戦術人形と指揮官と (佐賀茂)
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01 -ノーホワイト・ノーワーク-

どこかのグリフィン支部には、経歴不明で片足を失った謎の指揮官が最近着任したらしい。


 俺は激怒した。必ずかの傍若無人なるファッキンクソヒゲ野郎に天誅を下さねばならぬと決意した。俺には会社という組織は分からない。俺は元軍人だ。銃を撃ち、部隊を率いて暮らしてきた。けれども労働環境に対しては、人一倍に敏感であった。

 いや本当に何してやがるんだあのヒゲは。もし環境と状況が許すのであれば、すぐにでもアイツを呼び出して正座させた上で左手でヒゲを掴み右手で思いっきりぶん殴ってやりたい。すまんカリーナ、お前は俺が救ってやる。だから今しばらく耐えてくれ。なんだかんだこれは業務上必要なことなんだ。

 

 

 

 あの日、俺の人生は変わった。

 割と自由気ままにそれなりの軍人人生を謳歌していた俺は、やんごとなき事情により今は左足を失い、車椅子に乗って新たな仕事に精を出している。

 その仕事というのは、民間軍事会社グリフィン&クルーガー社での指揮官である。第三次大戦頃から実用化され始めた自律人形。その中でも火器統制コアを埋め込まれ、その手に銃器を持たされ特定の役割、即ち戦争に特化した存在、戦術人形を率いて戦場を闊歩するクレイジーな職務だ。実際のところ自分自身が戦場に降り立つ機会は、先だって起きた事件で失われてしまったんだが。

 

 紆余曲折あってG&K社の数ある支部の一つに配属となった俺であったが、正直仕事自体は軍属時代に行っていたこととそこまで変わりは無かった。部下の面倒を見たり、教育したり、指示された通りに作戦を遂行したり、作戦報告書を纏めたり、消費した物資や配給の管理、仕入れ等々。時には作戦概要から練ることもあった。自身の手で直接教育を行えなくなったのは痛手だが、座学ならまだまだイケる。大きく変わったのは俺自身が戦場に降り立たなくなったことと、部下のほとんどが人間じゃなくなったくらいのことで、まぁそれなりに順応して行ったわけだ。就任してからというものの、非常に優秀な部下たちの活躍もあって、俺の評判評価がうなぎ登りに上がっていくのにそう時間はかからなかった。

 ちなみに、現在のG&Kの主な仕事は世界各地に散らばっている、暴走した鉄血人形の捜索、殲滅だ。あの事件が起きた日から、何故かは分からんが全世界に現存している鉄血製の人形全てのAIに致命的なエラーが発生、人類にその矛を向けるようになった。I.O.P社と並んで戦術人形のトップシェアを長きに渡って二分してきた、押しも押されもせぬ大企業である。製造されていたすべての人形となると、その総数は途方途轍もない。

 とんでもない爆弾を放置したまま闇に沈んでしまった鉄血工造には文句の一つも言いたくなるが、無くなってしまったものはもう仕方が無い。そうして粛々と任務を遂行していた時に、それは起こった。

 

 優秀な部署には、その力に見合った仕事が回される。それは何時の時代でも同じだ。それなりに仕事をこなしていただけなのに、何故か「優秀」の烙印を押された俺が所属している支部には、それはもう大量の作戦指令が降りてきた。ていうか、それらを難なく消化してしまう方にも問題はあるんだろうな。あいつら普段はポンコツなのに、いざ作戦開始となったら俺でも肝が冷えるレベルで瞬殺してくるから怖い。何がお前たちをそこまで駆り立てるんだ、俺にはさっぱり理解できん。

 で、多量の作戦をこなしていくと、当然それに見合った量の作戦報告書を提出しなければならない。これは軍人の時も同じだったな、実際にどんな人員で、どれくらいの期間と費用をかけ、どのような経緯があったのかは資料として纏めなきゃならない。だから、別にそれ自体に文句を言うつもりはない。やって当たり前のことだからだ。問題は、その手法にあった。

 

「し、指揮官さまあ……先週までの作戦報告書、仕上がりましたぁ……ぅぇっ……」

 

 短い電子音が鳴り響き、司令室の正面ゲートが開かれる。いい加減見慣れた光景に目を細めれば、そこにはいかにも疲労困憊といった姿の後方幕僚、カリーナが多量の報告書を脇に抱え、おぼつかない足取りでこちらに向けて歩いてきているところが見えた。おい、頼むからここで吐いてくれるなよ、ちゃんとトイレに行け。

 

 ご苦労さん、と一言労って、受け取った報告書に目を通す。カリーナの実務能力自体は大したものだ。彼女は後方幕僚という肩書きどおり、直接戦闘に関与しないほぼ全ての部分でその責務を背負っている。作戦報告書の作成も、本来は指揮官である俺の仕事のはずなんだが、しっかりと俺に見劣りしないレベルで書き上げてきている。

 

 そう、()()()()()()()()()()()

 なんとこの作戦報告書、驚くことなかれ。カリーナの手書きである。いやいやお前、今のご時世手書きて。最初は俺もおったまげたが、何とこの支部、司令室以外の環境がろくに整っていない。戦場を見渡すドローンコンソールやスクリーンでさえもメチャクチャ旧式だから、建物だけを取り急ぎ整えただけって感じがぷんぷんする。実働部隊である戦術人形たちが寝泊りする宿舎も、お世辞にもいい環境とは言えない。はっきり言えば野宿よりはマシレベルである。

 ただ、そこに関しては不満もあるだろうが、直ちに問題となるレベルでもない。良くも悪くも彼女たちは戦術人形であり、人間ではない。言ってしまえば商品の一つである。感情として納得しにくい部分もあるにはあるが、兵器をシルクのベッドに寝かせるか、と問われれば回答が難しい。AR小隊と訓練していた時の宿舎はもう少しマシだったが、それは人間の俺、しかも裏から無理やりそれなりの立場の人間を引っ張ってきた関係もあったんだろう。本来の扱いで言えばこの程度が妥当、と言われても強くは言えない背景がある。

 

 だが、カリーナは違う。彼女はこのG&Kに雇われている人間である。ただ納品して終わりの商品ではなく、労働者と使用者という対等な契約関係が成立している。それがこの仕打ちである。許されるわけが無かった。

 この作戦報告書、量にもよるが、一から書き上げるのに大体10時間くらいかかる。うちの支部は仕事が多いから余計だ。その間カリーナは休むことなくペンを走らせ、栄養剤片手に夜を通して頑張ってくれている。そうやって苦労して書き上げた作戦報告書を提出すれど、また翌日になれば未処理の作戦終了報告がわんさか上がっている。そんな負のループの繰り返しであった。こいつよく辞めないな、何かクルーガーに弱みでも握られてるんじゃなかろうかと最初は疑ったくらいだ。

 

 

 と、言うようなブラック企業も真っ青な内情のグリフィン支部だが、そろそろ仕掛け時か。俺は勝手に書き上げたカリーナの休暇申請書に指揮官印を押し、彼女に押し付けた。

 

「……は? え? えっ指揮官さま……? これは……?」

 

 突然書類を渡されたカリーナの顔は困惑そのものだ。お前もしかして働けなくなるみたいな考えしてるんじゃないだろうな。社畜一直線じゃねーか。少なくとも俺が面倒を見る立場になった以上、こんな地獄を見て見ぬ振りなんぞ出来るわけがなかろうが。とりあえず、というところで3日程度しか工面出来なかったが、ゆっくり休んどけ。後は俺が何とかする。後方支援もバックヤード業務も現役時代に腐るほどやってきたんだ、書類見れば大体分かる。

 

「……いいんですか? いいんですね? ……うわあああぁぁぁぁ……指揮官ざばあああ……!」

 

 うわびっくりした。いきなり泣き出すんじゃない。しかしまあ、彼女もそれくらい鬱憤が溜まっていたということだろう。さぁて、覚悟しとけよファッキンクソヒゲ野郎。俺の部下を泣かせた罪は重いぞ。

 

 嗚咽を漏らしながら涙を拭いているカリーナを下がらせ、正面ゲートがしっかりと閉まったのを確認した後。俺は通信用デッキを立ち上げ、コールする。程なくして出てきたのはあのヒゲ野郎ではなく、銀髪が眩しい、目付きの鋭い女性だった。

 

 

「こちらヘリアントス。珍しいな、そちらからの通信とは。何か問題でも起きたか?」

 

 チッ、ヘリアンか。というかすまし顔でよく言ったもんだな、こちとら問題しかないんですが。いや、いきなり喧嘩腰はよくないな、自分から交渉のテーブルを不利に傾ける必要は無い。とりあえずといった感じで挨拶を済ませ、クルーガーの所在をそれとなく聞き出すことを試みる。

 

「クルーガーさんは今日一日、所用で出掛けている。火急の用件なら私が聞くが」

 

 うーむ、不在か。出来れば直で交渉したかったんだが、致し方なし。俺が指揮官になる経緯まで知っているクルーガーなら話も早かったんだが、ヘリアントスは俺の正しい経歴を知らない。つまり、あくまで新任の元傭兵指揮官として接せねばならず、ちょいとやりづらい。

 ま、とは言ってもクルーガーとヘリアントスで別に大きな違いはない。裏技的なカードが切れなくなるくらいで、こっちはきっちり弾数用意してるんだ。まぁ先ずは正攻法で攻めてみるか。ということで、こちらの初手は素直な意見具申だ。カリーナの労働環境を至急整えて頂きたい旨を告げる。当然悲惨な現状も含めてだ。

 

「ふむ……事情は分かるが、すぐにというのは難しいな。グリフィンの支部は貴官が所属しているここだけではない。他との兼ね合いや予算の都合もあるだろう」

 

 当然、こうなる。ここでハイ分かりましたと折れてくれるくらいなら、ここまで酷くはなっていない。というか、事情が分かるとのたまうくらいならその重要性も分かっているはずだ。ここでカリーナに抜けられるリスクを計算出来ないほどこの女も馬鹿じゃない。恐らく、他の支部からも嘆願は上がってきているのだろう。だが、それらを一斉に処理するには少しばかりキャッシュが足りないと見た。しかも、今工面出来る予算で先んじて何処かの環境が整ってしまえば、それに乗っかって更なる不満が噴出する可能性が高い。いやーその苦労、分かるぞ。そういう意味ではヘリアンとはいい酒が飲めそうだとすら思う。

 しかしだ、今は俺の首じゃない、部下の生活がかかってるんだ。俺も引き下がれないんだなこれが。ということで、第一のカード、「カリーナの退職申請が挙がっている」を切る。当たり前だがブラフだ。

 

「む……今彼女に抜けられるのは非常に痛いな……。……貴官がどうにか説得出来ないだろうか。そう遠くないうちに必ず環境は改善してみせよう、私も今の状況が芳しくないことくらいは理解している」

 

 うーむ、まだ弱いな。期限を区切らない口約束なんざ1ミリも信用が置けない。まぁ、自分から言っておいてなんだが、ここまでのトークはいわばお膳立てだ。いきなり本命をぶつけたのでは違和感極まりない。勿論この段階で向こうが折れてくれれば万々歳だったのだが、やはりそう上手くは行かないらしい。というか、別に対外向けでもないんだし、わざわざ順序通りカードを並べていくのも面倒くさくなってきたな。もういいや、俺の評判がどうなろうが関係無いわけだし。

 

 あぁーそっすかーじゃあ仕方ないっすねー、かと言って身体的にも精神的にも限界の彼女をこれ以上馬車馬の如く働かせるのも上司としてどうかと思いますんで、環境が改善されるまでウチの部隊は今後如何なる作戦指示にも従いませーん。劣悪な環境で働き続けろって俺から言うのもおかしい話ですしー、俺は別に無理難題を言ってるわけでもないと思いますのでー。それじゃ、他の支部に仕事回してあげてくださいねー。

 

「んなっ!? ま、待て! そんなことが軽々に許されるとでも思っているのか!?」

 

 必殺カード「ストライキ宣言」。相手は困る。

 

 勿論、許されるなんて毛ほども思っちゃ居ない。普通なら何言ってんだこいつ、で終わる話だ。この世界、そんなに就職先が溢れてるわけでもないしな、折角衣食住の揃った職場を誰もが失いたくないわけだから、基本使用者側が強い。

 だが、現状グリフィンにおいて、俺と俺の部隊は紛うことなき「エース」なのである。これがただのペーペー新任指揮官が言っていたのでは歯牙にも掛けられないだろうが、この辺一帯をカバーしている支部の辣腕指揮官が機能停止するのは上層部なら絶対に避けたいところだろう。

 更に、ヘリアントスは知らないだろうが、俺にはこの必殺カードに付随する最強の駒「AR小隊」が存在している。新しい職場に移ってからそれなりに調べたがあの4人、この支部どころかグリフィン全体が保有する戦力の中でもブッチギリの錬度と戦果を持っている。俺の機能が停止するということは、即ちAR小隊が停止するのと同義だ。俺の過去と関係を知っているクルーガーならより一層ブッ刺さるカードだから、出来ればあのヒゲと直接交渉したかったというのはここだ。

 ただ、ヘリアンの耳にも、今までどんな指揮官にも一切靡かなかったAR小隊がやたらめったら懐いている、という情報くらいはあがっているはずだ。俺がストライキを起こすとどうなるか、それが予測出来ない女じゃない。こんなことのダシにAR小隊を使いたくは無かったが、出せるカードを出し惜しみして交渉で負けるなど愚の骨頂である。そも大前提として、俺の下で働く戦術人形だけでなく、俺とともに働くカリーナも立派な仲間であり、部下である。この戦い、負けるわけにはいかないんですよ。

 

「…………貴君の言い分は良く分かった。クルーガーさんが戻り次第、至急協議しよう」

 

 まあ、こんなところだろう。ヘリアントスにそこまでの権限があるとは思えないから、クルーガーに上げてから検討するってのは妥当な回答だ。ただ、このまま逃げ切られたんじゃこっちの丸損だからな、明日の午前中までに連絡がない場合は宣言どおりストライキを敢行することを改めて伝えておく。交渉ごとに於いて如何に優位に進めようとも、エンドを決めずに終えるのはただの馬鹿がやることだ。爆発しない時限爆弾なんて怖くも何ともない。きっちり処理してくれたまえよ、ヘリアントス上級代行官殿。ハイ、通信終わり。

 

 

 いやー、多分これで俺の評判は一気に落ちることになるだろうな。少なくともヘリアンからの印象は最悪だと思う。ただ、繰り返しになるが俺は自分の評価なんてどうでもいい。既に一度死んだ身である、今後の老い先も長いとは言えない。今更そんなものに固執するほど残りの人生に過分な欲も希望も持ち合わせちゃいないんだ。相手が悪かったな、ヘリアン。

 俺の残りの人生は、俺とともに働いてくれる数少ない人間と戦術人形。そして俺の人生を救ってしまった(狂わせた)AR小隊のためにある。保身を考えない馬鹿は怖いだろう、そんな爆弾を抱えてしまった恐怖を身をもって味わうがいい。

 

 それにしても、いいことをした日はやはり気分がいい。今日は重要度の高い作戦もないし、このままひとっ風呂浴びてのんびりするとしようか。あ、一応AR小隊の連中には簡単な経緯は伝えておいた方がいいかな。まぁあいつらなら反対はしないだろう。

 

 

 

 翌日、期限通りに通信が入り、俺の意見具申は無事可決された。ヘリアントスが退席した後、クルーガーには小言を言われまくったが。

 その翌々日、グリフィン支部に荷物が届いた。喜び勇んで包みを開けてみれば、そこには旧式のタイプライターが小さくその存在を主張していた。

 

 

 いや嬉しいんだけどさあ。そうじゃないんだよなあ……。




皆様こんばんは、お久しぶりです。実に長い休養期間でした。

いやぁ、思いついたのでやってしまいました。後悔はしていない。
多分この指揮官おじさん、ヘリアンと話してる時ヒラコー顔になってたと思う。


今作は今まで以上に軽いノリで思い付いたことを一話完結方式でぶん投げていく感覚でやっていこうと思いますので、完全にノープランです。続きは思いついたら更新します。今のところ何も考えてません。

活動報告あたりにネタをぶち込んでくれれば参考にさせて頂きます。

もっと2000字くらいで短く纏めたいんですけど、逆に難しいですね。今後も出来る限りサクっとやりたいところです。


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02 -平穏という名の退屈と-

とりあえずじわじわとこの支部の状況を埋めていこうかと思った次第。


『こちら第二部隊、ポイントBにとうちゃくー』

 

 その音声に誘われて司令室のスクリーンに目をやってみれば、ドローンから映し出された目の粗い映像の中、確かに声の主であるスコーピオンが指定のポイントに到着していることが見える。その後ろにはM1911が、そして更に後ろからはM14が周囲の警戒を行いながら進軍している様子が映っていた。そしてそれぞれのダミーが一体ずつ、傍で行動を共にしている。

 

 今、スコーピオンを隊長とする第二部隊は鉄血人形の目撃情報が舞い込んだ地域の周辺偵察に出ている。ここら一帯は大体支配下においていたはずだが、今偵察に出ている場所は人が住んでいる地区ではなく、また地理的資源的にもそこまで重要ではないために発見が遅れてしまったのだろう。逆にそんなところで大規模な鉄血人形の群れが発見されようものなら大惨事一歩手前なわけで、逆説的に今回のターゲットは小規模なはずだ。相手が小規模ならということで、いつも頑張ってもらっているAR小隊には少しお休みしてもらい、後進の育成も兼ねて第二部隊を出しているというわけだ。

 

 指揮官の仕事は、何もデスクワークだけではない。むしろ、本来の意味ではこうやって戦術人形の指揮を取ることこそが本分であって、それこそデスクワーク全般はカリーナを始めとした後方幕僚らに任せてしまうのが正しい姿だ。

 だが、この支部にはとんでもない錬度を誇り、指揮官の指示がなくともある程度単独で任務をこなせてしまうジョーカーが存在している。別に俺がサボっているというワケではなく実際に彼女らの指揮もしているのだが、散発的に発生する小規模の鉄血人形程度では彼女らにとって遭遇戦訓練の代わりにすらならない。最早ただの作業である。文字通り俺の出る幕など無く、一瞬で勝負が決してしまう。勿論、仕事をしていないと思われるのも癪なのでそれなりにこなしてはいるのだが、俺が仕事をするしないに関わらず、俺の発令した作戦に関しては全力で吶喊していくのであまりやることが無い。自然とデスクワークの割合が増えてしまうのはもう仕方が無いことだと思う。

 

 ただし、それはあくまでAR小隊だけだ。あいつらがぶっちぎって特殊な存在なだけであって、普通の戦術人形はそうは行かない。実際、今指揮を執っている第二部隊の連中は俺の指示がなければまともに作戦行動を取れない。だから通常、指揮官の実力というのはその支部の戦力指数に多大な影響を持つ。そしていくらAR小隊と言えども、単独で動かすよりも指揮官の存在があった方がより強力になることは言うまでもない。

 

 つまりこの支部、ひいては俺の部隊が「エース」と認識されてしまっているのは、何もAR小隊の力だけではないということだ。本当に面倒くさい。一般的な指揮官のレベルというのは一体どうなっているのやら。俺は受けていないが、グリフィンの入社試験はそれなりに難しいと聞いている。それがカリーナのような立場ではなく、前線指揮官となればなおさらだ。そのはずなのに内情はこの体たらく。この会社、実は割とヤバいんじゃなかろうか。

 

「ふぅん……? ポイントBであえて待機……ああ、成る程、進行ルートに置いたのね」

 

 俺の指示を聞きながら、俺と共にスクリーンを眺めているAR小隊の4人。その中でも冷静沈着が売りのクールビューティ、AR-15が口を開く。

 

 さっき言ったように、こいつらは今日非番である、というか非番にした。理由は単純、目立った作戦指令が無いからだ。思い思いに過ごせばいいものを、こいつら何をトチ狂ったのか俺の指揮が見たいと抜かしやがった。それも4人全員がだ。まぁ断る理由もないし好きにしてもらっていいんだが、事あるごとに横から茶々を入れては俺の読みを見破ろうとしてくるのは辞めて欲しい。気が散る。しかも大体合ってるもんだからこっちも無碍に出来ない。ほんとお前らむかつくくらい優秀になりやがったな。

 AR-15が読んだ通り、部隊を深入りさせずにポイントBで待機させているのは、先に居るはずの鉄血人形の行軍ルートとほぼ被るからだ。鉄血人形の規模、進行先は先程ドローンで確認、予測済みだ。程なく第二部隊が待ち構えているポイントに差し掛かるだろう。あ、指示忘れてた。全員方位30に構えー。的当てゲーム始まるぞー。

 

『ひょーーーっ、来た来た! もう撃っていい!?』

 

 間もなくして、通信デッキから心底嬉しそうなスコーピオンの声が響き渡る。あー待て待てステイステイステイ。犬かお前は。この距離だとお前の得物じゃまともに当たらんだろうが。M14もまだ撃つなよ。M1911、スモークグレネード構えとけ。待てよー待てよー。はい、今。

 

 俺の号令に合わせて、M1911が投げ入れた発煙手榴弾がその真価を発揮する。ドンピシャで投げ入れられたそれは鉄血人形を瞬く間に覆い隠し、量産型のAIに困惑という名のエラーを吐き出させる。ここですかさずスコーピオンとM1911に前進を指示。M14はその場で撃ち漏らしを処理してもらう。

 

『待ってました! そろそろ本気出しちゃおうかなー!』

 

 こちらもまた嬉しそうな声を出しているのはマークスマンライフルであるM14だ。射撃の精度はまだまだ発展途上といったところだが、スモークの中で混乱して半ば停止状態にある鉄血人形を狙うくらいは流石に朝飯前である。バスンバスン、と気前のいい音が通信デッキから鳴り響く。

 

「あそこでスモークか、成る程な。大事を取ったってところか」

 

 最早一方的な蹂躙が始まっているスクリーンを横目に、M16A1が納得したように呟いた。M16が言うように、別にスモークまで投げ入れる必要は本来無かった。完全に横から不意を突ける位置取りだったからなあ。ただ、AR小隊と違って第二部隊の連中は本当にヒヨっ子どもである。万が一があっては困る、安全マージンを多く取るに越したことは無い。

 俺が直接教練の場に立つことが出来ればよかったんだが、あいにくとこの足だ。こうやって指示を聞いてもらいながら地道に学んで行ってもらうしかない。AR小隊と吸収率が違うのか、座学も効果的だが流石に2日でコンプリートされるようなトンデモ事態には幸か不幸か陥らなかった。やっぱりこいつらってぶっちぎりで優秀だったんだなあ。

 

『えっへっへー! アタシってやっぱり強いー?』

 

 調子に乗るなよヒヨっ子さんめ。スモークが晴れる頃には、そこには元気一杯の第二部隊と、文字通り鉄屑に成り下がった鉄血人形の成れの果て。よーし、これでこの周辺は改めてクリアだな。第二部隊には良くやった、と一応労いを入れておいて帰還指示を出す。うーむ、これでそれなりの給料貰えるってんだからおかしい話だ。

 

 

 軍人時代と違ってこの指揮官という業務、ぶっちゃけかなり楽である。昔主に相手をしていたのはE.L.I.Dかテロリストといった連中だったんだが、そいつらと違い鉄血人形というのは基本的な動きが最適化、効率化され過ぎている。量産型AIがそのままバグっただけだからその行動基準は何らおかしくないんだろうが、戦場に付き物である「想定外」が発生しない。別段隠し球みたいな武装が出てくるわけでもないし、予測していなかった動きをしてくるわけでもない。全ての事象がこちらの想定どおりに進んでしまう。情報収集を怠った故のイレギュラーは有り得るだろうが、そんな大ポカをやらかすわけがない。何のための事前調査とブリーフィングなのかという話だ。不意打ちなどを食らえばヤバいだろうが、あいつらにはそんな知能も技能もない。近寄ってくれば自ずと警戒網に引っ掛かる。

 事前に敵の規模と武装を調査。然るべき対策をもってことに臨む。あとは考案した作戦通りに進むだけだ。さらにこちらの手駒も人間ではなく戦術人形なので、突然の体調不良や謀反も無い。相手の戦力とこちらの戦力の見定めさえ誤らなければ、正直楽勝だ。

 

 まあ、こっちの思惑を超えてくる鉄血人形なんかが出てくればまた話は変わってくるんだろうが、今のところその予兆すら感じられない。勿論、警戒は必要だが警戒と萎縮はまた違う。別にリスクを追い求めるような性格はしていないはずなんだが、こうも退屈だとあらぬ期待を寄せてしまうのも無理からぬことか。まぁどうでもいいか、俺一人が考えたところで事態が変化するわけでもなし。気楽に気ままにやっていこう。

 さて、これで目下の脅威はなくなったが、やはりタスクが簡単過ぎたな。思ったより時間が余ってしまった。書類仕事も多少残ってはいるが、緊急性の高いものは一つも無い。うーむ、もしかしてこれは有体に言って暇というやつなのでは? どうしようかとしばし悩み、第二部隊の出迎えにでも行こうかと思いついた矢先、俺の乗る車椅子が僅かに揺れた。

 

 

 

「……そうだ、指揮官。久々に射撃のレクチャーでもしてくれないか。最近実戦続きで変な癖が付いてないか気になってな。今日はあいつらが帰投すれば目立ったタスクは無いんだろう?」

 

 M16よ。なんだその白々しい喋り口は。さり気なく俺の後ろを取るんじゃない。

 

「ダメですよ姉さん。指揮官にはしっかりと休養を取って頂かないと。忙しい身なんだから」

 

 おいM4。M16が握った手押しハンドルをそれとなく奪い返すんじゃない。

 

「えー! 指揮官今日も遊べないのー!?」

 

 うごぇ。飛び乗ってくるんじゃないSOPMODⅡ。痛い痛いいだだだだ痛い重い。

 

「え、えっと、えっと……あ、あの、指揮官? ひ、久々に作戦報告書を用いて戦術論でも交わしたくなってきたわ。ほら、私たちもその、情報は定期的にアップデートしないと」

 

 ヘタクソかお前は。このポンコツめが。

 

 

 うーむ。確かに今日はこの後比較的暇だし、目立った動きもない。今すぐに休むほど疲れてもいない。仕方ない、たまにはこいつらの我侭に付き合ってやるとするか。とりあえず久々に皆の射撃を見せてもらって、その後戦術議論して、遊んで、って何して遊ぶつもりなんだろうな。分からん。まあそれくらいやれば疲れても来るだろうし、その後のんびり休むとしよう。

 

 あれ? これ結構忙しくない? というか本業より忙しくなってない?

 まぁいいか。それはそれで平和な証拠だ。退屈よりは何倍もマシってな。




AR小隊以外にもスポットを当てて行きたいところなんですが、中々割り込ませるのが難しい。

指揮官おじさんは彼女たちのことを分かっていながら、のらりくらりと躱しています。
そして彼女たちは戦闘以外では基本ポンコツです。だってそんな知識も経験もないですからね。

そんな日常を思いついたら書いていきたいと思います。


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03 -FOUND for NOT-

筆者はブラック企業を許さない、絶対にだ。
でもブラック企業で働くおじさんは応援しちゃうんだ。


「そういえば指揮官さま。指揮官さまは副官に誰かを置かないのですか?」

 

 とある日の昼下がり。朝一の朝礼を終え一日の予定を確認、特に鉄血人形の接敵情報もなかったため、AR小隊からなる第一部隊およびスコーピオンを隊長としたヒヨっ子第二部隊をそれぞれ周辺の偵察に出し、幾つかの書類仕事を早々に片付け、少し早めの昼食を取った後。ドローンには主に第二部隊の行軍を追わせ、スクリーンに映る平和な一時を、泥水と言って差し支えない珈琲をすすりながらのんびり過ごしている時分。今日もせっせと物資管理やら仕入れ状況やらを確認しているカリーナが、ふとそんなことを呟いた。

 旧式のタイプライターが送られてきたあの日から、彼女の労働環境は僅かばかり向上したと言える。その証拠に、あれ以来彼女の今にも死にそうな顔を拝むことなく、どうにかこうにか仕事をこなしている。とは言っても常に辛そうではあるのだが。俺に副官つけるよりこいつにもう一人部下を付けた方がいいと思う。

 

 副官。読んで字の通り、指揮官である俺を補佐する役職である。割と暇だったこともあってカリーナの言に耳を傾けてみれば、他支部の指揮官なんかは大体戦術人形の副官を一人は置いているそうな。その役目は様々で、そのまま指揮官の仕事を手伝う者、戦場に出なくていいからとサボりの口実に立候補する者、指揮官と二人きりという空間を欲する者等等、それはもう多種多様らしい。俺の周りには作戦が無い時は大体AR小隊の誰かが引っ付いているんだが、副官というのは考えてもいなかった。まぁあいつら俺の仕事手伝うために来てるわけじゃなさそうだしノーカンでいいや。ていうかカリーナじゃダメなの? お前がこの支部内で一番仕事できると思うんだが。俺の次にだけど。

 

「わ、わわ私ですか!? あっ! いえその、嫌というわけではないのですが……」

 

 何の気なしに呟いてみれば、予想外のリアクション。何をそんなに慌ててるんだお前は。ただまぁ言ってはみたものの流石に冗談である。カリーナが悪いわけでは全くない、本当に良くやってくれている。むしろ、そんな彼女にこれ以上の負担を強いるのは俺が望むところではない。

 

 というか、そもそも必要無いんだよな副官。別にここ大所帯ってわけじゃないし。部隊規模に似合わず仕事量は多いが、実務に於いては非常に優秀な部下たちが一瞬で片付けてくれる。それに、曲がりなりにもそれなり以上の規模の集団を率いていた身だ、会社の管理職とはまた趣が違うだろうが、そういう仕事にも慣れている。ただでさえ一番重たい作戦報告書の作成をカリーナが担当してくれている分、どちらかと言えば手持ち無沙汰なシーンの方が多いくらいだ。こんな状態で更に副官を付け、そいつに仕事を分担して貰っていては俺がただのカカシになってしまう。

 車椅子だから、というのも副官を付ける理由にはならない。腐っても元軍人だ、移動くらい一人で出来る。つーかそれくらいしか運動機会がない。ただでさえ落ちまくっている筋肉量を更に落とすことになる事態はなるべく避けたい。地味に筋トレもしているが、下半身の筋肉だけはどうしようもないからな、全身もやしは御免だ。

 

「そ、そうですかぁ……。でも、珍しいですね。私が今まで見てきた指揮官さまは、大体誰を副官にするかを真っ先に悩んでいましたし」

 

 何てことをつらつら言い述べていたら、またとんでもない情報が飛び出してきた。いやほんとさぁ、グリフィンの指揮官ってのは女漁りにでも来てるのかと問いたい。小一時間問い質したい。お前ら一応戦場に身を置く立場じゃないのかと。戦術人形に鼻の下を伸ばして貰った金で食うメシはさぞ旨かろうなぁ。グリフィンの指揮官ってのは大層なご身分なようだ。お前らの懐に入るその金でこっちの環境を整えたい。

 

 ただまぁ、その真意はひとまず置いとくとして。どうも戦術人形の指揮官という立場で副官を付けない、ってのは相当なイレギュラーなようである。うーむ、どうしようか。しかし考えてみると、今後支部を越えて交流を持つこともあるだろうし、本部にお呼ばれする機会なんかもあるかもしれない。支部内ならともかく、遠出となれば俺一人じゃ物理的に動きにくい場面も出てくるだろう。仕事を任せるかどうかは別として、そういう意味での副官というのは設定しておいても良いのかもしれない。ただそうなってくると、それ副官っていうよりただの介護人なんだよなあ。いくら俺でも、そんなモンのために戦術人形の誰かを付けてしまうのはちょっと遠慮したい。主に俺の羞恥心と尊厳がガリガリと削られていく気がする。あいつらなら断りそうにないところがまた怖い。俺は確かにおじさんだが、まだおじいさんって歳じゃありません。

 

「あ、あははは……確かに指揮官さまなら、今の仕事量ならお一人でこなしてしまいますので……。部隊数も増えれば、また違ってはくるのでしょうけれども」

 

 カリーナ、ナイス。それだわ。

 苦笑混じりに放り投げられた言葉が、俺のいいところを刺激した。

 

 

 

 クルーガーが運営するこの民間軍事会社、G&Kは、I.O.P社と業務提携の契約を結んでいる。グリフィンに所属する指揮官は、所定の手続きを踏めばI.O.P社へ戦術人形や装備品などの発注を行うことが出来る。その代わり、不要となったり役目を終えた戦術人形は、I.O.P社へ返却しなければならない。

 うちの支部には現状7体の戦術人形が所属しているが、正直頭数としては心許ない。AR小隊もいつまでも4人では作戦行動の範囲に限界があるし、第二部隊なんて3人である。ある程度ダミーで水増し出来るとは言え、単純な駒ばかりが増えても真っ当な拡大とは言えない。スコーピオンをはじめまだまだ最適化工程が進んでいない人形も居るが、如何せん数が少なすぎる。AR小隊の活躍もあって今でこそ大きな問題にはなっていないが、現存する戦力で対処出来ない事態が起きてから行動していたのでは遅すぎるのだ。

 ていうかめちゃくちゃ今更な問題なんだが、この支部に所属している指揮官が俺だけっておかしくないか。施設のオンボロさといい、ボロさにそぐわない建物の真新しさといい、もしかしてここ新造も新造の支部じゃないの。いくらワケありとは言えども、新任の指揮官を先輩が誰も居ない新設された支部に独りぶち込むなんてどうかしている。

 前から予感はしていたが、間違いない。ここドブラックだわ。あのヒゲほんと何考えてやがる。需要に応えて拡大路線を突っ走った結果、内部整理が追い付かず崩壊していった過去の企業を思い出す。このご時世、マトモな企業なんて残っていないと分かってはいたが、いざその渦中に突っ込むとなるとスゴイな。俺の第二の人生ギリギリの綱渡りじゃねーか。なんだかんだ不満もあったが、正規軍という立場と待遇が如何に素晴らしかったか、今更身を以て体感することになるとは思わなんだ。

 つーか今思えば、指揮官1人、戦術人形7体の零細新設支部にあんな量の作戦指令を下ろしまくっていたのかこのクソ企業。他の指揮官が見当たらないのも俺と同じように忙殺されてるからとばかり思ってたわ。いくらなんでもおかしくないか、と気付いた時には既に膨大な数の任務をこなした後で、付近一帯は無事制圧完了、今は束の間とも言えるのんびりとした日々を送れているが、あんなのは二度と御免だ。これでAR小隊が居なかったらと思うとゾッとする。最近クルーガーと会う機会はないが、どんどんあいつのヒゲを毟る理由が増えて行くぞ。次会ったら頭髪も毟ってやろうと思う。

 

 いかん、思考が逸れたな。まあ、突っ込んでしまったものはもう仕方がない。どうせこの身体と経歴じゃ他にロクな勤め先がないことくらいは馬鹿でも分かる。与えられた環境でやっていくしかない。とにかく今のうちに、支部の財政が許す限りではあるが、少しずつでも確実に戦力を増強していかなければならない。俺の部隊が落ちるということはイコールこの支部が落ちるということだ。ちょっとシャレになっていないが、愚痴を吐くことで現状が上向くのなら誰も苦労しない。

 俺がそれなりに上手く回しているのとカリーナの尽力も相俟って、今のところこの支部の物資情勢は安定している。戦術人形の新規発注にはそれなりのコストが掛かるのだが、まぁ大丈夫な範囲だろう。

 

 と、いうことでポチっとな。人形の発注自体は司令室にあるコンソールから割と簡単に出来る。所定の手続きとは言っても、その内情は随分と簡略化されたものだ。幾つかの項目を埋めて電子申請を行うだけである。人形の指定は出来ないが、コンソールで選択した項目にある程度沿った人形が送られてくる。こちらとしてはどんなタイプが来てくれてもありがたいが、強いて言えば積極的に前に出られる人形が少ないため、サブマシンガンタイプだと一層助かるってところだ。

 

 

「指揮官さま! 新しい戦術人形が到着致しましたわ!」

 

 発注をかけてから翌々日。ようやっと新しい戦力候補のお出ましである。I.O.P社からは昨日には到着するとメールが着ていたんだが、まぁこんなご時世だ、一日くらいの遅れでとやかくは言うまい。無事に到着したのなら先ずは迎え入れてやらないとな。

 一応、新人を迎えるということで、うちに所属している戦術人形には全員司令室に集まってもらっている。どうせ少ない人員だ、顔合わせは一度で済ませておく方が効率がいいからな。まあ、これから増えていくとこうも行かないんだろうが、それは割と遠くの未来になりそうなので今考える問題でもないだろう。この支部、建物だけは新しいから結構広いしな。

 

 カリーナの声とともに司令室の正面ゲートが開く。そこには確かに彼女が言う通り、見たことのない戦術人形が()()、笑顔でこちらに歩いてきていた。

 

 

 反射的に、俺は愛銃UMP9を構えていた。

 一瞬ではあるが俺に遅れて構えを取る4体。訳が分からず困惑する3体と1人。

 

「UMP9、ただいま就任! 皆、これからは……って、何コレ!? どゆこと!?」

 

 登場した瞬間、一斉に銃口を向けられたそいつは大いに慌てふためいていた。だが、それすらもブラフの可能性がある。間違っても銃を下ろすどころか、油断出来る状況ですらなかった。

 

 I.O.P社に発注して送られてくる人形は、全て新品だ。これはコンソールにも表示されている情報だし、カリーナにも同様のことを教えられた。そして、新品ということは当然最適化も進んでいない。そこに限っては昔、俺が訓練を受け持った人形とて同じだ。例外は存在しない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今連れているダミーは1体のようだが、それが限界なのか、たまたま1体しか居ないのかは分からない。だがどちらにせよ、少なくともこいつは実戦か訓練かのどちらか、あるいは両方を既に経験している。そうでなければ最適化工程が進まないからだ。つまり、こいつは本来I.O.P社から送られてくるはずであった新品の戦術人形ではない。

 

 先程までの弛緩した空気から一変、張り詰めた様相に瞬時に切り替わる司令室。

 

「何故、お前がここに居るのか。説明してもらおうか、ナイン」

 

 静まり返った空間に、M16A1の冷え切った声だけが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え? 何なのお前ら知り合い? もー! やめてよそういう面倒ごとはさぁ!




きちゃった





これ割と小さい風呂敷なのですぐ畳みますね(パタンヌ

ところで日間ランキング45位、短編日間ランキング4位ってどゆこと?(どゆこと?
ありがとうございます、痛み入ります。ぼちぼち頑張って参ります。


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04 -ジェットストリームファミリーパンチ-

年末会議と忘年会を思いの外スッとフェードアウト出来たのでぼくは時間を手に入れました。
やったぜ。


 結論から言えば、UMP9と名乗った戦術人形は怪しくはあったものの不審な人形というわけではなかったようだ。暫定容疑者の言なんざ1ミリも信用が置けないわけで、M16A1をはじめとしたAR小隊、そして念には念をということでクルーガーにも確認を取った。監視をつけて色々と確認している間、ひたすら「信じてよ! 信じてってばあ!」などと叫び回っていたが、こちとらその言葉を素直に信じる程馬鹿じゃないし、信じるメリットもない。オトナは心も考え方も汚いんだ、覚えておけ人形ちゃん。

 ていうかそっかぁ、あの人形が俺の愛銃を使うのかぁ。ほんの少しばかりショックである。いやそりゃ分かるよ、戦術人形には銃器との繋がりがあって、その特定の組み合わせに俺の趣味趣向を反映する余地など少しも残っていないことくらい。なのでこの気持ちはきっと我侭だとか八つ当たりだとかそういう類のものだろう。深く気にした方が負けな気がするので、そういうものだと割り切って考えることにする。

 

 ちなみに本来やって来るはずの戦術人形なんだが、I.O.P社に改めて問い合わせてみたところ輸送中に人権団体の過激派の襲撃に遭い、人員諸共帰らぬ身になってしまったようである。流石の俺もこのニュースには引いた。しかも早々起こりはしないが特段珍しいことではないということまで聞いてしまい一層引いた。軍に居た頃は自律人形がどうとか人間がどうとかいう生ぬるいこと言ってられなかったしなあ、直接そういう団体と顔を合わせる機会もなかったし。しかしまぁ、権利やら思想やらだけを只管に担ぎ上げて、各々の義務を勘定しないクズってのはどこにでも出没するものなんだなと改めて感じる。お前らが今どうにかこうにかこの世界で生きていくことが出来ているのは、人間の技術も自律人形の働きもあってこそだろうに、全く以て現実を見れていない。いや、現実を見たくないからこそそんな茶番に躍起になっているのやもしれない。本当にこの世界救いがない。なんで俺生きてるんだろう。

 

 いかんいかん、最近しょうもないことに脳みそのキャパシティを奪われている気がするぞ。業務自体は軍に居た頃より格段に楽だが、これはこれでストレスが溜まっているのかもしれん。多分、単純に身体を動かすことが出来なくなっていることも影響しているんだろう。これはいよいよペルシカリアに義足の注文をした方がいいのかなどと考えてしまう。普通のやつならいいんだ普通のやつなら。あの女特製の義足なんて考えたくもない、優秀なのは嫌でも分かるんだが。

 

 そうそう、それで何故あのUMP9がうちの支部に着たかということだが、あのクソヒゲ野郎の差し金もとい計らいらしい。どうやら彼女はグリフィンの暗部らしく、「404小隊」という名の部隊員なんだそうだ。グリフィンが表立って動けない特殊な依頼なんかを秘密裏に処理する部隊、ということだが、あんなキャラでそんなこと出来るのかという疑問の方が先に立つ。ちょっとデカい犬みたいな感じだぞあれ。SOPMODⅡと同類の匂いがする。

 で、その404小隊なんだが、部隊柄一般の指揮官においそれと指揮権を預けるわけにもいかず、かといってずっと本部預かりのままではフットワークが重くなりすぎる。それで俺の支部に白羽の矢が立ったわけだ。この支部には現状指揮官が俺しか居ないし、機密漏洩のリスクも低い。今のところ指揮官業も何とか上手くこなしているから、俺に預けて様子を見ようということらしかった。ほんとあのヒゲいつもいつも好き勝手してくれやがる。お得意のゴリ押しをしてくるのは勝手だが、それを受ける立場の人間が何時までも大人しくしていると思うなよ。そろそろヒゲや頭髪だけじゃ物足りなくなってくる頃合だろう、全身脱毛でもしてやるかアイツ。

 ただ一方、AR小隊と知己であるということは結成されてからそれなりの期間があったはずなんだが、その間マトモな指揮官が出てこなかったのかという疑問も残る。詳細までは知ろうとも思わないが、クルーガーはクルーガーで人材不足に頭を悩ませているのかもしれない。そう考えるとあいつの采配にも情状酌量の余地はあるのかもしれないが、だからって出来そうなやつに仕事全部ぶん投げたらそいつが潰れるに決まってるだろ。こんなだからブラック企業は負のループから抜け出せないんだ、分かってるのか。

 

「指揮官どうしたのー? 何か難しい顔してるー!」

 

 いつの間にか俺の顔を覗きこむように距離を近付けて来たSOPMODⅡが、その表情を若干曇らせながら俺に声をかけてくる。うーむ、自分でも気付かないうちに顔に出ていたか。ポーカーフェイスを得意としている身としてはこれは非常によくない。いや、AR小隊の連中なら俺がどんな能面顔をしていても見抜いてきそうなものだが、かといって余計な心配を部下にかけていては上司の立つ瀬がない。気にするな、と声を返してその頭を軽く撫でてやれば、そこには瞬く間に満開の笑顔を咲かせるSOPMODⅡ。うん、いいな。軍人時代は縁が無かったが、ペットを飼うということはこういう感じなのかもしれない。アニマルセラピーなんて言葉もあるくらいだ、その効果も中々侮れないかもしれん。

 

 まぁ、UMP9が来たことで好転する事態もある。彼女は現状、本部から特別な任務が降りない限りは俺の指揮下で動かしてもいいらしいので、純粋に手駒が、それもある程度の教練が終わっている人形が手に入るのは素直に喜ばしいことだ。チェックを通した結果、UMP9の最適化工程は30%を超えていた。このレベルなら2体のダミーリンクを操ることが出来る。AR小隊には遠く及ばないが、秘密裏に動かしていた部隊、それも指揮官や教官を付けていなかったことから、この最適化工程は全て実戦で進められたものだろう。AR小隊の教練初日を思い出してみても、よく今まで死ななかったものである。それだけ素体やAIのスペックが優れているということだ。俺の足が健在なら、UMP9にも教育を施してどこまで伸びるか見てみたかったものだが、それは最早叶わぬ夢。名残惜しくも感じてしまうが、無いものねだりをしても仕方がない。座学と俺の指揮でどれだけ伸ばせるかやってみよう。

 

「あ、指揮官ここにいたかぁー!」

 

 なんてことを考えていたら、早速現れたのはその当人UMP9。ダミーは宿舎に置いてきたのか今はオリジナル一人だ。最初に出会った頃と同じように人懐こい笑顔を浮かべて司令室のゲートを潜ってくる。出会いの形はお世辞にも良いものとは言えなかったが、本人としては誤解が解ければ問題無かったようで、その割り切りの早さはこちらとしても助かるところだ。また、I.O.P社に発注した人形が到着しなかったタイミングの悪さもあって、俺の警戒にも理解を示してくれたのはありがたい。曲がりなりにも俺の指揮下に入るんだ、信頼関係が無いままというのは色々と困る。その辺り柔軟に考えることが出来る人員というのは貴重だ。特殊部隊所属というのも一様に否定だけは出来ないな。

 

「むぅ、ナイン何しにきたのさ」

「んー? ちょっと指揮官とお話しに来たのさー!」

 

 おっ犬の喧嘩かな? いや、どっちかと言えば小型犬が大型犬に食って掛かってる感じかな。とりあえず話があるなら聞いてやろうということで、SOPMODⅡを抑える。こいつ俺の言うことならすぐ聞いてくれるから助かる。よく躾けられてるなあ。ついでと言っては何だが、仕方がないこととは言え最初に思いっきり疑ってかかってしまったことを改めて詫びておこう。結果論にはなってしまうが、無実の人形を疑ったのは事実。物事はしっかり落とすところに落としておかないとな。

 

「いいっていいって! 無事誤解も解けたことだし。しかし指揮官は真面目だね~416を思い出しちゃうなぁ」

 

 にしし、とどこか懐かしそうな香りを漂わせてUMP9は再び笑う。

 UMP9には当たり前だが、誤解が解けた後は自由行動を許している。立場としては完全に他の戦術人形たちと同じだ。同様に、暗部に所属しているからといって特別扱いもしていない。俺は部下に対して適正に評価は下すが贔屓はしない。AR小隊のことは高く評価しているし、それ以上に働いてくれていることも事実だが、言ってしまえばそれだけだ。彼女たちは戦術人形であり俺の指揮下にある。錬度の違いや出来不出来、得手不得手は勿論あるが、配属となったからには同列に扱う。それ以上でも以下でもない。

 とは常に考えているが、まぁ俺も人間だしなあ、一律かつ完璧に扱うなんて多分出来ていないんだろう。無意識にそういう思考、行動になっていることに後から気付くなんてよくあることだ。だからと言って心掛けを辞める理由にはならないから、極力そうしないようにはしているが。

 

 そういえばUMP9は話をしにきたと言っていたな。一応だが、SOPMODⅡが居てもいいのかを尋ねると全く問題ないとのこと。ということは少なくとも極秘裏の任務といった重要度が高い話ではなさそうだ。うーむ、となると本当に世間話でもしにきたのかな? まぁこちらとしても404小隊に所属しているサブマシンガン型の戦術人形、という情報以外ろくに持っていないので、部下との親睦を深めるがてらフリートークと洒落込むのも悪くはない手か。

 

 

 

 

「さっき通信があってね、私以外の404小隊、あっ、あと3人居るんだけどね、全員こっちに来るってさー! 多分私と同じような指示が入ったんだと思うよー。明日には着くだろうってさ! やったね指揮官! 家族が増えるぞぉ!」

 

 

 よっしゃ分かった。俺はヒゲを毟りに行けばいいんだな。




お前も家族になるんだよ(ファミリーパンチ

書いてて思ったんですけど指揮官おじさん、明らか軍属時代よりストレス溜めてますね。
すべてはこのブラック企業が悪いのだ……


ちなみに前作と違い、今作品は本当に思い付いたところからペペっと書いていくスタイルなので、特に落としどころなどを定めていません。

これからものんべんだらりとお付き合い頂ければと存じます。


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05 -ハートブレイクコミュニケーション-

年末休暇を利用し最新話を投稿することが出来るッ
AR小隊と404小隊の絡みは多数の作者様が描かれておりますが、こちらはこちらなりのお付き合いを描いていければと考えております。


「UMP45が着任しました。指揮官、仲良くやりましょう?」

「HK416です。ちゃんと私の名前、覚えてくださいね」

「G11……です。指揮官、お布団どこ……?」

 

 うわ、マジで来た。マジで来やがったよ残りの3人。本家UMPとアサルトライフル二人かぁ。しっかしG11ってお前またスゴイもの扱ってんな。確かケースレス弾だったか? アレを前提とした自律人形ってI.O.P社にニッチな趣味を持った開発者でも居るのか。普通にもっと他に扱いやすいやつあるだろ。

 ナインから情報を受け取った翌日。きっちり3人が雁首揃えてうちの支部の司令室にその足を運んでいた。ちなみにUMP9のことは今後ナインと呼ぶことにした。皆がそうやって呼んでいるということが一つ、もう一つが俺の愛銃であるUMP9と差別化するためだ。まず有り得ないシチュエーションではあるが、誰かにUMP9持ってきてくれ、と依頼したらナインが運ばれてきた、とかいう馬鹿げた事態は御免被りたい。

 今、司令室には昨日と同様、うちに所属する戦術人形全員を呼んでいる。こうなりゃ1人も4人も一緒だ、全員顔合わせしてしまった方が都合がいいしな。AR小隊も話を聞く限り404小隊全員と面識を持っているようだから、最初に全員会わせておいた方が楽だろう。誰が来てて誰が来てないとか部隊員の間で情報の差異が起きる事態も避けたい。

 

 あと、クルーガーのヒゲを毟るのは勘弁してやることにした。

 昨日ナインから話を聞いた直後、即コールしてクルーガーに繋げてやったんだが、あいつ曲がりなりにも軍部で一定の地位を持っていた俺のことをナメてやがった。あのヒゲのことだ、決してドロップアウトした訳じゃないだろうが、早々に軍部を去ったお前と違ってこっちはそれなりに修羅場も潜って生き延びてきたんだよ。会社と軍じゃ勝手も違うだろうが、同じ「組織」であることに違いはあるまい。お前は使用者側に回ったから分からんだろうが、俺はずっと使われる側でそれなりに上手く回してきたんだ。

 どういうことかと言えば、クルーガーはグリフィンにとっての最高戦力であるAR小隊と、グリフィンの暗部の一端を担う404小隊、この二つを暫定的とは言え俺の指揮下に置いてしまった。それは俺への信用もあったのだろうが、ここで大事なのは彼女らは俺の同僚ではなく、あくまで指揮下にある部下だということだ。無論、俺としてもAR小隊や404小隊に無理難題を押し付けるつもりはないが、悪いが遠慮なく利用はさせてもらう。

 

 と、言うことで。恐らく一週間もしないうちに、うちの支部宛で大きな荷物が届く手筈となりました。やったね。

 届かなかったらどうなるかって? 何、AR小隊にちょっとした長期休暇に出てもらうだけだ。あいつらは戦術人形であり正確には「労働者」としてカウントされないため、G&Kとの労働契約自体が成立していない。つまり今は俺の管理下にある備品と同じ扱い、という見方も強引だが出来る。この支部には戦術指揮官が俺しか居ないわけだから、俺が持ってる備品を俺がどうしようともそれは俺の勝手ですよね。社長にとやかく言われる筋合いないですもんねって話だ。備品を壊したりするわけじゃないから、別にコストが掛かる訳でもない。そもそも支部の財政状況も鑑みて俺とカリーナでやっているわけだから、そこはオールグリーンだ。

 まあ、当然それだけじゃカードとして弱い。グリフィンぶっちぎりの最大戦力を遊ばせていては、ここら一帯の継続的支配も難しくなる。そうなってくるとAR小隊を欠いた現存の戦力では支配地域の拡大どころか維持も難しくなるだろう。で、そうなれば俺の立場もそうだが、何より生命が危ない。俺だって死にたがりじゃない。兵士は時に死ぬことも仕事のうちだが、無駄死になど以ての外だ。

 だがしかし、俺が再度命の危機に瀕したとして、じゃあAR小隊が黙っているかと問われれば否だ。備品が謀反を起こすなど聞いたことも無いが、事実あいつらの比重はグリフィンよりも俺に傾いている。そうでなければ、独断で任務を放棄してまであんな大ポカを犯すわけが無い。今までは指揮官を切ったり貼ったりしてきたんだろうが、俺相手に同じ戦法が通じると思わないことだな、ベレゾヴィッチ・クルーガー社長?

 

 思いっきり部下を利用しまくった姑息なロジックだが、悪いが卑怯なんて言葉はずっと昔に戦場へ放り捨ててきた身だ。クルーガーも大概なキレ者なのは認めるが、俺に限らず常に使われる側で頭を回し続けてきた連中っていうのは、思い切りの良さと割り切りの早さが半端じゃない。長期的なスパンで見た事運びの上手さではアイツに軍配が挙がるだろうが、発想と行動の瞬発力では負ける気がしない。あいつが現場を離れてそれなりに長い期間が経ってしまった弊害だろうな。

 

 ちなみに、最近は俺がクルーガーの毛を毟るんじゃなくて、アイツをストレスで禿げ上がらせる戦術に重きを置いている。この地域一帯の支配とAR小隊周りの事情もあるから、あいつはあいつで容易に俺を切り捨てることが出来ない。俺は俺で、なんだかんだG&Kを離れたら全てが無くなってしまう為に容易に抜け出すことが出来ない。これはお互いの精神を賭けたデスレースだ。最初に俺を巻き込んだのはそっちだからな、地獄まで付き合ってもらうぜ。

 

 

 さて、そんな回顧も程ほどにしてと。先ずは新しく着任した3人の戦術人形に挨拶を返そう。

 UMP45だが、やはり同一系統の銃だと戦術人形の見た目も似るのか、ナインとよく似ている。髪色や体型、目の傷なんかは違うので見間違えることは流石に無さそうだが、こんなに似ているってのも初めて見たな。M4A1とM16A1なども似てはいるが、流石にこのレベルではない。

 しかし、パッと見ての第一印象のみではあるが、性格面では大分ナインと差があるように感じる。何と言うか、笑顔は笑顔なんだがその裏が垣間見える感じだな。落ち着いているとも取れるし、何か企んでいるとも取れる。まぁ、そこらへんの詳細はこれから見極めていけばよかろう。

 HK416は、何と言うかちょっと取っ付き難いイメージがあるなあ。周囲と距離を置きたがる性格なんだろうか。とんでもないミニスカートを除けば服装も真面目一辺倒といった感じだ。しかし、416かぁ。銃の来歴だけを見れば、AR小隊の連中とあまり相性は良く無さそうに見えるが、さてどうなることやら。

 G11は立ったまま寝るな。起きろ。

 

「全員で顔を合わせるのは随分と久しぶりじゃないか? ま、よろしく頼むよ」

「ふん、誰がアンタなんかと」

 

 ワァー。いきなり悪い方向に予想が当たってしまったぞ。

 過去にも色々あったんだろうが、とりあえず水に流して大人な挨拶を投げ掛けたM16だが、それに対しての416の第一声がこれである。お前ら仲良くしろとは言わないが、ちょっと取り繕うとか上辺だけでも何とかならんのか。特に416、あまりにも露骨過ぎる。見てみろ、事情を知らない他の人形たちが固まってるぞ。どうすんだよこの空気。

 

「まぁまぁ、416。指揮官も居ることだし、ね?」

 

 この空気を打開せんと、UMP45がすかさずフォローを投げる。うーん、ナイス。俺はAR小隊と404小隊の確執までは知らない。AR小隊はともかく、404小隊の連中とは関係値もほとんど築けていない。そんな完全に第三者の俺が声を掛けたとしても状況の打破は難しかったところで、間髪入れず動いてくれたところは評価したい。真っ先に抑えに入ったところといい、性格といい、恐らくこの子が404小隊のまとめ役かな。だとしたら色々と話が早そうで助かるんだが。

 

 とりあえず一旦空気も収まったところで、俺には今回一つやりたいことがあるためにその説明をしたいと思う。それはずばり、彼女たちの現状把握だ。I.O.P社から送られてくる新規の人形は全員最適化が進んでいないためその力を見るまでも無いのだが、404小隊は事情が違う。先だってナインに関しては最適化工程のチェックを行っているが、他の3人に関しては完全に初見だ。ナインも含め、現段階でどれくらい出来るのかを一度見させて頂きたい。その内容によっては別途訓練スケジュールを組み立てる必要もあるだろうし、今でこそこんな足だが、俺の経験が役に立つかもしれない。特殊部隊ということは、今まで声には出せないような任務にも就いたことがあるのだろう。深くは聞かないが、俺の指揮下となった以上、分不相応な負荷は掛けたくないからな。

 

「結構よ。私たちは今まで私たちだけでやってきた。それに失礼を承知で言うけれど、そんな状態の指揮官に教えを乞うほど弱くは無いの。私は完璧だもの」

 

 ヒュウ、辛辣ゥ。まあ、それを言われれば俺も強くは言えないところが痛いな。しかし、私は完璧と来たか。これ完全に勝手な憶測なんだけど、お前からAR-15と同じ匂いを感じるんだが。どうか気のせいであってほしい。

 

 

 

 

「おい。その無駄によく回る口を今すぐ閉じろ。死にたくないならな」

 

 んんん? あれぇ? なんでそっちに火がつくのかなぁ? おじさん分かんないぞ?

 416の言葉に更に上乗せしやがったのは、あろうことか先程まで仲良くやろうと精一杯頑張っていたはずのM16A1だった。おいおいおいやめろ馬鹿。直接の原因は416だがわざわざ火に油を注いでどうする。M4、こういう時はお前が止めないとってお前もかい! 何でお前そんな目が据わってんの。いつもの弱気はどうした、怖いわ。あー、AR-15……もダメだな。何がお前らをそんなに焚き付けてうわSOPMODⅡ怖ッ! 顔怖ッ! お前から表情を取り除いたらそんな顔になるんだな! 俺初めて知ったわ! 完全にキリングマシーンみたいな顔付きやんけ!

 

「あら、何かお気に召さなかった? 片足を失うような指揮官に教わることは何も無い、と言っただけだけれど。それに貴方も貴方ね、修復不可能な程の深手を頭部に負うなんて。エリートが聞いて呆れるわ」

 

 おーおーおーおーおー煽りよるわこいつ。恐らくM16A1の眼帯を見ての発言だろうが、それには色々と、それはもう本当に色々とヤヤコシイ事情があるんだが、それを言えないのがつらい。何せ俺は戦場で片足を失った元傭兵の新人指揮官である。AR小隊は何故か俺によくしてくれているが、その事情までは分からんただのおじさんなのだ。これはキツい。何も言えないぞ俺。ついでに、捉え方次第では上官への侮辱という点も無くは無さそうだが、言い方はともかく言われている内容自体は事実なので俺的にはノーカン。多分俺だって初対面の片足びっこ上官にいきなり鍛え上げてやるぜなんて言われたら何言ってんだこいつってなると思う。

 

「きょ……キルハウスの使用許可を貰いたい、いいだろう指揮官? 何、ちゃんとペイント弾を使うさ。404小隊のエリートサマを壊してしまっては指揮官の面目も立たないだろうしな」

 

 あっぶねえなお前、今一番ヒヤッとしたわ俺。危うくとんでもないワードが飛び出しかけたM16A1だが、何とか持ち直したようだ。しかし普段、本当の意味で冷静さを一番保っているはずのM16が真っ先に燃え上がるとは完全に予想外だ。こいつら過去に何があったんだ。

 

「心配するな、ちゃんと一対一でやってやるさ。ダミーを使うまでもない。ああ、使いたいならそっちはダミーを出しても構わないぞ?」

「……ッ! 上等よ、完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ……ッ!!」

 

 だからお前も煽るのをやめろ! もーどうすんだこれ! 収拾つかねーぞこれ! ここまでヒートアップしてしまった以上、キルハウスは使えません、なんて口が裂けても言えそうにない。別に指揮官権限で強制的に止めさせてもいいんだが、そうしてしまうとこの燻りが何時までも残り続けてしまう。仲良くやる必要は何処にもないが、最低限の連携や意思疎通が取れなくなるのは軍事企業としては非常にマズい。ガス抜きって訳じゃないが、目に見える確執は見えているうちに出来る限り解消させておくべきだ。

 というかやっぱり416が心配なんだが、大丈夫だろうか。ナインの最適化工程が30%ちょいだから、恐らく他の3人もそこから大きくは外れないだろう。突出した個というのは単独で動く分には強いが、チームを組むとなると逆に厄介だ。上も下も同程度のレベルで組むのが一番成果が出る。それに、404小隊としてずっと私たちでやってきた、と416自身が言っていたから、この組み合わせが変わることもなかっただろう。つまり、416も最適化工程の予測で言えば30%前後で収まっていないとおかしい。

 対してM16A1は最適化工程が90%を超えている。他のAR小隊の3人もだ。紛うことなきグリフィンのエースとして、どこに出しても恥ずかしくない実力と実績を持っている。更にこいつらは俺の入れ知恵もあって、特に狭い範囲での少数戦での引き出しの数が尋常じゃなく多い。セオリーから型破りまで、あらゆる戦術を俺自身が叩き込んだやつらだ。

 

 どうしたものかとさり気なく目配せすれば、そこでかち合ったのはUMP45の双瞳。その笑顔は崩れないままだが、俺と視線が合った瞬間、小さく肩を竦ませていた。どうやらこいつもこれ以上止める気はないらしい。

 うーむ、まぁやらせろってことなんだろう。というかどちらにせよ、ここで止めるという選択肢は無い。止めるメリットの方が薄いからな、一度ぶつからせた方がいいだろう。その方が俺の話も聞いてくれそうだし。

 

 しぶしぶ、といった体で俺はキルハウスの使用許可を出す。使うのはペイント弾のみ、投擲武器や補助兵装は一切禁止、またお互いダミーの使用も禁止する。決着はお互いが望む形でつけてもらって構わないが、施設の使用時間は最大1時間。それ以上は通常業務に差し支えが出る可能性があるため不可。尚、責任者として俺は見学を行う。また、人形の中に希望者が居るならそいつらも見学して構わない。ただし当然だが、お互いへの加勢、アドバイスなどは一切禁止とする。

 以上が守れないなら、お互い頭を冷やすため営倉にぶち込ませてもらう。

 

「私はそれで構わないぜ」

「私もよ」

 

 ルールとしてはこんなところか。一応見学者を募ってみたが、手が挙がったのはAR小隊の3人、UMP45とナイン、それにスコーピオン。スコーピオンは確かにこういうお祭りごと好きそうだもんなあ。ここら辺性格が出るのかもしれない。あとG11は寝るな。起きろ。

 M1911とM14はすまないが、G11を空いてる宿舎に案内してやってくれ。起きないなら引っ張っても構わん、俺が許可する。

 

 さて、それじゃ話もまとまったことだしキルハウスに移動しますかね。しかし俺自身がキルハウスに赴くのは随分と久しぶりな気がするなぁ。この足じゃ行く必要全く無いからな。そういや416は勿論だが、M16A1の訓練での動きってのも随分と見ていない。どんな動きをしてくれるのかちょっと楽しみだ。

 

 

 

「んふふー、随分と罪作りなオジサマなのね、指揮官?」

 

 移動中さり気なく俺の隣を陣取り、そう呟くのはUMP45だった。

 何のことやら。俺はしがない元傭兵であり、現指揮官であり、中身は片足を失ったただのおじさんである。見目麗しい女の子たちに言い寄られるような魅力も何も持ち合わせていないんだがなあ。言葉には出さず、先程のお返しとばかりにポーカーフェイスのまま肩を竦めてみれば、返ってくるのは何かを含んだ微笑のみ。

 

 416やG11はまだ分からないが、どうやらUMP姉妹とはそこそこ上手くやれそうな気がする。少なくとも、退屈はしなさそうだ。でも刺激だけだと身が持たなさそうだから癒しも欲しい。

 

 そういえば俺の福利厚生ってどうなってんの? えっ? 無い? そんなぁ。




G11を抱き枕にして一緒にお布団で眠り続けたい


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06 -イス取りゲーム-

本作のお気に入り登録者数が前作、戦術人形と軍人とを超えました。ありがとうございます。




んん? おかしくない??

一応単品でも読めるとは思うんですが、割と前作を読み込んでいないと細かい部分で理解出来ない話も多いと自分では感じているのですが、大丈夫なんでしょうか。いえ、読んで頂けることは素直に嬉しいのですが。


「クソ……ックソォ……ッ!! いったい、何が足りないというの……!」

 

 キルハウスでの一幕。時間にして経過したのは20分少々というところだろうか。何度も銃火を交えたM16A1とHK416だったが思いの外決着は早く、そこには無表情のまま微動だにしないM16と、膝を突き、その顔に忌々しい感情を存分に曝け出したHK416が居た。

 

 うーん、エグい。立場上俺はこの模擬戦を見届けざるを得なかったんだが、ぶっちゃけアレをやられたら俺でも心が折れると思う。ていうか現役時代の俺ですらあそこまでやったことはないし、多分やろうと思っても出来ない。極まった戦術人形ってのはこれ程までに恐ろしいものなんだな、というのをこんな場面で改めて痛感するとは思ってもいなかった。人形怖い。見てみろお前、お祭り騒ぎが好きなはずのスコーピオンですら顔面蒼白だぞ。いや、行われたことといえばお祭りなんて生易しいモンではなく、ただの一方的な虐殺だったんだけどさあ。

 

 俺の予想通り、模擬戦の結果自体はM16A1の完勝で終わった。これはまぁ、想像に難くない。最適化工程に相当な開きがあるという予測はその通りだったようで、はっきり言って416のレベルではM16に歯が立たなかった。それだけならまだ良かったんだが、問題はその内容にあった。

 

 20分少々という時間の中で、416は20回以上負けていた。

 つまり、平均すればワンゲーム1分未満で決着が付いてしまっている。通常なら有り得ない早さだ。キルハウスはそう広いスペースではないが、それでもお互いのスタート地点からはそれなりの距離がある。単純に走るだけなら1分あれば相手陣地に十分辿り着けるのだが、それは敵が居ない前提での話だ。相手がどこに居るのかも分からず、どういう戦術を取ってくるかも不明なまま、音を出しまくって真っ直ぐ走るなんて芸当は馬鹿か狂人くらいにしか出来ない。そんなクレイジーな立ち回りを全ラウンドで行いながらその全てで競り勝っている。信じられん。あいつ天井に目でもついてんじゃないのか。一方的な敗北をかれこれ20回以上繰り返されて尚壊れない416のメンタルも流石と言ったところだが、実のところ416の服装は全く汚れていない。その代わり、ペイント弾にまみれたシューティンググラスを20回程付け替えている。

 

 

 M16A1は全てのラウンドで、HK416をヘッドショット一発で沈めていた。

 

 

 いや、引くわ。ドン引きだよ。お洗濯物が増えなくてよかったねーってレベルじゃないよ。AR小隊の他の連中は静かなるドヤ顔を披露しているが、お前らそれ誇るところじゃないからな。子供相手にムキになった大人かよ。見てるこっちが恥ずかしいわ。対照的に、同じく観戦していたナインとUMP45は完全に無の表情である。そりゃアレを見て「ドンマイ!」なんて声を掛けられるような鋼のメンタルは誰も持ち合わせちゃいないだろう。心配するな、お前たちの反応が正しい。繰り返すが俺もドン引きしてる。416の動きも見たかったんだが、全然見せ場無かったし。

 

 と、とりあえずお互いの格付けは済んだ、と見ていいのだろうか。416が膝を突いたということはこれ以上継戦の意志はないと見ていいだろう。お通夜みたいな空気が漂いまくっているが、俺はこの場を預かった責任者として、何としてもこの誰も望んでいない殺戮ショーの幕を下ろさなければならない。それに、僅かではあるが収穫もあったしな。

 

「……いや、すまん指揮官。やりすぎた」

 

 ほんとだよ。キルハウスを後にし、こちらに戻ってきたM16A1の第一声がこれだ。流石に反省しているのか、その表情は圧倒的勝利を掴み取った勝者の顔ではなかった。だが、それでも416へは掛ける言葉が無かったのだろうな。416の精神をどん底に投げ落とした張本人であるM16がどんな声をかけたところで、彼女の電脳には1ミリも響かないことだろうし。

 

 まぁ、ここまでの惨状は予想出来なかったが、二人のキルハウスでの勝負を容認したのは他ならぬ俺だ。であるならば、その尻拭いは俺がせねばなるまいよ。うーむ、そうだな。416、返事はしなくていい、とりあえず今だけは俺の言うことを聞いて欲しい。ちょっとその場で目の前の壁に向かって何発か撃ってみてくれ。

 俺の言葉に従い、彼女は一言も発することもないままHK416を構え、撃つ。ダダン、ダダン、と、キルハウスにむなしい射撃音が鳴り響く。ふむ、やっぱりかぁ。えーっと、UMP45でいいや。ちょっと肩貸して。

 突然のご指名を受けたUMP45は一瞬びっくりしたような表情を見せながらも、素直に俺に従ってくれる。いやぁ、きっと彼女も色々思うところはあるんだろうが、諸々の感情は置いといてひとまず言うことを聞いてくれるってのはすげぇあり難い。お前いい隊長だと思うぞ。違ってたらごめんだけど。別に肩を借りるのならAR小隊の誰かでも良かったんだが、多分今の状況でAR小隊が416に接近するのは望ましくない。ここは同僚の方がなんぼかマシってもんだろう。

 

 俺はUMP45の肩を借りて車椅子を降り、ケンケン歩きをしながらキルハウス内の416へと近付いていく。距離が近付くにつれ416の魂の抜けたような、しかし怪訝そうな表情が見て取れる。何をするんだって顔してんなあ。まぁその疑問を持つ気持ちも分かるっちゃ分かるんだが。俺はそのまま416に先程と同様構えを取らせ、身体を密着させていく。足さえあれば俺が手本を見せてやれるんだが、生憎そうも行かないからな、直接矯正するのが一番手っ取り早い。むさいおじさんが密着してしまっていい気分じゃないだろうが、教育のためだ、少し我慢してもらおう。

 

「!? ちょっ何を……!?」

 

 無視無視。突如騒ぎ出す416を努めてシカトし、そのまま俺は416の射撃体勢の矯正、特に腰から下の下半身の角度と左腕の調整に入る。思ったとおり、こいつら俺が面倒を見ている人形と違ってろくな教練を受けていなかった。AI自体には銃のスペックが全て詰め込まれているが、義体の方はそうじゃないってのはAR小隊で学んだことだ。正解を教えられないまま実戦に放り込まれ、そこで生き抜くために我武者羅に扱った結果、我流が染み付いてしまったんだろう。特に自律人形であるこいつらは人間と違って義体の疲労という概念がない。多少無理な姿勢であっても、真っ直ぐ弾が飛べばそれが正解だと思い込んでしまう。なまじ義体のパワーがある分、反動や取り扱いを腕力でねじ伏せてしまうのだ。それでずっとやってきたんじゃ最適化工程も進まないはずだ。ほんとこいつらよく実戦で死ななかったな、脇が開いたまま銃構えてマトモに扱えるやつなんて人間じゃまず居ないだろう。あーあー、重心の置き方もメチャクチャだ。これじゃ単発ならいいが、少しバラ撒くとすぐにブレちまう。よし、とりあえずこれでもう一回撃ってみろ。

 

「……嘘、軽い……?」

 

 俺の姿勢矯正を受けた416は再度ダダン、ダダン、と壁撃ちを始める。先程とは明らかに2発目、3発目の着弾精度が違っていた。おー、流石AI。一度教えればすぐそのまま出来ちゃうのはやはり大いなる利点だな。あと多分だが、そのフォアグリップ後で取り替えた方がいいかもしれん。体格と腕の長さから言えばバーティカルよりアングル付けた方が合うんじゃないか。ま、そこは好みの範囲だけどな。よし、もう一回。

 

 ダダン、ダダン。

 

 うーん、下半身の重心を矯正した影響か、ちょっと上半身がブレて来たな。サイトを覗く時に首を持っていくんじゃない、肩と胸を寄せるんだ。銃は常に自身の中心に据えることを意識しろ。人間も自律人形も二足歩行のヒト型である以上、背骨と腰が軸になってるんだ。完全に真ん中に置くことは構造上不可能だが、非力な人間でも今のお前より上手く銃を扱えるヤツは沢山居る。力だけで御する考えは今ここで捨てて行け。よし、もう一回。

 

 ダダン、ダダン。

 

 おー、いい感じ。ほとんどブレが無くなったぞ。やっぱこいつら特殊部隊に放り込まれてるだけあって、素のスペックが高い。余計な情報が刷り込まれてしまった状態でこの吸収力ってのは素直にすごい。AR小隊の時は白紙の紙に正解を書いていくだけだったんだが、こいつらの場合は落書きを一度消してから上書きしなきゃならない。それでもあっという間に出来てしまうってんだから、電脳ってずるいよなぁ。

 

 とりあえずこれで俺の言うことを多少は聞いてくれるようになれば助かるんだが、どうだろうな。M16A1とのやり取りを見ていても、こいつプライドめちゃくちゃ高そうだからそう上手くは行かないかもしれない。

 

「……指揮官」

 

 幾度かの射撃を終えた416が、その表情を落ち着かせて俺に声を掛けてくる。お、なんかさっきよりも随分すっきりした顔してるな。

 

「私も……何時か、やつらを超えることが出来ますか」

 

 出来る。確信を持って言える。ほんの少し教えただけだが、416の吸収速度は相当早い部類だ。その速度たるや、AR小隊に勝るとも劣らない。というか、HK416もいい銃だしそれを十全に扱うためのお前なんだから、AR小隊と同等以上の力を身に付けてもらわないとこっちが困る。お前が望むなら今後の教育スケジュールを組んでもいいくらいだ。いや、それとも戦場で片足を失うようなお節介焼きの教練は余計かな?

 

「いえっ! ……先程は、申し訳ありませんでした」

 

 おう、素直な子は嫌いじゃないぞ。まあ今後ともよろしく頼む。

 いやあ、思ったより上手く行ったなあ。教官という立場ではなくなってしまったが、やっぱり素質のある子を育てるってのは何時になっても楽しいものだ。スコーピオンやM14なんかも決してデキが悪いわけじゃないんだが、やはりAI自体に差があるのか、ここまでではなかった。普段ほとんどやらない直接の指導なんかもしちゃったし、まぁこれは余りに不憫な416を放っておけなかったってのもあるんだが。

 

「指揮官ってすごい人だったんだねぇー! 私も! 私も教えてもらってもいい!?」

 

 しばらく俺の教導を眺めていたナインが、何時の間にやら目を輝かせてキルハウスに雪崩れ込んできていた。待て待て待て落ち着け。全員面倒を見てやりたいのは山々だが、指揮官としての通常業務もあるんだ。ちゃんと予定立ててからやらせてくれ。

 

「……ふふ、私もお願いしたいかなぁ。ね、いいでしょ? しきかぁん?」

 

 うわびっくりした。耳元でいきなりねっとりした声を出すんじゃない。焦るだろうが。俺の半身を預けているUMP45が必要以上にその顔を寄せて呟いてくる。こいつ、絶対楽しんでやってるな。いい隊長だとさっきは評価したが前言撤回。そんな悪い子の面倒まで見るほどおじちゃんお人好しじゃありません。

 

「指揮官!? 私の動きも見ていただろう、改めて私にも指導してくれるよな!?」

「指揮官、私もアタッチメントの相談に乗って頂きたく!」

「皆ずーるーいー! 私も私もー!!」

「あ、ちょ、あの、えっと、し、指揮官!?」

「いいなー、アタシももっと教えて欲しいなー」

 

 うるっさいわ! お前らこの前見たばっかりだろうが! あとAR-15は何なんだはっきりと言えはっきりと! ポンコツかお前は! ついでにスコーピオンもちゃっかり復活して一緒に突っ込んでくるんじゃない。

 ナインの突入を皮切りに、俄かにざわめき出すキルハウス内。しかし悲しいかな、ナインとUMP45、スコーピオンはともかくとして、AR小隊に関しては正直俺が教えられることはもう残っていない。俺の持つ技術と知識はほとんど全部叩き込んでしまったからな。俺の足が健在でコンディションが絶好調だったとしても、20回以上の遭遇戦を全てヘッドショットで勝つなど不可能だ。もう俺なんぞでは逆立ちしても勝てなくなっているくらいにあいつらは強い。

 というかそもそも、今から全員の面倒を見れるほど俺も毎日暇を持て余しているわけではない。今日は404小隊の3人が来るということで挨拶を最初に済ませようと予定を組んだがために、書類仕事がまだ一切進んでいないのだ。

 

 つー訳で模擬戦は終了! 半ば強引に宣言し、寄ってきた人形どもを散らしながらUMP45に車椅子まで運んでもらうことにする。何だかんだ2番手に手を挙げていたUMP45だが、しっかり俺の言うことを聞いて車椅子まで戻してくれるあたり、やはり先程のは面白がって乗っただけであってちゃんと状況が分かっている。今もどこかの宿舎で寝ているであろうG11を筆頭に癖が強い連中を纏めている分、こいつ自身の癖も強そうだが、基本はかなり頭が回るやつなんだろうな。所々でオイタをやらかしそうな雰囲気はあるが、恐らく許せる範囲だろう。

 

 さて、とりあえずはこのまま司令室に戻って通常業務に戻らないとな。404小隊の宿舎の都合も正式に付けなきゃならんし、装備品なんかのチェック、あとこいつらの最適化工程も正確に把握しておかなければならない。しばらくはバタバタした日々が続きそうだが、まぁこれは一時的なものだろう。というかそう願いたい。

 

 

 

「指揮官。さっきは無礼な物言いをしてしまって本当にごめんなさい。お詫び、というわけではありませんが、今日一日貴方の傍で働かせて頂きます」

 

 そう言いながら俺の傍に自然な動きで近付き、車椅子の手押しハンドルを握ったのは416だった。いやぁ、別に気にしなくてもいいぞ、多分俺だって同じ反応するだろうし。これから頑張ってくれればいいさ。あと済まないが、車椅子は自分で動かすからその手をどけてもらえるか。数少ない運動の機会なんだ。

 

「おい待て、お前まだこの支部のことを詳しく分かってないだろう。指揮官、誰かを404小隊の案内につけた方がいいんじゃないか?」

 

 早いよインターセプトがさぁ。俺の後ろに416が付いたと思った次の瞬間にはM16がその距離を縮めており、体よく416を剥がしながら俺の後ろをキープしようとしていた。いやだから車椅子は俺が動かすっつってんだろ。話を聞け。

 

「それでしたら、M16姉さんが仲直りも兼ねて案内してあげては?」

 

 ウワァーこいつ味方ごと斬り捨てにきやがったぞ。あとM4も俺の後ろを取るんじゃない。話を聞け。ていうかこの展開見覚えがある気がする。嫌な予感しかしない。

 

「私は折角だし指揮官に案内してもらいたいかなぁ。ね、いいでしょ?」

 

 UMP45貴様ーッ! 面白半分で話をごちゃ混ぜにするんじゃない! どこもよくねえよ! 仕事があるっつってんだろ! こいつマジで愉快犯だな、ある意味で一番油断ならないキャラなのかもしれん。あとSOPMODⅡは無言でにこにこしながら俺の膝に乗るのをやめろ。可愛いのは認めるが重い。

 

「ちょっとー? この支部じゃ一応アタシの方が先輩なんだけどー?」

 

 ワァーお前まで参戦するんじゃないスコーピオン! お前完全に流れに乗っかっただけだろ。もーどうすんだこれ。まぁいいや。いや良くないけど、最初みたいな険悪な空気が無くなっただけマシってもんだろう。とりあえず司令室まで戻ってから今後のスケジュールを組み立てるとするか。こいつらに構ってたら時間がいくらあっても足りない。

 

 

「あ、指揮官さま! こんなところに!」

 

 わちゃわちゃと騒がしい空間に、また一人追加で騒がしい人間が突っ込んできた。あー、そういえばカリーナにはキルハウスに行くこと言ってなかったな、しまった。多分俺を探していたんだろうなあ、悪いことをしてしまった。足早に近付いてくる彼女の手には、一枚の書類が抱えられている。うーむ、今日はそんな緊急性の高い書類は無かったと記憶しているんだが、何か突発の依頼なりが入ったんだろうか。

 

 

 

 

「この前は結局お決めになりませんでしたけど、副官の件、どうするんです? そろそろ本部に申請を通しておかないと」

 

 

 

 

 あっおい馬鹿やめろ。




誰にシヨウカナー?


