戦術人形と指揮官と (佐賀茂)
しおりを挟む

01 -ノーホワイト・ノーワーク-

どこかのグリフィン支部には、経歴不明で片足を失った謎の指揮官が最近着任したらしい。


 俺は激怒した。必ずかの傍若無人なるファッキンクソヒゲ野郎に天誅を下さねばならぬと決意した。俺には会社という組織は分からない。俺は元軍人だ。銃を撃ち、部隊を率いて暮らしてきた。けれども労働環境に対しては、人一倍に敏感であった。

 いや本当に何してやがるんだあのヒゲは。もし環境と状況が許すのであれば、すぐにでもアイツを呼び出して正座させた上で左手でヒゲを掴み右手で思いっきりぶん殴ってやりたい。すまんカリーナ、お前は俺が救ってやる。だから今しばらく耐えてくれ。なんだかんだこれは業務上必要なことなんだ。

 

 

 

 あの日、俺の人生は変わった。

 割と自由気ままにそれなりの軍人人生を謳歌していた俺は、やんごとなき事情により今は左足を失い、車椅子に乗って新たな仕事に精を出している。

 その仕事というのは、民間軍事会社グリフィン&クルーガー社での指揮官である。第三次大戦頃から実用化され始めた自律人形。その中でも火器統制コアを埋め込まれ、その手に銃器を持たされ特定の役割、即ち戦争に特化した存在、戦術人形を率いて戦場を闊歩するクレイジーな職務だ。実際のところ自分自身が戦場に降り立つ機会は、先だって起きた事件で失われてしまったんだが。

 

 紆余曲折あってG&K社の数ある支部の一つに配属となった俺であったが、正直仕事自体は軍属時代に行っていたこととそこまで変わりは無かった。部下の面倒を見たり、教育したり、指示された通りに作戦を遂行したり、作戦報告書を纏めたり、消費した物資や配給の管理、仕入れ等々。時には作戦概要から練ることもあった。自身の手で直接教育を行えなくなったのは痛手だが、座学ならまだまだイケる。大きく変わったのは俺自身が戦場に降り立たなくなったことと、部下のほとんどが人間じゃなくなったくらいのことで、まぁそれなりに順応して行ったわけだ。就任してからというものの、非常に優秀な部下たちの活躍もあって、俺の評判評価がうなぎ登りに上がっていくのにそう時間はかからなかった。

 ちなみに、現在のG&Kの主な仕事は世界各地に散らばっている、暴走した鉄血人形の捜索、殲滅だ。あの事件が起きた日から、何故かは分からんが全世界に現存している鉄血製の人形全てのAIに致命的なエラーが発生、人類にその矛を向けるようになった。I.O.P社と並んで戦術人形のトップシェアを長きに渡って二分してきた、押しも押されもせぬ大企業である。製造されていたすべての人形となると、その総数は途方途轍もない。

 とんでもない爆弾を放置したまま闇に沈んでしまった鉄血工造には文句の一つも言いたくなるが、無くなってしまったものはもう仕方が無い。そうして粛々と任務を遂行していた時に、それは起こった。

 

 優秀な部署には、その力に見合った仕事が回される。それは何時の時代でも同じだ。それなりに仕事をこなしていただけなのに、何故か「優秀」の烙印を押された俺が所属している支部には、それはもう大量の作戦指令が降りてきた。ていうか、それらを難なく消化してしまう方にも問題はあるんだろうな。あいつら普段はポンコツなのに、いざ作戦開始となったら俺でも肝が冷えるレベルで瞬殺してくるから怖い。何がお前たちをそこまで駆り立てるんだ、俺にはさっぱり理解できん。

 で、多量の作戦をこなしていくと、当然それに見合った量の作戦報告書を提出しなければならない。これは軍人の時も同じだったな、実際にどんな人員で、どれくらいの期間と費用をかけ、どのような経緯があったのかは資料として纏めなきゃならない。だから、別にそれ自体に文句を言うつもりはない。やって当たり前のことだからだ。問題は、その手法にあった。

 

「し、指揮官さまあ……先週までの作戦報告書、仕上がりましたぁ……ぅぇっ……」

 

 短い電子音が鳴り響き、司令室の正面ゲートが開かれる。いい加減見慣れた光景に目を細めれば、そこにはいかにも疲労困憊といった姿の後方幕僚、カリーナが多量の報告書を脇に抱え、おぼつかない足取りでこちらに向けて歩いてきているところが見えた。おい、頼むからここで吐いてくれるなよ、ちゃんとトイレに行け。

 

 ご苦労さん、と一言労って、受け取った報告書に目を通す。カリーナの実務能力自体は大したものだ。彼女は後方幕僚という肩書きどおり、直接戦闘に関与しないほぼ全ての部分でその責務を背負っている。作戦報告書の作成も、本来は指揮官である俺の仕事のはずなんだが、しっかりと俺に見劣りしないレベルで書き上げてきている。

 

 そう、()()()()()()()()()()()

 なんとこの作戦報告書、驚くことなかれ。カリーナの手書きである。いやいやお前、今のご時世手書きて。最初は俺もおったまげたが、何とこの支部、司令室以外の環境がろくに整っていない。戦場を見渡すドローンコンソールやスクリーンでさえもメチャクチャ旧式だから、建物だけを取り急ぎ整えただけって感じがぷんぷんする。実働部隊である戦術人形たちが寝泊りする宿舎も、お世辞にもいい環境とは言えない。はっきり言えば野宿よりはマシレベルである。

 ただ、そこに関しては不満もあるだろうが、直ちに問題となるレベルでもない。良くも悪くも彼女たちは戦術人形であり、人間ではない。言ってしまえば商品の一つである。感情として納得しにくい部分もあるにはあるが、兵器をシルクのベッドに寝かせるか、と問われれば回答が難しい。AR小隊と訓練していた時の宿舎はもう少しマシだったが、それは人間の俺、しかも裏から無理やりそれなりの立場の人間を引っ張ってきた関係もあったんだろう。本来の扱いで言えばこの程度が妥当、と言われても強くは言えない背景がある。

 

 だが、カリーナは違う。彼女はこのG&Kに雇われている人間である。ただ納品して終わりの商品ではなく、労働者と使用者という対等な契約関係が成立している。それがこの仕打ちである。許されるわけが無かった。

 この作戦報告書、量にもよるが、一から書き上げるのに大体10時間くらいかかる。うちの支部は仕事が多いから余計だ。その間カリーナは休むことなくペンを走らせ、栄養剤片手に夜を通して頑張ってくれている。そうやって苦労して書き上げた作戦報告書を提出すれど、また翌日になれば未処理の作戦終了報告がわんさか上がっている。そんな負のループの繰り返しであった。こいつよく辞めないな、何かクルーガーに弱みでも握られてるんじゃなかろうかと最初は疑ったくらいだ。

 

 

 と、言うようなブラック企業も真っ青な内情のグリフィン支部だが、そろそろ仕掛け時か。俺は勝手に書き上げたカリーナの休暇申請書に指揮官印を押し、彼女に押し付けた。

 

「……は? え? えっ指揮官さま……? これは……?」

 

 突然書類を渡されたカリーナの顔は困惑そのものだ。お前もしかして働けなくなるみたいな考えしてるんじゃないだろうな。社畜一直線じゃねーか。少なくとも俺が面倒を見る立場になった以上、こんな地獄を見て見ぬ振りなんぞ出来るわけがなかろうが。とりあえず、というところで3日程度しか工面出来なかったが、ゆっくり休んどけ。後は俺が何とかする。後方支援もバックヤード業務も現役時代に腐るほどやってきたんだ、書類見れば大体分かる。

 

「……いいんですか? いいんですね? ……うわあああぁぁぁぁ……指揮官ざばあああ……!」

 

 うわびっくりした。いきなり泣き出すんじゃない。しかしまあ、彼女もそれくらい鬱憤が溜まっていたということだろう。さぁて、覚悟しとけよファッキンクソヒゲ野郎。俺の部下を泣かせた罪は重いぞ。

 

 嗚咽を漏らしながら涙を拭いているカリーナを下がらせ、正面ゲートがしっかりと閉まったのを確認した後。俺は通信用デッキを立ち上げ、コールする。程なくして出てきたのはあのヒゲ野郎ではなく、銀髪が眩しい、目付きの鋭い女性だった。

 

 

「こちらヘリアントス。珍しいな、そちらからの通信とは。何か問題でも起きたか?」

 

 チッ、ヘリアンか。というかすまし顔でよく言ったもんだな、こちとら問題しかないんですが。いや、いきなり喧嘩腰はよくないな、自分から交渉のテーブルを不利に傾ける必要は無い。とりあえずといった感じで挨拶を済ませ、クルーガーの所在をそれとなく聞き出すことを試みる。

 

「クルーガーさんは今日一日、所用で出掛けている。火急の用件なら私が聞くが」

 

 うーむ、不在か。出来れば直で交渉したかったんだが、致し方なし。俺が指揮官になる経緯まで知っているクルーガーなら話も早かったんだが、ヘリアントスは俺の正しい経歴を知らない。つまり、あくまで新任の元傭兵指揮官として接せねばならず、ちょいとやりづらい。

 ま、とは言ってもクルーガーとヘリアントスで別に大きな違いはない。裏技的なカードが切れなくなるくらいで、こっちはきっちり弾数用意してるんだ。まぁ先ずは正攻法で攻めてみるか。ということで、こちらの初手は素直な意見具申だ。カリーナの労働環境を至急整えて頂きたい旨を告げる。当然悲惨な現状も含めてだ。

 

「ふむ……事情は分かるが、すぐにというのは難しいな。グリフィンの支部は貴官が所属しているここだけではない。他との兼ね合いや予算の都合もあるだろう」

 

 当然、こうなる。ここでハイ分かりましたと折れてくれるくらいなら、ここまで酷くはなっていない。というか、事情が分かるとのたまうくらいならその重要性も分かっているはずだ。ここでカリーナに抜けられるリスクを計算出来ないほどこの女も馬鹿じゃない。恐らく、他の支部からも嘆願は上がってきているのだろう。だが、それらを一斉に処理するには少しばかりキャッシュが足りないと見た。しかも、今工面出来る予算で先んじて何処かの環境が整ってしまえば、それに乗っかって更なる不満が噴出する可能性が高い。いやーその苦労、分かるぞ。そういう意味ではヘリアンとはいい酒が飲めそうだとすら思う。

 しかしだ、今は俺の首じゃない、部下の生活がかかってるんだ。俺も引き下がれないんだなこれが。ということで、第一のカード、「カリーナの退職申請が挙がっている」を切る。当たり前だがブラフだ。

 

「む……今彼女に抜けられるのは非常に痛いな……。……貴官がどうにか説得出来ないだろうか。そう遠くないうちに必ず環境は改善してみせよう、私も今の状況が芳しくないことくらいは理解している」

 

 うーむ、まだ弱いな。期限を区切らない口約束なんざ1ミリも信用が置けない。まぁ、自分から言っておいてなんだが、ここまでのトークはいわばお膳立てだ。いきなり本命をぶつけたのでは違和感極まりない。勿論この段階で向こうが折れてくれれば万々歳だったのだが、やはりそう上手くは行かないらしい。というか、別に対外向けでもないんだし、わざわざ順序通りカードを並べていくのも面倒くさくなってきたな。もういいや、俺の評判がどうなろうが関係無いわけだし。

 

 あぁーそっすかーじゃあ仕方ないっすねー、かと言って身体的にも精神的にも限界の彼女をこれ以上馬車馬の如く働かせるのも上司としてどうかと思いますんで、環境が改善されるまでウチの部隊は今後如何なる作戦指示にも従いませーん。劣悪な環境で働き続けろって俺から言うのもおかしい話ですしー、俺は別に無理難題を言ってるわけでもないと思いますのでー。それじゃ、他の支部に仕事回してあげてくださいねー。

 

「んなっ!? ま、待て! そんなことが軽々に許されるとでも思っているのか!?」

 

 必殺カード「ストライキ宣言」。相手は困る。

 

 勿論、許されるなんて毛ほども思っちゃ居ない。普通なら何言ってんだこいつ、で終わる話だ。この世界、そんなに就職先が溢れてるわけでもないしな、折角衣食住の揃った職場を誰もが失いたくないわけだから、基本使用者側が強い。

 だが、現状グリフィンにおいて、俺と俺の部隊は紛うことなき「エース」なのである。これがただのペーペー新任指揮官が言っていたのでは歯牙にも掛けられないだろうが、この辺一帯をカバーしている支部の辣腕指揮官が機能停止するのは上層部なら絶対に避けたいところだろう。

 更に、ヘリアントスは知らないだろうが、俺にはこの必殺カードに付随する最強の駒「AR小隊」が存在している。新しい職場に移ってからそれなりに調べたがあの4人、この支部どころかグリフィン全体が保有する戦力の中でもブッチギリの錬度と戦果を持っている。俺の機能が停止するということは、即ちAR小隊が停止するのと同義だ。俺の過去と関係を知っているクルーガーならより一層ブッ刺さるカードだから、出来ればあのヒゲと直接交渉したかったというのはここだ。

 ただ、ヘリアンの耳にも、今までどんな指揮官にも一切靡かなかったAR小隊がやたらめったら懐いている、という情報くらいはあがっているはずだ。俺がストライキを起こすとどうなるか、それが予測出来ない女じゃない。こんなことのダシにAR小隊を使いたくは無かったが、出せるカードを出し惜しみして交渉で負けるなど愚の骨頂である。そも大前提として、俺の下で働く戦術人形だけでなく、俺とともに働くカリーナも立派な仲間であり、部下である。この戦い、負けるわけにはいかないんですよ。

 

「…………貴君の言い分は良く分かった。クルーガーさんが戻り次第、至急協議しよう」

 

 まあ、こんなところだろう。ヘリアントスにそこまでの権限があるとは思えないから、クルーガーに上げてから検討するってのは妥当な回答だ。ただ、このまま逃げ切られたんじゃこっちの丸損だからな、明日の午前中までに連絡がない場合は宣言どおりストライキを敢行することを改めて伝えておく。交渉ごとに於いて如何に優位に進めようとも、エンドを決めずに終えるのはただの馬鹿がやることだ。爆発しない時限爆弾なんて怖くも何ともない。きっちり処理してくれたまえよ、ヘリアントス上級代行官殿。ハイ、通信終わり。

 

 

 いやー、多分これで俺の評判は一気に落ちることになるだろうな。少なくともヘリアンからの印象は最悪だと思う。ただ、繰り返しになるが俺は自分の評価なんてどうでもいい。既に一度死んだ身である、今後の老い先も長いとは言えない。今更そんなものに固執するほど残りの人生に過分な欲も希望も持ち合わせちゃいないんだ。相手が悪かったな、ヘリアン。

 俺の残りの人生は、俺とともに働いてくれる数少ない人間と戦術人形。そして俺の人生を救ってしまった(狂わせた)AR小隊のためにある。保身を考えない馬鹿は怖いだろう、そんな爆弾を抱えてしまった恐怖を身をもって味わうがいい。

 

 それにしても、いいことをした日はやはり気分がいい。今日は重要度の高い作戦もないし、このままひとっ風呂浴びてのんびりするとしようか。あ、一応AR小隊の連中には簡単な経緯は伝えておいた方がいいかな。まぁあいつらなら反対はしないだろう。

 

 

 

 翌日、期限通りに通信が入り、俺の意見具申は無事可決された。ヘリアントスが退席した後、クルーガーには小言を言われまくったが。

 その翌々日、グリフィン支部に荷物が届いた。喜び勇んで包みを開けてみれば、そこには旧式のタイプライターが小さくその存在を主張していた。

 

 

 いや嬉しいんだけどさあ。そうじゃないんだよなあ……。




皆様こんばんは、お久しぶりです。実に長い休養期間でした。

いやぁ、思いついたのでやってしまいました。後悔はしていない。
多分この指揮官おじさん、ヘリアンと話してる時ヒラコー顔になってたと思う。


今作は今まで以上に軽いノリで思い付いたことを一話完結方式でぶん投げていく感覚でやっていこうと思いますので、完全にノープランです。続きは思いついたら更新します。今のところ何も考えてません。

活動報告あたりにネタをぶち込んでくれれば参考にさせて頂きます。

もっと2000字くらいで短く纏めたいんですけど、逆に難しいですね。今後も出来る限りサクっとやりたいところです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 -平穏という名の退屈と-

とりあえずじわじわとこの支部の状況を埋めていこうかと思った次第。


『こちら第二部隊、ポイントBにとうちゃくー』

 

 その音声に誘われて司令室のスクリーンに目をやってみれば、ドローンから映し出された目の粗い映像の中、確かに声の主であるスコーピオンが指定のポイントに到着していることが見える。その後ろにはM1911が、そして更に後ろからはM14が周囲の警戒を行いながら進軍している様子が映っていた。そしてそれぞれのダミーが一体ずつ、傍で行動を共にしている。

 

 今、スコーピオンを隊長とする第二部隊は鉄血人形の目撃情報が舞い込んだ地域の周辺偵察に出ている。ここら一帯は大体支配下においていたはずだが、今偵察に出ている場所は人が住んでいる地区ではなく、また地理的資源的にもそこまで重要ではないために発見が遅れてしまったのだろう。逆にそんなところで大規模な鉄血人形の群れが発見されようものなら大惨事一歩手前なわけで、逆説的に今回のターゲットは小規模なはずだ。相手が小規模ならということで、いつも頑張ってもらっているAR小隊には少しお休みしてもらい、後進の育成も兼ねて第二部隊を出しているというわけだ。

 

 指揮官の仕事は、何もデスクワークだけではない。むしろ、本来の意味ではこうやって戦術人形の指揮を取ることこそが本分であって、それこそデスクワーク全般はカリーナを始めとした後方幕僚らに任せてしまうのが正しい姿だ。

 だが、この支部にはとんでもない錬度を誇り、指揮官の指示がなくともある程度単独で任務をこなせてしまうジョーカーが存在している。別に俺がサボっているというワケではなく実際に彼女らの指揮もしているのだが、散発的に発生する小規模の鉄血人形程度では彼女らにとって遭遇戦訓練の代わりにすらならない。最早ただの作業である。文字通り俺の出る幕など無く、一瞬で勝負が決してしまう。勿論、仕事をしていないと思われるのも癪なのでそれなりにこなしてはいるのだが、俺が仕事をするしないに関わらず、俺の発令した作戦に関しては全力で吶喊していくのであまりやることが無い。自然とデスクワークの割合が増えてしまうのはもう仕方が無いことだと思う。

 

 ただし、それはあくまでAR小隊だけだ。あいつらがぶっちぎって特殊な存在なだけであって、普通の戦術人形はそうは行かない。実際、今指揮を執っている第二部隊の連中は俺の指示がなければまともに作戦行動を取れない。だから通常、指揮官の実力というのはその支部の戦力指数に多大な影響を持つ。そしていくらAR小隊と言えども、単独で動かすよりも指揮官の存在があった方がより強力になることは言うまでもない。

 

 つまりこの支部、ひいては俺の部隊が「エース」と認識されてしまっているのは、何もAR小隊の力だけではないということだ。本当に面倒くさい。一般的な指揮官のレベルというのは一体どうなっているのやら。俺は受けていないが、グリフィンの入社試験はそれなりに難しいと聞いている。それがカリーナのような立場ではなく、前線指揮官となればなおさらだ。そのはずなのに内情はこの体たらく。この会社、実は割とヤバいんじゃなかろうか。

 

「ふぅん……? ポイントBであえて待機……ああ、成る程、進行ルートに置いたのね」

 

 俺の指示を聞きながら、俺と共にスクリーンを眺めているAR小隊の4人。その中でも冷静沈着が売りのクールビューティ、AR-15が口を開く。

 

 さっき言ったように、こいつらは今日非番である、というか非番にした。理由は単純、目立った作戦指令が無いからだ。思い思いに過ごせばいいものを、こいつら何をトチ狂ったのか俺の指揮が見たいと抜かしやがった。それも4人全員がだ。まぁ断る理由もないし好きにしてもらっていいんだが、事あるごとに横から茶々を入れては俺の読みを見破ろうとしてくるのは辞めて欲しい。気が散る。しかも大体合ってるもんだからこっちも無碍に出来ない。ほんとお前らむかつくくらい優秀になりやがったな。

 AR-15が読んだ通り、部隊を深入りさせずにポイントBで待機させているのは、先に居るはずの鉄血人形の行軍ルートとほぼ被るからだ。鉄血人形の規模、進行先は先程ドローンで確認、予測済みだ。程なく第二部隊が待ち構えているポイントに差し掛かるだろう。あ、指示忘れてた。全員方位30に構えー。的当てゲーム始まるぞー。

 

『ひょーーーっ、来た来た! もう撃っていい!?』

 

 間もなくして、通信デッキから心底嬉しそうなスコーピオンの声が響き渡る。あー待て待てステイステイステイ。犬かお前は。この距離だとお前の得物じゃまともに当たらんだろうが。M14もまだ撃つなよ。M1911、スモークグレネード構えとけ。待てよー待てよー。はい、今。

 

 俺の号令に合わせて、M1911が投げ入れた発煙手榴弾がその真価を発揮する。ドンピシャで投げ入れられたそれは鉄血人形を瞬く間に覆い隠し、量産型のAIに困惑という名のエラーを吐き出させる。ここですかさずスコーピオンとM1911に前進を指示。M14はその場で撃ち漏らしを処理してもらう。

 

『待ってました! そろそろ本気出しちゃおうかなー!』

 

 こちらもまた嬉しそうな声を出しているのはマークスマンライフルであるM14だ。射撃の精度はまだまだ発展途上といったところだが、スモークの中で混乱して半ば停止状態にある鉄血人形を狙うくらいは流石に朝飯前である。バスンバスン、と気前のいい音が通信デッキから鳴り響く。

 

「あそこでスモークか、成る程な。大事を取ったってところか」

 

 最早一方的な蹂躙が始まっているスクリーンを横目に、M16A1が納得したように呟いた。M16が言うように、別にスモークまで投げ入れる必要は本来無かった。完全に横から不意を突ける位置取りだったからなあ。ただ、AR小隊と違って第二部隊の連中は本当にヒヨっ子どもである。万が一があっては困る、安全マージンを多く取るに越したことは無い。

 俺が直接教練の場に立つことが出来ればよかったんだが、あいにくとこの足だ。こうやって指示を聞いてもらいながら地道に学んで行ってもらうしかない。AR小隊と吸収率が違うのか、座学も効果的だが流石に2日でコンプリートされるようなトンデモ事態には幸か不幸か陥らなかった。やっぱりこいつらってぶっちぎりで優秀だったんだなあ。

 

『えっへっへー! アタシってやっぱり強いー?』

 

 調子に乗るなよヒヨっ子さんめ。スモークが晴れる頃には、そこには元気一杯の第二部隊と、文字通り鉄屑に成り下がった鉄血人形の成れの果て。よーし、これでこの周辺は改めてクリアだな。第二部隊には良くやった、と一応労いを入れておいて帰還指示を出す。うーむ、これでそれなりの給料貰えるってんだからおかしい話だ。

 

 

 軍人時代と違ってこの指揮官という業務、ぶっちゃけかなり楽である。昔主に相手をしていたのはE.L.I.Dかテロリストといった連中だったんだが、そいつらと違い鉄血人形というのは基本的な動きが最適化、効率化され過ぎている。量産型AIがそのままバグっただけだからその行動基準は何らおかしくないんだろうが、戦場に付き物である「想定外」が発生しない。別段隠し球みたいな武装が出てくるわけでもないし、予測していなかった動きをしてくるわけでもない。全ての事象がこちらの想定どおりに進んでしまう。情報収集を怠った故のイレギュラーは有り得るだろうが、そんな大ポカをやらかすわけがない。何のための事前調査とブリーフィングなのかという話だ。不意打ちなどを食らえばヤバいだろうが、あいつらにはそんな知能も技能もない。近寄ってくれば自ずと警戒網に引っ掛かる。

 事前に敵の規模と武装を調査。然るべき対策をもってことに臨む。あとは考案した作戦通りに進むだけだ。さらにこちらの手駒も人間ではなく戦術人形なので、突然の体調不良や謀反も無い。相手の戦力とこちらの戦力の見定めさえ誤らなければ、正直楽勝だ。

 

 まあ、こっちの思惑を超えてくる鉄血人形なんかが出てくればまた話は変わってくるんだろうが、今のところその予兆すら感じられない。勿論、警戒は必要だが警戒と萎縮はまた違う。別にリスクを追い求めるような性格はしていないはずなんだが、こうも退屈だとあらぬ期待を寄せてしまうのも無理からぬことか。まぁどうでもいいか、俺一人が考えたところで事態が変化するわけでもなし。気楽に気ままにやっていこう。

 さて、これで目下の脅威はなくなったが、やはりタスクが簡単過ぎたな。思ったより時間が余ってしまった。書類仕事も多少残ってはいるが、緊急性の高いものは一つも無い。うーむ、もしかしてこれは有体に言って暇というやつなのでは? どうしようかとしばし悩み、第二部隊の出迎えにでも行こうかと思いついた矢先、俺の乗る車椅子が僅かに揺れた。

 

 

 

「……そうだ、指揮官。久々に射撃のレクチャーでもしてくれないか。最近実戦続きで変な癖が付いてないか気になってな。今日はあいつらが帰投すれば目立ったタスクは無いんだろう?」

 

 M16よ。なんだその白々しい喋り口は。さり気なく俺の後ろを取るんじゃない。

 

「ダメですよ姉さん。指揮官にはしっかりと休養を取って頂かないと。忙しい身なんだから」

 

 おいM4。M16が握った手押しハンドルをそれとなく奪い返すんじゃない。

 

「えー! 指揮官今日も遊べないのー!?」

 

 うごぇ。飛び乗ってくるんじゃないSOPMODⅡ。痛い痛いいだだだだ痛い重い。

 

「え、えっと、えっと……あ、あの、指揮官? ひ、久々に作戦報告書を用いて戦術論でも交わしたくなってきたわ。ほら、私たちもその、情報は定期的にアップデートしないと」

 

 ヘタクソかお前は。このポンコツめが。

 

 

 うーむ。確かに今日はこの後比較的暇だし、目立った動きもない。今すぐに休むほど疲れてもいない。仕方ない、たまにはこいつらの我侭に付き合ってやるとするか。とりあえず久々に皆の射撃を見せてもらって、その後戦術議論して、遊んで、って何して遊ぶつもりなんだろうな。分からん。まあそれくらいやれば疲れても来るだろうし、その後のんびり休むとしよう。

 

 あれ? これ結構忙しくない? というか本業より忙しくなってない?

 まぁいいか。それはそれで平和な証拠だ。退屈よりは何倍もマシってな。




AR小隊以外にもスポットを当てて行きたいところなんですが、中々割り込ませるのが難しい。

指揮官おじさんは彼女たちのことを分かっていながら、のらりくらりと躱しています。
そして彼女たちは戦闘以外では基本ポンコツです。だってそんな知識も経験もないですからね。

そんな日常を思いついたら書いていきたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 -FOUND for NOT-

筆者はブラック企業を許さない、絶対にだ。
でもブラック企業で働くおじさんは応援しちゃうんだ。


「そういえば指揮官さま。指揮官さまは副官に誰かを置かないのですか?」

 

 とある日の昼下がり。朝一の朝礼を終え一日の予定を確認、特に鉄血人形の接敵情報もなかったため、AR小隊からなる第一部隊およびスコーピオンを隊長としたヒヨっ子第二部隊をそれぞれ周辺の偵察に出し、幾つかの書類仕事を早々に片付け、少し早めの昼食を取った後。ドローンには主に第二部隊の行軍を追わせ、スクリーンに映る平和な一時を、泥水と言って差し支えない珈琲をすすりながらのんびり過ごしている時分。今日もせっせと物資管理やら仕入れ状況やらを確認しているカリーナが、ふとそんなことを呟いた。

 旧式のタイプライターが送られてきたあの日から、彼女の労働環境は僅かばかり向上したと言える。その証拠に、あれ以来彼女の今にも死にそうな顔を拝むことなく、どうにかこうにか仕事をこなしている。とは言っても常に辛そうではあるのだが。俺に副官つけるよりこいつにもう一人部下を付けた方がいいと思う。

 

 副官。読んで字の通り、指揮官である俺を補佐する役職である。割と暇だったこともあってカリーナの言に耳を傾けてみれば、他支部の指揮官なんかは大体戦術人形の副官を一人は置いているそうな。その役目は様々で、そのまま指揮官の仕事を手伝う者、戦場に出なくていいからとサボりの口実に立候補する者、指揮官と二人きりという空間を欲する者等等、それはもう多種多様らしい。俺の周りには作戦が無い時は大体AR小隊の誰かが引っ付いているんだが、副官というのは考えてもいなかった。まぁあいつら俺の仕事手伝うために来てるわけじゃなさそうだしノーカンでいいや。ていうかカリーナじゃダメなの? お前がこの支部内で一番仕事できると思うんだが。俺の次にだけど。

 

「わ、わわ私ですか!? あっ! いえその、嫌というわけではないのですが……」

 

 何の気なしに呟いてみれば、予想外のリアクション。何をそんなに慌ててるんだお前は。ただまぁ言ってはみたものの流石に冗談である。カリーナが悪いわけでは全くない、本当に良くやってくれている。むしろ、そんな彼女にこれ以上の負担を強いるのは俺が望むところではない。

 

 というか、そもそも必要無いんだよな副官。別にここ大所帯ってわけじゃないし。部隊規模に似合わず仕事量は多いが、実務に於いては非常に優秀な部下たちが一瞬で片付けてくれる。それに、曲がりなりにもそれなり以上の規模の集団を率いていた身だ、会社の管理職とはまた趣が違うだろうが、そういう仕事にも慣れている。ただでさえ一番重たい作戦報告書の作成をカリーナが担当してくれている分、どちらかと言えば手持ち無沙汰なシーンの方が多いくらいだ。こんな状態で更に副官を付け、そいつに仕事を分担して貰っていては俺がただのカカシになってしまう。

 車椅子だから、というのも副官を付ける理由にはならない。腐っても元軍人だ、移動くらい一人で出来る。つーかそれくらいしか運動機会がない。ただでさえ落ちまくっている筋肉量を更に落とすことになる事態はなるべく避けたい。地味に筋トレもしているが、下半身の筋肉だけはどうしようもないからな、全身もやしは御免だ。

 

「そ、そうですかぁ……。でも、珍しいですね。私が今まで見てきた指揮官さまは、大体誰を副官にするかを真っ先に悩んでいましたし」

 

 何てことをつらつら言い述べていたら、またとんでもない情報が飛び出してきた。いやほんとさぁ、グリフィンの指揮官ってのは女漁りにでも来てるのかと問いたい。小一時間問い質したい。お前ら一応戦場に身を置く立場じゃないのかと。戦術人形に鼻の下を伸ばして貰った金で食うメシはさぞ旨かろうなぁ。グリフィンの指揮官ってのは大層なご身分なようだ。お前らの懐に入るその金でこっちの環境を整えたい。

 

 ただまぁ、その真意はひとまず置いとくとして。どうも戦術人形の指揮官という立場で副官を付けない、ってのは相当なイレギュラーなようである。うーむ、どうしようか。しかし考えてみると、今後支部を越えて交流を持つこともあるだろうし、本部にお呼ばれする機会なんかもあるかもしれない。支部内ならともかく、遠出となれば俺一人じゃ物理的に動きにくい場面も出てくるだろう。仕事を任せるかどうかは別として、そういう意味での副官というのは設定しておいても良いのかもしれない。ただそうなってくると、それ副官っていうよりただの介護人なんだよなあ。いくら俺でも、そんなモンのために戦術人形の誰かを付けてしまうのはちょっと遠慮したい。主に俺の羞恥心と尊厳がガリガリと削られていく気がする。あいつらなら断りそうにないところがまた怖い。俺は確かにおじさんだが、まだおじいさんって歳じゃありません。

 

「あ、あははは……確かに指揮官さまなら、今の仕事量ならお一人でこなしてしまいますので……。部隊数も増えれば、また違ってはくるのでしょうけれども」

 

 カリーナ、ナイス。それだわ。

 苦笑混じりに放り投げられた言葉が、俺のいいところを刺激した。

 

 

 

 クルーガーが運営するこの民間軍事会社、G&Kは、I.O.P社と業務提携の契約を結んでいる。グリフィンに所属する指揮官は、所定の手続きを踏めばI.O.P社へ戦術人形や装備品などの発注を行うことが出来る。その代わり、不要となったり役目を終えた戦術人形は、I.O.P社へ返却しなければならない。

 うちの支部には現状7体の戦術人形が所属しているが、正直頭数としては心許ない。AR小隊もいつまでも4人では作戦行動の範囲に限界があるし、第二部隊なんて3人である。ある程度ダミーで水増し出来るとは言え、単純な駒ばかりが増えても真っ当な拡大とは言えない。スコーピオンをはじめまだまだ最適化工程が進んでいない人形も居るが、如何せん数が少なすぎる。AR小隊の活躍もあって今でこそ大きな問題にはなっていないが、現存する戦力で対処出来ない事態が起きてから行動していたのでは遅すぎるのだ。

 ていうかめちゃくちゃ今更な問題なんだが、この支部に所属している指揮官が俺だけっておかしくないか。施設のオンボロさといい、ボロさにそぐわない建物の真新しさといい、もしかしてここ新造も新造の支部じゃないの。いくらワケありとは言えども、新任の指揮官を先輩が誰も居ない新設された支部に独りぶち込むなんてどうかしている。

 前から予感はしていたが、間違いない。ここドブラックだわ。あのヒゲほんと何考えてやがる。需要に応えて拡大路線を突っ走った結果、内部整理が追い付かず崩壊していった過去の企業を思い出す。このご時世、マトモな企業なんて残っていないと分かってはいたが、いざその渦中に突っ込むとなるとスゴイな。俺の第二の人生ギリギリの綱渡りじゃねーか。なんだかんだ不満もあったが、正規軍という立場と待遇が如何に素晴らしかったか、今更身を以て体感することになるとは思わなんだ。

 つーか今思えば、指揮官1人、戦術人形7体の零細新設支部にあんな量の作戦指令を下ろしまくっていたのかこのクソ企業。他の指揮官が見当たらないのも俺と同じように忙殺されてるからとばかり思ってたわ。いくらなんでもおかしくないか、と気付いた時には既に膨大な数の任務をこなした後で、付近一帯は無事制圧完了、今は束の間とも言えるのんびりとした日々を送れているが、あんなのは二度と御免だ。これでAR小隊が居なかったらと思うとゾッとする。最近クルーガーと会う機会はないが、どんどんあいつのヒゲを毟る理由が増えて行くぞ。次会ったら頭髪も毟ってやろうと思う。

 

 いかん、思考が逸れたな。まあ、突っ込んでしまったものはもう仕方がない。どうせこの身体と経歴じゃ他にロクな勤め先がないことくらいは馬鹿でも分かる。与えられた環境でやっていくしかない。とにかく今のうちに、支部の財政が許す限りではあるが、少しずつでも確実に戦力を増強していかなければならない。俺の部隊が落ちるということはイコールこの支部が落ちるということだ。ちょっとシャレになっていないが、愚痴を吐くことで現状が上向くのなら誰も苦労しない。

 俺がそれなりに上手く回しているのとカリーナの尽力も相俟って、今のところこの支部の物資情勢は安定している。戦術人形の新規発注にはそれなりのコストが掛かるのだが、まぁ大丈夫な範囲だろう。

 

 と、いうことでポチっとな。人形の発注自体は司令室にあるコンソールから割と簡単に出来る。所定の手続きとは言っても、その内情は随分と簡略化されたものだ。幾つかの項目を埋めて電子申請を行うだけである。人形の指定は出来ないが、コンソールで選択した項目にある程度沿った人形が送られてくる。こちらとしてはどんなタイプが来てくれてもありがたいが、強いて言えば積極的に前に出られる人形が少ないため、サブマシンガンタイプだと一層助かるってところだ。

 

 

「指揮官さま! 新しい戦術人形が到着致しましたわ!」

 

 発注をかけてから翌々日。ようやっと新しい戦力候補のお出ましである。I.O.P社からは昨日には到着するとメールが着ていたんだが、まぁこんなご時世だ、一日くらいの遅れでとやかくは言うまい。無事に到着したのなら先ずは迎え入れてやらないとな。

 一応、新人を迎えるということで、うちに所属している戦術人形には全員司令室に集まってもらっている。どうせ少ない人員だ、顔合わせは一度で済ませておく方が効率がいいからな。まあ、これから増えていくとこうも行かないんだろうが、それは割と遠くの未来になりそうなので今考える問題でもないだろう。この支部、建物だけは新しいから結構広いしな。

 

 カリーナの声とともに司令室の正面ゲートが開く。そこには確かに彼女が言う通り、見たことのない戦術人形が()()、笑顔でこちらに歩いてきていた。

 

 

 反射的に、俺は愛銃UMP9を構えていた。

 一瞬ではあるが俺に遅れて構えを取る4体。訳が分からず困惑する3体と1人。

 

「UMP9、ただいま就任! 皆、これからは……って、何コレ!? どゆこと!?」

 

 登場した瞬間、一斉に銃口を向けられたそいつは大いに慌てふためいていた。だが、それすらもブラフの可能性がある。間違っても銃を下ろすどころか、油断出来る状況ですらなかった。

 

 I.O.P社に発注して送られてくる人形は、全て新品だ。これはコンソールにも表示されている情報だし、カリーナにも同様のことを教えられた。そして、新品ということは当然最適化も進んでいない。そこに限っては昔、俺が訓練を受け持った人形とて同じだ。例外は存在しない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今連れているダミーは1体のようだが、それが限界なのか、たまたま1体しか居ないのかは分からない。だがどちらにせよ、少なくともこいつは実戦か訓練かのどちらか、あるいは両方を既に経験している。そうでなければ最適化工程が進まないからだ。つまり、こいつは本来I.O.P社から送られてくるはずであった新品の戦術人形ではない。

 

 先程までの弛緩した空気から一変、張り詰めた様相に瞬時に切り替わる司令室。

 

「何故、お前がここに居るのか。説明してもらおうか、ナイン」

 

 静まり返った空間に、M16A1の冷え切った声だけが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え? 何なのお前ら知り合い? もー! やめてよそういう面倒ごとはさぁ!




