちでもいいように俺はワサビ抜き頼んだだけさ」

 

あーお寿司美味しいー

ワサビがつーんと来るけど程よいからそれもまたいい

 

「んー!イカが美味しいでありますよー♪」

 

ワサビ抜きのイカを食べてさっきのような反応はなくなった

念の為だったけど頼んでおいてよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寿司を食べ終えて、レナさんは満足の様子

他にもやりたいことがあるけどどうやら時間が迫っているらしい

ということで志那都荘に向かっていた

 

「ここが志那都荘だよ」

「とても素敵でありますね!」

「ちょっと待ってて。人を呼んでくるから。すみませーん」

「はい。すぐに参ります」

 

そうして出てきたのはこの志那都荘の女将、猪谷さん

 

「お待たせいたしました。あ、将臣さん。大旦那さんですね、少々お待ち下さい」

「そっちもなんですけど、先に一つありまして。新しい従業員の人を案内してきました。祖父ちゃんに頼まれていて」

「そうだったんですか。お忙しい中、お手数をお掛けしました。有り難うございます。初めまして。志那都荘の女将、猪谷心子といいます」

「レナ・リヒテナウアーです。今日からお世話になります。モトコさん」

「旅館では、女将と呼んでください」

「はい、わかりました。オカミ」

 

これで案内は無事に達成出来たってことだな

 

「ん?ああ、もう来ていたのか、将臣」

「ああ、うん。ちゃんと案内してきたよ。こちらが、レナ・リヒテナウアーさん」

「鞍馬玄十郎だ、よろしく頼む」

「こちらは、志那都荘の大旦那さんです」

「レナ・リヒテナウアーであります。よろしくお願い致します」

「期待をしているよ」

「はい!わたし、頑張ります!それからマサオミ、マコ、クオン。案内をしてくれてありがとうございました。厚く怨霊申し上げます」

「すごい絶妙な間違え方だ」

「……?」

 

御礼って言いたかったんだろうな

怨霊じゃ全く違う意味になっちゃうし

 

「お気になさらず、今後ともよろしくお願いしますね」

「はい!こちらこそ!」

「俺の家は鍛冶屋をやってて他にも陶芸品なんかも作ったりしてます。良かったら遊びに来てください」

「鍛冶屋ですか?伝統がありそうで面白そうです!今度ぜひ遊びに行きますね!」

「将臣、彼女の荷物を部屋まで運べ。あの大きさでは大変だろう」

「分かった」

「今日はありがとう、常陸さん。それに久遠もいろいろとな」

「いえいえ」

「俺は楽しかったから気にすんな」

 

最初は道案内から始まったけど、なんだかんだでレナさんと話したりして結構楽しめたからな

ついてきてよかった

 

「俺は祖父ちゃんに用事があって、もう少しここに残るから。買い物に戻ってくれても大丈夫だよ。あとは俺だけでも心配ない」

「わかりました。それでは、ワタシはここで」

「俺も父さんに仕事終わったこと報告しないといけないから」

「ありがとうございました、マコ、クオン」

「お役に立てたならよかったです」

「では、ここで失礼しますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのレナさんから感じたのはなんだろう……

将臣からも似たのを感じたし、常陸さんは何かわかるのかな

 

「常陸さん、少しお話が」

「あは、もしかしてムラサメ様と何か進展がありましたか?」

「パフェを食べさせたぐらいですが……って違います!その事は掘り返さないでください!」

「ムラサメ様がパフェを食べられたのですか?さすが操真君、やりますね〜」

「だからそうじゃなくて!レナさんの事なんですが!」

 

俺にはこんな感じだけど、将臣もいじられてるのだろうか

もし違ったら俺はからかいがいがあるってことなのか……?

 

「レナさんがどうかされたのですか?」

「少し、何か特別なものを感じたんです。将臣もそれと似てるものを持ってまして、それで叢雨丸を引き抜けたってわかったんですが」

「ワタシは特に何も感じませんでしたけど……」

「つまり俺だけが感じ取れたってこと……声が聞こえるのと関係があるのか……?」

「ムラサメ様や芳乃様にもわからなければその考えで合ってるかもしれませんね」

「……わかりました。一応このことはまだみんなには話さないで貰えますか?確信がある訳では無いので」

「はい、わかりました」

 

もう少し何か確証が持てるものがあればいいんだけど……

前例がないこんな場合じゃ答えが見つかるまでは何もできないか

とりあえず、時が来るまでは待つべきか




ということでレナが出てきました
これでメインヒロイン全員出てきました
あとはどう√混ぜてくかな…


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第11話

月曜日、今日は学院で少し変わったことがある

そう、レナさんが転入してきたんだ

 

「レナ・リヒテナウアーと申します。気軽にレナって呼んで下さい。子供の頃から日本に憧れていました。夢が叶ってとても嬉しいです。いたらぬところも多々ありましょうが、よろしくお願い致します」

 

初めて会ったときから思ってたんだけど本当に日本語上手だな

ちょっとおかしい所を言ってたこともあったけど、それだけ勉強したんだろう

 

「フフッ」

 

おっ、目が合ったら嬉しそうに笑った

それから小さく手を振ってきたからこっちも振り返してあげた

 

「リヒテナウアーさんは、旅館で働きながら留学をしているそうです。困っていることがあれば、ちゃんと力を貸してあげてくださいね」

「よろしくお願い致します!」

「ここの生活はどう?」

「日本の部屋はタタリが素晴らしく、お世話になる宿にはオンネンも湧いていて、とても素敵で楽しいです」

 

祟りに怨念……畳に温泉か

こりゃ別の意味合いになって酷い訳になってるな

 

「けど、まさか留学生が働く時代になるとはなぁ……」

「これからそういう人も増えるんじゃねーの?外国からの客も増える一方だしよ」

「あ、うちも英語に堪能な人を雇うとか話してたわ、そういえば」

 

今考えると、うちはそういうの無いなぁ

弟子は取らず、引き継ぐのは決まって身内のみ

もちろん継ぐかどうかは本人の意思でいいってことになるけど俺も含め代々断った人はいないって話らしいし

英語に関しては……父さんが気合いで乗り越えてるんだっけ

母さんがいれば翻訳出来るんだけど

 

それにしても、レナさんの性格からか周りとすぐに馴染めそうだな

これならなんの心配もいらないか

 

「はい、質問はそこまで。何か気になることがある場合は、休憩時間にして下さい」

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩時間になると、レナさんは常陸さんに駆け寄った

常陸さんのそばには当然巫女姫さまがいて、その三人を囲うように女子たちが集まる

……なんか、将臣が転入してきた時とは違うな

 

「どうした、将臣。レナさんが羨ましいのか?」

「なんでそう思うんだよ」

「だってお前の時と違って、賑やかじゃねーか」

「それは言わないでくれ……俺もそう思ってたんだから」

 

ま、男子と女子とじゃ違うからな

仕方ないもんは仕方ない

 

「ひゃっ!?」「きゃぃっ!?」

 

なんだ?今巫女姫様とレナさんが握手をしようとしたら、何か強いものを感じたんだが……

でもそれも一瞬だけだったが、なんだったんだ?

でもそのあとは普通に握手を交わしたし、静電気か何かか……?

 

「でも、やっぱり外国の人は違うよね……特に凸凹とか」

 

確かに、外国の人なのか、スタイルがいいよな

昔から今の記憶を辿ってもそんなスタイル持ってた人なんて日本にはいないし

と言っても俺や智之様が穂織から出てないから女性をあまり見ないってのもあるが

 

「……おい将臣、視線が釘付けになってるぞ」

「はっ!?そ、そんなことないぞ!?」

「図星だろ、それにお前ペッタンよりもプルンプルンの方が好きだもんな」

「はぁ!?お前何を!てかムラサメちゃんから聞いたな!」

「さぁ?なんの事かな?」

 

そう言ってたのは事実だし今もじっくり見てたんだからそういうことだろ

でもムラサメはチッパイやら新しく言われてまた怒りそうだな

賑やかな女の子のやり取りを聞きつつ、将臣と話してると廉太郎が近づいてきた

 

「……なーんか楽しそうだなぁ。お前、祖父ちゃんに言われてあの子を案内したんだよな?」

「そうだな」

「俺も流れでいたけどな」

「なんで久遠もそこにいたんだよ!?……いいなー。俺が案内したかったなー……祖父ちゃん、なんで俺にいってくれなかったんだ?もし案内させてくれたら、今頃は……」

「お前がそうやって、いつも女の子の尻ばっかり追いかけてるからだってさ。旅館の宿泊客にまで手を出したんだって?かなり怒ってたぞ」

 

あー、そりゃ頼まないわな

というか宿泊客にまで手を出すとか……

なぜ学習をしないんだ……?

 

「あ、やっぱその件、まだ持ち出されてる?」

「この先もずっと忘れてはもらえないと思うぞ?」

「かわいそうだな……お前が悪いけど」

「マジかー……」

「まあ、レナさんならすぐに、友達として普通に仲良くなれると思うぞ?」

「そうだといいんだけどなぁ……」

 

廉太郎は何かとやらかしてるからな

最近来たばっかりの将臣は知らないんだろう

廉太郎がレナさんに視線を向けると、案の定周囲から冷たい視線が返された

 

「やだー、鞍馬君が見てる」

「きっとレナちゃんのこと狙ってるのよ。気を付けて、鞍馬君は女誑しの遊び人だから」

「オンナタラシ?なんですか?」

 

早速、レナさんに変な情報が渡ってしまったな

廉太郎ドンマイ、俺からはそれしか言えん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が始まり、さっきまでの喧騒はなくなって静かなものだ

正直この静かな空間が心地よくてつい眠くなる

そういや、今は日本史の授業だがレナさんはわかるもんなのか?

いや、むしろ興味を持つものかもな……

 

「おぉー、ふむふむ」

 

なんだ、やっぱりこういうことに興味あるのか

日本に憧れてたんだし、日本についていろいろ調べたいよな、俺も刀とかについてよく調べたし

 

「有地君」

「………」

「有地将臣君?」

「はっ、はいっ」

「調子が悪いんですか?」

「いえ、そういうわけではありません」

「でしたら、授業に集中するように」

「はい、すみません」

 

将臣が注意されるとはな

これも玄十郎さんとの特訓によっての疲れが来てるのかもな

そんなこと考えてるが、俺も正直眠い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、やっと終わったー」

 

すっげー眠いし、ご飯食べたあとなんて本当に辛いからな

でもそれを乗り切ったあとの開放感はたまらない

 

「それではみなさん、オタッシャデー」

 

そっか、まだまだ学ぶことが多いんだな

それでレナさんは急いで帰り支度をしてたわけだ

俺はというとすっごくゆっくり帰り支度をしている

田心屋には行ったばかりだから今日は本を読むか剣の鍛錬か……今祟り神に近いものを感じたぞ!

でも確認するには……そうだ、巫女姫様だ!

耳が生えてればわかるはず!

 

「教室には……いないか」

 

もう帰ってしまったのか?

ならとりあえず今夜山に入ってみるか

祟り神が出てもあの強さなら俺なら勝てるし都牟刈村の力も前よりは増幅してるはず

油断さえしてなければ負けることは無い

と思ってたら、ちょうど巫女姫様が教室に入ってきた

 

「巫女姫様」

「操真君、どうかしましたか?」

「小声で申し訳ありませんが、それが生えてるということは今夜ですか?」

「そういえば……今まで指摘されてませんでしたが、操真君もムラサメと話せますし、見えてたんですね」

「ええ、一応ですが」

「さっきのことなのですが今夜お祓いがあります」

「いつもの時間に向かえばよろしいですね?」

「はい、お願いします」

「わかりました、ならこれで失礼します。また後ほど」

 

何度目かになるお祓い

最初は反対されてたけど、今となっては俺もついて行くことになっている

さて、帰ったら準備しなければな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、俺は巫女姫様たちと共に山の中に入っていた

準備は万全で、いつ都牟刈村を抜けてもいいように周囲に気配を巡らせてる

こう緊張感がある中だというのに……

 

「……ひょわ!?なにか音がしたぁっ!?」

 

これだもんな

子供の頃、とある夜に怖がって俺にしがみついていた頃を思い出す

 

「何を笑っておるのだ!」

「いや、昔のことを思い出してな。あれはいつだったか……怖くて俺にしがみ──」

「何を言っておるのだー!」

「それってムラサメちゃんと久遠の昔話か?気になるな」

「そうか?なら今度話してやろうか」

「恥ずかしいから話すでない!」

 

さっきの緊張感ぶち壊しだな

今回は俺が原因かもしれなかったけどな

 

「祟り神はまだ来そうにないかな?」

「よ、よし、歌でも歌うか!」

「かごめかごめは止めてくれ」

「とおりゃんせ、とおりゃんせ〜、こ〜こはど〜このほそみちじゃ〜」

「なんでそんな昔の歌なんだ?」

「だって吾輩そういう歌しか知らぬのだぁ〜〜〜!」

「怖いなら、叢雨丸に宿っておくか?それなら少しはマシになるだろ?」

「なんと……っ、ご主人……天才であったか」

 

それでいいのかよ……

なんともあっさりした解決方法だな

 

「いや、そんな大層なことは言ってないと思うが……臨戦態勢は整えておいた方がすぐに動けるからな」

「よし。ではしよう、今しよう、すぐしよう」

 

将臣が叢雨丸を抜くとムラサメの姿が消え、叢雨丸にオーラが宿る

そしてすの直ぐに、藪をかき分ける音がした

……近づいてきているな

 

「この音は……来ましたね」

「わかってる。有地さん、操真君、気を引き締めて下さい」

「うん、わかってる」

「俺はいつでも戦えます」

 

都牟刈村を鞘に収め腰にさしたまま、右手は柄を握れるようにする

 

「決して油断はしないように、お願いしますね」

「………」

 

心を落ち着け、いつでも動けるように

けれど今回は、少しだけ確かめたいことがある

たった少しの期間だけれど将臣がどれだけ強くなったかだ

将臣がそれだけの力を手にすれば、連携をとりこれからのお祓いがより早く済み、怪我人も出る前に終わらせれるだろう

 

祟り神が現れ、そいつが将臣に飛びかかる

 

「有地さん!?」

「──逃げてッ!」

 

巫女姫様と常陸さんが叫ぶが、将臣は動かない

思考が停止してやがるのかと思ったが、それは違ったようだ

触手とすれ違うようにして前に飛んだ

玄十郎さんに打ち込まれたのが身体に染み付いて反応したんだな

そのまま勢いを殺さずに、斬りかかる

 

「いやああぁぁぁぁぁぁッ!」

 

ふむ、この成長ぶりなら今後ももっと成長してそうだな

さすが玄十郎さんの特訓だ、レベルが違う

 

『ちゃんと祓えておるから安心しろ。見事だったぞ』

「ああ、ちゃんと身体に叩き込まれてるようだな」

「そ、そうか………………よしっ」

 

成果を実感できて喜んでるようだな

強くなることに喜ぶのは当然だ、俺だってそうだった

 

「さて、戻るとするか……ん?なんだ?」

 

今一瞬声が聞こえたような……でも小さすぎるし、ノイズのようなものだった

でももう聞こえないし、気にすることでもないか

 

「有地さん」

「え?あ、はい、なんでしょう?」

「本当に大丈夫なんですか?どこか怪我は?」

「大丈夫だよ、どこも怪我はしてない」

「それならいいんですが……何してるんですか、もう!あんな風に先走るなんて!」

 

巫女姫様は少し心配し過ぎな気がするが、俺が口を出すことではないか

 

「久遠、今さっき一歩も動いていなかったが、ご主人を試しておったな?」

「その通りだ、でも本当に危なかったらちゃんと俺が斬ってたさ」

「それはわかっておるが……まだ久遠のようにとはいかんのだぞ?」

「わかってるって。でもあの成長ぶりなら文句はない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山を降りた後、少しだけ巫女姫様の家に上がっていた

お祓いをした後の一息みたいなもんだ

 

「お疲れ様でした」

「おつかれ様。それじゃあ俺はもう休むよ」

「ご主人、寝る前にちゃんと湯浴みをして、穢れを洗い流すのだぞ」

「わかってるよ。あの……申し訳ないんだけど」

「構いません、先にお風呂を使っていただいて」

「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。ふぁ……あああ〜〜……」

「やれやれ、湯殿の中で居眠りせぬように、見せておいてやるか」

 

……なに?ムラサメと一緒だと?

俺も一緒に風呂に入ったことなんてなかったのに……って何を考えてるんだ俺は

 

「それでは芳乃様、ワタシも失礼いたします」

「俺もここで失礼します」

「……あーやーしーい」

「はい?」

「あやしい……というと?」

「茉子の物わかりがよすぎる。それに……二人で怪しい会話までして、まるで通じあってるみたいだった。それに操真君はなんか全部わかってるような顔してたし。なにか私に秘密にしているのことがあるように見えたもん」

 

なんか喋り方が子どもっぽいな

これが巫女姫様の素の姿ってことかな

 

「あは……やはり嫉妬(ジェラシー)ですねぇ?気になっているんですねぇ?」

 

この喋り方に背中がゾクッとする

だって俺がいつもいじられてる時の喋り方にそっくりだったからな……

 

「だからそういうのじゃないってば!違う、違うけど……気にはなる。有地さんのことで何か知ってるんでしょう?」

「いえ、本当に知りませんよ。ですが、操真君はご存知なのでしょう?」

「やはり常陸さんにはバレてましたか。その通りですよ」

「それってどんなことですか?」

「俺の口からは言っては行けない気がするので、知りたいのならば明日早起きをしてみてください」

「……早起き?」

 

言っちゃあ行けない気はするけど、見ちゃあダメって言われてないからな

それにそろそろ知ってもらってもいいだろう

 



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第12話

今日は遅刻せずに学院に着きそうだな

トレーニングして、家に戻ってから父さんの仕事を見て、朝ごはんを食べてとしてたらギリギリになることが多いからな

というか技量を盗み見るのに時間がかかりすぎてるんだが

でも今日は携帯のアラームをかけたからその時間で行動できたから少し余裕が出来たんだ

というかなんで初めからこうしなかったんだよ俺は

ん?前に馴染みがある四人が何やら話してるぞ

 

「おはようございます。みんなして何を話してるんです?」

「おお、ちょうど良いときに来おったな久遠。この欠片から何か聞けんか?」

「欠片?」

「これなんだけど」

 

そう言って将臣が持ってる欠片を見せてもらった

目をつぶり欠片に意識を向ける

……ダメだ、小さすぎるのか声というよりノイズにしか聞けない

でもこの感覚……そうだ、将臣とレナさんに少し似てる気が……?

 

「‪操真君‬、何かわかりましたか?」

「すみません、こう小さすぎるとノイズにしか聞こえなくて……でも将臣の持ってる気配に似ているものを感じたんですよね」

「それってさっきムラサメ様も仰ってましたね」

「そうなのか?」

「うむ、それにお祓いをした後に拾ったらしくてな。何か祟り神が関係しておるかもしれんと思って、駒川の者に預けるのが良いと話しておったのだ」

 

駒川……確かみづはさんの家は元は陰陽師だったなんて昔の資料に載ってたのを見たことがある

それに今は穢れや呪詛にも調べてるんだっけ

 

「それで、今からみづはさんの所に行くのか?」

「ああ、呪詛に関係があるとしたら一刻も早く動いておきたいからな」

「そうか、なら俺もついていく。俺も気になるしな」

「わかった。それじゃあ行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは確かに気になるね……ちょっといい?」

 

みづはさんが欠片を指でつまみ、光に透かしながら様々な角度から観察をする

こうしてみると、なんの変化もないただの欠片にしか見えないが……もうちょっと大きければ何かしら聞き取れたかもしれないが

 

「見た目は……水晶のように見えるね。特に変わった点は見当たらないけど。この欠片に対して、有地君は何か感じたりする?」

「感じるって言うほどじゃないんですが……気になります」

「具体的には?」

「ずっと眺めていたくなるような感じがして、手元に置いておきたい気分になります」

「芳乃様と常陸さん、それに操真君は?」

「ワタシは……なにも。小さいですけど綺麗だと思います。そんな感想ぐらいしか……」

「私も特には……」

「詳しいことはよくわかりませんが、将臣と似た気配を感じました。ただその欠片が小さいせいか微々たるものでなんとも……」

 

こいつが完成されたものなら声も聞けるだろうし、将臣との関わりがあるかわかるんだけどな

でも欠片ってことはほかにも落ちてるってことだろ?

お祓いの時に見つけた……山にほかにあるかもしれないってことは少し調べる価値はあるな

 

「そうか……実際に触れてみても、何も変わらない?」

「俺はさっき試してみましたが何も起きませんでした」

 

みづはさんは常陸さんに欠片を渡し、受け取った常陸さんは手の平で転がすように確認してみるが、不思議そうな表情が変わることはなかった

 

「残念ながら、やはりなにも。芳乃様は如何ですか?」

「えーっと……」

 

巫女姫様が、常陸さんの手の平の上に乗った欠片に手を伸ばし、指で掴んだ瞬間──

 

「んきゃっ」

「よ、芳乃様!?どうされました!?」

「なにかありましたか!?」

「い、いえ、すみません。ちょっとビリっとしただけです」

「静電気……でしょうか?ワタシの方は、特に何も感じませんでしたが……」

 

今のはどこかで……

そうか!レナさんと握手をした時もこんな感じだった!

でも材料が足りなすぎる……何かを判断することはまだできない

巫女姫様も次は普通に摘むことができてる

あれは一回だけなのか……?