※編集追記となってしまい恐縮ですが、12月9日から始めた前作より僅か三週間少々の期間、お付き合い頂きまして誠にありがとうございます。
2019年ものんべんだらりとこちらの作品を続けて行けたらと思いますので、どうか末永いお付き合いの程、よろしくお願い申し上げます。

それでは皆様、よいお年を。


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07 -プロデュース404-

新年明けましておめでとうございます。
今年ものんべんだらりとよろしくお願い申し上げます。


「指揮官さま、要決裁の書類はこちらに。いつも通り輸送物資報告と在庫状況についてはこちらのファイルに纏めてありますわ」

 

 キルハウスでのごたごたから少しばかり時計の針を進めた時分。漸く通常業務に腰を落ち着けられた俺は、とりあえず午前中のルーチンに設定してあった書類整理から始めていた。かさかさと書類をめくる音、ペンを走らせる音のみが静かにその存在を主張することしばし。俺の隣のデスクで書類を纏めていたカリーナから声が掛かる。

 

 カリーナより先刻告げられた副官選択。結論から言えば、俺はその役目に教えてくれた本人を指名した。理由は幾つかあるが、まず大前提としてこの副官制度、指揮官の義務らしかった。着任してから多少の猶予期間はあるものの、いつまでも不在というのはグリフィンが定めた規則上どうやらダメらしい。なんだそのどうでもいい制度は。それよりもっと整えるところあるだろ。でまあ、今まで特に気にせず放置していたものだから、痺れを切らしたカリーナがいい加減迫ってきたということだ。

 副官制度のことを人形がほとんど揃っている場面で言ってしまったものだから、割と反響は大きかった。中には我先にと立候補してきたやつも居るが、悪いが今のところあいつらを副官として常に傍に置く予定はないんだよなあ。

 

 理由その一。そもそもあいつらは戦うための人形であって、俺のお手伝いが本業じゃない。より正確に言うならば、戦って勝利を齎すことこそがあいつらが俺に出来る一番のお手伝いである。別に戦術人形を副官に指名するデメリットがあるわけじゃないんだが、彼女たちは作戦指示が下ればそれに従わなければならない。戦闘が本分なのだから当然だ。そうなれば必然、司令室で俺の補助なんてしている場合じゃなくなる。書類仕事なんかを任せている途中に緊急任務なんて差し込まれてみろ、彼女たちはそれらを途中放棄して戦場に向かわなければならなくなる。その仕事を引き継ぐのは当然、俺だ。進捗を引継ぎして半端なところからバトンを貰うより、それなら俺が最初からやった方が早い。幸いながら、猫の手も借りたいような状況でもないしな。

 

 理由その二。彼女たち戦術人形は、書類仕事を知らない。AR小隊なんかは作戦報告書の書き方読み方まで俺が仕込んでいるから多少の例外ではあるが、それでも物資状況程度ならともかく、貸借対照表や損益計算書、CFなんかを読み解けるレベルには達していない。ていうか商品である彼女たちに経営状況まで見せてしまってもいいのかという別の問題もある。そんな彼女らに仕事を一から教えていたのでは余計に手間がかかるし、戦術人形のAIを余計なことに使いたくない。

 つーかめちゃくちゃ今更なんだがこの会社、株式であってるよな? 腐っても一応は民間企業なんだから決算書類くらいあって然るべきなんだが、その辺どうなってんだろう。支部の物資状況は分かるが、本部の経営状態までは流石に分からん。うーむ、まぁ大丈夫か。軍事企業なんだからこのご時世、お抱えの戦力を欲する団体なんていくらでもある。I.O.P社ともズブズブだろうし、そこら辺はクルーガーの手腕に期待しておこう。あいつなら早々ヘマはしないだろ。

 

 そんなわけで、誰かを指名しなきゃいけないということなら最早カリーナ以外の選択肢が残されていないというわけだ。俺としては今でさえ既に相当な負荷をかけている彼女に更なる負担を押し付けるのは些か申し訳なくもあったが、他に手がない。一応簡単な話し合いの末、カリーナには普段の仕事を優先してもらい、こうして職務時間中に手が空いた時に俺の仕事を少し手伝ってもらう程度というところに落ち着いた。詰まるところ今まで通りって感じだな。やっぱりこの制度本当に必要か考えてしまう。どう好意的に解釈しても必須にするほどの重要性は見当たらないんだが。

 

 

 さて、そんなどうでもいいことよりも、俺には今優先して取り掛からねばならんことがある。それは404小隊の教育訓練スケジュールの考案だ。それぞれ正確に最適化工程を調べてみたんだが、ナインが33%、UMP45が35%、G11が36%ときて、416が39%であった。416が一つ抜けているのは朝のキルハウスでの1件が影響しているんだろう。正しい射撃姿勢を少し教えただけなんだが、恐らく今まで電脳に刷り込まれていた体勢よりも効率がいいとAIが判断したんだろうな、一気に上がったっぽい。あれだけで効果が出るんだからやはりこいつらのAIは非常に優秀だ。下手したらマジでAR小隊を凌駕しかねない。

 訓練に関しては今日の午後から早速基本的なところから行おうと思う。とりあえずはじめに基礎の部分を叩きなおしてから、AR小隊の時と同様に様々なシチュエーション、バリエーションの射撃訓練だな。最初に実戦を経験している分、416もそうだったが変な癖が付いてそうだから先ずはそこを徹底的に矯正する。多分あいつらならそれだけでかなりマシになるはずだ。

 そこで恐らく俺の都合もあって数日は費やすだろうから、その後は座学で一通り戦略、戦術、技術の取り扱い方を学んでもらう。AR小隊の時は先にキルハウスの訓練に入ってしまったから、その教訓を活かして先に知識から叩き込む。作戦報告書はウチの支部が過去に行った作戦資料がそれこそ山のようにある。カリーナに感謝だなあ、俺一人じゃあの量は捌き切れなかった。

 

 後はあいつらの成長具合を見ながら臨機応変に進めていくか。というか俺も当時と違い教官って立場じゃないから、毎日付きっ切りで訓練出来るほどの時間は確保できそうにない。404小隊の面倒だけを見るわけにもいかないしな、もっと育ててやらないといけないやつも居るわけだし。

 

 おっと、そうこう考えているうちに無慈悲にも時間は過ぎ去ってしまうもので。カリーナも一旦業務を終わらせて昼メシにしよう。その後は404小隊の連中を呼んで訓練開始だな。いやぁ、スコーピオンやM14、M1911にもやったことだが、自身が教練の場に立つのは何度やっても楽しさがある。特に人形たちは皆基本が優秀だからな、楽しいったらありゃしない。うーん、これは本気で義足の発注も視野に入れるべきかな。一通り落ち着いたら本格的に検討しよう。

 そうそう、404小隊だが、彼女たちはうちの支部では第三部隊として扱うことにした。第一部隊がAR小隊、第二部隊がスコーピオンを隊長とした3人、第三部隊が彼女たちって感じだ。単純に上から順番に詰め込んだだけなんだが、今更変更するのも面倒くさいのでこのまま行くことにした。

 うーん、第一と第三は当面今のままで良いとして、第二の扱いをちょっと考えておかないとな。というのも、現状うちの支部の人形たちはガンタイプが些か偏ってしまっている。扱える銃が均一だと、自然と作戦も似たり寄ったりのものになってしまうので、戦術に幅を持たせにくい。将来的な話にはなってくるが、前に出るのが好きなスコーピオンを第一に異動させてバランスを取り、第二に新たなタイプの人形を配属して趣を変えるのもアリだと思っている。まぁその為にはスコーピオンの錬度を爆上げさせるのが大前提なんだが。それか、ちょっと無理してでもI.O.P社に何体かまとめて発注をかけるのもありかもしれん。どうせ教育はするんだし、一まとめの方がこっちも楽だ。人形も同期が居た方が何かとやりやすいだろうしな。この辺も後でカリーナと相談しとくか。

 

 考えることは山積みだが、そのどれもが前向きな課題なのでそこまで苦ではないってのがありがたいな。さて、ちゃちゃっとメシを済ませてあいつらの教育と洒落込むか。

 

 

 

 

 

「404小隊、UMP45以下4名、全員集合完了ですよ~」

 

 昼飯をカリーナとともに終わらせてから程なく。グリフィン支部に設けられた簡素な射撃訓練場に俺と404小隊の4人が揃っていた。G11は立ったまま寝るな。起きろ。先程までは起きるまで待つかどこかに引っ張って行けばよかったんだが、今から大事な大事な訓練である。そうは問屋が卸さないのだ。ということで、何回か呼びかけてもまともに目を開けなかったので、挨拶代わりに軽めではあるが平手でシバいておいた。こいつ背が低いから車椅子に座った状態でも手が届くのはありがたい。遠慮なくどつける。

 

「!? ……? ……!?」

 

 よう、目が覚めたかお寝坊さん。悪いが俺はお前の親でもないし兄でもない、今ここにあるのは確立された上下関係だけだからな、多少大目に見る場面もあるが締めるところは締めていくぞ。G11が俺のことをナメている、とまでは言わないが、素を出していいところとそうじゃないところはしっかり線引きさせておかなきゃならない。AR小隊をはじめこの支部では割と好き勝手させている連中も多いが、それはあいつらがちゃんとやる時はやるし、やることをやっているからだ。戦術人形としての義務を果たさないやつに与える慈悲はない。何か周りの3人も驚いているが、言っておくがこれでもかなり甘い方だからな。俺基準で言えば素手の時点でかなり有情である。しかも蹴りでもなくグーでもなく平手だ、これが甘くなくて何なのか。あ、そうか。こいつら俺の過去を知らないんだった。ついAR小隊の時と同じノリでやってしまったな、いかんいかん。

 

 ハイ反省終わり。さて、気を取り直して始めようか。

 挨拶もそこそこに、早速訓練に入る。俺の時間もカツカツなんでな、余計な時間は取られたくない。G11も先程の一発が効いたのか、第一印象とはかけ離れたきびきびとした動きだ。お前それが出来るなら最初からやれ。

 皆が所定の位置に付いたのを確認し、俺は号令を出す。それを合図として思い思いに皆自身の武器を手に、的撃ちを始める。お、416は結局グリップ替えたんだな。好みの範囲だっつったのに。

 

 まずナインとUMP45だ。こいつらは上半身のブレは然程でもないが、下半身の構えがメチャクチャだった。あとサイトを覗かない、いわゆる腰撃ちが染み付いているようだ。多分武器もそうだろうが、任務の都合上、常に動き回る前提で扱っていたんだろうな。そういえば416も同様の欠点を持っていたな、余程過酷な任務だったんだろうか。

 ということで、まずはナインの矯正から入る。その間UMP45には肩を貸してもらおう。416にやったのと同じように射撃体勢を取らせ、それを俺が矯正していく。腰撃ちや片手撃ちなんかも、当然シチュエーションによっては行うこともあるだろう。だが間違ってもそれが標準ではないってことをしっかり教えてやらねばならない。何度かナインに試し撃ちをしてもらい、しっくりきたところで今度は交代。ナインに肩を貸してもらってUMP45の矯正を同様に行っていく。うーむ、やはり416だけでなくこいつらも優秀だ。しっかり教えたことを過不足無く吸収していってくれる。

 

「しきかぁん、距離が近いよぉ? 変なこと考えなあだぁっ!?」

 

 うるせえ真面目にやれ。姿勢の矯正中、耳元でまーたおかしな声色で囁こうとしていたUMP45に脳天からチョップを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 ふーむ。そうかそうか。なるべく考えないようにしていたが、お前らもしかしなくても、オレをナメてるな? そりゃまぁ、傍から見れば片足を失った出来損ないの新人指揮官だ。客観的評価としてそこは認めよう。だが、如何にグリフィンの暗部を担う特殊部隊とはいえ、クルーガーの指示の下お前らはオレの指揮下に入ったわけだ。であれば、経歴や所属なんざ一切関係ない。指揮官とその配下にある戦術人形。この状況から導き出される事実は一つしかない。

 

 オレが上で、お前らが下だ。

 

 射撃訓練なんかよりも前に、そこをきっちりと教え込んどかなきゃいけなかったか。うーん、なんだかんだオレも鈍ってしまっているな、そこを見誤ってしまうとは。

 優秀であることは上下関係軽視の免罪符にはならない。ここは軍隊ではないが、軍事企業として指揮命令系統は十全に機能させておく必要がある。大体のことは大目に見ているが、訓練中と作戦行動中のおふざけは一切許すつもりはない。お前個人が死ぬならいいが、それが原因で周りが死ぬこともあるんだ。そもそも、オレの教育訓練を望んだのはこいつらだ。G11は知らないが。自らが希望した訓練に真面目に取り組まないなどフザけているにも程がある。

 

「え、えっと、指揮官? 顔が怖いんだけっだぁぃだぁっ!?」

 

 だーれが喋っていいっつったよ。前を見て撃て。今のお前に許される行為はそれだけだこのアンポンタンが。うーん、足がないって事実がこんなところで更に不便を感じさせる結果になるとは思わなかったな。蹴りが出せない。出来の悪い新兵を躾けるには軍人としての教育的指導(上下関係の刷り込み)が一番手っ取り早いのだが、今の状態では満足に力が出せない。困った。

 

「指揮官、私もご指導の程お願いします」

 

 UMP姉妹の矯正をしていたら、一心不乱に的当てを繰り返す416がその視線をターゲットに固定したまま声を投げ掛けてきた。うんうん、真面目に取り組んでくれて何よりだ。ただ、416に関しては今朝方の指導で通常姿勢での射撃に関してはかなり満点に近い状態になったから、今のまま続けてもほぼ無意味だな。よし、こいつには一足先に覗き込みや片手撃ちなんかのシチュエーションを想定した撃ち方を教えていくか。あまり時間も無いしサクサク行こう。ああ、ナインとUMP45はオレが教えた姿勢で反復射撃を少しの間繰り返しとけ。それだけで大分マシになる。

 

「さ、さーいえっさー!」

 

 俺の言葉にいち早く反応して元気よく応えたのはナインだった。うーむ、別にここは軍隊じゃないからそんな返事まで畏まらなくてもいいんだが、ちょっと刺激が強すぎたのかな。めちゃくちゃ甘めにやったつもりなんだけど。俺のことを敬ってくれたりちゃんと上官として見てもらう分には何も問題はないのだが、萎縮されると少し困る。訓練中にコロコロと態度を変えるのもおかしい話なので、今日の訓練が終わったら少し話もしてみるか。なんだかんだお互いのことをほとんど知らないままだしな、と言っても俺が語れるのは偽の経歴だけなんだが。

 

 

 よーし、そうと決まれば今日の訓練はビシバシやってしまおう。おじさん張り切っちゃうぞー。




筆者も忘れそうになるんですがこのおじさん、元々バッチバチの軍人でしたわ(震え


おじさんの一連の考え方や行動など、今後もこういった前作読破を前提とした情報は機会があれば積極的に組み込んでいきたいなと考えてます。

しかし、そろそろ何かイベントでも差し込んで物語自体を前に進めて行きたいなという欲と、だらだら日常を書き連ね続けたいという欲がせめぎ合っております。でももうちょっと人形の数も増やしたいところ。悩ましいですね。


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08 -推定迷子一名-

正月ダー、といっても、かれこれ15年くらい独り暮らしなんで別にやることないんですよねえ。
ということで更新しちゃう。

ちなみに前話なんですが、実は割と読者を振るい落としにかける勢いで書きました。理由はどうあれ戦術人形に手をあげるって中々ないでしょうし。
でもまぁなんか大丈夫っぽいのでこれからも好き勝手のんびり書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。


 はー疲れた。久々にちょっとハッスルしてしまった気がする。足が無い以上動き回れるわけじゃないので、肉体的な疲労はそんなでもないんだが、一つ一つ腹から声を出してやっていたらまぁまぁ疲れるな。最近そういう場面も無かったから身体の衰えをひしひしと感じる。うーむ、寄る年波には勝てないということか。有機生命体な以上これはもう逃れられない運命なんだが、こういう時はちょっとだけ人形たちが羨ましくも感じる。人間であれば切断不可避な重傷も施設と人員と物資さえあれば元通りに出来るんだもんな。人形すごい。

 

 午後の射撃訓練は俺が張り切っちゃったせいか、あいつらの基準で言えば随分とハードなものになってしまったと思う。多分、今までは誰かの指示で作戦行動に入るってことはあったんだろうが、こうやって明確に上司部下の関係のもとで訓練を行うって経験はなかったんだろうな。416もずっと私たちだけでやってきたと言っていたから、彼女たちが置かれていた凄惨な環境は推して知るべしだ。良くも悪くも自己流というか、そういうものが染み付いてしまっているように感じた。

 ただ、訓練の甲斐あってか彼女たちの悪癖はあの時間でかなり矯正出来たはずである。ちなみにトータルの出来栄えで言えばやはり416が一番伸びていた気がするな。あいつはプライドこそ高いが根が真面目だ。変な対抗意識というか、潔癖の節があるのが玉に瑕だが、まぁそこまではとやかく言うまい。如何に彼女たちが人形であろうと、製造されてから今まで培われてきた感性や環境もあるだろう。それら全てを否定出来るほど俺は偉くないしな。

 

 

「指揮官……お片付けと、全員ごはん……終わったよー……ふぁ」

 

 先程の訓練を思い返しながら一日の業務のとりまとめをしていたら、正面ゲートを潜ってG11が司令室に姿を現した。おお、何だかんだこいつが自発的に動いてるところを初めて見た気がする。404小隊には訓練を終えて一段落ついたらちょっと話をする時間が欲しいと伝えていたんだが、伝書鳩にG11が来るとは予想外だった。めちゃくちゃ眠そうだが、頑張ってその役目を全うしてくれたやつはちゃんと褒めてあげないとな。ありがとな、とその頭をくしゃくしゃとしてやれば「えへへ」と眠たそうな嬉しそうな、そんな声。うーん、何かSOPMODⅡとはまた違った癒し成分を持っているなこいつ。職務時間中の居眠りさえなければ非常に貴重な存在かもしれん。めっちゃほっぺ柔らかいし。

 

 さて、それじゃあ行くとしますかね。AR小隊の時と違って、知り合って間もないおじさんが彼女たちの宿舎にこちらからお邪魔するのはいくらなんでもよろしくないだろうから、支部の食堂でも借りてお話するか。未だに掴めないのだが、人形とは言え年頃の女の子たちってどういう距離感が適切なんだろうな。独り身のおじさんには難題過ぎて困る。まぁなるようなるか、今までもそうだったんだから。

 

 

 

「やー指揮官! 今日はありがとね! 何か強くなった気がするぞぉ!」

 

 開口一番、ナインの元気な声が響き渡る。パッと見は今朝と変わらない様子で一安心ってところだな。下手にビビられたらどうしようかと思っていたが、そんな軟なメンタルではなかったようだ。いとありがたし。

 

「こんばんは、指揮官。貴方に叩かれたところ、まだ調子が悪いんだけど。これはセキニンを取ってもらわないとだめかもしれないなぁ?」

 

 うっわこいつ懲りてねえ。しかし一方で、これがUMP45のいつも通りなんだろうなと予測がついた。きっと今まで、誰が相手でもこうやって距離を近付けておきながらも自分で一線を引いてきたんだろうな。その過去に何があったかまで聞くつもりはないが、まぁこれが自身で選んだスタイルなら俺は何も言わない。大目に見るところは大目に見て、締めるところは締める。それだけだ。

 

「指揮官、今日はありがとう御座いました。また一歩、やつらに近付けたと感じます」

 

 うーん、真面目。そこが416の美点でもあるんだが、もう少し肩の力を抜いてもいい気はする。いくら人形だとは言え、常に100%フルパワーでは身が持たないと思うんだが。

 

「ふぁ……指揮官、もう寝てもいい?」

 

 お前はもうちょっと真面目にやれ。

 

 そんなこんなで、食堂に場所を移すつもりが何故かそのまま宿舎でお話をすることになってしまった。何か距離感近くない? 俺とお前ら今日が初対面のはずなんだけどな? おじさん困惑。

 

 トークのお題目は特に準備していない。この支部にきてどうだとか、まだまだ新設の支部だからお前たちを頼る場面も多いからよろしく頼むとか、訓練に何か希望はあるかとか、別段用意するまでもない、取り留めの無い話を少しばかりやるだけだ。こういうのは下手に仲良くなろうだとかお互いを知ろうだとか気構えちゃいけないのだ。まずは「俺たちは普通に話をしていいんだ」という共通認識を植えていくことが大事である。信頼関係の第一歩は会話からだ。そこで欲張っちゃいけない。話をする土台が出来上がれば、後は勝手に喋りたいことを喋ってくれるし、言いたくないことは言わないだろう。一方的な甘受も拒絶も違う、選択の余地を常に残すことが余裕を生み、余裕は安心を生み、安心は信頼を作り出す。一朝一夕で仲良くなろうなんて土台無理な話だしな、まずは一方的な嫌悪とかネガティブな感情がなくなってくれるだけで問題はない。

 とは考えていたものの、こいつらの反応を見る限りそれも余計な心配だったかな、と思う。いい意味でこいつらは今朝の印象と変わりが無い。普段通りというやつだ。曲がりなりにも特殊部隊として動いてきたんだから、そんな少々の刺激でおいそれと変わってしまうものでもなかったらしい。うーん、今回は俺がこいつらをナメていたようだ。反省。

 

 そうやって幾つか話題の種を提供しながら会話をしていると、いよいよG11が限界なのか、うつらうつらと舟をこぎ始めた。今は訓練中でもないし俺が言い出したことに時間を割いてもらっている状況だ、無理強いは出来ない。ちと早いが切り上げにかかるかな。俺は他の3人にすまんな、と視線を配らせた後、G11の正面に座る。車椅子は入り口に置いてあるからハイハイみたいな動きになってしまった。ちょっと恥ずかしいなこれ。

 

 おーいG11、起きてるかー。今日はほっぺ叩いちゃってすまんな。痛かったか?

 

「んぅ……起きてるよう……大丈夫……」

 

 そっかそっか。G11は寝るのが一番好きなのか?

 

「うん……ずっと寝てたい……」

 

 なるほどなあ。ふむ、ところでG11よ。一日って何時間あるんだっけ?

 

「えぇー……そんなの24時間でしょ? どうしたの……?」

 

 そうだよな、一日は24時間だ。で、お前の希望としてはだ。出来ることなら24時間中、ご飯の時間を除いては惰眠を貪りたい。そうだな?

 

「そだねぇ……それが一番理想かなぁ……」

 

 分かる、分かるぞーその気持ち。でも悲しいかな、俺は前線指揮官で、お前は戦術人形なわけだ。それが理想なのは痛いほど分かるが、残念ながらその理想を体現できるような現実じゃあない。そこは理解しているな?

 

「…………うん」

 

 よしよし。じゃあここで問題なんだが、6時間かかる任務があったとする。普通にやればその時間で終わるわけだから、お前は残りの18時間ごろごろ出来るわけだ。だが、お前が作戦中にダラダラしてしまったせいで、6時間で済む作戦に10時間かかってしまった。ごろごろ出来る時間が残り14時間しかない。さあ困ったぞ。

 

「えぇ……それはやだなあ……寝る時間が少なくなるのは、困る……」

 

 だがしかしだ。本来なら6時間かかる任務だが、お前がちょっと頑張ったことで4時間で状況が終了したとしよう。今帰れば、残り20時間はごろごろ出来る。さて、作戦中ダラダラして得られる14時間と、少しの努力で得られる20時間。どっちがいい? どっちも嫌だは無しだぞー。

 

「うう……どっちもやだけど、寝る時間が増える方がまだいい……」

 

 だよな。勿論俺だって、416みたいに常に頑張って気を張ってろとは言わない。ただ、頑張るポイントだけ頑張ってくれれば、後はいつもより余計にごろごろしてもいいんだ。だからこれからも、頑張らなきゃいけないところだけグッと頑張って、終わったらだらーっとしよう。な?

 

「うん……分かった……じゃあ今日はもうだらーっとしていい?」

 

 勿論いいぞ。悪いな、付き合わせて。おやすみ。

 

「ん。おやすみー……」

 

 

 俺との会話を終えるや否や、そそくさと宿舎のベッドに潜り込むG11。彼女は瞬く間にその意識を沈め、すぅすぅと静かな寝息を立て始めていた。

 ふー。とりあえずこんなところか。何か女の子相手というよりは子供だましみたいな論調になってしまったが、これでなんぼかマシになってくれることを祈るしかない。ま、ならなかったらならなかったで遠慮なくシバくんだけど。

 

「おー、すごいね指揮官! 年の功ってやつ!? お子さんでもいたの?」

 

 やかましいわ、独身じゃばかたれ。あと年の功言うな、経験によって培われた話術と言え。あ、それが年の功か。

 

「指揮官、私を引き合いに出さないで頂けますか」

 

 うお、すまんすまん。ただ身近なヤツの方があいつにも伝わりやすいかなぁと思ってな。あとついでってわけじゃないが、お前も真面目なのは良いところだが、少しくらい肩の力を抜くことも覚えた方がいいぞ。訓練をサボれとかそういう話じゃなくてな、オンとオフのスイッチを自分の中でしっかりと持っておけ。能力が同じなら、当然訓練を真面目に沢山積んだやつの方が強くなるが、何もしていない時に眉間に皺を寄せたってお前のレベルは上がらないんだからな。

 

「はぁ……努力は、してみます」

 

 休む努力とは一体。うーん、こいつはこいつで重症かもしれない。G11と違って絶対に矯正しなきゃいけないことでもないんだが、偽りだろうが折角持って生まれた自我なんだ、人並み程度には大切にして欲しいっていうのはこれもお節介なんだろうか。

 

「ふふ、話をすればするほど面白い指揮官よねぇ。昔は何をしてたの?」

 

 しがない傭兵でーす。UMP45も相変わらずだなあこいつ。俺の返答を受け取った彼女はふぅん、と一応は納得したような顔を見せたものの、目が笑ってない。んー、流石にばれてはいないだろうが、俺が何か隠してることくらいは勘付いてそうだな。まぁ、それくらい頭が回るやつの方が一周回って扱いやすいというものだ。

 

 

 

 

 

『指揮官、聞こえるか』

 

 ふと、耳元に取り付けてある受信装置が震えた。口調から声の主は恐らくM16A1。こいつは司令室にある通信用デッキと違い、個人間で通信が可能な携帯端末だ。バッテリーが勿体無いから緊急時以外は使うなと言い含めて、AR小隊にのみ渡してある代物である。

 AR小隊は今、いつも通り基地周辺の警戒に当たっている。この周辺地域一帯は既にクリアとなって久しいため、早々脅威となるものは居ないはずなんだが、この通信が入るということは何か異常事態でも起きたか。404小隊との話も丁度終わるタイミングだったので、そのまま起きている3人に緊急の通信が入った旨を伝えて車椅子へと戻る。何も言わずともUMP45が肩を貸してくれる辺り、非常にあり難い。既に寝ているG11はさておいて、3人とも先程の団欒などまるで無かったかのような顔付きに瞬く間に変わっている。やっぱこいつら優秀だわ、特殊部隊ってのも伊達じゃないな。

 

 よっこいしょ、こちら指揮官ですよっと。感度良好、ヨーソローってか。車椅子へと戻り、その向きを司令室に変えながら通信に応じる。あ、404小隊は一応そのまま第二種待機な。もしかしたら出てもらうかもしれん。さて、一体何が起きたのやら。とりあえず報告を聞こう。

 

 

『支部から方位20、距離80、倒れている人影が見える。人間か人形かまでは分からない。周囲には脅威無しと判断するが、指揮官、指示を』

 

 

 

 ウワァー厄介ごとの予感しかしねえぞ。しかし発見しちまった以上放置プレイはダメですよね。ことと場合によっちゃクルーガーに直電だなあ。とりあえずM16に比較的近い位置で配置しているはずのM4を合流させる。SOPMODⅡとAR-15は念のため周辺警戒を継続。俺が出るわけにはいかないから、夜目が利くM1911を擁する第二部隊に回収に出てもらおう。支部とポイントの距離が近いから早々事故は起こらないと思うが、警戒するに越したことは無い。スクランブルってわけでもなさそうだし、404小隊はそのまま待機な。

 

 

 さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。出来れば女神だとありがたいんだがな。




女神だったらいいなぁ。具体的にはネゲヴとかKar98kとか(持ってない

G11は可愛いですね。愛でたい。
さて、ちょっと活動報告の方で簡単なアンケみたいなものでも取ってみたいと思います。
別に面倒だったり興味がなければスルーしてもらって全然構いません。
あと、アンケート通りになるとも限りません。暇潰しの一つとでも思って頂ければ、程度です。

それでは、また次回。


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09 -二度あることは三度ある-

何がって?
厄介事だよ。

活動報告の方では多数のご意見を頂き、ありがとうございました。
結果、こうなりました。


「…………うっ……」

 

 お、目が覚めそうかな? 支部備え付けの医務室に寝かせた拾い物が、ほろ苦い顔で眉を顰めてモゾリと動いた。今ここには、指揮官である俺と情報管理のためカリーナ、万が一の護衛として発見者でもあるM16A1が同席している。可能性は極めて低いだろうが、目が覚めるなり襲ってくることも考えられる。行き倒れの寝起き野郎なぞ返り討ちにしてくれるわ、と言いたいところだがこの足じゃあなあ。AR小隊の連中は銃の扱いは勿論、近接格闘術も俺がきっちり教え込んでいるから、近接戦闘においてもハンデを負っている俺より多分強い。護衛としちゃ適任だな。ちなみに他のAR小隊の面々は一旦下がらせ、周辺警戒にはイージーな回収任務を終えた第二部隊をそのまま充てている。頼むから今日はこれ以上面倒事を持ち込まないで欲しい。

 

 M16A1が発見した拾い物はどうやらI.O.P社製の戦術人形のようだった。見目麗しい女性であったこと、狙撃銃と馬鹿でかいボックスを携えていたこと、そしてI.O.P社製品であることを示すコードがあることから、民間人である可能性は極めて低い。身体中のいたるところに細かい傷が付いていたから、恐らく相当な強行軍で移動してきたのだろう。ただ、致命的とも言えるダメージはどこにも負っていなかったことから、昏睡状態に陥っているのは単純なエネルギーの枯渇と思われる。しかし、何があってこんな事態に陥ったのか。戦術人形である以上、所属無しのフリーというのは考えにくい。I.O.P社製であるなら尚更だ。普通に推測すれば、何かが起きてそれから逃げてきた、と考えるのが妥当だ。その詳細まではこいつに聞かなきゃ分からんが、まぁそれももうすぐ解決するだろう。

 

「……んん…………ここは……?」

 

 っと、色々と考えていたらどうやらお目覚めのようだ。医務室の電灯が眩しいのか、自分が置かれている状況に理解が追いついていないのか、薄っすらと目を開けたまま呆けているご様子。お目覚めの気分は如何かな? とりあえず声を掛けてみよう。耳が聞こえなくなってる可能性も有り得るしな。実際俺がなったことあるし。

 

「あ、ああ……ふぅ、貴方が私のラッキーマンなのかな?」

 

 ふむ、耳は聞こえているようだな。声はまだ弱弱しいが意識は明瞭、開口一番軽口を叩ける度量も十分、いいね、中々俺好みだ。まずは簡単に自己紹介と現状を説明しておこう。俺はこの支部を預かっている前線指揮官、タクティス・コピーだ。こいつは後方幕僚のカリーナ、横に居るのが戦術人形、M16A1だ。うちの支部の前でお前さんが倒れているのをこいつが発見してな、ひとまず医務室に運ばせてもらった。ここまで何か質問は?

 

「いや、ない。大丈夫だ」

 

 オーケー、理解の早いやつは好きだぞ。さて、起きぬけのところ悪いが、今度はこちらから質問させてもらう。質問は二つ。まずお前さんは何処の誰なのか。そしてお前の身に何があったのか、だ。答えられるか?

 

「ああ。私はグリフィンS02地区所属の戦術人形、ドラグノフ狙撃銃だ。作戦行動中、鉄血人形の群れに奇襲を受けてな、指揮系統が混乱したまま部隊は散り散りに撤退していたのだが……無線も壊れ、現在位置も分からぬまま歩き続けていたらここに辿り着いたらしい。グリフィンの建物を目にして緊張が解けたのだろうな、一気にスリープモードに入ってしまった」

 

 

 オイオイオイマジかよ。一大事じゃん。うーん、となるとこいつは単独で動いていたわけじゃなさそうだ。部隊の他の人形たちがどうなったかは分からんが、まぁあまり期待しない方がいいだろうな。しかしS02地区っつったら俺も名前でしか知らないが、ここからだと結構遠いぞ。気軽に歩いて行き来できる距離じゃないような。道中よく死ななかったなこいつ。

 ただまぁ、ここでこいつの言うことを全部信じちゃうのはタダの馬鹿がやることである。一応それが真実である前提では動くが、ことの裏付けを取らないことには何ともし難い。ということでカリーナ、クルーガーかヘリアントスに繋いで今の情報の整合性を取ってくれ。S02地区と連絡が取れれば一番早いんだが、俺連絡先知らないし。

 

 俺の指示を受けたカリーナは足早に医務室を後にする。日も沈んだ後だが、まぁどっちかは捕まるだろう。情報が確定するまではこいつを野放しに出来ないし、しばらく俺とのトークにでも付き合ってもらうか。情報が正しければこいつをS02地区に戻せば解決だし、そうじゃなければ楽しい楽しい尋問のお時間である。俺の身なんざどうでもいいが、俺の下にいる連中が無為に混乱の最中へ放り込まれるのは御免被る。

 そういえばちょっと気になったんだが、ドラグノフの最適化工程はどれくらい進んでるんだろうな。支部外秘項目なら無理に喋らせるつもりはないが、こいつの凡その力が分かれば敵の脅威度の目安も立てやすい。S02地区は近くはないためすぐにこっちまで影響が出るとは考えにくいが、立てられる対策は立てておきたいしな。とは言え、仮にAR小隊であれば鉄血の木偶どもに奇襲を受けたとて何事も無く返り討ちに出来るだろう。そもそも奇襲を受けるような杜撰な情報しかないエリアに突っ込ませるなんて馬鹿な真似はしないのだが。

 

 

「最適化工程……? 初めて聞いたな、それはどういうものなんだ?」

 

 は? いやいやいやいやいや、え? んんんんんん? ちょっとこれどういうこと? 思わずM16A1の方を振り返ってしまった俺は悪くないと思う。俺の視線を受けたM16も、マジかよ、みたいな顔をしている。ですよねー。君たちの最重要項目じゃないの最適化工程って。それを知らないってどういうこっちゃ。

 いや、うん、よし、オッケイ、切り替えよう。ちょっと意味が分からないが、ドラグノフが知らないのならこれはもう聞いても仕方が無い。ということで聞き方を変えてみよう、多分こっちの方が伝わると思う。ダミーは何体操れるんだ?

 

「ダミーか。1体なら動かせるが……それと先程のことが関係しているのか?」

 

 よし、何とか情報の取得に成功した。逆算すると、こいつの最適化工程は10%以上30%未満だ。はっきり言ってヒヨっ子に毛が生えた程度でしかない。実力で言えばスコーピオンたちと同程度だろう。んで、ここからは推測でしかないが、恐らくこいつと部隊を組んでいた連中も似たり寄ったりだな。そうじゃなければもっとマシな結果になっていたはずだ。これではもう他の部隊員の生存は絶望的としか言えない。ただただドラグノフの運がめちゃくちゃ良かっただけだ。しっかしよくそんな錬度で鉄血の奇襲を受けるようなエリアに突撃したもんだな。S02地区ってのはそこまでヤバいのだろうか。

 とりあえずまだ時間はあるようだし、最適化工程の簡単な意味でも説明しておくか。本来は人形自身が知っておかなきゃならんことのはずなんだが、何でこいつ知らないんだ。まだ少し喋っただけの印象でしかないが、そこまで頭足らずではないはずだ。

 

「ふむ、そういうものがあったのか。私の指揮官はそんな説明一切してくれなかったからな。今回の作戦も、鉄血人形が確認されたエリアを掃討してこい、としか言われなかったからな」

 

 はーーーーー、つっかえ。え、何? グリフィンの指揮官ってそんな無能しか居ないわけ? もーおじさんキレそう。プッツンしそうだよ。確かに戦術人形は商品だ。間違っても人間と同等じゃあない。そこに余計な情は要らないし、使い捨てる場面もあるだろう。ある側面から見て、その認識は正しい。

 だが、それはあくまでその商品の価値を十分に理解し、そして十全に機能させることが出来た上で初めて成り立つ理屈だ。人間の兵士で例えれば、支給された銃をマガジン分撃ち尽くしたら本体を投げ捨てて次の銃に手をつけるのと同じだ。そんな馬鹿な話があってたまるか。

 

「まぁ、私とて不安はあったさ。ただ私たち戦術人形は、与えられた指令に背くことは出来ない。そうプログラムされているからね。生き残れたことをラッキーだと感じるくらいしか今の私には出来ないのさ」

 

 鼻で笑いながら、少しばかり寂しそうなドラグノフの言葉が響く。

 ドラグノフの言う通り、戦術人形に搭載されているAIは、指揮官をはじめとしたあらかじめ登録されている上位者の命令に逆らうことが出来ない。商品に謀反なぞ起こされようものなら商売上がったりなので、それは当然の処置とも言える。意見や忠言は出来るが、一度命令されてしまえば拒否は出来ないのだ。それは理解しているが、だからといって好き勝手していいとは俺は思えない。S02地区を治める指揮官がどんなやつかなんぞ知らないが、会う機会があれば全力でぶん殴ってやりたい気分だ。戦場を預かる身としての教養ってもんが余りにも足りていない。そんなヤツを採用するグリフィンもグリフィンだけどさあ。ほんとどうなってんだよこの会社。

 

 んん? あれ? じゃあAR小隊の連中は何で昔、作戦命令に背けて……

 

「指揮官さま!!」

 

 思考の海に沈みかけた時、騒がしい音と声が医務室に飛び込んできた。うおカリーナか、びっくりした。どうしたそんな血相変えて。あ、分かってるおじさん分かってるから。どうせ面倒ごとなんだろ。今からS02地区までドラグノフを護送しろとかそんな感じだろどうせ。というかついでに周辺の掃討もやってこいくらい言い出しかねない。あのヒゲはそういうやつだ。

 

 

 

 

 

 

「S02地区を管轄していた支部が鉄血の奇襲を受け、壊滅、とのことです……。ドラグノフ狙撃銃はこのまま本支部預かりに……今のところ、生存者は、発見出来ていない、と……」

 

 

 ウッソだろお前。




ウッソだろお前(2回目


ちなみに、ご意見を頂く前に決まっていた内容は以下の通りです。
・☆5以外
・RF、SMG、HGのいずれか。
ちょっと悩んだ候補も居ますが、それはまた機会があればということで。



そういえば、ゲーム内では特に描写されておりませんが、グリフィンの数ある支部の中には鉄血に押し負けて潰れたところもあると思うんですよね。人形が悪かったのか、指揮官が悪かったのか、その理由までは分かりませんけれど。
で、そこを優秀な支部から人員を割いて奪還して、みたいなこともやってるんじゃないかなぁと。

ちなみに、クソオブクソ無能な指揮官が居る可能性、筆者は普通にあると思ってます。
G&Kも数あるうちの一つの会社である以上、コネやら付き合いやら表に出せない事情ってのは山ほど抱えてると思うんですよね。
更に前線指揮官っていうのは、衣食住を保証され自身は戦場に直接赴くこともない、このご時世で言えば中々垂涎ものの職業です。ついでに周りは美女だらけ。まぁ色々と裏で動く事柄もあるんだろうなーと。


あと、そろそろじわじわと世界観を広げて行きたいなと考えてます、ネタが上手く繋がればですけどね。


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10 -正規軍第一連隊隷下対E.L.I.D対テロ特殊作戦群第一即応部隊長-

聞いてください。

8話の最後でおじさんが女神だったらいいなぁって言ってたじゃないですか。

あの後製造回したらKar98kが出ました(マジ

ありがとうおじさん。フォーエバーおじさん。



ちなみに筆者はミリタリ関連の知識はほとんどないです。俺には小説と言うものが分からない。フィーリングで書いている。


 うーむ、言うほど火急の事態ではないとは言え、あまりのんびりは出来なくなったか。参ったねこりゃ、まだまだヒヨっ子たちの育成も終わってないんだが、致し方なし。時間は止め処なく進むし、何より有限だ。

 S02地区壊滅の報を受けて、とりあえずは動き出すべきなのだが、はっきり言ってまだまだ慌てる段階ではない。人間が徒歩でかつ無理のない範囲で移動するなら2,3日はかかる距離だが、疲労を無視出来る人形なら丸1日歩けば到達してくる距離だろう。普通であれば悠長に構えていられる状況ではない。だがしかし、ドラグノフやカリーナの報告にはどうしても気になる点がある。

 

 それは、彼女たちの部隊や支部が()()()()()()()()()()()

 

 勿論、S02地区の指揮官がキングオブ無能で周辺警戒を全く行っていなかった可能性は残る。だが、大体無能なクズってのは身の安全や保身に対してだけは非常に目ざとい。生きる価値なんぞ無いのにな。外に出す部隊に対しては使い捨ての感覚であろうと、自らの身、そして地位を守るための部隊や策はそれなりに取っていたはずである。おめでたい頭ではろくな策も出てはこないだろうが、どれだけ低く見積もっても基地周辺の警戒くらいはさせていたはずだ。てめえの身を守る策すら取らずに呆けているだけのお飾りであれば、逆にもっと早く死んでいる。ましてや、如何に錬度が低いとは言え戦術人形ならもうちょっと考えて動ける。いくら情報がない状態で作戦エリアに放り込まれようとも、ピクニック気分で地雷原を闊歩する阿呆は何処にもいない。曲がりなりにも警戒しながら進んでいたはずだ。

 鉄血の量産型人形には、考える頭がない。ただ機械的に人間や敵性人形を探し、発見し、殺すだけだ。こそこそ隠れたりしないし、連携を取ったりもしない。数だけは多いから、物量任せに真っ直ぐ進んでくるだけである。だからこそAR小隊以外のヒヨっ子どもでも、策を講じれば互角以上に十分渡り合えていた。

 

 そんな鉄屑どもが、あろうことか、奇襲。正直考えられないことだ。だが、ここで思考停止するほど俺は馬鹿に成り下がったつもりはない。相手が新しく動きを見せたなら、こっちもそれ相応に動くだけである。

 

 まずはM16A1にAR小隊を至急叩き起こしてもらう。思いの外ハードスケジュールになってしまったがちょっと今日だけは勘弁して欲しい。同時に第二部隊は撤収だな、補給と休息を与えていつでも動けるようにしておく。錬度が低い第二部隊にはあまり前に出て欲しくないが、それでも最低限の頭数は揃えておかなきゃならない。いやぁ、駒が足りないってつらいな。正規軍の時は錬度はともかくこっちも数は居たからもうちょっと楽だったしな。

 そういえばドラグノフはうち預かりになったってことは俺が指揮命令権を持ってるってことでいいんだよな。動けるか?

 

「ああ、損傷はほとんどないから大丈夫だ。ただ、すまないが配給と弾薬を少々頂きたい。現状ではまともに動けん」

 

 オーケーオーケーお安い御用だ。直ぐに第二部隊が帰投するから、配給と弾薬はスコーピオンに融通してもらってくれ。そんでそのまま第二部隊のスナイパーとして入ってもらうぞ。第二部隊にはスコーピオンに加えてガバメントとマークスマンライフルが居る。今の段階ではろくな紹介も指示も出来なくてすまないが、まぁ上手くやってくれ。

 

 

「指揮官! AR小隊M4A1以下4名、揃いました!」

 

 お、早いな。ドラグノフの方から視線を外せば、そこには俺の自慢の戦術人形が4人。M16A1から最低限の情報共有は終わっているのだろう、皆引き締まった表情をしている。油断はないが、過度な緊張もしていない。いいね、流石だ。

 人数が増えたことで少々手狭になってしまった医務室で、俺はひとまずの指示を飛ばす。本当は司令室でカッコよく行きたいところだが、まぁそんな我侭も言ってられないか。別に格好つける歳でもないし。

 AR小隊には先程と同様、基地周辺の警戒に当たってもらう。ただいつもと違うのは、鉄血人形を見つけた時のフローだ。今まで通り、馬鹿みたいに真っ直ぐ進んでくるようなら見つけ次第ぶっ倒していい。が、こちらの様子を伺っていたり、立ち止まったり、退くようなことがあれば見逃して欲しい旨を伝える。あと、あくまで推測でしかないが、今日中に鉄血人形を発見する可能性は恐らく低いはず、ということもあわせて言い含める。逆に今日その全貌を覗かせるようならば相手はかなり切れるやつだ、そん時は尻尾巻いて逃げるしかない。ついでに大盤振る舞いだ、バッテリーを食うが基地のレーダーも起動しよう。これで全周をカバー出来る。

 

「えっと……見逃すんですか?」

 

 そゆこと。てっきりいつも通りサーチアンドデストロイを命じられると思っていたのだろう、M4A1が先程の顔付きから一転、不思議そうに首を傾げていた。仕方がないなぁ、ちょっとばかしおいちゃんが解説してあげよう。

 

 今回の事態において、確定事項は一つ。そして、確認したいことも一つ。

 まず一つ、鉄血側にオツムの働くやつが現れた。

 もう一つは、そのオツムの出来がどの程度なのか、だ。

 

 今日これからの相手の出方から、概ね3パターンくらいに分けて考えることが出来る。

 

 前提としてほぼ確定的なのは、敵はS02地区にそのまま留まっているだろうことだ。普通に考えれば、折角占拠した敵の拠点を野放しにしておうちに帰る馬鹿は居ない。鉄血製の人形であれば寝床も食糧も必要ないからな、わざわざ帰投する意味がない。敵陣に更に食い込む橋頭堡として確保するのがセオリーだ。逆にそれをしないということであれば、S02地区の指揮官がガチの無能で、ただ物量に押されて負けただけの可能性が高い。そうであれば掃除する鉄屑の量がちょっと増えるだけだ、恐れるに足らん。

 

 敵が留まっていることを前提として、そこから考えられるのは3パターン。第一の分岐として、来るか、来ないか。そして来るのであれば、偵察か、強襲かだ。

 来ないのであれば敵の指揮官は「下」である。それか、現場の指揮官よりも更に上からの指示待ち状態にあるかのどちらかだ。つまり鉄血側の現場指揮官には、配下の量産型に纏めて指示を出す程度の力はあるが、そこから先を自力で考える頭がない。あるいは、更に上の存在からS02地区を落とすまでの指示しか受け取っていない。その程度であれば、多少戦力差があろうといくらでも丸め込める。これも同じく、恐れるには足りない。

 俺が逆の立場なら、少なくとも占拠した拠点周辺は洗う。残党や他の拠点が見つかるかもしれない。もし足の届く範囲に更に敵の拠点があるのなら、偵察を出す。だが、人形でも丸一日掛かる距離だ、S02地区からうちの支部が直ぐに見つかるとは考えにくい。

 つまり、今日中に敵がこちらに偵察に来た場合、考えられることとしてはドラグノフが尾行されていた可能性が最も高い。次いで、グリフィン支部の位置情報がどこかから漏れていた、あるいは既に入手されていた可能性だな。そうなるとちょっと厄介だ。人並みには頭の回るやつがバックに居ると考えるべきだろう。脅威度は「中」ってところだ。だが、そこで終わるのであればまだやりようはある。

 偵察に来た人形を見逃せと言ったのは、こちらの戦力を悟らせないためだ。ドラグノフを追跡し、こちらの拠点を割り出す程度に考えられるやつならば、当然ながら被害状況によってこちらの保有戦力も予測してくるはず。偵察班が全滅ともなれば当たり前だが警戒する。もっと戦力を蓄えようとか、応援を呼ぼうとかの考えになる。逆に如何に敵の攻撃が無いとは言え、偵察ってのは情報を持ち帰ることこそが任務だ。いきなり突っ込んでくるような真似はしないだろう。そもそも、少数で突っ込んでくる程度ならAR小隊で十分ボコせる。

 

 一番ヤバいのは、ドラグノフが尾行されており、この支部の位置も既に割れており、更に物量に任せた電撃戦を仕掛けてきた場合だ。そうなると現状ではかなりマズい。物量にも寄るが、多分逃げの一手を打つしかなくなるだろう。

 S02地区はグリフィンが管轄している地域の一つに過ぎない。そこを落とせば遅かれ早かれその情報は回る。S02地区を迅速に制圧し、あえて一部の人形を見逃し、跡をつける。そうやって割り出した敵の新たな拠点に、迎撃体制が整う前に強襲制圧。今のところ最悪の筋書きがこれだな。もし迷い無くそれをしてくるのであれば、S02地区の戦力はおろか、グリフィン全体の戦力とその分布までばれている可能性まで出てくる。局地戦ならまだ勝機はあるが、相手のトップがそこまでの切れ者だと物量で負けているグリフィンに将来的な勝ち目がほぼ無くなる。流石にそんなバッドエンドは御免被りたい。鉄血に鞍替えしたら見逃してくれたりしないかな。いや流石にこれは冗談だけどさ。

 ただまあ、希望的観測を持ってことに当たるなんて出来るわけがないので、最悪の事態も想定してAR小隊とレーダーを組み合わせた警戒網を敷くことにしたわけだ。平和な一日が過ごせたら色々な意味で理想なんだが、どうなることやら。つーことで、納得してもらえたか?

 

「ははっ! 了解だ、指揮官。やっぱりあんたはそうでなくちゃあな」

 

 おーいおい、ここにはドラグノフも居るんだ、あんまりそういう台詞は使わんでくれよ。ということでとんぼがえりになってしまってすまないが、AR小隊には早速周辺警戒に出てもらうことにしよう。俺はこのまま司令室でクルーガーと話をしてくるから、カリーナは第二部隊が戻ってきたらドラグノフと引き合わせてくれ、よろしくー。

 

 

 

 

 

 

『……流石だな、コピー指揮官。読みも動きも満点だ』

 

 場所は変わって司令室。通信用デッキから聞こえる声の持ち主はファッキンクソヒゲ社長、ベレゾヴィッチ・クルーガーだ。俺の予測と支部の一旦の動きを伝えたところ、何ともまあ無表情のままお褒めの言葉を頂いた。ていうかこれくらい別に俺じゃなくても人並みに頭が働くやつなら誰でも思いつくだろ。前から聞こうと思ってたけどグリフィンの平均値はどうなってるんだ。

 

『そこを突かれるとこちらとしても頭が痛い。俺から言えるのは、グリフィンに属する指揮官の中ではお前が飛び抜けて優秀だということくらいだ』

 

 マジかよ。控え目に言ってクソじゃねーか。よくあんなしたり顔で俺にヘッドハンティングかましたもんだなお前。

 

『……S02地区の周辺に目立った建物はない。支配地域としては少々飛び地となっている部分はあるが、鉄血の侵攻が今までほとんどない地域だったからな、後回しにしていたのが裏目に出た。鉄血が順当に索敵網を広げている前提であれば、お前の支部が次の標的になる可能性は十分にある』

 

 そりゃそうだろうな。でなければドラグノフがうちに辿り着くこともなかっただろう。あいつほんと運がいいな。

 

『こちらからも偵察を出しているが、そのほとんどは量産型だ。ただ、数だけはやたらと多い。ほとんどが木偶だろうが、動きに統率が見られる。やはり鉄血のハイエンドモデルが動いていると見ていいだろう』

 

 はー、なるほど。一体誰が纏めてんだと思っていたが、鉄血人形のハイエンドモデルってことか。確かにI.O.Pや鉄血だけでなく、自律人形を扱っている企業には幾つかブランドを分けたラインナップがあるのが普通だ。そいつらは大体量産型よりも上質なAIを積んでいる。一体どんなエラーを起こしているのか知らんが迷惑なこった。とっととぶっ潰すに限る。

 

『……多少の知性を持った頭と、大量の操り人形。ふむ、確かお前が最も得意としている類の相手ではなかったかな? 期待しているぞ、しがない元傭兵殿』

 

 このヒゲほんまこいつ。しばくぞ。つーか期待しているとか言うくらいならもうちょっと頭数を寄越せ。この数と錬度じゃ満足に作戦行動出来るかすら分からん。

 

『グリフィンきってのエース小隊を二つも抱えておきながら、随分と弱気な発言にも取れるな。俺が勧誘したのはその程度の男だったか?』

 

 これまた安い挑発だなおい。今更俺とお前の間でそんな文句が通じるわけないだろう。無駄な口を叩くくらいなら何か褒美でもチラつかせてみろよ。まだその方がマシだ。そうだなあ、S02地区が壊滅したのは別に俺のせいじゃないし、俺がこの支部を死守しなきゃいけない理由も薄いしなあ。AR小隊やカリーナと一緒に逃げよっかなあ。

 

『……ふぅ、分かった。ならば敵勢力の掃討が完了すれば、本来S02地区に回すはずだった物資を追加で融通、それと新規の人形発注の費用を3体分、こちらで持とう。これでどうだ』

 

 オッケー、乗った。後で書面で寄越せよ。お前との口約束を信じるほど俺は耄碌しちゃいねえ。あと、一応改めて言っておくが、今日中に鉄血から強襲を受けた場合は悪いが逃げるぞ。勝ち目のない戦いでの無駄死には御免だ。

 

『それは承知している。こちらとしてもお前を無下に失いたくはないからな』

 

 つまり無下じゃなければ失ってもいいってことかこのヒゲめ。ま、出来るだけはやってやるさ。そんじゃ通信終わり。じゃーなクソヒゲ。

 

 

 

 さぁて、報酬もある程度は担保出来たことだし、やるだけやってみるかね。しかし大規模作戦の考案は随分と久しぶりな気がするな、グリフィンに来てからこなした任務の数はそれなりに多いはずだが、ほとんどが小規模な戦闘だったし。

 だがまぁ、いけ好かないヒゲ野郎だが、あいつの言葉は間違っちゃいない。ちょっと頭の回るやつと、それに付き従う大量の木偶。物量差を戦略と戦術でひっくり返す。今までずっとやってきたことだ。今日中に仕掛けられたらマジで逃げるしかないが、そうじゃなければ十分勝ち目はある。詳細な情報が出揃ってからではあるが、久々に本格的な頭脳労働と洒落込むか。

 

 

 あー、もしもしカリーナ? 悪いんだけどお前の持ってる栄養剤ちょっと分けてくんない? えっ? 有料? そんなぁ。




カリーナちゃん酷い


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XX -グリフィン支部戦力図鑑-

そろそろ動かそうかなーと思ったのでちょっとまとめついでに書いてみました。
昔こういうの作りまくるの好きだったなーと思いを馳せながら書いてた。
意外としんどかったので今後はやりません。

ただの登場人物紹介みたいな感じなので別に読まなくてもいいです。
更新もしない予定なので、現状はこうなんだ、みたいな感じです。


・第一部隊

 

 名称:M4A1

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:94%

 好感度:100

 

 AR小隊の隊長を務めかつ第一部隊隊長を務める。

 本支部における指揮官を除いた現場での最高位指揮命令者。

 射撃技術、戦術眼、近接格闘、機転等、凡そ戦いに必要なステータスを極めて高い精度で満遍なく習熟しているオールラウンダー。

 あまり頻繁に使うことはないが、部隊の打撃力不足を補うためにアドオン式のグレネードランチャーを装備している。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:M16A1

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:XM84・防弾ベスト

 最適化工程:96%

 好感度:100

 

 第一部隊における精神的支柱および突撃隊長。

 M16A1が先陣を切り、周りが続くというのがこの部隊の基本戦術となっている。

 あらゆる状況下に於いて極めて高いメンタルの強さを発揮し、指揮官からの戦闘時における信頼は現状最も厚い。

 一番の得手は速攻。また、遅滞戦闘も上手い。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:M4 SOPMODⅡ

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:93%

 好感度:100

 

 グリフィンが誇る鉄血絶対殺すウーマン。

 極めて高い錬度を誇る第一部隊において、とりわけ射撃技術に優れておりあらゆるシーンでその弾丸は正確な軌跡を描く。

 M4A1と同じくアドオン式のグレネードランチャーを副兵装として持つが、こちらの使用頻度はそこそこ高い。それでも決して無駄撃ちをしない辺り、生来の腕の良さが光る。

 部隊一の機動力を誇り、囮から撹乱まで幅広くこなせる義体の性能も大きな売り。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:ST AR-15

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:専用APHE徹甲弾

 最適化工程:93%

 好感度:100

 

 第一部隊のクールビューティ。

 戦場では常に冷静沈着に徹し視野も広いが、想定外に弱いのが玉に瑕。

 AR-15専用のAPHE弾は極めて高い貫通力、破壊力を有するが、その分弾数も少なく運用には慎重さが求められる。しかし、今まで一度足りとてその使いどころを見誤ったことはない。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

・第二部隊

 

 名称:Vz61スコーピオン

 銃種:マシンピストル

 副兵装:焼夷手榴弾

 最適化工程:26%

 好感度:???

 

 第二部隊隊長を務めるムードメーカー。

 義体の運動性能が非常に高く、彼女が前に出て敵を撹乱、その後ろから敵を仕留めるといった動きが部隊員の間で浸透しつつある。

 副兵装として「派手なのが好き」という理由で焼夷手榴弾を選択しているが、実戦においてそれが使用されたことはまだ一度もない。使うべき場面に遭遇していないとも言えるが。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:M1911

 銃種:ハンドガン

 副兵装:発煙手榴弾

 最適化工程:22%

 好感度:???

 

 第二部隊に属する、この支部唯一のハンドガンタイプの戦術人形。

 直接的な戦闘よりも索敵、補助がメインとなっており、部隊を裏で支える縁の下の力持ち。

 発煙手榴弾もその役目を全うする機会が多く、部隊の被害軽減に一役買っている。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:M14

 銃種:マークスマンライフル

 副兵装:APHE徹甲弾

 最適化工程:25%

 好感度:???

 

 第二部隊に属するスナイパー。

 主にスコーピオンが乱した敵陣に対して致命打を与えるフィニッシャーを担っている。

 射撃精度はまだ発展途上だが、バトルライフルの火力と連射速度からなる制圧火力は圧巻。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:ドラグノフ狙撃銃

 銃種:スナイパーライフル

 副兵装:???

 最適化工程:???

 好感度:???

 

 S02地区から逃れ、本支部所属となったスナイパーライフル。第二部隊へ配属となる。

 実力の程は定かではないが、操れるダミーの数から第二部隊の面々と同程度と推測される。

 現在の指揮官に対し、拾ってもらった恩義は感じている模様。

 

 

・第三部隊

 

 名称:UMP45

 銃種:サブマシンガン

 副兵装:発煙手榴弾

 最適化工程:35%→41%

 好感度:???

 

 404小隊の隊長を務める。404小隊はそのまま本支部の第三部隊へと転換された。

 広い視野を持ち、部隊員のことを気にかける余裕も持ち合わせる優秀な戦術人形。

 誰に対しても独特の距離感を維持しているが、その理由までは定かではない。

 現在の指揮官は要観察対象。特別な感情は持ち合わせていないが、興味はある模様。

 

 

 名称:UMP9

 銃種:サブマシンガン

 副兵装:XM84

 最適化工程:33%→40%

 好感度:???

 

 UMP45の妹にあたる、404小隊のムードメーカー。愛称はナイン。

 快活な性格で、人当たりは非常に良い。誰に対しても分け隔てなく接する。

 意外とメンタルも強く、揺らぐことはあるが決して折れはしない。

 現在の指揮官に対しては割と好印象な模様。

 

 

 名称:HK416

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:39%→44%

 好感度:???

 

 第三部隊のアタッカー。グレネードを含めた殲滅力は部隊随一。

 非常に真面目な性格で部隊の規律を纏めている人形ではあるが、AR小隊との確執もある様子。

 完璧主義者な一面もあり、稀に周囲との諍いを起こすことも。

 指揮官のことは良き上官であると感じている模様。

 

 

 名称:G11

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:???

 最適化工程:36%→41%

 好感度:???

 

 グリフィンが誇る絶対働きたくないウーマン。任務外は大体寝て過ごしている。

 人形の性格に非常に難があるが、持っている適性と素質は極めて高いものが感じられる。

 指揮官に対しては最初嫌悪感が先行していたが、話をして以降悪印象は取り払われた模様。

 

 

 

 ※本資料の複製、支部外への持ち出しおよび、権限を持たない人間、人形の閲覧を禁ずる。




改めて見たら戦力少なすぎじゃない? この支部大丈夫???


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11 -ハイスピード搦め手アクション-

本作品がドルフロ小説で唯一総合週間ランキングにしがみついてました。
が、がんばぇー! がんばぇドルフロー!

前回伝えたとおり、筆者にミリタリやらそこらへんの知識はほとんどないので多分かなりガバってますが許してくださいなんでもしますから。


 グッモーニンエブリワン。いやぁ実に清清しい朝だ。天気も良さそうだし視界も良好、ここまで晴れてるのは昨今珍しいかもしれないな。

 昨日はカリーナから購入した栄養剤片手に色々と策を練ってたんだが、結局鉄血人形は姿を現さなかった。こちらの索敵範囲外ギリギリで待機している可能性もなくはないが、ひとまず最悪の事態は免れたと見ていいだろう。ということで基地のレーダーの電源を落とすところから始めよう、バッテリーが勿体無い。そんでAR小隊を下がらせて休憩与えて、昨日訓練後に休んでいた404小隊を代わりに出すか。速攻が無かったとは言え、やつらが襲ってこない保証はないからな、警戒を怠ることは出来ない。あと第二部隊にはドラグノフを最適化工程のチェックに連れて行ってもらおう。んで後で報告な。

 

「指揮官さま、クルーガーさんから通信が入ってますよ」

 

 いそいそと朝の指示を出していたところ、カリーナが声をかけてくる。んん? 昨日喋ったばかりなんだが、まだ何かあるんだろうか。取り急ぎ部隊の連中に指示を出して下がらせ、俺は通信用デッキの前に移動する。司令室周りの機械、もうちょっと何とかならないかな。ちょっとした移動を繰り返すのは車椅子だと割と面倒くさい。

 

『おはよう指揮官。早速だが、S02地区の現在の状況を共有する』

 

 話を聞けばなんとクルーガーの野郎、自前の部隊でS02地区に張り付いているそうだ。お前それが出来るなら奪還までやってしまえよと思ったのだが、現地に赴いているのはドローン部隊と撮影機器や通信機器を背負い込んだ自律人形部隊らしい。火器統制コアを埋め込まれておらず自我も持たない、単純なオーダーしか処理できない格安AIを搭載したタイプだ。偵察可能範囲に辿り着くまでに部隊の3割くらい漸減されたらしいのだが、まぁあいつのことだ、それも想定範囲内だろう。正しい意味で使い捨てに向いた構成だな。この辺りの初動の速さ、そして割り切りの良さはクルーガーの手腕をよく表している。この程度ならたとえ全滅だろうが金銭的な痛手もないし、何ならどっかの廃棄された倉庫や工場に眠っていたやつをちょろまかして使ったと言われても納得出来るくらいには安上がりだ。ただ、流石にドローンを敵地直上まで飛ばしてみたら撃墜されたらしい。当たり前である。

 

 で、その偵察部隊からの映像と情報を頂いたわけだが、何と言うか、うーん。これもしかして楽勝なのでは? って感じ。鉄血の連中が誰かの言うことを聞いて規則正しく動いているのはその通りなんだが、本当にそれだけだった。地区の中心部から等間隔に鉄血人形を配置し、それなりの警備網を敷いてはいるっぽいのだが、そこに戦略が見当たらない。地区外に偵察を飛ばしている様子すらないことから、とりあえず隙間が出来ないように並べました、くらいにしか見えない。確かに数だけはやたらと多いが、それだけだ。

 うーむ、これは恐らくだが「下」の部類だな。キルハウス訓練初日のAR小隊を思い出す。多分、こいつらを操っているヤツは自前で戦術を練り、考えられるレベルにまで達していない。まずは占拠した拠点を守りましょう、程度の命令しか受けていない可能性もあるが、どちらにせよこちらにとっては好都合だ。これ以上不確定要素が増える前に、さっさと勝負を決めてしまった方がいいな。

 

『……と、このような状態だ。そこでコピー指揮官、貴官にはこのS02地区の奪還、および敵性勢力の排除を行ってもらいたい。情報提供は私の偵察部隊が逐次行おう』

 

 ま、そうなるでしょうよ。俺としてもこれ以上近場の爆弾が大きく育つ前に排除しておきたいってのは同感だ。それに、視覚的情報のサポートを得られるってんなら文句はない。その指令は受諾するが、お前昨日の約束忘れんなよ。ちゃんと書類で寄越せ。

 ということで、作戦決行は本日の午後からとする。午前中はAR小隊の休息に充てないと流石にパフォーマンスが落ちるだろうしな。相手の指揮能力に勝ち目が見えるとは言え、油断や慢心は禁物だ。AR小隊はうちの支部が誇る最大のジョーカーである。その手札を磨耗させた状態で戦場に出せるわけがない。カリーナ、今のうちに軽装甲車両を6台と運転用の自律人形を準備させといてくれ。あと、ちょいと物資の消耗が痛いが、ドラグノフのダミーを用意しておいて欲しい、戦力は出し惜しみなしで行くぞ。備蓄は蓄えておくに越したことは無いが、何故貯めるかと言われれば、使うべき時にガッツリ使うためだ。死蔵させるなんて勿体無いこと出来るか。こっちゃ俺の部下たちの命がかかってんだからな。

 その間、俺は作戦パターンと細部の詰めをやっておこう。ぶっちゃけ余程のトラップが出てこない限りはほぼ勝ちなんだが、あらゆる事態は想定しておかなきゃならない。俺の努力で被害が減らせる部分は徹底的にやっておかないとダメだ。想定外は常に起こり得るが、命を預かる立場として最低限のことはしないとな。

 あ、そうそう。ちなみにドラグノフの最適化工程は18%だった。思ったより低かったわ。ま、でも何とかなるだろ。正直今回の作戦で言えば、そこまで重要じゃないしな。俺の指示を果たせるだけの運動性能と最低限の射撃能力があればいいわけだし。

 

 

 

 

 

 

 

『指揮官。第一部隊、ポイントBに到達しました』

『第二部隊、ポイントAにとうちゃくだよー』

『こちら第三部隊、ポイントDに到着。指示をどうぞ~』

 

 作戦の確認を終え、戦術人形を司令室に呼び出してブリーフィング、打ち合わせを行った後。それぞれの車両に分かれて出発した俺の教え子たちが配置完了の旨をそれぞれ通信機越しに教えてくれた。現状、敵の地区正面から300Mほど離れた地点に第二部隊、そこから少し離れて第一部隊、更に側面に回むような位置取りで待機しているのが第三部隊、といった感じだ。これ以上近付くと車両のエンジン音に勘付かれて先手を取られる可能性がある。ここからは徒歩だな。

 

 さて、お前らは今から俺の指示通りに動いてもらうわけだが、俺の指示に疑問を持つのはいい。ただし、必ずその指示を遂行してから考えろ。そしてその結果を見て考えろ。決して手と足を止めるな。そうすれば絶対に勝てる。そして、何故俺が戦闘が始まる前からここまでの自信を持つことが出来るのか、すべてが終わってからよく考えろ。それがお前たちの成長に繋がる。改めて言っておくが、敵との単純な物量差は大きい。恐らくダミーのいくつかはオシャカになるだろう。だが、宣言しよう。オリジナルのお前らは誰一人欠けることなくこの作戦を勝利で終える。俺を信じろとは言わん、俺の指示を恙無く遂行出来るお前たちの性能を信じろ。分かったか?

 

『I copy!!』

 

 よーし、いい返事だ。それじゃあまず、第二部隊。お前ら正面から突っ込め。

 

『……はぁあ!? ちょっと指揮官、正気!?』

 

 ほれほれ、疑う前に動けポンコツども。誰も玉砕しろなんて言わねえよ。そうだな、地区奪還に向けて勢い良く突入したものの「やべ、敵の数が多いわ、退かなきゃ」みたいな雰囲気で一当てして下がれ。その時はスコーピオン、お前が元気良く撤退だーって叫ぶんだ。強撃前進するのは本当に最初の一瞬だけでいいぞ、それで相手の動きを見る。第一部隊はその動きに合わせて敵に見つからないよう後ろから付いていってくれ、その後ポイントA-1で待機。第三部隊はそのまま待機な。

 

『ぬぅぅ……! 分かったよ! 第二部隊、行くよ!』

 

 やっぱり戦術人形の良さはここだなぁ。俺の指示に逆らえないってのはあると思うが、AR小隊も一緒でこいつら割り切りが早い。さて、ここからは俺もスクリーンから目を離せなくなる、気合入れていこう。こっからは電撃戦だ。俺の指示の遅れがこいつらの敗北に即繋がる。そんなことは絶対に許されない。

 

『突撃ぃー!!』

 

 程なくして勇ましい掛け声とともに彼我の距離を縮め、敵陣に楔を打つ第二部隊の姿がスクリーンに映る。クルーガーのドローン視野を間借り出来るってのはかなりありがたいな、うちの旧式と違って解像度もいい。この作戦終わったらそのドローンうちに貰えないかな。ダメかな。

 

『う、うわっ数が多……いやいやいやマジで多いよこれ! 撤退! 撤退ーッ!!』

 

 敵の真正面から突っ込んだはいいものの、瞬く間に夥しい数の鉄血人形に襲われる第二部隊。ヒエッ、マジで多いなこれ。ただ逆に言えば、単純な突撃にこれだけ釣れたってことだ。やっぱ相手の指揮官大したことねえな。

 よし、M1911、真っ直ぐ逃げながらスモーク投げろ、相手に投げるんじゃなくて足元に焚く感じでな。第一部隊SOPMODⅡ、グレネード用意。まだ撃つなよー。2発撃ち込んでもらうからそのつもりで頼む。

 

 即座に撤退を始めた第二部隊を追いかけて、結構な数の鉄血人形がその地区を越えて追撃にかかっている。至極短い逃亡劇が開幕して間もなく、M1911が投げ込んだ煙幕の中に群れの先頭が足を踏み入れた。よしSOPMODⅡ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。2発ともな。

 

 ドォンッ! ドォンッ!!

 

 間隔を少々あけて、2回。爆発音が通信機を通してこちらにも響いてくる。映し出されたスクリーンを見る限り、直接大破した鉄血人形は然程多くないが、それでも駆動系をやられて結構な数の鉄血人形が転倒していた。数が多くて密着していたもんだから、一部はもんどりうって巻き込まれている。第二部隊、撤退止め。敵が体勢を立て直すまででいい、ありったけ撃ち込んで削れ。

 

 突然の爆発に見舞われた鉄血人形どもだが、体勢を立て直した後もそれ以上の追撃はしてこなかった。じりじりと全周囲を警戒しながら下がっているようだ。ふむ、どうやら敵の指揮官は最低限の頭は回るらしい。いいぞ、その方が好都合だ。せいぜいありもしない地雷を警戒しててくれ。

 優位な環境を意図的に作り出す。戦術の初歩だな。これで相手がスモークやなんちゃって地雷を気にせず突っ込んでくるようなら、じわじわ遅滞戦闘を繰り返して数を削ればいい。相手が警戒してその足を止めるなら、先程と同様に攻め込み、敵が攻勢に転じてきたらまたさっきのラインまで下がればいい。今回は後者となったわけだが、見えない地雷のおかげで、一番戦力に劣る第二部隊で正面の大多数と均衡状態を作り上げることが出来た。最適化工程こそ進んでいない部隊だが、ライフル2体を擁する最大瞬間火力は馬鹿に出来ない。その威力を存分に発揮してもらおう。

 

 同時に、第一部隊SOPMODⅡ。地雷偽装用にオリジナルを残してダミーを2体、第三部隊が居る方向とは逆に走らせてくれ。戦域が被らないところまで到着したら、適当に的当てさせとけ。で、敵が釣れたら追いかけっこしといて。一当てして気付かれた後はダミーには回避を優先させていい。ダミーには土台無理な話だが、隠密行動はさせようとしないでいいぞ、派手に逃げ回っている様を演出して欲しい。多分これでなんぼか釣れる。あわせて第三部隊、敵に悟られないよう接近。

 

『はーい了解! いってこーい!』

 

 わぁ、犬かな。快活な掛け声とともにSOPMODⅡのダミーが2体、とんでもないスピードで走り出す。こいつの義体ほんとすげえな。俺の全速力と比べてもかなり速いぞ。このスピードで動き回られては、鉄血製の量産型AIの精度じゃ当てるのにも苦労するだろう。人形だからスタミナの心配をする必要も無い。目一杯かき回してもらおう。

 予想通り、第三部隊とは反対側で突如襲撃を受けた鉄血人形が動き出した。うーん、想定よりちょいと少ないが、まぁ許容範囲だな。正面と側面片方の敵はある程度剥がせたが、まだ中心部付近の人形までは動いていない。もうちょいかき回して全体を動揺させたいところだ。

 つーことで第三部隊、出番だ。開幕はナインのXM84と416のグレネードで飾ろう。こっちはとにかく派手に行け、敵対勢力の最大戦力がそっちに居ると思わせろ。ただし、必要以上に前に出過ぎなくてもいい。じわじわとゴリ押す感じで丁寧に戦線を上げていくんだ。

 

『了解、指揮官。ナイン、416、よろしくね』

『はいはーい! それじゃ行くよー! 消えちまえー!』

『……私は、完璧よ!』

 

 ドォンッ!! 一層派手な音とともに、幾つかの鉄血人形がばらばらに飛び散っている様がスクリーンに映し出される。うっわエグい。SOPMODⅡの榴弾は地面に撃たせたためそこまでの被害ではなかったが、これ直撃したらとんでもない火力だな。しかもナインのXM84が先に入ったおかげで、一帯の鉄血の動きは止まっているままだ。これじゃただの時間制限付きの的当てゲームだな。AR小隊程ではないが、中々の速度で鉄血人形の数を削っていた。

 

 正面にはトラップを挟んだ長射程部隊、側面には逃げ回る敵対勢力、反対側には総合火力を有する敵主力部隊。俺が逆の立場ならどうするかなあ。多分正面と逃げ回るヤツを捨てて、一番厄介な部隊に戦力を集中させるだろう。他はまだどうとでもなるが、単純に強い連中ってのはこっちの手数が揃っているうちに潰しておかないとマズい。脅威度の高い対象から確実に無力化していく。当然の流れだな。

 

 とか考えていたら、SOPMODⅡのダミーを追っていた部隊がその動きを止め、反対側への加勢に向かおうとしているのが捉えられた。同時に、正面の敵もその何割かを残しながらも、側面の加勢に向かうようである。うんうん、そうなるよな。その考え方は正しい。俺だって同じ状況なら多分そうする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よし、もういいぞSOPMODⅡ、ダミーを戻せ。

 正面の敵が、側面で暴れているやつらと比べて弱いというのは馬鹿でも分かる。明らかに錬度が違う。ここまで正面に潜んでいたAR小隊に一発の銃弾も撃たせなかったのは、ジョーカーの存在を秘匿しておくためだ。とは言っても、このまま放置していたのでは敵の加勢を受けた404小隊が物量に押し負けてしまう可能性もある。ところがどっこい、そうは問屋が卸さないんだよなあ。

 

 スコーピオン、正面から404小隊へ向かうルートに思いっ切り焼夷手榴弾を投げ入れろ。遠投でいいぞ、距離が遠ければ遠いほどグッドだ。

 

『よっしゃぁーーー!! 無駄無駄ァーーー!!』

 

 うわめっちゃ元気じゃん。そういえばこいつ焼夷手榴弾投げるの初めてな気がするな。今までこんなの使うまでもない作戦ばっかりだったし。

 スコーピオンが投げ入れた焼夷手榴弾はその威力を存分に発揮し、少数の鉄血人形を巻き込みながら、その炎を立ち上らせていた。これで数十秒だが時間は稼げるだろう。だが、その時間があればこっちとしては十分だ。

 

 第一部隊、待たせたな。いつも通り、M16A1のXM84でフィナーレの開幕と行こう。相手は随分とその数と耐久値を減らした上に、あろうことかそのほとんどがこっちにケツを向けてるボーナスステージだ。食べ残しは許されない。第二部隊はそのまま正面に残った残党の処理を頼む。回避重視でいいぞ、最後まで油断せず行こう。

 

『了解! 第一部隊、出ます!』

『先陣は私が切る! お前たち、続けぇ!』

 

 俺の号令を受けた第一部隊、囮に出したダミーを迎え入れた総勢20名の精鋭が、その牙を剥く。M16の放ったXM84で一瞬ドローンの視界が眩くなるが、次の瞬間には頭部やコアを正確に撃ち抜かれた鉄屑の残骸が横たわっていた。

 

 いやー、何時見てもこの殲滅速度、えげつないとしか言いようが無い。ただ、如何に強力な点であろうと単騎で出来ることは高が知れている。点と点を繋ぎ合わせて線を作る。これが連携の基本だ。そして、線と線をあわせて面を作る。これが戦術である。そして、どうやって線を作り、どこにどのタイミングで面を敷くか。これが戦略だ。俺自身久々にやってみたが、まぁ相手が大したことなかったこともあって上手く行って何よりだな。

 404小隊が戦っている側面はやや劣勢ながらも、敵の数を順当に減らしている。最大のジョーカーを放り込んだ正面はもう阿鼻叫喚だ。俺が将官なら首吊っててもおかしくない。殴り込んだ第一部隊が第三部隊と合流出来ればほぼコンプリートだな。後は単純な性能差でゴリ押せる。

 

 

 さて、クルーガーの予想が正しければここに親玉である鉄血のハイエンドモデルが居るはずだ。まだ姿は確認出来ていないから、引きこもって一生懸命指示を出しているのか、それともそそくさと逃げ出したのか。どちらにせよ、本作戦の正念場はここからだ。鉄血のハイエンドモデルともなれば、そこらに横たわっている量産型とはまた違った性能を持っていて然るべきである。うちの全部隊が瞬殺されるようなトンデモ兵器は流石に持っていないだろうが、何にせよ油断大敵だ。

 

『指揮官! ちょっといい!?』

 

 ん? スコーピオンか。第二部隊を映しているスクリーンに目をやれば、そこには粗方鉄屑を片付けた第二部隊の姿。ああー、M1911のダミーが1体ぶっ壊されてるな。ハンドガンタイプの人形はどうしても耐久性に劣るから致し方なしか、オリジナルが無事でよかった。多分この通信はダミーのことかな。

 

 

 

 

 

 

『あー、あのね。第一部隊がぶっ倒していった鉄血人形の中に、今まで見た事ないヤツが混じってるんだけど、もしかしてこれがハイエンドモデルってやつ?』

 

 

 ウッソだろお前。




Lv90超えた5linkAR4体に勝てるわけないだろ(震え


クルーガーの喋り方が若干異なりますが、場面によって微妙に変えています。なんだかんだおじさんとは付き合い長いですから。


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12 -ミッションリザルト-

私が投稿する小説には必ず副題を入れているのですが、スッと思い浮かぶこともあれば、全然出てこなくてこのサブタイトルが最後の関門になる時もあります。

ところでめちゃくちゃ今更なんですが、指揮官おじさんが地の文で喋っている時、同様の内容を確かに伝えたり考えたりはしていますが、その文面通りに声を発しているわけではありません。もっと指揮官っぽさを出しています、多分。



 第一部隊が突入を開始して数分。S02地区一帯を治めていた支部周辺は、無事鉄血の手から人類の手に移し渡された。よし、とりあえずドローンで確認出来る範囲に動いている鉄血人形は居ないっぽいな。先ずは全員に状況終了の旨を伝え、被害状況の報告をさせる。

 

『第一部隊、M16姉さんのダミーが1機やられました。その他は健在です』

『第二部隊、M1911のダミーが1機沈黙、他は大丈夫だよー』

『第三部隊、私と416のダミーが1機ずつ、ナインのダミーが2機やられたわ』

 

 やはり第三部隊に一番負荷がかかってしまったか。AR小隊の合流がもう少し遅ければヤバかったかもしれん。よく戦線を持たせてくれた、後で労ってやらないとな。しっかし、M16のダミーがやられたってマジか。いくらオリジナルに劣るとは言っても、AR小隊のダミーは単純な作戦遂行能力であれば第三部隊のオリジナルを凌駕するレベルのはずだ。それが1機とは言えやられてしまったのは見逃せない。その時の状況を聞いておかなきゃな。

 

『ああ、見た事の無い鉄血人形がいきなり現れてな。変な浮遊兵器を使っていたが、そいつに防弾ベストごと持っていかれた。回避が間に合わなかった私の落ち度だな、すまない。まぁ速攻で返り討ちにしてやったけどな』

 

 多分それハイエンドモデルだと思うんですけど。不意打ちを食らってから即返り討ちってなんだよ。怖いわ。しかし、ダミーとは言えM16を一撃で防弾ベストごと持っていくってちょっとシャレになってないぞ。その威力も勿論だが、あいつの反応が間に合わないってのは相当だ。これはマジでAR小隊が居なかったら危なかったかもな、流石はハイエンドモデルと言ったところか。量産型とは文字通り格が違うらしい。もしそんなのが大量にいたとしたらかなりヤバい。

 

 さて、無事S02地区の支部は制圧できたわけだが、やっぱりちょっと腑に落ちない。M16のダミーを一撃で葬る破壊力を持つ人形にしては、些かAIのデキがお粗末に過ぎる。火力に特化したモデルと言われればそうかもしれないが、それであれば量産型AIに強い武器を持たせた方がコストが浮くはずだ。これは本当に推測でしかないが、もしかしたら鉄血側のハイエンドモデルも、I.O.P社製の人形と同じで自我を持つタイプの可能性がある。そして同じように最適化工程を踏む必要がある、と仮定すれば現状に一番しっくりくる。強力な武器を持っていながら、それを活かすための戦術を持っていない。そのアンバランスさに、この説だと理屈が合う。

 もしそうであれば、今戦場に転がっているハイエンドモデルは、強引な例えではあるがうちのM4A1と同じ立ち位置ではないかと推測できる。つまり、あくまでそいつは現場での指揮官。兵を直接動かす立場ではあるが、頭を使うポジションじゃない。

 そもそも、S02地区に量産型を集めて奇襲を掛けたことにだって何か目的があったはずだ。気まぐれに配下の人形を集めて、たまたま近場の地区を襲ってみました、ではちょっと筋が通らない。S02地区はクルーガーの言を信じるのなら、今まで鉄血人形がほとんど目撃されていなかった地区である。たまたま、ということであれば他の地区、それこそ周囲に大量に鉄血が居たうちの支部に来てもおかしくない。この地区にわざわざ量産型を結集させ、奇襲を掛けた経緯が存在するはずなのだ。

 

 うーん、分からん。というか俺に分かる訳が無かった。とりあえずこの仮説はクルーガーに報告がてら後でぶん投げておこう。現場での戦闘は俺が仕切るが、全体的な舵取りはアイツの仕事だ。ただ高確率で言えることは、ここのハイエンドモデルが黒幕じゃあないってことだな。もっと上の方に頭を使ってるやつが居るはずだ。そいつを引き摺り下ろさないことには解決とは言えない。全く面倒くさい、もうちょっと給料上げてもらおうかな。

 

 とりあえず現場は現場で出来ることをやろう。生き残りの人間なり人形なりが居れば多少話も聞けるだろうが、まぁこの有様じゃ期待はしない方がいいだろうな。そういえばぶっ倒したハイエンドモデルは今どうなってるんだろうか。完全に破壊しちゃったのかな。あ、こらSOPMODⅡ、鉄血の人形を解体して遊ぶんじゃありません。

 

『コアをぶち抜いたから機能は完全に死んでると思うぞ。電脳の方は生きているかもしれんが』

 

 いやぁ、流石である。実際の戦闘を見ていないので何とも言えないが、ハイエンドともなればその耐久性や運動性能も量産型とは違っていると見ていいだろう。しかも初見の人形だ。そんなやつのコアを迷い無くブチ抜ける辺り、こいつらの段違いな性能を改めて痛感する。誰だこんなクレイジーな人形育てたの。俺か。SOPMODⅡはブーたれるのをやめなさい。

 

 何にせよとりあえず目下の脅威は去っただろうから、後片付けに入ろう。第一部隊はハイエンドモデルの遺骸を回収しといてくれ。本体が難しそうなら首から切断して最低限電脳だけは持ち帰るようにして欲しい。大した情報は出てこないだろうが、そいつの通信ログくらいは手に入るだろう。どんな指示が下りていたのかが分かれば今後の対策も打ちやすいしな。第二部隊と第三部隊は共同して生存者やその他情報の探索に当たってくれ。生存者の探索は第二部隊が中心で頼む、ドラグノフが居た方が何かと話が早いだろうからな。情報に関しては司令室のPCが無事なら御の字なんだが、まぁ普通は壊すだろうしこちらもあまり期待は出来そうにないか。あと、室内に入るだろうから流石にドローンが追従出来ない。映像が途切れるから通信は常に入れておいてくれ。俺は周囲に敵影が無いか念のためドローンで確認しておこう。屋内に潜んでいる鉄血人形ももしかしたら居るかもしれん。量産型にそんな知恵が働くとは思えないが、一応油断だけはするなよ。

 

 

『了解。そんじゃお邪魔しまーす、っと。あんまうちの支部と造り自体は変わんないね』

『どこも似たような造りなんですかねえ。司令室はあっちかな?』

『そういえばドラグノフさん、ここにはどれくらいの戦術人形が?』

『私も全員を知っているわけじゃないが……少なくとも10体以上は居たと思う』

 

 えぇー。うちより多かったのかよ。ずるい。

 

『うう……私ここで待っててもいい……?』

 

 ダメに決まってんだろ。

 

『いいわけないでしょ。ほら行くわよ、さっさと歩きなさい』

『うわー、業務用の自律人形も全部メッチャクチャだね。あ、配給落ちてた!』

『これじゃ生存者は期待できそうにないわね……ナイン、拾い食いしないで』

 

 ナインはナインでブレないなこいつ。

 

『えーっと、ハイエンドモデル……あ、あった。多分これですね』

『改めて見ると結構デカいな。SOPMODⅡ、頼めるか』

『はいはーい! サクっとやっちゃおー!』

『アンタ、そんなのどこから出してきたのよ……』

 

 こっちは屋外だからドローンでその様子が確認出来る。解像度は高いが距離が遠いのでその詳細までは見えないが、周りに大量に転がっている鉄血人形と比べると二回りくらいでかいな。その周辺には見た事も無い兵器が複数散乱している。多分あれがM16のダミーを撃ち抜いた浮遊兵器というやつだろう。ついでにあれの回収もお願いしておくか。ペルシカリアに回せば何かこう、上手い感じにしてくれるかもしれん。俺は戦いに関して多少の心得はあれど、こういう技術面はサッパリだ。餅は餅屋、専門家に任せるに限る。

 

『指揮官、聞こえる? 司令室らしき場所には着いたけど、もう中身は滅茶苦茶よ、生きてる人間も機械も見当たらないわね。グリフィンの制服を着た死体があるけど、多分これがここの指揮官じゃないかしら』

 

 UMP45の声からは、特別な感情は読み取れない。ただ見た限りの事実を伝えているだけにも聞こえる。流石特殊部隊ってところか、死体を発見した程度で取り乱す程軟な連中ではないらしくて何よりである。しかしまぁ、どう滅茶苦茶なのかは見えないのではっきりとは分からないが、UMP45が言うくらいだからそれはもうハチャメチャな状況なんだろう。普通に考えて、鉄血人形に捕虜を取るとか交渉するとかいう理由も必要性もないだろうから、まぁ殺すしかないわな。こりゃ現地の戦利品獲得はほぼ空振りに終わりそうだなあ。

 

『……待て! 今、声が聞こえなかったか?』

『へ? マジ? アタシ何も聞こえなかったけど』

『私も聞こえなかったです。気のせいでは?』

『いや……あっちは備品倉庫だったはずだ、有り得るぞ!』

『ちょ!? ドラグノフさん!?』

『あーもー! 隊長はアタシなんだけどなー!?』

『45姉、どうするの?』

『放っといていいでしょ、敵性反応はもう無さそうだし』

『ふぁ……じゃあ後はよろしく……』

『何がよろしくよ。また指揮官にはたかれるわよ?』

『……うう……じゃあもうちょっとだけ頑張る……』

 

 うーむ、騒がしくなってきたな。というか戦闘中ではないとは言え、一応今も作戦行動中のはずなんだが。生き残りがいるかもしれないというドラグノフの気持ちも分かるが、独断先行はよろしくない。後でちょっとお話しなきゃならんな。減点1点。あと416は意趣返しのつもりか知らんが、G11を働かせるのに俺を引き合いに出すのはどうなんだ。いやそれで言うこと聞いてくれるなら安いモンなんだが。

 

『おい! 誰か生き残りは居ないのか!? ドラグノフだ! この支部は奪還したぞ!』

 

 恐らく備品倉庫のドアを蹴破ったのだろう。バカン、という派手な音とともにドラグノフの叫び声が通信機から響き渡る。うーん、敵が潜んでいる危険性は低いとは言えその動き方はどうなんだ。この支部でろくな教育を受けていなかったことは分かるのだが、あいつちょっと基本的な所から教え込まないとダメだな。あのままじゃ部隊を無駄に危険に晒してしまう。

 

『ちょっとドラグノフ!? 勝手に行動しなうわあっ!?』

『うわああああああああ助かったにゃあああああああああ!!!!』

『うるっさ! ちょっ何!? 飛びつくなぁ!!』

 

 うるっせえ! 通信機越しだがめちゃくちゃな大音量である。あまりの騒がしさにあのスコーピオンが気圧されている。ボリュームでアイツが負けるとはこれまたレアなシーンだな。

 

『指揮官! 生き残りの戦術人形を発見した! m45とIDWの2体だ!』

 

 あー、うん。ドラグノフがこれまた大音量で探索の成果を報告してくれているが、お前あとでちょっと話がある。生き残りが居て、潜んでいる敵が居なかったのは結果論に過ぎない。ドラグノフだけが死ぬならまだいいが、下手をすれば後ろのスコーピオンたち第二部隊まで被害が及んでいる可能性があった。部隊を預かる身としては見過ごせない。

 

『指揮官ー! 綺麗に取れたよー!』

 

 その声に導かれてスクリーンに目をやれば、そこには首から上を綺麗に切り取ったSOPMODⅡが、高らかに腕を掲げてドローンに大将首を映し出していた。うん、よくやったと言いたいところだが、それそんな嬉しそうにやる仕事じゃない気がする。

 

 

 さて、目ぼしい戦利品としてはこの辺りかな。ハイエンドモデルの電脳と、生き残りの戦術人形が2体。もうちょっと無形報酬が欲しかったところだが、まぁ鉄血側もそこまで馬鹿じゃなかったということにしておこう。拾った人形はドラグノフと同じくうちの支部預かりにしたいところだな、少しでも戦力は増強しておきたい。まぁそれくらいは大丈夫だろう。っと、クルーガーには通信入れておくか。状況終了ってな。

 

 

『こちらでも確認した。よくやってくれた、礼を言う。生存している人形に関しては貴官の支部預かりとして異動させて構わない。ハイエンドモデルは後ほどそちらに回収員を回そう』

 

 オーケー了解っと。あ、あとうちの部隊は引き上げるが構わないよな。流石に自分の支部を空けたままS02地区の防衛に長期間滞在させるわけにもいかないし、そんな余剰戦力は持ち合わせていない。あいつらも多少なり疲弊しているしな。

 

『結構。今のところ周囲に鉄血人形も確認出来ていない、S02地区には後ほど復興のための作業員と防衛用の戦術人形部隊をこちらから回す』

 

 そりゃまぁ、ドローンで確認出来るだけでも結構な被害を受けているから、ここを即座に支部として再度立て直すのは無理だろうな。最低限の環境を整えなきゃいけない。空白地帯にするという手もあるにはあるんだが、現状、汚染もされておらず人が住める土地というのは割と貴重だ。人類の支配地域の拡大という意味でも、取れるところは取っておかないと長期的に見た時に苦しい。地方自治という名目でグリフィンが預かっている地区でもある以上はしっかりと管理下に置いておきたいところだろう。ま、そこらへんの政治的やり取りに突っ込む気はさらさらないが。

 

 よーし、ってな訳で撤収だ。m45とIDWだったかな、新しく加わった2人は第三部隊のダミーが乗ってきた車両に乗せてくれ。帰ってきたらデブリーフィングと反省会だな、その後は祝勝会ってことで皆でメシでも食うか。

 

 

『指揮官、ちょっといいかしら』

 

 おお? 416か、こいつが作戦行動以外で通信を飛ばすとは珍しいな。何かあったんだろうか。

 

 

『いえ、大したことではないのだけれど。司令室の残骸に紛れて栓の開いていないアルコールを見つけて。持ち帰ってもいいかしら』

 

 いいね、ナイスだ。どうせそこの指揮官が貯めこんでいたアイテムの一つだろう、遠慮なく貰ってしまおう。そういえば戦術人形ってアルコールはイケる口なんだろうか?

 

『さあ。人形に寄るだろうけれど、私は好きよ』

 

 いいじゃんいいじゃん。この支部始まって以来の大規模な作戦だったわけだし、帰ってきたらパーっとやろう。その時は416、お前も付き合えよ。

 

『ふふ、分かったわ。この416がお相手して差し上げますわ指揮官様』

 

 先程までよりも幾分と柔らかい声が通る。こいつ自身、肩の力の抜き方ってやつをもしかしたら自分なりに学ぼうとしているのかもな。もしそうであればいい傾向だ。AR小隊じゃないが、何か娘が増えた気持ちになる。

 このご時世、アルコールや煙草、珈琲などと言った嗜好品は非常に貴重だ。その中でもアルコールはまだ入手しやすい部類に入るので、きっとここの指揮官が好き者だったのだろう。幸い俺はジャンキーと言うほどじゃないが、好きか嫌いかと問われれば好きである。軍人時代でもそうだったが、仕事上がりの一杯と風呂上りの一杯ってなんであんなに旨いんだろうな。謎だ。

 

 

 いやぁ、予想外の楽しみが一つ増えてしまった、よきかなよきかな。そういえばS02地区にアルコールがあるということは、もしかしたらこっちでも融通出来たりするんじゃなかろうか。カリーナ、そこらへんどうなの? えっ? 別料金? そんなぁ。




やったね指揮官、仲間が増えたよ!

S02地区の話は一旦これでおしまいです、以降はまた何でもない話を思い付いたら投下していきたいと思います。


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13 -勝利の美酒は妖しく嗤う-

とりあえず頭からっぽにして読んでください。


 どうしてこうなった。俺のスケジューリングに何かミスがあったのだろうか。それともこの状況を想定出来なかった俺の落ち度なのだろうか。いや、起きてしまったことに対する後悔はやめておこう。そんなことをしたって一向に事態は上向かない。ここに救いの女神は居ない、俺の独力でこのカオスを乗り切るしかない。ええい、腹を括るんだ俺。今まで数多くの修羅場を潜ってきたお前の脳みそはお飾りか。

 必死に己を奮い立たせるも、起死回生の一手は一向にご降臨なされず。もうどうにでもなーれ、と匙を投げかける自分と懸命に戦いながら、俺は今、運命に抗おうとしている。

 

 S02地区奪還作戦が成功したその日。まずは帰還した部隊を出迎え、デブリーフィングと反省会を行った。ダミーへの被害はあったもののオリジナルの損害はゼロ。戦利品こそ満足とは行かなかったものの、戦果としては十二分だ。ほぼ100点の出来と言っていい。俺の指示にしっかりと従った故でもあるが、大前提として各々が奮起した結果でもある。褒めるところは十分に褒め称え、ドラグノフの行動その他、締めるところも抜かりなく締める。大きな充足感と程よい緊張感。非常に良いと言える塩梅でデブリーフィングを終え、これで周囲の鉄血はひとまず掃除完了ということで、今日くらいは無礼講で行こうと作戦に参加した戦術人形全員を交えて食事会を催すこととなった。なお、救出されたm45とIDWはAIのエラーが酷く、動揺が治まらなかったため詳しい事情聴取は後日行うこととした。今はとりあえず空いている宿舎に案内し、十分な休息と修復を与えている最中だ。

 

 支部の食堂スペースを使った食事会は、慎ましいながらも賑やかで、いい雰囲気であったと思う。皆思い思いに口を開き、表情を変え、手を振り、大いに楽しんでいた、と俺は感じていた。彼女たちの顔を見れば、それが間違いであるはずがない、と確信を持てる程度には。

 

 

 

「ひょっとぉ!? ひひはん聞いてましゅ!?」

 

 

 

 そう。第三部隊のアタッカー、HK416がアルコールを取り出すまではよかったんだ。

 

 

 皆それぞれ好みの量の食事を体内に取り込み、満腹中枢が程よく刺激された頃合、416が取り出したのはS02地区から掻っ攫ってきた真新しいアルコールであった。ただ、ラベル自体はガサガサに擦り切れており銘柄までは読み取れなかったが、色合いや瓶の形状から恐らくウイスキー辺りだろうことは予測がついた。

 酒が出る、ということは、ここからはオトナの時間である。既に日も暮れて随分経った後だ、スリープモードに移行したい人形も居るだろうし、そもそも酒を好まない人形だって居るだろう。いわゆる二次会のようなノリで始まったささやかな酒宴は、先の食事会からそのメンバー数を随分と減らした上での開催となった。

 

 指揮官である俺。

 戦利品の獲得者、HK416。

 酒好き、M16A1。

 騒ぎたがり、スコーピオン。

 何故か残った、AR-15。

 

 以上5名が食堂に残り、地獄の蝦蟇口を開けた。

 

 最初は良かったんだ、最初は。416がM16A1に対して何かとケチをつけるような口振りこそあったが、彼女も先日の一件から、表には出さないまでもM16A1の実力自体は認めている。M16だって、そんな空気を読めない程愚鈍じゃない。若干の危うさを残しながらも、仲良くとは行かずとも同じ戦場を走る仲間として最低限の尊厳をお互いに持ちつつ場は進んでいた。

 

 だが、各々のグラスが空き、2杯目に突入した頃から雲行きが怪しくなった。

 

 

「よっしゃー! 一番、スコーピオン!! 一発芸やりまーす!!」

「あっはっはっは!! いいぞぉ!! ぶはははは!!」

「ヒィー! ヒ、ヒィー……!! 顔、顔……! ふっふはっ……ッ! し、死ぬぅ……!」

 

 ただでさえ騒がしいスコーピオンが、アルコールというハイブーストを手に入れ真っ先に壊れ始めた。多分あいつは酒を飲むこと自体が初めてだったんだろう。色々と加減が分からぬままその毒素を体内に溜め込んでしまい、身体中を蝕む異常事態にAIの処理が追いつかず、バグった。

 次にぶっ壊れたのが意外や意外、M16A1だった。ただこいつはスコーピオンと違って、分かっていて自分から壊れにいった節がある。ケタケタと大笑いしまくっているが、しっかり記憶は残しているだろう。周りを持て囃すように叫びまくっているが、あいつ自身が粗相を犯しているわけじゃない。一番得する酔い方してるなぁという印象だ。ただとにかく煩い。

 そして、M16A1とほぼ同じタイミングでぶっ壊れたのが何故かこの場に残ったAR-15だ。普段が冷静な分、ギャップが酷い。笑いの沸点が有り得ないくらい低くなっている。多分今のこいつならテーブルの箸が転がっただけで30分は笑い続けるだろう。お前なんでこの場に残ったんだ。

 

 まさかこの程度の酒量でここまで大狂いするとは思わなかった。3人の痴態を遠巻きに眺めながら、最後に残った416についつい困ったものだな、と声を掛けたのだが、これがいけなかった。最後の最後、希望と言う名の奇跡に縋り蓋を開けたパンドラの箱は、絶望と恐怖と混沌を盛大にぶちまけた。

 

「まぁったくれす!! ひきはんがいらっひゃるのに、ぎゃーぎゃーと!!」

 

 人知れず、416が壊れていた。

 

 

 ヤバい。完全に目が据わってるぞこいつ。あの真面目一辺倒な416がまさかの絡み酒とは一体誰が予想出来ただろうか。出来るわけねーだろ。どうしようこれ。俺から声をかけてしまった以上、無視も出来ない。開幕の一手から既に詰んでいる。

 

「ひょっとぉ!? ひひはん聞いてましゅ!?」

 

 あ、うん聞いてる聞いてる。適当に相槌を打ちながら周りをそれとなく見渡してみるが、そこには完全にぶっ壊れたスコーピオン、完全にぶっ壊れたM16A1、完全にぶっ壊れたAR-15が居るだけだった。あ、ダメだこれ。M16は多分まだ理性を残しているが、今のあいつなら416を止めるよりも416が齎す更なるカオスを笑い倒す方に天秤が傾くだろう。

 増援は期待出来ない。俺一人で凌ぐしかない。

 

「いいれすか!?」

 

 あ、はい。

 

「わらひはよんまるよんひょうたい! えりーとなんれす!」

 

 そうだな。

 

「あなたはひきはんです!!」

 

 そうだな。

 

「つまりぃ……わらひはかんぺきなんれす!!」

 

 うん。うん?

