ガンダムビルドオーバーワールド (らむだぜろ)
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プロローグ

 

 

 

 

 

 時代は近未来。

 ガンプラを使った仮想空間での戦い、通称ガンプラバトルが社会現象として盛んに流行っている時代のお話。

 一人の少女が、部活の合間にガンプラを作っているところから、始まった……。

 

 

 

 

 

「悪い、これ壊れちった! 飯おごるから直して!!」

「帰れ!! これで何度目だよアホ!!」

 ある女子校の中学の部室に彼女はいた。

 何処にでもあるわりと格式のあるお嬢様学校。

 かくある部活の中でも、割りとゆるい規則の部活。

 主にプラモデルなどを作成して、ジオラマを作る活動をしている。

 そこの二年生、山田という少女が同じくガンプラを破壊して修理を頼みにきた友人を罵倒する。

 手を合わせて頼む友人。今月三度目の破壊であった。

「良いじゃねえか少しぐらい! このリアルユリン! バイトしてねえ方の山田!」

「壊しといてその頼み方なに!? 潰すよ!? マジで潰すよガンプラ!」

「止めて死んじゃう。俺の魂壊さないで」

 見た目がガンダムAGEのヒロインに似ているとか一人が言い出して、お陰で今じゃすっかり死なない方の山田とか言われる。

 喧しい。彼女の本名、山田百合。

 バイトしてねえ方の山田って誰だ。じゃあバイトしてる山田連れてこい。

 山田は制服である黒いブレザーにスカートで、机で既に何かを直していた。

「山田、何直してるんだ?」

「ネオ・ジオング。さっき沙羅が持ってきた。バラけた状態で。派手に落として破壊したから補修してくれって」

「ファッ!?」

 百合が机の上に広げていたのは分解した巨大ガンプラ、デカイ方のジオング。

 飾ってあったのが余所見していた拍子に落ちて倒壊。

 それの補修をしているわけだ。

 落ち込んでいた彼女に代わり、再度組み立て、及び修理中。

 驚く友人は次々直されるそれを見てぼやく。

「うへえ……壊すか普通。一番高いPGじゃねえかこれ?」

「お前が言うか。だから改造ガンプラなんかするなっていってんのに」

「しょうがねえだろ!! 勝つためには改造するしかないんだ!!」

「パーツの規格を考えてよね。素人ができるわけないじゃん」

 友人の、よく見た目がガンダムSEEDのフレイに似ていると言われる彼女、佐藤香苗はゲームにハマっている。

 一人称が俺で、がさつで大雑把な奴である。

 ガンプラバトルフロンティア。略通称GBF。仮想空間でガンプラ使って戦うらしい。

 自分も専門のお店にいったり家庭用の物を買ってやれば好きなときにできる。

 ガンプラをスキャンして、その出来映えによって大きく性能が変わるという独自の設定があるとか。

 色々ゲームの中で制約があるとかないとか言うが、百合は知ったことじゃない。やらないし。

 彼女のように、自作でガンプラを組み上げて挑むのが主流らしく、彼女は因みに失敗していた。

 規格外なのに、無理矢理増設してもげたと訴えるが。

「あのね。基盤にあってないから、このパーツ。言ったでしょ。ノワールの肩はハードポイント無いんだよ。ストライクEの時点で違うって原作でも言ってるじゃん。何余計なもん足してるの?」

「い、行けると思ったんだよ……。同じストライクじゃん?」

「バカ。パックが違うのよ。思い出して。ストライクのパックどこにつける? 背中と肩でしょ」

「……そうだっけ?」

「原作愛がないやつは死ねばいいと思うんだ。たとえばこのノワールの首をへし折るとかね?」

「やめろぉ!!」

 彼女の愛機、ストライクノワール。但し半壊。

 素人の癖に独学で適当な事をしたせいで、原型を留めていない。

 百合は呆れて、香苗に説明する。

「だから、ストライクノワールは元のストライクの発展改良したストライクEが元だから。ブルデュエルとかヴェルデバスターとかと同じ、違う番組だって言ってるのにさ。自分で出来ないなら止めなよ改造」

「そこを山田ユリン先生にお願いしてるんじゃん?」

「誰がユリンだ私は百合だよ。さては沙羅とかに声まで似てるって吹き込んだのお前だな?」

「……なんの話かな? 俺は知らねえぜ?」

 目が泳ぐ香苗。

 一度ジオングの修理をやめる。

 丁寧に道具を片付けて、ゆっくりと移動させる。

 そして、半壊したノワールを手にして。

「ガンプラ改造って、難しいね?」

 声真似して破壊を開始。

「ぎゃあああああああ!! 何すんだ百合、俺のノワールが死んじゃうだろ!?」

「破壊して初期に戻すよ。いい加減見苦しいノワールなんて見たくないし」

「うわあああああああ!!」

 顔面真っ青で悲鳴をあげる香苗。

 目の前で無理な改造をされていたノワールが派手に壊されていく。

 香苗のノワールは、一時間ほどで初期の状態に戻った。

 余計なパーツは没収する。返しておくとまた改造しやがるので。

「なんでだ……!? 何でお前は改造しない!? 最低限弄れる腕があるのに!!」

 香苗はスッキリと元通りのノワール片手に呻いていた。

 答えはいつも通り。百合は帰り支度をして言うのだ。

「私は改造しない主義なの。ガンプラはその状態で完璧に出来るように市販される。なのに、香苗とかうちの両親はその完璧をわざと壊して変なの作るじゃん。認めないよ、自作なんて。私は既製品の美しさを尊重するの」

「お前もやろうぜGBF。そうすりゃ変わるって、考えが」

「しないから。やらないから。有り得ないから。自作ガンプラが行き交う世界なんて真っ平ごめん。混沌よりも秩序を。それが私。自作ガンプラは見つけ次第解体して元通りにしてあげるよ?」

「このビルダーの敵めぇ!!」

 百合はガンプラを絶対に改造しない。

 そのまま飾る。そのまま楽しむ。

 自作を邪道、悪道、外道と罵る彼女はある種今時では希少な存在だろう。

 帰り道、香苗がだったらノワールでやってやると意地になってお店に向かっていった。

 見送る百合は家に帰る。きっとまた、両親がガンプラを弄っているだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅する。

 一回の電気ついている。リビングでは、年甲斐もない両親がガンプラ作成に凌ぎを削っていた。

 机に向かって、集中したように細かい作業をしている。

 広くはないリビング。中央の机に二人でやっている。

 百合は黙ってテレビをつけて、荷物をおいた。

 作業中は声をかけない。手元が狂うと不味いのは長年の経験で知っていた。

「……ん? ああ、百合か。遅かったな」

 母である純子が気付く。

 エプロン姿で作業してるなら、夕飯はもう出来上がっているんだろう。

「ただいまお母さん。お父さんは何してるの?」

「新しいガンプラ作ってるんだ。今度はスゴいぞ。インレ作ってるんだそうだ」

「……うわぁ。超高いやつじゃん。お母さんよく許したね」

「来月の小遣いを削ったんだ。よくやるよあいつも」

 純子は朗らかに笑って、夕飯にするからそろそろ止めるように旦那にいった。

「ん? ああ、もうそんな時間かい?」

「そうだな。百合も帰ってきたし、夕飯にしようか」

 顔をあげた父、智和。目が軽く血走っていた。

 どんだけ集中していたんだろうか。

「お父さん、何時間やってたの?」

「半日かな。今日は休みだし」

「うわぁ……」

 相変わらずガンプラになると我を忘れて夢中になる。

 母も大概だが、父は論外だ。下手すると翌日仕事でも徹夜する。

 今も巨大なガンプラの部分を組み立てていた。

 共働きの百合の両親。純子はパートで、智和は車の工場で働いている。

 たまに休みが重なっても、基本的にガンプラ買いにいくか組み立てるしか見たことがない。

 筋金入りのガンプラマニアという奴だ。

「中々細かいパーツが多くて決まるよ。管理も難しい」

 慎重に片付けをしてから、夕飯にする。

 自分の部屋にガンプラを片付けにいく智和。

 百合はため息をついて呆れていた。

 周りはガンプラバカしかいない。

 自分もそうだが、そしてGBFのプレイヤーばかりでもある。

 今夜も誘われそうだ。と、予感めいたものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親は、GBFの中では有名なプレイヤーだそうだ。

 香苗も言っていた。いわく、異名すらあるとか。

 不死鳥夫婦。二人はゲームの中でも一緒にやっている。

 外見を自由に決められるGBFだが、ケバい格好の名前がコードアメリアスというおばさんの母。

 で、どこぞの勇者の王様がハンマー振り回す番組の後期ライバルみたいな見た目のコードフェニックス。

 という感じでやっていると。

 二人して、改造ガンプラである。しかも無駄にできがいいのか、無敗に近いとか。

 流石はガンプラ関係がなれ初めの二人。最早ガンプラしか好きなものがないらしい。

 で。

「お父さん!!」

 夕食後。自室でガンプラ制作に戻ろうとして、ある異変に気がついた百合。

 怒号をあげて、リビングでやろうとしていた智和に迫る。

 ドアを乱暴にあけて、ずかずか入ってくる。

 驚く父に、百合は聞いた。

「私のストライクフリーダムのドラグーン勝手に持ってった!?」

 彼女がお小遣いを貯めて買ったMGストライクフリーダムの翼についている筈のドラグーンが消えていた。

 昨日リビングで一緒に作っていたときはあったのに。

 百合が怒鳴ると、首を傾げる智和。何事かと戻ってきた純子に聞くと。

「ん? 何いってるんだ智和。お前、確かフリーダムの改造にドラグーン欲しいっていって、何か組み込んでなかったか?」

「……あ」

 案の定であった。犯人は父だった。

 前にも何回か、彼は娘のガンプラパーツを自作に組み込んで消失させていた。

 前回はアストレアのプロトGNソードを奪われて、泣く泣くエクシアのパーツで代用したのだ。

「お父さん……私のストライクフリーダム……!!」

「わぁぁ、ごめん百合! すぐ解体して元通りに……」

 静かに怒りを堪える百合に謝り、すぐに取り出そうとするが……。

「接着しているのにか? 止めておけ。今頃完璧にくっついて取れなくなってるよ」

 母の無慈悲な言葉に、キレる百合。

 スゴい高いガンプラだったのに、と父のガンプラを八つ当たりに破壊する。

「うわああああ!? 僕のインレが!!」

「や、止めろ百合!! 流石にインレは勘弁してやれ!!」

 母に止められ、ふぅふぅと血走る目で父を睨む。

 ビビる智和。脇に腕を入れて抱き抱える母が懸命に宥めた。

 すると、よい考えがあるように母は言った。

「百合。智和に復讐したいか? なら、一緒にGBFでこいつを潰そう」

「純子さん!?」

 父が悲鳴をあげる。なんと純子は娘をこの際だからとゲームに誘った。

 とうとう、同じ世界に彼女を取り入れるチャンスだ。良い機会と、純子は画策する。

「ゲームでなら私も味方しよう。なに、蜂の巣にしてやるならちょうどいい。奪われたストライクフリーダムで戦うというのはどうだ? 勝ったら智和のガンプラを好きなのを引ったくってやろう」

「……純子さん、あんまりじゃないかな」

「喧しい。毎度百合のパーツを勝手に使用しよって。お前は一度痛い目を見るがいい」

 母は娘の味方だ。

 あれほど嫌がっていたガンプラバトルだが、被害が出れば話は別。

「お父さん……。私を怒らせた罪は重いからね?」

「私達に勝てると思うなよ智和。生け贄のガンプラでも作っておくんだな」

 真っ青になる父を、ブッ飛ばしてやる。

 その後、今度の休日に潰すと約束した家族は、GBFに入ることになった。

 それが、百合の運命を大きく動かすことになるとは、夢にも思わないまま……。



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ビルダーの先生と

 

 

 

 

(……騙された)

 後日。顔面蒼白で、百合は絶望に浸っていた。

 理由はシンプル。母に乗せられた。

 とうとう魔境たるGBFに足を踏み入れる約束してしまった。

 冷静に考えてみると、それはあまりにも無謀ではないか。

(私がお父さんに勝てるわけがないじゃん!!)

 そう。父はけた違いに強い。ゲームの中ではチャンピオンの一人である。

 母も同じだった。百合はそんな二人の娘なのだが、正直いうと素人。

 両親は時々ゲームの中の大会に参加しては軽く優勝するぐらいの経験がある。

 対して百合は、ガンプラを弄ることに特化しているだけ。

 しかも改造ではなく修理やただの組み立て。そこも普通で。

(どう勝てと……?)

 無理すぎる。いくらストライクフリーダムのためと言えど、パーツ欠損しているのに。

 母が味方でも、足を引っ張るのは目に見えている。

 挙げ句には、彼女は戦いたくない。

(なんであんな妄想の塊と戦わないといけないの?)

 自作ガンプラ否定的な百合は、そもそも交わりたくない。

 だって、そんなものは邪道だから。

 自分の思い通りに弄くったガンプラなど、百合の知るカッコいい調和をぶち壊した自己満足。

 両親のガンプラも好きではない娘は、よくいく模型屋さんを訊ねてみた。

 そこには、百合のビルダーとしての先生がお店をやっている。

 彼に、助力を受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 練宮模型店。個人経営の、小さな模型屋さんである。

 以前、店主が急病で倒れて息子さんが引き継いで経営している。

 ガンプラの取り扱いが多くて、小さなわりには結構お客さんは入っている。

 但し、ゲームは出来ない。オフラインでの小さな機材はあるが、それは練習用。

 休日に、顔を出す。ドアを開けると、呼び鈴が鳴った。

 入ってすぐ、そう広くはない店内。通路の棚には沢山のガンプラや他のプラモデルも飾られている。

 奥の方には、作業場と練習場。あとは、ゲームの中継を見られるぐらいしか目立った事はない。

「先生! 先生、いるー?」

 留守かと思ったが、開店直後なので彼は店舗と自宅の一体化している二階にいた。

 階段を降りてくる音。

 黒いガンダムの顔が刺繍された緑のエプロンをした、優しそうな顔つきの眼鏡の男性が、姿を見せる。

「おや、おはよう百合ちゃん。早いねえ」

「先生おはよう。ガンプラ教えて」

 朝っぱらから入り浸る百合に、若い男性の店主、練宮藤四郎はにこやかに対応する。

 藤四郎は以前は普通に勤めていたが先代である父が急病で倒れて、それを継いで店主をしている。

 彼もガンプラの組み立てが上手。

 その技術は両親の勧められて教わった教え子である百合に伝授されていた。

 彼女の修理テクは、プロから手解きを受けている。だから、ある程度の物なら代用などで直せる。

 百合の両親が先代の時代から通い詰めたお得意様だったりする。

「ガンプラ? 百合ちゃんに教えられる基礎は全部教えたけど?」

「違うよ。GBFいくから。ルール教えて」

「えぇ!? あれだけ嫌がってたのに!?」

 大変驚かれた。当然だ。前より、あんなもの誰が行くかと豪語していたのだ。

 それがいきなり行くと言い出せば誰でもこう反応する。

 事情を説明する。すると、同情的な視線を藤四郎は送った。

「あぁ、智和さんか……。あの人も懲りないねえ」

「勝ち目ないけど、お母さんと一緒に潰す」

「いや、無理だと思うよ? はっきり言うけど、実力差が有りすぎる」

 至極当たり前の指摘を受けて、中に入って荷物を下ろす百合は頼み込む。

「そこを何とかして! 先生だってやってるんでしょ!?」

「僕も素人なんだけど……。本職はビルダーだし、教えられることは基本ルールぐらいしかないよ?」

「あとは技術で何とかする!! 先生直伝ならいける!」

「いやいや、ゲームはガンプラの組み立て技術だけじゃない。純粋に実力で勝負が決まるから」

 異様に百合は藤四郎を期待するが、それもその筈。

 彼もGBFをやっており、ゲーム内部のマイナーとはいえ、ガンプラビルドの世界大会の優勝を何度もしている、稀有な人物なのだ。

 店内には、その時のトロフィーが飾られている。知る人が見れば、一目瞭然で信用できる程の説得力がある。

 問題は、あくまでそれは既製品限定の大会であったこと。

 そして、バトルは一切関係ないという事を除いて、だが。

 彼が一流なのはビルダーとして。バトルするプレイヤーでは素人と同レベル。

 なので、ガチ初心者の百合に教えることは少ない。

「んー……よし、お客さんまだ来ないから少し練習しようか? ガンプラある?」

 藤四郎に従い、彼女は自分のストライクフリーダムを取り出した。

 無論、先生である藤四郎に出来映えを見てもらうと。

「65点かな。惜しい。腕の関節の調節が少しキツすぎる。躍動感を表現するなら、もう少し優しくしてもいい」

「これでもかなり甘い方なんだけど……」

「百合ちゃんは単体で飾る方だもんね。でも、飾り方は一つじゃないよ。いいかい? 例えば、こんな風に……」

 藤四郎は、見本で飾ってあるガンプラと合わせて即興で手本をみせた。

 ストライクフリーダムが連結したライフルを構えて、背後にインフィニットジャスティスを背中合わせでサーベルを構えるシーン。

 かなり様になっていた。

「おぉ……!」

 感動する百合。これは、カッコいい。

 藤四郎は改めて教える。腕を調節は、ポーズによって変える方がいい。

 かかる負荷も違うので、細かい修正は小まめにするのがオススメ。

「しかし、ドラグーンないと……なんか、寂しいというか。羽のない鳥みたいだね」

「情けないストライクフリーダムに……。これならフリーダムでいいよもう」

 ポーズは似合うがドラグーンがないと、青が少なくてなんとも言えない。

 金色と黒い骨組みの翼が哀愁を誘う。

「なんならパーツ用意する?」

「お小遣いないから止めておく……」

「いや、それぐらいならお代はいいよ。余った奴でなんとでもなるし」

 暗に自作してでも直せると言うが、自分のストライクフリーダムに自作は乗せない。

 百合は首を振った。

「じゃあ、少し奥にいこうか。軽い講義になるけど、いい?」

 藤四郎に誘われて、彼女は練習場に向かっていく。

 先ずは、先生によるGBFの説明会が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 GBF。

 要は、よくあるガンプラを使った仮想空間でのバトルするゲームだ。

 持ち寄ったガンプラをスキャンして、専用の機械で仮想空間に入り、遊ぶことができる。

 ゲームの内部では、基本的に戦ったり喋ったりして遊ぶ。

 ガンプラ規格に問わずに平等にゲーム内部では扱われ、ガンプラが破損することもない。

 出来映えが独自のシステムで読み込まれて審査されて、性能に影響する。

 あとはゲームの内部で独自の改良も可能になる。

 OSや機体そのものに搭載された特殊能力の再現などだそうだ。

 ゲームの中ではキャピタルポイント、通称CPによって通過とされており、中でサービスを受けるのに必要。

 稼ぐには、任務をこなしたり、戦って勝てば自動で入る。

 ランク方式も採用されており、最初はAランクから始まり最後はDランクとなる。

 チームを組んだりソロでやったり自由に戦えばいい。

 尚、ゲームの中での外見は自由に選べるため、結構めちゃくちゃになっているらしい。

 戦いはステージごとに出撃出来ないガンプラもあり、それは自分で改造するか内部でシステムの変更を行えば出られるようになる。

 ルールも様々なので、そこは入って見てのお楽しみ、と。

「基本はこんなもんかな?」

 藤四郎に言われて、覚える百合。

 珍しくない普通のゲームでよかった。

 何をするかは個人の好きにしていいと言われて、取り敢えず打倒父を掲げることにした。

 質問もない。あとは、戦えるかどうかだ。

「百合ちゃんは、戦う自信ある?」

「ないよそんなん。私はステレオなガンプラビルダーだもん」

 ゲームよりもガンプラを好む少女だ。だろうと思っていた藤四郎。

 これでは、万が一でも勝ち目はない。

 取り敢えずまずは、どんな感じか中継を見ようと、モニターをつけた。

 奢りで藤四郎にコーヒーを頂く百合は、一緒にLIVEされているという戦いの様子を眺める。

 写し出された映像は、宇宙だろうか?

 小惑星の漂う漆黒の空間に、赤い翼が流星の如く疾走する。

 相手はというと。 

「先生。なにこれ?」

「……うん?」

 改造ガンプラだ。

 然し、見た目が何だか分からない。

 アッガイ改造ガンプラ? 

 それにしては、基本的なフォルムこそ同じだが全身のパーツが違うような。

 見た目の光沢が別物に見える。

「……あ、分かった。これフラットの頭のパーツ。加工して全身覆ってるんだ」

 ∀ガンダムに出てくるフラットのパーツだと百合は見抜いた。

 以前学校の知り合いに修理を頼まれて、改造されていたので嫌がったやつに似ている。

 少し端末で調べて、藤四郎は言った。

「……みたいだね。これ、ベアッガイの改造ガンプラだってさ。名前はヴェアッガイ」

「……ベアッガイ?」

「発音が違うよ。ヴェアッガイ」

 ベアッガイ。確か、元々はビルダーの作ったガンプラが公式に採用された珍しいパターンだった気がする。

 元々はアッガイだったらしい。あんな熊みたいなものになっているが可愛いと評判で女性に人気だそうで。

 百合は興味ない。

「へー。ヴェアッガイって、どういう意味だろ?」

 発音がしにくい濁音で、名付けられたあのガンプラ。

 名前の由来はなんだろうか。試合の情報を見ていた藤四郎が、こんなことを言い出した。

「百合ちゃん。あいつの全身が震えだしたら、耳を塞いでね」

「?」

 試合は進んでいく。

 そのヴェアッガイなる珍ガンプラは、懸命に反撃しようとするも、赤い翼を捉えられずに一方的にやられている。

 首を傾げながら、蹂躙されるヴェアッガイを眺めていた。

 すると、相手の連射するビームは飛来した。

「あ、ヤバい」

 藤四郎はコーヒーをおいて耳を塞いだ。

 何だろうと百合はコーヒーを口に運ぶ。

 ヴェアッガイ迫るビーム。その瞬間。

 

『ヴェアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッ!!』

 

 画面のなかで、突然口を開いたヴェアッガイが雄叫びを挙げたのだ。

 驚いてコーヒーを吹き出す百合。霧になって画面を濡らすのを、慌てて片手で拭いた。

 すさまじい雄叫びである。女の子の絶叫にすら聞こえる。

 見れば、ビームは雄叫びをあげるヴェアッガイに着弾するも、弾かれた。

 何事かと思ったが、思い出す。フラットの特殊装甲だ。

 フラットは原作で、装甲を振動させてバリアを張るソニックシールドという機能がついている。

 武器に転用したり実弾を跳ね返す高速振動の装甲だと言うが、まさかビームまで跳ね返すとは。

 目を凝らす。細かくヴェアッガイが振動している。正解のようだが、兎に角喧しい。

 思わず片手で耳を押さえたが剣幕にドン引きして画面を閉じた。

「……ヴェアッガイって名前はね、ソニックシールドを使ったときに内蔵された音響装置が相手を威嚇するんだって。で、それでヴェアッガイ」

 溜まったもんじゃない、迷惑なガンプラもあったもんだ。

 プレイヤーは有名な喫茶店の店員と言われているだと藤四郎は言った。

 威嚇するとかありなのか。どう見ても威圧しているが。

「ゲーム的にはありだよ。五月蝿いだけだしね」

 嫌そうに耳鳴りを我慢する藤四郎の言葉に、呆れる百合。

 だから改造ガンプラは嫌だ。手段を選びやしない。

 まったくもって、ガンプラを何だと思っているのか。

「因みに対戦相手は、レコードブレイカーXという名前みたい」

「……ん?」

 何だか、聞き覚えのある名前が出てきた。

 レコードブレイカーX? まさか、とは思うが。

 いや気のせいだろう。知り合いの気がしただけ。

 取り敢えず関係ないと思いつつ、その日は藤四郎にバトルの基本を教えてもらった。

 結果だけ言えば、惨敗であった。藤四郎は久々というわりには容赦なく潰しに来て、真面目にへこんだ。

 父との来るべき、決戦の時は刻々と近づいていた……。



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GBFデビュー

 

 

 

 

 

 勝てない。百合は理解した。

 練習を経て理解したこと。

 百合は、戦いが下手くそである。

 藤四郎相手にボコボコにされた。素人だと言ってたけど。

 基本動作は全部頭にいれた。けど、感覚がついていかない。

 理屈は分かった。然し、身体が理解してなかった。

 翌日、放課後。部室にて。

 机に突っ伏して、百合は死んでいた。

「どうかした?」

 向かいには友人の一人、鈴木沙羅が座っている。

 大人しそうなショートボブの黒髪に黒い瞳を揺らして、死んでいる百合に問う。

 大人しそうな顔をして、彼女もGBFのプレイヤーであり、しかも強いらしい。

 が、相談などできるはずもない。毛嫌いしていると知られているし。

「……沙羅さ」

「うん?」

 首を傾げる沙羅に言うしかないのか。

 化け物である父を打倒するなど無茶だと言われると思う。

 けど、約束しちゃった。出来るのは練習したいからと言って先伸ばしにするだけ。

 父も罰のガンプラの購入をへそくりで検討しているとコッソリ聞いた。

 勝たねば意味がないのだが……。

「私がもしGBF行くって言ったら、助けてくれる?」

「いいよ。誰か倒すの?」

 即答だった。顔をあげると、けろっとしている沙羅がもそももお菓子を食べている。

 大して驚きもしない。逆にこっちが驚いた。

「別にいいよ。わたしのガンプラ、いつも直してもらってるし。お礼になるなら、わたしも手伝うよ」

 沙羅は事情を聞かずに了承してくれた。有り難かった。

 慣れていて、尚且つ反応に困らない沙羅だから、頼れそう。

 事情を話した。両親を知る沙羅は一言。

「倒すなら現実で倒した方が早いと思う」

 予想通りだった。ガックリと項垂れる百合。

 お菓子を食べ終えて、お茶で一服する沙羅は、表情を変えない。

 無表情のまま、飲食禁止の部室で食べている。

「ってか、沙羅。ここで何か食わないで。カスが出るじゃん」

「ガンプラ弄ってないなら良いって部長に言われたよ」

「マジか……。部長、そう言えばどこいったん?」

「戦車がどうとか言って、部品買いにいくって今日は来てないよ」

 あの緩い頭のアホ眼鏡、と内心毒づく百合は周囲を見る。

 いるのは数名。基本的に、離れた場所でプラモデルを組み立てている。

 一人は戦艦、一人は車、一人は姫路城……姫路城!?

「え、お城!?」

 百合は驚いた。脚立に乗って、二メートルはある巨大な姫路城がいつの間にか部室の一角を陣取っていた。

 先輩が、凄い真剣な表情で、フラフラしながら天守閣を仕上げていた。

「今回は姫路城だって。で、来週は大阪城、終わったらドイツのお城もやるんだって」

「スケールがヤバい……」

 ガンプラも大概だが、あの手のアナログなプラモデルもやはり学校では人気がある。

 お嬢様学校というが規律は基本的百合は無視するし、そこまでキツくもない。

 先生たちも一緒になって時々ジオラマとかも手伝ってくれる。

 酷いときは、航空機のかなり巨大なプラモデルを作っていた。先生が。

 校長に許可もらって、部室のなかで作っていたときは本気で驚いたものだ。

「見てくれよ、これ!! 凄いだろう!?」

 ハゲの数学教師が興奮してその航空機を仕上げてる姿は、自分達と同じく通じるものがあった。

 なので、心打たれた百合や沙羅は率先して手伝った。

 大喜びでいつの間にか部員が集まって仕上げたプラモデルに、本人は号泣していたぐらいだ。

 生徒が一丸となってやってくれたというのが嬉しいらしかった。ここ、ホビー関係の好きなやつしかないのに。

 因みに現在は学校の一部として飾られている。

 あの姫路城もきっと飾ってもらうんだろう。実費とはいえ、飾る場所がないと意味がないし。

 そんな頃。部室のドアが音もなくゆっくりと開いた。

 警戒するように、誰かが室内を窺っている。

「……」

 眼鏡をした、赤みがかったセミロングの女子生徒。

 きっちりと制服を着こなす手本のような姿だが、実際立場も手本となる人であった。

「……会長?」

 気がついた百合が駆け寄っていく。

 彼女は、百合に気がついて心底安堵したようにほっとしていた。

「良かった、いたわね百合。少し、匿って欲しいの」

 普段の馬鹿丁寧な口調とは違い、砕けた感じの彼女に、百合は苦笑。

「ん、了解。入って」

 一応年上だが、友人に敬語はいらないと言うので外や部室のなかでは私語で話す。

 手招きして、彼女を招き入れる。

 部室の面々も、気がついて軽く会釈して作業に戻る。

「今度はどうしたの会長?」

 百合が尋ねると、彼女は辟易したようにぼやいた。

「会計が計算ミスってね……。それの後始末を代わりにされそうになって、逃げてきたのよ。まったく、何でもかんでも会長に頼ればやってもらえると思ってて甘えるんだから。少しは厳しくしないと覚えないってのに」

 呆れたようにため息をついた。

 そんな彼女は、古宮茜。

 この学校の生徒会長にして、通称完璧超人と言われる無欠の先輩。

 本人いわく、会長の仮面を被って毎日過ごしていると疲れるので、この部室は数少ない彼女の本音が出る避難場所。

 生徒会長の振る舞いを強いられているんだ! と集中線が集まりそうな迫力でよく言っていた。

 百合の友人にして、成績上位でルックスもよし。性格もよい、運動だってできる。

 と、一見すると欠点などない。

 実際外に出ればモテる。だが、彼女は上っ面だけを見ている人を嫌がる。

「生徒会長としてのお淑やかな私は作り物だからね。そんなのにホレられても、ね?」

 周囲から強いられる振る舞いに、縛られる生き方に反抗している茜は、仮面の付き合いではなく本音の付き合いを優先していた。

「はぁ、疲れたもう」

「お疲れ様」

 同じく、だらしなく机に突っ伏す茜。

 隣で百合も突っ伏す。

「生徒会の仕事は終わってるのよー。私の仕事はないのになんで皆仕事を押し付けるのー? 生徒会長さんだって人間なんです。自由時間ください!」

「じゃあ遊びにいこうよ会長」

 他人の仕事したくないと駄々こねる茜に、沙羅はそんな事を言い出した。

 嫌な予感がする。百合が言うなと言ったが。

「百合ちゃんがGBFやるって」

「本当なの百合!?」

 ガシッと突然起き上がり肩を掴む茜。

 目が血走っていて怖い。頷く百合に、嬉しそうに茜は笑った。

 事情を聞いて、更に納得。

「そう。チャンピオンに挑むのね? いいわ。私も手伝うわ。私達がきっちり、百合を戦えるようにして見せる!」

 母も共に戦うというが、茜は指摘する。

「バカね。百合と戦うときに何を使うかは決めてないんでしょ。その様子からして、多分出てくるのはインレね。最近チャンピオンがインレ使ってるって話はなかで聞いたから」

 彼女もGBFのプレイヤーであり、百合よりは強い。

 というか。

「お父さんは私を意地でも勝たせないんだね……」

 母ですら娘やるときは加減してくれると言ってるのにあの親父は……。

 大人げないにも程がある。インレとかふざけるなと思う。

「……インレ?」

 沙羅がわかってないので、簡単に説明した茜。

「ええとね、インレっていうのはZの外伝だったかな。ティターンズが秘密で開発していたTRシリーズって言うのの、集大成。凄い大きなガンダム型MA。複数のマシンが合体した機体でね。ぶっちゃけ、慣れている人でも戦いたくないと思うわ。それぐらい圧倒的なガンプラ」

「って事は、大きさはセンチネルのあれぐらい?」

「そうそう。規模は同等ね」

「うわぁ……」

 ドン引きする沙羅。

 スケールは理解してもらえただろう。

 どう言っても、素人に向ける物体ではない。殲滅する気か。

「その辺は百合のお母さんとどうにかしてね。今は、百合のレベルアップの方が先」

 茜はそういって、立ち上がった。

 早速いこうと言うのだが。隠れているのではないのか。

 しかし、気にしない会長は適当に言いくるめてくると言って、一度出ていった。

 こう言うときの茜の行動は段違いで速い。どうせ直ぐに戻ってくる。

 諦めて、渋々彼女も沙羅を連れて支度をする。

 GBFにこうして、百合もデビューすることになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校を出て、専用の筐体の置いてあるお店に向かう。

「いいわ。今日は私が奢っちゃうから!」

 と、気前よく茜がいってくれた。流石は名家古宮の令嬢。

 茜の実家は厳格な家だが、凄いお金持ちだったりする。

 有り難く受けさせてもらった。

 店内に入ると、ズラリと並ぶ丸い筐体。

 これが、ゲームをするための機械。中に入って、始めると言う。

 ガンプラもある。店員に案内されて、上下に筐体が開いた。

 はじめての場合はアバター作成をすると聞くが、外見などどうでもいい百合は適当に入る前に設定する。

 入る前に決めるので、筐体のなかでさっさと決定。外見は自分と同じにした。

 こだわりなどないので、適当。

 多少髪型を変えて赤いリボンでも追加。服装はランダムでいい。

 HMDをつけて、椅子に深く横たわる。

 店員が蓋をして、ガンプラをスキャナーで読み取る。

 あとは、このままゲームが始まるまで待てばいい。

 目を閉じて、その時が始まるまで待つ。

 軈て、視界は明るく開けていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 目を開ける。ここはどこだ。

 確か、最初にエントランスに飛ぶとか店員が言っていたような。

 周囲を確認。多種多様なアバターが歩いていた。

 大きなホールのような場所だった。天井が高く、賑わった喧騒がよく響く。

 道行く人たちを見送りながら、後ろを向くと入り口、と日本語で書いてある。

 ここが入ってくる場所。

 彼女は、その一ヶ所で突っ立っていた。

「……何だかなぁ」

 適当に歩き出す。これがGBFか。

 確かに様々な連中がいる。なんでもありの外見は伊達じゃないか。

(……ん? なにあれ? シーブックと一緒にガレムソン居るんですけど)

 ガンダムのキャラが普通に歩いている。

 あれはシルエットフォーミュラの悪役、バズ・ガレムソンではないか。

 隣ではF91の主役、シーブックが普通に話している。

(向こうにいるのは……え、カロッゾ!?)

 で、本編の悪役カロッゾがキレキレなダンスしている。何してたんだあれは。

 案の定魔境であった。イメージぶち壊れの世界である。

 なかで落ち合おうと言っていた。場所は、大きな時計の前。

 そこに向かって歩く。自分の格好は……。AGEのユリンだった。HNもユリンにした。 

 どうせいつも似てるとか言われるので、開き直る結果だった。

 数分歩いて、大きな時計の前にある椅子に座った。

 この僅かな時間でもう疲れた。

(酷いもんだなぁ。改造ガンプラで溢れ帰ってる……)

 道端で、バトルの様子を映像で流しているので少し見る。

 そこらじゅうにある自作ガンプラ。認めない百合、いやユリンにはきつい部分がある。

 嫌気がさすように頭をふる。黙って待つ。

 すると。

「あ、いたいた」

 一人の女性が駆け寄ってきた。

 深紅を基調に、銀色のラインが入った軍服。

 顔は……茜のままだ。

「待たせてごめんね。ええと……ユリン。よろしく」

 ゲームのなかなので本名では呼べない。

 予め、名前は教えてもらってある。

「アカネ。よろしく」

 同じ場合は、まあそのまま呼べばいい。

 アカネに呼ばれて、立ち上がる。そう言えば沙羅がまだいない。

 アカネに見かけたか聞くと。

「そろそろ来ると思うわ」

 アカネの言う通り、少し立ち話をしながら待っていると。

「お待たせ」

 ……凄い見た目の奴が来たのだが。

「…………うわぁ」

 ユリンは引いた。完璧に引いた。ドン引きだった。

 アカネは苦笑いして頬を指先でかいていた。

 それもそのはず。沙羅のアバターは。

「なに?」

「趣味が爆発してんだけど」

 性別が男になってた。

 タンクトップ一枚に、長い青いジーンズで褐色の肌色の、筋骨粒々のハゲのおっさん。

 しかも白目を常時って、怖すぎる。笑った顔がホラー映像。

 なにこの変態。野太い野郎の声と思いきや女の子の声だと尚更に。

「ユリン。でいいんだよね。わたし、名前ガチムチ。これアバター」

「うわぁ……」

 二回目のドン引き。

 名前まで酷い。ガチムチときたか。野郎の声にもしておけと思う。

「ガチムチ……もっといい名前なかったの?」

「最初は筋肉もりもりマッチョにしようと思ったら文字数制限で引っ掛かった」

 改良してこれか。益々趣味を疑った。

「ま、まあまあ。気を取り直して、行きましょう?」 

 アカネのフォローで、取り敢えず初心者用のミッションでもやりにいこうと決まった。

 綺麗な軍人さん、小さな女の子、そして白目笑顔での筋肉もりもりマッチョのおっさん。

 という、若干一命の存在感が半端でない三人は、早速ガンプラバトルに出向いていくのだった……。



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初めての実戦

 

 

 

 

 

 移動中、様々な事を二人に聞いた。

 GBFの中では、端末が自動で支給されている。

 服を探ると、確かに知らぬ間に入っていた画面つきの端末があった。

 これで必要なものを行うらしい。

 互いにフレンド登録をしておく。

 これで、ゲームにいるかどうかも直ぐに分かり、連絡もとれる。

 落とさないか不安だが、本人から一定距離離れるか他者が触れると自動で手元に戻ってくる。

 画面も本人以外は見えないので大丈夫、とのこと。

 大きな建物のなかを移動する。

「任務の受注も端末で出来るわ。今のうちにしておいてね」

 色々な機能を兼ね備えるので、やり方は早いうちに覚えろとアカネが言う。

 ユリンは画面を眺める。自分の現在のCPとか、情報が乗っている。

 自分のガンプラも。ステータスの確認をすると、初期状態と書かれている。

「……初期状態? ユリン、ガンプラ改造してないの?」

「するわけないじゃん。私は正規の完成品しか作らないし、飾らない。遊ぶためのガンプラじゃないんだよ」

 ガチムチが首をかしげる。白目の笑顔のまま。怖い。

 沙羅の動作をガチムチでされると気色悪い。

 兎に角、首を振って否定する。

 初期状態とは、ガンプラに何も手を加えていない状態。

 俗にいう、素組みというものだ。

 彼女の場合は、欠損しているドラグーン以外は何も弄ってない。

 自作などの場合は、ここに各自パーツの状態が数字で示される。

 全体のバランスなどを考慮した独自の判断で、算出される。

 数値が低いほど、完成度が低いので性能も低下するという。

 ガンプラ作成の一種の目安だと言うが。

「初期だと、まあよくも悪くも既製品の完成品って感じね。数値化してみる? それだと、素組みが基準になって判断されると思うけど」

 アカネが言うので、適当に端末を操作。

 数値化、という項目を見つけて選択する。

 すると数値化された己のストライクフリーダム。

「91だって。高いのこれ?」

 興味無さそうに出たのを言うと、アカネが突然立ち止まる。

 ガチムチは更に凶悪な笑みに変化する。

「91!? 嘘でしょ!?」

 アカネは振り返り、ユリンの肩を掴んだ。

 大変驚いている。何事か分からない彼女にガチムチが語った。

「最大数値が100なんだよ。高ければ高いほど、よく出来てるってこと。わたしも滅多に聞かないけど、凄いね90越えるなんて。殆ど完璧な既製品ってことになるかな。性能もかなり良いよ。基本的に作ってるってことは、よりビルダーの腕が顕著に数値に出るんだ。ある意味じゃ、自作よりも難しいってこと」

「私だって88が限界だったのに……」

 ガチムチの言う通りなら、相当良くできていると言うことか。

 ユリンの純粋な実力が見える形で現れた。そこは嬉しいが……。

「え、アカネ……改造してんの?」

 イヤそうにユリンが、愕然とするアカネに聞いた。

 ガチムチは半分予想していた。彼女は割りと頻度が高く、ガンプラを弄っていたから。

 然し、あまり部室にこないアカネも改造しているとは……ユリンは眉をひそめた。

「え、えぇ……自作よ」

「そう。じゃあ私、帰るね」

 戸惑うアカネは正直に答える。

 自作と聞くと回れ右。そのまま出口へ。

 慌てて二人して止める。

「待って待って!! 改造ガンプラ嫌いなのは知ってるけど、それはないでしょ!?」

「食わず嫌いはよくない」

 ユリンは抵抗する。懸念通り二人とも改造してやがった。

「私は正式な完成品が好きなの!! あるべき姿しか嫌なの!! 調和をぶっ壊している改造ガンプラなんて認めるか!! 離して! やっぱ帰る!! 帰って自分でお父さんやっつけるから物理で!!」

 ヤバイことを言い出した。

 ゲームのチャンピオンとて、現実の娘に勝てる訳じゃない。

 まさかの物理宣言に二人は必死に止める。

「せめて出来映えを見てから言って!! 見るだけでもいいから!」

「甘いよ、ユリン。わたしの筋肉からは……逃げられない!!」

 ガチムチのマッスルが、暴れるユリンの首をロック。

 そのまま豪快に持ち上げる。

「ひぃ!? なんか微妙に暑苦しい汗のにおいまで再現してんの!? 気持ち悪い、離してガチムチ!!」

 手足をばたつかせて嫌がるユリンだが、マッスルには勝てない。

 大人しくしろ、さもなくば公衆面前でプロレス技をかけるぞと脅された。

「やだぁ……お家帰るぅ……」

 最終的にべそかいてとぼとぼついていく。

 説得物理で征服完了。ユリンは嫌々、二人についていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 任務を受けて、早速出る。

 専用の出口から、出ていく。

 個別で自動で自分のガンプラのコックピットに転送される。

「因みに立ったまま操縦するか座ってやるかは選べるよ」

「座ってやる……」

 意気消沈のユリンは、ガチムチのアドバイスを聞いて、座った方でやると決めた。

 立ったままMSが操縦できるわけないだろうという心理で。

 ポータルにたって、転送される。

 すると、よくアニメで見かけるようなコックピットの座席に座っていた。

 周囲は全部モニターになっている。

「……あれ?」 

 そのわりに出撃しない。 

 端末に通信。アカネが、音声で出撃と言わないと出ないと言われた。

 あるいは端末操作で出るらしい。仕様だと言われた。

(面倒くさい……)

 あとは、自分のガンプラの名前をいい加減に決めておけと指摘される。

「……ストライクフリーダムはそのままだよ」

 改名する気はない。だが、殆どのプレイヤーが、名前をつけている。

 混同されるとややこしくなると言われた。

「イチイチそこまでするの? 嫌だなもう」

 ここは既製品を全否定する世界なのか、と嫌気がしてくるユリン。

 だが、そう言われるとしっかりする愛機に名前をつけるかと悩む。

 ……少し考えて、決めた。

 ドラグーンを無くした翼。思い出すは先生との練習。

 丁寧に教えてくれた彼の助言を、一字一句反芻する。

 彼は言った。ユリンが、次に進むための翼が、ストライクフリーダムだと。

 このゲームにデビューして、新しい発見をするかもしれないから。

 次のストライクフリーダム。つまりは。

 

「――ストライクフリーダムシュイヴァン!! ユリン、行くよ!!」

 

 どこかで知った、次を意味する言葉、シュイヴァン。

 ならば、ストライクフリーダムはシュイヴァンと名付けよう。

 次に行くための翼、ストライクフリーダムシュイヴァン。

 彼女のガンプラ。GBFに羽ばたく翼。

 気がつけば叫んでいた。同時にモニターが全部灯る。

 映し出す画面が、駆け抜ける。

 その先に、彼女は羽ばたいていった。

 己の魂を乗せたガンプラと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、森林か?

