私は私の日常を守るだけ (yudaya89)
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第01話「黒森峰」



 憑依?物になります。

 もしよろしければ、ご意見、ご感想、よろしくお願いします。


転生物語の多くは、主人公やその他の主要人物と共に困難を乗り越えていく。

 

 しかし、自分の日常、居場所、地位、名誉等を最重視している物語は少ない。

 

 

 

 

 私の中にはもう一人の人格が存在している。その存在は自分の事を『俺』といい、言葉使いもかなり酷い。小さい頃、その言葉使いを両親から何度も注意された。この『俺』を認識したのは幼稚園の頃だった。先生の頼みごとを断れない時や、友達とけんかした時等、自分自身でどうしていいか分からない時に囁いてくれた。

『違う先生に頼まれごとをされているから、ごめんなさいと言うんだ。大丈夫、怒られないから』

『自分から先に謝れ、ごめんなさいとな』

『その場合、まず自分が出した玩具を片付けろ。次は友達の片付けを手伝え』

その囁きに従い、行動した事で、高校になるまでイジメ、友達関係などの事件に巻き込まれずに来た。私は何度か『俺』に問いかけた事がある。

「あなたは一体何なの?」

『俺か?俺は俺だよ』

「違う。何故私の中に居るの?」

『どうしているか?それは俺は君であり、一部だからだよ』

「出て行ってくれるの?」

『それは出来ない』

「何が目的?」

『目的?それは平凡だよ。平凡な人生を送るのが・・・いや、平凡な人生を君に送らせるのが俺の目的だよ』

 

 

 いつもこんな感じの返答しかしてくれない。

 

 

 小学校の頃に戦車道の試合を見に行った。理由はテレビを見ていたときに『俺』が囁いてきた。

『どうだ?この戦車道っていうスポーツしてみないか?面白いと思うぞ?』

 その囁きに従って近くの戦車道チームに見学に行って、そのまま入会した。どうやら私は、砲手に適性があったみたいだが、実力は並。それ以上でもそれ以下でもない。チームの勧めで、黒森峰中学に進学し、2年生からレギュラー入りを果たした。そして

 

 

『5号車!そこから相手車両を狙える?』

『問題ありません』

『撃って!!』

 

 

 私の放った砲弾は、相手車両に命中した。そして相手車両から白旗が上がった事を確認し、私はスコープから目を離した。

 

「やったわね。ナナ」

 車長がうれしそうに声をかけてきた。

「はい」

 私は一言答えた。

「それにしても偶然私達の目の前に敵のフラッグ車が出てくるなんて」

 車長、装填士が話しているが、私は違う者と話をする。

 

『どうした?うれしくないか?』

「うれしいけど、貴方の言った通りになったから、うれしさが激減した」

『まだまだケツの青いガキには負けないさ』

「それセクハラだから!」

『まぁそう怒るなよ。それとも昨日の卵かけ御飯を食べているときに「共食いか?」と言ったのをまだ怒っているのか?』

「死ね!!」

『ハハハ』

 

「ナナ?大丈夫?」

「え?あ、はい。大丈夫です」

「さっきから声を掛けても反応しないから」

「すみません。少しうれしくて」

「そう、じゃあ降りましょう。もう回収場所に付いてるんだから」

 

 

 今日は私こと、霧林ナナの中学3年生最後の戦車道公式試合だ。私が放った砲弾で、黒森峰中学の優勝が決定した。優勝したのは嬉しい、でも・・・『俺」に負けたことが悔しい。

 最初は当て合いをした。テレビで生放送されている戦車道の試合運びについて、次は相手はどう動く?この次のこの戦車の動きを当て合うのだ。そして今では、こうして自分が参戦している試合の動きをリアルタイムで当て合う。フラッグ車が目の前に偶然来たんじゃない。相手が其処以外に動く事が出来ない状態だったからだ。私達が待ち伏せしていた所こそ、その時相手の生還率の最も高い経路だった。戦車の中にある自軍の居場所を把握する盤を見た時、私は場所を移動すると予想した。でも『俺』は

『もう少し全体を見ろ。どうだ?もしもこの盤が正しければ、相手の車両は間違いなくここを通る』

 よくよく考えると、確かにそうだ。ここは日当たりが悪いから、3日前の大雨が乾いていないから車両速度が減速する。ここは木々の間隔が狭いから逃げ込んでも回り込まれる可能性が高い。生還率が最も高いのは・・・・

 

 だから私は、車長に「ここで命令を待ちませんか?動き回って足周りを破損して、修理するのは嫌なので」と進言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『まったく・・・どうしてこうなった』

 俺は30歳の2児のおっさんだ。いや・・・ここまでしか覚えていない。自分の事や子供、相方の事も覚えていない。気づいたら、この子供の体に憑依していたようだ。

 

 この子供は要領があまりよろしくないようだ。幼稚園の頃なんかは、2人の先生からお手伝いを頼まれたが、絶対に同時に出来ない内容だった。自分が悪いのに謝らない、自分の片付けを後回しにして、他人の片付けを優先しようとしたり・・・それじゃあ、駄目だろう。そういう時は囁いてみる。

「さっき違う先生に頼まれているんだから、断れ」

「お前から謝れ」

「先に自分の片付けをしてから、友達のを手伝え」

 

 

 

 小学生になると、俺に話しかけてきた。

「あなたは一体何なの?」

『俺か?俺は俺だよ』

「違う。何故私の中に居るの?」

『どうしているか?それは俺は君であり、一部だからだよ』

「出て行ってくれるの?」

『それは出来ない』

「何が目的?」

『目的?それは平凡だよ。平凡な人生を送るのが・・・いや、平凡な人生を君に送らせるのが俺の目的だよ』

 そして聞こえないように

『そう、平凡さ。普通で、平均で、平凡な人生さ。そう、まるで道の端に生えている雑草のような人生さ。勿論それを乱す奴は許さない」

 

 しかし問題がある。この子供の感情やストレスが俺にも反映される。感情は仕方ない。だが、ストレスは我慢ならない。体の所有権が俺に無いため、俺のストレスは中々解消されない。体を拘束されて、糞面白くも無い外国恋愛ドラマを永遠に見させられているようだ。このストレスは、まずこの子供のストレスが無くなってからでないと俺のストレスが解消されない。だからこの子供にストレスを与えないように俺は囁く事にした。

 

 しかしそれだけでは解消しなくなった。そんな時、テレビで戦車道の試合を見た。俺はその時初めてこの世界がガールズ&パンツァーという事を知った。これはいける。

 

 

 

 

 

 

 俺の算段通り、子供は戦車道を楽しく始め、順調にストレスを解消した。スランプやうまくいかない時は、俺と協力して難題を突破した。この事になると、戦車道の試合を見ながらする子供とのゲームが中々面白くなってきた。思春期入ると女の子の日が来た。俺が想像していたよりもこの子供の女の日は軽く、ストレスは殆どなかった。

 

 周りの大人の評価も「普通」「平凡」と、俺の目的通りとなった。

 

 

 

 そして中学3年生の試合で優勝した。このままいけば黒森峰女学園に入る事になる。しかし俺は西住みほとは関わらないように行動する。

 

 

 

 だって仕方ないだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 


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第02話「高校生になったら」

 
 あけましておめでとうございます。

 今年も駄文ですが、よろしくお願いします。


 

 

 

 西住みほ・・・確か・・・確か・・・あれ?なんだっけ?でもあいつは、何か重大な事件を起こしたような気がする。西住には申し訳ないが、関わらないように忠告しよう。そういえば俺のストレスがMAXになったら俺はどうなるんだろうか?俺が消えるのか?

 

 

 

 中学最後の試合が終わり、私は黒森峰女子学園に入学する事になった。しかし、中学と違い、全国から優秀な人材が入学する。そして篩にかけられ、全国大会に出場できるレギュラーが選抜される。それに選ばれなければ、3年間2軍、3軍で過ごす事になる。でも私では1軍レギュラー入りするのは難しい状況。しかし『俺』の協力を得られれば、チャンスはある。

 

 

 昔から何をやっても普通・・・テストでも平均点は70点台、戦車道での射撃の技術も普通、容姿も普通・・・私だって、私だって、輝きたい!!あの試合で最後の車両を撃破した。その時、皆から「凄い」と言われた。その言葉は・・・その言葉は、今までの人生で私の心に・・・心の奥底に強く響いた。だから、その言葉を又聞きたいと思った。

 

 

 

 

 

 

『何故俺がお前の中に居るか、知ってるか?』

「私に普通な生活を送らせるため」

『そうだ。だったら、その話に俺が協力すると思うか?』

「分かってる。でも『俺』に協力してほしい』

『・・・』

「ダメかな?」

『後悔しないか?』

「え?」

『確かに、「認められたい」という気持ちは分かる。だがな、最初は「凄い」と皆が言ってくれる。だがな、そのうちそれが『普通』になる。その『普通』は『俺』が言っている「普通」とは全然違うぞ?だから、何れその『普通』に押しつぶされて潰れる・・・その時に後悔しないか?』

「・・・」

『もう一度考えろ。これは戦車道に限った話じゃない。社会でも言える事だ。キツイ言葉だが、お前にはそこそこの実力はある、努力もしている。でも普通止まり・・・今以上の努力でレギュラーになっても、そこから、今まで以上の努力をしないと、下に抜かれてしまう。その時お前は絶望する・・・「自分には黒森峰は荷が重すぎた」と、そして後悔する。まぁ話は終わりだ。またな』

 

 

 

 

 

 完全に論破された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた最近どうしたの?」

 同じ車両に乗る同級の車長から声を掛けられた。

「どうって?」

「いや、最近ずっと考え事してるようにみえるから」

「私、黒森峰でやっていけるか不安で」

 まぁ間違ってはいない。

「あ~、分かるよ」

 本当に?適当に話合わせているだけじゃないの?

「私も2年の時にこのまま進学してもいいのかな?って考えて、色々な人に話を聞いたの。で、自分で「私の戦車道はここまで」って決めたの」

「え?どうして?」

「これから先、私の車長の能力じゃ、黒森峰女学院では通用しない・・・そう感じたの。ナナは女学院の練習見に行った?」

「うん。凄いレベルが高い」

「そう、でもねあの時見た練習風景って、2軍なんだよね」

「・・・」

「あのレベルで2軍なんだよ。私達の先輩だって居た。その先輩と話したけど、3年になったら辞めて受験に専念するって言ってた。もう1軍入りは諦めているって。私は高校生活を無駄にしたくない」

「だから高校では戦車道をしない」

「うん。高校も違うところに進学するつもりだから」

「その高校に戦車道があったら?」

「確かそこそこさかんだったけど、私はしないと思う。私は答えを出した。ナナも答えを出して進学しなさいよ。じゃないと、後から後悔するだけよ」

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 私は・・・後悔をしたくない。

 

 

 やらなくて後悔するより、やって後悔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第03話「高校生になったら2」

『それが答えか?』

「うん、黒森峰でレギュラーになる。私だって輝きたい」

『分かった。じゃあ頑張れよ』

「え?」

『ん?』

「協力してくれないの?」

『え?・・・なんで?』

「なんで・・・って」

『そもそも、お前が黒森峰でレギュラーになると俺になんのメリットがある?』

「・・・無い」

『そうだろ?俺は「普通」を望んでいる。しかしそれをお前は望まない。俺が協力して得られるメリットは無い。お前にしかメリットが無い』

「体の所有権に関しては?」

『却下。俺はそれを望んでいない』

「じゃあ望みは何?」

『その望みをお前はかなえてくれるのか?』

「そ・・それは」

『いいか?これはビジネスだ。自分が協力する事で、どのようなメリットが得られるかを相手に提示する、もしくは実演する。そのメリットも大きすぎてはイケない。うまい具合に利用される恐れがある。同等、もしくは少し上の条件とするといい。あくまで相手とはwin-winの関係を築く必要がある。分かるか?』

「でも相手が自分より上の場合は、難しいよね?」

『その通り。このwin-winの関係は、自分と同等の立場の人間と築けやすい。上の人間とは「貴方が私を使う事で、このぐらいのメリットを生む事が出来ます。だから使ってください」といった売り込みになるな』

「私なら、「私を砲手にする事で、撃破率が上がり、予期せぬ遭遇戦でも勝率が上がります」と売り込む訳だね。」

『そうだ。逆に下の人間は大切にしろよ。有る程度信用があれば困った時なんかに、動かしやすい』

「なるほど、最初に色々優しく教えて、困った時に無償で手伝わす・・・と」

『でもあまりやりすぎると、一線を越えかねない。ある程度の距離は必要だ。といった感じで今後交渉をする必要が出てくる』

「分かった」

『今回の講義代及び協力代として、①体の使用権(ナナに拒否権有)②これから入る収支の30%を『俺』に融通する。でどうだ?』

「①はいいけど、30%は多すぎる!25%」

『まだまだヒヨッコのお前に交渉は無理だ。諦めて30%で諦めろ。それと、もしも今後お前が選んだ道で「絶望」するようなことがあれば、『罰ゲーム』受けてもらうからな』

「罰ゲーム?内容は?」

『内容を言うと罰にならないだろ?まぁ気にする事は無い。霧林ナナは後悔しないだろ?じゃあ話はここまでだ。じゃあな』

 

 

 

 

 

 

 今後私は新入生テストを受ける必要がある。砲手に関してはたった一発しか撃てず、それを外すと終了となる。内容は毎回変更となり、合格者は少ないとの事。合格すると、レギュラーもしくは控えになる。だから私に交渉術のような話をしたのだろう。

 

 

 合格後、自分をうまく現レギュラーに売り込めと言う事だ。

 

 

 先にお手本を見せてほしい・・・・『俺』に

 

 

 

 



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第04話「試験」

 

『俺』の協力を得て私は、新入生テストに向けて練習に励んだ。

 

 『俺』は言った。

 

 砲撃に必要なのは風を読む力だ。スナイパーと砲手は同じで、風速、風向を把握し、スコープから目を離さない。それこそ標的が現れるまでずっとだ。お前もスコープから目を離すな。見るのではなく『観ろ』。車長からの周りの状況、通信士からの味方の状況を頭に入れろ。そして頭の中で状況を整理しろ。砲手は撃つのではなく『討つ』だ。その違いを忘れるな。

 

 情報とは勝利するためのものではなく、勝利する確率を上げるもの。

 

 攻撃とは敵を倒すものではなく、敵を殺すものである。

 

 防御とは敵からの攻撃を防ぐものではなく、相手を殺せる距離まで近づくまでに必要なものである。

 

 

 『お前』はこれから生死を分ける戦いを行う。生はレギュラー、死は一生補欠・・・

  

 練習においても絶対に的を外すな、例外はない。外せば『お前』の大切な物を一つずつ捨てる。

 

 

 高校になるまでにたくさん物を捨てられた。大切にしていたアクセ類、親に懇願して買ってもらった服類、頑張って無課金で育てたスマホゲーのキャラクター、そして、ボコの限定のぬいぐるみの数々・・・

 

 有言実行・・・流した涙は一体どのくらいだろうか・・・

 

 

 そうして迎えた新人テスト。毎年黒森峰には全国から戦車道経験者が集まる。その数数百人。中には特待生も居るが、このテストに合格しなければ剥奪される。皆必死にこの試験を受ける。そして砲手である私が受ける試験内容は

 

「2000m先の的に向けて一発当てる。但し5分以内に砲撃を行う事」である。ただ当てるだけでなら簡単だが、その的の周りには強風が吹いている。

 

 

「外れ」

「外れ」

「外れ」

 

 

 

 試験は進んでいく。今のところ的に当てたのは2人のみ。後は残念な結果となっている。しかし妙だ。本来私から見て『当てる』と思った砲撃が、何故かあたっていない・・・強風の影響もあるだろうけど、外れた時の砲弾の着弾点と的の距離が開きすぎている。恐らくこの試験用の戦車の照準がズレている。意図的に?今のままでは私は間違いなく落ちる。

 

 

 

 

「次!」

 試験官である先輩の声で我に返る。次は私だ。

「試験官」

 仕方ない。ある意味ルール違反になるかもしれないが・・・

「なんだ?」

「その戦車の照準、少しおかしいと思います」

 

 

 

 

 

 試験官

 

「その戦車の照準、少しおかしいと思います」

 

 

 ほ~、気づいた?それともたまたま?

 

「悪いけど、この戦車の整備は試験開始直前に終わってるわ。勿論私が試射して、照準のズレが無い事も確認しているわ」

 どう反論する?

「先輩が試射を行ったと?」

「そうよ」

「少しお尋ねしますが、いつも先輩はこの戦車を使っているんですか?」

「ええ」

「では、この戦車の照準は『先輩仕様』という事ですか?」

「そうね」

 あらあら、頭がそこそこまわるのね。

「では、この試験は無効では?」

 まったく・・・

「照準のズレがどうしたの?戦車道の試合では、試合途中で照準がズレる事なんてよくある事よ。試合中に一々照準を調整するなんて・・・論外だわ」

「分かりました。では照準を『私仕様』に変更してください」

「今の話聞いてた?調整は論外よ」

 どう出る?

「試験官の話は理解しました。しかしこれは試験では?試験官の話は試合であって、今は試験です。状況が違うと思います。それに」

「それに」

「この試験の内容は砲撃を5分以内に行い、的に一発当てること。実戦を想定してとは一言も仰っていませんし、照準を自分仕様に変更してはダメとも仰っていません」

 

 

 

 

 この試験では、砲手のレベルが問われる。他人が放った砲弾の着弾点と的との距離からこの戦車の癖を把握する。把握した癖から照準の調整を申し出る。勿論ここまで説明する必要がある。「照準がズレているから外した」→「何故?」→「理由」この過程を説明出来て初めて、私は照準の調整を許可する。

 

「分かりました。調整を許可します」

 事前に隊長と話し合い、許可はもらっている。この試験は表向きは的を当てる事だが、それではまぐれもある。先の2人はまぐれ当たりなので、次の試験で落ちるだろう。裏の試験は、『試験用の戦車の照準がズレている事を指摘する』だ。まぁこの状態の照準で、周りに強風が吹いている的を当てられたら、100%合格の上、レギュラー確定だけどね。まぁこの子は1軍補欠にはなれるわ。

 

 しかし私はこの後、信じられない言葉を聞く事になる。

 

「あ、調整は不要です。時間が惜しいので」

 そう言って彼女は砲手の席に付き、砲撃を行った。

 

 

 

 

 

 

 

 試験後の報告会

「各試験での合格者について報告してくれ」

 隊長である西住まほに、皆合格人数を伝えていく。車長、通信士、装填士・・・そして

「砲手、3名合格、内1名は試験車両の照準のズレを指摘し、調整せずに的に命中させています」

 皆、驚きを隠せない。当たり前だ。今回の試験内容が難しすぎる事は隊長である西住まほからも指摘されていた。

 

 

『この試験は難しくはないか?』

『しかし従来の試験方法では偶然砲撃が当たる事があります。そうなれば、今後の黒森峰の砲手のレベルが下がります』

『・・・しかし合格者が居ない場合は従来の試験方法とする。それでいいか?』

『一人でも合格者が居た場合は?』

『今年の合格者はその者だけになるだろうな』

『分かりました』

 

 

 

 

「分かった。その合格者の名前は?」

 西住まほが私に問う。

「霧林ナナです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合格出来た!!『俺』のおかげだよ」

『まぁ最初の一歩がちゃんと踏み出せただけだ。まだまだ先は長い。頑張れよ』

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『合格したか・・・・いつかな?いつかな?楽しみだ♪ あ~楽しみだ♪』

 

 

 

 

 

 



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第05話「新生活は大変です」

 

新人テストに合格した事で1軍の補欠となったと思っていた。しかしテスト翌日に知らされた結果は、何とレギュラー入りとの朗報であった。今回のテスト内容の意図を明確に捉える事が出来、尚且つ的へ命中させた事が大きく評価されたとのことだ。

 

 

『テスト内容は毎年変わるのか?』

「うん。でも基本的には的に当てる事が前提らしいよ」

『もしも「当てる」だけなら簡単すぎる内容だ。的に当てるまでの何かを試験官に申し出る必要があるかもしれないな』

「何か?」

『そう、何かだ。但しそれに関しては、試験が開始されてからになるがな』

 

 

 

『おい、今の砲撃可笑しくないか?』

「確かに。あの人確か中学で結構有名な砲手のはず。それなのにあんなに的から外れてる」

『もしかするとこの試験で使用している戦車の照準が狂っている可能性がある・・・しかし確証がない』 

「試験内容は、強風が吹く中で5分以内に的に一発当てる。でも照準が狂っている可能性がある。でもその狂っている事を証明する必要がある」

『その通り。恐らく試験官も砲手のはずだ。この車両に関しての情報を手に入れる必要がある。照準に関して誰が調整し、試射したのか?調整は可能か?それとこれが試験である事を忘れるな。試験であるならある程度許される。』

「わかった」

『それと、もしも自信があるなら、ここのままの状態で当ててみろ。外したらかっこ悪いがなw』

 

 

 試験前と試験中に『俺』とのやり取りが無ければ、間違いなく落ちていた。試験内容の難易度に関して試験官を担当した先輩『凪』先輩に尋ねてみた。先輩曰く、ここ数年で最も難しい内容である。とのことであった。その試験に合格した者は無条件でレギュラー入りが出来るほどの。私はその難関の試験に合格しレギュラー枠を勝ち取った。

 

 

 レギュラーに選ばれたといっても、最初の1週間は他の1年生と同様に学校の雰囲気に慣れるために練習は見学のみであった。その後試験に合格した数名の1年生と共にレギュラーの練習に加わったが、その内容は苛烈を極め、少しのミスですら許されず、一時も気を抜く事も許されなかった。私が砲手として配属された車両の構成は3年生で固められており、去年も同じメンバーで砲手が3年生であったため、砲手が居ない状態だった。そこに今年の1年生である私が砲手として配属された。何故?と最初は思った。普通は1年、2年生で構成されている車両に配属されるのが普通。

 

『それは仕方ないだろ?この車長の『楓』という先輩は砲手の試験を担当した試験官凪先輩の双子の妹だろ?姉が考えた試験に合格した1年を使ってみたかった・・・みたいな理由だろ』

「なるほど、隊長車の砲手のお墨付きってやつ?」

『まぁ尊敬する姉のお墨付きをもらっている1年が、自分の知らないところでヘマやらかして姉の顔を潰すような事があった場合を考えると・・・自分の手の届くところに置いておき、使えない場合は姉の顔を潰さないように辞めさせればいい。・・・ってことかもしれんな』

「・・・」

『まぁ精々ヘマしないようにな。ところで今日は資料室借りるように頼んでいたはずだが、手配は出来てるか?』

「うん。18時から」

『OK。体を借りるぞ』

 

 

 

 

 楓

 凪は素晴らしい砲手だ。それは周りが、それも西住まほ隊長でさえ認める実力だが、私と違って拘りが強すぎる。それが災いしてよく周りの砲手と衝突する。今回の試験内容だってそうだ。去年とレベルが全然違う為、誰もが合格者は0と思っていたが、結果は1名合格。本当は3名だったが、2名はまぐれで的に当たっていたため、補欠となり、凪の直々の推薦で1名が即レギュラー入りとなった。問題は何処の車両に配属されるかだ。少数だが、凪をよく思っていない人間も居る。そんな人間の所に配属にでもなると凪の顔を潰されかねない。それならば、今年私の車両の砲手が居ない事を理由に配属させた。

 

 

 第一印象は、普通の女の子だった。しかし砲手としては異様だった。練習中、スコープから目を離さない。車両に搭乗してからずっと顔はスコープの前から動かない。車両の移動中等を除くと基本的に動かない。試合形式の練習の場合は終始動かなかった。それともうひとつ。私の指示より少し、ほんの少し早く動く。右に砲塔を動かせと指示しても先に砲塔が動いている場合があり、私の指示は砲塔が動いた後となる。あり得ない事だと思う。何せスコープで見る視界は私の視界より狭い。凪の目は正しかったかもしれない。

 

 

 

 今日の練習に関して他の車長と話し合い、今後の方針などをまとめたレポートを隊長に提出した時には21時頃だった。不意に校舎を見た時資料室の明かりが付いており、消し忘れかと思い、面倒と思いながらも資料室に向かった。資料室に近づくにつれ音が聞こえるえ、人の気配もした。なんだと思い帰ろうかと思った時、扉の開く音が聞こえ振り返るとナナが居た。彼女は私に気づくことなく反対側の通路を歩いて行った。恐らくトイレであろう。資料室がある階のトイレは現在故障中のため、上下どちらかの階に行かなければいけない。1年生でレギュラー入りしたので頑張って勉強しているのかと思い、何を調べているか興味がわいた。チラッと見て帰るつもりだったが、内容を見て目を疑った。設置されているモニターには過去黒森峰が行った試合が映っていた。しかしそれだけなら驚きもしないが、4つのモニターに同時に違う試合が映っている。4試合同時に見ている?何故?驚きが収まらないまま机の上のノートが目に入った。その内容を見た瞬間、私は茫然とした。過去9年間の黒森峰の試合や練習試合を解析し、黒森峰の弱点という問題点を算出していた。ノートには考察などを書き込み、手元の私物PCにそれをまとめ、データ分析していた。

 

 

 過去にデータをまとめた事があるが、ここまでまとめたデータは見たことない。それも弱点と言える箇所が明確に記載されており、もしもこの情報が外部に漏れた場合、黒森峰は敗北する・・・この情報を私物のPCに打ち込んでいる時点で彼女は・・・いやあいつは他校とつながりのあるスパイであると断言出来るが、このままでは凪の顔が潰れる。ならばどうする?