 

 アカンこれ完全にダメなやつだ。まともに話が通じる状態じゃない。多分416自身も自分が何を言ってるのか分かってない。とりあえず思い付いた単語を並べて叫んでるだけだ。こう、もうちょっとムーディな雰囲気で優雅に酒を楽しみたかったんだが、最早叶わぬ夢である。と、とりあえず416、一旦水でも飲んで落ち着こう。な?

 

「なんの! まだまだいけまう!」

 

 いやそれ以上いかなくていいから。戻って来れなくなるぞ。

 

「ひきはんがつきあえっていったんれふよ!?」

 

 畜生、そういうところだけはちゃっかりAIの記録装置が働いてやがる。

 

「なんだぁ416? 指揮官を独り占めしようってかぁ?」

 

 だぁー! ここでお前が来るんかい! 加勢は望んでいたことだがそういう感じで加わるんじゃない! スコーピオンから標的を416に変更したのか、ぬらりという擬音が一番当て嵌まりそうな動きで瞬時にその距離を詰めてくるM16A1。お前こんな時にまで無駄に高い義体性能発揮しなくていいから。酔拳の使い手かよ。

 

「あによぉ!」

「あっはっは! 残念だがお前に指揮官はやらんぞー?」

 

 とんでもないことを言いながら車椅子の膝元にしな垂れかかってくるM16A1。俺の右大腿にその上半身を預けながら、アルコールのせいか火照った顔で416にしたり顔を見せ付けている。俺は416のものになるつもりもないし、そもそもお前のものでもないんだが。あーあー、地べたに座るな、服が汚れちゃうだろ。

 

「なぁ、指揮官。私は、私たちはあんたのモノだ。誰が何を言おうとな」

 

 急に真面目な顔で訳の分からんことを言うんじゃない。お前らは確かに俺の指揮下にあるが、その所有権はグリフィンにある。いくらアルコールが入っているとてそれは変わらない。

 

「私を含めて皆、指揮官について行く。M4も、SOPMODⅡも、AR-15も」

「わらひも! ついていきまひゅ!」

 

 あ、こらお前勝手に話を進めるんじゃない。人の話を聞け。416はちょっと黙ってて。

 

「じゃあ416もだな! ははっ、指揮官はきっと、皆を平等に見てくれるだろう」

 

 そりゃまあ、俺は贔屓はしない主義だしな。何かもう止めるのも面倒くさくなってきたし無駄っぽいし、とりあえず話に乗っかっておくことにする。恐らく本題があるのだろう、言いたいことを言わせておけば少しはすっきりするだろ。

 

「ただ……その中で少しだけ、そう、ほんの少しだけでいいんだ。私だけを、見て欲しい」

 

 そりゃ無理な相談だ。バッサリと断りを入れれば、そこにはどこか分かっていたような、だが悲しそうな、そんな匂いを含んだM16A1の顔。

 別にM16のことが嫌いなわけじゃない。頼りにしているし、信頼もしている。どちらかと言えばその容姿や性格も含めて好いていると言ってもいい。だが、それは出来ない。M16A1の希望は叶えられない。俺はただの指揮官で、M16A1はただの戦術人形なのだ。そしてその所有権はグリフィンにある。それ以上でもそれ以下でもない。そもそも、俺という存在が彼女たちを縛ってしまっているのがおかしい話なのだ。不純、とは言わないが、"それ"は俺なんかに向けていいシロモノじゃあない。もっと他にいくらでも選択肢やより良い未来があるはずである。そのことを何とかして分かってもらいたいものなんだが、道のりは厳しいようだ。

 

 ただまぁ。今日は既に業務時間外で、今は無礼講だ。ちょっとした、ほんの気まぐれくらい、誰も咎めやしないだろう。もたれかかっているM16A1の頭を乱暴に撫でてやる。うーん、追跡戦訓練の時を思い出すな。

 こいつらに救われてしまった俺の命は、こいつらのためにある。それは変わらない。だが、俺はこいつらを縛るために生き残っているわけじゃないんだ。あくまで俺は手伝いの立場。こんな老人に片足突っ込んだおじさんが主役になっちゃいけない。

 

「……そういうところだぞ、教かぁだだだだだァ!!?」

 

 こそばゆそうに目を細め首を傾けながら、M16A1が禁忌を犯そうとしたのですぐさま撫でていた右手を武器に切り替え必殺のアイアンクロー。悪いがこの足になってからも筋トレは欠かしていないもんでな、上半身のパワーは現役時代にそこそこ近付いてるんだ。ちなみに、隣で騒いでいたはずの416はいつの間にかノックダウンされており食堂の床に大の字で寝そべっていた。うわぁ、こいつ騒ぐだけ騒いでバッテリーが切れたらプツンと行くタイプか。めちゃくちゃタチ悪いな。相変わらずスコーピオンとAR-15が馬鹿騒ぎしていること、M16A1の声がすこぶる小声だったこともあって、どうやら他には漏れていないようで何よりだな。

 

「ちょ指揮官やめぁだだだだっだあッぃいいいい!?」

 

 おっと、つい全力で行ってしまった。すまんすまん、と力を緩めてその髪を再び乱暴に乱してやると、涙目でめちゃくちゃ睨まれた。いや俺悪いことしてないから。お前が悪い。

 

 

「しきかぁー……うっわ……」

 

 ふとこの場に居ないはずの人形の声が響き、視線を泳がせるとそこには様子を見に来たのか、UMP45が食堂の入り口で閉口していた。うん、そりゃ引くよね。俺もどうしてこうなったのかサッパリ分からない。

 

「あー……とりあえず416は回収していくわね。引き続きごゆっくりどうぞ~」

 

 俺の右膝に引っ付いているM16を一瞥し、努めて業務的な声色を発しながらUMP45は416をファイヤーマンズキャリーの姿勢で持ち上げて迅速に運んでいく。うーむ、やはり腐っても戦術人形だ。素晴らしいパワーである。

 さて、ごゆっくりと言われはしたものの、こっちはこっちでいい加減お開きにしておかないと明日に響く。とりあえずM16、スコーピオンとAR-15を正気に戻してやってくれ。あいつらあのままじゃ明け方まで騒ぎっぱなしだぞ多分。

 

「……はぁ、分かったよ。了解っと」

 

 その数瞬の空白は何なのか。俺にはサッパリ分からない。

 M16はゆっくりと立ち上がると、未だ変顔芸を続けているスコーピオンと引き笑いを続けながら酸欠状態に陥っているAR-15に近付き、立て続けに無言でチョップを見舞い、強引に終わらせていた。あれ、何かちょっと機嫌悪い? おじさんにはサッパリ分からない。

 

「じゃあ私はこいつら引っ張っていくから。指揮官も早めに休めよ」

 

 そう言い残し、スコーピオンとAR-15の首根っこを捕まえてM16A1はこの場を去って行く。

 

 先程までの馬鹿騒ぎは何処に行ったのか、深夜の食堂は瞬く間に静寂に包まれていた。うーん、やっとのんびり酒を飲めそうだ。俺もあまり夜更かしはしたくないので、最後に少しばかり楽しんで今日はお開きとしよう。申し訳ないが、後片付けは業務用の自律人形にお任せする方向で。いやぁ、こういう時って本当に人形便利だよな。人間が堕落してしまうのも分かる気がする。

 

 

 

 

 

「あれ? ……ふふ、指揮官さま、もしかしてお一人ですか?」

 

 もー、やっとこさ独り酒と洒落込もうと思ったところにこれだよ。おじさんは疲れたの。独りでのんびりアルコールを楽しみたいんですー。

 なんて言ったところでどうせ無駄なんだろうなあ。せめて彼女が最後の乱入者になることを祈るしかない。ああ、グラスはそこらにあるやつを適当に使ってくれ。つってももうあまり酒自体残ってないけどな。

 

 

 この支部の人間と戦術人形を巻き込んだ酒宴はまだ、終わりそうにない。グリフィンの指揮官って有給使えたりする? えっ? まだ付与されてない? そんなぁ。




ちなみにおじさんはまだ、あのアイテムの存在を知りません。



まぁ、知ったからといってその行動や理念が変わるとも限りませんが。

そろそろ本格的にネタがなくなってきたので、1話みたいなノリで単発完結のお話でも思い付いたら投げていこうかなと思います。


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14 -コピー・ファミリア-

前回ネタが枯渇しそうだと書きましたが、めちゃくちゃ細かいのはいくつかあるんですよ。どう膨らませても1話分に満たないようなやつ。

そこらへんもどうにか繋ぎ合わせて続けて行きたいところですね。


 いつも通りの朝。いつもと違うのは、少しばかり頭が痛いのと全身に倦怠感を感じているところだろうか。が、別段調子が悪いという程ではないので今日も一日それなりに業務をこなそうと思っている次第。

 昨晩は結局最後の乱入者が思いの外粘ってしまい、睡眠時間が少々削られてしまった。グリフィンの前線指揮官というのは割と裁量権の大きい仕事ではあるのだが、物資状況はともかくとして頭数が少なすぎて裁量権を発揮するまでも無く俺が働くしかないというのがつらいところだ。ここでいう頭数というのは戦術人形じゃない、いや戦術人形も足りてはいないのだが、一番不足しているのは指揮官そのものだ。俺の代打が存在しないものだから、必然的に俺が休めない。クソブラックかよ。俺と一緒に最後まで飲んでいた後方幕僚様も現状代打が居ないため、彼女の負荷も相当なものなのだが、今朝挨拶を交わしたところ俺と違ってすこぶる元気な様子だった。これが若さというやつか。現実からは逃げられなかった。

 

 しかし、業務自体は着任当初と比べればかなり楽になっている。理由は単純、この支部周囲の鉄血人形をほぼ完全に掃討したからだ。先日のS02地区の奪還だって、うちの支部が地理的にいけるからという理由でウチが出張っただけであり、本来であれば管轄外である。というか、そもそもS02地区がしっかりしていれば余計な尻拭いをせずとも済んでいたのだ。余計な被害と仕事ばっかり増やしやがってこんちくしょうめ。既に死んでしまった指揮官を責めても仕方ないのは百も承知なのだが、ちょっとした愚痴を零すくらいは許して欲しい。

 

 そうそう、S02地区で確保した2体の戦術人形だが、一晩経っても症状に目立った改善が見られなかったため、少々強引な手段ではあるがAIの初期化を行うことにした。通信でぺルシカリアに相談してみたのだが、恐らく感情モジュールの暴走を危惧してAIが自閉作用を起こし、モジュールに悪影響を及ぼす可能性のあるほとんどの外的情報をシャットダウンしてしまうようになったとのことらしい。会話は一応成立するんだが、当時のことを聞きだそうとすればm45は途端に怯えだし、IDWは途端に騒ぎだす有様だった。戦線に立てなくはないが、いつ何時その地雷を踏み抜くか分からない。大きな不安要素を抱えたままでは戦闘はおろか教育すらままならない。AIを初期化してしまうと当然それまでの最適化工程もぶっ飛んでしまうので1%からやり直しなわけだが、あいつら2人ともダミーを使えないレベルだったので正直五十歩百歩だ。それならクリーンな状態で一から教育しなおした方が断然早い。丁度ドラグノフにも、色々と基本的な知識から叩き込もうと思っていたところだ。最適化工程に多少差は出てしまうが、座学ならそこまで問題ないだろう。

 

「おはよう指揮官。今日もよろしくね」

「今日もいい天気だ! ガンバロー!」

「指揮官、おはようございます」

「……ふぁあ……ねむ……」

 

 なんて色々考えていると、第三部隊の面々が司令室のゲートを潜っていた。今日は午前中に書類仕事を終わらせ、昼休憩を取った後にこいつらと射撃訓練の続きをやる予定である。しかし挨拶一つとってもこいつら個性的だなぁ。G11は立ったまま寝るな。起きろ。いや待て、よくよく考えてみたらこいつが午前中から司令室まで歩いてくるって凄いことじゃないか? 一体どんなトリックを使ったことやら。明日は槍でも降るんじゃかろうか。

 

「別に。指揮官に叩かれたくなければ起きろと言っただけよ?」

 

 さらりとネタばらしを呟く416。お前俺をダシに使うのやめろよ。仮にも同じ部隊の仲間だろ、ちゃんと我がの力で面倒みてやれ。ただ折角起こしてもらったところ悪いが、訓練や作戦の予定があればともかく、少なくとも今日の午前中は戦術人形たちに目立ったタスクが無い。ということでG11、もうちょっと寝ててもいいぞ。

 

「え、ほんと? やったぁ……指揮官ありがとう……えへへ……」

 

 別段、G11を贔屓しているわけではない。戦術人形はその個性は勿論、趣味趣向に至るまで実に多種多様である。G11のように惰眠を貪ることが一番の楽しみである者も居れば、ただ騒ぎたいだけの者、訓練に励む者、俺にちょっかいをかけてくる者等等、様々存在している。俺としては直接業務に差し障りが出ない限り、なるべく自由に過ごして貰いたいと考えている。それが巡り巡って作戦時のパフォーマンス向上にも繋がるからな。

 

「まったくこの子は……ああ、そういえば指揮官。昨日はごめんなさい」

 

 ニッコニコの表情で左右に揺れているG11を尻目に、416が突然の謝罪を繰り出してきた。昨日のことっていうと、もしかしてアレか。もしかしなくてもアレだな。ていうか記憶残ってるのかよ。あんな特大のダークネスエピソードに自分から突っ込んでくるとはこいつ化け物か。もしあの痴態を曝け出したのが俺なら恥ずかしくて謝るどころか話題に上らせることすらしないぞ。

 

「指揮官に付き合うと言ったのに飲み始めて直ぐに眠ってしまって……。普段ならあそこまでアルコールに弱くなることはないのだけれど、作戦後で疲れていたのかしら……」

 

 んん? おかしいな、俺と416の間で認識の齟齬が発生している。どういうことだろう、とちらりと視線を横にずらせば、そこには完全に無と化した表情に作り物の微笑を貼り付けたUMP45。

 あー、あーなるほどね、完全に理解したわ。そういうことね。こいつ酒が入って壊れたら完全に記録装置もバグるタイプだ。自覚症状が全く無いから、自分が酒に酔わされていることすら理解出来ていない。周りが何を言おうとも、自分の中では潰れて寝ているだけなもんだから分かるはずもない。ぶっちぎりでタチが悪い。ある意味で完璧な女だよお前。

 

 まぁ、ここは触れずにおくのが吉というものだろう。気にすることはない、と早々に話題を切り上げておく。朝一から希望が詰まっていないパンドラの箱に触れるのは勘弁だ。

 

 じゃあねー、という元気なナインの声を最後に、第三部隊の面々は司令室を後にする。G11に限らず、残りの3人も思い思いに今日の午前を過ごすのだろう。

 さて、俺は俺でやることをやらねばならない。作戦行動をはじめとした業務が落ち着いてきているのは事実だが、S02地区の件もあって今日は色々と俺の決裁が必要な書類が増えている。ちなみに、今日の朝に確認したところしっかりクルーガーから電子書類も届いていた。来月の支援物資の追加通知書のデータと、人形発注時にI.O.Pへ支払うコストを帳消しに出来るパスコードが3種。正確には帳消しではなくG&K本部が肩代わりする内容なのだが、うちとしてはどっちでもいい。

 こういうところが俺がクルーガーに信頼をおかずとも信用している証左だ。あいつはあいつで俺とは違う経歴を歩み、その分俺とはまた違った修羅場も潜ってきている。職業軍人と民間企業の社長じゃあ、その肩にのしかかる社会的なプレッシャーは比じゃないだろう。あいつも攻め手が上手いが、ギリギリのラインで守るところはしっかり守る。「自分から言い出した約束を反故にする」ことがどれだけの致命打となるかを理解出来ない男じゃないからな。

 まあ正直、この程度のご褒美は頂いておかないと俺も動くに動けなかったところもある。グリフィンで勤め出して分かったことだがこの会社、横の繋がりが馬鹿みたいに薄い。支部一つが管轄する地域も広い上に、業務用の自律人形、戦術人形、後方幕僚でそのほとんどの業務が支部内で完結してしまうのだ。より安全圏である支配地域の内地なんかでは複数の支部が連携して地方統治を行っているところもあるみたいだが、うちみたいな前線支部はそうもいかない。内情はどうあれ、同じ前線支部であったはずのS02地区の連絡先すら情報としてなかったのもここにある。良くも悪くも他所の支部と関わりを持つ必要性が無い。むしろ環境の差なんかが表沙汰になると余計なトラブルを招きかねない。うちの支部にタイプライターが支給された時も本部はどうか知らんが、少なくともうちの支部に無駄なクレームや陳情なんか一通も届いていない。そんな些細な情報、発信すらされていないのだろう。

 

 だが、それはそれでメリットもあるが、同時にデメリットもある。今回のように一つの支部が速攻で潰された場合、近隣の支部で連携が取れない。情報取得の手段を本部に一本化してしまっているせいで、情報の精度が高い分拡散の速度がどうしても犠牲になる。今までは鉄血側が纏まるなんてことがなかったからこれでもよかったんだろうが、今後はそういうところも見直していかなきゃならんだろうな。ま、そこら辺はクルーガーの手腕に期待しておこう。状況の変化を見逃すほど馬鹿じゃないしなアイツ。

 

 そうだ、折角だしこのパスコード、今日注文して使ってしまおう。救出した2体の戦術人形もAI初期化をかけるせいで最適化工程もリセットされるし、教育は同時に行う方が効率もいい。どっちにしろ頭数は確保しておきたかったからな、丁度いいところだ。しかし大丈夫なのかこれ、I.O.P社への電子申請はその選択内容によってかなりの物資が吹っ飛ぶ仕様になっているが、メールの文面を見る限り、このパスコードに発注時の資源上限は特に設定されていないようにも思える。

 

 ま、いいか。仮にミスだとしてもそれは設定していないクルーガーのミスだ。俺が気にするところじゃあない。とういうことでポチっとな。午前中に発注かけておけば明日には届くだろ。前回みたいに襲撃でオジャンになるなんて事態だけはやめて欲しいが、こればっかりは祈るしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官さま! 新しい戦術人形が到着したみたいですよ! しっかり3名のようです!」

 

 午前中にさっくりと書類の整理と決裁を終え、昼食を取り、午後にm45とIDWのAI初期化に立会い、そんで第三部隊の教練にも立会い、またメシを食い、新規の人形とm45やIDWの教育訓練をどうするかなとデスクで唸り、程よい眠気に襲われて就寝し、迎えた翌日。カリーナが新たな来訪者を確認し、その声に喜色を含んで報告してくる。よしよし、今回は人権なんちゃら団体に襲われることもなく無事到着したようだ。というか、何だかんだ俺が着任してから発注した新規の人形って今回が初めてじゃないか? 別に俺はコンソールをポチポチしただけで生みの親でもなんでもないんだが、果たしてどんな奴らが来るのか、ちょっと楽しみになってきたな。

 

 通してくれ、とカリーナの声に返答し、ニューフェイスの登場を待つ。前回と違い、今司令室に居るのは俺とカリーナの2人に加えてM4A1、M16A1、スコーピオン、UMP45の4体だけだ。昨日は訓練などもあって全員に召集をかけるのを忘れてしまっていたので、とりあえず朝方に声をかけ、各部隊の隊長格にだけ来てもらった。M16A1は何故か引っ付いてきた。なんでだよ。

 

 短い電子音が鳴り響き、司令室前の正面ゲートが開く。いよいよご対面というやつだな。開いたゲートから、3人分の影がこちらに歩を進めてくる。完全にゲートを潜り、お互いの表情までしっかりと読み取れる程度の距離に近付くと、彼女たちは一斉にその足を止めた。

 

 

 

 

 

「ダネルNTW-20だ。鋼鉄の壁であろうとも、この私が貫いて見せよう」

「はじめまして指揮官。このMG5は、今日からあなたのものだ」

「あんたが新しいボスか。シカゴタイプライターだ、夜露死苦!」

 

 

 どうしよう。なんかめっちゃ強そうなの来た。




強い(震え




一応、本作品内で登場する戦術人形は筆者が日本版アプリで実際に獲得している人形に限定しています。なので、日本版未実装の人形、筆者が取得していない人形は出てきません。

つまりネゲヴもPKPもMG4もPKも出ないんだ。すまんな。
もし今後出てきたらそういうことだと思ってほしい。


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15 -コピーズ・ブートキャンプ-

今回の訓練にはなんとあの方が来て下さいました!


 強い。圧が強い。なんだこれ。こいつら3人とも最適化工程1%の戦術人形であってるよな。この場に居る誰よりも弱いはずなんだが、この場に居る誰よりも強そうに見える。おかしくない?

 戦術人形が一体一体その個性を存分に持っていることは今所属しているやつらを見て分かっていたつもりだが、そっかぁ、こういうタイプも居るんだなあ。一周回って新鮮だ。というか、本来は戦場でバリバリ働くために生み出された代物である以上、こっちの方が正しいのかもしれない。俺も知らず知らずのうちにこいつらに毒されていたやもしれん。仲良しこよしのなあなあ部隊にしているつもりは毛頭ないが、ちょっと改めて気合を入れるか。

 とか思ってたら最後に名乗りを上げたシカゴタイプライターがくつくつと笑い出している。おーおー、威勢のいい跳ねっかえりって感じだな。元気があるのはいいことだ、シバき甲斐がある。ていうかお前が持ってるのトンプソンだよな。シカゴタイプライターってのも間違っちゃいないがギャングかよ。

 

「いや、悪い。車椅子に乗ったボスってのは想像していなくてな」

 

 まあ、そうだろうなあ。俺だってこんな姿で生き長らえるなんて考えてもいなかったよ。人知れずどっかでくたばってるもんだとばかり思っていたからな。

 彼女の言葉ににべもなく返せば、またくつくつと繰り返される笑い声。こいつ中々いい性格してんな。ここの連中とソリが合うかと問われれば微妙かもしれんが、俺個人としては嫌いじゃない。

 

 トンプソンとの会話も程ほどに、俺も一旦場を締めて自己紹介をしておこう。あわせて、当面の予定も伝えておく。というのも、周辺一帯の鉄血人形を綺麗に片してしまったせいで、しばらくはこれといった作戦がない。S02地区の時のようなイレギュラーが起こればまた話は変わってくるが、あんな事件が早々何回も起きてもらっても困る。そしてこの3人と同様にm45、IDWの2体も最適化工程が1%なわけで、このままじゃマトモに戦場に立つことも出来ない。俺としてもしばらくは纏まった時間も取れそうだし、AR小隊の時ほどじゃないが結構なウェイトを教育訓練に割こうと考えているのだ。404小隊への教導が少し滞ってしまうが、あいつらは現時点でそれなりに動くことが出来る。更なるレベルアップも当然見越していくべきだが、まずは動かせる駒を多く作っておかないと今後の作戦に支障が出てしまうからな、悪いが新人教育の方が今は優先度が高い。

 

「私はそれでいいわよ指揮官。ちょっと残念だけど、きっと皆も納得すると思うし。まずはヒヨっ子さんたちをしっかりと育ててあげないとね?」

 

 当面のプランを伝えたところ、当事者の一人でもあるUMP45からは賛同を得られたようだ。しかしお前ヒヨっ子て。俺から見ればお前らもどっこいどっこいだぞ、とは思っても言わない。ここで俺がその発言をしてしまうと、下手をすれば新人たちがUMP45のことをナメてしまう可能性がある。直属の上司は俺だし、配下の人形たちに上下をつけるつもりはないが、現状新人の3体はこの支部内ではブッチギリで最弱だ。上下関係という程のものではないにしろ、力関係はしっかりと理解してもらわないとダメだ。それは指揮命令系統だけに限った話じゃない。そしてUMP45の言葉を聞いてか聞かずか、トンプソンの笑いがいつの間にか消えている。代わりに表に出てきたのは如何にも好戦的とも見える表情。おおっと、UMP45の言葉で火がついたか?

 

「すまない、指揮官を悪く言うつもりでは決してないのだが……その、見る限り片足を喪っているようだが」

 

 あー、うん。言いたいことは分かるぞダネル。何か416とのやり取りを思い出すなこれ。

 対物ライフル、NTW-20がその表情に若干の申し訳なさを混じらせながら言葉を紡ぐ。確かに俺は過去の戦場でどじを踏み、片足を喪った元傭兵だ。そんなやつに戦術人形の指揮官が務まるのか、というダネルの指摘に間違いは無いどころか至極尤もだ。ただまぁ、確かに人間ってやつは人形に比べると非常に脆弱で能率も悪いが、なんだかんだなるようになる驚異的な柔軟性も持ち合わせている。少なくとも今ここでドンパチが起こったとして、今のお前らには負けんよ。俺の教育を受けてればすぐに俺なんかぶっ殺せるようになると思うけどな。

 

「ほう……面白いじゃないか。上手く私を使ってくれることを期待している」

 

 最初の挨拶以降だんまりを決め込んでいたMG5が、トンプソンとはまた趣の違う笑みを浮かべていた。んー、なるほど。まだ印象でしかないので確信とまでは行かないが、こいつは自身がMG5であることに自負と自信を持っている感じか。いい意味で自分自身が人形であり武器であることを理解していると見た。416とはまた違った方向でストイックなイメージだな。

 

「なぁボス。早くその訓練ってヤツで私を楽しませてくれよ」

 

 ギラギラとした目付きを隠そうともせず、トンプソンがずずいと前に一歩出る。注意深く視線を追えば、俺というよりは先程の発言からずっとUMP45を意識しているようにも思えた。ていうか、そのボスっていう呼び方何とかならない? こいつの見た目も相俟って物凄いギャングっぽくなってしまう。おじさんそんな不良じゃないんだけどなあ。

 ま、いいか。ちゃんと締めるところさえ締めてくれれば呼び方くらい。というわけで新人クンの折角のやる気を削ぐのも悪いので、基礎的な射撃訓練から早速やってみようかな。重要かつ緊急性のある書類は昨日のうちに全て片付けたし、早々新しいトラブルなんて舞い込んでこないだろう。そうだ、訓練するならm45とIDWの2人も呼んでおかないとな。んー、スコーピオンでいいや、同じサブマシンガンのよしみだ、ちょっとあの2人を射撃訓練場まで連れて来てくれ。多分今なら宿舎に居るはずだ。

 

「はいはーい了解。あ、折角だしアタシも横で射撃訓練しててもいい?」

 

 おお、珍しいな。別にスコーピオンは訓練が嫌いなタイプの人形じゃないが、このように積極的に参加するタイプでもない。恐らくだが、新人という名の後輩が増えたことでいいところを見せたくなったんじゃないかと思う。こいつそういうの好きそうだし。

 勿論、断る理由なんて何一つないので俺は二つ返事で了承する。いやぁ、切欠が何であれ訓練に前向きに取り組んでくれるってのは教える側からすれば非常にありがたい。なんだかんだスコーピオンもまだまだ伸びしろのある人形だ。最適化工程こそ第一、第三の面々に遅れを取っているが、こいつの持っている運動性能は半端じゃない。リアルに弾丸を見てから避けるやつって俺初めて見たかもしれん。未完成の状態でこれだ、こいつが極まってくればSOPMODⅡ以上に戦場を縦横無尽に走り回るトンデモマシーンが出来上がると思っている。それにぶつくさ言いながらも面倒見も悪くないし、第二部隊の隊長として着々と成長している実感がある。あとはもう少し落ち着きと広い視野を持てるようになればきっといい隊長になるだろう。

 

 

 

「では指揮官。折角ですし私もお付き合いしますね」

 

 ニッコリと微笑を湛えながら、M4A1が動いた。いや今更お前に基礎的な射撃訓練なんぞ要るか? 絶対要らないだろ。何が折角ですし、だ。その内訳がサッパリ不明である。

 

「そうだなあ、じゃあ私も付き合ってやるか」

 

 お前はもっと要らないだろ。そんなことしてもお前の最適化工程は1%も進まんぞ。

 

 

 いや、待てよ。これはもしかしたら使えるかもしれん。その時、おじさんに電流走る。

 M4とM16の2人には、俺の訓練の補佐についてもらうってのはどうだろうか。正直、俺一人で全員の面倒を一気に見るのはかなりキツい。射撃の基本を教えようにも足がないものだから一回一回誰かの肩を借りなきゃいけなくなるし、そもそもこの支部にある射撃訓練場は、ここにいる全員が一斉に撃てるほどレーンがない。訓練の順番待ちとかいう訳の分からない事態が発生する。こいつらの主武装はアサルトライフルだから新人の誰とも武器が被っちゃいないが、スコーピオンやUMP姉妹は自分が扱う分はまだしも、誰かに教えられるほど習熟はしていないし、教え方もよく分かっていないだろう。

 だが、第一部隊の連中は文字通り別格だ。こと局地戦闘下の効率化においては俺なんかよりも出来るようになっている。それを他の人形へ曲がりなりにも教えることが出来れば、もっと効率的に部隊の錬度を上げていくことが可能だ。失敗する可能性も高いが、やってみる価値はある。流石に対物ライフルやマシンガンを教えるのは無理があると思うので、手始めにトンプソンとm45、IDWに関してはこいつらに補助してもらおう。やってみてダメだったら今まで通り俺が教えればいい話だしな。

 

「ええっと……私なんかでいいのでしょうか……?」

「私はやってみたいと思うぜ。面白そうだ」

 

 そんな構想を話してみると、2人の反応はやや対極的だ。ただ、M4に関してはやりたくないというより遠慮とかそういう割合が強そうだな。嫌というわけじゃなさそうだ。ま、モノは試しだ、やるだけやってみて損はないと思うぞ。ということで、早速射撃訓練場に移動しようか。スコーピオンはさっき言ったとおりあの2人を連れて来てくれ。あとついでにカリーナにスケジュール伝えといて。よろしくー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うにゃあああ!! 無理だにゃ! もうこれ以上無理だにゃああ!!」

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ」

「無理ではありません。出来ます。IDWさんは初弾の精度は高いのですが、大体5発目以降から着弾点が2cm程ズレてしまっています。折角の電子制御なのですから、反動の制御は完璧にしておきましょう。m45さんは射撃の際、どうしても下半身がぶれているように思えます。しっかりと自身で扱う銃のことを義体に教え込まなくてはいけません。さぁもう一度」

「うにゃああああああああああああああ!!!」

「あいッ痛! いっで! ちょ、ちょっとストップだ姉御!」

「黙って従えトンプソン。お前は弾をバラ撒くのが好きなようだが、そんな格好でまともに弾が飛ぶと思うなよ。このッ姿勢でッ動かずにッ撃つんだよッ! 一ミリでも動いたら最初からやり直しだからな?」

「ムチャクチャだぜそんなの……」

「ムチャクチャなわけあるか。なんのための義体だよ、しっかり叩き込め。私は出来る」

「う、嘘だろ……」

 

 鬼かよ。

 射撃訓練場についてから、俺はダネルとMG5の2人を、M4とM16にはサブマシンガンの3人を見てもらうことにした。こちらは両者とも基本がバイポッドを立てての伏せ撃ちなため、最適な姿勢を教え込むために俺も地面に転がっていたのだが、IDWの奇声が突如響き渡り何事かと思って振り向いたらコレだ。

 あいつら、なまじ自分のレベルが高い分しょっぱなからそれを前提にして教えようとしている。1歳の赤ん坊にコマンドサンボを教えるようなもんだ。無茶苦茶すぎる。こればっかりはトンプソンの叫びが正しい。その横ではスコーピオンが「近寄らんとこ」みたいな顔で無心に的当てをしていた。そりゃ関わりたくないに決まっている。あいつの性格からして、出来れば助け舟を出したいところなんだろうが、そうすると自分が巻き込まれる可能性もあるからな。いい判断だ。

 

 こりゃ俺が助けるしかなさそうだ。というか、折角AI初期化までしたのにまたあいつらに新たなトラウマを植え付けられても困る。トンプソンだってうちの貴重な新人だ、潰されでもしたらたまったもんじゃない。ダネルとMG5にはとりあえずの基本姿勢を教えて、それで少しの間反復射撃をしてもらいつつサブマシンガンの3人は俺が最初から見直そう。

 結局俺が見ることになるんじゃん。いやまぁ正直予測はついていたんだが、こんなぶっ飛んだ結果になるとは思わなかった。あいつら人形がどうこう以前の問題だな、性格が教育に向いてなさすぎる。M4A1は416がドン引きするレベルの完璧主義だし、M16A1はがっつり自分の型に嵌めこまないと気がすまないタイプだ。それがハマる相手ならいいが、それ以外だと地獄でしかない。ということでさっさとあいつらを止めよう。取り返しがつかなくなる前に。

 

「あ、指揮官。ど、どうでしたでしょうか……? 結構、自信あったんですけど……」

「いやぁ、他の人形に銃の扱いを教えるってのも案外悪くないもんだな!」

 

 お前らどの口が言うわけ? ちょっと晴れやかな顔しやがって。ただまぁ、結果はどうあれこいつらに頼んでみようと思い付いたのも、実際にやらせたのも俺だ。こいつらの不出来を責めるわけにはいかない。そもそもが不利な賭けだったしな、致し方なしか。とりあえず教えている内容自体は間違ってはいないが、それは最初から求めるものじゃない、少し技術の差に開きがあり過ぎたから、ヒヨっ子どもがもっとマシになったら改めてお願いしてもいいかもしれない。みたいな感じで濁しつつAR小隊の2人をこの場から引き剥がそう。つーことでお前ら一旦帰りなさい。サブマシンガン3人の目が完全に怯えてるから。

 

「……すごいな、あの2人は……」

 

 伏せ撃ちの姿勢から首を回し、驚いたような表情で呟くダネル。いや、確かにあいつらはスゴイんだよ? そこは否定出来ない。でも多分俺が感じているあいつらのスゴさと、ダネルが感じているスゴさはかなりベクトルが違う。俺からは気にするな、としか言えなかった。

 

 さて、気を取り直して教練を改めて開始するとしよう。幸いあの2人は、射撃姿勢自体は概ね正しいものを教えている。ただ、アサルトライフルとサブマシンガンでは基本的に求められる役割が違う。IDWで20メートル先のターゲットに着弾点をフルオートで重ねろって無理難題にも程がある。あいつはサブマシンガンにスナイパーをやらせる気か。

 

 

「ああ、そうだお前たち」

「忘れるところでした」

 

 俺から一時離脱の指示を受け、その場を去ろうとしたキチガイ教官2人が同時に振り向いた。その動きに合わせてサブマシ3人の肩が縦に揺れる。おいおいおい完全にトラウマ植え付けられてんじゃねーか。ヘルプが遅かったか。

 

「指揮官は、もっと厳しいですよ?」

「片足を喪っているからってあまりナメてかからない方がいいぞ」

 

 最後の最後に変な言葉を残して2人は去っていってしまった。その情報今要る? 要らないでしょ。100パー要らないでしょ。萎縮させちゃうだけでしょ。何なの君たち。あいつらのことだから別に新人を苛めてやろうとかそういう邪な考えはしていないと思うが、それにしたってもう少し空気読もうよ。おじさん困っちゃうだろ。

 

 ため息を吐きながら視線を戻すと、ふとトンプソンと目が合ちょっと逸らさないで。待って。俺あんなキチガイじみた教練なんてしないから。確かに訓練中の甘えは許さないが、あいつらの言う厳しさとこいつらが想像する厳しさの次元が違う。大いなる誤解が発生してしまっているぞ。ていうか最初のあの強気なシカゴタイプライターはどこに行ってしまったんだ。帰ってきて欲しい。

 

「し、指揮官……優しくしてほしいにゃ……」

「あ、あのっ私頑張りますから……ですから……」

「ボス、私が悪かった。お手柔らかに頼む……」

 

 絵面がヤバい。おじさん相手に途端にしおらしくなる美女3人とかヤバいにも程がある。事案じゃねーか。俺にそんな趣味はありません。

 

「ふふ、そうだ。それでこそ、私を扱うに足る指揮官というものだ!」

 

 反復射撃を終えたMG5が抑えきれない喜色を湛えて声高に喉を鳴らす。うん、全然悪いこっちゃないんだが、この子はこの子で何か突き抜けてるな。今までそんなに沢山見てきたわけじゃないんだが、戦術人形って癖のあるやつしか居ないのか?

 

「その、なんだ……指揮官も、すごいんだな……」

 

 いや、俺は凄くないから。普通の元傭兵のおじさんだから。

 ただ、ダネルとMG5は最初から俺が見ていたためか、その印象はどうにか保たれているようだ。少なくともこいつらみたいにビビってはいない。これで5人ともあいつらに任せていたらと思うとゾッとする。今後とも教練はなるべく俺一人で担当しよう。負担は増えるが、まぁ基本的に戦術人形は優秀だからそこまでてこずったりはしないはずだ。それに、片足の自由が利かない状況で大勢を見るとなると相応の時間がかかってしまう。その時間を担保出来るタイミングも早々ないだろうからな。折角ある程度の融通が利く時期なんだ、有効に使わなければいけない。

 

 よし、あまりぐだぐだしていても時間が勿体無い。気を取り直して教練を再開するか。サブマシンガンの3人は基本の射撃姿勢をある程度仕上げて、ダネルに関しては出来れば風の読み方や偏差射撃まで進んでおきたい。MG5はピカティニーレールが活かせるから、制圧射撃の他に点射なんかを教えても面白いかもしれないな。

 うーん、前々から思ってはいたが、いい加減車椅子が不便になってきた。改めてペルシカリアに相談してもいいかもしれないな。自分が動きたいとかそういう欲求以前に、純粋に効率が悪い。

 

 まぁ、そこらへんを考えるのは今日の訓練が終わってからにしよう。しっかし、最適化工程1%の新人5人か。AR小隊の時を思い出すなあ。何だか少し懐かしい気分になってきた。そう考えるとテンションも上がってくるな。今日一日でこの5人をどこまで伸ばせるか、ちょっと頑張ってみよう。おじさん頑張っちゃうぞー。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官ー!? アタシも見てほしいんだけどー!?」

 




自分が出来ることは皆出来る! みたいな精神持ってる人、居ると思います。筆者は嫌いです。





で、ちょっと最近、思い付いたら書いて更新しなきゃ! みたいな感じになってしまっててあまりよろしくないなと感じているので、今後もしかしたら不定期になる可能性があります。元々前作が終わった段階で一段落ついてるはずの話なので。

あんまりネタを引き伸ばして中身の薄い更新もしたくないですし、進めるにしろ日常にしろ、ある程度思い付きが固まってから落としていこうかなと思います。

そこらへん、見て頂いている方々としてはどちらの方がいいんでしょうかね? アンケートを取るまでもない内容だと思うので、気が向いた方は活動報告なりメッセージなり感想のついでなりで教えて頂けると参考にしたいと思います。


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16 -フルアーマーおじさん- 前

タイトルで既にオチている気がする。

今回場面はほとんど進みませんが、戦術人形について本作品内での独自要素が含まれます。
この世界ではこうなんだ、くらいで読んでいただければと思います。


 うーむ、めちゃくちゃ疲れた。やはり片足を喪った状態で一気に5人の面倒を見るのは正直かなりキツい。継続するのはほぼ不可能と見ていいだろう。お勉強ならともかく、実戦的な内容となると今の状態じゃ俺の役者不足感が半端ない。かといってM4やM16を見る限り、人形に教官をやらせるってのはまだまだ難しそうにも思える。参ったな、割と早い段階でどうにかしないと今後規模が拡大した時に色々と追いつかなくなってしまう。新人を増やすペースを落とせと言われれば勿論なんだが、いくら一帯の安全がとりあえず確保出来たからとは言え、いつまでもその状態に甘んずるのはよろしくない。つーかそもそも、俺の采配で現状何とか誤魔化してはいるが、前提として戦力は全く以て足りていない。これっぽっちの人員で地域一帯の治安維持を図るなんて土台無茶である。AR小隊と404小隊という二枚看板が居るからどうにかなっているだけだ。属人的なシステムでは今後の拡大は見込めない。これは軍隊だろうが会社だろうが組織である以上は同様だな。

 

 新人5人の教育を一斉に引き受け、一夜明けた翌日。昨日は結局射撃訓練の後、俺がちょっと張り切ってしまったこともあって追加でドラグノフも呼んで作戦報告書を使った基礎知識の座学を行ったのだが、ダネルとMG5の2人はその過程でかなり最適化工程が進んだ。もうちょっと教え込めばダミーを2体操れるレベルにまで到達しそうである。トンプソン、IDW、m45もとりあえずダミーを1体操れるようにはなったが、どちらにせよまだまだ基本的なところから教え込んでいかなきゃいけない。幸先は良いが、道のりは長い。

 何体か教練を受け持って分かったんだが、戦術人形ってのは最初の飲み込みは皆例外なくかなり早い。ダミー1体を動かせるレベル程度であれば、教え方さえ間違わなければ文字通り一瞬で辿り着ける。そこらへんは改めて人間との違いを思い知った。ベースが電脳だから基本の吸収は恐ろしく早いのだ。

 ただ、俺基準で言うと新人に毛が生えた程度から半人前くらいのところから、AIによってその成長速度が徐々に変わってくる。同じ内容を教え込んでいるはずが、その習熟度に小さくない個体差が生まれてくるのだ。基本のつくりが同じ電脳のはずなのに、どうしてこんな差が生まれるのか、これが分からない。俺は技術者じゃないからなあ。

 

『あー、それは人形ごとに電脳のスペックに差異があるからだよ。人間と同じだね』

 

 そんな俺の疑問に答えてくれたのは、通信デッキ越しで眠そうにマグカップを啜る稀代の天才技術者、一枚皮を剥けば生活力皆無のダメウーマン、16Labの主任研究員ペルシカリアだった。相変わらずその顔に決して薄くない隈を浮かべて精力皆無の顔付きである。しかしながら、やっぱりこいつ顔がいい。相変わらずタイプの顔だ。世の中ちょっと不公平すぎやしませんかね。

 

 俺が今ペルシカリアに通信を飛ばしている理由は3つ。

 先日回収したハイエンドモデルの電脳と武器から何か有用な情報が得られていないかの確認、戦術人形に対する理解を深めるための質問、俺の義足に関する注文だ。

 

 先ず一つ目、ハイエンドモデルからの情報収集だが、結果から言えばこれは完全な空振りに終わった。というのも、I.O.P社が電脳の解析を行おうとしたところ、権限のない外部アクセスを拒否するプロテクトが発動したとのことだ。そのプロテクト自体は大したことがなかったらしい。非常に簡単な壁の一種で、その道のプロとは言わずとも、それらの技術をかじったヤツであれば早くて1分、遅くとも5分あれば突破出来るようなやつ。優秀な研究員が複数在籍しているI.O.Pの技術開発部門の連中であれば、それこそ数十秒で解析、突破出来るような代物らしかった。

 だが、それはアクセスを弾くのが目的のプロテクトではなく、その数十秒を稼ぐためのものだったらしい。プロテクトが発動した瞬間、電脳が物理的に焼き切れてしまい何の情報も得られないままショートしてしまったそうだ。おそらく、情報漏えいを防ぐために不正なアクセスが検知された瞬間、時間稼ぎのダミーと人為的なオーバーカレントを発動させるプロテクトだったのだろう。情報の削除や単なる防壁ならともかく、物理的に焼き死んだのでは手の施しようがない。無駄に凝ったコンプライアンス遵守の姿勢である。グリフィンにも見習ってほしい。国家がその役割を果たさなくなっているとはいえ法律はあるんですよ。あのヒゲ分かってんのかな。

 まあ出来なくなったことは仕方がない。一方、武器の方はI.O.P社では実装されていない技術が結構盛り込まれているらしく、研究員の皆も割とテンションが上がっていたそうだ。そりゃ鉄血工造自体はI.O.P社とそのシェアを二分していた自律人形業界の大企業だ。そんなライバル企業の技術がふんだんに盛り込まれているであろう逸品である、そのクチの連中なら喉から手が出るほど欲しい情報だろう。ここに関しては詳しい解析が終わり次第、現行の武器に何かしらフィードバックが出来るかどうか試したいとのことで、結構な時間を貰いたいらしい。そこに関して俺も文句はない。うちの支部がそれを抱えていたとしても宝の持ち腐れ以外の何物でもないからな。出来ることならその成果ってやつが有用であればうちに口利きしてもらいたいところだが、まぁそこはクルーガーに任せよう。俺個人で企業との取引窓口なんかやりたくない。

 

 で、ハイエンドモデル関連の話に一段落付き、戦術人形のことについて色々と質問を飛ばしていた時に得られた回答がアレだ。うーん、一般的な商品のようにかけるコストや出来栄えでブランド分けをするというのならまだ話は分かるんだが、話を聞く限りそういう前提でもないようにも思える。電子申請のコンソールでは確かに幾つかの選択によっては掛かる物資的コストが異なってくるが、それが出来上がるAIのランクに直接左右されているわけでもないらしい。どういうこっちゃ。

 

『銃も同じよ。全く同様の製造工程を辿っても不良品が出てきたり、頑丈なやつが出来たりするでしょう? AIの場合はそれが更に複雑かつ特殊でね、大部分はライン化されているけど、一部分はどうしてもハンドメイドみたいな仕上がりになるのさ。その内容までは社外秘だけれどもね』

 

 そりゃ当然だわな。自律人形の電脳作成工程と言えば、素人でも分かるくらいにはその企業のトップシークレットで然るべきだ。間違っても俺みたいな一般人に漏らしていい内容じゃない。

 

 で、更に話を聞くとどうやら俺の考えていた前提は逆だったようで、発注を受けてからランクを定めて製造するのではなく、発注を受けて製造して、電脳部分の出来栄え次第でリンクする銃器タイプやランクを決めているらしい。一部の例外はあるが、基本的にこのランクが電脳の優秀さと見て概ね問題ないそうだ。はーん、だからコンソールにもそこらへん曖昧な表記しかなかったわけか。人形の指定は出来ないが概ね選択内容に沿った人形が送られてくる、というのはつまりこういう事情があったわけだな。なるほどおじさん納得。

 じゃあ今回やってきた3人ってどれくらいの出来栄えのやつらなんだろう。ダネルとMG5は何となく成長が早そうだなーとは思ってるけど。

 

『……ダネルNTW-20にMG5、トンプソン? いやぁ、何というか……豪運だねえ……』

 

 やってきた人形のことを伝えれば、ペルシカリアは珍しくその表情に驚きの色を湛えていた。えっ何そんなにヤバいの?

 話を聞いてみれば、こいつら3人とも最高ランクの電脳にリンクされる武器種のようだった。マジかよ。電脳のランクはその性能において概ね4段階に分類されるらしく、3人とも最高位であるランク5の人形らしい。牛かよ。ただ、それを聞けばダネルとMG5の吸収が早いのも納得だな。トンプソンも同じランクのはずなんだが、AR小隊の教練が足を引っ張ってパフォーマンスを発揮出来ていないんだと思うことにした。

 とはいえ、俺としてはそのランクで人形に対する扱いを変えるつもりはない。全員しっかり一人前に育ててやるつもりである。むしろ出来不出来なんて人間教えてた頃から考えればあって当たり前だ。その程度で部下を選別するような輩になりたくないしなあ。

 

 しかし、しっかり全員を一人前に育てるには現状があまりにもよろしくない。教練が必要な数に対して、俺のパフォーマンスが完全に追い付いていないのだ。当然時間をかければ出来ることではあるんだが、じゃあその時間をどこから捻出するのかって話になる。別にプライベートを重視したいとかいう話じゃないが、睡眠時間や食事まで削り出すとそれこそ本末転倒だ。更にパフォーマンスが悪化する。

 ということで、いい加減俺の機動力を復活させようと思ってのペルシカリアへの相談なわけだ。俺自身が戦場に立つようなことはもう勘弁願いたいが、そうならないためにも戦術人形たちへの教育訓練は抜かりなく行っていかなければならない。そのためにはやはり五体満足が一番効率がいいのである。

 

『おっ本当かい? どうしようかな、君の元軍……失礼、元傭兵の経歴を思えば、機動力に優れる逆関節型なんかお勧めなんだけど。それか両足ドッキング式の四足歩行型にしちゃう? 頑強さと機動力を兼ね備え、耐重量性にも優れた一品だよ?』

 

 やめろ。普通のにしてください。途端にテンションが上がりだしたペルシカリアを宥めてこちらの注文を伝えていく。というかなんだよ逆関節とか四足歩行とか。俺は普通の人間だぞ。人形を改造するのと同じノリで俺の義足にあれこれ要らん性能を付け加えようとするのやめて欲しい。

 とは言っても、訓練とはいえ俺もそれなりに激しい動きはする予定なので、それに耐え得る義足にはしてもらいたいところだ。耐久性は外せない要素だろう。あとは筋肉と同じように多少のしなりというか、柔軟性も持ち合わせてもらえればよりグッドだ。軽量化もありだろうが、あまりに左右の足で重さの感覚が違うと慣れるのに時間がかかるし、咄嗟の動きがかえって出来なくなる可能性もある。現役時代以上の運動能力を求めているわけじゃないので、そこらへんは人間の足と同程度の重量に調整してもらいたい。

 

『それくらいでいいの? シークレットナイフとか飛び出すようにしなくていい?』

 

 だから要らないっつってんだろ。どこぞの格闘漫画かよ。キャリングハンドルはあってもいいかなとちょっと考えたが、現状義足をつけるとしたら膝下からになる。そんなところにあっても逆に取り出しにくい。やっぱり普通のやつでいいや。

 

『ちぇー、分かった分かった。でも普通に作るにしても、今の君に合わせたやつを作らないといけないから、一度身体測定はしておきたいかな。こっちにくる機会とかある?』

 

 なんでちょっと残念そうなんだよこの残念美人が。だがまあ、言ってることは至極尤もだ。製作するサイズは勿論、体格や筋肉量、足の長さなんかもちゃんと測っておかないとな。いざつけたときに真っ直ぐ立てないとかいう笑い話にすらならない事態は避けたい。

 俺が支部を空けてしまうことには少々不安が残るが、まぁなにも泊まりで行くわけじゃないし、半日くらいならカリーナが居れば十分基本的な業務は回せるだろう。周辺に新たな鉄血の存在も確認出来ていないし、逆に言うと今のタイミングでしかそんな時間は確保出来ない。善は急げとはよく言ったもんだ。というわけでなるべく近日中にその身体測定をしておきたいんだが、ペルシカリアの予定はどうだろうな。

 

『そういうことなら明日にでも早速来てもらって大丈夫だよ。君としても早く終わらせておきたいんじゃない?』

 

 ありがたい申し出である。言われた通り、こういうのは早く終わらせておく方がいい。思い立ったが吉日じゃないが、後回しにしていると忘れたりそれどころじゃなくなったりするからな。特に今は鉄血人形との言ってしまえば戦争中だ。準備出来ることは出来るうちにしとかなきゃね。ということで早速明日お邪魔させてもらうとしよう。

 

 いやあ、たかだか一民間軍事企業の前線指揮官程度が押しも押されもせぬ大大大企業、I.O.P社の技術開発部門主任研究員様とこうやって対等とは言わずとも、気兼ねなく話が出来るなんて普通は考えられないことである。間違っても俺個人の力じゃないが、折角持ち合わせたコネクションだ、使えるものは使っておかないとな。しかしただお世話になるだけってのも何だか味気ない、手土産でも持っていくか。確か配給物資の中に、ゲロ不味い珈琲色の泥水を乾燥粉末化させた代物が混じっていた気がする。ペルシカリアなら多分飲むだろ。俺をはじめとして基地の誰も口にしないので処分に困っていたところだ。

 

 さて、早速明日外出する手はずを整えておかなければ。カリーナには後で伝えておこう。それとは別に移動のための車両と運転用自律人形、あと俺の護衛も立てておかないといけない。右足は無事だから運転出来なくはないんだが、無駄なリスクを背負う必要もないしな。

 ふーむ、護衛には誰を選ぶか。会うのがペルシカリアということもあって連れて行くならAR小隊の誰かになるだろうが、長旅でもないちょっとした外出、それも俺の個人的な用事で4人とも連れ出すのもなあ。M4A1とM16A1は訓練でも一緒になったし、AR-15とは酒盛りもしたし、そうだな、SOPMODⅡにしよう。なんだかんだあいつとは最近話出来てないからな、ちゃんと部下には平等に接していかねばならない。

 

「指揮官ー! あそぼーー!」

 

 おおっと、噂をすれば何とやらとでも言うのか、司令室のゲートを潜って元気良く飛び出してきたのは明日の護衛をお願いする予定のSOPMODⅡであった。丁度いいタイミングだ、今お前と遊ぶことは出来んが明日はちょっと俺に付き合ってもらいたいことを伝えておこう。

 満点の笑顔を湛えながら車椅子に飛び込んでくるSOPMODⅡをまずは両手で迎え入れ、同時に右足で地面を後ろに蹴る。蹴り出された力は車椅子の車輪を動かし、SOPMODⅡの突撃の勢いをいい感じに相殺してくれる。最近覚えた圧力の分散方法だ。後ろに壁があると使えないのが難点だが、幸いこの司令室そこそこ広いしな。そうやって彼女を膝元に迎え入れ、頭を1、2度乱暴に撫で上げてやれば大体こいつは満足する。その隙を突いてグッと力を入れて押し戻せばちゃんと自立してくれるのでありがたい。

 

 立ち上がらせたSOPMODⅡに明日の予定を伝えると、喜色をあげて了承を返してきたのも束の間に、その表情を神妙な面持ちに変えて何かを考えるような素振りに移る。何かマズいことでもあるのだろうか。こいつは普段でこそおちゃらけている場面も多いが、腐っても優秀なAIを持つAR小隊きってのアタッカーである。俺の外出予定を聞き、俺では思いつかない不安要素を感じ取ったのかもしれない。

 

「……指揮官」

 

 やはり、俺の外出で何か問題が起きる可能性が高そうだな。何時になく真面目な顔付きのSOPMODⅡに釣られてか、俺も思考回路が一気に冷える。周辺に鉄血は見当たらない、支部の運営も短時間であればカリーナで対応出来る。うーん、カリーナへの負担が問題になるか? 仲間想いの彼女のことだ、そこまで想定していてもおかしくはない。あるいは、俺が把握出来ていない人形同士のトラブルなどもあるかもしれない。もしそうであれば今後の作戦に支障をきたす恐れもある、SOPMODⅡが何か掴んでいるなら情報の共有をお願いしたいところだ。

 

 

 

 

 

「それってもしかして、デートのお誘いってやつ?」

 

 とりあえずデコピンしといた。




SOPMODⅡちゃんはかわいいなあ。


指揮官おじさんの足、どっちにするか結構悩んでたんですが、多分彼の思考回路だとこうなるだろうな、と思ったのでこうすることにしました。
四脚おじさんとかちょっと見てみたかったんですけどそうは問屋が卸さなかったよ。

あとペルシカリアのキャラクターが掴みにくくて難しい。色々イメージと違ってたらすみません。この世界ではこうなんです。許してくださいなんでもしますから。


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17 -フルアーマーおじさん- 中

この小説の読者さん、レイヴンとリンクス多すぎじゃない?
多すぎる……修正が必要だ……

今回で締めようと思ってましたが文量増えたので分けます。


「やぁ、お久しぶり。SOPMODⅡも元気にしてた?」

「やっほーペルシカ! 久しぶりー!」

 

 通信デッキを通してペルシカリアと色々と話をした翌日。予定通り俺はSOPMODⅡをお供にI.O.P社の技術開発部門、16Labへお邪魔していた。車と運転用の自律人形は入り口の職員の指示に従って所定の場所で待機させてある。流石は自律人形業界の大手と言うべきか、人間以外への対応もきっちりマニュアル化されており何一つ不便を感じさせない。一方、俺は俺でG&Kの前線指揮官であることを証明する社員証を見せればほぼ顔パスで通れるってんだからスゴイよな。企業間の癒着やら談合やらってのは本来は糾弾されて然るべきなんだろうが、その恩恵を甘受している内側からすれば素敵以外の何物でもない。今後とも思いっきり利用してやろうと思う。

 支部の方は、少しの間とはいえ最高指揮命令者である俺が支部を離れるということで、それなりに引継ぎはしてきたつもりなんだが、話をしている間カリーナはともかくAR小隊の残りの3人からえらいジト目で見られた気がする。アレは一体どういう意図があったんだろうな。おじさんにはサッパリ分かりません。

 16Labへ来る途中の道程は平和そのものだった。ほとんどの自然環境が破壊されている今、間違っても観光なんかが出来る状態ではなかったんだが、今の俺の状態じゃ外に出ることすらままならないからそれなり以上には新鮮だった。ちなみに移動中は運転席に自律人形、助手席にSOPMODⅡのダミー、後部座席のオリジナルと俺って感じだ。流石に道中の護衛にオリジナル一人ってのは危機感が薄すぎるからな。別に今更俺の命が惜しいってわけじゃないが、今俺が死ぬと支部に残った人形たちとカリーナが困る。そんな事態は御免被りたい。

 

 ペルシカリアと久々の再会を果たしたSOPMODⅡはそれはもう嬉しそうにペルシカリアに懐いていた。懐かれている本人も満更ではなさそうで、その不健康そうな瞳を細めて優しい手つきで頭を撫でる。うーん、ここだけ切り取れば人懐こい年頃の娘と優しいお母さんって感じなんだが、その中身は鉄血人形絶対殺すウーマンと天才変態技術者だからなあ。人も人形も見た目で判断しちゃいけない。いやペルシカリアは見た目通りヤバいやつではあるんだが。

 おっと、そういえば手土産を持ってきたんだった。忘れないうちに渡しておこう。ほーれ、喜べペルシカリア。うちの配給倉庫に眠っていた珈琲色のインスタント泥水だぞ。

 

「あら、悪いわねぇ。ありがたく頂戴するよ。後で一緒に飲むかい?」

 

 いいえ結構です。どうぞお一人で存分にお楽しみください。よくあんなの喜んで飲もうと思うな。嗜好品ってのは嗜好が合ってこそ効果を発揮するアイテムだ、俺にとってあの泥水は嗜好品足り得ない。しかしそんな代物でもこうやって在庫整理と好感度アップを両立出来るんだから、我ながらいい使い方をしていると思う。

 

「さて、それじゃあお互い忙しい身だろうし手短に済ませようか。そこに寝てくれるかい」

 

 社交辞令の挨拶も程ほどに早速用件に入る。俺としてもあまりのんびりは出来ないのでありがたい。ペルシカリアの視線が向けられた先には、なるほど人が丁度一人横になれそうなキャスター付きの簡素なベッド台。その先には全身をスキャン出来るような物々しい機械が大口を開けて待っていた。まぁ今更メジャーなりを使って手作業で採寸なんぞしないわな。スーツとかならともかく、今から仕立て上げるのは俺と一体となる義足だ。精密にやるに越したことはない。SOPMODⅡには計測が終わる間ちょっとばかし大人しくしててもらおう。大丈夫かな。

 

「ところで、本当に普通のやつでいいの? 色々付けられるんだけど」

 

 しつこいなこいつ。普通でいいっつってんだろ昨日から。計測のため、ベッドに横たわり機具に吸い込まれていく俺に名残惜しそうな声をかけてくるペルシカリア。別に俺は新たなるパワーを得て戦場で無双したいわけでもないし、人間を辞めるつもりもない。ただヒヨっ子たちの訓練に必要十分な自分に戻りたいだけだ。あと余計なモンをあれこれ付けてその分の技術料だか材料費だかを請求される可能性も潰しておきたい。流石に穿った予測だとは思うが、ペルシカリア個人はともかくとして、そのペルシカリアを擁する相手は他所の大企業だ。今のところG&KとI.O.P社がズブズブとは言え、その連携が何時崩れるかも分からないからな。

 というか今更かもしれんが、この義足だってタダで出来るわけじゃないんだよな。ペルシカリアの好意に甘える形とはなっているが、実際そこらへんの費用はどうなるんだろう。かかったとして経費で落とせるかは微妙だ。ことの発端自体は向こうから言い出したことではあるんだが、その口約束って今でも生きてるんだろうか。

 

「そのへんは気にしなくても大丈夫よ。確かに本来であれば費用を頂くべきなんだろうけど、材料に関しては君たちが結構な量を確保してくれているし、技術料についてはまぁ、AR小隊のお礼とでも言えばいいかな。私から言い出したことだってのは事実だしね」

 

 うーん、この材料の部分ってのは多分鉄血人形のことだろうなあ。I.O.P社製の人形と違い、鉄血には生体パーツがあまり使用されていない。勿論ゼロじゃないんだが、そのほとんどは金属で出来ている。で、当然銅やら鉄やら銀やらアルミやらは、世界がこんななってしまっているためにその採掘量を年々落ち込ませている。無論、昔と比べてアンドロイドの技術が進化したおかげで人間では難しい部分もリスクを気にすることなく採掘出来るようになったメリットもあるが、それでもそういう事業を行う会社や人員が絶対的に減っているものだから、供給量は減少の一途だ。

 そんな情勢の中、勝手にバグって暴走しだした鉄血工造の自律人形というのは、言ってしまえばいいリサイクル対象にもなっている。うちの会社、G&Kは直接そういう事業に手を出してはいないが、俺らの部隊がぶっ倒した鉄血人形ってのはその手の業者が大体回収している。戦場とは言えやはり経済は回るものだから、そういう意味でも人類の支配地域を拡大していくってのは重要だ。世界の経済圏を拡大しなくては、国家も企業も同時に拡大出来ない。

 ま、義足を製作するペルシカリア本人が気にしなくていいということなら素直にお言葉に甘えておこう。俺個人の懐事情はそこそこ潤っているとはいえ、安い買い物じゃないだろう。抑えられるところは抑えておかないとな。

 ちなみに、G&Kの給料はそこそこ良い方ではある。リスクに見合っているかと言われれば何とも言えないが、俺の場合は元が軍人だ、今更気にするようなところでもない。ただ、現状の負荷と給与が見合っているかと言われれば間違いなく否なんだが。もうちょい人員よこしてもらえませんかね。ダメかな。

 

「はい、計測終了っと。お疲れ様」

 

 機械に吸い込まれてから程なく。色々なレーザーが飛び交っていた箱から救出された俺にペルシカリアが声をかけてくる。

 

「じゃ、後は出来次第そっちの支部まで送るから。幾つかの基本パターン組から体格にあわせて作るから、そんなに時間は掛からないと思うわよ。一週間くらい見てくれれば多分大丈夫かな。確認だけど、訓練に耐え得る強靭性、筋肉が持つ柔軟性くらいでいいのよね、重視するところって」

 

 おお、もう終わりか。そりゃまぁ、言うてもただの身体測定だけなんだからそんな大仰なものでもないか。しかし一週間程度で出来るとは驚きである。普通数ヶ月は掛かるもんだと思うんだが、そこはI.O.P社の技術と人員の成せる業だろうか。あと何度確認されようが俺の要望は変わらないからそこんところよろしく。余計な機能つけたらぶっ飛ばすからな。

 

「あ、指揮官終わったー?」

 

 俺の様子を手持ち無沙汰で眺めていたSOPMODⅡが動く。恙無く計測を終わらせて車椅子に戻れば、途端に膝元に飛び込んでくる様は本当に犬のようだ。俺としては何故こんなにも懐かれているのかが不思議でしょうがないのだが、まぁ少なくとも悪い気はしないのでそのまま放置している。いずれ飽きるだろうとも思っているが、この職場とにかく出会いがないからなあ。ヘリアントスに言ってこいつらも合コンに連れて行ってもらうか? いやそれはそれで何か違うな。人間の場に出会い目的で戦術人形を送り込むのもおかしい話だ。とりあえずはこいつらが傷つかないようにしっかりと本業に精を出すとしよう。

 

「しかし見事に懐いたわねー。恋人ってトシでもないだろうし、父親みたいなものかしら?」

 

 やめろ、歳に関するワードは俺に効く。ていうかそれを言い出したらペルシカリアも結構なお年頃ではないのだろうか。流石に生身の女性に直接そういう言葉を投げつけるのはいくらなんでも紳士的ではないので、反抗的な視線を飛ばすにとどめる。

 

「えっと、ペルシカがお母さんで指揮官がお父さん? あはっ! いいかも!」

 

 よくねえよ。というか発想が飛躍しすぎである。俺はお前たちの指揮官であってお父さんでも保護者でもありません。いや、保護者ってのはある意味で合ってるのかもしれんが。

 

「わお、私がお母さんときたか。いやあ、でも考えてみたら悪くもないかな。君があと10歳くらい若ければイケたかもしれないねー。私も貰い手なんか居ないだろうし」

 

 ちょっと勝手に話を盛り上げないでくれます? あんたに貰い手が居ないのは事実だろうが、恐ろしいくらいの棒読みで話を盛るのはやめて頂きたい。しかしまあ、ペルシカリアの顔が好みなのは本当なので中身がこうじゃなければ狙っていたかもしれん。それも俺が10年くらい若ければ、という注釈が付くけどな。今更独身であることにどうこう言うつもりはないし、わざわざ伴侶を見つけようとも思わない。軍人ではなくなったとはいえ、それでもいつ死ぬか分からん身である。こんなおじさんを未来ある女性に選ばせたくない。無論人並みに性欲を持ってはいるが、それは伴侶が欲しいという欲求とイコールにはならないのだ。そういえば、かつての部下には恋人が居たり嫁が居たりしたヤツもいたなぁ。あ、ダメだ思い出したら凹んできた。マジであいつらには俺が死んだら真っ先に謝りに行かなきゃな。

 

「? 指揮官どうしたの? 元気ない?」

 

 うお、相変わらず目ざといなこいつ。SOPMODⅡに限らず、AR小隊の連中は何故か俺の機微に敏感だ。ちょっとした違和感、それも俺が表に出していないつもりのような無意識下のことでも容赦なく勘付く。しかも大体それは俺にとってよくないシチュエーションだから余計に困る。まあ、ちょっと昔のことを思い出しただけだから気にするなとでも言っておくか。実際その通りだしな。感傷に浸るのはあまりよろしくない。

 

「……そうねえ、たまにはああやって通信寄越してしてくれても構わないわよ。忙しくなければ話相手くらいにはなってあげるさ」

 

 何を思ったのか、ペルシカリアが要らんフォローを回してくる。ただまあ、カリーナやヘリアントス、指揮下の人形たちには話せないようなことがあるのも確かだ。そんな機会が訪れるとも思えないが、もしそうなったとしたら愚痴の相手にでも付き合ってもらうか。折角頂戴した気遣いだ、お礼くらいは述べておこう。

 

 さて、あまりお邪魔していても悪いので用事も終わったし退散するとしますか。今回の件は本当に彼女の好意にただただ乗っかっているだけであり、本来の仕事を邪魔してしまっているのは事実だ。普通に考えれば泥水の手土産だけでペイ出来るような内容じゃない。出来上がり次第だが、改めてお礼も考えておいた方がよさそうだな。ペルシカリアの内情がどうあれ、一応は社会人としてそこらへんはしっかりしておくべきだろう。人間どこで信用を失うか分かったもんじゃないしな。

 

「今度来る時は他のAR小隊の皆も連れてきてよ。久々に顔も見たいしね」

 

 オッケーオッケーそれくらいならお安い御用だ。時期の約束までは出来ないが、今のところ基地周辺は安泰だ。新人教育などの諸々が落ち着いたら挨拶に向かわせるのも悪くない。低くない優先度で考えておこう。

 

「じゃーねー!」

 

 帰り際、一層元気なSOPMODⅡの声が響く。よし、後は帰るだけだな。思ったより時間がかからなかったのでこれなら十分日が沈む前に帰ることが出来そうだ。何とも味気ないご挨拶にはなってしまったが、別に閑談が目的ではなかったので致し方ないところだろう。俺もペルシカリアも丸一日空けられるほど暇じゃないだろうしな。つーかいい加減ちゃんとした休暇が欲しい。俺やカリーナの代わりがいつまでも居ないってのは組織としてどうなんだ。他の支部はどう回してるんだろうか。そういえばS02地区も指揮官は一人だけだったような気がする。えっもしかして一つの支部に指揮官一人なわけ? そんな馬鹿な。ちょっとこれ後でクルーガーに聞いてみよう。俄然気になってきたぞ。健全な事業運営のためにも福利厚生は確認しておかないとな。

 

 しかし、一週間後かあ。ちょっとワクワクしてきたな。俺は俺でリハビリが必要だろうからすぐって訳にはいかないだろうが、なんだかんだ足が手に入るってのは嬉しいことだ。上手くいけばAR小隊に行っていたような遭遇戦訓練も出来るかもしれない。あまりそれだけに時間を割くわけにはいかないが、教練のバリエーションが増えるのは素直に喜ばしい。射撃訓練の効率も上がるだろうし、もっと早くに決断しとけばよかったな。今まではそんな暇すらなかったとも言えるが。

 

 よし、というわけで帰るか。カリーナなら問題ないとは思うが、何かトラブってたりしたら大変だ。行き先はしっかり伝えているし、流石に緊急の依頼などが入っていたらこっちに直接連絡がくるだろうから大丈夫だと思いたい。

 

「……あれ? 指揮官?」

 

 んん? どうしたSOPMODⅡ。何かやり残したことでもあるかな。いや、今日の用事は正しく先程の身体測定のみのはずだからやり残しも何もないはずなんだが。

 

「…………デートは!?」

 

 よし、帰るか。




ペルシカリアはいい女。いいね?

前作でも語ってますが、おじさんはキャッキャウフフな10代の多い戦術人形ではなくペルシカリアさんみたいなのがタイプです。実際美人ではあると思う。

ていうかそんなニッチな好みだからこの歳まで独身なんだろうなこのおじさん…

ちなみに、本小説ではおじさんのキャラもあり、あまり恋愛要素を組み込むつもりはありません。ただ、個人的にはちょっといい感じのオトナなビターなやつもやってみたいなぁと考えてるんですが、これがまた非常に難しい。


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18 -フルアーマーおじさん- 後

いやあ、随分と長くなってしまいました。
一つのネタを語るがてら、細かいネタを差し込んでいくことでそれらの同時消化を図ったのですがどうでしょうかね。


 いやー、戻ったら戻ったでそれなりに大変だった。業務自体はカリーナが上手く回してくれてはいたんだが、やはり指揮官決裁が必要な書類って多少なりとも毎日出てくるんだよな。分類は終わらせてくれていたものの、一気に目を通して半機械的に押印していくのをある程度繰り返しているとヒトは精神的に死ぬ。あとやっぱ半日とは言えカリーナに負荷を掛けてしまっていたのは本当に申し訳ない。物資の状況とか毎日見なきゃいけないわけだし、俺の仕事を肩代わりしてもらったからってあいつの仕事が減るわけじゃないもんな。反省。今度食堂で何か奢ってやるか。

 で、何か朝と同じく帰ってきたらまーたAR小隊の3人に睨まれたんだけどナンデ? SOPMODⅡにはちょっと俺の護衛についてもらっただけだし、それこそあいつがのたまうようなデート的要素なんて皆無だったんだが、何がどうなってそんな目で見られなきゃいけないのか皆目見当が付かない。SOPMODⅡはSOPMODⅡで何か不機嫌ではないもののいまいち不服そうな感じだったし、一体全体俺が何をしたというのだ。何もしてないぞ。何もしなかったのが悪だと言うのならそれこそお門違いだ。俺は何もする気も起こす気もない。健全第一。枯れかけたおじさんにそんな甲斐性を求められても困るんだよなあ。

 

 そんなこんなで義足が届くまでの一週間を過ごしていたわけなんだが、その間も不自由な身体に鞭打ってヒヨっ子たちの教練を行っていたり、カリーナにお小言を言われたり、G11が宿舎のダンボールで寝るのに飽きたのか、やたら俺に引っ付いてきたり、そこにSOPMODⅡが噛み付いたり、面白半分にナインが加わったり、まぁ退屈はしない毎日であった。幸いそんな平和ボケをかましたような日々を過ごしていても、やる時はやる連中だ。時々はぐれ鉄血人形がうちの地域に迷い込むこともあったが、その程度であればAR小隊を出すまでも無く、貴重なローリスクの実戦機会ということでうちの新人たちを前線に送り込んだりもしていた。

 

 そうそう、前線に送り込む人形というか部隊なんだが、ちょっとばかし編成を変えることにした。新人も入って数も増えたしな、そこらへんも適宜最適化していかなきゃいけない。

 AR小隊を擁する第一部隊、404小隊を擁する第三部隊は今のところ変動無し。部隊間で錬度の差は大きいものの、あいつらは現状うちのツートップだ。下手に新人を突っ込んでも連携に齟齬が生まれて結果パフォーマンスが落ちる。特に第一部隊は文字通り桁が違う、あの速度と精度についていくのは404小隊でもまだ無理だ。あれは完全に独立戦力として勘定した方がいい。投入するタイミングさえ間違えなければ、あいつらはそれぞれ単独で盤面の戦略をひっくり返すことが出来るジョーカーどもである。最大戦力をどう生かすかを考えれば、あの編成を崩すのは現時点では考えられない。

 じゃあどう変えたかと言うと、まずはスコーピオンが隊長を務める第二部隊、ここにダネルを加えた。コンセプトとしては中遠距離における打撃部隊だな。スコーピオンとM1911が前線のフォロー、哨戒に入り、後ろからM14、ドラグノフ、ダネルの3連砲撃によって敵部隊を壊滅させる役割を持たせる。個人個人の実力で言えばまだまだ発展途上だが、ライフル3丁、しかもそのうち1丁は特大の対物ライフルである。一瞬の破壊力だけであれば第一部隊すら凌ぐ火力だ。機動力と状況対応力を完全に殺した部隊ではあるが、その分ハマった時の殲滅力は目を見張るものがある。そもそも、そのハマる状況を作り出すのは俺の仕事だ。戦況に応じて打てる最善手が増えただけでも俺としては非常にありがたい。今までは第一部隊による戦術無視のゴリ押しも何度かあったからなあ。ああいうのはそれしかないと分かっていても心臓に悪い。

 で、同時に第四部隊を新設した。メンバーはトンプソン、IDW、m45、MG5の4名だ。暫定ではあるが、隊長は今のところ一番成長の見込めるMG5に務めさせることにした。ちょっと性格的に突き抜けちゃってるところもあるんだが、こちらの指示には素直に従うし意外と冷静だ。自身を駒に見立てて無謀な吶喊をしがちな部分も見えるが、そこは追々修正していけばいいだろう。

 この部隊はサブマシンガン3丁にマシンガン1丁という、完全なるバラ撒き要員である。直接敵を削るのも勿論だが、どちらかと言えば面制圧の側面が強い。その圧倒的な弾幕により、強制的に有利な局面を作り出すのが主な仕事だ。また、その中でもIDWは義体の運動性能がスコーピオン並に高いし、トンプソンに至ってはこちらが呆れ返るほどの耐久性を持っている。義体性能に任せた、これぞ由緒正しいゴリ押しというやつだ。

 第一、第三というあらゆる局面で投入が可能なユーティリティ部隊が二つ、そこに加えて長射程の狙撃部隊と弾幕にモノを言わせた制圧部隊が使えるようになったのは大きい。贅沢を言えば、更に偵察急襲アンブッシュなどを目的とした機動部隊を組み合わせたいところだな。ドローンで視野の確保は出来るが、どうしても融通が利かない場面も出てくるし、夜間だとほぼ視界が確保出来なくなる。そう考えるともう数体ハンドガンタイプの人形が欲しいところだ。ハンドガンは直接戦闘力、耐久力ともに低いが俊敏な機動力と迷彩性能を持ち、何より夜目が利く。痒いところに手が届く存在である、今の教育が落ち着いたら追加で発注も考えよう。

 

 そして大体一週間後、支部に荷物が届いたんだが、これがI.O.P社からではなくG&K本部からの郵送物だった。あー、そういえばそんなことも言ってたっけ。要望を出した俺自身がすっかり忘れてたわ。404小隊の面倒をクルーガーに押し付けられた時のやつだな。

 カリーナも呼んで開封してみれば、そこにはデジタルデータを保管するには十分な旧式PC、作戦報告書を印刷するための旧型プリンタ、あとインク。その他雑多な業務用アイテムが詰め込まれていた。よしよし、未だ十分とは言えないがこれでカリーナの業務負荷が更に減るぞ。というか今まで手書きの紙を束ごとにデスクに纏めていたってんだから今更ながら恐れ入る。通信機器や電子機器への信頼性が落ちているのは理解しているが、内務をオフラインで行う分にはやはりパソコンってのは非常に便利だ。効率が段違いである。司令室の通信機器との接続さえしなければ余計なトラブルも起こり得ないだろう。基本ここら辺はカリーナしか触らないから、スタンドアローンでの稼動でも何ら問題ないはずだ。

 半べそをかきながらお礼を繰り返してくるカリーナを適当にあしらい、セッティングなんかは悪いが自分でやってくれと伝えると、喜び勇んで台車と共に消えて行った。どんだけ嬉しかったんだあいつ。いやまぁ今までの劣悪な労働環境を鑑みれば無理もない話なんだけどさ。

 

 

 

 

「おおー! これが指揮官さまの、足……ですか!」

 

 そんなこんなで翌日。ついに本命の義足が届いたわけだ。I.O.P社のロゴが入ったダンボールに丁寧に梱包されてそれは送られてきた。義足本体と、取扱説明書というかスペック表かな、装着の仕方に加えて重量やら材質やらが記載してあるやつ。色合い以外は概ね人間の足と同じような構造をしていて、パッと見た感じ特に違和感は感じられなかった。説明書を見る限り基礎の部分は鋼鉄、後はアルミ合金、というかほぼマグネシウム合金だな、それとポリカーボネートか。その他細かい材料比率なんかも書かれているがメインはこの辺だろう。強靭性と柔軟性は十分確保しましたって感じだな。うーん、でもちょっと錆びとか怖いな。大丈夫だろうか。

 とか思っていると、どうやら3ヶ月から半年くらいのスパンでメンテナンスと調整に来て欲しい旨も添えられていた。まぁそりゃそうか、渡してはい終了って訳にもいかないもんな。しかしアフターケアまでしっかりしてくれるとは本当に頭が上がらない。本格的にお礼の品を考えておかなければ。後でカリーナにこっそり相談しよう。

 

 カリーナやその他人形たちに囲まれながら、俺はその義足を試着するために車椅子からその身を降ろす。格好としては座って長靴を履くような感覚だなあ。左足に添えてみると、どうも膝下よりも随分と長い。どうやら大腿部までジョイントを伸ばし、膝の可動性と耐久度を両立させた仕組みのようだ。ちょいとつけるのが大変だが、まあ頻繁に付け外しするようなもんじゃないし逆にすっぽ抜けても困る。これくらいが丁度いいんだろうな多分。知らんけど。

 接触部に一緒に送られてきた緩衝材を敷き、いざ装着。うん? ここはどうなって……ああ、回して調整するのか。カリーナちょっと説明書見せて。よっこいしょっと。

 

「立った! 指揮官が立ったー!」

 

 誰だ今の。SOPMODⅡかな。その掛け声やめなさい。なんとなく不穏な気がする。

 確りと地面に足をつけて立つのは実に何ヶ月ぶりか、うーむ、違和感がスゴイ。左足は特に痛くもないしちゃんとフィットしている感じだが、言い表しようのない不安が確証も無く過ぎってしまうのは、これはもうどうしようもないことだと思う。

 緊張した心持ちのまま、左足を一歩前へ。そして接地。うむ、グリップも十分効いている。少々のことでは滑ったりはしないだろう。

 そのまま、左足へ全体重を預けて右足を前へ。うん、問題なさそう。

 

 うおお、自分で歩けるってことがこんなに素晴らしいことだとは思わなかった。ヤバい、かなりテンションが上がってしまっている。落ち着け、落ち着くんだ俺。カツカツと、硬質の床を俺が歩く音だけがしばらく木霊する司令室。ちょっと小走りしてみるか。カッカッカッ。同じく規則正しい音が、先程よりも少し短い間隔で鳴り響く。

 

 うおー! たーのしー! ヤバい、おっさんらしからぬテンションになっている。自分でも重々分かっているのだが、この内側から止め処なく溢れてくる感情だけはどうにも制御し難い。戦闘機動をするにはまだまだ慣れが必要だが、少なくとも立ったり座ったり歩いたりの日常生活には何ら問題なさそうだと分かっただけでも大収穫だ。ありがとうペルシカリア。マジでありがとう。真面目にお礼を考えます。

 

「……ははっ! やったな指揮官!」

 

 感極まったかのように発せられたその声に振り向けば、M16A1をはじめAR小隊の連中が我がのことのように喜んでくれていた。何だよお前ら、なんでそんな嬉しそうな泣きそうな顔してんだ。冴えないおじさんが義足つけて歩いただけだぞ大げさな。まぁでも、折角喜んでくれているところに水を差すのも変な話だ。ありがとな、と短く謝辞を伝え、俺は一旦車椅子に戻るとしよう。

 

 ふぅ。よし、落ち着いた。あまり俺の個人的なことで皆の時間を奪ってしまうのもよくないからな。通常業務に移るとしよう。とは言っても、普段やることと言えば完全にルーチンワークとなっている書類整理と新人たちの教練くらいなものだからなあ、どうしたものか。平和なのはいい事なんだが、地域一帯を掃討してしまった以上、しばらくはこれといってやることがない。折角だし、午後は俺も射撃訓練くらいはしておこうかな。

 

「あっ、指揮官さま。説明書とは別に手紙みたいなものも入ってますわよ?」

 

 I.O.P印の入ったダンボールを片付けていたカリーナから声が掛かる。ふむ、恐らくはペルシカリアが俺に宛てたものだろう。手渡されたそれの封を切ると、中には読み通りペルシカリアからの手紙。色気も何もない真っ白な用紙にこれまた色気のない書き文字が並んでいた。

 

 内容は、義足についてのことが半分。残りの半分は、どうやら依頼ごとのようだった。

 I.O.P社とG&Kは良好な関係を保っているが、何も取引先はウチだけって訳じゃない。むしろ企業規模で言えば比較にもならない大手さんだ。戦術人形だけを扱っているわけでもないし、その取引先はごまんと存在している。基本I.O.P社はメーカーの立ち位置だから、取引先というのは卸し先が多い。で、その商品なりなんなりを輸送するには当然費用もかかるし、このご時世だもんで護衛を雇う必要も出てくる。何も脅威は鉄血人形だけじゃない。以前ウチが発注した新規の人形がやられたように過激派団体なんかも居るし、中には夜盗山賊じみた連中もいる。一言で纏めてしまえば、現代の社会機構からあぶれたアウトローだな。世界中が混沌としてしまっている最中、その数は数十年前よりも格段に膨れ上がっている。

 今回ペルシカリアから求められたのは、お得意先へ商品を輸送する際の護送任務だった。いくらか物資として報酬は出るし、出来高によってはプラスのインセンティヴも用意してあるらしい。いくら御社と弊社がズブズブとは言え、お互い企業に属する一個人がそんな依頼を出していいのかという疑問はあったが、どうやらこういう依頼のやり取りはクルーガーも認めているらしかった。他の支部でも日常的に受けてるんだってさ。どんだけ癒着してんだよこの二社。まあ普通に考えれば、前提としてI.O.P社とG&Kは業務提携を結んでいる。その中には人形発注のことだけじゃなく、こういう荒事対処も含まれているのだろう。そりゃまぁウチ軍事企業だし、さもありなんってところか。

 彼女の立場からすれば、別にうちの支部じゃなくとも直接クルーガーに掛け合えばもっといい内容で出来ると思うんだが、それを加味してもうちに依頼を飛ばしてくるってことは、まあそういうことなんだろうな。お得意様からのご指名だ、無下に突き放してしまうのもよくない。ペルシカリアとのパイプは俺の個人的事情もあって太く長く持っておきたいところだしな。

 

 ということで、この依頼は受理することとしよう。後で通信飛ばしとこ。どの部隊を向かわせるかだが、まぁ順当に行けば第三部隊だろうな。第一部隊にとってはお遣い程度にしかならないだろうし、第二、第四はちょっと錬度に不安が残る。それに加えて、点の破壊力を重視した部隊と面制圧を主とした部隊では護送とのかみ合わせもよくない。第三部隊には色々と経験も積んで貰いたいし、彼女たちにお願いしよう。

 

 しかしなるほどなぁ、G&K本部からの配給物資だけではどうにもカツカツ状態だったんだが、他の支部はこうやって外部から物資を獲得しているわけか。部隊数も増えてきたし、周囲に目立った脅威はないし、今後は支部の財政を賄うためにもこういう依頼も受けていった方がよさそうだな。あまりに内容がヤバいやつは断ればいいだけだし。その点、ペルシカリアからの依頼となればその信頼性も担保されている。上手くやれば物資も手に入るし、コネクションもより強固に出来るし、戦術人形たちの経験にもなる。いい事尽くめだ。

 

 

「あれ? 指揮官さま、まだ何か部品が入ってますよ?」

 

 手紙を読んであれこれ考えていたら、またもカリーナから声を掛けてくる。うーん、義足以外は特に注文したものもないし、何だろう。予備のパーツとかだろうか、結構複雑な造りっぽいし。あ、よく見たら手紙の裏面にも何か書いてるな。どれどれ。

 

 

 

 P.S.

 要望通り普通の義足にしたけど、一応アタッチメント式でコンバットナイフや拳銃サイズであれば搭載出来るハードポイントを大腿部と膝下に増設できるようにしておきました。

 

 

 

 ンッンンンン~~~~~~?




やっぱり彼女はやってくれました。
アタッチメント式であれば要らなければつけなきゃいい話だし、あまり強くも言えないのがニクいところ。

義足の前日に届いた荷物に関しては、第5話を参照ください。

さて、ついに機動力を復活させたおじさんですが、その足が活かされる時が果たしてくるのか。筆者にも分かりません。


あ、あと現状の部隊を纏めておくと、下記のようになります。
・第一部隊:M4A1 M16A1 M4 SOPMODⅡ ST AR-15 4名
・第二部隊:Vz61 M1911 M14 SVD NTW-20 5名
・第三部隊:UMP45 UMP9 HK416 G11 4名
・第四部隊:MG5 トンプソン IDW m45 4名

バランスが……バランスが悪い……!