 大きな樹海のようなフィールドに転送されて、彼女は原っぱに立っていた。

「お、来た来た」

「遅かったね」

 画面に、アカネとガチムチの顔が映った。目の前のガンプラに乗っているらしい。

 予想通り、アカネのガンプラは原型を留めていない。下半身は見たところ、全くの別物だ。

「…………」

 厳しい表情で二人のガンプラを観察する。

 見てもいいと言われているので、全方位から見て覚える。

「どう?」

 ガチムチが聞いてくるので、正直に答えた。

「こっちは……まだ、我慢できる。これ、元々はレコードブレイカーだよね。両腕を多分、X1に変えてるけど。武器はX2。弄ったのは、それぐらい?」

 ユリンが問うと、ガチムチはまた怖い笑顔で頷いた。

「お見事。相変わらず部品よく覚えてるね」

 そして、思い出す。先生と一緒に見ていた中継のガンプラ。

 やっぱり、沙羅のガンプラだったのだ。

 前に部室でレコードブレイカー仕上げていたし、改造すると言って百合が嫌な顔をしているのを覚えていた。

 名前は確か、レコードブレイカーX。

 もとになっているレコードブレイカーから、両腕をX1に変えてあり、武装にX2のショットランサーを持っている。

 あとはそんなに改造はしていないと思う。背中も変化はない。

「正解。わたしのレコードブレイカーXは、同じ互換性のあるパーツを組み替えただけ。原作にもある設定だから、よく噛み合うよ」

 改良型のザンバスターを左腰に装備して、右手にはショットランサー。

 薄っぺらい防御と火力を補った結果らしい。

「……で、こっちは?」

 アカネがユリンの反応を伺うように聞いてきた。

「……元々がガンダムXなのは見れば分かるけど、胸部のパーツはクリスタル素材? 下半身は何でか私のと似たストライクフリーダムになってるし、背面のリフレクターは形変わってる。ガンダムXなの、これ?」

 ユリンの感想は酷評であった。

 ユリンが知るXの名残はあるものの、下半身は別物。

 特徴的なリフレクターも、形がXから変わっており、後ろから見ると最早分からない。

 胸部のパーツはクリスタル素材が追加されて、銀を基調としたコバルトブルーとすみれ色のトリコロール。

 武装はXのモノを改造したらしいライフルが一つ。シールドはないようだが。

「一応ね。これが私のガンプラ、ガンダムX-SRよ」

 アカネがユリンに言うが、彼女の反応は……。

「なんというか、自作ガンプラって、やっぱり変というか……」

 微妙である。

 表情もどこか距離があるというか。頭の固い彼女には、受け入れがたいようだ。

「パッチワークみたい」

「……自作ガンプラは大体そうだと思うわよ?」

 つぎはぎとは的確だがひどい例えだ。

 渾身の出来映えだが、やはりユリンには抵抗感があるようだ。

「……うーん」

 ユリンは思う。これが当たり前の世界。

 こんなのが横行するGBF。

「帰ろうかな……」

 こう言うのは好きじゃない。

 原っぱで突っ立つ三機。

 だが、突然。彼女たちに、警告するブザーが鳴った。

 何事かと思えば、フィールドで突っ立っていたからか、他のプレイヤーに発見された。

「やば、悠長に立ち話しすぎた!」

 アカネが舌打ちする。ここは自由に戦えるフィールド。

 プレイヤーを発見したら、襲ってもいい。当然、ぼさっとすれば襲われる。

「ユリン!! 敵よ、速く準備して!!」

 アカネに言われる。ユリンは、面倒そうにしていた。

(帰りたいのに……)

 戻ろうと思った矢先にこれだ。

 その方向に振り返ると。

 

「ヒャッハー!! ノワール止めた俺の強さを思いしれ……ぐはぁ!?」

 

「邪魔だボケぇ!!」

 

 ……高速で飛来するMSが、横合いから躍り出たガンプラに蹴り飛ばされていた。

 なんか聞き覚えのある声で通信で漫才が聞こえたが。

 その一瞬で、ユリンは吹っ飛ばされた方のガンプラを見た。

(……あ、やばい。バエルじゃんあれ)

 ガンダム・バエル。現在螺旋回転して森林に墜落していくガンプラだ。

 鉄血のオルフェンズの機体で、あの世界観は確かビームが効かない。

 要は、不利だ。先生のアドバイスを思い出した。

 GBFでは、ガンプラの能力が再現される場合、天敵が少なくともいる。

 大半の天敵が、鉄血のオルフェンズのガンプラ。ビームの効き目が薄い。

 ストライクフリーダムは大半がビーム。勝ち目はないだろうか。

 対して、ストライクフリーダムはVPSという物理攻撃にはめっぽう強い。

 殴られようが斬られようが、それが物理なら軽減したりする。

 無限動力のストライクフリーダムなら尚更だ。

 泥沼化する前に、不利なら逃げろと教わった。

 あっちも武装は剣と電磁砲ぐらいしかないはずだが。

 改造されていれば話は別だろう。

 襲ってくるのは、何だろうか。

(……ウイング? でも、見たことないなあれ。何だろう?)

 見たとこ、ウイングガンダムに似ている。

 でも、翼が機械的なパーツで構成されている。

 色も鮮やかな青と赤と白のトリコロール。

 手には象徴的なバスターライフル。

 あれも改造したのかと見上げる。

「取り敢えず死ねよやー!!」

 意味不明な叫びをあげて、バスターライフルをこっちに来ながら構える。

 チャージされるビームの光。

(避けるか)

 二人はユリンに声をかけるが、無視。

 集中しているユリンは既に迎撃の準備をしていた。

 先生が言っていた。

 

「いいかい、百合ちゃん。ストライクフリーダムは、ドラグーンが無ければ本来の機動力が大気圏で発揮できる。知っての通り、VLは外して初めて使えるからね。と言うことは、必然的に戦う場所は空中になるよね?」

 

 自分の得意な場所で戦えと。

 先生の使うガンプラは陸戦型だった。律儀に陸戦で応じたから負けたと。

 落ち着いて。冷静に対処しろと教わった。

 やり方は知っている。散々叩き込まれた。

 武装は知ってる。彼女のシュイヴァンは射撃を得意として、機動力で翻弄するガンプラ。

 前回から、砂が水を吸うごとく学習していたユリン。

 放たれるビーム。二人は先んじて飛び去り、回避。

 ユリンも、そのまま回避していた。

(……って、反応早!?)

 アカネは驚く。凄まじい機動力だった。

 一瞬だったが、彼女のストライクフリーダムの関節が黄金に煌めいたのは気のせいか?

 直上に上昇。外れた攻撃が地面で爆発する。

(面倒くさいな……)

 ユリンは次の手を考えていた。

 ウイングは、避けられて追撃するように銃口を向ける。

 動いて避ける。ストライクフリーダムは空を駆け抜けた。

 バスターライフルは早々、連射など出来やしないと思う。

 事実、間隔はやはり遅い。次に撃つ頃には彼女の足なら逃げ切れる。

 そう。逃げ切れる。

(あ、いけそう)

 撃たれるビーム。右に旋回、回避。

「普通に上手じゃない……!!」

 アカネは驚く。素人にしては棒立ちもせず硬直もしないで、しっかりと応戦している。

 ガチムチも様子を眺めていた。

「機体の特性、よくわかってるねユリンは」

 機動力で、先ずは回避してから、安全に反撃する。

 運動性能も高いストライクフリーダム。ウイングのバスターライフルじゃ、捉えきれない。

 やはり、血は争えないのか。チャンピオンの娘の初陣は、悪くない。

 ……が。

(……お家帰る。あいつに慰めて貰おう……)

 逃げやがった。ウイングには、見向きもしない。そのまま迷わず逃走したのだ!!

 全力でストライクフリーダムシュイヴァンは、逃げ出した!

「はぁ!?」

「嘘でしょ!?」

 まさかの逃走だった。戦う気はゼロ。無視して彼女は一人飛び去っていった。

「お、おい!! 無視するなよ!! 普通は戦うところだろ!?」

 相手も戸惑っていた。完全にスルーしたのだ。

 戦うはずの対応が、まさかの敵前逃亡とは誰が思うだろう?

 

「……いきなり何すんだテメェ!!」

 

 代わりに叩き落としたバエルがキレながら戻ってきた。

 左右に激しく動いて撹乱しつつ、突進。

 不意討ちを食らって、慌てて迎撃するバスターライフルをものともせずに、近づいて。

「奥義、革命に失敗したマッキー流二刀斬りィッ!!」

 意味不明な必殺技を叫んで両手にした剣で、上下に両断した。

 そして。

「……爆発ッ!!」

 剣をしまいこんで叫ぶと同時に、背中を向けた敵機が爆発。

 色々と混ざっていた。

 バエルも満足したのか、置いていかれた二名を無視して去っていった。

「戦わないの……?」

「流石に予想外すぎた……」

 ユリンの態度に愕然とする二人。

 取り敢えず、帰ってしまった彼女を追うため、二人も去っていく。

 まさかの逃走というオチに、何も言えない二人であった……。

 



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転校生

 

 

 

 

 初陣は、逃走によって終結した。

 やはり好かないあの空気。

 彼女は一人、どうするかを考えながら日を改める。

 そんな中。学校では、ビッグニュースが入ってきた。

「聞いたか、バイトしない方の山田!!」

「なに、死なない方の佐藤」

「いきなり酷くね!? ってか俺死ぬの!?」

「見た目が死にそう。主に仮面のドラグーンで」

「そりゃSEEDのフレイだよ!!」

 バカな会話をする朝の時間。

 机に座った百合に、後ろの香苗が話かける。

「今日さ、めっちゃ可愛い転校生来るらしいぜ!?」

「ふーん。狙ってるの?」

「狙うか!! 俺は女だ! ここは女子校だ!!」

「あ、そっちの趣味じゃ」

「ねえよ!?」

 口調と内容が転校生に浮かれる野郎みたいで、つい。

 百合は振り返りながら、呆れていた。

「可愛い? それはつまり、アッガイ的な?」

「鈴木、お前の可愛いはガンプラ基準かい……」

 沙羅が本を読みながら隣で聞いていた。

 興味はあるようだが、ずれている。

「可愛いってのはあれだね。きっとハマーン様だね」

「可愛い……? え、ハマーンって、可愛い……か?」

 百合の言葉に香苗は呆然とした。

 どちらかというと女傑。凛々しいの方である。

「ああ見えて実はまだ二十代。数年前まで私たちと同世代。それに付き合う赤い彗星」

「きゃーロリコン怖い」

 シャアはやはりロリコンである。間違いない。

 真顔で言う百合に乗っかる沙羅。

「お前らの基準が分からねえんだが……」

 香苗は困っていたが。

 それはともかく。

「可愛いってなに? どんな感じ?」

「俺もそこまでは知らねえよ。伝いで聞いただけだし」

 詳しくは聞いてないという香苗。

 想像が膨らむから、好き放題いう二名。

「アッガイ並みに可愛いよきっと」

「アッガイみたいに可愛いのは逆にこええぞ!?」

「じゃあカテジナさん」

「待て、あれは悪役だ! 相手に失礼すぎるわ!」

 可愛いがわからない二名は、尚も適当なことをいい続け、それに突っ込む香苗。

 騒がしくなっていた。

「斜め上でナナイとか」

「大人!! それ完全な大人!!」

「……大穴でシーマ様とかどう?」

「山田、お前さっきからチョイスが渋いぞ!? 真逆だからな!?」

 結局、どんな子かは分からないまま。

 ホームルームは、始まっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 件の女の子は、緊張した面持ちで、ホームルームに挑んでいた。

 ガチガチに固まって、視線は虚空をさ迷っていた。

 黒板に書かれた名前は海外の者。成る程、外国人だった。

「え、えぇと……私、私は」

 担任に自己紹介を、と言われて懸命に喋ろうとする。

 が、うまくいかない。周りの好機の目に、気圧されていた。

 確かに可愛い。というか、超可愛い。嫁にほしい。

(いかん。何を考えているんだ私は)

 なんて言いたくなる程の愛らしさ。

(この感情、まさしく愛だ!! って叫びそうな見た目だな……)

 顔立ちはとても幼い。まるで小学生。背丈も多分小学生で通じる。

 地面に付き添うな程の長い長髪。

 赤い銅のような色合いで、まるっこい瞳は恰も翡翠の如く澄んでいる。

 外国人特有の見慣れない可愛さの中にある美しさというか。

 人形のような少女と言えばいいのか。兎に角、目鼻立ちの整った美少女である。

(ま、興味ないんだけどね)

 アクビをしながら、窓の外を見る。よく晴れていた。

「は、はじめまして。ミュウ・ファルネーベと申します。此度は、家庭の事情で日本に来ました。日本のことは、よく分かりませんが、皆様よろしくお願いいたします」

 ミュウ、という名前らしかった。

 気にならないので、適当に拍手をして歓迎する。

 それよりも百合は、打倒父をどうやって叶えるかが優先しないといけない。

 頭を下げて、不安そうに翡翠を揺らして一瞥するミュウ。

 

 ……不意に。

 

 彼女と、百合は目があった。

 視線が交差する。大きく見開くミュウ。

 何やら、もう一名を見てから、何かを小声で呟いていた。

 大変驚いている。何を見てビックリしているのだろうか?

「……ユリン? フレイ?」

 口の動きからして多分、そう呟いていたんだろう。

 ひきつった顔で、思わず睨み返してしまった。

 途端にビクッと反応するミュウ。いけない。反射的に。

(誰がユリンだ私は百合だよ)

 見た目が似てるからって勝手にXラウンダーにするなと百合は思う。

 なんだ、ガンダム知っているらしい。だから驚く。

 二人はそれだけ、よく似てる。失礼な転校生であった。

 ため息をついて、百合は打倒の方法を考える。

 出来れば、ゲームに行かない方向で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間。ミュウは囲まれている。

 すごい人気である。流石は外国人。

 珍しさは群を抜いている。わらわらと寄っていくクラスメイト。

「お前は行かないのか。青くない方の山田」

「私は行かないよ。自由に倒された方の佐藤」

 毎度ひどい言い分の二名は、授業の準備をしている。

 ミュウは右往左往しつつ、必死に対応していた。

 沙羅は様子を眺めに行っている。

「倒されたって何だよ」

「声的に似てるなと」

「そりゃステラだよ!」

 ナイスツッコミ。香苗は渋い表情でぼやく。

「俺たちを見てなんか言ってたよな?」

「いつもの」

 というと、香苗も察する。

 ガンダムキャラのそっくりさんと思われたか。

 ため息をついて、頭をかいた。

「何度目だろうなあ」

「嫌だね、見た目が似てるとさ。ねぇ、主人公を誘惑して堕落させたフレイさん?」

「喧しいわ、長々いちゃついた挙げ句にオモチャにされたユリンさんや」

 互いに罵る。似てるものの宿命だろう。

 ガンダムを知る連中からはいつも言われるのでもう慣れた。

「それよか、お前さ。GBF始めたってマジで? 何使ってんの? 俺と戦わない?」

「……」

 沙羅が喋ったのか、香苗は転校生よりもこっちが大事らしい。

 楽しそうに話しかける。百合は行かないと改めて言うが。

「良いじゃん。一緒にやろうぜ? お前に合わせて、俺も今じゃ無改造のガンプラなんだぜ?」

 意外そうな事を言い出した。振り向くと、実はと香苗は語り出す。

「模型屋でよ、運命的な出会いがあったんだ。俺はノワールを止めて、こいつ一筋と決めたんだ」

 と説明する彼女は、放課後にそのガンプラを見せると百合に言う。

「素組みをしてるの?」

 例外だろうか。周囲にいるなかでは、唯一の先生以外の無改造。

 にやっと笑って頷く香苗。成る程、これなら話は別だ。

「いいよ。なら、後で見せてね」

「おっし! 話が分かるな山田」

 改造しなければ百合も特に文句はない。

 香苗が放課後を楽しみにしていろというので、百合は期待してその時を待つ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、部室にて。

 じゃじゃん! と見せられたそのガンプラは……。

「HGガンダム・バエル!? あの時のガンプラ!」

 なんと、前に見たバエルだった。

 そのままの姿で、香苗が持っていたのだ。

「あれ? 何で知って……もしかして、この間ゲームですれ違ったか? 羽のないストライクフリーダムがいたんだけど」

 キョトンとする香苗に頷く百合。

 どうやら、聞き覚えのある声は……香苗だったらしい。

 知っていたのか、と香苗は笑っていた。

「あぁ、あのフリーダムお前かよ。通りで動きが良いわけだ。お前なら納得だぜ」

 じゃあ近くにいた二人は、と聞くので目の前を指差す。

 そこには、ガンプラ雑誌を読んでいる沙羅と、生徒会から逃げてきた茜机に突っ伏してが死んでいる。

 この二人に誘われたと言った。途中で逃げたが。

「そっか。無改造しか嫌なら、俺は例外だな」

「まあね。同志がいてよかったよ」

 ガシッと握手をする百合と香苗。

 沙羅はアクビをしながらページを捲る。

 茜は多忙な仕事に疲れはて、微動だにせずハイライトがご退場なさっている。

「会長、大丈夫か……?」

「寝不足なのよ……。夜中までガンプラ作ってたから」

 動かずに彼女は言った。

 周囲に反対されている茜の場合、隙を見て作るしかない。

 自宅では時間をとれずに、学校では生徒会の仕事。

 忙しすぎてやっている暇がない。それに加えて学生の仕事も無視できない。

 彼女は常に忙しい。だから、こうして死ねるときは休むべく全力で死ぬ。

「うちの両親、ガンプラをお人形の遊びだって煩いし……。お爺ちゃんは頭が固いし……」

「また、私が作ろうか?」

 邪魔をされる茜に代わり、どうしてもの時は百合がやっていた。

 茜も出来れば自分でやりたいが、体調を崩してまでやるとあとが怖い。

 今回も、百合に頼むことにした。

「鞄のなかに、入ってるわ……」

 よりによって、一番大変なやつらしい。

 慎重に箱を取り出した。ストライクフリーダム。百合と同じだった。

 これは自室に飾るようだと茜は言ったが、もしかしたら使うかもしれないと。

「PGは作るの大変なのね……。初めて買ったけど、時間が足りないわ……」

 死にかけ生徒会長は、絶望したように呟いた。

 身の程を知らない冒険をするので、苦労する。皆は同情した。

 理解ある周囲のお陰で、三人は分からない大変さなのだろう。

「とりあえず、一緒にやろうや。俺なら良いだろ?」

「いいよ。沙羅もギリギリ、許容範囲だった。ガチムチ以外なら」

「筋肉、良いのに……」

 茜は受け入れるまでもう少し時間がほしいと、百合は語る。

 香苗は問題ない。沙羅は白目のマッチョ以外は許せる範囲。

 構わない、と茜は言った。

「しばらく、生徒会が忙しいから行けそうにないし……楽しんできてね?」

 相変わらず死んだ魚の目をする茜に、三人は笑った。

 そんなこんなの放課後。

 その帰り道、百合は彼女と、出会ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道。一人で歩く百合は、ある公園の前を通りすぎた。

 すると、ブランコに座って俯いている人影を発見する。

「?」

 よくみると、ミュウだった。

 とても悲しそうな表情で、寂しそうに漕いでいた。

 なんか穏やかではないヤバそうな空気。

 百合は無視できずに声をかけた。

「大丈夫?」

 そう声をかけると、大袈裟に反応するミュウ。

 顔をあげ、更に驚く。

「あれ、AGEのユリン!?」

「誰がユリンだ私は百合だよ」

 お馴染みの会話になった。

 恐縮して謝罪するミュウに、改めて百合は自己紹介。

 同じクラスメイトなので、声をかけたと言った。

「どうかした? 迷子?」

 もしかして、道が分からないのかと思ったが違うとミュウは言う。

 事情を聞こうかとも思うが、込み入った話になりそうだ。

 言いたくないように、再び俯くミュウ。

 百合じゃどうしようもない、と百合は謝って立ち去ろうと、背を向ける。

 すると。

 

「ま、待ってユリン!!」

 

「だから私は百合だって言ったろうに」

 

 すがるように、手を伸ばして制服の裾を掴むミュウ。

 ユリン呼びをされて思わず訂正しに振り返る百合。

 困ったことになった。初日に、まさか転校生とこんな形で急接近しようとは。

 どうすればいいのか分からないが、離してと言うが……。

「……………………」

 無言になる。また俯く。

 何が言いたい。何がしたい。百合は次第に焦れていく。

 ハッキリと意思を示さないミュウに、怒りが溜まっていく。

 彼女は大人ではない。こんなとき、茜のように優しく接するなど出来やしない。

 自分の感情を優先する。よく知らない転校生。すがるような態度。

 百合は、語尾を強めてもう一度聞いた。

「転校生。あんた、何がしたいの?」

 怒りが伝わり、更に追い詰められたのかミュウはとうとう泣きそうになっていた。

 然し、言いたいことも伝わったんだろう。彼女は意を決して、百合に頼み込んだ。

 それは、百合一人にどうにかできるレベルではなかった。

 でも、何も出来ないこともなかった。

 

「お願い!! わたしを、助けて! わたし、今家出してて……いく場所がないから、お願いします! 何でもしますから!!」

 

「……家出? 事情は分からないけど、取り敢えず私の家に来なよ」

 

 家出らしい。取り敢えず両親に意見を聞こう。

 このままでも埒はあかない。なので、連れ帰る。

「……へっ?」

「ついてきていいよ。相談してみる」

 呆然とするミュウの手を引いて、とにかく帰る。

 展開についていけないミュウを引きずって、百合は帰った。

 ミュウは訳が分からず、そのまま誘拐されていくのだった……。

 

 

 

 

「ただいまー。お母さん、友達連れてきたんだけど、ちょっと助けてー」

「んー? 帰ってきて早々なんだ百合? で、誰だその子は?」

「転校生。家出だって」

「……家出だと? お嬢さん、話を伺おう。先ずはまあ、入るといい」

「あわわわわわ……」

 

 

 

 

 



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転校生の転機

 

 

 

 

 

 百合は帰り道、ミュウと出会った。

 彼女は家出をしていく宛がない。だから助けを求めた。

 百合に出来ることじゃないが、両親に相談ぐらいはしようと思い、連れ帰る。

 そして。

「百合。お前は席を外せ。私が話を伺おう」

 母がミュウから事情を聞くと言い出す。

 予想していたので、心細いミュウをおいて、自室に戻った。

 茜のガンプラを作らないと。PGだから数時間はかかりそうだ。

 リビングで話を聞いていた母は、一時間ほどして、出掛けると言い出した。

「彼女も連れていく。あいつの合流するから、帰りは遅くなるだろうから先に夕飯食べてろ」

「うん、分かった」

 コートをきて、ミュウを引き連れ出ていく母を見送る。

 全部話したのか、多少はミュウは顔色は回復していた。

「転校生。大変だろうけど、頑張って」

「……うん。頑張るのは、君の方だと思う……」

 意味深な事を困惑して語るミュウ。

 意味が分からないが、取り敢えず出ていった。

 その後、夕飯を適当に食べて部屋に戻り、好きなガンダムのBGMを流しながら再開する。

 さらに数時間経過して、夜中になった。

 いい加減に帰りが遅すぎると心配した百合は、信じられないものを見ることになる。

 

「百合。ミュウちゃん、我が家でしばらく預かることになったぞ。向こうの親御さんも了承してくれた」

 

 母が勝ち誇った笑顔で豪快にいってくれた。

 そこには、父が仕方ないように笑って、目を点にする転校生が再び帰ってきた。

 大きなボストンバックを抱えて、何が起きているのか自分でも理解していない。

「……なんで、こうなるの?」

「知らないよ!?」

 聞かれて、逆に聞きたかった。

 かくして、転校生はミュウは、一日もしない家出のち、山田さんちにホームステイすることになるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「いい? 私の部屋なんだからね!? 私のガンプラなんだからね!? 勝手に触ったら乳揉むよ!?」

「ひぃ!?」

 一緒の部屋にされた。

 空いている部屋あるのに、母が同い年の百合が一緒の方がミュウも安心するだろうと勝手に決めた。

 その日の夜から一緒の部屋で、一つしかないベッドで共に寝ろと。

 荷物を持って、頭下げてお願いされても色々困る。

 なんで今日あったばかりの転校生と共同生活しないといけないのか。

 困惑を通り越して、キレた。母に歯向かうだけ無駄なので、本人に怒る。

「もう、少し声かけただけなのに! なんでうちに来ちゃうの!?」

「ご、ごめんなさい……」

 恐縮して謝るミュウ。本当に申し訳ないように萎縮していた。

 でも、と同時に思う。あのまま放置しておけば、彼女は明日学校に来たかも分からない。

 ……事情があるんだろう。そう無理矢理納得する。結局は、自分がやったことだ。

 後悔はしても、追い出しはしない。両親がいいと言うなら、百合も受け入れる。

「……ま、仕方ないよね。事情があるんだとは思うし。詳しくは聞かないけど、私の物は壊さないでね」

「…………」

 唖然として顔をあげるミュウ。またもや目が点にする。

 やれやれとため息をついて受け入れる百合に、尤もな事を聞いた。

「お、追い出さないの? いきなり転がり込んできて」

「できるわけないじゃん。私だってそこまで子供じゃないよ。いく宛がないって言ったの、転校生だよ。私はお母さんに相談しただけ。決定されたら別に気にしない。転校生がバカしない限りは」

 てっきり、彼女は激怒すると思ったのだが……文句は言うけど、受け入れてくれた。

 ミュウは、百合のその言葉に深く感謝した。

 理由を察して、なにも聞かずに受け入れてくれた。

 大人しくしていれば、彼女は会ったばかりのミュウにすら、優しかった。

「……ありがとうございます。異邦人のわたしなんかを、受け入れてくれて……」

「異邦人とかそんなん関係ないよ。たまたまこうなっただけ。流れだからね。逆らうだけバカらしいってもんよ。じゃ、お風呂入ろっか。ご飯食べた?」

 百合はあれこれ考えるのは止めた。両親の決定には異議を唱えない。

 その辺、駄々をこねないで分別のある子供が百合と言う人物である。

「え、ご飯は食べさせて貰えましたが?」

 妙に堅苦しい敬語を使うので止めろと百合は言った。

「さもなくば乳揉むよ?」

「ひぃ!?」

 手を動かしながら脅かすと面白いように動揺して胸元を隠す。

 青くなって涙目でガタガタ震えていた。怯える小動物みたいで嗜虐的になりそう。

「冗談だよ。えっと、ミュウだっけ? 私、百合ね。ユリンじゃないから。百合」

 優しく自己紹介して、握手を求める。

 怯えていたが、敵意はないと分かったミュウは、ゆっくりと手を伸ばす。

「よ、よろしく……百合ちゃん」

 ぎこちない握手で、互いに同室の人間として、うまくやっていこうと。

 こうして、ミュウのホームステイという名前の居候が、幕をあげた。

 助けてくれた恩人、百合の一家と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで一週間経過。

 定期的にミュウのご両親に、百合の両親が報告をしつつ、過ごしていた。

 母が言うには、ミュウのご両親はやはり外国人。英語が達者な人たちらしい。

「ミュウ、眠いよ……」

「わたしだって眠いのにぃ……」

 肝心の二人は、そこそこ仲良しになっていた。

 学校では居候の事は秘密にしている。

 ミュウがホームステイしているので、家の事は教えられないと予防線を張ったおかげで、ある程度は平和に過ごしている。

 一緒のベッドで寝ている二人は、冷えた朝の空気に身震いしつつ、一緒に頭を出した。

「百合ちゃん、寒いから掛布とん持ってかないでよぅ」

「良いじゃん小さいんだから面積要らないでしょ……」

「小さいのと寒いのは関係ないよ、もっと取り分返してよ」

「えー……ミュウがこっち来れば良いじゃん」

「……そうする」

 結局、ミュウが百合にしがみついて一緒に二度寝。

 百合もミュウを抱き締めて、湯タンポ代わりにしている。

 起きてくるのは昼頃。眠そうに目を擦る二人は寝間着のまま居間でお昼を食べている。

「ミュウ、午後どうする?」

「……百合ちゃんが決めていいよー」

「じゃあ、寝る」

「うん、寝ようか」

 寒いので外出るのは嫌。

 なので、ぐうたらして惰眠を貪る二人。

 最近は、夜になってからガンプラ作っていた。

「百合ちゃん手先器用だね」

「そりゃね。プロの先生がいるから」

 器用にHGガンダムグシオンを組み立てる百合を見て、ミュウは感激していた。

 一週間で知ったことは、ミュウもガンプラはしているが何だかいつも辛そうにしている。

 楽しそうにしない。組み立てや飾りはするけど、GBFには行かない。

 前には行っていたと言うが、今は行きたくないと。 

 百合も無理して行くわけでもない。ミュウといる時間が増える。

 子供のように笑ったり泣いたりするミュウはやはり美少女である。

 百合にはない可愛さがある。反応がイチイチ面白いのでいじめがいがあるのにも気がついた。

「ミュウ、早くしないと……耳に息を吹き掛けるぞー?」

「止めて、擽ったいから止めて百合ちゃん! 意地悪しないで!」

 軽く脅すとすぐに半泣きになる。

 そこをかとつつくと過剰に反応して楽しい。

 お風呂に一緒に入っていときに、早くシャワーを開けないとセクハラすると脅すと慌てる。

 長い髪の毛を洗っていると時間がかかる。狼狽えながら目を閉じているので余計に焦る。

「はいだめー!」

「みゃああああああああ!?」

 罰ゲーム執行。後ろから背中を指でなぞって遊ぶ。

 途端に猫のような悲鳴をあげて苦しむミュウ。

 悶えているのが本当に可愛い反応をするので、最近病み付きになっていた。

「ぐすっ……酷いよ百合ちゃん、いじめないでよ……」

「ヤバい、楽しい」

 なんでこんなに反応が可愛すぎるのか。犯罪ではないか。

 百合は謝りながら、一緒に髪の毛を洗ってあげる。最後はいつもこの流れであった。

「…………」

「…………不貞腐れてるの?」

「ふんっ」

 百合も頭を洗って、浴槽に入る。

 対面するように入っているが、ミュウが今日は不機嫌になっていた。

「あれ、ミュウの癖に生意気な」

「生意気じゃないもん!!」

 バシャッとお湯を百合の顔にぶっかけた。お返しをしてやったが。

「楽しいなぁ兄弟ィッ!!」

 報復のお湯のぶっかけを受けるミュウ。

 声色を月の御大のように叫びながら百合は反撃してくる。

「百合ちゃんはぁ……金縛りにするッ!!」

「封じられるかな、この山田百合をォ!!」

 意味不明な罵りをしながら、互いに防御なしでお湯をぶっかけて戦う。

 顔面が酷い有り様だが、ミュウは負けられぬ戦いがここにはあった。

 普段の反逆である。今こそ時は来たのだ。

「ゆにばーーーーーーす!!」

「おのーーーーーれーーーーーーーー!!」

 最後はミュウの猛攻が効いて、お湯に百合は沈んでいった。珍しくミュウが勝利を納めた。

「か、勝った……百合ちゃんに勝った!」

 などと喜んでいたのもつかの間。

「賢しいだけのミュウが何を言う!!」

 油断大敵。

 お風呂から素早く顔をあげた百合の逆襲が始まる。

 今度は魂だけは連れていきそうな天才の台詞だった。

 

 みゃあああああああーーーー!! 

 

 脱衣場に着替えを持ってきた母が聞いたのは、風呂の中で遊んでいるらしい二人の楽しそうな声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。一緒のベッドで眠る。

「……百合ちゃんってさ、GBFには行かないんだね」

 寝る前に、向き合って布団に潜る薄い闇の中、ミュウが聞いた。

 彼女も一応プレイヤーであるとは聞いていたが、ここ最近は全くいってない。

 その間、ミュウと一緒にいた。

「大して興味ないし。あんな無秩序の世界、好きじゃない」

 百合はそういって、アクビをする。

 なぜか聞けば、改造ガンプラがそもそも好きじゃないと。

 既製品を愛する百合には、あの世界は耐え難い。

 もともと、アナログなビルダーである百合は、自作自体が理解できないんだそうだ。

「……」

 ミュウは黙って聞いていた。

 ミュウに意地悪ばかりする同居人。でもそれも百合なりのコミュニケーションだと漸く分かった。

 嫌がることはしない。あくまで、イタズラだけだ。

 ガンプラも、一緒に作ることも少しだけした。

 彼女は上手に組み立てる。愛情をもってガンプラに接している。

 見ていてわかる、百合のガンプラ道。

 ミュウには、眩しく見える。

 もう、いくことはないだろうと思うあの世界に。

 身を引いたガンプラの世界に。

「ミュウは、行きたい?」

「ううん、わたしもいいや」

 否定する。嘘つき。自分でそう思う。

 未練があるくせに。まだ、過去の思い出にすがっている癖に。

 後ろばかり見ていて、前を見れてないくせに。

(目の前の現実さえ見えてない子供か……)

 ミュウは、そういうことだ。

 現実を受け入れてないからここにいる。

 だからミュウは百合の家に居候している。

 居場所がない。生きる場所がない。帰れる場所がない。

 すれ違いを起こして、ぶつかって、逃げ出して、隠れて。

(……わたしは、悪くない。あの人たちが悪いんだ)

 理解してくれないから。聞いてくれないから。見てくれないから。

 会話にならない。意志疎通ができない。 

 そんな苦痛を、何年我慢すれば良かったんだ。

 あの二人は、ミュウを理解などしないだろう。

 この先、そんな未来があるなら見てみたい。

 あの偏見に凝り固まった二人が、ミュウを受け入れる場面など。

(あり得ない。あの人たちが、わたしの『家族』になるなんて、あり得ない。そんなもの、あっちゃいけないの!!)