 

「祟り神の影響を受けた欠片ならば、耳が生えるやもと思ったが……反応なしか」

「祟り神とは関係がないんでしょうか?」

「もしくは、反応しない程度の弱い関係だった、という可能性だな」

「意思があれば木とかでも声が聞けるんだがな、ノイズにしか聞こえないということはその考えもあるだろう」

「……もしかしてムラサメ様?なんて仰ってる?」

 

そういやムラサメは普通の人には見えないんだっけ

 

「耳が生えないので、祟り神とは関係ないか、反応しない程度の物か、どっちかだろうって」

「そう……本当に何もありませんか?どんな些細なことでも構いません。調べるのはこれからです。気のせいかも、なんて気にせず、何でも言っておいて欲しいんですが」

「そうですね、強いてあげるのなら……なんだか安心できるかもしれません。安堵……というと大げさになるので、そこまでではないんですが……」

「安心……」

「ワタシの方は、本当に何も感じません。芳乃様の気持ちは、有地さんが感じたものと……少し似ているかもしれませんね」

「俺は先ほども言った通りです。それがもう少し大きければ何か違うかもしれませんが」

「とにかくこれは、私の方で預からせてもらって構わないね?」

「もちろん。そのために持ってきたんですから」

 

一番知識があるみづはさんに預けるのが今はいいだろう

それによって俺たちではわからなかったこともわかるかもしれない

 

「ただ……申し訳ないが、すぐには結論は出ないだろうね。医者の仕事を放り出すわけにはいかない。少し調べる時間が欲しい」

「はい、それはもちろんです」

「それじゃあ、まずは普通の鉱石かどうかも調べて……。拾ったとき、落ちていたのはこれだけ?他には気になるものはなかった?」

「え?あー……どうでしょう?なんとなく拾っただけですから……」

「場所は覚えてる?」

「大まかには。でも、細かい場所となるとちょっと……、何かきになることが?」

「これと同様の物が他にもあるのか?あるなら沢山?これが欠片なら、欠け落ちた元がある?疑問は色々とある。せめてその付近だけでも調べてみた方がいいかと思ってね」

 

場所となると俺もあまりは覚えてないな

なんにしろ田舎の山だ、似てる箇所もあるし

 

「恐らくですが、これは元があると思います。この欠片が一つしかなく、完成されてるものなら声が聞けるはずです。しかしそれがノイズで聞き取れないってことはこれが何かの一部ってことが考えられます。ですが他の欠片がどこにあるかまだはわからないし、この欠片が落ちてた場所も細かいところまでは……」

「ワタシ、覚えてますよ。この前祓った場所ですよね?今から調べてきましょうか?」

「いや、場所さえ教えてもらえれば、折を見て私が──」

「吾輩が行こう」

「ムラサメ様がですか?」

「……?」

「アレだけ小さな欠片だ。場所を特定して見つけるのは、容易ではあるまい。だが吾輩なら、微弱とはいえ、気配を感じることができる」

「待てよ、お前一人にそんなことさせられねーよ。俺も行く」

「心配してくれるのはありがたいが、吾輩は祟り神には狙われん」

「それは、そうだけど……」

 

昔みたいにこいつにばっかり押し付けることしかできないのか……?

俺は……何もできないのかよ……

 

「久遠、それは違うぞ」

「……え?」

「今も昔も、吾輩が適任だと思ってるから言ってるのだ。久遠には久遠が出来ることをすれば良い」

「ムラサメ……」

「だから、吾輩に任せよ」

「……ああ、わかった。でも俺も放課後手伝う。夜にならない時間までなら俺も、何かできるから」

「やれやれ、一度言い出したら止まらぬからな。危ないことはするでないぞ」

 

そう言ってムラサメの姿が消える

 

「……ムラサメ様が何か意見を?」

「いえ、欠片の件で山に向かったところです」

「ワタシの代わりに、調べてきてくださるということで」

「そ、そうなんだ……?全然見えないから。四人とも幽霊と話してるみたいだったよ。ちょっと怖かったよ」

 

ムラサメが見えてない人から見るとそうだよなぁ

俺も街で話す時には気をつけないと

 

「でもムラサメ様が調べてくれるのはありがたい。お言葉に甘えさせてもらおう。私も、資料の洗い直しに専念できるしね」

「……資料……」

「とにかく、この欠片は私が調べておく。そろそろ診療所を開けないと。学生は学生の本文を果たしなさい。もう授業が始まってる時間だよ」

「はい。わかりました」

「いろいろと、お願いします」

「それでは、失礼します」

 

俺たちが出ようとしても、将臣は動こうとしてない

 

「有地さん?」

「ゴメン。先に行っててくれないかな?ちょっと、駒川さんに用事があって。気にしないで。すぐに俺も行くから」

「そうですか……わかりました」

 

俺、巫女姫様、常陸さんはそのまま診療所を出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

診療所を出てそのまま学院に向かうかと思ったら将臣を待つことに

しかも巫女姫様が言ったんだ

どうやらこの二人は随分と仲が良くなったようだな

それはいい事なんだけど……今は、頭の中でムラサメのことを考えてしまう

クソッ、どうして(おれ)じゃなく、あいつにばっかり何かを押し付けなければならないんだ?

 

「あんまり自分を追い込んではダメですよ?」

「巫女姫様……もしかして顔に出てました?」

「はい、それはもう。先程ムラサメ様が気づかれたのも顔に出てたからですよ」

 

結構表情は出さない方なんだけどな……

こうも心配されるなんて、俺らしくねぇ

 

「でもムラサメ様だって任せてと仰ってたではありませんか。操真君が一番に信じなければいけないんじゃないですか?」

「そう……ですよね。一番付き合いが長い俺が信じてやらないといけないですよね」

「その通りですよ。あっ、有地さんが戻ってきたみたいです」

 

最近の俺はダメダメだな、気がたるんでるというか……

こっからでいい、気を引き締め直さないとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院に着き、あっという間に時間はすぎ気がつけばもう昼時

さて、弁当を食べようと思ったとき

 

「あー!しまったー!」

 

と廉太郎が一人騒いでいた

どうせ弁当でも忘れたんだろう

購買にでも行こうと教室を出た時、小春ちゃんとぶつかりそうになった

手には弁当がある

うん、優しい妹だな

 

「そういや、俺もあんな風に弁当を貰ったことがあったっけな」

 

昔のことだ、俺のためにムラサメがわざわざ弁当を鍛冶場まで持ってきてくれたんだっけ

こんな小さなことで思い出すなんてな

 

「クオンも一緒に食べませんか?みんなで食べた方が楽しくて美味しいですよー!」

 

思い出にふけっていると、レナさんが声をかけてきた

周りには巫女姫様、常陸さん、将臣、それに廉太郎と小春ちゃんの兄妹までいる

 

「お誘いは嬉しいですが、いいんですか?」

「もちろんですよ!」

 

他のみんなを見ても、嫌な顔はされてない

こういうのは、とても嬉しいものだ

 

「なら、お言葉に甘えさせていただきます」

 

こう、大勢でご飯を食べるなんて久しぶりだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はむはむ……んふっ。日本のお弁当は、やっぱり凄い美味しいですね」

「外国のお弁当って、どんな感じなんですか?」

「サンドウィッチやパスタ……カットした野菜や丸ごとのフルーツだったり……あまり彩り豊かとは言えないようなものばかりで、つまらないです」

「そういえば、日本のお弁当を見ると海外の方は驚くという話を聞いたことがあります」

 

女子のみんなが和気あいあいと喋ってるのを聞きつつ、俺は黙々と食べていた

コミュ障……って言うわけじゃないんだけど、昼はあまり人と喋らないで食べてたからな

こういう時どう話せばいいかわからないのだ

 

「クオンのお弁当はクオンの手作りですか?」

「え?ああ、俺のは一応そうですよ。といっても昨日の残り物とか入れて手間は掛けてませんがね」

「クオンは自分で料理をされるのですか?凄いのでありますよ!」

「そんなことは、うちでは父さんと交代で作ってるんです。だから特別上手いとか趣味とかそういう訳じゃないんですよ」

「要さんって料理なさるんですか?それは意外ですね」

「みんなも知っての通り、うちの父さんは大雑把だから、料理もそうなるんですよ」

「それは……わかる気がしますね」

 

元は母さんが外の方に働きに行くってことになったから、話し合って二人で家事をすることになったんだけど、料理がちょっと出来てこう話せるなんてな

複雑だけど、今のうちの環境に感謝しなきゃ

 

その後は、俺もおかずを交換させてもらった

やっぱりシゲさんの料理は美味いな、プロの味は全然違う

それに常陸さんの料理もとっても美味かったな

隣で将臣と廉太郎がゲスい話をしていたのは置いておくとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで。それでは皆さん、気をつけて帰ってくださいね」

 

先生の挨拶も終わり、みんな教室から出ていく

 

「さて、山に向かわないと」

 

日没までって時間は限られてる、急いで向かわないと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って山まで来たから、まだ時間はある

さて、ムラサメを探さないと

 

「……あっち、かな」

 

昔の感覚と、直感を頼りに山の中に入っていく

そんなしないところで、彼女を見つけた

 

「本当に来おったとはな」

「行くって言ったからな。それで、何か手掛かりは見つかったか?」

「いや、今のところは残念ながらな」

 

やっぱりムラサメでも探すのは難しいか

気配が微弱すぎるからな

 

「そうだ久遠、のいずでも構わんから聞くことは出来んか?」

「確かに何か聞こえれば欠片があることやその方角がわかったりするな。やってみる」

 

目を閉じ、声を聞くのに集中する

その瞬間──

 

「ぐっ、ぐわぁぁぁ!!」

「久遠!?どうしたのだ!?」

 

──人間など、人間などどうなってもよいではありませんか!

──姉君がそこまでするなど、私はっ!私にはもう、理解できません……

 

なんだ……誰かの声が、思いが一気に伝わってくる

 

──姉君をそのようなことに使うなッ!私を生贄に、姉君を憑依にして、呪詛を施そうというのか

──姉君がどれほどの思いで、貴様らを守ってきたと思っておるのだ!

 

姉君って誰のことだ……?憑依って何のことだ……?

 

──たった数百年で、姉君から受けた大恩を忘れ果て……我らにこれほどの仕打ちをするとはッ

──もはや許し難いッ!!決して、決して許してなるものかッ!!!

 

この声は祟り神ってことか?

それに大恩を忘れた……それが原因でこいつが祟り神になってしまったということなのか?

 

──貴方もいつか誰かを好きになったら、きっとわかるわ

 

いまの、とても優しい声なのは一体──

 

「久遠!しっかりするのだ、久遠!」

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

さっきまでの声は聞こえない……

 

「お、俺は……どうなっていたんだ……?」

「急に苦しみ出して、気が確かではなかったのだぞ……もう大丈夫なのか?」

「ああ、なんとか……」

 

呼吸が乱れてる……、汗も大量にかいてやがる

精神は無事でも、肉体は危なかったらしい

 

「祟り神の……声を聞いたんだ」

「それは本当か!?」

「恐らくな……姉君、憑依、呪詛、大恩……一体何を示してるんだ?」

「すまぬ、吾輩も呪詛について詳しくはわからないのだ」

「そうか……ぐっ……」

 

頭が痛む……

一気に情報が流れてきて処理しきれてないんだ

 

「久遠よ、今日はもう帰った方が良い。情報が手に入るのはいいが、それで久遠が倒れてしまっては……」

「ああ、すまない。だからそんな顔すんな」

 

目尻に涙を溜め、不安な顔になってるムラサメの頭を撫でてやる

 

「悪いけど今日は帰らせてもらうわ。これくらいなら一日休めば大丈夫なはず」

「うむ、こちらの方は吾輩に任せよ」

「ああ、頼んだぜ」

 

少し足取りが重いけど、その体で家に帰る

回復したら少しでも歴史書でさっきの言葉に繋がるものを探してみないと



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第13話

目覚めていつもの早朝のランニング

山で倒れかけたが、一日寝たら回復したから今では万全だ

今日は休日ということもあり、時間には余裕がある

少し早いが公民館を回って戻るか

 

「はっ……はっ……ん?」

 

人がいるが将臣じゃない……あれは

 

「廉太郎?何やってんだ?」

「将臣が剣道の練習を再開したって聞いたから確認しに来たんだけど、強制的に俺も参加させられることに……それで久遠はなんでここに来たんだよ」

「俺は早朝のランニング」

「うげぇ、お前もかよ……」

 

嫌そうな顔された

ま、廉太郎はこういうことしないからな

そう話してると、玄十郎さんが戻ってきた

 

「おはようございます。玄十郎さん」

「おはよう。いつもの走り込みかな?」

「はい。廉太郎が珍しくここにいたので、少し寄ってみました」

「廉太郎はたるんでおるからな。少しばかりの修行というやつだ」

「……玄十郎さん。せっかくなので、今日は俺も参加させてもらってもいいですか?」

「それは構わんが……久遠君ならばワシの指導などいらないと思うが」

「いえ、玄十郎さんほどの実力者の指導。確実にいい経験になると思いますので」

 

ハードなのはわかってる

それでも将臣を少しでも戦えるようにしたんだ

俺もそれを少しでも知ってみたいからな

 

「わかった。それなら将臣が来てから始めるとするか」

「はい、よろしくお願いします」

 

挨拶をして少ししたら、将臣が来た

俺がいつもの時間より少し早くランニングを始めただけだから将臣が来るまではさほど時間がかからなかったようだ

こうして俺は、将臣と廉太郎とトレーニングのメニューをこなしていった

 

「廉太郎!そこで寝るな、ちゃんと最後まで走らんか!」

「うぃーっす!……うっぷ……横っ腹、いてぇ……」

「だから休むな、廉太郎!」

「うぃーーっす!!」

「廉太郎!!!」

「うぃーーーっすっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今日はこれまで」

「は、はぁ、はぁあ、ありがとう……ございましたはぁ、はぁ、はぁ」

「ありがとうございました、今日はいい経験になりました」

 

廉太郎はかなりバテてるな

いきなりこんなメニューやりゃすぐバテるのも無理はない

俺は基礎体力はかなりついてる方だからな

 

「うむ、それは何よりだ。久遠君さえ良ければいつでも将臣の特訓に付き合っても構わん」

「はい、ありがとうございます」

「久遠、お前よくそんな涼しい顔してられんなぁ。それに将臣も、よくこんなメニューを毎日こなしてるなぁ」

「そうか?でも結構疲れたのは確かだ」

 

息は整ってるがキツくは感じた

これを毎日やるってなるとそりゃ将臣もあれだけ強くなれるのは納得出来る

 

「少しは身体も慣れてきた。それでも祖父ちゃんには、全然勝てないんだけどな。一本もまともに打ち込めない」

「お前は起こりがあるからわかりやすい。打ちたいという気が急いて、次の動作が丸見えだからな。それに対して久遠君は既に完成されておる。動作が全く読めず、常に落ち着いていて、こちらの動作を読み取られる」

 

玄十郎さん凄いな……

前手合わせしたことあるけど、それだけでそこまでわかるなんて

 

「さてと、終わったことだしそろそろ帰るか」

「そういえばお前ら、今日はどうしてる?」

「午後からは祖父ちゃんのトレーニング、それ以外は、特に用事はない」

「俺は特にないから何か作ってようかなぁって思ってる」

 

たまに何か作ることが、いずれの経験に役になることもあるからな

暇な時は剣の修行、物作り、本を読んだりして時間を潰してる

 

「たまには休んだ方がいいんじゃないの?毎日ハードなことしてたら、逆に身体を壊すぞ」

「そうだな……そんな日があってもいいかもしれんな」

「祖父ちゃん?」

「今日は足さばきと素振りだけで、軽めに終わらせてもいいかもしれん」

 

確かにその二種類なら今のメニューや聞いた夕方やってるのと比べると軽いもんだな

 

「で、遊びに行かない?祖父ちゃんの許しもでたことだしよ」

「俺は構わないぜ」

「遊びにって、どこに?」

「決めてないけど、午後は俺も暇を持て余してるから。とりあえず、あとで田心屋に集合ってことでどうだ?」

「そうだな……わかった。芦花姉の店に集合な?」

「そうだ。そういうことならば、一つ頼みがあるんだが──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝のトレーニングの後、家に戻ってから朝武さんと常陸さんの予定を聞き、空いていることを確認

次はレナさんを誘いに志那都荘へ向かう

 

「お休みですか、予想外ですね」

「というわけで、一緒に遊びに行かない?」

「そういうことであればわたし、お願いがあるのですが」

「はい、何でしょう?」

「わたし、ヨシノが着ているような服を着てみたい!折角、穂織に来たのですから」

「わかりました。では服を買いに行きましょうか」

「感謝乱撃雛あられ!それでは着替えてまいりますので、少々お待ちくださいませー」

 

そう言ってレナさんは志那都荘に戻り、少ししたら初めて会った時の服に着替えて戻ってきた

 

「それでは行きましょうか」

「あっ、服を買いに行く前にちょっといいかな?久遠も誘ってるんだけどギリギリまで作業するらしいから呼びに来て欲しいって言われてるんだ」

「確かクオンの家は鍛冶屋でしたよね?是非行って見たいです!」

「俺も初めてなんだよね、それじゃあ行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここが、久遠の家で鍛冶屋操真か……

見た目はなんというか……普通だな

とりあえず声をかけてみるか

 

「すみませーん!」

 

声をかけてみたら、中から男の人が出てきた

久遠のお父さんかな?

 

「あいよ、何か用で……おお!巫女姫さんに茉子ちゃんじゃないか!アレの調整かい?」

「お久しぶりです、要さん」

「今日は違いますよ〜」

「そうかい、ん?そっちの少年は……玄十郎さんのお孫さんだったか?それでそっちは留学してきた……レナちゃんだったよな」

「は、はい。有地将臣です」

「レナ・リヒテナウアーと申します」

「それで、今日はどうしたんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……さっぱりだ」

 

資料が足らず、山で聞いたキーワードについて調べたけど何の成果もでない……

何かしらあると思ったんだけど……いや、まだ見つけてないのかもしれない

また探してみないと

ん、外で声がする。将臣達が来たのかな?

準備はしてあるから、すぐに部屋を出る

 

「すまない、みんな来てたんだな」

「さっき来たばっかりだから気にしないでくれ」

「ここがクオンのお家なんですね!」

「そうだよ、かなり昔から続いている、伝統ある鍛冶屋だ」

「折角なので何か作ってもらいたいです!でも何にしようか迷ってしまいますね」

「うちはいつでもやってるから、作りたいものが決まったら教えてくれればいいよ」

「わかりました!その時はよろしくお願いしますね」

「承りました。それじゃあ父さん、遊びに行ってくる」

「ああ、楽しんでこいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでも田心屋に行く前に、レナさんの服を買いに行くことになってるらしい

レナさんと巫女姫様はさっそく店の中に入っていった

レナさんに合うサイズの服なんてあるのか?

だってあのでかさだぞ?

見た時外国ってスゲーなって思ってしまったよ

 

「とにかく、そっちは任せるよ」

「一緒に服を選ばないんですか?」

「そういうセンス、俺にはないから」

「俺も穂織独特のアレンジが効いたやつはあまり買わないからな、和服ならなんとかなるんだけど」

「着替えをする女の子を眺めるのも楽しいものですよ?ふふっ」

「確かに興味はあるんだけど……中が女の人ばっかりだから、ちょっと恥ずかしい」

「将臣と同じく」

 

こうも女性ばっかりだと、居場所がなく感じるからな

それに俺も将臣もいい歳の男、下手にうろつけば不審者扱いされちまうのがオチだ

 

「長くなりそうなら、その時は教えて」

「わかりました。それでは」

 

常陸さんも楽しそうに店の中に入っていく

俺は将臣と二人で店の前で時間を潰すことに

 

「女の子の服選びだから、時間かかりそうだな」

「それに今日は日差しも強く暑いしな。そこまで長引かないといいんだけど」

 

始めはかなり時間かかると思っていたけれど、一時間弱で済んだ

女の子の買い物にすれば短いほうなんじゃないかな

 

「じゃんじゃかじゃーん!着替え完了でありますよ!」

 

店から出てきたレナさんは、着替え済みで先程とは違う格好だったがとても良く似合っている

服に合わせたのか、髪型も変わってるけどそれも可愛らしくいいと思う

 

「如何でしょうか、マサオミ、クオン?変ではありませんか?」

「よく似合ってる、可愛いと思う」

「ああ、とても良いと思うよ」

「おー、ありがとうございます!褒めてもらえて嬉しのですよ、ふふふ」

 

金髪の和服美少女か、なかなか趣があって良いな

レナさんはとても嬉しそうにしている

 

「それでは、田心屋に行きましょうか」

「タゴリヤ?」

「甘味処です。デザートなどを食べるお店ですよ」

「デザート!それは素晴らしい〜」

「それじゃあ早速行こう、すぐそこだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

将臣が言ってた通り、田心屋にすぐに着いた

今日は何を食べるかな〜

パフェ、プリン、団子……いや、ぜんざいかな?

店に入ると、小春ちゃんが迎えてくれた

将臣はどうやら小春ちゃんがバイトをしているのを知らなかったのか、少し話が始まった

あれ?巫女姫様と常陸さんの視線が……

 

「みんなで一緒に──」

「「……ジー……」」

「な、なに?変な目で俺を見たりして」

「……お兄ちゃん?お二人は……従兄弟ですよね?」

「以前からずっと思っていたのですが……有地さんはそっちの趣味をお持ちで?」

 

変な疑いをかけれてる……

やべ、笑いをこらえるの大変だ

 

「そっちの趣味?」

「その、ですね……確かにお互いのことを知り合うとは言いましたが……これはちょっと……さらけ出し過ぎではないかと」

「まさか有地さんに妹萌えのご趣味かおありとは」

「おー。シスコーンでありますか」

「違う!」

 

レナさんにまで……伝わった……

面白すぎるだろ……

 

「大丈夫です、友達ですからね。……受け入れる努力はします」

「よくわかりませんが……わたしもお兄ちゃんと呼んだ方がよいですか?それとも、お兄様?」

「ぷっ……ククッ……」

「小春は昔からずっとそう呼んでるだけで、俺が望んだわけじゃない!あと久遠お前笑いすぎだ!」

「お兄ちゃん、一体何を慌てて……わっ、わっ!?巫女姫様に常陸先輩、操真先輩にレナ先輩まで!」

 

今まで将臣と喋ってて気が付かなかったの小春ちゃんがようやくこっちに気がついた

いやでもおかげで面白いもんを見せてもらったよ

 

「こんにちは」

「お邪魔します」

「デザートを食べに来ましたよ。コハル!」

「や、小春ちゃん。バイト頑張ってるな」

「ど……どうしたのお兄ちゃん?このハーレムは何事?」

 

男女比が二三だからハーレム……ってことになるのか?

あと女顔だからってそっちにカウントしてないよな?

