ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~ (ディア)
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第1R 追放からの覚醒

サンタクロースに変わってディア推参!

ということでまたしても新作投稿です。この小説を書いたきっかけは単純にウマ娘の二次小説を愛する読者の皆さんにクリスマスプレゼントとしてお贈りしたかったからです。作者のクリスマスプレゼント? そんなものはこの小説を思い浮かんだ天啓だよ。

尚、クリスマスプレゼントついでにウイポ7の裏技というか小ネタ。トキノミノルやオーモンドと名付けることは出来るのにカスケードと名付けることは出来ない。


ウマ娘。異世界の競走馬達の名前と魂を受け継いで生まれてきた少女達のことで彼女達は超人的な走力を持ち、その力を発揮すべくトレセン学園に在籍し、国民的スポーツ・エンターテイメント「トゥインクル・シリーズ」への参加に向けて特訓に励んでいる。

 

 

 

神秘性すらも感じさせる青髪のウマ娘もその例に洩れず特訓に励んでいたが突如倒れ、病院で入院することになった。

 

「お前はもうチームから追放だ。デビュー前に倒れるような軟弱な奴はこのチームに向かん」

 

病院のベッドで横たわる青髪のウマ娘にトレーナーは冷酷にそう告げた。

ウマ娘はチームに所属し、そこのトレーナーに指導及びレース登録する。つまりチームやトレーナーあってこそのウマ娘であり、それらから見放されれば死刑宣告を告げれたも当然だった。

 

「……わかりました」

 

顔をうつむかせながら答える青髪のウマ娘の名前はアイグリーンスキー。彼女は過剰なトレーニング、寝不足による貧血、その他諸々の理由で倒れてしまった。アイグリーンスキーも体調管理はなってなかったと自覚しているし、チームにも負担をかけてしまったとも自覚している。

 

しかし体調管理云々以前にハードトレーニング過ぎた。彼の所属するチームは一流のウマ娘も集まり多数のGⅠレースも獲得しているのだが、ほとんどが故障による引退。中には命すらも落としたケースもある。アイグリーンスキーをはじめとしたウマ娘達はそれでも強くなれるのであれば彼のチームに所属し、彼を信頼してトレーニングを積んで強くなろうとした。その代償がチーム追放であり、アイグリーンスキーはその理不尽さに拳を握りしめる他なかった。

 

「じゃあ一応伝えておいたからな。これ以上お前に付き合う義理はない」

「……ありがとうございました」

 

感謝の言葉を口にしながらも声が震えており、怒りを隠しきれず彼の背中を憎悪を込め、睨みつける。今の彼女に出来ることはこれ以外になかった。

 

 

 

「……何がいけなかったんだろう。何とかしないと」

あのトレーナーの指導か、あるいは勉強のしすぎによる寝不足か、それ以外によるものか。アイグリーンスキーは天井を見つめながらそれを考えるといつの間にか目を閉ざしていた。

 

『そう焦るなよ』

 

声が響き、アイグリーンスキーが目を見開き辺りを見渡すが誰もいない。いるのは自分一人だけだった。

 

「気のせい……?」

『気のせいじゃねえ。お前に話しかけているんだよアイグリーンスキー!』

どこからともなく声が響く。しかしやはりと言うべきか辺りを見渡しても誰もいない。そこへ再び声がかかった。

『俺はお前自身だから辺りを見渡したところで俺はいねえよ』

「私自身?」

『おうよ。俺はお前の前世の魂だ』

その声の主はアイグリーンスキー自身を騙る者であった。

 

「ぜ、前世?」

そんなことがあるのだろうかとアイグリーンスキー(ウマ娘)が思考した。

『そもそもウマ娘ってのは異世界にいる競走馬が生まれ変わった姿なんだ。そして競走馬だった俺が転生したのがお前だ』

「はぁ」

生返事でアイグリーンスキー(ウマ娘)がそう答える。もしこの話しを彼女だけではなく別のウマ娘達に話しても理解出来るかどうか怪しいものであり、まだ年若いアイグリーンスキー(ウマ娘)も理解していなかった。

『何が何だかわからねえって感じだな? 歴史の授業で習っただろ。ウマ娘の遠い先祖は四足歩行の動物だって。人間と触れ合ううちに二足歩行に進化したのがウマ娘になった訳だ』

 

「うん……」

『ところがだ、二足歩行に進化しなかった世界がある。それが俺達の世界だ。四足歩行のまま長距離を走ることに特化したのが馬、つまり俺達の遠いご先祖様。そこから更により速く走ることに特化したのが俺達競走馬だ。その競走馬の生まれ変わりがウマ娘なんだよ。実際俺が知る競走馬もウマ娘になっているしな』

「ほへー。本当にそんな世界があるんだ」

感心した声でアイグリーンスキー(ウマ娘)が頷く。

 

『話しを戻すぞ。お前が焦る必要がないのは俺だってジュニアCに相当する年齢でデビューしたんだから、現時点で学年末とはいえジュニアA組のお前が焦る理由はない』

「でも!」

『宝塚記念、凱旋門賞、JC(ジャパンカップ)、有馬記念、これらのレースをデビューした年で制したんだ。同期の三冠──つまり皐月賞、東京優駿、菊花賞を制した奴を差し置いて年度代表馬、この世界だと年度代表ウマ娘に相当する賞を貰ったんだ。そんな俺の言うことを聞けないのか?』

 

ここでアイグリーンスキー(ウマ娘)は考える。このアイグリーンスキー(競走馬)の言うことが本当であれば、現役ウマ娘最強のシンボリルドルフを凌ぐことになる。

シンボリルドルフは歴史上初めて無敗で三冠を制した日本史上最強とまで言われるウマ娘である。しかしその彼女ですら凱旋門賞どころかジュニアCでのJCを制覇することが出来なかった。そんな彼女がデビューしたのはジュニアBの後期に差し掛かったあたりであり、それを少し遅らせるだけでそんなビッグタイトルを獲得出来るのであれば、名誉欲の強いアイグリーンスキー(ウマ娘)なら首を縦に動かす。ましてやその年の三冠ウマ娘を差し置いて年度代表ウマ娘になるのであれば尚更だ。

 

「………………聞く」

アイグリーンスキー(ウマ娘)がその誘惑に負け、縦に頷くと機嫌を良くしたアイグリーンスキー(競走馬)が声を響かせた。

『それで良い。そもそも俺がこうやって話せるだけでも有難いと思えよ? レース展開やペース、トレーニングを教えられるんだからな。特にトレーニング指導はトレーナーのいない今のお前にとって一番必要なものだろ?』

「それは確かに……」

『流石にウマ娘特有の走り方の指導は無理だが、大体のことは教えられる。何せ俺は生涯負けたのは3戦だけだしな』

「無敗じゃないんだ……」

 

『まあそういうことだ。一緒に歩もうぜ、アイグリーンスキー』

「でも貴方のことはなんと呼べばいいのかわからないのだけど」

『む。それもそうか……長男には雷親父、末っ子にはクソ爺だの散々な言われようだったからな……』

「私ってそんな競走馬の生まれ変わりなの!?」

 

アイグリーンスキー(ウマ娘)が「ウソでしょ……地震雷火事親父のうち二つ付くなんてあり得ないし……何が一体どうしたらそんなアダ名になるの?」などとぶつぶつ言いながら影を落とし落ち込む。もちろんそれをアイグリーンスキー(競走馬)はスルーした。

 

『よし決めた。先代でどうだ。前世だと語呂悪いし、先代なら呼びやすいだろ? 二代目』

「それじゃ宜しく先代アイグリーンスキー」

こうしてウマ娘アイグリーンスキーは競走馬アイグリーンスキーの力を借り、デビュー戦までの調整をすることになった。

 

 

 

「まあ、もっとも私が倒れたのは過労によるものだから、一週間も経たずに退院出来るんだけどね」

『それはごもっともだ』




クリスマスプレゼントということでこの小説を書きましたがお楽しみ頂けたでしょうか? お楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。


後書きというか蛇足。

私は浮気症で他の小説を書いたりしますが新規投稿する前に4話くらい書いてから予約投稿することにしてします。そうでもしないとモチベーション維持出来ませんから……
この小説も然りで次回は28日に予約しています。次回もお楽しみにして下さい。

尚、これよりウマ娘の方は二代目、魂の方は先代と表記していきます。

ちなみにこの小説は青き稲妻の物語という私がハーメルンとなろうの方で投稿させて頂いている小説とウマ娘のクロスオーバーものであり、この小説の主人公はその小説の主人公の父親です。
このアイグリーンスキーの血統が知りたい方は青き稲妻の物語で知ることが出来ますが、次回の前書きに父と母、母父の三頭の馬を記載しますので次回もぜひ見てください。


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第2R 覚醒の実感

ご拝読ありがとうございます! という訳で約束通り前世の主人公の血統を明らかにします

アイグリーンスキー
父 ニジンスキー
母 アイヴィグリーン
母父 グリーングラス



~前回の粗筋~

主人公「追放されたら魂の自分と話せる件」



アイグリーンスキー(ウマ娘)こと二代目が退院し、トレセン学園に戻るとそこで待っていたのは歓迎ではなかった。トレーニングをしようとトレーニング場に入る許可を取ろうとすればチームに所属していないので拒否され、図書館で本を借りようと手を伸ばせば他のウマ娘に横取りされ、食堂に行けば空いている席がない。

 

 

 

そんな彼女の居場所はただ一つ、自分の部屋だった。

「先代……どうしよう、こうも八方塞がりだと何も出来ないよ」

『座学に関しては教科書を読んで説明出来るようになればいいが、それはお前次第だ。トレーニングに関しては俺が指導してやるって言っているだろ』

「トレーニングってどこでやるの?」

 

『川だ』

「……はい?」

二代目がたった一単語のみで思考を停止させた。それを見たアイグリーンスキー(競走馬)こと先代が声を響かせた。

 

『川を泳いでとにかく体力をつけろ。確か許可さえ取れれば外に出れるはずだ』

「そんな無茶苦茶な……それに許可なんて取れないよ」

 

『ごちゃごちゃ抜かすな。抜かしていいのは前を走るウマ娘だけだ。気合いでも何でも外に出るように言いやがれ! どうせここの施設は使えないんだ。ならここにいるだけ無駄だ』

 

先代の言うことは正しく、このままトレセン学園に居ても何もすることがなくただ腐っていくだけだ。それをわからない二代目ではなく、代案を出すことにした。

 

「じゃあ、チームに所属出来たら別のトレーニングメニューを考えてよ! 流石にこの季節で川に入るなんてことしたくないから!」

『出来たらな。諦めの悪い野郎だ、いやウマ娘だ。そんなことは無駄だってのに』

「そんなんだからクソ爺って言われるんだよ」

『クソ爺は止めろ。クロスを思い出す』

そして先代の気配がなくなると、二代目はため息を吐き、歩き始めた。

 

 

 

「アイグリーンスキー!」

歩く二代目を止めたのは鹿毛の前髪にメッシュの入ったウマ娘であり、それは現在誰もが憧れる生徒会長、シンボリルドルフその人──ウマ娘である。

「シンボリルドルフ会長」

『こいつがシンボリルドルフなのか』

先代がウマ娘となったシンボリルドルフを品定めするように沈黙すると納得したように二代目の中で声を響かせる。

『確かに似ていなくもないな。セイザ兄貴を擬人化したらこうなるんだろうな』

 

セイザ兄貴とは誰なのか。それを先代に尋ねたかったがここで喋っても先代の声は他のウマ娘に聞こえない為に、シンボリルドルフに不審に思われるだけで後で尋ねることにした。

 

「なあアイグリーンスキー、私の所属するチームリギルに所属しないか? 丁度募集していたところだ」

「ぜ──」

『妙だな。シンボリルドルフほど名前が知られているならそのミーハー達が尻追いかけて所属しようとするはずだから定員割れを起こさないはずじゃないのか?』

 

二代目が条件反射で答えようとするとそれを防ぐように先代が脊髄反射で口を挟む。確かにシンボリルドルフの名前は学園中で知れ渡っており定員割れを起こす事態は稀にしか起こらず、そんなことが起きれば大ニュースになるだろう。

 

「チームリギルに何があったんですか?」

「リギルに所属していたウマ娘がとある事情で引退してな、急遽枠が出来た」

「引退!?」

 

「そこでおハナさん──チームリギルのトレーナー──がチームギエナを追放されたお前のことを聞いたらしく、気に掛けていた」

『リギルのトレーナーも見る目があるじゃねえか。末っ子達の時代は年間GⅠ4勝する奴はアホみたいに増えたが、俺が現役時代の時は年間GⅠ4勝するどころかGⅠ4勝出来る奴は滅多にいねえ。俺は年間GⅠ4勝したからその素質を勝ったんだろう』

GⅠを4勝するだけでも超一流だというのにそれをたった一年間でこなしてしまう馬がいる。そのような馬は三冠と同じ以上の価値があると言っても過言ではなく、先代が同期の三冠馬を押し退けて年度代表馬となったのもそれが理由だ。

 

「私はお前を純粋に評価している。チームリギルのテストを受けてみないか?」

「わかりました受けましょう」

「受けてくれるか。明日の午前10時に東京競バ場で行われる。遅刻は厳禁だ」

「何円払えばいいんですか?」

「……罰金じゃない厳禁だ。厳格の厳に禁止の禁と書いて厳禁だ」

二代目のボケにシンボリルドルフが口元を表情筋で抑えながらツッコミを入れる。

「そっちの厳禁なんですね。わかりました。それではよろしくお願いいたします」

そして二代目とシンボリルドルフが別れるとしばらくの間、厳格で知られている生徒会長の部屋から笑い声が聞こえるという摩訶不思議な現象がトレセン学園七不思議の怪談の一つになったのは余談である。

 

 

 

そして翌日、そこにはチームリギルに所属を希望するウマ娘達が殺到した。

『二代目、予想以上の数だな』

「でも関係ないよ。レースは一着以外全て負け。この中で一番速いウマ娘を抜かせば勝ちだよ」

『それはそうだ』

「私が欲しいのは一番人気じゃない、一着だよ」

『どこかで聞いたことのある名言だな』

先代がそう呟くと名前を呼ばれ、二代目がそこへ向かう。

 

「ではこれより試験を始める」

リギルのトレーナー、ハナが声を出しここに集まったウマ娘達に説明し始めた。

「これからお前達には日本ダービーやJCと同じ条件の模擬レースを行ってもらう。簡単に言えばこの東京競バ場で2400mのタイムトライアルレースだ。その結果を参考に二名、チームリギルに所属内定を決めさせる。尚、この内定を蹴っても構わない上に今後リギルの所属テストを受けさせないというような不利を与える訳ではないので安心して欲しい」

その寛大な処置にウマ娘達が騒然とする。それもそのはず、チームの内定を蹴ることはそのチームに対する裏切り行為そのものである。裏切り行為にも関わらずそれを許すあたり、ハナは優れたカリスマの持ち主であるとウマ娘が思ってしまうのは当たり前だった。

 

「ゲートには奇数番号の若い順から偶数番号の遅い順に入ってもらう。1番から入れ」

「はいっ!」

一番のウマ娘が元気よく返事をすると、次々とウマ娘達がゲート入りし始める。

「8番!」

そして二代目が呼ばれ、ゲート入りするとその隣にはいつも話し相手になっているウマ娘がいた。

『二代目、右隣のこいつはめちゃくちゃ強いぞ。こいつが一番のライバルだと思え』

「うん。頑張るよ」

「?」

ぶつぶつと独り言を言う二代目に隣のウマ娘達が首を傾げる。そんなウマ娘を他所に、ハナが全員ウマ娘をゲート入りさせ終わり距離を取り始めた。

 

「位置について!」

ハナの掛け声に全員の顔が引き締まり、片腕と逆脚を前に、もう片腕と脚を後ろにし構えた。

「よーいスタート!」

そしてハナが合図を出すとゲートが開き、ウマ娘達がスタートダッシュを決めた。

 

 

 

『さて、二代目。わかっていると思うが若葉を咥えたウマ娘をマークしているんだろうな?』

「当然。ナリタブライアンでしょ」

隣のゲートにいたウマ娘もといナリタブライアンの後ろにピッタリマークする二代目が答える。

『前世ではシャドーロールの怪物と恐れられた競走馬だ。朝日杯3歳S──こっちの世界でいう朝日杯FSとクラシック三冠を勝っている。晩年はレースのローテーションが酷くてGⅠ勝利は出来なかったが、俺が最初にJCを勝つまでは最強馬と言われていた』

「それで?」

『奴の勝ちパターンは中団待機からの差しだ。差した後は手を抜かず、ひたすら千切って差を広げる豪快な勝ち方で一番相手にしたくない馬だった。おそらくこいつもそうだろう』

「……弱点は?」

『今の二代目じゃ敵う術はただ一つ、奴が加速したところでバ体を併せて競り合いをしろ。ナリタブライアンは全盛期以降ならともかくデビュー当時は臆病な馬だったんだ。今の奴もその可能性がある。それで怯まなかったら諦めろ』

「ペースとかそんなのは?」

『俺が何も言わない時点で察しろ』

「うへぇ……」

 

 

一方その標的であるナリタブライアンは二代目がぶつぶつ独り言を呟いていることに気味悪さを感じていた。

 

「(グリーンの奴、チームギエナを追放されてからずっとあんな感じだが一体何なんだ? まるで何か得体の知れないものと会話をしているかのようだ)」

 

そして二代目をナリタブライアンの視野に入れようとするとそこにはおらず、ますます不気味さが増していく。

 

「くそ、やりづらいな」

 

ナリタブライアンがカーブし視野を広げても二代目の動きは見えない。まさしく幽霊を相手にしているような感覚にナリタブライアンが悪寒を覚え、残り1000m以上あるにも関わらず仕掛けた。

 

 

 

『ブライアンが仕掛けた? やはり若いな』

自分が元凶とは知らずに、先代が喜びの声を出す。

『二代目、残り800mで仕掛けろ! ナリタブライアンが自滅した以上、それさえすれば勝てる!』

「了解!」

ウマ娘達が、突然二代目の声に驚き二代目に注目をする。その瞬間、二代目が下がった。

「えっ!?」

驚き二連発と言わんばかりにウマ娘達が二代目の動きを目で追いかけるが、同時に前に行き始めたナリタブライアンを捉える為にそちらに視野に入れなければならず二代目を視野に入れることをしなくなった。

 

 

 

「(何をしたかと思えば敢えて遅くして外に持ち出しただと? そんなもんアタシの豪脚でぶっちぎる!)」

それを唯一、一部始終見ていたウマ娘ヒシアマゾンが上がっていった二代目をマークするように仕掛ける。

「……だよね」

ヒシアマゾンのことなど眼中にないと言わんばかりに二代目が独り言をぶつぶつと呟く。それを聞いたヒシアマゾンがキレた。

「てめえ、アタシを無視すんじゃねえぇぇぇっ!」

 

 

 

『くそっ! まさかこいつが大声を出すとは誤算だった。お陰でナリタブライアンにバレた!』

先代の作戦がヒシアマゾンの短気によって崩され、先代が舌打ちをする。

「まだ慌てるのは速いよ!」

「何っ!?」

二代目が声を出した瞬間ヒシアマゾンが声を出す。

「私の目標はこの中で一番最初にゴールすることだよ。アマちゃんをマークしていないのはそうだけど無視していないって訳じゃないんだよ!」

二代目が声を荒げ、ヒシアマゾンを突き放し、ナリタブライアンに迫っていく。

「くそっ待ちやがれ!」

それを許すヒシアマゾンではなく、差し替えそうと捲り、スピードを上げていくがそれでも追い付けない。

「グリーンの野郎、あそこまで速いなんて……予想外だ」

自分以上の豪脚を持つ二代目にヒシアマゾンの心が折れ、三着止まりとなった。

 

 

 

残り200mとなったところでナリタブライアンと二代目が並んだ。

「さあナリタブライアン、勝負!」

「……上等!」

『アマゾンのせいでナリブの野郎にバレたのは痛いがナリブも自滅したから五分五分ってとこか。後は二代目の脚次第だ!』

二代目とナリタブライアンの競り合いに誰もが口を挟めない。それは三番手まで上がってきたヒシアマゾン、そして二代目の中にいる先代とて然りだ。

「まだまだっ!」

「あんたの心へし折ってやる!」

ナリタブライアンと二代目が三番手以降を突き放し、凄まじいデットヒートを繰り広げる。その様子はまさしく有馬記念のトウショウボーイとテンポイントの一騎討ちそのものだった。

「負けてたまるかぁっ!」

「絶対に勝ってやらぁっ!」

そんな彼女達二人のうち一人に勝利の女神が微笑んだ。

『今だ、てめえの闘志を力に換えろ!』

先代のアドバイスに従った二代目が脚に全ての力を込め、踏みしめると僅かにナリタブライアンより先行し、ゴールした。




はいこの第2Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2018年12/31です。

そう言えばS濃すぎさんが書かれている【STARTINGGATE-ウマ娘プリティーダービー-】で発掘作業着を着たスペシャルウィークを見た作者の感想がこんなん

作者「ミスタープロスペシャルウィークやないかい!」

以上、ミスタープロスペクター(金の採掘者)とスペシャルウィークをかけた駄洒落でした。


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第3R 試合と勝負の結果

前回の粗筋

アマゾン「アタシは蚊帳の外か!?」
ナリブ&主人公「絶対に勝ってやる!」


「一着 アイグリーンスキー。二着 ナリタブライアン。三着 ヒシアマゾン。四着 エアダブリン。五着 スターマン」

以降、次々とゴールした順に名前を呼ばれ、先代が口を挟む。

 

『ふぅ~、勝ったか。ヒシアマゾンに邪魔された時はヒヤッとしたが流石俺と同じ名前を持つ二代目だ』

「先代、最後はありがとう。あれのお陰で勝ったよ」

先代の遠回しな自画自賛を無視して二代目が先代に頭を下げた。

『最後のは俺のお陰とは言いがたい。あれはチームギエナの根性論がお前の身に染みていたから出来たことだ。もしチームギエナにいなかったら負けていただろう。皮肉なことにな』

「そう言えば競り合うウマ娘は皆潰せがギエナの方針だったね……」

 

二代目がうんざりした顔でチームギエナの時にいた頃を思い出す。今思い出すだけでも超が二つ三つ付くほどスパルタでそこにいたウマ娘達はよくチームを離脱しなかったなと思えるほとであった。その前に辞めさせられているのが事実だが。

 

 

 

ウマ娘達がゴールしてからしばらくしハナがウマ娘達を集め口を開いた。

「さて今回の模擬レースの結果を元に、内定者を発表する」

ウマ娘達が上位二名である二代目とナリタブライアンを見つめるが予想外の名前がハナから放たれた。

「ヒシアマゾン」

「え、アタシ!?」

ハナの口から出てきたウマ娘の名前は三着になったヒシアマゾンだった。ヒシアマゾン自身もこれには予想外でハナに視線で問い合わせるとハナがそれに答えた。

 

「ヒシアマゾンは荒削りかつ豪脚のみで三着に粘ったことを考慮し、成長力があると見込んで内定者にした」

「じゃあ、アイグリーンスキーかナリタブライアンかのどちらかが落ちたってことになるけどそれは一体?」

「アイグリーンスキーだ。内定者はナリタブライアンだ」

 

はっきりとハナが告げると二代目が涙目になり、それを先代があやす。その様子はまさしく親子のようだったが、先代の姿どころか声すらも誰にも聞こえないのでただ二代目がぶつぶついいながら泣いているだけだった。

 

「……何故ですか?」

「ナリタブライアン、それを聞くのか?」

「はい」

「良いだろう。ナリタブライアン、お前が負けた理由は前までチームに入っていたかいなかったかの違いだ。もしお前がチームに所属していれば早仕掛けも僅差で負けることもなかった。何も所属していなかったにも関わらず僅差まで追い詰めたお前の素質を評価して内定者にしたんだ。アマゾンも同じ理由だ。以上だ、他に質問あるか?」

「……ありません」

「では解散!」

その声にウマ娘達が解散しナリタブライアンとヒシアマゾンの二名以外はふらふらと足取り重く帰宅することになった。

 

 

 

「チームに所属していたら不利なんて聞いてないよ……」

シンボリルドルフに推薦され一着でゴールしたにも関わらず、リギルに所属することは叶わず。どれだけこの世界が理不尽な世界かということを二代目は知る。

『どうやら天の神様ってのは何が何でも二代目の指導者を俺にしたいらしいな。それともチームギエナのトレーナーが根回しをしているのかのどちらかだが』

「……先代、聞いていい?」

『言ってみろ』

 

「先代の世界ってどんな世界なの?」

『ウマ娘がいない代わりに競走馬がいるってこと以外は基本的にはこっちとそう変わらないな』

「そうなの?」

『ああ。こっちの世界でウマ娘用の固定電話や携帯電話の機能があるって時は驚いたぜ。それに荷物を運ぶのに適した馬がいないのにここまで文明が発達したのも驚きだ』

 

「じゃあ質問を変えるけど、先代が競走馬だった頃、こっちの世界でいうトレーナーはいたの?」

『ああいたぞ。調教師、厩務員、調教助手の三種類の職員がトレーニングや体調の管理をしていた。さらに騎手という競走馬に騎乗して競走馬を巧みに操って勝利に導かせる職業もあったぞ。今の俺のような立場だな』

「え、それじゃ皆私と先代みたいに魂と意志疎通が出来るの!?」

『異世界の競走馬が転生した云々について語っていることから、俺達の前例がない訳ではないが極稀なケースだろう。もし全員が意志疎通出来るなら既に学園内の座学で教えられているはずだ。そうでなくともチームのトレーナーが指導するはずだ。その方がよっぽど効率がいいからな。俺達のケースが稀なだけだ』

「言われてみれば確かに……」

 

『でその調教師、厩務員、調教助手の三職がどうしたって?』

「先代はどんな人に管理されたの?」

『遠征のエキスパートだ。どこにいっても実力を発揮出来るような強さを持たせるようにするのが上手かった』

「じゃあ私もその人を探せば──」

『俺達競走馬の世界とウマ娘の世界では管理する人が同一とは限らない。むしろ異なっているのが当たり前なくらいだ。チームリギルもその例だ』

「え?」

 

『リギルの先輩にマルゼンスキーとシンボリルドルフがいるだろ?』

「え、もしかして……」

『俺達の世界ではマルゼンスキーとシンボリルドルフは同厩舎、つまり同じチームじゃなかった。その他にもサクラスターオーとメリーナイスもこの世界ではチームギエナで同じチームでも俺達の世界では別の厩舎でズレがある』

「ええっ!?」

『まあそういうことだ。何もトレーナーまで同じ奴を探す必要はない。もっともそれ以前に俺との約束を守ってもらうがな』

「そうだった……」

『さあいけいけ。チーム所属はとっておきの方法で出来るからさっさと外泊許可をもらいに行け!』

先代の声に憂鬱になりながらも外泊許可を貰いに足を進める二代目。その数分後、二人とも予想しない事態が起きた。

 

 

 

「あっさり半年間も外泊許可が取れたのは何故だろうか」

『全く以て不可解な現象だ。ここまで簡単に取れると却って不自然だな』

 

それは拍子抜けするほど簡単に外泊許可を取れたことだ。外泊許可を受けるに当たっては長くなるほどそれなりの理由が必要であるが二代目に関しては理由も聞かずに即座に許可を出してくれた。あまりにもあっさりと許可を出したので二人とも警戒してしまう。

しかもその上、メールで課題が提示され、それをこなした上でトレセン学園に郵送すれば授業に出なくとも良いとも許可を貰っていて外泊というよりかは自由気ままな放浪旅であった。

 

「それで先代、川で体力つける云々は冗談だよね?」

『いやそれなりに本気だったが、予想以上にお前の体力があったから別のトレーニングを考えている』

「本気だったんだ……危なかった、ナリタブライアンに勝ててよかった」

安堵のため息を吐くと共に、とあるウマ娘が二代目の視界に映り、そのウマ娘に声をかける。

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩」

 

そのウマ娘はヤマトダマシイ。チームギエナのメンバーの一人であり、二代目にとって姉のような存在で、チームギエナを追放されてから疎遠になっていたが、倒れた二代目を病院に運んでくれただけでなくチームギエナにいた頃はよく世話になっていた。

 

「グリーン、体の方はもう大丈夫そうだな!」

ヤマトダマシイが喜びの声を上げ、二代目に抱きついた。

「ええ、チームギエナを追放されてから会えませんでしたが先輩には感謝の声しか出ません」

二代目の言葉にヤマトダマシイが硬直した。

 

「つ、いほう? グリーンが自主的に辞めたんじゃないのか?」

「ええ。病院で、お前のような軟弱な奴はいらないとクビにされました」

「あのやろう! グリーンがギエナの練習に耐えきれず逃げたヘタレなんて大嘘吐きやがって!」

ヤマトダマシイが地団駄を踏み、怒りを表し、放っておいたらすぐにでもその矛先はトレーナーへと向かうだろう。

「倒れた以上、強ち間違いでもないんですけどね」

「それがおかしいんだ。ウマ娘はデリケートなんだ。合う練習と合わない練習がある。トレーナー足るものそれは絶対にしてはいけないことなんだ。それをするどころかウマ娘のせいにするなんて最低ゲス野郎のすることだ」

「まあ、それは言えなくもないですけど」

「後、二戦したら私もチームギエナを脱退する。そしてあいつの悪行を公表するんだ」

「先輩……」

 

 

 

「ところでその荷物はなんだ?」

ヤマトダマシイが二代目の荷物を指差し、それを見つめる。その荷物の量は授業に出るにしては過剰過ぎた。

「これですか? これは武者修行の旅に出ようと思いまして。ちゃんと学園の許可もありますから安心して下さい」

 

二代目がヤマトダマシイに外泊許可証を見せると納得した声が響く。

 

「武者修行か。あれから他のチームに所属していないのか?」

「所属活動はしましたが成長力がないと言われまして、それならいっそ独自で鍛えた方が強くなれるのではないかと思って武者修行の旅に出ることにしました」

「なあ、グリーン。もし武者修行が終わったら私が立ち上げるチームに所属しないか?」

「お世話になった先輩の勧誘なら喜んで」

「よかったよかった。お前がそう言ってくれるだけでもありがたい。それじゃ武者修行頑張るのもいいが体に気をつけてな」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

「先代、これからどうしようか?」

『…………』

 

ヤマトダマシイと別れ、二代目が先代に声をかけるが無反応。まるで誰もいなくなったかのような孤独感に襲われる。

 

「先代?」

『ああすまん。少し考え事をしていたんだ。あのヤマトダマシイの名前、前世でも聞いた覚えがあるんだがどうも思い出せない。GⅠを勝っているって訳でもなければルックスを見込まれ誘導馬として有名になった訳でもないのは確かなんだよな』

「そうなの? 滅多に褒めないトレーナーが逸材だと褒めまくるウマ娘なのに?」

『どうしてこう記憶に靄がかかって思い出せないんだ。前世は50以上生きたからボケているのか?』

 

ちなみに競走馬で30まで生きれば大往生すると言われる年齢であり、その1.7倍以上生きた先代はまさしく妖怪とも言える。しかしそれを知らない二代目はその事に関してスルーした。

 

「先代、何かヤマトダマシイ先輩について思い出したことがあったらすぐに言って下さいよ?」

『わかった。思い出したら話す』

その後、先代はヤマトダマシイについて一日に何度か思いだそうとするがそれに気づくのはしばらく後のことだった。




今回出てきたヤマトダマシイは、ビワハヤヒデ世代の一頭で誰もこんな競走馬を知らないだろうと思い、取り上げました。ヤマトダマシイがビワハヤヒデ達BNW三強に割り込む逸材だったというエピソードも史実に沿っています。そんな彼の生涯はネタバレになるのでいずれ書かせていただきます。

はいという訳でこの第3Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は西暦2019年1/1です


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第4R 古き良きウマ娘達

前回の粗筋

ハナ「ナリブとアマゾンは成長あるからそっちを採用だ」
主人公「試合に勝っても勝負に負けた」


波乱が起きた有馬記念が終わり、各学年のウマ娘達が進級し、ジュニアA組だった二代目はジュニアB組になった。

 

「流石名門メジロ家だね。期待されていなくともグランプリ連覇なんて凄いね」

「ねー。あんなバカ逃げで勝つなんてあり得ないよねー」

 

ジュニアBのクラスに限らず、そのような話題が飛び交うがナリタブライアンとヒシアマゾンは自分のクラスのウマ娘を話題にしていた。

 

「アマさん、アイグリーンスキーについて何か聞いたか?」

そのウマ娘とはナリタブライアンとヒシアマゾンを模擬レースで先着したウマ娘アイグリーンスキーこと二代目だった。二代目はヤマトダマシイ以外に外泊することを知らせておらずそれはナリタブライアン達とて同じだ。

「いや、こっちの情報はなし。美浦寮の寮長にも聞いてみたがさっぱりだった」

「そうか……」

「なあブライアン、一つだけ行っていない場所があるんだがそこに行ってみないか?」

「そこはどこだ?」

「チームギエナだ」

 

 

 

そして場所は変わり、二代目は青森にいた。

「こんなの無理無理!」

『諦めろ。これが強くなる一番の近道だ』

「津軽海峡を泳いで北海道までいくなんて正気じゃないよ! しかも冬の時期に!」

 

更にいうなら亜寒帯の真冬ということもあってか気温は氷点下、天気は雪という有り様でこんな時に泳ごうものなら自殺行為と見なされても仕方ないだろう。

 

『いいからさっさといけ』

先代が冷酷に体の主導権を奪い取り、無理やり海の中に入らせた。

 

「うぎゃーっ! 寒い寒い寒い、凍る凍る凍る、死ぬ死ぬ死ぬ! 助けてーっ!」

 

手足をバタつかせ、必死にもがき陸へと泳いでいく二代目。先代は二代目を凍死させたいのだろうか?

『死にたくなきゃとにかく体を動かして暖めろ! 無理にでも動かさないと凍死あるのみだ!』

先代が再び体の主導権を奪い取り陸から離れていく。

 

「スパルタ過ぎるぅー!」

 

泣く泣く二代目が泳ぐが、余りの寒さに二代目の白い肌が真っ赤に染まっていく。それを見たウマ娘が船上からロープを繋いだ浮き輪を二代目の前に投げた。

 

「そこのウマ娘、これに捕まるだ!」

二代目は先代に体の主導権を奪われないように必死に浮き輪に捕まり船上に打ち上がった。

 

 

 

「た、助かりました……」

「礼はいいさ。それよりなして泳いでいたんだ?」

「北海道にいくまでのお金がなくなってしまいまして……」

 

半分は事実であり、途中資金を体の主導権を奪った先代が重りに使ってしまい返品しようにも出来ないようにしてしまった。いくら捨てても次の日には必ず戻ってくるので泣く泣く装着しながら旅を続けていた。そして現在に至る。

 

「それで泳ごうとしたんだか?」

「はい」

「いやバカだべ。いくら金が尽きてもそれはないだよ」

呆れた顔で方言の強いウマ娘が二代目を見ると二代目は何も言えなかった。

「全く以てその通りです」

 

「ところで名前聞いていなかったんだが何て言うんだ?」

「アイグリーンスキー。貴女は?」

「グリーングラスだ。こう見えてもGⅠ3勝ウマ娘だべ!」

『このウマ娘がグリーングラス……!』

そのウマ娘の名前を聞いた先代が尊敬の声を出した。

 

「グリーングラス……それってマルゼンスキー先輩の一つ上の世代の、グリーングラス先輩ですか!?」

「おお、マルゼンちゃんはまだ現役なのか?」

「ええ、元気にやっていますよ」

「良かっただ。オラ引退して故郷に戻ったはいいもの、田舎過ぎてマルゼンちゃんと連絡つかなかったから不安で堪らなかっただよ」

「……もしかして携帯電話を持っていないんですか?」

「なんだそら?」

「これですよ」

そして二代目が防水性の端末機を取り出すと興味深そうにそれを触り始めた。

 

「これボタンがないべ? オラをからかっているのか?」

「今から電話してみせますよ」

そして電源ボタンを押し、通話アプリを起動させる。その中でマルゼンスキーの項目を選択し通話した。

 

【はーい、もしもし。皆のお姉さんマルゼンスキーでーす!】

矢鱈とお姉さんを強調し通話するマルゼンスキー。

「マルゼン姉さん、私です。アイグリーンスキーです」

【あ、アイリちゃん。今どこにいるの?】

それを聞かれた瞬間、グリーングラスが変わるように二代目に耳打ちした。

「青森だ。マルゼンちゃん」

【え、まさかその声、グリーングラス先輩?】

グリーングラスに変わったとたんにマルゼンスキーが声の調子を変えた。

「そうだ」

【ちょっと待って! 先輩、絶対に切らないで下さいよ!】

キャラ崩壊するほどドタバタと動き回るマルゼンスキーの足音が電話越しに響く。

 

 

 

その間に二代目が先代にグリーングラスのことについて尋ねていた

「先代、グリーングラス先輩のことを知っているようですが、何か関係でも?」

『知っているもクソも、俺の母方の祖父だ』

「祖父ぅ!?」

『どうやら祖父や孫、親子の関係にあるウマ娘達はお互いに縁があると感じるらしい。お前自身、グリーングラスと縁のあるウマ娘だと思わないのか?』

「まあ確かに……」

『しかしこれから入ってくるほとんどの後輩はあるウマ娘と縁を感じることになるんだが……それは置いておこう。今はグリーングラスの話しだ。グリーングラスはライバルであるトウショウボーイ、テンポイントですら成し遂げられなかったクラシック、天皇賞、有馬記念の3つのレースを全て勝利した名馬だ。そこら辺は語るまでもねえって面だな?』

「うん。戦績とかは知っているしね」

『競走馬のグリーングラスは血統こそガチガチのステイヤーだが、大柄な馬でとてもそのレースを制するほどステイヤーであるようには見えなかったらしい』

「ええっ!? グリーングラス先輩が大柄?」

『ウマ娘のグリーングラスはお前どころか普通よりも小柄な体格だから信じられないのは当たり前だ。しかし競走馬の特徴とウマ娘の特徴が違うケースはよくあることだ。その一番の例がビワハヤヒデだ。ナリタブライアンの上の兄弟にあたるビワハヤヒデは俺の世界では顔がデカイと言われていたが、ウマ娘のビワハヤヒデは髪のせいで顔がデカく見えるだけで小顔だ』

「こっちのビワハヤヒデ先輩は中身が頭でっかちだけど、こんなエピソードで世界の違いを知るなんて……」

二代目が競走馬の世界もウマ娘の世界の違いを知り、驚愕の声を上げるとグリーングラスは話し終えたのか端末機を二代目に渡した。

 

 

 

「アイグリーンスキー、マルゼンスキーが話したがっているぞ」

「マルゼンスキー先輩が? はいもしもし」

 

【アイリちゃん、グリーングラス先輩から事情は聞いたわ】

「それは何よりです」

【でも誰にも言わず行くなんて酷いじゃない。ナリタブライアンとヒシアマゾンが昨日私のところに貴女のことを心配して来たのよ? 私に相談とは言わないでもあの二人に一言告げてから行くべきだったと思うわ】

「すみませんマルゼン姉さん」

【罰として今度ドライブに付き合って貰うから覚悟しなさい】

「それだけは勘弁してください!」

 

二代目がマルゼンスキーのドライブに付き合うのを嫌がる理由はマルゼンスキーの運転にある。スーパーカーを時速300kmを超える勢いで走るだけでなく、マルゼンスキーの運転が荒い為に助手席にいると酔うか気絶してしまう為である。

 

【ダメよ。貴女は皆に心配かけたんだからちゃんと罰を与えないとね】

「マルゼン姉さん、マジで勘弁してください」

【……そうね、どうしてもと言うなら他の罰を与えるわ。トレセン学園に帰り次第受けて貰うわ】

「わかりました」

【じゃあ武者修行の旅頑張ってね。マルゼンお姉さんからの電話は終わりよ】

マルゼンスキーがそう言って別の人物に電話を変える。

 

【アイグリーンスキーさん、青森の林檎は美味しいですか?】

「たづなさん!?」

マルゼンスキーと変わった相手、それは駿川たづなという学園理事長の秘書を勤める人物だった。二代目はこの人物が大の苦手で意図的に避けていたがマルゼンスキーかグリーングラスの口から漏れたのだろうと推測した。

【それにしても酷いじゃないですか。私に隠れてこっそりと外泊許可を貰うなんて】

「いやチームギエナのヤマトダマシイ先輩に伝えましたから」

【チームギエナが排他的かつ閉鎖的なチームなのはアイグリーンスキーさんが一番知っているでしょう? 下手に私達が動けば彼らは絶対に口を閉ざし、却って他のウマ娘の情報までも少なくなるんです。だからこうしてアイグリーンスキーさんが連絡するのを待っていたんですよ】

「……」

【それはともかく帰ったらマルゼンスキーさんと一緒にお仕置きをしますので覚悟してくださいね】

語尾にハートマーク、あるいは音符が着きそうな声でたづなが反論は受け付けないと言わんばかりに電話を切った。

 

 

 

「ハハハ……終わった、あの二人が手を組んだらどんな目に遭うか……」

 

目のハイライトが消え、マルゼンスキーとたづなから受ける罰に脅えそれまで真っ赤に染まっていた肌は再び白く染まる。

 

「あの二人は年長者だ。レースに影響が出ないようなお仕置きで済むはずだべ」

グリーングラスが船を運転し始め、船停め場に向かっていく。

「年長者なんて絶対にあの二人の前で言わないで下さいよ! そんなことを言って巻き添えになったら嫌ですから!」

「年長者はオラもだ……ところでどうするだか?」

グリーングラスが言葉足らずにそう尋ねた。

 

「どうするとは?」

「おめ、北海道に行きたいんだろ? でもおめの資金で北海道に行くにはオラの船で行かねばならないだよ」

「そう言えばお金がなかったんだ……」

「でも海は大時化だ。そんな状況で無理やり行ってもオラの船諸共、海にドボン! 普通に凍死するべ」

「それはごもっともです」

「資金集めも出来てレースとダンスのトレーニングにもなる方法があるけどどうするだ?」

「ぜひお願いします」

「そうと決まればオラの家に案内するだ」

グリーングラスが船を停め、陸へ上がると二代目は二階建ての家に案内された。




マルゼンスキー、何故そこまで姉ぶりたがるんだ(第2Rの前前書きに出てくる先代の血統表とマルゼンスキーの血統表を見ながら棒読み)

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尚、次回更新は西暦2019年1/4です。

ちなみにグリーングラスの口調が青森弁ではない理由は作者が青森弁を知らない為で、ドラゴンボールのチチの口調にしています。青森県民の皆さん皆すみません。

そう言えば有馬記念を勝ったブラストワンピースって顔デカイですよね(ビワハヤヒデを見ながら)


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第5R 胡瓜よりも飛蝗よりも緑が似合うウマ娘

前回の粗筋

グリーングラス「どうだ? 私の手伝いをすればトレーニングの指導もする上に北海道まで送ってやろう」
>はい
いいえ
グリーングラス「ふははは、良かろう! では案内しよう」
二代目はグリーングラスの家に案内された!