 認めなければ。もう、世界の何処にもミュウの家族はいないのだ。

 両親なんてもういない。愛してくれる人はもういない。

 ミュウは、永遠に、独りぼっち。

(わたしは……どうせ、独りぼっち……)

 誰も、ミュウを、分かってくれない……。

「…………ミュウ」

 不意に。

 抱き寄せる人がいた。

 百合だった。彼女は、黙りこむミュウを優しく抱き寄せた。

「わっ……?」

「なんかわかんないけどさ。まあ、考えたくないなら考えなくていいじゃん。私ら中学生だよ? 子供なんだし、面倒なことは大人に任せりゃいいんだって。今は寝て、現実逃避しよ」

 後ろ向きな事を言いながら、百合は甘やかしてくれた。

 一種の事実ではあるが、無責任にも程がある。でも、それは選びたい選択肢であった。

 考えたくないなら、やめてしまえばいい。真理である。

 寝てしまおう。どうせ、悩もうが悩むまいが、子供に出来る範囲は越えていればそれは無意味。

 思考放棄で楽になろうと言う、堕落の選択。

「……」

 他人事だと思って、とミュウは少しだけムカッとした。

 お返しに、服の上から二の腕を甘噛みした。

「いた!?」

「余計なお世話。百合ちゃんには分かんない悩みだもん!」

 憎まれ口で誤魔化した。

 気軽でもいいから、そんな風にいってくれる百合に。

 彼女の言葉に、その選択肢を選んでも今はいいと言われた気がして楽になれた。

「何を言うか、揉む乳もないまな板娘が! 本当に同い年か!?」

「い、一番気にしてる禁句を言ったね!? 百合ちゃんだって似たようなもんじゃん!!」

「フッ……負け惜しみミュウ? 残念だが、私のほうがサイズ上だ!!」

 で、出てくる意地悪のセリフ。まな板扱いされた。

 流石に言い返すミュウに、余裕綽々の百合。

「む、ムカつく!! その勝ち誇った顔が無性に腹立つ!!」

「成長、止まるんじゃねえぞ……?」

「団長に言われたくない!! 成長期だから、未来はあるよ!!」

「この乳は、成長しなくてもいい乳だから」

「するの!! 何がなんでもするの!!」

「牛乳の力だと? 運動の力だと? それは、偶然の産物だー!」

「F90の名言を罵倒に使わないで!」

「胸囲測定をするまでもない。この私が揉み倒してやるー!」

「今度はガレムソン!? ていうか、結局触りたいだけでしょ!? 怒るよ!?」

「身持ちが固いな……ミュウ!!」

「当たり前だよね!? 普通嫌がるよね!?」

「ま、いいや。じゃあ、いただきまーす」

「ちょ、やめ……!!」

 

 ……みゃああああああああ……。

 

 結局、揉まれて心に深い傷を負うことになった。

 お返しに揉み返したが、明らかに大きさに差があった。自爆しただけであった。

(いつか……いつか絶対に越えてやるんだから!)

 ミュウはとうとう、仕返しを考えた。

 揉まれた乳の復讐という、切っ掛けを元に。

 彼女が百合に勝てそうな、ガンプラバトルで、意地悪とセクハラの報復をするため、ミュウは再び立ち上がる……。

 

 



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オフラインガンプラバトル! 序章

 

 

 

 

 

 

 

 とある異国からきた孤独な転校生の少女の物語の冒頭は、まずこれで始まるだろう。

 

「クラスの皆がグラハム・エーカー……」

 

 意味がわからない? いいや、彼女……ミュウにとっては極めて的を射た名言であろう。

 確かに美しい翡翠からは色素が抜けて濁っていたりする。

 だが、これには理由がある。

 さぁ、語りだそう。これが異国で始まるミュウ・ファルネーベの物語。

 再びガンプラと向き合い、共に歩き出す物語……。

 

 ――みゃあああああああーーーーーー!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠い異国からきた珍しい転校生。

 彼女のクラスでの立場は既に擁立されていた。

 小柄で愛らしい顔立ちに、よく動く表情。

 黙っていればお人形のような洗練された美しささえ幼いながら内包する。

 有り体に言うなら美少女であり、ここが女子校でないなら直ぐ様モテていただろう。

 ならば、女子校であるここならどうなる?

 

 ……こうなった。

 

「なんかさ……ミュウって見てると、こう……無性に抱き締めたくならないか?」

「あー分かる。放っておけないよね。反射的に捕まえたくなる」

「反応がイチイチ可愛いわよね。だからこそ追い回したくなるというか」

「つまりはミュウちゃんは可愛い。満場一致、オッケー?」

「オッケーじゃないよ!? なんでそんな扱いになるの!? わたしの意思は!?」

「って、ミュウちゃんいたぞ!! 逃がすな、追っかけろー!!」

「みゃあああああああああーーーーー!!」

 

 ……クラスの皆に弄られキャラとして確立していた。

 というか、見た目がかなり可愛いのと反応が見た目とマッチし過ぎて、お姉さま方々のSな心を鷲掴み。

 日々ぬいぐるみか、あるいは妹か、はたまたアイドルか、兎に角そんな感じで毎回追い回されていた。

 一部はミュウを見るやこう叫ぶ。

「抱き締めたいな……ミュウ!!」

「こないで!! いやだもん!」

「残念だけど、俺達は我慢弱い……つまりはこうさせて頂く!」

「みゃあああああああ!?」

 嫌がっても無論休み時間の度に追われる。

 有無を言わさず捕獲され、皆でシェアされる。

 抵抗できずに終わる頃にはミュウは半分死んでいる。

 で、次に来るは妹扱いの一派。

「ミュウちゃん、お姉ちゃんたちが好きなの食べさせてあげるよ?」

「怖い怖い!! 皆して目が本気で怖いよ!!」

 ヤバいシスコンを発露するこんな妹欲しかった系お姉さまが、ミュウを徹底的に甘やかす。

 こっちも意思を汲まれる事はない。流されるままに甘やかされて、気がつけば機嫌回復。

「この感情……まさしく愛ね!!」

「なにが!?」

 彼女の笑顔に浄化されてご満悦なお姉さま一派。

 で、最後は。

「ミュウちゃん可愛い!!」

「キュートよミュウちゃん!」

「あぁ、彼女こそ我が校のアイドル。我らは君の存在に心を奪われたものたちだ!」

「好意を抱いているな。興味以上の存在だと言うことだろう」

「最後が怖い!! なんで!? なんでそうなったの!?」

 一番被害はないが、常にミュウの動作を見ては勝手に悶える変態集団。

 思わずツッコミを入れても嬉しそうに気色悪い動きで愉悦の雄叫びをあげる。

「まな板だけどね」

「百合ちゃんは黙ってて!!」

 ボソッと言うと直ぐ様噛みつくミュウ。

 すかさず喜ぶ変態共。苦悩する彼女を尻目に、苦しむ反応を見てほくそ笑みを浮かべる百合。

「みんな、みんな歪んでるよ!!」

「そうさせたのはお前だ、ミュウ!! 乙女である俺達はセンチメンタリズムを感じられずにはいられない!!」

「くっ……!!」

 因みにぬいぐるみ一派の火付け役は香苗であった。

 百合がコッソリと抱き心地は最高だぞ、とリークした結果暴走。

 クラスのミュウちゃんを抱きしめ隊を結成、その日のうちから追い回していた。

「このクラスに……神はいない……」

 連日の扱いで、日々疲れていくミュウを見て、自宅では。

「ヤバい、可愛い。萌える」

「この悪魔!! 百合ちゃんの血は何色!? わたしに意地悪してそんなに楽しい!?」

「私にミュウ弄りの意味を問うとは、ナンセンスだね!」

「そんな百合ちゃん、修正してやるー!!」

 ミュウのパンチを受けて、修正される百合がいた。

 楽しそうだった。この悪魔と、ミュウは拗ねた。

「ふふんっ。ミュウが私に勝つ事などあり得ない。何故なら私はミュウ弄りの第一人者だからだ!」

「ぐぬぬぬ……」

 物理では既に勝ち目はない。この悪魔、ことあるごとにミュウをいじめて遊んでいる。

 唸るミュウ。本当は選びたくない手段だったが、もう我慢できない。

 日々まな板だの平たい山脈だの、ベニヤだのと的確に心を抉ってくる。

「もう許せない!! 復讐してやるんだから!」

「ハッ。可愛いこと言ってるけど、マスコットのミュウに何が出来るのかな? ん?」

 こうしているあいだも、頭を撫でて余裕綽々。小バカにしている百合。

 振り払おうとしても、今度は抱っこされて捕獲される。

「はーなーしーてー!!」

「おう、今宵は激しいのぅ、ミュウ。勝てないものは勝てないんだよ。悲しいけどこれ、現実なのよね」

 散々ミュウの心身を弄ぶ外道、百合に何とか勝ちたい。

 最早手段を選べない。ミュウが唯一、勝ち目があるとすれば。

「百合ちゃん、わたしとガンプラバトルで勝負よ!!」

「……はい?」

 誘拐されるなか、ミュウは最終手段を選んだ。

 それは、即ち。自分が痛みを受けて離れていた世界。

 ……ガンプラの世界なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミュウが……ガンプラ?」

「そうだよ! ガンプラバトルならわたしの方が強いもん!!」

「だろうね。私は素人だし」

「じゃあ、受けないで逃げるの? わたしの不戦勝だね」

「随分と自信あるみたいだね。別に私もオフラインなら受けてもいいけど、みんな呼ぶよ?」

「えっ」

 と、言うことで。

「みんな、今日勝ったらミュウをもてあそんでいいよ。セクハラも許す」

「みゃあああああああ!?」

 後日。行きつけの練宮模型店。

 私服に着替えたミュウを連れて、百合は限定の大会に参加していた。

「百合ちゃん、珍しいね……誰その子?」

「先生、紹介するね。妹のミュウ」

「い、妹!?」

「違います違います! クラスメイトです!!」

 店主の藤四郎にそんな紹介をするし。

「あとみんなのアイドルにしてマスコット。可愛いでしょ? 先生でもあげないから」

「い、いやいやいらないよ。でも確かに可愛いけど、海外の人?」

「あ、はい。百合ちゃんの先生さんですよね。お会いできて光栄です。ガンプラビルダーとして、素晴らしい方だと伺っています」

「いや、そこまでも無いよ。まだまだだし」

 握手をして、彼女も参加費の300円を支払った。

 ここだけのローカルな大会で、ガンプラの持ち込みか貸し出しでロワイヤル方式で戦う。

 練習場だけで出来るオフライン専門。簡易的なシステムで操作する。

 一度に最大24名までエントリー出来るのだが、知り合いを呼んでミュウは既に絶体絶命であった。

「そっか。つまりは、ミュウの慎ましい乳も揉みしだいてもいいと?」

「良いわけないよ!! セクハラだよ!!」

「許す。好きなだけ揉め」

「百合ちゃんほんと黙って!?」

 香苗は当然用事を無視してすっ飛んでいた。

 ミュウちゃん抱きしめ隊隊長は伊達じゃない。

 血走った目で獲物、景品であるミュウを一瞥する。

「ひぃ!?」

 怯えるミュウ。肉食の獣がそこにはいた。

「噂の転校生って、ミュウちゃんって言うのね。可愛いけど、百合。着せ替えはしてもいい?」

「許す。コスプレでもなんでも好きなだけ」

「許さないで! わたしの意志も汲んでってば!!」

「あらそう。じゃ、何を着たい?」

「そっちの意思じゃないから! 拒否権だからぁ!!」

 久々の休日で誘われ現れた茜がミュウを見て邪悪に笑った。

 もう完全にお人形にする気だった。ゾッとするミュウは血の気が顔から失せた。

「ミュウちゃん一日デート権。それで手を打つ」

「許す。好きなだけ奢れ。いや、貢げ」

「貢ぐ!? わたしが貢がれるの!? なんで!?」

「ふふふ……ミュウちゃんに一日奢れるなんて、なんて幸福」

「えええええ!?」

 沙羅も呼んでいた。こいつはお姉さま一派である。

 困惑するミュウ。揃ってしまったミュウを仕留めるべく、獣の三人が。

「あわわわわわ……」

 迂闊に挑んだことを後悔するミュウだった。

 百合の狙いは三つ巴の戦い。素人の自分よりも慣れている彼女らを何とかしないと身の危険が迫る。

「ミュウ。迂闊に飛び込むから、こうなるんだよ?」

「もういやあああああああ!!」

 とびきりの笑顔でとどめになった。ミュウは悲しく叫ぶ。

 結局百合に頭脳戦で勝てずに、三人のケダモノがミュウの未来を狙っているのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミュウはしくしく泣いていた。

 背水の陣という状況に、情けなくてやってられない。

「ミュウの服可愛いなあ……。私じゃ無理か」

「…………」

「……。ふぅ」

「みゃっ!?」

 座って膝の上に抱えられて無抵抗にぐったりしているミュウ。

 抱っこしている百合の息が耳に当たって悲鳴をあげた。

「無視すんな。次は舐めるよ?」

「なんで毎回そんな意地悪するの……?」

「可愛いから」

「怒るよ?」

 割りとミュウの反応を見て、楽しんでいるからムカつく。

 ミュウは今回、故郷から持ってきた服装を着ている。

 上は白い冬用のブラウスに上着、下は見えるか否かのギリギリを大胆にも攻めたミニスカートに白いニーソという中々な格好。

 可愛らしいミュウだからこそ似合うと百合は思う。

 百合は適当に長袖と長いジーンズ。

 茜も似たような格好だが、着ている長袖はヅダの顔が描かれている。

 沙羅はダッフルコートを着ているし、香苗はバエルの姿を描いたジャージだった。

 エントリー終えた藤四郎が、ルール説明を始める。

 ルールはロワイヤル方式。制限時間はなし。

 フィールドは荒野のステージで、宇宙専用のガンプラは使用できない。

 但し、改造を施したものは可能。GBFと連動したものは使える。

 全員最後の一名になるまで戦うというシンプルなものだった。

 貸し出しを受けたミュウは藤四郎の作ったガンプラを見て感嘆していた。

(百合ちゃんの先生は伊達じゃない。凄い良くできてる。百合ちゃんの技術を昇華して完成させたみたいな仕上がり)

 手にしただけで分かる、丁寧で愛に溢れるガンプラだと。

 自分のガンプラは使えない。使えば、所在がバレる。そして、正体も。

 それをさけるべく、貸し出しを受けた。慣れていない機体だが、この完成度なら戦えると思う。

「……ミュウ、頑張ろうね?」

 始まる直前、百合は小声でミュウに話しかけた。

「私は味方するよ。……ぶっちゃけ、あの三人をけしかけたのは、私も相手したいから。一人じゃ、勝ち目ないし」

「わたしを利用したんだね!? 酷いよ!」

「ごめんごめん。お詫びにしっかりと援護する」

 百合は百合で、ミュウをだしにして戦う気だったらしい。

 百合はズルい。自分が楽するために、ミュウを使って有利にして。

 更には、ミュウが有利にならないように、敵まで用意する。

「正直、戦いはやる前からもう始まってるんだってさ。お父さんたちがよく言ってる」

 百合の両親。ミュウも初日に知った、有名なプレイヤー。

 海外ではマダムフェニックス、レジェンドフェニックスと畏怖されるチャンピオン。

 圧倒的なマダムと、タイマンでは無敵と呼ばれるレジェンド。

 そんな二名の娘である百合は、興味すらないと言っていた。

 改造ガンプラも認めない。そんなアナログなビルダー。

 ミュウにも分からない拘りがあるんだろう。

 百合も、今回は少しやる気になっている。

 友人たちとオフラインでなら、戦ってもいいかと。

 ゲームのなかはたくさんいる改造ガンプラに疲れてしまうが、この慣れ親しんだ場所なら気にならない。

 なので、先ずここから慣れていけばいい。

 実力が上がって、尚且つ我慢できるようになったら向こうに行く。

 そういう流れにしたいと。

「そろそろ始まるね。じゃ、頑張ろう」

「……うん」

 百合は行く。ミュウも戦う。

 離れてしまった世界で、もう一度。

 いけない世界に慣れるため、最初から。

 二人は前に一歩、一緒に歩き出していった。

 そして、藤四郎の掛け声で、戦いは始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 百合は空を飛んでいた。周囲に敵の影はない。

 勝負が始まり、数分経過。百合は徘徊を続けている。

 ストライクフリーダムシュイヴァンは大気圏でその真価を発揮する、らしい。

 実際は本腰を入れて戦うのは初めてで、自分でも扱いが分からない。 

 画面には敵らしきものはいない。降下してみると、発見した。

 で、絶句する。自分は、高度が高すぎただけらしい。

 盛大に眼下では戦っていた。煙とビームと実弾が飛び交っている。

「ひゃーーっはっはっは!! 俺は無敵だ!! ミュウの貧乳はいただきだぜ!!」

 最低な事を叫びながら、香苗が敵を切り刻んでいた。

 ガンダム・バエル。剣と電磁砲ぐらいしか武器がない完全近接特化。

 オルフェンズのガンプラであるので、ビームがきかない。

 実弾も生半可では通じない厄介な相手。

(……勝ち目はないかな。誰かに押し付けよう)

 香苗はバエルの扱いが上手そうだ。推奨できない。

 しかし、周囲はカオスであった。

 同じオルフェンズのマシンがいるが……なんだあれは?

(グレイズにしては顔がガンダム。翼……じゃないか。バルバトスのブレードが大量についているのかな)

 一見すると、グレイズのパーツをぐちゃぐちゃに混ぜたボディ。

 オルフェンズ主人公の組織のロゴを入れてある。

 はい熱のファンやら、スラスターやらプロペラントやらをうまくまとめて追加してある。

 しかもあれは、天使の羽のように見えるが多分全部バルバトスの背中にあったブレード。 

 夥しい数を移植して羽のように仕上げているようだが。

(……なにあれ? グレイズ? ガンダム?)

 結局、百合には何なのか判別できなかった。

 凄まじいカオスなガンプラもあったもんだ。

 で、それがバエルと争っている。

「様子を見ていこうかな……」

 などと、呟いていた時だった。

 

「往くぞ、我が魂よ!! 全てのガンプラをこの手で倒すのだ!!」

 

 と、豪快に叫ぶ何者かが乱入してきた。

 百合よりも上空。巨大な影が、地上を覆った。

 何事かと思って見上げれば。

 そこには、信じられないものがいた。

 ガンダムに出てくる巨大な空母。

 漆黒な、ガウが真上にいたのだ。

(ガウとかありなの!?)

 ガンプラですら怪しい巨大空母が、巨体を浮かべていた。

 序章は、ここから始まる。

 何でもありのオフラインガンプラバトルの、開幕であった……。



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オフラインガンプラバトル! ガウの進撃

 

 

 

 

 ……ガウ。

 初代ガンダムに出てきた大型の攻撃空母。

 恐らく、有名なシーンとしては、燃え盛るガウが突っ込んでくるシーンだろう。

 ガルマの散り際を彩った名機である。

 見た目は巨大な両翼、丸みを帯びた胴体部分であり、胴体に三機、両翼に戦闘機を四機づつ搭載できると言う。

 胴体の左右には機銃が大量に追加され、両翼の根本に小型のメガ粒子砲も増設されている。

 上には巨大なアンテナと連装のメガ粒子砲まで乗っけていた。外見は漆黒のガウ。

 ……そのわりに、何だが両翼の部分に見慣れないパーツが追加されている。

 見たことがない。

 干渉を上手く避けているが、そこは本来エンジンの部分だろうに。

 なぜかコンテナのようなものまでついている。

 そんなもんが上にいた。

「……いや、ガウとか聞いてないんだけど……」

 百合、唖然。

 何やらプレイヤーは大真面目に参加者全員に語っていた。

「皆さん、聞いてほしい。このガンプラ、ガウの素晴らしさを。そして知ってほしい。ガウは、ガンダムすら倒せるガンプラだと言うことを!! そう。オルフェンズのガンプラすらも!!」

 熱く語るのはいいが、皆ガウの登場に困惑していた。

 母艦とかありか、と藤四郎に聞くが。

「ん? ガンプラなら何でもありだよ? 一通り見たけど純正パーツだし、何も悪い場所はないからね」

 ……ローカルバトル特有の何でもあり。

 けろっと言う藤四郎に、絶句する一部除く一同。

 勝ち目が無さすぎる。確かにその巨体ゆえ、動きは鈍い。

 攻撃を当てるのは容易いだろう。だが。

 一部のガンプラが果敢に空戦を挑む。

 すると。

「ガウを甘く見ないで貰おうか! 往け、我が親衛隊よ!!」

 叫ぶガウのプレイヤー。ガウはゆっくり動き出す。

 両翼のコンテナが開く。そして、合計八機の戦闘機が飛び出して……。

「え、いや……待ってよ。それは流石におかしいよね!?」

 四つの戦闘機が空中で合体する。百合のツッコミは正しかった。

 そこに現れたのは……。

「インパルスガンダム!?」

 そう。SEEDの続編に出てくる主役、インパルスガンダム。そのフォースシルエットだった。

 シールドを展開してポーズを決めるインパルス。二機、ガウを守るべく登場した。

「ガウは確かに胴体には三機までのMSを格納できない。だが、インパルスは元々四機の戦闘機が合体するガンダムだ。つまり、両翼に丁度収まる二機の追加随伴MSとなるのだよ!!」

 堂々と叫ぶガウのプレイヤー。

 つまりはあのコンテナ、インパルスの戦闘機が収まっていたのか。

「ガウの改修に大量に購入したインパルスの余りで作ったのだ! 性能は本物だぞ!? 更に見るがいい、本来の格納庫にはもっとスゴいものが入っている!!」

 前の方のハッチが開く。中になんかいた。

 デスティニーインパルス、エクシア、そしてアストレア。

 それぞれ飛び降りて滞空、迎撃を開始する。

 デスティニーインパルスは砲撃を、エクシアは近接を、アストレアは支援と援護を担当していると思われる。

 百合も狙われたので直ぐ様逃げる。

(二機余計に搭載するとか、この人ヤバイかもしれない……!)

 無論、強いと言う意味で。

 迷わず逃走。果敢に空戦を挑む彼らは、ガンダムたちにお出迎えされていた。

 更には、ガウ本体の火力も生きている。

 機銃乱射、メガ粒子砲も一緒に全方位にぶちかまし、同時に下部を展開して爆撃まで開始した。

 ある程度距離を離せば問題はない。離れて様子見。攻撃が飛んでくると、

「危ないなあ!」

 ビームシールドを前面にに展開してなんなく防御。

 なんか、他にもえげつないMA持ち込んでいるやつがいた。

 よく見れば、地上に巨大な黒い天使様がグレイズとバエルの勝負に割り込んで混戦となっている。

 同じオルフェンズの戦いには近寄ると多分危ない。

 ロワイヤルのハズが、MAと母艦の登場により、自然と互いを倒すよりも協力した方がいいと感じた彼らは結託した。

「百合、手伝って! ガウを落とすわよ!!」

「……大人げない奴は、地面に落とすまで」

 茜と沙羅が救助を通信で寄越した。

 仕方ないので共闘するとして。

(ミュウは……?)

 一緒に戦うと約束した彼女がいない。

 先に行ってて、と告げてストライクフリーダムは再び飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いた。

(……えっ?)

 いた、が。

 あれは……何事だ?

 

「ば、バカな……SD相手に、負けただと……!?」

 

「SDを甘く見ないで。寸胴でも、立派に戦えるんだから」

 

 ……ジムのストライカーを粉砕して、止めにコックピットを踏み砕く……SDガンダム?

 見覚えあるけど寸胴の……顔が何だか変わっている、あのガンプラで?

 あれが、ミュウが借りたガンプラ? 

(……嘘でしょ? あんな使いにくいガンプラで倒したの!?)

 何が起きている?

 先ずは、状況を整理しよう。

 前提として、ガンプラバトルにはある傾向があると言う。

 それは、SDガンプラは総じて使いにくい。

 理由として、その体型。まず小さい。普通のガンプラの武器を持てない。

 武器の改造の手間が増える。更には、SD用の自作は高い技術が必要なので、素人には手出しできない。

 あとは操作に独特の癖があると聞いた。人間の形よりも難しい操作なのだそうだ。

 次に、可動できる部分が少ない。

 SDという形態の宿命なのだが、基本的にアクションに向かない造形。

 更には、飛べないものが多い。

 普通のガンダムと系列が違う世界観のせいで、設定上下手すれば生身なのでゲーム的に宇宙にも出られない。

 一部以外は空戦もできない。もっというと一度SDに慣れると、他のガンプラの操作違いすぎて一緒にやりにくい。

 という、色々忌避されやすいSDで……普通のガンプラをミュウは倒していた。

「畜生……畜生!! 負けたの最高の気分だ!! なんて素晴らしいガンプラだ!! ここの主は天才かよ!? ホレるぜその補修技術!! 店主さん、弟子にしてくれ!!」

 やられたガンプラの持ち主は、負けたくせに大興奮で、ゲームを離脱。

 どうやら、藤四郎に向かって弟子入りを頼み込んでいくようだった。

「……」

 粒子となって消えていく倒されたガンプラを見ながら、SDは空を見上げた。

 発見される。彼女は恐々、そのガンプラに通信をいれた。

「ミュウ? そのSDのガンプラ、ミュウなの?」

「そうだよ百合ちゃん」

 SDから通信で顔を見せる。

 見たことのない、冷静で冷血な表情のミュウが映った。

「なんか騒がしいね。どうかした?」

「……援軍が欲しいんだ。母艦とMA出てきて勝負どころじゃ無くなった」

 事情を説明すると、大人びた余裕で、ミュウは笑う。

「ガウ? ああ、大丈夫。多分外からじゃ破壊できないから、わたしが内側から破壊するよ。案内して。手伝って、それから戦おうよ百合ちゃん。……誰にも邪魔はさせない。百合ちゃん、わたしは逃がさないからね?」

 ゾッとする百合。ミュウが随分と攻撃的になっている。

 ニコッと爛漫な笑みを浮かべるが、それはまるで、氷のような冷たさで。

 少なくとも、素人に向ける顔じゃない。

「ミュウ……。いっこ、いい?」

 落ち着いて、聞く。恐ろしい程、ミュウは様変わりしていた。

「ミュウは、私とは違うの?」

「違うと思うよ。わたしは、素人じゃないし。経験はしてるから、驚くのも無理ないね」

 素人か、という質問には完全な否定を返す。

 それはつまり、彼女は慣れている人間だという意味で。

「ゴメンね、百合ちゃん。ガンプラバトルは真剣なんだ。だから、一切の加減はしない。ブランクあるし、本来のガンプラじゃない、本気には到底程遠いわたしで悪いけど……全力でお相手させてもらう。今はその、勝負の為にみんな倒そう。わたしと百合ちゃんの勝負に、他の人は要らないから。何人できてもいい。全員、打ち倒す」

 ミュウは微笑んでいた。

 微笑んで、恐ろしい事を言っていた。

 それほど、彼女の熱意は本物だとビルダーである百合だって分かる。

「……ん。分かった。私で相手にはならないと思うけど、頑張るよ」

「うん。頑張ってね。わたしも、頑張るから」

 今は、互いに戦うために。一緒に肩を並べよう。

 二人は、ガウを倒すために向かおう。

 ミュウの借り物のガンプラ。SDゴッドガンダムと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガウのいる空域は激戦となっていた。

 旋回して爆撃を繰り返しているガウに、護衛のMS。

 時折、ガウの頭頂のアンテナからレーザーがデスティニーインパルスに飛んでいく。

 エネルギーの補給をしているのだ。規格をあわせるために、そんな工夫をしていた。

 エクシアとアストレアは補給が要らないほど持久戦には強い。

 現在、24名いるうちの半数が倒されていた。

 下のMAも、ガウの爆撃に呑まれて、周辺の地形と崖が崩壊。

 それに飲み込まれて、動きが停止してしまったようだった。

 現在、残った彼らとガウの事実上の一騎討ちだった。

「ああ、もう!! 何なのよあの装甲は!?」

 茜が苛立ったように叫ぶ。彼女のガンダムX-SRが放つビームは全て流動して流される。

 接近しようものならば、護衛に襲われ阻まれる。

 一撃で決める火力はあるが、条件が満たされない。

 フィールドは昼間だ。月は出ていないので、ルール上使えない。

「火力が足りない……!!」

 沙羅のレコードブレイカーXも、手持ちの武器じゃ突破は難しい。

 威力のある武器は接近せずに使えない。自慢の速度でも、弾幕が厚くて接近も出来やしない。

 防御を上げてはいるがガウの火力もバカにならない。

 先ほど、ビールシールドで防御したら、腕を片方潰された。

 槍を失い、現在は撃ちながら逃げ回っている。

「だったらぶっ叩けばいいんだろ!!」

 バエルで勢いよく突破してガウ本体を剣を突き刺す香苗。

 だが、バエルの突破力をもってしても、堅牢なガウの装甲は貫けない。

 大きく弾かれ、体勢を崩してしまう。途端に集中砲火。慌てて逃げる。

「どうなってんだありゃ!? ビームも物理もダメって、オルフェンズのガンプラかよ!?」

 まさにバエルと同じような装甲。いや、それ以上の頑丈さ。

 他にも実弾をばら蒔いたり、貫通弾を持ってきたりするが、まるで聞いてない。

「どうだ!? これがガウの本領だ! ガウは無敵の空母なのだよ!!」

 自信満々で言われると腹が立つ。確かに良くできているが、からくりが見えない。

 どんな改造をしているのか。そこに、SDのガンプラと一緒にストライクフリーダムが戻ってきた。

 SDはゴッドガンダム。背中に日輪のようなスラスターを開いて、飛行している。

「飛べるんだゴッドガンダム……」

「みたいだよ。百合ちゃんの先生のガンプラって、スゴいよ。関節とか追加されてて、自由に動くの。スラスターも可動しているし、多分補修したんだと思うけど。壊れた後があるから」

 話しているのは、ミュウであった。

 実際、以前貸し出したときに派手にお客が破壊して以来、藤四郎はSDのガンプラに自由に動かせるように配慮して改造してあった。

 これぐらいはお店として当然らしい。

 ミュウは、藤四郎をべた褒めしていた。

「……あれが話していたガウだね?」

 空中で、百合の隣に浮遊するミュウは戦いの様子を見る。

 護衛のMSは、率先して戦う他の参加者を対応している。

 ガウ本体も、迎撃で忙しいのか襲わなければ見向きもしない。

「……あぁ、分かった」 

 数秒観察して、ミュウは百合に向かって言った。

「多分、普通のパーツのしたに、インパルスのパーツを組み込んで、二重装甲にしてるんだと思うよ。TP装甲に似てるけど、あれはその物が大きいからVPSの方だと思う。で、その重ねた装甲にも、オルフェンズのガンプラの装甲と同じ効果が出る塗料を塗ってるの。あの黒い色の光沢は見たことあるし、ビームを無力化してるんじゃなくて、流動的に反らしているから、間違いないと思う」

 見ただけで推論をたてたミュウ。

 仮にそうから、どうすれば突破できるか。

 そう、百合が聞くと。

「簡単だよ。上っ面の装甲を融かして、下のVPSに出力をあげたビームを撃ち込むか、脆い内側から破壊する。それしかないけど、どっちがいい?」

 暗に、どっちでも出来ると言われて迷う百合。

 軈て、味方も少なくなってきた状況で、百合は選んだ。

「正面突破。コソコソはしたくない」

「分かった。百合ちゃんの流儀に合わせる」

 ミュウは前衛をするので、背中は任せると託した。

 手伝ってほしいと、百合が三人に応援を要請。

 一度抜けて、三人が駆けつけた。

 打破する方法を説明すると、

「オッケー。奴の護衛は俺に任せろよ!」

「撹乱してみるよ」

「私は陽動ね」

 それぞれ役目を判断して、再び向かう。

 バエルが護衛に豪快に蹴りを入れて気を引く。

 そこにレコードブレイカーXが圧倒的な加速で惑わしながらかき回す。

 ガウの方に、ブラフでいかにもヤバそうな超兵器を構える。ガンダムX。

 結果、ガウも気がそれた。チャンス。

「飛ばすよ!」

「分かってる」

 百合のストライクフリーダムが翼を全開にする。

 関節が黄金に煌めき、翼から虹色の光が輝き出した。

「最大出力、行ってみましょー!!」

 初めて出したストライクフリーダムのフルスピード。

 視界があっという間に突き進む。

 オフラインゆえに臨場感は薄いが、それでも凄まじい。

 抱っこする形でゴッドガンダムが、右手をつき出す。

「わたしのこの手が真っ赤に燃える、ガウを落とせと轟き叫ぶ!!」

 小さなゴッドガンダムの右手も、黄金に輝いた。

 突撃するストライクフリーダムと、ゴッドガンダム。

 ガウがそれに気がついた。

「SDガンダム……!? バカな、死にに来たか!!」

 粒子砲の集中砲火。左右にバレルロールして、百合はなんとか回避する。

 上昇を、とミュウが叫んだ。咄嗟に急上昇して、ガウの上面を取った。

「今だよ、落として!!」

「オッケー!」

 手を離す。ゴッドが落ちる。ガウの上に。

 機銃が掃射されるが、右手をつき出すゴッドガンダムには通じない。

 軈て落ちる神は流星のような煌めきを纏って、突き進む。

 ミュウは思い切り叫ぶ。昔から、必殺技は大声で放つものだ。

 

「爆熱、ゴッドフィンガーーーーーー!!」

 

 ゴッドフィンガー。ゴッドガンダムの必殺技。

 黄金に輝いた右手で相手を掴む。爆発して相手は死ぬ。

 シンプルに言えばそういう技。

 この場合は、大きく開いた右手が、ガウの上面を焼き尽くす。

 みるみる融解する装甲に焦るガウのプレイヤー。突破口を開かれた。

 そして、大穴があいた。無惨に熔ける装甲に、離れるゴッドガンダム。

 

「こいつで、トドメだああああああ!!」

 

 遥か上。輝く翼のストライクフリーダムは、ビームの銃口を向けていた。

 下に向けて、カリドゥスとライフル二つを、同時に。最大出力で。

 

「ハイマット・フルバーストォ!!」

 

 此方も必殺技のノリで、一斉発射。

 放たれたビームがガウの無防備な部分を直撃、貫いた。

「ガウが……うわあああああああ!!」

 ガウのプレイヤーごと、空母は大爆発。

 煌めきが漏れだし、軈てきれいな花火となった。

 大きな爆発と共に、一番の敵は倒した。

「…………」 

 ガウは撃沈完了。

 百合は本当の相手を待っていた。

 地面でこっちを見上げる、神を名乗るSDガンダムを……。



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オフラインガンプラバトル! 終幕

 

 

 

 

 

 

 墜落し、爆発するガウを見上げる生き残った一同。

 司令塔が破壊され、護衛のMSも機能を停止して、墜落した。

 派手に壊れて、荒野の大地に倒れる。

「……すげえ。ミュウ、普通に倒しちまった」

 香苗は呆然と見ていた。

 勝てるから手伝えと言われて手を貸して、説明を聞いてなかった香苗は目を丸くした。

(この短時間で相手のガンプラの特性を見抜いた? ミュウちゃん、何者だろう? 素人どころか、玄人だって普通に越えてるけど……)

 右腕を失ったガンプラで、SDを見下ろす沙羅。

 不自然なほど冷静で、かつ余裕すら見えるミュウの言動。

 彼女は、何者だろうか気になっていた。

(……さて。残ったのは10名か。ここからバトルロワイヤルが始まる訳だけど)

 茜は次の戦いの準備をし始めていた。 

 ミュウのことはよく知らない彼女は、それよりもどう勝つかを思案する。

 消耗をしているなか、一番の無傷は逃げ回っていた百合と、不参加だったミュウのみ。

 一番の敵は……。

 その他、各々警戒している。特に突破口を切り開いたミュウと引導を渡した百合を。

「……」

 ミュウのゴッドガンダムは、てくてくと歩いている。

 粒子になって消えたガウが搭載していた護衛のMS。

 外で、藤四郎がおまけ扱いのそのガンプラは終わるまで多分消えないので、障害物扱いでいいと言った。

「そっか。消えないんだ」

 倒れる護衛のインパルスやエクシア、アストレアのガンプラ。

 微笑みを浮かべるミュウは、様子を見ている百合に向かって、見上げて言う。

「百合ちゃん……狙わないの? 今、隙だらけなのに」

 遥か上空で、煌めく翼を閉じて浮くストライクフリーダムを挑発していた。

 百合は対して、こう返した。

「随分と好戦的だね、ミュウ。あとでどうなっても知らないよ?」

「意地悪するからでしょ、毎日毎日。わたしだってガンプラバトルなら意地悪し返すもん」

 漸く、元のミュウに戻ったように頬を膨らませる。可愛いが、然し。

「狙わないから。そうやって、足元にある武器でも使う気なのは見え見えだよ。レンジは勝ってるけど、狙撃しても当てられないくらい自覚あるし、ミュウだって回避できる自信があるから誘う。……悪いね、素人なりに考えてやってるの。ミュウほどじゃないけど、私も頑張る気なのは同じつもりだよ」

 百合を誘って、相手の出方を見ようとしているのは分かっていた。

 ミュウは感心したように言った。

「流石、百合ちゃん。身の程知ってるから、迂闊には飛び込まない慎重さ。けどそれは、それは臆病とも言える。攻めないで勝てると思ってるの?」

「生憎と、思ってない。というか、攻めても守っても勝ち目はゼロじゃん。だったら少しでも長生きしたいから、挑発しても無駄だよ。私には現実でミュウを弄べる余裕があるからね」

「ぐっ……!」  

 初めて悔しそうに唸るミュウ。

 あくまで先手を出させたいミュウだったが、あの意地悪百合には挑発は通じない。

 多分、自分の首を絞めている。あとが怖い。

(みんな使っていじめる気なんだ……。またわたしの泣くところ見て喜ぶんだ!!)

 最悪の鬼畜趣味。嗜虐嗜好の百合に言葉で誘っても来るわけがない。

 寧ろ周囲の肉食動物をけしかけて、泣かせる気満々であろう。

「大丈夫だよ。香苗には揉まれるだけだから」

「それが良くないって言ってるんだけど毎回!?」

 嗚呼、結局流れを百合に持っていかれる。イニシアチブは取れない。

 ガンプラバトルでは楽勝で勝てると思うミュウ。

 だが、冷静になると彼女の場合は外でお返しをしてくる可能性しかない。

「なぁ、山田。我慢できないからもう襲っていいか?」

 バカな会話をしている二名に周囲に変わって香苗が聞く。

 能天気に話しているように見えるが、しっかり気を張っているから困る。

「許す。揉みたきゃ揉め、存分に」

「なんでイチイチ百合ちゃんが代弁するの!? 許してないよ却下だよ!!」

 我慢できないというケダモノ一号が、ミュウを狙って突撃してくる。

 両手に剣を構えて、雄叫びをあげて。

「ヒャッハー!! ナイチチ祭りだ畜生めェー!!」

 変態丸出しの最低の発言であった。

 周囲の参加者は普通にドン引きした。

 茜が一瞬、香苗を生徒会長として不純同性交遊を阻止するべく、ブッ飛ばさそうかと考えた。

「ミュウ、その貧相な乳を揉ませて抱っこさせろやオラァーー!!」

 最早言うまでもない。ミュウにとってはぶち殺し確定であった。

 因みにストレートに胸元が寂しいと指摘するのは百合と香苗。

 百合は狙っても逃げ切れるのでいい。だいたい失敗するけど。

 香苗の場合は、運動神経も良いし、何よりも。

 二人よりも遥かにご立派な山脈の持ち主だったりする。

 尚、この面子で一番ご立派は茜である。どうでもいい。

(……まな板? 慎ましい? 貧相? 貧乳……?)