きちゃった





これ割と小さい風呂敷なのですぐ畳みますね(パタンヌ

ところで日間ランキング45位、短編日間ランキング4位ってどゆこと?(どゆこと?
ありがとうございます、痛み入ります。ぼちぼち頑張って参ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 -ジェットストリームファミリーパンチ-

年末会議と忘年会を思いの外スッとフェードアウト出来たのでぼくは時間を手に入れました。
やったぜ。


 結論から言えば、UMP9と名乗った戦術人形は怪しくはあったものの不審な人形というわけではなかったようだ。暫定容疑者の言なんざ1ミリも信用が置けないわけで、M16A1をはじめとしたAR小隊、そして念には念をということでクルーガーにも確認を取った。監視をつけて色々と確認している間、ひたすら「信じてよ! 信じてってばあ!」などと叫び回っていたが、こちとらその言葉を素直に信じる程馬鹿じゃないし、信じるメリットもない。オトナは心も考え方も汚いんだ、覚えておけ人形ちゃん。

 ていうかそっかぁ、あの人形が俺の愛銃を使うのかぁ。ほんの少しばかりショックである。いやそりゃ分かるよ、戦術人形には銃器との繋がりがあって、その特定の組み合わせに俺の趣味趣向を反映する余地など少しも残っていないことくらい。なのでこの気持ちはきっと我侭だとか八つ当たりだとかそういう類のものだろう。深く気にした方が負けな気がするので、そういうものだと割り切って考えることにする。

 

 ちなみに本来やって来るはずの戦術人形なんだが、I.O.P社に改めて問い合わせてみたところ輸送中に人権団体の過激派の襲撃に遭い、人員諸共帰らぬ身になってしまったようである。流石の俺もこのニュースには引いた。しかも早々起こりはしないが特段珍しいことではないということまで聞いてしまい一層引いた。軍に居た頃は自律人形がどうとか人間がどうとかいう生ぬるいこと言ってられなかったしなあ、直接そういう団体と顔を合わせる機会もなかったし。しかしまぁ、権利やら思想やらだけを只管に担ぎ上げて、各々の義務を勘定しないクズってのはどこにでも出没するものなんだなと改めて感じる。お前らが今どうにかこうにかこの世界で生きていくことが出来ているのは、人間の技術も自律人形の働きもあってこそだろうに、全く以て現実を見れていない。いや、現実を見たくないからこそそんな茶番に躍起になっているのやもしれない。本当にこの世界救いがない。なんで俺生きてるんだろう。

 

 いかんいかん、最近しょうもないことに脳みそのキャパシティを奪われている気がするぞ。業務自体は軍に居た頃より格段に楽だが、これはこれでストレスが溜まっているのかもしれん。多分、単純に身体を動かすことが出来なくなっていることも影響しているんだろう。これはいよいよペルシカリアに義足の注文をした方がいいのかなどと考えてしまう。普通のやつならいいんだ普通のやつなら。あの女特製の義足なんて考えたくもない、優秀なのは嫌でも分かるんだが。

 

 そうそう、それで何故あのUMP9がうちの支部に着たかということだが、あのクソヒゲ野郎の差し金もとい計らいらしい。どうやら彼女はグリフィンの暗部らしく、「404小隊」という名の部隊員なんだそうだ。グリフィンが表立って動けない特殊な依頼なんかを秘密裏に処理する部隊、ということだが、あんなキャラでそんなこと出来るのかという疑問の方が先に立つ。ちょっとデカい犬みたいな感じだぞあれ。SOPMODⅡと同類の匂いがする。

 で、その404小隊なんだが、部隊柄一般の指揮官においそれと指揮権を預けるわけにもいかず、かといってずっと本部預かりのままではフットワークが重くなりすぎる。それで俺の支部に白羽の矢が立ったわけだ。この支部には現状指揮官が俺しか居ないし、機密漏洩のリスクも低い。今のところ指揮官業も何とか上手くこなしているから、俺に預けて様子を見ようということらしかった。ほんとあのヒゲいつもいつも好き勝手してくれやがる。お得意のゴリ押しをしてくるのは勝手だが、それを受ける立場の人間が何時までも大人しくしていると思うなよ。そろそろヒゲや頭髪だけじゃ物足りなくなってくる頃合だろう、全身脱毛でもしてやるかアイツ。

 ただ一方、AR小隊と知己であるということは結成されてからそれなりの期間があったはずなんだが、その間マトモな指揮官が出てこなかったのかという疑問も残る。詳細までは知ろうとも思わないが、クルーガーはクルーガーで人材不足に頭を悩ませているのかもしれない。そう考えるとあいつの采配にも情状酌量の余地はあるのかもしれないが、だからって出来そうなやつに仕事全部ぶん投げたらそいつが潰れるに決まってるだろ。こんなだからブラック企業は負のループから抜け出せないんだ、分かってるのか。

 

「指揮官どうしたのー? 何か難しい顔してるー!」

 

 いつの間にか俺の顔を覗きこむように距離を近付けて来たSOPMODⅡが、その表情を若干曇らせながら俺に声をかけてくる。うーむ、自分でも気付かないうちに顔に出ていたか。ポーカーフェイスを得意としている身としてはこれは非常によくない。いや、AR小隊の連中なら俺がどんな能面顔をしていても見抜いてきそうなものだが、かといって余計な心配を部下にかけていては上司の立つ瀬がない。気にするな、と声を返してその頭を軽く撫でてやれば、そこには瞬く間に満開の笑顔を咲かせるSOPMODⅡ。うん、いいな。軍人時代は縁が無かったが、ペットを飼うということはこういう感じなのかもしれない。アニマルセラピーなんて言葉もあるくらいだ、その効果も中々侮れないかもしれん。

 

 まぁ、UMP9が来たことで好転する事態もある。彼女は現状、本部から特別な任務が降りない限りは俺の指揮下で動かしてもいいらしいので、純粋に手駒が、それもある程度の教練が終わっている人形が手に入るのは素直に喜ばしいことだ。チェックを通した結果、UMP9の最適化工程は30%を超えていた。このレベルなら2体のダミーリンクを操ることが出来る。AR小隊には遠く及ばないが、秘密裏に動かしていた部隊、それも指揮官や教官を付けていなかったことから、この最適化工程は全て実戦で進められたものだろう。AR小隊の教練初日を思い出してみても、よく今まで死ななかったものである。それだけ素体やAIのスペックが優れているということだ。俺の足が健在なら、UMP9にも教育を施してどこまで伸びるか見てみたかったものだが、それは最早叶わぬ夢。名残惜しくも感じてしまうが、無いものねだりをしても仕方がない。座学と俺の指揮でどれだけ伸ばせるかやってみよう。

 

「あ、指揮官ここにいたかぁー!」

 

 なんてことを考えていたら、早速現れたのはその当人UMP9。ダミーは宿舎に置いてきたのか今はオリジナル一人だ。最初に出会った頃と同じように人懐こい笑顔を浮かべて司令室のゲートを潜ってくる。出会いの形はお世辞にも良いものとは言えなかったが、本人としては誤解が解ければ問題無かったようで、その割り切りの早さはこちらとしても助かるところだ。また、I.O.P社に発注した人形が到着しなかったタイミングの悪さもあって、俺の警戒にも理解を示してくれたのはありがたい。曲がりなりにも俺の指揮下に入るんだ、信頼関係が無いままというのは色々と困る。その辺り柔軟に考えることが出来る人員というのは貴重だ。特殊部隊所属というのも一様に否定だけは出来ないな。

 

「むぅ、ナイン何しにきたのさ」

「んー? ちょっと指揮官とお話しに来たのさー!」

 

 おっ犬の喧嘩かな? いや、どっちかと言えば小型犬が大型犬に食って掛かってる感じかな。とりあえず話があるなら聞いてやろうということで、SOPMODⅡを抑える。こいつ俺の言うことならすぐ聞いてくれるから助かる。よく躾けられてるなあ。ついでと言っては何だが、仕方がないこととは言え最初に思いっきり疑ってかかってしまったことを改めて詫びておこう。結果論にはなってしまうが、無実の人形を疑ったのは事実。物事はしっかり落とすところに落としておかないとな。

 

「いいっていいって! 無事誤解も解けたことだし。しかし指揮官は真面目だね~416を思い出しちゃうなぁ」

 

 にしし、とどこか懐かしそうな香りを漂わせてUMP9は再び笑う。

 UMP9には当たり前だが、誤解が解けた後は自由行動を許している。立場としては完全に他の戦術人形たちと同じだ。同様に、暗部に所属しているからといって特別扱いもしていない。俺は部下に対して適正に評価は下すが贔屓はしない。AR小隊のことは高く評価しているし、それ以上に働いてくれていることも事実だが、言ってしまえばそれだけだ。彼女たちは戦術人形であり俺の指揮下にある。錬度の違いや出来不出来、得手不得手は勿論あるが、配属となったからには同列に扱う。それ以上でも以下でもない。

 とは常に考えているが、まぁ俺も人間だしなあ、一律かつ完璧に扱うなんて多分出来ていないんだろう。無意識にそういう思考、行動になっていることに後から気付くなんてよくあることだ。だからと言って心掛けを辞める理由にはならないから、極力そうしないようにはしているが。

 

 そういえばUMP9は話をしにきたと言っていたな。一応だが、SOPMODⅡが居てもいいのかを尋ねると全く問題ないとのこと。ということは少なくとも極秘裏の任務といった重要度が高い話ではなさそうだ。うーむ、となると本当に世間話でもしにきたのかな? まぁこちらとしても404小隊に所属しているサブマシンガン型の戦術人形、という情報以外ろくに持っていないので、部下との親睦を深めるがてらフリートークと洒落込むのも悪くはない手か。

 

 

 

 

「さっき通信があってね、私以外の404小隊、あっ、あと3人居るんだけどね、全員こっちに来るってさー! 多分私と同じような指示が入ったんだと思うよー。明日には着くだろうってさ! やったね指揮官! 家族が増えるぞぉ!」

 

 

 よっしゃ分かった。俺はヒゲを毟りに行けばいいんだな。




お前も家族になるんだよ(ファミリーパンチ

書いてて思ったんですけど指揮官おじさん、明らか軍属時代よりストレス溜めてますね。
すべてはこのブラック企業が悪いのだ……


ちなみに前作と違い、今作品は本当に思い付いたところからペペっと書いていくスタイルなので、特に落としどころなどを定めていません。

これからものんべんだらりとお付き合い頂ければと存じます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 -ハートブレイクコミュニケーション-

年末休暇を利用し最新話を投稿することが出来るッ
AR小隊と404小隊の絡みは多数の作者様が描かれておりますが、こちらはこちらなりのお付き合いを描いていければと考えております。


「UMP45が着任しました。指揮官、仲良くやりましょう?」

「HK416です。ちゃんと私の名前、覚えてくださいね」

「G11……です。指揮官、お布団どこ……?」

 

 うわ、マジで来た。マジで来やがったよ残りの3人。本家UMPとアサルトライフル二人かぁ。しっかしG11ってお前またスゴイもの扱ってんな。確かケースレス弾だったか? アレを前提とした自律人形ってI.O.P社にニッチな趣味を持った開発者でも居るのか。普通にもっと他に扱いやすいやつあるだろ。

 ナインから情報を受け取った翌日。きっちり3人が雁首揃えてうちの支部の司令室にその足を運んでいた。ちなみにUMP9のことは今後ナインと呼ぶことにした。皆がそうやって呼んでいるということが一つ、もう一つが俺の愛銃であるUMP9と差別化するためだ。まず有り得ないシチュエーションではあるが、誰かにUMP9持ってきてくれ、と依頼したらナインが運ばれてきた、とかいう馬鹿げた事態は御免被りたい。

 今、司令室には昨日と同様、うちに所属する戦術人形全員を呼んでいる。こうなりゃ1人も4人も一緒だ、全員顔合わせしてしまった方が都合がいいしな。AR小隊も話を聞く限り404小隊全員と面識を持っているようだから、最初に全員会わせておいた方が楽だろう。誰が来てて誰が来てないとか部隊員の間で情報の差異が起きる事態も避けたい。

 

 あと、クルーガーのヒゲを毟るのは勘弁してやることにした。

 昨日ナインから話を聞いた直後、即コールしてクルーガーに繋げてやったんだが、あいつ曲がりなりにも軍部で一定の地位を持っていた俺のことをナメてやがった。あのヒゲのことだ、決してドロップアウトした訳じゃないだろうが、早々に軍部を去ったお前と違ってこっちはそれなりに修羅場も潜って生き延びてきたんだよ。会社と軍じゃ勝手も違うだろうが、同じ「組織」であることに違いはあるまい。お前は使用者側に回ったから分からんだろうが、俺はずっと使われる側でそれなりに上手く回してきたんだ。

 どういうことかと言えば、クルーガーはグリフィンにとっての最高戦力であるAR小隊と、グリフィンの暗部の一端を担う404小隊、この二つを暫定的とは言え俺の指揮下に置いてしまった。それは俺への信用もあったのだろうが、ここで大事なのは彼女らは俺の同僚ではなく、あくまで指揮下にある部下だということだ。無論、俺としてもAR小隊や404小隊に無理難題を押し付けるつもりはないが、悪いが遠慮なく利用はさせてもらう。

 

 と、言うことで。恐らく一週間もしないうちに、うちの支部宛で大きな荷物が届く手筈となりました。やったね。

 届かなかったらどうなるかって? 何、AR小隊にちょっとした長期休暇に出てもらうだけだ。あいつらは戦術人形であり正確には「労働者」としてカウントされないため、G&Kとの労働契約自体が成立していない。つまり今は俺の管理下にある備品と同じ扱い、という見方も強引だが出来る。この支部には戦術指揮官が俺しか居ないわけだから、俺が持ってる備品を俺がどうしようともそれは俺の勝手ですよね。社長にとやかく言われる筋合いないですもんねって話だ。備品を壊したりするわけじゃないから、別にコストが掛かる訳でもない。そもそも支部の財政状況も鑑みて俺とカリーナでやっているわけだから、そこはオールグリーンだ。

 まあ、当然それだけじゃカードとして弱い。グリフィンぶっちぎりの最大戦力を遊ばせていては、ここら一帯の継続的支配も難しくなる。そうなってくるとAR小隊を欠いた現存の戦力では支配地域の拡大どころか維持も難しくなるだろう。で、そうなれば俺の立場もそうだが、何より生命が危ない。俺だって死にたがりじゃない。兵士は時に死ぬことも仕事のうちだが、無駄死になど以ての外だ。

 だがしかし、俺が再度命の危機に瀕したとして、じゃあAR小隊が黙っているかと問われれば否だ。備品が謀反を起こすなど聞いたことも無いが、事実あいつらの比重はグリフィンよりも俺に傾いている。そうでなければ、独断で任務を放棄してまであんな大ポカを犯すわけが無い。今までは指揮官を切ったり貼ったりしてきたんだろうが、俺相手に同じ戦法が通じると思わないことだな、ベレゾヴィッチ・クルーガー社長?

 

 思いっきり部下を利用しまくった姑息なロジックだが、悪いが卑怯なんて言葉はずっと昔に戦場へ放り捨ててきた身だ。クルーガーも大概なキレ者なのは認めるが、俺に限らず常に使われる側で頭を回し続けてきた連中っていうのは、思い切りの良さと割り切りの早さが半端じゃない。長期的なスパンで見た事運びの上手さではアイツに軍配が挙がるだろうが、発想と行動の瞬発力では負ける気がしない。あいつが現場を離れてそれなりに長い期間が経ってしまった弊害だろうな。

 

 ちなみに、最近は俺がクルーガーの毛を毟るんじゃなくて、アイツをストレスで禿げ上がらせる戦術に重きを置いている。この地域一帯の支配とAR小隊周りの事情もあるから、あいつはあいつで容易に俺を切り捨てることが出来ない。俺は俺で、なんだかんだG&Kを離れたら全てが無くなってしまう為に容易に抜け出すことが出来ない。これはお互いの精神を賭けたデスレースだ。最初に俺を巻き込んだのはそっちだからな、地獄まで付き合ってもらうぜ。

 

 

 さて、そんな回顧も程ほどにしてと。先ずは新しく着任した3人の戦術人形に挨拶を返そう。

 UMP45だが、やはり同一系統の銃だと戦術人形の見た目も似るのか、ナインとよく似ている。髪色や体型、目の傷なんかは違うので見間違えることは流石に無さそうだが、こんなに似ているってのも初めて見たな。M4A1とM16A1なども似てはいるが、流石にこのレベルではない。

 しかし、パッと見ての第一印象のみではあるが、性格面では大分ナインと差があるように感じる。何と言うか、笑顔は笑顔なんだがその裏が垣間見える感じだな。落ち着いているとも取れるし、何か企んでいるとも取れる。まぁ、そこらへんの詳細はこれから見極めていけばよかろう。

 HK416は、何と言うかちょっと取っ付き難いイメージがあるなあ。周囲と距離を置きたがる性格なんだろうか。とんでもないミニスカートを除けば服装も真面目一辺倒といった感じだ。しかし、416かぁ。銃の来歴だけを見れば、AR小隊の連中とあまり相性は良く無さそうに見えるが、さてどうなることやら。

 G11は立ったまま寝るな。起きろ。

 

「全員で顔を合わせるのは随分と久しぶりじゃないか? ま、よろしく頼むよ」

「ふん、誰がアンタなんかと」

 

 ワァー。いきなり悪い方向に予想が当たってしまったぞ。

 過去にも色々あったんだろうが、とりあえず水に流して大人な挨拶を投げ掛けたM16だが、それに対しての416の第一声がこれである。お前ら仲良くしろとは言わないが、ちょっと取り繕うとか上辺だけでも何とかならんのか。特に416、あまりにも露骨過ぎる。見てみろ、事情を知らない他の人形たちが固まってるぞ。どうすんだよこの空気。

 

「まぁまぁ、416。指揮官も居ることだし、ね?」

 

 この空気を打開せんと、UMP45がすかさずフォローを投げる。うーん、ナイス。俺はAR小隊と404小隊の確執までは知らない。AR小隊はともかく、404小隊の連中とは関係値もほとんど築けていない。そんな完全に第三者の俺が声を掛けたとしても状況の打破は難しかったところで、間髪入れず動いてくれたところは評価したい。真っ先に抑えに入ったところといい、性格といい、恐らくこの子が404小隊のまとめ役かな。だとしたら色々と話が早そうで助かるんだが。

 

 とりあえず一旦空気も収まったところで、俺には今回一つやりたいことがあるためにその説明をしたいと思う。それはずばり、彼女たちの現状把握だ。I.O.P社から送られてくる新規の人形は全員最適化が進んでいないためその力を見るまでも無いのだが、404小隊は事情が違う。先だってナインに関しては最適化工程のチェックを行っているが、他の3人に関しては完全に初見だ。ナインも含め、現段階でどれくらい出来るのかを一度見させて頂きたい。その内容によっては別途訓練スケジュールを組み立てる必要もあるだろうし、今でこそこんな足だが、俺の経験が役に立つかもしれない。特殊部隊ということは、今まで声には出せないような任務にも就いたことがあるのだろう。深くは聞かないが、俺の指揮下となった以上、分不相応な負荷は掛けたくないからな。

 

「結構よ。私たちは今まで私たちだけでやってきた。それに失礼を承知で言うけれど、そんな状態の指揮官に教えを乞うほど弱くは無いの。私は完璧だもの」

 

 ヒュウ、辛辣ゥ。まあ、それを言われれば俺も強くは言えないところが痛いな。しかし、私は完璧と来たか。これ完全に勝手な憶測なんだけど、お前からAR-15と同じ匂いを感じるんだが。どうか気のせいであってほしい。

 

 

 

 

「おい。その無駄によく回る口を今すぐ閉じろ。死にたくないならな」

 

 んんん? あれぇ? なんでそっちに火がつくのかなぁ? おじさん分かんないぞ?

 416の言葉に更に上乗せしやがったのは、あろうことか先程まで仲良くやろうと精一杯頑張っていたはずのM16A1だった。おいおいおいやめろ馬鹿。直接の原因は416だがわざわざ火に油を注いでどうする。M4、こういう時はお前が止めないとってお前もかい! 何でお前そんな目が据わってんの。いつもの弱気はどうした、怖いわ。あー、AR-15……もダメだな。何がお前らをそんなに焚き付けてうわSOPMODⅡ怖ッ! 顔怖ッ! お前から表情を取り除いたらそんな顔になるんだな! 俺初めて知ったわ! 完全にキリングマシーンみたいな顔付きやんけ!

 

「あら、何かお気に召さなかった? 片足を失うような指揮官に教わることは何も無い、と言っただけだけれど。それに貴方も貴方ね、修復不可能な程の深手を頭部に負うなんて。エリートが聞いて呆れるわ」

 

 おーおーおーおーおー煽りよるわこいつ。恐らくM16A1の眼帯を見ての発言だろうが、それには色々と、それはもう本当に色々とヤヤコシイ事情があるんだが、それを言えないのがつらい。何せ俺は戦場で片足を失った元傭兵の新人指揮官である。AR小隊は何故か俺によくしてくれているが、その事情までは分からんただのおじさんなのだ。これはキツい。何も言えないぞ俺。ついでに、捉え方次第では上官への侮辱という点も無くは無さそうだが、言い方はともかく言われている内容自体は事実なので俺的にはノーカン。多分俺だって初対面の片足びっこ上官にいきなり鍛え上げてやるぜなんて言われたら何言ってんだこいつってなると思う。

 

「きょ……キルハウスの使用許可を貰いたい、いいだろう指揮官? 何、ちゃんとペイント弾を使うさ。404小隊のエリートサマを壊してしまっては指揮官の面目も立たないだろうしな」

 

 あっぶねえなお前、今一番ヒヤッとしたわ俺。危うくとんでもないワードが飛び出しかけたM16A1だが、何とか持ち直したようだ。しかし普段、本当の意味で冷静さを一番保っているはずのM16が真っ先に燃え上がるとは完全に予想外だ。こいつら過去に何があったんだ。

 

「心配するな、ちゃんと一対一でやってやるさ。ダミーを使うまでもない。ああ、使いたいならそっちはダミーを出しても構わないぞ?」

「……ッ! 上等よ、完膚なきまでに叩きのめしてあげるわ……ッ!!」

 

 だからお前も煽るのをやめろ! もーどうすんだこれ! 収拾つかねーぞこれ! ここまでヒートアップしてしまった以上、キルハウスは使えません、なんて口が裂けても言えそうにない。別に指揮官権限で強制的に止めさせてもいいんだが、そうしてしまうとこの燻りが何時までも残り続けてしまう。仲良くやる必要は何処にもないが、最低限の連携や意思疎通が取れなくなるのは軍事企業としては非常にマズい。ガス抜きって訳じゃないが、目に見える確執は見えているうちに出来る限り解消させておくべきだ。

 というかやっぱり416が心配なんだが、大丈夫だろうか。ナインの最適化工程が30%ちょいだから、恐らく他の3人もそこから大きくは外れないだろう。突出した個というのは単独で動く分には強いが、チームを組むとなると逆に厄介だ。上も下も同程度のレベルで組むのが一番成果が出る。それに、404小隊としてずっと私たちでやってきた、と416自身が言っていたから、この組み合わせが変わることもなかっただろう。つまり、416も最適化工程の予測で言えば30%前後で収まっていないとおかしい。

 対してM16A1は最適化工程が90%を超えている。他のAR小隊の3人もだ。紛うことなきグリフィンのエースとして、どこに出しても恥ずかしくない実力と実績を持っている。更にこいつらは俺の入れ知恵もあって、特に狭い範囲での少数戦での引き出しの数が尋常じゃなく多い。セオリーから型破りまで、あらゆる戦術を俺自身が叩き込んだやつらだ。

 

 どうしたものかとさり気なく目配せすれば、そこでかち合ったのはUMP45の双瞳。その笑顔は崩れないままだが、俺と視線が合った瞬間、小さく肩を竦ませていた。どうやらこいつもこれ以上止める気はないらしい。

 うーむ、まぁやらせろってことなんだろう。というかどちらにせよ、ここで止めるという選択肢は無い。止めるメリットの方が薄いからな、一度ぶつからせた方がいいだろう。その方が俺の話も聞いてくれそうだし。

 

 しぶしぶ、といった体で俺はキルハウスの使用許可を出す。使うのはペイント弾のみ、投擲武器や補助兵装は一切禁止、またお互いダミーの使用も禁止する。決着はお互いが望む形でつけてもらって構わないが、施設の使用時間は最大1時間。それ以上は通常業務に差し支えが出る可能性があるため不可。尚、責任者として俺は見学を行う。また、人形の中に希望者が居るならそいつらも見学して構わない。ただし当然だが、お互いへの加勢、アドバイスなどは一切禁止とする。

 以上が守れないなら、お互い頭を冷やすため営倉にぶち込ませてもらう。

 

「私はそれで構わないぜ」

「私もよ」

 

 ルールとしてはこんなところか。一応見学者を募ってみたが、手が挙がったのはAR小隊の3人、UMP45とナイン、それにスコーピオン。スコーピオンは確かにこういうお祭りごと好きそうだもんなあ。ここら辺性格が出るのかもしれない。あとG11は寝るな。起きろ。

 M1911とM14はすまないが、G11を空いてる宿舎に案内してやってくれ。起きないなら引っ張っても構わん、俺が許可する。

 

 さて、それじゃ話もまとまったことだしキルハウスに移動しますかね。しかし俺自身がキルハウスに赴くのは随分と久しぶりな気がするなぁ。この足じゃ行く必要全く無いからな。そういや416は勿論だが、M16A1の訓練での動きってのも随分と見ていない。どんな動きをしてくれるのかちょっと楽しみだ。

 

 

 

「んふふー、随分と罪作りなオジサマなのね、指揮官?」

 

 移動中さり気なく俺の隣を陣取り、そう呟くのはUMP45だった。

 何のことやら。俺はしがない元傭兵であり、現指揮官であり、中身は片足を失ったただのおじさんである。見目麗しい女の子たちに言い寄られるような魅力も何も持ち合わせていないんだがなあ。言葉には出さず、先程のお返しとばかりにポーカーフェイスのまま肩を竦めてみれば、返ってくるのは何かを含んだ微笑のみ。

 

 416やG11はまだ分からないが、どうやらUMP姉妹とはそこそこ上手くやれそうな気がする。少なくとも、退屈はしなさそうだ。でも刺激だけだと身が持たなさそうだから癒しも欲しい。

 

 そういえば俺の福利厚生ってどうなってんの? えっ? 無い? そんなぁ。




G11を抱き枕にして一緒にお布団で眠り続けたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 -イス取りゲーム-

本作のお気に入り登録者数が前作、戦術人形と軍人とを超えました。ありがとうございます。




んん? おかしくない??