グリーングラスの家は一般家庭よりも少し大きい二階建ての一軒家でそれ以外は極普通の家だった。

「ここがオラの家だ」

「TTGの中で一番賞金を稼いだ割りには普通ですね。強いていうなら土地が少し広いくらいですか?」

「まあ船とかに使っちまったからな。家もこんな感じになってしまっただよ。とりあえず上がった上がった」

 

グイグイとグリーングラスが二代目の体を押し、家の中に入れるとそこには釣竿や網、銛等漁師が使うような道具が並んでいた。

 

「グリーングラス先輩、漁師をやっているんですか?」

「んだ。だけど漁師だけじゃねえ。オラのもう一つの顔があるだよ」

「もう一つの顔?」

二代目が尋ねるとグリーングラスが隠してあったボタンを押すと家が揺れた。

 

「じ、地震!?」

「地震じゃないべ。これはリビングが変形しているんだ」

「変形する家があるのに、どうして携帯電話を知らないんですか!?」

「そりゃ変形ロボットの概念が携帯電話よりも古い上に、オラ達はポケベルや回覧板で連絡していたからな。携帯電話がなくとも不便しないし、変形ロボットは実現しなくとも変形部屋を実現出来るのは当たり前のことだべ」

最もらしい理由でグリーングラスが二代目に説明するとリビングの変形が終わったのか揺れが収まった。

 

「さあ変形が終わったべ。この部屋に入った入った」

「一体どんな部屋になったんですか?」

「見ればわかるだよ」

そして二代目とグリーングラスがリビングに入るとそこは四方鏡のダンス練習場になっていた。

「これは……!」

「どうだ。見たか驚いたかびっくりしたか!」

「ええ、まさか極普通の家にダンス練習場を備えていると思いませんでした。でも何でこのような施設を?」

「それはオラが地方アイドルとして活躍しているからだ」

グリーングラスの予想外の言葉に二代目が部屋を見た時以上に驚愕した。

 

 

 

「地方アイドルってあの地方アイドルですか?」

「そうだ。オラが地方アイドルになったきっかけは漁師の宴会だ。豊漁を祝う宴会さ開いたら出し物として歌を歌うことになってな、それで歌ったら大ウケして地元の皆がアイドルをやらねえかって誘われて、今に至るだ」

「ちなみにその歌ってどんな歌なんですか?」

「ウマ娘がぴょいぴょいするアレだべ」

それを聞いた二代目が察し、目を伏せる。

「あー……グリーングラス先輩の時にもあったんですね」

「アレは準校歌みたいなようなもんだ。ウマ娘なら絶対に覚えなきゃいけない歌の一つだからな」

そして二人がため息を吐き、同時に声を出した。

「なんで全校生徒に覚えさせるのがあんな歌なんだろう」

『聞いているとあの歌を歌うのが嫌らしいが、一体何が悪いのかわからないんだが。歌なんてどれも一緒だろ』

先代のデリカシーの欠片のない発言に二代目がコメカミに青筋を立てるが目の前にはグリーングラスがいて大声を出して怒れる状況ではない。

 

 

 

「まあそれは置いておくべ。このダンス練習場の他にもトレーニングする場所があるだ」

「二階とか?」

「そうだ。45度まで傾斜でかつ時速90kmで走れるルームランナーを始め色々あるだよ」

「なんでそんなものが……」

「たまに他の県からやってきたウマ娘がオラのとこに来て師事して欲しいって来るんだべ。それでウマ娘を鍛える為にトレーニング器具を充実させただ。オラも体を鍛えないと漁師としてもアイドルとしてもやっていけねえだからな!」

「それにも関わらず携帯電話を知らないって……どんだけですか?」

「携帯電話を使う必要がないんだ。トキノミノル叔母さんやシンザン会長なんかはそういう時代に生まれても何一つ不満溢すことなくレースをやっていたからな。それにさっきも言ったと思うけどポケベルや回覧板で十分間に合うだよ」

「もう何も突っ込まないよ……」

二代目がため息を吐いて頭を抱える。

 

「そんなことより、トレーニング指導をする代わりにオラのアイドル業、手伝って貰うだ。それで北海道行きの船も出してやるべ」

「わかりました。引き受けます」

「よーし、そうと決まったら早速練習だ。まずこの衣装に着替えるだよ」

グリーングラスに衣装を渡された二代目がそれに着替えている間に、グリーングラスはリモコンを弄り始めた。

 

 

 

「さあ準備はいいだな?」

「OKです!」

「よーし、これからダンス練習だ。オラの動きに着いてくるだ」

「はいっ!」

「とその前に柔軟だ。怪我したら話しにならねえからな」

その言葉にきつい練習の覚悟を決めていた二代目がよろける。

 

そして準備運動が終わり、今度こそダンス練習に入った。

「さあ今度こそ、やるだよ。オラの動きに着いていくだ」

 

グリーングラスが選曲した曲は徐々に緩急が激しくなる曲であり、それに合わせてダンスすると動きの緩急も激しくなり二代目の体力を大幅に消耗した。

 

「はい、トドメっ!」

そしてグリーングラスと二代目が決めポーズをし、曲が流れるのを止むと二代目が仰向けになって倒れた。

「さ、流石ステイヤーで知られる先輩、で、ですね。倒れるどころか息を荒くしてす、らいないなんて」

「初日で着いてこれるのは大したもんだべ。おめはここで休んでおくだ。オラはこのままダンスの練習をするから振り付けを覚えておくといいべ」

「はいぃ……」

仰向けからグリーングラスのダンスを見る体勢を取り、グリーングラスのダンスを5回に渡り見続けると先代が話しかけてきた。

 

 

 

『二代目、疲れたなら体を少しでも休めておけ。その間、トキノミノルについて気になったことがあったから話すぜ』

「な、何それ?」

『トキノミノルは俺の世界では幻の馬と呼ばれた二冠馬だ。無敗の三冠に最も近づいた馬だがダービーから2週間と少しして破傷風で死んでしまった。ステイヤーであるグリーングラスが近親なこともあり、体が無事なら無敗で三冠を取るのは楽勝だったとも言われている。早すぎる死が惜しまれ東京競馬場に銅像まで建てられたんだ。ところがこの世界のトキノミノルは死んでいないが行方不明な上に、東京競バ場の銅像はトキノミノルじゃなくその前に活躍したクリフジになっている。他にも違いがあるがまるでトキノミノルの存在を知られたくないかのような感じだ』

「そうなの?」

『グリーングラスにトキノミノルがどこにいるか尋ねてみろ。憧れのウマ娘に会いたいとな』

「うん……」

 

流石にダンスの練習が終わるとグリーングラスの息も荒くなって汗をかいていた。

 

「さてダンスは一度ここで切り上げるだ。次はフィジカルトレーニングに移るだよ」

「も、うですか?」

「当たり前だ。鉄は熱いうちに打てと言うだ。それに最初は負荷の重いものを一回ずつやるから程良い休憩になるべ」

「そんな無茶苦茶な……」

「さあ二階に行くべ」

グリーングラスが二代目の腰を肩に担ぎ上げ、二階に上がるとそこにはバーベルや健康ぶら下がり機、腹筋台等多数の器具が置かれていた。

「やるべ。まずはオラのやることを見ているだ」

そしてグリーングラスが二代目のトレーニングに付き合った。

 

 

 

「ふんぬらばっ!」

「ベンチプレス800kgと……まあ普通だな」

 

「でぇいっ!」

「バーベル上げ850kg……立っている方が強いだか?」

 

「うぎぎぃぃっ!」

「車引き、2tトラック優、5tトラック優、10tトラックは可……脚のパワーは上位クラスだな」

 

 

 

「もうダメぇ~」

最後のトレーニング場所である地下室で二代目が打ち上げられたマグロのようにうつ伏せになった。

「何だ? もう疲れただか?」

「無茶言わないで下さい。何ですか、車がないのに車引きって。鉄製の鎧を着た瞬間に壁に引き寄せられていくんですからアレに必死に抵抗しただけですよ。どこに車の要素があるんですか?」

うつ伏せになりながら抗議する二代目にグリーングラスは納得の言った声を出した。

「あの壁は電磁力を使って強い磁力を生み出しているんだべ。その磁力が10tトラックを引くくらいの力を産み出せるからオラは車引きと呼んでいるだ」

 

「他の機械に影響はないんですか?」

「全くないだよ。そう言う風に設計されているからな。オラがおめの電話を預かったのも電話が壊れないようにするためだ」

「ありがとうございます!」

「さて、それじゃもう一度ダンス練習場に行くべ。これで最後だ」

「まだ練習するのね……」

今度こそ二代目は力尽きた。




そう言えばウマ娘の体重ってどれくらい何だろう……

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尚、次回更新は西暦2019年1/7です。


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第6R 外泊から一ヶ月後

前回の粗筋

変形する前の家「なんじゃと!? 本当にトレーニングをするというのか!? ならば仕方ない……うおぉぉぉぉぉっ!!」
変形した後の家「ふぅぅ……こうなった以上、逃げることは出来ん。貴様らをたっぷり鍛えてやるぞ……覚悟しろ」シュワンシュワンシュワン


二代目がグリーングラスと同居し、1ヶ月が経過した頃、トレセン学園はあるウマ娘達が話題となっていた。

 

そのウマ娘達の名前はオグリキャップとイナリワン。双方とも地方から転入して来たウマ娘でありながらも、他のウマ娘を千切れる速さを持っていた。しかしそれに待ったをかけたのが、ダービーウマ娘メリーナイスを始めとしたそれまでトレセン学園に在籍しているウマ娘であった。

 

地方の挑戦か、中央の意地か。それが今のトレセン学園の話題を占めていた。

 

 

 

「私も今や過去のウマ娘ね」

 

小さく【二冠ウマ娘サクラスターオー、引退か?】と隅に書かれた新聞を見てそう呟くのは名門サクラ家の一員であり、去年の二冠ウマ娘サクラスターオー。彼女は去年の有馬記念で故障してしまい、二代目同様に入院していた。

 

二代目とは違い、成績を残しているおかげでチームギエナから追放されなかったが、入院があまり長引くと筋肉が衰えるだけでなく走ることを忘れてしまう。そうなればGⅠ競走を勝つどころかOP戦すら勝てなくなってしまい、二冠ウマ娘としての価値はほとんどなくなってしまう。

 

いっそのこと、医者になったテンポイントや学園教師になったトウショウボーイのように引退して別の道に歩むか、長い時間をかけてリハビリを行い競走ウマ娘として活動するか、サクラスターオーは決断を迫られていた。

 

「何にしてもこの体を治さないと、話にならないわね」

体の痛みをこらえ、無理やり動かそうとするとあるウマ娘が入室してきた。

「スターオー先輩、いますか?」

そのウマ娘はサクラスターオーと同じチームギエナのメンバーのウマ娘であり、ジュニアCクラスで期待がかかっているヤマトダマシイだった。

「ヤマちゃん」

「お見舞いに来ましたよ、スターオー先輩」

ヤマトダマシイが人参と林檎をサクラスターオーに渡すと、サクラスターオーが気まずさからベッドに座った。

 

「ヤマちゃん、お願いがあるけど聴いて」

「スターオー先輩、何でしょうか?」

「ヤマちゃん、絶対にダービーと菊花賞を勝って」

「皐月賞はいいんですか?」

「出来ることなら三冠ウマ娘になって欲しかったけど、そこまで望まないわ。そこまで望んで貴女の体を壊したら元も子もないよ」

「う……」

「去年のダービーは不出走に終わっただけにものすごく無念を感じているの」

「スターオー先輩、それ去年のマティリアル先輩に似たようなこと言ってましたよね?」

「え? スターオー、わかんな~い」

サクラスターオーがアホの子を演じて惚けるがヤマトダマシイはそれをスルーした。

 

「それでマティリアル先輩が惨敗して、夢を託さなかったメリーナイス先輩が勝ったものだから物凄く気まずい思いしたの思い出せないんですか?」

「だ、大丈夫よ! 今度こそは勝つ、今度こそは! やるのはヤマちゃんだもの!」

「だからこそ嫌なんですよ。それで負けたら話になりません。ですからその二冠は私が誰にも言われず自力で取ってきます」

「ヤマちゃん……」

「ですからスターオー先輩、必ず復活してくださいね」

サクラスターオーにそう告げ、ヤマトダマシイはその場を後にした。

 

 

 

 

その頃、二代目はグリーングラスの指導のもと、着実に体力を着けていき、無尽蔵とも言えるスタミナを手にしていた。

 

「グリーングラス先輩、手紙届いてますよ」

「オラに手紙? 差出人は誰だ?」

「えーと、九州地方のウマ娘トレーニング施設からですね。青森県の先輩に何の用事があるんでしょうか?」

 

二代目が手紙をグリーングラスに渡すとグリーングラスがその封を開け、読み始めた。

 

「……なるほどな。理由としては納得がいくべ」

「何て書いてあったんですか?」

「オラの教え子の一人が地方で活躍しているのを見た地方トレーナーがオラをトレーナーとしてスカウトしたいらしいべ」

「まあその気持ちはわかります。グリーングラス先輩、私をここまで鍛えてくれましたもんね」

「トウショウボーイがトレセン学園で教師になっているならそのライバルのオラを取り入れるのは当たり前のこと何だが、オラにはまだやることがあるだ」

「それって私のことですか」

「そうだよ。後、アイグリーンスキーの地方アイドルデビューが決まっただぞ」

さらっとグリーングラスがとんでもないことを告げると二代目が吹いた。

 

「い、いきなりですか?」

「地方アイドルデビューと言っても地方自治体の催しの一つだ。明日の運動場でライブを行うだ」

「明日!?」

「いきなりかもしれないがこの地域はこれが当たり前なんだ。ライブの曲は最初の曲に合わせてあるから安心するだよ」

「うへぇ……本気だこの先輩」

「とは言ってもいつも通りの練習をしておけばいいだ。オラは少し用事があるからおめ一人でやってくれ」

 

 

 

『随分体力がついてきたな』

 

ダンスの練習を終え、先代が話しかける。先代の言うとおり、緩急を織り混ぜたダンス、スピード任せのダンス、逆にダンスとは思えないほど遅い動きのダンス、そして普通のダンスを踊っては踊りまくりの連続でありダンスを通してスタミナがついてきた。またそれだけでなくルームランナーのおかげでレースのスピードの緩急や維持も自在に出来るようになり、どの位置取りでも自分のレースが出来るようになっていて、このことに関してはグリーングラスも太鼓判を押すほどであった。

 

「あんだけ動いたからね。チームギエナのトレーナーがどれだけ非効率か実感するよ」

『故障率はともかくとしてあれはあれで優秀だぜ。実際皐月賞、菊花賞の二冠を制したサクラスターオーやその年のダービーを勝ったメリーナイスを始め多数のウマ娘にGⅠ競走を幾度なく勝たせている。実際、二代目の競り合いの強さも俺の影響よりもそいつの影響の方が強い』

「そうなの?」

『俺が負けた三つのレースのうち二つは競り合いで負けたからな。競り合いが強くなったというこの点だけはあいつに感謝しておけ』

「うん……」

『もっとも付け焼き刃みたいなものだがな。それ以外の方法で勝つ方法は色々ある』

「……今はまだその時じゃないでしょ?」

『ああ。レースで一番大切なのはタイムだ。どんなに無敗で強くともレコードタイムを出さないだけで批評される。逆に言えばレコード更新を何度もした上で無敗のまま引退した奴は総じて最強馬と評価されていた。クリフジやトキノミノル、マルゼンスキーがその典型例だ』

「マルゼンスキー先輩も?」

『そう言えばマルゼンスキーについて話してなかったな。マルゼンスキーの戦績について8戦無敗、レコード勝ちを何度も収めたパーフェクトホース。父は英国三冠馬ニジンスキー、母父は米国年度代表馬となったバックパサーと超良血馬だ』

「あのニジンスキーとバックパサーがマルゼンスキー先輩と血縁関係にあるなんて……」

『競走馬の俺の血統は父ニジンスキー、母父グリーングラス、母母父ダマスカスだから俺自身も割りと悪くないぞ?』

ちなみにダマスカスはバックパサーと同じく米国年度代表馬に選ばれたバックパサーの最大のライバルであり、種牡馬──つまり競走馬達の父親としても活躍していた馬である。

「え゛っ? それじゃマルゼンスキー先輩が私に姉呼びを強要する理由って先代と競走馬のマルゼンスキー先輩が腹違いの兄弟だからってことなの?」

 

あ行濁点使いとなった二代目が先代と、競走馬のマルゼンスキーが同じ父親を持っていることに気がつき、そう尋ねる。

 

『多分な。マルゼンスキーと同じ配合──つまり父親と母父が同じ競走馬のヤマニンスキーはウマ娘になってねえ。ヤマニンスキーがいたらニジンスキー産駒三人衆なんてやらされていたかもしれないからいない方がマシかもな』

「ちょっと気になったんだけど産駒って何?」

『父親が同じ競走馬のことだ。俺達競走馬は腹違いの兄弟姉妹は兄弟姉妹とは呼ばず同じ産駒と呼ぶ。兄弟姉妹の関係にあるのは同じ母親から生まれてきた馬だけだ』

 

「それじゃ先代がシンボリルドルフ会長を見たときセイザ兄貴と口ずさんだのは、その馬が競走馬のシンボリルドルフの息子かつ、先代のお兄さんだったから?」

『まあそういうことだ。セイザ兄貴はシンボリルドルフ産駒かつ俺の種違いの兄貴だ。レーススタイルはともかくルックスは一番父親に似ていたらしいぜ』

「やっぱり」

『もっともセイザ兄貴はウマ娘になっていないようだし、当てても意味がないんだがな』

「それもそうだね。さてそろそろフィジカルトレーニングに移ろうか」

二代目の休憩が終わると先代も黙りこんでフィジカルトレーニングに集中させ、トレーニングを終わらせ、その夜を過ごした。




今回の前回の粗筋の元ネタは大神に出てくる小柄鬼斬斎というキャラクターがモデルです。

しかしウイポ8のバックパサー本当に有能ですね。本来バックパサーの牝馬を作るつもりが牡馬で、その馬がリーディング2位になったときは驚きました。流石にサンデーサイレンスには勝てなかったよ……



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尚、次回更新は西暦2019年1/14です。


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第7R 地方アイドルデビュー

前回の粗筋

先代「マルゼンも俺も父親は同じだ」
二代目「じゃあマルゼンスキー先輩とは腹違いの兄弟!?」


「ググラことグリーングラスです!皆ー、今日は新しいウマ娘のお姉さんを紹介するよー! アイグリーンスキーことアイリちゃんです!」

透き通るようなアニメ声で標準語で集まった観客達にグリーングラスが二代目を紹介すると、歓声が沸き上がった。

「紹介に預りましたアイグリーンスキーです。本日は私のライブに──」

「はい、そんな堅苦しいこと言わない。もっと気楽に!」

「私のライブに来てくれてありがとぉぉぉっ!!」

「YAAAAAA!」

やけくそ気味に二代目が拳を上げると観客達の魂に火が付いたのか、テンションMAXで盛り上がった。

「さてそれじゃ早速、アイリちゃんのライブ行きまーす!」

 

 

 

~ウマ娘ライブ中~

 

 

 

二代目のライブが終わり、一汗かくとグリーングラスがマイクを持って口を開いた。

 

「さて、ここでアイリちゃんの質問タイムが設けられています。何か質問がある人はいませんか!?」

「アイリちゃんは何でここに来たの?」

「私はトレセン学園、ウマ娘の皆が集まって勉強しながら走るトレーニングをする場所で、そこでトレーニングをしていたんですが物足りなくて武者修行の旅に出てその過程でグリーングラス先輩と会ってグリーングラス先輩に弟子入りすることになりました」

 

「ググラちゃんの歳を知っていますか? 知っていたら教えてください」

子供のその質問に会場が凍りつき、連れてきた親は子供を叱りつけ頬を引っ張る。そしてグリーングラスは二代目に誤魔化すように視線を合わせる。もしこれを断れば即座に破門され北海道にもいけなくなってしまう。それを回避するために二代目が出した答えは当然の如く誤魔化すということであった。

「グリーングラス先輩の年齢は人間年齢に換算すると永遠の18歳だそうです。それ以上のことはわかりません。ごめんね」

『上手くごまかしたな』

二代目の誤魔化し方に先代が笑みを浮かべたような気がした。

 

「アイリちゃんはトレセン学園に在籍しているウマ娘って聞いたけど、どのくらい強いの?」

「まだ走る方はデビューしていないからわかりませんが、先日同学年一番と評判高いウマ娘に勝ちました!」

「つまり学年で一番強いってこと?」

「はいそうです」

キッパリと言い切り、観客達にある疑問が産まれそれを二人に問いかけた。

 

 

 

「それじゃあさ、ググラちゃんとアイリちゃん、どっちが強いの?」

その質問は二人にとって予想外の質問で戸惑ってしまう。

「現役を引退したとはいえTTGのうちの一人、ググラちゃんが勝つに決まっているっぺ!」

「いーや、若いアイリちゃんが勝つ!」

観客達が騒然とし、それを収拾させる方法はただ一つ。グリーングラスが口を開いて収拾させた。

 

「皆さん、落ち着いてください! 私は現役を引退しましたし、アイリちゃんはまだデビューすらしていません。その為どちらが現時点でどちらか強いか比較するなら実際に勝負してみないことにはわかりません! ですから後日、マッチレースをしたいと思います」

観客達が最も納得がいく形、つまり二代目とグリーングラスが実際に走って比較するというものだった。

「不公平のないよう盛岡競バ場をお借りして芝1600mの舞台で決着を着けたいと思います」

「待った!」

 

初老の男性が手を上げ、待ったをかけると観客達がざわめき始める。

 

「何でしょうか?」

「盛岡競バ場までは遠い。ただ足の速さを比較するのであればこの運動場を使っても良いのではないのか?」

「ここの運動場だと直線が短すぎて脚に負担がかかって危険です」

「直線が短すぎる?」

「はい。盛岡競バ場の直線は300mで、主要競バ場で直線が310mと最も短い中山競バ場よりも短いのですが、それよりもさらに100mも短いこの運動場では小回りどころではなく、曲がる回数が多くなりすぎて脚に負担がかかってしまい、故障してしまう恐れがあるため引退した私はともかくデビュー前のアイリちゃんにそんな真似はさせられません」

「しかし……遠いし……盛岡競バ場は青森県じゃないし」

それでも言い淀む男性にグリーングラスがトドメを刺した。

「誠に申し訳ありませんが、この運動場ではあまりにも狭すぎるので場所を移すことには変わりありません。芝コースがあってかつ最も近い競バ場が盛岡競バ場ですのでそこを借りようと思います!」

グリーングラスの発言により、その一週間後、盛岡競バ場等の許可が降りてマッチレースを開催した。

 

 

 

『まさかグリーングラスと戦うことになるとはな』

グリーングラスのライブも終わり、一人星空を見ていると先代が二代目に話しかけた。

「先代、グリーングラス対策はわかる?」

『グリーングラスと俺は祖父と孫の関係に当たるくらい年代が違うから詳しいことはわからん。ナリタブライアン同様に中団差しのレーススタイルだったということがわかるだけだ。おまけに盛岡競馬場に行ったことすらないから実際に見てみないとわかりゃしねえ』

「盛岡競バ場は中山競馬場の直線を短くして、坂を急にした競バ場よ」

『そういうことか。中山よりも短い直線となると追い込みで勝てる訳がないから追い込みは止めておけ』

「どういうこと?」

『追い込みってのは直線が長いほど有利な分、直線が短いと不利になる。シンボリルドルフ以来無敗で三冠馬となった馬も追い込み馬で、有馬記念で一度負けている。それだけならまだ良いが、弥生賞で僅差勝利と見るに耐えないレースがある』

 

「……」

『奴が何故そうなったのか、俺が考えるに直線が短いと追い込み馬の特徴である直線での鋭い豪脚を発揮する場面が短くなるからで、短くなった結果、中山が苦手になったんじゃないかと推測している。追い込み馬が勝つにはコーナーで捲って勝つしかない』

「確かに……」

『あるいはハイペースで先行集団が自滅するとか、余程のことがない限りは無理だ』

「余程のことがない限りね……」

『俺がグリーングラスを仕留めるとしたらスピードに任せて仕留めるがお前はどうする?』

「私は──」

二代目が意見すると、先代は何も言わずにそれを黙って聞き、二人が眠りについた。




≫ディープインパクトは中山が苦手
私なりの独自解釈です。追い込み馬=中山苦手 というのはディープインパクトよりもブエナビスタが三度も有馬記念を逃したせいでそのイメージが強くなったと思われます。追い込みで有馬記念を勝った例はオペラオー、ディープインパクト(2006年)、ドリームジャーニー、ゴールドシップくらいしか思い付きません。

ついでにウマ娘の時系列考察を活動報告にてしています。もしよろしければそこに来て下さい。

はいという訳でこの第7Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は西暦2019年1/28です。……え? 更新速度が逆噴射のツインターボしてるって? これはな、いつぞやのニエル賞を再現しているんだよ!


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第8R 地方アイドルのマッチレース

前回の粗筋

グリーングラス「盛岡競バ場でどっちが強いか戦おう……!」


盛岡競バ場にて二人のウマ娘が対峙していた。

片や神秘性すら感じさせる青鹿毛のウマ娘、アイグリーンスキーこと二代目。デビュー戦すら終えていないがレースセンスに関しては歴代最高級の素質を持つ新人ウマ娘。

もう片や緑髪が特長のウマ娘、グリーングラス。引退こそしたがTTGと呼ばれたウマ娘の一人であり、その実力は計り知れない。

 

このウマ娘達が対峙した理由はただ一つ、どちらが強いかを決める。ただそれだけの話だ。

 

『貸しきっているから当たり前なんだが、閑散としてやがるぜ。向こうの世界だと現役時代の状態で俺とグリーングラスがマッチレースするなんて聞いたら大騒ぎになるというのに』

「まあそれはね……」

無駄にパドックを周っている最中に魂の存在となった先代が話しかけて来る。先代達が現役時代の状態で戦ったら間違いなく盛岡競バ場は観客達で埋め尽くされるだろう。

 

『だからといってGⅠ競走以外で負けるのはシンザンだけで十分だ。それ以外の最強馬は前哨戦でも勝たなきゃいけねえ。最強馬が最強馬たるが所以にだ』

シンザンを除外した理由はGⅠ競走*1以外のレースを調教代わりに使っていた為に負けることもしばしばあったからだ。

しかしシンザンが弱いかと言われればそうではない。シンザンの連対率──二着以上の戦績の割合のこと──および、GⅠ競走の勝率は共に100%という数値を叩き出している。前者はともかく、後者は日本においてはシンザンを除くと無敗馬しか達成していないことからどれだけの偉業かわかるだろう。

 

「先代、あの作戦通じるかどうか試してみるよ。TTGの中で最も現役生活が長かったグリーングラス先輩にそれが通じたらほとんどのウマ娘にも通じるってことだから」

『二代目の口からその作戦を聞いた時は驚いたぜ。まるで相棒と話しているようだったからな』

先代が相棒と呼ぶ男、それは先代が競走馬時代の時に騎乗した騎手であり、互いに深い信頼関係にあった。

「もしかしたらウマ娘は騎手って人の思考も引き継いでいるのかもね」

『その可能性はある』

先代と二代目がその結論に達し、話しを終えるとゲート入りを促されゲートに入る。

【さあいよいよゲート入りが終わりました。このレースの実況は私伊勢、解説は菊花賞ウマ娘であり栃木県で地方アイドルをしているホリスキーがお送りします】

【どうもよろしくお願いいたします】

菊花賞を勝ったウマ娘であり現在グリーングラス同様に地方アイドルとなったホリスキーが解説の席についた。

 

 

「よーいスタート!」

 

グリーングラスとアイグリーンスキーのマッチレースが始まり、先代のいる世界ならば歓声が沸き上がり黙って見つめるなどということはない。しかしこの世界で二代目ことアイグリーンスキーはデビュー戦前のウマ娘、グリーングラスは引退したウマ娘ということもあり観客達は地方アイドルであるウマ娘達を応援する人々しかいない。

 

【青森県地方アイドル最強ウマ娘決定戦スタート! さあハナに立ったのはなんとびっくり期待のルーキー、アイグリーンスキー。後方のグリーングラスを三バ身、四バ身、五バ身と離していき……八バ身まで突き放していきます。これは大逃げです。ホリスキーさん、もしかしてかかってしまったのでしょうか?】

 

勝手にマッチレースの名前まで着けた実況が暴走する二代目を心配し、ホリスキーに目で尋ねる。

 

【彼女はまだデビュー戦を迎える前のウマ娘でしょ? 引退したとはいえTTGの一角であるグリーングラス先輩に怯えてしまったんでしょう】

 

【解説ありがとうございます。さあ600を通過してタイムは37秒……? 余りにも遅ぉぃっ!? これは一体どういうことだぁっ!?】

 

【変ですね。グリーングラス先輩ほどのウマ娘ならその異変に気づいてもおかしくないのですが……】

 

【役に立たない解説はおいておきます! スローペースに気づいたグリーングラスがぐいぐい詰め寄っていきます!】

 

 

 

「先輩、いいんですか? そんなハイペースで?」

「ハイペース? いい加減なことを言うな。超がつくほどのスローペースなのにハイペースな訳あるわけがねえ」

「流石、先輩。このハイペースをスローペースと言い切るあたりTTGの一角なだけありますよ」

 

グリーングラスがそれを鼻で笑い、スローペースには付き合えないと言わんばかりにアイグリーンスキーを突き放した。

 

 

 

『どうやら上手くいったな』

先代の声が二代目に響くが二代目はそれを無視した。

『しかし本当にえげつない作戦だ。魔術師の称号を最初に取ることになるんじゃねえのか?』

「さて行くよ、先代」

『おう。グリーングラスに一泡吹かせてやれ!』

 

 

 

【グリーングラスがハナに立って、1000m。通過タイムは61秒……えっ!?】

【速すぎる!! いくらグリーングラス先輩でもムチャだ!】

 

ホリスキーが思わず立ち上がり、大声を上げる。1000mの通過タイムそのものはやや速いタイムだが、600mから1000mの間の400mを僅か22秒──600m走った時点でグリーングラスは二代目より1秒以上遅く走っていた──で走っている計算になりこのタイムは現役のウマ娘としてもかなり速いタイムで滅多に出せるものではない。それを引退したグリーングラスが出したのだからかなり速いペースと言えるだろう。

 

【やはり来た! 来た! 来たぁっ! アイグリーンスキーがグリーングラスを差しにやって来たぁぁっ!】

そして残り300m、グリーングラスと二代目がついに並んだ。

 

 

「だから言ったじゃないですか。そんなハイペースで大丈夫ですかって」

「小賢しい真似を……してくれるなぁぁぁっ!!」

盛岡競バ場特有の急坂に差し掛かり、グリーングラスが二代目を撫できるようにその坂を昇る。有馬記念を勝ったグリーングラスにしてみれば中山よりも少し急な坂程度のものでしかない。

【グリーングラスだ、グリーングラスが粘る!】

 

「こっちだって本気なのよ! この作戦が通じたのに負けましたなんてみっともないじゃない!」

【しかしアイグリーンスキーの勢いが更に増す!】

二代目がグリーングラスを差そうと並走し、競り合いに持ち込んだ。競り合いに関しては計り知れないほどの強さを持つ二代目と、TTGの中で最も多くのレースに出走経験のあるグリーングラス。その二人がゴールまで激突する。

 

【TTGの意地と超新人の夢! どっちだぁぁっ!!】

二人がゴールし写真判定に移る。

 

「……まさか写真判定に持ち込むなんて、やるもんだな」

「先輩こそ引退しているのにやりますね……」

互いに力尽き、倒れた二人が互いに称え、掲示板をみるがまだ判定が終わっておらず、別の話題に移る。

 

「アイグリーンスキー、スローペースかと思えばハイペースになった仕掛けはなんだ?」

「スローで大逃げした後、グリーングラス先輩が追いかけて来ましたよね。その追いかける最中にペースをかなり上げたんですよ」

「なるほどな。その間にオラはアイグリーンスキーを抜いてしまっただから、ハイペースになっていたんだな?」

「そういうことです。グリーングラス先輩を打ち負かすにはこの作戦しかありませんでしたからね」

「上手くやられただよ。でもその作戦はここ盛岡や中山でしか通用しないから注意するだよ。東京をはじめとしたカーブが少なく直線の長い競バ場はその作戦の成功率が落ちるだ」

『グリーングラスの言うとおりだ。俺の世界で魔術師と呼ばれた競走馬は今回の二代目と同じ作戦を取ったせいか東京が苦手でどうしようもなかった。東京競バ場で勝ったのはJCの一勝のみだ』

「うへぇ……」

「そういう顔をするな。それだけレース巧者なら何も心配することはねえべ」

「心配していることならありますよ……このマッチレースの結果とチームに所属出来るかどうかの心配をね」

二代目が掲示板を見るとそこには着順が表示されていた。

*1正確にはGⅠ競走に該当するレース。当時は格付けがなかった




元ネタ
≫実況者の伊勢
・青き稲妻の物語に出てくる調教師の一人であり先代のトレーナーがモデル。
≫地方アイドル
・グリーングラスは青森県出身、ホリスキーは栃木県出身というのが元ネタ。

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尚、次回更新は西暦2019年2/18です。


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第9R グリーングラスとの別れ

前回の粗筋

二代目「乱ペースでペースを乱す!」
グリーングラス「負けてたまるかぁっ!」
実況「意地と夢どっちだーっ!」


マッチレースから一ヶ月半後、二代目がヤマトダマシイからの手紙を読んでいると先代が話しかけた。

 

『ついにヤマトダマシイの二戦目か……あん?』

「どうしたの?」

『……そうか、思い出した! 思い出したぞ!』

「何を?」

『ヤマトダマシイってどこかで聞いたことのある名前かと思えばセイザ兄貴に聞かされたことがあったんだ。素質のみなら父シンボリルドルフを超える馬だってな。だがそれは叶わなかった』

「何が起こったの?」

『二戦目でヤマトダマシイは競争中止、その後予後不良で死んだんだ』

「……そ、そんな!」

『戻るなら今しかねえ! 何が何でも止めるんだ』

「はいっ!」

二代目は大急ぎでグリーングラスのいる台所へ向かう。

 

「グリーングラス先輩!」

「どうしただ?」

「グリーングラス先輩、一度だけ学園に戻りたいと思います」

「何があっただ?」

「お世話になった先輩のレースを見る為です」

「わかっただ。何も言わねえ。だけんどももし挫けそうになったらあのマッチレースで負けたことを思い出すだ。そうすりゃどんなことがあっても立ち直れるだ」

 

あのマッチレースの勝者はグリーングラスだった。グリーングラスが勝てた要因は盛岡競バ場の急坂にあり、二代目のパワーが不足していた。パワーは一ヶ月そこらでどうにかなるものではなく、何年も坂の練習をしているグリーングラスに叶う訳がなかった。

 

「はい。明日荷物をまとめて明後日学園に戻ります」

「よし、それじゃあ飯にするだ」

 

それから二代目は食事を取り、荷造りを始めた。

 

 

 

二日後。そこには不機嫌なグリーングラスと機嫌の良いマルゼンスキーがいた。

「アイリちゃん~!」

マルゼンスキーが二代目に抱きつき、抱擁するがすぐにグリーングラスに引き離される。

「鬱陶しいから別の場所でやれ!」

「グリーングラス先輩はいつもこうなんですから」

「マルゼン、お前は何も変わってないな」

マルゼンスキーがそれを聞いて顔を顰めながら口を開いた。

「携帯も持っていない先輩に言われたくないですよ」

 

 

 

マルゼンスキーとグリーングラスの喧嘩を見て先代が口を挟む。

『片や8戦無敗のGⅠ一勝のウマ娘、もう片や幾多もの敗北を繰り返しながらGⅠ三勝したウマ娘の対決か。どっちが勝つか見てみたいぜ』

「長距離勝負だったら間違いなくグリーングラス先輩が勝つだろうと思うけど、中距離だったら間違いなくマルゼンスキー先輩が勝つよね」

『今回やっているのはただの口喧嘩だが』

呆れた声で先代が二代目の耳に響かせるとマルゼンスキーとグリーングラスがこちらを見た。

 

 

 

「アイリちゃん、どっちがいいと思う?」

「オラに決まっているよな?」

 

マルゼンスキーとグリーングラスが詰め寄って二代目にそれを尋ねる。しかし二代目は何のことかさっぱり分からず首を傾げる。

 

「先輩方、何のことですか?」

「もう、アイリちゃんは何も聞いてないのね。ほらこの携帯よ」

 

マルゼンスキーが取り出した巨大な携帯はガラケーと呼ばれる日本独自の携帯でメール機能と電話機能を兼ね備えた携帯電話だった。

 

「これをグリーングラス先輩に渡そうとしたら、そんなチャラチャラしたものは持たないって言われちゃって」

「グリーングラス先輩……」

「オラの家にそんなものは必要ないべ。むしろ壊れるから必要ないだよ。その点固定電話とポケベルは便利なものだべ」

「手紙の代わりのメールとかもこれで出来るんですよ? それにこの携帯も一番落ち着いたものですし」

「とは言っても電話料金とかかかるんだべ?」

「この機種なら月々1000円くらいですよ」

「マルゼン姉さん、もういいです。私が代わりにその携帯の良さを教えます」

二代目がため息を吐きながらマルゼンスキーの手にあったガラケーを奪い取り、グリーングラスにプレゼンを始めた。

 

 

 

「いいですか、グリーングラス先輩。確かにここら付近の情報を集めるには回覧板やポケベル、固定電話で連絡はこと足りるかもしれません。しかし世の中はすでにメール社会に変わりつつあります。回覧板や手紙で情報を与えるのが数日要するのに対してメールは送信、つまり自分の手元から離れた瞬間から一秒経たずして相手に情報を与えることが出来ます」

「それは確かに言えているがメールを送る際にボタンポチポチ何回も押さなきゃなんねえだろ?」

「それは確かに言えています。しかし情報提供速度はこちらの方が早く、手間がかかる代わりに相手に伝える速度は圧倒的です」

「…………」

何とも言えない深みのある表情を見せるグリーングラスに二代目が更に説明する。

 

「また前回行ったような面倒な手続きも早く終わらせることが出来るだけでなく、電話番号を登録する機能も内蔵しているので向こうに連絡を取りたい場合、いちいちボタンを押すことなくすぐに電話することが出来ます」

「とは言っても滅多に使わねえからな。それで月々1000円は高いべ」

「グリーングラス先輩、それなら携帯電話を買ったと宣言すれば良いでしょう。不特定多数の人々に電話番号を教えない限り、仕事に有益なものとなります」

「そうか?」

「そうです。今まで携帯を持たないことで有名なグリーングラス先輩が携帯を持ったというだけで話題になります。するとグリーングラス先輩に注目が集まり、その期間の間にグリーングラス先輩が名前を売ってしまえば地方アイドルとして活躍出来ることになるでしょう」

 

「うーん……そんな上手くいくとは思えないべ」

「確かに。それまでと同じやり方では人は集まりません。しかしながらこのガラケーならではのやり方があります」

「それは一体?」

「つい近年、ガラケーは時代遅れのものとして扱われるようになり、代わりに大躍進しているのがこの端末機です」

二代目が板状の端末機を取り出し、グリーングラスに見せる。

「私であればガラケーの良さをSNS等で配信し、ガラケーのことを宣伝し、人々にガラケーのイメージキャラクター=グリーングラスという認識をさせて、ガラケーの会社からCM共演するようにします。CMに出ている為、宣伝効果は絶大的なものとなりグリーングラス先輩の名前もこのガラケーも飛ぶように売れるでしょう」

「胡散臭いべ」

「それは言えてるわ」

「と、とにかくガラケーを使う人が少なくなっている今、イメージキャラクターが定着しやすくなっています。そのイメージキャラクターになりさえすればグリーングラス先輩のアイドル業も成功するでしょう」

「言っていることに違いはねえが……」

「とにかくグリーングラス先輩、一ヶ月間試してみてください。一ヶ月後に使い心地を聞きに来ますから」

マルゼンスキーがそう言って無理やり押し付けるとグリーングラスはそれ以上後輩達の善意を踏みにじる訳にはいかずガラケーを受け取った。

「一ヶ月間だけだべ!」

しかしこの後、グリーングラスが二代目の言った通りに実行し、地方アイドルとしてもガラケーのイメージキャラクターとしても名前を上げることになったがそれはまた別の話である。

 

 

 

「でも私を呼ぶなんてそんなに急ぎなの?」

スーパーカーを運転しながらマルゼンスキーが助手席に座る二代目に話しかけた。

「はい。もしかしたら、永遠に取り返しのつかない事態になりそうだったので、思い浮かんだのがスーパーカーを乗りこなしているマルゼン姉さんでした。マルゼン姉さんが本気ならトレセン学園に秒で戻れますからね」

「そう……それじゃかっ飛ばしていくわよ!」

マルゼンスキーはそれ以上のことは聞かずスピードを上げる。その後、二代目の記憶は何故か途切れてしまい、気がついた時には既にトレセン学園だった。

 

 

 

「う、うーん……?」

「起きてアイリちゃん」

二代目が目を開けると、そこには顔がアップされたマルゼンスキーが映り、それを見た二代目の行動は少しでも離れるようにすることだった。

「うわっ、す、すみません!」

「おはよう、私の可愛いアイリちゃん」

マルゼンスキーの艶やかな声を聞き、二代目がさぶイボを立たせ、条件反射で少しでも遠くにマルゼンスキーから離れようとした。

 

「冗談よ。それより到着よ」

その言葉に二代目が辺りを見回すとトレセン学園の景色が目に映り時計を見ると出発してから三時間も経っていない。そのことに二代目が震えた。

 

東京都府中市にあるトレセン学園と青森県の津軽海峡付近までの距離は700km以上もあり、それを三時間弱で到着するということは平均時速233km以上のスピードで走っている計算になり、途中ガソリンスタンドで燃料を入れる時間を含めるとそれよりもスピードを出しており、確実にスピード違反している。二代目はそのことに触れないように口を閉ざした。

 

「それより、急な用事があるんでしょう? 早くいってあげなさい」

「はいっ! マルゼン姉さん、ありがとうございました!」

マルゼンスキーに頭を下げて二代目が向かった先はヤマトダマシイのクラスだった。




はいという訳で前回のマッチレースの結果はグリーングラスがハナ差で勝ちました。
しかしさらっとマルゼンスキーがドクターフェイガーしているのは今さらですね。



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尚、次回更新は西暦2019年3/4です。


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第10R サクラスターオーというウマ娘

前回の粗筋
二代目、トレセン学園に帰還する。


授業が終わり、ヤマトダマシイのクラス、ジュニアCクラスに向かった二代目が話しかけている相手、それはヤマトダマシイではなくビワハヤヒデだった。

「ではヤマトダマシイ先輩はここ一週間授業に出席していないんですか?」

「ああ。一応チームギエナのトレーナーにも言ってはいるのだが合宿トレーニングの最中の一点張りでまるで応えようともしない」

ビワハヤヒデが頭を抱え、ため息を吐く。

「合宿トレーニング……」

「元々チームギエナだった君ならばその場所を知っているのではないのか?」

「いえ。でもそれを知っている先輩なら心当たりがあります」

「そうか。だが気を付けろ。あのトレーナーは何をしでかすかわからない。もし必要であればこれを持っていけ、君ならこの道具を使いこなせる筈だ」

ビワハヤヒデがICレコーダーを二代目に託した。

「では検討を祈っている」

ビワハヤヒデがそう言って話すことはもうないと言わんばかりにドアを閉め、二代目は病院へと向かっていた。

 

 

『サクラスターオーのところにいくのか?』

二代目のアテは只一つ、サクラスターオーだった。サクラスターオーはチームギエナのメンバーの一員でありながら合宿に参加していない唯一無二のメンバー。ヤマトダマシイ達よりも現在会いやすい環境にある。

「ええ。サクラスターオー先輩なら何か知っているんじゃないかと思って」

『確かに悪くない考えだ。今サクラスターオーは病院で入院している最中だ。病院にさえ迷惑をかけなければ会える』

「……そう言えば先代の世界のサクラスターオー先輩ってどんな競走馬だったんですか?」

『サクラスターオーの競走成績に関してはお前が知る通り、皐月賞、菊花賞のGⅠ2勝に加え、弥生賞を勝った名馬であると同時に、壮絶な過去の持ち主だ。生まれてすぐ母親を亡くした為、曾祖母*1であり名牝スターロッチの元で育てられた過去がある』

「あ……」

『厩舎でも全く期待されていなかった訳じゃないがエースでもなかったからか、新人の調教師つまりトレーナーに預けられることになった。しかしエースだった馬は故障しサクラスターオーは二冠達成し立場が逆転。そして有馬記念では主催者に出走依頼されて出走したが……』

「そのまま故障して競走中止になったんだね」

『ああ。しかしこちらの世界のサクラスターオーは俺の世界とは異なり、死を覚悟するような故障じゃない』

「えっ!?」

『テンポイントも同じで、とっくに死んでいるはずなんだ。だがこっちのテンポイントは生きていてウマ娘専門の医者として名を上げている』

「うん……」

 

『俺はチームギエナのトレーナーを高く評価している。確かに奴が指導したウマ娘の故障率が高いがそれは仕方ないことだ。シャダイソフィアを初め、俺の世界でも予後不良で死んだ馬、マティリアルのように故障で悩んでいた馬ばかりだからだ。最初にあのトレーナーが管理したウマ娘ハマノパレード*2なんかは悲惨な最期を迎えることになったが、あれでも俺の世界の奴に比べればマシな方だ』

ウマ娘の世界、競走馬の世界共にハマノパレードの死は悲惨なものであることに違いなく忌々しさすら感じさせ、先代が声を荒くする。

 

「あれよりも悲惨な最期って……」

『それをお前が知る必要はない。聞くだけ胸糞悪いだけだ』

先代が更に不機嫌にそう声を出し、二代目はそれを話題にすることを止めた。

 

「もしかしてあのトレーナーがトレーナーでいられるのって、そういう悲惨な出来事を少しでも抑えているから?」

『本人は無自覚なようだがな。キシュウローレル、テンポイント、キングスポイント、サザンフィーバー、そしてサクラスターオー……本来死ぬはずだったウマ娘が皆、あいつに管理されたおかげで生きている。皮肉なことにな』

 

 

 

「じゃあ、ヤマトダマシイ先輩も死ぬことはないんじゃないの?」

『あいつはまだマシというだけあって予後不良を防げない訳ではない上に、それとこれとは別だ。俺の世界のヤマトダマシイは他の馬とは違って厳しすぎる調教が原因でレース中に故障し、予後不良となった。今回ばかりはあいつに責任がある』

「だから先代はトレセン学園に戻れって言ったんだね」

『ああ。あのトレーナーとの相性は最悪だ。放置すればヤマトダマシイは絶対に死ぬ』

「絶対にそうはさせない……!」

固く決意した二代目を止める者は、誰一人いなかった。

 

 

 

それから病院に着き、サクラスターオーの部屋に入る二代目。

「サクラスターオー先輩、お久しぶりです」

「アイグリーンスキー」

「体調の方はどうなんですか?」

「怪我を除けば何一つ異常はないわ」

「そうですか」

 

そして無言になる二人。二代目もサクラスターオーもこれが初見という訳ではないのだが、同じチームギエナに所属していたとはいえクラスが異なった為に接点がほぼ無く何を話題にすべきかわからなかった為である。

 