 ミュウの綺麗な翡翠からハイライトが消えた。

 一番神経質になって毎日の涙ぐましい努力を嘲笑う百合以上の連山。

 何度も言われると、乙女の心は大変傷つくのだ。

 あるものに、無いものの気持ちは分かるまい。

 剣を振り上げて、神を殺そうとする罪深き変態、香苗。

 彼女に、天罰が降り注ぐ。

 眼前で切り殺そうとするバエル。

 だが。

「あ、ごめん佐藤。やっぱミュウの乳はやれんわ」

「わたしの身体を弄ばないで!!」

 あっさりと反旗を翻す百合が、突然ライフルを連結して、上から狙い撃ち。

 狙ったつもりが、直進していたのに真横に直撃して外れた。

 反応が遅れた香苗は驚いて慌てて防御。

 時間は稼げた。ミュウの切実で悲痛な叫びが木霊する。

 小さな神は動く。剣を交差して瓦礫を防ぐバエルの背後に素早く回る。

「山田邪魔すんな……あれ、いない!?」

 気がつけば目の前におらずに、SDの小ささを活かして飛び乗る。

 バエルの首に短い腕を回して。

 香苗が気がつく頃には。

「小さくないもんっ!!」

 涙声のミュウの反撃で、なんとバエルの首をあらぬ方向に思い切り捻った。

 結果、いくら頑丈さで定評のあるオルフェンズのガンプラでも、捻るなんてバトルではまずない動作には、ガンプラとして弱い。

 呆気なく、首が捻じ切られて頭が分離した。千切れたコード類が生々しい。

 で、キレたように投げ捨て踏みつけて破壊した。

「うわ、えげつな……」

 沙羅が見ていて思わず呟く。

「変態の末路ね……」

 当然の結果に茜はため息をついた。

 バエルから飛び降りる。俯せに、そのまま前に倒れるバエル。

「あれ、画面が見えねえぞ!? なんだ、死んだのか俺!?」

 混乱する香苗に、藤四郎が負けと伝えて、退場させた。

 高々とオルフェンズラストのように、斬首した頭を掲げる神。

 その表情は……怒りしかなかった。

「全員……壊してやる……。わたしを小さいとか貧相とか言うなら、わたしだって……わたしだって!!」

 ミュウ、涙のハイパーモード起動。

 そのままゴッドガンダムの本領発揮。

 全身が突如金色に輝き、日輪の光も強くなる。

「この状況でハイパーモード!? ちょ、ヤバ……!」

「……半壊している時にこれはないよ」

 茜は慌てた。ゴッドのハイパーモードは、劇的に性能が上がる。

 SDといえ、同じガンダムなら、多分上がり方も同じだろう。

 要は、危険度が増した。沙羅に至っては勝ち目を失って諦めた。

「うわああああああん!!」

 心に止めを刺されたミュウは泣きながら襲いかかる。

 今いるもの、残り9名を残さず抹殺してこの傷ついた心の慰みにしようと。

 最後のラスボス、涙のゴッドガンダムハイパーモードが皆に理不尽に襲いかかる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の神は、正に神だった。

「ちょ、私は何も言ってないのに!?」

「わたしよりも何倍も高いくせにぃぃぃぃぃ!!」

 あっという間に五名を血祭りに仕立てあげた。

 残りは四人。先ずは一番の山脈に襲いかかった。

「待って! 話せば分かるわ、話せば!!」

「話して大きくなるもんかぁ!! 月の光に変わってお仕置きしやるッ!!」

「それ番組違う!」

 キレてるミュウの動きは別格だった。

 ガンダムXがサーベルを抜いて応戦するも、素手で襲いくるゴッドの攻撃速度に叶うはずがない。

 切り払うも、小さい上に素早すぎて当たらない。

 持っている腕の肘を下から殴打され、関節がイカれた。

 片腕が死んで、咄嗟に上に逃げる。

 が、上昇しきる前に足を掴まれ叩きつけた。凄まじい反射とパワーである。

 動きが鈍った所に上に飛び乗り、全身に殴打のラッシュを連打で打ち込む。

 抵抗する前に、腕を手刀で手首を的確に貫く。

(はっ!? 抜き手!? 格闘技の技使えるのミュウちゃん!?)

 抜き手と言う技を使って、サーベルを持っていた手を破壊する。

 で。

「凹め、凹め、凹め、凹め!!」

「ちょ、凹まないから!! これは何にもしないでこうなった……」

 特に胸を殴りまくるゴッドガンダム。胸部のクリスタルパーツが粉々になってしまった。

 のし掛かって殴る彼女は完全に劣等感で暴走していた。

 あまりの剣幕に、周囲の観客も言葉を失う。

 沙羅は自分から藤四郎に棄権を申し出た。あんな破壊は免れたい。

 で、焦った茜は自爆の台詞を吐いた。

 何もせずとも大きくなった?

 じゃあ、何で努力するミュウは空回りして結果が出ない?

 それはどういう意味か? 

 アンサー、強者の余裕である。

「うわああああああああん!! 巨乳なんか、巨乳なんかああああああ!!」

「恥ずかしいから叫ばないでくれる!?」

 ミュウにそんな嫌味とも言える事を言った茜には相応の報いがいる。

 のし掛かったまま、右手に一段と嫉妬の炎が燃え上がる。

「ガンプラファイト、何条か忘れたけど、胸を抉られた物は敗北となる!!」

「それ頭! 頭部を破壊されたら負け!! 胸は関係ないわよ!?」

 ツッコミをいれる前に逃げた方が良かった。既に時は遅いが。

 更に怒り狂うミュウが、咆哮する。

 右手を掲げる。煌々と光度を増していく掌。

 ゴッドフィンガー最大火力を、胸部に向かって叩き込む!!

「努力と、怒りと、悲しみのォ!! 爆熱、ゴッドフィンガーーー!!」

 ミュウの渾身の必殺技が今、巨乳に炸裂する!!

 熔ける胸、凹む胸、焼き尽くす胸!!

「やめてええええええ!!」

 茜の声は、ハイパーモードのミュウには決して届かない。

 何故なら茜は巨乳だから。貧乳とは永遠に違える存在だから。

 彼女のガンプラは、嫉妬の炎で焼かれて死んだ。

 理不尽に轟く神の手で。

 

 

 

 

 

 

 

 最終決戦。ミュウと百合の戦い。

「うわああああああん!! みんなしてわたしで遊ぶんだーーー!!」

 ミュウがキレてる。ゴッドもなんか情けない表情でハイパーモードで追いかけてくる。

 空戦開始。百合は煽った方が面白そうなのと、冷静さを失うと思って煽る。

「可愛いなあミュウは。泣いてる姿が最高だよ!」

「鬼!! 悪魔!! 畜生百合ちゃん!!」

 からかうと更に怒る。実際可愛いから困る。

 取り敢えず逃走。追走のゴッド。

「平たくてもいいじゃん。揉めば大きくなるって言うよ?」

「迷信よりも科学的根拠がいいの!!」

「ワガママだな……」

 平たい胸族、と小声で言う。

「平たい胸族!? 平たいっていった! 自分だって大して言えないくせにわたしだけ指差して笑った!!」

「いや、私はほら。お母さんの娘だし?」

「…………うわあああああああん!!」

 暗に母のような体つきは多分遺伝するんじゃ? と言われて思い出して泣き叫ぶミュウ。

 百合の母も乳がデカイ。娘なら安泰と言いたいのか!

「百合ちゃんの悪意が見えるようだよ!!」

「悪意しかないし」

「あんたって人はああああああ!!」

 某主人公のように雄叫びをあげるミュウ。しれっと百合もひどいことを言う。

 キャラ崩壊まで起こしている。すっかり冷静さを失って、プッツン状態のミュウだが。

(そろそろ、いけるかな?)

 あそこまで怒らせておけば、多分もう動きは直情的だろうか。

 こうでしないと、実力が違いすぎる。

 それに、勝たないといけない理由もできた。

 なので。

「じゃあ、ゴメンねミュウ」

 逃げる百合は、急旋回。追ってくるゴッドに自分から近づいた。

「!?」

 突然の反撃。両手のライフルを構えて、同時に連射。

 ミュウは咄嗟に腕で庇って停止する。

「ミュウみたいなお子ちゃまでも、戦うにはやっぱり方法は選べないからさ。ミュウが素直なかわいい子で良かったよ。ま、寂しい胸元もお子ちゃまだけど」

「お子ちゃまで言わないでよ!! これから成長する!! 未来あるもん!!」

 防いでいたのを、突撃して組み付いた。

 SDゆえに、手首を捕まえておけば、腕は使えない。

 使うにも、腕の長さが短くて殴れないだろう。必殺技も使えない。

 蹴っ飛ばして抵抗するミュウはまだ怒る。なんと言うか、小動物の威嚇行動を見ているようで微笑ましい。

「ミュウ。変なこと聞くんだけどさ。こんなときで悪いけど」

「なに!? これ以上意地悪言うと暫く口聞かないよ!?」

 ちょいとからかいすぎたか、真面目に半泣きであった。

 苦笑して、ミュウにしか聞こえないように、小声で言った。

「帰ったら、お母さんにその辺色々聞いてみようか。参考になるかもよ?」

「…………」

 ムスッと不貞腐れた顔で黙るミュウ。

 真剣に悩んでいるのは分かっている。分かっていて遊んでいる。

 だが、遊んでいるから協力もする。不機嫌になっていたが。

「ごめんごめん。機嫌直して。あとでなんか一緒に食べにいこう? 仲直りしてさ」

「やだ!! わたしの事ひどく言うから!!」

「おう、今日は中々にしぶといねお嬢さん……」

 可愛い怒り方をする。全身を使ってアピールするなんて、何て愛らしい生き物か。

 まさにぷんぷん怒っている。

「ミュウはホントに可愛いんだからもう……」

「……」

 つい、ニヤニヤしてしまう。

 和むこのミュウの仕草。

 ミュウもなんだか、怒れば怒るだけ百合が幸せそうな表情をしているのに気付く。

 気に入らない。百合はミュウの一つ一つを見て楽しんでいる。

「じゃあ、こうしよう。勝ったら言うこと聞いてね?」

 組み合っている最中に、それを言う。

 推力ではSDゴッドガンダムではストライクフリーダムには勝てないようで、押されぎみ。

 VPSで物理は効きにくい。格闘主体のミュウには苦手な相手。

 必殺技を封じて、蹴り飛ばしても意味をなさないこの状況で。 

 有利になったと判断した途端に、いきなり百合は邪悪に笑った。

「……えっ!?」

 悪魔が、駄々をこねる皆のアイドルにまたもや魔の手を伸ばした。

 腰にあるレールガン双方展開、更には胸部のカリドゥスもエネルギーチャージ。

 ギクッとミュウが魂胆に気付いて反論した。

「ひ、卑怯だよ!? 逃げ回った挙げ句に隙を作って、しかも自分の勝ちが確定してから約束するとか!」

「んー? 聞こえないなあ? ミュウちゃんが何時までもご機嫌ななめだからいけないんだよ?」

「わたしに責任転嫁しないで!! わたし被害者!!」

「大丈夫。ミュウは私のだから。香苗にはやらん。ミュウの乳は私んだ」

「わたしの身体はわたしのだよ!!」

 結局百合も乳揉みが目的か!! 身体が目的か!!

 キレるミュウが、一層激しく抵抗するが、無駄であった。

「はははははははは!! ならば海賊……じゃない、悪魔らしく! ミュウっぱいは私が頂いていく!!」

「略さないで!! あと、クロスボーンに謝れぇぇぇぇぇ!!」

 また名言の無駄遣いをしやがった。

 至近距離からの三点バースト射撃。

 実弾二つと出力高めの赤いビームがゴッドを直撃。

 二人して、大爆発。生きていたのは、ストライクフリーダムだけだった。

「ミュウの自由にできる権利は誰にも渡さん!!」

 どや顔して、完全勝利の百合が勝者。ゲームセット。

 最終的にミュウをうまく使って、百合が勝者を納めるのだった。

 悪悪魔の高笑いが響き渡る。

 これを切っ掛けに、ガンプラバトルでミュウをオモチャにする快感まで、ミュウは教えてしまったのだった……。

 

 

 ――みゃあああああああああ!!



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迫り来る黒い魔の手

 

 

 

 

 

 

 ばか騒ぎのオフラインバトルが終了する。

 景品にガンプラが贈与され、満足して受け取った少女は、犠牲になった少女を抱き抱えていた。

 悲鳴をあげて嫌がってるようだが気にしておらず、そのまま大会は恙無く終了した。

 そんななか。ある男が、少女の事を報告しに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、大きなお屋敷だった。

 郊外のあるお屋敷に、男は入っていく。

 見るからに怪しかった。人目を気にして周囲を窺いながらこそこそ入っていく。

 大きな前庭を横切り、裏手に回って館内に入る。

 コンビニで晩飯を買って食っていたら雇い主から早く報告にこいと怒られた。

 ため息をついて、巨大なガンプラを担いで待たせている部屋に向かった。

 一度おいて、ノックをする。

「入りな」

 許可を得て、入室する。

 室内はシンプルな会議室のような風景であった。

 中央にあるなが机。周囲に設置されたパイプ椅子。

 壁には大量の資料が貼られて、ホワイトボードには細かい指示が書かれている。

 金持ちにしては妙にケチ臭い――いや、これは彼女の心残りなのだと男は感じる。

「よう。偵察、お疲れさん。収穫あったってな? ま、飯ぐらい出してやるからゆっくり話せ。っていうか、コンビニで飯を食うな。あんな場所で食ってりゃガンプラが汚れんだろ」

 乱暴な男口調で、しかしわりと柔らかい対応で雇い主は言った。

 大体呼び出しを受けたのは、コンビニで食うとガンプラが汚れると言う意味不明な心配からだ。

 この人は本当によくわからない。

 絆や信頼はバカらしいと豪語する割には、配下においたものたちには配慮や労いは忘れない。

 多分、これも計算の内なのだろう。普段から、約たたずは捨てると宣言している。

 なぜそんなことをわざわざ口に出すか、一度尋ねて見たことがあった。

 すると。

「……胸糞悪いんだよ。一番嫌いなやり方だからな。そういう、使い捨ての駒ってのは。やるなら最初ビジネスライクで、ギブアンドテイク。これで良いだろ」

 利用できるならなんだってする。そういう常套句ではある。

 しかし、雇い主は同時に筋は通す。最初に警告はする。

 まるで、自分がそのやり方の犠牲になったように。

 痛みを知るから、配下には決してしない。そして、させない。

 しようとした阿呆が淘汰されるのも見たことがある。容赦なく社会的に潰してしまった。

 雇い主にも、美学と言うものがあるから、やっていることは悪党なのに配下はついてくる。

 言われずとも、自分で手足となって代わりにあらゆる場所に入り込む。たとえ、それが電子の世界でも。

 男は、あるオフラインの大会に出ていたと説明する。

 労いなのか、報酬とは別にやたら高そうな肉の弁当が出てきた。有りがたく頂いておく。

 食べながらで失礼、と断り続けると。

「……チッ。古宮の野郎、生徒会の仕事手早く片付けて何してるかと思ったら、お友だちとお遊びってか? 相変わらずムカつく生徒会長さまだ」

 かなり苛立っているのか、露骨に舌打ちしている。

 更にどんな様子だったか、聞かれるので詳細に話す。

「山田……百合? ゲッ、古宮の親友じゃねえか。なに? 他にもつるんでた? マジかよ。あそこはうるせえんだよな、あの部活の人間に手を出したりすると……。どーっすっかなぁ……」

 雇い主はうってかわって、頭を抱えている。

 何が問題なのか、と男は僭越ながら聞くと。

「お前は部外者だから知らねえんだっけか。まぁ、簡単に言うとよ、連中の所属する部活は部長と副部長が厄介なんだよ。迂闊に手を出すと、万倍にして返す頭がおかしい二人でな。……片方は親が探偵事務所開いててその人脈が危険なのと、片方は親が学校の理事長の一人なんだ。つまりは、権力がきくまえにこっちが潰されるって話さ」

 以前にちょっかいを出したら凄まじい反撃があった、と言われる。

 被害被って、雇い主は危うく退学を受ける羽目になりそうになったらしい。

「あそこは完全な中立地帯なんだ。誰であろうが、あの二人がいる限りは、手を出せばクビって寸法だな。なんで、こっちもあの部活には手を出せない。古宮の奴もそれを知ってて逃げ込んでる。あいつにとっては、あそこは安全な場所なんだなこれが。姑息な奴だぜ。しかもガンプラまでこっち想定してやがる。勘づいているなこりゃ」

 雇い主は冷静に次の手を考えている。

 が、聞き捨てならないことを言っていた。

 相手が、気づいているのに流すと言うのか?

「あっちは此方に何かするメリットはない。よくて、反撃だ。だから、こっちは仕掛けない限りは動かない。ってことは、ゆっくり準備して一撃で喉元噛みつくなんて芸当も出来るわけよ。どうだ? お前も乗るかい?」

 前向きな人だと思う。

 このポジティブな思考は、惨敗して悄気て帰ってきた自分にはない。

 折角、気合い入れてガウを新調したのに負けたのだ。 

 取り敢えず負かした相手にも伝えておく。 

 すると。

「……ミュウ? ミュウって呼ばれたのか?」

 名前を聞いていて、伝えると雇い主は驚いて姿を聞いてきた。

 見たままに教えると、雇い主は何やら手元の端末で操作を開始。

 数分黙って、その間に肉の弁当を平らげる。

「……こりゃ、良い風が吹いてきたかもな」

 端末を見下ろして、嬉しそうに呟く雇い主。

 何事か聞くと、上機嫌になって言った。

「最近、うちの学校の中等部に転校してきた海外の奴だよ。……驚いたぜ。あの『リトルナイトガール』か。一時期からめっきり顔を見せないから、何事かと思ったが……こっちに来てたとはな。使えるかもしれない。ま、少し調べてみるか。お前、上出来な情報悪かったな。報酬は上乗せしておく。ま、あとは弁当でも食って英気を養え」

 また出てきた。今度は幕の内弁当と来たか。

 折角なので追加で食べる。ご馳走さまです、と言っておいた。

「これは、引き込めれば行けるぞ……。今に見てろよ古宮。テメェの天下は、下克上で終わらせてやるからよ!!」

 雇い主は笑った。今、結構な時間なのでお静かにしてほしい。

 弁当を食いながら、実は事前に会長の動きを察知して追跡していた刺客、ガウの男は思うのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「みゃあああああ!!」

 開幕悲鳴。恒例の可愛がり。

「逃がすな、追うんだ!! 彼女を触ればガンプラが強くなれるぞ!!」

「なれるわけないでしょおおおおl!!」

 休み時間の事だった。

 セクハラしすぎて、心が折れたらしいミュウに、百合は新たな弄りを開発した。

 そのいち。恥ずかしがらせて愉悦する。

 そのに。神様使いして他のクラスのビルダーに襲わせる。

 そのさん。揉む。

(最後の変わってないよ!! 寧ろ前よりいやらしいよ!!)

 涙目で追われる転校生の心のツッコミが聞こえた気がした。

 机に座って、追われるミュウを眺めて、百合はにっこりと笑った。

(ミュウ。良かったね、お母さんも揉めば大きくなるってさ)

(大義名分手に入れてわたしに迫って何が楽しいの!?)

(我慢してよ。これもミュウの未来のためなの!!)

(嘘だ!! ただ触りたいだけのくせに!!)

(分かった。率直に言う。揉ませて)

(絶対嫌ッ!!)

 NTのように、目線だけで会話する。

 大丈夫。いきなり触るのはクラスのミュウを抱きしめ隊と甘やかし隊と見守り隊の協定で禁じた。 

 触るまえに、ミュウにちゃんと言うこと。それがルールだ。

(嫌がっても触るじゃない!! 変わってないけど!?)

(不意うちしないから改善したね。やったじゃん)

(悪魔ー!!)

 因みにミュウが嫌がった場合だが。追いかけて触る。以上。

 なので実質変化なし。可愛そうに、ミュウは今日も身体を弄ばれる。

「うーん。良い眺めだね」

「そうか? 俺はお触り禁止令出てるんだけど」

 椅子に座って、捕獲されて頬擦りされるミュウを見ている百合。

 後ろで、つまらないように眺める香苗。

 因みに香苗は限度を知らないのでミュウ管理委員会の百合が直々に禁止した。

 百合とミュウが仲良しなのか天敵同士なのか分からない微妙な関係を保っているのは周知の事実。

 なんだかんだ、一番親しいのは百合らしいと皆知っていた。

「ってか、なんで山田はミュウに懐かれてるん?」

「そりゃ、私が優しいお姉さんだからだよ」

 そもそも最初を皆知らないので不自然に仲良くなっている二人。

 それを誤魔化すために、百合は敢えてミュウを獲物と見ている、という演出をしている。

「みゃああああああああ!!」

 つもりだった。半分嘘。半分は反応が可愛すぎてミュウに狂ったからだった。

 グラハムの気持ちがよくわかる。圧倒的可愛さに心奪われるとはこの事だ。

 そろそろ、ミュウの悲鳴に限界の本気度合いは入ってきた。

「連れ戻してくるね」  

 調停するために、立ち上がる。

 こぞって強くなりたいビルダーの餌食になるミュウは助けを求めていた。

 が、いざとなれば百合が責任をもって回収する。 

「はいはい。お触りは本日ここまでです。皆さん、我がクラスのアイドルから離れてくださいな」

 べそかいてもみくちゃにされているミュウを抱っこして回収。

 名残惜しそうに皆が見ているのをミュウが怯えている。

「次回は明日のお昼となります。それ以前はマネージャーの私の許可なしに近づかないようにお願いします」

「マネージャーって何……? なんでわたしがこんな目に……」

 ぐったりして抱っこされるミュウは、疲れきっていた。

 百合が前の席に指定されたミュウをつれてきて、色々とお世話を開始。

「お疲れミュウ。はい、お菓子」

「……」

 隠し持ってきていたお菓子をブレザーのポケットから取り出す。

 チョコレートだった。ミュウに差し出して、見つからないように食べさせる。

 文句を言う前に、わざわざ百合が持ってきているお菓子を食べないのも勿体ないミュウは迷う。

「ほれ、あーんして」

「……なに企んでるの?」

「疲れているミュウにはなんもしないよ」

「今まで散々触ったくせに……!」

 妙に優しいと警戒する小動物、ミュウ。

 胸元を腕を交差させて守っている。

「今は加減する。約束は守らないとね」

「…………」

「良いから食べなよ。後ろの野獣が奪いに来る」

 香苗がチョコを奪いに身を乗り出していた。

 爛々と目を輝かせて、寄越せと吠える。

 それを、黙って雑誌を読んでいた沙羅が武力介入。

「駆逐するー」

「えくしあ!?」

 棒読みで、机から取り出した分厚い教科書で殴打する。

 変な悲鳴をあげて撃沈した香苗をみて、百合は繰り返す。

「むぅ……」

 結局、あーんして貰って食べる。

 満足そうにして百合は小さく割って口に運ぶ。

 拗ねたミュウは、懐柔されているのを知っても、黙って従う。

 約束したのだ。あの日、ミュウが百合に負けた日に。

 これ以上意地悪は控えると。やり過ぎてごめんなさいと。

 結果、あんまし変わってないが百合が間に入って止めることが増えた。

 元を見れば元凶なのだが、百合も少しは反省していた。

「泣かせるのはそろそろやめて、次は恥ずかしい方向にするよ」

「悪魔!! 百合ちゃんのデビルガンダム!!」

 と罵られたので、そのあと揉んで黙らせた。

 趣向を変えているのが本音であった。

「…………」

「……なに?」

 ニヤニヤした表情でチョコを食べるミュウを見ている百合。顔が怖い。

 どうせ、ろくでもない台詞が出てくると予想するが。

「ミュウって口の回りにチョコつけて食べるんだね。やばい、舐めたい」

「いい加減にして!」

 ほ、香苗に負けない変態台詞が出てきた。

 怒ったミュウの反撃。百合の目玉にサミングをかました。

 この技は危険なので、DG細胞に感染していない一般のビルダーは決して真似しないように。

 百合はDG細胞を自己生産できる特殊なビルダーなので、特別なのだ。

「ぐあああああ!!」

 目を押さえて絶叫する百合は、目の前で無様に転がった。

 反撃して珍しく倒したミュウは、屑を見下ろす冷たい視線で百合を見ていた。

 そんな平和な休み時間。

 ミュウに、シリアスな魔の手が迫ることをまだ知らない……。

 

 



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始まりの接触

 

 

 

 

 逆襲のミュウから二日後。

 ……突然、ミュウが上級生から呼び出しを受けた。 

 百合の通う学校は女子校のお嬢様学校だが、実は中等部と呼ばれる学校で、高等部は共学の普通の学校である。

 付属の中学が元々だったのだが、時代の流れで高等部だけ共学になったらしい。

 その名残で、生徒会も学年が関係ない。茜が中等部三年で会長をやっているのがいい例だ。

 で、呼び出したのが生徒会の役員であると途端にビクビクしだすミュウ。

「わ、わたし……悪いことした……?」

「悪いっていうと、その罪深き可愛さか?」

「……ふんすっ!!」

「げるぐぐ!?」

 椅子に座って、百合に相談している時に、香苗が余計なことを言い出した。

 なので、百合が裏拳で彼女の顔面を殴打。

 鼎香苗は机に突っ伏して顔を押さえて痙攣していた。

「空気を読め佐藤。理事ごと戦艦を沈めるよ」

「そりゃ……ナタル……だろうが……」

 などと突っ込みを入れて気絶する。

 神妙な顔つきで、百合はミュウに言った。

「誰が呼び出したの?」

「知らない人……。木島平とかいう、三年の……」

 困惑するミュウに、百合は真剣に考えた。

 三年の役員。ミュウと接点はない。

 と、なれば。

(……この子を巻き込む気ってことか)

 百合は内心舌打ちする。なにも知らない転校生を巻き込むつもりか。

 それは流石に許さない。ゴタゴタは、ミュウに一切関係のない話だ。

「……私もついていくよ。ミュウ、覚悟しておいてよ。どうせ、ろくなきとじゃない」

「……?」

 意味がわかってないミュウにも、一応の警告。

 ミュウは放課後、屋上に呼び出されている。百合は、近くで待機していると言った。

「え、でも……一人で来いって」

「無視していい。言っとくけど、告白なんてもんじゃないよ。多分、厄介なこと」

 ただ困っているミュウに、百合は語彙を強めて何度も説明する。

「ミュウ。ごめんね、こんな面倒ごとに巻き込んで。私がミュウを守るよ」

「…………」

 意地悪ではない。本気で、百合が言っている。

 ミュウはその言葉を信じた。元より、窮地を救ってくれたのは百合だ。

 普段はあれでも、こういう状況なら、頼っていい。

「分かった。覚悟しておくね」

「うん。何かあればすぐに言って。……反撃の準備をする」

 ミュウも感じる、荒事の気配。

 物騒な単語を言っている百合の言葉を信じて、ミュウは放課後を迎える……。

 

 

 

 

 

 

 

 強いて言うなら、黒幕は甘く見ていた。

 攻めなければ反撃はない。それは合っている。

 が、この場合の攻めるとは、接触しただけでもアウトであった。

 転校生を巻き込もうとする時点で、こっち側は宣戦布告と受け取った。

 百合は知っている。これは、生徒会絡みの面倒な争いだと。

 百合は会長、茜とは友人である。

 それは、茜が生徒会の選挙で立候補したときにはすでに知っている。

 二人の出会いは、部活でガンプラを作っているときに、選挙活動で訪れた茜に勧めたこと。

 そこからハマってビルダーになった経緯がある茜。

 百合はその頃から、茜を知っている。香苗も、沙羅も。

 故に、事情を聞いていた沙羅も参戦した。

「またなの?」

「みたいだよ」

 短い会話で、理解する。

 茜は現在会長であるのだが、それを気に入らない派閥が校内にあることを皆知っていた。

 誰かまでは分からない。だが、毎度毎度人を変えては、茜にちょっかいを出す阿呆がいる。

 茜も知っていた。自分に選挙で負けた誰かの逆恨み。失脚を狙っているんじゃないかと。

 完璧超人を続ける理由は、付け入る隙を与えないためでもあった。

 常に気張っていないと、茜は闇討ちされて破滅する。

 あの手この手で嫌がらせをしている誰かのせいで、茜はそんな教師も知らない、あるいは知っていても無視される殺伐とした生活を送っていた。

 故に、あの場所は唯一の安全地帯。部室は、部長たちが守ってくれる。

 部長たちも茜の味方だ。本気を出せば、特定も可能だとか。

 前回の時に探したらしいが、上手いこと生け贄羊をされて逃げられた。

 そのまま行けば退学にして追い出していたのに、と残念がっていたが。

 そんな誰かの魔の手が、ミュウに伸びてきた。

 当然、激怒するのは……。

「我が部の未来のアイドルに何をするでござろう!? 誠に許せぬでござる、腹切りさせてやるのだぁ!!」

「……ミュウちゃん欲しいから、山田さん。絶対に守ってね」

 部長のグラハムに似ている残念なイケメンと、フェルトに似ている副部長が今回もキレた。

 ミュウを近いうちに部活に入れたい二人は、極めて個人的で利己的な理由で黒幕を今度こそ潰すと決めた。

 部室で待っている百合を尻目に、突撃していった。

 ……一時間ほど経過した頃。

「…………」

 顔面蒼白で、ハイライトの失った目のミュウが戻ってきた。

 ふらふらと幽霊のような足取りで、百合が直ぐ様書けよって抱き締める。

「なんかあったんだね? 今は言わなくていい。すぐ帰ろう。もう、こっちは動いて貰ってる。今は、休も」

 なにも聞かない。なにも言わせない。見れば分かる。ミュウが悪意に攻撃された。

 百合が抱き締めると、なんとか、瞳に光は返るが、また泣きそうになる。

 普段の騒がしい泣きかたじゃない。本当に悲しく、辛く、苦しんでいる泣きかたで。

「いいよ、ミュウ。ゴメンね、巻き込んで。帰ろう」

 何度も百合は謝った。ここにいない、茜の代わりに。

 茜を苦しめるために、ミュウまで引きずりこんで利用しようとする。

(……頼んだよ、部長。副部長。今度こそ、潰してよね)

 百合はなにもできない。ただ、ミュウを支えることしか。

 適材適所で、ミュウを癒すのが百合の役目。反撃は周囲に任せる。

 泣きそうになるのを、優しく頭を撫でて百合は手を引いて共に帰る。

 ……そのあとを、不穏な影がついてきていた。

 

 

 

 

 

 

 学校から出る直前。

 百合は異様に気を張っている。

 周囲を警戒する。校門には守衛さんがいる。

 放課後で、高等部から生徒が歩いている。

 中等部からも。疎らに歩く人の波を、睨んでいる。

「……百合ちゃん?」

 ずっと手を握ってる百合に、少し落ち着いたミュウが訊ねる。

 見たことがないくらい、百合は疑り深くしている。

「……尾行されたら不味いからね。ミュウのこと、責任持って私が守らなきゃ」

 無関係な彼女が辛い思いをした時点で、怒髪の百合。

 使命感に燃えて、ミュウを傍に寄せる。

「きゃっ……」

 あまりに強くて、少し痛い。

 乱暴だったと謝り、優しく抱き寄せた。

「大丈夫、なんて私はただの子供だから、無責任には言わない。けど、出来る事は全部する。頼れる人は全部頼って、使える方法は全部試す。自分だけで出来るわけないから」

 何故かミュウには分からないが、今はとても百合が優しい。

 孤独が焼き付く、脳内にこびりつく激痛に素手で触れられ、ミュウは確かに苦しかった。

 言えないことが多すぎて。隠すことが多すぎて。百合の両親しか知らない筈なのに。

 そいつは、知っていた。手を貸せと。さもなくば、お前の秘密を暴露すると。

 真実を奴等に知られたくなくば、指定した時間に指定した場所にこい。

 そう、脅された。彼女は従う気だった。そうしないと、責められる気がして。

 あの世界に未練がある自分が、どの顔をして戻ってきたのかと。

 裏切りに近い行為で逃げ出した癖に。その真実を、彼らに知られたくない。

 だから、辛くても、悲しくても。従おうと思っていたのに。

(……百合ちゃん……)

 どうしてなにも知らない百合が必死になれる。

 どうして関係のない百合が頑張ってくれる。

「……なんで助けてくれるの?」

 気がつけば、そんなことを聞いていた。

 理解できなかった。言わない、隠していると分かっているであろうミュウのこと。

 百合には、どうでもいい問題なのに。

「ミュウを泣かしていいのは私だけ。ミュウを触って楽しんでいいのは私だけ。他の奴が、そうするのが我慢ならない」

 真顔でそんなことをいってくれたが。

 ミュウは、もう一度聞く。

「…………嘘、なんでしょ?」

「嘘じゃないよ。でも、こっちの事情だからね。ミュウは関係ないのに、あいつらはミュウを嫌がらせする。許せないんだ。あいつらは、元々」

「よく言うよ。百合ちゃんだってセクハラするくせに……」

 そうか。ミュウは苦笑いしていた。

 百合の都合に、自分は巻き込まれてしまったようだ。

 で、百合はそれを許せないから、ミュウを守ると言うわけか。

「ミュウは、大丈夫?」

「うん、少しは落ち着いたよ。……百合ちゃんのお陰だね」

「そう?」

 百合が頑張ってくれるから。百合は、懸命だから。

 なんだか、ホッとした。安心したといっていい。

 百合は多分、話せば助けてくれるのだろう。

 誰にも言えない訳じゃなかった。百合は、特別だった。

 秘密の同居をしている、ミュウと一緒に寝食を共にしている少女。

 自分の事は言えないけど、脅されたことぐらいは……言っても、百合なら。

「……百合ちゃん」

 初めて、自分から近づいていく。

 今まで少し距離があったかもしれない。

 百合は助けてくれた恩人だけど、所詮は他人だからと。

 意地悪ばかりする、いじめっこだと。それは事実だが。

 けれど、最後は助けてくれるではないか。

「……え? ミュウ?」

「とりあえず、帰ろうよ。尾行されたら不味いけど、目立っているのも不味いよ」

 不審者のようだ、と指摘して百合はしまったとハッとした。

 ミュウはもう、大丈夫だと思う。

 何せ、ここには守ってくれると豪語する百合がいる。

 信じるのだろう? この見た目が操られて死にそうな彼女を。

「少し、寄り道して気分転換したいの。付き合ってよ、ユリン」

「誰がユリンだ私は百合だよ」

 初対面のときにi言っていた台詞だった。懐かしい。

 からかうぐらいには、落ち着いて余裕も出てきた。

 万が一、尾行されていたら不味いので、とミュウは百合の耳元に口を近づけて言った。

「百合ちゃんの先生がいるお店に行って、少し様子を見てもらおうよ。信頼できる大人に頼るのも子供の特権だよ?」

「……ナイスアイデア。よし、その手でいこうか」

 藤四郎のお店ならば問題はあるまい。

 信用できるミュウが知る数少ない大人である。

 それならば、一緒に帰っても怪しまれない。

 百合も賛成してくれた。

 んで。

「……ふぅ」

「にゃ!?」 

 この間のお返しに、耳に息を吹き掛けてやった。

 面白い声が出た百合に、クスクスとミュウは笑った。

「百合ちゃんも面白い声がするね」

「……ミュウ貴様、私が頑張っているときに!!」

 怒って捕まえようとする百合から逃げるミュウ。

 そのままじゃれあいに発展して、お店に向かって走り出す。

「待てやミュウ貴様! 私に反撃とは良い度胸だ!! 詫びに揉ませろォ!!」

「やだよー! 揉みたいなら捕まえてみなさい、Xラウンダー!」

「それはユリンだって言ってるだろうがぁ!!」

 逃げ回り、そのまま去っていく。

 二人の影を、尾行に気付かれたかと思ってビビっていた追跡者だったが、そうでもなかったようなので、追跡を続ける……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お店に到着。

「先生、変な人がついてきてる気がする!!」

「先生さん、匿って下さい!」

 駆け込んできた二人に、客を捌いたあとで寛いでいた藤四郎は、驚いて眼鏡がずれた。

 慌てて二人を奥に追いやって、警戒するように外を見張った。

「不審者か!? ええい、このご時世に良い度胸だ……撃退してくれるわ!!」

 藤四郎が怒って、何やらガンプラのショーケースの裏から大きな物を取り出した。

 いるか分からないが、武器は用意してくれていた。

「えぇ……」

「この国って、あんなでっかいの持ち歩いて良かったっけ……?」

 百合は呆れた。ミュウは驚いた。

 何故なら、それは。

「この余ったガンプラ素材で出来たGNバスターソードの餌食にしてやろう!!」

 プラスチックで出来たでっかいGNバスターソードだった。

 スローネの持っていたあれである。

 それっぽく出来ているそれを準備して、二階の住居部分から隠れている二人に代わって見張ると。

(ん……? あれって、二人の学校の制服……? でも、確かに見張ってるな)

 藤四郎が発見したのは、同じ学校の高等部の制服の男子生徒。

 見張るように、双眼鏡とあんパンと牛乳装備で、電柱の影に隠れてこっちを見ていた。

「……よし」 

 一階に降りて、二人に二階に移動するように言ってから、裏手から出た藤四郎。

 そのまま遠回りして、見張っている彼の背後に移動する。 

 足音を殺して近づき、そして。

 

「君、困るなぁ。営業妨害だよ? そんな物騒なものもって、女の子をつけ回しちゃ」

 

「!?」

 

 彼が驚いて背後を見ると。

 そこには、ばかでかいプラスチックの剣を肩に担いだ眼鏡の男性が、こめかみに青筋を浮かべて怖い笑顔で立っていた。

「ひぃ!?」

 あまりの迫力に腰を抜かす男子生徒。

 見上げるそれは、まさしく武力介入を行う擬人化したスローネ。

「少しお話よろしいかな?」

 有無を言わさず、首根っこを捕獲されて。

 男子生徒は、店内に引き摺られていく。

 最後に、お店の準備中の札に切り替わり。そして、数分後。

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 絶叫をした男子生徒が、お店から飛び出して逃げていくのを、二階から二人は窓から眺めて目を丸くするのだった……。



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戦うための力

 

 

 

 

 不審者は撃退された。

 藤四郎は語る。

 どうやら、探偵の真似事をしていたようで、詳細を話す前にキレていた彼の迫力に気圧され逃げたらしい。

 故に詳しいことは分からない。

 それでもいい。今は秘密さえ守れれば。

 彼が車で送ってくれた。

 道中、セダンの後部座席で小声でミュウが話しかける。

「百合ちゃん……。わたし、GBFに行くの」

「それが言われたこと?」

 百合は皆まで言わずとも理解してくれている。

 真剣な顔で、ミュウは首肯する。

 それが言われたこと。来なければ、ミュウの秘密をある集団にリークすると。

「ミュウは、それが嫌なの?」

「絶対いや。知られたくない」

「分かった。じゃ、聞かない。そいつを潰そう」

 剣呑に百合は、異様に攻撃的な提案をした。

 驚くミュウに、百合は教える。

「ゴメンね。そいつは多分、会長とかに関係のある奴なんだ。で、ミュウを引き込みたいんだよ。脅してでも、仲間にしようとする。だから、そう言うときは……倒すしかない。従えば、言いなりにされて道具にされるだけ」

 暗に、従っても相手が約束を守る保証はないと百合は言いたいのだ。

 絶句するミュウに、続ける。

「GBF……ってことは、ガンプラバトルで会長をこてんぱんにする気なんだろうね。前にもあったよ。その時は会長が自分で倒しちゃったけど。刺客を送り込んできてるの、黒幕のそいつは。従わない場合は本気で脅したことをやるよ。そいつの手口はもう、私は知ってるから。何度もぶつかってきたしね」

 聞けば、会長の座を失脚させたいのか、スキャンダルが掴めないと分かっているから無様な敗北を見せたい。

 普段の生活では、隙などない完璧な仕事ぶりと、豊富な人脈とその人柄で、茜はほぼ無敵だ。

 ただ、一点を除いて。

「一点……?」

「会長の家は、家柄が古くから続く名家でさ。家族がガンプラバトルを止めさせようとして、反対してる。それも、家族が全員で。会長は我慢して結果だして黙らせてるけど……」

 再びミュウは言葉を失う。それは……あまりにも似ていたから。

 今の自分に。理解されず、糾弾され、だが茜は逃げ出す場所がない。

 逃げ出せば、それは即ち破滅。つけ狙う誰かか、あるいは家族に倒される。

 会長は、ああ見えて崖っぷちだったのだ。

 背後には家族が、周囲には見えない誰かが。

 茜からガンプラを奪おうとしているのだ。

 あるいは、彼女その物を傷つけようとしている。

 それを、助けてくれる百合や部活の人たちが支えているだけで。

 ミュウと違うのは……ミュウは逃げ出した。茜は戦い続けている。

 絶対的な、差を教えられた。

(わたしは……逃げたのに。会長は、戦ってる……)

 何故だろう。ミュウは自分が卑怯な人間に、矮小な人間に思えた。

 一つしか違わないのに、なぜ戦える。なぜ、抗える。なぜ、堪えられる。

 ミュウには、想像できない忍耐力であった。

「会長は特別。特別を、小さい頃から強いられてきた。古い家に生まれるって言うのは、そういうこと。この国の悪癖みたいなもんだって会長は言ってた。伝統やしきたり、なんていう呪いを物心つく前から刷り込んで洗脳する。最初から自分が望むものしか要らないんだよ、ああいう大人は。話なんて聞かない。自分だけが正しい。そんな偏見と古臭いカビの生えた思考をしている老害。会長にも言ってるけど、あいつらは私達の天敵だよ。抵抗できないまま、自分色に染め上げて出来上がる傀儡。それが、ああいう人種が望む子供なの。ミュウは、わからなくていい。私も……会長の家の人間は、ヘドが出るほど嫌いだもん」

 嫌悪感丸出しで、人様の家の人間を貶す百合。

 一度会ったことがあるらしいが、その時は揉めたらしい。

「凄い喧嘩になったよ。うちの娘に妙な事を吹き込んだ奴はお前かってね。向こうも私を敵扱いしてるし、相互理解なんてする必要もない。話し合う理由もない。ミュウ、相手が話を聞かないなら、そんな奴はもう自分のなかで抹消した方がいい。聞く気のない奴には、昔から我が国じゃ馬の耳に念仏って言うの。意味は、いうだけ無駄。意味なんて通じないし、通じるだけの頭すらない。する気がないから、時間も無駄。……いいんだよ、そんなバカに時間を使わなくて。人間は変わらない。変わるきっかけすら潰そうとする奴等なら、真っ向から対立するのが一番楽。敵か、味方か。はっきりした方が、自分も辛くないよ」

 まるで、ミュウが全部を打ち明けたかのように、的確にアドバイスしてくれる百合。

 多分、これは会長の事情の事を言っているんだろう。だが、ミュウとて似たような事情ならば?

