ウマ娘プリティーダービー~青き伝説の物語~ (ディア)
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ジュニア級編
第1R 追放からの覚醒


サンタクロースに変わってディア推参!

ということでまたしても新作投稿です。この小説を書いたきっかけは単純にウマ娘の二次小説を愛する読者の皆さんにクリスマスプレゼントとしてお贈りしたかったからです。作者のクリスマスプレゼント? そんなものはこの小説を思い浮かんだ天啓だよ。

尚、クリスマスプレゼントついでにウイポ7の裏技というか小ネタ。トキノミノルやオーモンドと名付けることは出来るのにカスケードと名付けることは出来ない。


 ウマ娘。異世界の競走馬達の名前と魂を受け継いで生まれてきた少女達のことで彼女達は超人的な走力を持ち、その力を発揮すべくトレセン学園に在籍し、国民的スポーツ・エンターテイメント「トゥインクル・シリーズ」への参加に向けて特訓に励んでいる。

 

 

 

 神秘性すらも感じさせる青髪のウマ娘もその例に洩れず特訓に励んでいたが突如倒れ、病院で入院することになった。

 

「お前はもうチームから追放だ。デビュー前に倒れるような軟弱な奴はこのチームに向かん」

 

 病院のベッドで横たわる青髪のウマ娘にトレーナーは冷酷にそう告げた。

 ウマ娘はチームに所属し、そこのトレーナーに指導及びレース登録する。つまりチームやトレーナーあってこそのウマ娘であり、それらから見放されれば死刑宣告を告げれたも当然だった。

 

「……わかりました」

 

 顔をうつむかせながら答える青髪のウマ娘の名前はアイグリーンスキー。彼女は過剰なトレーニング、寝不足による貧血、その他諸々の理由で倒れてしまった。アイグリーンスキーも体調管理はなってなかったと自覚しているし、チームにも負担をかけてしまったとも自覚している。

 

 しかし体調管理云々以前にハードトレーニング過ぎた。彼の所属するチームは一流のウマ娘も集まり多数のGⅠレースも獲得しているのだが、ほとんどが故障による引退。中には命すらも落としたケースもある。アイグリーンスキーをはじめとしたウマ娘達はそれでも強くなれるのであれば彼のチームに所属し、彼を信頼してトレーニングを積んで強くなろうとした。その代償がチーム追放であり、アイグリーンスキーはその理不尽さに拳を握りしめる他なかった。

 

「じゃあ一応伝えておいたからな。これ以上お前に付き合う義理はない」

「……ありがとうございました」

 

 感謝の言葉を口にしながらも声が震えており、怒りを隠しきれず彼の背中を憎悪を込め、睨みつける。今の彼女に出来ることはこれ以外になかった。

 

 

 

「……何がいけなかったんだろう。何とかしないと」

 あのトレーナーの指導か、あるいは勉強のしすぎによる寝不足か、それ以外によるものか。アイグリーンスキーは天井を見つめながらそれを考えるといつの間にか目を閉ざしていた。

 

『そう焦るなよ』

 

 声が響き、アイグリーンスキーが目を見開き辺りを見渡すが誰もいない。いるのは自分一人だけだった。

 

「気のせい……?」

『気のせいじゃねえ。お前に話しかけているんだよアイグリーンスキー!』

 どこからともなく声が響く。しかしやはりと言うべきか辺りを見渡しても誰もいない。そこへ再び声がかかった。

『俺はお前自身だから辺りを見渡したところで俺はいねえよ』

「私自身?」

『おうよ。俺はお前の前世の魂だ』

 その声の主はアイグリーンスキー自身を騙る者であった。

 

「ぜ、前世?」

 そんなことがあるのだろうかとアイグリーンスキー(ウマ娘)が思考した。

『そもそもウマ娘ってのは異世界にいる競走馬が生まれ変わった姿なんだ。そして競走馬だった俺が転生したのがお前だ』

「はぁ」

 生返事でアイグリーンスキー(ウマ娘)がそう答える。もしこの話しを彼女だけではなく別のウマ娘達に話しても理解出来るかどうか怪しいものであり、まだ年若いアイグリーンスキー(ウマ娘)も理解していなかった。

『何が何だかわからねえって感じだな? 歴史の授業で習っただろ。ウマ娘の遠い先祖は四足歩行の動物だって。人間と触れ合ううちに二足歩行に進化したのがウマ娘になった訳だ』

 

「うん……」

『ところがだ、二足歩行に進化しなかった世界がある。それが俺達の世界だ。四足歩行のまま長距離を走ることに特化したのが馬、つまり俺達の遠いご先祖様。そこから更により速く走ることに特化したのが俺達競走馬だ。その競走馬の生まれ変わりがウマ娘なんだよ。実際俺が知る競走馬もウマ娘になっているしな』

「ほへー。本当にそんな世界があるんだ」

 感心した声でアイグリーンスキー(ウマ娘)が頷く。

 

『話しを戻すぞ。お前が焦る必要がないのは俺だってクラシック級に相当する年齢でデビューしたんだから、現時点で学年末とはいえジュニア予備組のお前が焦る理由はない』

「でも!」

『宝塚記念、凱旋門賞、JC(ジャパンカップ)、有馬記念、これらのレースをデビューした年で制したんだ。同期の三冠──つまり皐月賞、東京優駿、菊花賞を制した奴を差し置いて年度代表馬、この世界だと年度代表ウマ娘に相当する賞を貰ったんだ。そんな俺の言うことを聞けないのか?』

 

 ここでアイグリーンスキー(ウマ娘)は考える。このアイグリーンスキー(競走馬)の言うことが本当であれば、現役ウマ娘最強のシンボリルドルフを凌ぐことになる。

 シンボリルドルフは歴史上初めて無敗で三冠を制した日本史上最強とまで言われるウマ娘である。しかしその彼女ですら凱旋門賞どころかクラシック級でのJCを制覇することが出来なかった。そんな彼女がデビューしたのはジュニアの後期に差し掛かったあたりであり、それを少し遅らせるだけでそんなビッグタイトルを獲得出来るのであれば、名誉欲の強いアイグリーンスキー(ウマ娘)なら首を縦に動かす。ましてやその年の三冠ウマ娘を差し置いて年度代表ウマ娘になるのであれば尚更だ。

 

「………………聞く」

 アイグリーンスキー(ウマ娘)がその誘惑に負け、縦に頷くと機嫌を良くしたアイグリーンスキー(競走馬)が声を響かせた。

『それで良い。そもそも俺がこうやって話せるだけでも有難いと思えよ? レース展開やペース、トレーニングを教えられるんだからな。特にトレーニング指導はトレーナーのいない今のお前にとって一番必要なものだろ?』

「それは確かに……」

『流石にウマ娘特有の走り方の指導は無理だが、大体のことは教えられる。何せ俺は生涯負けたのは3戦だけだしな』

「無敗じゃないんだ……」

 

『まあそういうことだ。一緒に歩もうぜ、アイグリーンスキー』

「でも貴方のことはなんと呼べばいいのかわからないのだけど」

『む。それもそうか……長男には雷親父、末っ子にはクソ爺だの散々な言われようだったからな……』

「私ってそんな競走馬の生まれ変わりなの!?」

 

 アイグリーンスキー(ウマ娘)が「ウソでしょ……地震雷火事親父のうち二つ付くなんてあり得ないし……何が一体どうしたらそんなアダ名になるの?」などとぶつぶつ言いながら影を落とし落ち込む。もちろんそれをアイグリーンスキー(競走馬)はスルーした。

 

『よし決めた。先代でどうだ。前世だと語呂悪いし、先代なら呼びやすいだろ? 二代目』

「それじゃ宜しく先代アイグリーンスキー」

 こうしてウマ娘アイグリーンスキーは競走馬アイグリーンスキーの力を借り、デビュー戦までの調整をすることになった。

 

 

 

「まあ、もっとも私が倒れたのは過労によるものだから、一週間も経たずに退院出来るんだけどね」

『それはごもっともだ』




クリスマスプレゼントということでこの小説を書きましたがお楽しみ頂けたでしょうか? お楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。


後書きというか蛇足。

私は浮気症で他の小説を書いたりしますが新規投稿する前に4話くらい書いてから予約投稿することにしてします。そうでもしないとモチベーション維持出来ませんから……
この小説も然りで次回は28日に予約しています。次回もお楽しみにして下さい。

尚、これよりウマ娘の方は二代目、魂の方は先代と表記していきます。

ちなみにこの小説は青き稲妻の物語という私がハーメルンとなろうの方で投稿させて頂いている小説とウマ娘のクロスオーバーものであり、この小説の主人公はその小説の主人公の父親です。
このアイグリーンスキーの血統が知りたい方は青き稲妻の物語で知ることが出来ますが、次回の前書きに父と母、母父の三頭の馬を記載しますので次回もぜひ見てください。


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第2R 覚醒の実感

ご拝読ありがとうございます! という訳で約束通り前世の主人公の血統を明らかにします

アイグリーンスキー
父 ニジンスキー
母 アイヴィグリーン
母父 グリーングラス



~前回の粗筋~

主人公「追放されたら魂の自分と話せる件」



アイグリーンスキー(ウマ娘)こと二代目が退院し、トレセン学園に戻るとそこで待っていたのは歓迎ではなかった。トレーニングをしようとトレーニング場に入る許可を取ろうとすればチームに所属していないので拒否され、図書館で本を借りようと手を伸ばせば他のウマ娘に横取りされ、食堂に行けば空いている席がない。

 

 

 

そんな彼女の居場所はただ一つ、自分の部屋だった。

「先代……どうしよう、こうも八方塞がりだと何も出来ないよ」

『座学に関しては教科書を読んで説明出来るようになればいいが、それはお前次第だ。トレーニングに関しては俺が指導してやるって言っているだろ』

「トレーニングってどこでやるの?」

 

『川だ』

「……はい?」

二代目がたった一単語のみで思考を停止させた。それを見たアイグリーンスキー(競走馬)こと先代が声を響かせた。

 

『川を泳いでとにかく体力をつけろ。確か許可さえ取れれば外に出れるはずだ』

「そんな無茶苦茶な……それに許可なんて取れないよ」

 

『ごちゃごちゃ抜かすな。抜かしていいのは前を走るウマ娘だけだ。気合いでも何でも外に出るように言いやがれ! どうせここの施設は使えないんだ。ならここにいるだけ無駄だ』

 

先代の言うことは正しく、このままトレセン学園に居ても何もすることがなくただ腐っていくだけだ。それをわからない二代目ではなく、代案を出すことにした。

 

「じゃあ、チームに所属出来たら別のトレーニングメニューを考えてよ! 流石にこの季節で川に入るなんてことしたくないから!」

『出来たらな。諦めの悪い野郎だ、いやウマ娘だ。そんなことは無駄だってのに』

「そんなんだからクソ爺って言われるんだよ」

『クソ爺は止めろ。クロスを思い出す』

そして先代の気配がなくなると、二代目はため息を吐き、歩き始めた。

 

 

 

「アイグリーンスキー!」

歩く二代目を止めたのは鹿毛の前髪にメッシュの入ったウマ娘であり、それは現在誰もが憧れる生徒会長、シンボリルドルフその人──ウマ娘である。

「シンボリルドルフ会長」

『こいつがシンボリルドルフなのか』

先代がウマ娘となったシンボリルドルフを品定めするように沈黙すると納得したように二代目の中で声を響かせる。

『確かに似ていなくもないな。セイザ兄貴を擬人化したらこうなるんだろうな』

 

セイザ兄貴とは誰なのか。それを先代に尋ねたかったがここで喋っても先代の声は他のウマ娘に聞こえない為に、シンボリルドルフに不審に思われるだけで後で尋ねることにした。

 

「なあアイグリーンスキー、私の所属するチームリギルに所属しないか? 丁度募集していたところだ」

「ぜ──」

『妙だな。シンボリルドルフほど名前が知られているならそのミーハー達が尻追いかけて所属しようとするはずだから定員割れを起こさないはずじゃないのか?』

 

二代目が条件反射で答えようとするとそれを防ぐように先代が脊髄反射で口を挟む。確かにシンボリルドルフの名前は学園中で知れ渡っており定員割れを起こす事態は稀にしか起こらず、そんなことが起きれば大ニュースになるだろう。

 

「チームリギルに何があったんですか?」

「リギルに所属していたウマ娘がとある事情で引退してな、急遽枠が出来た」

「引退!?」

 

「そこでおハナさん──チームリギルのトレーナー──がチームギエナを追放されたお前のことを聞いたらしく、気に掛けていた」

『リギルのトレーナーも見る目があるじゃねえか。末っ子達の時代は年間GⅠ4勝する奴はアホみたいに増えたが、俺が現役時代の時は年間GⅠ4勝するどころかGⅠ4勝出来る奴は滅多にいねえ。俺は年間GⅠ4勝したからその素質を買ったんだろう』

GⅠを4勝するだけでも超一流だというのにそれをたった一年間でこなしてしまう馬がいる。そのような馬は三冠と同じ以上の価値があると言っても過言ではなく、先代が同期の三冠馬を押し退けて年度代表馬となったのもそれが理由だ。

 

「私はお前を純粋に評価している。チームリギルのテストを受けてみないか?」

「わかりました受けましょう」

「受けてくれるか。明日の午前10時に東京競バ場で行われる。遅刻は厳禁だ」

「何円払えばいいんですか?」

「……罰金じゃない厳禁だ。厳格の厳に禁止の禁と書いて厳禁だ」

二代目のボケにシンボリルドルフが口元を表情筋で抑えながらツッコミを入れる。

「そっちの厳禁なんですね。わかりました。それではよろしくお願いいたします」

そして二代目とシンボリルドルフが別れるとしばらくの間、厳格で知られている生徒会長の部屋から笑い声が聞こえるという摩訶不思議な現象がトレセン学園七不思議の怪談の一つになったのは余談である。

 

 

 

そして翌日、そこにはチームリギルに所属を希望するウマ娘達が殺到した。

『二代目、予想以上の数だな』

「でも関係ないよ。レースは一着以外全て負け。この中で一番速いウマ娘を抜かせば勝ちだよ」

『それはそうだ』

「私が欲しいのは一番人気じゃない、一着だよ」

『どこかで聞いたことのある名言だな』

先代がそう呟くと名前を呼ばれ、二代目がそこへ向かう。

 

「ではこれより試験を始める」

リギルのトレーナー、ハナが声を出しここに集まったウマ娘達に説明し始めた。

「これからお前達には日本ダービーやJCと同じ条件の模擬レースを行ってもらう。簡単に言えばこの東京競バ場で2400mのタイムトライアルレースだ。その結果を参考に二名、チームリギルに所属内定を決めさせる。尚、この内定を蹴っても構わない上に今後リギルの所属テストを受けさせないというような不利を与える訳ではないので安心して欲しい」

その寛大な処置にウマ娘達が騒然とする。それもそのはず、チームの内定を蹴ることはそのチームに対する裏切り行為そのものである。裏切り行為にも関わらずそれを許すあたり、ハナは優れたカリスマの持ち主であるとウマ娘が思ってしまうのは当たり前だった。

 

「ゲートには奇数番号の若い順から偶数番号の遅い順に入ってもらう。1番から入れ」

「はいっ!」

一番のウマ娘が元気よく返事をすると、次々とウマ娘達がゲート入りし始める。

「8番!」

そして二代目が呼ばれ、ゲート入りするとその隣にはいつも話し相手になっているウマ娘がいた。

『二代目、右隣のこいつはめちゃくちゃ強いぞ。こいつが一番のライバルだと思え』

「うん。頑張るよ」

「?」

ぶつぶつと独り言を言う二代目に隣のウマ娘達が首を傾げる。そんなウマ娘を他所に、ハナが全員ウマ娘をゲート入りさせ終わり距離を取り始めた。

 

「位置について!」

ハナの掛け声に全員の顔が引き締まり、片腕と逆脚を前に、もう片腕と脚を後ろにし構えた。

「よーいスタート!」

そしてハナが合図を出すとゲートが開き、ウマ娘達がスタートダッシュを決めた。

 

 

 

『さて、二代目。わかっていると思うが若葉を咥えたウマ娘をマークしているんだろうな?』

「当然。ナリタブライアンでしょ」

隣のゲートにいたウマ娘もといナリタブライアンの後ろにピッタリマークする二代目が答える。

『前世ではシャドーロールの怪物と恐れられた競走馬だ。朝日杯3歳S──こっちの世界でいう朝日杯FSとクラシック三冠を勝っている。晩年はレースのローテーションが酷くてGⅠ勝利は出来なかったが、俺が最初にJCを勝つまでは最強馬と言われていた』

「それで?」

『奴の勝ちパターンは中団待機からの差しだ。差した後は手を抜かず、ひたすら千切って差を広げる豪快な勝ち方で一番相手にしたくない馬だった。おそらくこいつもそうだろう』

「……弱点は?」

『今の二代目じゃ敵う術はただ一つ、奴が加速したところでバ体を併せて競り合いをしろ。ナリタブライアンは全盛期以降ならともかくデビュー当時は臆病な馬だったんだ。今の奴もその可能性がある。それで怯まなかったら諦めろ』

「ペースとかそんなのは?」

『俺が何も言わない時点で察しろ』

「うへぇ……」

 

 

一方その標的であるナリタブライアンは二代目がぶつぶつ独り言を呟いていることに気味悪さを感じていた。

 

「(グリーンの奴、チームギエナを追放されてからずっとあんな感じだが一体何なんだ? まるで何か得体の知れないものと会話をしているかのようだ)」

 

そして二代目をナリタブライアンの視野に入れようとするとそこにはおらず、ますます不気味さが増していく。

 

「くそ、やりづらいな」

 

ナリタブライアンがカーブし視野を広げても二代目の動きは見えない。まさしく幽霊を相手にしているような感覚にナリタブライアンが悪寒を覚え、残り1000m以上あるにも関わらず仕掛けた。

 

 

 

『ブライアンが仕掛けた? やはり若いな』

自分が元凶とは知らずに、先代が喜びの声を出す。

『二代目、残り800mで仕掛けろ! ナリタブライアンが自滅した以上、それさえすれば勝てる!』

「了解!」

ウマ娘達が、突然二代目の声に驚き二代目に注目をする。その瞬間、二代目が下がった。

「えっ!?」

驚き二連発と言わんばかりにウマ娘達が二代目の動きを目で追いかけるが、同時に前に行き始めたナリタブライアンを捉える為にそちらに視野に入れなければならず二代目を視野に入れることをしなくなった。

 

 

 

「(何をしたかと思えば敢えて遅くして外に持ち出しただと? そんなもんアタシの豪脚でぶっちぎる!)」

それを唯一、一部始終見ていたウマ娘ヒシアマゾンが上がっていった二代目をマークするように仕掛ける。

「……だよね」

ヒシアマゾンのことなど眼中にないと言わんばかりに二代目が独り言をぶつぶつと呟く。それを聞いたヒシアマゾンがキレた。

「てめえ、アタシを無視すんじゃねえぇぇぇっ!」

 

 

 

『くそっ! まさかこいつが大声を出すとは誤算だった。お陰でナリタブライアンにバレた!』

先代の作戦がヒシアマゾンの短気によって崩され、先代が舌打ちをする。

「まだ慌てるのは早いよ!」

「何っ!?」

二代目が声を出した瞬間ヒシアマゾンが声を出す。

「私の目標はこの中で一番最初にゴールすることだよ。アマちゃんをマークしていないのはそうだけど無視していないって訳じゃないんだよ!」

二代目が声を荒げ、ヒシアマゾンを突き放し、ナリタブライアンに迫っていく。

「くそっ待ちやがれ!」

それを許すヒシアマゾンではなく、差し替えそうと捲り、スピードを上げていくがそれでも追い付けない。

「グリーンの野郎、あそこまで速いなんて……予想外だ」

自分以上の豪脚を持つ二代目にヒシアマゾンの心が折れ、三着止まりとなった。

 

 

 

残り200mとなったところでナリタブライアンと二代目が並んだ。

「さあナリタブライアン、勝負!」

「……上等!」

『アマゾンのせいでナリブの野郎にバレたのは痛いがナリブも自滅したから五分五分ってとこか。後は二代目の脚次第だ!』

二代目とナリタブライアンの競り合いに誰もが口を挟めない。それは三番手まで上がってきたヒシアマゾン、そして二代目の中にいる先代とて然りだ。

「まだまだっ!」

「あんたの心へし折ってやる!」

ナリタブライアンと二代目が三番手以降を突き放し、凄まじいデットヒートを繰り広げる。その様子はまさしく有馬記念のトウショウボーイとテンポイントの一騎討ちそのものだった。

「負けてたまるかぁっ!」

「絶対に勝ってやらぁっ!」

そんな彼女達二人のうち一人に勝利の女神が微笑んだ。

『今だ、てめえの闘志を力に換えろ!』

先代のアドバイスに従った二代目が脚に全ての力を込め、踏みしめると僅かにナリタブライアンより先行し、ゴールした。




はいこの第2Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2018年12/31です。

そう言えばS濃すぎさんが書かれている【STARTINGGATE-ウマ娘プリティーダービー-】で発掘作業着を着たスペシャルウィークを見た作者の感想がこんなん

作者「ミスタープロスペシャルウィークやないかい!」

以上、ミスタープロスペクター(金の採掘者)とスペシャルウィークをかけた駄洒落でした。


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第3R 試合と勝負の結果

前回の粗筋

アマゾン「アタシは蚊帳の外か!?」
ナリブ&主人公「絶対に勝ってやる!」


「一着 アイグリーンスキー。二着 ナリタブライアン。三着 ヒシアマゾン。四着 エアダブリン。五着 スターマン」

以降、次々とゴールした順に名前を呼ばれ、先代が口を挟む。

 

『ふぅ~、勝ったか。ヒシアマゾンに邪魔された時はヒヤッとしたが流石俺と同じ名前を持つ二代目だ』

「先代、最後はありがとう。あれのお陰で勝ったよ」

先代の遠回しな自画自賛を無視して二代目が先代に頭を下げた。

『最後のは俺のお陰とは言いがたい。あれはチームギエナの根性論がお前の身に染みていたから出来たことだ。もしチームギエナにいなかったら負けていただろう。皮肉なことにな』

「そう言えば競り合うウマ娘は皆潰せがギエナの方針だったね……」

 

二代目がうんざりした顔でチームギエナの時にいた頃を思い出す。今思い出すだけでも超が二つ三つ付くほどスパルタでそこにいたウマ娘達はよくチームを離脱しなかったなと思えるほとであった。その前に辞めさせられているのが事実だが。

 

 

 

ウマ娘達がゴールしてからしばらくしハナがウマ娘達を集め口を開いた。

「さて今回の模擬レースの結果を元に、内定者を発表する」

ウマ娘達が上位二名である二代目とナリタブライアンを見つめるが予想外の名前がハナから放たれた。

「ヒシアマゾン」

「え、アタシ!?」

ハナの口から出てきたウマ娘の名前は三着になったヒシアマゾンだった。ヒシアマゾン自身もこれには予想外でハナに視線で問い合わせるとハナがそれに答えた。

 

「ヒシアマゾンは荒削りかつ豪脚のみで三着に粘ったことを考慮し、成長力があると見込んで内定者にした」

「じゃあ、アイグリーンスキーかナリタブライアンかのどちらかが落ちたってことになるけどそれは一体?」

「アイグリーンスキーだ。内定者はナリタブライアンだ」

 

はっきりとハナが告げると二代目が涙目になり、それを先代があやす。その様子はまさしく親子のようだったが、先代の姿どころか声すらも誰にも聞こえないのでただ二代目がぶつぶついいながら泣いているだけだった。

 

「……何故ですか?」

「ナリタブライアン、それを聞くのか?」

「はい」

「良いだろう。ナリタブライアン、お前が負けた理由は前までチームに入っていたかいなかったかの違いだ。もしお前がチームに所属していれば早仕掛けも僅差で負けることもなかった。何も所属していなかったにも関わらず僅差まで追い詰めたお前の素質を評価して内定者にしたんだ。アマゾンも同じ理由だ。以上だ、他に質問あるか?」

「……ありません」

「では解散!」

その声にウマ娘達が解散しナリタブライアンとヒシアマゾンの二名以外はふらふらと足取り重く帰宅することになった。

 

 

 

「チームに所属していたら不利なんて聞いてないよ……」

シンボリルドルフに推薦され一着でゴールしたにも関わらず、リギルに所属することは叶わず。どれだけこの世界が理不尽な世界かということを二代目は知る。

『どうやら天の神様ってのは何が何でも二代目の指導者を俺にしたいらしいな。それともチームギエナのトレーナーが根回しをしているのかのどちらかだが』

「……先代、聞いていい?」

『言ってみろ』

 

「先代の世界ってどんな世界なの?」

『ウマ娘がいない代わりに競走馬がいるってこと以外は基本的にはこっちとそう変わらないな』

「そうなの?」

『ああ。こっちの世界でウマ娘用の固定電話や携帯電話の機能があるって時は驚いたぜ。それに荷物を運ぶのに適した馬がいないのにここまで文明が発達したのも驚きだ』

 

「じゃあ質問を変えるけど、先代が競走馬だった頃、こっちの世界でいうトレーナーはいたの?」

『ああいたぞ。調教師、厩務員、調教助手の三種類の職員がトレーニングや体調の管理をしていた。さらに騎手という競走馬に騎乗して競走馬を巧みに操って勝利に導かせる職業もあったぞ。今の俺のような立場だな』

「え、それじゃ皆私と先代みたいに魂と意志疎通が出来るの!?」

『異世界の競走馬が転生した云々について語っていることから、俺達の前例がない訳ではないが極稀なケースだろう。もし全員が意志疎通出来るなら既に学園内の座学で教えられているはずだ。そうでなくともチームのトレーナーが指導するはずだ。その方がよっぽど効率がいいからな。俺達のケースが稀なだけだ』

「言われてみれば確かに……」

 

『でその調教師、厩務員、調教助手の三職がどうしたって?』

「先代はどんな人に管理されたの?」

『遠征のエキスパートだ。どこにいっても実力を発揮出来るような強さを持たせるようにするのが上手かった』

「じゃあ私もその人を探せば──」

『俺達競走馬の世界とウマ娘の世界では管理する人が同一とは限らない。むしろ異なっているのが当たり前なくらいだ。チームリギルもその例だ』

「え?」

 

『リギルの先輩にマルゼンスキーとシンボリルドルフがいるだろ?』

「え、もしかして……」

『俺達の世界ではマルゼンスキーとシンボリルドルフは同厩舎、つまり同じチームじゃなかった。その他にもサクラスターオーとメリーナイスもこの世界ではチームギエナで同じチームでも俺達の世界では別の厩舎でズレがある』

「ええっ!?」

『まあそういうことだ。何もトレーナーまで同じ奴を探す必要はない。もっともそれ以前に俺との約束を守ってもらうがな』

「そうだった……」

『さあいけいけ。チーム所属はとっておきの方法で出来るからさっさと外泊許可をもらいに行け!』

先代の声に憂鬱になりながらも外泊許可を貰いに足を進める二代目。その数分後、二人とも予想しない事態が起きた。

 

 

 

「あっさり半年間も外泊許可が取れたのは何故だろうか」

『全く以て不可解な現象だ。ここまで簡単に取れると却って不自然だな』

 

それは拍子抜けするほど簡単に外泊許可を取れたことだ。外泊許可を受けるに当たっては長くなるほどそれなりの理由が必要であるが二代目に関しては理由も聞かずに即座に許可を出してくれた。あまりにもあっさりと許可を出したので二人とも警戒してしまう。

しかもその上、メールで課題が提示され、それをこなした上でトレセン学園に郵送すれば授業に出なくとも良いとも許可を貰っていて外泊というよりかは自由気ままな放浪旅であった。

 

「それで先代、川で体力つける云々は冗談だよね?」

『いやそれなりに本気だったが、予想以上にお前の体力があったから別のトレーニングを考えている』

「本気だったんだ……危なかった、ナリタブライアンに勝ててよかった」

安堵のため息を吐くと共に、とあるウマ娘が二代目の視界に映り、そのウマ娘に声をかける。

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩」

 

そのウマ娘はヤマトダマシイ。チームギエナのメンバーの一人であり、二代目にとって姉のような存在で、チームギエナを追放されてから疎遠になっていたが、倒れた二代目を病院に運んでくれただけでなくチームギエナにいた頃はよく世話になっていた。

 

「グリーン、体の方はもう大丈夫そうだな!」

ヤマトダマシイが喜びの声を上げ、二代目に抱きついた。

「ええ、チームギエナを追放されてから会えませんでしたが先輩には感謝の声しか出ません」

二代目の言葉にヤマトダマシイが硬直した。

 

「つ、いほう? グリーンが自主的に辞めたんじゃないのか?」

「ええ。病院で、お前のような軟弱な奴はいらないとクビにされました」

「あのやろう! グリーンがギエナの練習に耐えきれず逃げたヘタレなんて大嘘吐きやがって!」

ヤマトダマシイが地団駄を踏み、怒りを表し、放っておいたらすぐにでもその矛先はトレーナーへと向かうだろう。

「倒れた以上、強ち間違いでもないんですけどね」

「それがおかしいんだ。ウマ娘はデリケートなんだ。合う練習と合わない練習がある。トレーナー足るものそれは絶対にしてはいけないことなんだ。それをするどころかウマ娘のせいにするなんて最低ゲス野郎のすることだ」

「まあ、それは言えなくもないですけど」

「後、二戦したら私もチームギエナを脱退する。そしてあいつの悪行を公表するんだ」

「先輩……」

 

 

 

「ところでその荷物はなんだ?」

ヤマトダマシイが二代目の荷物を指差し、それを見つめる。その荷物の量は授業に出るにしては過剰過ぎた。

「これですか? これは武者修行の旅に出ようと思いまして。ちゃんと学園の許可もありますから安心して下さい」

 

二代目がヤマトダマシイに外泊許可証を見せると納得した声が響く。

 

「武者修行か。あれから他のチームに所属していないのか?」

「所属活動はしましたが成長力がないと言われまして、それならいっそ独自で鍛えた方が強くなれるのではないかと思って武者修行の旅に出ることにしました」

「なあ、グリーン。もし武者修行が終わったら私が立ち上げるチームに所属しないか?」

「お世話になった先輩の勧誘なら喜んで」

「よかったよかった。お前がそう言ってくれるだけでもありがたい。それじゃ武者修行頑張るのもいいが体に気をつけてな」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

「先代、これからどうしようか?」

『…………』

 

ヤマトダマシイと別れ、二代目が先代に声をかけるが無反応。まるで誰もいなくなったかのような孤独感に襲われる。

 

「先代?」

『ああすまん。少し考え事をしていたんだ。あのヤマトダマシイの名前、前世でも聞いた覚えがあるんだがどうも思い出せない。GⅠを勝っているって訳でもなければルックスを見込まれ誘導馬として有名になった訳でもないのは確かなんだよな』

「そうなの? 滅多に褒めないトレーナーが逸材だと褒めまくるウマ娘なのに?」

『どうしてこう記憶に靄がかかって思い出せないんだ。前世は50以上生きたからボケているのか?』

 

ちなみに競走馬で30まで生きれば大往生すると言われる年齢であり、その1.7倍以上生きた先代はまさしく妖怪とも言える。しかしそれを知らない二代目はその事に関してスルーした。

 

「先代、何かヤマトダマシイ先輩について思い出したことがあったらすぐに言って下さいよ?」

『わかった。思い出したら話す』

その後、先代はヤマトダマシイについて一日に何度か思いだそうとするがそれに気づくのはしばらく後のことだった。




今回出てきたヤマトダマシイは、ビワハヤヒデ世代の一頭で誰もこんな競走馬を知らないだろうと思い、取り上げました。ヤマトダマシイがビワハヤヒデ達BNW三強に割り込む逸材だったというエピソードも史実に沿っています。そんな彼の生涯はネタバレになるのでいずれ書かせていただきます。

はいという訳でこの第3Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は西暦2019年1/1です


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第4R 古き良きウマ娘達

前回の粗筋

ハナ「ナリブとアマゾンは成長あるからそっちを採用だ」
主人公「試合に勝っても勝負に負けた」


 波乱が起きた有馬記念が終わり、各学年のウマ娘達が進級し、ジュニア予備組だった二代目はジュニア級になった。

 

「流石名門メジロ家だね。期待されていなくともグランプリ連覇なんて凄いね」

「ねー。あんなバカ逃げで勝つなんてあり得ないよねー」

 

 ジュニア級のクラスに限らず、そのような話題が飛び交うがナリタブライアンとヒシアマゾンは自分のクラスのウマ娘を話題にしていた。

 

「アマさん、アイグリーンスキーについて何か聞いたか?」

 そのウマ娘とはナリタブライアンとヒシアマゾンを模擬レースで先着したウマ娘アイグリーンスキーこと二代目だった。二代目はヤマトダマシイ以外に外泊することを知らせておらずそれはナリタブライアン達とて同じだ。

「いや、こっちの情報はなし。美浦寮の寮長にも聞いてみたがさっぱりだった」

「そうか……」

「なあブライアン、一つだけ行っていない場所があるんだがそこに行ってみないか?」

「そこはどこだ?」

「チームギエナだ」

 

 

 

 そして場所は変わり、二代目は青森にいた。

「こんなの無理無理!」

『諦めろ。これが強くなる一番の近道だ』

「津軽海峡を泳いで北海道までいくなんて正気じゃないよ! しかも冬の時期に!」

 

 更にいうなら亜寒帯の真冬ということもあってか気温は氷点下、天気は雪という有り様でこんな時に泳ごうものなら自殺行為と見なされても仕方ないだろう。

 

『いいからさっさといけ』

 先代が冷酷に体の主導権を奪い取り、無理やり海の中に入らせた。

 

「うぎゃーっ! 寒い寒い寒い、凍る凍る凍る、死ぬ死ぬ死ぬ! 助けてーっ!」

 

 手足をバタつかせ、必死にもがき陸へと泳いでいく二代目。先代は二代目を凍死させたいのだろうか? 

『死にたくなきゃとにかく体を動かして暖めろ! 無理にでも動かさないと凍死あるのみだ!』

 先代が再び体の主導権を奪い取り陸から離れていく。

 

「スパルタ過ぎるぅー!」

 

 泣く泣く二代目が泳ぐが、余りの寒さに二代目の白い肌が真っ赤に染まっていく。それを見たウマ娘が船上からロープを繋いだ浮き輪を二代目の前に投げた。

 

「そこのウマ娘、これに捕まるだ!」

 二代目は先代に体の主導権を奪われないように必死に浮き輪に捕まり船上に打ち上がった。

 

 

 

「た、助かりました……」

「礼はいいさ。それよりなして泳いでいたんだ?」

「北海道にいくまでのお金がなくなってしまいまして……」

 

 半分は事実であり、途中資金を体の主導権を奪った先代が重りに使ってしまい返品しようにも出来ないようにしてしまった。いくら捨てても次の日には必ず戻ってくるので泣く泣く装着しながら旅を続けていた。そして現在に至る。

 

「それで泳ごうとしたんだか?」

「はい」

「いやバカだべ。いくら金が尽きてもそれはないだよ」

 呆れた顔で方言の強いウマ娘が二代目を見ると二代目は何も言えなかった。

「全く以てその通りです」

 

「ところで名前聞いていなかったんだが何て言うんだ?」

「アイグリーンスキー。貴女は?」

「グリーングラスだ。こう見えてもGⅠ3勝ウマ娘だべ!」

『このウマ娘がグリーングラス……!』

 そのウマ娘の名前を聞いた先代が尊敬の声を出した。

 

「グリーングラス……それってマルゼンスキー先輩の一つ上の世代の、グリーングラス先輩ですか!?」

「おお、マルゼンちゃんはまだ現役なのか?」

「ええ、元気にやっていますよ」

「良かっただ。オラ引退して故郷に戻ったはいいもの、田舎過ぎてマルゼンちゃんと連絡つかなかったから不安で堪らなかっただよ」

「……もしかして携帯電話を持っていないんですか?」

「なんだそら?」

「これですよ」

 そして二代目が防水性の端末機を取り出すと興味深そうにそれを触り始めた。

 

「これボタンがないべ? オラをからかっているのか?」

「今から電話してみせますよ」

 そして電源ボタンを押し、通話アプリを起動させる。その中でマルゼンスキーの項目を選択し通話した。

 

【はーい、もしもし。皆のお姉さんマルゼンスキーでーす!】

 矢鱈とお姉さんを強調し通話するマルゼンスキー。

「マルゼン姉さん、私です。アイグリーンスキーです」

【あ、アイリちゃん。今どこにいるの?】

 それを聞かれた瞬間、グリーングラスが変わるように二代目に耳打ちした。

「青森だ。マルゼンちゃん」

【え、まさかその声、グリーングラス先輩?】

 グリーングラスに変わったとたんにマルゼンスキーが声の調子を変えた。

「そうだ」

【ちょっと待って! 先輩、絶対に切らないで下さいよ!】

 キャラ崩壊するほどドタバタと動き回るマルゼンスキーの足音が電話越しに響く。

 

 

 

 その間に二代目が先代にグリーングラスのことについて尋ねていた

「先代、グリーングラス先輩のことを知っているようですが、何か関係でも?」

『知っているもクソも、俺の母方の祖父だ』

「祖父ぅ!?」

『どうやら祖父や孫、親子の関係にあるウマ娘達はお互いに縁があると感じるらしい。お前自身、グリーングラスと縁のあるウマ娘だと思わないのか?』

「まあ確かに……」

『しかしこれから入ってくるほとんどの後輩はあるウマ娘と縁を感じることになるんだが……それは置いておこう。今はグリーングラスの話しだ。グリーングラスはライバルであるトウショウボーイ、テンポイントですら成し遂げられなかった菊花賞、天皇賞、有馬記念の3つのレースを全て勝利した名馬だ。そこら辺は語るまでもねえって面だな?』

「うん。戦績とかは知っているしね」

『競走馬のグリーングラスは血統こそガチガチのステイヤーだが、大柄な馬でとてもそのレースを制するほどステイヤーであるようには見えなかったらしい』

「ええっ!? グリーングラス先輩が大柄?」

『ウマ娘のグリーングラスはお前どころか普通よりも小柄な体格だから信じられないのは当たり前だ。しかし競走馬の特徴とウマ娘の特徴が違うケースはよくあることだ。その一番の例がビワハヤヒデだ。ナリタブライアンの上の兄弟にあたるビワハヤヒデは俺の世界では顔がデカイと言われていたが、ウマ娘のビワハヤヒデは髪のせいで顔がデカく見えるだけで小顔だ』

「こっちのビワハヤヒデ先輩は中身が頭でっかちだけど、こんなエピソードで世界の違いを知るなんて……」

 二代目が競走馬の世界もウマ娘の世界の違いを知り、驚愕の声を上げるとグリーングラスは話し終えたのか端末機を二代目に渡した。

 

 

 

「アイグリーンスキー、マルゼンスキーが話したがっているぞ」

「マルゼンスキー先輩が? はいもしもし」

 

【アイリちゃん、グリーングラス先輩から事情は聞いたわ】

「それは何よりです」

【でも誰にも言わず行くなんて酷いじゃない。ナリタブライアンとヒシアマゾンが昨日私のところに貴女のことを心配して来たのよ? 私に相談とは言わないでもあの二人に一言告げてから行くべきだったと思うわ】

「すみませんマルゼン姉さん」

【罰として今度ドライブに付き合って貰うから覚悟しなさい】

「それだけは勘弁してください!」

 

 二代目がマルゼンスキーのドライブに付き合うのを嫌がる理由はマルゼンスキーの運転にある。スーパーカーを時速300kmを超える勢いで走るだけでなく、マルゼンスキーの運転が荒い為に助手席にいると酔うか気絶してしまう為である。

 

【ダメよ。貴女は皆に心配かけたんだからちゃんと罰を与えないとね】

「マルゼン姉さん、マジで勘弁してください」

【……そうね、どうしてもと言うなら他の罰を与えるわ。トレセン学園に帰り次第受けて貰うわ】

「わかりました」

【じゃあ武者修行の旅頑張ってね。マルゼンお姉さんからの電話は終わりよ】

 マルゼンスキーがそう言って別の人物に電話を変える。

 

【アイグリーンスキーさん、青森の林檎は美味しいですか?】

「たづなさん!?」

 マルゼンスキーと変わった相手、それは駿川たづなという学園理事長の秘書を勤める人物だった。二代目はこの人物が大の苦手で意図的に避けていたがマルゼンスキーかグリーングラスの口から漏れたのだろうと推測した。

【それにしても酷いじゃないですか。私に隠れてこっそりと外泊許可を貰うなんて】

「いやチームギエナのヤマトダマシイ先輩に伝えましたから」

【チームギエナが排他的かつ閉鎖的なチームなのはアイグリーンスキーさんが一番知っているでしょう? 下手に私達が動けば彼らは絶対に口を閉ざし、却って他のウマ娘の情報までも少なくなるんです。だからこうしてアイグリーンスキーさんが連絡するのを待っていたんですよ】

「……」

【それはともかく帰ったらマルゼンスキーさんと一緒にお仕置きをしますので覚悟してくださいね】

 語尾にハートマーク、あるいは音符が着きそうな声でたづなが反論は受け付けないと言わんばかりに電話を切った。

 

 

 

「ハハハ……終わった、あの二人が手を組んだらどんな目に遭うか……」

 

 目のハイライトが消え、マルゼンスキーとたづなから受ける罰に脅えそれまで真っ赤に染まっていた肌は再び白く染まる。

 

「あの二人は年長者だ。レースに影響が出ないようなお仕置きで済むはずだべ」

 グリーングラスが船を運転し始め、船停め場に向かっていく。

「年長者なんて絶対にあの二人の前で言わないで下さいよ! そんなことを言って巻き添えになったら嫌ですから!」

「年長者はオラもだ……ところでどうするだか?」

 グリーングラスが言葉足らずにそう尋ねた。

 

「どうするとは?」

「おめ、北海道に行きたいんだろ? でもおめの資金で北海道に行くにはオラの船で行かねばならないだよ」

「そう言えばお金がなかったんだ……」

「でも海は大時化だ。そんな状況で無理やり行ってもオラの船諸共、海にドボン! 普通に凍死するべ」

「それはごもっともです」

「資金集めも出来てレースとダンスのトレーニングにもなる方法があるけどどうするだ?」

「ぜひお願いします」

「そうと決まればオラの家に案内するだ」

 グリーングラスが船を停め、陸へ上がると二代目は二階建ての家に案内された。




マルゼンスキー、何故そこまで姉ぶりたがるんだ(第2Rの前前書きに出てくる先代の血統表とマルゼンスキーの血統表を見ながら棒読み)

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尚、次回更新は西暦2019年1/4です。

ちなみにグリーングラスの口調が青森弁ではない理由は作者が青森弁を知らない為で、ドラゴンボールのチチの口調にしています。青森県民の皆さん皆すみません。

そう言えば有馬記念を勝ったブラストワンピースって顔デカイですよね(ビワハヤヒデを見ながら)


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第5R 胡瓜よりも飛蝗よりも緑が似合うウマ娘

前回の粗筋

グリーングラス「どうだ? 私の手伝いをすればトレーニングの指導もする上に北海道まで送ってやろう」
>はい
いいえ
グリーングラス「ふははは、良かろう! では案内しよう」
二代目はグリーングラスの家に案内された!


 グリーングラスの家は一般家庭よりも少し大きい二階建ての一軒家でそれ以外は極普通の家だった。

 

「ここがオラの家だ」

 

「TTGの中で一番賞金を稼いだ割りには普通ですね。強いていうなら土地が少し広いくらいですか?」

 

「まあ船とかに使っちまったからな。家もこんな感じになってしまっただよ。とりあえず上がった上がった」

 

 

 

 グイグイとグリーングラスが二代目の体を押し、家の中に入れるとそこには釣竿や網、銛等漁師が使うような道具が並んでいた。

 

 

 

「グリーングラス先輩、漁師をやっているんですか?」

 

「んだ。だけど漁師だけじゃねえ。オラのもう一つの顔があるだよ」

 

「もう一つの顔?」

 

 二代目が尋ねるとグリーングラスが隠してあったボタンを押すと家が揺れた。

 

 

 

「じ、地震!?」

 

「地震じゃないべ。これはリビングが変形しているんだ」

 

「変形する家があるのに、どうして携帯電話を知らないんですか!?」

 

「そりゃ変形ロボットの概念が携帯電話よりも古い上に、オラ達はポケベルや回覧板で連絡していたからな。携帯電話がなくとも不便しないし、変形ロボットは実現しなくとも変形部屋を実現出来るのは当たり前のことだべ」

 

 最もらしい理由でグリーングラスが二代目に説明するとリビングの変形が終わったのか揺れが収まった。

 

 

 

「さあ変形が終わったべ。この部屋に入った入った」

 

「一体どんな部屋になったんですか?」

 

「見ればわかるだよ」

 

 そして二代目とグリーングラスがリビングに入るとそこは四方鏡のダンス練習場になっていた。

 

「これは……!」

 

「どうだ。見たか驚いたかびっくりしたか!」

 

「ええ、まさか極普通の家にダンス練習場を備えていると思いませんでした。でも何でこのような施設を?」

 

「それはオラが地方アイドルとして活躍しているからだ」

 

 グリーングラスの予想外の言葉に二代目が部屋を見た時以上に驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

「地方アイドルってあの地方アイドルですか?」

 

「そうだ。オラが地方アイドルになったきっかけは漁師の宴会だ。豊漁を祝う宴会さ開いたら出し物として歌を歌うことになってな、それで歌ったら大ウケして地元の皆がアイドルをやらねえかって誘われて、今に至るだ」

 

「ちなみにその歌ってどんな歌なんですか?」

 

「ウマ娘がぴょいぴょいするアレだべ」

 

 それを聞いた二代目が察し、目を伏せる。

 

「あー……グリーングラス先輩の時にもあったんですね」

 

「アレは準校歌みたいなようなもんだ。ウマ娘なら絶対に覚えなきゃいけない歌の一つだからな」

 

 そして二人がため息を吐き、同時に声を出した。

 

「なんで全校生徒に覚えさせるのがあんな歌なんだろう」

 

『聞いているとあの歌を歌うのが嫌らしいが、一体何が悪いのかわからないんだが。歌なんてどれも一緒だろ』

 

 先代のデリカシーの欠片のない発言に二代目がコメカミに青筋を立てるが目の前にはグリーングラスがいて大声を出して怒れる状況ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「まあそれは置いておくべ。このダンス練習場の他にもトレーニングする場所があるだ」

 

「二階とか?」

 

「そうだ。45度まで傾斜でかつ時速90kmで走れるルームランナーを始め色々あるだよ」

 

「なんでそんなものが……」

 

「たまに他の県からやってきたウマ娘がオラのとこに来て師事して欲しいって来るんだべ。それでウマ娘を鍛える為にトレーニング器具を充実させただ。オラも体を鍛えないと漁師としてもアイドルとしてもやっていけねえだからな!」

 

「それにも関わらず携帯電話を知らないって……どんだけですか?」

 

「携帯電話を使う必要がないんだ。トキノミノル叔母さんやシンザン会長なんかはそういう時代に生まれても何一つ不満溢すことなくレースをやっていたからな。それにさっきも言ったと思うけどポケベルや回覧板で十分間に合うだよ」

 

「もう何も突っ込まないよ……」

 

 二代目がため息を吐いて頭を抱える。

 

 

 

「そんなことより、トレーニング指導をする代わりにオラのアイドル業、手伝って貰うだ。それで北海道行きの船も出してやるべ」

 

「わかりました。引き受けます」

 

「よーし、そうと決まったら早速練習だ。まずこの衣装に着替えるだよ」

 

 グリーングラスに衣装を渡された二代目がそれに着替えている間に、グリーングラスはリモコンを弄り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ準備はいいだな?」

 

「OKです!」

 

「よーし、これからダンス練習だ。オラの動きに着いてくるだ」

 

「はいっ!」

 

「とその前に柔軟だ。怪我したら話しにならねえからな」

 

 その言葉にきつい練習の覚悟を決めていた二代目がよろける。

 

 

 

 そして準備運動が終わり、今度こそダンス練習に入った。

 

「さあ今度こそ、やるだよ。オラの動きに着いていくだ」

 

 

 

 グリーングラスが選曲した曲は徐々に緩急が激しくなる曲であり、それに合わせてダンスすると動きの緩急も激しくなり二代目の体力を大幅に消耗した。

 

 

 

「はい、トドメっ!」

 

 そしてグリーングラスと二代目が決めポーズをし、曲が流れるのを止むと二代目が仰向けになって倒れた。

 

「さ、流石ステイヤーで知られる先輩、で、ですね。倒れるどころか息を荒くしてす、らいないなんて」

 

「初日で着いてこれるのは大したもんだべ。おめはここで休んでおくだ。オラはこのままダンスの練習をするから振り付けを覚えておくといいべ」

 

「はいぃ……」

 

 仰向けからグリーングラスのダンスを見る体勢を取り、グリーングラスのダンスを5回に渡り見続けると先代が話しかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

『二代目、疲れたなら体を少しでも休めておけ。その間、トキノミノルについて気になったことがあったから話すぜ』

 

「な、何それ?」

 

『トキノミノルは俺の世界では幻の馬と呼ばれた二冠馬だ。無敗の三冠に最も近づいた馬だがダービーから2週間と少しして破傷風で死んでしまった。ステイヤーであるグリーングラスが近親なこともあり、体が無事なら無敗で三冠を取るのは楽勝だったとも言われている。早すぎる死が惜しまれ東京競馬場に銅像まで建てられたんだ。ところがこの世界のトキノミノルは死んでいないが行方不明な上に、東京競バ場の銅像はトキノミノルじゃなくその前に活躍したクリフジになっている。他にも違いがあるがまるでトキノミノルの存在を知られたくないかのような感じだ』

 

「そうなの?」

 

『グリーングラスにトキノミノルがどこにいるか尋ねてみろ。憧れのウマ娘に会いたいとな』

 

「うん……」

 

 

 

 流石にダンスの練習が終わるとグリーングラスの息も荒くなって汗をかいていた。

 

 

 

「さてダンスは一度ここで切り上げるだ。次はフィジカルトレーニングに移るだよ」

 

「も、うですか?」

 

「当たり前だ。鉄は熱いうちに打てと言うだ。それに最初は負荷の重いものを一回ずつやるから程良い休憩になるべ」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「さあ二階に行くべ」

 

 グリーングラスが二代目の腰を肩に担ぎ上げ、二階に上がるとそこにはバーベルや健康ぶら下がり機、腹筋台等多数の器具が置かれていた。

 

「やるべ。まずはオラのやることを見ているだ」

 

 そしてグリーングラスが二代目のトレーニングに付き合った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふんぬらばっ!」

 

「ベンチプレス800kgと……まあ普通だな」

 

 

 

「でぇいっ!」

 

「バーベル上げ850kg……立っている方が強いだか?」

 

 

 

「うぎぎぃぃっ!」

 

「車引き、2tトラック優、5tトラック優、10tトラックは可……脚のパワーは上位クラスだな」

 

 

 

 

 

 

 

「もうダメぇ~」

 

 最後のトレーニング場所である地下室で二代目が打ち上げられたマグロのようにうつ伏せになった。

 

「何だ? もう疲れただか?」

 

「無茶言わないで下さい。何ですか、車がないのに車引きって。鉄製の鎧を着た瞬間に壁に引き寄せられていくんですからアレに必死に抵抗しただけですよ。どこに車の要素があるんですか?」

 

 うつ伏せになりながら抗議する二代目にグリーングラスは納得の言った声を出した。

 

「あの壁は電磁力を使って強い磁力を生み出しているんだべ。その磁力が10tトラックを引くくらいの力を産み出せるからオラは車引きと呼んでいるだ」

 

 

 

「他の機械に影響はないんですか?」

 

「全くないだよ。そう言う風に設計されているからな。オラがおめの電話を預かったのも電話が壊れないようにするためだ」

 

「ありがとうございます!」

 

「さて、それじゃもう一度ダンス練習場に行くべ。これで最後だ」

 

「まだ練習するのね……」

 

 今度こそ二代目は力尽きた。




そう言えばウマ娘の体重ってどれくらい何だろう……

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尚、次回更新は西暦2019年1/7です。


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第6R 外泊から一ヶ月後

前回の粗筋

変形する前の家「なんじゃと!? 本当にトレーニングをするというのか!? ならば仕方ない……うおぉぉぉぉぉっ!!」
変形した後の家「ふぅぅ……こうなった以上、逃げることは出来ん。貴様らをたっぷり鍛えてやるぞ……覚悟しろ」シュワンシュワンシュワン


二代目がグリーングラスと同居し、1ヶ月が経過した頃、トレセン学園はあるウマ娘達が話題となっていた。

 

そのウマ娘達の名前はオグリキャップとイナリワン。双方とも地方から転入して来たウマ娘でありながらも、他のウマ娘を千切れる速さを持っていた。しかしそれに待ったをかけたのが、ダービーウマ娘メリーナイスを始めとしたそれまでトレセン学園に在籍しているウマ娘であった。

 

地方の挑戦か、中央の意地か。それが今のトレセン学園の話題を占めていた。

 

 

 

「私も今や過去のウマ娘ね」

 

小さく【二冠ウマ娘サクラスターオー、引退か?】と隅に書かれた新聞を見てそう呟くのは名門サクラ家の一員であり、去年の二冠ウマ娘サクラスターオー。彼女は去年の有馬記念で故障してしまい、二代目同様に入院していた。

 

二代目とは違い、成績を残しているおかげでチームギエナから追放されなかったが、入院があまり長引くと筋肉が衰えるだけでなく走ることを忘れてしまう。そうなればGⅠ競走を勝つどころかOP戦すら勝てなくなってしまい、二冠ウマ娘としての価値はほとんどなくなってしまう。

 

いっそのこと、医者になったテンポイントや学園教師になったトウショウボーイのように引退して別の道に歩むか、長い時間をかけてリハビリを行い競走ウマ娘として活動するか、サクラスターオーは決断を迫られていた。

 

「何にしてもこの体を治さないと、話にならないわね」

体の痛みをこらえ、無理やり動かそうとするとあるウマ娘が入室してきた。

「スターオー先輩、いますか?」

そのウマ娘はサクラスターオーと同じチームギエナのメンバーのウマ娘であり、ジュニアCクラスで期待がかかっているヤマトダマシイだった。

「ヤマちゃん」

「お見舞いに来ましたよ、スターオー先輩」

ヤマトダマシイが人参と林檎をサクラスターオーに渡すと、サクラスターオーが気まずさからベッドに座った。

 

「ヤマちゃん、お願いがあるけど聴いて」

「スターオー先輩、何でしょうか?」

「ヤマちゃん、絶対にダービーと菊花賞を勝って」

「皐月賞はいいんですか?」

「出来ることなら三冠ウマ娘になって欲しかったけど、そこまで望まないわ。そこまで望んで貴女の体を壊したら元も子もないよ」

「う……」

「去年のダービーは不出走に終わっただけにものすごく無念を感じているの」

「スターオー先輩、それ去年のマティリアル先輩に似たようなこと言ってましたよね?」

「え? スターオー、わかんな~い」

サクラスターオーがアホの子を演じて惚けるがヤマトダマシイはそれをスルーした。

 

「それでマティリアル先輩が惨敗して、夢を託さなかったメリーナイス先輩が勝ったものだから物凄く気まずい思いしたの思い出せないんですか?」

「だ、大丈夫よ! 今度こそは勝つ、今度こそは! やるのはヤマちゃんだもの!」

「だからこそ嫌なんですよ。それで負けたら話になりません。ですからその二冠は私が誰にも言われず自力で取ってきます」

「ヤマちゃん……」

「ですからスターオー先輩、必ず復活してくださいね」

サクラスターオーにそう告げ、ヤマトダマシイはその場を後にした。

 

 

 

 

その頃、二代目はグリーングラスの指導のもと、着実に体力を着けていき、無尽蔵とも言えるスタミナを手にしていた。

 

「グリーングラス先輩、手紙届いてますよ」

「オラに手紙? 差出人は誰だ?」

「えーと、九州地方のウマ娘トレーニング施設からですね。青森県の先輩に何の用事があるんでしょうか?」

 

二代目が手紙をグリーングラスに渡すとグリーングラスがその封を開け、読み始めた。

 

「……なるほどな。理由としては納得がいくべ」

「何て書いてあったんですか?」

「オラの教え子の一人が地方で活躍しているのを見た地方トレーナーがオラをトレーナーとしてスカウトしたいらしいべ」

「まあその気持ちはわかります。グリーングラス先輩、私をここまで鍛えてくれましたもんね」

「トウショウボーイがトレセン学園で教師になっているならそのライバルのオラを取り入れるのは当たり前のこと何だが、オラにはまだやることがあるだ」

「それって私のことですか」

「そうだよ。後、アイグリーンスキーの地方アイドルデビューが決まっただぞ」

さらっとグリーングラスがとんでもないことを告げると二代目が吹いた。

 

「い、いきなりですか?」

「地方アイドルデビューと言っても地方自治体の催しの一つだ。明日の運動場でライブを行うだ」

「明日!?」

「いきなりかもしれないがこの地域はこれが当たり前なんだ。ライブの曲は最初の曲に合わせてあるから安心するだよ」

「うへぇ……本気だこの先輩」

「とは言ってもいつも通りの練習をしておけばいいだ。オラは少し用事があるからおめ一人でやってくれ」

 

 

 

『随分体力がついてきたな』

 

ダンスの練習を終え、先代が話しかける。先代の言うとおり、緩急を織り混ぜたダンス、スピード任せのダンス、逆にダンスとは思えないほど遅い動きのダンス、そして普通のダンスを踊っては踊りまくりの連続でありダンスを通してスタミナがついてきた。またそれだけでなくルームランナーのおかげでレースのスピードの緩急や維持も自在に出来るようになり、どの位置取りでも自分のレースが出来るようになっていて、このことに関してはグリーングラスも太鼓判を押すほどであった。

 

「あんだけ動いたからね。チームギエナのトレーナーがどれだけ非効率か実感するよ」

『故障率はともかくとしてあれはあれで優秀だぜ。実際皐月賞、菊花賞の二冠を制したサクラスターオーやその年のダービーを勝ったメリーナイスを始め多数のウマ娘にGⅠ競走を幾度なく勝たせている。実際、二代目の競り合いの強さも俺の影響よりもそいつの影響の方が強い』

「そうなの?」

『俺が負けた三つのレースのうち二つは競り合いで負けたからな。競り合いが強くなったというこの点だけはあいつに感謝しておけ』

「うん……」

『もっとも付け焼き刃みたいなものだがな。それ以外の方法で勝つ方法は色々ある』

「……今はまだその時じゃないでしょ?」

『ああ。レースで一番大切なのはタイムだ。どんなに無敗で強くともレコードタイムを出さないだけで批評される。逆に言えばレコード更新を何度もした上で無敗のまま引退した奴は総じて最強馬と評価されていた。クリフジやトキノミノル、マルゼンスキーがその典型例だ』

「マルゼンスキー先輩も?」

『そう言えばマルゼンスキーについて話してなかったな。マルゼンスキーの戦績について8戦無敗、レコード勝ちを何度も収めたパーフェクトホース。父は英国三冠馬ニジンスキー、母父は米国年度代表馬となったバックパサーと超良血馬だ』

「あのニジンスキーとバックパサーがマルゼンスキー先輩と血縁関係にあるなんて……」

『競走馬の俺の血統は父ニジンスキー、母父グリーングラス、母母父ダマスカスだから俺自身も割りと悪くないぞ?』

ちなみにダマスカスはバックパサーと同じく米国年度代表馬に選ばれたバックパサーの最大のライバルであり、種牡馬──つまり競走馬達の父親としても活躍していた馬である。

「え゛っ? それじゃマルゼンスキー先輩が私に姉呼びを強要する理由って先代と競走馬のマルゼンスキー先輩が腹違いの兄弟だからってことなの?」

 

あ行濁点使いとなった二代目が先代と、競走馬のマルゼンスキーが同じ父親を持っていることに気がつき、そう尋ねる。

 

『多分な。マルゼンスキーと同じ配合──つまり父親と母父が同じ競走馬のヤマニンスキーはウマ娘になってねえ。ヤマニンスキーがいたらニジンスキー産駒三人衆なんてやらされていたかもしれないからいない方がマシかもな』

「ちょっと気になったんだけど産駒って何?」

『父親が同じ競走馬のことだ。俺達競走馬は腹違いの兄弟姉妹は兄弟姉妹とは呼ばず同じ産駒と呼ぶ。兄弟姉妹の関係にあるのは同じ母親から生まれてきた馬だけだ』

 

「それじゃ先代がシンボリルドルフ会長を見たときセイザ兄貴と口ずさんだのは、その馬が競走馬のシンボリルドルフの息子かつ、先代のお兄さんだったから?」

『まあそういうことだ。セイザ兄貴はシンボリルドルフ産駒かつ俺の種違いの兄貴だ。レーススタイルはともかくルックスは一番父親に似ていたらしいぜ』

「やっぱり」

『もっともセイザ兄貴はウマ娘になっていないようだし、当てても意味がないんだがな』

「それもそうだね。さてそろそろフィジカルトレーニングに移ろうか」

二代目の休憩が終わると先代も黙りこんでフィジカルトレーニングに集中させ、トレーニングを終わらせ、その夜を過ごした。




今回の前回の粗筋の元ネタは大神に出てくる小柄鬼斬斎というキャラクターがモデルです。

しかしウイポ8のバックパサー本当に有能ですね。本来バックパサーの牝馬を作るつもりが牡馬で、その馬がリーディング2位になったときは驚きました。流石にサンデーサイレンスには勝てなかったよ……



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尚、次回更新は西暦2019年1/14です。


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第7R 地方アイドルデビュー

前回の粗筋

先代「マルゼンも俺も父親は同じだ」
二代目「じゃあマルゼンスキー先輩とは腹違いの兄弟!?」


「ググラことグリーングラスです!皆ー、今日は新しいウマ娘のお姉さんを紹介するよー! アイグリーンスキーことアイリちゃんです!」

透き通るようなアニメ声で標準語で集まった観客達にグリーングラスが二代目を紹介すると、歓声が沸き上がった。

「紹介に預りましたアイグリーンスキーです。本日は私のライブに──」

「はい、そんな堅苦しいこと言わない。もっと気楽に!」

「私のライブに来てくれてありがとぉぉぉっ!!」

「YAAAAAA!」

やけくそ気味に二代目が拳を上げると観客達の魂に火が付いたのか、テンションMAXで盛り上がった。

「さてそれじゃ早速、アイリちゃんのライブ行きまーす!」

 

 

 

~ウマ娘ライブ中~

 

 

 

二代目のライブが終わり、一汗かくとグリーングラスがマイクを持って口を開いた。

 

「さて、ここでアイリちゃんの質問タイムが設けられています。何か質問がある人はいませんか!?」

「アイリちゃんは何でここに来たの?」

「私はトレセン学園、ウマ娘の皆が集まって勉強しながら走るトレーニングをする場所で、そこでトレーニングをしていたんですが物足りなくて武者修行の旅に出てその過程でグリーングラス先輩と会ってグリーングラス先輩に弟子入りすることになりました」

 

「ググラちゃんの歳を知っていますか? 知っていたら教えてください」

子供のその質問に会場が凍りつき、連れてきた親は子供を叱りつけ頬を引っ張る。そしてグリーングラスは二代目に誤魔化すように視線を合わせる。もしこれを断れば即座に破門され北海道にもいけなくなってしまう。それを回避するために二代目が出した答えは当然の如く誤魔化すということであった。

「グリーングラス先輩の年齢は人間年齢に換算すると永遠の18歳だそうです。それ以上のことはわかりません。ごめんね」

『上手くごまかしたな』

二代目の誤魔化し方に先代が笑みを浮かべたような気がした。

 

「アイリちゃんはトレセン学園に在籍しているウマ娘って聞いたけど、どのくらい強いの?」

「まだ走る方はデビューしていないからわかりませんが、先日同学年一番と評判高いウマ娘に勝ちました!」

「つまり学年で一番強いってこと?」

「はいそうです」

キッパリと言い切り、観客達にある疑問が産まれそれを二人に問いかけた。

 

 

 

「それじゃあさ、ググラちゃんとアイリちゃん、どっちが強いの?」

その質問は二人にとって予想外の質問で戸惑ってしまう。

「現役を引退したとはいえTTGのうちの一人、ググラちゃんが勝つに決まっているっぺ!」

「いーや、若いアイリちゃんが勝つ!」

観客達が騒然とし、それを収拾させる方法はただ一つ。グリーングラスが口を開いて収拾させた。

 

「皆さん、落ち着いてください! 私は現役を引退しましたし、アイリちゃんはまだデビューすらしていません。その為どちらが現時点でどちらか強いか比較するなら実際に勝負してみないことにはわかりません! ですから後日、マッチレースをしたいと思います」

観客達が最も納得がいく形、つまり二代目とグリーングラスが実際に走って比較するというものだった。

「不公平のないよう盛岡競バ場をお借りして芝1600mの舞台で決着を着けたいと思います」

「待った!」

 

初老の男性が手を上げ、待ったをかけると観客達がざわめき始める。

 

「何でしょうか?」

「盛岡競バ場までは遠い。ただ足の速さを比較するのであればこの運動場を使っても良いのではないのか?」

「ここの運動場だと直線が短すぎて脚に負担がかかって危険です」

「直線が短すぎる?」

「はい。盛岡競バ場の直線は300mで、主要競バ場で直線が310mと最も短い中山競バ場よりも短いのですが、それよりもさらに100mも短いこの運動場では小回りどころではなく、曲がる回数が多くなりすぎて脚に負担がかかってしまい、故障してしまう恐れがあるため引退した私はともかくデビュー前のアイリちゃんにそんな真似はさせられません」

「しかし……遠いし……盛岡競バ場は青森県じゃないし」

それでも言い淀む男性にグリーングラスがトドメを刺した。

「誠に申し訳ありませんが、この運動場ではあまりにも狭すぎるので場所を移すことには変わりありません。芝コースがあってかつ最も近い競バ場が盛岡競バ場ですのでそこを借りようと思います!」

グリーングラスの発言により、その一週間後、盛岡競バ場等の許可が降りてマッチレースを開催した。

 

 

 

『まさかグリーングラスと戦うことになるとはな』

グリーングラスのライブも終わり、一人星空を見ていると先代が二代目に話しかけた。

「先代、グリーングラス対策はわかる?」

『グリーングラスと俺は祖父と孫の関係に当たるくらい年代が違うから詳しいことはわからん。ナリタブライアン同様に中団差しのレーススタイルだったということがわかるだけだ。おまけに盛岡競馬場に行ったことすらないから実際に見てみないとわかりゃしねえ』

「盛岡競バ場は中山競馬場の直線を短くして、坂を急にした競バ場よ」

『そういうことか。中山よりも短い直線となると追い込みで勝てる訳がないから追い込みは止めておけ』

「どういうこと?」

『追い込みってのは直線が長いほど有利な分、直線が短いと不利になる。シンボリルドルフ以来無敗で三冠馬となった馬も追い込み馬で、有馬記念で一度負けている。それだけならまだ良いが、弥生賞で僅差勝利と見るに耐えないレースがある』

 

「……」

『奴が何故そうなったのか、俺が考えるに直線が短いと追い込み馬の特徴である直線での鋭い豪脚を発揮する場面が短くなるからで、短くなった結果、中山が苦手になったんじゃないかと推測している。追い込み馬が勝つにはコーナーで捲って勝つしかない』

「確かに……」

『あるいはハイペースで先行集団が自滅するとか、余程のことがない限りは無理だ』

「余程のことがない限りね……」

『俺がグリーングラスを仕留めるとしたらスピードに任せて仕留めるがお前はどうする?』

「私は──」

二代目が意見すると、先代は何も言わずにそれを黙って聞き、二人が眠りについた。




≫ディープインパクトは中山が苦手
私なりの独自解釈です。追い込み馬=中山苦手 というのはディープインパクトよりもブエナビスタが三度も有馬記念を逃したせいでそのイメージが強くなったと思われます。追い込みで有馬記念を勝った例はオペラオー、ディープインパクト(2006年)、ドリームジャーニー、ゴールドシップくらいしか思い付きません。

ついでにウマ娘の時系列考察を活動報告にてしています。もしよろしければそこに来て下さい。

はいという訳でこの第7Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は西暦2019年1/28です。……え? 更新速度が逆噴射のツインターボしてるって? これはな、いつぞやのニエル賞を再現しているんだよ!


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第8R 地方アイドルのマッチレース

前回の粗筋

グリーングラス「盛岡競バ場でどっちが強いか戦おう……!」


 盛岡レース場にて二人のウマ娘が対峙していた。

 

 片や神秘性すら感じさせる青鹿毛のウマ娘、アイグリーンスキーこと二代目。デビュー戦すら終えていないがレースセンスに関しては歴代最高級の素質を持つ新人ウマ娘。

 

 もう片や緑髪が特長のウマ娘、グリーングラス。引退こそしたがTTGと呼ばれたウマ娘の一人であり、その実力は計り知れない。

 

 

 

 このウマ娘達が対峙した理由はただ一つ、どちらが強いかを決める。ただそれだけの話だ。

 

 

 

『貸しきっているから当たり前なんだが、閑散としてやがるぜ。向こうの世界だと現役時代の状態で俺とグリーングラスがマッチレースするなんて聞いたら大騒ぎになるというのに』

 

「まあそれはね……」

 

 無駄にパドックを周っている最中に魂の存在となった先代が話しかけて来る。先代達が現役時代の状態で戦ったら間違いなく盛岡レース場は観客達で埋め尽くされるだろう。

 

 

 

『だからといってGⅠ競走以外で負けるのはシンザンだけで十分だ。それ以外の最強馬は前哨戦でも勝たなきゃいけねえ。最強馬が最強馬たるが所以にだ』

 

 シンザンを除外した理由はGⅠ競走*1以外のレースを調教代わりに使っていた為に負けることもしばしばあったからだ。

 

 しかしシンザンが弱いかと言われればそうではない。シンザンの連対率──二着以上の戦績の割合のこと──および、GⅠ競走の勝率は共に100%という数値を叩き出している。前者はともかく、後者は日本においてはシンザンを除くと無敗馬しか達成していないことからどれだけの偉業かわかるだろう。

 

 

 

「先代、あの作戦通じるかどうか試してみるよ。TTGの中で最も現役生活が長かったグリーングラス先輩にそれが通じたらほとんどのウマ娘にも通じるってことだから」

 

『二代目の口からその作戦を聞いた時は驚いたぜ。まるで相棒と話しているようだったからな』

 

 先代が相棒と呼ぶ男、それは先代が競走馬時代の時に騎乗した騎手であり、互いに深い信頼関係にあった。

 

「もしかしたらウマ娘は騎手って人の思考も引き継いでいるのかもね」

 

『その可能性はある』

 

 先代と二代目がその結論に達し、話しを終えるとゲート入りを促されゲートに入る。

 

【さあいよいよゲート入りが終わりました。このレースの実況は私伊勢、解説は菊花賞ウマ娘であり栃木県で地方アイドルをしているホリスキーがお送りします】

 

【どうもよろしくお願いいたします】

 

 菊花賞を勝ったウマ娘であり現在グリーングラス同様に地方アイドルとなったホリスキーが解説の席についた。

 

 

 

 

 

「よーいスタート!」

 

 

 

 グリーングラスとアイグリーンスキーのマッチレースが始まり、先代のいる世界ならば歓声が沸き上がり黙って見つめるなどということはない。しかしこの世界で二代目ことアイグリーンスキーはデビュー戦前のウマ娘、グリーングラスは引退したウマ娘ということもあり観客達は地方アイドルであるウマ娘達を応援する人々しかいない。

 

 

 

【青森県地方アイドル最強ウマ娘決定戦スタート! さあハナに立ったのはなんとびっくり期待のルーキー、アイグリーンスキー。後方のグリーングラスを三バ身、四バ身、五バ身と離していき……八バ身まで突き放していきます。これは大逃げです。ホリスキーさん、もしかしてかかってしまったのでしょうか?】

 

 

 

 勝手にマッチレースの名前まで着けた実況が暴走する二代目を心配し、ホリスキーに目で尋ねる。

 

 

 

【彼女はまだデビュー戦を迎える前のウマ娘でしょ? 引退したとはいえTTGの一角であるグリーングラス先輩に怯えてしまったんでしょう】

 

 

 

【解説ありがとうございます。さあ600を通過してタイムは37秒……? 余りにも遅ぉぃっ!? これは一体どういうことだぁっ!?】

 

 

 

【変ですね。グリーングラス先輩ほどのウマ娘ならその異変に気づいてもおかしくないのですが……】

 

 

 

【役に立たない解説はおいておきます! スローペースに気づいたグリーングラスがぐいぐい詰め寄っていきます!】

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、いいんですか? そんなハイペースで?」

 

「ハイペース? いい加減なことを言うな。超がつくほどのスローペースなのにハイペースな訳あるわけがねえ」

 

「流石、先輩。このハイペースをスローペースと言い切るあたりTTGの一角なだけありますよ」

 

 

 

 グリーングラスがそれを鼻で笑い、スローペースには付き合えないと言わんばかりにアイグリーンスキーを突き放した。

 

 

 

 

 

 

 

『どうやら上手くいったな』

 

 先代の声が二代目に響くが二代目はそれを無視した。

 

『しかし本当にえげつない作戦だ。魔術師の称号を最初に取ることになるんじゃねえのか?』

 

「さて行くよ、先代」

 

『おう。グリーングラスに一泡吹かせてやれ!』

 

 

 

 

 

 

 

【グリーングラスがハナに立って、1000m。通過タイムは61秒……えっ!?】

 

【速すぎる!! いくらグリーングラス先輩でもムチャだ!】

 

 

 

 ホリスキーが思わず立ち上がり、大声を上げる。1000mの通過タイムそのものはやや速いタイムだが、600mから1000mの間の400mを僅か22秒──600m走った時点でグリーングラスは二代目より1秒以上遅く走っていた──で走っている計算になりこのタイムは現役のウマ娘としてもかなり速いタイムで滅多に出せるものではない。それを引退したグリーングラスが出したのだからかなり速いペースと言えるだろう。

 

 

 

【やはり来た! 来た! 来たぁっ! アイグリーンスキーがグリーングラスを差しにやって来たぁぁっ!】

 

 そして残り300m、グリーングラスと二代目がついに並んだ。

 

 

 

 

 

「だから言ったじゃないですか。そんなハイペースで大丈夫ですかって」

 

「小賢しい真似を……してくれるなぁぁぁっ!!」

 

 盛岡レース場特有の急坂に差し掛かり、グリーングラスが二代目を撫できるようにその坂を昇る。有馬記念を勝ったグリーングラスにしてみれば中山よりも少し急な坂程度のものでしかない。

 

【グリーングラスだ、グリーングラスが粘る!】

 

 

 

「こっちだって本気なのよ! この作戦が通じたのに負けましたなんてみっともないじゃない!」

 

【しかしアイグリーンスキーの勢いが更に増す!】

 

 二代目がグリーングラスを差そうと並走し、競り合いに持ち込んだ。競り合いに関しては計り知れないほどの強さを持つ二代目と、TTGの中で最も多くのレースに出走経験のあるグリーングラス。その二人がゴールまで激突する。

 

 

 

【TTGの意地と超新人の夢! どっちだぁぁっ!!】

 

 二人がゴールし写真判定に移る。

 

 

 

「……まさか写真判定に持ち込むなんて、やるもんだな」

 

「先輩こそ引退しているのにやりますね……」

 

 互いに力尽き、倒れた二人が互いに称え、掲示板をみるがまだ判定が終わっておらず、別の話題に移る。

 

 

 

「アイグリーンスキー、スローペースかと思えばハイペースになった仕掛けはなんだ?」

 

「スローで大逃げした後、グリーングラス先輩が追いかけて来ましたよね。その追いかける最中にペースをかなり上げたんですよ」

 

「なるほどな。その間にオラはアイグリーンスキーを抜いてしまっただから、ハイペースになっていたんだな?」

 

「そういうことです。グリーングラス先輩を打ち負かすにはこの作戦しかありませんでしたからね」

 

「上手くやられただよ。でもその作戦はここ盛岡や中山でしか通用しないから注意するだよ。東京をはじめとしたカーブが少なく直線の長いレース場はその作戦の成功率が落ちるだ」

 

『グリーングラスの言うとおりだ。俺の世界で魔術師と呼ばれた競走馬は今回の二代目と同じ作戦を取ったせいか東京が苦手でどうしようもなかった。東京レース場で勝ったのはJCの一勝のみだ』

 

「うへぇ……」

 

「そういう顔をするな。それだけレース巧者なら何も心配することはねえべ」

 

「心配していることならありますよ……このマッチレースの結果とチームに所属出来るかどうかの心配をね」

 

 二代目が掲示板を見るとそこには着順が表示されていた。

*1
正確にはGⅠ競走に該当するレース。当時は格付けがなかった




元ネタ
≫実況者の伊勢
・青き稲妻の物語に出てくる調教師の一人であり先代のトレーナーがモデル。
≫地方アイドル
・グリーングラスは青森県出身、ホリスキーは栃木県出身というのが元ネタ。

はいという訳でこの第8Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2019年2/18です。


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第9R グリーングラスとの別れ

前回の粗筋

二代目「乱ペースでペースを乱す!」
グリーングラス「負けてたまるかぁっ!」
実況「意地と夢どっちだーっ!」


 マッチレースから一ヶ月半後、二代目がヤマトダマシイからの手紙を読んでいると先代が話しかけた。

 

 

 

『ついにヤマトダマシイの二戦目か……あん?』

 

「どうしたの?」

 

『……そうか、思い出した! 思い出したぞ!』

 

「何を?」

 

『ヤマトダマシイってどこかで聞いたことのある名前かと思えばセイザ兄貴に聞かされたことがあったんだ。素質のみなら父シンボリルドルフを超える馬だってな。だがそれは叶わなかった』

 

「何が起こったの?」

 

『二戦目でヤマトダマシイは競争中止、その後予後不良で死んだんだ』

 

「……そ、そんな!」

 

『戻るなら今しかねえ! 何が何でも止めるんだ』

 

「はいっ!」

 

 二代目は大急ぎでグリーングラスのいる台所へ向かう。

 

 

 

「グリーングラス先輩!」

 

「どうしただ?」

 

「グリーングラス先輩、一度だけ学園に戻りたいと思います」

 

「何があっただ?」

 

「お世話になった先輩のレースを見る為です」

 

「わかっただ。何も言わねえ。だけんどももし挫けそうになったらあのマッチレースで負けたことを思い出すだ。そうすりゃどんなことがあっても立ち直れるだ」

 

 

 

 あのマッチレースの勝者はグリーングラスだった。グリーングラスが勝てた要因は盛岡レース場の急坂にあり、二代目のパワーが不足していた。パワーは一ヶ月そこらでどうにかなるものではなく、何年も坂の練習をしているグリーングラスに叶う訳がなかった。

 

 

 

「はい。明日荷物をまとめて明後日学園に戻ります」

 

「よし、それじゃあ飯にするだ」

 

 

 

 それから二代目は食事を取り、荷造りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 二日後。そこには不機嫌なグリーングラスと機嫌の良いマルゼンスキーがいた。

 

「アイリちゃん~!」

 

 マルゼンスキーが二代目に抱きつき、抱擁するがすぐにグリーングラスに引き離される。

 

「鬱陶しいから別の場所でやれ!」

 

「グリーングラス先輩はいつもこうなんですから」

 

「マルゼン、お前は何も変わってないな」

 

 マルゼンスキーがそれを聞いて顔を顰めながら口を開いた。

 

「携帯も持っていない先輩に言われたくないですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 マルゼンスキーとグリーングラスの喧嘩を見て先代が口を挟む。

 

『片や8戦無敗のGⅠ一勝のウマ娘、もう片や幾多もの敗北を繰り返しながらGⅠ三勝したウマ娘の対決か。どっちが勝つか見てみたいぜ』

 

「長距離勝負だったら間違いなくグリーングラス先輩が勝つだろうと思うけど、中距離だったら間違いなくマルゼンスキー先輩が勝つよね」

 

『今回やっているのはただの口喧嘩だが』

 

 呆れた声で先代が二代目の耳に響かせるとマルゼンスキーとグリーングラスがこちらを見た。

 

 

 

 

 

 

 

「アイリちゃん、どっちがいいと思う?」

 

「オラに決まっているよな?」

 

 

 

 マルゼンスキーとグリーングラスが詰め寄って二代目にそれを尋ねる。しかし二代目は何のことかさっぱり分からず首を傾げる。

 

 

 

「先輩方、何のことですか?」

 

「もう、アイリちゃんは何も聞いてないのね。ほらこの携帯よ」

 

 

 

 マルゼンスキーが取り出した巨大な携帯はガラケーと呼ばれる日本独自の携帯でメール機能と電話機能を兼ね備えた携帯電話だった。

 

 

 

「これをグリーングラス先輩に渡そうとしたら、そんなチャラチャラしたものは持たないって言われちゃって」

 

「グリーングラス先輩……」

 

「オラの家にそんなものは必要ないべ。むしろ壊れるから必要ないだよ。その点固定電話とポケベルは便利なものだべ」

 

「手紙の代わりのメールとかもこれで出来るんですよ? それにこの携帯も一番落ち着いたものですし」

 

「とは言っても電話料金とかかかるんだべ?」

 

「この機種なら月々1000円くらいですよ」

 

「マルゼン姉さん、もういいです。私が代わりにその携帯の良さを教えます」

 

 二代目がため息を吐きながらマルゼンスキーの手にあったガラケーを奪い取り、グリーングラスにプレゼンを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「いいですか、グリーングラス先輩。確かにここら付近の情報を集めるには回覧板やポケベル、固定電話で連絡はこと足りるかもしれません。しかし世の中はすでにメール社会に変わりつつあります。回覧板や手紙で情報を与えるのが数日要するのに対してメールは送信、つまり自分の手元から離れた瞬間から一秒経たずして相手に情報を与えることが出来ます」

 

「それは確かに言えているがメールを送る際にボタンポチポチ何回も押さなきゃなんねえだろ?」

 

「それは確かに言えています。しかし情報提供速度はこちらの方が早く、手間がかかる代わりに相手に伝える速度は圧倒的です」

 

「…………」

 

 何とも言えない深みのある表情を見せるグリーングラスに二代目が更に説明する。

 

 

 

「また前回行ったような面倒な手続きも早く終わらせることが出来るだけでなく、電話番号を登録する機能も内蔵しているので向こうに連絡を取りたい場合、いちいちボタンを押すことなくすぐに電話することが出来ます」

 

「とは言っても滅多に使わねえからな。それで月々1000円は高いべ」

 

「グリーングラス先輩、それなら携帯電話を買ったと宣言すれば良いでしょう。不特定多数の人々に電話番号を教えない限り、仕事に有益なものとなります」

 

「そうか?」

 

「そうです。今まで携帯を持たないことで有名なグリーングラス先輩が携帯を持ったというだけで話題になります。するとグリーングラス先輩に注目が集まり、その期間の間にグリーングラス先輩が名前を売ってしまえば地方アイドルとして活躍出来ることになるでしょう」

 

 

 

「うーん……そんな上手くいくとは思えないべ」

 

「確かに。それまでと同じやり方では人は集まりません。しかしながらこのガラケーならではのやり方があります」

 

「それは一体?」

 

「つい近年、ガラケーは時代遅れのものとして扱われるようになり、代わりに大躍進しているのがこの端末機です」

 

 二代目が板状の端末機を取り出し、グリーングラスに見せる。

 

「私であればガラケーの良さをSNS等で配信し、ガラケーのことを宣伝し、人々にガラケーのイメージキャラクター=グリーングラスという認識をさせて、ガラケーの会社からCM共演するようにします。CMに出ている為、宣伝効果は絶大的なものとなりグリーングラス先輩の名前もこのガラケーも飛ぶように売れるでしょう」

 

「胡散臭いべ」

 

「それは言えてるわ」

 

「と、とにかくガラケーを使う人が少なくなっている今、イメージキャラクターが定着しやすくなっています。そのイメージキャラクターになりさえすればグリーングラス先輩のアイドル業も成功するでしょう」

 

「言っていることに違いはねえが……」

 

「とにかくグリーングラス先輩、一ヶ月間試してみてください。一ヶ月後に使い心地を聞きに来ますから」

 

 マルゼンスキーがそう言って無理やり押し付けるとグリーングラスはそれ以上後輩達の善意を踏みにじる訳にはいかずガラケーを受け取った。

 

「一ヶ月間だけだべ!」

 

 しかしこの後、グリーングラスが二代目の言った通りに実行し、地方アイドルとしてもガラケーのイメージキャラクターとしても名前を上げることになったがそれはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「でも私を呼ぶなんてそんなに急ぎなの?」

 

 スーパーカーを運転しながらマルゼンスキーが助手席に座る二代目に話しかけた。

 

「はい。もしかしたら、永遠に取り返しのつかない事態になりそうだったので、思い浮かんだのがスーパーカーを乗りこなしているマルゼン姉さんでした。マルゼン姉さんが本気ならトレセン学園に秒で戻れますからね」

 

「そう……それじゃかっ飛ばしていくわよ!」

 

 マルゼンスキーはそれ以上のことは聞かずスピードを上げる。その後、二代目の記憶は何故か途切れてしまい、気がついた時には既にトレセン学園だった。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うーん……?」

 

「起きてアイリちゃん」

 

 二代目が目を開けると、そこには顔がアップされたマルゼンスキーが映り、それを見た二代目の行動は少しでも離れるようにすることだった。

 

「うわっ、す、すみません!」

 

「おはよう、私の可愛いアイリちゃん」

 

 マルゼンスキーの艶やかな声を聞き、二代目がさぶイボを立たせ、条件反射で少しでも遠くにマルゼンスキーから離れようとした。

 

 

 

「冗談よ。それより到着よ」

 

 その言葉に二代目が辺りを見回すとトレセン学園の景色が目に映り時計を見ると出発してから三時間も経っていない。そのことに二代目が震えた。

 

 

 

 東京都府中市にあるトレセン学園と青森県の津軽海峡付近までの距離は700km以上もあり、それを三時間弱で到着するということは平均時速233km以上のスピードで走っている計算になり、途中ガソリンスタンドで燃料を入れる時間を含めるとそれよりもスピードを出しており、確実にスピード違反している。二代目はそのことに触れないように口を閉ざした。

 

 

 

「それより、急な用事があるんでしょう? 早くいってあげなさい」

 

「はいっ! マルゼン姉さん、ありがとうございました!」

 

 マルゼンスキーに頭を下げて二代目が向かった先はヤマトダマシイのクラスだった。




はいという訳で前回のマッチレースの結果はグリーングラスがハナ差で勝ちました。
しかしさらっとマルゼンスキーがドクターフェイガーしているのは今さらですね。



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尚、次回更新は西暦2019年3/4です。


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第10R サクラスターオーというウマ娘

前回の粗筋
二代目、トレセン学園に帰還する。


 授業が終わり、ヤマトダマシイのクラス、クラシック級のクラスに向かった二代目が話しかけている相手、それはヤマトダマシイではなくビワハヤヒデだった。

 

「ではヤマトダマシイ先輩はここ一週間授業に出席していないんですか?」

 

「ああ。一応チームギエナのトレーナーにも言ってはいるのだが合宿トレーニングの最中の一点張りでまるで応えようともしない」

 

 ビワハヤヒデが頭を抱え、ため息を吐く。

 

「合宿トレーニング……」

 

「元々チームギエナだった君ならばその場所を知っているのではないのか?」

 

「いえ。でもそれを知っている先輩なら心当たりがあります」

 

「そうか。だが気を付けろ。あのトレーナーは何をしでかすかわからない。もし必要であればこれを持っていけ、君ならこの道具を使いこなせる筈だ」

 

 ビワハヤヒデがICレコーダーを二代目に託した。

 

「では検討を祈っている」

 

 ビワハヤヒデがそう言って話すことはもうないと言わんばかりにドアを閉め、二代目は病院へと向かっていた。

 

 

 

 

 

『サクラスターオーのところにいくのか?』

 

 二代目のアテは只一つ、サクラスターオーだった。サクラスターオーはチームギエナのメンバーの一員でありながら合宿に参加していない唯一無二のメンバー。ヤマトダマシイ達よりも現在会いやすい環境にある。

 

「ええ。サクラスターオー先輩なら何か知っているんじゃないかと思って」

 

『確かに悪くない考えだ。今サクラスターオーは病院で入院している最中だ。病院にさえ迷惑をかけなければ会える』

 

「……そう言えば先代の世界のサクラスターオー先輩ってどんな競走馬だったんですか?」

 

『サクラスターオーの競走成績に関してはお前が知る通り、皐月賞、菊花賞のGⅠ2勝に加え、弥生賞を勝った名馬であると同時に、壮絶な過去の持ち主だ。生まれてすぐ母親を亡くした為、曾祖母*1であり名牝スターロッチの元で育てられた過去がある』

 

「あ……」

 

『厩舎でも全く期待されていなかった訳じゃないがエースでもなかったからか、新人の調教師つまりトレーナーに預けられることになった。しかしエースだった馬は故障しサクラスターオーは二冠達成し立場が逆転。そして有馬記念では主催者に出走依頼されて出走したが……』

 

「そのまま故障して競走中止になったんだね」

 

『ああ。しかしこちらの世界のサクラスターオーは俺の世界とは異なり、死を覚悟するような故障じゃない』

 

「えっ!?」

 

『テンポイントも同じで、とっくに死んでいるはずなんだ。だがこっちのテンポイントは生きていてウマ娘専門の医者として名を上げている』

 

「うん……」

 

 

 

『俺はチームギエナのトレーナーを高く評価している。確かに奴が指導したウマ娘の故障率が高いがそれは仕方ないことだ。シャダイソフィアを初め、俺の世界でも予後不良で死んだ馬、マティリアルのように故障で悩んでいた馬ばかりだからだ。最初にあのトレーナーが管理したウマ娘ハマノパレード*2なんかは悲惨な最期を迎えることになったが、あれでも俺の世界の奴に比べればマシな方だ』

 

 ウマ娘の世界、競走馬の世界共にハマノパレードの死は悲惨なものであることに違いなく忌々しさすら感じさせ、先代が声を荒くする。

 

 

 

「あれよりも悲惨な最期って……」

 

『それをお前が知る必要はない。聞くだけ胸糞悪いだけだ』

 

 先代が更に不機嫌にそう声を出し、二代目はそれを話題にすることを止めた。

 

 

 

「もしかしてあのトレーナーがトレーナーでいられるのって、そういう悲惨な出来事を少しでも抑えているから?」

 

『本人は無自覚なようだがな。キシュウローレル、テンポイント、キングスポイント、サザンフィーバー、そしてサクラスターオー……本来死ぬはずだったウマ娘が皆、あいつに管理されたおかげで生きている。皮肉なことにな』

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ヤマトダマシイ先輩も死ぬことはないんじゃないの?」

 

『あいつはまだマシというだけあって予後不良を防げない訳ではない上に、それとこれとは別だ。俺の世界のヤマトダマシイは他の馬とは違って厳しすぎる調教が原因でレース中に故障し、予後不良となった。今回ばかりはあいつに責任がある』

 

「だから先代はトレセン学園に戻れって言ったんだね」

 

『ああ。あのトレーナーとの相性は最悪だ。放置すればヤマトダマシイは絶対に死ぬ』

 

「絶対にそうはさせない……!」

 

 固く決意した二代目を止める者は、誰一人いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから病院に着き、サクラスターオーの部屋に入る二代目。

 

「サクラスターオー先輩、お久しぶりです」

 

「アイグリーンスキー」

 

「体調の方はどうなんですか?」

 

「怪我を除けば何一つ異常はないわ」

 

「そうですか」

 

 

 

 そして無言になる二人。二代目もサクラスターオーもこれが初見という訳ではないのだが、同じチームギエナに所属していたとはいえクラスが異なった為に接点がほぼ無く何を話題にすべきかわからなかった為である。

 

 

 

「サクラスターオー先輩。お伺いしてもいいですか?」

 

「何?」

 

「サクラスターオー先輩は去年合宿トレーニングに行きましたよね。今年は怪我で辞退されているようですけど、どこで行われるか知っていますか?」

 

「千葉県の船橋レース場。そこでトレーナーはウマ娘達をしごいているわ」

 

「船橋レース場……地方のウマ娘が使うレース場じゃないですか?」

 

「アイグリーンスキー、地方のウマ娘を見下しているけど、地方のウマ娘達は侮れないわ。つい最近頭角を表したオグリキャップとイナリワンも地方出身よ」

 

「いえ見下すというより、船橋レース場の使い道がわからないだけですよ。芝のある中山レース場ならともかくダートオンリーのあそこで何のトレーニングを……?」

 

「私の時はリレー方式で地方の若いウマ娘達二人相手にしたわ」

 

「リレー方式?」

 

「そう。例えば私が2000m走るのに対して地方のウマ娘達は1200mと800m、マティリアルが2400m走るのなら地方のウマ娘は1200mと1200m走って競走するの。そうすることで地方のウマ娘達は私達トレセンの実力を知ることが出来るし、私達は効率の良いトレーニングを行えるの」

 

 

 

「肝心の中山レース場でやらない理由はなんなんでしょうか?」

 

「中山レース場を借りられないのはこの時期でレースを行うレース場は中山と阪神で行われるからよ。そんな時期に中山レース場を借りて一日で荒らした芝を戻せるかって言われたら無理……それにダートオンリーの船橋レース場はその点まだマシで一日で元に戻せるだけじゃなく、地方のウマ娘達をアピールすることが出来るからその地方のトレーナーも指標にしやすいって評判だから向こうからオファーがあるくらいでやり易いのよ」

 

「なるほど……考えているんですね、あのトレーナーも」

 

 先代、サクラスターオー共にチームギエナのトレーナーが有能であることを聞かされると頭の中で色々な思惑が廻る。

 

 

 

 

 

 

 

「サクラスターオー先輩、もう一ついいですか?」

 

「何?」

 

「サクラスターオー先輩、有馬記念に出走したのは何故ですか?」

 

「有馬記念に出走したのはトレーナーの強い勧めがあったのと、体調が万全だったからよ」

 

「強い勧め?」

 

「私が名門サクラ家の出身だってのは知っているよね。サクラ家はダービーウマ娘や二冠ウマ娘、天皇賞ウマ娘を輩出しているけど誰一人も有馬記念を制したことがないの。そのことを知っていたトレーナーさんは私の体調が万全なこともあって強く勧めてきたわ」

 

「それはつまりサクラ家で初となる有馬記念ウマ娘になれるチャンスだって言われたんですか?」

 

「ニュアンス的にそんな感じ。私を育ててくれた曾祖母様が有馬記念が終わるまで生きていたなら止めていたかもしれないわ……有馬記念直前に曾祖母様*3が亡くなってから弔いを兼ねて出走した結果がこの様よ」

 

「そうだったんですか……」

 

 そしてサクラスターオーと二代目が話し込んでいると白衣を着た栗毛のウマ娘が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「スターオー、体調の方はどうかしら?」

 

 そのウマ娘は栗毛に流星がかかったウマ娘であり、見る人が見ればその魅力に魅了されており、医者と呼ぶにはあまりにも美し過ぎた。

 

「テンポイント先生!」

 

「えっ、このウマ娘がテンポイント先輩なんですか?」

 

 サクラスターオーがそのウマ娘、テンポイントの名前を呼ぶと二代目が驚愕の声を上げ、顔を見つめる。

 

「そちらのウマ娘は?」

 

「初めまして、チームギエナに所属していたアイグリーンスキーです。テンポイント先輩の後輩にあたります」

 

「よろしく、テンポイントよ」

 

 差し出したテンポイントの手を握り、二代目が口を開いた。

 

 

 

「流石、グリーングラス先輩のライバルなだけあって雰囲気が違いますね」

 

「グリーングラスに会ったの?」

 

「はい、青森県で地方アイドルをしていましたよ。私もそのお手伝いをさせて頂きました」

 

「青森県の地方アイドル……なるほど里帰りしたのね。通りで地方のトレーニングセンターにいない訳ね」

 

「ところでテンポイント先輩、もしかしてサクラスターオー先輩の担当医なんですか?」

 

「まあよくわかったわね」

 

「それはそこに書いてありますし」

 

 二代目がサクラスターオーの名前が刻まれたプレートの下に書かれてある担当医のプレートを指差すとそこにはテンポイントの名前が刻まれていた。

 

「それね。結構見ているのねアイグリーンスキー」

 

「どうも。ところでサクラスターオー先輩の容態はどうなんですか?」

 

「そのことだけどね、少しこっちに来てもらえる?」

 

 サクラスターオーの部屋からテンポイントと二代目が出て別の部屋に入ると診断書を渡された。

 

 

 

 

 

 

 

「テンポイント先輩、これは?」

 

「見ての通りサクラスターオーの診断書よ」

 

「それはわかりますが、この筋膜断裂というのはなんですか?」

 

「アイグリーンスキー、肉離れはしたことがある?」

 

「いいえありません。もしかしてその肉離れが何か関係しているんですか?」

 

「そう。一般的な肉離れは筋膜断裂に属している……要するにスターオーは常に酷い肉離れをしていて回復出来ていないのよ」

 

「回復出来ていない?」

 

「この病状が起きたと思われるのは12月半ば──つまり有馬記念直前でそれ以降無茶なトレーニングをしたせいか悪化して治っていない。このままだと最悪、筋膜断裂から筋断裂に悪化して競走生命を断つ大怪我につながりかねない……そんな状況よ」

 

 

 

 先ほど二代目は、サクラスターオーが有馬記念直前に曾祖母を亡くした影響を受けたことを聞いており、間違いなくサクラスターオーは動揺するあまりトレーニングを過剰にしてしまったと推測し困惑する。しかしそれも僅かなものですぐに口を開いた。

 

 

 

「サクラスターオー先輩がそんな大変なことに……テンポイント先生、一つお願いがあります」

 

「何かしら?」

 

 二代目がテンポイントに耳打ちするとテンポイントが納得の言った顔つきになり、二代目にある約束をした。

 

 

 

「ありがとうございますテンポイント先生」

 

「いいわよ。これくらいなら何でもないわ」

 

「テンポイント先生、サクラスターオー先輩のことをよろしくお願いいたします」

 

 二代目が頭を下げ、その場から去るとテンポイントは一人呟く。

 

「……アイグリーンスキー。あの娘は間違いなく、私達TTGを越える大物になるわね。グリーングラスが気に入る訳ね」

 

 

 

 テンポイントが見つめる二代目の背中は現役時代の自分達よりも遥かに雄大なものであり、グリーングラスが師事されるのを認めたのも頷けた。

*1
父父あるいは母父を祖父と呼ぶ場合があり二頭を指すことがあるが祖母、曾祖母となる場合は母母、母母母と母系のみの一頭限り

*2
宝塚記念馬。史実では高松宮杯で予後不良となったが薬物投与による安楽死の処置を執られることが原則となっているが、ハマノパレードにそうした対応は行われず、屠殺されてしまっただけでなく、その肉はさくら肉として販売され物議を醸した。この事件がきっかけで予後不良となった馬は薬物を投与し安楽死の処置を執ることが原則となった。

*3
史実のスターロッチは有馬記念直前ではなくサクラスターオーの調教生活がはじまった時に亡くなった




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尚、次回更新は西暦2019年4/8です。


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第11R 新たな始まりへ向けて

前回の粗筋
テンポイント「サクラスターオーは筋膜断裂です」


二代目はテンポイントから渡された書類を持ち、二人の女性を呼び出していた。

「それでアイグリーンスキー、私達を呼び出した緊急の用事とは一体何なんだ?」

「バナナとリンゴをデザートにする話でしたら厚生課に訴えて下さいね」

たづなが冗談混じりにそう笑うが目が笑っておらず、シンボリルドルフが畏怖する。

 

「そんな話な訳ないでしょう……シンボリルドルフ会長、たづなさん。貴女達をお呼びしたのは他でもありません。チームギエナのウマ娘達についてです」

「!」

それを聞いたたづなとシンボリルドルフが目の色を変え、真顔になった。

「つい先日サクラスターオー先輩にお会いし、チームギエナの合宿場所を突き止めることが出来ました」

「本当か!?」

シンボリルドルフが立ち上がり、二代目に問い詰める。

「船橋競バ場、そこにチームギエナの関係者がいるとのことです」

「そうか船橋競バ場にいたのか」

「ええ。そしてもう一つ、この資料をご覧下さい」

二代目がテンポイントから渡された資料を二人に渡した。

 

「これは……!」

「ご覧の通り、サクラスターオー先輩を始めとしたチームギエナのメンバーが故障した原因が書かれたものです」

「なんてものを……」

「たづなさん、これをトレーナーの人事の方にお渡し出来ませんでしょうか?」

「私ですか?」

「信頼のない私はともかくシンボリルドルフ会長が提出したところで揉み消されかねません。シンボリルドルフ会長はウマ娘の中では発言力があれど人事に口出し出来るほどではない。しかしたづなさんは理事長秘書という立場でいます。理事長秘書の貴女がこれを提出したという事実が必要なんです。貴女が提出したということは理事長が提出したということに等しく、人事も動かざるを得ないでしょう」

 

 

 

「では何故この場に私を呼び出した?」

シンボリルドルフがそう口を開くと二代目が頷く。

「シンボリルドルフ会長を呼び出した理由はたづなさんと一緒に手元にある資料を提出して貰いたいからです」

「先ほどと言っていることが違うぞ?」

「早い話がたづなさんの同伴です。ウマ娘を代表しかつ公明正大で知られる会長なら万一提出したものを揉み消され、たづなさんを孤立無援の状態から防ぐことが出来ます」

「そうか……そこまで私を信頼しているのか」

 

「一ついいでしょうか?」

たづなが手を挙げ、二代目に質問した。

「どうしました?」

「この資料を一度理事長に見せて貰っても構いませんか?」

「わかりました。ただし厳重かつ人目のないところで見せて下さい」

「それはもちろん」

「では失礼します」

 

そして数日後、チームギエナのトレーナーが首になり、このことはウマ娘人間問わず世間話になるほど話題となった。そしてトレーナーが首になった為にチームギエナの合宿が中断となりメンバー達が帰って来た。

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩……!?」

「グリーン、戻ってきたのか?」

ボロボロのジャージを着たヤマトダマシイの姿をみた二代目が目を見開き、驚愕の余り口を手で塞ぐ。

「先輩、その格好は?」

「これか? まあ名誉の勲章的なアレだよ。それより今回の騒動はお前の仕業か?」

「ええ。こうでもしなければヤマトダマシイ先輩を止めることが出来ませんでしたから」

「止める?」

「このままだとヤマトダマシイ先輩が、シャダイカグラ先輩*1よりも悲惨な最期を迎えかねない。それを回避するにはヤマトダマシイ先輩の今度の条件戦、出走回避させるしか他ありません」

「それでチームギエナのトレーナーを?」

「サクラスターオー先輩はあの虐待染みたトレーニングで体に異常を発生し、故障したんです。ヤマトダマシイ先輩も故障して予後不良になる……そんな予感がしてたまりません。例え恨まれてでも止める必要がありました」

二代目が頭を下げ、ヤマトダマシイに誠意を見せた。

 

「……なあ、アイグリーンスキー。前に私が言ったこと覚えているか?」

「私の武者修行の旅を終えたらヤマトダマシイ先輩が立ち上げたチームに所属するって話でしたね」

「ああ。これからチームを立ち上げようと思う。チームギエナに所属していたウマ娘とトレーナーの確保は既に終わっているんだけど、それ以外つまりジュニアAのウマ娘の勧誘がまだなんだ」

「私にそれを?」

「そう。お前にはチームトゥバンの宣伝と勧誘を行って貰う」

「トゥバン?」

「りゅう座のα星にちなんで名付けた私達のチーム名だ。ちなみに活動場所はチームギエナと変わりないから安心して勧誘してこい」

「はいっ」

「これが名簿だ……後は任せたぞ」

名簿を渡したヤマトダマシイが肩を叩き、その場から去る。

 

 

『トゥバンか。名前こそあれだがりゅう座から由来するとは皮肉なもんだな』

「先代、それは一体どういうこと?」

『前にセイザ兄貴のことは話したな? 俺の兄貴はもう一頭いる。その兄貴の息子の一頭がりゅう座の一等星から由来したカノープスって名前だったんだ』

「そのカノープスって馬はどんな馬だったの?」

『カノープスが勝ったGⅠは皐月賞のみと寂しさを感じさせるものだが、種牡馬としてはかなり活躍した。種付け料金が100万円と手頃な割りに勝ち上がり率が種付け料金750万円の種牡馬以上の成績を残したものだから中小牧場から救世主なんて言われていたほどだ』

「つまり父親として活躍した馬なのね」

『まあそのお陰で一悶着あったんだが、それは置いておこう。ヤマトダマシイは救世主となるように故意に狙っていたのか、あるいは偶然なのかわからないが、そうなるようにしなければな』

 

「先代、この中で知っている名前ある?」

二代目が先代と話し合い、素質のあるウマ娘について語り合った。

*1
この小説内のウマ娘シャダイカグラは死んでいる




後書きらしい後書き
もし私が萌え絵イラストを書ける能力があるなら、二代目のイラストを描いて皆さんのオカズを作っていたでしょうが、私に絵心はなく、あるのは私が投稿している小説の設定やゴルフの飛距離だけという有り様です(半ギレ)

追記──チームカノープスからチームトゥバンに変更しました。理由は二期のアニメにカノープスが登場したからでややこしくなるからです


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尚、次回更新は西暦2019年5/1の上に5/6まで毎日更新します


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第12R SS

令和最初の投稿だ!