 

 

 その時だった。

 

『お疲れ様です、楓先輩』

 

 ブラックの缶コーヒーを持ったナナが私の後ろに立っていた。




 缶コーヒーはUCC


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第06話「選択肢は無数にある。しかし2つしかない場合は?」

 

 

『お疲れ様です、楓先輩』

 

 ブラックの缶コーヒーを持ったナナが私の後ろに立っていた。

 

『どうしました?お・・私の顔に何かついてますか?』

「これは何?」

 私はナナの私物と思われるPCを指差した。

『PCですけど?』

 そういう意味じゃない。

「これは私物のPCよね?資料室で保管されている資料の持ち出し、コピー等は禁止されてるわよ?知らない訳ないわよね?」

 少し強めの口調で問いただすが、

『そもそもこのPCは私物じゃないですよ。実は資料室の資料をまとめたいという事で、学園用のPCを借りれるか聞いてみたところ、全て貸出中とのことでした。事務で色々相談したのですがダメでして・・・その時事務にたまたま凪先輩が居られ、その話を聞いて私物のPCを一時的に学園用にして頂けると。なので、このPCは凪先輩のであり、学園用です』

 ナナは何事も無いかのように答えた。確かに凪のPCだ。良く見ると家で凪が使っていたPCだ。でも

「PCの件は分かったわ。問いただしてごめんなさい。でもこの資料は何?黒森峰の弱点が記載されてるわ。それもかなり詳細に」

『・・・』

「どうしたの?答えられないの?」

 このままダンマリであれば、後ろに誰が居るかを情報部で調べてもらいましょう。そんな事を考えていると、

『この資料は黒森峰の弱点・・・いえ、弱点以外にも作戦傾向、相手への対応なども記載しています。試しに練習試合、公式試合を含め9年間をまとめました。結果、7年前より黒森峰の作戦内容にあまり違いがありません。多少は違う程度で、殆ど内容の構成は同じでした。また、試合中に発生した突発的な事態への対応は、全ての試合で遅延傾向がみられました。これは命令系統の一本化によるデメリットと考えます。

 これらを証明するため、西住流の試合と比較しました。やはり良く似ている傾向が見られました。よって、黒森峰の弱点は、西住流の弱点であり、その対策を行う事で・・・っとなりますね』

 

 

 

 

 はぁ?何よそれ、9年間?試合?黒森峰と西住流の試合の傾向の比較?え?意味が分からない。

「あなた・・・それをいつからまとめてるの?」

『本格的にまとめ始めたのは入学してからですね。入学前にもネットで過去の試合を見て、色々まとめました』

 普通・・・普通はそこまでしない。9年前と現在じゃあ、まったく黒森峰は似ても似つかないレベルになっている・・・あ、そういう事か。

『例え、9年前だろうが、7年前だろうが、関係無いですよ。基本が同じなら・・・基本が変わらなければ、自ずと変わる事が出来ないんですよ』

 私の頭の中を見透かしたかのようにナナは答える。そして私は

「・・・その資料をどうするの?」

 この資料が他校、もしくは西住流以外の人間に流れたら・・・終わる

『何も』

 意外な答えだった。そのため私は

「は?」

 っと、素で答えてしまった。

 

 

 

 

『何もしません。ただまとめただけです。まぁ自分用の資料ですね』

 そういってナナは缶コーヒーを飲む。そして続けて

『もし必要でしたらお渡ししますよ?それとも使いますか?下剋上とかw?』

 その言葉を聞いた私は

「ふざけないで!!」

 私の・・・私の!!!

『ふざけないで?別にふざけてませんよ楓先輩。ふざけるどころか、真面目な話です』

「どういう事?」

『いえね。この資料を使えば凪先輩の企みというか考えている事の近道になるかと思います』

「考えてる事?」

『あれ?ご存じない?凪先輩が今の黒森峰に不満があり、その不満を改善すべく今年の新人テストの内容を難関にした。しかし悪い意味では、西住まほ、もしくは西住流に不満があるという噂話・・・まぁ後者は無理やり話を捻じ曲げた感じがしますがね』

「・・・」

『そんな西住に不満がある人間がいつまで、隊長車の砲手が出来るんでしょうかね・・・隊長に対し不満がある人間が隊長車に乗る。これは許される事ではないと考えます

 

 

 

 

 凪が今の黒森峰に不満がある事は知っていた。その不満を改善すべく色々動いている事も。勿論そのことへ異論がある人間がおり、その人間がある事ない事噂話をしている事も。私も少し前に協力を申し出たが「楓を巻き込む訳にはいかない」と断られてしまった。もしもこの資料があれば・・・

『現状に不満があるなら、何が悪いか、そしてその点の改善ポイントまで示す必要がある。もしもそれが出来なければ、ただの妄想となってしまう。本気で改革するというのであれば、この資料を使って、「実際」に示す必要があります』

 彼女はさらに続ける。

『丁度いいじゃないですか。黒森峰の現隊長は西住まほ・・・西住まほに勝つ事が出来れば、もしきは西住まほを納得させる試合が出来れば・・・その妄想が真実という事を、皆に分からすことが出来れば・・・』

 

 

 

 ナナから資料の一部をもらった。資料室からの持ち出しは禁止であるが、

『この資料はここの資料の内容は一切書かれていません。私の考察です』

 資料室の内容を読んで考察したのであれば・・・いや、これ以上考えても無駄だ。この資料を凪に渡してどんな反応が来るのか・・・

 

 

 

 

「楓!!連絡もしないで遅いじゃない!!」

「ごめん」

「それより御飯よ。手を「凪?」・・・何よ?」

「少し話があるの」

 

 

 まずこの資料を読んでくれと凪に資料を渡し、用意されていた御飯を凪が読み終えるまで少しの間に完食した。そして

 

「楓!この資料は何処で手に入れたの!!?」

 

 ナナとの約束で、この資料の出所は一切話さないと約束している。私は出所は言えない、でも信用出来る内容であることを伝えたが、

「信用とかじゃない!!内容が・・・内容がヤバイの!!これが流出したら、間違いなく西住流が他の流派に潰されるの!!分かる!?もしこれを誰かに見られ隊長にでも報告されたら、私達潰されるどころか、一生西住の監視が張り付く事になるのよ!!事実上の監禁みたいなものよ!!」

 

 ここにきて私は嵌められたと感じた。凪のPCを何かの理由で借りる→使っていると、この資料が出てくる→隊長へ報告→西住流へ報告→私達姉妹の人生終了・・・

 

 

 霧林ナナは・・・敵だった。

 

 

 

①ナナを殺す

②ナナに相談する

 

 

 

 

 

 私の中に2つの選択肢が発生した。

 

 

 






 選択肢・・・俺は今・・・

 ①やるべきか
 ②やらないべきか

 これで迷ってます。




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第06話-a「選択肢①」

霧林ナナは・・・敵だった。

 

 

①ナナを殺す

 

②ナナに相談する

 

 私の中に2つの選択肢が発生した。

 

 

 

 

 

 

 私達の人生をここで終わらせる訳にはいかない!!

 ナナはいつも一人で資料室にいる。その事を一年生にそれと無く聞いたところ、殆どの生徒が夜中まで資料室で調べ事をしている事を知っており、二年生の中にも知っている生徒が居た。なら誰もが容疑者になる。後はどうやって殺るかだ。

 

 

 焼き殺す・・・ダメだ、火災警報器が作動するし、悲鳴も上がる。静かに殺す方法を検討する必要がある。

 

 撲殺・・・ダメ、状況次第では容疑者が絞られる可能性がある。後ろからの撲殺であれば親しい人間と疑われる。正面からでは殺し損ねる

 

 水攻め・・・論外。彼女を沈めるだけの水を用意するなど・・・

 

 絞殺・・・如何にこちらのDNAを残さないようにするか・・・変質者に襲われて、抵抗したため絞殺された・・・いいわね。

 ならば、必要な物は?どこにでもある紐・・・それなら資料室にあるビニール袋を使えばいい。

 次は、手に跡が残らないようにするには?・・・装填手が使っている革の手袋を使えばいい。次の日にその子が手袋を使えば、内側の私の指紋は消える・・・いや、ここはもっと慎重に・・・よし、家庭科室にあるビニール手袋を履いた状態で革の手袋を付ければいい。

 

 

 上記の物品は簡単に手に入る。家庭科室は常時開いている。部室には特に問題なく入る事が出来る。後は今日、決行するだけ・・・

 

 

 

 

 

 

 

日付:6月20日(水)

場所:黒森峰女学院

被害者:霧林ナナ

性別:女性

年齢:15歳

死因:転落死

死亡推定時刻:23:50

 

経緯:

 被害者霧林ナナ(以下ナナ)は、戦車道に関する資料を集めるため資料室に19時から23時まで入出する(事務記録より)。しかし構内に侵入した不審者に暴行、乱暴された。隙を見て逃げ出すも同階の廊下で捕まり、揉み合いの末窓から落とされ死亡。

 

検視の結果:

 ナナの顔、首には多くの痣が見受けられた。顔の殴られた痣、首の紐のようなもので絞められた痣に関しては、どちらも生きているうちに付けられたものであった。また防御痕が両腕に見られないことから、首を絞められた後に顔へ暴行されたと推測された。

 

現場の状況

 現場である資料室には、尿、髪の毛、下着、制服の一部、PC、等が発見された。尿、髪の毛のDNAを照合したところ、尿はナナ、髪の毛は戦車道受講者数名であった。また下着、制服の切れ端に関してもナナの物であると判明した。しかしPCについてはもみ合い時に破損したため内容は不明であった。

 廊下に関しては、血痕が大量に発見された。廊下、壁、窓など。

 

司法解剖の結果:

 検視結果と同じ結果であった。しかし彼女の体外、体内からはDNAは検出されず、彼女の腔に関しても強姦の形跡はないとの事であった。また資料室に残されたナナの下着からもDNAは検出されなかった。

 

疑問点

今回の件でのおかしな点がいくつかある。もしもこれが不審者の犯行であれば、

①PC

 破損したPCを解析したところ、水に漬けられている事が判明した。不審者であればこのような事をする必要はない。彼女のPCについては事務より貸し出されているものであるが、持主は西林凪(3年生)であり、資料をまとめるために貸し出したとの事であった。この件に関しては事務での手続き、詳細を覚えている職員がいたため、本件とは関係ないと判断する。

 

②DNA

 まったく無い(精液、髪の毛一本も残っていない)のは不自然であり、突発的な犯行ではなく、計画的な犯行と推測される。また過去の事件で暴行を受けた女性と比較すると、驚くほど暴行を受けており、相当な恨みを持つ人間に襲われた可能性が示唆された。

 

③不審者への対応

 黒森峰は女子高であり、不審者への対応は問題ない。ナナが襲われた時間帯に校舎内に入る事は、生徒であっても難しい。事件当日に残っていたのは戦車道で有名な西住まほ(2年生)のみであった。しかし隊長室と資料室は別棟であり、その行き来をする際に暗証番号を入力する必要がある。記録では番号はナナの番号しか入力されていない。

 

 上記より、不審者ではなく、黒森峰の関係者で、ナナを恨んでいた人間の犯行と判断し、本件に関し再調査を行う事にした。また本件を殺人、暴行へと変更する。

 

 

 

 

 

 

 

2ヶ月後

 本件に関して進展を報告する。

①血痕について

 当初、ナナは暴行を受け、犯人の隙を見て廊下に逃げ出したと思われた。しかし現場を再度調査した結果、資料室には殴られた若しくは倒れた際についた血痕が幾つか発見された。資料室から廊下に掛けて滴下血痕が一定な間隔で落ちていたため、歩きながら廊下に出たと思われる。

 廊下では大量の血液が発見され、飛沫血痕が天井まで達していること、ナナの顔面の痣の酷さから、やはり犯人はナナを相当恨んでいる事で間違いない。現場の状況から犯人の衣服に血痕が付着(付着血痕)している可能性がある。また擦過血痕から犯人の靴の種類、サイズの特定出来るか現在調査中である。以上の事から、全校生徒の制服、靴を調査することとする。もしも事件発生から靴、服を変更、クリーニングをしている場合は、その理由を聞きとり調査する。

 

②暴行に関して

 当初は顔、首への暴行は同時に行われたと思われていた。しかし再度司法解剖を実施した結果、両腕より防御痕が浮き上がっていた。また首の跡は後ろから絞められている事も判明。顔の痣には左手で殴った跡が数か所だが発見された。

 

 

現状

 ナナは後ろから首を絞められ気絶し失禁し、倒れた際顔を机で強打し鼻血が出る。その後左手で顔を殴られ、PCを水で漬けられてデータを消去される。そして何故か汚れた下着を脱がされ(もしくは自身で脱ぎ)、鼻を押さえて歩きながら廊下に出る。しかし廊下にて再度犯人に右手で顔に暴行され、窓から落ちて死亡。まったく辻褄が合わない。

 

 

 

 

 

2週間後

 容疑者であった『西林凪』『西林楓』の両名が自殺する。その際遺書が見つかり、本件は被疑者死亡で送検する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧林ナナ『』

 まったくこんなところにいい素材が居た。姉の事を話題に出せば必ず話に乗ってくると思っていたがこんなに簡単にいくとは、拍子抜けだ。実にチョロイ。

 

 今日楓先輩からの返事を聞く日だ。あの資料は分かりやすくまとめているから、すぐに理解できると思っている。そうこうするうちにドアがノックされ、楓先輩が入ってきた。

『お疲れ様です』

「ええ、今日も頑張ってるわね」

『さっそくですけど、凪先輩の返事どうでしたか?』

「ええ、読みやすく分かりやすいまとめ方だったって。そのことだけど、もう少し詳しい資料は無い?」

『ありますよ。ちょっと待ってくださいね』

 俺は先輩に背を向けてPCを操作する。操作しながら

『そういえば楓先輩、凪先輩の体調大丈夫ですか?』

「大丈夫よ。それよりも」

 突如背中に激痛が走り、状況を理解できないまま、机に倒れこみ顔面を強打した。突発的な事態に俺は何が起こっているか理解できなかった。そしてうつ伏せで倒れている俺の髪を掴み、少し上にあげたと思ったら、首に何を巻かれ絞められた。俺はこの時ようやく自分の置かれている状況を理解した。

 

 

 そう俺は絞殺されそうになっているんだ。そう思った瞬間、首に巻かれた何を反射的に取ろうとしたが、両腕を動かす事が出来なかった。首を絞めている人間の足が見えた。首を締めながら俺の両腕を踏み、動きを封じている。そして

 

「私、貴方の事認めていたのよ。でもこんな形で裏切られるなんて・・・だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            死になさい」

 

 

 

 

 

 意識を手放す際に聞いた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は目を覚ました。てっきり死んだかと思ったが・・・殺し損ねたか。時間的には2時間経過しているのか・・・くそったれがそれに失禁してるじゃないか!!!くそ、気持ち悪い!!俺のお気に入りのパンツを汚した原因を作った楓は許さん!!これは後で洗いに行くとして、まずは顔を洗いたい。しかし廊下に向かう途中で自分の小便で滑ってまた顔面を強打し、鼻血が出た。

 

『くったれが!!!今日は人生で一番くそったれな日だ!!』

 

 

 鼻血がこれ以上服に付かないように鼻を手で押さえた状態でトイレに向かう。廊下に出て、階段に向かう途中に人に出会った。暗くて最初は分からなかったが、凪先輩だった。

 

 

「どうしたのその怪我、その格好!?」

『どうした?どうしったかって!!!お前の妹に行き成り押し倒されて、首を絞められて殺されそうになったんだよ!!』

「うそ・・・」

『嘘じゃない!!あんたの妹は俺を殺そうとした。あんたら姉妹に協力するつもりだったが・・・今回の件、今から隊長に報告させてもらう。明日にでも調査してもらう!!」

「協力?」

『ああ、そうだよ。昨日見ただろ?アンタにぴったりな内容の資料を!!今日もその事で楓と「あの資料はあなたが作ったの?」あ?そうだよ。あんたも絶賛して』

 

 この後の事は良く覚えていない。次に気付いた時は、体が痛くて、熱くて・・・何故か床ではなく、地面に倒れ夜空を見上げていた。

 

 あ~落ちたのか・・・それとも落とされたのか・・・

 

 

 

 

 

 こんな人生・・・つまらないな・・・すまないな・・・・・ナナ

 

 

 俺は・・・いったい・・・なに・・・を・・・まち・・・が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終報告書   西林楓、凪の遺書より抜粋

 

楓「私はナナを殺した。でもナナは私達を嵌めようとした。許せない!!だから殺すしかないと思った。」

 

「でもどうして彼女が窓から落ちているか分からない。私は彼女を不審者に襲われたように殺しただけ。私じゃない!!」

 

「全校生徒の衣服や靴を調べることになった。証拠は残っていないと思い、再度衣服を調べた。血痕が付いていた。今から制服を洗ってもルミノール?というもので検出されてしまう。逃げ場がない」

 

「凪、あなたの認めた子を殺してごめんなさい。本当はちゃんと謝りたかったけど、落ち込んで部屋から出てこない貴方に合わせる言葉がないの」

 

「ごめんなさい、凪」

 

「ごめんなさい、ナナ・・・もしも次があるなら、ちゃんと話をしたかった」

 

「さようなら」

 

 

 

 

凪「楓を守るために彼女を殺してしまった。最初は殺す気は無かった。でもナナが楓をけなし始めたから、頭に血が上って彼女を殴り殺してしまった」

 

「彼女の様子がおかしいと思った。まるで男性のような口調だった。でもこれが彼女の本当の姿だったのだろう。でも楓の事をゴミ、ビッチ等と罵倒したのが許せなかった!」

 

「私の制服は血まみれで、もう逃げ場がない。迷惑をかける前に死ぬしかない」

 

「楓、あなたのお気に入りの子を殺してごめんなさい。本当はちゃんと謝りたかったけど、落ち込んで部屋から出てこない貴方に合わせる言葉がないの」

 

「ごめんなさい、楓」

 

「ごめんなさい、ナナ」

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

                           BAD END



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第06話-b「選択肢②」

 

 

 

①ナナを殺す

 

 

 

②ナナに相談する

 

 

 

 私の中に2つの選択肢が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達の人生をここで終わらせる訳にはいかない!!

 

 ナナはいつも一人で資料室にいる。その事を一年生にそれと無く聞いたところ、殆どの生徒が夜中まで資料室で調べ事をしている事を知っており、二年生の中にも知っている生徒が居た。なら誰もが容疑者になる。後はどうやって殺るかだ。

 

 

 

 

 

 焼き殺す・・・ダメだ、火災警報器が作動するし、悲鳴も上がる。静かに殺す方法を検討する必要がある。

 

 

 

 撲殺・・・ダメ、状況次第では容疑者が絞られる可能性がある。後ろからの撲殺であれば親しい人間と疑われる。正面からでは殺し損ねる

 

 

 

 水攻め・・・論外。彼女を沈めるだけの水を用意するなど・・・

 

 

 

 絞殺・・・如何にこちらのDNAを残さないようにするか・・・変質者に襲われて、抵抗したため絞殺された・・・いいわね。

 

 ならば、必要な物は?どこにでもある紐・・・それなら資料室にあるビニール袋を使えばいい。

 

 次は、手に跡が残らないようにするには?・・・装填手が使っている革の手袋を使えばいい。次の日にその子が手袋を使えば、内側の私の指紋は消える・・・いや、ここはもっと慎重に・・・よし、家庭科室にあるビニール手袋を履いた状態で革の手袋を付ければいい。

 

 

 

 

 

 上記の物品は簡単に手に入る。家庭科室は常時開いている。部室には特に問題なく入る事が出来る。

 

 

 

後は今日、決行するだけ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 私は

 

 

 何を

 

 

 考えている?

 

 

 

 ハッと、我に返った。私は何を考えている?殺す?霧林ナナを?