(……そっか。話を聞かないなら、無視していいんだ)

 感化され、その痛みや苦労、辛さを知るが故に自分もそうするべきだと思ってしまう。

 事実、環境は同じだった。話を聞かない、自分だけが正しいように押し付ける。

 ミュウのためと言いながら、ミュウが必死に守ろうとするものを容易く奪う。

 そんな連中、理解してどうする。話し合って何になる?

 自分のなかに、毒を入れるようなもんだ。会長だって反発している。ならば。

(ありがとう、百合ちゃん。なにも知らないだろうけど、方法を教えてくれて)

 ミュウも徹底的に抗おう。否定しよう。相手の思いなど知らずともいい。

 向こうだって、子供の思いをなにも知らずに踏みにじる。

 嫌がっても、言葉にしても、何度でも蹂躙してきた。

 もう、我慢の限界で家出をしたのだ。そして、会長の苦しみが我が身のように理解できる。

「会長さんの為だね。うん、やっつけよう」

 ミュウは決意した。自分を苦しめるかのような憎悪と怒りが湧いてきた。

 それは元来、ミュウ・ファルネーベという少女の中にあった鬱憤。

 似た環境の古宮茜の存在により、共感と増幅を開始した。

 結果、自分に対しての攻撃とも取れる感情と、実際脅されたことによる怒りが沸騰していた。

「ミュウも分かってくれるんだね。会長の気苦労」

「うん。痛いほどよくわかる。だから、わたしも戦う。そんな人には、負けない」

 茜は、知らぬ間に最強の味方を手に入れていた。

 黒幕にとっては、想定外の覚醒であった。

 弱気で大人しい、可憐な少女はそこにはいない。

 いたのは、己の大切な世界を土足で汚され激怒する戦乙女。

 何よりも、自ら逃げていた世界にすら戻ることを決意させる激情を刺激したこと。

 黒幕が思うほど、ミュウの思い入れは……薄くはなかったのだ。

「わたしも、全部と戦う。逃げないよ、もう」

 小声で、自分に言い聞かせるようにミュウは呟く。

 それは、ミュウの決意でもあった。

 彼女も、茜と同じ選択肢をとる。

(あの人たちと、戦おう)

 ……家出をした、両親との対立。本格的な反抗を。

 結果を出しても尚、否定するなら是非もない。

 最早語る口もない。何がなんでも認めさせてやる。

 向こうが強引な手段に出るから、家出をした。

 どうせ、向こうだって口でいってもとうに愛想など尽かしているに違いない。

 上っ面の言葉だけで何になる。だったら行動で示せ。証拠を見せろ。

(わたしの秘密を暴こうとする人も許さない)

 戻る時点で、何れは明かされるだろう。

 だが、拡散される理由がない。それはただの嫌がらせだ。

 百合は反撃にその道のプロがいるから安心しろと言った。 

 部長さんたちらしかった。

「そうだね……。終わったら、お礼も兼ねて入部するね」

 助けてくれるのなら、恩返しはしないと。

 ミュウは道中、その脅した相手の言った日時を百合にも伝えた。

 そして、百合は更にえげつない方法を選んだ。もう、相手に慈悲など欠片もない。

 自宅に到着して、挨拶して戻りながら、二人は……戦いの準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 然し、困った。

 ミュウは日時を教えたのはいいが、考える。

 まだ、自分のガンプラを使えない。理由は、GBFではミュウのガンプラは有名すぎる。

 順子だって知っていたレベルだ。下手しなくてもワールドクラス。なので、迂闊に出せない。

 今はまだ、隠れている状態なのだ。相手が言いふらす前に自分から明かしてどうする。

 一緒に百合と入浴している。百合に長い髪の毛を洗ってもらっている。

「何か考え事?」

 目を閉じて、泡が入らないようにしているので視界は真っ暗。

 背後で百合に聞かれて、答える。

「ん、そうなの。わたし、ガンプラないから……」

 嘘を言う。あるけど、使えない。使えば自滅。

 向こうは知っている。だから、指定されたが指示には従わない。

「あ、そっか。じゃあ私のガンプラ使う?」

 百合が頭からお湯を流しながら聞いてくる。

 彼女も相当な数を所持して飾っている。一個ぐらい借りても良いと。

 有りがたく拝借するとして、問題は。

「ただ、シュイヴァンは宇宙じゃデメリットしかないんだよね……」 

 初めて聞く名前。百合のストライクフリーダムの名前らしい。

 詳細を聞いた。ドラグーンを失って、火力が落ちているだけ。

 大気圏ではそれは長所にはなるが、宇宙では元々ストライクフリーダムはドラグーンを切り離せば最大稼働が可能だ。

 つまりは、無線誘導兵器が飛び交う宇宙では、割りと火力の低下は致命傷。

 更に、百合は宇宙での戦いを慣れていない。

 手伝ってくれるのは嬉しいが、百合はあくまでメインを大気圏に絞っている。

 宇宙は管轄の外で素人。だから、困る。

「…………」

 相手は宇宙での場所を指定している。

 つまりは、ミュウの弱点である宇宙で封殺したつもりのようだ。

 何せ、ミュウのガンプラはSD。宇宙に出るには改造が必須になる。

 既に終えているとはいえ、ブランクもある。それで勝ったつもりなのだろう。

(甘く見ているよね。わたしを)

 こう考えると、如何にミュウを舐め腐っているかよくわかる。

 宇宙に出れば、ミュウに勝てると? 

 愚かしい。浅はかにも程があった。

 あの様子じゃ、物量で攻めてくるんだろう。

 向こうは多数で来る気がする。こっちの実力を、形だけでも理解しているのなら。

 だったら、あのガンプラを使おう。SDではないが、これなら戦える。

「百合ちゃん。お願いがあるの」

 共に風呂にはいりながら、ミュウは神妙に切り出した。

 真面目なお願いだ。それは、百合のビルダーの魂に喧嘩を売るが。

 もしも、聞いてくれたら。そうなら、ミュウを好きにしていい。

 それぐらい、覚悟がある。彼女の流儀に触れる事柄ゆえに。

 彼女に説明すると、案の定表情は芳しくない。

「お願い聞いてくれたら、もうわたしのこと毎日好きにしていいよ。それぐらいの覚悟だから」

「……ふぅん。そこまで言うんだ」

 自分をチップに出す。これ以上の切り札はない。

 百合は、少し考えた。軈て。

「うん、ミュウのお願いだから分かったよ。信念を曲げないと、ダメみたいだし」

 迷っただろうに、最後は許してくれた。

 すすす、とお湯を掻き分け早速伸びてくる魔の手。予想通り、直ぐ様する気だった。

「言ったそばから……」

 呆れるミュウだが、現実は違っていた。

 伸びてきた手は、ミュウの腕を優しく掴み、自分の方向に掴み寄せる。

 驚くミュウ。一度方向転換、百合に背中を任せるように一緒に入る体勢になった。

「なにもしないよ。今はね。けど、私のガンプラ道を曲げるんだから、やるからには徹底的だよミュウ。ちゃんと手伝ってね」

「うん。そうだよね。全力で潰すって決めたんだから、加減なんてしなくていいよね」

 二人はそういって、笑いあった。

 やるからには、徹底的にやりとおす。そして、必ず勝利する。

 そう決めた。

「キットは、手元にあるの?」

「お父さんから掻っ払ってくる。いつものお返しで」

「……ほどほどにね?」

 今晩から、早速始める。

 指定された日時まではそう長くない。

 作って、組み合わせて、実際に戦って、身体に教え込むのだ。

 それがガンプラバトルと言うものだから。

「オッケー。じゃ、今晩じゅうに仕上げちゃおう」

「分かった。わたしも準備しておく」

 二人でなら、必ず勝てる。そう信じて。

 ビルダーとして、そしてGBFを脅迫の材料にしやがった悪党をブッ飛ばすために。

 今ここに、高い技術力のビルダー百合と、爪を隠しているミュウとタッグが、結成されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明けになった。

 二人が徹夜して完成させた、最高にして最強のガンプラ。

 二人で初めて戦える、二人で初めて勝利できるガンプラ。

「出来た……!」

「やったね……!」

 眠気を我慢していた二人は、朝日を見ながらベッドに潜り込んだ。

 そのまま休む。学校もサボる。次の日には、出掛けるので今のうちにたっぷりと眠る。

 机の上には、飾られたガンプラが鎮座している。

 二人は一緒に名前をつけた。オリジナルではないが、一緒に頑張った証として。

 それは、ある天使の名前を継ぐガンダム。

 

 ――ガンダムハルート・レゾナンス。

 

 百合のガンダムハルートを公式の拡張キットで、最終決戦仕様にオリジナルで追加した、原作にあるけれどもガンプラになっていない、改造をしないという百合の信条を曲げてでも出来上がったガンプラ。

 更にはミュウの戦いを本人の希望に合わせて拡張した結果、見た目は変わらないが能力は格段に高まっているだろう。

 ミュウが望み、百合が仕上げた、二人のガンプラ。

 それが二人に手を伸ばした邪悪な彼らを滅ぼす、天使の名前だった……。



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GBFへ!

 

 

 

 二人で作った、初めてのガンプラ、ハルートレゾナンス。

 百合は思った。如何に、自分の了見が狭かったかを。

 そして知った。思っていた以上に、改造が楽しいと。

 ハルートの本来存在する形態だし、ガンプラが発売されてないから自作しただけ。

 完全な自作ではないので、まだ認めるまでには至らない。

 しかし、楽しかった。ミュウとあれこれ喋って、構想して、作ってをする作業が。

 一人で黙々と画面の中で暴れるガンダムを仕上げるのも無論楽しい。

 けれども、食わず嫌いだったことも自覚した。

(今なら、GBF行っても大丈夫)

 ミュウと一緒に戦うのが楽しみでならない。

 窮地の筈の現状が、未知のワクワクに変化していた。

 負ける気がしない。高揚しているこの気持ちならば。

 初めての宇宙でも、ミュウと一緒に戦えれば勝てる。

「……複座だけど、大丈夫なのかな?」

「平気。一緒に入るときに同じガンプラを共有すれば、一緒に戦える」

 ゲームの仕様で、複座型のガンプラは使う場合、事前に店員なりに一緒にやると設定を変更してもらう。

 あるいは、自分で設定を変えればいいらしい。

 なので、持ち主が相方を選んで、一緒にやればガンプラを持ってなくてもできる。

 スゴいときは母艦を持ち込んで、集団で一つのガンプラを用いる場合だってあるとか。

 不安そうにお店に持っていくミュウに、百合は微笑む。

「大丈夫。勝てるよ。……相手が絶滅するのは確定事項だしね」

「……だろうね」

 そう。既にミュウを恫喝した相手のゲーム内部の姿は、特定されている。

 今回は無駄に権力を使って部長たちが暴走した。

 学校役員だと知った二人がぶちキレて、生徒会室に乗り込んでいってしまったのだ。

 無論、茜は知っている。話を聞いて、キレた茜の提案だったから。

 茜は我関せずで仕事を続けて、助けを求める役員を無視していた。

「ちょ、落ち着け!! どうしたんだ!?」

 役員の一人、新城焔という女子生徒が割って入るが、部長たちは聞いてなかった。

 こいつが中等部の転校生に恫喝したあげくに、他の生徒を使い尾行までさせていたと証言を既にあつめていた。

 で、しかも証拠もありだ。写真やら防犯カメラやらの映像まで持ち込んでいた。

「はぁ!? おいあんた、中等部の子に何してるんだ!?」

 で、事情を聞いて焔もその男子生徒に掴みかかった。

 男子生徒は俯いて沈黙するが、

「相手は海外の転校生だぞ!? 右も左もわからない子を……脅した!? ふざけんじゃない!! 何が目的だ!! 吐け! 沈黙は許さん!」

 焔も怒鳴って、教師につき出そうと提案した。

「……新城さん。落ち着いてください」

 冷静に茜が、書類を書きながら焔をたしなめる。

 振り返る焔は、名の通り燃え盛っていた。

「会長、バカを言うんじゃない!! これは既に許される範囲じゃないだろう!! 然るべき裁きを与えなければ、脅された彼女が気の毒だ! 何よりも筋が通らない! 私は認めないぞ!?」

 毅然として、焔は許せないと怒り狂う。男子生徒は、なにも言わない。

 彼女はずるずると高等部の生活指導に引き渡すと、彼を連れていった。

 部長たちも、今回の犯人が脅した内容を後日、茜に伝えている。

(……ふぅん。自分で連れていくのね……?)

 茜は処分は焔に一任すると言った。本人がそうすると怒っていて聞かないので。

 内心、詰まらなそうに茜が思っていることを、誰も知らない。

 犯人は捕まった。ならば、これで解決……。

「するわけないじゃん。相手は一人じゃないよ。部長たちも知ってる」

 個人ではないのだ。その秘密は、既に共有されていると思っていい。

 どうせ、蜥蜴の尻尾切り。またも生け贄を出されただけ。

 まだ脅しは続いている。生きているのだから。

 他の誰かが指定された場所に必ず来る。

 部長たちも真犯人を探して現在校内を嗅ぎ回っている。

 故に、二人も続ける。一応の反撃はした。次は、ゲームのなかだ。

 脅す前にソイツを潰して、黒幕にこう、言うのだ。

「ミュウの秘密を暴露したら、今度こそお前を潰す。これ以上、会長の邪魔をするなら、こっちも攻勢に出る」

 という、メッセンジャーにするつもりで。

 あるいは、様子を見ているかもしれない本人に聞こえるように。

 脅しには脅しを。無論、本気だ。部長たちは、とうとう公安まで使うと言い出している。

 たかだか学校の内輪揉めに、国家権力が介入するかもしれないのだ。

 流石に、それを可能とする人脈がある二名を敵に回してはいけない。

 片や探偵事務所の娘、片や運営する理事長の一人のの息子。しかも双方政界などにもパイプが独自にあるとか……。

「うわぁ……」

「言ったよ。出来ることは全部するって。私は無力だけど、できる人が近くにいるから」

 今までは小競り合いで済ませてきた。だが、ミュウという転校生まで巻き込むなら最早容赦はしない。

 茜の一件は、茜本人の問題であって、ミュウには全くの無関係なのを引き摺りこむなら、裁きを与える。

 そう、二人はいっていた。

 ミュウもドン引きした。そこまでやるとなると、もうただの権力を使った戦争ですらある。

 えらいものに巻き込まれてしまった。そして、百合はそれを平気で誘発させる。

 真面目に手段を選定しない。で、悪びれないメンタルが怖い。

「私は弱いから、全部使うんだ。弱いやつほど、何でも試すのはリアルでもガンダムでも同じってこと。虎の威を借る狐? だからなに? 虎が味方だもん。頼んで何が悪いのさ」

 威張るのではなく、開き直る。百合は相手に一切の情けがない。

 茜の事情を知って、茜の身内と敵対しているだけある。

 シビアに事を進めている。

「もう、ガンプラバトル関係ないよね……」

「あるよ。だって、会長に勝てそうなのガンプラバトルだけだし」

 ミュウの感想に、百合はけろっと言った。

 相手の目的は、会長の失脚だと百合は思う。当初はスキャンダル狙いが見えていたから。

 が、茜は生憎と誰からも愛されて、誰からも信用される様に常日頃努力している才女だ。

 そう、強要されているとはいえ、この鎧にして剣を破れるはずがない。

 完璧超人は伊達じゃないのだ。だから黒幕は手段を変えた。

 彼女の唯一の弱点、ガンプラで攻めてきている。負ければきっと、家族が台無しにする。

 それを知っての上で。最後の手段にして、茜の唯一の弱点。それがガンプラバトル。

「会長は、ぶっちゃけ強くはないの。改造もよくできてるけど弱点あるし。けど、会長ってチーム入ってるから……下手に手出しすると、怖いよ?」

 お店に到着して、店員に説明して筐体に入る前に、そう百合は言った。

 チーム。GBFにおける、一緒に戦う僚機であり、任務などもする仲間。

 ゲーム内部で、ランクがC以上でないと立ち上げが出来ない。誘えば、誰でも入れる。

 百合の両親はぶっちぎりのDで、百合は駆け出しなのでA。

 チームをすれば、レイドバトルもできるしチームの総合順位などで競うこともできる。 

 チーム専門の任務も多々あるので、入って損はない。

「……因みに、おじさんたちのチームは?」

 ミュウが、何故か怖々と聞いてくる。百合は両親の所属するチームを知っていた。

 というか、ゲーム内部で知らない方が珍しい。

「オーバーワールド、っいうらしいよ」

(あ、やっぱりオーバーワールドなんだ……)

 百合は興味ないらしいが、オーバーワールドの名前はとても有名なチーム。

 所属するプレイヤーは全員、最低でも大会の優勝者のみ。前提がそれだ。

 以外は一切入れないという恐ろしい集団で、実力派揃いである。

 大半が有名で、GBF五本指にはいる最強の一角である。

 言うまでもないが、国内最強のチーム。世界的にも上から数えた方が早い。

 両親はわりとおとなしい方だが、派手なやつはあらゆる大会を総なめする怪物である。

「あ、この前やってた何だっけ……国際大会? お父さんたちは三位で、あとはみんなオーバーワールドのボスがかっさらっていったって」

 ガンプラのサバイバルバトルか。

 少し気になって、あとで調べてみたが、結果は百合の両親が三位。

 で、上にいたのは同じオーバーワールドの仲間。名前は流派当方腐敗。

(当方腐敗って……腐ってるんだけど……)

 ゾンビ兵みたいな見た目の人で、マスターガンダムの改造したガンプラを使っているらしい。

 ミュウの突っ込みは気にしないとして。

 一位は、マーク・ギルダーという人相と目付きが悪い若い兄さんであった。

 一部ではガンプラマスターマークと呼ばれる、異次元の怪物。

 巨大な真っ黒いマスコットガンプラ、ハロを愛用する。

 これが現在、国内最強のプレイヤーと呼ばれる人物だという。

 そんなのがゴロゴロいるチームの一員。如何におかしいか、よくわかる。

 ミュウはチームと聞くと、嫌な気分になるので、話題を変えた。

 会長も有名なチームの一員で、紅一点なのでちょっかい出すと、ヤバい感じの野郎たちが集団で襲ってくるらしい。

 そうこう話しているうちに、ゲームスタート。二人は別々の筐体に入り、ゲーム世界に飛び込んでいった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつか見た天井の高い室内。

 多種多様な人物が行き交うゲーム世界。

「……」

 ユリンとなった彼女はそこにいた。

 待ち合わせの場所は、今度は映像の流れる通りの一画だった。

 暇潰しに映像を眺める。

『ガレムソォォォォォン!!』

『貴様、チームの会議など必要ない……この私が裁いてやるッ!!』

『貴様などに殺られるものかよぉ!!』

 なんか見たことあるネオガンダム同士で殴りあっている映像が流れていた。

 で、こっちは。

『知れば誰もが思うだろう……君のようになりたいとな!』

『へ、言ってろよ!! 死神様のお通りだぜ!!』

『性能の力だと? 俺の力だと? これは……チームの力だァ!』

 今度は全員似たような声で戦っているし。

 で、なんだこれは。

『ば、バカ者か!?』

『勝負終了だ外道ォー!!』

 赤い花にビームを撃ち込むガンダムがいたり。

 そして。

『や、やめてんじゃねえぞ……』

『なにやられてんだよ艦長!?』

 なんで母艦が沈んでいるのに変なことをいっている?

 意味のわからない試合が沢山中継されていた。

 そんな時。

「……お待たせユリン」

 聞きなれた声がして、振り返る。

 そこには、ミュウがいた。

 真っ直ぐに下ろした赤銅色の長髪。

 綺麗な翡翠が少し照れたように揺れている。

 目元を隠す赤いバイザーをして、服装はユリンと同じく原作ユリンの私服だった。

「お揃いにしてみたの。似合うかな?」

「嫁にほしい。ミュウ、うちに嫁いでマジで」

「わかった、似合うのは分かったから先ずは落ち着こうね? 目が血走ってて怖いよユリン?」

 あかん、可愛い。嫁にほしい。

 思わず本音が出ていた。

「お前がほしいって叫ぼうかな」

「頭を砕かれたい?」 

 いけない。ガンダムファイトで倒されてしまう。

 ミュウは照れているようだった。

「ユリンも、そっくりだね。似てるとは思ってたけど」

「やっぱり?」

「中身はカテジナさんみたいな感じなのに」

「泣かすよ?」

 酷い感想であった。

 互いに姿を見て、なんだかんだで笑いあった。

 目元を隠したミュウと一緒に歩き出す。

 早速戦いにいくのだ。

「適当にフリーでいいかな?」

「任務なんて関係ないしね。練習になればいいよ」

 今は経験を積む。だから、練習場として使われているらしい場所に行った。

 ユリンと共に、ミュウは出撃をするべく、足早に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「複座って意外と狭いね……」

「そうだね。ミュウがまな板で助かったよ」

「後で覚えておいてよその台詞。忘れないからね」

「だったら盛ればいいじゃん」

「ゲームで盛っても悲しいだけなの!! 夢は見られないの!!」

「……なんかゴメン」

 複座のコックピットに搭乗する。

 前にユリン、後ろにミュウが座って出撃準備をする。

 始めに手はずを整える。

「わたしが機体の姿勢制御とかするから、火器管制は任せるね」

「え、私攻撃? 当たらないよ?」

「弾幕張ればきっと当たるよ。ハルートって手数は多いから」

 ミュウが機体を動かして、ユリンが攻撃をする。

 元々のガンプラで射撃には慣れていたが、ミュウについていけるか。

 兎に角撃ちまくれとミュウは言うので従う。

「マルートモードはどうする?」

「使えると思うけど……確か仕様で、操作の垣根が消えて二人同時に同じ動作になるらしいよ?」

「……やってみるだけやってみよっか?」

「物は試しだね。オッケー」

 ハルートの特殊技能は、ゲームシステムの仕様でそういう類いになっているようだ。

 トランザムは、基本性能の底上げだし、併用はできるようなので色々試す。

「じゃ、行こうか」

「うん!」

 ユリンと共に、宇宙に出るミュウ。

 二人の魂のガンプラが今、広大な宇宙に飛翔する。

 

 ――ガンダムハルート・レゾナンス!

 

「ユリン、行くよ!」

「ミュウ、出ます!」

 

 二人の掛け声が響き、ガンプラは飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で?

「トゥー!! へあああああ!!」

 ……宇宙に出た途端に、いきなり襲われた。

 どうやら相手も試運転のようだが、この雄叫びはなんだ。

「うるさい!!」

「邪魔!!」

 ミュウが避けて、攻撃を空振りさせて、同じく合わせたユリンがGNソードライフルで凪ぎ払う。

 直撃、しかしPS装甲に弾かれてダメージはない。

「ぐわああああああ!!」

 プレイヤーは喧しいが。

 初戦はこの相手、ジャスティスガンダムが相手をしてくれるようであった。

 二人の戦いは雄叫びを聞きながら幕をあげた。

「まだだ!! トゥ! トゥ!! とああああああ!!」

「だから喧しいわ、声が似ているヅラ!!」

「俺はヅラじゃない、葛城だ!!」

「知らないよそんなこと! ユリン、やっちゃえ!」

「任せて! 食らえGNソード!!」

「ぬぉおおおおおお!?」

 ……前途多難であった。

 



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宇宙の戦い

 

 

 

 

 

 

 

 相手は喧しい男だった。

「いぇあああああああ!!」

 声を張り上げ、格闘を挑むが攻撃が空振り。

 宇宙に空しくサーベルを振るう。

「ちぃ……! 逃げ足の早い!」

 悔しそうに吐き捨てる。真面目に五月蝿い。

 戦い始めて数分。猛攻を仕掛けるジャスティスに対して、ハルートは逃げの一手だった。

 ミュウがユリンの言葉に従い、回避に専念しているからだ。

 状況は広大な宇宙空間に、遠くには暗礁地帯もある。

 取り敢えず逃げるほうで、二人は移動する。

「……ユリンから見て、分析は?」

 しつこく仕掛けるジャスティスのビームを器用に旋回して避ける。

 背面から雄叫びが聞こえるが、無視してユリンは答えた。

「大体分かった。基盤はMGジャスティスガンダム。脚部、腕部、シールド、ライフル、リフターをインフィニットジャスティスに交換してる。あとは可動に耐えるように少しいじっていると思う」

「わたしも大体同じ。じゃ、近距離は危ないから適当に迎撃で良いかな」

「そうだね。遠距離を強化した訳でも無さそう。さっきから予想の範囲内でしかやってこないし」

 二人の戦法は似ていた。基本的にまず後手。

 相手のガンプラの改造具合を観察し、そこからやり方を考える。

 ミュウも一緒に戦うユリンのやり方が似ていて助かった。

 いきなり後先考えずに突撃と言われたら困っていた。

 ジャスティスは近距離や中距離を得意とする。

 対してハルートは殲滅に特化した最終決戦仕様。

 機動力なら間違いなく勝っている。こう言うときは、逃げながら迎撃すればいい。

 わざわざ相手の得意なレンジに入って挑むほど阿呆ではない。

「じゃ、暗礁地帯行こうか? 武器は使えそう?」

「シザービットが難しい。私じゃこの数、同時には使いきれない。小出しにしても、良くて四つぐらい。それも本体火器が使えなくなると思う。手一杯だし」

「……なら、シザービット全部使うときはわたしに任せて。同時なら、いくつまでいけそう?」

「良くて二つかなぁ……」

 相談しながら、暗礁地帯を目指した。

 隠れながら射殺しようという魂胆である。

 火器管制のユリンは、無線誘導兵器に慣れていない。

 しかも、多量に積み込んでいるので、これでは大幅な火力の低下を招く。

 本体にも過剰とも言える火器を搭載しているが、ユリンはこれは問題はないらしい。

「シュイヴァンも射撃がメインだし、同時撃ちなんてやってたし。懸念なのはシザービットだけかな」

「了解」

 ミュウもSD以外では、まだ完全に本調子とはいかない。

(動きがぎこちない。わたし、ここまで錆び付いていたんだ……)

 何度か接近されて、反応が追い付かずに寸前の部分があった。以前なら余裕で回避出来るのに。

 ブランクがあるのは自覚していたが、しかしこれは酷い。

 なんとか、感覚を取り戻したい。

 焦らないように、落ち着いて操縦していく。

 ハルートは、小惑星が漂う暗礁地帯へと流れていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反撃を開始する。

「ユリン、飛ばすよ!!」

「いいよ、やっちゃって!」

 高速機動を始めるハルート。

 ミュウが凄まじい速度でデブリを避けつつ、撹乱を始めた。

 ユリンは兎に角、目まぐるしい速度で動いているモニターを見て、撃ちまくる。

「くっ!?」

 ジャスティスは迂闊に暗礁地帯に飛び込んだことを後悔していた。

 なんとかシールドで防御するはいいが、相手がこのデブリ漂う狭いなかを、全く速度を落とさずに飛んでいる。

 反撃しても、障害物に当たって威嚇にすらならない。

 しかし、相手は棒立ちの此方を四方八方から狙い撃ちしてくる。

 近距離に入れさせないつもりのようだ。

「ならば!!」

 大胆にも、スラスターを吹かして脱出を試みる。

 広い場所なら、やりようはある。

 打破するべく、ジャスティス多少の被弾を無視して逃げ出した。

「ミュウ、相手が逃げる!!」

「分かってる! 諸とも吹き飛ばして!!」

 ユリンが叫び、ミュウが急速旋回。

 ハルートのGNキャノンが砲口を向ける。

「そのまま死ねぇ!」

 罵り、発射。デブリを粉砕しながら極太のビームが走る。

 背を向けて逃げていたジャスティスは、それを大きく降下して避けるものの、

「予想してたっての!!」

 追いかけながら、砲口を下に傾ける。照射されるビームが焼き払いながら追いかけてくる。

 ジャスティスはその前に暗礁地帯を脱出。無理矢理回避した。

 ハルートも照射を止めて、そのまま追撃。

「埒があかないよ。もう、広い場所で蜂の巣にしてやろう」

「奇遇だね。ユリンならできると思うから、わたしもそのつもり!」

 暗礁地帯なら、迂闊に飛び込んでこないと踏んでいたが、あれでは時間が掛かりすぎる。

 ならばいっそ、何もない場所で倒してしまえばいい。

 ミュウもそう決め、飛び出していった。

 ユリンは思っていた以上に射撃は上手。

 これなら、もう少し早く動いても当てられるだろう。

 自分で言うよりも、ユリンは戦うのが上手かった。

 この調子なら、錆び付いた腕でも飛ばしてもユリンなら追い付いてくれる。

 そう、確信した。ならばユリンに披露しよう。

 嘗ては世界を舞台に戦っていた人間の全力。

(百合ちゃんのフォローがあれば、まだわたしは戦えるんだから!!)

 一人では無理でも。二人なら戦える。

 何れは自分だけで羽ばたいて見せよう。そして、百合の隣に立てるように。

 今は、共に勝利を掴む。この天使の力で。

 

 

 

 

 

 

 

 何もない宇宙空間。 

 ハルートは今度は攻めに転じた。

 超速度の機動力で動きを止めずに動きまくる。 

 本来は可変ゆえに、素早く変形しては元に戻りを繰り返す。

 連射のきく接近にも対応できるライフル、数の多いミサイルに、大火力のキャノン。

 シザービットを使えずとも、弾幕を張り続けるガンダムに、ジャスティスは不利を強いられている。

「これで!!」

 両肩とシールドのビームブーメランを投げる。当然当たらない。

 だがそれは分かっている。ライフルを負けずに連射して応戦。

 上手く相手を誘導する。ブーメランはその性質上、手元に戻ってくる。

 その不意打ちに期待するが。

(軌道なんて、投げたコースで予想できるんだよ)

 内心ミュウは笑っていた。攻撃に専念するユリンのおかげで、機動に関してはカンが戻りつつあった。

 急停止と急上昇で簡単に避けて、戻りのコースをユリンに知らせる。

「落とせる?」

「お任せ!!」

 素早く身を翻し、二挺ライフルを掃射。

 返ってきた三つのブーメランを簡単に撃ち落とす。

 当てられるようにミュウが細かい姿勢制御を行ってくれるので、ユリンもやり易い。 

 思っていた以上に当たるのは、ミュウのサポートのおかげであろう。

「ちぃっ!!」

 期待した攻撃は失敗に終わった。

 嫌でも接近をさせないハルート。相性は極めて不利だろう。

 ジャスティスはそれでもめげない。

 機動力で追い付けないならと、またも追い回す。

 逃げ回り、弾幕で寄せ付けない。ミサイルはもう防御しない。

 装甲で効かないのだ。気にせず、爆発の煙を突き抜けリフターを外して射出。

「いけぇ!!」

 気合いの一撃。メインのスラスターを積んだリフターが突撃する。

 本体の加速はさがるが、リフターにはビームの刃がいくつも展開される。

 直撃すれば、ただではすまない。

「ミュウ、リフター来たよ!!」

「くっ!?」

 初めてミュウが警戒した。

 本体を捨てたリフターは、執拗に狙って追走する。

 本体も鈍いとはいえ、援護の攻撃をしてくる。

 回避したいが、速度が大幅にあがっているリフター。

 流石に、逃げ回るのは今のミュウには至難かもしれない。

 寸前で運動性能の違いで回避したが、ターンして戻ってくる。

 そして、後ろから。

「貰ったぁー!!」

 漸く追い付ける速度にまで低下したところをジャスティスがシールドのアンカーまで飛ばされた。

 腕に絡まり、捕縛された。

「ヤバい、捕まった!?」

 ユリンが焦る。ジャスティスは余った推力全開で引っ張って牽制する。

 片腕のソードライフルがアンカーに絡まって使えない。

 残った腕は飛んでくるリフターの勢いを潰すために迎撃中。

 キャノンは可動できる範囲の外だ。攻撃できない。

 なんとか機体を動かして突っ込むリフターを回避。

「でえええええい!!」

 相手の余った腕のビームが動きを制限してくる。

 また雄叫びを挙げているが、引っ張りつつ撃ってくると反撃もできない。

(搦め手を……!!)

 向こうは全ての武装を有効に使っている。

 ミュウは考える。ユリンはシザービットを使える自信がない。

 ここで発射すれば一発で解決するが、慌てているのかやろうとしない。

(わたしがやるしかない!!)

 姿勢制御を担当するミュウが、攻撃するには。

 しつこい銃撃と牽引、動けないコックピットを貫こうとするリフター。

 そして、緊縛されたミュウたち。

 時間はない。決断するなら、今しか。

 ミュウは覚悟を決めた。自分だって使えるかなんか分からないが。

 使うしか、ない!!

 

「ユリン、マルートモード!!」

 

「へっ!? あ、はい!! マルートモード、起動!!」

 

 音声認識で、ユリンが言わなきゃ起動しない。

 持ち主が彼女だから当然として。

 画面に、三つの赤い表示が浮かび上がる。

 中央に英語でマルート、と書かれているのだろう。

 円を作るように表記されたそれが、二人の画面を上書きする。

 同時に。

 ハルートの顔面にも異変が起きた。

 バイザーで隠されるツインアイが展開。頬と額の装甲がスライドして、不気味な赤い瞳が四つ現れる。

 同時に輝いて、六目の怪物に生まれ変わる。

 内部では、ミュウにも火器の管制が、ユリンには姿勢制御が操作できるようになった。

 ミュウが余っていたシザービットを全部一気に射出する。

 原作よりも増しに増したビットは合計なんと45。

 背面のコンテナと追加装備のコンテナに、元々ついてたビットを真似て自作したものだ。

 ミュウの画面にB、と表記されたビットで埋め尽くされる。

 それらを自分で手動で片っ端から操作する早業を披露する。というか、無我夢中で操作していた。

 今度は機体がフリーになる。ユリンが嫌がるようにめちゃくちゃに操作していた。

 結果、ハルートは身を捩るように抵抗してアンカーを更に絡めとり、推力も全快して抗う。 

「なんだ、このパワーは!?」

 ジャスティスが逆に引っ張られて、距離が縮まる。

 で、周辺には夥しい数のハサミが飛び交い、アンカーは無理矢理ぶった斬るわ、飛んでくるリフターに横から体当たりして軌道を強引に反らしてしかもリフターを数の暴力でズタズタに刻んで派手に破壊した。

「な、なに!?」

 マルートモードでまさかの立場逆転。

 そのまま反撃に転じる。

「ユリン、お願い!!」

「はいさー!」

 言外に突撃と言われて、もうやけくそのミュウが45のハサミを携え突貫してきた。

 ユリンの事を言えなかった。数が多すぎて一回で扱えるかと聞かれれば扱える。

(予定よりも10くらい数が多いよ!? 百合ちゃん、わたしこんなに増やしてなんて言ってない!!)