前回の粗筋
二代目「ヤマトダマシイ先輩を救えた……!」


「先代、このウマ娘はどう?」

『フジキセキか……こいつは微妙だな』

「このフジキセキってウマ娘は駄目なの?」

『駄目と言われればそうではない。寧ろ俺の世界では三冠馬になっていただろうと言われていたほどの素質の持ち主だ。3戦目で朝日杯三歳S*1を勝ち、4戦目の弥生賞も勝利した後屈腱炎を起こして引退しただけに不安要素も大きい』

「三冠を獲れるなんて言われるほどの素質の持ち主……ヤマトダマシイ先輩以上じゃない!」

『フジキセキを勧誘する場合、リスクとリターンをじっくり考えてみることだ』

 

 

 

「それじゃこのゴールドシップは?」

『……ゴールドシップだと? それは見間違いじゃないのか?』

「うん、ちゃんとここに書かれてあるよ」

『やはりむちゃくちゃだ……この世界は』

「そのゴールドシップってどんな競走馬なの?」

『ゴールドシップはGⅠ6勝の名馬だ』

「GⅠ6勝……!? めちゃくちゃ強いじゃない!」

『この時代じゃ驚くのは無理もないか。だが同時にこいつはかなりのワガママで人間のわんぱく坊主のような奴だ。もし真面目に走っていたらGⅠを後2勝くらいしていただろうと言われるほとだ』

「じゃあそのウマ娘をスカウトしようよ!」

『スカウトする分には構わないが別人という可能性もある。俺の世界のゴールドシップはフジキセキよりもずっと後の世代に産まれている。何せゴールドシップの父親ですらフジキセキの後輩にあたるんだからな』

「そうなの?」

『ゴールドシップの特徴は芦毛で体が大きい』

「芦毛で体格が大きい。うん間違いなそうね」

『そしてイタズラ大好きで何を仕出かすかわからない』

「それも合っている」

『奴の誕生日は3月6日だがそっちは?」

「それも合っているよ」

『そこまで来ると本人そのものか……せいぜい噛まれないように気を付けろよ。ゴルシの親父、祖父、曾祖父と父子三代全て肉食獣だったからな』

「え、ちょっと待って、肉食ってどういうことなの?」

先代の意味深な言葉に二代目が尋ねるも帰ってくるのは沈黙。余程ゴールドシップの父親が気性難だったと伺える。

 

 

 

いざ二代目がフジキセキ達をスカウトしようとすると人だかりが出来ていてスカウトしようにもそれどころではなく、その人だかりが出来た原因を突き止める為に、ウマ娘に話しかける。

「何の騒ぎ?」

「何でも米国の二冠ウマ娘が特別講師として来日したんだって」

「特別講師……」

「ほらあそこよ」

そしてウマ娘が指差した先にいたのは青鹿毛の長髪に頭上の白いアホ毛、さらに緑のスカーフが特徴のウマ娘だった。

 

 

「ぜんじんみとぉぉぉっのおぉぉぉーっ! スゥゥゥパァァァサイィアァァァーっ!」

特別講師と思われるウマ娘がテンション高めに叫び体を傾けさせ、両腕を頭上に上げる。

 

「喜べ愚民ども! 米国で二冠を制したこのサンデーサイレンスがわざわざ特別講師として来日してやったぞ!」

「ぐ、愚民って……」

二代目を始めとしたウマ娘やハナ等のトレーナーはサンデーサイレンスなるウマ娘を見てドン引きし、頭を抱える。

しかしこの中で一人だけ別の意味で驚いていた。

 

『サンデーサイレンス!?』

「先代、どうしたの?」

小声で二代目が先代に尋ねると興奮を隠しきれないのか声が震えていた。

『サンデーサイレンス……まさかあいつが特別講師としてやってくるなんてな。どうやら俺達は大当たりを引いたかもしれねえ』

「どういうこと?」

『俺の知るサンデーサイレンスは連対率100%のGⅠ6勝馬。現時点の日本じゃシンザンしか成し遂げてない偉業を達成した馬だが、競走成績以上に種牡馬成績──つまり父親としての活躍が目立っている』

「そうなの?」

『初年度ながらにしてフジキセキを輩出しただけでなく史上二頭目の無敗の三冠馬の父でもあり、ゴールドシップの父父としても名前を残している偉大なる種牡馬だ』

「そんな凄い馬なの?」

『父親としての実績は、13年間国内獲得賞金ランキング一位を獲得。日本以外でもこれ以上の実績を成し遂げているのは二頭くらいしか思い当たらないから化け物だろう』

「競走成績で例えるとどのくらい凄いの?」

『そうだな……競走成績で例えるとニジンスキーか?』

「なっ……!?」

『とにかくだ。そいつが特別講師として日本に来ているんだ。フジキセキやゴールドシップよりもその価値は高いから専属契約しておけ』

その言葉に二代目が頷きサンデーサイレンスに近寄る。

 

 

「どうだ、そこのウマ娘ちゃん、二冠ウマ娘たるサンデーサイレンスの指導を受けてみないか?」

「え、別にいいです……」

隣にいたウマ娘が断るとすかさず二代目が挙手した。

「じゃあ私達のチームにお願いいたします!」

それを見たサンデーサイレンスが奇声を上げ、二代目に近寄る。

「よーし、それじゃ余を諸君らのチームに案内してもらおうか!」

二代目とサンデーサイレンスが立ち去るとウマ娘達が騒然としていた。

 

 

 

その数分後、二代目とサンデーサイレンスは寄り道しながらフジキセキ等、史実におけるサンデーサイレンス系のウマ娘達を捕まえ、ヤマトダマシイのいるチームトゥバンの所で説教を食らっていた。

「アイグリーンスキーぃっ、私はジュニア予備のウマ娘を連れてこいとは言ったが特別講師のウマ娘を連れてこいとは言わなかったはずだぞ?」

ヤマトダマシイが声を荒くし、サンデーサイレンスの耳はロバの耳となっていた。

「ヤマトダマシイ先輩、そう言わないで下さい。ジュニア予備のウマ娘はいくらでもいます。しかしこの特別講師サンデーサイレンスは優れたウマ娘を見抜くスペシャリストです」

「ほう……? そのウマ娘達が優れたウマ娘だと?」

「余の目利きに間違いはないっ!」

サンデーサイレンスが見下し過ぎて見上げるポーズを取りヤマトダマシイに指差す。

 

「特にこのフジキセキ!」

「ひゃっ!?」

サンデーサイレンスにいきなりセクハラされたフジキセキが条件反射で声を上げ、飛び立つ。

「余の見立てが正しければシンボリルドルフに匹敵するくらいの素質を持っている!」

「え、あ、え?」

フジキセキがまるで何を言っているのかさっぱりわからず混乱する。それもそのはず、シンボリルドルフといえばこのトレセン学園の頂点に君臨するウマ娘であり、それと素質のみなら同格と言われて動じないはずがない。

「なあ私は?」

「ゴールドシップ、お前はもう……」

「動かない~!」

「その時計~!」

何故か歌って爆笑し握手するウマ娘二人に、二代目を含めたウマ娘達が頭を抱える。

『1+1は2ではなく200だなこりゃ。10倍だぞ10倍!』

先代の言葉に二代目が同意したくないが同意してしまった。

 

 

 

「本当に大丈夫なのか?」

「多分大丈夫でしょう。サンデーサイレンス先生は米国で二冠獲得したウマ娘ですよ」

「いや、何と言うかウマ娘というよりも悪魔と契約してしまったような気がする」

ヤマトダマシイの指摘にぐうの音も出せない二代目。その傍らにあやとりを二人で続けるゴールドシップとサンデーサイレンス、話についていけないフジキセキ達ジュニア予備のウマ娘達。それを見かねたマティリアルが口を挟んだ。

 

「皆さん、これから練習場に参りましょう。実際にチームトゥバンに所属するに従って練習環境を見て判断して貰わなくてはなりませんわ」

「わかりました!」

ゴールドシップを除いた全員が返事をし、機嫌を良くしたマティリアルが練習場へと向かった。

*1
現在の朝日杯FS。当時は満年齢ではなく数え年で年齢を換算していた




後書きらしい後書き
ウイポ9……何故90年代スタートなんだ? もし70年スタートだったら購入したかもしれないのに。

ウイポのサンデーサイレンスことSSは毒にもなるし薬にもなります。
おそらく皆様がウイポで一番予後不良にさせた馬はSSなのではないでしょうか。
かくいう作者も幾度なくSSを予後不良にさせて他の馬の系統確立をさせています。



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尚、次回更新は西暦2019年5/2です


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第13R チームトゥバン

前回の粗筋
サンデーサイレンス登場!


練習場につくと数人のトレーナーがそこで待機していた。尚、全員女性であったがそれはスルーした。

「さて、皆様にご紹介しましょう。ここトゥバンでは数人のトレーナーから指導を受けることが出来ます」

それを初めて聞いた二代目がヤマトダマシイに耳打ちする。

「先輩、特別講師がいらない理由ってこういうことですか?」

二代目が尋ねた理由はチームトゥバンが抱えるトレーナーの数であり通常であれば一人、どんなに多くても二人である。三人も抱えるチームトゥバンが異常であり、異端である為だ。

「トレーナーは全て人間だからウマ娘の体調に気づけないこともあるからウマ娘の特別講師を迎えること自体は反対じゃない」

「それは良かったです」

 

「さて左から順にご紹介しましょう。マツさんお願いいたします」

「国田マツです。皆様がトゥバンに所属することをお待ちしています」

「次に紹介するのはフジさんです」

「どうも、Mt.FUJIが渾名の沢村フジです! 皆がトゥバンに来ることを期待しています」

「そして最後に紹介するのがハルさんです」

「武田ハルです。またここにいる皆様とまた出会いたいと思います」

「このトレーナーの皆様の他に加え、特別講師をご紹介致しますわ」

マティリアルが勝手にそう告げ、マイクをサンデーサイレンスに向けると何故か音楽が流れる。

 

「余の、名前はっ! サンデーサイレンス! こう見えて、米国の二冠ウマ娘! その余が、特別講師! よ、ろ、し、く、な! いぇーいっ!」

謎のダンスを続けるサンデーサイレンスに新入生が唖然とする。

「はい掛け声!」

「サンデーサイレンス~!」

「よーし、それじゃ気分が乗ってきたところで実際にダンス練習してみようか!」

「ええっ!?」

サンデーサイレンスが勝手にそう決めて、新入生達を案内しようとした時、二代目がそれを止めた。

 

「サンデーサイレンス先生、新入生達はウイニングライブの練習よりも走る練習の方が面白がりますよ」

「ではこうしよう。ここにいる全員で日本ダービーと同じ距離である2400mの模擬レースを行う」

サンデーサイレンス得意の掌返しが炸裂し、新入生達が様子を伺う。

「そしてその後ウイニングライブを先輩ウマ娘達が行い、新入生のうち上位三名がバックダンサーとして踊る……というのはどうかね?」

「それは確かに良さそう」

マツがそう呟き頷くとそれに反応したのがフジだった。

「マツさん、いくらなんでもスパルタ過ぎませんか? いきなり新入生が踊れる訳がないでしょう」

「いや踊れないにしても──」

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩、どういう人選なんですか? 喧嘩しているじゃないですか?」

「ウマ娘の中にも色々なタイプがいる。スパルタトレーニングで徹底的に鍛え上げることで成長するタイプ、逆に軽く効率良くトレーニングをこなすことで成長するタイプ、そしてその中間点で伸びるウマ娘もいる。トレーナー三人集まればどんな性格のウマ娘も育て上げることが出来る」

ヤマトダマシイの信条、それは様々なトレーニングを取り入れ強くすることであり今回はそれが裏目に出てしまった。

「その結果がアレですよ? あの喧嘩のせいで新入生達がドン引きしているじゃないですか!」

「サンデーサイレンス先生の自己紹介ほどじゃないからまだマシな上に、アレはサンデーサイレンス先生が引き起こしたことだ。サンデーサイレンス先生にケジメをつけて貰わないとな」

ヤマトダマシイが取った行動はサンデーサイレンスに後始末を任せるという方法だった。

 

「サンデーサイレンス先生、この喧嘩を引き起こしたケジメつけてもらおうか」

「オーケー。私のケジメの取り方しっかりと見ろ」

サンデーサイレンスがそう告げるとマイクを持ち新入生達を引きつけた。

 

 

 

「新入生の皆にはレースをする前にこのチームトゥバンのことを知って貰いたい。まずシニアクラスのウマ娘から自己紹介してもらおうか」

またもやサンデーサイレンスが掌返ししてマティリアルにマイクを渡す。その様子を見た各ウマ娘が計画性がなさずぎと呆れてしまうのであった。

「えー、先ほど皆さんを案内致しましたマティリアルと申しますわ。今後とも宜しくお願いいたしますわ」

そして次に渡されたウマ娘は栗毛と流星が特徴のダービーウマ娘、メリーナイスだった。

「一昨年度の朝日杯、昨年度の日本ダービーを勝ちましたメリーナイスです。この舞台で聞きたいことがあれば是非とも所属して下さい」

メリーナイスがマイクを次のウマ娘に渡して、息を吐く。

 

そのようなことが続き、数分後。いよいよヤマトダマシイの自己紹介となった。

「私、ヤマトダマシイの自己紹介の前に一つ言わせて貰う。本来シニアクラスのウマ娘はもう一人いるのですが、故障のリハビリにより来られない為私が紹介します。サクラスターオー先輩です。サクラスターオー先輩はメリーナイス先輩を差し置いて昨年度の最優秀クラシック級ウマ娘を受賞した先輩ですが去年の有馬記念で故障し現在治療中です」

「そんなウマ娘がいるなんて……」

「そしてこの私、ヤマトダマシイからクラシック級のウマ娘の自己紹介に移ります。現在私はデビュー戦を終え、翌週のOP戦に登録しています」

ヤマトダマシイが紹介を終えると次のウマ娘にマイクを渡すと二代目が先代に話しかけた。

 

 

 

「先代、あの三人のトレーナーに心当たりはある?」

『フジにマツにハルの三人か……ハルについては予測はついている』

「どんな人なの?」

『ハルは俺の相棒──主戦騎手に良く似ている』

「騎手……確か競走馬に乗って指示する人だったね」

『そうだ。相棒は騎手を引退した後、この世界でいうトレーナー──つまり調教師になったんだ。調教師としてもあいつは優秀で数々のGⅠ競走を獲得した名伯楽だ。スプリンターを菊花賞で勝たせたり、逆にステイヤーに足りないスピードを付けさせる天才だった』

「トレーニング内容はどんなものだったの?」

『詳しいことは知らねえが特殊なトレーニングを考案することが多かったらしい』

「特殊なトレーニング?」

『通常競走馬の調教は15-15*1や坂路、そして併せ馬が基本的だが俺が聞いた話によると10時間ぶっ続けて引き運動*2を行う、プールを使わず激流の川で泳がせると言った内容ばかりだ』

「先代……もしかして津軽海峡を泳げって前に言ったけどその時の影響が残っているの?」

『……さてどうだろうな』

先代が誤魔化し、無言になる。

 

「まあそれについては後で話すとしてこの記事どう思う?」

二代目が取り出したもの、それはスポーツ新聞だった。そこには現在注目されつつあるシニア組の動向について記載された記事だった。

 

【笠松からやって来た地方の怪物、オグリキャップ。彼女はGⅠ競走、大阪杯、安田記念に出走登録しており、悲願のGⅠ制覇が期待されている】

 

【もう一人の地方の怪物イナリワン。前走の阪神大賞典こそ5着とタマモクロスに先着されたもののその実力はやはり本物であり、逆転も十分にあり得る】

 

【サクラスターオーと同着という形で昨年の菊花賞を勝ったスーパークリーク。阪神大賞典でも三着と粘り長距離に関しての素質もあり、天皇賞春ではタマモクロスに対抗出来る存在であるが、脚部不安の為に春の天皇賞、宝塚記念共に見送る模様】

 

【裏街道を歩み続けたタマモクロス。阪神大賞典で連勝記録を伸ばし続け、次の天皇賞春でも勝利が期待される。本命間違いなし】

 

【昨年度、グランプリ連覇を果たし、今年度の阪神大賞典をタマモクロスと共に勝利したメジロパーマー。ハマった時の逃げ脚は怖い存在だ】

 

『……二代目、現時点ではタマモクロスが最強だろう。しかしこの中で来年お前が対決する上で脅威になる相手はイナリワン、再来年はスーパークリークだ』

「タマモクロスとオグリキャップはどうして脅威じゃないの?」

『タマモクロスは来年引退している可能性が高い。オグリキャップは基本的にマイラーで安田記念に出走しなきゃいけねえから来年の宝塚記念時点で有利なのはイナリワンの方だ』

「いやそれだったらJCとか有馬記念とか、秋のレースがあるでしょ?」

『その時点で二代目はマークせずとも自分のレースだけでオグリキャップ達に勝てるだけの実力が付いている』

「それって──」

「おいこらグリーン、何もたもたしていらぁっ! とっとといくぞ!」

『お呼ばれの様だぜ二代目。この話はまた後でしよう』

ヤマトダマシイに叱られた二代目がヤマトダマシイについていく。

 

しかし新入生の案内が終わった後、最優秀シニアウマ娘がチームトゥバンに併せウマを申し込んで来ることに誰もが予想外だった。

*1
1F(約200m)あたり15秒間隔で走る調教であり最も効率的な調教とも言われている。

*2
厩務員などが馬を引き連れて歩く運動。極軽い調教の一つ




後書きらしい後書き
武田ハルことハルのモデルは青き稲妻の物語に出てくる武田晴則がモデルです。他の二人のトレーナーについてはご想像にお任せします。


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第14R マックイーンよりもライアンよりもメジロなウマ娘

~前回の粗筋~
トレーナーs「我らチームトゥバン!」


チームトゥバンが新入生達を迎え終わった翌日、昨年度の最優秀シニアウマ娘、メジロパーマーがチームトゥバンに併せウマを申し込んだ。しかしチームトゥバンはある問題を抱えていた。メジロパーマーにふさわしい併走相手がシニアのウマ娘の中で見つからなかった為だ。

 

現在チームトゥバンを代表するシニアのウマ娘、メリーナイスとマティリアルの二人は大阪杯に出走予定があり、調整段階にかかっている為にメジロパーマーと併せウマが出来ない。その他シニアのウマ娘はメジロパーマーと併せウマをしても、実力的に不相応な者ばかりだった。

 

 

 

「となると、やはりクラシック級のヤマトダマシイか? あいつはビワハヤヒデとウイニングチケットに食い込めるだけの実力がある」

トレーナーのうち一人、マツがビワハヤヒデとウイニングチケットの二人に並ぶ逸材としてヤマトダマシイを推薦する。

「いやあいつもレースが近い。重賞の一つを勝っているならともかく重圧過ぎる」

「メリーナイスもマティリアルも互いにパートナーとなると……まとめて三人で走るのはどうでしょうか?」

トレーナーの三人が話し合い、会議を進めていると扉を乱暴に開けたウマ娘、サンデーサイレンスが唐突に口出ししてきた。

 

「むっふっふっ、お困りのようだな!」

「サンデーサイレンス」

「お前、何しに来た」

散々な言われようも無視してサンデーサイレンスが紙束をトレーナー達に渡した。

 

「それは昨日までにウマ娘達のデーターをデジタル化したものだ。チームトゥバンの中で今のメジロパーマーに対抗出来るのはシニアのメリーナイス、マティリアル、クラシック級のヤマトダマシイ、ジュニア級のアイグリーンスキーのみだ」

二代目の名前を出されたトレーナー達が困惑の声を出す。

「アイグリーンスキーだと? いくら何でもそれは──」

「あり得ないと言いたいのか? 言っておくがレースに絶対はない。どんなウマ娘でもチャンスはある……アメリカンドリームを達成した余のようにな!」

 

デビュー前のサンデーサイレンスの過去は散々たるものだった。まずサンデーサイレンスが入学したトレセン学園からは不正を疑われ、徹底的に教師やトレーナー達から嫌われてしまい、大手チームは当然中小チームからも入団拒否されてしまう。

そんなサンデーサイレンスを迎えてくれた偏屈なトレーナーのいるチームに所属してもそのチーム内でウマ娘特有のインフルエンザが流行し、サンデーサイレンス以外のウマ娘が死亡。残ったのはまともな期待すらなかったサンデーサイレンスのみだった。

 

そんな逆境の中でサンデーサイレンスは大手チームから厚い期待を受けていたイージーゴアを蹴散らして米国で二冠を制し年度代表ウマ娘となった。

当初こそ評価が低かったサンデーサイレンスの活躍に誰もが驚愕し、醜いアヒルの子に例えられるようになった。

 

 

 

「確かにレースに絶対はないのは知っているが、今回に限っては絶対だ」

「果たしてそんなことが言えるのか? チームリギルの試験ではあのビワハヤヒデの妹ナリタブライアンにアイグリーンスキーは勝ったそうだ」

「それはまあ、ナリタブライアンも同世代だから勝てる見込みもあるんじゃないのか?」

 

「つい先日、青森県で地方アイドルとして活動しているウマ娘二人がマッチレースをしたそうだ」

「マッチレース……まさか、アイグリーンスキーがそれをやったというのか?」

「いや地方のウマ娘、それもアイドル業を本業としているならそれほど大した相手では──」

「アイグリーンスキーがマッチレースに出走したのは正解だ。だがその相手はトレーナーをしている、いや学園の全員が知るウマ娘だ」

「一体誰なんだ?」

「あのTTGの一角であり、年度代表ウマ娘にも輝いたウマ娘、グリーングラスだ。グリーングラスに敗れたもののタイム差なしのハナ差。メジロパーマー相手には十分な相手だと思えるし、何よりも惨敗したとしても彼女はまだジュニア級のウマ娘だ。これからの成長を考えてもやるべきだ」

「……意外にもウマ娘のことを見ているんだな、サンデーサイレンス」

ハルが驚愕の声を出し、その声に同意するようにトレーナーの全員がサンデーサイレンス見つめるとサンデーサイレンスが答える。

「余を唯の穀潰しだとでも? これでもどん底から這い上がって来たウマ娘だ。レースに勝つにはウマ娘のことを観察し、論理的かつ合理的に判断するのは当たり前のことだ」

実体験をしているサンデーサイレンスの言葉は余りにも重かった。

 

 

 

そんなこんなで二代目がメジロパーマーの併走のパートナーと決まり、数日後。

「先代、メジロパーマーって競走馬はどんな馬なの?」

『ウマ娘のメジロパーマーはグランプリ連覇を果たしていたんだっけか?』

「うん。どっちも人気薄で逃げ切られたって新聞に書いてあったよ」

『そうか……こっちのメジロパーマーは俺の世界よりも強いかもしれねえぞ。あいつは俺の世界では有馬記念すら勝っていなかったからな』

 

「へぇ……もしかして先代のお兄さんが?」

『その通りだ。その時のメジロパーマーは惜しくも二着だった。だがウマ娘のメジロパーマーは二着になることなく見事勝利した。ウマ娘となった兄貴がいないとはいえこれは中々出来ることではない』

「そういうものなの?」

『ウマ娘ってのは良くも悪くも俺の世界の競走馬の成績、GⅠ競走を含めた重賞の成績は特に影響される。テンポイントはその典型例だ。故障したタイミングまで一緒だしな』

 

「う~ん……それじゃシンボリルドルフ会長が米国でヘマこいたのも?」

『ああ。それも俺の世界のシンボリルドルフと一緒だ。しかし俺の世界のシンボリルドルフはその後引退だったが、こっちの世界では引退していないことから故障に関しては影響力が少ない世界だ』

 

「それじゃヤマトダマシイ先輩を救ったのは無意味だったんじゃ……」

『無意味ってほど無意味ではない。少なくとも故障する確率は大幅に減少した。ヤマトダマシイの故障の原因は無理な調教によるものだ。それに競走中止になったウマ娘が復活した例は俺の世界の競走馬が実際に復活した例しかない。俺の世界で予後不良で死んだ馬はすべからくレースに復活していない』

 

「そういえば……テンポイント先輩もキングスポイント先輩もサザンフィーバー先輩も皆引退している」

『生死に関しての影響力は緩いがレースの成績にはかなり反映されている。その影響力があるにも関わらずそれを打ち破ったメジロパーマーは速さは兎も角、強さはGⅠ5勝のウマ娘にも匹敵するだろうな』

先代の言葉に二代目が気を引き締め、体を動かし暖める。

 

 

 

その数分後、メジロパーマーを連れたサンデーサイレンスが現れた。

「メジロパーマー、このアイグリーンスキーが相手だ」

「ほぉ、ワシん相手はジュニアのウマ娘かいな。確かに図体だけはシニアに劣らんが相手として力不足なんちゃうか?」

 

メジロパーマーが鼻で笑い、二代目を見る。確かに二代目の体格はクラシック級のウマ娘どころかシニアのウマ娘にも劣らないほど雄大であり、一見するとシニアのウマ娘と見間違えてしまうほとだ。それをメジロパーマーが見破った理由はシニアに二代目がおらず別のクラスのウマ娘だと判断したからだ。もっともそれでもクラシック級のウマ娘と勘違いしているのだがそれは仕方ない話だ。

 

「もしかしたら役者不足になるかもしれないわよ。メジロのお嬢様」

「ワシは常に挑戦する立場やからな。相手がシンボリルドルフ会長やったとしても役者不足になることはないわ」

二代目の挑戦にメジロパーマーが挑戦返し。互いに火花が飛び散る。

 

「……まあええ。事前に確認しておくが今回のトレーニング内容は3200mの模擬レース形式の併せウマや。それはサンデーサイレンスから聞いておるな?」

「ええ。天皇賞春を想定した練習だそうですね」

「せやから天皇賞春に出走しても勝てる見込みのあるシニアの連中に頼んでいたんやだが断られてもうた。せやけどそこのサンデーサイレンスにジュニアで見込みのあるウマ娘がおる言われて自分と勝負することに決めたんや」

「勝負ねぇ……それはやはり、メジロパーマー先輩の評価が低いからですか?」

 

「今度の春の天皇賞に勝つ為や。ワシはメジロ家の中でも期待されていなかったんや。宝塚記念を勝った時はマックイーンを初めとしたメジロ家関係者が応援に来ず、有馬記念を勝った時もタマモクロスのいない低レベルの戦いと評価され、有馬記念を勝ったのはサクラスターオーが故障しても影響のない逃げウマだから勝ったと評価された。そして今年の阪神大賞典でタマモクロスと同着になってもワシはタマモクロスどころか5着のイナリワンよりも劣る存在扱いや」

 

「だけど天皇賞春を勝てばその評価は覆される」

「そうや。昨年の菊花賞ウマ娘達が不出走でもタマモクロスやイナリワンとてそれに劣る存在やない。むしろ世間の評価はそっちの方が上や。そいつらをまとめて倒してメジロパーマー一強時代を築き上げる。それで世間をアッと言わせちゃる」

「天皇賞春を勝った程度だと一強時代は来ませんよ。せいぜいタマモクロス先輩達と同格になるだけです」

「なんやと?」

「さてその答えが知りたければ、私に勝って下さい」

「ほざきよったな。後悔しても知らへんで」

メジロパーマーが離れ、準備体操に取りかかると二代目が先代に話しかけ、作戦を取った。

 

 

「先代、それでメジロパーマーのレーススタイルはどんなものなの?」

『俺はメジロパーマーが引退した後にデビューしたからな……俺も詳しいことはわからん。俺が知っている限りではメジロパーマーは高速ラップで競走馬を引き寄せてスタミナに物を言わせて逃げ切るらしい』

「じゃあ、先代のお兄さんはどうやって勝ったの?」

『メジロパーマーの弱点は他の競走馬が高速ラップのハイペースで潰れさせないと自分だけが潰れてしまう。兄貴はそれを利用した。有馬記念で誰もがペースを乱している中、唯一ペースを乱さず走り続け、最後に追い込んで勝ったんだ』

「ペースね……ペースか」

二代目が呟きながら、スタートラインに付くとサンデーサイレンスが旗を上げた。

 

「位置について!」

二代目とメジロパーマーの顔が引き締まり、サンデーサイレンスの手に握られている旗に集中する。

「スタート!」

サンデーサイレンスの合図と共に二代目、メジロパーマーがスタート。併せウマという名前のマッチレースが始まった。




メジロパーマーの解説
競走馬のメジロパーマーは父親もメジロ、生まれもメジロ牧場とまさしくメジロの中のメジロなのに、父親がメジロではないメジロライアン、出身がメジロ牧場でないメジロマックイーンよりも評価が低い馬でした。ちなみに本文中にあるメジロパーマーが制した宝塚記念でメジロ関係者がいなかったというエピソードも概ね史実通りです。
追記──メジロパーマー実装化しましたがこのままの性格で続けます……なんでかって?後に引けないからだよ!

後書きらしい後書き
現時点ではメジロパーマーは概ね史実通りですが、この後どうなるかご期待下さい!


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第15R シニア最強ウマ娘との併せウマ

前回の粗筋
エセ関西弁のウマ娘「ワシがメジロパーマーや!」


「さてお手並み拝見やジュニアのガキ。着いて来れるもんなら着いて来てみろや!」

メジロパーマーの挑発に二代目は思考する。あえてその挑発に乗り、メジロパーマーをねじ伏せるか、それとも着実に攻めるか。その答えは言うまでもなかった。

「上等ですよメジロのお嬢様」

名目上併せウマである以上競り合わなければ意味がない。二代目はメジロパーマーを凌いで先頭に立った。

「っ! 後で潰れても知らへんで!」

メジロパーマーが言っていることと裏腹に競り合って二代目を潰しにかかる。

 

かつて、チームギエナに所属していたカブラヤオーが皐月賞で潰したレイクスプリンターというウマ娘が無理にカブラヤオーと競り合った為に重度の故障を起こして、予後不良処分が下された。なお、予後不良となったレイクスプリンターは故障することで有名なチームギエナではなく別のチームであったことはまさしく皮肉であった。

 

メジロパーマーもカブラヤオーと同じく、二代目を潰そうとしていた。それにも関わらず二代目は更にペースを上げ、メジロパーマーの前でうろちょろと鬱陶しさを感じさせるように突き進む。

 

それを見ていた第三者ことサンデーサイレンスが時計を見る。

「ふむ……1000m58秒9か。とても3200mの途中ラップではないな。2000mのレースの途中ラップと言われた方がまだ信じられる」

殺人ペースとも呼べるほどハイペースで二人が走っているのを見て顔を顰めるサンデーサイレンス。どちらかが折り合いをつけてくれればそれに越したことはない。しかし二人はとにかく前を譲らない。

「メジロパーマーは脚質上仕方ないがアイグリーンスキーは自在のはずだ。それにも関わらず何故逃げに拘る?」

その問いに答えるものは誰もいない。残り半分を過ぎたところで更に競り合う。

「そういうことか」

サンデーサイレンスが時計を見て、そう一言だけ呟く。二代目が1600mを通過した時点でのその時計は1分35秒を刻んでいた。

 

 

 

『これがお前の作戦か?』

メジロパーマーを横に二代目に話しかける先代。このままであればスタミナ切れしてしまう……そう思った瞬間、二代目が加速した。

「そうよ先代、これが私の作戦よ」

2000、2400、2600mをそれぞれ1分58秒、2分24秒、2分36秒で通過し、およそ1F──およそ200m──あたり12秒前後で走り、メジロパーマーについていく。

「これが最高の走りよ」

二代目の言葉通り、残り200mを切った時点でメジロパーマーを突き放した。

 

 

 

「なにいっ……!?」

メジロパーマーが二代目に突き放され、驚きを隠せず表情に出てしまう。しかしメジロパーマーとて狼狽えるだけに終わるウマ娘ではなく、二代目に追い付かんと最後の力を振り絞ろうとするがそれまで無理してきたツケが回ってきたのか、二の脚が発揮しなかった。

「なんでや……なんで、そんなに速く走れるんや?」

メジロパーマーが問いかけ、頭に様々な思考が遮る。デビュー戦すらも終えてないジュニアのウマ娘がグランプリ連覇を果たした自分に勝てるなどということはあってはならない。それもスタミナ勝負なら尚更だ。あるとしたら──

『それはあいつがお前よりも強いだけの話……違うか?』

「うぇっ?」

メジロパーマーが自分が考えたことを当てられた男の声に、トンチキな声を出してしまう。

『そんな無力なお前に俺が力を貸してやる。俺はお前自身だからな』

男の声が消えるとウマ娘メジロパーマーの背中に誰かが押すように前へと爆進していく。

 

 

 

そしてメジロパーマーが二代目を捉えた。

「嘘、でしょ……!?」

『ウマ娘のメジロパーマーは化け物か?』

この事に冷静な先代すらも驚愕の声を上げ、二代目に助言してメジロパーマーを差し返した。

「まだまだやっ! ワシの力見ておけや!」

だがメジロパーマーは二の脚どころか三の脚を使って二代目を更に差し返し、3200mを走り切った。

 

 

 

「これが、シニア最強の、ウマ娘の実力、や」

息切れしながらメジロパーマーが、疲れのあまり横たわっている二代目に声をかける。

『久しぶりに負けたな』

「……」

『なんだ、声も出せないのか? まあ確実に従来の日本レコードを更新したんだから当たり前といえば当たり前か。後で計測しているサンデーサイレンスに聞いてみな』

先代は二代目の身体の疲れに影響しないのか饒舌に喋る。

「やっぱりグランプリ連覇ウマ娘の名前は伊達じゃないか」

「当然や。そもそもデビュー戦もやっておらんジュニアのお前がワシを追い詰めること事態が異常なんや」

「流石にジュニア級とシニアの差はデカイですね」

「ちょい待て、お前ジュニア級なんか!?」

メジロパーマーが目を見開き、二代目のいる方へ振り向く。

 

「ええ。最速でもデビュー戦まで後半年以上待たなきゃ行けません」

「そんだけ身長デカイから調整に時間かかっているかと完全に思っとったわ。そういえば身長いくつなんや?」

「前計測した記録ですと170cmですね。まだまだ成長していると思いますけど」

「170cmかいな……最近のジュニア級のガキは発育がええのう」

「発育がいいのは私だけですよ。同じジュニア級のナリタブライアンやヒシアマゾンは平均くらいですから」

二代目がやんわりと自分だけが例外であることをメジロパーマーに告げる。

 

 

 

「なあ、アイグリーンスキー。一つ聞いてもええか?」

「何でしょうか?」

「ゾーンって知っとるか?」

「ゾーン?」

「アスリートの用語なんやけどな、最高のパフォーマンスを発揮できる超集中状態のことや。この状態に入ると道が動く歩道になったり、ゴールが近くに見えたりするんや。アイグリーンスキー、このゾーンの状態に入っていたのか?」

「いえ、特には」

「かー~っ! ほんまかいな。100%の力でワシの120%と互角言うんか?」

「もしかして先輩、ゾーンに入ったんですか?」

「そや。変な声が聞こえてな、その声に従ったら力がみなぎってきよった」

「変な声?」

「男の声やった。何でもそいつが言うにはワシのことを自分自身や言うんやねん」

「先輩、それは別の世界の自分の声ですよ」

二代目がそう告げるとメジロパーマーが首を傾げた。

 

 

 

「そらどういう意味や?」

「メジロパーマー先輩、授業でウマ娘の御先祖様はヒラコテリウムが猿人と触れあう内に人寄りに進化したものだって習いましたよね」

「ひ、平社員?」

「ヒラコテリウム。四足歩行の動物ですよ。そのヒラコテリウムがウマ娘に進化しなかった世界というのがあります。その世界ではヒラコテリウムが四足歩行のまま走ることに特化して進化したのが競走馬で、その世界にはいないウマ娘の代わりにGⅠ競走を始めとした多数のレースで走っています」

「ふーん、それがどないしたんや?」

「先代──異世界の私が言うには競走馬が生まれ変わったのがウマ娘らしいです」

「その根拠はなんや?」

「この学園の伝承ではウマ娘が異世界の魂について語られています。もしウマ娘が異世界の競走馬の魂を受け継いでいなければそんな伝承があるはずがありません」

「方便かもしれへんで」

「メジロパーマー先輩、そう思うなら異世界の自分自身に話しかけて下さい。それでわかるはずです。魂が一度覚醒したなら尚更」

メジロパーマーが正論を突かれると、しばらく無言になりコメカミの部分を指で弄る。

 

 

 

「……なあ、異世界のワシ。こいつの言うとおりなんか?」

『そうだ。俺は異世界で競走馬をしていた』

「ほんまに通じよった!?」

『俺が魂の存在となった後、お前のことを何度も呼び掛けたが今日まで反応せずずっと見守るだけになっていた。しかしようやく俺の存在がお前に認められた』

「はぁ~、ワシ毎日声かけられていたんか。驚いたわ。せやけど何で魂の自分の声が聞こえるようなったんやろ?」

首を傾げメジロパーマーが魂のメジロパーマーに語りかけると二代目が首を突っ込む。

「極限までに追い詰められたからじゃないですか? 私もそうやって覚醒しましたし」

 

「ほほう、つまり魂の声を聞いていない余は追い詰められていないと?」

更にサンデーサイレンスが割り込みメジロパーマーが顔を顰め毒を吐く。

「割り込み特別講師、どないな追い詰められ方したんや?」

「インフルエンザで死にかけたり、学園に入学拒否されかけたり、交通事故でチームの皆が死んでチーム存続の危機に遭ったり、セクレタリアトに学園の食糧全て喰われて餓死しかけたりしたな」

最後を除いて全て史実通りであり、サンデーサイレンスは何度も死にかけ追い詰められている。

 

「それにも関わらず覚醒しないとなると、追い詰められる他に何か原因があるのかもしれませんね」

「あれ? セクレタリアトが起こしたトレセン学園食糧消失事件について興味ないの? あの事件のせいで余はおろかセクレタリアト以外のトレセン学園関係者全員が死にかけたんだぞ」

「興味ありませんよ。そんな事件」

「というかその話えらい長そうやし遠慮しておくわ」

サンデーサイレンスがウマ娘二人にばっさりと切り捨てられ肩をしょんぼりと落とす。米国のトレセン学園関係者が見たら今のサンデーサイレンスの姿を写真に納めていたであろうが、二人はそんなことを知らないので話題を変えた。

 

 

 

「そやサンデーサイレンスはん。ワシらのタイムはなんぼやった?」

「ん? ああ、聞いて驚け。メジロパーマーのタイムは3分17秒6、アイグリーンスキーのタイムは3分17秒8だ。二人とも春の天皇賞ならスゥゥ~パァァ~レコードだ!」

「ジュニア級の若造が3分17秒8!? その身長といいお前ホンマに年齢誤魔化してないやろな?」

勝ったはずのメジロパーマーが負けた二代目のタイムに驚き、二代目に問い詰める。

「だから誤魔化してませんって」

二代目に年齢詐称疑惑が生じるがそれ以外は無事にメジロパーマーとの併せウマが終わり、メジロパーマーと二代目共に大きな収穫があったトレーニングであった。




後書きらしい後書き
はい、という訳でメジロパーマーが覚醒しました。しかしメジロパーマーが出したこのタイムは史実通りで、それまでのレコードよりも速かったのも事実です。しかしそんなメジロパーマーでも三着……前二頭、ライスシャワーとメジロマックイーンがそれよりも速かっただけですのでメジロパーマーが弱かった訳ではないんです。


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第16R ヤマトダマシイ回避

前回の粗筋
メジロパーマー「ワシも魂と話せるようになったで!」


メジロパーマーとの併せウマを終えた数日後、二代目はヤマトダマシイの二戦目であるOP戦を観戦していた。その最中、二代目の衣装を見た観客達が二代目を見つめるがそれもレースが始まるとレースの方へ注目する。

 

「ヤマトダマシイ先輩、無事に帰って来て下さい……」

ヤマトダマシイは先代の世界において予後不良となり死んでしまっている以上、何が影響して予後不良になるかわかったものではない。一応不安要素を出来る限り消し去ったが二代目はそれでも不安にならざるを得なかった。

 

【さあ残り200mを切ってここでヤマトダマシイが一気に来る一気に来る】

ヤマトダマシイが最後の直線に入り、次々と前を走るウマ娘達を蹴散らし、二代目の感情は不安から希望へと変化していく。

「あと少し、あと少しでゴール……! だからヤマトダマシイ先輩、頑張って下さいっ!」

二代目の祈りが通じたのか、遂に先頭のウマ娘を捕らえゴール板を通過した。

【ゴールイン! ヤマトダマシイまたもや直線のみの追い込みで勝ちました!】

「やった、勝った、勝ったよ、先代!」

 

ヤマトダマシイが予後不良にならず先頭で走ったことに二代目が歓喜の声をあげると鬱陶しそうに先代の声が響く。

 

『見りゃわかる。お前がヤマトダマシイを救ったんだからこのくらいの相手に勝てて当然だ。しかし今は圧倒的な能力でねじ伏せているがいずれ頭打ちになる。クラシック級の頂点になるのは厳しいかもな。それにクラシック級の頂点に立ったとしても相性の悪い逃げウマ娘メジロパーマー、自在脚質のタマモクロス等直線バカのヤマトダマシイでは勝てない相手もいる』

「勝てない相手……」

 

『マオウ、いやまだあいつは生まれていないんだったな。シルキーサリヴァンみたいに上がり3F29秒を出せるなら話は別だがあいつはそうじゃねえ。まくりやレース展開、ペースを頭の中に叩き込む必要がある。それさえ叩き込めばヤマトダマシイはシンボリルドルフにも勝るウマ娘にもなる。お前がそうであるようにな』

「確かに」

 

『逆に言えばそれを叩き込んでも成長しない奴がいる。チームリギルのトレーナー東条ハナがお前をリギルに入れなかったのは既にそれらの部分が完成していて成長する余地がなかったからだと俺は想像している』

「まだまだ末脚とか身体能力とか成長する余地があるのに」

二代目が、一着の二代目ではなく二着三着のナリタブライアンとヒシアマゾンのコンビが何故かチームリギルに所属することになったあの事件のことを思い出す。

 

 

 

『身体能力に関してはナリタブライアンやヒシアマゾンもそうだろう。二代目のレースが完璧過ぎてレースが未熟だったあいつらほど成長を見込める要素がなかったからな。シンボリルドルフが二代目を評価したのは二代目の年齢でレーススタイルを確立している点で東城ハナとは見る所が真逆なんだ』

「何にせよ、ヤマトダマシイ先輩の強化練習に付き合うことになりそうだね。先代がヤマトダマシイ先輩のトレーニングを考察するならどんなのにするの?」

『直線での抜け出し、カーブ、ペース配分、坂路、15-15を中心に練習をさせる。後はスタミナをつけさせるためにプールや引き運動をさせる』

「本当に追込かつ脚部不安を抱えているヤマトダマシイ先輩用のトレーニングだ……私にはあんなスパルタなのに」

『当たり前だ。お前の場合フィジカルトレーニングさえすれば勝手に成長する。何せお前は他のウマ娘とは違ってレーススタイルを確立しているというアドバンテージがある。そっちに練習時間を割く必要がないからフィジカルトレーニングに集中出来るという訳だ』

「なるほど……あっ、そろそろヤマトダマシイ先輩のもとにいかなきゃ」

二代目がヤマトダマシイのもとに向かうとヤマトダマシイがどや顔で二代目に向ける。しかしそれもつかの間だった。

 

 

 

「グリーン、その格好はなんだ?」

ヤマトダマシイが見た二代目の姿はツインテールに、フリルを大量につけた青いゴスロリ服に加え、ウマ娘特有の耳を隠すカチューシャ、二代目の身長が170cmを超えかつ、顔こそ整っているが童顔でないことや、ウマ娘特有の耳や尻尾を隠していることもあり、あまりにも不似合いな格好をしている人間にしか見えなかった。

「マルゼン姉さんとたづなさんに無理やり着替えさせられたんですよ……」

二代目の目のハイライトが消え、あの出来事を思い出す。マルゼンスキーとたづなに何も言わず修行の旅をしたお仕置きとして二代目が寝ている時に侵入され無理やり着替えさせられ、一日その姿で過ごすように命令され現在に至る。

 

二代目の事情を聞いたヤマトダマシイは顔を顰め、ウマ娘特有の耳を閉ざし聞かなかったことにした。何せマルゼンスキーと駿川たづなの二人が関わっており、この二人を相手に出来るのは学園内でシンボリルドルフしかいない。それ以外のウマ娘は関わるだけ二人の良いように弄ばれるだけでヤマトダマシイもそれを理解していた。

「まあそれはともかくグリーン。私が死ぬってのは杞憂だっただろう?」

そんな訳でヤマトダマシイは話題を自分のレースについて変えることにした。

 

「はい。ヤマトダマシイ先輩、OP戦優勝おめでとうございます」

「このくらいの相手だったらまだ楽勝だ。私が目指しているのは頂点だからな」

「それはつまり日本ダービーを獲るということですか?」

「ああ。今後はニュージーランドT、NHKマイルC、日本ダービーのローテーションで行こうと思っている」

「ダービートライアルレースには参加しないんですか?」

 

「ダービーに参加するならダービートライアルを使った方がいいだろうが、一つは皐月賞で賞金の関係上私は出られない。青葉賞は日程的には最適だが青葉賞ウマ娘でダービーを勝ったウマ娘はおらず相性が悪い。同じくプリンシパルSも相性が悪く、誰も勝てていない。NHKマイルCと同じくダービーのステップレースによく使われる京都新聞杯はダービーウマ娘を輩出しているが日程がNHKマイルCと一緒な上に格が落ちる」

 

「でもNHKマイルCは1マイル、つまり1600mですよ。他のステップレースに比べてあまりにも短すぎます。日本ダービーは2400mなんですからもう少し考えた方が──」

「なあ、グリーン。春の天皇賞を制したウマ娘が距離が1km短くなった宝塚記念を制するのはおかしいことか?」

「う……おかしくありません」

「つまりそういうことだ。お前が私の為を思って言っているのはよく分かる。だがそれでもやらなきゃいけないんだ」

「……マム、イエスマム」

二代目は渋々自分の意見を取り下げ、ヤマトダマシイに従いその場を後にした。

 

 

 

ヤマトダマシイの二戦目の翌日、史実におけるサンデーサイレンス産駒やその子供達がチームトゥバンにチーム入りした。

 

「……まさかサンデーサイレンス先生の宣伝効果がここまでとは思わなかったな」

 

史実におけるサンデーサイレンス産駒、それはフジキセキ、タヤスツヨシと言ったGⅠ競走を勝利する豪華な面子だ。ウマ娘になった彼女達がこのチームにチーム入りしてくれるのだから頼もしいばかりだ。

 

「むっふっふっ……余の呼び込みの効果は絶大だろう?」

「ですね。特にあのフジキセキを他のチームに取られなかったのはかなり美味しいです」

 

二代目がトレーニングをしているフジキセキを見て笑みを浮かべる。それほどまでに二代目がフジキセキというウマ娘を評価していた。ちなみに二代目の今の格好は通常通り学校の制服であり髪型も元に戻っている。

 

「彼女は特に余とシンパシーを感じたからな。ゴールドシップも悪くないのだが、なんというかあれは孫みたいなものだ」

『俺の世界では少なくともゴールドシップはサンデーサイレンスの孫だったし、孫と思うのは当たり前なのか?』

「孫……」

「まああいつも余がスカウトした以上責任持って育成する。だがその前にやるべきことがあるのでな。明日から余は少しの間出張してくる」

「えっ? 出張?」

「そうだ。一週間以内には戻ってくるから安心しろ。チームトゥバンのトレーナーやジュニア予備のウマ娘にも伝えている」

サンデーサイレンスが笑い、親指を立てる。

「具体的な仕事はどんなものですか?」

「まだトレセン学園に入学していないウマ娘達をスカウトするだけのこと」

「特別講師がそんなことをして大丈夫なんですか?」

「むっふっふっ……余は運命を変えたウマ娘だ。それくらいのこと訳ない」

サンデーサイレンスがあれだけ自信満々に言われた二代目は押し黙るしかなかった。




後書きらしい後書き
はい、という訳で今回はヤマトダマシイが予後不良せずOP戦を勝利した話でした。この世界で生存したヤマトダマシイがどのように活躍するかご期待下さい!


それはともかくこの第16Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

またアンケートのご協力ありがとうございました! 要望が多かったので次回は第16.1Rと第17Rを掲載します!

尚、次回更新は西暦2019年5/6です


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第16.1R

ヤマトダマシイと共に帰ろうとすると幼きウマ娘の一人が二代目に声をかけた。

「ゴスロリ服のお姉さん、写真お願いします!」

二代目に話しかけたそのウマ娘はとらえどころがない雰囲気、世間一般でいうゆるふわ系幼女そのもの。存在感がないようである、あるようでない矛盾したウマ娘だった。

 

「ええっ、なんで私!?」

「お前にもファンが出来たようで何よりだ。頑張れ」

「や、ヤマトダマシイ先輩……」

「おっと、これから取材に応じる時間だ。急がなければな」

口実をつけて二代目の懇願を無視してその場を去るヤマトダマシイは、この場にいる青髪ツインテール青ゴスロリ服のウマ娘と無関係でいたいようだ。

 

「うわ……あのウマ娘逃げやがった」

「お姉さん?」

「えっと、その私写真は受け付けていないの。だから──」

二代目は泣き顔になったウマ娘を見て言葉を呑み込む。もしここで泣かれて騒がれでもしたら、二代目は社会的に抹殺される。ましてや不似合いな青ゴスロリ服を着ているのだから注目度は段違いに高く、二代目の渾名が「鬼畜青ゴスロリBBAウマ娘」となるだろう。

「だからね他の場所に行きましょう」

故に二代目はそれを回避するために別の場所で撮影することを提案。ウマ娘もそれに満足したのかそれに頷く。

「うん。いいよ。私カーソンユートピアって言うのよろしくねウマ娘のお姉さん」

「よろしくね。私はアイグリーンスキーよ」

『カーソンユートピアか。懐かしい名前だ……』

その名前を聞いた先代が思わず声に出す。そのウマ娘と何か関係性があったのだろうかなどと思いつつも二代目はウマ娘ことカーソンユートピアに自己紹介して公園に案内した。

 

 

 

某公園

 

「じゃあアイリ姉さん、腕をそう、そんな感じにして!」

マルゼンスキーが二代目を呼ぶときと同様にアイリと呼ぶカーソンユートピア。

「こうかなソンユちゃん?」

「バッチリ!」

二代目がポーズを取り幼きウマ娘がそれを撮影。その繰り返しを何度もして、十分ほど経過するとカーソンユートピアが自撮り棒を取り出した。

「それじゃ最後ね! 最後はお姉さんが椅子に座って私がその上に座った写真を撮るの!」

「やっと終われる……」

二代目がボソッと呟きながら公園の椅子に座り、カーソンユートピアが自撮り棒に自分の子供用の携帯を取り付けようとするが上手くいかず途中で落とす。

「あっ!」

子供用の携帯だからか角張っておらず楕円形の形状に合わせて偶々そこにいた犬の前に転がる。

「わう?」

犬がそれを咥えて拾い、ウマ娘のもとに向かうかと思いきやその場を走り去ってしまった。

「いけないっ!」

精神的な疲労こそあれども肉体的な疲労は全くない二代目が立ち上がりそれを追いかけようとするとカーソンユートピアがとっくに駆け出していた。

 

「待てぇぇぇっ!」

その場にトレセン関係者がいたなら誰もが認める豪脚を炸裂させ犬を追いかけ、追い詰める。

「っ!!」

犬は携帯を咥えているせいか悲鳴を上げる代わりにスピードを上げ、逃亡し続ける。そのスピードは時速70kmを軽々と超えており、トレセン学園のジュニア級クラスのウマ娘でも追い付けるかどうか怪しいものだった。しかし追いかけているカーソンユートピアは徐々に差を詰め犬も必死で逃げる。追いかけられるのが嫌なのであればその携帯を離せばいいだけの話だが犬はウマ娘とは違いそこまで考えが及ばず、ただひたすらに逃亡し続けるしかなかった。

「これで終わりだ!」

カーソンユートピアが犬を身体全体で確保する犬が悲鳴を上げ咥えていた携帯を落とした。

「よしよし。良い子」

先程まで鬼の形相で追いかけていたウマ娘とは思えないほど笑顔で犬とじゃれつくカーソンユートピア。それを見た二代目はとてつもなく微笑ましい気持ちになった。

 

 

しばらくするとカーソンユートピアが犬と触れあうのを止め、二代目に駆け寄った。

「あらわんわんと遊ぶのはもういいの?」

「うん、それよりもお姉さんと遊ぶのが楽しそう!」

「そっか。それじゃ写真とって遊びましょう……ソンユちゃん、こっちにおいで」

二代目自身も何故このウマ娘に対して母性が出しているのかわからず困惑するも、気分を害するものではなくむしろ心地好いとすら思っていた。故にカーソンユートピアが自撮り棒を子供用の携帯に合わせて設置し、二代目の膝の上に座ると二代目は自然と笑顔を見せるようになっていた。

「ふふっ……」

「えへへ……」

二代目が笑うとカーソンユートピアもそれに釣られて笑う。その繰り返しが何度も続き、ついには夕暮れになってしまう。

 

 

 

「あっ、そろそろ帰らなきゃ!」

「ソンユちゃん、一人で帰れる?」

「大丈夫だよ。ここまで一人でこれたもん!」

「ソンユちゃん、これ私の電話番号だからもし困ったことが合ったら電話してね」

「ありがとうアイリお姉さん」

二代目とカーソンユートピアの電話帳に互いの電話番号が登録されるとカーソンユートピアが二代目に向けて手を振りながら帰っていくと二代目も学園に帰宅し学園内の自室に戻っていった。

 

 

 

「先代、カーソンユートピアって名前聞いたことある?」

『無論だ。俺を雷親父と呼んだ長男こそそいつだ』

「ええっ!? いつか反抗期が来たら私も雷BBAなんて言われるのかな?」

先程のカーソンユートピアはどうみても純粋で悪口や暴言を吐くウマ娘ではない。しかし成長すれば自分をいずれそう呼ぶだろうと推測し身震いしてしまう。

『さあどうだろうな。そこまではわからん。だがあいつの成績について話すとしようか』

「お願い」

『競走馬のカーソンユートピアはデビュー戦とダービートライアル以外のレースは全てGⅠ競走しか走っていないがマルゼンスキー以来8戦以上して無敗で引退した、超名馬だ。主な勝鞍は日本ダービー、天皇賞春から有馬記念までの当時の古馬王道GⅠ完全制覇だ』

「古馬王道完全制覇っ!? そんなのシンボリルドルフ会長でも成し遂げられなかった偉業をこなすなんて信じられない……」

『ちなみに同じことをカーソンユートピアの前にやった奴がいるがそいつと比べちゃならねえ。カーソンユートピアは競走馬以上に種牡馬として大成したんだからな』

「父親として有名になったの?」

『そうだ。欧州地方のリーディングサイアーに加えて欧州三冠馬を複数頭輩出するなど大活躍し、その産駒達も種牡馬としても有能でカーソンユートピア系を確立した歴史に残る大種牡馬だな』

「……あれ? 日本の種牡馬として活躍しなかったの?」

『元々あいつは日本で種牡馬として隠居生活を送るはずだった。だが馬主の意向で欧州で繁殖生活を送ることになった……俺の代わりにな』

 

「先代の代わり?」

『俺は欧州でもビッグタイトルを複数勝している。その為か欧州の競馬関係者は俺をなんとしてでも買い取りたかった。しかし俺の馬主が俺を絶対に売れないような金額を提示して海外に行くことを断らせた。その代わり俺の産駒が活躍したら、その産駒のうち一頭を欧州地方の種牡馬として引き渡すことになった。そのうちの一頭こそカーソンユートピアだ』

「へえ……」

『とはいえ当初はスピードもスタミナも兼ね備えているカーソンユートピアよりもステイヤー傾向の俺の方が好まれたんだが、結果を出したら掌返し。カーソンユートピアは生涯そこで暮らすことになった。もし俺が欧州で種牡馬生活を送っていたならそうはならなかったかもな』

「でもカーソンユートピアは日本生まれでしょ。先代がいなかったらカーソンユートピアは生まれてなかったんじゃ……」

『俺が日本にいようが欧州にいようがどちらにせよ、あいつは生まれていた。俺の父親が英国の種牡馬ニジンスキーなんだから、俺が欧州に行ってもカーソンユートピアの母に種付けするのは目に見えていたからな』

「納得」

二代目は先代の言葉にそう一言呟いた。




後書きらしい後書き
今回は先代の長男こと、カーソンユートピアがウマ娘となって登場しました。もっとも物語に関わるかと言われれば微妙なところですが。

それはともかくこの第16.1Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一時間後です


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第17R 最強のライバル登場

前回の粗筋
二代目「私の青ゴスロリ服姿なんて誰得よぉぉぉっ!?」
作者「俺得でサーセンwww」


ヤマトダマシイのレースから三日後、その人物は突如現れた。

 

「どいつもこいつも腑抜けた顔してやがる……」

 

その人物はチームトゥバンのメンバーがチームギエナ時代のトレーニングよりも生ぬるいトレーニングを行っていたことに嘆き、頭を抱えていた。

 

「マティリアルはもう少しペースを速くしろ。メリーナイスはスタートが苦手なんだから足下に気を付けろ」

 

指導するようにその男は遠目で観察し呟き続ける。端から見れば不審者のそれでいつ通報されるかわかったものではない。しかし言っている内容はどれも正しくマティリアルもメリーナイスもこの声を聞いていれば頷かざるを得ないほど的確なものであった。

 

 

 

「何しているんですか……元チームギエナのトレーナーさん」

 

そんな時、青髪の大柄なウマ娘がその男──元チームギエナのトレーナーに声をかける。

 

「……アイグリーンスキーか。久しぶりだな」

「トレセン関係者でない貴方が何故ここにいる?」

「そう堅いことを言うなよ。俺は今日仕事として来ているんだ」

「仕事?」

「そうだ。トレセン学園のウマ娘トレーナーを首にされた俺は海外に行き、そこのウマ娘トレーナーとして就職出来た。これが今の役職だ」

 

言葉とは裏腹に丁寧に名刺を渡す元トレーナー。そこには【欧州ウマ娘トレーニングセンターウマ娘トレーナーリーダー】という役職が書かれていた。

 

「こんなのがトレーナーリーダーなんてどうかしている」

「こんなのとは失礼だな。俺が正当に評価された結果だ。その結果を出した俺がここに来た理由、それは留学生募集の案内と視察だ」

 

「留学生募集と視察?」

「そうだ。欧州の連中はダービーウマ娘シリウスシンボリが凱旋門賞で惨敗しているのを見たせいか日本のウマ娘に見向きもしなかった。だがカツラギエースやシンボリルドルフがJCを勝っているのを見て再評価し始め、日本のウマ娘を留学生として迎えることにした。しかし連中は日本のウマ娘のことをよく知らない。そこで俺に白羽の矢が立ったと言うわけだ」

 

「それでここから良い留学生候補は見つかったの?」

「いやいないな。どいつもこいつも情けないウマ娘ばかりだ。今日俺が見た限りじゃシニアはマルゼンスキー、ジュニア以下はナリタブライアンくらいしかいない。他はビッグレースどころか重賞を勝つかも怪しいな」

「それは私を含めて、という意味でも?」

「お前は故障するからな。強さ云々以前に除外しているだけだ」

何故このトレーナーリーダーといい、ハナといい二代目の評価が低いのだろうか。そんなことを先代が考えているとトレーナーリーダーが口を開く。

 

「そして視察の方だが、俺はとあるウマ娘を預かっていてそいつと共にトレセン学園のレベルを測りに来たんだ。だがさっきも言った通りここのレベルは低い。連れてきたのが間違いだった」

「あ?」

「トレーナーリーダーから離れて」

二代目が半ギレしながら問い詰めると小柄かつ無表情な栗毛のウマ娘が現れ、二代目とトレーナーリーダーの間に割り込み、二代目を離す。

「噂をすればなんとやらというやつか。こいつが俺が今最も育成に力を入れているウマ娘、ラムタラだ」

「ラムタラ。以後よろしく」

「こいつはダービーを制する前のメリーナイスがダービーを勝つよりも、素質を期待されていなかったが俺の育成により頭角を表し、欧州ウマ娘の次代のエースになった」

「次代のエースってことはクラシック級クラスのウマ娘? それにしてはやたら小柄な気がしますが」

「私はまだジュニア級クラス」

「……ってことは私と一緒?」

「そういうことだ。アイグリーンスキー、お前は確かに素質のみならGⅠ競走の前線で戦えるだけの素質がある。だからこそ警告しておく。KGⅥ&QES、凱旋門賞、JCに挑むのは止めておけ。お前達が勝利しないのは目に見えている。何故ならウチのラムタラが全部取ってしまうからな」

「そういうこと」

それまで無表情だったラムタラの口元が僅かに笑みを浮かべ、どや顔していた。

 

「ふーん……口先だけならなんとでも言えますよ?」

「アイグリーンスキー、お前ならそういうだろうと思っていた。ラムタラはこれからチームアルビレオのメジロパーマーと併せウマをする予定だ。昔のよしみだ。なっ、一緒に行こうぜ」

「一緒にって言われても私はアルビレオの関係者じゃないし、何よりも今の貴方とは無関係です」

二代目が冷たくあしらい、そう告げるとトレーナーリーダーは意外な行動をした。

「そうかそうか。自分を負かしたウマ娘が同期に負ける姿見たくないもんな。無理を言って悪かった」

口調とは裏腹に笑みを浮かべた状態で頭を下げるトレーナーリーダー。あからさまな挑発だがこれに二代目は乗った。

「……良いでしょう。そこまで言うならそのラムタラが無様に負ける姿、見てみましょう」

「私は負けない」

ラムタラと二代目の間に火花が飛び散るがそれでもお構い無しにトレーナーリーダーが馴れ馴れしく二人の肩を組む。

「そんないがみ合ってないで同じウマ娘同士仲良くしろ……な?」

「……ふんっ!」

「べーっ!」

子供のようなやり取りにトレーナーリーダーは本当にこのウマ娘達が世界を引っ張るほどの素質の持ち主なのかと疑問に思ってしまう。

 

 

 

そんないがみ合いが何度も続き、メジロパーマーのいるチームアルビレオのウマ娘達がトレーニングを行っていた。

 

「おっ、アイグリーンスキーやないか」

メジロパーマーがトレーニングを中断し、二代目に駆け寄り喋り始めた。

「お久しぶりですメジロパーマー先輩。調子の方はどうですか?」

「そらもうバッチリや。あの併せウマから身体がスムーズに動くようなってな。これならタマモクロスもオグリキャップもなんも怖くあらへん」

 

「それは何よりです。ところでこのトレーナーから聞きましたが今日併せウマの予定らしいですね。よろしければご見学させてもよろしいですか?」

「このトレーナー……ってお前の元トレーナーやないかい! 何で学園を追放された奴がおるんや!?」

「彼は今欧州地方のトレセン学園でトレーナーリーダーの役職に就任しています」

「そやったんか。で、そのちみっこいのがワシの相手かいな?」

「そういうことだメジロパーマー。こいつ、ラムタラは俺が見てきた中で最高の素質を持つウマ娘だ。俺が見てきたカブラヤオー、テンポイントよりも強くなると確信している。何せ併せウマをしようにも同期では相手にならない。こいつとまともに併せウマが出来るウマ娘はドバイ遠征にいってしまっている。日本トップクラスのウマ娘なら相手になるんじゃねえかと思ってな」

「ほう……わかっとるやないか。ワシは確かに暫定とは言えトップや。ついこないだ阪神大賞典も勝ったしの」

「そんなトップなメジロパーマーに尋ねる。本当に併せウマをするのか? それで負けたらお前の名声は急降下するぞ?」

「今日の併せウマは大阪杯や天皇賞秋と同じ距離──芝2000mや。勝とうが負けようが天皇賞春と宝塚記念の評価は変わらへん」

「それじゃラムタラ、準備しろ」

「はい」

メジロパーマーとラムタラが準備し、二代目がスタート合図をすることになった。

 

 

 

「スタート!」

コースに銃声が鳴り響き、メジロパーマーとラムタラが競り合うように走る。それはかつて二代目がやった方法と全く同じだった。

「そういうとこもあいつと同じやな」

「……」

「だんまりかいな、つまらんやっちゃ」

ラムタラが反応しないのを見たメジロパーマーが無言になりレースを進める。200mを過ぎ、ラムタラが半バ身リードしそのままメジロパーマーを突き放していく。

 

「……」

ラムタラがメジロパーマーを視野にも入れずただひたすら寡黙にメジロパーマーとの差を広げ突き放す。

それを黙っているほどメジロパーマーも愚かではない。少しずつページを上げラムタラに詰め寄り対策する。

しかし対策していたはずが400mを通過した時には1バ身、800mを通過した時には2バ身と400m単位で1バ身ずつ突き放されてしまう。

『おい、もっとペースを上げろ!』

魂の状態のメジロパーマー(競走馬)が残り600mを切ってスパートをかけるように声を荒げ、メジロパーマーはそれに従ってスパートをかける。しかしまだその差は縮まらないどころかさらに突き放されていく。

 

「どういうことやねん……」

二代目の時は普通に競り合えた。しかし今回は違う。いくらペースを上げてもラムタラに追い付けない。

海外のウマ娘はこんなに強いのか。JCで世界を見てきたつもりがそれはあくまでも井の中の蛙でしかなかったのか? 本当の世界トップクラスのウマ娘はジュニア級の時点で覚醒した自分を打ち負かせるのか。

そのような思考がメジロパーマーの中で巡り、一つの結論に達する。

「理不尽、や」

そう一言呟き、メジロパーマーの世界が白く染まってしまった。

 

 

 

メジロパーマーの心が折れた瞬間、それはラムタラがメジロパーマーに5バ身差でゴールした瞬間だった。

「流石だラムタラ。あいつに400m毎に1バ身差をつけ最後に5バ身差をつけて勝つ。お前のレーススタイルでないのに見事だ」

「……」

トレーナーリーダーが褒め、ラムタラが無表情ながらも頷き反応を示す。それは勝者ならではの光景だった。

 

「冗談やない……ワシら二人でもこのザマかいな」

その一方で心の折れたメジロパーマーが汗を滝のように流し、一言呟き倒れた。

「メジロパーマー先輩!」

二代目が横たわるメジロパーマーに声をかけ、不安げに見つめる。

 

「おう、アイグリーンスキー……お前も難儀な世代に生まれたな」

「身体の方は大丈夫で──って凄い汗!」

二代目がメジロパーマーのジャージを触ると汗にまみれるあまり、ジャージがずぶ濡れになっていた。

 

「距離が短かったお陰でなんとか天皇賞春には出走出来そうやけど、しばらく休ませてくれ」

「メジロパーマー先輩、休憩所まで運びますから大人しくしてて下さいね」

二代目がメジロパーマーをお姫様抱っこで担ぎ上げ、チームアルビレオの休憩所に移動する。

「すまんの」

担がれたメジロパーマーが顔を紅潮させ、目に涙が溢れ出す。その姿はまさしくラムタラ達勝者とは真逆の敗北者の姿そのものだった。

 

「こんなものなの? 日本のウマ娘って」

ラムタラが二代目の背中に向かってそう問いかけるが二代目は無反応。メジロパーマーをシニア最強のウマ娘と思っている二代目が反論出来る余地はなく無言でただ立ち去ることしか出来なかった為である。

「……」

二代目の目に涙こそ溢れなかったが、その背中は震え、チームトゥバンに戻った頃には目が座り、誰も寄せ付けないトレーニング魔神となっていた。




後書きらしい後書き
はい、という訳で今回はラムタラの登場&元チームギエナのトレーナーの再登場回です。このトレーナーは本来二代目を刺してデビューを遅らせる人物でしたがボツにしました。

なお史実のラムタラは本来95世代でフジキセキ達と同じ世代になっています。また青き稲妻の方でもラムタラはアイグリーンスキー(94世代)の一つ下の世代と史実に沿添っています。
しかし物語の都合上このようになってしまいました。仕方ないやん……このくらいのことをしないと凱旋門賞がダイジェストになりますので。



それはともかくこの第17Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2019年6/3です


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第18R 迷走

ふと思い付いたSS

もしテイオーがルドルフ応援団を結成したら
「カイチョー、シンボリルドルフ応援団を公式ファンクラブとして認メテヨー!」
「ダメだ。団員が少なすぎる」
「団員が多ければいいんですね?」
その瞬間、ドアを蹴飛ばし、無理やりこじ開ける音が鳴り響き、バッサリとテイオーの案を切るシンボリルドルフの前に現れた。
「なっ……アイルトンシンボリ!?」
それは名門シンボリ家のウマ娘、アイルトンシンボリだった。アイルトンシンボリが団員の名簿を奪い取り、そこに名前を書いた。
「私だけじゃない。後ろの皆もいる」
そしてツルマルツヨシをはじめとしたアイルトンシンボリの後ろについてきた20ほどのウマ娘が続いて名簿に記載していく。
「これでシンボリルドルフ応援団を公式ファンクラブに認めてくれますよね」
「……やむを得ない。認める」
「ヤッター、カイチョー!アリガトー」
「私は校則に従っただけだ。感謝するならお前の考えに賛同したアイルトンシンボリに感謝しろ」
シンボリルドルフが立ち去り、テイオーは全員に頭を下げた。
「皆アリガトー! これでカイチョーを応援出来るよ!」
「それじゃ公式ファンクラブに認定されたことを記念して皆でパーティー開こうか!」
「賛成!」
テイオー達応援団のウマ娘がバカ騒ぎをして取り潰しかかれたのは言うまでもない。

The End

前回の粗筋
ラムタラ「悪いなパーマー、お前の役割は私の噛ませ犬なんだ」


メジロパーマーがラムタラと併せウマをしてから翌日、ジュニア級のクラスではあるウマ娘が原因で騒然としていた。

 

「……」

 

そのウマ娘は唸り、少しでも目を合わせようものなら何をされるかわかったものではないからか、ジュニア級クラスのウマ娘達は全員そのウマ娘を避ける。

 

「なあ、ナリタブライアン。アイグリーンスキーが何であそこまで不機嫌かわかるか?」

ジュニア級クラスの雰囲気をぶち壊しているウマ娘こそ二代目そのウマ娘であり、彼女の目の下にはクマ、眉がつり上がり、端正な顔立ちが台無しになるほど頬が痩せこけてしまい不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

「寝不足だからじゃないか?」

ヒシアマゾンとナリタブライアンを始め多くのウマ娘が声を小さくし隠れるように会話をする。

「寝不足なのは見ればわかる。だけど今まであいつがこんな風になることはなかったぞ」

二代目が勉強のしすぎで寝不足になったことは何度もあった。しかしそれでもこれほどまでに不機嫌になったことなど一度もない。故に不機嫌な理由にはならず、その原因がわからないからこそヒシアマゾン達が二代目に対して恐れていた。

 

「まあ明日になれば収まるだろう」

 

ナリタブライアンがヒシアマゾンに耳打ちし、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに二代目の機嫌を損ねないように出来るだけ今日だけは無関係でいようと努めた。しかしナリタブライアンの推測は外れ、一日後、二日後と日が経つに連れ不機嫌さが増しヒシアマゾンが涙目でナリタブライアンに責めた。

 

「おい、ナリタブライアン! どんどん不機嫌になっているじゃないか!」

小声で怒鳴るというテクニックを披露しヒシアマゾンがナリタブライアンに問い詰めるとナリタブライアンが目を反らし小声で答える。

「私は知らん」

「コロス」

「ひっ!?」

二代目がぼそりと物騒な単語を呟いたのを耳にしたヒシアマゾンが仰け反り尻餅をつくと二代目がそちらに振り向き立ち上がる。

「ヒシアマゾン、ゲンキソウネ」

目のハイライトの消えた二代目が一歩二歩とヒシアマゾンに歩み寄るその姿はまさしく不気味としか表現する他なく、ヒシアマゾンが辺りを見渡し、助けを求めようにも既にウマ娘達がヒシアマゾンから距離を取っており、それはヒシアマゾンの親友とも言えるナリタブライアンも例外ではなかった。

「く、来るな!」

「ソンナコトイワナクテイイジャナイ。ソンナコトイウトオシオキスルヨ」

「わ、わかった。だから──」

丁度その時授業開始の鐘がなり、二代目が渋々と大人しく席につく。

「た、助かった……」

ヒシアマゾンは腰を抜かすことはなかったが人生で最も恐怖を味わったことに違いなく膝が震えており席に座るのに時間を要した。

「アマさん、助けられずすまない」

「……後で買い物に付き合えよ」

ヒシアマゾンの命令に従うしかないナリタブライアンはただそれに頷くだけだった。

 

 

 

その夜、ヒシアマゾンの付き添いで帰りが遅くなったナリタブライアンが帰る道中異変に気づく。

「何故トレーニング施設に電気がついているんだ?」

「誰かがトレーニングしているんじゃないのか?」

ナリタブライアンとヒシアマゾンが互いに無言になり顔を見合せ、暫くすると二人が頷きその場所へ向かった。

 

 

 

ナリタブライアン達がトレーニング施設に向かう丁度その時、二代目は過剰なまでにトレーニングを積んでいた。

『そこまでにしておけ。明らかにオーバーワークだ』

先代の声が二代目の体内に響くがそれでもお構い無しに二代目は警告を無視してトレーニングを続ける。

『いい加減にしろ!』

痺れを切らせた先代が二代目の身体の主導権を奪い取り無理やりトレーニングを中断させる。

 

「な、にをする……!」

二代目が抗い、トレーニングをしようとするが先代が絶対に主導権は渡すまいと下半身を無理やり動かしてその場から離れる。

『言っただろうが、俺はお前のトレーナーであり相棒だ。チームトゥバンのトレーニングに関して三人のトレーナーが、お前の自主トレに関して俺が口出しする権利はある』

「それは、そうだけど!」

『俺もラムタラに二度も負けたから悔しいのはわかる。もっともお前の場合はお前よりも強いメジロパーマーが同期、それも追放したトレーナーが育てているウマ娘に負けてしまったという理由だが』

「……先代、そんな理由じゃない。私が悔しかったのは何も出来ない自分自身だよ。ラムタラにこんな程度しかいなかったのかって聞かれた時、何も反論出来なかった。私がメジロパーマー先輩よりも強ければ何も問題なかった。自分より格上だからって理由でグリーングラス先輩やメジロパーマー先輩に負けて当たり前だと思っていた自分自身に腹を立てただけよ!」

『そうか……ならただ言っておく。俺はお前の相棒でありトレーナーだ。俺をもっと信頼しろ』

「……うん」

二代目が抵抗を止め、トレーニング場から離れるとそこにはナリタブライアン達がそこにいた。

 

 

 

「アイグリーンスキー、随分と入れ込んでいるようだな」

「ナリタブライアンにヒシアマゾン、何故ここに?」

「トレーニング場に電気がついていたら誰だって気になる」

「う……」

「もっともその様子だと今日のトレーニングは終わりのようだな」

「余り無茶をして怪我をしたら元も子もないからね」

「なあ、アイグリーンスキー。もしかして最近機嫌が悪いのはそのトレーニングが原因なのか?」

「トレーニングそのものじゃない。いつまで経っても成長しない自分が嫌なの」

「……何をそんなに焦っている?」

 

「ついこの前ラムタラという海外のウマ娘が日本に視察しに来たのは知っている?」

「いや知らないな。アマさんは?」

「アタシもそんな話は聞いたことないな」

「知らないなら知らないでいいけど、そのラムタラは昨年度のシニア代表ウマ娘を獲得したメジロパーマー先輩に勝負を挑んだの」

「いくらフロックでシニア代表ウマ娘になったメジロパーマー先輩とはいえジュニア級になったばかりの私達が敵う相手ではない……もしかしてそのラムタラが勝ったのか?」

「その通りだけど、鼻差とか接戦で勝ったんじゃなくてメジロパーマー先輩に5バ身差をつけて圧勝。日本のウマ娘は世界のウマ娘よりも遥かに劣ることを思い知らされたよ」

「5バ身か、どうせメジロパーマー先輩が自滅したんじゃないのか?」

メジロパーマーは、昨年の天皇賞秋で隣にいたダイタクヘリオスと競り合い、暴走してしまい途中で力尽きたメジロパーマーは先頭のウマ娘から10バ身以上遅れてゴールしてしまった。

故にペースを誤ったメジロパーマーが自滅したものだと思っていたヒシアマゾンがそう指摘し鼻で笑うと、二代目が首を横に振る。

「メジロパーマー先輩のタイムもレコードに迫るものだったから自滅とは言いがたいよ。むしろベストレースに近かった。だけどそのラムタラはメジロパーマー先輩よりも常に先に走ってゴールした」

「……かーっ、マジか!? アタシ達の同い年のウマ娘がシニア最強のウマ娘のメジロパーマー先輩を競り潰したってことじゃないか!」

メジロパーマーに先着したウマ娘は多数いるが、この学園内でメジロパーマーよりも先に行き、逃げ切ることが出来るウマ娘はいない。何故ならメジロパーマーのレーススタイルは、相手をハイペースに呑み込ませてスタミナ切れを狙うというもので、相手のペースが普通かスローならばなんとでもないがメジロパーマーに合わせたら一環の終わり。メジロパーマーにまんまと逃げ切られてしまう。

 

 

「そう、そんなウマ娘がパワーアップして来年JCを制覇する為に来日する。それまでの間にラムタラに勝てるようにならなきゃいけない。だから夜遅くまでトレーニングをしていたって訳」

 

「しかし昼間の授業に支障をきたすまでにトレーニングしていたら寮長も反対するだろ」

「テストで結果を出せば問題ないよ。ヒシアマゾンみたいにしょっちゅう赤点出している訳じゃないしね」

「う、うるせぇ!」

「アマさん、英語圏出身だから国語(日本語)が苦手なのはわかるが英語が苦手ってどういうことなんだ?」

「帰国子女だからって英語が出来ると思うなよ」

「アマさん、そこは威張るところじゃないと思う」

「帰国子女のアタシからしてみれば日本の英語のテストはわかりづらいんだよ!」

ナリタブライアンとヒシアマゾンの漫才に二代目は思わず声に出して笑ってしまった。

 

 

「ヒシアマゾン、ナリタブライアン。もうそろそろ帰らないとマズイんじゃないの? 二人とも見た感じ買い物の後の様だし」

「食べ物買ってきた訳じゃないから腐ることはないがあまり遅くなるとトウカイローマン寮長に叱られるから帰ろうか」

ナリタブライアンがそう告げ、トレーニング施設の電気を消し始めるとヒシアマゾンが口を開いた。

「じゃあアタシと一緒に帰ろうぜ、アイグリーンスキー。勝手に施設を使った罰は重いだろうからアタシが弁護してやる」

「ヒシアマゾンその心配はないよ。既にメジロラモーヌ美浦寮長やシンボリルドルフ会長には許可取っているからね」

「え゛っ!?」

「アマさん、もしかして寮長に許可取らないで外出したのか?」

「……ハイ」

「ナリタブライアンは?」

「万が一のことを考えて伝達済みだ」

「流石ナリブー、仕事が早い」

ナリタブライアンがどや顔を見せるとヒシアマゾンが灰になり、その場から動かなくなってしまった。

「じゃあ、アイグリーンスキー。明日は普通でいてくれよ」

「善処するよ」

政治家らしい返事をし二代目はヒシアマゾンを背負ってナリタブライアンと別れを告げた。




後書きらしい後書き
今回は94世代がワチャワチャする話でした。それはさておき、解説を。

トウカイローマンはシンボリルドルフと同世代でオークスを勝っています。そんな彼女を親戚に持つウマ娘はトウカイ○○○○。この作品では栗東寮長を勤めています。

メジロラモーヌは史上初の牝馬三冠を達成した歴史的名馬である一方、有馬記念等牡馬牝馬混合の重賞レースで惨敗したこともあり、ヒシアマゾンが現れるまで「所詮牝馬は牝馬」と牡馬牝馬混合レースにおいて牝馬が軽視されるようになった原因です。この作品では美浦寮長を勤めています。



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尚、次回更新は西暦2019年7/4です


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第19R 暴走

ふと思い付いたネタ
SS「これがスペシャルな役! 私の本命は大三元~っ!」
SW「私のテーマソングを勝手に替え歌にして使わないで下さい!」

前回の粗筋
二代目、貴女疲れているのよ


大阪杯当日、阪神競馬場では大歓声が響いていた。

【オグリキャップ、オグリキャップ先頭だ、オグリキャップ、オグリ一着! 笠松からやって来たアイドルウマ娘、オグリキャップが大阪杯を制しました!】

それはオグリキャップがGⅠ競走の大阪杯を制したことに対する歓声だった。オグリキャップは元々地方のウマ娘であり、そこから成り上がってきた所謂主人公のような経歴を持つウマ娘で人気を集めていた。更に言うと観客から投げられた人参をウサギのように食べる姿が女子受けし、おぐりん等とファンからは呼ばれるようになっていた。