「サクラスターオー先輩。お伺いしてもいいですか?」

「何?」

「サクラスターオー先輩は去年合宿トレーニングに行きましたよね。今年は怪我で辞退されているようですけど、どこで行われるか知っていますか?」

「千葉県の船橋競バ場。そこでトレーナーはウマ娘達をしごいているわ」

「船橋競バ場……地方のウマ娘が使う競バ場じゃないですか?」

「アイグリーンスキー、地方のウマ娘を見下しているけど、地方のウマ娘達は侮れないわ。つい最近頭角を表したオグリキャップとイナリワンも地方出身よ」

「いえ見下すというより、船橋競バ場の使い道がわからないだけですよ。芝のある中山競バ場ならともかくダートオンリーのあそこで何のトレーニングを……?」

「私の時はリレー方式で地方の若いウマ娘達二人相手にしたわ」

「リレー方式?」

「そう。例えば私が2000m走るのに対して地方のウマ娘達は1200mと800m、マティリアルが2400m走るのなら地方のウマ娘は1200mと1200m走って競走するの。そうすることで地方のウマ娘達は私達トレセンの実力を知ることが出来るし、私達は効率の良いトレーニングを行えるの」

 

「肝心の中山競バ場でやらない理由はなんなんでしょうか?」

「中山競バ場を借りられないのはこの時期でレースを行う競バ場は中山と阪神で行われるからよ。そんな時期に中山競バ場を借りて一日で荒らした芝を戻せるかって言われたら無理……それにダートオンリーの船橋競バ場はその点まだマシで一日で元に戻せるだけじゃなく、地方のウマ娘達をアピールすることが出来るからその地方のトレーナーも指標にしやすいって評判だから向こうからオファーがあるくらいでやり易いのよ」

「なるほど……考えているんですね、あのトレーナーも」

先代、サクラスターオー共にチームギエナのトレーナーが有能であることを聞かされると頭の中で色々な思惑が廻る。

 

 

 

「サクラスターオー先輩、もう一ついいですか?」

「何?」

「サクラスターオー先輩、有馬記念に出走したのは何故ですか?」

「有馬記念に出走したのはトレーナーの強い勧めがあったのと、体調が万全だったからよ」

「強い勧め?」

「私が名門サクラ家の出身だってのは知っているよね。サクラ家はダービーウマ娘や二冠ウマ娘、天皇賞ウマ娘を輩出しているけど誰一人も有馬記念を制したことがないの。そのことを知っていたトレーナーさんは私の体調が万全なこともあって強く勧めてきたわ」

「それはつまりサクラ家で初となる有馬記念ウマ娘になれるチャンスだって言われたんですか?」

「ニュアンス的にそんな感じ。私を育ててくれた曾祖母様が有馬記念が終わるまで生きていたなら止めていたかもしれないわ……有馬記念直前に曾祖母様*3が亡くなってから弔いを兼ねて出走した結果がこの様よ」

「そうだったんですか……」

そしてサクラスターオーと二代目が話し込んでいると白衣を着た栗毛のウマ娘が入ってきた。

 

 

 

「スターオー、体調の方はどうかしら?」

そのウマ娘は栗毛に流星がかかったウマ娘であり、見る人が見ればその魅力に魅了されており、医者と呼ぶにはあまりにも美し過ぎた。

「テンポイント先生!」

「えっ、このウマ娘がテンポイント先輩なんですか?」

サクラスターオーがそのウマ娘、テンポイントの名前を呼ぶと二代目が驚愕の声を上げ、顔を見つめる。

「そちらのウマ娘は?」

「初めまして、チームギエナに所属していたアイグリーンスキーです。テンポイント先輩の後輩にあたります」

「よろしく、テンポイントよ」

差し出したテンポイントの手を握り、二代目が口を開いた。

 

「流石、グリーングラス先輩のライバルなだけあって雰囲気が違いますね」

「グリーングラスに会ったの?」

「はい、青森県で地方アイドルをしていましたよ。私もそのお手伝いをさせて頂きました」

「青森県の地方アイドル……なるほど里帰りしたのね。通りで地方のトレーニングセンターにいない訳ね」

「ところでテンポイント先輩、もしかしてサクラスターオー先輩の担当医なんですか?」

「まあよくわかったわね」

「それはそこに書いてありますし」

二代目がサクラスターオーの名前が刻まれたプレートの下に書かれてある担当医のプレートを指差すとそこにはテンポイントの名前が刻まれていた。

「それね。結構見ているのねアイグリーンスキー」

「どうも。ところでサクラスターオー先輩の容態はどうなんですか?」

「そのことだけどね、少しこっちに来てもらえる?」

サクラスターオーの部屋からテンポイントと二代目が出て別の部屋に入ると診断書を渡された。

 

 

 

「テンポイント先輩、これは?」

「見ての通りサクラスターオーの診断書よ」

「それはわかりますが、この筋膜断裂というのはなんですか?」

「アイグリーンスキー、肉離れはしたことがある?」

「いいえありません。もしかしてその肉離れが何か関係しているんですか?」

「そう。一般的な肉離れは筋膜断裂に属している……要するにスターオーは常に酷い肉離れをしていて回復出来ていないのよ」

「回復出来ていない?」

「この病状が起きたと思われるのは12月半ば──つまり有馬記念直前でそれ以降無茶なトレーニングをしたせいか悪化して治っていない。このままだと最悪、筋膜断裂から筋断裂に悪化して競走生命を断つ大怪我につながりかねない……そんな状況よ」

 

先ほど二代目は、サクラスターオーが有馬記念直前に曾祖母を亡くした影響を受けたことを聞いており、間違いなくサクラスターオーは動揺するあまりトレーニングを過剰にしてしまったと推測し困惑する。しかしそれも僅かなものですぐに口を開いた。

 

「サクラスターオー先輩がそんな大変なことに……テンポイント先生、一つお願いがあります」

「何かしら?」

二代目がテンポイントに耳打ちするとテンポイントが納得の言った顔つきになり、二代目にある約束をした。

 

「ありがとうございますテンポイント先生」

「いいわよ。これくらいなら何でもないわ」

「テンポイント先生、サクラスターオー先輩のことをよろしくお願いいたします」

二代目が頭を下げ、その場から去るとテンポイントは一人呟く。

「……アイグリーンスキー。あの娘は間違いなく、私達TTGを越える大物になるわね。グリーングラスが気に入る訳ね」

 

テンポイントが見つめる二代目の背中は現役時代の自分達よりも遥かに雄大なものであり、グリーングラスが師事されるのを認めたのも頷けた。

*1父父あるいは母父を祖父と呼ぶ場合があり二頭を指すことがあるが祖母、曾祖母となる場合は母母、母母母と母系のみの一頭限り

*2宝塚記念馬。史実では高松宮杯で予後不良となったが薬物投与による安楽死の処置を執られることが原則となっているが、ハマノパレードにそうした対応は行われず、屠殺されてしまっただけでなく、その肉はさくら肉として販売され物議を醸した。この事件がきっかけで予後不良となった馬は薬物を投与し安楽死の処置を執ることが原則となった。

*3史実のスターロッチは有馬記念直前ではなくサクラスターオーの調教生活がはじまった時に亡くなった




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尚、次回更新は西暦2019年4/8です。


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第11R 新たな始まりへ向けて

前回の粗筋
テンポイント「サクラスターオーは筋膜断裂です」


二代目はテンポイントから渡された書類を持ち、二人の女性を呼び出していた。

「それでアイグリーンスキー、私達を呼び出した緊急の用事とは一体何なんだ?」

「バナナとリンゴをデザートにする話でしたら厚生課に訴えて下さいね」

たづなが冗談混じりにそう笑うが目が笑っておらず、シンボリルドルフが畏怖する。

 

「そんな話な訳ないでしょう……シンボリルドルフ会長、たづなさん。貴女達をお呼びしたのは他でもありません。チームギエナのウマ娘達についてです」

「!」

それを聞いたたづなとシンボリルドルフが目の色を変え、真顔になった。

「つい先日サクラスターオー先輩にお会いし、チームギエナの合宿場所を突き止めることが出来ました」

「本当か!?」

シンボリルドルフが立ち上がり、二代目に問い詰める。

「船橋競バ場、そこにチームギエナの関係者がいるとのことです」

「そうか船橋競バ場にいたのか」

「ええ。そしてもう一つ、この資料をご覧下さい」

二代目がテンポイントから渡された資料を二人に渡した。

 

「これは……!」

「ご覧の通り、サクラスターオー先輩を始めとしたチームギエナのメンバーが故障した原因が書かれたものです」

「なんてものを……」

「たづなさん、これをトレーナーの人事の方にお渡し出来ませんでしょうか?」

「私ですか?」

「信頼のない私はともかくシンボリルドルフ会長が提出したところで揉み消されかねません。シンボリルドルフ会長はウマ娘の中では発言力があれど人事に口出し出来るほどではない。しかしたづなさんは理事長秘書という立場でいます。理事長秘書の貴女がこれを提出したという事実が必要なんです。貴女が提出したということは理事長が提出したということに等しく、人事も動かざるを得ないでしょう」

 

 

 

「では何故この場に私を呼び出した?」

シンボリルドルフがそう口を開くと二代目が頷く。

「シンボリルドルフ会長を呼び出した理由はたづなさんと一緒に手元にある資料を提出して貰いたいからです」

「先ほどと言っていることが違うぞ?」

「早い話がたづなさんの同伴です。ウマ娘を代表しかつ公明正大で知られる会長なら万一提出したものを揉み消され、たづなさんを孤立無援の状態から防ぐことが出来ます」

「そうか……そこまで私を信頼しているのか」

 

「一ついいでしょうか?」

たづなが手を挙げ、二代目に質問した。

「どうしました?」

「この資料を一度理事長に見せて貰っても構いませんか?」

「わかりました。ただし厳重かつ人目のないところで見せて下さい」

「それはもちろん」

「では失礼します」

 

そして数日後、チームギエナのトレーナーが首になり、このことはウマ娘人間問わず世間話になるほど話題となった。そしてトレーナーが首になった為にチームギエナの合宿が中断となりメンバー達が帰って来た。

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩……!?」

「グリーン、戻ってきたのか?」

ボロボロのジャージを着たヤマトダマシイの姿をみた二代目が目を見開き、驚愕の余り口を手で塞ぐ。

「先輩、その格好は?」

「これか? まあ名誉の勲章的なアレだよ。それより今回の騒動はお前の仕業か?」

「ええ。こうでもしなければヤマトダマシイ先輩を止めることが出来ませんでしたから」

「止める?」

「このままだとヤマトダマシイ先輩が、シャダイカグラ先輩*1よりも悲惨な最期を迎えかねない。それを回避するにはヤマトダマシイ先輩の今度の条件戦、出走回避させるしか他ありません」

「それでチームギエナのトレーナーを?」

「サクラスターオー先輩はあの虐待染みたトレーニングで体に異常を発生し、故障したんです。ヤマトダマシイ先輩も故障して予後不良になる……そんな予感がしてたまりません。例え恨まれてでも止める必要がありました」

二代目が頭を下げ、ヤマトダマシイに誠意を見せた。

 

「……なあ、アイグリーンスキー。前に私が言ったこと覚えているか?」

「私の武者修行の旅を終えたらヤマトダマシイ先輩が立ち上げたチームに所属するって話でしたね」

「ああ。これからチームを立ち上げようと思う。チームギエナに所属していたウマ娘とトレーナーの確保は既に終わっているんだけど、それ以外つまりジュニアAのウマ娘の勧誘がまだなんだ」

「私にそれを?」

「そう。お前にはチームカノープスの宣伝と勧誘を行って貰う」

「カノープス?」

「りゅう座の一等星にちなんで名付けた私達のチーム名だ。ちなみに活動場所はチームギエナと変わりないから安心して勧誘してこい」

「はいっ」

「これが名簿だ……後は任せたぞ」

名簿を渡したヤマトダマシイが肩を叩き、その場から去る。

 

 

『カノープスか。皮肉なもんだな』

「先代、それは一体どういうこと?」

『前にセイザ兄貴のことは話したな? 俺の兄貴はもう一頭いる。その兄貴の息子の一頭がカノープスって名前だったんだ』

「そのカノープスって馬はどんな馬だったの?」

『カノープスが勝ったGⅠは皐月賞のみと寂しさを感じさせるものだが、種牡馬としてはかなり活躍した。種付け料金が100万円と手頃な割りに勝ち上がり率が種付け料金750万円の種牡馬以上の成績を残したものだから中小牧場から救世主なんて言われていたほどだ』

「つまり父親として活躍した馬なのね」

『まあそのお陰で一悶着あったんだが、それは置いておこう。ヤマトダマシイは救世主となるように故意に狙っていたのか、あるいは偶然なのかわからないが、そうなるようにしなければな』

 

「先代、この中で知っている名前ある?」

二代目が先代と話し合い、素質のあるウマ娘について語り合った。

*1この小説内のウマ娘シャダイカグラは死んでいる




後書きらしい後書き
もし私が萌え絵イラストを書ける能力があるなら、二代目のイラストを描いて皆さんのオカズを作っていたでしょうが、私に絵心はなく、あるのは私が投稿している小説の設定やゴルフの飛距離だけという有り様です(半ギレ)

後、アンケートを取っていますのでそちらにも是非参加お願いします。


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第12R SS

令和最初の投稿だ!

前回の粗筋
二代目「ヤマトダマシイ先輩を救えた……!」


「先代、このウマ娘はどう?」

『フジキセキか……こいつは微妙だな』

「このフジキセキってウマ娘は駄目なの?」

『駄目と言われればそうではない。寧ろ俺の世界では三冠馬になっていただろうと言われていたほどの素質の持ち主だ。3戦目で朝日杯三歳S*1を勝ち、4戦目の弥生賞も勝利した後屈腱炎を起こして引退しただけに不安要素も大きい』

「三冠を獲れるなんて言われるほどの素質の持ち主……ヤマトダマシイ先輩以上じゃない!」

『フジキセキを勧誘する場合、リスクとリターンをじっくり考えてみることだ』

 

 

 

「それじゃこのゴールドシップは?」

『……ゴールドシップだと? それは見間違いじゃないのか?』

「うん、ちゃんとここに書かれてあるよ」

『やはりむちゃくちゃだ……この世界は』

「そのゴールドシップってどんな競走馬なの?」

『ゴールドシップはGⅠ6勝の名馬だ』

「GⅠ6勝……!? めちゃくちゃ強いじゃない!」

『この時代じゃ驚くのは無理もないか。だが同時にこいつはかなりのワガママで人間のわんぱく坊主のような奴だ。もし真面目に走っていたらGⅠを後2勝くらいしていただろうと言われるほとだ』

「じゃあそのウマ娘をスカウトしようよ!」

『スカウトする分には構わないが別人という可能性もある。俺の世界のゴールドシップはフジキセキよりもずっと後の世代に産まれている。何せゴールドシップの父親ですらフジキセキの後輩にあたるんだからな』

「そうなの?」

『ゴールドシップの特徴は芦毛で体が大きい』

「芦毛で体格が大きい。うん間違いなそうね」

『そしてイタズラ大好きで何を仕出かすかわからない』

「それも合っている」

『奴の誕生日は3月6日だがそっちは?」

「それも合っているよ」

『そこまで来ると本人そのものか……せいぜい噛まれないように気を付けろよ。ゴルシの親父、祖父、曾祖父と父子三代全て肉食獣だったからな』

「え、ちょっと待って、肉食ってどういうことなの?」

先代の意味深な言葉に二代目が尋ねるも帰ってくるのは沈黙。余程ゴールドシップの父親が気性難だったと伺える。

 

 

 

いざ二代目がフジキセキ達をスカウトしようとすると人だかりが出来ていてスカウトしようにもそれどころではなく、その人だかりが出来た原因を突き止める為に、ウマ娘に話しかける。

「何の騒ぎ?」

「何でも米国の二冠ウマ娘が特別講師として来日したんだって」

「特別講師……」

「ほらあそこよ」

そしてウマ娘が指差した先にいたのは青鹿毛の長髪に頭上の白いアホ毛、さらに緑のスカーフが特徴のウマ娘だった。

 

 

「ぜんじんみとぉぉぉっのおぉぉぉーっ! スゥゥゥパァァァサイィアァァァーっ!」

特別講師と思われるウマ娘がテンション高めに叫び体を傾けさせ、両腕を頭上に上げる。

 

「喜べ愚民ども! 米国で二冠を制したこのサンデーサイレンスがわざわざ特別講師として来日してやったぞ!」

「ぐ、愚民って……」

二代目を始めとしたウマ娘やハナ等のトレーナーはサンデーサイレンスなるウマ娘を見てドン引きし、頭を抱える。

しかしこの中で一人だけ別の意味で驚いていた。

 

『サンデーサイレンス!?』

「先代、どうしたの?」

小声で二代目が先代に尋ねると興奮を隠しきれないのか声が震えていた。

『サンデーサイレンス……まさかあいつが特別講師としてやってくるなんてな。どうやら俺達は大当たりを引いたかもしれねえ』

「どういうこと?」

『俺の知るサンデーサイレンスは連対率100%のGⅠ6勝馬。現時点の日本じゃシンザンしか成し遂げてない偉業を達成した馬だが、競走成績以上に種牡馬成績──つまり父親としての活躍が目立っている』

「そうなの?」

『初年度ながらにしてフジキセキを輩出しただけでなく史上二頭目の無敗の三冠馬の父でもあり、ゴールドシップの父父としても名前を残している偉大なる種牡馬だ』

「そんな凄い馬なの?」

『父親としての実績は、13年間国内獲得賞金ランキング一位を獲得。日本以外でもこれ以上の実績を成し遂げているのは二頭くらいしか思い当たらないから化け物だろう』

「競走成績で例えるとどのくらい凄いの?」

『そうだな……競走成績で例えるとニジンスキーか?』

「なっ……!?」

『とにかくだ。そいつが特別講師として日本に来ているんだ。フジキセキやゴールドシップよりもその価値は高いから専属契約しておけ』

その言葉に二代目が頷きサンデーサイレンスに近寄る。

 

 

「どうだ、そこのウマ娘ちゃん、二冠ウマ娘たるサンデーサイレンスの指導を受けてみないか?」

「え、別にいいです……」

隣にいたウマ娘が断るとすかさず二代目が挙手した。

「じゃあ私達のチームにお願いいたします!」

それを見たサンデーサイレンスが奇声を上げ、二代目に近寄る。

「よーし、それじゃ余を諸君らのチームに案内してもらおうか!」

二代目とサンデーサイレンスが立ち去るとウマ娘達が騒然としていた。

 

 

 

その数分後、二代目とサンデーサイレンスは寄り道しながらフジキセキ等、史実におけるサンデーサイレンス系のウマ娘達を捕まえ、ヤマトダマシイのいるチームカノープスの所で説教を食らっていた。

「アイグリーンスキーぃっ、私はジュニアAのウマ娘を連れてこいとは言ったが特別講師のウマ娘を連れてこいとは言わなかったはずだぞ?」

ヤマトダマシイが声を荒くし、サンデーサイレンスの耳はロバの耳となっていた。

「ヤマトダマシイ先輩、そう言わないで下さい。ジュニアAのウマ娘はいくらでもいます。しかしこの特別講師サンデーサイレンスは優れたウマ娘を見抜くスペシャリストです」

「ほう……? そのウマ娘達が優れたウマ娘だと?」

「余の目利きに間違いはないっ!」

サンデーサイレンスが見下し過ぎて見上げるポーズを取りヤマトダマシイに指差す。

 

「特にこのフジキセキ!」

「ひゃっ!?」

サンデーサイレンスにいきなりセクハラされたフジキセキが条件反射で声を上げ、飛び立つ。

「余の見立てが正しければシンボリルドルフに匹敵するくらいの素質を持っている!」

「え、あ、え?」

フジキセキがまるで何を言っているのかさっぱりわからず混乱する。それもそのはず、シンボリルドルフといえばこのトレセン学園の頂点に君臨するウマ娘であり、それと素質のみなら同格と言われて動じないはずがない。

「なあ私は?」

「ゴールドシップ、お前はもう……」

「動かない~!」

「その時計~!」

何故か歌って爆笑し握手するウマ娘二人に、二代目を含めたウマ娘達が頭を抱える。

『1+1は2ではなく200だなこりゃ。10倍だぞ10倍!』

先代の言葉に二代目が同意したくないが同意してしまった。

 

 

 

「本当に大丈夫なのか?」

「多分大丈夫でしょう。サンデーサイレンス先生は米国で二冠獲得したウマ娘ですよ」

「いや、何と言うかウマ娘というよりも悪魔と契約してしまったような気がする」

ヤマトダマシイの指摘にぐうの音も出せない二代目。その傍らにあやとりを二人で続けるゴールドシップとサンデーサイレンス、話についていけないフジキセキ達ジュニアAのウマ娘達。それを見かねたマティリアルが口を挟んだ。

 

「皆さん、これから練習場に参りましょう。実際にカノープスに所属するに従って練習環境を見て判断して貰わなくてはなりませんわ」

「わかりました!」

ゴールドシップを除いた全員が返事をし、機嫌を良くしたマティリアルが練習場へと向かった。

*1現在の朝日杯FS。当時は満年齢ではなく数え年で年齢を換算していた




後書きらしい後書き
ウイポ9……何故90年代スタートなんだ? もし70年スタートだったら購入したかもしれないのに。

ウイポのサンデーサイレンスことSSは毒にもなるし薬にもなります。
おそらく皆様がウイポで一番予後不良にさせた馬はSSなのではないでしょうか。
かくいう作者も幾度なくSSを予後不良にさせて他の馬の系統確立をさせています。



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尚、次回更新は西暦2019年5/2です


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第13R チームカノープス

前回の粗筋
サンデーサイレンス登場!


練習場につくと数人のトレーナーがそこで待機していた。尚、全員女性であったがそれはスルーした。

「さて、皆様にご紹介しましょう。ここカノープスでは数人のトレーナーから指導を受けることが出来ます」

それを初めて聞いた二代目がヤマトダマシイに耳打ちする。

「先輩、特別講師がいらない理由ってこういうことですか?」

二代目が尋ねた理由はチームカノープスが抱えるトレーナーの数であり通常であれば一人、どんなに多くても二人である。三人も抱えるチームカノープスが異常であり、異端である為だ。

「トレーナーは全て人間だからウマ娘の体調に気づけないこともあるからウマ娘の特別講師を迎えること自体は反対じゃない」

「それは良かったです」

 

「さて左から順にご紹介しましょう。マツさんお願いいたします」

「国田マツです。皆様がカノープスに所属することをお待ちしています」

「次に紹介するのはフジさんです」

「どうも、Mt.FUJIが渾名の沢村フジです! 皆がカノープスに来ることを期待しています」

「そして最後に紹介するのがハルさんです」

「武田ハルです。またここにいる皆様とまた出会いたいと思います」

「このトレーナーの皆様の他に加え、特別講師をご紹介致しますわ」

マティリアルが勝手にそう告げ、マイクをサンデーサイレンスに向けると何故か音楽が流れる。

 

「余の、名前はっ! サンデーサイレンス! こう見えて、米国の二冠ウマ娘! その余が、特別講師! よ、ろ、し、く、な! いぇーいっ!」

謎のダンスを続けるサンデーサイレンスに新入生が唖然とする。

「はい掛け声!」

「サンデーサイレンス~!」

「よーし、それじゃ気分が乗ってきたところで実際にダンス練習してみようか!」

「ええっ!?」

サンデーサイレンスが勝手にそう決めて、新入生達を案内しようとした時、二代目がそれを止めた。

 

「サンデーサイレンス先生、新入生達はウイニングライブの練習よりも走る練習の方が面白がりますよ」

「ではこうしよう。ここにいる全員で日本ダービーと同じ距離である2400mの模擬レースを行う」

サンデーサイレンス得意の掌返しが炸裂し、新入生達が様子を伺う。

「そしてその後ウイニングライブを先輩ウマ娘達が行い、新入生のうち上位三名がバックダンサーとして踊る……というのはどうかね?」

「それは確かに良さそう」

マツがそう呟き頷くとそれに反応したのがフジだった。

「マツさん、いくらなんでもスパルタ過ぎませんか? いきなり新入生が踊れる訳がないでしょう」

「いや踊れないにしても──」

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩、どういう人選なんですか? 喧嘩しているじゃないですか?」

「ウマ娘の中にも色々なタイプがいる。スパルタトレーニングで徹底的に鍛え上げることで成長するタイプ、逆に軽く効率良くトレーニングをこなすことで成長するタイプ、そしてその中間点で伸びるウマ娘もいる。トレーナー三人集まればどんな性格のウマ娘も育て上げることが出来る」

ヤマトダマシイの信条、それは様々なトレーニングを取り入れ強くすることであり今回はそれが裏目に出てしまった。

「その結果がアレですよ? あの喧嘩のせいで新入生達がドン引きしているじゃないですか!」

「サンデーサイレンス先生の自己紹介ほどじゃないからまだマシな上に、アレはサンデーサイレンス先生が引き起こしたことだ。サンデーサイレンス先生にケジメをつけて貰わないとな」

ヤマトダマシイが取った行動はサンデーサイレンスに後始末を任せるという方法だった。

 

「サンデーサイレンス先生、この喧嘩を引き起こしたケジメつけてもらおうか」

「オーケー。私のケジメの取り方しっかりと見ろ」

サンデーサイレンスがそう告げるとマイクを持ち新入生達を引きつけた。

 

 

 

「新入生の皆にはレースをする前にこのチームカノープスのことを知って貰いたい。まずシニアクラスのウマ娘から自己紹介してもらおうか」

またもやサンデーサイレンスが掌返ししてマティリアルにマイクを渡す。その様子を見た各ウマ娘が計画性がなさずぎと呆れてしまうのであった。

「えー、先ほど皆さんを案内致しましたマティリアルと申しますわ。今後とも宜しくお願いいたしますわ」

そして次に渡されたウマ娘は栗毛と流星が特徴のダービーウマ娘、メリーナイスだった。

「一昨年度の朝日杯、昨年度の日本ダービーを勝ちましたメリーナイスです。この舞台で聞きたいことがあれば是非とも所属して下さい」

メリーナイスがマイクを次のウマ娘に渡して、息を吐く。

 

そのようなことが続き、数分後。いよいよヤマトダマシイの自己紹介となった。

「私、ヤマトダマシイの自己紹介の前に一つ言わせて貰う。本来シニアクラスのウマ娘はもう一人いるのですが、故障のリハビリにより来られない為私が紹介します。サクラスターオー先輩です。サクラスターオー先輩はメリーナイス先輩を差し置いて昨年度の最優秀ジュニアCウマ娘を受賞した先輩ですが去年の有馬記念で故障し現在治療中です」

「そんなウマ娘がいるなんて……」

「そしてこの私、ヤマトダマシイからジュニアCのウマ娘の自己紹介に移ります。現在私はデビュー戦を終え、翌週のOP戦に登録しています」

ヤマトダマシイが紹介を終えると次のウマ娘にマイクを渡すと二代目が先代に話しかけた。

 

 

 

「先代、あの三人のトレーナーに心当たりはある?」

『フジにマツにハルの三人か……ハルについては予測はついている』

「どんな人なの?」

『ハルは俺の相棒──主戦騎手に良く似ている』

「騎手……確か競走馬に乗って指示する人だったね」

『そうだ。相棒は騎手を引退した後、この世界でいうトレーナー──つまり調教師になったんだ。調教師としてもあいつは優秀で数々のGⅠ競走を獲得した名伯楽だ。スプリンターを菊花賞で勝たせたり、逆にステイヤーに足りないスピードを付けさせる天才だった』

「トレーニング内容はどんなものだったの?」

『詳しいことは知らねえが特殊なトレーニングを考案することが多かったらしい』

「特殊なトレーニング?」

『通常競走馬の調教は15-15*1や坂路、そして併せ馬が基本的だが俺が聞いた話によると10時間ぶっ続けて引き運動*2を行う、プールを使わず激流の川で泳がせると言った内容ばかりだ』

「先代……もしかして津軽海峡を泳げって前に言ったけどその時の影響が残っているの?」

『……さてどうだろうな』

先代が誤魔化し、無言になる。

 

「まあそれについては後で話すとしてこの記事どう思う?」

二代目が取り出したもの、それはスポーツ新聞だった。そこには現在注目されつつあふシニア組の動向について記載された記事だった。

 

【笠松からやって来た地方の怪物、オグリキャップ。彼女はGⅠ競走、大阪杯、安田記念に出走登録しており、悲願のGⅠ制覇が期待されている】

 

【もう一人の地方の怪物イナリワン。前走の阪神大賞典こそ5着とタマモクロスに先着されたもののその実力はやはり本物であり、逆転も十分にあり得る】

 

【サクラスターオーと同着という形で昨年の菊花賞を勝ったスーパークリーク。阪神大賞典でも三着と粘り長距離に関しての素質もあり、天皇賞春ではタマモクロスに対抗出来る存在であるが、脚部不安の為に春の天皇賞、宝塚記念共に見送る模様】

 

【裏街道を歩み続けたタマモクロス。阪神大賞典で連勝記録を伸ばし続け、次の天皇賞春でも勝利が期待される。本命間違いなし】

 

【昨年度、グランプリ連覇を果たし、今年度の阪神大賞典をタマモクロスと共に勝利したメジロパーマー。ハマった時の逃げ脚は怖い存在だ】

 

『……二代目、現時点ではタマモクロスが最強だろう。しかしこの中で来年お前が対決する上で脅威になる相手はイナリワン、再来年はスーパークリークだ』

「タマモクロスとオグリキャップはどうして脅威じゃないの?」

『タマモクロスは来年引退している可能性が高い。オグリキャップは基本的にマイラーで安田記念に出走しなきゃいけねえから来年の宝塚記念時点で有利なのはイナリワンの方だ』

「いやそれだったらJCとか有馬記念とか、秋のレースがあるでしょ?」

『その時点で二代目はマークせずとも自分のレースだけでオグリキャップ達に勝てるだけの実力が付いている』

「それって──」

「おいこらグリーン、何もたもたしていらぁっ! とっとといくぞ!」

『お呼ばれの様だぜ二代目。この話はまた後でしよう』

ヤマトダマシイに叱られた二代目がヤマトダマシイについていく。

 

しかし新入生の案内が終わった後、最優秀シニアウマ娘がチームカノープスに併せウマを申し込んで来ることに誰もが予想外だった。

*11F(約200m)あたり15秒間隔で走る調教であり最も効率的な調教とも言われている。

*2厩務員などが馬を引き連れて歩く運動。極軽い調教の一つ




後書きらしい後書き
武田ハルことハルのモデルは青き稲妻の物語に出てくる武田晴則がモデルです。他の二人のトレーナーについてはご想像にお任せします。


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第14R マックイーンよりもライアンよりもメジロなウマ娘

~前回の粗筋~
トレーナーs「我らチームカノープス!」


チームカノープスが新入生達を迎え終わった翌日、昨年度の最優秀シニアウマ娘、メジロパーマーがチームカノープスに併せウマを申し込んだ。しかしチームカノープスはある問題を抱えていた。メジロパーマーにふさわしい併走相手がシニアのウマ娘の中で見つからなかった為だ。

 

現在チームカノープスを代表するシニアのウマ娘、メリーナイスとマティリアルの二人は大阪杯に出走予定があり、調整段階にかかっている為にメジロパーマーと併せウマが出来ない。その他シニアのウマ娘はメジロパーマーと併せウマをしても、実力的に不相応な者ばかりだった。

 

 

 

「となると、やはりジュニアCのヤマトダマシイか? あいつはビワハヤヒデとウイニングチケットに食い込めるだけの実力がある」

トレーナーのうち一人、マツがビワハヤヒデとウイニングチケットの二人に並ぶ逸材としてヤマトダマシイを推薦する。

「いやあいつもレースが近い。重賞の一つを勝っているならともかく重圧過ぎる」

「メリーナイスもマティリアルも互いにパートナーとなると……まとめて三人で走るのはどうでしょうか?」

トレーナーの三人が話し合い、会議を進めていると扉を乱暴に開けたウマ娘、サンデーサイレンスが唐突に口出ししてきた。

 

「むっふっふっ、お困りのようだな!」

「サンデーサイレンス」

「お前、何しに来た」

散々な言われようも無視してサンデーサイレンスが紙束をトレーナー達に渡した。

 

「それは昨日までにウマ娘達のデーターをデジタル化したものだ。チームカノープスの中で今のメジロパーマーに対抗出来るのはシニアのメリーナイス、マティリアル、ジュニアCのヤマトダマシイ、ジュニアBのアイグリーンスキーのみだ」

二代目の名前を出されたトレーナー達が困惑の声を出す。

「アイグリーンスキーだと? いくら何でもそれは──」

「あり得ないと言いたいのか? 言っておくがレースに絶対はない。どんなウマ娘でもチャンスはある……アメリカンドリームを達成した余のようにな!」

 

デビュー前のサンデーサイレンスの過去は散々たるものだった。まずサンデーサイレンスが入学したトレセン学園からは不正を疑われ、徹底的に教師やトレーナー達から嫌われてしまい、大手チームは当然中小チームからも入団拒否されてしまう。

そんなサンデーサイレンスを迎えてくれた偏屈なトレーナーのいるチームに所属してもそのチーム内でウマ娘特有のインフルエンザが流行し、サンデーサイレンス以外のウマ娘が死亡。残ったのはまともな期待すらなかったサンデーサイレンスのみだった。

 

そんな逆境の中でサンデーサイレンスは大手チームから厚い期待を受けていたイージーゴアを蹴散らして米国で二冠を制し年度代表ウマ娘となった。

当初こそ評価が低かったサンデーサイレンスの活躍に誰もが驚愕し、醜いアヒルの子に例えられるようになった。

 

 

 

「確かにレースに絶対はないのは知っているが、今回に限っては絶対だ」

「果たしてそんなことが言えるのか? チームリギルの試験ではあのビワハヤヒデの妹ナリタブライアンにアイグリーンスキーは勝ったそうだ」

「それはまあ、ナリタブライアンも同世代だから勝てる見込みもあるんじゃないのか?」

 

「つい先日、青森県で地方アイドルとして活動しているウマ娘二人がマッチレースをしたそうだ」

「マッチレース……まさか、アイグリーンスキーがそれをやったというのか?」

「いや地方のウマ娘、それもアイドル業を本業としているならそれほど大した相手では──」

「アイグリーンスキーがマッチレースに出走したのは正解だ。だがその相手はトレーナーをしている、いや学園の全員が知るウマ娘だ」

「一体誰なんだ?」

「あのTTGの一角であり、年度代表ウマ娘にも輝いたウマ娘、グリーングラスだ。グリーングラスに敗れたもののタイム差なしのハナ差。メジロパーマー相手には十分な相手だと思えるし、何よりも惨敗したとしても彼女はまだジュニアBのウマ娘だ。これからの成長を考えてもやるべきだ」

「……意外にもウマ娘のことを見ているんだな、サンデーサイレンス」

ハルが驚愕の声を出し、その声に同意するようにトレーナーの全員がサンデーサイレンス見つめるとサンデーサイレンスが答える。

「余を唯の穀潰しだとでも? これでもどん底から這い上がって来たウマ娘だ。レースに勝つにはウマ娘のことを観察し、論理的かつ合理的に判断するのは当たり前のことだ」

実体験をしているサンデーサイレンスの言葉は余りにも重かった。

 

 

 

そんなこんなで二代目がメジロパーマーの併走のパートナーと決まり、数日後。

「先代、メジロパーマーって競走馬はどんな馬なの?」

『ウマ娘のメジロパーマーはグランプリ連覇を果たしていたんだっけか?』

「うん。どっちも人気薄で逃げ切られたって新聞に書いてあったよ」

『そうか……こっちのメジロパーマーは俺の世界よりも強いかもしれねえぞ。あいつは俺の世界では有馬記念すら勝っていなかったからな』

 

「へぇ……もしかして先代のお兄さんが?」

『その通りだ。その時のメジロパーマーは惜しくも二着だった。だがウマ娘のメジロパーマーは二着になることなく見事勝利した。ウマ娘となった兄貴がいないとはいえこれは中々出来ることではない』

「そういうものなの?」

『ウマ娘ってのは良くも悪くも俺の世界の競走馬の成績、GⅠ競走を含めた重賞の成績は特に影響される。テンポイントはその典型例だ。故障したタイミングまで一緒だしな』

 

「う~ん……それじゃシンボリルドルフ会長が米国でヘマこいたのも?」

『ああ。それも俺の世界のシンボリルドルフと一緒だ。しかし俺の世界のシンボリルドルフはその後引退だったが、こっちの世界では引退していないことから故障に関しては影響力が少ない世界だ』

 

「それじゃヤマトダマシイ先輩を救ったのは無意味だったんじゃ……」

『無意味ってほど無意味ではない。少なくとも故障する確率は大幅に減少した。ヤマトダマシイの故障の原因は無理な調教によるものだ。それに競走中止になったウマ娘が復活した例は俺の世界の競走馬が実際に復活した例しかない。俺の世界で予後不良で死んだ馬はすべからくレースに復活していない』

 

「そういえば……テンポイント先輩もキングスポイント先輩もサザンフィーバー先輩も皆引退している」

『生死に関しての影響力は緩いがレースの成績にはかなり反映されている。その影響力があるにも関わらずそれを打ち破ったメジロパーマーは速さは兎も角、強さはGⅠ5勝のウマ娘にも匹敵するだろうな』

先代の言葉に二代目が気を引き締め、体を動かし暖める。

 

 

 

その数分後、メジロパーマーを連れたサンデーサイレンスが現れた。

「メジロパーマー、このアイグリーンスキーが相手だ」

「ほぉ、ワシん相手はジュニアのウマ娘かいな。確かに図体だけはシニアに劣らんが相手として力不足なんちゃうか?」

 

メジロパーマーが鼻で笑い、二代目を見る。確かに二代目の体格はジュニアCのウマ娘どころかシニアのウマ娘にも劣らないほど雄大であり、一見するとシニアのウマ娘と見間違えてしまうほとだ。それをメジロパーマーが見破った理由はシニアに二代目がおらず別のクラスのウマ娘だと判断したからだ。もっともそれでもジュニアCのウマ娘と勘違いしているのだがそれは仕方ない話だ。

 

「もしかしたら役者不足になるかもしれないわよ。メジロのお嬢様」

「ワシは常に挑戦する立場やからな。相手がシンボリルドルフ会長やったとしても役者不足になることはないわ」

二代目の挑戦にメジロパーマーが挑戦返し。互いに火花が飛び散る。

 

「……まあええ。事前に確認しておくが今回のトレーニング内容は3200mの模擬レース形式の併せウマや。それはサンデーサイレンスから聞いておるな?」

「ええ。天皇賞春を想定した練習だそうですね」

「せやから天皇賞春に出走しても勝てる見込みのあるシニアの連中に頼んでいたんやだが断られてもうた。せやけどそこのサンデーサイレンスにジュニアで見込みのあるウマ娘がおる言われて自分と勝負することに決めたんや」

「勝負ねぇ……それはやはり、メジロパーマー先輩の評価が低いからですか?」

 

「今度の春の天皇賞に勝つ為や。ワシはメジロ家の中でも期待されていなかったんや。宝塚記念を勝った時はマックイーンを初めとしたメジロ家関係者が応援に来ず、有馬記念を勝った時もタマモクロスのいない低レベルの戦いと評価され、有馬記念を勝ったのはサクラスターオーが故障しても影響のない逃げウマだから勝ったと評価された。そして今年の阪神大賞典でタマモクロスと同着になってもワシはタマモクロスどころか5着のイナリワンよりも劣る存在扱いや」

 

「だけど天皇賞春を勝てばその評価は覆される」

「そうや。昨年の菊花賞ウマ娘達が不出走でもタマモクロスやイナリワンとてそれに劣る存在やない。むしろ世間の評価はそっちの方が上や。そいつらをまとめて倒してメジロパーマー一強時代を築き上げる。それで世間をアッと言わせちゃる」

「天皇賞春を勝った程度だと一強時代は来ませんよ。せいぜいタマモクロス先輩達と同格になるだけです」

「なんやと?」

「さてその答えが知りたければ、私に勝って下さい」

「ほざきよったな。後悔しても知らへんで」

メジロパーマーが離れ、準備体操に取りかかると二代目が先代に話しかけ、作戦を取った。

 

 

「先代、それでメジロパーマーのレーススタイルはどんなものなの?」

『俺はメジロパーマーが引退した後にデビューしたからな……俺も詳しいことはわからん。俺が知っている限りではメジロパーマーは高速ラップで競走馬を引き寄せてスタミナに物を言わせて逃げ切るらしい』

「じゃあ、先代のお兄さんはどうやって勝ったの?」

『メジロパーマーの弱点は他の競走馬が高速ラップのハイペースで潰れさせないと自分だけが潰れてしまう。兄貴はそれを利用した。有馬記念で誰もがペースを乱している中、唯一ペースを乱さず走り続け、最後に追い込んで勝ったんだ』

「ペースね……ペースか」

二代目が呟きながら、スタートラインに付くとサンデーサイレンスが旗を上げた。

 

「位置について!」

二代目とメジロパーマーの顔が引き締まり、サンデーサイレンスの手に握られている旗に集中する。

「スタート!」

サンデーサイレンスの合図と共に二代目、メジロパーマーがスタート。併せウマという名前のマッチレースが始まった。




メジロパーマーの解説
競走馬のメジロパーマーは父親もメジロ、生まれもメジロ牧場とまさしくメジロの中のメジロなのに、父親がメジロではないメジロライアン、出身がメジロ牧場でないメジロマックイーンよりも評価が低い馬でした。ちなみに本文中にあるメジロパーマーが制した宝塚記念でメジロ関係者がいなかったというエピソードも概ね史実通りです。

後書きらしい後書き
現時点ではメジロパーマーは概ね史実通りですが、この後どうなるかご期待下さい!