 

 

 そもそもこの資料は『過去』の資料から作成したものであり、はっきり言えば、何処の誰でもまとめられる資料だ。そう考えると過去に同じことをした人間もいたはずだ。

だから冷静に考察すれば凪が言っている事は間違っている事がわかる。凪にチャンと説明して約束を破るようだけど凪も同席してナナと話そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧林ナナ『』

 

 休み時間に楓先輩から、今日凪先輩も同席して話がしたいと言われた。それでは約束が違うと反論したが、「凪には誰とは話していない」「同席する事は約束していない」と、大人の対応されてしまった。

 

 それと今までは校舎に入る時は私のPWで入ってくださいと伝えていたが、2人で来るなら申請してくださいと伝えた。事務から出入りが頻回ですけど?と注意されてしまった。これ以上不正を行うと、隊長から呼び出しをくらう羽目になる

 

 

 

 

 

 

 凪【】 楓「」

【貴方が・・・この資料を?】

『はい』

【この資料を私達に渡した目的は?】

『先輩の目的に少しでも協力出来たらな?と、思いまして・・・』

【私の目的ね・・・詳細を話した子はいないのに・・・誰から聞いたの?】

『聞かなくても分かりますよ。今年の試験、皆の話している噂・・・それらから推測は出来ましたね。まぁあくまで推測ですが、先日楓先輩との話し合いで、確証しました』

【この資料は隊長には?】

『流石にまだ未完成ですので渡していませんが、ある程度は報告しています』

【はぁぁ・・・・・・・楓?】

「何?」

【この資料をもとに、西住隊長と模擬戦をしようと思う・・・協力、してくれない?】

「別にいいけど・・・大丈夫なの?」

【この資料はまだ未完成よね】

『勿論まだまだ煮詰め直す必要がある箇所が幾つかあります。まぁ10日もあれば・・・』

【10日で?凄いじゃない。だてにこれだけの資料をまとめただけはあるわね】

『ありがとうございます。まとめるだけなら2日程度で終わりますが、この資料が本当に有効であるかを確認するために、幾つかの戦術パターンを基にシュミレーションを実施したいと思います。そこで問題があれば、随時修正したいと思います。その作業に少々時間がかかり、約10日となります』

【「・・・」】

『そうと決まれば、今からやりましょう。時間もまだありますし!!先輩達の経験した中で一番思い出に残っている試合から話してください。なるべく詳しく』

「今から?もう夜中よ!?」

『大丈夫です。まだ夜中です。明日は朝からのれんしゅうはありませんから、まだ五時間あります』

【「・・・」】

 

 

『それと、この件に関してはお・・私は関わっていない事でお願いします。あくまでも先輩方姉妹がまとめたという事で』

 

 

 

 その日から連日遅くまで残って資料の作成を行った。流石上級生、戦車道の知識や戦略は俺より遥かに多く、ナナや俺に取って充実した日々を過ごした。

 

 

 経験を積んでいく事で、人間は育っていく。いくら教科書を熟読しても得られる事は少なく、時間の経過とともに記憶から薄れていく。しかし実際に自分自身が体験し、得られた事は中々忘れない。その経験をもとにマニュアルを作成したり、新人に話したりして、事故防止などを促す事が出来る。そうした事は戦車道にも通じるところがある。だから俺は先輩の体験して最も記憶に残っている試合内容を聞く。その話から何を得られるかは聞いてみないと分からないが、それでも聞くことには価値がある。

 

 

  撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心

 

 

 そんな格言の下で育った西住まほでさえ、やはり女子高生なんだな~と伺える一面などの話も聞けた。

(「犬好き」「天然(戦車道以外)」「妹好き」など)

 

 

 

 

 しかし戦車道においては、そういった影はなりを潜め、優秀な指揮官となる。しかし幾ら指揮官が優秀であっても、指揮される人間がどうだ?幼少期から西住流当主として育てられた人間とそうでない人間差は、縮めようにも縮まない。

 西住まほが指揮しているのは、ごく普通の戦車が好きな女子高校生だ。そんな女子高生が西住流の鋼の心は持ち合わせていない。何かの拍子に鋼にヒビが入る場合もある。

 そのヒビの入った鋼を壊す事は容易なことである。

 

 

 

 

「私と模擬戦がしたいと」

 資料が纏まったので定例会議の終盤で西住隊長に模擬戦を申し込んだ。

 

 俺が何故定例会議に参加しているかって?議事録作成のためです。

 

「はい」

 勿論あの姉妹から提案してもらっている。

「模擬戦を行う理由は?」

「以前私から提案させてもらっていた黒森峰の改革のためです」

 凪先輩の発言を聞いた他の上級生から

「まだそんな他愛事を!!」

「いい加減にしろ!!」

 罵倒の嵐がしばらく続いたが

「西林」

 隊長の発言で周りが黙った。流石だ。

「はい」

「過去に西林が提出した資料に目を通した。良くできていたし、分かりやすかった。今回はそれを模擬戦で西住流である私に勝って証明するということだな?」

 鋭い眼差しが凪先輩を見据える。

「いえ、勝敗で判断しません。結果ではなく過程を見て頂きたいと思います」

「しかし私に勝たないと証明した事にならないと思うが?」

「勝つ事で証明にはなりますが、圧倒的な戦力差からの僅差での敗北でも十分証明は出来ると思います」

「何故戦力を同等にしない?」

「自分達で経験してほしいです。どうして?何故?っと。戦力差が同等だった場合、偶々などと言い訳されては意味がありませんから。そのため西住隊長側は2、3年生から模擬戦メンバーを選出してください。我々は1年生からメンバーを選出します」

 

 またもや罵声の嵐が始まった。当たり前といえば当たり前だ。しかしその嵐を鎮めたのはまたもや隊長だった。

 

 

「少し静かにしてくれないか?」

「「「「!!!!」」」」

 怒気を含んだ一言で会議室は静かになった。コエ~

 

「西林?」

「はい」

「今なら引き下がる事も出来る。引き下がるのであれば、今までの事は無かった事にする。どうだ?」

「すみません」

「・・・そうか。覚悟は出来ている・・・と、いうことだな?」

「はい」

「いいだろう。2日後に模擬戦を行う。こちらのメンバーは全てレギュラーメンバーとするがいいか?」

「はい」

「覚悟が出来てるようなので、先に伝えておく。無様な結果であれば、西林姉妹はレギュラーから外れてもらう。それに加え、どのような理由があっても在学中は戦車に乗れないと思え」

「分かっています。しかし私が選出した1年生には・・・」

「分かっている。この件に関しては西林2名のみが対象だ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 これで全て揃った。

 

 あとはナナと西林姉妹がうまくするだろう。俺は高みの見物とするかw

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第07話「出来ない?今からやれば出来るようになる」

  

 

 

 あれから2日経過した。目の前には、Aチーム、Bチームの戦車を合わせた計30輌が鎮座していた。たった2日、されど2日。根回しをするには十分な時間だった。何をしたかは今体の所有権を持っているナナの表情を見てもらったら分かる。何?見えない?そうか。

 

 

 血圧、心拍数が普段よりも高い

 

 

 呼吸も速い

 

 

 

 そう、緊張しているのが、俺でも分かる。ナナの表情が分かる周りの人間なら一発で解るだろう。

 

 

 

 何故ナナが緊張しているかを説明するには、2日前に話を戻す必要がある。

 

 

 

 2日前 ミーティング後

 

 

 嵐のミーティングが終了し、西住隊長と模擬戦する事が決まった。西住側をAチーム、西林側をBチームとし、各チーム15両、西住側は全ての車両にレギュラーメンバーが、西林側の構成は、みほ、逸見を筆頭とするメンバーは西住側となるため、本当に1年生主体のメンバーでの構成となった。勿論それだけでは不足なので、2軍の2年生を起用することなった。この2軍に関しては、1軍の練習後の極僅かな時間しか戦車に乗れない。車両に乗れる人数は限定されているため、その日その日で壮絶な戦い(ジャンケン)が行われてる。今回、起用されるメンバーの抽選も壮絶になるだろう。

 

 

 そしてある問題を解決する必要がある。それは不正行為である。西林否定派の人間なら必ずやるであろう不正行為を未然に防ぐ必要がある。例えば通信を傍受、もしくはこちらのメンバーの2軍に甘い言葉を掛けて試合中の不正行為に加担させる。こちらの動きは筒抜けとなり、戦況を見て少し単独で動き撃破、もしくは偵察中に見つけた等と本隊へ報告される。勿論試合中の通信記録は記録室のPCに保存されているが、割り当てられている容量が少ないためすぐに上書きされてしまい、重要な証拠が消えてしまう。今から申請しても通るには時間がかかる。

 

 

 通信の他にも脅迫も考えられる。1年生を脅し、砲撃をワザと外させる、戦車の動きをギクシャクさせるなどの妨害工作を指示する。こちらが疑っても1年生だから操縦スキルが乏しいなどの理由で逃げられる・・・

 

 

 

 さて、これらの問題を解決する魔法はあるのかと聞かれると、普通なら無い!!でもここは黒森峰女学院であり西住流戦車道と親密な関係がある学園だ。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そう言った行為がある可能性があると?」

『こちらとしては有る筈がないと思います。勿論隊長自身が不正行為は「ありえない」と保障して頂けるのであれば、この話は無かった事にして頂きたいと思います』

「なるほど、しかしそれは我々にとって失礼極まりないのでは?」

『失礼は承知しています。この件は私の独断です。西林先輩の判断ではありません』

「処罰するなら自分にしろと?」

『そうです』

 

 

 俺は今西住隊長と話している。隊長を信頼していないわけではない。今回の模擬戦は勝利するか僅差で敗北する必要がある。そのためにはあの人を無理矢理でも召喚する必要がある。そのための交渉だ。

 

「何故其処までする?君は何故西林に肩入れする?」

『最初は別に興味はありませんでした。しかし先輩の本当に黒森峰を変えたい気持ちが私を変えました。なので微力ながら協力したいと思いました。そして私に出来る事を考え、最初にこの問題を解決しようと思いました』

「「最初」にか・・・それでもしも私がそれに対して拒否したらどうする?」

『どうもしません』

「言っている事が矛盾していないか?」

『拒否するという事は、そんな不正はないと言い切るという事です。言い切った以上、もしも私が不正を証明できる確固たる証拠を提示した際、隊長は自身で「不正行為すらも防止できなかった」と釈明する必要が出来てきます。その場合、やり直しとなりますので、こちらとしては特に問題ありません。そしてその話が家元の耳に何かの拍子で入ってしまった場合・・・』

「それは脅しか?」

『いえ、提案です。私の提案を採用する事で不正がない状況で模擬戦を実施するか、それとも隊長自身で不正を防止するか・・・前者は両者にメリットもデメリットもありませんが、後者には隊長だけデメリットがあり、こちらにはメリットしかありません』

「なるほど・・・君の提案を受け入れたいが、時間がない。それに関しては何か解決策はあるか?」

『では、こちらの資料を添付し、これをSNSや戦車道掲示板で配布しても良いか聞いて頂けますか?勿論来られない場合は、手違いで流出する場合があると・・・』

「・・・」

『勿論提案です』

「世間では、それを脅迫というのだが?」

『いえいえ、事前に何が起こるか提示しています。どれを選択したらよいか、選択してはいけないのか・・・それを決めるのは、このメールを見た人間だけです。隊長も考えた結果、自分にとっても私達にとってもメリットしかない選択肢を選びました。このメールを受け取った方にも、是非このような選択肢を選んで頂きたいと私は思います』

「分かった。資料を添付したメールを送っておく。それとこれは霧林、君の独断行動だな?」

『はい』

「では敗北の際は西林姉妹と同じペナルティーを受けてもらう。退部は認めない」

『分かりました』

 

 まぁ交渉は成功?したいと思う。あとは隊長の頑張り次第と言える。 

 

 

 

 西住まほ

 

 去年、3年生の先輩方が引退後、西林の言動が目立つようになった。最初は練習内容の変更から始まり、最終的には新人選考時の内容まで口を出すようになってきた。最初は皆もある程度は賛同し、実際に変更した内容もあった。しかし新人選考の内容に口を出し始めたころから一部の生徒が不満を言い始めた。その不満に賛同した一部の生徒が私のところへ「西林は西住流に不満がある。そんな人間が隊長車両の砲手というのはどうだろうか?」と意見してきた。

 

 確かに彼女達の意見は最もだったが、西林の意見も的を得ていた。事実彼女が指摘した内容を改善した事で、練習効率が上がり、2軍の生徒も戦車に乗れるようになった。その点に関しては私も彼女を認めている。しかし彼女達の立場は新入生選出後更に悪化した。夜遅くまで資料室に籠り何かをまとめ、西住流を打倒する策を練っている、現隊長に不満がある。などの噂が広まり、副隊長ですら彼女達に不満を持ち始めた。そんな最悪な状況下で西林姉妹は私に模擬戦を挑んみ、敗北した場合は戦車に触れることなく卒業する。その条件は西林に不満を持つ者には最高のネタである。

 

 

 そんな状況で不正行為が行われないはずがない。極論で例えるなら、私以外全員がグルだとしたら防ぎようがない。そしてその行為を報告でもされてみろ、お母様から雷が落ちるだけでは済まない。ならば霧林の案に賛同するのが得策であるのは誰の目から見ても明らかだろう。そしてもう一つの案にも私は賛同する。

 

 

「お母様、夜分に申し訳ありません。まほです」

『どうかしましたか?』

「実は相談がありまして」

 

 

 まさか模擬戦の審判にお母様を使うなど・・・

 

 

 まったく、命知らずなのか

 

 ただのバカなのか・・・

 

 命知らずならまだしも、バカなら少し面倒だな。

 

 

 

 

 

 2日後

「どうぢてそうなってるの!!」

『ハハハw。頑張れよ?』

「なんで私が車長なのよ!!おまけに審判に西住流家元が!!」

『不正行為防止のためだ。因みに俺が隊長に提案した。恐らく機嫌はすこぶる悪いと思うぞ?ただ得さえ忙しいのに、こんな模擬戦の審判を要請されたんだ。因みにナナの名前でなw』

「!!!あ・・・あ・・あんた!!何考えてるの!!」

『まぁ落ちつけ。今回はチャンスだぞ?ここである程度活躍したらお前の名前は審判の件と合わせて家元に覚えられる可能性がある。どうだ?これならお前の夢をかなえるための一歩になるんじゃないか?』

「・・・確かにそうだけど」

『因みに負けたら、卒業まで雑用だからな?隊長との約束で』

「なんで今頃言うのよ!!」

『本番に言った方が、お前の為だと思ってな。どうせ寝れなくなったりするんだから。まぁ頑張れよ?任せたぞ?雑用♪』

「まって!!」

『車長が出来ないとか言うなよ?出来ないじゃあない、やった事がないから出来ない。じゃあ今日車長を死ぬ気でやって結果を出せ。少しぐらいなら協力してやるよ』

 

 

 



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第08話「模擬戦」

 

 

 

 何故・・・何故・・・こんな事に 

 

 『俺』は私の為と言った。でも「負けたら卒業まで雑用」・・・

 

 それだけはイヤ!!じゃあどうする??・・・勝つしかない!!勝つだけでいい。

 

 

 

 しかしどうやって?

 

 この試合が決まってから『俺』はこう言った。『勝つだけなら簡単だ。勝つだけならな』

 その方法は至ってシンプルなものだった。

 

 『相手の嫌がる事を淡々と行えばいい。野球で例えるなら、バントで投手を動かせ疲労を誘発させる。その疲労から制球が乱れ始めたら甘い球が来つ、際どい球はファールする・・・何?姑息?一昔の野球は、相手の口の動きを見て何を相談しているかを盗み見していたんだぞ?だから今でもグローブで口元を押さえるだろ?今じゃあスポーツマンシップがどうのこうの抜かしているが、甘いんだよ!!勝つためなら手段を選ぶな。選ぶのはどうすれば勝てるか、どうすれば相手が嫌がるか!!それだけを選択しろ!!』

 

 そう相手が嫌がる事をする。だから過去他高の戦略や戦術データを参考に、私なりに攻略方法を提示してみた。そしたら

『少しだけ手を加えてみた。これならいい線行くと思うぞ?』

 

 勿論その作戦を他の人に伝えた際、かなりひかれた。確かに引くぐらいの内容だけど、勝てる。勝てる内容だ。だから私はこの作戦に同意する。全ては勝利という2文字の為に。

 

 

 

 

「これより模擬戦を開始する」

「「「「「お願いします」」」」」

 

 

 

 

 装甲の厚さと攻撃力の高さを生かした戦術が黒森峰だ。今回であれば、殆どの確率で右翼の森林からの奇襲だ。この奇襲を失敗させる必要がある。

 

 

 

 

 

「3年生 右翼隊長」

 

 この試合に意味はない。何故なら我々の戦術に隙はない。相手の側面から奇襲を仕掛ける。相手は側面に展開する我々の相手をしなければならない。

 

 隊を分けていなければ、隊の進行は止まる。そうなると我々の本隊の遠距離からの砲撃である程度車両は減らせる。もしも隊を分けている場合は、こちらの攻撃力で分隊を潰した後、後方から本隊と挟み撃ち。よって隊を分ける事は愚策に等しい。

 

 今日相手する西林のチームは1年と2年の補欠を寄せ集めただけ。そんな急造チームが考える作戦は、奇襲は森の出口に部隊を配置し、私達が出口から抜けた瞬間に攻撃を開始する。この程度の作戦しか思いつかないだろう。まぁ私が西林の立場なら同じ事しかできないがな。

 

 そろそろ森を抜ける。

『そろそろ抜けるよ。相手は左右どちらかに展開していると思います。発見次第攻撃を開始してください。他の車両も続いてください』

『『『『了解』』』』

 

 

 

『右翼に敵車両の展開を確認!!各車停止した後攻撃を開始して下さい』

『了解』

 

 これで分隊は潰せました。しかし一瞬出口付近が眩しくて視界が真っ白になってしまって焦りました。でも運よく最初に確認した右翼に敵が展開していたので、それを後続に伝える事でスムーズに攻撃に移行出来ました。後は本隊に奇襲完了を伝えるだけです。

 

 未だ一発も砲撃が此方に飛んでこない。やはり補欠か。

『各車両距離はありますが、正確に砲撃して下さい。相手の砲撃は当たりません』

 

 しかし次に入ってきた通信に私は耳を疑った。

 

『こちら10号車!!撃破されました!!』

『8号車!!転輪破壊されました!!』

『6号車・・・撃破されました』

『7号車!!左翼から攻撃を受けています!!6両確認!!反転し攻撃します』

 

 左右に6両ずつ展開?でも左翼には車両は展開されていないのは最初に確認している!!じゃあ全車両で此方を潰しに来た?

 

 

 否!!道中の偵察部隊から敵本隊は9両で進撃中という報告は受けている!では今この場にいる12両は何だ!!偵察部隊のミスか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇襲部隊への対応は、如何に相手にミスをさせるかだ。

 

 森林はあまり手を入れられておらず、間引きなどはされていない。そのため晴天の昼間でも薄暗い。相手を誤認識もしくは思い込ませるなら、1番に視覚からだろう。逆光現象という言葉をご存じだろうか?トンネルから出る時、昼間でも出口付近になるとかなり眩しく、外の様子は全く見えない。この状況を利用し、まず相手の判断力を少し鈍らせる。そこに6両のみ展開されている可能性があるという情報を与える事で、『6両』確認出来たところで、この場にはもう敵は居ないと油断もしくは誤認させる。そして右翼の木偶に敵が向いた時点で隠れていた『6両』でゆっくり照準を定めて砲撃を実施する。

  

 

 

 弱小高であるアンツィオ高校の作戦だ。本家とは違い、木製で色まで付けているから、良く見ないと木偶と判断出来ない。だから最初に視覚を鈍らせ、次に判断能力を。そして最後に敵部隊の戦力をそぎ落とす。敵6両のうち、2両撃破、2両が足周りの損傷(中)、上出来だ。たった2両の戦力では相手は進撃出来ない。戦力を整のえようにも時間がかかるため、実質奇襲部隊は戦線離脱。こちらは15両。あちらは9両。数の上では此方が有利、しかし質は敵が上。

 

 西林先輩はうまくやれるだろうか?私は部隊に本隊に向かうように無線で指示を出した。

 

 

 

 



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第09話「真の敵は目の前ではなく・・・」

敵6両のうち、2両撃破、2両が足周りの損傷(中)、上出来だ。たった2両の戦力では相手は進撃出来ない。戦力を整のえようにも時間がかかるため、実質奇襲部隊は戦線離脱。こちらは15両。あちらは9両。数の上では此方が有利、しかし質は敵が上。

 

 

 

 西林先輩はうまくやれるだろうか?私は部隊に本隊に向かうように無線で指示を出した後、西林先輩に報告の無線を入れる。

 

 

『奇襲部隊は予定通り使い物にならなくなりました。念のため1両偵察用に残しておきます』

『了解、良くやったわ。あとはこちらの仕事ね』

『ええ、バックアップに入ります。健闘を祈ります』

 

 

 

 相手の奇襲部隊を完全に潰さないのは、相手に精神的焦りを与えるためだ。幾ら上級生とは言え、戦車の足周りの修復には時間と体力を消耗する。自分達より格下の生徒に奇襲を阻止された揚句、相手の戦車は1両も撃破出来ていない。自分達のプライドは完全にへし折られている。そんな士気が低下した状態ではたして協力して足周りの修復が可能か・・・否!!

 

 しかし修復しなければ、本隊がやられる。いくら質はこちらが上でも、相手は15両、こちらは9両と数は上だ。もしかしたら・・・という不安が焦りを生む。その焦りは最初は小さな焦りだ。しかし焦りがミスを呼び、さらにそのミスが原因で周りに焦りが感染する。焦りが蔓延した状態で何が出来る・・・否!!何も出来ない。

 

 作業速度は低下し、ミスも多発する。そうなれば仲間通しのトラブルが生じ、最終的には取っ組み合いまで発展する。

 今の私の回線には、奇襲部隊に所属する先輩方の怒声や罵声がBGMとして流れている。勿論使われていない周波数なので、他の車両には流れていない。

 

 何故そんな事陰湿な事を?・・・奇襲部隊の3年生の隊長が西林先輩の陰口を言っているからだ。別に陰口を言ってはいけないとは言わないが、限度というものが世の中にはある。あの3年生は最初戦車道の事で批判していた。『黒森峰に相応しくない』『西住流を冒とくしている』等・・・しかしここ最近は『ヤリマン』『売女』『援助交際』と戦車道に関係ない事を言いふらし、ネットにまで書き込みを行う始末←学校のPCで書き込みしているので調査は簡単w

 

 今回の部隊の再編が出来ない無能者、仲間の陰口をネットという不特定多数が閲覧できる環境に流した事等を行ったという証拠を揃え、試合終了後に消えてもらう事にした。

 西林姉妹の意見に反対という人間は多い。しかし人柄や人格が嫌いない人間は、3年生の行いを良くないと思っている人間より少ない。だからそんな人間を見つけ出し、今、この状況での3年生の発言を『記録』している。

 

 妨害はしていないいよ?妨害はね。

 

 

 

 

 

 

 さて今回の作戦について簡易に説明すると、

①奇襲部隊への対応

→アンツィオ高校の作戦を少し変更し、偽の情報を相手に与える事で、油断と慢心を誘った。結果はご覧の通りとなる。

 

②本隊への対応

→自爆覚悟の突撃だ。相手とこちらの戦車は同じ=攻撃力も防御力も車重も同じ。同じ戦車がそこそこの速度でぶつかれば、どちらも車両にダメージが入る。そうなれば数が有利なこちらに軍配が上がるのは当然である。この作戦は知波単学園の突撃を模倣している。タイミングさえ間違えなければ、十分勝算はある。

 

 

 勿論接近するまでに撃破される可能性もあるが、別にかまわない。何故ならこの試合は勝つ事が目的ではない。如何に今の黒森峰が脆弱化を皆に知らしめるのが目的である。何故なら・・・『無様な結果であれば』私達は戦車に乗れないのだ。そもそも無様って何?『あさましい姿をさらす ・ 醜態を晒す ・ 恥ずかしい姿を晒す』・・・私達はすでに奇襲部隊を撃破している。

 

 そもそも無様とは誰が判断する?判断する人間何て決めていない。師範?本日の師範がここにいるのは、ルールが適切に守られているかを判断する審判役であり、無様を判断する人間ではない・・・

 この試合に関しては、私達にメリットはあるけれど、デメリット1つも無い。相手にはデメリットは多数ある(1年生主体にレギュラー陣が負けたとなれば、赤っ恥だ)がメリットは何もない。まぁ、5両以上撃破出来なければ『無様』とするなどの条件を提示されたらヤバかったが、そんな事はなかったので良しとしよう。

 

 

 

 しかしおかしな点がある。西住まほ隊長の事だ。

①無様という言葉を使った点

→何故条件を曖昧にしたのか

 

②作戦を変更していない点

→幾つかのパターンは考えていた。しかし実際に相手が行った作戦は、スタンダードな作戦だった。一切捻りが無かった。

 

 

 考えれば他にも出てくる・・・隊長は本当に勝ちにきているのだろうか?