そういうのが嫌でこういう口調になったんだから

 

 

「みんなで一緒に行くことになって。ここで廉太郎と待ち合わせ」

「えー……廉兄が一緒なのー……?迷惑かけちゃうんじゃないかな……ちょっと心配だよ……」

「いらっしゃいませ、お客様」

「芦花姉」

「こんちはー」

「小春ちゃん、今は仕事中でしょ?まずはご案内」

「あ!そうでした!大変失礼いたしました。こちらにどうぞ」

「ありがとうございます」

 

俺たちは案内された席に座る

俺はいつも人が少ない時間帯を狙ってるからこう人がたくさんいるのは珍しく感じるな

 

「本日はご来店いただき、誠にありがとうございます。巫女姫様まで。どうぞ、ごゆるりとお過ごし下さい」

「ありがとうございます」

「こちら、この店を営んでる馬庭芦花さん」

 

将臣がお互いの紹介をしてくれた

俺はもう常連だから何回も来てるけど、レナさんは当たり前として、巫女姫様や常陸さんは初めて来るらしいからな

さて、今日は何を食べるか

あんみつとかアイスもいいけど、白玉ぜんざいとかいいよな

よし、今日は白玉ぜんざいにするか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました。こちら白玉ぜんざいでございます」

「ありがと、小春ちゃん」

 

田心屋のメニューは多分全部制覇したと言ってもいいけど、いつ食べても飽きやしない

なにせ一品がとてもこだわりの逸品だからな

 

「はぅふぁ〜〜……美味しい……とっても美味しいです」

「んんーーー……!ファッキンアメージング……!パフェ美味しいですね。とっても優しい甘さで、もう腰砕けですよ」

 

巫女姫様はかなりテンションが上がってるように見える

こんな巫女姫様を見るのは初めてか?

それにレナさんも喜んでるが、畳や温泉は言えないのに、腰砕けなんて日本語を知ってるんだ?

 

「ちなみにこれってテイクアウトできるの?」

「できるよ。プリンもパフェもお団子も」

「パフェも?」

「中で出すよりも簡単な盛り付けにして、その分値段も下げてね。食べ歩きできるようにした方がいいかな、って」

「それは買いやすくていいですねー」

「くーちゃんのお父さんなんて毎回持ち帰り頼むくらいだしね」

「要さんって甘党なんですか?」

「父さんっていうかうちの家族ほとんどみんなだよ」

 

辛いのがダメとかそういうのはあるけど甘いのが苦手なんて聞いたことがないな

 

「この和気あいあいとした雰囲気は一体……常陸さんに巫女姫様まで……なにがどうなっているんだ?」

「おう、遅かったな廉太郎。どうやら将臣が誘ったらしいんだ」

「それで巫女姫と常陸さんも一緒に?」

「ああ。問題ないよな?」

「そりゃもちろん」

 

廉太郎だからな、そう言うと思ってた

 

「ありがとうございます」

「すみません、当然お邪魔してしまって」

「いやいや、むしろ嬉しい限りですよ!それにレナちゃんも、その服初めて見るけど可愛いよ、ヤバいよ」

「やばい……?わたしの服はやばいのでしょうか?」

「ああいや、いい意味でね。ヤバいくらい似合ってるってこと。凄まじく可愛いね、雰囲気も変わってていいよ。意外と和服もいけるね」

 

さっそく悪い癖が出たな

女の子をよくナンパしてるだけはある

 

「まさかこんな展開になるとは……今日は楽しい一日になりそうだ」

「…………」

「なんだよ、何か用事か?あ、もしかして『お兄ちゃんを取られちゃうかもっ』って嫉妬してる?」

「は?そんなこと思うわけないでしょ。廉兄が何かよからぬことを考えてるって思ってただけ。本当、変なことしないでよ。恥をかくのは家族なんだからね」

 

兄妹喧嘩?が始まった

相変わらず仲がいい兄妹だ

 

「俺も一緒にいるから。変なことはさせないって」

「そうそう。将臣と俺に任せておきな」

「……。本当、目を離しちゃだめだからね?」

「はいはい。小春ちゃんはこっちに来てお仕事、お仕事〜」

「やっぱり心配だよ〜、お姉ちゃ〜ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……で、結局どうしようか?」

「今日は暑いですから……人混みは避けた方がいいかもしれませんね」

「確かに。それじゃあ……あ、久々に山で釣りでもするか?」

「釣りか。それに自然の中だし涼しそうだな」

「え?山に入るのか?」

「温泉があるから川の水温も高めで、この時期でも魚が釣れるんだ。むしろ夏になると水温が高くなりすぎて、魚の数が少なくなるくらいだ。将臣も久しぶりだろ?」

「確かに興味はあるけど……」

 

ああ、そういうことか

祟り神のことがあるから山に入るのはどうかと思っているんだな

と、思ったら巫女姫様と常陸さんが小声でなにか何か言ってた

きっと祟り神は大丈夫と説明してるんだろう

……でも俺も念のために都牟刈村を持ってくか

 

「釣りで構わないけど、忘れ物をしたから、一度取りに行かせてくれ」

「すまんな、俺もだ」

「あ、そうだ。だったら巫女姫様」

「はい?なんですか?」

「バケツを貸してもらえません?あと、のこぎりか……鉈があれば一緒に」

 

そういや昔は釣りは現地調達でよくやってたな

それで釣りすんのかな?

ともかく、さっさと都牟刈村を取りに戻るとするか




山で遊ぶ時のは次話です
予想よりも長くなってしまった笑


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第14話


長らくお待たせしました!
約1ヵ月ぶりになってしまいました

少しリドルジョーカーの方を優先してしまった結果こうなってしまいましたが、こうして更新しておりますので、引き続きお話をお楽しみください
それでは本編をどうぞ!


 

再び合流し、俺たちは山の中に入っていった

将臣は叢雨丸を布で包み持っていた

俺はというとそのまま腰にさして持っている

都牟刈村は元々の形状は木刀だからな、俺が刀を抜かない限りは木刀のままだから銃刀法違反にはならない……はずだ

ちなみに予想通り竿は現地調達だ

 

「というか久遠はなんで木刀なんか持ってきてるんだ?」

「ん?ああ、まあお守りみたいなもんだから気にすんな」

「鉈で釣りをするんですか?」

「そうじゃなくて。ちょっと待っててくださいね」

 

廉太郎は藪の奥へ入っていく

ここいらは手頃な竹とか生えてるからな

実際に持ってきて説明しようとしてるんだろう

少ししたら手頃な竹を数本持って戻ってきた

 

「あとは竹の先に釣り糸を括り付けて、針も結んで……ほい、完成っと」

「おー、とても簡単ですね。これがSAO。日本では、こうやって釣りをするのですか?」

「もっとちゃんとした釣具は沢山あるよ。でもお遊び程度で、道具にこだわりを持ってるわけでもなければ、これで十分」

 

昔……五百年前はこんなちゃんとしたもんじゃなかったからな

今ではこんな釣竿でも簡単に作れるから現代のありがたみがよくわかる

 

「さて、釣竿も用意できたことだし、川まで下りますか」

「私、釣りなんて初めてです」

「わたしはお父さんと何度かしたことがあります」

「釣りはワタシも初めてかもしれません」

「へー、なんか意外ですね」

「サバイバルの特訓とかやってるもんだとばかり」

「クナイで仕留めたり、つかみ取りすることはあったのですが……」

 

やっぱり忍者か、常識がずれてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水温は暖かく、なおかつ自然の中だから涼しい

釣りをするにはいい環境だな

 

「ほら、スカンポ食う?」

「あ、懐かしいな」

「俺も貰ってもいいか?」

「もちろん、ほらよ」

「サンキュ」

 

酸っぱいだけの微妙なもんだけど、なんか癖になるんだよな

 

「スカンポ?」

「あれ?知らない?」

「正式にはイタドリというんですよ」

 

俺も名称は知らなかったな

巫女姫様も知らなかったとはな

というわけで巫女姫様とレナさんも食べることに

 

「まず皮をむきます」

「皮をむきます」

「むきますむきます〜♪」

「そして一気に齧ります」

「齧りますっ」

「がぶっとな♪」

 

これ初めて食べる時一気に齧ると酸っぱいの強すぎてきついんじゃないかな?って思った時にはもう既に遅かった

 

「しゅっぱっ!?しゅっぱいっ!」

「おぉぅ!?これは……ワサビほどではありませんが、なかなかキますね……」

「嘘吐き……騙しましたね、こんなの生で食べるものじゃありませんよね」

「そんなことないよ?あむあむ」

「あむあむ……小春だって生で食べてたよ?」

「というか俺たちがこの酸っぱさに慣れてるだけじゃないのか?あむあむ」

 

あー酸っぱい、けれど懐かしい

最近は俺も食べてなかったからな

巫女姫様とレナさんは渋そうな顔をしてらっしゃる

 

「そもそも、スカンポって料理出来るのかな?塩かけるくらいは聞いたことあるけど」

「俺は天ぷらとかにして作ったことがあるぞ?」

「調理できますよ。オーソドックスなのは操真君が言ってた天ぷらとか炒めものですね」

「へー、そうなんだ?」

「ああ、でもまずは酸味は抜かないといけないからな。だったこれシュウ酸だから身体にあまりよくないし」

「「「「……え!?」」」」

 

なんか四人分の反応が聞こえたんだが?

 

「い、今さらそんなこと言われても……もう食べちゃったよ?それに久遠だって食べてたし……」

「と言っても、食べ過ぎるのは禁物という程度で、気にする程ではありませんよ、あは」

「び、びっくりした……」

「脅かさないでくださいよ、もうっ」

「あはは。すみません、つい」

 

なんか巫女姫様にいじわるしたのってこれが初めてだよな

まさかこんな話し合いができるなんて、思ってもなかった

 

さて、将臣と廉太郎、巫女姫様とレナさんは釣り

常陸さんは山菜を集めに行くことに

俺は……少し向かいたい場所があるからな

 

「俺はちょっとだけ個人的な用があるから、女の子組は任せるぞ?」

「それは構わないけど、お前は?」

「なんだトイレか?そんな遠回しな言い方しなくても、子供じゃあるまいし」

「ちげーよ、ただご先祖さま縁の物があってな。せっかくだし挨拶をしに」

「なんだってこんな山の中にあるんだ?」

「それはご先祖さまのちょっとした事情だな。そういうことだからちょっと行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山を少し進んだところにひっそりとある小さな墓

俺の前世でありご先祖様である智之様のお墓だ

神々の天罰による衰弱が周りに伝染るかわからないからとこうして山奥に墓を建てたんだ

智之様以外の代々の人は別のお墓で眠ってる

 

『自分の墓を見るなんて変な気分だな』

「そ、その声!智之様ですか!?」

『ああ、お前の中にいるが都牟刈村と墓があるから話せんのかもな』

 

自分の眠ってる場所に神力が宿ってる都牟刈村

それが触媒となって俺と同化してるのに話せるってことなのかな

 

『それより久遠。お前に伝えておくことがある。前に山に入った時ぶっ倒れたろ?』

「はい……誰かの記憶とかがいっぺんに流てきて耐えれなく……」

『恐らくだがあれが何なのかわかるかもしれん』

「ほ、本当ですか!?」

『ああ、だから俺が隠した神や昔話が書いてある本を探せ。どこに隠したかは記憶を辿ればわかる』

「わ、わかりました!」

『ん、どうやら時間だな。儂はお前であり、お前は儂だ。儂の記憶でも遺品なんでも使え。それじゃあまたお前とくっつくぜ。……また懐かしいもんだ』

 

声が聞こえなくなった

また俺と一つになったんだろう

遺品とあなたの進んだ人生、使わせてもらいます

 

「久遠ではないか。こんなところで何しておる」

「ムラサメか。見ての通り挨拶をしに来たんだ」

「吾輩だけが知ってるかと思っておったが、やはり操真の家の者は知っておったのだな」

「そりゃ俺のご先祖様だからな。みんなと遊びに来たけど近くまで来たからせっかくと思って。山に入ってるってことは欠片を探してるのか?」

「うむ。けれどまだ見つからなくてのう……」

 

気配も微弱で大きさも小さく見つけるのは困難だ

俺が探し回ってもあまり変わらないかもな

 

「吾輩はこのまま探しておるから久遠は皆の所に行くが良い。待っておるのだろう?」

「そうだな、あまり待たせるのも悪いか。それじゃあまたなにかわかったら教えてくれ」

「うむ。もちろんだ」

 

一人で任せるのも悪い気がするけど、みんなの所に行けって言ってくれたんだからな

その気持ちを無下にする訳にはいかないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりの安全な山の中だから来た道とは違う道を選んで、川に戻る

せっかくだしいろんなものを見ていきたいって思ったからな

 

「……あばばばばばばばば……」

 

……なんだ今の声

この山って妖怪でも出るのか?

 

「高いっ……めっちゃ高い……っ」

 

高い……?上に何かいるのか?

木の上に何かいると思い、上を見渡すと──

 

「何やってるんですか?常陸さん」

「ああっ!操真君!」

「そんな高いところにいると危ないですよ。忍者なんだから高所恐怖症でもあるまいし」

「恥ずかしながら、高いところはどうにも苦手でぇぇ……ひぃんっ!?」

「……マジで?」

 

でもかなり怖がってる

あれは嘘じゃないっぽくマジもんだ

って動こうとしてるから危ないって!

 

「今助けに行きますから動かないでください!」

「そんな、危ないですよ」

「高所恐怖症の人が登る方が危ないです。少し待っててください」

 

木に登るためにまず手触りを確認するが、結構丈夫なやつだな

これならすぐ登れそう

普段鍛えてる身体と、昔の感覚のおかげで木にはスイスイ登れて、すぐに常陸さんのところにたどり着いた

 

「さて、降りますから背中に捕まってください」

「は、はいぃ……ありがとうございます」

 

幹が太いし、常陸さんのいたところはちょうど枝分かれで座れるようにもなってたからなんなく背中にしがみついてもらうことができた

やっぱり女の子は軽いし……背中に柔らかい感触が……

ってそんな邪念を持ったら落ちる!今は平静を保たなければ!

登った時とは違い、慎重に降りていき、無事に下りることが出来た

 

「もう大丈夫ですよ」

「ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした」

「それにしてもなんで高所恐怖症なのに木に登ったんですか?」

「雛が巣から落ちてしまってたみたいで、戻してあげないとかわいそうじゃないですか」

「雛?」

 

木の上の方、さっきまで常陸さんがいたところに視線を戻すと巣があった

なるほど、それでこうなったわけか

 

「それにしても高所恐怖症なんて意外ですね。これで常陸さんの弱みを握りましたよ」

「高いところは子供の頃からずっとダメで……でもワタシは操真君の弱点たくさん知ってますよ!」

「ぐっ……」

 

ダメだ、一生掛けてもこの子には勝てる気がしない

弱みという弱みを握らない限り、俺に勝ち目はなさそうだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこったで、時間が過ぎていくのはあっという間

今日はとても楽しい1日になった。廉太郎に感謝だな

いくら都牟刈村と叢雨丸があるとはいえ夜になるとまずいから空がオレンジ色になる前には山を下りた

全員で分けるにはちょっと足りないが、今日は川魚と山菜という収穫があった

俺の家は今は2人だけだから少しだけ貰って、あとは将臣たちとレナさんに譲った

 

「今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです!可愛い服を買って、釣りをして魚まで手に入れて」

「いや、俺も楽しかったから」

「俺も今日はとても楽しめました。こんな日は久しぶりです」

 

友達と遊ぶなんて学生らしいことは本当に久しぶりだった

 

「それでは、わたしはこの辺りで失礼いたします」

「途中まで送っていくよ」

「それには及びません。道は覚えておりますので。それでは皆様、また学院で」

「はい。また週明けに」

「板長さんがどのように料理したのか、教えてくださいね」

「わかりました!それでは皆様、オタッシャデー」

 

勢いよく手を振って、レナさんは坂を下りていく

お達者でなんて、最後までレナさんらしかったな

 

「それでは、ワタシたちも帰りましょうか」

「俺もここらで帰るとしますよ」

「今日はありがとうございました、鞍馬君。機会があったらまた遊びましょう」

「それでは失礼いたします」

「じゃあな」

「また学院でな」

「あ、ああ…………やっぱ、全然脈がなさそうだな……はぁぁ……俺も帰ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰って、今日取ったものでご飯を作り、横になりつつ今日を振り返ってた

とても楽しく、充実した1日だった

それに智之様にも久しく話せ、ムラサメとも会えた

今思えば春祭りでムラサメを見かけ、将臣が叢雨丸を抜いてからこんな楽しくもありつつあるな

 

「……あれ?なんで俺はあの日に初めてムラサメを見かけたんだ?」

 

この穂織にずっといて、俺は姿が見えたから機会があれば見れたはず

でもあの時が初めて見たはずだよな……

これは……何か事情でもあったのか?



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第15話


早めに出来上がったのですが、いつもよりは短くなってしまいました
それと少し久遠がらしくない姿を見せてしまいます…


 

「なに?新しい欠片が見つかっただって?」

「ああ、今朝ムラサメちゃんが見つけたからって」

「そうか…」

 

結局俺は何もしてやれてない……

あの時から同じ、何も変わって──いや、こんな悲観になってるとムラサメに怒られる

俺は俺らしく、前向きにならないと

 

「それで夕方以降になるんだが、駒川さんのところに行くんだ。なにか途中経過だが、報告があるらしい」

「巫女姫様と常陸さんも一緒に行くんだろ?あまり大勢で行くと迷惑かもしれん。だから俺には分かったことだけ教えてくれないか?俺も別に調べることがあるんだ」

「わかった。そういうことなら後で報告するよ」

「頼むな、将臣」

 

とりあえずは予想通り、欠片は複数ある事が確認された

だから大きくなれば声が聞こえ何か分かるはず

それはみづはさんの報告があってから考えよう

まずは智之様が残したものを調べないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶を頼りに、智之様が隠した書物をいろいろ拝見したが、全く分からないことが多かった

 

「土地神がいて、1人は金髪の女神?もう1人は人ですらない?……どういうことなんだ?」

 

書物が多すぎてまだ全部が全部見れた訳じゃないが、まだまだ知らないことが多すぎた

これじゃ呪いを解くなんて夢のまた夢に…

 

「そういや、将臣から連絡が来ないな。もう夜だってのに──……今穢れを感じた?」

 

気配をたぐってみたが、山の方ではない?

街中に感じるし……何か嫌な予感がする

 

「父さん!ちょっと出かける!」

「こんな時間からどうした」

「なんか、嫌な予感がするんだ」

「……なら早く行け。お前の勘は当たる。手遅れになる前に急げ」

「ああ!」

 

早く、早く行かないと!

気配は近い、もう山の中じゃないのは確かだ

そして穢れの気配の近くにムラサメの気配も微かに感じる……

あいつの身に何かあったら、俺は……

 

「はぁ……はぁ……ここは、診療所?」

 

なんでここから……穢れの力が弱まってる。中で何か起きたってことだよな

すみませんみづはさん、無礼を承知で上がらせてもらいます

中に入ってみたらそこの光景は──

 

「なんだよこれ……」

 

棚がが倒れ、まるで荒らされているような光景だった

 

「うわぁぁっ!?」

「どうしたのだご主人!?身体が痛むのか!?」

「有地さん!しっかりして下さい、有地さん!」

「マサオミ!?衛生兵、衛生兵はどこですかー!?」

 

今の叫びは将臣!?それにムラサメと巫女姫様にレナさんまで!?

部屋の奥で何が起きてやがるんだよ!

 

「ムラサメ!一体何が起きてやがるんだ!」

「久遠!ご主人が、ご主人が!」

「将臣がどうした……ってなんで穢れがまとわりついて、神力が少し宿ってるんだ」

「説明は後でする!久遠の力で何とか出来ぬか!?」

「……わかった。何とかしてやるから取り乱すんじゃねえ」

 

離れた場所には、常陸さんも気絶して倒れてる

 

「巫女姫様とレナさんは常陸さんを。軽い衝撃で気絶してるだけですぐに目が覚めるはずです」

「は、はい!」

 

人に付いた穢れを祓うために使うのは初めてだけど……

今は俺がやるしかない、俺しか出来ないんだ

 

「クオン、一体何をするつもりですか?」

「大丈夫です。俺を信じて」

 

都牟刈村よ、頼む

想いがお前の力になるんだろ?なら将臣を助けてくれ

あの子の悲しむ姿は、もう見たくねぇんだ!

 

「せぇえやぁ!」

 

将臣の穢れが溜まってる所に都牟刈村を振り下ろす

普通の刀なら斬れてしまう、けれど都牟刈村は怨念、病魔や穢れなど負の力だけを削ぎ落とし、人を斬ることはできない智之様が造り上げたこの世でたった一つの神器だ

切った所から穢れが消えていくのがわかる

それに僅かに残った神力も共に

 

「斬らずに穢れを落としたのか!?」

「クソっ、俺の力じゃ全ては無理か……!」

「いや、久遠のおかげでご主人の顔がさっきより楽になってきてるぞ!」

「そうか、だけどこのままでいいって訳じゃねぇ。早く神社に連れてって残りの穢れを落とさねぇと。俺は将臣を、だから巫女姫様とレナさんは常陸さんをお願いします」

 

ぐっ、前に将臣を背負ったことがあるってのに今はそれ以上に重く感じやがる……!

都牟刈村の神力を使ったから俺自身の力が疲れて出せねぇってのか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでしたっ!」

 

神社に戻ってから、俺はみんなに土下座をしていた

 

「俺が……俺が早く気がついていればこんなことには……常陸さんに怪我をさせることなく、将臣を今のような状態にさせずに済んだというのに!」

「そんな、頭を上げてください!」

「クオンが謝ることではないですよ」

「けれど……」

「2人の言う通りだ。それに何でもかんでも背負おうとするでない馬鹿者」

 

そう言ってたムラサメの声は震えていた……

 

「久遠が来てくれたから、迅速に動けたのだ。あまり自分を責めるでない……」

「……ああ……それより診療所で何があったんだ。どうしてあのような……」

「それはですね……」

 

話を聞いたら、どうやら皆が向かった時には既にああなってて、さらに祟り神がいたらしい

そこで戦闘をし、祓うためにムラサメが将臣に神力を渡したという

普通の人に神力を宿すなんてなんて無茶な……

どんな方法をしたかと聞いたら、何故かムラサメが顔を赤くし、答えるのを拒んだ。その姿を見て、俺は少し心が傷んだ……気がした

それとレナさんはムラサメのことが見えるらしい

それは予想だったけどそうだと思ってた。将臣と似たものを持ってたから

……祟り神が診療所にいた……山から下りてきた気配はしない、もし降りてきたとしてもここには結界があるからわかるはず

診療所似合ったのは診察等医療器具に将臣が渡した欠片……いや、そんなバカな?