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XX -タクティス・コピーという男-

なんでこんなの書こうと思ったかっていうとおじさん描いたからです。


 名前:タクティス・コピー

 性別:男

 年齢:不詳

 出身:不詳

 所属:グリフィン&クルーガー社

 役職:前線指揮官

 前職:独立傭兵

 

 身長:178.5cm

 体重:68.4kg

 利腕:右

 利足:右

 

 

【挿絵表示】

 

 

 数ヶ月前、ベレゾヴィッチ・クルーガーによって直接採用された前線指揮官。

 勤務態度は極めて真面目かつ良好。元傭兵らしく高い戦闘能力、状況判断力を持っていたと推察されるが、過去に戦場で左足を喪い、以降車椅子での生活を送っていることから現在の戦闘能力は特筆すべきものはないと考えられている。

 非常に冷静かつ物怖じしない性格で、配下の戦術人形へも一定の距離を保ちつつ分け隔てなく接している様子が伺える。人形たちへの指揮能力も高く、如何なる状況においても一定以上の戦果を挙げており、また損害も極めて軽微なことからクルーガーやヘリアントスら経営幹部陣からも一目置かれている模様。後方幕僚や戦術人形への福利厚生、待遇面については非常に敏感で、部下を大事にする一貫した姿勢から支部内での評判も高い。

 一方で、その性格からか歯に衣着せぬ物言いも散見され、他支部との合同作戦などが今後必要となった際、その連携に一抹の不安を感じさせる不安要素も持ち合わせている。特にヘリアントスはその点を危惧しているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※以下の情報へのアクセスは最上位管理者権限所持者のみ承認されます※※※

 

 

 

 

 

 

 名前:■■■■■■■■■■■

 性別:男

 年齢:■■

 出身:■■■■■

 所属:グリフィン&クルーガー社

 役職:前線指揮官

 前職:正規軍第一連隊隷下対E.L.I.D対テロ特殊作戦群第一即応部隊

 

 元は正規軍に所属しており、対E.L.I.Dの特殊実働部隊を率いていた中隊長。非常に高い身体能力と統率能力を持ち、機動戦を重視したその戦術は被害軽減に大きく寄与している。彼の率いていた部隊は全体の損耗率が極めて低く、継戦能力に優れていた。

 ■■年■■月、当時正規軍所属であった彼に対しベレゾヴィッチ・クルーガーが手を回し、第二世代戦術人形への戦術教官として創立間もないG&K社へ招聘している。彼の戦闘訓練を受けたのは■■■■の4名とされている。

 ■■年■■月、対E.L.I.D殲滅作戦中、鉄血工造社の戦術人形の謀反に遭い作戦行動中の部隊は全滅。自身も左足を喪う重傷を負う。

 その後戦場で■■■■と■■■■■■■■に救助され、一命を取り留める。■■■■■■にて療養後、グリフィン&クルーガー社に転籍、以降前線指揮官としてその辣腕を振るっている。

 なお、国家の正式発表によれば当該作戦に従事した者のうち生存者は0名。その全員がK.I.A認定および二階級特進とされている。

 

 

 

 ※本資料の複製、支部外への持ち出しおよび、権限を持たない人間、人形の閲覧を禁ずる。




多分、皆の想像とは違うんじゃないかなぁと思いながら描いてました。

一応これはG&Kの公式資料なので、公開されている写真はG&K所属後に撮影されたものです。
これからも冴えない指揮官おじさんをどうぞよろしくお願い致します。


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19 -大乱闘スマッシュリターンズ-

割と主だったネタは吐き出した感じなので、今後もちょいちょい不定期になると思います。


「えっへっへー! 指揮官見て見て! アタシってやっぱり強いよねー?」

 

 あー、はいはい。お前はうちの自慢の第二部隊隊長ですよ。強い強い偉い偉い。

 満面の笑顔を浮かべながら誇らしげに語りかけてくるスコーピオンにとりあえずの返事を投げ返しながら、俺は彼女と後ろの2体をぼんやりと見つめていた。

 

 何があったのかと言うと、先日スコーピオンの最適化工程が30%を突破したのである。

 戦術人形たちは、その成長度合いを最適化工程という物差しで可視化出来るのはグリフィンに務める指揮官であればおそらく誰もが知っている事柄だ。そして彼女たちはダミーリンクシステムと呼ばれる、自分と同型の人形を意のままに操るシステムによってその戦力を大幅に増すことが出来る。このダミーを動かすにはそれ相応に最適化工程が進んでいることが前提となり、大体30%を超えたあたりから2体目のダミーを操ることが出来るようになる。最適化が不十分な人形にダミーを操らせようとしても大体は上手く行かないし、一時的に動かせたとしても直ぐに動かなくなったり最悪エラー吐いて使い物にならなくなるから、結局最適化にあわせて逐次ダミーを増やすことにG&Kの規則ではなっていた。

 ちなみにダミーを作るには代用コアと呼ばれる、火器統制コアに被指揮管制モジュールを組み込んだ汎用アイテムが必要なんだが、これがまた結構お高い。財政にすっごい優しくない。厳しい。だがしかし、戦力の拡充に於いてこのダミーリンクシステムを使わない手はない。そして更に、ダミーを操る数が増えることで最適化工程がより一層進みやすくなるのだ。G&Kではダミーを増やすことを「編成拡大」と呼んでいるが、財政が許す限りはこの編成拡大を積極的に行うことが戦力拡大に向けての一番の近道である。一度作りさえすれば、ダミーの回収が出来ればオリジナルの人形と同じく、通常の修復が出来るのがせめてもの救いか。その点S02地区で拾ったドラグノフはキツかった。あいつダミーが完全にお亡くなりになってたから、結局うちの支部持ちでダミーを新しく作ったんだよな。

 

「やっぱりさー、より実戦的な訓練出来る方がアタシたちも成長が早い気がするんだよねー。指揮官には感謝しかないね!」

 

 ブイ、と、これまたいい笑顔を浮かべながら彼女はピースサインを嬉しそうに掲げていた。

 

 義足が俺の元に届いてから、早2週間が経とうとしている。俺はしばらくの間、リハビリという名の新たな日常生活と、落ちに落ちてしまったスタミナを少しでも戻すための自主訓練に多くの時間を割いていた。腕や胸といった上半身の筋肉は筋トレで多少カバー出来ていたが、下半身の筋肉と持久力だけは車椅子ではどうしようも出来なかったからなあ。義足に慣れるついでに支部周りをランニングしたりして、とにかく落ち込んだ足の筋肉量と肺活量の復元に勤しんでいたのである。

 義足に関してはすこぶる順調の一言に尽きる。ペルシカリアの悪ふざけで一部余計な機能が付いてはいたが、アタッチメント方式であったのが幸いして今まで一度も付けていない。付けなければ普通の頑丈な義足なので、まぁぐちぐちと文句を言うのは辞めておいた。ただでさえ好意に甘えている状態である、思うところがなくはなかったが、それを態々口に出して関係値を悪化させるほど俺は子供じゃなかった。おじさんでよかった。

 

 ちなみに、ランニング開始初日こそ一人で黙々と集中して走れていたのだが、何故か次の日からM16A1が一緒に走ることになっていた。なんでだよ。お前ら肺活量とか関係ないだろ。ていうかどこで知ったのよ。業務終了後にひっそり安全圏を走っていたはずなのに。その次の日はM16A1に加えてM4A1が一緒に走っていた。なんでだよ。3日目にはAR小隊と一緒に仲良くランニングしていた。もうおじさんちょっと意味が分かりません。

 あいつらと走っていると適度に会話を振ってくれるおかげで退屈はしなかったんだが、元々俺は自分を一人で追い込むタイプである。その方が集中出来るし。なので適当に哨戒任務とか入れて距離を離していたんだが、やっと一人で走れるなあとか思っていたら今度は何故かいつものスタート地点に416が居た。ナンデ? 指揮官に万が一があれば不味いので護衛がてら、と言っていたが、その心配をしないようにちゃんと安全が確保された周辺を走っているんだぞこっちは。ていうかAR小隊の時もそうだったがどこで知るんだこんなことを。こっそり監視でもされてるんじゃないかと余計な不安を感じてしまう。

 でまあ、416たちが一緒に走ることにデメリットはないものだからそのまま付き合ってもらってたんだが、416とM16が一緒に居るときはそれはもう空気が悪かった。あいつら勝手にスプリントレースし始めるし。もう面倒くさいから無視して自分のペースで走った。

 たまにナインが加わって賑やかなランニングになったりしていたが、結局G11は一度も顔を見なかったな。あいつのこういうところは嫌いじゃない。芯がブレないやつは好きだぞ、時と場合によるけど。

 

 そんなこんなで大体1週間も走っていれば、義足の概ねの扱い方は分かってくる。慣れてきたと同時、俺はAR小隊の訓練時と同じように、キルハウスでの遭遇戦訓練を教練に組み込むことにした。戦術人形全員をキルハウスに集めてルールの説明と、実演ということで俺とAR小隊4人で1回ずつやってみたんだが、まあ当然ながら全員に負けたな。特にSOPMODⅡには開幕20秒くらいか、俺が飛び出したところにドンピシャで合わせられて呆気なくキルマークを献上してしまった。昔っからそういう類の勘には優れていたやつだが、そこに技術と経験と知識が組み合わさればもう無敵の部類である。平地でのタイマンであいつに勝てる人間って多分居ないと思う。もはや意味が分からないくらい射撃も読みも正確だ、あんなのに狙われたら命が100個あっても足りない。味方でよかった。

 

 で、非常にカッコ悪い感じで実演を終えて、じゃあやってみようかということでその日はキルハウスの訓練に明け暮れていたのだが、俺のトータル戦績としては7割勝ちの3割負けくらい。AR小隊の連中にはもはや足元にも及ばないが、最適化工程が30%かそこらの連中にはまだまだ訓練では負けてられないなぁと感じたね。ただ、それでも最後の方では404小隊の4人を筆頭に何回かは負けてしまったんだが。特にG11はヤバい。SOPMODⅡとはまた別次元のヤバさを感じる。全力で気合が乗ったときのあのポテンシャルには凄まじいものを感じた。あの気合の1割だけでも普段から発揮してくれれば、こちらとしては非常にありがたいんだけどなあ。

 

 そうそう、遭遇戦訓練をやってみて大きな気付きを得たんだが、座学と射撃訓練だけではなくこういった実戦的な訓練を組み込むと、人形の最適化レベルが一気に伸びる。基礎の射撃訓練で銃器の扱い方を覚え、作戦報告書を使った座学で戦術を学び、遭遇戦訓練でそれらをリアルタイムに演算しながら実践することで、飛躍的に最適化工程が進むのだ。恐らく、今まで戦術人形の教育スケジュールを誰が立てても上手く行かなかったのは、こういった実戦的な訓練を組み込んでいなかったからだろう。よくよく考えてみれば、G&Kに限らず元々PMCは地方都市の内政を国から業務委託されている組織だ。蝶事件を境にその役割に変化が起きたとは言え、今までデスクワークとネゴシエートしかしてこなかった連中に私設軍の訓練を行えと言われてもそりゃ土台無理な話である。出来不出来、得手不得手の問題は当然ながら人間にもある。たまたま俺みたいな得手を持つ人間がG&Kの指揮官には居なかったんだろうな。

 

 そんな一幕もあり、先日見事スコーピオンの最適化工程が30%を突破したというわけだ。ちなみにM1911とトンプソンも30%を超えており、優れた電脳を持つ404小隊の連中は全員が50%を超えた。大体ここらへんから少々伸びが悪くなってくるのだが、まぁ元が優秀なあいつらだ、いずれそう遠くないうちにAR小隊と肩を並べられるまで育ってくれるだろう。IDWとm45に関しても成長してはいるのだが、他と比べるとちょっと遅い。これがペルシカリアの言ってたランクの差ってやつだろうか。まぁ大きな問題ではないので地道にやっていくことにする。

 一方、嬉しい発見があった反面、同時に問題も発生してしまった。それはM14、ドラグノフ、ダネル、MG5の4人についてだ。あいつらは扱っている武器の特性上、どうやっても遭遇戦訓練に参加出来ない。いや、正確には参加すること自体は出来るんだが、相手が死ぬ。もはやペイント弾とかいうレベルの話ではなく、どんな策を講じようともあいつらの弾が当たれば俺に風穴が開くか俺が蜂の巣になるかのどっちかだ。流石にそんなスプラッターホラーは御免被りたい。

 まあそんなわけで、あいつらは未だに最適化工程が30%に達していない。こればっかりはもう仕方がない、地道に鉄血をボコしていくくらいしか経験値が積めない状態である。人形同士でやらせれば問題がないようにも思えるが、ダミーでは流石に戦術的な動きは難しいし、オリジナルに万が一致命的な損傷を与えてしまってはそれこそ取り返しがつかなくなる。特にダネルとMG5はヤバい。対物ライフルとマシンガン相手に何度もタイマンを仕掛けて無事でいられるわけがない。そんなスーパーマンが居ればこの戦争はもうこっちの勝利で終わっているはずだからな。

 

「指揮官。物資輸送の依頼、無事終了よ~」

 

 物思いに耽っていると、司令室のゲートが開きそこから第三部隊の面々が顔を覗かせる。先頭を歩くUMP45の手にはひらひらと風にたなびく一枚の書類。どうやら依頼のあった輸送任務は無事終了したようだ。ご苦労さん、と一声労いを入れ、書類を頂戴する。うむうむ、しっかり目標地点まで護送できたようで何よりだ。

 ペルシカリアから頼まれた護送依頼以降、うちは結構積極的にこの手の依頼を受けるようにしている。報酬もまずまず手に入るし、様々なシチュエーションを戦術人形に経験させることが出来る。今回のような輸送や護送の場合はユーティリティ部隊を、戦線の後方支援や陣地構築など実戦的な任務に関しては第二や第四を向わせることが多い。支援作戦中はこちらから指示も出せないし、様子を見ることが出来ないのが玉に瑕だが、それでも万が一が起こらないよう、受諾する任務と向かわせる部隊は吟味に吟味を重ねているつもりだ。今のところ100%の成功率を誇っているおかげか、最近はうちの支部ご指名の依頼が飛んでくることもある。とは言っても、受ける受けないは報酬以前にしっかり情報を精査した上で決定するんだけどな。極端に報酬が高いものや事前情報があやふやなもの、全額前払いなどのいかにもな依頼は全て蹴っている。今のご時世、騙して悪いが、なんてことも有り得るからな、見えてる地雷に突っ込むほど俺は馬鹿じゃない。

 

 ピピッ。ふと、司令室の通信デッキが着信を報せる電子音を響かせる。んん? ヘリアントスか。なんだ珍しいな、何か緊急の依頼かな。もしかしたら第三部隊に出てもらうかもしれないので、下がらせようとしたところを一旦留め置く。G11、まだ寝るな。もうちょっと頑張れ。

 

 

『御機嫌よう、コピー指揮官。突然ですまないが、悪い報せだ』

 

 通信をオンにすれば、聞こえてくるのは冷静沈着な上級代行官の声。うーん、相変わらず取っ付き難いところも感じられるが、仕事に関しては信頼が置ける人間だと俺は思っている。俺に対しての心象は決してよくないはずだが、少なくともそういう心情を表に出すようなやつじゃないからな。仮にもクルーガーの右腕で俺の上司に当たる人物である、ここらへんの落ち着きはAR-15にも見習って頂きたい。

 で、開口一番なんだか不穏な空気だ。悪い報せということはその通りあんまりよろしくない内容なんだろうが、ヘリアントスに焦りのような感情は今のところ見られない。こいつはこいつでそこそこポーカーフェイス上手いからな、肝心なところで地が出てしまうところもあるが、逆にそれが出てないってことは、状況はよくないが致命的ではない、って塩梅かな。さて、一体どんな案件なのやら。

 

 

 

 

『現在貴官の第四部隊が支援しているS02地区の前線構築作戦だが、突如多数の鉄血人形が襲来し、第一防衛ラインを突破された。第二防衛ラインで持ち堪えてはいるが、こちらが手配した防衛用戦術人形が数機、大破している。鉄血人形の動きに統率が見られることから、ハイエンドモデルが混じっている可能性が高い。こちらも増援を手配しているが、貴官の支部からも至急部隊を向かわせてくれ。報酬は緊急任務相当で手配する』

 

 

 またS02地区かよ! 何なのあそこ! 呪われてんじゃねーのか!




第四部隊があぶない!! はやくたすけにいかなきゃ!!!!

仁 王 立 ち ト ン プ ソ ン
嗤 う M G 5



勝てるわ(慢心


ていうかS02地区は何なの(何なの


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20 -狩る者、狩られる者-

そういえば、人形のレベル概念を最適化工程に置き換えて考えるの、先人が居たりするんでしょうか。
自分で考えたつもりなんですけど、割と説明付きやすいなーって自画自賛してる設定の一つです。先駆者が居たらごめんなさい。


 うーむ、愚痴の一つや二つや三つや四つくらいぽこじゃか溢したいところなんだが、生憎そんな時間的余裕は無さそうだな。第三部隊下げておかなくてよかった、直ぐに指示が出せる。とりあえずお前ら格納庫行って全部隊分の車両と運転用自律人形の手配しといてくれ。で、順次出撃ね。カリーナを通さなくても出せるよう指揮官権限で許可する。

 輸送任務から帰ってきて早々で申し訳ない気持ちもあるにはあるが、まぁこんなの兵隊やってりゃ日常茶飯事とまでは言わずとも往々にして有り得ることだ。G11には悪いがもうひと頑張りしてもらうとする。流石にあいつも他所のことならともかく、自軍の部隊が危機とあってはそれなりにやる気は出してくれるらしい。例えぐずったとしても今なら助走つけてシバけるからな、自分から動いてくれて何よりだ。俺も余計なパワーを使わずに済む。

 

 第三部隊を走らせると同時、第一、第二部隊にも同様に緊急収集をかける。ヘリアントスはまだ余裕がありそうな表情をしていたが、現状だけを切り取ればともかく、今回は割と嫌な予感がしていた。いや、予感みたいな不確かなもんじゃないな、どうにも不可解な点が残る。正直、早急に対応するのが最適解なのかも微妙だ。だがしかし、一刻も早く救援を飛ばさなければ第四部隊が危ない。つまり急いで対処するしかないわけだ。困ったね。

 

 S02地区には現在、指揮官が存在していない。

 これは別に適任が居ないとかそういう理由ではなく、単純に一度占領されたS02地区の復旧が間に合っていないためだ。前任の指揮官が奇襲されてボコボコに負けたものだから、施設は勿論周辺の防衛陣地や壁なんかも凄惨な有様である。少なくとも、今俺が過ごしているように健全な指揮官業が務まるような環境ではなくなっていた。だからクルーガーも、S02地区の掃討が終わった後に作業員と防衛用の戦術人形を手配すると言っていたのだ。そして同時に、周辺に鉄血人形の気配がなかったからこそ防衛を最低限に抑え、復旧を優先して行うことが出来ていた。

 そんなところに、再度鉄血人形の強襲。それも侵攻するに十二分に足る物量を備え、予測ではあるがハイエンドモデルがセットだ。第二防衛ラインで持ち堪えられること自体がそもそもおかしい。今のS02地区における防衛戦力はG&K本部が配備した防衛用戦術人形とうちの第四部隊くらいのものだ。戦える人間はほとんど居ない、その大部分が作業員だからな。指揮官が存在していた時でさえ一瞬で崩壊したのだ。指揮管制モジュールを活かせる人間もおらず、最適化工程が多少進んでいるとはいえ、性能を十全に発揮出来ない人形だけで耐えられるはずがない。にも関わらず、第一防衛ラインは突破されたものの第二防衛ラインで踏ん張っている。否、踏ん張れる程度に手を抜かれている。そう判断する方が妥当だ。

 

 恐らく今回は、襲撃自体が何らかのブラフ。鉄血のオツムには次のプランが浮かんでいるはずだ。それを考えているのが現場で暴れているヤツなのかもっと上のヤツなのかは分からんが、多分後者だろうな。前回AR小隊が瞬殺したハイエンドモデルも、火力こそあったが戦術的な思考はお世辞にも褒められたものではなかった。より上位のやつが何らかの策を講じ、その第一手としてS02地区に再度強襲をかけた。このシナリオの方がしっくりくる。

 

 いやあ、キツい。罠だと分かっていても飛び込む以外の選択肢が取れないのはかなりキツいぞ。何が起こるか分かったモンじゃない。それに、これはほぼ確信に近い推測だが、ヘリアントスにはここまでの予測が立てられていない。あいつどう見ても内政官寄りだからな、戦術の妙ってやつにはあまり心得が無いのだろう。多分だが、S02地区の状況を見てこの推測を立てられるのはG&Kに所属している人間の中で恐らくクルーガーと俺くらいだと思う。別に他の指揮官連中を無能だとまでは言わないが、戦場に身を置いていないとこの手の予測はし辛い。G&Kに限らず、地方都市の統治に重きを置いていたPMCだと無理からぬことだろう。

 

「指揮官! 第一部隊、第二部隊揃いました!」

 

 声に釣られて振り返ると、そこには俺の自慢の教え子たち。色々と説明しておきたいところだが、今は最低限の情報伝達にとどめておく。相手の思惑がどうであれ、今まさにS02地区で戦火に曝されている第四部隊を見捨てるという選択肢はハナから無い。不安要素もあるにはあるが、ここで引っ込むわけにもいかないしな、やるしかあるまいよ。

 端的に状況と目的を伝え、一刻も早く現着するよう言い含めて彼女たちを送り出す。前回と違い、クルーガーのドローンサポートが受けられないのも痛い。一応出撃車両にうちのドローンを乗せて運んでもらうが、性能差が酷いからな、どこまで俺の目が届くかも分からん。ということで、現場に着いたら全員通信は常に入れておくように。

 

「どんなヤツが相手だろうが仕留めて見せるさ! 安心しな指揮官!」

 

 去り際、M16A1の力強い声が司令室に響き渡る。こいつらならマジで冗談抜きにやりかねないところが恐ろしくもありそして頼もしい。だが今回はS02地区の掃討がゴールじゃない気がするんだよな。どんなトラップがあるか読めない以上、俺もあいつらの戦力に頼って胡坐をかくわけにはいかない。だが、自分ではかなり精度の高い予測だとは思っていても、不確定な情報で彼女たちを無駄に不安に駆らせてしまうのもよろしくない。先ずはS02地区の奪還、第四部隊の救出だ。相手を押し返すことだけを考えてもらおう。そっから先は俺の仕事でもあるしな。

 

 

 

 

『こちら第三部隊。第一防衛ラインまで押し返しに成功。ちなみにハイエンドモデルの姿は未だ確認出来ず、よ』

 

 S02地区の状況に関しては、うちの部隊が到着してから急速に上向きつつあった。

 現場の状況が分からなかった以上とにかく部隊を向かわせてそこから考えるしか手が無かったんだが、いざ状況を確認してみれば、鉄血人形の連中、なんと規則正しく隊列組んでゴリ押ししてきているだけだった。確かに統率は取れていたから誰かが操ってはいるんだろうが、この手腕は前回のハイエンドモデルよりも更に数段酷い。レミングスの行進が如く順番に突っ込んできているだけなものだから、物量に対処出来るだけの技量を持った人形が集まれば形勢逆転は非常に容易であった。あえてそうしているのか、単純にド下手なのか。あまりに想定外過ぎてちょっと相手の考えが読めない。ただまあ、とりあえず第一目標はクリアだ。S02地区の中枢からは敵を遠ざけることが出来たし、一度持ち直せばうちの部隊ならそう簡単には突破されまい。

 MG5をはじめ第四部隊の救出も成功した。というかあいつらはあいつらで元気に的当てしていたから思ったより大丈夫そうだった。トンプソンはずっと前に出て盾の役割をこなしていたのか、2体居たはずのダミーも穴ボコ状態で地面に横たわっており、オリジナルである本体も相当な傷を負っている。が、致命傷には至っていないようで活動に問題はなさそうだ。トンプソンの活躍もあってか、他の部隊員に目立った損傷はない。一番錬度に劣るIDWとm45でさえほぼ損傷無しで切り抜けられているのだから、トンプソンには感謝しかない。ほんとあの頑丈さどうなってんだろうな。ロケランでも死なないんじゃないのあいつ。ムチャクチャ堅いわ。

 

『……ッ! ナイン! 避けろォ!!』

 

 突如、通信機越しにM16A1の怒号が響き渡る。何事かとスクリーンに目を見張れば、旧式ドローンが映し出した画面の端、白い波のようなものが超速度で第三部隊に迫っているのが見えた。

 その声を受け取ったナインは、優秀なAIであることを示すように俊敏な反応を見せる。が、オリジナルは思った通りに動けても、ダミーまではそうはいかなかった。コンマ数秒、遅れて動き出したナインのダミーに白い波が襲い掛かる。一瞬の間、突然の脅威が過ぎ去った後には派手に地面に転がったオリジナルのナイン、そして胴体を真っ二つに切り裂かれたダミーが力なく横たわる様が映し出されていた。

 

『っちょ……!? な、なにコレ……!?』

 

 常に自分の調子を崩さないはずのナインの声。そのはずのそれが、確かに揺れていた。

 

 な、なんじゃあれ!? 一瞬でナインのダミーがぶった切られたぞ!?

 旧式ドローンの低い解像度では何が起きたのかサッパリ分からない。ただいきなり白い波が画面に現れて、それに飲み込まれたダミーが死んだ。あまりに速過ぎて、結果しか理解出来なかった。

 

『方位0! 距離70! 数1! 推定ハイエンドモデル! 指揮官!!』

 

 いち早く視覚情報を確認したM16A1の手短かつ要領を得た報告が飛ぶ。こいつのメンタルは元々凄まじかったが、更に磨きがかかっている気すらしてくる。ほんと頼りになるやつだよお前は。おかげで俺も冷静さを取り戻せた。

 十中八九、今の攻撃は鉄血のハイエンドモデルに拠るものだ。こんな馬鹿げた必殺技を放てる人形が何体も居たらこの戦争、とっくの昔に負けている。ドローンの高度を少々調整してM16の報告どおりの距離を映せるようにすれば、そこには鉄血の量産型に比べて二回りは大きい、一体の戦術人形らしき面影。細部までは確認出来ないが、右手に馬鹿でかいブレードを持っていることは分かる。多分あれがさっきの攻撃の正体だろうな。斬撃飛ばすってアニメか何かかよ。前回の浮遊兵器といい、鉄血の技術力ヤバいな。あれがI.O.Pの人形と同じ数居たら勝てる気がしねえぞマジで。

 

 だが、これで目標がはっきりした。アイツが今回の親玉だな。ブレードによる攻撃の威力は斬撃ですらアレだ、直接斬られでもしようものなら例えAR小隊でも一撃でお陀仏だろう。ここはAR小隊のダミーを囮としつつ適度に距離を取り、飽和射撃で一気に決めてしまおう。他の部隊のダミーでは錬度に不安が残り囮にすらならない可能性がある。事実、不意打ちとは言え最適化工程50%を超えるナインのダミーが反応しきれていなかった。第二、第四の錬度では無駄に犠牲が増えるだけだ。あいつらは一気に下がらせて支援射撃に専念させる。ハイエンドモデルの耐久度がどれ程かは分からんが、AR小隊の連中は当然ながらダミーも含めて無傷だ。前回のと相当な性能差が無い限りはこれでほぼ押し勝てるはず。

 

『―――――――――――――――――――』

 

 あれ? おーい聞こえる? ちょっとー?

 指示を飛ばそうとしたんだが、いきなり通信が聞こえなくなったぞ。ドローンは生きているから映像は届くんだが、あいつらの反応を見る限りこっちからの通信も届いていない。マジかよ。ここに来て故障か? いや、それなら全員の通信機が一斉にイカれるのはいくらなんでもタイミングが良すぎる。となると、ジャミングか。うーん、粋な真似をしてくれる。

 

 バンッ!!

 

「きゃああ!? し、指揮官さま!?」

 

 現場との通信が途切れると同時、そう遠くない距離で爆発音が鳴り響いた。通信が聞こえない以上、この音は直接俺の耳に響いたものだ。それもかなり近い。恐らく支部の外壁か、下手したら入り口辺りまで何かが来てやがる。

 俺とともにスクリーンを眺めていたカリーナが突然の爆音に驚愕の声を上げるが、今はちょっとそのフォローまでしてやる時間的余裕がない。強引にカリーナの手を引き、司令室から飛び出して直ぐ横の倉庫にカリーナを乱暴にぶち込んだ。

 

「し、指揮官さんむうッ!?」

 

 はいちょっと黙っててー。突然の事態に騒ぎ出すカリーナの口を咄嗟に左手で抑える。落ち着かせようと思って空いた右手で頭を撫でてやってみるものの、勝手に懐いてくる人形と違って、果たしてこれでいいのか疑問が残る。けど他にどうしたらいいのか分からんのだ、許せカリーナ。

 よし、落ち着いたかな。いいかー? 俺が、直接、声をかけるまで絶対に音を出すな。動くな。何があってもじっとしてろ。お前は今死ぬには若過ぎるし綺麗過ぎる。こういうオイシイ場面はおじさんに譲って、しばらく舞台裏で引きこもってなさい。オッケー?

 

 彼女の返事を待たずに、倉庫の扉をしっかりと閉める。カリーナは確かに若いが、頭は回る。今の状況で勝手に動いたりはしないだろう。この支部に人間は俺とカリーナしか居ない。他は戦術人形と、業務を行う自律人形だけだ。前者は現状全部引き払っているし、後者は例えぶっ壊されようが替えが利く。つまり、俺としてはカリーナさえ守ることが出来ればこの勝負、勝ちである。

 

「やあ、クソったれな人間。今日はいい天気だな」

 

 司令室に戻ろうとした矢先、聞き覚えの無い声が俺を呼び留める。どちら様ですか? と能天気なフリして振り返れば、そこには見覚えの無い体躯の女性。綺麗に整えられた銀髪が司令部のライトに照らされ、神秘的な輝きを見せる。しかしそこに魅了されるには、両の手に持つ無骨な殺人武器の存在が実に無粋だ。漆黒に染められたジャケットの下から覗くのは、大腿をこれ見よがしに露出させた蠱惑的なコスチューム。うーん、扇情的。いい身体をしているな。これが鉄血製の人形でなく一人の女性であれば、そこそこ心を動かされていたかもしれない。実に惜しい。

 

「どうした、逃げんのか?」

 

 いやあ、逃がしてくれないでしょ君。煽るような口調で余裕綽々に語りかけてくるが、今更この距離でそんな行動を取ったところで無駄である。第一俺の手には武器もない。カリーナを隠すのに必死で、我が愛銃UMP9は未だ司令室のデスクの下である。ただ、鉄血人形の頑強さを考えると9mm弾で勝てるとも思えないが。

 それに、コイツは今すぐ俺を殺すつもりではないはずである。もしそうであれば問答無用で撃ち殺して終わりだ。そうしないってことは俺の身柄か、俺の持つ情報かのどちらかに用事があるのだろう。わざわざ不意打ちを仕掛けず話しかけてきた時点でその目論見は割れている。

 

 ということで、バンジャーイ。どうせ抵抗は無駄だし素手で勝てる気もしない。自害するのは相手の情報を少しでも引き出してからで十分間に合う。生憎俺は電脳化していないし、物理的に俺の脳みそから情報を抜き出すのは難しいだろう。ま、そんな訳で好きにしてくださいな。

 

「……ふっ、スケアクロウのやつがしくじったのも頷ける。曲者だな、貴様は」

 

 スケアクロウ。案山子ってか。変なコードネームだが、多分前回AR小隊がぶっ潰したハイエンドモデルのことだろうな。まぁ今更予測するまでもないが、こいつもハイエンドモデルってことだろう。ていうか、うちの支部の場所ばれてたんだな。どうやって知ったんだろうか。抵抗しないから教えてくれない? ダメかな。

 

「簡単なことだ。貴様ら、スケアクロウの頭部を持ち帰っただろう?」

 

 わお、教えてくれた。親切かよ。つまり電脳にGPSか何か仕込まれてたってことだよなこれ。えー、16Labの方大丈夫かな。あっちに被害が行ったら流石に俺も困る。

 

「用があるのはAR小隊だけだ。貴様にはあいつらを釣り出す餌になってもらうぞ」

 

 ベラベラとよく喋るなお前。情報管理甘いぞって上司から怒られない? 先だってお持ち帰りさせてもらったスケアクロウさんは自爆という手段できっちり秘密を保守してたんだが、君今AIの風上にも置けない行動してるぞ。何がどう転がったら敵対している人間に作戦の目的やらターゲットやらを喋ることに繋がるんだよ。まあ、とは言っても俺には今その情報を伝える手段も相手も居ないから、俺だけが聞いているなら活かしようのない情報なんだが、生憎今の言葉が聞こえているのは俺だけじゃないんですよねえ。

 

 成る程なあ。今S02地区で暴れているのはうちの支部の戦力を引き出すための囮だったってことか。多分だが、スケアクロウから戦闘データなんかも送信されていたんだろうな。そうじゃなければ、こんなまだるっこしいことをせずに直接襲撃をかければ済む話だ。それをしなかったのは、ウチが保有する戦力を知っていたからに他ならない。同条件下でやりあっては勝算が薄いと踏んだのだろう。俺が言うのもなんだがあいつらの戦闘能力おかしいしな。頭のネジが1つどころか100個くらい飛んでる強さだもん。そりゃ警戒するよね。

 で、そんなジョーカーと真正面からかち合うのはいくらなんでも効率が悪いから、こうやって人質を取って無力化しよう、という腹積もりなわけだ。なるほどなるほど、ちょっとは頭の回るやつが上に居るようだな。俺から見ても悪くない作戦に思える。敵の戦力が高いなら、頭を抑えるのは常套手段だ。

 

 

「さて、ついてきて貰おうか。素直に従うことをお勧めする。間違っても逃げようなどとは思わないことだ。……何を笑っている」

 

 あれ、俺笑ってた? 言われて初めて自分の口角が僅かに浮いていることに気付いた。うーん、いかんいかん。最近あいつらと一緒に居ることが多いからついつい気が緩んでしまっているのかもしれない。というかよくこんな微妙な変化に気付いたな。こいつも中々の観察眼を持っているのかもしれん。

 まあ言われなくてもどっかに連行されるんだろうなーくらいには考えていたから、拘束すらされないってのは予想外ではあるがありがたい。別に逃げられるとも思ってないし、素直について行きますとも。多分、俺を人質に取りたいはずだから今すぐは殺さないと思うんだが、逃がすくらいなら当然殺すだろうな。俺だってそうする。このまま鉄血人形のアジトにでも案内してくれりゃ万々歳だが、流石にそこまで間抜けでもないだろう。どこか辺鄙なところに連れて行かれて、AR小隊たちをおびき出すための餌にするつもりなんだろうな。

 

 しかし、わざわざグリフィンの支部にまで乗り込んできてご苦労様である。

 俺に人質としての価値など無い。グリフィンからすれば、俺一人のために虎の子のAR小隊を差し出すなんて愚策には絶対に天秤が傾かない。あいつら個人個人がどう思うかは置いといて、組織としてそんなアンフェアなトレードに応じる必要性が何一つ無いのだ。そもそも、差し出したとして俺が戻ってくる保証もないからな。現状、AR小隊は替えが利かない。だが、俺という個人はいくらでも替えが利く。少なくともクルーガーがそこを見誤ることはない。

 

 俺とこいつが支部を離れれば、すぐさまカリーナが通信を入れるだろう。それで終わりだ。俺が声をかけるまで動くなと言ったからもしかしたら閉じこもっているかもしれないが、遅かれ早かれウチの支部が連絡不通になれば本部が気付く。それに、AR小隊が目的であればコイツの方からコンタクトは取ってくるだろうし。

 うーん、出来れば痛くない死に方が望ましいんだが、こいつに嗜虐趣味とかあったら困るな。そこらへんお願いしたらサクっとやってくれないかな。まぁ鉄血は謎のエラーで人類を憎んでいるはずだから、殺してくれーって言えば案外やってくれそうではある。最悪自害すればいいだけだし、まああまり気にしても仕方が無いか。

 

 

 

 思えば短い第二の人生だったが、それなりには楽しかったし良しとするかあ。

 じゃあなお前ら、達者でな。




おじさんの明日はどっちだ(投げやり


鉄血勢ではハンターさんとアルケミストさんが割とシコい派。デストロイヤーちゃんは愛でる対象。


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21 -AIはアイの現実を見るか?-

本作品における過去最多文章量。どうしてこうなった。

おじさんの危機なのに感想欄が平穏すぎて草生えますよ
皆もっと(おじさんの)心配して?

先に言っておきますが、今回割と好き勝手やってます。多分好き嫌いがとても分かれる展開だと思います。
でも筆者はこういうのも嫌いじゃないの。許して。


 どれくらいの時間が経ったことやら。支部を出てから、潜んでいた量産型の鉄血人形に目隠しされて両手を縛られたもんだから、景色も分からなければ時間も分からん。体感で言うと2時間くらいだと思うんだが、時計も見れないしそもそもつけてもいない、全然分かりませんでした。揺れと動きから恐らく車みたいなのに乗せられたので、少なくとも徒歩でサクっと帰れる距離ではなさそうだ。

 

「座れ」

 

 推定移動用車両から下ろされて程なく。背中に銃口の感触を突きつけられながら歩いた先、ようやっと目隠しを外されて目に入ったのはだだっ広く、瓦礫やら廃材やらが積み上がった空間だった。うーん、多分だけど廃工場か何かの跡地かな。日も暮れかけており視界がやや利きづらいが、いやに高い天井から夕日が僅かに差し込んでいる。屋根に当たるはずのトタンはその半分ほどが腐り落ちたり剥がれ落ちたりしていて、まぁ人間が住めるような場所じゃあなかった。

 支部に乗り込んできた銀髪人形さんの声に従い、廃材の上に腰を下ろす。椅子が欲しい、腰が痛い。喉も渇いてきたしちょっと腹も減ってきたな、まだ全然我慢出来るけど。水でもいいから飲ませてくれないかな、ちょっと捕虜に対する扱いがなっちゃいないんじゃないですかね。

 

「ふん。妙に落ち着いているようだが、貴様まだ自分が助かるとでも思っているのか」

 

 逆だよ逆。俺自身、俺の命に対しての執着なんてとうの昔に捨ててるんだよなあ。けどまあ、そんな情報をわざわざ開示してやる必要も無い、唸れ俺のポーカーフェイス。でも別に死にたがりでもないので、出来ることなら生きて帰りたい。無理っぽいけど。俺に人質の価値があるとこいつが勘違いしている分にはそれなりに生かしてくれるだろうから、その間は短い余生を楽しむとしよう。主に視覚的に。特段性欲を持て余しているわけじゃないんだが、やっぱり人類の敵とは言え見目麗しいものは見目麗しいのだ。よきかなよきかな。おじさんとはいえ一匹のオトコなのである。狼にはなり損なってしまった人生ではあるが、こうやって目で見て楽しむ分には構わんだろう。というかむしろ、可愛い部下じゃなくて敵なんだからそういう遠慮も要らないよな。

 

「……何をじろじろと見ている」

 

 いやあ、魅力的だなあと思いまして。鉄血工造はその技術力もヤバいが、自律人形の造詣にもその手のヤバいやつが居たんだろう。実に男心をくすぐる出来栄えをしている。ただ、こういう見た目にも拘ると電脳以外の部分で余計なコストがかかっちゃうだろうから、ハイエンドモデルだけに限定したんだろうな。既に死んでいるだろうが、もし今でも生きていたら鉄血の人形を設計したヤツとはいい酒が飲めそうだった。

 しかしまぁ、馬鹿正直に貴方の身体を見てまーす、なんて伝えて逆上されて殺されでもしたらちょっと困る。ここは適当に濁しておこう。人間は嘘吐きなのだ。

 

「……チッ、遅いな。あいつはまだ遊んでいるのか」

 

 しばらくこれと言った会話も無く無音の時間を過ごしていると、ふいに銀髪人形が毒づいた。

 ふーむ、誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。まあほぼ確実にS02地区に現れた方のハイエンドモデルのことだろうな。便宜上ブレードとでも呼ぶことにするか。うちの支部を空け、戦力を釣り出すためにS02地区を再び攻めたはずだから、ブレードはあそこで討ち死にする予定ではないはずだ。適度に引き付けて退却してこっちと合流、みたいな手筈なんだろう。それにしては最後に見た映像では彼我の距離が大分近かった気もするが、何かしら逃げの一手を打つ手段は隠し持っていたはず。そうでなければあの近さでAR小隊と正対するなど自殺行為もいいところである。真正面から打ち勝つ力があるのなら、こんな手間隙をかける必要が無い。それが難しいからこそ指揮官の誘拐という絡め手を採用したはずだからな。

 で、そうやって盤面を有利に傾けた後、ノコノコと現れたAR小隊をこの銀髪人形とブレードが二人掛かりでしばき倒すっていう筋書きなんだろう。前回のスケアクロウといい今回のブレードといい、攻撃が当たりさえすればI.O.P社製の戦術人形なんか一撃で葬れる火力を持っている。恐らくこの銀髪人形にも同等の手段があるのだろう。それらをまとめて食らってしまえば、如何にAR小隊とは言えひとたまりも無い。

 まあ、そんな浮ついたストーリー通りにことが運ぶとも思えんがな。確かにこいつら人形と比べれば人間は脆弱な存在だが、ちょっとばかし人間をナメ過ぎである。一手先の有利を取られたくらいで思考停止するような連中だけじゃないんだよなあ。特にクルーガーなんかはその最たるものだ。俺一人の犠牲くらいで揺らぐタマじゃない。

 

 

 

「ふん、まぁいい。貴様が落ち着いていられるのも今のうッガァッ!?」

 

 うわ、びっくりした。どうした目にゴミでも入ったのか? こちらに振り向いて勝ち台詞を吐き出そうとしていた銀髪人形が、突如顔面を覆ってのた打ち回る。指の隙間からドボドボと人工血液が滴り落ちているあたり、どうやら何らかのダメージを負ったみたいだが、一体何が起きたんだ。サッパリ理解出来ない。

 

 ダダンッ!!

 

 数瞬遅れて響き渡る、銃声。決して静かな音ではないが、どこか聞き慣れた音だ。えぇー、なんで来てんだよあいつら。馬鹿じゃねーのか、とは思ったものの、ちょっと早すぎない? S02地区からウチの支部まで結構な時間がかかるはずなんだが、俺が誘拐されてからあいつらがそれを知ったとして、今俺が居る場所までは知らないはずである。銀髪人形さんも何か通信を飛ばしたり支部に痕跡を残していたわけじゃなさそうだから、追跡でもしていない限りこの短い時間で現在地を割り出すのは不可能なはずだ。

 先程の銃声は何を狙ったものなのか、その答えはすぐ目の前に転がっていた。俺を攫った人形が手にしていた大型のハンドガンが二つ、それらが見事に弾かれて遠い地面に転がりこんでいた。うっわ、ピンポイントで指の関節が破壊されてる。如何に鉄血人形が頑丈だとしても、機械である以上明確な弱点は存在している。それがジョイント部分だ。腰や膝といった主要箇所ならともかく、指の関節一つ一つまで防弾性能を持たせるのは現行の技術力では極めて難しい。ていうかそんなところを容易く撃ち抜くんじゃないよ。頭おかしい。

 

「指揮官、無事か?」

 

 廃工場の正面から堂々とその声を発し、悠々と姿を見せる戦術人形が複数。凄いな、間違っても助けられる立場の俺が言うことじゃないんだが、とても正義の味方とは思えん登場の仕方だ。SOPMODⅡ、もしかしてその左手で引きずってるの、ブレードさんじゃない? 両足もがれて悲惨な姿になってるけどそれ大丈夫? まだ生きてる? あれ、ていうか一人足りないな。AR-15は何処行った?

 

「ご無事で何よりです、指揮官」

 

 正面とはまた別、真上から投げ掛けられた突然の声に反射的に首を動かすと、今まさにトタンの屋根から飛び降りてきたAR-15の姿。結構な高さがあるはずなんだが、ほぼ音も無く着地する様は洗練され極まった特殊部隊のそれを髣髴とさせる。ああ、銀髪人形を狙撃したのはお前だったか。確かに、AR小隊で唯一サプレッサーと高倍率スコープを付けているお前なら狙撃には適任だろうが、そもそもどうやって登ったのそこ。

 

「処刑人!! ……クソッ! どうして此処が……ッ処刑人から聞きだしたのか……!? いや、有り得ない! それに、外に居る見張りはどうやってやり過ごした……!?」

 

 おーおー、さっきまでの冷静さは何処に行ったのか、大いに慌てふためいている銀髪人形さん。まぁ無理も無いか。圧倒的優位に立っていたはずの立ち位置が一瞬にして窮地に陥ってるんだもんな。俺が同じ境遇でも発狂してたと思う。しかし、処刑人(エクスキューショナー)かあ。多分SOPMODⅡが引き摺ってるハイエンドモデルのコードネームなんだろうな。完全に処刑される側の姿になってるけど。それにしても随分と信頼を置いているみたいだな、普通ここまで拷問ちっくなことをされたら味方の居場所くらいゲロってもおかしくないもんだが。

 

「なんだ、あれ見張りだったのか? ただの案山子かと思ってたぜ」

 

 銀髪人形の必死の叫びに、にべもなく返すM16A1。信じられない、みたいな顔で言葉を失っているが、そいつら至近距離でも全盛期の俺に存在を感知させない程度には隠密機動が出来るんですよ。しかも近接格闘も出来るんです。量産型AIの感知精度じゃあ、その存在を認識する以前の段階で張り倒されたことだろう。頭おかしいと思うだろ? 俺もそう思う。

 

「う……ぁ……狩人……逃げ……ろ……」

 

 おお、処刑人まだ生きてた。でもまぁそうか、こいつら人間じゃないから別に出血多量とかショック死とかはないはずだからな。電脳とコアさえ無事なら生きてると言っても差し支えはないのだろう。ただ、完全に戦闘意欲は圧し折られているみたいだが。まぁ両足もがれて両腕もボロボロとあってはな。そしてやっと銀髪人形さんのコードネームが判明した。狩人(ハンター)か、確かにそれらしい名前だと思う。完全に狩られる側の姿になってるけど。ふむ、しかし逃げろときたか。鉄血人形からはちと考えにくい台詞だな。

 狩人が言葉を失っている間に、AR-15がナイフで俺の縄を解く。俺の拘束は無くなり、狩人の武器はあっちに転がっている。目の前には油断無く武器を構えたAR小隊の3人。ウーン、勝ったな。いや流石に想定外過ぎる勝利だけどさ。

 

「クッ……! これで勝ったと思うなッアアア!?」

「状況をよく見て喋れよ鉄屑がよ」

 

 狩人が負け惜しみとも取れそうな台詞を吐き出そうとした瞬間、M16A1が火を噴いた。その弾丸は容赦なく膝の関節を打ち砕き、たまらず狩人は崩れ落ちる。ヒエッ怖。台詞も顔も行動もその全てがヤバい。何故だか分からんが完全にブチ切れているな。しかもしっかりと理性を残した上で大炎上している。端的に言って、非常に怖い。

 

「フッ……フフフフ」

 

 おやおや、あまりの事態にAIが更なるバグでも誘発したか? 地面に寝転んだまま、唐突に笑い出した狩人。その様を見て無言で銃口を向けるM16A1をとりあえず抑えておく。もうどう頑張ってもここから逆転は無理だろう、こいつらには聞きたいこともあるしちょっと堪えて欲しい。

 

「どうした、やるならさっさと殺せ。今回の勝敗は決しただろう」

 

 んんー? 今回? 言い方が気になるな。恐らく今回というのは、S02地区に陽動をかけてその間に俺を誘拐する作戦だと思うのだが、それ以上に策があるのだろうか。聞き捨てならない台詞だ、ちょっと聞いてみるか。普通は答えてくれるはずないんだが、こいつ案外口が軽いからポロっと言ってくれるかもしれない。

 

「私たちにはバックアップがある。たとえここで壊されようとも、今回のことも次の個体にデータとして蓄積される。そして何度でも戦ってやるさ、貴様らを殺し切るその時までな……!」

 

 うわあ、まるでどこぞのゲームの魔王みたいな口振りだ。ていうかいいのか、そんな重要機密っぽいことをホイホイと喋ってしまって。間違っても同情すべき相手じゃないんだが、なんだか可哀想にすら思えてくる。まあ、とは言え鉄血の本部もバックアップの場所も分からないことにはその大元を叩くことなんか出来ないわけだが、それでもそういったネットワークが存在していて、ハイエンドモデルが再生成されることが分かっただけでも収穫である。何なの、人形ってI.O.Pも鉄血もどっか抜けてるのがデフォルトなの?

 しかしまぁ、情報が分かっただけで厄介なことには変わりない。ここでこいつらを仕留めたとして、バックアップから復元された新しい個体が再び策を練って襲い掛かってくるってのは単純に脅威だ。そのリソースはどこから来てるんだという疑問もあるが、生まれてくる以上は対処しないと仕方ない。

 

 

 んん? ちょっと待てよ。今いいこと閃いた。

 こいつらにはバックアップがある。仮にそれを事実として考えてみよう。そうであれば狩人が言う通り、ここでコイツをぶっ壊しても多分無駄だ。今回の戦闘データを学習した新しい個体が生まれてくるだけだ。

 だが、それが出来るなら何故ハイエンドモデルを最初から複数体出さないのか、という疑問も同時に生じる。スケアクロウも処刑人もそうだったが、持っている火力自体は半端ない。戦略を個の戦力でひっくり返すなんぞ信じたくもないが、現にうちのAR小隊は素でそれをやってしまっている。そんな馬鹿げた奴らよりも更に強力な武器を持っているのなら、ひたすらにそいつらを量産してゴリ押せばいいだけだ。もし、そんな贅沢が出来るほどのリソースが無い、ということであれば今度は狩人の言葉が矛盾する。バックアップから何度も同じ個体を生み出すには当然相応のリソースを消費しなければならない。AR小隊と同じくワンオフモデルの一点ものであれば、そんな台詞は出てこないはずだ。もっと大事に扱うはずである。

 

 ははーん。読めたぞ。

 多分こいつら、量産型と違って同時に複数存在出来ないと見た。何がどうなってそうなるのかはよく分からんが、バックアップを生み出せるのに数を量産出来ない矛盾はこの答えでしか解決出来ない。バックアップというくらいだから、恐らく電脳が関係しているのだろう。めちゃくちゃ飛躍した考え方だが、そう捉えるとここにいるコイツらは恐らく「本体」じゃあない。I.O.P社製の人形で言うダミーってところか。オリジナルがどっかに潜んでいて、そこからダミーを生み出していると見たね。そしてそのダミーは同時に一体しか出せない。

 当然、この推測に辿り着いたのは俺だけじゃないだろう。だからスケアクロウも、電脳に自死作用を持ったプロテクトを仕込んでいた。恐らくこいつらも同様に最終手段として自害出来る手段は持っているはずだ。そうなるとこいつらをこのまま確保しても無駄だ。どこかのタイミングで勝手に死なれて次の個体が生まれる。下手にお持ち帰りなどしてしまったら、スケアクロウの時と同じくこっちの位置情報なんかも漏れるだろうしな。

 

 しかしだ、先程狩人は「次の個体」と言った。つまり、性能諸元やデータなんかはコピー出来ても、それまでこの個体が生きてきた記憶や感情、自我までは持ち越せないと見える。ましてや今まで、他の支部も含めてハイエンドモデルが発見されたり撃破された明確な履歴はない。そりゃまぁ、この性能であれば並みの戦術人形じゃ歯が立たんだろう。つまりこいつらは、知識としてバックアップが取れることは知っていても、実際に生まれ変わったことがない可能性がある。そして、先程処刑人が発した逃げろという言葉。

 

 ……試してみるか。上手く行く可能性は低いが、やってみる価値はある。

 

 狩人から視線を外し、SOPMODⅡが左手で弄んでいる処刑人へと近付く。あー、M4とM16は狩人を見張ってろ。ただし、狩人が喚いても撃つなよ。明確な敵対行動が見られない限りは抑えてくれ。AR-15は俺の傍で万が一の際は対応を頼む。

 

「な……なん……だ……?」

 

 俺の行動を訝しんだのか、処刑人がたどたどしい言葉で疑問を口に出す。あーあー、多分発声機能がほぼほぼイカれてるな。胸元辺りもかなり損傷が酷い。逆によくここまで電脳とコア以外を綺麗に傷つけられるもんだ。怖い。

 さて、処刑人と言ったかな。少し話をしようか。これは仮の話なんだが、もしお前が自身を検体としてこっちにその身柄を寄越してくれるなら、狩人は見逃してやる、といえばどうする?

 

「本当……か……?」

「騙されるな処刑人!! そいつらがそんな取引をするわけが無い!!」

 

 僅かにその表情を歪ませ驚愕の色を滲ませる処刑人、そして慌てふためく狩人。おおっと、これは幾つか想定していたパターンの中で一番可能性を低く見積もっていて、かつ一番ありがたい反応だぞ。これはマジでワンチャン有り得る。

 

 先程の問答。ここから導き出される推論は二つだ。

 まず一つ、こいつらはお互いにお互いをある程度大切に想っている。重大なバグを抱えたイカれた鉄血人形に何を、と思うところもあるが、同僚をタダの駒として見ているだけならこんな反応は出てこない。何言ってんだこいつ、みたいな冷ややかなリアクションで終わるはずである。そもそも、エラーを起こした鉄血人形の至上命題は人類の殲滅のはずだ。そこに仲間への思いやりなんて無駄なリソースは本来不必要。作戦行動に支障が出るだけだ。

 そして二つ目。読み通り、バックアップに感情や自我は引き継がれない可能性が高く、更にこいつら、今までバックアップ機能を使ったことがない可能性も高い。何故ならそれらが引き継がれるならこの話、勝手にしろ、で終わってしまうのだ。

 仮に処刑人の身柄を拘束して好き勝手弄繰り回し、殺したとしよう。そして宣言通り、狩人を見逃したとする。今までの感情や自我が引き継がれるなら、狩人側にデメリットが何一つ存在しない。処刑人を通して敵内部の実情データが手に入るかもしれないし、適当な頃合で復活した処刑人と情報共有すればいい話だ。むしろ、メリットしかない。どうぞ連れてってくださいと言われてもおかしくはなかった。もしその返答だったら2体ともここで始末する予定だったんだけどね。

 

 つまり、処刑人と狩人の答えを吟味する限り、互いが互いの「今の個体」に対して一定以上の執着を持っている。量産型人形と違って擬似感情モジュールと自我を持たせたのが仇となったな。俺だって、仮にAR小隊にバックアップが存在していて、オリジナルが戦場で失われてもすぐに復元出来ます、ただし復元出来るのは最適化工程のみで、それまで培われた感情や関係はリセットされます、なんて言われたら、使い捨てる選択肢は出てこないだろう。

 今のやりとりだけでも、お前らがお互いに少なからず思っているのは分かる。別に俺たちはお前らを殺したくて戦っているわけじゃあない。仲良く手を取って、なんて絵空事を言うつもりはないが、処刑人が狩人を逃がしたいように、狩人が処刑人を心配するように、俺のことをAR小隊も心配するし、俺だってこいつらが大切だ。その感情に違いはあるまいよ? それに、狩人はバックアップの強みをやたらと強調しているが、お前らそれ使ったことあるのか? 実際に寸分違わぬ新しい個体が生まれてくると一体誰が保証出来る?

 

「それ……は……」

「…………」

 

 返ってきたのは先程とは打って変わって、沈黙。ここでのだんまりは肯定と同義なんだが、まぁそこらへんの話術の駆け引きを人形に期待するのもおかしい話か。

 しかし、思った以上に上手く行きそうだな。後は落としどころの見定めさえ誤らなければ丸く収められそうだ。と言うのも、こいつらはこいつらでハイエンドモデルであることに違いはないが、より上位の存在から命令を受けて行動していることも確かだ。いくら現場がノーを出したとて、社長がゴーと言えば従業員は逆らえない。それが一般的な会社ならともかく、こいつらは指揮命令系統が絶対化された人形である。一個体の感情で全体の意思を捻じ曲げるのは不可能だろう。

 

 ということでSOPMODⅡ、処刑人を解放してやれ。狩人も片膝は死んじゃってるけど帰還くらいは出来るだろ。そこに転がってるハンドガンは回収させてもらうが、現状俺たちはこれ以上は追わない。追跡もしないから、処刑人連れておうちに帰りなさい。今回はそれで手打ちとしよう。

 

「し、指揮官!? 正気ですか!?」

 

 俺の打ち出した答えに、たまらずM4A1が抗議の声をあげる。まあ普通はそうだろうな、ここで相手のハイエンドモデルを逃がす方がおかしい。それは俺も分かってる。しかし、ここでこいつらを殺したとして、やってくるのは殺意マシマシの次のハイエンドモデルだ。延々と不毛な乳繰り合いを繰り返したくはない。こいつらが再び襲い掛かってくるってのならその時は容赦しないが、まあ1回くらい賭けてみてもいいんじゃないかと思う。ああ、一応言っておくが、遊びに来る分には歓迎するぞ? 仮にお前らが俺の言に理解を示してくれたとして、じゃあもう人間は襲いません、とはいかんだろうし。今回俺は誘拐こそされたが、結果としてうちの人間にも戦術人形にもオリジナルに被害は無かったからな、だからこその手打ちだと思ってくれ。

 

「……ふん、後悔しても知らんぞ」

 

 逆だよ逆。脅しって訳じゃないが、次は容赦しないからな。あっさり殺してくれると思うなよ、思い付く限りの悪辣を徹底して実行してやるからな。お前らこそ後悔のない選択をしてくれることを期待してるよ。

 

「はァ……、ったく、とんでもねえな指揮官は」

 

 お前に言われたくねーよ。とんでもない戦術人形め。

 よし、じゃあ帰るか。俺らが何時までも居たんじゃこいつらもおちおち帰れないだろうし、どっちにしろうちの支部の位置はもう割れてるんだ。俺らが先に帰投した方がこいつらにとっても好都合だろう。

 

 

 廃工場の外に出てみれば、もう間もなく完全に日が沈みそうな時分であった。早く帰って色々と説明しないとな。こっちはこっちでハイエンドモデルを確保出来なかった言い訳を考えておかなきゃいけない。したり顔で色々言っちゃったが、俺は俺で会社の歯車なんだよなあ。つらい。支部までの道がサッパリ分からんが、多分AR小隊が分かってるだろう。うーん、足はどうしよう。狩人が俺を運んできた車両をパクらせてもらうか。これくらいは手打ち金として勘弁してほしい。

 

 そういえば、こいつらやけに到着が早かったが、どうやってこの場所を知り得たんだろうか。処刑人は当然この場所を知っていたはずだが、話を聞く限り処刑人が口を割ったとも思えない。敵方が予測もしていなかった速度で救出に来てくれたお陰で俺は今もこうやって生きているわけなんだが、その方法は気になる。

 

 

 

 

「なんだ、指揮官知らなかったのか? その義足にGPS機能付いてるぞ」

 

 マジかよ。




この結果がどう転ぶかは分かりません。
ちなみに、本編内でおじさんが色々と予測を立てていますが、あくまでおじさんの推測であって、それが事実というわけではありません。





今回のサブタイを「大暴走ブチギレシスターズ」にしようと最初は思ってたんですが、流石にタイトルでオチがつき過ぎているのでやめました。

※アーキテクトは失温症に出てくるハイエンドではなく「鉄血人形を設計した人物」という意図で出した単語でしたが、誤解を招く恐れがあったため言葉を差し替えました。


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22 -御礼参り-

好き勝手書けるのが二次創作の醍醐味だってばっちゃんが言ってた。


 戻ったら戻ったでまぁ大変であった。支部に到着して早々カリーナには大泣きで抱きつかれるし、他の部隊の人形からは次々に大丈夫だったのかとか怪我は無いかとか色々と心配されてしまった。あのねえ、確かに俺はただのおじさんだし君たち人形より脆いのは重々理解していることだが、パッと見て無事なの分かんない? 心配してもらえることは嬉しくはあるのだが、そんな要介護者みたいな扱いされても困る。そんなこんなの大騒ぎで司令室が一時ハチャメチャな状態になってしまったんだが、なんか俺が外出する度に大変になってない? 大丈夫? あまりに心配され過ぎて一周回って身の危険を感じる。最終的にこの支部内で拉致監禁とか嫌だぞ俺は。人並みの自由は謳歌したいところである。

 で、人形たちは置いとくとして、カリーナに心配をかけてしまったのは事実なのでそこはきっちり話をしておいた。中々泣き止んでくれなかったからてこずったとも言う。次は私もご一緒しますとか言ってたけどお前後方幕僚だろ、大人しく引っ込んでなさい。カリーナが相手では多くを語れないが、俺は既に一度死んだ身であって最早G&K以外で生計を立てる手段がないから骨を埋める覚悟が持てているだけであり、彼女はまだ若いし優秀だ。脛に傷があるという訳でもないだろう、こんなところで命を懸ける必要性が全くない。俺としては真っ当な生活を送って真っ当にその寿命を全うして頂きたいものだ。カリーナは確かに組織図上俺の部下ではあるんだが、娘みたいな感覚もあるんだよな。

 

 廃工場から支部に戻る途中、俺の義足にGPS機能が備わっているなどという驚愕の事実が判明したわけだが、それはそれとして、S02地区の戦線から第一部隊が俺の救出にやってくるまで、どういう経緯があったのかを聞いておいた。勿論後で報告書も提出させるが、一次報告として口頭でも状況を聞いておかなきゃな。移動中なもんでそれ以外に特にやることがなかったとも言うが。

 

 俺との通信が途絶えた直後、斬撃を飛ばしてナインのダミーをぶっ潰した処刑人だったが、どうやら戦闘を開始する前に少々会話のターンがあったようである。曰く、やっとマシな奴が出てきただとか、他の人形は脆くてつまらんだとか、まあ絵に描いたような戦闘狂みたいなキャラだったそうだ。で、その後しばらくは削り合いが続いたっぽいのだが、ふとした拍子に処刑人が口を滑らせてしまったらしい。多分骨のある相手と戦えてテンションが上がっていたんだろうな、外骨格を大いに削られながらもそれはそれは楽しそうな顔だったそうな。それで作戦の肝をポロっと言ってしまったものだから、被弾を無視していきなり最高速まで加速したSOPMODⅡにあえなく御用となった、と。その後はなんか聞きながら気分が悪くなりそうだったので話半分に流していた。「楽しかったよー!」と無邪気な笑顔とともに事細かに拷問の内容を話される身にもなって欲しい。敵なのは間違いないから止めろとも強くは言えないしつらい。ちょっと処刑人が可哀想に思えてきた。

 ただ、そのせいで作戦そのものは潰せたものの、SOPMODⅡのダミーは3体オシャカになったそうだ。うわーん、これはこれでヘリアントスかクルーガーあたりからお小言が飛んできそう。やだなあ、あいつらのダミーちょっと割高なんだよ。そこをケチるとオリジナルと同じ運動性能が出せないから、渋るわけにもいかん。でもSOPMODⅡが吶喊してくれたおかげで処刑人を確保出来たし、結果狩人とも有利な状況でお話することが出来たので、叱るだけってのも何か違う。うーん、ここらへんの塩梅は非常に難しいな。E.L.I.D相手に人間の部隊を纏めていた時の方がその辺りは楽だったかもしれない。俺もまだまだ勉強せねばならぬ。女性の扱い方とかはノーカンで。

 

 しかし、処刑人に狩人かあ。スケアクロウなんかは喋る間もなくぶち殺されてたんだろうが、あいつら妙に人間くさかったな。鉄血人形ってのはその全てがバグってて人類絶対殺すマシーンに成り果てているとばかり思っていたが、もしかしたら一概にそうとも言えないのかもしれないな。まぁアレがただのブラフで次こそ本気で殺してやるぜなんて思われてたらどうしようもないんだけど。そうなったらそうなったで鉄屑のお掃除をするだけだから、別に今までと何かが変わるわけじゃないんだが、折角見えたチャンスなのだから、実ってくれると嬉しいなくらいには思っている。結果ばかりはそれこそ神のみぞ知るってところか、精々居るかどうかも分かりゃしない神サマにお祈りでも捧げておくとするか。

 

 

 

「し、ししししし指揮官さまァ!!?」

 

 おじさん拉致事件から数日。狩人に破壊された支部入口のゲートに復旧用の自律人形を要請し、その作業が進みつつある頃合。S02地区との戦闘で傷ついた戦術人形たちのダミーの修復も終え、緊急任務相当の報酬も頂き、同時にヘリアントスへハイエンドモデルの破壊が後一歩のところで出来なかったと適当に報告内容を調整し、幾つかのお小言を頂戴したりもしたが、まぁ特段変哲も無く過ごしていた午後の時分。支部の正面センサーが来客の反応を示し、その内容を確認した後方幕僚兼副官のカリーナが、意味の分からない叫びを上げていた。

 何事かと思いモニターを覗き込むと、そこには何だか見覚えのある人型が2体。黒と白のカラーリングを基調とし、一般的な量産型の戦術人形より二回りは大きい機械人形の片方が不敵な笑みを浮かべ、片方が能面を貼り付けたような顔でモニターカメラを睨んでいた。

 

 いやいや。いやいやいやいやいや。そりゃね、確かに俺は遊びに来るなら歓迎するとは言ったよ? そこに間違いはないし嘘もないんだが、馬鹿じゃないのこいつら。まさか言葉の額面どおり遊びに来たとか言うつもりじゃないだろうな。ちょっとあまりの事態に理解が追いつかない。いやまぁ、うちの支部の位置情報は割れているんだから、別に来ること自体は不思議じゃない。でも君たちさぁ、もうちょっとこう、何ていうかこう、あるだろ。俺らと君たちの関係はご近所付き合いするお隣さんじゃないんだぞ。

 もしかしたらこうやって俺の油断と落胆を誘いつつ奇襲してくる戦法なのかもしれない。二人ともしっかり武器は持っているようだから、どちらにせよ油断は出来ないな。とりあえず第一部隊を至急呼び出して俺の護衛に付けておくか。ただ俺も正直あまり正対したくはないんだよなあ。いくら護衛が居たとしても、ダミーとは言え戦術人形の反応が追い付かない武器を持った相手に、真正面から向かい合うなど誰が好き好んでやるというのだ。俺だって無駄死にはしたくない。

 いやしかし、敵とは言えこうやって破壊活動を行うこともなく、礼儀正しくやってきた相手を無下に扱うのも社会人としてダメなのか? いかん、よく分からなくなってきた。これが作戦なら大したものだ、敵の司令塔を大いに混乱させることに成功しているぞ。

 

 うーん、悩んでても仕方ない、か? 今のところ建物に攻撃を加えたりする様子はない。まずは第一部隊に相手をさせてみよう。いきなりオリジナルを出して奇襲でも食らおうものなら大損なので、ダミーを出させて様子を伺うことにするか。同時に、モニターカメラ越しの通話を試みる。少なくともこうやって訪ねてくる以上会話は成立するはずだ。問答無用ならこんな事態になっていないはずだしな。

 

『そちらの指揮官と直接話がしたい。少なくとも今日危害を加えるつもりはない』

 

 こちらの問い掛けに応えたのは狩人の方だった。うーむ、お話ときたか。別にそれだけならこうやってモニター越しでもいいんじゃないのとは思うが、さてどうするべきか。そうだな、とりあえず用件は分かった。ただ、こいつらも当然分かっているだろうが本来俺たちは敵同士。ハイ分かりましたとのこのこ出て行くわけにもいかない。お互いの安全のために、先ずは武器を手放してもらおう。こちらも対応のためダミーを出させてもらうが、そいつには武器を携行させない。これでどうだ。

 

『了解した。これでいいか』

 

 要望をそのまま伝えると、特に反論や不満を返されるでもなく、狩人と処刑人は素直に従った。前者は新しく作り直したのか、大型のハンドガンを二つ。後者は馬鹿でかいブレードとハンドガンをそれぞれ一つ。支部入口の地面に置き、再度カメラへ視線を向けていた。

 ふむ、従ってくれるか。なら、それと同等の誠意はこちらも見せておかなければな。宣言通りこちらも丸腰のダミーを出させよう。うーん、ダミーだから誰のでもいいんだが、M16A1のやつにしておこう。防弾ベスト着てるから隠し持ったサイドアームがあったとしても多少は耐えられるだろうし、一番動きもいいからな。

 流石にあいつらを支部の中にまで案内するわけにはいかんので、正面玄関で応対することになる。従ってくれているところで申し訳ない気持ちもあるんだが、ここで安易に迎合してしまうのはただの馬鹿だ。M16A1のダミーには狩人と処刑人の武器を見張らせておこう。俺自身は丸腰で出るが、護衛は付けさせてもらう。ただ、直接的な危害を加えられない限り、こちらから先制することは無いと約束する。信じてもらえるかは分からんが、それでもよければ直接立ち会おう。

 

『構わない。繰り返すが、今日は争いに来たわけじゃないんでな』

『わざわざこうして来てやってんだ、何時まで待たせんだよ』

 

 何だあいつ、敵のくせに随分と図々しいな。

 

「指揮官、本気で出るつもりか? 何があるか分からんぞ」

 

 至急呼び寄せた第一部隊、その部隊員であり先だってダミーを向かわせているM16A1が心配そうに声をかけてくる。いやまぁ、俺だってどうかしてると思うよ。異論は認める。がしかし、折角面白そうなイベントになりそうだからなあ、もしかしたらこの間の賭けに勝っているかもしれんし。ベットされるのが俺の命程度なら悪くない内容だと思う。それに、あいつらもAR小隊の強さは身に沁みて分かっているはずだ。丸腰の状態で自分から死地に飛び込む程馬鹿じゃないことを祈るしかない。処刑人はともかく、狩人はそこそこ話が分かりそうだしな。

 

 

 

 

「数日振りだな、人間」

 

 第一部隊の面々に囲まれて鉄血のハイエンドモデル2体とグリフィン支部の入口で正対するとかいう訳の分からない事態。そんな混沌の最中、第一声を発したのはハイエンドモデル、狩人だった。うーん、相変わらずいい身体してやがる。これが再び見れただけでも役得としておこう。処刑人もまともな姿を見るのは初めてだが、うーむ、ナイス。やっぱ胸も大事だけど女性の身体は下半身だよな。いいフトモモだ。これを設計したヤツ、やはり分かっているな。名も知らんが、惜しい技術者を亡くした。

 ていうか今更なんだが、よくこっちの要望飲んだもんだな。敵陣に押しかける方もどうかと思うが、普通敵地のど真ん中で自分の得物をあっさり手放すか?

 

「殺すつもりなら私たちはあの時既に死んでいた。今日にしても、わざわざ応対するまでもなく撃ち殺せば済む話だ。最初からそのつもりなら、貴様はこんな無駄なことはせんだろう」

 

 ふーむ、こいつ結構頭回るな。少なくとも事前の情報と現状を踏まえ、自分なりの推論を立てられる程度にはAIの思考能力が高い。俺個人に対しての分析も並行して行っているところも高ポイント。用件次第だが、これはひょっとしたらひょっとするかもしれない。そんで、肝心の用件ってのは一体何なんだろうな。まさか本当にご挨拶だけって訳でもあるまい。

 

「貴様らは敵だ。それは変わらん。だが、処刑人を生かしてくれたことに加えて貴様の言にも一理あると思ってな、修復を終えた後に話をしたんだが」

「俺はとにかく暴れたいだけだからよ、難しいことを考えるのは苦手なんだが……まァ、なんだ。俺は死ぬことなんざ怖くねえが、コイツが先に逝っちまうことを考えてみたんだわ」

 

 んー。いまいち結論が見えてこないが、多分悪い方向の話じゃあなさそうだな。I.O.P社製の人形と同じく、擬似感情モジュールがいい意味で働いていると見える。多分こいつら普段から仲良いんだろうな。今まではその性能で人類相手に無双出来ていたんだろうが、AR小隊という強敵にぶつかって、お互いがお互いを失ってしまう可能性について初めて考えることが出来たんだろう。バックアップは取れるが、自我や感情は持ち越せないデメリットを感じるようになってしまったってことか。

 いや、いいことなんじゃないか? 確かにお前らは敵だし、戦場でぶつかり合えば殺しも殺されもするだろう。俺も生身ではあるが昔はそういう場所に身を置いていたしな。たまたま俺は今日まで生き残ってしまったが、一生の相棒だとまで思えたやつが先に逝ってしまったこともあるし、可愛い部下が俺のミスで死んでしまったこともある。俺だって、何度あいつらの代わりになれればよかったかと考えたこともあるさ。

 お互いを想いやる気持ちに、敵味方も貴賎も無い。ただ、もしそこに一つだけこっちの我侭を言わせて貰うとすれば、その感情は相手も同じように持っている可能性が高い、ってところを分かっておいて欲しいくらいだ。勿論、敵を殺すなって話じゃなくてな。そういうのも飲み込んで、踏み越えて、生き残るのが戦争だ。ただの駒の殺し合いじゃないんだってのを理解してくれれば俺からは何もない。

 

「…………なるほどな。私は私が思う以上に今の個体に執着を持っていたらしい」

「難しくてよく分かんねえな。とにかく、俺が死ぬのは構わんが、コイツがくたばるのはちょっと嫌なだけだ」

「お前が先に逝くのは私が困る」

 

 ちょっとー? やっすいラブコメ目の前で見せ付けてくるのやめてくれます? しかし鉄血人形のハイエンドモデルってのは色々とすげえな。多分今までそういう切欠が無かっただけで、一度その類の感情を持ち合わせてしまえば、優秀な電脳が様々な演算を行って瞬く間にI.O.P社製の人形……というか、人間と同じような思考に辿り着いてしまう。うーん、困ったな。とは言ってもこいつらと仲良しこよしなんて出来る訳もなし、むしろ今後戦場で相見えたらやりづらい。まぁ殺さないとこっちが死ぬからやるしかないんだけどさ。こんなことならE.L.I.Dしばき回してる方が精神的に楽だったわ。

 

「で、結局どうしたいんだお前ら。今からドンパチおっぱじめるわけじゃないんだろ?」

 

 俺と鉄血の会話を横で聞きながら、今まで無言を保っていたM16A1が半ば投げやりにその声を発する。油断こそしていないが、先程まで見え隠れしていた殺気みたいなのはほぼ無くなっているな。こいつはこいつで二人の会話に毒気を抜かれたのかもしれない。いや、同じ人形だからこそ分かる部分もあるのかもしれないな。

 

「改めて話をして理解した。やはり間違ってはいなかったようだな」

「マジでやんのか? 俺は別にいいけどよ」

 

 うーん、何とも要領を得ない言葉だ。処刑人の台詞から、何かをやるらしい、ということは分かるがそれが何なのかサッパリ分からない。いきなり爆発とかはやめて欲しいんだけど大丈夫かな。

 

「……グッ!」

「くぁ……ッ!」

 

 バチン、と。何かが弾けるような音がすぐ傍から聞こえた。音のした方向では、処刑人と狩人がそれぞれ苦悶の表情を浮かべている。まさかと思い周囲を見渡すが、俺の護衛に付いているAR小隊の誰も何もしていない。勝手に攻撃を加えたという訳ではなさそうだ。あーよかった。ここまで話をしておいて先制攻撃を仕掛けました、ではどうにもケツの締まりが悪い。別に鉄血相手だからそんな遠慮も要らないとは思うが、やはり最低限の節度は持っておかなければな。それは味方だけでなく、敵に対しても同様だ。特に相手が誠意を見せているのにこっちが一方的に踏み躙るようなことは避けたい。

 謎のスパークは収まったのか、その表情を徐々に先刻までのものに戻す2体。ふるふると、両者ともが幾度か頭を振る様を眺めることしばし。すっかり落ち着いた様子の狩人と処刑人が、その口を動かした。

 

 

 

 

 

「ネットワークリンクモジュールをこちらから焼き切った。これで我々はバックアップも人形の支配権限もない、ただの一人形だ。替えの利かないオリジナルに成った、というところか。ふん、存外悪くない気分だ」

「ま、そんな訳で俺らは今からただの根無し草だ。お前らに味方するつもりは無えが、敵対するつもりも無い。適当にやっていくさ」

 

 

 んん? 今なんて?




どうすんのこれ。どうすんのこれぇ(困惑



全然脇道の話なんですが、おじさんに他所との交友関係やコネクションみたいなのはG&K関係を除いて一切ありません。正確に言えば、昔はそれなりにあったのかもしれませんが、世間的にはとっくに死亡している人間なので活かせません。
おじさんぼっち。かなしい。


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23 -隙を生じぬ二段構え-

Q.何の構えですか?

A.厄介ごと。


 ああもう、なんだかんだ怒涛の一日だった。めちゃくちゃ疲れた。身体はそうでもないんだが、精神がキツい。それなりに楽しい今の指揮官生活ではあるんだが、ちょっとこのまま進んでしまうと楽しみよりもストレスの方が恒常的に高まりそうで困る。何とかして癒しの手段を確立させないとダメだな。頭皮に影響が出たらどうしよう。ただでさえちょっとおでこ辺りが不安なのに。

 

 ネットワークリンクモジュールを自ら焼き切ったとのたまった鉄血のハイエンドモデル2体だが、あの後、何故いきなりそんなことをしでかしたのかを聞いてみた。あいつらにとっては絶対唯一の生命線であり、そう簡単に捨てられるモノじゃないはずだ。I.O.P社製の人形に同じことが出来るのかどうかは分からんが、俺らで例えればG&Kを突発退職するようなもんである。ある程度の先行きが見えていなければ、通常なら絶対に選べない手段だ。

 俺の問いかけに返ってきた答えは至極単純なもので、まあ要するにお互いが大切なんだと改めて感じたからだそうだ。いきなり百合の蕾を芽吹かせるのはやめろ。リアクションに困る。

 もうちょっと詳しく聞いてみれば、やはりあの2体はハイエンドモデルではあるものの、基本的にそれより上位の存在から命令を受けて動くことの方が圧倒的に多いらしい。で、恐らく攻略に失敗しているS02地区とうちの支部に関しては、再度出撃の命令が下る可能性が高いとのこと。狩人もお目当てはAR小隊だと言っていたので、あいつらが所属するこの支部が襲われるのは妥当だろうな。位置も割れてるし。

 ただ、何故AR小隊を狙うように言われているのか、その理由までは分からないそうだ。狩人としてはどちらにしろ人間を殺せるなら良しとしていたし、処刑人もどんどん作戦指示が下りてくればその分暴れられると考えていたから、深くは気にしていなかったらしい。いいのかそれで。

 今まではその指示に従うだけで全く問題なかったんだが、俺との対話で互いを想う気持ちに向き合う切欠が出来たこと、その感情が大きく芽生えたことにより、今後AR小隊に限らず、人類を相手取るうちに理不尽な作戦指示でお互いが失われてしまう可能性に改めて気付いたことなどが原因で、AIの思考回路に大幅な変化が起きたようだ。そして処刑人の修復が終わって相談してみたところ、あの人間、つまり俺だな、俺が本心から言っているのか、嘘をついたり騙したりするためだったのかをもう一度話して確かめようとなったらしい。で、そこで自分なりの確証が得られれば、基本人間は殺すけど全員が悪い奴じゃなさそうだし、何より上からの指示で無駄死にしてしまうのは嫌だ、ということでじゃあ鉄血抜けちゃおうぜとなったようだ。

 

 うん、さっぱり分からない。いや、その考えの過程というか、多少強引なところはあれど途中までは筋道として理解出来るのだが、だからって結論出すの早すぎじゃない? いきなりうちの支部に訪ねてきたり鉄血とのリンクを切ったり、何でそう変な方向にだけ思い切りがいいんだ。こいつらハイエンドモデルだとしても絶対管理職向きじゃないだろ。

 

 しかも、鉄血とのネットワークを一方的に切断したとしても、じゃあこれから仲良くしましょうねとはならないのが面倒くさいところだ。あいつらはあいつらで根本の考え方は変わらないだろうし、それはこちらも同様である。根無し草になったとて、あいつらが鉄血人形である事実は変わらない。そもそもそんな裏事情を知るのは当人と俺くらいのもので、その他圧倒的大多数の人類からすれば相変わらず敵なのだ。俺としても、個人的な感情としてはあいつらを助けてやってもいいかなくらいには思うが、まぁ出来る訳がない。せいぜいが戦場でかち合ったときにそれとなく見逃してやるくらいだろう。積極的に捕まえて処分してやろうとか利用してやろうとかは思わないが、同じく積極的に助けてやる理由も義理もない。むしろそんなことをしてしまえば、俺の立場が危うくなる。あまりにリスキーだ。

 

 そんなわけで結局この2体がこれからどうするのかを聞いてみたところ、まあ適当に鉄血の基地をハシゴしつつ、主に処刑人のために適度に人類や人類に味方する人形をぶち倒し、だが鉄血の指示には従わないように自由に生きる、みたいな答えが返ってきた。

 

 いや、馬鹿かよ。うん、馬鹿だな、馬鹿に違いない。

 世の中というか、組織という集合体をナメ過ぎている。そりゃまあ、今まではただ言われるがままに人類に牙を剥いてきただけだろうから、知らないのは仕方ないのかもしれんが、こいつら自分自身が今どういう立場に居てそれがどれだけ危ういかを理解していない。

 処刑人と狩人を今後発見したとして、攻撃の前に対話が成立するのは恐らくうちの支部に所属する人形だけだ。他は間違いなく問答無用で攻撃に入る。その段階でもしあいつらが戦うつもりはない、などと嘯いても効果はほぼ無いだろう。誰がそんな戯言を信じるというのだ。当然の如く蜂の巣にされる。そもそも大前提として、あの2体は戦い自体を止めるつもりは無さそうなので、衝突は必至だ。

 仮にあいつらと他の支部の人形が戦闘しているところにウチの部隊が出くわしたとして、どちらに味方するかと問われれば確実に後者だ。事情を考慮した上で最大限譲歩したとしても、G&Kの人形を攻撃する選択肢は出てこない。戦いを止めることすら難しいだろう、止める理由が無い。唯一有り得るシチュエーションとしては、G&Kが劣勢だった場合に他の支部の人形を逃がし、誰も見ていないところでコッソリ手打ちにするくらいだ。

 

 更に、あの2体は未だに鉄血の基地を利用する気でいる。自分はハイエンドモデルなんだから量産型しかいないポイントなら大丈夫だろうと言っていたが、普通に考えて大丈夫な訳が無かった。逆の立場で考えてみれば分かるが、仮にG&Kに所属する人形がいきなり離脱を宣言し、その後何食わぬ顔で他の支部に配給と弾薬を分けてくれだとか、修復させてくれなんて訪ねてきたら俺だったら確実に追い返す。というか、追い出すだけで終わる分まだ俺は有情だ。下手したら裏切り者としてその場で粛清される可能性すらある。

 狩人が自分のことをただの一人形だと評した通り、あいつらは自分から組織という盾と殻を捨てた。確かに、単独で生き抜けるだけの力はあるのかもしれんが、知恵と経験が無さ過ぎる。補給も出来ない、修復も出来ない、帰る場所もない。人間なら100%詰みの状況だ。鉄血の人形なら補給はまぁ人間に比べたら格段に事情はマシだろうが、それでも拠点となる場所と修復の目処が立たないのは痛い。この状況下だと、今後あいつらは生きていく上で僅かな傷も負うことが許されない。それを治す当てが無いからだ。

 

 まあ、だからと言ってそれらを一から十まで俺が教えてやる義理もないんだが。あいつらが出来るって言うのならそうなんだろう、あいつらの頭の中ではな。ただ、間違ってもウチの支部を当てにされちゃたまらんので、補給や修復等といった直接的な手助けはとても出来ないってことは念を押して伝えておいた。確かに俺の敵ではなくなったかもしれんが、広義的に俺たちの敵であることに変わりはないんだ。そこは俺も勘違いしないし、逆にあいつらに勘違いされても困る。

 

「大丈夫かよ、あれ……」

 

 処刑人と狩人の去り際、ふと呟いたM16A1の言葉が脳内でリフレインする。

 奇遇だな、俺も全く大丈夫だと思えない。まぁあの調子だとどっか適当なところでくたばるんじゃないの。多分あいつらがくたばった段階で次の処刑人と狩人が生まれるんだろうが、間違っても保護は出来ないし。というか、結局あいつら他のヤツには攻撃するんじゃん。うーん、最初こそ上手く行ったと思ったのに、結果がこれじゃ正直あまり意味が無かった気がする。あれで生き残れるとも思えんしなあ。やはり鉄血と人類は未来永劫分かり合えない宿命なのだろうか。賭けに勝ったと思いきやダブルアップで全部スった気分だ。

 

 もういいや、今日は疲れた。寝よう。おやすみ。

 

 

 

 

 

「指揮官さま、本日の決裁書類はこちらに」

 

 あれからどれくらい経ったやら、一応それとなく本部に他の支部や地域でハイエンドモデルの目撃情報は無いかとか聞いてみたりしたのだが、目立った情報は無かった。少なくとも他所で派手に暴れているわけじゃなさそうで、人類にとっちゃあいつらが動かない方が当然ありがたいのだから、まぁそれはそれでよしとするか。というかわざわざ気にしてやる必要も本来無いんだけどな。下手に関わりを持ってしまった分、何か気になる。

 カリーナから手渡された書類にざっくりと目を通す。うちの物資の輸送状況だとか、部隊が支援した作戦の結果だとか、それに伴う報酬だとか、S02地区の再生状況だとか、そういう雑多な項目が複数に分かれてつらつらと書き連ねられている。

 ちなみに件のS02地区だが、狩人曰く、別にあの地区自体を重要目標として扱って攻撃を仕掛けていたわけではないらしかった。ただ、直近のG&Kの動向からターゲットであるAR小隊がこのエリア一帯の何処かに居る可能性が高かったから、手始めにS02地区に突っ込んだだけっぽい。そしたらスケアクロウの戦闘データにAR小隊と思われる人形との交戦履歴があったものだから、上が前回のような作戦を立てて、そこに狩人と処刑人が実働部隊として選ばれたとのことだ。

 そのような、既に実行された作戦やあいつら個人の事については聞けばそれなりに教えてくれたのだが、流石に作戦を練っている上位の人形の名前とか、他のハイエンドモデルの特徴なんかは教えてくれなかった。まあ当然ですよね。あいつらは鉄血から離反はしたが、鉄血を裏切って人類の味方についた訳じゃない。向こうの本丸がどう思っているかは知らんがな。

 

 そのS02地区だが、流石にスケアクロウ、処刑人、狩人のハイエンドモデル3体が立て続けにボコされてしまったからか、再度襲撃を食らうようなことは無かった。未だ復旧は完全とは言えないが、もうしばらくこの平穏な状況が続けば再び支部として稼働出来る日もそう遠くないだろう、とはヘリアントスの言だ。

 処刑人と狩人の件は、結局誰にも正しい詳細の報告は上げていない。内容が内容だからってのも勿論あるが、結果としてこれからも敵であることは変わらなかったんだから、わざわざ余計な情報を持ち上げる理由もない。とりあえずハイエンドモデルには一定以上の知性と自我が存在しており対話が可能、程度の報告は上げておいたが、それ以上は不必要だろうな。

 

 俺の理想、というか賭けのゴールとしては、あいつらが不特定多数に対して殺戮行為を行うのを止め、ターゲットをウチの支部に限定して襲い掛かってくるように仕向けることだった。俺は直接戦闘を見たわけじゃないが、結果だけを見ても明らかにAR小隊の方があいつらより強い。そういう意味で遊びに来るのは歓迎だと言ったんだが、まあ見事にすれ違ってしまったな。今更悔やんでも仕方ないんだけども。

 

「ん? ……うえぇ!? し、指揮官さまぁ!?」

 

 書類に目を通し、半自動的に指揮官印をぺたぺたと押し付けながら過ごしていると、カリーナがまたしても素っ頓狂な声をあげる。

 なんだなんだ、今度はどうした。叫んだきりフリーズしてしまったうら若き副官の傍に近寄ると、どうやら正面ゲートの来客センサーが反応しているようだ。まさかあのヘッポコハイエンドコンビが再び訪れたとかいう大ボケかますんじゃないだろうな。流石に有り得ないとは思うが。

 

 横から正面ゲートのモニターを覗くと、そこには見覚えのある人型が2体。黒と白のカラーリングを基調とした、一般的な量産型の戦術人形よりは二回りは大きい機械人形、そのうちの一体、黒髪が眩しい馬鹿でかいブレードを持った人形がカメラに向かって喚いていた。

 

 

 なんでだよ。なんでだよ! あ、ヤバい。キレそう。

 

 あいつら今更のこのこと何しに来やがったんだ。無視してもよかったしどちらかと言えば積極的に無視したいところなんだが、このまま放置して万が一にもうちの支部内で暴れられても困る。とりあえずさっきからずっと喚いているから、何か伝えたいことがあるんだろう。物凄く聞きたくないし相手もしたくないが、俺の仏が如く慈愛に満ちた精神に感謝するんだな、最初の第一声くらいは聞いてやる。

 通話のボタンをぽちっとな。とにかく冷静に、とにかく不機嫌な様を全面に押し出して対応すれば、返ってきたのは焦りを隠そうともしていない処刑人の声だった。

 

 

 

 

 

 

「お、あの時の人間か!? 悪ィ、ちょっと匿ってくれ!」

 

 

 キレそう。




キレそう(2回目



狩人と処刑人、というか、ハイエンドモデルに関してスペック自体は非常に優秀だと思ってます。ただ、いわゆる社会的生活やらそれらに伴う知恵知識やらは、I.O.P社製の人形以上に理解が無いと考えたので、こんな感じになりました。




で、どうすんのこれ(困惑


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24 -近未来的ドールズコレクション-

おじさん、キレる。


今回一部表現が汚いです。予めご了承ください。


『命中、ターゲット沈黙。指揮官、次はどれを狙えばいい』

『ひれ伏せ、虫どもめ……!』

『ナイン! 戦線を押し上げるわよ!!』

『了解45姉! 消えちまえー!』

『ターゲット発見、突撃!』

『Goethe! いいところに来たな、愚か者どもめ!』

『敵だろうが味方だろうが、負けてたまるかってーの!』

『奴らを殲滅するぞォ!』

『だにゃ! 追っ払うにゃあああ!!』

『狩人! そっちに流れたぞ!』

『任せろ。指示通り引き付けておいてやる』

『オラ一丁上がりィ! おい人間! 次はどうすんだァ!?』

 

 誰か教えてくれ。俺は何故、手持ちの全部隊を動員して、更には鉄血のハイエンドモデルにまで指示を出しながら突然の支部防衛戦を繰り広げているんだ。何の因果でこうなってしまっているのかはサッパリ分からんが、原因は間違いなくあのヘッポコハイエンドどもだろう。

 

 

 それはもう本当につい先刻のことだ。数日振りにいきなり押し掛けてきた処刑人と狩人。匿ってくれなどというフザけた戯言を声高に訴えてきた馬鹿どもを、最大級の不機嫌でもって追い返そうとしていたはずなんだ俺は。ついこの間お前らを直接的に援助することは出来ないと念を押して伝えたばっかりじゃん。何がどう巡り巡ってウチの支部に匿ってくれなどと言えるんだこいつらは。

 たとえどんな窮地に陥ろうとも、俺らがこいつら2体を助ける義理がこれっぽっちも無い。それくらい理解していると思っていたんだが、俺の予想の三段階くらい下を潜ってきたもんだから、呆れと怒りが丁度半々くらいの塩梅で俺の不機嫌度ゲージが許容量一杯まで溜まってしまっていた。

 何度か問答を繰り返すものの何故か今のあいつらに取り付く島もなし。いい加減怒鳴りつけて追い返してやろうと思った矢先、処刑人が先程までとは些か毛色の違った声を上げた。

 

『……げ、来やがった!』

 

 何が来たんだよ。もう嫌な予感しかしない。そもそもこの支部の位置情報は既に鉄血に割れている。だからこそあいつらもここに来れたんだが、更にあいつらが嫌がるような、しかも俺のスケジュールに予定の無い来客など最早一つしか考えられなかった。

 隣で慌てふためいている副官をどうにか宥めすかし、急ぎドローンを起動させる。程なくして基地から飛び立ったドローンカメラが司令室のスクリーンに映し出した光景は、数えるのも億劫になるほどの鉄血人形の群れだった。キレそう。

 むしろ、それだけならまだよかった。どれだけ量産型の鉄屑が集まろうが、事前に捉えることさえ出来れば敵じゃあない。しかもS02地区の時と違い、今回はこちらが守る側だ。地理的優位はこちらにある。消耗はするが、勝利するには問題のない手合い。そのはずだった。夥しい数の群れの中、どう控え目に見ても普通の量産型より二回りは大きい、周囲に浮遊兵器を漂わせた人形が複数体見当たりさえしなければ。

 

 発見と同時、全域マイクを通して支部の全部隊を戦闘装備で緊急召集。ちょっとシャレになってないぞこれ。多分あれスケアクロウだよな、何で複数居るんだよ。俺の予測が外れていたのか。いや今はそんなことを考えてる場合じゃない。一刻も早く体制を整えて迎撃に当たらないとこっちが詰む。つーか何てモノを引き連れてきてんだあいつら。マジでシバくぞ。

 処刑人が匿ってくれと言っていたのはこのことか。大方、鉄血とのネットワークを一方的に遮断したことで、向こうでは造反判定でも下されたのだろう。のこのこと基地に帰ってきた裏切り者のハイエンドを処分するためにあの大編成が組まれたと考えると、一応ストーリーの辻褄は合う。100%自業自得じゃん。キレそう。

 本部とのリンクが途切れたとはいえ、その性能は変わらない。ハイエンドモデル2体を屠るには量産型だけではあまりにも力不足。その判断を下した鉄血側は腹立たしいほどに正しい。だからこそ、量産型に混じって結構な数のスケアクロウが居るんだろう。キレそう。

 多分、あいつらだけでも相当の数は倒せるはずだ。というか、あの2体の性格からして最初は応戦しただろう。腐っても鉄血のハイエンドモデル、その戦闘能力は折り紙付きだ。だが、現状補給の目処も、修復の目処も立っていない。量産型だけならともかく同じハイエンドモデルを、それも複数相手にして無傷って訳にはいかんだろう。そうして疲弊したところをじわじわと殺される未来しか残っていない。今更ながらその事実と現実に気付いたんだろうな、それで慌ててこっちにやって来たってところか。キレそう。

 

 今すぐ帰れと言いたいところだが、ここまで来てしまっては多分こっちにも小さくない余波が及ぶ。鉄血からすれば、裏切り者のハイエンドも人類も同じ抹殺対象だ。綺麗にあいつらだけを始末してくれる保証など無い。降りかかる火の粉どころかいきなり放火された気分だが、打ち払うしか生き残る選択肢がない。はぁ、キレたわ。

 一旦大きく息を吐いて、改めてマイクに向き合う。自分でもビビるくらい底冷えた声が出たんだが、人間ここまでキレると一周回って冷静になれるんだな。この歳になって初めて知ったわ。知りたくなかったけど。

 

 こいつらを匿うことは出来ない。それは前回伝えた通りだ。だが、このままじゃウチの支部もヤバい。ということで、あいつらには殲滅を手伝ってもらう、というか、オレの指揮下に入ってもらう。オレの言うことを聞けないってんなら今すぐテメーら撃ち殺してオレたちは逃げる。死ぬか生きるか、選べボケナスども。

 

『……チッ、已む無し、だな。了解した』

 

 あ? 今舌打ちしたか? 何様だテメーは。てめーらの身勝手な行動でこっちゃ大迷惑被ってんだよ。素直にハイかイエスで答えてろこのヘッポコハイエンドどもがよ。

 

「なあ指揮官。あいつら撃っちゃダメか?」

 

 呼び出しに即応して司令室に集まったオレの可愛い教え子たち。その筆頭であるM16A1がこれまたキレそうな顔と声色で呟いた。今はまだ抑えろ、撃つなとは言わないが目の前のゴミどもを掃除してからだ。あと悪いがあいつらに予備の通信機貸してやってくれ。戦闘中指示が出せん。

 

『へぇ、こいつが人間の通信機ってやつか。わざわざ外付け回路が必要だなんて、不便な造りしてんなぁお前ら』

 

 その不便な人間に助けを求めといて何言ってんだオメーは。要らないなら今すぐ返せ。そんで勝手に死ね。ガチャガチャ一丁前に文句垂らしてんじゃねえぞオイ。自分の立場分かってんのか。

 

『わ、悪ィ。つーかこの前と性格変わってねえか』

 

 変わったよ、テメーらのせいでな。口ばっかり動かしてないで身体を動かせヘッポコが。さっさと指示した配置につけ、んでオレの指示を無視したり聞き逃したりするんじゃねえぞ、従わなくなったと判断した瞬間あのゴミの軍勢諸共撃ち殺すからな。

 

 作戦は単純。相手にハイエンドモデルが複数居るとは言え、やはりその動き自体は単調だ。ただ、前回と違うのはこちらに目立った策略も無く、がっぷり四つだということ。搦め手が嵌る隙が小さく、純粋な力勝負になる。量産型だけが相手なら楽勝だが、スケアクロウが居るのでは第一部隊以外ではちっとばかし荷が重い。404小隊を擁する第三部隊でも真正面からの勝負は勝てなくは無いが、ちと厳しいラインだろう。

 だが、S02地区の時よりも他の部隊の錬度も上がってきてはいるし、今回に限っては手駒に鉄血のハイエンドモデルが2体存在している。これを利用しない手はない。幸いスケアクロウは目立つから、ヤツの射程距離外の有象無象どもに第二、第四の前衛の合同部隊で当たってもらう。M14、ドラグノフ、ダネル、MG5は支部の屋上から狙撃と掃射を担当させる。スポッターにM1911も付けておこう。どちらにせよハンドガンタイプではこの大乱戦を切り抜けるのは難しい。適材適所をやっていかないとな。

 あの群れの目的は第一に処刑人と狩人のはずなので、あえてあいつらには前に出てもらう。そして、そこに寄ってきた連中を第一と第三が横から刺して行く構えを基本スタンスとする。処刑人と狩人には、状況的に勝てそうならそのまま撃破してもらい、厳しそうであれば引き付けつつ有利なポジションに誘導してもらう。部分的な局地戦を形成し、孤立したところを囲って各個撃破していく方針でいこう。後は臨機応変に対応していくしかない。間違いなく乱戦になるため、特定の策に拘りすぎてもダメだ。そんなことをして迎えるのは敗北と破滅だけである。

 

 よっしゃ、行くか。お前ら準備はいいか。文句を言いたいやつも居るだろう、納得していないやつも勿論居るだろう。だが一旦はその感情を捨てろ。どんな経緯があろうが、進んでしまった事態は取り消せないし巻き戻せない。目の前に障害が現れたという事実を乗り越えなければ、動かす口も愚痴を溢す相手も失うことになる。で、全てが終わったら盛大にキレ散らかせ。オレも山ほど言いたいことがある。その為にも生き残れ。分かったか?