 

 

 

しかしオグリキャップが勝利した影で涙を流すものもいる。チームトゥバンに所属しているウマ娘達を始めとした敗北者だ。

「オグリキャップ……!」

「私の末脚が炸裂すれば……!」

その中でも悔し涙を特に流していたメリーナイスとマティリアル。この大阪杯は先日行われた阪神大賞典や今後行われるGⅠ競走に比べればメンバーのレベルが低くチームトゥバンの二人がマークするべき相手がオグリキャップのみという有り様だ。故にメリーナイスは有馬記念でやらかした大失態の名誉挽回のチャンスを、マティリアルは悲願のGⅠ競走を逃しただけに余計にショックも大きかった。

 

「負けちゃったか、先輩達」

『あれは仕方ない。オグリキャップはあいつの父親だからな』

「あいつ?」

『大阪杯に該当するレース産経大阪杯を12連覇果たした競走馬の父親がオグリキャップだ』

「ぶっ!? それって最低でもGⅠ12勝している計算になるじゃん!」

『そいつが現役の間の産経大阪杯はGⅠ競走じゃなかった。もしあの時代に産経大阪杯がGⅠ競走になっていたら前人未到の大記録になっていただろうな。俺ですらJC5連覇だからな』

「さりげなく先代もとんでもない大記録を立てていること言わないでよ……」

『とにかくそんな産経大阪杯を得意とした競走馬の父親がオグリキャップだ。適性が無いわけがない』

「先代、オグリキャップの戦績ってわかる?」

『有馬記念2勝、マイルCS、安田記念、他重賞7勝、全成績32戦22勝とオグリキャップが活躍した当時では超一流の名馬だが、競走馬のオグリキャップは産経大阪杯に出走していない上にタマモクロスよりも若い』

「……え?」

『オグリキャップが有馬記念を制したのはウマ娘でいうクラシック級の時とその二年後だ。昨年クラシック級クラスだったオグリキャップが有馬記念に出走することすら叶わなかったことを考えると一番ウマ娘と競走馬とのギャップがあるんじゃないのか?』

「確かに。でも覚醒もせずそれを阻止したメジロパーマー先輩って、本当に何者なんだろう?」

『確かにな。だが有馬記念で勝てなかった分、バタフライ効果が現れて大阪杯を制することが出来たって訳だ』

「バタフライ効果ね」

 

 

 

『まあ何にせよ今年のシニアウマ娘の実力者なのは違いないし、来年もその実力は衰えず二代目と中距離路線で戦うことになる。注意することだな』

「注意か。ラムタラに比べたら怖くも何ともないよ」

『……ラムタラ信者だなお前は。俺の影響もあるしそろそろあいつの戦績について話そうか?』

「ぜひとも」

『英ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞を無敗で制し、有馬記念当日にエキシビションマッチレースで負けたことを除けば4戦4勝の無敗のまま引退し超一流の名馬だ』

「その言い回しだと最後に負けたということでいいのね? それを打ち破った馬は誰なの?」

『俺だ』

「えっ? オレダ?」

先代の答えに現実逃避してしまい、オレダという競走馬がラムタラに勝ってしまったのだと二代目が思考する。

 

 

 

『そんな馬がいるか……俺ことアイグリーンスキーがラムタラに勝ったんだよ。俺はシンボリルドルフ同様に生涯三度しか敗北していない。そのうちの一敗は日本ダービー。そして残りの二つがラムタラが制したKGⅥ&QESと凱旋門賞なんだ』

「それでリベンジする為にエキシビションマッチレースを開催したの?」

『正確には俺の馬主が開催したんだがな。そのエキシビションマッチレースで俺はどうにかラムタラに勝つことが出来たが、レース展開だのなんだのそう言ったものは覚えていない』

「ダメじゃん!」

『ただ一つだけ覚えているのは直線での出来事……競り合わず大外からあいつを差し切ったということだ。あいつの弱点は競り合いに強いが故に大外から強襲されると競り合えず力を発揮出来ない。それを狙ったことだけは覚えている』

「……ラムタラから逃げるかラムタラを差すかのどっちかわかっただけでも十分だよ先代」

『十分なものか。この世界のラムタラを差すにはヤマトダマシイ以上の豪脚が必要だ。あのトレーナーが優秀なだけあってこの世界のラムタラは俺の世界のラムタラよりも強くなっている。むしろ何故あのトレーナーに師事したマティリアルがGⅠ競走を勝てないのかが謎なくらいだ』

「じゃあ特訓しないと!」

『そう急くな。がむしゃらにやってもただ故障するだけだ。競走馬として6年間調教を受けてきた俺の経験はお前の自主トレに役に立つ……それは何度も言っているよな?』

「わかっているよ。それで何をすればいいの?」

『これからお前にやってもらうことは単純だ』

先代がそう告げ、トレーニング内容を伝えると二代目はそれに頷き、その場を後にした。

 

 

 

翌日、チームトゥバンにて二人のウマ娘が対峙していた。

「しかしこうして貴女と一緒に公開トレーニングのように併せウマをする日が来るなんて思いもしませんでしたわ」

「これも重賞勝ちしたウマ娘の定めだと思うけど?」

「それもそうですわねメリーナイス」

チームトゥバンのウマ娘達がメリーナイスとマティリアルとの併せウマという名前のマッチレースに盛り上がり、歓声を沸き上がらせる。

 

「さあさあ、メリーナイスとマティリアルの一騎討ちだ。どちらが勝つか賭けてみないか!?」

「焼きそばー、焼きそばいかがすっか!」

サンデーサイレンスがバ券を勝手に発行し胴元として、ゴールドシップが屋台で焼きそばを販売し、それぞれ金を稼いでいた。

 

「とんだ見せ物ですわね」

「見せ物で結構。どうせここにいるのは大半がチームトゥバンのウマ娘達だから」

「メリーナイス、貴女はダービーを勝ったウマ娘です。しかしそれはあくまでもフロックでしかありませんわ。何せ私がマークされる中、貴女とサニースワローだけが悠々と先行していたのだからあんな状況なら誰でも勝てます。しかし今回は違います。貴女に格の違いというものを教えて上げましょう」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないなー」

「ほざきなさい。ヤマトダマシイ、そろそろ準備を」

「わかりました」

ヤマトダマシイが旗を上にし、メリーとマティリアルに合図を送ると三人が走行体勢に入る。

「よーい、スタート!」

ヤマトダマシイがそう告げた瞬間、メリーナイスとマティリアルが飛び出していった。

 

「ヒャッハー! 私も混ぜろーっ!」

突如、二代目が乱入しマティリアルから3バ身ほど遅れスタート。マッチレースはエキシビションレースとなってしまった

「おい、誰かあいつを止めろー!」

それを見ていたトレーナーのフジとマツが止めにかかる。

「まあ待ちたまえ。何か事情があるんだろう。ここを通りたければ余の屍を越えていくことだな!」

しかしバ券を販売していたサンデーサイレンスがそれを阻止し、二人を失神させ口角を上げると口を開いた。

「さあ、アイグリーンスキーの単勝バ券を今から30秒まで販売だ! さあ買った買った!」

「焼きそば売り切れです! あざーした!」

サンデーサイレンスが二代目の単勝バ券を売り、ゴールドシップは焼きそば売り切れを宣言する。まさしくカオスだった。

 

しかしそんな状況とは裏腹に二代目がその出遅れをものともせずマティリアルから1バ身まで詰め寄った。

「あら、アイグリーンスキー。乱入なんていい度胸しているじゃない。もっともメリーナイスと私のマッチレースになるからそこで大人しく見ていなさい」

マティリアルが後ろに着いていく二代目に話しかけ、挑発するも二代目が鼻で笑っていた。

「さてどうでしょうか? 油断していると私の背中を見ながらゴールすることになりますよ」

「それならこれに着いてこれるかしら?」

マティリアルがペースを上げるとそれに合わせ二代目がマティリアルの真後ろで徹底的にマークし、磁石のようにくっついて走行する。

「無理しなくてもいいんですよ? マティリアル先輩追い込みウマ娘なんですから?」

「私のレーススタイルを理解した上で私の後ろに着いているってことは私に対する挑戦状でいいのかしら? アイグリーンスキー?」

「そういうことです。なんなら6バ身さらに離れましょうか? 先輩達昨日走ったばかりでしょうからね、ハンデにそのくらい上げましょう」

「やってもいいですけどそれで後悔しても知りませんわよ?」

 

マティリアルの動きに合わせて徐々に二代目が離れていく。そしてマティリアルに10バ身離れた状態で直線へと入ろうとした瞬間、二代目が大外に膨れ騒然とした。二代目に賭けていたものは既にバ券を投げ頭を抱え、逆にメリーナイスとマティリアルのバ券を持っていたものはホクホク顔でいつゴールするか待機していた。

【さあここでメリーナイス、メリーナイス先頭、追い詰めるマティリアル、マティリアル、マティリアルが先頭に立った!】

マティリアルが悲願の勝利なるか、と言わんばかりにメリーナイスを差し切り、メリーナイスを突き放していく。

「っ!」

しかしマティリアルは違和感を感じていた。メリーナイスを差し切ったもののメリーナイスはマティリアルと互角なだけありマティリアルから突き放されることはない。それは正しくすぐ後ろから聞こえる蹄鉄の音も聞こえる。しかし問題点はその音が一人だけで発せられる音ではなかったということだ。

「嘘っ!」

メリーナイスが短くそう声を出したのを聞いて恐る恐る後ろを振り向こうとするもその必要がなくなった。

【な、なんと外からアイグリーンスキーだ!】

「嘘でしょぅ!」

あんな大差をつけられ勝てるはずがない。それは追い込みウマ娘であるマティリアルが一番良く知っていることだ。マティリアルの上がり3Fは34秒を叩き出しており、このタイムで10バ身以上離れた場所から追い付くには上がり3F33秒を切らなければならない。しかしそんなウマ娘は欧州のダンシングブレーヴ、米国のシルキーサリヴァンくらいしか不可能と言っていい。

 

それだけに信じられなかった。ジュニアBクラスのウマ娘がそんなウマ娘達と並ぶほどの末脚を持っていたことに。プライドの高いマティリアルが起こした行動はただ一つ、二代目を差し返す。ただそれだけだ。

【アイグリーンスキー、更に1バ身ほどリード、ゴールイン! これほどまでに強いのかアイグリーンスキー!】

「な……!」

マティリアルが「無理ー」とも言う間もなく二代目が更に突き放しゴールイン。マティリアルはそのことに放心した状態でゴールし、帰るまでの間の記憶をなくしていた。

 

 

 

少し過去に遡り大外に膨れた二代目は前を走るメリーナイスとマティリアルをガン見していた。

「先代、本当にこれでいいの?」

急ドリフトしながら前を走るマティリアルを捉えようする二代目が先代に話しかける。

『ああ。確かに内側は最短ルートだ。しかし最短ルート=ベストルートじゃねえ。競走馬やウマ娘の中でも走りやすいルートってもんがある。そこを意識すれば上がり3F32秒も夢じゃない。逆に今のマティリアル達みたいにベストルートを通らないと豪脚は発動しねえ。本来の末脚だけに頼ることになる。メリーナイスとマティリアルには悪いがこれで消えてもらうぜ』

その瞬間、二代目が一気に加速し10バ身あった差が9バ身、8バ身、7バ身と徐々に縮まっていき、メリーナイスを、そしてマティリアルを捉え突き放してゴールインした。

 

 

 

「……すげえ、すげえもん見ちまった」

ゴールドシップが新たに販売したお好み焼きを焦がしてしまうほどに二代目を凝視する。

「ゴルシ焦げているぞ」

「あ、やべえっ! 廃棄廃棄!」

焦げたお好み焼きを廃棄するのをジト目で見るフジキセキ。

「……確かにあの末脚は凄いな。止めようとした私を殴りたくなる」

フジキセキも途中乱入してきた二代目を止めようとしたがサンデーサイレンスにアルゼンチンバックブリーカーを極めた状態で側転されてしまい、二代目を止めることが出来なかった。

「むっふっふっ、ボロ儲けボロ儲け! 余の一人勝ちぢゃーっ!」

サンデーサイレンスが高笑いし、メリーナイスとマティリアルに賭けていたウマ娘達を見下す。

「ふざけるな!」

「金返せ!」

史実におけるサンデーサイレンス産駒のウマ娘達が暴徒化。史実においてサンデーサイレンスの血を継いでいるだけあってウマ娘達も気性も荒く、サンデーサイレンスを追いかける。

「誰がなんと言おうとこれは余が儲けた金だ! 絶対に渡さーんっ」

しかしサンデーサイレンスは史実においてその親であり、関係者からは「サンデーサイレンスよりか子供の方がマシ」と言われるほどの気性が荒かった為に、ウマ娘のサンデーサイレンスがそうなることを見越すのを予想しており、逃げ足も早かった。

 

 

 

後日、二代目とサンデーサイレンスがこっぴどくシンボリルドルフとたづなに叱られることになったのは言うまでもない。




後書きらしい後書き
今回の公開トレーニングの内容は2015年の皐月賞がモデルですね。二代目=ドゥラメンテ、マティリアル=リアルスティール、メリーナイス=キタサンブラックと言ったところでしょう。


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第20R 呼び出し

前回の粗筋
二代目「公開トレーニングに乱入だーっ!」
シンボリルドルフ「お前、後で説教な」


シンボリルドルフとたづなの雷神風神コンビが二代目に問いかける。

「さてアイグリーンスキー、サンデーサイレンス。何か弁解は?」

「ありません」

「ありま千円」

サンデーサイレンスが財布を取り出し、一万円札のみを見せると空気が凍りつき、シンボリルドルフの顔には影が出来上がり、たづなの目が三角になる。

「……っ!」

シンボリルドルフの笑いを堪える声が響き、凍りついていた空気が融点を超え春を迎えた。

「サンデーサイレンス先生?」

しかしそれを許さないのがたづな。彼女は本来ここにいるべき人物ではないのだが、サンデーサイレンスの暴走を緩和させる二代目を制御させることが出来る人物であることからシンボリルドルフが連れてきた。

 

「サンデーサイレンス先生がすみません!」

「どうだ、たづな理事長秘書。取引といこうではないか」

二代目が謝るのを無視してたづなに取引を持ち出すサンデーサイレンス。カオスそのものだった。

「賄賂は受け取りません!」

「これを見てもそんなことが言えるのかな?」

サンデーサイレンスが写真を取り出し、たづなのみにそれを渡すとたづなが無言で写真を破る。

「無駄だ。無駄無駄。そのデータがある限り写真はいくらでも作れる」

たづながサンデーサイレンスに掴みかかろうとするもシンボリルドルフに止められた。

 

「たづなさん、落ち着いてください」

「放してください、シンボリルドルフさん。サンデーサイレンス先生、今すぐその写真のデータを消去しなさい!」

「むっふっふっ、お断りだ。余の言うことを聞けば写真のデータを消してやろう」

「サンデーサイレンスぅっ、今すぐ消せ。さもないとこの場で貴様が脅迫した音声を学園中に流す!」

「余を脅すのか? 残念ながらそれは無駄だ! こんなこともあろうかとこの部屋限定で録音が出来ないように特殊な音波を流しているのだからな!」

「何っ!?」

シンボリルドルフが録音したデータを流すと確かに音が聞こえず録音されていなかった。

「そういうことだ。ちなみに録音だけでなく録画も出来んよ」

「いつの間にそんな設備を……!」

シンボリルドルフが旋律し、畏怖する。

ここまで用意周到に策を練られたことはシンボリルドルフの生涯において一度もなかった。

 

「サンデーサイレンス先生、いい加減にして下さい。私が証言してもいいんですよ? サンデーサイレンス先生がこの場でたづなさんを脅迫したと」

「お前が証言しても無駄だ。何せこの場の目撃者はいくらでも増やせる」

 

「増やせませんよ。チームトゥバンの全員が私とサンデーサイレンス先生だけがこの場に呼ばれたのを知っています」

「はっ、チームトゥバン以外にも呼ばれたウマ娘がいるだろう?」

「それに今この場にいたウマ娘はシンボリルドルフ会長、たづなさん、そして私とサンデーサイレンス先生の数名。その髪の毛がこの室内に落ちているとすればこの場にいた決定的な証拠となる一方で、三十分以上いたにも関わらず髪の毛の一本が見つからないとなるとこの場にいた証拠になり得ません」

「だが髪の毛を落とさない可能性も──」

「ない場合もあるでしょう。しかし上履きの足跡や制服等の衣服の糸屑が見つからないとなれば、もはやいないと断定して良いでしょう。何せこの後生徒会室は閉めますから」

「え、ああそうだな」

「そうですね。もうそろそろ時間ですし」

シンボリルドルフとたづながその呼吸に合わせ、二代目に賛同する。

 

 

 

「しかし我々の他に他のウマ娘の毛が落ちている場合も無いわけではないだろう」

「シンボリルドルフ会長、シリウスシンボリ副会長は掃除が得意でしたよね?」

「ああ。指紋一つ残らずやってくれるほどだ。鑑識のプロでも痕跡が発見出来なかったほどだ」

「ではお伺いしますがシリウスシンボリ副会長がこの部屋を掃除したのはつい先程でしたね」

「ああ。我々と入れ替わりで掃除を終えてくれたな」

「つまりシリウスシンボリ副会長が掃除をした直後に我々が入ってきたということであり、この部屋に髪の毛等の痕跡を残しているのは我々だけです」

「……全く、してやられたな。アイリちゃん」

「アイリちゃん言わないで下さい」

「おや、マルゼンスキーにはそう呼ばれる癖に余がそう呼ぶのは不服か?」

「不服です。サンデーサイレンス先生には普通に呼ばれた方がいいですから」

「そうか。ならアイグリーンスキー、見事だったぞ」

「おい、これで終わりのような空気を醸し出しているが終わりではないぞ。そもそもお前達が話を反らしたおかげで話すらしていないのだが」

サンデーサイレンスが締め、解散ムードになるとシンボリルドルフがそれを止め、30分ほど説諭し始めた。

 

 

 

「私からの説教はこれで終わりだ。お前に個人的に聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「ヤマトダマシイは無理していないか? あいつはトレーニングに関してチーム以外のウマ娘に頼ることがないから不安なんだ。ましてやあんな無理なレースをしていてはな」

「……それだったらヤマトダマシイ先輩と併せウマすれば良いじゃないですか」

「それも考えた。しかしヤマトダマシイは部外者に関しては徹底的に拒絶している。例え比較的距離の近い私が問い詰めても、部外者だから教えられないの一言だ」

「ヤマトダマシイ先輩、そんなに保守的じゃないと思いますけど、もしかしてヤマトダマシイ先輩に嫌われているんじゃないですか?」

「そ、そんな馬鹿なことがあるのか?」

シンボリルドルフが狼狽え挙動不審になる。自分に厳しくし、他人に甘くしてきたという自信があっただけにショックを受けていた。

「世の中はそんなものです」

「菜物の鍋物ー」

「ぶごはっ」

サンデーサイレンスがギャグをかますとシンボリルドルフのツボに嵌まったのか声に出して笑う。

 

「サンデーサイレンスさん、貴女という人は!」

「シンボリルドルフ、これを見ろ」

「ぶはっ!」

シンボリルドルフがその写真を見ると更に笑い出し、腹を抱えながらソファーに寄りかかる。

「何ですかその写真」

「シャー芯の写真だ」

「く、口に出さないでくれ!」

「写真のシャー芯」

「は、ハハハ! おかしい、なんだ写真のシャー芯って、なん、ヒヒヒ!」

サンデーサイレンスの追い討ちにシンボリルドルフがキャラ崩壊を起こしてしまうほどに大爆笑。

「シンボリルドルフさん、落ち着いて!」

「まだまだあるぞ。そのステロタイプは捨てろ」

「も、もう止めてくれ!」

シンボリルドルフの今の状態はまさしく抱腹絶倒。サンデーサイレンスに殺されかけていた。

「アイグリーンスキーさん、サンデーサイレンス先生の口を塞いで下さい」

「はいっ!」

二代目がサンデーサイレンスを止めるべく口を塞ごうとするもサンデーサイレンスが逃げ回りながら駄洒落を連発。しかもシンボリルドルフのツボに嵌まる駄洒落ばかりで、シンボリルドルフが救急車に運ばれる事態になるまで止めることは出来なかった。




後書きらしい後書き
今回はお説教のいう名前のシンボリルドルフとたづなの好感度上昇回(ゲーム脳)でした。ちなみにサンデーサイレンスがたづなに渡した写真は健全そのものでR18なものではありません。


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第21R ナリタとナリタ

前回の粗筋
シンボリルドルフ、倒れる


「ひ、酷い目にあった……」

「そうか?」

シンボリルドルフとたづなに叱られ、気力を削られた二代目に対してサンデーサイレンスは何事もなかったかのようにピンピンしている。

 

「サンデーサイレンス先生はシンボリルドルフ会長に駄洒落を言うだけ言って逃げたからいいですけど、シンボリルドルフ会長を病院送りにさせて、全部責任を押し付けられた気持ちがわかりますか? その結果がたづなさんの着せ替え人形の刑ですよ。本来ならただ叱られるのをサンデーサイレンス先生が余計なことをしたせいでそうなったんですから責任取ってくださいよ」

「それも一理ある」

サンデーサイレンスが携帯電話を取り出し、あるウマ娘に連絡を取った。

 

「Hello,My name is Sunday Silence. Is there Northern Dancer?」

 

流暢な英語でサンデーサイレンスが電話をすること数分後、電話を切る。

「これで良し」

「一体何をしたんですか?」

「余が米国のウマ娘だというのは知っているよな? その米国にいた時の先輩に頼んで、その先輩の知り合いのウマ娘をお前の一日専属講師として来日するように頼んだ。これで貸し借りなしだ」

「……そのウマ娘はどんな方なんですか?」

「さあな、あの先輩のコネクションは幅広すぎて誰が来るかわからん。ただ一つだけ言っておくとその先輩自身やノーザンテーストが来ることはない」

「ますます気になりますよ、それ」

二代目がそう呟くも、サンデーサイレンスは何処吹く風で、うんとも寸とも言わなかった。

 

 

「アイグリーンスキー、ここにいたのか」

サンデーサイレンスと話をしていると後ろからナリタブライアンが声をかけ、そちらに振り向くとナリタブライアンの他に癖毛が特徴のウマ娘がそこにいた。

 

「ナリタブライアンと……どちら様?」

「ジュニアCのナリタタイシン先輩だ」

「どうもナリタタイシンよ」

ナリタタイシンなるウマ娘が挨拶をし、二代目がそれに合わせ頭を下げる。

 

「はじめましてナリタタイシン先輩。ジュニアCということはヤマトダマシイ先輩のことを聞きたいんですか?」

「……」

「それともう一つ、タイシン先輩は跳ね返りウマ娘だから口に出せないだけだが、併せウマの協力をしてもらいたいんだ」

「ちょっとブライアン!」

「すみませんが併せウマは会長達に控えるように言われまして」

「えっ?」

こう声を漏らしたのはナリタブライアンの方であり、二代目を凝視する。

 

「むっふっふっ、アイグリーンスキーの言うことは真実だ。何せ余も同じように叱られたのだからな!」

「自慢出来ることじゃないでしょう!」

「別に、構わんぞ」

二代目が突っ込みを入れるのと同時に第三者の声が響く。

「シンボリルドルフ会長、いつ退院してきたんですか?」

「救急車で散々笑ったら病状が収まった為に即解放されたんだ」

「北海道はでっか──」

「サンデーサイレンス先生、シンボリルドルフ会長に何か恨みでもあるんですか?」

二代目が駄洒落を言うサンデーサイレンスの口をふさぎ、シンボリルドルフの病院送りを回避させる。

 

「それよりも話を戻す。私は迷惑をかけるな、とは言ったが併せウマを禁止していないぞ」

「そりゃそうですけど」

「そう言えばアイグリーンスキー、私からの罰を与えていなかったな。ナリタタイシンと併せウマをしろ」

「ちょっと、シンボリルドルフ会長!」

ナリタタイシンが抗議の声を上げるとシンボリルドルフが手で制し、口を開く。

「ナリタタイシン、お前が努力していることも、お前が出来るだけ一人であろうとすることも知っている。しかし一人でやっていては永遠に勝てない。私も相棒のシリウスシンボリがいたからこそ無敗の三冠ウマ娘となった。孤高を貫くのはレースだけで十分だ」

「……わかりました。それじゃ明後日、体育館に来てよね」

「わかりました」

「では会長、失礼します」

「あ、待って下さいタイシン先輩。それじゃアイグリーンスキー、また授業で会おう」

その場を去るナリタタイシンをナリタブライアンが追いかける。

 

「シンボリルドルフ、一つ聞いて良いか?」

「なんだ?」

一応講師の立場であるサンデーサイレンスにタメ口で答えるシンボリルドルフ。それだけサンデーサイレンスに恨みがあったのだろう。

「シンボリやナリタってのは何かの一族なのか?」

「ナリタはともかくシンボリと名の付くウマ娘はその一族に含まれる場合が多い」

「だったらマティリアルはシンボリ家の出身でありながらもシンボリと名付けられることはなかったのはシンボリ家を追放されたからなのか?」

「マティリアルは期待されているからこそあのようにシンボリの名前を敢えて外して名付けられたんだ。シンボリ家を追放した訳じゃない。ちゃんとシンボリ家に訪れれば歓迎する」

「そうか。ならその言葉マティリアルに伝えておこう」

二代目がビワハヤヒデから貸してもらったICレコーダーをサンデーサイレンスが懐から取り出した。

「あっ、いつの間に!?」

「それじゃアバヨー」

二代目が瞬きする間もなく、サンデーサイレンスがその場から消え去りこの場に残された。




後書きらしい後書き
今回は短めですみません。

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第22R タイシンカイシン

前回の粗筋
シンボリルドルフ「お前ら併せウマな」
ナリタタイシン「マジすか?」
二代目「マジですね」


ナリタタイシンとの併せウマをするために二代目は体育館に来ていた。

「しかし何故体育館なんだろう」

 

体育館は校内集会や学校の行事に使われることが多いが本来の使用用途はバスケやバレーボールなど室内スポーツが出来るようにする為である。その為ある程度激しい運動は出来るが、体育館は広さに限度があり陸上競技などの競走に対する適性が屋外に比べると不適であり、併せウマなどもっての他。不可能と言っていいだろう。

 

何故ナリタタイシンがそんな体育館を併せウマをする場所に指名したのか、二代目が疑問に思うのはごく当たり前のことであった。

 

「んー? あんた確かヤマトダマシイと付き添いの……アイグリーンスキーだっけ? なにやってんの?」

二代目に話しかけてきたのは黒鹿毛のウマ娘でそのウマ娘はヤマトダマシイと同じクラスのウマ娘だった。

「どうもウイニングチケット先輩。ナリタタイシン先輩と併せウマの約束をしていたんですが肝心のナリタタイシン先輩が来なくて」

「あー、タイシンの体育館に来いって奴は信頼しない方がいいよ。そういう時は百割隠れているから」

「百割じゃなく十割ですよ。百割だと1000%になりますから」

「いいんだよ。細かいことは!」

「ウイニングチケット先輩、ビワハヤヒデ先輩から一日一回以上お小言貰っているでしょう……」

「……」

ウイニングチケットが目をそらし、無言になる。それを肯定を見なした二代目が頭を掻き、別の話題に逸らす。

 

「それでウイニングチケット先輩、ナリタタイシン先輩の場所に心当たりはありますか?」

「ん、そうだね。体育館に呼び出したってことは保健室か自室に戻っていると思うよ。アリ……アリの巣つぐりだっけ? それの為にやっていると思うから」

それを言うならアリバイだろう。

「もう私はツッコミませんよ。他にナリタタイシン先輩がいそうな場所はありますか?」

「基本一人で人気のない場所にいるよ。例えば屋上とかトイレの個室とか、倉庫の裏手とか」

「ありがとうございます。ウイニングチケット先輩」

「いいよ。それよりタイシン探すなら私も探すよ。やることないしね」

「ウイニングチケット先輩、何から何までありがとう──」

「礼ならタイシンを見つけてからにしようよ。ね」

その言葉に二代目の心が締め付けられ、心臓の音が鳴り響いた。

「ウイニングチケット先輩……」

「それじゃ探そうか」

ウイニングチケットの後を着いていき、二代目はその背中を見つめる。その背中を見るだけでも胸が高鳴り、そしてついに両腕を上げ襲いかかろうとしていた。

 

 

 

『やめろ二代目。そいつの前世は牡馬で襲いかかったら同性愛以外の何者でもないぞ。同性愛はサンデーサイレンスだけで十分だ』

先代が身体の主導権を奪い取り普通に歩く。二代目が何か言い返そうとしても口すら開けない。

『まあこいつの娘が俺が愛した女だからわからんでもないがな……』

付け加えるように先代が呟く。

 

『ちなみにサンデーサイレンスのことを同性愛と言っているのは何も根拠がない訳じゃねえ。奴は気性が荒く他の種牡馬達に自分がリーダーだと威嚇していたんだが、とある芦毛の種牡馬に通じなかったものだから何度も絡んでいる内に惚れてしまった……とはいっても同性愛だけでなく異性にも愛はあったからな。そうでなきゃサンデーサイレンスに種付けされた牝馬が俺にのろけ話をしないからな』

「……」

先代の悲哀に二代目は気まずくなり、身体の主導権を戻したにも関わらずウイニングチケットの背中から目をそらしてしまう。

『前にウイニングチケットがいる以上話せないのはわかる。だから暇潰しに俺の知るウイニングチケットの話をするぞ。ウイニングチケットはセイザ兄貴と同じ世代の弥生賞を勝った競走馬だ。父は後のリーディングサイアーのトニービン、母父にマルゼンスキー、そして母親がスターロッチの孫、言ってみればサクラスターオーの親戚筋にあたる』

「!」

サクラスターオーの名前を聞いた途端、身体が反応し、声を漏らす。

 

 

 

「ん? どうかした?」

「いえ、ウイニングチケット先輩ってサクラスターオー先輩とどこか似ているなって」

「スターオー? ああ、確かにスターオーとは親戚だよ。曾祖母ちゃんが一緒だから再従兄弟の関係にあたるのかな?」

「再従兄弟でしたか」

「うん、時々見舞いにも行っているけど怪我している所以外無事で安心したよ。有馬記念前に曾祖母ちゃんが死んで、有馬記念でスターオーまで死んだら悲しすぎるからねっ!」

ウイニングチケットが突然木を蹴り飛ばすと木が揺れ、葉が擦れる音、枝が折れる音が響き渡る。

「きゃぁぁぁぁっ!?」

そして最後にウマ娘の悲鳴が響き渡り、そのウマ娘はウイニングチケットの腕に落ちる。

「タイシン見ーつけた」

「チケット、何故わかった……?」

身体を両腕で抱えられる──所謂お姫様抱っこされた状態でナリタタイシンがウイニングチケットにそう尋ねた。

「音だよ。それより酷いじゃんタイシン、後輩を騙すなんてさ」

「……騙される方が悪い」

「タイシン先輩、どちらがいいですか?」

「何がだ?」

「この場で謝ってトレーニング場で併せウマをするのと、シンボリルドルフ会長に叱られる方ですよ」

「何故会長が出てくる」

「ナリタタイシン先輩はただ嘘をついたに過ぎないと思うかもしれませんがこちらには証拠があるんですよ。現在そのデータはサンデーサイレンス先生が所持していますが、このことがサンデーサイレンス先生やシンボリルドルフ会長にバレたらナリタタイシン先輩がどうなるか想像もつきませんよ」

「う……じゃあトレーニング場に行こう。チケット、逃げないから降ろして」

「はいさ」

ウイニングチケットが観念したナリタタイシンを降ろすと逃げないように監視した。

「だから逃げないって……」

「それじゃ行きましょうか」

その後、ナリタタイシンと二代目は併せウマをし、有意義な時間を過ごした。

 

 

 

「……っ! 後少し」

ナリタタイシンが手を伸ばし、少しでも二代目の前に出ようと足掻くが更に突き放された。

「肩透かしっ!」

二代目がそう決め台詞を放ったままゴール。余りにも楽勝だった。それと言うのも二代目に土をつけてきたグリーングラス、メジロパーマーの双方はどちらもベテランとも言えるレース経験のあるウマ娘であり、ナリタブライアンなどデビュー戦前のジュニア級のウマ娘どころか、皐月賞前のクラシック級のウマ娘相手に勝って当たり前の相手であり、後一歩まで追い詰めた二代目やメジロパーマーに圧勝したラムタラが異常なのである。

しかしナリタタイシンはGⅠ競走であるホープフルSを勝利していてクラシック級トップクラスの実力の持ち主であるが常識範囲内のウマ娘でしかなく、メリーナイスなどシニアトップクラスのウマ娘とは大きな壁が存在し現状勝てる相手ではなく大差をつけられて終わりだろう。

 

つまり図にすると

 

ラムタラ>メジロパーマー≧二代目>メリーナイス>(超えられない壁)>ナリタタイシン>ナリタブライアン

 

となる。

 

閑話休題

 

そんな訳でナリタタイシンに圧倒した二代目は息を少しだけ乱していたが、違和感を感じていた。しかし過呼吸までしているナリタタイシンほど疲れている訳でもない。自分の脚を確認しても無理をしているどころか寧ろ少しだけ解すだけで脚の疲れが治ってしまう。

 

 

そんな二代目は余裕を持って大の字で倒れているナリタタイシンを見下し、口を開いた。

「タイシン先輩、こんな調子じゃ今度の皐月賞、連対どころか掲示板すらも厳しいかもしれませんね」

それは二代目なりに、併せウマをさせたシンボリルドルフの意図を汲んでの発言だった。

「……っ!!」

ナリタタイシンはGⅠ競走の一つホープフルSに勝利したものの、それからの活躍は2戦2敗と勝利から遠ざかっていた。その原因はホープフルSに勝ったという驕りが産み出したものだ。しかも敗北こそしていたがその2戦は連対──つまり二着であり、惨敗している訳ではない為にトレーナーも口を挟むことが出来ず、併せウマをさせることが出来なかった。

「今まで一人でやってきたツケが今回の併せウマに響いた。それだけは覚えて下さい」

しかし今回明らかに格下であるジュニア級のウマ娘に圧勝されたことで、四の五の言っていられる状況ではない。それを自覚したのかナリタタイシンが無言で頷いた。

「では失礼します。ウイニングチケット先輩、ありがとうございました」

無言ながらもナリタタイシンが頷くのを見ると二代目がウイニングチケットに頭を下げその場から去っていった。




後書きらしい後書き
ちなみに先代が菊花賞云々抜かしていた馬は架空馬で青き稲妻の方で先代の産駒の一頭が菊花賞を勝ったことは記載されていても名前は出ていません。所謂裏設定という奴です。


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尚、次回更新は一週間後です


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第23R 期待のルーキー達

【悲報】史上二頭目の無敗で三冠馬となったディープインパクトが亡くなりました……一度リーディングサイアーになったらその順位をキープし続けたことといい、亡くなった年齢といい、誕生日といい、父サンデーサイレンスに最も近づいた馬でした。競馬小説を書いている作者が冥福を祈ります。

前回の粗筋
二代目「タイシン、ボッチプレイは止めるように」


「どうやら逃がした魚は大きかったようだな」

 

 ナリタタイシンとの併せウマが終わり、ナリタタイシン達と別れるとそこにいたのはチームリギルのトレーナーであるハナだった。

 

「おハナさん……いつの間に」

 

「最初からだ。今の走りでシンボリルドルフが何故お前をチームリギルに推薦したのかよく理解出来た。今となっては後悔している程だ。だがお前をチームに入れることは出来ない。ナリタブライアンやヒシアマゾン以上の逸材が所属してしまったからな」

 

「それは随分と期待出来る逸材ですね」

 

「皮肉か? チームリギルでお前を打ち負かせるのはシンボリルドルフとマルゼンスキーくらいしかいない。そいつも今は勝てる相手ではない」

 

「でしょうね。しかし、今は、というのはちょっと間違いですよ。シニアになれば勝てるなんて思っていたら大きな間違いです」

 

「言ってくれるな」

 

「では野暮なことをお聞きしますが、そのウマ娘がどんなタイトルを勝つか予想しましたか?」

 

「皐月賞と日本ダービーの春二冠を初めGⅠ競走を7勝する姿だ……それだけの器を感じさせた」

 

「甘い、甘すぎる。そんな程度の器でしかないウマ娘が世界史上最強クラスのウマ娘を見てきた私に勝てるとでも?」

 

「……なんだと?」

 

「彼女の名前はラムタラ。かつてチームギエナのトレーナーだった男の最高傑作で、私と同期でありながらメジロパーマー先輩に圧勝した正真正銘の怪物。アレが成長したらシンボリルドルフ会長やマルゼン姉さんを超えるレベルですよ」

 

 

 

「ちょっと待て。ラムタラが何故あの男と関わっている?」

 

「それが、どう間違えればそうなるのかあの人は欧州のトレセン学園のトレーナーリーダーになったみたいで、日本のトレセン学園とのパイプ役になっているんですよ」

 

「なるほどな。あの男はウマ娘のケアを除くと、ウマ娘に関しては優秀だからな。多少の不祥事があっても向こうのトレセン学園のトレーナーとして就職することが出来たという訳か」

 

 ハナが納得し頷き、口を開いた。

 

 

 

 

「それでそのラムタラというウマ娘がメジロパーマーに圧勝したのか?」

 

「ええ。この目で見ましたから。メジロパーマー先輩の前に立って400m毎に1バ身ずつ差をつけて、最後は5バ身差ついた状態でゴールしましたからね」

 

「……ジュニア級の時点であのメジロパーマーに5バ身か。確かにとんでもない逸材だ」

 

「おハナさん、メジロパーマー先輩が馬鹿ペースで飛ばして自滅したとか考えていないんですか?」

 

「それを言っている時点で自爆していないと言っているようなものだぞ、アイグリーンスキー」

 

「とにかくメジロパーマー先輩のタイムは悪いどころかかなりの良タイムでした。しかしあのラムタラはそれよりも1秒弱早くゴールしています。体調万全の状態のマルゼン姉さんがジュニア級の時でもそんなことが出来ますか?」

 

「……あのお方くらい、いや何でもない。そんなことが出来るのは日本にはいないだろうな」

 

 ボソリと呟くのを聞き逃さなかった二代目だが敢えてそれをスルーした。

 

 

 

「今の私ではラムタラに勝てませんがいずれ私はあいつを超えますよ。おハナさん、そのウマ娘にそのビジョンが見えますか?」

 

「……」

 

「いずれおハナさんの言う逸材のウマ娘とは決着を着けますが、王者としてGⅠ競走7勝程度では勝てないことを叩きこんであげます」

 

「口先だけでないことを祈っているぞ。そのウマ娘の名前はエアグルーヴだ」

 

 ハナがその場を去り、二代目も自室へと向かう。

 

 

 

『エアグルーヴか。懐かしい名前だ』

 

 誰もいなくなった道で先代が呟く。

 

「先代、知っているの?」

 

『知っているも何も奴とはJCで二度対戦している。もっとも二度とも俺が勝っているがな』

 

「じゃあ楽勝だね」

 

『奴はオークスを勝ち、後のGⅠ競走産経大阪杯、そしてヒシアマゾンですら成し遂げられなかった牝馬での、牡馬牝馬混合のGⅠ競走天皇賞秋をも勝利した名牝だ。しかしその程度でしかない。現在でいうところのGⅠ競走2勝でシンボリルドルフに並ぶどころかそれ未満だ』

 

「でしょ?」

 

 

 

『だがメジロパーマーのように覚醒したらそうも行かないぜ。何せエアグルーヴは史上最強の二冠馬ドゥラメンテの祖母だからな』

 

「ドゥラメンテ?」

 

『そうだ。ドゥラメンテは皐月賞の第四コーナーのカーブでドリフトをして大幅なタイムロスをしたのに関わらず余裕綽々に先頭でゴールしただけでなく、日本ダービーを2分23秒2とレースレコードを出した競走馬だ』

 

「2分23秒2……!? 今のレースレコードよりも2秒以上も縮めたの!?」

 

『しかも後にGⅠ競走7勝する競走馬に全て先着したものだから史上最強の二冠馬という称号がついたんだ。もしエアグルーヴが覚醒したらそのくらいのことをやりかねない。一流と二流の間をさ迷っていたメジロパーマーが二代目に勝ったようにな』

 

「う……」

 

『これが条件戦すら勝利していないそこらにいる繁殖牝馬(ははおや)ならともかく、エアグルーヴは競走馬としても一流で覚醒する要素はいくらでもある』

 

「覚醒したらしたで捩じ伏せるまで。やることは変わらないよ」

 

『それでこそ二代目だ。エアグルーヴと対決する前に躓いたらみっともないからどんな相手でも注意することだな』

 

「もちろん。でもその前に勉強しなきゃね」

 

 二代目が返事をし笑みを浮かべ、自室にあるノートを開き勉強をしはじめた。

 

 

 

 そして週末、NHKマイルC前哨戦であるニュージーランドTが開催された。

 

【一番人気のヤマトダマシイ、ヤマトダマシイはまだ来ない!】

 

「ヤマトダマシイ先輩、いつ見ても不安になるレースばかりだね」

 

『全くだ。あれで最終的に勝てるんだから大したもんだ』

 

【ヤマトダマシイ来たっ! 大外からヤマトダマシイ一着でゴールイン! ヤマトダマシイ無敵の四連勝! NHKマイルCに向けて一点の曇りなし!】

 

『だがあれはNHKマイルCは勝ててもダービーでは勝てない。スピードでゴリ押ししているだけだ。ダービーに勝つには勝負根性と瞬発力どちらも欠けちゃならねえ、特に今年のダービーはな』

 

「確か、ウイニングチケット先輩にビワハヤヒデ先輩が一応有力候補なんだよね」

 

『こっちの世界ではな。俺の世界にいたセイザ兄貴は大本命だったぞ。皐月賞トライアルのスプリングSを5馬身差で勝利したからな。だがセイザ兄貴ならぬセイザ姉貴はここにはいない。本来無敗の二冠を勝つ馬がいないこの世界はまさしく群雄割拠、戦国時代そのものだ』

 

 ウイニングチケットやビワハヤヒデの他にもヤマトダマシイ等本来いない競走馬がウマ娘となって日本ダービーに出走登録しており、何が起こるか予測がつかない事態となっていた。




後書きらしい後書き
今回、ちょっと短めです。


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第24R 皐月賞とドタバタ

今回少し長めです

前回のあらすじ
ハナ「エアグルーヴたんがウチに入ったお!」


 皐月賞

 

 弥生賞を制覇したウイニングチケットが本命視され、次点にビワハヤヒデと二強対決の雰囲気の中、目がギラつく程に輝かせているウマ娘がいた。

 

「皐月賞はアタシが貰う」

 

 そう呟くウマ娘の名前はナリタタイシン。彼女はホープフルSを勝利し、弥生賞を二着と皐月賞出走権を獲得し皐月賞に出走にこじつけられたもののその評価はとても半年以前にGⅠ競走を勝利したウマ娘の評価ではなく、ウイニングチケットとビワハヤヒデの二強対決の引き立て役という扱いだった。

 

 それも仕方ない。だけどこのままでも勝ち目はある。

 

 そう思っていた矢先に二代目が現れ、ナリタタイシンの驕りをへし折って闘気を満たし、鬼が宿った。

 

【ウイニングはウイニングは苦しい、先頭はビワハヤヒデ、大外からナリタタイシン、ナリタタイシン差しきった! 二着にビワハヤヒデ。勝ったのはなんとナリタタイシン!】

 

 まさしく鬼脚と呼べる豪脚でナリタタイシンが粘るビワハヤヒデを大外から置き去りにして皐月賞を制覇。そのまま勝者ナリタタイシンをセンターにウイニングライブをやるかと思われたがウイニングライブをやる前にウイニングチケットがそれを止めた。

 

 

 

「おめでとう、タイシン」

 

「チケットどうもありがと」

 

「皐月賞はタイシンが勝ったけどダービーはこうもいかないよ。東京競バ場は得意文化だからね」

 

「それを言うなら得意分野だ」

 

 ビワハヤヒデが即座に突っ込みを入れると共にタイシンが笑みを浮かべながら口を開く。

 

「アタシはこのまま二冠を制してみせるよ。阻止出来るものなら阻止してみなよ」

 

「無論だ」

 

「当たり前じゃん」

 

「今度戦うときは全員が挑戦者だよ。さ、ウイニングライブやりに行こうかハヤヒデ」

 

「ああ、余り待たせると失礼だからな。今度は日本ダービーのウイニングライブの舞台で会おう。チケット」

 

 ナリタタイシンに引かれるようにビワハヤヒデがウイニングチケットと別れを告げる。

 

 ウイニングライブというのは先代の世界におけるウイニングランに相当し、GⅠ競走のみで行われるものだが、一着の馬しか行わないウイニングランとは違い、ウイニングライブは三着までのウマ娘がライブを行うというものだ。そのうち一着のウマ娘のみがセンターを務めることが出来るというものだ。

 

 今回ウイニングチケットが四着となった為にウイニングチケットが舞台に上がることなくその場を去るしかなかった。

 

「その舞台でか。今度はセンターで踊ってみせるよハヤヒデ、タイシン」

 

 ウイニングチケットはビワハヤヒデが暗に日本ダービーの勝利宣言をしたことに対して闘志を燃やし、そのウイニングライブを臥薪嘗胆の思いで見つめていた。

 

 

 

 ウイニングチケットの他にその舞台を臥薪嘗胆の思いで見つめる者がいた。

 

「私もデビュー戦が早ければあの舞台に立てたかもしれない」

 

 そう呟くウマ娘の名前はヤマトダマシイ。彼女はデビュー戦が遅れ皐月賞に間に合わずNHKマイルCに挑戦し、ダービーに出走することになっていたが皐月賞への未練が大きくこの場にやってきていた。

 

「かもしれないですね先輩」

 

 ヤマトダマシイに同行していた二代目がそれに頷く。

 

「グリーン、私のこの悔しさはNHKマイルCと日本ダービーにぶつける。その二冠を制すれば皐月賞の未練はなくなると思うんだ。だから──」

 

「協力しますよ。併せウマに」

 

「忝ない、グリーン」

 

「チームトゥバンのシニアの先輩達は落ち目で頼りないですからね。途中乱入してきた私に負ける有り様ですし」

 

「……それは否定出来ないが、余り口に出すものじゃないぞ」

 

「すみません。でも落ち目かどうかはともかく、あのままじゃ勝てませんよ。メジロパーマー先輩ですら私よりも強いですし」

 

「それはいいことをお聞きしましたわ」

 

「げっ、マティリアル先輩いつの間にいたんですか?」

 

「チームトゥバンのシニアの先輩達は頼りないですからね、の部分からですわ」

 

「最初からじゃないですか!」

 

「ヤマトダマシイ、こんなくそ生意気な後輩どう思う?」

 

 ここでヤマトダマシイが空気を読まず「先輩よりかは頼もしく思えます」と言おうものならマティリアルがブチ切れて大暴れすることは想像に難くない。しかし空気を読んで同調してもそれはマティリアルの為にならない。

 

 

 

「マティリアル先輩、いつからそんな情けなくなったんですか?」

 

「何ですって?」

 

「サクラスターオー先輩やメリーナイス先輩を差し置いてチームギエナのメンバーの中で最も注目を浴びていたのはマティリアル先輩でしょう。その時の先輩はとても輝いて見えました。しかしサクラスターオー先輩が皐月賞と菊花賞を、メリーナイス先輩が日本ダービーを勝利したにも関わらずマティリアル先輩は無冠──」

 

「黙りなさい」

 

「そして先日の大阪杯でメリーナイス先輩にも先着され──」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 まだライブ途中であるにも関わらず、怒鳴り声を上げそちらに全員が注目する。

 

「マティリアル先輩、落ち着いてください! ヤマトダマシイ先輩も挑発しないでくださいよ」

 

 二代目がマティリアルをどうにか宥めるがヤマトダマシイが更に挑発し、注目を集める。

 

「同じ追い込みウマ娘として恥ずかしい限りです」

 

「ヤマトダマシイ先輩!」

 

「……ふぅぅぅ~。ヤマトダマシイ、そこまで貴女が挑発するならこっちもそれなりの対応をしますわ。来なさいヤマトダマシイ」

 

 深呼吸しながらマティリアルが外に出るとヤマトダマシイがそれに続いた。

 

「貴女とは一度決着をつけたかったんですよ」

 

「ああもう、どうしてこうなるのかな?」

 

 二代目がそれを追いかけ、その場を後にした。そして会場に残されたのは皐月賞のウイニングライブの関係者とそれを見に来た観客達だけであった。

 

 

 

 そしてチームトゥバンの練習場で二人のウマ娘がそこに対峙していた。

 

 片やマティリアル。かつて日本ダービーの最有力候補でありあの名門シンボリ家の出身でもある。

 

 もう片やヤマトダマシイ。3戦無敗のチームトゥバンのクラシック級クラスのエースであり、今度出走するNHKマイルC、日本ダービーでも有力候補に上げられている。

 

 そんな二人の共通点、それは同じチームトゥバンであること。そしてもう一つ、終盤になってから全力を出し先頭を走るウマ娘を抜き去る追い込みウマ娘であるということだ。

 

「いずれ戦う時が来るのは予想していましたがこのような形で思いもよりませんでしたわ」

 

「いいや予想していましたよ。マティリアル先輩が無様晒しているんですから」

 

「……その口を塞いであげますわ」

 

「グリーン、合図を頼んだぞ!」

 

「何故こんなことに……」

 

 殺伐とした雰囲気の中、二代目が頭を抱えウマ耳に耳栓を入れてピストルに弾を込めた。

 

「お二人とも準備はいいですか?」

 

「いつでも行ける」

 

「同じく」

 

「ではヨーイスタート!」

 

 ピストルの鳴る音がその場に響き二人がスタートした。

 

 今回行われる併せウマもとい模擬レースは宝塚記念と同じ距離2200m。本来天皇賞春に登録しているマティリアルの併せウマであればそれよりも1000m更に長い3200mにするべきだが、長距離レースを経験していないヤマトダマシイに配慮したのと、マティリアルが天皇賞春の次走に宝塚記念を登録してある為である。

 

「マティリアル先輩、無理しなくていいんですよ? グリーンに負けた情けないウマ娘なんですから」

 

「アイグリーンスキーが異常に強いだけのことですわ。見たでしょうあのタイムを」

 

「ええ、もちろん。ですがそれを差し引いてもマティリアル先輩は弱いですよ」

 

「何ですって?」

 

「最後に分かりますよ」

 

 マティリアルのペースから自らのペースに切り替えたヤマトダマシイ。それを見たマティリアルがヤマトダマシイに合わせてペースを上げようとするが、それを止めマイペースで走る。

 

「そうやっていると、より惨めになりますよ。マティリアル先輩」

 

 その呟きはマティリアルを含め誰にも聞こえることなく消えていった。

 

「ヤマトダマシイと言えども私の末脚に敵う筈がない。ましてや前を走るヤマトダマシイなど恐れることはありませんわ」

 

 ヤマトダマシイが前を走ることに安堵し、マティリアルが微笑み、最後のカーブに入る前にギアを上げた。

 

 互いに笑みを浮かべる模擬レースだが、最後に笑うのは一人だけであることは事実でもう一人は涙を流すことになることをこの場にいる全員が知っていた。

 

 

 

『下らねえ茶番劇だな』

 

「先代それは一体どういうこと?」

 

『俺の世界でマティリアルはシンボリルドルフと同じ配合──要は父親と母父が同じなんだ』

 

「つまりマティリアルの父親と母方の祖父が同一人物?」

 

『いくらなんでも血が濃くなりすぎるわ、ど阿呆う。シンボリルドルフとマティリアルは共にパーソロン産駒で母親がスピードシンボリ産駒だったってことだ』

 

「それが何なの?」

 

『まず父親が同じ時点で1/2は同じ血が流れている。そして母父が同じな時点で1/4同じ血が流れている。つまりシンボリルドルフとマティリアルは1/2と1/4を足したものだから──』

 

「3/4ね」

 

『そうそう。3/4同じ血が流れている訳だ。そのくらい同じ血が流れているとなれば誰だって期待したくなるだろ? セントライトの兄弟にあたるトサミドリですら半分しか受け継いでいないんだから尚更だ。そんな訳で、シンボリルドルフの後に生まれたマティリアルはシンボリルドルフと同じ教育を受け育ってきたんだがある問題が生じた』

 

「問題?」

 

『シンボリルドルフとマティリアルは全く別の馬だったってことだ。こっちにもあるだろ? 同じ父親母親の兄弟でも出来が違うってのは。マティリアルはまさしくそれで、シンボリルドルフにやった教育がマティリアルに合わなかったんだ。こっちの世界でもマティリアルはレーススタイル以外シンボリルドルフの真似をして努力しているが──』

 

「合わないってこと?」

 

『そういうことだ』

 

 二代目が先代の意見に耳を傾けながらレースに目を向けるとズルズルと後退していくマティリアルの姿を見てしまった。

 

 

 

「……っ!?」

 

 ヤマトダマシイとの差を縮める為にマティリアルがスパートをかけたが逆に突き放されていく、その現実に着いていけずに顔が歪んだ。

 

「だから言ったでしょう。より惨めになると」

 

 そしてヤマトダマシイが先にゴールして併せウマが終わり、マティリアルは唖然として放心していた。

 

「マティリアル先輩、今の貴女には覚悟が足りない」

 

「……覚悟?」

 

「シンボリ家の皆さんに貴女は中長距離路線のGⅠ競走を勝つように期待されている。違いますか?」

 

「……ええ。その通りでしたわ。しかし三冠の一つも勝てずに失望され、今となっては絶縁状態。今の私にあるのはこの体だけ。かつてシンボリ家の皆さんからポスト・シンボリルドルフと呼ばれた私はどこにもいません。その栄光を取り戻す為に私は中長距離のGⅠ競走を勝たねばなりません!」

 

「マティリアル先輩、その末脚はマイル戦でこそ活かせることが出来る。見てくださいよ、この上がり3Fのタイムを」

 

 2200mを走破したマティリアルの上がり3Fのタイムが38秒1と決して追い込みウマ娘が出すようなタイムとは言いがたいものだった。逃げウマ娘メジロパーマーが3000mの重賞レースである阪神大賞典で出した上がり3Fのタイムが37秒7と言えばマティリアルがどれだけ遅いか理解出来るだろう。

 

「むしろこれだけ遅いタイムなのに追い込みウマ娘と主張出来るのか不思議なくらいです。逃げウマ娘のメジロパーマー先輩の方がまだ主張出来るくらいです」

 

「ヴぅぅぅっ!」

 

「しかしマイルなら話は別です。マティリアル先輩に中距離以上のレースはスタミナが足りずに不向き……とサンデーサイレンス先生が仰っていました」

 

「私に中長距離のレースを捨てろと、そう仰るのですか?」

 

「実際気づいているんじゃないですか? マイル戦なら末脚が発揮するのに中長距離になるとまるで使えなくなる。マティリアル先輩がやるべきことは今、この場で決断することです。永遠に勝てないレースで無様を晒すのか、それともマイルで栄光を掴むかその選択肢しかありません」

 

 ヤマトダマシイが残酷に告げる。

 

「それもサンデーサイレンス先生の伝言ですか?」

 

「ええ。それとこれもマティリアル先輩に渡すように言われています」

 

「これは……ICレコーダー?」

 

「これを渡しておけと言われただけですので詳しいことは知りませんがマティリアル先輩に何か伝言でもあるんでしょう」

 

「その中身はシンボリルドルフ会長の言葉が入っていますよ」

 

 それまで空気だった二代目が口を挟み、マティリアル達の注目を集める。

 

「グリーン、何故それをお前が知っている?」

 

「それはその場にいましたから。ところでサンデーサイレンス先生はどこにいるんですか? いつもならヤマトダマシイ先輩に渡すなんてまどろっこしいことをせず自分で渡す筈なのに」

 

 いつも騒がしいサンデーサイレンスがいないことにより、違和感を感じていた二代目がサンデーサイレンスの行方を探していた。

 

「あのウマ娘なら陰陽術を学びに出掛けていますわ」

 

「アメリカのウマ娘なのに?」

 

「アメリカのウマ娘なのに」

 

 そして二代目がサンデーサイレンスが奇声を上げお払い棒を振り回して札を自由自在に操り、幽霊退治をする姿を思い浮かべると、その場にいた三人のウマ娘達が吹いた。

 

「ぶはっ」

 

 三人が吹いた理由はサンデーサイレンスが色白で見た目がホラー系なウマ娘である為に似合う、いや似合い過ぎていたからだ。

 

「確かに似合ってる……くひひ」

 

「ぐ、グリーン、そんなことをサンデーサイレンス先生に聞かれたら後でキツイお仕置きがはっ」

 

「そういう貴女こそ……ふふっ」

 

 彼女達の笑いが止まるまで時間が経過し、次の話題を出した。

 

 

 

「それでマティリアル先輩、今度の天皇賞春どうします?」

 

「キャンセルよキャンセル。出走登録取消の手続きをして安田記念に登録いたしますわ」

 

「オグリキャップ先輩がいますけど大丈夫ですか?」

 

「オグリキャップがいようとも関係ありません。彼女との勝負に中距離で負けたけどマイルとなれば話は別ですわ。それまでの私ではないことを証明してあげましょう」

 

「初めてのGⅠ制覇、期待していますよ。マティリアル先輩」




後書きらしい後書き
今回はマティリアルが中心でしたね。
マティリアルの上がり3Fのタイムはそれほど速くないのも事実でスプリングSで見せた末脚は見せかけのもので陣営はそれを捕らわれ、マティリアルを追い込み一辺倒で競馬させるようになってしまいました。
しかし京王杯AHで先行策をとり見事勝利し、さあこれからというところで骨折し予後不良処分となった悲劇の競走馬です。
そんな彼女がこの小説でどう活躍するかお楽しみ下さい。



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第25R 暫定最強ウマ娘決定戦

【悲報】ディープインパクトに続いてキングカメハメハが亡くなりました……アイネスフウジン以来更新されることのなかった日本ダービーのレコードを更新しただけでなくロードカナロアを初め数多くの名馬を輩出した馬でした。競馬小説を書いている作者が冥福を祈ります


 天皇賞春。京都レース場で行われる芝3200mと国内の平地GⅠ競走においては最長の距離のレースであり、大阪杯に続くシニアの王道レースの一つでもある。

 

 故に天皇賞春でメジロパーマーを初めとするGⅠ競走を勝ったウマ娘やタマモクロスなど勢いのあるウマ娘がここに集結していた。

 

 しかしその天皇賞春でも豪華メンバーは揃っていても全員集合したという訳ではなかった。

 

 菊花賞を勝ったウマ娘達サクラスターオーとスーパークリークは故障や脚部不安により出走回避。

 

 サクラスターオーの代わりに出走する筈だったマティリアル、そして大阪杯を勝ったオグリキャップは自身の適性距離でないことを理由に出走回避していた。

 

 

 

 しかしそれでも豪華メンバーが揃っていることに違いなく誰が勝つか予想するのが難しく予想屋の大本命はほとんど一致しないという珍事態が発生していた。

 

「おっ、アイグリーンスキーやないか」

 

 その中でももっとも予想屋を泣かせてきたメジロパーマーが二代目を見つけ、声をかける。

 

「メジロパーマー先輩、どうもお久しぶりです」

 

「おおきにな。この調子でレース中も応援頼むわ……って言いたいところやけど、チームトゥバンのウマ娘が天皇賞春に出走してる以上それは言えんわ。しゃーないからワシん中にいるメジロパーマーに応援頼むわ」

 

「ありがとうございます。メジロパーマー先輩」

 

「ほな、今度目を合わせる時は舞台の上で合わせちゃるわ」

 

 獰猛類の笑みを浮かべたメジロパーマーが二代目から離れると次に近づいてきたのがメリーナイスであった。

 

「アイグリーンスキー、奴と何を話していた?」

 

「え、普通に世間話ですよ」

 

「嘘だな。私の作戦を話していたのを見ていたんだぞ!」

 

「だから話していませんってば」

 

「知っているよ」

 

「……はぁっ?」

 

 訳がわからず頭に?マークを浮かべる二代目にメリーナイスが続いた。

 

「ふふっ驚いたか?」

 

「そりゃいちゃもんつけられたらそうなりますよ」

 

「驚き戸惑う顔をみるのが私の大好物でね。これは私なりのリラックス方法だ。許せ」

 

「そんなことをやっていると後で友達失いますよ……先輩、頑張って下さい」

 

「あっ、右脇にゴキがついて──」

 

「みぎゃぁぁぁぁっ!?」

 

 二代目が悲鳴を上げ錯乱し、暴れまわる。

 

『落ち着けアホ。そんな奴はいない』

 

 先代が体の主導権を取り、冷静を装わせて椅子に座る。

 

「そういうことだ。じゃあ応援しろよ」

 

「……」

 

 あれだけ嫌われるようなことをしておいてしれっと応援するように告げるメリーナイス。もちろん二代目の返事は無言だった。

 

 

 

「仲間との慰め合いは済んだのか、メリーナイス?」

 

「イナリワン。そっちは、ああ……クス」

 

「何笑ってやがるんでぃっ!」

 

「慰めて貰う相手がいないってのは寂しいものね。貴女の仲間は大井にいるもの。一人ぼっちで寂しくない?」

 

 物理的にも精神的にも見下し、笑い声を抑えた声でイナリワンを煽りまくるメリーナイス。

 

「てめえ喧嘩売ってんのか!?」

 

 これに短気なイナリワンが耐えられる筈もなく早くも引っ掛かり興奮する。

 

「その江戸っ子キャラもこっちに来てから身につけたんでしょう? 何せ貴女は大井の出身で淋しさを埋めるには江戸っ子キャラはうってつけだものね」

 

 そしてイナリワンがぶちギレ、腹パンをしようと拳を握り、詰め寄ろうとした。

 

「やめときイナリ! その喧嘩買ったらアカン!」

 

「放せタマ公! 売られた喧嘩買わない江戸っ子がどこにいるんでい!」

 

「あらあらまだ江戸っ子キャラ続けるの?」

 

「うがぁぁぁぁっ!!」

 

 イナリワンが大暴れ。京都レース場で早くも混沌としていた。

 

「メリーナイスもメリーナイスや、有馬記念でもそうやって煽りまくって競走中止にさせられたんやから自重せえ」

 

「あれ? ねえお嬢さん、迷子になったの? ここは危ないから係員さんのところに行きましょうね」

 

 メリーナイスはタマモクロスを幼児のように扱って煽る。とにかく他のウマ娘を煽りまくって興奮させて入れ込みさせるのがメリーナイスの作戦だった。

 

「ええ加減にせんかい!」

 

 どこからともなくタマモクロスがハリセンを取り出して突っ込みを入れる。その際にハリセンの叩く音が響くが観客は動揺しなかった。

 

「ウチはイナリと違うてあんたの挑発に乗るほどアホちゃう。せやけど突っ込みなら言うで」

 

「さりげなくあたしをディスるなタマ公」

 

「あらあら……こんなちっさい子供がそんな立派なことを言えるなんて偉い──ぶっ!?」

 

 そしてメリーナイスがタマモクロスの頭を撫でようとすると顔にハリセンが炸裂する。

 

「誰が子供やっちゅうねん。ウチはあんたと同じクラスのタマモクロスや。いつまでもダービーウマ娘の栄光を飾れると思うなや。このど阿呆う」

 

「顔はやらないでよ……痛いんだから」

 

 顔を物理的に赤くさせられたメリーナイスが抗議の声を出すがタマモクロスは鼻で笑った。

 

「自業自得や、そのくらい我慢せえ」

 

 全くその通りである。

 

 

 

 そんなやり取りが繰り広げられ、早くも波乱の予感を感じ取っていた観客達は不安げに自分が買ったバ券や推しウマ娘を見つめる。

 

「それではまもなく本日のメインレース、天皇賞春スタートします」

 

 アナウンスが流れ、観客達がゲートに入る推しウマ娘に注目する。

 

【天皇賞スタート!】

 

 それまで閉ざされていたゲートが開き春の天皇賞が開幕した。

 

【まずハナに立ったのはやはりメジロパーマー。ぐいぐいと二番手を突き放して、これは八バ身程の差を開いて先頭をかけていきます】

 

「やっぱりメジロパーマー先輩らしいですね」

 

「いやいやあれで逃げられると思っているのか?」

 

「意外と逃げられるんですよアレ。メジロパーマー先輩と併せウマすれば分かりますよ」

 

【そして六番手に昨年のダービーウマ娘、メリーナイスがここにいます。果たしてどのように動くのでしょうか?】

 

「流石おちょくり大王。イナリワン先輩を挑発させることだけは天才的な才能がある」

 

 二代目がそうコメントした理由はメリーナイスの立ち位置──もとい走り位置にある。メリーナイスの走っている場所はイナリワンのちょうど前であり、レースの最中にそれをするということは挑発以外の他でもない。

 

【そしてそれをマークするようにイナリワン。前走阪神大賞典では5着と遅れましたが丸地のウマ娘として期待されております】

 

 実況の目は節穴なのか、あるいは敢えて無視しているのかイナリワンがメリーナイスをマークしていると見なして実況。実際にはメリーナイスがイナリワンを意識しているだけでイナリワンは最後方に控えるウマ娘を警戒していた。

 

【そして最後方に一番人気のタマモクロス。このまま連勝記録を飾れるでしょうか?】

 

 今でこそ一番人気の支持を得られているタマモクロスだが昨年のダービーの頃は全くの無名で所謂、夏の上がりウマと呼ばれるウマ娘だった。それもそのはず、タマモクロスは日本で中心的に行われる芝のレースではなく砂、つまりダートで走っていたからだ。

 

 タマモクロスがダートで走っていた当時、日本におけるダートの扱いは芝に適性がないウマ娘が行く場所、あるいは地方のウマ娘が走る場所であり軽んじられて見られていた。

 

 何故そんなところにタマモクロスが行くことになったのかと言われるとタマモクロスはデビュー戦で惨敗し、芝に適性がないと思われダートで走ることになってしまったからに他ならない。

 

 実はダートの方が苦手であるとタマモクロス陣営が気がついたのは京都大賞典と同日に行われた芝2200mの条件戦のレースだった。そのレースでタマモクロスは二着のウマ娘に七バ身差を着けて勝利しただけでなく京都大賞典を勝ったウマ娘よりも早くゴールしていた。

 

 これによりタマモクロスを芝で走らせるように陣営が変更。菊花賞はローテーション上間に合わず別の芝2000mのレースに出走し二着のウマ娘に八バ身差を着けて勝利し、年末ではクラシック級とシニア混合の重賞を制覇し、サクラスターオーが故障したことを抜きにしてもサクラスターオー世代のトップと評価された。

 

 またタマモクロスの快進撃はこれだけに止まらず、シニアになっても止まらなかった。京都金杯ではヤマトダマシイのように直線のみで15人のウマ娘をごぼう抜き。阪神大賞典でもメジロパーマーに同着と格好つかない形ではあるものの勝利。5連勝を飾っている。

 

 そんなタマモクロスにも苦手な相手がいる。それはメジロパーマーを含めた逃げウマ娘だ。同じ追い込みならば自分の末脚で捻り潰せばいいだけなのだが、逃げウマ娘には大きなリードをされており、距離感が狂わされることがしばしばある。

 

 よく逃げの穴ウマ娘が逃げ切ることがあるのは有力なウマ娘達が後方で牽制し合ってしまい、逃げウマ娘が悠々と逃げて気がついた時には既に逃げ切られてしまうからだ。

 

 故にタマモクロスが、差しウマ娘であるイナリワンを警戒しつつも、そのような形で逃げ切ったメジロパーマーやダービーの舞台で六バ身差で勝ったメリーナイスをマークするのは当たり前のことだった。

 

 

 

【さあ、2000mを通過して残り1200m。まだメジロパーマー先頭だ】

 

「だからワシ、ここ嫌いなんや」

 

 メジロパーマーが後ろのウマ娘達を見てそうぼやく。

 

 それというのもメジロパーマーは通常のペースで走っておりこのままではメジロパーマーが得意とするハイペースで相手を競り潰す逃げが使えないからだ。

 

 そうなった原因は京都レース場特有の坂にある。第三コーナーから第四コーナーにかけて坂の上り下りがあるがこれが曲者であり、ここを無理にハイペースで上ると体力が切れ、逆にスピードに乗って下ると曲がりきれず無駄にロスが増える。

 

 故に京都レース場のその部分に関してだけは全員ゆっくり上ってゆっくり下る。これは淀の坂の鉄則と呼ばれるほどの常識であった。

 

 メジロパーマーとてそれは例外ではなく、せっかくハイペースで逃げていたのを通常のペースに落としてまで抑えていた。通常であればそれで良いのかもしれないがメジロパーマーの場合他のウマ娘を競り潰すレーススタイルであり大差をつけ悠々と走るなどということは出来ない。

 

 故に二回目の坂の上りまでに他のウマ娘を潰す必要があった。

 

【二回目の淀の坂にメジロパーマー達が上ります。各ウマ娘ここはゆっくりと上がってゆっくりと下が──あーっと! メジロパーマーが仕掛けた! メジロパーマーここで淀の坂を凄い勢いで下ります!】

 

「これでええんやろ? もう一人のワシ」

 

『そうだな』

 

 メジロパーマーが魂のメジロパーマーに声をかけ、最後の直線に突入する。

 

 

 

 その頃、二代目は先代に解説を求めていた。

 

「先代、本来の勝者はタマモクロスとイナリワンでいいの?」

 

『ああ。だが俺の世界でイナリワンとタマモクロス、そしてメジロパーマーは三者共に何れも戦うことなく引退している』

 

「つまりその三人は誰とも戦わなかったってこと?」

 

『そもそもイナリワンはタマモクロスが引退した後に中央に移籍してきたし、イナリワンが引退した後にメジロパーマーが活躍したんだから当たり前なんだがな』

 

「でもその三人がこの場で戦っている」

 

『その内、イナリワンとタマモクロスの二名が天皇賞春を制したが、メジロパーマーがそれ以上のタイムを叩き出していて誰が勝つか全く予想がつかん。世界の補正がどう動くかでこのレースの勝者が変わる』

 

「先代の言うとおり本来の勝者二人か、私と同じく覚醒したウマ娘かになりそうだね」

 

 

 

【メジロパーマー先頭。そしてイナリワンが上がってきたイナリワン上がってきた!】

 

「ワシの勝負根性について来れるか? チビッ子ども!」

 

 メジロパーマーが更に伸び、イナリワンが必死に食らいついて差そうとするが残り一バ身の差が縮まらない。

 

「なんでだぁぁっ!?」

 

 残り200mを切ってイナリワンが絶叫し、イナリワンのファンが失望する。

 

「イナリ、そこで大人しく見とれや」

 

 イナリワンの不甲斐なさを見たタマモクロスが二番手に踊り出てメジロパーマーを3/4バ身、半バ身と詰め寄るがそこでタマモクロスの脚が止まった。

 

「な、なんや!?」

 

 タマモクロスが足をみるとそこには草で出来た手がタマモクロスを掴んでタマモクロスの末脚を妨害していた。

 

「おどれ邪魔すんや!!」

 

 その幻影を振りほどき、タマモクロスが半バ身の差から頭差まで縮め、勝利を確信した。

 

「これで終い……なっ!?」

 

 そしてタマモクロスとイナリワンがそれすらも幻であることが気がつき、メジロパーマーの背中を拝みながらゴールし、唖然とする。

 

 ちなみに二人を散々挑発しまくったメリーナイスは14着という結果に終わった。

 

 

 

【天皇賞春を勝ったのはメジロパーマー! またもやメジロパーマーだ! もはやフロックとは言わせないっ!】

 

 天皇賞春を勝ったメジロパーマーだが消化不足を感じていた。

 

「タマモクロスもイナリワンも駄目だったか」

 

 あのラムタラであれば、例え入れ込んでいてもメジロパーマーに最低でも四バ身の差をつけて勝利していただろう。それを考えるとイナリワンもタマモクロスも世界に届く実力ではない。

 

「やはり、世界に届くのはあいつしかおらへん言うことか」

 

 メジロパーマーの視線の先には二代目がおり、世界への挑戦を託すようにウイニングライブに向かった。




後書きらしい後書き
メリーナイス……どうしてこうなった?

はい、という訳で天皇賞春はメジロパーマーが勝ちました。タマモクロスもイナリワンも本来の勝者で、メジロパーマーを含めたこの三人で誰を勝者にするか迷いましたがここはメジロパーマーに勝ってもらいました。タマモクロスファンの皆さんやイナリワンファンの皆さんすみません……

でも史実のメジロパーマーはそれだけの実力はあったと思います。タマモクロスは自在脚質ですけどこの当時は白い稲妻と呼ばれるほどの豪脚を武器にしていた追い込み馬でしたし、イナリワンも差し馬で、逃げ馬のメジロパーマーとは相性が悪かったと思い、このような結果になってしまいました。一応タマモクロスがライスやマックイーンのように先行すればワンチャンあります。



それはともかくこの第25Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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第26R 勝って兜の緒を絞めよ by大和魂

ふと思いついたネタ
テイオー×ルドルフ
ルドルフ×テイオー
……攻めが男の娘という、これ以上書いたらアカン奴ですね。

前回の粗筋
メジロパーマー「天皇賞春はワシの勝ちや!」


 NHKマイルC

 

 クラシック級の春のマイル最強ウマ娘を決めるレースと言っても過言ではないこのレースにただ一人、桁違いに気合いの入ったウマ娘がいた。

 

「……」

 

 黙っているからこそなのか、黙っているのに関わらずなのか、いずれにせよこのウマ娘の圧倒的なオーラに威圧されたウマ娘が後を絶えず萎縮してしまう。ここに出てくるウマ娘のほとんどが初めてのGⅠ競走であることを考慮してもこの事態は異常だった。

 

「すげえ。あのウマ娘は誰なんだ?」

 

「えーと、ヤマトダマシイだってよ」

 

「戦績は3戦3勝のパーフェクトウマ娘。断トツの一番人気だ」

 

「俺達も買うか?」

 

「ああ。レースに絶対はないが今回に限って絶対はある。よし、全財産つぎ込むぞ!」

 

「俺もだ!」

 

「いや俺は記念バ券に買う!」

 

 次々とヤマトダマシイの単勝バ券を買う者が絶えず、最終的には単勝オッズが1.1倍ととんでもないことになっていた。これを支持率に変えると80%前後で、ヤマトダマシイがどれだけ人気出したか理解出来るだろう。

 

 

 

「さて漸く奴の全力が見れるな」

 

 サンデーサイレンスが待ちわびたと言わんばかりに腕を組む。

 

「えっ、ヤマトダマシイって全力を出していなかったのですか?」

 

 右隣にいたマティリアルが思わずそう声を漏らし、サンデーサイレンスに尋ねると首を縦に頷く。

 

「そうだ。奴は本気は出したことはあっても全力を出したことはない。奴に自覚はないがな。出したとしても直線のみだ。あいつはレース全体で走ったことがない」

 

「ですね。日本ダービーは直線のみで勝てるほど甘くない。それはマティリアル先輩が一番知っていることでしょう?」

 

「私の場合距離適性の問題もあるから……」

 

「どちらにせよダービーポジションを確保するには直線で後方に控えるなんてことは出来ない。今回ヤマトダマシイには課題を出した」

 

「課題?」

 

「シンボリルドルフ得意の先行押切で勝て。それだけだ」

 

 

 

【さあ残り200mを切って先頭はヤマトダマシイだ。ヤマトダマシイ他のウマ娘をここで突き放す】

 

「信じられませんわ。あの追い込み専門のウマ娘があんな戦法も取れるなんて」

 

「ただ本人が追い込みが好きなだけで元々その素質はある。お前のように勝つ為の追い込みとは違う」

 

「そのようですわね……」

 

「マティリアル、ヤマトダマシイから聞いたとは思うがお前は中距離ですらスタミナが足りない。しかし余の見立てではこのままではマイル路線に移っても勝てんよ」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「スプリングSでのことを思い出せ。あのレースでお前が追い込みで勝てたのは何故だ?」

 

「それは私の末──いえ、違いますわね。あの時、私の豪脚が炸裂したのではなく前のウマ娘達が自滅したから?」

 

「よくぞ己の都合の悪い部分と向き合えた……それだけでも十分価値はある。マティリアル。お前がスプリングSを勝てたのは偶然だ。メリーナイスを含め前のウマ娘達が自滅したからに過ぎない。実際お前の上がり3Fのタイムもそんなに優れたものではない」

 

「……」

 

「マティリアル。お前に課題を出す。今度の安田記念で自分のレーススタイルを確立しろ」

 

「承知致しましたわ」

 

「期待しているぞ」

 

【ヤマトダマシイ圧勝、ヤマトダマシイ一着! 二着は微妙です!】

 

 二人がそんな会話をしている間に、ヤマトダマシイが他のウマ娘を寄せ付けず先頭でゴール。まさしく王者そのものだった。

 

 

 

 ウイニングライブが終わり、二代目がヤマトダマシイの元に掛けていく

 

「流石ヤマトダマシイ先輩。NHKマイルCをただ制するだけでなく、サンデーサイレンス先生の無茶な課題をついでにこなしてしまうなんて」

 

「ああ課題をこなすことにはこなせた。しかし新たな課題が出来た」

 

「それは一体どんなことですか?」

 

「ダービーの距離でのレーススタイルの確立だ。私はシンボリルドルフではない故にどこからでもレースが出来る訳でない。今回はマイル戦ということもあり、スピードでごり押しする事が出来たがダービーはこれよりも800m長く、スピードや瞬発力でごり押し出来るほど甘くはない」

 

「ですね……」

 

「距離の延長だけはどうしようもないが、誤魔化すことは出来る。ミスターシービー前会長もマイラーでありながら皐月賞、ダービー、菊花賞を勝っているのだからな」

 

「どうやって誤魔化す気ですか?」

 

「それは……これから考える」

 

 二代目が崩れ、ヤマトダマシイが背を向けてインタビューへと向かった。

 

 

 

「ヤマトダマシイ、本当にやるのか?」

 

 NHKマイルCが終わった直後、ヤマトダマシイはチームトゥバンのトレーナーの一人、フジと話し合っていた。

 

「もちろんだフジさん。効率良くやるトレーニングも悪くない。しかしそれだけじゃ絶対に勝てない」

 

「そうか……だが絶対に無理をして怪我だけはするな」

 

「はい」

 

「今、メジロパーマーとアイグリーンスキーを呼ぶ。ただしメジロパーマーについては呼べるかわからないからそこのところは理解しておいてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「今回だけだぞ。お前の体は故障しやすいんだからな」

 

 

 

 数分後、そこにはメジロパーマーと二代目がヤマトダマシイの元に現れた。

 

「メジロパーマー先輩、態々来てくださりありがとうございます。グリーンも協力ありがとう」

 

「いやええよ。ワシはそこのデカブツのおかげで天皇賞春を勝てたし、ワシらのチームで日本ダービーに出られる奴はおらんしな」

 

「先輩の日本ダービー制覇に協力出来るなら併走くらいなんでもありませんよ」

 

「そう言ってくれると助かる……」

 

「それで今回の併走は何コースでなんぼや?」

 

「芝2500mの左回りです。メジロパーマー先輩の得意の距離でしょう?」

 

「何でその距離なんや?」

 

「今度行われる東京優駿──ダービーの距離は2400m。本来であれば2500mなどではなく2400mにするべきなのでしょうが、それでは本番の時にゴールする前に気持ちがゴールするようになります。だから余分にすることでその気持ちを絶ちます」

 

「ほなら、ワシの他にアイグリーンスキーを併走させるのはなんでや?」

 

「今回のダービーの有力ウマ娘は私の他にビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシンがいます。このうち一番厄介なのはビワハヤヒデです」

 

「ビワハヤヒデ……ああ、いかにも堅物のあのウマ娘か」

 

「私や他二名のように一瞬の切れを持ち味とせず、メジロパーマー先輩のように長く使える脚を持っているウマ娘です」

 

「つまりワシは仮想ビワハヤヒデって訳かいな?」

 

「いいや、ビワハヤヒデの上位互換ですね。私達はまだクラシック級のウマ娘です。シニアの最強ウマ娘たるメジロパーマー先輩に敵うとしたらメジロパーマー先輩が自滅するくらいしか思い付きません」

 

「なるほどな……まあそこにおるジュニア級のデカブツウマ娘は覚醒したワシをあと一歩まで追い詰めたけどな」

 

「グリーン、本当か?」

 

「ええ。それでも負けましたよ」

 

「しかし、アイグリーンスキー。あれからまた更にでかくなったんちゃうんか?」

 

「あ、わかりますか? つい最近身長測ったら172cmになっていたんですよ」

 

「ほんまにデカいな!?」

 

「ビワハヤヒデ──身長171cm──よりも大きいのか……」

 

「おかげでストライドも大きくなりましたし、身長様々ですよ」

 

「体がデカいってのはそれだけで得やな……でもデカきゃ勝てる思うたら大間違いや」

 

「メジロパーマー先輩、ここで前の併せウマのリベンジしてあげますよ」

 

「リベンジするのは構わないが、グリーン。お前を呼んだ理由は豪脚を見込んで呼んだんだから最初からメジロパーマー先輩に並びかけるな」

 

「わかっていますよ。先輩の特訓を妨害するほどバカじゃありませんし、そんなことをしなくても勝ち目はあります」

 

「よし。フジさん、準備の方をよろしく頼む!」

 

「その前にお前達、準備運動はしなくていいのか?」

 

「もうしてきましたよ」

 

「同じく。そういうヤマトダマシイは?」

 

「来るまでの間にやり終えましたよ」

 

「流石、一流のウマ娘達だ……それでは位置につけ!」

 

 ウマ娘達が位置につき、構える。

 

「スタート!」

 

 全員が飛び出し、スタートダッシュを決めた。

 

 

 

「さてそれじゃシニア最強のウマ娘の実力見せてやるわ」

 

 メジロパーマーが二番手のヤマトダマシイを一バ身、二バ身と突き放し、最終的には九バ身まで突き放していく。

 

「流石メジロパーマー先輩だ。あそこまで豪快に逃げるとは……よし!」

 

 それを見たヤマトダマシイは逃げるメジロパーマーと後ろについてくる二代目を注意しながらペースを守る。そのペースは日本ダービーの1Fあたりの平均ラップを0.1秒遅くしたペースだった。

 

 

 

『久しぶりに追い込みか……前にメリーナイスとマティリアルの併走に乱入したのは舐めプだから懐かしく思える』

 

「そうだね」

 

『二代目、追い込みしか出来ないこの状況でお前はどうするんだ? 前に引っ付いているヤマトダマシイはともかく逃げるメジロパーマーが厄介だぞ』

 

「もちろん、こうするんだよ」

 

『……! そう来たか』

 

 二代目がヤマトダマシイの隣に並び、少しずつ差を開かせるとヤマトダマシイが僅かにペースを速める。それを見た二代目がヤマトダマシイと並ばせる。

 

『嫌らしい戦法だ。相手がシンボリルドルフでもこれに引っかかるぞ』

 

 ヤマトダマシイが二代目の動きを見てペースを落とす。目の前にメジロパーマーがいたなら、二代目の策略に引っかかることはなかったがメジロパーマーは遥か前方におり、距離感が狂わされていた。

 

 そんなこんなでメジロパーマーが2000mを2分0秒で走破し、残り500mを切った。

 

「流石にきついな、こら」

 

『お前に残された道はこれしかない。俺がそうだった様にな』

 

「せやな……泣き言言う暇はないわ」

 

 会話のドッチボールをするほどにメジロパーマーがバテてしまうがまたリードは残されていた。

 

 

 

 その頃、メジロパーマーの後方ではヤマトダマシイと二代目のデットヒートが繰り広げられていた。

 

「まだまだ!」

 

 二代目が鼓舞させ、ヤマトダマシイを引き離さんばかりに豪脚を爆発させる。

 

「一気にぶっちぎる!」

 

 ヤマトダマシイもそれに負けじと二代目に並ぶ。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 二人の叫び声が木霊し、2400m時点でメジロパーマーと並ぶ。

 

「なんやと!?」

 

 メジロパーマーの体内時計が間違っていなければ2400mを通過したタイムは2分24秒から2分25秒の間であり、このタイムは日本ダービーのレコードを上回るタイムだ。いくら坂が緩やかとはいえジュニアの二人が出すタイムではない。ましてやそのうち一人はレースデビューすらしていないジュニア級のウマ娘が出したものである。

 

「負ける訳にはいかんなぁっ!」

 

 メジロパーマーが更に脚を伸ばし、ヤマトダマシイと二代目のデットヒートに加わり、粘り込みを果たす。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

「差し殺してやるっ!」

 

「シニアのウマ娘を舐めるなぁっ、ガキども!」

 

 2500mを通過し、本来であればその時点で終わるはずが、三名はそのままレースを続行。では後何m走るべきなのか。ウマ娘三名の答えは「心が折れるまで何mでも走り続ける」という脳筋そのものの発想だった。

 

 

 

 スタート地点から2600mを通過し、未だに三人が並んだまま走り続ける。

 

「そこまでだ!」

 

 目の前にはトレーナーの一人であるハルが腕を広げた状態で三人を受け止めるべく構えていた。

 

 ウマ娘達はここでアイコンタクトを取る。このハルというトレーナーは非常に力が強くウマ娘の突進どころかダンプカーを止めた正真正銘の人外で、ウマ娘三名ごときの突進を止めようと思えば止められる。

 

 ではどうするか。メジロパーマーは障害の経験を活かして飛び越え、ヤマトダマシイはハルの右脇をすり抜け、二代目は大外に膨らんでそれを回避した。

 

「くっ、しまった!」

 

 慌てて振り向いて三人を追いかけようとするがハルの足では追い付けない。確かに戦闘力のみでいえばウマ娘にも勝てるほどの持ち主であるが、足に関しては常人であり追い付ける要素が全くなかった。

 

「お任せください」

 

 その声が聞こえた瞬間、緑色の影がハルの横を通り過ぎ、二代目を組伏せた。

 

「なっ……」

 

「次」

 

 二代目を組伏せた後、その影はヤマトダマシイ、メジロパーマーと順に組伏せて暴走を止めた。

 

「これで宜しいでしょうか。トレーナーの皆さん」

 

「ありがとうございます。たづなさん」

 

 トレーナー二人が緑色の影改め、たづなに頭を下げ礼を告げると、たづなが目を細め三人を正座させる。

 

 

 

 その後、三人はたづなに滅茶苦茶に叱られ気力を使い果たした。

 

「ではフジさん、ハルさん。私から言いたいことは言い終えましたので失礼しますね」

 

「たづなさん、ありがとうございました」

 

 たづなに頭を下げる二人を見てウマ娘三名はたづなに畏怖する。

 

「一体たづなさんって何者なんだろう……」

 

「噂によればかつて名のあるウマ娘だと聞く」

 

「たづなさんって人間じゃないんですか?」

 

「たづなさんの耳を一度も見たことがないから人間かウマ娘かよくわからん」

 

「そう言えばいつも帽子被っている上に人間の耳の場所に髪がありますよね……」

 

「ええこと思い付いたわ。今度の夏休みの自由研究に、たづなはんの正体を研究──」

 

「私が何ですって?」

 

 いつの間にか元に戻ってきたたづながメジロパーマーのウマ耳を掴み、お仕置きをするとメジロパーマーが悲鳴を上げその場に倒れる。

 

「人体実験は以ての他ですよ、三人とも」

 

 笑顔で威圧し、たづなが今度こそその場を去る。

 

「どうします? ヤマトダマシイ先輩」

 

「止めよう。これ以上先は触らぬ神に祟りなし、マルゼンスキー先輩の年齢に触れる真似は控えよう」

 

 この場にマルゼンスキーがいたら憤怒しヤマトダマシイを〆ていただろうがあいにくこの場にいるのは二代目と気絶しているメジロパーマーだけだ。

 

「そうしましょうか。サンデーサイレンス先生に興味を持たれないうちに帰りましょう」

 

「そうだな。グリーン、メジロパーマー先輩を運ぶから手伝ってくれ」

 

「わかりました」

 

 メジロパーマーを担ぎ、二代目とヤマトダマシイが後始末をして美浦寮に帰っていった。

 

 尚、三名が2500mを通過した時のタイムが2分30秒1と有馬記念のレコードを遥かに上回るタイムであったのは後日知ることになる。




後書きらしい後書き
二代目が更に縦に成長しました。うーん、これはデカイ。

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尚、次回更新は一週間後です


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第27R 皇帝の後継者(態度のみ)

ふと思いついたネタ
メイショウトドウ「オペラオーさんのことばかり話すトレーナーさんは嫌いです!」カオプイッ
メイショウトドウがオペラオーの名前を聞くとそっぽを向くのが元ネタ。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「日本ダービーの特訓に付き合え!」
二代目「わかりました」
メジロパーマー「しゃーないな、手伝ったるわ」


 オークスが終わった翌日。

 

 そこにはウイニングチケット、ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ヤマトダマシイの四名が同時に記者会見を開きインタビューを受けていた。

 

「ではナリタタイシンさんにご質問します。仕上がりはどのくらいなのでしょうか?」

 

「それはもう120%。前走の皐月賞よりも期待出来そうよ。強いて不安を上げるとすればこの中で対戦していないヤマトダマシイの存在だけど二冠制覇は難しくないわ」

 

 いつもならインタビューに塩対応で素っ気ないものだが今回のナリタタイシンは普通にインタビューを答えており、関係者は当然、それまでのナリタタイシンを知る者は驚愕していた。

 

 

 

「やはりアイグリーンスキーとの併せウマは正解だったか」

 

 そんな中、二人の併せウマを命じたシンボリルドルフが笑みを浮かべ満足げに頷く。

 

「姉御、ナリタタイシンに依怙贔屓したんすか?」

 

 シンボリルドルフを姉御呼ばわりするこのウマ娘はシンボリルドルフの併せウマの相手であり、相棒でもあるシリウスシンボリである。

 

「姉御は止めんかシリウス。ナリタタイシンのマスコミに対する態度が余りにも目につくからな。それを改善するために少し口を挟んだだけだ」

 

「しかし普通すぎてつまらねえっすね。俺なら──」

 

「シリウス、お前は派手すぎる。もう少し自重しろ」

 

「姉御、そんなこと言わないで下さいすよ。姉御があの人に夢を見させたせいでシンボリ家の経営が傾いたといっても過言ではありませんから」

 

「それはそうだが、お前もだろう」

 

「逆っすよ。俺が無敗で三冠を制した姉御の併せウマの相手になったからこそ、過剰なまでに期待をかけられ凱旋門賞まで行かされ潰されかけたんすから。どうにか姉御と俺が二年連続でダービーを勝ったことを計算に入れても黒字ギリギリっす」

 

「ギリギリか?」

 

「ギリギリすね。ほら」

 

 そしてシリウスシンボリが帳簿を見せるとシンボリルドルフが頭を抱える。

 

「……キツいな」

 

「だから派手にやらなきゃいけないんすよ。宣伝してシンボリ家の名声を上げないといけないんすよ」

 

「お前のシンボリ家を思う気持ちはわかる。しかしだな──」

 

「おっと、生徒会室の書類を纏めないとすね」

 

「あ、おい逃げるな」

 

 シリウスシンボリが去り、シンボリルドルフが不安げにそれを見つめる。

 

「……やはりKGⅥ&QESへの不安があるのか、シリウス」

 

 海外遠征を視野に入れているシリウスシンボリが不安を抱えていることにシンボリルドルフが気付き、眉をハの字にして頭を抱えてしまう。その姿を見たものはヤマトダマシイを除いて誰もいなかった。

 

 

 

「では最後にヤマトダマシイさん。NHKマイルCから日本ダービーの中二週の厳しいローテーションの上に距離の不安が囁かれていますが大丈夫なんですか?」

 

「問題ありません。こう言っては失礼ですがNHKマイルCはダービーの最初の800mを除いた1600mを想定したレースで、あくまで練習でしかありませんでした」

 

「練習だと?」

 

「明らかに格下でした。この時期のクラシック級のウマ娘でマイル路線にいるのは中距離以上で活躍出来ないと見て路線変更した者──ようは逃げてきたウマ娘ばかりで低レベルなものでした」

 

「低レベルだと?」

 

「そうでなければ仮にもGⅠ競走のNHKマイルCを慣れない先行策で勝てるはずがないでしょう。おかげで弱点も見つけて克服出来ました」

 

 

 

「あのバカが……」

 

 その影でシンボリルドルフが頭を抱えていた。それと言うのもシンボリルドルフが過去の自分と重ねていたからだ。過去のシンボリルドルフは決して今のように公明正大などではなくむしろ今のヤマトダマシイを遥かに増長させたラスボスの如く傲慢に振る舞っていた。

 

 その事を思い出したのかヤマトダマシイに何も言えず、ただシンボリルドルフは黒歴史を葬り去ろうと頭を振る。

 

「後でサンデーサイレンス諸共呼び出しておくか」

 