だがこれはまだ仮説だ、報告するにしてもみづはさんの報告がいる

 

「だいたいは……わかりました……すみませんが、俺はこれで失礼します」

「操真君……ムラサメ様も仰ってましたが、自分を責めないでください」

「クオンは立派なことをしたと思いますよ」

「ありがとうございます。それでは」

 

少し気だるけな足取りでその場を後にした

わかってる、責めても何も起きないということぐらいは

けれど、俺は自分の無力差を感じてしまったんだ

 

「……なあムラサメ」

「どうしたのだ?」

「今は俺とお前の二人っきり。だから1つ聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

「ああ。……どうして小さい頃からお前の姿を見れなかったんだ?いや、避けていたと言うべきか?」

「……いつから気づいておった」

「この穂織はほかの街と比べると小さい。それに加え俺は仕事で街を回ることが多かった。なのにお前の姿が今まで見れなかったのはおかしいと思ったんだ」

 

前みんなと川に遊びに行った日に家で思いついた疑問

それがあまりにも気になってしまったんだ

 

「……そうだな、久遠には話すべきかもしれん。少し長くなるかもしれぬが構わぬか?」

「ああ、この月の下。誰も邪魔は入らないだろう、だから聞かせてほしい」





後半は少し卑屈になりすぎてますが、あまり責めないであげてください…友達思いゆえにこうなってしまったのです…
次はムラサメちゃん視点での過去の話になります
もしかしたら短いかも?


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第16話

 

まずはそうじゃな……吾輩と智之について話そうか

久遠も記憶があるとはいえ、智之のことはあまり知らんじゃろ?

 

吾輩と智之は同じ年に生まれてな、家が近く今で言う幼馴染の関係であった

昔は子ども達も働いておって、智之も自身の家を継ぐためよく鍛冶場にこもってたこともあったんじゃが、あやつは吾輩たちの方にも顔を出し、手伝いまでしてきたのだ

 

「智之、何故こっちも手伝うのだ?1人でそんなに働いては倒れてしまうではないか」

「んなもんお前、早くみんなで遊びたいに決まってるからだろ。さすがにずっとってな訳にはいかないけど、儂は少しでもみんなと遊びたいしな!にっしっし!」

 

などという理由で村の誰よりも働いておった

責任感があるのか、何か失敗しようとも全て1人で背負おうとしおって、まさに今の久遠とそっくりだったのだ

でもそのおかげで大人たちからは頼りにされ、子どもたちからも兄貴分として信頼されておったのだよ

そして吾輩もいつも智之の隣におった……というか毎度毎度連れてこられたと言った方がいいのか?

何しろあやつは

 

「お前が一緒におらんと楽しいものもつまらん。だから儂と一緒におってくれ」

 

と言って引っ張るのじゃ

でも吾輩は悪い気はしなかった。むしろ智之と一緒にいることを楽しんでおったのだ

 

その時代、操真家は村の小さな鍛冶屋でな

まだ歴史が浅かったとはいえ、その腕は中々のものだった

そして智之はまさに天才と言うに値する才を持っておったな

村の誰もが『神童が現れた』だの『神様の腕を持ってる』だの言っておった

それに対して智之は

 

「余り期待されるのもたまったもんじゃねぇ、こちとら気楽にやりてぇもんだ。むしろお前の一言の上手いってだけで儂は十分だ」

 

と吾輩に愚痴を言っておったのう

その時には気が付かなかったが、智之は吾輩にしか愚痴を言っておらんかったのだ

 

それからこんなこともあったのだったな

あやつと吾輩が子どもたちの面倒を見ておったときに

 

「2人は夫婦にならないの?」

「なっ、なななな何を言っておるのだ!?」

「だって母様(かかさま)父様(ととさま)みたいに仲がいいのにいつまでも祝言を挙げないのがおかしいんだもん」

「ああ、それは儂が未熟者だからじゃ。まだ儂程度の小僧じゃ女子1人幸せにできん。それにまだ一人前の職人とも言えん!夫婦になるからには幸せにしてやりてぇもんだからな!そもそも相手がおらん!あっはっはっ!」

「と〜も〜ゆ〜き〜!」

「お、おおぅ?なぜ怒っとる?笑った顔の方が似合ってるぞ?」

「こんの阿呆がー!」

 

ということを話したのじゃが……今思い出すと吾輩が怒った理由は恥ずかしいことではないかぁ!

……むぅ、久遠に文句を言っても仕方がなかったな、すまぬ

まあこのように喧嘩もしたりしつつあったが、決して仲が悪うことはなく楽しく日々を過ごして行った

 

だが、久遠も知ってるように流行病が広がり、吾輩も病にかかってしまった

そうして、吾輩は人柱になることを選んだのだ

人柱になる前夜に宴があり、村中の者が会いに来て礼を言う中、智之だけは泣いておったのだ

愚痴は何度も言っておったが、涙は決して流さなかったあの智之が

 

「儂が、絶対に作り上げてみせる!病魔だろうが怨念だろうが、全てを断ち切ることが出来る刀を! 」

「きっと智之ならできる、病気がなく、皆が笑えるようにしてくれ。綾との約束だ」

「ああ、約束だ!何代にわたるかわからねぇが絶対に!……なぁ、その、綾も役目を終えて、儂も生まれ変わってたら……その時は儂と────祝言を挙げてほしい。儂と夫婦になってくれ」

「今、ここでそれを言うのか?この馬鹿者め」

 

そして、最後に約束をし、吾輩は人柱として叢雨丸の管理者になったのだ

その後も智之を見守り続けていた

年月が経ちあやつも結婚し、1人の父親となった

けれどあやつは吾輩との約束を守るために、ひたすら刀を打ち続け、名刀という名刀を作り上げてはまた刀を打ち始めた

 

「違ぇ!儂が求めてるのは人を斬るためのもんじゃねぇ!儂は惚れた女との約束すら守れないのか……?御神刀である叢雨丸、あれより上を作るとなると神を超えねば……いや、超えるしかねぇんだ。

人が神を超えられないなんて道理がどこにありやがる!そんなもん儂が覆してやる!」

 

自分を削ってまでただひたすらに刀を作りあげる姿には、今までの面影が見つからずとても見ていられなかった

そこから吾輩は智之から距離を置いてしまったのだ……

そこからさらに年月が経ち、智之の息子も立派な大人になってもあやつは刀を作り続けてた

それは村中の人が話してたのを聞いてしまったのだ

けれど少しして、あやつは外に出た。今までほとんど出てこなかったというのに

そこからの智之は息子に技術を教え、村中の人と笑いあっていて、吾輩も昔を思い出してるようだった

けれどその時にはもう衰弱が始まってしまってたのだ

誰よりも元気でいて、その明るさを周りに与え、流行病どころか風邪などの病魔すら払いのけてた奴が……だんだん痩せこけて、酷く弱っていってしまった……

 

そして、あれは夜なのに暖かい風が吹いていた満月の日──

 

「すまねぇな……お前達にはいろいろ苦労をかけちった……けほっ!」

「旦那様!もう休んで下さい!」

「いや……俺はもう死ぬのがわかるんだ……クソがっ、約束が果たせると思ったが──けほっ、ごほっ!」

「父上!」

「はぁ……はぁ……いいかっ、俺だけは山の中に埋葬するんだ。お前たちにも、村の連中にも移せるわけにはいかん。だから墓の場所は操真の者だけが分かるようにするんだ。それともう一つ、何代かかるかわからん。でも人柱になったあの子、俺の大切なあの子を救ってやってくれ」

「……はい!このことは何代にも、この先の子孫にも伝わるように必ず!」

「そうか……それなら後を託して逝ける……」

 

最期まで本当に吾輩のことを思ってくれてた……

でも死なせたくない、そう思い必死になって呼びかけてたのだ

 

「智之!お主は死ぬでない!こんなところで終わるでない!」

「……そう泣きそうな顔をすんなよ」

「智之……?お主、綾のことが見えて……」

「当たり前だ。最初は見えてなかったが……アレが出来上がってからは見えるようになったんだ。お前はいつも見守っててくれてたんだな」

「もう喋るではない!少しでも休むのだ!」

「儂はもう死ぬ……だが、約束通り絶対生まれ変わって……お前の前にきてやるよ。そんな時まで……待っててくれるよな?」

「うむ!いつまでも待つ!だからもう──」

「最期に、話せて良かった……綾……」

「智之?目を……目を開けるのだ!智之!……うっ、くっ…………うわあああああん!」

 

その日、操真智之は亡くなった

吾輩はその現実が信じられず、留めていた感情が抑えきれず泣いてしまった

本当なら、吾輩の家族となるかもしれなかった者の死が辛くて……

智之の死に村中の人々は嘆き、悲しみ、涙を流しておった。あやつは誰からも好かれておったのだ

そして墓は山の中に作られ、今でも墓の場所を知るものは操真の者と吾輩だけなのだ

これは朝武の者でさえも知らない

さて、ここまでが吾輩と智之の話。次に話すのが久遠、お主のことだ

 

智之亡き後、吾輩は村と共に操真の者達をずっと見守ってきた

智之が残した血筋、失うわけにはいかぬと思ってな

久遠の先祖たちは皆、教えの通り自らを強くし、代々名刀や農具など生活を豊かにする物を作っていき、遺言を守り吾輩のためにいろいろなことを考えてくれてたのだ

そしてもう何百年と経ち、吾輩は新たな操真の血を継ぐ者の顔を見に行ったのだ

 

「ふむ、この子が新しい操真の子か。何やら女子のような顔をしておるのう。要ではなく千早似じゃ。それに名も久遠と千早はまた可愛らしい名を考えたのう」

 

今までの子とは違い、聞いておらんかったら女子と思ってしまうほど可愛らしかった

だが違うのは顔つきだけではなかった。久遠は吾輩の方をじっと見てたのだ

 

「まさか……な、ただの偶然であろう!このように手を左右に振っても追いかけるはずが……」

 

吾輩は久遠の前で手を何度か振ってみせた

するとその手をちゃんと見ていて、きゃっきゃっと笑いおったのだ

その時の吾輩は喜びと恐怖を感じてたのだ

喜びはこの子が智之の生まれ変わりであること

恐怖は吾輩の姿が見えたのは偶然であり、この子も智之と関係がないってこと

子どもは7つになるまで神の子という言い伝えもある。操真の血を受け継いでるなら奇跡的にそうなることもありえるだろうし、吾輩は智之が生まれ変わるってことを信じきれておらんかったのだ

いくら智之とはいえ人の子。人が記憶を持ったまま生まれ変わるなどそんなことできもしないと……

吾輩は赤子である久遠の前から逃げるように去り、そこから久遠の前に姿を現すのが怖くなってしまったのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのに祭りが始まる前日、感じ取れなかった智之の気配を感じ取り、祭りの日にはお主が物の声を聞け、吾輩の気配が感じ取れると知り、智之の生まれ変わりと確信したわけだ」

「だから初めて会った時も俺の名前を知ってたわけだし、『やはり見えるのだな』と姿が見えることがわかってたんだな」

 

この話を聞けて良かったと俺は思った

ムラサメが智之様の事を、智之様がムラサメの事をお互いどれだけ大切に想っていたのかが、身に染みるほど伝わってきた

 

「久遠よ、今まで悪かったな。あやつは約束を果たすためにどれほどの努力をしてきたと言うのに……吾輩はお主から逃げてしまって──」

「お前はなんにも悪くはねぇ」

「……久遠」

「智之様に気が付かなかったのも仕方がないんだ。智之様は死んでから天国でも地獄でもない無の狭間をさまよってた。その中、生まれ変わりである俺が生まれ、ようやくこの世に戻ってこれたんだが、その魂は酷く傷ついてた。多分赤ん坊の時に見えたのは俺の中に入ってすぐだったからだと思う」

「では今までわからなかったのは……」

「それまで魂が眠ってたからだ。物の声が聞こえてたのは眠ってるとはいえ俺の中に智之様の魂があるため。数十年と時が経ったから癒され、あとは目覚めるだけだった。その時にお前を見たのがきっかけで魂が目覚めたんだ」

 

だから俺もムラサメのことを夢でしか見たことがなく、お互い今まで気配を感じ取れるほど近くにいたのにわからなかったんだ

 

「だから祭りの日には吾輩のことを感じ取れておったのか?」

「ああ、そしてお前と初めて会う前に魂が一つになったんだ。だからムラサメが謝る必要なんてない。お互いがお互いわからない状態だったんだから」

「吾輩を……許してくれるのか?」

「──ていっ」

 

俺はムラサメに思いっきりデコピンを食らわしてやった

 

「あうっ!いきなり何をするのだぁ!」

「許す許さないも何もお互い分からなかったんだから仕方がなかった、もうそれでいいだろ。それに──」

「くっ、久遠!?」

 

俺はムラサメを抱きしめていた

体が勝手に動いちゃったというやつだ

 

「こうして今はそばにいるだろ」

「……うむ、そうだな」

「もう少しだけこうしてていいか?今まで感じれなかった分、お前の温もりを感じてたい」

「吾輩も、もう少しでよいからこうしていたい」

 

俺たちは、少しの間だけどお互いそばにいるということを少しでもわかるように抱きしめあっていた

その日の夜は、いつもより暖かかい風が吹いていた満月の日だった





ムラサメちゃんと久遠の先祖である智之がどういう関係かを書いてみました
全部オリジナル設定ですのでご了承ください


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第17話

あれから2日経った

将臣は未だ寝てて、巫女姫様と常陸さんは看病のために学院に来てなかった

俺の予想ではもうじき目が覚める思うが、あいつの中に神力が感じられた

体に影響がなくとも、魂に影響が出てしまったら目が覚めない可能性がある

……俺が不甲斐ないばかりに……いや、俺なら目覚めさせる術はある。だからこれっきりにするんだ。大事な友達を傷つかせないためにも

 

「あっ、クオン〜!先程お見舞いに行きますってヨシノに連絡をしたでありますよ」

「ありがとうございます。将臣が目覚めてたらいいんですけど」

「それにしてもいつものクオンに戻りましたね。あの日の夜のクオンは本当に辛そうでしたけど、次の日は少し明るくなってて、今ではちゃんと元どおりになっててよかったであります」

「アハハ、ご心配をおかけしました」

「確かクオンが帰る時、ムラサメちゃんが後を追いかけて行きましたけど、その時に元気になるようなきっかけがあったのですか?」

「あの日の夜……ムラサメと……」

 

あの時の様子を思い浮かべる

確かムラサメから過去の話、思い出を聞いてて──

 

『もう少しだけこうしてていいか?今まで感じれなかった分、お前の温もりを感じてたい』

『吾輩も、もう少しでよいからこうしていたい』

 

「なっ、なんにも!なんにもありませんでした!」

「そ、そうでありますか?それにしてもさっきより顔が赤くなってる気がしますが──」

「大丈夫です!問題ありませんので!それより廉太郎と小春ちゃんを呼んで早く行きましょう!」

 

自分でも顔が赤くなったのがよくわかるから照れ隠しをしてしまった

それにしてもなんだこの感じは?

智之様がムラサメのことが好きだからそれに影響してドキドキしてるかのか?

それとも俺自身が……ダメだ、よくわかんねぇ

今は神社に向かうとするか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社についた時、境内みムラサメがいるのが見えた

廉太郎と小春ちゃんがいてレナさんに見えないようにしてるからかな。いつもより薄く見えるからきっと姿を消してる状態なんだろうけど、俺には見える

俺の視線に気がついたのか、ムラサメはこっちを見たらニコッと笑顔を見せてくれた

なんだろう、それが可愛らしく見えた

 

「何突っ立ってんだ?」

「あっ、いや、何でもない」

 

変に思われるからな

廉太郎と小春ちゃんの前では見えてないようにしてないと

 

「ヨシノー。来たでありますよー」

 

レナさんが玄関前で巫女姫様の名前を言う

そしたらすぐに玄関が開いた

 

「みなさん、来てくれてありがとうございます。どうぞ上がってください」

『お邪魔します』

 

どうやら今、将臣は部屋で横になってるらしい

将臣の部屋に向かう途中に常陸さんにも声をかけた

あの時気を失っていたもんな……

 

「常陸さん。怪我の具合は──」

「あは、見ての通り大丈夫ですよ」

「……嘘ですね。予想ですがみづはさんになるべく安静にとか言われたんじゃないですか?」

「なぜお分かりに……」

「動きが普段より悪く見えます。本当に微妙にですので気づく人はあまりいないと思いますけどね」

「さすが操真君ですね。それだけでわかっちゃうなんて」

「これでも武術も身につけてますので。俺はまず将臣のところに行きますので怪我が治るまではあまり動いちゃダメですよ?巫女姫様、もし常陸さんが無理をして動こうならご報告を。俺が止めますので」

「わかりました。お願いしますね」

「よ、芳乃様まで……」

 

常陸さんは巫女姫様のこととなると動くだろうし、家事全般もやってる

少なくとも監視が必要だし、その巫女姫様が注意すれば何もしなくなるはず

さて、まず最初の目的の将臣の部屋に辿りいた

 

「お兄ちゃん、起きてる?」

「入るぞー。おっ、なんだちゃんと起きてるじゃないか」

「お兄ちゃん、無理しなくていいんだよ?寝てなくて大丈夫?」

「いや、本当に大丈夫だから」

「マサオミ……よかった、ちゃんと起きたのですね……」

「心配かけてゴメン、レナさん」

「元気そうだな、それは良かった」

「ああ、いろいろとありがとな」

 

内容は言わないが、言いたいことは伝わって来た

ちゃんと起きてるし、すっかり元気そうで本当に良かったよ

 

「にしても、お前こっち来てから怪我してばっかりだな。まさか怪我を治すための診療所で、怪我をするとはな」

「倒れた本棚の下敷きになったって聞いたけど……」

 

流石に祟り神のことを言うわけにはいかない

だからこういう風に誤魔化してるわけだ

もちろんレナさんには大体のことは説明した

将臣はこっちの意図を理解してくれたのか、運悪く巻き込まれたと言ってくれた

さて、お見舞いといったら何かお見舞いの品を渡すだろう

レナさんはプリン、小春ちゃんはビワ、廉太郎は……茶色い紙袋に何かを入れてあるものを渡してた

なんか嫌な笑みを浮かべてるからどうせろくなもんじゃないんだろう

 

「これは俺から」

「ありがとう。これは……勾玉?」

「そうだ。水晶で作ったんだ。効果は心身の浄化、まあわかりやすく言うと幸運を呼び寄せたり、邪気祓いの効能があるパワーストーンだな。首飾りにするかストラップにしたりするかは将臣が自由にしてくれ」

「久遠が作ったのか?やっぱりすごいな」

「そうでもない。むしろ俺はこれぐらいしか出来ることがないからな」

 

物作りは幼い頃からやっているから、これぐらいしか誇れるものがない

ちなみに勾玉は石の種類によって効能が違うんだ

翡翠は平和と象徴。琥珀は困難を克服するとか様々だな

 

「巫女姫様と一緒に暮らすなんて幸運に恵まれたから、その分の不幸が回ってきてプラマイ0になったんじゃないか?」

「廉兄、変な事言わないの」

「でも久遠のお守りがあるからこれからはましになるだろ」

「そうだといいんだけどな。あ、お茶も出さずに」

「お前はじっとしとけ。怪我人はおとなしくしてるのが仕事なんだ」

 

常陸さんといい将臣といい、どうして怪我人はこうも動こうとするんだ

俺は医者じゃないから強くは言えないが、怪我の治りが遅まる方が迷惑になると思うしな

 

「そうですよ、マサオミ。わたしがお茶を淹れてきましょう」

「さすがにそこまでしなくても」

「今日ぐらいは、わたしに頼って欲しいのでありますよ」

「というか……今さらだけど、レナちゃんはここにいて大丈夫なの?いつもは旅館の仕事があるからって、授業が終わったらすぐに帰ってるじゃん?」

「ヘーキですよ。むしろ今日は大旦那さんに言われていますので」

「お祖父ちゃんに?」

「マサオミやマコが怪我をして色々大変でしょうから、今日は家事のお手伝いをするように、と。ということで、何かあればお任せですよ」

「そうなんだ。それで、久遠も大丈夫なんだよな?」

「ああ。むしろ家に帰って修行した方が怒られる」

 

『修行ならいくらでもできる!友達の見舞いに行く方が今は優先しろ!』って言われるからな

なんだかんだで学院生活を大切にしろって言ってくれる人なんだし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家事のお手伝い、ですか?」

「はい。わたしの今日のお仕事なのです。是非、手伝わせて下さい、お願い致します」

「レナさんと同じく、俺も今日は手伝わせて下さい。」

 

いろいろと考えたけど、朝武には今家事をする人がいない

巫女姫様も安晴様も家事はできないし、家事ができる常陸さんと将臣は怪我で動かすわけにはいかないしな

それにムラサメは物に触れられないからいくら健康といっても何もすることができない

なら俺たちが手伝った方がいい、そう思ったんだ

 

「お客様にそんなことをしていただくわけにはいきません」

「ですが、普段はマコが家事全般をしていると聞きました。そんなマコが怪我をして大変でありましょう?例えば御飯など」

「それは……」

「料理ぐらいでしたら大丈夫ですよ」

「ダメ。なるべく安静にするように言われてるんだから。それに操真君にも言われたでしょ」

 

おお、早速効果ありか

巫女姫様から言ってくだされば常陸さんは無理を言わない

 

「では、わたしが」

「ですが……迷惑をかけるわけにはいきません。今日は私が頑張ります」

「ヨシノは料理ができるのでありますか?」

「基本ぐらいは知っていますとも」

「では巫女姫。料理の『さしすせそ』は言えますか?」

 

砂糖・塩・酢・醤油・味噌

言葉だけわかるって人も多いが、これは調味料を入れる順番だ

砂糖が一番材料に染み込みやすく、塩とか醤油を加えてからだと甘味がつきにくいんだっけ

 

「もっ、もちろん知っていますよ。砂糖・塩・お酢・せ、せ……背脂……?と、ソース?」

「……味付けが濃そうだなぁ」

「『せ』と『そ』は醤油と、ソースだよ」

「お醤油とお味噌」

「あれ?そうだったっけ?」

「小春ちゃんが正解だ」

 

大方予想通りの結果だった

 

「……確かに、正直に言いますとあまり経験はありません。でも、こんな時ぐらい……役に立ちたい……」

「んー!ヨシノは可愛らしい人ですね!ではその気持ちを汲んで、手慣れた人と一緒に作ると良さそうですね」

「俺も一応簡単な物なら作れるけど」

「怪我人の将臣に作らせるわけにはいかないだろ。その手をあまり動かそうとするな」

 

もしそれで悪化したり、もしくは痛みなど急に来てまた怪我したりしたらいつまでたっても同じことの繰り返しになる

 