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尚、次回更新は西暦2019年5/4です


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第15R シニア最強ウマ娘との併せウマ

前回の粗筋
エセ関西弁のウマ娘「ワシがメジロパーマーや!」


「さてお手並み拝見やジュニアのガキ。着いて来れるもんなら着いて来てみろや!」

メジロパーマーの挑発に二代目は思考する。あえてその挑発に乗り、メジロパーマーをねじ伏せるか、それとも着実に攻めるか。その答えは言うまでもなかった。

「上等ですよメジロのお嬢様」

名目上併せウマである以上競り合わなければ意味がない。二代目はメジロパーマーを凌いで先頭に立った。

「っ! 後で潰れても知らへんで!」

メジロパーマーが言っていることと裏腹に競り合って二代目を潰しにかかる。

 

かつて、チームギエナに所属していたカブラヤオーが皐月賞で潰したレイクスプリンターというウマ娘が無理にカブラヤオーと競り合った為に重度の故障を起こして、予後不良処分が下された。なお、予後不良となったレイクスプリンターは故障することで有名なチームギエナではなく別のチームであったことはまさしく皮肉であった。

 

メジロパーマーもカブラヤオーと同じく、二代目を潰そうとしていた。それにも関わらず二代目は更にペースを上げ、メジロパーマーの前でうろちょろと鬱陶しさを感じさせるように突き進む。

 

それを見ていた第三者ことサンデーサイレンスが時計を見る。

「ふむ……1000m58秒9か。とても3200mの途中ラップではないな。2000mのレースの途中ラップと言われた方がまだ信じられる」

殺人ペースとも呼べるほどハイペースで二人が走っているのを見て顔を顰めるサンデーサイレンス。どちらかが折り合いをつけてくれればそれに越したことはない。しかし二人はとにかく前を譲らない。

「メジロパーマーは脚質上仕方ないがアイグリーンスキーは自在のはずだ。それにも関わらず何故逃げに拘る?」

その問いに答えるものは誰もいない。残り半分を過ぎたところで更に競り合う。

「そういうことか」

サンデーサイレンスが時計を見て、そう一言だけ呟く。二代目が1600mを通過した時点でのその時計は1分35秒を刻んでいた。

 

 

 

『これがお前の作戦か?』

メジロパーマーを横に二代目に話しかける先代。このままであればスタミナ切れしてしまう……そう思った瞬間、二代目が加速した。

「そうよ先代、これが私の作戦よ」

2000、2400、2600mをそれぞれ1分58秒、2分24秒、2分36秒で通過し、およそ1F──およそ200m──あたり12秒前後で走り、メジロパーマーについていく。

「これが最高の走りよ」

二代目の言葉通り、残り200mを切った時点でメジロパーマーを突き放した。

 

 

 

「なにいっ……!?」

メジロパーマーが二代目に突き放され、驚きを隠せず表情に出てしまう。しかしメジロパーマーとて狼狽えるだけに終わるウマ娘ではなく、二代目に追い付かんと最後の力を振り絞ろうとするがそれまで無理してきたツケが回ってきたのか、二の脚が発揮しなかった。

「なんでや……なんで、そんなに速く走れるんや?」

メジロパーマーが問いかけ、頭に様々な思考が遮る。デビュー戦すらも終えてないジュニアのウマ娘がグランプリ連覇を果たした自分に勝てるなどということはあってはならない。それもスタミナ勝負なら尚更だ。あるとしたら──

『それはあいつがお前よりも強いだけの話……違うか?』

「うぇっ?」

メジロパーマーが自分が考えたことを当てられた男の声に、トンチキな声を出してしまう。

『そんな無力なお前に俺が力を貸してやる。俺はお前自身だからな』

男の声が消えるとウマ娘メジロパーマーの背中に誰かが押すように前へと爆進していく。

 

 

 

そしてメジロパーマーが二代目を捉えた。

「嘘、でしょ……!?」

『ウマ娘のメジロパーマーは化け物か?』

この事に冷静な先代すらも驚愕の声を上げ、二代目に助言してメジロパーマーを差し返した。

「まだまだやっ! ワシの力見ておけや!」

だがメジロパーマーは二の脚どころか三の脚を使って二代目を更に差し返し、3200mを走り切った。

 

 

 

「これが、シニア最強の、ウマ娘の実力、や」

息切れしながらメジロパーマーが、疲れのあまり横たわっている二代目に声をかける。

『久しぶりに負けたな』

「……」

『なんだ、声も出せないのか? まあ確実に従来の日本レコードを更新したんだから当たり前といえば当たり前か。後で計測しているサンデーサイレンスに聞いてみな』

先代は二代目の身体の疲れに影響しないのか饒舌に喋る。

「やっぱりグランプリ連覇ウマ娘の名前は伊達じゃないか」

「当然や。そもそもデビュー戦もやっておらんジュニアのお前がワシを追い詰めること事態が異常なんや」

「流石にジュニアBとシニアの差はデカイですね」

「ちょい待て、お前ジュニアBなんか!?」

メジロパーマーが目を見開き、二代目のいる方へ振り向く。

 

「ええ。最速でもデビュー戦まで後半年以上待たなきゃ行けません」

「そんだけ身長デカイから調整に時間かかっているかと完全に思っとったわ。そういえば身長いくつなんや?」

「前計測した記録ですと170cmですね。まだまだ成長していると思いますけど」

「170cmかいな……最近のジュニアBのガキは発育がええのう」

「発育がいいのは私だけですよ。同じジュニアBのナリタブライアンやヒシアマゾンは平均くらいですから」

二代目がやんわりと自分だけが例外であることをメジロパーマーに告げる。

 

 

 

「なあ、アイグリーンスキー。一つ聞いてもええか?」

「何でしょうか?」

「ゾーンって知っとるか?」

「ゾーン?」

「アスリートの用語なんやけどな、最高のパフォーマンスを発揮できる超集中状態のことや。この状態に入ると道が動く歩道になったり、ゴールが近くに見えたりするんや。アイグリーンスキー、このゾーンの状態に入っていたのか?」

「いえ、特には」

「かー~っ! ほんまかいな。100%の力でワシの120%と互角言うんか?」

「もしかして先輩、ゾーンに入ったんですか?」

「そや。変な声が聞こえてな、その声に従ったら力がみなぎってきよった」

「変な声?」

「男の声やった。何でもそいつが言うにはワシのことを自分自身や言うんやねん」

「先輩、それは別の世界の自分の声ですよ」

二代目がそう告げるとメジロパーマーが首を傾げた。

 

 

 

「そらどういう意味や?」

「メジロパーマー先輩、授業でウマ娘の御先祖様はヒラコテリウムが猿人と触れあう内に人寄りに進化したものだって習いましたよね」

「ひ、平社員?」

「ヒラコテリウム。四足歩行の動物ですよ。そのヒラコテリウムがウマ娘に進化しなかった世界というのがあります。その世界ではヒラコテリウムが四足歩行のまま走ることに特化して進化したのが競走馬で、その世界にはいないウマ娘の代わりにGⅠ競走を始めとした多数のレースで走っています」

「ふーん、それがどないしたんや?」

「先代──異世界の私が言うには競走馬が生まれ変わったのがウマ娘らしいです」

「その根拠はなんや?」

「この学園の伝承ではウマ娘が異世界の魂について語られています。もしウマ娘が異世界の競走馬の魂を受け継いでいなければそんな伝承があるはずがありません」

「方便かもしれへんで」

「メジロパーマー先輩、そう思うなら異世界の自分自身に話しかけて下さい。それでわかるはずです。魂が一度覚醒したなら尚更」

メジロパーマーが正論を突かれると、しばらく無言になりコメカミの部分を指で弄る。

 

 

 

「……なあ、異世界のワシ。こいつの言うとおりなんか?」

『そうだ。俺は異世界で競走馬をしていた』

「ほんまに通じよった!?」

『俺が魂の存在となった後、お前のことを何度も呼び掛けたが今日まで反応せずずっと見守るだけになっていた。しかしようやく俺の存在がお前に認められた』

「はぁ~、ワシ毎日声かけられていたんか。驚いたわ。せやけど何で魂の自分の声が聞こえるようなったんやろ?」

首を傾げメジロパーマーが魂のメジロパーマーに語りかけると二代目が首を突っ込む。

「極限までに追い詰められたからじゃないですか? 私もそうやって覚醒しましたし」

 

「ほほう、つまり魂の声を聞いていない余は追い詰められていないと?」

更にサンデーサイレンスが割り込みメジロパーマーが顔を顰め毒を吐く。

「割り込み特別講師、どないな追い詰められ方したんや?」

「インフルエンザで死にかけたり、学園に入学拒否されかけたり、交通事故でチームの皆が死んでチーム存続の危機に遭ったり、セクレタリアトに学園の食糧全て喰われて餓死しかけたりしたな」

最後を除いて全て史実通りであり、サンデーサイレンスは何度も死にかけ追い詰められている。

 

「それにも関わらず覚醒しないとなると、追い詰められる他に何か原因があるのかもしれませんね」

「あれ? セクレタリアトが起こしたトレセン学園食糧消失事件について興味ないの? あの事件のせいで余はおろかセクレタリアト以外のトレセン学園関係者全員が死にかけたんだぞ」

「興味ありませんよ。そんな事件」

「というかその話えらい長そうやし遠慮しておくわ」

サンデーサイレンスがウマ娘二人にばっさりと切り捨てられ肩をしょんぼりと落とす。米国のトレセン学園関係者が見たら今のサンデーサイレンスの姿を写真に納めていたであろうが、二人はそんなことを知らないので話題を変えた。

 

 

 

「そやサンデーサイレンスはん。ワシらのタイムはなんぼやった?」

「ん? ああ、聞いて驚け。メジロパーマーのタイムは3分17秒6、アイグリーンスキーのタイムは3分17秒8だ。二人とも春の天皇賞ならスゥゥ~パァァ~レコードだ!」

「ジュニアBの若造が3分17秒8!? その身長といいお前ホンマに年齢誤魔化してないやろな?」

勝ったはずのメジロパーマーが負けた二代目のタイムに驚き、二代目に問い詰める。

「だから誤魔化してませんって」

二代目に年齢詐称疑惑が生じるがそれ以外は無事にメジロパーマーとの併せウマが終わり、メジロパーマーと二代目共に大きな収穫があったトレーニングであった。




後書きらしい後書き
はい、という訳でメジロパーマーが覚醒しました。しかしメジロパーマーが出したこのタイムは史実通りで、それまでのレコードよりも速かったのも事実です。しかしそんなメジロパーマーでも三着……前二頭、ライスシャワーとメジロマックイーンがそれよりも速かっただけですのでメジロパーマーが弱かった訳ではないんです。


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第16R ヤマトダマシイ回避

前回の粗筋
メジロパーマー「ワシも魂と話せるようになったで!」


メジロパーマーとの併せウマを終えた数日後、二代目はヤマトダマシイの二戦目であるOP戦を観戦していた。その最中、二代目の衣装を見た観客達が二代目を見つめるがそれもレースが始まるとレースの方へ注目する。

 

「ヤマトダマシイ先輩、無事に帰って来て下さい……」

ヤマトダマシイは先代の世界において予後不良となり死んでしまっている以上、何が影響して予後不良になるかわかったものではない。一応不安要素を出来る限り消し去ったが二代目はそれでも不安にならざるを得なかった。

 

【さあ残り200mを切ってここでヤマトダマシイが一気に来る一気に来る】

ヤマトダマシイが最後の直線に入り、次々と前を走るウマ娘達を蹴散らし、二代目の感情は不安から希望へと変化していく。

「あと少し、あと少しでゴール……! だからヤマトダマシイ先輩、頑張って下さいっ!」

二代目の祈りが通じたのか、遂に先頭のウマ娘を捕らえゴール板を通過した。

【ゴールイン! ヤマトダマシイまたもや直線のみの追い込みで勝ちました!】

「やった、勝った、勝ったよ、先代!」

 

ヤマトダマシイが予後不良にならず先頭で走ったことに二代目が歓喜の声をあげると鬱陶しそうに先代の声が響く。

 

『見りゃわかる。お前がヤマトダマシイを救ったんだからこのくらいの相手に勝てて当然だ。しかし今は圧倒的な能力でねじ伏せているがいずれ頭打ちになる。ジュニアCの頂点になるのは厳しいかもな。それにジュニアCの頂点に立ったとしても相性の悪い逃げウマ娘メジロパーマー、自在脚質のタマモクロス等直線バカのヤマトダマシイでは勝てない相手もいる』

「勝てない相手……」

 

『マオウ、いやまだあいつは生まれていないんだったな。シルキーサリヴァンみたいに上がり3F29秒を出せるなら話は別だがあいつはそうじゃねえ。まくりやレース展開、ペースを頭の中に叩き込む必要がある。それさえ叩き込めばヤマトダマシイはシンボリルドルフにも勝るウマ娘にもなる。お前がそうであるようにな』

「確かに」

 

『逆に言えばそれを叩き込んでも成長しない奴がいる。チームリギルのトレーナー東条ハナがお前をリギルに入れなかったのは既にそれらの部分が完成していて成長する余地がなかったからだと俺は想像している』

「まだまだ末脚とか身体能力とか成長する余地があるのに」

二代目が、一着の二代目ではなく二着三着のナリタブライアンとヒシアマゾンのコンビが何故かチームリギルに所属することになったあの事件のことを思い出す。

 

 

 

『身体能力に関してはナリタブライアンやヒシアマゾンもそうだろう。二代目のレースが完璧過ぎてレースが未熟だったあいつらほど成長を見込める要素がなかったからな。シンボリルドルフが二代目を評価したのは二代目の年齢でレーススタイルを確立している点で東城ハナとは見る所が真逆なんだ』

「何にせよ、ヤマトダマシイ先輩の強化練習に付き合うことになりそうだね。先代がヤマトダマシイ先輩のトレーニングを考察するならどんなのにするの?」

『直線での抜け出し、カーブ、ペース配分、坂路、15-15を中心に練習をさせる。後はスタミナをつけさせるためにプールや引き運動をさせる』

「本当に追込かつ脚部不安を抱えているヤマトダマシイ先輩用のトレーニングだ……私にはあんなスパルタなのに」

『当たり前だ。お前の場合フィジカルトレーニングさえすれば勝手に成長する。何せお前は他のウマ娘とは違ってレーススタイルを確立しているというアドバンテージがある。そっちに練習時間を割く必要がないからフィジカルトレーニングに集中出来るという訳だ』

「なるほど……あっ、そろそろヤマトダマシイ先輩のもとにいかなきゃ」

二代目がヤマトダマシイのもとに向かうとヤマトダマシイがどや顔で二代目に向ける。しかしそれもつかの間だった。

 

 

 

「グリーン、その格好はなんだ?」

ヤマトダマシイが見た二代目の姿はツインテールに、フリルを大量につけた青いゴスロリ服に加え、ウマ娘特有の耳を隠すカチューシャ、二代目の身長が170cmを超えかつ、顔こそ整っているが童顔でないことや、ウマ娘特有の耳や尻尾を隠していることもあり、あまりにも不似合いな格好をしている人間にしか見えなかった。

「マルゼン姉さんとたづなさんに無理やり着替えさせられたんですよ……」

二代目の目のハイライトが消え、あの出来事を思い出す。マルゼンスキーとたづなに何も言わず修行の旅をしたお仕置きとして二代目が寝ている時に侵入され無理やり着替えさせられ、一日その姿で過ごすように命令され現在に至る。

 

二代目の事情を聞いたヤマトダマシイは顔を顰め、ウマ娘特有の耳を閉ざし聞かなかったことにした。何せマルゼンスキーと駿川たづなの二人が関わっており、この二人を相手に出来るのは学園内でシンボリルドルフしかいない。それ以外のウマ娘は関わるだけ二人の良いように弄ばれるだけでヤマトダマシイもそれを理解していた。

「まあそれはともかくグリーン。私が死ぬってのは杞憂だっただろう?」

そんな訳でヤマトダマシイは話題を自分のレースについて変えることにした。

 

「はい。ヤマトダマシイ先輩、OP戦優勝おめでとうございます」

「このくらいの相手だったらまだ楽勝だ。私が目指しているのは頂点だからな」

「それはつまり日本ダービーを獲るということですか?」

「ああ。今後はニュージーランドT、NHKマイルC、日本ダービーのローテーションで行こうと思っている」

「ダービートライアルレースには参加しないんですか?」

 

「ダービーに参加するならダービートライアルを使った方がいいだろうが、一つは皐月賞で賞金の関係上私は出られない。青葉賞は日程的には最適だが青葉賞ウマ娘でダービーを勝ったウマ娘はおらず相性が悪い。同じくプリンシパルSも相性が悪く、誰も勝てていない。NHKマイルCと同じくダービーのステップレースによく使われる京都新聞杯はダービーウマ娘を輩出しているが日程がNHKマイルCと一緒な上に格が落ちる」

 

「でもNHKマイルCは1マイル、つまり1600mですよ。他のステップレースに比べてあまりにも短すぎます。日本ダービーは2400mなんですからもう少し考えた方が──」

「なあ、グリーン。春の天皇賞を制したウマ娘が距離が1km短くなった宝塚記念を制するのはおかしいことか?」

「う……おかしくありません」

「つまりそういうことだ。お前が私の為を思って言っているのはよく分かる。だがそれでもやらなきゃいけないんだ」

「……マム、イエスマム」

二代目は渋々自分の意見を取り下げ、ヤマトダマシイに従いその場を後にした。

 

 

 

ヤマトダマシイの二戦目の翌日、史実におけるサンデーサイレンス産駒やその子供達がチームカノープスにチーム入りした。

 

「……まさかサンデーサイレンス先生の宣伝効果がここまでとは思わなかったな」

 

史実におけるサンデーサイレンス産駒、それはフジキセキ、タヤスツヨシと言ったGⅠ競走を勝利する豪華な面子だ。ウマ娘になった彼女達がこのチームにチーム入りしてくれるのだから頼もしいばかりだ。

 

「むっふっふっ……余の呼び込みの効果は絶大だろう?」

「ですね。特にあのフジキセキを他のチームに取られなかったのはかなり美味しいです」

 

二代目がトレーニングをしているフジキセキを見て笑みを浮かべる。それほどまでに二代目がフジキセキというウマ娘を評価していた。ちなみに二代目の今の格好は通常通り学校の制服であり髪型も元に戻っている。

 

「彼女は特に余とシンパシーを感じたからな。ゴールドシップも悪くないのだが、なんというかあれは孫みたいなものだ」

『俺の世界では少なくともゴールドシップはサンデーサイレンスの孫だったし、孫と思うのは当たり前なのか?』

「孫……」

「まああいつも余がスカウトした以上責任持って育成する。だがその前にやるべきことがあるのでな。明日から余は少しの間出張してくる」

「えっ? 出張?」

「そうだ。一週間以内には戻ってくるから安心しろ。チームカノープスのトレーナーやジュニアAのウマ娘にも伝えている」

サンデーサイレンスが笑い、親指を立てる。

「具体的な仕事はどんなものですか?」

「まだトレセン学園に入学していないウマ娘達をスカウトするだけのこと」

「特別講師がそんなことをして大丈夫なんですか?」

「むっふっふっ……余は運命を変えたウマ娘だ。それくらいのこと訳ない」

サンデーサイレンスがあれだけ自信満々に言われた二代目は押し黙るしかなかった。




後書きらしい後書き
はい、という訳で今回はヤマトダマシイが予後不良せずOP戦を勝利した話でした。この世界で生存したヤマトダマシイがどのように活躍するかご期待下さい!


それはともかくこの第16Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

またアンケートのご協力ありがとうございました! 要望が多かったので次回は第16.1Rと第17Rを掲載します!

尚、次回更新は西暦2019年5/6です


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第16.1R

ヤマトダマシイと共に帰ろうとすると幼きウマ娘の一人が二代目に声をかけた。

「ゴスロリ服のお姉さん、写真お願いします!」

二代目に話しかけたそのウマ娘はとらえどころがない雰囲気、世間一般でいうゆるふわ系幼女そのもの。存在感がないようである、あるようでない矛盾したウマ娘だった。

 

「ええっ、なんで私!?」

「お前にもファンが出来たようで何よりだ。頑張れ」

「や、ヤマトダマシイ先輩……」

「おっと、これから取材に応じる時間だ。急がなければな」

口実をつけて二代目の懇願を無視してその場を去るヤマトダマシイは、この場にいる青髪ツインテール青ゴスロリ服のウマ娘と無関係でいたいようだ。

 

「うわ……あのウマ娘逃げやがった」

「お姉さん?」

「えっと、その私写真は受け付けていないの。だから──」

二代目は泣き顔になったウマ娘を見て言葉を呑み込む。もしここで泣かれて騒がれでもしたら、二代目は社会的に抹殺される。ましてや不似合いな青ゴスロリ服を着ているのだから注目度は段違いに高く、二代目の渾名が「鬼畜青ゴスロリBBAウマ娘」となるだろう。

「だからね他の場所に行きましょう」

故に二代目はそれを回避するために別の場所で撮影することを提案。ウマ娘もそれに満足したのかそれに頷く。

「うん。いいよ。私カーソンユートピアって言うのよろしくねウマ娘のお姉さん」

「よろしくね。私はアイグリーンスキーよ」

『カーソンユートピアか。懐かしい名前だ……』

その名前を聞いた先代が思わず声に出す。そのウマ娘と何か関係性があったのだろうかなどと思いつつも二代目はウマ娘ことカーソンユートピアに自己紹介して公園に案内した。

 

 

 

某公園

 

「じゃあアイリ姉さん、腕をそう、そんな感じにして!」

マルゼンスキーが二代目を呼ぶときと同様にアイリと呼ぶカーソンユートピア。

「こうかなソンユちゃん?」

「バッチリ!」

二代目がポーズを取り幼きウマ娘がそれを撮影。その繰り返しを何度もして、十分ほど経過するとカーソンユートピアが自撮り棒を取り出した。

「それじゃ最後ね! 最後はお姉さんが椅子に座って私がその上に座った写真を撮るの!」

「やっと終われる……」

二代目がボソッと呟きながら公園の椅子に座り、カーソンユートピアが自撮り棒に自分の子供用の携帯を取り付けようとするが上手くいかず途中で落とす。

「あっ!」

子供用の携帯だからか角張っておらず楕円形の形状に合わせて偶々そこにいた犬の前に転がる。

「わう?」

犬がそれを咥えて拾い、ウマ娘のもとに向かうかと思いきやその場を走り去ってしまった。

「いけないっ!」

精神的な疲労こそあれども肉体的な疲労は全くない二代目が立ち上がりそれを追いかけようとするとカーソンユートピアがとっくに駆け出していた。

 

「待てぇぇぇっ!」

その場にトレセン関係者がいたなら誰もが認める豪脚を炸裂させ犬を追いかけ、追い詰める。

「っ!!」

犬は携帯を咥えているせいか悲鳴を上げる代わりにスピードを上げ、逃亡し続ける。そのスピードは時速70kmを軽々と超えており、トレセン学園のジュニアBクラスのウマ娘でも追い付けるかどうか怪しいものだった。しかし追いかけているカーソンユートピアは徐々に差を詰め犬も必死で逃げる。追いかけられるのが嫌なのであればその携帯を離せばいいだけの話だが犬はウマ娘とは違いそこまで考えが及ばず、ただひたすらに逃亡し続けるしかなかった。

「これで終わりだ!」

カーソンユートピアが犬を身体全体で確保する犬が悲鳴を上げ咥えていた携帯を落とした。

「よしよし。良い子」

先程まで鬼の形相で追いかけていたウマ娘とは思えないほど笑顔で犬とじゃれつくカーソンユートピア。それを見た二代目はとてつもなく微笑ましい気持ちになった。

 

 

しばらくするとカーソンユートピアが犬と触れあうのを止め、二代目に駆け寄った。

「あらわんわんと遊ぶのはもういいの?」

「うん、それよりもお姉さんと遊ぶのが楽しそう!」

「そっか。それじゃ写真とって遊びましょう……ソンユちゃん、こっちにおいで」

二代目自身も何故このウマ娘に対して母性が出しているのかわからず困惑するも、気分を害するものではなくむしろ心地好いとすら思っていた。故にカーソンユートピアが自撮り棒を子供用の携帯に合わせて設置し、二代目の膝の上に座ると二代目は自然と笑顔を見せるようになっていた。

「ふふっ……」

「えへへ……」

二代目が笑うとカーソンユートピアもそれに釣られて笑う。その繰り返しが何度も続き、ついには夕暮れになってしまう。

 

 

 

「あっ、そろそろ帰らなきゃ!」

「ソンユちゃん、一人で帰れる?」

「大丈夫だよ。ここまで一人でこれたもん!」

「ソンユちゃん、これ私の電話番号だからもし困ったことが合ったら電話してね」

「ありがとうアイリお姉さん」

二代目とカーソンユートピアの電話帳に互いの電話番号が登録されるとカーソンユートピアが二代目に向けて手を振りながら帰っていくと二代目も学園に帰宅し学園内の自室に戻っていった。

 

 

 

「先代、カーソンユートピアって名前聞いたことある?」

『無論だ。俺を雷親父と呼んだ長男こそそいつだ』

「ええっ!? いつか反抗期が来たら私も雷BBAなんて言われるのかな?」

先程のカーソンユートピアはどうみても純粋で悪口や暴言を吐くウマ娘ではない。しかし成長すれば自分をいずれそう呼ぶだろうと推測し身震いしてしまう。

『さあどうだろうな。そこまではわからん。だがあいつの成績について話すとしようか』

「お願い」

『競走馬のカーソンユートピアはデビュー戦とダービートライアル以外のレースは全てGⅠ競走しか走っていないがマルゼンスキー以来8戦以上して無敗で引退した、超名馬だ。主な勝鞍は日本ダービー、天皇賞春から有馬記念までの当時の古馬王道GⅠ完全制覇だ』

「古馬王道完全制覇っ!? そんなのシンボリルドルフ会長でも成し遂げられなかった偉業をこなすなんて信じられない……」

『ちなみに同じことをカーソンユートピアの前にやった奴がいるがそいつと比べちゃならねえ。カーソンユートピアは競走馬以上に種牡馬として大成したんだからな』

「父親として有名になったの?」

『そうだ。欧州地方のリーディングサイアーに加えて欧州三冠馬を複数頭輩出するなど大活躍し、その産駒達も種牡馬としても有能でカーソンユートピア系を確立した歴史に残る大種牡馬だな』

「……あれ? 日本の種牡馬として活躍しなかったの?」

『元々あいつは日本で種牡馬として隠居生活を送るはずだった。だが馬主の意向で欧州で繁殖生活を送ることになった……俺の代わりにな』

 

「先代の代わり?」

『俺は欧州でもビッグタイトルを複数勝している。その為か欧州の競馬関係者は俺をなんとしてでも買い取りたかった。しかし俺の馬主が俺を絶対に売れないような金額を提示して海外に行くことを断らせた。その代わり俺の産駒が活躍したら、その産駒のうち一頭を欧州地方の種牡馬として引き渡すことになった。そのうちの一頭こそカーソンユートピアだ』

「へえ……」

『とはいえ当初はスピードもスタミナも兼ね備えているカーソンユートピアよりもステイヤー傾向の俺の方が好まれたんだが、結果を出したら掌返し。カーソンユートピアは生涯そこで暮らすことになった。もし俺が欧州で種牡馬生活を送っていたならそうはならなかったかもな』

「でもカーソンユートピアは日本生まれでしょ。先代がいなかったらカーソンユートピアは生まれてなかったんじゃ……」

『俺が日本にいようが欧州にいようがどちらにせよ、あいつは生まれていた。俺の父親が英国の種牡馬ニジンスキーなんだから、俺が欧州に行ってもカーソンユートピアの母に種付けするのは目に見えていたからな』

「納得」

二代目は先代の言葉にそう一言呟いた。




後書きらしい後書き
今回は先代の長男こと、カーソンユートピアがウマ娘となって登場しました。もっとも物語に関わるかと言われれば微妙なところですが。

それはともかくこの第16.1Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一時間後です


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第17R 最強のライバル登場

前回の粗筋
二代目「私の青ゴスロリ服姿なんて誰得よぉぉぉっ!?」
作者「俺得でサーセンwww」


ヤマトダマシイのレースから三日後、その人物は突如現れた。

 

「どいつもこいつも腑抜けた顔してやがる……」

 

その人物はチームカノープスのメンバーがチームギエナ時代のトレーニングよりも生ぬるいトレーニングを行っていたことに嘆き、頭を抱えていた。

 

「マティリアルはもう少しペースを速くしろ。メリーナイスはスタートが苦手なんだから足下に気を付けろ」

 

指導するようにその男は遠目で観察し呟き続ける。端から見れば不審者のそれでいつ通報されるかわかったものではない。しかし言っている内容はどれも正しくマティリアルもメリーナイスもこの声を聞いていれば頷かざるを得ないほど的確なものであった。

 

 

 

「何しているんですか……元チームギエナのトレーナーさん」

 

そんな時、青髪の大柄なウマ娘がその男──元チームギエナのトレーナーに声をかける。

 

「……アイグリーンスキーか。久しぶりだな」

「トレセン関係者でない貴方が何故ここにいる?」

「そう堅いことを言うなよ。俺は今日仕事として来ているんだ」

「仕事?」

「そうだ。トレセン学園のウマ娘トレーナーを首にされた俺は海外に行き、そこのウマ娘トレーナーとして就職出来た。これが今の役職だ」

 

言葉とは裏腹に丁寧に名刺を渡す元トレーナー。そこには【欧州ウマ娘トレーニングセンターウマ娘トレーナーリーダー】という役職が書かれていた。

 

「こんなのがトレーナーリーダーなんてどうかしている」

「こんなのとは失礼だな。俺が正当に評価された結果だ。その結果を出した俺がここに来た理由、それは留学生募集の案内と視察だ」

 

「留学生募集と視察?」

「そうだ。欧州の連中はダービーウマ娘シリウスシンボリが凱旋門賞で惨敗しているのを見たせいか日本のウマ娘に見向きもしなかった。だがカツラギエースやシンボリルドルフがJCを勝っているのを見て再評価し始め、日本のウマ娘を留学生として迎えることにした。しかし連中は日本のウマ娘のことをよく知らない。そこで俺に白羽の矢が立ったと言うわけだ」

 

「それでここから良い留学生候補は見つかったの?」

「いやいないな。どいつもこいつも情けないウマ娘ばかりだ。今日俺が見た限りじゃシニアはマルゼンスキー、ジュニア以下はナリタブライアンくらいしかいない。他はビッグレースどころか重賞を勝つかも怪しいな」

「それは私を含めて、という意味でも?」

「お前は故障するからな。強さ云々以前に除外しているだけだ」

何故このトレーナーリーダーといい、ハナといい二代目の評価が低いのだろうか。そんなことを先代が考えているとトレーナーリーダーが口を開く。

 

「そして視察の方だが、俺はとあるウマ娘を預かっていてそいつと共にトレセン学園のレベルを測りに来たんだ。だがさっきも言った通りここのレベルは低い。連れてきたのが間違いだった」

「あ?」

「トレーナーリーダーから離れて」

二代目が半ギレしながら問い詰めると小柄かつ無表情な栗毛のウマ娘が現れ、二代目とトレーナーリーダーの間に割り込み、二代目を離す。

「噂をすればなんとやらというやつか。こいつが俺が今最も育成に力を入れているウマ娘、ラムタラだ」

「ラムタラ。以後よろしく」

「こいつはダービーを制する前のメリーナイスがダービーを勝つよりも、素質を期待されていなかったが俺の育成により頭角を表し、欧州ウマ娘の次代のエースになった」

「次代のエースってことはジュニアCクラスのウマ娘? それにしてはやたら小柄な気がしますが」

「私はまだジュニアBクラス」

「……ってことは私と一緒?」

「そういうことだ。アイグリーンスキー、お前は確かに素質のみならGⅠ競走の前線で戦えるだけの素質がある。だからこそ警告しておく。KGⅥ&QES、凱旋門賞、JCに挑むのは止めておけ。お前達が勝利しないのは目に見えている。何故ならウチのラムタラが全部取ってしまうからな」

「そういうこと」

それまで無表情だったラムタラの口元が僅かに笑みを浮かべ、どや顔していた。

 

「ふーん……口先だけならなんとでも言えますよ?」

「アイグリーンスキー、お前ならそういうだろうと思っていた。ラムタラはこれからチームアルビレオのメジロパーマーと併せウマをする予定だ。昔のよしみだ。なっ、一緒に行こうぜ」

「一緒にって言われても私はアルビレオの関係者じゃないし、何よりも今の貴方とは無関係です」

二代目が冷たくあしらい、そう告げるとトレーナーリーダーは意外な行動をした。

「そうかそうか。自分を負かしたウマ娘が同期に負ける姿見たくないもんな。無理を言って悪かった」

口調とは裏腹に笑みを浮かべた状態で頭を下げるトレーナーリーダー。あからさまな挑発だがこれに二代目は乗った。

「……良いでしょう。そこまで言うならそのラムタラが無様に負ける姿、見てみましょう」

「私は負けない」

ラムタラと二代目の間に火花が飛び散るがそれでもお構い無しにトレーナーリーダーが馴れ馴れしく二人の肩を組む。

「そんないがみ合ってないで同じウマ娘同士仲良くしろ……な?」

「……ふんっ!」

「べーっ!」

子供のようなやり取りにトレーナーリーダーは本当にこのウマ娘達が世界を引っ張るほどの素質の持ち主なのかと疑問に思ってしまう。

 

 

 

そんないがみ合いが何度も続き、メジロパーマーのいるチームアルビレオのウマ娘達がトレーニングを行っていた。

 

「おっ、アイグリーンスキーやないか」

メジロパーマーがトレーニングを中断し、二代目に駆け寄り喋り始めた。

「お久しぶりですメジロパーマー先輩。調子の方はどうですか?」

「そらもうバッチリや。あの併せウマから身体がスムーズに動くようなってな。これならタマモクロスもオグリキャップもなんも怖くあらへん」

 

「それは何よりです。ところでこのトレーナーから聞きましたが今日併せウマの予定らしいですね。よろしければご見学させてもよろしいですか?」

「このトレーナー……ってお前の元トレーナーやないかい! 何で学園を追放された奴がおるんや!?」

「彼は今欧州地方のトレセン学園でトレーナーリーダーの役職に就任しています」

「そやったんか。で、そのちみっこいのがワシの相手かいな?」

「そういうことだメジロパーマー。こいつ、ラムタラは俺が見てきた中で最高の素質を持つウマ娘だ。俺が見てきたカブラヤオー、テンポイントよりも強くなると確信している。何せ併せウマをしようにも同期では相手にならない。こいつとまともに併せウマが出来るウマ娘はドバイ遠征にいってしまっている。日本トップクラスのウマ娘なら相手になるんじゃねえかと思ってな」

「ほう……わかっとるやないか。ワシは確かに暫定とは言えトップや。ついこないだ阪神大賞典も勝ったしの」

「そんなトップなメジロパーマーに尋ねる。本当に併せウマをするのか? それで負けたらお前の名声は急降下するぞ?」

「今日の併せウマは大阪杯や天皇賞秋と同じ距離──芝2000mや。勝とうが負けようが天皇賞春と宝塚記念の評価は変わらへん」

「それじゃラムタラ、準備しろ」

「はい」

メジロパーマーとラムタラが準備し、二代目がスタート合図をすることになった。

 

 

 

「スタート!」

コースに銃声が鳴り響き、メジロパーマーとラムタラが競り合うように走る。それはかつて二代目がやった方法と全く同じだった。

「そういうとこもあいつと同じやな」

「……」

「だんまりかいな、つまらんやっちゃ」

ラムタラが反応しないのを見たメジロパーマーが無言になりレースを進める。200mを過ぎ、ラムタラが半バ身リードしそのままメジロパーマーを突き放していく。

 

「……」

ラムタラがメジロパーマーを視野にも入れずただひたすら寡黙にメジロパーマーとの差を広げ突き放す。

それを黙っているほどメジロパーマーも愚かではない。少しずつページを上げラムタラに詰め寄り対策する。

しかし対策していたはずが400mを通過した時には1バ身、800mを通過した時には2バ身と400m単位で1バ身ずつ突き放されてしまう。

『おい、もっとペースを上げろ!』

魂の状態のメジロパーマー(競走馬)が残り600mを切ってスパートをかけるように声を荒げ、メジロパーマーはそれに従ってスパートをかける。しかしまだその差は縮まらないどころかさらに突き放されていく。

 

「どういうことやねん……」

二代目の時は普通に競り合えた。しかし今回は違う。いくらペースを上げてもラムタラに追い付けない。

海外のウマ娘はこんなに強いのか。JCで世界を見てきたつもりがそれはあくまでも井の中の蛙でしかなかったのか? 本当の世界トップクラスのウマ娘はジュニアBの時点で覚醒した自分を打ち負かせるのか。

そのような思考がメジロパーマーの中で巡り、一つの結論に達する。

「理不尽、や」

そう一言呟き、メジロパーマーの世界が白く染まってしまった。

 

 

 

メジロパーマーの心が折れた瞬間、それはラムタラがメジロパーマーに5バ身差でゴールした瞬間だった。

「流石だラムタラ。あいつに400m毎に1バ身差をつけ最後に5バ身差をつけて勝つ。お前のレーススタイルでないのに見事だ」

「……」

トレーナーリーダーが褒め、ラムタラが無表情ながらも頷き反応を示す。それは勝者ならではの光景だった。

 

「冗談やない……ワシら二人でもこのザマかいな」

その一方で心の折れたメジロパーマーが汗を滝のように流し、一言呟き倒れた。

「メジロパーマー先輩!」

二代目が横たわるメジロパーマーに声をかけ、不安げに見つめる。

 

「おう、アイグリーンスキー……お前も難儀な世代に生まれたな」

「身体の方は大丈夫で──って凄い汗!」

二代目がメジロパーマーのジャージを触ると汗にまみれるあまり、ジャージがずぶ濡れになっていた。

 

「距離が短かったお陰でなんとか天皇賞春には出走出来そうやけど、しばらく休ませてくれ」

「メジロパーマー先輩、休憩所まで運びますから大人しくしてて下さいね」

二代目がメジロパーマーをお姫様抱っこで担ぎ上げ、チームアルビレオの休憩所に移動する。

「すまんの」

担がれたメジロパーマーが顔を紅潮させ、目に涙が溢れ出す。その姿はまさしくラムタラ達勝者とは真逆の敗北者の姿そのものだった。

 

「こんなものなの? 日本のウマ娘って」

ラムタラが二代目の背中に向かってそう問いかけるが二代目は無反応。メジロパーマーをシニア最強のウマ娘と思っている二代目が反論出来る余地はなく無言でただ立ち去ることしか出来なかった為である。

「……」

二代目の目に涙こそ溢れなかったが、その背中は震え、チームカノープスに戻った頃には目が座り、誰も寄せ付けないトレーニング魔神となっていた。




後書きらしい後書き
はい、という訳で今回はラムタラの登場&元チームギエナのトレーナーの再登場回です。このトレーナーは本来二代目を刺してデビューを遅らせる人物でしたがボツにしました。

なお史実のラムタラは本来95世代でフジキセキ達と同じ世代になっています。また青き稲妻の方でもラムタラはアイグリーンスキー(94世代)の一つ下の世代と史実に沿添っています。
しかし物語の都合上このようになってしまいました。仕方ないやん……このくらいのことをしないと凱旋門賞がダイジェストになりますので。



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尚、次回更新は西暦2019年6/3です


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第18R 迷走

ふと思い付いたSS

もしテイオーがルドルフ応援団を結成したら
「カイチョー、シンボリルドルフ応援団を公式ファンクラブとして認メテヨー!」
「ダメだ。団員が少なすぎる」
「団員が多ければいいんですね?」
その瞬間、ドアを蹴飛ばし、無理やりこじ開ける音が鳴り響き、バッサリとテイオーの案を切るシンボリルドルフの前に現れた。
「なっ……アイルトンシンボリ!?」
それは名門シンボリ家のウマ娘、アイルトンシンボリだった。アイルトンシンボリが団員の名簿を奪い取り、そこに名前を書いた。
「私だけじゃない。後ろの皆もいる」
そしてツルマルツヨシをはじめとしたアイルトンシンボリの後ろについてきた20ほどのウマ娘が続いて名簿に記載していく。
「これでシンボリルドルフ応援団を公式ファンクラブに認めてくれますよね」
「……やむを得ない。認める」
「ヤッター、カイチョー!アリガトー」
「私は校則に従っただけだ。感謝するならお前の考えに賛同したアイルトンシンボリに感謝しろ」
シンボリルドルフが立ち去り、テイオーは全員に頭を下げた。
「皆アリガトー! これでカイチョーを応援出来るよ!」
「それじゃ公式ファンクラブに認定されたことを記念して皆でパーティー開こうか!」
「賛成!」
テイオー達応援団のウマ娘がバカ騒ぎをして取り潰しかかれたのは言うまでもない。

The End

前回の粗筋
ラムタラ「悪いなパーマー、お前の役割は私の噛ませ犬なんだ」


メジロパーマーがラムタラと併せウマをしてから翌日、ジュニアBのクラスではあるウマ娘が原因で騒然としていた。

 

「……」

 

そのウマ娘は唸り、少しでも目を合わせようものなら何をされるかわかったものではないからか、ジュニアBクラスのウマ娘達は全員そのウマ娘を避ける。

 

「なあ、ナリタブライアン。アイグリーンスキーが何であそこまで不機嫌かわかるか?」

ジュニアBクラスの雰囲気をぶち壊しているウマ娘こそ二代目そのウマ娘であり、彼女の目の下にはクマ、眉がつり上がり、端正な顔立ちが台無しになるほど頬が痩せこけてしまい不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「寝不足だからじゃないか?」

ヒシアマゾンとナリタブライアンを始め多くのウマ娘が声を小さくし隠れるように会話をする。

「寝不足なのは見ればわかる。だけど今まであいつがこんな風になることはなかったぞ」

二代目が勉強のしすぎで寝不足になったことは何度もあった。しかしそれでもこれほどまでに不機嫌になったことなど一度もない。故に不機嫌な理由にはならず、その原因がわからないからこそヒシアマゾン達が二代目に対して恐れていた。

 

「まあ明日になれば収まるだろう」

 

ナリタブライアンがヒシアマゾンに耳打ちし、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに二代目の機嫌を損ねないように出来るだけ今日だけは無関係でいようと努めた。しかしナリタブライアンの推測は外れ、一日後、二日後と日が経つに連れ不機嫌さが増しヒシアマゾンが涙目でナリタブライアンに責めた。

 

「おい、ナリタブライアン! どんどん不機嫌になっているじゃないか!」

小声で怒鳴るというテクニックを披露しヒシアマゾンがナリタブライアンに問い詰めるとナリタブライアンが目を反らし小声で答える。

「私は知らん」

「コロス」

「ひっ!?」

二代目がぼそりと物騒な単語を呟いたのを耳にしたヒシアマゾンが仰け反り尻餅をつくと二代目がそちらに振り向き立ち上がる。

「ヒシアマゾン、ゲンキソウネ」

目のハイライトの消えた二代目が一歩二歩とヒシアマゾンに歩み寄るその姿はまさしく不気味としか表現する他なく、ヒシアマゾンが辺りを見渡し、助けを求めようにも既にウマ娘達がヒシアマゾンから距離を取っており、それはヒシアマゾンの親友とも言えるナリタブライアンも例外ではなかった。

「く、来るな!」

「ソンナコトイワナクテイイジャナイ。ソンナコトイウトオシオキスルヨ」

「わ、わかった。だから──」

丁度その時授業開始の鐘がなり、二代目が渋々と大人しく席につく。

「た、助かった……」

ヒシアマゾンは腰を抜かすことはなかったが人生で最も恐怖を味わったことに違いなく膝が震えており席に座るのに時間を要した。

「アマさん、助けられずすまない」

「……後で買い物に付き合えよ」

ヒシアマゾンの命令に従うしかないナリタブライアンはただそれに頷くだけだった。

 

 

 

その夜、ヒシアマゾンの付き添いで帰りが遅くなったナリタブライアンが帰る道中異変に気づく。

「何故トレーニング施設に電気がついているんだ?」

「誰かがトレーニングしているんじゃないのか?」

ナリタブライアンとヒシアマゾンが互いに無言になり顔を見合せ、暫くすると二人が頷きその場所へ向かった。

 

 

 

ナリタブライアン達がトレーニング施設に向かう丁度その時、二代目は過剰なまでにトレーニングを積んでいた。

『そこまでにしておけ。明らかにオーバーワークだ』

先代の声が二代目の体内に響くがそれでもお構い無しに二代目は警告を無視してトレーニングを続ける。

『いい加減にしろ!』

痺れを切らせた先代が二代目の身体の主導権を奪い取り無理やりトレーニングを中断させる。

 

「な、にをする……!」

二代目が抗い、トレーニングをしようとするが先代が絶対に主導権は渡すまいと下半身を無理やり動かしてその場から離れる。

『言っただろうが、俺はお前のトレーナーであり相棒だ。チームカノープスのトレーニングに関して三人のトレーナーが、お前の自主トレに関して俺が口出しする権利はある』

「それは、そうだけど!」

『俺もラムタラに二度も負けたから悔しいのはわかる。もっともお前の場合はお前よりも強いメジロパーマーが同期、それも追放したトレーナーが育てているウマ娘に負けてしまったという理由だが』

「……先代、そんな理由じゃない。私が悔しかったのは何も出来ない自分自身だよ。ラムタラにこんな程度しかいなかったのかって聞かれた時、何も反論出来なかった。私がメジロパーマー先輩よりも強ければ何も問題なかった。自分より格上だからって理由でグリーングラス先輩やメジロパーマー先輩に負けて当たり前だと思っていた自分自身に腹を立てただけよ!」

『そうか……ならただ言っておく。俺はお前の相棒でありトレーナーだ。俺をもっと信頼しろ』

「……うん」

二代目が抵抗を止め、トレーニング場から離れるとそこにはナリタブライアン達がそこにいた。

 

 

 

「アイグリーンスキー、随分と入れ込んでいるようだな」

「ナリタブライアンにヒシアマゾン、何故ここに?」

「トレーニング場に電気がついていたら誰だって気になる」

「う……」

「もっともその様子だと今日のトレーニングは終わりのようだな」

「余り無茶をして怪我をしたら元も子もないからね」

「なあ、アイグリーンスキー。もしかして最近機嫌が悪いのはそのトレーニングが原因なのか?」

「トレーニングそのものじゃない。いつまで経っても成長しない自分が嫌なの」

「……何をそんなに焦っている?」

 

「ついこの前ラムタラという海外のウマ娘が日本に視察しに来たのは知っている?」

「いや知らないな。アマさんは?」

「アタシもそんな話は聞いたことないな」

「知らないなら知らないでいいけど、そのラムタラは昨年度のシニア代表ウマ娘を獲得したメジロパーマー先輩に勝負を挑んだの」

「いくらフロックでシニア代表ウマ娘になったメジロパーマー先輩とはいえジュニアBになったばかりの私達が敵う相手ではない……もしかしてそのラムタラが勝ったのか?」

「その通りだけど、鼻差とか接戦で勝ったんじゃなくてメジロパーマー先輩に5バ身差をつけて圧勝。日本のウマ娘は世界のウマ娘よりも遥かに劣ることを思い知らされたよ」

「5バ身か、どうせメジロパーマー先輩が自滅したんじゃないのか?」

メジロパーマーは、昨年の天皇賞秋で隣にいたダイタクヘリオスと競り合い、暴走してしまい途中で力尽きたメジロパーマーは先頭のウマ娘から10バ身以上遅れてゴールしてしまった。

故にペースを誤ったメジロパーマーが自滅したものだと思っていたヒシアマゾンがそう指摘し鼻で笑うと、二代目が首を横に振る。

「メジロパーマー先輩のタイムもレコードに迫るものだったから自滅とは言いがたいよ。むしろベストレースに近かった。だけどそのラムタラはメジロパーマー先輩よりも常に先に走ってゴールした」

「……かーっ、マジか!? アタシ達の同い年のウマ娘がシニア最強のウマ娘のメジロパーマー先輩を競り潰したってことじゃないか!」

メジロパーマーに先着したウマ娘は多数いるが、この学園内でメジロパーマーよりも先に行き、逃げ切ることが出来るウマ娘はいない。何故ならメジロパーマーのレーススタイルは、相手をハイペースに呑み込ませてスタミナ切れを狙うというもので、相手のペースが普通かスローならばなんとでもないがメジロパーマーに合わせたら一環の終わり。メジロパーマーにまんまと逃げ切られてしまう。

 

 

「そう、そんなウマ娘がパワーアップして来年JCを制覇する為に来日する。それまでの間にラムタラに勝てるようにならなきゃいけない。だから夜遅くまでトレーニングをしていたって訳」

 

「しかし昼間の授業に支障をきたすまでにトレーニングしていたら寮長も反対するだろ」

「テストで結果を出せば問題ないよ。ヒシアマゾンみたいにしょっちゅう赤点出している訳じゃないしね」

「う、うるせぇ!」

「アマさん、英語圏出身だから国語(日本語)が苦手なのはわかるが英語が苦手ってどういうことなんだ?」

「帰国子女だからって英語が出来ると思うなよ」

「アマさん、そこは威張るところじゃないと思う」

「帰国子女のアタシからしてみれば日本の英語のテストはわかりづらいんだよ!」

ナリタブライアンとヒシアマゾンの漫才に二代目は思わず声に出して笑ってしまった。

 

 