 



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第10話「後ろの仲間である場合も有るぞ?」

 

模擬戦は終了し、予想通り我々の敗北という事で決着した。考えれば当たり前の事だ。幾ら作戦が良くともそれを実施する人間の練度が低ければ成功率は格段に低下する。しかし結果が敗北であろうとも、奇襲部隊の6両のうち、車両2両撃破、2両の足周りに重大な損害を与え、本陣にダメージを与えた事はレギュラー陣及び家元に大きな衝撃を与えるだろう。何処からどう見ても無様な結果でない事は明確である。

 

 

 

「今日の模擬戦に関して各々思う事があると思うだろうが、まず私から言わせてもらう」

 西住まほは意見を述べ始めた。

「まず当初西林姉妹との約束していた「無様な結果であれば、レギュラーから外れてもらう」という件に関してだが、今回の模擬戦での結果から、これまで通りのポジションとする。これについて異議のある者は?」

 流石にこの結果を無様という人間は、その人間の人間性が無様だw 案の定誰も意義を唱えなかった。

「では、この件に関しては「全員一致で異議なし」とする。以後この件を蒸し返す事は隊長命令で禁止する。続いて今回の西林側の作戦についてだが・・・西林、説明してくれないか?」

「はい」

 西林凪(姉)が立ち上がり発言する。

「今回のこちら側の作戦内容は、現在戦車道を行っている学園が良く行う作戦を少しアレンジして実施しました。奇襲部隊へはアンツィオ高校の作戦で対応しました。本家はハリボテですが、今回は木製で簡易に作成しております。しかし事前の情報等で油断しやすくしているうえ、塗装等をリアルにしているので、簡単にハリボテと認識しにくくしています。本陣への対応は知波単学園の突撃としました。単純に突撃するのではなく、ある程度タイミングと突撃箇所を絞っています。また突撃後の対応についてもこちらである程度アレンジしました」

「時間差における突撃か?」

「その通りです。1陣が突撃を行います。それも全速力で。数両が生き残れば、その生き残りが再度突撃します。そのタイミングで2陣も突撃を実施します。在り来たりでありますが、突発的な事態に弱い黒森峰であれば通用します。今回は2陣の突撃のタイミングが遅すぎたため各個撃破されました」

「確かに突発的事態への対応は、指揮系統が一本化されている黒森峰では少し遅れるな」

「その一瞬の隙を突くのが今回の作戦の要でした」

「今回の作戦を実施し我々に何を言いたかった?」

 西住まほが西林凪に真意を問う。

「今回私が言いたかった事は、各学園が自分達の伝統を捨てて我々に挑んできた場合及び新参高が今回のように他高の作戦を流用した場合、状況によって我々は敗北する可能性が示唆される・・・と言う事です」

 西住流の弱点を実戦で示し、いつか敗北する・・・と一介の生徒が西住流家元に警告している。

「今回の模擬戦の過程をみると、確かに敗北する可能性はあるな。では何処を改善する事で、敗北する可能性が低下する?」

「すみません。今回の模擬戦での結果から考察したいと思いますが、今はまだ出来ていません」

「途中まででいい」

「分かりました。恐らく一本化された指揮系統の改善が急務かと。しかし無暗に指揮系統を変更すると、かえって悪化する可能性があります。案としては、隊長及び副隊長の下に一人ずつ副官を付け、両名が不在時においても指揮系統がマヒしないようにするのがいいかもしれません。副官については、各車長より選抜するのが良いと考えます」

「これで突発的な事態に対応出来る根拠にはならないと思うが?」

「はい。一度何処かでこの考察の検証したいと思っています。どうでしょうか?」

「分かった。一度資料を作成し、私に見せてくれ」

「分かりました」

 

 

 

 

 その後反省会と言うミーティングは順調に進んでいった。

 

 

 まぁここまでは『私達』が書いた筋書き通りだ。この模擬戦の真の狙いは2つ。一つは黒森峰に燻っていた西林という火種の消火。私をレギュラー指名した西林凪が問題を起こしてしまうと、私のレギュラー取り消しが考えられたからだ。今回の件でしばらくは大丈夫だろうと思う。また副産物として無能な人間の排除も完了出来るといううれしい事例もあり、この事案に関しては大成功といえる。

 

 

 

そしてもう一つは『俺』が言い出した事なのだが、私には良く分からない。

『家元にある質問をして、その回答を周知させろ』

??

その質問が

『撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 ・・・勝利至上主義であり、いかなる犠牲を払ってても勝利する・・・それが西住流。いかなる犠牲とは?土砂崩れや雪崩で流されてしまった場合は?増水した河川に落ちた場合は?燃料系から燃料が漏れ火災が発生した場合は(車両にダメージが入り、ハッチがあかない場合等も込み)?例え車内はカーボンで守られているとは言え、限界があります。しかし全てをカーボンに任せ、我々はそれらの車両の乗員を見捨て勝利する必要があるのですね?そして仲間の命を犠牲にして手に入れた勝利を手に、我々は大手を振って歩いてもよろしいですね。西住流は最強である。仲間?我々の仲間は我々の勝利を邪魔しない者が仲間である。今回亡くなった者は我々の勝利を邪魔した者であり、仲間ではありませんと。堂々とインタビューで答えてもよろしいでしょうか?』との事だった。少し疑問を持ちつつ、私は家元に質問した。

 

 

 

そして返ってきた回答は

「愚問ですね。西住流は勝つ事が全てです。如何なる犠牲を払ってでも」

 

 そして人格の主導権を『俺』に奪われた。

『まったく持ってその通りですね。この言葉を家元から直々にお聞き出来て私は感激しています。勝利に貢献しない者、若しくは勝利への道を閉ざす可能性が有る者は邪魔でしかない。この言葉、私は胸に刻みこの先黒森峰に貢献したいと思います』

「・・・ええ、頑張りなさい」

『はい!』

 

 

 

 

『聞いたぞ?聞いたぞ?家元の口から!

如何なる犠牲を払っても勝利を手にしてもよい=それを批判した者は家元が処断する。そしてこちらの悪は善となり、お咎めなしとなる。勿論敗北しても敗北となった要因を作った人間をつるしあげればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 そう

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 例えそれが、西住流の人間であって 

 

 

 実の娘であっても

 

 

 

 

 西住みほ・・・

 

 

 

 君の居る

 

 

 

 副隊長と言う肩書き

 

 

 

 

 奪い取らせてもらうぞ!』



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第11話「俺」

 

 

 

『俺』

 

 ここ最近前世?の記憶が少しだが戻った。戻ったといっても妻子の顔や名前を思い出したりなんてことはなく、ただ断片的に妻子がいて、家が有って、車に乗っていた・・・程度の事だ。勿論そのほかの記憶もある程度思い出した。勿論ガールズ&パンツァーに関しても今年、来年黒森峰は全国大会で敗北する。来年に関しては何故か西住みほ率いる高校に敗北する。程度は戻っている。しかし詳細に関しては不明のままだ。

 

 

 この世界にもアニメはあり、ネットにはそのアニメの2次創作がたくさんある。オリジナルストーリー、オリキャラ、逆行物、再構成・・・しかし何故皆揃って『何故皆で幸せになろうとする?』『何故主人公と仲良くする?』『何故悪い事例(出来事)を回避しようと走り回る?』

 

 何故自分の事だけを考えない?

 

 何故自分を犠牲にする?

 

 何故自分だけで解決しようとする?

 

 

 白いかわいい?生物のセリフを引用すると『わけがわからないよ』

 

 人間は本来自分の事が一番だ。そうだろ?苛められている人間を態々助ける物好き、仕事でミスした人間が怒られている場面で助ける物好き、リストラされる同僚の代わりに自分がリストラされるというバカな人間はドラマや漫画の中にしかいない。

 

 血の繋がっている人間にすら容赦しない人間が、なんで他人の為に頑張る?

 

 

 悪いが俺はそんな事はしない。自分が大事で大好きだからだ。自分で自分を傷つけるような真似はしない。

 

 

 

 

 

 相手が動けないのであれば、さらに動けなくなるまで追撃を加える。

 

 相手に傷があるなら、そこをトコトン狙い撃つ

 

 勝つためなら、平穏を守るなら、自分自信を守るなら

 

 他人なんてどうでもいい、極論死んでもいい。

 

 

 

 

 

 俺が一番

 

 

 

 俺が大事

 

 

 

 

 これが

 

 

 

 究極の

 

 

 

 

 自己中!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全国大会が近付くにつれ、実戦を想定した訓練が多くなり、練習試合も組まれるようになった。今回の相手は聖グロリアーナ女学院。なんでも紅茶を飲みながら戦車に乗っているとのこと・・・最初聞いた時は???と思ったが、理由を聞いてすぐに納得した。確かに溢さないで戦いに勝利するという事は、かなり熟練した技が必要になってくる。しかし熟練の技が有っても使っている車両が残念であれば中々勝利するのは難しい。それか人間の技の性能に戦車が追い付いていないように感じられる。もしも彼女達の技を性能をしっかり受け止められる車両を配備した場合、聖グロリアーナ女学院は化けると俺は評価する。ナナの練習が終わった後に俺が情報収集を実施し、それをまとめる。まとめた資料をナナが練習などに活用する。その報酬として起床時は紅茶(アールグレイ)(ブランデー入)を飲み、情報収集終了後はコーヒーとし、就寝前にもう一度紅茶(アールグレイ)(ブランデー入)を飲み、一日の疲れを癒している。コーヒーと煙草が一番だが、流石にばれる可能性が高いので辞めている。

 

 コーヒーと紅茶は行きつけの喫茶店で分けてもらっている。ブランデーは料理をしているという理由付けで購入を許可されている。ブランデー入りの紅茶に関しては、これが最高にうまい飲み方と思っている(異論は聞かない)

 

 

 聖グロリアーナの生徒の前でこの飲み方を実演したらさぞびっくりするだろうな。いや邪道と罵られる可能性のほうが高いか?

 

 

 

 

 

 聖グロリアーナは強い。

『浸透強襲戦術』

 

 基本的、戦線を突破して裏側に回り込む(浸透)という作戦。戦線の1カ所を突破しても、それだけでは突出部を作るだけで、突出部に火力を集中されれば封じ込められる。しかし、数カ所で同時にこれを行えば、突破した他の部隊と連携して、その間にいる敵部隊を包囲することが可能。

 

 もしも私が聖グロリアーナの戦車道に入った場合、果たしてレギュラーを勝ちとれる可能性があるのか分からない。

 

 

 

 

 

 

 しかし黒森峰はもっと強い

 下手な小細工等、道端にある雑草の如く踏み潰す。

 

 

 絶対強者

 

 最強の部隊

 

 

 

 そんな強者と試合をした場合の結果など、一々考える必要はない。

 

 「聖グロリアーナ、フラッグ車戦闘不能 黒森峰女学院の勝利」

 

 

 我々の勝利を報告する放送を聞きながら俺はスコープから目を話した。今日のスコアはナナよりも少し良い結果だった。7両撃破・・・最前線に入ればこれぐらいは・・・な?久しぶりだったが、7両撃破出来れば十分な結果だ。

 

 

 結果に満足した俺は意識をナナへ譲り、眠りについた。

 



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第12話「成功は破滅への一歩」

 

 

 楓

 

「聖グロリアーナ、フラッグ車戦闘不能 黒森峰女学院の勝利」

 

 我々の勝利が確定した放送を聞いて私は安堵した。今回の対戦相手である聖グロリアーナとは過去何度か練習試合を行っているが、今年は一味違った。過去よりも動きが俊敏で砲撃精度も一段と向上していた。噂では今年の隊長であるアールグレイが、練習体制を大幅に変更したと言う。

 

 黒森峰の体制を変更していなければ今回の練習試合の結果はどうなっていたか分からない。今回相手に撃破された車両は5両。ナナ曰く、ここまで撃破された事は過去に無いとの事。という事は確実にアールグレイの改革は効果があったという事だ。全国大会前に我々と練習試合を行う理由として、改革の結果を目で見える結果として残すのが目的と示唆出来る。黒森峰が変わっていなければ・・・結果は・・・。

 

 

 

 

 アールグレイ

 

 今年から聖グロリアーナを任されたことで、改革を行いましたわ。最初は反発はありましたが、過去の結果などからそれらを論破し、排除しました。結果他校との練習試合では良い結果を出し、最後は黒森峰との練習試合のみとなりました。

 

 部員総出で黒森峰のデータを集め、各車長と打合せを行い、万全の体制で挑みました。しかし結果は敗北。相手の車両を5両撃破できましたが・・・黒森峰は状況の急激な変化に対応出来ない、これが弱点と思っていましたが・・・結果は状況に応じた動きが出来ていましたわ。これには我々も驚きを隠せませんでしたわ。そしてあの前線で一際目立っていたあの一両。正確すぎる砲撃により我々の車両の半分を撃破され、予定していた作戦を潰されあげく、私たちの載るフラッグ車を撃破するという・・・言葉が出ませんでした。

 

 

 

 

「ごきげんよう西住さん。今回はありがとうございました。残念ながら負けてしまったわね」

「こちらこそ。こちらも危ないところだった。まさか聖グロリアーナが戦術を変えてくるとはな」

「御謙遜を。私達は5両しか撃破できませんでしたわ。それに戦術の変更はお互い様ですわ。まさか状況の急激な変化へ対応できるようになっているなんて・・・どういう風がふいたのか、是非お聞きしたいですわ」

「5両・・・この5両は作戦の要というえる立場に居た。それを瞬時に見抜いたそちらのレベルの高さには驚きを隠せない。素直に称賛する。しかしその5両を撃破される事を過程に作戦を立てていたからこそ、早急に対応出来た。この作戦を考えた人間は余程そちらの性格を熟知しているか、人間的に嫌らしいという事だな」

 

 え?今・・・なんといいました??『この作戦を考えた人間』??

 

「あの・・・聞き間違えでなければこの作戦を考えたのは西住さんでは・・・ないと?」

「ああ、この作戦を考えたのは私ではない。ちょうどあそこにいる。おい、霧林少しこっちに来い」

 

 西住さんは一人の隊員を呼んだ。その子は・・・一言で言うと「普通」「一般的」どこにでもいる女の子・・・というのが第一印象だった。

「こちら聖グロリアーナの隊長アールグレイだ」

「黒森峰女学院、第10号車、砲手の霧林ナナです」

「アールグレイと申します。今後ともよろしくね」

「はい」

「ところで?今回の作戦を考案したのはあなたと聞きましたわ。どういう経緯でこのような作戦を立案したかご教授できないかしら?」

 私の言葉で周りにいた聖グロリアーナの隊員から驚きの声が上がりましたが、それを私は静止させる。私は聖グロリアーナの隊長を就任する時に決めましたわ。プライドは捨てると。静止後、再度彼女に申し出る。

「失礼しましたわ」

「いえいえ。今回の作戦の立案に関して、まずした事は2つ。一つ目は、隊長であるアールグレイさんの過去の車両運用。去年まで副隊長であったので情報はいくらでも収集できました。常に前線に立ち、作戦に必要な場所まで最速で到着する事で最高のタイミングで行動できていました。結果部隊全体の士気も向上し、作戦成功率も向上傾向でした。しかし今年は隊長という事で、今まで自分の居たポジションを他人に委ねている。今年の練習試合を見ましたが、後継の人もレベル高いですが、まだまだアールグレイさんのレベルには至っていません。結論・・・去年より作戦成功率、士気は低下する。しかし戦術眼は昨年の隊長よりも遥かに高い。作戦成功率や士気の低下を持ち前の戦術眼でフォローしている。ではこれに対する対策は?簡単です。戦術眼の高さを利用し、こちらの作戦の要である車両を撃破させます。これにより油断が生じます。要は意識をAというところに向けて置き、別のBというところでAのフォローを行えばいいという事です。戦術眼が届かないところでは作戦成功率は低いという事です」

「しかし私は戦況を常に確認していましたわ」

「はい。しかし常に確認していたというだけで、『全体を把握している』という事にはなりません。いつ、どこで、誰が、どのように、何をしている、までは把握できていません。あくまでも『ある程度把握している』だけなんです。だから今日重要な作戦の要である作戦場所に部隊が1分遅れた事はご存じでないかと思います。これが今回敗北した理由の要因ではありますが」

 

 

 この子は・・・ここまでこちらの動きを予測しているなんて・・・

 

「ありがとうございます。今後の参考にさせてもらいますわ」

「いえ、聖グロリアーナの隊長へ偉そうな意見を進言してまいました。私はこれで」

 

 

 

 

 

「それにしても黒森峰は良い隊員をお持ちで。西住さんも後継者育成に力を入れていらっしゃいますね」

「いや、彼女はまだ1年生だ」

「え?1年生であれだけの事を?」

「ああ、優秀なだけに扱いが難しいところがある」

「あら西住さんでも持て余しているという事ですの?それは大変、もしよければ私が引き取りますわよ?」

「本当か!?」

 

 

 

 

 

ナナ

 今日は『俺』がメインという事で私はお休み。でもただヒマをもてあそんでいたわけではない。ちゃんと試合の状況から相手を分析していた。もしも呼び出されたら、本当の事と嘘を交えて話せと『俺』から指摘された。どうして『俺』がしないのかと問うと『久しぶりの試合だったから眠くなった』とのことだった。だから、嘘と真実を交えて話をした。

 そもそもアールグレイのポジションだったところに後釜で入った部員のレベルはアールグレイと引けを取らない。ここが一つ目の嘘。1分到着が遅れた事が敗因の要因という事も嘘。戦術眼に関しては真実。何故こんな嘘と真実を混ぜて話をしなくてはいけないのか?

 

『相手は最近体制を大幅とはいかないが変更した。今日は体制変更後の評価を行うだろ?結果は恐らく過去と比べ黒森峰に大きな損害を与えたとなる。撃破5、損害4(中破1、小破3)であればそこそこだろ。相手は今の体制は有用である。と結論付ける。そこで、相手の弱点もしくは欠点に目を向けない様に、まったく関係のない場所に目を向けさせる必要がある。野球で例えるなら「フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ」とでもいって投球フォームを何度も確認するためにボールを投げるだろ?そうすると神経質な人間であればそのまま肩や肘に負担がかかり、やがて潰れる・・・俺達はただ「フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ」という一言をいってやるのさ。実際の欠点に目を向けさせないようにな』

「でもそれは時間経過で露見するんじゃないの?相手に考えさせる時間を与えていいの?」

『ああ、普通なら考える時間を与ええず倒せ・・・でも今回は違う。考える時間を与えるんだ。アールグレイなら「フォームに問題がある」といえば、フォームの他にも問題がないかを確認するはずだ。俺達が言った言葉の真偽もその時分かるだろう。そうこうするうちに、引き返す事が出来ないところまで彼女は学園を率いるだろう。そうなれば全て計画通りとなる』

「ようするに自分が行った体制変更が実はとんでもない弱点を生んでいるってこと?」

『正解率50%」

「ん~」

『そもそも体制変更で弱点は生じていない。まぁゆっくり考えな』

 

 

 

 

 



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第13話「面倒」

 

聖グロリアーナとの練習試合から数週間後、西住みほが副隊長となった。これに異議を唱える者は居なかった。現隊長及び現西住流師範両名立会いの下、我々に伝えられてたのだから。

 

 流石にこの状況で異議を唱えるのは、命知らずのバカである。しかし人間とは面白いものである。西住まほやしほに対しては誰も不満、罵倒はしなかったが、みほだけには皆『身内贔屓』などの批判、罵倒の言葉が浴びせた。そして隊長や師範の目の届かないところでそれらの不満は、次第に言葉から行動に現れるようになった。

 

 私が知っている範囲で把握している内容は、靴がなくなった、無視、校舎裏に呼び出し・・・まぁレベルの低いイジメだ。それで私がどうしたかって?どうもしない。これぐらいの状況を打破してもらわないと、他の隊員達に示しが付かない。それこそ、みほVS多人数の状況で、多人数をボコればいい。そうなると「副隊長ヤバイ」となる。そうすると誰も文句を付けなくなる。 

 

 しかしみほの性格は、控えめで引っ込み思案なタイプのため、最初は軽いいじめだったものが、みほが反撃しないため、次第にイジメはエスカレートしていった。流石にトイレから出てきたみほがずぶ濡れだった時は、ダッシュで寮までみほの制服を取り戻ったよ。しほやまほの耳に入ったら・・・全国大会前に不祥事が発覚しないように隠ぺいした。

 

 

 

 隠ぺいを実行した夜、いつものように「俺」による資料室での作業が終わり、疲れたといって私に代わった。資料室の戸締りを終え、校舎の外に出た時には23時を回っていた。勿論そんな夜中に外をうろついている人間は居ない。そう思っていた。その日までは。いつものように寮へ帰る道を歩いていると・・・みほが居た。居るのは別にいいと思う。しかしその格好だ。

「な・・なに・・・その格好・・」

「え・・霧林さん・・」

「いやいや・・「霧林さん・・・」じゃないよ。え?なんで・・・ほぼ裸なの?」

 

 

 みほは、アンダーシャツ一枚(本当にそれだけ)で、夜道を歩いていた。

 

「ごめん・・・私・・・何もみてないから!!副隊長の性癖・・・見てないから!!」

「ち・・ちが・・」

「さよなら」

 

 私は混乱した。「夜道」「裸」「みほ」

 この項目から「みほは日々のイジメにより疲れていた。このストレスを夜道を裸であるくとういう手段で解消している」そう想像してしまった。しかし

 

「ま・・待って!!」

「な・何?」

「服は隠されたんです!」

 

 そう性癖ではなく、イジメによるものだった。

 

 

 

 

「練習が終わって・・・着替える時に、その、3年生に服を取られて、それから返してくれなかったから・・・暗くなるまで待って、寮に帰ろうと・・・」

「な・なるほどね」

 

 

 ほんの2~4分、私とみほは無言のまま見つめ合った。その間考察する。このままみほ一人で寮まで歩いて帰ってもらう?それとも送る?明日は日曜日・・・そろそろこの状況を打破する方法を考える?私一人で?それとも誰かを巻き込む?隊長?西林姉妹?