「しゃーない。ここはいっちょ俺が一肌脱ぎますか」

「お前料理できるの?」

「もちろんよ。今時料理ぐらいできなきゃ女にモテないからな。だよな、久遠」

「一緒にするな。俺は家で家事が当番制になったからできるようになっただけだ」

 

別に女の子にモテたいとかそんな気持ちは一切ない

それに所詮普通の味だ。面白げも何もない

 

「廉兄なんて、旅館の手伝いでお客さんの前に出せないから、厨房に回されてただけでしょう」

「そういうことか」

「何にしろ、基本はシゲさんに仕込まれてるってことだ」

 

シゲさんは志那都荘の板長さん

そのシゲさんに基本を仕込まれてるってことは俺よりも料理できるってことだろ

……なんかちょっと悔しい

 

「私だってお姉ちゃんのところで働くようになってから、料理の練習だってしてるもん。昔よりは、少しぐらいは力になれるよ」

「ほー。じゃあその実力を見せてもらおうか」

「いいよ、それぐらい。あ、でも……やっぱりご迷惑でしょうか?」

「芳乃様、意固地になり過ぎるのも失礼になると思いますが」

「……わかりました。ありがたく、お言葉に甘えさせていただきます」

「はい」

「よし、頑張りますか」

「だけど、あまり多すぎると邪魔になったりするかもしれないな」

「ではわたしは別のお手伝いをしましょう」

 

別の手伝いか……

境内の掃除でもして、その間に安晴様に休むなりしてもらえば効率にも繋がったりするかもな

 

「別って?」

「もちろん、マサオミの寝床のサービスですよ〜。わたし、こう見えても床上手なのですよ、ふっふっふっ」

「床ッ!?」

「上手ッ!?」

「あら……まぁ……」

「……ッッ」

「それだけは女将にも褒められるぐらいですよ」

「女将にも褒められる!?」

「……はぁ……」

 

レナさんのことだ。絶対意味を知らないか間違えて言ってるんだろう

それだからみんな驚いて……いや、常陸さんだけニヤニヤしてる

と、まあ勘違いしただろう

 

「やっぱ海外はすげーんだなー」

「絶対意味違うと思うからな」

「ずっと寝ていたのなら、お布団を干してシーツも変えた方がよいですよね?気持ちよく眠れるように整えますので、お任せください。自信あります」

「あ、ああ……」

「なんだ、床上手ってそういうことか」

「だから言っただろ。意味違うって」

 

だがこの間違い方はとんでもなく危ない

多分ここ以外では言ってなさそうだが、もし他のことも変な意味に聞こえる言い方になってたら大変だな

 

「さ、さあ、そろそろ夕食の準備を始めましょう」

「はい、そうですね」

「もしよろしければ、みなさんも一緒に夕食を食べていきませんか?」

「それなら是非、お言葉に甘えさせていただきます」

 

せっかくのお誘いなんだ。理由がなければ断る必要もない

父さんには後で言って自分で用意するよう言っておくか

俺と同じでレナさんは食べていくことに、もう家で準備されてるだろうということで準備廉太郎と小春ちゃんは断ることになった

さてと、掃除でも何でも始めるとしますか

 

「久遠、少しいいか?話したいことがあるんだ」

「ああ。多分俺が聞きたいことだろうと思うしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出て、家から少し離れた場所に移動する

俺だけではなくレナさんも一緒に呼ばれた

あの日、診療所にいたからな。無関係とはいかなくなったんだろ

 

「話とは……わざわざこんなところでしなければいけないんですか?」

「他の誰かに聞かれたくない話なんだ」

「おー……それはもしや、あのモンスターのことでありますか?確か……タタミ神……」

「祟り神です」

「おお、そうでありました。大変失礼致しました」

「あの日のこと。説明は聞いてるんだね?」

「はい、久遠からお聞きしました。決して他言は致しませんのでご安心ください」

 

大体のことを簡単に説明しておいた

何も知らないよりも多少でも知識があった方がこちらがなぜ隠すかの意味も伝わって、他の人に話さないようにできるからな

 

「危険なことに巻き込んでしまって……本当にゴメン」

「ヘーキですよ。別にイタズラに巻き込まれたわけでもなし、事故です飼い犬に噛まれた程度のことです。気にしていません」

「それ、すごい皮肉に聞こえるんだけど」

「わたしは、マコやマサオミの元気な顔が見られて嬉しいですよ」

 

野良犬のいいまちがえだな

それでも、嬉しいって気持ちは嘘偽りなく感じられる

 

「さて、そろそろ本題に入ってもらっていいか?」

「わかった。じゃあ説明する前に……ムラサメちゃん」

 

将臣が名前を呼ぶと、すぅーっと姿を表す

 

「あわっ!?いたのですか、ビックリしました」

「廉太郎と小春がいる前で呼びかけられるとよくないのでな。姿を消しておったのだ。久遠には見えていたようだがな」

「な、なるほど」

「ああ。若干透明っぽくなってたが姿は見えていた」

「いくつか確証もないことも多いけど、聞いてほしんだ」

「……はい」

「ああ」

 

将臣から判明したことを説明してもらった

まず、診療所に現れた祟り神はあの場から生まれたもの

将臣が山で拾ったあの欠片から出てきたと

みづはさんからは、呪詛で怨みの力を使役する場合、怨みを宿す憑代を用いることがある。おそらくだが、欠片は呪詛に用いられた欠片だと

……やはり仮説はあってたようだな

それに山で聞いた声は、途中から怨みが込められていた

 

そして、欠片同士を近づけさせると一つになる

みづはさんに渡した欠片と、あの夜将臣が倒れた日に将臣が手にしていた欠片を近づけさせたらそうなったらしい

そこから憑代は一つになること。それが憑代の願いと考えに行き着いた

呪いが解けるかどうかはわからないが、一つにすることが今の足止めをくらってる状況を変えれるものになる

憑代を一つにし、手厚く祀りあげ、犬神の魂を慰撫して鎮めることができれば何か変わるかもしれない。ムラサメの考えだ

……犬、神?

智之様が書き記した書物の神の一人ってその犬神のことじゃないのか?

また詳しく調べる必要があるな

とにかく、欠片を集めて憑代を一つにする。これが当面の方針に決まったってことだな

 

「……事情は把握いたしました。とにかく、そのために不思議な石が必要ということですね。そして、わたしもその石に関係があると」

「俺たちはそう考えてる。心当たりはないかな?こういう欠片なんだけど」

「…………」

「心当たりがあるのですね」

「少々お待ち下さい」

 

カバンから小物入れの箱を取り出す

箱の中には、透明ながらも中に白い靄のようなものがある石の欠片

確信できる。同じものだ

 

「おそらく、コレではないかと」

「……そうだったのか」

「何か気づいたことでもあるのか?」

「初めてレナさんにあった時、普通の人からは違う何かを感じたんだ。多分それがこの欠片だったんだろう」

「吾輩も初めて見たときに妙な気配を感じたが、久遠も感じておったのか」

 

ようやくあの時のことがわかった

欠片を持っているかないかで何か別のものを感じ取れたんだ

 

「でも初めてあった時から持ってるってことになるよな。レナさん、コレはどこで?」

「コレはわたしの家に代々受け継がれてきた物なのです」

「受け継がれた……って、例のご先祖から?」

「はい。わたしはお祖父ちゃんから譲ってもらいました。子供の頃からずっと持っていまして、日本に来るときにもお守り代わりに持ってきたのです。お祖父ちゃんは、もう……日本には、来られませんので……」

「レナさん……」

 

その声から、懐かしい。けど悲しくも感じた

それだけ、あの欠片が大切なものだったんだな

受け継がれたということか、相当な思い出だって詰まってるだろう

でも……俺には、俺たちには欠片を集めなければならないんだ

 

「……レナさんにとって大切な物なのに、こんなことを言うのは不躾で、とても失礼だと思う。それでも……どうかお願いします。その欠片を譲ってください」

「俺たちには、成さねばならないことがあるんです……!だから……どうか……」

 

俺と将臣は背筋を伸ばし、頭を下げる

俺の家に伝わる約束を果たすためだけじゃない

朝武家にかかってる呪いを解き、ムラサメを人に戻し、誰もが昔から解放されなければならないんだ

 

「…………」

「お祖父さんとの大切な思い出が詰まってることはわかってるつもりだ。だけど……どうか、お願いします」

「頭ならいくらだって下げます」

「頭を上げて下さい、マサオミ、クオン。構いませんよ」

「条件があるなら何でもしますから」

「おー!何でもしていただけるのですか?それはとてもいいことを聞きましたね」

「俺ができることなら何でも」

 

元より俺の家系は様々なことに手を尽くしてきたんだ

俺ができることなんてたかが知れてるが、それで呪いを解くために一歩進めるなら安いもんだ

 

「……あ、あれ?い、いいの?本当に?」

「大事な物であろう?そんな簡単に決めてしまってよいのか?」

「構いません。だってマサオミやヨシノ、クオンには必要なのでしょう?」

「だ、だって……お祖父さんの形見なんだよね?」

「……え?」

「え?」

「……ん?」

 

この反応……もしかして

 

「お祖父ちゃんは生きておりますが」

「で、でもさっき、もう日本には来れないって」

「元気ではあるのですが、もう高齢ですので膝や腰を悪くして。旅行は少し難しいだけですよ」

「将臣、さっきまでの会話を思い出してみろ。雰囲気だけでそう思っただけで亡くなったとは一言も言ってないぞ」

「…………本当だ」

 

欠片のことに必死になりすぎて勘違いしてしまうとは

よく冷静やらクールなんて言われたことがあるが、本当はこの通り何かに対して集中しすぎてまう

 

「形見ではありませんので、ご安心下さい。心配してくれるのはありがたく思いますが、そう念押ししないで下さい。思わず考えが変わってしまいそうです」

「……すまぬな」

 

ムラサメの言葉に、優しい笑みを浮かべたままゆっくりと首を振る

 

「確かにこれは大切な物です。このような事情でなければ頼まれても譲らなかったと思います。ですがマサオミとクオンは、日本でできた最初の友人です。あの時、マサオミやクオン、マコに案内されて嬉しったです。それにヨシノもいい人で、学院で一緒にお弁当を食べるのも楽しいです。」

「レナさん……」

「毎日がすごく充実していて、満喫しています。みんな大切な友人です」

「…………」

「おー!それからムラサメちゃんも、大切な友人の1人です友人のためであれば、むしろ譲らないと怒られてしまいますよ。それにですね、一つに戻ることが欠片の意思なのでしたら、そうすることが一番いいと思います。ご先祖様も、それを望んでいると信じております。ですので、気にせず受け取ってください」

 

友人のため

それだけで大切にしていた物を譲る決意をした

それは誰にでもできるはずがないからレナさんの行動はとてもすごいことだと思う

きっとご先祖様も誇らしいと思う

 

「ありがとう……レナさん……」

「とはいえ、タダで差し上げるわけではありませんよ」

「何か条件があるのか?」

 

さっきまでの頭を下げてる間に一つだけ反応してた部分があった

それだろうな

 

「……先程の発言ですね」

「はい。お譲りすれば“何でも”してくれるのですよね」

「……うっ……」

「できる範囲ででしたら構いません。何でも言ってください」

「…………お、男に二言はない!」

「おお!ではわたし、日本の伝統芸能が見たいです」

「伝統芸能?歌舞伎?能?」

「ハラキリー♪」

「さすがにそれは……」

 

昔と違って今なら斬ってもまだ生存出来るであろう

でもさすがに痛い所の話じゃないし、昔の人と違って根性もあるわけじゃないしな……

 

「あははー。冗談ですよー本当のお願いはですね……わたしとこれからも友達でいて下さい」

「…………」

「おおっと!わたしは軽い女ではありませんので、ただの友達ではいけません。親友でなければいけませんよ?それが、お譲りする条件です。さあ、どうしますか、マサオミ、クオン?」

「…………」

 

ニヤリと笑うレナさん

俺も苦笑いしてしまい、将臣と顔を合わせる

お互い、答えなくてもわかってるって顔をした

 

「……わかった。その条件、呑むよ」

「はい!ありがとうごさいます」

「ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いしますね」

「はい、よろしくお願い致します。マサオミ、クオン」

 

レナさんから将臣に欠片が移る

欠片が祟り神を生み出したのに、なぜレナさんが持っていても現れなかったのか

それはお守りとして大事にしていたから魂を慰撫してた。だから祟り神が生まれることはなかった

ムラサメの姿が見えるのは、子供の頃から欠片をそばに置いていたから、霊的な並に敏感になってるためだとムラサメが言う

いずれムラサメの姿が見えなくなるかもしれない……だからこの子は人に戻してやるんだ

 

欠片を受け取った将臣が持ってる欠片に近づけさせた

そしたら欠片が勝手に震えだし、眩い光を放った

すると先ほどよりも大きくなって、一つになっていた

 

「こうして欠片が一つになったのか……」

「おー……本当に、一つになりましたね。少しはマサオミとヨシノの役に立てたみたいでよかったです」

「少しどころじゃない。本当に助かったよ、ありがとう、レナさん」

「いえいえ。約束は守ってくださいね」

 

約束……

今もそれを果たすために頑張ったるんだ

他に約束しようと、その全ては果たさないとな

 

「それにしても、友達がまた1人できてよかったな」

「う、うむ。だが……クシャクシャとするでない!」

「あははっ、そう言うな」

 

クシャクシャと頭を撫でる

これは本当に小さい頃に、智之様が元気づけたり、慰めたりするときにやってたやつだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女の子4人がお風呂に入っていて、その楽しそうな声が聞こえる

 

「なんか楽しそうだな」

「覗くんじゃないぞ」

「しないって!それに下手に忍び寄っても常陸さんに気付かれるのがオチだろ」

「それもそうだな」

 

もしも覗きなんて外道な行為をして見つかったら、クナイなんかが四方から飛んできそうだ

 

「そういや久遠、欠片が集まって少し大きくなったけど何か聞こえたりしないか?」

「……貸してくれ」

 

将臣から欠片を受け取る

なんか熱を持ってるように感じられる

俺はその欠片に意識を向け、集中する

 

「……ダメだ、ノイズが聞こえるだけだ」

「そうか……」

「だけどそのノイズが大きくなってたってことはもっと大きくすれば聞こえるってことはわかった」

「これからの目標はハッキリしたんだ。とにかく今は、一つでも多く欠片を集めよう!」

 

何も無く、ガムシャラにやるよりも明確に目標があった方が人は効率よくなれる

少なくとも、今いる人達はそうだからな

 

「そういえば、女の子達は入浴中で俺と久遠の二人しかいないしちょうどいいや。もう1つ気になることがあるんだ」

「ん?なんだ?」

「久遠ってさ……ムラサメちゃんのことが好きなのか?」

「!?げほっげほっ……何を聞くんだお前!」

「久遠はご先祖様の生まれ変わりでムラサメちゃんと幼馴染だってことは聞いた。でも今の久遠はご先祖様じゃなく久遠なんだろ?なのになんか幼馴染とは違う感じがして」

「……それはそうだが」

 

確かに魂は一つになった。少し口が荒っぽくなったりするのはその影響だ

だが性格や人格は俺、操真久遠そのものだ

それに智之様の感情も全て俺に引き継がれたとかそういうのはないはず

だが確かに、俺はムラサメと話してると楽しく感じるし、笑顔も可愛く思ってしまった

 

「俺は、人を好きになったことが、恋をしたことが無いんだ。女の子とはあまり関わりがなく、幼い頃から鍛冶の修行ばっかりしていたからな」

「いかにも鍛冶屋の跡継ぎって感じがする。何かムラサメちゃんを意識するようなことはないのか?」

「そう、だな。……笑顔が可愛いと思ったり、一緒にいるのが楽しかったりとか」

「それってやっぱりそうなんじゃない?」

 

父さんと戦って都牟刈村の力の秘訣に気がついたときは、守るべき大切な人だからと思ってたけど……智之様ではなく、俺自身がムラサメのことを……好きになっていたのか?




ムラサメちゃんのフィギュア予約開始しましたねー
もちろん開始日に予約しました!w
(延期しなければ)6月発売なので楽しみです…!


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第18話

 

「……もう朝かよ……」

 

ここ数日……いや2、3週間も全く寝れてなかった

何が原因かと言うと。レナさんから欠片をもらったあの日の夜、将臣と話したことについてずっと思いつめて考えてしまってたからだ

恋ってなんなんだよ……人を好きになるってどんなんだよ……

いくら考えてもわからないけど、それでもわかったことはある

俺は……ムラサメを気にしてしまってるのは確かなんだ

あの夜から何回かお祓いをしたが、その時にも目が彼女の方に行ってしまってたこともある

でも今は、欠片を一つにすることに集中しなきゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重い足でようやく学院に着く

何回かランニングしてない日があるから朝から活発にってなれない

なんか調子が出ないなんて初めてかも

 

「おはよう、久遠」

「ああ。将臣おはよう」

「大丈夫か?なんか疲れた顔してるけど」

「いや、気にするな。俺は大丈夫だから」

「それならいいんだけど……それより今日の夜」

「お祓いだな。わかった」

 

疲れてるからなんて言い訳はしない

俺なんかよりも苦労してる人がいるんだから

 

「あとそれと」

「ん?」

「──いや、なんでもない」

「そうか。でも気になったことがあれば言ってくれ」

 

なんか気がついたけど本人がわかってない状態ってことかな

将臣のことだ。気がつけば教えてくれるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業中も将臣は何かを気にしていて授業に集中できてないようだった

そして時間が経ち、夜──

 

「はぁっ!」

 

都牟刈村を鞘から抜き、こちらに攻撃してくる触手を、未来予知で速い順番から断ち斬り、的確に攻撃を防ぐ

 

「将臣!巫女姫様!」

「わかった!」

「はいっ!」

 

俺が守り、隙を作ったらこの2人に攻撃の役割を担ってもらう

俺は常陸さん程ではないが動きが速い方で、何よりも数秒先、危険な出来事はより確実に早く見える未来予知がある。防御の役割をするのにうってつけだ

攻撃だって先が見えるから当たらなければ問題はない

 

巫女姫様は鉾鈴の先端を、祟り神に向けて相手の懐に駆け込む

将臣も大きく踏み込み間合いを一気に詰める

 

「このぉぉぉぉっ!」

「やああっ!」

 

将臣が触手を根元から斬り飛ばし、触手を失った祟り神が新たな動きを見せるよりも早く、巫女姫様が鉾鈴をその身体に突き立てる

泥のような黒い塊が震え、先ほどの触手同様、霧散していった

 

「はぁ……はぁ……」

 

穢れを祓った巫女姫様の頭から、ゆっくり獣の耳が消えていく

無事お祓い完了だ

 

「ふぅ……今夜も無事に終わったな。っと、ノイズが聞こえるから欠片もちゃんと落ちてるな」

 

将臣が欠片を回収したのを確認

……あいつ日に日に欠片に関して敏感になったというか、この暗闇の中でも見分けられてる

俺は音を頼りにすれば視覚に頼らなくても大丈夫だが、将臣は普通の青年だ

やっぱり、あいつに最初にあった時に感じた物が影響してるのか

 

「それじゃあ帰ろうか。常陸さんが心配してるよ」

「茉子は心配しすぎなんですよ」

「まあそう言わず。逆の立場になれば常陸さんの気持ちもわかるはずですよ」

 

そう。今は俺、将臣、ムラサメ、巫女姫様の4人で常陸さんは留守番をしている

正直言えば、俺としては将臣にも留守番してて欲しいんだけどな

だが、怪我が治りつつあっててもその強さは確実に出てきていた

……俺ももっと強くなんないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

山から下り、俺も巫女姫様の家に上がらせてもらう

さすがに都牟刈村を使ったあとってかなり疲れるからな。多少でもいいから休憩が欲しい

 

「芳乃様!有地さん!ムラサメ様に操真君も!ちゃんと無事に戻ってきてくれたんですね!よかった……よかったぁ……」

 

心底安心したって見える

俺たちが山に行ってる間、相当心配してたんだろうな

 

「だから心配し過ぎだってば」

「だって……どうにもこうにも落ち着かないんです。待つだけなんて……」

 

それは……わかる気がする

俺の場合は動いても変わらなかったけど……

 

「有地さんやムラサメ様、それに操真君も一緒だから平気よ」

「久遠の守りもあるし、芳乃とご主人も、ちゃんと連携が取れるようになってきたしな」

「わかってはいても、どうしても気になってしまうんです……本当、心臓に悪いです」

「怪我の具合はどうですか?確かまだサポーターを付けてるとお聞きしましたが」

「一応。明日の診察で取れる予定です。もう治ってるのに……」

「はぁ……みづはさんの言うことには従わないといけませんよ?」

 

医者の言うことは絶対……とまではいかないが、素人が判断するよりも正しい

それに俺たちはみづはさんの人柄を知ってるからな。みんな信用してる

 

「……それはわかっているんですが……いえ、そうですね。グチグチ言っても仕方ありませんね。それにもうすぐなんですから。それで、憑代の方はどうでしか?」

「うん、この通り。ちゃんと見つかったよ」

「……。ちょっといいですか?」

「どうぞ」

 

常陸さんは手に持って憑代を見つめる。何か気になることがあるのか?

 

「この白い靄……少し濃くなっている気もしますね。そういえば、こうして過ぎ憑代が集まると……気配も変わったりするものなんですか?」

「うむ。気配は強まっておる。以前なら間近でなければわからなかったが、今は多少距離があっても感じられる」

「でしたら、もしかして……芳乃様や有地さんも感じ方に変化があるんでしょうか?それと操真君も声が聞けたりとか」

「この大きさなら多少は……」

「────」

「ん?」

 

今、誰かの声がした?

今ここにいる人の声ではなかったけれど

 

「どうかしたのか?」

「いや……気のせいか」

 

うん。なんとも反応がない

空耳か気のせいだったのかもな

 

「ご主人、昼間山から下りるとき、呼ばれたような気がすると言っておったな?」

「お前も声が聞けるのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。実際に声が聞こえたわけじゃないから、あくまで“気がする”だぞ?」

「もしかすると、それは祟り神のものではないか?」

「そういえば、芳乃様の耳も同じタイミングでしたね」

「偶然と言うには、少々出来過ぎのように思うのだ」

「手元に憑代があるから……かな?」

「今ここで、改めて確認してみては如何ですか?」

 

将臣は常陸さんから憑代を受け取り、ギュッと握り込む

そして集中するように、目を瞑る

さて、どう出るか?