「ヒシアマゾン、ナリタブライアン。もうそろそろ帰らないとマズイんじゃないの? 二人とも見た感じ買い物の後の様だし」

「食べ物買ってきた訳じゃないから腐ることはないがあまり遅くなるとトウカイローマン寮長に叱られるから帰ろうか」

ナリタブライアンがそう告げ、トレーニング施設の電気を消し始めるとヒシアマゾンが口を開いた。

「じゃあアタシと一緒に帰ろうぜ、アイグリーンスキー。勝手に施設を使った罰は重いだろうからアタシが弁護してやる」

「ヒシアマゾンその心配はないよ。既にメジロラモーヌ美浦寮長やシンボリルドルフ会長には許可取っているからね」

「え゛っ!?」

「アマさん、もしかして寮長に許可取らないで外出したのか?」

「……ハイ」

「ナリタブライアンは?」

「万が一のことを考えて伝達済みだ」

「流石ナリブー、仕事が早い」

ナリタブライアンがどや顔を見せるとヒシアマゾンが灰になり、その場から動かなくなってしまった。

「じゃあ、アイグリーンスキー。明日は普通でいてくれよ」

「善処するよ」

政治家らしい返事をし二代目はヒシアマゾンを背負ってナリタブライアンと別れを告げた。




後書きらしい後書き
今回は94世代がワチャワチャする話でした。それはさておき、解説を。

トウカイローマンはシンボリルドルフと同世代でオークスを勝っています。そんな彼女を親戚に持つウマ娘はトウカイ○○○○。この作品では栗東寮長を勤めています。

メジロラモーヌは史上初の牝馬三冠を達成した歴史的名馬である一方、有馬記念等牡馬牝馬混合の重賞レースで惨敗したこともあり、ヒシアマゾンが現れるまで「所詮牝馬は牝馬」と牡馬牝馬混合レースにおいて牝馬が軽視されるようになった原因です。この作品では美浦寮長を勤めています。



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尚、次回更新は西暦2019年7/4です


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第19R 暴走

ふと思い付いたネタ
SS「これがスペシャルな役! 私の本命は大三元~っ!」
SW「私のテーマソングを勝手に替え歌にして使わないで下さい!」

前回の粗筋
二代目、貴女疲れているのよ


大阪杯当日、阪神競馬場では大歓声が響いていた。

【オグリキャップ、オグリキャップ先頭だ、オグリキャップ、オグリ一着! 笠松からやって来たアイドルウマ娘、オグリキャップが大阪杯を制しました!】

それはオグリキャップがGⅠ競走の大阪杯を制したことに対する歓声だった。オグリキャップは元々地方のウマ娘であり、そこから成り上がってきた所謂主人公のような経歴を持つウマ娘で人気を集めていた。更に言うと観客から投げられた人参をウサギのように食べる姿が女子受けし、おぐりん等とファンからは呼ばれるようになっていた。

 

 

 

しかしオグリキャップが勝利した影で涙を流すものもいる。チームカノープスに所属しているウマ娘達を始めとした敗北者だ。

「オグリキャップ……!」

「私の末脚が炸裂すれば……!」

その中でも悔し涙を特に流していたメリーナイスとマティリアル。この大阪杯は先日行われた阪神大賞典や今後行われるGⅠ競走に比べればメンバーのレベルが低くチームカノープスの二人がマークするべき相手がオグリキャップのみという有り様だ。故にメリーナイスは有馬記念でやらかした大失態の名誉挽回のチャンスを、マティリアルは悲願のGⅠ競走を逃しただけに余計にショックも大きかった。

 

「負けちゃったか、先輩達」

『あれは仕方ない。オグリキャップはあいつの父親だからな』

「あいつ?」

『大阪杯に該当するレース産経大阪杯を12連覇果たした競走馬の父親がオグリキャップだ』

「ぶっ!? それって最低でもGⅠ12勝している計算になるじゃん!」

『そいつが現役の間の産経大阪杯はGⅠ競走じゃなかった。もしあの時代に産経大阪杯がGⅠ競走になっていたら前人未到の大記録になっていただろうな。俺ですらJC5連覇だからな』

「さりげなく先代もとんでもない大記録を立てていること言わないでよ……」

『とにかくそんな産経大阪杯を得意とした競走馬の父親がオグリキャップだ。適性が無いわけがない』

「先代、オグリキャップの戦績ってわかる?」

『有馬記念2勝、マイルCS、安田記念、他重賞7勝、全成績32戦22勝とオグリキャップが活躍した当時では超一流の名馬だが、競走馬のオグリキャップは産経大阪杯に出走していない上にタマモクロスよりも若い』

「……え?」

『オグリキャップが有馬記念を制したのはウマ娘でいうジュニアCの時とその二年後だ。昨年ジュニアCクラスだったオグリキャップが有馬記念に出走することすら叶わなかったことを考えると一番ウマ娘と競走馬とのギャップがあるんじゃないのか?』

「確かに。でも覚醒もせずそれを阻止したメジロパーマー先輩って、本当に何者なんだろう?」

『確かにな。だが有馬記念で勝てなかった分、バタフライ効果が現れて大阪杯を制することが出来たって訳だ』

「バタフライ効果ね」

 

 

 

『まあ何にせよ今年のシニアウマ娘の実力者なのは違いないし、来年もその実力は衰えず二代目と中距離路線で戦うことになる。注意することだな』

「注意か。ラムタラに比べたら怖くも何ともないよ」

『……ラムタラ信者だなお前は。俺の影響もあるしそろそろあいつの戦績について話そうか?』

「ぜひとも」

『英ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞を無敗で制し、有馬記念当日にエキシビションマッチレースで負けたことを除けば4戦4勝の無敗のまま引退し超一流の名馬だ』

「その言い回しだと最後に負けたということでいいのね? それを打ち破った馬は誰なの?」

『俺だ』

「えっ? オレダ?」

先代の答えに現実逃避してしまい、オレダという競走馬がラムタラに勝ってしまったのだと二代目が思考する。

 

 

 

『そんな馬がいるか……俺ことアイグリーンスキーがラムタラに勝ったんだよ。俺はシンボリルドルフ同様に生涯三度しか敗北していない。そのうちの一敗は日本ダービー。そして残りの二つがラムタラが制したKGⅥ&QESと凱旋門賞なんだ』

「それでリベンジする為にエキシビションマッチレースを開催したの?」

『正確には俺の馬主が開催したんだがな。そのエキシビションマッチレースで俺はどうにかラムタラに勝つことが出来たが、レース展開だのなんだのそう言ったものは覚えていない』

「ダメじゃん!」

『ただ一つだけ覚えているのは直線での出来事……競り合わず大外からあいつを差し切ったということだ。あいつの弱点は競り合いに強いが故に大外から強襲されると競り合えず力を発揮出来ない。それを狙ったことだけは覚えている』

「……ラムタラから逃げるかラムタラを差すかのどっちかわかっただけでも十分だよ先代」

『十分なものか。この世界のラムタラを差すにはヤマトダマシイ以上の豪脚が必要だ。あのトレーナーが優秀なだけあってこの世界のラムタラは俺の世界のラムタラよりも強くなっている。むしろ何故あのトレーナーに師事したマティリアルがGⅠ競走を勝てないのかが謎なくらいだ』

「じゃあ特訓しないと!」

『そう急くな。がむしゃらにやってもただ故障するだけだ。競走馬として6年間調教を受けてきた俺の経験はお前の自主トレに役に立つ……それは何度も言っているよな?』

「わかっているよ。それで何をすればいいの?」

『これからお前にやってもらうことは単純だ』

先代がそう告げ、トレーニング内容を伝えると二代目はそれに頷き、その場を後にした。

 

 

 

翌日、チームカノープスにて二人のウマ娘が対峙していた。

「しかしこうして貴女と一緒に公開トレーニングのように併せウマをする日が来るなんて思いもしませんでしたわ」

「これも重賞勝ちしたウマ娘の定めだと思うけど?」

「それもそうですわねメリーナイス」

チームカノープスのウマ娘達がメリーナイスとマティリアルとの併せウマという名前のマッチレースに盛り上がり、歓声を沸き上がらせる。

 

「さあさあ、メリーナイスとマティリアルの一騎討ちだ。どちらが勝つか賭けてみないか!?」

「焼きそばー、焼きそばいかがすっか!」

サンデーサイレンスがバ券を勝手に発行し胴元として、ゴールドシップが屋台で焼きそばを販売し、それぞれ金を稼いでいた。

 

「とんだ見せ物ですわね」

「見せ物で結構。どうせここにいるのは大半がチームカノープスのウマ娘達だから」

「メリーナイス、貴女はダービーを勝ったウマ娘です。しかしそれはあくまでもフロックでしかありませんわ。何せ私がマークされる中、貴女とサニースワローだけが悠々と先行していたのだからあんな状況なら誰でも勝てます。しかし今回は違います。貴女に格の違いというものを教えて上げましょう」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないなー」

「ほざきなさい。ヤマトダマシイ、そろそろ準備を」

「わかりました」

ヤマトダマシイが旗を上にし、メリーとマティリアルに合図を送ると三人が走行体勢に入る。

「よーい、スタート!」

ヤマトダマシイがそう告げた瞬間、メリーナイスとマティリアルが飛び出していった。

 

「ヒャッハー! 私も混ぜろーっ!」

突如、二代目が乱入しマティリアルから3バ身ほど遅れスタート。マッチレースはエキシビションレースとなってしまった

「おい、誰かあいつを止めろー!」

それを見ていたトレーナーのフジとマツが止めにかかる。

「まあ待ちたまえ。何か事情があるんだろう。ここを通りたければ余の屍を越えていくことだな!」

しかしバ券を販売していたサンデーサイレンスがそれを阻止し、二人を失神させ口角を上げると口を開いた。

「さあ、アイグリーンスキーの単勝バ券を今から30秒まで販売だ! さあ買った買った!」

「焼きそば売り切れです! あざーした!」

サンデーサイレンスが二代目の単勝バ券を売り、ゴールドシップは焼きそば売り切れを宣言する。まさしくカオスだった。

 

しかしそんな状況とは裏腹に二代目がその出遅れをものともせずマティリアルから1バ身まで詰め寄った。

「あら、アイグリーンスキー。乱入なんていい度胸しているじゃない。もっともメリーナイスと私のマッチレースになるからそこで大人しく見ていなさい」

マティリアルが後ろに着いていく二代目に話しかけ、挑発するも二代目が鼻で笑っていた。

「さてどうでしょうか? 油断していると私の背中を見ながらゴールすることになりますよ」

「それならこれに着いてこれるかしら?」

マティリアルがペースを上げるとそれに合わせ二代目がマティリアルの真後ろで徹底的にマークし、磁石のようにくっついて走行する。

「無理しなくてもいいんですよ? マティリアル先輩追い込みウマ娘なんですから?」

「私のレーススタイルを理解した上で私の後ろに着いているってことは私に対する挑戦状でいいのかしら? アイグリーンスキー?」

「そういうことです。なんなら6バ身さらに離れましょうか? 先輩達昨日走ったばかりでしょうからね、ハンデにそのくらい上げましょう」

「やってもいいですけどそれで後悔しても知りませんわよ?」

 

マティリアルの動きに合わせて徐々に二代目が離れていく。そしてマティリアルに10バ身離れた状態で直線へと入ろうとした瞬間、二代目が大外に膨れ騒然とした。二代目に賭けていたものは既にバ券を投げ頭を抱え、逆にメリーナイスとマティリアルのバ券を持っていたものはホクホク顔でいつゴールするか待機していた。

【さあここでメリーナイス、メリーナイス先頭、追い詰めるマティリアル、マティリアル、マティリアルが先頭に立った!】

マティリアルが悲願の勝利なるか、と言わんばかりにメリーナイスを差し切り、メリーナイスを突き放していく。

「っ!」

しかしマティリアルは違和感を感じていた。メリーナイスを差し切ったもののメリーナイスはマティリアルと互角なだけありマティリアルから突き放されることはない。それは正しくすぐ後ろから聞こえる蹄鉄の音も聞こえる。しかし問題点はその音が一人だけで発せられる音ではなかったということだ。

「嘘っ!」

メリーナイスが短くそう声を出したのを聞いて恐る恐る後ろを振り向こうとするもその必要がなくなった。

【な、なんと外からアイグリーンスキーだ!】

「嘘でしょぅ!」

あんな大差をつけられ勝てるはずがない。それは追い込みウマ娘であるマティリアルが一番良く知っていることだ。マティリアルの上がり3Fは34秒を叩き出しており、このタイムで10バ身以上離れた場所から追い付くには上がり3F33秒を切らなければならない。しかしそんなウマ娘は欧州のダンシングブレーヴ、米国のシルキーサリヴァンくらいしか不可能と言っていい。

 

それだけに信じられなかった。ジュニアBクラスのウマ娘がそんなウマ娘達と並ぶほどの末脚を持っていたことに。プライドの高いマティリアルが起こした行動はただ一つ、二代目を差し返す。ただそれだけだ。

【アイグリーンスキー、更に1バ身ほどリード、ゴールイン! これほどまでに強いのかアイグリーンスキー!】

「な……!」

マティリアルが「無理ー」とも言う間もなく二代目が更に突き放しゴールイン。マティリアルはそのことに放心した状態でゴールし、帰るまでの間の記憶をなくしていた。

 

 

 

少し過去に遡り大外に膨れた二代目は前を走るメリーナイスとマティリアルをガン見していた。

「先代、本当にこれでいいの?」

急ドリフトしながら前を走るマティリアルを捉えようする二代目が先代に話しかける。

『ああ。確かに内側は最短ルートだ。しかし最短ルート=ベストルートじゃねえ。競走馬やウマ娘の中でも走りやすいルートってもんがある。そこを意識すれば上がり3F32秒も夢じゃない。逆に今のマティリアル達みたいにベストルートを通らないと豪脚は発動しねえ。本来の末脚だけに頼ることになる。メリーナイスとマティリアルには悪いがこれで消えてもらうぜ』

その瞬間、二代目が一気に加速し10バ身あった差が9バ身、8バ身、7バ身と徐々に縮まっていき、メリーナイスを、そしてマティリアルを捉え突き放してゴールインした。

 

 

 

「……すげえ、すげえもん見ちまった」

ゴールドシップが新たに販売したお好み焼きを焦がしてしまうほどに二代目を凝視する。

「ゴルシ焦げているぞ」

「あ、やべえっ! 廃棄廃棄!」

焦げたお好み焼きを廃棄するのをジト目で見るフジキセキ。

「……確かにあの末脚は凄いな。止めようとした私を殴りたくなる」

フジキセキも途中乱入してきた二代目を止めようとしたがサンデーサイレンスにアルゼンチンバックブリーカーを極めた状態で側転されてしまい、二代目を止めることが出来なかった。

「むっふっふっ、ボロ儲けボロ儲け! 余の一人勝ちぢゃーっ!」

サンデーサイレンスが高笑いし、メリーナイスとマティリアルに賭けていたウマ娘達を見下す。

「ふざけるな!」

「金返せ!」

史実におけるサンデーサイレンス産駒のウマ娘達が暴徒化。史実においてサンデーサイレンスの血を継いでいるだけあってウマ娘達も気性も荒く、サンデーサイレンスを追いかける。

「誰がなんと言おうとこれは余が儲けた金だ! 絶対に渡さーんっ」

しかしサンデーサイレンスは史実においてその親であり、関係者からは「サンデーサイレンスよりか子供の方がマシ」と言われるほどの気性が荒かった為に、ウマ娘のサンデーサイレンスがそうなることを見越すのを予想しており、逃げ足も早かった。

 

 

 

後日、二代目とサンデーサイレンスがこっぴどくシンボリルドルフとたづなに叱られることになったのは言うまでもない。




後書きらしい後書き
今回の公開トレーニングの内容は2015年の皐月賞がモデルですね。二代目=ドゥラメンテ、マティリアル=リアルスティール、メリーナイス=キタサンブラックと言ったところでしょう。


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第20R 呼び出し

前回の粗筋
二代目「公開トレーニングに乱入だーっ!」
シンボリルドルフ「お前、後で説教な」


シンボリルドルフとたづなの雷神風神コンビが二代目に問いかける。

「さてアイグリーンスキー、サンデーサイレンス。何か弁解は?」

「ありません」

「ありま千円」

サンデーサイレンスが財布を取り出し、一万円札のみを見せると空気が凍りつき、シンボリルドルフの顔には影が出来上がり、たづなの目が三角になる。

「……っ!」

シンボリルドルフの笑いを堪える声が響き、凍りついていた空気が融点を超え春を迎えた。

「サンデーサイレンス先生?」

しかしそれを許さないのがたづな。彼女は本来ここにいるべき人物ではないのだが、サンデーサイレンスの暴走を緩和させる二代目を制御させることが出来る人物であることからシンボリルドルフが連れてきた。

 

「サンデーサイレンス先生がすみません!」

「どうだ、たづな理事長秘書。取引といこうではないか」

二代目が謝るのを無視してたづなに取引を持ち出すサンデーサイレンス。カオスそのものだった。

「賄賂は受け取りません!」

「これを見てもそんなことが言えるのかな?」

サンデーサイレンスが写真を取り出し、たづなのみにそれを渡すとたづなが無言で写真を破る。

「無駄だ。無駄無駄。そのデータがある限り写真はいくらでも作れる」

たづながサンデーサイレンスに掴みかかろうとするもシンボリルドルフに止められた。

 

「たづなさん、落ち着いてください」

「放してください、シンボリルドルフさん。サンデーサイレンス先生、今すぐその写真のデータを消去しなさい!」

「むっふっふっ、お断りだ。余の言うことを聞けば写真のデータを消してやろう」

「サンデーサイレンスぅっ、今すぐ消せ。さもないとこの場で貴様が脅迫した音声を学園中に流す!」

「余を脅すのか? 残念ながらそれは無駄だ! こんなこともあろうかとこの部屋限定で録音が出来ないように特殊な音波を流しているのだからな!」

「何っ!?」

シンボリルドルフが録音したデータを流すと確かに音が聞こえず録音されていなかった。

「そういうことだ。ちなみに録音だけでなく録画も出来んよ」

「いつの間にそんな設備を……!」

シンボリルドルフが旋律し、畏怖する。

ここまで用意周到に策を練られたことはシンボリルドルフの生涯において一度もなかった。

 

「サンデーサイレンス先生、いい加減にして下さい。私が証言してもいいんですよ? サンデーサイレンス先生がこの場でたづなさんを脅迫したと」

「お前が証言しても無駄だ。何せこの場の目撃者はいくらでも増やせる」

 

「増やせませんよ。チームカノープスの全員が私とサンデーサイレンス先生だけがこの場に呼ばれたのを知っています」

「はっ、チームカノープス以外にも呼ばれたウマ娘がいるだろう?」

「それに今この場にいたウマ娘はシンボリルドルフ会長、たづなさん、そして私とサンデーサイレンス先生の数名。その髪の毛がこの室内に落ちているとすればこの場にいた決定的な証拠となる一方で、三十分以上いたにも関わらず髪の毛の一本が見つからないとなるとこの場にいた証拠になり得ません」

「だが髪の毛を落とさない可能性も──」

「ない場合もあるでしょう。しかし上履きの足跡や制服等の衣服の糸屑が見つからないとなれば、もはやいないと断定して良いでしょう。何せこの後生徒会室は閉めますから」

「え、ああそうだな」

「そうですね。もうそろそろ時間ですし」

シンボリルドルフとたづながその呼吸に合わせ、二代目に賛同する。

 

 

 

「しかし我々の他に他のウマ娘の毛が落ちている場合も無いわけではないだろう」

「シンボリルドルフ会長、シリウスシンボリ副会長は掃除が得意でしたよね?」

「ああ。指紋一つ残らずやってくれるほどだ。鑑識のプロでも痕跡が発見出来なかったほどだ」

「ではお伺いしますがシリウスシンボリ副会長がこの部屋を掃除したのはつい先程でしたね」

「ああ。我々と入れ替わりで掃除を終えてくれたな」

「つまりシリウスシンボリ副会長が掃除をした直後に我々が入ってきたということであり、この部屋に髪の毛等の痕跡を残しているのは我々だけです」

「……全く、してやられたな。アイリちゃん」

「アイリちゃん言わないで下さい」

「おや、マルゼンスキーにはそう呼ばれる癖に余がそう呼ぶのは不服か?」

「不服です。サンデーサイレンス先生には普通に呼ばれた方がいいですから」

「そうか。ならアイグリーンスキー、見事だったぞ」

「おい、これで終わりのような空気を醸し出しているが終わりではないぞ。そもそもお前達が話を反らしたおかげで話すらしていないのだが」

サンデーサイレンスが締め、解散ムードになるとシンボリルドルフがそれを止め、30分ほど説諭し始めた。

 

 

 

「私からの説教はこれで終わりだ。お前に個人的に聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「ヤマトダマシイは無理していないか? あいつはトレーニングに関してチーム以外のウマ娘に頼ることがないから不安なんだ。ましてやあんな無理なレースをしていてはな」

「……それだったらヤマトダマシイ先輩と併せウマすれば良いじゃないですか」

「それも考えた。しかしヤマトダマシイは部外者に関しては徹底的に拒絶している。例え比較的距離の近い私が問い詰めても、部外者だから教えられないの一言だ」

「ヤマトダマシイ先輩、そんなに保守的じゃないと思いますけど、もしかしてヤマトダマシイ先輩に嫌われているんじゃないですか?」

「そ、そんな馬鹿なことがあるのか?」

シンボリルドルフが狼狽え挙動不審になる。自分に厳しくし、他人に甘くしてきたという自信があっただけにショックを受けていた。

「世の中はそんなものです」

「菜物の鍋物ー」

「ぶごはっ」

サンデーサイレンスがギャグをかますとシンボリルドルフのツボに嵌まったのか声に出して笑う。

 

「サンデーサイレンスさん、貴女という人は!」

「シンボリルドルフ、これを見ろ」

「ぶはっ!」

シンボリルドルフがその写真を見ると更に笑い出し、腹を抱えながらソファーに寄りかかる。

「何ですかその写真」

「シャー芯の写真だ」

「く、口に出さないでくれ!」

「写真のシャー芯」

「は、ハハハ! おかしい、なんだ写真のシャー芯って、なん、ヒヒヒ!」

サンデーサイレンスの追い討ちにシンボリルドルフがキャラ崩壊を起こしてしまうほどに大爆笑。

「シンボリルドルフさん、落ち着いて!」

「まだまだあるぞ。そのステロタイプは捨てろ」

「も、もう止めてくれ!」

シンボリルドルフの今の状態はまさしく抱腹絶倒。サンデーサイレンスに殺されかけていた。

「アイグリーンスキーさん、サンデーサイレンス先生の口を塞いで下さい」

「はいっ!」

二代目がサンデーサイレンスを止めるべく口を塞ごうとするもサンデーサイレンスが逃げ回りながら駄洒落を連発。しかもシンボリルドルフのツボに嵌まる駄洒落ばかりで、シンボリルドルフが救急車に運ばれる事態になるまで止めることは出来なかった。




後書きらしい後書き
今回はお説教のいう名前のシンボリルドルフとたづなの好感度上昇回(ゲーム脳)でした。ちなみにサンデーサイレンスがたづなに渡した写真は健全そのものでR18なものではありません。


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第21R ナリタとナリタ

前回の粗筋
シンボリルドルフ、倒れる


「ひ、酷い目にあった……」

「そうか?」

シンボリルドルフとたづなに叱られ、気力を削られた二代目に対してサンデーサイレンスは何事もなかったかのようにピンピンしている。

 

「サンデーサイレンス先生はシンボリルドルフ会長に駄洒落を言うだけ言って逃げたからいいですけど、シンボリルドルフ会長を病院送りにさせて、全部責任を押し付けられた気持ちがわかりますか? その結果がたづなさんの着せ替え人形の刑ですよ。本来ならただ叱られるのをサンデーサイレンス先生が余計なことをしたせいでそうなったんですから責任取ってくださいよ」

「それも一理ある」

サンデーサイレンスが携帯電話を取り出し、あるウマ娘に連絡を取った。

 

「Hello,My name is Sunday Silence. Is there Northern Dancer?」

 

流暢な英語でサンデーサイレンスが電話をすること数分後、電話を切る。

「これで良し」

「一体何をしたんですか?」

「余が米国のウマ娘だというのは知っているよな? その米国にいた時の先輩に頼んで、その先輩の知り合いのウマ娘をお前の一日専属講師として来日するように頼んだ。これで貸し借りなしだ」

「……そのウマ娘はどんな方なんですか?」

「さあな、あの先輩のコネクションは幅広すぎて誰が来るかわからん。ただ一つだけ言っておくとその先輩自身やノーザンテーストが来ることはない」

「ますます気になりますよ、それ」

二代目がそう呟くも、サンデーサイレンスは何処吹く風で、うんとも寸とも言わなかった。

 

 

「アイグリーンスキー、ここにいたのか」

サンデーサイレンスと話をしていると後ろからナリタブライアンが声をかけ、そちらに振り向くとナリタブライアンの他に癖毛が特徴のウマ娘がそこにいた。

 

「ナリタブライアンと……どちら様?」

「ジュニアCのナリタタイシン先輩だ」

「どうもナリタタイシンよ」

ナリタタイシンなるウマ娘が挨拶をし、二代目がそれに合わせ頭を下げる。

 

「はじめましてナリタタイシン先輩。ジュニアCということはヤマトダマシイ先輩のことを聞きたいんですか?」

「……」

「それともう一つ、タイシン先輩は跳ね返りウマ娘だから口に出せないだけだが、併せウマの協力をしてもらいたいんだ」

「ちょっとブライアン!」

「すみませんが併せウマは会長達に控えるように言われまして」

「えっ?」

こう声を漏らしたのはナリタブライアンの方であり、二代目を凝視する。

 

「むっふっふっ、アイグリーンスキーの言うことは真実だ。何せ余も同じように叱られたのだからな!」

「自慢出来ることじゃないでしょう!」

「別に、構わんぞ」

二代目が突っ込みを入れるのと同時に第三者の声が響く。

「シンボリルドルフ会長、いつ退院してきたんですか?」

「救急車で散々笑ったら病状が収まった為に即解放されたんだ」

「北海道はでっか──」

「サンデーサイレンス先生、シンボリルドルフ会長に何か恨みでもあるんですか?」

二代目が駄洒落を言うサンデーサイレンスの口をふさぎ、シンボリルドルフの病院送りを回避させる。

 

「それよりも話を戻す。私は迷惑をかけるな、とは言ったが併せウマを禁止していないぞ」

「そりゃそうですけど」

「そう言えばアイグリーンスキー、私からの罰を与えていなかったな。ナリタタイシンと併せウマをしろ」

「ちょっと、シンボリルドルフ会長!」

ナリタタイシンが抗議の声を上げるとシンボリルドルフが手で制し、口を開く。

「ナリタタイシン、お前が努力していることも、お前が出来るだけ一人であろうとすることも知っている。しかし一人でやっていては永遠に勝てない。私も相棒のシリウスシンボリがいたからこそ無敗の三冠ウマ娘となった。孤高を貫くのはレースだけで十分だ」

「……わかりました。それじゃ明後日、体育館に来てよね」

「わかりました」

「では会長、失礼します」

「あ、待って下さいタイシン先輩。それじゃアイグリーンスキー、また授業で会おう」

その場を去るナリタタイシンをナリタブライアンが追いかける。

 

「シンボリルドルフ、一つ聞いて良いか?」

「なんだ?」

一応講師の立場であるサンデーサイレンスにタメ口で答えるシンボリルドルフ。それだけサンデーサイレンスに恨みがあったのだろう。

「シンボリやナリタってのは何かの一族なのか?」

「ナリタはともかくシンボリと名の付くウマ娘はその一族に含まれる場合が多い」

「だったらマティリアルはシンボリ家の出身でありながらもシンボリと名付けられることはなかったのはシンボリ家を追放されたからなのか?」

「マティリアルは期待されているからこそあのようにシンボリの名前を敢えて外して名付けられたんだ。シンボリ家を追放した訳じゃない。ちゃんとシンボリ家に訪れれば歓迎する」

「そうか。ならその言葉マティリアルに伝えておこう」

二代目がビワハヤヒデから貸してもらったICレコーダーをサンデーサイレンスが懐から取り出した。

「あっ、いつの間に!?」

「それじゃアバヨー」

二代目が瞬きする間もなく、サンデーサイレンスがその場から消え去りこの場に残された。




後書きらしい後書き
今回は短めですみません。

それはともかくこの第21Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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第22R タイシンカイシン

前回の粗筋
シンボリルドルフ「お前ら併せウマな」
ナリタタイシン「マジすか?」
二代目「マジですね」


ナリタタイシンとの併せウマをするために二代目は体育館に来ていた。

「しかし何故体育館なんだろう」

 

体育館は校内集会や学校の行事に使われることが多いが本来の使用用途はバスケやバレーボールなど室内スポーツが出来るようにする為である。その為ある程度激しい運動は出来るが、体育館は広さに限度があり陸上競技などの競走に対する適性が屋外に比べると不適であり、併せウマなどもっての他。不可能と言っていいだろう。

 

何故ナリタタイシンがそんな体育館を併せウマをする場所に指名したのか、二代目が疑問に思うのはごく当たり前のことであった。

 

「んー? あんた確かヤマトダマシイと付き添いの……アイグリーンスキーだっけ? なにやってんの?」

二代目に話しかけてきたのは黒鹿毛のウマ娘でそのウマ娘はヤマトダマシイと同じクラスのウマ娘だった。

「どうもウイニングチケット先輩。ナリタタイシン先輩と併せウマの約束をしていたんですが肝心のナリタタイシン先輩が来なくて」

「あー、タイシンの体育館に来いって奴は信頼しない方がいいよ。そういう時は百割隠れているから」

「百割じゃなく十割ですよ。百割だと1000%になりますから」

「いいんだよ。細かいことは!」

「ウイニングチケット先輩、ビワハヤヒデ先輩から一日一回以上お小言貰っているでしょう……」

「……」

ウイニングチケットが目をそらし、無言になる。それを肯定を見なした二代目が頭を掻き、別の話題に逸らす。

 

「それでウイニングチケット先輩、ナリタタイシン先輩の場所に心当たりはありますか?」

「ん、そうだね。体育館に呼び出したってことは保健室か自室に戻っていると思うよ。アリ……アリの巣つぐりだっけ? それの為にやっていると思うから」

それを言うならアリバイだろう。

「もう私はツッコミませんよ。他にナリタタイシン先輩がいそうな場所はありますか?」

「基本一人で人気のない場所にいるよ。例えば屋上とかトイレの個室とか、倉庫の裏手とか」

「ありがとうございます。ウイニングチケット先輩」

「いいよ。それよりタイシン探すなら私も探すよ。やることないしね」

「ウイニングチケット先輩、何から何までありがとう──」

「礼ならタイシンを見つけてからにしようよ。ね」

その言葉に二代目の心が締め付けられ、心臓の音が鳴り響いた。

「ウイニングチケット先輩……」

「それじゃ探そうか」

ウイニングチケットの後を着いていき、二代目はその背中を見つめる。その背中を見るだけでも胸が高鳴り、そしてついに両腕を上げ襲いかかろうとしていた。

 

 

 

『やめろ二代目。そいつの前世は牡馬で襲いかかったら同性愛以外の何者でもないぞ。同性愛はサンデーサイレンスだけで十分だ』

先代が身体の主導権を奪い取り普通に歩く。二代目が何か言い返そうとしても口すら開けない。

『まあこいつの娘が俺が愛した女だからわからんでもないがな……』

付け加えるように先代が呟く。

 

『ちなみにサンデーサイレンスのことを同性愛と言っているのは何も根拠がない訳じゃねえ。奴は気性が荒く他の種牡馬達に自分がリーダーだと威嚇していたんだが、とある芦毛の種牡馬に通じなかったものだから何度も絡んでいる内に惚れてしまった……とはいっても同性愛だけでなく異性にも愛はあったからな。そうでなきゃサンデーサイレンスに種付けされた牝馬が俺にのろけ話をしないからな』

「……」

先代の悲哀に二代目は気まずくなり、身体の主導権を戻したにも関わらずウイニングチケットの背中から目をそらしてしまう。

『前にウイニングチケットがいる以上話せないのはわかる。だから暇潰しに俺の知るウイニングチケットの話をするぞ。ウイニングチケットはセイザ兄貴と同じ世代の弥生賞を勝った競走馬だ。父は後のリーディングサイアーのトニービン、母父にマルゼンスキー、そして母親がスターロッチの孫、言ってみればサクラスターオーの親戚筋にあたる』

「!」

サクラスターオーの名前を聞いた途端、身体が反応し、声を漏らす。

 

 

 

「ん? どうかした?」

「いえ、ウイニングチケット先輩ってサクラスターオー先輩とどこか似ているなって」

「スターオー? ああ、確かにスターオーとは親戚だよ。曾祖母ちゃんが一緒だから再従兄弟の関係にあたるのかな?」

「再従兄弟でしたか」

「うん、時々見舞いにも行っているけど怪我している所以外無事で安心したよ。有馬記念前に曾祖母ちゃんが死んで、有馬記念でスターオーまで死んだら悲しすぎるからねっ!」

ウイニングチケットが突然木を蹴り飛ばすと木が揺れ、葉が擦れる音、枝が折れる音が響き渡る。

「きゃぁぁぁぁっ!?」

そして最後にウマ娘の悲鳴が響き渡り、そのウマ娘はウイニングチケットの腕に落ちる。

「タイシン見ーつけた」

「チケット、何故わかった……?」

身体を両腕で抱えられる──所謂お姫様抱っこされた状態でナリタタイシンがウイニングチケットにそう尋ねた。

「音だよ。それより酷いじゃんタイシン、後輩を騙すなんてさ」

「……騙される方が悪い」

「タイシン先輩、どちらがいいですか?」

「何がだ?」

「この場で謝ってトレーニング場で併せウマをするのと、シンボリルドルフ会長に叱られる方ですよ」

「何故会長が出てくる」

「ナリタタイシン先輩はただ嘘をついたに過ぎないと思うかもしれませんがこちらには証拠があるんですよ。現在そのデータはサンデーサイレンス先生が所持していますが、このことがサンデーサイレンス先生やシンボリルドルフ会長にバレたらナリタタイシン先輩がどうなるか想像もつきませんよ」

「う……じゃあトレーニング場に行こう。チケット、逃げないから降ろして」

「はいさ」

ウイニングチケットが観念したナリタタイシンを降ろすと逃げないように監視した。

「だから逃げないって……」

「それじゃ行きましょうか」

その後、ナリタタイシンと二代目は併せウマをし、有意義な時間を過ごした。

 

 

 

「……っ! 後少し」

ナリタタイシンが手を伸ばし、少しでも二代目の前に出ようと足掻くが更に突き放された。

「肩透かしっ!」

二代目がそう決め台詞を放ったままゴール。余りにも楽勝だった。それと言うのも二代目に土をつけてきたグリーングラス、メジロパーマーの双方はどちらもベテランとも言えるレース経験のあるウマ娘であり、ナリタブライアンなどデビュー戦前のジュニアBのウマ娘どころか、皐月賞前のジュニアCのウマ娘相手に勝って当たり前の相手であり、後一歩まで追い詰めた二代目やメジロパーマーに圧勝したラムタラが異常なのである。

しかしナリタタイシンはGⅠ競走であるホープフルSを勝利していてジュニアCトップクラスの実力の持ち主であるが常識範囲内のウマ娘でしかなく、メリーナイスなどシニアトップクラスのウマ娘とは大きな壁が存在し現状勝てる相手ではなく大差をつけられて終わりだろう。

 

つまり図にすると

 

ラムタラ>メジロパーマー≧二代目>メリーナイス>(超えられない壁)>ナリタタイシン>ナリタブライアン

 

となる。

 

閑話休題

 

そんな訳でナリタタイシンに圧倒した二代目は息を少しだけ乱していたが、違和感を感じていた。しかし過呼吸までしているナリタタイシンほど疲れている訳でもない。自分の脚を確認しても無理をしているどころか寧ろ少しだけ解すだけで脚の疲れが治ってしまう。

 

 

そんな二代目は余裕を持って大の字で倒れているナリタタイシンを見下し、口を開いた。

「タイシン先輩、こんな調子じゃ今度の皐月賞、連対どころか掲示板すらも厳しいかもしれませんね」

それは二代目なりに、併せウマをさせたシンボリルドルフの意図を汲んでの発言だった。

「……っ!!」

ナリタタイシンはGⅠ競走の一つホープフルSに勝利したものの、それからの活躍は2戦2敗と勝利から遠ざかっていた。その原因はホープフルSに勝ったという驕りが産み出したものだ。しかも敗北こそしていたがその2戦は連対──つまり二着であり、惨敗している訳ではない為にトレーナーも口を挟むことが出来ず、併せウマをさせることが出来なかった。

「今まで一人でやってきたツケが今回の併せウマに響いた。それだけは覚えて下さい」

しかし今回明らかに格下であるジュニアBのウマ娘に圧勝されたことで、四の五の言っていられる状況ではない。それを自覚したのかナリタタイシンが無言で頷いた。

「では失礼します。ウイニングチケット先輩、ありがとうございました」

無言ながらもナリタタイシンが頷くのを見ると二代目がウイニングチケットに頭を下げその場から去っていった。




後書きらしい後書き
ちなみに先代が菊花賞云々抜かしていた馬は架空馬で青き稲妻の方で先代の産駒の一頭が菊花賞を勝ったことは記載されていても名前は出ていません。所謂裏設定という奴です。


それはともかくこの第22Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一週間後です


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第23R 期待のルーキー達

【悲報】史上二頭目の無敗で三冠馬となったディープインパクトが亡くなりました……一度リーディングサイアーになったらその順位をキープし続けたことといい、亡くなった年齢といい、誕生日といい、父サンデーサイレンスに最も近づいた馬でした。競馬小説を書いている作者が冥福を祈ります。

前回の粗筋
二代目「タイシン、ボッチプレイは止めるように」


「どうやら逃がした魚は大きかったようだな」

 

 ナリタタイシンとの併せウマが終わり、ナリタタイシン達と別れるとそこにいたのはチームリギルのトレーナーであるハナだった。

 

「おハナさん……いつの間に」

 

「最初からだ。今の走りでシンボリルドルフが何故お前をチームリギルに推薦したのかよく理解出来た。今となっては後悔している程だ。だがお前をチームに入れることは出来ない。ナリタブライアンやヒシアマゾン以上の逸材が所属してしまったからな」

 

「それは随分と期待出来る逸材ですね」

 

「皮肉か? チームリギルでお前を打ち負かせるのはシンボリルドルフとマルゼンスキーくらいしかいない。そいつも今は勝てる相手ではない」

 

「でしょうね。しかし、今は、というのはちょっと間違いですよ。シニアになれば勝てるなんて思っていたら大きな間違いです」

 

「言ってくれるな」

 

「では野暮なことをお聞きしますが、そのウマ娘がどんなタイトルを勝つか予想しましたか?」

 

「皐月賞と日本ダービーの春二冠を初めGⅠ競走を7勝する姿だ……それだけの器を感じさせた」

 

「甘い、甘すぎる。そんな程度の器でしかないウマ娘が世界史上最強クラスのウマ娘を見てきた私に勝てるとでも?」

 

「……なんだと?」

 

「彼女の名前はラムタラ。かつてチームギエナのトレーナーだった男の最高傑作で、私と同期でありながらメジロパーマー先輩に圧勝した正真正銘の怪物。アレが成長したらシンボリルドルフ会長やマルゼン姉さんを超えるレベルですよ」

 

 

 

「ちょっと待て。ラムタラが何故あの男と関わっている?」

 

「それが、どう間違えればそうなるのかあの人は欧州のトレセン学園のトレーナーリーダーになったみたいで、日本のトレセン学園とのパイプ役になっているんですよ」

 

「なるほどな。あの男はウマ娘のケアを除くと、ウマ娘に関しては優秀だからな。多少の不祥事があっても向こうのトレセン学園のトレーナーとして就職することが出来たという訳か」

 

 ハナが納得し頷き、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでそのラムタラというウマ娘がメジロパーマーに圧勝したのか?」

 

「ええ。この目で見ましたから。メジロパーマー先輩の前に立って400m毎に1バ身ずつ差をつけて、最後は5バ身差ついた状態でゴールしましたからね」

 

「……ジュニアBの時点であのメジロパーマーに5バ身か。確かにとんでもない逸材だ」

 

「おハナさん、メジロパーマー先輩が馬鹿ペースで飛ばして自滅したとか考えていないんですか?」

 

「それを言っている時点で自爆していないと言っているようなものだぞ、アイグリーンスキー」

 

「とにかくメジロパーマー先輩のタイムは悪いどころかかなりの良タイムでした。しかしあのラムタラはそれよりも1秒弱早くゴールしています。体調万全の状態のマルゼン姉さんがジュニアBの時でもそんなことが出来ますか?」

 

「……あのお方くらい、いや何でもない。そんなことが出来るのは日本にはいないだろうな」

 

 ボソリと呟くのを聞き逃さなかった二代目だが敢えてそれをスルーした。

 

 

 

「今の私ではラムタラに勝てませんがいずれ私はあいつを超えますよ。おハナさん、そのウマ娘にそのビジョンが見えますか?」

 

「……」

 

「いずれおハナさんの言う逸材のウマ娘とは決着を着けますが、王者としてGⅠ競走7勝程度では勝てないことを叩きこんであげます」

 

「口先だけでないことを祈っているぞ。そのウマ娘の名前はエアグルーヴだ」

 

 ハナがその場を去り、二代目も自室へと向かう。

 

 

 

 

 

『エアグルーヴか。懐かしい名前だ』

 

 誰もいなくなった道で先代が呟く。

 

「先代、知っているの?」

 

『知っているも何も奴とはJCで二度対戦している。もっとも二度とも俺が勝っているがな』

 

「じゃあ楽勝だね」

 

『奴はオークスを勝ち、後のGⅠ競走産経大阪杯、そしてヒシアマゾンですら成し遂げられなかった牝馬での、牡馬牝馬混合のGⅠ競走天皇賞秋をも勝利した名牝だ。しかしその程度でしかない。現在でいうところのGⅠ競走2勝でシンボリルドルフに並ぶどころかそれ未満だ』

 

「でしょ?」

 

 

 

『だがメジロパーマーのように覚醒したらそうも行かないぜ。何せエアグルーヴは史上最強の二冠馬ドゥラメンテの祖母だからな』

 

「ドゥラメンテ?」

 

『そうだ。ドゥラメンテは皐月賞の第四コーナーのカーブでドリフトをして大幅なタイムロスをしたのに関わらず余裕綽々に先頭でゴールしただけでなく、日本ダービーを2分23秒2とレースレコードを出した競走馬だ』

 

「2分23秒2……!? 今のレースレコードよりも2秒以上も縮めたの!?」

 

『しかも後にGⅠ競走7勝する競走馬に全て先着したものだから史上最強の二冠馬という称号がついたんだ。もしエアグルーヴが覚醒したらそのくらいのことをやりかねない。一流と二流の間をさ迷っていたメジロパーマーが二代目に勝ったようにな』

 

「う……」

 

『これが条件戦すら勝利していないそこらにいる繁殖牝馬(ははおや)ならともかく、エアグルーヴは競走馬としても一流で覚醒する要素はいくらでもある』

 

「覚醒したらしたで捩じ伏せるまで。やることは変わらないよ」

 

『それでこそ二代目だ。エアグルーヴと対決する前に躓いたらみっともないからどんな相手でも注意することだな』

 

「もちろん。でもその前に勉強しなきゃね」

 

 二代目が返事をし笑みを浮かべ、自室にあるノートを開き勉強をしはじめた。

 

 

 

 

 

 そして週末、NHKマイルC前哨戦であるニュージーランドTが開催された。

 

【一番人気のヤマトダマシイ、ヤマトダマシイはまだ来ない!】

 

「ヤマトダマシイ先輩、いつ見ても不安になるレースばかりだね」

 

『全くだ。あれで最終的に勝てるんだから大したもんだ』

 

【ヤマトダマシイ来たっ! 大外からヤマトダマシイ一着でゴールイン! ヤマトダマシイ無敵の四連勝! NHKマイルCに向けて一点の曇りなし!】

 

『だがあれはNHKマイルCは勝ててもダービーでは勝てない。スピードでゴリ押ししているだけだ。ダービーに勝つには勝負根性と瞬発力どちらも欠けちゃならねえ、特に今年のダービーはな』

 

「確か、ウイニングチケット先輩にビワハヤヒデ先輩が一応有力候補なんだよね」

 

『こっちの世界ではな。俺の世界にいたセイザ兄貴は大本命だったぞ。皐月賞トライアルのスプリングSを5馬身差で勝利したからな。だがセイザ兄貴ならぬセイザ姉貴はここにはいない。本来無敗の二冠を勝つ馬がいないこの世界はまさしく群雄割拠、戦国時代そのものだ』

 

 ウイニングチケットやビワハヤヒデの他にもヤマトダマシイ等本来いない競走馬がウマ娘となって日本ダービーに出走登録しており、何が起こるか予測がつかない事態となっていた。




後書きらしい後書き
今回、ちょっと短めです。


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第24R 皐月賞とドタバタ

今回少し長めです

前回のあらすじ
ハナ「エアグルーヴたんがウチに入ったお!」


 皐月賞

 

 弥生賞を制覇したウイニングチケットが本命視され、次点にビワハヤヒデと二強対決の雰囲気の中、目がギラつく程に輝かせているウマ娘がいた。

 

「皐月賞はアタシが貰う」

 

 そう呟くウマ娘の名前はナリタタイシン。彼女はホープフルSを勝利し、弥生賞を二着と皐月賞出走権を獲得し皐月賞に出走にこじつけられたもののその評価はとても半年以前にGⅠ競走を勝利したウマ娘の評価ではなく、ウイニングチケットとビワハヤヒデの二強対決の引き立て役という扱いだった。

 