 サンデーサイレンスに責任転嫁させるあたり、ヤマトダマシイに甘い親バカ*1シンボリルドルフであった。

*1
史実におけるシンボリルドルフとヤマトダマシイは親子関係にあたる




後書きらしい後書き
ヤマトダマシイが傲慢な態度をとっているのはシンボリルドルフのせい(錯乱)
……史実のシンボリルドルフはカメラが何かを理解しており、ウマ娘になっても取材はうまかったのではなかったのでは? と思っています。それがどうしてこうなったかといいますとシンボリルドルフは前年度の三冠馬ミスターシービーの前に立ちふさがるラスボスでヒールでした。故にこのような過去があるのではないのかと思い執筆させて頂きました。



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第28R 最も幸運なウマ娘決定戦

ふと思いついたネタ
テイエムオペラオー「ちょっ、止めて、擽るのは止めたまえ! 僕は偉大なる歌劇王テイエムオペラオーなんだぞ!」
オペラオーが質の悪い観光客に石を投げられるのが元ネタですが、石を投げるのを読者の皆さんが真似しないように考慮した結果こうなった。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「てめえら殺す気でかかってこいやあ゛っ!」


 日本ダービー、正式名称東京優駿。

 

 ウマ娘の生涯でたった一度しか行われないクラシック級クラス限定の日本最高峰のレース。今回の日本ダービーは四強対決であった。

 

 

 

 まずホープフルSと皐月賞を勝ったナリタタイシン。四強の中でも屈指の豪脚を持つ追い込みのスペシャリストであり唯一無二春の二冠のチャンスがあるウマ娘でもある。

 

 次に連対率100%の実績を持つビワハヤヒデ。前走の皐月賞でこそナリタタイシンに敗れたものの弥生賞ウマ娘ウイニングチケットに先着し、その実力を見せた。

 

 そして日本ダービーの本命、ウイニングチケット。弥生賞を勝って皐月賞でも本命視されたもの中山競バ場を得意としなかったのか4着に終わるが東京競バ場を得意としその走りは期待出来る。

 

 最後に突如現れたルーキー、ヤマトダマシイ。昨年度のクラシック級の三冠の全てのタイトルをかっさらっていった──皐月賞と菊花賞はサクラスターオー、日本ダービーはメリーナイスが制覇──チームギエナ改め、チームトゥバンの所属メンバーであり、トレーナー曰く昨年度のダービーウマ娘メリーナイスを大きく上回る実力を持っているとのこと。

 

 以上、この四名が日本ダービーの有力候補として知られていた。

 

 

 

 無論、その四名以外にも有力候補として名を上げようとしていたが、トライアルレースで僅差で勝利したり、ノーマークだの勝利だったりと有力候補には程遠かった。

 

【さあ日本ダービー、クラシック級最強の栄光を掴み取るのは一体誰なのか。いよいよスタート!】

 

「やはり厄介なのはハヤヒデか……」

 

 ビワハヤヒデが先行し、ヤマトダマシイが眉を顰める。有力ウマ娘の四名のうち前に出るレースを得意とするのはビワハヤヒデのみでヤマトダマシイを含めた三名はそうではなく、レース終盤で力を発揮するウマ娘だ。

 

 それ故にウイニングチケットやナリタタイシンはビワハヤヒデをマークせず互いにマークする事態に陥っている。

 

 この状態が続けばナリタタイシン、ウイニングチケットともに牽制しあって何も出来ずに終わる。

 

 そう予測したヤマトダマシイはビワハヤヒデの真後ろについてウイニングチケット達を差し置いて先行する。

 

「さあ、どうする?」

 

 ヤマトダマシイが微笑み、二代目にやられたようにビワハヤヒデに並びかけ三番手に躍り出る。

 

 

 

「どうしたハヤヒデ、頭でっかちなお前らしくもない」

 

「くっ……! どうなっている!?」

 

 ビワハヤヒデは混乱していた。

 

 何故追い込みウマ娘たるヤマトダマシイが自分よりも先行しているのか。いくら前走で先行で押し切ってもそれは1600mの話であり2400mのダービーですることではない。

 

 ではヤマトダマシイの体内時計がズレているのか? いやヤマトダマシイほどのウマ娘がそんなイージーミスをするのか? ミスをしていないとするなら逃げウマ娘のペースがいつの間にかスローペースになっていた可能性がある。

 

 ビワハヤヒデがそう思考し、自分の前を行く逃げウマ娘の1Fのタイムを測るが予想外のことが起こる。

 

「上手いことだ」

 

 ビワハヤヒデに聞こえるように呟きヤマトダマシイがビワハヤヒデの後ろに下がる。

 

「……」

 

 ビワハヤヒデがそれを見て先行する逃げウマ娘のタイムを測り終えると11秒9と普通よりも少し早いくらいのペースだった。

 

 

 

 それからビワハヤヒデが逃げウマ娘のタイムを3F測り終えるとやはりタイムは1Fあたり12秒前後のペースを保っておりヤマトダマシイはその逃げウマ娘をマークしている。

 

「そうか、そう言うことか」

 

 ビワハヤヒデが気づき、納得していると隣にはヤマトダマシイが更に並んだ。

 

「もうその手には食わないぞ、ヤマトダマシイ君」

 

 ビワハヤヒデが自分の体内時計を使って、ペースを守る。

 

「やっぱり頭でっかちだなハヤヒデは」

 

「頭でっかち云々は後で取り消して貰うぞ、ヤマトダマシイ君」

 

 笑みを浮かべるヤマトダマシイを警戒し、ビワハヤヒデは自分のペースを守る。

 

 

 

 これでペースを守った──なんて思っているんだろうな。だがそれこそが罠なんだ。

 

 

 

 ヤマトダマシイは自分の隣に並んでいるビワハヤヒデを見ながら心の中で呟き、1000mを通過して自身とビワハヤヒデのペースを測る。二人のタイムはそれぞれ12.1秒/Fと12.0秒/Fとそのタイム差は0.1秒/Fもズレがある。

 

 しかしその後11.9秒/Fに戻しており、2Fの平均は12.0秒/Fのペースを保っていた。そのはずがビワハヤヒデがヤマトダマシイのペースに釣られ徐々に11.9秒/Fに近づいていた。

 

 そう、ヤマトダマシイはビワハヤヒデの体内時計を狂わせていた。それが出来たのは日本ダービーという最高峰の舞台での緊張による心拍数の上昇によるものが大きい。心拍数が上昇によって脳に流れる血液の流れが速くなり、時間を体内時計で計測しようにもズレが生まれ、ヤマトダマシイはそれを利用した。

 

 その事に気づかないビワハヤヒデはマイペースを守っていると錯覚し、そのままヤマトダマシイを突き放して逃げウマ娘を捉えに行く。

 

「この日本ダービー、私の勝ちだ」

 

 そして最後の直線まで100mを切ったビワハヤヒデが先頭に立ちそのまま逃げ切りを狙う。

 

 

 

「えげつなさすぎる」

 

 ヤマトダマシイのビワハヤヒデ潰しにそう顔を顰め、観客席で呟く二代目。

 

『あれによく気づいたな。二代目』

 

「そりゃ私がやったことだし、気づくよ」

 

『まあ世の中には犯罪皇帝なんて名付けられたウマ娘もいるからあんなのは序の口だ。審議判定になりもしない以上、立派な作戦だ』

 

「それはそうなんだけどね。あそこまで改良するなんて想像出来る?」

 

『……普通は出来ねえな。あんな博打は打たない。ましてやあいつ一人だけが有力ウマ娘ならともかく、他にも有力ウマ娘がいるとなるとそいつらに潰させた方が効率的だ』

 

「ごもっともね」

 

 この会話に気づくものは誰もいない。何故なら直線で有力候補だったビワハヤヒデが失速し、ビワハヤヒデのファンやビワハヤヒデのバ券を買った者達が絶叫したからだ。

 

 

 

【ビワハヤヒデは苦しい、ビワハヤヒデ苦しい。先頭に立ったのはヤマトダマシイ、大外からウイニングチケット、内をついてナリタタイシンがやってくる!】

 

「残るはお前達をまとめて千切るだけだ!」

 

 ヤマトダマシイが加速し一バ身、二バ身と突き放しそうとするが、差は開かなかった。

 

「ハヤヒデを潰すのに体力を使い過ぎたか。だが勝てない訳じゃない。怖いのはウイニングチケットだけだ」

 

 ナリタタイシンの豪脚は皐月賞で発揮した程ではなくヤマトダマシイより少し速い程度であり、リードしている差から計算しても逃げ切ることが出来る。

 

 しかしウイニングチケットは違う。ヤマトダマシイとの差はナリタタイシンに比べてそれほどある訳ではない上にヤマトダマシイよりも速く、抜かすのは時間の問題であった。

 

「後ろよりも前だ。そこにはあいつらがいる」

 

 ヤマトダマシイはメジロパーマーと二代目の幻影を生み出し、それに追い付かんと二の脚を炸裂する。ウイニングチケットを除いたウマ娘達の心が折れた。

 

「無理ーっ!」

 

【まだヤマトダマシイ先頭、ヤマトダマシイ、ウイニングチケットが並んだっ!】

 

 

 

 その頃、ビワハヤヒデは驚愕のあまり顔を歪め、前にいるウマ娘達を追い抜こうとするが届かない。

 

「な、何故だ!? 計算では少なくとも後200mは持つはず……っ!」

 

 ヤマトダマシイ、ウイニングチケット、ナリタタイシンの有力候補だけでなくその他のウマ娘に抜かれバ群の中に消えていくビワハヤヒデが悲鳴を上げる。

 

「してやられたっ!」

 

 ビワハヤヒデの脳裏に思い浮かんだのは現在先頭にいるヤマトダマシイ。やたら動き回っていたヤマトダマシイこそ、ビワハヤヒデを嵌めたウマ娘であることに結び付きビワハヤヒデが悪辣を放つ。

 

「だが、私はここで負ける訳にはいかない、行かないんだぁぁっ!」

 

 その瞬間、ビワハヤヒデの脳裏にスイッチの入った音が響き覚醒した。

 

『お前に足りない物は瞬発力だったが、俺の声が聞こえる……って聞いてないな』

 

 ビワハヤヒデの頭の中で声が響くがそれ無視して前にいるナリタタイシンをあっさりと交わし、先頭のウマ娘二人を捉えに行く。

 

『おい、聞いているか? ビワハヤヒデ。こいつらを差すのはむ──』

 

「うるさいっ!」

 

 ビワハヤヒデが感情を剥き出しにして、ウイニングチケットとヤマトダマシイに半馬身まで迫る。

 

「限界を超えたら理屈どうこうの話じゃないんだ! 私はデータを捨てる!」

 

 そしてヤマトダマシイ、ウイニングチケットに並びゴールインした。

 

 

 

【ビワハヤヒデ、ビワハヤヒデが凄い脚だ。ビワハヤヒデ、ヤマトダマシイ、ウイニングチケット三人並んだままゴールイン!】

 

「あ、三人?」

 

 アナウンスの声にようやくビワハヤヒデの存在に気がついたヤマトダマシイが目を丸くする。

 

「なんでここにいる……ハヤヒデ」

 

「私が怒涛の追い上げをしたからだ。それ以外に理由が必要ならば3000文字以内で説明するぞ」

 

「いやそれだけで十分だ」

 

 3000文字で説明される間に着順が確定されるだろう。今聞くべきことはそんなことではなく、自身の着順だ。

 

「この中の三人のうち誰かが、ダービーの勝者だ」

 

 ヤマトダマシイは時計を見ながら審議判定を待つ。

 

 そして十数分後、ウイニングチケットが一着、ビワハヤヒデとヤマトダマシイが二着同着とアナウンスがあり、それを見たウイニングチケットが感動のあまり涙を流していた。

 

「健康骨折。アタシの勝ちだーっ! アタシを応援してくれた皆ありがとーっ!!」

 

「それをいうなら乾坤一擲だ」

 

「私達はこんなバカに負けたのか……」

 

 こうして今年の日本ダービーはビワハヤヒデが突っ込み、ヤマトダマシイが頭を抱える結末となった。




後書きらしい後書き
概ね史実通りでしたが史実との相違点は
・ウイニングチケットとビワハヤヒデの着差はハナ差。
・ヤマトダマシイが日本ダービーに出走
・ナリタタイシン以下着順がズレる
といった点ですかね。


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第29R 英国の踊り子

実際にあった出来事をウマ娘で再現したい
スペシャルウィーク「栗毛のウマ娘なんて、大嫌いですっ!」o(*`ω´*)o
史実のスペは人に育てられた経歴のせいか人には優しいが馬嫌いで有名。そこの部分だけ性格がサンデーサイレンスと言っても良かったほど。
また栗毛の繁殖牝馬に種付けし過ぎて栗毛嫌いになり、久しぶりにグラスワンダーと再会したらスペの方が威嚇した話も有名。


前回の粗筋
日本ダービー決着


 ウイニングチケットが勝った日本ダービーの翌朝、二代目は朝食を食堂でとっていた。

 

『セイザ兄貴のいないダービーを制したのは向こうの世界で二着だったウイニングチケットか。ヤマトダマシイではセイザ兄貴の代わりにはなれないか……』

 

「先代のお兄さんが偉大なのはわかるけど、ヤマトダマシイ先輩は先代のお兄さんじゃないんだよ」

 

『ポテンシャルはそのくらい秘めているはずなんだよな、あいつは』

 

 二代目が先代と話しているとナリタブライアンが詰め寄って口を開く。

 

「アイグリーンスキー、聞きたいことがある」

 

「聞きたいこと?」

 

「あの日本ダービー以来、姉貴──ビワハヤヒデがおかしいんだ」

 

「おかしい?」

 

「先ほどお前が独り言を呟くように姉貴も独り言をぶつぶつと呟くようになったんだ。何か心当たりないか?」

 

「あることにはある──」

 

「本当か!?」

 

「ただ診てみないことにはわからないよ。私と同じ病状なのか、それとも別の病状なのかね」

 

「それでもいい。とにかく放課後チームマシムの拠点に来てくれ。そこが姉貴のチームだ」

 

「マムシじゃなくてマシムね。了解ナリブ」

 

 

 

「ナリブ?」

 

「ナリタブライアンだからナリブ。いい渾名でしょ?」

 

「そうか……それじゃ私もお前のことをグリーンと呼ぶぞ」

 

「どうぞ。ただしグリーングラス先輩が来たらややこしくなるからその時は普通に呼んでね。私は今度やってくる新入生の中にブライアンと名付けられたウマ娘と区別するためにそう呼んでいるだけだから」

 

「いるのか? そのブライアンと名付けられたウマ娘が」

 

「いや今年はいないよ。でもいずれやってくると直感が告げているんだ」

 

『その直感は大切にしろよ。ナリタブライアンのブライアンの由来は父親のブライアンズタイムだからな。それに因んで名付けられた馬も多いから、そうやって区別するのは大切だ』

 

「それじゃグリーンはまずいか……待てよそう言えばマルゼンスキー先輩がお前のことを──」

 

「それはダメ。その渾名はマルゼン姉さんとグリーングラス先輩とグリーングラス先輩の故郷の皆にしか許していない。それ以外に呼ばれることは誰がなんと言おうと私が許さないよ」

 

「それだけ多いんだから良いだろう……」

 

「私なりのこだわりだよ。学園内ではあまり呼ばれたくないし」

 

「仕方ない……グリーン、姉貴の件頼んだぞ」

 

 ナリタブライアンがその場を立ち去り、残された二代目にヤマトダマシイが話しかける。

 

 

 

「今のはお前のクラスメイトか?」

 

「ええ。それがどうかしましたか」

 

「いやどうもしないな。それよりもサンデーサイレンス先生がお前のことを呼び出しているんだ」

 

「私を?」

 

「そうだ。屋上で待っているから飯食ったらすぐに来いとのことだ」

 

「すぐに行きます」

 

 それまで大量に残された食べ物が二代目の食事のペースが早まったおかげで一気に無くなった。

 

「ちゃんと噛めよ……」

 

 ヤマトダマシイが二代目のあまりの早食いにそう突っ込みを入れる。

 

「ではヤマトダマシイ先輩、失礼します」

 

 二代目がそう告げ、屋上へと向かうとそこに円の中にHを書き込んでいるサンデーサイレンスがそこにいた。

 

 

 

「何をしているんですか? サンデーサイレンス先生。ミステリーサークルはそう書くんじゃありませんよ」

 

 二代目よ。お前は何度か書いたことがあるのか。

 

「おお来たか。これはミステリーサークルじゃない。ヘリポートを作っているんだ」

 

「なんでそんなものを?」

 

「いつぞやに約束しただろう? 一日専属講師を準備する*1と」

 

「ああ! あのことですか!」

 

「その様子だと忘れていたようだな。だがしかしぃっ! 余は決して忘れはせん。Come on Nijinsky Ⅱ !」

 

 

 

 ──以下、都合により英語等の外国語を日本語で表記します──

 

 

 

「おい、サンデーサイレンス。私に命令するな」

 

 ヘリコプターから降りてきた鹿毛のウマ娘は身長175cmの大柄なウマ娘だった。

 

「で、デカイ……!」

 

 二代目も大柄な方ではあるが、それでもそのウマ娘に及ばず見上げる形になっていた。

 

「むっふっふ、よくぞ来てくれた。歓迎するぞ、ニジンスキー」

 

「サンデーサイレンス、我が師匠に聞いた通りの傍若無人さだな」

 

 ニジンスキーと呼ばれたウマ娘がサンデーサイレンスにため息を吐き、腕を組む。

 

「サンデーサイレンス先生、もしかしてこのウマ娘が……?」

 

「そうだ。今日一日専属講師となるニジンスキー先生だ」

 

「よろしく、アイグリーンスキー」

 

「さ……」

 

「さ?」

 

「サインくださいっ!」

 

 二代目がどこからともなく色紙とTシャツを取り出し、ニジンスキーにサインをねだる。

 

「おい一体どういうことだ?」

 

「私、ニジンスキーさんの大ファンなんですよ! だからこうして会えただけでも感激で昇天しそうですぅぅっ!」

 

「まさかこいつがポンコツになる時がくるとはな……話が進まないし、サインを書いてやってくれないか?」

 

「構わない」

 

「あ、ニジンスキーさん。アイリへって書いてくれますか? あとアイリって呼んで頂けますか?」

 

「いいだろう、アイリ」

 

 ニジンスキーが色紙とTシャツにサインすると二代目が絶叫しながら注文し、体をくねらせる。

 

「ありがとうございますぅっ! これは家宝にしますぅっ!」

 

「キモいな……」

 

 流暢な英語で猫なで声を出す二代目にサンデーサイレンスがドン引きしていた。

 

 

 

「さてアイリ。まず最初にお前はどんなタイトルを勝ちたい?」

 

 それを目にしているにも関わらず、ニジンスキーが冷静に声をかける。

 

「ニジンスキーさんが獲れなかった凱旋門賞を勝ちたいです」

 

「凱旋門賞か……まだジャパニーズは勝てていないんだったな」

 

「はい。それどころか掲示板にも入っていません」

 

「日本の芝と洋芝の違いは何だかわかるか?」

 

「日本の芝は高速芝と呼ばれる芝でタイムが出やすいのに対して、洋芝はその逆でタイムが出にくく、スタミナを必要とする芝ですね」

 

「大体あっているな。では洋芝タイムが出にくい理由はなんだ?」

 

「芝の長さです。芝が長く足が捕らわれやすい為にスピードが減少しスタミナを浪費してしまうからです」

 

「その通りだ。そしてロンシャン競バ場で行われる凱旋門賞はそれ以上にスタミナを要する」

 

「はい。坂の高低差が10m以上もありますもんね。英セントレジャー*2を勝ったニジンスキーさんですらスタミナが足りずに負けましたから生粋のステイヤーでも勝つのは厳しいですよね」

 

「そうだ。ロンシャン競バ場に比べて高低差の差が少ない京都競バ場ですら坂をゆっくり上ってゆっくり下らなければならない。ロンシャン競バ場でそれをやらなかったらどうなるかわかるな?」

 

「惨敗ですね。ビリは当然、ブービーでもまだマシなくらいの」

 

「その通りだ。その上、偽りの直線と呼ばれる坂を下った後に出てくる直線がある。それに惑わされたウマ娘は数多くいる。つまり頭を使わないと勝てないレースでもある訳だ」

 

 ニジンスキーの言うとおり、凱旋門賞は非常に難易度が高いレースであり、ありとあらゆる能力が求められたレースと言える。

 

「凱旋門賞を勝つには底知れぬスタミナとスパートをかけるタイミングがキーポイントになるということだ」

 

「はい」

 

「しかしスパートのタイミングは出走するウマ娘次第で変わる。そこは現時点では対処のしようがない」

 

「ではどうするんですか?」

 

「洋芝に慣れる方法を指導する」

 

「洋芝に慣れる?」

 

「サンデーサイレンス、例の場所に行くぞ」

 

「了承した。それじゃアイグリーンスキー、ヘリに乗れ」

 

 サンデーサイレンスがヘリコプターの操縦席に座り、ニジンスキーと二代目が後座席に座るとヘリコプターが羽音を鳴らしながら飛んでいった。

 

 

 

 数分後。サンデーサイレンスが芝がおいしげるゴルフ場にヘリコプターを着地させる。

 

「ここって、ゴルフ場ですよね?」

 

「ああ。メジロ家が学園に寄付したゴルフ場だ」

 

「何故ゴルフ場を寄付したのかわからない……」

 

「アイリ、頭をかかえていないでこっちに来い」

 

 ニジンスキーが二代目をラフ*3とセミラフ*4の境界に呼び寄せる

 

「このゴルフ場は日本のウマ娘の名門が造らせただけあってか各コースが世界各地の競バ場に酷似している。そしてそのうちこの16番ホールはロンシャン競バ場をそっくりそのまま似せている」

 

 ニジンスキーがゴルフ場のパンフレットを取り出し、二代目が確認すると、確かに凱旋門賞の舞台であるロンシャン競バ場に酷似していた。

 

「本当だ……でもニジンスキーさん。何故英国のウマ娘たる貴女が、日本のウマ娘たる私ですら知らないこのゴルフ場の存在を知っていたんですか?」

 

「サンデーサイレンスが教えてくれた」

 

「サンデーサイレンス先生ですね。納得しました」

 

 サンデーサイレンスの一言で納得してしまう二代目が頷く。

 

 

 

「さて、アイリ。このロンシャン競バ場に似せたこの16番ホールで私と走ってもらう」

 

「えええっ!? いいんですか!?」

 

「アイグリーンスキー、メジロ家が寄付したとはいえここは滅多に使われていないゴルフ場だ。余が知る限りではメジロパーマーくらいしか使っていない」

 

「いやだからって……コースを荒らしてもいいって訳じゃ」

 

「ほう、それじゃアレか? ここでニジンスキーと走る機会を失ってもいいのか?」

 

「ぜひ走らせて頂きます!」

 

 二代目の頭の中の天秤が一気に傾き、倫理の文字がセントサイモン*5に殺される猫の如く天井に叩きつけられた。

 

「決まりだな」

 

 二代目とニジンスキーがジャージに着替え、準備運動をし体を温め始めた。

*1
第21R参照

*2
英国で行われる芝3000mのGⅠ競走。英国三冠の最後のレースで菊花賞のモデルになった

*3
ゴルフ場における深い芝のこと。ここでゴルフボールを打ってもコントロールすることは難しい

*4
もっともコントロールが簡単なフェアウェイとラフの間の長さの芝のこと

*5
史実のセントサイモンは種牡馬として有名だが同時にサラブレッド史上最も荒い馬としても有名でもあり、猫を天井に叩きつけたエピソードもあるほど




後書きらしい後書き
セントサイモン……もしセントサイモンが現代に現れたら絶対に話題になりますよね。

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第30R ゴルフ場の間違った使い方

前回の粗筋
二代目「ニジンスキー様ぁぁぁっ!!」


 ニジンスキーとの併走に心踊る二代目にニジンスキーが声をかける。

 

「いいかアイリ。これまでの走ってきた環境とは大違いだ。ここは日本の高速芝じゃない」

 

「はい」

 

「だからといって洋芝でもない。むしろ洋芝よりもスタミナを喰らうラフだ」

 

「それじゃニジンスキーさんもこの深い芝生でやるのは初めてですか?」

 

「ああ。だが洋芝の走り方をすればこの程度は苦でもない。これはラムタラも同じだ」

 

「ラムタラを知っているんですか?」

 

「もちろんだ。ラムタラを鍛え上げたのはトレーナーリーダーとこの私だ」

 

「それじゃ向こうからしてみれば私を鍛えることは裏切り者になるんじゃないんですか?」

 

「トレーナーリーダーの許可はとってある」

 

「あいつが……?」

 

 

 

 二代目が首を傾げ、トレーナーリーダーを思い出す。

 

 かつて二代目のトレーナーだった頃は自分のチームギエナに虐待染みたスパルタトレーニングを課す為にチームギエナのトレーニング内容を公開せず、ウマ娘達を犠牲にしていた。

 

 しかしその一方でハナ等のトレセン学園にいるトレーナーから地方などトレセン学園とは無縁のトレーナーとも交流があり、そのノウハウを教えていた。

 

 通常のトレーナーであれば自分独自のノウハウを秘密にして自分のウマ娘を鍛えようとするが、彼はその逆で、自分の知識を公然に出すことに抵抗など全くと言って良いほどなかった。

 

 良くも悪くも研究者であり、その為なら何だってする。それがあのトレーナーだ。

 

 

 

「もういいだろう。アイリ、この併走で私についてこい」

 

「は、はいっ!」

 

「サンデーサイレンス、ピストルの用意を」

 

「もう出来ている。お前達準備はいいか?」

 

「無論だ!」

 

「準備OKです」

 

「よーい、スタート!」

 

 

 

 数分後。そこには疲れ果てて横たわる二代目とそれとは対照的に汗を少し流しているニジンスキーがいた。

 

『情けねえ奴だ。俺なんか本番ぶっつけで凱旋門賞に勝ったというのに』

 

 先代があきれた声でそう呟くも二代目は疲れ果てていた為に反応を見せない。

 

「まあ高速芝に慣れきったウマ娘なら当然のことだ。それに高低差が10mもありスタミナがなくなるのは当たり前のことだ。落ち込むことはない」

 

「すみません。期待に応えられなくて」

 

「仕方ない。アイリ、今からこのコースを回るぞ」

 

「え?」

 

「1番ホールから18番ホールまでゴルフして回る。アイリ、お前はこれを持て」

 

 ニジンスキーからゴルフクラブの入ったゴルフバッグを渡され、それを受け取る。

 

「私がキャディですか?」

 

「それだけじゃない。私が打ったボールがラフに行った場合、フェアウェイに戻せ」

 

「へっ? それだと反則になってしまいますよ?」

 

「ゴルフはあくまでも遊びだ」

 

 言葉足らずにニジンスキーが一番ホールへ向かい、ゴルフティーにゴルフボールをおいてドライバーを取り出してそれを打つ。

 

 するとゴルフボールの軌跡は右に曲がりラフの中に突っ込む。

 

「と、飛びますね」

 

「フェアウェイに乗らなきゃ意味がない。アイリ、ラフから出せ」

 

「はい」

 

 ラフからフェアウェイにゴルフボールを取り出しそのボールが止まった所でニジンスキーが打ち、グリーンに乗せてホールを終える。

 

 その繰り返しを10ホールほど続けていると二代目の足取りが重くなる。

 

「アイリ、疲れが出てきたようだな」

 

「はい」

 

「無理もない。普段使わない筋肉が悲鳴を上げているだけじゃなく、疲れが出る歩き方でラフを歩いているからな」

 

「疲れが出る歩き方ですか?」

 

「そうだ。私の歩き方を見ていろ」

 

 ラフに入り、ニジンスキーが歩くと先代が声をかけた。

 

『二代目、わかるか? 奴は少しでも自分の方向に向いていなければ地面を踏むように歩いているのに対して、向いていれば後ろに蹴るように歩いている』

 

「あ!」

 

 先代の言ったことを確認するようにニジンスキーの歩き方を見ると確かに先代の言う通りの歩き方をしていた。

 

「どうだ。こうやって歩けば草に阻まれることなく歩くことが出来る」

 

「しかしそれはわかりましたが、もし草で滑ってしまったら最悪予後不良になる恐れもあるんじゃないんですか?」

 

「そうならない為にはしっかりと踏み込む必要がある。こんな風にな」

 

 ラフの草が地面にめり込み、それを二代目に見せる。

 

「ジャパニーズの芝のウマ娘が負けるもう一つの原因はパワー不足。フォームを改造しても肝心のパワーが足りないからせっかくのスピードも台無しになる。凱旋門賞に出走したシリウスシンボリはまさしくそれだった。つまりシリウスシンボリや砂のウマ娘以上のパワーが必要になるということだ」

 

「パワーね……その心配はありませんよ」

 

「何?」

 

 二代目がニジンスキーに倣って走るとニジンスキーよりも遥かに深い足跡がそこにはあった。

 

「なるほどグリーングラスのところでパワーを鍛え直したのか」

 

 それまで無言だったサンデーサイレンスが口を挟み、頷く。

 

「サンデーサイレンス先生……どこまで知っているんですか?」

 

「この学園にいるウマ娘のことなら何でも知っているぞ。シンボリルドルフが幼い頃ルナちゃんと呼ばれていたのも勿論知っている」

 

「あの厳格なシンボリルドルフ会長──ぶはっ」

 

 二代目の頭の中にシンボリルドルフがフリルを大量につけた魔法少女服を身に纏い「月に代わってお仕置きだ!」などとほざく姿を想像してしまい、吹いた。ちなみにそのセリフと魔法少女は全くと言って良いほど関係ない。

 

 

 

「まあ何にせよ、それだけパワーがあるなら問題はないか。アイリ、これで私が教えられることは全て教えた。後はアイリの努力次第だ」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。ただラムタラは強いぞ。何せお前の元トレーナーがついている。お前のこともよく知っているはずだ」

 

「その心配はありませんよ。あの人が知っているのは過去の私であって未来の私ではありません」

 

「それもそうだ。最後にアドバイスしておこう」

 

「何でしょうか?」

 

「私はラムタラにも指導した立場だから勝者になれとは言えん。しかしこの言葉は言える。全力を尽くせ」

 

「はいっ!」

 

 満面の笑みで二代目が答えるとそれまで無表情だったニジンスキーが笑みを浮かべる。

 

「ではアイリ、残りのホールを回るぞ」

 

「わかりました。何番にしますか?」

 

「そうだな。ここは──」

 

 それからしばらくニジンスキーのゴルフに付き合わされる二代目とサンデーサイレンスだった。

 

 

 

「さて飯にしようか」

 

 サンデーサイレンスが二人に話しかけると二人が首を傾ける。

 

「飯って……ここ従業員さんいないんじゃないですか?」

 

「サンデーサイレンス、その通りだ。人がいないからこそ、ここを選んだのではないのか?」

 

「そう焦るな。余が何の考えもなしにそんなことを言うと思うのか?」

 

「……ないな」

 

「……ないですね」

 

「余のことを流石にわかってきたか」

 

「更に言うなら従業員がいないことを考慮すると、サンデーサイレンス先生は出前を取ったと考えられますが違いますか?」

 

「当たりだ。カモン、ニンジンカツカレー!」

 

「毎度! ニンジンカツカレー三つお持ちいたしました!」

 

 合図と共に出前が届きどや顔を浮かべるサンデーサイレンスに二人がスルーして席についた。

 

「あ、こちらにお願いします」

 

「無視かよ!」

 

「ではごゆっくりどうぞ! 翌朝になりましたら玄関のほうで皿を引き取りますので玄関に出しておいて下さい」

 

 出前店員がその場を去り業務に戻り、三人がカレーを食べる。

 

 

 

「ゴルフの後のカレーがこんなに旨かったとは知らなかった……」

 

「全くですね。私の場合、労働の後のカレーですけど」

 

 ニジンスキーと二代目が何度も同じ事を繰り返しながら昼食のカレーを思い出してはゴルフ場のラフを歩き回る。

 

「やはり深い……」

 

「ですね……」

 

 ニジンスキーと二代目が黙り、しばらくすると先ほどと同じ会話をする。

 

「お前ら近所で噂話をするおばちゃんか!」

 

 その様子をみたサンデーサイレンスがいい加減に突っ込みを入れる。

 

「旨かったんだから仕方がない」

 

「そうですよ。労働の後のカレーがあんなに旨かったなんて初めて知ったんですから良いじゃないですか!」

 

 サンデーサイレンス一人に対して向こうは二人。天敵が一人いるだけでも厄介だというのに二人もいては流石のサンデーサイレンスと言えども頭を抱えたくなる事態だった。

 

 

 

 そこでサンデーサイレンスはふと頭によぎったことを口に出した。

 

「そう言えば余が気になるウマ娘がいるんだが、ニジンスキー。お前もそいつに会ってみないか?」

 

「どんなウマ娘だ?」

 

「まだ入学こそしていないがそこにいるアイグリーンスキーと同じくらいのスタミナを持つウマ娘だ」

 

「アイリ並みのスタミナか……」

 

「余がその走りを初めて見たときは寒気を覚えた。特に最後の末脚はな」

 

「名前は?」

 

「ダンスインザダーク。そこにいるアイグリーンスキーと同期エアダブリンの妹だ」

 

『ダンスインザダークか。言われてみれば確かに強いが……』

 

「……帰国する前にその顔を見ておこう。案内しろ」

 

「その前にアイグリーンスキーをトレセン学園に帰さないといけない。そこは了解してくれるな?」

 

「そのダンスインザダークなるウマ娘、私も見たいです」

 

「ダメだ。ビワハヤヒデと会う約束があるのにその約束を破るのか?」

 

「……ああ、ニジンスキーさんと会えるのが嬉しくてすっかり忘れていた」

 

『酷え話だ』

 

「まあそういうことだ。諦めろ。そのダンスインザダークと会うのは一年後にとっておけ」

 

「ぐっ……」

 

「そうがっかりするな。ニジンスキーの動画集を後で渡しておこう」

 

「おい!」

 

「ありがとうございます。サンデーサイレンス先生」

 

 抗議の声をあげるニジンスキーと腰を90度折り曲げるくらいに頭を下げる二代目。再びカオスなこの状況に誰も突っ込む者はいない。




後書きらしい後書き
お待たせしました……


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尚、次回更新は一週間後です


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第31R 覚醒しないタマモクロス

前回のあらすじ
ニジンスキー「これが洋芝の走り方だ……!」


 サンデーサイレンス達と別れた二代目はビワハヤヒデが所属するチームマシムの本拠地に来ていた。

 

「すみません、ビワハヤヒデ先輩はいますか?」

 

「あいつなら練習量を増やすゆうとったからまだ自主トレ中や。ここにはおらへんで」

 

 二代目の言葉に関西弁の芦毛のウマ娘タマモクロスがそれに答える。

 

「それじゃここで少しお待ちしますが宜しいでしょうか?」

 

「おお、ええで。どーせこのチームマシムのウマ娘が練習する時間はとうの昔に終わっとるからな」

 

「ありがとうございます」

 

「ところで名前なんや?」

 

「アイグリーンスキーです」

 

「アイグリーンスキー……知らんな。そのグリーンがビワハヤヒデに何のようでここに来たんや?」

 

「ビワハヤヒデ先輩が何か独り言を呟くようになったとビワハヤヒデ先輩の妹から聞きましてね。その病状を診にきたんです」

 

「そういうことかいな。医者か何か目指しておるんか?」

 

「いや医者でもそれを知る者はいませんよ。むしろ医者はそれを信じませんよ」

 

「何やと?」

 

 

 

「タマモクロス先輩、メジロパーマー先輩に負けた理由はメジロパーマー先輩が強かったからですよね」

 

「……まあな」

 

「メジロパーマー先輩が強くなった理由は覚醒したからですよ」

 

「はぁ? そんなん言われんでもわかっている」

 

「正確には極限まで追い込まれ覚醒したと言うべきでしょうね。これ以上は覚醒していないタマモクロス先輩に言っても理解、いや納得出来ることではありません」

 

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

 

「ここから先はオカルト染みた話しになるんですよ」

 

「オカルトぉ~? 良いから言うてみい」

 

「タマモクロス先輩、パラレルワールドの自分を意識したことはありますか?」

 

「ぱ、パラパラ?」

 

「パラレルワールド。ざっくり言えば異世界のことです」

 

「異世界……何か胡散臭いな」

 

「じゃあ止めましょう。胡散臭いので」

 

「ちょ、待てえや! 聞かへんとは言うとらん!」

 

 タマモクロスが慌てて腰を上げてそれを止めようとすると扉が開く。

 

 

 

「何を騒いでいるんだ?」

 

 汗をかいたビワハヤヒデが丁度そこに現れ、二人を見つめる。

 

「ビワハヤヒデ先輩」

 

「ハヤヒデ、丁度良えところに!」

 

「な、なんだ?」

 

「ビワハヤヒデ先輩、妹さんからお聞きしましたけど日本ダービー以来独り言をずっと呟くようになったようですね」

 

「……聞かれていたのか」

 

「聞かれていたもくそもあるかい。ウチにも聞こえるように言うとったからな」

 

「なら仕方ない、正直に言おう。今の私は──」

 

「異世界のビワハヤヒデがアドバイスを送ってくれている──でしょう?」

 

 それを聞いたビワハヤヒデが目を見開き、タマモクロスが混乱する。

 

 

 

「何故それを知っている?」

 

「私も異世界の自分の魂の声が聞こえるからですよ」

 

「お前もか!?」

 

「ええ。極限まで追い込まれたウマ娘は覚醒し異世界の自分の魂の声が聞こえるようになり能力が伸びる。私もメジロパーマー先輩も実際に魂の声が聞こえるようになってから強くなりました。そしてビワハヤヒデ先輩も先日の日本ダービーで沈んだと思われた直線から脅威の豪脚で二着同着まで巻き返したのは覚えているでしょう」

 

「それはその通りだ」

 

 

 

「ほなら、何か。異世界の自分と話しが出来るようになったからハヤヒデは独り言を言うようになった言うんか?」

 

「正確には独り言のように話しているんですよ」

 

「どっちでもええ。グリーン、確か極限まで追い込まれたら覚醒する言うたな?」

 

「ええ。私はチームギエナの練習の厳しさから、メジロパーマー先輩の場合は私との併せウマで覚醒し、ビワハヤヒデ先輩は先日の日本ダービーで覚醒しました」

 

「ほならハヤヒデ、準備せえ!」

 

「これ以上トレーニングをすると逆効果になりますのでお断りします」

 

「ならグリーン、お前や!」

 

「私ですか?」

 

「そや。メジロパーマーを覚醒させたならウチも覚醒させろや! せやないと不公平や、不公平!」

 

 ブーイングを混じりながらタマモクロスが二代目に抗議する。

 

 

 

「まあ、メジロパーマー先輩をあんなに強くしたのは私の責任ですが、メジロパーマー先輩自身もかなり強いですから覚醒したところで勝てるかどうかまでは──」

 

「ごちゃごちゃ言わんとはよやるで! やらんよりマシや」

 

「それに今の私はトレーニングした後で疲れが溜まっています。今の状態では相手が中堅クラスのウマ娘ならともかく重賞を何勝もしているタマモクロス先輩に敵うはずがありませんよ」

 

 

 

「それもそうやな……それなら明日の放課後付き合え。それならええやろ!」

 

「わかりました。ビワハヤヒデ先輩も一緒に併せウマやりますか?」

 

「是非ともやる。明日は予定があると本来なら言うところだが、君との併せウマほど効率的なトレーニングはない。多少予定を変更してでもその価値はある」

 

「ハヤヒデ、トレーニングもエエけど飯にも注意せえ。オグリがここにやって来た直後栄養バランスの悪い食事をしとったせいで体を動かすこと出来へんかったからな。ウチが改善させたおかげで大阪杯勝てた言うても過言でもないで」

 

 どや顔で胸を張るタマモクロスに二代目が口を出す。

 

 

 

「タマモクロス先輩、まずは自分の貧相な体を──」

 

「しゃーっ!」

 

 タマモクロスが二代目に飛びかかり、爪を出して引っ掻こうとするが二代目は持ち前の運動神経でそれを避ける。

 

「タマモクロス先輩、落ち着いて!」

 

「ふーっ!」

 

 ビワハヤヒデがタマモクロスを取り押さえるもタマモクロスは興奮を抑え切れず、じたばたとその場を暴れる。

 

「アイグリーンスキー君、タマモクロス先輩の前で胸の話は止めてくれ。彼女なりにコンプレックスを持っているんだ!」

 

「私が言おうとしたのは身長ですよ」

 

「あ? 身長?」

 

「そうですよ。メリーナイス先輩じゃありませんし、からかうことはしません」

 

 

 

「ウチがちびっこいんはウチが幼い頃、何も食えへん状況だったからや」

 

『そういやタマモクロスが生まれた牧場はタマモクロスが売れる前に潰れたんだっけか? 俺が生まれる4、5年くらい前の話だからうろ覚えなんだよな』

 

 先代が口を挟んだのを聞いた二代目がタマモクロスが何故そんなに小柄なのか察した。

 

 

 

「察しました」

 

「空気読めや。そいでな、ウチの両親は借金の返済に追われて蒸発してもうたんや」

 

「蒸発?」

 

「蒸発言うんは要するに意図的に行方を断っていなくなることや。で、ウチに残されたのは借金だけ。その借金返済の為にウチは今度の宝塚記念勝たなアカン。イナリもクリークも出走せえへん以上、パーマーだけが目の上のたん瘤なんや」

 

「えっ!? スーパークリーク先輩は新聞で前から言っていたからわかりますけどイナリワン先輩もですか?」

 

「それは初耳ですよ、タマモクロス先輩」

 

 タマモクロスがさりげなく自分のクラスのメンバーであるイナリワン、スーパークリークの二名が出走しないことを聞いて二代目とビワハヤヒデが目を見開く。

 

 

 

「知らへんのか? イナリは連敗が続いておるから負け癖を抜く為に帝王賞に出走するらしいんや。そんな理由で宝塚記念には出られへん」

 

「つまり、逃げた訳ですか」

 

「身も蓋もない言い方やけどそうなるな。まあ負け癖を抜くには丁度ええかもしれんな。なんてったてウチが次の宝塚記念勝つんやからな」

 

「メジロパーマー先輩やオグリキャップ先輩は?」

 

「覚醒すればパーマーもオグリも怖ない。ウチは阪神大賞典でパーマーに引き分けているからな」

 

 その後、二人に限らずトレセン学園の関係者がタマモクロスの笑みを見かけることになったのは宝塚記念以降だった。




後書きらしい後書き
今回はタマモクロス中心会でしたね。オグリもタマモも、クリークもイナリも皆主人公やれるだけのドラマがあると思うのは私だけでしょうか?


それはともかくこの第31Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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第32R 食堂

前回のあらすじ
タマモクロス「胸が小さいのは希少価値や!」


 翌々朝、チームマシムの練習後、この日もタマモクロスが覚醒せず二代目は新聞を読みながら悩んでいた。

 

「なんでタマモクロス先輩は覚醒しないんだろう……」

 

『さあな。俺にもわからん』

 

 二代目の疑問をバッサリと切り捨てる先代に顔をひきつらせた。

 

「先代もわからないの?」

 

『競走馬の俺がアドバイス出来るのは所詮競馬や競走馬のことだ。その知識を生かしてウマ娘のお前にアドバイスをしているだけであって、それ以外のことは素人に毛を生やした程度しかない』

 

「それはごもっともね」

 

『ただ一つだけ言えるのはこのままだとタマモクロスは永遠に覚醒しない。むしろ逆に今度の宝塚記念で惨敗するのが目に見えている』

 

 

 

「先代、競走馬のタマモクロスってこの時めちゃくちゃ強かったんでしょ?」

 

『そうだ。天皇賞春、宝塚記念、天皇賞秋のGⅠ三勝に加えJCと有馬記念を二着。間違いなく当時の競馬界の主役の一頭だった』

 

「でもこっちのタマモクロス先輩は天皇賞春で二着、宝塚記念で惨敗したらもうそれはタマモクロスとは言えないんじゃない?」

 

『天皇賞春に関してはお前の責任もあるだろ。何せ競走馬のメジロパーマーが、勝つはずのなかった天皇賞春を勝たせるまでに成長させたんだからな』

 

「全く反論出来ない」

 

『良くも悪くもお前を含めた覚醒したウマ娘に限らずこれからお前はウマ娘を大きく変えていくことになる。それだけは忘れるな』

 

「うん。タマモクロス先輩が一番の被害者だし、宝塚記念前には覚醒する条件を見つけないと申し訳ないよ」

 

『よし、それなら良い』

 

 先代の声が静まると共にナリタブライアンが近づき、声をかける。

 

 

 

「グリーン、姉貴の方は大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。あれはむしろレースに強くなる傾向だから」

 

「そうか……」

 

「ところでチームリギルにジュニア予備の期待のウマ娘が入ったっておハナさんから聞いたんだけど、彼女はどうなの?」

 

「エアグルーヴのことか?」

 

「そう、皐月とダービーの二冠をはじめとしたGⅠ競走7勝も視野に入れるほどの逸材なんでしょ?」

 

「トレーナーからそう言われているだけだ、先輩」

 

 ナリタブライアンの後ろから現れたウマ娘が二代目に声をかける。

 

「エアグルーヴ、何故ここにいる?」

 

 そのウマ娘、エアグルーヴを知っていたナリタブライアンがエアグルーヴに尋ねると鼻で笑われた。

 

「ハッ、ナリタブライアンが負けたウマ娘がいると聞いて見に来ただけだ」

 

「先輩を敬う気すらない……」

 

「レースに年齢は関係ない。全ては強いものが勝つ」

 

『それはごもっともだ。レースで年齢序列があるなら長生きした奴が勝つからな。もっともこの学園の最強ウマ娘が最年長のマルゼンスキーなのは皮肉でしかないが』

 

 先代の指摘に二代目は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

「何を笑っている?」

 

「いや、おハナさんも大変なウマ娘をチームに入れたなって思って」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「確かに素質のみなら同世代でもトップクラスだと思うけどそれ以上に環境に弱そう」

 

『良くわかったな、二代目。エアグルーヴは風邪をひいたせいで桜花賞を棒にふって回避してしまっただけでなく、秋華賞でもフラッシュを焚き付けられ動揺したのが原因で惨敗しているからな。風邪はともかくフラッシュごときで動じるとは全く情けない野郎だ。いや情けない女だ』

 

 

 

 競馬場で──正確には馬に向かって──フラッシュを焚き付ける行為はレースに影響が出る為に非常に宜しくない。

 

 競走馬にしてみれば、フラッシュを焚き付ける行為は鉄砲を耳元で鳴らされるようなもので、動揺するのは普通の馬であれば仕方ないことであり、いつ鉄砲が自分に向かってくるかわからない恐怖に震えることになるからだ。

 

 そんな恐怖を感じない先代が異常なだけなので何一つエアグルーヴ(競走馬)に非はないと言える。むしろ非があるのはフラッシュを焚き付けた無知な人間達だ。

 

 

 

「環境に弱そう? 何をバカなことを」

 

「その言葉がわからないのは大人じゃないからね。私くらい大きくなれば自然とわかるようになるよ」

 

「嘘をつくな」

 

「……ふっ」

 

 鼻で笑い、挑発する二代目にエアグルーヴがコメカミを抑え、怒りを溜める。

 

「ナリブ、こんなウマ娘がチームの後輩だなんて大変だね」

 

「大変なのはお前がいるからだ。普段は大人しい」

 

『そういや俺が種牡馬現役の時にエアグルーヴに種付けしようとしたら、奴が暴れて中断されたのをすっかり忘れていたぜ。結局エアグルーヴと交配することなく別の繁殖牝馬と交配することになったが……多分ウマ娘のエアグルーヴがお前に突っかかってくるのは魂レベルで俺の存在が気にくわないからだろうな』

 

 

 

「ナリブー、ビワハヤヒデ先輩の件で貸し作ったんだから私の要望も聞いて貰える?」

 

「言ってみろ」

 

「タマモクロス先輩の併せウマの相手をチームリギルから一人以上用意して欲しい」

 

「無理だ」

 

「無理?」

 

「理由はいくつかあるが、会長やマルゼン先輩は私の発言で動けるほど暇ではない。むしろ調整に必死なくらいだ。他のメンバーだと力不足にも程がありタマモクロス先輩の相手をしてやれるウマ娘はいないんだ」

 

「それは副会長のことも?」

 

「副会長は現在海外遠征でトレセン学園にはいないからノーカンだ」

 

「ノーカンって……」

 

「第一チームリギルのウマ娘でなければならない理由はなんだ? お前のところでも良いんじゃないのか?」

 

「チームトゥバンのウマ娘は良くも悪くも秘密主義者が多い。それ故に他のチームのウマ娘とは併せウマをしない……いや、したがらない傾向が強いんだよ。今もっとも勢いがあるヤマトダマシイ先輩は特にね」

 

 ヤマトダマシイはかつてメジロパーマーと併せウマをしたことがあるが、他のチームのウマ娘と併せウマをしたのはその一度きりだけで後は全て同じチーム内のウマ娘としかしていない。

 

 それに対してチームトゥバンの他のメンバーは二代目ほどでないにせよ他のチームのウマ娘と併せウマをしており、ヤマトダマシイが一番閉鎖的である。

 

「チームギエナのウマ娘を集めたのだから当然と言えば当然なんだが、それだけでは理由は弱いな。お前が併せウマの相手をすれば良いだけだろう」

 

「もうとっくにしたよ。だけど私だと役不足みたいでね」

 

「そうか……お前がか」

 

 ここでナリタブライアンは役不足の意味を壮大に勘違いしていた。自分の力量に対して役目が不相応に軽いことを役不足という。

 

 しかしナリタブライアンは力不足と思い込み、二代目と言えどもタマモクロスに勝てるほど強くなかったのだと勘違いしてしまった。

 

 

 

「チームマシムにいるハヤヒデ先輩も一緒にやったんだけどね……ハヤヒデ先輩も(ハヤヒデの方が強すぎて)力になれなかったんだ」

 

「姉貴も(タマモクロスに勝つのは)無理なのか……」

 

「そこで少数精鋭のチームリギルならタマモクロス先輩の併せウマの相手が見つかりそうだなって思って」

 

「納得はしたが、現時点では無理だ。チームリギルから紹介出来るのはいないと言って良い」

 

「残念……」

 

 腕を組み、二人が思考していると芦毛のウマ娘が二代目に近づき、声をかけてきた。

 

「二人とも、そのご飯食べないのか?」

 

 そのウマ娘は今年の大阪杯を制したオグリキャップだった。

 

「オグリキャップ先輩」

 

「食べないなら私にくれ」

 

 涎を垂れ流し指を加えながら二人の食事を見つめるオグリキャップ。トレセン学園ですっかりと食いしん坊キャラの地位を確立していた。

 

 

 

『ったく、ヘレニックイメージがそこらにある草すらも食ってしまう食いしん坊なのは知っていたがオグリキャップも食いしん坊なのか?』

 

 先代の声に反応しようにも出来ない。反応したら電波を受信する変人ならぬ変ウマ娘として学園中に広まるからだ。

 

「オグリキャップ先輩ってもしかして食いしん坊なんですか?」

 

 二代目が一言オグリキャップに告げるとオグリキャップが赤面し、首を横に振る

 

「ち、違う! 私は食いしん坊じゃない。ただ勿体ないから先輩である私が責任を持って処分しようとしているだけだ!」

 

「確かにオグリキャップ先輩はトレセン学園の先輩ですけど、同じチームにいるって訳じゃないですよ。ね、ナリブー」

 

「いや私に聞くな。同じチームでもあるまいし」

 

「それに……いや、このご飯食べても良いですよ」

 

「やった。それじゃ頂き──」

 

「その代わり、条件があります」

 

 それを聞いてオグリキャップの動きが止まる。

 

「なんだ?」

 

「オグリキャップ先輩、タマモクロス先輩と併せウマをして下さい」

 

「タマ……タマモクロスとチームは同じなのか?」

 

「いえ、違います。ただタマモクロス先輩には借りがありますからね。タマモクロス先輩の併せウマの相手をセッティングするのは当たり前のことです」

 

「タマモクロス自身は併せウマの相手を探しているのか?」

 

「ええ。私やハヤヒデ先輩とも走りましたが走りが冴えませんのでオグリキャップ先輩なら走りを良くしてくれるのではないかと」

 

「なるほど。だが私がタマモクロスと走るメリットは少ない。むしろ宝塚記念で強力なライバルになりかねない。悪いがこの話、断らせて──」

 

「情けないですね」

 

 二代目が嘲笑い、笑い声を抑えた声でオグリキャップに侮蔑の眼差しを向ける。

 

 

 

「なんだと?」

 

「オグリキャップ先輩、聞きましたよ。タマモクロス先輩に食事の習慣を改めさせられたことを。タマモクロス先輩の指導がなきゃオグリキャップ先輩は大阪杯勝てなかったんじゃないんですか?」

 

「だからどうした。確かにタマには世話になった。だがそれとこれとは話は別だ」

 

「貴女には──」

 

「やめや、アイグリーンスキー」

 

 途中からタマモクロスが割り込んで、二代目を止める。

 

「タマモクロス先輩……」

 

「ウチのことで動かへんのならしゃーない。むしろ動いたら動いたで不都合や」

 

「不都合?」

 

「せや、ウチはあのことを貸しとは思っとらん。あまりにも食生活が乱れとったからお節介焼いただけや」

 

「しかしタマモクロス先輩、それでいいんですか?」

 

「二度も三度も言わせんな。ウチはやるだけのことやってみるだけや。ほな」

 

 タマモクロスがそれだけ告げるとその場から去り、姿を消していく。

 

「……そういうことだ。タマが望んでいない以上、私がやる必要はない」

 

 オグリキャップが二代目の朝食をかっさらい、その場から離れようとする。

 

「オグリキャップ先輩、それなら私のご飯を返して下さい」

 

 二代目がオグリキャップの腰にしがみつき、動きを止めさせた。

 

 

 

「わ、わかった。この朝食は返そう。だから離してくれ」

 

 渋々、名残惜しそうに、後ろ髪を引かれるようにオグリキャップが二代目に返すと残像を残しながら消えていく。

 

「なっ!?」

 

 その光景を見た全員が口を開け唖然とする。

 

「ご馳走さまでした。さて、オグリキャップ先輩、またご縁があればお会いしましょう。ナリブもエアグルーヴもね」

 

「あ、ああ……」

 

 この中で年長者たるオグリキャップが返事をするがあまりの出来事にそう答えるしかなかった。




後書きらしい後書き
ストック切れ怖い……


それはともかくこの第32Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は一週間後です


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第33R 白い稲妻二世、覚醒する

前回のあらすじ
芦毛の怪物&シャドーロールの怪物「悪いなグリ太。私達は別に用事があるんだ」


 放課後

 

 チームマシムにてタマモクロスがビワハヤヒデに何度も挑むが結果はビワハヤヒデの全勝。余りの不甲斐なさにタマモクロスが涙を流し始めた。

 

「何で、ハヤヒデに勝てへんのや……」

 

「やはり覚醒していないからじゃないでしょうか」

 

 泣きじゃくるタマモクロスにビワハヤヒデが冷静に指摘する。

 

「なぁハヤヒデ、覚醒するにはどないしたらええんや!? ウチどうしてもパーマーに勝ちたいねん!」

 

「そう言われましてもこれは当人の問題ですので、私からアドバイス出来ることは精々、覚醒した時はゾーンに入った感覚に近いとしか言いようがありません」

 

「それ以外でなんかあらへんの……?」

 

「まるで子供ですね、タマモクロス先輩」

 

 タマモクロスが子供のように泣きじゃくりビワハヤヒデにしがみつく様子を笑うようにタマモクロスに声をかけるウマ娘がいた。

 

 

 

「アイグリーンスキー?」

 

「どうも。タマモクロス先輩。今日は特別ゲストと併せウマして貰います」

 

「特別ゲスト……?」

 

「そう昨年クラシック級で有力視されながらも無冠に終わったウマ娘がここに来ています……カモン!」

 

 二代目以上の巨体を誇る身長と強靭な肉体、そしてその肉体にふさわしいワイルドな顔立ち、尾花栗毛を隠すバンダナとサングラスがトレードマーク、服装は真っ白な褌とサラシ、右手に持つのはニンジンに似せたフランスパン、そうそのウマ娘の名は……

 

「いや誰ぇぇぇっ!?」

 

 そのウマ娘を見た瞬間、タマモクロスが大声で叫ぶ。

 

「は? なに言っているんですか、先輩。サッカーboy先輩ですよ。去年のマイルCS見忘れたんですか?」

 

「こないな奴知らんわ! ウチが知ってんのはウチと同じくらいのチビのサッカーボーイや! それがなんでこんな似ても似つかないゴリラのような奴を用意ってどういうこっちゃ! サッカーboyってなんやねん! そこはサッカーボーイっていうところやないか! 何でボーイが無駄にナチュラルに英語になっとんねん!」

 

 タマモクロスが息切れするほどに突っ込んで、手を膝につけると二代目がため息を吐いた。

 

「いい加減にしてくださいよ。時間を空けてくれたサッカーboy先輩に申し訳ないんですか?」

 

「ランイズマネー、ワタシ坂路一本デニンジン1ダース、坂路二本でニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」

 

 空気を読まずサッカーboyが口を開くと芦毛のウマ娘達二人の空気が凍りついた。

 

「オーケー、坂路三本でニンジン三本、坂路四本で四半分よ」

 

「何で三本になってから徐々に減っとるんねん!」

 

 二代目の返答にタマモクロスがそうツッコミを入れるがサッカーboy達は無視した。

 

「オーケー、それではイキマショー」

 

「え、ちょっ、待てや」

 

「アイムウマ娘トレーナー」

 

 タマモクロスの抑止の声を出すが無駄に終わり、サッカーboyがタマモクロスを脇に抱え、その場から消えていく。

 

「だ、大丈夫なのか?」

 

 残ったビワハヤヒデがそう尋ねると二代目が笑顔で答えた。

 

「これでダメならタマモクロス先輩は何も出来ないウマ娘だったってことですよ。覚醒する方法の確立は他のウマ娘で試すことにします」

 

 さりげなく酷いことを言う二代目にビワハヤヒデが戦慄し、言葉を無くした。

 

「ゴリラみたいな身体してスタートも坂を登るスピードも速いとか反則やろ!」

 

 サッカーboyに負けたタマモクロスが坂路を一本終えるとそう叫ばずにはいられなかった。

 

 それもそのはずサッカーboyの身体は筋肉が付きすぎて体重があまりにも重く坂を昇るスピードや加速が遅くなる。その点ではタマモクロスの方が有利になるはずだった。しかしタマモクロスの目の前を走ったこのサッカーboyはそれに当てはまらず、サッカーboyは常にタマモクロスの前を走り続けた。

 

「スイマセン、コレダケッスカ?」

 

「ノーノー今日はとことんやって頂戴オーケィ?」

 

「オーケー」

 

 一本目が終わり、サッカーboyが尋ねると二代目が返答し二本目を促す。

 

 

 

「その坂路トレーニング、ちょっと待った」

 

 そこへ坂路にいるウマ娘の声が響き、二代目が目を見開く。そのウマ娘の顔は覆面マスクで覆われており、顔の判別が付き辛く、一目見ただけでは判別がつかない。それ故に二代目や他のウマ娘達が絶句してしまうのは無理もなかった。

 

「オグリキャップ先輩……?」

 

 それにも関わらず、何故二代目がオグリキャップと判断した材料は声と覆面の後ろから見える髪の毛が灰色かかった芦毛であったからだ。

 

「本当だ……オグリキャップ先輩だ」

 

「何でここにおんねん」

 

 ビワハヤヒデとタマモクロスがキャプテン・グレーと名乗るそのウマ娘を観察するとオグリキャップの体格に酷似しており、オグリキャップと判断した。

 

「違う。私はオグリキャップではない。私の名はキャプテン・グレーだ」

 

「そのキャプテン・グレーが何の用や?」

 

「タマモクロス、お前と併せウマをしに来た」

 

「はっ、さっき断ったウマ娘のセリフとは思えんな」

 

「だからオグリキャップではないと……」

 

「アンタ、何でオグリとウチの話を知っているんや? あの場で会話を聞いていたのは数人だけやで」

 

「………………………………さて、そんなことよりやろうか」

 

「無視すんな!」

 

 キャプテン・グレーが無理やりコースに入り、そこにいたサッカーboyと並ぶ。

 

「イツデモイイヨ」

 

「ではやろうか」

 

 サッカーboyとキャプテン・グレーが顔を見合せ、スタートするとタマモクロスが鬼の形相で追いかけた。

 

 

 

「おい、待てやお前らーっ!」

 

 完熟したトマトの如く顔を真っ赤に染めたタマモクロスが二人を追いかけるが出遅れた差は縮まらない。それどころか広がる一方だった。

 

「ぶっ殺したるーっ!」

 

 物騒な発言をしたお陰か、それとも殺意を持つ余り、馬鹿力が働いたのかどちらにせよタマモクロスの身体が軽くなり足取りも水切りをする石の如く跳ねていき、その差は徐々に縮まっていく。

 

「うぉぉぉぉっ!」

 

 しかしサッカーboyとキャプテン・グレーとて黙って見ている訳ではない。雄叫びとも呼べる声を上げ、タマモクロスを引きはなそうとする。

 

『おい、タマ。てめえの負けたくねえって気持ちはそんなもんかよ。後輩達には負け、同期達にも舐められていんのにそれでいいのかよ!』

 

「じゃあかしいっ!」

 

 そしてタマモクロスの足場だけが坂路から平坦な道へと変わった。

 

「何っ!?」

 

「ホワッ!?」

 

 坂路をまるで平坦な直線を走るかの如くタマモクロスが駆けていく姿にサッカーboyとキャプテン・グレーが目を見開きながら置き去りにされていき、そのまま登り切った。

 

 

 

「へへ……ようやっと出来たで」

 

 それまでキレていたタマモクロスの姿は何処にもなく、晴れやかな笑みがそこにあった。

 

「覚醒おめでとうございます、タマモクロス先輩」

 

「グリーン、あんがとな。ウチの為にこんな色物なウマ娘を紹介してくれて」

 

「だからこのサッカーboy先輩はタマモクロス先輩と同じクラスでしょう? ねぇ、オグリキャップ先ぱ──は?」

 

 二代目がキャプテン・グレーに向けてそう声をかけようとするとそこにキャプテン・グレーはおらず代わりにサンデーサイレンスが居り、間抜けな声を出す。

 

「だから言ったであろう。余はオグリキャップではないと!」

 

 覆面のせいで汗だらけになった顔でもどや顔は忘れずに行うサンデーサイレンス。余りのどや顔に殺意すら覚えたタマモクロスが目のハイライトと気配を消して、サンデーサイレンスに近づき噛みついた。

 

「よくも騙したなボケーっ!」

 

 頭蓋骨を砕く勢いでタマモクロスが頭に噛みつき、絶叫する一方で噛みつかれたはずのサンデーサイレンスは叫び声を上げるどころか無言だ。

 

 その違和感を感じたタマモクロスがサンデーサイレンスを見ると木彫りの仏像に変わっていた。

 

ふ、ふぁんやほれ(な、なんやこれ)!?」

 

「先日夜も寝ず昼寝して作成した身代わり君3号だ」

 

「夜も寝ず昼寝したことを突っ込めばいいのか、1号と2号はどうしたのかという突っ込みをすればいいのかわからなくなってきた……」

 

 頭を抱えながらビワハヤヒデがそう呟くとサンデーサイレンスが両方の疑問に答えた。

 

「バカか。夜も寝なかったら昼寝するしかないだろう。それに1号と2号はルナちゃんとたづな理事長秘書の説教の生け贄になったぞ。全く、怒られる筋合いはないと言うのに説教とは非常識にも程がある」

 

 冷めた目でビワハヤヒデに解説すると同時にルナちゃんことシンボリルドルフとたづなに怒られる理由がわからずそれにキレるサンデーサイレンスに、ビワハヤヒデが手を挙げた。

 

「いや説教の理由なんて単純なものでしょう。こんな下らないものを徹夜でつくった挙げ句、昼寝して仕事をサボるなんてそれこそ非常識そのものです」

 

 身代わり君4号に説教するビワハヤヒデにサンデーサイレンスがそれを撮影する。

 

「題名、木彫りに説教する堅物……と。むっふっふ。いいものが手に入った」

 

 サンデーサイレンスが笑みを浮かべ逃げるとビワハヤヒデが頭を抱える。

 

 

 

「なぁ、アイグリーンスキー君。いつもあのウマ娘はあんな感じなのか?」

 

「ええ、残念ながら。しかし有能な特別講師であることに変わりありません」

 

「……まあ、この身代わりを見ている限りでもスペックが高いのは違いない」

 

 ビワハヤヒデが付け加えるように「もっとも無駄な才能の使い方ではあるが」と呟き、身代わり君4号を叩く。

 

「それよりか本物のオグリキャップ先輩を探しに行きましょう」

 

「そらなんでや?」

 

「サンデーサイレンス先生は意外なところで神経質です。先ほど本物のオグリキャップ先輩が現れないように何かしらの手を打った可能性があります」

 

「サーチイズマネー、ワタシ一人見つけたらニンジン1ダース、二人見つけたらニンジン2ダース……ソノ間、ワタシサッカーboy。オーケー?」

 

「オーケー、報酬はオグリキャップ先輩から剥ぎ取って下さい~」

 

「マム、イエスマム」

 

 そしてサッカーboyがオグリキャップを探しに向かい、その場から消え去る。

 

 

 

「なあ、アイグリーンスキー。もし良かったら今後も併せウマ頼めへんか?」

 

「構いませんがいいんですか?」

 

「構へん構へん。チームマシムは芦毛のウマ娘しか集まらん弱小チームや。重賞は勝ってもGⅠ競走まで届かへんのが実情や」

 

「芦毛のウマ娘しかいないって……なんでそんなところに所属したんですか?」

 

「ウチかて大手のチームに所属したかったわ! けどチームリギルには試験で落ちるし、チームギエナ*1は満員で所属不可能だったんや。そいでやむ無しにこのチームマシムに所属することになった訳や」

 

「それは仕方ないですね。メリーナイス先輩にマティリアル先輩、サクラスターオー先輩と言った去年のクラシック級の三冠レースを盛り上げた面子が揃っているんですから」

 

「しかもウチ、ダートウマ娘やと思っていたから尚更嫌われたんや。芝で走らない奴はいらない言うてな」

 

「絶対あいつだ……すみませんね。あいつが迷惑をかけて」

 

『今だから言えることだがあのトレーナーはタマモクロスに芝で走る様に伝えたかったんじゃないかと思うがな』

 

 先代が口出しするも二代目はスルーしビワハヤヒデの方へ顔を向ける。

 

 

 

「ハヤヒデ先輩は?」

 

「私はジュニア予備時代に出来た怪我が原因で所属することが出来なかったんだ。木が足の中筋の少し前まで入り込んで、少しでもズレていたら競走生命に関わる大怪我だったんだ。それでチームに所属出来たのがジュニア級の一学期終わり頃でチームマシムしか募集していなかったからここに所属することになった」

 

「もうその怪我は大丈夫なんですか?」

 

「そうでなければダービーに出ない。今は傷痕だけだが見てみるか?」

 

 ビワハヤヒデがスカートを捲り、右足の腿を見せるとハヤヒデの指の太さ程の丸い傷痕がそこにあった。

 

「思ったよりも傷痕が小さくて安心しましたよ」

 

「それだけが不幸中の幸いだった。もし傷痕が広がっていたらトゥインクル・シリーズに参加出来なかったかもしれない。アイグリーンスキー君、怪我というのは馬鹿に出来ない。一歩間違えれば致命的な物になりかねないから君も気を付けることだ」

 

「ご忠告ありがとうございます。ハヤヒデ先輩」

 

 二代目がビワハヤヒデに礼を言い、オグリキャップを探すが見つからず、その場で解散となった。

 

 翌日フランスパンを口に押し込まれていたオグリキャップの姿がチームマシムで目撃され、タマモクロスが悲鳴を上げることになるがそれは別の話である。

*1
チームトゥバンの原型のチーム




後書きらしい後書き
ストック切れ……切れなーい! 切れそうなのは事実だけど!


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第34R 芦毛の怪物目覚める

前回のあらすじ
サッカーboy「アイアムアウマ娘トレーナー」
キャプテン・グレー「同じくウマ娘トレーナー。治療をハジメマース」
タマモクロス「うぎゃぁぁぁぁーっ!?」
タマモクロス覚醒


 東京競バ場で行われる芝1600mのクラシック級及びシニア混合のGⅠ競走、安田記念。

 

 このレースが国内では年度初となるシニアとクラシック級のウマ娘達が競走出来るGⅠ競走だが、時期が時期である為にシニアのウマ娘がほとんどを占めるだけでなく、クラシック級のウマ娘が勝った事例はクラシック級のみで行われていた時代である。

 

 今年もその例に漏れず、クラシック級のウマ娘が出走登録をすることはなくシニアのウマ娘のみで埋め尽くされていた。

 

 

 

 閑話休題

 

 その安田記念で人気を集めていたのはオグリキャップ。地方からやってきたスーパースターということもあり断トツの一番人気に支持されていた。

 

「この勝負負けられない……私を応援している人々や地方の皆の為にも」

 

「あら、地方の皆云々はともかくここにいる皆様がそれぞれの期待を背負っていますわよ」

 

 オグリキャップの独り言に反応するマティリアルがそう呟いた。

 

 

 

「マティリアル……」

 

「ご機嫌よう、オグリキャップ」

 

「確かに貴女達にも背負うものがあるだろう。しかしそれでも私は負けない。勝って皆に報告するんだ。地方のウマ娘が中央のウマ娘相手でもやれると」

 

「それで調子に乗った地方のウマ娘がボロ負けしたら貴女の責任ですわよ?」

 

「その時はその地方のウマ娘が他のウマ娘よりも強くなかっただけのことだ。そこまで責任は持てん」

 

「無責任ですわね」

 

「強くなろうとする向上心は芽生える。そこの芝のようにな」

 

「知らないんですか? この芝は人工芝ですわよ」

 

「茶化すなマティリアル。とにかく今日のレース必ず勝つ。それだけだ」

 

 オグリキャップが再び無言になるとマティリアルがつまらなそうにそれを見る。

 

 

 

 そんなマティリアルを見ていたのは二代目とチームマシムの二人組だった。

 

「アイグリーンスキー君、本当にこのレースを見る価値はあるのか? オグリキャップ先輩の一強の安田記念で収穫があるとは思えないが」

 

「まあ普通はそう思いますよね。しかしサンデーサイレンス先生によると理想の自分のイメージと自分の現実の走りが矛盾した時に覚醒しやすくなるらしいです」

 

「しやすくなるということは既に覚醒したウマ娘が私達の他に他にもいるのか?」

 

 ビワハヤヒデがそう尋ねると二代目が頷く。

 

「ええ。昨日ジュニア級のフジキセキ、ジェニュインの二名を覚醒させることに成功しました」

 

「早い……!」

 

「フジキセキ、ジェニュインともに私とも併せウマをしたんですが何度も覚醒しないので、互いに勝つイメージさせてみたところ覚醒したようです」

 

「そんなことでええんかい!?」

 

「ええ。しかし私以外のウマ娘が覚醒出来たのはベストコンディションで最高の力を発揮出来る自分と現実の自分にギャップを感じたから覚醒したのであって、ベストコンディションの自分でも敵わないような相手に勝つイメージを自分に重ねると覚醒しないようです」

 

「本当に限界突破って奴やな」

 

「二人を覚醒させることに成功出来たのはサンデーサイレンス先生がウマ娘の情報を細部に渡りデジタル化したからこそです。つまり私やメジロパーマー先輩、そしてお二方のご協力あってこその覚醒ですよ」

 

 そしてファンファーレが響き、各ウマ娘達がゲートから出ようと待ち構えていた。

 

【安田記念スタート!】

 

 そしてゲートが開き、安田記念が開始されると先行するウマ娘の後ろの集団の先頭にマティリアル、そしてそのすぐ側にオグリキャップが続いていた。

 

 

 

「マティリアル先輩にしては珍しく中団差しの作戦ですね」

 

「せやな。あの追い込みバカのマティリアルが他のウマ娘よりも前に行くのは珍しいな」

 

「オグリキャップ先輩を意識しているんじゃないのか?」

 

「それはあるかもしれへん。あいつの差し脚は一級品……オグリを差すことが出来るのはウチだけや。他の連中はオグリより先行して逃げ切るしかあらへん」

 

 三人がマティリアルについて語れる理由は三人がマティリアルについて知っているからだ。二代目は同じチーム、タマモクロスは同期としての情報を持っており、一見何の関係もないビワハヤヒデもデータ解析の為にマティリアルの情報を知り尽くしている。

 

「アイグリーンスキー君、このレースに出ているとしたらどうするか参考までに意見を聞きたい」

 

「その時の体調次第で決まりますよ。なんて言ったって私のレーススタイルは自在。タマモクロス先輩のように追い込むことも出来ればメジロパーマー先輩のように逃げることも出来ますからね」

 

「そら偉い自信持っとんな自分。上がり3Fはいくつや?」

 

「マイルの上がり3Fですと平均33秒3、最速32秒8ですね」

 

「そら確かに追い込みでもいけるわな」

 

「しかし私がマイル路線を走ることはありませんよ。どちらかと言えばステイヤーですからね」

 

 そしてオグリキャップの方へ視界を移すとそこにはオグリキャップが内埒とバンブーメモリーの間に挟まれ道を塞がれようとしていた。ここでバンブーメモリーが道を塞けば確実にオグリキャップは沈み、良くて三着止まりが限界だろう。

 

 

 

「ここで斜行して道を防ぐことも出来るっスが、ここは真っ向勝負っス!」

 

 だがバンブーメモリーはそれをしなかった。あくまでも真っ向勝負という形で勝負しオグリキャップを正々堂々と打ち負かすことでオグリキャップに勝ったことを証明したかった。

 

【バンブーメモリーはこれを真っ向勝負で捩じ伏せる気だ。さあ勝負だオグリキャップ。オグリ、バンブー、そしてマティリアルの三つ巴の戦いになった】

 

「随分と甘いことをほざきますわね。私であれば卑怯と言われようが降着処分を受けなければ何でもしますわ!」

 

 マティリアルはそれを批判する。真っ向勝負に拘らずとも勝てばそれでいいという考えはマティリアルだけではない。

 

 むしろマティリアルのように降着しなければいいという考えは主流でありバンブーメモリーのように真っ向勝負で捩じ伏せるという考えは異端そのものに近い。

 

【ここでマティリアル更に伸びる、更に伸びる! マティリアル先頭だ!】

 

 

 

「こいつは意外やな。あの不調のマティリアルがオグリを突き放すなんて。あいつも覚醒したんか?」

 

「いやそもそもマティリアル先輩はマイラーなんですよ。それ以上の距離だとスタミナが切れて逆噴射してしまいます」

 

「……ええんかい? そないなことをべらべら喋って」

 

「喋ったところで無意味ですよ。何故ならマティリアル先輩はマイル路線しか出走しませんから今言った弱点は露出しませんよ」

 

『これを見てわかっただろう。マティリアルは本来追い込みで瞬発力に優れている。瞬発力あってこその勝負根性だ。先行して場所を取り、直線で粘るというよりも突き抜ける……それがビワハヤヒデのレーススタイルの完成形だ』

 

「そのようだな……」

 

 ビワハヤヒデが納得し、二人を見るとビワハヤヒデの中にいる魂のビワハヤヒデが口出ししてきた為に無理やりそのように返事を返す。

 

 

 

「(これが、表参道を歩んできたウマ娘だというのか……? いや、違う。これは私の十二分に発揮した実力じゃない。十二分に発揮すればマティリアルにも勝てる!)」

 

 オグリキャップがそう思考したその瞬間、オグリキャップの頭が地を這う程に下がり、超がつくほど前傾姿勢を取るやいなやオグリキャップのスピードが急上昇し府中の坂などなかったかの如くバンブーメモリーを置き去りにしてマティリアルを捕らえた。

 

【オグリ来た、オグリ来た!】

 

『せっかく前傾姿勢になっているんだ。上ではなく後ろに蹴って前に飛んで少しでもストライドを伸ばせ! 出来ない訳じゃないだろ』

 

「わかっている!」

 

 オグリキャップが自分の魂のアドバイス通りに極端のまでの前傾姿勢を利用しストライドを伸ばし前に飛ぶように走る。

 

 すると並んでいたマティリアルを瞬く間に追い抜いてしまった。

 

【オグリだ、オグリだ、オグリキャップ一着!】

 

 

 

「あり得ませんわ……あそこからあんな末脚を炸裂させるなんて」

 

「マティリアル先輩!」

 

 汗を滝のように流したマティリアルが倒れ、二代目が慌てて駆けつけるとヤマトダマシイといったチームトゥバンのメンバー達がマティリアルを囲うように集まる。

 

「マティリアル、大丈夫?」

 

 メリーナイスが珍しく優しく声をかけると、マティリアルが苦笑気味に笑みを浮かべる。

 

「ちょっと自力じゃ立ち上がれませんわ。手伝ってくれませんか?」

 

「さあ行きましょうか、お嬢様」

 

 メリーナイスがマティリアルの手を取るとマティリアルがメリーナイスの肩に寄りかかりながらも歩き始めた。

 

「メリーナイス先輩とマティリアル先輩って意外と仲良いんですね」

 

「そう見えるお前は大物だ。ああ見えて双方ともにかなり牽制しているぞ」

 

 ヤマトダマシイが突っ込みを入れると二代目が二人の様子を見るがどこからどうみても互いに仲の良いウマ娘同士にしか見えなかった。

 

「あれのどこがそうなんですか?」

 

「マティリアル先輩の実家は名門シンボリ家だからマティリアル先輩に下手な皮肉は通じない。それをメリーナイス先輩はわかっているんだ」

 

「……あんな顔して牽制しあっているとか、もはや別次元の話ですね」

 

 

 

「ところで先代、競走馬の方のビワハヤヒデに何か言いたいことあったんじゃないの?」

 

『大したことじゃねえよ。てめえの弟が有馬で戦いたかった、と一言を伝えるだけだ。あいつら兄弟は俺とは顔を合わせたことはあるが、兄弟二頭が互いに顔を合わせることなかったからな。その時にブライアンの野郎がぼやいていたんだよ。お前は兄貴と戦えてズルいってな』

 

「そう言えば先代は宝塚記念で勝ったんだっけ?」

 

『そうだ。宝塚記念でセイザ兄貴(二冠馬)ハヤヒデ(菊花賞馬)を、有馬記念でブライアン(三冠馬)を撃墜させて、俺は当時の現役世界最強馬となったんだ。だが俺はその後ラムタラに二度負け世界最強の称号を奴に一時的に渡すはめになった。……二代目、絶対にアイツに勝ってくれ』

 

「わかった」

 

 先代の思いを受け取った二代目が向かった先はトレーニング場であったのは言うまでもない。




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第35R 覚醒した者同士の対決

前回のあらすじ
オグリキャップ「すまんなマティリアル、お前の役割は私の噛ませ犬なんだ」
バンブーメモリー「なんか第18Rと同じこと言っているし、噛ませ犬すらもならないっスか?」


 6月末、阪神レース場にてGⅠ競走であり、春期最後のグランプリレース宝塚記念が行われていた。

 

『そろそろ来るぞ、気を付けろ』

 

「当たり前や。ここから勝負どころや!」

 

 1000mを通過しメジロパーマーが更に後続のウマ娘を突き放し、差を広げていくが誰も着いていかない。いや数人を除いたウマ娘達はメジロパーマーが生み出すペースによって体力が削られ過ぎて着いていこうにも着いて来れなかった。

 

 

 

 例外のウマ娘達が着いていかなかった理由はまだ仕掛け時ではないと判断した為であり、メジロパーマーを全くと言っていいほど見ていなかったからだ。見ていたのは互いに人気の芦毛のウマ娘達だった。

 

「やるなら今しかないで」

 

 そのウマ娘の一人であるタマモクロスは宝塚記念の三コーナーにて、異世界の自分に声をかける。

 

『よし、行ってこい』

 

 その瞬間タマモクロスがオグリキャップよりも先に仕掛け前に躍り出る。タマモクロスが見ていたウマ娘、それはオグリキャップ。

 

 地方でも名を馳せトゥインクルシリーズでも名を馳せた芦毛の怪物をマークした理由はメジロパーマーがハイペースに身を任せ他のウマ娘達を潰す潰し屋である為にメジロパーマーをマークすればその先に待っているのは自滅あるのみだからだ。その為タマモクロスはメジロパーマーに次いで厄介な有力ウマ娘であるオグリキャップをマークすることで自滅を回避した。

 

 

 

 そしてもう一つの例外であるウマ娘、オグリキャップはまだ仕掛けていなかった。

 

『おい、何故仕掛けない? タマモは行ったぞ!』

 

「仕掛けようにも仕掛けられん。あのフォームはカーブだと曲がりきれず斜行する欠点がある」

 

 オグリキャップの指摘する通り、あのフォームは前傾姿勢過ぎる故に真っ直ぐに走り過ぎてカーブを曲がりきれず斜行してしまう。幾度なくオグリキャップが実証し、直線のみに用いるようにしている。

 

『しかしあれを使わずともスピードを上げるくらいのことは出来るだろう?』

 

「異世界の私らしくもない。仕掛けことしていないが種は既に撒いている」

 

『何?』

 

「直線に入ってからわかる」

 

 オグリキャップがそう告げ、ただひたすらに無難に走っていった。

 

 

 

 その頃、タマモクロスは捲りに捲って二番手集団にまで追い付きメジロパーマーを射程圏内に捉えると笑みを浮かべた。

 

「ようやっと追い付いたで」

 

 そして二番手集団から二番手になりメジロパーマーの横に並ぶとメジロパーマーが引きはなそうとする。

 

「白い稲妻嘗めんな!」

 

 タマモクロスはそれを一蹴し、自分の渾名の通り稲妻の末脚でメジロパーマーを一瞬で交わす。

 

「なんやと!?」

 

【メジロパーマーここで沈んだ。メジロパーマーここで沈んだ。先頭はタマモクロス、タマモクロスだ】

 

「こないなバカなことあってたまるか!」

 

【いや沈まない、沈まないぞメジロパーマー粘るっ!】

 

 メジロパーマーが二の脚を使い、タマモクロスを差し返そうとするが勢いのついたタマモクロスを差すことは出来ない。あくまでも粘ることだけがメジロパーマーの悪あがきだ。

 

 

 

【大外からオグリキャップ来たーっ!】

 

 しかしそのメジロパーマーの悪あがきを成敗するかの如く、オグリキャップが地を這う走法で仕留める。

 

『なるほどな。パーマーの野郎が粘れるのはタマモが他のウマ娘のペースを上げたからか。てめえはそれに気づいて敢えて仕掛けなかった。仕掛ければこんな豪脚にはならねえ』

 

「そう言うことだ。後はスパートをかけすぎたタマを一気に抜き去るだけだ」

 

 

 

【オグリキャップがタマモクロスを捉えるか、タマモクロスが凌ぐか! 真っ向勝負!】

 

 その実況を聞いたバンブーメモリーが複雑そうな顔でオグリキャップを応援する。

 

 オグリキャップに負けたウマ娘として自分を負かしたウマ娘には勝って貰いたい。ましてや真っ向勝負で打ち負けた相手ならば尚更だ。

 

「行けーっ、オグリ!」

 

 バンブーメモリーの応援によりオグリキャップが伸び、タマモクロスを捉えにかかる。

 

「タマモクロス先輩、余力を使い果たせば勝てる!」

 

 そう声を出したのはタマモクロスと同じチームのビワハヤヒデをはじめとしたメンバー。チームマシムは芦毛のウマ娘──それもジュニア予備時代の当初では評価の低いウマ娘が集まるだけあってか零細チームである。その為重賞勝利はタマモクロスが勝つ前はシービークロスというウマ娘しか名前が記載されていない。勿論GⅠ競走勝利など皆無であり、チームマシムにいる誰もが勝利に貪欲でありタマモクロスは家庭環境のせいもあってかその中でも一際目立つ程貪欲だ。

 

「ウチは絶対に負けん!」

 

「私だって地方の皆が応援しているんだ!」

 

 オグリキャップがタマモクロスに迫っては距離を維持させられ、維持させられては迫る。その繰り返しをするうちにオグリキャップが思考する。

 

「(このままでは引き分けることはあっても勝つことはない。ならゴールする一瞬だけ抜かす。そのタイミングを頼むぞ。異世界の私)」

 

『それでこそ飽くなき執念、オグリキャップだ』

 

 二代目すらも出来なかった、いややらなかったことをオグリキャップがやらかしている頃、タマモクロスもまたオグリキャップの事を考えていた。

 

 

 

「(ウチを抜かせんとなるとオグリがやることはウチの隙をついて抜かすこと、そしてそれが出来なんだらゴールする瞬間に抜かすことやな。となるとウチがやれることはただ一つ)」

 

 タマモクロスがオグリキャップに近づき、バ体を併せる。

 

『そうだ、体を併せろ。併せた時の自分の勝負根性は自分が一番知っているんだからな』

 

「オグリ、絶対負けへんで!」

 

 タマモクロスが取った作戦はオグリキャップに体を寄せて併走する、所謂勝負根性を少しでも引き出すというものだった。

 

 競走馬の中には併走をして力を発揮する者、そうでない者がいる。競走馬のタマモクロスは前者を代表する競走馬であり、タマモクロスがモデルとなった某競馬漫画の主人公(ミドリマキバオー)にも受け継がれている程だ。

 

 ウマ娘のタマモクロスも同じで勝負根性は競走馬のタマモクロスに劣らない。それ故の判断だった。

 

 

 

『よし今だ!』

 

 競走馬のオグリキャップの合図を受け取ったウマ娘のオグリキャップのストライドが更に伸びる。

 

 タマモクロスが某競馬漫画の主人公のモデルとなったようにオグリキャップの走法もまた某競馬漫画のライバル(カスケード)の走法に酷似している。

 

 それは何故かというとそのライバルの走法モデルとなった某競走馬が競走馬のオグリキャップと同じ走法だった為にそうなってしまっただけの話だ。

 

 

 

 その走法を産み出した張本馬から指導を受けたオグリキャップが通常であれば追い付くことすらままならないタマモクロスを捉える。

 

「観念しろ」

 

「それはウチのセリフや!」

 

 宝塚記念史上稀に見るデットヒート。そんな勝負に勝利の女神が微笑んだのはタマモクロスだった。




後書きらしい後書き
ストック切れました……


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第36R 丸善杉というスーパーカーの評価

1日遅れの明けましておめでとうございます。本来であれば昨日仕上げるはずが疲れ果てて寝てしまい遅くなりました。

前回のあらすじ
タマモクロス「すまんのオグリ、パーマー、あんた達の役割は私の噛ませ犬なんや」
メジロパーマー「前回のコピペすんなや!アホ!」
オグリキャップ「それよりも何か食べ物をくれ!」


 宝塚記念から数ヶ月後、札幌記念から始動したヤマトダマシイはここを勝利しダービー二着ウマ娘の貫禄を見せつけ、再びシニア混合の重賞レース、オールカマーに出走登録していた。

 

 しかしこのオールカマーは前走の札幌記念とは違い昨年の年度代表ウマ娘メジロパーマーをはじめとした有力なウマ娘達が出走登録していた。

 

「しかし覚醒したメジロパーマー先輩が相手なんて……ヤマトダマシイ先輩は勝てるの?」

 

『現状無理だろうな』

 

「どうして?」

 

『中山レース場の特性、2200mという中途半端な距離が関わってくる。俺達の世界で中山競馬場は追い込み不利でこっちでも同じく、追い込みを得意とするウマ娘が中山で勝てない。二代目、何故だかわかるか?』

 

「中山は直線の距離が短いのと心臓破りと呼ばれるほどの急坂があるから?」

 

『だいたい正解だ。しかしそれ以上に中山で負ける理由、それは中山競馬場のカーブが他よりも小さくそれを回る為に少しだけ減速する。その減速した分だけペースも落ち、それだけ追い込み馬も不利になる。あのソンユ*1ですら有馬記念は先行した程だ』

 

「もし先代が追い込みで勝つとするならどうするの?」

 

『直線が短いから途中でスパートをかけて捲るしかないな。直線に入る頃には5、6番手あたりから先頭集団を差しきるしかない。二代目、お前を除いた同期の中でそれが出来るのはヒシアマとナリブくらいだ』

 

「やっぱりあの二人は違うね」

 

『何を言ってやがる。あの二頭を相手に俺は勝ったんだ。決して勝てない敵じゃない』

 

「うん」

 

『ちなみにこの世界でメジロパーマーから逃げ切ったラムタラはそれ以上のことをする。中山競馬場のオールカマーなんぞあいつにとってはただの練習台にしかなりゃしない』

 

「先代……」

 

 その瞬間、朝食を終える予鈴が鳴り響き先代が更に口を開く。

 

『さてそろそろ授業のようだ。終わったら声をかけてくれ』

 

「先代、昼休みに起こすね」

 

『了解だ』

 

 

 

 そしてオールカマー当日、中山レース場。一番人気に支持されたメジロパーマーと三番人気のヤマトダマシイが並んだ。

 

【さあ今年のダービー二着バは強いぞ、強いぞ。逃げるメジロパーマー、追い詰めるヤマトダマシイ】

 

「絶対に負けられへん!」

 

 メジロパーマーがヤマトダマシイに併せて併走し、その差を少しでも詰めさせないようにする。

 

【メジロパーマーが突き放す! クラシック級には負けられない!】

 

「舐めるな! 私だって負けられない」

 

【しかしヤマトダマシイが追い詰める。どっちだ、どっちだ、どっちだっ!】

 

「姿勢の乱れはタイムの乱れ! 姿勢対策に体幹を鍛え上げてきた私に勝てると思うな!」

 

 メジロパーマーとの併走に付き合いきれないと言わんばかりにヤマトダマシイが一歩、二歩、三歩とメジロパーマーの前へと進み差を開いていき、そのまま中山レース場のゴール板を通過した。

 

【ヤマトダマシイです! ヤマトダマシイ一着! 大金星を飾ったのはヤマトダマシイーっ!】

 

 その実況と共に大歓声が沸き上がる。

 

 昨年のグランプリ連覇に加え今年の天皇賞春を勝利したウマ娘メジロパーマー。今年の宝塚記念こそタマモクロスらに抜かれたがその強さはフロックではないことを証明している。

 

 そのメジロパーマーを打ち破ったヤマトダマシイはGⅠ競走を勝利しているとはいえ1勝。メジロパーマーの方が圧倒的に格上なのか言うまでもない。

 

 

 

「ヤマトダマシイ……強なったの。嫌やわ世代交代ちゅうのは」

 

 ウイニングライブが終わり、メジロパーマーがヤマトダマシイにそう呟く。

 

「メジロパーマー先輩、その台詞は天皇賞秋までとっておいて下さい。その時こそ世代交代の時です」

 

「ほならまだチャンスはある言うことやな」

 

 メジロパーマーが野望を剥き出しにして目を光らせる。

 

「チャンスはあってもそれを掴み取れるかは別の話ですがね。何故なら私がいますから」

 

「おもろいことを言うの。せやけど覚えておけや。天皇賞秋にはメジロパーマーっちゅうウマ娘がおることをな」

 

 メジロパーマーが立ち去るとヤマトダマシイはその背中を見て新たな強敵に備え、その場を後にした。

 

 

 

 その頃、二代目はサンデーサイレンスに取っ捕まえられた後、自分の部屋である作業をしていた。

 

「これでよし」

 

【いつか頂点】と書かれた掛け軸を壁に掛け、満足げに頷く二代目がそこにいた。

 

『二代目、本当にそれでいいのか?』

 

「現状ウマ娘のトップはメジロパーマー先輩。それに対して私はデビューすらしていない無名のウマ娘。それなのに自分が頂点だなんて恥ずかしいよ」

 

『それでこれか……』

 

「来年のダービーと宝塚記念。最低でもこの二つのレースで勝ったら掛け軸を変える」

 

『どんな奴だ?』

 

「【いつも頂点】。驕りじゃなくそれ以降も頂点であり続けられるようにね」

 

 

 

『難しいことを言っているな。それが出来たのは俺が知る限り三頭。クリフジ、マルゼンスキー、そして……』

 

「先代の息子さん?」

 

『俺の甥の息子だ。そいつは天皇賞春でレコード勝利はおろか、半世紀以上更新されなかった八大競走の最大着差を更新した競走馬だ』

 

「そんな競走馬がいたんだ……」

 

『レコード自体は俺が生きている時に更新されたがそれでも長距離に関しては奴の方が上だと評価されている。まさしく【いつも頂点】、史上最強のステイヤーと呼ぶ存在だった』

 

「それくらいのパフォーマンスをしないとダメなんだね……」

 

『確かに必要といえば必要だ。だがそれ以上に勝ち続けることに意味がある。一度だけ大差勝利してもそれはまぐれ当たりでしかない。しかし何度も続けることで人はようやく認める。クリフジやマルゼンスキーがその典型例だ』

 

「なんとなく理解出来たよ」

 

 二代目の頭の中でマルゼンスキーの爆走する姿を思い浮かべる。

 

 マルゼンスキーの朝日杯FSの圧巻の逃げ切りは誰もが勝てないと言わしめる程だったが、それ以上に幾度なく勝利しており二着につけた合計着差は61バ身というものだ。

 