 

 

 私にはもっと頼れる人が居る・・・ならあとはその人に任せればいい。

 

「副隊長私の部屋に来てください」

 そういって彼女の手を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂ためています。溜まるまでシャワーを使ってください。それと色々あるので、ゆっくり入ってください。ゆっくり・・・ね」

 

 

 

 

「ねぇ?起きて」

『・・・ん?』

「みほについて助けてほしい」

『拒否する』

「お願い!!」

『お前はなんでそんなややこしい事に首を突っ込むんだ!』

「イジメられている人に手を差し伸べたらだめなの?困っている人を助けたらダメなの?」

『いいと思うよ。但し自分の能力で解決できる範囲内なら俺は何も言わない。しかしお前は俺に頼っている。=自分の能力以上となる』

「「俺」なら解決出来るよね?」

『解決出来るだろうな』

「なら!」

『それで?』

「え?」

『それで、俺に何のメリットがあるんだ?』

「それは・・・」

『前にも言っただろ?双方に利益が無ければ交渉にならない。確かにナナがみほのイジメを解決する事で、もしかすると西住流から何かイイ事があるかもしれない。しかし俺には?何もないよな?』

「利益、利益!!それ以外に無いの!!利益が無くちゃ誰も助けないの!!」

『そうだ』

「・・・利益があればいいんだね?」

『あればな』

「じゃあ「俺」の言う事聞く。「なんでも」」

『ん?今「なんでも」って言ったか?』

「うん」

『・・・OK。しかし今の言葉忘れるなよ?』

 

 

 

 

 

「霧林さん・・・お風呂上がったよ」

『ならここに座れ』

「・・霧林さん?」

『いいから早く座れ』

「う・・うん」

 

 

 

 

 

『今の状況から抜け出したいと思ってる?』

「うん」

『どう抜け出したい?』

「どうって・・・」

『色々ある。まずイジメている生徒を特定し、イジメの証拠を集める。そして学園に報告し転校して頂く。もしくは西住流の名前を最大限に有効活用しイジメ返す。徹底的にイジメ返す。勿論転校なんていう逃げ道は与えない。まぁ例えるならこんなもんか。ここまで聞いて西住はどう思う?』

「私は・・・もっと平和的な解決策を考えたい」

『分かった。イジメの主導者及び金魚のフン共を『平和的に』排除する。それでいいな?』

「う・・うん」

『なら、もう寝ろ。明日は模擬戦だろ?不甲斐ない結果を出すと、まためんどくさい連中の良い的になるぞ』

「は・・・はい」

『もう遅いから、ここで寝ていけ。俺達は床で寝る。異論は聞かない。おやすみ』

「・・・おやすみ」

 

 

 

 平和?何を基準に平和と言うのか?

 

 平和の基準を決めるのは誰か?

 

 その基準を作る人間の基準は何か?

 

 そんなものはこの世にない。有るのはクソッタレな基準だけだ。



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第14話「嘘ついてません。99%は嘘ですが、1%真実が入ってます」

 

 

 

平和的解決は実は難しい事ではない。難しくは無いが、簡単ではない。矛盾しているかもしれないが、それが真実である。要は弱みを見せてはいけないという事だ。弱みを見せた瞬間、今まで以上に攻撃される。よって西住みほには「模擬戦では必ず勝て。どんな状況でも対応出来るだろ?」と一言言ってある。

 

 今西住みほに残っているのは、戦車道における負けない副隊長という肩書だけだ。それすらも失えばもうどうしようもない。今まで収集した情報等が全てパーになる。

 

 俺的には居なくなっても別にかまわない。しかしナナとの約束だからない。見返りが「なんでもする」だからな!!

 

 

 

 しかし現状問題がある。今ある情報では決め手に欠けている。一言で言ってしまえば攻撃力が弱いのだ。

 

 

 「みほの服を隠した」「教科書を隠した」「指示に従わない」「階段で押された」等

 

 この程度では、全然ダメだ。簡単に言い返されてしまう。

 

 

 「みほの服を隠した」

 →見つけられなかっただけでは?

 

 「教科書を隠した」

 →上記と同じく 

 

 「指示に従わない」

 →指示が悪かったのでは?

  

 「階段で押された」

 →少し肩が当たっただけ

 

 

 よくある少女漫画のワンシーンみたいだろ?そして何とも滑稽なシーンでもある。しかし俺が考えるシーンはこんなものではない。相手は何も言えない、もし言えたとしても「すみません」「許してください」という謝罪か悲願する言葉だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦の結果は予定通り、西住みほが率いる部隊だった。しかし・・・良く勝てたな。部隊の半数は西住みほに反感を持っている人間で、模擬戦中も命令違反、上官への暴言の嵐だった。しかし西住みほはこの反勢力も利用し勝利を得た。

 

 

 命令違反、上官への暴言等は全て記録している。

 

 

 しかし彼女達は分かっているのだろうか。幾ら1年生といっても、黒森峰の副隊長である人間の命令を無視するという事は、それなりの覚悟を持っているはずだ。いや、持っていなければいけない。そう命令違反と言うのはそういう事だ。命令を無視するという事は、上官へ不服があるという事。言い換えれば、その人間を任命した西住流師範に不服があるという事だ。また暴言においても同様の扱いとなる。

 

 

 彼女達は本当に分かっているのだろうか?

 

 

 自分達に命令をくだしているのは、あの「西住流家元」が任命した人間である事に。そしてその人間は家元の娘である事に・・・

 

 

 そんな後先考えず、自分達の利益しか考えていない人間には、是非レギュラーから降りてもらい、黒森峰からも消えて頂きたい。もしくは世間的にも・・・

 それにもうそろそろ一回戦のレギュラーが選出される。このままではクズ共が抜擢される可能性もあり、そうなれば最悪一回戦で敗北してしまう。そうなると西住みほの立場はかなりヤバイ状況に陥るだろう。在校生だけではなく、スポンサーやOBなどからの糾弾もあり得るだろう。そうなると誰も手を差し伸べる事が出来なくなる。姉である西住まほですらも。

 

 

 勿論隊長である西住まほも、薄々今西住みほが置かれている状況を知っているが、それを打破出来るだけの能力は無い。能力を有していたとしても、立場上口を出すのは難しい。身内であれば尚更。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、黒森峰には変なうわさが流れた。

 

 曰く

 

 『西住みほの制服を汚水で汚して着せようとした人間がいる』

 

 曰く

 

 『階段から落として頭に5針の怪我を負わした人間が居る』

 

 曰く

 

 『練習中にみほの水筒にオイルを混ぜた人間がいる』

 

 

 その話を聞いた隊長である西住まほ、及び西住流師範西住しほが、実行犯の特定を行い、処断するといった噂だ。

 

 

 そして噂が流れた翌日に、西住みほがサイズの合わないい制服、額には痛々しい包帯をした状態で登校した事で、信憑性が高まった。 

 

 

 

 

 

 

 ある程度噂が流れたある日、西林姉妹と食堂で食事を終えた後、食後のコーヒーを飲んでいると、楓先輩が

「ねぇ?あの噂について何かしらない?」

 と、俺に聞いてきた。

『噂ですか?』

「そう、副隊長についての。見ただけで解る、少しサイズの有っていない制服、額の包帯・・・でも副隊長は、「コケて制服が破れた、この包帯はその時に怪我をしただけ」って」

『副隊長がそう言うなら、それが真実では?』

「でも・・・可笑しいじゃない。だったらなんでそんな噂が流れるの?階段で押されて落ちたところを見たっていう生徒もいるみたいよ?」

『見たという生徒の名前は?階段から落ちた日は?』

「そこまでは・・・」

「ねぇ?ナナ」

 ここで選手交代。凪先輩へ

『なんですか凪先輩』

「私達が聞きたいのは、どうしてあんな噂が流れたのか?って事よ」

『誰かが悪意を持って流したと?』

「その可能性はあるわね」

『じゃあもし、その噂を流したのが

 

 

 

 

 

       私だったら?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 楓先輩がこの話を俺に振った時から皆、聞き耳を立てていたらしいく、食堂は静まり返った。当たり前だ、今此処に副隊長に関する噂を流した人間が居る。

 

 

 

 

『まぁ何故か・・・と、聞かれれば答えますが』

 

 

『副隊長がサイズの合わない制服で登校し始めたのが3日前ですよね。その前日の事です。私はいつものように練習後に資料室に残り、いつも通り資料をまとめていました。そして帰宅の際に隊長を見かけました。稀にあるんですよ。帰りが同じになる時が。でもその時は違いました。何故か格納庫へ向かって行きました。こんな時間に格納庫に用事なんて・・・何か急な用事でも入ったのかと思いました。勿論何か手伝えればと思い、私も格納庫に向かいました。でも隊長は格納庫ではなく、裏手にあるスクラップ置き場に向かいました。はっきり言って可笑しいと思いました。あそこには鉄屑と廃油しかありませんから。そして廃油のあるドラム缶の近くに佇む隊長が居ました。その時は暗くてよく見えませんでした。しばらくして隊長は校舎に消えて行ったので、隊長が見ていた近くをスマホで照らしてみたら・・・そこには制服が有りました。

 

 誰のかはすぐに分かりました。今の黒森峰の状況を考えると、この制服の持ち主は一人しかいません・・・副隊長の制服だと。

 

 

 

 制服に気を取られていた私は戻ってきた隊長に気づきませんでした。

 

 

「霧林か?」

『た・隊長』

「・・・」

『・・・』

「これが誰のかわかるか?」

『・・・はい」

「・・・そろそろ」

『え?』

 

 

 

 

 

「そろそろ、私も

 

 

 

 

 本気で

 

 

 

 潰しにかかってもいいんだよな?」

 

 

 

 

 その時の隊長を表すなら・・・夜叉・・・でした。私の返事は「YES」だけでした。

 

 

 

 そして今日まで副隊長に反感をもつ人間のリストアップ、証拠集めに駆り出されていた・・・とい言う事です』

 

 

 俺の描いた嘘話を聞いた楓先輩は

「じゃあ、隊長は誰が副隊長に嫌がらせをしていたか知っていると?」

『勿論です』

「じゃあ噂を流したのは?」

『面白半分で嫌がらせに関わらないように、抑止力として流しました』

「因みに何人いたの?」

『バカな人間ですか?それは私からよりも隊長から聞いた方がいいと思います・・・

 

 

 

 

 ほら

 

 

 

 

 噂をしていると

 

 

 

 隊長ですよ』

 

「「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 学園中に、館内放送を知らせる音が響いた。

 

 その内容は

 

 

 『戦車道受講者に告ぐ、戦車道受講者は全員、格納庫に集合せよ。

 

 戦車道受講者に告ぐ、戦車道受講者は全員、格納庫に集合せよ』

 

 怒気を含んだ西住まほからの裁判開始の号令であった。

 



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第15話「全国大会開始」

 

『戦車道受講者に告ぐ、戦車道受講者は全員、格納庫に集合せよ。

 

 

 

 戦車道受講者に告ぐ、戦車道受講者は全員、格納庫に集合せよ』

 

 

 

 怒気を含んだ西住まほからの裁判開始の号令であった。

 

 

まほの号令から約10分後には、戦車道受講者総員350名が格納庫に集合した。そして審判の時間が始まった。

 

 

「この名簿には、西住みほ副隊長への暴言、暴行等の嫌がらせ行為を行った人間の名前が記載されている。証拠なども全て揃っている。隊長としては厳罰に処する必要があると考えている」

 

 その言葉を聞いた一部の人間は顔を青くしている。

 

「しかし諸君の中にあった不満を西住という名前で抑えつけていたことが、このような事態を生じさせたことも事実である」

 

 確かに西住という名前を2.3年生をさし終えて、みほが副隊長に就任したという意見も多い。

 

「よって諸君たちには選択肢を与える事とする。

 

副隊長に嫌がらせ行為を行ったものは、理由を問わず退部とする。

しかしこちらにも落ち度があった。よって退部したくないものは、副隊長と勝負してもらう。

挑戦する条件だが、時間の都合上、副隊長には挑戦者全員の相手をしてもらう。20台を超える場合は、副隊長側に1両追加する。また副隊長側の車両に搭乗するのは1年生のみとする。勿論敗北したものは退部の上、二度と戦車道には関わられないように各方面に呼びかける。ここまでハンデを付けて負けた上に仮にも西住に歯向かったんだ、これぐらいは当然だろ?もしも勝利できたなら、退部はなしとする」

 

さて、この条件で一体何人のバカが挑んでくるんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1両VS16両の試合を行い、結果は西住みほの勝利であった。16両の挑戦車両の半数は1軍レギュラーであり、残りは2軍、3軍であった。1軍メンバーのレベルは確かに高く、砲撃、車両操作は1年生には到底太刀打ちできない。しかしみほはそんな状況でも勝利した。理由は簡単だ。みほは、黒森峰での副隊長という「頭」であり、挑戦者達は「手足」であるという事だ。手足は頭の命令を実行する能力は高いが、頭の「代わり」は出来ない。手足が集まった所で勝負にはならない。勿論中には車長も居たが、精々2~3台の指示で一杯一杯だろう。

 

 当初は息巻いていた挑戦者達も中盤に差し掛かるころには、自分達の愚かさに気づき始め、試合終了後には一部の者は副隊長に頭を下げ退部した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これにより、西住みほへの嫌がらせ行為は完全になくなり、逆に今回の試合結果を見ていた隊員達に、みほの実力を再周知させることができた。

 抜けたレギュラー枠には、1軍補欠などを採用し、何とか全国大会には間に合う・・・という状況だが、以前の状況よりかは、遥かに安心できる状況と言える。

 

 

 全国大会直前にこのような事態があり、家元からは少し心配されるようなコメントを頂いた黒森峰だが、1回戦、2回戦を順調に勝ち進み、準々決勝となる試合に駒を進めた。

 

 勿論全国大会中においても改革は進行中であり、以前却下された安全管理担保の必要性を再度提案した結果可決された。これにより安全確保の為の講義、実技が全国大会中だが開始された。元々戦車に精通している事、各々で戦車の整備をしていたため、講義、実技は何事もなく経過している。また有事の際の脱出後に関して、予算から購入するため時間が少しかかっているが、予定では準決勝には間に合うとのことだった。

 

 

 

 

 

 俺の仕事は、みほのいじめを解決するという事だったが、このあたりに関してはサービスだ。

 

 

 

 何せ「なんでもいう事を聞く」という条件だからな。

 

 

 なんでも・・・なんでも・・・なんでも

 

 

 



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第16話「自分こそが」

 今年もよろしくお願いします。





 

みほの一件で大幅にレギュラー陣が変更されたが、練習試合等している暇は無く、初陣が全国大会準々決勝という前代未聞の事態となった。1回戦、2回戦は参加車両が少数であるため、変更前のメンバーで対応できた。これにより入れ替えたメンバーの錬度を仕上げる事が出来たことで危なげもなく勝利した。またこの勝利に大きく貢献したのは副隊長であるみほであった。今回が初めての公式試合というメンバーが大半であったが、みほが試合中に掛ける言葉により緊張が解れ、自身の実力が出せた事が勝利出来た要因であった。

 

 

 そして次は準決勝、相手はアールグレイ率いる聖グロとなった。情報では前回練習試合した時よりも全体の実力は上がっているとのことだ。しかし『俺』が過去に言った『そもそも体制変更で弱点は生じていない。』についての答えは出た。答えは簡単だった。

 

・率いているアールグレイの実力が原因である。彼女が立案する作戦、作戦を指揮する能力の高さは西住まほに勝るとも劣らない。彼女が聖グロが得意とする浸透強襲戦術を強化する事でより勝率は向上する。そして勝率が向上する事で聖グロは全国大会で準決勝まで上り詰めた。この実績は聖グロでもかなりの高評価となるだろう。しかしそれの評価があだとなる。

 

 『俺』が言った『フォームに癖がある。だから盗塁されるんだ』という言葉は、正に灯台下暗しだった。アールグレイが優秀過ぎる故に、現状の聖グロの戦力で結果を出す。しかしそれはアールグレイの能力があっての結果であり、次期隊長には重荷にしかならない。次期隊長が、戦力増強や戦術の変更を進言してもOG、OBからは、「前年はこの戦術、戦力で準々決勝まで勝ちあがっている。隊長であるあなたの実力不足では?」と問答無用で突き返される。=来年以降聖グロは脅威ではなくなるという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 『俺』からの宿題を解いた私は、資料室で『俺』のように資料を作成する。『俺』とは違う私なりの資料を作成し、俺に添削してもらう。その添削された場所について、私なりの考えを俺に返答する。俺への返答を考察している途中、資料室のドアがノックされる。そしてドアから入ってきた人物はみほだった。

「どうしたの?こんな時間に」

「あ・・あの、少し聞きたい事があるんだけど、今時間大丈夫?」

「大丈夫だけど」

 

 みほからは、いじめ問題解決に関して改めてお礼を言われた。しかし本題はお礼では無い事は、早々に分かった。

「西住さん?本題はお礼じゃあないよね?」

「・・・」

「もしかして、イジメが再発したの?」

「違うの!」

「じゃあどうしたの?」

「私は・・・今の黒森峰が怖いの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在黒森峰は全国大会9連勝中であり、今年優勝する事で全国大会10連覇という偉業を達成する。10連覇は学校の威信を掛けた偉業であり、その重圧は隊長である西住まほだけではなく、戦車道メンバーにも連鎖する。

 しかし今回全国大会中にイジメが発生してしまい、尚且つ被害者が副隊長である西住みほである。そしてイジメの加害者を粛清し、大幅に人員入れ替えが生じた。これにより入れ替えた人員には、今まで体験した事のない重圧が重くのしかかった。この重圧の緩和は、並大抵では緩和しない。

 例とするなら、新人社員が入社直後に10億円の取引の責任者になる。殆どの新人は重圧に押しつぶされるだろう。これと同じ現象がレギュラーメンバーの半数で生じている。

だから皆潰されないように勝利を我武者羅に欲する。それをみほは「怖い」と言う。

 

「西住さん、それは普通の事だよ」

 私はみほの考え方を、視か方を変えるように伝える事にした。しかし

 

 

 

「勝つ事が、10連覇する事がそんなに大切なの?」

「大切だよ」

「どうして?」

「西住さん。多分貴方は知らない、いえ、知らなさすぎるの。自分の見える部分しか『見ない』。視野に入らない部分は見ようともしない。だから大事な部分が『視え』ずに周りを混乱、誤解させるの」

「・・・」

「だから見にいこうか。西住さんが見えていない部分を」

 

 

 

 

 私達は資料室を出て、別棟に向かった。夜中の本館と別棟の移動は本来許可が必要だが、全国大会中は免除される。

 

「ここからあそこの部屋を見て」

 私はみほに光のついている部屋を見るように言った。

「あれは・・・」

 

 みほは数十人の生徒が何かを調べている風景を見た。

「あれは2軍のメンバーで、過去の他高の戦術について調査しているところだね」

「でも、それって・・・霧林さんが」

「うん。調査済みだよ。でも何か見落としている部分や間違っている部分が無いかを再調査しているの」

「どうして?」

「分からない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          「私を蹴落とすためだよ」

 

 

 

西住みほside

 

 

 

「私を蹴落とすためだよ」

「なんで!?」

「私の調査結果は、黒森峰の作戦立案に大きく影響しているよね?じゃあそこに欠点もしくは修正点が有れば、作戦を大きく変更もしくは別の作戦に変更する必要がある。もしもそれを自分達2軍メンバーが発見出来れば、あわよくば自分達がレギュラーに昇格出来る」

「それって!」

「唯の粗探しだね。でも、それだけ必死って事だよ。彼女達は皆3年生、3年間に戦車の試合に出場出来た回数は5回未満、戦車に乗る事すら、いくつもの申請が必要になってくる。そんな状況から抜け出すには、人の粗を探して、その功績で昇格する」

「でもそんな事、おね・・隊長が許可するはずないよ!」

「かもね。でも彼女達には、それが最もレギュラーに昇格出来る可能性が高いって事なんだよ」

「でも・・・」

「『チャンスを探すことすらしないヤツは真の弱者に成り下がる』」

「え?」

「ある人の言葉だよ。皆弱者より勝者になりたいからね」

 

 

 霧林さんのまとめた資料はお姉ちゃんも絶賛するものだった。その資料を私も見たけど、物凄く詳細にまとめられていた。この資料をまとめるだけでも、相当な時間を要した事は見ただけで解る。その資料の粗を捜すという事は、もう一度その資料を作成することと同じ意味をなしてくる。そんなの・・・間に合う筈がない。

 

「そう、間に合う筈がないよね。彼女達がしている事は無意味といってもいい」

「!!」

「顔に出てるよ。西住さんは考えてる事が顔にすぐに出るから分かりやすいよ」

「ごめん」

「そして、すぐに謝る」

「ご・・あっ・・・」

 

 こういう性格を直したいと思ってるけど・・・

 

 

「こんな風景はまだ一部だよ。他の2軍、3軍のメンバーだって、人の粗を探したり、自分のスキル向上に努めているよ。勝者になるために」

「・・・うん。黒森峰の内部でもメンバー同士の勝負・・・が、あるんだね」

「そう、だから「勝つ事が大切なの?」っている考え自体がおかしいの。西住さん、覚えてる?イジメの加害者の中に2軍、3軍のメンバーが含まれていた事に」

「覚えてる」

「どうして?って思わなかった?」

「え?」

「2軍ならまだ分かるけど、3軍のメンバーが含まれている事自体可笑しい事。だって、彼女達は昇格したとしても2軍だよ?西住さんを苛めるメリットがない」

「・・・」

「答えは簡単だよ。その態度、考え方が気に入らないの。自分達が死に物狂いで欲しているレギュラー枠に、それにそぐわない人間が入ったら、皆の気持ちは「憤怒」一色に染まるよ」

「そう・・・なんだ」

「うん。退部した人の中に中学の先輩が居てね・・・全部聞いたの。勿論西住さんだけでなく、他の1年生レギュラー陣にも嫉妬はしていたって。でも西住さんに対する感情は・・・そんな生易しいものじゃあなかったって」

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝つ事が確かに大切だけど、西住さんの言っている事も正しいと思う」

「え?」

「学校のため、10連覇という偉業のため、西住流のため、OB、OGのため、スポンサーのため、3年生達の3年間の努力のため・・・だって黒森峰が戦車道を継続するためにはこれらは必須だよ。でも、それって、赤の他人のためだよね?

 

 

 

 でも、みんな心の底では違う思いだと思う。そう

 

 

 

 

 『私が黒森峰を勝利に導きたい』って

 

 

 

 

 小学校、中学校で戦車道を受講したメンバーもいるよね。じゃあ勝った時、どう思ったかな?