 それも仕方ない。だけどこのままでも勝ち目はある。

 

 そう思っていた矢先に二代目が現れ、ナリタタイシンの驕りをへし折って闘気を満たし、鬼が宿った。

 

【ウイニングはウイニングは苦しい、先頭はビワハヤヒデ、大外からナリタタイシン、ナリタタイシン差しきった! 二着にビワハヤヒデ。勝ったのはなんとナリタタイシン!】

 

 まさしく鬼脚と呼べる豪脚でナリタタイシンが粘るビワハヤヒデを大外から置き去りにして皐月賞を制覇。そのまま勝者ナリタタイシンをセンターにウイニングライブをやるかと思われたがウイニングライブをやる前にウイニングチケットがそれを止めた。

 

 

 

「おめでとう、タイシン」

 

「チケットどうもありがと」

 

「皐月賞はタイシンが勝ったけどダービーはこうもいかないよ。東京競バ場は得意文化だからね」

 

「それを言うなら得意分野だ」

 

 ビワハヤヒデが即座に突っ込みを入れると共にタイシンが笑みを浮かべながら口を開く。

 

「アタシはこのまま二冠を制してみせるよ。阻止出来るものなら阻止してみなよ」

 

「無論だ」

 

「当たり前じゃん」

 

「今度戦うときは全員が挑戦者だよ。さ、ウイニングライブやりに行こうかハヤヒデ」

 

「ああ、余り待たせると失礼だからな。今度は日本ダービーのウイニングライブの舞台で会おう。チケット」

 

 ナリタタイシンに引かれるようにビワハヤヒデがウイニングチケットと別れを告げる。

 

 ウイニングライブというのは先代の世界におけるウイニングランに相当し、GⅠ競走のみで行われるものだが、一着の馬しか行わないウイニングランとは違い、ウイニングライブは三着までのウマ娘がライブを行うというものだ。そのうち一着のウマ娘のみがセンターを務めることが出来るというものだ。

 

 今回ウイニングチケットが四着となった為にウイニングチケットが舞台に上がることなくその場を去るしかなかった。

 

「その舞台でか。今度はセンターで踊ってみせるよハヤヒデ、タイシン」

 

 ウイニングチケットはビワハヤヒデが暗に日本ダービーの勝利宣言をしたことに対して闘志を燃やし、そのウイニングライブを臥薪嘗胆の思いで見つめていた。

 

 

 

 ウイニングチケットの他にその舞台を臥薪嘗胆の思いで見つめる者がいた。

 

「私もデビュー戦が早ければあの舞台に立てたかもしれない」

 

 そう呟くウマ娘の名前はヤマトダマシイ。彼女はデビュー戦が遅れ皐月賞に間に合わずNHKマイルCに挑戦し、ダービーに出走することになっていたが皐月賞への未練が大きくこの場にやってきていた。

 

「かもしれないですね先輩」

 

 ヤマトダマシイに同行していた二代目がそれに頷く。

 

「グリーン、私のこの悔しさはNHKマイルCと日本ダービーにぶつける。その二冠を制すれば皐月賞の未練はなくなると思うんだ。だから──」

 

「協力しますよ。併せウマに」

 

「忝ない、グリーン」

 

「チームカノープスのシニアの先輩達は落ち目で頼りないですからね。途中乱入してきた私に負ける有り様ですし」

 

「……それは否定出来ないが、余り口に出すものじゃないぞ」

 

「すみません。でも落ち目かどうかはともかく、あのままじゃ勝てませんよ。メジロパーマー先輩ですら私よりも強いですし」

 

「それはいいことをお聞きしましたわ」

 

「げっ、マティリアル先輩いつの間にいたんですか?」

 

「チームカノープスのシニアの先輩達は頼りないですからね、の部分からですわ」

 

「最初からじゃないですか!」

 

「ヤマトダマシイ、こんなくそ生意気な後輩どう思う?」

 

 ここでヤマトダマシイが空気を読まず「先輩よりかは頼もしく思えます」と言おうものならマティリアルがブチ切れて大暴れすることは想像に難くない。しかし空気を読んで同調してもそれはマティリアルの為にならない。

 

 

 

「マティリアル先輩、いつからそんな情けなくなったんですか?」

 

「何ですって?」

 

「サクラスターオー先輩やメリーナイス先輩を差し置いてチームギエナのメンバーの中で最も注目を浴びていたのはマティリアル先輩でしょう。その時の先輩はとても輝いて見えました。しかしサクラスターオー先輩が皐月賞と菊花賞を、メリーナイス先輩が日本ダービーを勝利したにも関わらずマティリアル先輩は無冠──」

 

「黙りなさい」

 

「そして先日の大阪杯でメリーナイス先輩にも先着され──」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 まだライブ途中であるにも関わらず、怒鳴り声を上げそちらに全員が注目する。

 

「マティリアル先輩、落ち着いてください! ヤマトダマシイ先輩も挑発しないでくださいよ」

 

 二代目がマティリアルをどうにか宥めるがヤマトダマシイが更に挑発し、注目を集める。

 

「同じ追い込みウマ娘として恥ずかしい限りです」

 

「ヤマトダマシイ先輩!」

 

「……ふぅぅぅ~。ヤマトダマシイ、そこまで貴女が挑発するならこっちもそれなりの対応をしますわ。来なさいヤマトダマシイ」

 

 深呼吸しながらマティリアルが外に出るとヤマトダマシイがそれに続いた。

 

「貴女とは一度決着をつけたかったんですよ」

 

「ああもう、どうしてこうなるのかな?」

 

 二代目がそれを追いかけ、その場を後にした。そして会場に残されたのは皐月賞のウイニングライブの関係者とそれを見に来た観客達だけであった。

 

 

 

 そしてチームカノープスの練習場で二人のウマ娘がそこに対峙していた。

 

 片やマティリアル。かつて日本ダービーの最有力候補でありあの名門シンボリ家の出身でもある。

 

 もう片やヤマトダマシイ。3戦無敗のチームカノープスのジュニアCクラスのエースであり、今度出走するNHKマイルC、日本ダービーでも有力候補に上げられている。

 

 そんな二人の共通点、それは同じチームカノープスであること。そしてもう一つ、終盤になってから全力を出し先頭を走るウマ娘を抜き去る追い込みウマ娘であるということだ。

 

「いずれ戦う時が来るのは予想していましたがこのような形で思いもよりませんでしたわ」

 

「いいや予想していましたよ。マティリアル先輩が無様晒しているんですから」

 

「……その口を塞いであげますわ」

 

「グリーン、合図を頼んだぞ!」

 

「何故こんなことに……」

 

 殺伐とした雰囲気の中、二代目が頭を抱えウマ耳に耳栓を入れてピストルに弾を込めた。

 

「お二人とも準備はいいですか?」

 

「いつでも行ける」

 

「同じく」

 

「ではヨーイスタート!」

 

 ピストルの鳴る音がその場に響き二人がスタートした。

 

 今回行われる併せウマもとい模擬レースは宝塚記念と同じ距離2200m。本来天皇賞春に登録しているマティリアルの併せウマであればそれよりも1000m更に長い3200mにするべきだが、長距離レースを経験していないヤマトダマシイに配慮したのと、マティリアルが天皇賞春の次走に宝塚記念を登録してある為である。

 

「マティリアル先輩、無理しなくていいんですよ? グリーンに負けた情けないウマ娘なんですから」

 

「アイグリーンスキーが異常に強いだけのことですわ。見たでしょうあのタイムを」

 

「ええ、もちろん。ですがそれを差し引いてもマティリアル先輩は弱いですよ」

 

「何ですって?」

 

「最後に分かりますよ」

 

 マティリアルのペースから自らのペースに切り替えたヤマトダマシイ。それを見たマティリアルがヤマトダマシイに合わせてペースを上げようとするが、それを止めマイペースで走る。

 

「そうやっていると、より惨めになりますよ。マティリアル先輩」

 

 その呟きはマティリアルを含め誰にも聞こえることなく消えていった。

 

「ヤマトダマシイと言えども私の末脚に敵う筈がない。ましてや前を走るヤマトダマシイなど恐れることはありませんわ」

 

 ヤマトダマシイが前を走ることに安堵し、マティリアルが微笑み、最後のカーブに入る前にギアを上げた。

 

 互いに笑みを浮かべる模擬レースだが、最後に笑うのは一人だけであることは事実でもう一人は涙を流すことになることをこの場にいる全員が知っていた。

 

 

 

『下らねえ茶番劇だな』

 

「先代それは一体どういうこと?」

 

『俺の世界でマティリアルはシンボリルドルフと同じ配合──要は父親と母父が同じなんだ』

 

「つまりマティリアルの父親と母方の祖父が同一人物?」

 

『いくらなんでも血が濃くなりすぎるわ、ど阿呆う。シンボリルドルフとマティリアルは共にパーソロン産駒で母親がスピードシンボリ産駒だったってことだ』

 

「それが何なの?」

 

『まず父親が同じ時点で1/2は同じ血が流れている。そして母父が同じな時点で1/4同じ血が流れている。つまりシンボリルドルフとマティリアルは1/2と1/4を足したものだから──』

 

「3/4ね」

 

『そうそう。3/4同じ血が流れている訳だ。そのくらい同じ血が流れているとなれば誰だって期待したくなるだろ? セントライトの兄弟にあたるトサミドリですら半分しか受け継いでいないんだから尚更だ。そんな訳で、シンボリルドルフの後に生まれたマティリアルはシンボリルドルフと同じ教育を受け育ってきたんだがある問題が生じた』

 

「問題?」

 

『シンボリルドルフとマティリアルは全く別の馬だったってことだ。こっちにもあるだろ? 同じ父親母親の兄弟でも出来が違うってのは。マティリアルはまさしくそれで、シンボリルドルフにやった教育がマティリアルに合わなかったんだ。こっちの世界でもマティリアルはレーススタイル以外シンボリルドルフの真似をして努力しているが──』

 

「合わないってこと?」

 

『そういうことだ』

 

 二代目が先代の意見に耳を傾けながらレースに目を向けるとズルズルと後退していくマティリアルの姿を見てしまった。

 

 

 

「……っ!?」

 

 ヤマトダマシイとの差を縮める為にマティリアルがスパートをかけたが逆に突き放されていく、その現実に着いていけずに顔が歪んだ。

 

「だから言ったでしょう。より惨めになると」

 

 そしてヤマトダマシイが先にゴールして併せウマが終わり、マティリアルは唖然として放心していた。

 

「マティリアル先輩、今の貴女には覚悟が足りない」

 

「……覚悟?」

 

「シンボリ家の皆さんに貴女は中長距離路線のGⅠ競走を勝つように期待されている。違いますか?」

 

「……ええ。その通りでしたわ。しかし三冠の一つも勝てずに失望され、今となっては絶縁状態。今の私にあるのはこの体だけ。かつてシンボリ家の皆さんからポスト・シンボリルドルフと呼ばれた私はどこにもいません。その栄光を取り戻す為に私は中長距離のGⅠ競走を勝たねばなりません!」

 

「マティリアル先輩、その末脚はマイル戦でこそ活かせることが出来る。見てくださいよ、この上がり3Fのタイムを」

 

 2200mを走破したマティリアルの上がり3Fのタイムが38秒1と決して追い込みウマ娘が出すようなタイムとは言いがたいものだった。逃げウマ娘メジロパーマーが3000mの重賞レースである阪神大賞典で出した上がり3Fのタイムが37秒7と言えばマティリアルがどれだけ遅いか理解出来るだろう。

 

「むしろこれだけ遅いタイムなのに追い込みウマ娘と主張出来るのか不思議なくらいです。逃げウマ娘のメジロパーマー先輩の方がまだ主張出来るくらいです」

 

「ヴぅぅぅっ!」

 

「しかしマイルなら話は別です。マティリアル先輩に中距離以上のレースはスタミナが足りずに不向き……とサンデーサイレンス先生が仰っていました」

 

「私に中長距離のレースを捨てろと、そう仰るのですか?」

 

「実際気づいているんじゃないですか? マイル戦なら末脚が発揮するのに中長距離になるとまるで使えなくなる。マティリアル先輩がやるべきことは今、この場で決断することです。永遠に勝てないレースで無様を晒すのか、それともマイルで栄光を掴むかその選択肢しかありません」

 

 ヤマトダマシイが残酷に告げる。

 

「それもサンデーサイレンス先生の伝言ですか?」

 

「ええ。それとこれもマティリアル先輩に渡すように言われています」

 

「これは……ICレコーダー?」

 

「これを渡しておけと言われただけですので詳しいことは知りませんがマティリアル先輩に何か伝言でもあるんでしょう」

 

「その中身はシンボリルドルフ会長の言葉が入っていますよ」

 

 それまで空気だった二代目が口を挟み、マティリアル達の注目を集める。

 

「グリーン、何故それをお前が知っている?」

 

「それはその場にいましたから。ところでサンデーサイレンス先生はどこにいるんですか? いつもならヤマトダマシイ先輩に渡すなんてまどろっこしいことをせず自分で渡す筈なのに」

 

 いつも騒がしいサンデーサイレンスがいないことにより、違和感を感じていた二代目がサンデーサイレンスの行方を探していた。

 

「あのウマ娘なら陰陽術を学びに出掛けていますわ」

 

「アメリカのウマ娘なのに?」

 

「アメリカのウマ娘なのに」

 

 そして二代目がサンデーサイレンスが奇声を上げお払い棒を振り回して札を自由自在に操り、幽霊退治をする姿を思い浮かべると、その場にいた三人のウマ娘達が吹いた。

 

「ぶはっ」

 

 三人が吹いた理由はサンデーサイレンスが色白で見た目がホラー系なウマ娘である為に似合う、いや似合い過ぎていたからだ。

 

「確かに似合ってる……くひひ」

 

「ぐ、グリーン、そんなことをサンデーサイレンス先生に聞かれたら後でキツイお仕置きがはっ」

 

「そういう貴女こそ……ふふっ」

 

 彼女達の笑いが止まるまで時間が経過し、次の話題を出した。

 

 

 

「それでマティリアル先輩、今度の天皇賞春どうします?」

 

「キャンセルよキャンセル。出走登録取消の手続きをして安田記念に登録いたしますわ」

 

「オグリキャップ先輩がいますけど大丈夫ですか?」

 

「オグリキャップがいようとも関係ありません。彼女との勝負に中距離で負けたけどマイルとなれば話は別ですわ。それまでの私ではないことを証明してあげましょう」

 

「初めてのGⅠ制覇、期待していますよ。マティリアル先輩」




後書きらしい後書き
今回はマティリアルが中心でしたね。
マティリアルの上がり3Fのタイムはそれほど速くないのも事実でスプリングSで見せた末脚は見せかけのもので陣営はそれを捕らわれ、マティリアルを追い込み一辺倒で競馬させるようになってしまいました。
しかし京王杯AHで先行策をとり見事勝利し、さあこれからというところで骨折し予後不良処分となった悲劇の競走馬です。
そんな彼女がこの小説でどう活躍するかお楽しみ下さい。



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尚、次回更新は一週間後です


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第25R 暫定最強ウマ娘決定戦

【悲報】ディープインパクトに続いてキングカメハメハが亡くなりました……アイネスフウジン以来更新されることのなかった日本ダービーのレコードを更新しただけでなくロードカナロアを初め数多くの名馬を輩出した馬でした。競馬小説を書いている作者が冥福を祈ります


 天皇賞春。京都競バ場で行われる芝3200mと国内の平地GⅠ競走においては最長の距離のレースであり、大阪杯に続くシニアの王道レースの一つでもある。

 

 故に天皇賞春でメジロパーマーを初めとするGⅠ競走を勝ったウマ娘やタマモクロスなど勢いのあるウマ娘がここに集結していた。

 

 しかしその天皇賞春でも豪華メンバーは揃っていても全員集合したという訳ではなかった。

 

 菊花賞を勝ったウマ娘達サクラスターオーとスーパークリークは故障や脚部不安により出走回避。

 

 サクラスターオーの代わりに出走する筈だったマティリアル、そして大阪杯を勝ったオグリキャップは自身の適性距離でないことを理由に出走回避していた。

 

 

 

 しかしそれでも豪華メンバーが揃っていることに違いなく誰が勝つか予想するのが難しく予想屋の大本命はほとんど一致しないという珍事態が発生していた。

 

「おっ、アイグリーンスキーやないか」

 

 その中でももっとも予想屋を泣かせてきたメジロパーマーが二代目を見つけ、声をかける。

 

「メジロパーマー先輩、どうもお久しぶりです」

 

「おおきにな。この調子でレース中も応援頼むわ……って言いたいところやけど、チームカノープスのウマ娘が天皇賞春に出走してる以上それは言えんわ。しゃーないからワシん中にいるメジロパーマーに応援頼むわ」

 

「ありがとうございます。メジロパーマー先輩」

 

「ほな、今度目を合わせる時は舞台の上で合わせちゃるわ」

 

 獰猛類の笑みを浮かべたメジロパーマーが二代目から離れると次に近づいてきたのがメリーナイスであった。

 

「アイグリーンスキー、奴と何を話していた?」

 

「え、普通に世間話ですよ」

 

「嘘だな。私の作戦を話していたのを見ていたんだぞ!」

 

「だから話していませんってば」

 

「知っているよ」

 

「……はぁっ?」

 

 訳がわからず頭に?マークを浮かべる二代目にメリーナイスが続いた。

 

「ふふっ驚いたか?」

 

「そりゃいちゃもんつけられたらそうなりますよ」

 

「驚き戸惑う顔をみるのが私の大好物でね。これは私なりのリラックス方法だ。許せ」

 

「そんなことをやっていると後で友達失いますよ……先輩、頑張って下さい」

 

「あっ、右脇にゴキがついて──」

 

「みぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 二代目が悲鳴を上げ錯乱し、暴れまわる。

 

『落ち着けアホ。そんな奴はいない』

 

 先代が体の主導権を取り、冷静を装わせて椅子に座る。

 

「そういうことだ。じゃあ応援しろよ」

 

「……」

 

 あれだけ嫌われるようなことをしておいてしれっと応援するように告げるメリーナイス。もちろん二代目の返事は無言だった。

 

 

 

「仲間との慰め合いは済んだのか、メリーナイス?」

 

「イナリワン。そっちは、ああ……クス」

 

「何笑ってやがるんでぃっ!」

 

「慰めて貰う相手がいないってのは寂しいものね。貴女の仲間は大井にいるもの。一人ぼっちで寂しくない?」

 

 物理的にも精神的にも見下し、笑い声を抑えた声でイナリワンを煽りまくるメリーナイス。

 

「てめえ喧嘩売ってんのか!?」

 

 これに短気なイナリワンが耐えられる筈もなく早くも引っ掛かり興奮する。

 

「その江戸っ子キャラもこっちに来てから身につけたんでしょう? 何せ貴女は大井の出身で淋しさを埋めるには江戸っ子キャラはうってつけだものね」

 

 そしてイナリワンがぶちギレ、腹パンをしようと拳を握り、詰め寄ろうとした。

 

「やめときイナリ! その喧嘩買ったらアカン!」

 

「放せタマ公! 売られた喧嘩買わない江戸っ子がどこにいるんでい!」

 

「あらあらまだ江戸っ子キャラ続けるの?」

 

「うがぁぁぁぁっ!!」

 

 イナリワンが大暴れ。京都競バ場で早くも混沌としていた。

 

「メリーナイスもメリーナイスや、有馬記念でもそうやって煽りまくって競走中止にさせられたんやから自重せえ」

 

「あれ? ねえお嬢さん、迷子になったの? ここは危ないから係員さんのところに行きましょうね」

 

 メリーナイスはタマモクロスを幼児のように扱って煽る。とにかく他のウマ娘を煽りまくって興奮させて入れ込みさせるのがメリーナイスの作戦だった。

 

「ええ加減にせんかい!」

 

 どこからともなくタマモクロスがハリセンを取り出して突っ込みを入れる。その際にハリセンの叩く音が響くが観客は動揺しなかった。

 

「ウチはイナリと違うてあんたの挑発に乗るほどアホちゃう。せやけど突っ込みなら言うで」

 

「さりげなくあたしをディスるなタマ公」

 

「あらあら……こんなちっさい子供がそんな立派なことを言えるなんて偉い──ぶっ!?」

 

 そしてメリーナイスがタマモクロスの頭を撫でようとすると顔にハリセンが炸裂する。

 

「誰が子供やっちゅうねん。ウチはあんたと同じクラスのタマモクロスや。いつまでもダービーウマ娘の栄光を飾れると思うなや。このど阿呆う」

 

「顔はやらないでよ……痛いんだから」

 

 顔を物理的に赤くさせられたメリーナイスが抗議の声を出すがタマモクロスは鼻で笑った。

 

「自業自得や、そのくらい我慢せえ」

 

 全くその通りである。

 

 

 

 そんなやり取りが繰り広げられ、早くも波乱の予感を感じ取っていた観客達は不安げに自分が買ったバ券や推しウマ娘を見つめる。

 

「それではまもなく本日のメインレース、天皇賞春スタートします」

 

 アナウンスが流れ、観客達がゲートに入る推しウマ娘に注目する。

 

【天皇賞スタート!】

 

 それまで閉ざされていたゲートが開き春の天皇賞が開幕した。

 

【まずハナに立ったのはやはりメジロパーマー。ぐいぐいと二番手を突き放して、これは八バ身程の差を開いて先頭をかけていきます】

 

「やっぱりメジロパーマー先輩らしいですね」

 

「いやいやあれで逃げられると思っているのか?」

 

「意外と逃げられるんですよアレ。メジロパーマー先輩と併せウマすれば分かりますよ」

 

【そして六番手に昨年のダービーウマ娘、メリーナイスがここにいます。果たしてどのように動くのでしょうか?】

 

「流石おちょくり大王。イナリワン先輩を挑発させることだけは天才的な才能がある」

 

 二代目がそうコメントした理由はメリーナイスの立ち位置──もとい走り位置にある。メリーナイスの走っている場所はイナリワンのちょうど前であり、レースの最中にそれをするということは挑発以外の他でもない。

 

【そしてそれをマークするようにイナリワン。前走阪神大賞典では5着と遅れましたが丸地のウマ娘として期待されております】

 

 実況の目は節穴なのか、あるいは敢えて無視しているのかイナリワンがメリーナイスをマークしていると見なして実況。実際にはメリーナイスがイナリワンを意識しているだけでイナリワンは最後方に控えるウマ娘を警戒していた。

 

【そして最後方に一番人気のタマモクロス。このまま連勝記録を飾れるでしょうか?】

 

 今でこそ一番人気の支持を得られているタマモクロスだが昨年のダービーの頃は全くの無名で所謂、夏の上がりウマと呼ばれるウマ娘だった。それもそのはず、タマモクロスは日本で中心的に行われる芝のレースではなく砂、つまりダートで走っていたからだ。

 

 タマモクロスがダートで走っていた当時、日本におけるダートの扱いは芝に適性がないウマ娘が行く場所、あるいは地方のウマ娘が走る場所であり軽んじられて見られていた。

 

 何故そんなところにタマモクロスが行くことになったのかと言われるとタマモクロスはデビュー戦で惨敗し、芝に適性がないと思われダートで走ることになってしまったからに他ならない。

 

 実はダートの方が苦手であるとタマモクロス陣営が気がついたのは京都大賞典と同日に行われた芝2200mの条件戦のレースだった。そのレースでタマモクロスは二着のウマ娘に七バ身差を着けて勝利しただけでなく京都大賞典を勝ったウマ娘よりも早くゴールしていた。

 

 これによりタマモクロスを芝で走らせるように陣営が変更。菊花賞はローテーション上間に合わず別の芝2000mのレースに出走し二着のウマ娘に八バ身差を着けて勝利し、年末ではジュニアCとシニア混合の重賞を制覇し、サクラスターオーが故障したことを抜きにしてもサクラスターオー世代のトップと評価された。

 

 またタマモクロスの快進撃はこれだけに止まらず、シニアになっても止まらなかった。京都金杯ではヤマトダマシイのように直線のみで15人のウマ娘をごぼう抜き。阪神大賞典でもメジロパーマーに同着と格好つかない形ではあるものの勝利。5連勝を飾っている。

 

 そんなタマモクロスにも苦手な相手がいる。それはメジロパーマーを含めた逃げウマ娘だ。同じ追い込みならば自分の末脚で捻り潰せばいいだけなのだが、逃げウマ娘には大きなリードをされており、距離感が狂わされることがしばしばある。

 

 よく逃げの穴ウマ娘が逃げ切ることがあるのは有力なウマ娘達が後方で牽制し合ってしまい、逃げウマ娘が悠々と逃げて気がついた時には既に逃げ切られてしまうからだ。

 

 故にタマモクロスが、差しウマ娘であるイナリワンを警戒しつつも、そのような形で逃げ切ったメジロパーマーやダービーの舞台で六バ身差で勝ったメリーナイスをマークするのは当たり前のことだった。

 

 

 

【さあ、2000mを通過して残り1200m。まだメジロパーマー先頭だ】

 

「だからワシ、ここ嫌いなんや」

 

 メジロパーマーが後ろのウマ娘達を見てそうぼやく。

 

 それというのもメジロパーマーは通常のペースで走っておりこのままではメジロパーマーが得意とするハイペースで相手を競り潰す逃げが使えないからだ。

 

 そうなった原因は京都競バ場特有の坂にある。第三コーナーから第四コーナーにかけて坂の上り下りがあるがこれが曲者であり、ここを無理にハイペースで上ると体力が切れ、逆にスピードに乗って下ると曲がりきれず無駄にロスが増える。

 

 故に京都競バ場のその部分に関してだけは全員ゆっくり上ってゆっくり下る。これは淀の坂の鉄則と呼ばれるほどの常識であった。

 

 メジロパーマーとてそれは例外ではなく、せっかくハイペースで逃げていたのを通常のペースに落としてまで抑えていた。通常であればそれで良いのかもしれないがメジロパーマーの場合他のウマ娘を競り潰すレーススタイルであり大差をつけ悠々と走るなどということは出来ない。

 

 故に二回目の坂の上りまでに他のウマ娘を潰す必要があった。

 

【二回目の淀の坂にメジロパーマー達が上ります。各ウマ娘ここはゆっくりと上がってゆっくりと下が──あーっと! メジロパーマーが仕掛けた! メジロパーマーここで淀の坂を凄い勢いで下ります!】

 

「これでええんやろ? もう一人のワシ」

 

『そうだな』

 

 メジロパーマーが魂のメジロパーマーに声をかけ、最後の直線に突入する。

 

 

 

 その頃、二代目は先代に解説を求めていた。

 

「先代、本来の勝者はタマモクロスとイナリワンでいいの?」

 

『ああ。だが俺の世界でイナリワンとタマモクロス、そしてメジロパーマーは三者共に何れも戦うことなく引退している』

 

「つまりその三人は誰とも戦わなかったってこと?」

 

『そもそもイナリワンはタマモクロスが引退した後に中央に移籍してきたし、イナリワンが引退した後にメジロパーマーが活躍したんだから当たり前なんだがな』

 

「でもその三人がこの場で戦っている」

 

『その内、イナリワンとタマモクロスの二名が天皇賞春を制したが、メジロパーマーがそれ以上のタイムを叩き出していて誰が勝つか全く予想がつかん。世界の補正がどう動くかでこのレースの勝者が変わる』

 

「先代の言うとおり本来の勝者二人か、私と同じく覚醒したウマ娘かになりそうだね」

 

 

 

【メジロパーマー先頭。そしてイナリワンが上がってきたイナリワン上がってきた!】

 

「ワシの勝負根性について来れるか? チビッ子ども!」

 

 メジロパーマーが更に伸び、イナリワンが必死に食らいついて差そうとするが残り一バ身の差が縮まらない。

 

「なんでだぁぁっ!?」

 

 残り200mを切ってイナリワンが絶叫し、イナリワンのファンが失望する。

 

「イナリ、そこで大人しく見とれや」

 

 イナリワンの不甲斐なさを見たタマモクロスが二番手に踊り出てメジロパーマーを3/4バ身、半バ身と詰め寄るがそこでタマモクロスの脚が止まった。

 

「な、なんや!?」

 

 タマモクロスが足をみるとそこには草で出来た手がタマモクロスを掴んでタマモクロスの末脚を妨害していた。

 

「おどれ邪魔すんや!!」

 

 その幻影を振りほどき、タマモクロスが半バ身の差から頭差まで縮め、勝利を確信した。

 

「これで終い……なっ!?」

 

 そしてタマモクロスとイナリワンがそれすらも幻であることが気がつき、メジロパーマーの背中を拝みながらゴールし、唖然とする。

 

 ちなみに二人を散々挑発しまくったメリーナイスは14着という結果に終わった。

 

 

 

【天皇賞春を勝ったのはメジロパーマー! またもやメジロパーマーだ! もはやフロックとは言わせないっ!】

 

 天皇賞春を勝ったメジロパーマーだが消化不足を感じていた。

 

「タマモクロスもイナリワンも駄目だったか」

 

 あのラムタラであれば、例え入れ込んでいてもメジロパーマーに最低でも四バ身の差をつけて勝利していただろう。それを考えるとイナリワンもタマモクロスも世界に届く実力ではない。

 

「やはり、世界に届くのはあいつしかおらへん言うことか」

 

 メジロパーマーの視線の先には二代目がおり、世界への挑戦を託すようにウイニングライブに向かった。




後書きらしい後書き
メリーナイス……どうしてこうなった?

はい、という訳で天皇賞春はメジロパーマーが勝ちました。タマモクロスもイナリワンも本来の勝者で、メジロパーマーを含めたこの三人で誰を勝者にするか迷いましたがここはメジロパーマーに勝ってもらいました。タマモクロスファンの皆さんやイナリワンファンの皆さんすみません……

でも史実のメジロパーマーはそれだけの実力はあったと思います。タマモクロスは自在脚質ですけどこの当時は白い稲妻と呼ばれるほどの豪脚を武器にしていた追い込み馬でしたし、イナリワンも差し馬で、逃げ馬のメジロパーマーとは相性が悪かったと思い、このような結果になってしまいました。一応タマモクロスがライスやマックイーンのように先行すればワンチャンあります。



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尚、次回更新は一週間後です


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第26R 勝って兜の緒を絞めよ by大和魂

ふと思いついたネタ
テイオー×ルドルフ
ルドルフ×テイオー
……攻めが男の娘という、これ以上書いたらアカン奴ですね。

前回の粗筋
メジロパーマー「天皇賞春はワシの勝ちや!」


 NHKマイルC

 

 ジュニアCの春のマイル最強ウマ娘を決めるレースと言っても過言ではないこのレースにただ一人、桁違いに気合いの入ったウマ娘がいた。

 

「……」

 

 黙っているからこそなのか、黙っているのに関わらずなのか、いずれにせよこのウマ娘の圧倒的なオーラに威圧されたウマ娘が後を絶えず萎縮してしまう。ここに出てくるウマ娘のほとんどが初めてのGⅠ競走であることを考慮してもこの事態は異常だった。

 

「すげえ。あのウマ娘は誰なんだ?」

 

「えーと、ヤマトダマシイだってよ」

 

「戦績は3戦3勝のパーフェクトウマ娘。断トツの一番人気だ」

 

「俺達も買うか?」

 

「ああ。レースに絶対はないが今回に限って絶対はある。よし、全財産つぎ込むぞ!」

 

「俺もだ!」

 

「いや俺は記念バ券に買う!」

 

 次々とヤマトダマシイの単勝バ券を買う者が絶えず、最終的には単勝オッズが1.1倍ととんでもないことになっていた。これを支持率に変えると80%前後で、ヤマトダマシイがどれだけ人気出したか理解出来るだろう。

 

 

 

「さて漸く奴の全力が見れるな」

 

 サンデーサイレンスが待ちわびたと言わんばかりに腕を組む。

 

「えっ、ヤマトダマシイって全力を出していなかったのですか?」

 

 右隣にいたマティリアルが思わずそう声を漏らし、サンデーサイレンスに尋ねると首を縦に頷く。

 

「そうだ。奴は本気は出したことはあっても全力を出したことはない。奴に自覚はないがな。出したとしても直線のみだ。あいつはレース全体で走ったことがない」

 

「ですね。日本ダービーは直線のみで勝てるほど甘くない。それはマティリアル先輩が一番知っていることでしょう?」

 

「私の場合距離適性の問題もあるから……」

 

「どちらにせよダービーポジションを確保するには直線で後方に控えるなんてことは出来ない。今回ヤマトダマシイには課題を出した」

 

「課題?」

 

「シンボリルドルフ得意の先行押切で勝て。それだけだ」

 

 

 

【さあ残り200mを切って先頭はヤマトダマシイだ。ヤマトダマシイ他のウマ娘をここで突き放す】

 

「信じられませんわ。あの追い込み専門のウマ娘があんな戦法も取れるなんて」

 

「ただ本人が追い込みが好きなだけで元々その素質はある。お前のように勝つ為の追い込みとは違う」

 

「そのようですわね……」

 

「マティリアル、ヤマトダマシイから聞いたとは思うがお前は中距離ですらスタミナが足りない。しかし余の見立てではこのままではマイル路線に移っても勝てんよ」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「スプリングSでのことを思い出せ。あのレースでお前が追い込みで勝てたのは何故だ?」

 

「それは私の末──いえ、違いますわね。あの時、私の豪脚が炸裂したのではなく前のウマ娘達が自滅したから?」

 

「よくぞ己の都合の悪い部分と向き合えた……それだけでも十分価値はある。マティリアル。お前がスプリングSを勝てたのは偶然だ。メリーナイスを含め前のウマ娘達が自滅したからに過ぎない。実際お前の上がり3Fのタイムもそんなに優れたものではない」

 

「……」

 

「マティリアル。お前に課題を出す。今度の安田記念で自分のレーススタイルを確立しろ」

 

「承知致しましたわ」

 

「期待しているぞ」

 

【ヤマトダマシイ圧勝、ヤマトダマシイ一着! 二着は微妙です!】

 

 二人がそんな会話をしている間に、ヤマトダマシイが他のウマ娘を寄せ付けず先頭でゴール。まさしく王者そのものだった。

 

 

 

 ウイニングライブが終わり、二代目がヤマトダマシイの元に掛けていく

 

「流石ヤマトダマシイ先輩。NHKマイルCをただ制するだけでなく、サンデーサイレンス先生の無茶な課題をついでにこなしてしまうなんて」

 

「ああ課題をこなすことにはこなせた。しかし新たな課題が出来た」

 

「それは一体どんなことですか?」

 

「ダービーの距離でのレーススタイルの確立だ。私はシンボリルドルフではない故にどこからでもレースが出来る訳でない。今回はマイル戦ということもあり、スピードでごり押しする事が出来たがダービーはこれよりも800m長く、スピードや瞬発力でごり押し出来るほど甘くはない」

 

「ですね……」

 

「距離の延長だけはどうしようもないが、誤魔化すことは出来る。ミスターシービー前会長もマイラーでありながら皐月賞、ダービー、菊花賞を勝っているのだからな」

 

「どうやって誤魔化す気ですか?」

 

「それは……これから考える」

 

 二代目が崩れ、ヤマトダマシイが背を向けてインタビューへと向かった。

 

 

 

「ヤマトダマシイ、本当にやるのか?」

 

 NHKマイルCが終わった直後、ヤマトダマシイはチームカノープスのトレーナーの一人、フジと話し合っていた。

 

「もちろんだフジさん。効率良くやるトレーニングも悪くない。しかしそれだけじゃ絶対に勝てない」

 

「そうか……だが絶対に無理をして怪我だけはするな」

 

「はい」

 

「今、メジロパーマーとアイグリーンスキーを呼ぶ。ただしメジロパーマーについては呼べるかわからないからそこのところは理解しておいてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「今回だけだぞ。お前の体は故障しやすいんだからな」

 

 

 

 数分後、そこにはメジロパーマーと二代目がヤマトダマシイの元に現れた。

 

「メジロパーマー先輩、態々来てくださりありがとうございます。グリーンも協力ありがとう」

 

「いやええよ。ワシはそこのデカブツのおかげで天皇賞春を勝てたし、ワシらのチームで日本ダービーに出られる奴はおらんしな」

 

「先輩の日本ダービー制覇に協力出来るなら併走くらいなんでもありませんよ」

 

「そう言ってくれると助かる……」

 

「それで今回の併走は何コースでなんぼや?」

 

「芝2500mの左回りです。メジロパーマー先輩の得意の距離でしょう?」

 

「何でその距離なんや?」

 

「今度行われる東京優駿──ダービーの距離は2400m。本来であれば2500mなどではなく2400mにするべきなのでしょうが、それでは本番の時にゴールする前に気持ちがゴールするようになります。だから余分にすることでその気持ちを絶ちます」

 

「ほなら、ワシの他にアイグリーンスキーを併走させるのはなんでや?」

 

「今回のダービーの有力ウマ娘は私の他にビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシンがいます。このうち一番厄介なのはビワハヤヒデです」

 

「ビワハヤヒデ……ああ、いかにも堅物のあのウマ娘か」

 

「私や他二名のように一瞬の切れを持ち味とせず、メジロパーマー先輩のように長く使える脚を持っているウマ娘です」

 

「つまりワシは仮想ビワハヤヒデって訳かいな?」

 

「いいや、ビワハヤヒデの上位互換ですね。私達はまだジュニアCのウマ娘です。シニアの最強ウマ娘たるメジロパーマー先輩に敵うとしたらメジロパーマー先輩が自滅するくらいしか思い付きません」

 

「なるほどな……まあそこにおるジュニアBのデカブツウマ娘は覚醒したワシをあと一歩まで追い詰めたけどな」

 

「グリーン、本当か?」

 

「ええ。それでも負けましたよ」

 

「しかし、アイグリーンスキー。あれからまた更にでかくなったんちゃうんか?」

 

「あ、わかりますか? つい最近身長測ったら172cmになっていたんですよ」

 

「ほんまにデカいな!?」

 

「ビワハヤヒデ──身長171cm──よりも大きいのか……」

 

「おかげでストライドも大きくなりましたし、身長様々ですよ」

 

「体がデカいってのはそれだけで得やな……でもデカきゃ勝てる思うたら大間違いや」

 

「メジロパーマー先輩、ここで前の併せウマのリベンジしてあげますよ」

 

「リベンジするのは構わないが、グリーン。お前を呼んだ理由は豪脚を見込んで呼んだんだから最初からメジロパーマー先輩に並びかけるな」

 

「わかっていますよ。先輩の特訓を妨害するほどバカじゃありませんし、そんなことをしなくても勝ち目はあります」

 

「よし。フジさん、準備の方をよろしく頼む!」

 

「その前にお前達、準備運動はしなくていいのか?」

 

「もうしてきましたよ」

 

「同じく。そういうヤマトダマシイは?」

 

「来るまでの間にやり終えましたよ」

 

「流石、一流のウマ娘達だ……それでは位置につけ!」

 

 ウマ娘達が位置につき、構える。

 

「スタート!」

 

 全員が飛び出し、スタートダッシュを決めた。

 

 

 

「さてそれじゃシニア最強のウマ娘の実力見せてやるわ」

 

 メジロパーマーが二番手のヤマトダマシイを一バ身、二バ身と突き放し、最終的には九バ身まで突き放していく。

 

「流石メジロパーマー先輩だ。あそこまで豪快に逃げるとは……よし!」

 

 それを見たヤマトダマシイは逃げるメジロパーマーと後ろについてくる二代目を注意しながらペースを守る。そのペースは日本ダービーの1Fあたりの平均ラップを0.1秒遅くしたペースだった。

 

 

 

『久しぶりに追い込みか……前にメリーナイスとマティリアルの併走に乱入したのは舐めプだから懐かしく思える』

 

「そうだね」

 

『二代目、追い込みしか出来ないこの状況でお前はどうするんだ? 前に引っ付いているヤマトダマシイはともかく逃げるメジロパーマーが厄介だぞ』

 

「もちろん、こうするんだよ」

 

『……! そう来たか』

 

 二代目がヤマトダマシイの隣に並び、少しずつ差を開かせるとヤマトダマシイが僅かにペースを速める。それを見た二代目がヤマトダマシイと並ばせる。

 

『嫌らしい戦法だ。相手がシンボリルドルフでもこれに引っかかるぞ』

 

 ヤマトダマシイが二代目の動きを見てペースを落とす。目の前にメジロパーマーがいたなら、二代目の策略に引っかかることはなかったがメジロパーマーは遥か前方におり、距離感が狂わされていた。

 

 そんなこんなでメジロパーマーが2000mを2分0秒で走破し、残り500mを切った。

 

「流石にきついな、こら」

 

『お前に残された道はこれしかない。俺がそうだった様にな』

 

「せやな……泣き言言う暇はないわ」

 

 会話のドッチボールをするほどにメジロパーマーがバテてしまうがまたリードは残されていた。

 

 

 

 その頃、メジロパーマーの後方ではヤマトダマシイと二代目のデットヒートが繰り広げられていた。

 

「まだまだ!」

 

 二代目が鼓舞させ、ヤマトダマシイを引き離さんばかりに豪脚を爆発させる。

 

「一気にぶっちぎる!」

 

 ヤマトダマシイもそれに負けじと二代目に並ぶ。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 二人の叫び声が木霊し、2400m時点でメジロパーマーと並ぶ。

 

「なんやと!?」

 

 メジロパーマーの体内時計が間違っていなければ2400mを通過したタイムは2分24秒から2分25秒の間であり、このタイムは日本ダービーのレコードを上回るタイムだ。いくら坂が緩やかとはいえジュニアの二人が出すタイムではない。ましてやそのうち一人はレースデビューすらしていないジュニアBのウマ娘が出したものである。

 

「負ける訳にはいかんなぁっ!」

 

 メジロパーマーが更に脚を伸ばし、ヤマトダマシイと二代目のデットヒートに加わり、粘り込みを果たす。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

「差し殺してやるっ!」

 

「シニアのウマ娘を舐めるなぁっ、ガキども!」

 

 2500mを通過し、本来であればその時点で終わるはずが、三名はそのままレースを続行。では後何m走るべきなのか。ウマ娘三名の答えは「心が折れるまで何mでも走り続ける」という脳筋そのものの発想だった。

 

 

 

 スタート地点から2600mを通過し、未だに三人が並んだまま走り続ける。

 

「そこまでだ!」

 

 目の前にはトレーナーの一人であるハルが腕を広げた状態で三人を受け止めるべく構えていた。

 

 ウマ娘達はここでアイコンタクトを取る。このハルというトレーナーは非常に力が強くウマ娘の突進どころかダンプカーを止めた正真正銘の人外で、ウマ娘三名ごときの突進を止めようと思えば止められる。

 

 ではどうするか。メジロパーマーは障害の経験を活かして飛び越え、ヤマトダマシイはハルの右脇をすり抜け、二代目は大外に膨らんでそれを回避した。

 

「くっ、しまった!」

 

 慌てて振り向いて三人を追いかけようとするがハルの足では追い付けない。確かに戦闘力のみでいえばウマ娘にも勝てるほどの持ち主であるが、足に関しては常人であり追い付ける要素が全くなかった。

 

「お任せください」

 

 その声が聞こえた瞬間、緑色の影がハルの横を通り過ぎ、二代目を組伏せた。

 

「なっ……」

 

「次」

 

 二代目を組伏せた後、その影はヤマトダマシイ、メジロパーマーと順に組伏せて暴走を止めた。

 

「これで宜しいでしょうか。トレーナーの皆さん」

 

「ありがとうございます。たづなさん」

 

 トレーナー二人が緑色の影改め、たづなに頭を下げ礼を告げると、たづなが目を細め三人を正座させる。

 

 

 

 その後、三人はたづなに滅茶苦茶に叱られ気力を使い果たした。

 

「ではフジさん、ハルさん。私から言いたいことは言い終えましたので失礼しますね」

 

「たづなさん、ありがとうございました」

 

 たづなに頭を下げる二人を見てウマ娘三名はたづなに畏怖する。

 

「一体たづなさんって何者なんだろう……」

 

「噂によればかつて名のあるウマ娘だと聞く」

 

「たづなさんって人間じゃないんですか?」

 

「たづなさんの耳を一度も見たことがないから人間かウマ娘かよくわからん」

 

「そう言えばいつも帽子被っている上に人間の耳の場所に髪がありますよね……」

 

「ええこと思い付いたわ。今度の夏休みの自由研究に、たづなはんの正体を研究──」

 

「私が何ですって?」

 

 いつの間にか元に戻ってきたたづながメジロパーマーのウマ耳を掴み、お仕置きをするとメジロパーマーが悲鳴を上げその場に倒れる。

 

「人体実験は以ての他ですよ、三人とも」

 

 笑顔で威圧し、たづなが今度こそその場を去る。

 

「どうします? ヤマトダマシイ先輩」

 

「止めよう。これ以上先は触らぬ神に祟りなし、マルゼンスキー先輩の年齢に触れる真似は控えよう」

 

 この場にマルゼンスキーがいたら憤怒しヤマトダマシイを〆ていただろうがあいにくこの場にいるのは二代目と気絶しているメジロパーマーだけだ。

 

「そうしましょうか。サンデーサイレンス先生に興味を持たれないうちに帰りましょう」

 

「そうだな。グリーン、メジロパーマー先輩を運ぶから手伝ってくれ」

 

「わかりました」

 

 メジロパーマーを担ぎ、二代目とヤマトダマシイが後始末をして美浦寮に帰っていった。

 

 尚、三名が2500mを通過した時のタイムが2分30秒1と有馬記念のレコードを遥かに上回るタイムであったのは後日知ることになる。




後書きらしい後書き
二代目が更に縦に成長しました。うーん、これはデカイ。

それはともかくこの第26Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一週間後です


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第27R 皇帝の後継者(態度のみ)