 マルゼンスキーがビッグタイトルを獲得していないにも関わらず、シンボリルドルフと並んで最強ウマ娘と呼ばれるのは常に差をつけて勝利しているからだ。

 

『何にせよその掛け軸を飾った以上、来年のダービーと宝塚記念の二つは獲れ。例え相手が三冠ウマ娘だとしても、その姉だとしてもな』

 

 

 

「アイグリーンスキーいるか?」

 

 先代が引っ込むとシンボリルドルフが扉をノックしてきた。

 

「います。少々お待ちを」

 

 二代目が掛け軸の文字を隠し、扉を開いてシンボリルドルフを迎えるとシンボリルドルフが興味深そうに掛け軸を見る。

 

「おや、アイグリーンスキー。掛け軸に何も書いていないのか?」

 

「まだ準備段階ですので……それよりもシンボリルドルフ会長、一体何の用ですか?」

 

「うむ、私は8月にシリウスシンボリの付き添いでとあるウマ娘に会ってきた」

 

「8月の副会長の付き添いということは英国ですか?」

 

「その通りだ。そしてそのウマ娘からお前宛に手紙を預かっている」

 

「私宛……もしかして!」

 

 シンボリルドルフから手紙を受け取りその中身を凝視すると達筆な英語で書かれていた。

 

【アイリへ、偶々日本のウマ娘が英国KGⅥ&QESに出走すると聞いて手紙を書いた】

 

「やはり間違いない……ニジンスキーさんだ!」

 

 文頭と文字だけを見てニジンスキーと判断するあたり二代目は変態なのかもしれない。

 

【英国に帰る前に一度だけマルゼンスキーなるウマ娘と走ったがあれはスピード、スタミナともに私達欧州のウマ娘でもトップクラスの実力者だ。しかしそれ以上に驚いたのが最も私に近いウマ娘でもあるという事実だ】

 

「えっ……」

 

【ラムタラに勝ちたいのであればマルゼンスキーに併せウマをしてもらえ。私のトレーニングがそこで生かされる。マルゼンスキーにも話を通しておく】

 

 ── by Nijinsky Ⅱ

 

「ニジンスキーさん……」

 

『願わくは俺の世界のニジンスキーとも会いたかったな……俺が俺が生まれて間もない頃に死んでしまったからな』

 

 ニジンスキーの手紙を読み終えた二代目と先代が呟く。互いに切ない感情になり遠い目をする。

 

 

 

「シンボリルドルフ会長」

 

 そしてその数秒後、決意をした二代目がシンボリルドルフに声をかける。

 

「何だ?」

 

「チームリギルにいるマルゼン姉さんと併せウマを申請しますのでおハナさんに口添え出来ませんか?」

 

「私ではなく何故マルゼンスキーを?」

 

「私がマルゼン姉さんを指名した理由は二つ。一つ目はこの手紙が理由です」

 

 ニジンスキーから渡された手紙をシンボリルドルフに渡すとシンボリルドルフが頷き納得した顔になっていた。

 

「なるほどな……しかし残りの理由はなんだ?」

 

「チームリギルの為ですよ」

 

「?」

 

「正確にはトレセン学園に在籍するウマ娘の為ですね。チームギエナからチームトゥバンになって以降トレーニング内容等が公開されるようになりましたがトゥバンに在籍するウマ娘自身が閉鎖的な為に併せウマをしたがらない。特にヤマトダマシイ先輩はその傾向が強い」

 

「……確かに」

 

 シンボリルドルフはヤマトダマシイのことを溺愛しており、何度もヤマトダマシイを誘っていた。

 

 しかしプライベートならともかくトレーニングとなると誘いを全て断るようなウマ娘であり、チームギエナ以外のほとんどのウマ娘がチームギエナのウマ娘の併せウマを諦めていてシンボリルドルフですら別の形でヤマトダマシイと接することにした。

 

 それ故に先日メジロパーマーがヤマトダマシイと併せウマをしたと聞いた時は嫉妬の余り目に血の涙を流して荒れた。それを知っていた二代目はスラスラとシンボリルドルフに説明し始める。

 

「しかし現在私やジュニアAの世代が併せウマをし始めることで上の世代も他のチームのウマ娘と併せウマをするようになります」

 

「ほう……」

 

「そして最終的にはヤマトダマシイ先輩がシンボリルドルフ会長と併せウマをするようになります」

 

「何だと!?」

 

 冷静沈着なシンボリルドルフが取り乱し二代目に詰め寄る。

 

「実際メジロパーマー先輩がヤマトダマシイ先輩と併せウマが出来ているんですからそれがシンボリルドルフ会長になるのは当たり前のことですよ。尤もチームリギルがチームトゥバンと併せウマをしないというのなら話は別ですが」

 

「何が何でも説得してみせよう」

 

 シンボリルドルフがそう宣言した翌日、マルゼンスキーとの併せウマの日程が決まった。

*1
先代の長男、カーソンユートピアのこと。当時の古馬王道完全制覇を成し遂げた名馬




後書きらしい後書き
≫Winning Post10が出たらやって欲しいこと
・キタノカチドキらを保有出来る1970年スタート、系統確立をより確実にする為にエディットで仔出し数値の操作ですかね。


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第37R ウマ娘と競走馬の議論

前回のあらすじ
ニジンスキー「マルゼンスキーは私に良く似ている」
シンボリルドルフ「ヤマトダマシイたん(;´Д`)ハァハァ」


 ヤマトダマシイがオールカマーに勝利し、菊花賞に出走するかと思われたが予想外の出来事が起きる。

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩、菊花賞じゃなく天皇賞秋に出走って本気ですか?」

 

 それはヤマトダマシイが菊花賞ではなく秋の天皇賞に出走登録するという出来事だ。この事実を確認する為に二代目が尋ねるとヤマトダマシイが頷いた。

 

「本気も本気だ。私が三冠のタイトルを獲得するにはこれしかない」

 

「三冠は三冠でも来年以降でも取れる秋のシニア三冠でしょう。しかし菊花賞はクラシック級限定のレースです。クラシック級で恐ろしいのはハヤヒデ先輩だけでしょう?」

 

「確かにハヤヒデは強いが勝てない奴ではないし、サクラスターオー先輩からも菊花賞を取るように言われている」

 

「それじゃ何故?」

 

「菊花賞を勝ったところで年度代表ウマ娘になれないからだ」

 

「え?」

 

 

 

「この年の年度代表ウマ娘になるにはGⅠ競走で最低でも3勝しなければならない」

 

「その根拠は?」

 

「オグリキャップ先輩だ。あの先輩は既に大阪杯と安田記念を制している上に宝塚記念で連対している。そのオグリキャップ先輩に勝つにはGⅠ競走を3勝する必要がある」

 

「それなら菊花賞と有馬記念を制すればいいじゃないですか。それにNHKマイルCでGⅠ競走3勝でしょう?」

 

「バカ。それまでの間にオグリキャップ先輩が天皇賞秋、JCのうち1勝でもしてみろ。年度代表ウマ娘になれなくなる。それに他のウマ娘、メジロパーマー先輩やタマモクロス先輩の二人のうち一人が二連勝しても年度代表ウマ娘になれるチャンスはなくなる。NHKマイルCはGⅠ競走であるもののマイルなだけあって中長距離のGⅠ競走に比べたら優先順位が劣る」

 

 

 

 非常にややこしい話だが同じGⅠ競走でも賞金に差があり所謂その競走における格が生じてしまっている。

 

 その中でもマイルやスプリント路線のGⅠ競走は格が低く、史実においてGⅠ競走2勝したヤマニンゼファーが、菊花賞を勝ち有馬記念で二着を取っただけのビワハヤヒデに年度代表馬の座を奪われ議論されている。尚、近年では逆に天皇賞春や菊花賞と言った3000mを超える二つのレースの評価が下がりつつあり、2000m~2500mのGⅠ競走が最も高い格と言える状況だ。

 

 ちなみに先代のいた世界では無敗で二冠を制したセイザバラットが年度代表馬となっている為に議論が交わされることはなかった。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 この世界では史実よりもマイル・スプリント路線は恵まれているがGⅠ勝利数が等しいと、賞金がマイル・スプリント路線よりも中長距離路線の方が多く出る為に中長距離のGⅠ競走を如何に多く勝つかに決められている。

 

 両者とも勝利数が同じ数でそれを覆すとすればマイル・スプリント路線で活躍しているウマ娘が年間無敗であること、そして中長距離路線で活躍したウマ娘がGⅠ以外で幾度なく惨敗していることが前提条件になる。もちろんそんな前提条件は過去に存在しないし先代の世界でもなかったことなのであり得ない話と言える。

 

 

 

「それでしたら菊花賞を回避せず天皇賞秋を回避すればいい話でしょう。菊花賞、JC、有馬記念を三連勝すればGⅠ競走4勝でオグリキャップ先輩は大阪杯と天皇賞秋、そして安田記念とマイルCSのGⅠ競走4勝で判断材料としてはヤマトダマシイ先輩に分があると思いますが」

 

「菊花賞が芝2000mのGⅠ競走なら良いが、実際はそれよりも1km長い3000m。消耗が激しいレースであることは明らかだ。シンボリルドルフ会長ですら菊花賞の後のJCで負けている。それに対して秋の天皇賞に出走したウマ娘がJCで勝つのは珍しい話じゃない」

 

「でも天皇賞秋を勝ったウマ娘がJCを勝つ例はないですよ」

 

「セントライト初代会長が三冠ウマ娘になる前は三冠を制することは不可能なんて言われていた。同じくメジロラモーヌ先輩が史上初の桜花賞、オークス、秋華賞のトリプルティアラを制するまでトリプルティアラは不可能と言われていた。しかしそれぞれが初めて制したことによって不可能から難しいに変化していった。秋のシニア三冠も同じ事だ。前例がないというだけで不可能という訳ではない」

 

『わかる、わかるぞヤマトダマシイ。俺が凱旋門賞を制するまで、日本馬はおろかアジアの馬が凱旋門賞を勝つのは不可能って言われていたからな』

 

 ヤマトダマシイに共感した先代が同調する。

 

「それに私が秋のシニア三冠を制すれば、誰もが私を年度代表ウマ娘として認めるだろう。何せ会長ですら成し遂げられなかった史上初の快挙なのだからな」

 

「それはそうですけど」

 

「そもそもこの話はフジさん*1から提案されたものだ」

 

「あのフジさんが?」

 

「そうだ。フジさんのローテーションは他の二人よりも比較的緩めな上に距離適性を考慮してくれるからタイトル獲得もしやすい」

 

「ローテーションもトレーニングもきついマツさんならともかくフジさんがそう言うなら仕方ないのかな?」

 

「そう言うことだ。その上今回の天皇賞秋はハイレベルだが、大本命なしの混戦が予想される。そういうレースほど私のレーススタイルに嵌まるんだ」

 

「それってどういう……?」

 

「それは自分で考えろ。ウマ娘足るものレース展開を予測しなければならないからな」

 

 ヤマトダマシイが二代目の肩を叩いてその場を去る。

 

 

 

 そして菊花賞。ビワハヤヒデが一番人気に支持された。

 

【さあ先頭はビワハヤヒデ、ナリタタイシンは完全に沈んだ】

 

 ナリタタイシンがほぼ最後方のまま伸びずにもがき苦しむが逆に距離が離されてしまう。

 

【ウイニングチケットも来ない。ウイニングチケットも来ない。強い強い! ビワハヤヒデ一着でゴールイン!】

 

「強いな……」

 

『それは俺の所でハヤヒデがセイザ兄貴に勝ったレースだからな。勝って当たり前だろうよ』

 

「……うん」

 

『ところで二代目。今回のナリタタイシンとウイニングチケットを見てどう思った?』

 

「信じられない。その一言に尽きるよ。特にナリタタイシン先輩は今まで掲示板に載っていたのにブービーを出すなんて。距離が合わなかったのかな?」

 

『負けた理由は距離適性じゃない。俺の世界のナリタタイシンは阪神大賞典で惨敗するどころかむしろハヤヒデに食らいついていた程だったし、二着のステージチャンプは距離適性のみならハヤヒデを上回る』

 

「じゃあトライアルレースを使わないぶっつけ本番だったから? それとも運動誘発性肺出血を起こしたから?」

 

『それも一理あるが、どれも本命の理由じゃない』

 

「じゃあ何なの?」

 

『聞き方が悪かったな。距離適性ならハヤヒデを上回るステージチャンプが、ハヤヒデに勝てなかった理由。それがわかった時こそヤマトダマシイの言っていたことがわかるはずだ』

 

「そういうものなの?」

 

『ヒントはお前がレースの中で実践していることだ。それでもわからないなら来週のヤマトダマシイのレースで知ることだな』

 

 先代の言葉もヤマトダマシイの言葉も理解出来ずに悶々と悩む二代目に先代は何も語らなかった。

*1
チームトゥバンの三人のトレーナーの中でも特に体調と効率を重視するトレーナー




後書きらしくない後書き
≫今何のゲームをしている?
・switchを購入してポケモン剣とWinning Post8 2018をプレイ。
≫作者の考えていることは?
・キンカメVSディープの小説のネタとアグネスタキオン世代にトウカイテイオー産駒の転生者が青き稲妻の世界で活躍する小説のネタ


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第38R 女は弱しされど母は強し

前回のあらすじ
二代目「天皇賞秋に出て大丈夫か?」
ヤマトダマシイ「大丈夫だ問題ない」


 菊花賞が終わった翌週、トレセン学園では菊花賞を勝ったビワハヤヒデと秋の天皇賞の有力ウマ娘の話題で溢れかえっていた。それと言うのも宝塚記念では顔を見せなかった有力ウマ娘達が秋の天皇賞で姿を表していたからだ。

 

 

 

 帝王賞を圧勝*1した他、天皇賞春でも三着と粘ったイナリワン。

 

 海外遠征から帰国し毎日王冠でイナリワンに先着したシリウスシンボリ。

 

 京都大賞典を勝利し完全復活を成し遂げたスーパークリーク。

 

 そしてクラシック級にしてメジロパーマーを破りオールカマーを勝利したヤマトダマシイ。

 

 

 

 他にもマティリアルと言った今回の秋の天皇賞は混戦模様であり、春シーズンの中距離路線よりも遥かに予想がつかないものとなった。

 

「嘘でしょ……これでヤマトダマシイ先輩展開読めるの?」

 

『読めるというよりもコントロールすると言った方が正確だろうな。例外を除いた競走馬やウマ娘はタイムトライアルをしに走る訳じゃない。自分以外の出走者に勝つ為の走りをする。強い奴ほどその傾向が強い。メジロパーマーなんかはまさしくそれだ』

 

「だね」

 

『今度の天皇賞秋、誰がヤマトダマシイの餌食になるか俺には予想出来る。ヤマトダマシイの餌食になるウマ娘は──』

 

「アイリちゃーん!」

 

 先代の言葉を遮るようにマルゼンスキーが二代目を呼ぶ。

 

『……まあその時教えよう』

 

 

 

「マルゼン姉さん」

 

「ニジンスキーさんとルドルフちゃんから聞いたわよ。貴女の元トレーナーのウマ娘に勝ちたいんですって?」

 

「ええ。マルゼン姉さんにはご迷惑をおかけしますが併せウマの方、何卒よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくね。アイリちゃんと併せウマなんて滅多に出来ることじゃないからね」

 

「ええ。併せウマ以外に一緒に走るとしたらWDTくらいしかありません。その時はその時で宜しくお願いします」

 

「よろしくねアイリちゃん。ところで──」

 

 マルゼンスキーの言葉を遮るようにファンファーレが響き、そちらに注目するとゲート入りを終えたウマ娘達が構えていた。

 

 

 

【さあ秋の天皇賞スタート! まず初めにいったのはやはりメジロパーマー、そこから離れてな、なんとタマモクロス! これには場内どよめいています】

 

「タマモクロス先輩が先行?」

 

「タマちゃんが?」

 

 二代目とマルゼンスキーが互いに顔を見合せる。

 

 タマモクロスは普段ヤマトダマシイ同様に追い込みで勝負するウマ娘であり、タマモクロスが勝利した宝塚記念にしても中団に控えてから差している。

 

 それだけにタマモクロスが先行するということ事態が信じられなかった。しかも先行も出来るヤマトダマシイが追い込みをしているのだから尚更だ。

 

【そのタマモクロスに続くのがスーパークリークとマティリアル、メリーナイス、そしてやや離れて一番人気のオグリキャップを囲むようにシリウスシンボリ、イナリワンといった各ウマ娘が中団に控え、最後尾にヤマトダマシイがいます】

 

『面子が違うとは言え、タマモクロスの奴が先行するのは俺の世界と変わらんか。通用するのか疑問だがな』

 

「マルゼン姉さん、タマモクロス先輩はオグリキャップ先輩に脅えているように見えますがどうなんでしょう?」

 

「そうね……確かに警戒はしているわ。でも脅えている訳じゃない」

 

『むしろ逆だ』

 

「それはつまり、タマモクロス先輩がオグリキャップ先輩に喧嘩にし行ったってことでしょうか?」

 

「ええ。ただタマちゃんの誤算があるとすればオグリンが他のウマ娘達に囲まれてしまったってことね。そのせいで先頭のメジロパーマーも影響を受けているわ」

 

 

 

【さあ飛ばしに飛ばしてメジロパーマーが10バ身以上突き放して第三コーナーへと向かいます】

 

「あいつらは何をやっとるんや?」

 

『オグリキャップを恐れるあまり囲んでいる。それにタマモクロスがギリギリまで脚を溜めて差しきろうとしているがお前が大逃げしているように見えているだけだ』

 

「ほならワシもペース落として脚を溜めよか?」

 

『最後の直線までこのリードを保て。速すぎず遅すぎずな』

 

「了解や」

 

 メジロパーマーが少しだけ抑え、脚を溜める一方で先行集団の三人が目を合わせる。

 

 

 

「ねえタマちゃん、いかないの?」

 

「いく必要はまだあらへん。行くとしたらそれこそ勝ち目がある時だけや」

 

「あらそう。貴女が動かないなら私が行かせて貰いますわよ?」

 

【ここでマティリアルが動いた! これに続いて動くウマ娘はイナリワンだ!】

 

 マティリアルが動き、釣られてイナリワンが動き始めるとオグリキャップのマークが緩くなり始めた。

 

『今しかない。行けっ』

 

「わかった」

 

【本命オグリキャップが動き、スーパークリーク、タマモクロス、シリウスシンボリが動いた!】

 

 オグリキャップが動くとそれをマークしていたウマ娘シリウスシンボリ達、そして先行していたスーパークリークやタマモクロス、ついでにメリーナイスも動いた。

 

 

 

【さあ直線に入り、先頭は未だにメジロパーマー、続いてマティリアル、タマモクロス、スーパークリーク、メリーナイス、その後ろにイナリワン、オグリキャップ、シリウスシンボリがいます!】

 

「ここからやで、クリーク。ウチを差せるもんなら差してみい」

 

「タマちゃん、そんなことを言っていいの?」

 

 スーパークリークとタマモクロスがメジロパーマーを抜かし先頭に立つ。するとオグリキャップがそれに加わり、三つ巴の対決となった。

 

「来よったな、オグリ」

 

「……」

 

 オグリキャップが横目でタマモクロス達を見つめ、それらを抜かそうとするがタマモクロスとスーパークリークが抵抗して平行線の状態となる。

 

 

 

【さあオグリキャップ、スーパークリーク、タマモクロスの三人のウマ娘が並んで残り200m! 均衡を破るのは誰なんだ!?】

 

「ここから本番ですね」

 

「ええ……」

 

 マルゼンスキーがこの後に続く言葉を飲み込む。何故ならある一人のウマ娘が動いていなかったからだ。

 

『ヤマトダマシイ以外除いた全員が消耗戦になったか』

 

 そのウマ娘の名前はヤマトダマシイ。

 

 

 

【あーっと、ヤマトダマシイが大外からやって来たーっ! ヤマトダマシイが芦毛の怪物、白い稲妻二世をぶったぎるっ!】

 

 三つ巴の戦いにヤマトダマシイが突っ込み、豪快とも呼べる末脚でオグリキャップとタマモクロスの二人を差した。

 

「な、なんやと!?」

 

【しかしスーパークリークが粘るっ!】

 

「なんの、まだまだよっ!」

 

「しぶといママさんだ」

 

「女は弱し、されど母は強しって言うでしょ!」

 

【勝ったのはなんとスーパークリーク! 二着にヤマトダマシイ、三着争いにオグリキャップとタマモクロス!】

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩、どうも勝ちきれないな」

 

「オグリンやタマちゃんに先着しているから弱い訳がない。それでも勝ちきれないのは勝ったウマ娘が強いか、爪が甘いかのどちらかよ?」

 

「ですね……」

 

「それよりもアイリちゃん、今度の併せウマの時期だけど──」

 

 マルゼンスキーが二代目にそう言って併せウマの打ち合わせをすると二代目はそれに納得しその場から立ち去った。

*1
史実のイナリワンは帝王賞を勝っていない




あとがきというか予告&宣伝
次回はようやく青き稲妻の物語の主人公がこの小説で登場しますが、未だに執筆中です。

それが書き終わり次第、青き稲妻の物語に転生したトウカイテイオー産駒の架空の競走馬の転生者が主人公の小説を投稿します。もちろんウマ娘にもなり、いずれはこの小説でも登場させようとも思います。尚、これはこちらの小説とはまだ関係ない宣伝ですのでそちらの方で要望──具体的にはそちらの方が早く見たい等──がありましたら活動報告の方にてお願いいたします。



それはともかくこの第38Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は未定です


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第38.1R

前回のあらすじ
閑話により、んなものはねえ。


 トレセン学園某所にて。二代目は呼び出されていた。

 

「アイグリーンスキーここに参じょ──」

 

「ここで会ったが百年目ぇぇぇっ!」

 

 二代目がいきなりラリアットを喰らい蛙が潰れたような声を出しぶっ飛ぶ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 美浦寮の寮長たるメジロラモーヌが二代目に声をかける。

 

「い、一体何が?」

 

「ようもほざくわ! 糞爺!」

 

 190cm超の身長に加え、それを強調するかの如くのスリーサイズ。顔には十字の傷痕と稲妻を彷彿させる刺青をしたウマ娘が世紀末覇王の如く仁王立ちしていた。

 

『糞爺だと? ということは二代目、こいつは──』

 

「げほっ……そう、貴女がボルトチェンジって訳ね?」

 

 先代の言葉を察し、二代目がそのウマ娘──ボルトチェンジに向け発言する。

 

「如何にも。私こそボルトチェンジ。その様子だと、自分の魂から前世は貴様が前世の私の父親だったと聞いているようだな?」

 

『ほう』

 

「じゃあ何で私のことを攻撃するの?」

 

「己の魂曰く『勝ち逃げは許さん』とのことだ。その思いが貴様に対する憎悪となって現れている」

 

『勝ち逃げ? あー、あいつがまだデビューする前の模擬レースのことか?』

 

「何をやってんの……先代」

 

 いくらなんでも大人げない先代の行動に二代目が思わず呟く。

 

『あのな、こっちは現役を離れてからかなり時間が経っているんだぞ。人間年齢80歳超の爺が指導するにはそれくらいしか出来ねえぞ』

 

 

 

 

 

「それよりもクロス、貴女その憎悪をレースで果たしたいとは思わないの?」

 

「む……言われてみればそうだ」

 

「じゃあそういうことでレースで決着を着けましょう」

 

「仕方ない。その方が己の魂も憎悪が消えるらしいからな」

 

 二代目の言葉にボルトが頷き共に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、クロス。本当の本気でかかってこないとあの時のように──」

 

「黙れオカ(差別的用語の為削除されました)」

 

「お、オカ(差別的用語の為削除されました)!?」

 

『そう言えばセン馬*1モチーフのウマ娘見かけないな。そういう言葉は俺じゃなくあいつらにふさわしいというのに』

 

「前世の貴様は父親であったが、少なくとも母親ではなかった。故に口出し無用」

 

「……そうね」

 

「いくぞ。糞爺!」

 

『二代目、軽く捻り潰してやれ。クロスの奴はまだひよっこもいいところだからな』

 

 

 

 

 

「糞爺、緩急ペースなど止めてまともに走ったらどうだ?」

 

『!』

 

「あれから成長したみたいねクロス、いやボルト」

 

「その緩急ペースはマジソンが得意としたペースだ。幾度なく付き合わされたからな。身体が覚えている」

 

「それならこれはどうかな?」

 

 そして二代目が一定のリズムに合わせて走るとボルトもそれについていく。

 

「それでこそアイグリーンスキー、瞬発力だけでなく時計まで正確だ」

 

 二代目のラップタイムは緩急ペースから通常のペースに変えて以来全くといっていいほど変わっておらずまるで時計のように動いていた。

 

「ありがとう。でもそれに気づくのは貴女が初めてよ?」

 

「そうか。なら初出走初勝利も頂こう」

 

「傲慢だね。でもそれが出来ないようにしてあげるよ」

 

 二代目が腹黒い笑みを浮かべ、ペースを上げるとボルトもそれについていく。

 

「そんなペースを上げたところで何も意味はないぞ。それは糞爺が一番わかっていることだ」

 

「もちろん。だけど全く意味がないって訳じゃないよ」

 

「それはどういう意味──」

 

「ディープブリブリテ」

 

「ぶごはっ」

 

 二代目の魔法の言葉(下ネタ)でボルトが吹き出し、腹筋が柔らかくなり体勢を崩す。その隙を見計らった二代目は一気に加速してそのまま模擬レースを終えた。

 

 

 

「き、汚いぞ!」

 

「汚い? あの程度のことで笑う貴女が悪いんでしょう。レース中にはタックルしたり脚を引っ掻けたりするウマ娘もいるんだからこのくらいで汚いとか言っていたらやっていけないよ?」

 

「違う! そっちの意味じゃない。ウマ娘が下ネタを言うなんて下品にも程があると言っている!」

 

 初めて顔を紅潮させたボルトが抗議の声を上げる。

 

「あ、そっち?」

 

『クロスは元々下ネタに弱いからな。それがウマ娘になったことでああなったんだろう』

 

「当たり前だ。今度下ネタを口から出したら関節技で痛い目を見て貰う」

 

「面倒なウマ娘……」

 

「面倒なんじゃない、そもそも──」

 

 ボルト(前世の息子)二代目(前世の父親)に説教するというシュールな光景が生まれ、それをサンデーサイレンスに写真を撮られるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

「よ、ようやく終わった」

 

 それからボルトの台風のような説教が終わり、ボルトが立ち去るとサンデーサイレンスが現れた。

 

「まるで嵐のような奴だったな」

 

 サンデーサイレンスの方を見ると目のハイライトが消えたウマ娘を連れており、その狂気がサンデーサイレンスの狂気と混じりあっていた。

 

「どうもサンデーサイレンス先生。ところでそのウマ娘は?」

 

「アグネスタキオンだ。将来有望そうだからかっさらってきた」

 

「返して来なさい」

 

「えーっ!?」

 

「えーっ!? じゃありません。そもそもサンデーサイレンス先生は──」

 

 二代目がサンデーサイレンスに説教を始めるとサンデーサイレンスがいつぞやに作成した身代わり君を使い逃亡しようとした。

 

「逃がしませんよ、サンデーサイレンス先生。そこに正座しなさい」

 

「ウマ娘に正座は──」

 

「口答えしない。全く、サンデーサイレンス先生がそんなだからゴールドシップが──」

 

 サンデーサイレンスの逃亡を阻止した二代目がサンデーサイレンスを正座させ、再び説教を始める。それを見たアグネスタキオンが一言呟いた。

 

「……全く、説教の内容といい大柄な体格といい似ているじゃないか。まるであのウマ娘と同じだ」

 

 アグネスタキオンの呟きは誰にも拾われることなく、サンデーサイレンスは説教をされ二代目は二度とこんな真似をしないように夜まで説教を続けた。

*1
去勢した牡馬のこと。去勢する理由は気性を大人しくさせる為でこれに成功したのがレガシーワールド




あとがきらしいあとがき
まさかこんなに早く出来てしまうとは自分でも予想外でした。
前回のあとがきで予告した小説の方ですが、一応競走馬編まではダイジェストで書き終わっていますのでそちらの方でオリジナル作品として投稿させて貰います。その時にアンケートで皆様の意見を採用した上で編集してウマ娘として投稿するのか、それとも別作品として投稿するか検討します。



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第39R 皇帝の継承者(なおレース内容)

ふと思い付いたネタ
マーベラスサンデー「ほら少年、応援しに来てくれたからこれをあげちゃうぞー☆マーベラス★」
マーベラスサンデー(以下マベサン)が自分のファンの少年に手作りの赤いリボンをプレゼントする話。

ちなみに史実のマベサンはSS産駒唯一の栃栗毛なのに対してウマ娘のマベサンは黒鹿毛。……まあ栃栗毛は鹿毛とか黒鹿毛とか下手したら青鹿毛に混合されてしまうからそうなったと思いたい。中にはピンクだったりするウマ娘もいますからね

前回の粗筋
ボルト「ここで会ったが百年目ぇぇぇっ!」
二代目「なんか凄いの来た」

前々回の粗筋
まさしくタイトル通り!




 マルゼンスキーとの併せウマの日程、それは朝日杯FS当日に決まった。

 

 

 

「まあ朝日杯FSは出れないからいいけどね」

 

『俺のデビュー自体がお前達で言うところのクラシック級だからな。世界の補正で今年中にデビューは出来てもジュニア級の重賞には出れないようになっているんだろう』

 

「補正ふざけるなって叫びたいよ……ナリブやアマゾンはデビューしているのに私だけまだ決まっていないから尚更ね」

 

『俺のは純粋に身体の調整が間に合わなかったからそうなったが、お前の場合はマルゼンスキー現象*1だからな』

 

「マルゼン姉さんと私が同格ってことなのかな……」

 

『頭角を表し始めたチームリギルのナリブやヒシアマよりも強いことは知られている。それに加えて昨年の年度代表ウマ娘メジロパーマーを追い詰めただけじゃなく今年の宝塚記念ウマ娘タマモクロスを何度もボコしている。そんなウマ娘に誰が好き好んで挑むのか不思議なくらいだ』

 

「でもワンチャンあるかもしれないじゃん。あのナリブでもデビュー戦で負けたんだよ。それとほぼ同着に近い着差しかつけられたなかった私相手でもワンチャンあるって思うじゃん」

 

『派手に暴れ過ぎたんだろうな』

 

「先代ぃ……」

 

 先代にバッサリと切り捨てられその一言しか言葉を発することが出来なくなり涙目になる二代目。身長175cmの大柄なウマ娘には不釣り合いな涙目だった。

 

 

 

 それから暫くし、マイルCSはバンブーメモリーを抑えオグリキャップが勝ち、JC当日。チームトゥバンからはヤマトダマシイのみがJCに出走することになった。

 

 それというのもJCに出られるのがヤマトダマシイ以外にいないからだ。ヤマトダマシイの次に稼いでいるマティリアルは適性距離から大きく外れており、メリーナイス以下は完全に賞金不足。故にヤマトダマシイしか出られないという悲惨な状況だった。

 

 その一方で他のチームはオグリキャップ、スーパークリーク、イナリワン、タマモクロス、メジロパーマー、バンブーメモリー、ウイニングチケットと言った豪華なメンツが揃い、地方から南関東三冠を制したロジータ。海外勢からは芝12F世界レコード所持者のホークスター、ニュージーランドの名ウマ娘ホーリックス等有力なウマ娘達が出走登録していた。

 

「アイグリーンスキー、ヤマちゃんの調子はどう?」

 

 東京競バ場にて騒然とする中、二代目に話しかけるウマ娘がいた。

 

「サクラスターオー先輩!? いつ退院したんですか!?」

 

「つい三日ほど前にね」

 

「いや良かった……これならヤマトダマシイ先輩も気合い入りますよ!」

 

「まあ応援ならここに来なくても出来るんだけれども、今後宝塚記念やJCに出走出来ないことを思うとつい来ちゃったって訳」

 

「宝塚記念とJCに出られない?」

 

「そうよ。故障しやすくなった私が出られるのは天皇賞春秋、そして有馬記念の3レースのみ。天皇賞春じゃなく宝塚記念に出走しても旨味はそんなにないし、JC1勝するよりも天皇賞秋と有馬記念勝った方が稼げるしね」

 

『まさしく俺達の時代だな。あの時代の天皇賞春は花形だった……それがいつしか宝塚記念にとって代わられ情けないことに天皇賞春は実質GⅡだの何だのと散々に言われるようになってしまったからな』

 

 先代の世界もそうだが史実の世界──つまり我々の世界も近年の天皇賞春は低レベルそのものである。

 

 その理由は80年代とはうって変わってスピードを求められる時代となったからだ。その為鈍足ステイヤーは不要の存在となり天皇賞春はその鈍足ステイヤーが勝ちやすい傾向にある。

 

 つまり天皇賞春を勝っても必ずしもスピードがあるとは限らないからで種牡馬入りしても不人気になりがちだ。

 

 種牡馬入りするなら天皇賞春一つ勝つよりも他の牡馬牝馬混合でかつ古馬のGⅠ競走を勝った方が種牡馬、あるいは繁殖牝馬としての価値は高い。

 

 

 

「まあサクラスターオー先輩が無事に走れるのならいいですけど……大阪杯には出走しないんですか?」

 

 また天皇賞春の価値が低くなった要因として大阪杯がある。大阪杯は牡馬牝馬混合の古馬限定のGⅠ競走であり天皇賞春と共通するところがあるが距離が2000mとマイラーから中長距離を得意とする馬が集結するGⅠ競走であり、その人気は高い。

 

「大阪杯もいいんだけれどもね……その前に名門サクラ家で天皇賞を制したのはユタカオーのみで、しかも天皇賞春のほうじゃない。伝統ある長距離の天皇賞春を制してこそ初めて名を上げることが出来るのよ」

 

「それだけじゃないでしょう、スターオー先輩?」

 

「スターオー、何のことかわかんな~い」

 

「スターオー先輩がそういうぶりっ子をする時は誤魔化そうとするときとヤマトダマシイ先輩から聞きましたよ?」

 

 即座に突っ込みを入れてサクラスターオーを硬直させる。

 

 

 

「な、何でバレているの……?」

 

「そりゃ一人称が私からスターオーになったり猫なで声で話したら否応なしにわかりますよ」

 

「じゃあ、いつも一人称をスターオーにして猫なで声にすればバレない?」

 

「それやったら頭を打ったと勘違いされて精神科に入院させられますよ」

 

「酷い言われよう……」

 

「それよりもJC始まりますよ」

 

 JCが始まると聞いてスターオーが真顔になり、ゲートの方へ視線を向ける。

 

 

 

【JCスタートしました! やはりハナに立ったのはメジロパーマー、続いてタマモクロス、スーパークリーク、バンブーメモリー。その後ろに集団、ホーリックス、オグリキャップ、ウイニングチケット、イナリワン、ホークスターが並んでいます】

 

「メジロパーマー先輩、かなり速いペースですね。スターオー先輩ならどうします?」

 

「メジロパーマー先輩の恐ろしいところってぇ、体力を削らされるところだから、スターオーはぁ最後方で追い込みをかけるかな?」

 

「……」

 

「……ごめん。実際やってみると自分でも気持ち悪いわ」

 

 ジト目で見つめる二代目に嘔吐するように舌を出し、顔を顰めるサクラスターオー。カオスだった。そんなカオスな状況はこのJCにも影響していた。実際は全く関係ないが。

 

 

 

 1600mを通過し、スーパークリークやイナリワンといったウマ娘達が脱落していく。

 

「こ、こんなペースでこのままいったら自滅するだけよ!」

 

「そうでもないと思うが?」

 

「なっ──」

 

 最後方にいたヤマトダマシイがホークスターを抜かし、メジロパーマー達に迫る。

 

【おっとヤマトダマシイが今ホークスターを抜かして捉えに行きました!】

 

 メジロパーマーの暴走により1800mの通過タイムが日本レコードを上回り、それについていったのがホーリックス、タマモクロス、オグリキャップ、ウイニングチケット、ヤマトダマシイ。他のウマ娘は全員ついていけず「無理ー!」と叫ぶことになった。

 

【メジロパーマーが逃げに逃げて最後の直線! メジロパーマーがまだ先頭! 二番手にはタマモクロスにホーリックス、そしてオグリキャップ、ウイニングチケット、ヤマトダマシイが来ている!】

 

 

 

「ここでまとめて返り討ちにしたるわ! 覚悟せぇ!」

 

 メジロパーマーが二の脚を使い加速するもタマモクロス、ホーリックスが並びそれを抜かしていく。

 

「舐めないで貰いたい! こっちはわざわざニュージーランドからやって来たのに手土産一つも持たずに帰国出来るか!」

 

「何言っとんのかわからへんけどウチの尻を拝めるのを手土産に帰れや!」

 

 タマモクロスがホーリックスのニュージーランド英語を聞きそう返すと後ろからウイニングチケット、オグリキャップが二頭に並んだ。

 

「ダービーウマ娘の私だっているんだぞーっ!」

 

「その年のダービーを勝ったところで必ず勝てる訳ではない。JCを勝つのは私だ」

 

 三つ巴ならぬ四つ巴の激戦に一歩リードしたのはホーリックスだった。

 

【ホーリックス先頭、ホーリックスだ!】

 

 

 

 またもや日本のウマ娘が勝てない。そう観客達が絶望する。

 

 JCはシンボリルドルフ以来勝ち星を挙げていない。そんな中現れたのが地方からやって来たウマ娘、その英雄達としのぎ合うトレセン学園のウマ娘、そしてダービーで激戦を繰り広げたウマ娘。これだけの面子を揃えば勝てる。そう観客達は期待していた。だがその期待はホーリックスによって裏切られてしまった。

 

 

 

 だがその絶望から救い出す蜘蛛の糸──大外から弾丸が飛んできた。

 

 

 

【ヤマト来たヤマト来たヤマト来た! 日本のヤマトダマシイがやって来た!】

 

 ヤマトダマシイが大外から豪快にオグリキャップ達を差しきり、残るホーリックスに並んだ。

 

「そんな……」

 

「あ……いつ、めぇ……!」

 

 タマモクロス達が歯を食い縛り、何としてでも差そうとするも誰も差せずむしろ置き去りにされてしまった。

 

「このJCだけは譲れない……絶対に!」

 

「絶対に勝つ!」

 

 ヤマトダマシイとホーリックスが邪魔者はいないと言わんばかりにデットヒートを繰り出し、闘志を互いにぶつけ合う。

 

「これで終わりだぁぁぁっ!」

 

【ヤマトダマシイだーっ! ヤマトダマシイ一着でゴールイン! 二着にホーリックス、続いてタマモクロス、オグリキャップ、ウイニングチケットは三着争い!】

 

 ヤマトダマシイが最後の最後でホーリックスを差しきり、栄冠を勝ち取った。

 

 

 

 しばらくし三着にタマモクロスが確定するとウイニングライブが始まった。その最中でホーリックスがライブ内容を知らなかった為に、かなり時間を喰ったのは言うまでもない。

 

「ヤマちゃん、いいえヤマトダマシイ。おめでとう」

 

 その言葉をかけるとヤマトダマシイが笑みを浮かべ、対応する。

 

「スターオー先輩……ありがとうございます。もしここにスターオー先輩がいなかったら勝てなかったでしょう」

 

「それじゃリハビリが終わるまで観戦するわよ?」

 

「リハビリに影響をきたさないように頼みますよスターオー先輩」

 

「勿論。だって私はヤマちゃんのライバルなんだから。体調管理が出来ずして何がライバルよ。リハビリを終えたその時が貴女の全盛期の終わり。何故なら私がヤマちゃんに全部勝ってしまうからね」

 

 

 

 このサクラスターオーのライバル宣言によりメディアがヤマトダマシイの動向を気にするようになり、チームトゥバンも大きな話題となった。

*1
マルゼンスキー現象とはある馬が強すぎて他の競走馬が出走取消、あるいは出走を回避してしまいレース不成立になってしまうことである。尚、ほとんどの競走馬の父系の先祖であるエクリプスもマルゼンスキー同様に他の競走馬がいない現象に陥ったが規則が異なりレース不成立とはならなかった。その為一頭で走ることになり「唯一抜きん出て並ぶ者なし」──つまり「Eclipse first,the rest nowhere」という諺まで出来てしまった




後書きらしい後書き
二代目とかグリーングラスとかヤマトダマシイとかサクラスターオーとかのウマ娘の支援絵が欲しい……ほぼ全部じゃねえか!

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第40R 丸善と二代目の併走

ふと思い付いたネタ
セントサイモン「魔女狩りじゃぁぁぁーっ!」
スイープトウショウ「ちょっとちょっとなんでこうなるのよーっ!」
人を殺すほど気性が荒いとまで言われたセントサイモンは猫嫌いであり、黒猫は魔女の象徴とされていた。つまり魔女に憧れるスイープトウショウも粛清対象になる。ちなみにSSの母系の祖先ラフレッシュはセントサイモンの娘とは思えない程大人しかったとのこと。

前回の粗筋
ヤマトダマシイ「敵は東京レース場にあり!」


 トレセン学園某所にて、朝日杯FSをナリタブライアンが勝利を納めている丁度その頃、今この場で騒然とするものは誰もいない。むしろ厳粛とした程でウマ娘三名しかいない。

 

「……行くわよ」

 

「マルゼン姉さん、全力で行かせてもらいます」

 

「それじゃ、フジキセキ。スタートの合図よろしくね」

 

「はい」

 

 そのウマ娘はマルゼンスキー、二代目、そしてフジキセキの三名だった。フジキセキがここにいる理由はサンデーサイレンスが呼び寄せ、フジキセキに勉強させる為だ。朝日杯FSを見るだけでも勉強になるがこの二人はシニアのGⅠ競走でも十分に勝てるだけの実力がある。しかしマルゼンスキーは怪我の影響等が重なり出走出来ず、二代目はそもそもジュニア級で出走する権利すらない為に実績がない。

 

 

 

 ──実績こそないが超一流の実力ウマ娘達の併せウマを見る機会などそうはない。はっきり言って朝日杯よりも余程有意義だ──

 

 

 

 そうフジキセキが思うのは無理なく、フジキセキは他のクラスメイトに混じらずにこちらに来た。

 

「用意、スタート!」

 

 フジキセキの合図により二人が駆け抜けるとマルゼンスキーが先行し、二代目がその後ろについていく。

 

 

 

『流石スーパーカーと呼ばれるだけあって速いな。だが勝てない訳じゃねえ』

 

 先代がそう助言すると二代目は無言で頷く。

 

『マルゼンスキーはスピードにものを言わせて勝つが、実際の所はステイヤーだ。尤もそれに気づいているのは極少数でマルゼンスキー自身も気づいていない……』

 

 聞くだけでどれ程絶望的な情報か、と二代目が思う。短距離のスピードでしかもそれが延々と続く。勝てる要素がないと言われたも当然だ。

 

 しかしそんな二代目の思いを無視して先代が話しを続ける。

 

『だが俺の知るマルゼンスキーは短距離が多く長くても1800m。こっちのマルゼンスキーの最長距離であるWDT(ウィンタードリームトロフィー)でも2400mだ。400mも違えばもはやそのレースは別物になるのに今回の距離は3200mだ。走り方どころかペースすらも乱れる可能性もある。いくらスピードのあるステイヤーと言えどもペースも走り方もわからなきゃ隙が出来る。その隙を付けるのはウマ娘の中ではペースも走り方も熟知しているシンボリルドルフくらいしかいない』

 

 ──尤もそのシンボリルドルフですらギリギリだが──

 

 と付け加え、更に絶望させて走らせる。しかしこの程度で二代目の心は折れずマルゼンスキーについていく。

 

 

 

 その一方でフジキセキは自分の前世とも言える魂──フジキセキ(競走馬)の声に耳を傾ける。

 

『……どうやらこの勝負見えたな』

 

「何故そう思えるのかな? もう一人の私」

 

『スピードで劣るはずのシンボリルドルフがWDTでマルゼンスキーに勝てる理由はシンボリルドルフが完璧な立ち回りをしてこそだ。所謂頭脳戦にある。しかしその頭脳戦をするにも土台となるスピードがなければ意味がない』

 

「それが先輩が足りないと?」

 

『そうだ。もっともこのレースは勝ち負けを競うものじゃなく課題を見つける為のものだから勝ち負けに拘る必要は何処にもない。ニジンスキーは、マルゼンスキーやラムタラにあってアイグリーンスキーにないものを身に付けさせる為にこの併せウマをセッティングしたんだろう。だがスピードは簡単に身に付くものじゃない。リギルのトレーナーはそれを見抜いていたからこそ完璧な立ち回りで捩じ伏せたアイグリーンスキーよりもスピードのあるナリタブライアンやヒシアマゾンを取った。立ち回りさえ理解してしまえばあいつらの方が上だ』

 

「……なら聞くけどそっちの世界のナリタブライアンとヒシアマゾンはアイグリーンスキーに勝ったのかい?」

 

『いやヒシアマゾンは勝てなかった。しかしナリタブライアンはダービーで勝ってみせた』

 

「今の私達の状況同様に先輩も当てはまるんじゃない?」

 

『かもしれないな。だが今のままじゃあいつが勝てないのば事実だ。それこそ何か切り札でも隠し持ってない限りはな』

 

 

 

『一流の走者は距離によって走り方が違う。マルゼンスキーはそれがわからないのに対してお前はそれを理解している。つまり一瞬のキレならお前の方が上だ。そのキレを活かせかつ、マルゼンスキーのスピード調整が難しい距離にしたんだからな』

 

 ──はっきり言ってセコい上に敗北フラグが立っている──

 

 二代目が一瞬だけそんな感情を出てしまうがマルゼンスキーを打ち負かすことに集中する。

 

「──っ!?」

 

 残り400mを切り、二代目が怒涛の追い上げを見せるとマルゼンスキーが息を呑み、汗が二倍に増え、マルゼンスキーが思わず息を呑む。しかしこの世界のマルゼンスキーはシンボリルドルフに敗北しているという経験もあり動揺も僅かなものですぐに平静になる。

 

 

 

「冗談はよし子ちゃんよ!」

 

『そんなんだから中古のスポーツカーだの何だのと呼ばれるんだよ』

 

「誰が中古ですって!」

 

 何故か先代の発言にマルゼンスキーが反応し加速する。

 

『俺の声が聞こえるのか不明だが長いことご苦労だったな。いい加減殿堂に入っちまいな』

 

「この私を舐めるんじゃないわよ! ましてやグリーングラス先輩に負けたウマ娘に負けたなんてことになったら長距離向きじゃないって証明するのと同じよ!」

 

 確かにここで二代目がマルゼンスキーに勝てばグリーングラスが頂点になりマルゼンスキーが最下点となりTTGが揃った有馬記念*1に出たとしても4着だっただろうと永遠に言われることになる。それだけは何としてでもマルゼンスキーは避けたかった。

 

 しかし二代目にはそんなことは関係ない。むしろ二代目はこの場にグリーングラスがいようが、TTG全員いようが勝てないレースをするつもりでありマルゼンスキーが勝てないのか仕方なかったと言わしめるレースをするだけだった。

 

 

 

 マルゼンスキーが差し返し、二代目に差をつけ始めると二代目が呟いた。

 

「確かに私単体じゃマルゼン姉さんには手も足も出ない……だけどマルゼン姉さん、私は一人じゃない。今までの走りはトウショウボーイ先生と私の二人分でしかない!」

 

 二代目の叫びが響きそれと共に二代目が加速した。

 

「そしてこれがテンポイント先輩とグリーングラス先輩の分!」

 

 更に加速しマルゼンスキーに並んだと同時に前傾姿勢を取る。

 

「最後に初代アイグリーンスキーの分!」

 

 その宣言と共に二代目がマルゼンスキーを更に差し返した。

 

「初代だかなんだか知らないけど、私にも思いがあるのよ……! これが奇しくも私と戦えなかったシアトルスルー*2の分よ!」

 

 マルゼンスキーが加速し、二代目をあっさりと差し返すと二代目に動揺が走る。

 

「なっ……!」

 

「ナリタブライアンやヒシアマゾンに勝ったのに関わらず貴女がトレーナーに評価されなかった一番の理由、それはどんなに突き放しても諦めない勝負根性に恐怖したから。ギエナのトレーナーは競り合いに強くさせるトレーニングをさせていたけど貴女にそれはない。何故なら貴女は立ち回りが完璧過ぎるから底力が出せず私やシンボリルドルフの領域までたどり着けないってことよ!」

 

 それからマルゼンスキーが徐々に突き放していくがそれは停滞した。

 

「それはマルゼン姉さんも一緒でしょう!」

 

 目が血走り、二代目がマルゼンスキーに必死に食らいつく。その様子はフジキセキがドン引き程であった。

 

「天まで駆け抜けるなら地の果てまで追いかけてやるぅっ!」

 

 その姿はまさしく執念そのものであり突き放された差を徐々に取り返していった。

 

「アイリちゃん、後5m長ければ勝っていたかもしれないわね。でも私の勝ちよ!」

 

 マルゼンスキーが二代目に1バ身差をつけてゴールし、併せウマという名前の模擬レースは終わった。

 

 

 

 

 

 そして有馬記念はヤマトダマシイとタマモクロスが急に発熱した為に回避し、イナリワンが勝ち、ビワハヤヒデが二着に食い込み三着にスーパークリークが入り終えたが、観客や一部のウマ娘はそれどころではなかった。最有力候補のオグリキャップは5着と散々たるものだったからだ。

 

「金返せイナリ!」

 

「うるせえっ、あたしを信頼しなかったてめえらが悪いんだろうが!」

 

「オグリが可哀想だろうが!」

 

「じゃかましい! オグリが可哀想なんてただの同情じゃねえか! あたし達ウマ娘はな、同情の応援はいらねえよ! それだったら悪役としてブーイングされた方がマシだ!」

 

「おう上等だこらぁっ! 何度でもブーイングしてやるよ! ブーブー!」

 

「子供かお前ら! ブーイングってのはこうやるんだよ! ファ(差別的表現の為、削除されました)」

 

 中指を立てイナリワンが観客のブーイングに応える。ちなみにイナリワンはこの後シンボリルドルフに滅茶苦茶説教された。

 

 

 

 ウイニングライブが終わり、オグリキャップが影を落とし顔を伏せているとタマモクロスが声をかけた。

 

「……オグリ、安田記念の勝負根性はどこに行ったんや?」

 

「JCだ。JC以来何故か食欲が出ないんだ。だから力が出ない……」

 

「食欲がない?」

 

「JCに出走したホーリックスのことを考えると手が止まるんだ。あの時、もっと少し太っていて見映えが良くなかったのでないのかとか大食いのウマ娘は嫌われるのでないのかと、後悔することがある」

 

「アホかぁっ!」

 

 タマモクロスがオグリキャップをどつき回し、手を出した。

 

 

 

「な、何をするタマ!?」

 

「それで良い結果が出せるならええよ。だけど無茶はあかん! ましてやレースの為じゃなくみっともない姿を改善する為のダイエットやろ。そんな舐めた態度でレースに挑むんはウマ娘全員を侮辱しとることになる」

 

「あっ……!」

 

「ええかオグリ。次のレースまで治しておけや。治したらあんたが出禁になっていない食べ放題に連れていったる」

 

「本当だな!?」

 

「ホンマや。約束したる」

 

「……待っていろ、今すぐ改善してみせる! じゃあな!」

 

 オグリキャップがその場を去り消えるとタマモクロスが呟く。

 

「まあ来年はハヤヒデの時代になるけどな。こればかりはどうしようもないでオグリ」

 

 オグリキャップが立ち去った方に顔を向け、呟くタマモクロス。

 

 

 

 タマモクロスがそう告げたのには理由があり、オグリキャップの食事に関する改善は長くなり不調が見込まれるのと、ビワハヤヒデ本人が中距離でも力を見せたスーパークリークを抑える程の実力を持っているからだ。

 

 今回勝ったイナリワンは偶然によるものが大きく、ビワハヤヒデはその点不安はない。イナリワンともう一度走れば十中八九ビワハヤヒデが勝つ。そう確信させる力がビワハヤヒデにはある。

 

『本当にそうか? 俺の知るビワハヤヒデの奴はあの後GⅡ競走しか勝てなかった』

 

「でもそれはセイザバラットちゅう馬がおったからやろ? メジロパーマーがこの世界で大暴れしたように勝てへん理由にはならん」

 

『それ以上にスーパークリークが活躍する。奴はイナリワンが勝利を納めた有馬記念の後、大阪杯、天皇賞春を勝っている。ビワハヤヒデの最大の障害はそこだ』

 

「確かに……」

 

『それでお前はどうするつもりだ? 国内のレースには出ず海外遠征でもするのか?』

 

「そやな。ハヤヒデの邪魔をしたくあらへんし、海外遠征しかない。まずはドバイや!」

 

 翌日タマモクロスのドバイ遠征の話が学園中に知れ渡り騒然となるがそれはまた別の話だ。

*1
第22回有馬記念参照

*2
史上初めて無敗のまま米国三冠を制した馬でマルゼンスキーと同期である




後書きらしくない後書きというかもはや宣伝と愚痴
「皇帝、帝王、そして大帝」の主人公マグナデルミネがウマ娘になったときの口調が普通すぎて没になる……設定を考えろバカめと過去の自分に言ってやりたい。

それはともかくこの第40Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は未定です


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クラシック級編
第41R 二代目デビュー&共同通信杯


ふと思い付いたネタ──というか先代の過去をウマ娘版にしたらというif小説

東京優駿、最後の100m。ナリタブライアンと二代目が並び、壮絶な叩き合いが繰り広げられる。
【和製ミルリーフか、ニジンスキーの後継者か、二人の叩き合い! 凄まじいデッドヒートだ!】
二代目、ナリタブライアン共に互いに譲らないデッドヒートに観客達が興奮し、地面を揺らすほどの歓声を上げる。

そんな時、悪魔の呟きが二代目に囁いた。
「ナリブー知っている?」
「何をだ!」
「おハナさんの乳首、彼氏に吸われ過ぎて両乳首常に伸びたままなんだよ!」
「ぶごはっ」
案の定、ナリタブライアンは笑ってしまい息を一瞬だけ乱してそれまでの走りが崩れ失速した。

【あーっと、ナリタブライアン失速! アイグリーンスキー、このまま先頭でゴールイン!】
「どうだナリブー、サンデーサイレンス先生情報の恐ろしさ思い知ったか」
『……どうしてこうなった』
ナリタブライアンを蹴落としたことに二代目が何の罪悪感を感じないことに対して、先代は唸り、呟く。
【おっとこれは審議、審議です。一体何が起こったのでしょうか】
『どうやら俺と同じ結果になりそうだな』
「え?」
『俺は競走馬成績で三度の敗戦がある。そのうち国内の一敗はナリタブライアンに対して斜行──要は競走妨害をして二着に降着させられたんだ』


 有馬記念が終わり、年度代表ウマ娘の表彰式。

 

 大阪杯、安田記念そしてマイルCSを勝利しその他のGⅠ競走も好走したオグリキャップが年度代表ウマ娘に選出され、GⅠ競走2勝のヤマトダマシイがクラシック級最優秀賞、朝日杯FSを勝ったナリタブライアンがジュニア級最優秀賞を受賞し年末を終える。

 

 

 

 そしてクラシック級だったウマ娘はシニアに、ジュニア予備とジュニア級のウマ娘達は、それぞれジュニア級とクラシック級にクラスが変わってから時が流れ二月半ば。共同通信杯が開催される日となった。

 

 しかしほとんどが共同通信杯を見に来たのに対して一部のウマ娘、主に二代目に関わりのあるウマ娘達はそちらに注目していた。その共同通信杯の大本命もそちらに注目していた。

 

【アイグリーンスキーまだ先頭、まだ先頭! アッツライが追い詰める! しかしまだアイグリーンスキーだ】

 

『おいまだ抑えろ。まだだ!』

 

 先代の声に従い、二番手のウマ娘──アッツライにギリギリ迫るスピードにする。

 

『よし、行け!』

 

 そして残り200m時点でようやく先代から指示が飛びアッツライを突き放してゴール板を通過した。

 

【アイグリーンスキー、二バ身差で勝ちました。二着にはアッツライ、そして離れてムーンライブがついていま──ああっと!? アイグリーンスキー、ゴールを過ぎてもまだ止まりません! まだアイグリーンスキーの中ではレースは終わっていない!】

 

「な……!?」

 

「あれだけ走って体力尽きないなんて、なんて化け物……!?」

 

 二代目はそのまま余分に400m走ってようやく減速した。

 

【ようやく停止しました。しかし何だったんでしょうか?】

 

 

 

「ウイニングライブどころかウイニングランまでやるとはお疲れだ。グリーン」

 

「ナリブー……あれをウイニングランと思っている内は日本ダービーに勝てないよ?」

 

「お前こそそんな調子で日本ダービーに間に合うのか?」

 

「ヤマトダマシイ先輩と同じローテーションで行けば何一つ問題ないよ」

 

「弥生賞や皐月賞には行かないのか?」

 

「確かに皐月賞は欲しいけど、皐月賞時点の私が万全じゃない状態でナリブーに勝つのは無理。勝てないレースに挑んで調子狂ったら元も子もない。だけどダービーの時点なら万全の状態じゃなくても勝てる」

 

「それは随分大口叩くな?」

 

「もう三度敗北したからね。一生分の敗北を味わったよ」

 

『確かに俺の生涯戦績の敗北の数は三回だから一生分の敗北ってのは間違いじゃないな』

 

「ならその一生分をさらに増やしてやるだけだ。じゃあな」

 

 ナリタブライアンがその場から去り、共同通信杯のレースに出走する。もちろんナリタブライアンはその共同通信杯に勝利し、皐月賞の最有力候補として名前を上げた。

 

 

 

「皐月賞はナリタブライアンで確定だが、残る二冠はアイグリーンスキーが来そうだな」

 

 サンデーサイレンスが腕を組んでそう答えると隣にいたウマ娘、ジェニュインが尋ねる。

 

「まだデビュー戦を飾ったばかり、それもウイニングライブも嫌がっていたウマ娘がですか?」

 

「ウイニングライブはレースに関係ない。海外のウマ娘でウイニングライブを強いられたせいで気性が荒くなった奴もいる。我が師匠ヘイローとかな」

 

「あの米国のヤベー奴ですか?」

 

「流石にヤクザ当然のセントサイモンやダイヤモンドジュビリー程ではないにせよ、相当気が荒い。余が子供の悪戯なら向こうは真剣と言える程やることがえげつない……かつてのチームギエナのトレーナーと同じようなものだ」

 

「うわぁ……凄くやる気失せますね」

 

「風が少しでも吹けばやる気をなくすお前が何をいうか」

 

 尤もな指摘を受けジェニュインは黙る。このジェニュインはとにかく神経質かつ気紛れ屋な部分が多く風が吹いただけでやる気をなくすほどだ。しかしその素質は確かなものでジュニア級の中ではフジキセキに次ぐものがある。

 

 

 

 そしてタマモクロス、このウマ娘もまた二代目を見ていた。

 

「共同通信杯にグリーンがおったらどないなっていたやろな?」

 

『さあな。だが仕上がり具合で言えばナリタブライアンの方に分がある。だが立ち回りはグリーンの方に分がある』

 

「へっ、相性しだいって訳かいな」

 

『相性はわりと重要なものだ……オグリキャップが年度代表ウマ娘に選出されたのは地方からやって来たという贔屓から来るもんじゃない』

 

「言われんでもわかっとる。ウチがGⅠ競走1勝なのに対してオグリは2勝。だけどウチとオグリが出たレースはウチが全部先着しとるのは事実や」

 

『ヤマトダマシイもな』

 

「そう言えばあいつに一回も先着しとらへんな。海外行く前に大阪杯行ってケリ着けた方がええかな?」

 

『ドバイ遠征ならしてもいいだろう。ヤマトダマシイに勝てなかった理由はあいつがオグリキャップやお前がいてこそ力を発揮したからだ』

 

「そんなもんなんか?」

 

『ヤマトダマシイの実力はお前達に劣るが立ち回りが上手く、お前達の実力を逆に利用されたんだ。ところが海外にお前をマークする奴はいない……十分に勝ち目はあるし、立ち回り次第では圧勝するぞ』

 

「そういうことかいな」

 

 タマモクロスが納得し頷くとら何故かサッカーboyを引き連れた二代目が声をかけた。

 

「タマモクロス先輩」

 

「ハロー。Mrs.タマモ」

 

「何でミセスだけ滑らかな英語なんやねん! ちゅーかウチはまだ未婚や!」

 

「子供扱いしても怒って、大人扱いしても怒る。思春期の子供ですね」

 

 その瞬間タマモクロスの血管の切れる音が響いた。

 

「うるさいわアホー!」

 

「身代わり君8号!」

 

 タマモクロスの口にサンデーサイレンスをモチーフにした人形が咥えられるとサッカーboyが親指を立てる。

 

「んがぁぁぁっ!」

 

 タマモクロスが憤怒し荒れ狂うと二人が顔をあわせて頷いた。

 

「よし撤収っ!」

 

「ラジャー、Miss.Airi」

 

「待たんかいおどれらぁぁぁっ!!」

 

 目を三角にしたタマモクロスが二代目とサッカーboyを追いかけるその様子はまるでGⅠ競走のようであった。




後書きらしくない後書きというか思い付いたネタシリーズ
転生悪役令嬢物の主人公がキングヘイロー、ざまぁされるヒロインがスペシャルウィークだったら
【日本ダービーを制したのはキングヘイロー!逃げ切りましたーっ!】
スペ「なんでよぉぉぉっ!史実やアニメだと私が勝ってんのになんでヘイローが勝つのよぉぉぉっ!?」
キング「それですわ。スペシャルウィーク、主人公という役割に胡座をかいて努力しなかったのが貴女の敗因です!」
割と想像出来てしまうけどそこまで持っていける文才がない……


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第42R シニア勢の前哨戦1と海外遠征のタマモクロス

丁度二周目となるこの日に間に合いました……前年は間に合わなかったので安心しました。

ふと思い付いたらシリーズ
もしも【たいようのマキバオー】のキャラ、フィールオーライがウマ娘になったら
金とデザインされたプロレスマスクを被ったフィールとそれを紹介するウララの描写。

SPウィーク「ウララちゃん、そのウマ娘は?」
ハルウララ「金太だよ!」
フィール「え!?ほら、違うでしょ英語で格好いい名前だよね」
ハルウララ「えーでも……」
フィール「そ・う・だ・よ・ね!」
ハルウララ「そ、そういえばそうだったような……そうキンタマン!」
フィール「やっぱり金太でいいですよー♥️」
L Kindle「Wow!それだったら間を取って──」
フィール「間はとらないで!……アトデシメル」
ハルウララ「ゴメン」
ウンス「ねぇ……あれって」
グラスW「言わぬが花、ですよ。セイウンスカイさん」

……誰かフィールオーライ(ウマ娘)の小説書いてくれないかな?


前回の粗筋
二代目「私のデビュー戦勝ったよ!」
ナリブ「共同通信杯勝ったけど何か?」


 阪神大賞典

 

 昨年この阪神大賞典を勝ったメジロパーマーが天皇賞春を勝っているだけでなく、天皇賞春を制した数多くのウマ娘がそのレースを制しており、このレースを制した者が天皇賞春を制すると言っても良いほど重要なレースだ。

 

 この阪神大賞典で昨年菊花賞を勝ったビワハヤヒデと皐月賞を勝ったナリタタイシンが対決する。

 

 ビワハヤヒデは菊花賞ウマ娘ということや前走京都記念を勝っていて勢いに乗っていることもあり圧倒的な支持を得られ、実質一強状態であった。

 

 その理由は有力候補であった昨年の阪神大賞典を制したメジロパーマーとタマモクロスがそれぞれ長期休養と海外遠征という理由で不在であるのと、ナリタタイシンは菊花賞で惨敗したことが原因で人気を落としていたからだ。もし昨年皐月賞を勝てずにいたらそれこそ大穴扱いされても仕方ない程の扱いだった。

 

【ナリタタイシンが迫る、が勝ったのはビワハヤヒデーっ!】

 

 昨年の三冠レースを分けあった二人が上位独占。この二人、特に勝ったビワハヤヒデが天皇賞春の最有力候補として改めて名乗りを上げる。

 

 

 

『やはり勝ったか』

 

「うん。強いね」

 

『俺の現役の頃は阪神大賞典を制する者は天皇賞春をも制すという格言があるくらいの安定感がある。例外と言えばセイザ兄貴や俺くらいのものだ』

 

「異様なまでに強くないとそのジンクスを破れないってこと?」

 

『異様なまでにとまではいかないが大体は勝つ。昨年盛り上げたウマ娘の中で阪神大賞典を勝たずに勝ったのがスーパークリーク、イナリワンだ』

 

「!」

 

『イナリワンは阪神大賞典こそ勝てなかったが阪神大賞典出走組だ。実質スーパークリークしかいないようなものだ』

 

「先代は?」

 

『俺か? 俺は前哨戦不出走で連覇した。お前達でいうクラシック級の時に結構無茶したせいで故障しやすくなってな……ゆったりとしたローテーションを組んで確実に勝つことに方向転換したんだ。だからラムタラと闘った年はマッチレース含めても6戦しかしていないし、それ以降も4戦、3戦、1戦と年々減ってそのまま引退だ』

 

「そうだったんだ……」

 

『まあ最後の年以外は年度代表馬になれた上にラストランのJCで有終の美を飾れたから文句はねえよ』

 

 先代の声はいつもより穏やかで不満どころか満足すらしていた。

 

 

 

 その一方で欧州では栗毛のウマ娘が危篤状態にあった。

 

「ラムタラ大丈夫か!?」

 

「大丈夫……」

 

 その栗毛のウマ娘の名前はラムタラ。UAEダービー*1に出走登録していたがそれを取り消し、治療に専念していた。

 

「全くあいつはどこに行ったんだ!?」

 

 そしてそれを心配する男はラムタラのトレーナーではなく、欧州のトレセン学園の健康担当スタッフであり、ラムタラのトレーナー本人はラムタラが危篤状態にあるにも関わらずこの場にいなかった。

 

「トレーナーなら私の為に奔走している。だから彼を責めないで」

 

 ラムタラが咳づきながらトレーナーを擁護するとスタッフかため息を吐いた。

 

「確かにお前のトレーナーは優秀だが、同時に非情な男だ。故障したら死ぬまでこきつかうような奴だぞ?」

 

「あの人を悪く言わないで!」

 

 ラムタラが激情し、睨み付ける。

 

「私はあの人のおかげでデビュー戦で準重賞を勝つことが出来た。UAEダービーこそ棒に降ったけど英ダービーは出られる」

 

「無茶を言うな、第一お前の身体は走るどころじゃないんだぞ!」

 

「偶々今は不調なだけで無茶じゃない。あの人の行動が正しいってことを証明してみせる」

 

「頑固な奴だ……だがそこまで言うならあいつに従えよ?」

 

「もちろん」

 

「儂は健康係としてやれることをやる。トレーニングの前後は儂のところに来てケアするんだ。いいな?」

 

「うん」

 

 ラムタラが頷くのを確認しスタッフが立ち去るとラムタラが眠りにつく。ラムタラはその後脅威の回復力を見せ約3ヶ月後の英ダービーに出走した。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてUAEダービー当日。この日はドバイミーティングと呼ばれる国際招待競走開催日であり、同日に行われる重賞競走のことを指しUAEダービーもそれに含まれている。

 

 ラムタラが出走するはずだったUAEダービーはドバイのウマ娘が勝利し、その他多くの重賞競走もドバイのウマ娘が独占した。

 

 

 

【マークオブエスティーム*2圧勝! またまたドバイのウマ娘が勝ちました!】

 

 ドバイターフまで競走が終わりその次のレース、日本のウマ娘達が最も注目しているであろうドバイシーマC(クラシック)のパドックに出てきたのは芦毛のウマ娘だった。

 

「さてようやくウチの出番やな」

 

 笑みを浮かべ出てきた芦毛のウマ娘、タマモクロス。タマモクロスはファンの数こそオグリキャップに負けているが昨年宝塚記念を勝利しているだけでなく抜群の安定感を出し誰もがその実力を認めていた。

 

「にしても気合い入れとる奴らばかりやの……そんなん焦れ込んで大丈夫なんか?」

 

「もし、貴女が日本のタマモクロスさんですか?」

 

 タマモクロスが他のウマ娘をみているとドバイのウマ娘が声をかけてきた。

 

「ん? あー、確かこういう時は……Pardon? (今、何て言いましたか?)」

 

「貴女はタマモクロスさんですか?」

 

「そうや。ウチがタマモクロスや」

 

「自己紹介が遅れました。私はバランシーン*3です。タマモクロスさん、今回のレースお互いにベストを尽くしましょうね」

 

「お、おう。よろしゅうな?」

 

「ではまた表彰式で」

 

 ドバイのウマ娘、バランシーンが自分の位置に戻り、タマモクロスが自分の魂と作戦を練る。

 

 

 

「あのバランシーンってウマ娘、昨年の英オークスと愛ダービーを勝ったウマ娘やな」

 

『だが凱旋門賞では10着に破れている……されだけに不気味な存在だ』

 

「せやな……BCマイルで惨敗したマークオブエスティームいうウマ娘もドバイターフで5バ身差の圧勝やったしな。地元(ドバイ)のウマ娘は侮れんわ」

 

『ならあのウマ娘をマークするか?』

 

「あのウマ娘だけ余裕ぶっていた。バランの後ろについていけば活路を見出だせるで」

 

『地元勢の余裕だろうな。だが展開次第では十分に勝算はある。バランシーンに便乗して勝つのが一番いいだろう』

 

「せやな」

 

 タマモクロスが頷き、バランシーンをマークすることに決める。

 

 

 

 そしてドバイシーマC、最後の直線。

 

【タマモクロスここで加速しバランシーンを差しにいった!】

 

「いくで! ウチはマーク戦法なんてあまり好きやないけど今のウチは王者やない。ただの挑戦者や!」

 

【タマモクロス、タマモクロスが先頭の三人目掛け伸びていく!】

 

「面白いじゃない……」

 

「流石トレーナーが日本のウマ娘には気をつけろと言うだけあるわ」

 

 先頭を走るウマ娘アップルツリーとバランシーンがそう呟き、加速するとタマモクロスを突き放す。

 

【しかしまだ粘る! バランシーンとアップルツリーの一騎討ちだ!】

 

「なんやと!?」

 

『タマ、もっと頭を下げて腰を入れろ! でなければ加速しないぞ!』

 

「やったるわ!」

 

「ちんたら走っているんじゃねえ!」

 

 タマモクロスが更に加速するが二人を抜かすことは出来ず更に大外から追い込んで来たウマ娘に抜かれてしまう。

 

【バランシーンだ、バランシーンだ! アップルツリーを抜かしてバランシーンだ!】

 

「こんなバカなことがあってたまるかぁぁぁっ!」

 

 引き離されたタマモクロスがそれを取り返すかのように距離を縮め加速するが先頭の二人には届かなかった。

 

【タマモクロスが伸びるが先頭の二人に届かないっ! 今バランシーンが一着でゴールイン! タマモクロスはようやく三着争いと言ったところ】

 

 

 

 この映像を見ていた日本のウマ娘はタマモクロスを絶賛する者、世界の壁を実感する者が多く現れた。

 

 しかし一人だけ例外がそこにいた。世界を先に見ている二代目だった。

 

「先代、あのウマ娘も要注意するべきかな?」

 

『あんな奴らラムタラに比べれば小物もいいところだ。タマモクロスが負けたから世界の壁が厚いだなんて言っているが俺は凱旋門賞でバランシーンに先着している上に奴は俺のことを知らない。油断すべき相手ではないがあくまでもお前のライバルはラムタラであることに変わりない』

 

「そっか……ありがとう」

 

『事実を述べたまでだ。あのウマ娘がラムタラや親父(ニジンスキー)以上だと言えるのか?』

 

「思わないし、思えないよ」

 

 二代目がそういうが史実においてラムタラは過小評価されている。

 

 地元ドバイではそこまで酷評されていないが、欧州の地においてドバイの競走馬が嫌われたことや差を大してつけなかったこと、マイルの馬が活躍しすぎてラムタラが霞んでしまった為である。

 

 流石にバランシーンがラムタラよりも上ということはないが、僅差のそれと言って良いだろう。

 

 

 

『つまりそういうことだ。ましてやあのトレーナーが一から手をかけて育てているウマ娘が途中から育成しているウマ娘よりも強くならない訳がねえ』

 

「そうね」

 

『だが大して手掛けていないウマ娘を使ってタマモクロスを破らせたのは事実だ。いくら実力があるとはいえ、あいつの手にかかれば不調なウマ娘でも息を吹き返すことが出来る。それが短期間で出来る人間が一から手をかけたとなればそのウマ娘は精神面、身体面において最強のウマ娘となるだろうよ』

 

「だからラムタラに気をつけろと言っているのね……」

 

『ああ。だがその前に足元を掬われないようにしないとな。NHKマイルCにはあいつも出るようだぜ』

 

「……アマちゃんね」

 

 二代目は褐色肌の同期を思い出す。そのウマ娘こそ二代目を最も敵視しているウマ娘であり、チームリギルの期待の星ヒシアマゾンだった。

*1
ドバイ三冠レースの一つ。史実では2000年に開催し、2017年に日本調教馬ラニが制した。もちろん1994-1995年の現役期間のラムタラは出走登録していない

*2
1992年産まれの競走馬。タイムフォーム・レーティングではモンジュー(ブロワイエ)と同じ数値の137を叩き出した名馬

*3
1991年産まれの競走馬。主な戦績は英1000ギニー、英オークス、愛ダービー。尚、英オークスにてディープインパクトの母ウインドインハーヘアを、愛ダービーで牡馬達を打ち破り勝利している。本馬は牝馬だが名前のモデルはバランシンでれっきとした男性である




後書きらしい後書き
しかしマヤノトップガンに続いてナリタブライアンまで声優が代わるとは……ブライアンズタイム産駒のモデルのウマ娘は呪われているのか? これでウオッカの声優が代わったら流石にブライアンズタイムの呪いだと言わざるを得ない。

後書きらしくない後書き
ドバイシーマCでタマモクロスと対決するのはバランシーンとマークオブエスティームの二頭が候補になりましたがマークオブエスティームがマイルの馬なので彼(彼女)はドバイターフに移り、名前だけ登場する形になりました。

それはともかくこの第42Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は12/31です。

追記
原作でもチームカノープスが出たらしいのでこの小説内のチーム名をカノープスのままにしておくかどうか迷う……

更に追記結局カノープス→トゥバンに変更しました


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第43R シニア勢前哨戦2

前話が投稿されていないのに関わらず12/22に誤ってこれを投稿しまった為、すぐに対処しました。

前回の粗筋
タマモクロス「冗談やない……ウチら二人でもこの様かいな」


 高松宮記念が行われ、スプリント路線に興味を持つウマ娘以外は世界トップクラスの14人のウマ娘が出走した海外GⅠ競走、ドバイシーマCでタマモクロスが4着と健闘したことを話題としていた。

 

 

 

 それもそのはず、これまで日本のトレセン学園に在籍したままで海外レースで勝利したウマ娘はおらず、それどころか掲示板に載ったウマ娘はスピードシンボリしかいない。

 

 最強ウマ娘と呼び声の高いシンボリルドルフですら芝がマイナーとされる米国のレースで7人中6着のブービーと惨敗し、海外のトレセン学園に移籍したウマ娘を含めてようやく名前が出てくる程に海外遠征は失敗している。

 

 オグリキャップやイナリワンと言った地方のウマ娘達が中央──所謂日本のトレセン学園に移籍するのは遠征に影響する為であり、その海外移籍したウマ娘、ハクチカラはその遠征の影響を軽減した。その結果惜敗を重ね、勝利を納めたことから移籍するということがどれだけ有利であるかわかるだろう。

 

 また別例としてヒカルタカイが挙げられる。ヒカルタカイは【地方の三冠レース】と名高い南関東三冠を制したウマ娘であり、東京大賞典出走後は中央に移籍し天皇賞春と宝塚記念を制している。特に天皇賞春では現在でも記録に残る八大競走の最大着差をつけており、地方のウマ娘が中央に移籍して成功した前例を作り挙げたウマ娘と言える。

 

 しかし地方に在籍したままでも活躍するウマ娘がいる*1のも事実で地方のレベルが上がりつつあるのに対して世界の舞台において日本のウマ娘はまだ掲示板に載ることすら出来なかった。

 

 その快挙を、しかも層が厚いとされる中長距離のGⅠ競走でそれを成し遂げたタマモクロスが話題にならないはずがなかった。

 

 

 

「この新聞はおちょくっとんのかい!」

 

 尚、当の本ウマ娘──タマモクロスは自分を持て囃す新聞を見て破り捨てる。勿論その理由は過剰に持て囃したからではなく、タマモクロスにとっては恥でしかない。

 

 例えるなら圧倒的に支持されたウマ娘が格下の伏兵に敗れ、【○○、二着に健闘!】とタマモクロスからすれば煽っているとしか思えない内容だ。少なくとも伏兵に足元を掬われた天皇賞秋時点のシンボリルドルフであれば荒れる。

 

『そう荒れるな。この新聞の内容は俺の世界の情勢に似た新聞だ。尤も俺の時はJCで二着に沈んだから残念だったと言われたからな』

 

「なんや自分、新聞の中身わかるんかい?」

 

『それはお前の知識が俺の中に伝わっているからな。お前の知識と俺の知識が共有されているんだ』

 

「便利やのう……ウチは共有されとらんのに」

 

『スーパークリーク、そしてオグリキャップは俺の同期じゃないことやメジロパーマーやイナリワン、昨年のクラシック級世代が俺と一緒に走ったことがないもあって参考にならないからな。余計なことを共有して混乱させたくないからな』

 

「まあそれはわかるけど……」

 

『それはそうとタマ、今度出るレースはどうするんだ? 宝塚記念(ヅカ)か? それともこのまま海外レースに出走か? 俺のオススメは宝塚記念だが……お前の中では決まっているんだろ?』

 

「それはもちろん決まってる。リベンジや」

 

 タマモクロスの笑みは魂にも伝わり、それ以降レースのローテーションに関しては口出しすることはなくなった。

 

ちなみにフェブラリーSを勝利し、ドバイWCで14人中10着と見せ場もなく惨敗したイナリワンは話題に上がることはなくタマモクロスよりも荒れていたのは言うまでもない。

 

 

 

 その一週間後の大阪杯。オグリキャップとスーパークリーク、そしてヤマトダマシイが激突していた。

 

 オグリキャップは昨年の大阪杯を勝ったウマ娘で連覇も期待出来る。先代のいた世界ではオグリキャップの息子の一人が大阪杯に該当する産経大阪杯を勝ちまくっており、この場にヤマトダマシイがいなければ二代目はオグリキャップが勝つと確信していた。

 

 

 

 スーパークリークは菊花賞を勝っていてステイヤー気質であるが昨年の天皇賞秋を勝利しており中距離もこなせるステイヤーであることを証明している。今の彼女を一言で表すならば【グリーングラスにトウショウボーイのスピードをつけたウマ娘】であろう。

 

 もっと分かりやすくいうなら燃費が良く長く走れるエンジンにロケットエンジンのスピードを付け足したようなもので誰も手が付けられない。

 

 もちろん、それは理想論でしかないがあくまでも例えであってスーパークリークは長く走れるグリーングラスにロケットエンジンのトウショウボーイのスピードを付け足したようなものだ。それ故に一言で表すなら【グリーングラスにトウショウボーイのスピードをつけたウマ娘】である。

 

 

 

 そして最後にヤマトダマシイ。公明正大で知られるシンボリルドルフが唯一依怙贔屓をすることで有名なウマ娘だが、その実力は確かなもので、シンボリルドルフ以来日本のウマ娘としてJCを制覇し、海外においてはシンボリルドルフを超えるウマ娘と評価が高く、ヤマトダマシイではなくタマモクロスが遠征したことに首を傾げる者が余りにも多かった程だ。

 

 

 

 この三人の対決が今季最大のトゥインクルシリーズの話題であり、海外に遠征中のタマモクロスも気にかけていた。

 

 

 

【スーパークリーク、これは強い強いっ、オグリキャップを寄せ付けない!】

 

 スーパークリークの先行力と直線での末脚が冴え、オグリキャップ以下を突き放す。

 

【しかし大外からヤマトダマシイ! ヤマトダマシイ、スーパークリーク! 外か、内か!?】

 

 そんなものは関係ないと言わんばかりにヤマトダマシイが大外から突っ込み、スーパークリークを追い詰める。

 

「秋の天皇賞の借りはここで返す!」

 

「2000mじゃ負けないわ!」

 

 ヤマトダマシイとスーパークリークの一騎討ちムードとなった阪神レース場に大歓声が沸き上がり、一番人気のオグリキャップを指示しているファンからは悲鳴が上がる。

 

 そしてその決着がついた。

 

【僅かに内、スーパークリークっ! スーパークリークの時代到来! オグリキャップは三着!】

 

 スーパークリークが大阪杯を制し、GⅠ競走3勝目を上げシニアの最有力候補に挙げられる。その一方でオグリキャップはヤマトダマシイにも遅れを取る三着だった。

 

「なんで勝てない……? 私の身体に異変が起きているのか?」

 

『勝てないのは当たり前だ。スーパークリークやヤマトダマシイがお前よりも強かったってだけの話だ』

 

「……クリークに関しては距離の問題だが、ヤマトダマシイに勝てないのはそれしかつかない……今度はヤマトダマシイに勝つ」

 

『クリークには負けていいのか?』

 

「今度のレースは安田記念だ。それに出てこないとしても宝塚記念。どちらも私の得意距離だ。それに対してクリークはあの距離は苦手なはずだ」

 

『もしかして1600&2400理論か?』

 

「その通りだ」

 

『変な希望を持つのは止めておけ。その理論は確証がついていない』

 

「そうだが……」

 

『それよりもウイニングライブがあるだろう。さっさと行ってこい』

 

「むぅ……」

 

 オグリキャップがウイニングライブのステージに上がり、スーパークリークのバッグダンサーとして踊ると魂のオグリキャップが口を開いた。

 

『どっちにせよ安田記念はヤマトダマシイが出る。お前の理論を借りるならヤマトダマシイも1600&2400m型、それも典型的なものだ。現時点で勝てる要素はほとんどねえぞ』

 

 

 

 翌週、二代目がいよいよ2戦目を迎えた。その2戦目はアーリントンC。それは昨年のヤマトダマシイが制したNTとは多少異なるものの、NHKマイルCの前哨戦であり重賞競走の一つである。

 

【もう怖い物はない、アイグリーンスキーが独走体制に入りました。8バ身、9バ身、圧勝! マイルのナリタブライアン現れる!】

 

 二代目がNHKマイルCの前哨戦、アーリントンCを大差勝利し、NHKマイルCに出走登録する。

 

 ヤマトダマシイは昨年NHKマイルCを制覇し、日本ダービーも連対に入る素晴らしい成績を納めた。

 

 しかし現状、有馬記念以外の八大競走*2は留学生は出走出来ない決まりであり、NHKマイルCはあくまでも東京優駿つまり日本ダービーの代用であり留学生ダービーと揶揄されている。

 

 しかしそれだけにヒシアマゾン等の強い留学生が自分が出られるレースに力を入れており、それに特化している。

 

 特にヒシアマゾンは舐めプの状態の二代目に相手にすらされないというこれ以上ないまでの屈辱を味わっている。そのモチベーションは他のウマ娘達を凌ぎ、レース場の特性と脚質、それにハイレベルと言われる今年の留学生ナンバーワンになった元々の素質もあってかNHKマイルCという舞台ではナリタブライアンを上回る。

 

 

 

「姉さん、グリーンがアーリントンCを勝ったようだ」

 

「そのようだな……だが注目しているのは私達を含めてもごく一部のウマ娘だけ、というのは寂しいものだな」

 

 しかしそのことは留学生など一部のウマ娘以外話題にならなかった。アーリントンCはあくまでもステップレースであり本番(GⅠ競走)ではない。それよりも桜花賞の行方を追いかけていた。

 

「リギルでもトレーナー、マルゼン先輩や会長、アマさん、そして私くらいしか注目していない」

 

「いやそれだけ注目しているとは流石チームリギルだ。もっと少ないかと思っていた」

 

「同期を含めてもほとんどが、姉さんの無念を晴らす私の動向に注目しているからな……」

 

 では代わりに誰が注目されるか。それはもちろん本番、皐月賞の最有力候補ナリタブライアンだ。

 

 ナリタブライアンは共同通信杯を勝利した後、更にスプリングSに出走し勝ち星を重ね、そのあまりの強さに怪物*3と畏怖されるようになっていた。

 

「頼むぞ、怪物ナリタブライアン」

 

「頭でっかちな姉さんまでそれを言うのか……」

 

「誰の頭がデカいって!?」

 

 ビワハヤヒデがナリタブライアンを追いかけ、ナリタブライアンはそこから逃げる。

 

 

 

 一方ビワハヤヒデは阪神大賞典で大笑点することなく大勝利を納めた。先行押切と皮肉にもシンボリルドルフと同じレーススタイルであり、シンボリルドルフと重ねてしまったものは少なくない。

 

 それ故、ヤマトダマシイとビワハヤヒデがどちらか【皇帝】の二つ名を継承するかファン達はその行方を探していたが、ヤマトダマシイがスーパークリークに二度も敗北したことや京都記念と阪神大賞典を楽勝したことからビワハヤヒデが一歩リードする形となった。

 

「待てーっ!」

 

「断るっ!」

 

 ビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹は相変わらず仲が良かった。

*1
史実では1985年のJC2着馬ロッキータイガーが該当。もしシンボリルドルフに先着していたら地方馬の評価もかなり上がったと推測される

*2
皐月賞、東京優駿、菊花賞、桜花賞、優駿牝馬、天皇賞春、天皇賞秋、有馬記念の八つ

*3
史実ではシャドーロールの怪物と恐れられていたが、ウマ娘にシャドーロールに該当するものがない為シンプルに怪物となっている




後書きらしい後書き
来年の抱負は、オリジナル競走馬のウマ娘化を目指します!

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尚、次回更新は明日です。それでは読者の皆様良い年末を!


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第44R 二代目の大舞台前

新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します!