一応単品でも読めるとは思うんですが、割と前作を読み込んでいないと細かい部分で理解出来ない話も多いと自分では感じているのですが、大丈夫なんでしょうか。いえ、読んで頂けることは素直に嬉しいのですが。


「クソ……ックソォ……ッ!! いったい、何が足りないというの……!」

 

 キルハウスでの一幕。時間にして経過したのは20分少々というところだろうか。何度も銃火を交えたM16A1とHK416だったが思いの外決着は早く、そこには無表情のまま微動だにしないM16と、膝を突き、その顔に忌々しい感情を存分に曝け出したHK416が居た。

 

 うーん、エグい。立場上俺はこの模擬戦を見届けざるを得なかったんだが、ぶっちゃけアレをやられたら俺でも心が折れると思う。ていうか現役時代の俺ですらあそこまでやったことはないし、多分やろうと思っても出来ない。極まった戦術人形ってのはこれ程までに恐ろしいものなんだな、というのをこんな場面で改めて痛感するとは思ってもいなかった。人形怖い。見てみろお前、お祭り騒ぎが好きなはずのスコーピオンですら顔面蒼白だぞ。いや、行われたことといえばお祭りなんて生易しいモンではなく、ただの一方的な虐殺だったんだけどさあ。

 

 俺の予想通り、模擬戦の結果自体はM16A1の完勝で終わった。これはまぁ、想像に難くない。最適化工程に相当な開きがあるという予測はその通りだったようで、はっきり言って416のレベルではM16に歯が立たなかった。それだけならまだ良かったんだが、問題はその内容にあった。

 

 20分少々という時間の中で、416は20回以上負けていた。

 つまり、平均すればワンゲーム1分未満で決着が付いてしまっている。通常なら有り得ない早さだ。キルハウスはそう広いスペースではないが、それでもお互いのスタート地点からはそれなりの距離がある。単純に走るだけなら1分あれば相手陣地に十分辿り着けるのだが、それは敵が居ない前提での話だ。相手がどこに居るのかも分からず、どういう戦術を取ってくるかも不明なまま、音を出しまくって真っ直ぐ走るなんて芸当は馬鹿か狂人くらいにしか出来ない。そんなクレイジーな立ち回りを全ラウンドで行いながらその全てで競り勝っている。信じられん。あいつ天井に目でもついてんじゃないのか。一方的な敗北をかれこれ20回以上繰り返されて尚壊れない416のメンタルも流石と言ったところだが、実のところ416の服装は全く汚れていない。その代わり、ペイント弾にまみれたシューティンググラスを20回程付け替えている。

 

 

 M16A1は全てのラウンドで、HK416をヘッドショット一発で沈めていた。

 

 

 いや、引くわ。ドン引きだよ。お洗濯物が増えなくてよかったねーってレベルじゃないよ。AR小隊の他の連中は静かなるドヤ顔を披露しているが、お前らそれ誇るところじゃないからな。子供相手にムキになった大人かよ。見てるこっちが恥ずかしいわ。対照的に、同じく観戦していたナインとUMP45は完全に無の表情である。そりゃアレを見て「ドンマイ!」なんて声を掛けられるような鋼のメンタルは誰も持ち合わせちゃいないだろう。心配するな、お前たちの反応が正しい。繰り返すが俺もドン引きしてる。416の動きも見たかったんだが、全然見せ場無かったし。

 

 と、とりあえずお互いの格付けは済んだ、と見ていいのだろうか。416が膝を突いたということはこれ以上継戦の意志はないと見ていいだろう。お通夜みたいな空気が漂いまくっているが、俺はこの場を預かった責任者として、何としてもこの誰も望んでいない殺戮ショーの幕を下ろさなければならない。それに、僅かではあるが収穫もあったしな。

 

「……いや、すまん指揮官。やりすぎた」

 

 ほんとだよ。キルハウスを後にし、こちらに戻ってきたM16A1の第一声がこれだ。流石に反省しているのか、その表情は圧倒的勝利を掴み取った勝者の顔ではなかった。だが、それでも416へは掛ける言葉が無かったのだろうな。416の精神をどん底に投げ落とした張本人であるM16がどんな声をかけたところで、彼女の電脳には1ミリも響かないことだろうし。

 

 まぁ、ここまでの惨状は予想出来なかったが、二人のキルハウスでの勝負を容認したのは他ならぬ俺だ。であるならば、その尻拭いは俺がせねばなるまいよ。うーむ、そうだな。416、返事はしなくていい、とりあえず今だけは俺の言うことを聞いて欲しい。ちょっとその場で目の前の壁に向かって何発か撃ってみてくれ。

 俺の言葉に従い、彼女は一言も発することもないままHK416を構え、撃つ。ダダン、ダダン、と、キルハウスにむなしい射撃音が鳴り響く。ふむ、やっぱりかぁ。えーっと、UMP45でいいや。ちょっと肩貸して。

 突然のご指名を受けたUMP45は一瞬びっくりしたような表情を見せながらも、素直に俺に従ってくれる。いやぁ、きっと彼女も色々思うところはあるんだろうが、諸々の感情は置いといてひとまず言うことを聞いてくれるってのはすげぇあり難い。お前いい隊長だと思うぞ。違ってたらごめんだけど。別に肩を借りるのならAR小隊の誰かでも良かったんだが、多分今の状況でAR小隊が416に接近するのは望ましくない。ここは同僚の方がなんぼかマシってもんだろう。

 

 俺はUMP45の肩を借りて車椅子を降り、ケンケン歩きをしながらキルハウス内の416へと近付いていく。距離が近付くにつれ416の魂の抜けたような、しかし怪訝そうな表情が見て取れる。何をするんだって顔してんなあ。まぁその疑問を持つ気持ちも分かるっちゃ分かるんだが。俺はそのまま416に先程と同様構えを取らせ、身体を密着させていく。足さえあれば俺が手本を見せてやれるんだが、生憎そうも行かないからな、直接矯正するのが一番手っ取り早い。むさいおじさんが密着してしまっていい気分じゃないだろうが、教育のためだ、少し我慢してもらおう。

 

「!? ちょっ何を……!?」

 

 無視無視。突如騒ぎ出す416を努めてシカトし、そのまま俺は416の射撃体勢の矯正、特に腰から下の下半身の角度と左腕の調整に入る。思ったとおり、こいつら俺が面倒を見ている人形と違ってろくな教練を受けていなかった。AI自体には銃のスペックが全て詰め込まれているが、義体の方はそうじゃないってのはAR小隊で学んだことだ。正解を教えられないまま実戦に放り込まれ、そこで生き抜くために我武者羅に扱った結果、我流が染み付いてしまったんだろう。特に自律人形であるこいつらは人間と違って義体の疲労という概念がない。多少無理な姿勢であっても、真っ直ぐ弾が飛べばそれが正解だと思い込んでしまう。なまじ義体のパワーがある分、反動や取り扱いを腕力でねじ伏せてしまうのだ。それでずっとやってきたんじゃ最適化工程も進まないはずだ。ほんとこいつらよく実戦で死ななかったな、脇が開いたまま銃構えてマトモに扱えるやつなんて人間じゃまず居ないだろう。あーあー、重心の置き方もメチャクチャだ。これじゃ単発ならいいが、少しバラ撒くとすぐにブレちまう。よし、とりあえずこれでもう一回撃ってみろ。

 

「……嘘、軽い……?」

 

 俺の姿勢矯正を受けた416は再度ダダン、ダダン、と壁撃ちを始める。先程とは明らかに2発目、3発目の着弾精度が違っていた。おー、流石AI。一度教えればすぐそのまま出来ちゃうのはやはり大いなる利点だな。あと多分だが、そのフォアグリップ後で取り替えた方がいいかもしれん。体格と腕の長さから言えばバーティカルよりアングル付けた方が合うんじゃないか。ま、そこは好みの範囲だけどな。よし、もう一回。

 

 ダダン、ダダン。

 

 うーん、下半身の重心を矯正した影響か、ちょっと上半身がブレて来たな。サイトを覗く時に首を持っていくんじゃない、肩と胸を寄せるんだ。銃は常に自身の中心に据えることを意識しろ。人間も自律人形も二足歩行のヒト型である以上、背骨と腰が軸になってるんだ。完全に真ん中に置くことは構造上不可能だが、非力な人間でも今のお前より上手く銃を扱えるヤツは沢山居る。力だけで御する考えは今ここで捨てて行け。よし、もう一回。

 

 ダダン、ダダン。

 

 おー、いい感じ。ほとんどブレが無くなったぞ。やっぱこいつら特殊部隊に放り込まれてるだけあって、素のスペックが高い。余計な情報が刷り込まれてしまった状態でこの吸収力ってのは素直にすごい。AR小隊の時は白紙の紙に正解を書いていくだけだったんだが、こいつらの場合は落書きを一度消してから上書きしなきゃならない。それでもあっという間に出来てしまうってんだから、電脳ってずるいよなぁ。

 

 とりあえずこれで俺の言うことを多少は聞いてくれるようになれば助かるんだが、どうだろうな。M16A1とのやり取りを見ていても、こいつプライドめちゃくちゃ高そうだからそう上手くは行かないかもしれない。

 

「……指揮官」

 

 幾度かの射撃を終えた416が、その表情を落ち着かせて俺に声を掛けてくる。お、なんかさっきよりも随分すっきりした顔してるな。

 

「私も……何時か、やつらを超えることが出来ますか」

 

 出来る。確信を持って言える。ほんの少し教えただけだが、416の吸収速度は相当早い部類だ。その速度たるや、AR小隊に勝るとも劣らない。というか、HK416もいい銃だしそれを十全に扱うためのお前なんだから、AR小隊と同等以上の力を身に付けてもらわないとこっちが困る。お前が望むなら今後の教育スケジュールを組んでもいいくらいだ。いや、それとも戦場で片足を失うようなお節介焼きの教練は余計かな?

 

「いえっ! ……先程は、申し訳ありませんでした」

 

 おう、素直な子は嫌いじゃないぞ。まあ今後ともよろしく頼む。

 いやあ、思ったより上手く行ったなあ。教官という立場ではなくなってしまったが、やっぱり素質のある子を育てるってのは何時になっても楽しいものだ。スコーピオンやM14なんかも決してデキが悪いわけじゃないんだが、やはりAI自体に差があるのか、ここまでではなかった。普段ほとんどやらない直接の指導なんかもしちゃったし、まぁこれは余りに不憫な416を放っておけなかったってのもあるんだが。

 

「指揮官ってすごい人だったんだねぇー! 私も! 私も教えてもらってもいい!?」

 

 しばらく俺の教導を眺めていたナインが、何時の間にやら目を輝かせてキルハウスに雪崩れ込んできていた。待て待て待て落ち着け。全員面倒を見てやりたいのは山々だが、指揮官としての通常業務もあるんだ。ちゃんと予定立ててからやらせてくれ。

 

「……ふふ、私もお願いしたいかなぁ。ね、いいでしょ? しきかぁん?」

 

 うわびっくりした。耳元でいきなりねっとりした声を出すんじゃない。焦るだろうが。俺の半身を預けているUMP45が必要以上にその顔を寄せて呟いてくる。こいつ、絶対楽しんでやってるな。いい隊長だとさっきは評価したが前言撤回。そんな悪い子の面倒まで見るほどおじちゃんお人好しじゃありません。

 

「指揮官!? 私の動きも見ていただろう、改めて私にも指導してくれるよな!?」

「指揮官、私もアタッチメントの相談に乗って頂きたく!」

「皆ずーるーいー! 私も私もー!!」

「あ、ちょ、あの、えっと、し、指揮官!?」

「いいなー、アタシももっと教えて欲しいなー」

 

 うるっさいわ! お前らこの前見たばっかりだろうが! あとAR-15は何なんだはっきりと言えはっきりと! ポンコツかお前は! ついでにスコーピオンもちゃっかり復活して一緒に突っ込んでくるんじゃない。

 ナインの突入を皮切りに、俄かにざわめき出すキルハウス内。しかし悲しいかな、ナインとUMP45、スコーピオンはともかくとして、AR小隊に関しては正直俺が教えられることはもう残っていない。俺の持つ技術と知識はほとんど全部叩き込んでしまったからな。俺の足が健在でコンディションが絶好調だったとしても、20回以上の遭遇戦を全てヘッドショットで勝つなど不可能だ。もう俺なんぞでは逆立ちしても勝てなくなっているくらいにあいつらは強い。

 というかそもそも、今から全員の面倒を見れるほど俺も毎日暇を持て余しているわけではない。今日は404小隊の3人が来るということで挨拶を最初に済ませようと予定を組んだがために、書類仕事がまだ一切進んでいないのだ。

 

 つー訳で模擬戦は終了! 半ば強引に宣言し、寄ってきた人形どもを散らしながらUMP45に車椅子まで運んでもらうことにする。何だかんだ2番手に手を挙げていたUMP45だが、しっかり俺の言うことを聞いて車椅子まで戻してくれるあたり、やはり先程のは面白がって乗っただけであってちゃんと状況が分かっている。今もどこかの宿舎で寝ているであろうG11を筆頭に癖が強い連中を纏めている分、こいつ自身の癖も強そうだが、基本はかなり頭が回るやつなんだろうな。所々でオイタをやらかしそうな雰囲気はあるが、恐らく許せる範囲だろう。

 

 さて、とりあえずはこのまま司令室に戻って通常業務に戻らないとな。404小隊の宿舎の都合も正式に付けなきゃならんし、装備品なんかのチェック、あとこいつらの最適化工程も正確に把握しておかなければならない。しばらくはバタバタした日々が続きそうだが、まぁこれは一時的なものだろう。というかそう願いたい。

 

 

 

「指揮官。さっきは無礼な物言いをしてしまって本当にごめんなさい。お詫び、というわけではありませんが、今日一日貴方の傍で働かせて頂きます」

 

 そう言いながら俺の傍に自然な動きで近付き、車椅子の手押しハンドルを握ったのは416だった。いやぁ、別に気にしなくてもいいぞ、多分俺だって同じ反応するだろうし。これから頑張ってくれればいいさ。あと済まないが、車椅子は自分で動かすからその手をどけてもらえるか。数少ない運動の機会なんだ。

 

「おい待て、お前まだこの支部のことを詳しく分かってないだろう。指揮官、誰かを404小隊の案内につけた方がいいんじゃないか?」

 

 早いよインターセプトがさぁ。俺の後ろに416が付いたと思った次の瞬間にはM16がその距離を縮めており、体よく416を剥がしながら俺の後ろをキープしようとしていた。いやだから車椅子は俺が動かすっつってんだろ。話を聞け。

 

「それでしたら、M16姉さんが仲直りも兼ねて案内してあげては?」

 

 ウワァーこいつ味方ごと斬り捨てにきやがったぞ。あとM4も俺の後ろを取るんじゃない。話を聞け。ていうかこの展開見覚えがある気がする。嫌な予感しかしない。

 

「私は折角だし指揮官に案内してもらいたいかなぁ。ね、いいでしょ?」

 

 UMP45貴様ーッ! 面白半分で話をごちゃ混ぜにするんじゃない! どこもよくねえよ! 仕事があるっつってんだろ! こいつマジで愉快犯だな、ある意味で一番油断ならないキャラなのかもしれん。あとSOPMODⅡは無言でにこにこしながら俺の膝に乗るのをやめろ。可愛いのは認めるが重い。

 

「ちょっとー? この支部じゃ一応アタシの方が先輩なんだけどー?」

 

 ワァーお前まで参戦するんじゃないスコーピオン! お前完全に流れに乗っかっただけだろ。もーどうすんだこれ。まぁいいや。いや良くないけど、最初みたいな険悪な空気が無くなっただけマシってもんだろう。とりあえず司令室まで戻ってから今後のスケジュールを組み立てるとするか。こいつらに構ってたら時間がいくらあっても足りない。

 

 

「あ、指揮官さま! こんなところに!」

 

 わちゃわちゃと騒がしい空間に、また一人追加で騒がしい人間が突っ込んできた。あー、そういえばカリーナにはキルハウスに行くこと言ってなかったな、しまった。多分俺を探していたんだろうなあ、悪いことをしてしまった。足早に近付いてくる彼女の手には、一枚の書類が抱えられている。うーむ、今日はそんな緊急性の高い書類は無かったと記憶しているんだが、何か突発の依頼なりが入ったんだろうか。

 

 

 

 

「この前は結局お決めになりませんでしたけど、副官の件、どうするんです? そろそろ本部に申請を通しておかないと」

 

 

 

 

 あっおい馬鹿やめろ。




誰にシヨウカナー?


※編集追記となってしまい恐縮ですが、12月9日から始めた前作より僅か三週間少々の期間、お付き合い頂きまして誠にありがとうございます。
2019年ものんべんだらりとこちらの作品を続けて行けたらと思いますので、どうか末永いお付き合いの程、よろしくお願い申し上げます。

それでは皆様、よいお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 -プロデュース404-

新年明けましておめでとうございます。
今年ものんべんだらりとよろしくお願い申し上げます。


「指揮官さま、要決裁の書類はこちらに。いつも通り輸送物資報告と在庫状況についてはこちらのファイルに纏めてありますわ」

 

 キルハウスでのごたごたから少しばかり時計の針を進めた時分。漸く通常業務に腰を落ち着けられた俺は、とりあえず午前中のルーチンに設定してあった書類整理から始めていた。かさかさと書類をめくる音、ペンを走らせる音のみが静かにその存在を主張することしばし。俺の隣のデスクで書類を纏めていたカリーナから声が掛かる。

 

 カリーナより先刻告げられた副官選択。結論から言えば、俺はその役目に教えてくれた本人を指名した。理由は幾つかあるが、まず大前提としてこの副官制度、指揮官の義務らしかった。着任してから多少の猶予期間はあるものの、いつまでも不在というのはグリフィンが定めた規則上どうやらダメらしい。なんだそのどうでもいい制度は。それよりもっと整えるところあるだろ。でまあ、今まで特に気にせず放置していたものだから、痺れを切らしたカリーナがいい加減迫ってきたということだ。

 副官制度のことを人形がほとんど揃っている場面で言ってしまったものだから、割と反響は大きかった。中には我先にと立候補してきたやつも居るが、悪いが今のところあいつらを副官として常に傍に置く予定はないんだよなあ。

 

 理由その一。そもそもあいつらは戦うための人形であって、俺のお手伝いが本業じゃない。より正確に言うならば、戦って勝利を齎すことこそがあいつらが俺に出来る一番のお手伝いである。別に戦術人形を副官に指名するデメリットがあるわけじゃないんだが、彼女たちは作戦指示が下ればそれに従わなければならない。戦闘が本分なのだから当然だ。そうなれば必然、司令室で俺の補助なんてしている場合じゃなくなる。書類仕事なんかを任せている途中に緊急任務なんて差し込まれてみろ、彼女たちはそれらを途中放棄して戦場に向かわなければならなくなる。その仕事を引き継ぐのは当然、俺だ。進捗を引継ぎして半端なところからバトンを貰うより、それなら俺が最初からやった方が早い。幸いながら、猫の手も借りたいような状況でもないしな。

 

 理由その二。彼女たち戦術人形は、書類仕事を知らない。AR小隊なんかは作戦報告書の書き方読み方まで俺が仕込んでいるから多少の例外ではあるが、それでも物資状況程度ならともかく、賃借対照表や損益計算書、CFなんかを読み解けるレベルには達していない。ていうか商品である彼女たちに経営状況まで見せてしまってもいいのかという別の問題もある。そんな彼女らに仕事を一から教えていたのでは余計に手間がかかるし、戦術人形のAIを余計なことに使いたくない。

 つーかめちゃくちゃ今更なんだがこの会社、株式であってるよな? 腐っても一応は民間企業なんだから決算書類くらいあって然るべきなんだが、その辺どうなってんだろう。支部の物資状況は分かるが、本部の経営状態までは流石に分からん。うーむ、まぁ大丈夫か。軍事企業なんだからこのご時世、お抱えの戦力を欲する団体なんていくらでもある。I.O.P社ともズブズブだろうし、そこら辺はクルーガーの手腕に期待しておこう。あいつなら早々ヘマはしないだろ。

 

 そんなわけで、誰かを指名しなきゃいけないということなら最早カリーナ以外の選択肢が残されていないというわけだ。俺としては今でさえ既に相当な負荷をかけている彼女に更なる負担を押し付けるのは些か申し訳なくもあったが、他に手がない。一応簡単な話し合いの末、カリーナには普段の仕事を優先してもらい、こうして職務時間中に手が空いた時に俺の仕事を少し手伝ってもらう程度というところに落ち着いた。詰まるところ今まで通りって感じだな。やっぱりこの制度本当に必要か考えてしまう。どう好意的に解釈しても必須にするほどの重要性は見当たらないんだが。

 

 

 さて、そんなどうでもいいことよりも、俺には今優先して取り掛からねばならんことがある。それは404小隊の教育訓練スケジュールの考案だ。それぞれ正確に最適化工程を調べてみたんだが、ナインが33%、UMP45が35%、G11が36%ときて、416が39%であった。416が一つ抜けているのは朝のキルハウスでの1件が影響しているんだろう。正しい射撃姿勢を少し教えただけなんだが、恐らく今まで電脳に刷り込まれていた体勢よりも効率がいいとAIが判断したんだろうな、一気に上がったっぽい。あれだけで効果が出るんだからやはりこいつらのAIは非常に優秀だ。下手したらマジでAR小隊を凌駕しかねない。

 訓練に関しては今日の午後から早速基本的なところから行おうと思う。とりあえずはじめに基礎の部分を叩きなおしてから、AR小隊の時と同様に様々なシチュエーション、バリエーションの射撃訓練だな。最初に実戦を経験している分、416もそうだったが変な癖が付いてそうだから先ずはそこを徹底的に矯正する。多分あいつらならそれだけでかなりマシになるはずだ。

 そこで恐らく俺の都合もあって数日は費やすだろうから、その後は座学で一通り戦略、戦術、技術の取り扱い方を学んでもらう。AR小隊の時は先にキルハウスの訓練に入ってしまったから、その教訓を活かして先に知識から叩き込む。作戦報告書はウチの支部が過去に行った作戦資料がそれこそ山のようにある。カリーナに感謝だなあ、俺一人じゃあの量は捌き切れなかった。

 

 後はあいつらの成長具合を見ながら臨機応変に進めていくか。というか俺も当時と違い教官って立場じゃないから、毎日付きっ切りで訓練出来るほどの時間は確保できそうにない。404小隊の面倒だけを見るわけにもいかないしな、もっと育ててやらないといけないやつも居るわけだし。

 

 おっと、そうこう考えているうちに無慈悲にも時間は過ぎ去ってしまうもので。カリーナも一旦業務を終わらせて昼メシにしよう。その後は404小隊の連中を呼んで訓練開始だな。いやぁ、スコーピオンやM14、M1911にもやったことだが、自身が教練の場に立つのは何度やっても楽しさがある。特に人形たちは皆基本が優秀だからな、楽しいったらありゃしない。うーん、これは本気で義足の発注も視野に入れるべきかな。一通り落ち着いたら本格的に検討しよう。

 そうそう、404小隊だが、彼女たちはうちの支部では第三部隊として扱うことにした。第一部隊がAR小隊、第二部隊がスコーピオンを隊長とした3人、第三部隊が彼女たちって感じだ。単純に上から順番に詰め込んだだけなんだが、今更変更するのも面倒くさいのでこのまま行くことにした。

 うーん、第一と第三は当面今のままで良いとして、第二の扱いをちょっと考えておかないとな。というのも、現状うちの支部の人形たちはガンタイプが些か偏ってしまっている。扱える銃が均一だと、自然と作戦も似たり寄ったりのものになってしまうので、戦術に幅を持たせにくい。将来的な話にはなってくるが、前に出るのが好きなスコーピオンを第一に異動させてバランスを取り、第二に新たなタイプの人形を配属して趣を変えるのもアリだと思っている。まぁその為にはスコーピオンの錬度を爆上げさせるのが大前提なんだが。それか、ちょっと無理してでもI.O.P社に何体かまとめて発注をかけるのもありかもしれん。どうせ教育はするんだし、一まとめの方がこっちも楽だ。人形も同期が居た方が何かとやりやすいだろうしな。この辺も後でカリーナと相談しとくか。

 

 考えることは山積みだが、そのどれもが前向きな課題なのでそこまで苦ではないってのがありがたいな。さて、ちゃちゃっとメシを済ませてあいつらの教育と洒落込むか。

 

 

 

 

 

「404小隊、UMP45以下4名、全員集合完了ですよ~」

 

 昼飯をカリーナとともに終わらせてから程なく。グリフィン支部に設けられた簡素な射撃訓練場に俺と404小隊の4人が揃っていた。G11は立ったまま寝るな。起きろ。先程までは起きるまで待つかどこかに引っ張って行けばよかったんだが、今から大事な大事な訓練である。そうは問屋が卸さないのだ。ということで、何回か呼びかけてもまともに目を開けなかったので、挨拶代わりに軽めではあるが平手でシバいておいた。こいつ背が低いから車椅子に座った状態でも手が届くのはありがたい。遠慮なくどつける。

 

「!? ……? ……!?」

 

 よう、目が覚めたかお寝坊さん。悪いが俺はお前の親でもないし兄でもない、今ここにあるのは確立された上下関係だけだからな、多少大目に見る場面もあるが締めるところは締めていくぞ。G11が俺のことをナメている、とまでは言わないが、素を出していいところとそうじゃないところはしっかり線引きさせておかなきゃならない。AR小隊をはじめこの支部では割と好き勝手させている連中も多いが、それはあいつらがちゃんとやる時はやるし、やることをやっているからだ。戦術人形としての義務を果たさないやつに与える慈悲はない。何か周りの3人も驚いているが、言っておくがこれでもかなり甘い方だからな。俺基準で言えば素手の時点でかなり有情である。しかも蹴りでもなくグーでもなく平手だ、これが甘くなくて何なのか。あ、そうか。こいつら俺の過去を知らないんだった。ついAR小隊の時と同じノリでやってしまったな、いかんいかん。

 

 ハイ反省終わり。さて、気を取り直して始めようか。

 挨拶もそこそこに、早速訓練に入る。俺の時間もカツカツなんでな、余計な時間は取られたくない。G11も先程の一発が効いたのか、第一印象とはかけ離れたきびきびとした動きだ。お前それが出来るなら最初からやれ。

 皆が所定の位置に付いたのを確認し、俺は号令を出す。それを合図として思い思いに皆自身の武器を手に、的撃ちを始める。お、416は結局グリップ替えたんだな。好みの範囲だっつったのに。

 

 まずナインとUMP45だ。こいつらは上半身のブレは然程でもないが、下半身の構えがメチャクチャだった。あとサイトを覗かない、いわゆる腰撃ちが染み付いているようだ。多分武器もそうだろうが、任務の都合上、常に動き回る前提で扱っていたんだろうな。そういえば416も同様の欠点を持っていたな、余程過酷な任務だったんだろうか。

 ということで、まずはナインの矯正から入る。その間UMP45には肩を貸してもらおう。416にやったのと同じように射撃体勢を取らせ、それを俺が矯正していく。腰撃ちや片手撃ちなんかも、当然シチュエーションによっては行うこともあるだろう。だが間違ってもそれが標準ではないってことをしっかり教えてやらねばならない。何度かナインに試し撃ちをしてもらい、しっくりきたところで今度は交代。ナインに肩を貸してもらってUMP45の矯正を同様に行っていく。うーむ、やはり416だけでなくこいつらも優秀だ。しっかり教えたことを過不足無く吸収していってくれる。

 

「しきかぁん、距離が近いよぉ? 変なこと考えなあだぁっ!?」

 

 うるせえ真面目にやれ。姿勢の矯正中、耳元でまーたおかしな声色で囁こうとしていたUMP45に脳天からチョップを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 ふーむ。そうかそうか。なるべく考えないようにしていたが、お前らもしかしなくても、オレをナメてるな? そりゃまぁ、傍から見れば片足を失った出来損ないの新人指揮官だ。客観的評価としてそこは認めよう。だが、如何にグリフィンの暗部を担う特殊部隊とはいえ、クルーガーの指示の下お前らはオレの指揮下に入ったわけだ。であれば、経歴や所属なんざ一切関係ない。指揮官とその配下にある戦術人形。この状況から導き出される事実は一つしかない。

 

 オレが上で、お前らが下だ。

 

 射撃訓練なんかよりも前に、そこをきっちりと教え込んどかなきゃいけなかったか。うーん、なんだかんだオレも鈍ってしまっているな、そこを見誤ってしまうとは。

 優秀であることは上下関係軽視の免罪符にはならない。ここは軍隊ではないが、軍事企業として指揮命令系統は十全に機能させておく必要がある。大体のことは大目に見ているが、訓練中と作戦行動中のおふざけは一切許すつもりはない。お前個人が死ぬならいいが、それが原因で周りが死ぬこともあるんだ。そもそも、オレの教育訓練を望んだのはこいつらだ。G11は知らないが。自らが希望した訓練に真面目に取り組まないなどフザけているにも程がある。

 

「え、えっと、指揮官? 顔が怖いんだけっだぁぃだぁっ!?」

 

 だーれが喋っていいっつったよ。前を見て撃て。今のお前に許される行為はそれだけだこのアンポンタンが。うーん、足がないって事実がこんなところで更に不便を感じさせる結果になるとは思わなかったな。蹴りが出せない。出来の悪い新兵を躾けるには軍人としての教育的指導(上下関係の刷り込み)が一番手っ取り早いのだが、今の状態では満足に力が出せない。困った。

 

「指揮官、私もご指導の程お願いします」

 

 UMP姉妹の矯正をしていたら、一心不乱に的当てを繰り返す416がその視線をターゲットに固定したまま声を投げ掛けてきた。うんうん、真面目に取り組んでくれて何よりだ。ただ、416に関しては今朝方の指導で通常姿勢での射撃に関してはかなり満点に近い状態になったから、今のまま続けてもほぼ無意味だな。よし、こいつには一足先に覗き込みや片手撃ちなんかのシチュエーションを想定した撃ち方を教えていくか。あまり時間も無いしサクサク行こう。ああ、ナインとUMP45はオレが教えた姿勢で反復射撃を少しの間繰り返しとけ。それだけで大分マシになる。

 

「さ、さーいえっさー!」

 

 俺の言葉にいち早く反応して元気よく応えたのはナインだった。うーむ、別にここは軍隊じゃないからそんな返事まで畏まらなくてもいいんだが、ちょっと刺激が強すぎたのかな。めちゃくちゃ甘めにやったつもりなんだけど。俺のことを敬ってくれたりちゃんと上官として見てもらう分には何も問題はないのだが、萎縮されると少し困る。訓練中にコロコロと態度を変えるのもおかしい話なので、今日の訓練が終わったら少し話もしてみるか。なんだかんだお互いのことをほとんど知らないままだしな、と言っても俺が語れるのは偽の経歴だけなんだが。

 

 

 よーし、そうと決まれば今日の訓練はビシバシやってしまおう。おじさん張り切っちゃうぞー。




筆者も忘れそうになるんですがこのおじさん、元々バッチバチの軍人でしたわ(震え


おじさんの一連の考え方や行動など、今後もこういった前作読破を前提とした情報は機会があれば積極的に組み込んでいきたいなと考えてます。

しかし、そろそろ何かイベントでも差し込んで物語自体を前に進めて行きたいなという欲と、だらだら日常を書き連ね続けたいという欲がせめぎ合っております。でももうちょっと人形の数も増やしたいところ。悩ましいですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 -推定迷子一名-

正月ダー、といっても、かれこれ15年くらい独り暮らしなんで別にやることないんですよねえ。
ということで更新しちゃう。

ちなみに前話なんですが、実は割と読者を振るい落としにかける勢いで書きました。理由はどうあれ戦術人形に手をあげるって中々ないでしょうし。
でもまぁなんか大丈夫っぽいのでこれからも好き勝手のんびり書いていきたいと思います。
よろしくお願いします。


 はー疲れた。久々にちょっとハッスルしてしまった気がする。足が無い以上動き回れるわけじゃないので、肉体的な疲労はそんなでもないんだが、一つ一つ腹から声を出してやっていたらまぁまぁ疲れるな。最近そういう場面も無かったから身体の衰えをひしひしと感じる。うーむ、寄る年波には勝てないということか。有機生命体な以上これはもう逃れられない運命なんだが、こういう時はちょっとだけ人形たちが羨ましくも感じる。人間であれば切断不可避な重傷も施設と人員と物資さえあれば元通りに出来るんだもんな。人形すごい。

 

 午後の射撃訓練は俺が張り切っちゃったせいか、あいつらの基準で言えば随分とハードなものになってしまったと思う。多分、今までは誰かの指示で作戦行動に入るってことはあったんだろうが、こうやって明確に上司部下の関係のもとで訓練を行うって経験はなかったんだろうな。416もずっと私たちだけでやってきたと言っていたから、彼女たちが置かれていた凄惨な環境は推して知るべしだ。良くも悪くも自己流というか、そういうものが染み付いてしまっているように感じた。

 ただ、訓練の甲斐あってか彼女たちの悪癖はあの時間でかなり矯正出来たはずである。ちなみにトータルの出来栄えで言えばやはり416が一番伸びていた気がするな。あいつはプライドこそ高いが根が真面目だ。変な対抗意識というか、潔癖の節があるのが玉に瑕だが、まぁそこまではとやかく言うまい。如何に彼女たちが人形であろうと、製造されてから今まで培われてきた感性や環境もあるだろう。それら全てを否定出来るほど俺は偉くないしな。

 

 

「指揮官……お片付けと、全員ごはん……終わったよー……ふぁ」

 

 先程の訓練を思い返しながら一日の業務のとりまとめをしていたら、正面ゲートを潜ってG11が司令室に姿を現した。おお、何だかんだこいつが自発的に動いてるところを初めて見た気がする。404小隊には訓練を終えて一段落ついたらちょっと話をする時間が欲しいと伝えていたんだが、伝書鳩にG11が来るとは予想外だった。めちゃくちゃ眠そうだが、頑張ってその役目を全うしてくれたやつはちゃんと褒めてあげないとな。ありがとな、とその頭をくしゃくしゃとしてやれば「えへへ」と眠たそうな嬉しそうな、そんな声。うーん、何かSOPMODⅡとはまた違った癒し成分を持っているなこいつ。職務時間中の居眠りさえなければ非常に貴重な存在かもしれん。めっちゃほっぺ柔らかいし。

 

 さて、それじゃあ行くとしますかね。AR小隊の時と違って、知り合って間もないおじさんが彼女たちの宿舎にこちらからお邪魔するのはいくらなんでもよろしくないだろうから、支部の食堂でも借りてお話するか。未だに掴めないのだが、人形とは言え年頃の女の子たちってどういう距離感が適切なんだろうな。独り身のおじさんには難題過ぎて困る。まぁなるようなるか、今までもそうだったんだから。

 

 

 

「やー指揮官! 今日はありがとね! 何か強くなった気がするぞぉ!」

 

 開口一番、ナインの元気な声が響き渡る。パッと見は今朝と変わらない様子で一安心ってところだな。下手にビビられたらどうしようかと思っていたが、そんな軟なメンタルではなかったようだ。いとありがたし。

 

「こんばんは、指揮官。貴方に叩かれたところ、まだ調子が悪いんだけど。これはセキニンを取ってもらわないとだめかもしれないなぁ?」

 

 うっわこいつ懲りてねえ。しかし一方で、これがUMP45のいつも通りなんだろうなと予測がついた。きっと今まで、誰が相手でもこうやって距離を近付けておきながらも自分で一線を引いてきたんだろうな。その過去に何があったかまで聞くつもりはないが、まぁこれが自身で選んだスタイルなら俺は何も言わない。大目に見るところは大目に見て、締めるところは締める。それだけだ。

 

「指揮官、今日はありがとう御座いました。また一歩、やつらに近付けたと感じます」

 

 うーん、真面目。そこが416の美点でもあるんだが、もう少し肩の力を抜いてもいい気はする。いくら人形だとは言え、常に100%フルパワーでは身が持たないと思うんだが。

 

「ふぁ……指揮官、もう寝てもいい?」

 

 お前はもうちょっと真面目にやれ。

 

 そんなこんなで、食堂に場所を移すつもりが何故かそのまま宿舎でお話をすることになってしまった。何か距離感近くない? 俺とお前ら今日が初対面のはずなんだけどな? おじさん困惑。

 

 トークのお題目は特に準備していない。この支部にきてどうだとか、まだまだ新設の支部だからお前たちを頼る場面も多いからよろしく頼むとか、訓練に何か希望はあるかとか、別段用意するまでもない、取り留めの無い話を少しばかりやるだけだ。こういうのは下手に仲良くなろうだとかお互いを知ろうだとか気構えちゃいけないのだ。まずは「俺たちは普通に話をしていいんだ」という共通認識を植えていくことが大事である。信頼関係の第一歩は会話からだ。そこで欲張っちゃいけない。話をする土台が出来上がれば、後は勝手に喋りたいことを喋ってくれるし、言いたくないことは言わないだろう。一方的な甘受も拒絶も違う、選択の余地を常に残すことが余裕を生み、余裕は安心を生み、安心は信頼を作り出す。一朝一夕で仲良くなろうなんて土台無理な話だしな、まずは一方的な嫌悪とかネガティブな感情がなくなってくれるだけで問題はない。

 とは考えていたものの、こいつらの反応を見る限りそれも余計な心配だったかな、と思う。いい意味でこいつらは今朝の印象と変わりが無い。普段通りというやつだ。曲がりなりにも特殊部隊として動いてきたんだから、そんな少々の刺激でおいそれと変わってしまうものでもなかったらしい。うーん、今回は俺がこいつらをナメていたようだ。反省。

 

 そうやって幾つか話題の種を提供しながら会話をしていると、いよいよG11が限界なのか、うつらうつらと舟をこぎ始めた。今は訓練中でもないし俺が言い出したことに時間を割いてもらっている状況だ、無理強いは出来ない。ちと早いが切り上げにかかるかな。俺は他の3人にすまんな、と視線を配らせた後、G11の正面に座る。車椅子は入り口に置いてあるからハイハイみたいな動きになってしまった。ちょっと恥ずかしいなこれ。

 

 おーいG11、起きてるかー。今日はほっぺ叩いちゃってすまんな。痛かったか?