 が、予想よりも多くて驚くミュウ。こんなに自作した覚えはない。

「ごめん、深夜テンションですごい作りまくって、全部乗っけたから言ってたより多いの忘れてた!」

「ゆりーーーーーーん!!」

 思わず平仮名で名前を叫ぶほど、ミュウは文句を言いたかった。

 こんなときに言わなくてもいいだろうに!! 自分で何とか扱えているのが怖い。

 もう自棄だ。全部飛ばす。速すぎて見えないハサミが、全方位からジャスティスを襲う。

 PS装甲が何だと言わんばかりにどつき、関節に集中して力ずくで切断した。

「な、なんだこの数は!? 正気か!?」

 応戦するも、無数のハサミに全身を刻まれれば、虫の抵抗である。

 人間の形は、四肢しかないのだ。十倍の数の高速のハサミを対応できる構造はしていない。

「正気でも定規でも、扱えればいいの!!」

 ビットに全力を注ぐミュウは、他の武装を使う余裕がない。

 自棄っぱちな反論は逆ギレに近かった。

 ユリンの方は、達磨になっていくジャスティスに接近しているだけなので余裕はあった。

「この際だ!! 追い詰めたお礼に、これも全部持ってけヅラ!!」

「ヅラじゃない、葛城だ!!」

 ジャンク寸前のジャスティス。リフターを失い、四肢を切断されて、首もギリギリ繋がっているだけ。

 既に二人の勝利確定している。名前でキレる相手は、降参と言うが……。

「撃っちゃうんだよね、これが!!」 

 降参する前に撃破してやると聞いてないユリンの過剰な死体蹴りが発生。

「も、もうやめるんだ!! 戦いは終わった!! 退いてくれと言っている!!」

 焦るヅラ。制止するように呼び掛けるが、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 ……で。

 

「――トランザム!!」

 

 案の定だった。トランザムを使用して真紅に染まるハルート。

 無事だったライフル二挺、及びキャノンの二つの砲口がこっちに向いた。

「止めろ!! お前が求めていた勝利は、本当にそんなものか!?」

 ユリンは元々聞いちゃいない。更に刻むビットのミュウも聞いてない。

 ユリン操るハルートは至近距離で一気に迫り、満足に動けないジャスティスに向かって。

 

「これで終わりだ、インフィニットゥ・ジャスティス!!」

「違う、これは普通のジャスティス……」

 

 名前を間違えられて反論する前に。

 綺麗な桃色が、ジャスティスを隠してしまった。

 

「うわあああああああああ!!」

 

 最大パワーの一撃が、彼を飲み込み……宇宙に散らしていくのであった……。

 



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抑止力の役目

 

 

 

 

 騒ぎは、知らぬところで大きくなっていた。

「ねぇ、いい加減に向こうに止めるように言って頂戴」

 生徒会長、茜はある時間帯に、ファミレスに来ていた。

 品行方正な彼女にしては非常に珍しい。それほど、事態は悪化していることを意味していた。

「急な時間に呼び出したかと思えば、その事ですか」

 急な呼び出しにも関わらず駆けつけた相手は、呆れたように茜を見ている。

「家を抜け出してきたんですか? お祖父様に、どやされますよ?」

「いいのよ。おじいちゃんはもう寝てるし、父さんたちは今日は遅くまで仕事中」

 夜更けに家を抜け出して、友人を呼び出してファミレスに落ち合った。

 正直、時間はかなり遅い。中学生が出歩く時間は過ぎている。

「なんと無謀な……。知られたら只じゃ済みませんよ?」

「そんなこと、百も承知よ。それよりも優先することがあったから、こうして来たんじゃない」

 茜はわざわざ大人っぽい格好をしていた。

 元より顔つきは高校生に近い。故に怪しまれることなく、ファミレスに入れた。

 相手は高等部の一年。元より問題はない。

 対面する座席に座って、向き合って話している。

 相手が飲むものをご馳走してくれた。

 有りがたく頂きながら口火を切る。

「流石に今回は我慢できないわ。他の無関係な人まで巻き込んで……。どうにか出来ない?」

「私から言えど、限界はありますよ。元々、この一件は逆恨み。言葉で片付く問題でもないので」

 相手は表情を変えずに淡々と言った。見た目は小さいのに、どこか大人びた雰囲気で。

 が、頭のアホ毛はブンブンと回っている。

 ここが彼女の感情を教えるサインだと知るものは少ない。

 振り回すのは……喜びの感情だったような気がする。

「けど、最近は目に余るじゃない。私じゃなくて、周りの人を狙ってきているし……」

「そりゃ、そっちの方が効果的だと分かってますから。これでも控えているのです。私が止めていますからね」

 店員が頼んだコーヒーを持ってきた。

 相手は……なんで玉露?

 ごゆっくりどうぞ、と言って相手のアホ毛を気にしながら去っていく。

「日本の玉露は美味しいです。母国じゃ飲めないので飲めるときに飲まないと」

「……今度、お土産に持っていく? ファミレスよりもよいものはいくらでもあるのよ?」

「そうですか。なら、期待しています」

 表情は鉄面皮のように変化しない。声色も平坦。

 なのにアホ毛が全力で喜んでいた。犬か。

 茜はブラックのまま、口に運んで呟く。

「話は戻すけど、ミュウちゃんに手を出すみたいだし、あれはやめてほしいのよ。あの子はかなり特殊な家庭環境だから、脅すとかいうと……どうなるか、分からないわ」

「それに関しては同感です。海外出身同士、心細い気持ちはよく分かります。なので、そろそろお灸を添えたいと思っているので任せてください。私も、あのような生徒に魔の手を出すのは看過出来ませんゆえ」

 アホ毛が! のマークになった。どういう原理か未だに分からないが、止めてくれるらしい。

 そこはホッとする。転校生、ミュウの環境は会長立場である程度教師から聞いている。

 何かあれば助けてあげてくれと。それが、この様だ。

「私は本来、助けるべきなのに……ミュウちゃんを苦しめている。本当に、嫌になるわ。何もかも」

「……茜の苦悩も理解してます。ですから、そろそろ私も腰をあげましょう。抑止力として、これ以上あちらの暴走を放置する訳にもいきません。止めるべき時は、止めます。暴露などさせません。……ぶちまければ、転校生の心の傷を抉る真似に他ならない。最悪、はっきりいうと自殺とかだってないとは言えません」

「……否定できないのが辛いところよね」

 二人は重いため息をついた。

 ミュウ・ファルネーベ。中等部の転校生。

 海外から理由あってやって来た、美しくも愛らしい少女。

 彼女の家庭は、何年か前に崩壊していると教師から茜は聞いた。

 そして、この抑止力にも伝えてある。

 必要なことだと思う。個人の心の傷をいたぶる行為を、茜を狙う相手はしていた。

 秘密を暴露とするとは、そういう意味だ。

 誰が知ろうか。あの少女は、両親が既に他界している。

 原因は……交通事故に見せかけた、殺人ではないかと言われているらしい。

 ハッキリしないのは、相手も死んでいること。

 更に警察も捜査を事故で処理してしまったことだった。

 偶然とも言い切れない。だが、あまりにも出来すぎている。

 ミュウは元々、GBFというゲームにおいて、世界的に活躍するチームの最年少の少女だった。

 今でも活動しているチーム『アルカディア』という世界トップのプレイヤーの集団だ。

 当時まだ小学生だったミュウは優れたガンプラ作成能力と凄まじい実力で何度もチームに貢献してきた。

 だが、それが仇となった。彼女たちに惨敗した特定の人間が、リアルで報復に出たのだ。

 彼女やそのチームの一員に妨害工作を仕掛け、そのきっかけにより事故が発生。

 ミュウの場合は、両親と共に事故に巻き込まれて、両親は他界してしまった。

 そして。一番凄惨なのは。

 

 ――ミュウは、車内で両親が死んでいるのを間近で見ていたことであった。

 

 結果、幼かったミュウは発狂し、錯乱状態に陥った。

 救急搬送されたが、両親は即死。ミュウだけが辛うじて一命をとりとめた。

 相手もまた即死しており、ただの交通事故という事で終えてしまった。

 だが相手を調べると、彼らはミュウのチームと因縁のある集団の一員だったことが判明。

 何よりミュウが倒していた相手たちだったのだ。

 その報復に命がけの復讐をした、と言われている。

 それを切っ掛けに、ミュウはゲームから逃げ出した。

 ガンプラからも逃げ出した。ミュウが居なくなった影響か、チームは一時期勢いを無くして底辺をさ迷った。

 彼女は恐れている。それをあとで知ったから、現在のチームに知られれば、報復され殺されるのではないかと。

 自分も両親のように、何かの弾みで死んでしまうのではないかと。

 よりによって、ミュウを脅した時にアルカディアの面子に居場所を教えると言い出したのだ。

 現在の両親は、施設に入っていたミュウを養子に引き取った養父と養母。

 だが、彼女の過去を知るから、ガンプラをやるなと厳しく躾をしている。

 それは、ミュウの為でもあるんだろう。愛していないわけじゃない。

 そんな地獄を味わっているのに、亡き両親との繋がりを守るために、痛みを思い出しながら彼女はまだ、大切に形見のガンプラを持っているのだそうだ。

 ミュウは、逆に辛いながらも最期の思い出を奪われないように必死に抵抗している。

 どんなに苦しくても、悲しくても、それが亡き両親との思い出だから。

 彼女を新しい世界に連れていきたい今の両親と、亡き両親との思い出を無くしたくないミュウ。

 互いにすれ違って苦しんでいる。救いのない、悲しい家庭の中身。

 それを、彼女は利用しようとしている。

「許されると思ってるの、こんな真似して。いい加減にしてほしいわ」

「……今回は、全面的に茜が正しいと私も思います」

 怒りを浮かべて、茜はその黒幕に対しての嫌悪を表す。

 相手も頷いて、やりすぎだと指摘する。

「ねぇ。なんで知ってるのに止めなかったの?」

「止めるようには言いましたよ。何度も。しかし、一度決めれば強引に駒を進める。それがあの人なので」

「じゃあ、伝えてちょうだい。嫌がらせをするなら、私個人にしなさいって。もう、ミュウちゃんみたいな他人を巻き込むのは止めて。みっともない逆恨みで、他人のトラウマまで掘り起こして。何様のつもりなの?」 

 激怒する茜に、相手のアホ毛が!! 更に強く反応する。

 彼女のいう通りだ、と言わんばかりに。

 茜は大体、正体は感づいている。しかし、無視しても問題はないと思っていた。

 個人的な嫌がらせなら、皆で対応しているから大事にはならない。

 だが、これは行き過ぎだ。個人の痛みを恐喝の材料に使うなど悪党を通り越した外道のすること。

 平気でするから、茜は怒る。

「話はそれだけよ。言ったからね。これ以上ミュウちゃんを傷つけてみなさい。……私が破滅したって、あんたを地獄に落としてやる。誰に戦争を吹っ掛けたか、よく覚えておくことね。そう、言っておいて」

 一気飲みしたコーヒーを乱暴にソーサーにおいて、彼女は立ち上がる。

 立ち去る間際、寒気のするような殺気をむき出しにした目付きで睨まれる。

 自分よりも周囲に手を出されると激怒する会長。茜は、そういう女だ。

 相手は大きくため息をついて、去っていく茜を見送り。

 数分後。電話である人物を呼び出した。

 それから暫くして。

「……やれやれ。こんな時間に呼び出しか? ってか、ファミレスか。んなら、当然コーヒーは旨いんだろうな?」

 その本人が、コートをきて現れた。

 眠そうにコートを脱いで、着席する。先程のカップは返されているので、問題はない。

「会長から、最終警告が来ました」

 単刀直入に、用件を切り出す。

 手短に、言われたことを伝えると。

「いや、分かってるよ。言われなくたって、なにもする気はねえ。やり過ぎた自覚もある。中身が中身だからな」

 黒幕は、呆気なくばらす気はないと認めた。

 だが、と続けた。

「ほら、この間お前のとこの部長が乗り込んできたろ? あれでさ、一応本人の身柄は差し出して、奴等が余計なことをしないようにしてはおいた。が……ちょいとな。雇った連中が、尾行していた奴が殺されそうになったって大騒ぎしててよ。絶対ガンプラで倒すって、躍起になっちまって。止めろっていってんだけど、聞かねえんだ」

 何でも、模型屋に逃げ込んだ対象を守るべく、巨大な刃物を持った店の店主が、切り殺す勢いで捕獲して、全部白状させようとしたらしい。

 聞いた話では、GNバスターソードに酷似しており、そんなモノを肩に担いでいたらしい。

「奴さんの仲間内がさ、あのちっこいのにキレちまって。袋叩きにしてやるって。暴露は止めさせたが、多分ありゃ約束の日時に戦争が起きるぜ。個人に複数でタコ殴りにするって言ってやがる。一応監視には行くけど。もしも勝手な真似したら、直々に止めさせる。そこは責任とるわ。で、お前は?」

「……了解しました。その男子生徒を血祭りにすればいいですかね?」

「悪いな。後始末させちまって」

 案の定の報復と来たか。

 黒幕は暴走をさせないので監視はするし、万が一の保険を掛けておくと言っている。

 仕方ない。抑止力として、仕事を果たす。

 黒幕と細かい話し合いをして、お礼参りをしようとする野郎共をとっちめるべく。

 第三勢力がこの日、重い腰をあげるのだった……。



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殴りあい宇宙

 

 

 

 

 

 改良点は次々見つかっていく。

「百合ちゃん、あんな大量のシザービット使いきれないよ!」

「じゃあゲーム内部で強化しちゃおうよ。CP貯まってきたし」

 その一。シザービットの多量化に対するミュウの負担増加。

 対策。ゲーム内部でコックピット周りの強化。特殊OS、ALICEの追加。

「……何だっけALICEって」

「センチネルのSガンダムに追加された人工知能。機体の完全制御目指して開発されたけど、途中で破壊された」

「それ、使えそう?」

「仕様で一部の動作の自動化だってさ。だから、シザービットの制御はALICEにさせるか、自分でやるか選べるようにするね。ALICEの場合も、簡単な方針を決定出来るようにしておくから」

 呆気なく、自分の主義を捨てる百合に、ミュウは伺うように聞いた。

「……百合ちゃん、改造認めないんじゃないの?」

「負けられないから、私の主義なんてどうでもいい。優先順位はミュウの安全」

「百合ちゃん……!」

 感動して目が潤む。

 百合はシリアスなときは全力で頼りになる。

 ミュウは頼って良かったと思った。

 その矢先に。

「あとミュウのまな板触り放題の権利。その為なら魂を捨てる!」

「なんで!? それが本当の目的なの!? 良い感じだったのに!! 最低だよッ!!」

「何とでもいうがいいさ。好きにしていいって言ったのはミュウだからねぇ……ぐへへ」

「うぅ……。自分の安売りするんじゃなかった……」

 結局、独占し揉み倒すのが目的だった。身体が欲しいのだ、百合は。

 最低である。最早語るまでもない、色欲の権化だ。

「さて、今回のお駄賃を払ってもらおうか……その空しいまな板で!!」

「い、いやあああああああーーーーー!!」

 悪徳業者のように両手の指を卑猥に動かしながら迫る百合。

 慌てて逃げ出すミュウ。だが彼女は知らない。

 小動物では、肉食には決して勝てない逃げられない。

 数秒後。

 

 ――みゃああああああああ!! 

 

 という悲しい悲鳴が自宅に響くのは、言うまでもなかった。

 約束の日まで、時間はそう、長くはない。

 

 

 

 

 

 

 後日。

 学校の部活で、話を聞いた皆は協力してくれると言う。

「安心して。言いふらす真似は絶対にさせないから。大丈夫、私も含めてお墓まで秘密は持っていくわ。だから、私も手を貸すからね」

 会長、茜が直々にその脅した連中に対して通告をしておいたと言う。

 部長たちは、今回も上手く逃げられて歯痒い思いをして、せめてGBFで怨念返しをさせて頂くと参戦。

 因みにただの私怨であった。ミュウが部活に入ると決めると大喜びで、部員に手を出した阿呆は許さないと尚更に。

 身柄は拘束されたが、茜が言うにはどうやら、尾行した奴の関係者が逆恨みして、襲ってくるらしい。

 負けても勝っても広がらない事には一安心したが、それはそれで困る。

「バスターソードって……先生のあれか……」

「なんでわたしを恨むの……? 先生さんがやったのに」

 がっくりと項垂れるミュウを膝の上に抱っこして、頭に顎を乗っける百合。

 ガッチリホールドしているので、ミュウは逃げられないので観念していた。

「山田……俺にも、俺にもミュウの芳香を……嗅がせてくれぇ……。抱き締めるのは我慢するから、少しだけ。少しだけ匂いを……はぁはぁ」

 で、ミュウお触り禁止令の香苗は禁断症状を起こしていた。

 ミュウを中毒で求めるように、ラリった目で奪おうと腕を伸ばす。

「ゆ、百合ちゃん……!!」

 この一件ですっかり百合に頼りっぱなしのミュウが百合にすがった。

 恐怖で強ばる身体。なので、百合は命じる。

「沙羅、許す。殺せ」

「はいよー」

 部室の大型模型を作っている高等部の先輩が、余った素材で暇潰しに製作していた物体を持ち上げる沙羅。

 呼ばれて、さっきまで戦艦の主砲を作っていた沙羅が持ち上げたのは。

「おぉ!? 鈴木、お前それ……61色戦車!? マジか!? マイナーすぎてガンプラになってない奴じゃん!? どこにあった!?」

 それは初代ガンダムの戦車、61色戦車の大きなプラモデル。

 脇に抱えて、主砲を此方に向ける沙羅は言った。

「先輩たちが戦車の余った奴で作っていたみたい。で、スゴいのはさ。これ、弾丸が金属なんだよ?」

「……はい?」

「主砲、撃つー」

 キョトンとする香苗に、平坦な声でぶっぱなす沙羅。

 大きな砲口が、何かを高速で射出。

「ファッ!?」

 香苗の頬に直撃。女の子のする顔じゃない壮絶なものを浮かべて吹っ飛ぶ。

 回転して床に転がる。痙攣しているが、生きているだろうか。

 飛び出したのは、鈍い金属光沢の弾丸だった。普通当たれば大怪我だが、香苗は無事なようだ。

「更に続くよ泥臭いガンダム戦争ー」

 謎の歌を歌いながら、次に構えたのはオルフェンズのMW。

 更にはホバートラック、マゼラ・トップと中々に泥臭いガンプラ。

 ラジコンに改造されているようで、それぞれ操作して倒れる香苗に追撃。

 なんとか顔をあげる先には、それぞれ小さな銃口を向けるガンプラ三機が構えていた。

 香苗は、嬉しそうにそれを見上げ呟く。

「ああ、すげえ……。MS以外のガンプラが、こんなに……。鈴木、ありが……」

 パンパンパンッ!!

 全部言わせない。取り敢えず撃ち殺す。 

 蜂の巣になる香苗は断末魔さえあげなかった。

 止まるんじゃない的なポーズで絶命。

 卑猥な邪悪は死んだ。話を続ける。

「……当日、私も手伝うよ。ミュウちゃんは友達だから、いじめる奴は許さない」

 沙羅は倒れる香苗を乗り越えて戻ってくる。

 友人とはっきり言われて、ミュウはどこか嬉しそうにしている。

「百合は意地悪に入らないの?」

「私はいいの。ミュウは私の嫁だから」

 抱き締める百合に茜が聞くと、百合は堂々と答えた。

 唖然とするミュウを見せびらかして。

「嫁……? え、既に攻略済みなの?」

 茜は意外そうに二人を見る。

 ガチな反応であった。

「違います違います! 百合ちゃんはわたしのお友達……」

「ふぅ」

 真っ赤になって直ぐ様否定するミュウの耳元に、息を吹き掛けて台詞を中断。

 ビクッと驚き停止する。

「みゃあ!? 何するの百合ちゃん! 都合が悪いとそうやって邪魔するの止め」

「はいダメー」

「みゃあああああああ!?」

 怒るミュウに必殺の乳揉み開始。

 数秒もすると、半泣きで大人しくなる。

 まだ手は制服の上から胸部に置かれている。

 抵抗すれば直ぐ様揉みしだくだろう。一種の脅しであった。

「……百合。ミュウちゃん半泣きよ?」

「合意の上」

「え……」

 百合があまりにも堂々と言うので、引いている茜。

 べそをかいて、ミュウは弁明する。

「違うんです、合意だけど合意じゃないんですぅ……」

 しくしく泣いているミュウは、なにも言えない。

 これでも最大の協力者。自分から言い出したことなので、強く言えなかった。

「ん? でもなんか感触違うような? こんなふくよかだったかな?」

「!?」

 何やら意味深な発言に振り返るミュウ。まさかとは思うが。

 百合は真面目に不思議そうな表情であった。

「……見てて恥ずかしいから、程々にね」

 茜は心底呆れたように、頭を抱えていた。

 いつも通りの二人であったが、日数はそんなに残ってないのだ。

 今日も放課後、一緒に訓練しに出掛けていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかのバストアップであった。

 これも百合に散々揉まれた結果か。二センチほど大きくなっていた。

(理不尽だ……)

 死んだ目で結果を見て喜べないミュウ。

 教えると調子に乗るので黙っておこうと思うミュウであった。

 まあ、それはいいとして。

 GBFのなかで。集まった五人。

 そう言えば香苗のアバターは初めてみた。

「どうだ? カッコいいだろ?」

 と見せつけるのはHNをシュガーというまんまの名前であった。

 見た目はそのままSEEDの連合の制服をきたフレイで。

「うわ、死にそう」

「お前が言うか」

 対してユリンもまんまなので死にそう。

 いつも通りの軍服のアカネに、タンクトップ白目笑顔のガチムチ。

 お揃いの服にバイザーのミュウに、ユリン。

 この面子で頑張ることにする。

「俺はバエルだけど良いのか?」

 シュガーが聞いてくるが、ユリンたちは気にしない。

 兎に角勝てればいいのだ。

 宇宙での戦いに慣れるため、今日もフリーで戦場に出ることにした。

 

 

 

 

 

 宇宙に出た。

 今回は岩が多い区域。狭いフィールドなのだが。

 ハルートは基本を覚えて、その辺にいるガンプラを襲撃する。

 四人はそれを見て、動きを観察する予定していた。

「いくよ、ユリン!!」

「何時でもいいよ!!」

 早速敵を発見。いきなり襲いかかる。

「客か。いいぜ、かかってきな」

 相手はハルートを見つけて、移動しながら応戦開始。

 今回は少し変わっていた。

(Hi-νガンダム……? にしては、カッコいいな)

 此度の相手はHi-νガンダム。しかし、外見は随分となんと言うか……カッコいい。

 そう、なんと言うか接近してきて殴りそうなファイティングスピリットを感じられずにはいられないユリン。

 全身がメタリックブルーに塗装され、可動出来る部分や関節にはクリアブルーのパーツを施し補強しており、頭のアンテナはペガサスを象った意匠になっている。

 一言で言うなら。

(ペガサス……なんと言うか、ファンタジー。宇宙を燃やしそう)

 MFにしたみたいなファンタジーなνガンダム。

 武器は変化していないようだし、と思ったが。

(ファンネルがスラスターになってる!? ってことは、機動性重視! 追い付いて見せる!)

 ミュウも気付く。ファンネルがスラスターに加工されており、これは相当早い。

 実際、小手調べの撃ち合いに追い付いてくるだけの機動性は確保されいる。

「流石はハルートか。速いな、だが!!」

 全身のスラスターを一回踏み込んだのか、νガンダムは突然加速する。

 一気にハルートを追い抜かして前面に先回りして、シールドとライフルを同時に水平に構えた。

 で、同時に発射。二ヶ所のビームとシールドのミサイルが突っ込む。

 ミュウは咄嗟に真横に逸れて、岩壁を壁にして退避。一度距離を開ける。

「手数なら負けない!!」

 岩から飛び出して、ユリンがありったけのミサイルと連射したライフルを撃ちまくる。

 すると、反応が遅れたのかシールドで防御するが直撃した。

(よっしゃ! 少しはダメージ入ったでしょ!)

 と、ガッツポーズで喜ぶユリン。しかし。

「武器は死んだか……。だが、ここからだぜ!」

 煙を突き抜けてνガンダムが接近してきた。

 なんと半壊したバズーカやライフル、シールドを全部捨てていた。大胆な戦法に出ていた。

 まさかの宇宙でのステゴロである。驚く二名。型破りにも程がある。

 相手はぴんぴんしているようだった。

「一発当たったぐらいで死ぬ程、柔なガンプラじゃないぜ!!」

 真正面からブースト全開で殴りかかってきた。

 ミュウが驚いて一瞬遅れて、危うい部分でユリンも防ぐ。

 ソードライフルをハサミに展開、殴りかかってきた腕と胴体を挟み込んで防御した。

「ほぉ、良い反応速度だな。俺のHi-νペガサスガンダムのパンチを初見で受け止めたのは、お前が初めてだ」

 接触通信で、相手が感心したように顔を見せた。

 戦場で鈴を鳴らした部隊の制服で、顔は。

「俺は悪くねえとか言いそうな顔してるねお兄さん」

「……よく言われる」 

 ユリンの酷い感想に、ため息をつく相手の男性。

 短めの髪の毛に凛々しい顔立ちの若い男性であった。名をセン、と名乗る。

「良いガンプラだな。最終決戦仕様を自作したのか。出来映え、完璧だと思うぜ」

 センは、そういって二人のガンプラを褒めた。

 挟み込むソードライフルを蹴り飛ばして強引に外して再びパンチ。

 それを今度は両手のソードライフルで交互に挟んで動きを封じる。

 蹴りが出ないように、GNキャノンの砲口を向けて威嚇する。

 この距離で撃てば諸とも爆発するので出来ない。競り合いになる。

「私、改造ガンプラは好きじゃないけど……お兄さんのガンプラはカッコいいね。クールだと思う」

「……お前、初見でこいつの良さを分かってくれるか!? そうか、わかるやつもいるんだな。嬉しいもんだ」

 殴りあいをしてくるMSなど邪道だと言われるらしいセンは、上機嫌でユリンの言葉に笑った。

 事実、その後ろでは。

(νガンダムで、殴りあい? ペガサス? カッコいい、のかな……?)

 ミュウは困惑していた。美意識がよくわからない。

 そんなνガンダムを操るイケメン、センとの殴りあい宇宙。

 奇妙な白兵戦の、始まりであった……。

 



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ガンダムファンタジー

 

 

 

 

 様子を眺める三人は、それぞれ感想を言い合っていた。

「白兵戦か。キテレツな奴も居たもんだが……果たして、どうかな? 俺は二人が負けると思うけど」

 シュガーはバエルのなかで、辛辣なコメントで評価する。

 見ていれば、νガンダムに腕を押さえたはいいが、殴りに来た腕だけで片腕はあいている。

 案の定、手刀でソードライフルを払われた。

 ついでにキャノンの砲口も蹴り払う。

 一度距離を離す両者を、シュガーは言うのだ。

「ハルートは接近は無理だな。武器が少ないし、環境も悪い。余程うまくやらないことには競り負ける」

 腕を組んで眺めるバエルに、レコードブレイカーXのガチムチは言い返す。

「なら、射撃に持ち込めばいい。見たところ、迎撃に徹すれば普通に勝てる。手持ちの武器は死んでない。可変も出来る。なら、逃げ回って撃ちまくれば勝てると思う」

 ガチムチは指摘するのは、ハルートのソードライフル。

 あれは変形したときに、主翼の部分を兼ねている。

 失った場合、変形したときに著しくバランスを崩して得意の機動力が死ぬ。

 更に火力も依存のため、低下も免れない。主力を失うと言うことだ。

 内蔵火器があまりないハルートには、命取りになる。

「……シザービットは使わないのね、二人とも。狭いからかしら」

 アカネが気になるのは、必殺の飛び道具の不使用。

 岩が多い区画だから分かるが、だったら周辺に滞空させて近接防御に使えばいいのに。

 そう、思うのだが……。

「どうした? 手持ちの武器は飾りかハルート!?」

 νガンダムは果敢に接近してくる。

 拳の嵐をミュウは必死に避ける。MFみたいな戦いかと思い、離れるが。

「甘いぜ!!」

 今度は内蔵だろう。右手の仕込みマシンガンと、頭部バルカンで追撃してくる。

 射程は短いが、それが取り回しに左右されない長所となっている。

(……悔しいけど、この人は強い。νガンダムの特性をよく理解してガンプラを作って、うまくミキシングしてる。多分、モデルはMF。もっと言うと、コックピットもトレースシステムに変更してるかも)

 防戦になりながら、冷静にミュウは分析する。

 見た目ともギャップもそうだが、MSとMFという番組を越えたミキシングを完璧にこなしている。

 先程の小手調べ。撃ち合いに反応して、平均にこなしていた。

 下手な格闘特化には出来ない真似だ。元のHi-νガンダムの特性を殺さずにミキシングした証拠。

 違うのはファンネルをスラスターに変更して機動性をあげているのと、全方位攻撃を失った程度。

 逆にそれを補える格闘特化としての優位性もある。見た目以上に手強い相手だ。

 挙げ句には拳の速度やガンプラの挙動。これが人間に近い。

 世界観的にはモビルトレースシステムというMFに標準搭載されている格闘を滑らかにガンプラに流し来むシステムでも採用しているのか。

 しかし、それであれだけ射撃を行えるとなると。

(……化け物?)

 ミュウの率直な感想は、シャアがガンダムに抱いた気持ちと同じだった。化け物かこいつ。

 格闘のシステムで真逆の射撃をこなすには相当の練習がいるのを知っている。

 しかもMFは拳でビームを出す世界だ。ライフルをマトモに使うガンダムなどあまりいない。

 なのにこれか。化け物め、と再度思うミュウ。

 で、前のお嬢さんは。

(必殺技ありかな。拳飛んでくる予感がある。いや、腕組んだ髭のおっさんが来るかな)

 MFあるある、必殺技の考察。飛び道具は気合いでカバーの世界ならあり得る。

 残像の見える拳の軌道を、上手いこといなしているが、ソードライフルがそろそろ死にそうだ。

 殴打され過ぎて、変形している。これでは可変も無理。射撃武器を失う。

「ミュウ、背中向けて」

「? ……あ、うん」

 突然背を向けろと言うので、ミュウは驚いたが、意図は分かった。

 ハルートは逃げる素振りを見せて、背を向けた。

「逃がすわけないだろ!」

 射撃に持ち込むと思ったセンは、一歩踏み込み追いかける。

 が。

「捨てちゃおうか」

「切り離すね」

 ハルートはしたことは、空になったミサイルコンテナを切り離して放った。

 で、それから離脱。センの眼前に、捨てられたコンテナが。

「!?」

 しかも、壊れているソードライフルを放り投げて、コンテナに激闘させる。

 で、キャノンを発射。ライフル諸ともコンテナに直撃。すると。

 衝撃で、大爆発を起こした。

 直撃するHi-νペガサスガンダム。腕で何とか防御の体勢は取った。

 が、離れるまでには行かず飲み込まれる。

「軽くなった?」

「多少は。でも、武器が……」

 余計な部分を捨てたことで身軽にはなったが、可変と火力の低下が酷い。

 ミュウの心配も尤もである。

 残った武器は、もうシザービットぐらいしかない。

「いやいや。ならシザービットで戦おうよ」

「……えぇ」

 また操作するのか、とイヤそうにするミュウだが。

 ユリンは、手持ち無沙汰の手にシザービットを二つ取り出して構える。

 一応、武装にはなる。遠隔操作が基本だが、振り回す事も出来なくもない。

「よし。ミュウ、殴りあおうか。MFらしく」

「こっちはMSだよ!?」

 血迷ったか、とも思えるがユリンの判断を冷静に考える。

 取り回しのよいソードライフルを消失。ミサイル枯渇。残りはキャノンだけ。これは使いにくい状況。

 なら、不得意でも殴りあうしかない。機動性も落ちているなら、運動性で勝負に出る。

 幸い、シザービットというハサミは大量にある。武器はハサミでいい。

(……なんだ。いけるかも)

 ミュウはあっさり考えを改める。

 ユリンは、手持ち武器がないとシザービットを使えない。

 ならば、手持ち武器がないなら関係ない。シザービットで切り刻むまで。

 武器が少ないほうが、素人のユリンに使いやすい。

「……おう、コンテナ爆弾か。初代で見たことあるなこれ。すげえ威力だ」

 煙を晴らして、そこにはνガンダムは浮かんでいた。

 頭のアンテナが折れているぐらいか。軽傷のようだ。

「奇抜なもん使ってくれるな。いや、原作にもあるけど物怖じしないのな。こんな近距離で使うか普通?」

 センが褒めながら呆れていた。νガンダムは構えをとる。

「さて、お次はなんだお嬢さんがた。俺に通じるかな?」

 左腕からサーベルを発生させて、右手も後ろからサーベルを抜き出す二刀流。

 まだ武器があるらしい。νガンダム、恐るべしとユリンは思う。

「ユリン。マルート使おうか?」

「え、ALICEのほうが良くない? 自動だよ?」

「あ、そっか。自動もうあるんだっけ。じゃあ、それにしよう」

 二人は相談して、切りかかるνガンダムの一閃を背後に下がる。

 然り気無いが、ミュウは喋りながら回避も間に合うようになっていた。

 相手がMFだと認識したせいか、それを意識した立ち回りに変化している。

 連続の攻撃も先読みして回避しつつ、同調しているユリンが反撃する。

「スリケン!!」

「手裏剣!?」

 シザービットを手裏剣のように投げる。

 笑って投げるユリンに驚くセン。

 飛んでいくシザービットは遠隔操作で動きだし、サーベルを掻い潜り、手首を狙う。

 慌てて蹴り落とそうとするが、すんなり避けてサーベル発生装置に刃を突き立てる。

「あいえ……じゃねえ、狙いそこか!? やるじゃねえか!!」

 食い込んだ瞬間に手放し切り離し、巻き添えを防ぎつつ、なんとフリーの両手でシザービットを殴打。

 無理矢理破壊して無力化した。

「ゲッ、殴り落とすってあり!?」

 驚愕のユリンが叫ぶ。

 シザービット二つ消失。残りは43。たくさんある。

 ミュウは再び用意するシザービットに合わせて果敢に接近していく。

「私とハサミはつかいよう!」

「自分でバカ認定は良くないぞ!?」

 シザービットを振りかざして飛びかかる。

 然り気無い自分否定にセンがツッコミを入れる。

 あと、集中して忘れているユリンに言った。

「ユリン。ALICE使わないの?」

「やべ、忘れてた!! ALICE、やっちゃって!!」

 失念していたらしい。ユリンが叫ぶと、モニターに異変。

 

 ――ALICEALICEALICEALICEALICEALICEALICEALICE――

 

 赤い文字がカスケードのように上から流れ出して、画面を一度覆う。

 外見も、瞳の光がバイザーをしたまま深紅に染まった。

 コンテナからシザービットを一定数射出、待機。

「モードアサルト!」

 シザービット接近仕様に命令する。

 近くにいる敵を自動で攻撃開始。

 10ほどの数が一斉に襲いかかる。

「うぉ!? シザービットか!?」

 ハルートと共に襲ってくるハサミたち。

 流石に焦ったセン。彼はニヤリと笑った。

「上等だ! だったら、俺の必殺技を食らいやがれ!!」

 気合いでカバーの世界をモチーフにしている、ガンダムは伊達じゃない。

「Hi-νペガサスガンダムは伊達じゃないぜ!! シザービット、全滅だ!! 行くぜッ!!」

 名言を叫び、センの気合いが炸裂する。

 すると、何故か輝き出すνガンダムの手足。

 美しいブルーを纏って。

「ガンダム閃光拳!! 秘技、乱れ打ちィ!!」

 飛来するシザービットに対して凄まじいラッシュでお出迎えしてくれた。

 残像が見える連続パンチとキック。成る程、閃光だった。

「ファッ!?」

 ユリンがビックリして奇声をあげた。

 ミュウも驚き急停止。なんだあの技。

 次々シザービットが破壊される。物理で叩き落とす。文字通りだった。

「お次は! ガンダム流星拳ッ!」

 で、右手にエネルギーでもチャージしているのか、溜めモーションに入る。

 やばそうだったので、GNキャノンの砲口を向けて、即座に放った。

「相手のMSに、シューッ!!」

 エキサイティングしそうな意味不明な声で放った極太の拳が、迎撃のビームとぶつかり、相殺。

 派手に爆発する。

 シザービット、残りは31。手持ちは含めない。

「ほう、やるな!! じゃあこれはどうだ!! ガンダム流星脚ッ!!」

 煙を突っ切り、スラスター全開で上昇して、急下降。

 青い足が遅いくる。もう一度キャノンの砲口を向けて、即座に放った。

 ビームとぶつかり、なんとそのまま勢いを殺して突き進んでくる!?