ふと思いついたネタ
メイショウトドウ「オペラオーさんのことばかり話すトレーナーさんは嫌いです!」カオプイッ
メイショウトドウがオペラオーの名前を聞くとそっぽを向くのが元ネタ。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「日本ダービーの特訓に付き合え!」
二代目「わかりました」
メジロパーマー「しゃーないな、手伝ったるわ」


 オークスが終わった翌日。

 

 そこにはウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ヤマトダマシイの四名が同時に記者会見を開きインタビューを受けていた。

 

「ではナリタタイシンさんにご質問します。仕上がりはどのくらいなのでしょうか?」

 

「それはもう120%。前走の皐月賞よりも期待出来そうよ。強いて不安を上げるとすればこの中で対戦していないヤマトダマシイの存在だけど二冠制覇は難しくないわ」

 

 いつもならインタビューに塩対応で素っ気ないものだが今回のナリタタイシンは普通にインタビューを答えており、関係者は当然、それまでのナリタタイシンを知る者は驚愕していた。

 

 

 

「やはりアイグリーンスキーとの併せウマは正解だったか」

 

 そんな中、二人の併せウマを命じたシンボリルドルフが笑みを浮かべ満足げに頷く。

 

「姉御、ナリタタイシンに依怙贔屓したんすか?」

 

 シンボリルドルフを姉御呼ばわりするこのウマ娘はシンボリルドルフの併せウマの相手であり、相棒でもあるシリウスシンボリである。

 

「姉御は止めんかシリウス。ナリタタイシンのマスコミに対する態度が余りにも目につくからな。それを改善するために少し口を挟んだだけだ」

 

「しかし普通すぎてつまらねえっすね。俺なら──」

 

「シリウス、お前は派手すぎる。もう少し自重しろ」

 

「姉御、そんなこと言わないで下さいすよ。姉御があの人に夢を見させたせいでシンボリ家の経営が傾いたといっても過言ではありませんから」

 

「それはそうだが、お前もだろう」

 

「逆っすよ。俺が無敗で三冠を制した姉御の併せウマの相手になったからこそ、過剰なまでに期待をかけられ凱旋門賞まで行かされ潰されかけたんすから。どうにか姉御と俺が二年連続でダービーを勝ったことを計算に入れても黒字ギリギリっす」

 

「ギリギリか?」

 

「ギリギリすね。ほら」

 

 そしてシリウスシンボリが帳簿を見せるとシンボリルドルフが頭を抱える。

 

「……キツいな」

 

「だから派手にやらなきゃいけないんすよ。宣伝してシンボリ家の名声を上げないといけないんすよ」

 

「お前のシンボリ家を思う気持ちはわかる。しかしだな──」

 

「おっと、生徒会室の書類を纏めないとすね」

 

「あ、おい逃げるな」

 

 シリウスシンボリが去り、シンボリルドルフが不安げにそれを見つめる。

 

「……やはりKGⅥ&QESへの不安があるのか、シリウス」

 

 海外遠征を視野に入れているシリウスシンボリが不安を抱えていることにシンボリルドルフが気付き、眉をハの字にして頭を抱えてしまう。その姿を見たものはヤマトダマシイを除いて誰もいなかった。

 

 

 

「では最後にヤマトダマシイさん。NHKマイルCから日本ダービーの中二週の厳しいローテーションの上に距離の不安が囁かれていますが大丈夫なんですか?」

 

「問題ありません。こう言っては失礼ですがNHKマイルCはダービーの最初の800mを除いた1600mを想定したレースで、あくまで練習でしかありませんでした」

 

「練習だと?」

 

「明らかに格下でした。この時期のジュニアCのウマ娘でマイル路線にいるのは中距離以上で活躍出来ないと見て路線変更した者──ようは逃げてきたウマ娘ばかりで低レベルなものでした」

 

「低レベルだと?」

 

「そうでなければ仮にもGⅠ競走のNHKマイルCを慣れない先行策で勝てるはずがないでしょう。おかげで弱点も見つけて克服出来ました」

 

 

 

「あのバカが……」

 

 その影でシンボリルドルフが頭を抱えていた。それと言うのもシンボリルドルフが過去の自分と重ねていたからだ。過去のシンボリルドルフは決して今のように公明正大などではなくむしろ今のヤマトダマシイを遥かに増長させたラスボスの如く傲慢に振る舞っていた。

 

 その事を思い出したのかヤマトダマシイに何も言えず、ただシンボリルドルフは黒歴史を葬り去ろうと頭を振る。

 

「後でサンデーサイレンス諸共呼び出しておくか」

 

 サンデーサイレンスに責任転嫁させるあたり、ヤマトダマシイに甘い親バカ*1シンボリルドルフであった。

*1史実におけるシンボリルドルフとヤマトダマシイは親子関係にあたる




後書きらしい後書き
ヤマトダマシイが傲慢な態度をとっているのはシンボリルドルフのせい(錯乱)
……史実のシンボリルドルフはカメラが何かを理解しており、ウマ娘になっても取材はうまかったのではなかったのでは? と思っています。それがどうしてこうなったかといいますとシンボリルドルフは前年度の三冠馬ミスターシービーの前に立ちふさがるラスボスでヒールでした。故にこのような過去があるのではないのかと思い執筆させて頂きました。



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第28R 最も幸運なウマ娘決定戦

ふと思いついたネタ
テイエムオペラオー「ちょっ、止めて、擽るのは止めたまえ! 僕は偉大なる歌劇王テイエムオペラオーなんだぞ!」
オペラオーが質の悪い観光客に石を投げられるのが元ネタですが、石を投げるのを読者の皆さんが真似しないように考慮した結果こうなった。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「てめえら殺す気でかかってこいやあ゛っ!」


 日本ダービー、正式名称東京優駿。

 

 ウマ娘の生涯でたった一度しか行われないジュニアCクラス限定の日本最高峰のレース。今回の日本ダービーは四強対決であった。

 

 

 

 まずホープフルSと皐月賞を勝ったナリタタイシン。四強の中でも屈指の豪脚を持つ追い込みのスペシャリストであり唯一無二春の二冠のチャンスがあるウマ娘でもある。

 

 次に連対率100%の実績を持つビワハヤヒデ。前走の皐月賞でこそナリタタイシンに敗れたものの弥生賞ウマ娘ウイニングチケットに先着し、その実力を見せた。

 

 そして日本ダービーの本命、ウイニングチケット。弥生賞を勝って皐月賞でも本命視されたもの中山競バ場を得意としなかったのか4着に終わるが東京競バ場を得意としその走りは期待出来る。

 

 最後に突如現れたルーキー、ヤマトダマシイ。昨年度のジュニアCの三冠の全てのタイトルをかっさらっていった──皐月賞と菊花賞はサクラスターオー、日本ダービーはメリーナイスが制覇──チームギエナ改め、チームカノープスの所属メンバーであり、トレーナー曰く昨年度のダービーウマ娘メリーナイスを大きく上回る実力を持っているとのこと。

 

 以上、この四名が日本ダービーの有力候補として知られていた。

 

 

 

 無論、その四名以外にも有力候補として名を上げようとしていたが、トライアルレースで僅差で勝利したり、ノーマークだの勝利だったりと有力候補には程遠かった。

 

【さあ日本ダービー、ジュニアC最強の栄光を掴み取るのは一体誰なのか。いよいよスタート!】

 

「やはり厄介なのはハヤヒデか……」

 

 ビワハヤヒデが先行し、ヤマトダマシイが眉を顰める。有力ウマ娘の四名のうち前に出るレースを得意とするのはビワハヤヒデのみでヤマトダマシイを含めた三名はそうではなく、レース終盤で力を発揮するウマ娘だ。

 

 それ故にウイニングチケットやナリタタイシンはビワハヤヒデをマークせず互いにマークする事態に陥っている。

 

 この状態が続けばナリタタイシン、ウイニングチケットともに牽制しあって何も出来ずに終わる。

 

 そう予測したヤマトダマシイはビワハヤヒデの真後ろについてウイニングチケット達を差し置いて先行する。

 

「さあ、どうする?」

 

 ヤマトダマシイが微笑み、二代目にやられたようにビワハヤヒデに並びかけ三番手に躍り出る。

 

 

 

「どうしたハヤヒデ、頭でっかちなお前らしくもない」

 

「くっ……! どうなっている!?」

 

 ビワハヤヒデは混乱していた。

 

 何故追い込みウマ娘たるヤマトダマシイが自分よりも先行しているのか。いくら前走で先行で押し切ってもそれは1600mの話であり2400mのダービーですることではない。

 

 ではヤマトダマシイの体内時計がズレているのか? いやヤマトダマシイほどのウマ娘がそんなイージーミスをするのか? ミスをしていないとするなら逃げウマ娘のペースがいつの間にかスローペースになっていた可能性がある。

 

 ビワハヤヒデがそう思考し、自分の前を行く逃げウマ娘の1Fのタイムを測るが予想外のことが起こる。

 

「上手いことだ」

 

 ビワハヤヒデに聞こえるように呟きヤマトダマシイがビワハヤヒデの後ろに下がる。

 

「……」

 

 ビワハヤヒデがそれを見て先行する逃げウマ娘のタイムを測り終えると11秒9と普通よりも少し早いくらいのペースだった。

 

 

 

 それからビワハヤヒデが逃げウマ娘のタイムを3F測り終えるとやはりタイムは1Fあたり12秒前後のペースを保っておりヤマトダマシイはその逃げウマ娘をマークしている。

 

「そうか、そう言うことか」

 

 ビワハヤヒデが気づき、納得していると隣にはヤマトダマシイが更に並んだ。

 

「もうその手には食わないぞ、ヤマトダマシイ君」

 

 ビワハヤヒデが自分の体内時計を使って、ペースを守る。

 

「やっぱり頭でっかちだなハヤヒデは」

 

「頭でっかち云々は後で取り消して貰うぞ、ヤマトダマシイ君」

 

 笑みを浮かべるヤマトダマシイを警戒し、ビワハヤヒデは自分のペースを守る。

 

 

 

 これでペースを守った──なんて思っているんだろうな。だがそれこそが罠なんだ。

 

 

 

 ヤマトダマシイは自分の隣に並んでいるビワハヤヒデを見ながら心の中で呟き、1000mを通過して自身とビワハヤヒデのペースを測る。二人のタイムはそれぞれ12.1秒/Fと12.0秒/Fとそのタイム差は0.1秒/Fもズレがある。

 

 しかしその後11.9秒/Fに戻しており、2Fの平均は12.0秒/Fのペースを保っていた。そのはずがビワハヤヒデがヤマトダマシイのペースに釣られ徐々に11.9秒/Fに近づいていた。

 

 そう、ヤマトダマシイはビワハヤヒデの体内時計を狂わせていた。それが出来たのは日本ダービーという最高峰の舞台での緊張による心拍数の上昇によるものが大きい。心拍数が上昇によって脳に流れる血液の流れが速くなり、時間を体内時計で計測しようにもズレが生まれ、ヤマトダマシイはそれを利用した。

 

 その事に気づかないビワハヤヒデはマイペースを守っていると錯覚し、そのままヤマトダマシイを突き放して逃げウマ娘を捉えに行く。

 

「この日本ダービー、私の勝ちだ」

 

 そして最後の直線まで100mを切ったビワハヤヒデが先頭に立ちそのまま逃げ切りを狙う。

 

 

 

「えげつなさすぎる」

 

 ヤマトダマシイのビワハヤヒデ潰しにそう顔を顰め、観客席で呟く二代目。

 

『あれによく気づいたな。二代目』

 

「そりゃ私がやったことだし、気づくよ」

 

『まあ世の中には犯罪皇帝なんて名付けられたウマ娘もいるからあんなのは序の口だ。審議判定になりもしない以上、立派な作戦だ』

 

「それはそうなんだけどね。あそこまで改良するなんて想像出来る?」

 

『……普通は出来ねえな。あんな博打は打たない。ましてやあいつ一人だけが有力ウマ娘ならともかく、他にも有力ウマ娘がいるとなるとそいつらに潰させた方が効率的だ』

 

「ごもっともね」

 

 この会話に気づくものは誰もいない。何故なら直線で有力候補だったビワハヤヒデが失速し、ビワハヤヒデのファンやビワハヤヒデのバ券を買った者達が絶叫したからだ。

 

 

 

【ビワハヤヒデは苦しい、ビワハヤヒデ苦しい。先頭に立ったのはヤマトダマシイ、大外からウイニングチケット、内をついてナリタタイシンがやってくる!】

 

「残るはお前達をまとめて千切るだけだ!」

 

 ヤマトダマシイが加速し一バ身、二バ身と突き放しそうとするが、差は開かなかった。

 

「ハヤヒデを潰すのに体力を使い過ぎたか。だが勝てない訳じゃない。怖いのはウイニングチケットだけだ」

 

 ナリタタイシンの豪脚は皐月賞で発揮した程ではなくヤマトダマシイより少し速い程度であり、リードしている差から計算しても逃げ切ることが出来る。

 

 しかしウイニングチケットは違う。ヤマトダマシイとの差はナリタタイシンに比べてそれほどある訳ではない上にヤマトダマシイよりも速く、抜かすのは時間の問題であった。

 

「後ろよりも前だ。そこにはあいつらがいる」

 

 ヤマトダマシイはメジロパーマーと二代目の幻影を生み出し、それに追い付かんと二の脚を炸裂する。ウイニングチケットを除いたウマ娘達の心が折れた。

 

「無理ーっ!」

 

【まだヤマトダマシイ先頭、ヤマトダマシイ、ウイニングチケットが並んだっ!】

 

 

 

 その頃、ビワハヤヒデは驚愕のあまり顔を歪め、前にいるウマ娘達を追い抜こうとするが届かない。

 

「な、何故だ!? 計算では少なくとも後200mは持つはず……っ!」

 

 ヤマトダマシイ、ウイニングチケット、ナリタタイシンの有力候補だけでなくその他のウマ娘に抜かれバ群の中に消えていくビワハヤヒデが悲鳴を上げる。

 

「してやられたっ!」

 

 ビワハヤヒデの脳裏に思い浮かんだのは現在先頭にいるヤマトダマシイ。やたら動き回っていたヤマトダマシイこそ、ビワハヤヒデを嵌めたウマ娘であることに結び付きビワハヤヒデが悪辣を放つ。

 

「だが、私はここで負ける訳にはいかない、行かないんだぁぁっ!」

 

 その瞬間、ビワハヤヒデの脳裏にスイッチの入った音が響き覚醒した。

 

『お前に足りない物は瞬発力だったが、俺の声が聞こえる……って聞いてないな』

 

 ビワハヤヒデの頭の中で声が響くがそれ無視して前にいるナリタタイシンをあっさりと交わし、先頭のウマ娘二人を捉えに行く。

 

『おい、聞いているか? ビワハヤヒデ。こいつらを差すのはむ──』

 

「うるさいっ!」

 

 ビワハヤヒデが感情を剥き出しにして、ウイニングチケットとヤマトダマシイに半馬身まで迫る。

 

「限界を超えたら理屈どうこうの話じゃないんだ! 私はデータを捨てる!」

 

 そしてヤマトダマシイ、ウイニングチケットに並びゴールインした。

 

 

 

【ビワハヤヒデ、ビワハヤヒデが凄い脚だ。ビワハヤヒデ、ヤマトダマシイ、ウイニングチケット三人並んだままゴールイン!】

 

「あ、三人?」

 

 アナウンスの声にようやくビワハヤヒデの存在に気がついたヤマトダマシイが目を丸くする。

 

「なんでここにいる……ハヤヒデ」

 

「私が怒涛の追い上げをしたからだ。それ以外に理由が必要ならば3000文字以内で説明するぞ」

 

「いやそれだけで十分だ」

 

 3000文字で説明される間に着順が確定されるだろう。今聞くべきことはそんなことではなく、自身の着順だ。

 

「この中の三人のうち誰かが、ダービーの勝者だ」

 

 ヤマトダマシイは時計を見ながら審議判定を待つ。

 

 そして十数分後、ウイニングチケットが一着、ビワハヤヒデとヤマトダマシイが二着同着とアナウンスがあり、それを見たウイニングチケットが感動のあまり涙を流していた。

 

「健康骨折。アタシの勝ちだーっ! アタシを応援してくれた皆ありがとーっ!!」

 

「それをいうなら乾坤一擲だ」

 

「私達はこんなバカに負けたのか……」

 

 こうして今年の日本ダービーはビワハヤヒデが突っ込み、ヤマトダマシイが頭を抱える結末となった。




後書きらしい後書き
概ね史実通りでしたが史実との相違点は
・ウイニングチケットとビワハヤヒデの着差はハナ差。
・ヤマトダマシイが日本ダービーに出走
・ナリタタイシン以下着順がズレる
といった点ですかね。


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第29R 英国の踊り子

実際にあった出来事をウマ娘で再現したい
スペシャルウィーク「栗毛のウマ娘なんて、大嫌いですっ!」o(*`ω´*)o
史実のスペは人に育てられた経歴のせいか人には優しいが馬嫌いで有名。そこの部分だけ性格がサンデーサイレンスと言っても良かったほど。
また栗毛の繁殖牝馬に種付けし過ぎて栗毛嫌いになり、久しぶりにグラスワンダーと再会したらスペの方が威嚇した話も有名。


前回の粗筋
日本ダービー決着


 ウイニングチケットが勝った日本ダービーの翌朝、二代目は朝食を食堂でとっていた。

 

『セイザ兄貴のいないダービーを制したのは向こうの世界で二着だったウイニングチケットか。ヤマトダマシイではセイザ兄貴の代わりにはなれないか……』

 

「先代のお兄さんが偉大なのはわかるけど、ヤマトダマシイ先輩は先代のお兄さんじゃないんだよ」

 

『ポテンシャルはそのくらい秘めているはずなんだよな、あいつは』

 

 二代目が先代と話しているとナリタブライアンが詰め寄って口を開く。

 

「アイグリーンスキー、聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「あの日本ダービー以来、姉貴──ビワハヤヒデがおかしいんだ」

 

「おかしい?」

 

「先ほどお前が独り言を呟くように姉貴も独り言をぶつぶつと呟くようになったんだ。何か心当たりないか?」

 

「あることにはある──」

 

「本当か!?」

 

「ただ診てみないことにはわからないよ。私と同じ病状なのか、それとも別の病状なのかね」

 

「それでもいい。とにかく放課後チームマシムの拠点に来てくれ。そこが姉貴のチームだ」

 

「マムシじゃなくてマシムね。了解ナリブー」

 

 

 

「ナリブー?」

 

「ナリタブライアンだからナリブー。いい渾名でしょ?」

 

「そうか……それじゃ私もお前のことをグリーンと呼ぶぞ」

 

「どうぞ。ただしグリーングラス先輩が来たらややこしくなるからその時は普通に呼んでね。私は今度やってくる新入生の中にブライアンと名付けられたウマ娘と区別するためにそう呼んでいるだけだから」

 

「いるのか? そのブライアンと名付けられたウマ娘が」

 

「いや今年はいないよ。でもいずれやってくると直感が告げているんだ」

 

『その直感は大切にしろよ。ナリタブライアンのブライアンの由来は父親のブライアンズタイムだからな。それに因んで名付けられた馬も多いから、そうやって区別するのは大切だ』

 

「それじゃグリーンはまずいか……待てよそう言えばマルゼンスキー先輩がお前のことを──」

 

「それはダメ。その渾名はマルゼン姉さんとグリーングラス先輩とグリーングラス先輩の故郷の皆にしか許していない。それ以外に呼ばれることは誰がなんと言おうと私が許さないよ」

 

「それだけ多いんだから良いだろう……」

 

「私なりのこだわりだよ。学園内ではあまり呼ばれたくないし」

 

「仕方ない……グリーン、姉貴の件頼んだぞ」

 

 ナリタブライアンがその場を立ち去り、残された二代目にヤマトダマシイが話しかける。

 

 

 

「今のはお前のクラスメイトか?」

 

「ええ。それがどうかしましたか」

 

「いやどうもしないな。それよりもサンデーサイレンス先生がお前のことを呼び出しているんだ」

 

「私を?」

 

「そうだ。屋上で待っているから飯食ったらすぐに来いとのことだ」

 

「すぐに行きます」

 

 それまで大量に残された食べ物が二代目の食事のペースが早まったおかげで一気に無くなった。

 

「ちゃんと噛めよ……」

 

 ヤマトダマシイが二代目のあまりの早食いにそう突っ込みを入れる。

 

「ではヤマトダマシイ先輩、失礼します」

 

 二代目がそう告げ、屋上へと向かうとそこに円の中にHを書き込んでいるサンデーサイレンスがそこにいた。

 

 

 

「何をしているんですか? サンデーサイレンス先生。ミステリーサークルはそう書くんじゃありませんよ」

 

 二代目よ。お前は何度か書いたことがあるのか。

 

「おお来たか。これはミステリーサークルじゃない。ヘリポートを作っているんだ」

 

「なんでそんなものを?」

 

「いつぞやに約束しただろう? 一日専属講師を準備する*1と」

 

「ああ! あのことですか!」

 

「その様子だと忘れていたようだな。だがしかしぃっ! 余は決して忘れはせん。Come on Nijinsky Ⅱ !」

 

 

 

 ──以下、都合により英語等の外国語を日本語で表記します──

 

 

 

「おい、サンデーサイレンス。私に命令するな」

 

 ヘリコプターから降りてきた鹿毛のウマ娘は身長175cmの大柄なウマ娘だった。

 

「で、デカイ……!」

 

 二代目も大柄な方ではあるが、それでもそのウマ娘に及ばず見上げる形になっていた。

 

「むっふっふ、よくぞ来てくれた。歓迎するぞ、ニジンスキー」

 

「サンデーサイレンス、我が師匠に聞いた通りの傍若無人さだな」

 

 ニジンスキーと呼ばれたウマ娘がサンデーサイレンスにため息を吐き、腕を組む。

 

「サンデーサイレンス先生、もしかしてこのウマ娘が……?」

 

「そうだ。今日一日専属講師となるニジンスキー先生だ」

 

「よろしく、アイグリーンスキー」

 

「さ……」

 

「さ?」

 

「サインくださいっ!」

 

 二代目がどこからともなく色紙とTシャツを取り出し、ニジンスキーにサインをねだる。

 

「おい一体どういうことだ?」

 

「私、ニジンスキーさんの大ファンなんですよ! だからこうして会えただけでも感激で昇天しそうですぅぅっ!」

 

「まさかこいつがポンコツになる時がくるとはな……話が進まないし、サインを書いてやってくれないか?」

 

「構わない」

 

「あ、ニジンスキーさん。アイリへって書いてくれますか? あとアイリって呼んで頂けますか?」

 

「いいだろう、アイリ」

 

 ニジンスキーが色紙とTシャツにサインすると二代目が絶叫しながら注文し、体をくねらせる。

 

「ありがとうございますぅっ! これは家宝にしますぅっ!」

 

「キモいな……」

 

 流暢な英語で猫なで声を出す二代目にサンデーサイレンスがドン引きしていた。

 

 

 

「さてアイリ。まず最初にお前はどんなタイトルを勝ちたい?」

 

 それを目にしているにも関わらず、ニジンスキーが冷静に声をかける。

 

「ニジンスキーさんが獲れなかった凱旋門賞を勝ちたいです」

 

「凱旋門賞か……まだジャパニーズは勝てていないんだったな」

 

「はい。それどころか掲示板にも入っていません」

 

「日本の芝と洋芝の違いは何だかわかるか?」

 

「日本の芝は高速芝と呼ばれる芝でタイムが出やすいのに対して、洋芝はその逆でタイムが出にくく、スタミナを必要とする芝ですね」

 

「大体あっているな。では洋芝タイムが出にくい理由はなんだ?」

 

「芝の長さです。芝が長く足が捕らわれやすい為にスピードが減少しスタミナを浪費してしまうからです」

 

「その通りだ。そしてロンシャン競バ場で行われる凱旋門賞はそれ以上にスタミナを要する」

 

「はい。坂の高低差が10m以上もありますもんね。英セントレジャー*2を勝ったニジンスキーさんですらスタミナが足りずに負けましたから生粋のステイヤーでも勝つのは厳しいですよね」

 

「そうだ。ロンシャン競バ場に比べて高低差の差が少ない京都競バ場ですら坂をゆっくり上ってゆっくり下らなければならない。ロンシャン競バ場でそれをやらなかったらどうなるかわかるな?」

 

「惨敗ですね。ビリは当然、ブービーでもまだマシなくらいの」

 

「その通りだ。その上、偽りの直線と呼ばれる坂を下った後に出てくる直線がある。それに惑わされたウマ娘は数多くいる。つまり頭を使わないと勝てないレースでもある訳だ」

 

 ニジンスキーの言うとおり、凱旋門賞は非常に難易度が高いレースであり、ありとあらゆる能力が求められたレースと言える。

 

「凱旋門賞を勝つには底知れぬスタミナとスパートをかけるタイミングがキーポイントになるということだ」

 

「はい」

 

「しかしスパートのタイミングは出走するウマ娘次第で変わる。そこは現時点では対処のしようがない」

 

「ではどうするんですか?」

 

「洋芝に慣れる方法を指導する」

 

「洋芝に慣れる?」

 

「サンデーサイレンス、例の場所に行くぞ」

 

「了承した。それじゃアイグリーンスキー、ヘリに乗れ」

 

 サンデーサイレンスがヘリコプターの操縦席に座り、ニジンスキーと二代目が後座席に座るとヘリコプターが羽音を鳴らしながら飛んでいった。

 

 

 

 数分後。サンデーサイレンスが芝がおいしげるゴルフ場にヘリコプターを着地させる。

 

「ここって、ゴルフ場ですよね?」

 

「ああ。メジロ家が学園に寄付したゴルフ場だ」

 

「何故ゴルフ場を寄付したのかわからない……」

 

「アイリ、頭をかかえていないでこっちに来い」

 

 ニジンスキーが二代目をラフ*3とセミラフ*4の境界に呼び寄せる

 

「このゴルフ場は日本のウマ娘の名門が造らせただけあってか各コースが世界各地の競バ場に酷似している。そしてそのうちこの16番ホールはロンシャン競バ場をそっくりそのまま似せている」

 

 ニジンスキーがゴルフ場のパンフレットを取り出し、二代目が確認すると、確かに凱旋門賞の舞台であるロンシャン競バ場に酷似していた。

 

「本当だ……でもニジンスキーさん。何故英国のウマ娘たる貴女が、日本のウマ娘たる私ですら知らないこのゴルフ場の存在を知っていたんですか?」

 

「サンデーサイレンスが教えてくれた」

 

「サンデーサイレンス先生ですね。納得しました」

 

 サンデーサイレンスの一言で納得してしまう二代目が頷く。

 

 

 

「さて、アイリ。このロンシャン競バ場に似せたこの16番ホールで私と走ってもらう」

 

「えええっ!? いいんですか!?」

 

「アイグリーンスキー、メジロ家が寄付したとはいえここは滅多に使われていないゴルフ場だ。余が知る限りではメジロパーマーくらいしか使っていない」

 

「いやだからって……コースを荒らしてもいいって訳じゃ」

 

「ほう、それじゃアレか? ここでニジンスキーと走る機会を失ってもいいのか?」

 

「ぜひ走らせて頂きます!」

 

 二代目の頭の中の天秤が一気に傾き、倫理の文字がセントサイモン*5に殺される猫の如く天井に叩きつけられた。

 

「決まりだな」

 

 二代目とニジンスキーがジャージに着替え、準備運動をし体を温め始めた。

*1第21R参照

*2英国で行われる芝3000mのGⅠ競走。英国三冠の最後のレースで菊花賞のモデルになった

*3ゴルフ場における深い芝のこと。ここでゴルフボールを打ってもコントロールすることは難しい

*4もっともコントロールが簡単なフェアウェイとラフの間の長さの芝のこと

*5史実のセントサイモンは種牡馬として有名だが同時にサラブレッド史上最も荒い馬としても有名でもあり、猫を天井に叩きつけたエピソードもあるほど




後書きらしい後書き
セントサイモン……もしセントサイモンが現代に現れたら絶対に話題になりますよね。

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第30R ゴルフ場の間違った使い方

前回の粗筋
二代目「ニジンスキー様ぁぁぁっ!!」


 ニジンスキーとの併走に心踊る二代目にニジンスキーが声をかける。

 

「いいかアイリ。これまでの走ってきた環境とは大違いだ。ここは日本の高速芝じゃない」

 

「はい」

 

「だからといって洋芝でもない。むしろ洋芝よりもスタミナを喰らうラフだ」

 

「それじゃニジンスキーさんもこの深い芝生でやるのは初めてですか?」

 

「ああ。だが洋芝の走り方をすればこの程度は苦でもない。これはラムタラも同じだ」

 

「ラムタラを知っているんですか?」

 

「もちろんだ。ラムタラを鍛え上げたのはトレーナーリーダーとこの私だ」

 

「それじゃ向こうからしてみれば私を鍛えることは裏切り者になるんじゃないんですか?」

 

「トレーナーリーダーの許可はとってある」

 

「あいつが……?」

 

 

 

 二代目が首を傾げ、トレーナーリーダーを思い出す。

 

 かつて二代目のトレーナーだった頃は自分のチームギエナに虐待染みたスパルタトレーニングを課す為にチームギエナのトレーニング内容を公開せず、ウマ娘達を犠牲にしていた。

 

 しかしその一方でハナ等のトレセン学園にいるトレーナーから地方などトレセン学園とは無縁のトレーナーとも交流があり、そのノウハウを教えていた。

 

 通常のトレーナーであれば自分独自のノウハウを秘密にして自分のウマ娘を鍛えようとするが、彼はその逆で、自分の知識を公然に出すことに抵抗など全くと言って良いほどなかった。

 

 良くも悪くも研究者であり、その為なら何だってする。それがあのトレーナーだ。

 

 

 

「もういいだろう。アイリ、この併走で私についてこい」

 

「は、はいっ!」

 

「サンデーサイレンス、ピストルの用意を」

 

「もう出来ている。お前達準備はいいか?」

 

「無論だ!」

 

「準備OKです」

 

「よーい、スタート!」

 

 

 

 数分後。そこには疲れ果てて横たわる二代目とそれとは対照的に汗を少し流しているニジンスキーがいた。

 

『情けねえ奴だ。俺なんか本番ぶっつけで凱旋門賞に勝ったというのに』

 

 先代があきれた声でそう呟くも二代目は疲れ果てていた為に反応を見せない。

 

「まあ高速芝に慣れきったウマ娘なら当然のことだ。それに高低差が10mもありスタミナがなくなるのは当たり前のことだ。落ち込むことはない」

 

「すみません。期待に応えられなくて」

 

「仕方ない。アイリ、今からこのコースを回るぞ」

 

「え?」

 

「1番ホールから18番ホールまでゴルフして回る。アイリ、お前はこれを持て」

 

 ニジンスキーからゴルフクラブの入ったゴルフバッグを渡され、それを受け取る。

 

「私がキャディですか?」

 

「それだけじゃない。私が打ったボールがラフに行った場合、フェアウェイに戻せ」

 

「へっ? それだと反則になってしまいますよ?」

 

「ゴルフはあくまでも遊びだ」

 

 言葉足らずにニジンスキーが一番ホールへ向かい、ゴルフティーにゴルフボールをおいてドライバーを取り出してそれを打つ。

 

 するとゴルフボールの軌跡は右に曲がりラフの中に突っ込む。

 

「と、飛びますね」

 

「フェアウェイに乗らなきゃ意味がない。アイリ、ラフから出せ」

 

「はい」

 

 ラフからフェアウェイにゴルフボールを取り出しそのボールが止まった所でニジンスキーが打ち、グリーンに乗せてホールを終える。

 

 その繰り返しを10ホールほど続けていると二代目の足取りが重くなる。

 

「アイリ、疲れが出てきたようだな」

 

「はい」

 

「無理もない。普段使わない筋肉が悲鳴を上げているだけじゃなく、疲れが出る歩き方でラフを歩いているからな」

 

「疲れが出る歩き方ですか?」

 

「そうだ。私の歩き方を見ていろ」

 

 ラフに入り、ニジンスキーが歩くと先代が声をかけた。

 

『二代目、わかるか? 奴は少しでも自分の方向に向いていなければ地面を踏むように歩いているのに対して、向いていれば後ろに蹴るように歩いている』

 

「あ!」

 

 先代の言ったことを確認するようにニジンスキーの歩き方を見ると確かに先代の言う通りの歩き方をしていた。

 

「どうだ。こうやって歩けば草に阻まれることなく歩くことが出来る」

 

「しかしそれはわかりましたが、もし草で滑ってしまったら最悪予後不良になる恐れもあるんじゃないんですか?」

 

「そうならない為にはしっかりと踏み込む必要がある。こんな風にな」

 

 ラフの草が地面にめり込み、それを二代目に見せる。

 

「ジャパニーズの芝のウマ娘が負けるもう一つの原因はパワー不足。フォームを改造しても肝心のパワーが足りないからせっかくのスピードも台無しになる。凱旋門賞に出走したシリウスシンボリはまさしくそれだった。つまりシリウスシンボリや砂のウマ娘以上のパワーが必要になるということだ」

 

「パワーね……その心配はありませんよ」

 

「何?」

 

 二代目がニジンスキーに倣って走るとニジンスキーよりも遥かに深い足跡がそこにはあった。

 

「なるほどグリーングラスのところでパワーを鍛え直したのか」

 

 それまで無言だったサンデーサイレンスが口を挟み、頷く。

 

「サンデーサイレンス先生……どこまで知っているんですか?」

 

「この学園にいるウマ娘のことなら何でも知っているぞ。シンボリルドルフが幼い頃ルナちゃんと呼ばれていたのも勿論知っている」

 

「あの厳格なシンボリルドルフ会長──ぶはっ」

 

 二代目の頭の中にシンボリルドルフがフリルを大量につけた魔法少女服を身に纏い「月に代わってお仕置きだ!」などとほざく姿を想像してしまい、吹いた。ちなみにそのセリフと魔法少女は全くと言って良いほど関係ない。

 

 

 

「まあ何にせよ、それだけパワーがあるなら問題はないか。アイリ、これで私が教えられることは全て教えた。後はアイリの努力次第だ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。ただラムタラは強いぞ。何せお前の元トレーナーがついている。お前のこともよく知っているはずだ」

 

「その心配はありませんよ。あの人が知っているのは過去の私であって未来の私ではありません」

 

「それもそうだ。最後にアドバイスしておこう」

 

「何でしょうか?」

 

「私はラムタラにも指導した立場だから勝者になれとは言えん。しかしこの言葉は言える。全力を尽くせ」

 

「はいっ!」

 

 満面の笑みで二代目が答えるとそれまで無表情だったニジンスキーが笑みを浮かべる。

 

「ではアイリ、残りのホールを回るぞ」

 

「わかりました。何番にしますか?」

 

「そうだな。ここは──」

 

 それからしばらくニジンスキーのゴルフに付き合わされる二代目とサンデーサイレンスだった。

 

 

 

「さて飯にしようか」

 

 サンデーサイレンスが二人に話しかけると二人が首を傾ける。

 

「飯って……ここ従業員さんいないんじゃないですか?」

 

「サンデーサイレンス、その通りだ。人がいないからこそ、ここを選んだのではないのか?」

 

「そう焦るな。余が何の考えもなしにそんなことを言うと思うのか?」

 

「……ないな」

 

「……ないですね」

 

「余のことを流石にわかってきたか」

 

「更に言うなら従業員がいないことを考慮すると、サンデーサイレンス先生は出前を取ったと考えられますが違いますか?」

 

「当たりだ。カモン、ニンジンカツカレー!」

 

「毎度! ニンジンカツカレー三つお持ちいたしました!」

 

 合図と共に出前が届きどや顔を浮かべるサンデーサイレンスに二人がスルーして席についた。

 

「あ、こちらにお願いします」

 

「無視かよ!」

 

「ではごゆっくりどうぞ! 翌朝になりましたら玄関のほうで皿を引き取りますので玄関に出しておいて下さい」

 

 出前店員がその場を去り業務に戻り、三人がカレーを食べる。

 

 

 

「ゴルフの後のカレーがこんなに旨かったとは知らなかった……」

 

「全くですね。私の場合、労働の後のカレーですけど」

 

 ニジンスキーと二代目が何度も同じ事を繰り返しながら昼食のカレーを思い出してはゴルフ場のラフを歩き回る。

 

「やはり深い……」

 

「ですね……」

 

 ニジンスキーと二代目が黙り、しばらくすると先ほどと同じ会話をする。

 

「お前ら近所で噂話をするおばちゃんか!」

 

 その様子をみたサンデーサイレンスがいい加減に突っ込みを入れる。

 

「旨かったんだから仕方がない」

 

「そうですよ。労働の後のカレーがあんなに旨かったなんて初めて知ったんですから良いじゃないですか!」

 

 サンデーサイレンス一人に対して向こうは二人。天敵が一人いるだけでも厄介だというのに二人もいては流石のサンデーサイレンスと言えども頭を抱えたくなる事態だった。

 

 

 

 そこでサンデーサイレンスはふと頭によぎったことを口に出した。

 

「そう言えば余が気になるウマ娘がいるんだが、ニジンスキー。お前もそいつに会ってみないか?」

 

「どんなウマ娘だ?」

 

「まだ入学こそしていないがそこにいるアイグリーンスキーと同じくらいのスタミナを持つウマ娘だ」

 

「アイリ並みのスタミナか……」

 

「余がその走りを初めて見たときは寒気を覚えた。特に最後の末脚はな」

 

「名前は?」

 

「ダンスインザダーク。そこにいるアイグリーンスキーと同期エアダブリンの妹だ」

 

『ダンスインザダークか。言われてみれば確かに強いが……』

 

「……帰国する前にその顔を見ておこう。案内しろ」

 

「その前にアイグリーンスキーをトレセン学園に帰さないといけない。そこは了解してくれるな?」

 

「そのダンスインザダークなるウマ娘、私も見たいです」

 

「ダメだ。ビワハヤヒデと会う約束があるのにその約束を破るのか?」

 

「……ああ、ニジンスキーさんと会えるのが嬉しくてすっかり忘れていた」

 

『酷え話だ』

 

「まあそういうことだ。諦めろ。そのダンスインザダークと会うのは一年後にとっておけ」

 

「ぐっ……」

 

「そうがっかりするな。ニジンスキーの動画集を後で渡しておこう」

 

「おい!」

 

「ありがとうございます。サンデーサイレンス先生」

 

 抗議の声をあげるニジンスキーと腰を90度折り曲げるくらいに頭を下げる二代目。再びカオスなこの状況に誰も突っ込む者はいない。




後書きらしい後書き
お待たせしました……


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尚、次回更新は一週間後です


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第31R 覚醒しないタマモクロス

前回のあらすじ
ニジンスキー「これが洋芝の走り方だ……!」


 サンデーサイレンス達と別れた二代目はビワハヤヒデが所属するチームマシムの本拠地に来ていた。

 

「すみません、ビワハヤヒデ先輩はいますか?」

 

「あいつなら練習量を増やすゆうとったからまだ自主トレ中や。ここにはおらへんで」

 

 二代目の言葉に関西弁の芦毛のウマ娘タマモクロスがそれに答える。

 

「それじゃここで少しお待ちしますが宜しいでしょうか?」

 

「おお、ええで。どーせこのチームマシムのウマ娘が練習する時間はとうの昔に終わっとるからな」

 

「ありがとうございます」

 

「ところで名前なんや?」

 

「アイグリーンスキーです」

 

「アイグリーンスキー……知らんな。そのグリーンがビワハヤヒデに何のようでここに来たんや?」

 

「ビワハヤヒデ先輩が何か独り言を呟くようになったとビワハヤヒデ先輩の妹から聞きましてね。その病状を診にきたんです」

 

「そういうことかいな。医者か何か目指しておるんか?」

 

「いや医者でもそれを知る者はいませんよ。むしろ医者はそれを信じませんよ」

 

「何やと?」

 

 

 

「タマモクロス先輩、メジロパーマー先輩に負けた理由はメジロパーマー先輩が強かったからですよね」

 

「……まあな」

 

「メジロパーマー先輩が強くなった理由は覚醒したからですよ」

 

「はぁ? そんなん言われんでもわかっている」

 

「正確には極限まで追い込まれ覚醒したと言うべきでしょうね。これ以上は覚醒していないタマモクロス先輩に言っても理解、いや納得出来ることではありません」

 

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

 

「ここから先はオカルト染みた話しになるんですよ」

 

「オカルトぉ~? 良いから言うてみい」

 

「タマモクロス先輩、パラレルワールドの自分を意識したことはありますか?」

 

「ぱ、パラパラ?」

 

「パラレルワールド。ざっくり言えば異世界のことです」

 

「異世界……何か胡散臭いな」

 

「じゃあ止めましょう。胡散臭いので」

 

「ちょ、待てえや! 聞かへんとは言うとらん!」

 

 タマモクロスが慌てて腰を上げてそれを止めようとすると扉が開く。

 

 

 

「何を騒いでいるんだ?」

 

 汗をかいたビワハヤヒデが丁度そこに現れ、二人を見つめる。

 

「ビワハヤヒデ先輩」

 

「ハヤヒデ、丁度良えところに!」

 

「な、なんだ?」

 

「ビワハヤヒデ先輩、妹さんからお聞きしましたけど日本ダービー以来独り言をずっと呟くようになったようですね」

 

「……聞かれていたのか」

 

「聞かれていたもくそもあるかい。ウチにも聞こえるように言うとったからな」

 

「なら仕方ない、正直に言おう。今の私は──」

 

「異世界のビワハヤヒデがアドバイスを送ってくれている──でしょう?」

 

 それを聞いたビワハヤヒデが目を見開き、タマモクロスが混乱する。

 

 

 

「何故それを知っている?」

 

「私も異世界の自分の魂の声が聞こえるからですよ」

 

「お前もか!?」

 

「ええ。極限まで追い込まれたウマ娘は覚醒し異世界の自分の魂の声が聞こえるようになり能力が伸びる。私もメジロパーマー先輩も実際に魂の声が聞こえるようになってから強くなりました。そしてビワハヤヒデ先輩も先日の日本ダービーで沈んだと思われた直線から脅威の豪脚で二着同着まで巻き返したのは覚えているでしょう」

 

「それはその通りだ」

 

 

 

「ほなら、何か。異世界の自分と話しが出来るようになったからハヤヒデは独り言を言うようになった言うんか?」

 

「正確には独り言のように話しているんですよ」

 

「どっちでもええ。グリーン、確か極限まで追い込まれたら覚醒する言うたな?」

 

「ええ。私はチームギエナの練習の厳しさから、メジロパーマー先輩の場合は私との併せウマで覚醒し、ビワハヤヒデ先輩は先日の日本ダービーで覚醒しました」

 

「ほならハヤヒデ、準備せえ!」

 

「これ以上トレーニングをすると逆効果になりますのでお断りします」

 

「ならグリーン、お前や!」

 

「私ですか?」

 

「そや。メジロパーマーを覚醒させたならウチも覚醒させろや! せやないと不公平や、不公平!」

 

 ブーイングを混じりながらタマモクロスが二代目に抗議する。

 

 

 

「まあ、メジロパーマー先輩をあんなに強くしたのは私の責任ですが、メジロパーマー先輩自身もかなり強いですから覚醒したところで勝てるかどうかまでは──」

 

「ごちゃごちゃ言わんとはよやるで! やらんよりマシや」

 

「それに今の私はトレーニングした後で疲れが溜まっています。今の状態では相手が中堅クラスのウマ娘ならともかく重賞を何勝もしているタマモクロス先輩に敵うはずがありませんよ」

 

 

 

「それもそうやな……それなら明日の放課後付き合え。それならええやろ!」

 

「わかりました。ビワハヤヒデ先輩も一緒に併せウマやりますか?」

 

「是非ともやる。明日は予定があると本来なら言うところだが、君との併せウマほど効率的なトレーニングはない。多少予定を変更してでもその価値はある」

 

「ハヤヒデ、トレーニングもエエけど飯にも注意せえ。オグリがここにやって来た直後栄養バランスの悪い食事をしとったせいで体を動かすこと出来へんかったからな。ウチが改善させたおかげで大阪杯勝てた言うても過言でもないで」

 

 どや顔で胸を張るタマモクロスに二代目が口を出す。

 

 

 

「タマモクロス先輩、まずは自分の貧相な体を──」

 

「しゃーっ!」

 

 タマモクロスが二代目に飛びかかり、爪を出して引っ掻こうとするが二代目は持ち前の運動神経でそれを避ける。

 

「タマモクロス先輩、落ち着いて!」

 

「ふーっ!」

 

 ビワハヤヒデがタマモクロスを取り押さえるもタマモクロスは興奮を抑え切れず、じたばたとその場を暴れる。

 

「アイグリーンスキー君、タマモクロス先輩の前で胸の話は止めてくれ。彼女なりにコンプレックスを持っているんだ!」

 

「私が言おうとしたのは身長ですよ」

 

「あ? 身長?」

 

「そうですよ。メリーナイス先輩じゃありませんし、からかうことはしません」

 

 

 

「ウチがちびっこいんはウチが幼い頃、何も食えへん状況だったからや」

 

『そういやタマモクロスが生まれた牧場はタマモクロスが売れる前に潰れたんだっけか? 俺が生まれる4、5年くらい前の話だからうろ覚えなんだよな』

 

 先代が口を挟んだのを聞いた二代目がタマモクロスが何故そんなに小柄なのか察した。

 

 

 

「察しました」

 

「空気読めや。そいでな、ウチの両親は借金の返済に追われて蒸発してもうたんや」

 

「蒸発?」

 

「蒸発言うんは要するに意図的に行方を断っていなくなることや。で、ウチに残されたのは借金だけ。その借金返済の為にウチは今度の宝塚記念勝たなアカン。イナリもクリークも出走せえへん以上、パーマーだけが目の上のたん瘤なんや」

 

「えっ!? スーパークリーク先輩は新聞で前から言っていたからわかりますけどイナリワン先輩もですか?」

 

「それは初耳ですよ、タマモクロス先輩」

 

 タマモクロスがさりげなく自分のクラスのメンバーであるイナリワン、スーパークリークの二名が出走しないことを聞いて二代目とビワハヤヒデが目を見開く。

 

 

 

「知らへんのか? イナリは連敗が続いておるから負け癖を抜く為に帝王賞に出走するらしいんや。そんな理由で宝塚記念には出られへん」

 

「つまり、逃げた訳ですか」

 

「身も蓋もない言い方やけどそうなるな。まあ負け癖を抜くには丁度ええかもしれんな。なんてったてウチが次の宝塚記念勝つんやからな」

 

「メジロパーマー先輩やオグリキャップ先輩は?」

 

「覚醒すればパーマーもオグリも怖ない。ウチは阪神大賞典でパーマーに引き分けているからな」

 

 その後、二人に限らずトレセン学園の関係者がタマモクロスの笑みを見かけることになったのは宝塚記念以降だった。




後書きらしい後書き
今回はタマモクロス中心会でしたね。オグリもタマモも、クリークもイナリも皆主人公やれるだけのドラマがあると思うのは私だけでしょうか?