 

「んぅ……起きてるよう……大丈夫……」

 

 そっかそっか。G11は寝るのが一番好きなのか?

 

「うん……ずっと寝てたい……」

 

 なるほどなあ。ふむ、ところでG11よ。一日って何時間あるんだっけ?

 

「えぇー……そんなの24時間でしょ? どうしたの……?」

 

 そうだよな、一日は24時間だ。で、お前の希望としてはだ。出来ることなら24時間中、ご飯の時間を除いては惰眠を貪りたい。そうだな?

 

「そだねぇ……それが一番理想かなぁ……」

 

 分かる、分かるぞーその気持ち。でも悲しいかな、俺は前線指揮官で、お前は戦術人形なわけだ。それが理想なのは痛いほど分かるが、残念ながらその理想を体現できるような現実じゃあない。そこは理解しているな?

 

「…………うん」

 

 よしよし。じゃあここで問題なんだが、6時間かかる任務があったとする。普通にやればその時間で終わるわけだから、お前は残りの18時間ごろごろ出来るわけだ。だが、お前が作戦中にダラダラしてしまったせいで、6時間で済む作戦に10時間かかってしまった。ごろごろ出来る時間が残り14時間しかない。さあ困ったぞ。

 

「えぇ……それはやだなあ……寝る時間が少なくなるのは、困る……」

 

 だがしかしだ。本来なら6時間かかる任務だが、お前がちょっと頑張ったことで4時間で状況が終了したとしよう。今帰れば、残り20時間はごろごろ出来る。さて、作戦中ダラダラして得られる14時間と、少しの努力で得られる20時間。どっちがいい? どっちも嫌だは無しだぞー。

 

「うう……どっちもやだけど、寝る時間が増える方がまだいい……」

 

 だよな。勿論俺だって、416みたいに常に頑張って気を張ってろとは言わない。ただ、頑張るポイントだけ頑張ってくれれば、後はいつもより余計にごろごろしてもいいんだ。だからこれからも、頑張らなきゃいけないところだけグッと頑張って、終わったらだらーっとしよう。な?

 

「うん……分かった……じゃあ今日はもうだらーっとしていい?」

 

 勿論いいぞ。悪いな、付き合わせて。おやすみ。

 

「ん。おやすみー……」

 

 

 俺との会話を終えるや否や、そそくさと宿舎のベッドに潜り込むG11。彼女は瞬く間にその意識を沈め、すぅすぅと静かな寝息を立て始めていた。

 ふー。とりあえずこんなところか。何か女の子相手というよりは子供だましみたいな論調になってしまったが、これでなんぼかマシになってくれることを祈るしかない。ま、ならなかったらならなかったで遠慮なくシバくんだけど。

 

「おー、すごいね指揮官! 年の功ってやつ!? お子さんでもいたの?」

 

 やかましいわ、独身じゃばかたれ。あと年の功言うな、経験によって培われた話術と言え。あ、それが年の功か。

 

「指揮官、私を引き合いに出さないで頂けますか」

 

 うお、すまんすまん。ただ身近なヤツの方があいつにも伝わりやすいかなぁと思ってな。あとついでってわけじゃないが、お前も真面目なのは良いところだが、少しくらい肩の力を抜くことも覚えた方がいいぞ。訓練をサボれとかそういう話じゃなくてな、オンとオフのスイッチを自分の中でしっかりと持っておけ。能力が同じなら、当然訓練を真面目に沢山積んだやつの方が強くなるが、何もしていない時に眉間に皺を寄せたってお前のレベルは上がらないんだからな。

 

「はぁ……努力は、してみます」

 

 休む努力とは一体。うーん、こいつはこいつで重症かもしれない。G11と違って絶対に矯正しなきゃいけないことでもないんだが、偽りだろうが折角持って生まれた自我なんだ、人並み程度には大切にして欲しいっていうのはこれもお節介なんだろうか。

 

「ふふ、話をすればするほど面白い指揮官よねぇ。昔は何をしてたの?」

 

 しがない傭兵でーす。UMP45も相変わらずだなあこいつ。俺の返答を受け取った彼女はふぅん、と一応は納得したような顔を見せたものの、目が笑ってない。んー、流石にばれてはいないだろうが、俺が何か隠してることくらいは勘付いてそうだな。まぁ、それくらい頭が回るやつの方が一周回って扱いやすいというものだ。

 

 

 

 

 

『指揮官、聞こえるか』

 

 ふと、耳元に取り付けてある受信装置が震えた。口調から声の主は恐らくM16A1。こいつは司令室にある通信用デッキと違い、個人間で通信が可能な携帯端末だ。バッテリーが勿体無いから緊急時以外は使うなと言い含めて、AR小隊にのみ渡してある代物である。

 AR小隊は今、いつも通り基地周辺の警戒に当たっている。この周辺地域一帯は既にクリアとなって久しいため、早々脅威となるものは居ないはずなんだが、この通信が入るということは何か異常事態でも起きたか。404小隊との話も丁度終わるタイミングだったので、そのまま起きている3人に緊急の通信が入った旨を伝えて車椅子へと戻る。何も言わずともUMP45が肩を貸してくれる辺り、非常にあり難い。既に寝ているG11はさておいて、3人とも先程の団欒などまるで無かったかのような顔付きに瞬く間に変わっている。やっぱこいつら優秀だわ、特殊部隊ってのも伊達じゃないな。

 

 よっこいしょ、こちら指揮官ですよっと。感度良好、ヨーソローってか。車椅子へと戻り、その向きを司令室に変えながら通信に応じる。あ、404小隊は一応そのまま第二種待機な。もしかしたら出てもらうかもしれん。さて、一体何が起きたのやら。とりあえず報告を聞こう。

 

 

『支部から方位20、距離80、倒れている人影が見える。人間か人形かまでは分からない。周囲には脅威無しと判断するが、指揮官、指示を』

 

 

 

 ウワァー厄介ごとの予感しかしねえぞ。しかし発見しちまった以上放置プレイはダメですよね。ことと場合によっちゃクルーガーに直電だなあ。とりあえずM16に比較的近い位置で配置しているはずのM4を合流させる。SOPMODⅡとAR-15は念のため周辺警戒を継続。俺が出るわけにはいかないから、夜目が利くM1911を擁する第二部隊に回収に出てもらおう。支部とポイントの距離が近いから早々事故は起こらないと思うが、警戒するに越したことは無い。スクランブルってわけでもなさそうだし、404小隊はそのまま待機な。

 

 

 さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。出来れば女神だとありがたいんだがな。




女神だったらいいなぁ。具体的にはネゲヴとかKar98kとか(持ってない

G11は可愛いですね。愛でたい。
さて、ちょっと活動報告の方で簡単なアンケみたいなものでも取ってみたいと思います。
別に面倒だったり興味がなければスルーしてもらって全然構いません。
あと、アンケート通りになるとも限りません。暇潰しの一つとでも思って頂ければ、程度です。

それでは、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 -二度あることは三度ある-

何がって?
厄介事だよ。

活動報告の方では多数のご意見を頂き、ありがとうございました。
結果、こうなりました。


「…………うっ……」

 

 お、目が覚めそうかな? 支部備え付けの医務室に寝かせた拾い物が、ほろ苦い顔で眉を顰めてモゾリと動いた。今ここには、指揮官である俺と情報管理のためカリーナ、万が一の護衛として発見者でもあるM16A1が同席している。可能性は極めて低いだろうが、目が覚めるなり襲ってくることも考えられる。行き倒れの寝起き野郎なぞ返り討ちにしてくれるわ、と言いたいところだがこの足じゃあなあ。AR小隊の連中は銃の扱いは勿論、近接格闘術も俺がきっちり教え込んでいるから、近接戦闘においてもハンデを負っている俺より多分強い。護衛としちゃ適任だな。ちなみに他のAR小隊の面々は一旦下がらせ、周辺警戒にはイージーな回収任務を終えた第二部隊をそのまま充てている。頼むから今日はこれ以上面倒事を持ち込まないで欲しい。

 

 M16A1が発見した拾い物はどうやらI.O.P社製の戦術人形のようだった。見目麗しい女性であったこと、狙撃銃と馬鹿でかいボックスを携えていたこと、そしてI.O.P社製品であることを示すコードがあることから、民間人である可能性は極めて低い。身体中のいたるところに細かい傷が付いていたから、恐らく相当な強行軍で移動してきたのだろう。ただ、致命的とも言えるダメージはどこにも負っていなかったことから、昏睡状態に陥っているのは単純なエネルギーの枯渇と思われる。しかし、何があってこんな事態に陥ったのか。戦術人形である以上、所属無しのフリーというのは考えにくい。I.O.P社製であるなら尚更だ。普通に推測すれば、何かが起きてそれから逃げてきた、と考えるのが妥当だ。その詳細まではこいつに聞かなきゃ分からんが、まぁそれももうすぐ解決するだろう。

 

「……んん…………ここは……?」

 

 っと、色々と考えていたらどうやらお目覚めのようだ。医務室の電灯が眩しいのか、自分が置かれている状況に理解が追いついていないのか、薄っすらと目を開けたまま呆けているご様子。お目覚めの気分は如何かな? とりあえず声を掛けてみよう。耳が聞こえなくなってる可能性も有り得るしな。実際俺がなったことあるし。

 

「あ、ああ……ふぅ、貴方が私のラッキーマンなのかな?」

 

 ふむ、耳は聞こえているようだな。声はまだ弱弱しいが意識は明瞭、開口一番軽口を叩ける度量も十分、いいね、中々俺好みだ。まずは簡単に自己紹介と現状を説明しておこう。俺はこの支部を預かっている前線指揮官、タクティス・コピーだ。こいつは後方幕僚のカリーナ、横に居るのが戦術人形、M16A1だ。うちの支部の前でお前さんが倒れているのをこいつが発見してな、ひとまず医務室に運ばせてもらった。ここまで何か質問は?

 

「いや、ない。大丈夫だ」

 

 オーケー、理解の早いやつは好きだぞ。さて、起きぬけのところ悪いが、今度はこちらから質問させてもらう。質問は二つ。まずお前さんは何処の誰なのか。そしてお前の身に何があったのか、だ。答えられるか?

 

「ああ。私はグリフィンS02地区所属の戦術人形、ドラグノフ狙撃銃だ。作戦行動中、鉄血人形の群れに奇襲を受けてな、指揮系統が混乱したまま部隊は散り散りに撤退していたのだが……無線も壊れ、現在位置も分からぬまま歩き続けていたらここに辿り着いたらしい。グリフィンの建物を目にして緊張が解けたのだろうな、一気にスリープモードに入ってしまった」

 

 

 オイオイオイマジかよ。一大事じゃん。うーん、となるとこいつは単独で動いていたわけじゃなさそうだ。部隊の他の人形たちがどうなったかは分からんが、まぁあまり期待しない方がいいだろうな。しかしS02地区っつったら俺も名前でしか知らないが、ここからだと結構遠いぞ。気軽に歩いて行き来できる距離じゃないような。道中よく死ななかったなこいつ。

 ただまぁ、ここでこいつの言うことを全部信じちゃうのはタダの馬鹿がやることである。一応それが真実である前提では動くが、ことの裏付けを取らないことには何ともし難い。ということでカリーナ、クルーガーかヘリアントスに繋いで今の情報の整合性を取ってくれ。S02地区と連絡が取れれば一番早いんだが、俺連絡先知らないし。

 

 俺の指示を受けたカリーナは足早に医務室を後にする。日も沈んだ後だが、まぁどっちかは捕まるだろう。情報が確定するまではこいつを野放しに出来ないし、しばらく俺とのトークにでも付き合ってもらうか。情報が正しければこいつをS02地区に戻せば解決だし、そうじゃなければ楽しい楽しい尋問のお時間である。俺の身なんざどうでもいいが、俺の下にいる連中が無為に混乱の最中へ放り込まれるのは御免被る。

 そういえばちょっと気になったんだが、ドラグノフの最適化工程はどれくらい進んでるんだろうな。支部外秘項目なら無理に喋らせるつもりはないが、こいつの凡その力が分かれば敵の脅威度の目安も立てやすい。S02地区は近くはないためすぐにこっちまで影響が出るとは考えにくいが、立てられる対策は立てておきたいしな。とは言え、仮にAR小隊であれば鉄血の木偶どもに奇襲を受けたとて何事も無く返り討ちに出来るだろう。そもそも奇襲を受けるような杜撰な情報しかないエリアに突っ込ませるなんて馬鹿な真似はしないのだが。

 

 

「最適化工程……? 初めて聞いたな、それはどういうものなんだ?」

 

 は? いやいやいやいやいや、え? んんんんんん? ちょっとこれどういうこと? 思わずM16A1の方を振り返ってしまった俺は悪くないと思う。俺の視線を受けたM16も、マジかよ、みたいな顔をしている。ですよねー。君たちの最重要項目じゃないの最適化工程って。それを知らないってどういうこっちゃ。

 いや、うん、よし、オッケイ、切り替えよう。ちょっと意味が分からないが、ドラグノフが知らないのならこれはもう聞いても仕方が無い。ということで聞き方を変えてみよう、多分こっちの方が伝わると思う。ダミーは何体操れるんだ?

 

「ダミーか。1体なら動かせるが……それと先程のことが関係しているのか?」

 

 よし、何とか情報の取得に成功した。逆算すると、こいつの最適化工程は10%以上30%未満だ。はっきり言ってヒヨっ子に毛が生えた程度でしかない。実力で言えばスコーピオンたちと同程度だろう。んで、ここからは推測でしかないが、恐らくこいつと部隊を組んでいた連中も似たり寄ったりだな。そうじゃなければもっとマシな結果になっていたはずだ。これではもう他の部隊員の生存は絶望的としか言えない。ただただドラグノフの運がめちゃくちゃ良かっただけだ。しっかしよくそんな錬度で鉄血の奇襲を受けるようなエリアに突撃したもんだな。S02地区ってのはそこまでヤバいのだろうか。

 とりあえずまだ時間はあるようだし、最適化工程の簡単な意味でも説明しておくか。本来は人形自身が知っておかなきゃならんことのはずなんだが、何でこいつ知らないんだ。まだ少し喋っただけの印象でしかないが、そこまで頭足らずではないはずだ。

 

「ふむ、そういうものがあったのか。私の指揮官はそんな説明一切してくれなかったからな。今回の作戦も、鉄血人形が確認されたエリアを掃討してこい、としか言われなかったからな」

 

 はーーーーー、つっかえ。え、何? グリフィンの指揮官ってそんな無能しか居ないわけ? もーおじさんキレそう。プッツンしそうだよ。確かに戦術人形は商品だ。間違っても人間と同等じゃあない。そこに余計な情は要らないし、使い捨てる場面もあるだろう。ある側面から見て、その認識は正しい。

 だが、それはあくまでその商品の価値を十分に理解し、そして十全に機能させることが出来た上で初めて成り立つ理屈だ。人間の兵士で例えれば、支給された銃をマガジン分撃ち尽くしたら本体を投げ捨てて次の銃に手をつけるのと同じだ。そんな馬鹿な話があってたまるか。

 

「まぁ、私とて不安はあったさ。ただ私たち戦術人形は、与えられた指令に背くことは出来ない。そうプログラムされているからね。生き残れたことをラッキーだと感じるくらいしか今の私には出来ないのさ」

 

 鼻で笑いながら、少しばかり寂しそうなドラグノフの言葉が響く。

 ドラグノフの言う通り、戦術人形に搭載されているAIは、指揮官をはじめとしたあらかじめ登録されている上位者の命令に逆らうことが出来ない。商品に謀反なぞ起こされようものなら商売上がったりなので、それは当然の処置とも言える。意見や忠言は出来るが、一度命令されてしまえば拒否は出来ないのだ。それは理解しているが、だからといって好き勝手していいとは俺は思えない。S02地区を治める指揮官がどんなやつかなんぞ知らないが、会う機会があれば全力でぶん殴ってやりたい気分だ。戦場を預かる身としての教養ってもんが余りにも足りていない。そんなヤツを採用するグリフィンもグリフィンだけどさあ。ほんとどうなってんだよこの会社。

 

 んん? あれ? じゃあAR小隊の連中は何で昔、作戦命令に背けて……

 

「指揮官さま!!」

 

 思考の海に沈みかけた時、騒がしい音と声が医務室に飛び込んできた。うおカリーナか、びっくりした。どうしたそんな血相変えて。あ、分かってるおじさん分かってるから。どうせ面倒ごとなんだろ。今からS02地区までドラグノフを護送しろとかそんな感じだろどうせ。というかついでに周辺の掃討もやってこいくらい言い出しかねない。あのヒゲはそういうやつだ。

 

 

 

 

 

 

「S02地区を管轄していた支部が鉄血の奇襲を受け、壊滅、とのことです……。ドラグノフ狙撃銃はこのまま本支部預かりに……今のところ、生存者は、発見出来ていない、と……」

 

 

 ウッソだろお前。




ウッソだろお前(2回目


ちなみに、ご意見を頂く前に決まっていた内容は以下の通りです。
・☆5以外
・RF、SMG、HGのいずれか。
ちょっと悩んだ候補も居ますが、それはまた機会があればということで。



そういえば、ゲーム内では特に描写されておりませんが、グリフィンの数ある支部の中には鉄血に押し負けて潰れたところもあると思うんですよね。人形が悪かったのか、指揮官が悪かったのか、その理由までは分かりませんけれど。
で、そこを優秀な支部から人員を割いて奪還して、みたいなこともやってるんじゃないかなぁと。

ちなみに、クソオブクソ無能な指揮官が居る可能性、筆者は普通にあると思ってます。
G&Kも数あるうちの一つの会社である以上、コネやら付き合いやら表に出せない事情ってのは山ほど抱えてると思うんですよね。
更に前線指揮官っていうのは、衣食住を保証され自身は戦場に直接赴くこともない、このご時世で言えば中々垂涎ものの職業です。ついでに周りは美女だらけ。まぁ色々と裏で動く事柄もあるんだろうなーと。


あと、そろそろじわじわと世界観を広げて行きたいなと考えてます、ネタが上手く繋がればですけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 -正規軍第一連隊隷下対E.L.I.D対テロ特殊作戦群第一即応部隊長-

聞いてください。

8話の最後でおじさんが女神だったらいいなぁって言ってたじゃないですか。

あの後製造回したらKar98kが出ました(マジ

ありがとうおじさん。フォーエバーおじさん。



ちなみに筆者はミリタリ関連の知識はほとんどないです。俺には小説と言うものが分からない。フィーリングで書いている。


 うーむ、言うほど火急の事態ではないとは言え、あまりのんびりは出来なくなったか。参ったねこりゃ、まだまだヒヨっ子たちの育成も終わってないんだが、致し方なし。時間は止め処なく進むし、何より有限だ。

 S02地区壊滅の報を受けて、とりあえずは動き出すべきなのだが、はっきり言ってまだまだ慌てる段階ではない。人間が徒歩でかつ無理のない範囲で移動するなら2,3日はかかる距離だが、疲労を無視出来る人形なら丸1日歩けば到達してくる距離だろう。普通であれば悠長に構えていられる状況ではない。だがしかし、ドラグノフやカリーナの報告にはどうしても気になる点がある。

 

 それは、彼女たちの部隊や支部が()()()()()()()()()()()

 

 勿論、S02地区の指揮官がキングオブ無能で周辺警戒を全く行っていなかった可能性は残る。だが、大体無能なクズってのは身の安全や保身に対してだけは非常に目ざとい。生きる価値なんぞ無いのにな。外に出す部隊に対しては使い捨ての感覚であろうと、自らの身、そして地位を守るための部隊や策はそれなりに取っていたはずである。おめでたい頭ではろくな策も出てはこないだろうが、どれだけ低く見積もっても基地周辺の警戒くらいはさせていたはずだ。てめえの身を守る策すら取らずに呆けているだけのお飾りであれば、逆にもっと早く死んでいる。ましてや、如何に錬度が低いとは言え戦術人形ならもうちょっと考えて動ける。いくら情報がない状態で作戦エリアに放り込まれようとも、ピクニック気分で地雷原を闊歩する阿呆は何処にもいない。曲がりなりにも警戒しながら進んでいたはずだ。

 鉄血の量産型人形には、考える頭がない。ただ機械的に人間や敵性人形を探し、発見し、殺すだけだ。こそこそ隠れたりしないし、連携を取ったりもしない。数だけは多いから、物量任せに真っ直ぐ進んでくるだけである。だからこそAR小隊以外のヒヨっ子どもでも、策を講じれば互角以上に十分渡り合えていた。

 

 そんな鉄屑どもが、あろうことか、奇襲。正直考えられないことだ。だが、ここで思考停止するほど俺は馬鹿に成り下がったつもりはない。相手が新しく動きを見せたなら、こっちもそれ相応に動くだけである。

 

 まずはM16A1にAR小隊を至急叩き起こしてもらう。思いの外ハードスケジュールになってしまったがちょっと今日だけは勘弁して欲しい。同時に第二部隊は撤収だな、補給と休息を与えていつでも動けるようにしておく。錬度が低い第二部隊にはあまり前に出て欲しくないが、それでも最低限の頭数は揃えておかなきゃならない。いやぁ、駒が足りないってつらいな。正規軍の時は錬度はともかくこっちも数は居たからもうちょっと楽だったしな。

 そういえばドラグノフはうち預かりになったってことは俺が指揮命令権を持ってるってことでいいんだよな。動けるか?

 

「ああ、損傷はほとんどないから大丈夫だ。ただ、すまないが配給と弾薬を少々頂きたい。現状ではまともに動けん」

 

 オーケーオーケーお安い御用だ。直ぐに第二部隊が帰投するから、配給と弾薬はスコーピオンに融通してもらってくれ。そんでそのまま第二部隊のスナイパーとして入ってもらうぞ。第二部隊にはスコーピオンに加えてガバメントとマークスマンライフルが居る。今の段階ではろくな紹介も指示も出来なくてすまないが、まぁ上手くやってくれ。

 

 

「指揮官! AR小隊M4A1以下4名、揃いました!」

 

 お、早いな。ドラグノフの方から視線を外せば、そこには俺の自慢の戦術人形が4人。M16A1から最低限の情報共有は終わっているのだろう、皆引き締まった表情をしている。油断はないが、過度な緊張もしていない。いいね、流石だ。

 人数が増えたことで少々手狭になってしまった医務室で、俺はひとまずの指示を飛ばす。本当は司令室でカッコよく行きたいところだが、まぁそんな我侭も言ってられないか。別に格好つける歳でもないし。

 AR小隊には先程と同様、基地周辺の警戒に当たってもらう。ただいつもと違うのは、鉄血人形を見つけた時のフローだ。今まで通り、馬鹿みたいに真っ直ぐ進んでくるようなら見つけ次第ぶっ倒していい。が、こちらの様子を伺っていたり、立ち止まったり、退くようなことがあれば見逃して欲しい旨を伝える。あと、あくまで推測でしかないが、今日中に鉄血人形を発見する可能性は恐らく低いはず、ということもあわせて言い含める。逆に今日その全貌を覗かせるようならば相手はかなり切れるやつだ、そん時は尻尾巻いて逃げるしかない。ついでに大盤振る舞いだ、バッテリーを食うが基地のレーダーも起動しよう。これで全周をカバー出来る。

 

「えっと……見逃すんですか?」

 

 そゆこと。てっきりいつも通りサーチアンドデストロイを命じられると思っていたのだろう、M4A1が先程の顔付きから一転、不思議そうに首を傾げていた。仕方がないなぁ、ちょっとばかしおいちゃんが解説してあげよう。

 

 今回の事態において、確定事項は一つ。そして、確認したいことも一つ。

 まず一つ、鉄血側にオツムの働くやつが現れた。

 もう一つは、そのオツムの出来がどの程度なのか、だ。

 

 今日これからの相手の出方から、概ね3パターンくらいに分けて考えることが出来る。

 

 前提としてほぼ確定的なのは、敵はS02地区にそのまま留まっているだろうことだ。普通に考えれば、折角占拠した敵の拠点を野放しにしておうちに帰る馬鹿は居ない。鉄血製の人形であれば寝床も食糧も必要ないからな、わざわざ帰投する意味がない。敵陣に更に食い込む橋頭堡として確保するのがセオリーだ。逆にそれをしないということであれば、S02地区の指揮官がガチの無能で、ただ物量に押されて負けただけの可能性が高い。そうであれば掃除する鉄屑の量がちょっと増えるだけだ、恐れるに足らん。

 

 敵が留まっていることを前提として、そこから考えられるのは3パターン。第一の分岐として、来るか、来ないか。そして来るのであれば、偵察か、強襲かだ。

 来ないのであれば敵の指揮官は「下」である。それか、現場の指揮官よりも更に上からの指示待ち状態にあるかのどちらかだ。つまり鉄血側の現場指揮官には、配下の量産型に纏めて指示を出す程度の力はあるが、そこから先を自力で考える頭がない。あるいは、更に上の存在からS02地区を落とすまでの指示しか受け取っていない。その程度であれば、多少戦力差があろうといくらでも丸め込める。これも同じく、恐れるには足りない。

 俺が逆の立場なら、少なくとも占拠した拠点周辺は洗う。残党や他の拠点が見つかるかもしれない。もし足の届く範囲に更に敵の拠点があるのなら、偵察を出す。だが、人形でも丸一日掛かる距離だ、S02地区からうちの支部が直ぐに見つかるとは考えにくい。

 つまり、今日中に敵がこちらに偵察に来た場合、考えられることとしてはドラグノフが尾行されていた可能性が最も高い。次いで、グリフィン支部の位置情報がどこかから漏れていた、あるいは既に入手されていた可能性だな。そうなるとちょっと厄介だ。人並みには頭の回るやつがバックに居ると考えるべきだろう。脅威度は「中」ってところだ。だが、そこで終わるのであればまだやりようはある。

 偵察に来た人形を見逃せと言ったのは、こちらの戦力を悟らせないためだ。ドラグノフを追跡し、こちらの拠点を割り出す程度に考えられるやつならば、当然ながら被害状況によってこちらの保有戦力も予測してくるはず。偵察班が全滅ともなれば当たり前だが警戒する。もっと戦力を蓄えようとか、応援を呼ぼうとかの考えになる。逆に如何に敵の攻撃が無いとは言え、偵察ってのは情報を持ち帰ることこそが任務だ。いきなり突っ込んでくるような真似はしないだろう。そもそも、少数で突っ込んでくる程度ならAR小隊で十分ボコせる。

 

 一番ヤバいのは、ドラグノフが尾行されており、この支部の位置も既に割れており、更に物量に任せた電撃戦を仕掛けてきた場合だ。そうなると現状ではかなりマズい。物量にも寄るが、多分逃げの一手を打つしかなくなるだろう。

 S02地区はグリフィンが管轄している地域の一つに過ぎない。そこを落とせば遅かれ早かれその情報は回る。S02地区を迅速に制圧し、あえて一部の人形を見逃し、跡をつける。そうやって割り出した敵の新たな拠点に、迎撃体制が整う前に強襲制圧。今のところ最悪の筋書きがこれだな。もし迷い無くそれをしてくるのであれば、S02地区の戦力はおろか、グリフィン全体の戦力とその分布までばれている可能性まで出てくる。局地戦ならまだ勝機はあるが、相手のトップがそこまでの切れ者だと物量で負けているグリフィンに将来的な勝ち目がほぼ無くなる。流石にそんなバッドエンドは御免被りたい。鉄血に鞍替えしたら見逃してくれたりしないかな。いや流石にこれは冗談だけどさ。

 ただまあ、希望的観測を持ってことに当たるなんて出来るわけがないので、最悪の事態も想定してAR小隊とレーダーを組み合わせた警戒網を敷くことにしたわけだ。平和な一日が過ごせたら色々な意味で理想なんだが、どうなることやら。つーことで、納得してもらえたか?

 

「ははっ! 了解だ、指揮官。やっぱりあんたはそうでなくちゃあな」

 

 おーいおい、ここにはドラグノフも居るんだ、あんまりそういう台詞は使わんでくれよ。ということでとんぼがえりになってしまってすまないが、AR小隊には早速周辺警戒に出てもらうことにしよう。俺はこのまま司令室でクルーガーと話をしてくるから、カリーナは第二部隊が戻ってきたらドラグノフと引き合わせてくれ、よろしくー。

 

 

 

 

 

 

『……流石だな、コピー指揮官。読みも動きも満点だ』

 

 場所は変わって司令室。通信用デッキから聞こえる声の持ち主はファッキンクソヒゲ社長、ベレゾヴィッチ・クルーガーだ。俺の予測と支部の一旦の動きを伝えたところ、何ともまあ無表情のままお褒めの言葉を頂いた。ていうかこれくらい別に俺じゃなくても人並みに頭が働くやつなら誰でも思いつくだろ。前から聞こうと思ってたけどグリフィンの平均値はどうなってるんだ。

 

『そこを突かれるとこちらとしても頭が痛い。俺から言えるのは、グリフィンに属する指揮官の中ではお前が飛び抜けて優秀だということくらいだ』

 

 マジかよ。控え目に言ってクソじゃねーか。よくあんなしたり顔で俺にヘッドハンティングかましたもんだなお前。

 

『……S02地区の周辺に目立った建物はない。支配地域としては少々飛び地となっている部分はあるが、鉄血の侵攻が今までほとんどない地域だったからな、後回しにしていたのが裏目に出た。鉄血が順当に索敵網を広げている前提であれば、お前の支部が次の標的になる可能性は十分にある』

 

 そりゃそうだろうな。でなければドラグノフがうちに辿り着くこともなかっただろう。あいつほんと運がいいな。

 

『こちらからも偵察を出しているが、そのほとんどは量産型だ。ただ、数だけはやたらと多い。ほとんどが木偶だろうが、動きに統率が見られる。やはり鉄血のハイエンドモデルが動いていると見ていいだろう』

 

 はー、なるほど。一体誰が纏めてんだと思っていたが、鉄血人形のハイエンドモデルってことか。確かにI.O.Pや鉄血だけでなく、自律人形を扱っている企業には幾つかブランドを分けたラインナップがあるのが普通だ。そいつらは大体量産型よりも上質なAIを積んでいる。一体どんなエラーを起こしているのか知らんが迷惑なこった。とっととぶっ潰すに限る。

 

『……多少の知性を持った頭と、大量の操り人形。ふむ、確かお前が最も得意としている類の相手ではなかったかな? 期待しているぞ、しがない元傭兵殿』

 

 このヒゲほんまこいつ。しばくぞ。つーか期待しているとか言うくらいならもうちょっと頭数を寄越せ。この数と錬度じゃ満足に作戦行動出来るかすら分からん。

 

『グリフィンきってのエース小隊を二つも抱えておきながら、随分と弱気な発言にも取れるな。俺が勧誘したのはその程度の男だったか?』

 

 これまた安い挑発だなおい。今更俺とお前の間でそんな文句が通じるわけないだろう。無駄な口を叩くくらいなら何か褒美でもチラつかせてみろよ。まだその方がマシだ。そうだなあ、S02地区が壊滅したのは別に俺のせいじゃないし、俺がこの支部を死守しなきゃいけない理由も薄いしなあ。AR小隊やカリーナと一緒に逃げよっかなあ。

 

『……ふぅ、分かった。ならば敵勢力の掃討が完了すれば、本来S02地区に回すはずだった物資を追加で融通、それと新規の人形発注の費用を3体分、こちらで持とう。これでどうだ』

 

 オッケー、乗った。後で書面で寄越せよ。お前との口約束を信じるほど俺は耄碌しちゃいねえ。あと、一応改めて言っておくが、今日中に鉄血から強襲を受けた場合は悪いが逃げるぞ。勝ち目のない戦いでの無駄死には御免だ。

 

『それは承知している。こちらとしてもお前を無下に失いたくはないからな』

 

 つまり無下じゃなければ失ってもいいってことかこのヒゲめ。ま、出来るだけはやってやるさ。そんじゃ通信終わり。じゃーなクソヒゲ。

 

 

 

 さぁて、報酬もある程度は担保出来たことだし、やるだけやってみるかね。しかし大規模作戦の考案は随分と久しぶりな気がするな、グリフィンに来てからこなした任務の数はそれなりに多いはずだが、ほとんどが小規模な戦闘だったし。

 だがまぁ、いけ好かないヒゲ野郎だが、あいつの言葉は間違っちゃいない。ちょっと頭の回るやつと、それに付き従う大量の木偶。物量差を戦略と戦術でひっくり返す。今までずっとやってきたことだ。今日中に仕掛けられたらマジで逃げるしかないが、そうじゃなければ十分勝ち目はある。詳細な情報が出揃ってからではあるが、久々に本格的な頭脳労働と洒落込むか。

 

 

 あー、もしもしカリーナ? 悪いんだけどお前の持ってる栄養剤ちょっと分けてくんない? えっ? 有料? そんなぁ。




カリーナちゃん酷い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

XX -グリフィン支部戦力図鑑-

そろそろ動かそうかなーと思ったのでちょっとまとめついでに書いてみました。
昔こういうの作りまくるの好きだったなーと思いを馳せながら書いてた。
意外としんどかったので今後はやりません。

ただの登場人物紹介みたいな感じなので別に読まなくてもいいです。
更新もしない予定なので、現状はこうなんだ、みたいな感じです。


・第一部隊

 

 名称:M4A1

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:94%

 好感度:100

 

 AR小隊の隊長を務めかつ第一部隊隊長を務める。

 本支部における指揮官を除いた現場での最高位指揮命令者。

 射撃技術、戦術眼、近接格闘、機転等、凡そ戦いに必要なステータスを極めて高い精度で満遍なく習熟しているオールラウンダー。

 あまり頻繁に使うことはないが、部隊の打撃力不足を補うためにアドオン式のグレネードランチャーを装備している。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:M16A1

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:XM84・防弾ベスト

 最適化工程:96%

 好感度:100

 

 第一部隊における精神的支柱および突撃隊長。

 M16A1が先陣を切り、周りが続くというのがこの部隊の基本戦術となっている。

 あらゆる状況下に於いて極めて高いメンタルの強さを発揮し、指揮官からの戦闘時における信頼は現状最も厚い。

 一番の得手は速攻。また、遅滞戦闘も上手い。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:M4 SOPMODⅡ

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:93%

 好感度:100

 

 グリフィンが誇る鉄血絶対殺すウーマン。

 極めて高い錬度を誇る第一部隊において、とりわけ射撃技術に優れておりあらゆるシーンでその弾丸は正確な軌跡を描く。

 M4A1と同じくアドオン式のグレネードランチャーを副兵装として持つが、こちらの使用頻度はそこそこ高い。それでも決して無駄撃ちをしない辺り、生来の腕の良さが光る。

 部隊一の機動力を誇り、囮から撹乱まで幅広くこなせる義体の性能も大きな売り。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

 名称:ST AR-15

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:専用APHE徹甲弾

 最適化工程:93%

 好感度:100

 

 第一部隊のクールビューティ。

 戦場では常に冷静沈着に徹し視野も広いが、想定外に弱いのが玉に瑕。

 AR-15専用のAPHE弾は極めて高い貫通力、破壊力を有するが、その分弾数も少なく運用には慎重さが求められる。しかし、今まで一度足りとてその使いどころを見誤ったことはない。

 現在の指揮官に対しては何故か非常に好意的。

 

 

・第二部隊

 

 名称:Vz61スコーピオン

 銃種:マシンピストル

 副兵装:焼夷手榴弾

 最適化工程:26%

 好感度:???