 

『I copy!!』

 

 オーケーいい返事だ。そんじゃ、やろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵性反応無し。殲滅完了です、指揮官』

 

 ぐちゃぐちゃの大乱戦が開始されてから幾ばくかの時間が過ぎ去った頃合。M4A1のやっと一息つけたような声色とともに最後の報告が為され、無事にとは言えないが、何とか状況が終了した。

 オリジナルの損傷こそ無かったが、ほとんど全員が何体かのダミーを失う結果となった。ダミー含めて被害がないのはM4A1とAR-15だけという有様だ。M16A1とSOPMODⅡに関しては結構前に出てたから、スケアクロウの一撃で何体か削られてしまった。トータルするとひでえ出費である。どうしてくれるのよこれ。

 結局清算してみれば、スケアクロウ6体を含む大軍勢であった。ビッグハントスコアとしてはM16A1とAR-15が1体ずつ、狩人と処刑人もそれぞれ1体ずつ、416が1体、そしてダネルが1体。416までは分かるが、ダネルは今の錬度でよく仕留めてくれたものだ。流石は対物ライフル、火力に関してはピカイチだな。

 支部の方も直接狙われたわけではないが、やはりかなりの流れ弾が着弾している。場所によっては外壁の補修も必要なレベルだ。これクルーガー辺りに言って特別報酬貰えねえかな。全部ウチ持ちだと人形の修復も相俟ってかなりキツい。どんぶり勘定してみても、ここ最近勤しんでいた支援任務の報酬がほぼ全部吹っ飛ぶ計算だ。頭が痛い。胃も痛くなってきた。

 とりあえず片付きはしたので、全員に帰還指示を出す。ただ、処刑人と狩人を支部の中に入れるわけにはいかんので、俺も正面ゲートまで出よう。あの2体も流石に無傷とは行かなかったのか、割と小さくない損傷は受けている様子だ、いくらなんでもこの場で俺に牙を剥くなんて馬鹿はしないだろう。

 

「よぉ人間! お前すげえな! 少し見直したぜ!」

 

 顔を合わせた途端、外骨格の至るところに傷を抱えながらも上機嫌な様子で声を飛ばす処刑人。あ、やべ、またキレそう。いかんいかん、抑えろ俺。まだキレるんじゃない、落ち着け。

 どうやら俺の手腕を褒めているらしいのだが、ぜーんぜん嬉しくない。まあ、こいつらからしてみれば今まで組織的な団体作戦行動なんて取ったことないだろうからな、俺の指示が酷く新鮮に感じたのだろう。そこに確りとした結果がついてきたのであれば尚更である。

 

 戦闘指示を飛ばしながら見ていた限り、処刑人に関しては明らかにタイマン向きの性能だった。義体の耐久性も高い上、扱っている得物がブレードであることから予測は出来ていたんだが、まあ見たまんまって感じだな。距離を詰めた上での一対一なら、同じハイエンドモデルであるスケアクロウ相手でも断然優位だ。ただ、限定された環境であれば無類の強さを発揮するが、飛び道具がクールタイムを要する斬撃波と左手のハンドガン一丁だけってのはかなりピーキーである。本人の性格も相俟って、がっぷり四つ以外にはめっぽう弱い。今回は策略なしの乱戦だったため多少性能でゴリ押し出来たところもあるが、相手に頭の切れる奴が居たら真っ先に脱落するタイプだ。

 反対に狩人は一対多、または多対多に強い。火力こそスケアクロウにも劣るが、処刑人よりも機動力に優れており、戦場を引っ掻き回す戦闘に向いている。手持ちの武器は恐らくハンドガンに分類されるだろうが、役割としてはI.O.P社製で言うサブマシンガンタイプに近いな。まぁスケアクロウに劣るとは言っても、サブマシンガンタイプに比べたら段違いの火力なんだが。

 

「すまないな、世話になった」

 

 先程の戦闘を思い返していたら、狩人からは予想外の言葉。おお、ちゃんと迷惑かけたってことは分かっているみたいだな。だからって帳消しになるモンじゃないけど。

 だが、戦闘が終わって一息つけるのは残念ながら俺たちだけだ。狩人と処刑人に関しては何も解決していない。どうせ鉄血の討伐隊はこいつらが死ぬまで編成され続けるだろうし、隠れる場所も補給や修復を行う伝手もない。結局こいつらには、先の無い旅を続けるしか選択肢が残されていないのだ。僅かばかり憐憫の情は湧くものの、だからといって自業自得な以上俺からは何も出来ん。

 

「貴様が以前言っていたことがよく分かった。鉄血に狙われるのは想定外だったが……組織が齎す庇護は大きかったのだな」

 

 いやそこを最初に想定しろよ。どんだけお花畑だったんだよ。まあ、滅茶苦茶に遅いが、そこに気付けただけでも一歩進めたんじゃないの。進んだ先は詰みだが。

 

「まァ確かに悪いとは思ってるよ。しっかし、どうすっかなァ……」

 

 先程のテンションをいくらか抑え、ばつが悪そうに呟く処刑人。どうするも何も、だからお前らあの判断した時点で遅かれ早かれ詰みだったんだって。今更鉄血には戻れないだろうし、この議論続けても堂々巡りにしかならんぞ。着地点がこいつらの終わりだという結果は変わらない。何を言ったとしても無駄である。

 

「……ふむ、人間。提案があるのだが」

 

 お前らを俺の庇護下に入れるってのは無しだぞ。

 

「…………何故分かった」

 

 キレそう。常識で考えろよ、出来るわけねーだろ。あ、ダメだこいつらに常識を期待する方が最早馬鹿のレベルだ。そもそも人間社会というか組織というか、そういう知識や経験を一切持たずに野に放たれた野良人形だもんな。こいつらを俺が預かることによってどんな因果が回るかを想像しろって方が無理な話か。うっわ面倒くせえ。世間知らずのガキを相手にするよりダルい。

 

 

「……ねえ指揮官、ちょっといい?」

 

 俺と鉄血のやり取りを無言で聞いていた教え子たち。その中にあるUMP45が、ふと声を挟む。うーん、こいつがこういうシーンで自分から発言してくる時って、大体碌なことを考えていない時な気がする。いや、勝手なイメージで決め付けてしまうのも良くないか。何か提案があるなら聞いてやろう。俺は無言で先を促す。

 だが何にせよ、四方八方に歪を生じさせることなくこの2体をどうにか生かすってのは土台無理な話である。俺が黙って匿えば当面は大丈夫だろうが、バレないわけがない。そしてバレた時は俺がヤバい。流石にこの2体と心中する気はこれっぽっちも起こり得ないので、正直余計なトラブルを抱え込みたくないってのが本音だ。G&Kが俺を囲った時とは何もかもが違う。そもそも、そこまで裏に手を回せるほど今の俺に力も金もコネも無い。打てる手が無さ過ぎる。

 

「いや、さっき一緒に戦ってて思ったんだけど。こいつら単純に戦力としては優秀じゃない? で、今は要するに買い手のつかない不良在庫みたいなものでしょ」

 

 まあ、表現は間違ってないと思う。色んな意味で不良だけどさこの武器。

 

「じゃあいっそのこと、うちの支部が鹵獲しましたってことで報告上げて戦力化しちゃえば? 戦いで損傷したのか、AIにバグが起きて指揮官の命令だけ何故か聞くようになったとか言って」

 

 そうくるかあ。いや、正直それは俺もちょっと考えたよ。

 だがしかし、そもそもだ。こいつらは今でこそ大人しいが、今後俺たちに攻撃を仕掛けてこない保証がない。その前提が通らないから、俺も踏み込めないのだ。I.O.P社製の人形と同じく、完全に俺の言うことを聞いてくれるのならそれも一考の余地があるが、万が一にも再度謀反を起こされたらたまったもんじゃない。俺だけが死ぬならいいが、ここにはカリーナも居る。どこかで監禁するにしろ、こいつらの義体が持つパワーは相当だ。一般的な檻程度じゃ武器を取り上げたところで破壊して出てくる。誰もそんなリスクを背負いたくない。

 言うことを聞けるようにチップを埋めるなり電脳に細工なりってのも考えてみたが、こいつら自前で自身のモジュールを選択して焼き切ることが出来る馬鹿げた能力を持ってる。戦ってよく分かったが、トータルの技術力はI.O.Pより鉄血工造の方がかなり上だ。それも保険にはならない。

 

「うーん、そっかあ。ごめんね、話の腰折っちゃって」

 

 そういうことを説明すれば、UMP45は素直に一歩下がる。提案自体はありがたいが、そこらへんは既に俺も検討済みなんだよな。あいつらの高過ぎるスペックが逆に足を引っ張ってしまっている。素直に隷属化出来れば俺もここまで悩んでないんだ。

 

「おいおい、今更お前らに手を出そうだなんて考えちゃいないぜ? 一応今回の借りもあるんだ」

 

 UMP45とのやり取りを聞いていた処刑人が、少々の不服と不満の色を乗せて声を発する。俺としても、その口約束を無条件に信用出来れば色々と楽なんだがな。残念ながらそうは問屋が卸さんのだ。そもそも鉄血とのリンクを切ったとは言え、人間を襲うようになったエラーがどうなってるのかが分からん。こいつらの意思に関係なく再び襲うことになる可能性だってある。

 

「私も人間など信用していないが、貴様だけは別だ。だが、そういう問題でもないのだろうな。何ともままならんものだ」

 

 そうなのよ、そういう問題じゃないのよ。だからどう転んでも君たちが詰んでる状況は変わらないのよ、残念ながら。

 ほーら、結局堂々巡りだ。まあ俺の心情だけで言えば、なし崩し的とは言え共闘までしたし何とか出来るものならしてやりたいとは思うが、何ともならないからどうしようもない。一時の感情で指揮官である俺の判断がブレるわけにはいかない。俺にも責任があるからな。

 

「……む、待てよ。人間、要するに貴様らに危害を加えない保証、あるいは加えられる前にどうにか出来る手段があればいいのだな?」

 

 いや、まぁ言ってしまえばそうなんだけどさ。そんなものがあれば苦労しないでしょ。

 

「今ここにその手段があるわけじゃないが、方法はある。恐らく、だが」

 

 えっマジで? 突然のカミングアウトに思わず狩人と処刑人の顔に視線を注いでしまうが、処刑人の方は心当たりが無いのか、いまいち要領を掴めていない表情である。うーん、どういうことだ。言い方から察するに、確実性のある提案ではなさそうだが。

 

 

「簡単だ。貴様らI.O.P社製の人形に搭載されている、セーフティシステムがあるだろう。人間に対して攻撃できないというあれだ。あれを私たちの電脳に書き加えればいい」

「はあ!? ……あー、いや、まァ俺もお前を殺したいとは思わねえし、ただ狩人もそうだろうが、コイツだけだろ、人間でまだマシなの。他も攻撃出来ないってなるとなァ……」

「ならばこの人間限定でやればいい話だろう。どちらにせよ、このままでは我々はともに野垂れ死にだ。その事実は変わらん」

 

 おいおいおいおいおい勝手に話を進めるんじゃない。つーかそもそもお前ら電脳にプロテクト掛かってるだろ。外付けのチップや付随するモジュールなどと違って、直接電脳を書き換えるならその効果はあるのかもしれんが、対ハッキングプロテクトはお前ら自分で焼き切れるのか? スケアクロウの時は完全に電脳以外が死んでいる状態で発動したんだ、恐らくオートで発動するタイプだ。オンオフが出来るものじゃないだろう。

 

「流石に自力で解除は出来んが、侵入経路はある。だが、それを今伝えたとて理解は及ばないだろう。誰か居ないのか、貴様が信頼を置く、かつ電脳に強い技術を持った者は」

 

 そんな都合のいい奴が居てたまるか。つーか勝手に話を進めるんじゃない。思い切りが良すぎだろ。ていうか一気に俺を信用しすぎだろ、逆に怖いわ。しかも鉄血のハイエンドモデルのAIともなれば、機密事項と最新技術の塊だろう。よしんばそれらに対応出来る技術者がいたとして、元気なお前らとその技術者を対面させる時点でべらぼうなリスクが存在する。おいそれとのめる内容じゃない。やっぱりこいつ馬鹿かよ。

 秘密を守れて、高い技術を持ち、そんな酔狂を好しとするようなマッドサイエンティストがいるかも怪しい上に、俺の知り合いなどという極狭い範囲でピンポイントに存在するわけが

 

 

 

 

 

 

 

 おったわ。




そんな狂人おりゅ?



狩人と処刑人ですが、色々とはじめての経験が積み重なっているためにAIが加速度的に現状に対応しようとした結果、おじさんを信じるのがいいんじゃない? みたいな演算結果が出ました。チョロインかよ。


冒頭の台詞、君には全員分かるかな?(低難易度


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25 -忠犬鉄公-

最近ちょっと投稿時間が後ろ倒し気味になってて、睡眠時間がすこーし削れてるんですよね。
ネタを捻り出してるというより、書きたいネタが上手く書きあがらずに苦戦してる感じです。

つまり楽しい。いやあ、二次創作っていいものですね。
おじさんはキレそうですけど。


『あっはっはっは! 本当に言ってるのそれ? あっはっはははは!! いやあ、面白いね君は本当に! いいよいいよ、私で良ければ付き合ってあげちゃうよ。というかむしろ、そんな貴重な機会を頂けるのなら歓迎ってやつさ。是非ともこちらからお願いしたいところよ』

 

 このマッドサイエンティストめ。通信機越しに、普段の様子からは想像もつかない高らかな笑い声が木霊する。

 狩人の提案した内容、自身の電脳に直接I.O.Pのセーフティプログラムを書き加えるというトンデモ案。そも前提として、鉄血のハイエンドモデルという情報を最大限に秘匿した上で進めなければならないこのプロジェクト、更には非常に高度な自律人形に関する知識、技術を持つ者が必要だ。俺の限りあるコネクションの範囲にそんなスーパーマンが居る訳がないと思った2秒後、該当者に思い当りが出て来てしまった。というか俺のコネ云々を抜きにして全世界を見渡して見ても、恐らくこの事案に適性のある人物ってのは非常に限定される。そんな稀有な人材と細くないパイプをたまたま保持していた俺の境遇は、喜ぶべきか悲しむべきか。

 

 正面ゲート前での話し合いを終わらせて、俺は一人司令室までその足を動かしてきた。狩人と処刑人についてはまだその案が採択される保証がない以上、無闇に支部内を連れ回すわけにもいかず、とりあえず外の目立たないところで待機させてある。勿論見張り付きだ。今更裏切る可能性は低いとは思うが、だからと言って警戒しないのはただの阿呆である。

 あいつらの境遇について、何とか出来るなら何とかしてやりたいってのは事実だ。そこには憐憫の情ってやつも確かにあるが、それ以上に非常に融通の利く強大な手駒、それも俺の独自保持戦力として動かせる公算が高い兵力ってのはなんだかんだ欲しいのである。今でこそ俺の指揮下にあるが、AR小隊と404小隊は何時ここを離れるか分からないしな。あとちょっとばかしの下心。ごめん嘘ついた。割とある。別にやましいことをしてやろうとまでは考えていないが、目の保養って意味ではありがたい。ただ、見た目では癒されるものの俺の胃にはまったく優しくない。吐きそう。

 

 狩人の案を実行するにあたり、とにかく実際にそれが出来る技術を持つ者の協力を取り付けなければならない。俺にはそっち関連の知識はサッパリだ。技術的に可能であっても、その技術を行使する者が居なければ意味がないからな。

 で、俺の中で唯一心当たりのある人物、16Labの主任研究員であるペルシカリアへコンタクトを取り、こちらの用件を伝えた後のリアクションがこれだ。もうほんとザ・酔狂って感じ。まあ電脳やAIと言えば聞こえはいいが、アンドロイドの脳みそを弄繰り回すのが仕事ですってやつだからなぁ。モノは言い様だな。いや、決して彼女たちの仕事を馬鹿にするつもりはないのだが。

 

『でもまあ、君と私の間で秘密の共有なんて今更感もあるし、ちょうどよかったんじゃない?』

 

 なんて言ってくるのはペルシカリアの方だ。一応機密のやり取りも含むってのと、狩人たちを見張らせておかなきゃいけないために今司令室に居るのは俺だけだ。カリーナにも席を外させてある。まぁ俺とペルシカリア、あとクルーガーについてはそこそこ重大な秘密を共有している仲でもある。彼女の言う通り、決して外に漏らせない情報が一つ二つ増えたところで同じだ。新たに秘密のコミュニティを拡大せずに済むという意味では丁度いい。

 

 いくつか細かい部分を調整し、正直一日でも早く処置をしておきたいところなので、今日の深夜に16Labへお邪魔することとなった。当然その時間だとラボ周りは閉まっているが、そこはペルシカリアの立場を利用して何とかしてもらう。今日中にどうしてもまとめておきたい研究結果があるとか言っておけば多分どうにかなるだろ。ラボ内ではかなりの権力と実績を持っているだろうからな。どう考えても無関係な他人にこの状況を見られるのはマズい。徹底して人の目に付く可能性は排除していかなければ。

 同行はAR小隊の4人にお願いする。俺の護衛という意味もあるし、ハイエンドモデルの監視という意味もあるし、ペルシカリアに久々に会わせたいという親心的な意味もある。以前SOPMODⅡは俺の用事ついでに連れて行ったが、他の皆にも会いたいと彼女も言っていたしな。前回と同じく何かのついでになってしまって悪いが、再会には違いない。今回急なこともあって手土産は用意出来そうに無いが、狩人と処刑人という2体が彼女にとっては何よりの手土産になるだろう。それで納得してもらおう。

 うーん、こりゃ今日は夜更かし確定だなあ。流石に日が高いうちにあんな劇物を連れて16Labにお邪魔するわけにはいかないから仕方ないんだが。帰りの車ではちょっと寝させてもらおう。おじさんにとって睡眠不足は大敵である。健康第一。

 

 

 

「やあやあ、久しぶりだね皆。件の鉄血人形はそちらの2人かな?」

 

 同日深夜。ただでさえ人間の数が減り、人口の一点集中が加速し、更には鉄血人形やE.L.I.Dなどが跋扈するようになった世界。その中でも、まだ人類の支配圏として確立されていない地域の暗闇になど、人っ子一人居ないのが当然だ。無事何処の誰にも見つかることなく16Labに到着した俺たちは、職員が退社し静まり返った施設の廊下をペルシカリア先導の下で進んでいた。

 狩人と処刑人は先の大乱戦の負傷もそのままに、日が沈むまでの結構な時間待機させられていた。それでも文句一つ言わなかった辺り、流石に今自分たちが置かれている立場というものが分かってきたらしい。そりゃ現状俺との関わりは唯一の命綱だからな、ここで下手に俺を刺激して全てがご破算になるような真似はしないだろう。

 

「そうだ」

「そっかそっか、私はペルシカリア。よろしく頼むよ」

 

 ペルシカリアの挨拶代わりの問い掛けに、狩人がにべもなく返す。こいつらからしてみれば、いくら俺の伝手とはいえどもいきなり現れた人間だからなあ、そりゃ初手から愛想よくしろってのも無理な話か。

 些か不躾な返答を受け取ったペルシカリアに特に変化は無い。恐らくそういうものだと予測はしていたのだろう。初めて俺と会ったときのような実に不十分な自己紹介を済ませ、彼女はそのまま歩を進めていく。

 良し悪しの判断は出来ないが、こと人間性という面において彼女は俺なんかより余程曲者だ。交友関係の経験がほとんどない鉄血の赤子とのトークなどでいちいち狼狽していてはそれこそ保たないんだろうな。胆の据わり方というか、根本のデキが違う。俺はあくまでポーカーフェイスが得意なだけであり、中身は割と普通のおじさんである。やはり天才というのは一枚も二枚も違うものか。こんなとこで改めて感じたくもなかったけど。

 

「悪いなペルシカ、久々の再会がこんなんになっちまって」

 

 歩きがてら、M16A1がばつが悪そうに語り掛ける。そりゃまぁ誰だってこんなの予想出来る訳ないでしょうよ。俺自身かなりびっくりしている。ほんと軍人時代にポーカーフェイス張り付ける癖付けといてよかった。ただの一般人であれば今頃百面相が止まってないと思う。

 

「いいって。皆が元気そうで何よりさ。頼りになる指揮官サマもいらっしゃるようだしね?」

 

 振り返りながら、相変わらず不健康そうな顔の上にある不健康そうな目を細め、ニヤリと口角を上げるペルシカリア。あーはいはいソウデスネー。俺は努めてポーカーフェイスを維持しながら無言の反応を返す。ちょっと顔が良くて頭がいいからってあまり調子に乗るんじゃない、と言いたいところだが、現状彼女の力に思いっきり甘えさせてもらっている立場なせいで何も言い返せない。つらい。俺このままじゃペルシカリアに一生頭が上がらない気がする。うわあ。

 

「おい人間。本当に大丈夫なんだろうなアレは」

 

 お前さあ。仮にも今からお世話になる身なんだぞ、そう思うなとは言わないが、わざわざ口に出さなくてもよろしい。セーフティプログラムが上手く働いていい感じになったら、こいつらはこいつらで教育した方がいい気がしてきた。大手を振って人社会に馴染ませるつもりはないが、少なくともうちの支部内での交友関係くらいは円滑にとまではいわずとも、最低限の節度をもって進めてもらう必要がある。人類に直接攻撃が出来なくなったとしても、人との繋がりは何も物理的な破壊を以て壊されるわけじゃない。そこらへんを学んで貰わないと結局こいつらを処分する破目になる。折角ここまで手間隙かけたんだから、徒労に終わらせてしまうのは避けたいところだ。

 

「はっはっは。君も大変だよねえ」

 

 この野郎、他人事だと思いやがって。いや実際他人事なんだけどさあ。手を借りるから全くの無関係って訳じゃないんだが、ペルシカリアとこいつらは今後も直接の関わりはほとんど持たない。彼女からすればいわゆる外野の立ち位置だろうからな、そりゃ好き勝手も言えるというものだ。

 

 

「さてと、それじゃあ2人はここに寝てちょうだい。それとプロテクトの件、言える範囲でいいから教えてくれるかな」

 

 程なく。様々な機械が所狭しと壁に追いやられている一室に辿り着いた俺たちに、ペルシカリアは声をかける。2人というのは狩人と処刑人のことだ。本来なら部外者は席を外すべきなんだろうが、安全の観点から現時点でそれは難しい。俺たちが外に出た瞬間、狩人と処刑人がペルシカリアに手を挙げる可能性はゼロじゃない。いくら武器を携行していないとはいえ、彼女は恐らく何の訓練も受けていない、身体能力だけで言えば普通の女性だ。鉄血のハイエンドモデルに取っ組み合いで勝てる道理がこれっぽっちも見当たらない。

 

 しばらくの間、狩人と処刑人、それとペルシカリアの間で専門的な言葉が飛び交う。プロトコルがどうとかダミーポートがどうとか、単語単語を拾うことは出来るが正直何を言っているのかちんぷんかんぷんである。意外だったのは、狩人はともかく処刑人も同レベルの会話についていけていることだ。ええー、あいつ明らかに脳筋キャラじゃん。なんかずるい。

 

「うん、分かった。セーフティ自体は表層域の書き込みでも作動すると思うから、それだけ情報があれば書き換えは出来ると思うわ」

 

 内容が纏まったのか、ペルシカリアがトークを切り上げてそのまま狩人と処刑人に何らかのデバイスを取り付けていく。一応何があっても抵抗するな、した時点でお前らぶち壊すぞ、と言っておいたので今のところ変な動きは見られない。何かこれ、セーフティが成功したとしてもこいつらに対して部下って感覚持てなさそうだな。躾のなってない猛獣みたいなイメージだわ。

 狩人と処刑人には、電脳書き換えのため一時的にスリープモードに入ってもらうとのこと。一度そうなってしまえば、後は本当に作業を眺めるだけだ。喋って邪魔したくもないし、そもそも喋るネタも特に無い。ふと視線を泳がせれば、いくつものモニターに様々な情報が流れ続けており、ペルシカリアが忙しなくそれらを確認しながらキーボードを叩き続けている。本来ならばモニターに流れている文字列やら波長やらも最大級の企業秘密なんだろうが、幸か不幸かじっくり見ても何一つ分からん。

 

 

「おっけー。終わったわよ。多分大丈夫だとは思うけど」

 

 そうやって無言のまま作業を眺め続けることしばらく、ペルシカリアが本当に大丈夫かと疑いたくなるレベルのやる気の無い声をあげてその作業は終了した。どれくらいの時間が経ったのだろうか。こういう空間でやることもなくただ待つってのは大いに体内時計が狂う。

 しかし、多分ってのはどういうことなんだろうか。出来たか出来てないかくらいバシっと言って欲しいものなんだがなあ。

 

「99%大丈夫だとは思うわよ? ログを見た限りではエラーも出てなかったし。ただ、試運転もしてなければデバッグも不十分。どれだけ理論上大丈夫だったとしても、実際に『問題なく動いた』っていう証拠が出るまでは、私たち技術者は『出来た』なんて口が裂けても言えないのよ。『出来る』と『出来た』では天地の差があるのさ」

 

 ふーむ、そういうもんか。まぁ言われてみれば何となく分かる気もする。俺たち戦争屋もそうだが、それ以上に彼女たちの世界は結果が全てだ。頑張ったけどダメでした、いけると思いました、が通じる世界じゃない。そこにベットされるのが俺の命か、彼女の立場かの違いがあるだけだ。

 そう考えてみると技術者の世界ってのもシビアだよな。話の通りであれば、100%のコミットなんて土台出来ないはずなのに、世間からは100%を求められるわけだ。そりゃ金も時間も人も食うだろう。普段ははちゃめちゃな女だが、ちゃんとそういうところも持ってるんだなあ。誰しも譲れないラインってのはあるもんな。

 

「……んお、もう終わったか?」

 

 簡素なベッドに寝かされていた2人の片方、処刑人がスリープモードから目覚めたのか、頭を掻きながらその上体を起こす。ほぼ同じタイミングで狩人も目覚めたのか、こちらは無言で身体を起こし、どうやら全身の可動部位をチェックしているようだ。

 

「おはよう。どこか違和感とかある?」

 

 短い夢から醒めた2人に、ペルシカリアが声をかける。戦闘時の損傷こそそのままだが、特に電脳に何か不具合や違和感は出ていなかったようで、ひとまずはクリアと言ったところか。ただ、実際にこいつらが俺らに対して危害を加えなくなったかどうかは正直確証はない。こればっかりはペルシカリアの言の通りで、俺も保証が欲しいんだがそれは我侭ってもんなんだろうな。

 

「いや、今んトコ特に何もねえな」

「……ふむ、私も特に違和感は感じない。本当に書き換えがあったのかも分からんな」

 

 うーん、普通の状況なら喜ぶべきところなんだろうが、これ喜んでいいのか分かんないぞ。電脳へのセーフティプログラムの書き込みが何の効力も発揮しなかった可能性も残るんじゃないのこれ。まあ、これ以上はもう手の打ちようが無いってのも事実だ。少なくとも今のところこいつらの意志で刃向かうつもりはなさそうだから、1日2日くらいは様子を見てやってもいいだろ。少しでも不穏な空気を感じればその時に改めて処分すりゃいいや。ただ、念のためカリーナはしばらく遠ざけておこう。念には念を入れておかないとな。

 つーわけで帰るか。ただでさえ酷く非常識な時間にいきなりお邪魔してしまったんだ、何だかんだ付き合ってくれてはいるが、これ以上無駄に迷惑をかけてしまうのもよろしくない。お前ら立てるか? さっさと戻るぞ。

 

「! ……あ、ああ、大丈夫だ。すまんな」

 

 なんだ? 今一瞬狩人の動きが止まった気がするが。やっぱりどこか変調をきたしているんだろうか。別にこいつがどうなろうが知ったこっちゃないが、いきなり暴れられても困る。暴走するなら誰も居ないところか鉄血のど真ん中で暴れて頂きたい。

 

「ああ、慌てなくても大丈夫だよ。どうやら上手く『出来た』ようね。よかったよかった」

 

 そんな様子を眺めていたペルシカリアが、ふいに言葉を発する。んん? まったく意味が分からんぞ。まさか今の一瞬で確証が得られたとでも言うのだろうか。ペルシカリアと狩人に交互に視線を配るものの、前者は不健康な表情をニコニコと弾ませ、後者は俺と視線が合えばふいと逸らしてしまう。何か大丈夫どころかおかしくなってない? 明らかにキャラが違うんだが。

 狩人の様子に訝しんでいると、処刑人は処刑人で無言で俺の顔をじっと見つめていた。何事かと思ってしばらく顔の向きを合わせるも、目を細めて睨んできたり、ふっと顔面の力が抜けたり、ぱちぱちと忙しなく瞬きしたりと兎角落ち着かない様子。俺の顔に何か付いてるか?

 

「ああいや! 悪ィ、何でもねえ!」

 

 問いかけてみれば、返ってきたのは慌てたような否定の言葉。いや、おかしいでしょ。明らかに何か細工されてる感じじゃんこれ。推測でしかないが、何かがおかしいというより、戸惑っているようにも見える。うーん、電脳の書き換えが余計な部分に影響を与えでもしたんだろうか。でもあいつはニコニコしながら『出来た』と宣言した。つーことは、ちゃんとセーフティが動いている確証が得られたということだ。それ自体は喜ばしいことだと思うのだが、それだけだとこの状況への説明がつかない。ペルシカリア君、説明を求める。

 

 

 

 

「セーフティプログラムを書き込むと同時に、彼女たちの擬似感情モジュールにI.O.P社製の動的感情メーンルーチンを被せてみました。その方が君も彼女たちを扱いやすいだろうと思って」

 

 なるほど分からん。つまり?

 

「めちゃくちゃざっくり言うと、感謝や恩義、尊敬といったプラスの感情と、怒りや悲しみ、恨みみたいなマイナスの感情がより働きやすくなった、とでも言えばいいのかな。君、戦術人形によく慕われてるでしょ。つまり今君の下についてる人形たちは、君にいい感情を沢山持ってるってことなのよ」

 

 なるほど、それはありがたいことだ。で?

 

「彼女たちの反応を見る限り、少なくとも君に悪い感情は持っていないみたいだね。いいじゃない、鉄血の人形にも慕われる懐の深い指揮官。素敵じゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 何してくれてんのコイツ。




なんということでしょう



今回の一連の流れは次か、その次くらいで一旦落ち着きそうです。
おじさんもきっと喜んでいることでしょう。よかったですね。










よくない(キレそう


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26 -イモータル・アカウント-

今日はのんびりする予定だったのに書いてしまった…

おじさんの胃と頭皮は無事に平穏を迎えることが出来るのか!?
出来ません(確定


 もう何、この、何なの。このファッキンクソマッドは何をしてくれたの。そういうありがた迷惑要らないから。普通のでいいんだよ普通ので。別に俺はこいつらを懐柔しようとも手篭めにしようとも思ってないんだぞ。

 いや、感情が働きやすくなったからと言ってそういうことをするわけじゃないんだが、わざわざ手を加えるべき理由が無い。しかしまた逆に、I.O.P社製の人形たちのように接することが出来るというメリットも確かに存在してしまうため、一概に否定だけも出来ない。クッソ、こいつ絶妙なラインで無視出来ない悪戯を仕掛けてきやがる。やはり俺がペルシカリアに持った第一印象は決して間違っちゃいなかった。絶対に深いところで関わっちゃいかんやつだこれ。

 

「まあまあ落ち着きなよ。何も惚れ薬を飲ませたとかいう話でもないんだから」

 

 キレそう。だが、確かに彼女の言う通り、特段明らかな異常を齎した訳でもないのが悩ましいところだ。これが一方的に俺の迷惑になるだけの細工なら声を大にして反論も出来ようが、恐らく俺の虫の居所が若干悪くなるくらいで、支部運営に支障が出るわけじゃない。むしろ、扱いやすくなるという点ではペルシカリア女史の仰る通りである。ほんと腹立つ。

 

「おぉい人間、帰るんじゃねえのか?」

 

 ペルシカリアと最小限の声と最大限の視線でバチバチやりあっているところに、処刑人の声が飛び込む。こいつもう帰る場所がうちの支部みたいな認識になってやがる。いや間違っちゃいないんだけどさあ。

 

 狩人と処刑人がスリープモードから目覚めた後、最初に俺と声を交わした際に現れたあの反応は、恐らくペルシカリアの言う動的感情メーンルーチンが作用した結果か。詳しい仕様なんかはサッパリ分からんが、彼女の言を信用するならば俺に対してまぁ悪くない印象を持っているということだ。ただ、今までは鉄血製の擬似感情モジュールしか働いていなかったものだから、AIがそこまで感情の処理にリソースを割いてこなかったのだろう。

 ところが今回、感情モジュールにI.O.P社製の追加ルーチンを組み込んだものだから、その働きに変化が起きてしまった。普段から接しているこいつらをよく見ていれば馬鹿でも分かるが、I.O.P社製の自律人形は人間に対して最初から割と無条件に好意的である。元々の出生自体が戦闘用ではなく、民間用のアンドロイドに火器統制コアとASSTシステムを突っ込んだものだから、その擬似感情モジュールの動き方は非常に人間くさい。むしろ、こちらが正しく接すればそれが即好印象に繋がり、逆もまた然りだ。人間を相手にしている、というよりはアドベンチャーゲームをプレイしている感覚の方が近いかもしれない。当然俺としても、嫌われるよりは好かれる方がやりやすいことに違いはないので、別にそれ自体に文句があるわけじゃないんだが。

 

 いや、待てよ。動的感情メーンルーチンなるものは確かに正常に作用してしまったのかもしれんが、肝心のセーフティシステムはどうなっているんだ。むしろ本命はそっちだ、ペルシカリアは出来たと言っていたが、それはセーフティも含めての言ということでいいんだよな?

 

「勿論。セーフティはオンコーディングで書き込んだけど、それが動かないと動的感情メーンルーチンも作用しないようにしているもの」

 

 うーん、言葉の意味はいまいち良く分からんが、つまりセーフティと感情メーンルーチンは親と子の関係にあると見ていいのだろうか。親が作動しなければ子も動かないということであれば、つまりはそれが確証になるということか。技術者が自らの口で出来たと宣言している以上、俺としてはそれを信じるのが道理、でいいのか? 本当にいいんだな?

 

「流石に私のミスで君に死なれる危険性を考えたら、そこでおふざけは口に出来ないよ」

 

 先程までの弛緩した口調に、若干の強さを孕んだ雰囲気を醸し出すペルシカリア。ふむ、そういうことなら俺も信用しよう。俺の命が懸かっているのと同様に、彼女にも技術者としての矜持と道が懸かっている。それは命といっても差し支えないはずだ。

 

 よし、それじゃあ今度こそ帰るとするか。ペルシカリアには悩まされることも確かにあるが、大いなる助力になっているのもまた確かである。ちょいちょい変なことを挟み込んでくるせいで素直にありがたい気持ちになれないのが玉に瑕だが、個人的心情はどうあれ、やってくれたことに対してはしっかりと報いていかなければならない。そう遠くないうちに礼は用意しておこう、義足のこともあるしな。ちょっと奮発して珈琲豆を仕入れてみるのもいいかもしれない。後日カリーナに掛け合ってみるか。

 

「まあ、半分以上は私も知的好奇心で付き合ってるところもあるし、そう重く捉えなくても大丈夫よ。今回は貴重な電脳も見られたことだしね」

 

 ちゃんとこういう対応も取れる辺り、普段の飛ばしっぷりが無ければいい女だと思うんだけどなあ。あー、ダメだダメだ、最近ストレスに曝されることが多いからか、思考がついつい意味のない方向に傾いてしまう。俺は確かに女日照りのおじさんだが、自分では少なくとも愚かではないつもりだ。変なこと考える前にさっさと基地に戻ってシャワー浴びて寝よう。

 

「改めて世話になった、礼を言う」

 

 おお、最初はかなりつっけんどんな態度だったが、ちゃんとお礼言えるようになってるじゃないか。偉いぞ。しかしダメだな、やっぱりどう考えても部下って感じじゃない。多少躾けられた獣、いや、子供かな。何か変な感じだ。

 狩人の言葉を受け取ったペルシカリアは、今度こそその笑みを正面から返していた。そこに普段の胡散臭さは感じられず。普段からそれならいいんだけどなと、またおかしな方向に思考が傾き始めたので早々に退散し、支部に戻ることにする。

 

 はー、疲れた。つーか割と眠い。当たり前か。帰ったらさっさと寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『……すまない、もう一度言ってくれないか』

 

 基地に帰ってくる間は車の中でちょっと仮眠を取らせてもらい、すっかり夜も更けていたため、戻ってからは各自明日の予定だけ簡単に確認して即解散とした。もう俺がしんどかった。ただ、狩人と処刑人だけはハイお疲れさん、とはいかなかったものだから、とりあえず予備宿舎に突っ込んでおいた。ダンボールくらいしかないけどまぁ野宿よりマシだろ。

 細かな指示だとか今後のことだとかは明日の俺に任せ、早々に睡眠を貪った翌日。俺は司令室から人払いをし、誰も居なくなったのを確認してからクルーガーへと通信を繋ぐ。ヘリアントスは今回スルーだ。あいつに伝えても意味がない。先ずはトップであるクルーガーに事の顛末を言える範囲で伝えておかなきゃな。

 

 で、差し障りの無い範囲、というか、考えてみたら端から端まで差し障りしかなかったので、もう全部ぶっちゃけることにした。下手に隠してもこれ仕方ないしな。それに一応ペルシカリアも巻き込んでしまった以上、クルーガーに対してはすべてを教えておくべきだ。今のところ安全はペルシカリアが保証してくれているとは言え、万が一が起きてしまったら一指揮官の俺ではとてもじゃないが責任を負いきれない。

 ということでこのクソヒゲも巻き込むことにした。それで返ってきた反応がこれだ。うん、気持ちは分かる。俺が逆の立場でも、もっかい言ってくんない? みたいな反応すると思うわ。ところがどっこい、全部事実なんだよなあ。

 

『ふうーー……本当に……お前という奴は…………』

 

 はっはっは、何度でも丁寧に説明してやるぞ。何なら今この場にあの2体を連れて来てやってもいい。今頃予備宿舎でゴロゴロしてると思うからな。俺が呼びに行くまで待機してろと言い含めておいたので、勝手な真似はしないだろう。なんだかんだあいつら俺の言うこと聞いてくれるから今のところは助かっている。まぁ俺としても、こうなってしまった以上は無下に扱うつもりもない。特別重宝するわけじゃないが、俺は贔屓はしない。I.O.P社製だろうが鉄血製だろうが、俺の指揮下に入ったならばそこに上下はあってはならんのだ。いや今回はかなり難しいケースだけども。

 

『……分かった。とりあえず狩人と処刑人の処遇に関してはお前に任せる。下手に本部に接収も出来んだろうし、他所の支部など以ての外だ。というか、彼女のところへ行く前にまず俺に報告じゃないのか。何をしているんだお前は』

 

 あ、後半ヒゲの口調が崩れだした。相当参ってる感じがする。ざまぁみろ。ただ、言われてみりゃその通りではある。いくらI.O.P社とG&Kが業務提携という名のズブズブ状態とは言え、互いに企業の体を為している以上は節度と限度ってものはしっかりと存在している。今回のケースで言えば、見様によっては完璧に俺の暴走だ。まあ、知っててやったんですけどね。

 仮にクルーガーへ先に報告を持ち上げたとしよう。間違いなくさっさとあの2体を処分しろという話になるだろう。こいつはそういうやつだ。別にそれ自体を否定する気はないし、俺自身クルーガーの方が正しいと思っている。だが幸か不幸か、俺の独断で打てる手が打ててしまった。ペルシカリアという他社の大御所まで巻き込んで、だ。そうなるとちょっと事情が変わる。何せ、彼女の手を煩わせてまで鉄血のハイエンドモデルという戦力の安全保障が成されてしまったのだ。

 普通の流れで行けば、独断で馬鹿をやらかした俺を罷免するのが通常だろう。だが現状でそれをやってしまうと今俺が管轄している支部一帯、そしてS02地区の安全管理が出来なくなる。AR小隊もどう動くか分からない。何より、俺の話を信じる前提で行けば、鉄血のハイエンドモデル2体は俺の力無くしては制御出来ない可能性が高いのだ。結果、クルーガーは死ぬほど悩む破目になる。少なくとも現状、目に見える被害や実害は起きていない。俺が一人で喚くだけなら何の意味もないだろうが、そこにペルシカリアが絡んでくるとこいつも強く出られない。そこにある信頼関係を勝手に崩す訳にはいかなくなるからだ。

 

 突如ぶち込まれた超弩級の時限爆弾。しかし、爆発するかは分からない。不完全な安全ピンは俺が握っている。あー気持ちいい。たまにはお前も俺と同じ苦しみを味わえクソヒゲめ。自分でもかなり下種い考えをしていることは重々承知だが、相手がヒゲならある程度許されると俺は勝手に思っている。というか、お互いにそのギリギリアウトなラインを攻め合っている間柄だ。腐れ縁と言ってもいい。そこに遠慮なんか要らんのですよ。こいつも俺に対して一ミリも遠慮なんてしていないからな。

 

『とにかく、そうなってしまったものは仕方ない。お前が使えると判断したなら使え。だが、間違っても他所の支部などに顔を出させるなよ。分かっていると思うが、その運用には慎重を期せ』

 

 当然の懸念であり、俺も当然考えていることだ。なんだかんだコイツ頭回るからなあ、割り切りも早いし何より話が早い。ある意味俺の上司がこのヒゲでよかったとさえ思える場面でもある。

 

 

 さて、無事にとは行かないが、なんとかボスの決裁も取れたことだ。今後のあいつらの運用を本格的に考えていくとしよう。

 普通に考えれば、あの強大な力を遊ばせておく選択肢はない。I.O.P社製の戦術人形と同じく、一戦力として勘定すべきだろう。ただ、武装から戦い方まであいつらは普通の戦術人形とは異なりすぎている。下手に部隊に組み込んで足並みが乱れるのも避けたい。いずれは訓練などを通して戦術の平行展開をしていくべきだろうが、今今は焦る必要もないからな、先ずはあいつらのセットだけで動かしてみて、都度調整していくのがベストとは言わずともベターか。

 加えてクルーガーも懸念しているように、あいつらを出すシチュエーションは吟味しなきゃならない。人類の支配域を拡大するための侵攻作戦などであれば遠慮なく投入出来るが、奪還作戦や哨戒任務などにはやや不向きだ。前者は他所に存在がバレてややこしくなる可能性が高く、後者は俺の想定していないエンカウントが起きるとちょっとその先が予測出来ない。また、侵攻作戦にしても他所との合同など大規模なものは同様の理由で出撃は難しい。同じく、支援任務も不可。

 うーむ、結構使いどころが難しいぞ。支部周囲の掃討作戦とかならぶち込めるんだが、割と昔にこの辺一帯はクリアになっちゃったからなあ。支部の位置が割れている以上、鉄血からのアタックはあるかもしれないが、現状のうちの全戦力を遠慮なく投入出来て、しかも守勢となれば壁や建物が活かせる。はっきり言って負ける要素が無い。ドロドロの消耗戦に突入するのは勘弁願いたいが、今までの動きを見る限り、あいつら鉄血の攻勢ってのは何もウチ周辺にだけ発生しているわけじゃない。このエリアが人類の支配域境目であることを加味しても、そこまでの連続かつ驚異的な侵攻は考えにくい。

 じゃあ他所に攻めようかと思ってみても、流石にうちの支部単独かつ独断で鉄血陣営のど真ん中にいきなり吶喊するわけにもいかない。何のための本部で何のための作戦指令なのかという話だ。俺から上申すれば通るかもしれないが、現状うちの手が容易く届く範囲にそこまでの脅威がない。遠征作戦なども出来なくはないが、あまりに長期間この支部を空けると今度は空き巣狙いが怖い。なんだかんだ、位置バレしてるってのはそれだけでかなり厳しい。

 

 あれ? これ結局しばらく遊ばせておくしか選択肢なくない?

 マジかよ、折角いい手駒を手に入れたと思ったのに使う機会がないなんて。そんなあ。

 それなりにショックではあるが、まぁ平和なことはいいことですよね。というか、よくよく考えてみなくともちょっと最近集中してドタバタし過ぎである。こうやってすぐ戦うことを考えちゃう俺も大概なんだろうが、たまにはまとまった平穏を甘受するのも悪くないか。

 

 よし、じゃあ当面は教練を進めながら、あいつらともゆっくり親交を深めていくとしよう。あ、そうだ。人間社会の常識も教えておかないとな。うーん、戦闘以外でも案外やることあるな。暇じゃない平穏って素敵。

 

「おう、人間! 待ちくたびれたぜ!」

 

 いつまでも予備宿舎で放置プレイをするわけにもいかないので、今後のプランの話し合いがてらあいつらの宿舎へお邪魔することにした。ノックして扉を開ければ、飛び込んできたのは処刑人の煩いほどの元気一杯の声。こいつ前から思ってたけど声でかいな。スコーピオンやIDWとはまた違った、重みのある声量だ。

 ちなみに、こいつらの損傷はある程度直っている。製造元こそ違うが、どうやらI.O.P社製のメンテナンス装置でも対応出来る部分は少なからずあるようだ。ただ、I.O.Pで扱っていないパーツなんかもあるらしく完全復旧とはいかなかった。ここら辺も今度ちゃんとペルシカリア辺りと相談しておきたいところである。

 部屋を見回してみると、狩人は自前の武器を撫でながら静かに座っている。あれ、何か部屋汚れてない? そこかしこにダンボールだったと思わしき紙くずが転がっているんだが。

 

「ああ、暇で仕方なかったからよ。どれだけ細かく刻めるか遊んでたんだわ」

「私はやめろと言ったんだがな」

 

 猫かよ。つーか止める気があったんならちゃんと止めてくれよ。お前ら後で掃除しとけよ。

 妙に子供っぽい処刑人を尻目に、適当に汚れてない地面に腰を下ろす。とりあえず、今のところはこいつらにやってもらうことが無い。その結果と理由の説明を行えば、狩人は納得したように目を伏せ、処刑人は詰まらなさそうに鼻を鳴らしていた。

 

「チッ、何だよやることねえのかよ。身体が鈍っちまうぜ」

 

 いやお前機械だろ。鈍るとかないでしょ。まあ全く無いというわけでもなく、訓練なんかには参加してもらうつもりではあるんだが、それも明確なスケジュールが立っているわけじゃない。こいつらの相手を出来るやつも限られるしな。

 

「そういえば人間。貴様の名はなんと言うのだ。他の奴らは指揮官と呼んでいるようだが」

 

 伏せていた目と顔を上げ、狩人が言葉を放つ。ああ、そういえばこいつらに俺の名前とか教えてなかったな。今まで教える必要性が無かったからすっかり忘れていた。確かに、いつまでも人間だとか貴様だとか呼ばれるのもちょっと困る。別にそれくらいでイラついたりはしないが、一応俺の指揮下に入ることになるんだから、周りの目もあることだしな。

 うーん、まあ名前は名乗っておいてもいいだろう。どうせハナから偽名だし。好きに呼んでくれてもいいぞ、別に指揮官と呼ぶ必要も無い。確かに俺の役職ではあるし皆そう呼ぶが、お前らは経緯からしてイレギュラーだからな。

 

「ふむ。しかし世話になるのであれば、他の連中に合わせるのが無難、か?」

「あー、まァ確かに。つーか人間って呼び方だと他の人間も一緒くたになっちまうしな。コイツを呼ぶ時は何か変えとくか」

 

 まあお前らが直接会う機会のある人間って多分3人くらいしか居ないけどな。しかし今更なんだが、名前でもなく役職でもなく人種でもなく、種族で呼ばれるってすげえよな。I.O.P社製の人形たちは間違ってもそんな台詞吐かないから、時々こいつらが人造のアンドロイドだってことを忘れてしまう。思い出すにはいい切欠だったな。

 

 いやーしかし、人生どこでどう転がるか本当に分からんものだ。グリフィンで前線指揮官やってること自体が既に相当な想定外だったんだが、ちょっとばかし第二の人生に慣れてきたと思えば今度はコレだ。軍人時代もそれなりに波乱な人生を歩んできたと思っているが、ちょっと最近それとは比較にならん程のビックリ展開が立て続けに起こっている気がする。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだが、こんなの文学作品にしてみろ、馬鹿かよって笑われるだけだぞ。

 

 ま、なっちゃったもんはしょうがない。なるようになるさ、どうせ今までもそうだったんだ。もう俺は吹っ切れたぞ、何でもかかってきやがれってんだコンチクショウめ。

 

 

「では改めようか。これからよろしく頼むぞ、指揮官」

「おう人間! じゃなかった指揮官! よろしく頼むぜ!」

 

 

 目の前には、敵対心を持たず、俺を指揮官と呼ぶ、鉄血工造のハイエンドモデルが2体。

 

 うん、ごめん。確かについさっき何でもかかってこいとは思ったが、やっぱりどう考えてもコレちょっとおかしくない? 助けてカリーナ。




ちゃんカリ「無理」
グリフィン支部第五部隊、爆誕。



これにて鉄血のハイエンドモデルを巻き込んだ一連の流れは一旦おしまい。今後はまた思い付いたらぼちぼちやっていこうかと思います。
というか細かいネタは既に割とあるんですけどね。上手くまとまってくれればいいなぁと思っております。

おじさんが抱いたペルシカリアの第一印象は前作参照ということで。


いい加減おじさんを休ませてあげたい。ダメかな? ダメだな(確信


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27 -オペレーション・フルオープン-

低体温症、始まりましたね。皆さん進捗は如何でしょうか。
筆者は今回あまりモチベーションが高くないため、とりあえずアーキテクトちゃんと遊び終わったところです。ダルい。

感想で頂いた言葉ですが、おじさんの心が低体温ってのに滅茶苦茶笑ってました。
今後もキンッキンに冷やしていこうと思います、よろしくお願いします。


「はっはっはァ! どーしたどーした! その程度じゃ当たってやれねェぞ!?」

「チッ……! ちょこまかと……!」

「あらゆる状況で使える武器、それを私自身が裏切るわけには……!」

 

「なるほど、こういうパターンもあるのか。I.O.Pの人形も一概に馬鹿には出来んな」

「大体が指揮官の受け売りだけどね~。技術、戦術、戦略! ってうるさいもの」

「ちょっと45。指揮官を見下すような発言は認められないわよ」

「やだなぁ416、アレは45姉風のジョーダンに決まってるじゃん。ね、G11?」

「ぅう……早く終わらせて眠りたい……」

 

 とある日のキルハウス内。今ここにいるのは俺に加えて、ダネル、MG5、第三部隊の4人。そして、何故か俺の指揮下に入ってしまった狩人と処刑人という、本来であれば怨敵であるはずの鉄血工造のハイエンドモデルが2体だ。そいつらが二つのグループに別れてわちゃわちゃと訓練を繰り返している様を俺は無言で眺めていた。

 

 ここ最近の支部周りの様子は至って平穏そのものであった。鉄血の連中が何故AR小隊を狙っているのか、そこは結局分からないままだが、まあ狙われているという情報があったとしてもこうやって今実際には狙われていないんだからすぐに気に病むこともない。狙われてから考えればいいや、なんて暢気なことを言うつもりはないが、実際能動的な情報獲得手段が無いのだから気にしようがなかった。狩人も処刑人も、その理由までは知らないということなので、量産型を鹵獲してAIを弄繰り回してたとしても多分無駄だ。あいつらはハイエンドモデルなだけあって、上層部とまではいかなくともそれなりには作戦の根幹に関わっていたはずである。その2体が知らないということは、鉄血の中でもその情報はトップシークレット扱いなんだろうな。

 しかし、そう考えるとスケアクロウや処刑人、狩人を超えるハイエンドモデルも存在するということになってしまう。今のところ主にAR小隊のおかげで優位に立ち回れているが、そのうちトンデモ兵器を携えたやつなんかも出てきそうだな。電子戦に強いやつとか、グレネードぶっぱなすやつが居るってのは狩人から聞いたが、それくらいならまだ俺の常識で推し量れる範疇である。それ以上にぶっ飛んだのが出てこないことを祈るしかない。まあ、大体こういうお祈りって最悪の形で裏切られるんだけどさ。

 

 支部周辺の情勢が平和だからといって、それはイコール暇を持て余しているというわけではない。直接排除すべき障害が今のところ見受けられないだけで、やらなきゃいけないことは何も戦いだけじゃないからな。

 幸い、うちの支部は内地にある安全圏の支部と違って都市運営を行っているわけじゃない。今後支配圏が拡大し、この支部が前線という扱いじゃなくなればいずれ一般市民の流入もあるのだろうが、現状この支部の立ち位置は橋頭堡だ。だから、この支部が管轄している地域に一般市民は住んでいないことになっている。というのも、このご時世だ、国やPMCの庇護から零れ落ちて根無し草の生活をしている人間もそれなり以上の数が居る。この周辺にも恐らくは居るんだろうが、生憎そんな奴らの保護にまで回す手も時間も余力も、G&Kは持ち合わせちゃいなかった。まぁG&Kに限らずどこのPMCでも無理だろうけど。

 そんなわけでうちの支部に課せられた役目というのは専らに荒事なのだが、その荒事も先日一段落ついて久しい。だが、これで全てが終わったわけじゃあないから、次の荒事に備えて色々と準備していかなきゃならん。そのうちの一つ、戦争屋にとって最も重要なのは兵隊の錬度だ。これを上げていかないことには継続した勝利というのは難しい。無論数も大事だが、いくら数だけを揃えたとて、タダの烏合の衆では意味が無い。皮肉にも、その理屈は戦争屋の相手である鉄血工造が証明してしまっている。最低限の数は大前提だが、やはり決め手は質だ。

 

 ということで、今はその質を上げるためにこの平和な期間を使って訓練に勤しんでいるのである。ついでに、狩人と処刑人の暇潰し兼親交を深めるためにあいつらにも参加してもらっている。

 見てて思うんだが、あいつら意外と馴染んでるな。特に、過去のしがらみなどをあまり気にせず割り切れるタイプの人形とはよく打ち解けている。404小隊なんかはその最たるものだろう。そこの思考回路だけで言えば、AR小隊よりも切り替えが早い。あいつらのような存在は、コミュニティ全体における潤滑油のような役割も期待出来る。一つの集団にああいうタイプは絶対に必要だ。特に俺たちは学校の仲良しグループなんかとは訳が違うからな。

 肝心の訓練内容だが、折角の鉄血のハイエンドモデルなのでその性能を活かし、普通なら出来ない訓練を行うことにした。即ち、ダネルやMG5といった重火器を扱う人形の実戦訓練だ。鉄血人形はトータルの性能はともかくとして、1体1体の耐久度で言えばI.O.P社製のそれを凌駕している。ハイエンドモデルともなれば尚更だ。うちのやつらで言えばトンプソンがかなり堅い部類に入るが、それでも比べ物にならない。以前、AR小隊の連中が狩人を制圧していたが、あれは有り得ないレベルで防御力の無い箇所をピンポイントで撃ち抜けるからこそ出来た芸当だ。普通は無理である。あいつらがぶっちぎっておかしいだけだ。

 

 そんなわけで、処刑人にはダネルとMG5との遭遇戦訓練を行ってもらっている。フラッグ戦のような通常のルールではなく、あいつら向きにちょっとルールをいじくったやつだ。処刑人はダネル、MG5の射撃を躱し、距離を詰め、ブレードの攻撃範囲まで近付けば勝ち。ダネルとMG5はその前に一定以上のダメージを与えられれば勝ちという滅茶苦茶シンプルなやつである。

 鉄血の人形はI.O.P社のものと違い、エッチング理論を適用されていないため、いわゆる最適化工程のような実力を可視化出来るシステムが無い。戦闘能力は俺の予測でしかないが、低く見積もって404小隊の連中とトントンというところである。I.O.P社製の人形で言うところの50%は越えている程度の力は最低限有しているはずだ。30%にも満たない人形2体に負ける道理はない。実際俺の予想通り、処刑人は涼しい顔をして超速で距離を詰めている。いくら数の有利があったとはいえ、AR小隊の奴らはよくアレをボコボコに出来たな。怖すぎる。

 

 処刑人だけ引っ張り出すのも何か悪い気がしたので、狩人にも手伝ってもらうことにした。あいつは処刑人と違って対複数が強いから、それに見合った訓練メニューをとりあえず考えた。片方が盛大に弾薬をばら撒いているので、こっちには戦略的要素の強いゲームをしてもらっている。

 内容としては1vs4のハンデ戦だ。キルハウス内で行うというのは変わらないが、発砲はお互いに禁止。それぞれの組が対極の位置からスタートし、狩人は定められたラインまで侵入できれば勝ち。404小隊側はそのラインに到達される前に狩人を止める、あるいは敵陣最奥のフラッグ位置まで行けば勝ちだ。だが、ここに特別なルールを幾つか挟み込んでいる。

 狩人に限らず、鉄血のハイエンドモデルというのは単純に強い。そんな奴らに正面からぶつかろうというのは愚の骨頂だ。上手く囲い込むか、凌ぐ必要がある。そこで、狩人と404小隊がエンカウントした場合、404小隊が2人以下なら基本狩人が勝ち、正対した2人はそのゲームが終わるまでその場で寝ててもらう。ただし、404小隊側が2人の場合、お互いが90度以上角度を付けて離れ、片方が狩人を強襲出来る形でエンカウントすれば404小隊の勝ちとなる。また、3人以上であれば正面からかちあっても404小隊が無条件で勝ちというルールだ。

 これがまた、外野から見ていると面白い。狩人の勝ち筋は各個撃破か侵入ラインへの強襲。404小隊の勝ち筋は人数差をつけて当たってボコす、連携の線を組んで止める、あるいは全員単独行動でのフラッグ強襲のいずれかとなる。お互いの戦術が上手く噛み合えば片方が圧勝するし、そうでなければ一度頓着し、そこから各々の演算装置が弾き出した結論を下に動くことになる。別に銃を撃たなくても訓練ってのは出来るからな、こういうのを考えている時が何気に楽しいかもしれん。

 

 この訓練、勿論404小隊に連携や戦術といった知識や経験を更に蓄えて欲しいという狙いもあるが、他方、狩人にそのあたりの大切さを分かって欲しいという打算もある。処刑人にもいずれはそういうところも教え込んでやりたいところだが、恐らく戦場を見たり、策を考えたりする能力は狩人の方が向いている。だが、今までは上からの作戦指示に愚直に従うだけだったものだから、自前でそういうのを考える機会が無かったのだろう。それでもあの戦闘能力があれば勝ち続けられてきただろうから、無理も無いことだが。

 本当はこっちも銃撃アリでやりたいんだが、狩人や処刑人の使う口径の弾丸って今のところ補充が利かないんだよな。狩人の銃は前回押収したやつをペルシカリアに回しているから、いずれ製造は出来るかもしれんが、現段階では補充の目処が立っていない。一応うちの戦力だから無駄遣いは出来んのである。

 処刑人の方もダネルやMG5の攻撃がマトモに当たりさえすれば無事では済まないだろうが、一発で再起不能にまで陥ることは無いだろう。ある程度の修復はうちの支部でも出来るし、表現こそ悪いが処刑人の犠牲であの2体の教練が進むのならメリットの方が大きい。無論、使い潰すつもりはないけどな。

 

「しかし、指揮官は凄いのだな。このようなことを常に考えているのか」

 

 一体何度目のゲームか、もはや数えるのも億劫になるくらい遭遇戦を続けていた狩人と404小隊だが、今回の勝敗が決したところで狩人が感嘆の声をあげる。相変わらずこいつらに指揮官って呼ばれるの、ちょっと慣れない。慣れていかないとダメなんだが、違和感がすごい。

 うーん、別にいつも考えてるってわけじゃないんだけどなあ。そんなバトルジャンキーじゃない。ただ、君たち人形と違って俺たち人間が戦争に勝ち続けるにはそれなりに頭を回していかんとダメなんですよ。俺らは替えが利かないしな。それに、お前らは確かに優秀なスペックを持っているが、優秀であることが即ち勝利には繋がらないところも知っておいて欲しかったしな。

 実際、今の狩人と404小隊の連中が真正面から単騎でやりあえばほぼ確実に狩人が勝つ。その程度のスペックは有している。だが、このゲームでの勝敗は大体7対3くらいで404小隊側が優勢だ。勿論、実際に撃ち合ってるわけじゃないから必ずしもそれが現実の勝敗に繋がるとは限らないが、そういう可能性への思考を伸ばしてもらうことに意義がある。スーパーマン一人で全てに勝利できるなら、そもそも戦争など起こっていないのだ。

 

「ふむ。ここに来てから新鮮な毎日の連続だな、実に面白い」

 

 口元は笑ってこそいないが、いくらか柔らかい表情を見せる狩人。お、いいですねその顔。素敵なボディと相俟って実に打点が高い。ウーン、高得点。

 

「おおい人、指揮官! こっちも規定回数終わったぞォ!」

 

 目の保養をしていれば、横から今度は処刑人の機嫌のよさそうな声。直接ブレードを振るう機会こそ与えていないが、訓練とはいえ戦場の空気に近く仕上がった内容に本人もご満悦のようだ。その後ろには、痛恨の表情を隠そうともしていないダネルとMG5の2人。前半見てて直ぐに予測はついたけど、やっぱ処刑人の圧勝だったか。まあ、今の錬度で処刑人を封殺出来るとは考えていない。いい目標が出来たということで、訓練結果としては及第点を与えてもいいだろうな。

 ていうかあいつまだ人間呼び直ってないのかよ。別にいいけど。本人としても頑張って直そうとしているところは見受けられるので、俺はとやかく言わないことにしている。しかし同じ電脳のはずなのにそんな癖が抜けないみたいなことあるんだろうか。もしかして他とはまた違う角度でポンコツだったりするのだろうか。

 

 まぁいいや。とりあえず今日はこれくらいにしておこう。今のところ根詰めてまでやる程でもないし、こいつらにばかり時間をかけるわけにもいかないからな。周辺への警戒度は下がっているとはいえ、いつまでも無防備にしておくわけにはいかないので、警備のスケジュールも改めて立てておかなきゃいけないし、数は減ったが書類仕事もやっぱり出てくる。訓練だけ出来てりゃ俺も楽なんだけどなあ、現実はそこまで甘くない。

 

「指揮官は忙しいのだな……いつ休んでいるのだ? 私たちと違い、人間にはまとまった休息が必要なのだろう」

 

 お、なんだ心配してくれてるのか? 安心しろ、俺に休みなど無い。最近は割と落ち着いているが、それでも丸一日オフに出来る程暇ではない。というか、他にやることがないからこそこうやって訓練に精を出すことが出来ているんだ。これはこれで貴重なタイミングだし、無駄に浪費はしたくないからな。

 

「おいおい、それ大丈夫なのかよ?」

 

 今度は処刑人が会話に加わってくる。狩人と違ってこいつは表情が分かりやすくていいな。動的感情メーンルーチンのおかげか、狩人も出会った当初よりは感情の機微がいくらか読みやすくなっている。元々単純な性格の処刑人は輪にかけて分かりやすくなっているし、俺に対してもそれなりに悪くない印象を持ってくれているらしいので、非常に扱いやすくて助かる。ただ、AR小隊みたいな過保護にはなって欲しくないので、あまり気にかけてくれるのも考え物だが。

 

 まとまった休みが取れないのは事実だが、身体を壊すほどじゃあない。今は目立った作戦もないし、こいつらの教練に付き合うのも半分趣味の一環みたいなものだ。こいつらが成長することで、結果俺の負担も減るわけだから一石二鳥ってやつだな。趣味と実益を兼ねる。結構なことだ。

 

 しかしまあ、たまには贅沢に休んでみるのもいいかもしれないな。例えば風呂なんかも、いつも足早にシャワーを浴びるだけだったが、久々にゆっくり湯船にでも浸かってみるか。気分転換にもなるだろうし、そこでのんびり次のメニューを考えるのも悪くない気がする。水場では義足を外すために、風呂場でのんびりするという感覚自体忘れかけていたから、疲労の自覚症状が無いうちに身体を労わってやるのも大事だ。よし、そうと決まれば今日は風呂に時間を使おう。

 

「湯浴みか、そういえば人間は全身から老廃物が出るのだったな。その足で大丈夫なのか?」

 

 ポロっとこぼしただけなのだが、予想外に狩人が食い付いてきた。あー、そういえばこいつら人間の生活様式に対しても無知だからなあ、興味を惹かれるのは分からんでもない。足に関しても確かに不便ではあるが、左足の膝下程度だからな、片足で動けないこともないし。そもそも手伝ってもらう訳にもいかんからなこればっかりは。

 

「……? 何故だ? 不便なら人形に補助してもらえばよかろう?」

 

 ウーン、なるほど。そうくるかあ。いやまぁ確かに、人形という立場でだけ考えればそうなるだろう。その思考回路自体は間違っちゃいない。だが人間様には色々と考えるところがあるのだ。それはもう色々と。

 

「他のやつらに頼めねえってんなら俺が手伝ってやるぞ?」

 

 いや違うから。他の人形たちに頼めないというのはその通りなんだが、そういう問題じゃないから。どうしようこれ、滅茶苦茶説明しづらい。俺は人間の男性で、こいつらは人形とは言え女性型だ。ここまでの疑問の持ち方から察するに、それで理解しろってのは難しい話なのかもしれない。

 

「あー、待って待って狩人、処刑人」

 

 俺とのやり取りを小耳に挟みつつ様子を伺っていたUMP45が声を発する。ふー、あぶねえ。俺から懇切丁寧に説明するには非常にデリケートな問題だからな、ここで助け舟を出してくれるのは助かる。しっかりそういうところも説明した方が勿論今後のためにもいいんだろうが、どうにも俺からってのは言いにくい。ここは同じ人形であるUMP45に任せた方が鉄板だろう。こいつはそういう人間の機微にも聡いやつだ。

 

 

 

 

 

「指揮官は見ての通りの性格だから、人形相手でも迷惑は掛けられないって一歩引いちゃうタイプなのよ。嫌がってるわけじゃないから、口でどうこう言うより、行動で示してあげれば大丈夫よ。きっと指揮官も喜ぶと思うわ」

 

 

 お、お前ーッ!!!!!




UMP45「ニッコリ」
(お風呂回は)ないです。


よく考えてみたら本作品はそもそもシリアスでもギャグでもなく、基本ほのぼの思いついたところからぶん投げるフィーリングスタイルなので、細かいところは気にしないようにしました。
S02地区や鉄血鹵獲など、それなりにストーリー立ったものは今後思い浮かんだらやっていきます。ネタを頂けたら参考にするかもしれません。


ちなみに、おじさんはDTではないです。タラシという程じゃありませんが、まあそれなりの経験は持っています。キレ芸から察するに、若い頃はもっとヤンチャだったと思いますしね。


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28 -バスルームウォーズ-

どうした? お前ら喜べよ、おじさんの風呂場回だぞ


 ふう、久々に一人湯船に浸かるというのも中々オツなものである。今後も時間に余裕が出来たら積極的に温まっていきたいところだ。

 俺は今、支部に備え付けてある簡素なユニットバスに湯を張り、そこに身を沈めているところだ。シャワーの時と違いじわじわと芯から温まっていく感覚は湯船独特だな。遠い島国では銭湯という名の大浴場もあったみたいだが、なるほどこの感覚を日常的に味わえるならそこに通ってしまうのも頷ける話である。人一人が入れば既に手狭なバスルームではあるが、大の字で湯船に浸かるなどという贅沢はこのご時世中々叶うものではない。清浄な水というのは貴重、とまでは言わないが、その価値は第三次世界大戦前とは大いに異なっている。蛇口を捻れば勝手に出てきた水も、その水を人肌以上にまで温めるためのガスや電気も、今までは多少の金さえ払えばいくらでも湧いて出たものだが、地球全体でその文明文化を維持し続けるには、星の支配者はあまりに大地を汚しすぎた。

 しかし、こうやって贅沢とは言わずとも、人並み以上の生活を営むことが出来、不自由しない程度の生活レベルが維持できるだけの金銭を得られる前線指揮官という仕事は、そういう意味では確かに恵まれているのかもしれない。労働環境はお世辞にも良いとは言えないが、その分得られる権利はしっかりと行使しないとな。

 

 UMP45の突然の戯言から程なく。結果として俺はこの通り、何とか平穏を手にすることが出来ている。狩人と処刑人はあいつの言葉を真に受けてしまっていたが、あの場に居たのがUMP45だけでなくて助かった。そう遠くない場所で話を聞いていた416がとんでもない勢いで突っ込んできて俺でも引くレベルで弁明をし始めたのには焦ったが、そのおかげであいつらの誤解も解くことが出来、いや出来たのか? 分からん。まぁいいや。見目麗しい人形たちの一糸纏わぬ姿を目にすることなく男の矜持を保てているわけだ。

 正直、見てみたい気持ちはある。健全な男の子としての偽らざる気持ちだ。だが、一度それを許してしまうと色々と終わってしまう気がする。それはもう色々とだ。多分、狩人と処刑人にそんな感情は存在していないだろう。だからこそ手伝うなどと言ってきたと思うのだが、あいつらの無知に付け込んで自己の欲求を満たすなど、絶対にあってはならない。一人の成人男性としての価値がどん底にまで落ち込んでしまう。そして、一度そんな場面を許してしまえば、ちょっと自制し切る自信がない。俺だってオトコノコなのだ。それなりの欲求はある。そんなこともあったもんで、とりあえず最悪の事態を回避してくれた416には一応感謝している。UMP45は訓練終わった後に手加減はしたがチョップ食らわせといた。

 

 いやーしかし、こうやって改めて自分の身体を見ることもあんまりなかったんだが、やっぱり痩せたなあ。特に下半身、ハムストリングスの筋肉の落ちっぷりが酷い。年齢もあるし今更全盛期にまで盛り返そうとまでは思わないが、これじゃあ義足があったとしてもそりゃ身体がついてこないわ。特に俺自身が参加しているような遭遇戦訓練では咄嗟の瞬発力が何より大事だ。そこがネックとなっていては勝てるものも勝てない。別に俺が勝ちまくる必要はどこにもないんだが、ヒヨっ子どもにあまり情けない姿を見せるわけにもいかんしなあ。こういうところも男の子の性なのか、どうにも意地や見栄を張ろうとしてしまうのはよくない。よくないと頭では分かっているのだが、何かモヤモヤする。

 

 そういえば訓練のメニューも今のうちに考えておきたかったんだった。いい加減遭遇戦訓練だけでは第二や第四はともかく、第三部隊の錬度ではそろそろ物足りなくなってきた頃合だしな。この支部周辺はクリアになって久しいわけだし、AR小隊にやらせたような追跡戦訓練でもやってみるか。足のことや筋肉、スタミナの問題もあって俺が長時間逃げ切るのはかなり厳しいから、いっそ狩人や処刑人を追いかけさせるってのもアリかもしれん。あいつら単純なスペックだけで言えば人間の俺なんかより数段上だから滅茶苦茶難易度は跳ね上がるが、その分あいつらなら遣り甲斐に感じてくれるだろう。俺が全体の監督をすれば、追いかけ方もそうだが逃げる方に逃げ方も教えることが出来る。

 鉄血の連中を見ていて思うが、あいつら基本的に逃げだとか後退だとかいう概念を持ち合わせていない。自分が圧倒的不利な状況になって初めて撤退という意味の逃げを打つことはあるが、それもハイエンドモデルだけだ。量産型にそこまでの知性は無い。戦術として下がることを教えるだけであいつら一気に戦い方に幅が出せる気がする。元々火力も機動力も十二分に持ち合わせている連中だ、その有効な使い方を理解させることが出来れば、より一層強大な戦力になり得る。うん、これありじゃないか?

 ただ、遭遇戦と違って追跡戦はワンターンが長い。その日はほぼそれだけで潰れてしまう。キルハウスと違って屋外の広いフィールドで行うため、多少なり俺が司令室から離れる必要も出てくる。明日すぐにとは中々行かないだろうが、ちょっとスケジュールを調整すれば今の状態なら不可能じゃないな。

 

 あー、そうだ。スケジュールを空けるついでと言っては悪いが、ペルシカリアへのお礼も考えておかなきゃいけない。カリーナともちょこっと相談したんだがちょっとばかし俺の私財を投入して、今では大変貴重な本物の珈琲豆を取り寄せる案が今のところ有力だ。あいつ明らかにコーヒー党っぽいから、まぁお礼の品としては妥当なところだと自分では思っている。というか彼女は彼女で結構な立場のはずだから、俺なんかより余程稼いでいるはずなんだが、果たしてあんな泥水で満足出来ているのだろうか。やべ、味覚音痴だったらどうしよう。もし仮に好き好んであの泥水を飲んでいるのだとしたら、俺の品がただの豆に成り下がってしまう可能性もあるな。ウーン、かといって直接聞いてしまうのも何だかばつが悪い。こういうところにも男の子の意地が鎌首をもたげてくる。

 いや、まぁ気にしすぎてもあまりよくないか。こういうのは気持ちが大事だとどこかの誰かも言っていた。色々余計なことも仕出かしてくれているが、ペルシカリアに感謝の念を持っているのは事実だ。そこはきっちり形として示しておいた方がいいだろう。

 

「よう、指揮官。まだ入ってるか?」

 

 取り留めの無いことを色々と考えていると、バスルームの扉の向こうから聞きなれた声が飛んでくる。M16A1の声だ。何か緊急の用事だろうか。今は当然業務時間外だし、特に残業が必要なタスクも残していないはず。まさか風呂場に乗り込んでくるつもりな訳でもなし、ひとっ風呂浴びてる最中にまで対応が必要な案件に皆目見当がつかない。とりあえず風呂場で居留守なんて馬鹿なことをやっても仕方が無いので返事はしておくか。俺の服やら義足やらが置いてるから居ないわけがないんだけどな。

 

「ああいや、特に仕事でどうこうって話じゃないんだ。まぁ、その、なんだ。せ、背中でも流してやろうかと思ってな」

 

 いやいやいやいやいや。要らんがな。そのアクロバティックな気遣い思考回路はどっから生まれてきたんだよ。お前電脳のメンテナンスでも受けてきた方がいいんじゃないのか。こいつS02地区奪還作戦の後から時たま様子がおかしい。いつもはタフで冷静で非常に頼りになるやつなんだが、こういう完全にオフの時にちょいちょいバグるようになった。酒か? 酒がダメだったんか?

 人形だということを一旦端に置いておくとしても、風呂場という密室空間の中、男の背中を女が洗う。この事象の後が想像出来ないほどこいつは世俗に疎いわけじゃないし、頭が回らないわけでもない。というか、声が明らかに動揺している。自分でも何言ってるか十分分かっているはずだ。せめて恥ずかしがらずに言って欲しい。こっちも恥ずかしい。

 うーん、どうしよう。いや、入れる許可を出すかどうかで悩むレベルじゃないんだが、案外断り方に悩む。あまりに無下にあしらっても悪い気がするし、かといってじゃあよろしく、ってのは問題外だ。何というかこう、俺とM16A1双方の尊厳を守りつつ、いい感じに断る台詞がパッと出てこない。おじさん若い子の相手の仕方なんて知りません。

 

「しきか…………姉さん……?」

「んぉっふッ!? え、M4か! ど、どうした!?」

 

 なんで声が増えるんだよ。馬鹿じゃねえの。M16A1の言葉をどう断ろうかウンウン唸っていると、気弱そうな第二の声が扉を通してバスルームに響く。というかM16はびっくりしすぎだろ。おかしい声出てたぞ。しかし台詞の順番からして、M16に用事があったというよりは、俺に用事があって風呂場に来たらM16を見つけたって感じだな。すっげえ聞きたくないけど何の用件か聞いておこう。一億分の一くらいの確率でガチの急用である可能性も捨てきれない。

 

「ああ、いえ。お仕事のということではないのですが、今日は指揮官がお一人で湯浴みをされると聞いて、その、足のこともありますし、お手伝いをと……」

 

 うん、聞かなきゃよかった。ていうか待って。なんで俺が今日は湯船に浸かってゆっくりするつもりだという情報が出回っているんだ。いやそりゃ確かに訓練の時にポロっと零しはしたよ。それは認める。でも君たちその時居なかったでしょ。支援任務に出てたでしょ。んで帰ってきたのついさっきじゃん。お前らの帰りを待って、報告諸々すべての業務を終わらせて俺は風呂場で一息ついてるんだぞ。

 あー分かった。UMP45のスカポンタンだな。あの時居た面子の中で、こんなことをわざわざ帰投したAR小隊に伝えるような馬鹿をやらかすヤツを俺は他に知らない。チョップの仕返しのつもりかあいつ。明日必殺のアイアンクローでもお見舞いしてやろうかな。

 

「しきかーん! 私も一緒にお風呂入ってもいいー!? ってあれ、M4とM16じゃん」

 

 ダメに決まってんだろ! 帰れ! ああもう訳分からなくなってきた。これ多分AR-15も来そうだな。いや、あいつこういうところは抜群にポンコツだから案外来ないかもしれない。今初めてAR-15のポンコツっぷりに感謝しているぞ俺。

 というかこいつら、最近俺への圧がじわじわと増している気がする。こんなおじさんに熱を上げるんじゃないと幾度と無く忠告してきたんだが、一向に聞く耳を持ってくれない。見た目年下の美人に好意を持たれる、それ自体は男としては嬉しいことだろう。それは間違いない。

 間違いないんだが、生憎俺はその圧を受け切れるほどの甲斐性も度量も持ち合わせていないんだよなあ。これを逃げだというヤツも恐らく居るだろう。俺もそう思うところが無いわけでもない。だが、たとえ逃げと言われようが、意気地なしと罵られようが、この一線を俺から越えることも越えさせることも絶対に無い。むしろ、こういう塩対応を繰り返していくうち、俺に愛想尽かせて離れてくれる方が助かるとさえ思っている。

 

 こいつらは俺の教え子であり、部下であり、兵隊である。そして俺はこいつらを統率するために居る指揮官だ。もし、この世が実に平和で、お互いの立場が今と違っていたら、俺は相手が人形でも受け入れていたかもしれない。それくらいには俺もこいつらを憎からず想っているし、決して嫌いなわけじゃない。

 だが、ダメなんだ。俺はこいつらを受け入れちゃいけない。受け入れる資格が無い。あいつらが俺を選んで、俺がそれに応えてしまえば、その先には閉ざされた未来しか残されていない。先の無い袋小路に、俺自らが彼女たちを誘うわけにはいかないのだ。

 

「ンッンンッ!! し、指揮官。返事が無いということは……肯定と取るぞ?」

 

 待って。ステイ。ナンデ? 何故そうなる。ああくそ、バッサリ断ってやればいいものを、あいつらを傷つけても悪いなという配慮と、あいつらの乱入自体を実は嫌がっていない俺の余計な部分が変にストップをかけている。やばい、湯船にずっと浸かっている状態でいきなりパニクったもんだから頭も上手く回ってないぞ。誰か助けて。

 

「……あん? お前らどーしたんだ、こんなトコで屯してよ」

 

 き、きた。救世主来た! この声と口調は処刑人だな。こいつはAR小隊みたいなぶっ飛んだ思考は持っていないから、本当にたまたま通りがかっただけだろう。よし、処刑人を味方に付けてあいつらを引き剥がしてもらおう。とりあえず俺が今風呂場に居ることを大きめの声で伝え、あわせて俺の介助は必要ないことを伝えておく。本当にお節介焼きどもだぜ、まったく。直接来るな、と言うのは少し聞こえが悪いが、処刑人を通して「介助は必要ない」という部分を押し出せばあいつらを傷つけずに済むし、処刑人としても、俺の邪魔になるなら素直に帰れと言ってくれるはずだ。あいつはそういうやつだ。俺は詳しいんだ。

 

「おお、なんだ指揮官が入ってんのか。そんな慌てた声で遠慮すんなよ、アンタ一番偉いんだろ? こいつらに頼みにくいなら俺が手伝ってやるって言ったじゃねーかよ」

「は?」

「おい処刑人、今なんつった」

 

 ナンデ!? 何故そーなる!? つーかしくじった、自分では冷静なつもりだったが声に出ていたか。ていうか今バスルームの向こうの気温が下がった気がする。あの短い一言、俺の聞き間違いじゃなければM4A1のはずなんだが、何だあの底冷えした声。怖い。

 

「な、なんだよお前ら。指揮官があの足じゃ不便だろうってんで、他の連中に頼みにくいなら俺が手伝ってやるって言っただけだぞ」

 

 よし、いいぞ。負けるな処刑人。俺の平穏は今お前の双肩に懸かっている。すかさず俺もその通りだ、そういう会話を今日の遭遇戦が終わったときにたまたましていてな、という援護射撃を飛ばす。事実、処刑人に男女の云々といった感情は全く無い。ただ単純に言葉通りのことを考えているだけだ。そしてここで改めて、その類の介助は必要ない旨を今度こそ冷静に、端的に、恙無く伝える。早くこの壮大な茶番劇を終わらせてくれ。

 

「……まあ、無理強いしたいわけじゃないしな。すまん指揮官、悪かった」

「そう、ですね……。指揮官、お騒がせしてしまい申し訳ありません」

「ちぇー。ちょっと楽しみだったのになー」

 

 勝った。俺はこの戦いに勝ったぞ。ありがとう処刑人。

 一度話の天秤が傾けば、後は容易である。そういうわけだからすまんな、とこっちからも一応形としては謝罪を投げて、この話は終わりだ。

 

「……あァ、でも」

 

「UMP45が言ってたんだが、コイツそういうの遠慮するらしいから、行動で示してやれば喜ぶ、らしい。指揮官やっぱ遠慮してんのか?」

 

 

 もうやめてよぉ!! お前らまとめて部屋に帰れ!!