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第32R 食堂

前回のあらすじ
タマモクロス「胸が小さいのは希少価値や!」


 翌々朝、チームマシムの練習後、この日もタマモクロスが覚醒せず二代目は新聞を読みながら悩んでいた。

 

「なんでタマモクロス先輩は覚醒しないんだろう……」

 

『さあな。俺にもわからん』

 

 二代目の疑問をバッサリと切り捨てる先代に顔をひきつらせた。

 

「先代もわからないの?」

 

『競走馬の俺がアドバイス出来るのは所詮競馬や競走馬のことだ。その知識を生かしてウマ娘のお前にアドバイスをしているだけであって、それ以外のことは素人に毛を生やした程度しかない』

 

「それはごもっともね」

 

『ただ一つだけ言えるのはこのままだとタマモクロスは永遠に覚醒しない。むしろ逆に今度の宝塚記念で惨敗するのが目に見えている』

 

 

 

「先代、競走馬のタマモクロスってこの時めちゃくちゃ強かったんでしょ?」

 

『そうだ。天皇賞春、宝塚記念、天皇賞秋のGⅠ三勝に加えJCと有馬記念を二着。間違いなく当時の競馬界の主役の一頭だった』

 

「でもこっちのタマモクロス先輩は天皇賞春で二着、宝塚記念で惨敗したらもうそれはタマモクロスとは言えないんじゃない?」

 

『天皇賞春に関してはお前の責任もあるだろ。何せ競走馬のメジロパーマーが、勝つはずのなかった天皇賞春を勝たせるまでに成長させたんだからな』

 

「全く反論出来ない」

 

『良くも悪くもお前を含めた覚醒したウマ娘に限らずこれからお前はウマ娘を大きく変えていくことになる。それだけは忘れるな』

 

「うん。タマモクロス先輩が一番の被害者だし、宝塚記念前には覚醒する条件を見つけないと申し訳ないよ」

 

『よし、それなら良い』

 

 先代の声が静まると共にナリタブライアンが近づき、声をかける。

 

 

 

「グリーン、姉貴の方は大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。あれはむしろレースに強くなる傾向だから」

 

「そうか……」

 

「ところでチームリギルにジュニアAの期待のウマ娘が入ったっておハナさんから聞いたんだけど、彼女はどうなの?」

 

「エアグルーヴのことか?」

 

「そう、皐月とダービーの二冠をはじめとしたGⅠ競走7勝も視野に入れるほどの逸材なんでしょ?」

 

「トレーナーからそう言われているだけだ、先輩」

 

 ナリタブライアンの後ろから現れたウマ娘が二代目に声をかける。

 

「エアグルーヴ、何故ここにいる?」

 

 そのウマ娘、エアグルーヴを知っていたナリタブライアンがエアグルーヴに尋ねると鼻で笑われた。

 

「ハッ、ナリタブライアンが負けたウマ娘がいると聞いて見に来ただけだ」

 

「先輩を敬う気すらない……」

 

「レースに年齢は関係ない。全ては強いものが勝つ」

 

『それはごもっともだ。レースで年齢序列があるなら長生きした奴が勝つからな。もっともこの学園の最強ウマ娘が最年長のマルゼンスキーなのは皮肉でしかないが』

 

 先代の指摘に二代目は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

「何を笑っている?」

 

「いや、おハナさんも大変なウマ娘をチームに入れたなって思って」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「確かに素質のみなら同世代でもトップクラスだと思うけどそれ以上に環境に弱そう」

 

『良くわかったな、二代目。エアグルーヴは風邪をひいたせいで桜花賞を棒にふって回避してしまっただけでなく、秋華賞でもフラッシュを焚き付けられ動揺したのが原因で惨敗しているからな。風邪はともかくフラッシュごときで動じるとは全く情けない野郎だ。いや情けない女だ』

 

 

 

 競馬場で──正確には馬に向かって──フラッシュを焚き付ける行為はレースに影響が出る為に非常に宜しくない。

 

 競走馬にしてみれば、フラッシュを焚き付ける行為は鉄砲を耳元で鳴らされるようなもので、動揺するのは普通の馬であれば仕方ないことであり、いつ鉄砲が自分に向かってくるかわからない恐怖に震えることになるからだ。

 

 そんな恐怖を感じない先代が異常なだけなので何一つエアグルーヴ(競走馬)に非はないと言える。むしろ非があるのはフラッシュを焚き付けた無知な人間達だ。

 

 

 

「環境に弱そう? 何をバカなことを」

 

「その言葉がわからないのは大人じゃないからね。私くらい大きくなれば自然とわかるようになるよ」

 

「嘘をつくな」

 

「……ふっ」

 

 鼻で笑い、挑発する二代目にエアグルーヴがコメカミを抑え、怒りを溜める。

 

「ナリブー、こんなウマ娘がチームの後輩だなんて大変だね」

 

「大変なのはお前がいるからだ。普段は大人しい」

 

『そういや俺が種牡馬現役の時にエアグルーヴに種付けしようとしたら、奴が暴れて中断されたのをすっかり忘れていたぜ。結局エアグルーヴと交配することなく別の繁殖牝馬と交配することになったが……多分ウマ娘のエアグルーヴがお前に突っかかってくるのは魂レベルで俺の存在が気にくわないからだろうな』

 

 

 

「ナリブー、ビワハヤヒデ先輩の件で貸し作ったんだから私の要望も聞いて貰える?」

 

「言ってみろ」

 

「タマモクロス先輩の併せウマの相手をチームリギルから一人以上用意して欲しい」

 

「無理だ」

 

「無理?」

 

「理由はいくつかあるが、会長やマルゼン先輩は私の発言で動けるほど暇ではない。むしろ調整に必死なくらいだ。他のメンバーだと力不足にも程がありタマモクロス先輩の相手をしてやれるウマ娘はいないんだ」

 

「それは副会長のことも?」

 

「副会長は現在海外遠征でトレセン学園にはいないからノーカンだ」

 

「ノーカンって……」

 

「第一チームリギルのウマ娘でなければならない理由はなんだ? お前のところでも良いんじゃないのか?」

 

「チームカノープスのウマ娘は良くも悪くも秘密主義者が多い。それ故に他のチームのウマ娘とは併せウマをしない……いや、したがらない傾向が強いんだよ。今もっとも勢いがあるヤマトダマシイ先輩は特にね」

 

 ヤマトダマシイはかつてメジロパーマーと併せウマをしたことがあるが、他のチームのウマ娘と併せウマをしたのはその一度きりだけで後は全て同じチーム内のウマ娘としかしていない。

 

 それに対してチームカノープスの他のメンバーは二代目ほどでないにせよ他のチームのウマ娘と併せウマをしており、ヤマトダマシイが一番閉鎖的である。

 

「チームギエナのウマ娘を集めたのだから当然と言えば当然なんだが、それだけでは理由は弱いな。お前が併せウマの相手をすれば良いだけだろう」

 

「もうとっくにしたよ。だけど私だと役不足みたいでね」

 

「そうか……お前がか」

 

 ここでナリタブライアンは役不足の意味を壮大に勘違いしていた。自分の力量に対して役目が不相応に軽いことを役不足という。

 

 しかしナリタブライアンは力不足と思い込み、二代目と言えどもタマモクロスに勝てるほど強くなかったのだと勘違いしてしまった。

 

 

 

「チームマシムにいるハヤヒデ先輩も一緒にやったんだけどね……ハヤヒデ先輩も(ハヤヒデの方が強すぎて)力になれなかったんだ」

 

「姉貴も(タマモクロスに勝つのは)無理なのか……」

 

「そこで少数精鋭のチームリギルならタマモクロス先輩の併せウマの相手が見つかりそうだなって思って」

 

「納得はしたが、現時点では無理だ。チームリギルから紹介出来るのはいないと言って良い」

 

「残念……」

 

 腕を組み、二人が思考していると芦毛のウマ娘が二代目に近づき、声をかけてきた。

 

「二人とも、そのご飯食べないのか?」

 

 そのウマ娘は今年の大阪杯を制したオグリキャップだった。

 

「オグリキャップ先輩」

 

「食べないなら私にくれ」

 

 涎を垂れ流し指を加えながら二人の食事を見つめるオグリキャップ。トレセン学園ですっかりと食いしん坊キャラの地位を確立していた。

 

 

 

『ったく、ヘレニックイメージがそこらにある草すらも食ってしまう食いしん坊なのは知っていたがオグリキャップも食いしん坊なのか?』

 

 先代の声に反応しようにも出来ない。反応したら電波を受信する変人ならぬ変ウマ娘として学園中に広まるからだ。

 

「オグリキャップ先輩ってもしかして食いしん坊なんですか?」

 

 二代目が一言オグリキャップに告げるとオグリキャップが赤面し、首を横に振る

 

「ち、違う! 私は食いしん坊じゃない。ただ勿体ないから先輩である私が責任を持って処分しようとしているだけだ!」

 

「確かにオグリキャップ先輩はトレセン学園の先輩ですけど、同じチームにいるって訳じゃないですよ。ね、ナリブー」

 

「いや私に聞くな。同じチームでもあるまいし」

 

「それに……いや、このご飯食べても良いですよ」

 

「やった。それじゃ頂き──」

 

「その代わり、条件があります」

 

 それを聞いてオグリキャップの動きが止まる。

 

「なんだ?」

 

「オグリキャップ先輩、タマモクロス先輩と併せウマをして下さい」

 

「タマ……タマモクロスとチームは同じなのか?」

 

「いえ、違います。ただタマモクロス先輩には借りがありますからね。タマモクロス先輩の併せウマの相手をセッティングするのは当たり前のことです」

 

「タマモクロス自身は併せウマの相手を探しているのか?」

 

「ええ。私やハヤヒデ先輩とも走りましたが走りが冴えませんのでオグリキャップ先輩なら走りを良くしてくれるのではないかと」

 

「なるほど。だが私がタマモクロスと走るメリットは少ない。むしろ宝塚記念で強力なライバルになりかねない。悪いがこの話、断らせて──」

 

「情けないですね」

 

 二代目が嘲笑い、笑い声を抑えた声でオグリキャップに侮蔑の眼差しを向ける。

 

 

 

「なんだと?」

 

「オグリキャップ先輩、聞きましたよ。タマモクロス先輩に食事の習慣を改めさせられたことを。タマモクロス先輩の指導がなきゃオグリキャップ先輩は大阪杯勝てなかったんじゃないんですか?」

 

「だからどうした。確かにタマには世話になった。だがそれとこれとは話は別だ」

 

「貴女には──」

 

「やめや、アイグリーンスキー」

 

 途中からタマモクロスが割り込んで、二代目を止める。

 

「タマモクロス先輩……」

 

「ウチのことで動かへんのならしゃーない。むしろ動いたら動いたで不都合や」

 

「不都合?」

 

「せや、ウチはあのことを貸しとは思っとらん。あまりにも食生活が乱れとったからお節介焼いただけや」

 

「しかしタマモクロス先輩、それでいいんですか?」

 

「二度も三度も言わせんな。ウチはやるだけのことやってみるだけや。ほな」

 

 タマモクロスがそれだけ告げるとその場から去り、姿を消していく。

 

「……そういうことだ。タマが望んでいない以上、私がやる必要はない」

 

 オグリキャップが二代目の朝食をかっさらい、その場から離れようとする。

 

「オグリキャップ先輩、それなら私のご飯を返して下さい」

 

 二代目がオグリキャップの腰にしがみつき、動きを止めさせた。

 

 

 

「わ、わかった。この朝食は返そう。だから離してくれ」

 

 渋々、名残惜しそうに、後ろ髪を引かれるようにオグリキャップが二代目に返すと残像を残しながら消えていく。

 

「なっ!?」

 

 その光景を見た全員が口を開け唖然とする。

 

「ご馳走さまでした。さて、オグリキャップ先輩、またご縁があればお会いしましょう。ナリブーもエアグルーヴもね」

 

「あ、ああ……」

 

 この中で年長者たるオグリキャップが返事をするがあまりの出来事にそう答えるしかなかった。




後書きらしい後書き
ストック切れ怖い……


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第33R 白い稲妻二世、覚醒する

前回のあらすじ
芦毛の怪物&シャドーロールの怪物「悪いなグリ太。私達は別に用事があるんだ」


 放課後

 

 チームマシムにてタマモクロスがビワハヤヒデに何度も挑むが結果はビワハヤヒデの全勝。余りの不甲斐なさにタマモクロスが涙を流し始めた。

 

「何で、ハヤヒデに勝てへんのや……」

 

「やはり覚醒していないからじゃないでしょうか」

 

 泣きじゃくるタマモクロスにビワハヤヒデが冷静に指摘する。

 

「なぁハヤヒデ、覚醒するにはどないしたらええんや!? ウチどうしてもパーマーに勝ちたいねん!」

 

「そう言われましてもこれは当人の問題ですので、私からアドバイス出来ることは精々、覚醒した時はゾーンに入った感覚に近いとしか言いようがありません」

 

「それ以外でなんかあらへんの……?」

 

「まるで子供ですね、タマモクロス先輩」

 

 タマモクロスが子供のように泣きじゃくりビワハヤヒデにしがみつく様子を笑うようにタマモクロスに声をかけるウマ娘がいた。

 

 

 

「アイグリーンスキー?」

 

「どうも。タマモクロス先輩。今日は特別ゲストと併せウマして貰います」

 

「特別ゲスト……?」

 

「そう昨年ジュニアCで有力視されながらも無冠に終わったウマ娘がここに来ています……カモン!」

 

 二代目以上の巨体を誇る身長と強靭な肉体、そしてその肉体にふさわしいワイルドな顔立ち、尾花栗毛を隠すバンダナとサングラスがトレードマーク、服装は真っ白な褌とサラシ、右手に持つのはニンジンに似せたフランスパン、そうそのウマ娘の名は……

 

「いや誰ぇぇぇっ!?」

 

 そのウマ娘を見た瞬間、タマモクロスが大声で叫ぶ。

 

「は? なに言っているんですか、先輩。サッカーboy先輩ですよ。去年のマイルCS見忘れたんですか?」

 

「こないな奴知らんわ! ウチが知ってんのはウチと同じくらいのチビのサッカーボーイや! それがなんでこんな似ても似つかないゴリラのような奴を用意ってどういうこっちゃ! サッカーboyってなんやねん! そこはサッカーボーイっていうところやないか! 何でボーイが無駄にナチュラルに英語になっとんねん!」

 

 タマモクロスが息切れするほどに突っ込んで、手を膝につけると二代目がため息を吐いた。

 

「いい加減にしてくださいよ。時間を空けてくれたサッカーboy先輩に申し訳ないんですか?」

 

「ランイズマネー、ワタシ坂路一本デニンジン1ダース、坂路二本でニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」

 

 空気を読まずサッカーboyが口を開くと芦毛のウマ娘達二人の空気が凍りついた。

 

「オーケー、坂路三本でニンジン三本、坂路四本で四半分よ」

 

「何で三本になってから徐々に減っとるんねん!」

 

 二代目の返答にタマモクロスがそうツッコミを入れるがサッカーboy達は無視した。

 

「オーケー、それではイキマショー」

 

「え、ちょっ、待てや」

 

「アイムウマ娘トレーナー」

 

 タマモクロスの抑止の声を出すが無駄に終わり、サッカーboyがタマモクロスを脇に抱え、その場から消えていく。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

 残ったビワハヤヒデがそう尋ねると二代目が笑顔で答えた。

 

「これでダメならタマモクロス先輩は何も出来ないウマ娘だったってことですよ。覚醒する方法の確立は他のウマ娘で試すことにします」

 

 さりげなく酷いことを言う二代目にビワハヤヒデが戦慄し、言葉を無くした。

 

「ゴリラみたいな身体してスタートも坂を登るスピードも速いとか反則やろ!」

 

 サッカーboyに負けたタマモクロスが坂路を一本終えるとそう叫ばずにはいられなかった。

 

 それもそのはずサッカーboyの身体は筋肉が付きすぎて体重があまりにも重く坂を昇るスピードや加速が遅くなる。その点ではタマモクロスの方が有利になるはずだった。しかしタマモクロスの目の前を走ったこのサッカーboyはそれに当てはまらず、サッカーboyは常にタマモクロスの前を走り続けた。

 

「スイマセン、コレダケッスカ?」

 

「ノーノー今日はとことんやって頂戴オーケィ?」

 

「オーケー」

 

 一本目が終わり、サッカーboyが尋ねると二代目が返答し二本目を促す。

 

 

 

「その坂路トレーニング、ちょっと待った」

 

 そこへ坂路にいるウマ娘の声が響き、二代目が目を見開く。そのウマ娘の顔は覆面マスクで覆われており、顔の判別が付き辛く、一目見ただけでは判別がつかない。それ故に二代目や他のウマ娘達が絶句してしまうのは無理もなかった。

 

「オグリキャップ先輩……?」

 

 それにも関わらず、何故二代目がオグリキャップと判断した材料は声と覆面の後ろから見える髪の毛が灰色かかった芦毛であったからだ。

 

「本当だ……オグリキャップ先輩だ」

 

「何でここにおんねん」

 

 ビワハヤヒデとタマモクロスがキャプテン・グレーと名乗るそのウマ娘を観察するとオグリキャップの体格に酷似しており、オグリキャップと判断した。

 

「違う。私はオグリキャップではない。私の名はキャプテン・グレーだ」

 

「そのキャプテン・グレーが何の用や?」

 

「タマモクロス、お前と併せウマをしに来た」

 

「はっ、さっき断ったウマ娘のセリフとは思えんな」

 

「だからオグリキャップではないと……」

 

「アンタ、何でオグリとウチの話を知っているんや? あの場で会話を聞いていたのは数人だけやで」

 

「………………………………さて、そんなことよりやろうか」

 

「無視すんな!」

 

 キャプテン・グレーが無理やりコースに入り、そこにいたサッカーboyと並ぶ。

 

「イツデモイイヨ」

 

「ではやろうか」

 

 サッカーboyとキャプテン・グレーが顔を見合せ、スタートするとタマモクロスが鬼の形相で追いかけた。

 

 

 

「おい、待てやお前らーっ!」

 

 完熟したトマトの如く顔を真っ赤に染めたタマモクロスが二人を追いかけるが出遅れた差は縮まらない。それどころか広がる一方だった。

 

「ぶっ殺したるーっ!」

 

 物騒な発言をしたお陰か、それとも殺意を持つ余り、馬鹿力が働いたのかどちらにせよタマモクロスの身体が軽くなり足取りも水切りをする石の如く跳ねていき、その差は徐々に縮まっていく。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 しかしサッカーboyとキャプテン・グレーとて黙って見ている訳ではない。雄叫びとも呼べる声を上げ、タマモクロスを引きはなそうとする。

 

『おい、タマ。てめえの負けたくねえって気持ちはそんなもんかよ。後輩達には負け、同期達にも舐められていんのにそれでいいのかよ!』

 

「じゃあかしいっ!」

 

 そしてタマモクロスの足場だけが坂路から平坦な道へと変わった。

 

「何っ!?」

 

「ホワッ!?」

 

 坂路をまるで平坦な直線を走るかの如くタマモクロスが駆けていく姿にサッカーboyとキャプテン・グレーが目を見開きながら置き去りにされていき、そのまま登り切った。

 

 

 

「へへ……ようやっと出来たで」

 

 それまでキレていたタマモクロスの姿は何処にもなく、晴れやかな笑みがそこにあった。

 

「覚醒おめでとうございます、タマモクロス先輩」

 

「グリーン、あんがとな。ウチの為にこんな色物なウマ娘を紹介してくれて」

 

「だからこのサッカーboy先輩はタマモクロス先輩と同じクラスでしょう? ねぇ、オグリキャップ先ぱ──は?」

 

 二代目がキャプテン・グレーに向けてそう声をかけようとするとそこにキャプテン・グレーはおらず代わりにサンデーサイレンスが居り、間抜けな声を出す。

 

「だから言ったであろう。余はオグリキャップではないと!」

 

 覆面のせいで汗だらけになった顔でもどや顔は忘れずに行うサンデーサイレンス。余りのどや顔に殺意すら覚えたタマモクロスが目のハイライトと気配を消して、サンデーサイレンスに近づき噛みついた。

 

「よくも騙したなボケーっ!」

 

 頭蓋骨を砕く勢いでタマモクロスが頭に噛みつき、絶叫する一方で噛みつかれたはずのサンデーサイレンスは叫び声を上げるどころか無言だ。

 

 その違和感を感じたタマモクロスがサンデーサイレンスを見ると木彫りの仏像に変わっていた。

 

ふ、ふぁんやほれ(な、なんやこれ)!?」

 

「先日夜も寝ず昼寝して作成した身代わり君3号だ」

 

「夜も寝ず昼寝したことを突っ込めばいいのか、1号と2号はどうしたのかという突っ込みをすればいいのかわからなくなってきた……」

 

 頭を抱えながらビワハヤヒデがそう呟くとサンデーサイレンスが両方の疑問に答えた。

 

「バカか。夜も寝なかったら昼寝するしかないだろう。それに1号と2号はルナちゃんとたづな理事長秘書の説教の生け贄になったぞ。全く、怒られる筋合いはないと言うのに説教とは非常識にも程がある」

 

 冷めた目でビワハヤヒデに解説すると同時にルナちゃんことシンボリルドルフとたづなに怒られる理由がわからずそれにキレるサンデーサイレンスに、ビワハヤヒデが手を挙げた。

 

「いや説教の理由なんて単純なものでしょう。こんな下らないものを徹夜でつくった挙げ句、昼寝して仕事をサボるなんてそれこそ非常識そのものです」

 

 身代わり君4号に説教するビワハヤヒデにサンデーサイレンスがそれを撮影する。

 

「題名、木彫りに説教する堅物……と。むっふっふ。いいものが手に入った」

 

 サンデーサイレンスが笑みを浮かべ逃げるとビワハヤヒデが頭を抱える。

 

 

 

「なぁ、アイグリーンスキー君。いつもあのウマ娘はあんな感じなのか?」

 

「ええ、残念ながら。しかし有能な特別講師であることに変わりありません」

 

「……まあ、この身代わりを見ている限りでもスペックが高いのは違いない」

 

 ビワハヤヒデが付け加えるように「もっとも無駄な才能の使い方ではあるが」と呟き、身代わり君4号を叩く。

 

「それよりか本物のオグリキャップ先輩を探しに行きましょう」

 

「そらなんでや?」

 

「サンデーサイレンス先生は意外なところで神経質です。先ほど本物のオグリキャップ先輩が現れないように何かしらの手を打った可能性があります」

 

「サーチイズマネー、ワタシ一人見つけたらニンジン1ダース、二人見つけたらニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」

 

「オーケー、報酬はオグリキャップ先輩から剥ぎ取って下さい~」

 

「マム、イエスマム」

 

 そしてサッカーboyがオグリキャップを探しに向かい、その場から消え去る。

 

 

 

「なあ、アイグリーンスキー。もし良かったら今後も併せウマ頼めへんか?」

 

「構いませんがいいんですか?」

 

「構へん構へん。チームマシムは芦毛のウマ娘しか集まらん弱小チームや。重賞は勝ってもGⅠ競走まで届かへんのが実情や」

 

「芦毛のウマ娘しかいないって……なんでそんなところに所属したんですか?」

 

「ウチかて大手のチームに所属したかったわ! けどチームリギルには試験で落ちるし、チームギエナ*1は満員で所属不可能だったんや。そいでやむ無しにこのチームマシムに所属することになった訳や」

 

「それは仕方ないですね。メリーナイス先輩にマティリアル先輩、サクラスターオー先輩と言った去年のジュニアCの三冠レースを盛り上げた面子が揃っているんですから」

 

「しかもウチ、ダートウマ娘やと思っていたから尚更嫌われたんや。芝で走らない奴はいらない言うてな」

 

「絶対あいつだ……すみませんね。あいつが迷惑をかけて」

 

『今だから言えることだがあのトレーナーはタマモクロスに芝で走る様に伝えたかったんじゃないかと思うがな』

 

 先代が口出しするも二代目はスルーしビワハヤヒデの方へ顔を向ける。

 

 

 

「ハヤヒデ先輩は?」

 

「私はジュニアA時代に出来た怪我が原因で所属することが出来なかったんだ。木が足の中筋の少し前まで入り込んで、少しでもズレていたら競走生命に関わる大怪我だったんだ。それでチームに所属出来たのがジュニアBの一学期終わり頃でチームマシムしか募集していなかったからここに所属することになった」

 

「もうその怪我は大丈夫なんですか?」

 

「そうでなければダービーに出ない。今は傷痕だけだが見てみるか?」

 

 ビワハヤヒデがスカートを捲り、右足の腿を見せるとハヤヒデの指の太さ程の丸い傷痕がそこにあった。

 

「思ったよりも傷痕が小さくて安心しましたよ」

 

「それだけが不幸中の幸いだった。もし傷痕が広がっていたらトゥインクル・シリーズに参加出来なかったかもしれない。アイグリーンスキー君、怪我というのは馬鹿に出来ない。一歩間違えれば致命的な物になりかねないから君も気を付けることだ」

 

「ご忠告ありがとうございます。ハヤヒデ先輩」

 

 二代目がビワハヤヒデに礼を言い、オグリキャップを探すが見つからず、その場で解散となった。

 

 翌日フランスパンを口に押し込まれていたオグリキャップの姿がチームマシムで目撃され、タマモクロスが悲鳴を上げることになるがそれは別の話である。

*1チームカノープスの原型のチーム




後書きらしい後書き
ストック切れ……切れなーい! 切れそうなのは事実だけど!


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尚、次回更新は一週間後です


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第34R 芦毛の怪物目覚める

前回のあらすじ
サッカーboy「アイアムアウマ娘トレーナー」
キャプテン・グレー「同じくウマ娘トレーナー。治療をハジメマース」
タマモクロス「うぎゃぁぁぁぁーっ!?」
タマモクロス覚醒


 東京競バ場で行われる芝1600mのジュニアC及びシニア混合のGⅠ競走、安田記念。

 

 このレースが国内では年度初となるシニアとジュニアCのウマ娘達が競走出来るGⅠ競走だが、時期が時期である為にシニアのウマ娘がほとんどを占めるだけでなく、ジュニアCのウマ娘が勝った事例はジュニアCのみで行われていた時代である。

 

 今年もその例に漏れず、ジュニアCのウマ娘が出走登録をすることはなくシニアのウマ娘のみで埋め尽くされていた。

 

 

 

 閑話休題

 

 その安田記念で人気を集めていたのはオグリキャップ。地方からやってきたスーパースターということもあり断トツの一番人気に支持されていた。

 

「この勝負負けられない……私を応援している人々や地方の皆の為にも」

 

「あら、地方の皆云々はともかくここにいる皆様がそれぞれの期待を背負っていますわよ」

 

 オグリキャップの独り言に反応するマティリアルがそう呟いた。

 

 

 

「マティリアル……」

 

「ご機嫌よう、オグリキャップ」

 

「確かに貴女達にも背負うものがあるだろう。しかしそれでも私は負けない。勝って皆に報告するんだ。地方のウマ娘が中央のウマ娘相手でもやれると」

 

「それで調子に乗った地方のウマ娘がボロ負けしたら貴女の責任ですわよ?」

 

「その時はその地方のウマ娘が他のウマ娘よりも強くなかっただけのことだ。そこまで責任は持てん」

 

「無責任ですわね」

 

「強くなろうとする向上心は芽生える。そこの芝のようにな」

 

「知らないんですか? この芝は人工芝ですわよ」

 

「茶化すなマティリアル。とにかく今日のレース必ず勝つ。それだけだ」

 

 オグリキャップが再び無言になるとマティリアルがつまらなそうにそれを見る。

 

 

 

 そんなマティリアルを見ていたのは二代目とチームマシムの二人組だった。

 

「アイグリーンスキー君、本当にこのレースを見る価値はあるのか? オグリキャップ先輩の一強の安田記念で収穫があるとは思えないが」

 

「まあ普通はそう思いますよね。しかしサンデーサイレンス先生によると理想の自分のイメージと自分の現実の走りが矛盾した時に覚醒しやすくなるらしいです」

 

「しやすくなるということは既に覚醒したウマ娘が私達の他に他にもいるのか?」

 

 ビワハヤヒデがそう尋ねると二代目が頷く。

 

「ええ。昨日ジュニアAのフジキセキ、ジェニュインの二名を覚醒させることに成功しました」

 

「早い……!」

 

「フジキセキ、ジェニュインともに私とも併せウマをしたんですが何度も覚醒しないので、互いに勝つイメージさせてみたところ覚醒したようです」

 

「そんなことでええんかい!?」

 

「ええ。しかし私以外のウマ娘が覚醒出来たのはベストコンディションで最高の力を発揮出来る自分と現実の自分にギャップを感じたから覚醒したのであって、ベストコンディションの自分でも敵わないような相手に勝つイメージを自分に重ねると覚醒しないようです」

 

「本当に限界突破って奴やな」

 

「二人を覚醒させることに成功出来たのはサンデーサイレンス先生がウマ娘の情報を細部に渡りデジタル化したからこそです。つまり私やメジロパーマー先輩、そしてお二方のご協力あってこその覚醒ですよ」

 

 そしてファンファーレが響き、各ウマ娘達がゲートから出ようと待ち構えていた。

 

【安田記念スタート!】

 

 そしてゲートが開き、安田記念が開始されると先行するウマ娘の後ろの集団の先頭にマティリアル、そしてそのすぐ側にオグリキャップが続いていた。

 

 

 

「マティリアル先輩にしては珍しく中団差しの作戦ですね」

 

「せやな。あの追い込みバカのマティリアルが他のウマ娘よりも前に行くのは珍しいな」

 

「オグリキャップ先輩を意識しているんじゃないのか?」

 

「それはあるかもしれへん。あいつの差し脚は一級品……オグリを差すことが出来るのはウチだけや。他の連中はオグリより先行して逃げ切るしかあらへん」

 

 三人がマティリアルについて語れる理由は三人がマティリアルについて知っているからだ。二代目は同じチーム、タマモクロスは同期としての情報を持っており、一見何の関係もないビワハヤヒデもデータ解析の為にマティリアルの情報を知り尽くしている。

 

「アイグリーンスキー君、このレースに出ているとしたらどうするか参考までに意見を聞きたい」

 

「その時の体調次第で決まりますよ。なんて言ったって私のレーススタイルは自在。タマモクロス先輩のように追い込むことも出来ればメジロパーマー先輩のように逃げることも出来ますからね」

 

「そら偉い自信持っとんな自分。上がり3Fはいくつや?」

 

「マイルの上がり3Fですと平均33秒3、最速32秒8ですね」

 

「そら確かに追い込みでもいけるわな」

 

「しかし私がマイル路線を走ることはありませんよ。どちらかと言えばステイヤーですからね」

 

 そしてオグリキャップの方へ視界を移すとそこにはオグリキャップが内埒とバンブーメモリーの間に挟まれ道を塞がれようとしていた。ここでバンブーメモリーが道を塞けば確実にオグリキャップは沈み、良くて三着止まりが限界だろう。

 

 

 

「ここで斜行して道を防ぐことも出来るっスが、ここは真っ向勝負っス!」

 

 だがバンブーメモリーはそれをしなかった。あくまでも真っ向勝負という形で勝負しオグリキャップを正々堂々と打ち負かすことでオグリキャップに勝ったことを証明したかった。

 

【バンブーメモリーはこれを真っ向勝負で捩じ伏せる気だ。さあ勝負だオグリキャップ。オグリ、バンブー、そしてマティリアルの三つ巴の戦いになった】

 

「随分と甘いことをほざきますわね。私であれば卑怯と言われようが降着処分を受けなければ何でもしますわ!」

 

 マティリアルはそれを批判する。真っ向勝負に拘らずとも勝てばそれでいいという考えはマティリアルだけではない。

 

 むしろマティリアルのように降着しなければいいという考えは主流でありバンブーメモリーのように真っ向勝負で捩じ伏せるという考えは異端そのものに近い。

 

【ここでマティリアル更に伸びる、更に伸びる! マティリアル先頭だ!】

 

 

 

「こいつは意外やな。あの不調のマティリアルがオグリを突き放すなんて。あいつも覚醒したんか?」

 

「いやそもそもマティリアル先輩はマイラーなんですよ。それ以上の距離だとスタミナが切れて逆噴射してしまいます」

 

「……ええんかい? そないなことをべらべら喋って」

 

「喋ったところで無意味ですよ。何故ならマティリアル先輩はマイル路線しか出走しませんから今言った弱点は露出しませんよ」

 

『これを見てわかっただろう。マティリアルは本来追い込みで瞬発力に優れている。瞬発力あってこその勝負根性だ。先行して場所を取り、直線で粘るというよりも突き抜ける……それがビワハヤヒデのレーススタイルの完成形だ』

 

「そのようだな……」

 

 ビワハヤヒデが納得し、二人を見るとビワハヤヒデの中にいる魂のビワハヤヒデが口出ししてきた為に無理やりそのように返事を返す。

 

 

 

「(これが、表参道を歩んできたウマ娘だというのか……? いや、違う。これは私の十二分に発揮した実力じゃない。十二分に発揮すればマティリアルにも勝てる!)」

 

 オグリキャップがそう思考したその瞬間、オグリキャップの頭が地を這う程に下がり、超がつくほど前傾姿勢を取るやいなやオグリキャップのスピードが急上昇し府中の坂などなかったかの如くバンブーメモリーを置き去りにしてマティリアルを捕らえた。

 

【オグリ来た、オグリ来た!】

 

『せっかく前傾姿勢になっているんだ。上ではなく後ろに蹴って前に飛んで少しでもストライドを伸ばせ! 出来ない訳じゃないだろ』

 

「わかっている!」

 

 オグリキャップが自分の魂のアドバイス通りに極端のまでの前傾姿勢を利用しストライドを伸ばし前に飛ぶように走る。

 

 すると並んでいたマティリアルを瞬く間に追い抜いてしまった。

 

【オグリだ、オグリだ、オグリキャップ一着!】

 

 

 

「あり得ませんわ……あそこからあんな末脚を炸裂させるなんて」

 

「マティリアル先輩!」

 

 汗を滝のように流したマティリアルが倒れ、二代目が慌てて駆けつけるとヤマトダマシイといったチームカノープスのメンバー達がマティリアルを囲うように集まる。

 

「マティリアル、大丈夫?」

 

 メリーナイスが珍しく優しく声をかけると、マティリアルが苦笑気味に笑みを浮かべる。

 

「ちょっと自力じゃ立ち上がれませんわ。手伝ってくれませんか?」

 

「さあ行きましょうか、お嬢様」

 

 メリーナイスがマティリアルの手を取るとマティリアルがメリーナイスの肩に寄りかかりながらも歩き始めた。

 

「メリーナイス先輩とマティリアル先輩って意外と仲良いんですね」

 

「そう見えるお前は大物だ。ああ見えて双方ともにかなり牽制しているぞ」

 

 ヤマトダマシイが突っ込みを入れると二代目が二人の様子を見るがどこからどうみても互いに仲の良いウマ娘同士にしか見えなかった。

 

「あれのどこがそうなんですか?」

 

「マティリアル先輩の実家は名門シンボリ家だからマティリアル先輩に下手な皮肉は通じない。それをメリーナイス先輩はわかっているんだ」

 

「……あんな顔して牽制しあっているとか、もはや別次元の話ですね」

 

 

 

「ところで先代、競走馬の方のビワハヤヒデに何か言いたいことあったんじゃないの?」

 

『大したことじゃねえよ。てめえの弟が有馬で戦いたかった、と一言を伝えるだけだ。あいつら兄弟は俺とは顔を合わせたことはあるが、兄弟二頭が互いに顔を合わせることなかったからな。その時にブライアンの野郎がぼやいていたんだよ。お前は兄貴と戦えてズルいってな』

 

「そう言えば先代は宝塚記念で勝ったんだっけ?」

 

『そうだ。宝塚記念でセイザ兄貴(二冠馬)ハヤヒデ(菊花賞馬)を、有馬記念でブライアン(三冠馬)を撃墜させて、俺は当時の現役世界最強馬となったんだ。だが俺はその後ラムタラに二度負け世界最強の称号を奴に一時的に渡すはめになった。……二代目、絶対にアイツに勝ってくれ』

 

「わかった」

 

 先代の思いを受け取った二代目が向かった先はトレーニング場であったのは言うまでもない。




後書きらしい後書き
ストック切れ怖い……


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第35R 覚醒した者同士の対決

前回のあらすじ
オグリキャップ「すまんなマティリアル、お前の役割は私の噛ませ犬なんだ」
バンブーメモリー「なんか第18Rと同じこと言っているし、噛ませ犬すらもならないっスか?」


 6月末、阪神競バ場にてGⅠ競走であり、春期最後のグランプリレース宝塚記念が行われていた。

 

『そろそろ来るぞ、気を付けろ』

 

「当たり前や。ここから勝負どころや!」

 

 1000mを通過しメジロパーマーが更に後続のウマ娘を突き放し、差を広げていくが誰も着いていかない。いや数人を除いたウマ娘達はメジロパーマーが生み出すペースによって体力が削られ過ぎて着いていこうにも着いて来れなかった。

 

 

 

 例外のウマ娘達が着いていかなかった理由はまだ仕掛け時ではないと判断した為であり、メジロパーマーを全くと言っていいほど見ていなかったからだ。見ていたのは互いに人気の芦毛のウマ娘達だった。

 

「やるなら今しかないで」

 

 そのウマ娘の一人であるタマモクロスは宝塚記念の三コーナーにて、異世界の自分に声をかける。

 

『よし、行ってこい』

 

 その瞬間タマモクロスがオグリキャップよりも先に仕掛け前に躍り出る。タマモクロスが見ていたウマ娘、それはオグリキャップ。

 

 地方でも名を馳せトゥインクルシリーズでも名を馳せた芦毛の怪物をマークした理由はメジロパーマーがハイペースに身を任せ他のウマ娘達を潰す潰し屋である為にメジロパーマーをマークすればその先に待っているのは自滅あるのみだからだ。その為タマモクロスはメジロパーマーに次いで厄介な有力ウマ娘であるオグリキャップをマークすることで自滅を回避した。

 

 

 

 そしてもう一つの例外であるウマ娘、オグリキャップはまだ仕掛けていなかった。

 

『おい、何故仕掛けない? タマモは行ったぞ!』

 

「仕掛けようにも仕掛けられん。あのフォームはカーブだと曲がりきれず斜行する欠点がある」

 

 オグリキャップの指摘する通り、あのフォームは前傾姿勢過ぎる故に真っ直ぐに走り過ぎてカーブを曲がりきれず斜行してしまう。幾度なくオグリキャップが実証し、直線のみに用いるようにしている。

 

『しかしあれを使わずともスピードを上げるくらいのことは出来るだろう?』

 

「異世界の私らしくもない。仕掛けことしていないが種は既に撒いている」

 

『何?』

 

「直線に入ってからわかる」

 

 オグリキャップがそう告げ、ただひたすらに無難に走っていった。

 

 

 

 その頃、タマモクロスは捲りに捲って二番手集団にまで追い付きメジロパーマーを射程圏内に捉えると笑みを浮かべた。

 

「ようやっと追い付いたで」

 

 そして二番手集団から二番手になりメジロパーマーの横に並ぶとメジロパーマーが引きはなそうとする。

 

「白い稲妻嘗めんな!」

 

 タマモクロスはそれを一蹴し、自分の渾名の通り稲妻の末脚でメジロパーマーを一瞬で交わす。

 

「なんやと!?」

 

【メジロパーマーここで沈んだ。メジロパーマーここで沈んだ。先頭はタマモクロス、タマモクロスだ】

 

「こないなバカなことあってたまるか!」

 

【いや沈まない、沈まないぞメジロパーマー粘るっ!】

 

 メジロパーマーが二の脚を使い、タマモクロスを差し返そうとするが勢いのついたタマモクロスを差すことは出来ない。あくまでも粘ることだけがメジロパーマーの悪あがきだ。

 

 

 

【大外からオグリキャップ来たーっ!】

 

 しかしそのメジロパーマーの悪あがきを成敗するかの如く、オグリキャップが地を這う走法で仕留める。

 

『なるほどな。パーマーの野郎が粘れるのはタマモが他のウマ娘のペースを上げたからか。てめえはそれに気づいて敢えて仕掛けなかった。仕掛ければこんな豪脚にはならねえ』

 

「そう言うことだ。後はスパートをかけすぎたタマを一気に抜き去るだけだ」

 

 

 

【オグリキャップがタマモクロスを捉えるか、タマモクロスが凌ぐか! 真っ向勝負!】

 

 その実況を聞いたバンブーメモリーが複雑そうな顔でオグリキャップを応援する。

 

 オグリキャップに負けたウマ娘として自分を負かしたウマ娘には勝って貰いたい。ましてや真っ向勝負で打ち負けた相手ならば尚更だ。

 

「行けーっ、オグリ!」

 

 バンブーメモリーの応援によりオグリキャップが伸び、タマモクロスを捉えにかかる。

 

「タマモクロス先輩、余力を使い果たせば勝てる!」

 

 そう声を出したのはタマモクロスと同じチームのビワハヤヒデをはじめとしたメンバー。チームマシムは芦毛のウマ娘──それもジュニアA当初では評価の低いウマ娘が集まるだけあってか零細チームである。その為重賞勝利はタマモクロスが勝つ前はシービークロスというウマ娘しか名前が記載されていない。勿論GⅠ競走勝利など皆無であり、チームマシムにいる誰もが勝利に貪欲でありタマモクロスは家庭環境のせいもあってかその中でも一際目立つ程貪欲だ。

 

「ウチは絶対に負けん!」

 

「私だって地方の皆が応援しているんだ!」

 

 オグリキャップがタマモクロスに迫っては距離を維持させられ、維持させられては迫る。その繰り返しをするうちにオグリキャップが思考する。

 

「(このままでは引き分けることはあっても勝つことはない。ならゴールする一瞬だけ抜かす。そのタイミングを頼むぞ。異世界の私)」

 

『それでこそ飽くなき執念、オグリキャップだ』

 

 二代目すらも出来なかった、いややらなかったことをオグリキャップがやらかしている頃、タマモクロスもまたオグリキャップの事を考えていた。

 

 

 

「(ウチを抜かせんとなるとオグリがやることはウチの隙をついて抜かすこと、そしてそれが出来なんだらゴールする瞬間に抜かすことやな。となるとウチがやれることはただ一つ)」

 

 タマモクロスがオグリキャップに近づき、バ体を併せる。

 

『そうだ、体を併せろ。併せた時の自分の勝負根性は自分が一番知っているんだからな』

 

「オグリ、絶対負けへんで!」

 

 タマモクロスが取った作戦はオグリキャップに体を寄せて併走する、所謂勝負根性を少しでも引き出すというものだった。

 

 競走馬の中には併走をして力を発揮する者、そうでない者がいる。競走馬のタマモクロスは前者を代表する競走馬であり、タマモクロスがモデルとなった某競馬漫画の主人公(ミドリマキバオー)にも受け継がれている程だ。

 

 ウマ娘のタマモクロスも同じで勝負根性は競走馬のタマモクロスに劣らない。それ故の判断だった。

 

 

 

『よし今だ!』

 

 競走馬のオグリキャップの合図を受け取ったウマ娘のオグリキャップのストライドが更に伸びる。

 

 タマモクロスが某競馬漫画の主人公のモデルとなったようにオグリキャップの走法もまた某競馬漫画のライバル(カスケード)の走法に酷似している。

 

 それは何故かというとそのライバルの走法モデルとなった某競走馬が競走馬のオグリキャップと同じ走法だった為にそうなってしまっただけの話だ。

 

 

 

 その走法を産み出した張本馬から指導を受けたオグリキャップが通常であれば追い付くことすらままならないタマモクロスを捉える。

 

「観念しろ」

 

「それはウチのセリフや!」

 

 宝塚記念史上稀に見るデットヒート。そんな勝負に勝利の女神が微笑んだのはタマモクロスだった。




後書きらしい後書き
ストック切れました……


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