 

「なんか一瞬、憑代が熱くなって……不思議な光が見えた──気がしないでもないような」

「煮え切らんのう」

「本当に些細な感じだったんだ。憑代が熱くなったのだって、単に俺が握りしめてただけな気がするしさ」

 

確かに、憑代に何か反応は見受けられない

 

「他に気になることは、何もないなぁ」

「では次は、芳乃様でしょうか」

「俺じゃないんですか?」

「操真君は憑代が大きくなるほど、変化を感じ取れてます。なら最後により詳しくした方がいいかと思いまして」

「わかりました。そういうことなら」

 

確かに音は大きくなって、声に似て来た感じもする

なら今回は少し深めに意識を集中してみよう

 

「以前、憑代に触れた時はどうであった?」

「えっと、確か……安心できたと答えたと思うんですが……」

「診療所ではビリっとしてませんでしたか?」

「ぅっ。ビリっとするのは……ちょっと怖い……」

 

前の反応はどっちかっていうと痛みよりもビックリって感じだったから、それが怖いんだろう

 

「こういう度胸試しみたいなのは苦手なのですが……」

「怖いなら、止めとく?」

「いえ、これも重要な確認ですから……んっ……んんんーーー……」

 

指は伸ばしているが、抵抗するように身体は距離を離そうとそらしてた

やっと指が欠片にチョンッと触れると──

 

「……どう?」

「あ……普通です、特に何もありません。はぁ……よかった」

「そっか」

「むっ、なんだか残念そうじゃありませんか?」

「ああいやゴメン、今のは言い方が悪かったと思う、ごめんなさい」

「もう……本当に怖いんですからね」

 

なんてまるで夫婦漫才のようなものを見せつけられた

もうそんなに仲いいなら婚約すればいいのに……と、思っておくだけにしとこう

巫女姫様は欠片を手に取り、手の平に包み祈るように目を閉じる

だいたい1分ぐらいした時、ゆっくり目を開ける

 

「私も特に何も……」

「そうか。まあ、変化がないというのは順調の証かもしれん」

「確かにそうかもしれませんね。欠片を集めて、怒りが鎮まってきているのかも」

「それでは最後に、操真君にお渡ししますね」

 

俺は巫女姫様から憑代を受け取る

欠片が合わさってもうそれなりの大きさになってるはず

 

「触った感じは……特に何もないな」

「ではいつも通り、何か聞けるか試してみてくれんか?」

「ああ、わかった。それじゃあ……」

 

俺は目をつぶり、いつもより意識を深く潜り込ませるように集中する

この方法でやれば刀なんかは大抵のことがわかるし、都牟刈村の性質も聞き出せた

つまり俺が最大限に聞き出す方法なんだけど

…………何も聞こえない

というかノイズや何か音すらも聞こえなくなった

どうなってるんだ?

 

「すまない、俺も何も変化は……あれ?」

 

誰もいない……?

おかしい、さっきまでみんないたっていうのに

というかいつ夜が明けたんだ?全く暗くないんだけど

 

「ムラサメー!将臣ー!……本当に誰もいないのか?巫女姫様ー!常陸さーん!」

 

誰からも返事がない

あの一瞬でみんながいなくなるはずがないから……俺が神隠しか何かにあったとか?

とりあえず、外に出てみるか

……うん、見た目は建実神社だしどこかに移動したってわけじゃないけど、どうなってるんだこれ

街の方に下りていけば人に会えるかもしれないけど、なぜか山の方で呼ばれてる気がする

今は山に向かってみるか

それにしても、人の気配どころか動物の気配もしないし俺だけしかいないんじゃないかって思える

いや、何か気配がする!これは……人でもない。むしろそれは神々しく、この世のものでは無いものだ

山の中を進むと、1人の金髪の女性が立っていた

 

「す、すみません」

 

俺が声をかけるとこっちを振り向くが……その姿はレナさんに似ていた

 

「あなたは?どうやってここに?」

「俺は操真久遠。どうやって来たのかはわからなくて」

「操真……?あなたもしかして刀を打ち直したりしたことが?」

「いえ、刀なんて作ったことすら。俺のご先祖様なら何人も刀と関わったことがあります」

「そう。ならあの人の子孫なのね」

 

あの人?俺のご先祖様の誰かを示してるんだろうか

 

「えっと、あなたは一体?」

「私は──」

 

名前を言ったのだろうか?その部分だけが聞き取れなかった

この神々しい雰囲気、俺のご先祖様のことを知っている。もしかして書物に記してあった金髪の、玉石から生まれた女神様なんじゃないか?

 

「ねえ、1ついいかしら?」

「は、はい」

「弟のことを頼みたいの」

 

弟?

書物通りなら犬神が弟ってことになる

つまり、憑代を集めてその怒りを沈めてほしいってことかな

 

「俺が、俺たちが何とかしてみせます」

「ありがとう。なら私の力をあなたに貸してあげるわ。最初は少し辛いと思うけど。それともう時間ね、神の力を使ってるあなただからこっちに呼べたの」

 

神の力ってことは都牟刈村を使っているからしかない

それに智之様が神に触れられたって同じような力を持つ存在だったからなのか

もっと聞きたいことがあるけど、時間なら仕方がない

それにお願いされちゃったからな。それを俺が叶えてあげないと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ん!おい久遠!」

「っ!」

 

将臣の声でハッと目覚める

周りにはみんなちゃんといる

 

「みんな呼びかけたけど何の反応もしなくなったし、何があったんだ?」

「あれは、意識だけが憑代の中に入ったのかな。そして俺は神に会ったんだ」

「神って、もしかして犬神のことか?」

「いや、その犬神の姉である女神だ」

 

俺は憑代の中にいた事での出来事を説明した

そして、智之様が書き記した書物のことも一緒に

 

「智之は亡くなる間際にそのようなものを残しておったのだな……」

「ああ。だがそのおかげでもうすぐ終わるはずだ」

「もうすぐ……終わるのですね」

「はい、ようやくです。さて、それでは俺はそろそろ失礼します」

 

その場から立ち上がって帰ろうとした時、目線が急に床と並行なってた

 

「──あれ?」

「大丈夫か!?」

「操真君、今思いっきり倒れましたよ!?」

「これぐらいなんともないですよ」

 

笑顔で無事を知らせ、立ち上がろうとするが、なぜか力が入らない

いや、俺に元々力がなくこの状態が普通であるかのようだった

 

「久遠?どうしたのだ?」

「力が……入らねぇ……」

 

都牟刈村を杖代わりにして立つのが精一杯だ

何でこんなことが……女神様の最後の言葉に『最初は少し辛いと思うけど』って言ってたがそれがこれか?辛いなんてもんじゃないぞ

まるで衰弱しているようじゃないか……!

 

「待てよ久遠!そんな状態で外に向かおうとするな!」

「有地さんの言う通りです。要さんには連絡を入れますので今日は泊まっていってください」

「ですが……」

「久遠よ。ご主人と芳乃の言葉を聞き入れておくれ。吾輩はもう、大切な人を二度も目の前で失いたくないのだ」

 

ムラサメは今にも泣きだしそうだった

そうだった、この子は智之様の死に目に立ち会っていたんだ

 

「……わかった。巫女姫様。すみませんがお言葉に甘えさせていただきます」

「はい。茉子、お部屋の準備をお願いできる?私は要さんに連絡するから」

「わかりました!」

「ご主人、吾輩たちは久遠を部屋まで連れて行くぞ」

「でもムラサメちゃんは」

「久遠は触れられる。吾輩でも手伝うことはできるはずだ」

 

なんか大掛かりな事になってしまったな

女神様は俺に何をしたんだ?そして力を貸すって言ってたけどこれを乗り切れってことか?

いくら考えたってすぐに答えが出るわけじゃない。今はもう休ませてもらおう

部屋に連れて来させてもらって、そのまま横にさせてもらった

 

「3人とも、ありがとう」

「気にしないでくれ」

「そうですよ。操真君が弱気になるなんてらしくないですよ」

「ははっ。そうですね」

「吾輩は久遠が寝付けるまでそばにおる。2人は戻ってもよいぞ」

「わかった、あとはお願いねムラサメちゃん」

「では失礼します」

「ああ。2人ともおやすみ」

 

部屋には動けない俺と、ムラサメの二人っきりになった

動けないんだ。もう寝るしかないかな

 

「……なあムラサメ」

「どうしたのだ?」

「俺が寝るまで、手を握っててくれないか?」

「あの時と同じような事を言うのだな」

「あの時?」

「以前話したであろう?智之が倒れ、看病した時のことだ。久遠は智之と全く同じことを言ったのだぞ」

 

それは知らなかった

生まれ変わりで記憶を引き継いでいるといっても、ぼんやりとした部分もあるし、これは倒れた時の話だから智之様自身があまり覚えてなかったため会話の内容までは俺もわからないんだ

 

「このようにして手を握ってな。そしたらあやつは『そばにいることがわかるから安心できる』と言っておったのだ」

「ああ、確かにこれはとても安心できる。おやすみ、ムラサメ」

「うむ。おやすみ、久遠」

 

手に大切な人の温もりを感じながら、俺は眠りについた



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第19話

 

朝になり目を覚ます

寝た時には手を繋いでいたが、今はいないってことは寝てる間に行ったってことか

 

「……手が動く。起き上がることもできる」

 

身体が凄く軽く感じる

昨日の力が抜けた感覚がまるで嘘のようで、軽いのに力が漲ってくるのがわかる

これが力を貸してもらったってことなのか?

 

「あれ、なんだこれ。こんなの付けてた覚えはないけど」

 

首に身につけた覚えがないネックレスがあった

そのネックレスにはひとつの玉石が付いてる

もしかして、女神様がくれたのかな

優しいものを感じる。大切にしないと

 

「身体はもう動くのか?」

「ああ、ムラサメおはよう。昨日のはまるで嘘のように感じるよ」

「そうか、それならば良い。それよりも随分と早起きなのだな」

「いつも鍛錬してるからな。早起きは当たり前なんだよ」

「それは感心だ。では吾輩はご主人を起こしてくる」

 

そのまま部屋から出ていく

というか将臣は起こしてもらってるのか

まあ普通の学生だったわけでこっちに来てから鍛錬を始めたんだし、早く起きれないのは仕方ないか

さてと、一泊させてもらったのだから何かしないとな

朝ご飯は常陸さんが作ってるだろうし、どうしようか

 

「──────!」

 

なんか少し離れたところで騒ぎ声が聞こえる

部屋の位置的に……将臣の部屋だよな

挨拶ついでに行ってみるか

 

「おはようございます。えっと、何があったのですか?」

「操真君、動いても大丈夫なのですか?」

「ええ、ご覧の通りで。それより一体?」

「実は、芳乃様が有地さんの部屋で朝チュンを迎えまして」

「えっ!?」

「どうやら芳乃が夜這いしたらしくてな」

「なっ!?」

 

将臣のやつ、もう大人の階段を登ったのか!?

しかも巫女姫様の方からってこの2人もうそこまで行ってたなんて全然思わなかった……!

 

「ですから夜這いなんてしていません!操真君も真に受けないでください!」

「えっ?じゃあ一体何が起きて?」

「私もわかりません!でも、起きたら目の前に有地さんの顔があって……」

 

とりあえず、夜這いと言うのは全くの誤解ってことだな。後でムラサメにお仕置きしないと

だか、そうなるとなぜこうなったんだ?それに耳も生えてるのも気になる

 

「では一回落ち着いて考えてみよう。巫女姫様、昨日の夜に何か変わったことはありませんか?」

「そうですね……昨日は……胸がざわついて、とても寝苦しかったです」

「胸のざわつき……。今の様子は?」

い、今ですか?えーっと……その……まだ胸のドキドキが治っていなくて、よくわかりません……すみません」

 

起きたら目の前に将臣がいたんだ。無理もない

それに変わった様子は見られないから多分治ったと考えていいだろう

 

「では次に、将臣はどうだ?巫女姫様はここに引き寄せられて来たんだ。お前の方に変化はあるか?」

「お、俺か?……そうだな……俺も、まだ胸が落ち着いてないんだ。今でも心臓がバクバクしたままで────ッ」

「どうしたっ」

「あ、いや……なんかバクバクしすぎて目眩が……」

 

なんだこの様子

普段と違うから何かがあるはずだ

 

「ご主人、例の憑代は?」

「言われた通り、叢雨丸のそばに置いてあるよ。……あれ?憑代が……赤い?」

 

確か昨日は白い靄だったはず……

もしかして、女神様が俺に力を貸してくれたから、それが原因か……?

でもみづはさんが祟り神が出て来た時は黒くなったと言ってたらしいが……

今はムラサメがレナさんにも関係があると考えた様だ

常陸さんが志那都荘に向かったから戻ってくるのを待つか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常陸さんがレナさんを連れて戻って来たが、何やらレナさんの表情が少し辛そうにしてる

 

「わざわざすまぬな」

「いえ、それはヘーキでありますが」

「早速で悪いが、今その身に起こっている事を教えてくれぬか?」

「ここにいると、耳鳴りがします。そんなにひどくはないのですが……」

 

耳鳴りときたか

これで憑代からの影響を受けてるのは将臣、巫女姫様、レナさんの3人……

俺には……影響がない、むしろ力が余ってるぐらいだ

 

「呪詛の力が強まったということでしょうか?」

「欠片を集めることで以前よりも力が増しておるのは間違いない。しかし……呪いが強まっているわけではなさそうだ」

「なら、これは一体?」

「他の欠片に呼びかけておるのではないか?力を信号のように飛ばしてな」

 

『弟を頼む』って言われたけど、まさか散らばってる欠片を集めるために残りの祟り神を全部相手にしろってことか?

それか……女神様の力が弱まったせいで、この集まってる憑代にある犬神の怒り、怨念に耐えきれなくなって巫女姫様を乗っ取ったかのどっちかという考えなら女神様の行動に納得がいく

首飾りの玉石に意識を傾けてみるが、何も反応はない

力だけか、それとも応えられるほどは残ってないのか

 

「つまり……昨日のざわつきは全部、憑代の信号のせいだった……そっか、そうよね。よかった、理由がハッキリして……」

 

謎が解明できたんだ。巫女姫様はホッとしてるな

だが別の問題が残ってる

 

「巫女姫様の意識がないときに操られるのはわかった。だが次の問題、その受信をどうするかだ。ずっと徹夜なんかしてたらいざという時は動けないし、一人一人見張るのも効率が悪いだろう」

「それなのだが……むしろ吾輩は、この信号を利用できるのではないかと思うのだが」

「利用だと?」

 

今は状況を打破することが先決

ムラサメの提案に乗ってみるしかないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は夜、今は巫女姫様の部屋にいる

……女の子の部屋に入るなんて初めてだから緊張してしまっている

まあそれはいいとして、ムラサメの言ってた利用する

それは巫女姫様に寝てもらい、憑代に身体を預け、欠片を集めるために動かすという方法だ

 

「では……お、おやすみなさい」

 

巫女姫様がおやすみになられる、つまり作戦実行の合図だが……

 

「…………」

「寝たか?」

「……まだです。…………」

「寝られました?」

「……まだ。…………」

「寝た?」

「ですからまだです」

「そっか……」

 

焦るのもわかるがこんなのじゃ寝てられない

全く……

 

「みんな、そんなに聞いてたりジッと見つめていたら巫女姫様だって寝られないだろ?」

「気になって」

「わかってるが焦っても始まらんから俺たちは向こうに行くぞ。常陸さんは巫女姫様のおそばに、何かあったら呼んでください」

「わかりました。ここはワタシにお任せください」

「いやでも」

「こういう時は女の子の気持ちも考えろ」

 

寝顔を見られるのも恥ずかしいだろう

女の子と暮らしているのに、そんなこともわからないのだろうか

いや、逆にそれで鈍ったのかもしれない

部屋には常陸さんを残し、俺たち3人は居間に戻った

 

「ところで、ご主人と久遠の体調は?」

「さっき測ったときは7度4分。微熱がずっと続いている

「将臣はわかるけど、なんで俺にも聞くんだ?」

「昨日の事を忘れたとは言わせんぞ?」

「それなら今朝も言った通りだ。何も悪いところはなく好調」

 

多分今までで最高のコンディションだ

今なら祟り神が襲って来てもすぐに対処できるはず

 

「ところで朝武さんはさ、憑代の意思を受けて、無意識のうちに身体が勝手に動いたんだよな?」

「うむ、そのはずだ」

「欠片を集めるためなのに、なんで俺の布団に入って来たんだろう?」

「……それに関してだが、ひとつ将臣に聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「ああ。お前欠片を持ってないか?」

 

将臣と初めてあった時に感じたもの

あれはレナさんと初めてあった時と少しだけ違うものだったがほとんど同じものだった

それでレナさんは欠片を持ってることが判明したから将臣も持ってる可能性がある

 

「いや。もし心当たりがあれば、もう憑代に近づけて試してるよ。久遠は俺が欠片を持ってると?」

「俺たちの考え違いじゃなきゃ、欠片を求めるはずだ。なのに将臣の布団に潜り込んで寝てたんだからな。その可能性が大きい」

「……ご主人、以前、その……なんだ……ご主人の身体に神力を無理矢理流し込んだであろう?」

「え?ああ……うん、アレな……」

 

神力を渡したではなく流し込んだ……

まだ方法は聞いていなかったけど……何故かわからないけどそれを聞いたら俺は酷くダメージを受けそうだから追求するのはやめておこう

 

「ムラサメちゃんの方からそれを持ち出すなんて……どうした?」

「あの時、ご主人とその……深い接触をした時にだな……気付いたのだ。普通とは違う気配をご主人から感じると」

「それって……レナさんが、子供の頃から欠片を手にして、その影響を受けやすくなったような?」

「もしかすると……それこそが、ご主人が特別な理由かも知れぬ。久遠も気付いておったのだろう?」

「確かに初めて会った時に普通の人が持ってないような気配を感じたな」

「俺が特別?叢雨丸に選ばれたことが?」

「それだけではない。吾輩の身体にも触れられる」

「でも久遠だって触れられるじゃないか」

「俺だって普通の人とは違う。ご先祖様の生まれ変わり、二重の魂を持ち、物の声が聞こえる。これだけで十分に特別だ」

 

こうちゃんと考えてみるとだいぶ一般人と懸け離れてる気もするな

だが操真家での選ばれた者なんだ。誇らしく思わないと

 

「それでご主人が気付かずに持っているのかも、と思ったのだが……」

「悪いが、やっぱり心当たりはない。子供の頃からずっと持ってるものなんてない。断言できる」

「まあ、そうであろうな……」

「とにかく、2人の言葉は覚えておくよ。何か思い出したら報告する」

「頼む」

 

話が一段落ち着いた時、居間に常陸さんが駆け込んできた

 

「有地さん、ムラサメ様、操真君、すぐにいらして下さいっ」

 

とうとう動き出したか

俺たちは急いで部屋に向かい、入ったらさっきまで寝ようとしてた巫女姫様が憑代を手にし、起きていた

 

「予定通り、憑代に動かされておるようだな」

「…………」

 

巫女姫様の目は焦点があっておらず、放心してるかのように見える

だがフラつくことはなく、しっかりとその場に立っている

 

「これからどうしましょう?芳乃様を観察……でしょうか?」

「そうなるな。だが、そう時間はかからぬようだぞ」

「…………」

 

俺たちが目に入ってないのか、視線を向けても反応しないまま歩きだした

 

「後を追うぞ」

 

歩き始めた巫女姫様を追いかけ、外に出てそのまま山の中に入る

巫女姫様は相変わらずの様子でゆっくり歩いている

……辺りがザワつくように感じる

油断しないよう警戒しつつ歩いていたら、ついに足を止める

 

「ここに、欠片が落ちてるのかな?わかるか、ムラサメちゃん?」

「すまぬ……憑代の放つ信号が強くて、他の気配が拾えぬ」

「そうか……とにかく、もうしばらく様子を見るしか──」

 

将臣が言いかけた時、巫女姫様が憑代を掲げるような動きを見せ、憑代の輝きがまして、その輝きが周囲に広がる素振りを見せた

 

「今のは……」

「大きな気配が広がったな」

「それって、これから何が起きるってことですよね?」

「そのはず……将臣、刀は抜いとけ」

「わかった。ムラサメちゃん」

「うむ」

 

将臣が叢雨丸を抜き、ムラサメがその刀身に入る

俺も続き、都牟刈村を抜いたが、以前よりも輝きが増し、まるで月のような光を放っていた

首飾りも光を放ってるように見える

なんて考えてる暇はないか、茂みから音がした

 

「今、音がしましたよね?」

「俺が前に出るから、朝武さんのことは頼むよ」

「1人でやれるのか?」

「大丈夫だ、それにいつまでも頼ってられない」

 

なかなか言うじゃないか

なら俺は常陸さんと巫女姫様を守ることだけに専念しよう

祟り神が出ても、将臣は構えを崩さず、相手をじっと見てた

いや、見すぎてたのか触手が動いた時には反射で防いでいた

……危なっかしいぞ

 

『ご主人!』

「すまん!」

 

猶予は1回だ。次集中が途切れるようだったらあとは全部俺がやる

けどそんな心配はいらなかった

触手を躱し、懐に飛び込み、最小限の動きで手首を返し、いつも通りに斬り裂いていた

 

「……今ので……終わりか?」

 

いつもと変わらず、欠片を回収する

巫女姫様を見たが何も変化はない

 

「さっきの憑代の瞬きは、一番近くにある欠片を呼び寄せるものだったのかな?」

『今のところは、そういう感じであるが……』

「いや、まだだ」

 

こっちに何かが近づいてきている

そっから2体目の祟り神が現れた

 

「やっぱりまだいたのか」

 

いや、なんだこの気配……!

2体どころじゃない!