 

 第二部隊隊長を務めるムードメーカー。

 義体の運動性能が非常に高く、彼女が前に出て敵を撹乱、その後ろから敵を仕留めるといった動きが部隊員の間で浸透しつつある。

 副兵装として「派手なのが好き」という理由で焼夷手榴弾を選択しているが、実戦においてそれが使用されたことはまだ一度もない。使うべき場面に遭遇していないとも言えるが。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:M1911

 銃種:ハンドガン

 副兵装:発煙手榴弾

 最適化工程:22%

 好感度:???

 

 第二部隊に属する、この支部唯一のハンドガンタイプの戦術人形。

 直接的な戦闘よりも索敵、補助がメインとなっており、部隊を裏で支える縁の下の力持ち。

 発煙手榴弾もその役目を全うする機会が多く、部隊の被害軽減に一役買っている。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:M14

 銃種:マークスマンライフル

 副兵装:APHE徹甲弾

 最適化工程:25%

 好感度:???

 

 第二部隊に属するスナイパー。

 主にスコーピオンが乱した敵陣に対して致命打を与えるフィニッシャーを担っている。

 射撃精度はまだ発展途上だが、バトルライフルの火力と連射速度からなる制圧火力は圧巻。

 指揮官に対し、一定の信頼は置いている模様。

 

 

 名称:ドラグノフ狙撃銃

 銃種:スナイパーライフル

 副兵装:???

 最適化工程:???

 好感度:???

 

 S02地区から逃れ、本支部所属となったスナイパーライフル。第二部隊へ配属となる。

 実力の程は定かではないが、操れるダミーの数から第二部隊の面々と同程度と推測される。

 現在の指揮官に対し、拾ってもらった恩義は感じている模様。

 

 

・第三部隊

 

 名称:UMP45

 銃種:サブマシンガン

 副兵装:発煙手榴弾

 最適化工程:35%→41%

 好感度:???

 

 404小隊の隊長を務める。404小隊はそのまま本支部の第三部隊へと転換された。

 広い視野を持ち、部隊員のことを気にかける余裕も持ち合わせる優秀な戦術人形。

 誰に対しても独特の距離感を維持しているが、その理由までは定かではない。

 現在の指揮官は要観察対象。特別な感情は持ち合わせていないが、興味はある模様。

 

 

 名称:UMP9

 銃種:サブマシンガン

 副兵装:XM84

 最適化工程:33%→40%

 好感度:???

 

 UMP45の妹にあたる、404小隊のムードメーカー。愛称はナイン。

 快活な性格で、人当たりは非常に良い。誰に対しても分け隔てなく接する。

 意外とメンタルも強く、揺らぐことはあるが決して折れはしない。

 現在の指揮官に対しては割と好印象な模様。

 

 

 名称:HK416

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:アドオン式擲弾発射器

 最適化工程:39%→44%

 好感度:???

 

 第三部隊のアタッカー。グレネードを含めた殲滅力は部隊随一。

 非常に真面目な性格で部隊の規律を纏めている人形ではあるが、AR小隊との確執もある様子。

 完璧主義者な一面もあり、稀に周囲との諍いを起こすことも。

 指揮官のことは良き上官であると感じている模様。

 

 

 名称:G11

 銃種:アサルトライフル

 副兵装:???

 最適化工程:36%→41%

 好感度:???

 

 グリフィンが誇る絶対働きたくないウーマン。任務外は大体寝て過ごしている。

 人形の性格に非常に難があるが、持っている適性と素質は極めて高いものが感じられる。

 指揮官に対しては最初嫌悪感が先行していたが、話をして以降悪印象は取り払われた模様。

 

 

 

 ※本資料の複製、支部外への持ち出しおよび、権限を持たない人間、人形の閲覧を禁ずる。




改めて見たら戦力少なすぎじゃない? この支部大丈夫???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 -ハイスピード搦め手アクション-

本作品がドルフロ小説で唯一総合週間ランキングにしがみついてました。
が、がんばぇー! がんばぇドルフロー!

前回伝えたとおり、筆者にミリタリやらそこらへんの知識はほとんどないので多分かなりガバってますが許してくださいなんでもしますから。


 グッモーニンエブリワン。いやぁ実に清清しい朝だ。天気も良さそうだし視界も良好、ここまで晴れてるのは昨今珍しいかもしれないな。

 昨日はカリーナから購入した栄養剤片手に色々と策を練ってたんだが、結局鉄血人形は姿を現さなかった。こちらの索敵範囲外ギリギリで待機している可能性もなくはないが、ひとまず最悪の事態は免れたと見ていいだろう。ということで基地のレーダーの電源を落とすところから始めよう、バッテリーが勿体無い。そんでAR小隊を下がらせて休憩与えて、昨日訓練後に休んでいた404小隊を代わりに出すか。速攻が無かったとは言え、やつらが襲ってこない保証はないからな、警戒を怠ることは出来ない。あと第二部隊にはドラグノフを最適化工程のチェックに連れて行ってもらおう。んで後で報告な。

 

「指揮官さま、クルーガーさんから通信が入ってますよ」

 

 いそいそと朝の指示を出していたところ、カリーナが声をかけてくる。んん? 昨日喋ったばかりなんだが、まだ何かあるんだろうか。取り急ぎ部隊の連中に指示を出して下がらせ、俺は通信用デッキの前に移動する。司令室周りの機械、もうちょっと何とかならないかな。ちょっとした移動を繰り返すのは車椅子だと割と面倒くさい。

 

『おはよう指揮官。早速だが、S02地区の現在の状況を共有する』

 

 話を聞けばなんとクルーガーの野郎、自前の部隊でS02地区に張り付いているそうだ。お前それが出来るなら奪還までやってしまえよと思ったのだが、現地に赴いているのはドローン部隊と撮影機器や通信機器を背負い込んだ自律人形部隊らしい。火器統制コアを埋め込まれておらず自我も持たない、単純なオーダーしか処理できない格安AIを搭載したタイプだ。偵察可能範囲に辿り着くまでに部隊の3割くらい漸減されたらしいのだが、まぁあいつのことだ、それも想定範囲内だろう。正しい意味で使い捨てに向いた構成だな。この辺りの初動の速さ、そして割り切りの良さはクルーガーの手腕をよく表している。この程度ならたとえ全滅だろうが金銭的な痛手もないし、何ならどっかの廃棄された倉庫や工場に眠っていたやつをちょろまかして使ったと言われても納得出来るくらいには安上がりだ。ただ、流石にドローンを敵地直上まで飛ばしてみたら撃墜されたらしい。当たり前である。

 

 で、その偵察部隊からの映像と情報を頂いたわけだが、何と言うか、うーん。これもしかして楽勝なのでは? って感じ。鉄血の連中が誰かの言うことを聞いて規則正しく動いているのはその通りなんだが、本当にそれだけだった。地区の中心部から等間隔に鉄血人形を配置し、それなりの警備網を敷いてはいるっぽいのだが、そこに戦略が見当たらない。地区外に偵察を飛ばしている様子すらないことから、とりあえず隙間が出来ないように並べました、くらいにしか見えない。確かに数だけはやたらと多いが、それだけだ。

 うーむ、これは恐らくだが「下」の部類だな。キルハウス訓練初日のAR小隊を思い出す。多分、こいつらを操っているヤツは自前で戦術を練り、考えられるレベルにまで達していない。まずは占拠した拠点を守りましょう、程度の命令しか受けていない可能性もあるが、どちらにせよこちらにとっては好都合だ。これ以上不確定要素が増える前に、さっさと勝負を決めてしまった方がいいな。

 

『……と、このような状態だ。そこでコピー指揮官、貴官にはこのS02地区の奪還、および敵性勢力の排除を行ってもらいたい。情報提供は私の偵察部隊が逐次行おう』

 

 ま、そうなるでしょうよ。俺としてもこれ以上近場の爆弾が大きく育つ前に排除しておきたいってのは同感だ。それに、視覚的情報のサポートを得られるってんなら文句はない。その指令は受諾するが、お前昨日の約束忘れんなよ。ちゃんと書類で寄越せ。

 ということで、作戦決行は本日の午後からとする。午前中はAR小隊の休息に充てないと流石にパフォーマンスが落ちるだろうしな。相手の指揮能力に勝ち目が見えるとは言え、油断や慢心は禁物だ。AR小隊はうちの支部が誇る最大のジョーカーである。その手札を磨耗させた状態で戦場に出せるわけがない。カリーナ、今のうちに軽装甲車両を6台と運転用の自律人形を準備させといてくれ。あと、ちょいと物資の消耗が痛いが、ドラグノフのダミーを用意しておいて欲しい、戦力は出し惜しみなしで行くぞ。備蓄は蓄えておくに越したことは無いが、何故貯めるかと言われれば、使うべき時にガッツリ使うためだ。死蔵させるなんて勿体無いこと出来るか。こっちゃ俺の部下たちの命がかかってんだからな。

 その間、俺は作戦パターンと細部の詰めをやっておこう。ぶっちゃけ余程のトラップが出てこない限りはほぼ勝ちなんだが、あらゆる事態は想定しておかなきゃならない。俺の努力で被害が減らせる部分は徹底的にやっておかないとダメだ。想定外は常に起こり得るが、命を預かる立場として最低限のことはしないとな。

 あ、そうそう。ちなみにドラグノフの最適化工程は18%だった。思ったより低かったわ。ま、でも何とかなるだろ。正直今回の作戦で言えば、そこまで重要じゃないしな。俺の指示を果たせるだけの運動性能と最低限の射撃能力があればいいわけだし。

 

 

 

 

 

 

 

『指揮官。第一部隊、ポイントBに到達しました』

『第二部隊、ポイントAにとうちゃくだよー』

『こちら第三部隊、ポイントDに到着。指示をどうぞ~』

 

 作戦の確認を終え、戦術人形を司令室に呼び出してブリーフィング、打ち合わせを行った後。それぞれの車両に分かれて出発した俺の教え子たちが配置完了の旨をそれぞれ通信機越しに教えてくれた。現状、敵の地区正面から300Mほど離れた地点に第二部隊、そこから少し離れて第一部隊、更に側面に回むような位置取りで待機しているのが第三部隊、といった感じだ。これ以上近付くと車両のエンジン音に勘付かれて先手を取られる可能性がある。ここからは徒歩だな。

 

 さて、お前らは今から俺の指示通りに動いてもらうわけだが、俺の指示に疑問を持つのはいい。ただし、必ずその指示を遂行してから考えろ。そしてその結果を見て考えろ。決して手と足を止めるな。そうすれば絶対に勝てる。そして、何故俺が戦闘が始まる前からここまでの自信を持つことが出来るのか、すべてが終わってからよく考えろ。それがお前たちの成長に繋がる。改めて言っておくが、敵との単純な物量差は大きい。恐らくダミーのいくつかはオシャカになるだろう。だが、宣言しよう。オリジナルのお前らは誰一人欠けることなくこの作戦を勝利で終える。俺を信じろとは言わん、俺の指示を恙無く遂行出来るお前たちの性能を信じろ。分かったか?

 

『I copy!!』

 

 よーし、いい返事だ。それじゃあまず、第二部隊。お前ら正面から突っ込め。

 

『……はぁあ!? ちょっと指揮官、正気!?』

 

 ほれほれ、疑う前に動けポンコツども。誰も玉砕しろなんて言わねえよ。そうだな、地区奪還に向けて勢い良く突入したものの「やべ、敵の数が多いわ、退かなきゃ」みたいな雰囲気で一当てして下がれ。その時はスコーピオン、お前が元気良く撤退だーって叫ぶんだ。強撃前進するのは本当に最初の一瞬だけでいいぞ、それで相手の動きを見る。第一部隊はその動きに合わせて敵に見つからないよう後ろから付いていってくれ、その後ポイントA-1で待機。第三部隊はそのまま待機な。

 

『ぬぅぅ……! 分かったよ! 第二部隊、行くよ!』

 

 やっぱり戦術人形の良さはここだなぁ。俺の指示に逆らえないってのはあると思うが、AR小隊も一緒でこいつら割り切りが早い。さて、ここからは俺もスクリーンから目を離せなくなる、気合入れていこう。こっからは電撃戦だ。俺の指示の遅れがこいつらの敗北に即繋がる。そんなことは絶対に許されない。

 

『突撃ぃー!!』

 

 程なくして勇ましい掛け声とともに彼我の距離を縮め、敵陣に楔を打つ第二部隊の姿がスクリーンに映る。クルーガーのドローン視野を間借り出来るってのはかなりありがたいな、うちの旧式と違って解像度もいい。この作戦終わったらそのドローンうちに貰えないかな。ダメかな。

 

『う、うわっ数が多……いやいやいやマジで多いよこれ! 撤退! 撤退ーッ!!』

 

 敵の真正面から突っ込んだはいいものの、瞬く間に夥しい数の鉄血人形に襲われる第二部隊。ヒエッ、マジで多いなこれ。ただ逆に言えば、単純な突撃にこれだけ釣れたってことだ。やっぱ相手の指揮官大したことねえな。

 よし、M1911、真っ直ぐ逃げながらスモーク投げろ、相手に投げるんじゃなくて足元に焚く感じでな。第一部隊SOPMODⅡ、グレネード用意。まだ撃つなよー。2発撃ち込んでもらうからそのつもりで頼む。

 

 即座に撤退を始めた第二部隊を追いかけて、結構な数の鉄血人形がその地区を越えて追撃にかかっている。至極短い逃亡劇が開幕して間もなく、M1911が投げ込んだ煙幕の中に群れの先頭が足を踏み入れた。よしSOPMODⅡ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。2発ともな。

 

 ドォンッ! ドォンッ!!

 

 間隔を少々あけて、2回。爆発音が通信機を通してこちらにも響いてくる。映し出されたスクリーンを見る限り、直接大破した鉄血人形は然程多くないが、それでも駆動系をやられて結構な数の鉄血人形が転倒していた。数が多くて密着していたもんだから、一部はもんどりうって巻き込まれている。第二部隊、撤退止め。敵が体勢を立て直すまででいい、ありったけ撃ち込んで削れ。

 

 突然の爆発に見舞われた鉄血人形どもだが、体勢を立て直した後もそれ以上の追撃はしてこなかった。じりじりと全周囲を警戒しながら下がっているようだ。ふむ、どうやら敵の指揮官は最低限の頭は回るらしい。いいぞ、その方が好都合だ。せいぜいありもしない地雷を警戒しててくれ。

 優位な環境を意図的に作り出す。戦術の初歩だな。これで相手がスモークやなんちゃって地雷を気にせず突っ込んでくるようなら、じわじわ遅滞戦闘を繰り返して数を削ればいい。相手が警戒してその足を止めるなら、先程と同様に攻め込み、敵が攻勢に転じてきたらまたさっきのラインまで下がればいい。今回は後者となったわけだが、見えない地雷のおかげで、一番戦力に劣る第二部隊で正面の大多数と均衡状態を作り上げることが出来た。最適化工程こそ進んでいない部隊だが、ライフル2体を擁する最大瞬間火力は馬鹿に出来ない。その威力を存分に発揮してもらおう。

 

 同時に、第一部隊SOPMODⅡ。地雷偽装用にオリジナルを残してダミーを2体、第三部隊が居る方向とは逆に走らせてくれ。戦域が被らないところまで到着したら、適当に的当てさせとけ。で、敵が釣れたら追いかけっこしといて。一当てして気付かれた後はダミーには回避を優先させていい。ダミーには土台無理な話だが、隠密行動はさせようとしないでいいぞ、派手に逃げ回っている様を演出して欲しい。多分これでなんぼか釣れる。あわせて第三部隊、敵に悟られないよう接近。

 

『はーい了解! いってこーい!』

 

 わぁ、犬かな。快活な掛け声とともにSOPMODⅡのダミーが2体、とんでもないスピードで走り出す。こいつの義体ほんとすげえな。俺の全速力と比べてもかなり速いぞ。このスピードで動き回られては、鉄血製の量産型AIの精度じゃ当てるのにも苦労するだろう。人形だからスタミナの心配をする必要も無い。目一杯かき回してもらおう。

 予想通り、第三部隊とは反対側で突如襲撃を受けた鉄血人形が動き出した。うーん、想定よりちょいと少ないが、まぁ許容範囲だな。正面と側面片方の敵はある程度剥がせたが、まだ中心部付近の人形までは動いていない。もうちょいかき回して全体を動揺させたいところだ。

 つーことで第三部隊、出番だ。開幕はナインのXM84と416のグレネードで飾ろう。こっちはとにかく派手に行け、敵対勢力の最大戦力がそっちに居ると思わせろ。ただし、必要以上に前に出過ぎなくてもいい。じわじわとゴリ押す感じで丁寧に戦線を上げていくんだ。

 

『了解、指揮官。ナイン、416、よろしくね』

『はいはーい! それじゃ行くよー! 消えちまえー!』

『……私は、完璧よ!』

 

 ドォンッ!! 一層派手な音とともに、幾つかの鉄血人形がばらばらに飛び散っている様がスクリーンに映し出される。うっわエグい。SOPMODⅡの榴弾は地面に撃たせたためそこまでの被害ではなかったが、これ直撃したらとんでもない火力だな。しかもナインのXM84が先に入ったおかげで、一帯の鉄血の動きは止まっているままだ。これじゃただの時間制限付きの的当てゲームだな。AR小隊程ではないが、中々の速度で鉄血人形の数を削っていた。

 

 正面にはトラップを挟んだ長射程部隊、側面には逃げ回る敵対勢力、反対側には総合火力を有する敵主力部隊。俺が逆の立場ならどうするかなあ。多分正面と逃げ回るヤツを捨てて、一番厄介な部隊に戦力を集中させるだろう。他はまだどうとでもなるが、単純に強い連中ってのはこっちの手数が揃っているうちに潰しておかないとマズい。脅威度の高い対象から確実に無力化していく。当然の流れだな。

 

 とか考えていたら、SOPMODⅡのダミーを追っていた部隊がその動きを止め、反対側への加勢に向かおうとしているのが捉えられた。同時に、正面の敵もその何割かを残しながらも、側面の加勢に向かうようである。うんうん、そうなるよな。その考え方は正しい。俺だって同じ状況なら多分そうする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よし、もういいぞSOPMODⅡ、ダミーを戻せ。

 正面の敵が、側面で暴れているやつらと比べて弱いというのは馬鹿でも分かる。明らかに錬度が違う。ここまで正面に潜んでいたAR小隊に一発の銃弾も撃たせなかったのは、ジョーカーの存在を秘匿しておくためだ。とは言っても、このまま放置していたのでは敵の加勢を受けた404小隊が物量に押し負けてしまう可能性もある。ところがどっこい、そうは問屋が卸さないんだよなあ。

 

 スコーピオン、正面から404小隊へ向かうルートに思いっ切り焼夷手榴弾を投げ入れろ。遠投でいいぞ、距離が遠ければ遠いほどグッドだ。

 

『よっしゃぁーーー!! 無駄無駄ァーーー!!』

 

 うわめっちゃ元気じゃん。そういえばこいつ焼夷手榴弾投げるの初めてな気がするな。今までこんなの使うまでもない作戦ばっかりだったし。

 スコーピオンが投げ入れた焼夷手榴弾はその威力を存分に発揮し、少数の鉄血人形を巻き込みながら、その炎を立ち上らせていた。これで数十秒だが時間は稼げるだろう。だが、その時間があればこっちとしては十分だ。

 

 第一部隊、待たせたな。いつも通り、M16A1のXM84でフィナーレの開幕と行こう。相手は随分とその数と耐久値を減らした上に、あろうことかそのほとんどがこっちにケツを向けてるボーナスステージだ。食べ残しは許されない。第二部隊はそのまま正面に残った残党の処理を頼む。回避重視でいいぞ、最後まで油断せず行こう。

 

『了解! 第一部隊、出ます!』

『先陣は私が切る! お前たち、続けぇ!』

 

 俺の号令を受けた第一部隊、囮に出したダミーを迎え入れた総勢20名の精鋭が、その牙を剥く。M16の放ったXM84で一瞬ドローンの視界が眩くなるが、次の瞬間には頭部やコアを正確に撃ち抜かれた鉄屑の残骸が横たわっていた。

 

 いやー、何時見てもこの殲滅速度、えげつないとしか言いようが無い。ただ、如何に強力な点であろうと単騎で出来ることは高が知れている。点と点を繋ぎ合わせて線を作る。これが連携の基本だ。そして、線と線をあわせて面を作る。これが戦術である。そして、どうやって線を作り、どこにどのタイミングで面を敷くか。これが戦略だ。俺自身久々にやってみたが、まぁ相手が大したことなかったこともあって上手く行って何よりだな。

 404小隊が戦っている側面はやや劣勢ながらも、敵の数を順当に減らしている。最大のジョーカーを放り込んだ正面はもう阿鼻叫喚だ。俺が将官なら首吊っててもおかしくない。殴り込んだ第一部隊が第三部隊と合流出来ればほぼコンプリートだな。後は単純な性能差でゴリ押せる。

 

 

 さて、クルーガーの予想が正しければここに親玉である鉄血のハイエンドモデルが居るはずだ。まだ姿は確認出来ていないから、引きこもって一生懸命指示を出しているのか、それともそそくさと逃げ出したのか。どちらにせよ、本作戦の正念場はここからだ。鉄血のハイエンドモデルともなれば、そこらに横たわっている量産型とはまた違った性能を持っていて然るべきである。うちの全部隊が瞬殺されるようなトンデモ兵器は流石に持っていないだろうが、何にせよ油断大敵だ。

 

『指揮官! ちょっといい!?』

 

 ん? スコーピオンか。第二部隊を映しているスクリーンに目をやれば、そこには粗方鉄屑を片付けた第二部隊の姿。ああー、M1911のダミーが1体ぶっ壊されてるな。ハンドガンタイプの人形はどうしても耐久性に劣るから致し方なしか、オリジナルが無事でよかった。多分この通信はダミーのことかな。

 

 

 

 

 

 

『あー、あのね。第一部隊がぶっ倒していった鉄血人形の中に、今まで見た事ないヤツが混じってるんだけど、もしかしてこれがハイエンドモデルってやつ?』

 

 

 ウッソだろお前。




Lv90超えた5linkAR4体に勝てるわけないだろ(震え


クルーガーの喋り方が若干異なりますが、場面によって微妙に変えています。なんだかんだおじさんとは付き合い長いですから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 -ミッションリザルト-

私が投稿する小説には必ず副題を入れているのですが、スッと思い浮かぶこともあれば、全然出てこなくてこのサブタイトルが最後の関門になる時もあります。

ところでめちゃくちゃ今更なんですが、指揮官おじさんが地の文で喋っている時、同様の内容を確かに伝えたり考えたりはしていますが、その文面通りに声を発しているわけではありません。もっと指揮官っぽさを出しています、多分。



 第一部隊が突入を開始して数分。S02地区一帯を治めていた支部周辺は、無事鉄血の手から人類の手に移し渡された。よし、とりあえずドローンで確認出来る範囲に動いている鉄血人形は居ないっぽいな。先ずは全員に状況終了の旨を伝え、被害状況の報告をさせる。

 

『第一部隊、M16姉さんのダミーが1機やられました。その他は健在です』

『第二部隊、M1911のダミーが1機沈黙、他は大丈夫だよー』

『第三部隊、私と416のダミーが1機ずつ、ナインのダミーが2機やられたわ』

 

 やはり第三部隊に一番負荷がかかってしまったか。AR小隊の合流がもう少し遅ければヤバかったかもしれん。よく戦線を持たせてくれた、後で労ってやらないとな。しっかし、M16のダミーがやられたってマジか。いくらオリジナルに劣るとは言っても、AR小隊のダミーは単純な作戦遂行能力であれば第三部隊のオリジナルを凌駕するレベルのはずだ。それが1機とは言えやられてしまったのは見逃せない。その時の状況を聞いておかなきゃな。

 

『ああ、見た事の無い鉄血人形がいきなり現れてな。変な浮遊兵器を使っていたが、そいつに防弾ベストごと持っていかれた。回避が間に合わなかった私の落ち度だな、すまない。まぁ速攻で返り討ちにしてやったけどな』

 

 多分それハイエンドモデルだと思うんですけど。不意打ちを食らってから即返り討ちってなんだよ。怖いわ。しかし、ダミーとは言えM16を一撃で防弾ベストごと持っていくってちょっとシャレになってないぞ。その威力も勿論だが、あいつの反応が間に合わないってのは相当だ。これはマジでAR小隊が居なかったら危なかったかもな、流石はハイエンドモデルと言ったところか。量産型とは文字通り格が違うらしい。もしそんなのが大量にいたとしたらかなりヤバい。

 

 さて、無事S02地区の支部は制圧できたわけだが、やっぱりちょっと腑に落ちない。M16のダミーを一撃で葬る破壊力を持つ人形にしては、些かAIのデキがお粗末に過ぎる。火力に特化したモデルと言われればそうかもしれないが、それであれば量産型AIに強い武器を持たせた方がコストが浮くはずだ。これは本当に推測でしかないが、もしかしたら鉄血側のハイエンドモデルも、I.O.P社製の人形と同じで自我を持つタイプの可能性がある。そして同じように最適化工程を踏む必要がある、と仮定すれば現状に一番しっくりくる。強力な武器を持っていながら、それを活かすための戦術を持っていない。そのアンバランスさに、この説だと理屈が合う。

 もしそうであれば、今戦場に転がっているハイエンドモデルは、強引な例えではあるがうちのM4A1と同じ立ち位置ではないかと推測できる。つまり、あくまでそいつは現場での指揮官。兵を直接動かす立場ではあるが、頭を使うポジションじゃない。

 そもそも、S02地区に量産型を集めて奇襲を掛けたことにだって何か目的があったはずだ。気まぐれに配下の人形を集めて、たまたま近場の地区を襲ってみました、ではちょっと筋が通らない。S02地区はクルーガーの言を信じるのなら、今まで鉄血人形がほとんど目撃されていなかった地区である。たまたま、ということであれば他の地区、それこそ周囲に大量に鉄血が居たうちの支部に来てもおかしくない。この地区にわざわざ量産型を結集させ、奇襲を掛けた経緯が存在するはずなのだ。

 

 うーん、分からん。というか俺に分かる訳が無かった。とりあえずこの仮説はクルーガーに報告がてら後でぶん投げておこう。現場での戦闘は俺が仕切るが、全体的な舵取りはアイツの仕事だ。ただ高確率で言えることは、ここのハイエンドモデルが黒幕じゃあないってことだな。もっと上の方に頭を使ってるやつが居るはずだ。そいつを引き摺り下ろさないことには解決とは言えない。全く面倒くさい、もうちょっと給料上げてもらおうかな。

 

 とりあえず現場は現場で出来ることをやろう。生き残りの人間なり人形なりが居れば多少話も聞けるだろうが、まぁこの有様じゃ期待はしない方がいいだろうな。そういえばぶっ倒したハイエンドモデルは今どうなってるんだろうか。完全に破壊しちゃったのかな。あ、こらSOPMODⅡ、鉄血の人形を解体して遊ぶんじゃありません。

 

『コアをぶち抜いたから機能は完全に死んでると思うぞ。電脳の方は生きているかもしれんが』

 

 いやぁ、流石である。実際の戦闘を見ていないので何とも言えないが、ハイエンドともなればその耐久性や運動性能も量産型とは違っていると見ていいだろう。しかも初見の人形だ。そんなやつのコアを迷い無くブチ抜ける辺り、こいつらの段違いな性能を改めて痛感する。誰だこんなクレイジーな人形育てたの。俺か。SOPMODⅡはブーたれるのをやめなさい。

 

 何にせよとりあえず目下の脅威は去っただろうから、後片付けに入ろう。第一部隊はハイエンドモデルの遺骸を回収しといてくれ。本体が難しそうなら首から切断して最低限電脳だけは持ち帰るようにして欲しい。大した情報は出てこないだろうが、そいつの通信ログくらいは手に入るだろう。どんな指示が下りていたのかが分かれば今後の対策も打ちやすいしな。第二部隊と第三部隊は共同して生存者やその他情報の探索に当たってくれ。生存者の探索は第二部隊が中心で頼む、ドラグノフが居た方が何かと話が早いだろうからな。情報に関しては司令室のPCが無事なら御の字なんだが、まぁ普通は壊すだろうしこちらもあまり期待は出来そうにないか。あと、室内に入るだろうから流石にドローンが追従出来ない。映像が途切れるから通信は常に入れておいてくれ。俺は周囲に敵影が無いか念のためドローンで確認しておこう。屋内に潜んでいる鉄血人形ももしかしたら居るかもしれん。量産型にそんな知恵が働くとは思えないが、一応油断だけはするなよ。

 

 

『了解。そんじゃお邪魔しまーす、っと。あんまうちの支部と造り自体は変わんないね』

『どこも似たような造りなんですかねえ。司令室はあっちかな?』

『そういえばドラグノフさん、ここにはどれくらいの戦術人形が?』

『私も全員を知っているわけじゃないが……少なくとも10体以上は居たと思う』

 

 えぇー。うちより多かったのかよ。ずるい。

 

『うう……私ここで待っててもいい……?』

 

 ダメに決まってんだろ。

 

『いいわけないでしょ。ほら行くわよ、さっさと歩きなさい』

『うわー、業務用の自律人形も全部メッチャクチャだね。あ、配給落ちてた!』

『これじゃ生存者は期待できそうにないわね……ナイン、拾い食いしないで』

 

 ナインはナインでブレないなこいつ。

 

『えーっと、ハイエンドモデル……あ、あった。多分これですね』

『改めて見ると結構デカいな。SOPMODⅡ、頼めるか』

『はいはーい! サクっとやっちゃおー!』

『アンタ、そんなのどこから出してきたのよ……』

 

 こっちは屋外だからドローンでその様子が確認出来る。解像度は高いが距離が遠いのでその詳細までは見えないが、周りに大量に転がっている鉄血人形と比べると二回りくらいでかいな。その周辺には見た事も無い兵器が複数散乱している。多分あれがM16のダミーを撃ち抜いた浮遊兵器というやつだろう。ついでにあれの回収もお願いしておくか。ペルシカリアに回せば何かこう、上手い感じにしてくれるかもしれん。俺は戦いに関して多少の心得はあれど、こういう技術面はサッパリだ。餅は餅屋、専門家に任せるに限る。

 

『指揮官、聞こえる? 司令室らしき場所には着いたけど、もう中身は滅茶苦茶よ、生きてる人間も機械も見当たらないわね。グリフィンの制服を着た死体があるけど、多分これがここの指揮官じゃないかしら』

 

 UMP45の声からは、特別な感情は読み取れない。ただ見た限りの事実を伝えているだけにも聞こえる。流石特殊部隊ってところか、死体を発見した程度で取り乱す程軟な連中ではないらしくて何よりである。しかしまぁ、どう滅茶苦茶なのかは見えないのではっきりとは分からないが、UMP45が言うくらいだからそれはもうハチャメチャな状況なんだろう。普通に考えて、鉄血人形に捕虜を取るとか交渉するとかいう理由も必要性もないだろうから、まぁ殺すしかないわな。こりゃ現地の戦利品獲得はほぼ空振りに終わりそうだなあ。

 

『……待て! 今、声が聞こえなかったか?』

『へ? マジ? アタシ何も聞こえなかったけど』

『私も聞こえなかったです。気のせいでは?』

『いや……あっちは備品倉庫だったはずだ、有り得るぞ!』

『ちょ!? ドラグノフさん!?』

『あーもー! 隊長はアタシなんだけどなー!?』

『45姉、どうするの?』

『放っといていいでしょ、敵性反応はもう無さそうだし』

『ふぁ……じゃあ後はよろしく……』

『何がよろしくよ。また指揮官にはたかれるわよ?』

『……うう……じゃあもうちょっとだけ頑張る……』

 

 うーむ、騒がしくなってきたな。というか戦闘中ではないとは言え、一応今も作戦行動中のはずなんだが。生き残りがいるかもしれないというドラグノフの気持ちも分かるが、独断先行はよろしくない。後でちょっとお話しなきゃならんな。減点1点。あと416は意趣返しのつもりか知らんが、G11を働かせるのに俺を引き合いに出すのはどうなんだ。いやそれで言うこと聞いてくれるなら安いモンなんだが。

 

『おい! 誰か生き残りは居ないのか!? ドラグノフだ! この支部は奪還したぞ!』

 

 恐らく備品倉庫のドアを蹴破ったのだろう。バカン、という派手な音とともにドラグノフの叫び声が通信機から響き渡る。うーん、敵が潜んでいる危険性は低いとは言えその動き方はどうなんだ。この支部でろくな教育を受けていなかったことは分かるのだが、あいつちょっと基本的な所から教え込まないとダメだな。あのままじゃ部隊を無駄に危険に晒してしまう。

 

『ちょっとドラグノフ!? 勝手に行動しなうわあっ!?』

『うわああああああああ助かったにゃあああああああああ!!!!』

『うるっさ! ちょっ何!? 飛びつくなぁ!!』

 

 うるっせえ! 通信機越しだがめちゃくちゃな大音量である。あまりの騒がしさにあのスコーピオンが気圧されている。ボリュームでアイツが負けるとはこれまたレアなシーンだな。

 

『指揮官! 生き残りの戦術人形を発見した! m45とIDWの2体だ!』

 

 あー、うん。ドラグノフがこれまた大音量で探索の成果を報告してくれているが、お前あとでちょっと話がある。生き残りが居て、潜んでいる敵が居なかったのは結果論に過ぎない。ドラグノフだけが死ぬならまだいいが、下手をすれば後ろのスコーピオンたち第二部隊まで被害が及んでいる可能性があった。部隊を預かる身としては見過ごせない。

 

『指揮官ー! 綺麗に取れたよー!』

 

 その声に導かれてスクリーンに目をやれば、そこには首から上を綺麗に切り取ったSOPMODⅡが、高らかに腕を掲げてドローンに大将首を映し出していた。うん、よくやったと言いたいところだが、それそんな嬉しそうにやる仕事じゃない気がする。

 

 

 さて、目ぼしい戦利品としてはこの辺りかな。ハイエンドモデルの電脳と、生き残りの戦術人形が2体。もうちょっと無形報酬が欲しかったところだが、まぁ鉄血側もそこまで馬鹿じゃなかったということにしておこう。拾った人形はドラグノフと同じくうちの支部預かりにしたいところだな、少しでも戦力は増強しておきたい。まぁそれくらいは大丈夫だろう。っと、クルーガーには通信入れておくか。状況終了ってな。

 

 

『こちらでも確認した。よくやってくれた、礼を言う。生存している人形に関しては貴官の支部預かりとして異動させて構わない。ハイエンドモデルは後ほどそちらに回収員を回そう』

 

 オーケー了解っと。あ、あとうちの部隊は引き上げるが構わないよな。流石に自分の支部を空けたままS02地区の防衛に長期間滞在させるわけにもいかないし、そんな余剰戦力は持ち合わせていない。あいつらも多少なり疲弊しているしな。

 

『結構。今のところ周囲に鉄血人形も確認出来ていない、S02地区には後ほど復興のための作業員と防衛用の戦術人形部隊をこちらから回す』

 

 そりゃまぁ、ドローンで確認出来るだけでも結構な被害を受けているから、ここを即座に支部として再度立て直すのは無理だろうな。最低限の環境を整えなきゃいけない。空白地帯にするという手もあるにはあるんだが、現状、汚染もされておらず人が住める土地というのは割と貴重だ。人類の支配地域の拡大という意味でも、取れるところは取っておかないと長期的に見た時に苦しい。地方自治という名目でグリフィンが預かっている地区でもある以上はしっかりと管理下に置いておきたいところだろう。ま、そこらへんの政治的やり取りに突っ込む気はさらさらないが。

 

 よーし、ってな訳で撤収だ。m45とIDWだったかな、新しく加わった2人は第三部隊のダミーが乗ってきた車両に乗せてくれ。帰ってきたらデブリーフィングと反省会だな、その後は祝勝会ってことで皆でメシでも食うか。

 

 

『指揮官、ちょっといいかしら』

 

 おお? 416か、こいつが作戦行動以外で通信を飛ばすとは珍しいな。何かあったんだろうか。

 

 

『いえ、大したことではないのだけれど。司令室の残骸に紛れて栓の開いていないアルコールを見つけて。持ち帰ってもいいかしら』

 

 いいね、ナイスだ。どうせそこの指揮官が貯めこんでいたアイテムの一つだろう、遠慮なく貰ってしまおう。そういえば戦術人形ってアルコールはイケる口なんだろうか?