 

隊長なら私の指揮で勝利出来た

 

砲手なら私の砲撃で勝利出来た・・・

 

 

そう、

「みんなで」じゃなくて

「私が」

「私が」黒森峰を勝利に導いた

 

 もしも皆がそんな気持ちになれば、黒森峰は負けない」

 

 

 

 私も昔は・・・昔はそうだった。戦車に乗る女性を見て、私もああなりたい、小学校の時、隊長として初めて試合に挑んで勝利した時、

 

  私が

 

 

 

  私が皆に勝利を与えた

 

 

 

「そうだね、私も忘れていた事だね」

「それを西住さんが、皆に教えてあげればいいんだよ」

「え?」

「今の黒森峰を変えたいなら、みほが動かなければ、だめ。そうじゃないと、何も変わらないよ」

 

 

 

 

 

 

 私が変わる・・・変われば周りも変わる

 

 

 この引っ込み思案の性格を

 

 

 このオドオドした態度を

 

 

 自分から・・・

 

 

 そうすれば・・・

 

 

 

 

 



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第17話「準決勝」

 

 

西住みほside

 

 

私が変わる・・・変われば周りも変わる この引っ込み思案の性格を

 

このオドオドした態度を 自分から・・・

 

そうすれば・・・ でも どうすれば

 

 

どうすれば変えられの?

 

 

 

誰か    教えてよ!!

 

 

 

 

 

『「教えてあげようか?」』

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

『「教えてあげようか?変わり方を」』

 

「どうして?」

『「私達が出来るのは、変われる方法を教えるだけ。それをするか、しないかは・・・あなた次第」』

「わたし・・・次第・・・」

『「どう?やってみる?」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺side

 

 みほの性格上行き成り態度を大きく変える事は難しい。だからまず変える箇所は、オドオドした性格からだ。堂々とした態度ははっきり言って無理、だから「笑う」。ただヘラヘラ笑うのではなく、何かアドバイスをした際、最後に「次やってみましょう」とやさしく微笑えんでやればいい。

 

 あとは日常生活でも出来るだけオドオドしないように伝えた。戦車道の時間だけではなく、日常生活でも変化を与える事で、戦車道隊員だけではなく、学園全体にみほの変化を見せつける。時間があれば日常生活は後回しでも良かったが、今は時間がない。準決勝は勝利する事は間違いないだろう。勝利し、みほが変わっている事に隊員達が気づけば、決勝戦には強固な信頼関係が構築出来る可能性がある。

 翌日からみほは俺達が伝えたアドバイスを実施した。準決勝の前日まで先輩達や同級生が話している内容を盗み聞きした結果、数十名の隊員が変化に気付いている感じだった。皆がみほを慕い、信頼出来るように部隊全体を誘導する。準決勝でもみほがメインで指揮をとるだろう。そうすれば自ずとみほの株は上昇する。みほに反感があった隊員も影を潜めるだろう。 

 

 息を潜める事しかできず、不満、不平を言う事が出来ない状況に追い込まれ、日々イライラが募り、自分と同じ考えだった人間が自分を裏切り、みほの基につく・・・そういう人間にはすでに目星を付けて、みほの悪い噂を俺と分からないように流している。

「西住副隊長は来年には黒森峰の隊長となる。そうなれば、自分に不満があるものは一掃するつもり」

「だから最近自分についてくる人間を厳選している」

「最近オドオドしなくなったのは、強力な後ろ立てが出来たから」

 

 などなど、絶対にみほが思う筈ない情報を流す。

 

 今の俺では副隊長としては逸見には勝てない。しかし逸見の次には優秀と自負している。みほが決勝戦の敗因となるのは分かっている。そうなればみほは黒森峰から追放、逸見が副隊長へ、そしてそのまま逸見が隊長になれば自ずと俺達が副隊長となる。

 しかし俺が介入した事で、もしかしたらみほが学園を辞めない可能性もあるため、保険として上記の内容を掛けておいた。これで原作通り決勝戦で敗北する事で、上記の者達が完全に息を吹き返し爆発するだろう。これで黒森峰には絶対に居られない。

 

 

 

 準決勝 聖グロ戦

 相手はアールグレイ率いる聖グロとなる。つい最近の練習試合で相手の戦力は粗方把握できているが、それはあくまで練習試合から算出したデータだ。現在までに戦力を強化している可能性は十分考えられる。それと俺の予想通りみほがフラッグ車に設定されている。俺がそれとなく隊長である西住まほに

「みほの状況は改善されましたが、未だ信頼はされていないかもしれません。何か皆の信頼を獲得出来る状況を探さないとダメですね。それこそフラッグ車でも任せるなんて・・・あ、でも今の黒森峰では難しい事ですよね。他に何か案を探してみます」

 

 どう?それとないだろ?まさか本当にみほをフラッグ車に任命するとは・・・

 

 

 

 そして作戦だが・・・

 

『撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心』

 

この言葉通りの動きを実行すれば勝てるのは問題ない。しかし今の練度では五分五分といったところだ。勿論俺は何もしない。いや違う、俺は何も出来ない。今の部隊の練度では、アールグレイに勝てる作戦の立案は不可能だ。また咄嗟の対応も俺では練度不足だ。

 

 

 

 

だから全てみほに任せる

 

 

 



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第18話「決勝前」

 俺side

準決勝でのみほの活躍は、まさに鬼神の如くと言ったところだった。よく練習で「戦車に通れない道はないんです」と言っていたが、まさか崖の上から敵本陣に突撃を実施するとは誰が思いつく。

 

 アールグレイは速効型の人間だ。各車両を迅速に作戦位置に配置させ、偵察から情報を基に配置の微調整を行う。そして相手がまだ準備が整っていないうちに攻撃を仕掛ける。しかしみほはそれを逆手に取った。準備が整っていないとアールグレイに思わせ、攻撃を仕掛ける瞬間、相手の攻撃部隊に崖の上から突撃した。これにより攻撃のタイミングを失っただけではなく情報も混乱してしまった。その隙に乗じて本隊が相手本陣に攻撃を開始した。情報、攻撃のタイミングを失ったアールグレイ率いる聖グロは敗北した。

 

 簡単と思うかもしれない。相手が俺達より格下であれば簡単かもしれない。しかし今回の相手はアールグレイという西住まほと同格の人物が相手だった。そんな相手にこちらの考えを悟らせず作戦を成功させるには、まさに天才・・・二度と戦車道が出来ないトラウマを植え付け黒森峰から出て行ってもらう必要があるな。

 

 

 

 

 

 

 みほside

 

今回霧林さんには本当に助けられた。当初黒森峰の作戦は相手の速効作戦に対し、正面から打って出るというものだった。でもその作戦には相手と同様のスピードが求められる。今の黒森峰には不可能な作戦だった。でもそれを作戦前のミーティングでどう皆に伝えればいいか分からなかった。でも霧林さんが「この作戦の成功率、そして損害率を皆に伝えればいいんじゃないかな?この2つが低値であり、仮に勝利出来たとして、決勝戦に大きな影響を与えるのであれば、その作戦は破綻していると」その2つを霧林さんに頼んで計算してもらい、尚且つ私の考えた作戦における成功率、損害率を計算してもらった。

   

 そして試合前に急遽作戦内容を変更したいと皆に申し出たが、流石に皆からの同意は得られなかった。しかし「幾ら準決勝で勝利したからと言って決勝に影響を及ぼすのなら、その作戦は破綻しています。何故なら我々の目的は準決勝ではなく、決勝戦で勝利することです。試合当日の作戦変更にはリスクが伴いますが、そのリスクを軽減させるのが物こそ我々と副隊長との信頼関係と考えます。どうでしょうか?みなさん」という霧林さんの言葉を皆真剣に考えてくれ、徐々に皆自分の意見を私に伝えてくれた。

 

「崖の上からの理由」

「下る際、どのように戦車を制御したらよいのか」

「相手本陣への攻撃のタイミングの合図は?」 などなど

 

 準決勝前の作戦会議は、時間ギリギリまで続いた。その結果準決勝ではアールグレイさん相手に損傷軽微という大勝利で終えた。この作戦を成功させる・・・いや実行から成功まで水樹さんの力がなければ成立しなかった。

 少し前お姉ちゃんと霧林さんについて話をした事がある。霧林さんは中等部でもそれなりの評価を受けていた。でも黒森峰の中等部で「それなり」の評価を受けている人は沢山いる。だからお姉ちゃんは不思議に思っている。何故「それなり」だった人が急にあそこまで力を付けたのか?実力を隠していた?その理由は?それよりお姉ちゃんが疑問に思っている所が「たまにだが、口調が変わる」

 確かに私を自分の部屋に入れてくれた時も、口調がいつもと違う・・・違う?いや別人の様な雰囲気だった。その事もお姉ちゃんに伝えた所「多重人格」ではないか?でもそれなら中等部、いや初等部からその傾向は有るはず・・・でも霧林さんを知る人からは、そんな口調が変わる、という話は聞かない。何かのジンクスなのか、あの口調や雰囲気が本来の霧林さんなんだろうか?また謎が増えてしまった。

 それとあの人は隊長というよりも参謀、隊長の補佐をする副隊長格の人間だな。とお姉ちゃんは言っていた。今回の件から私もその通りだと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし物語はあらぬ方向へ進んでいく。運命の決勝戦は

 

 

 

 

 

 『勝者・・・黒森峰女学院!』

 

 本来の流れとは異なる黒森峰の勝利

 

『霧林さんは悪くないよ!!あれは!』『私は悪くない!!あれは!!』

『本当にワザとじゃないんだな?もしもワザとであれば●●●●』

『原因究明の結果●●●●でした』

『すまなかった。霧林は●●●●じゃあなかったんだな。あれは●●●●だ』

『私のせいで●●●●!!』

 

『何故ここに!!貴方が!!』

『二度と●●●●』

『そんな話信じられません』

『ではこれを・・・貴方の好きにしてください。文字通り焼くなり、煮るなり』

『!!!』

『これはケジメです』

 

 

 

 

 

 次回第19話「決勝戦」



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第19話「決勝後 疑惑の砲弾」

 

決勝戦は生憎の雨となってしまった。直前での天気予報でも時間経過と共にさらに大雨となると予想されていた。序盤、双方相手の動きを見ながら車両を指定の場所に配置していった。プラウダは今年から新たな戦法を取り入れており、『俺』曰く二重包囲と一旦後退し相手を引きずり込んで逆撃する戦法との事だ。勿論『俺』との協議でこの戦法への対応をみほにそれとなく伝え、今回の作戦にも反映している。

 

 

 そして中盤、こちらが相手の車両運用速度に遅れをとった瞬間をプラウダは見逃さず部隊中央に突撃した。この突撃によりこちらの部隊を分断してしまった。原因は2つあり、1つはやはり部隊の熟練度によるもの。もう1つは雨による足場だ。大雨でぬかるんだ地面への場数はプラウダが圧倒的に多い。相手は雪国高であり、雪解け時には練習地はぬかるんでいる。黒森峰でもぬかるんだ地面での練習は実施しているが、やはりプラウダには遠く及ばない。

分断され、フラッグ車を逃がす役割である殿を私の車両が勤めた。殿として7両を足止めし、最後の1両は手ごわく近接戦までもつれ込んだが何とか撃破することに成功した。フラッグ車と逸れてしまったが、殿の結果は4両撃破、3両を走行不能であった。これで優勝出来れば、私の車両は優勝に大きく貢献したとなり、何かしら優遇されるだろう。

 

 雨の中フラッグ車と合流するため、私の車両は森の中を走行していた。戦闘開始より雨脚は強くなってきているが、何とか他の車両と無線が繋がり、フラッグ車の位置、作戦内容を把握出来た。作戦内容は森を進撃している隊長の部隊と、川沿いを進撃しているみほの部隊で相手部隊を挟撃するとのことだ。森を進撃している隊長の方は問題ないとのこと。しかし川沿いを進撃しているみほの部隊は3両で、道幅も狭いため敵と遭遇した場合撃破される可能性が高いため、反対側から偵察を依頼された。もしも敵が居た場合は、すぐさま撃破せよとのことだ。

 

 数分後森を抜け、みほの部隊が進撃している道の反対側に出た。スコープでみほの部隊を確認したが、進行している道は殆ど余裕のない極めて細道だった。横は反転しにくい崖、もう片方は川であり、おまけに1㎞先に敵車両2両を確認した。みほにその事を報告し、すぐさま反転しようとしたが、うまくいかない。このままではフラッグ車が撃破される可能性が非常に高い。車長である楓先輩から攻撃指示が出た。しかし敵はこちらと同じ程度の防御力を有している戦車である。たった2発で2両撃破出来る可能性は極めて低い。戦闘車両を撃破出来たとしても横の崖を通って2両目がフラッグ車に向かうだろう。そうなれば・・・

 

 解決策は1つのみ。敵車両2両を2発以内に倒す事だ。敵車両の前方の道を砲撃し、相手の進行を阻止する方法も考えたが、砲撃される可能性があるため却下。いつまでも考えている暇はない、一発相手の戦車に当てて、気をこちらに向けさせ、時間稼ぎをするしかない。

 

そして私は敵先頭車両に向けて砲撃を実施した。

 

 

 

 結果は

 

 

 

 『プラウダ高、フラッグ車戦闘不能   黒森峰女学院の勝利!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優勝から一夜明けた昼過ぎ、私は西住まほ隊長に呼び出された。用件は分かっている。私が放った1発の砲弾の事だ。

 

 

「昨晩は良く眠れたか?」

「いえ」

「・・・霧林ナナ、君が昨日搭乗していた車両を調べさせてもらった」

「はい」

「整備士の結論としては、砲身、照準に『異常なし』との事だ」

「はい」

「その話を前提に、昨日のあの砲撃について、もう一度聞かせてくれないか?」

「分かりました」

 

 

 

 楓先輩から攻撃指示が出た直後に、2発でどのように相手車両を撃破若しくは足止めを行うか悩んだが、答えが出ないまま相手車両に1発砲撃を行った。その砲弾は相手車両に確かに命中した。しかし命中箇所が相手装甲の端であったため、兆弾し、砲弾は崖へと命中してしまった。何時もなら特に問題ない、または崖が崩れて相手車両の進路妨害が可能となるだろう。しかし今日は大雨であり、崖に大量の雨が染み込み、崖全体的が崩れやすくなっていた。そこに砲弾が当たれば・・・

 

 砲撃を受けた車両は攻撃を受けた方向を確認するため一旦停止し、我々の車両を確認後砲撃を行った。しかし相手の車両が砲撃を行った数秒後、目の前に大きな石が落ちてきた。私もスコープで相手を見ていたから分かる。あと数mずれていれば、先頭車両は走行不能になり、これから起きる大きな崖崩れに巻き込まれていただろう。

 落石を確認した車長は周りを確認し、崖崩れの予兆を感じ取り、進撃をやめ、後退を指示した。そしてその直後、先ほどまで敵車両が停止していた場所が崩れ落ち始めた。敵車両は後退しているがその速度は遅く、後退から数秒後には車長の指示だろうか、戦車2両の乗員は戦車を乗り捨て、その場から走って避難した。

 私はその光景を確認し、直ぐに連盟へ連絡する事を提案した。勿論この提案に楓先輩は同意し、無線で連盟に連絡したが、雨と雷雲の影響で連絡出来なかった。この時の『人』としての対応は、近くの連盟事務所に向かうが正解である。しかし我々にはフラッグ車の護衛という『黒森峰』としての対応が優先となる。勿論私達は『黒森峰』としての対応を優先した。そして相手フラッグ車を補足し、残りの車両で応戦、これを撃破した。我々は前代未聞の10連覇を達成した。無論私の砲撃の話は早急に隊長へと報告を行っている。

 

 そして優勝旗授与後に行われた優勝祝賀会の途中に戦車道連盟から連絡が入った。内容はあの崖崩れの件についてだ。普通なら特に問われない事例だが、決勝戦・フラッグ車の危機・10連覇という特殊な状況であったため、優勝旗授与後『あの崖崩れは人為的に発生したのでは?』という審議が発生した。そして返答次第では、再度決勝戦を実施する、またはプラウダ高の優勝とする。という話になった。1つめについては、再戦という意味で納得できるが、2つ目のプラウダが優勝になる理由については、もしも人為的に崖崩れを生じさせたなら、それは人命を無視した、戦車道というスポーツへの冒涜行為である。また敵乗員の生命危機を知りながら、救助を行わなかったという理由だった。そして、祝賀会は中断され、私の砲撃についての調査及び私の車両の無線履歴の調査が開始された。

 

 

 結果は先の話どおり、私の車両の照準、砲身に異常はなかった。

 

「それではあの崖崩れは偶然と言うことだな」

「もしも崖崩れを人為的に生じさせるのであれば、もっと簡易的に実施できます。それこそ、敵車両前方に連続砲撃を行えばいいわけですか」

「そういう事を言っているのではない。本当にワザとじゃないんだな?もしもワザとであれば、私はお前を・・・」

「許しませんか?それとも・・・殺しますか?」

「!!」

「信じて・・・くれないのですか?私を・・・隊長は・・・」

「霧林・・・」

「あの砲撃は誓ってワザとではありません」

「分かった。すまなかった。家元には霧林の行為はワザとではない。あれは偶然だったっと報告しておく」

「分かりました」

 

 

 

 

 しかし、そんな事で事が収まるハズがなった。

 

 






 偶に主人公の名前を前作の主人公の名前と間違えます。


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第20話「選択肢 BADEND」

「あの砲撃は誓ってワザとではありません」

 

「分かった。すまなかった。家元には霧林の行為はワザとではない。あれは偶然だったっと報告しておく」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんな事で事が収まるハズがなった。

 

 

 

それから私を取り巻く環境は一変した。まずクラスメイトからは避けられ、教師陣からも避けられる。戦車道においても同様だ。私の居場所はなく、指示されるのは練習が終わるまでのランニングだ。戦車にも乗れず、誰かも相手にされない・・・それが1ヶ月続いた。しかしその間、一切嫌がらせ等のイジメまでには発展しなかった。生徒や教師からはその程度であったが、代わりにOB、OGからの連日嫌がらせを受けた。授業中、練習中、休日関係なしに呼び出され、ひたすら嫌味を何時間も立たされた状態で聞かされた。

 

 

 私が何をした?

 

 

 私が何をした?

 

 

 私が・・・何を・・した?

 

 

 

 

 『何もしていない』

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

『ナナ?何をしている?

 

 何故今休んでいる?

 

 何故普通に授業を受けている?

 

 何故普通に練習している?

 

 何故今の環境を変えようとしない?

 

 何故自分の行為を偶然と証明しない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故お前はそこまで無知なんだ?』

 

 

 

 

 

「そこまで言う!!」

『無知を無知と言って何が悪い?』

「じゃあ教えてよ!!今の状況を打開する案を!!」

『分からないか?』

「分かるわけないじゃない!誰とも話せない!!練習もランニングだけ!!OG、OBの対応も誰もしてくれない!!助けてよ!!」

『諦めるか?』

「え?」

『もういいじゃないか・・・ナナは頑張ったよ・・・あと数日で今回の大会の再考が終わる。恐らく結果は黒森峰の優勝は取り消しになるだろうな。そうなれば今より状況は悪化する。それこそイジメ・・・いや・・追放されるだろう』

「い・・いや!!なんで!!」

『黒森峰のイメージを損ない、尚且つ10連勝という偉業を台無しにした『犯罪者』にはそれ相応の報いは当たり前だろ?』

「そ・・そんな」

『西住みほのイジメがあっただろ?あの程度で済むはずがない。あれ以上のイジメがナナに襲い掛かるだろう。それこそ全校を挙げて・・・な』

「・・・」

『な?戦車道なんてこんなもんだ。優勝、10連勝・・・それを誰かが止めたら、原因を作った人間を「犯罪者」扱いする。それがこの黒森峰の闇だ。どうだ?戦車道の名門黒森峰の闇を知った気分は?』

「最悪」

『そうだろ?そして今からその最悪の状況がナナを襲う事になる。まぁレイプされないように気をつけような』

「や・・・めて」

『そういえば教師陣にもナナは人気だぞ?あとは街の男性からも「やめて!!」・・・』

「もう嫌!!戦車道なんてやめる!!明日にでも黒森峰から転校する!!」

『本当に?』

 

①戦車道を諦める

②打開策を講じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

①戦車道を諦める

 

 

 

 

             もう戦車道なんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              どうでもいい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             

 

 

 

 

 

 

               『そうか・・・

  

 

 

 

 

 

 

 

                本当に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ありがとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                絶望してくれて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 その瞬間私の目の前に白い空間が広がった。

 

 

 ??何処ここ?

 

 

 私の対面には人の形をした黒いものがいる。

 

 誰?

 

『俺だよ。ナナ』

「俺?」

『そうだ。こうして対面するのは初めてだな。ここは言わば精神世界と言うものだ』

「どうして私がここに?」

『約束しただろ?だから貰いにきた」

「・・・約束?」

『そうだ。ナナ・・お前・・・戦車道に絶望しただろ?初めに約束したじゃないか?【もしも今後お前が選んだ道で「絶望」するようなことがあれば、『罰ゲーム』受けてもらうからな】って、だからお前には罰ゲームを受けてもらう』

「待って!!」

『ナナ俺は聞いたぞ?『本当か?』と。そしてナナは「もう戦車道なんてどうでもいい」と。だから俺との約束である罰ゲームを受けてもらう。異論は認めないよ」

 

 『俺』との会話が終わり、目の前の黒い人型の物が段々白くなってきた。見る見るうちに黒いものが白に変わり、その姿が・・・

 

 

 

 私?