前回の粗筋
スーパークリーク&二代目「前哨戦勝ったお!」


【さあナリタブライアンが先頭。ナリタブライアン一バ身、二バ身、三バ身差をつけてゴールイン! 姉の無念を晴らしたナリタブライアンお見事です!】

 

 ナリタブライアンが皐月賞を圧勝し、レコードタイムを出すと二代目が呟いた。

 

「強いね、先代」

 

『こりゃNHKマイルC登録して正解だったな。皐月賞であいつに勝てない上にダービーにはもっと強くなるだろう』

 

「そうね……」

 

【時計はレコード、時計はレコード! フロックでもなんでもない。シンボリルドルフ以来の三冠ウマ娘誕生なるか? 日本ダービー、菊花賞が楽しみな結果です!】

 

『まあ実際奴は三冠のタイトルを獲得したから過剰に評価されるのは無理もないか』

 

「でも先代の世界とこの世界は完全にリンクしている訳じゃない。日本ダービー時点でナリタブライアンを超えてみせるよ」

 

 

 

 

 

 数日後、公開練習が行われていた。その公開練習の内容は併せウマであり一種の模擬レースだった。

 

「す、すげえ……これが本当にクラシック級のレベルかよ。今の時点でシニア混合出ても勝てるぜ」

 

「いや英ダービーに出ても勝てるレベルだ」

 

 ナリタブライアンとビワハヤヒデの併せウマに唖然とする記者達。

 

 ビワハヤヒデは京都記念、阪神大賞典を2連勝し、天皇賞春の前評判ではスーパークリークを抑え最有力候補とまで呼ばれるようになっている。

 

 そのビワハヤヒデに併せウマでほぼ互角以上に戦えるナリタブライアンを見て記者達がそう呟くのは無理なかった。

 

 

 

 だが記者達は欧州トップクラスの最強ウマ娘、ラムタラに当時の日本が誇るエースだったメジロパーマーが敗れたことを誰も知らない。

 

 

 

 それもその筈、この時ラムタラはまだ1勝しか勝っておらず欧州ですら無名に近くその存在を知っているのはごく一部である。

 

 

 

 次に目に映ったのは別のコースで走るヤマトダマシイに常に先行するヒシアマゾンの姿だった。

 

「嘘だろ!? あのヤマトダマシイに先行している!?」

 

「奴も追込だけのウマ娘じゃないってことか……」

 

 ヤマトダマシイといえば昨年のNHKマイルCとJCを勝利したウマ娘でマイル~中長距離においては抜群の安定感があり、前走の大阪杯でこそ2着に敗れたがそれでも絶大な信頼感があり、今度の天皇賞春ではビワハヤヒデとスーパークリークに次ぐ有力候補であり、距離適正のある宝塚記念に至っては最有力候補となっている。

 

 

 

「流石にこれだけの面子ならあいつらも意識しないで済むだろう」

 

 リギルのトレーナー、ハナの目的はナリタブライアンとヒシアマゾンの二人はシニアの中長距離のNo.1とNo.2相手に難なく着いていっている実力を示し、ナリタブライアンやヒシアマゾンの不安を払拭させるべくそう仕組んだ。

 

 何故ならナリタブライアンやヒシアマゾンはどちらも二代目に一度負けており、特にヒシアマゾンの方に関しては意識しすぎている。

 

 本人の性格上プラスになる時が多いがマイナス面もあり、それを少しでも削いでプラス面に持っていこうとしていた。

 

 その為には二代目の普段の併せウマの相手であるヤマトダマシイが必要でチームトゥバンに調整したところ空いており不審に思ったがこれ以上ない機会と思い、チームトゥバンの敷地内で公開練習をするという条件付きだったもののそれを申し込み、現在に至る。

 

 

 

 

 

 そしてその四人の併せウマすら霞む併せウマが行われていた。

 

「なあ、アイグリーンスキーの隣にいるのって、ミスターシービーじゃないか?」

 

 記者達が二代目と併せウマをしているミスターシービーともう一人のウマ娘を見て、ハナ達が思わず目を擦る。

 

 ミスターシービーは史上三人目となる三冠ウマ娘となった歴史的ウマ娘であり、シンボリルドルフには劣るがそれでも歴代ウマ娘の中でもトップクラスの実力者でありWDTで勝ち星を挙げたこともある。

 

 そんなミスターシービーがわざわざ二代目の為に併せウマをするとは思えず現実逃避に目を擦ってもその視線の先にはやはりと言うべきかミスターシービーが映し出されていた。

 

 

 

「(やられたっ! これが狙いだったのか!)」

 

 三冠ウマ娘というネームバリューは余りにも大きい。現在シニアを引っ張っているヤマトダマシイやビワハヤヒデですら出られないWDTに招待されるのは当たり前であり三冠ウマ娘全員が必ず一勝している。

 

 ハナはそんなウマ娘と併せウマをするということはどういうことか理解出来ない無能なトレーナーではない。唯一恥を晒したのは二代目をリギルに入れなかったことくらいだ。

 

 だが自身が育てたシンボリルドルフは余りにも完璧過ぎてトレーニング相手を潰してしまい、いくらヤマトダマシイ達に喰らいつけてもこの時期のナリタブライアンやヒシアマゾンでは逆に潰れてしまう可能性が高い。

 

 ところが二代目の相手、ミスターシービーは違う。確かにトレーニング相手を潰すこともあるがシンボリルドルフほど酷くはなく二代目程度であれば潰れることはない。

 

 

 

「むっふっふ……もう一人のウマ娘もよく見るが良い。豪華メンバーなんてレベルではないぞ」

 

 サンデーサイレンスがそう指差しもう一人のウマ娘に注目する。そのウマ娘はミスターシービーと同期のウマ娘だった。

 

「か、カツラギエース!? あれはカツラギエースじゃないか!?」

 

 ハナが声を挙げた理由、それはカツラギエースというウマ娘にあった。

 

「そう、あやつはJCを日本のウマ娘として初めて勝利を納めただけでなく、ミスターシービーやシンボリルドルフをまとめて蹴散らしたカツラギエースだ」

 

 カツラギエースはクラシック三冠こそミスターシービーに取られたがシニアになって以降の成績はカツラギエースの方が上であり宝塚記念を勝利した他、ミスターシービーの出走したレース、毎日王冠、天皇賞秋、JC、有馬記念において天皇賞秋以外はカツラギエースが先着しており、WDTでもミスターシービーやシンボリルドルフ相手に勝利している。

 

「まさかカツラギエースまでこの併せウマに出てくるとは……」

 

「一昔前の二冠ウマ娘達──カブラヤオー*1やキタノカチドキ*2では世界の強豪に太刀打ち出来ない。あの二人はWDTに勝利していないからな。その点ミスターシービーとカツラギエースは世界のレベルに届いている」

 

「チームトゥバンのメリットは日本一巨大なチームであるが故にコネがある。WDTの勝者二人に揉まれる経験などこのチーム以外じゃリギルくらいのもの。そのリギルですらマルゼンスキーやシンボリルドルフと言った国内のコネしか通用しない」

 

「海外にコネがあるとでも?」

 

「無論だ。余には米国は当然、欧州にも幅広い人脈がある」

 

「なるほどな……確かにお前が前任者に負けず劣らず有能なトレーナーだというのはわかる」

 

「あいつを美化しすぎじゃないか?」

 

「バカを言うな。確かに故障こそ多かったが全てが全て奴一人の責任ではない。むしろあのトレーナーがいたからこそギリギリ故障しない程度の高強度トレーニングのノウハウが広まったんだ」

 

「あくまでも反面教師という意味でだろう?」

 

「前任のトレーナーを認めたくない気持ちもわかるが、あいつ程日本のウマ娘を進化させたトレーナーがいないのも事実だ。そうでなければチームトゥバンの元になったチームギエナが発展する訳がない。それにもしあの男が無能なら欧州のウマ娘のトレーナーになれないはずだ」

 

「確かにな。だが問題があり追放されたのは事実。いくら優秀でも長くはあるまい」

 

「かもしれないな」

 

 

 

 その頃、当の本人はというと自ら手掛けたウマ娘達を労っていた。

 

「マークオブエスティーム、バランシーン、そしてムーンバラッド。特にお前達はよくやった」

 

「ありがとうございますトレーナー」

 

「お前達は欧州にいながらドバイ所属というややこしい立場だがその逆境に負けることなくここまでこれたのはお前達自身の力だ。自信を持ってこれからのレースに挑むように。以上、乾杯!」

 

「乾杯!」

 

 ドバイのウマ娘達によるドバイミーティング完全制覇を成し遂げ、それをしたトレーナーは上機嫌に酒を飲む。

 

「さて、これから俺はラムタラの様子を見に行かなきゃいけない」

 

「ええ~っ!?」

 

 不満気にウマ娘がブーイングするとトレーナーが続ける。

 

「確かにこのまま勝利に酔いしれたいがそう言う訳にもいかない。日本から追放されたのはそれが原因だったからな」

 

「それなら仕方ないですね」

 

「じゃあな。羽目を外すのはいいが明日の練習に響かない程度にしておけよ」

 

 トレーナーがそう言って予め手配していた車を使い運転手に行き先を告げさせ移動すると残ったウマ娘達は頷いた。

 

 

 

「それじゃお開きにしましょうか」

 

「そうだね。また改めてやりましょ」

 

「トレーナーのいない祝勝会なんてチーズと具がないピザのような物ですし」

 

 そう言ってウマ娘達がタッパーを使って食物をあたかも食事をしたかのように取り、片付け始めた。

 

 皮肉にも日本で追放されたことによりトレーナーはウマ娘の精神面を気にするようになり、ウマ娘から慕われサンデーサイレンスの予想が外れることになった。

*1
皐月賞、日本ダービーを制した二冠馬。ただひたすら勝負根性に任せてゴリ押しする姿から狂気の逃げ馬と呼ばれている

*2
皐月賞、菊花賞の二冠馬。無敗で皐月賞を制したおかげか、旧4歳時でのフリーハンデは64を与えられ、この数値はシンザンやカブラヤオー、トウショウボーイよりも上でミスターシービーが更新するまで一番評価が高かった




後書きらしい後書き
マグナだけでなくシンキングアルザオも早くウマ娘化しないと(謎の使命感)

それはともかくこの第44Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は未定です


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第45R 二代目の大舞台1

前回の粗筋
二代目「ミスターシービー先輩とカツラギエース先輩と併せウマしたよ!」
ドバイ勢「宴会はお開き!」


【スーパークリークかそれともビワハヤヒデか!】

 

 そう実況が放送された瞬間、それまで最後方だったウマ娘ヤマトダマシイが疾風迅雷の如く差していく。

 

【いやしかしこのウマ娘も忘れてはならない! 日本が誇るJCウマ娘、ヤマトダマシイ!】

 

 直線のみで次々と前にいるウマ娘達をごぼう抜きし千切り捨てる姿は爽快そのものであり、見る者を魅力させる。

 

「これで役者は揃った……」

 

「タイシンは抜きでいいのか?」

 

「タイシンの末脚は確かに怖い。しかしそれはあくまでもハマった時のタイシンであって今のタイシンは恐ろしくない!」

 

【ヤマトダマシイが迫る!】

 

「この春天で勝ったらドバイで活躍出来なかった方の幼稚園スモックを見ることになっています……だから貴女達に負ける訳には、いかない!」

 

 さりげなくとんでもない発言をするスーパークリーク。そんなスーパークリークだが実力は確かなもので後方の集団を突き放していく。

 

【スーパークリークがまだ伸びる! あれだけ先行していたのに恐ろしい末脚だ!】

 

「こっちだって負けられない理由がある……姉妹共にその年の八大競走制覇がかかっているのだから!」

 

【ビワハヤヒデがスーパークリークを捕らえた!】

 

 迫るヤマトダマシイに併せるかのようにスーパークリークとビワハヤヒデが並ぶ。そしてそのうち一人が抜けては並ばれるその繰り返しだった。

 

 

 

【絶対に負けられない! 負けられない! 昨年は逃げ切り、今回は先行押切か、それとも直線一気か!】

 

『スーパークリーク、ヤマトダマシイ。お前達が強いのは十二分に承知だ。俺の世界のクリークは春天勝ったステイヤー、ヤマトは無敗の二冠馬に相当するだけの実力の持ち主。だからこそ俺達は勝てる』

 

「これからはデータを捨てる!」

 

 その瞬間ビワハヤヒデが加速し、ハナ、アタマ、クビと差が開いていく。

 

『俺達は二人で戦っているのに対してお前達は一人で戦っている……その差がこれだ』

 

【ビワハヤヒデ僅かに抜けて一着でゴールイン! 下の世代が上の世代に剋つ、下剋上だ!】

 

 

 

【確定しました2着はヤマトダマシイ、3着にスーパークリークです。以下の着順は変わりありません】

 

「ヤマトダマシイ先輩が勝てなかったのって適性距離の差って奴かな?」

 

『可能性としては否定出来ないが、あそこにセイザ兄貴がいても勝てなかっただろうステイヤーのスーパークリークに勝った以上、覚醒したかどうかの差だろう』

 

「確かに」

 

『それにこれから天皇賞春ってのは予測がし難いレースになっていく。三冠馬や既に天皇賞春を勝った競走馬が惨敗したり、逆にそれまで惨敗した奴が勝ったり中距離が適性距離と言われた奴が連覇したりするからな。今回のレースはその現れかもしれない』

 

「もう訳がわからないよ……」

 

 

 

 

 

 ウイニングライブを行うとビワハヤヒデがインタビューを受ける。

 

【ビワハヤヒデさん、次のレースの予定はやはり宝塚記念でしょうか?】

 

「そうです。しかし宝塚記念に厄介なクラシック級のウマ娘が出てくる可能性も否定出来ません」

 

【と言いますと、ナリタブライアンさんが宝塚記念に出走すると?】

 

「いや妹ではありません。妹も強いのですが、妹は恐らく昨年の私達が宝塚記念出走を見送ったように見送るでしょう」

 

【では一体誰なんでしょうか?】

 

「それは私の口から言えることじゃありません。しかし今国内でいる中では昨年のクラシック三冠を分け合った私達やヤマトダマシイ、そしてメジロパーマー先輩はそのウマ娘が誰だか知っていますよ」

 

 ビワハヤヒデがマイクを渡すとアナウンサーが全員に向けアナウンスする。

 

【それではインタビューを終わります。ビワハヤヒデさんありがとうございました】

 

 

 

 

 

「ハヤヒデ、ハヤヒデの言っていたウマ娘って誰のことなの?」

 

「チケット……」

 

「あんたそのくらいわかりなさいよ」

 

 ジト目でビワハヤヒデとナリタタイシンがウイニングチケットを見つめる。

 

「えっ、タイシンはわかったの?」

 

「それどころか海外にいるタマモクロス先輩やブライアン、ヒシアマ君も理解している。その証拠にブライアンもヒシアマゾンも震えているぞ」

 

 ビワハヤヒデが震えるナリタブライアンと顔を紅潮させながら震えるヒシアマゾンを見せるとナリタタイシンが突っ込んだ。

 

「いやあんたの妹は武者震いかもしれないけどもう片割れは怒りのそれだよ」

 

「そうなのか?」

 

「ブライアンから何にも聞いてないの? あの娘はグリーンのことをライバル視しているのよ」

 

「グリーンってアイグリーンスキーのことだよね? 何であのウマ娘の名前が出てくるの?」

 

「もう察しなさいよ……」

 

「あいつこそ、ジュニアからやってくる刺客なんだ」

 

「四角?」

 

「もう突っ込まないぞ。グリーンは妹達の世代で1、2を争う程の実力の持ち主だ」

 

「ふーん……」

 

「まああんたがそう思うのはわかるよ。何て言うかブライアンとは違って拍子抜けするほど大人しい走り方なんだよね」

 

「それっていいことなんじゃないの?」

 

「気迫がない、凄みを感じさせないと言えば伝わるかな? クリスタルCのアマゾンは派手さもあるけど気迫は伝わったし、皐月賞のブライアンもチーターのような凄みを感じた。それが彼女にはない」

 

「データ上では脅威すべき相手なんだがな……だがそれを含めて彼女の恐ろしいところだ。脅威であるのに大して脅威ではないと錯覚してしまう。そう言った意味では一番警戒すべき相手だ」

 

『そう言った意味でなくとも注意しろ。宝塚記念、いやダービーの時点で奴は俺や二冠馬よりも強くなったんだからな』

 

「どっちにせよ次は負けないよ! グリーンがいくら強くたってダービーウマ娘の名にかけて負ける訳にはいかないから!」

 

「そうか……」

 

「ところでヤマトは?」

 

「彼女ならチームトゥバンのところにいるんじゃないのか?」

 

「そっか……」

 

 

 

 

 

「すみません、トレーナー。今回のレース勝てませんでした」

 

「何を謝る必要がある。あの菊花賞ウマ娘スーパークリークを退けたんだ。立派なものだ。サクラスターオーですら3着争いだっただろう」

 

「いえ今回のレースは反省点が多いです」

 

「そうか、それは後で聞こう。とにかくお疲れ様だ。今は休め。次の宝塚記念でリベンジしよう」

 

「はい」

 

 ヤマトダマシイが負け落ち込むも、次の日には立ち直り鬼気迫る迫力でトレーニングをしていた。

 

 

 

 

 

 二代目は日本ダービーの前哨戦としてNHKマイルCを選択した。日本ダービーと同じ条件の青葉賞ではない理由は青葉賞組は勝てないというジンクスが余りにも強すぎたからだ。何せ先代の世界でも史実(2020年)でも勝てた者は皆無であり、2着を確保するのが精一杯だった。

 

 その為NHKマイルCの出走権を得られるアーリントンCを2戦目に選択し勝利を納め、出走権を確保し現在に至る。

 

 

 

 NHKマイルCに出走するウマ娘のほとんどはマイラー、または留学生である。今回のNHKマイルCは後者がほとんどでマイラーと呼べるウマ娘は一人もいない。

 

【これが留学生パワー! 一名を除いて留学生のみというこのレース、まさしく留学生ダービーと言ったところです!】

 

 その理由はただ一つ、一人を除いて全員が留学生で固められているからだ。その一人もマイラーではない。

 

「留学生パワー? 馬鹿言ってんじゃないよ。だったらアタシの人気は何で二番人気なんだい?」

 

 しかしその留学生の筆頭、ヒシアマゾンは二番人気に留まっておりその不満を吐き出す。その理由は最後に本馬場入場してきたウマ娘が原因だった。

 

【しかし、僅か二戦目でコースレコードを出し勝ち上がってきただけではなく、あのミスターシービーやカツラギエースと併せウマをし互角以上の力量を見せたこのウマ娘には流石の留学生達も敵いません。大外18番、アイグリーンスキー!】

 

その瞬間、大歓声が上がる。あの併せウマ以来二代目の評価はうなぎ登りし、ヒシアマゾンを僅差で抑え一番人気になっていた。

 

 

 

「それだけ私への期待が大きいってことじゃない? 何せ唯一無二の純粋な日本のウマ娘だし」

 

「……あんたも留学生らしさを感じるけどね」

 

 ヒシアマゾンがジト目で二代目を見る。二代目は確かに成績優秀であり英語も流暢に話せるがそれはむしろ留学生というよりもエリートのそれだ。

 

『ヒシアマがお前に留学生らしさを感じるのは俺のお袋が外国で種付けさせられて国内で産んだ持込馬だからだろうな。時代が時代ならマル外と同じ扱いだ』

 

 先代の解説をスルーし、二代目が口を開く。

 

「そうかな? 留学生らしさなら現役バリバリのアマちゃんには敵わないよ」

 

「でもレースじゃ負けないって言いたいんだろ?」

 

「もちろん。だけど良く逃げなかったね」

 

「逃げる? バカ言うんじゃないよ。アタシは追込だ。こういうギリギリのレースほど楽しいんじゃないか」

 

「ギリギリね……それはどうかな?」

 

「言ってくれるね。あんたがここに出てくれて感謝しているんだよ。アタシ達留学生は一部のクラシック、それも秋華賞やエリザベス女王杯といった秋のレースだけしか出られない。アタシ達留学生が春のGⅠ競走の中で出られるのはこのNHKマイルC、安田記念、そして宝塚記念の三つしかなく、そのうち二つはシニア混合レース。つまり実質このレースしかない。そんな中アイグリーンスキーという大物が態々来てくれたんだ。このチャンスを逃したら半年以上先のJCか有馬記念まで待たなきゃいけない……」

 

『そう言えばヒシアマはチームリギルか。あのトレーナーなら無謀だと言って出走させずシニアの奴らに任せるか。まあそれが常識なんだがな』

 

「アマちゃん、本当に戦いたいならもっと早く戦えるよ。それをしないのは逃げている証拠だよ」

 

【さあいよいよスタートです。各ウマ娘ゲートに入ります】

 

「逃げているだって? 上等じゃないか……そこまでいうなら見せてやるよ」

 

 

 

【NHKマイルC、GⅠ競走。クラシック級のマイルウマ娘及び留学生最強決定戦が今、幕を開きました!】

 

 ゲートが開き、各ウマ娘達がそれぞれのポジションにつく。そのポジションは様々だが一人を除いて概ね同じポジションだった。

 

「何っ!?」

 

「そんな馬鹿ナ!?」

 

 留学生達が驚愕した理由、それは二代目がヒシアマゾンの後ろについたからだ。ヒシアマゾンと言えば最後方からの追込を得意とするウマ娘で彼女の末脚は直線のみで全員を差し切ってしまう程だ。それよりも後ろに下がるということは彼女以上に末脚に自信のある者しか出来ない。

 

「本当にアタシの事を舐めていんだね!」

 

 ヒシアマゾンのいるレースは全て舐めプであるのに対してそれ以外は極普通のレースであり、ヒシアマゾンが激情するのは無理なかった。




オマケ
ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト

1.そもそもイタズラは止めましょう
2.ウマ娘を誘惑するのを止めましょう
3.サンデーサイレンス等他のウマ娘を使って自分達の代わりにイタズラを仕掛けるようにするのは止めましょう
4.プールにオモチャを持ち込むのは止めましょう。ましてや大人のオモチャを持ち込むのは以ての他です
5.作るのも禁止です
6.学園祭を除いてトレセン学園敷地内ではイタズラグッズ、オモチャの持ち込み、作成、売買を禁止します
7.禁止とは紛れもなく禁じられ止められているという意味であり、隠れてやれという意味ではありません。学園の外で売買しそれを密輸する、させるなど言語道断です
8.タマモクロス等といった特定の小柄なウマ娘にチビッ子だのなんだのと言うのは止めましょう。タマモクロスはあの後大暴れして大変なことになったそうです
9.ビワハヤヒデに顔がデカイと言ってはならない。顔が広いと言ってもです
10.ナリタブライアンが咥えている植物を細工し、その細工を解く為に咥えて「ナリタブライアンと私との愛の結晶」と呟いてはいけません。あの後嫉妬したヒシアマゾンが「花嫁修業の為」と言って調理室を占領し、後述する事件も兼ねて食材不足になりました


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尚、次回更新は未定です


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第46R 二代目の大舞台2

前回の粗筋
ビワハヤヒデ「天皇賞春を制したのはヤマトダマシイでもスーパークリークでもない、私だ!」
二代目「ヒシアマゾン抑えて一番人気になったよ」


【先頭が800mを過ぎタイムは48秒から49秒。これは遅い! 遅すぎる!】

 

 タイムを聞きレースを知るものならば明らかにスローペースであり、前方のウマ娘がスタミナを残している為後方のウマ娘達が不利になるこの展開に二人のウマ娘が解説しだした。

 

「姉さん、このレース展開どう思う?」

 

 ナリタブライアンが隣にいるビワハヤヒデにそう尋ねるとビワハヤヒデが少し考えて口を開いた。

 

「現状を見る限りでは逃げのウマ娘が勝つだろう……最後方に控えるウマ娘がグリーンでなければの話だ」

 

「アマさん……ヒシアマゾンは負けると?」

 

 眉を顰めたナリタブライアンにビワハヤヒデが首を横に振る。

 

「いやそう言う訳ではない。寧ろ逆だ。グリーンの動きのせいで誰にでも勝つようになっている」

 

「一体どういうことなんだ?」

 

「見ろこのタイムを」

 

 ビワハヤヒデが手に持っていたタイムのメモをナリタブライアンに見せるとナリタブライアンが目を丸くする。

 

「末恐ろしいウマ娘だ……とてもクラシック級のレベルではない。我々でもあの場にいたら錯乱してしまうだろう」

 

 ビワハヤヒデが再びメモを取り、タイムを記録する。その数値は11.4と記入されていた。

 

 

 

【3コーナーを曲がって一番人気と二番人気のウマ娘はまだ動かない! それどころか逃げたウマ娘が悠々と逃げている!】

 

「お、おい!」

 

「まだ動かないノカ!?」

 

「冗談じゃないよ。このままだとあのウマ娘達に逃げ切られてしまう! いくら直線が長いっていっても20バ身も離れているんだよ」

 

 このレースに出走していてかつヒシアマゾンに勝ったこともあるビコーペガサスが二代目達に抗議するとヒシアマゾンが冷静に答えた。

 

「だからどうした?」

 

「なっ!?」

 

「アマちゃんはどうかは知らないけどあそこから差し切る自信があるから私はここにいるだけ」

 

「とまあそういうことだ。逃げ切られることにビビっているならさっさと行きな」

 

「くっ、仕方ない……!」

 

 ヒシアマゾンの前をいくウマ娘達が逃げウマ娘達を捕らえに行き、レースの流れが激流の如く変わっていく。

 

「しかしそういうあんたはどうなんだい? まさかアタシを差し切る自信でもあるのかい?」

 

「あるよ」

 

「っ!」

 

「狙われる者よりも狙う者の方が強いってことを証明してあげる」

 

 その瞬間、ヒシアマゾンの背中から寒気を覚え笑みを浮かべた。

 

「へっ、いいね。アタシを舐めているんじゃなくてアタシとタイマン勝負したいからそうしたって訳か。こんなスリルのあるレースは初めてだ」

 

「マゾなの?」

 

「マゾな訳あるかい!」

 

 

 

 

 

「今動いたウマ娘は終わったな」

 

「ああ。ついでに逃げたウマ娘も終わりだ」

 

 ナリタブライアンとビワハヤヒデが頷きそう呟く。

 

「確かに800mの通過タイムはスローそのものだ。しかし最初の200mのタイムが極端に遅かったからでそれ以降はタイムが徐々に速くなっている」

 

「昨年のダービーで私がやられたように彼女達も気づいていない。これが出来たのはヒシアマゾンの存在が大きい」

 

「姉さん、それは一体どういうことなんだ?」

 

 ビワハヤヒデの言葉にナリタブライアンが思わず聞き返す。

 

「彼女は後ろに煽られることに慣れていない。だからグリーンが後ろから煽ればその分だけ加速してしまう……」

 

「そうか! それだけじゃない、アマさんは瞬発力がありすぎて手加減して加速することが出来ない。グリーン、アマさん、そしてその他のウマ娘がドミノ倒しで加速していったという訳か!」

 

 ナリタブライアンが理解し説明するとビワハヤヒデが頷き解説する。

 

「煽られたウマ娘のスピードが上がり、逃げたウマ娘はスローペースだからと言ってセーフティを守る為に無意識に上げてしまった。それが罠だと知らずにな」

 

「これを見れただけでも収穫だ。ダービーでこれをされていたらどうなっていたことか……」

 

「だが逆に言えばそれ便りしかないということで、走りに凄みや気迫がない原因にもなっている。ただ後方をぶっちぎるお前とは真逆だ」

 

 ビワハヤヒデが二代目とナリタブライアンの弱点を指摘するとナリタブライアンがバツが悪そうな顔で尋ねた。

 

「仮に聞くが姉さんならどう対処する」

 

「私なら長く使える脚を使って逃げウマ娘達と共にいく。逃げウマ娘達の被害は他に比べて被害が薄い方だからな。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私があの場にいたらグリーンはヒシアマゾンではなく私を最初に潰すだろう。そうなったら厳格なタイム管理をするしか道は残されていない。恐らく今回のレースはヤマトダマシイ対策の為のレースだ」

 

 事実ヤマトダマシイは日本ダービーにおいて勝ったウイニングチケットではなくビワハヤヒデを警戒しあわや掲示板を外しかねないところまで追い詰めた。その戦法を使われたらビワハヤヒデと言えども分が悪いと言わざるを得ない。寧ろビワハヤヒデはこのレースを見て安堵した程だ。

 

「前走のアーリントンCは姉さんやクリーク先輩といった先行ウマ娘対策ということか」

 

「だろうな」

 

 

 

 

 

【残り300m! スローペースもなんのその、大外からヒシアマゾンとアイグリーンスキーが飛んできた!】

 

「ま、まだまダ……!」

 

 逃げたウマ娘が脅威の粘りを見せるがヒシアマゾン、そして二代目の末脚の前では何も意味がなかった。

 

【残り200mを切ってヒシアマゾン! しかしアイグリーンスキーが並びました! ヒシアマゾン大丈夫か!】

 

「ま、まさかあいつハ本当にアマゾン並みの末脚を持っているト言うのカ!?」

 

「いや、それ以上かもしれない……」

 

 逃げウマ娘達が前をいく二人を見て愕然とすると更に二人の末脚にキレが増す。

 

 

 

「アマちゃん、貴女の好きなタイマン勝負だよ。これで悔いはないでしょ?」

 

「そうだな……それに加えて勝てば尚言うことはねえ!」

 

【ヒシアマゾン! ヒシアマゾンが伸びる!】

 

「こっちは前の併せウマでヤマトダマシイ先輩に先行したままで走っていたんだ! これくらいの逆境苦でもないよ!」

 

「逆境ねえ……それはこういうことを言うんじゃないのかなっ!」

 

【残り100mでアイグリーンスキーがヒシアマゾンを抜いたーっ!】

 

「なんだと!?」

 

「アマちゃんが見せてきた豪脚は所詮幻でしかない。二の脚を使った後に差された経験なんかないんだから!」

 

 

 

【勝ったのは18番のアイグリーンスキー! 善戦も虚しくヒシアマゾン1バ身差で負けました】

 

「アマちゃん、宝塚記念はどうするの?」

 

「……止めておくよ。宝塚記念まで鍛え上げたとしてもあんたには勝てないし、何よりも今のレースで疲労が溜まり過ぎた。今シーズンのレースは見送らせてもらうよ」

 

 二代目の問いに仰向けに寝るヒシアマゾンが答えると別の質問に変えた。

 

「ビコーのヒーローショーは?」

 

「付き合うよ。あいつが楽しみにしているんだ。ダービーの前座には丁度いいだろ?」

 

「私は出走するから見れないけど後でビデオで記録したのを見させてもらうよ」

 

 ヒシアマゾンが笑い、そして真顔になるといつになくシリアスな声を出した。

 

「ダービーと宝塚勝てよ。あんたがトップの状態でリベンジしたいからな」

 

「もちろんだよ。それどころか大きな手土産を持って帰るからね」

 

「秋の盾でも獲る気なのかい?」

 

「惜しい。その時になったらわかるよ」

 

「じゃあその時とやらを楽しみに待っているよ。行こうか」

 

 ヒシアマゾンがようやく起き上がり、二代目の手を引きウイニングライブの場へと向かっていった。

 

 

 

【アイグリーンスキーさん、NHKマイルC制覇おめでとうございます。ヒシアマゾン以上の豪脚が見事に炸裂しましたね】

 

「ありがとうございます。お陰でこれからのレースに備えて不安要素を少しでも削ることが出来ました」

 

【これからのレースといいますと安田記念ですか?】

 

「いえ、日本ダービーです。確かに安田記念はいけなくもないのですが、マイル以下の距離のレースはこれで終わりにしたいと思います」

 

【マイルでこれだけ戦えるのに日本ダービーですか?】

 

「はい。私は本来マイラーではなく、ステイヤー気質な部分があります。なのでスタミナよりもややスピードを要求するマイルで活躍出来るなら2400mでも十分に戦えますので出走登録しています」

 

【では日本ダービーへの意気込みを一言お願いします】

 

「打倒ナリタブライアン、彼女を下せばダービーは取れます」

 

【アイグリーンスキーさん、ありがとうございました!】

 

 こうして二代目の初めての大舞台は勝利を納め終わった。

 

 

 

 

 

 その頃、欧州ではトレーナーリーダーが日本に遠征させるウマ娘を選出していた。

 

「やはり迷うな……」

 

「どうしたのトレーナー?」

 

 体調を回復したラムタラがそう尋ねると口を開いた。

 

「どうしたもこうしたもな、日本に遠征させるウマ娘を考えていたんだ」

 

「遠征させるって言ってもそもそも日本は排他的だから出られるレースなんてほとんどないはず」

 

「ところが奇跡は神憑り! 今年から高松宮記念や安田記念と言ったスプリント・マイル路線やフェブラリーS等のダート路線と宝塚記念はそれぞれのレースに2枠だけ出走が可能になったんだ。それ以外にもJCを勝ったウマ娘は有馬記念にも出られるぞ」

 

「ふぅん……それでトレーナー、この時期の日本ってどんなレースがあるの?」

 

「安田記念と宝塚記念だ。この二つのレースはそれぞれ1600mと2200m──と言ってもわからないだろうから芝8Fと芝11Fのジュニアとシニアの混合レースだ」

 

「だったら迷うことない。ドバイミーティングで勝ったウマ娘達を行かせればいい。8Fの方はマークオブエスティーム、11Fの方はバランシーンが行けばいい」

 

「そういう訳にはいかない。最近ドバイのウマ娘ばかり贔屓していると批判されているからな……」

 

「そんなの気にするトレーナーじゃない。気にしているなら8Fのもう1枠にドバイ以外のウマ娘を送ればいいと思う」

 

「それもそうだな。ありがとうなラムタラ」

 

「ご褒美に頭撫でて」

 

「ほらよ」

 

「ん……」

 

 頭を撫でられラムタラが幸悦の笑みで目を閉じる。その姿はまるで愛玩動物のようだった。




オマケ
もしも先代の長男(カーソンユートピア)と末弟(ボルトチェンジ)がNHKマイルCをみていたなら
「それで我が兄よ。このレースどう思った?」
身長190cmのウマ娘が隣にいる小柄なウマ娘に尋ねると小柄なウマ娘が怒り出した。
「もう、ボルト。兄じゃなくてソンユって呼んでよ!そう言ってくれないと答えないよ」
激おこプンプン丸だよー!などと口にするウマ娘──カーソンユートピアが大柄なウマ娘もといボルトチェンジに怒る。
「ならば聞かぬ」
「ええっ!?ちょっと、そこは聞いてよ!」
「カーソンユートピアよ。前世では父が同じ腹違いの兄弟であり、糞爺が長子と認めた男。故に我が兄と呼ぶのは当たり前のことだ」
「前世がどうとか言っているけど前世は前世、今は今なの!」
「どちらにせよ、我が兄が我が兄と認めぬ限り我が問いに答える必要はない」
「そうだけど!男じゃないんだから姉にしてよ!」
「退かぬ、媚びぬ、省みぬ。このボルトチェンジに後退の二文字はない」
「もぉぉぉぉっ!」
見た目相応にからかわれ牛のように発狂するカーソンユートピアとそれを無視して二代目の方を冷静に見つめるボルトチェンジが口を開いた。
「確かに今回のレース端から見ればあいつがヒシアマゾン以上の末脚を出したレースに見えるが、嵌めただけで対策方法はいくらでもある。ただ準備不足していたのは嵌めた側の方だ。準備して臨んだとしたら、次の日本ダービーはどうなることやら」
そしてボルトチェンジが背を向けるとカーソンユートピアがそれに気づいて慌てて追いかける。
「もー!どこに行くの!?」
「決まっているだろう。トレセン学園の入学手続きだ」


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第47R 二代目、頂点へ1

読者の皆様へ表記等変更のお知らせ
主人公が所属するチーム名をカノープスからトゥバンに変更
ジュニアA→ジュニア予備
ジュニアB→ジュニア級
ジュニアC→クラシック級
となります。もし読み返した時に変更されていなければ誤字報告の方で連絡お願いします。



前書き
ウマ娘アプリ遂にリリースされましたね。私もインストールしてプレイしました。
ちなみに作者は無課金勢で最初にクリアしたのがハルウララです。ウララは有馬記念負けてもいいのがメリットですからね。タキオンやスカーレットもいい線いったんですが有馬記念で負けます。マックイーンやテイオーは天皇賞春が手強すぎて最後の有馬記念までたどり着けない有り様です。



前回の粗筋
二代目「初めてのGⅠ制覇ぁーっ」


 そして時は流れ、日本ダービー当日。そこにはナリタブライアンの二冠達成を見に来る者、あるいは二代目による無敗ダービーの快挙を見る者、そして大穴を狙う者等様々だがほとんどはナリタブライアンと二代目の対決を待ち望んでいた。

 

 

 

「さあレッド、やっちゃいなっ!」

 

「ヒシアマ司令了解! くらえ、必殺ウマソルジャーアタック!」

 

 ビコーペガサスがラリアットで悪役のウマ娘達を倒し、口を開く。

 

「皆、この時期カビが生えやすいからって効率しようとして酸性の洗剤と塩素系の洗剤を混ぜたら駄目だぞ! 混ぜるな危険って書いてあるんだから!」

 

 ビコーペガサスがそう促し、ヒシアマゾンがそれに続く。

 

「それじゃヒシアマ司令から一つ、日本ダービーだけじゃなく今日のレース全部楽しんでくれ! 以上っ!」

 

 ヒシアマゾンがそう告げると大歓声が沸き上がる。

 

 

 

「ヒーローショーは成功か」

 

 シンボリルドルフが満足げに頷き、その隣にいたウマ娘が口を挟む。

 

「相変わらず生真面目ね。ルドルフちゃん」

 

「何を言うか、そういうマルゼンスキーせ──マルゼンも結果内容を記録しているじゃないか」

 

「ルドルフちゃんが後で報告する際に見易くするためよ」

 

「そうか、それは有難い……」

 

「生徒会でも私の後継者が必要でしょ?」

 

「確かにマルゼンが抜けてからシービー先輩等が抜け、今となっては正式かつ純粋な会員は私とシリウスしかいない」

 

「ロマン*1ちゃんとラモーヌ*2ちゃんがいても寮長も兼ねていて、本当に忙しい時にしか駆り出せないってことでしょ?」

 

「ああ……今はまだいいが、現状年末になる前に生徒会の活動をまとめなければならないからな。そればかりはどうしようもない」

 

「ならアイリちゃんなんかどう?」

 

「アイリ……アイグリーンスキーのことか。確かに候補に入るだろうが、私としてはナリタブライアンを勧める」

 

「貴女がリギルの選抜試験を勧めたウマ娘よりも同じチームのウマ娘を選ぶの?」

 

「確かに当時はグリーンの方が優秀だった。しかしナリタブライアンはデビュー戦で負けて以来、常に成長し続けている。七転八倒。負けを知ることで強くなったウマ娘だ。私もカツラギエース先輩やギャロップダイナ先輩に負かされて成長したからな」

 

「貴女風に言うなら臥薪嘗胆の気持ちで強くなったってことね」

 

「そうだ。そして何よりも──」

 

「何よりも?」

 

「グリーンの手続きの為にヤマトダマシイと会える口実がなくなってしまうからな」

 

 キメ顔でそう語るシンボリルドルフにマルゼンスキーが小悪魔のように微笑み、口を開く。

 

 

 

「成る程ルドルフちゃんは、【ヤマトダマシイたんしゅきしゅき♥️】って訳ね」

 

 身体をくねらせながら幸悦とした表情でマルゼンスキーが言うとシンボリルドルフから絶対零度の視線が突き刺さる。

 

「……こほん! とにかくこの日本ダービーで決めようじゃない! どっちか生徒会にふさわしいかこのレースの結果でわかるわ」

 

「そんな勝手な真似は出来ん。本人達の意思を──」

 

「そんなの後で外堀を掘っていけばいいのよ。ルドルフちゃんだって昔は乗り気じゃなかったでしょ? 昔はむしろ──」

 

「わ、わかったから言わないでくれ!」

 

「ほほう、ミスマルゼン。その昔話詳しく聞こうではないか」

 

 突如サンデーサイレンスが現れ、シンボリルドルフとマルゼンスキーが驚愕し、ウマ耳を伏せる。

 

 

 

「なっ、サンデーサイレンス!?」

 

「いつからそこにいたの!?」

 

「むっふっふ、ウマ娘の弱味が生まれそうな所にサンデーサイレンスあり。さあミスマルゼン話すがいい。さもなければ痛い痛い痛い!」

 

「うちの特別講師がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

 途中まで言いかけたサンデーサイレンスのウマ耳を掴み、お仕置きするフジキセキ。

 

「や、やめろぉっ! 特別講師たる余になんて態度を取るんだ!」

 

「はいはい。サンデーサイレンス先生が悪いことをしたら止めるように言われているんですよ。さあチームトゥバンの所に戻りましょうねー、サンデーサイレンス先生?」

 

「なっそれを言ったらフジキセキ、いつぞやの、痛いから止めんか!」

 

「それだったら黙って歩きましょうね」

 

 黙りこんだサンデーサイレンスのウマ耳を掴んだまま連行していくフジキセキ。それを見た二人が感心し、頷く。

 

「サンデーサイレンス先生をあそこまで制御するのはグリーンだけじゃなかったのか」

 

「それもそうだけど、あの娘。逸材じゃない?」

 

「確かにな。サンデーサイレンスを制御する意味でも、そして走りの意味でもな」

 

 シンボリルドルフが締めるとウマ娘達が入場していく。

 

 

 

【クラシック級の頂点を決定すると言っても過言ではない日本ダービー。一昨年は最も幸運なウマ娘メリーナイス、昨年はダービーで運を使い果たしたウイニングチケットが制しましたが今年は一体誰が制するのでしょうか? さあ本バ場入場です】

 

「そんな酷い!」

 

 ウイニングチケットが抗議するが彼女の戦績は今年になってから冴えないものであり文句を言える立場ではない。しかしウイニングチケットに限らずダービーを勝って以降冴えない成績のウマ娘は多数おり、メリーナイスもその一人で彼女(ウイニングチケット)だけがその立場に立たされている訳ではない。

 

 むしろシンボリルドルフのようにダービーを勝利した後、GⅠ競走で勝利する方が稀である。

 

 

 

 ウマ娘達が入場し、しばらくすると大歓声が東京レース場に響き渡る。クラシック級の誰よりも大柄な体格であり青黒く光り輝く長髪が、それを呼び起こしていた。

 

【4枠8番、アイグリーンスキー。NHKマイルCから殴り込んできたクラシック級のマイル王が頂点に挑みます!】

 

 二代目に注がれる視線は怪物を倒せるのではないかという期待。

 

「グリーン! 俺だ結婚してくれーっ!」

 

 そして欲情の視線。しかし集中しているせいか気にも止めず、二代目は前を向いて歩く。

 

 

 

「あいつの人気は相変わらずだな……」

 

「仕方ないと思うわ。牛丼屋でいうところの早い旨い安いならぬ、速いウマい強いの三拍子が揃っているもの。あれで人気が出ない方がおかしいわ」

 

「最も、バ券はあいつの方が人気だがな」

 

 

 

 シンボリルドルフが見た先にいたのは大外枠のウマ娘。そのウマ娘が登場するやいなや今日一番の大歓声が響いた。

 

【そして8枠17番、ナリタブライアン。朝日杯、共同通信杯、スプリングS、そして皐月賞を勝ってきた幾戦錬磨のウマ娘であり一番人気に支持されています】

 

「待たせたな、グリーン」

 

「それはこっちのセリフよナリブ。ナリブみたいに仕上がりが早い訳じゃないから皐月賞に出走出来ずにいた自分が恨めしいわ」

 

「もし英ダービーに出ていたら一生恨まれていたかもな」

 

「それはないわ。だって貴方のいないダービーを圧勝した後は凱旋門賞やJC、有馬記念に出走して勝つから、貴方がダービーに出走しても勝てなかっただろうなんて言われることになるよ?」

 

「ますます出て良かった。何故ならここでお前を止めておけるからな」

 

「何にしてもこのダービー、私が頂くわよ」

 

「やってみろ、グリーン」

 

 二人の闘志が他のウマ娘達を萎縮し、東京レース場が騒然とする。

*1
トウカイローマンのこと。本作品では栗東寮長

*2
メジロラモーヌのこと。本作品では美浦寮長




オマケ

「……しかし解せんな」
ヒーローショーを見たビワハヤヒデが一言呟いた。
『何がだ?』
「いや他にもテーマがあっただろう。何故テーマを薬品の取り扱い注意にしたのかが解せない」
『それか……まあ大人の事情って奴だ』
「大人の事情ってなんだ!?」
『詳しくは言えねえよ。世界補正って奴だ』
ナリタブライアンが三冠馬となった年は1994年であり、その年に何が起こったのかはお察しください。



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第48R 二代目、頂点へ2

聞かれないから自ら話すスタンスの作者のエピソード
・ウマ娘を知った切欠は?
≫作者が当時なろう小説──現在ではハーメルンにも記載──にてサイレンススズカのif小説を連載していた頃、感想でウマ娘の存在を知った。

・競馬を知る切欠は?
≫当時中古で売っていたwinningpost7 2007が切欠。その後、ヴィクトワールピサの皐月賞を見てのめり込んだ。

・作者の一番好きな競走馬は?
≫ダイワメジャー。理由はウイポで初めてのムービーがダイワメジャーだったから。

・他にも好きな競走馬を挙げるとしたら?
≫トキノミノル、シンボリルドルフ、トウカイテイオー、ミホノブルボン、サイレンススズカ、テイエムオペラオー、ヴィクトワールピサ、オルフェーヴル、ドゥラメンテあたり。


【さあ日本ダービー、スタート! まず始めに飛び出していったのは──】

 

 日本ダービーが始まり、各ウマ娘達が一斉にスタートを切りそれぞれのポジションに付く。その最中でナリタブライアンは中団のポジションにつき、二代目がその後方を追いかける形となった。

 

【一番人気ナリタブライアンはいつもの位置。その後ろにアイグリーンスキー。これはナリタブライアンをマークしてのことでしょうか? 続きまして──】

 

 

 

「メリーナイス先輩、今回のダービーどう思いますか?」

 

「有力なウマ娘が後方にいる、という点では私の時と全く一緒だけど、グリーンやナリタブライアンはそれをねじ伏せるだけの力量がある。そこにいる負け犬と違ってね」

 

「ちょっと負け犬ってどういう意味かしら?」

 

「スプリングSでハマったからってダービーで追込にして惨敗したのを負け犬といって何が悪いんですかー?」

 

「子供の頃に100点満点取ったのをいつまで自慢しているつもりですか? ダービーで勝って以降惨敗続きの貴女よりも善戦しています」

 

 メリーナイスとマティリアルが互いに罵り合い、口喧嘩を始める二人にサクラスターオーが止めた。

 

「止しなさい、みっともないわ。チームトゥバンの私達の世代は重賞こそ取れるもののGⅠ競走に勝てない有り様。今となっては過去の栄光じゃなく、下の代──ヤマトやグリーンにすがるしかないのよ」

 

 その言葉にメリーナイスがため息を吐く。

 

「全く、サクラ軍団のエースとは思えないセリフね」

 

「だけどメリー、これだけは覚えておいて。完治した時、私がヤマト世代とグリーン世代をまとめて交わしてあげるわ」

 

「大した自信だね」

 

「誰に対して言っているの? 私は貴女達の世代の二冠ウマ娘なのよ?」

 

 サクラスターオーの自信満々なその声に彼女達は希望し、そしてヤマトダマシイはその闘志に静かに火をつけていた。

 

 

 

 

 

「私とほぼ同じ中団(ポジション)で良かったのか? グリーン。アマさん以上の末脚を犠牲する上に、レースを支配するのも苦労するはずだが?」

 

「……」

 

「おい、なんとか言え」

 

 二代目が無言でその位置から前に動き出すとナリタブライアンがため息を吐く。

 

「レースを支配するものは全てを制す。いい言葉だよ」

 

「何だと?」

 

 二代目の呟きにナリタブライアンが反応するが二代目はそれをスルーした。

 

 

 

「ナリブ、確かに貴女は素質のみなら私は当然、この国内において敵うのはいない。だからこそペースなんて考えずに捩じ伏せることが出来る。しかしそれが大きな弱点でもある」

 

「そうとも、だからこそ私は弱点を弱点とも思わない程に鍛えたんだ!」

 

 脳筋の発想だが、間違いとも言い切れない。マルゼンスキー等といったウマ娘は絶対的な身体能力で捩じ伏せているだけでなく優れたタイムを出していて強さの指標になる。

 

「絶対的な数値で捩じ伏せる……それも一つの手だけど、レースはあくまでも相対的なものだよ。例え1800mを2分6秒で走っても一着なら勝ち、2400mを2分22秒で駆け抜けたとしても一着以外なら負けでしかない」

 

「まさかお前……!」

 

「気がついた? それじゃくたばろうか」

 

「くっ! だが態々罠とわかる動きに乗る必要はない」

 

「動こうが動かないがどちらにせよ私の掌の上で踊ることになる」

 

『お互い祖父がノーザンダンサー*1なだけにな』

 

「くそがっ! だがこんなことをすればお前もただでは済まないぞ!」

 

 ナリタブライアンが悪辣を吐き、忌々しく二代目を睨むが二代目は逆に笑みを浮かべてナリタブライアンを防ぎ混んで挑発する。

 

「ちゃんちゃら*2可笑しい話だよそれは。必勝の策って奴が私にはあるんだからくたばるのは貴女だけよ」

 

「グリーン、どけっ!」

 

 ナリタブライアンが体当たりでどかそうとするが二代目の巨体にそれは悪手で逆に吹っ飛ばされる始末だ。

 

「くそがっ!」

 

「無駄無駄、諦めなよ」

 

 

 

 

 

「やはり遅い、遅すぎる……」

 

「ルドルフちゃんもそう思うの?」

 

「当然。まるで一昨年のダービーを見ているようだ」

 

 一昨年のダービー、それはメリーナイスが勝った日本ダービーのことである。

 

 メリーナイスが勝利出来たのは完璧なレース運びやレース展開といったものが偶然が重なったものであり、もし一つでも狂っていたら勝利することは難しかっただろう。

 

「ブライアンはそれに気づいたみたいだけどアイリちゃんに退路を絶たれたようね」

 

「まさしく完全無欠のレースだ。自分がマークされるにも関わらずここまで厄介なウマ娘を封じ込めるとはな。逃げウマ娘ならともかく中団差し、追込のウマ娘には辛いところだ」

 

「あの対策法はあらかじめ逃げるか極端に後ろに下がるしか対策がないわ」

 

「後者は論外。あそこで下がればグリーン諸共共倒れだ。ダービー史上最悪の決着になる──となれば、一瞬の隙をつくしかない」

 

「だけどブライアンに出来るかしら? 圧倒的な能力を持つからこそ、自分の思い通りにいかないと力が発揮出来ない。ルドルフちゃんとは違ってブライアンはそのタイプだと思うのよね」

 

「マルゼン、お前が言うと説得力があるな」

 

 

 

 

 

 直線に入りまだ二代目とナリタブライアンは後方に詰まったままの状態で加速するがナリタブライアンは自らの思うようなレースが出来ず身体と精神が一致しないでいた。

 

「くそがぁっ!」

 

 どかそうとナリタブライアンが二代目にタックルを仕掛けるも逆に弾き返される始末で観客からは二代目に対するブーイングが絶えなかった。

 

【ナリタブライアン、ピンチ! ナリタブライアンピンチだ! 抜け出せない!】

 

「そう急かない急かない。私のお尻眺めてゴールしなさいな」

 

「ふざけるな!」

 

 二代目を始めとした四方のウマ娘に囲まれ、イラつきが止まらないナリタブライアン。外側にいる二代目を弾こうとしても体格差で負けてしまい、これ以上スピードを落とすことも出来ない。スピードを落とせばそれこそ末脚で勝る二代目に勝ちを譲ることになってしまい、何が何でもナリタブライアンは二代目よりも前にいかなければならなかった。

 

 

 

【残り300mしかありません! 一番人気、二番人気ともに終わるのか!】

 

「さて、いきますか!」

 

 残り300mを切り二代目が加速するとその後ろに二代目をマークしていたウマ娘エアダブリンがくっつく。

 

「くっ、ここしかない……!」

 

 ナリタブライアンはエアダブリンの外に回り込んで加速するがエアダブリンすらも抜かせない。

 

「な、何故だ? 何故、抜かせない!」

 

 マルゼンスキーの予想通り、ナリタブライアンは力を出せず攻めあぐねていた。

 

 

 

『有馬記念、JC、春の天皇賞。そして今回のダービーでも負けるだと?』

 

 ──ふざけるな

 

 ナリタブライアンの脳にそんな声が響き渡る。

 

『俺はあいつの踏み台なんかじゃねえ。三冠達成時は史上最強の三冠馬? 違うだろうが! 俺は正真正銘、アイグリーンスキーを破った史上最強の三冠馬だぁっ! それをお前が証明してやれナリタブライアン!』

 

「……当たり前だ!」

 

 ナリタブライアンが加速し、エアダブリンを引き離すと先頭にいる二代目を標的に変えた。

 

 

 

【後続を引き離してナリタブライアンとアイグリーンスキー】

 

 東京優駿、最後の100m。ナリタブライアンと二代目が並び、壮絶な叩き合いが繰り広げられる。

 

【和製ミルリーフか、ニジンスキーの後継者か、二人の叩き合い! 凄まじいデッドヒートだ!】

 

 二代目、ナリタブライアン共に互いに譲らないデッドヒートに観客達が興奮し、地面を揺らすほどの歓声を上げる。

 

「その様子だと覚醒したようね」

 

「何のことだかわからんが、今はお前に勝つ、それだけだ!」

 

【さあナリタブライアンかアイグリーンスキーか! 今、並んでゴールイン! おっとただいまのレース審議のランプが付きました、審議です!】

*1
米国の競走馬及び種牡馬。セクレタリアトが更新するまでのケンタッキーダービーのレコード所持者であり20世紀最高の大種牡馬。大種牡馬サドラーズウェルズやノーザンテースト、ニジンスキーの父であり、ナリタブライアンの母父でもある

*2
身の程知らずの滑稽な有り様という意味だが、作者は凄く等後ろを強調させる意味で使っている




・ウマ娘アプリ感想
≫ウマ娘アプリやっているうちにマルゼンスキー(ウマ娘)が可愛く見えてきた。まあ最初にB行ったのがマルゼンスキーですからね。尚、スピードSいったのはサイレンススズカが最初だったりする。無課金でも運がよければいけることを実感しました。結論、ウマ娘アプリにおいて作戦逃げは最強である

・ウマ娘アプリの不満点
≫CPU任せだけでなくGⅠジョッキーのようにウマ娘を直接操作した方が良くね?


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第49R 二代目、頂点へ3

・作者にとって競馬とは
≫時折賭けているがスポーツ観戦のそれに近い。

・ウマ娘アプリで作者が個人的に育てやすいのは?
≫サイレンススズカ。次にマルゼンスキー、その次にサクラバクシンオー。理由?スピードをあげまくれば勝てる逃げウマ娘だからさ!ちなみにミホノブルボンを出していないので出たら育成する予定。

前回の粗筋
審査員「今のレース審議です!」


 審議のランプが点いてから27分後、ようやく審議のランプが消え、二代目とナリタブライアンの着順が決まり掲示板を見ると4、つまり二代目が上から一番、上から二番目に18、ナリタブライアンが着順になっていた。

 

「あれでも届かないのか……?」

 

 ナリタブライアンがその結果を見て膝をつくと二代目が声をかける。

 

「何をそんなに落ち込んでいるの? 見てみなよ、こんな珍事は二度と起きないよ」

 

「なんだと?」

 

「同着だよ。全世界のダービー史上の珍事を私達が引き起こしたんだ」

 

 ナリタブライアンが掲示板を見るとそこには4と18の間右隣に同着を意味する【同】と表示されていた。

 

 

 

【お待たせしました。先程行われた第10Rの4番アイグリーンスキー号と18番ナリタブライアン号の審議について説明します】

 

『やはりか。だが、こっちの過失はねえ。むしろナリブの野郎が注意受けるだろうよ』

 

【問題となったシーンは第3コーナーに入った直後、4番が18番の外につけたところで18番が4番に対して執拗に体当たりを仕掛けたところ。ここで4番が斜行しているかのように見えましたが、検証した結果斜行していないと判明しました】

 

「バカなっ! あれで斜行していないなら他の斜行も見逃されるはずだ!」

 

 ナリタブライアンのその言葉に同調しブーイングが飛んでくる。

 

「そうだ、そうだ! あれで進路妨害じゃないなら他の進路妨害は何だっていうんだ!」

 

 そのブーイングから逃げるように次の審議対象について職員が話しだした。

 

 

 

【次に18番が4番に対して体当たり等で進路妨害したと思われましたが、4番にはこの体当たりによる影響がほとんどないと判断し──】

 

「それこそあり得ない!」

 

 二代目の叫びと共にブーイングが響く。

 

「ナリタブライアン贔屓が過ぎるぞ! あれこそ失格だ!」

 

 再びブーイングの嵐が発生し、職員が早口で締める。

 

【よって審議14分にわたる話し合いの結果、双方共に注意処分とし失格処分及び降着処分はなしと判断しました。次に写真判定の結果、4番と18番がゴールした瞬間の映像をご覧下さい】

 

 ブーイングを無視してゴール映像に切り替わりゴールした瞬間を拡大すると二人の位置が全く同じ位置にあり再び騒然とする。

 

【ご覧の通りゴールした瞬間は全く同じで、URAの規定により顔、身体、腰といった全ての基準に沿い着順を決めようとしましたが体格が全く異なるにも関わらず同着という判定になりました】

 

「だってさナリブ。これ以上何か抗議しても無駄みたいだよ?」

 

「やむを得ないか……今回はダブル・センターだな」

 

 ウイニングライブの仕様上、通常であれば1着のウマ娘がセンターで踊るが今回に限り1着のウマ娘は二人いる。そのような場合、ウイニングライブのセンターは互いに交代して行うことになる。

 

 前年の阪神大賞典においてメジロパーマーとタマモクロスが同着、一昨年の菊花賞ではスーパークリークとサクラスターオーが同着になっており互いに交代しあってセンターで踊りライブを盛り上げた。

 

 そのようなセンターをダブル・センターと呼ぶようになった。

 

 

 

 

 

 ~ウマ娘ライブ中~

 

 

 

 

 

 そしてウマ娘のウイニングライブが終わり、表彰式が行われた。

 

『まさかてめえとこうして並ぶことになるとはな。なあナリタブライアン?』

 

『おうともアイグリーンスキー。ダービーじゃお前に勝ったがそれ以外はお前が立つ側だったからな』

 

 表彰式であるにも関わらず二人の魂がテレパシーで互いに火花を散らし、迷惑がるウマ娘も当然いる。

 

 

 

 二代目とナリタブライアンの二名だ。表彰式が終わったにも関わらず二人の魂がテレパシーで口論しあいその度々に頭痛を引き起こしていた。

 

「ナリブ、私達の魂が物凄くうるさいんだけど」

 

「それに関しては同感だが、自分達の魂同士がテレパシーで通じるんだから仕方ないだろう」

 

「なんとか出来ない?」

 

「それは成績一位の頭脳で考えろ、グリーン。元はと言えばお前があんな妨害をしなければ私がぶっちぎって、うるさくならなかったんだ」

 

「はぁ? それは貴女が覚醒したからでしょ? 覚醒しなかったら私の一人勝ちだし、うるさくなることもなかったんだよ?」

 

 今すぐにでもキャットファイトしそうな二人に声が響き渡る。

 

『おい止めろ二代目』

 

『そうだぞみっともない』

 

「黙らっしゃい!」

 

「その元凶が何をいうか!」

 

 

 

『え、何? 原因俺達?』

 

「当たり前でしょ、ただでさえうるさいのにテレパシーなんて使っていたら脳に負担がかかって仕方ない」

 

「お前達に生理の痛みと言っても通じないだろうから言わせてもらうが、ゴールデンボールを蹴られたような痛みが頭にくるんだぞ!」

 

『お前らにゴールデンボール蹴られた痛みなんてわかるわけねえ! あれだったら生理の方がマシだ』

 

 

 

 事実、生理よりもゴールデンボールを蹴られた痛みの方が数値的には上である。ただし生理の方が長く続くので苦痛の具合で言えばそちらの方が上である。

 

 

 

「え、先代って蹴られたことあるの?」

 

『エアグルーヴの奴に蹴られた経験がな。もっともかすった程度だから種牡馬としての生活に支障ないどころか無事だったが、かすっただけでも普通のタックルよりも痛かったからな』

 

 先代がその時(タマヒュン)を思い出し二人に共有させると顔を青ざめる。

 

「ひぇっ、ごめんなさい」

 

「すまなかった」

 

『わかりゃいい。こうして共感出来るのは最高だと思わないか?』

 

「苦痛まで共有させないで……」

 

「何故私まで共有出来るのか謎だが、とにかくテレパシーを使うと頭がそのくらい痛むから止めてくれ。特に口論は酷く痛む」

 

『ちっ、わかった。ただこれだけは言っておくぞナリタブライアン』

 

「なんだ?」

 

『次、同じレースで走る時は表彰式に立つのはお前達じゃなく俺達だ』

 

「ほざけ初代グリーン。菊花賞でケリをつけてやる」

 

 ナリタブライアンがそう告げると二代目が割り込み冷や水をかける。

 

 

 

「悪いけど、菊花賞には出ないよ。今度ナリブと走ることになるとしたらシニアのレースになるから」

 

「何だと?」

 

「世界最高峰のレース、KGⅥ&QES、凱旋門賞。この2つのレースで待たせているウマ娘がいるからね。その前哨戦に宝塚記念に出走する」

 

「宝塚記念だと!? あそこには現時点では私よりも遥かに格上の存在が多数いる。私相手にこんな小細工をして同着だと言うのに無謀にも程がある」

 

「無謀ねえ。一応言っておくと私はまだ余力を残している。僅差で勝つようにしているからね。まあ今回に限っては頭差で勝つつもりが失敗した訳だけど、私の見立てでは宝塚記念で2着のウマ娘にクビ差で勝つよ」

 

「何をバカなことを。それじゃ何か? お前は私に対して本気で走っていないとでもあのか?」

 

「それは二つのグランプリ(宝塚記念と有馬記念)でわかることだよ」

 

 二代目がその場を立ち去り、ナリタブライアンが下唇を噛む。

 

「今になってアマさんの気持ちがわかる……有馬記念で待っていろ」

 

 ナリタブライアンが復讐の炎を燃やし有馬記念で決着をつけるべくその炎に薪をくべた。

 

 

 

 

 

 ダービー翌週。東京レース場にて、悲鳴が鳴り止むことなく轟音が響く。

 

 その理由は安田記念にて外国からやって来たウマ娘に対して日本のエースが後退したからだ。

 

【マークオブエスティームだ、マークオブエスティームだ! オグリキャップが苦しいっ!】

 

「これが世界の実力……冗談じゃない、こんなスピードについていったらゴールまで持たない……このまま力尽きて日本代表としてみっともない真似は──」

 

『バカなことを言うんじゃねえ……2着だろうが殿だろうが負けは負けだ。勝負から逃げたらそれ以下だ!』

 

「真似は出来ないっ! だからこそ勝利で締める!」

 

【おーっと! オグリキャップ差し返しに行ったーっ! オグリか、マークか!】

 

「How why!?」

 

 諦めていたオグリキャップが差し返すという予想外の出来事にマークオブエスティームが思わずそう叫ぶ。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

【オグリキャップが物凄い形相で迫る! もうここからは根性勝負だ! 内か外か、外か内か!】

 

「な、なんて娘なの……あのマークに食らいついているわ」

 

 もう一人の海外からやって来たウマ娘が唖然とし、後退する。

 

 しかしそれでもオグリキャップの力及ばず、マークオブエスティームが鮮やかに逃げ切ってしまう。

 

【僅かに外、マークオブエスティーム! これが世界! これがタイムレーティング137の実力! 怪物程度では止められない!】

 

 タイムレーティング137の重みに耐えたマークオブエスティームに人々が称賛の声をあげるとオグリキャップの健闘を讃える声もあり、オグリキャップを含めた日本のウマ娘達が海外のウマ娘の壁が嫌という程に実感してしまう。

 

 

 

「……また勝てなかったか」

 

『マークが強かったから仕方ない、なんて思っていないだろうな?』

 

「もちろんだ。あの刹那、私の弱さを出したのが原因だ。今度の宝塚記念は相手が誰であっても勝てる」

 

『だが今度の宝塚記念に限っては一筋縄ではいかないぞ』

 

「それは一体どういうことだ?」

 

『今回出走したマークオブエスティームよりも遥かに格上の奴が出走する』

 

「誰だ?」

 

『先週日本ダービーを制したアイグリーンスキーだ』

 

「クラシック級のあいつも出るのか?」

 

『勿論だ。俺の世界の奴は四歳*1──つまりクラシック級で宝塚記念、凱旋門賞、JC、有馬記念の4つのレースを制した世界最強の競走馬だ。最終的にタイムレーティングもマークオブエスティームを上回っている』

 

「なるほど、今では日本クラシック級最強でしかないが、これから世界最強のウマ娘になる相手と戦う訳か」

 

『宝塚記念で戦うのは勿論あいつだけじゃないが、他のウマ娘に比べたらお前も含めてドングリみたいなもんだ』

 

「ドングリとは私達のことを過小評価し過ぎじゃないか?」

 

『過小評価ならどれだけよかったことか。かつて俺も芦毛の怪物と呼ばれたがあいつの前じゃその名前も霞む。あいつは最終的に凱旋門賞最多勝利、KGⅥ&QES連覇、JC5連覇の偉業を達成させたんだ。宝塚記念は奴にとって伝説の始まりでしかない。だからあいつを狙うのは当然だ。あいつの前には誰もいないんだからな』

 

「確かにな。ではアイグリーンスキーをマークする形でいいか?」

 

『奴が逃げたりしない限り徹底的に食らいついていけ。根性勝負なら誰にも負けねえからな』

 

 自らの魂の言葉に頷き、二代目をマークする方針にしたのはオグリキャップだけではない。この場にもう一人視察に来ていたオグリキャップと同じ芦毛のウマ娘──ビワハヤヒデもその結論に至っていた。

*1
現在は三歳。オグリキャップや先代が現役の当時は数え年




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト2

11.オグリキャップを餌付けしてはならない。あれからチームトゥバンにオグリキャップが頻繁に来訪し食糧不足に陥っています
12.突如大人しくなって周囲のウマ娘や人間達を疑心暗鬼にさせてはならない。その翌日、睡眠不足者が多発しました
13.宴会以外での曲芸を禁止する。学園祭で出した貴殿方の曲芸のせいでトレセン学園がサーカス団養成機関と間違われたからです
14.気の使うウマ娘をジョンベンリーと呼んではならない
15.気の使わないウマ娘をジョンヘンリーと呼んではならない。ジョンヘンリーの名誉毀損に当たります
16.宝塚記念に出走するに当たって宝塚に出る訳ではないので男装させる必要はありません。それが勝負服と言った場合は特別な理由がない限り別のGⅠ競走でも同じ勝負服で出走することを命じます
17.気性の荒いウマ娘を○○のセントサイモンと名付けてはならない
18.セントサイモンのことをパワーアップした○○などと呼んではならない
19.虜にしたウマ娘やトレーナーを部屋に連れ込んだ後、故意に涙を流して部屋から出ていくのを見られてはならない。またその際に片栗粉を溶かした水を入れたコンドームを部屋の外で落としてはならない
20.参考資料としてトレセン学園問題児解決会議に貴殿方が参加する必要はなく、それどころか禁止します

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尚、次回更新は未定です


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第50R ヅカファン投票結果

アンケートご協力ありがとうございました。圧倒的に禁止リストが多かったので後書きに載せます。

それでは作者が色々と気になったことや疑問に思ったと思われることをリストアップします。

・ニンジンステーキ
≫もしかしてニジンスキーが由来?

・競馬オタクになると戦績でわかるって本当?
≫人によるがタイトルを載せずともその馬のファンならわかる。例えば12戦8勝と言えばダイワスカーレットであり、他にも17戦10勝のスペシャルウィーク、28戦9勝はダイワメジャーと言ったようにすぐに思い付く。もっとコアなファンだとタイムまでわかるが、作者はタイムを記憶しておらず調べる羽目になる。尚、メジロマックイーンとオルフェーヴルは戦数、勝利数が共に同じなのでそれだけではわからないので注意する必要がある

・スーパークリークの幼少期は手がかからなかった
≫ママさんキャラを確立するためのオリジナル設定かと思いきやまさかの史実通り

・ウマ娘アプリで天皇賞春が勝てない
≫それな。作者もメジロマックイーンで一回勝利したきりで後はマヤノトップガン、スーパークリーク、ライスシャワー等超ステイヤーで挑んだがそれだけが勝てない。特にマヤノトップガンは二着で天皇賞春を除けば全勝なだけに余計に悔しい。ルドルフめ、ローレルみたいなことをしやがって……ちなみにナリタブライアンは5着で史実のマヤポジションでした。

・キングヘイロー万能説
≫キングヘイローは割りと簡単に全ての距離でA適正になる。育成次第ではジョーカーになる。しかも作者自身がレジェンドレースで負けまくったから尚更強く感じてしまう。サポートでもスピードなので優秀と言える

・公式のウマ娘の中で気性が荒いのと大人しい競走馬を上げるとしたら?
≫エアシャカールが最も荒く、ミホノブルボンが最も大人しい。ウマ娘のみを知っている諸君はゴールドシップを気性の荒い競走馬代表に思うかもしれないが、エアシャカールは気性が荒いとされているサンデーサイレンス産駒の中でも荒く、厩舎の方々がお世話係をくじ引きで決める程であり、その点ゴールドシップは予想外な動きをするだけで可愛げがありまだマイルドな方。ちなみに競走馬史上最も気性が荒いセントサイモンはエアシャカールの100倍は荒く、世話をするだけで死の覚悟が必要である。
 逆にミホノブルボンは非常に大人しい競走馬で有名でスパルタで有名な厩舎に入った頃などは同情された程。海外の競走馬だとバックパサーが有名

前回の粗筋
日本ダービー決着


 安田記念の翌週、生徒会室ではシンボリルドルフやシリウスシンボリと言った役職付きのメンバーに加え、寮長の二人、そしてマルゼンスキーの計5名が会議していた。

 

「それでは会議を始めよう。まず始めに今年度の──」

 

 なんやかんやで真面目な話が続き、しばらくすると人事についての会話となる。

 

「次年度以降について、私は生徒会長を引き続き行うが下番したい者はいるか?」

 

 その言葉に既に下番済みであるマルゼンスキー以外のウマ娘が挙手した。

 

「……下番したい理由について話せ」

 

「姉御、確かに俺は生徒会のほとんどの仕事を請け負っていて後継者を見つけなきゃいけないのはわかるが、俺が実家に戻らないといけない程にシンボリ家の財政が傾いている。そっちを建て直すのに専念したい」

 

「シリウス、検討しておく」

 

「頼むぜ姉御」

 

「次の寮長二人は?」

 

「故郷に帰って姪っ子の面倒を見なきゃいけなくなりました」

 

「姪っ子?」

 

「ええ。会長もご存知の通り、私達トウカイ家はシンボリ家やメジロ家程ではないにせよ名門。その名門の血を絶やさない為にも姪っ子、トウカイテイオーに賭けることにしたのです」

 

「トウカイテイオー……ああ、あの娘か」

 

「ご存知で?」

 

「弥生賞の後に、一度だけ会ったことがある。私のレースに興奮して私の所に来たんだ。いつか私のようになってみせるとな」

 

「そうだったんですか……あの娘があれほど張り切っていた訳です。テイオーは私やラモーヌをしのぐ、いやもしかしたら会長以上の素質の持ち主かもしれません。その素質を開花させる為にも私が呼び出されいかなくてはならなくなりました」

 

「他にいないのか?」

 

「私以上の戦績の持ち主はおらず、彼女の力を引き出すにはトウカイ家で一番力のある私しかいないとのことです」

 

 

 

「そういう事情なら仕方ないな。次、栗東寮長メジロラモーヌ」

 

「私も同じ理由ですわ。もっとも姪っ子ではなくメジロ家の本家筋のお嬢様の育成係に命ぜられましてね」

 

「こちらもか……」

 

「二人は一昨年の年度代表ウマ娘になったメジロパーマーをしのぐ逸材です。これで面倒を見ずに学園を優先したらメジロ家から追放されかねませんし、何よりもパーマーも面倒を見ています」

 

「ロマンちゃんよりも深刻ね」

 

 

 

「わかった。三人とも理由があるし、納得した。だが後継者はいるのか?」

 

「美浦寮長にはアイグリーンスキーを候補に入れています」

 

「あっ、ちょっとズルいわよ!」

 

「栗東寮長にはナリタブライアンを候補に入れています」

 

「てめえっ!」

 

 二人の寮長が候補の名前を上げるとマルゼンスキーとシリウスシンボリが抗議する。

 

「マルゼン、シリウス……その様子だとお前達も二人を候補に入れていたのか?」

 

「入れない方がおかしいわよ!」

 

「全くだ」

 

「第二候補は?」

 

「現時点ではビワハヤヒデ、タマモクロスやスーパークリークも候補に入れています」

 

「ヤマトダマシイですわ」

 

「それ以外だとマティリアルしかいねえよ」

 

「現在休養中のサクラスターオーね」

 

 それぞれが告げるとシンボリルドルフがため息を吐く。ほとんど──というか栗東寮長の候補以外チームトゥバンのメンバーでありどれだけ人材不足か理解出来る。

 

「もういい、よくわかった。とりあえず今日はここまでにしておこう。来週までに代理の者を用意しておくように」

 

 シンボリルドルフがそう締め、四人が出ると同時に全力疾走した。

 

 

 

 

 

 その夜、二代目は頭を悩まされていた。

 

「美浦寮長と生徒会書記ねぇ……うーん」

 

『またそれか。美浦寮長に関しては海外遠征にいくから美浦寮の管理は不可能だとでも言えば断れるだろう?』

 

「そっちはアマちゃんに押し付けるからいいとして、生徒会書記の方なんだよね」

 

『シリウスシンボリが副会長業務を兼ねても遠征しているからな。書記の仕事と言っても副会長業務よりも易しいものだ。それだけに断りにくいということか』

 

「うん。マルゼン姉さんから頼まれたってのもあるし、断れないのよ」

 

『俺が関与出来ない以上、口実を与えること位しか出来ないがそれでもやるか?』

 

「物凄く嫌な予感しかしないから遠慮しておくよ」

 

 

 

『それよりも宝塚記念だ。一応宝塚記念に出走登録出来たんだろう?』

 

「うん、ファン投票で6位になれたから何とかね」

 

『6位なら確定だ。それよりも宝塚記念に出走するウマ娘はお前を除いて全て上の世代だ。夏の時点でクラシック級のウマ娘がシニアのウマ娘よりも格上なんてことはほとんどない』

 

「でも先代は勝ったんだよね?」

 

『俺は勝つことには勝った。しかし今回は違う。セイザ兄貴並みの素質の持ち主のヤマトダマシイ、そのヤマトダマシイに天皇賞秋で打ち負かしたスーパークリーク、更にビワハヤヒデがスーパークリーク本来の距離適正であるはずの長距離で勝っている』

 

「オグリキャップ先輩は? ファン投票3位だよ?」

 

『バカを言うな、ファン投票の順位イコール強さという訳じゃない。実際、1位のナリブよりも2位のビワハヤヒデの方が実力は上だ』

 

「それはそうだけど、オグリキャップ先輩もナリブよりも上だからね」

 

『オグリもナリブよりも強いが、3人に比べたらそう怖くはない。オグリはマイルでも行ける中距離馬じゃなく中距離でもいけるマイラーだ』

 

「確かに最近の成績はマイルが安定して他は安定してないけど、全くノーマークって訳にもいかないでしょ?」

 

『その通りだ。あの3人がいなければオグリキャップをマークしなきゃいけない。しかしだ、逆に言えばあの3人を封じてしまえばオグリのみ警戒すればいい。それが出来ないお前じゃないだろ?』

 

「そうだね……でも気になるウマ娘が一人いるんだよね」

 

 そう呟くと先代が聞き返す。

 

『誰だ?』

 

「4位のイナリワン先輩」

 

『不出走のあいつか?』

 

 不出走であるなら気にする存在ではないはず、それにも関わらず尋ねるということは理由があるに違いない。

 

「人気投票で集める為に勝てるダート路線にしたかと思ったのに、本当にダートに転向するなんてね」

 

『芝のGⅠ競走を勝った奴がダート路線に移動するのはいない訳ではないが、GⅠを勝って以降芝で勝てなくなったとかそんな事情がほとんどだ。それを無視するということは今はまだ芝に戻る時期じゃないってことだ。それに──』

 

「それに?」

 

『ドバイWCを勝ったシガーの存在がイナリワンをダートに留めているのかもしれないな』

 

「それは言えているけど、普通あんなに差をつけられたら逆に萎えない?」

 

『ならお前はお前に勝ったメジロパーマーを更に打ち負かしたラムタラのいる芝に萎えたのか?』

 

「先代、日本のウマ娘をあんなコケにされて黙っていると思っているの?」

 

『そう言うことだ。直接対決していないにせよ、お前自身はラムタラをライバルだと思っている。負けん気の強いイナリワンなら尚更、シガーのことをライバルだと思っているんだろ』

 

「そうね……そんなことで心が折れるウマ娘じゃないもんね」

 

 イナリワンが有馬記念を制し客に喧嘩を売った時のことを思い出し、笑みを浮かべる。

 

 

 

 そんなこんなで先代と二代目が話し合い、宝塚記念に向けて対策をする。そして二代目と先代は某レースを参考にし作戦を決行することにした。




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト3

21.某三冠ウマ娘に「どうして女性なのに名前にミスターがつくんだ?」と聞いてはならない
22.菊花賞でミスターシービーの後継者として名乗りを挙げるのは結構ですが、イタズラを治してからにしてください。少なくともミスターシービーは大人しくイタズラはしませんでした
23.生徒会長に特定のウマ娘の音声を録音したテープを売買してはならない。もちろん盗撮も禁止です
24.生徒会長を瑕疵なく辞職させようとしてはならない。ましてやテープ売買の為なら尚更です
25.急に倒れて「死体ごっこ」なるものを仕掛けてはならない。もちろん朝も昼も夜も二十四時間三百六十五日何時如何なる時でもです
26.「廊下は走ってはならない」という規則は廊下で泳ぐことや滑ることの正当化にはなりません。もちろん三段跳びなど以ての他です
27.トレセン学園は貴殿方がウマ娘のいる部屋を特定するために架空の防災訓練を開いたことを重く見ています
28.貴殿方が授業を休むことは「風紀活動」にはならない。ましてや他のウマ娘を巻き添えにすることなど言語道断です
29.入学予定のウマ娘に宛てたトレセン学園の招待状の「トレセン学園人事部」の部分を「トレセンようちえん」または「トレセン歌劇団」に書き換えたことは断じて許されることではありません。またチャイルドスモックを着用したタマモクロスの写真や男装したフジキセキやナリタブライアンの写真を同封したことも同様です
30.美浦寮に出てくる幽霊を名前を言ってはいけないウマ娘と関連つけて噂することを禁じます

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尚、次回更新は未定です。アンケート次第では翌日更新します


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第50.1R 駿川たづなの正体

アンケートご協力ありがとうございました!
ちなみに前回のファン投票の結果ですが
1位ナリタブライアン
2位ビワハヤヒデ
3位オグリキャップ
4位イナリワン
5位スーパークリーク
6位二代目
7位ヤマトダマシイ
となっています

前回の粗筋
生徒会「後継者が見つからねぇ!」


 宝塚記念三日前、駿川たづなは二代目とサンデーサイレンスに呼び出されソファーに座ると同時に口を開く。

 

「私にお話とは何でしょうか? サンデーサイレンスさんにアイグリーンスキーさん」

 

「たづなさん、貴女をここに呼び寄せた理由は他でもありません。貴女の正体がこの学園では言ってはいけないあのお方であるかを確認しに来たんです」

 

「私をあのお方と結びつけたがるのかわかりませんが、私とあのお方は同一人物じゃありませんよ」

 

 そしてたづなが帽子を取り人間の耳の部分をかきあげると頭頂部ウマ娘の耳が存在せず代わりに人間の耳がつけられていた。

 

 

 

「うっそっ!?」

 

「そ、そんなバカなことがあってたまるか!」

 

 二代目とサンデーサイレンスが目を丸くし絶句するとたづなが口を開く。

 

「これでわかったでしょう。もう気が済みましたか?」

 

「そ、そんな筈は……! 貴様はあのお方──トキノミノルの筈だ! そうでなければ余ですら情報を掴み取れなかった忘れられたウマ娘達のことを話せる訳がない!」

 

 サンデーサイレンスがたづなの頭に触れウマ娘の耳を探そうとするがその感触はなく代わりに顔の横についている人間の耳と頭髪が頭からしっかりと生えているのが本物の人間であると実感させられた。

 

 

 

 たづなの頭を漁っているとドアが開き、宝塚記念前で解説として呼ばれたグリーングラスが入室する。

 

「たづなさんはとある事情で名前を変えているだがその人は永田雅美さんでトキノミノル叔母さんじゃねえだ」

 

「永田……何でしたっけ? グリーングラスさん」

 

「永田雅美さんだよ。雅美さん──たづなさんはトキノミノル叔母さんの父方の親戚筋にあたる方で、たづなさんのお父様がトキノミノル叔母さんのトレーナーをしていただ。でもトキノミノル叔母さんが故障して退学したのを切欠に永田トレーナーが蒸発したんだっぺ」

 

「それ以降は私が話します。蒸発した父の責任を取る形で当時の理事長に掛け合い、学園スタッフとして働くことになりました。トキノミノルさんの周りを知っているのは当時幼かった私とトキノミノルさんは親しい関係──姉妹のような関係でしたからよくわかるんですよ」

 

 その言葉を聞き、二代目が反論した。

 

「しかしそれが本当だとしても、今の貴女はウマ娘並みのスピードを出せる訳がない! 何故なら貴女は影武者だからだ。それを証明しない限りは──」

 

「それを証明すれば納得しますか?」

 

「は?」

 

 たづなの一言に二代目が唖然とするがたづなはそれを無視してサンデーサイレンスに向けて口を開く。

 

「ではサンデーサイレンスさん、レースをしましょう。ダート2000mの模擬レースをしてその結果を参考にして下さい」

 

「むっふっふっ、このアメリカンドリームを成し遂げた余にダートで挑むとはいい度胸だ。良かろう受けて立つ!」

 

「では着替えとウォーミングアップをして来ますので一時間後にダートコースでお待ち下さい」

 

 

 

 たづなが体操服に着替え、ウォーミングアップを終えるとサンデーサイレンスが尋ねる。

 

「しかし良かったのか? 余の得意なダートで」

 

「それはもちろん。そうでもしないと納得して貰えないでしょうし、何よりもあのウマ娘(アイグリーンスキー)は手加減してしまうかもしれませんからね」

 

「ふーん……わかった。おい、アイグリーンスキー」

 

「何でしょうか?」

 

 悪巧みを思い付いた笑みで二代目に声をかけると二代目が近寄ると耳打ちする。

 

「As long as there are no other people who can referee, you should be the referee. And speak in English so she doesn't understand.*1

 

 それに頷いた二代目が旗を持つ。

 

「……Yes.Get ready*2

 

「え、何故英語なんですか?」

 

「About the position ! *3

 

 たづなの言葉を無視して二代目が旗を振り下ろすとサンデーサイレンスがスタートダッシュを決める一方でたづなが出遅れてしまう。

 

「むっふっふっ! どうだね、米国(アメリカ)の洗礼は!」

 

「貴女は本当に最高に最低な方ですね! ようやく理解出来ましたよ!」

 

 あれだけの英語の長文を一瞬で理解出来る二代目が異常なだけで、たづなのように時間をかけて翻訳出来るだけでも十分なものである。

 

 

 

「さて出遅れたお前がついてこれるかな?」

 

「このくらいは出来ますよ」

 

 出遅れたにも関わらずたづなが早くも差を縮め、遂に追い付く。互いに先頭を譲らない、所謂ハイペースの状態に持ち込んだ。

 

「二人とも速い……!」

 

「アイリ、あのサンデーサイレンスは一体どういうウマ娘だべ?」

 

 サンデーサイレンスを知らないグリーングラスが二代目に尋ねると即答した。

 

「サンデーサイレンス先生はかつて米国で二冠を達成した稀代のスーパースターです。何もないところから始めて米国のダービー──つまりケンタッキーダービー*4を制覇した他、GⅠ競走通算6勝を成し遂げたウマ娘です」

 

『付け加えるなら連対率100%の状態で競走馬を引退し、その後は日本の種牡馬として大きな影響を持つことになるんだがな』

 

 二代目の解説に先代が付け加えるがグリーングラスにはそれは届かない。

 

「そりゃ確かに速いだな。あれだけのウマ娘国内ダート路線でいる訳ねえだよ」

 

「でもたづなさんはそれ以上に速い訳ですが」

 

 二代目に言われてグリーングラスが再び視線を戻すとたづながサンデーサイレンスを抜かしており、サンデーサイレンスはそれに必死に食らいつく。

 

 

 

「そりゃそうだべ。オラの師匠なんだからな。ああやってオラもよく扱かれただよ」

 

「扱かれたって、たづなさんはトレーナーの真似事でもしていたんですか?」

 

「まあな。余りにも足が速いから一時的にウマ娘の併走相手になっていたことがあるだよ」

 

「なるほど……って1600mの通過タイムが1分35秒って本当に速っ!?」

 

 二代目が納得し、ダートとは思えぬタイムを見て目を見開く。

 

「セクレタリアト*5じゃないんだから、そんなにハイペースで大丈夫なの?」

 

「たづなさんは大丈夫だよ。あのトキノミノル叔母さんと並ぶ強さを持っているだからな!」

 

 その瞬間、たづなが加速──正確にはサンデーサイレンスが減速し力尽きる。

 

「何っ!?」

 

「これで最後ですよ、サンデーサイレンスさん」

 

 たづながそう宣言し余裕綽々な表情でサンデーサイレンスを半バ身の差をつけてゴールした。

 

 

 

「勝ちタイム1分59秒2……ケンタッキーダービーどころか、世界最高峰レベルね。サンデーサイレンス先生自身も2分切っているし」

 

「いくら模擬レースとはいえ速いだな。もしこのレースがケンタッキーダービーだったらセクレタリアトのレコードを更新していたんでねえか?」

 

「いや確かにクラシック級ならそうかもしれませんけど、二人が出られるレースはシニア級ですよ」

 

「ま、それもそうだな」

 

「……さて、行きましょうか」

 

 二代目とグリーングラスが駆けつけるとたづなが息を整え、回復を終えていた。

 

「サンデーサイレンス先生、お疲れ様でした」

 

「流石たづなさんだべ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 二人が声をかけるとたづなが笑みを浮かべ、逆にサンデーサイレンスは返事をする余裕すらなく息を整えていた。

 

「……確かに貴様が人間でも速いのは認めよう。余に勝ったのだからな」

 

「納得してくれて何よりです」

 

「時にたづな理事長秘書、聞きたいことがある」

 

「何でしょうか?」

 

「何故そこまでの力があるのにトレーナーにならない? それだけの実力があればトレーナーにもなれるはずだ」

 

 たづなにトレーナーを勧める理由、それはウマ娘の枠で優れた競争能力があればトレーナーとなれ、普通のトレーナーよりも優遇されるからだ。

 

「あのお方──トキノミノルさんの時で後悔しているからですよ」

 

 

 

 

 

 そして数時間後、周囲に誰もいないことを確認し、グリーングラスが生徒会室に入るとたづなが頭を下げていた。

 

「グリーングラスさん、口裏合わせありがとうございました」

 

「それは構わねえだよ。しかし本当によかっただか?」

 

「ええ。トキノミノルというウマ娘は伝説を作ると同時に敵を作り過ぎました。それ故にトレセン学園に存在してはならないのです。父の行方を追った雅美さんには申し訳ありませんが、これでトキノミノルというウマ娘は永遠に抹消されました」

 

 帽子の上から更に特殊なウィッグを取り外すとそこにあったのはウマ娘特有の耳がありたづながウマ娘であることを証明していた。

 

「叔母さん……」

 

「その名前で呼ぶのを控えて下さいと言ったはずですよ? グリーングラスさん」

 

 それまで取り付けていた人間の耳を取り外しながら注意するとグリーングラスが頭を下げる。

 

「申し訳ねえだ。でも尾も抜くなんてやり過ぎでねえか?」

 

「サンデーサイレンスさんなら脱げと言いかねませんでしたから。そうなった場合の対処ですよ」

 

「そういうウマ娘なのか……」

 

「ええ。彼女なら服に盗聴器を仕掛けかねません。それ故に盗聴盗撮防止のこの生徒会室に来てもらった訳です」

 

「流石だべ。用意周到さは相変わらずだ」

 

「それに私が駿川たづなを名乗る理由はかつての同期イツセイ*6、ミツハタ*7、トラツクオー*8の名誉の為です。トキノミノルというウマ娘がいた不幸な世代ではなく彼らの活躍のみに目を向けさせなければなりません」

 

「そういうことだったか」

 

「彼女達は納得していないでしょうが、ウマ娘の私(トキノミノル)はそれだけ目をつけられているんですよ。その犠牲になって欲しくない……ただそれだけのことなんですよ」

 

 哀しげに遠くを見るたづなを見てグリーングラスは何も言えずに黙ってしまう。

 

 

 

 

 

 たづながサンデーサイレンス達に自身が人間と証明させた翌日、サンデーサイレンスはたづなをリムジンに乗せて某アパートに連れていた。

 

「サンデーサイレンスさん、私に会わせたい人とは一体誰ですか?」

 

「まあ待て、もう少ししたら出てくる」

 

 暫くしアパートから派手な女性が出てくるとサンデーサイレンスが声を出す。

 

「あっ、あれだ。彼女だ」

 

「あの女性ですか? 私の知り合いにあんな夜の営業を行う方はいらっしゃいませんが……」

 

 そう口を紡ぐとサンデーサイレンスが衝撃の一言を放つ。

 

「彼女は永田雅美なんだがな」

 

「!」

 

「あれがかつてトキノミノルと交流があった永田トレーナーの娘、永田雅美という女性だ。あれから色々と調べたが永田雅美という女性は父を追う一方で当時のトレセン学園理事長に会うことなかったそうだ。すると、その永田雅美を名乗った貴様は何者だ?」

 

 たづなが観念しため息を吐いた。

 

「……話すのは構いませんが盗聴とか盗撮とかされていませんか?」

 

「していないし、この車に盗聴盗撮妨害装置をつけてあるから安心しろ」

 

「私はかつて無敗で二冠を制したトキノミノルです」

 

「そうかやはりか。だが何故そこまで執拗に正体を隠す?」

 

「それにはまずトキノミノルがトレセン学園で名前を言ってはいけないウマ娘になった理由をお話します。念には念を入れて耳を近づけて下さい」

 

「良かろう」

 

 サンデーサイレンスが耳を近づけたづなが語るとサンデーサイレンスが顔を蒼白させ愕然とする。

 

 

 

「──という訳です。貴女のように悪ふざけで関わっていけないんです」

 

「た、確かにこれは悪ふざけで首を突っ込めない。だが余はアメリカンドリームを成し遂げたウマ娘! 協力しよう」

 

「協力ってまさか、某魔法使いの学校に通う少年の小説のように立ち向かうって訳じゃないですよね?」

 

「何を言っているんだ?」

 

「そうですか、それなら良かっ──」

 

「無論そうするに決まっているだろう!」

 

「ぶふっ!?」

 

 駿川たづなとして生きて初めて吹いた日だった。

 

「駿川たづな、いやトキノミノル。余はウマ娘のトレーナーとして雇われている。その余がウマ娘を不条理に扱うとあってはならない。だからこそ余は立ち向かって貴様がトキノミノルとして生きていけるようにしてやる」

 

「サンデーサイレンスさん……その気持ちはありがたいのですが──」

 

「何、安心しろ。余を本気で敵に回すということがどういうことか教えてくれるわ!」

 

 高笑いをし、そう宣言するサンデーサイレンスをたづなは強く止めることが出来なかった。

*1
他に審判をやれる人員がいない以上お前が審判をやれ。それとたづなにわからせないように英語で話せ

*2
了解です。準備について

*3
よーいドン! 

*4
米国三冠レースの最初の一冠でありながら米国の最高峰のレース。米国の競馬関係者はこのレースを目指す

*5
米国史上最強と呼び声の高い競走馬。三冠全てをレコードで勝利し、未だにその記録は破られていない

*6
トキノミノル世代の皐月賞2着及びダービー2着馬。読み方はイッセイ。トキノミノルに5戦して5敗したが全て2着であり2000m以下のレースでは25戦21勝とトキノミノルの敗北以外は全て勝利している

*7
トキノミノル世代の天皇賞馬。典型的なステイヤーで2400m以上のレース7勝のうち5勝はレコード勝利で、トラツクオー陣営にも菊花賞に出ていたらミツハタが勝てただろうと言われるほどの強さだった

*8
呼び方はトラックオー。トキノミノル世代の菊花賞馬。非常にタフで故障もせず75戦もしており史上初の1000万円獲得馬として知られている。ちなみにタフで知られるイクノディクタスは故障こそしていないが51戦、その倍以上のレース経験のある113戦のハルウララですら故障していることからどれだけタフかわかる




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト4

31.毎年3月21日に「SS聖誕祭」を開くことを禁じます
32.収穫祭も同様です
33.SSと名のつく祭りは禁止になりました
34.オグリキャップを餌付け出来ないからと言って人参を占領するのを止めましょう。貴殿方の人参占領事件のせいでオグリキャップ他、多くのウマ娘が倒れました
35.駿川たづな理事長秘書の着替えを甘ロリにするのを止めましょう。尚、ゴスロリ、和風メイド服などに変えても同じです
36.純粋なウマ娘に「この寮では新入生はコスプレが部屋着なんだ」などと嘘を吹き込み、仮装させるのを止めましょう
37.貴殿方はハロウィンの際、トリックという言葉は禁じます。故にトリックorトリートという言葉は当然、トリックbutトリート、トリックandトリート、トリートorトリートも禁止です
38.太っているウマ娘等を「燃費の良いエコカー」「まともに食事をするナメック星人」「ばんえいに転向したウマ娘」等と言ってはならない
39.栗東寮に怪談話がないからといって作ってはならない。ましてやそれが「ポニーちゃんとのデートスポットにしたかったから」や「怪談に慣れておけばイタズラも怖くなくなるから」というのは理由になりません。そのせいでナリタブライアンが泡吹いて倒れました
40.ナリタブライアン等特定のぬいぐるみ好きのウマ娘に人形のホラー話をしてはならない。その結果ナリタブライアンがぬいぐるみを抱くことが出来なくなり寝不足になりました


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尚、次回更新は未定です。


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第51R 二代目、頂点へ4

・winningpostシリーズで架空のトウカイテイオー産駒といえば?
≫サードステージが有名だが、world2010ではリトルサクセサーという架空馬がサードステージの代わりにいる……まあシナリオの関係上仕方ないよね。私の拙作の一つである【皇帝、帝王、そして大帝】のウマ娘版の小説にするかリトルサクセサー主人公の小説を書くか迷っている

・ウマ娘というかソシャゲガチャあるある
≫狙っていないレアキャラが一発か二発で出る。タイシンとファル子はそれで出た。ちなみに狙ったのはルドルフとブルボンであることから御察しください。

・作者がウマ娘小説で書きたいものは?
≫擬人化ならぬウマ娘化小説、ウマ娘が美少年を可愛がる(要するにおねショタ)砂糖小説、マグナかリトルサクセサーかどちらかを題材とした小説を書いてみたい

・もしかしなくても作者ってオリジナル小説書くのが苦手?
≫ザッツライト。二次創作ならランキングに載ったことがあるがこの小説のようにオリジナル要素が強め、または強いと苦手になる。それでも書き続けるのは自分の自己満の為。


前回の粗筋
SS「たづな、余はお前を救ってみせる!」
たづな「無理はなさらないでくださいよ」


 そして宝塚記念当日。二冠ウマ娘ナリタブライアンこそ不在だが無敗のダービーウマ娘が参戦したことにより大いに盛り上がりを見せた。

 

【実況は私赤坂、解説はこの宝塚記念で大いなる盛り上がりを見せたトウショウボーイさんとグリーングラスさんです。どうぞよろしくお願いいたします】

 

【よろしくお願いいたします】

 

【さて早速ですがお二方、今回のレース展開はどう予想されますか?】

 

【そうですね、先行するビワハヤヒデに並びかけるようにスーパークリーク、その後ろにウイニングチケットとバランシーン、オグリキャップと言った差しのウマ娘でしょうか】

 

【アイグリーンスキーやヤマトダマシイはどうなりますか?】

 

【カブラヤオー先輩を育て上げたチームギエナ時代から在籍してきた二人ですからね。一番人気のビワハヤヒデをマークする形でレースすると予測していますが、あの娘達次第でレース展開が変わると思いますよ】

 

 

 

「ヤマトダマシイ先輩」

 

「グリーンか……」

 

「今回のレースで決着を着けましょう」

 

「良いだろう。チームトゥバンのエースとして、そしてシニアの強豪として相手になってやる」

 

 

 

【まずハナに立っていった*1のはビワハヤヒデと、なんとアイグリーンスキーだ!】

 

 宝塚記念のゲートが開いた瞬間、二代目が先頭に立ちそれに続くようにビワハヤヒデ、スーパークリークと続いていく。

 

 

 

【これは一体どういうことなんでしょうか解説のお二方、解説をお願いします】

 

【これまでアイグリーンスキーが逃げを取ることはありませんでしたからかかっているか、奇襲のどちらかでしょうね。見た感じ落ち着いている様子から後者の方かと】

 

【元々アイグリーンスキーは自在脚質──つまり逃げ先行差し追込、全ての戦法に適正があります。今まで使う機会がなかっただけで一緒に走ったことのある*2私からすれば驚くべきことじゃありません】

 

【ただ逃げは先行とは違いペース配分、そしてレース展開を作り出す存在になります。下手すれば天皇賞秋で私達が対決したように自滅するかもしれません】

 

【その点だけ留意すれば彼女も勝てる実力を持っていますよ。何せあのレースで私をあと一歩まで追い詰めたのですからね】

 

 

 

 

 

 この展開にビワハヤヒデとヤマトダマシイのみが平常心を保っていた。

 

「一番人気の私を封じに来たのか、それともヤマトに対する牽制か……恐らく後者だろうがどちらにせよ変わりない。ブライアンの時とは違って抜け道はあるのだからな。問題はヤマトダマシイの方だ」

 

 ビワハヤヒデが最後方に控えたヤマトダマシイを見て警戒するとヤマトダマシイと目が合い、互いに警戒する。

 

 

 

【さて実況に戻ります。先頭は未だにアイグリーンスキー、そして三バ身離れてビワハヤヒデとスーパークリーク他先行集団、そしてドバイの女傑バランシーン、昨年のダービーウマ娘ウイニングチケットがその後ろ。オグリキャップ、そしてヤマトダマシイが最後方に控えています】

 

「ヤマト、珍しいこともあるものだ。お前がそこにいるとはな」

 

 オグリキャップがこの位置にいるのは本意ではなく、本来であれば二代目をマークするつもりだった。しかし二代目か逃げてしまい後方に控えるヤマトダマシイをマークするような形となった。

 

「オグリキャップ先輩、グリーンがどんな戦法をとるかわからない上に、ダービーの時とは違って私よりもハヤヒデの方が先行力がある。もう先行で潰そうにも潰せる相手ではない以上、自分のレースをするしかない。幸いタイシンもいませんしね」

 

 タイシン──昨年の皐月賞を勝ったナリタタイシンが不在の理由、それは故障によりトレーナーから長期間に及ぶ休養を与えられたからだ。その期間はレースに出場することも出来ずただ体を治すことに専念しなければならなかった。

 

「そのようだな……前が自滅している以上ここでいくのは得策ではない。それは私もお前も同じことだ」

 

 オグリキャップが頷き自分の体内時計を測るとこのペースがハイペースだと警告を促し、ヤマトダマシイに警告する。

 

「普通なら、その警告を受け取っておくべきなのですがダービーの時のあいつを見ていないからそう言えます」

 

「なに?」

 

 ヤマトダマシイの呟きにオグリキャップが反応し、ヤマトダマシイが続ける。

 

「それ以降は自分で考えることです。レースはここから動きを変わっていきますから覚悟しておいた方が良い」

 

 

 

 

 

【1000mの通過タイムは、なんと57秒! このペースは明らかにハイペース!】

 

「速すぎる! いくら何でも持つ訳が──」

 

 ──持つ訳がない。

 

 観戦しているヒシアマゾンがそう呟こうとした瞬間、二代目のペースが更に加速し、更に目を丸くした。

 

【あーっと! ここで再びアイグリーンスキーが加速!】

 

「な、なんだって!?」

 

「アマさん、そう驚くべきことじゃない。奴はダービーの時、全力を出さずに走っていたんだ」

 

「……はぁっ!?」

 

「恐らく8割あたりしか出していない」

 

 

 

【続いてビワハヤヒデと最後方のヤマトダマシイが動いた!】

 

「JCの二の舞になる訳には……いかないわ!」

 

「くっ……動かざるを得ないのか」

 

「日本のウマ娘もやるものですね」

 

【スーパークリークもここで動いたーっ! 更にオグリキャップ、バランシーンも動いた】

 

 

 

「8割だと!? そんなバカなことがあるのか!?」

 

「ある。でなければあそこで姉さん達が動く訳がない」

 

「それを計算したって、仕掛けるのがいくら何でも早すぎる!」

 

「いやアマさん、ここで動かざるを得ないんだ。先頭に立っているのはグリーンで策士だということを知っているのは姉さん、ヤマト先輩の二人。ペースはあいつの手に委ねられていて私達がやられた時よりも厄介だ」

 

 ナリタブライアンがヒシアマゾンの出走したNHKマイルC、そして自らが出た日本ダービーの苦い経験を思い出し、顔を顰める。

 

 

 

「だけどペースが57秒だぞ?」

 

「アマさん、ペースというのは先頭または先頭集団で作られるものだ。しかしグリーンは例え後ろにいてもペースをコントロールしてしまう。そのグリーンが先頭で走っている。つまりこのレースはグリーンの支配下にあると言っていい。姉さんやヤマト先輩はそれを理解しているから上がっていった。更にJCでの出来事もあって他のウマ娘達が動かざるを得ない」

 

「ダービーの時のブライアンはどうにか同着になったけど、今回はどうかね?」

 

「実力的に言えば姉さんかヤマト先輩の二人だ。私ですら同着に潜り込めたんだ。それよりも実力が上でかつ、見切った二人が負けないはずがない。だが──」

 

「だが?」

 

「それ以上にあいつの実力は未知数だ。やってくれると私は信じている。あいつと戦うに当たってどれだけ不安要素を消しても消し足りない。それがアイグリーンスキーというウマ娘なんだ」

 

「確かにな」

 

 

 

 

 

【最後のコーナーを曲がって直線に入ってアイグリーンスキーが先頭! そして上がってきたのはいずれもGⅠ競走を制した猛者達!】

 

「先代、どう?」

 

『やれやれこれだけ激しいレースなら一人くらい人気薄のウマ娘が来てもいいだろうに……ちっとも来やしねえ。お前の計算通り、奴らが来ているよ』

 

 先代が二代目にそう告げると二代目が人気薄のウマ娘がいないこと──つまり地力のあるウマ娘だけが生き残れるサバイバルレースであることを確認する。

 

「それなら望む展開ね」

 

 

 

 

 

【現代トゥインクルシリーズの結晶、スーパークリークがアイグリーンスキーを捉えに行ったーっ!】

 

「タマちゃんの、イナリちゃんの……スモック姿が私を待っているのよ! だから──」

 

「そんなことをさせるか!」

 

 性癖の歪んだスーパークリークの脅威から避ける為にも負けられない。もしここで負けてしまえば二人だけではなく別のウマ娘にも強要する可能性があるからだ。そうなれば最後の犠牲者になりうる自分が恨まれ、肩身が狭い思いをしなければならない。それだけは避けたかった。

 

【ダメだった! 届かない! 届かない! スーパークリークがドバイの女傑バランシーンに交わされたーっ!】

 

「ああ……スモック姿が、消えていく……!」

 

 ──無理ぃ~っ! 