「ぎゃあああああ!? なにあれ!? なんかビーム割ってきてる!!」

「と、トランザム使おうユリン!! なんかあのガンダム番組違う! ボールを七つ揃えて願う叶える人だよ!!」

「初代ガンダムの!? 七機揃えばあの人倒せる!?」

「無理!!」

 パニックになる二人。

 キャノンを真っ二つに蹴りで切り裂くνガンダムなど誰が想像できる。

「番組違う!? 俺のことかーーーー!?」

 半端に聞こえて大声で聞き直すセン。余計に二人を追い詰める。

 とりあえずトランザム発動。真紅に染まるハルート。極太になるビーム。

 漸く勢いを取り戻すが、中々にしぶといνガンダム。

「く、トランザムだと!? やるな、ならば俺の最大奥義で……!!」

 まだ何かあるらしい。もう十分だった。

「ご退場願います!!」

「これで、お仕舞いに!!」

 更にマルートモードも使う。シザービット全部出した。

 で、全て相手に放つミュウ。ズタズタにしてやるつもりで。

 蹴りで頑張るνガンダム。しかし、横合いからシザービットが飛来した。

「シザービット……待て、何個乗っけてるんだ!? 結構蹴り落としたと思ったのに!?」

 驚くセン。33のハサミが今度こそ切り刻む。

 腕で叩き落とすも、ミュウが操ると殺意が違う。

「自分の番組にお帰り下さい!!」

 ミュウの必死な声で、踊るシザービット。

 νガンダムは刻まれる。

「ぎゃああああああ!!」

 ペガサスは羽をもがれて、爆発して消えた。

 のちに、フレンド登録されるであろうガンダムファイターを、二人はまだ知らない。

 残されたのは、精神の疲弊した二名と、唖然とする見物人だけだった……。



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決戦に備えて

 

 

 

 謎のガンダムファイター、センとの激闘を経て。

 二人は、時間が許す限り戦い続けた。皆が見守るなか。

「あんたは一体、何なんだー!?」

 ある時は運命を覆し。

「トゥ! トゥ! ……なに!? ぐああああああ!!」

 ある時は再び対峙した正義を打ち倒し。

「僕は……負けてなんてなああああああい!!」

 ドラゴンで駆ける少年を泣かせて。

「まだだ、まだ終わらん……!」

「終わってよロリコン!!」

「モニターが死ぬ!? 何故!?」

 ミュウをナンパしてきた変態のグラサンを滅ぼし。

「ヴェアアアアア!!」

 喫茶店の女子高生らしい人の絶叫を聞いて。

「マグネットコーティング、オン! 死ねえ!!」

「凄い! 流石安室さん!!」

 時には伝説のサイボーグと共闘して。

 そんな数々の死闘を越えて、二人は確実に実力をあげてきた。

 プレイヤーとしてのランクが上がり、ユリンはBに至った。

 ミュウは秘密だと言うので物理で白状させようとしたが。

「ど、どんなに揉まれても絶対言わないもん!!」

「よろしい。ならば、セクハラだ」

「みゃああああああ!!」

 一時間耐久乳揉みフルコースを堪えきったので勘弁してあげた。

 存分に、久々に充実した時間を過ごせて百合は大変満足であった。

「…………」

 ハイライトのご退場した翡翠は、乳揉みに加えて最近導入された擽り攻撃のせいで、笑いすぎて結果涙さえ浮かんでいる。

 まるで強引に無垢な身体をケダモノに弄ばれたかのような悲壮感でベッドの上にぐったりと横たわるミュウ。

 実際隣で艶々の大満足の百合に弄ばれたので間違いではなかった。

「ふむ……バストサイズが上がったんだねミュウ。素直に言わないから揉まれるんだよ」

 途中からランクよりもバストサイズに移行して自白しないので実際触って確かめていた。

 悲鳴と笑い声の混ざりあったカオスが一時間続き、ミュウは喋る気力すら根刮ぎ奪われていた。

 今はベッドの上に横たわり、無言で泣いていた。半分は腹筋崩壊のせいだが。

「さて、次は自分の目で確かめないとね。よいしょっと」 

 風呂の時間だ。あまりの理不尽に無反応のミュウをぬいぐるみ抱っこで回収。

 持ち上げるたびに思うがミュウは小柄で本当に軽い。華奢な外見通りと言うか。

 翡翠からは色素も光も抜け落ちて、濁っているが気にしない。

 お湯に入れれば復活する。さもなくばリセットするまで。

 百合に持っていかれて、失意のミュウは恐怖の入浴タイムに連れていかれる。

 百合に慈悲は、ない。

 

 

 

 ――みゃあああああああーーーー!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

「どうでしたか? 渦中のお二人さんは?」

 抑止力が茜に訪ねていた。

 夜遅く。抑止力の自宅に泊まり掛けで外出していた茜は、赤みかかったセミロングの髪の毛を櫛で流しながら言う。

 両親の用事で出掛けてきたので、仕方なくついてきた。挨拶回りに連れていかれたのだ。

 適当に終わらせて、今は避難してきている。

「……強くはなってるわね。流石に、ミュウちゃんも感覚を取り戻していると思うわ。百合に関しては、ご両親が元々チャンピオンだから、筋はいいと思う」

「ああ、フェニックスのご夫妻がご両親でしたっけ。それは凄い。ドイツじゃお二人は伝説ですよ。何でも、艦隊レベルのチームを二機で全滅させたと。実話だと聞いていますが」

 抑止力の言葉に、茜は寝巻き姿でカーペットの上に寝転がる。

 広い部屋。茜の自室とほぼ同等の広さがある。

 見回せば大量のガンプラで博物館のように飾られている。両親がその手の仕事をするから、当然か。

 羨ましい環境であるが、茜には到底真似できない。

「成る程。しかし、まだ本調子ではないようですが」

 抑止力はそう、実際見たわけでもないのに評価する。

「……どういう意味? あなた、あの場にいなかったはずじゃ?」

「私もそれなりに顔が広いので、偵察を紛れさせるぐらいには融通が聞きます」 

 笑って、軽く説明。一度だけ共闘していると。簡単に言えば斥候と。

 あのマグネットファングなる意味不明な飛び道具を使う彼。

 あれは、抑止力の手の者。様子を見に、近づいていた。

「……自分で来なさいよ」

「私もあの中じゃ、有名で迂闊に自分では参戦できません。結構、恨みは買っているので」

「……何したのよ?」

「初心者を狙う悪質な連中を少々運営として血祭りに」

 抑止力は、茜や黒幕以外のバランサーだけではない。

 GBFにおける、運営の立場としても一部働く裏の顔があった。

 両親がGBFに関係ある仕事をしており、その関係で近い立場の抑止力は、ゲームを快適に遊べるように個人単位でマネーの悪いプレイヤーを倒す役目があった。

 無論、抑止力として破格に強い。

 ガンダム的に言えば、サイコインレが自立して襲いかかってくるのに等しい。

 もっと簡単に言うなら、喧嘩を売れば大半負ける、というレベルである。

 悪質な連中を相手しているので、集団を単体で潰すのも慣れている。

 今回の介入も、悪質なプレイヤーを倒す意味合いもあった。

 あの共闘しているプレイヤーもその仲間なのだという。

「あなた、苦労するわね」

「まあ、それがこの家に生まれた責任です。子は子の責任がありますので」

 優雅に、気品溢れる声で言われて、茜は渋い表情になった。

 その考えには、賛同できない。

「何か思うことがありますか」

 相手に言われて、天井を見上げながら茜は告げた。

「家の責任、ね。私には到底理解できないわ」

 茜の現状を知る相手が言うと、皮肉か嫌味しか聞こえない。

 苦笑して、聞かれた。

「言った筈ですよ。反発ではなく、説得に切り替えろと」

「海外の人間に日本語は分かる? それと同じ」

「私はわかりますが?」

「字面で受け取らないで。意味分かるでしょ。私はドイツ語は分からない。だから、何を言われても理解できない。うちの人たちはそういうこと。決めつけてない。もう、何度も試して分かった結論」

 抑止力なりのアドバイスだが、環境と理解に天地の差がある。

 正直、参考にはなるまい。似ているとすれば、ミュウぐらいだ。

 言葉が理解できないと、そこまで茜は自分の家族を折り合いが悪い。

「大体、百合を悪くいうような人間に、何を語れって? 言っとくけど、うちはガンプラを利益として受け入れないわ。流行を軟弱、しきたりを磐石と言っているような家柄なのよ? 皆、変化を嫌うの。伝統を何よりも優先する閉鎖的、排他的世界に、風を吹き込むのは言葉じゃない。行動で示す。従う気はないとね」

「…………」

 この辺は、価値観の差だろうか。

 抑止力の家は、理解ある家柄ゆえ、ガンプラを自分達の利益にできる。

 だが、古風な古宮の家は、先端よりも伝統を重んじる。

 しきたりに殉じさせようとする。子供にあり方を強いるのだ。

 意思など関係ない。親が言えば、祖父が言えば、その命令は絶対。

 小さい頃から、茜は洗脳のようにそんな教育を受けてきた。

 学校に入り、生徒会長という完璧のペルソナを押し付けられて、当たり前として生きてきた。

 彼女は、その頃の自分を家の人形と言っていた。彼らが求めるのは子供ではなく、思い通りになる人形。

 だが、茜は変わった。百合と出会い、ガンプラと出会い、自分の意思を手に入れた。

 そして、抗うようになった。子供の意思を蔑ろにする、古宮の家に反発し、対立を選んだ。

「百合はね。私に、光をくれたのよ。自由と、意思と、心を。それまで、呼吸して死んでいた私に、初めて出来た親友。私の、一番の親友を……うちの家族は、私の目の前で貶す。自分達のほうが、正しいともう一度刷り込みたいんでしょうね。ヘドが出る。今更、私に何を言おうがもう、聞く気はないわよ。百合を全員で貶したあの瞬間を覚えている限り、私は言うことなんて聞かない。結果は出してる。欲しい建前は出してるから、文句は言ってもそれ以上は今のところ、出てこないけど」

 茜は吐き捨てる。彼女の環境も、中々に厄介だ。

 下手すれば、茜はこの一件で家族を恨んですらいる。

 一番の親友を毎日のように否定し、罵倒し、嘲笑う人間を、茜は家族でなければ既に見限っているぐらいだ。

「相変わらずですか。こっちも、うちの両親がもう少し前向きになれと言うのですが、石頭というか、頑固というか……」

 商売が絡むビジネス話ですら、古宮の家は排他的で、積極的にならない。

 呆れてため息をつく。

「茶道や歌舞伎などの日本の文化のような家系なら、その排他的な生活も意味がありますが、茜の家は単純に認めたくないから認めない、ですから。そういう流行を受け入れる柔軟性のない家柄は、衰退するとなぜ分からないのでしょうか?」

「決まってるでしょ。揃いも揃ってバカだから。石に話を振っても無駄。無機物が返事すると思う?」

 辛辣に茜は身内を評価した。家族との折り合いが悪いのは、ミュウだけじゃない。

 茜も相当、家族の間で軋轢があった。

 かたやもう一度思い通りにしたい両親や祖父、自分の意見を聞かない家に反発する茜。

 互いに話を聞かない。いいや、聞いていた結果が傀儡だと知るから茜は抗う。

 家の責任と言えど、彼女の場合の責任とは、思い通りに生きる古すぎる考えの道具等しい。

「しかし、そろそろご両親も業を煮やし、物理的な方法を取るかもしれませんよ?」

 一番の問題は、茜も子供だ。無理矢理やられれば、成す術のない。

 茜は鼻を鳴らして反論する。

「その時は、その時よ。私に嫌がらせをするそいつに、会長の座をあげるわ。好きでやってる訳じゃないから、欲しければどうぞ? どうせ、おじいちゃんの指示でやらされているだけだし。追い出されたらいいわよ。百合に助けてもらうから」

(聞いたら、キレる事案ですねこれは……)

 茜の苦悩を黒幕は知らない。黒幕の痛みを茜も知らない。

 双方に触れる抑止力だけが、二人の痛みも苦労も知る。

 故に、苦笑いしてしまう。茜からすれば、会長の座など、欲しいものではない。

 黒幕がここまでして欲するものを、茜は簡単に諦める。知れば殴りかかるだろうか。

「しかし、山田さんを高く評価するんですね」

 抑止力は百合と同じ部活だ。

 普段は忙しくて行かないが、稀に行くと顔を見る。

 ビルダーとしては一流だろうが、性格は正直いうと、かなりあれだ。

「自分の身の程を知るから、直ぐに頼りにするし、自分でも一度決めたら形振り構わない。結構姑息な性格では?」

「姑息ね……。ま、百合は自分が子供だって、分かってるから身の程以上は滅多にしないしね。姑息と言えば姑息かな」

 茜も、その意見には同感であった。

 百合はあまり利口ではないし、汚いことも平気でやる。

 そういう性格だから、友人も少ない。

「兎に角。あなたも、手伝ってね当日は」

「ええ。承知してます」

 茜の言葉に頷く。

 百合の知らない場所での、最高戦力が見守っていることを、まだ二人は知らないのであった……。



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最終調整

 

 

 

 百合は語る。

「私はケダモノではない。趣味を遂行すべく、エロを強化したものだ」

「それを普通の人はケダモノっていうんだよ!!」

「ミュウ、相変わらず御しがたいな」

「言いたいだけでしょ!? 意地悪しないで!」

「あ、それは無理な相談ってもんだよ。もうあれだね。私はミュウを揉まない死んじゃう病だ」

「百合ちゃんなんて、修正してやるー!!」

「あだぁ!? ミュウの腹パン……! これがあるから止められない!」

「うわあああああん!!」

 泣く泣くのミュウの腹パン。百合は腹を抱えて喜んでいた。

 もうミュウのすることなすこと可愛すぎて、百合は興奮がおさまらない。

 どうやら末期患者、ミュウ中毒が併発しているらしい。

「もっと、もっとだ!! ミュウ、もっと昂れ!! そして私を満足させてくれェ!!」

「みゃあああああああ!!」

 どこかで見たことあるような光景だった。

 黒い幽霊を彷彿とさせる姿にミュウは百合の頭を素早く背後に回って掴む。

「こ、これは!?」

「鎮まれこの変態鉄仮面!!」

 で、首をゴキッと回して死なす。

 白目を向いて、百合は久々に敗北した。

 擽りとセクハラの併用は、ミュウに特攻を与えるようだった。

 ぶっ倒れる百合を、涙目で見下ろすミュウは、ヒロインがしちゃいけない壮絶な顔をしている。

「はぁ……はぁ……」

 悪は滅びた。取り敢えず一時間ぐらいは平気だと思う。 

 ミュウは兎に角、卑猥生物百合から逃げるべく、策を練っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「さて。ミュウで癒されたし、最後の仕上げするか」

「……ここ、定位置なの?」

 復活してシリアス百合になって、二人で仲良く作業。

 机に座っている百合の膝の上に乗っかるミュウと、一緒に。

「そうだよ。ミュウは膝の上に乗っけないと。好きなときに揉めるように」

「怒るよ?」

「ごめん、今はしない。しかいから頬を膨らませないで。可愛すぎて鼻血出る」

「…………」

 もうダメかもしれないこの人。

 黙ってふくれ面のミュウは手先に集中する。

 百合が言い出したのだ。改造しようと。

 自分の主義を根っこは曲げる気はないと彼女は言った。

 だが、同時にこうもいった。

「改造自体が楽しいと思うのはミュウと一緒にやってるからね。例外だよ。自分一人じゃ、私は既製品で満足してその先には行かない。たとえ、見えていたとしても。そこに、魅力を感じないから」

 ミュウと共に製作するから楽しい。一人の製作は既製品で満たされる。

 百合はどうやら、そういう区分で例外と定義してやっている。

 だから、ミュウと作る限りは改造はするし、改善点も直す。

「私は元来アナログなビルダーだからさ。飾ってジオラマ作れればいいんだよ。寧ろ、改造は遊ぶために発達したと思わない? ジオラマの為の改造とは違う。戦いに特化した改造は、飾りに使えないんだよ。だって、必要ないものが多すぎる」

 成る程、とミュウは思う。

 立場の違いだ。ガンプラバトルに使うガンプラの多くは、飾るためには既に機能しない。

 バトルに適した形は、観賞用としての美しさ、機能美は崩壊しているからだ。

 昨今では主流となった戦うガンプラ。

 だが、アナログなビルダーにとって、ジオラマの為に製作するガンプラと戦うガンプラは別の種類の存在。

 元々が、相容れる訳がない。用途が違いすぎる。

「もしも、今の私が目標を作るとしたら。すっかり忘れてたけど、取り敢えずお父さんボコる。で、あとは……そうだな。飾れて戦える、強いガンプラ。それをもしも、私が作れるとするなら。作ってみたいな。先生とかなら、作れると思うけど」

 百合はハルートを弄りながら、そんな事を目標としていた。勿論、目指すとは言ってない。

 ただ、漠然とした目的。理由もなGBFをやっているのも、面白くない。

 戦い自体に百合は魅力はないし、ただガンプラが動いているのは面白いと思うぐらい。

 バトルその物に、情熱など欠片もない。

「……わたしは、何もないよ。目的も、目標も」 

 ミュウは、百合の膝の上で俯いてそんなことを言い出した。

 思い返せば、脅されたから一緒に戦っているだけで、それが無くなった今は、襲ってくる連中を倒せばおしまい。

 もう、辛い世界にはいかなくていいのに。なんで、ミュウは百合とガンプラを作ったんだろうか?

 思い出と恐怖の表裏一体のこの世界に。

「終わったら、わたしはどうしようかな……。百合ちゃんに毎日弄ばれるだけなのかな」

「いや、それは当たり前でしょ。止めろって言っても逃げても私はやるよ」

 そろそろ本気でぶん殴ろうと思うが良いだろうかこの変態。

 この奇妙な関係も、思えばガンプラが切っ掛けだった。

 今の親に、大切なものを破壊されそうになって、激怒して叫んだ台詞を思い出す。

 

 ――お前らなんか、お父さんでもお母さんでもない!! 

 

 後にも先にも、ミュウの両親は二人しかいない。

 あの時から、あの二人の顔を見ていない。見たいとも思わない。

 あいつらは、ミュウとは交わらない、ウソつきだ。

(……お父さん。お母さん。どうして、わたしだけ生きてるの……?)

 あんな二人など、死ねばいいのに。あの一件以来、ミュウはいつも思っている。

 母親面、父親面をする話を聞かない大人。ミュウをただ苦しめるだけの本物の悪魔。

 百合はイタズラをしているだけだ。泣かされても、最後にはいつも謝る。一応。

 反省は……してないだろう。可愛い可愛いと悶えながらミュウを意地悪しているただの変態だ。

 ミュウにとって、百合はなんだ。そう聞かれた場合の返答は。

(百合ちゃんは……最大の恩人で、最強の天敵で、最悪の変態で、最高のお友達)

 一番救ってくれた人。一番狙ってくる人。一番やらしい人。そして、一番長く居てくれる人。

 百合はこの国に来て、一番長くミュウと接してくれる。家族よりも、百合は長い。

 いや、違う。ミュウにはもう家族などいない。いるのは、家族を名乗る部外者。

 尤も大切な思い出を取り上げて、目の前で壊そうとした悪魔。

 奴等と和解などあり得ない。奴等は敵だ。ただミュウを辛くするための敵。

(あいつらとは、百合ちゃんは違う。意地悪しているけど、結局は愛情表現。ELSと同じで、変態だからコミュニケーションの方法が違うだけ。悪意なんてない)

 百合は、友人と言うには過ごす時間が長い気がする。

 一日の大半を百合と過ごしている。おはようからお休みまで。

 百合を見て起きて、百合と共に眠る。  

 まるで、姉妹のように。百合は、距離が近い。

(家族って、どんなのだっけ?)

 家族をミュウは忘れてしまった。苦しいだけの数年。痛いだけの数年で、全部消えた。

 教えてほしい。家族とは、なに? 両親とは、なに?

 覚えているのは、血塗れの両親だった肉の塊だけ。

 今でも思い出せる。温かい赤い液と、むせかえる生臭さと、焦げ臭い鉄の下。

 押し潰されるような感覚のなかで、目を開けた時に入ってきたのは……。

(止めよう。どんな姿でも、お父さんとお母さんには、違いないから)

 最期の思い出は、とても苦しいけど、両親だとミュウは受け入れている。

 首を小さく振って、思い出す映像を消す。

 ミュウは事故で、両親の遺体をその目に間近で見ていた。死んだばかりの両親を幼いながらに。

 けれど、彼女が心に負った傷は、両親の死に様ではなく、ガンプラへの恐怖だった。

 ガンプラさえなければ。ガンプラに触れなければ。そう思って、逃げてきた。

 あの憎いんでいる部外者の二人がそれを加速させた。

 確かに堪えきれない世界ではある。けれども、それが最期の思い出だと知っている。

 なのに、奴等はッ!!

 

「ミュウ、辛いことは忘れなさい。今は、俺達がお前の親だ」

 

「ミュウ。あたしたちは、あなたを愛しているわ」

 

 ――嘘を言うなッ!!

 

(嘘だ。あんなの嘘だ。愛いしてなんてない。娘だなんて認めてないくせに。言葉だけ。あいつらはいつも、言葉だけ!!)

 これっぽっちも愛していないくせに。平気な顔で嘘を言うのだ。

 愛しているならなぜ奪う。想っているならなぜ壊す。思い出を。ガンプラを!!

(どうせ、子供欲しさにわたしを引き取ったんだ。それとも、アルカディアの栄光でも欲しかったの? ガンプラ否定するくせに、お金が絡むとすぐそれだよ! この人でなしのウソつき共!!)

 ミュウの憎悪が再燃する。それは、過去の栄光だった。

 GBF内部でも非常に稀な、スポンサーつきのチーム。それが、アルカディアというプロのチームだった。

 ミュウが嘗て所属していた場所。スポンサーの開発したガンプラを使って宣伝しつつ、勝ち続ける。

 そんな世界で、ミュウも戦っていた。でも、事故を切っ掛けに契約をスポンサーが止めてくれた。

 両親を亡くしたミュウに、子供である彼女にそれ以上の重荷を背負わせる訳にはいかないと。

 散々自社の宣伝をしてくれてありがとうと、事故後にメッセージを貰った。

 本来なら、ガンプラは宣伝のための商売道具。なのに、スポンサーはミュウに無償で譲ってくれた。

 彼らには心から感謝している。遺品を、無くさずに済んだから。

 ミュウが稼いだお金は、結局養父と養母に手渡されて、奴等は一攫千金を手にいれた。

 元々は、両親と共に始めた物だったのに。あいつらが金欲しさに、全部奪っていったのだ。

 薄汚い欲望にためにミュウを引き取り、金を手にいれて笑っているに違いない。

(悪魔。あいつらは人の皮を被った悪魔。わたしは知ってる。利用されたんだ。わたしも、お父さんもお母さんも。あんな汚い金の亡者に!!)

 そんなのが、両親だと言い張って誰が認めるか。誰が信じるか。

 親だというなら証拠を出せ。親だと宣うなら態度で示せ。

 親だというなら、ミュウを抱き締めて見せろ!!

(わたしになにもしてくれない。そんな大人が、両親であるもんか!!) 

 与えるのは痛みと苦しみ。それしかない人間を信じる程、ミュウはバカじゃない。

 それに比べて、百合はどうだ?

 助けてくれる。一緒に居てくれる。守ってくれる。思ってくれる。

 余程、ミュウの家族に相応しい立場ではないか。

(……はぁ。百合ちゃんがわたしの家族だったらな……)

 意地悪以外は完璧なのに。変態でさえなければ。

 この際変態でも我慢して受け入れようか。

 コミュニケーションの一環だから、その内慣れる……かもしれない。

 そんな風に思う。百合が家族だったら、あんな二人など蹴散らせるのに。

「はぁ……」

 ため息が出ていた。

 百合はミュウの頭上に顎を乗っけて、無言で作業している。

 時々、思い出したように身体をまさぐる手をつねる。

「ミュウ、痛いよ」

「痛くしてるの」

 拗ねた表情で抗議する。

 取り敢えず概要だけ聞いた。

「シザービットの改修作業だよ。半分ビームサーベル発生装置組み込んで、咄嗟の接近も対応できるようにして、半分はファンネルと同じようにしておくの。そうすれば、本体を改造しないで火力増強できるでしょ?」

「成る程……」

 百合なりに色々真面目に考えているらしい。

 本当に、ミュウの為に真摯になってくれる。シリアスな百合は伊達じゃない。

「あと増量した」

「増量は止めようね百合ちゃん。ロマンに走るのは良くないよ?」

 これ以上シザービットを増やすなと言うのによく見ると机の上の物体が増えている。

 いくつだ。手早く数えるミュウ。なんと合計……65!?

「百合ちゃん。これを誰に扱わせる気かな?」

「ミュウならいける。強くて可愛いミュウなら大丈夫」

「可愛いのは関係ないから!! わたしも無理だから!! 限界あるって言ったのに!!」

 案の定ロマンに走った。凄まじい数のシザービット。よく全部入れておけるものだ。

 追加コンテナは大きさそのままなのに。百合はそれを聞いて、言った。

「いや、元々百は収納できるように元から製作したから。空いている余裕にミサイルもてんこ盛りにしたよ。やっぱり弾薬切れは天敵だから。盛れるだけ持っておかないと困るよ?」

「…………これは、弱点の補強になる?」

「そうじゃなきゃ仕上げにならないよ。可愛いのは正義。正義は勝つ。ミュウは可愛い。だから勝つ」

「意味不明だよ!? 可愛いのが勝ちって理屈が訳がわからないよ!!」

 百合の言っている言い分がさっぱり意味不明だった。

 なのに。

「ミュウ、ダメだよそんな汚い台詞を言ったら。あんな邪悪な獣と契約して魔法少女になったら、ミュウはまな板の魔女になっちゃう」

「番組違う!! わたし魔法少女じゃないから!! っていうかまな板の魔女って酷いよ!!」

 酷い罵倒を受けた。これでも変態の魔の手のおかげですこしだけでも成長したのに。

「因みにAGEには魔法少女よろしくの人がいるって知ってた? MSが魔法少女みたいな奴」

「……え? 本当に?」

 マジでいるらしい、と百合は神妙に頷いた。

「ま、それは置いといて。過剰武装こそがガンダムの真骨頂。急造した機体は強いとユニコーンで証明されている。つまりはミュウはユニコーンを扱う気でよろしく」

「ユニコーン!? あんなの無理だよ!! 武器多すぎ!」

 過剰武装は使えないって言ってるのに無茶ぶりする。

 百合は使ってくれたらお礼にガンプラくれるというが。

「欲しいでしょ? SDユニコーンガンダム」

「あるの!? あれ随分と前なのに!?」

「あるんだなーこれが」

 初期のSDユニコーン。欲しい。ミュウがSD好きだと既に把握していたか。

 ご褒美を見せつけて、挙げ句には。

「こちょこちょを脇にしてほしい? それともユニコーンで頑張る? さあ選べミュウ。私はどっちでもいいし、ペロペロとクンクンでもいいよ?」

「第三の選択肢が身の危険しか感じないんだけど!! そっちは遠慮します!」

 セクハラされたくないんので、ユニコーン目指して頑張ることにした。

 意地悪してくるので、お返しに恥ずかしいが思いきって言い返してやる。

 可愛い可愛いの言うなら、とびっきり媚売って反撃してやると半分自棄だった。

 

「ゆ、百合お姉ちゃん……」

 

 恥ずかしかったが、頬を少し赤くして上目遣いで見上げてお姉ちゃん呼びしてやった。

 すると。

 

「……ガンプラ道とは、死ぬことと見つけたり…………!!」

 

 多量の鼻血を噴水のように出して、百合が死んだ。

 凄く、満足そうな表情で某変態武士仮面のようだった。

(……勝った)

 今度から、お姉ちゃん呼びで反撃しようと思うミュウであった……。



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宇宙の戦い 序章

 

 

 

 

 ――そして。

 約束の日は、訪れた。

 指定されたポイントに向かうミュウ。

 怨念返しの被害者となって、彼女は痛みだけを与えられる。

 彼女は強かった。強かったから、狙われて、利用され、守られる。

 今は、どうだろう? 強いと言えるのだろうか?

(……わたしは、何時だって弱いまま。自分の生き方一つ決められないまま)

 中学生で、自分の生き方を迫られる環境など普通はない。

 彼女は迫られた。ガンプラを捨てるか、捨てないか。結果、逃げる形で捨てなかった。

 捨てないで、拾われて、助けられて、護られてここにいる。

 逆恨みなんて、何処にでもある話だろう。けれども、当事者にはたまったもんじゃない。

 覚えのない憎しみほど、理不尽なものも早々ないだろう。

(憎むなら理由を用意しておいてよ……)

 なんでこうなった。ミュウにはさっぱりわからない。

 ただ、言えることは。連中が、只では済まさないということだけ。

 だから、抗おう。ぶちのめしてでも、平穏を勝ち取るために。

 ミュウは決意を胸に、その場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お前ら。あの阿呆どもの暴挙を許すなよ。加減はいらねえ。全部ぶっ飛ばせ。帰ったら全員説教とお仕置きだからな。ったく、退けって言ったら素直に退けっての。手間取らせやがって……。大体なんであのちっこいの恨むんだよ、ってそりゃ人のこと言えた立場でもねえか……。逆恨みだもんな。理解も共感もできるが、引き際の分からねえ三流は、最悪縁切りもすんぞって言っとけ。あと、絶対にもう情報の件は触れるともな。命令しておいて何だが、パンドラの箱を開けちまう可能性が高い。ありゃ不味い。アルカディアの連中まで敵に回したらGBFに居られなくなる。それも言っとけ。八つ当たりは百歩譲って許すが、それ以上はやるなよ? いいか、絶対に遣るなよ? 前降りじゃねえからな!!」

 

 

 

 

 

 

 

「茜。そろそろ私達も」

「ええ。行くわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 運命は、動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定ポイントは、フリーの宇宙フィールド。

 広大に広がる空間で、そのフィールドは俄に活気ついていた。

 というか、普段は集まらない規模のプレイヤーが群れていた。

 あり得ないレベルである。

 他の関係ないプレイヤーが何かのイベントか祭りかと噂したため、更に面白がって集まった連中や野次馬も含めると、ざっと150は越えている。

 それもその筈で、最初に集まったバカはなんと艦隊で現れていたのだ。

 呆れたもので、初代ガンダムの母艦を始め、中型小型に何を血迷ったのか、リーブラまで持ち込んだ特大の阿呆もいる。

 因みに想定する相手はたった一人である。ガチにも程があった。

 母艦の中身は更に大量のプレイヤー率いるMS小隊が積まれており、ぶっちゃけ戦力の差は大体ELSのときの地球戦力ぐらいだろうか。

 要は、どう足掻いても絶望であった。

「…………」

 ミュウはあまりの事で絶句した。青ざめて涙目であった。

 酷い。酷すぎる。追い返した逆恨みでここまでするか。

 いじめだ。最早いじめだ。こんなの聞いてないどころか、想定していない。

 呆然と、到着してから眺めていた。野次馬に混じっているおかげでまだバレていない。

 どうやら、相手はSDのガンプラで来ていると思っているらしく、SDのプレイヤーに話しかけている。

 こっちの姿は知っているんだろう。なんと言うか、泣けてきた。

「あー……やっぱしこうなったか。よし、お母さんも呼ぼっと」

 が、ここには更に手段を選ばない畜生がいる。

 ユリンであった。ゲームに行く直前に、百合は母に向かってこう言った。

「お母さん、GBFでミュウと私が喧嘩売られたから手伝って」

 娘の言葉に最初は夕飯がどうのと渋っていたが、

「お、お願いします……!」

 ミュウが一言言うと、事情を察してくれたのかあっさりと了承。

「夕飯は手伝ってくれよ、ミュウちゃん。百合、お前もな」

 と頼れる笑顔で笑ってくれた。最高で最強の支援が味方にいる。

 母は現在、このフィールドに入る準備をしていると端末に連絡。

 直ぐに来るらしい。

「ミュウ。大丈夫だよ。お母さん規格外だから」

「うわぁ……」

 訂正。ドン引きした。チャンピオンをいさかいに迷わず投入しやがったこの娘。

 ニコニコ笑っているが、ミュウの不安は一気に消し飛んだ。

「ミュウはもう、うちの家族みたいなもんだし。ちょっかい出してくる奴は皆殺しだよ」

「皆殺しって……」

 ゲームでなに物騒なことを宣うんだこいつは。

 当たり前のように家族といってくれるユリンには嬉しいが……だからって……。

「あ、お父さんも呼ぶ? 多分数分で全滅すると思うけど」

「ユリン、これ以上はいけない」

 不死鳥夫婦が揃った時点で大抵の相手は敗北確定だ。この時点で敗北確定だろうが。

 本当に容赦の欠片もない。使えるものは全部使うし、頼れる人間は全員頼る。

 もう、ユリンの周囲がいれば無敵な感じがする。彼女には見栄とかプライドはないらしい。

「気軽にいこうよ。ハルートも完璧だし、お母さんいるし。それに、皆だって」

 一見して絶望したが、現在は負ける気がしない。というか、負けたらすごい。

 数の暴力をものともしない最終兵器が登場するからか、相手にどこか同情するミュウ。

 確かに怨念返しは酷い話だが、だからといって、それにチャンピオンを迷うことなく頼み込むとは。

 どっちが鬼畜の畜生か分かったものじゃない。

 言葉を失うミュウに、通信が入る。

 部長たちだった。部長は変態武士仮面の、副部長は眼鏡のOLのような姿だ。

 更にアカネ、シュガー、ガチムチも参戦する。

「……えっ。ユリン、おばさん呼んだの!?」

「うわぁ……」

「全滅決定したなこれは」

 案の定、全員ドン引きした。

 普通は大人に頼らずともなんとかできるぐらいになっていた。

 いや、戦力の差は想定外だったが、自分達で普通は連携して抗うだろう。

 てっきり、全員がそう思っていた。なのに。

「加減なんて必要ないよ。ミュウに喧嘩を売ったって意味を、後悔させてやる。ミュウを泣かしていいのは私だけだ!!」

「ユリンも泣かしていいとは言ってないってば!!」

 前で堂々と叫ぶユリンに怒鳴るミュウ。

 しかし、本当にこの女は手段なんて関係ない。

 やると決めたら外面もなにも知ったことではないように、王道を無視しまくる。

 悪道外道に邪道と来た。最悪なヤツだ。こんなのがよく主人公が務まるものである。

(頼れる大人を全力で頼る。それが子供の特権さ)

 全裸はそんな台詞を言わないので取り敢えず黙れ、と天の声が聞こえた気がしたユリン。

 どや顔で不敵に笑った。

「……本当に姑息な人ですね。自分で解決する気ないんですか?」

 と、突然横槍が入る。割り込みの通信だった。

 知らない女性のプレイヤー。トロワがしているピエロの仮面を被っている、メイド服の女性。

 灰色に近い銀髪の長い髪をウェーブして、左側に涙のペイントを入れたガトリングを背負う。

「来たわね、Sf」

 アカネが親しそうに話しかける。誰かを訊ねると。

「私が応援に呼んだの。何かあるといけないから。ま、無駄足だったみたいだけど」

 アカネの知り合いの方らしい。名をSfと名乗った。

「運営の末端をやっとります。少々気になる話を聞きまして、悪質な理由で集団リンチを行うと情報をアカネから得まして。ゲームのイメージに宜しくないので、粛清しに来ました」

 簡単に自己紹介を終えて、再びSfなる女性はユリンに聞いた。

「かの有名な不死鳥夫婦の娘さんだそうですね。しかし、この状況では確かに最善の手でしょうが、自分で戦う気はないんですか? 仮にもお友だちの問題でしょう?」

 言外に、人任せにしているだけじゃないかと責められている気がした。

 ミュウが思わず噛みつこうとする。いくら何でも失礼すぎる言葉に。

 ……が。

「何でもかんでも自分でやろうとするのはバカのする事だよ。背負えない重荷を背負って失敗したら意味ないって、なんでわかんないかな?」 

 笑顔で、ユリンは言い返す。

 笑って、更に辛辣な事を彼女に言った。

「相手は確実に此方を潰すって予想できるから、それをひっくり返せるやり方を選んだだけ。私はまだ素人少し止めたぐらいだし。正直言えば勝てないから、勝てる方法を選ぶ。自分が頑張れば結果が出るとか、それは自分の器が足りてる人間の理屈だって。私は過大評価をしない。人任せだよ。それ悪い? 適材適所って言葉も知らないの?」

 真っ向から言い返した。

 Sfはほぅ、と彼女の言い分を促した。

「大切なのは結果だよ。成功すれば何してもいいの。だって、ルールは違反してない。私は自分じゃ自分の出来ることをした。周りを頼るって言うのが出来ること。素直にできないことはできないって言えないバカじゃないの。自分で戦う? 気合いと努力と根性であの数を倒せるの? ガンダムの見すぎじゃない? 素人が少し成長した程度で勝てるわけないじゃん。現実が見えてない主人公じゃあるまいに。私は確実に成功する方法を実行する。卑怯? 姑息? それって、お姉さんに責められる理由にはならないよね。他力本願、否定はしない。建前ばっか優先して失敗したら、泣くのは私じゃない。ミュウだから。……お姉さんさ。お姉さんの言うことって、賢しいだけの空論だよ?」

 ユリンは逆に彼女を嘲笑った。自分だけで友人を守れるなどと、傲慢な事を言うなと。

 子供が子供を守るなら大人の力を借りる。至極当然の方法で何が悪いと。

 身の程知らずの賢しい机上の空論を抜かすなと。

「開き直りですか。虎の威を借る狐の癖に」

「虎がいるなら虎にお願いするのは、利口って言うんだよ。自分がお呼びじゃない舞台に飛び出す方がバカなんだよ」

 威張っているのではない。自分じゃ出来ないと言い切っているだけ。

 いっそ、清々しいほど、自分のやることしかない。

「やる前から諦めるんですか?」

「やる前から見えていることも分かってない人間の言い分だね、それって。やってみなけりゃ分かんないって? いいよ、やっても。お姉さんが代わりにミュウを助けてくれるならね。自分でやりもしないのに、口だけ出してる人は良いよね気楽でさ」

 ああ言えばこういう。

 Sfの言葉を、ユリンはただ笑っている。

「挑むことすら、しないとでも?」

「挑むだけの理由なんてないじゃん。私の問題だけじゃないしさ。何度も言うよ。失敗したら、誰が一番辛いか分かってる?」

 Sfも理解する。

 成る程、姑息と言うだけの理由はこれだ。

(安全策しか選ばない。リスクがあるなら動かない。確かに、賢しいだけの子供が選ぶやり方ですね) 

 ずる賢い。ユリンと言う人物は、まさにそれ。

 子供の特権を振り回す、逆全裸のような真似をしている。

 弱者だから考える弱者の生き残り方。世の中、こういう方法もある。

 それを不愉快と思うから、卑怯とか姑息とか言われるのだ。

 でも本人はそれを当たり前としている。賢い手段ではある。

 だが同時に、あまりにも他人の顰蹙を買うやり方。

「フッ……。成る程。暴言、失礼いたしました。アカネの言う通り、姑息ですね」

「謝る途端に罵倒って喧嘩売ってる?」

「いえいえ。誉め言葉です。保守的な流儀ですが、理解できない訳でもないので」

 仮面の裏で苦笑いしてしまう。

 今あるものを確実に成功させる為の手段と思えば、それは慎重とも言える。

 ものはいいようだ。こう考えれば、これもありかと思えてくる。

「まぁ、正しいかどうかは人の価値観でしょう。決して、非道をしている訳じゃない。空気を読めないだけで」

「空気は吸うものであって、読むものじゃないよ。そこが違いかな」

 ユリンは空気を読む気もない。尚更に最悪だ。

 わざとやっているあたり、是正は無理だろう。

「そうですか。ならば、何も言いませんミスKY。これからもその空気読めない性格を続けてくださいな」

「余計なお世話だよ。さて、じゃあそろそろ殲滅を開始しようか」

 話し合いを終える頃。丁度、彼らの終焉は決定した。

 

「―ー見つけたぞ、我が娘たちに戦争を挑んだ愚か者共!! 貴様らに絶望を与えてやろうッ!!」

 

 チャンピオン到着。同時に、艦隊に宣戦布告。

 絶叫が聞こえた気がした。野次馬が唐突なチャンピオン出現に盛り上がった。

「我が名はコード・アメリアス!! この名を恐れぬ命知らずがいるならばかかってくるがいい!!」

 母のパフォーマンスが始まった。いつもこういう風に派手に名乗っているらしい。

 実際かかっていけば敗けは決定である。

「本日は野暮用があってここに来た!! 貴様らの艦隊が、我が愛娘に一方的な怨念返しをすると聞いたぞ!! 我はチャンピオンである前に、娘を持つ母である!! 故に我が愛しい娘に手出しをする者は許さぬ!! 此度の我は激怒している! よって貴様ら、滅ぶがいい!!」

 ノリノリで、絶叫する艦隊に向かって叫びまくる母。

 で、更にチャンピオンは躊躇わない。

「この場に集いしプレイヤー達よ! このような悪しき者はGBFの品格を下げる邪悪な魂だとは思わないか!!? もしも、我が言葉に共感できるのであれば、我と共に戦ってはくれないだろうか!! このアメリアスが貴君らの助力を要請する!!」

 なんと母。この場にいた野次馬まで味方に引き込んだ。

 不死鳥夫婦の嫁のほうに言われて、よくわからないがチャンピオンと共闘できると悪乗りした野次馬まで参戦。

 数の不利が、鶴の一声でひっくり返った。

 しかも悪者確定されて、事実なので否定できずに逃げ惑う彼ら。

(……おい、嘘だろ……? チャンピオンってこんなに影響力あるのか!?)

 それを斥候と共に複座で紛れこんでいた黒幕は唖然とする。

 見れば、チャンピオンの娘に手を出す悪逆非道の無頼漢は許すまじと、早速一部が攻撃を開始していた。

(……あ、あはは……)  

 乾いた笑いが出てきた。いじめはどっちだ。

 もうダメだ。お仕舞いだ。勝てるわけがない。

 黒幕は絶望しながら、取り敢えず避難する。

 地獄の最終決戦の、始まりであった……。



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宇宙の戦い 悪夢の宴

 

 

 

 

 

 

 本来、チャンピオンたる母の投入は、一種の保険にする気だった。

 理由として、やりすぎという自覚があったから。

 母が出てくれば、チャンピオンの登場により、そのパフォーマンスもあって、きっと野次馬がいたら、周囲の味方を増幅するとユリンは踏んでいた。

 結果その通りになったが、それは相手が大人げない方法を選んだ対抗策。

 ミュウ一人にこれほどに戦力を用意するあたり、マジギレしているのは用意に想像できる。

 が、艦隊などとふざけたものまで持ち出すなら話は別だ。

 大人げないなら同じく大人げない方法でやり返す。そういう手段をとったに過ぎない。

 だから母は一緒にこないで、呼ばれてから現れた。

 必要ないなら、登場は別の機会に、と思っていたのに。

 ハルートの改造や今までの特訓の意味合いが薄れてしまった。

 母がいれば、物量だって引っくり返る。

 有象無象と言うと言い方は悪いが、しかし面白そうだから味方するノリが今回は有難い。

 母はあくまで、見守ってもらう予定だった。最初は。

 が、こうなればもう関係ない。正面から叩き潰す。それだけだ。

「往くぞ、気高き勇士達よ! 今こそ悪を葬り去ろうぞ!!」

 王者の号令により、一斉に襲いかかる大量の野次馬。

 チャンピオン恐るべし。流石有名人は伊達じゃない。

 艦隊もやけくそとMSを発進して応戦開始。本格的な戦いが、幕をあげた……。

 

 

 

 

 

 この戦いは、三つの勢力が争っている。

 ミュウの味方。艦隊。そして、知らぬ前に紛れ込む黒幕の部隊。

「お前ら、指揮を開始する。指示に従え。向こうは今回、狙うんじゃねえぞ」

 様子を見ながら宇宙を飛び回る黒幕を乗せるMSが、自分の部隊を束ねていた。

 尚、相手は自分のところのボスが来ているとは知らない。なので、この時点で反逆であった。

「お仕置きだからな。加減はしねえぜ、野郎共」

 なので知らせぬままに、お仕置きを始めた。

「一番、二番、お前らは小型を狙え。向こうのガンプラの性能のデータを送る。三番、お前は向こうを支援してやれ。四番、お前は護衛だ。こっちこい」

 流石に慣れているだけある。的確に指示を出してこのカオスな混戦を慣れた様子で進める。

「五番。お前は特定の奴のデータを収集しろ。EWAC乗っけてるから出来んだろ。試作0号機の性能、期待してんぜ」

 更には秘密に、特定の相手の戦闘データを集めて情報も確保しておく。

 転んでもただじゃ起きない。念入りに、ミュウやユリンやチャンピオン、アカネのデータを回収する。

「おし。配置についたな? じゃ、バカにお灸を据えるぞ。行くぜ!」

 黒幕は黒幕らしく、暗躍する。自滅しても、これぐらいしておかないと精算が合わないので。

 激しく飛び回る戦場を、駆け抜けていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こっちでは。

「よっしゃ!! こうなりゃ祭りだ!! ミュウの仇討ちしてやるぜ!!」

 細かいことはどうでもいいと、シュガーが振り切って暴れていた。

 ミュウの周辺は、アカネ、ガチムチ、シュガー、Sfと固まった。

「皆さん、退いて下さい。全弾ぶっぱなしますので」

 Sfが淡々と告げて、接近しているバエルを無視していた。

「そこの死にそうな脳ミソ筋肉の方。退いて下さい。巻き込みますよ」

「ヒャッハー!! 圧倒的なパワーで草バエルゥ!!」

 何を叫んでいるのか、聞いてないシュガー。

 警告しているのに聞かない。

 Sfのガンプラは、ユリンは見て絶句した。

(ハルートと同じ殲滅想定してるよね……。でも、これ完成度が違う!! ヤバいハイクオリティ!)