 

『さあ。人形に寄るだろうけれど、私は好きよ』

 

 いいじゃんいいじゃん。この支部始まって以来の大規模な作戦だったわけだし、帰ってきたらパーっとやろう。その時は416、お前も付き合えよ。

 

『ふふ、分かったわ。この416がお相手して差し上げますわ指揮官様』

 

 先程までよりも幾分と柔らかい声が通る。こいつ自身、肩の力の抜き方ってやつをもしかしたら自分なりに学ぼうとしているのかもな。もしそうであればいい傾向だ。AR小隊じゃないが、何か娘が増えた気持ちになる。

 このご時世、アルコールや煙草、珈琲などと言った嗜好品は非常に貴重だ。その中でもアルコールはまだ入手しやすい部類に入るので、きっとここの指揮官が好き者だったのだろう。幸い俺はジャンキーと言うほどじゃないが、好きか嫌いかと問われれば好きである。軍人時代でもそうだったが、仕事上がりの一杯と風呂上りの一杯ってなんであんなに旨いんだろうな。謎だ。

 

 

 いやぁ、予想外の楽しみが一つ増えてしまった、よきかなよきかな。そういえばS02地区にアルコールがあるということは、もしかしたらこっちでも融通出来たりするんじゃなかろうか。カリーナ、そこらへんどうなの? えっ? 別料金? そんなぁ。




やったね指揮官、仲間が増えたよ!

S02地区の話は一旦これでおしまいです、以降はまた何でもない話を思い付いたら投下していきたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 -勝利の美酒は妖しく嗤う-

とりあえず頭からっぽにして読んでください。


 どうしてこうなった。俺のスケジューリングに何かミスがあったのだろうか。それともこの状況を想定出来なかった俺の落ち度なのだろうか。いや、起きてしまったことに対する後悔はやめておこう。そんなことをしたって一向に事態は上向かない。ここに救いの女神は居ない、俺の独力でこのカオスを乗り切るしかない。ええい、腹を括るんだ俺。今まで数多くの修羅場を潜ってきたお前の脳みそはお飾りか。

 必死に己を奮い立たせるも、起死回生の一手は一向にご降臨なされず。もうどうにでもなーれ、と匙を投げかける自分と懸命に戦いながら、俺は今、運命に抗おうとしている。

 

 S02地区奪還作戦が成功したその日。まずは帰還した部隊を出迎え、デブリーフィングと反省会を行った。ダミーへの被害はあったもののオリジナルの損害はゼロ。戦利品こそ満足とは行かなかったものの、戦果としては十二分だ。ほぼ100点の出来と言っていい。俺の指示にしっかりと従った故でもあるが、大前提として各々が奮起した結果でもある。褒めるところは十分に褒め称え、ドラグノフの行動その他、締めるところも抜かりなく締める。大きな充足感と程よい緊張感。非常に良いと言える塩梅でデブリーフィングを終え、これで周囲の鉄血はひとまず掃除完了ということで、今日くらいは無礼講で行こうと作戦に参加した戦術人形全員を交えて食事会を催すこととなった。なお、救出されたm45とIDWはAIのエラーが酷く、動揺が治まらなかったため詳しい事情聴取は後日行うこととした。今はとりあえず空いている宿舎に案内し、十分な休息と修復を与えている最中だ。

 

 支部の食堂スペースを使った食事会は、慎ましいながらも賑やかで、いい雰囲気であったと思う。皆思い思いに口を開き、表情を変え、手を振り、大いに楽しんでいた、と俺は感じていた。彼女たちの顔を見れば、それが間違いであるはずがない、と確信を持てる程度には。

 

 

 

「ひょっとぉ!? ひひはん聞いてましゅ!?」

 

 

 

 そう。第三部隊のアタッカー、HK416がアルコールを取り出すまではよかったんだ。

 

 

 皆それぞれ好みの量の食事を体内に取り込み、満腹中枢が程よく刺激された頃合、416が取り出したのはS02地区から掻っ攫ってきた真新しいアルコールであった。ただ、ラベル自体はガサガサに擦り切れており銘柄までは読み取れなかったが、色合いや瓶の形状から恐らくウイスキー辺りだろうことは予測がついた。

 酒が出る、ということは、ここからはオトナの時間である。既に日も暮れて随分経った後だ、スリープモードに移行したい人形も居るだろうし、そもそも酒を好まない人形だって居るだろう。いわゆる二次会のようなノリで始まったささやかな酒宴は、先の食事会からそのメンバー数を随分と減らした上での開催となった。

 

 指揮官である俺。

 戦利品の獲得者、HK416。

 酒好き、M16A1。

 騒ぎたがり、スコーピオン。

 何故か残った、AR-15。

 

 以上5名が食堂に残り、地獄の蝦蟇口を開けた。

 

 最初は良かったんだ、最初は。416がM16A1に対して何かとケチをつけるような口振りこそあったが、彼女も先日の一件から、表には出さないまでもM16A1の実力自体は認めている。M16だって、そんな空気を読めない程愚鈍じゃない。若干の危うさを残しながらも、仲良くとは行かずとも同じ戦場を走る仲間として最低限の尊厳をお互いに持ちつつ場は進んでいた。

 

 だが、各々のグラスが空き、2杯目に突入した頃から雲行きが怪しくなった。

 

 

「よっしゃー! 一番、スコーピオン!! 一発芸やりまーす!!」

「あっはっはっは!! いいぞぉ!! ぶはははは!!」

「ヒィー! ヒ、ヒィー……!! 顔、顔……! ふっふはっ……ッ! し、死ぬぅ……!」

 

 ただでさえ騒がしいスコーピオンが、アルコールというハイブーストを手に入れ真っ先に壊れ始めた。多分あいつは酒を飲むこと自体が初めてだったんだろう。色々と加減が分からぬままその毒素を体内に溜め込んでしまい、身体中を蝕む異常事態にAIの処理が追いつかず、バグった。

 次にぶっ壊れたのが意外や意外、M16A1だった。ただこいつはスコーピオンと違って、分かっていて自分から壊れにいった節がある。ケタケタと大笑いしまくっているが、しっかり記憶は残しているだろう。周りを持て囃すように叫びまくっているが、あいつ自身が粗相を犯しているわけじゃない。一番得する酔い方してるなぁという印象だ。ただとにかく煩い。

 そして、M16A1とほぼ同じタイミングでぶっ壊れたのが何故かこの場に残ったAR-15だ。普段が冷静な分、ギャップが酷い。笑いの沸点が有り得ないくらい低くなっている。多分今のこいつならテーブルの箸が転がっただけで30分は笑い続けるだろう。お前なんでこの場に残ったんだ。

 

 まさかこの程度の酒量でここまで大狂いするとは思わなかった。3人の痴態を遠巻きに眺めながら、最後に残った416についつい困ったものだな、と声を掛けたのだが、これがいけなかった。最後の最後、希望と言う名の奇跡に縋り蓋を開けたパンドラの箱は、絶望と恐怖と混沌を盛大にぶちまけた。

 

「まぁったくれす!! ひきはんがいらっひゃるのに、ぎゃーぎゃーと!!」

 

 人知れず、416が壊れていた。

 

 

 ヤバい。完全に目が据わってるぞこいつ。あの真面目一辺倒な416がまさかの絡み酒とは一体誰が予想出来ただろうか。出来るわけねーだろ。どうしようこれ。俺から声をかけてしまった以上、無視も出来ない。開幕の一手から既に詰んでいる。

 

「ひょっとぉ!? ひひはん聞いてましゅ!?」

 

 あ、うん聞いてる聞いてる。適当に相槌を打ちながら周りをそれとなく見渡してみるが、そこには完全にぶっ壊れたスコーピオン、完全にぶっ壊れたM16A1、完全にぶっ壊れたAR-15が居るだけだった。あ、ダメだこれ。M16は多分まだ理性を残しているが、今のあいつなら416を止めるよりも416が齎す更なるカオスを笑い倒す方に天秤が傾くだろう。

 増援は期待出来ない。俺一人で凌ぐしかない。

 

「いいれすか!?」

 

 あ、はい。

 

「わらひはよんまるよんひょうたい! えりーとなんれす!」

 

 そうだな。

 

「あなたはひきはんです!!」

 

 そうだな。

 

「つまりぃ……わらひはかんぺきなんれす!!」

 

 うん。うん?

 

 アカンこれ完全にダメなやつだ。まともに話が通じる状態じゃない。多分416自身も自分が何を言ってるのか分かってない。とりあえず思い付いた単語を並べて叫んでるだけだ。こう、もうちょっとムーディな雰囲気で優雅に酒を楽しみたかったんだが、最早叶わぬ夢である。と、とりあえず416、一旦水でも飲んで落ち着こう。な?

 

「なんの! まだまだいけまう!」

 

 いやそれ以上いかなくていいから。戻って来れなくなるぞ。

 

「ひきはんがつきあえっていったんれふよ!?」

 

 畜生、そういうところだけはちゃっかりAIの記録装置が働いてやがる。

 

「なんだぁ416? 指揮官を独り占めしようってかぁ?」

 

 だぁー! ここでお前が来るんかい! 加勢は望んでいたことだがそういう感じで加わるんじゃない! スコーピオンから標的を416に変更したのか、ぬらりという擬音が一番当て嵌まりそうな動きで瞬時にその距離を詰めてくるM16A1。お前こんな時にまで無駄に高い義体性能発揮しなくていいから。酔拳の使い手かよ。

 

「あによぉ!」

「あっはっは! 残念だがお前に指揮官はやらんぞー?」

 

 とんでもないことを言いながら車椅子の膝元にしな垂れかかってくるM16A1。俺の右大腿にその上半身を預けながら、アルコールのせいか火照った顔で416にしたり顔を見せ付けている。俺は416のものになるつもりもないし、そもそもお前のものでもないんだが。あーあー、地べたに座るな、服が汚れちゃうだろ。

 

「なぁ、指揮官。私は、私たちはあんたのモノだ。誰が何を言おうとな」

 

 急に真面目な顔で訳の分からんことを言うんじゃない。お前らは確かに俺の指揮下にあるが、その所有権はグリフィンにある。いくらアルコールが入っているとてそれは変わらない。

 

「私を含めて皆、指揮官について行く。M4も、SOPMODⅡも、AR-15も」

「わらひも! ついていきまひゅ!」

 

 あ、こらお前勝手に話を進めるんじゃない。人の話を聞け。416はちょっと黙ってて。

 

「じゃあ416もだな! ははっ、指揮官はきっと、皆を平等に見てくれるだろう」

 

 そりゃまあ、俺は贔屓はしない主義だしな。何かもう止めるのも面倒くさくなってきたし無駄っぽいし、とりあえず話に乗っかっておくことにする。恐らく本題があるのだろう、言いたいことを言わせておけば少しはすっきりするだろ。

 

「ただ……その中で少しだけ、そう、ほんの少しだけでいいんだ。私だけを、見て欲しい」

 

 そりゃ無理な相談だ。バッサリと断りを入れれば、そこにはどこか分かっていたような、だが悲しそうな、そんな匂いを含んだM16A1の顔。

 別にM16のことが嫌いなわけじゃない。頼りにしているし、信頼もしている。どちらかと言えばその容姿や性格も含めて好いていると言ってもいい。だが、それは出来ない。M16A1の希望は叶えられない。俺はただの指揮官で、M16A1はただの戦術人形なのだ。そしてその所有権はグリフィンにある。それ以上でもそれ以下でもない。そもそも、俺という存在が彼女たちを縛ってしまっているのがおかしい話なのだ。不純、とは言わないが、"それ"は俺なんかに向けていいシロモノじゃあない。もっと他にいくらでも選択肢やより良い未来があるはずである。そのことを何とかして分かってもらいたいものなんだが、道のりは厳しいようだ。

 

 ただまぁ。今日は既に業務時間外で、今は無礼講だ。ちょっとした、ほんの気まぐれくらい、誰も咎めやしないだろう。もたれかかっているM16A1の頭を乱暴に撫でてやる。うーん、追跡戦訓練の時を思い出すな。

 こいつらに救われてしまった俺の命は、こいつらのためにある。それは変わらない。だが、俺はこいつらを縛るために生き残っているわけじゃないんだ。あくまで俺は手伝いの立場。こんな老人に片足突っ込んだおじさんが主役になっちゃいけない。

 

「……そういうところだぞ、教かぁだだだだだァ!!?」

 

 こそばゆそうに目を細め首を傾けながら、M16A1が禁忌を犯そうとしたのですぐさま撫でていた右手を武器に切り替え必殺のアイアンクロー。悪いがこの足になってからも筋トレは欠かしていないもんでな、上半身のパワーは現役時代にそこそこ近付いてるんだ。ちなみに、隣で騒いでいたはずの416はいつの間にかノックダウンされており食堂の床に大の字で寝そべっていた。うわぁ、こいつ騒ぐだけ騒いでバッテリーが切れたらプツンと行くタイプか。めちゃくちゃタチ悪いな。相変わらずスコーピオンとAR-15が馬鹿騒ぎしていること、M16A1の声がすこぶる小声だったこともあって、どうやら他には漏れていないようで何よりだな。

 

「ちょ指揮官やめぁだだだだっだあッぃいいいい!?」

 

 おっと、つい全力で行ってしまった。すまんすまん、と力を緩めてその髪を再び乱暴に乱してやると、涙目でめちゃくちゃ睨まれた。いや俺悪いことしてないから。お前が悪い。

 

 

「しきかぁー……うっわ……」

 

 ふとこの場に居ないはずの人形の声が響き、視線を泳がせるとそこには様子を見に来たのか、UMP45が食堂の入り口で閉口していた。うん、そりゃ引くよね。俺もどうしてこうなったのかサッパリ分からない。

 

「あー……とりあえず416は回収していくわね。引き続きごゆっくりどうぞ~」

 

 俺の右膝に引っ付いているM16を一瞥し、努めて業務的な声色を発しながらUMP45は416をファイヤーマンズキャリーの姿勢で持ち上げて迅速に運んでいく。うーむ、やはり腐っても戦術人形だ。素晴らしいパワーである。

 さて、ごゆっくりと言われはしたものの、こっちはこっちでいい加減お開きにしておかないと明日に響く。とりあえずM16、スコーピオンとAR-15を正気に戻してやってくれ。あいつらあのままじゃ明け方まで騒ぎっぱなしだぞ多分。

 

「……はぁ、分かったよ。了解っと」

 

 その数瞬の空白は何なのか。俺にはサッパリ分からない。

 M16はゆっくりと立ち上がると、未だ変顔芸を続けているスコーピオンと引き笑いを続けながら酸欠状態に陥っているAR-15に近付き、立て続けに無言でチョップを見舞い、強引に終わらせていた。あれ、何かちょっと機嫌悪い? おじさんにはサッパリ分からない。

 

「じゃあ私はこいつら引っ張っていくから。指揮官も早めに休めよ」

 

 そう言い残し、スコーピオンとAR-15の首根っこを捕まえてM16A1はこの場を去って行く。

 

 先程までの馬鹿騒ぎは何処に行ったのか、深夜の食堂は瞬く間に静寂に包まれていた。うーん、やっとのんびり酒を飲めそうだ。俺もあまり夜更かしはしたくないので、最後に少しばかり楽しんで今日はお開きとしよう。申し訳ないが、後片付けは業務用の自律人形にお任せする方向で。いやぁ、こういう時って本当に人形便利だよな。人間が堕落してしまうのも分かる気がする。

 

 

 

 

 

「あれ? ……ふふ、指揮官さま、もしかしてお一人ですか?」

 

 もー、やっとこさ独り酒と洒落込もうと思ったところにこれだよ。おじさんは疲れたの。独りでのんびりアルコールを楽しみたいんですー。

 なんて言ったところでどうせ無駄なんだろうなあ。せめて彼女が最後の乱入者になることを祈るしかない。ああ、グラスはそこらにあるやつを適当に使ってくれ。つってももうあまり酒自体残ってないけどな。

 

 

 この支部の人間と戦術人形を巻き込んだ酒宴はまだ、終わりそうにない。グリフィンの指揮官って有給使えたりする? えっ? まだ付与されてない? そんなぁ。




ちなみにおじさんはまだ、あのアイテムの存在を知りません。



まぁ、知ったからといってその行動や理念が変わるとも限りませんが。

そろそろ本格的にネタがなくなってきたので、1話みたいなノリで単発完結のお話でも思い付いたら投げていこうかなと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 -コピー・ファミリア-

前回ネタが枯渇しそうだと書きましたが、めちゃくちゃ細かいのはいくつかあるんですよ。どう膨らませても1話分に満たないようなやつ。

そこらへんもどうにか繋ぎ合わせて続けて行きたいところですね。


 いつも通りの朝。いつもと違うのは、少しばかり頭が痛いのと全身に倦怠感を感じているところだろうか。が、別段調子が悪いという程ではないので今日も一日それなりに業務をこなそうと思っている次第。

 昨晩は結局最後の乱入者が思いの外粘ってしまい、睡眠時間が少々削られてしまった。グリフィンの前線指揮官というのは割と裁量権の大きい仕事ではあるのだが、物資状況はともかくとして頭数が少なすぎて裁量権を発揮するまでも無く俺が働くしかないというのがつらいところだ。ここでいう頭数というのは戦術人形じゃない、いや戦術人形も足りてはいないのだが、一番不足しているのは指揮官そのものだ。俺の代打が存在しないものだから、必然的に俺が休めない。クソブラックかよ。俺と一緒に最後まで飲んでいた後方幕僚様も現状代打が居ないため、彼女の負荷も相当なものなのだが、今朝挨拶を交わしたところ俺と違ってすこぶる元気な様子だった。これが若さというやつか。現実からは逃げられなかった。

 

 しかし、業務自体は着任当初と比べればかなり楽になっている。理由は単純、この支部周囲の鉄血人形をほぼ完全に掃討したからだ。先日のS02地区の奪還だって、うちの支部が地理的にいけるからという理由でウチが出張っただけであり、本来であれば管轄外である。というか、そもそもS02地区がしっかりしていれば余計な尻拭いをせずとも済んでいたのだ。余計な被害と仕事ばっかり増やしやがってこんちくしょうめ。既に死んでしまった指揮官を責めても仕方ないのは百も承知なのだが、ちょっとした愚痴を零すくらいは許して欲しい。

 

 そうそう、S02地区で確保した2体の戦術人形だが、一晩経っても症状に目立った改善が見られなかったため、少々強引な手段ではあるがAIの初期化を行うことにした。通信でぺルシカリアに相談してみたのだが、恐らく感情モジュールの暴走を危惧してAIが自閉作用を起こし、モジュールに悪影響を及ぼす可能性のあるほとんどの外的情報をシャットダウンしてしまうようになったとのことらしい。会話は一応成立するんだが、当時のことを聞きだそうとすればm45は途端に怯えだし、IDWは途端に騒ぎだす有様だった。戦線に立てなくはないが、いつ何時その地雷を踏み抜くか分からない。大きな不安要素を抱えたままでは戦闘はおろか教育すらままならない。AIを初期化してしまうと当然それまでの最適化工程もぶっ飛んでしまうので1%からやり直しなわけだが、あいつら2人ともダミーを使えないレベルだったので正直五十歩百歩だ。それならクリーンな状態で一から教育しなおした方が断然早い。丁度ドラグノフにも、色々と基本的な知識から叩き込もうと思っていたところだ。最適化工程に多少差は出てしまうが、座学ならそこまで問題ないだろう。

 

「おはよう指揮官。今日もよろしくね」

「今日もいい天気だ! ガンバロー!」

「指揮官、おはようございます」

「……ふぁあ……ねむ……」

 

 なんて色々考えていると、第三部隊の面々が司令室のゲートを潜っていた。今日は午前中に書類仕事を終わらせ、昼休憩を取った後にこいつらと射撃訓練の続きをやる予定である。しかし挨拶一つとってもこいつら個性的だなぁ。G11は立ったまま寝るな。起きろ。いや待て、よくよく考えてみたらこいつが午前中から司令室まで歩いてくるって凄いことじゃないか? 一体どんなトリックを使ったことやら。明日は槍でも降るんじゃかろうか。

 

「別に。指揮官に叩かれたくなければ起きろと言っただけよ?」

 

 さらりとネタばらしを呟く416。お前俺をダシに使うのやめろよ。仮にも同じ部隊の仲間だろ、ちゃんと我がの力で面倒みてやれ。ただ折角起こしてもらったところ悪いが、訓練や作戦の予定があればともかく、少なくとも今日の午前中は戦術人形たちに目立ったタスクが無い。ということでG11、もうちょっと寝ててもいいぞ。

 

「え、ほんと? やったぁ……指揮官ありがとう……えへへ……」

 

 別段、G11を贔屓しているわけではない。戦術人形はその個性は勿論、趣味趣向に至るまで実に多種多様である。G11のように惰眠を貪ることが一番の楽しみである者も居れば、ただ騒ぎたいだけの者、訓練に励む者、俺にちょっかいをかけてくる者等等、様々存在している。俺としては直接業務に差し障りが出ない限り、なるべく自由に過ごして貰いたいと考えている。それが巡り巡って作戦時のパフォーマンス向上にも繋がるからな。

 

「まったくこの子は……ああ、そういえば指揮官。昨日はごめんなさい」

 

 ニッコニコの表情で左右に揺れているG11を尻目に、416が突然の謝罪を繰り出してきた。昨日のことっていうと、もしかしてアレか。もしかしなくてもアレだな。ていうか記憶残ってるのかよ。あんな特大のダークネスエピソードに自分から突っ込んでくるとはこいつ化け物か。もしあの痴態を曝け出したのが俺なら恥ずかしくて謝るどころか話題に上らせることすらしないぞ。

 

「指揮官に付き合うと言ったのに飲み始めて直ぐに眠ってしまって……。普段ならあそこまでアルコールに弱くなることはないのだけれど、作戦後で疲れていたのかしら……」

 

 んん? おかしいな、俺と416の間で認識の齟齬が発生している。どういうことだろう、とちらりと視線を横にずらせば、そこには完全に無と化した表情に作り物の微笑を貼り付けたUMP45。

 あー、あーなるほどね、完全に理解したわ。そういうことね。こいつ酒が入って壊れたら完全に記録装置もバグるタイプだ。自覚症状が全く無いから、自分が酒に酔わされていることすら理解出来ていない。周りが何を言おうとも、自分の中では潰れて寝ているだけなもんだから分かるはずもない。ぶっちぎりでタチが悪い。ある意味で完璧な女だよお前。

 

 まぁ、ここは触れずにおくのが吉というものだろう。気にすることはない、と早々に話題を切り上げておく。朝一から希望が詰まっていないパンドラの箱に触れるのは勘弁だ。

 

 じゃあねー、という元気なナインの声を最後に、第三部隊の面々は司令室を後にする。G11に限らず、残りの3人も思い思いに今日の午前を過ごすのだろう。

 さて、俺は俺でやることをやらねばならない。作戦行動をはじめとした業務が落ち着いてきているのは事実だが、S02地区の件もあって今日は色々と俺の決裁が必要な書類が増えている。ちなみに、今日の朝に確認したところしっかりクルーガーから電子書類も届いていた。来月の支援物資の追加通知書のデータと、人形発注時にI.O.Pへ支払うコストを帳消しに出来るパスコードが3種。正確には帳消しではなくG&K本部が肩代わりする内容なのだが、うちとしてはどっちでもいい。

 こういうところが俺がクルーガーに信頼をおかずとも信用している証左だ。あいつはあいつで俺とは違う経歴を歩み、その分俺とはまた違った修羅場も潜ってきている。職業軍人と民間企業の社長じゃあ、その肩にのしかかる社会的なプレッシャーは比じゃないだろう。あいつも攻め手が上手いが、ギリギリのラインで守るところはしっかり守る。「自分から言い出した約束を反故にする」ことがどれだけの致命打となるかを理解出来ない男じゃないからな。

 まあ正直、この程度のご褒美は頂いておかないと俺も動くに動けなかったところもある。グリフィンで勤め出して分かったことだがこの会社、横の繋がりが馬鹿みたいに薄い。支部一つが管轄する地域も広い上に、業務用の自律人形、戦術人形、後方幕僚でそのほとんどの業務が支部内で完結してしまうのだ。より安全圏である支配地域の内地なんかでは複数の支部が連携して地方統治を行っているところもあるみたいだが、うちみたいな前線支部はそうもいかない。内情はどうあれ、同じ前線支部であったはずのS02地区の連絡先すら情報としてなかったのもここにある。良くも悪くも他所の支部と関わりを持つ必要性が無い。むしろ環境の差なんかが表沙汰になると余計なトラブルを招きかねない。うちの支部にタイプライターが支給された時も本部はどうか知らんが、少なくともうちの支部に無駄なクレームや陳情なんか一通も届いていない。そんな些細な情報、発信すらされていないのだろう。

 

 だが、それはそれでメリットもあるが、同時にデメリットもある。今回のように一つの支部が速攻で潰された場合、近隣の支部で連携が取れない。情報取得の手段を本部に一本化してしまっているせいで、情報の精度が高い分拡散の速度がどうしても犠牲になる。今までは鉄血側が纏まるなんてことがなかったからこれでもよかったんだろうが、今後はそういうところも見直していかなきゃならんだろうな。ま、そこら辺はクルーガーの手腕に期待しておこう。状況の変化を見逃すほど馬鹿じゃないしなアイツ。

 

 そうだ、折角だしこのパスコード、今日注文して使ってしまおう。救出した2体の戦術人形もAI初期化をかけるせいで最適化工程もリセットされるし、教育は同時に行う方が効率もいい。どっちにしろ頭数は確保しておきたかったからな、丁度いいところだ。しかし大丈夫なのかこれ、I.O.P社への電子申請はその選択内容によってかなりの物資が吹っ飛ぶ仕様になっているが、メールの文面を見る限り、このパスコードに発注時の資源上限は特に設定されていないようにも思える。

 

 ま、いいか。仮にミスだとしてもそれは設定していないクルーガーのミスだ。俺が気にするところじゃあない。とういうことでポチっとな。午前中に発注かけておけば明日には届くだろ。前回みたいに襲撃でオジャンになるなんて事態だけはやめて欲しいが、こればっかりは祈るしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官さま! 新しい戦術人形が到着したみたいですよ! しっかり3名のようです!」

 

 午前中にさっくりと書類の整理と決裁を終え、昼食を取り、午後にm45とIDWのAI初期化に立会い、そんで第三部隊の教練にも立会い、またメシを食い、新規の人形とm45やIDWの教育訓練をどうするかなとデスクで唸り、程よい眠気に襲われて就寝し、迎えた翌日。カリーナが新たな来訪者を確認し、その声に喜色を含んで報告してくる。よしよし、今回は人権なんちゃら団体に襲われることもなく無事到着したようだ。というか、何だかんだ俺が着任してから発注した新規の人形って今回が初めてじゃないか? 別に俺はコンソールをポチポチしただけで生みの親でもなんでもないんだが、果たしてどんな奴らが来るのか、ちょっと楽しみになってきたな。

 

 通してくれ、とカリーナの声に返答し、ニューフェイスの登場を待つ。前回と違い、今司令室に居るのは俺とカリーナの2人に加えてM4A1、M16A1、スコーピオン、UMP45の4体だけだ。昨日は訓練などもあって全員に召集をかけるのを忘れてしまっていたので、とりあえず朝方に声をかけ、各部隊の隊長格にだけ来てもらった。M16A1は何故か引っ付いてきた。なんでだよ。

 

 短い電子音が鳴り響き、司令室前の正面ゲートが開く。いよいよご対面というやつだな。開いたゲートから、3人分の影がこちらに歩を進めてくる。完全にゲートを潜り、お互いの表情までしっかりと読み取れる程度の距離に近付くと、彼女たちは一斉にその足を止めた。

 

 

 

 

 

「ダネルNTW-20だ。鋼鉄の壁であろうとも、この私が貫いて見せよう」

「はじめまして指揮官。このMG5は、今日からあなたのものだ」

「あんたが新しいボスか。シカゴタイプライターだ、夜露死苦!」

 

 

 どうしよう。なんかめっちゃ強そうなの来た。




強い(震え




一応、本作品内で登場する戦術人形は筆者が日本版アプリで実際に獲得している人形に限定しています。なので、日本版未実装の人形、筆者が取得していない人形は出てきません。

つまりネゲヴもPKPもMG4もPKも出ないんだ。すまんな。
もし今後出てきたらそういうことだと思ってほしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 -コピーズ・ブートキャンプ-

今回の訓練にはなんとあの方が来て下さいました!


 強い。圧が強い。なんだこれ。こいつら3人とも最適化工程1%の戦術人形であってるよな。この場に居る誰よりも弱いはずなんだが、この場に居る誰よりも強そうに見える。おかしくない?