 

 スーパークリークの悲鳴がドップラー効果を発生させながら二代目の耳から消えていく。ついでに二人のスモック姿を公共の場に現すこともなくなった。

 

 

 

【アイグリーンスキーとバランシーンの一騎討ちとなったところで、オグリキャップ、オグリキャップだ! 昨年の年度代表ウマ娘のオグリキャップが強襲ーっ!】

 

「マークから聞いていますわよ」

 

「ようこそ、阪神レース場へ。ドバイじゃタマが世話になったから案内しておこう」

 

【さあオグリキャップ、バランシーン、アイグリーンスキーの三つ巴の対決だ! 三つ巴の対決だ!】

 

「私は大丈夫、十分に準備していますから。それよりも若い彼女を案内してあげたらいかが?」

 

【バランシーンが抜ける! ドバイの中距離代表の底力だ!】

 

「遠慮はいらないぞ。二人まとめて案内する」

 

【オグリキャップも負けられない! これぞ執念、芦毛の根性ウマ娘!】

 

「余計なお世話ですよ御二方!」

 

【しかしアイグリーンスキーが差し返す! そのまま突き放していく!】

 

「なっ──」

 

「二の脚、ですって?」

 

 二代目が二の脚──最後の直線で加速し二人を差し切り、突き放すと二人の心が折れ、目のハイライトが消えかかる。

 

「この勝負は、私が貰うっ!」

 

 しかしオグリキャップが更に闘志を燃やし、突き放された差を埋めようとしていた。

 

【な、なんという闘志! オグリキャップが食らいつく! バランシーンは苦しい!】

 

 

 

 ──どいてくれ。ここから先は私の出番なんだ。

 

 

 

 そう言わんばかりにビワハヤヒデが重い腰を上げてバランシーン、そしてオグリキャップを差し、二代目に迫る。

 

「ブライアンが出ないこのレース、ブライアンよりも私が上だと証明してくれる!」

 

【今度は日本シニア最強、ビワハヤヒデが行ったーっ! ビワハヤヒデがアイグリーンスキーに迫る!】

*1
先頭に出ること

*2
第8R参照




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト5

41.いくら正当性のある理由でもウマ娘代行業等の会社を設立する、運営するのを禁止します
42.ウマ娘やトレーナーが赤ちゃんプレイに目覚める為、スーパークリークに成人用ベビーカーと成人用ベビー服を与えるのを禁止します
43.マルゼンスキーに与えてもダメです
44.ウマ娘やトレーナーに成人用ベビー服を着せたり、成人用ベビーカーに乗せてはならない
45.マルゼンスキーに車を運転させるよう誘導してはならない
46.駿川たづな理事長秘書の帽子を取ろうとしてはならない。秋川理事長の帽子もです
47.ビワハヤヒデにヘアスプレーと偽りワックスを渡してはならない
48.貴殿方とアグネスタキオンの接触を禁じます。もちろん第三者を介しての接触も禁止です
49.接触とは直接話して接するという意味だけではなく、手紙等の連絡をすることでもあるので校舎内の落書きを消すことを命じます
50.貴殿方が薬品に触れることを禁止します

この第51Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。
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尚、次回更新は西暦2021年5/16です


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第52R 二代目、頂点へ5

・作者はウマ娘の小説で書きたいものを挙げたけどもういっそのこと全部組み合わせたら良くね?
≫その発想はなかった……天才か? よし! 早速混ぜ混ぜタイムだ!

・感想欄と前書きで『・』と『≫』の順序が違うのは?
≫昔前書きで間違ってしまったのを正すのが面倒だからそうしているだけ。怠惰な作者ですみません

・作者の好きな作品は?
≫最近はウマ娘の二次創作を読みまくっている。閲覧履歴が全てウマ娘二次創作になったこともある。

・作者が思い出深くしかもマイナーな作品といえば?
≫【ダイナデバイス】と【我が竜を見よ】ですかね。特に【ダイナデバイス】は星の名前がキャラの名前として出てくるのでウマ娘小説でチーム名に困った時におすすめ。主人公が所属しているチーム名トゥバンや改定前のカノープスもそこから来ている。【我が竜を見よ】は声優が豪華で何故マイナーなのか意味不明なくらいである。

前回の粗筋
宝塚記念、最後の直線。ウイニングチケット、スーパークリーク、バランシーン、オグリキャップ脱落


 ビワハヤヒデがクラシック級で鍛え上げた瞬発力を爆発させ、二代目を射程圏内に捉えた。

 

「そして、これで終わりだ!」

 

 1バ身差まで迫った二代目にそう宣言するがそこからの差が縮まらず焦り、いつも以上に汗をかく。

 

 

 

【しかし抜かせない! 抜かせない! これは抜かせない!】

 

「あ、あり得ない……このペースで逃げ切るなんて無理なんだ! とっくに限界を迎えている! 歴代のどのウマ娘でもこんなペースで逃げ切るなんて出来やしない!」

 

 例え相手がマルゼンスキーやカブラヤオーだとしても──その悲痛の叫びと共にビワハヤヒデが後退する。

 

『あり得ん……何故こっちが後退する? スピードは落ちていないはずだ!』

 

 魂のビワハヤヒデの叫びの通り、ウマ娘のビワハヤヒデのスピードは落ちておらず、むしろ後方を突き放していた。

 

「くっ、ならばデータを捨てるまでだ!」

 

 ビワハヤヒデはそれまでの論理を捨て、がむしゃらに走る。それによっていつも以上に力が加わり、ストライドが大きく広がるとともに加速する。

 

 

 

 しかし二代目はその動きを合わせるかの如く更に加速した。

 

『まさか、三の脚だと!? そんなバカなことがあるのか!?』

 

 魂のビワハヤヒデが驚愕の声をあげ、解説する。

 

 最後の直線で加速することを二の脚といい、その加速が優れているウマ娘ほど末脚の優れたウマ娘と評価される。三の脚は二の脚の状態から更に加速することでありそれが使えるウマ娘はビワハヤヒデを含めほぼいない。

 

 それを使われたビワハヤヒデが呟いた。

 

「無理、だ」

 

 ついにビワハヤヒデの心が折れ、目のハイライトが消え、後退する。

 

 

 

【ビワハヤヒデ差せない、差せない! もうこの娘で決まりなのか!】

 

 ビワハヤヒデで差せないならもう誰も差せない。そう思われた瞬間、大外からヤマトダマシイが強襲する。

 

【さあヤマトダマシイ! ヤマトダマシイだ! この勢いは間違いない! 今度こそ日本の魂がクラシック級最強、二冠ウマ娘のライバルを仕留めにいく! ヤマトダマシイがアイグリーンスキーの1バ身、1/2バ身と迫っていく!】

 

「来た、ようやくね……」

 

 迫るヤマトダマシイに二代目は英ダービーの映像を見ていた時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

【英ダービー、スタートしました!】

 

「いよいよだね、先代」

 

『ああ。ラムタラは人気こそないがその実力は世界トップクラスだ。一番人気のウマ娘──ペニカンプ*1も強いが、ラムタラはこの中の誰よりも強い』

 

 ──それは断言出来る、そう先代が断言すると二代目が口を挟む。

 

「6戦無敗で英2000ギニーを制したウマ娘よりもねぇ……?」

 

 ラムタラの実力を間近で見た二代目ですら信じられなかった。先日のダービーで二代目やナリタブライアンに無名のウマ娘が割り込むようなものであるからだ。

 

『お前がそう思うのは無理もない。だがそういった現象は日本のウマ娘でも例がある。シンボリルドルフがその典型例だ』

 

「まさか、故障?」

 

『右前脚骨折だ。その故障でペニカンプは7戦6勝という成績で引退した。日本でいうなら無敗で皐月賞を勝ちダービーで故障し惨敗したってところだから評価が別れる。まあ、ラムタラのレコード勝利に加え今後の戦績を考えると勝てなかっただろうがな』

 

「それはそうだけど──」

 

『奴の血色を見てみろ。パドックで誤魔化していた化粧が汗で剥がれているぞ』

 

「なっ!?」

 

 二代目がラムタラを見ると明らかに顔色が悪く、とてもあのペースで走っているウマ娘には見えず、驚愕してしまう。

 

『ラムタラの方が評価が高いもう一つの理由は俺の世界のラムタラもあんな体調不良の中でダービーを制したからだ。それにあいつは何度も死にかけていてあの程度の苦しみなど奴にとっては苦しみの内に入らない。今後、ペニカンプが競走馬として生活したとしてもラムタラに勝てなかっただろう』

 

「でもほら、ほぼ全員が動いているのに、あの娘は動かないんだよ!」

 

『あの程度のことで動揺するな。ラムタラはあの状況でも差し切れると判断しているんだ』

 

【ラムタラ! ラムタラだ! ラムタラ凄い末脚で差し切った!】

 

「あ、ああ……」

 

『ラムタラに小細工は通用しない。あいつは一瞬でも油断やミスをしたら勝てないレースでも勝ってしまう。それに──』

 

「それに?」

 

『マルゼンスキーやトキノミノルもそれは通じない。だからこそニジンスキーはお前の併せウマ相手に仮想ラムタラとしてマルゼンスキーを指名したんだ。実際、マルゼンスキーには通じなかっただろう?』

 

「うん……」

 

『苦手なものでもあいつ等には通じない。ならどうするか? その答えは簡単だ』

 

 ──宝塚記念で能力の限界突破をする

 

 

 

 

 

【さあ後1/2バ身、これはもう行った!】

 

『二代目、それで満足か!? ラムタラと戦う前に負けてラムタラに笑われて満足か!?』

 

 ──満足な訳がないに決まっている! 

 

『ならば勝て! 勝利という名前の最高の食事がお前を待っている!』

 

【いや縮まない! 縮まらない! ヤマトダマシイ、ヤマトダマシイが迫るが縮まらない! あと1/2バ身差が縮まらない! これが限界なのか!?】

 

「そんなバカな……既に限界のはずだ。だが何故残れる……?」

 

「流石は皇帝の継承者だ」

 

 ──限界を迎えた二代目の代わりに俺が話すことになるんだからな。

 

 そう口に出すのを抑え、先代がヤマトダマシイに語る。

 

「だがこの差は世界と国内の線引きだ。俺は海外に打って出る! これから俺がいない間、国内を守ってくれ」

 

「ならば私も海外に──」

 

「必要ない! このアイグリーンスキーが獲る!」

 

 

 

【アイグリーンスキーだ! ニジンスキーの後継者が宝塚記念を圧巻の逃げ切り! またもや二着にヤマトダマシイ! 4バ身離して三着ビワハヤヒデ、四着争いにオグリキャップとバランシーン!】

 

 

 

「あのペースを最後まで……一体どんなスタミナをしているんだ?」

 

「NHKマイルCやダービー時点でまだ本気を出していなかったことが証明された。ただそれだけのことだ」

 

「確かに宝塚記念をレコード勝利したけど、能力のみでシニア勢相手に勝ったのはデカイよ。グリーンが作戦のみに頼りきる策士じゃなくスピードも兼ね備えた完璧なウマ娘だってことを証明したんだからな」

 

「アマさんはそう見えるか……」

 

「ブライアンは違うのか?」

 

「違うな。私達相手に策を練ったということはそれだけ私達を恐れていたということにも繋がる」

 

「あっ!」

 

「実際恐れていたのかはわからないが、そう考える奴らも出てくる。グリーン世代が最強世代なのではないのか? とな」

 

「私との約束を守るどころか、そこまで気を使うなんて……」

 

「実際のところ(グリーン)が意図してあの走りにしたのかはわからない。だが奴が普段100、いや120の力を出すことがないからこそ、あんなレースをして無事でいられるとは思えない」

 

 

 

 

 

『よく頑張ったな』

 

「先代、むやみやたらと私の身体を使わないでよ……疲れるんだから」

 

 二代目が内埒を掴んで寄りかかり、へたりこむ。

 

【あーっと! アイグリーンスキーが倒れた! 故障発生か!?】

 

『そう言うな。この位の疲労なら来週には戻るし、何よりも三の脚だけじゃなく勝負根性が使えることがわかったんだ』

 

「とはいえ、これじゃウイニングライブは出来ないよ……」

 

『当たり前だ。全力の本気を出したんだ。それでウイニングライブが出来るなら全力を出し切ってないということだからな』

 

 二代目がその先代の声を聞くと意識を失い、搬送される。

 

 尚、後日生徒会や学園の意向で宝塚記念のウイニングライブが行われることになるが完全に余談である。

*1
6戦無敗で英2000ギニーを勝利した競走馬。その後は1戦して引退




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト6


51.【セントサイモン来日】等という嘘の看板を取り付けるのを止めましょう。理事長の猫が逃亡しない限りセントサイモンが来日することはあり得ません
52.だからといって【セクレタリアト来日】という嘘の看板を取り付けたことは断じて許されることではありません。そのせいで食堂に大量の食材を抱えることになりました
53.貴殿方はやむを得ない事情なく胸の膨らみを抑えてはならない。貴殿方の男装を防いでウマ娘達を誘惑させない為です
54.新入生に「君も頭がおかしいって認められてここに来たのかい?」と言ってはならない
55.また「私は頭がおかしくなんてない!」という反論に対して「私もだ。二人でこのイカれた場所を脱出しよう」と持ちかけてはいけません
56.貴殿方が美浦寮に近づくことは許可されていません。これは美浦寮の安全面の為です
57.「確かに私は美浦寮にイタズラをした前科があります。しかし前科があるのがウマ娘じゃないですか!」などと訳のわからない屁理屈を通すのを禁止します
58.自分が卒業した時の為に後継者を育ててはならない
59.就職活動にあたって、このリストを履歴書として使ってはならない
60.ミホノブルボンにロボットダンスをさせる遊びは人気すぎて禁止になりました

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尚、次回更新は未定です


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第53R 宝塚記念翌日にヅカヅカと会長が入ってきた

・こし餡派かつぶ餡派か
≫作者はどちらかと言えばつぶ餡派で、作者の食べる餡子を使った菓子のほとんどがつぶ餡だからそれに馴染んでいる為。しかしこし餡を否定する訳ではなく羊羹とかこし餡を使った菓子もあり、こし餡を選ぶこともある。まあ色々な餡子あるけどどれもいいよねって話。

・ナリタブライアンのビワハヤヒデに対する呼び方
≫公式では「姉貴」だがアプリが実装されるまでビワハヤヒデに対する呼び方は不明だったが漫画版で唯一描写がありそれが「姉さん」で、作者はそれを採用している

・無敗のままウマ娘育成終えたのは?
≫意外なことにダイワスカーレットとアグネスタキオン、そしてつい先日マヤノトップガンが達成。それ以外は必ず一回以上負けているが一敗のみなら結構いる。特にエアグルーヴのオークスでつまづき何回やっても3着止まりという……まあ作者の育成が下手くそってだけだよねって話。

・公式ウマ娘で育成実装されて欲しいのは?
≫育てやすさ重視なら逃げ、先行のウマ娘あたり……フジキセキとか?。ストーリー重視ならミスターシービー、シリウスシンボリ、タマモクロス、イナリワン。
公式がウマ娘されていない競走馬ならサクラローレル、シルクジャスティスとエリモダンティーのコンビ、アグネスフライト、ダイワメジャー。
その中でも作者はダイワメジャーを推す!マイルから長距離までいけ、しかも作者好みの先行脚質だからな!……あれ?その上位互換にエが最初にきて次にルがついてサーが最後につくダートもいけるウマ娘と逃げ適正のあるメジャーの妹がいたような?マイルに特化させないと完全に下位互換っぽい?……ダイワメジャーは所有者がウマ娘化に反対しているからダメ?


・何回やってもAランクに届かない
≫それな。作者の最高点は一度だけ育てたナリタタイシンの9500Pt超で無敗で終えたタキオン、スカーレット親娘よりも高いという……オールB育成論もスカーレットで試したけれど9300強でした。

・今ウマ娘アプリで実装して欲しいことは?
≫一つ目はレジェンドレースの選択。ようするにイベントがなくとも毎日好きなウマ娘と戦えるようにし、ピースを集めたい。もちろん難易度も選択できるように。
二つ目は史実における活躍とその解説。これを載せるだけでも評価はうなぎ登りになる。実際の競走馬の写真やレース動画つきなら尚良し。

・二代目の容姿
≫ぶっちゃけ言うと青髪ロング、長身であること以外は読者の皆様の想像に任せていた。しかし今回の話でようやくまとまった。活動報告参照……のはずが面倒な上にクロスオーバー要素のタグも必要ないので載せます

・二代目の容姿その2
≫青髪ロングにした聖白蓮(東方project)に右耳にUFOの耳飾り。
≫勝負服に関してはやや灰色かかった膝上ワンピース、黒みのある青のタイツに靴。
表現力が乏しいので東方やっている方なら封獣ぬえ(東方project)の丈違いと色違いと思って貰えれば。ただし羽擬きはなしで。
≫……あれ?そうなるとぬえの服をリスペクトしたのを青髪に染めた白蓮が着ていることにな──(これより先は隙間送りされました)
≫それにも関わらず口調性格がモブキャラ以下だって?仕方ないやん。先代の性格を考慮した結果がこれなんだから。

・あれから混ぜ混ぜした結果
≫燃え尽きたよ……真っ白な灰になるまでな

・KGⅥ&QES
≫このレースの概要は前書きでは語らないが、作者はキングジョージと記入すれば自動で変換出来るようにしている


 宝塚記念翌日。ドバイにて

 

 

 

「……」

 

「トレーナー、どうしたの?」

 

「アイグリーンスキーのレースだ」

 

「アイグリーンスキー?」

 

「俺が日本にいた時に育てていたウマ娘だ。お前とも面識はある」

 

「あのデカブツ女ね」

 

「そのデカブツだが、KGⅥ&QESに出走登録──つまりラムタラの次走レースが一緒になった」

 

「そう……」

 

「驚かないのか?」

 

「別に驚く必要がない。相手が誰であろうと叩き潰す」

 

「全く、遠慮なしだな。そこがお前の強さでもある訳で、英ダービーをも制せた理由の一つだ」

 

「容赦はしない。それが相手に対する敬意であり手を抜くことは許されない。それが貴方に教わったレースだから」

 

「ラムタラ、俺はお前のトレーナーであって良かったと思うよ」

 

 

 

 

 

 その頃日本ダービー、宝塚記念を連勝した二代目は自室にて掛け軸を書き換えていた。

 

「これでよし」

 

 二代目が【いつか頂点】から【いつも頂点】に書き換えられた掛け軸を飾り満足げに頷く。

 

『しかしいつぞやに言っていたことを本当に実行する*1とはな』

 

「これでもう、私は負けられないよ。その決意の表れをこの掛け軸に書いたんだからね」

 

『確かにな』

 

 

 

 その時、ノックの音が響き二代目がそちらを振り向く。

 

「はいどうぞ」

 

「入るぞ」

 

 そして入室していたのは誰もが知るウマ娘、シンボリルドルフだった。

 

「シンボリルドルフ会長」

 

『一体何しに来たんだこの猫かぶりは』

 

 先代がシンボリルドルフに対して悪口を吐くと耳が一瞬だけ絞り、そして掛け軸を見ると獰猛類の笑みを浮かべた。

 

「おや? グリーンお前、随分大層な掛け軸をかけているじゃないか?」

 

「あっ!? そ、それよりも会長! ウイニングライブについてですが、私は見ての通り筋肉痛が影響しているので参加出来ませんよ!」

 

 二代目が半裸、いやパンツ一丁になり湿布を張り付けた全身を見せつけるとシンボリルドルフが首を横に振る。

 

「違う。それについてはウマ娘代行業に頼んである」

 

 ウマ娘代行業とは何なのか、はっきり言って突っ込みどころ満載だがそれよりもウイニングライブの用件でなければ何の用件だと言うのかさっぱり理解出来ず尋ねる。

 

「違うとは一体どういうことですか?」

 

 筋肉痛の痛みに顔を顰めながらそう口にするとシンボリルドルフが答える。

 

 

 

「海外──欧州遠征に行くのだろう?」

 

「ええ。そうですが何か問題でもございましたか?」

 

「いや昨年はシリウスシンボリが挑んだが結果は惨敗。今年こそ日本のウマ娘が世界を制するところを見てみたいという思いがある。もちろん、私だけではなくこのトレセン学園の関係者全員が思っていることだ」

 

「重いっ! 想いが重いですよ!」

 

「ーっ!!」

 

 シンボリルドルフが爆笑し腹を抱えながら腕を振り、声を抑える。

 

 

 

 その20分後、ようやく笑いを堪えられるようになったシンボリルドルフが口を開いた。途中幾度なく止まったのを見計らって話そうとすると吹き出してしまうの連続で

 

 

 

「とにかく、そんな私達の想いを受け取ってくれ。以上だ」

 

 二代目にそそくさと目的の物を渡したシンボリルドルフが顔を紅潮させながら部屋を退出するとサンデーサイレンスの声が響く。

 

「好調、好調、絶好調ーっ、ルドルフ会長の顔も絶紅潮ーっ」

 

「ぶふっ!?」

 

 笑いをこらえきれず吹き出したシンボリルドルフがサンデーサイレンスを追い掛けまわす。その様子を二代目は見ずとも予測し、そしてため息を吐く。

 

「私もサンデーサイレンス先生に毒されたな……」

 

『まあそうだろうな。あんなウマ娘に毒されない方がおかしい』

 

「それよりも、シンボリルドルフ会長は一体何を──」

 

 シンボリルドルフから渡された箱を開くと一冊のアルバムがありそこにはチームトゥバンのメンバーの集合写真、マルゼンスキーとのツーショット、そしてヒシアマゾンやナリタブライアンとの激闘の写真等が収められその写真の横にメッセージが書き加えられていた。

 

 

 

【ラムタラに勝ってこいや! by メジロパーマー】

 

【無事に帰って来てね! by サクラスターオー】

 

【JCでまた会おう! by ヤマトダマシイ】

 

【苦しくなったら楽しいことを思い出せ! by グリーングラス】

 

 

 

『これだけでもお前は愛されているのがわかるな』

 

「うん」

 

『俺はお前とは違って英雄になれなかった。むしろその逆。皇帝シンボリルドルフのような絶対王者(ラスボス)として数々の競走馬を返り討ちにする立場だった』

 

「クロス*2が先代のことを糞爺って呼ぶ理由わかった気がしたわ」

 

『クロスも大概だがな。だがあいつのことはどうでも良い。英雄は王者になれても王者は英雄にはなれない。将棋の駒でいうなら英雄は銀将、王者は金将といったところだな』

 

「英雄は銀将、王者は金将か。核心をついているね」

 

『俺はお前じゃないし、お前は俺でもない。だが王者たる俺を真似することは出来る。英雄はそういうものだからな』

 

 

 

「真似することは出来るか……」

 

『お前の特徴は俺譲りのパワー、自在脚質、そして末脚だ。レース展開に関してはお前が確立している。お前自身に足りない物はスタミナくらいだ』

 

「そんなにスタミナないかな?」

 

『歴代の凱旋門賞馬と比較すると多い方だが、この時点での(競走馬)やラムタラに比べると弱点となり得るくらいにはスタミナが不足している。これだけ活躍しているんならもう少しスタミナがついてもおかしくないはずなんだがな』

 

 

 

「逆に聞くけどラムタラの弱点ってなんなの?」

 

『競走馬としての奴は根性に秀ている一方で、スピードがなかった』

 

「スピードがない? この前の英ダービーはレコード勝利だったじゃない」

 

『あいつは他の馬がいてこそ力を出すタイプだ。単体で走るタイムトライアルなんかは力を引き出せない。そんな奴だ』

 

「だから先代は最後に勝ったマッチレースで追込にしたのね。大外に回っていけばラムタラの勝負根性を空かせる……でも今回もこれで勝てるのか不安なんだけど」

 

『それで空かせるかと言われれば無理だな』

 

「え?」

 

『マッチレースは俺とラムタラのみのレースで根性を空回りさせるには良かったが、凱旋門賞は他の馬の影響もあって失敗した』

 

 

 

「あー……でも先代、今度のKGⅥ&QESは勝てるよ」

 

『ほう?』

 

「だって経験豊富な先代がいるもの。先代がタイミングを測って私がラムタラを差す。その為に先代はいるんじゃないかな?」

 

『確かに俺は競走馬として7歳(旧8歳)まで続行、種牡馬としても28歳まで続行。そして最低でも50年以上生きた最高長寿馬としても経験がある。おそらく他の馬よりも馬としての経験は一番あると自覚している。そのおかげで現役の頃につけられた渾名もあわさって鵺だの麒麟だのと妖怪扱いもされたがな』

 

 鵺はともかく麒麟は青龍や白虎等の神獣達の長であり妖怪とは程遠い存在である。

 

 

 

「現役の頃の先代の渾名って何なの?」

 

『未確認飛行物体──UFOだ』

 

「へっ? 未確認生物──UMAじゃなくて、UFOなの?」

 

『常に同じフォームであるにも関わらず加速減速自在、それから生まれる不規則なラップタイム、予測不可能な位置取り、そしてあまりの強さから宇宙からやって来たUFOだと比喩されるようになったんだ』

 

「青鹿毛の怪物どころか、生物ですらないってセントサイモン*3じゃあるまいし……でもマルゼン姉さんがスーパーカーって呼ばれているのもあるから不思議じゃないのかな?」

 

『尤もラムタラの野郎は神の馬なんて呼ばれていたがな』

 

「今回のKGⅥ&QES、未確認飛行物体VS神って訳ね」

 

『聞けば聞くほど壮大に聞こえるが、所詮はレース。最初にゴールした奴が勝つことに変わりはねえ。勝つための努力を続ければいいだけだ』

 

「至極真っ当な意見ありがとうちくしょうめ」

 

 自分の意見が否定され、皮肉を飛ばす二代目だが先代はそれを気に止めず、二代目に対する練習メニューを組んでいった。

*1
第36R参照

*2
【青き稲妻の物語】主人公、ボルトチェンジのこと。先代とボルトは親子関係にあり、ボルトの幼少時代はクロスと呼ばれていた

*3
セントサイモンの渾名は煮えたぎる蒸気機関車で知られている




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト7

61.監督生と書かれたバッジを生産及び装着してはならない
62.あのお方を詮索することを禁止します
63.新入生に三女神の遺産だと言って媚薬を渡してはならない
64.「この生徒会室をピカピカにしておけ」という命令はピカピカになるまで掃除をしておけという意味でミラーボールで部屋全体を輝かせろという意味ではありません
65.タマモクロスの頭を撫でてはならない
66.タマモクロスを高い高いしてはならない
67.タマモクロスを幼稚園児扱いしてはならない
68.【ハリボテウマ娘プリティーダービー!】などといって人間にウマ娘のコスプレをさせてレースをさせることを禁じます
69.駿川たづな理事長秘書を特別ゲストとして招いてもダメです
70.駿川たづな理事長秘書を口説いてはならない


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第54R 夏合宿開始(ただし二代目、おめーはダメだ)

・富士登山走~いっそ泳いだ方がマシ
≫まごうことなしノンフィクション……作者の実体験だよ!途中までの舗装された道はただ坂がきついだけで済む。しかし砂利道になると足場を考慮しなければならず心が折れる。

・ビワハヤヒデはバナナ好きだけどアイグリーンスキー(先代、二代目共に)は何が好きなの?
≫日本では馬といえば人参だが人参よりも果物、果物よりも角砂糖を好む傾向にある。その為欧州では馬といえば林檎であり、それは国内でも見られトウカイテイオーはブランド品の林檎を好んでいた。アイグリーンスキーこと主人公達の好物はメロン。

・最近のアプリ版ウマ娘について
≫花嫁衣装、ようするにウェディングドレスとかさぁ……ウマネストとか迷走してない?新衣装出すことよりもはよフジキセキとかミスターシービーとか出した方が良くない?あるいはサクラローレルとか許可貰ってサプライズで出したら間違いなく盛り上がる。

・ブリッツ
≫みどりのマキバオーより。ミドリマキバオーの弟で最強キャラの一角。原作で活躍が流れたこいつも書いてみたい。

・シンキングアルザオ
≫父メジロマックイーン、母父ミスターシービー、母母父グリーングラスとバリバリの内国産馬であるにも関わらずリーディングサイアーを獲得したチート種牡馬。主な産駒に天皇賞春三連覇を果たしたマジソンティーケイ。
≫競走馬としてもかなり優秀で【青き稲妻の物語】ではアグネスタキオンの二敗以外は全勝、【皇帝、帝王、そして大帝】ではアグネスタキオンに加え、マグナデルミネにそれぞれ敗れるが連対率100%の成績を誇り、二頭が引退した後は当時の中長距離GⅠ競走完全制覇という……自分で書いておいてチートだよ。

・トーセンジョーダン
≫【皇帝、帝王、そして大帝】ではジャングルポケット不在の為、マグナデルミネ産駒……うん、【皇帝、帝王、そして大帝】の世界観から見たらルドルフから4代に渡るウマ娘登場になる。

・作者の誕生日
≫今日予約投稿したこの日、つまり7/4がmy birthday

前回の粗筋
二代目「現役時代の先代の渾名って、雷親父でもなければクソ爺でもないの?」
先代「当たり前だ。UFOだ」
二代目「いやいやそっちの方が信じられないんだけど!」


「トレーニングとはいえこうしてまたお前と一緒に走れるとはな、ブライアン」

 

「そうだな、姉さん」

 

 ビワハヤヒデとナリタブライアンの二人が互いに握手し結束する。

 

 

 

「ところでブライアン。チームトゥバンのメンバーの姿が見当たらないが、やはり今年もいないのか?」

 

 ビワハヤヒデがチームトゥバンがいないことに疑問に思い、そう尋ねる。

 

 チームトゥバンは元々チームギエナという名前で活動しトレーナーが解任され新しいトレーナーに名義変更されたこともあり、騒動が落ち着いても様子見と言うこともありトレセン学園内で合同合宿はしていなかった。

 

「何を言っている。チームトゥバンはもう既にトレーニングしているぞ」

 

「なっ、また荷物を大量に抱えて現地集合とかいうぶっ飛んだことをしているのか!?」

 

 チームトゥバンのメンバーの荷物がない──それはバスも使わずに現地集合するというトレーニングを行うというブラック企業ですら指示しないことを実行していると推測し、ビワハヤヒデがそう叫ぶ。

 

「そんな訳ないだろう、普通にバスで来ていたぞ」

 

「……そうだよな。チームギエナ時代のあの行事がおかしかっただけか」

 

「おい待て姉貴。それがギエナ時代にあったのか?」

 

「ああ。ヤマトに聞いたら珍しく教えてくれたぞ。準備運動代わりのようなものだとな」

 

「嘘だろ?」

 

「ギエナ時代の最後は海だから良かったが、かつて富士登山走でそれをやることもあったらしい」

 

「富士登山走って富士山を走って登るという意味のアレか? だがそれは流石に冗談だよな?」

 

「わからん。だがその登山走のお陰でウマ娘が成長したことも確かだ」

 

「砂利道で走るのですらキツいのに荷物を持っていく神経がわからない……」

 

「ブライアン、お前は経験あるのか?」

 

「チームリギルの練習で一度だけな。本場のダート(米国の土)とは違って国内のダートは砂である程度沈むが、あの砂利道はそのレベルじゃない。いっそ泳いだ方がマシなレベルで沈むんだ」

 

 ナリタブライアンがトラウマを呼び起こされたせいか頭を抱えながらそう吐く。

 

 

 

 そしてその瞬間、ビワハヤヒデの腕時計のアラームが鳴り響く。

 

「おっと、いけない。栄養補給の時間だ」

 

 癖っ毛が強すぎる髪からバナナケースを取り出し、そこからバナナを取り出して皮を剥き食事する

 

「おい待て姉貴。どこから取り出している」

 

「見ての通り髪からだ。それ以外どこに収納出来ると思っている?」

 

「姉貴のバナナ好きは理解しているが、髪はそういう物じゃないだろう」

 

「黙れブライアン! 私が好きでこの癖っ毛マシマシの髪になったと思っているのか? ヘアアイロンや高級シャンプー等多数の癖っ毛対策をしてきたさ。それなのに他のウマ娘よりも癖っ毛なんだ。この忌まわしい髪を有効活用しなくてどうする。良いんだぞ。私はいつでも自前の髪を坊主にしてブライアンのウィッグにしても良いんだぞ。その代わり私の髪を再現したウィッグが出来たら一生剥がれないようにしてやるから覚悟しておけ!」

 

「なんだ……その……すまなかった姉さん。だから私の髪を触ろうとするのを止めてくれ、本当に頼む」

 

 早口でまくし立てられ萎縮し謝罪するナリタブライアン。それだけビワハヤヒデは圧をかけていた。

 

 

 

 しばらくし、落ち着きを取り戻したビワハヤヒデが口を開きナリタブライアンに声をかける。

 

「ブライアン、お前の中でライバルと思っているウマ娘は誰だ?」

 

「当たり前のことを聞くな。姉さんが宝塚記念で負けたアイグリーンスキー。それだけだ」

 

「だが向こうはライバルと思っていないぞ?」

 

「かもしれない。だが他にライバルと呼ぶ奴はいないだろう」

 

「私がアイグリーンスキーのライバルだ、と言ったら、納得は出来るのか?」

 

「姉さんのは自称だろう。私のは様々な要因があるからライバルと呼べるものだ」

 

「果たしてそうかな? もしグリーン不在のレースで私とブライアンが直接対決して勝ったらクラシック級のライバルだったウマ娘と呼ばれるだろう」

 

「……」

 

「とは言え国内におけるグリーンのライバルは間違いなくブライアン、お前だ。だが世界は広くグリーン自身がライバルと認めたウマ娘がいる」

 

「なんだと?」

 

「今年、僅かキャリア2戦で英ダービーを制したウマ娘、ラムタラだ」

 

「ラムタラ……前にグリーンが言っていたな」

 

 ナリタブライアンが思い出し、手を顎に添える。

 

 

 

「知っているのかブライアン?」

 

「私達がジュニア級の時に当時の日本最強のシニア級のウマ娘、メジロパーマー先輩を400m毎に1バ身ずつ差をつけ、最終的に5バ身差で打ち負かしたとグリーンから聞いたことがある」

 

 ──私も怪物と呼ばれているが、その時点でメジロパーマー先輩に勝てるほど自惚れていない。まさしく奴こそ怪物そのものだ。

 

「なるほどな。それで彼女はラムタラを意識しているのか」

 

「ああ、目の前でそんなものを見せられたらグリーンの性格からそうなる」

 

「それでもお前はグリーンのライバルを自称し続けるのか?」

 

「無論だ。菊花賞を勝った後は今年の有馬記念で決着をつける予定だ」

 

「JCはやはり出走しないのか。まあ会長やチケットのこともあるからな……足元掬われないように気をつけろ」

 

 ビワハヤヒデがそう呟くのには理由があり、シンボリルドルフやウイニングチケットはダービーを勝利した年、つまりクラシック級でJCに挑んだが共に敗北しているからだ。

 

 

 

 史実において菊花賞からJCを制する例はジャングルポケットしかおらず、また凱旋門賞からのJCで勝利した例も少ない。反対に天皇賞秋からJCを制する例は多数あり理由としては複数あるが、主に二つ挙げられる。

 

 一つ目は遠征による疲労。菊花賞が行われる京都競馬場は関西でありJCは東京競馬場、つまり関東である。

 

 二つ目は二つのレースとJCの走り方があまりにも異なり凡走。JCでも菊花賞や凱旋門賞の走りの状態で走ってしまい、東京競馬場に適性のあるシンボリルドルフやウイニングチケットはなんとか上位に食い込めただけである。

 

 逆にジャングルポケットや凱旋門賞未勝利の競走馬は前走でそのレースに合わせた走りが出来ず、JCで理想の走りが出来た為勝利出来た。

 

 

 

「姉さんこそな。特に秋の天皇賞には魔物が棲んでいる。私が菊花賞を制して、しかも前哨戦を圧勝したら間違いなく1番人気になるだろう」

 

「そうだな……秋の天皇賞において1番人気はことごとく敗北する。あの会長ですら敗北した以上、ただのジンクスと割り切れるものではない……だが、論理に基づけばそのジンクスはジンクスでなくなり私の勝利は確実なものとなる」

 

「姉さんらしいと言えば姉さんらしいな」

 

「ジンクスは伝承でしかない。しかしその伝承は根拠がある。例えば朝日杯を勝ったウマ娘は三冠ウマ娘になれないというジンクスはそのウマ娘が早熟であった為とかな。だがブライアンは違う。ブライアンは圧倒的な能力があったからこそ成長途中でも朝日杯を制することが出来た。そしてスタミナ勝負になるほどブライアンの強さは活きていく。つまるところブライアン、お前が菊花賞を制しても何ら不思議なことではないし、むしろ菊花賞で負ける要素が見つからないんだ」

 

「言ってくれるな、姉さん。ならその期待に応えてみせよう」

 

「見せてもらうぞ。その代わり私も秋の天皇賞を勝ってみせるさ」

 

 ビワハヤヒデとナリタブライアンの絆が深まり、合宿は順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

 その一方でナリタブライアン達が夏合宿で鍛えている頃、サンデーサイレンスは常に無表情の栗毛のウマ娘──ミホノブルボンを連れてある男と接触していた。

 

 

 

「私がかつてトキノミノルのトレーナーを勤めていた永田と申します」

 

 その男──かつてたづなが現役(トキノミノル)だった頃のトレーナーで行方知らずだったが、サンデーサイレンスはその行方を突き止め、現在にいたる。

 

「永田トレーナー、お会い出来て光栄です」

 

「で、サンデーサイレンスさん……」

 

「私はサンデーサイレンスではありません」

 

「え?」

 

 ミホノブルボンが目の前の男にサンデーサイレンスでないことを告げると共に鑑定する。

 

 

 

「サンデーサイレンス先生、どうやら安全のようです」

 

「そうか、それなら安心出来るな」

 

 天井裏から現れサンデーサイレンスが着地すると名刺を取り出し、永田に渡す。

 

「初めまして、余がサンデーサイレンスだ」

 

「て、天井裏から出るとはまるで忍者のようですね」

 

「何せ余は命を狙われていてな、それでこのミホノブルボンをボディーガードにしている訳だ。このミホノブルボンは危険度をはかる特殊能力を持っていてな、無能なトレーナーの元で燻っていたのをスカウトしたという訳だ。まさしくミホノブルボン様々よ」

 

「は、はぁ……」

 

「早速だが、弁明をさせて貰おう。貴方をマスコミに売ったのはトレセン学園ではない。おそらく貴方を快く思わないゴミ共の陰謀かと」

 

 永田がドン引きしている状態であるにも関わらず、悪辣にそう述べながらサンデーサイレンスが弁明する。

 

 

 

「少し誤解なされているようですが、私はそもそも自分からトレセン学園を去っただけでマスコミ云々は関係ありませんよ」

 

「しかしそれでも謝罪させてもらいたい。本来であれば理事長を始めとしたお偉い方に謝罪させるのが筋だが、生憎不在で余が代わりに弁明と謝罪しに来た訳だ」

 

「わかりました。それではその謝罪を受け取りましょう。しかし私はトレセン学園に戻る気はありません」

 

 

 

「何故だ?」

 

「私は既に別の所に所属しているからですよ」

 

「と言うと……?」

 

「香港のトレセン学園に遁鎮魂(とんちんかん)という名前で所属しています。かつてトキノミノルを育て上げた実績を買われ現在では日本支部の支部長を勤めています」

 

「香港と言うと香港国際競走で有名なあの香港か」

 

「ええ、日本のJCや有馬記念に出走が見込まれないウマ娘やスプリンター・マイル路線で活躍するウマ娘が来ますね。特に香港マイルと香港スプリントは世界最高峰のレースだと思いますよ」

 

 

 

 その瞬間、扉が開きそちらを見るとまだ初等部を卒業したばかりの年齢と予想されるウマ娘がそこにいた。

 

「では遁さん、私はこの辺で失礼します」

 

 その瞬間、ミホノブルボンが警告を鳴らす。

 

「キケンキケンキケン!」

 

「ひぇっ!?」

 

 とっさに天井裏に隠れ避難するサンデーサイレンス。端から見れば幼女に恐れて隠れたようにしか見えないシュールそのものだった。

 

「あやつは一体誰かな? 見た記憶があるが……」

 

 サンデーサイレンスが再び天井裏から現れ、永田に尋ねる。

 

「本部から来ている幹部の方です。階級は私よりも上ですよ」

 

「うーむ……」

 

「彼女は香港の英雄です。いくら私が無敗の二冠ウマ娘(トキノミノル)を育てたとはいえ、故障させてしまい三冠を取らせることが出来なかったという汚点があるのに対して、彼女は香港史上最強、世界屈指のスプリンターとして名前が知られていて、結果を残しています」

 

「そうだ、その経歴を聞いて思い出した。確か彼女の名前はサイレントウィットネス*1。社会現象になってから暫く経ったものだから思い出すのに時間がかかってしまった」

 

「いえ、むしろそれだけの情報で思い出すあたりサンデーサイレンスさんが香港のウマ娘に興味を持って頂けたという証明になります」

 

 

 

「ところで永田トレーナー、娘には会わないのか?」

 

「雅美のことですか……娘はトレセン学園で上手くやっているでしょう?」

 

「隠す必要はないぞ。本当の貴方の娘は夜の営みをしているのは知っている。永田トレーナー、トキノミノルの正体を隠したのは貴方じゃないのか?」

 

「…………さあ? 私は娘が駿川たづなと名乗って仕事をしていることしか知りませんよ」

 

「そこまで言われては仕方ない……永田トレーナーが日本のトレセン学園に復帰して貰えないのは残念だがそういう事情ならやむを得ない。永田トレーナー、いや遁鎮魂トレーナー。今度会う時はJCで会おう」

 

「楽しみにしていますよ」

 

「ブルボン、いくぞ」

 

「畏まりました、サンデーサイレンス先生」

 

 サンデーサイレンスとミホノブルボンがその場を去り、永田が一人呟く。

 

「雅美が夜の営みとはな……もしパーフェクトがパーフェクトでなければ、俺達は幸せになれたんだろうか。いやパーフェクト(完璧)じゃないからこそ、そうなったのかもな」

 

 永田の自傷は誰にも聞き取られることはなく、仕事に戻る。日本支部の支部長らしく日本に遠征するウマ娘のことを考え──そして、永田はあることを決断した。

 

「そうだ、日本のウマ娘をスカウト(拉致)しよう」

 

 スカウトと書いて拉致と読む。永田は日本のウマ娘をスカウトする為にトレセン学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「さていこうか、先代」

『ああ、二代目。俺とお前のタッグならあいつにも勝てる』

そして時が流れ、8月上旬。英国にて欧州の大レースKGⅥ&QESが行われようとしていた。

*1
1999年生まれの香港の競走馬。短距離路線で無敵を誇り、特に17連勝と香港スプリント連覇を果たしていて香港でも英雄とも言われている




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト8

71.シンボリルドルフ会長に【センスのある駄洒落大百科】なるものを販売及び譲渡および写生させることを禁じます
72.猫好きなウマ娘を連れて猫カフェに行くのは結構ですが「セントサイモンが来日するからな、猫が絶滅する前に来たかったんだ」などと死亡フラグを立てるのは止めて下さい
73.サトノダイヤモンドとダイヤモンドジュビリーを引き合わせてはならない。後者のダイヤモンドは前者のダイヤモンドのSAN値を削るダイヤモンドカッターです
74.同様にセントサイモンとセントライトを引き合わせてはならない
75.イタズラをしたウマ娘に地下室で監禁し、洗脳してはならない
76.エアグルーヴの胃に穴が開いたからと言って急に大人しくなってはならない。不審に思ったエアグルーヴが更に胃の穴を拡げました
77.77条作られた記念にスロットを作成しようとしてはならない
78.片方(ゴールドシップ)特定のウマ娘(トーセンジョーダン)を殴って、もう片方(フジキセキ)が慰めるというマッチポンプをしてはならない
79.ウマ娘と魔王を掛け合わせたウマ王と勝手に名乗るのは結構ですが、セントサイモンやダイヤモンドジュビリーの耳に入らないようにしてください。何故ならセントサイモンら2名が欧州トレセン学園を乗っ取った経歴があり、非常に危険な人物と言え、そんな彼女達が最も嫌うのはファンタジーな存在だからです
80.この禁止されているイタズラリストを見てツッコミを入れてはならない

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尚、次回更新は未定です


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第55R 二代目、世界の頂点へ1

・マヤノトップガン
≫ナリタブライアンと同じくブライアンズタイム産駒でスペシャルウィークやトウカイテイオーと同じGⅠ競走4勝と名馬と言える存在でしかもそのGⅠ競走は全て戦法(逃げ、先行、差し、追込)が異なる自在脚質の持ち主だが、マヤノトップガンが勝利したそれぞれのGⅠ競走で戦法が異なるのはマヤノトップガンのスタートの位置取り次第で変わってしまう為らしい
≫菊花賞や天皇賞春でレコード勝利したにも関わらず、スペシャルウィーク達よりも評価が低い理由としてナリタブライアンがGⅠ競走5勝かつナリタブライアンに阪神大賞典で敗北したのと、ダービーを勝利していない、勝てるはずだった天皇賞秋で敗北等が挙げられ前述したレコード勝利の評価を帳消しにしてしまったのだと考えられる。
≫ちなみに作者はマヤノトップガン主戦騎手のことをマヤノトップガンを名馬に導いた騎手と認識していたが、トウカイテイオーの有馬記念に騎乗し勝利に導いた騎手だと気づくのに時間を要した……仕方ないやん。
≫マヤノトップガンはフジキセキと同期なのに何故かウマ娘では年齢層が違い、トウカイテイオーと同部屋でそれに合わせる為?

・マーベラスサンデー
≫15戦10勝と公式のウマ娘の中でも勝率が高いがGⅠ競走勝利は宝塚記念のみの勝利であり、サクラローレルに一度も勝利していないことからマヤノトップガンよりも評価が低い。
≫マーベラスサンデー実装したらサクラローレルも許可とって実装してこいや!

・メジロマックイーン
≫ウマ娘のメジロマックイーンはTHEお嬢様だが史実のメジロマックイーンは当初こそ大人しかったがパーソロン系の悲しき運命から逃れられず晩年はマジでゴルシみたいな感じになっていた。むしろゴルシの原型といっても過言ではない。ただしチョロイン要素は孫達に受け継がれなかった模様。最近作者はアプリのマックを星4にした模様。

・ゴールドシップ
≫皆大好きゴルシちゃん。3歳時点の走りはメジロマックイーンというよりはミスターシービーに似ていた(血の繋がりはない)が、メジロマックイーンの血が覚醒したのか徐々に気性が荒くなり皆の知るゴルシに。
≫ちなみに同じ配合(父ステイゴールド、母父メジロマックイーン)であるドリームジャーニーやオルフェーヴルと比べるとステゴ産駒というよりは母父メジロマックイーンの孫と言われた方が違和感がない。
≫なお、ようやく作者は最近ゴルシを無敗で終えることが出来た模様

・フジキセキ
≫タキオンと同じ勝利数のウマ娘が実装ようやくか……ガチャ回すぜぇぇぇっ!
→星3確定演出「よっしゃぁぁぁっ!」→メジロマックイーン(所持済み)「やあ」→「は?ふざけんなゴラぁ!星4にするしか使い道がねえじゃねえか!」→星4化、その後目標未達成
ということがありました。いやフジキセキ以外で星3出るならシンボリルドルフかミホノブルボンにしてほしかった……

・ゴールドシチー
≫有名じゃない方のゴルシ……というかゴルシといえばゴールドシップのことを指すので以下シチー。シチーは栗毛の中でも鬣が金色のことを指す尾花栗毛の競走馬で、このような尾花栗毛の馬はグッドルッキングホースが多くシチーはその中でもかなりの美貌の持ち主だった。(尚、一番のグッドルッキングホースは鹿毛のトウカイテイオーが挙げられるがあれは仕方ない)
≫晩年こそ勝てないレースが続いていたが、若い頃は強く、現在の阪神JFにあたるレースを勝利し、サクラスターオーが勝った皐月賞と菊花賞では2着と健闘していることから実力がないわけでない、前線で活躍していたことが明らかな名馬。
≫アプリではスピード強化であるにも関わらず体力回復イベントが多数ある優秀なサポート役として登場。勿論作者もサポートとして使うので来たら育成は最低限にする予定

前回の粗筋
二代目「出番少なくない?」


 KGⅥ&QESとは英国で開催される欧州最高峰のレースであり英ダービー、凱旋門賞と並んで欧州三冠レースの一つに数えられる。

 

 しかし日本のウマ娘が宝塚記念を捨ててまで参加するかと言われれば否であり、余りにもリスクが高すぎるからだ。

 

 確かに勝利すれば歴史的な快挙を成し遂げたウマ娘としてタマモクロスは名を挙げられるが、高速芝のドバイとは違いこのレースの芝は完全なる洋芝であり全くの別物であり、勝てる見込みがほとんどない。

 

 ドバイシーマで4着程度のウマ娘では余りにも荷が重い。それが現地人の評価であり日本の一部の評論家達の意見でもあった。

 

 それでもタマモクロスは宝塚記念ではなくそれを選択した理由は、出走してきたウマ娘達にあった。

 

『何故このレースを選んだのか解せなかったが、あいつがいるからか?』

 

「せやで。海外遠征する言うていたからな。この欧州最高峰の舞台なら絶対に出てくるはずやと睨んどったが案の定当たりや」

 

 タマモクロスが見た先にいたのはクラシック級ながらにして宝塚記念を勝利した二代目だった。二代目は幾度なく数多くの強豪達を打ち負かしており、シニアのウマ娘達からもライバル扱いされている。それ故にタマモクロスが二代目の出るであろうレースに出走登録していた。

 

 

 

『しかしグリーンがダービーを勝っても宝塚記念に出走するとはな。出来ればホームで決着を着けたかったところだがな……』

 

「それはしゃーない。ダービーの後は普通休むか直接海外遠征に行くかのどっちかしか前例がなかったから予測出来へん」

 

 タマモクロス達の誤算は二代目が宝塚記念に登録したことだ。

 

 そもそもそれまで宝塚記念に出走したクラシック級のウマ娘は不振になるジンクスがあり、全員が不振になっているので非常に無謀としか言い様がない。

 

『向こうのグリーンは事情が違ったからな……向こうはGⅠ競走2勝どころか1勝もしていない一介の重賞馬だった。箔付けさせる為に宝塚記念に出走したんだがな……その理由がなくなってもやることは変わらないってがわかっただけでも収穫だ』

 

 先代が宝塚記念に出走した経緯が賞金を稼ぐ為だけでなく馬主が主要GⅠ勝利という箔付けが欲しかったという理由があり、ダービーを勝てば宝塚記念に出走しないと思っていたのもあり、タマモクロスは前者の理由もあって宝塚記念に登録しなかった。

 

 もし宝塚記念に出走すると読んでいたならタマモクロスはそちらに出走してからこちらのレースに挑んでいた。

 

「かもしれへん。せやけど自分んところのグリーンはこのレースに参加しとらんのやろ? 読みが半分当たったことになるで」

 

『ラムタラの影響もある。ラムタラのいるレースのうち奴が出られるレースは全て出走していた』

 

「ま、何にせよありがたい話や。こうしてリベンジが出来るんやから」

 

 タマモクロスが笑みを浮かべて二代目の方に視線を向けるが目を合わせず集中していた。

 

 

 

 その頃、二代目はタマモクロスと同じく自らの魂である先代と話していた。

 

「先代、前回はどうしたの?」

 

『降着したダービーとは違って前回の俺は真っ向勝負で負けた。奴にあるものは精神力、言ってみれば勝負根性。それに加えて巧みなレースセンスだ。それ以外、特に瞬発力ならお前に分がある』

 

「真っ向勝負で負けたのね」

 

『斤量差*1もあるが、この時ほど奴と俺の実力差が離れていた時期はない』

 

 

 

「そうね……ところでタマモクロス先輩ってこのレースに出ているんだけど先代の世界だとどうなの?」

 

『そもそも海外レースに出ていない。だがウマ娘の中でお前の実力を一番知っているのはあいつだ。お前をマークする可能性は十分にある』

 

「そう、ね。タマモクロス先輩が邪魔にならなければいいけれど」

 

『逆に言えばタマモクロスとラムタラだけに注意すればどうとでもなる。あいつが一番この中で強いからな』

 

「……先代、私勝ってくるよ」

 

 

 

 

 

 同じく、ラムタラは自らのトレーナーから受けたアドバイスを回想していた。

 

「ラムタラ、間違いなくこの中ではお前が一番強い。しかし誰よりも強いからと言って必ず勝てる訳じゃない」

 

「はい」

 

「グリーンは故障しやすい体質だが、素質はお前を除けばこの中で一番高い……それだけに残念だよ。あの時あいつが故障してしまったのがな。もしあいつが故障しないでいたらあいつと共にお前相手に戦えただろう」

 

「それは違う。トレーナー、この場にいられるのは貴方のおかげ。もしあのままだったら私は並みのウマ娘として終わっていた」

 

「かもしれんな。だがこうしてかつて自分が育てたウマ娘が今育てているウマ娘のライバルとして戦えるのはトレーナー冥利に尽きる」

 

「なら良かった。後はあの雑魚を仕留め──」

 

「ラムタラ、今の奴はかつて育てた俺だからこそ言えるが強いぞ。レースセンスに関しては世界でもそういない。少なくとも日本で俺が育てた中では一番、日本のウマ娘全てを含めても無敗三冠のシンボリルドルフくらいでお前とほぼ同等だ。僅かな差で敗北しかねない。だから雑魚などと侮るな」

 

「……うん」

 

「それじゃあ勝ってこい」

 

 気軽にそう言葉をかけるトレーナーの姿はラムタラを完全に信頼している証拠だった。

 

 

 

【KGⅥ&QES、欧州の宝塚記念とも言える大レース。日本の実況は私、赤坂】

 

【解説はシリウスシンボリでお送りします】

 

【それではシリウスシンボリさん、このKGⅥ&QESに出走した経験がありますがやはり洋芝は走り難いものなのでしょうか?】

 

【そうですね。KGⅥ&QESに限らず欧州のレース場の芝は足が取られ、超長距離を走り切るスタミナと洋芝をものともしないパワーを要します。ダートの経験があり昨年の阪神大賞典を勝ち、続く次走天皇賞春でも脅威のスタミナを見せたタマモクロス、そしてトレセン学園ベンチプレス記録者であり、宝塚記念でスタミナによるゴリ押しで勝利したアイグリーンスキーも適性があると思いますよ】

 

【では本命にアイグリーンスキー、対抗にタマモクロスということですか?】

 

【いえ、このレースの本命は英ダービーを勝利したドバイのウマ娘ラムタラですね。私が申し上げた二人についてはあくまでも適性があるというだけで、他の日本のウマ娘よりも惨敗する可能性は低いということです。もっともパワーを必要とする重バ場が得意な私は惨敗しましたが】

 

 

 

 三人の思い、そしてそれをTV越しに見ている者、それは合宿の最中で観戦しているナリタブライアンとビワハヤヒデの姉妹だった。

 

「ブライアン、このレースどう見る?」

 

「あのラムタラは英ダービーを勝ったんだろう? しかし私が出ていれば勝てるというレースだったと聞いたが、それほどまでに低レベルの戦いなんだろう──以前の私ならそう思っていた」

 

「というと?」

 

「ラムタラは英ダービーにおいて死にかける程の体調不良だったと聞いた。いくら低レベルとはいえ英ダービーは欧州最高峰のレース。普通であれば死にかけのウマ娘が獲れるレースじゃない。つまり普通という枠組みから離れたラムタラはこの中で抜けた存在だ」

 

「ラムタラに負けるでも? お前らしくもないな」

 

「姉さんは相変わらず頭でっかちだな。だからグリーンに宝塚記念で負けるんだ」

 

「頭でっかちは余計だ! それに私の顔は小顔だ! 見ろっ! 全ウマ娘の顔の大きさの統計を取って私が平均以下だというデータがここにあるぞ」

 

 ビワハヤヒデが髪から写真を添付した論文を取り出し、ナリタブライアンに見せるが当の本人は無視していた。

 

「そんなことはどうでもいい。何はともあれ宝塚記念で姉さんもわかっただろう。レースを支配するのはあいつだ。大逃げから追込までどの位置からでもレースが出来るからハイペースだろうが、スローペースだろうが関係無いんだ」

 

「あれはもはやペース関係なしのサバイバル──」

 

「だと思うか? 私も最初はそう思ったよ。結果だけ見ればスタミナ切れを起こす直前で逃げ切ったように見えるが実際には違う」

 

「何だと?」

 

「私と同じように、ただ能力に任せてぶっちぎるのであれば姉さんと同じ先行押切でやるべきだったが、グリーンはその能力が明らかにあったにもそうしなかった」

 

「……確かにな。ペースがわからないという訳ではない。あれはヤマトや私以上の頭脳派だ。あの娘がブライアンを差し置いて学力テストでトップであるのが何よりの証拠」

 

「あんなマニアックな問題わかるか! 宇宙の広さとその計算式を書けと言われて書けるあいつがおかしいんだ!」

 

「そうか、お前達の世代は宇宙の広さとその計算式か……私達の世代はフェルマーの最終定理*2を証明しろという問題だし、その前は司法予備試験の問題から選択肢をなくして記述式で解けというものだったからな。まだ難易度は低い方だぞ?」

 

 各世代を通して確実に言えることはトレセン学園のテスト問題で満点を取らせる気がないということが理解出来る。

 

 

 

「そ、それよりも姉さん。グリーンが勝てたのは末脚にある。姉さん達が動いたのは間違いではなく、姉さんのラップタイムは全くと言って良いほど落ちていない。それどころか最後の直線は加速している。でなければ他のウマ娘を千切れるはずがない」

 

「そうだろうな。私は瞬発力がなかったからこそ皐月賞やダービーで敗北したんだ。そして瞬発力を身につけた菊花賞で勝利した……だが、それでも勝てない相手はいる」

 

「グリーンか」

 

「そうだ。お前のいう通り彼女の瞬発力は大したものだ。二の脚の時点でもクラシック級のGⅠ級。そして三の脚で私達を抑え、そしてそれに加えて勝負根性があり、その勝負根性を使えば国内史上最強クラスのウマ娘となる。今の私ではどんな作戦を立てたところで能力不足で勝てない」

 

「今は、か」

 

「理論上、グリーン君はラムタラに勝てるだろう……だが、それは両者の前走時点での話だ。グリーン君が宝塚記念で底を見せたのに対してラムタラはまだ底を見せていない。不安なところがあるとすればその点だけだ」

 

 そしてKGⅥ&QESのゲート入りが始まり、二人がTVに注目する。

 

【KGⅥ&QES、今回は一体誰が勝つのでしょうか? さあいよいよスタートです】

 

 TVにはタマモクロスと二代目、そしてラムタラのアップした映像が写り、ゲートが開いた。

*1
騎手の体重の差の事。凱旋門賞で三歳牝馬が有利と言われるのは最も重い古牡馬に比べ斤量差が大きい為である

*2
フェルマーが出した数学の定理の一つ。この定理は17世紀からあるが20世紀末まで長らくその定理を証明出来ず、証明した数学者ですら8年以上要している




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト9

81.貴殿方が花火を使うことを禁止します。
82.エンターテイメントを名乗り、どこからともなくシルクハットを出したり、そのシルクハットから鳩を出したり等の行為を禁止します
83.エンターテイメントを名乗らなくても同じです
84.ゴールドシチーを身代わりにしてはならない。確かにゴールドシチーもゴルシと省略出来ますがトレセン学園のほぼ全員がゴルシ=ゴールドシップという認識です
85.アグネスデジタルを呼び出し、薄い本を書かせてはならない。勿論健全なものでもです
86.WDTやJC等の表記に不適切なルビを振ってはならない
87.アグネスタキオンの薬で幼児化及び老化を気合いで防ぐこと。セントサイモンやダイヤモンドジュビリーは気合いで打ち消しました
88.セントサイモンの目の前で蝙蝠傘を広げてはならない
89.確かにトレセン学園の宿題の中には日本語や英語で提出しなくても良い物もありますが、それは様々な国籍の留学生達に対する配慮であって、貴殿方がモールス信号で宿題を提出する理由にはなりません。勿論アグネスタキオンのロシア語で提出した宿題に関しても指導しています
90.貴殿方が学園案内をする際に新入生達に楽しめるよう脚色して説明することを禁じます。特に「栗東寮の地下室で某ウマ娘が挽き肉にされた」は明らかに盛りすぎです

この第55Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

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他にアンケートを募集しています。見ての通りモブウマ娘の募集ですが自分がウマ娘だったらという想像を参考にして下さい。ちなみに私は差しですね

尚、次回更新は明日です


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第56R 二代目、世界の頂点へ2

・アグネスタキオン
≫【後にも先にもSS産駒で天才と呼ばれたのはこの馬のみ】と評され、旧三歳つまり現在の二歳時点で【SSの最高傑作】だったスペシャルウィークを凌ぐとまで騒がれた程の名馬……なのだが、天才という渾名と自身と自身の産駒が故障により引退するイメージが先行しすぎて虚弱なマッドになってしまったのかもしれない

・今度公式ウマ娘の中で実装して欲しいのは?
≫逃げ切りシスターズで唯一実装していないアイネスフウジン、ルドルフの最大のライバルミスターシービー、オグリキャップのライバルズ、カノープスのメンバーくらい?

・非公式ウマ娘では?
≫許可が取れそうなところではトキノミノル(駿川たづなの可能性が高いが断言出来ない)、オグリローマン、サクラローレル、ナリタトップロード、アグネスフライト、タニノギムレット、シンボリクリスエス等

・イナリワン
≫オグリキャップ同様地方から中央に殴り込んで来た競走馬で、主な勝鞍は東京大賞典(ダート3000)や天皇賞春(芝3200)、宝塚記念(芝2200)など芝ダートコース問わない強さを持ち、その変態さはアグネスデジタルをも凌ぐ。しかしイナリという名前とオグリキャップが余りにも有名過ぎて江戸っ子キャラになったのかもしれない。まあデジタル以上の変態淑女だったらオグリのキャラが霞むからしゃーなし

・ロードカナロアとアーモンドアイ
≫アーモンドアイもGⅠ競走9勝、無敗の三冠馬を倒すというぶっ飛んだ強さを持っているがその父親ロードカナロアは香港スプリント連覇を成し遂げており、もっとぶっ飛んでいる。アーモンドアイは時たま負ける印象があるが、ロードカナロアは負ける印象がないってくらい強い

・コントレイル
≫ダービーの時点では父ディープインパクトを超えたがそこまででJC、大阪杯でまさかの二連敗してしまい歴代三冠馬の中では評価は低い。JCはまだわかるが大阪杯で負けたのが痛すぎた。それを覆すには秋古馬三冠を全てレコード勝利かつ4馬身差以上の着差で勝利するくらいしないと印象が残らず、ディープインパクト超えは厳しいのかも……インパクトだけに

・日本のダートと米国のダートの相違による弊害
≫ありまくる。日本のダートは芝適正がなかった馬救済の為にあるようなものであるのに未だに砂でガラパゴス化が顕著である。日本以外は土であり日本のダートのレースに出走しない外国馬が多く、勝利していない。また逆も然りでラニしかダートでの海外の国際競走勝利しておらず、ドバイWCのヴィクトワールピサは芝でもダートでもどちらでもないAWという特殊な馬場だった。そもそも遠征費の関係で海外に挑戦する絶対数が少ないと言われればそれまでだが、芝やダートそのものの相違が関係しているのは間違いない

前回の粗筋
二代目、タマモクロス、ラムタラ、回想する


【KGⅥ&QESスタート! まず始めに行ったのは──】

 

 KGⅥ&QESが始まり、タマモクロスが先行集団、ラムタラが中団集団、二代目が最後方の位置につき、日本でどよめきの声が上がる。

 

 

 

「タマモ先輩が先行するのは理解出来るがグリーン君が追込?」

 

「NHKマイルCでアマさん相手に勝ったとは言え、追込でラムタラに通じるのか?」

 

 ──末脚が武器とはいえ流石に無理ではないだろうか。

 

 ビワハヤヒデ達だけでなくこの場に全員が不安を感じる理由に英ダービー勝者ラムタラ、短距離路線から10f以上のレースに出走して以来4連勝を飾ったペンタイア等多数の有力なウマ娘がおり集団になっている。いくら国内でも豪脚を持つ二代目とはいえ脚質が定まっていないウマ娘が世界最高峰の末脚の持つウマ娘達に敵うのだろうか。そう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

「……」

 

「ようラムタラ。黙りじゃないか?」

 

「……ペンタイア」

 

「ラムタラ、私はあんたと戦うのが楽しみでこのレースに出てきたんだ。ペニカンプを破ったあんたをな」

 

「……そう。それで?」

 

「欧州トレセン学園に英国、仏国、愛国出身のウマ娘と外様──つまりそれ以外のウマ娘の派閥に別れているのは知っているな?」

 

「勿論。だけど貴女達三か国出身がそう感じているだけで私はそうは思わない。皆トレセン学園の生徒」

 

「あんたがそう思わなくてもドバイ出身のあんたが英国のエースだったペニカンプを負かしたのは事実で、英国寮の面子は丸潰れ。私個人の感情とは関係なくその敵討ちをするように言われているんでね。私はペニカンプを破ったあんたを超えに来た」

 

「敵討ちどうこうはともかく、私は誰にも負けない。このレースに勝つ……それだけ」

 

 ラムタラの呟きはレースに出走しているウマ娘全員に響き、全員がラムタラを囲む。それは二代目も例外ではなく、ラムタラの後方に位置していた。

 

 

 

【ラムタラを囲むような形でレースが進んでいき、最初のコーナーへ。タマモクロスが集団を引っ張り、その他は団子状態、最後方にアイグリーンスキーといったところ】

 

「もしかしてタマモクロス先輩、掛かっているっぽい?」

 

『いやそうでもない。今回は先行集団不在の中団差し軍団によるレースだ。遥々極東から来たタマモクロスなんていつでも差しに行けるなんて考えているんだろう。逃げているように見えて実際は天皇賞秋の先行と変わりない』

 

「そう?」

 

『気を付けるとしたらこの馬場だとハイペースだということだ。タマモクロスはそれを理解していない。だからこそ好都合な訳だがな』

 

 

 

 

 

 ビワハヤヒデ達が驚愕の声を上げる一方でただ一人、ヒシアマゾンのみが不安ではなく希望視していた。

 

「通じるさ、何せアタシが唯一末脚勝負で負けた相手だよ。それも二回もね」

 

 ヒシアマゾンの末脚はこの場にいる全員が熟知しており、全員がヒシアマゾンの末脚以上に敵うウマ娘と言えば国内では片手で数える程しかおらずその中には二代目も含まれていた。

 

「アマさん……」

 

「いやヒシアマ君、そんな単純なものじゃないんだ」

 

「へぇそいつは聞き捨てならないね。説明して貰うよ」

 

 ヒシアマゾンがビワハヤヒデの方に意識を集中させるとビワハヤヒデが口を開いた。

 

 

 

「グリーン君は三段階の加速装置が付いている。一段階目が君達も使える二の脚。そして二段階目が私達と同じレベルにたどりついた三の脚、そして三段階目の上がり1F最速のウマ娘と同速になる勝負根性だ」

 

 ヒシアマゾンが挙手し、口を開く。

 

「最後の三段階目は四の脚じゃないのかい?」

 

 ──三の脚があるのなら四の脚があるはず。

 

 ヒシアマゾンの疑問は尤もで三段階目が勝負根性なのか理解出来る方が少なく、ビワハヤヒデが解説した。

 

「彼女の場合そう表現するよりも勝負根性という言葉が似合うんだ。宝塚記念の最後の直線で見ただろう? 併走するかのような勝負根性を」

 

「確かに……」

 

「最後の三段階目に関してだが、追込であれば上がり1Fを最速にするのは当たり前のことで意味をなさない。宝塚記念では戦法を逃げにしたからこそ出来たことだ」

 

「いやそれでもNHKマイルCの時は──」

 

「確かにNHKマイルCと日本ダービー、どちらも逃げや先行といった戦法は取っていない。しかし最後の三段階目の勝負根性は使っていたか?」

 

「……あっ! いやそうか、そういうことだったのか!?」

 

 ナリタブライアンが驚愕の声を上げ、納得する。

 

「ブライアンどうした?」

 

「やっと辻褄があった。ダービーを終えた後、私に奴はこう言ってきた」

 

 

 

 ──一応言っておくと私はまだ余力を残している。僅差で勝つようにしているからね。まあ今回に限っては頭差で勝つつもりが失敗した訳だけど

 

 

 

「いくら僅差で勝つようにしているとはいえ、その気になれば頭差のままで押さえられたはずだ……つまりダービーの時点で三段階目の加速は使わなかったんじゃない。使えなかった」

 

「なるほどな。前に出ていたとしてもグリーン君は急激な加速に対応出来ない。それはそれで面白い発見だ。だが三段階目が四の脚ではなく勝負根性だということがわかっただろう」

 

「確かにNHKマイルCの追込、そしてダービーでの差し、共に三の脚どころか二の脚で勝利している。だけど逆に言えば、三の脚や勝負根性が必要ないくらいに加速しているってことじゃないのかい?」

 

「それは否定出来ないが、グリーン君の苦手な急激な加速がラムタラにはある。そうなればグリーン君は対応出来ずに敗れてしまう」

 

 

 

 

 

【さあ直線に入りタマモクロスが先頭だ! しかしその差は僅か!】

 

「ご苦労様だったな……チビ助」

 

「あ゛あ? 誰が背も胸もチビや?」

 

「ここからは私達の仕事だ。世界最高峰の英国のウマ娘の力見せてやろう」

 

 ペンタイアがタマモクロスを抜き去ろうと加速するとタマモクロスがそれに併せるように加速し、ペンタイアが息を入れ再加速しようとする。

 

「何がや……何が世界最高峰や! 日本のウマ娘舐めとったらアカンで!」

 

 ペンタイアが息を入れた瞬間にタマモクロスがペンタイアを引き剥がし慌てて再加速するがすでに時遅く、タマモクロスとの差は徐々に開いていく。

 

 

 

「……邪魔」

 

「うわっ!?」

 

 ラムタラが一瞬でペンタイアとタマモクロスを一気に抜き去っていく。

 

【ここでラムタラだ! タマモクロスが粘るがラムタラが前に出る!】

 

「ラムタラ、おどれーっ!」

 

「……」

 

 タマモクロスが差し返そうと必死の形相で末脚を爆発させるがラムタラは無表情のまま加速し、タマモクロスに併せると同時に引き離す。

 

『は、速い……っ!』

 

「まだまだや!」

 

 一頭と一人のタマモクロスが互いに力を合わせ、ラムタラに食らいつくとラムタラが呟いた。

 

「……貴女の走りは私に力をくれる。だからこそ引き離せる!」

 

 ラムタラの圧倒的な爆発力に為す術もなくタマモクロスが引き離されようとしていた。

 

【ラムタラがタマモクロスを引き剥がす! やはり本場欧州で日本のウマ娘は勝てないのか!?】

 

 

 

『よし、今だ』

 

 その瞬間、大外から二代目が一気に加速しラムタラを強襲した。

 

 

 

【い、いや! ここで大外から一気にアイグリーンスキーだ!】

 

「!?」

 

「うがぁぁぁっ!」

 

【タマモクロスがなんと脅威の追い上げーっ! ラムタラに食らいつく!】

 

 ラムタラが驚きの声を上げるとタマモクロスも二代目に引き続きラムタラを差し返しにいく。

 

 

 

「トレーナー、あの二人恐ろしい勝負根性をしていますね。このままだと負けるかもしれません」

 

「負けねえよ。ラムタラは素質だけで登りついた訳じゃねえ。根性でここまで勝ち上がってきたんだ。見せてやれ、お前の勝負根性を」

 

 

 

 ラムタラがトレーナーリーダーの声に答えるように加速した。

 

「この勝負、必ず勝つ!」

 

「絶対に、絶対に勝たなあかんねや!」

 

 タマモクロスがそう叫ぶも武士化したラムタラに徐々に突き放されてしまう。

 

 

 

「そう、それでこそラムタラだ……」

 

「いや、ラムタラは厳しいのではないのでしょうか。ラムタラに続く2着のウマ娘は全てラムタラとの距離が近いウマ娘ばかりでラムタラは併せて強くなるウマ娘。それに対してグリーンさんは大外……根性が空かされるのでは?」

 

「なんだと!?」

 

 

 

【内ラムタラか、外アイグリーンスキーか、ラムタラ……ラムタラが、ラムタラが苦しい!?】

 

「ぐっ!? 何故伸びないっ!?」

 

 ラムタラの脚が震えだし、ヨレると共に二代目に遅れを取り始める。

 

【ラムタラが根性勝負に持ち込めないっ! 大外からアイグリーンスキーだ! 日本の悲願達成なるか!?】

 

 無表情だったラムタラが初めて苦痛の表情を見せ、トレーナーリーダーが焦り怒鳴り声を出す。

 

「外だ! 外で併せにいけーっ!」

 

「駄目です! 今外に行ったら斜行してペンタイアに対する競走妨害で降着になります!」

 

「くそがぁぁぁっ!」

 

 

 

「流石先代、冴えている」

 

『当たり前だ。何年アイグリーンスキーをやって来たと思ってやがる? おまけにあいつとは何回も戦い続けてきたんだ。あいつは類い稀なる勝負根性故に併走する馬がいると限界以上の力を出せるが大外から一気に差されるとその力は弱くなる。それは二代目も同じだが、その弱体化はラムタラよりも少なくて済む』

 

「ラムタラは私に寄せようにもペンタイアが邪魔で寄せられない。完璧な位置取りとしか言い様がないよ!」

 

 二代目が加速するとともにレース場にいる観客達の悲鳴が響く。

 

 

 

「ならタマモクロスだ、タマモクロスが伸びろ! そうすればラムタラも伸びる!」

 

「いや、タマモクロスさんはもう……」

 

 ──残す脚がありません

 

 その発言をドバイシーマCを制覇したバランシーンが飲み込む。

 

 むしろタマモクロスは善戦した方であり、もし現在のタマモクロスがドバイシーマCに出ていたなら自分が勝てないと思わせる程、ラムタラに食らいつき、勝負根性を発揮していた。

 

 だがタマモクロスもまたラムタラと同様に勝負根性で走るウマ娘であり、ラムタラに引き連れられ善戦していたがラムタラを抜かすだけの体力を持ち合わせていない。もし二代目が傍にいたなら、より善戦していただろう。

 

 二代目は意図していなかったが、タマモクロスの勝負根性をも封じていた。

 

 

 

 

 

「場外乱闘&不意討ちだと思うけど、ラムタラ。これも勝つ為なんだ」

 

「ぐぁ、ぉぉぉぉっ!」

 

 ラムタラの雄叫びがレース場に響き渡り、ラムタラが加速すると二代目が三度目の驚愕に満ちた表情に変わる。

 

「またぁっ!?」

 

『パーマーといい、ナリブといいどいつもこいつも土壇場で覚醒するとかあいつらが物語の主人公だとでもいうのか!?』

 

 先代の声と共にラムタラが差し返し、先頭に踊り出ると二代目が笑みを浮かべていた。

 

「でももう慣れたよ先代。だから勝てるっ!」

 

『何っ!?』

 

 二代目の隠れた底力によりラムタラの速度を超えると先代すらも驚愕し、ラムタラにほぼ並んだ状態でゴール板を過ぎる。

 

 

 

 

 

【並んでいます! 内はラムタラ、外はアイグリーンスキー。3着にタマモクロス、4着争いにペンタイア。さあラムタラとアイグリーンスキー、どちらが勝ったのでしょうか?】

 

 両者が見守るとラムタラが屈辱のあまり一瞬だけ顔を歪めると元の無表情に戻り、二代目に近寄り手を差し出した。

 

「……おめでとう、このレースは貴女の勝ち」

 

「え? でもまだ結果は出てないよ?」

 

「見なくてもわかる。逃げ切った感覚がなかった」

 

「逃げ切った感覚?」

 

「知らないのなら知らないでいい。でもこれだけは覚えて。今度勝つのは私」

 

 ラムタラが背を向け、立ち去ると二代目が呟いた。

 

「上等よラムタラ。私もこれで勝ったとは思っていない。次のレース、凱旋門賞で決着を着けよう」

 

 そして掲示板を見るとそこには二代目の番号が一番上に表示されていた。




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト10

91.逃げ切りシスターズに続いて新しいウマドルユニットを創設するのは結構ですが、戦隊物の黄色ポジだからといって奇行に走らないで下さい。新しいウマドルユニットの規制が厳しくなります
92.分身なりなんなりとウマ娘を超える動きはレースのみでお願いいたします。理由については貴殿方が分身したせいで学園が恐怖のどん底に陥ったり、脳内ピンクなウマ娘が10倍に増加したからです
93.WDTを二人の童貞と訳したのは未だに許されることではありません
94.アグネスデジタルはあくまでもウマ娘同士のGL、またはウマ娘とトレーナーとの恋愛の同人誌を書いているのであってBLを書いているのではないことを認知せよ
95.目覚まし時計の音を子守唄にしてはならない。そのせいで生徒を始めとした数多くのトレセン学園関係者が寝坊しました
96.生徒達が楽しめるようトランプ等のカードゲームを許していましたがそれすらも禁止しなくてはならなくなりました
97.じたばたしても無駄です。はい
98.セクレタリアトの来日を極秘情報にしてはならない。おかげでトレセン学園の食材が一日でなくなりました
99.同様にセントサイモン来日も極秘情報にしてはならない。特に薬で理事長の猫を鈍感にさせたのは重罪です
100.このリストが3桁に達したことは祝うべきことではありません


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第57R 英国寮編1

・ドゥラメンテ
≫作者が思う史上最強の二冠馬。皐月賞ではドリフトをかまし僅差どころか一馬身差をつけて勝利、ダービーではレコード、そしてキタサンブラックに先着を許していない、落鉄した状態でKGⅥ&QES馬に迫る等、普通に最強馬候補に挙がる
≫またキタサンブラックに先着を許していないことからキタサンブラックのライバルとしても有名で、マキバオーでいうならカスケードのようなポジションにあたる
≫GⅠ馬の産駒が出ていないが仕方ないことでむしろ初年度産駒で結果を出したマルゼン、ルドルフ、TB、BT、SS、ステゴ、ギム、キンカメ、ディープ、オルフェ、ゴルシが異常なだけである。父キンカメ、母父SS、母母父TBという血統面から配合し難いことを考えても滑り出しは良い方といえる
≫しかし、2021年8月31日に死亡してしまいその声が惜しまれる……早すぎやろ
≫追記。産駒のタイトルホルダーが菊花賞を勝利し、こいつも異常だと判明。何も事故がなければタイトルホルダーは種牡馬入り確定するだろう。頼む、そうであってくれ!

・皐月賞
≫アプリ版ゴルシが「4月に行われるのに何故皐月賞なんだ」という理由で憤慨し、卯月賞に改名しようとしているが、皐月賞と名付けられた当初は5月の初旬に行われていた為で、改名しようとしても上記の理由と歴史がありすぎるので無駄に終わる可能性が高い

・VSダークライ
≫他の方の小説を読んでいたら感想で見かけたので解説。ダークライメインの映画でとある事件が発生しその容疑者にダークライが挙がったが実はダークライは関係なく、ディアルガとパルキアが原因だった。それを切欠に無関係なのに巻き込まれる代名詞として知られるようになった
≫ポケモン対戦では害悪ポケモンとして知られ特に第6世代以前ではダークライの専用技ダークホールの命中率が80%であったことから採用率がほぼ100%で対策必須であり、しかもダブルバトルやトリプルバトルでは全員が対象なので更にその強さが強調されていた。逆に言えば最初にダークホールしか打たないBotとなるのでダークライよりも速く動けるポケモンにちょうはつを搭載するか、特性で眠らないポケモンを採用すればなんとかなった。とはいえCもSも高く高速特殊アタッカーの一面を忘れてはならずダークホールの命中率が50%に低下した近年ではわるだくみを積んで全滅させる型が増加している。しかし剣盾では出禁をくらっている為今ではUSUM以前の環境にしか存在しない
≫ちなみにディープインパクトを国内で唯一破ったハーツクライはダークライと名前は似ているが関係ない。VSダークライならぬVSハーツクライが流行ってもいいかもしれない

・ハーツクライ
≫ダービーで2着、大阪杯で2着、宝塚記念で2着、JCでも2着と惜しいレースが続き、05年の有馬記念では善戦マン扱いで、無敗の三冠馬ディープインパクト、昨年秋古馬三冠を制し年度代表馬になったゼンノロブロイ、同じく昨年の菊花賞馬デルタブルースに次ぐ4番人気だったが、ディープインパクトがどう勝つかという行方を追っていたこともあって完全にノーマーク状態だった。そんな状況でハーツクライが勝利した為ディープインパクトファンは唖然としてしまった。ハーツクライはその後、ドバイシーマCで逃げ切り勝利を納め世界に名前を轟かせた。
≫尚、その息子ジャスタウェイも似たような経緯で天皇賞秋で牝馬三冠馬ジェンティルドンナを破り、ドバイターフで世界一の競走馬になり父子揃って世界に名前を轟かせる。ちなみにジャスタウェイ(Just a Way)が名前の由来と思われるのだが馬主が銀魂の関係者ということもあり、銀魂に出てくるジャスタウェイが本当の由来としている説もある。それ以上でもそれ以外でもねえ!

・武田ハル
≫【青き稲妻の物語】の主人公の調教師の武田晴則がモチーフのチームトゥバン所属女トレーナー。武田晴則の名前の由来は武田晴信こと武田信玄公。

・非公式のウマ娘含むアニメ化したら絶対話題になるウマ娘リスト。いずれも初見だと感動のあまり泣いてしまうレベルの実話ストーリー
≫オグリキャップ。公式かつ育成サポートでも実装済みで、現在はシンデレラグレイで漫画化されているが一競馬ファンとして紹介する
≫オルフェーヴル。これは馬主が「めっ!」した為に非公式のウマ娘となったが、ディープインパクト以来の三冠馬であり下の世代のジェンティルドンナ、ゴールドシップらとの激戦は胸を熱くさせるだろう。もしウマ娘を通してオルフェーヴルの生涯が語られたら引くまで泣くことになるだろう。主に作者が
≫シンボリクリスエス。タニノギムレットやタップダンスシチーといった数々のライバルと激戦を繰り広げる姿はスペシャルウィークを彷彿させ、ラストランはマキバオーの有馬記念を思い出させる……誰も書かないのなら作者が書こうかなと思えるくらいには主人公している。ちなみに競走馬の彼は外国産馬であり、ウマ娘化したら留学生となる

・泣くは泣くでもバッドエンド系で史実を知っている方はお察し下さい
≫ライスシャワー。公式ウマ娘の中で一番悲劇的な最期を迎えた。ウイポ7シリーズで散々妨害された為にライスシャワーが嫌いになったはずの作者がプロットを書こうとしたら涙が止まらず、書くのを断念した。そのくらいのバッドエンド。
≫シルクジャスティス。同父同厩のエリモダンディーと真逆の性格なのに仲が良いことで知られている。15戦中5敗しかしていないマーベラスサンデーや天皇賞秋を制したエアグルーヴを3歳(旧4歳)ながらにして有馬記念の舞台で打ち負かした名馬であり、期待されていたが……とある事件を境に落ちぶれてしまう。おそらくこの事件が一番の悲劇と言えるだろう

・タニノギムレット
≫分かりやすくいうとウオッカの父親。通称ギム。取ったGⅠ競走は日本ダービー1勝のみだが素質のみならナリタブライアン以上の持ち主であり、マイルだと分が悪いが中距離ならウオッカ相手に勝ててしまうんじゃね?と思わせるくらいには強い……あんなスプリンターみたいな馬体の癖に
≫調教師はダイワスカーレットと同じで馬主はウオッカと同じでありウマ娘化の許可が取れそうな競走馬である
≫何故ウオッカは冠名の【タニノ】がつかなかったのかというとシンボリ軍団のマティリアルと同じでウオッカがかなり期待されていた為。その予想は正しくタニノギムレットを大きく超える成績で繁殖入りし、息子タニノフランケルがその血統の良さから種牡馬入りし、その血筋を残した。
≫ちなみに現在では柵をぶっ壊しまくったりと気性の荒い面が目立ち【破壊王】を渾名を貰っている。シャカールの二の舞にならないといいのですが

・現時点で21世紀を代表する種牡馬は?
≫現時点で決めるとしても21世紀になってから20年しか経っていない為に非常に難しい問題である。とりあえず21世紀の欧州、米国、日本でそれぞれ一頭挙げるとしたら欧州ではガリレオ、米国だとアンブライドルズソング、日本だとディープインパクト。
≫理由は三頭ともにリーディングサイアー経験有かつ産駒、または子孫の世代が他の国で活躍した例がある為で、この意見に納得出来ない等の意見があるなら小説と無関係な為メッセージボックスへどうぞ。

・アオハル杯感想
≫難易度爆上がり過ぎ問題。PreOPでも普通に負けてしまう有り様で初心者には難しい仕様となっているが上手くいけばAランク生産も容易くなり、サポートのお陰でマチカネフクキタルを切っ掛けにAランク大量生産に成功した。特にオグリキャップやエアグルーヴなどマイル路線でも活躍するウマ娘が強くなりやすい

・ウマ娘アプリでやって貰いたいこと
≫クレーンゲームをいつでもやれるようにしたい。一日一回の制限の代わりに取った人形のピースにすれば神仕様になる
≫他には温泉や針等の未確定イベントが確定イベントになるチケットの販売とか?