 見るだけで分かる。ユリンがやってみたいと思う、飾れて強いガンプラが目の前に!!

(……スゴいなぁ、このお姉さん。もしかして、プロ?)

 ミュウも感心して見ている。その視線に、Sfが気付いた。

「何やら熱い視線を感じますね。何か?」

 聞かれると、ハルートで連射しながら酔いしれるように、ユリンは余所見をしていた。

「ふつくしい……」

 などと意味不明な感想を漏らすほど、視線を釘付けにしている様子。

 Sfは悪い気はしなかった。素直に褒められるのは、嬉しいものだ。

 余所見していて、バエルに連射するビームが当たっていた。

「おいユリンてめぇ!! 俺を狙うなよ!!」

 抗議するシュガーは目の甘前に獲物が来ると、直ぐに忘れた。

 奇声をあげて飛びかかる。相手は初代グシオンであった。

「て、テメエ楽しんでるだろ!? この苛めをよぉ!!」

 何やら相手の文句が聞こえるが、シュガーは聞かない。

「知るか! 俺はお前を殺せりゃ何でもいいわ! お前は死んでいいいい奴だからな!」

 剣を大きく構えて、装甲の間を貫いて殺そうとする。

 が。

「原作みたいに死んでたまるかっての!!」

 その剣を腕で弾き、なんと組み付いた。

 グシオンのパワーに捕獲されるバエル。

「なんだと!? 大人しく死ねよそこは!!」

「誰が死ぬか!! 毎度毎度俺のグシオン見かける度に装甲の隙間狙いやがって!! たまには違う方法で倒せよ!! あの死に方は飽きた!!」

 倒されるのは別に良いらしいが、死にかたに一家言あるらしい。

 相手はバエルを捕まえて、仲間と思われる皆を脅す。

「この際悪党らしく振る舞ってやろうじゃねえか!! こいよお前ら! この美しいバエルを壊していいならな!!」

 捕獲して盾にするグシオン。悪党なのは認めるようだが、然し。

「お前、俺のバエルを美しいだと!?」

 シュガーが嬉しそうに反応した。無改造のバエルを見て、グシオンのプレイヤーは。

「おうよ!! バエルってのは何もなくてもカッコいい。お前、見たとこ無改造だろ? 分かってるじゃねえか。バエルを改造しない拘り……俺は好きだぜ」

「そうか……。敵じゃなければ、俺達親友になれたかもな……」

「ああ。悲しいな……」

 何か和解していた。

 取り敢えずどうするか。迷う一行だが。

「お姉さん。シュガーごと殺していいよ」

「ファッ!?」

 ユリンが残酷に処刑決定。

 驚くシュガーを無視して、ユリンは続ける。

「細かいことは気にしないで。シュガーなら問題ないから。展開的に」

「展開って何の展開!?」

 意味のわからない理由で殺される。

 何の事か聞いても。

「えーと、おは……」

「ユリン、それ以上はダメよ」

 アカネに制止される。よくわからない。

 Sfは困るが、アカネも先に進まないから別にいいと匙を投げた。

「シュガー、すぐに話を聞かないから……ノンシュガーにしても問題なくない?」

 ガチムチも反逆した。百合と沙羅のいつものノリで、シュガーこと香苗の死亡確定。

 唖然とするミュウ。この状態で仲間を減らすという選択に。

 本人も青ざめる。即座に意見を言うが無視された。

「いや、あいつって基本的に集団行動向いてないの。好き勝手に暴れるから放置しておいたほうが強いし」

 小声で、ユリンがミュウに説明した。

 一緒にいると、足手まといになるので、ここで一度別れてしまうおうと。

「ちょっと脅かしてあげてお姉さん。後ろの敵狙ってくれればいいから。隙作って何とかする」 

「……分かりました」

 で、それを聞いていたSfの美しいガンプラの処断を始める。

 Sfのガンプラは、EWガンダムヘビーアームズの改造型。

 背面にスーパーバーニアを背負い込み、火力を増強したものだ。

 スクラッチの物らしく、既製品よりも角が多い。

 顔には本人と同じ仮面をつけている。色合いは落ち着いた黒鉄と灰銀。

 バーニアの上部や脚部、腰の正面にはコンテナの追加されている。

 両手の特徴的なガトリングも健在。で、それを全部バエルとグシオンに向ける。

 コンテナ展開。ガトリング始動。全砲口を開放。

「暴れるな、暴れるないでよシュガー……」

「お前はどっちの味方だ!!」

 慌ててグシオンが離そうとするが、その前にヘビーアームズが、フルオープン。

「シュガーさん。お前を殺す」

 決め台詞が決まって、全砲口ファイヤ。

 逃げるまでもなく、飛来するミサイルと弾丸の雨。

 バエルは慌てて防御、多少被弾するがオルフェンズのガンプラなのでダメージは低い。

 逃げたグシオンが問題で、そっちに向かったミサイルが鈍いグシオンに直撃。

 牽制のミサイルも、背後にいた……というか、運悪く軌道に飛び込んできた何か関係のない野次馬のガンプラにも直撃していた。

「私のヅダは……ファントムファイターでは……!!」

「いやあ!? 私のガーベラがぁ!?」

「バカな……私達マイスターが!!」

「ガンダムだけが……広がっていく……」

 数名巻き込まれて爆発していた。

(……あ)

 撃ちすぎた、とSfは後悔した。

 背後の敵を狙ったつもりなのに、まさか割って入るとは。

 混戦だから、仕方ない。素早く破壊されたプレイヤー通信で謝罪しておく。

「おのーーーーーれーーーーー!!」

「俺は……俺はねぇ!!」

「俺は味方なのに、あんたって人はあああ!!」

「トゥ、トゥ! ヘアアアアア!! ……なに、誤射だと!? ぐぁああああああああ!!」

「またかよぉ!? 不死身だからってなんで毎度!!」

「この混戦だ、敵も味方も分かりにくい!! 故に端役の私達は、野次馬は滅ぶ!! 滅ぶべくしてなぁ!! はーーーーっはっはっは!!」

「ヴェアアアアアア!?」

 なんか被害は甚大なようだった。追加で謝っておく。

 一部にキレられた。申し訳ない。盛大にやり過ぎてしまった。

 で、肝心な方は。なんと、あの重厚な装甲が融解を始めていた。

「な、なにっ!? バカな、グシオンが!?」

 驚くプレイヤー。しれっと、ネタバレするSf。

「あ、ミサイルは実はナパームなんです。熱で塗料を溶かすので効くんですよ。驚きましたか? ビームを流せると言えど、ビーム以外の高い熱には弱いんです、ゲーム的に。ですので、もう無駄ですよ」

 仕様の問題であると聞いて更に仰天のグシオンプレイヤー。

 で、そこに追撃。

「刺殺が嫌なら斬殺決定ね!!」

「覚悟するがいい、メタボガンダム」

 嬉々として襲いくるハルートが、ライフル捨ててシザービットを両手に突撃。

 ガチムチのレコードブレイカーXも、素早く接近して、なんと装甲を素手でひっぺがしていた。

 グシオン解体ショーの始まりだった。意外とスマートなフレームに数秒で解体される。

 溶けた部分を取り払い、剥き出しになる中身。

 ため息をついて、アカネも参加。慌てるグシオンに銃口を向ける。

 中身にハサミを突き立てて、コックピットを直撃。

 更にはザンバーで丁寧に剥がれたフレームを切断しておく。

「ごめんなさいね。一応、知り合いの為だし」 

 アカネの止めのライフルが、シザービットを引っこ抜いて逃げるハルートの後を走る。

 結果、中身を貫通した。

「ぎゃああああああ!!」 

 汚いおネエの絶叫が響いて、グシオンは爆発した。

 ミュウは言葉を失った。この面子、普通の人が少ない。

 突撃思考のシュガー、鬼畜で畜生のユリン、なんか天然入ってるSf、意外とゲスいガチムチ、苦労人のアカネ。

 で、キュートなマスコットのミュウ。

 変人奇人の集まりに放り込まれて戸惑う彼女に。

 更なる変態が、世界を飛び越え参上する。

 

「ふははははははは!! 楽しい、楽しいなあこの戦いは!! これぞガンプラバトル!! 俺の求める戦場だァ!!」

 

 見たことのないガンプラが、突然雄叫びをあげて突撃してきた。

 多分、怨念返しの一味なのだろうが……。

「ファッ!?」

「ふはははは!! 此度の戦い、俺は狂おしいほど楽しいぞォ!!」

 動かぬシュガーに急接近して、背中に担ぐ角錐の槍を構える。

 そして。

「くたばるがいい、反逆の使徒よ!!」

 なんとそのままコックピットを推力全開で的確に貫いた。

「うぎゃあああああああーーー!!」

 シュガーのバエル、見事に爆発四散。

 汚い悲鳴が聞こえていた。

 その外道を行ったモノは。

 カスタムのガンプラだろうか。

 原型は全く分からない。背中に複数の槍を背負い、腰には大型のランチャーを折り畳み収納。 

 右手には角錐の槍を、左手にはビームシールドを……サーベルにしている。

「クックックッ……貴様が渦中の人物だな? 漸く見つけたぞ、小さき姫騎士よ……。上手く隠れたつもりだうが、俺の目は誤魔化せぬ。安心するといい、俺は貴様のいう相手ではないが、野次馬として貴様と手合わせ願おうか! さぁ、俺と戦え姫騎士!!」

 なんだか分からないが、乱入してきた野次馬だと簡単に自己紹介する変な男の声。 

 残念だがサウンドオンリーで顔は見えないが、ヤバそうな雰囲気だし、気になる単語を言った。

「姫騎士? ミュウのこと?」

「な、なんのはなしかわたし、わかんないよ」

 黙っていた秘密を知っていると直ぐ様分かってミュウは片言で誤魔化した。

 ユリンが怪訝そうに背後のミュウを見上げるが、目線は泳いで冷や汗を流していた。

「姫騎士……。何だろう、なんか凄いエロい単語に聞こえる。ミュウってそういういけない遊びに……?」

「違うよ!? やめてその大きなお友だちが反応しそうな言い方!! わたしそんなんじゃないからね!?」

 アカネとSfが目付きを鋭くするなか、一番知られたくない相手はバカでよかった。

 ガチムチは何か察したようだが、気にしない。する余裕もない。

「うわー、やだわこの子ったら。成る程、ミュウはむっつりだったのね。スケベなんだから」

「スケベ!? 今まで一番謂れのない事言われたよ!?」 

 別の意味で誤解を招いた。ユリンにガソリンを投入してしまった。

「へぇ? つまりミュウはエッチな子だったと。それで実は有名だったんだね? 隠しているのはそれだったかー」

「違うよ!! 何でそっちにいくの!? わたしなにも知らないよ! 普通だよ!」

「お触りも実は嬉しかったんだな? そうかそうか」

「聞いて、わたしの話を聞いて!! 嫌がってる!! 普通に嫌だってば!!」

 本質には至らないが、また……百合に、餌を与えてしまったのか。

 ミュウは可愛くエッチなむっつりスケベ。妙な属性で固まってしまった。

「みゃあああああ!! 全部あなたのせいだ!! 倒してやる! 倒してやるぅー!!」

 乱入してきた男にやけくそでキレた。

 雄叫びをあげて、秘密を知るであろう、そのガンプラに飛びかかった。 

「ははははは! よくわからんが行くぞ! 俺はゴースト、貴様を倒す男の名だ!!」

 何やら意味不明な私闘にチェンジした、可愛くエッチでむっつりスケベのミュウさんの新たな戦いが始まる。

「誤解を招く言い方止めて!! わたし普通の女の子ですッ!!」

「……誰に言ってるの?」

「ユリン含めて沢山の人に!!」

「?」 

 普通らしい。兎に角、戦いは続く……。



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宇宙の戦い 変態の宴

 

 

 

 

 ――その知らせは、横からボディーブローを叩き込まれたような気分になった。

「ボス、たたた……大変です!!」

 例の連中を観察してデータ採集をしていた五番の者より入電。かなり焦っている。

「どうした?」

 指示を出す黒幕が聞くと、とんでもない事を言われた。

 

「奴が……奴が対象と接触しています!! ゴーストが現れましたッ!!」

 

 ……一瞬、黒幕は思考が停止した。

 何が言われたか、理解できなかった。が、我に返って怒鳴り返す。

「ゴーストだと!? あの野郎がこの場にいるのか!?」

 聞かれ、肯定。黒幕は電脳の世界で初めて胃痛を感じる貴重な体験をした。

 なんで奴がいる。聞いてない。おかしい。

 操縦している奴が何事か聞くと、血の気が失せた黒幕は腹を押さえて呻いていた。

「お前、新入りだから知らないのか……。あいつは、何度かうちと衝突したことのある謎のプレイヤーだ。いや、何なんだろうな本当に……。正確な正体は正直分からん。だが一つ言えることは、奴は普通じゃない」

 げっそりとした黒幕は、抽象的な事を言っている。

 首を傾げる操縦士に、詳細を打ち明けた。

「どこの誰かまでは知らん。情報通で、何故か多くの人間の秘密を握っては揺すりをかけて、戦いを強要するんだ。世界中あらゆる場所に現れては、誰であろうが喧嘩を吹っ掛けて勝負を挑む迷惑な男でな。理由は……戦うのが好きなんだろうよ。強い奴と。強いガンプラと。凌ぎを削って争うのが大好物の変態だ。突然チームに単機で挑んで滅ぼしたり、倒せるはずがないNPC倒したり……。簡単に言うと、あいつはGBFにおける、プレイヤーサイドのバグだよバグ。野次馬に紛れて現れたのか、あるいは例のちっこいの狙っているか分からんが……ヤバイぞ。奴が現れると更に混戦になり得る。奴は普通じゃない。あいつが現れるってことは、恨みのある奴が奴を狙って対象まで巻き込んでカオスになるかもしれないな。……チャンピオンに知らせるか? いや、流石に不味いか。どうするかな……」

 打開する方法を必死に考える黒幕。

 要は野次馬だが、あらゆる場所に現れては無作為に戦いを挑む迷惑なプレイヤー。

 しかも、理不尽に強い。

「奴は楽しむことを優先するからな。早々本気は出さないが……なんでチャンピオンがいるのに、ちっこいの狙ってるんだ? わからんわ、あいつの事は本当に……」

 黒幕の頭脳を持ってしても、解明できない謎の変態らしい。

 ヤバイのがいるが、どうするか迷いながら考える。

 下手すると、こっちに勘づいて襲ってくるかもしれない。

「奴は普通じゃない。野性動物的な、強いて言うならNT的な直感で、面白そうな奴を率先して襲う。こっちも襲われないといいが……」

 何度も奴は普通じゃないと繰り返す。

 そうこうしている間にも、幽霊の襲撃は悪化しているらしい。

 急がないと。どうにかして奴を食い止めなければ。

 いや、それもリスクが大きいと、あれこれ悩みながら黒幕の頭痛と胃痛は激しさを増していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

「ふはははははは!! さぁ、姫騎士よ!! どうした!? 俺を倒すのではなかったか!? だから貴様はまな板と同乗者に言われるのだッ!! このまな板姫が!」

「みゃあああああああああ!!」

 キレたミュウが叫びながら襲い掛かる。

 既に理性は吹き飛んでいた。怒り一色。倒すことしか頭にない。

 ユリンのセクハラを聞いていた彼にまでまな板姫と罵れて、日本にきて初めてマジでキレた。

 今出せる全力で殺すつもりで戦っているミュウ。

「ちょっと!! ミュウはまな板だけど、ただ平たいんじゃない!! ちゃんと膨らみはあるし、触り心地は絶妙なハーモニーで最高なんだぞ!! まな板姫は取り消して! ただの可愛いエロ姫に訂正しろ!!」

「ユリンは黙ってて!! わたしは普通の清楚な女の子です!! 淫乱じゃないもんッ!!」

「……マジ? マジで普通可愛いの女の子? じゃあこれからは固定でお姉ちゃんって呼んでくれたらもう言わない」

「ユリンお姉ちゃん、いい加減にシリアスになって!!」

「ぶはっ……!! キレながらも素直に言っちゃうミュウってば最高……ッ! おっしゃあ、死ねや幽霊! 往生しやがれぇーーーー!!」 

 電子の世界なのに、盛大に鼻血を吹き出して悶えるユリン。

 こいつは未だにシリアスになってなかった。が、悶えながらも手伝いを開始。

 相手のガンプラはからかうように逃げ回り、ハルートは狂ったように銃を撃ちまくる。

 加勢するSfとアカネ、ガチムチの三人も軽くいなしている。

「まさか、あなたがここにいるとは予想外でした。というか、丁度いい。口封じに始末しましょう」

「変態は暗黒に帰りなさいッ!!」

「お祓いしなきゃ」

 念入りに少数ながら持っていた予備のマガジンで充填したヘビーアームズがまたも弾幕を張りながら牽制する。

 ミサイルを今度はしっかりと狙う。ロックして、発射。

 左右に逃げられないように両手のガトリングで弾丸の壁を作る。

「合わせるよ」

「下方は任せて!!」

 上からガチムチが、下からアカネがライフルで援護。

 更には憤るミュウとユリンの操るハルートの弾幕もある。

 擬似的な全方位攻撃。然し。

「弾幕ではなぁ!!」

 強気に叫ぶ謎のプレイヤー、ゴースト。

 得体の知れないガンプラは、背負う槍を射出。

 合計七本の槍を自分の周りに滞空させて、そのまま高速で回転させた。

 全ての攻撃が直撃する。爆発する。死んだかと思ったが。

「甘いのだよ……そう、甘過ぎる!! そこでラブコメディしている姉妹よりも甘い!! 貴様らはモンブランよりも甘いなァッ!!」

 意味のわからない例えで凌ぎきった。

 唖然とする三人。槍は再び回転を止めて背中に戻る。

 黒いあのガンプラは……なんだ?

(……ビギナ・ギナだ!! 分かった! あのガンプラ、基盤以外は大半スクラップビルドしてる!!)

 キレるミュウに思いを馳せながらユリンは気がついた。

 全体的に角の少ない優美なフォルム。歴史的には木星帝国の意匠をそこかしこに感じる。

 よく見れば、脚部の一部や腰のサーベルの位置などが、ビギナ・ギナと酷似している。

 更にあの長大な得物は……Gバードか? ネオガンダムの武装を弄って持ち込んだか。

 漆黒の肢体は妖しいながらもこれもまた、美しい。

 背負った七本の黄金の槍が、漆黒とは対照的でよく栄える。

「中身が変態でなければ、お姉さんのガンプラと同じで、綺麗なのにな……」

 独り言を言うとお前が言うなと、ガチムチがボソッと言った気がした。

 そうこうしている間にも、何やら周囲が騒がしい。

 なんか、野次馬がミュウたちに加勢し始めた。

 次々に手を貸すと通信で入れてくる。

「この忌々しい変態ファントムが!!」

 真っ先に飛び込んだのは、デルタガンダムであった。

 サーベルを引き抜き、果敢に飛びかかる。

「あの基地での恨み、返させて貰うぞ!!」

「来たかい、お坊ちゃん!! だが、貴様の斬撃は遅すぎると言ったはずだァ!!」 

 が、簡単に返り討ちにあっていた。

 サーベルの一撃は同じくビームシールドのサーベルで受け止められて、右手の槍で派手に突かれた。

 同時に内蔵のマシンガンの掃射も受ける。穴だらけになって、爆発した。

「え、あの人何をしにここまで来たの?」

 ユリンが唖然とするなか、消えていくデルタガンダム。

「皆で俺を否定するのか……!」

 などと意味のわ分からない事を残して沈んでいった。

 更に増える味方が、次々と変態に襲い掛かる。

「貴様は歪んでいる……! その歪み、俺達が断ち切るッ!!」

「あなたは反省の意思すら持つ気がないのか!?」

「テメェは性犯罪を起こす権化だッ!!」

「万死に値する!!」

 GN系統のガンダムが同時に四機も囲って挑む。

 無論、黙ってみてないで援護はするが……。

「武力によるプレイヤーとの激闘! それこそが俺という存在ッ!! ならばそれが世界の声だァ!!」

 意味のわからない理由で迎撃する。

 またもや射出する黄金の槍。自動で動いて素早く全員のコックピットを先手で貫いた。 

 機能が止まって、漂う四機。ガンダムが同時にかかっていったのに、普通に倒しやがった。

「俺は……ガンダムに……!」

「変態の悪意が……聞こえてくるよ……」

「俺は……嫌だね……」

「僕たちが……負けるのか……」

 GNの綺麗な輝きを残して爆ぜて消えていく。

 またも増える犠牲者。まだまだ周囲が恨みを返すように皆で襲う。

「私闘するなら、環境を考えろォ!!」

「待っていたぞ女装男子ィ!! ヒゲは出ているかァ!!」

 今度はホワイトドール参戦。激しく戦う。支援はするが……。

「ゆにばああああああす!!」

 やっぱり負けた。ヒゲですら勝てないのか。

 というか周囲が次から次へと倒されていくのに、なんで奴は疲弊しない。

「はぁ……はぁ……」

 かなり激しく戦ったからか、ミュウは疲れていた。

 主に精神的に。

「ミュウ、大丈夫?」

「半分ユリンのせいで大丈夫じゃないかも……」

「こら、お姉ちゃんと呼びなさい。自分で約束したでしょ」

 ……気がつけば、どさくさに紛れて、お姉ちゃん呼びを強要されていた。

 ハッとしたら、ニタニタ笑う邪悪な姉が期待を込めて見つめていた。

「ユリン、あんたって人は……」

「ミュウちゃんがそこまで可愛いんだね……」

 迎撃は少し、勝手に増えるチャレンジャーに任せて、避難しておく。

 休憩していくことにした。

「成る程。つまりはユリンさん、あなたは女性が好きなんですか?」

「ううん。ミュウが可愛いだけ。ミュウを嫁に貰うか妹にしたい」

 Sfのヤバめな質問に、ユリンはけろっと答えた。

 そういう意味というよりは、家族的な意味で狙っているとSfは感じる。

 ……主に身体を。

 慌てて否定するミュウに、彼女は言った。

「皆まで言わずとも理解しました。即ち、ユリンさんは変態なのですね」

 ユリン変態確定。今更だった。

 ミュウもそれは否定しない。というか、それしかない。

「失礼な。私はミュウとハアハアしたいだけで変態じゃない」

「それを世間では変態と言うのよユリン?」

「そうそう。ただの変態」

 本人は不服そうだった。それは兎も角。

 馬鹿話で少し休んだはいいが……。向こうを見ると。

「あなたは、あなただけは!!」

「俺達が決めるぜッ!!」

「これでゲームオーバーだ、なんとぉおおおおお!!」

「ダメじゃないか……幽霊はここに来ちゃあ!!」

「必要ないのだ、この戦場に……貴様は!!」

「それが貴様の正義か!」

「これだけの味方……ナイスな展開じゃないか!!」

「衝動のファーストナックルゥッ!!」

「俺たちの声を聞けェッ!!」

「見ろ、幽霊がゴミのようだ!!」

 皆で袋叩きにしているようだった。

 全方位から猛攻を受けており、姿は確認できない。

 今のうちに逃げようと、ミュウが提案した。

 満場一致で賛成して、さっさと離脱。

 だが……。

 

「フッフッフッフッ……。愚かな、ならば食らうがいい我が奥義ッ!! 魂ィィィィィィィィィィィッ!!」

 

 どこぞの武将のように雄叫びをあげる。

 背後で純白の謎の光が爆裂する。思わずミュウは叫んだ。

「何の光!?」 

 知らない。

 が、袋叩きにしていた皆が、ガンプラが破壊されている。

 真ん中で、槍を掲げる変態は仁王立ちしていた。無傷で。

「目が、目があああああ!!」

「なんでさ……」

「お、俺ヴァ……」

「速さが足りない……」

「いや、想像力が足りなかったか……」

 皆様ボロボロになっていた。理屈、不明。理由、不明。

 強いていうなら三國志的な魂の発露。

(……え、三國志?)

 ミュウは驚いた。武将の魂を見るとは思わなかった。

 更に懲りずにまだ取り囲んで襲いかかる。

 Sfいわく、叩かれているほうが運営的にも迷惑なので今回は無視していくと言った。 

 もう気にしないで撤退。で、また背後で。

 

「――たらああああああきいいいいいいいい!!」

 

 光と炎と力と霞の爆発。細かいことは気にしない。

 なんかミュウが知っている単語を叫んでいる気がした。

 もう構っていられない。逃げるようにその場を離れた。

 変態の周囲には、無関係の戦いが続くが、それは別の機会に……。



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宇宙の戦い リーブラ攻略 前編

 

 

 

 

 

 

 混戦を通り越してカオスになった戦場。

 そもそも、この戦いの勝敗はどこだ?

 答えは、これだ。

 

「皆、避けろ!! リーブラの主砲が来るぞ!!」

 

 チャンピオンの警告が、仲間たちに響き渡る。

 その遥か先では、一際巨大なものが浮かぶ。

 四角い主砲のユニットに四ヶ所、菱形をくっつけたような形の宇宙要塞だ。

 中央の砲口に既にエネルギーはチャージが終わっていた。

 艦隊のMSが一斉に散り散りになる。あるいは、防御の体勢に入った。

 そして。

 凄まじいエネルギーの奔流が、野次馬率いる彼らを、飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々はリーブラとは、ガンダムWに出てくる宇宙要塞。

 発売されているなかでも巨大な部類に入るガンプラ。

 大きさはメートルサイズ。緻密な作業と繊細な技術を求めるガンプラの最高峰。

 お値段も因みに万を普通に越える。RGなのだが、幾分大きいので。

 ゲーム的には、母艦として運用できるなかでもトップにMSを収容できており、操作が桁違いに難しいのと機動性が皆無なのを除けば最強クラスの母艦である。

 ただ、仕様として複数のプレイヤーが搭乗する事を必須とされ、意外と扱いは難しい。

 ……こんなものをミュウに向けようとしていたのである。大人げない。ユリンも大人げないが。

 ただ、制約がある以上火力は絶大である。

 連射が出来ずに貯めるまで時間がかかるが主砲の一撃で基本的にMSは大抵死ぬ。

 熱量が違いすぎて、オルフェンズのガンプラすら容易く融解させる。

 ソーラー・レイのようなもので、耐えきれるほうがすごい。

 ……実際、耐えているやつもいたが。

 陽電子リフレクターで凌いでいるMAもいくつかいた。デストロイガンダムとか。

 それも踏まえて改造しているようであった。

「うわぁ……」

 変態から逃げ出した一行は、遠目に見える要塞を見て、ドン引きした。

 見えてはいたが、騒ぎですっかり忘れていた。

 おかげで、野次馬たちもかなり深刻なダメージを受けている。

 回避し損ねた一部が全滅。結構な数が減っている。

 イベント宛らの状況に燃え上がるものもいるが、受けた損害は安くはない。

「ふむ……。奴等の旗艦はあれか。リーブラとはまた、酔狂なものを……」

 母が躍起になって突撃する彼らを見ながら、呟いていた。

 変態に襲われている間に、母は艦隊を沈めていたらしい。

 戦力が合流しないように、分断しておいてくれた。

 近くに来た母に、変態の襲撃を教えておく。

「ゴースト? 何しに来たんだ奴は……。まあ、騒ぎに気がついて現れたか。放っておけ。気が済めばじきに消える。下手に相手するのも難しいぞ。奴は化け物だからな。というか、よく生きてたなお前ら」

 芝居のような口調から、普段に近い口ぶりで話す母。

 ……まるで悪役の魔女のような姿で、妖艶なドレスを纏い、頭にはなぜか小さな獣の耳がある。

 これが母、コード・アメリアス。チャンピオンにして、不死鳥の片割れ。

「途中で逃げてきたよ……」

「ユリンにしては妥当な判断だ。打倒しようとしても遊ばれるだけだ。迷惑な奴には構う必要はない。私も正直、鬱陶しいから相手したくないしな」

 チャンピオンにここまで言わせる変態とは何者なのか……。謎は深まるばかりである。

 それは兎も角として。

「遅いから、皆と一緒に結構減らしておいたぞ。お前ら、変態に襲われて合流できなかったのか? 災難だったが、どうする? リーブラとなれば、私もそこそこ本気にならないといけないが」

 母は、あくまで私用で参戦するので加減はしていると言った。

 大人の事情と言うものらしい。

「マダム。此方も消耗しています。集団で行動した方が無難かと」

 Sfがそう、提案する。アカネの知り合いと聞くと、苦笑いして言った。

「その提案は尤もだ。……然し、見たことがあると思ったら君か。お勤め、お疲れ様」

 母はガンプラをみて、何かを思い出したようだった。

 Sfも軽く会釈して、通じていた。

 意味のわからないユリンやミュウ、ガチムチに母は語った。

「彼女たちはプレイヤーの悪質な行為を取り締まる運営の一員とは聞いたな? お前らが出会ったゴーストのような例外は除いて、基本的にはこんな騒ぎには必ず誰かを寄越すんだよ。監視を含めてな。今さっき、君の知り合いも見かけたぞ?」

 と、母は言った。誰のことかと思えば。

「安室だ。私の知り合いでな。お前も一度共闘したと聞いたぞ。強かっただろ?」

「安室さんが!?」

「鋼鉄ガンダムが、運営の人!?」

 二人は驚く。初代ガンダムを改造した鋼鉄ガンダムという名前の安室という人物。

 見た目は変な顔のサイボーグだったが、運営の人だったようだ。

「鋼鉄ガンダム……? あ、聞いたことある。口悪いけどヤバイぐらい強い人だっけ」

「ガチムチも知ってるだろ? 口癖が死ねぇ、のあいつだ」

 兎に角死ねと連続して罵倒をする問題のある人物だが、それはお前を殺す的な意味合いらしく。

 初代ガンダムにマグネットコーティングと銘打った謎の超技術で改造しており、マグネットファングというファングを始めとして矢鱈暑苦しい武装を多々積んでいる。

 拳をマグネットコーティングで飛ばすフィストボンバー、独りでに飛んでくるマグネットバズーカ、ファンネル宜しく勝手に動くマグネットランサー、胴体から回転するビームを出すビームストーム、必殺技はマグネットコーティングを全開にして、磁力で相手を引き寄せて、思い切り抱き締めて粉砕するマグネットブレーカー。

 死ねぇと叫んで抱き締め殺すのが奥義だと言っていた。意味がわからない。

 Sfとも顔見知りで、こういう状況をいち早く掴んでは不利な方に味方する。

 顔と口は悪いが。

「リーブラの様子は見てきてある。正面突破は、無理だ。装甲が分厚すぎる。PSを最大稼働させているのか、何にも効かん。ジェネシスでも相手している気分だよ」

 成る程。PS装甲を大きさに見あった出力で稼働しているのか。

 実弾だけではない。あの大きさともなれば、ビームですら跳ね返す鉄壁となる。

 熱系統の攻撃にも対応しているようで、参ったと朗らかに笑ったチャンピオン。

 笑っているのは母だけで、皆途方にくれた。弾幕は厚いし、まだまだ十分MSは積載している。

 余力は十分なのに、どうすればいいのか。時間がかかるが主砲も生きているのに。

 と、母は敢えてユリンに聞いた。お前ならばどうする、と。

 で。

「内側からぶっ壊す」

 と、あっけらかんとユリンは言った。実はこれ、的を射ていた。 

 リーブラというのは、リアルで巨大ゆえ、中身までしっかりと作られている。

 故の敷居の高さ。ゲームでは、内部まで作り込めば最強の存在となろう。

 だが、逆を言うと。

「リーブラは作るのに本当に時間と手間がかかる。素人が生半可に作ると、意外と中身は脆いんだ。うちの旦那も挫折したしな。掻い潜って内側のハッチから侵入して、格納庫を破壊して、そこから連続して内部から壊せば勝てる。というか、それしかないな。主砲の再充填まで時間も無さそうだ。どうする? 乗るか、ユリン、ミュウちゃん。お返しはしたいだろう?」

 余計な手間が入ったせいで忘れていたが、元々はこれは私闘である。

 つまりはお祭り騒ぎになっているが、そんな大層なものじゃない。

「後始末は任せてください。私が責任をもって、仕上げておきます」

 何やら事情があるのか、Sfが言うのでお任せして。

 他の艦隊は、リーブラ以外はほぼ壊滅している。

 旗艦であろうリーブラのなかに、他の艦隊のMSが逃げ込んで応戦しているようだ。

「じゃあ、リーブラぶっ壊せば勝ちってこと?」

「一応な。このばか騒ぎの収束は、リーブラの撃墜だろうと私は読むが。お嬢さん、あとは頼めるかな?」

「マダムに言われるまでもなく。これは、私のお仕事ですので」

 母は、運営の人として言っているが、Sfは抑止力として言っている。

 微妙にずれているが、気付いているのはアカネ一人だ。

(……本当に頼むわよ。こんな騒ぎ、何度もしてたら私だって危ないんだから……)

 内心、周囲の反応が宜しくない方向に行っているので、速めに終わってほしいアカネ。

 それはSfも理解しているから、倒しに向かった皆を見送り、一度残る。

 適当に、漂っていた残骸の影に隠れて待つ。

 この場にいるであろう、大本の人を端末で呼び出した。

「あぁ!? 誰だこの忙しいときに……って、Sf? なんかあったか?」

 それは、自分の仕出かしたことは自分でけじめをつけようとして、お忍びで来ていた黒幕だった。

 何やら裏返った声をあげているが……。Sfは表情を変えずに用件を手短に言った。

「至急、確認したいことが。この騒ぎの司令塔はリーブラであってますか?」

「指示出してる旗艦って意味か? あぁ、リーブラだろうな。あれ、指令系統強化してあるって話……うわぁ!?」

 画面が派手に揺れる。焦る黒幕は、複座の後ろで指示を出していたようだが。

 前の方で、操縦士の悲鳴が聞こえる。

「ボスッ!! ヤバイですよ、護衛倒して幽霊がこっち狙ってます!!」

「マジか!? 逃げられるか!?」

「……待ってください。誰か来ました……やった、鋼鉄ガンダムです!!」

 さっきの変態が向こうに向かっていったらしい。

 同時に聞こえる変態の雄叫び。と、

「ふはははははは!! 封じられるかなぁ、このゴーストをォ!!」

「ふざけるな! たかが貴様のような亡霊一つ、鋼鉄ガンダムで封印してやる!!」

「上等じゃないか鋼鉄ガンダムッ!! 噂に違わぬそのマグネットコーティング、見せてもらおうか!!」

「言ったな!? だったら好きなだけ風通しを良くしてやるぜ!! マグネットコーティング、オン!! 死ねえ!!」

「魂ぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 ……なんか例の安室が戦っていた。

 やっぱり監視の相手にはなるようだった。

「よし、ゴーストは鋼鉄ガンダムに任せておけ……で、何だっけ!? 応援が要るのか!? なら、うちの連中を寄越すから共闘させる! 余計なことは言わない傭兵だから、安心してくれ!!」

 黒幕は、幽霊たちから逃げながらそう切り出した。

 今回は少数精鋭できていると聞いていたが、やはり責任は感じているようで。

「これに懲りたら、もう少し方法を考えてくださいね」

「分かってるよ……。自分でやっておいてこの様だ。今回は素直に詫び入れるさ。あのちっこいのに、必要あったら手を貸すからさ。お前、顔知ってるだろ? もしも、このゲームや学校で何かあれば教えてくれよ。お前通じてで良いから。あの野郎の関連以外なら、無償で助ける。……迷惑かけたからな。悪いと思っている以上は、筋を通す。ま、卑怯な私が言うのも何だがな」

 今回は随分と素直に非を認めた。普段ならば、少しはごねるだろうに。

 Sfは、自嘲する黒幕に、こう言った。

「ミュウさんに関しては、全面的にあなたが悪いです。しかし、己の非を認める潔さも覚えてくださいね」

「ああ、分かってる。私にだって、隠したい過去はある。……暴かれる痛みを忘れた訳でもあるまいに。我ながら馬鹿なことしたもんだ。使えるからって、何してもいい理由にならねえのによ。反省しないとな。悪かったっていっておいてくれ。聞いちゃあ、貰えないだろうけど」 

 やはり反省はしていると思う。

 これ以上は言わないが、こういう乱闘騒ぎに発展しないように雇い主として、しっかりと教育もお願いしておく。

「肝に命じておこうかね。……よし、頼めるかお前ら」

 連れてきていた約二名を、追加で出すらしい。

 声をかけると。

「雇われた以上は、最低限の仕事はするさ」

 一人はクールに了承して。

「追加で仕事? 報酬は?」

「今回は私の不手際だ。学食……そうだな、一番高いランチ一週間」

「乗った。一週間なんて言われたらやらないわけにはいかないな」

 一人は報酬とさえあれば共に、リーブラの制圧を手助けするようだ。

 二人の男を向かわせると言って、合流のポイントを指定。

 そこに向かっていくと言われて、通信を終えた。

(頼みますよ。こういう大事になると、茜が堪えられなくなるので……)

 茜を怒らせると破滅してでもお返しを実行しかねない。

 鬱憤を自爆に転嫁する可能性が最近では否定できないのだ。

 危ういバランスで保つ均衡。刺激は控えてほしいと思うのだが、言っても無意味だろう。

 胃痛をリアルで感じるかもしれないと思いつつ、彼女は指定の場所に飛び去っていく……。



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