 戦術人形が一体一体その個性を存分に持っていることは今所属しているやつらを見て分かっていたつもりだが、そっかぁ、こういうタイプも居るんだなあ。一周回って新鮮だ。というか、本来は戦場でバリバリ働くために生み出された代物である以上、こっちの方が正しいのかもしれない。俺も知らず知らずのうちにこいつらに毒されていたやもしれん。仲良しこよしのなあなあ部隊にしているつもりは毛頭ないが、ちょっと改めて気合を入れるか。

 とか思ってたら最後に名乗りを上げたシカゴタイプライターがくつくつと笑い出している。おーおー、威勢のいい跳ねっかえりって感じだな。元気があるのはいいことだ、シバき甲斐がある。ていうかお前が持ってるのトンプソンだよな。シカゴタイプライターってのも間違っちゃいないがギャングかよ。

 

「いや、悪い。車椅子に乗ったボスってのは想像していなくてな」

 

 まあ、そうだろうなあ。俺だってこんな姿で生き長らえるなんて考えてもいなかったよ。人知れずどっかでくたばってるもんだとばかり思っていたからな。

 彼女の言葉ににべもなく返せば、またくつくつと繰り返される笑い声。こいつ中々いい性格してんな。ここの連中とソリが合うかと問われれば微妙かもしれんが、俺個人としては嫌いじゃない。

 

 トンプソンとの会話も程ほどに、俺も一旦場を締めて自己紹介をしておこう。あわせて、当面の予定も伝えておく。というのも、周辺一帯の鉄血人形を綺麗に片してしまったせいで、しばらくはこれといった作戦がない。S02地区の時のようなイレギュラーが起こればまた話は変わってくるが、あんな事件が早々何回も起きてもらっても困る。そしてこの3人と同様にm45、IDWの2体も最適化工程が1%なわけで、このままじゃマトモに戦場に立つことも出来ない。俺としてもしばらくは纏まった時間も取れそうだし、AR小隊の時ほどじゃないが結構なウェイトを教育訓練に割こうと考えているのだ。404小隊への教導が少し滞ってしまうが、あいつらは現時点でそれなりに動くことが出来る。更なるレベルアップも当然見越していくべきだが、まずは動かせる駒を多く作っておかないと今後の作戦に支障が出てしまうからな、悪いが新人教育の方が今は優先度が高い。

 

「私はそれでいいわよ指揮官。ちょっと残念だけど、きっと皆も納得すると思うし。まずはヒヨっ子さんたちをしっかりと育ててあげないとね?」

 

 当面のプランを伝えたところ、当事者の一人でもあるUMP45からは賛同を得られたようだ。しかしお前ヒヨっ子て。俺から見ればお前らもどっこいどっこいだぞ、とは思っても言わない。ここで俺がその発言をしてしまうと、下手をすれば新人たちがUMP45のことをナメてしまう可能性がある。直属の上司は俺だし、配下の人形たちに上下をつけるつもりはないが、現状新人の3体はこの支部内ではブッチギリで最弱だ。上下関係という程のものではないにしろ、力関係はしっかりと理解してもらわないとダメだ。それは指揮命令系統だけに限った話じゃない。そしてUMP45の言葉を聞いてか聞かずか、トンプソンの笑いがいつの間にか消えている。代わりに表に出てきたのは如何にも好戦的とも見える表情。おおっと、UMP45の言葉で火がついたか?

 

「すまない、指揮官を悪く言うつもりでは決してないのだが……その、見る限り片足を喪っているようだが」

 

 あー、うん。言いたいことは分かるぞダネル。何か416とのやり取りを思い出すなこれ。

 対物ライフル、NTW-20がその表情に若干の申し訳なさを混じらせながら言葉を紡ぐ。確かに俺は過去の戦場でどじを踏み、片足を喪った元傭兵だ。そんなやつに戦術人形の指揮官が務まるのか、というダネルの指摘に間違いは無いどころか至極尤もだ。ただまぁ、確かに人間ってやつは人形に比べると非常に脆弱で能率も悪いが、なんだかんだなるようになる驚異的な柔軟性も持ち合わせている。少なくとも今ここでドンパチが起こったとして、今のお前らには負けんよ。俺の教育を受けてればすぐに俺なんかぶっ殺せるようになると思うけどな。

 

「ほう……面白いじゃないか。上手く私を使ってくれることを期待している」

 

 最初の挨拶以降だんまりを決め込んでいたMG5が、トンプソンとはまた趣の違う笑みを浮かべていた。んー、なるほど。まだ印象でしかないので確信とまでは行かないが、こいつは自身がMG5であることに自負と自信を持っている感じか。いい意味で自分自身が人形であり武器であることを理解していると見た。416とはまた違った方向でストイックなイメージだな。

 

「なぁボス。早くその訓練ってヤツで私を楽しませてくれよ」

 

 ギラギラとした目付きを隠そうともせず、トンプソンがずずいと前に一歩出る。注意深く視線を追えば、俺というよりは先程の発言からずっとUMP45を意識しているようにも思えた。ていうか、そのボスっていう呼び方何とかならない? こいつの見た目も相俟って物凄いギャングっぽくなってしまう。おじさんそんな不良じゃないんだけどなあ。

 ま、いいか。ちゃんと締めるところさえ締めてくれれば呼び方くらい。というわけで新人クンの折角のやる気を削ぐのも悪いので、基礎的な射撃訓練から早速やってみようかな。重要かつ緊急性のある書類は昨日のうちに全て片付けたし、早々新しいトラブルなんて舞い込んでこないだろう。そうだ、訓練するならm45とIDWの2人も呼んでおかないとな。んー、スコーピオンでいいや、同じサブマシンガンのよしみだ、ちょっとあの2人を射撃訓練場まで連れて来てくれ。多分今なら宿舎に居るはずだ。

 

「はいはーい了解。あ、折角だしアタシも横で射撃訓練しててもいい?」

 

 おお、珍しいな。別にスコーピオンは訓練が嫌いなタイプの人形じゃないが、このように積極的に参加するタイプでもない。恐らくだが、新人という名の後輩が増えたことでいいところを見せたくなったんじゃないかと思う。こいつそういうの好きそうだし。

 勿論、断る理由なんて何一つないので俺は二つ返事で了承する。いやぁ、切欠が何であれ訓練に前向きに取り組んでくれるってのは教える側からすれば非常にありがたい。なんだかんだスコーピオンもまだまだ伸びしろのある人形だ。最適化工程こそ第一、第三の面々に遅れを取っているが、こいつの持っている運動性能は半端じゃない。リアルに弾丸を見てから避けるやつって俺初めて見たかもしれん。未完成の状態でこれだ、こいつが極まってくればSOPMODⅡ以上に戦場を縦横無尽に走り回るトンデモマシーンが出来上がると思っている。それにぶつくさ言いながらも面倒見も悪くないし、第二部隊の隊長として着々と成長している実感がある。あとはもう少し落ち着きと広い視野を持てるようになればきっといい隊長になるだろう。

 

 

 

「では指揮官。折角ですし私もお付き合いしますね」

 

 ニッコリと微笑を湛えながら、M4A1が動いた。いや今更お前に基礎的な射撃訓練なんぞ要るか? 絶対要らないだろ。何が折角ですし、だ。その内訳がサッパリ不明である。

 

「そうだなあ、じゃあ私も付き合ってやるか」

 

 お前はもっと要らないだろ。そんなことしてもお前の最適化工程は1%も進まんぞ。

 

 

 いや、待てよ。これはもしかしたら使えるかもしれん。その時、おじさんに電流走る。

 M4とM16の2人には、俺の訓練の補佐についてもらうってのはどうだろうか。正直、俺一人で全員の面倒を一気に見るのはかなりキツい。射撃の基本を教えようにも足がないものだから一回一回誰かの肩を借りなきゃいけなくなるし、そもそもこの支部にある射撃訓練場は、ここにいる全員が一斉に撃てるほどレーンがない。訓練の順番待ちとかいう訳の分からない事態が発生する。こいつらの主武装はアサルトライフルだから新人の誰とも武器が被っちゃいないが、スコーピオンやUMP姉妹は自分が扱う分はまだしも、誰かに教えられるほど習熟はしていないし、教え方もよく分かっていないだろう。

 だが、第一部隊の連中は文字通り別格だ。こと局地戦闘下の効率化においては俺なんかよりも出来るようになっている。それを他の人形へ曲がりなりにも教えることが出来れば、もっと効率的に部隊の錬度を上げていくことが可能だ。失敗する可能性も高いが、やってみる価値はある。流石に対物ライフルやマシンガンを教えるのは無理があると思うので、手始めにトンプソンとm45、IDWに関してはこいつらに補助してもらおう。やってみてダメだったら今まで通り俺が教えればいい話だしな。

 

「ええっと……私なんかでいいのでしょうか……?」

「私はやってみたいと思うぜ。面白そうだ」

 

 そんな構想を話してみると、2人の反応はやや対極的だ。ただ、M4に関してはやりたくないというより遠慮とかそういう割合が強そうだな。嫌というわけじゃなさそうだ。ま、モノは試しだ、やるだけやってみて損はないと思うぞ。ということで、早速射撃訓練場に移動しようか。スコーピオンはさっき言ったとおりあの2人を連れて来てくれ。あとついでにカリーナにスケジュール伝えといて。よろしくー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うにゃあああ!! 無理だにゃ! もうこれ以上無理だにゃああ!!」

「はぁ……はぁ……はぁ……ッ」

「無理ではありません。出来ます。IDWさんは初弾の精度は高いのですが、大体5発目以降から着弾点が2cm程ズレてしまっています。折角の電子制御なのですから、反動の制御は完璧にしておきましょう。m45さんは射撃の際、どうしても下半身がぶれているように思えます。しっかりと自身で扱う銃のことを義体に教え込まなくてはいけません。さぁもう一度」

「うにゃああああああああああああああ!!!」

「あいッ痛! いっで! ちょ、ちょっとストップだ姉御!」

「黙って従えトンプソン。お前は弾をバラ撒くのが好きなようだが、そんな格好でまともに弾が飛ぶと思うなよ。このッ姿勢でッ動かずにッ撃つんだよッ! 一ミリでも動いたら最初からやり直しだからな?」

「ムチャクチャだぜそんなの……」

「ムチャクチャなわけあるか。なんのための義体だよ、しっかり叩き込め。私は出来る」

「う、嘘だろ……」

 

 鬼かよ。

 射撃訓練場についてから、俺はダネルとMG5の2人を、M4とM16にはサブマシンガンの3人を見てもらうことにした。こちらは両者とも基本がバイポッドを立てての伏せ撃ちなため、最適な姿勢を教え込むために俺も地面に転がっていたのだが、IDWの奇声が突如響き渡り何事かと思って振り向いたらコレだ。

 あいつら、なまじ自分のレベルが高い分しょっぱなからそれを前提にして教えようとしている。1歳の赤ん坊にコマンドサンボを教えるようなもんだ。無茶苦茶すぎる。こればっかりはトンプソンの叫びが正しい。その横ではスコーピオンが「近寄らんとこ」みたいな顔で無心に的当てをしていた。そりゃ関わりたくないに決まっている。あいつの性格からして、出来れば助け舟を出したいところなんだろうが、そうすると自分が巻き込まれる可能性もあるからな。いい判断だ。

 

 こりゃ俺が助けるしかなさそうだ。というか、折角AI初期化までしたのにまたあいつらに新たなトラウマを植え付けられても困る。トンプソンだってうちの貴重な新人だ、潰されでもしたらたまったもんじゃない。ダネルとMG5にはとりあえずの基本姿勢を教えて、それで少しの間反復射撃をしてもらいつつサブマシンガンの3人は俺が最初から見直そう。

 結局俺が見ることになるんじゃん。いやまぁ正直予測はついていたんだが、こんなぶっ飛んだ結果になるとは思わなかった。あいつら人形がどうこう以前の問題だな、性格が教育に向いてなさすぎる。M4A1は416がドン引きするレベルの完璧主義だし、M16A1はがっつり自分の型に嵌めこまないと気がすまないタイプだ。それがハマる相手ならいいが、それ以外だと地獄でしかない。ということでさっさとあいつらを止めよう。取り返しがつかなくなる前に。

 

「あ、指揮官。ど、どうでしたでしょうか……? 結構、自信あったんですけど……」

「いやぁ、他の人形に銃の扱いを教えるってのも案外悪くないもんだな!」

 

 お前らどの口が言うわけ? ちょっと晴れやかな顔しやがって。ただまぁ、結果はどうあれこいつらに頼んでみようと思い付いたのも、実際にやらせたのも俺だ。こいつらの不出来を責めるわけにはいかない。そもそもが不利な賭けだったしな、致し方なしか。とりあえず教えている内容自体は間違ってはいないが、それは最初から求めるものじゃない、少し技術の差に開きがあり過ぎたから、ヒヨっ子どもがもっとマシになったら改めてお願いしてもいいかもしれない。みたいな感じで濁しつつAR小隊の2人をこの場から引き剥がそう。つーことでお前ら一旦帰りなさい。サブマシンガン3人の目が完全に怯えてるから。

 

「……すごいな、あの2人は……」

 

 伏せ撃ちの姿勢から首を回し、驚いたような表情で呟くダネル。いや、確かにあいつらはスゴイんだよ? そこは否定出来ない。でも多分俺が感じているあいつらのスゴさと、ダネルが感じているスゴさはかなりベクトルが違う。俺からは気にするな、としか言えなかった。

 

 さて、気を取り直して教練を改めて開始するとしよう。幸いあの2人は、射撃姿勢自体は概ね正しいものを教えている。ただ、アサルトライフルとサブマシンガンでは基本的に求められる役割が違う。IDWで20メートル先のターゲットに着弾点をフルオートで重ねろって無理難題にも程がある。あいつはサブマシンガンにスナイパーをやらせる気か。

 

 

「ああ、そうだお前たち」

「忘れるところでした」

 

 俺から一時離脱の指示を受け、その場を去ろうとしたキチガイ教官2人が同時に振り向いた。その動きに合わせてサブマシ3人の肩が縦に揺れる。おいおいおい完全にトラウマ植え付けられてんじゃねーか。ヘルプが遅かったか。

 

「指揮官は、もっと厳しいですよ?」

「片足を喪っているからってあまりナメてかからない方がいいぞ」

 

 最後の最後に変な言葉を残して2人は去っていってしまった。その情報今要る? 要らないでしょ。100パー要らないでしょ。萎縮させちゃうだけでしょ。何なの君たち。あいつらのことだから別に新人を苛めてやろうとかそういう邪な考えはしていないと思うが、それにしたってもう少し空気読もうよ。おじさん困っちゃうだろ。

 

 ため息を吐きながら視線を戻すと、ふとトンプソンと目が合ちょっと逸らさないで。待って。俺あんなキチガイじみた教練なんてしないから。確かに訓練中の甘えは許さないが、あいつらの言う厳しさとこいつらが想像する厳しさの次元が違う。大いなる誤解が発生してしまっているぞ。ていうか最初のあの強気なシカゴタイプライターはどこに行ってしまったんだ。帰ってきて欲しい。

 

「し、指揮官……優しくしてほしいにゃ……」

「あ、あのっ私頑張りますから……ですから……」

「ボス、私が悪かった。お手柔らかに頼む……」

 

 絵面がヤバい。おじさん相手に途端にしおらしくなる美女3人とかヤバいにも程がある。事案じゃねーか。俺にそんな趣味はありません。

 

「ふふ、そうだ。それでこそ、私を扱うに足る指揮官というものだ!」

 

 反復射撃を終えたMG5が抑えきれない喜色を湛えて声高に喉を鳴らす。うん、全然悪いこっちゃないんだが、この子はこの子で何か突き抜けてるな。今までそんなに沢山見てきたわけじゃないんだが、戦術人形って癖のあるやつしか居ないのか?

 

「その、なんだ……指揮官も、すごいんだな……」

 

 いや、俺は凄くないから。普通の元傭兵のおじさんだから。

 ただ、ダネルとMG5は最初から俺が見ていたためか、その印象はどうにか保たれているようだ。少なくともこいつらみたいにビビってはいない。これで5人ともあいつらに任せていたらと思うとゾッとする。今後とも教練はなるべく俺一人で担当しよう。負担は増えるが、まぁ基本的に戦術人形は優秀だからそこまでてこずったりはしないはずだ。それに、片足の自由が利かない状況で大勢を見るとなると相応の時間がかかってしまう。その時間を担保出来るタイミングも早々ないだろうからな。折角ある程度の融通が利く時期なんだ、有効に使わなければいけない。

 

 よし、あまりぐだぐだしていても時間が勿体無い。気を取り直して教練を再開するか。サブマシンガンの3人は基本の射撃姿勢をある程度仕上げて、ダネルに関しては出来れば風の読み方や偏差射撃まで進んでおきたい。MG5はピカティニーレールが活かせるから、制圧射撃の他に点射なんかを教えても面白いかもしれないな。

 うーん、前々から思ってはいたが、いい加減車椅子が不便になってきた。改めてペルシカリアに相談してもいいかもしれないな。自分が動きたいとかそういう欲求以前に、純粋に効率が悪い。

 

 まぁ、そこらへんを考えるのは今日の訓練が終わってからにしよう。しっかし、最適化工程1%の新人5人か。AR小隊の時を思い出すなあ。何だか少し懐かしい気分になってきた。そう考えるとテンションも上がってくるな。今日一日でこの5人をどこまで伸ばせるか、ちょっと頑張ってみよう。おじさん頑張っちゃうぞー。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官ー!? アタシも見てほしいんだけどー!?」

 




自分が出来ることは皆出来る! みたいな精神持ってる人、居ると思います。筆者は嫌いです。





で、ちょっと最近、思い付いたら書いて更新しなきゃ! みたいな感じになってしまっててあまりよろしくないなと感じているので、今後もしかしたら不定期になる可能性があります。元々前作が終わった段階で一段落ついてるはずの話なので。

あんまりネタを引き伸ばして中身の薄い更新もしたくないですし、進めるにしろ日常にしろ、ある程度思い付きが固まってから落としていこうかなと思います。

そこらへん、見て頂いている方々としてはどちらの方がいいんでしょうかね? アンケートを取るまでもない内容だと思うので、気が向いた方は活動報告なりメッセージなり感想のついでなりで教えて頂けると参考にしたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 -フルアーマーおじさん- 前

タイトルで既にオチている気がする。

今回場面はほとんど進みませんが、戦術人形について本作品内での独自要素が含まれます。
この世界ではこうなんだ、くらいで読んでいただければと思います。


 うーむ、めちゃくちゃ疲れた。やはり片足を喪った状態で一気に5人の面倒を見るのは正直かなりキツい。継続するのはほぼ不可能と見ていいだろう。お勉強ならともかく、実戦的な内容となると今の状態じゃ俺の役者不足感が半端ない。かといってM4やM16を見る限り、人形に教官をやらせるってのはまだまだ難しそうにも思える。参ったな、割と早い段階でどうにかしないと今後規模が拡大した時に色々と追いつかなくなってしまう。新人を増やすペースを落とせと言われれば勿論なんだが、いくら一帯の安全がとりあえず確保出来たからとは言え、いつまでもその状態に甘んずるのはよろしくない。つーかそもそも、俺の采配で現状何とか誤魔化してはいるが、前提として戦力は全く以て足りていない。これっぽっちの人員で地域一帯の治安維持を図るなんて土台無茶である。AR小隊と404小隊という二枚看板が居るからどうにかなっているだけだ。属人的なシステムでは今後の拡大は見込めない。これは軍隊だろうが会社だろうが組織である以上は同様だな。

 

 新人5人の教育を一斉に引き受け、一夜明けた翌日。昨日は結局射撃訓練の後、俺がちょっと張り切ってしまったこともあって追加でドラグノフも呼んで作戦報告書を使った基礎知識の座学を行ったのだが、ダネルとMG5の2人はその過程でかなり最適化工程が進んだ。もうちょっと教え込めばダミーを2体操れるレベルにまで到達しそうである。トンプソン、IDW、m45もとりあえずダミーを1体操れるようにはなったが、どちらにせよまだまだ基本的なところから教え込んでいかなきゃいけない。幸先は良いが、道のりは長い。

 何体か教練を受け持って分かったんだが、戦術人形ってのは最初の飲み込みは皆例外なくかなり早い。ダミー1体を動かせるレベル程度であれば、教え方さえ間違わなければ文字通り一瞬で辿り着ける。そこらへんは改めて人間との違いを思い知った。ベースが電脳だから基本の吸収は恐ろしく早いのだ。

 ただ、俺基準で言うと新人に毛が生えた程度から半人前くらいのところから、AIによってその成長速度が徐々に変わってくる。同じ内容を教え込んでいるはずが、その習熟度に小さくない個体差が生まれてくるのだ。基本のつくりが同じ電脳のはずなのに、どうしてこんな差が生まれるのか、これが分からない。俺は技術者じゃないからなあ。

 

『あー、それは人形ごとに電脳のスペックに差異があるからだよ。人間と同じだね』

 

 そんな俺の疑問に答えてくれたのは、通信デッキ越しで眠そうにマグカップを啜る稀代の天才技術者、一枚皮を剥けば生活力皆無のダメウーマン、16Labの主任研究員ペルシカリアだった。相変わらずその顔に決して薄くない隈を浮かべて精力皆無の顔付きである。しかしながら、やっぱりこいつ顔がいい。相変わらずタイプの顔だ。世の中ちょっと不公平すぎやしませんかね。

 

 俺が今ペルシカリアに通信を飛ばしている理由は3つ。

 先日回収したハイエンドモデルの電脳と武器から何か有用な情報が得られていないかの確認、戦術人形に対する理解を深めるための質問、俺の義足に関する注文だ。

 

 先ず一つ目、ハイエンドモデルからの情報収集だが、結果から言えばこれは完全な空振りに終わった。というのも、I.O.P社が電脳の解析を行おうとしたところ、権限のない外部アクセスを拒否するプロテクトが発動したとのことだ。そのプロテクト自体は大したことがなかったらしい。非常に簡単な壁の一種で、その道のプロとは言わずとも、それらの技術をかじったヤツであれば早くて1分、遅くとも5分あれば突破出来るようなやつ。優秀な研究員が複数在籍しているI.O.Pの技術開発部門の連中であれば、それこそ数十秒で解析、突破出来るような代物らしかった。

 だが、それはアクセスを弾くのが目的のプロテクトではなく、その数十秒を稼ぐためのものだったらしい。プロテクトが発動した瞬間、電脳が物理的に焼き切れてしまい何の情報も得られないままショートしてしまったそうだ。おそらく、情報漏えいを防ぐために不正なアクセスが検知された瞬間、時間稼ぎのダミーと人為的なオーバーカレントを発動させるプロテクトだったのだろう。情報の削除や単なる防壁ならともかく、物理的に焼き死んだのでは手の施しようがない。無駄に凝ったコンプライアンス遵守の姿勢である。グリフィンにも見習ってほしい。国家がその役割を果たさなくなっているとはいえ法律はあるんですよ。あのヒゲ分かってんのかな。

 まあ出来なくなったことは仕方がない。一方、武器の方はI.O.P社では実装されていない技術が結構盛り込まれているらしく、研究員の皆も割とテンションが上がっていたそうだ。そりゃ鉄血工造自体はI.O.P社とそのシェアを二分していた自律人形業界の大企業だ。そんなライバル企業の技術がふんだんに盛り込まれているであろう逸品である、そのクチの連中なら喉から手が出るほど欲しい情報だろう。ここに関しては詳しい解析が終わり次第、現行の武器に何かしらフィードバックが出来るかどうか試したいとのことで、結構な時間を貰いたいらしい。そこに関して俺も文句はない。うちの支部がそれを抱えていたとしても宝の持ち腐れ以外の何物でもないからな。出来ることならその成果ってやつが有用であればうちに口利きしてもらいたいところだが、まぁそこはクルーガーに任せよう。俺個人で企業との取引窓口なんかやりたくない。

 

 で、ハイエンドモデル関連の話に一段落付き、戦術人形のことについて色々と質問を飛ばしていた時に得られた回答がアレだ。うーん、一般的な商品のようにかけるコストや出来栄えでブランド分けをするというのならまだ話は分かるんだが、話を聞く限りそういう前提でもないようにも思える。電子申請のコンソールでは確かに幾つかの選択によっては掛かる物資的コストが異なってくるが、それが出来上がるAIのランクに直接左右されているわけでもないらしい。どういうこっちゃ。

 

『銃も同じよ。全く同様の製造工程を辿っても不良品が出てきたり、頑丈なやつが出来たりするでしょう? AIの場合はそれが更に複雑かつ特殊でね、大部分はライン化されているけど、一部分はどうしてもハンドメイドみたいな仕上がりになるのさ。その内容までは社外秘だけれどもね』

 

 そりゃ当然だわな。自律人形の電脳作成工程と言えば、素人でも分かるくらいにはその企業のトップシークレットで然るべきだ。間違っても俺みたいな一般人に漏らしていい内容じゃない。

 

 で、更に話を聞くとどうやら俺の考えていた前提は逆だったようで、発注を受けてからランクを定めて製造するのではなく、発注を受けて製造して、電脳部分の出来栄え次第でリンクする銃器タイプやランクを決めているらしい。一部の例外はあるが、基本的にこのランクが電脳の優秀さと見て概ね問題ないそうだ。はーん、だからコンソールにもそこらへん曖昧な表記しかなかったわけか。人形の指定は出来ないが概ね選択内容に沿った人形が送られてくる、というのはつまりこういう事情があったわけだな。なるほどおじさん納得。

 じゃあ今回やってきた3人ってどれくらいの出来栄えのやつらなんだろう。ダネルとMG5は何となく成長が早そうだなーとは思ってるけど。

 

『……ダネルNTW-20にMG5、トンプソン? いやぁ、何というか……豪運だねえ……』

 

 やってきた人形のことを伝えれば、ペルシカリアは珍しくその表情に驚きの色を湛えていた。えっ何そんなにヤバいの?

 話を聞いてみれば、こいつら3人とも最高ランクの電脳にリンクされる武器種のようだった。マジかよ。電脳のランクはその性能において概ね4段階に分類されるらしく、3人とも最高位であるランク5の人形らしい。牛かよ。ただ、それを聞けばダネルとMG5の吸収が早いのも納得だな。トンプソンも同じランクのはずなんだが、AR小隊の教練が足を引っ張ってパフォーマンスを発揮出来ていないんだと思うことにした。

 とはいえ、俺としてはそのランクで人形に対する扱いを変えるつもりはない。全員しっかり一人前に育ててやるつもりである。むしろ出来不出来なんて人間教えてた頃から考えればあって当たり前だ。その程度で部下を選別するような輩になりたくないしなあ。

 

 しかし、しっかり全員を一人前に育てるには現状があまりにもよろしくない。教練が必要な数に対して、俺のパフォーマンスが完全に追い付いていないのだ。当然時間をかければ出来ることではあるんだが、じゃあその時間をどこから捻出するのかって話になる。別にプライベートを重視したいとかいう話じゃないが、睡眠時間や食事まで削り出すとそれこそ本末転倒だ。更にパフォーマンスが悪化する。

 ということで、いい加減俺の機動力を復活させようと思ってのペルシカリアへの相談なわけだ。俺自身が戦場に立つようなことはもう勘弁願いたいが、そうならないためにも戦術人形たちへの教育訓練は抜かりなく行っていかなければならない。そのためにはやはり五体満足が一番効率がいいのである。

 

『おっ本当かい? どうしようかな、君の元軍……失礼、元傭兵の経歴を思えば、機動力に優れる逆関節型なんかお勧めなんだけど。それか両足ドッキング式の四足歩行型にしちゃう? 頑強さと機動力を兼ね備え、耐重量性にも優れた一品だよ?』

 

 やめろ。普通のにしてください。途端にテンションが上がりだしたペルシカリアを宥めてこちらの注文を伝えていく。というかなんだよ逆関節とか四足歩行とか。俺は普通の人間だぞ。人形を改造するのと同じノリで俺の義足にあれこれ要らん性能を付け加えようとするのやめて欲しい。

 とは言っても、訓練とはいえ俺もそれなりに激しい動きはする予定なので、それに耐え得る義足にはしてもらいたいところだ。耐久性は外せない要素だろう。あとは筋肉と同じように多少のしなりというか、柔軟性も持ち合わせてもらえればよりグッドだ。軽量化もありだろうが、あまりに左右の足で重さの感覚が違うと慣れるのに時間がかかるし、咄嗟の動きがかえって出来なくなる可能性もある。現役時代以上の運動能力を求めているわけじゃないので、そこらへんは人間の足と同程度の重量に調整してもらいたい。

 

『それくらいでいいの? シークレットナイフとか飛び出すようにしなくていい?』

 

 だから要らないっつってんだろ。どこぞの格闘漫画かよ。キャリングハンドルはあってもいいかなとちょっと考えたが、現状義足をつけるとしたら膝下からになる。そんなところにあっても逆に取り出しにくい。やっぱり普通のやつでいいや。

 

『ちぇー、分かった分かった。でも普通に作るにしても、今の君に合わせたやつを作らないといけないから、一度身体測定はしておきたいかな。こっちにくる機会とかある?』

 

 なんでちょっと残念そうなんだよこの残念美人が。だがまあ、言ってることは至極尤もだ。製作するサイズは勿論、体格や筋肉量、足の長さなんかもちゃんと測っておかないとな。いざつけたときに真っ直ぐ立てないとかいう笑い話にすらならない事態は避けたい。

 俺が支部を空けてしまうことには少々不安が残るが、まぁなにも泊まりで行くわけじゃないし、半日くらいならカリーナが居れば十分基本的な業務は回せるだろう。周辺に新たな鉄血の存在も確認出来ていないし、逆に言うと今のタイミングでしかそんな時間は確保出来ない。善は急げとはよく言ったもんだ。というわけでなるべく近日中にその身体測定をしておきたいんだが、ペルシカリアの予定はどうだろうな。

 

『そういうことなら明日にでも早速来てもらって大丈夫だよ。君としても早く終わらせておきたいんじゃない?』

 

 ありがたい申し出である。言われた通り、こういうのは早く終わらせておく方がいい。思い立ったが吉日じゃないが、後回しにしていると忘れたりそれどころじゃなくなったりするからな。特に今は鉄血人形との言ってしまえば戦争中だ。準備出来ることは出来るうちにしとかなきゃね。ということで早速明日お邪魔させてもらうとしよう。

 

 いやあ、たかだか一民間軍事企業の前線指揮官程度が押しも押されもせぬ大大大企業、I.O.P社の技術開発部門主任研究員様とこうやって対等とは言わずとも、気兼ねなく話が出来るなんて普通は考えられないことである。間違っても俺個人の力じゃないが、折角持ち合わせたコネクションだ、使えるものは使っておかないとな。しかしただお世話になるだけってのも何だか味気ない、手土産でも持っていくか。確か配給物資の中に、ゲロ不味い珈琲色の泥水を乾燥粉末化させた代物が混じっていた気がする。ペルシカリアなら多分飲むだろ。俺をはじめとして基地の誰も口にしないので処分に困っていたところだ。

 

 さて、早速明日外出する手はずを整えておかなければ。カリーナには後で伝えておこう。それとは別に移動のための車両と運転用自律人形、あと俺の護衛も立てておかないといけない。右足は無事だから運転出来なくはないんだが、無駄なリスクを背負う必要もないしな。

 ふーむ、護衛には誰を選ぶか。会うのがペルシカリアということもあって連れて行くならAR小隊の誰かになるだろうが、長旅でもないちょっとした外出、それも俺の個人的な用事で4人とも連れ出すのもなあ。M4A1とM16A1は訓練でも一緒になったし、AR-15とは酒盛りもしたし、そうだな、SOPMODⅡにしよう。なんだかんだあいつとは最近話出来てないからな、ちゃんと部下には平等に接していかねばならない。

 

「指揮官ー! あそぼーー!」

 

 おおっと、噂をすれば何とやらとでも言うのか、司令室のゲートを潜って元気良く飛び出してきたのは明日の護衛をお願いする予定のSOPMODⅡであった。丁度いいタイミングだ、今お前と遊ぶことは出来んが明日はちょっと俺に付き合ってもらいたいことを伝えておこう。

 満点の笑顔を湛えながら車椅子に飛び込んでくるSOPMODⅡをまずは両手で迎え入れ、同時に右足で地面を後ろに蹴る。蹴り出された力は車椅子の車輪を動かし、SOPMODⅡの突撃の勢いをいい感じに相殺してくれる。最近覚えた圧力の分散方法だ。後ろに壁があると使えないのが難点だが、幸いこの司令室そこそこ広いしな。そうやって彼女を膝元に迎え入れ、頭を1、2度乱暴に撫で上げてやれば大体こいつは満足する。その隙を突いてグッと力を入れて押し戻せばちゃんと自立してくれるのでありがたい。

 

 立ち上がらせたSOPMODⅡに明日の予定を伝えると、喜色をあげて了承を返してきたのも束の間に、その表情を神妙な面持ちに変えて何かを考えるような素振りに移る。何かマズいことでもあるのだろうか。こいつは普段でこそおちゃらけている場面も多いが、腐っても優秀なAIを持つAR小隊きってのアタッカーである。俺の外出予定を聞き、俺では思いつかない不安要素を感じ取ったのかもしれない。

 

「……指揮官」

 

 やはり、俺の外出で何か問題が起きる可能性が高そうだな。何時になく真面目な顔付きのSOPMODⅡに釣られてか、俺も思考回路が一気に冷える。周辺に鉄血は見当たらない、支部の運営も短時間であればカリーナで対応出来る。うーん、カリーナへの負担が問題になるか? 仲間想いの彼女のことだ、そこまで想定していてもおかしくはない。あるいは、俺が把握出来ていない人形同士のトラブルなどもあるかもしれない。もしそうであれば今後の作戦に支障をきたす恐れもある、SOPMODⅡが何か掴んでいるなら情報の共有をお願いしたいところだ。

 

 

 

 

 

「それってもしかして、デートのお誘いってやつ?」

 

 とりあえずデコピンしといた。




SOPMODⅡちゃんはかわいいなあ。


指揮官おじさんの足、どっちにするか結構悩んでたんですが、多分彼の思考回路だとこうなるだろうな、と思ったのでこうすることにしました。
四脚おじさんとかちょっと見てみたかったんですけどそうは問屋が卸さなかったよ。

あとペルシカリアのキャラクターが掴みにくくて難しい。色々イメージと違ってたらすみません。この世界ではこうなんです。許してくださいなんでもしますから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 -フルアーマーおじさん- 中

この小説の読者さん、レイヴンとリンクス多すぎじゃない?
多すぎる……修正が必要だ……

今回で締めようと思ってましたが文量増えたので分けます。


「やぁ、お久しぶり。SOPMODⅡも元気にしてた?」

「やっほーペルシカ! 久しぶりー!」

 