お風呂で身体は温まってもおじさんの心にヌクモリティは足りなかったよ…



AR小隊としては、単純にライバルが増えた(と勝手に思っている)ので、最初期と比べたら少しアクティブになってます。
まぁおじさんのガードは固いんですけどね。

軽いタッチで書こうと思うとどうしてもキャラが崩れるというか、ギャグ調に偏ってしまうのが悩みどころ。

予め言っておきますがヤンヤンはしません。彼女たちは純粋かつ純朴なので。
個人的に自分から言っておいて緊張してるM16姉さんが書いてて最高に可愛かった。異論は認める。


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29 -運命の環-

なんてことはない、ちょっとした歓談の場です。


「あっはっはっは! いやあ羨ましいわね、楽しそうな毎日じゃない」

 

 笑い事じゃないんですけど。俺のちょっとした与太話は目の前に座っている女性には大いにウケた模様で、からからと笑いながら珈琲を啜っている。そのカップに注がれている珈琲は、いつもの泥水ではなく俺が用意した本物の豆から挽いたヤツだ。芳醇な、と言って差し支えない香りを漂わせている。今や庶民でも味わえる嗜好品から選ばれし者が嗜む高級品へと成り上がった自身の価値を証明するかのような、そんな匂いだった。

 手狭なスペースながら、来客数人をもてなすには十分な役割を果たせる空間に、そこそこの座り心地を誇るソファー。観葉植物なんてレアモノは流石に置いていないが、置かれている小物から配色に至るまでそれなりに落ち着いた内装は、訪れた者を決して不快にはさせない程度に整えられており、I.O.P社の持つ力というものを感じさせるには十分なものだった。

 昨今、人をもてなすというのはそれなりに力を使う状況となっている。調度品一つ取ってもそうだが、世界経済が半壊した今、調度品や嗜好品に類するモノの価値はそれを一気に変容させた。皆が皆日々を生きるのに必死な世の中、どうして他人にまで配慮が出来ようか。自身の安全が保障されていなければ、自分以外に気を配るなど不可能だ。それが出来るのは卓越した個人か、自己犠牲の精神に満ち満ちた聖人か、他人を慮る余力を持つ大企業くらいである。幸か不幸かI.O.P社はそのうちの一つに当て嵌まっていた。

 

 こんな贅沢な空間で嗜む贅沢な珈琲とくれば、それはもう美味だろう。俺の対面に座るペルシカリアもご満悦の様子だ。

 時刻はとある日の午後。場所は16Labに併設されている談話室。俺は今狩人や処刑人のこと、義足のことなど諸々のお礼の意味を含め、手土産とともに16Labへとお邪魔している。今回の道中護衛にはとある事件解決におけるMVPであるAR-15を選抜した。日頃の感謝からとりとめのない日常の会話へとその趣を変えた頃合、ちょっとした話題の提供という意味で語ったその事件は、彼女の腹筋を鍛え上げるには良いネタだったようだ。こっちとしては本当に笑い事じゃなかったんだが、まぁ結果実害も無かったし、こうやって笑いのタネになってくれるだけまだマシというものか。今でも思い出すだけで心が疲れる。ほんと酷かった。

 

 とある事件、というのは以前風呂場で発生したアレである。M16A1、M4A1、SOPMODⅡ、そして処刑人の4体によって巻き起こされたパニックは、騒ぎを聞きつけてやってきたAR-15とHK416がその場に居る全員を問答無用でシバき倒したことで事なきを得た。俺はその現場を直接見たわけじゃないが、聞こえてきた音から判断するに多分本気で殴っていた。あのタフさを持つM16A1ですら一撃で沈黙していたのでその威力たるやである。AR-15とHK416の乱入以降会話が聞こえてこなかったので、気を失っていなかったにしても、口を開くのには些か憚られる程度の威力と迫力だったのだろう。

 一連の暴力が振るわれた後「お騒がせ致しました」と至極短い一言のみを放って連中を片付けたAR-15と416には感謝しかない。M16A1とは全く別のベクトルから溢れる男前っぷりに危うく惚れてしまうところだった。肝心なところでポンコツなイメージが先行しがちな彼女だったが、今後はちょっと認識を改めた方がいいかもしれない。

 

「でも悪いわね、こんな上等なものを頂いちゃって」

 

 ひとしきり笑った後、ペルシカリアは二たび珈琲を啜り、その味に舌鼓を打ちながらそう零した。彼女へのお礼の品は結局珈琲豆にしたのだが、どうやら満足頂けたご様子である。俺より余程稼いでいるはずだから、本物の珈琲豆を仕入れるくらい彼女になら容易いことだと思って聞いてみたんだが、どうやら豆から挽くのが面倒くさすぎていつも不味いインスタントに流れてしまっているようだ。どんだけだよ。前々から思っていたし本人にも自覚があるようだが、本当に生活力が無い。飛び抜けた才能を持っていたから今なんとかなっているだけで、これがタダの一般人ならとっくに死んでいる気がする。

 しかしまぁ、勿体無いなあと思ってしまうのは男の性なのか、単に俺の趣味が悪いのか。少なくとも、どう贔屓目に見ても顔は整っている部類である。その気が少しでもあれば、甲斐甲斐しい世話焼き男を捕まえることも不可能ではなかったろうに。その気がこれっぽっちもないからこそ今の状態なんだろうが。

 

「そうそう、忘れるところだった。幾つか伝えておきたいこともあってね」

 

 他愛も無い会話に一息つかせると、彼女はその口振りを少々真面目なものに変えて語りだす。

 今、この部屋には俺とペルシカリアの二人しかいない。護衛のためについてきたAR-15は、人形には聞かせられない話もあるから、と別室で待機させられている。今更AR-15が俺たちの指示に従わなかったり、軽々しく他人に口を開くなどとは考えにくいが、それはペルシカリアも重々承知のはず。それらを加味した上でAR-15を席から外させたということは、相応の話題だということだろう。

 と、最初は身構えていたのだが、話の内容は凡そ機密とは程遠い日常的なひとコマであった。だが、それらは舌と空気を暖めるためだったのか、どうやら漸く本題に入ってくれるようである。俺としても彼女との会話は退屈なものではなかったからそれなりに満足はしていたのだが、まぁわざわざ場を整えるくらいだ、それだけで終わるわけがない。漂わせる空気を微妙に変えた彼女にあわせ、俺も少しばかり気持ちと姿勢を整える。

 

「前回鉄血の電脳にも付け加えた動的感情メーンルーチンなんだけどね、少し補足説明をしておこうかと思って」

 

 本題として飛び出したトピックス。それは以前、狩人と処刑人が今後人間を襲うことが無いようにペルシカリアに依頼して組み込んだ、セーフティプログラムに付随して勝手に付け足された機能についてだった。

 動的感情メーンルーチン。I.O.P社製の擬似感情モジュールには必ずセットで組み込まれているものだ。専門的な仕組みや動作について俺にはサッパリ分からないが、彼女の言を参考とすると、人間をはじめとした生物が一般的に持つ感情、特に他人に対して抱く感情の機微が良くも悪くも顕在化しやすくなる、といった代物だったはず。俺に説明を施したペルシカリア本人も、ざっくり言えば、と注釈を付けていたので正確なところは理解出来ていないが、概ねそのようなものだと俺は理解していた。

 しかし補足説明、ということは何か別の効能でもあるんだろうか。正直彼女のぶっ飛びっぷりには俺も割と疲れているので、せめて平穏な補足であることを祈るばかりだ。

 

「先に言っておくけれど、君には感謝しているよ。だからこそ伝えるべきだと私も思ったのよ」

 

 今更そんな前置きなんぞ要らないだろ。別に俺とペルシカリアは長年の付き合いがあるわけじゃないし、お互いを深く知っているわけでもない。俺に関する秘密を共有しているという意味では特別な付き合いに当たるのかもしれないが、それは俺を取り巻く環境がそうさせているだけであって、俺と彼女の間に極個人的なやり取りがあるわけでもない。

 ただ、付き合いの長さや関わり方を問わず、前提として互いに一定以上の信頼を置いていなければそもそも成立しない間柄でもある。俺は馬鹿じゃないし、彼女も当然馬鹿じゃない。それをお互いに分かっている。だからこそここに座っている。それだけで十分だ。

 

「……ふふ、君は何というか……割り切り方が凄いね」

 

 そもそも色々と割り切ってなけりゃ今俺は生きてないからな。それこそ今更だ。

 

「君の生き様を考えたらそれもそうね。いやあごめんごめん、話の腰を最初から折っちゃった。で、さっきの動的感情メーンルーチンの話なんだけど。基本的な動きは前回伝えた通りなんだけどね、指揮命令関係にある人、例えば君のような指揮官とか。男女問わずなんだけど、戦術人形はその人と一定期間以上一緒に居ると、その個人に対して好意を抱くように出来てる。その人が真っ当という前提はあるけどね」

 

 なるほど。ていうかぶっちゃけ予測はついていたんだけどな。そうでもなければ、こんな生き遅れとも呼べるようなおじさんがモテるわけがない。恐らく、戦術人形とそれを指揮する指揮官、という戦闘システムが組み上がるよりも前、普通に自律人形が民間で出回り始めた時からその類の機能は存在していたはずだ。

 戦術人形というのは、あくまで自律人形という大ジャンルにおける一カテゴリに過ぎない。鉄血工造のイェーガーシリーズ等は最初から戦闘が前提に作られているが、それは自律人形全体のスケールで言えば少数である。民間のあらゆる職種に対する労働力という側面の方が遥かに強い。そのうちの一つが戦闘用アンドロイド、戦術人形だというだけだ。

 あらゆる場面において自律人形というのは使役される側の立場である。間違っても人間を使役したり支配するような立ち位置ではない。であれば当然、使役する人間に良い感情を持ってくれた方が扱いやすい。馬鹿でも分かる当たり前の理屈だ。ただ、無条件に好意を抱いてしまえばそれはそれで問題が起きるので、真っ当な、という条件が付与されているのだろう。今思えば、S02地区に所属していたドラグノフが自身の指揮官に良い印象を持っていなかったのはその処置の正しさを証明している。消耗品同然に扱われては人形自身、いい気分じゃないだろうからな。それを分かりやすくするために、動的感情メーンルーチンは正の感情も負の感情も顕在化しやすくなっているはずなのだ。

 

「だからAR小隊をはじめとして、皆に好まれている君の状態は私としても喜ばしいことなのさ。ああ、ちゃんと戦術人形たちを正しく扱ってくれているんだ、とね」

 

 そこで一旦言葉を区切り、彼女はカップを手に取り口を潤す。まあ、ペルシカリアの不安は分からないでもない。いくら戦うための人形だとはいっても、その見た目は美少女そのものだ。よからぬ感情を抱く者も当然出てくるだろうし、実際に手を出した者も居るかもしれない。感情的に好きにはなれない人間相手といえども、基本的に人形は上位者として設定された人間の命令には逆らえない。そこに付け込む輩も少なからず居ただろう。

 もし俺がそのような類の人間だったとしたら、今ここに居ない。指揮官業は続けられるかもしれないが、こうやってペルシカリアと二人きりで歓談の一時を過ごす程の関係値は築けていない。俺の基準に当て嵌めて考えてみても、単純に部下に手を出す上司ってクソ以外の何物でもないので、俺自身微塵も心配しちゃいないが。いや、熱烈に迫られるとちょっと困るかもしれない。俺だって男の子だし。

 

「ただ、彼女たちは特定の個人に好意を持つことはあっても、それ以上には進展しない。擬似感情モジュールと動的感情メーンルーチンにはリミッターがあるのよ。敬愛の情は持てても、親愛や恋慕にまでは及ばないようになってるの」

 

 へぇ、便利なリミッターだなそれ。俺の指揮下にある戦術人形たちを思い浮かべてみると、俺に対して一番好意を持っているのは間違いなくAR小隊の4人だ。だが、思い返せば彼女たちは、直接愛の言葉を囁いたりはしてこなかった。よりお近付きになろうと色々画策したり、あるいは独占欲みたいなものを発揮してしまっているところは見受けられたが、告白されたり夜這いを受けたりなんて事態には発展していない。まあ、そうでもしなければ歴戦の指揮官殿なんかが居る支部内は阿鼻叫喚の事態に陥っていることだろう。それこそ戦争どころではなくなる。

 感情に制限を設ける、といった手法が倫理的に褒められたものなのかは議論の余地が残るところだろうが、少なくとも俺は賛成だな。感情を抜きにして考えれば、彼女たちは兵器である。ぞんざいに扱うつもりはないが、その線引きは必要だ。戦術人形を率い、戦場を預かる立場に立つのであれば尚更である。

 

「……理解が早くて助かるわ。それらがあるからこそ、戦術人形と指揮官というシステムは成り立っているとも言えるわね。逆に言えば、そうしないと成り立ちにくいということでもあるんだけど」

 

 言わんとしているところは分からんでもないけどな。というか何故女性型しかいないんだろうか。男性型の自律人形でも居ればまた違った状況にはなっていると思うんだが。とは言え、少なくともI.O.P社の戦術人形は民間用の自律人形に火器統制コアを埋め込んだものだから、女性型が多いのは致し方ないところだろう。

 自律人形、アンドロイドに性差は無い。男性型だろうが女性型だろうが、その性能は電脳と義体によって決まる。見た目は性能に一切関係がないのだ。であれば、普通に生産していく中で男性型と女性型、どちらにより幅広い使用用途が存在するか。倫理観を一切無視すれば自ずと答えは出てしまう。

 

 

 

「……君は、戦術人形のことは好きかい?」

 

 唐突に。ペルシカリアは話題を転換させる。

 好きか嫌いか。その二択で選ぶのであれば好き、に当たるはずだ。恐らくは。というのも、俺の中でイメージされる戦術人形というのは、そのほとんどが俺の配下にある人形たちである。鉄血製の人形も戦術人形には定義されるだろうが、別に嫌いという感情までは湧いてこない。悪い印象は持っていないな。AR小隊の連中に限って言えば、俺は間違いなく好いていると言っていいだろう。それが人間に向ける愛情と同義かと問われれば難しいところだが。

 

「そっか。実は君に渡しておきたいものがあってね」

 

 一息ついた彼女はふとそう漏らすと、膝元から小さな箱を取り出した。その箱を開けてみれば、そこには小さな指輪。形状といい外箱の装いといい、人間同士が交換する結婚指輪に似せたような風体だ。

 

「これは、擬似感情モジュールのリミッターを外せる装備。一応、私たちの公式的な説明では『人形に更なる権限と義務を与えるもの』としているけれど。リミッターを外された人形たちは、『愛情』を得ることが出来る」

 

 なんともまあ人間ちっくなことで。ペルシカリアもあえてその言葉は避けているように思えるが、要するにこれ結婚指輪そのものってことだろう。ウーン、色々とおべんちゃらを立ててはいるが、人形と結婚するなんて物好きも居るんだな。

 俺としてはコレを渡されたとしても使う気がしない。更なる権限と義務ってのは気になるところだが、特定の人形に愛情を持たれてもこっちが困る。確かに配下の人形たちを好いているのは事実だが、それは彼女たちを手篭めにしたいとか結婚したいとか、そういう願望から来るものではない。そもそも、俺には彼女たちを俺に縛ってしまう気が更々ないのだ。

 

「勿論、使うかどうかは任せるよ。ただ、これを渡せるに足る人だと私が判断したから渡すだけ。でも、破棄や紛失なんかはやめてね。それ結構高いから」

 

 うへぇ、余計扱いに困る。というか、AR-15を離したのはコレが原因か。多分だが、あいつらこれ欲しがりそうだもんなあ。こんなブツの存在が公になってしまえば、何が起こるか分かったもんじゃない。俺としては余計なトラブルは避けたいし、そもそも人形と愛を育むつもりもないしな。このまま差し戻しってのはダメかな。

 

「私としては受け取って欲しいんだけどね。君にはその資格があると思ってるから。それと、この指輪にはリミッター解除の他にもう一つの役目がある」

 

 うーん、そう言われましても。ここに大きな認識の違いが出来てしまっているな。俺にそんな資格はない。ただ、彼女との付き合いは決して長いとは言えないが、俺の性格や思考なんかはそれなりに知っているはずだ。それでも渡してくるということは、そのもう一つの役目ってやつも関係しているのかもしれない。

 

 

「私たちはこれを『誓約の証』と呼んでいるんだけど。この指輪を装着した人形は、電脳を書き換えられるのよ。形式上、I.O.P社の戦術人形はグリフィンに貸し出しているから所有権は企業にあるんだけど、その所有権が指輪を渡した個人に書き換わるの。更なる権限と義務というのは、そこに紐付いてもいるわね」

 

 マジかよ。つまり俺個人の所有になるということか。うーん、それどうなんだろう。仮に俺がこの指輪を誰かに渡したとして、その後グリフィンを退職したりしたらどうなるんだ。俺個人の所有物になるということであれば、俺についてくることになるのか。

 いや、人によっては喜ぶのかもしれんが、俺からしたらそれ逆にマイナスなんだが。完全に俺個人にあいつらを縛っちゃうアイテムじゃん。現状の俺の望みから言うと真逆の代物だ。それこそ別の指揮官や、若くて将来性のある人物を捕まえて、そいつにこの指輪を渡してもらいたいものだ。

 

「あっはっは! 君も頑固だね。まぁいいや、とりあえずは渡しておくよ。さっきも言ったけど、使うかどうかは完全に任意だから気にしなくてもいいさ」

 

 普段の表情には些か似合わぬ爽やかな笑みを浮かべながら、彼女は俺にずずいと箱を押し付けてくる。要らねーよ、と一蹴したいところだが、彼女にはずっと世話になっているために無下に断るのも憚られる。困る。

 仕方が無い、このままじゃ埒があかん。とりあえずは頂戴しておこう。しかし貰ったとしてもどうしようもないぞこれ。こいつにはデスクの引き出しの奥で埃を被ってもらう未来しかない。

 

「そうそう、その誓約の証、今は一つしか無いけど、物資と資金さえ融通してくれれば複数準備も出来るからさ。よくよく考えておいてよ」

 

 いや要らないから。使うことないから。余計なお世話である。

 

 ペルシカリアの本題はこれで終わりらしい。世話になっている立場で長々と居座るのもアレなので、そろそろお暇するとしよう。指輪に関しては完全に不要な情報ではあったが、まぁそれを抜きにすれば久々にリラックス出来た一時ではあった。というか自分の家であるはずの支部よりここの方が気を抜けるって色々とおかしい気がしてきた。いやまぁ前線基地だから常に緊張感を持っておくのは多分正しいことなんだと思うが。

 

 しかし、人形と誓約か。世の中にはとんでもないことを考えるやつも居るもんだなあ。まあ、それらを否定するつもりはないが、俺がどうこうってのはちっと考えにくい。別に俺はあいつらを自分のものにしたい訳じゃないし。いっそあいつらにこの指輪を渡して、一緒になりたいヤツに渡せって言う方法も考えたが、却下だな。多分俺にそのまま返ってくる。意味が無い。

 

「指揮官、お話は終わりましたか? ……どうかされました?」

 

 別室で待機していたAR-15が俺と合流するなり変な言葉を投げ掛けてくる。どうしたも何もないんだが、何か気になることでもあったんだろうか。

 

「いえ……普段より随分と柔らかい表情をされていたように思いましたので」

 

 んーなわけあるかい。見間違えだろ。馬鹿言ってないで帰るぞ。

 

「ふふっ……ええ、了解しました。帰投しましょう」

 

 さて、支部に帰ったら結構な時間になってしまうな。今日の業務はほとんど終わっているし、明日のスケジュールの確認をしてから、湯船に浸かってのんびりでもするか。

 ポケットに仕舞いこんだ四角いゴツゴツがいやに気になったが、努めて気にしないことにする。どうせ帰ったらデスクの奥だ。今後日の目を見ることも無いだろう。

 

 

 ペルシカリアめ、余計なモノ出しやがって。やっぱりあいつと深く関わっちゃダメだな。




ついにその存在を現しました誓約の証。ただこのままだとタンスの肥し状態ですけどね。



割と書きたいネタって実はあるんです。あるんですが、それを書いてしまうとこの物語、もう畳むしかないんですよ。なのでちょっと悩んでいるというか、時期を見計らっています。
なので、もうちょっとお付き合い頂けると幸いです。



ちなみに、2月から更新速度一気に落ちます。これは確定しています。
なぜなら、ピクシブの方で大きな戦が始まるからです。ちょっと当面はそっちに居ますのでご了承ください。


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30 -福利厚生は闇の中から-

お久しぶりです。
ちょっとお絵描きモチベーションが落ち着いたのでサクっとやりました。

リハビリも兼ねたなんてことない話です。よろしければどうぞ。


「うーん……そう言われても、特にないんだよねえ。アタシは結構満足してるよ」

「私もですね。あぁでも、強いて言えば娯楽的なものが欲しいかもしれません」

「私はもっと広いお風呂場があればいいなーって!」

「私は特に無いな。ただでさえ拾ってもらった身だ、指揮官は十分に私を使ってくれているし、それ以上は何も望まないさ」

「同じく特に不満は無い。私はまだここにきて日も浅いからな、そう我侭は言えんよ」

 

 えぇー、思ったより反応が渋い。本当に欲が無いのか、はたまた遠慮しているのか。ドラグノフとダネルは多分多少の遠慮は入っているだろうな。誰だって、部隊に入ってすぐに我侭を発揮するメンタルは持ち合わせちゃいないだろう。そういう奴は大抵協調性みたいなものを持ち合わせていない。こいつらに協調性がないとは思えないから、ちょいと時期尚早だったのかもしれん。M1911の娯楽はちょっと検討しておこう。M14の風呂場は却下だ、そんな予算はない。

 しかし、考えてみると第二部隊はそこそこ上手く回っているのかもしれないな。第一部隊や第三部隊のように元から小隊を組んでいる連中でもないし、第四のような全員がほぼ同期の新造部隊って訳でもない。隊長のスコーピオンをはじめ、M1911やM14はこの支部でも古参組だし、ドラグノフは言い方は悪いが他所からの流れ、ダネルはつい最近製造された新人だ。ここら辺もやはり人間と人形の違いってやつなんだろうか。

 これが人間の部隊であれば、数人が集まれば大なり小なりトラブルが生まれる。人間関係ってのは前提として良好に進むものじゃない。個人個人の主義趣向に開きがありすぎるのだ。それぞれの距離が希薄であればそう表面化するものでもないが、軍隊や民間軍事企業だとその関わり方は非常に距離が近い。自然と見たくないものも目に入ってしまうし、聞きたくないことも耳に入ってしまう。そこを割り切れるほど、人間の心はデキがよくないのである。

 だが、人形には多分それがない。タイプこそ違えど、そもそもが同じ目的の元で製造された兵器なのだから、そんな些細なことで諍いを起こされても使用者側が困る。そして、その前提で行くのであればこの話し合い自体が無駄なんだが、そこは俺がこいつらを兵器として画一視出来ていないってことなんだろう。うーん、難しい。誰か自律人形との適切な接し方とか教えてくんないかな。おじさんには些か難しすぎる問題である。擬似感情モジュールのせいかおかげか、そこらへんの線引きがメチャクチャ難しい。そりゃ人権団体なんかも出てくるよなと納得する。

 

 今何をやっているかというと、戦術人形たちとのちょっとした面談みたいなものだ。そんな畏まったものじゃないので、彼女たちの宿舎にお邪魔してお喋りの延長みたいな感覚だな。今更かよとも思うが、俺がこの支部に指揮官として着任して以降、なんだかんだこうやって面と向かって話が出来るほどの時間も余裕もなかったもんだから仕方ない。というか程よく暇な時間が出来ている今が正常なはずであって、これまでが異常だったんだ。ブラック企業はこれだから困る。

 で、先だって人間の労働者であるカリーナに関してはその環境を改善するためにかなり早めに動いたんだが、こいつらはカテゴリとしては兵器だ。表立った不満も出ていなかったからどんどんと後回しにしていたんだが、この支部で活動を始めてから長くはないものの、それなりの時間が経過している。いつまでもダンボールが中心の家具モドキの中で生活させるのもいい加減よくないんじゃないかと遅ればせながら考えたわけだ。ついでに人形たちが希望や不満を持っていたら可能な限りそれらも吸い上げようと思い、今第二部隊の連中との閑談に洒落込んでいるという状況だな。

 誰に話を聞くかってのは少し悩んだが、割と早く第二部隊の面々に決まった。というのも、AR小隊の意見はほぼ間違いなく参考にならない。あいつらを基準に戦術人形への理解を深めてしまうのは極めて危険だ。404小隊も概ね同様だが、あいつらは元々特殊部隊に所属しているから、宿舎や福利厚生への要望自体出てこない可能性がある。どっちにしろ、戦術人形全体で言えばあの二小隊は双方ともがイレギュラーだ。よって第一部隊、第三部隊は除外。追々話は聞くかもしれんが。

 第四部隊も考えたが、あいつらは全員がこの支部では新参だ。ここでの生活が長いわけじゃないし、それなら単純に歴の長い第二部隊へヒアリングをかけた方が合理的である。第五部隊は論外。というかあれを部隊として勘定していいのかすら分からん。使うときは使うけど。

 

 ということでちょっとした世間話がてら、この支部への要望とか不満とかがないか、それとなく聞いてみた結果がこれだ。ちょいと拍子抜けという感じ。M14の風呂場拡張は別の意味で驚かされたが、まぁあいつもそれが叶う前提で話をしたわけでもないだろう。いずれこの支部周辺一帯が完全に支配下となり、一般民の流入があれば有り得る話かもしれないが、鉄血の連中に位置が割れている以上、その未来は相当遠い。当分は諦めてもらう外ない。

 

「ねえ指揮官。これって全員に聞いていく感じ?」

 

 適当に話を合わせながらどうしたもんかなーと考えていると、スコーピオンがふと口を開く。まあ流石に第二部隊の意見だけで全てを決めてしまうわけにはいかないから、最終的に全員と話をするつもりではある。参考にする度合いは異なるがな。そういう意味ではこいつらの意見が一番重要だったんだが、精々が娯楽が少ないってところくらいか。確かに訓練と実戦以外はほぼ待機状態だからなあ、俺とカリーナが忙しい分そこまで頭が回っていなかった。

 

「それじゃさ、また聞き終わったら言える範囲でいいから教えて欲しいなぁ。皆がどういう希望持ってるのか、ちょっと気になるじゃん」

 

 ほーん。多分純粋な本音から出た言葉だと思うが、こいつやっぱり隊長に向いてるな。ムードメーカーなところもそうだが、自然な気配りが出来ている。部隊員の意見を自然に吸い上げられるやつってのは驚くほど少ない。そもそもそういう視点や興味を持つこと自体が意外と難しい。更に、言える範囲でいい、と最初から言えているところも高打点。俺の立ち位置は勿論、他の人形とのしっかりしたライン引きが出来ている証左だ。親しみやすいことと、人のプライベートにずかずか踏み込んでいくことは違う。多分無意識だろうが、そこらへんを理解しているのはありがたい。

 思い返せば、多少お祭り騒ぎが好きなところはあれど、明確にこいつが何かやらかしたことって無いんだよな。強いて言えばアルコールでバグったくらいだが、それは他の連中も同じだ。ノーカンでいいだろう。電脳ってここまで個人差出るものなんだな、ちょっと面白い。俺も時間が出来ればそこらへんの勉強もしてみるか。

 

 スコーピオンの要望に了承を伝え、第二部隊の宿舎を後にする。さて、このまま他の部隊の宿舎にお邪魔してもいいんだが、ちょっと気になるところも出てきたので一旦司令室に戻ろう。

 と言うのも、M1911が言っていた娯楽もそうだが、家具やらその他雑貨なんかのいわゆる調度品だな、ここら辺ってG&Kとしてはどんな扱いをしてるんだろうか。S02地区の指揮官なんかは酒を隠し持っていたようだし、多分ああいう類のヤツなら無駄に自室の内装なんかも凝っていたはずだ。直接見る機会がなかったから分からずじまいではあるんだが。

 間違いなく言えることだが、定期的に送られてくる本部からの支援物資にアルコールなんかは含まれていない。そんなのがあったら俺のストレスももうちょっと軽減されている。だが、S02地区の指揮官は持っていた。つまり、仕入れるルートがあると言うことだ。そして、酒以外の娯楽品や調度品なんかも、別に一切の製造が止まったわけじゃないし、世界中の在庫が無くなったわけでもない。実際軍に居た頃は上等とは言えなかったが、それなりの家具も揃っていたわけだしな。以前カリーナに冗談半分で聞いたときは別料金だと言われたが、逆を言えば対価があれば手に入るということだ。もしかしたら俺個人の楽しみも増えるかもしれないし、実際に使うかどうかは置いといて、そういうものを手に入れる手段があるのなら知っておくに越したことは無い。

 

「はいはい? あー、あるにはありますよ。大きく分けて方法は二種類。私が管理している物資を指揮官さまにご購入頂くか、G&Kで取り扱っているこちらの"コイン"をご使用頂くか、ですね」

 

 司令室に戻り、書類整理に勤しんでいたカリーナを捕まえて先程の疑問をぶつけてみると、予想以上の答えが返ってきた。おじさん困惑。ていうかコインって何。カリーナが色々と仕入れているアイテムを有料で買えることは知っていたが、後者は初めて聞いたよ俺。クルーガーも説明くらいしろ。色々と杜撰すぎるでしょこの会社。今更だけどさあ。

 で、そのコインとやらをもう少し詳しく聞いてみると、一般に流通している通貨とはまた違った、G&K内で使える仮想通貨、みたいなものらしい。この例えが正しいのかは知らん。少なくとも、外の市場なんかで使えるような代物じゃあないらしい。ただ、この通貨自体が少々特殊らしく、それ単体でもそれなりの価値はあるんだそうだ。ますます意味が分からんぞ。そんな特殊通貨があるということ自体初めて知ったし、それを何故G&Kが採用しているのかも分からん。この会社基本ブラックだが、I.O.P社と強いパイプを持っていたりと、よく分からないところで謎が深い。

 で、そのコインとやら、カリーナが今一枚持っているが、今度はその入手方法が気になる。一般に流通していないものなら、その取得手段も限られてくるはずだ。現物を改めて見ても、軍人時代には見た記憶がない。そんなに情報通でもないが、正規軍のそこそこの立場に居た俺でも知らないブツだ、世界はまだまだ広いことを痛感させられる。

 

「えーっと、基本的には本部からの指令を達成した報酬や、あとは支援任務で稀に貰えることもあります。この支部にも結構きてますよ。私が管理してますけど、多分200枚くらいあるんじゃないですか?」

 

 なんでそれを教えてくれないの君は。俺一応ここの最高位者だよね? なんで俺が把握していない謎のアイテムが200個もあるんだよ。言えよ。

 

「すみません、てっきりご存知だとばかり……指揮官さまはそのあたりにご興味を示されなかったので……あっでも勝手に使ったりはしてませんよ!? ちゃんと管理してますから!」

 

 そりゃ何よりだ。信頼を置いている後方幕僚様に知らぬ間に横領されていたとかだったら俺のメンタルが死ぬ。

 まあ、とりあえずそのコインとやらは凡そ200枚くらいあるらしい。ただ、枚数だけ教えられてもそれがどのくらいの価値なのかが分からない。そこらへんどうなの?

 

「基本的に10枚あれば、家具などの調度品が一つ買える程度に捉えていただければ大丈夫です。ですが、商品を指定して購入することは出来ません。この情勢ですから、在庫状況も常に変動しているんです。そちらのコンソールで操作することで購入手続きは完了します。コインを必要枚数分スキャンして頂ければ決済画面に移りますので、品物が届いたらそのコインを引き渡す形ですね」

 

 はー、なるほど。商品を指定できない辺り、なんだか戦術人形の新規製造を思い出す。というかそもそも指定出来ないっておかしくないか。どういう理屈でこのコインが働いているのかマジで分からない。ただまぁ、その謎を解明する気まではおきないし、どうせ分からんだろう。下手に組織の闇に首を突っ込んでも手痛いしっぺ返しを食らうのが関の山だ。実務に直接影響が出ない限り、意味不明なものは意味不明なまま放置しておくに限る。実際今までコインの存在を知らなくても全く影響はなかったわけだしな。

 

 んー。折角だし一回やってみるか。届く品がどういうものかも分からないんじゃ、今後使っていくかの判断すら下しにくい。聞くとコインには他の用途が特にないらしいので、ここで試しに使ってみても不利益を被ることはまず無いだろう。実用的なものが届けば万々歳くらいに捉えておくのが吉だな。過度な期待は大抵裏切られるもんだ。

 ということで、ピーっとな。これ枚数分スキャンするの地味に面倒くさいぞ。一回一回でそんなに時間がかかるわけじゃないんだが、これまとめ買いでもしようものなら何百枚もスキャンしなきゃいけないのか。手がしんどい。しかもこれ、決裁が必要なやつだからカリーナに代理でやってもらうのも難しい。ダルすぎるでしょ。カリーナが言うには、基本的に翌日には商品が届くらしい。何が来るか全く予測が付かないが、精々無駄骨にならない程度の結果を期待しておこう。

 

 

 

 翌日。うちの支部に妙に馬鹿でかいダンボールが届いた。届けに来たヤツにスキャンしたコインを渡した後、あまりにもでかいからカリーナにも手伝ってもらって開梱したんだが、ダンボールの山の中からメチャクチャにふわっふわな、手触り抜群の、どう見てもダブルサイズのゴシック調のベッドがシーツから枕までフルセットでその姿を現した。

 

 どうすんのこれ。




ダンボールから最高級ベッドへ、貴方に最高の一夜を。


ちなみにこの支部の宿舎はゲームでいうほぼデフォルト状態です。ダンボールがトモダチ。今までそこらへん全く手入れしてなかったので当然ですね。よく不満が出なかったものです。


しかし、少し離れている間に面白そうな新規のドルフロ小説が沢山出てきていますね。おじさんうれしい。読み専に戻ることも辞さない。



今後しばらくは、多分こんな感じの単発話が低速で続く感じになると思います。
それではまた。


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31 -アトミッククルーガーパンチ-

一度書くと、そこからプロットって色々生まれるものですねえ。
ということで、書きました。

今回はちょっとだけ話の時間軸を前に進めようかなという感じです。このシーンを皮切りに色々世界が広がればいいなーと思っています。まだ特に考え付いてませんけど。

そういえば知らん間にアンケート機能とかついてたんですね。おじさんびっくり。
ちょっと使ってみましたので暇潰しにでもポチポチどうぞ。


 さてさて、こいつを一体どうしてくれようものか。ダンボールの山の中、全貌を覘かせたソイツを一睨みして、思わず小さなため息を吐く。支部入口のエントランス中央にドカンと陣取っている上質の寝具に対して、俺は直ぐに出せる有効打を持ち得ていなかった。いや、正確に言えばいくつか案っぽいのは浮上したんだが、そのどれもがあまりよろしくない。正直、秘密裏に処分した方がまだいいんじゃないかってとこまでワンチャンある。それ程までに「限られた贅沢」というものは時として猛毒となり集団に襲い掛かるのだ。

 

 案その一。どこかの宿舎に勝手に運ぶ。却下。

 運び込まれた部隊の連中はそりゃあ喜ぶだろう。それだけを考えてみれば、悪い一手ではないように思える。がしかし、狩人と処刑人のみで構成されている第五部隊を除外したとしても、今うちの支部では四部隊が稼働している。そして、当然ながらこのエレガントなベッドは一つしかないのだ。いきなり一部隊だけ寝具のグレードが跳ね上がったのでは不平不満が噴出するのは必至である。そんな見え見えの地雷を踏み抜く訳にはいかない。

 

 案その二。俺の私室で使う。却下。

 悪くはない。悪くはない案だとは思う。もしこのハイパーなベッドの存在を俺一人しか知り得ないのであったなら、極めて有効な手段だった。だが、今ここには俺だけでなく頼れる後方幕僚様も存在しているのだ。そして、基本的にコインで得られる家具というのは宿舎のため、つまりは戦術人形への福利厚生の一環として扱われなければならない、らしい。カリーナが言ってた。

 結び付け方は多少強引だが、支部の物資としてカウントされているはずのコインを利用して自室の環境を整えたとなれば、広義で捉えれば横領にも見える。別に本部や他所の支部からどう思われようが知ったこっちゃないが、俺の評判の良し悪しだけでなく、この支部、ひいてはこの支部に所属する戦術人形やカリーナの評判まで無為に落としてしまうのは俺が望むところではない。更に、如何にくそったれな世界で如何にブラックな企業とは言えども、自ら犯罪に手を染めるってのはちょっと遠慮しておきたい。腐っても元軍人だし。あと、俺の趣味趣向を加味させてもらうとこんな綺麗目かつ可愛らしい寝具はちょっと似合わない。おじさんだぞ俺。しかも何か柔らかすぎて逆に腰痛めちゃいそうだしさあ。

 

 案その三。戦術人形たちにどこに運ぶか選ばせる。却下。

 間違いなく戦闘になる。特にG11辺りがヤバイポテンシャルを100%発揮しそうである。あいつ普段はぐうだらの極みみたいなヤツなのに、一度スイッチが入るとかなり危険だ。SOPMODⅡもかくやと言わんばかりのキリングマシーンっぷりを見せ付けてくれるからな。流石に最適化工程の差もあってAR小隊の連中には敵わないだろうが、逆を言えば本気のG11を止められるのはあいつらくらいしか居ない。

 俺が命令すれば無駄な戦闘行為にまでは発展しないだろうが、何の生産性もない確執だけが残ってしまうだろう。そもそも、選ばせるって手段を取る時点でそこに優劣が存在してしまう。全員を公平に扱いたい俺としては、結果としてそうなってしまうのはよろしくない。俺は人形にそこまで明るいわけじゃないが、少なくとも擬似感情モジュールに嫉妬や羨望という感情は設定されていない、なんて勝手に思い込めるほど馬鹿じゃないのだ、残念ながら。

 

 案その四。カリーナに使わせる。ちと悩んだが却下。

 こいつも雇われの立場だから、福利厚生の適用範囲内です、というゴリ押しは多分出来る。というか、流石にその程度であればクルーガーが相手だろうが黙らせられる自信はある。ヘリアントスも同様だ、カリーナの労働環境はマシになったとは言えまだ良いと言えるレベルではない。もし何かお小言を言われたとしても、人形よりも人間の環境を先に整えることに対してごちゃごちゃ言うなと突っぱねてやりたいくらいだ。

 だが、肝心要のカリーナ本人がおそらくいい顔をしない。勿論、指揮官権限で使わせることは出来なくはないが、守銭奴らしい一面はあれど彼女は基本的に真面目である。俺がゴリ押したとしても、それが本人の満足度に繋がらなければ意味がない。割り切って自身の快適度向上を素直に受け入れられるほど、彼女の肝が据わっていたのなら話は違っていたんだろうが、まぁそれをカリーナに求めるのは少々酷というものか。あの子には素直なまま経験を積んでもらいたいしな。何か父親っぽい気持ちになってしまった。でも歳の差で言うと娘みたいなモンだしなあ。

 

 いやー、どうしようこれ。間違いなく品物として上等なのは分かるんだが、ここまで扱いに困るとは。皆でホームパーティでもしようぜって菓子やら安酒やら持ち寄っていたら、いきなり本マグロまるまる一本を生身で持ち込まれたような感じだ。グレードが違いすぎて困惑する。

 

「あ、あのぉ、指揮官さま……?」

 

 エクセレントなベッドを前に一人ウンウンと悩んでいると、頼れる後方幕僚が声をかけてきた。何か妙案でも思いついたのだろうか、それとも自分で使いたいとでも言い出す気か。何にせよ俺一人じゃ素敵な解決策も思い付きそうにないので、その先を視線で促してみる。

 

「いえ、あの、普通に沢山コインを使って家具を揃えればよろしいのでは……?」

 

 天才かよ。いや俺が馬鹿だったわ。

 そうだよ、何が問題かと言えば、このパーフェクトなベッドが一つしかないってのが一番の根本要因だ。数さえ揃えば全宿舎に分配出来るじゃん。コインはまだ10枚使っただけだから、単純に考えてあと190枚くらい残っているはずだ。同じ家具が手に入る保証はないが、ある程度似通ったものが複数手に入れば大きい不満は出てこないだろう。それこそ着任時期や貢献度の差などを盾にすれば逆に丁度いい塩梅になるのではないか。

 よし、そうと決まれば今あるコインは全部使ってしまうか。どうせ死蔵させていても意味のない物だし、任務や指令をこなしていればまたいずれ貯まってくるだろう。ただ、こいつと同じベッドが来る保証は何処にもないので、先んじてこれをどこかの宿舎に運んでしまうと、万が一が起こりかねない。一旦は施設内の端っこに寄せておこう。何か展示物みたいになっちゃうけど仕方がない。しかし前線基地のエントランスにベッドが鎮座してるって絵面ヤバいな、まぁ他に来客なんぞこないからいいんだけどさ。

 

 と、いうことで。司令室にとんぼ返りして余っているコインを全部カリーナに持ってきてもらい、その全てをせっせこせっせこスキャンすることになった。予測はしていたが、これメチャクチャに面倒くさい。放置していた何百枚もの書類にひたすら指揮官印を押し続ける動作と少し似ている。これは一気にやってしまうのは精神衛生上あまりよろしくないな、心が死ぬ。だが、これで明日の朝には19点の家具がうちに運ばれてくるはずだ。勿論ベッドだけじゃないだろうから大小様々あるとは思うのだが、これ何台トラック必要になるんだろうな。配送業者さんには申し訳ないことをしてしまった。だがうちの支部の安寧がかかっているんだ、頑張って運搬して頂きたい。

 あとベッドはとりあえず保留にしておいたものの、このダンボールの山は早々に片付けておいた方がよさそうだな。第五部隊の宿舎にでも放り込んでおくか。暇を持て余した処刑人辺りが全部粉々にしてくれるだろう。あいつ普段の役目シュレッダーにしてもいい気がしてきた。鉄血のハイエンドモデルをゴミ処理に使うなど贅沢にも程があるが、現状訓練以外ではあいつの使い道がない。ストレス解消にもなるだろうし別にいいだろ。

 

 

 そしてまたまた翌日。無事19点の家具が大量のトラックに載せられて運ばれてきた。かなり広いはずの支部エントランスが大小のダンボールで埋まってしまう事態は容易に想像がついたので、事前に戦術人形たちも集合させておいたが正解だったな。昨日の段階でエントランスに座しているベッドについて幾人かの人形に質問されたりもしたが、明日説明すると適当に濁しておいた。このダンボールの山で理解はしてくれただろう。

 人形にも手伝ってもらいながら全部のダンボールを無心で開梱した結果、それはもう様々なアイテムが手に入った。趣は違えどベッドも手に入ったし、少なくともこいつが原因で闘争が巻き起こされる事態は避けられたと見ていいだろう。他は椅子やらテーブルやらクッションやらソファやらぬいぐるみやら燭台やらタンスやらポスターやらカレンダーやら壁掛け時計やら、本当に雑多な感じで統一感の微塵もない様相を醸し出していた。すべての宿舎グレードを平均的に底上げするには些か不十分な量と質だが、まぁ人形ごと部隊ごとの好みや優先度もあるだろうし、早々大きな諍いには発展しないはずである。

 肝心の分配だが、力量差に関わらずかつ公平性の保てる選び方をちょいとばかし考えた結果、最初に隊長格同士でじゃんけんをしてもらい、勝った順で選び、そこから一巡を繰り返して19点を選んでもらうことにした。G11がただならぬ気配をUMP45にブチ当てていたが、当の本人は何処吹く風だったのが印象的だ。

 

「あ、指揮官さま。クルーガーさんから通信が入っていますよ」

 

 ハチャメチャに気合の入った白熱じゃんけんを少し離れたところから眺めていると、カリーナがふいに声をかけてくる。んん? クルーガーからか、なんだろう。最近は俺の知る限りじゃ鉄血側にも目立った動きはない。ヘリアントスではなく、態々クルーガーが直接通信を繋げてくるあたりただの連絡じゃないとは思うが、考えてみても思い当たるフシがない。

 まあ、分からんことを考えていても仕方がない。社長直々に通信が入っているなら取らないわけにはいかんしな。ということで俺は司令室に行くから、カリーナはこいつらの結果を見守っていてくれ。大した騒ぎにはならないとは思うが、もし何か問題が発生したらすぐに報せてくれ。それじゃよろしくー。

 

『おはようコピー指揮官。早速だが、幾つか伝達事項がある』

 

 司令室に戻り通信に応答、スクリーンにいつもの仏頂ヒゲ面が映し出された直後の第一声。極短い挨拶とともに、ファッキンクソヒゲ野郎から放たれた伝達事項ってのはこうだ。

 今、俺が管轄している支部およびその地区一帯、グリフィンの組織図で言うとT01地区ってとこなんだが、うちの周辺がほぼ完全にクリアとなったことから、支配地域をやや拡大していく方針を固めたらしい。で、その方針とそれに伴って編成に変化が起きるらしいから、それを報せに通信を入れたってことらしかった。

 

 グリフィンが支配下に置いている地区には、それぞれ名前が付いていて、その名前にも一定の規則性がある。まず、アルファベットで大まかな地域を設定する。そこから数字で細かな地区管轄を定め、基本的に一つの支部で一つの地区を統治するスタイルを取っている。で、アルファベットはそのまま順番に付けられているから、単純に若い英字である地区ほどグリフィンの地区としての歴史が古いことになる。A01地区とかだと最古の管轄地区ってことになるし、S02地区なんかは割と新しい部類に入るな。

 その例に則って言えば、俺が管轄しているT01地区ってのは一番若いことになる。着任当初から思っていたが、明らかに建物自体が新造だったしな。その時は比較的新しい支部なんだろうくらいにしか感じていなかったが、マジで一番新しい地区だとは思わなかった。ていうかほんと今更だけどそんなバリバリの橋頭堡的な地区に新人を一人で放り込むんじゃない。

 まぁいいや。んで、今回は支配地域を拡大、つまり新たな地区を設定するらしく、そこがT02地区になるだろうとのこと。確かにうちの支部周辺はほぼ完全にクリアだが、逆を言えばうちから直ぐに手を出せないエリアとなるとちょっと自信がない。そして更に、俺がすぐに状況の把握が出来るような近い距離に新たな支部を新設してもそれこそ意味がない。そこらへんどうなのと聞いてみると、どうも地区を管轄している指揮官たちとは別で、そういう地域調査や観測を主に行う部署が本部付きで存在しているらしい。ほーん、なるほどね。まぁ普通に考えてみたら、決して狭くない範囲を統括している立場のやつらが、現場からの声だけで全てを判断しているとは考えにくい。別で情報取得の手段なり方法なりは持っていて然るべきだ。

 

 要件は分かった、がしかし、その程度の連絡であれば別にクルーガーが出張らずとも、ヘリアントスでよかったんじゃないかとも思う。それとなく聞いてみれば、どうも話はそれだけじゃあないようで。何だよもったいぶりやがって。とっとと喋れこのヒゲ野郎。

 

『そう急かすな。先般発生したS02地区への強襲事件もあって、情報伝達の手法に少し変化をつけようと思っていてな、どちらかと言えばこちらが本題だ』

 

 ほう、なるほどな。確かに現状の本部で一括管理という体制では、情報の精度は上がるが速度が犠牲になってしまう。前回みたいな速い展開にはその伝達速度が追いつかないのだ。流石クルーガーとでも言っておくか。俺はこいつを散々ボロクソに言っているが、油断ならないのはこいつの割り切り方と俺に対する遠慮の無さであって、能力自体は疑問視していない。むしろメチャクチャ優秀な部類に入ると思っている。だからこそ尚更性質が悪いとも言えるんだが。

 更に話を聞いてみると、現在は各支部単位の情報を全て本部が一括して吸い上げているわけだが、その間に一枚挟もうということらしい。単純に言ってしまえば、中間管理職を据えるってことだろうな。A地区の情報、B地区の情報、みたいな感じで地区代表の支部が取りまとめ、これまでのような地区単位の独立制ではなく、地域単位である程度の連携を取らせて行こうって感じだろう。情報伝達の速度向上、また地域内での並行的な情報共有も可能になるから、前回のように一地区が奇襲を受けたとしても、地域全体である程度カバーも出来る。

 そもそも、他の地域の出来事なんか余程でない限りは直接関係がない。それこそ今までのような本部一括体制で十分である。前回は距離があったとはいえ、S02地区とT01地区がたまたま移動可能な距離で、うちの部隊が動けたから対応しただけだ。更に言えば、うちには戦力的なジョーカーが居たからこそ取れた手法であって、本来は近隣地区同士で連携して対処しなければいけない事案である。別地区が出張ること自体が異常なのだ。

 その地区代表支部とやらにどこまでの権限を与えるかは調整が必要だろうが、何にせよ組織というのは、正しい比率のピラミッド状となって初めて健全に機能する。学校だって、校長先生が居て、学年主任が居て、学級担任が居るのだ。校長一人ですべての生徒の面倒を見ろというのは土台無茶な話である。そして、あるクラスで起きた問題に対して、別の学年の学級担任が首を突っ込むのは普通有り得ない。つまりはそういうことだ。

 

 ま、理屈としては正しい采配なのだと思う。誰を据えるかという問題はあるにしろ、どちらにせよ現行の体制のまま拡大し続けていてはいずれ本部が決壊する。一現場の意見として言わせてもらえば、むしろ少々舵を切るのが遅すぎたんじゃないのとも思うが、今までそれで回っていたってのもあるんだろうな。現状に大きな不具合がなければ、経営層としてはどうしても処理を後回しにしてしまうのは何処にでもあり得ることだ。重い腰があがった分、よかったと思うべきなんだろう。

 

『理解してくれたようで何よりだ。そこでT02地区の新設に伴い、T地域の統括をお前に頼みたい。T02地区の最終確認と支部建設が完了次第、新任の指揮官を配属する予定だ。時間はかかるだろうが、いずれ挨拶にも向かわせよう』

 

 ハイ却下。こいつ何さらっと押し付けようとしてんの。話の流れで俺が首を縦に振るとでも思ってんのかクソヒゲめ。やるわけねーだろそんな面倒くさいこと。そもそも俺はグリフィン全体で言えばまだまだ新参だ。そんなやつがいきなり上に据えられて下の奴が納得するとは思えない。こいつにしてはかなり雑な押し方だな、それが通るとでも思ったんだろうか。

 

『そうは言うがな。お前の下に居る狩人と処刑人についてはどうするつもりだ。俺とお前とが直通で話が出来るからこそ問題になっていないだけだ。その間に一枚噛むことになれば、隠し通すのは難しいぞ。お前の事情も加味した采配だと思って頂きたい』

 

 ぬぐぐ。チクショウめ、どうにもお粗末な押し方をしてくるなと思っていたが、隠しカードを持っていやがったか。言われた通り、うちの支部では鉄血製のハイエンドモデルが2体、何故か俺の指揮下に収まっている。話の分かるクルーガーだからこそ今どうにかなっているだけで、普通なら大問題だ。さっさと処分しろという話になる。俺の上に乗っかる代表指揮官殿に話が通じればいいんだが、かなり分の悪い賭けになることは間違いない。更に、俺が狂人扱いされるだけならまだしも、鉄血の人形と一緒に居る他の連中にまで奇異の目を向けられるのはたまったもんじゃない。処分してもいいっちゃいいんだが、現状では新たな狩人と処刑人の発生が確認されていないから、こいつらが存在することによって鉄血の戦力を削ぐことにもなっている可能性がある。クルーガーとしても判断に悩むところだろう。ペルシカリアの手も入っていることだしな。

 つまり、何処にも荒波を立てることなく現状どおりを貫くには、俺とクルーガーが直接やり取り出来る立場とラインを維持しなければならない。当然、今回の地域代表には俺が立たなきゃならなくなる。うわー詰んでるじゃんこれ。クソかよ。

 

『そういうことだ。よろしく頼むぞコピー代表指揮官殿』

 

 うわ、腹立つ。余計な肩書きと責任と業務範囲だけが引っ付いてきやがった。まあ、とは言っても普段の仕事がそこまで増えるわけでもなさそうだ。それぞれの地区には当然支部が立てられ、そこに指揮官が居るわけだから、その地区で完結する業務は当然そっちでやってもらうことになるし、うちの支部だって仕事が無くなるわけじゃない。あくまで有事の際に対応出来るようにということと、恒常的な情報網を新たに構築するというだけで、俺が直接面倒を見る場所が増えるわけでもない。冷静に考えればまだギリギリ許せる範囲でもある。やっぱこいつ油断ならねえ。いつかまたヒゲ毟ってやるからな。

 

『それと、幾つかの補足事項だが』

 

 なんだ、まだ何かあるのかよ。割と不機嫌な感じを醸し出して応答してやれば、ずっと無表情を貫いていたヒゲ野郎の口角が僅かに吊り上がったのが見えた。

 

『そう拗ねるな。一つ目だが、前回お前の支部で発生した鉄血襲撃事件への補填だ。物資の融通は難しいが、その代わりに新たな戦術人形を2体、向かわせる予定だ。指揮下に組み込むといい』

 

 おお、マジでいい報せだった。鉄血襲撃事件といえばあれだな、狩人と処刑人がうちの支部に逃げてきた時のやつだ。あの時は支部の外壁も人形のダミーも相当やられたから結構な物資が吹き飛んだのだが、新たな戦術人形という形での補填は正直ありがたい。

 どのタイプが来るのかは分からんが、出来ればハンドガンタイプが望ましいところだ。現状、点の火力で言えば十分過ぎるほどに足りている。どちらかと言えば、足回りの部隊を強化しておきたい。俺も義足のおかげで多少の教練は出来るようになったし、2体ならそこまで教育に手間もかからないだろう。

 

 

『もう一点。S02地区だが、現状S地域の中では飛び地的な立地になっていることに加え、T地域の拡大に伴ってエリアを再編する。新設予定のT02地区に加えて、S02地区は復興作業が終わり次第、T03地区へと名称を変えてお前の管轄下に置くこととなった』

 

 

 ちょっと待て今なんつったこいつ。




クルーガーパンチ! おじさんの胃にこうかはばつぐんだ!

ということで、ちょっとだけ話が進みました。そしておじさんが管轄している地域の名前が出ました。やっとです。そこ、今まで忘れてたとか言わない。


それと前回のあとがきで、少し離れている間にドルフロの二次が結構増えてるなーって書いたんですが、ありがたいことに筆者の作品を見て新たに書き始めた方が居たり、筆者の作品を見てゲームのドルフロを始めた指揮官さまもいらっしゃるらしく、嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちです。
皆様から高い評価も頂けていて、一歩間違えると天狗鼻になりそうなので今後もひっそりと頑張ってまいります。よろしくおねがいします。


あと、新設地区の指揮官はどうしようかなとちょっと悩んでます。多分ただのモブですが、全面的に出していくかどうか、ですね。
スピンオフを書くほどの内容でもないですし、そこまでの余力もないのでキャラだけ出して終わると思いますが。
あわせて新しい戦術人形もどうしようかなぁと。候補は居るんですけどね。
ま、適当に考えてたらどうにかなるでしょう。今後もゆるーい感じで行きたいと思います、よろしくお願いします。


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32 -カムフラージュ大作戦-

今回ちょっと個人的に新しい試みを加えています。


 まったく、面倒くさいこと押し付けやがってあのヒゲ野郎め。実際あいつの言う通りなところもあるから余計に腹が立つ。正直、狩人と処刑人に関してはまだ俺自身もその全容を掴みきれていない。訓練の様子や普段の会話から察するに、俺たちに害を為そうと考えているフシは少なくとも見当たらない。それがあいつらの思考回路からなのか、セーフティシステムのお陰なのかは分からないが、とりあえず今のところは小康状態を保てているといったところだ。俺の言うことも聞いてくれているしな。

 だが、だからといってその結果があいつらを表に出していい免罪符には成り得ない。そもそも、肝心の人間を襲うようになったエラーの詳細が依然不明なままだ。ペルシカリアも、そこまで探るには電脳の相当奥深くまで入り込まなければならないらしく、そうなると流石に対ハッキングプロテクトが作動してあいつらの電脳が自死してしまう。あの二人は俺の指揮下にはあるが、同時に貴重なサンプルでもある。安易に使い潰してしまうには些か惜しい存在だ。

 そんな微妙な立ち位置にいる鉄血のハイエンドモデルを、無闇に表舞台に出すにはまだまだリスクの方が大きい。ここは俺とクルーガー、そしてペルシカリアという秘密のラインを保持しつつ様子見の期間を置く方が賢明だ。だからこそあのヒゲも、情報伝達の手法を変化させる中で、俺との距離を維持したいがために俺に代表指揮官の役を押し付けたんだろう。やってることと言ってることの正当性が担保されているだけにムカつく。何か良いように転がされている気がせんでもない。流石にこれは穿ち過ぎな考えだとは思うが。

 

 とは言え、当分は何かが変わるわけでもない。

 T02地区もまだ支部の建設どころか、どれくらいの範囲をT02地区に定めるかも決まりきっていないようだし、S02改めT03地区も復興作業にはまだ時間がかかる。支部建設に当たっては新たな人員も、戦術人形も確保しなければならない。特にT地域に関しては一般民の流入が無く、戦闘の側面が強い地域だ。つまりT地域に新たな着任する指揮官には、内地で内政統治を主に行っているようなタイプではなく、俺のような前線に適正のある人材が求められる。

 今日日そんなやつがフリーでウロウロしているなどとは考えにくい。戦えるやつ、あるいは戦いに適正があるやつはとっくに他の戦闘重視のPMCや正規軍に入ったりスカウトされたりしている。俺が軍に居たときも、鳴り物入りで入ってきた新人なんかも居たしな。まぁそういうのは大体半分くらいはハズレなんだが。

 しかしながら、別に何もしなくていいわけでもないのは困りどころだ。クルーガーも言っていたが、新人の指揮官がT地域に着任するということは、普通に考えてその地域を代表する支部や指揮官に一度くらいは挨拶に行く。今までは地区単位で本部が見ていたからその必要性も無かったんだろうが、これからはちょいと勝手が異なってしまう。そこまで頻繁に人の出入りがあるとは思えないが、何にせよ狩人と処刑人が外部の目に映る可能性は増して行くばかりだ。一から十まで説明して全員に理解と賛同を得られるとは思えないし、隠し通すことによる違和感だけならまだしも、不信感を持たれでもしたら困る。何らかの対策はとっておいて然るべきだろう。

 

 うーむ。かといってじゃあ何が出来るのかというと、それはそれで見当が付かず困る。まさかあの二人をずっと予備宿舎に詰め込みっぱなしって訳にはいかんだろうし、緊急時などはアポ無しの来客も考えられる。通信の頻度もこれから増えていくだろう。そうなった時に声だけならまだしも、映像が入ってしまうとそこから余計な細波が立ちかねない。

 元々、鉄血工造社自体はI.O.P社と自律人形のシェアを世界で二分していた大企業だ。蝶事件で瓦解してしまったとは言え、会社の認知度、そして製造していた自律人形の認知度も高い。ハイエンドモデルともなれば早々皆が容姿まで知っているとも思えないが、知っているやつが居ても全くおかしくは無い。あの基地に居るの鉄血じゃね? みたいな噂が立ってしまうともう限りなくアウトに近い。出来る限りそういう可能性は潰しておきたいところだ。出来るかどうか分からんが。

 二人の外観から魔改造するわけにもいくまいし、いやそれはそれでありっちゃありか? 別にあいつらはI.O.P社の所有物って訳でもないし、言い方は強引だが俺の所有物と言ってもいいんじゃないだろうか。あ、いややっぱりダメだな。電脳にペルシカリアの手が入っている以上はそうも主張しづらい。そもそも勝手に弄繰り回す技術も知識も持ち合わせていないからなあ。

 

 うーん、せめて見た目だけでもパッと見誤魔化せる程度にはしておきたいんだが、何かいい方法はないものか。あらゆる物資が貴重な中、ちゃんとした服なんかは余っていないし、I.O.P社製の戦術人形の服装じゃあいつらにとって小さすぎる。着替えでも出来れば多少は印象も変わるんだろうが、さてどうしたもんか。

 

「あ、指揮官さま。通信は終わりましたか?」

 

 ああでもないこうでもないと、無い脳みそを一生懸命捻りながら歩いているとどうやらエントランスにまで戻ってきてしまったようだ。俺の姿を確認したカリーナが声をかけてくる。家具争奪戦がどうなったかの結果も知りたかったし、まったくの無駄足ってわけでもないんだが、悩みのタネが頭の中に残り続けている状態ってのは経験則上あまりよろしくない。一定のリソースが常に食われる状態なので、あらゆるパフォーマンスが低下する傾向にある。どうにかしてそれなりの区切りを自分の中でつけておかないとマズいなこれ。

 

「45……私はずっと恨むよ……恨み続けるよ……45……」

 

 恐ろしく底冷えした声に思わず首を動かせば、そこにはすべての表情が失われたG11が存在していた。うわぁ、キツい。多分あれUMP45がじゃんけん負けたんだろうな。んで、ベッドが取られたと。最初のビューティフルなベッドの他にもう1点そこそこのグレードっぽいやつがあったと思うのだが、計20点の家具のうちベッドはその2つだけだ。どこの宿舎に入ることになったのかは分からんが、第三宿舎でないことは確実だな。まあ、あれくらいなら許容範囲だろう。G11が本気になっていたら今頃暴れているだろうしな。

 

「まったく、家具の一つや二つでぐちぐち言わないでくれる?」

 

 そんなG11を尻目に心底面倒くさそうな声を上げるのはHK416だ。聞こえてくる言葉だけを勘定すれば非常に大人らしい印象なのだが、お前その右脇にガッツリ抱えてるクッションは何だ。これ突っ込んだら負けかな。見なかったことにしておこう。

 

 その他の部隊はそれなりに満足した結果のようで、ぶつくさ言ってるのは第三部隊……というよりはG11だけっぽい。まぁ睡眠が何よりの趣味だからなあいつ。より上質の惰眠を貪れるアイテムがとられたってのはショックが大きいんだろう。いずれまたコインは貯まるだろうし、次にベッドを引き当てたら第三部隊に融通してやるか。他の家具なら公平に扱うべきだが、新しいベッドがない宿舎に優先的に回したところで大きな不満は出ないだろうし。

 

「しっかしよ、こんなのどーすんだ? 暇潰しに切り裂けばいいのか?」

 

 ふと声がした方に視線を向ければ、そこには大きな壁掛け布を手にした処刑人の姿があった。あいつらも一応うちの部隊員ではあるから、入りから不公平はよくないということで今回の争奪戦に呼んだのだが、肝心の狩人と処刑人が家具に対してまったく興味を示さなかった。ただ、だからと言って一つの宿舎だけダンボールのままというのはあまりに味気なかったため、あいつらには最後まで選ばれなかった4点を進呈することにしていた。

 そのうちの1点、グリフィンのマークが描かれた大きい布を手に処刑人が何とも言えない表情をしている。そりゃまあ、クッションやらソファやら使い道のある家具ならともかく、あんな実用性皆無の装飾品を貰ったところで情緒に乏しい鉄血人形じゃ有難味もないだろうなあ。

 

 お、待てよ。ちょっといいこと思いついた。ピンときた俺はそのまま処刑人に声を掛ける。もし使わないようなら一度その布を預からせて欲しいんだがどうかな。

 

「あ? 別に構わねぇぜ。俺が持ってても使わねぇしな。狩人も要らないだろ?」

「ああ、構わん。もとより指揮官の持ち物でもあるのだろう? 好きにしろ」

 

 オッケーオッケーサンキューな。

 じゃあすまないが、その布はこっちで回収させてもらおう。あ、お前ら自分で選んだ家具は自分で運べよ。配置は好きにしていいから、とりあえずこのエントランスを綺麗にしてってくれ。そんでもってカリーナ、幾つかお前に依頼したいことがある。買いたいものもあるからちょっと用立ててくれ。その分の代金はきっちり払うから。

 

「はいはい、なんでございましょう? ……ええ、はい、可能です、出来ます。…………ははあ、なるほどなるほど。畏まりました! そういうことでしたらこのカリーナにお任せください!」

 

 おおっと、予想以上の好感触。プランは閃いたものの、俺一人の力ではどうにも出来ない内容でもあったからな、この反応は正直助かる。

 よし、じゃあ早速取り掛かるか。いやあ、こんなオママゴトみたいなことに多少なり時間を割くことが出来るっていいな。今まで頑張ってきた甲斐があるというものだ。しかし、こんなお遊びにちょっとテンション上がってる俺も俺だなあ。如何せん軍人時代から此の方、娯楽というものからはずっとかけ離れた生活をしていたもんだから、酷く新鮮にも感じる。こういうのを童心に帰るとでも言うのだろうか、この歳になって実感したくもなかったけどさ。

 

 

 そんでもって翌日。カリーナと色々と話し合ったり作業したりしてたら思ったより時間が経ってしまいちょっとばかし眠気が残っている。いかんなあ、寝不足は身体にとって大敵だというのに。特に俺の歳だとそんな無理も利かないからつらい。その点カリーナはいいよな、若いもん。

 そうそう、そのカリーナだが、最初の悪印象こそあったものの今では割と狩人、処刑人とそこそこ上手くやっている。まだ少々ビビりがちなところはあるが、あいつらに危害を加える気がないと分かってからは生粋の親しみやすさもあってか、意外と話が出来ているようだ。特にここ最近では業務の合間を縫って色々と人間社会の常識や世界情勢なんかも教えているようで、あの二人からはカリンと呼ばれているらしい。そういえば、出会ったときにそう呼んでくれと言われたような気もしないでもないが、すっかり忘れていた。というか狩人と処刑人が人間の名前を覚えて呼ぶって結構凄いことじゃないのか。何か俺より仲良くなってない? いやまぁ、基地内の人間関係、いや人形関係と言うべきなのか、よくわからんが、そういう関係が良好かつ円滑になるのは喜ばしいことではあるのだが。

 

「いやー指揮官さま! 自分で言うのもなんですが、中々の出来ですよこれは!」

 

 寝不足で若干テンションの低い俺の横で、ぶち上がっている後方幕僚様が上機嫌な声をあげている。嬉しいのは分かるがもうちょっとボリュームを落として欲しい。耳と頭が痛い。

 実務としては俺はほとんど手を動かせなかったから、今回のプランを実際に行動に移したのはほとんどがカリーナだ。こいつほんと器用だな。後方幕僚から何でも屋にでも転身した方がいいんじゃないの。いや、だからってそうされると俺の業務量が恐ろしいことになるから出来れば勘弁して欲しいんだけど。

 

「んお? なんだ指揮官じゃねえか、何か用か?」

 

 カリーナと二人で足を運んだ先は、狩人と処刑人に充てている予備宿舎の一つだ。軽くノックすると、一拍置いて処刑人が顔を覗かせる。狩人は相変わらず瞑想でもしてんのか、静かに座したままだ。あいつ真面目ちゃんなのかな。思考回路自体はかなりブッ飛んでるけど。

 

 とりあえず宿舎にお邪魔させてもらい、持ち寄ったアイテムを狩人と処刑人に早速渡そう。つーことでお前ら、ちょっとこれ被ってみてくんない?

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うお……何だコレ、めちゃくちゃ動きにくいんだが……」

「ふむ……私たちの見た目の偽装が目的か?」

 

 うーん、やっぱりあんまし印象は良くなさそうだな。まぁこいつら明らかに動きやすさ重視の見た目してるし、何なら露出狂一歩手前くらいの恰好だからな、こんな全身に布が纏わり付くような服装は経験がないだろう。

 狩人はこちらの思惑を察してくれているようで何よりだ。まぁ些か不恰好なことは否めないが、ただの布から派生させたにしては何とか服の体を為しているだけ上手く出来たと思う。いずれちゃんとした服も準備してやりたいところだが、取り急ぎのレベルだとこの程度が限界だ。そもそも、こいつら二人にそこまで手間隙かけるのもどうなの、と思うが。

 ただ、とりあえずこれで鉄血っぽさはある程度隠せるとは思う。常日頃からこの恰好をしろとまでは言わないが、来客の予定があったり、何かしら隠す必要がある時はすまないがこいつを被っておいてほしい。多分ないよりはあった方がいいだろうし、武器やら処刑人の右腕やらを隠せるだけなんぼかマシだろう。

 

「……まあ、カリンから色々教えてもらったしよ、必要性は分かるっちゃ分かるんだが」

 

 不満は拭い切れないながらも、なんだかんだぶつくさ言いながらでもこっちの意を汲んでくれるってのはありがたい限りである。

 

「一ついいか、指揮官」

 

 とりあえずの服モドキを一通り眺めてから、狩人が一言。うーん、何かしらの要望が出てくることは予想していたが、さて何を言われることやら。別に宿舎に居る時にまでこれを被れとは言わないから何とか穏便に済ませて頂きたいものである。つーか何故俺は鉄血の人形相手にここまで手を焼いているんだろうな。昨日はちょっとテンションが上がっていたが、冷静に考えると不相応な気さえしてきたぞ。いやまぁ作っちゃったからもう後戻りはできないんだけどさあ。

 

 

 

 

「私には人間の美的感覚は良く分からんが……有体に言って、これはいわゆる"ダサい"というやつではないのか」

「お、狩人もそう思うか。俺もそう感じた。そこらへんどうなんだ指揮官」

 

 やめてやれ。カリーナの目が死んだぞ。




ということで、試験的に挿絵を入れてみましたがどうなんでしょうね。
かなり時間を食われるのでラフが一杯一杯なんですが、まぁこうやって偽装させるのもありかなぁと思いまして。

今後やってくかは分からないです。というか普通に文章を考える以上の労力がかかるのでかなりしんどいです。
正直個人的には目の保養ポイントがほぼ全部潰れるのであまり着せたくないです。

絵で表現したいポイントというのは確かにあるんですが、しっかり描き込むとまぁ結構な日数がかかる上に、この場で表現する本質ではないと思うので、まぁお遊び程度に捉えてやってください。


あと本文中でも書きましたが、実際T02やT03が完成するのは時間軸的に割と向こうの話なので、その間はちょこちょこほのぼのしていきたいと思います。何かいい案あったらください(乞食スタイル)


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XX -おじさん、外の世界を知る-

ぱられるぱられる~~~~


「指揮官さま、お届け物が届いております。どうも本部からのようですが」

 

 東の地平から灼熱の根源が顔を覗かせ、足元に伸びる黒い分身が少しばかりその背丈を縮め始める時間帯。今日も今日とて俺の副官を務めている後方幕僚様が、一通の封筒を手に持ちながら司令室へと足を運んできていた。

 カリーナから封筒を頂き宛名と差出人を確認すると、確かにこいつは俺、というよりこの支部宛に届いたものであり、差出人はG&K本部付となっていた。クルーガーやヘリアントスの名前が書かれていないことから、個人的なものではなく、どうやら社として配達している類のものらしいことは察しが付く。

 がしかし、生憎俺にはまったくもって心当たりが無い。そのような言伝も受け取っていないし、クルーガーからも何も聞いちゃいない。まぁわざわざ本部が送るくらいだから変なものではないだろうが、それにしたっていきなり予定に無い物を送りつけられても反応に困る。開封するのもちょっと怖い。蓋を開けてみたら訳の分からない極秘指令みたいなのが入ってたりしないだろうな。会社の名前を使う以上あのヒゲもそんな悪巧みをするとは考えにくいが。

 何にしろ、支部宛で本部から届いた封筒なら開けないわけにもいくまい。俺個人に宛てたものでもないので、秘匿情報ってわけでもないだろう。カリーナと一緒に封を切ることにする。

 

「社内報……ですか……」

 

 封筒の中から現れたのは、一冊の薄い冊子であった。

 

 後で知ったことだが、このグリフィン社内報、定期的に本部から各支部宛に送られているもののようだった。グリフィンはその組織運営の仕組み上、横同士の繋がりが極めて希薄だ。何せ俺はお隣と言って差し支えない距離の地区の連絡先すら知らなかったわけだからな。で、流石に全く情報がないってのは本部もどうかと思ったんだろう、社内報という形で他所の地域や他所の支部でどのようなことが起きているのか、シリアスなニュースからコミカルなトピックスまで、コンプライアンス的観点から差し支えの無い範囲で情報をまとめて発信しているらしい。

 じゃあ何で今までうちには届いてなかったんだって話なんだが、それも単純な理由で、今まではこのような重要度の低い物資を配送出来るほど治安がよくなかったから、だそうだ。言われて見れば確かに、俺がこの支部に着任した当初は本当に支部の建物周辺は何とかなっていたが、ちょっと離れるとそこらへんをファッキン鉄血人形どもが跋扈していたようなエリアだったからなあ。AR小隊をはじめとしたジョーカーの活躍もあって、今では支配地域を拡大出来そうなくらいには一帯を掃討したが、逆を言えばこの地域一帯がクリアとなるまではそんな雑誌を配送する余裕も意味もなかっただろう。

 そして漸くというのか、そのようなアイテムもある程度気軽に配送出来ることになったために、今回うちの支部にも送られてきた、ということだ。

 

「でも確かに、他の地域でどんなことが起きているのかは気にならないといえば嘘になりますよね。指揮官さま、ちょっと読んでみませんか?」

 

 その興味を隠そうともせず、カリーナがやや早口で話しかけてくる。こいつ自分に正直だな、まぁいいけど。確かに俺自身、この支部に指揮官として着任してからというもの、他所のことについてはてんで知らされていなかった。せいぜいがS02地区についてくらいだが、あんな知り方したくもなかったよ。イレギュラーにも程がある。

 S02地区のことを差し引いて考えてもカリーナの言う通り、他所のことに全く興味が無いといえば嘘になる。もしかしたら支部運営についてだとか、戦術人形との関わり方だとか、新米おじさんの俺にとって有益な情報が手に入る可能性も無くはない。これがクルーガーやヘリアントスあたりが個人的に発行しているものなどであれば話は違うだろうが、腐っても社の名前を冠して本部が公式に配布している冊子である。早々頭がおかしい内容が載っているということはあるまい。幸い現状、そこまで業務に追われている状態でもないし、小休止も兼ねて一読する程度の時間は十分に確保出来る。後方幕僚様も興味津々の様子だし、少しばかり付き合ってやろうではないか。

 

 ということでペラっとな。ちなみに表紙は多分戦術人形だと思うが、昔良く見た少年誌みたいだった。結構キワドイ格好させてんだな、誰の趣味か知らんけど。体としては本当に一般的な雑誌、というかどちらかと言えばゴシップ誌のイメージに近い。デカデカと興味を煽りそうな見出し文が入り、その後ろからつらつらと詳細が続くパターンが多いみたいだな。

 

 内容としてはまぁ、俗なものが多かった。どこの支部の指揮官がどの戦術人形と誓約しただとか、どこそこの支部でどんな騒ぎがあっただとか、そういう感じ。多分だがこれ、情報収集というよりは激務に追われる指揮官へのストレス発散的な側面が強いように感じる。言ってしまえば娯楽品の一種だな、内容が面白いかどうかは別の問題だが。

 しかしあれか、誓約というのは以前ペルシカリアに渡されたあの証のことだよな。別に俺自身にその気がないだけであって否定するつもりは全くないんだが、やっぱそういうやつも出てくるんだなあ。ていうか、女性指揮官も人形と誓約するんだな。いや確かにこれは俺たち人間で言う結婚とはまた違うもののはずだから、そこに性差なんて本来関係ないはずなんだが。うーん、この微妙な感覚。恐らくこの感情自体がマイノリティなんだろうな、流し読みする限りは結構な数の指揮官が思い思いの戦術人形と誓約をしているようだし。

 

 

 って、待って。ちょっと待って。人形じゃなくて人間の方になんか見た事あるやついる。こいつスイートキャンディじゃん。え、お前正規軍辞めたの? マジで?

 直接の関わりはほとんど無かったやつなんだが、まぁ可愛くて優秀だって噂は聞いていたし、作戦記録なんかを見た限りでは実際その通りだったんだろう。あだ名だけやたら印象的だったから顔とあわせてそれだけ妙に記憶に残っている。本名は忘れてしまったが、まさか元正規軍の指揮官が他に居るとは思わなかった。いや、クルーガーのことだ、俺に限らず使えそうな人間には網を張っていても何らおかしくはない。どういう経緯でG&Kに入ったのかは皆目分からんが、変なぶっこ抜かれ方されてない? おじさんちょっと心配。

 

 いやしかし、これは困った。向こうが俺のことを知っている可能性は低いが、ゼロじゃない。ちょいとばかし整形もしてるし早々バレないとは思うが、過去の俺をしっかり認識しているヤツだったら正直会いたくない。普通は顔見知りが居ると分かれば多少なり嬉しい気持ちになるもんだろうが、俺の場合は少々どころか大分勝手が違う。今の俺はタクティス・コピーであって正規軍の大尉じゃないからなあ、逆に余計なトラブルの可能性にしか見えない。

 まぁ今は名前も違うし、そもそも会うような距離でも間柄でもないか。管轄地域も決して近くないし、ニアミスの可能性も無いだろう。俺が外出するとなれば16labに行くときくらいだが、それとなく他の指揮官とバッティングしてないか事前に確認すれば防げる話だ。うんうん、別に大きな問題ではないな。

 

 

 

 ってウワァー! クルーガーあの野郎! 俺を載せるなら一言断れやあのクソヒゲが! いや断るけど! 絶対にNO出すけど! 俺の返答を分かっていたからこそあいつ黙ってやりやがったな、絶対に許さねえ。ボコボコにしてやる、覚悟しとけよ。

 社内報の後ろの方、あまり大きくないカットではあるが、『G&K、新たな地域に進出』という見出しとともにうちの支部のことが載ってやがった。ご丁寧に指揮官である俺の写真もセットだ。モノクロだし、そこまで解像度も良くない上に偽名だから、一発で俺と結び付けられるやつは居ないと思うが、それにしたってリスク大きすぎじゃない? 俺が元正規軍ってバレて一番やべーのお前だろうが。何してやがるんだあのヒゲは。

 確かにこいつは社内報だ、グリフィン外部の人間が目にするものじゃない。だが、他の目に入らない保証は何処にもないのだ。ああまで徹底的に俺の過去を綺麗さっぱり洗ったくせに、この仕打ちは一体どういうことか。いや、これもしかして逆にクルーガーは監修してないのか? 俺の過去を正しく認識しているのは、グリフィン社内だとクルーガーだけだ。外部を含めてもペルシカリアと、I.O.P社の一部重役しか居ない。対外的には、俺は元流れの傭兵ということになっているから、この社内報を作成している部署がそのまま元傭兵の新人指揮官として認識して載せてしまった可能性は大いにある。

 うーん、そうなるとあのヒゲを責めるのもおかしい話か。こいつを早急に回収するって手段もあるにはあるだろうが、普通の目線で見れば特に問題のある記事じゃない。回収する理由が無い。社長権限という強権発動も多分出来るんだろうが、何故という疑問は残ってしまうだろうしなあ。

 

 はあ、なんか一気に疲れたぞ。後はもう適当に流し読みしよう。

 パラパラと半ば脱力しながら結構な速度でページをめくって何となく眺めていたのだが、戦術人形と誓約だけでなく他所の支部からゲストも呼んで盛大に挙式を行った支部の話題だとか、指揮官の他に勤めている人間のガンスミスのことだったりとか、放射性の雨が降り止まない地獄の底みたいな支部の話だったりとか、HK417? 何かよく分からんがイレギュラーな戦術人形の話題だとか、まぁそんな感じのトピックスがちらちらと目に付いた程度だ。

 当初の目的であった支部運営についての知見とか、戦術人形との上手な関わり方とか一ミリも載ってなかった。つらい。ていうかこの社内報を基準にしたら、戦術人形と誓約することこそ正しい関わり方にも見えてしまう。完全に俺少数派じゃん。まさか自社の発行物で色々なダメージを食らうとは思わなかった。チクショウ。

 

「ちょっと指揮官さま! 読むの早いですよ!」

 

 うお、すまんすまん。後半はほとんど投げやりにパラパラとめくっていたものだから、カリーナの目が追いついていなかったのだろう。俺の直ぐ後ろから覗き込んできている金髪娘から不満の声が挙がる。

 丁度いいや、これカリーナにあげよう。少なくとも今回の社内報を今これ以上俺が読み込むことは多分ない。読めば読むほどダメージを貰う気がする。ただ、一通り読んだ後は俺に返すか、シュレッダーに掛けるか、燃やすかのいずれかの手段を必ず取ってもらうことを念を入れて伝えておく。見ていて思ったが、戦術人形と指揮官との誓約の話題が多い。そりゃ確かに喜ばしい話ではあるので、それ自体を否定するつもりはないが、うちの支部の人形にこの話題が知れ渡るのはあまりよろしくない。どう考えてもよろしくない未来が待ち受けている。主に俺にとって。

 だからカリーナ、俺と約束してくれ。読むときは一人で読み込むこと。俺以外の目には触れさせないこと。必ず前述した手段を取ること。

 

「は、はあ……分かりました、お約束致します」

 

 当の本人は納得が行かない、というよりは俺がそこまでする理由が掴めないといった表情である。ただ、彼女は真面目だし約束を違えるような人柄でもない。そこは信頼しても大丈夫だろう。

 

 椅子に腰掛けた姿勢のまま、ぐっと一伸び。いやぁ、肉体的には全然疲れていないはずなんだが、妙に肩が凝ったぞ。しんどい。

 

 

 さて、なんだかんだ時間的には小休止といって差し支えない程度が経過している。まだまだ日も高いし通常業務も残っている。今日もちゃきちゃき仕事をこなすとしますかね。




本章内で言及された作品は下記の通りです。

「女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん」 笹の船 様
「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」 焔薙 様
「ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー」 通りすがる傭兵 様
「No Answer」 報酬全額前払い 様
「元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん」 カカオの錬金術師 様

この場にてお礼とお詫びを申し上げます。
ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。

今回はサブタイトルにXXとつけている通り、お遊び要素の強い内容となっております。他の作者様の作品動向を縛る、あるいは左右するものではありません。また、本作品内のストーリー、時系列において直接的に影響をもたらす内容でもありません。読者様においてはご承知置きの程、よろしくお願い申し上げます。





こういう、いわゆるクロスオーバーというかコラボというか、個人的には嫌いじゃないんですがどうなんでしょう。作品の色にもよるとは思うんですが。
ただ、同一の世界観を前提としてしまうと、戦術人形はともかくとして場合によってはカリーナが多重影分身してしまうので、あまり現実的じゃないんですけどね。

おじさんとしても直接他所の世界と絡む切欠があまりに乏しいため、今回は社内報というネタを拝借しての運びとなりました。
今後もタイミングやネタがあればこういうお遊び要素は入れていきたいなとは考えています。頻度は極めて低いと思いますが。


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33 -パトリオット・ニューフェイス-

活きのいい新人が入荷しました。

しかし、今回は割と難産でした。悩んだとも言います。


 とりあえず狩人と処刑人の二人に出来合いの服モドキを渡し、そのデキに対してあんまりな評価を受け意気消沈している後方幕僚様を引き連れ、予備宿舎を後にする。まぁなんだ、カリーナが頑張って作ってくれたのは俺が一番よく分かっているし、発案者は他の誰でもない俺である。そんな俺が出来上がった成果物に対して辛口の評価を遠慮なく下せるかと言われれば、それはちょっと難しい問題ではないだろうか。いや、でもどうなんだろう。こういう場合はそれとなく匂わせる程度の忠言はしておくべきだったのだろうか。よく分からない。誰か年頃の女の子との接し方とか教えてほしい。

 

「いいんです指揮官さま。どうせ私にそんなセンスなんて無かったんです。私にはバックヤードで支援物資に埋もれながら生活しているのが一番お似合いなんです」

 

 おっとやべえ、こりゃ思った以上に重症だぞ。そりゃまあ、自分ではそこそこのデキだと思っていたものが、よりによってプレゼントした張本人にメタクソな評価を下されればさもありなんという話か。あいつらにそこらへんの心情を読み取れとか、空気を読めとかいうのはちょっとまだ難易度が高い。加えてカリーナはまだ若く、心情として相手がそういう部分に乏しい鉄血人形だとはいえ、どうにも割り切りがたいところはあるだろう。

 しかし、ここら辺俺がフォローしても仕方ないところでもあるんだけどなあ。シチュエーションが物起因なだけに上手い慰め方が分からん。これが人同士のやり取りなんかであれば多少は言い様もあったが、どうにも出来ん。カリーナもこんなおじさんに何かを期待しているとは思えないし、勘弁して頂きたい。

 

「お、指揮官。こんなところに居たのか」

 

 予備宿舎から出て司令室に戻ろうかというところ、こちらへの掛け声とともに前方から一人の戦術人形が姿を現した。右手を挙げながら、やや早足に近付いてきたのはM16A1。この支部どころかグリフィンが誇る絶対的エースの一人だ。何だろう、少しながら急いでいるようにも見える。言葉から察するに俺を探していたようだが、何かあったんだろうか。

 

「見覚えの無い戦術人形が二体、支部入口まで来ている。どうもここに新しく着任する予定の人形らしいんだが、何か聞いてないか?」

 

 あ、しまった。多分クルーガーがこの前言ってたやつだ。確か鉄血襲撃事件の補填のために戦術人形を二体、新しく融通するという話だったな。こいつらにその話を展開するのを忘れていた。ていうかクルーガーも向かわせる予定だとは言っていたが、いつ来るかまでは明言してなかったもんな。それが今日だということか。まぁ今は大規模な作戦で支部を空けたり、忙殺されるほど業務が立て込んでいるわけでもない。アポ無しでも新規人形の受け入れ自体は可能だし俺もそんなに気にしてなかったや。

 新たな戦力の着任について伝え漏れていたことを謝罪し、ついでと言っては悪いが司令室まで案内するよう頼んでおく。別に支部入口で直接会っても悪いってことはないんだが、最初の出会い方くらいはきっちりしておきたいしなあ。ただでさえ冴えないおじさんである、別に偉そうに振舞うつもりはないが、あまりナメられたくもないし。とりあえず俺とカリーナで挨拶と顔合わせを先に済ませといて、後で他の皆にも場を設けよう。

 

 

「ウェルロッドMkⅡ、着任致しました」

「M1895じゃ。こんな年寄りをお好みとは、おぬしも相当な変わり者じゃな?」

 

 司令室に戻ってから程なく。M16A1に連れられて、二体の戦術人形がその姿と言葉を見せる。やったね、名前と武装からすれば、恐らく二体ともハンドガンタイプの人形っぽいぞ。うちとしては足回りを強化したいところだったので、この着任は喜ばしい限りである。しかし戦術人形のくせに自身のことをお年寄り呼ばわりとはまた随分なキャラクターだな。そりゃまぁ、M1895と言えばナガンリボルバーだし、100年以上前の銃器ではあるから、そういう意味ではお年寄りと言っても間違いではないんだろうけども。

 新たな部下となる二体にこちらも答礼となる挨拶を投げ、数瞬の沈黙が司令室に降りる。しかし、この二人。どうにも違和感を感じる。AR小隊と初めて出会ったときのようなあどけなさや、MG5、トンプソンといったような人形本来の性格からくる図太さなんかともまた違う。何というか、()()()()()。こいつら恐らくだが、製造されたての新人じゃねえな。思い返してみればクルーガーも『向かわせる』と言っていた。ダミーこそ連れてはいないようだが、訓練か実戦か……多分後者だな。経験を積んでいるように思われた。

 俺には戦術人形のことは良く分からない。そりゃあ昔に比べれば接する機会も増えたし、知識を蓄えるためそれなりの勉強はしてきたが、本質的に俺は戦場で戦う立場の人間であって、研究者じゃない。自律人形についてどうこう言えるほどの経験も知見も持ち合わせちゃいない。

 だがそれなり以上の数、戦う人間は見てきた。勿論、人間と人形を一緒くたに扱う訳にはいかないことは百も承知だが、曲がりなりにも感情を持ち、ヒトと同じように接することを可能とされている有機物であれば、その知見は多少なり応用が利く。その経験に裏打ちされた勘が俺に告げていた。あのヒゲ野郎、どういうつもりなんだか。

 

 ということで、挨拶も程ほどに本人たちに聞いてしまおう。お前ら最適化工程いくつだ? まさか1%です、なんてことはあるまい。

 

「……驚きました。ダミーも連れて来なかったのですが。私は36%です」

「社長の言った通り、曲者じゃな。わしは40%、まぁウェルロッドとほぼ同等かの」

 

 ほーう、そこそこといったところか。AR小隊や404小隊、第五部隊のハイエンドには敵わないが、他の部隊員となら同等以上の作戦行動が可能なレベルだ。つーかグリフィンの平均値から推測すれば、こいつら他所の支部なら結構上位に入る実力じゃないのか。いいのかそんな貴重な戦力までこっちに回してしまって。あとM1895はあのクソヒゲから何を聞いてるんだ。

 

「悪い評判は聞いておらんよ。ただ、色々と肝いりの指揮官殿がおられるとは聞いておる」

「ナガン」

「別に構わんじゃろうて。初見で見破られたんじゃ、今更隠し事をして不和を招く方が拙いわい」

 

 入室してから挨拶を交わした際とはまた違う空気。それらをこの二体が纏い始めていた。うーん、慣れている、とは思ったが、こりゃ単純に戦闘慣れしてる人形とはまた違う気配がする。AR小隊というよりは、どっちかっつーと404小隊に近い。多分だがお前ら、普通の指揮命令系統に居た人形じゃないだろう。クルーガーとも距離が近いようだし、暗部とまでは言わないが、直轄の諜報部隊かなんかの出身か?