 

 

 

『そう、俺との罰ゲームの内容は、【『俺』とナナの意識を入れ替える】だ。今までメインはナナで俺がサブだった。それを俺をメインとする。言っただろ?ここは精神世界だと。今まで白い世界、メインの世界に居たナナと黒い世界、サブの世界に居た俺を入れ替えるんだ。俺が段々白くなり、ナナが段々黒くなる』

 

 『俺』の言葉を聞いた瞬間自分の姿を見る。先ほどまで白かった私の体が、真っ黒に変化していた。

 

『お願い!!さっきの言葉を取り消して!!』

「悪いな。その願いは聞き入れない」

『お願い!!まだ・・・わた・・・・な・・に・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            さよならナナ

 

 

 

 

 

 

            あとは俺に任せて

 

 

 

 

            

 

 

 

            ゆっくり

 

 

 

 

 

 

            休んでくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年後

 

 

 

「プラウダ高!フラッグ車戦闘不能!!黒森峰の勝利!!」

「優勝は黒森峰女学院!!」

 

 俺の放った砲弾はフラッグ車に見事命中し動きを止めた。これで11連勝だな。

 

 翌日の朝刊の内容は

 

 

 『黒森峰!!脅威の11連覇!!』

 

 『黒森峰にスキなし!!』

 

 俺は部室でコーヒーを飲みながら朝刊の内容に目を通す。去年はあれだけ目の仇のように叩いた我々を手のひらを返し褒め称える。これだからマスメディアは・・・

 

 

 ナナと入れ替わった俺が取り組んだ事は、【疑惑の砲弾】が偶然である事の証明だった。これにより黒森峰の優勝を確実とし、尚且つ俺の名誉挽回となる。そうする事で自然と俺の環境は改善される。

 

 疑惑の砲弾については西住しほへ「ある物」と引き換えに証明してもらった。まぁ半分脅迫ともいえる行為であったが、そんな事を気にしている暇はない。そして砲弾の証明後、それを戦車道連盟へ西住流家元及び日本戦車道連盟の強化委員である蝶野亜美の両名の名で報告し、それが正式に受理された。そのことにより俺の疑いは正式に晴れた。

 

 

 

 

 その後俺はレギュラーメンバーへ復帰、西住まほがドイツへ留学したことで、みほが隊長へ、俺が副隊長へ就任した。また隊長の事務仕事を副隊長である俺が引き受ける代わりに、副隊長代理として逸見エリカを俺の下に配属した。そして黒森峰は怒涛の快進撃で1年後に11連勝を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね?ナナ」

「ん?何エリカ?」

「今更聞くことじゃない事だと思うんだけど、あなた昔と印象が違うと思うの?何かあったの?」

「何もないよ?ただ」

「ただ?」

「約束を守ってもらっただけだよ」

「どういう意味?」

「意味なんてないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は私、

 

 

 

 

 私は俺、

 

 

 

 

 

 俺は霧林ナナ

 

 

 

 それ以上でもそれ以下でもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第21話「選択肢 改善の選択肢」

「あの砲撃は誓ってワザとではありません」

 

 

 

「分かった。すまなかった。家元には霧林の行為はワザとではない。あれは偶然だったっと報告しておく」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんな事で事が収まるハズがなった。

 

 

 

 

 

 

 

それから私を取り巻く環境は一変した。まずクラスメイトからは避けられ、教師陣からも避けられる。戦車道においても同様だ。私の居場所はなく、指示されるのは練習が終わるまでのランニングだ。戦車にも乗れず、誰かも相手にされない・・・それが1ヶ月続いた。しかしその間、一切嫌がらせ等のイジメまでには発展しなかった。生徒や教師からはその程度であったが、代わりにOB、OGからの連日嫌がらせを受けた。授業中、練習中、休日関係なしに呼び出され、ひたすら嫌味を何時間も立たされた状態で聞かされた。

 

 

 

 

 

 私が何をした?

 

 

 

 

 

 私が何をした?

 

 

 

 

 

 私が・・・何を・・した?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『何もしていない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナナ?何をしている?

 

 

 

 何故今休んでいる?

 

 

 

 何故普通に授業を受けている?

 

 

 

 何故普通に練習している?

 

 

 

 何故今の環境を変えようとしない?

 

 

 

 何故自分の行為を偶然と証明しない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故お前はそこまで無知なんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで言う!!」

 

『無知を無知と言って何が悪い?』

 

「じゃあ教えてよ!!今の状況を打開する案を!!」

 

『分からないか?』

 

「分かるわけないじゃない!誰とも話せない!!練習もランニングだけ!!OG、OBの対応も誰もしてくれない!!助けてよ!!」

 

『諦めるか?』

 

「え?」

 

『もういいじゃないか・・・ナナは頑張ったよ・・・あと数日で今回の大会の再考が終わる。恐らく結果は黒森峰の優勝は取り消しになるだろうな。そうなれば今より状況は悪化する。それこそイジメ・・・いや・・追放されるだろう』

 

「い・・いや!!なんで!!」

 

『黒森峰のイメージを損ない、尚且つ10連勝という偉業を台無しにした『犯罪者』にはそれ相応の報いは当たり前だろ?』

 

「そ・・そんな」

 

『西住みほのイジメがあっただろ?あの程度で済むはずがない。あれ以上のイジメがナナに襲い掛かるだろう。それこそ全校を挙げて・・・な』

 

「・・・」

 

『な?戦車道なんてこんなもんだ。優勝、10連勝・・・それを誰かが止めたら、原因を作った人間を「犯罪者」扱いする。それがこの黒森峰の闇だ。どうだ?戦車道の名門黒森峰の闇を知った気分は?』

 

「最悪」

 

『そうだろ?そして今からその最悪の状況がナナを襲う事になる。まぁレイプされないように気をつけような』

 

「や・・・めて」

 

『そういえば教師陣にもナナは人気だぞ?あとは街の男性からも「やめて!!」・・・』

 

「もう嫌!!戦車道なんてやめる!!明日にでも黒森峰から転校する!!」

 

『本当に?』

 

 

 

①戦車道を諦める

 

②打開策を講じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②打開策を講じる

 

 

 

 何を弱気になっているの!!こんな事黒森峰に入ってレギュラーになると決めた時に覚悟は決めていたはず・・・この程度の状況に耐えられない覚悟なんて覚悟に入らない。『俺』は言った。

 

 

 何故今の環境を変えようとしない?

 

 何故自分の行為を偶然と証明しない?

 

 

 そう・・・『俺』はこの状況を打破出来る方法を知っている。と言う事は、私もその方法の全容は知らないが、一部は知っているという事になる。思い出さないといけない。『俺』が教えてくれた事、『俺』が今後の使えると言って記録した事を。

 

 

『そろそろ結論は出たか?』

「うん。私は諦めない」

『今の状況を打破する方法を思いつかない限り、ナナには明日は無いぞ?』

「あるよ、たった一つの方法が」

『聞こうか』

 

「方法は簡単。西住流西住しほに、今回の砲撃について検証してもらえばいい。プラウダ高に対象の戦車と同型戦車の貸し出しを要請、黒森峰からは私が搭乗していた車両を貸し出す。そして自衛隊から日本戦車道連盟の強化委員である蝶野亜美を召集し、当時の状況をある程度再現した状態で砲撃してもらう。勿論車両のある場所に砲弾を当て、兆弾した砲弾がある角度で崖に当たるようにね。勿論一発勝負」

『しかし西住流がそう簡単に協力すると思うか?』

「違うよね?協力じゃなくて強制だよね」

『ほう~強制的にね。その材料は?』

「過去家元に『俺』が質問しろと言った時、私は意味が分からなかった。その質問が「撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 ・・・勝利至上主義であり、いかなる犠牲を払ってても勝利する・・・それが西住流。いかなる犠牲とは?土砂崩れや雪崩で流されてしまった場合は?増水した河川に落ちた場合は?燃料系から燃料が漏れ火災が発生した場合は(車両にダメージが入り、ハッチがあかない場合等も込み)?例え車内はカーボンで守られているとは言え、限界があります。しかし全てをカーボンに任せ、我々はそれらの車両の乗員を見捨て勝利する必要があるのですね?そして仲間の命を犠牲にして手に入れた勝利を手に、我々は大手を振って歩いてもよろしいですね。西住流は最強である。仲間?我々の仲間は我々の勝利を邪魔しない者が仲間である。今回亡くなった者は我々の勝利を邪魔した者であり、仲間ではありませんと。堂々とインタビューで答えてもよろしいでしょうか?」だった。そして家元の回答は、「愚問ですね。西住流は勝つ事が全てです。如何なる犠牲を払ってでも」もしもこの時期にこの音声データが『何らかの手違い』で流出してしまった場合、攻撃対象は私から西住まほ、みほ、そして家元に移る。そして西住流の名は地に落ち、スポンサー達はすぐさま撤退してしまう。どう?」

『・・・』

「どうしたの?」

『ナナ・・成長したな。今までの俺の言動から今の状況を打破する唯一の方法を模索した。勿論他にはあると思うが、成功率はこの方法が一番高いと俺も思っている。そして何より驚いたのは、現状のナナのメンタルでそこまで考察出来る事だ。通常このメンタルであればマイナス思考が多くなり、考えがまとまらない。纏まったとしても辻褄の合わない落第点の方法になる。だから俺は素直にナナが凄いと思うぞ』

「・・・ありがとう」

『俺はまだまだ先においておけ。大きな問題点を解決する必要があるからな』

「問題点?」

『どうやって家元に伝えるか・・・最も簡単なのは以前のように西住隊長から伝えてもらう方法だ。何故なら時間がないからだ。直談判等時間がかかりすぎる。手っ取り早く「これをTV局に持っていきます」といえばいい』

「それは脅迫じゃない?」

『選択肢だろ?検証してくれなきゃ一緒に地獄に落ちましょ♪といえばいい。相手も身から出た錆だ。なんせ高校生に『勝たなくては意味がない』と堂々と言い放っているんだからな』

「じゃあ決行はいつ?」

『今のナナなら分かるだろ』

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           「『今から逝きましょう』」

 





 感想コメントありがとうございます。

 亀更新ですが、これからもよろしくお願いします。


 因みにBADENDが今後数回あると思いますが、筆者の趣味の内容になります。
 


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第22話「終結」

 

『選択肢だろ?検証してくれなきゃ一緒に地獄に落ちましょ♪といえばいい。相手も身から出た錆だ。なんせ高校生に『勝たなくては意味がない』と堂々と言い放っているんだからな』

 

「じゃあ決行はいつ?」

 

『今のナナなら分かるだろ』

 

「そうだね」

 

 

 

 

「『今から逝きましょう』」

 

 

私は隊長である西住まほに連絡を取った。そして西住まほの口から出た言葉は

「これは脅迫と取ってもいいのか?」

「いいえ、これはお願いです」

「言わなかったか?あれは偶然であった、と。勿論家元にも報告している。・・・霧林はそれを信用しないのか?」

「はい、覚えています。しかし隊長は何か対応したのでしょうか?」

「何?」

「未だOB、OGの訪問は継続しています。もしも対応しているのであれば、何故継続しているのでしょうか?」

「それに関しては家元から厳しく言ってもらっている。今週末には周知されるはずだ」

「戦車道連盟の黒森峰への対応はどうでしょうか?」

「それに関しては・・・」

「・・・」

「私の発射した砲弾、疑惑の砲弾が解決されない限り、黒森峰の優勝は撤回されるはずです。そうなれば世論は挙って黒森峰を叩きに来ます。そうなれば今回の件から黒森峰は人の命を平気で無視し、勝利のみを目指す学園である。そして連鎖的に西住流も同様もしくはそれ以上の非道な流派である報道され、世間に認識される可能性があります」

「確かにその可能性は否定できないな。ただえさい黒森峰には敵が多い」

「マスコミが殺到し、戦車道受講者が標的にされるでしょう。勿論一番の標的は、私もしくは西住流後継者の隊長の可能性もあります」

「・・・」

「今回私が行った行為は、黒森峰の勝利のためには正しい行動と思っています。しかし一般論からすると正しい行為とは言えないかもしれません。あの状況で敵戦車に砲撃する事で、相手の隊員に危険が及ぶ可能性は十分ありました。しかしそれは、危険が及ぶ可能性がある状況でも試合続行を決定した戦車道連盟にも非があります。また崖崩れ発生後、通信状態の回復を期待し、作戦と同時進行で連盟への通信を継続した事についても同様です。一般論であれば連盟の待機所に向かうのがベストな判断と思いますが、勝利のため、あの時点で持ち場を放棄するという選択肢はありませんでした。まぁ通信状態を正常に維持出来なかった責任は戦車道連盟にあると思いますが」

「その危険管理の甘さ、通信状態の維持を怠った責任を追及しろと?」

「追及する必要はありません。疑惑の砲弾についての黒森峰側の見解、今回の件を基に通信の改善、危機管理意識の改善要望、これらのみを世論に報告するだけでいいと思います」

「世論を味方にするという事か?」

「その通りです。ある意味大人の対応という事です。必要な事を報告し、不要な事は伝えない」

「しかし砲弾に関して確認する時間が少なすぎる。あと2日で確認する事は不可能だ」

「いいえ隊長、現実的に可能にする方法はあります。シミュレーターの使用です。シミュレーターに当時の状況を入力し、実際に発生した事例が発生する確率を計算する。それを報告するだけです」

「しかしシミュレーターの依頼を何処に依頼する?」

「日本戦車道連盟の強化委員である蝶野亜美に話を持ちかけ、自衛隊で実施してもらうのがベストでしょう」

「そう簡単に承諾してくれるだろうか・・・」

「黒森峰の栄光ではなく、一人の戦車乗りの汚名を隊長自らが返上するというシナリオであれば、十分協力してくれる方かと思います」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし気になる事がある」

「何でしょうか?」

「この方法を『誰』と考えたんだ?」

「どういう事でしょうか?」

「霧林・・・君の過去を色々調べさせてもらった。特に小・中学校の担任に話を聞いた。しかし返答は良しも悪くも「平凡」だった。だが今の状況を見ていると「平凡」という言葉が当てはまらない。人間は急激には変化しない。そうなれば協力者が居るという結論になる」

 

 流石と言わざる得ない。私には確かに協力者は居る、『俺』の事だ。でも『俺』は人じゃない、ならば

 

「確かに私は平凡です。でも何とか平凡から一流になりたいと思いました。平凡のまま黒森峰にギリギリ入学出来てもレギュラーには遠く及ばず万年補欠であるのは目に見えていました。ならばどうする?と考えた結果、過去の戦車道のデータを蓄積し、そのデータから試合の戦略、戦術を予測し対応しようと考えました。結果は隊長の知る通りです。

 人間は急に変化する事はできません。しかし生き方、考え方を変化させる事で、平凡から二流に変化する事は出来ます。結果周囲から急激に変化したと誤認させてしまいましたが・・・」

 

「そうか、しかしそれでも分からない事がある」

「?」

「君の口調についてだ。みほから聞いたのだが、口調が男口調になる時があるようだが・・・それについてはどうなんだ?」

「そ・・それは」

「普段からは想像も出来ない荒い口調だったと聞いている。それらを合わせて考えると、多重人格の可能性もある。その場合病院で検査も必要になるだろう」

「そんな訳ありません。口調については、スイッチみたいなものです」

「スイッチ?自分を変化させるための?」

「そうです。副隊長の件では如何に主犯格や協力者への制裁について検討する必要があったので、そうした意味でも」

「なるほど、理にかなっているいい訳だな」

「・・・」

「今回の件は私から依頼しておく。霧林、結果が出るまでは何とか出来るか?」

「問題ありません」

「分かった。後は任せろ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして自衛隊から戦車道連盟に『疑惑の砲弾』について正式な報告が実施され、発生率は5%、偶然であると報告された。また詳しい調査を行わず身勝手な言い分で混乱させたと言う事で、戦車道連盟のお偉いさんの何人かが処罰される事になった。

 

 正式に黒森峰が優勝となり、中断された祝賀会が再度行われる事になった。祝賀会が開始される前、戦車道受講者全員から私は謝罪され、この件は一見落着となった。

 

 

 



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第23話「みほ知っているかい?俺は・・・」

 

今回の件、俺にとっては想定外の出来事だった。本来は西住みほが決勝戦でミスを犯し、糾弾され大洗に転校する流れのはず・・・しかし西住みほではなく俺にその流れが生じた。それは何故か・・・既に2日間それについて考察している。大きな要因の一つとして「霧林ナナ」とうい存在だ。この存在がこの世界に大きな影響を及ぼしているのであれば、必ずまた同じ事が発生する可能性がある。

 

 しかしそこでひとつの疑問が浮かび上がる。俺を排除し、元の原作の世界に戻すのであれば、西住みほはいつ大洗へ転校するのか?もしも全国大会の一回戦、サンダースとの試合までに俺を排除し、みほを大洗に転校させなければ大洗はみほ抜きでサンダースと試合を行い勝利しなければ廃校になってしまう。来年の全国大会までには確かに時間はあるが、早々俺を排除する理由もなければ、みほを吊るし上げるネタもない。

 

 

しかし俺の予想は想定外の出来事により、大きく裏切られる事になる。

 

 

 

 

 それは全国大会が終了し、優勝後の浮かれた空気も落ち着いてきた頃だった。西住まほ隊長より来週から西住みほ副隊長中心の指揮系統に移行する事が通達された。理由は西住まほのドイツ留学が来年度の7月と決定した為だ。そのため来年度の全国大会はみほが指揮することとなる。ならば今の内からみほ中心の指揮系統を構築する事で、チームワークを強固にすることが狙いとの事。当然と言えば当然の策であり、特に反対意見もなく、練習前のミーティングは終了した。

 

 

 

 しかしみほ中心の指揮系統に移行し、しばらくして問題が生じた。

 

 

 合わない。

 

 

 みほの指揮が部隊、隊員に合わない・・・という訳ではない。寧ろ当初はみほの指揮は賞賛されていた。ならば何が合わないのか

 

 

 みほが提示する作戦は、西住流に合わないのだ。

 「撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流」

 この言葉通り、黒森峰は西住流だ。しかしみほの作戦内容は西住流から逸脱する内容が多い。最初は皆「多少」の違いに戸惑っていたが、時間が経てばみほの作戦が西住流に似て非なる内容と気付いた。そうなってしまっては不満、不安は伝染する。

 

「西住流と違う!」「副隊長は大丈夫なのか?」などの声が隊員から聞こえてくる。勿論現3年生からもそういった意見が出ているのは間違いない。しかし過去に副隊長を糾弾した者がどのような末路を送ったかを皆知っている。そのため大きな声で副隊長に意見する人間はいない。

 

 だかそんな状態のみほに更に追い討ちをかける出来事が生じた。

「副隊長が自分に都合のいい人材を厳選している」

「来年は副隊長の独裁」

「強力な後ろ盾を使って、西住流に反逆する」

 

 このような意味のわからない噂が広まったのだ。何故か?

 

 過去に、みほに反感を持ちながらも状況的に息を潜めるしかなかった反みほ派が、今の状況を見逃さず復活、ここぞとばかりに噂を流したのだ。通常ならそんな噂等ヒト蹴りされるが、不満、不安が蔓延る今の黒森峰には効果は絶大であった。そして噂という伝染病が感染した黒森峰は再度崩壊の危機を迎えようとしていた。

 

 隊員達の空気が刻々と変化する様子は実に滑稽だった。

 

 

 皆が言っているから・・・

 

 あの先輩から聞いた話なんだけど・・・

 

 実際に副隊長から聞いた・・・

 

 

 話の本質を見抜けず真に受け、さらに周りを汚染していく。。一度ならず二度までも同じ事を繰り返す・・・だが、彼女達の言っていることも間違っていない。黒森峰に西住流と異なる事を実施した場合、どのような弊害が生じるかなど考えるまでもなく分かる事だ。

 

 

 しかしみほは実行した。

 

 誰にも報告せず、連絡せず、相談せず (報・連・相)

 

 

 

 

 

 

 俺はナナと相談し、まほ隊長に相談する事にした。直接みほに伝えてもいいのだが、みほと同じ轍を踏むのは如何なものかと思い、ホウレンソウを行った。

 

 

「やはりそうなったか・・・」

 まほに話があると言い、放課後相談に来た俺は、粗方のことをまほに伝えた。そして最初の一声がこの言葉だった。

『やはりそうなった・・・その言葉が意味するところを隊長は予期していた・・と?』

「みほには才能がある。だがその才能を開花させるには西住流は邪魔でしかない」

『西住流以外であれば副隊長は、隊長を超えると?』

「ああ」

『なら、解決策は転校ということでしょうか?』

「そうなるかもしれん」

『家元はご存知で?』

「ああ・・・」

『近々西住流を破門にでも?』

「いや、そこまでの処分は検討していない。西住流の名は私が継ぐから、みほには自由に戦車道を『そこまでです』え?」

『それ以上先は私は聞く権利はありません。私は一介の学生です。西住流内部の事情までもらしてはいけません』

「そうだな。現在の予定では、みほは副隊長を一時的に解任される。理由はみほ自身の気持ちを整理させるためだ。以降はみほの気持ち次第という事だ」

『了解しました』

「臨時副隊長には逸見エリカが就任する。そして参謀には霧林ナナ・・・君が就任する」

『・・・』

「以上だ」

『失礼しました』

 

 

 

 俺の蒔いた小さな花(嘘)は

 

 ゆっくり時間をかけ育ち、種(噂)となった

 

 風が吹いた事で(状況の変化)、種(噂)は広範囲に蒔かれた

 

 そして様々な土地(人々の心)で育ち,花(嘘)は育つ

 

 それを繰り返す

 

 

 

 

 

 

 とある先輩の言葉を借りるなら

 

 

 『こんな格言を知ってる?』

 

 

 『ヒトは小さな嘘より、大きな嘘の犠牲になりやすい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『俺は味方ではない』

 

 

 

 



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第24話「代理副隊長、参謀」

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。今年中に完結できるように頑張ります


 

 翌日、副隊長代理が逸見エリカ、そして参謀に私こと霧林ナナが就任した事を隊長である西住まほから皆に知らされた。また現副隊長である西住みほは副隊長はそのままで一時的な(期間不明)転校が伝えられた。今回の人事は3年生、2年生の意見も取り入れての決定であったため、反対意見もなく練習前のミーティングは終了した。

 

 

「ねぇ俺?」

『なんだ?』

「西住隊長の考えている事・・・私なりに考察してみたんだけど、聞いてくれない?」

『面白くない考察であれば、途中でやめさせるぞ?』

「西住隊長がまず副隊長代理に逸見さんを任命した理由は恐らく単純な事だと思う。今の2年生の半分は過去粛清によって2軍から上がってきた人達。残りの2年生もそこまで飛びぬけて目立つ人はいない。そうなれば1年生から選抜する必要がある。候補は現在車長をしており、尚且つ西住流を理解、実行出来る人になる」

『そうなると、逸見以外に居ないと?』

「そう」

『概ね正解だろう。まぁ現2年生は平均的な黒森峰のレベルではあるが、突出している人間は無し。1年生も3人程候補が居たと思うが、その中でも逸見は別格だろうな』

「逸見さんはテストでも上位だし、車長に関しても現3年生達も認めているレベル」

『そういう事だ。それで隊長達が俺達を参謀という新しい役職に就かせた理由は?』

「それは・・・私の予想なんだけど、何かを変化させる為に参謀に任命したと思う。でも何を変化させたらいいのかは分からない」

『何を期待されているかは、過去俺達が実施した事で粗方予想はつく。十中八九俺達は『NOマン』を求められている。但し全てにNOと言う訳ではない。その場合、副隊長代理である逸見と対立してしまう可能性がある。対立し、俺達だけ敵視されるのは問題ないレベルだが、逸見派、霧林派なんて派閥が出来た日には、目も当てられない。だから逸見を否定しながら、立てる必要がある。わかるか?』

「うん。それって難しい事だと思う。それが出来ると思われた私達は西住隊長から認められたという事だよね?それってすごい事だよね?」

『そうだな。認められたと同時にこいつならどんな窮地に立っても大丈夫と思われたという事だ。と言う事は、先に言ったように俺達が戦車道受講者全員から敵視される立場に陥ってもなんとかするだろうと思われているという事でもある』