 通信デッキを通してペルシカリアと色々と話をした翌日。予定通り俺はSOPMODⅡをお供にI.O.P社の技術開発部門、16Labへお邪魔していた。車と運転用の自律人形は入り口の職員の指示に従って所定の場所で待機させてある。流石は自律人形業界の大手と言うべきか、人間以外への対応もきっちりマニュアル化されており何一つ不便を感じさせない。一方、俺は俺でG&Kの前線指揮官であることを証明する社員証を見せればほぼ顔パスで通れるってんだからスゴイよな。企業間の癒着やら談合やらってのは本来は糾弾されて然るべきなんだろうが、その恩恵を甘受している内側からすれば素敵以外の何物でもない。今後とも思いっきり利用してやろうと思う。

 支部の方は、少しの間とはいえ最高指揮命令者である俺が支部を離れるということで、それなりに引継ぎはしてきたつもりなんだが、話をしている間カリーナはともかくAR小隊の残りの3人からえらいジト目で見られた気がする。アレは一体どういう意図があったんだろうな。おじさんにはサッパリ分かりません。

 16Labへ来る途中の道程は平和そのものだった。ほとんどの自然環境が破壊されている今、間違っても観光なんかが出来る状態ではなかったんだが、今の俺の状態じゃ外に出ることすらままならないからそれなり以上には新鮮だった。ちなみに移動中は運転席に自律人形、助手席にSOPMODⅡのダミー、後部座席のオリジナルと俺って感じだ。流石に道中の護衛にオリジナル一人ってのは危機感が薄すぎるからな。別に今更俺の命が惜しいってわけじゃないが、今俺が死ぬと支部に残った人形たちとカリーナが困る。そんな事態は御免被りたい。

 

 ペルシカリアと久々の再会を果たしたSOPMODⅡはそれはもう嬉しそうにペルシカリアに懐いていた。懐かれている本人も満更ではなさそうで、その不健康そうな瞳を細めて優しい手つきで頭を撫でる。うーん、ここだけ切り取れば人懐こい年頃の娘と優しいお母さんって感じなんだが、その中身は鉄血人形絶対殺すウーマンと天才変態技術者だからなあ。人も人形も見た目で判断しちゃいけない。いやペルシカリアは見た目通りヤバいやつではあるんだが。

 おっと、そういえば手土産を持ってきたんだった。忘れないうちに渡しておこう。ほーれ、喜べペルシカリア。うちの配給倉庫に眠っていた珈琲色のインスタント泥水だぞ。

 

「あら、悪いわねぇ。ありがたく頂戴するよ。後で一緒に飲むかい?」

 

 いいえ結構です。どうぞお一人で存分にお楽しみください。よくあんなの喜んで飲もうと思うな。嗜好品ってのは嗜好が合ってこそ効果を発揮するアイテムだ、俺にとってあの泥水は嗜好品足り得ない。しかしそんな代物でもこうやって在庫整理と好感度アップを両立出来るんだから、我ながらいい使い方をしていると思う。

 

「さて、それじゃあお互い忙しい身だろうし手短に済ませようか。そこに寝てくれるかい」

 

 社交辞令の挨拶も程ほどに早速用件に入る。俺としてもあまりのんびりは出来ないのでありがたい。ペルシカリアの視線が向けられた先には、なるほど人が丁度一人横になれそうなキャスター付きの簡素なベッド台。その先には全身をスキャン出来るような物々しい機械が大口を開けて待っていた。まぁ今更メジャーなりを使って手作業で採寸なんぞしないわな。スーツとかならともかく、今から仕立て上げるのは俺と一体となる義足だ。精密にやるに越したことはない。SOPMODⅡには計測が終わる間ちょっとばかし大人しくしててもらおう。大丈夫かな。

 

「ところで、本当に普通のやつでいいの? 色々付けられるんだけど」

 

 しつこいなこいつ。普通でいいっつってんだろ昨日から。計測のため、ベッドに横たわり機具に吸い込まれていく俺に名残惜しそうな声をかけてくるペルシカリア。別に俺は新たなるパワーを得て戦場で無双したいわけでもないし、人間を辞めるつもりもない。ただヒヨっ子たちの訓練に必要十分な自分に戻りたいだけだ。あと余計なモンをあれこれ付けてその分の技術料だか材料費だかを請求される可能性も潰しておきたい。流石に穿った予測だとは思うが、ペルシカリア個人はともかくとして、そのペルシカリアを擁する相手は他所の大企業だ。今のところG&KとI.O.P社がズブズブとは言え、その連携が何時崩れるかも分からないからな。

 というか今更かもしれんが、この義足だってタダで出来るわけじゃないんだよな。ペルシカリアの好意に甘える形とはなっているが、実際そこらへんの費用はどうなるんだろう。かかったとして経費で落とせるかは微妙だ。ことの発端自体は向こうから言い出したことではあるんだが、その口約束って今でも生きてるんだろうか。

 

「そのへんは気にしなくても大丈夫よ。確かに本来であれば費用を頂くべきなんだろうけど、材料に関しては君たちが結構な量を確保してくれているし、技術料についてはまぁ、AR小隊のお礼とでも言えばいいかな。私から言い出したことだってのは事実だしね」

 

 うーん、この材料の部分ってのは多分鉄血人形のことだろうなあ。I.O.P社製の人形と違い、鉄血には生体パーツがあまり使用されていない。勿論ゼロじゃないんだが、そのほとんどは金属で出来ている。で、当然銅やら鉄やら銀やらアルミやらは、世界がこんななってしまっているためにその採掘量を年々落ち込ませている。無論、昔と比べてアンドロイドの技術が進化したおかげで人間では難しい部分もリスクを気にすることなく採掘出来るようになったメリットもあるが、それでもそういう事業を行う会社や人員が絶対的に減っているものだから、供給量は減少の一途だ。

 そんな情勢の中、勝手にバグって暴走しだした鉄血工造の自律人形というのは、言ってしまえばいいリサイクル対象にもなっている。うちの会社、G&Kは直接そういう事業に手を出してはいないが、俺らの部隊がぶっ倒した鉄血人形ってのはその手の業者が大体回収している。戦場とは言えやはり経済は回るものだから、そういう意味でも人類の支配地域を拡大していくってのは重要だ。世界の経済圏を拡大しなくては、国家も企業も同時に拡大出来ない。

 ま、義足を製作するペルシカリア本人が気にしなくていいということなら素直にお言葉に甘えておこう。俺個人の懐事情はそこそこ潤っているとはいえ、安い買い物じゃないだろう。抑えられるところは抑えておかないとな。

 ちなみに、G&Kの給料はそこそこ良い方ではある。リスクに見合っているかと言われれば何とも言えないが、俺の場合は元が軍人だ、今更気にするようなところでもない。ただ、現状の負荷と給与が見合っているかと言われれば間違いなく否なんだが。もうちょい人員よこしてもらえませんかね。ダメかな。

 

「はい、計測終了っと。お疲れ様」

 

 機械に吸い込まれてから程なく。色々なレーザーが飛び交っていた箱から救出された俺にペルシカリアが声をかけてくる。

 

「じゃ、後は出来次第そっちの支部まで送るから。幾つかの基本パターン組から体格にあわせて作るから、そんなに時間は掛からないと思うわよ。一週間くらい見てくれれば多分大丈夫かな。確認だけど、訓練に耐え得る強靭性、筋肉が持つ柔軟性くらいでいいのよね、重視するところって」

 

 おお、もう終わりか。そりゃまぁ、言うてもただの身体測定だけなんだからそんな大仰なものでもないか。しかし一週間程度で出来るとは驚きである。普通数ヶ月は掛かるもんだと思うんだが、そこはI.O.P社の技術と人員の成せる業だろうか。あと何度確認されようが俺の要望は変わらないからそこんところよろしく。余計な機能つけたらぶっ飛ばすからな。

 

「あ、指揮官終わったー?」

 

 俺の様子を手持ち無沙汰で眺めていたSOPMODⅡが動く。恙無く計測を終わらせて車椅子に戻れば、途端に膝元に飛び込んでくる様は本当に犬のようだ。俺としては何故こんなにも懐かれているのかが不思議でしょうがないのだが、まぁ少なくとも悪い気はしないのでそのまま放置している。いずれ飽きるだろうとも思っているが、この職場とにかく出会いがないからなあ。ヘリアントスに言ってこいつらも合コンに連れて行ってもらうか? いやそれはそれで何か違うな。人間の場に出会い目的で戦術人形を送り込むのもおかしい話だ。とりあえずはこいつらが傷つかないようにしっかりと本業に精を出すとしよう。

 

「しかし見事に懐いたわねー。恋人ってトシでもないだろうし、父親みたいなものかしら?」

 

 やめろ、歳に関するワードは俺に効く。ていうかそれを言い出したらペルシカリアも結構なお年頃ではないのだろうか。流石に生身の女性に直接そういう言葉を投げつけるのはいくらなんでも紳士的ではないので、反抗的な視線を飛ばすにとどめる。

 

「えっと、ペルシカがお母さんで指揮官がお父さん? あはっ! いいかも!」

 

 よくねえよ。というか発想が飛躍しすぎである。俺はお前たちの指揮官であってお父さんでも保護者でもありません。いや、保護者ってのはある意味で合ってるのかもしれんが。

 

「わお、私がお母さんときたか。いやあ、でも考えてみたら悪くもないかな。君があと10歳くらい若ければイケたかもしれないねー。私も貰い手なんか居ないだろうし」

 

 ちょっと勝手に話を盛り上げないでくれます? あんたに貰い手が居ないのは事実だろうが、恐ろしいくらいの棒読みで話を盛るのはやめて頂きたい。しかしまあ、ペルシカリアの顔が好みなのは本当なので中身がこうじゃなければ狙っていたかもしれん。それも俺が10年くらい若ければ、という注釈が付くけどな。今更独身であることにどうこう言うつもりはないし、わざわざ伴侶を見つけようとも思わない。軍人ではなくなったとはいえ、それでもいつ死ぬか分からん身である。こんなおじさんを未来ある女性に選ばせたくない。無論人並みに性欲を持ってはいるが、それは伴侶が欲しいという欲求とイコールにはならないのだ。そういえば、かつての部下には恋人が居たり嫁が居たりしたヤツもいたなぁ。あ、ダメだ思い出したら凹んできた。マジであいつらには俺が死んだら真っ先に謝りに行かなきゃな。

 

「? 指揮官どうしたの? 元気ない?」

 

 うお、相変わらず目ざといなこいつ。SOPMODⅡに限らず、AR小隊の連中は何故か俺の機微に敏感だ。ちょっとした違和感、それも俺が表に出していないつもりのような無意識下のことでも容赦なく勘付く。しかも大体それは俺にとってよくないシチュエーションだから余計に困る。まあ、ちょっと昔のことを思い出しただけだから気にするなとでも言っておくか。実際その通りだしな。感傷に浸るのはあまりよろしくない。

 

「……そうねえ、たまにはああやって通信寄越してしてくれても構わないわよ。忙しくなければ話相手くらいにはなってあげるさ」

 

 何を思ったのか、ペルシカリアが要らんフォローを回してくる。ただまあ、カリーナやヘリアントス、指揮下の人形たちには話せないようなことがあるのも確かだ。そんな機会が訪れるとも思えないが、もしそうなったとしたら愚痴の相手にでも付き合ってもらうか。折角頂戴した気遣いだ、お礼くらいは述べておこう。

 

 さて、あまりお邪魔していても悪いので用事も終わったし退散するとしますか。今回の件は本当に彼女の好意にただただ乗っかっているだけであり、本来の仕事を邪魔してしまっているのは事実だ。普通に考えれば泥水の手土産だけでペイ出来るような内容じゃない。出来上がり次第だが、改めてお礼も考えておいた方がよさそうだな。ペルシカリアの内情がどうあれ、一応は社会人としてそこらへんはしっかりしておくべきだろう。人間どこで信用を失うか分かったもんじゃないしな。

 

「今度来る時は他のAR小隊の皆も連れてきてよ。久々に顔も見たいしね」

 

 オッケーオッケーそれくらいならお安い御用だ。時期の約束までは出来ないが、今のところ基地周辺は安泰だ。新人教育などの諸々が落ち着いたら挨拶に向かわせるのも悪くない。低くない優先度で考えておこう。

 

「じゃーねー!」

 

 帰り際、一層元気なSOPMODⅡの声が響く。よし、後は帰るだけだな。思ったより時間がかからなかったのでこれなら十分日が沈む前に帰ることが出来そうだ。何とも味気ないご挨拶にはなってしまったが、別に閑談が目的ではなかったので致し方ないところだろう。俺もペルシカリアも丸一日空けられるほど暇じゃないだろうしな。つーかいい加減ちゃんとした休暇が欲しい。俺やカリーナの代わりがいつまでも居ないってのは組織としてどうなんだ。他の支部はどう回してるんだろうか。そういえばS02地区も指揮官は一人だけだったような気がする。えっもしかして一つの支部に指揮官一人なわけ? そんな馬鹿な。ちょっとこれ後でクルーガーに聞いてみよう。俄然気になってきたぞ。健全な事業運営のためにも福利厚生は確認しておかないとな。

 

 しかし、一週間後かあ。ちょっとワクワクしてきたな。俺は俺でリハビリが必要だろうからすぐって訳にはいかないだろうが、なんだかんだ足が手に入るってのは嬉しいことだ。上手くいけばAR小隊に行っていたような遭遇戦訓練も出来るかもしれない。あまりそれだけに時間を割くわけにはいかないが、教練のバリエーションが増えるのは素直に喜ばしい。射撃訓練の効率も上がるだろうし、もっと早くに決断しとけばよかったな。今まではそんな暇すらなかったとも言えるが。

 

 よし、というわけで帰るか。カリーナなら問題ないとは思うが、何かトラブってたりしたら大変だ。行き先はしっかり伝えているし、流石に緊急の依頼などが入っていたらこっちに直接連絡がくるだろうから大丈夫だと思いたい。

 

「……あれ? 指揮官?」

 

 んん? どうしたSOPMODⅡ。何かやり残したことでもあるかな。いや、今日の用事は正しく先程の身体測定のみのはずだからやり残しも何もないはずなんだが。

 

「…………デートは!?」

 

 よし、帰るか。




ペルシカリアはいい女。いいね?

前作でも語ってますが、おじさんはキャッキャウフフな10代の多い戦術人形ではなくペルシカリアさんみたいなのがタイプです。実際美人ではあると思う。

ていうかそんなニッチな好みだからこの歳まで独身なんだろうなこのおじさん…

ちなみに、本小説ではおじさんのキャラもあり、あまり恋愛要素を組み込むつもりはありません。ただ、個人的にはちょっといい感じのオトナなビターなやつもやってみたいなぁと考えてるんですが、これがまた非常に難しい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 -フルアーマーおじさん- 後

いやあ、随分と長くなってしまいました。
一つのネタを語るがてら、細かいネタを差し込んでいくことでそれらの同時消化を図ったのですがどうでしょうかね。


 いやー、戻ったら戻ったでそれなりに大変だった。業務自体はカリーナが上手く回してくれてはいたんだが、やはり指揮官決裁が必要な書類って多少なり毎日出てくるんだよな。分類は終わらせてくれていたものの、一気に目を通して半機械的に押印していくのをある程度繰り返しているとヒトは精神的に死ぬ。あとやっぱ半日とは言えカリーナに負荷を掛けてしまっていたのは本当に申し訳ない。物資の状況とか毎日見なきゃいけないわけだし、俺の仕事を肩代わりしてもらったからってあいつの仕事が減るわけじゃないもんな。反省。今度食堂で何か奢ってやるか。

 で、何か朝と同じく帰ってきたらまーたAR小隊の3人に睨まれたんだけどナンデ? SOPMODⅡにはちょっと俺の護衛についてもらっただけだし、それこそあいつがのたまうようなデート的要素なんて皆無だったんだが、何がどうなってそんな目で見られなきゃいけないのか皆目見当が付かない。SOPMODⅡはSOPMODⅡで何か不機嫌ではないもののいまいち不服そうな感じだったし、一体全体俺が何をしたというのだ。何もしてないぞ。何もしなかったのが悪だと言うのならそれこそお門違いだ。俺は何もする気も起こす気もない。健全第一。枯れかけたおじさんにそんな甲斐性を求められても困るんだよなあ。

 

 そんなこんなで義足が届くまでの一週間を過ごしていたわけなんだが、その間も不自由な身体に鞭打ってヒヨっ子たちの教練を行っていたり、カリーナにお小言を言われたり、G11が宿舎のダンボールで寝るのに飽きたのか、やたら俺に引っ付いてきたり、そこにSOPMODⅡが噛み付いたり、面白半分にナインが加わったり、まぁ退屈はしない毎日であった。幸いそんな平和ボケをかましたような日々を過ごしていても、やる時はやる連中だ。時々はぐれ鉄血人形がうちの地域に迷い込むこともあったが、その程度であればAR小隊を出すまでも無く、貴重なローリスクの実戦機会ということでうちの新人たちを前線に送り込んだりもしていた。

 

 そうそう、前線に送り込む人形というか部隊なんだが、ちょっとばかし編成を変えることにした。新人も入って数も増えたしな、そこらへんも適宜最適化していかなきゃいけない。

 AR小隊を擁する第一部隊、404小隊を擁する第三部隊は今のところ変動無し。部隊間で錬度の差は大きいものの、あいつらは現状うちのツートップだ。下手に新人を突っ込んでも連携に齟齬が生まれて結果パフォーマンスが落ちる。特に第一部隊は文字通り桁が違う、あの速度と精度についていくのは404小隊でもまだ無理だ。あれは完全に独立戦力として勘定した方がいい。投入するタイミングさえ間違えなければ、あいつらはそれぞれ単独で盤面の戦略をひっくり返すことが出来るジョーカーどもである。最大戦力をどう生かすかを考えれば、あの編成を崩すのは現時点では考えられない。

 じゃあどう変えたかと言うと、まずはスコーピオンが隊長を務める第二部隊、ここにダネルを加えた。コンセプトとしては中遠距離における打撃部隊だな。スコーピオンとM1911が前線のフォロー、哨戒に入り、後ろからM14、ドラグノフ、ダネルの3連砲撃によって敵部隊を壊滅させる役割を持たせる。個人個人の実力で言えばまだまだ発展途上だが、ライフル3丁、しかもそのうち1丁は特大の対物ライフルである。一瞬の破壊力だけであれば第一部隊すら凌ぐ火力だ。機動力と状況対応力を完全に殺した部隊ではあるが、その分ハマった時の殲滅力は目を見張るものがある。そもそも、そのハマる状況を作り出すのは俺の仕事だ。戦況に応じて打てる最善手が増えただけでも俺としては非常にありがたい。今までは第一部隊による戦術無視のゴリ押しも何度かあったからなあ。ああいうのはそれしかないと分かっていても心臓に悪い。

 で、同時に第四部隊を新設した。メンバーはトンプソン、IDW、m45、MG5の4名だ。暫定ではあるが、隊長は今のところ一番成長の見込めるMG5に務めさせることにした。ちょっと性格的に突き抜けちゃってるところもあるんだが、こちらの指示には素直に従うし意外と冷静だ。自身を駒に見立てて無謀な吶喊をしがちな部分も見えるが、そこは追々修正していけばいいだろう。

 この部隊はサブマシンガン3丁にマシンガン1丁という、完全なるバラ撒き要員である。直接敵を削るのも勿論だが、どちらかと言えば面制圧の側面が強い。その圧倒的な弾幕により、強制的に有利な局面を作り出すのが主な仕事だ。また、その中でもIDWは義体の運動性能がスコーピオン並に高いし、トンプソンに至ってはこちらが呆れ返るほどの耐久性を持っている。義体性能に任せた、これぞ由緒正しいゴリ押しというやつだ。

 第一、第三というあらゆる局面で投入が可能なユーティリティ部隊が二つ、そこに加えて長射程の狙撃部隊と弾幕にモノを言わせた制圧部隊が使えるようになったのは大きい。贅沢を言えば、更に偵察急襲アンブッシュなどを目的とした機動部隊を組み合わせたいところだな。ドローンで視野の確保は出来るが、どうしても融通が利かない場面も出てくるし、夜間だとほぼ視界が確保出来なくなる。そう考えるともう数体ハンドガンタイプの人形が欲しいところだ。ハンドガンは直接戦闘力、耐久力ともに低いが俊敏な機動力と迷彩性能を持ち、何より夜目が利く。痒いところに手が届く存在である、今の教育が落ち着いたら追加で発注も考えよう。

 

 そして大体一週間後、支部に荷物が届いたんだが、これがI.O.P社からではなくG&K本部からの郵送物だった。あー、そういえばそんなことも言ってたっけ。要望を出した俺自身がすっかり忘れてたわ。404小隊の面倒をクルーガーに押し付けられた時のやつだな。

 カリーナも呼んで開封してみれば、そこにはデジタルデータを保管するには十分な旧式PC、作戦報告書を印刷するための旧型プリンタ、あとインク。その他雑多な業務用アイテムが詰め込まれていた。よしよし、未だ十分とは言えないがこれでカリーナの業務負荷が更に減るぞ。というか今まで手書きの紙を束ごとにデスクに纏めていたってんだから今更ながら恐れ入る。通信機器や電子機器への信頼性が落ちているのは理解しているが、内務をオフラインで行う分にはやはりパソコンってのは非常に便利だ。効率が段違いである。司令室の通信機器との接続さえしなければ余計なトラブルも起こり得ないだろう。基本ここら辺はカリーナしか触らないから、スタンドアローンでの稼動でも何ら問題ないはずだ。

 半べそをかきながらお礼を繰り返してくるカリーナを適当にあしらい、セッティングなんかは悪いが自分でやってくれと伝えると、喜び勇んで台車と共に消えて行った。どんだけ嬉しかったんだあいつ。いやまぁ今までの劣悪な労働環境を鑑みれば無理もない話なんだけどさ。

 

 

 

 

「おおー! これが指揮官さまの、足……ですか!」

 

 そんなこんなで翌日。ついに本命の義足が届いたわけだ。I.O.P社のロゴが入ったダンボールに丁寧に梱包されてそれは送られてきた。義足本体と、取扱説明書というかスペック表かな、装着の仕方に加えて重量やら材質やらが記載してあるやつ。色合い以外は概ね人間の足と同じような構造をしていて、パッと見た感じ特に違和感は感じられなかった。説明書を見る限り基礎の部分は鋼鉄、後はアルミ合金、というかほぼマグネシウム合金だな、それとポリカーボネートか。その他細かい材料比率なんかも書かれているがメインはこの辺だろう。強靭性と柔軟性は十分確保しましたって感じだな。うーん、でもちょっと錆びとか怖いな。大丈夫だろうか。

 とか思っていると、どうやら3ヶ月から半年くらいのスパンでメンテナンスと調整に来て欲しい旨も添えられていた。まぁそりゃそうか、渡してはい終了って訳にもいかないもんな。しかしアフターケアまでしっかりしてくれるとは本当に頭が上がらない。本格的にお礼の品を考えておかなければ。後でカリーナにこっそり相談しよう。

 

 カリーナやその他人形たちに囲まれながら、俺はその義足を試着するために車椅子からその身を降ろす。格好としては座って長靴を履くような感覚だなあ。左足に添えてみると、どうも膝下よりも随分と長い。どうやら大腿部までジョイントを伸ばし、膝の可動性と耐久度を両立させた仕組みのようだ。ちょいとつけるのが大変だが、まあ頻繁に付け外しするようなもんじゃないし逆にすっぽ抜けても困る。これくらいが丁度いいんだろうな多分。知らんけど。

 接触部に一緒に送られてきた緩衝材を敷き、いざ装着。うん? ここはどうなって……ああ、回して調整するのか。カリーナちょっと説明書見せて。よっこいしょっと。

 

「立った! 指揮官が立ったー!」

 

 誰だ今の。SOPMODⅡかな。その掛け声やめなさい。なんとなく不穏な気がする。

 確りと地面に足をつけて立つのは実に何ヶ月ぶりか、うーむ、違和感がスゴイ。左足は特に痛くもないしちゃんとフィットしている感じだが、言い表しようのない不安が確証も無く過ぎってしまうのは、これはもうどうしようもないことだと思う。

 緊張した心持ちのまま、左足を一歩前へ。そして接地。うむ、グリップも十分効いている。少々のことでは滑ったりはしないだろう。

 そのまま、左足へ全体重を預けて右足を前へ。うん、問題なさそう。

 

 うおお、自分で歩けるってことがこんなに素晴らしいことだとは思わなかった。ヤバい、かなりテンションが上がってしまっている。落ち着け、落ち着くんだ俺。カツカツと、硬質の床を俺が歩く音だけがしばらく木霊する司令室。ちょっと小走りしてみるか。カッカッカッ。同じく規則正しい音が、先程よりも少し短い間隔で鳴り響く。

 

 うおー! たーのしー! ヤバい、おっさんらしからぬテンションになっている。自分でも重々分かっているのだが、この内側から止め処なく溢れてくる感情だけはどうにも制御し難い。戦闘機動をするにはまだまだ慣れが必要だが、少なくとも立ったり座ったり歩いたりの日常生活には何ら問題なさそうだと分かっただけでも大収穫だ。ありがとうペルシカリア。マジでありがとう。真面目にお礼を考えます。

 

「……ははっ! やったな指揮官!」

 

 感極まったかのように発せられたその声に振り向けば、M16A1をはじめAR小隊の連中が我がのことのように喜んでくれていた。何だよお前ら、なんでそんな嬉しそうな泣きそうな顔してんだ。冴えないおじさんが義足つけて歩いただけだぞ大げさな。まぁでも、折角喜んでくれているところに水を差すのも変な話だ。ありがとな、と短く謝辞を伝え、俺は一旦車椅子に戻るとしよう。

 

 ふぅ。よし、落ち着いた。あまり俺の個人的なことで皆の時間を奪ってしまうのもよくないからな。通常業務に移るとしよう。とは言っても、普段やることと言えば完全にルーチンワークとなっている書類整理と新人たちの教練くらいなものだからなあ、どうしたものか。平和なのはいい事なんだが、地域一帯を掃討してしまった以上、しばらくはこれといってやることがない。折角だし、午後は俺も射撃訓練くらいはしておこうかな。

 

「あっ、指揮官さま。説明書とは別に手紙みたいなものも入ってますわよ?」

 

 I.O.P印の入ったダンボールを片付けていたカリーナから声が掛かる。ふむ、恐らくはペルシカリアが俺に宛てたものだろう。手渡されたそれの封を切ると、中には読み通りペルシカリアからの手紙。色気も何もない真っ白な用紙にこれまた色気のない書き文字が並んでいた。

 

 内容は、義足についてのことが半分。残りの半分は、どうやら依頼ごとのようだった。

 I.O.P社とG&Kは良好な関係を保っているが、何も取引先はウチだけって訳じゃない。むしろ企業規模で言えば比較にもならない大手さんだ。戦術人形だけを扱っているわけでもないし、その取引先はごまんと存在している。基本I.O.P社はメーカーの立ち位置だから、取引先というのは卸し先が多い。で、その商品なりなんなりを輸送するには当然費用もかかるし、このご時世だもんで護衛を雇う必要も出てくる。何も脅威は鉄血人形だけじゃない。以前ウチが発注した新規の人形がやられたように過激派団体なんかも居るし、中には夜盗山賊じみた連中もいる。一言で纏めてしまえば、現代の社会機構からあぶれたアウトローだな。世界中が混沌としてしまっている最中、その数は数十年前よりも格段に膨れ上がっている。

 今回ペルシカリアから求められたのは、お得意先へ商品を輸送する際の護送任務だった。いくらか物資として報酬は出るし、出来高によってはプラスのインセンティヴも用意してあるらしい。いくら御社と弊社がズブズブとは言え、お互い企業に属する一個人がそんな依頼を出していいのかという疑問はあったが、どうやらこういう依頼のやり取りはクルーガーも認めているらしかった。他の支部でも日常的に受けてるんだってさ。どんだけ癒着してんだよこの二社。まあ普通に考えれば、前提としてI.O.P社とG&Kは業務提携を結んでいる。その中には人形発注のことだけじゃなく、こういう荒事対処も含まれているのだろう。そりゃまぁウチ軍事企業だし、さもありなんってところか。

 彼女の立場からすれば、別にうちの支部じゃなくとも直接クルーガーに掛け合えばもっといい内容で出来ると思うんだが、それを加味してもうちに依頼を飛ばしてくるってことは、まあそういうことなんだろうな。お得意様からのご指名だ、無下に突き放してしまうのもよくない。ペルシカリアとのパイプは俺の個人的事情もあって太く長く持っておきたいところだしな。

 

 ということで、この依頼は受理することとしよう。後で通信飛ばしとこ。どの部隊を向かわせるかだが、まぁ順当に行けば第三部隊だろうな。第一部隊にとってはお遣い程度にしかならないだろうし、第二、第四はちょっと錬度に不安が残る。それに加えて、点の破壊力を重視した部隊と面制圧を主とした部隊では護送とのかみ合わせもよくない。第三部隊には色々と経験も積んで貰いたいし、彼女たちにお願いしよう。

 

 しかしなるほどなぁ、G&K本部からの配給物資だけではどうにもカツカツ状態だったんだが、他の支部はこうやって外部から物資を獲得しているわけか。部隊数も増えてきたし、周囲に目立った脅威はないし、今後は支部の財政を賄うためにもこういう依頼も受けていった方がよさそうだな。あまりに内容がヤバいやつは断ればいいだけだし。その点、ペルシカリアからの依頼となればその信頼性も担保されている。上手くやれば物資も手に入るし、コネクションもより強固に出来るし、戦術人形たちの経験にもなる。いい事尽くめだ。

 

 

「あれ? 指揮官さま、まだ何か部品が入ってますよ?」

 

 手紙を読んであれこれ考えていたら、またもカリーナから声を掛けてくる。うーん、義足以外は特に注文したものもないし、何だろう。予備のパーツとかだろうか、結構複雑な造りっぽいし。あ、よく見たら手紙の裏面にも何か書いてるな。どれどれ。

 

 

 

 P.S.

 要望通り普通の義足にしたけど、一応アタッチメント式でコンバットナイフや拳銃サイズであれば搭載出来るハードポイントを大腿部と膝下に増設できるようにしておきました。

 

 

 

 ンッンンンン~~~~~~?




やっぱり彼女はやってくれました。
アタッチメント式であれば要らなければつけなきゃいい話だし、あまり強くも言えないのがニクいところ。

義足の前日に届いた荷物に関しては、第5話を参照ください。

さて、ついに機動力を復活させたおじさんですが、その足が活かされる時が果たしてくるのか。筆者にも分かりません。


あ、あと現状の部隊を纏めておくと、下記のようになります。
・第一部隊:M4A1 M16A1 M4 SOPMODⅡ ST AR-15 4名
・第二部隊:Vz61 M1911 M14 SVD NTW-20 5名
・第三部隊:UMP45 UMP9 HK416 G11 4名
・第四部隊:MG5 トンプソン IDW m45 4名

バランスが……バランスが悪い……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

XX -タクティス・コピーという男-

なんでこんなの書こうと思ったかっていうとおじさん描いたからです。


 名前:タクティス・コピー

 性別:男

 年齢:不詳

 出身:不詳

 所属:グリフィン&クルーガー社

 役職:前線指揮官

 前職:独立傭兵

 

 身長:178.5cm

 体重:68.4kg

 利腕:右

 利足:右

 

 

【挿絵表示】

 

 

 数ヶ月前、ベレゾヴィッチ・クルーガーによって直接採用された前線指揮官。

 勤務態度は極めて真面目かつ良好。元傭兵らしく高い戦闘能力、状況判断力を持っていたと推察されるが、過去に戦場で左足を喪い、以降車椅子での生活を送っていることから現在の戦闘能力は特筆すべきものはないと考えられている。

 非常に冷静かつ物怖じしない性格で、配下の戦術人形へも一定の距離を保ちつつ分け隔てなく接している様子が伺える。人形たちへの指揮能力も高く、如何なる状況においても一定以上の戦果を挙げており、また損害も極めて軽微なことからクルーガーやヘリアントスら経営幹部陣からも一目置かれている模様。後方幕僚や戦術人形への福利厚生、待遇面については非常に敏感で、部下を大事にする一貫した姿勢から支部内での評判も高い。

 一方で、その性格からか歯に衣着せぬ物言いも散見され、他支部との合同作戦などが今後必要となった際、その連携に一抹の不安を感じさせる不安要素も持ち合わせている。特にヘリアントスはその点を危惧しているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※以下の情報へのアクセスは最上位管理者権限所持者のみ承認されます※※※

 

 

 

 

 

 

 名前:■■■■■■■■■■■

 性別:男

 年齢:■■

 出身:■■■■■

 所属:グリフィン&クルーガー社

 役職:前線指揮官

 前職:正規軍第一連隊隷下対E.L.I.D対テロ特殊作戦群第一即応部隊

 

 元は正規軍に所属しており、対E.L.I.Dの特殊実働部隊を率いていた中隊長。非常に高い身体能力と統率能力を持ち、機動戦を重視したその戦術は被害軽減に大きく寄与している。彼の率いていた部隊は全体の損耗率が極めて低く、継戦能力に優れていた。

 ■■年■■月、当時正規軍所属であった彼に対しベレゾヴィッチ・クルーガーが手を回し、第二世代戦術人形への戦術教官として創立間もないG&K社へ招聘している。彼の戦闘訓練を受けたのは■■■■の4名とされている。

 ■■年■■月、対E.L.I.D殲滅作戦中、鉄血工造社の戦術人形の謀反に遭い作戦行動中の部隊は全滅。自身も左足を喪う重傷を負う。

 その後戦場で■■■■と■■■■■■■■に救助され、一命を取り留める。■■■■■■にて療養後、グリフィン&クルーガー社に転籍、以降前線指揮官としてその辣腕を振るっている。

 なお、国家の正式発表によれば当該作戦に従事した者のうち生存者は0名。その全員がK.I.A認定および二階級特進とされている。

 

 

 

 ※本資料の複製、支部外への持ち出しおよび、権限を持たない人間、人形の閲覧を禁ずる。




多分、皆の想像とは違うんじゃないかなぁと思いながら描いてました。

一応これはG&Kの公式資料なので、公開されている写真はG&K所属後に撮影されたものです。
これからも冴えない指揮官おじさんをどうぞよろしくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。