 

「……ウェルロッドじゃないが、驚いたの。そこまで分かるか」

 

 余裕の表情を崩さなかったナガンリボルバーの顔が、初めて揺れた。はっはっは、こちとら伊達に長く生きてないんですよ。恐らくそういう任務に就いていたという自信もあったのだろうが、単純に見てきたヒトの数、過ごしてきた時間を考えれば人形よりは俺の方がまだ遥かに多い。俺は間違っても優秀じゃないが、少なくとも無駄に時間を重ねただけの人間ではないくらいの自負はある。出来ないなりに常に考え、人を見て過ごしてきた。如何に相手が人形とは言え、そこに生ずる違和感くらいは見抜ける。

 次に気になるのは、やはりどうしてそんな経歴を持つ人形がうちの支部にやってきたかということだ。製造されたばかりの新人ではない、クルーガー直轄の、それも優秀と思われる経験を積んだ人形をわざわざ送り込んできた理由があるはずだ。こいつらがどこまで聞かされているのかは分からんが、出来る限りの情報はこちらでも確保しておきたい。

 そんな俺の疑問に答えてくれたのはナガンリボルバーではなく、どこか割り切った、そして諦観が入り混じった表情を見せてきたウェルロッドだった。

 

 結論から言うとこの二体は俺の指揮下には入るものの、俺とは別でクルーガーとのホットラインを持たされた人形のようだった。404小隊の連中もうちに来たとき、別で通信手段を持っていたようだからそれ自体は特段驚くべきところでもない。

 で、そんな人形がうちの支部に来た理由だが、俺個人というより俺を取り巻く環境の監視的意味合いが強いそうだ。流石に俺の過去まではアイツも伝えてはいないようだが、俺がT地域に着任してからというものの、これまでとは比較にならないペースで鉄血の掃討が進んでいるらしい。そうなってくると、俺がどう思っているかに関わらず俺を見る目や俺に対する評価が著しく上下する。ヒゲとしては他のPMCやはたまた正規軍からの接触や、引き抜きを受ける可能性も視野に入れているようだった。正規軍がわざわざ一PMCの一指揮官にまで目を向けるとは考えにくいが、他のPMCとなると確かにその可能性はゼロじゃない。俺としては別にAR小隊を置いたまま籍を移すなんてこと微塵も考えちゃいないが、人間の心ってのはどこでどう変化が起きるか分かったもんじゃないからな、クルーガーの危惧は正しいと言うべきだろうな。

 ただ、これはあくまでクルーガーがウェルロッドとナガンに卸した情報だ。あいつが心の底で考えている真意はまた別にあると見ていいだろう。なんだかんだ大義名分をぶつけちゃいるが、その実俺の監視のつもりなんだろうなと考えている。普通の会社、と言うのもよく分からんが、多分普通に考えたら、俺は一指揮官としては些か大きすぎる戦力を保持してしまっている。AR小隊然り、404小隊然り、鉄血のハイエンドモデル然りだ。万が一にでも俺が謀反を企てたり、保持している戦力そのままに他所へ流れたりしたら大変どころの騒ぎじゃない。ここらへん、アイツも俺に対して信用してはいるが、信頼を置いていないってことなんだろう。まあ、それくらいの方が俺もかえって動きやすいからいいんだけど。

 

「クルーガーさんからは定期的に電子レポートを飛ばすよう指示を受けています。が、もし指揮官が望むのであれば、その内容を見せても構わないと言われていますので」

 

 一通りの考えを巡らせた頃合で、ウェルロッドがその口を開く。成る程な、クルーガーとしてもそういう体を保っておかなければ、人形から不審がられると思っての判断なんだろう。別に彼女らが飛ばすレポートに興味なんざこれっぽっちもないんだがなあ。そもそもハイエンドのことや俺のことも含め、うちの支部の人形だけが知っていて、クルーガーが知らない事柄がない。俺としてもアイツに虚偽の報告をするつもりはないしな。

 

 さて、とりあえずこいつらが派遣されてきた理由と経緯は分かった。ただ、あくまでそれはうちの支部運営全体の観点から言えば副次目的でしかない。先ずは大いなる主目的である支配地域拡大のため、つまりは戦力としてこの二人は勘定させてもらう。そういや部隊運用に関して何か希望はあるのかな。お前らセットの方が都合よかったりする?

 

「いや、基本的にはおぬしの指示に全面的に従うよう言われておる。運用についても同様じゃな」

「私も特に個人的要望などはありません。単独でも任務は遂行出来ますから」

 

 特に希望はなし、と。それじゃまあ、自由気ままに組ませてもらうとしますかね。

 とは言え、どうするかなあ。部隊を新設するにはちょいとばかし頭数が足りないので、こいつらは既存部隊のいずれかに組み込む形になるだろう。ただ、最適化工程から見てもまずまずの錬度ではあると思うのだが、流石に第一部隊について行けるレベルではないために、そこに組み込むという選択肢は取り辛い。アサルトライフルが四体ってバランスがいいのか悪いのか分からんが、他にあいつらと同等に動ける人形が居ないので致し方なし。第二部隊は錬度的にも丁度いいが、あそこは一人ひとりのレベルは兎も角として数とバランス、そして方向性が定まっている。同じハンドガンタイプのM1911も居るし、あえて第二部隊に突っ込む理由もない。

 

 んー。少し反発はあるかもしれないが、ウェルロッドかナガン、どちらかには第三部隊に入ってもらおう。つまりは、404小隊に加えるということだ。

 第三部隊はサブマシンガンとアサルトライフルが二体ずつという構成をしている。彼女らの辿ってきた経緯や電脳のスペックも相俟って、非常にユーティリティな活躍をしてくれているが、本来であればこの構成は意外と応用性が無い。前線の押し上げや維持、敵陣への突入など、攻めの基盤としての融通性はあるが、一度崩れたり劣勢に陥ったりすると取り回しが途端に悪くなる。今までそんな状況でも上手く回せていたのは一重に彼女たちが優秀だったからであって、そこに胡坐をかくのは指揮官失格だ。

 ただでさえ優秀な第三部隊に、潜入や偵察、夜間視野の確保が出来るハンドガンタイプが加われば、より一層の活躍が期待出来る。時と場合にもよるが、基本的に部隊には柔軟性を持たせた方がいい。特にうちの支部は豊富な物資があるわけでも、多数の部隊を展開出来る余裕があるわけでもない。一つ一つの部隊に負荷はかかってしまうが、出来ることを増やすに越したことはないのだ。

 肝心の人員だが、多分ウェルロッドの方が合うかなという何となくで彼女にお願いすることにした。見た感じ、ナガンよりは仕事人気質が強い。404小隊の連中もどちらかと言えばビジネスライクな性格をしているから、仲良くとは行かないまでも余計な諍いは起こらないはずだ。G11は知らんけど。というかむしろ、ウェルロッドがあいつ矯正してくれたりしないかな。

 

「ふむ、わしはどうするんじゃ?」

 

 ウェルロッドには後ほど第三部隊へ顔合わせに連れて行こうとその配属先を告げたところで、白いコートが眩しいナガンが話かけてきた。ナガンには第四部隊への配属を最初は考えていたんだが、うちの第四部隊は柔軟性を持たせなくてもいい、数少ない例外に当て嵌まる部隊である。あの編成は完全に特定のシチュエーションで使う、あるいは特定のシチュエーションを生み出すために運用する部隊であって、その役目に小回りの利きは求めていない。欲を言えばあの部隊にはもう一人マシンガンタイプをぶち込みたいくらいだ。

 

「まさかお役目御免などは勘弁じゃぞ? 如何に老兵だとて、役立たずの烙印は御免じゃからな」

 

 どーすっかなぁと考えていたら、痺れを切らしたのかナガンが更に一言を被せてくる。いや、俺としても貴重なハンドガンタイプ、それも諜報部隊で経験を積んだ人形を腐らせるなんて勿体無いことをするつもりは毛頭無いのだが、さてどうしたものか。隣にウェルロッドが居るものだから、余計に全身真っ白な衣装が目に付く。これ返り血というか、鉄血の人工血液とか浴びたらどうするんだろう。洗濯とか大変じゃない?

 

 

 

 あっ。閃いた。おじさんいいこと考えたぞ。ナガン、喜べ。お前の配属先が決まった。そしてこれは、お前にしか出来ないことでもある。

 

「おお、本当か! なんじゃなんじゃ、勿体をつけおってからに!」

 

 先程までの不満がにじみ出たような口調から一転、喜色に富んだ声を挙げるナガン。最初は食えないタイプかなと思っていたが、予想以上に感情豊かで扱いやすい感じがする。まぁこれなら上手くやってくれるだろう。

 

 

 それじゃ、カリーナとM16A1はウェルロッドを第三部隊の宿舎に連れて行ってくれないか。俺はナガンを部隊の連中のとこまで連れて行くからさ。

 

「あ、はあ……了解、しました」

「……まあ、なんだ。ナガンリボルバーっつったか。頑張れよ」

 

 煮え切らない返答を零したカリーナと、傍から聞けば理解し難いエールを送ったM16A1がウェルロッドとともに司令室を後にする。多分あの二人には俺がナガンを何処に連れて行くかの予測が付いたんだろうな、とは言っても消去法で考えてもそう候補は多くないから、そんなに難しい予測でもないんだが。

 

「なんじゃ、そんなに癖の強い連中でもおるのか?」

 

 二人からの言葉をどう受け取ったのか、ナガンが首を傾げながらその問いを発する。だが、疑問こそあれどその声色と表情からは不安の色は見受けられない。具体的にどんな任務に赴いていたのかは知らないが、彼女は彼女なりの経験を積んできているのだろう。それこそ性格に難のある人形なんかも相手にしてきたはずだ。今から対面してもらう人形は癖どころか色々と強いんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃーーーー!! なんじゃおぬしーーーーーー!! 何事かこれはーーーーーー!!!」

「うわっ!? おい指揮官! なんだこのうるせぇチビは!」

「だっ誰がチビか!! この、この鉄血人形めがーー!!」

「どうした処刑人、何事だ」

「ウワァーーーーーーーー!!! まだおるんかぁ!! どういうことかこれはーーーー!!!」

 

 

 いやあ、予想以上のリアクションをありがとうナガン。

 でも流石に煩いからちょっと静かにしようね。




第一部隊:M4A1 M16A1 M4 SOPMODⅡ AR-15
第二部隊:スコーピオン M1911 M14 SVDドラグノフ ダネルNTW-20
第三部隊:UMP45 UMP9 HK416 G11 ウェルロッドMkⅡ ←New!
第四部隊:MG5 トンプソン m45 IDW
第五部隊:狩人 処刑人 幼女仕事人 ←New!


ということでやっときました、おじさん待望のハンドガンタイプ。
でもこれ指揮下にはあるけど直属の戦力増えたわけじゃなくない……?

ナガンを加えたのは、表立って部隊として動かすときに多少なりカムフラージュや言い訳が立つようにという狙いです。
二人に被せた服モドキも白いし、ナガンも白いし、ええやろ! みたいな安直おじさん。




ところで、前回のコラボ(?)をパラレル扱いにしたのは、勿論登場人物や人形の被りもあるんですが、一番の要因は時系列が壊れるからです。
正史(本作品内での時系列)では、おじさんは蝶事件が起きてから数ヵ月後にグリフィンに入社しているため、ほとんどの指揮官様とは活動している時代が恐らく異なります。
AR小隊以外に5linkレベルが居ないのもそのためです。作中でおじさんが最適化工程30%強の新人二人を「そこそこ」と評したのも、この時代ではまだそこまで戦力が極まっていないからと定義付けているからですね。鉄血側のハイエンドモデルの情報が出揃っていないのもそこに起因しています。

とは言え、もしうちのおじさんを出していただけるのであれば細かいところではあるので、別に気にして頂かなくても全然大丈夫です。



最近AR小隊成分が薄まっているので、そろそろ補給したいですね。思いつけばですけど。


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34 -それぞれの行く先-

前話からほぼ地続きの話です。


「ウェルロッド遅い!! 一回のカッティングパイにいつまで時間かけてるの!」

「はっはい!」

 

 グリフィンT01地区屋内訓練場。市街地での突入戦を想定したシチュエーションに模様替えをしたキルハウスにて訓練を行っている第三部隊の隊長、UMP45から容赦ない檄が飛ぶ。その様子を俺は厳しい教官っぽさをぷんぷんに醸し出しつつ外から眺めていた。

 ウーン。UMP45のやつ、うちに着任した当初はなんだかんだのらりくらりとかわしているイメージが強かったんだが、最近はこういった訓練にも積極的だし、何より俺のモットーとしている技術、戦術、戦略についての理解が進んでいるようにも思える。いやあ、何か嬉しいな、こういうの。俺はこいつらに戦場で生き抜くための術を教え、生き残ってもらうための訓練を重ね、そしてしっかりと勝利するために指示を出すのが仕事だ。この姿勢は俺の仕事に理解を示してくれたからに他ならないだろう。しみじみと感慨深い気持ちに耽りながら眺めていると、HK416とG11のバディが恐ろしい速度と精度のクイックピークでコーナーをクリアし、とんでもないスピードで前進を仕掛けていた。戦術人形ってこういう時も便利だよな。人間と違って一瞬でも視界に収めれば、あとは電脳内で画像解析が出来るんだもん。ずるい。

 戦術人形とは言え、その名前の通り人型を模しており、扱う武器が人間をベースとした銃器な以上、基本的な動き方は人間の兵士と同じだ。だが、その動きの精度や動きから得られる情報量、その情報を処理する速度なんかはとても人間には真似出来ない。正しく扱うことさえ出来れば、文字通り一騎当千に成り得る。無論、そこに至るまでの道のりは当然長く険しいものだが、その可能性が見えるだけでも人間とは持っているポテンシャルが比較にならない。まあ実際その領域にまで到達しちゃったやつもいるんだけどさ。

 

 俺がナガンを鉄血のハイエンド二人と面合わせを行っていたのと同時、ウェルロッドと404小隊の面々をカリーナとM16A1が引き合わせていたわけだが、その際険悪とまでは言わないまでも、ちょっとした悶着があったようだ。

 一言で言ってしまうと「こいつ本当に使えるの?」みたいな話になったらしい。確かに404小隊はずっとあの面子でやって来たというのも聞いているし、AR小隊を除けば最適化工程が一番進んでいる部隊であることも事実だ。多分だけどそれ言ったの416な気がするなあ。いや本当にただの憶測だけど、そういう台詞一番言いそうだもん。

 ただ、ウェルロッドはウェルロッドで今まで任務をこなしてきた自負もあったのか、それならば実際に見て頂ければ分かります、みたいなことを言っちゃったようだ。で、なんやかんやあって俺のところにキルハウスの使用申請が届き、今に至るという状況である。いやあ、若いっていいよな。ただの喧嘩ならしばき倒して終わりだが、いい感じにプライドとプライドがぶつかり合っている。そういうのは御し方を間違えなければいい発破にもなるし、UMP45がその辺りを見誤るとも思っていないので、俺は内心ホクホク顔でキルハウスの使用許可を出したというわけだ。

 ちなみにナガンの方だが、狩人と処刑人がこの支部に居付くことになった簡単な経緯を説明した上で、予備宿舎にぶち込んできた。鉄血の二人にも、同じ部隊でこれから行動する仲になるから、親睦を深めなさいという大義名分で無理やり押し込んでいる。中々に酷い扱いかもしれないとは俺も思ったが、かと言って狩人と処刑人についてはホント言葉でどうこう言って納得してもらえるものじゃないからな。これでもし本当に無理だったらナガンを部隊から外せばいいんだし、製造されたての新人でもないから特段トラウマを植え付けられることもないだろう。ダメだったらその時に考えればよし。人間の脳のリソースは一定なのだ、あまり一つのことに拘り続けるのもよくない。許せナガン。

 

 さて、キルハウス内での動き方を見ていると、別にウェルロッドが著しく劣っているだとか、そういう感じには思えなかった。だが、どうにも全体的に一つ一つの動作をマニュアル化し過ぎている印象を受ける。お手本になりえる歩兵術と言えば聞こえはいいが、実戦に於いてすべてが教科書通りに進むなんてことはあり得ない。あれじゃちょっとした想定外に遭遇したら直ぐにパニくりそうな気がする。なんだか教練を進めて日が浅い時期のAR-15を思い出す動きだ。優秀ではあるのだが、融通が利かない。そんなイメージだな。

 

 まあ、そこは今までこなしてきた任務の色が違うというのもあるのだろう。ウェルロッドは諜報部隊に居たらしいので、どちらかと言えば隠密行動やマニュアルに沿った作戦行動を求められていたはずだ。一方、404小隊は教科書もクソもない、地獄の蝦蟇口に叩き落されるような作戦に従事していた。残念ながら、うちの支部で求められる動きというのはどちらかと言えば後者である。そこまで酷い任務に就かせるつもりはないが、内地で諜報やってた時とは事情が違うってのを早いところ理解して貰わないとな。

 もしかして、UMP45はここまで想定してキルハウスの使用許可を求めてきたのだろうか。そうであれば大したものだ。後でそれとなく聞いてみるか、素直に教えてはくれなさそうだけど。

 

 

「……トータルで4秒以上遅れてる。やっぱり厳しいんじゃないかしら」

「私は別にどっちでもいいよぉ……早く寝たい……」

 

 突入戦訓練に一区切りをつけた第三部隊、そのうちバディを組んでいた416とG11が腕時計に視線を預けながらその感想を零す。やはりと言うか何と言うか、416の評価は辛口だな。完璧を求める彼女らしいっちゃらしいのだが、逆に言えば最適化工程に劣るウェルロッドが、4秒程度の誤差でついてきていることを褒めるべきだとも思う。確かに実戦において、一人が4秒遅れるってのはぶっちゃけ致命的だから、このままじゃ使えないってのもまた事実ではあるんだが。あとG11はもうちょっと頑張って。訓練は一応終わったけどもうちょっと頑張ってくれ。

 

「私は別にいいと思うけどな~。これから頑張ればいいだけじゃん?」

「今の状態じゃ使えないけどね。指揮官の決定には従うけど」

 

 今度はウェルロッドと訓練中行動を共にしていたUMP姉妹が各々の感想を述べる。ウーン、ナインはともかくとして、UMP45もまた辛らつだな。ただ、ここで俺が口を挟んでもあまりよろしくない。UMP45が言う通り、第三部隊にウェルロッドを加える判断を下したのは俺である。そして、部隊長である彼女がその決定に従うと言った以上、俺がどうこう言う問題ではなく、これは部隊間で解決するべき問題だと判断出来る。もしこれが本当に無理なレベルであれば、ウェルロッドの部隊加入を拒否する意見具申をしてくるはずだ。

 つまり、彼女が今後第三部隊でやっていけるかどうかというのは、今回の訓練結果は直接関係がない。そもそも、最適化工程に20%前後の開きがあるのだから、彼女たちの動きに付いていけないのは自明の理だ。それを理由に断るつもりであれば、キルハウスに来る以前でこの話は終わっている。どちらかと言えば、この結果を受けて当の本人がどう出てくるか。比重はそちらの方が大きいだろう。

 

「……認めます。今の私は、貴方たちと共に戦線を支えられる域に達していません。しかし、決して届かないとも思いません。勝利を求める信念と犠牲の覚悟があれば、あとは行動に移すのみ。必ず追い付いてみせます」

 

 ほんの僅かながら、その表情を歪ませたウェルロッド。しかし、その顔付きとは対照的なほどに、決意に満ちた言葉がその口から溢れ出ていた。今思うと、G11のような例外も多少居るものの、基本的に戦術人形というのはプライドが高い。どういう電脳の仕組みになっているかまでは分からんが、考えてみたら全員が全員、自分に紐付けされた銃器を上手く扱えるようになっているわけだから、そこに自負心を持ってしまうのも致し方ないというところか。ただまあ、その自尊心も基本的には良い方向に働いている様子なので、俺がどうこう考えるところでもなさそうだけどな。

 

「ふぅん。じゃあ頑張ってね」

 

 ウェルロッドの決意を聞いてか聞かずか、UMP45の口から漏れ出たのは実にあっさりとした返答であった。あまりの言葉数の少なさに、ナインは勿論、416もやや理解が追いついてないような表情である。G11はもう眠くてそれどころじゃない感じだな。ただ未だに立ったまま寝ていないのは評価に値する。お前徐々にだけどマシになってきてるな。その調子で真人間よろしく真人形になって頂きたい。

 

「あ、そうだ。手っ取り早く私たちに追い付ける方法があるんだけど」

 

 一足先にこの場を後にしようと足を動かしたUMP45、そんな彼女がキルハウスからの立ち去り際、こちらを振り返って追加の一言を放つ。その表情にはいつもの微笑が戻っており、大体こういう時は碌なことを考えていないパターンのやつである。そもそもそんな手っ取り早く強くなる方法があってたまるかという話だ。面倒臭いことを口走らないことを祈る。

 

「指揮官に教えを乞えばいいわ。その人、優秀よ?」

 

 やめろ。ウェルロッドがすごい勢いで首をこっちに向けたぞ今。いやまあ、俺としても教育に前向きになってくれること自体は喜ばしいのだが、そんなハードルだけ上げられても困る。どちらにせよウェルロッドとナガンの現状を把握した上で、既存の部隊員とのかみ合わせも含めて教育スケジュールは考えていかなければならない。追々の予定としては勘定していたが、まさかUMP45から先にその手の話題に触れられるとは思っても居なかった。ウェルロッドはそのキラキラした目を止めなさい。こんなおじさんから大したものは出てこないぞ。

 

「確かにね。指揮官ならば間違いはないわ。厳しくはあるけれど、実りもあるわよ」

 

 416は上乗せするのをやめなさい。期待値だけ爆上がりするやつじゃんそれ。結果として君らの教導が上手く行っているだけであって、ウェルロッドも同様に育つとは限らないんだぞ。

 それに、今すぐウェルロッドを鍛えるというのも難しい。正直今ある情報としては最適化工程の数字と、市街地を模した突入戦に於いての行動能力が第三部隊の面々にやや劣る、そして動きが教科書通り過ぎるといったくらいだ。射撃能力も分からないし、その他の情報もまだまだ不足している。この状況から最適解を出すのは俺ごときでは不可能である。取り急ぎ、ルートの取り方とクリアリングの実戦的な動きくらいはレクチャー出来ると思うが、そもそもがこの訓練自体が突発である。本来の俺の予定も考えて実行に移していかなければならないところ、ウェルロッドにだけ時間を割くわけにもいかない。とりあえずはナガンの進捗も確認して、それからになるかな。

 

 ということで、キルハウスでの訓練は一旦おしまいっと。しかし久々に第三部隊の訓練光景を見たが、動きがかなり洗練されてきているな。今まででもそれなりに仕上がってはいたが、今まで以上に隙や迷いが無くなっている。こいつらの最適化工程は今50%から60%の間くらいだが、このまま順調に行けば70%を突破するのもそう遠くないように思える。多分、そろそろタイマンでの遭遇戦訓練では俺の勝ち星が危うくなってくる頃合だ。うーん、嬉しいやらちょっぴり悲しいやら。いや、可愛い部下たちが成長している様を見るのは文句なしに嬉しいのだが、こうまで超スピードでぶち抜かれていくとなあ。これが人間と戦術人形との違いというやつか。何度体験しても慣れないもんだ。

 

「指揮官。今後のご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」

 

 先程までの表情は何処へやら。端正な顔立ちにやる気を秘めて、ウェルロッドがこちらに頭を下げてくる。勿論言われるまでもなく、俺の部下になったからには一端の戦術人形に育ててやるつもりではあるのだが、真面目だなあ。なんだか416と同じ空気を感じる。404小隊とウェルロッド、意外と相性良いかも知れない。

 

 さて、第三部隊の方は何とかまとまったと見ていいだろう。後はナガンの様子を見に行くとするか。彼女は彼女でそれなりの経験は積んでいるだろうから、初見で面食らったとしても何とか上手いことあの二体を捌けていたらいいんだが。

 ナガンを放り込んだのはたまたまやってきたというタイミングもあるが、明確な狙いもある。狩人と処刑人にはIFFがない。電脳を多少弄くれたとはいえ、根本の部分ではやはり対ハッキングプロテクトが邪魔をしてこちらの想定どおりにことが運べていないというのが現状だ。セーフティシステムを埋め込めたので、あいつらからこちらに手を挙げることはないが、逆にI.O.P社製の人形であれば指揮官からの指示がなくともあいつらを撃ててしまう。うちの支部内に居る限りはその誤射も発生しないだろうが、外に出れば話は別だ。今後のことを考えれば、いつまでも支部内に閉じ込めておくわけにもいかず、何らかの策は打っておかなければならない。少なくとも他の支部の人形と出会った際に、こいつらは敵じゃないですよ、くらいの認識を初手で与えておきたい。

 そのためにあいつらにはカリーナが作ったマントを羽織らせ、そして部隊にナガンを組み込んだ。パッと見だけでも鉄血っぽさを消し、そしてそいつらとI.O.P社製の人形が行動を共にしていれば、最低限突然の交戦だけは避けられるだろうという見込みからだ。

 勿論、今すぐにあいつらを他所からの目が多くつく場所に連れ出すつもりはない。だが、機会次第ではあるが、少しずつでも慣らしていかないとダメだ。どっかで上手いことよさげな作戦指示でも降りてこないないもんかね。人類の支配地域を拡大し、平和を求めるはずのPMCとしては些かおかしい思考回路ではあるが、まぁ誰も彼もが聖人君主なわけじゃないってこった。そんなデキた人間なら、俺は軍人にはなっていないはずだしな。きっと神父か教師にでもなっていただろう。うわあ、全く想像が付かないぞ。今のなしだなし。

 

 とりあえずナガンの様子でも見に行こう。流石に撃ち殺したり撃ち殺されたりはしてないはずだが、ナガンの最適化工程、それに銃種を考えたら逆立ちしたってあの二体には勝てない。変な上下関係とか作られてたらどうしよう。ていうかナガンとウェルロッドって俺の指揮下ではあるけどクルーガーからの借り物でもあるんだよな、多分。うーん、もうちょっと慎重に動かすべきだったかな。万が一アイツに余計な借りでも作ろうものなら俺の平穏が更に遠のく。一方的にぶち込んでおいてなんだが、無事でいてくれナガン。色々と。

 

 

 

 

 

 

「おお、なんじゃおぬしか。狩人、処刑人、指揮官殿がきとるぞー」

「んあ? あいよー。あ、おいナガンそこ踏むなよ、汚れてんぞ」

「おおっ? まったく、我がの住まいじゃぞ、少しは掃除せんか、馬鹿たれども」

「主に汚すのは処刑人なんだがな……。それで指揮官、何か用事か?」

 

 

 あのさあ、ちょっと馴染みすぎじゃない?




ナガンおばあちゃん、強い(強い



アンケートの結果を見る限り、支部内でほのぼのやっていくか、時間軸を進めていくかのほぼ二択かなと考えております。その上で当然戦力増強として新規の人形も増えて行くとは思いますが、あまり一気に増えすぎると筆者自身が纏めきれなくなるので、そっちはのんびりペースかもしれません。予定は未定ですけど。

T地域関連のプロットがじわじわとまとまりつつあるので、ある程度見えてきたら進めて行きたいところですね。
ただまぁ、本作品を書き始めた当初から一貫して伝えてきておりますが、本作品はそもそも前作の後日談という位置づけではあるので、明確なストーリーラインありきで書かれている作品ではありません。
いつどこで変化球が飛んでくるか私にも分かりませんし、さくっと結末まで行くかもしれません。

そんなのんべんだらりな作品ではありますが、今後とも読者様にものんびりとした姿勢でお付き合い頂ければと思います。よろしくお願い致します。


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35 -ハルさん-

自分でタイトル考えといて何ですが、誰だよ感がすごい。

支部内のちょっとしたお話です。ごゆるりとお読みください。


「あら、指揮官。珍しいですね、この時間帯に」

 

 かけられた声に反射的に振り向くと、そこには今にも透けてしまいそうなほどに白い肌、そして薄い桃色髪を蓄えた端正な顔立ちをした人形が一人、俺の顔という一点を見つめながらそこに立っていた。珍しいと言われれば、なるほどそれは確かにそうかもしれない。普段この時間帯に足を運ぶことはほとんどないからな。だが俺だってそれこそ機械仕掛けの人形なんかではない。たまにはイレギュラーくらい起こる。その内容が、いつもよりちょっと小腹が空いたから、普段は使わないような遅い時間帯に兵舎食堂を訪ねた、などでなければもうちょっと格好がついたのかもしれんが。だって仕方ないじゃん、お腹減ったんだもん。

 俺の姿を見つけて声をかけてきたのは第一部隊のAR-15だ。両手でトレイを持ち、その上には恐らく先程頼んだばかりであろうパスタが乗っかっている。着色料でも盛大にぶちまけたんじゃないかと見紛うほどの彩度の高い赤色に、思わず目を逸らす。いや、アレ別に不味くはないんだけど如何せん見た目のマイナスイメージが強すぎる。今日日まともなミートソースなんて早々手に入らないことくらい分かっちゃいるが、だからと言ってあのレッドモンスターを口に入れるのはちょっと憚られてしまう。いや、不味くはないんだ不味くは。それなりに味の再現は出来ているし、食感もまぁ及第点だ。むしろよく出来ている方だとすら思う。しかしだ、そこまでの技術力があるならば何故もう一息、見た目に気を配ってくれなかったんでしょうか。おじさん非常に遺憾である。

 

「お隣、お邪魔しても?」

 

 赤い合成物に目を奪われているところに、AR-15の声が重なる。構わんぞ別に。というか最近なんだかんだ他の部隊の訓練やら業務やらで、第一部隊の面々と接する機会が一時的にではあるだろうがかなり減っている。部下は皆公平に扱うとのたまっている俺としてもこの状態が長引くのはよろしくない。ちょっと遅い晩飯のお供くらいはお安い御用だ。おじさんの隣なんかでよければいくらでも貸してあげよう。

 俺の了承を得たAR-15は失礼します、と一言断りを入れて俺の横の席に腰を下ろす。しかし、AR-15一人ってのもまた珍しいな。何だかんだ第一部隊の連中はどっかの誰かと一緒に居るイメージが強い。一人で何かやってたんだろうか。俺のことを珍しいとこいつは言ったが、そもそもこんな時間に兵舎食堂に顔を出すこと自体が珍しい。人形であれば尚更だ。こいつらは俺以上に規律に従って動く。メシの時間も多少の前後はあれど、基本的に決まった時間帯に取るはずだ。

 

「今日は少し、射撃訓練の時間を多めに取っていまして。最近はこれといった作戦も無いようですし、まぁ気分転換がてら、ですかね」

 

 俺の視線から何かを読み取ったのか、独りでにAR-15が語りだす。別に俺何も聞いてないんだけど、なんで聞きたいことが分かるんですかね。怖い。AR-15に限らずだが、AR小隊の連中はどこかで読心術でも習ったのでは? と疑いたくなる精度で俺の考えを読むことがある。流石に作戦行動中や業務中はその脅威も鳴りを潜めるが、このような半ばプライベートな時間では俺も気が緩むのだろう、いつもよりポーカーフェイスの維持が難しいようにも感じる。そもそもがこいつら、俺が教官やってた時から俺の体調を一目見るだけで見抜いてきた奴らである。張り合っても勝てる気がしない。ほんと何なの。

 まあ気にしても仕方ないか。俺も腹減ってるしメシを食おう。俺が視線を落とした目の前、テーブルの上には先ほど食堂の自律人形が仕上げてくれた、未だ湯気を立ち上らせている人工肉の塊、もうちょっとオシャレに言えばハンバーグモドキが鎮座していた。

 

 

 グリフィン&クルーガー社で働く人形というのは、何も戦術人形だけではない。戦術人形も含め、決して少なくない頭数で活動する支部には、その活動を支えるだけのマンパワーが当然ながら必要だ。俺は指揮官だし、俺のほかに居る今のところ唯一の人間であるカリーナは後方幕僚として、物資の管理を主に行っている。そして、戦術人形というのは俺の作戦指示に従い、戦うのが役目だ。共有スペースを掃除したり、物資の整理整頓をしたり、料理をしたり、片付けをしたり。そういういわゆる雑務に分類される業務は、俺たちも多少は行うが基本的にはそれを目的とした自律人形が行っている。

 このような雑務を目的とした自律人形も、基本はI.O.P社製のものだ。決して安いものではないが、目を見張るほど高価でもない。買おうと思えば個人でも十分所有が可能なレベルである。確かにI.O.P社の主力製品である第二世代戦術人形は紛うことなき高級品だが、自律人形自体はそもそもが労働力として生み出されたものだ。目的が人間の代替なのに、それが飛び上がるほど値が張るのでは意味が無い。

 戦術人形が高い理由。それは専用にチューニングされた電脳と、火器統制コアによるところが大きい。元々が民生用の自律人形を戦うために仕上げたものだから、ベースとなる自律人形の価値自体はそう大差ない。それを考えるとペルシカリアってほんとすごいやつなんだなと改めて感じる。いや、普段からすごいやつだとは思っているが、普段の様子を見るとどうにもその感覚が薄まる。あいつ別の意味で見た目で損してる気がするぞ。

 

 変な方向にまた思考が泳ぎ始めたので、考えるのも程ほどに目の前にメシに食らい付く。間違っても天然物などではないのだが、ナイフで切り分け口に運んだ瞬間、ジュワッと程よい肉汁モドキが咥内に飛び散り、熱い、という感覚と、美味い、という感覚が狭いスペースに同居する。

 うーん、美味い。本物の肉には到底及ばないにしろ、このご時世、不味くないどころか美味いと感じる料理を不自由なく食えるというだけでかなり貴重である。元々食にこだわりを持つタイプじゃないんだが、どうせ口に入れるのなら不味いより美味いものの方が良いに決まっている。グリフィンに指揮官として着任してよかったなぁと思える数少ない瞬間だ。我ながら安い男だなとは思う。正規軍に居た頃も別に食うものに困ってはいなかったが、メシの品質だけで言えば間違いなくグリフィンが上だ。俺の貧乏舌も唸りを上げるというものだ。

 

 通常、人間が仕事を選ぶ際は当然ながら諸々の条件を考慮する。その中でも大多数の人間が重視する項目というのは主に四つ。給料、業務内容、人間関係、福利厚生だ。

 給料に関してはまあ、悪くはない。職務に見合っているかと言われれば疑問視せざるを得ないが、そこそこいい金額は頂いているはずだ。少なくとも、他のPMC庇護下や国の下で募集、開示される雇用条件なんかよりは格段に良い。不満はそれこそ突けば出てくるが、そう我侭も言ってられないご時世だからなあ。

 業務内容はもう言うまでもない。そもそも軍人時代と変わらん。左足のことを思えば、未だこの類の職務に就けていること自体が奇跡である。ただこれは俺だからこそ満足いく結果に映るだけであって、他の人間からしたらどうだろうな。慣れない人間にとってはかなりの苦痛ではあるだろう。そもそもが命を脅かす類の職務だ。一般的に受け入れ易いものではないだろう。

 人間関係。もはやこれは人形関係と言ってしまってもいいのではないだろうか。だって人間二人しか居ないし。あと全部人形だし。クルーガーやヘリアントス、ペルシカリアもまた人間ではあるが、あいつらは社長や上司、取引先のお得意様であって、同僚って立場じゃない。ただ、この支部内に限定してみても、カリーナとは悪くない関係を築けているとは思っているし、戦術人形たちとの仲もまあ良好と言って差し支えは無いだろう。表立った不満はない。実にいいことだ。

 最後に福利厚生。言ってしまえばここだけはクソである。やはりこの点は正規軍、というかなんだかんだ国が管轄している職場の方がよかった。条件はあれど、休みたい時に休めたし。ぶっちゃけここドブラックだし。このままじゃ俺、365日休みなしになるんだが、そこらへんあのヒゲはどう考えているんだろうな。もしかしたら、他の三点が及第点以上だから一点くらいクソでも問題ないだろガハハ、とでも思っているのかもしれない。あいつマジでしばくぞ。

 だが、悔しいがそれは経営者視点で言うと正しい。人間が働く上で重視する条件、その四つのうち、二つないし三つ以上に不満があれば高確率で辞める。たとえ給料が破格であっても、業務は地獄、人間関係は劣悪、福利厚生もクソとあっては働く意味がない。他にしたって同様である。その点、クルーガーの采配は上手いというべきなのだろう。しっかりと力を入れるところは入れ、致命的な不満が出ない程度に手を抜き出費を抑えている。

 

 そんなクソまみれの福利厚生ではあるが、この支部食堂だけは素晴らしい。ガッチリと俺のハートと胃袋を掴んでいる。しかも俺たちはこのメシを無料で食える。その一点だけがぶち抜けて高得点を叩き出している。他がマイナスどころか地面にめり込んでいる様なのに。衣食住をしっかり重視した、逆に言えばそれ以外をかなぐり捨てた方針には一周回って賛辞を送りたいほどである。これで他のところにも力を入れてくれたら一周回らずとも素直に賛辞を送れるのだが。

 

「ふふっ。指揮官はハンバーグがお好きなんですか?」

 

 あれやこれや考えながら肉塊を口に放り込んでいると、直ぐ横から愉快そうな口振りとともに質問が飛んできていた。いやあ、好きでしょ普通に考えて。健全な成人男子にハンバーグが嫌いなやつがいるのか逆に聞いてみたい。

 この食堂では、俺たちが今口にしているハンバーグやパスタをはじめ、幾つかのメニューが選べるようになっている。そのすべてが天然物ではない人工食ではあるのだが、見た目の当たり外れはともかくとして、味はどれもそこそこといったレベルだ。基本的にここのメニューに嫌いなものはないんだが、それでも俺はこのハンバーグをよく好んで頼む。いや、なんかこう、食ってるって感じがするんだよな。パスタも嫌いじゃないしたまには口に入れたくもなるが、やはりしっかりと食べている実感を伴えるものの方がいいしな。

 

「それでは、今度非番の時にでも作って差し上げましょうか」

 

 おおっと、これは予想外だぞ。ていうか戦術人形って料理出来んの? この料理を作っている自律人形は、そのためにスキルや知識をインストールされたやつである。戦うことが本分の彼女らに、料理が出来るのかどうかはちょっと不安だ。いやしかし、折角の好意を無駄にしてしまうのもあまりよろしくないか。

 

「私は元が民生用ですから、少し練習すれば大丈夫なはずです」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ寂しげな笑顔を浮かばせて、彼女は続きとなる言葉を紡ぐ。今言われて初めて知ったんだが、AR-15って元々民生用だったんだな。てっきりAR小隊は四人ともに特別な由来があると思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。だが彼女の表情を見る限り、そこを突くのはきっと野暮というものだろう。俺は冴えないおじさんではあるが、それくらいの空気は読める。となれば、ここは彼女の手腕に期待をするべきなのだろうな。とびっきり美味いやつを頼むぞと期待を寄せながら、AR-15の頭を乱暴に撫でてやる。優しさなんてのは戦場のどこかに落っことしてきてしまったみたいなので、勘弁して頂きたい。

 

「……ええ、期待していてくださいね、指揮官」

 

 整えられた桃色の調べを盛大に乱されながらも彼女は、先程とは違った笑顔を浮かべて言葉を結った。そうそう、折角綺麗な顔立ちをしているんだから、悲しみを孕んだ笑顔よりはこっちの方が万倍良い。おじさんの疲れも吹き飛ぶってもんです。

 

 

 さて、そうこうしているうちにお互いの食事を済ませてしまった頃合。そろそろ良い時間だし、軽く食後の運動がてらランニングでもして寝る準備に入るかな。どちらが声をかけるでもなく、お互いがトレイに食器を載せて規定の場所へと戻しに行く。うーん、ちょっと小腹を満たす程度に考えていたんだが、ハンバーグは少し重かったかもしれない。この歳になって余計な肉は付けたくないし、少し自主練の時間増やそうかな。

 

「遅くまでお疲れ様です」

「ああ、ハルさん。ご馳走様でした。今日も美味しかったです」

「フフッそれは何よりです」

 

 食事スペースとキッチンを隔てるカウンターの向こう側。差し出された空の食器を片付けるため奥から現れた一体の自律人形が声をかけてくる。その声に反応してAR-15が微笑を湛え、返しの言葉を発したところだった。

 

 ハルさん。この食堂で働く自律人形の一人である。程ほどに伸びた栗色の髪を後ろでまとめ、自律人形の例に漏れず整った顔立ちに、優しさと柔らかさを感じさせる笑みを常に浮かべている。衣服が汚れないよう常に着用している白のエプロン姿も相俟って、まさしく食堂のお姉さんといった風体である。エプロン越しでもはっきりと分かる、たわわな双丘が眩しい。実に男泣かせな、抜群のプロポーションである。鉄血のハイエンドモデルを作り上げたやつも大概だが、このハルさんを作ったやつも中々だ。男心ってものを完璧に理解している。I.O.P社にも侮れない技術者が居るな、とハルさんを見ていると痛感せざるを得ない。

 この食堂で出されるメニューのほとんどは、このハルさんお手製のものだ。一体どんな知識がその電脳に詰め込まれているのかは知らないが、その手腕は先程のハンバーグが証明している。はちゃめちゃに料理が上手い。AR-15には悪いが、ハルさんのハンバーグを超える料理というのはべらぼうにハードルが高いぞ。是非頑張ってほしい。

 

 勘違いされがちだが、戦術人形以外の自律人形にもしっかり感情はある。というかむしろ、元々が民生用と言ったとおり、接客なんかも当然こなせる前提でほとんどの自律人形は製造されている。受け答えも満足に出来ないレベルのAIを搭載しているのは、完全工業用の人形か、鉄血の下位モデルくらいだ。ああいう極まった用途の人形以外には、基本的に対話が可能なレベルのAIと擬似感情モジュールが搭載されている。そしてそれは、G&Kの支部に所属している自律人形も例外ではない。

 ちなみに、ハルさん、という呼び名が一体いつから定着しているのか、実のところはっきりしていない。雑務を行う自律人形には、戦術人形と違い特定の銃器とのリンクもないため、個体名を表す名前が最初から付いているケースは少ないのだ。実際うちの支部でも、俺は他の自律人形を固有名で呼んだことがない。そもそも名前があるかも分からんし、向こうから積極的に名乗ってくるわけでもないからな。

 そんな自律人形たちの中で、何故かハルさんだけは俺がこの支部に着任してからずっとハルさんだった。多分、彼女は製造されてからそこそこ長い時を経ているのだろう。過去誰かに付けられた名前をそのまま名乗っているのかもしれない。俺自身、別にその由来までを詳しく知りたいわけでもないから、まぁハルさんでいいや、程度に思っているので特に気にしてもいない。

 あと、何故この支部の最高位者である俺がたかだか業務用の自律人形を指してさん付けで呼ぶのかという疑問は当然持たれたのだが、これはもう何となくとしか言えない。彼女の名乗り方で言えばハル、なのだが、他の戦術人形やカリーナがハルさんハルさんと呼ぶものだから、俺も釣られてハルさんと呼んで以降、彼女はずっとハルさんなのだ。今更呼び捨てに切り替えるのもなんだかなあという心持のまま、ずっとそのままである。特に不便も不満もないし今のままで全く問題が無いということも後押ししていた。

 

「そう言えば、キッチンの方にも聞こえていたのですが……AR-15さんさえよろしければ、お教えしましょうか?」

 

 手早く食器を片付けたハルさんがこちらへと振り向き、いつも通りの柔和な笑顔を浮かべてAR-15へと話しかける。肝心の目的語が省略されている発言ではあるが、その内容を推測出来ないようなポンコツは流石に居ない。

 

「それは……その、よろしいのですか?」

「ええ、勿論」

 

 降って湧いた救いの手。それを差し伸べた本人へ、AR-15は若干の戸惑いと共に再度の確認を取る。返しの質問を受けた栗色髪の自律人形は、一層の笑顔を咲かせて再度の了承を伝えた。

 これには流石の俺も心の中でガッツポーズ。ハルさん並の料理を作れる人形が増えるというのは非常に喜ばしいことだ。AR-15は多少抜けているところはあれど、搭載されている電脳自体は極めて優秀であるはず。早々料理にてこずることもあるまい。いやあ、思わぬところで楽しみが増えたぞ。流石にいきなりハルさんの料理を超える味わいを出すのは難しいだろうが、そうでなくても十分美味いハンバーグを頂ける可能性がグッと高まった。

 

「……では、お言葉に甘えて。よろしくお願いしますね、ハルさん」

「承りました。しっかりとお伝え致しましょう。料理の妙も、隠し味のコツも、ね」

 

 ほう、隠し味とな。だが確かに、素材の質もクソもない人工食料だけであれ程の味を出すには、普通のやり方では至難であることは想像に難くない。きっとハルさんなりのアレンジというか、秘伝があるのだろう。これは俄然楽しみになってきた。しかし食べすぎってのもよくない。これからは今まで以上にランニングを増やした方がいいかもしれないな。そうと決まれば、今日腹に入れてしまったカロリー分は早急に相殺しておかなければ。思わぬところから会話が盛り上がりだしたAR-15とハルさんに先に戻る旨を告げて、俺は支部外周へと向かう。あまり気合入れて走っても食べた直後だしな、気持ち長めに流す感じで今日は行ってみるとするか。

 

 

 

 後日。

 戦術人形らで賑わう兵舎食堂の奥。カウンターを挟んだキッチンの中で、ハルさんとAR-15。そしてM4A1、M16A1、SOPMODⅡのAR小隊たち。加えて第三部隊のHK416が所狭しと集い、食堂とは趣の違う賑わいを見せていた。

 

 おかしいな、何か増えてる気がするんですが。




ハルさん……一体誰なんだ……? おじさんにはサッパリ分からない。





早速横道に逸れたというか、色々脳内で変化球が飛んできたので書きました。
今後もこんな感じでのんびりやりつつ、ときたま時系列を進めたりしつつ、基本はほのぼのラインで行こうかなと考えています。それもいつ覆るか分かりませんが。

基本的に書きたいものが出てきた時に書きたいだけ書くスタイルなので、我が道を行く本作ではありますが、それはそれとして感想評価は嬉しいのでください(ダイマ)

ではでは、今後とものんべんだらりとお付き合いください。
よろしくお願い申し上げます。


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36 -予兆-

ぼちぼちまとまってきたので、ここからちょっと続く感じのやつです。


 ここ最近は大きな動きもなく、よく言えば平穏、悪く言えば少しばかり退屈な日々が続いていた。ただ、退屈というのはイコール暇という訳ではない。日々の業務は相変わらず存在するし、可愛い部下たちの教練も日々精力的に行っている。ここでの退屈という言葉が指す事態は、つまりは平常運転が続いているということだ。このこと自体は何も悲観的に捉えることはない。仕事は順調、部下の成長も目に見えている。実にいいことだ。だが、俺が管轄しているT地域は未だ安定した支配下とは言えず、俺が指揮官として着任しているT01地区は曲がりなりにも最前線に配置された橋頭堡。あまりにも静かな日々の繰り返しに、裏返って少々不穏な空気を感じざるを得ない、というのは軍人の性か、それとも穿った予測か。まあ、どちらにせよ俺如きにその原因が分かるわけでもなく、一労働者としては日々与えられた仕事をこなすしかないんだけども。

 もしかしたら、鉄血側のお偉いさん方はT地域周辺を諦めたのかもしれない。そんな楽観的な予測が思わず飛び出してくる程度には、刺激のない日々が続いていた。

 

 司令室のデスクの上で幾つかの書類と格闘しながら、最近の部隊状況に思いを馳せる。

 第一部隊の連中は相変わらずだ。というか、既にあそこまで極まってしまっている以上、最適化工程に動きがない。厳密に言えばまだ90%半ばではあるから、完成していないことは確かなのだが、逆に言えばこれ以上何をどうすれば100%に近付くのかが分からない。頻度は落ちているが訓練も行っているし、前線にも出ている。だが、散発的に発生する鉄血人形との遭遇戦程度では、彼女たちにとってあまりにも役者不足極まる。高校、大学などを出てエリートコースを直走る秀才にいくら四則演算をさせたとて、その学力が上がらないのと同じだ。もっと作戦や訓練の難度を上げるべきなのだろうが、その方法が思いつかない。たかだか数パーセントの違いで何かが劇的に変わることもなかろうが、今以上の成長が見込みにくいというのは少し根の深い問題だ。直ちに表面化することは無いだろうが、将来的なモチベーションの低下も懸念される。いや、あいつら人形だから関係ないのかな。よく分からん。何にせよ、今のままでは彼女たち第一部隊の更なる成長は難しい。今でも十分過ぎる程に強いっちゃ強いんだが。

 一方、第二部隊なんかは今が正に成長期だ。全員が最適化工程30%を超え、漸くヒヨッ子から卒業できた頃合である。錬度的にも今一番前線に出ている部隊だろう。スコーピオンなんかはつい最近最適化工程が40%を超えており、悪くない成長曲線を描いている。訓練方法に縛りのあるライフル組も、狩人と処刑人というパートナーを得て順調に成長している。以前、ダネルの射撃が処刑人の外骨格を掠めた時は珍しくあいつも肝を冷やした表情をしていたな。精度自体はまだまだ発展途上だが、当たればヤバイことに変わりはない。是非この調子でT01地区のリーサルウェポンとしての地位を確立して頂きたいものである。

 第三部隊も順調だ。元々オールラウンドな活躍が見込める四人ではあるが、そこにウェルロッドという新人を加えたことにより、今までにない刺激が生まれている。ハンドガンが一人加入することで直接的な火力こそほとんど上がらないが、取れる戦術、戦略の幅は大幅に変わる。部隊仲も仲良くとは言えないまでも、お互いのプライドがぶつかり合って悪くない関係ではあると思う。ただ、結局G11は変わらなかった。あいつほんとブレないな。

 第四部隊は他に比べるとやや進捗が遅れてはいるが、まずまず順調ではある。m45、IDWの二人も漸く最適化工程が30%を迎え、ダミーを二体操れるようになった。そこにトンプソンを加えたサブマシンガン三体が前線に躍り出て弾をばら撒きながら撹乱し、後ろからMG5が強力無比な面制圧をかけるという、一連の動きがようやっと様になってきた頃合だ。運用の幅が狭い部隊ではあるが、ハマった時の気持ちよさもまた別格である。極稀にMG5の放った弾が前線の三人を掠めていくのが玉に瑕だが、トンプソンなんか背中にマシンガンの弾がぶち当たっても体幹が全くブレない。あり得ない頑丈さである。そもそもぶつけんなって話なんだけど。

 

 そして問題の第五部隊。何が問題かというと、問題がなさ過ぎるのが一周回って問題である。新たに部隊に投入したナガンが馴染みすぎであった。

 最初の出会いこそ散々なものではあったが、腰を据えて話をしたところ、色々と意気投合しちゃったようである。ちょっと意味が分からない。処刑人なんかはやたらナガンに懐いているし、狩人もそんな二人を見て悪くないな、みたいな顔をしていた。ナガンはナガンで、鉄血のハイエンドというぶっちぎりのイレギュラーを抱えさせられた困惑こそあったが、ここは人間と違って人形だからこそなせる業か、さっさと割り切って捉えてしまい、気のいい友人としての立ち位置に収めたようだ。鉄血製の、という枕詞さえなければ、処刑人は煩いところこそあるが素直で溌剌とした性格だし、狩人も少々分かり辛いところはあれど、比較的気の利くやつである。ナガン自身も諜報部隊に居たからか、製造されて長いからか、そんな二人を受け入れられるだけの度量を幸か不幸か持ちあわせていた。

 嬉しい誤算と言えばその通りなんだが、何となく腑に落ちないのは俺だけだろうか。俺は当たり前だが人間なので、あいつらみたいにサクっと割り切って考えきれていないだけかもしれない。まあ、上手く事が運べているのは事実だ。このまま俺も深く考えずにいい方向に事態が向かっていることを歓迎すべきなんだろう。

 

 

「指揮官さま、クルーガーさんより通信が入っておりますわ」

 

 人形と人間の精神性の違いに人知れず打ちひしがれていたところで、カリーナの声がかかる。やばいな、色々考え込んじゃったせいで書類の決裁がほぼ進んでない。そんな急ぎの書類があるわけでも量があるわけでもないんだが、人間の脳みそはマルチタスクを続けるのに向いてないんだよなあ。考え事をしながら書類に目を通すなんて出来るわけがなかった。

 一旦思考と作業をストップさせ、クルーガーからの通信に応答することにする。というか最近あいつと話をする機会が増えてるな。ヘリアントスを毎回毎回すっ飛ばしてるからそれ組織として大丈夫なのか、という疑問は持たざるを得ないが、まぁ俺としてもあのヒゲとしても、直で話を出来る方が何かと早い。色々言葉を飾ったり選ぶ必要がないからな。

 

『すまないな、コピー指揮官。緊急の依頼だ』

 

 応答して直ぐ、まず出てきたのが緊急の依頼という言葉だった。

 以前、S02地区が再度鉄血の襲撃を受けた際も同じく緊急の依頼だったが、その時はヘリアントスからの通信だった。それを考えると、そのヘリアントスをすっ飛ばしてクルーガーが直々に緊急の依頼を出してくるということは、前回以上に切羽詰った状況なのだろう。このヒゲはいけ好かないヤツだが、仕事に関しての手腕はこれっぽっちも疑っちゃいない。そして、決して事態の重要性、緊急性を見誤る馬鹿でもない。こりゃお遊びしてる場合じゃねえな、真面目に話を聞こう。

 

『T02地区の話は以前したと思うが、現地調査に赴いている部隊からの通信が途絶えた。こちらでは識別信号も感知出来ない状況だ。極めて広範囲かつ強力なジャミングを受けているか、全滅したかのどちらかの可能性が高い。貴官の支部に直接の偵察と原因の解明を依頼する』

 

 マジかよ、思った以上に厄介な案件じゃねーか。

 T02地区。現在新たな支部建設を進めるため、周辺一帯の調査を行っている場所だ。うちの支部から直接目の届く範囲ではないから、細かい情勢がどうなっているかまでは分からないが、少なくともクルーガーの部隊が調査に赴ける程度には目立った脅威は見受けられない地区のはずである。そんな場所に向かった部隊からの通信途絶。間違っても笑える状況じゃなかった。

 再三言っているが、クルーガーは馬鹿じゃない。むしろ極めて優秀な部類の元軍人だ。予防策、次善策と呼べるものは何重にも張り巡らせて行動に移るタイプだし、一つの案が潰れたからといって慌てるようなタマでもない。詳しく話を聞けば、現地に向かったのは本部直轄の戦闘能力を持たない人間中心の調査部隊、そしてそれらを護衛するための戦術人形が二部隊と、指揮官という立場ではないが戦術人形への作戦指示が行える人間が二名とのこと。危険度の高くない地域へ派遣するには十分の体制だ。戦術人形の錬度がどれほどかは未知数だが、最適化工程が一桁台のペーペーを動かしたわけでもないだろう。例え奇襲を受けたとて、一人二人を逃がすくらいは出来るはずだし、そもそもそれが出来ないレベルの大軍勢であれば、接敵前の調査でその動向が測れる。

 クルーガーの言う通り、一番可能性が高いと思われるのは広範囲へのジャミングだ。うちの部隊も以前、狩人と処刑人に通信妨害を受けたことがある。だが、あの時は通信こそ潰されたがドローンは生きていたし、人形が発する識別信号も支部でキャッチ出来ていた。それを思えば、本部でその信号すら把握出来ていないというのは異常だ。めちゃくちゃな強度の妨害電波が出ていると考えられる。

 あるいは、奇襲を受けて通信を飛ばす余裕もなく部隊が壊滅した可能性。普通に考えれば中々思い至りにくいところではあるが、これも同じく、その手が打てる鉄血側の切り札を知っている。つまりはハイエンドモデルの登場だ。

 下手をすれば、その両方が同時に起こっている可能性すらある。狩人と処刑人から分かる限りの鉄血側の情報も聴取済みだが、その中に電子戦に強いハッカータイプのハイエンドモデルが居ることも聞いている。もしそいつが出張ってきていれば、広範囲にジャミングを撒き散らしつつ調査部隊を一掃することも不可能ではないだろう。いくら電子戦に特化しているとは言え、ハイエンドモデルの戦闘能力は俺が実際何度も目にしている。AR小隊や404小隊のような実力者が居なければ、逆立ちしたって太刀打ち出来ない。

 

 クルーガーは恐らくそこまでの予測を立て、そしてだからこそ本部から追加の部隊を出すのではなく、俺に依頼を飛ばしてきたのだろう。確かにハイエンドモデルの可能性まで考えれば、まともに太刀打ちできる戦力を保持しているのは恐らくうちの支部くらいだ。表現は悪いが、いくら有象無象を突っ込んだところで返り討ちの未来しか見えない。

 

 よっしゃ、その依頼、受けよう。というか受けない選択肢がない。甚だ不本意ではあるが、将来的に俺が管轄する一部になる地区である。このまま正体不明の爆弾を放置しておくほど俺はお人好しじゃないんでな。

 

『頼んだぞ。依頼は最低限原因の判明、可能であればそれらの排除までだ。緊急依頼相当の物資報酬のほか、排除まで完了すれば少し色もつけよう』

 

 いいね、分かってるじゃん。改めて思うが、クルーガーはビジネスパートナーとしてはほぼ最良の相手だ。今は身内、それも俺の方が立場が下だからそこに遠慮なんぞこれっぽっちもないが、こと仕事に於いてはこちらの意図も汲んでいるし、何より理を通す。軍人時代から続く奇妙な腐れ縁ではあるが、この繋がりは一概に悪いとも言えないし、お互いがそう思っているからこそ今でも形を変えながらこういう関係が続いているんだろう。

 

 

 さて、受けるとなれば次は誰を向かわせるか、だ。本来であれば迷うことなく最大戦力をぶつけて行きたいところだが、前回の教訓も活かし、最低限こちらの守備にも戦力を残しておかなきゃならない。ただ、あまりに防衛に力を割きすぎて、肝心の原因排除が出来なければ意味がない。この塩梅は難しいところだな。更に今回に限っては、作戦区域にジャミングが張られている可能性が高く、遠隔で指示を飛ばすことが出来ないパターンも有り得る。俺も前線とまでは行かないが、ジャミングの影響を受けにくい短距離通信が出来るエリアまで出張る必要があるだろう。

 

 ……よし、決めた。現地に向かうのは俺と、第一、第三、第五部隊。第二と第四には支部の防衛に当たってもらおう。

 理由は単純。敵方にハイエンドモデルが居ることを想定し、確実に葬れる戦力で以って事に当たる。そして万が一それらが全てブラフでうちの支部に襲撃があった場合、第二部隊と第四部隊であれば接敵前にかなりの数を削ることが可能だ。ライフル三丁とマシンガン一丁の総火力は馬鹿に出来ない。それで撃退出来る程度であればよし、難しいのであれば最悪カリーナが退避出来る時間を稼げれば上出来。それが出来ないほど低い錬度でもないしな。俺とカリーナとで通信が出来ない可能性も考え、スコーピオンとMG5には基本の配置を予め指示しておき、それで抑えられないと判断したら全員でカリーナの護衛に回って支部を放棄するよう伝えておく。建物なんぞあとでいくらでも建て直せばいいが、人命はそうはいかんからな。

 突入側に第五部隊を入れたのは、俺の護衛と戦地運用のテストランとでも言えばいいのか、そういう位置付けだ。一応、今回の件がジャミングだけで調査部隊が生き残っていた場合も考えて、あいつらには俺を護りながら後方に待機してもらう。ただ、正直調査部隊が生きている可能性は低いと踏んでいる。鉄血側の立場で考えれば、ジャミングだけで終わらせる理由がない。普通に殺されている可能性の方が遥かに高いだろう。

 欲を言えば、ジャミングを引き起こしているであろう鉄血側のハイエンドモデルも引き込めないかな、くらいは考えている。が、あくまで欲だ。現実的なプランじゃない。狩人と処刑人が極めて特殊な事例であっただけで、早々盤面をひっくり返す裏技が通るとも思えないしな。ただ、未知を相手取るのならばこちらも出来る限りの対策を打っておくのは基本中の基本だ。どんなタイプが出てくるかも分からないし、取れる手は多く持っておくに越したことはない。そもそもこの懸念自体が外れていて、恙無く対応出来るのであればそれはそれで最良の結果だしな。

 そんなわけでカリーナ、出撃部隊分の車両と物資の準備を頼む。俺はこのまま全部隊を一度召集させて作戦の説明に入ろう。

 

 

「作戦指示、拝命致しました。原因の究明も排除もお任せください」

 

 うちの支部に所属する戦術人形、全部隊を召集してからの作戦下命。代表して第一部隊の部隊長、M4A1がその了承を伝えてくる。

 当然俺も作戦行動中に指示は出すつもりだが、現場での咄嗟の判断や細かい部分はM4の領分だ。一から十まで俺が手足を操っていては、戦場という場においては些か動きが遅くなりすぎてしまう。そして、M4はそれらの指示を行えるだけの知識と経験、技量を持っている。

 基本的な動きとしては、ウェルロッドを抱える第三部隊が先行偵察、第一部隊がそれをカバー。俺と第五部隊がやや離れた位置で動くといった陣形の予定だ。本来であれば第五部隊を前に出したいところだが、もし調査部隊が生き残っていた際、最初に遭遇するのがあいつらではちょっとばかし都合が悪い。だが、調査隊に生き残りがおらず、鉄血が跋扈しているような状況であれば勿論、第五部隊にも大いに働いて頂くつもりである。一応ではあるが、カリーナ謹製のマントも装備させて行かせることにしよう。人間の目に触れる可能性がゼロじゃない限りは最低限の偽装はしておく必要があるからな。

 あ、あと改めてあいつらに確認しておくか。先程説明した通り、作戦区域一帯では強力なジャミングが発生している可能性が高いが、そういう類の能力を持つハイエンドモデルに心当たりはあるんだよな?

 

「おお、あるぜ。多分侵入者(イントゥルーダー)だろ。別に嫌いじゃねぇが、好きでもないヤツだったな」

「奴は義体性能自体はそう突飛でもないが、武装が厄介だ。ガトリングの制圧火力は舐めてかかると痛い目を見る」

 

 ヒエッ鉄血の技術力で作られたハイエンドモデルのガトリング砲かよ。絶対に食らいたくねえ。だが、そういう武器を持っているという事前情報があるだけでも段違いだ。何時の時代においても、戦いに於いて機を制すために情報は必須である。そして今から戦地に赴くのは、それらを活かし切れないヒヨっ子どもではない。蜂の巣にされる前に蜂の巣にしてくれるわ。

 しかし、侵入者か。狩人や処刑人とはまた毛色の違ったコードネームだな。ハッカータイプであることを裏付けるような命名である。だが、こちとら相手の土俵に付き合う義理はこれっぽっちも持ち合わせちゃいない。シンプルにぶっ飛ばしてやるとしよう。

 

 

「指揮官さま! 車両および自律人形の手配、整いました!」

 

 司令室に戻ってきたカリーナの声が響き渡る。よっしゃ、これで準備完了だな。鬼が出るか蛇が出るか、そいつは分かりっこないが、こちとら竜でお出迎えだ。無論、慢心や油断をするつもりもない。最大限の力でもって、完膚なきまでに叩き潰してやる。無意識に、愛銃UMP9を握る手に僅かながら力が入る。うーん、俺もなんだかんだ直接戦場に行くのは随分と久しぶりだからな。ちょっと気分が高揚しているのかもしれん。落ち着け落ち着け。

 

「お、そうだ指揮官」

 

 準備も整い、さて出撃だという頃合。いい意味で緊張感を感じさせない普段通りの口調のまま、M16A1が口を開いた。

 

「久々の大規模な作戦だ。帰ったらまた祝勝会でもやろうぜ。AR-15だけじゃない、私らもハルさんに教えてもらったんだ。期待しといてくれよ」

 

 ほう、そいつはいいな。昔よく見た漫画や小説ではこういうのをフラグとでも言うのだろうが、ところがどっこいこいつは娯楽作品でなく現実で、よしんば立ったとしてもフラグごと叩き伏せるだけの実力をこいつらは備えている。

 

 ここで俺が返すべき言葉は、心配の類ではない。

 期待している。ただその一言で、教え子たちの背中を押すだけだ。

 

 

 うっし、いい感じに緊張もほぐれたところで、出るとするか。カリーナ、留守を頼んだ。スコーピオン、MG5、しっかり頼む。

 

「まっかせといてよ! そっちにいけないのはちょっと残念だけどさ」

「任せておけ指揮官。このMG5、必ずや護り切って見せよう」

 

 うーん、この頼もしさ。この二人だけでも安心感はあるが、加えてあの鉄壁トンプソンも居るしな。カリーナを護るだけならミスる未来が逆に見えない。戦術人形に対して直接指示を出せないという不安要素もあるにはあるが、単純な命令だけでも予め出しておくだけで大分違う。これでおじさんも安心して戦地に赴けるってもんです。

 

「指揮官さま! どうかご無事で!」

 

 頼れる後方幕僚様のエールを背に、司令室のゲートを潜る。

 さて、俺も久々の現地指揮だ。気合入れて行くかあ。




出撃部隊
第一部隊:M4A1 M16A1 M4 SOPMODⅡ AR-15
第三部隊:UMP45 UMP9 HK416 G11 ウェルロッドMkⅡ
第五部隊:M1895 狩人 処刑人

支部防衛部隊
第二部隊:スコーピオン M1911 M14 SVD NTW-20
第四部隊:MG5 トンプソン m45 IDW


うん、負ける気せーへんな!(慢心


ということで始まりましたT02予定区調査作戦。果たして何が出てくるのでしょうか。
そしておじさん久々の戦地入り。ジャミングあるらしいからね、仕方ないね。

何回かに分けて今回の流れを投稿していく予定です。多分いつも通り進むと思うんで、のんべんだらりとご覧頂ければと思います。


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37 -ハウンドドッグ-

割としっかりめに用意したはずのプロットが全部迷子になりました。返して。


 道中のドライブは順調そのものであった。今日の天気はやや雲が広がっているものの、雨が降りそうな陰り方ではない。雲庭の合間を縫ってしっかり日も射しているし、視界不良というわけでもない。少々肌寒い気温ではあるが、活動には何ら支障の出ない温度。うーん、実に良い作戦日和といったところだな。

 支部からそれぞれの車両に搭乗して進んでいる道はアスファルトが残っていたり、未舗装だったり、本来はアスファルトがあったであろう瓦礫の道だったりと、景観としては中々の趣を齎しつつ移り変わっていた。俺とAR小隊のオリジナルが乗る1号車、第三部隊のオリジナルが乗る2号車、第五部隊の乗る3号車。そして、それぞれのダミーを乗せた輸送用車両が4号車と5号車といった感じだ。戦術人形の中にも運転できる奴は居るが、うちの支部では作戦前に余計な消耗をさせないためにそれぞれの車両には運転を目的とした自律人形が一体ずつ配置されている。

 

「指揮官。もう間もなく第三ウェイポイントを通過致します」

 

 俺が乗っている車両を運転する自律人形より声がかかる。その声を受け、手元の地図のマークと現在の時刻の照らし合わせを行う。うむ、ほぼ予定通りって感じだ。行軍に支障もないし、今のところは本当に順調だな。まあ逆に作戦区域到達前に問題が起きても困るんだが。

 いや、一つだけ問題があった。これを問題と呼ぶかどうかは人によって異なるだろうが、俺にとっちゃある意味で大問題である。

 

「……? どうかされましたか?」

 

 俺の表情を横目で確認し、今度は若干ながら不安な色を含んだ声色で自律人形が声を上げる。助手席から無意識的に横へ視線をずらして捉えた人影は、程ほどに伸ばした栗色の髪を後ろで結った、見目麗しい自律人形であった。

 

 うん。何故ハルさんが運転をしているのかな? おじさんにはサッパリ分からない。

 

 おかしいでしょ。アナタ食堂担当でしょ。間違っても戦場に向かう車を運転するタイプじゃないでしょ。カリーナのやつ何してくれてんの。そんな疑問の渦は、ハルさんの微笑によって全て封殺されてしまった。意味が分からない。

 支部の外壁で既に準備万端であった車両に乗り込んで直ぐ、なんでやねんと声を上げなかった自分を褒めてやりたいくらいだった。何食わぬ顔でしれっと運転席に座っていたが、一周回っても違和感しかなかった。曰く「料理だけでなく、もっと皆さんの役に立ちたいと思って」とのことだが、正直ハルさんは食堂に居るだけでハチャメチャに役立っている。むしろこの支部に居てもらわないと困るレベルだ。それ以上に一体何を望んでいるんだこの欲張りさんめ、とも思ったが、カリーナがちゃんと正規の手順で手配した人形である以上、俺がどうこう喚いていきなり運転手を交代させるのも少しばかり躊躇われた。ていうか電脳にインストールされてるの料理関係だけじゃなかったのかよ。どんだけ詰め込まれてるんだ。

 そんなハルさんではあるが、なんとびっくり運転もハチャメチャに上手かった。軍事車両は基本的に全てマニュアルなんだが、シフトチェンジの振動がほぼ無い。発進停止も驚くほどにスムーズだ。いぶし銀の技術バリバリである。どっから手に入れたんだそのテクは。ハルさんに限らず、支部内で働く自律人形は全てI.O.P社製のはずなんだが、何故かハルさんだけスペックが高過ぎる気がする。これ後でペルシカリアに聞いてみよう。絶対普通の人形じゃないぞこいつ。謎過ぎる。

 

 仰天のイレギュラーこそあったが、前述したとおり行軍自体は順調だ。

 俺たちの部隊は今、クルーガーから頂戴した、通信の途絶えた部隊が定時連絡を発信したポイントを順番に回っているところである。部隊の痕跡でも見つかれば御の字程度の考えだが、まあ予想通り、異常なしの定時連絡が入れられたポイントからは何も見つからなかった。一応想定ルートとしては、通信が途絶えたポイントと最後に連絡が繋がったポイントの中間地点までを車で移動し、そこからバニシングポイントまでは警戒のため徒歩で進む予定だ。機動力で言えば車両で突っ込む方が断然速いんだが、何が潜んでいるか分かったもんじゃないからな。余計な音を立てて先手を取られるのも困る。慎重に慎重を重ねて無駄ということはない。

 ちなみに俺はこういう場合、紙の地図を愛用する。軍人時代からここは変わらない。他の部隊ではタブレットを使うところが多かったし、俺の部隊でも部下には好きに使わせていた。別に機械が信用ならないとか使えないとかそういう話ではない。実際めちゃくちゃ便利だし。ただ、紙媒体はデータが破損することもなければ、液晶が割れることもない。バッテリー切れの心配もないし、長年の酷使で半導体がイカれることもない。明かりさえあればいつでも見れるし即座に書き足せる。閲覧媒体としての電子機器が極めて優秀だということは俺も十分認めるところだが、何だかんだ記録媒体として優れているのは紙だと思っている。経年劣化は逃れられないものの、それは電子機器とて同じだ。こういうところがオッサン臭いんだろうなとは俺も思うが、慣れ親しんだものは仕方が無いのだ。

 

 

 さて、第三ウェイポイントも無事通過し、そろそろ車から降りる頃合だ。第四ウェイポイントなどはない、次のポイントが消失点だからである。周りの景色に視線を預けてみれば、大きな幹線道路がただ只管に続いており、ところどころアスファルトが崩れ落ちたり破壊されたりしているが、まあ何とか車を走らせられる程度には整っている。地形的にはほぼ平地と見ていいだろう。ぽつぽつと木々が生い茂っているエリアもあり、ちらほらと低層ビルや民家の廃屋だろうか、元々人が住んでいたような面影も十分に感じ取れる。

 ざっくりまとめて、田舎街といって差し支えない風景であった。これが第三次世界大戦前であれば、さぞ平和で長閑な光景が目に入ったことだろう。見た感じ汚染もされていないし、土地も生きている。なるほど、次の支配地域候補としては十二分だ。

 手頃なビル近くに全車を寄せ、部隊を召集する。ここからは徒歩だな。見た感じ、建物の密度も高度も低い。行軍中の視界は十分に確保出来ると見える。しかしそうなると、部隊の通信が途絶えた理由が気になってくるな。鬱蒼と茂った森林などと違い、見渡す限り今と同じような景色が続いているようにも思える。アンブッシュしようにも建物の影などは場所が限られてくるし、ジャミングの有無に関係なく、この立地で一方的に奇襲を食らうシーンが想定出来ない。それこそ通信が出来ない異常を察知して引き返してもよさそうなものだ。

 試しに車両に搭載していた通信機から支部への連絡を試みるも、スピーカーから流れてくるのは不規則なノイズのみ。うーん、この位置で既にジャミングの圏内か。発生源がどこかは分からんが、調査部隊が完全に消息を絶ったと思われるポイントまではまだ距離がある。この付近に原因が潜んでいる可能性も無くはないが、もしそうであればとっくに仕掛けられているはずだ。何せ今俺たちは隙だらけだからなあ。当初の読み通り、相当な広範囲に渡ってジャミングが張り巡らされていると見ていいだろう。

 

『あー、あー。指揮官殿、聞こえるかの』

 

 周辺に目を配らせながら考えていると、耳元に響くのは喋りが特徴的なナガンの声。釣られて視線を動かすと、俺の立ち位置から10メートルほど離れた位置で手を振りながらこちらを向いていた。うむうむ、感度良好っと。問題なく通信が行えている旨を無線で伝え、テストを終える。予想通り、戦術人形間で使われる短距離通信プロトコルは生きているようだ。今俺の耳元には、その周波数に合わせたヘッドセットが装着されていた。

 如何に強力なジャミングといえど、全ての通信を妨害するような無茶は鉄血側もしないだろうと踏んでいた。技術的には全然出来ることではあるんだが、それをやってしまうと鉄血側も通信が行えなくなる。あいつらはあいつらで相互通信プロトコルを持っているはずだから、それさえも封じてしまうと味方同士で連携が取れない。正に本末転倒というやつだ。

 だが、安心ばかりも出来ない。この短距離通信プロトコルの最大通信可能距離は障害物なし、無風の理想的状況で50メートルが精々だ。行軍しながらとなると、実際には2,30メートル程度が関の山だろう。人形同士がその距離に居さえすればそいつらは通信が可能だが、俺からの指示を飛ばすためには全員がその距離に収まってもらう必要がある。陣形を広げすぎるのも問題だが、かといって全員が俺の周囲に固まっていては満足に作戦行動が行えない。範囲攻撃でも食らおうものなら一網打尽である。

 

 うーむ、致し方なし。少しばかり情報伝達の速度が犠牲になるが、最低限以上に索敵範囲を広げなければ意味がない。二段階通信の陣形で行こう。ある程度の距離を開けておかなければ、不意打ちなど食らってしまうと真っ先に俺が死ぬ。こうも障害物の少ない開けた場所では、人形と違って耐久力に難のある人間ではひとたまりもない。俺だって無駄死にしたくないしな。

 陣形はこうだ。まず進軍方向の前方にウェルロッドとナガン、ナインの三人を配置する。先鋒両翼にそれぞれM16A1、SOPMODⅡを置き左右の警戒に入ってもらう。前方からの通信を拾うため、中継地点となる陣形の中心にM4A1とUMP45を置く。そしてその二人の更に後方に俺だ。HK416とG11には俺の位置から両翼に展開してもらい、後陣の左右を警戒してもらおう。そして俺の直衛に狩人と処刑人。後方警戒にAR-15といった具合だ。

 前後からの通信を処理する中心の二人にはやや負担が掛かってしまうだろうが、あの二人ならばこなしてくれるはずである。M4A1は言わずもがな優秀だし、UMP45は電子戦に強く電脳の情報処理性能が高い。

 一応基本的な動きとしては、開けているエリアに関しては先述の通りに進む。廃屋やビルなど、アンブッシュポイントがある場合は都度前衛組からダミーを先行させて索敵。これの繰り返しだ。調査部隊が生きていて合流出来れば御の字だが、まあ可能性は低いだろうな。こんな視野が開けたフィールドで帰還出来ない理由がない。ほぼ確実に殺されているか、そうでなくとも行動不能状態に陥っているだろう。

 ハルさんをはじめとした自律人形と車両に関しては一旦待機だ。ただ、もし襲撃を受けた場合はとにかく支部まで逃げることだけを考えて動くようにと言い含めておく。いくら替えの利く自律人形とは言え、無闇矢鱈に使い潰すつもりもない。あと万が一にもハルさんを失うのはあまりにも痛い。誰だって任務を終えたら帰って美味いメシを食いたいもんな。

 

 よし、つーわけで進むか。ナイン、ウェルロッド、ナガン。頼んだぞ。

 

「はいはーい!」

「了解致しました」

「やれやれ、人遣いが荒いのう。了解じゃ、指揮官殿」

 

 三者三様の返答に頷きながら、いざ前進。さて、何が出るかなっと。

 

 調査部隊の通信が途絶したポイントまでは、警戒前進の速度で凡そ一時間強といったところだ。車でぶっちぎれば早いんだが、流石にそんなアホなことは出来ないし、まあ一時間程度であれば義足の問題もない。行軍中、恐らくナインだろうが、色々な通信が飛んでいるようだが中継地点に居るUMP45が見事にすべての無駄な情報をシャットアウトしていた。流石である。

 しかし、いざ進んではみたものの、鉄血人形のての字も見えないな。俺の予想ではポイントに至るまでに何度か遭遇戦に入るかな、程度には考えていたんだが、あまりに静かだ。逆に不安を煽る。息を潜めて襲撃の機会を伺っているのか、それとも調査部隊を殲滅した後に引き上げたのか。だが、引き上げたとするならジャミングがかかりっぱなしなのが引っ掛かる。ここまで大規模なジャマーであれば、それに特化したモデルが居るか、そうでなければそれなりのサイズの装置が必要なはずだ。鉄血側にしてもそこそこ貴重なアイテムのはずである。それらを放置したまま帰るとは考えにくい。

 しばらく進んでいくと、今まで大きな道しるべとなっていた幹線道路が急激に細くなり、そして破壊の度合いも一気に増した光景に様相が変化してきていた。同時に建物の影も少なくなっている。地形こそ変わらず平坦ではあるものの、そこそこの茂みや雑木林がそこかしこに点在する、お誂え向きのシチュエーションだ。ふむ、仕掛けてくるとしたらこの辺りかな? 念のため前方の連中のダミーを先行させてアンブッシュを警戒しておこう。

 

『……ッ! 前方接敵! 指揮官!』

 

 突如、UMP45から鋭い通信が響く。それと同時、茂みから見慣れた色合いのファッキン鉄血人形どもが飛び出してきたのが遠目に確認出来た。

 うーん、ドンピシャかあ。こうも分かりやすいと逆にその裏があるんじゃないかって考えてしまうな。すかさずウェルロッドとナガンを下げ、ナインを前に出すよう指示。あわせてM16A1とSOPMODⅡに動いてもらい、ちゃっちゃと殲滅するか。M4とUMP45は中距離から援護。狩人と処刑人には悪いが俺の盾になってもらおう。こちとら生身なんでね、流れ弾でも当たったら死んじゃうんです。

 しかし、これで鉄血側にハイエンドモデルが居ることが確定したな。今飛び出してきている鉄血人形は量産型だけだが、本当に量産型しか居ないのであれば、潜伏してタイミングを見て強襲などという芸当は出来るはずがない。誰かが指示を出している。その誰かってのは十中八九鉄血のハイエンドだろう。単純な待ち伏せではあるが、兵隊をただ前に突き出すだけの運用とは違う。スケアクロウや処刑人とはちょいとばかし出来が異なるようだ。

 ただ、それだけってのも考えにくい。敵方の策が待ち伏せからの奇襲だけであれば、調査部隊が一瞬で壊滅するとも思えない。そして、このタイミングを計れるということは、戦場を見渡せる範囲にそのハイエンドが潜んでいるということだ。つまり、こっちからも見つけられる。

 候補は二つ。前方の茂みの何処かか、少ないながら立っている低層ビルの何処か。だが、もし前方の茂みに居るのであれば量産型と一緒に襲い掛かってきた方が効率がいい。となると、建物の中に潜んでいる可能性が高いな。

 

 ふむ。よし。狩人、処刑人。お前ら俺の護衛はいいから、あそこに見えるビルに突っ込んでみてくれ。俺は下がってAR-15にカバーしてもらう。予測が正しければそこに親玉が居ると思う。

 

「おっしゃ! 任しとけ!」

「了解した」

 

 俺の指示を受けた鉄血製の猟犬が二匹、とんでもないスピードで走り出していく。特に処刑人は久々の実戦機会である。あいつ戦うの好きっぽいからテンション上がっちゃってるんだろう。しかし便利だなあいつら。強いし。今後も機会があれば積極的に使って行きたいところだ。

 

『殲滅完了よ、指揮官』

 

 とかなんとかやってる間に前方の雑魚処理が終わっていた。はえーよ。十数体は居たと思うんだが、本当に一瞬だったな。奇襲をかけようとしたとは言え、所詮は量産型だったか。ウェルロッドやナガンだけならともかく、M16A1とSOPMODⅡの反撃に耐えられる要素がどこにもなかった。

 

『おお、マジで居た。指揮官、お前やっぱすげぇな!』

『ふん。久しぶりだな、侵入者』

 

 突入を指示してから程なく、二人から無線が響いた。おー、やっぱり居たか。鉄血製のハイエンドモデルはその性能こそ疑いようがないが、戦闘における経験値が絶対的に足りていない。策を弄することが出来ない、あるいは講ずる策そのものが稚拙だ。言ってしまえばセオリーの初歩程度の知識しかないように思える。それでも極めて高い戦闘能力に、こうまで広範囲のジャミングを繰り出せるのであれば、並大抵の力では突破出来ないのも事実なんだが。ていうか、前方からの奇襲に合わせて建物からガトリングでもぶっ放せばそれだけで全然違ったと思うんだが、何故そうしなかったのか。まさかその程度も思いつかなかったとは言うまい。いくら戦術理解に浅いとは言え、俺は鉄血のハイエンドモデルをそこまで過小評価はしていない。つーかそれやられたら普通にヤバかったな。何で撃たれなかったんだろう。身を隠すことを優先してたのかな。

 

『いや、何でって言われてもなァ……』

『一言で説明するのは難しい。今の貴様では理解し難いだろうしな』

 

 うん? なんか話してる? 攻撃の音が聞こえないところからして、恐らく話し合いのターンにでも入ったのかな。まあ、いくらあの二人が鉄血側のネットワークリンクモジュールを勝手に焼き切ったとはいえ、ハイエンドモデルは自我もあるし感情もある。あいつら元々仲間だったんだし、いきなり銃を向けるって考えには至らなかったのかもしれない。

 

『待て待て待て落ち着け! 別に俺らは騙されてるわけでも洗脳されてるわけでもねぇから!』

『処刑人の言う通り、私たちは自らの意志でここに居る。そもそも洗脳されているのであれば問答無用で貴様を撃ち殺しているはずだが』

 

 あれ、何か揉め出したぞ。何が起きてるんだ。侵入者側の声が聞こえないからどういう会話になっているのかは分からんが、多分あの二人が結果として人類の味方をしてしまっていることに噛み付いてるんだろうな。気持ちは分からんでもない。あっちからすれば人類抹殺を目的とした仲間が突如寝返ったのだから、そりゃ混乱もするだろう。

 

 

『うおッ! アッブねえ!! テメェこの野郎! やるぞ狩人!!』

『ああ、已むを得ん!』

 

 処刑人の叫び声が走ったのと同時、今まで聞いたことの無いような連続的な射撃音が周囲に木霊する。狩人と処刑人が突っ込んだビルから発生したその音は、数えるのも億劫になる程の瓦礫片とガラス片を盛大に撒き散らしながらその存在を声高に主張していた。

 うーわーなんじゃあれ。多分侵入者のガトリングだと思うが、ビルの外壁が物凄い速度で解体されている。あんなモン食らったら人間どころか戦術人形でもミンチまっしぐらだ。ほんっととんでもねえなハイエンドモデルってのは。

 

 だが、ビル内に篭るという選択は誤りだったな。ガトリング砲であれば当然、開けた場所の方が強い。狭い室内では些か取り回しが悪すぎる。それに比べて処刑人は完全に近接戦闘用に仕上がっている。狩人も火力こそ比較すると低いが、扱う武器の毛色が違う。ハイエンドモデルの間で隔絶された実力差があれば話は違うだろうが、狩人も侵入者の義体性能自体はそう大したものではないと言っていた。勿論人間を基準には考えられないが、然程性能差のない人形同士、そして有利な戦場で二対一の状況であれば、あの二体が押し込まれるなんてことはないだろう。

 派手にドンパチやり始めたハイエンドモデルたちだが、俺を含めた他の連中に出来ることは今のところ見学だけだ。ビルはどんどんと崩れてきているし、この状況で増援を突っ込ませるのは自殺行為が過ぎる。理想はあの二体だけで撃破完了、あるいは程ほどに消耗した侵入者が飛び出してきたところを包囲殲滅って形だが、さてどうなることやら。

 

 

「っとぉ! てこずらせやがって!」

 

 銃撃が及ばない程度に距離を開けて、人形たちには周辺警戒を、俺はビルの解体作業の見学に洒落込んでいたところ。声を荒げた処刑人と、引き摺られた侵入者らしきハイエンドモデルが一緒にその姿を現した。わお、やっぱり美人さんじゃん。ややスレンダーな体躯ながら、出るとこはきっちり出てるし、素晴らしいプロポーションだ。その服どうなってんのって突っ込みたくもなったが、チラリと覗くお腹が大変によろしいため不問とする。いやぁ、眼福眼福。

 処刑人と侵入者らしき人形の後ろから、恐らくアレがガトリング砲だろう、どでかい得物を抱えた狩人が続けて歩を進めていた。処刑人と狩人も流石に無傷とは行かなかったのか、外骨格の至るところに浅くない傷が出来ている。特に処刑人は損耗が酷いな、それはもうガッツリやりあったんだろう。本人が満足そうだから別にいいか。多少はうちの支部でも修復出来るしな。

 

 ていうか、処刑人と狩人は何故こいつを仕留めずに連れて来たんだろうか。あいつらの性格からして、わざわざ生け捕りにするとも思えない。顔見知りかそうでないか、意志の疎通が出来るかどうか程度は加味するらしいが、基本的に鉄血製の人形に仲間意識や帰属意識といったものはほとんど芽生えないそうだ。つくづくこの二体がイレギュラーなんだなあと感じる。お互いが大切だという感情など、鉄血製の擬似感情モジュールでは通常持ちようが無い。

 そんなあいつらが侵入者をわざわざ破壊せずに無力化して連れて来た理由とは。うーん、ちょっと予測が付かないな。処刑人も、嫌いとは言わないまでも別に好きでもないと言っていたから、敢えて助けるにはちょっとばかし動機が弱い気もする。そこらへんどうなの。

 

「いや、別に大した理由でもねえんだが、コイツが勘違いしっぱなしなもんでな。ぶっ壊す前に誤解だけは解きてぇなと思って」

 

 マジでしょうもない理由だった。別にいいだろ何を誤解してても。どうせぶっ壊すなら結果変わらんし、そもそも戦闘記録なんかは引き継げても、その個体が得た感情や思考はリセットされるだろうが。ここで何言っても無駄だと思うんだが。

 心に落胆を抱えながらもポーカーフェイスを維持している俺に向けて、侵入者はそのありったけの殺意を隠そうともせずぶつけてきていた。おぉ怖。きっと普段は麗しい顔立ちだろうに、醜く歪んでしまっている。まあでもこれが普通なんだろうな。なんせ今コイツの目の前に居るのは、鉄血どもが是が非にでも絶滅させたい憎き人類様である。

 

 しかし、勘違いかあ。こいつら戦闘が始まる前に洗脳だとかなんだとか言っていたが、侵入者は俺がこの二体を操っているとでも思っているのかな。そうだとしたらお門違いもいいところだ。今お前を引き摺っているポンコツハイエンドどもは勝手に離反して勝手に窮地に陥って勝手に懐いただけだからな。おじさんなーんにもしてません。鉄血側から見れば、この二体がブッチギリでアホなだけだ。俺は何も悪くない。

 

 俺の視線が気に食わなかったのか、先程まで表情を歪ませるだけであった侵入者が、我慢ならんといった様相でその口を開いた。

 

「……ッ! お前が! お前が狩人ちゃんと処刑人ちゃんを誑かした人間なのね! 純粋無垢な二人を……非道卑劣なあの手この手で……ッ! 殺す! 絶対に殺してあげるわ!!」

 

 勘違いの方向性少しおかしくない? もう面倒くさいからブッ壊していいかな。




あーもうメチャクチャだよ(転がり




当初はもっときちっとしたプロットがあったはずなんです。ほぼ全部ぶっ飛びました。何でだよ。
ちゃんと繋がりはする予定なので多分大丈夫です。


ちなみに、イントゥルーダーさん自身、性能は優秀です。度々言ってますがゲーム本編に比べると時系列がかなり前になるので、I.O.P側も勿論、鉄血側も色々と整っていない状態だと本作内では定めています。
ただ、何故か飛び抜けた戦闘能力を持った戦術人形が早期に誕生してしまったこと、人類を追い詰めるはずであった鉄血側のハイエンドモデルが二体、何故か人類の味方についていることが、その後の歴史を大きく変えてしまっています。


一体誰がそんなことをやらかしたんだ…サッパリわからない……


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38 -窮鼠、竜を噛む-

プロット? あいつは死んだよ。


 さて、どーすっかなこいつ。処刑人の言う通り、この侵入者という名のハイエンドモデルが盛大な勘違いを起こしているのは紛れもない事実なんだろうが、いちいち訂正するのも大変に面倒くさい。サクっとぶっ壊しておきたい気持ちで一杯だが、とりあえず聞きたいこともあるっちゃあるし一旦は会話を試みてみるか。この様子じゃあまともに話が通じるとも考えにくいが。

 まあ先ずは処刑人の顔を立てる意味でも、一応は誤解だし俺は何もしていないってことを伝えるだけ伝えておこう。メチャクチャ細かい部分ではあるが、曲がりなりにも俺の指揮下にある人形が望んだことである。たとえそれがただのポーズだろうが、行動を目に見せておくってのは大事だ。今後の信頼関係にも関わる。

 

「はっ! 口ではどうとでも言えますわね! この薄汚い人間風情が!!」

 

 ほらぁー、やっぱり無駄じゃん。そもそも俺は別に鉄血人形を説得したいわけじゃないんだぞ。そりゃ他のハイエンドモデルを味方に引き込むことが出来ればいいなくらいに考えてはいたが、その考え自体が非現実的なことなんて十分に理解している。狩人と処刑人だって、最初からこっちに引き込もうと思っていたわけじゃないしな。何とか上手いこと無駄な戦闘を回避出来ないかなと頭を捻らせていたら鉄血側が自爆したようなもんだ。棚から牡丹餅どころの騒ぎじゃない。