 

「ムラサメちゃん……なんかあの祟り神、でっかくないか?」

『い、いや……デカいというか、アレは──』

「っていうか……2体いる……?……2体!?」

「将臣、2体いる所で驚いてちゃ困るぜ」

『ご主人!よく見るのだ、アレは2体ではない』

「いや、でも、確かにアレは──」

『2体ではなく3体だ』

 

祟り神はさらに増える

俺の読み取りが正しければその倍は近くにいる

下手すりゃ……囲まれてる

 

「あ、有地さん!?操真君!」

「わかってる。さすがにここは、引いた方が……」

「い、いえ……そうではなくて……」

 

常陸さんの声から漂う不穏な声

時すでに遅しか

 

「こちらにも祟り神がっ」

『5体以上はおる!』

「はぁっ!?じょ……冗談だって言ってくれないか?」

「倍の数はこっちに向かってきてるぞ。最悪の場合はそれを遥かに上回るな」

「そ、それだけいたら、完全に囲まれるんじゃ……?」

「はぁ……仕方ない」

 

駆け出し、逃げ道を塞いでる祟り神を斬り裂く

後ろは数が少なかったからすぐに終わった

 

「はやく逃げろ!モタモタしてたらこっちがやられるぞ!」

 

移動しかけたら多方面から触手が襲ってくる

冷静に、一つ一つの動きと未来予知を照らし合わせ、こちらに近いやつから叩き落としていく

 

「巫女姫様は抱えたな!はやく行け!」

「でも久遠は!」

「俺が足止めしてやる!」

「馬鹿言うでない!何を考えておるのだ!」

「相手の動きが確実に見れて、多数相手でも戦えるのは俺だけだ。なら必然的にこうなる」

 

例え相手が何人いようが、攻撃がどこから来ようが俺を対象にする攻撃ならその未来が見える

守るものがない方が、多数相手でも1人で戦える

 

「だが、久遠が危険では──」

「なら約束だ!絶対無事に無傷で合流してやる!」

「……約束したからな!こっちだ、ご主人、茉子!」

 

ムラサメの誘導に従い、将臣と常陸さんが走っていく

この数相手にするのは初めてだが……

だけどやられる訳にはいかない。無傷でって約束したんだからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇーはぁー……ぜぇーはぁー……ごほっ、ごほっ……」

「大丈夫か、ご主人」

「はぁ、はぁ、はぁ、……なっ、なんとか……はぁ……はぁ……怪我は、ない……ぜぇ、ぜぇ」

「あ……有地さん、大丈夫ですから、そろそろ下ろしてもらえますか?」

「あ、ゴメン」

 

逃げるのに無我夢中になってたから、朝武さんをそのまま抱えてたままだった

 

「いえ、助けて頂いて……ありがとうございました。そ、それよりも私が寝ている間に何があったんですか?」

「すまぬ。吾輩の考えが浅はかだったのだ。まさか、ここまでとは……」

「眠ったあとすぐに、芳乃様は憑代に動かされて山の中に来たんです」

「そして一際大きな信号の波を、憑代が発した」

「最初に1体きて、それは何とかしたんだけど……」

「その後、わらわらと集まってきてな。欠片が反応を示せばと考えておったが……甘かった。今は久遠が抑えててくれておる」

 

いくら久遠が強いと言ってもあの数の祟り神を相手にするなんて無理のはず

この少しの間だけでも何か考えて久遠を助けたりしないと!

 

「……ムラサメちゃん、全ての欠片が祟り神になってる可能性があるんだよね?」

「うむ。全てが相手となると久遠も無理であろう……」

「でもさ、もし全ての欠片が祟り神になったのなら、これを乗り越えれば全て集まるってことだよ!だから久遠を救出してなんとか倒していけば!」

「だがあの数をどうやって相手にするのだ?いくらなんでも無茶だ」

 

確かに、あの数では無理がある

逃げながら1体づつ倒していけばもしかしたらって思ったけど、さすがにこんなペースで走り回りながら戦うのはすぐに体力が尽きる

 

「また、身体に神力を……」

「それはダメだ。もうやらぬと言ったはずだぞ」

「だけど、このままじゃ!」

 

他に良案はないのか?

頭をフル回転させて考えるが、タイムリミットはすぐに訪れてしまった

 

「……くっ」

 

久遠が足止めしてたはずの祟り神の群れ

だが見た限りさっきの数よりも大幅に減っていた

 

「久遠はなぜおらんのだ!?もしや……」

「大丈夫だムラサメちゃん。祟り神はこっちを狙ってきてるんだ。もしかしたら久遠を相手にせずにこっちに来たんだと思う」

 

そう考えないと久遠がやられたってことになる

それにまだ数が多いが、さっきよりは何とかなるはず

ムラサメちゃんの目くらましで怯んでる隙に少しでも減らしていけば……なんで襲ってこないんだ?

 

「えっ……?」

 

祟り神が溶けるように、泥となって辺りに広がった?

ひとつに集まってきて……

 

「えぇぇぇ!?ちょ──ちょっと格好よくなってるっ!?」

 

まるで溶けかけているみたいだった身体が、黒い獣になっていた

ハッキリとした四肢。大きな口と、鋭い牙。触手だと思っていたソレは、長い尻尾のようだった

犬……というよりも、狼と言うべきだろう

 

「おそらく、憑代の一つになりたいという願いをより近くで受け止めたせいであろうが……よもや、このような事態になろうとは……」

「で、ですが、これはむしろチャンスなのでは?」

「チャンス?」

「10体以上いた祟り神が1体になったと考えれば、手の打ちようがあるかもしれません」

「そ、そうか!確かに!」

 

一体一ならいつも通りだ

合体という予想外な展開に驚いたけどらむしろこっちの方がいいかもしれない

 

「よしっ」

 

叢雨丸を構え、慎重に間合いを詰めていく

 

「…………」

 

祟り神に動きはない。これなら……このままイケる!?

そうして間合いに踏み込んだ瞬間──

 

「──は?」

 

俺の身体は宙に浮いていた

 

「っっ!?」

 

背中から落ちた衝撃で、ようやく自分が吹き飛ばされたことを把握する

 

「げほっ、げほっ!?」

 

背中を襲う衝撃にむせながらも、慌てて転がった

その直後、俺を叩き潰そうとするような衝撃が飛んでくる

──が、その衝撃は俺に当たることはなかった

 

「すまない。なんとか間に合ったが遅れてしまったな」



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第20話

 

なんとか祟り神を足止め出来ているが、こいつら俺を無視してムラサメたちの方に行こうとしてやがる

やっぱり目的は憑代か

こちらから攻撃すれば防御のために反撃され、それでこっちに注意を引き付けつつ戦っているが、それでは体力が持たない

 

「チッ、あまり使いたくないが……光よ!」

 

神力を光に変え、放出し目くらましとする

1回で使う時に体力を持ってかれるからあまり使いたくないが、祟り神をまとめて引き止めるには1番使えてる

……が、このままでは突破されるか

 

「女神様から託された神力……今しかできない2つ目の力を使うか」

 

都牟刈村の担い手は2種類の効果を得ることができる

1つ目は相手の動き、危機を事前に見れる未来予知

これは担い手なら誰もが使える身を守るためのもの

2つ目は想いの力がより強く、神力が刀身より溢れ出るほどか、今みたいに借り物でもいいから通常よりも多くの神力を持っている場合でしか使えない

それは担い手自身に神力を宿し、身体能力、反射速度、などを限界よりも引き出すもの

 

「女神様の力……使わせていただきます」

 

都牟刈村と玉石から神力を身体の方に回す

そして俺の身体が淡い光に包まれる

それをさせまいと祟り神が向かってくるが、未来予知を見た瞬間、祟り神を断ち斬っていた

いつもなら予知を見て、その後に動くというのに見えた瞬間には行動できるほど反射速度が上がるとは……

その後も祟り神の群れを斬り──

 

「こいつで終わりだぁ!」

 

最後の1匹を斬り裂いた

これであとは欠片を回収して、みんなと合流すれば……そんなっ、欠片が少なすぎる!?

何体かは見逃してしまってたが、そいつらが欠片を取り込んでいたってことか!?

とりあえず落ちてるものだけでも回収して、みんなのところに向かわなければ!

だが、駆け出した時──

 

「──ッ!?」

 

その場に跪いてしまった

少しだけど足が動かなかった

これが人体に神力を宿した代償ってことか?

今晩で全てが片付くかもしれないんだ。もう少しだけもってくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気配を頼りつつ走っていたが、もう1つ嫌な気配があることに気がついた

それはさっきの祟り神と同じものであったが、より増幅してるのもわかった

姿が見えたと思ったら、将臣が狼型の祟り神によって吹き飛ばされ、追い討ちをかけられ寸前

 

「間に合えっ!」

 

力を振り絞り地面を思いっきり蹴って、なんとか都牟刈村で防ぐことができた

 

「すまない。なんとか間に合ったが遅れてしまったな」

「く、久遠!無事だったのか!」

「なんとかな。とりあえず下がれ、立て直すぞ」

 

将臣は身体を起こし、後ろに戻ったのを確認して俺も後ろに下がる

 

「あ、有地さん!?大丈夫ですか?」

「なんとか久遠が止めてくれたから!それより今のは!?」

「前脚です!前脚で吹き飛ばされて……爪で引き裂こうとするように」

「姿形が変わったと思ったら、攻撃方法も増えやがったのか」

 

どうやら食らってた最初の1発は見えてなかったようだな

ということは、俺が攻守共にやるしかないか

 

『久遠、なぜ神力を纏っておるのだ!?それは人体に影響があるって知っておるだろ!』

「わかっててやってるさ。でもそうでもしないと打破できない状況だったんだ」

 

それにアイツに太刀打ちするんだったらこの力は必要不可欠

もしも女神様の力がなければ耐えきれず吹っ飛ばされてたはずだ

 

「貴様……なぜその力を持っている」

「はっ、とうとう喋れるようにまでなっちまったか」

「祟り神の言葉がわかるのですか?」

「何を仰って、ハッキリと喋って……いや、俺だけが聞こえるのか」

 

物の声が聞こえる俺の体質に、神力の力で増幅されているんだ

祟り神の声ぐらい聞こえても不思議じゃない

 

「姉君の……姉君の気配を感じる。貴様何をした」

「この力は女神様から貸してもらった。俺は何もしていない」

 

と言ってもこいつには届きそうもない

伏せるように頭を低くした……動き出すつもりか

 

「戯言を言うなぁ!」

「ちぃっ!」

 

尻尾による激しい攻撃

受け止めたが、手が痺れるほど強烈だ

 

「貴様らも同じで、姉君を利用するつもりかぁ!」

「そんな事、するわけねぇだろ!」

 

祟り神からくる攻撃を全て受け止め、はじき返すが一撃が強く重すぎる

それに神力の力も弱まってきた気がする

もうそんなに長くは持たないか……!

 

「憎い……!人が、貴様らが憎い!」

「……そうだろうな。今まで俺たちを守ってきた貴方たちに酷いことをしたんだ。決して許されることではない。だけどな!お前の姉君が、女神様がこんなことを望んでると思ってるのか!」

「黙れぇぇ!」

 

俺の説得じゃ無理か!

逆に女神様の力があるからか逆効果になっちまってる!

さっきまでよりも強い一撃がきて──

 

「──ぐぁっ!」

 

ついに吹き飛ばされた

今までと桁違いだろこれ

 

「1人で戦おうとするな!」

「だがあの姿は今までとは違う……将臣たちでは……」

「予備動作が見えた。起こりはハッキリ見えるから何とかいけると思う」

「……なら攻撃は全部防ぎ、隙を作ってやる。だから代わりに終止符を打ってくれ」

「ああ!」

 

祟り神が動き出すと同時に俺も動き出す

ほんの少しの、一瞬でいいから隙を作らなければ

そのためにはみんなの力を借りなければ!

 

「巫女姫様!常陸さん!尻尾を止めるから鉾鈴とクナイを!」

「はいっ!」

「わかりました!」

 

空気を引き裂くような鋭い尻尾の一撃が俺目掛けてくる

刀で受け止め、瞬時に神力を増幅し、手首を返し上から叩き伏せる

 

「今だっ!」

 

俺の合図と同時に2人が動き出し、鉾鈴とクナイを尻尾に突き立て、地面に縫い付ける

この一瞬の隙にさらに攻める

前脚を都牟刈村で封じ、全体の動きを止める

 

「将臣!」

『ご主人!』

 

俺たちが言うよりも先に飛び出していた

尻尾は縫い付けられ、前脚は封じている

なら残す攻撃は1つしかない

 

「ガウッ!」

「噛みつきだよな!」

 

起こりがちゃんと見えている将臣は、身体を捻ってさらに一歩、身体を滑りこませる

そして叢雨丸の切っ先を突き立て、その喉笛を貫いた

 

「ガアアアアアア!?」

 

祟り神は激しく苦しみを訴えるかのように雄叫びをあげる

将臣は叢雨丸をさらに押し込み貫いたが、その傷口から泥のような穢れが溢れ出した

 

「ここに来てまだ抵抗するか!」

 

助けるために近づこうとしたが、足が動かない

俺の方は時間切れだっていうのか

あとは……将臣に全てかけるしかない!

 

「このっ……いい加減しつこいんだよぉぉぉぉっ!!!」

 

叫びながら叢雨丸をさらに深くねじ込んだ

その瞬間、今までとは比べ物にならないほど濃縮された穢れの黒い霧が、猛り狂うような勢いで山の中に吹き荒れ、収まったときには大きな憑代の欠片が落ちてた

 

「力が玉石に戻っていく……ありがとうございました」

 

今日はこの玉石が、女神様の力がなければ俺は死んでたか穢れに飲み込まれていたのかもしれない

 

「でもこれで終わったんだな……」

 

力が抜け、その場に倒れてしまった

さすがにつっかれたぁ……

 

「久遠!」

「悪い、無傷って約束したけど傷だらけだよ」

「馬鹿者、無事ならそれで何よりだ……」

「ところで憑代はどうなってる?悪いけど身体が動かせれないから確認できないんだよ」

「それなら今芳乃が1つにしておる」

 

そうムラサメが言った途端、白い輝きを放ったのがわかった

犬神の姿をしたやつを倒したんだ。憑代は元の形になるはず……

 

「……あれ?あれぇぇぇぇぇぇ!?」

 

まだ何か問題があったのか

でも俺は今日はもう動くことはできないぞ……



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第21話


お久しぶりです
前回の投稿からだいぶ経ってしまいました

ちょっとスランプ気味でなかなか話が思いつかず苦戦していました
これからもいい話が描けるよう頑張りますのでお付き合いお願いします


 

昨日ぶっ倒れるくらい疲れたってのに昨日の朝と同じぐらい快調だ

女神様の力のおかげで回復力まで高まったのはわかるが本当に凄い

でも土地神だしそういう効果があっても不思議ではないな

 

「……よし」

 

朝早いけど神社に向かうとするか

それは俺がぶっ倒れた直後、将臣の叫びが原因

お祓いは無事完了し、憑代も完成したと思ったけど、一箇所だけ欠片が埋まってなかった

大きさ的にもあと一個だろうし、最後の一個はもうどこにあるか検討はつく

 

「ごめんください」

「やあ久遠君。もう芳乃たちは準備を始めてるよ」

「そうですか。早朝だというのにすみません」

「そんな、謝ることじゃないよ。むしろ僕からお礼を言いたいほどだ」

「俺は何も……みんなの頑張りがあったからこそです」

「でも君だって過去のものを背負って頑張ってきたんだ。お礼を言われる権利がある。さて、立ち話もそろそろ終わらないとね。僕が芳乃に怒られちゃう」

「それは大変だ。では俺は巫女姫様たちのところに向かいます」

 

安晴様に一礼し、神社の中に向かう

中には巫女姫様、常陸さんの2人がいた

 

「おはようございます。遅くなって申し訳ありません」

「操真君、おはようございます。本当にお身体は大丈夫なのですか?かなり疲労が溜まってると思うのですが……」

「ええ。昨日の通り、回復が速くて。今朝にはもう万全です」

 

何しろ昨日倒れた後、身体が起き上がらないほど力が出なかったというのに、数分もしたら歩けるほどにまでなっていた

それくらいだと思ってたら一晩寝たら完全に回復してたからな

 

「ムラサメ様は自分のお力だけで十分と仰ってましたが」

「俺は大丈夫ですから。それにより確実にするためにはやり遂げないと」

 

都牟刈村を鞘から抜き取る

結界をも断ち切る力を持っているが、コントロールさえすれば逆に力を増幅することができる

意識を集中、玉石が輝きだす

 

「月の光よ。その力を俺に」

 

玉石に宿ってる神力を俺に流し、その力でこの部屋に満ちている神力をさらに増幅させる

ぐっ……やっぱり女神様の力を使うのはキツいな……

 

「……はぁ……とりあえず、俺にできるのはここまでです」

「神力が部屋に満ちてるのがわかります……」

「ワタシでもはっきりと感じれますよ」

「少しだけってのに結構疲れたな。そういえば、ムラサメはどうしたんですか?」

「ムラサメ様なら今有地さんを呼びに向かってますよ」

 

そっか。なら準備は俺だけってことだったのか

ともあれ、俺も準備は終わり後は考えが正しく、憑代が完成するのを待つだけだ

……もう少しで神様とご先祖様たちから始まってしまい、今に至るこの呪いに終わりを告げることができるのか……

 

「ムラサメ様、準備は整ってます」

 

おっと、ムラサメがきたのか

将臣に、レナさんまでいる

 

「準備?」

「そもそも、神社で一体何をするつもりなんだ?」

「言ったであろう?欠片の回収だと。そもそも吾輩はずっと不思議だったのだ。何故吾輩に触れることができるのか、何故ご主人まで欠片に意識が引き寄せられるのか。それに、憑代が信号を発した理由もな」

 

この3点から、俺とムラサメは1つの答えにたどり着き、今日はその答えを出すためのものでもある

 

「……俺が理由って言いたいのか?」

「ご主人の呼びかけに憑代が答えた。普通ではありえぬ話だ」

「だが、そうなった……つまり、どういうこと?」

「簡単に説明するとな将臣。お前の中に最後の欠片があるってことだ」

 

そう、憑代の最後の欠片は将臣の身体の中にある

これはレナさんが欠片を渡した時に予想していた

将臣とレナさんは似た気配を持っていた

でも似ているが、違う。そこで引っかかっていたが、レナさんは欠片を外側に所持、将臣は内側に所持しているため気配が似ていて違ってたんだ

 

「は……?俺の中って……なんで、そんなことに?」

「有地さん以前、川で溺れて水を飲んだと言っていましたよね?」

「……ああ、うん……その時に偶然飲み込んだのか……?でもそんなの、どうやって回収するんだ?手術……とは言わないよな?」

「欠片は肉体ではなく、魂に取り込まれておる。とはいえ異質な存在だ。完全に融合しておるわけではない」

 

俺は智之様との魂と融合、一つになってはいる

けれどそれは異質な存在ではなく、俺自身が生まれ変わりでほとんど同質ということもあり、偶然を偶然で重ねた奇跡によって出来たものと俺は考えてる

何せ俺が生まれてくるまでの操真家の人は何代といたが、生まれ変わりが出てきたことは1度もなかったから

 

「ここまで揃った憑代があれば、ご主人が語りかければ勝手に剥がれるであろうよ」

「語りかけるって……元に戻れって思うだけでいいのか?」

「うむ。強く気持ちをぶつければよい。そのための準備も整えておるしな」

「そういえばさっき、朝武さんが準備は整っているって言ってたね」

「はい。ムラサメ様に言われて、舞を奉納したんです」

「この部屋は今、穢れが祓われ、吾輩と久遠の力で神力を濃くし、より剥がれやすくしておる」

 

そう言ったムラサメはこっちを振り返って、ニコッと笑った

……まあ、全てお見通しなわけだよな

 

「それでは、有地さん」

「頑張って下さい、マサオミ」

「あ、ああ、うん」

 

将臣は常陸さんから憑代を渡される

そのまま目を閉じ、憑代に意識を集中させる

俺の考えがあってればこれで憑代は完成する

余程のことがない限りは間違いはないと思うが……

 

「──熱ッ!?」

 

将臣が声を上げたら、憑代が白く光っていた

そう、その光はこの玉石と全く同じ輝きをしていた

 

「……これで1つ目の目的が達成か」

 

俺が成すべき目的のひとつ

朝武家の呪いを解くこと……いや、まだ解けてはいないと思うが、憑代の欠片はひとつになったんだ。これからは確実に良い方向に進んでいくだろう

 

「これで……呪詛は解けたのか……?」

「絶対とは言えん。憑代を集めれば、というのは吾輩の推論だからな。まだしばらくは様子を見る必要があるであろうが……おそらくは大丈夫だ。あとは、この憑代を安晴に言って祀ってもらえらばよい。さすれば、呪詛として使われていた力も、加護として使われるであろう」

「わ、私、お父さんを呼んできますね!」

 

巫女姫様が急いで呼びに行った

そんな巫女姫様の姿を見るのは珍しいが、こんな状況なんだ。気持ちはわかる

それに呪詛の力も加護に変わるってなると、女神様に託された約束もなんとか果たせそうだな

弟で同じ土地神様を頼まれた時は勢いで流してしまったが、上手くやれてよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、祈祷はおしまいだ。これから毎日、祈祷を行うので安心して欲しい」

 

安晴様がこちらに来て、すぐに祈祷を行いそれが今終わった

これからは何も心配はないだろう

 

「ムラサメちゃんの言う通りだったな。本当に、運命だったのかもしれないって」

「そうだな。ご主人だけでなく、ここにいる全員がこうして出会えたのは、運命だったのだ」

「それは、わたしもでありますか?」

「無論だ。レナが欠片を持ってきてくれねば、憑代が揃うこともなかったのだから」

「そう言ってもらえるのは大変嬉しいですね、ふふふ」

「俺がここにいるのも運命か……」

「うむ。だが吾輩と久遠が出会えたのは、五百年も前から始まった運命だと思うぞ」

「ああ、そうだな」

 

俺とムラサメが今に関わってるのは俺達が生まれた時から……もう五百年以上も前からだったんだ

とても長く、奇妙でもあったが……悪くない運命だったな

 

「ああ、そうだ。将臣君」

「はい?なんですか?」

「将臣君は、今後どうするのかな?元々呪詛のせいで穂織に留まってもらっていたわけだから、もうここに縛られる理由はなくなる」

 

そうか。将臣は元々手伝いでここに来ただけで、今となっては住んでた街に戻ることもできるのか

 

「………?どういうことでありましょうか?」

「将臣君は、穂織の人間ではないんだ。暮らしていた家はもっと都会にあるんだよ」

「そうなのですか、マサオミ?」

「あ、ああ……うん。一応」

「では、マサオミは穂織から去ってしまうのでありますか?」

「若い子には都会の方が暮らしやすいだろうしね。それに、将臣君が生まれ育った場所だ」

「それはとても寂しいでありますよ〜……」

「それは……えっと…………」

「別に今決める事じゃないだろ?将臣がこっちに居たいのか、戻りたいのか、お前自身でちゃんと答えを出してからでいいさ」

 

すぐに答えが出ないってことは居たいって気持ちもあるんだろう

転校も何かとあるし、今すぐに答えを出さなきゃって訳でもない

ならゆっくり考え、ちゃんと答えを出す方がいい

 

「確かにその通りですね。今すぐ決断しなければいけないわけではありませんから」

「先走ってしまって申し訳ない。ウチの事なら気にしないで。遠慮なく居てくれていいからね」

「ありがとうございます」

 