「え?」

『要するに、参謀という役職が成功したら黒森峰の総合的なUPになる。失敗しても切り捨てるので総合力は変化しない。というわけだ』

「成功しないと・・・」

『成功以外に道はない』

「キツイね」

『まぁな。それでナナの考察はそれで終わりか?』

「そうだけど、他にもあるの?」

『いや、変化を求められているのであれば、どうやって変化させるんだ?その対策というか方法が提示されていない』

「そ・・それは」

『わからないか?』

「うん」

『一週間くれてやる。その間に今の黒森峰を見て何を変化させるのか、それとも変化など必要ないのかを考えろ』

「わかった」

『やけに素直に俺の言う事を聞くんだな』

「そこに何かヒントになるものがある。若しくは私が成長するために必要なものがあるのであれば、例え下級生の言葉でさえ、私にとっては重要なヒントになる」

『なるほど、じゃあ約束の日まで』

「うん。しっかり見極めてみせる」

 

 

 

 やはり私には無理なのかもしれない。『俺』との話し合いから3日、私は何の情報も得られずにいた。黒森峰の何を変化させるべきなのか・・・陣形?戦術?戦略?初日は過去の情報を基に何を変化させるべきか考察してみたが、これといった成果は得られなかった。2日目は現在の黒森峰を観察するため、一人一人を良く観察してみたが、特に変わりもなく、隊長及び副隊長代理の指示を聞き、実行していた。そして3日目、資料室の資料を整理しているときに思い出した。

 

「なんだ、凄く簡単だけど、最も難しい事じゃない・・・」

 

 どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろう・・・

 

 凪先輩が過去に提示した黒森峰の欠点を克服する。そのために新たな練習方法を取り入れる。勿論他の受講者から不満が出ないように。もしくは不満を如何に沈静させるか。そしてその練習から黒森峰の総合戦力UPが可能かを考察する。そしてその練習内容は、

 

 

 

 「紅白戦」

 

 

 過去に黒森峰が経験していない事は 『敗北する事だ』。敗北する事で学べる事もある。それこそ勝利する事で得られる事よりもより重要な事だ。それが今の黒森峰にない『考える』事だ。2日目に思った事だが、皆『隊長の命令を聞く』以外何もしていない。勝利した時には命令を充実に実行できた自分達は凄いと思うが、敗北した時は命令を下した隊長が悪いとなる。伝統的に隊長からの命令系統が一本しかない黒森峰の長所でもあり、短所でもある。

 

上記2点を改善するには、紅白戦しかない。

 

 逸見副隊長代理率いる正規軍VS参謀率いる賊軍

 

 逸見副隊長代理は参謀に勝つために作戦を考える。参謀である私は正規軍に敗北を与えるために作戦を考える。その過程で何故勝てないのか?何がいいのか?を副隊長以外の人間にも考えさせる。こうする事で総合戦力がUPするはず。勿論この案に対して反対意見も出てくるだろうが、それは過去に行った凪先輩の模擬戦の結果を持ちだせばいい。

 

 あとは私のメンタルが何処まで耐えられるか・・・

 

 そしてみほは戻ってくるのか・・・問題はそこだけ・・・



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第25話「造るには相当な時間が必要。破壊するのは一瞬」

「紅白戦?」

「はい」

 私は逸見副隊長代理と今後の事について話合っている。

 

「それを実施したとして、どんな成果が得られるの?」

「考える力です」

「考える力?」

「まず隊員達の動きを見ていて思いました。言われた通り動いていると」

「いいんじゃないの?」

「その通りです。しかしそれではダメです。命令されたから動く、一見正しい行為であり、優秀と思いますが、それが黒森峰の弱点であり、闇でもあるです」

「詳しく話して」

「命令通り忠実に動くという事は、その命令内容に関わらず動くという事です。例えば逸見副隊長代理がA号車前進をB号車前進と間違えました。当然B号車は何も考えずに前進します。その結果試合に敗北します。では敗因はなんでしょうか?勿論命令を下した逸見副隊長代理となります。しかしもしもA/B号車が作戦内容・状況を理解し、そこでB号車ではなくA号車が前進であると指摘できれば、敗北せずに済むでしょう。無論隊員達がそこまで何も考えずに動く、というのは比喩になりますが、やはりそのような傾向が見られることは確かです」

「・・・」

「勿論これにはリスクも伴います。余りにもミスが多い場合、逸見副隊長代理は無能である、と認識され反逸見などと言う勢力が出来上がり、結果部隊が内部から壊滅します」

「それと紅白戦がどう繋がるの?」

「紅白戦において「逸見副隊長代理率いる正規軍VS参謀率いる賊軍」に分けます。副隊長代理チームは今まで通り西住流、黒森峰の流れで戦います。そして私率いる参謀チームは各高の作戦を軸とします。例えば聖グロであれば浸透強襲戦術、プラウダであれば、包囲戦法(釣り野伏せ)を使用し戦います」

「それは唯の練習試合形式なだけじゃないの?」

「いいえ、逸見副隊長代理、それは違います。考えても見てください。私率いる賊軍は皆黒森峰の隊員です。練習試合で相手をする他校の人間とは似ても似つかりません。そしてそれを率いるのは私です。過去の黒森峰、西住流のデータから弱点を全てまとめ、現時点までの作戦立案に携わる私です。そんな賊軍が逸見副隊長代理率いる正規軍と戦うのですよ?勿論逸見副隊長代理の率いる正規軍と同じ車両を使用します」

「試合での違いは作戦のみ・・・と言うことね」

「その通りです」

「確かにリスクはある、でも得られる成果はその何倍も大きいわね」

「はい。それと黒森峰の闇についても緩和可能です」

「続けて」

「現在まで我々は10連勝という偉業を達成しています。しかし過去のデータをまとめて分かった事は、先ほども言いましたが『全て隊長の指示通り動いている』。敗因も『指示をした隊長』である。これは相当危険な考えです。どうしてか分かりますか?」

「どうしてかしら?」

「敗因を考えない」

「敗因を考えない、何故負けたかわからない?そう言いたいの?」

「その通りです」

「待って。何時も試合終了後にミーティングをしているじゃない」

「あれは意味がありません。隊長が喋っているだけですから」

「どうすればいいの?」

「全ての隊員に何が悪いかを考えさせます。そして全員、戦車道受講者全員が意見をします」

「それって凄く時間がいるんじゃないの?」

「はい。一日・・・程度ですね」

「それって意味があるの?」

「意味はありますよ。色々な意見が聞けます」

「2軍、3軍の子達が1軍に意見が言えると思う?結局無意味よ」

「逸見副隊長代理、そのための賊軍ですよ」

「賊軍は2軍、3軍の子達って事?」

「その通りです」

「霧林参謀」

「はい」

「自分のやろうとしていることが、黒森峰にとってどれだけ危険な事かわかっていますか?下手をしたらチームが崩壊してしまい、来年度の全国大会すらも危うくなります」

「いいんじゃないですか・・・そんな程度で崩れるチームワークなんて道端の犬のフン程度の価値もありませんよ」

「あなた!!」

「まぁ落ち着いてください。そんな程度で壊れるなら早めに壊しておいたほうがいいですよ。勿論取り返しが付かなくなったら私に責任を擦り付けてください。そうすれば私が戦犯になりますから」

「彼方の真意がわからないわ」

「数回やってみましょう。そうすれば何か分かるかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 逸見side

今回私がみほの代役として副隊長代理に収まり、今回から新たに参謀という役職も加わった。隊長に参謀について質問した時「エリカ、説明するよりもいずれわかる」というある意味隊長らしい言葉をもらい困惑した。そして今言葉の意味が分かった。彼女、霧林参謀の考えている事は「一度黒森峰を壊す」という事だ。

 

 以前西林先輩達が実行しようとした事の続きなのか、それとも彼女の独断なのだろうか。いずれにせよ紅白戦の事は家元や隊長の了承は取っており、明日には他の隊員達に通達されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そして週に1回の紅白戦が始まった



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第26話「認める事は勇気がいる」

 

「皆さんお疲れ様です。どうでしたか?本日から開始した紅白戦は?正規軍側、賊軍側も色々意見があると思います。今すぐは頭が整理できていないと思いますので、明日またこの場で意見を交わしましょう。そういう訳で本日のミーティングはなし」

 第一回目の紅白戦は、賊軍側の勝利となった。一番驚いているのは恐らく賊軍側の2軍、3軍の生徒達だろう。何せ自分達が目標としていた1軍が、あっけなく敗退したのだから。

 

 

 

 

 翌日

 昨日しなかったミーティングを開始した。最初あまり意見はなかったが、時間が経つにつれ紅白戦についての発言が増加傾向を示し始めた。

正規軍からは

「こんな紅白戦は意味がない」

「紅白戦の意味は?」

「もっとちゃんとした練習がした」等といった意見が大半を占めていた。

賊軍からは

「何故勝てたのか、よく分からない」

「本当は・・・黒森峰は・・・」と言った内容だった。

 

 

 

 いい傾向だ。実は彼女達の反応は私と『俺』の予想通りの反応だった。そして2度、3度紅白戦を行い、彼女達は段々意見がいえなくなった。そして

「はい。皆さん今日はおまちかねの紅白戦で。今日は何時もと違った紅白戦をします。正規軍と賊軍を入れ替えます。今まで賊軍の3連勝ですが、今日は正規軍が勝利できる事を期待しています」

 しかし入れ替え後においても正規軍は勝利する事が出来なかった。そして恒例のミーティングを行うが意見は勿論一切出ない。そして黒森峰の雰囲気は一掃悪くなった。通常の練習においても、指示の聞き間違いや状況把握間違いが目立ち始めた。そしてエリカからも紅白戦を中止するように要請された。

 

「ナナ、あなたの目論見通り今の黒森峰はかなり最悪な状態になっているわ。でも今のままじゃ今後予定している練習試合までにチームが仕上がらない」

『エリカ?』

「何?」

『お前・・・この紅白戦の意味を理解しているか?』

「え?」

『お前は何だ?』

「私は副隊長代理よ」

『そうだな。そして実質隊長だ。その隊長は今何をしている?参謀が立てた目論見すら見抜けないで、呆けいるのか?』

「なっ!!なんでって!!」

『なら教えてくれないか?何故正規軍と賊軍に別れ紅白戦を行うのか。そして立場を入れ替えているのかを。是非副隊長代理の意見が聞きたい所存だです』

「・・・くっ!!」

『な?回答できない。何故か?簡単だ、エリカ君もこの紅白戦の「意味」を理解していない』

「意味なら分かっているわ」

『西住流を黒森峰側と相手高側から見た時の意見を取り入れて我々の修正点を確認する。相手高の作戦の脅威を確認する。が目的ではないぞ?』

「え?」

『確かに表面上の目的は今話した内容で間違いない。「表面上」はな」

「じゃあ裏の目的があるという事?」

『当たり前じゃないですか』

「なら、どうしてそんな遠回りを?皆にちゃんと説明したら」

『エリカ?遠回りに何故行うのかをちゃんと考察しろ。ちゃんと話したら?書面で?口頭で?それを行うことで理解できるのか?体得できるのか?』

「出来ないから・・・受け入れられないから・・・遠回りな方法を選択した・・・」

『正解』

「じゃあ裏の目的は・・・基準?」

『ほう』

「私達は黒森峰、西住流が基準だった。ナナはそこに他校の伝統を体験させ基準を増やした」

『正解。以前の私達は西住流、黒森峰だけが絶対的な基準だった。その基準が1つから2つに変わるのには大きな意味がある。その意味は自分達の長所と短所を知れる事だ。戦車道に限らずどれほどの技術を習得していても、これでもういいと思ってしまえば

その状態を維持することもむずかしい。常に上を向いて努力をつづけていなければ、上のレベルに移行する事はできない。道を極めるという事は、そういう事だと私は思っている。紅白戦をする前、彼女達は上を目指していなかった。目指す必要がなかった。それは自分達がトップ、つまり一番だと驕っていたからだ。そんな連中に書面や口頭で伝えて何になる?表面上は従うが、身に付くことはない。ただの時間の無駄遣いだ。だから体験させた。一番と思っていた自分達を2軍、3軍が叩きのめした。一回はまぐれと認識しても2回、3回と続けばまぐれ、偶然ではなく本当に負けたと認識する。そして賊軍で自分達が信じていた西住流が如何に弱いものか知る事が出来る。彼女達は今悩んで、悲しみにくれているわけでもない。認めることが出来きずに幼児みたいに駄々を捏ねているだけだ』

「・・・それを彼女達が気付くのは・・・」

『いつだろうな?明日か・・・明後日か・・・1年後か2年後か』

「そんな悠長に待っていいの?」

『自分達で答えを探す事も大事なことだが、ヒントを与え気付かせることも必要だと思う。何せ彼女達は問題の意味を理解していない可能性が高いからな』

 

 エリカは暫く考え「わかったわ」と言って部屋を出ていった。そして数日後から少しずつだが、黒森峰の空気が改善傾向を示し始めた。恐らくエリカが行った策の効果が出始めたのだろう、紅白戦後のミーティングでもしっかりした意見が出始め、練習後に何を調べている子達も目立ち始めた。これで黒森峰は一段階上に行く事が出来る。



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第27話「地獄には天使はいない」

 

 エリカは暫く考え「わかったわ」と言って部屋を出ていった。そして数日後から少しずつだが、黒森峰の空気が改善傾向を示し始めた。恐らくエリカが行った策の効果が出始めたのだろう、紅白戦後のミーティングでもしっかりした意見が出始め、練習後に何を調べている子達も目立ち始めた。これで黒森峰は一段階上に行く事が出来る。

 

 そして段階に突入する。それは今年の全国大会までに今のシステムを定着される事だ。1年目の全国大会で「疑惑の砲弾」事件があったが、無事解決し私は進級した。進級した直後にみほの事件が生じ、結果逸見エリカが副隊長代理となった。副隊長代理とあるが、事実上の副隊長である。そして西住まほは7月から留学予定であったが、9月に延長するように要請し、それが正式に受理された。流石に当初の予定通りに留学されてしまうと、戦車道に多大な影響が生じる。

 

 来年度を見越して現在西住まほによる逸見エリカの教育が開始されている。勿論この教育は私にも施され、平行してまほからエリカへの引継ぎ作業も任されている。書類関連がメインであるため、必要なところを抜き取りエリカに申し送りを行う。しかしこの書類の量は一人では裁ききれる量ではなく、応援を要請しようにも皆練習でダウンしている。よって実戦練習後に書類整理をする地獄の日々を過ごしている。

 

 そして激務をこなしているうちに今年度の戦車道の抽選会日がやってきた。今年度は例年とは異なり、隊長・副隊長ではなく、私こと参謀が抽選会に来ている。理由はエリカの教育がもう少しで終了するから、である。勿論私の教育も終了していないため、抽選会終了後、即効で黒森峰へ帰還し訓練及び書類整理を行う必要がある。そのため抽選会当日は時間ギリギリまでホテルで就寝し、抽選をし終えた後速やかに帰還することとなった。我々黒森峰の対戦高は知波単学園となり、その結果を見届けた後速やかに会場を後にした。

 

 一回戦がプラウダ高校や聖グロリアーナ女学院といった強豪高でなかった事に安堵した。2回戦も継続高校と青師団高校の勝者との試合になるが、結果を恐らく継続高校となるだろう。そうなると準々決勝まで時間があり、その間にこちらは準備を整えておけばいいだけだ。だた

 

「霧林、少し引き継ぎ作業が遅れている。少しペースを上げるぞ?いいな?」

 現隊長である西住まほから、素晴らしいお言葉を頂戴した私は

「あ・・・はぃ」

 という、なんとも間抜けな返事をするのが精一杯であった。最近携帯とかのしゅっぷに居る人型ロボットの方が、まだマシな返答をするだろう。

 

 

 

 

 

 そして地獄という教育期間中に第63回戦車道大会が開始された。

 



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第28話「順調な時ほど油断せず」

 

一回戦の相手は知波単学園となった。この高校は基本的に全車両による突撃戦法が伝統となっており、その理由としては過去その方法でベスト6か4まで進んだからとの事だ。確かに伝統に拘るのはいい、現に多くの高校は何かしらの伝統を受け継いで今もそれを実施している。当然黒森峰にも伝統と言うものはある。しかしその伝統が足かせになっている場合も多い。まぁその話は今は置いておこう

 

 

 

 

 

 

 1回戦 試合開始2時間後

 

「8号車、9号車は、そのまま待機」

「よろしいので?」

「勿論。何せここに居れば自ずと相手がやってきますからね」

 

 今まさにエリカ達が知波単学園を包囲したところだろう。彼女達は追い詰められたと思い、最後に「突撃で散ろう」といいだす。そして隊長はそれに同調し突撃を指示する。勿論我々はそんな事には付き合わない。砲弾、燃料、駆動系へのダメージ、それらを考えると、ここを抜けてきたフラッグ車のみを走行不能にするのが一番楽でいい。無論、「抜けてきた」ではなく、「誘導されてきた」が正解である。そして

 

「8号車、9号車・・・撃て」

 

 

       「知波単学園フラッグ車走行不能、黒森峰女学院の勝利」

 

 

  知ってた

 

 

 

 

 

 

 2回戦は継続高校となった。あそこの隊長は変幻自在と言うか、気まぐれと言うか、作戦に拘りがなく、良く言えば作戦が読めない、悪く言えば行き当たりばったりと言う幹事だ。だが幾つかの資料と照らし合わせたところ、完璧ではないが黒森峰の西住流に匹敵する「島田流」に告示している点が幾つか見受けられる。勿論模倣という点も考えられたが、やはり「模倣」ではなく「本物」の動きをしている場面もあった。よってこの継続高校の隊長は、過去島田流を学んでいるということになる。

 

 

 

2回戦 継続高校

「今回準々決勝のため、車両は相手と同数としています。また相手の車両は色々な車種が混在しています。その事を頭に叩き込んでください。特にBT-42は要注意です。足回りが多少損傷してもクリスティーサスペンションであれば、戦闘は続行できます。黒森峰の恥を晒さないように!!

 

 

 

     それではPanzer vor!!」

 

 

 試合が進むにつれて我々は継続高校の車両を撃破していく。普通は車両が撃破されていくにつれて、焦り、不安が見えてくるが、継続にはそれらがみられない。それどころか各車両の動きが目に見えて良くなってきている。

 

「相手の動きに惑わされないように。紅白戦を思い出しなさい。相手は我々の車両よりも防御は低いです。確実に砲弾を当てなさい」

 

 

やはり相手の隊長は島田流を学んでいる。圧倒的火力と一糸乱れぬ統制で敵を殲滅する西住流に対し、臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使する戦法を島田流は得意とする。

 

そして継続高校の残車両は隊長車両のみとなった。こちらの砲弾が足回りに命中した。勿論油断せず追撃を行い、完全に息のを止める。

 

 

「継続高校フラッグ車、戦闘不能。黒森峰の勝利」

此方の被害は2両、予想の範囲内に収まって安心した。次はおそらく聖グロリアーナ女学院になるだろ。あそこの隊長は・・・苦手なんだよな。「俺」に任せたいけど、代わってくれるだろうか




無理だ。仕事忙しい( 。゚Д゚。)


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第29話「しかし油断も時として必要」

 

 

「継続高校フラッグ車、戦闘不能。黒森峰の勝利」

 

此方の被害は2両、予想の範囲内に収まって安心した。次はおそらく聖グロリアーナ女学院になるだろ。あそこの隊長は・・・苦手なんだよな。「俺」に任せたいけど、代わってくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

『聖グロってのは、チャーチル歩兵戦車、クルセイダー巡航戦車、マチルダ歩兵戦車を主力としての強固な装甲を活かした浸透戦術を得意としているだろ?どういう理由でこの3種類の戦車による運用になったかは不明だが、どう考えても機動力、攻撃力、防御力が不足している。黒森峰ではなく他高であれば通用するが、クルセイダーの機動力以外、全てこちらが勝っている』

「それはわかっているけど・・・」

『なら、負ける理由を教えてくれないか?』

「負ける理由以前の問題で、率直に言うならあっちの隊長が苦手。なんていうか・・・よく分からないけど」

『・・・まぁそこまで苦手であれば、試合に影響する可能性を考慮して俺に代わる方が懸命だな』

「あれ?優しい?」

『もしもこれで負けた時、俺にも責任があるからな。まぁ先の言葉通り、負ける理由が見つからないけどな』

「でも隊長のダージリンさんは、その不利な状況でも自分達より格上の・・・プラウダにも練習試合で勝利してるよ。油断はするなっていつも『俺』が言っているよ」

『あぁ、確かに今の俺は油断しているかもしれない。でもな、ここいらで一度危険な目にあったほうがいい場合もある』

「どういう意味?」

『今の黒森峰は先の副隊長の事件で大幅に人員を変更した。1回戦、2回戦と特に問題なく勝利している。そこが落とし穴だ。変更時に新しく配属された隊員は浮ついているだろう。余裕が出てきている。それが3回戦に影響することは大いにありえる』

「気を引き締めると言う意味?」

『表面上の意味ではそういう意味になる』

「今回も裏の意味合いもあるという事」

『まぁ今回は表面上の意味合いの方が重要になる。まぁ裏の意味合いを説明すると、

聖グロの主な決定権はOB、OGにある。彼等の決定した事が覆ることはそうそうない。例えば聖グロが大敗を期したとしても彼等は何かと理由をつける。作戦が甘い、錬度が足りていない等。そういのが今後続く可能性は大いに考えられる。しかし中には異議を唱えるものもいる。

例えば、『今の機動、攻撃・防御力では黒森峰には勝てない。それどころか黒森峰、プラウダ、サンダース以外の高校にも苦戦する』や『そろそろ別の戦車の採用を認めてわ?』などだ。後者を唱える者はいないかもしれないが、前者なら昨年の隊長であるアールグレイが発言する可能性がある。ならば、このような事にならないように、此方が一芝居うてばいい。まるで苦戦しているかのうように5~8両撃破されればいい。勿論決勝用の車両ではなく予備の車両でだ。激戦の末、ギリギリ勝利する事が出来たと世間に見せ付ける事で来年、再来年の聖グロの戦力増強は不可能になる。なにせあの西住が率いる黒森峰に大きな損害を与えたという実績があるのだから』

「・・・」

『どうした?』

「今後の事も考えての、今回の作戦・・・」

『いや、あくまでも牽制程度の事だ。聖グロの浸透戦術はある意味完成している。これをワザワザ強化させる必要はない。彼女達には停滞してもらう』

「・・・」

『相手は喜ぶだろう。自分達が尊敬するダージリン様が誰も成し得なかった黒森峰に大きな傷を与えた事を。自分達の戦略・戦術が黒森峰を追い込んだ事を』

「でもこちらは全て想定範囲内の出来事。彼女達の糠喜びを遠目でみていればいい」

『そういう事だ。そしてダージリンは近くない将来、自分の過ちに気付き、後悔する。そして二度と聖グロが他の戦車を使用することはない』

「相手の嫌がることを平然とやってのける。今まで誰もそんな事を考える・・・いえ、考える事があっても実行しようとした人はいない」

『ならば、俺達がその初めてになろうじゃないか。楽しいぞ~。お前の苦手なダージリンの悲しそうな顔を見るのは』

「そうね。悔しい顔を見れば、少しは苦手意識を克服できるかもしれないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 時々俺の思考に同調してしまう・・・でも悪い気はしない



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