 あの二体の時と違い、例えば侵入者がこちらに付くのであれば狩人と処刑人の洗脳を解こう、なんて持ちかけても無意味だ。こいつは洗脳されていると思い込んでいる狩人と処刑人に攻撃を仕掛けた。人類への殺意と俺に対しての恨みを持っているのは間違いないとしても、じゃあ元は味方だった人形も破壊してしまおう、なんて考える電脳相手に取引の猶予を持つ理由がない。実際、今居るこいつらが破壊されれば、新しい個体が鉄血側で復活する可能性が高い。そうなってしまえばまたこの二体が厄介な敵に舞い戻ってしまうし、そんなデメリットしかない賭けにベット出来る程俺は向こう見ずじゃないからな。

 

「ほれ、指揮官も違ぇって言ってんじゃねえかよ」

「指揮官? 指揮官ですって? 人間ごときを指揮官と呼び、あまつさえその下に付き命令を聞くなど……ありえませんわ!!」

 

 処刑人の言葉になおも噛み付く侵入者。まあそりゃそうでしょうよ。言われてみれば、怨敵である人間の言うことを聞くようになったなんて、洗脳と思われても仕方ない気がする。ていうか、鉄血のハイエンドモデルの電脳を対ハッキングプロテクトに抵触することなく洗脳出来る様な技術があれば、この戦争かなり優位に進めることが出来そうだけどな。残念ながらI.O.P社にそこまでの技術は無い。あのペルシカリアですら、狩人と処刑人の知識を借りて電脳の表層部分に少々手を加えるのが精一杯だった。鉄血側の技術者が生きていて、そいつに協力を持ちかけることが出来ればワンチャンあったかもしれないが、まあ死んでるだろうし。

 

 んん? んんんん? ちょっと待てよ。侵入者って確か電子戦に特化してたよな。そういう技術とか知識とか持ってないかな。もし持ってたらコイツの価値が一気に跳ね上がるぞ。人類という立場で見れば、狩人と処刑人を犠牲にしても余裕でお釣りがくる。慣れ親しんだ個体を失うのはちょっと心が痛むが、そもそもが敵だったし、敵として復活したとしてもAR小隊が居れば勝てる。で、侵入者さえ抱きこむことが出来れば、その新しい個体も捕らえて今度は文字通り洗脳してやればいい。無論、侵入者にその力があればという前提があっての話だが、今すぐぶっ壊してしまうのには些か惜しくなってきたぞ。今のまま話が通じるとは思えないが、粘る価値は出てきたな。

 ということで、ちょいと本腰入れてチャレンジトークのお時間だ。処刑人と狩人にはこのまま侵入者が暴れないよう抑えてもらい、他の人形には周辺警戒を継続させておく。邪魔を入れられたくはないし、ハイエンドモデルがあの程度の手勢しか引き連れていないとは考え辛い。支配地域予定区とは言えども現状は敵の手中にあるエリアで油断は出来ないからな。

 

 処刑人と侵入者の会話に咳払いを一つ入れて割り込む。先ずは再度の否定から入っておこう。そして、鉄血製のハイエンドモデルの電脳には対ハッキングプロテクトがあるため洗脳は無理だと告げ、こちらの情報カードを一枚切ってみる。さて、こいつが狩人や処刑人と同じくらいコンプライアンス意識の低いポンコツなら助かるんだが、どうだろうな。

 

「ふん、そうでしょうとも! お前たち人間ごときに解除出来るような軟なプロテクトじゃないのよ!」

 

 あ、ちょっと想像してた方向とは違うポンコツだこれ。自らの発言によって一瞬で矛盾を生み出したことに気付いていない。そこまで対ハッキングプロテクトに自信を持っているのなら、狩人や処刑人が洗脳されるはずがないのだ。

 だが、その矛盾を突っつくことはまだしない。どうやら激昂はしながらも、言葉を選べば会話は成立する様子である。ならば今のうちに引き出せるだけ情報を引き出しておくのが吉というものだ。この調子で知っていることを全部喋ってもらうか。

 次の手として、その対ハッキングプロテクトさえどうにかなればこいつらもきっちり洗脳してやりたいところなんだが、と嘯いてみよう。いや、もし侵入者にその技術があるのならばお前を捕らえて無理やり言うことをきかせてもいいな、と脅迫めいた台詞もあわせて投げておく。

 情報収集を目的とした会話の場合、そこには幾つかの手段があるのだが、今回は会話の主導権を握り敢えて言葉の方向性を散らす戦法で攻める。傍から見れば、俺はのらりくらりと相手の神経を逆撫でしながら話しているようにも見えるだろう。そこにこちら側が本当に欲しい情報への質疑応答が含まれているとも知らずに。ある程度成熟した人間相手では無駄な論法ではあるが、多分AI相手には有効だ。特に今こいつは誰が見ても分かる程に頭に血が昇っている。AIが怒るなんておかしい話でもあるんだが、そこは擬似感情モジュールの為せる業だと思っておこう。そんな枝葉を今考える必要はない。

 

「無駄なことですわ! 誰が人間の思い通りに働くものですか!」

 

 ちっ流石にそこまで抜けてはいないか。こいつにその技術があるかどうかが分かれば御の字だったんだが、そうペラペラとは喋ってくれないらしい。ほんの少しだけ侵入者への評価を上方修正しておこう。つっても五十歩百歩だけども。

 ならば少し方向性を変えるか。とっととぶっ壊して辺り一帯のジャミングをひとまず解消させてしまおう。こいつが潜んでいたビルはもはや全壊に近い状態だし、あの中にジャマーがあったとしたら既に破壊されているはずだ。未だ通信が繋がらないのなら、こいつ自身が強力なジャミングを発生させている可能性が高い。そういう能力を持っていると狩人たちも言っていたしな。

 

「やるならやりなさい。ですが……ただでは終わりませんことよ……!」

 

 なんてことを呟けば、先程の喚き散らすような口調から一転、怒り心頭ではあるもののどこか覚悟を決めたような顔つきと台詞が飛び出してきた。うーん、ちょいと焦ってしまったか? ただ、否定も肯定もせずに流したということは、恐らくこいつを倒せばジャミングは止まるということだ。とりあえずぶっ壊して、周囲に居ると思われる残党を処理して、調査部隊の動向を確認したらミッション終了としてもいい頃合かもしれん。元々支部の位置は割れてるから侵入者をお持ち帰りしてもいいっちゃいいんだが、そうするとこいつを中心にいつまでもジャミングが発生することになってしまう。そんな自殺行為には流石に及べない。

 

「ところで侵入者よ、一つ気になっていたのだが」

 

 会話も程ほどに切り上げ、次のアクションに移ろうかと考えていた矢先、狩人が口を開いた。侵入者は相変わらず睨みを利かせてはいるが、俺に向ける視線よりも幾分か柔らかいのはやはり同族意識でもあるからだろうか。あいつらの話ではそういうのは極めて薄いと言っていたが、侵入者は侵入者でまたイレギュラーなのかもしれない。

 

「貴様の言う通り、対ハッキングプロテクトは生きている。つまり、私も処刑人も洗脳などされていない。これは我々が自らの意志で従っていることにはならないのか?」

 

 あぁー、そこ突っ込むのかよ。別にいいけど。聞けば誰にでも分かるような単純な矛盾を俺が今まで放置していたのは、また侵入者が怒り狂ってギャーギャー喚かれたくないからだっつーのに。まあ今となってはこいつをぶっ壊す方向でほぼ固まったからどっちゃでもいいんだが。

 

「えっ……? えぇ……? あら……ッ!?」

 

 ポンコツかよ。鉄血の持つ技術力はもはや疑いようがないが、このままだと擬似感情モジュールや思考能力なんかのAI性能についてはかなり疑問が残ってしまうぞ。技術の方向性が義体性能とか武装の破壊力とかに尖りすぎている気がする。

 狩人からの突っ込みをゆっくりと咀嚼した侵入者の電脳は、自身の発言によって生じさせてしまった矛盾に気付き、そしてその矛盾を解消するには自己の主張を取り下げる外無いという結論に達してしまい、導き出された答えと、その答えを認めたくない擬似感情モジュールが熾烈な争いを繰り広げた結果。

 

「認めない……ッ認めてたまるものですか……! そうです……洗脳でないというのであれば、重大なバグが走っているに決まっています!! 全て壊して……リセットする!!」

 

 バグりにバグった答えを強引に結び付けた。

 

「……ッ! 指揮官! 鉄血人形だ! ……クソッ! すげえ数だぞ!!」

 

 いくら勢いに任せて何かを口走ったところで、ガトリング砲も手を離れ、自身も処刑人に抑え付けられている状況では事態の好転は望めない。そう、侵入者一人では何も出来ない。本当に侵入者が一人であれば、だ。

 周辺の警戒に当たっていた戦術人形たち、そのうちの一体、M16A1がこちらに駆けつけながら大声を発する。慌てて周囲を見渡せば、先程アンブッシュを仕掛けられた茂みの向こうから、数えるのも億劫になる程の量産型鉄血人形の群れが次々に飛び出してきていた。前方に位置していたUMP姉妹らは既に交戦状態に入っている。

 

 ヤバい。彼我の距離が近過ぎる。

 

「……ッ! 貴様……!」

 

 事態を把握したらしい狩人が忌々しげに吐き捨てたと同時、手に持ったハンドガンで迷うことなく侵入者の電脳を撃ち抜いた。チクショウ、ちょっと勿体無いなとは思ったが、今はそれよりも狩人の判断の早さを褒めるべきだな。だが、侵入者を討ち取ったとて量産型の人形の動きが止まることはなかった。一度出された命令は指揮命令者が死んでもキャンセルされないタイプかよ、くそったれめ。こういうところでAIは便利であり、時として脅威に成り得る。

 

「だぁーッくそったれ! おい指揮官! どうすんだ!!」

 

 苛立たしげに悪態を吐きながら、処刑人が飛来してきた弾丸をブレードで叩き落とす。あっぶね、処刑人が居なかったら俺死んでたな。サンキュー処刑人、お前ほんといい猟犬だよ。

 

 だが、一発の弾丸を弾いたところで事態は何も好転しない。こちらも最大戦力を持ち出しちゃいるが、S02地区奪還作戦の時のように策があるわけでも先手を取れたわけでもない。支部防衛作戦の時のように防壁があるわけでも、迎え撃つ準備が出来ているわけでも、制圧射撃要員がいるわけでもない。周囲の警戒にこそ当たらせていたが、無線の関係で索敵範囲は非常に狭くなっていた。結果、通常であれば有り得ない距離で大軍との接敵を許してしまった。更には全方位を警戒していたせいで、茂みの方向にはUMP姉妹とウェルロッド、ナガンしか居ない。

 クソ、悩んでる暇がない。一秒すら惜しい。とにかく大軍の奇襲から始まったこの戦況を少しでもこちらに傾けないとヤバい。全滅の可能性こそまだ低いが、このままじゃオリジナルの損失も有り得る。そんなことさせてたまるか。パニクりかけた脳みそを無理やり捻じ伏せ、UMP姉妹にありったけのスモークとフラッシュ・バンの投擲を指示。この状況から殲滅戦に移行するのは流石にリスクがでかすぎる。幸いハイエンドモデルは仕留めたから、後は数だけはやたら多い有象無象が残るのみだ。一旦退いて態勢を整え、改めて殲滅してやる。

 

 間髪入れずに大軍へ放り込まれた複数のスモークとフラッシュ・バンがその効力を遺憾なく発揮する。しかし、敵の数があまりにも多すぎた。全体から見れば動きが止まったのはほんの一部で、前衛の負担は一瞬軽くはなったものの、気休め程度にしかなっていない。その一瞬の間にも、耐久力に劣るナガンのダミーが一体、鉄血の集中砲火で地に伏していた。

 今ここに車が無い以上、一方的に戦域から離脱するのは不可能だ。となれば遅滞戦闘を行うしかないのだが、鉄血人形の数が膨大な上に距離が近過ぎるため、ナガンのダミーが一瞬で呑まれたように、生半な戦力では押し流されるだけで終わってしまう。だがこのまま一斉に退いたとて、車両を待機させている位置にまでこの大軍を引っ張ることになれば、今度は車両と自律人形が危うくなる。離脱するための足を失うのはなんとしても避けなければならない。

 勿体無いが、AR小隊のダミーをぶつけて時間を稼ぐしかない、か。狩人と処刑人も当てておきたいところだが、こいつらは先程の侵入者との戦闘でかなり消耗している。ここでこの二体を失うよりは、まだ替えの利くダミーの方がマシだ。

 

「それしかないか……! やるぞお前たち! ダミーを全部前に出せ!!」

 

 俺の指示を受けたM16A1が、声を二度張り上げる。その呼吸にあわせ、M4A1、AR-15、SOPMODⅡのダミーたちが一斉に鉄血人形の方へ走り出していた。

 I.O.P社が誇るダミーネットワークリンクシステム。その恩恵を十二分に授かったダミー人形たちは、されど完全な自律行動が出来るわけではない。オートではなくリモートの類であるため、やはりオリジナルが適宜細かい指示を出す方がその能率は上がる。一度出された命令を遂行する程度の力はあるが、どうしてもダミー同士で連携は取れないし、戦闘能力もオリジナルに比べれば格段に落ちてしまう。それでも並以上の戦力として勘定出来るのは、偏にAR小隊の並外れた錬度のおかげだ。他の人形のダミーではこうはいかない。

 だが、如何にAR小隊とはいえ、ダミー人形だけでの戦闘行動では時間稼ぎが関の山だろう。逆に言えば、AR小隊以外のダミーではこの状況では時間稼ぎにすらならない。タコ殴りにされて終わるだけだ。

 

「総員撤退です! 走って!」

 

 ダミーを突っ込ませオリジナル一人となったM4A1が叫ぶ。多分普通に走れば10分程度で車両を待機させているポイントまで戻れると思うが、今はその10分が限りなく長く感じる。それに、AR小隊のダミーがどれ程の時間を稼げるかも正直不安が残る。一瞬で崩壊するとまでは考えたくないが、頭数の差が圧倒的過ぎる。結構な数で抜けてくるやつも居るだろう。いやあ、普段からランニングしといてよかった。間違ってもふざけたことを考えられる状況じゃないが、無理やりにでも脳に余裕を持たせておかないと今以上の窮地に陥ったら死ぬ。戦場での思考放棄は死と同義だ。特に指揮官の立場にある俺は絶対にそれをやっちゃいけない。

 

 一斉に撤退を始め、ろくに照準も合わせないままけん制射撃を行いながらただ只管に、走る。俺の直衛にハイエンドモデル二体がついてくれてはいるが、追いつかれでもしたら如何にこいつらでも俺を敵弾の雨から護りつつの撃破は難しいだろう。こういう時は耐久性に劣りダミーも持てない人間の不便さを嫌でも感じてしまう。軍人時代はそれが当たり前だったんだが、戦術人形をずっと運用してればそりゃ戦場に立たなくなるわけだ。

 走りながら周囲を見渡すが、UMP45とナイン、HK416、それにウェルロッドの数も合わない。クソ、こいつらのダミーも初手で落ちたか。原因の排除は完了したはずだからクルーガーから報酬は頂けるはずだが、それにしたってシャレにならない出費だ。頭が痛いぜ。

 

「おい! ありゃ車じゃねぇのか!」

 

 ふと、処刑人の声が響く。その声と視線にあわせて目を向けると、ポイントで待機させていたはずの輸送車両が物凄いスピードでこちらへ近付いてきていた。マジかよ、メチャクチャに有り難いんだが。でも一体どうしてこっちに来るという判断が出来たんだ。

 

「皆さん乗ってください! 急いで!」

 

 華麗なハンドリングテクを披露し、ドンピシャの位置で車を停めたハルさんが叫ぶ。イ、イケメンかよ。惚れそう。

 ハルさんの操る車両に続いて、後続の輸送車両も到着した。ギリギリだが、乗り込んでスピードを出せさえすれば十分引き離せる距離だ。この距離ならば蜂の巣にされることはあるまい。

 そう思いながら後ろを振り返ると、AR小隊のダミーを抜けてきた少数の鉄血人形の後ろから、先程とは違った砂埃が撒き上がっていた。ということはつまり、ダミーが突破されたということだ。想定より大分早くないですかね。すぐ目の前に迫っている抜けてきたやつは現有戦力で瞬殺出来るが、後ろの大軍はちょっと厳しい。AR小隊も今はオリジナルしか居ない。戦力に差が出来過ぎていた。しかも今はハルさんたちも寄ってきてしまっている。ここでドンパチをやらかしてしまうと、確実に車両と自律人形がオシャカになってしまう。

 

 

 

 

「……チッ。已む無しか」

 

 全員が乗り込んだと思ったら、狩人と処刑人がすぐさま車から降り立っていた。

 

「適当に時間稼いだら走って帰るからよ! お前ら先行っとけ!」

 

 ボロボロになった外骨格を気にもせず、獰猛な笑みを浮かべる処刑人。

 

「……出します!」

 

 そんな二体を尻目に、ハルさんが一気にアクセルを入れる。それに釣られ、2号車以下周囲の輸送車両も一斉に動き出した。

 多分、巷に溢れる漫画や小説なんかでは、こういうのはフラグとでも言うのだろうが、ところがどっこいこいつは娯楽作品ではなく現実で、よしんば立ったとしてもフラグごと叩き伏せるだけの実力をこいつらは備えている。

 

 だから、ここで俺が送るべき言葉は、心配の類ではない。

 任せた。ただその一言で、猟犬たちに背中を預けるだけだ。

 

 

 砂埃に飲み込まれる鉄血のハイエンドモデルが二体、バックミラーの端を掠めた。




第一部隊
M4A1:帰投 ダミー4体喪失
M16A1:帰投 ダミー4体喪失
M4 SOPMODⅡ:帰投 ダミー4体喪失
AR-15:帰投 ダミー4体喪失

第三部隊
UMP45:帰投 ダミー2体喪失
UMP9:帰投 ダミー1体喪失
HK416:帰投 ダミー1体喪失
G11:帰投 喪失無し
ウェルロッドMkⅡ:帰投 ダミー1体喪失

第五部隊
M1895:帰投 ダミー1体喪失
処刑人:未帰投
狩人:未帰投


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39 -眠れる獅子-

多分今回の話の決着にはもう数話かかると思います。
のんべんだらりとお楽しみください。


 這う這うの体での撤退。今までのうちの実績や保有する戦力から推測する限りでは、中々に考えられない結果ではあるだろう。だが、如何に優勢、如何に優位に立っていようともそれらが容易く引っくり返るのが戦場というやつだ。今回は俺がその見極めを誤った。ただ、それだけの話。

 随分と乗車数を減らした輸送車両を出迎えたのは、支部の防衛に就いていた第二、第四の部隊長、スコーピオンとMG5だった。どうやらこちらに襲撃は無かったようで、その情報だけでも幾分か沈んだ気持ちが上向いた。これで前線は敗走、基地は損壊なんてことであれば、俺はこいつらに一生顔向け出来ない。指揮官失格どころの話じゃなかった。

 

 ミスった。

 支部へ帰還する車両の中、脳内を渦巻いていたのは只管にこの言葉だった。

 第三者的視点で見れば、叱責されるほどの過ちは犯してはいない、はず。首尾よく敵のアンブッシュをかわし、侵入者を引きずり出したところまではよかった。だが、その後の尋問。これが良くなかった。あそこで間髪入れず侵入者にトドメを刺していれば、ここまでの事態には陥らなかったはずだ。いやしかし、それも結果論か? 侵入者の持つ技術や知識は確保さえ出来れば戦況が一気に引っくり返る可能性があった。それをむざむざ初手で手放すというのも、今後を鑑みれば勿体無い話でもある。うーん、そもそもそこが欲だったか? 普通に考えて、バグって人間を襲うようになった戦術人形を寝返らせるというのが土台無理な話と言われれば何も言い返せない。可能性をゼロとして見限ってもなんらおかしくない。狩人と処刑人という前例を参考にしてはいけないと理性では分かっていたが、無意識的に何かを見出してしまったか。

 うだうだと後悔と自責の念ばかりが渦巻いてしまうが、ミスはミスとして一旦処理を終わらせて次に移らないと不味い。反省は大事だが、尾を引くのは違う。特に部隊を指揮する立場にある俺が立ち止まるのはダメだ。ここも理性じゃ分かっちゃいるが、中々人形みたく踏ん切りがつかないのが人間の不便なところだ。何か無理やりにでも思考を明後日の方向に引っ張っていかないと、これは長引きそうだなあ。

 

 ということで気持ちも落ち着かぬ敗走の最中、何故ハルさんが俺たちのポイントまで車を走らせる判断を下せたのか、どうにも気になってはいたので聞いてみた。確かに自律人形には感情も在るし、自身で判断も下せる。ただそれはあくまで日常生活における範囲のもので、戦場で誰がどう動くかを判断するだけの知識も経験も、業務用の自律人形は本来持ち得ない。あの動きは正直非常に助かりはしたがしかし、よかったねで終わらせるには少々ばかり棘の残る内容だったのも確かだ。

 ハルさん曰く、車載レーダーが突如息を吹き返したので確認したところ、俺たちの識別信号の少し奥にとてつもない規模の敵性信号をキャッチ。車両は自分たちが乗っている以上前線の俺たちに足があるとは考えられず、このままだと不味いと判断したハルさんは他の運転用自律人形にも呼びかけて一気に走りだした、とのことだ。

 レーダーがいきなり復活したのはほぼ間違いなく、狩人が侵入者の電脳を撃ち抜いたからだろう。あの出力レベルのジャミングを人形単体が出せるという技術も驚きだが、ジャミングの原因は確実に排除できたと見ていい。だが、やはり解せないのはそこから「ハルさんが動いた」ところにある。何度でも言うが、彼女は第二世代戦術人形ではない。外骨格モデルこそ同一世代ではあるが、彼女は肝心の火器統制コアを埋め込まれてはいないし、その電脳に戦術データが詰まっているわけでもない、はずである。後者に関しては俺が直接覗き込んだわけじゃないから分からんが。というか、流石に戦術データを保有する電脳をそのまま民間用にリユースするなんて馬鹿げたことをI.O.P社がやらかすとも思えない。これやっぱペルシカリア案件だな、謎が大きすぎる。今のところ不具合や不都合こそ起きちゃいないが、イレギュラーの基点に成り得るところは早々に潰しておかなきゃならない。下手すりゃ実は戦えます、なんてこともありえる。戦力を死蔵させておけるほど今の情勢は安定しちゃいないし、かといってそんな不確定な要素に期待もかけられない。正しい自律人形の一体としての認識を、エビデンスとともに持っておきたいところだ。

 

「くそう! 誰でもよい、直ぐにメンテナンス装置まで案内せい!」

 

 支部に到着して間もなく。車両格納庫に全車両が納まってから間を置かず飛び出てきたナガンが声を荒げていた。うーん、まずいな。擬似感情モジュールが今回は悪い方向に働いている。直ぐに傷を癒し、ダミーを復活させ、何をしたいのか。そんなこと考えなくても分かる。

 

「案内してもいいけど、メンテナンス装置はこの支部に四機しかないわよ。通常なら重傷かつ戦力になる人形から順次充てられる。先ずは第一部隊が入るんじゃない?」

 

 同じく車両から足を下ろした第三部隊長、UMP45が落ち着いた口調とともに反応を返した。

 彼女の言う通り、うちの支部が保有するメンテナンス装置は四機。投資すれば枠自体は増やせるが、その費用が馬鹿にならない。現状カツカツにちょっと毛が生えた程度の財政状況ではとてもじゃないが装置を新たに導入する余裕はなく、また同時に、その四機のうちのいずれかにナガンを優先的に充てる理由も義理も存在していなかった。

 

 ナガンの気持ちは分かる。痛いほどに分かるのだ。こんな短い期間で仲良くなりすぎなんじゃないの、という別角度からの突っ込みはあるが、仲間を思いやるその気持ちは間違っても否定されるようなものじゃない。ほぼ間違いなく、彼女は全快すれば狩人と処刑人の捜索救出を具申してくる。いや、下手したら独断で飛び出そうとするかもしれない。それくらいには彼女の言動と表情は分かりやすかった。

 だが、指揮官としてその具申を受け入れるわけには行かなかった。ジャミングの脅威に片が付いたとはいえ、障害物もないフィールドで策もなく、あの大軍勢とやりあうのは未だリスクが高い。順番に各個撃破出来れば十分勝ちの目はあるが、相手がそんなお行儀良く動いてくれるはずがない。侵入者が死ぬ直前下した命令の仔細は分からないが、恐らく自分自身を含んだ徹底的な破壊だろう。その危険性を感じ、そしてまた撤回が不可能だと判断したからこそ、狩人は即座に侵入者を撃ち殺したのだ。

 別にあの集団を放っておくつもりもないし、狩人と処刑人の捜索に出ないわけじゃない。だが、単純な物量をひっくり返すには、こちらも同等以上の物量か、策を用意しなくちゃならない。前者はどう頑張っても無理だし、後者に関してもぱっと思いついてすぐに実行出来そうなものがない。当面は全員の修復を終わらせたら警戒だな。展開次第ってとこもあるが、いずれ近いうちに打って出るつもりではある。あの二体の捜索も勿論だが、調査部隊の動向も掴みきれてないからな。

 

 とりあえず先程UMP45が言ったとおり、第一、第三、第五の順番でメンテナンス装置を使ってもらう。ナガンは最後だ。ぶっちゃけ彼女だけ先に直したところで、部隊員が居ないのでは今回の状況下では出番がない。その間第二と第四にはもう少々気張ってもらおう。一時的とは言え、うちの戦力は今大幅に落ちている。こんな状況で強襲でも食らおうものならかなりヤバい。そして、うちの支部の位置は鉄血にもうバレているから、あの連中がここまで歩いてくる可能性は決して低くもないのが実情だ。数とタイミングにも寄るが、主力の修復を終える前に第二と第四で対応し切れない量が襲ってきたら支部の放棄も視野に入ってくる。

 

 さて、人形が修復に入っている間、作戦結果と現状の危険もあわせてクルーガーに一連の流れを報告しておくか。流石にヒゲが知らんところで勝手に支部放棄はちょっと不味い。はあ、こんなに気が重い通信は久しぶりだ、何を言われるか分かったもんじゃねえ。だがそのすべてを甘んじて受け入れよう。作戦失敗の責は指揮官が全て負うべきだ。間違ってもあいつらのせいじゃない。

 

 

『…………そうか』

 

 司令室に着いて早々、クルーガーへと通信を飛ばす。程なくして反応を返したディスプレイの向こう側へ、俺はすべてを報告した。ジャミングの原因であったハイエンドモデルは撃破したこと、そのハイエンドが引き連れていた量産型とのエンカウントにより敗走したこと、主力部隊のダミーがほぼ全て回収不可となったこと、追撃されれば支部放棄の可能性まであること、そして、手駒のハイエンドモデル二体が殿を買って出て未帰投状態にあること。

 その報告をずっと無言で聞いていたクルーガーが、数瞬以上の沈黙を湛えた後に出した言葉は、たった一言だった。まったくありがたいやら悲しいやら。多分このヒゲ、俺がどういう心情でこの報告を挙げているかも分かってやがるな。相も変わらず勘も良いし話も早い奴だが、そこに一切同情の類を差し込まない辺り、つくづくデキる人間である。人の上に立つ人ってのはこうあるべきなんだろうな。俺にゃ難しい。

 

『調査部隊の生死については依頼内容に含まれていない。原因となっていたハイエンドモデルの排除が完了しているのならば報酬は支払おう。だが、残った量産型はどうするつもりだ。様子を見るにしても、このままという訳にはいかんだろう』

 

 まあ、侵入者に加えてあの量の量産型がいたんじゃあ、何がどう引っくり返っても調査部隊の生存は絶望的だろうしな。人形はともかく、人間の痕跡というか遺品くらいは持ち帰ってやりたいところだが、どうしてもそういう系統の話は優先度が低くなってしまう。このご時世、情を優先させていいことなんて何もないのだ。そこが戦場であれば尚更である。

 そして残った量産型も勿論このままにしておくわけにはいかない。トップを破壊したとは言え、あの物量はそれだけで立派な脅威だ。如何に狩人と処刑人が殿を務めたにしても、ああまで消耗した状態では満足に戦えまい。ほとんど総数は減っていないと見ていいだろう。あいつらにも何とか生き残っていてほしいところだがなあ、まぁ期待薄かな。この感情を薄情だと言う奴もきっといるだろう。俺だってそう思う。だがあいつらは曲がりなりにも俺の部下として、兵士としての役目を全うした。しかも上からの命令でなく、自らでだ。その判断を止めなかった時点で、指揮官の立場にある俺もそれを了承したことになる。であれば俺の役目はあいつらを心配することじゃない。

 

 とは言え、現状あの物量に対して効果的な案が出てこないのも事実だ。全部隊を動員した上で十分な距離を離し、先手を取った後のがっぷり四つ。正直これくらいしか思い浮かばない。それも、その戦力に狩人と処刑人を加えた前提でやっとどうにか成り立つ理屈である。何が厄介かと言うと、策が嵌らない可能性が高いのだ。というのも、今暴れているであろう量産型の群れは既に指揮命令系統を失っている。最後に通達された命令を愚直にこなす人形だ。それだけならボーナスステージではあるんだが、如何せん量と場所が悪い。

 AR小隊のおかげで忘れがちになるが、基本的に戦争というのは物量が正義である。俺があれやこれや頭を捻らせている戦術戦略というのは、その物量を効率的に動かしたり、物量で負けている場合にその天秤を少々傾けるためのものだ。何もない状態から勝利を生み出す魔法ではないのである。あくまでひっくり返せるのは、ひっくり返せる程度の差であり、そこに天地の差が最初からあるのでは戦術の差し込み様が無い。広範囲を一気に殲滅できる兵器でもあれば話は別だが、そういうものは「戦略兵器」と呼ばれる通り、個の持つ戦闘能力が戦略を覆し得るだけの威力を持っているものだ。そんなトンデモアイテムが湧いて出るわけでもなし、現状で言うと極めて厳しい。

 

『……お前がそこまで言う程とは、相当だな』

 

 ディスプレイに映ったヒゲ面が、僅かにその表情を顰める。俺もクルーガーも昔はそうだったが、そういう物量だけの手合いを技術と戦術で屠り去ってきた過去を持っている。だからこそ、それだけではひっくり返せない天井というものも分かるのだ。絶対に勝てないとまでは言わないが、勝算が低い。そしてその低い勝算を基に突っ込む程、俺は馬鹿じゃない。せめて、後一手。うちの全戦力に加えてもう一部隊か、欲を言えば二部隊。そこそこ以上の手練たちが居れば、絶望的なところからかなり不利、程度までは戦況を動かせる自信はある。どっちみち不利なことに変わりはないし、そんな都合のいい部隊が居るわけがないんだけどさ。

 

 実のところ、非現実的だという前提を除けば勝てる作戦はあるのだ。単純な話、打って出て、遅滞戦闘を繰り返して延々と削り続ければいい。だが、それを行うには遠距離から確実に敵を葬れる実力を持った後衛と、短時間だけでも絶望的な前線を支えられる優秀な前衛が必要だ。そして、部隊の補給を行うためにこちらからも輸送車両を出さなければならず、かなり大規模な部隊での高度な連携が求められる。

 前者……優秀な後衛というラインに食い込めるのはAR小隊の四体、そしてギリギリで404小隊のアサルトライフル二体といったところだ。第二部隊のライフル組にも期待したいところだが、あいつらはまだそのような作戦を行える錬度に達していない。長射程で敵を屠れるライフルの育成が滞っているのが見事に裏目に出ている。

 そして、前線を支える優秀な前衛。正直うちの支部で最高錬度を誇るUMP姉妹でもここは厳しい。先程の会敵でUMP姉妹のダミーも瞬殺されていた。このレベルの前衛が務まるのはそれこそハイエンドモデルの二体くらいだ。はっきり言ってあの物量から打ち出される弾丸は避けるとかそういう次元の話ではなく、純粋な耐久力が求められる。その点ではトンプソンなどが比較的適任ではあるのだが、悲しいかな絶望的に錬度が足りない。

 支部で迎撃態勢を整えて迎え撃つというのも考えてはいるが、そうなると今度はこっちが下がりながら動くことが出来なくなり、まさに背水の陣となる。あの量相手に後退が出来ないのはキツい。せめて後衛の数が揃いさえすれば、後退頻度を上げることで結構な数の撃破は可能だろうが、AR小隊とHK416、G11だけでは手数が足りない。ライフル組を動員するにしても、あいつらは抱える武器の問題上、足が遅い。頻繁な移動はパフォーマンスを大幅に落とす。最適化工程30%を超えた程度ではあまりにも荷が勝ちすぎていた。

 

 八方塞とはまさにこのこと。進むも地獄、退くも地獄である。延々と退き撃ちすれば理論では倒せるが、どこまで退けばいいのか予測もつかない。そして大移動となれば物資の補給も限界がある。輸送車両を際限なく出し続けるわけにもいかないし、そもそもそこまで潤沢な物資はうちの支部にはない。

 

 

 

「指揮官。失礼致します」

 

 やべーやべーと頭を捻っているところで、司令室のゲートが開き一体の人形がその足を進めてきていた。ちょっとちょっと、今クルーガーと通信中だから入ってくるなって通達してたでしょうが。どこのポンコツだまったく。

 舌打ちしなかった自分を脳内で褒めながら振り返ると、そこに立っていたのは艶やかな栗色の髪を伸ばした一体の自律人形。普段は食堂に勤め、先程戦域で驚愕のドライビングテクを披露したハルさんだった。

 

 いや、なんでハルさん来てるの。流石におじさん怒っちゃうよ。君は戦術人形じゃないでしょ。司令室に入る許可は業務用の自律人形には出していないんですよ。

 

『……随分と懐かしい顔だな』

 

 突然の乱入者をディスプレイ越しに確認したクルーガーが一言を発する。は? えっ何、ハルさんとヒゲ知り合いなの。一介の自律人形がPMCの社長と知己であるなど普通では考えられない。ますます意味が分からんぞ。一体何者なんだハルさん。

 

「お久しぶりです、クルーガー社長。そして指揮官、申し訳ありません」

 

 その表情、声色は普段食堂で接する彼女と何ら変わりなかった。普段通りの装いままに、彼女はクルーガーへ返しとなる挨拶と、俺への謝罪を述べる。多分勝手に司令室に入ってきたことに対する謝罪なんだろうが、まぁそれはそれで受け取るとして、一体全体どういうことなのか。おじさん説明が欲しいです。

 

「……クルーガー社長。図々しい事は百も承知ですが、お頼みしたいことがあります」

 

 俺へ向けていた顔と視線を再びディスプレイへと戻すハルさん。その瞬間、纏っていた空気が変わった。常に浮かべている柔らかい笑みは消え失せ、その顔付きは正に兵士のそれだ。マジかよ、薄々そうじゃないかとは思っていたが、これは喜ぶべきかどうか悩みどころだな。

 

『……聞こう』

 

 ハルさんの声に、一拍置いてヒゲが応える。

 

 俺は自律人形には詳しくないが、役職柄基本的な事項に関しては一通り勉強はしてきている。戦術人形というのは、そもそもが自律人形に火器統制コアを埋め込んだ特別仕様だということは周知の事実だが、一方で、戦術人形としての戦力外通告を受けた人形はその火器統制コアを抜き出され、再び民生用の自律人形としてリユースされる。I.O.P社が不要となった戦術人形を返却することを求めているのはそこにある。コアに比べれば素体はまだ安価ではあるが、それでも無駄に廃棄出来るほど今の人類に資源的余裕はない。使えるものは何でも使っていかないと自滅してしまう。

 通常、民生用の人形として再利用される人形は、その電脳などは全て初期化処置が施される。当然だ、過去のデータが残っていたのでは新たな使い道が限られる上に、戦術人形として働いていたとなれば軍事機密に触れた可能性だってあるだろう。そんな物騒なデータを外部に流出させるほど軍事企業も、そこに商品を卸している企業も間抜けじゃない。

 

 そこに例外は存在しない。してはならない。あくまで、表向きは。

 

 

 

「私に、火器統制コアを埋めてください。私はこの支部を……皆を、二度も失いたくはない」

 

 

 ズブズブ過ぎだろ、I.O.P社もG&Kもさあ。どんだけ規約違反やってんだよ。ビビるわ。




ハルさん、推参。


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40 -戦場に咲く華-

うおおぉー詰めに入っていきますぞおおおお


 その日は慌しかった。今までも単純にバタついていた時や業務が忙しい時なんかはあったが、その日はきっと初めての慌しさだったと思う。

 一秒でも早く戦力の立て直しを図るためメンテナンス装置はフル稼働。いつ何時ファッキン鉄血野郎どもが攻めてくるか分からないもんで、装置が表示している修復完了時間までのカウントダウンがいやに遅く感じた。第二、第四には引き続き最大レベルで周辺警戒に当たらせ、迎撃部隊にあわせて出す予定の輸送車両、そして配給と弾丸の搭載も自律人形たちをほぼ全部借り出して急ピッチで仕上げた。様々な計算を実に短時間でこなしてくれたカリーナには感謝しかない。彼女は直接的な戦力にこそ成り得ないが、一方で彼女が居なければこの支部は回っていない。正しく縁の下の力持ちという言葉がこれ以上ないほどに相応しい人材であった。

 

 司令室にてクルーガーとのやり取りを終えてすぐ。ハルさんは真っ先にメンテナンスが完了したM16A1とともに16Labへと向かっていた。火器統制コアの埋め込みはヒゲがその場で許可を出し、なんと即座にペルシカリアの都合もつけてしまったのである。本当に意味が分からない。たかだか自律人形一体のためにあのクルーガーがここまで動くとは。ペルシカリアはペルシカリアで「やっぱりね」みたいな反応を返していたし、謎は深まるばかりだ。つーかやっぱペルシカリアのやつ、ハルさんのこと知ってたんじゃねーか。情報管理ガバガバ過ぎだろお互いにさあ。業務提携というか最早コレは癒着と言っていいレベルである。ブラックが過ぎる。品行方正に生きてきたおじさんには些か刺激が強いです。

 火器統制コアの埋め込みというのは、素人が聞いても直ぐに理解出来るほどバリバリの企業機密である。間違っても派遣先の一支部で、じゃあ埋めよっかみたいな軽いノリで行えるようなものじゃない。そもそもここにはそのための技術も施設もない。16Labへ向かうのはある種必然と言えた。そして如何に重要事項とは言えども、この状態の支部を指揮官である俺が空けるわけにはいかなかった。一方ハルさんはハルさんで、少なくとも今は戦闘能力を持たないただの人形だ。一人で向かわせるには何かが起きた時に取り返しがつかなくなる。現状支部の戦力を割くのは得策ではないのだが、様々な事情を鑑みた上、第一部隊の一体を護衛に就けたというわけだ。

 ちなみに、破壊されたダミーはその悉くが回収不可能だったために全部一から作り直しとなった。ぶっちゃけこの時点で作戦の成否関係なく大赤字である。クルーガーからの緊急依頼相当の報酬を加味しても、大体3倍から4倍くらい出費の方がでかい。キレそう。マジでボコボコにしてやるからな鉄血のクソ人形どもが。

 

 と息巻いてみても、未だ確実に勝てる手段が思い浮かばないのは痛いところだ。確実どころか、なんとか勝てそう、レベルの案すら出てこない状態である。ハルさんがどれ程の力を持っているのかは未知数だが、仮にAR小隊に並ぶ凄腕だったとしても、それだけではまだ弱い。個の力としては申し分ないが、大軍を凌駕するには圧倒的に手駒の数が足りないのだ。精々1%の可能性が5%に上がる程度。それくらいが予測としてはいいところだろう。

 だが、このまま待ち惚けていてはその1%が0%に成り得る。ただでさえ絶望的な戦力差がある中で先手を取られてしまっていては、それこそ勝ちの目がなくなってしまう。いやあ、キツいな。やるしかないんだが、勝算が見えない。もう全部放棄して逃げ出したい気持ちにもなってしまうが、まぁそれをしたとて俺が楽になるわけでもないからな。足掻くだけ足掻いてみるかね。

 

 

「指揮官。ただ今戻りました」

 

 司令室に静かに、しかし響き渡る声。小刻みに繰り返した仮眠のせいでいまいちコンディションが上がり切らない俺の目が捉えたのは、兵士然とした顔付きのハルさんと、その右手に抱えられた、今までは決して持ち得なかった無骨なライフルだった。

 スプリングフィールドM1903小銃。それがハルさんが扱う武器だと言う。ふむ、となるとハルさんの呼び名はもしかしてその武器が由来なのだろうか。それとなく聞いてみれば、返ってきたのは曖昧な笑み。その返答をもって、俺はその類の質問をやめた。ほぼ間違いなく、彼女は彼女であまり語りたくない事柄を持っている。それらを根掘り葉掘り問い質すほど俺は落ちぶれちゃいない。今俺が見るべきは事実のみであって、話したくもない陰惨とした過去じゃない。ハルさんという自律人形が武器を携え、戦術人形となり、支部の戦力となった。それだけを考えればいいのだ。

 だが、一戦力として換算する以上、そこに関わる情報は悪いが聞いておかなきゃならない。彼女がどのような道を歩んできたかを知る由はないし今知ろうとも思わないが、結果として彼女が今どれくらい戦えるのかは指揮官としてきっちり把握しておく必要がある。つまり、彼女の最適化工程の度合いだ。これだけは絶対に聞いておかなきゃならない。

 

「……72%です。ダミーは3体、操れます」

 

 えっ、つよ。マジかよ。AR小隊くらい強ければいいなと夢想してはいたが、マジでそのレベルに達しかねない錬度だぞこれ。このレベルの戦術人形からコアを剥離し、業務用自律人形にまでその地位を落とした経緯がハチャメチャに気になるところだが、自身で決めたことを早速反故にするわけにもいかない、事実だけを受け止めるとしよう。

 

「指揮官! 全員準備完了だ!」

 

 ハルさんとともに16Labへ赴いていたM16A1は、司令室に来る前に彼女と別れ、出撃準備を整えていたらしい。そしてその準備が完了した旨を気勢のいい声とともに伝えてくる。

 

 時刻は夜明け直前。今から出撃すれば、太陽が完全に地平線から姿を現し切る頃には先日のポイントまで移動出来るだろう。結局、支部のレーダーも起動して厳戒態勢を敷いていたが鉄血人形たちは姿を現さなかった。そして、囮役を買って出た狩人、処刑人の二体も戻ってはこなかった。その結果が何を意味するのか、今はまだ断定出来ない。鉄血人形が諦めたとは思えないし、一晩あればこの支部に到達することも不可能ではない。だがやってこなかった。喜ぶべき場面でもあるかもしれないが、何にせよまだ何も終わっていないし始まってもいない。油断は禁物、慢心など以ての外。策と呼べる策もないままではあるが、勝率はゼロじゃない。精神論で戦争をやるつもりはない。ないが、今回ばかりはやってやろうじゃねえかこの野郎。

 出撃メンバーは、第一部隊の四体、HK416、G11のアサルトライフル二体、ハルさんの計七体。彼女たちに敵戦力打撃部隊として出てもらう。加えて、退き撃ちを繰り返す前提で打撃部隊に補給を行うための輸送車両、それらを運転する自律人形が三体。最後に、万が一打撃部隊が後退出来なくなった際、強引に補給を実施するための強行補給部隊としてトンプソン、m45、IDWの三体だ。彼女たちの出番がないことを祈るが、戦場では常に想定外が起こり得る。配給と弾丸を抱えて戦場を突っ走ってもらう係というブッチギリの危険度を持った役割だが、三体とも喜んで引き受けてくれた。ありがたい限りだ。俺の不甲斐無さが招いた戦況だが、それでも俺についてきてくれる人形たちには本当に感謝しかない。この作戦が成功したら、今度何かで埋め合わせしなくちゃな。

 

 最後に。俺たちが支部を出てから、12時間経っても連絡がない場合。カリーナと残った戦術人形は周囲の状況に関わらず支部を放棄して撤退するよう強く言い含める。流石に死ぬつもりはないが、俺たちの部隊が全滅し、突破されてしまう可能性も間違いなく存在する。そうなった時はさっさと逃げてもらうしかない。いざって時の打ち合わせもクルーガーとしているし、まぁあのヒゲなら問題はないだろう。上手くやってくれるはずだ。

 

 よっしゃ、そんじゃ出ますかね。ファッキン野郎どもとダンスの時間だ。せいぜい派手に踊り散らかしてやろうじゃないか。壁の花じゃなく、戦場の華としてな。

 

 

 

 

 

 

「第三ウェイポイント通過! 間もなくエンゲージ予測地点!」

 

 俺と同じ車輌に乗り込んだ第一部隊、特攻隊長を務めるM16A1の緊迫した声が車内に響いた。道中のドライブは順調そのもの。先日俺たちが行軍したルートそのまま、件のポイントまでを急ぐ。流石に今回はハルさんに運転を任せるわけにはいかず、他の自律人形にお願いしている。しかし乗り比べて初めて分かったが、やっぱりハルさんのテクニックは尋常じゃない。決して乗り心地のいい車種じゃないんだが、ケツの痛みが全然違う。一体何をどうやったらこの車でこの道を走ってあそこまで衝撃を軽減出来るんだ。意味が分からない。

 

 横道に逸れた思考を修正しつつ、現状の違和感を探る。端的に言って、おかしい。

 今車を走らせている地点は、狩人と処刑人が殿を務めた地点から少しばかり支部寄りの場所だ。それにしては、破壊痕がなさ過ぎる。昨日通ったままの、自然に荒廃していった風景そのままであった。僅かばかりの建物や幹線道路にも目立った違いはない。つまり、この場所で戦闘が起きていない。

 まさか狩人と処刑人がサボったとも思えないし、仮にもしそうであれば鉄血人形の群れはもっと支部近くにまで進軍しているはずである。あいつらが再び鉄血側に寝返ったとしても同じだ。むしろそれであれば尚更、攻めてこない理由がない。かといって、消耗していたあの二体だけですべてを撃滅出来る程のヌルい物量でもなかった。鉄血人形が諦めて帰還したというのはもっと考えられない。先日の時点であの連中は頭を失っている。今やつらを動かしているのは最後に出された殲滅命令のみのはずだ。ならば、目下の敵である俺たちをぶち殺すまでは止まらないはず。じゃああの群れは今何処に居る?

 車載レーダーがあればまた状況も違っていたのかもしれないが、今回はお休みだ。ぶっちゃけバッテリーが足りない。先日の出撃といい、昨晩の支部レーダー起動といい、バッテリーを食い過ぎた。こんな状況で目視に頼らざるを得ないってのは不遇極まりないんだが、なっちゃったもんは愚痴っても仕方がない。今出来ることをやるだけである。

 そもそもの俺の予測が間違っていたか? それとも何か見落とした? 様々な思考が高速で駆け巡るが、当然ながらその問いに対する答えは誰も用意してはくれない。道中で接敵しなかった時点でかなり怪しかったが、ここまで来ると異常だ。大変なイレギュラーが起きている可能性も考えられる。ますます風向きが悪くなってきたぞ。生きて帰れるかなあ。

 

「前方! 推定敵影! だが……おかしくないか?」

 

 そうこうしているうちに、前方に砂塵を確認。多分鉄血人形どもの群れだと思うが、確かに様子がおかしい。動き続けているのは間違いないのだが、なんであんなところで何時までも走り回っているのか。帰ったわけでもなく、攻めてくるわけでもなく。丸一晩ほぼ同じ位置で動き続けている理由に皆目見当がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

『あー、あー。聞こえてたら返事くれー。……なあ、これ何時までやんだよっとぉ、あぶね!』

『愚痴るな。あの指揮官がこのまま終える訳がなかろう。それと油断するな』

『わぁってんよ! ったくよぉ、いい加減腹減ってきたぜ』

 

 その答えは、突如通信プロトコルに割り込んできた声が、教えてくれた。

 マジかよ。マジかよ! 生きてんじゃねーかお前ら! 砂塵の影響かノイズが酷いが、確かに聞こえた。思わず身を乗り出して前方を睨む。未だあいつらの姿は確認出来ないが、声が拾えるということはそう遠くない位置にいるはずだ。何処だ、何処にいる!

 

「居ました! 敵集団最前!」

 

 後ろの座席から、ハルさんが叫ぶ。慌てて視線を向けた先に、あいつらは、居た。遠目だと細かい部分は流石に分からないが、遠目でも分かる。明らかに量産型の鉄血人形より二周りは大きい、白と黒のカラーリングに身を染めた、無骨な戦術人形が二体、確かに。

 

 支部からポイントまでのルートに破壊痕がなかった理由。鉄血人形どもが支部まで進軍してこなかった理由。処刑人と狩人が、支部に帰投しなかった理由。すべてが繋がった。

 あいつら、一晩中あの群れ相手に鬼ごっこしてたのか。確かに、如何に鉄血のハイエンドモデルとは言え、あの数を相手に勝ちを拾うのは難しい。かといって、素直に退却すればずるずると群れを牽引することになってしまう。

 だからきっと、あいつらは考えたんだ。自分たちが無駄に命を散らさず、支部にも被害を及ばせず、しかし敗走もせず、負けない状態で生き残る手段を。付かず離れず、量産型の射程距離ギリギリで、迫り来る弾丸をかわしながら、一晩中。きっと弾薬なんて、とっくに撃ち切ったことだろう。リロードなしで扱えるのは処刑人のブレードくらいしかない。反撃の手段が途絶えた中で、絶望の逃亡劇をずっと繰り返していたのか。

 

 最高かよ。最高の猟犬かよ。もう何処の誰にも文句は言わせねえぞ、お前らは間違いなく、とびっきりに優秀な兵士だ。通信へ応える声に、僅かながら力が篭る。本当によくやってくれた。かなり不利、から、勝てる、まで道筋が出来上がったぞ。

 ぶちあがるテンションをどうにか抑え込み、ヘッドセットから返信を飛ばす。いやあ、先に侵入者を破壊出来ていたのは僥倖だな。通常の無線通信が使えるってのはありがたい。そしてあいつらには少々酷な命令だが、もうしばらく鬼ごっこを続けてもらう。俺たちは群れの最後尾、ケツから削っていく。恐らく何割かはこちらに矛先を向けるだろうが、その程度なら今の打撃部隊なら前衛が居なくとも十分渡り合える。この鬼ごっこが成立しているということは、あの量産型、単純に距離の近い敵性反応へ襲い掛かっている。もしそうでなければ、あの二体を無視して支部の方に突っ込んできているはずだ。そこを突く。

 

『!! うおっしゃァ! きた! 待ち侘びたぞてめー!! おっせーんだよ!!』

『……ふん、遅かったじゃないか指揮官。休息は十分に取れたんだろうな?』

 

 うるっせーわ、こちとら寝不足じゃい。はしゃぐなヘッポコハイエンドどもがよ。だが、こちらもあまり近付き過ぎると、量産型に勘付かれて先手を打たれる可能性がある。少々遠いが、この位置で人形たちを下ろすことにしよう。後方のダミー輸送車輌にもすかさず通信を飛ばし、全部隊を展開。こんなことならナガンも連れてくればよかったかもな、ただの結果論だが。

 

 いいかお前ら、くれぐれも突っ込み過ぎるなよ。射程ギリギリから釣るように戦え。あの数が一気にこっちへ襲い掛かってきたら昨日の二の舞だ。そうなれば狩人と処刑人が稼いだすべてが無駄になる。

 

「了解だ、指揮官。自分の武器の性能を見誤るやつなんざ、ここには居ないさ!」

 

 M16A1の言う通り、数こそ少ないがここに居るのはうちの支部の最精鋭七体だ。製造されたばかりのヒヨッ子じゃあるまいし、そんなミスは犯さないと心から信じられる。

 

「それでは指揮官、仕掛けます」

 

 食堂のお姉さんから歴戦の兵士へ。張り詰めているわけでも、暢気に構えているわけでもない。ただただ戦場に身を置く人形として自然体のまま、ハルさんはその場でダミーを整列させ、射撃姿勢を取った。

 えっ、ここから撃つの? 流石にちょっと遠くない? 確かにライフルなら射程距離ではあると思うが、砂塵も酷く敵も動き回っている。流石にあの塊に打ち込めば外すってことはないだろうが、にしても弾薬は有限である。当てられる時に当てて確実に削るべきだと思うが。

 

「問題ありません。……用意。……ッ撃ぇ!!」

 

 控え目の声量ながら、芯に響く声。発声とほぼ同時、ダミーも含めた四つの小銃が一斉に火を噴いた。アサルトライフルとは違った、重みのある銃声。それらが響くと同時、鉄血人形の大軍の中、動きを止めた四体の鉄血人形が群れから脱落しているのが確認出来た。

 

「次ッ!」

 

 バスンッ。間髪入れず、二度目の銃声。これで、膝を折った鉄血人形の数が八体となった。

 ハルさん、メチャクチャつよない? 単純な距離だけで言えば当てられてもおかしくないが、標的は絶賛鬼ごっこ中で動き回っているし、風もある。障害物こそないが、大量の群れが絶えず移動しているおかげで砂塵も酷い。そんな劣悪な環境の中、恐るべき精度と速度で二連撃を終え、その全てが致命打となって鉄血人形に襲い掛かっていた。

 

「皆さん、射線を空けて前進を! 次ッ!」

 

 バスンッ。瞬く間の三連撃。あっという間に鉄屑の数が二桁に乗ってしまった。向こうではようやくこちらの攻撃に気付いた後方の一部がその向きを変えているが、そんな余裕を与えるほどうちの精鋭はヌルくない。ハルさんの射撃に俺も含め、不覚ながら動きが一瞬止まってしまっていたが、何時までも固まっているわけにも行かないし、切り替えが出来ない教え子たちでもない。しっかりとハルさんの射線を保ったまま、弾け飛ぶように進撃するアサルトライフルたち。ていうかライフルって最適化工程が進んだらここまで凶悪になるんだね、おじさん知りませんでした。

 

「ははっ! ハルさんすげえな! お前たち、行くぞぉ!」

「負けてたまるもんですか! 行くわよG11!」

 

 突撃の間際、M16A1が嬉しそうに零した声と、負けじと張り上げたHK416の怒声が木霊した。

 最適化工程の度合いだけで言えば、確かにまだまだAR小隊の四体の方が進んでいる。限られた空間でのタイマンなどであれば、あいつらが負ける要素はまだ無いだろう。だが、扱う武器が違えば当然それらが活きるフィールドも違う。そういう意味では、ハルさんは間違いなくこの戦場を支配しつつあった。

 

「次ッ!」

 

 ハルさんの声が四度、響く。

 同時に、スプリングフィールドM1903小銃の音も、四度。

 

 戦場の中心でもない。目立った立ち回りでもない。遠距離からただ敵に対して照準を定め、トリガーを引くだけ。そこには派手な盛り上がりも、目を奪われる躍動もない。

 ただ、それでも。この戦場でいっとう華々しく、美しく咲いた戦場の主役は、間違いなくハルさんだった。




【速報01】猟犬、生きてた。
【速報02】ハルさん、強い。



今回執筆中のBGMは「Ace Combat 04 Misson18 -Rex Tremendae /Megalith - Agnus Dei-」でした。
全機、ハルさん01に続け!

次かその次くらいでこの話も一旦まとまると思います。
今後ものんべんだらりとお付き合いください。


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41 -雨降って固まり過ぎた地-

筆者は基本ほのぼのが好きです。
筆者は、ほのぼのが、好きです。


 打撃部隊がその集団を射程距離に収めてから幾度か戦線の移動はあったものの、さしたる被害もなく鉄血人形の大部分を無力化することに成功していた。ただ、たとえすべての弾丸を命中させたとしても絶対的に弾薬の数が足りなかったため、トンプソン、m45、IDWの三体には結構な回数戦場を走り回ってもらったのだが。それでもイレギュラーなく状況を終えられたのは偏にハルさんのお陰だろう。ライフルという武器種にあるまじき回転数なのも凄まじいが、何よりその精度がはっきり言って頭おかしいレベルである。そして更に人間には付き物の肉体的疲労、精神的疲労がほとんどないものだから、投入するタイミングと場所さえ見誤らなければほぼ終始100%に近いパフォーマンスを発揮し続けることが出来る。以前、未熟な錬度ながらスケアクロウを仕留めたダネルを指して、是非T01地区のリーサルウェポンの地位を築いて欲しいなんて思っていたが、あながちそれも夢物語ではない気がしてきた。ハルさんが特殊だという可能性もまだ捨て切れないが、こんな怪物が生まれるのなら、ライフルの育成にも一層熱が入ってしまうというものです。

 しかしやはり気になるのは、ハルさんがここまでの実力を身に付けるまで、いつ何処でどんな活動をしていたのか、ということだ。勿論本人を直接問い質すような馬鹿をするつもりはないが、あれ程の力、一朝一夕で身に付くようなものじゃない。戦術人形は人間と違って反復練習がほぼ必要ないため、成長曲線自体はエグいカーブを描くんだが、それにしたって最適化工程72%というのは早々簡単に辿り着く領域じゃあない。AR小隊こそ俺が二週間で仕上げたという実績はあれど、彼女たちは電脳自体が特殊だとペルシカリアも言っていたし、クルーガーも俺以上に戦術人形への教育に成功した者は居ないと言っていた。そもそも、ハルさんが誰かに師事していてこの成果であったのなら、AR小隊の教育係が俺に回ってくることはなかっただろうし。そして、そんな実力を持ったハルさんから一度は火器統制コアを剥離した理由。彼女が戦線を離れざるを得なかった何がしかの訳。

 

 気になる。めちゃくちゃに気にはなってしまう。がしかし、それを聞いてしまうのはやはり野暮というやつなんだろう。過去はどうあれ、結果としてうちの頼もし過ぎる戦力になったのだから今は素直にそれを喜び、受け入れるべきかな。

 

「状況終了。……うふふ、大勝利ですわね、指揮官」

 

 軽く息を吐き、心身の調子を整えるような素振りを見せたハルさん。その言葉に頷きを返して戦場を見渡すと、そこには今まで見た事もない量の鉄屑の山。いや、山っつーよりちょっとした山脈だなこれ。絶えず移動しながら撃破を繰り返していたものだから、鉄血人形の成れの果てがこんもりと連なっている。ほとんど生体パーツを使用していない鉄血製とはいえ、ここまでの量となると流石にちょっとグロい。これリサイクル業者さん大変だろうな。頑張ってください。そして出来れば回収して得られた物資をうちに回して欲しい。大赤字なんです。

 

「指揮官、狩人と処刑人の方へ車を回してくれ」

 

 鉄屑の山から姿を覗かせた打撃部隊。その先鋒を務めたM16A1が身体中に人工血液の返り血をこびり付かせたまま言葉を投げ掛けてきていた。うわあ、名誉の汚れとはいえ流石にキツい。お前ら帰ったらまず全員シャワー浴びて来いよ。

 そんなおふざけもそこそこに、一晩中動いていたハイエンドモデル二体を迎えに行くため車に乗り込む打撃部隊。あいつらは常に敵集団前方、俺たちは敵集団最後尾から仕掛けていたものだから必然的に鉄屑山の向こうにあいつらは位置している。歩いて合流しろと言っても別によかったんだが、この戦況を作り出したMVPを今日くらい労ってやってもいいだろう。喜べ、指揮官サマの送迎というVIP待遇だ。本音を言えばこんな程度じゃなく、マジで何か褒賞を与えてもいいくらいなんだが、まぁそこは帰ってから考えるか。

 

 

「よー指揮官、久しぶり……悪ィけどもう動けねえぞ……。休ませ……て……くれ……」

「同感……だな。流石に電脳が……限界だ……。強制スリープに……入るぞ……」

 

 最後に狩人と処刑人が動いていた地点に車を移動させると、そこには鉄屑にまみれながら大の字に寝転がるハイエンドモデルが二体。俺の顔を見て表情をほころばせたのも一瞬、次の瞬間には限界である一言を発した後、こちらを見つめる瞳は重い瞼に引き寄せられ、そして活動を停めた。

 ついさっきまで元気に動き回っていたはずなんだが、こういうところも人間と同じで、安心したら一気に緊張の糸が切れた、みたいな感じなんだろうか。そういえば以前S02地区から逃げてきたドラグノフも同じようなことを言っていたな。グリフィンの建物を見つけたら安心して一気にスリープモードに入ってしまったとか。

 勿論、そんな彼女たちをおざなりに扱ったりはしない。出来れば直接俺が運び込んでやりたい気持ちはあるんだが、如何せんハイエンドモデルは重いのだ。俺一人でも動かせないと言うほどではないが、非常に不恰好になってしまう上に腰が心配になる。おじさんはもう若くないのだ。戦功者を地面に引き摺って運びたくもないしな。ということで、戦術人形たちにお願いして輸送車両へ彼女たちを運び込んでもらうことにした。

 

「重った! サイズもでかいが重量もあるなコイツら……!」

「ふぬっ……! ちょっとG11! サボってないわよね!?」

「ちゃ、ちゃんと持ってるよぉ……うぎぎぎ……!」

「本当に重いわね……!」

 

 わちゃわちゃと囲まれながら運ばれるハイエンドモデル二体。普段はやかましい処刑人たちの眠った顔を見ると、嬉しいような歯がゆいような、そんな気持ちが湧いてくる。

 こいつらは鉄血製の人形だ。そして、その電脳に致命的なエラーを抱え、人類に仇なすようになってしまった出来損ない。世間一般からのイメージはそんなところだろう。事実、つい最近まで俺たちとこいつらは怨敵同士だった。如何にこいつらにセーフティプログラムを植え付け、動的感情メーンルーチンによって擬似感情モジュールの振れ幅が大きくなったところで、お互いによく知り、理解するために過ごした時間はあまりにも短い。言うなればまだまだ付き合いの浅い同僚みたいなもんである。

 しかし、そんなこいつらにとって今、守るべき場所はあの支部であり、安心を覚える顔は俺たちのものになっている。昔の同僚的位置付けであったはずの侵入者に対しても、俺たちへ被害が及ぶと見るや否や有無を言わせず電脳を破壊するに至った。以前からこいつらは能力的機能的に使い捨てるのは忍びないと考えていたが、そこに心情的な要素も加わってきている。それくらい今回の作戦における働きは大きい。よくぞここまでやってくれたと両手離しで褒めてやりたい。

 ただまあ、それら全ては無事に帰投を果たしてからだ。家に帰るまでが作戦ですってな。

 

「ふう……指揮官、運び終えました。帰投しましょう」

 

 重量物二体を運び込み、一息ついてからM4A1が完了報告をあげてくる。理想で言えばこのまま調査部隊の動向確認も行いたいところなんだが、当面の脅威は取り除かれたと見ていい。そう焦るものでもないだろう。完全に消耗し切ってダウンしている狩人と処刑人のこともあるし、なんだかんだかなりの量の弾薬と配給を消費してしまった。現状まったく戦えないという程でもないが、今の状態で連戦となると厳しい。一度帰還してしっかりと休ませてやりたいところだ。作戦完了の報告もせねばならないし、何よりカリーナたちを安心させなきゃいけないしな。

 ま、後処理はクルーガーの野郎に任せてもいいか。ただでさえこっちは大損害を被っているんだ、それくらいあのヒゲに投げてもバチは当たらんだろう。

 

 よっしゃ、それじゃ帰るとするか。結果としてはまぁ無事に終わったからいいものの、今回は色々と疲れたな。だが、俺自身がまだまだ未熟、無知であったことも大いに思い知ることが出来た。指揮官としての未熟さ、戦術人形に対する理解の浅さなんかはこれから挽回していかないとなあ。ますます俺の時間が削られていく気がしないでもないが、まぁなんとかなるだろ。いい加減俺の補助に一人くらい欲しい気はするけどな。

 

 

 

 支部に戻ると、そこには厳戒態勢で周辺警戒を継続していた第二、第四部隊。そして司令室で一人、祈るように待機していたカリーナが居た。ひとまず作戦成功の旨と、狩人、処刑人の二体も無事だったことを伝えるとまた泣かれてしまった。うーん、困った。おじさんこういう時どうすればいいか分からないの。別に女性経験が無いこともないんだが、こうまで歳が離れている異性の部下とどう接すればいいのかは未だに分からないままだ。残念ながら効果的な助言を頂けそうな人間が周囲に居ないのも拍車をかけている。ペルシカリアなんて絶対聞いても無駄な気しかしない。一縷の望みを賭けてヘリアントスあたりにでも聞いてみるか。部下からの相談という体であれば彼女もそう無下にはせんだろうし。少なくともヒゲ野郎やペルシカリアよりは頼れそうな気はする。

 とりあえずどうするかな。もう心配ないとか言っといて頭でも撫でておくのがいいのかな。AR小隊が相手ならこれでもいいんだろうが、彼女は人間であるからして、同様にことが上手く運ぶとも思えない。そもそもこんなおじさんに触れられて気分のいいもんでもなかろうし。うーん、やっぱ無しで。

 一瞬の葛藤の末、頭でなく肩を数度軽く叩き、帰還の挨拶とする。今更だけど職場に男性が俺しか居ないってかなりつらい。セクハラとかパワハラとか大丈夫かな。問題になる指揮官とか今まで居なかったんだろうか。

 

 どうにも扱いが分からないカリーナを躱し、クルーガーへT02予定区一帯についての報告をあげておく。ヒゲからは珍しくお褒めのお言葉を頂いてしまった。まあ正直、狩人と処刑人の機転がなければハルさんを加えたとしても勝てたかどうかは怪しかったからな。今回はあの二体が敵を引き付けてくれていたお陰で安全に各個撃破が出来ただけだ。作戦も何もない、ただの結果論に過ぎない。今回における危険性はヒゲにも伝えていたから、こうやって結果を報告出来ている俺に少しばかり驚きもあったのだろう。

 ついでにこっちは戦力も物資もカツカツ状態だ、後処理をこのタイミングで投げてしまうか。鉄血側がどの程度の総戦力を保持しているかは分からないが、あの物量は相当だった。あれを絶え間なく全方位に出せると考えてしまうと、この戦争勝ち目がなくなる。少なくともこの支部周辺地域に関しては、ある程度枯渇してくれないと困る。

 戦争において、一度に保持出来る戦力の天井と、一度に生産出来る戦力の天井は違う。恐らく鉄血側は両者ともが相当の規模であるだろうことは想像に難くないが、少なくとも前者に於いてはある程度叩けたと見ていい。そうじゃなければ、そもそも人類の支配地域を拡大するという前提が崩れてしまうからな。更に、T01地区周辺はクリアとなって久しいが、絶え間なくあの量が生産され続けているとなれば地域を平定させ、戦線を押し上げるなんて不可能だ。どこにラインが在るのかは分からんが、鉄血側にもその天井は間違いなく存在している。逆説的に、今うちの支部が安泰となっていることがその証明だ。

 つまり、T02予定区周辺もしばらくはこれでクリアになると見ていいはずだ。ていうかちょっとくらい休ませてください。

 

 体よくヒゲに後処理を押し付け、通信を切る。条件通り、報酬には色を付けてくれるらしいが、どれだけついたって収支が大きくマイナスに傾いたのは間違いない。戦術人形の修復、ダミーの新造、恐ろしく消費した配給と弾薬。今後の立て直しを考えると頭が痛いが、かといって考えないという選択肢は取れない。つらい。今日くらいもう休んでもいいかな。いいよね。

 自分の中で今日の業務に勝手に区切りを付け、風呂に入る準備を整える。この支部には指揮官が俺しか居ないし、俺がこの支部の最高権力者でもある。俺が休むといったら休むのだ。狩人、処刑人をとりあえずメンテナンス装置にぶち込むことも指示を出しているし、戦術人形の教育スケジュール、ハルさんの今後など、処理するべきタスクはあると言えばあるが、それは明日でも問題ないだろう。

 はぁー、しんど。別に俺が直接戦う立場ではなくなったから、そこまで身体にガタが来ているというわけじゃないんだが、こうまで精神的に疲れたのは久々かもしれん。いい加減脳みそを一旦解放させてやらないとな。ぶっ倒れてしまったんじゃそれこそ不味い。

 

 さて、それじゃひとっ風呂浴びるとするか。以前の悶着があってからは、風呂場に無作法な乱入者が来なくなったのもありがたい。今や一人きりの空間として安心して落ち着けるのが風呂場と私室しかないってのは俺もどうかと思うが、職業柄仕方ないのかもなあ。この仕事、通勤って感じでもないし。

 

 

 風呂にゆっくりと浸かり、私室に戻った俺はその日速攻で意識を手放したらしい。次に目が覚めたのはすっかり一晩が過ぎ去った後で、やはり精神的に疲れていたのかなあと自分の感覚を再認識する。長年戦いの場に身を置いている分、慣れや耐性というのも確かにあるが、基本的に俺はそこまでタフな部類の人間じゃあない。何事にも動じず冷静に動き回れるほどの超人ではないのだ。

 

「おっ、指揮官起きたか!」

「やあ指揮官」

 

 うっわびっくりした。着替えを済ませて私室の扉を開けたら、すぐそこに狩人と処刑人が居た。全快、とまではいかないが、概ね損傷は直っているし電脳も無事スリープモードから醒めたようで何よりだ。何よりなんだが、お前らなんでこんなところに居るんだよ。自分の宿舎で寝てろよ。

 

「いやなに、俺たちな、頑張ったと思うんだよな」

 

 うん? 何だ藪から棒に。確かにこいつらが頑張ったのは紛れもない事実だし、俺もそう感じている。がしかし、こいつらはそれをわざわざ朝一に主張しにくるようなタイプでもないはずだ。

 うーん、もしかして何か褒美でも貰おうと思ってるのかな。何かあげなきゃなとは考えていたが、それにしたってこうも直接的に何かをねだるような性格だっただろうか。鉄血側に居たときからぶっ飛んだ思考回路を持っていた二体だが、この後の展開がさっぱり読めない。

 

 

 

 

「褒めろ!!」

「そうだな。褒めろ」

 

 うん? うーん? おじさん展開が分からないぞ。褒めろとは一体。いや確かに、褒められて然るべき働きはしている。そこは疑いようもない。かといって、直接褒めろといわれてもちょっと困ってしまいます。どうすりゃいいんだよ。よくやった、本当に助かった、お前らは俺の自慢の部下だ、とでも言えばいいのかな。

 

 ……あっ。おじさん閃いたぞ。それもあんまり良くない方向に、だ。この感じ、どこかで覚えがあると思ったらアレだ。追跡戦訓練で初めて完璧な黒星を喫してしまった時のM4A1と同じだ。えぇー、マジかよ。お前らもそういう感じなの? 俺はただの指揮官であってお前らの親でも保護者でもないんだぞ。

 なんて言っても多分無駄なんだろうなあ。そこら辺はAR小隊で既に学習済みである。しかし、学習したとてこの事態に対する解決策が生まれたわけでもないのが困りどころなんだが。

 

 俺は鉄血のことについて、I.O.P社の戦術人形のこと以上によく知らない。どういう組織体系で動いているのかも知らないし、そこにどういう感情が働いているのかも分からない。だが、あくまで俺の予測として言うのならば、G&Kのような組織だった、血を通わせるような交友関係が非常に少ないだろうことは考えられる。なんてったってバグった人形の集まりだもんな、そこには至上命題下における戦力としての上下関係や指揮命令関係くらいしかないだろう。

 

 うーむ、これも一種のインプリンティングみたいなものなんだろうか。まあ言うこと聞かなくなるよりは全然いいんだろうが、それにしたってこいつらの電脳がそういう方向に働くなんて誰が予測出来るのか。多分、いや間違いなくこれ動的感情メーンルーチンのせいでしょ。ペルシカリアのやつほんと余計なことしてくれやがって。面倒くせえなあ。

 

 

「……へへっ!」

「ん……悪くない……」

 

 よくやってくれた。その言葉を乗せて、狩人と処刑人、二体の頭を乱暴に撫で回してやる。つーかこいつら背が高いから腕がしんどい。デカい犬かよマジで。

 

 多分、こいつらが今抱えている感情について、こいつら自身の理解が追いつくのはもうちょっと後だろう。それがどういう単語で表すべきモノなのか、それは俺にも分からない。上司と部下という関係で築き上げていくべき真っ当な感情かもしれないし、俺なんかに向けても一銭の得にもならない無駄な感情かもしれない。

 だが、少なくともそこにI.O.P社製だとか鉄血製だとかいう違いはないはずだ。俺個人としてもそんな区別を付けたいわけじゃない。俺に出来ることといえば、こいつらが道を踏み外さないように見張ることと、他の人形と同じようにちゃんと接してやることくらいだ。その結果がどうなるのか、そんなもん分かりゃしないが、まあ悪いようにはならないだろう。

 

 

「あっ! 指揮官おはよ……あぁーーーーッ!! ずーーるーーいーー!!」

「んだよSOPMOD! 今回一番頑張ったの俺らだろうが! 当然の権利だ!」

「処刑人の言う通りだな。貴様らに助けられはしたが、こればかりは譲れん」

 

 

 ……まあ、悪いようにはならないだろう。多分。




猟犬 の 懐き度 が あがった!



次で作戦後の処理というか、諸々やって一旦締めかなぁという感じです。次にすぐ書くかどうかは置いといて、まだ出していない情報などもありますので、もうしばらくお付き合いください。

今後横道に逸れていく可能性も加味した上で、大体50、長くても60話くらいでこの物語にも一旦の決着が付くんじゃないかなーとは考えています。まあ、考えているだけでその通りに進むとも限らないわけですが。
ただ、一つだけ確度の高い話なんですが、指揮官おじさんが完結したら以降おじさんを主点としたものはもう書かないと思います。別に書くのが嫌だとかそういう話ではなく。指揮官おじさんが終わると、もう墓の下おじさんしか残ってない気がするので……。


というわけで、もうしばらくの間のんべんだらりとお付き合いください。


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42 -Not found for signing-

きっと皆さんまったく気付かなかったと思うんですが、筆者の推し人形って実はスプリングフィールドなんです。
びっくりしたでしょう?


 T02予定区の掃討が完了してから、うちの支部はそこそこ平穏な毎日を送っていた。俺の読みが珍しくいい方向に当たったようで、流石に鉄血と言えどもあの物量を一撃で片付けられてはそう息が続かなかったようだ。報復の襲撃を受けることもなく、クルーガーが新たに編成した調査部隊も無事周辺地域の確認を終え、帰投したと先日連絡があった。ちなみに前回消息を絶った調査部隊の連中だが、バニシングポイントの2kmほど奥、雑木林の中で破壊された戦術人形とともに物言わぬ屍となって見つかったようだ。

 このご時世、人間一人の命は驚くほどに軽い。安い、と言い換えてもいいだろう。正規軍なんかはまだ全然マシな方で、最低限脅威に対抗するための訓練や装備は授けられる。だが、そんな国家でさえも様々な要因が折り重なって自国の領域保持すら侭ならなくなり、PMCへ領土の治安維持を委託している有様だ。人間が安全に住める場所は減り、人間の数も減り、一方で脅威は増している。戦術人形に代表されるような新たな手法も出てはきているが、一昔前のように、世界のどこでもとりあえず生きていける、みたいな話はもはや夢物語と言っていいレベルである。明日の糧食を得るために自身の命を懸ける、そんな仕事がまかり通ってしまう世の中だ。当然、自身の命をベットしたとて生にしがみつくことすら許されない、そんな人間も多数存在している。

 

 俺自身、グリフィンが真っ当な企業だとは思っていない。別にクルーガーがどうこうって話じゃなく、こんな終末に両足どっぷりと踏み込んだような世界では、まともなやり口だけで生存どころか拡大が出来るわけもない。I.O.P社とズブズブの関係を築いている部分もそうだし、まあ多分俺なんかが与り知らないところで色々黒いこともやってるんだろうな程度には思っている。

 調査部隊がどんな人員構成なのかまでは流石に知らないが、下手したら死ぬよ、くらいのリスクは当然理解して職に就いていたはずだし、今回はたまたまクジ運が悪かっただけ。人の死をそういう風に割り切れる程度には俺も現実を見てはいるし、クルーガーもそうだろう。それに、俺だっていつその不運が訪れるか分かったもんじゃないしな。実質的に俺は一度死んでいるわけだし。

 

 そんなわけで、不運にも命を落とした調査部隊の連中にはご愁傷様、程度の気持ちしか湧かない。別に顔見知りってわけでもないし。自分のガキみたいに可愛がってきた部下が惨めに死んでいく様を数え切れないくらい見てきたから、他人の生き死に一つや二つで今更どうこうは思わなくなってしまった。むしろ知らない人間よりも、見知った戦術人形への情の方が先に湧いてくるくらいである。今更感も凄いが、俺もすっかりこの世界に馴染んじゃってるよなあ。あーやだやだ。

 

「指揮官、失礼致します」

 

 すっかり枯れ果てた死生観に思考リソースを奪われつつも書類仕事を黙々とこなしていると、一体の戦術人形が司令室へ足を運んできていた。艶やかな栗色の髪が眩しい、妙齢の女性型。ハルさん、いや、今はスプリングフィールドと呼ぶべきかな。その装いを業務用の自律人形から変えた、小銃を巧みに扱う歴戦の戦術人形がその姿を覗かせた。

 

 結局、ハルさんは戦術人形として再び戦列に加わることとなった。ただ、特定の部隊には所属していない。彼女はその実力と扱う武器の銃種柄、そしてうちの支部の現状から、決まった部隊で運用するよりはピンポイントに楔を打ち込むために都度運用した方が効果的だと判断している。

 第一部隊への配属も考えたが、錬度はともかくとして機動力が追いつかない。ハルさんの速度にAR小隊を合わせてしまうと、折角の足が死ぬことになる。実力的には申し分ないのだが、如何せん力を発揮出来るシチュエーションに開きがあり過ぎる。お互いの持ち味が見事に打ち消しあってしまうので、残念ながらこの配属案はお蔵入りとなった。

 他の部隊では逆に錬度が噛み合わない。第三部隊が比較的近いが、こちらも第一と同じく機動力のある編成である。同様の理由で組み込むのは少々憚られた。

 悩んだ結果、ハルさんには普段は今までと変わらず食堂のお姉さんを頑張ってもらい、有事の際には必要に応じて点で配置するという、遊撃兵的な位置付けとなった。なんとも締まりの悪い話にはなってしまったが、本人も納得しているようだしまあいいだろう。多分元々AIに設定された性格もあるんだろうな、料理が好きなの。

 

「それでは、こちらの書類はお任せください」

 

 軽く挨拶を済ませたハルさんはそのまま、普段カリーナが腰を下ろしている副官席を陣取っていく。ここ数日カリーナは本業が忙しく、俺の補助に回れていない。クルーガーからの緊急依頼相当の物資報酬に加え、ハイエンドモデル撃破の追加報酬に割と結構な色が付いていて、そちらの管理に追われているのだ。人形も増えて、日々消費される資源量も増えてしまったしな。致し方なしというところである。

 そしてその現状を見かねたハルさんが、副官仕事を手伝うと言ってくれたのだ。これにはおじさんもびっくり。ただでさえ食堂のお姉さんとスナイパーという二足の草鞋を履いてもらっている状態だ。流石にこれ以上負荷をかけてしまうのはどうかと思い一度は断ったのだが、人間である指揮官の負荷が増える方が問題です、と圧のある笑顔で言い寄られてしまい、俺が折れる形となった。

 実際ちょっと前からこうやって手伝ってもらっているのだが、これがまた恐ろしく手際がいい。元々戦術人形としての歴もあるし、AIも初期化されていないから過去に培った経験データもあるのだろう。重要性、緊急性の高低、また指揮官決裁の有無も考慮され、綺麗に纏められている。正直俺は右手に指揮官印を持って上下に振るだけでいいんじゃないかなと思えるくらいだ。ちょっとハルさん有能過ぎない? 素敵。多分人形じゃなかったら一発で惚れてたと思う。

 ハルさんが俺の副官として働くことに対し、一部の戦術人形からはなんやかんや主張があったらしいが、無視した。以前と違い、いずれ目ぼしい戦術人形たちにはそういう経験を積ませてもいいかもな、程度には考えるようになったが、まあそれは本格的に書類仕事がおっつかなくなってからでもいいだろう。今はまだこの支部は最前線だ。支配地域を拡大し、うちの支部が内地として扱われるくらいにまでなれば、その時に教えればいい。それまではあいつらがやるべき最優先の仕事というのは敵対勢力の撃破であって、俺の内務お手伝いじゃないからな。

 

 ついでに、あれ以来、俺からハルさんのことについて質問するようなことはしていない。気になるのは相変わらずだが、話さないというのはつまりそういうことだ。彼女がふと零したくなった時に安心して零せる相手。そういう風になればいいのだ。一生話してくれないかもしれないが、それはそれで別に問題があるわけじゃない。クルーガーやペルシカリアも何か知ってそうだが、そこに聞くのはちょっと反則かなとも思うし。逆にその二人が何かを伝えてこないということは、言わなくとも問題ないということなのだろう。

 だから俺がすべきことは、気にしないこと。ハルさんはハルさんで、スプリングフィールドで、優しい食堂のお姉さんで、頼もしい戦術人形。ただその事実だけを受け入れること。それでいい。

 

 

「よっす指揮官! 何か任務ねえのか! 任務!」

「最近は目立った動きが少ないじゃないか、指揮官。これでは時間を持て余してしまうぞ」

「だーっ! おぬしら! 我侭は言わぬと先程わしと誓ったばかりではないのか!」

 

 ハルさんが整えてくれた書類にぺったんぺったんと作業を繰り返していたところ、再び司令室のゲートが開き、随分とやかましい連中が乗り込んできた。第五部隊に所属している処刑人、狩人、ナガンの三人である。開口一番大音量を響かせた処刑人、対照的に淡々とした口調でしれっと不満を口に出す狩人、そんな二人を半歩後ろからこれまた騒がしい音量で諌めるナガン。

 

「三人とも。指揮官はただ今業務中です。お静かに」

 

 突然の乱入者に対し、圧のある笑顔で静かに、しかし有無を言わさぬ姿勢で釘を刺すハルさん。笑顔こそ穏やかだが、声が笑っていない。端的に言って怖い。俺が悪いことしてるわけじゃないのに。単純な恐怖でなく、母親に叱られる子供みたいな気分になる。そんなハルさんの言葉を受け、ヘッポコハイエンドどもはしゅんとうなだれ、ナガンはばつが悪そうにすまんの、と一言を発するにとどまった。

 

 相変わらず第五部隊、というかナガンとこの二体は仲がいい。前回のT02予定区掃討作戦でこいつらの生存が判明した時、一番驚きと喜びを表現したのもこのナガンだった。付き合いなんて本当に浅いのにどうしてここまで仲良くなれたんだろう。逆に気になる。

 そんなハイエンドコンビだが、こいつらもあれから少し、いや大分変わった。具体的に言うと、俺をはじめ支部に居る人間や戦術人形とよく馴染むようになった。今までも別に険悪な仲でもなかったんだが、何かのスイッチでも入ったんじゃないかってくらい見て分かる程に友好的になったのだ。

 特に俺とナガンに対してはその温度差がすごかった。馴染むというか懐くという表現の方が近いかもしれない。完全に犬みたいになってる。処刑人なんかは元から分かりやすい性格をしていたものだから、その差が一層顕著に現れていた。

 処刑人が任務を欲しているのも、この支部所属となった当初こそ暴れたい欲求が先行していたが、今となっては俺やナガンによく見られたいからという気持ちが一部も隠されることなく前面に押し出されている結果だ。うーん、これはこれで扱いやすくなったと言えなくもないんだが、こうまで懐かれるとちょっとビビる。まあ何かが悪化したわけでもないし、俺としては特に何かを変えるつもりもないんだが。

 

「まあ、平和っての? 別に悪いこっちゃねえんだろうけどよ、俺は敵をブッ倒すために造られてるからなあ。動いてねぇと落ち着かねえ」

 

 司令室に備え付けられているソファにどっかと腰を下ろし、愚痴るように処刑人が口を動かした。確かに、如何にこちら側に馴染んだとは言え、元々こいつらは最初から戦うために製造された人形だしな、AIにもそこら辺の思考ルーチンがあるのだろう。だが処刑人、そういうのは置いといてお前の重量でソファに勢いよく座るんじゃない。壊れるだろうが。そいつは人間の体重が前提の家具なんだぞ。

 

「うぐっ……。わ、悪ィ……」

 

 なんてちょっと諌めると、途端にしょぼくれてしまった。まあ別に今壊れたわけじゃないからいいんだけどさ。次から気をつけてくれよほんと。ソファの替えを手に入れるために延々とコインをスキャンする身にもなってほしい。

 

「しきかぁん。居る?」

 

 一気にぐだぐだな空気を醸し出し始めた司令室に、またまた来客がやってきた。なんだ今日はやけに乱入者が多いな。

 第三の乱入者へ視線を流せば、そこには第三部隊の部隊長、UMP45の姿。普段から飄々とした姿勢を崩さない、掴みどころがいまいち分かり辛い人形ではあるが、その分仕事に関しては信頼している。内面的にどうかはともかくとして、誰に対しても態度がブレないやつってのは基本的に最低限の信用は置けるタイプが多い。G11なんかも別の意味でブレないやつなんだが、あれはあれで一種の信用を勝ち得ているのだから、得てしてそういうものである。

 そんなUMP45だが、どうやら今日はただ冷やかしだとか遊びに来たって訳じゃなさそうだ。掴みどころがないってのは事実だが、それでも全く感情が読めないわけじゃない。

 

「ちょっとね、しばらくこの支部を空けることになるからよろしくってことを伝えにきたの」

 

 何用かと問えば、その口から飛び出してきたのは想定外の言葉。なんだかんだ今までそういう事態が起きなかったものだから、俺としてもちょっと油断していたのは否めない。

 

 彼女たち、404小隊(Not Found)はグリフィンが保持する暗部だ。所属している支部の指揮官を通さず、本部から通達された作戦を何処の誰にも漏らすことなく粛々と遂行する特殊部隊。一時的に俺が指揮権を預かっちゃいるが、その本質は根無し草。本来であれば、俺が彼女たちを正しく認識していること自体がイレギュラーである。

 そして、この支部をしばらく空けることになる理由。それをわざわざ口に出す愚かな人形ではない。クルーガーが俺にもそれを伝えないってことはマジモンの秘密作戦だろうな。ただ単純に戦力として彼女たちを借り受けたいということであれば、俺にその一言くらいはあってもいいはずだ。

 UMP45の言葉に、ハルさんも、ナガンも、特別驚いた様子は見えなかった。ハルさんはハルさんで歴は古いだろうことは容易に察することが出来るし、ナガンも元々ウェルロッドとともに本部の諜報部隊に居た身だ。「こういうこと」には慣れっこなのだろう。

 

 俺には彼女たちを引き止める権利も、そのつもりもない。幸い今は第三部隊がまるっと抜けてもどうにか回せる程度には周辺の治安も安定している。とりあえずどれくらいで帰ってくる目処がつきそうか、目安程度には情報が欲しい程度だな。

 

「んー。ちょっと分かんないや。ごめんね指揮官」

 

 ふむ、分からないときたか。任務の内容が読めないのか、それともこの支部に帰ってくる予定が無いのか。出来れば後者は戦力的な意味でも勘弁して欲しいなとは思うが、こればっかりは仕方ない。言い方は悪いが、そもそもが一時的にクルーガーから押し付けられている戦力である。ただ、周辺地域の情勢が安定したこのタイミングで指令が降りたということは、ヒゲはヒゲなりにこっちの状況も慮っている可能性はある。間違っても文句が言えるものじゃない。処刑人が何か物申したそうな顔をしているが、隣に位置するナガンがすばやく制していた。流石である。

 

 ま、どんな作戦に従事するかは分からんが、こいつらはこいつらでこの支部にきてからかなり最適化工程は進んでいる。以前と同難度の任務であればソツなくこなすだろう。

 

「あ、そうだ。ウェルロッドが一人になっちゃうから、そこもよろしくねー」

 

 最後に第三部隊へ最近配属となった同僚のことを舌先に乗せ、彼女はひらひらと手を翳して踵を返す。そこに感情のブレは見受けられない。普段通りの優秀な戦術人形、UMP45の頼もしい背中が視界に映るだけだった。

 

 

「……ふふっ。ありがと指揮官。いってきます」

 

 メシは食える身体で帰って来いよ。

 俺の投げ掛けた言葉に、彼女は背を向けたまま、小声で返答を寄越してそのままゲートを潜って行った。たとえ無事だったとしてもこの支部に戻ってくるかは正直分からんが、まあ本格的に離脱するのであればそれこそヒゲが俺に伝えてくるはずだ。今になってもその通信が飛んでこないってことは、とりあえずまだこの支部に所属させておくつもりなんだろう。

 であれば、俺としてはちゃんと帰って来いよと言う外ない。仮宿とは言え、彼女たちには確かに帰る場所がある。それを俺が潰してしまうわけにはいかないからな。

 

「……? よく分かんねぇが、土産でも期待していいのか?」

 

 UMP45の登場からやや熱の下がった司令室に、処刑人の暢気な声が響く。

 いいなお前、それくらい楽な思考回路で俺も生きてたいわ。羨ましいぞ。

 

「さ、皆さん。先程も申し上げましたが指揮官は現在業務中です。速やかに退室を」

 

 パン、と。ハルさんが両手で一拍鳴らし、場を整える。ふとデスクに目を戻せば、最初よりは山が減ったがまだまだその存在を主張する書類たち。うーむ、これ多分ハルさんが居なかったら今日ヤバかった気がするな。ありがたやありがたや。

 

 ぞろぞろと司令室を後にする人形たちを目で追うのもそこそこに、俺も普段の業務に移らねば。ぺったんぺったんと、半機械的に右手を上げ下げする作業に没頭していく。処刑人じゃないが、俺もあいつらが帰ってきたら土産話の一つでも聞かせてもらうとしよう。




第三部隊、離脱。



一旦閉じてもよかったんですが、このまま時間軸進めていくことにしました(カラカラカラ

ちなみに前回のあとがきで書きはしましたが、最終的な落としどころ自体は今複数案がせめぎあってる状態でして、どう転ぶか私にもまだ分かりません。どうなるにせよ、しっかりと着地させていきたいところですね。

それでは、今後とものんべんだらりとお付き合いください。


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