正直言うと、俺も将臣と別れるってなると寂しい

新しく出来た友達なんだ。それにここまで一緒に戦ってきた戦友でもある

だからちょっとでも長く居てくれるなら、それは嬉しく思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神社を出た俺は、山の中に入っていた

夜の山といってももう祟り神は出ることは無く、気をつけなきゃいけないのは暗くてよく見えない足元だけ

少し山奥に入り、歩いているとそこには1つの墓と草木しかなかった

 

「智之様、ご報告に参りました」

 

今日に到り、憑代が完成し朝武家の呪いが解ける方向に進んだためその報告にきていたんだ

明日の明るいうちでも良かったんだが、もう何百年と待ち受けていたことだ。すぐに報告しなければいけなかったしな

 

「──というわけで、あなたとの約束が1つ果たすことが出来そうです。……それともうひとつ」

 

このことも報告しないといけないだろう

これは……裏切りになるかもしれないんだから

 

「……俺は、あなたと同じ人を好きになってしまったようです。こんなこと本当はダメなはずなのに……俺とあなたは違うというのに……」

 

生まれ変わりで記憶を引き継いでいたりしていたとしても、俺は俺で智之様は智之様で違う人なんだ

だが、俺はそんな智之様が恋してた女の子を好きになってしまったんだ

 

「この気持ちを伝えるのか、伝えずにするのか……俺はどうすれば──」

「真夜中に山の中とは危ないではないか」

「ム、ムラサメ!?何しにここに!?」

「智之のやつに今日のことを言いに来たのだ。久遠とてそうであろう?」

「あっ、ああ、そうだ」

 

良かった、聞かれてはいなかったようだな

聞かれた際には、合わせる顔がなくなっちまうだろう

 

「さてと……智之よ、久遠は本当に頑張っておったぞ。誰かのために力を使うのは、いつ見てもお主そっくりだった」

 

ムラサメはお墓に向かって報告し始めた。途中昔を思い出したか、声が震えてるように聞こえた

あの時代から変わらずにいるのはこの子だけ

両親や友はもういないし、俺がいるとはいえ昔のままってわけじゃない

この子はたった一人でいろんな人の生死を見て、今に至るのか

 

「ではな智之」

「もういいのか?」

「うむ。それにいつでも来れるしな」

「そっか。それじゃあ帰るか」

「この夜道では危ないからな。吾輩が送って行ってやろう!」

「ははっ、子供扱いすんなって。だけどたまにはいいかもな」

 

俺とムラサメは静まった山を下りる

家に帰る短い間だけだったけど、2人でいろいろ話しながら歩いていた時間はとても楽しく、幸せに思えたんだ





今回で原作でいうところの共通√、祟り神との戦いが終わりました


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第22話

2ヶ月と間を開けてしまいました
なるべく早めに更新していけるよう頑張ります

では、本編をどうぞ


祟り神との戦いも終わり、ゆっくり寝れる……なんてことはない

たとえいつもの日常に戻ろうが朝はトレーニングの日々だ

 

「今日ぐらいはもう少し寝てもいいんじゃねぇか?祟り神のことも終わったし今日は学院だってあるんだしよ」

「『最高の武器を作るには最高の強さを持っていなければならない』。ご先祖様の教えだろ?それにいずれ父さんを超えなきゃいけないんだし」

 

まだ先の話だが俺はこの家の跡を継ぐことになるけど、その時には父さんよりも強くなければならない

だからその時がいつ来てもいいように自分を磨いていなきゃな

 

「そういうわけだから、行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近は公民館にて玄十郎さんに面倒見てもらってるからかトレーニングしにこっちに来るんだよな

今までは将臣もいたけど祟り神の件は片付いたしもう来ないはず……

 

「……将臣?」

「おはよう久遠」

「祟り神と戦うことはなくなったのにまだ特訓やるのか?」

「なんか身体を鍛えるのも楽しくなってきてさ」

 

身体を鍛えるのが楽しい……か

俺はただ当然のように鍛えてたからその気持ちはわからない

けれどこう一緒にトレーニングすんのは楽しいと思ってる

 

「というかそれで玄十郎さんは感極まってるのか?」

「そうなんだよな……」

「おお、久遠君。すまないな、将臣が本気になってくれて嬉しくてな」

「いえ、俺のことはお気になさらず」

 

身内のことだから何か前向きになって嬉しいんだろう

こればっかりは家族じゃないとわからない問題か

 

「久遠君、君にも本当に感謝している」

「俺は……ただ約束を果たすためにこの件に足を踏み入れただけです。だから感謝されるようなことではないですよ」

 

五百年以上続いている約束のため……そのために俺は戦った

もちろん巫女姫様たちの力になれたのは喜ばしいことでもあるけど

 

「それでも、ワシは感謝している。ありがとう」

「い、いえ。そんな……そ、それよりそろそろトレーニングしましょう!時間だって限られてますし」

「そうだな、では将臣、久遠君。準備はできてるか?」

「「はいっ!」」

「たまには朝から手合わせをしてみるか!」

 

玄十郎さんと手合わせか

確かに長い間やったことは無かったな

昔と比べどこまで力がついたか調べるいい機会だ

 

「えっと、手心を加えてくれても──」

「いいですよ。是非お願いします」

「久遠!?お前何を言って!」

「ではまずは将臣、お前の成長をワシに実感させてくれ!」

「あ、いや、祖父ちゃん、まずは久遠からでも──」

「きえぇぇぇぇぇ!」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、いい汗かいた」

 

久しぶりに玄十郎さんと手合わせしたけどやっぱりこの人はかなり強い

でもその分本気を出せるもんだから戦ってて楽しく、気持ちもよかった

言っとくが負けてはいないからな。俺も操真の家の者、簡単に負けてはいけないんだよ

 

「剣の腕に関しては相変わらず強いのう、久遠は」

「あれ、ムラサメ?いつから見てたんだ?」

「ご主人が打ちのめされてる所からだな」

「ああ、そうか……」

 

ちょうど悪いタイミングで来ちゃったってことか

かっこ悪いとこ見られたのはドンマイだな

というか俺は玄十郎さん相手に勝ててよかった

……好きになった女の子の前で情けない姿晒す訳にはいかねえだろ

 

「ところで将臣、鍛錬を続けるという事は、ここに残ることに決めたのか?」

「考えたんだけど……少なくとも卒業するまではいようかなって。転校までしたんだ。今さら焦って戻らなきゃいけない理由もないから」

「そうか」

「じゃあまだ当分はいられるんだな。これからもよろしく頼むぜ」

「で、巫女姫様との結婚の件はどうするつもりか、決めているのか?」

「……あっ」

 

将臣のやつ、忘れていたな

でもそれも仕方が無いかもな

だって祟り神と戦えるようになってからは呪いを解くまで一直線に進んでたって感じだったし

それに婚約は当の本人たちでしかどうしようもないからな

俺が首を突っ込むことではない

 

「今日明日中に決めろとは言わぬが……ケジメだけはきっちりつけるようにな」

「……うん」

 

婚約……結婚かぁ……

俺はどうすればいいんだろうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして、院を警固する西面武士が新たに創設されたわけですね。北面武士は白河上皇の時、寺社に対抗して創設されたもの。西面武士は後鳥羽上皇の時、倒幕するために創設されたもの、ということになります」

 

歴史の授業は面白いんだが、その時代どのご先祖様がいたのかってのが気になって逆に集中できないな

その授業も終わり、これから昼の時間だ

 

「久遠、飯食おうぜ」

「ああ。将臣もこっち来るだろ?」

「……」

「将臣?」

「……」

 

何か考えてるのか?

こっちの声が一切聞こえなくなってる

 

「おーい」

「……うーむ」

「おいってば」

「なんだよ?授業中は静かにしろよ」

「周りを見てみろ。授業は終わってるぞ」

「え?」

 

将臣は周囲を見渡す

どうやら本当に授業が終わってることに気がついてなかったようだな

 

「どうしたんだよ?授業でわからないところがあった……とかじゃないよな?」

「ちょっとボーっとしてた」

「朝からトレーニングのし過ぎじゃないのか?」

「そういうのじゃないよ。ちょっと考え事をな」

 

俺と廉太郎は将臣の近くの席に座り、机をくっつけ弁当を広げる

残り物で作ってるが、いつも通りそこそこ美味そうな弁当には仕上がってるな

 

「もしかして、何か悩んでる?よろしい。何か悩みがあるならば、俺が相談に乗ってやろうではないか」

「あ、遠慮します」

「俺もできる範囲でなら相談に乗ってやるから、話したくなったら話してみてくれ」

「ありがとう。久遠なら頼れるよ」

「なんで俺と久遠で態度が違うんだよ!」

「だってなぁ……」

「自分がやってきたことを見つめ直してみろ」

 

玄十郎さんの孫とは思えないほどこいつはなにかと色々やってきてる

そりゃ将臣から頼りにはされないさ、良い奴ではあるんだけどな

 

「とにかくその気になったら言ってくれ。俺は話なら聞いてやるから」

「その時は頼むよ」

「久遠は真面目すぎなんだって。そういや将臣のそれ、確か常陸さんが作ってるんだよな?っていうか巫女姫様の分も」

「ああ」

「巫女姫様って料理できない人?」

「どうかな……できないって言うほどの経験もないんじゃないかな?全部常陸さんがやっちゃうから」

 

なるほど、それはわかる気がする

最初は俺も経験がなく、料理なんて出来なかった

けれど数をこなしていけばそれなりに作れるようにはなったんだ

 

「不器用は不器用かもしれないけど……教えればできそうな気もする。裁縫は得意みたいだったから、少なくとも家事は全部壊滅的ってことはないだろう」

「ふーん、意外だな、それこそ常陸さんがやりそうなものなのに」

「何でもかんでもやらせると悪いって思ったんじゃないのか?それは本人に聞かないとわからないけどな」

 

全部任せっきりなんて俺はゴメンだ

だから今こうして、当番制で何かしらやらないといけないことになってるのはありがたいんだ

 

「むぐむぐ……ん?」

「どうした?」

「いや、別に……何でもない」

 

将臣は弁当のおかずを食べて今何か反応したよな

食べて反応ってことはだいたい味が違うとか

でも常陸さんがそんなミスはしないはずだから……巫女姫様がこっちを見ている

なるほど、だいたいは察したぞ

 

「なんだ?」

「……さあな」

「それぐらいわかってやれよ」

「何のことだ?」

「近いうちに答えがわかるさ」

 

何せ同じ家に今は住んでるんだからな

常陸さんが隠し通しててもきっといずれバレるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わり、学院を出ると家に帰り、着物に着替える

俺はそのまま山の中に入っていった

そして川の付近、涼し気な寝っ転がれる所で寝ている

 

「……これからどうすればいいんだろうな」

 

祟り神は祓え、呪いは消えたはずだ

だから次はムラサメを人に戻さなければいけないんだが……肝心のその方法がわからない

昔の書物を漁れば方法が見つかるかもしれないが、まだまだ時間がかかりそうだな

 

「いつの間にか日が暮れそうだな、帰るか」

 

もう夜になっても祟り神が出ないとはいえ、暗い中の山道は危ないものだ

少しでも陽の光があるうちに帰った方がいいだろう

 

「こんなところで何をしておるのだ?」

「ムラサメか。昔っからのちょっとした癖だよ」

「癖?……ああ!悩み詰まった時に一人になるあれか!」

 

今のように悩み詰まった時、1人になる場所に来て状況を整理したりするのが癖なんだ

これは智之様もしていたそうで、そこも共通しているらしい

 

「それで?悩みはどうなのだ?」

「まだなんとも、少しばかり時間がいるな。ところで1人か?将臣はまだ修行してんのか?」

「いや、今は芳乃と2人でおる」

「巫女姫様と?……ああ、そういうことか」

 

きっとあの昼の弁当のことを含め、いろいろ話すことがあるんだろう

ということは、この子は空気を読んで離れたってことか

 

「2人でいるってことは鉢合わせしないように道を選ばないと」

「ふむ、それなら吾輩もついて行こう」

「将臣たちの邪魔になっちまうからな」

 

このままいい関係になれば正式な婚約者になるんじゃないかな

それならそれで俺はいいと思う

 

「……なあ、ムラサメ」

「どうしたのだ?」

「祟り神は祓うことができ、朝武家の呪いも解けたと思う……だけど俺はまだやることがある。そのために……時々でいい、こうして俺の隣にいてくれないか?」

「……やはり久遠も、智之と同じで吾輩がいなければ寂しいのだな!ずっとは無理だがこの穂織におるのだ。会いたい時には会いに来ても構わぬぞ」

「ああ、ありがとう」

 

会いに来ても構わない、その返答が聞けただけでもものすごく嬉しいと思ったんだ

そして、より一層約束を果たさなければならなくなった

この約束は、次の代なんかに回さず俺が果たしてやる

 



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23話

 

朝、いつも通りトレーニングして学院に行く準備をする

祟り神の事がなくなってからなぜか身に入らない

……そういえば憑代の様子はどうなんだろう

またムラサメに聞こうかな、そうすればあの子と会えるし

 

「……なに会う口実考えてんだ俺は」

 

好きな女の子にちょっかいかけたくなったり、会いたいから何か理由付けようとする小学生か俺は

でも……やっぱり好きな子といたいっていうのは誰だってそうだろ

それに俺の場合は何百年と時間が経っているんだ

想いの強さは誰よりも強いのかもしれない

 

「なーに辛気臭い顔してんだ!」

「ぐはっ!何しやがる!」

「辛気臭い顔してんからだろ?そんな顔してるとムラサメさまにも嫌われちまうぞ」

「んなわけあるか!あの子はなぁ……」

「あの子はなんだ?」

「なんでもねぇ!行ってきます!」

 

なんか父さんにからかわれるとムカつくな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業も終わり、昼の時間

とりあえず弁当でも食べるか

中身はいつも通りの昨日の残り物や朝に簡単に作れる品物だけの素朴な弁当

それでもまずいわけじゃなくてそこそこだと自覚してるからいい

さて、この昼の時間は気になることがひとつある

前の将臣と巫女姫様の挙動さえ見てりゃ気がつくことだが……やっぱり巫女姫様は将臣の方を見てる

ならまた弁当を作って差し上げたのか

 

「なあ久遠」

「なんだ廉太郎」

「将臣のやつ変じゃないか?」

「いいんだよ。別に問題はないから」

 

お互い気にっているんだよな

ならさっさと付き合っちまえばいいのに

 

「なら将臣に聞きに行くぞ。久遠もついてこい」

「ちょっバカ、引っ張るな」

 

廉太郎に無理矢理連れていかれる

弁当食べてる最中だったが……残りは向こうで食べればいいか

 

「……ん?なんだよ」

「ああ、悪いな。ちょっとこいつがな」

「さっきからどうしたんだ?変だぞ、お前」

「変……ってなにが?」

「真剣な顔で弁当を食べたかと思えば、いきなり頬を緩ませてバカ面に、かと思えば真剣な顔に戻る。見てて不気味なんだけど。怪しい薬でも入ってるのか?その弁当」

 

確かに俺みたいにその理由がわかってればいいけど、廉太郎にみたいに理由がわからないでみると弁当が怪しいって思ったりするよな

 

「失礼なことを言うな、そんなわけないだろ」

「ほーう、なら顔が緩むほど美味いのか?どれ、俺も試しに」

「させるかバカ」

 

廉太郎の腕をつかみ、将臣の弁当を狙う手をブロックする

せっかくの巫女姫様の気持ちを無駄にさせる訳にはいかない

 

「なんで久遠が妨害すんだよ」

「なんででもだ」

「久遠……気づいてる?」

「さあ、なんのことだ?」

 

こんな所で言う訳にもいかないし、俺も気がついてない方が将臣と巫女姫様にとってもいいだろう

 

「食べ足りないなら俺の分けてやるよ」

「マジか?じゃあこの唐揚げもーらい!」

「ところで……二人に訊きたいことがある」

「質問一つにつき、おかず一品」

「どうした?答えられる範囲なら答えるが」

 

さすがに無理なものは無理だが、将臣ならそんな質問はしないだろ

 

「じゃあ久遠、訊きたいんだけど」

「わかったわかった。条件はつけたりしない」

「それで、なんだ?」

「朝武さんのことだ。以前からお見合いの話があったことは、知ってるよな?」

「そりゃ聞いたことぐらいならな。全部じゃないけど、多少は具体的な内容も耳にしたことがある」

「俺も詳しい内容はそこまで分からないが、巫女姫様の見合いの話は何度も聞いたな」

 

今は将臣が婚約者っていうことでお見合いの話はないけど、それまでには何度もあったからな

 

「今まではどんな人が見合い候補になってたんだ?巫女姫様の相手ってなると、やっぱ大物?」

「いや、そこまで大物ってやつはいなかったよな?」

「どっかの不動産だか建築会社だかの会社の御曹司とかって聞いたことあるぞ?」

「いかにもいろいろ手を尽くそうとしてる考えだな。それに巫女姫様も恋愛の自由はあるから全部断ってきてんだろ」

「それもあるけど、『男嫌いで結婚する気がないんじゃないか?』って噂されたこともあったよな」

 

なんだそれ、俺は聞いたことない

やっぱり人脈や噂なんかは廉太郎の方が広いだろうからな

 

「だから叢雨丸を抜いたとはいえ、お前が婚約者になれたことには驚いた」

「見合いを断り続けてる理由、2人は知ってるか?」

「そういうのは何も聞かないな。ただ断ったとだけしか」

「写真すら見ずに断ってたらしいぞ。だから男嫌いなんて噂が立ったんだよ。教室で話す分には普通だから俺たちは信じてなかったけど」

 

確かに、昔から話しかけても嫌がられる雰囲気は何一つなかった

でも真面目な性格の巫女姫様のことだから祟り神の件が絡まっているんだろう

 

「で?今更どうした?そんなこと気にするなんて」

「え?いや、別に……?」

「一緒にいる内にだんだん好きになって来たんだろ?言わなくでもわかってやれ」

「ッッッ!?久遠、おおおおおお前ッッ!?」

「んなもんわかってるって。ただからかっただけだよ」

「な、なんで廉太郎も!?なっ、なんでそれ、知って、バレて……っ」

「なんでも何も……隠してるつもりだったのか?」

 

こんなもんあまり雰囲気に聡くない俺だってわかる

周りだって気付こうと思えばできるだろ

 

「というか、今さら何を悩んでる?って感じだけどな。これだからお子ちゃまは、やれやれ」

「うっ、うるさい。今まではそんなの考えてる余裕がなかったんだよ」

「で、ようやく考える余裕ができて、自分の気持ちを持て余してるのか」

「持て余してるっていうか、こう……この気持ちを、どう扱おうか考えてるっていうか」

「恋愛マスター(仮)、何か助言してやれよ」

 

女の子と話す分には天才級の廉太郎

だがそこから恋愛に発展することはないから(仮)だ

 

「誰が(仮)だ。それで、仲が悪いとかは?」

「いい友好関係を築けてるとは思う」

「ほー。そいつは興味深い。巫女姫様って話しかければ返事はしてくれても、それ以上は拒絶……っていうのかな?壁を感じさせるんだよ」

「確かにそれはわかるな」

「というか、お前も大概だぞ?確かに付き合いは良かったけど、いつも仕事や修行ばっかり言ってたから」

「うっ……すまない」

 

昔は1日でも早く父さんみたいな鍛治職人になろうと必死だったからな

どう考えても付き合い悪いやつじゃねーか

 

「けど今はまともになってるしな。前の休みなんか本当に驚いた。久遠だけじゃなくて巫女姫様が誰かと遊ぶなんて話、初めてだったから。しかも、あんなに楽しそうにして」

「あー……あの時ね」

「さて、話を戻すけどまずは告白だな」

「それはそうなんだけど……告白ってしてもいいのかな?」

「言わなきゃ伝わらないさ」

 

俺自身じゃないけど俺がそれを経験しているからな

それが永遠の別れじゃなかったのは良かったけど……それでもあの時は悲しまないでいられずにいた

 

「……なあ、久遠って意外とアドバイスしてるけどそういう相手でもいるのか?」

「……何故今言う?」

「だって恋愛に興味無さそうなのになんか経験者っぽいっていうか、何が必要か言うしさ」

「別にいいだろそんなこと」

 

誰だって今から五百年前の記憶があって、たった一人を今でも想い続けてるなんて言えないだろ

それにムラサメと結ばれなかったとはいえ、智之様は第一の弟子となった息子までいたんだから恋愛に関してもそれなりに知識はある

 

「だって気になるじゃん。なっ、将臣」

「あ、ああ。そうだな」

 

とりあえず将臣に視線で「相手がいるっていうことは言うなよ?」と伝えておく

将臣にちゃんと伝わったのか、それ以降は話さずに終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学院が終わって家に1度戻ったあと、山の中に入り寝っ転がる

昨日と全く同じことだがやることがないんだ

それにここにいればムラサメに会える気がしてな

 

「久遠ー!」

「ん、どうした」

「ここに来れば久遠に会えると思ってな」

「そっか。俺もさっきそう思ってたんだよ」

「そ、そうか。な、何か恥ずかしい気がするな……」

 

ムラサメが少しだけ赤くなり、俺も自分の発言に気が付き少し顔が赤くなった気がした

というか何お互い会えると思ってなんて言ってんだよ……!

 

「話題を変えようか!そういえば将臣と巫女姫様はまた一緒にいるのか?」

「うむ。先程鍛錬を終えて一緒に帰ったぞ。なので吾輩は空気を読んで二人にしてあげたのだ」

「あの二人はいつになったらくっつくんだか」

「それも時間の問題だと思うぞ」

 

一緒に暮らしてるムラサメが言うんだ

きっと家でも二人は何気に良い雰囲気を出してて常陸さんなんかは苦労してそう

 

「さてと、そろそろ帰るかな。ムラサメも二人より早く帰ったんだから家にいなきゃなんか言われるだろ」

「うむ、それもそうだな。では行くとするか」

「ああ。おっと、聞き忘れてた。気になってたんだが憑代の方はどうだ?なにか変化は?」

「心配性だな、久遠は。今のところ変化はないから安心せい」

「わかった。けど何かあれば俺に報告してくれよ」

「うむ。その時には久遠の力頼りにしておる」

 

とりあえず憑代には何もないか

俺のネックレスからも特に変化はないから女神様も何も反応がないんだろう

このまま穢れが落ちてくれればいいんだけどな

今はそれだけを願うばかりだ



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