【KGⅥ&QESを制したのは何とアイグリーンスキー! 2着にラムタラです。ニジンスキーの後継者対決はアイグリーンスキーに分配が上がりました!】

 

「つ、遂にやった……ウマ娘の名門、シンボリ家、メジロ家ですら成し遂げられなかった欧州主要レース制覇をグリーンがやったか」

 

 滅多なことでは感情を顕にしないシンボリルドルフが涙を流し、それを拭う。

 

「ルドルフちゃん、そんなに嬉しい?」

 

「当たり前だマルゼンスキー。全日本のウマ娘の悲願を達成したんだ……そういうお前は嬉しくはないのか?」

 

「勿論嬉しいわ。妹分が快挙を成し遂げたのよ? 嫉妬もあるけど、それ以上に嬉しいわ」

 

「そういえばグリーンはお前のことを姉さん呼びしていたんだったな……」

 

 そして次の瞬間、その場に泣き声が響いた。

 

「ヴぉぉぉぉぉんっ! 感動じだぁぁぁっ!」

 

 ウイニングチケットの泣き声がトレセン学園中に響き、近くにいたナリタタイシンが耳を抑え「うるさいバカ!」と一言放つとともに蹴りを入れると更に悪化する。

 

 

 

「まあ今日はチケゾーちゃんに限らず騒いでも文句は言われないわ。よっこいしょういち」

 

「どこにいくんだ?」

 

「チケゾーちゃんの介護よ」

 

「会合に遅れるからな。私も介護しよう」

 

「あら? 会合なんてあったかしら?」

 

「会合と介護を掛け合わせた駄洒落なのだが……」

 

 シンボリルドルフの駄洒落にマルゼンスキーは気づかず、シンボリルドルフが肩を落とす。

 

 

 

 ウイニングチケットがマルゼンスキーによって慰められている一方、オグリキャップが食事の手を止め、スーパークリークが感心した声を出した。

 

「流石、宝塚記念で私達を負かしただけあって強かったですね。私も頑張らないと」

 

「ああ……そうだな」

 

「それとオグリキャップさん、今回の彼女の走りを見てどう思いました?」

 

「末脚が武器のはずのタマや2着のウマ娘──ラムタラを差し置いてあの末脚だ。世界最速なのかもしれない」

 

「そうですね~。もし彼女とまた戦うことになりましたらどうします?」

 

「対策の取り様が自身の力の底上げしかない……だが彼女は──」

 

「もっと成長すると?」

 

「そうだ。体格を見た限り宝塚記念の頃よりもガッチリとしているがまだ不完全な部分もある。成長する要素しかない。クリーク、彼女はどのくらい成長すると思う?」

 

「そうですね……シニア級の秋になってもまだ成長期が続いているでしょう」

 

「なんだと?」

 

「私もウマ娘の中では大柄な方で、成長期も遅かったんですけどアイグリーンスキーさんはそれ以上……菊花賞の時期あたりからもっと強くなります」

 

「そうか、そこまでいうのか。だが逆に言えば仕留められるのはクラシック級の今しかないということか」

 

「そうとも言えますね~でもオグリキャップさん。私は負けませんよ」

 

「そうだったなクリーク。あいつとの戦いの前に天皇賞秋で決着を着けよう」

 

「受けて立ちますオグリキャップさん」

 

 

 

 

 

 その頃、英国にて。

 

 KGⅥ&QESを勝利しインタビューを終えた二代目に話しかけてきたのは意外な人物だった。

 

「ようグリーン、KGⅥ&QES制覇おめでとさん」

 

 それは二代目の元トレーナーであり、ラムタラを初めとした欧州のウマ娘達のトレーナーリーダーであった。

 

 このトレーナーリーダーはウマ娘の体調を顧みない鬼畜さを持ち追放されたが、その後ドバイ国籍を初めとしたウマ娘達を次々と育て上げると言った追放物の物語の主人公の如く活躍している。もしこのKGⅥ&QESで二代目がラムタラに敗北していたら世界一のトレーナーとして名を更に轟かせただろう。

 

「元トレーナー……」

 

「ところでニジンスキーの奴とは会ったのか?」

 

「いえ、まだです」

 

「そうか、なら会いに行くか? 勿論時間があればの話だが」

 

「同伴しているトレーナーと相談してみますよ」

 

 通常であれば即座に断ったが、二代目がニジンスキーのファンということもありそれが出来ず、海外遠征の付き添いのトレーナーの武田ハルに相談することにした。

 

「同伴しているトレーナーというと確か武田ハルだったな?」

 

「ご存知で?」

 

 トレーナーリーダーが二代目の今のトレーナーのことを知っていたのが気になりそれを尋ねると快く答えた。

 

「当たり前だ。俺は勝つ為なら何でもする。ウマ娘の情報は勿論、トレーナーの癖までも掌握するのが俺のやり方だ」

 

『やはりこの男は優秀な奴だ。それを口に出すのは簡単だがそれを実行しているのは極僅かで難しく有益なものだ。俺達の世界の調教師でも果たしてそこまで出来た奴がいたかどうか……』

 

 先代が口を出し、トレーナーリーダーを評価する。それを不満に思った二代目がつい口を挟む。

 

 

 

「ウマ娘のケアはしなかったくせに?」

 

「ウマ娘のケアはウマ娘自身でやらせる。それが出来ないってことは自己管理が出来ない奴だ。自己管理も出来ないウマ娘を育てたところでいずれ落ちぶれる。そうならないように俺はそうしてきた」

 

「……それであのスパルタ?」

 

「スパルタとは失礼な。スパルタとは英国寮の奴らがトレーニングのことを言うんだ。俺のトレーニング如きを耐えれない奴は自己管理が出来てない。ましてや1ヶ月に1回の土日の2日間休んだ後についてこれないようじゃ話にならん」

 

「まさか、貴方がスパルタなのはその英国寮のトレーニングを参考にしたから?」

 

「スパルタじゃない。ちょっと他のところよりもキツい練習を出しているだけだ。そのお陰で奴らは重賞やGⅠ競走において前線で活躍したんだ。俺はな、命をかけてでも活躍したい、そういった思いを持って移籍した奴もいたしそういうウマ娘の希望を叶えた……それだけのことだ。お前も活躍したいからギエナに所属したんだろう?」

 

「確かに先輩達の活躍を見てチームギエナに所属を決めました。ですが私は貴方に捨てられた。いくら素質があってもスパルタに耐えられないからと言う理由でね」

 

「それはそうだ自己管理がなっていないんだからな。自己管理が出来ていればそうはならない」

 

「無茶苦茶だこの人……」

 

「無茶苦茶? 俺は故障をリスクを見越してでも強くなりたいウマ娘の意見を尊重したんだ。感謝こそされど文句を言われる筋合いはねえ。それに俺はレースで故障することはあれどトレーニング中の事故で死なせたことはない」

 

 

 

「こちらの時間で午後19時に向かう。それまでに返事を用意しておけよ」

 

「……はい」

 

 その後、二代目は武田ハルに許可を貰ったものの武田ハルもついていくという条件付きでニジンスキーの元にいくことになる。

 

「キャンピングカー……」

 

「10万ユーロで雇った運転手付きなだけ我慢しろ。本来ならリムジンにしたかったが今からあいつの元に行っても日を越えてしまうからな。寝泊まり出来るように配慮した結果がこれだ。さあ寝ている間につくぞ」

 

 

 

 キャンピングカーで寝泊まりし、朝を迎えるとキャンピングカーが止まるとトレーナーリーダーが口を開きながら降りる。

 

「ついたぞ」

 

 武田ハルと二代目が見たものは日本のトレセン学園よりも遥かに巨大な敷地と建築物が存在していた。

 

「ここは、もしかして欧州のトレセン学園なのか?」

 

「その通りだ。立派なものだろう? だが光あるところに影あり。あのデカイ建物──というか高級マンションそのものが英国のウマ娘が下宿する英国寮なのに対してその両隣の小さめのマンションが仏国寮、愛国寮だ」

 

 英国寮に比べたら劣るものの、仏国寮、愛国寮ともに日本の二つの寮に比べたら高級マンションといえるもので設備が無駄に整っていた。

 

 

 

「もしかして所属する国によって待遇が違うの?」

 

「欧州のほとんどの主要レースがこの三国だからな。当たり前といえば当たり前だ。英国には英ダービーとKGⅥ&QESが、愛国には愛ダービーが、仏国には仏ダービーと凱旋門賞がある。いずれもクラシック級の主要レースでこの三国は欠かせない存在だ。伊国なんかはグレードが下がった*1せいか酷いもんだ」

 

 トレーナーリーダーがそう指差した先を二代目達が見つめると伊国の寮が三国に比べ明らかに格が落とされており、日本の美浦寮とほぼ同じものであった。

 

 

 

「それじゃドバイは? ドバイにはドバイWCとか、シーマとか、ターフとかあるでしょう? クラシック級ではないとはいえ春のシニア級世界最強を決めるレースじゃない?」

 

「ドバイのレースは最近になってからだ。それを証拠に未だにUAEダービーはまだGⅡ競走。だからドバイのウマ娘の活躍次第でドバイのウマ娘の扱われ方が変わる……俺に変わってから活躍してくれたお陰で三国とまではいかずとも他の寮以上の扱いだ。尤も面子を潰された英国寮の寮長様はこのペンタイアに激おこだろうがな」

 

 ペンタイアを見ると顔を青ざめるだけでなく震え、ぶつぶつと呟いている。トラウマを刺激されたのだろうかと思いながら二代目が声をかけようとした瞬間、バカデカイ声が響き渡った。

 

 

 

 

 

「英国寮点呼ぉぉぉっ!」

 

 

 

「な、何……今の?」

 

「今のは英国寮の名物、英国寮長点呼だな」

 

「そう、私はあれに出なくていい、いいはずなんだ。出たら反省に、巻き込まれる」

 

「どっち道4着なんだから反省だと思うぞ。むしろお前が帰って来なかった事に英国寮のウマ娘達は連帯責任を負わされるだろうな」

 

「ピエン」

 

 トレーナーリーダーの宣告にペンタイアが泣き顔になり、涙を流す。とてもラムタラに突っかかってきたウマ娘とは思えない程脅えていた。

 

「なんて残酷な……ところで英国寮の寮長とは一体誰だ?」

 

「英国出身でかつ全ウマ娘を代表する気性難といったら?」

 

「気性難……まさか!」

 

「ウマ娘史上最悪の気性難、セントサイモン。英国寮の寮長にして欧州ウマ娘の教官を勤めている所謂幹部の一人だ」

 

 

 

「なんでそんな気性難のウマ娘が幹部なんて勤めているの?」

 

「気性に問題があるが実力は確かだからな。日本でも樫本が幹部やれているのと同じだ」

 

「いや樫本って誰?」

 

「お前達の世代は知らないのか? 樫本理子、現トレセン学園理事。素質のみなら俺や東条を上回ると評判のトレーナーだったが、その素質を開花させる前にウマ娘を故障させていまい、徹底的な管理主義に走ってしまったせいで上の下止まりになってしまった哀れな奴だよ」

 

「でも幹部なんですよね?」

 

「まあな。ウマ娘を指導する実力はそこそこあるからな。そのお陰で幹部の椅子に座ることが出来ているが、東条以上に管理主義なせいで限界を超えることが出来ない……つまり一定の基準まで育てることが出来てもそれ以上が出来ないってことだ。あいつがラムタラを育て上げたらお前に食らい付くどころか、ペンタイアに負けていただろうよ」

 

「ボロクソにいいますね」

 

「言うとも。限界を超えるにはリスクが必要だ。奴はそれをわかっていない。俺なんかはそれをしょっちゅうやっていたから対立していた」

 

「貴方のはやり過ぎだ! だから追放されたんだ」

 

 武田ハルが怒鳴るがこのトレーナーには蛙の面に小便であり、まるで効果がなく冷静に返す。

 

「何とでも言え。問題を起こそうが追放されようが気性難のウマ娘だろうが実力があれば認められる。それが欧州トレセン学園の完全実力主義だ」

 

 

 

「な、何をっ!?」

 

「そもそもの話、トレーナーの試験で面接を行う日本のトレセン学園なんか時代錯誤にも程がある」

 

「面接を行うのが時代錯誤?」

 

「面接で性格がわかるなんていうがあくまでもあれでわかるのは表面上取り繕うのが上手いかどうかであって、実力がわかる訳じゃない。統計でも優秀かどうかの比例関係はないと研究結果が出ているんだ」

 

「ええ……」

 

「こっちのトレーナー試験は合格率3%の筆記試験と面接の代わりに実技試験だ」

 

「実技試験?」

 

「実技試験は至って単純で1ヶ月の間にトレセン学園外の31名以上のウマ娘を担当してある程度の水準まで満たす、または受験者上位10名のうち1名以上がその水準を満たさない場合は上位10名とする」

 

「つまりその水準を100人の受験者が満たしていたら100人が合格ってこと?」

 

「そうだな。だから受験者同時で互いに協力しあって合格する奴の方が多いが、その後の教育がキツイせいもあって辞めていく。俺は推薦があったから筆記試験や教育は免れたが実技試験をやる事になったが、基準を満たしたから合格してトレーナーリーダーになった。当然と言えば当然だがな」

 

「よく追放されてからの短期間でそんなに出世出来ましたね」

 

「それだけ俺が優秀ってことだよ。だがセントサイモンには流石に負けるがな」

 

『あれは仕方ないだろう。セントサイモンと言えば、種牡馬としての方が遥かに有名だ。18世紀のエクリプス*2、19世紀のセントサイモン、20世紀のノーザンダンサー──つまり1000年に一度の大種牡馬だ。そんな奴がウマ娘になったんだぞ。指導力も超一流になるのは無理もない……しかしそれと比較出来るこいつは一体何者なんだ?』

 

 セントサイモンと比較させられる指導者はこの世界で何人いるのだろうか。基本的にトレーナーは騎手や調教師がその世界における役職になっている場合が多く、二代目のトレーナーである武田ハルもその一人で先代の騎手であった武田晴則が女体化した姿とも言えた。

 

 しかしこのトレーナーリーダーは先代からしても見覚えがなく、そういったエピソードの持ち主の人間を聞いたことがなかった。

 

 故に先代が疑問視し、二代目がそのトレーナーの正体について探るがどうか葛藤することになる。

 

 

 

「トレーナーリーダーなのに負けるの?」

 

「それは紛れもない事実だ。向こうは欧州の舞台を知り尽くしている。それにドバイのウマ娘がいくら優秀でも数が少ないからな。どうしても取った重賞の数は劣る。俺がトレーナーリーダーたる所以は他のトレーナーを指導出来る立場だからだ」

 

「新人なのに指導出来るとか意味がわからない」

 

「いっただろう。この欧州トレセン学園は実力主義だと。日本みたいに年功序列制度や面接制度なんてものは時代遅れってことだ」

 

「確かに言えてますが……」

 

「とりまこいつを返すついでに英国寮に行ってみるか? 一応英国寮長の許可は貰っているしな」

 

 逃げようとしたペンタイアを捕まえ、そう告げるとペンタイアが二代目に視線を合わせると「絶対行くな!」と殺気つきの念を込めると二代目が躊躇ってしまう。

 

「ニジンスキーもそこにいるぞ」

 

「行きます!」

 

「Noooo!」

 

 ニジンスキーという単語に惹かれた二代目が即答し、ペンタイアの悲鳴がその場に響き渡った。

*1
伊国はかつてGⅠ競走だった伊ダービーがGⅡに格落ちされている

*2
18戦18勝と競走成績でも優秀な成績を納めただけでなく約95%の競走馬の父系の頂点に立つ偉大な種牡馬。種牡馬としての当初は今に比べたら高くないが、エクリプスの場合は種牡馬の父として活躍したからである




マック「あの、スペシャルウィークさん。いつもの禁止事項は?」
スペ「……ません」
マック「え?」
スペ「(諸事情につき英国寮編の間は)ありません!!」
マック「よよよ~」

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第58R 英国寮編2

・JCの概念
≫JCには女子高生といった様々な訳仕方があるが競馬用語のJCは1981年に創設された芝2400mのレースのことを指す。83年にキョウエイプロミスが連対、その翌年にカツラギエースが勝利を納め、その翌年にはシンボリルドルフが一番人気での勝利を納めるもその後トウカイテイオーが現れるまで日本馬は勝利出来なかったがトウカイテイオーが制覇した後は一時的にJCを制覇する馬が増えた。
≫その後再び暗黒期に陥ったもののエルコンドルパサーが勝利して以来徐々に勝ち星を増やしていき、2005年のアルカセットを最後に現在まで日本馬が勝利し続けている
≫かつてはトニービンやモンジューといった凱旋門賞馬やファンタスティックライト等の海外でもかなり名の知れた名馬が集まったが現在ではJCに出走することはなくなり、休養かBCシリーズや香港国際レースに出走することが多い。その理由としてはJCの他に獲得賞金が高い競走が出来たこと、欧州とは違い高速芝であり遠征しても勝ち難いこと、世界の主流レースは2000mであること、そして日本の競走馬そのものがレベルが高いことにある
≫分かりやすくまとめると「権威も賞金もそこそこで、距離も長いし、馬場も合わない上に勝てないレースに出走する意味がないから別のレースに出走させる」といった考え方が主流になりJCのガラパゴス化が進んでいると思われる

・2400mから2000mの時代へ
≫この考え方が進んでしまったのはおそらく当時世界のトップだった競走馬達、ファンタスティックライトとガリレオが原因だと思われる。二頭の細部の概要はwikiなど参考に。
≫KGⅥ&QESでガリレオに負けたファンタスティックライト陣営がリベンジの舞台に選んだのが愛国の芝最高峰のレース、芝10F(2000m)の愛チャンピオンSだった為。ファンタスティックライト側が愛チャンピオンSではなく凱旋門賞やJCで決着を着けようと言い出したら今も2400mが主流になっていたかもしれない

・JCが2000mだったら二頭が来ていた可能性はあった?
≫なかった。開催等の時期的な問題もあるがこの時の日本にはファンタスティックライト自身やそのファンタスティックライトを破ったステイゴールドをフルボッコにしたオペラオーとドトウがいたので避けた可能性が否定出来ない。オペラオーェ……

・外国の競走馬を日本に来させるには?
≫2000mの三冠レース等を創設する、あるいは香港国際レースやBCシリーズのようにJC同週にエリザベス女王杯やマイルCSなどGⅠ競走を集めさせた上で2000mの国際GⅠ競走を創設するくらいのことをしないと来ない。てかエリ女は秋華賞のローテーションの関係からJC同週でいいと思う

・日本の競走馬が海外で勝つには?
≫ドバイや香港などの日本の高速芝に近い競馬場でレースすること。それには理由があり、洋芝の舞台である欧州で活躍したエルコンドルパサーやオルフェーヴル等を見てわかると思うが馬場重を得意とする馬が活躍する傾向にあり、日本で求められる競走馬は高速で走れる馬なので合致しないことが多く、欧州で走らせるよりか良い成績を出せる傾向にある。
≫海外遠征で失敗した例としてサトイモことサトノダイヤモンドが挙げられ、かつてはキタサンブラックのライバルとまで言われていたが凱旋門賞後不調に陥り、ドゥラメンテからライバルのポジションを奪ったにも関わらず返上することになる
≫今話題のスノーフォールは日本産でありながら英愛オークスダブル制覇を成し遂げており、馬場重を得意としたからこそ活躍出来た。しかしスノーフォールが日本で活躍出来たかと言えば半信半疑であり、高速芝に適正がなければ駄馬となっていた可能性も否定出来ない。

・オグリキャップの日本ダービー不出走について
≫オグリキャップが登場した当時はクラシック登録していないと所謂三冠レースが出走不可となっておりオグリキャップは登録をしていなかった為、出走出来ず別のレースに出走。オグリキャップが負かした競走馬が皐月賞やダービーで好走してしまったのを切っ掛けに追加登録料を払えば出走出来るようになった。これで皐月賞を勝ったのがテイエムオペラオー。またまたオペラオーだ!
≫グレーではオグリキャップの意思を汲んだ会長が上に掛け合うが史実通り叶わず。この時ウイポ脳全開の作者はオグリが英ダービー等の海外競走に出走すれば良かったんじゃね?と思っている。理由は当時は海外で勝った競走馬はあまりにも少なく、日本ダービーに出走出来ないなら多少難易度が上がっても海外のレースで勝ってしまえばダービーを勝つ以上の名声を得られていた状況にあった。

・騎手が干されるとどうなるか?
≫有力な競走馬に乗らせて貰えなくなる→勝てなくなる→更に乗らせて貰えずじり貧に陥るという悪循環に陥る。ウマ娘に登場しレジェンドと呼ばれたあの方もそれでGⅠ競走を勝てない日々が続いた。尚、干されても勝ってしまう不良かつ天才がいるがあれは例外である。
≫【馬7割騎手3割】と呼ばれるほど馬の能力がレースの結果に左右する為騎手としては「有力な馬に乗って勝ち星を稼ぎたい」と思い出来るだけその馬の馬主または調教師に頼み込む立場。しかし馬主などの騎手以外は馬の能力でレースに反映されることが多い以上騎手よりも立場が上で「有力な騎手を乗せて勝たせたい」という思いがあり、余程のことがない限り騎手は見つかる
≫騎手関連で転厩騒動があったのがシリウスシンボリ、テイエムオペラオー。前者は馬主がシンボリルドルフと同じ騎手にするように駄々こねるが厩舎が聞き入れず転厩させてしまい全調教師を敵に回してしまい、元の騎手に戻し厩舎も元に戻した。後者は同じミスを何回も繰り返したのを見て馬主がぶちギレて騎手を変えさせようとしたが厩舎側から「(意訳)今の騎手が嫌なら貴方の馬は全てお預かりしません」という脅迫をされ、慌てて前言撤回した。そのお陰でオペラオーは翌年覚醒することになる。

・テイエムオペラオー
≫年間無敗、当時の古馬中長距離GⅠ競走完全制覇というとんでもないことをしている。他の競走馬もオペラオーと同じ偉業を成し遂げようとしたが全てGⅠ競走のどこかしらで敗北する。芝3200mの天皇賞春に牝馬が出走しない為実質牡馬のみの偉業となるがそれでも秋古馬三冠を成し遂げた牝馬は存在せず秋古馬三冠でリーチがかかった状態で引退したのがアーモンドアイのみで秋古馬三冠を達成した牡馬がオペラオーとロブロイのみと考えると牡馬クラシック三冠よりも難易度が高いといえる
≫ウマ娘ではナルシストだが、基本的にそれを除けばイケメンを通り越して聖人そのものである。何故ナルシストなのかというと騎手の影響が強いのだろうがリアルに心臓がデカイのも由来になっている。もしオペラオー産駒にそれが受け継がれていたらと思うと残念としか言いようがない

・近年の強い競走馬の特徴
≫昔に比べ消耗が激しい競走馬が多くなった。昔──具体的にはタマモクロスは消耗が激しいからといって天皇賞秋、JC、有馬記念のうち三つのレースのうち一つ計画的に避けることはなく結果はどうあれ完走した。そうし始めたのはサクラローレルが挙がるが、近年ではかなり増え、オルフェーヴル、アーモンドアイ等が該当する

・出遅れ
≫周りよりも遅れること。通常スタートで出遅れることを指す。ウマ娘ではアプリでもアニメでも歌でもゴルシがその代表格。【青き稲妻の物語】ではJCでリセットとアブソルートが出遅れた状態で1-2フィニッシュを飾る

・落馬
≫騎手が競走馬から落とされることを指す。競走中に落馬したらその競走馬は基本的に競走中止になる。その理由は落馬したら騎手が怪我を負う場合が多いのと、走り出した競走馬に乗ろうとしても乗れない為であり競走中止の措置を取られる。明確に落馬=競走中止という訳ではない。
≫落馬して騎手がいなくなった状態の競走馬はカラ馬と言われ、カラ馬が先頭を走っていようが実況では一切無視される。2008年に行われたエリザベス女王杯でポルトフィーノが無視される有り様があまりにもシュールなので落馬で思い出したら視聴すると良い

・シンボリルドルフの意外なエピソード
≫トウカイテイオーやディープインパクトは他の競走馬よりも歩幅が大きいストライド走法で有名だが、それ以上のストライド走法だったのがシンボリルドルフなのだがほとんど知られておらずウイポでは走法が大跳びではなく普通となっている
≫ちなみに作者は限定ミッションの報酬である星3限定ガチャで念願のシンボリルドルフをようやく出し、念願のスタミナ因子3を出した……おせーよ!


「サイモン!」

 

 二代目達が英国寮の庭に向かうとヤクザよりも貫禄のあるウマ娘──セントサイモンがそこに君臨しており誰も寄せ付けない中、トレーナーリーダーが声をかける

 

「ん、ギエナ*1か?」

 

「例の奴連れてきたぞ。こいつが俺のラムタラやお前の送り込んだ刺客ペンタイアを破ってKGⅥ&QESを制したアイグリーンスキーだ」

 

「アイグリーンスキーです、以後お見知りおきをセントサイモンさん」

 

「セントサイモンだ。KGⅥ&QES制覇おめでとう。ペンタイアが無様晒したお陰でしっかりと渇を入れられるいい機会を得られたからな、感謝の言葉しか出ない」

 

 満面の笑顔を見せるセントサイモン。強敵が現れたことに対する喜びの笑みだった。

 

「それでこっちがそのアイグリーンスキーを育てたトレーナーの一人、武田ハルだ」

 

「よろしくお願いいたします」

 

「ほう、トレーナーまで連れてくるとはいい仕事しているじゃねえの」

 

「まあな。ところでこの前の借りはこれで返したことにしてくれよ?」

 

「ペンタイアがいないから駄目だ」

 

「……あの野郎逃げやがったな!」

 

「仕方ねえ。この怒りはあいつらにぶつけるとしよう」

 

 

 

 ──英国寮集合! 

 

 

 

 セントサイモンが竹刀を片手に、ドスの利いた声を張り上げる。風紀委員長であるバンブーメモリーとは違い、ヤクザの大幹部そのものの貫禄である。

 

 その声を聞いた新入生以外のウマ娘達が素早く、セントサイモンの前に直立不動で横に整列するが、新入生達が時間に間に合わず機嫌を悪くしたセントサイモンが竹刀を振るう。

 

「何だそのザマは!」

 

 床を叩く竹刀の音と共に響くセントサイモンの怒声に二代目が萎縮しその場に立ちすくむ。

 

「ジュビリーぃぃぃっ!」

 

「はい!」

 

「貴様、主任教官として新入生達の指導がなってない。説諭っ!」

 

 ジュビリーと呼ばれたウマ娘──ダイヤモンドジュビリーが首を右に傾けると耳の傍で音がはじけ、セントサイモンが鋭く振り抜いた竹刀で打たれたのだった。

 

 説諭という言葉は説いて諭すという意味であり、竹刀で打つという意味は何処の辞書にも書いてない。だが欧州トレセン学園英国寮においてはこれが説諭であり理不尽極まりないものであり、そんなことを知らない二代目から悲鳴が漏れる。

 

 

 

「お前ら外に出て校門に集合。やることはわかっているな?」

 

 そう言い残し、さっさと校門に向かって行くとダイヤモンドジュビリーが声を張り上げる。

 

「さっさと庭から出て校門に行きな!」

 

 追い立てるダイヤモンドジュビリーの声に新入生達が慌てて校門へと走り出し、それに続いてダイヤモンドジュビリーや上級生達が追いかけていく。

 

 

 

 セントサイモンが校門に着き、一言。

 

「よし、今から行方不明になったペンタイアの捜索だ。これから死ぬ気で探してこい」

 

「あの寮長、どのくらい探すんでしょうか?」

 

 あるウマ娘がそう尋ねるとセントサイモンを除いた全員が憐れみと恐怖の視線を送り、セントサイモンは笑みを浮かべながら竹刀を振るった。

 

「どのくらい? お前らは俺がいいと言うまで探すんだよ!」

 

 セントサイモンの竹刀の嵐が発言したウマ娘を襲い、滅多うちにされる。

 

 セントサイモンは他人が苦しむのを見て喜ぶ超ドSでありウマ娘に対する罰を一発で済まずはずもなく滅多うちにするのは当たり前で下手をしたら拍車をつけた靴で蹴飛ばしたりする等、もはやトレーナーリーダーのギエナ時代を超える虐待をしている程である。

 

 しかしセントサイモンの気性難エピソードはそれだけではない。

 

 昔英国寮は所謂ヤンキーと呼ばれる不良のウマ娘が多かった。そんな時代にセントサイモンが現れ、瞬く間に制圧し逆らったウマ娘達には容赦なく罰を与えた。その罰が板の上に尖った石をばらまき正座させるというものであった。

 

 勿論ヤンキーのウマ娘が反抗したが鞭で引っ叩かれると同時に目の見えない場所に連れていかれると断末魔の叫びが響き、ボロボロになったウマ娘を正座させると他のウマ娘に対してこれ以上ない優しい声で「さあ座りなさい」と言って座らせた。勿論その現場にいたウマ娘達は諭されたから座ったのではなく恐怖によって座ったのは言うまでもない。

 

 しかしそんな恐怖も次第に薄れていき、それまで麻痺していた痛覚が正常になり足に石が食い込んだ苦痛が増してそれに耐えているとセントサイモンが「少し高いな。どれ矯正してやる」などと言って満面の笑みで肩を下に押していった。当然石が足に食い込み、苦痛に耐える姿をセントサイモンは摘まみにして食い物にしていた。

 

 そんな超ドSかつ気まぐれなセントサイモンから逃れる手段を持ち合わせていないウマ娘が滅多うちにあうのは無理もなかった。

 

 そして暫くし、ダイヤモンドジュビリーが割って入り受け止める。

 

「寮長、その辺で」

 

「……いいだろう。さっさと探しにいけ」

 

「主任、ありがとうございます」

 

「いいから着いてきな」

 

 そしてダイヤモンドジュビリーが走りだし、ウマ娘達がそれについていく。

 

 

 

「さてアイグリーンスキーと武田トレーナー。まずは欧州トレセン学園へようこそ。俺こそが英国寮長兼欧州トレセン学園生徒会幹部セントサイモンだ」

 

「生徒会まで兼ねているのか……」

 

「そうだ。武田トレーナー、欧州トレセン学園は初めてだろう。施設案内が終わった後、我が英国寮のトレーニングを見学する代わりにこのアイグリーンスキーを借りるぞ」

 

「ちょっと待った。それは内容次第によります。その為に私が着いてきたんですから」

 

「詳しい内容までは言えないが併走とか激しい練習はさせないし、むしろウマ娘にとってリフレッシュになることだ」

 

「そのリフレッシュになることがこの娘にとってストレスにならないか心配なんですよ」

 

 ──ましてや気性難のセントサイモンさんを信頼出来ると思いますか? 

 

 その言葉を呑み込み武田ハルがセントサイモンを睨む。世界一とも言える気性難の持ち主であるセントサイモンを信頼出来ないのは当然だった。

 

 

 

「それはごもっともだ。だがこのリフレッシュは英国寮秘伝のリフレッシュ……ただで見れると思うなよ、ニンゲン

 

 セントサイモンのプレッシャーがその場にいた全員にのし掛かる。本来臆病なウマ娘である二代目は当然、ほぼ無関係なトレーナーリーダーですら冷や汗を流し慌てて武田ハルに声をかける。

 

「お、おい!」

 

「これはこの娘のトレーナーである私とセントサイモンさんの問題であって、この娘と縁を切った貴方には無関係。部外者は黙っていて欲しい」

 

「部外者というなら武田トレーナー、貴女は日本のトレセン学園のトレーナーであって英国寮のトレーナーではない。つまり英国寮のリフレッシュ方法を知る必要もない──ということだが?」

 

「だからそう言っているでしょう。さあ帰りましょう」

 

「そういうことは本人に聞こうじゃないか? アイグリーンスキーどうする?」

 

「そのリフレッシュ方法、一度試してみたいです」

 

「なっ──」

 

「決まりだな、これで文句はあるまい」

 

 二代目の意見に武田ハルが目を丸くし、反対セントサイモンが笑みを浮かべどや顔で威張り散らした。

 

「ですがセントサイモンさん、アイグリーンスキーが嫌がったりしたら速やかに止めて下さい」

 

「安心しろそのくらいの倫理観はある」

 

 セントサイモンの倫理観はゴミ箱に捨てられたものだが、今回に限ってそれを拾ったものだと感心する。

 

 

 

 そしてセントサイモン達が車の場所まで移動し二代目とセントサイモンが車に乗り込み、しばらくするとトレーナーリーダーが呟いた。

 

「まあ、サイモンの趣味はコウモリ傘をぶっ壊すことと三味線を作ることだからあまり期待しない方がいいぞ」

 

「三味線作りはともかく、コウモリ傘を壊すって何か恨みでもあるんですか!?」

 

 ──行かせなきゃよかった

 

 英国寮式のリフレッシュに二代目を行かせたことに早くも後悔しはじめる武田ハルであった。

*1
元チームギエナのトレーナーの略。元々彼はチームギエナのトレーナーだった




・毛色解説
≫モブウマ娘募集のアンケートにご協力して頂く際に毛色の種類がわからないという方の為に記載。もちろんこれ以外にもあるがあまりにも少ないので割愛する

・鹿毛
≫茶褐色の毛色。サラブレッドと言ったらこの色で、ウマ娘でいうならシンボリルドルフ、トウカイテイオー等が該当

・栗毛
≫名前の通り栗のように赤みがかかった毛色のことを指す。米国では栗毛の名馬が多く、マンノウォーとセクレタリアト、シルキーサリヴァンが有名。ウマ娘ではサイレンススズカやマヤノトップガン、テイエムオペラオー、アグネスタキオン等が該当
≫また黒鹿毛と言った他の毛色と区別が着きにくいが四肢と他の部位で黒さに差が無いことから区別することができる栗毛を栃栗毛、栗毛の中でも特に鬣が金色の馬を尾花栗毛と呼ぶ。マーベラスサンデーは栃栗毛、ゴールドシチーは尾花栗毛に該当する
≫また栗毛はどんな毛色に対しても劣勢遺伝で、栗毛と栗毛の間に生まれた子供は突然変異でもない限りは栗毛になる

・黒鹿毛
≫鹿毛の中でも特に黒みがある鹿毛のことを指す毛色。文字通りなので特に説明することもない。ウマ娘ではスペシャルウィークやナリタブライアンが該当。

・芦毛
≫年を重ねる度に白く染まる毛色。なので生まれた当初別の毛色に見えてもしばらく経過して灰色や白く染まる場合、芦毛となる。オグリキャップ、メジロマックイーン、ゴールドシップ等が該当。
≫ちなみに芦毛はどんな毛色に対しても優先遺伝なので、突然変異などを除き、両親が芦毛でない場合は芦毛とはならない

・青鹿毛&青毛
≫黒を通り越して青みすら感じさせる毛色。前述した黒鹿毛よりも真っ黒で一部褐色が認められる色がこの青鹿毛でそれよりも更に濃い色は青毛と認められる。ウマ娘では青毛は不在で、青鹿毛はフジキセキやマンハッタンカフェが該当

・白毛
≫白い毛という意味では年を重ねた芦毛と同じだが芦毛と異なるのはピンクの肌の色が透けて見え、目が赤みが帯びるという特徴があり競走馬でいうアルビノ。突然変異体、または特定の血筋を持つ馬しか生まれていない。近年では無敗で桜花賞を制したソダシが有名。ウマ娘ではハッピーミークが該当

・月毛
≫白毛同様に突然変異体か特定の血筋の馬のみしか現れないクリーム色の毛色。サラブレッドでは白毛以上に見られない毛色としても有名。ウマ娘ではもちろん該当者なし。リトルココンがそれっぽいがあれはどちらかといえば尾花栗毛に近い

・優勢遺伝と劣勢遺伝
≫優勢遺伝はこの遺伝子があるとその特徴が現れる遺伝のことで人間なら血液型のAとBに該当し、劣勢遺伝は優勢遺伝がないことによって現れる遺伝子で人間のO型に該当。馬の毛色にもそれが存在し、優勢、劣勢の順位は以下の通り
≫基本的には芦毛、鹿毛、青鹿毛、青毛、栗毛の通りで芦毛が最も優勢な遺伝子を持ち、栗毛が最も劣勢な遺伝子となる。尚、他の毛色については特殊なものなので考慮していない


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尚、次回更新は明日です


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第59R 英国寮編3

・グラスペ、スズグラ、スズスペで思い付いてしまったSS
≫スペ「エルちゃん、スズグラが見たいです!」
ススズ「グラスペこそ至高!だからエルコンドルパサー、協力してくれる?」
グラス「もちろんアニメ版通りスズスペですよね?エル?」
エル「皆が皆、私に相談してきマース……何で私なんデスカ……ウンスは逃げますし、胃が痛くなりマスヨ……」
新作!【エルコンドルパサーと三人の百合厨達】
※投稿は前向きに検討している模様

・エルコンドルパサー
≫連対率100%、国内で負けたのはサイレンススズカの毎日王冠のみという素晴らしい成績の持ち主で芝ダート、距離、馬場、国内外問わず走れた競走馬でそれが出来たのは他にアグネスデジタルくらいのものだが、向こうがネタ扱いされるのに対してこっちはガチで最強馬候補に挙がっている
≫血統面はサドラーズウェルズの血が濃いのが気になるが日本はサドラーズウェルズの血統はそこまで流行しておらず、日本の高速芝の環境とも噛み合ったが若くして死んでしまったことが惜しまれる
≫ウマ娘ではちょくちょく設定が変わっていて、漫画版では90点超えでも満点でなければ納得しない成績上位キャラなのに対してアプリ版ではスペよりも少し頭がいい程度のキャラになっている。……どうしてこうなった?

・スペシャルウィーク
≫【日本総大将】又は【SSの最高傑作】の渾名を持つ名馬なのだが、前者はともかく後者はフジキセキやサイレンススズカの方が上と評価する者も多いだけでなく、アグネスタキオンやディープインパクト等の登場により、名前負けしている感が否めない。
≫しかしダービーの他にSS産駒初となる天皇賞春秋連覇に加えて、ダービー馬が5頭出走したJC制覇をしており間違いなくその世代のトップであった上に最強世代と呼ばれるほど層が厚い中での勝利だったので【SSの最高傑作】と呼ばれても不思議ではないし、何よりもディープインパクト、ダイワメジャーについでSS産駒でGⅠ競走を多く勝利しているのはスペシャルウィークである。……そう聞くとダイワメジャーの実装はよせんかい!
≫種牡馬としては父のSS、母父のマルゼンスキーが重くインブリードになりやすくつけられる牝馬が限られていたが持ち前の素質を引き出してGⅠ馬を輩出し、その後後継種牡馬を輩出するだけでなく近年ではデアリングタクトの父であるエピファネイアの母父で知られ、母系に大きな影響を与えている

・グラスワンダー
≫「犬かお前は」と突っ込みを入れたくなるほど気性が大人しい馬で、グラスワンダーの前の有馬記念馬シルクジャスティスは「牛かお前は」と言われる程ノロノロ走っていた馬。ちなみにグラスワンダーの次はオペラオーで「王かお前は」、その次はカフェで「SSかお前は」 、さらにその次は(以下略)
≫98年の毎日王冠以降は前評判が悪い時ほど活躍し、99年の宝塚記念や有馬記念もそれで制している。
≫近年では有馬記念馬ゴールドアクターと香港国際競走2勝のモーリスの父系の祖父として知られている

・サイレンススズカとラブリーデイ
≫どちらも父はリーディングサイアーで、ミスタープロスペクターとサンデーサイレンスの血を含み、11月1日に天皇賞秋に出走し、宝塚記念と前走を勝利し一番人気で走った。
≫しかしラブリーデイはススズとは違い天皇賞秋を勝利しており、作者個人としてはススズの悪夢を消し去ったように見えた。もしラブリーデイがウマ娘化したらススズとの絡みが欲しい

・スマートファルコン
≫砂のサイレンススズカことスマートファルコン。競走馬の略称スマファル。ウマ娘の略称ファル子
≫父はSS産駒で唯一ダートGⅠを勝利したゴールドアリュールであり血統的にはダートが向いており新馬戦ではダートを走っていることからダート馬であることは明らか。しかし芝で試したものの惨敗続きであり普通であれば諦めるところを芝のGⅠ競走の皐月賞に出走したのには理由があり、クラシックの有力候補に挙げられるOP戦で勝利してしまったからであるのとダート血統から芝のGⅠ競走を制した例があった為
≫ウマ娘のスマートファルコンことファル子の第一印象はレスリングアスリートがウマ娘になったイメージでダートの競走馬らしさを再現していると感じてしまった。
≫ちなみに作者はアプリでようやくファル子を全勝させた

・アグネスデジタル
≫ウマ娘オタクというキャラが濃すぎるウマ娘であるが、育成キャラとしてはかなり有能で特にアオハル杯ではマイル、中距離、ダートが兼用出来るだけでなく空いたところに埋め込むことが出来る。また固有スキルがシンボリルドルフの劣化版と思われがちだが、逆にいえばシンボリルドルフとアグネスデジタルを継承キャラにすることでルドルフの条件を満たせばデジタルの効果も発動するぶっ壊れ性能。しかもイベントレースがマイルなので活躍させることも可能……強すぎない?


 二代目とセントサイモンは道中ダイヤモンドジュビリーを捕らえ車に乗せるがダイヤモンドジュビリーはそれに動ずることなく受け入れ後部座席に座っていた。

 

「しかしどこに行くんですか?」

 

 二代目がそう尋ねた理由、それは徐々に廃れていき、不気味な建物が並ぶような場所になっていったからだ。

 

 ──そんな不気味な建物が並ぶ場所で何をするか理解しがたい。

 

 そんな思いが二代目に過る。

 

「着けば分かる」

 

 ──分かってからじゃ遅い! 

 

 その言葉を呑み込みダイヤモンドジュビリーを見つめるがダイヤモンドジュビリーは微動もせず、ただ真正面を見ていた。あまりにも冷静なその態度にセントサイモンの奇行に慣れていたようだった。

 

「それよりも一体何をしに?」

 

「リフレッシュだよ。それ以外あると思うか?」

 

「少なくともこの廃れたビルを見てリフレッシュ出来る環境だとは思えませんが」

 

「確かにこれだけだとリフレッシュは出来ねえが、面白いことが待っている。何、大変な目──事をさせる気はないから安心しろ」

 

 今日、大変な目に遭わなかったとしてもいずれそうする意思がある者が言う台詞であり、早くも後悔しつつあった。

 

 

 

「着いたぞ。中に入れ」

 

 そして着いた先は意外にも海が近い普通の一軒家であり、セントサイモンに促され中に入るとますます普通としか言い様がなく疑問に思った二代目がセントサイモンに尋ねた。

 

「一体どういう事ですか?」

 

「ここは所謂事故物件という奴でな、昔英国寮にいた奴がその安さに住んでいたんだが幽霊のせいで住めなくなったとかほざいたから幽霊がいないことを証明しに来たんだ」

 

「寮長ってそんなこともするんですね」

 

「当たり前だ。金貰っているんだからな」

 

 その時、セントサイモンの背後に幽霊らしき物を発見し、思わず立ち上がり叫んだ。

 

 

 

「あー! いました、いましたよ!」

 

「あ? どこに?」

 

 セントサイモンが振り返るとそこに幽霊はおらず、セントサイモンが不機嫌になる。

 

「いたんですって!」

 

「それは本当かい?」

 

「間違いなく。幽霊は実在しました」

 

「寮長、すぐに帰りましょう。これはシャレになりません」

 

 冷静なダイヤモンドジュビリーが流石にそう具申するが、セントサイモンはそれを受け入れなかった。

 

 

 

「うるせえ。全くジャパニーズはともかく英国寮のお前がイモ引いてどうするってんだ。ありもしねえもんにビビって脳の側頭葉がおかしくなって幻覚を見ているだけだ」

 

「しかし……」

 

「しかしもバットもあるか。幽霊っていうもんはな、いると思えばいるしいないと思えばいない。仮にいたとして奴に出来ることは脅かすことしか出来ねえハッタリ野郎じゃねえか」

 

「そんなことを言っていると呪われますよ……」

 

「はっ、上等だ。生気に満ち溢れている俺が中途半端にこの世をさ迷っているカスゴミに負けるかよ」

 

「カスゴミ……」

 

 鼻をほじりそう告げるセントサイモンに二代目が畏怖する。オカルト染みた経験を持つからこそ幽霊の存在は否定出来ず、それを退治するとなれば有効手段がない。

 

「と言うわけだ。ここで幽霊がいないことを証明すれば金は貰えるんだ。林檎ジュースとつまみ持ってこい」

 

 二代目にパシりをさせ、胡座をかくと三味線作りを始める。それからしばらく経ち耳を澄ませると第三者の声が響き渡る。

 

 

 

「デテイケ……デテイケ!」

 

「やっと現れたか!」

 

 セントサイモンが歓喜の声を出し、実体化したウマ娘の幽霊が現れるとセントサイモンが吹き飛ばされ、壁に衝突すると血を吐き出す。

 

「ぐふっ、こいつは驚いたぜ……俺がここまで飛ばされたのはエクリプスのバカにやられて以来だ」

 

 エクリプス──日本のトレセン学園のモットーの由来にもなったウマ娘であり、成績は全戦不敗、現在のウマ娘の原型とも言われるほど完成したウマ娘だが、同時に気性難でも名前が知られあらゆる伝説が残っている。

 

 そのウマ娘と走り合いではなく殴り合いをするあたりセントサイモンの気性難が伺え、二代目が頭を抱えた。

 

 

 

「お待ち下さい、セントサイモンさん。ここまま普通にやっても勝てる可能性は低いです」

 

「はぁ? 何故だ?」

 

「昔、母に聞いたことがあります。悪霊は邪悪な心を餌にして強くなると。だから邪気の塊たるセントサイモンさんが相手だと幽霊が最強になるのかと」

 

「喧しい! 俺を穢れの代表みたいに言うな! いいか、アイグリーンスキー。生きていろうが死んでいろうがウマ娘なんてものは強靭な肉体と精神の前では平伏するようになっている。よく見ていろアイグリーンスキー!」

 

 突撃し、幽霊に立ち向かい殴るセントサイモン、そしてそれを喰らいながらも襲いかかる亡霊のウマ娘。被弾しながらも近づき、近づいては殴って遠ざける。それを延々と繰り返していた。

 

 

 

「アイグリーンスキー、幽霊についての知識はないのかい? このままじゃラチがあかないよ」

 

競走(レース)ならまだしも幽霊に関しては……あっ」

 

「何か思い浮かんだのかい?」

 

「さっきの話とは逆に、幽霊は邪気のない清らかなものが苦手なんです」

 

「清らかなもの……」

 

 ダイヤモンドジュビリーが辺りを見回す。

 

 

 

 セントサイモン──史上最悪とまで言われた気性難

 

 ダイヤモンドジュビリー──セントサイモンに劣らない気性難の持ち主

 

 アイグリーンスキー──先代がエアグルーヴに嫌われる程の気性難で二代目も嫌われている

 

 

 

「そんなものあるかい! ここにいる全員が気性難だよ! 清らかなものとは真逆の存在じゃないか!」

 

「私が気性難かどうかは置くとして、あります、一つだけ!」

 

「何だって言うんだい?」

 

「私の歌です」

 

「歌ぁ?」

 

「日本ではウイニングライブなるものを実施しています。その中に清らかになりそうな曲があって試しに歌ってみたら大絶賛でした」

 

「何もしないよりかマシね。それじゃやりな!」

 

「はい。では一曲歌います」

 

 

 

 ~二代目合唱中~

 

 

 

「ぐぉぉぉっ!?」

 

「おお、効いている効いている!」

 

「バカタレ。俺の攻撃が通じているだけだ!」

 

 セントサイモンが幽霊の後ろに回り込み、バックドロップを決めると幽霊が消えていく。

 

「ふん、クソッタレめ。死者の癖に生者に手を出すからこうなるんだ」

 

 つまみ用に用意した塩をばら蒔き、セントサイモンが鼻で笑う。

 

 そのセントサイモンが急に真顔になり、衝撃の一言を放った。

 

「アイグリーンスキー、この家くれてやる」

 

「は?」

 

「元々この物件は金と共に押し付けられたもんでな。欧州トレセン学園からも近く海も近いから別荘として使うつもりだったんだが、お前がなんのリフレッシュをしてないと思ってな。丁度幽霊もいなくなったし、リフレッシュするには丁度良いんじゃないか?」

 

「なるほどそれで……」

 

「固定資産税とかは本来お前が支払うものに関しては欧州トレセン学園に経費として請求すれば毎年払ってくれるから問題ないとして、それでもいらないなら俺が引き取る。どうする?」

 

「いえそういうことでしたら頂きます」

 

「よし、決まりだ!」

 

 セントサイモンの鶴の一声で決まり、二代目が事故物件の所有者となった。

 

 

 

 

 

『あんな胡散臭い提案に乗って大丈夫なのか?』

 

「契約者見た限りだと大丈夫だし、英国の法律上も問題ないよ。本当に支払う気だよ」

 

『それならいいんだが……』

 

 先代の考えも杞憂に終わり、二代目の解釈の通りセントサイモン側が負担してくれることになった。




第58Rにてセントサイモンのエピソードでヤバいというかカットしたやつ


 そんなセントサイモンを見かねた欧州トレセン学園の理事長が気性難を改善させる為に猫を飼わせた。しかし二日後には猫が行方不明になった上に突如セントサイモンが闇鍋を提案し、英国寮の全員に正体不明の肉を食べさせただけでなくその猫の毛皮らしきもので作ったであろう三味線がセントサイモンの自室に飾られている。


……絶対にアウトなので後書きで記載しました。気分を害した方にお詫び申し上げます。

この第59Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は明日です


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第60R 英国寮編4

・ウマ娘二次でのディープインパクトの扱い
≫史実では無敗で三冠馬となったディープインパクトだが、オリ主(オリジナルウマ娘主人公の略)の噛ませになることが多くなっている。その背景にはディープインパクトをウマ娘化しなかったからだと考えられ、シンボリルドルフやナリタブライアンと言ったウマ娘化の許可を得た三冠馬は噛ませ扱いされることは少ないことから伺える……というかオリ主でナリタブライアンを噛ませ扱いしているのが作者くらいしかいないことからウマ娘化していないと如何に噛ませ扱いにされるか理解出来る。
≫もちろん噛ませ扱いどころか永遠に追い付けないライバル(あしたのジョーの力石、アニメ二期の菊花賞の時のトウカイテイオー等)のような存在になったりしている場合もあるのでディープインパクト=噛ませと思わない方がいい
≫と言うわけでディープインパクトウマ娘化はよ。でないとウマ娘二次創作物がディープインパクト噛ませ小説ばかりになっちまうぞ?

・流行りそうだったけど予想よりも流行らなかったサニーブライアンおよび成り代わり小説
≫サニーブライアンはサイレンススズカ(以下ススズ)やマチカネフクキタル、タイキシャトル、シーキングザパールといった97世代の競走馬。アニメ一期でススズの強さが強調されたせいでススズが中距離に関しては最強キャラとなったが、実はこのサニーブライアンは皐月賞、日本ダービーを勝っており特にダービーではススズとフクキタルをまとめて倒している。ススズやフクキタルが本格化を迎える前だったというのもあるがそれを考慮しても強く、他のサニーブライアンと同じBT産駒で二冠以上制したのはナリタブライアンのみである
≫そんなサニーブライアンだが経歴が地味ということなのかウマ娘二次創作小説で見かけたのが一つか二つくらいしかなく過疎化。本格化したススズやブラシボー効果全開のフクキタルにすればいいだけの話だろぉっ!?と思うのは作者だけだろうか?

・意外に流行りつつあるテイオー憑依小説
≫アニメ版ウマ娘の二期主人公だからかトウカイテイオー憑依をテーマにした小説が流行りつつある。スペシャルウィークが努力で上がってきた熱血系主人公ならトウカイテイオーは栄光と挫折を繰り返す泥まみれのエリート系主人公。ハーメルンで人気が出るのは妥当なのかもしれない。ちなみに何故かテイオー憑依の小説でチームシリウスの名前は出ない

・作者(ディア)と他の作者様の違い
≫他の作者様は何故かウマ娘化されている競走馬を蹂躙しない傾向にある。作者はそんなことはなく実装云々関係なしにむしろ蹂躙しまくっている

・他の作者様でもよく見かけるタグのウイニングポスト(ウイポ)とは?
≫winning post(ウイニングポスト)シリーズの略でウイポ。分かりやすく説明すると自分が馬主(オーナーブリーダー)になって競走馬を活躍させるシュミレーションゲーム。ダービースタリオンやウマ娘とは違い競走馬の使い回しがなく史実通りに進み、競走馬を引退させた後は条件を満たせば種牡馬や繁殖牝馬として所有することが出来、サイアーラインやファミリーラインの系統確立も可能となる。
≫一年に一度情報が更新されて新しいソフトとして発売される。(例winning post9 2020→winning post9 2021)
≫史実には出て来ないスターホース──所謂強キャラのトウカイテイオー産駒のサードステージがあまりにも有名。現実でトウカイテイオーのラストクロップ(ウイポ8 2017)までは未来IFのシナリオで最初に立ちはだかるライバルとして登場するが、それ以降は史実期間でプレイヤーが種付けをすることで生まれるようになった。
≫またサードステージの系譜としてウインドバレー→ラストステージ→ウイニングポストと名前をつけられるように勧められるが作者は未来スタートでもウイニングポストまでたどり着いたことはなく、かなり長い道のりとなる。

・リトルサクセサー
≫ウイポワールドのトウカイテイオー産駒の架空馬。サードステージがディープインパクト産駒の架空馬オーバーマインドの噛ませ犬になるのを嫌った陣営が苦肉の策で代用としてトウカイテイオー産駒の架空馬──つまりリトルサクセサーを創造したと思われる
≫リトルサクセサーもオーバーマインドに勝てないものの鬼のように強く、オーバーマインドがオペラオーならリトルサクセサーはドトウ。介入なしだと凱旋門賞まで無敗を貫いていた三冠馬オーバーマインドに土をつけた凱旋門賞馬が出走したJCを勝利し、間接的にリベンジを果たすが有馬記念でオーバーマインドがリトルサクセサーを負かして双方ともに種牡馬入りする

・作者がウイポの中で嫌いな競走馬って?
≫史実補正が効きまくった、あるいはその時限定で何故かパワーアップした競走馬。カシマウイング、トウカイテイオー、ライスシャワー、ナリタブライアン、マヤノトップガン、ピルサドスキー等。特にライスシャワー、マヤノトップガン、ピルサドスキーの罪は重い。

・ウイポで史実よりも弱いと感じた競走馬は?
≫前述したミホノブルボン、アグネスタキオン、ディープインパクトくらい
≫アグネスタキオンとディープインパクトは所有すれば強いがCPU保有だと弱体化しまくってSPに見合ない弱さになる。前者はジャンポケとクロフネ、マンカフェに取って喰われる。後者はアドマイヤジャパンに春二冠をとられがちである。ミホノブルボン?高速逃げがない7シリーズはお察しください

・作者がウイポで系統確立した競走馬
≫7シリーズではシンボリルドルフに拘っている為、それ以外意図してやったことがないが何故かメジロマックイーン産駒の馬が系統確立した。その馬がシンキングアルザオのモデルとなった。……ちなみに読者の皆様がウイポで系統確立をするとしたらどんな競走馬にするか気になるが、その答えは感想欄ではなくメッセージボックスまたはいつか更新されるであろうアンケートでお答えください。

・なんで前書きのテーマがウイポ?
≫リトルサクセサーになってしまった女トレーナーの小説を書くモチベーションを上げる為と、本来ならトレーナーの解説をつけようとしたが断念した為


 そしてその帰りの道路にて

 

「英国だ。止まれゴラァ!」

 

 その瞬間、釘つきバットから響く鈍い音と共にドアが陥没し、中にいる運転手が目を丸くする。

 

 

 

「どうしてこんなことになっているんだろう……」

 

『流石セントサイモン、としか言い様がねえよ』

 

 二代目と先代の呟きはスルーされた。

 

 

 

 事の経緯は小さなものだった。セントサイモンが偶々目の前を走っていたマフィアを見つけ煽り運転をしたのが原因だった。暴対法で対策された日本のヤクザとは違いマフィアは恐怖の対象であり人を脅かすのは当たり前のことである。

 

 しかしセントサイモンにとってはそんなことは関係ない。彼女からしてみればマフィアという存在そのものが挑発行為そのものでセントサイモンが挑発し返しに煽り運転をするのは無理もなく、マフィアが大人の対応を(無視)するも、激情したセントサイモンが突っかかり現在にいたる。尤もセントサイモンの場合無視せずともそうなったが。

 

 

 

「よくも──」

 

「喧しい、いいから早く止まれゴラァ!」

 

 流石に慌てたマフィアが拳銃を取り出すがダイヤモンドジュビリーが拳銃を持った人物に投石で弾くと二度目のドアの陥没が起こる。二度目のドアの陥没に運転手が慌てて車を脇に止めるとセントサイモンが降りた。

 

「今止まりました」

 

「いいから早く止まれゴラァ!」

 

 セントサイモンが乗り込むのを見て二代目か呟いた。

 

 ──どっちがマフィアかわからない

 

 二代目の呟きの通り、扉の先にいたのはれっきとしたマフィアだがセントサイモンに脅えきっており、その姿は小動物そのものだった。

 

 

 

 そしてマフィア達に待っていたのは地獄だった。何せこれから起こる出来事はセントサイモンとダイヤモンドジュビリー、気性難で知られる英国寮の中でもこの二人は最悪の二人なのだから。

 

「いいから早く止まれゴラァ!」

 

 その口上が気に入ったのか口癖となってしまったその言葉と共にマフィアを半殺しにするセントサイモンとダイヤモンドジュビリー。

 

「あんた達のボスのところに案内しな」

 

「誰が──」

 

「いいから早く止まれゴラァ!」

 

「ぎっ!?」

 

「寮長、そんな物理的に殺してもつまらないでしょう。こうやって社会的かつ精神的に殺すんですよ!」

 

 ダイヤモンドジュビリーがそう笑みを浮かべ、耳打ちすると二代目が目と耳を閉ざす。

 

 

 

「た、助けてくれ!」

 

 二代目に泣きすがるマフィア。先ほどまで大人の対応をした人物とはかけ離れていた。

 

「挑発しておいてセントサイモンさんが許すとでも思いますか?」

 

 二代目は一切関わらないことを決め、そう突き放す。

 

「いやそっちが最初に──ぎゃぁぁぁぁっ!」

 

「まだお仕置きが足りないようだな」

 

 セントサイモンがマフィアを掴んで作業を繰り返す。まさしく悪魔そのものだった。

 

 

 

 それから30分が経過し、ようやく大人しくなったセントサイモンとダイヤモンドジュビリーがマフィア達に脅迫し念書を書かせる。どこからどうみても勧善懲悪ではなく小悪党を食い物にする大悪党と言った様相だった。

 

 

 

「よし、奴らの本拠地に向かうぞ」

 

「え? 何をやるんですか?」

 

「わかりきったことを聞くな。善人ならともかく悪人を駆除しない選択肢なんてあるのか?」

 

「いやいやそのマフィア達の恥ずかしい写真をSNSに載せればいいじゃないですか」

 

「バカだなお前は。それでもニジンスキーの後継者なのか? ニジンスキーはそんな甘くないぞ。SNSに載せたら恥をかかせたとかいって復讐に来るだろ? 殺られる前に殺る。それがセオリーだ」

 

「うわぁ」

 

 二代目が引いているとダイヤモンドジュビリーが口を挟む。

 

 

 

「安心しな、ヘマしない限りサツに追われることはありはしないよ」

 

「違う、そういう問題じゃありません」

 

「英国寮のウマ娘は皆マフィアのところに殴り込みなんてのはやっていることだよ。あのニジンスキーだってね」

 

「嘘だ!」

 

「ほほほほ、嘘と思うならあんたの憧れるニジンスキーだけじゃなく欧州三冠を制したミルリーフ*1、欧州史上最強の末脚の持ち主ダンシングブレーヴ*2にも聞くといいさ。全員が同じ答えを出すけどね」

 

 具体的に名前を連ねたウマ娘達が死んだ目をし、答える姿が想像出来る。断じてやっていない等という答えはいくらニジンスキー信者といえる二代目でもダイヤモンドジュビリーの反応で否定しようがなかった。

 

「……」

 

「まあ客人であるあんたは無理に参加する必要はないさ。参加しないんだったらしないでいいさ。ですよね? 寮長」

 

「構わん。不参加なら俺の楽しみが増えるだけだからな」

 

「それでも参加するのかい?」

 

「いえ、参加は遠慮しておきます」

 

 参加しなくて良いのならしないに決まっている。もしセントサイモンが犯罪者として扱われたら関わりを持っていたと見なされてしまうからだ。

 

「それじゃ決まりだね。寮長、そういう訳ですから私はアイグリーンスキーの送迎の為に帰ります」

 

「おお、帰れ帰れ」

 

「さてタクシーでも拾って帰ろうか」

 

 ダイヤモンドジュビリーがそう言い、タクシーを呼び出し、二人がそれに乗り込む。二代目にとって混沌とした一日だったがダイヤモンドジュビリー達は平然としていた。

 

 

 

 翌日、二代目がTVをつけるとニュースが流れる。

 

【次のニュースです。昨日未明、欧州最大マフィアが正体不明の襲撃者により壊滅しました。警察はその襲撃者の行方を追っています】

 

「んげっ!?」

 

 そのニュースを聞いた二代目が食堂で噎せると慌ててその場を去る。もちろんその先にいたのは英国寮寮長──セントサイモンだった。鼻唄を歌っており、セントサイモンの心の中は快晴模様、昨晩は素敵な暴力に恵まれたと推測出来た。

 

 

 

「おうアイグリーンスキーか!」

 

 その上機嫌な様子から快晴から生まれる日射しが砂漠を生み出すまでの灼熱へと変化していき、二代目がうんざりした声を出した。

 

「セントサイモンさん、今朝のニュース見ましたか? 警察沙汰にならないって嘘じゃないですか」

 

「ああ? あんな物ほっとけ。俺に対する抗議なんて来てないし、すぐに鎮火する」

 

「それはどういう──」

 

 セントサイモンがTVをつけるとそこに写されていたのは先程ニュースを流した英国のTV局の職員が生放送で逮捕されるシーンだった。

 

「一体全体どういうことなの?」

 

「まあ俺の息のかかった奴がいるってことだよ。警察にも手配済みだ。今頃捜査は中止になっている」

 

「そこまでしますか?」

 

「やるからには徹底的にな。それよりもそれだけか? これから俺は趣味の三味線作りに勤しむんだが」

 

「いえ失礼します」

 

 二代目が去ろうと部屋を出るとそこにいたのは二人のウマ娘達だった。

 

 

 

「おや失礼。セントサイモンはここにいるかな?」

 

「いますがどちら様ですか?」

 

「欧州トレセン学園愛国寮寮長、サドラーズウェルズ*3

 

「同じく仏国寮寮長、タンティエーム*4

 

『こりゃまた大物だな』

 

 この二人の名前を聞いて先代がそう呟いた。特に愛国のサドラーズウェルズに関してはあまりにも有名であり、日本を含め世界を席巻した時期もあっただけでなく、ボルトの時代の欧州ではサドラーズウェルズの血を含まない競走馬を探す方が難しくなっている。

 

 

 

「ご挨拶ありがとうございます。私はアイグリーンスキーです」

 

「何? 君がアジア勢初のKGⅥ&QESウマ娘になったアイグリーンスキーか?」

 

「はい。そのアイグリーンスキーで間違いありません」

 

「驚いたなニジンスキーと同じ巨体とはな」

 

「ええ。でも最近また身長が伸びて176cmになりました」

 

「176cmって言ったら約1.925yard*5か」

 

「それだけ大柄なら洋芝が苦手な日本のウマ娘でもKGⅥ&QESを制したのも納得がいく」

 

 二人が納得し腕時計を見るとアイグリーンスキーに頭を下げた。

 

「おっと、呼び止めて申し訳なかった。私達はこれからセントサイモンに用があるんだ」

 

「またの機会に会おう、アイグリーンスキー」

 

 そして二人がその中に入るのを見届けた二代目は逃げ、それと同時に怒号の声が響き渡り、轟音と共に衝撃が来て寮が揺れる。その数時間後、壁と天井に突き刺さっているサドラーズウェルズとタンティエームが目撃された。

*1
英ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞を史上初めて同年で制覇した競走馬。種牡馬としても優秀でイナリワンやミホノブルボンと言った競走馬の父系の先祖にあたる

*2
欧州の競走馬。英2000ギニー、KGⅥ&QES、凱旋門賞等を勝利した欧州80年代最強馬。特に凱旋門賞ではタイムが出にくい中でラスト1F10秒台という物凄い末脚で勝利しており、現在でも欧州史上最強の追込馬として知られ、Winning Postのナンバーシリーズでは史実馬としてはSP最高値の79を叩き出し、フランケルが現れるまで独占していた。また種牡馬としては自身程の大物こそいなかったが同時の背景を考えれば優秀そのもので欧州ではGⅠ馬を輩出するだけでなく日本でもウマ娘でお馴染みのキングヘイローがダンシングブレーヴの産駒である

*3
愛国の競走馬。愛2000ギニーや愛チャンピオンS等勝利しており一流の名馬と言えるが彼の本領は種牡馬に入ってからで英愛と仏のリーディングサイアーに計17回輝き、サドラーズウェルズ系を確立。主な産駒にガリレオ、モンジュー、オペラハウス等多数

*4
仏国の競走馬。凱旋門賞連覇を果たしただけでなく仏国のリーディングサイアーに2度輝くなど競走馬としても種牡馬としても超一流の名馬。父系の子孫にはメジロデュレンがいる

*5
英国はメートルではなくヤードで測る




IF もしも青き稲妻と同じ時系列だったら

94年宝塚記念モチーフ
【さあ役者は揃ったぞ!昨年の二冠ウマ娘セイザバラット!同じく菊花賞ウマ娘ビワハヤヒデ!今年のダービー2着ウマ娘、アイグリーンスキー!】
「なんだと!?」
「来たね、グリーン!全力で相手になってやる!」
「年上だろうが年下だろうが関係ない。勝つのはこの私だぁーっ」
迫る二代目、二の脚を使い粘るセイザバラットとビワハヤヒデ、勝者は後の三冠ウマ娘の最強のライバルにしてアイグリーンスキーだった


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尚、次回更新は未定です


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第61R 英国寮編5

・英国寮編について
≫セントサイモンが名前ばかりの登場というのも寂しいので英国寮編で掘り下げることにし、英国寮編が始まりました
≫尚、この話で一旦英国寮編は終わりで次回から一旦クッションを入れた後、凱旋門賞やJC、有馬記念といった秋シーズンに移っていきます

・この小説のセントサイモンの性格のモデルって?
≫別の作者様の某オリジナル小説の理不尽教師がモデル。セントサイモンがウマ娘になったらあれくらいのことをしでかしそうだから

・ダイヤモンドジュビリーは?
≫セントサイモン並みの気性難を表現出来なかった為、所謂極道の妻、姐さんとか呼ばれそうな性格にしました。ヒシアマと姐さんキャラが被るが向こうはタイマンバカなのに対してこっちは冷酷な性格

・ニジンスキーの寮について
≫本来なら調教を受けた国が愛国なので愛国寮なのだが、作者が英国の馬だと思っていたのとセントサイモンとの絡みで英国寮になった……申し訳ない!

・ウマ娘の暴力行為
≫二次創作においてウマ娘が暴力行為をするシーンは禁じられている。故に前話の一部をカット。迷惑をおかけしました

・二代目の秘密
≫実は腕相撲最強
≫実はメロン狂いでメロンが手元にない場合はメロンソーダで誤魔化す

・お茶を見て思い付いたSS
≫【飲み物と言えば何を飲む?】をテーマにしたウマ娘達が紅茶派(タキオン、スカーレット)、コーヒー派(カフェ、ルドルフ)、緑茶(グラスワンダー)、麦茶派(ウオッカ)、はちみー(テイオー)に別れて口論するSS
≫ちなみに作者はコーヒーと緑茶、牛乳の三つで邪道と言える

・深い衝撃
≫Wikipediaでディープインパクトの画像がホ○の画像になっていて衝撃を受け思わず「これぞ本当のディープインパクトだ!」などとほざく有り様。その後、更新したら普通に競走馬ディープインパクトの写真になっていてなんらかのエラーがあったと推測される

・スーパークリークとアグネスタキオンで思い付いたSS
≫移動すら煩わしさを持ったアグネスタキオンにスーパークリークの魔の手が襲いかかる、というSS

・アグネスタキオンとサクラバクシンオーで思い付いたSS
≫アグネスタキオン(最高速を極めたい)とサクラバクシンオー(全距離万能にしたい)の身体が入れ替わり、互いに充実した毎日を送るがそのうち不便さが勝り自分の身体が良いことに気がつくSS

・ピルサドスキー
≫ピウスツキとも言うがこの馬名を巡って一悶着あるので以下ピルサドスキー。この馬は英国で調教された馬であることとファインモーションの兄なので解説
≫凱旋門賞2年連続2着と凱旋門賞に手は届かなかったがBCターフなどGⅠ競走7勝のガチの名馬でこいつが日本馬だったら間違いなく最強馬候補に上がっていた
≫しかしJCのパドックで馬っ気(カチカチなチ○コ)を出す珍事をやらかした。陸上選手が勃起した状態でまともに走れないように馬も然りで通常は馬っ気を出した馬は走らないとセオリーに従い、ピルサドスキーの馬券購入を取り止める観客が数多くいたが完璧なレースをしたはずのエアグルーヴを破りまさかの1着。陣営曰く「馬っ気を出したら好走する(意訳)」とのこと
≫ちなみにその後、日本で種牡馬入りし産駒の馬体も良くポストSSとまで当初は評判が良かったがここまでで初年度産駒の勝ち上がり率は脅威の0。現役時代馬っ気を出しすぎた反動なのか活躍する産駒はおらず、その血を繋げる使命は半妹のファインモーションに託されるが……お察しください
≫この小説では【変態図書館】などという不名誉極まりない渾名があるが理由が理由なのでお察しください

・他人の褌で相撲を取る
≫意味は【他人の力で自分の目的を果たすこと】で、類義語に【虎の威を借る狐】等。二次創作作家に一番ダメージを与えられる諺ともいえる……作者はダメージを受けたのかって?大ダメージだよこんちくしょう!

・非書く三原則
≫正確には【書かず読まず持ち込まずの非書く三原則】。アニメ版星のカービィでデデデが放った名言。由来はデデデが字が読めずにいた為、大流行していた本が読めず楽しみを共有出来ないイラつきから本を没収した際に言い回した……マジで天才的な言い回しである
≫現在の使用用途は海賊版に対して使う諺となった。皆さんも海賊版に対して非書く三原則に従いましょう

・後書き
≫ようやく英国寮編が終わったのであのシリーズが復活します。あれを掲載出来なかった理由は色々ありますが一番の理由が電話番号に由来した禁止事項が中々書けなかったのが理由です
≫それと今回の後書きはアンケートに関わることですので是非ともご協力お願い致します


「集合だ!」

 

 

 

 英国寮名物の点呼並みに大声を出すセントサイモン。

 

 今朝二代目が見かけたセントサイモンとは大きく異なり、不機嫌な状態のセントサイモンが見え、その周りの空間は歪んでいた。

 

 機嫌を悪くした原因を知っている二代目、そしてそれを察したダイヤモンドジュビリーとニジンスキーが無関係と言わんばかりに目を反らした。

 

「さて、昨日は捜索ご苦労だった。ペンタイアはあれから熱を出したから休むそうだ」

 

 ──絶対熱発じゃない。

 

 英国寮の全員がその声を飲み込んだ。言えば間違いなくペンタイアの二の舞、つまりセントサイモンに殺されるからだ。

 

「それでだ。お前達も気になっているだろうから紹介する。今年のKGⅥ&QESを制したアイグリーンスキーだ。今日は英国寮の力を見てみたいと遥々日本からやって来たんだ」

 

「皆さん初めまして。今年のKGⅥ&QESを勝たせて頂きましたアイグリーンスキーです。KGⅥ&QESの舞台でペンタイアさんにこそ勝ちましたがそこで英国寮の実力を実感し、英国寮の練習がどのようなものなのか知るためにやって来ました。本日はよろしくお願いいたします」

 

『嘘をつくんじゃねえよ。お前が警戒していたのはペンタイアじゃなくラムタラだろうが』

 

 二代目がリップサービスをし、先代がヤジを入れるその姿は国会で失言をした与党議員を批判する野党議員のようだった。

 

 

 

「さて早速だがこのアイグリーンスキーと併走する奴は──」

 

「私がやります」

 

 即座に挙手し笑みを浮かべるニジンスキー。ニジンスキーの笑みに隠された意味、それは待ちに待った果物の収穫のようだった。

 

「いや私がやるぞ!」

 

 そして即座にもう1人挙手したウマ娘──ミルリーフが抗議の声を上げると第三者の透き通る声が響いた。

 

 

 

「ミルリーフ、いつもサボりがちなお前がそういうのは珍しいじゃないか?」

 

「バカっ!」

 

「ほう、ミルリーフ。お前は俺に内緒でサボっていたと?」

 

「ニジンスキーの妄言です!」

 

「な、何を!?」

 

「なるほどなぁ~お前達が俺に逆らうなんて寮長は驚きだなぁ~、お前達がそこまでの覚悟を持っているなら俺もとことん付き合ってやろうじゃないか幹部としてなぁぁっ?」

 

 セントサイモンの脅しにニジンスキーとミルリーフが冷や汗を流し、気が弱いウマ娘達が蹴られた子犬の如く悲鳴を上げる。ニジンスキーはセントサイモンに屈しない為に二代目が目につく以外の場所でセントサイモンの性格を演じてきただけあり、それまで刻まれたトラウマを少し克服していた。

 

 

 

「ふん、まあいい。アイグリーンスキーがお前達と少し手合わせをしたい事には変わりない。いいか遠慮なく全力でいけよ……殺す気でな」

 

「はっはっはっ……冗談が上手いですね」

 

 二代目が空笑いをするがセントサイモンの目が笑っておらず本気であると自覚し二代目が怯える。

 

「いやいや冗談じゃないぞ。それくらいの気概で行かなければお客様を楽しませることも出来ないじゃないか」

 

 セントサイモンが無理に慣れない笑顔を作ったせいか、その凶悪な笑みは本来臆病な生き物であるウマ娘にとってあまりにも心臓に悪すぎる。

 

「そうですか、気遣いありがとうございます」

 

「……という訳だお前ら。許可が出たから、どんな汚い手を使っても3バ身は差をつけろ。出来なければどうなるか分かってるんだろうな?」

 

 セントサイモンの非道さに比較的似ているはずのダイヤモンドジュビリーを含めてこの場にいるウマ娘が言葉を失った。

 

 

 

 

 

 結局、ニジンスキーとミルリーフ、そしてダンシングブレーヴ以外のウマ娘達は尻込みしたのか併せウマをすることなく観戦することになる。

 

「それでどうしますか?」

 

「どうしますとは?」

 

「距離ですよ。どのくらい走るのかって話です」

 

「本来なら無制限でやるものだがそういう訳にもいかんしな。アイグリーンスキーの次走は凱旋門賞か?」

 

「ええ。その後は2400mのJC、2500mの有馬記念と予定しています」

 

WBUR(ワールドベストウマ娘ランキング)*1L(ロング)の分野か……それなら2400mでいいと思うがどうだ?」

 

「賛成」

 

「異議なし」

 

「ではやろうか」

 

 

 

 4人が話し合った結果、2400mの模擬レースを行うことになり、構える。

 

「準備は整ったようだな?」

 

「いつでも行けます」

 

 4人が声を揃えるとセントサイモンが旗を取り、スタートの合図をする。

 

「よし始めろ!」

 

 セントサイモンの合図と共にスタートするとニジンスキー、ミルリーフ、二代目、ダンシングブレーヴの順に列を作り始めた。

 

 

 

 

 

『どうやら二代目を三方から固めて道を防いで泥試合にさせる気はないようだな』

 

「そのようだね」

 

『まあそうだとしてもお前のパワーなら難なく突破出来るからむしろそちらの方が都合がいい。しかしここにいる3人は俺達の世界でも超一流の競走馬達の魂を受け継いだ存在だ。一人一人がラムタラ以上の実力者と見ていい。そんな奴ら相手にパワーでしか勝っていないお前は何を武器にするかって話になる』

 

「ミルリーフさんとニジンスキーさんはマルゼン姉さん並みのスピード、唯一後方で控えているダンシングブレーヴさんにしたって圧倒的な末脚を持っていてアマちゃんの完全上位互換……私が勝つ方法は一つだけだよ」

 

『ほう?』

 

「乾坤一擲、一か八かの大博打。後は運に任せるわ」

 

 

 

 

 

「速いっ!」

 

 模擬レースのペースに目を丸くしたウマ娘達が思わずそう叫び、それにもう一人が共感する

 

「あの3人もそうだけど、それについていけるジャパニーズも相当よ……流石、ペンタイアやラムタラのいる今年のKGⅥ&QESを制しただけのことはあるわ」

 

「だがあくまでそれはトゥインクルシリーズでの話でござる。それよりも上のレベルとなると……KGⅥ&QESで見せた末脚は通用しない」

 

「アブソルート*2、何故ここに?」

 

「某だけではござらぬ、姉上もいるぞ」

 

「姉上っていうとウィンアップ*3も?」

 

「無論でござる。それよりも先ほどの質問に答えよう。某達姉妹がここに来たのはあのアイグリーンスキーというウマ娘がどうも他人のように思えぬからでござる」

 

「しかしアブソルート、その喋り方何とかならない? 古臭い田舎者にしか聞こえないよ。ウィンアップは普通の喋り方なんだし出来ない訳じゃないでしょ?」

 

「どうでござろう? それよりも展開が大きく変わったでござる」

 

「あっ、本当だ!」

 

 ウマ娘達がアブソルートの声に従い、レースを見ると最後の直線に入っていた。

 

 

 

 

 

「確かに貴女方3人ともスピードとスタミナに関してはマルゼン姉さん以上、だけどそれを克服さえしてしまえば私にも勝ち目はあるということよ!」

 

 マルゼンスキーにあって二代目にない物、それはスピードとスタミナだった。パワーのみならダートを含めトゥインクルシリーズの中では日本一と言って良いほどにあり、それは欧州のウマ娘にも勝る。二代目がパワーで劣るとしたらばんえい──つまり牽引を専門とするウマ娘達を相手にした時のみと言える。

 

 そんなウマ娘がスピードとスタミナを身につけたら間違いなく、無敵と言える。だが二代目にそのスピードとスタミナはない。

 

 スタミナは努力さえすれば鍛えられ、二代目がこれから出走する凱旋門賞等はそれが求められる。しかしスピードに関しては天性によるものであり、東条ハナの目に止まらなかった程度にはその素質はなかった。

 

 天が二代目に与えたのはパワーだけではなくブレイン──つまり頭脳である。

 

 当時の最年長国際GⅠ競走勝利を更新するまで現役を続けていた先代から得られる経験と、頭の回転が早い二代目の頭脳が完全に合わさった時、相手が例え逃げだろうが追込だろうがお構い無しに罠に嵌めることが可能となる。

 

「さあ、これでチェックメイトよ!」

 

 二代目の末脚が爆発し、二人がいる前に迫る。

 

 

 

 

 

「忘れたのか? ラムタラを指導したのは私だ。そのラムタラに勝負根性で勝負しなかったお前に負ける要素があるわけがない!」

 

「その通り。だから貴女方にはここで落ちて貰う!」

 

 その瞬間、ミルリーフ達が地割れの隙間に落ちる錯覚をし、減速していく。

 

「そっちが地割れならこっちは天まで駆けていくだけのことだ!」

 

『な、なんだと!?』

 

 先代と二代目が錯覚したもの、それは地割れの隙間から翼を生やしたミルリーフの姿だった。

 

『まさかミルリーフの奴がここまで強いとは欧州三冠は伊達じゃないってことか……だが俺の孫達はその上を行った。つまり祖父である俺はもっと偉大だ!』

 

 ──何その謎理論

 

 そう二代目が突っ込みを入れたかったがそれどころではない。先代のサポートにより歯車の噛み合う音が響きゾーンに突入すると、沈んだニジンスキーを置き去りにしていきミルリーフを捕らえようとした。

 

 

 

 KGⅥ&QESではラムタラがウマ娘の中でも屈指の勝負根性を持っていた為に競り合いをしなかったがミルリーフやニジンスキーは違う。ニジンスキーは凱旋門賞で競り合いにより敗北しており苦手意識があり、ミルリーフもラムタラ程勝負根性に優れている訳ではない。

 

 逆に二代目は根性勝負を得意としており

 

 根性勝負に持ち込めば二代目に十分勝機が存在し、二代目はその土俵に持ち込んだ。そのはずだった。

 

 

 

『バカな……!』

 

「嘘、でしょ!?」

 

 三の脚を炸裂させた二代目がミルリーフを捕らえようとしても捕らえることが出来ない。それどころか遅れを取ったはずのニジンスキーにすら差を縮めることが出来なかった。

 

 二代目曰く「大博打」の賭け……その賭けには勝った。だがそれを持ってしてもニジンスキー達には届かなかった。

 

「信じられないって顔だな。KGⅥ&QESはラムタラ相手に根性勝負をしなかったから勝てただけのこと。世界ってのはそんなに甘いものじゃない。世界トップを相手に勝ちたいのならあいつに根性で打ち負かすくらいの実力がなければいけない……弱点ばかりついて弱い者虐めをするお前とは違うんだよ!」

 

 そう切り捨てたダンシングブレーヴがミルリーフと並び、ニジンスキーがその1バ身後ろ、そしてその5バ身後ろに二代目が走る。二代目がその差を縮めようにも既に最高速に達しており、抜かせるものではなかった。

 

 

 

 そしてゴール板を過ぎ、ミルリーフとダンシングブレーヴがほぼ同着、そして遅れてニジンスキー、さらに遅れて二代目が到着した。

 

「ふん、つまらん。ニジンスキーの奴にペナルティでも与えておくか」

 

「寮長、そんな八つ当たりしなくても良いのでは?」

 

「あのバカは愛国寮で修行させる」

 

「愛国寮ですか?」

 

「ミルリーフやダンシングブレーヴと互角の実力がありながらあの有り様だ。クビ差ならわかるが1バ身も離される……だがこの差は英国寮では改善出来ない」

 

「それって寮長の指導方法が悪い──あいたっ!」

 

 セントサイモンの拳がダイヤモンドジュビリーに炸裂しタンコブを作る

 

「奴一人の為に英国寮の方針を変える訳にはいかないだけだ。かといって長期休養しては意味がないからな。その点愛国寮の方針なら問題はない」

 

「なるほど」

 

「その代わりピルサドスキーを英国寮に預かる」

 

「あの歩く変態図書館を!?」

 

あぁっ(文句があるなら殺すぞ)?」

 

 セントサイモンのドスの効いた一言にダイヤモンドジュビリーが黙った。

*1
史実におけるWBRRの事。

*2
【青き稲妻の物語】で登場する架空の競走馬。原作では無敗で欧州三冠を制した

*3
【青き稲妻の物語】で名前だけ登場する架空の競走馬。原作ではアブソルートの兄で無敗のまま欧州三冠を制し引退している




・とりあえず思い付いた小説ネタ一覧
≫とりあえずこの小説に出すモブウマ娘がどんな特徴になったのか概ね決まった為、別のアンケート。作者が思い付いたネタで書いてみたいのが下記の一覧。見たい小説をアンケート機能を用いてお答えください。この中で最も多かった票の小説が連載します
≫ちなみに・の後ろがタイトル名で、≫が解説となっているので参考にして頂きたい
≫またこのアンケートはこの小説の投稿速度に影響する為全く無関係とは言えないことを了承して下さるようお願い致します

・輪廻のシルフィールド
≫風のシルフィールドの主人公、シルフィールドがウマ娘になってやり直す話。これまでハーメルンで風のシルフィールドをテーマにした二次創作小説は数えるほどしかなかったので書いてみたいと思った
≫参考までに現時点で資料がない為作成期間は長めになる、またオリジナル展開が予想されるので注意が必要
≫またどの世代になるのかすらも決まっていないし、マキシアムといったライバルが登場するかも決まっていない為、連載が決まったとしても準備に時間がかかるのが欠点

・僕は大丈夫!
≫たいようのマキバオーに出てくるキャラ、フィールオーライがウマ娘になってやり直す話
≫フィールオーライの概要はディープインパクトをモデルにした、たいようのマキバオーにおいて最強クラスのキャラ。しかしライバルらしいライバルがいないことや自由に走れないことの苦しみなどに悩むなどの人間味のある競走馬で、最期は壮絶な死を迎えてしまうどこまでも不遇なキャラ

・でかくて白いアイツに憑依
≫メジロマックイーンに憑依した男が自分をゴールドシップと勘違いして二つの意味で暴れる話
≫マックイーンやゴルシの史実等を参考にするので比較的楽と言えば楽だがオリジナル展開になる可能性が非常に高い
≫もし連載が決まりアンケート次第ではこちらの小説のマックイーンの性格が反映されるかもしれない

・89式和製ビッグレッド
≫米国からの良血架空持込馬が89世代に生まれて大暴れ&オグリキャップやメジロマックイーン達に一矢報いる話……チートと一矢報いるって混合出来ないとかいうな!89世代は悲惨だったんだから!
≫競走馬編ではこいつの視点で語るがウマ娘ではオグリキャップ等ライバル視点で語る予定
≫他の小説とは違い一からつくらないといけないので面倒だが人気が出たらモチベーションが上がり投稿スピードも上がる

・皇帝、帝王、そして大帝
≫作者が書く【青き稲妻の物語】のトウカイテイオーの不遇さに不満を持った男が01世代の架空トウカイテイオー産駒に憑依してビッグタイトルを獲得する話。ジャングルポケットがいないなど史実とは異なる展開がある
≫これは既にオリジナルで出しており、オリジナルとしては完結している。ただしウマ娘としての主人公の性格が決まらない為、難航している
≫ちなみに【皇帝、帝王、そして大帝】のURLはhttps://syosetu.org/novel/192085/

・リトルサクセサーとして生きて候
≫これは前々から作者が書きたいと宣言しているリトルサクセサー(ウマ娘)になってしまった女トレーナーの話。女トレーナーの担当はアグネスタキオンとマンハッタンカフェ
≫リトルサクセサーの概要は前話の前書き参照
≫リトルサクセサーの担当を誰にするのか等まだ決まっていないのでアンケート機能を使う予定

・ウマ娘短編小説
≫作者が公式ウマ娘で思い付いたシリーズをまとめた短編集。ふと思い付いたら書き上げるというシンプルなものでそれを3000~10000文字くらいの1話から3話で完結するといった感じになる。例としては上記のSS、前々話前書きのSSなど
≫長所と短所は良くも悪くも短く、その場限りの設定や矛盾が出ることもある。気にしない方にオススメ

・そのまま
≫上記の小説ネタを小説として出さずに、引き続きこの小説を続けて書いてくれ!という読者の皆様の為の要望用。これなら比較的この小説の続きを早くすることが出来るがモチベーションが上がらないのも事実なので極力この選択肢は避けて欲しい

・リクエスト
≫こちらはアンケートに存在しないが、読者の皆様のリクエストに答えて投稿する。存在しない理由はいつかのアンケートでリクエストに投稿した読者がリクエストしなかった為
≫リクエスト方法はメッセージで投稿お願い致します



この第61Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は2021年の12/25です


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第62R 二代目、日本帰国

・アプリで作者と縁のないウマ娘
≫この場合の定義は作者が育成、サポート共に出ないウマ娘のことを指す。とりあえず三名ほど紹介する
≫タイキシャトル。タイキシャトルの概要は後述。ライスシャワーとは正反対にタイキシャトルが育成はおろかサポートでも出ない有り様。心当たりがウイポで種牡馬入りしたら真っ先にシンジゲートさせて売り飛ばした記憶しかない……仕方ないやん。タイキシャトル産駒活躍しなかったもの
≫ナリタブライアン。ナリタブライアンの概要は後述。こいつもこないがしゃーなし。理由はこの小説しかりナリタブライアンを不遇にさせているからとしか思えない
≫セイウンスカイ。セイウンスカイと作者は縁がとことんない。上記二人はサポートや育成で取れなくともムービーを見れた。しかしセイウンスカイの場合は育成実装時に繁忙期が重なりムービーも見れなかった……ウイポで必要ないからといって能力下げまくったのが原因だろうか?

・タイキシャトル
≫日本競馬史上最強のマイラー。最強スプリンターはサクラバクシンオーかロードカナロアかの二つの意見に別れるが、タイキシャトルはマイル戦において無敵で海外GⅠ競走勝利、安田記念マイルCSの春秋マイル連覇などをしており、他にもあるがタイキシャトル程マイラーと呼ばれる馬で活躍した馬はおらず、強さという意味でも97年マイルCSと98年安田記念を見ればわかるが圧倒的で実績、強さともに兼ね備えた存在は国内では存在しない
≫ただし、種牡馬としてはSSやその産駒達があまりにも強すぎた為活躍することはなかった
≫ウマ娘では片言外国人で寂しがり屋。その為ストーリーではBBQをしたりとイベントの主催者だったりする。胃もオグリキャップとスペシャルウィークに次いで大きく、米国人の平均を上回る程度の大食い……なのだが、うまよんで取り上げられてこそいるがアプリではあまり強調されていない

・ナリタブライアン
≫父は後の大種牡馬ブライアンズタイム、母父ノーザンダンサー、半兄ビワハヤヒデとかなりの良血馬。デビュー戦で2着といきなり躓いたがその後は皐月賞、日本ダービー、菊花賞全てにおいてレコードを更新した馬で、三冠全てのレースでレコードを更新したのは国内では彼が初で、米国だとセクレタリアトくらいしかおらず、三冠達成時はシンボリルドルフを超えていたのは違いなく有馬記念でも勝ちを納めこの時点でGⅠ競走の勝率100%とルドルフ(JCで三着)ですら成し遂げなかった偉業を達成し、【史上最強の三冠馬】の称号を手にした
≫しかし晩年の成績は古馬になってからGⅠ競走の勝利はなしと散々たるもので96年に競走馬として引退し、種牡馬入りするも2年後の7歳(旧8歳)で早逝、史上初となる三冠馬として後継種牡馬なしと恵まれないものだった
≫三冠馬晩年不遇仲間にオーモンド(無敗英国三冠)が挙がるが、あちらは短距離から長距離までこなした上に無敗。更にオームという後継種牡馬がおり、オーム系を確立。競走馬としても種牡馬としてもナリタブライアンの上位互換である
≫96年の阪神大賞典のマヤノトップガンとの一騎討ちは競馬ファンなら誰もが知っている名レースで、BNWの誓いでも取り上げているので是非とも動画などを見て欲しい

・セイウンスカイ
≫言われずとも知れた98世代の二冠馬でスペシャルウィークの初期のライバルの一頭。別名【芦毛の逃亡者】。競走馬としての成績は生涯を通してキングヘイローに先着を許しておらず、三歳時は世代ナンバーワンと評価が高かった。特に菊花賞を世界レコードで制した時の強さは98世代最強とも言われ、ダビスタではセイウンスカイが最強になる仕様になっていたほど
≫しかし古馬になって以降は不遇のそれでGⅠ競走を勝てず、また故障も発生した上に逃げが得意でなくなる事態が発生した。復活を遂げようとした天皇賞春ではオペラオーの連覇の影に隠れて最下位に沈む有り様でこのレースがラストランとなった
≫その上種牡馬入りしても活躍することなかった。理由としては決して良血馬と言えるものではなくむしろSS全盛期の時期に皐月賞と菊花賞を制することが出来たのか説明がつかないくらい零細血統であり、ラストランのレースの醜態もあり繁殖相手が集まることはほとんどなかった
≫しかしセイウンスカイが実装された年にドゥラメンテ産駒のタイトルホルダーがセイウンスカイの菊花賞を再現してみせた
≫ウマ娘のセイウンスカイはのんびり屋で気まぐれ。しかしその一方で頭の回転が早く策士としての一面が見られる。これは史実の京都大賞典や菊花賞のイメージがあまりにも強いからだと考察出来る

・ナリタタイシン憑依者がスーパークリークにバブる話
≫ナリタタイシンに憑依してしまった転生者が消えてしまった元の人格のナリタタイシンに罪悪感を感じ、それを慰めるスーパークリークを想像。最終的には「お母さん……」などと呟くナリタタイシンが見たいです

・ナリタブライアンは姉妹が多い話
≫ナリタブライアンがマヤノトップガンとウオッカから姉呼ばわりされるSS。「ブライアンお姉ちゃん」とか「ブライアン姉ちゃん」とか余裕で脳内再生出来た

・メイドになってくれそうなウマ娘は?
≫メイド喫茶で働きそうなウマ娘と言えば誰だ?と聞かれたら私は某秋葉なアイドルの影響でスマートファルコンことファル子を推す。ちなみに作者はメイド喫茶など行ったことがないので参考にもなりはしない
≫ガチのメイドになってくれそうなウマ娘はスーパークリーク。お世話好きなところがなんだかんだで合っていると作者は思う。添い寝や耳掻き、膝枕なんかおねだりすればやってくれる……はず
≫ナリタタイシンやヒシアマゾンなども候補に挙がるが、読者の皆さんは誰を推しますか?

・皆さんの好きなウマ娘ってなんぞや?
≫ウマ娘はアイドルに近いようで遠いアスリートのようなもので努力して成り上がる姿が好きな人もいれば圧倒的な実力に惹かれる方もおり、またレーススタイル、血統、その他諸々の理由などで推しになったウマ娘もいるでしょう。論争になろうがその上で尋ねたい……いつか聞く
≫ちなみに作者はウイポ→リアル競馬から入ったタイプなので特に推しと呼べるウマ娘はいないんですね。その時の気分次第です。公式ウマ娘でなければダイワメジャー、ヴィクトワールピサあたり。

・幼名
≫生まれたての競走馬には幼名がつけられ、特に有名なのがシンボリルドルフのルナ。ルドルフが意外にも我が儘だったことからウマ娘のルドルフが我が儘を言う時、あるいは幼児退行した時などに「ルナ化する」と表現することがある
≫ルドルフの他にもトウカイテイオーのハマノテイオー、オグリキャップのハツラツが有名。エアグルーヴのベロは大人になっても言われ続けていた

・地獄の背走サンタ
≫詳細はうまよん参照。ウイニングチケットがサンタの服を前後ろ逆にビワハヤヒデに着させて後ろに髭眼鏡をつけたことによって、ビワハヤヒデが怒り狂い後ろに走るサンタが誕生。以降、クリスマスにビワハヤヒデ(背走サンタ)はスイープトウショウなどをはじめとしたチビッ子達に追いかけられるようになる
≫その後公式でも実装され、うまよんの逆輸入となった。尚、作者は何故かファインモーションのついでに水着マルゼンとともに獲得した模様

・三強といえば?
≫ウマ娘勢ならBNWが一瞬で思い付くだろうが、競馬ガチ勢が聞いたら激おこする可能性があるので注意
≫激おこした時の対処方法の参考にTTG、そして2020年のJCを挙げれば大体引っ込みがつくので話題をそちらに逸らせばOK。この二つでも納得しないのなら地方競馬ガチ勢の可能性が高い
≫ちなみに作者はそれでも引っ込みがつくが、00年のラジオたんぱ杯の三強が一番好みである。三頭が共に従来のレコードタイムを更新かつGⅠ勝利を飾る偉業を成し遂げる

・テトラクラマシー
≫人は通常赤、青、緑の三色の組み合わせで見えているが稀に黄色を加えて四色の組み合わせで見える者がいる。それを動画で知った作者は自分がそれかどうか調べた所、テトラクラマシーであることが判明した
≫しかし作者はくっそ絵も字もへたくそなので無用の長物としかいいようがない。あんまりである。絵の神よどうか我に神の画力を宿したまえ!

・今回のアンケートの期間について
≫来年の1月末を予定していますが状況によっては延期します


 KGⅥ&QESの翌週

 

 遂に、チームトゥバンのジュニア級のエース、フジキセキがデビュー戦に出走した。

 

「ふぅ……緊張するな」

 

 デビュー戦で緊張しないウマ娘などいない。しかしフジキセキはそれと比較しても尚、緊張の度合いが多くゲートで嫌がる素振りを見せたりしていた。

 

【スタートしました! まずいったのは──】

 

 

 

「後方警戒の超スローペースって訳か……」

 

 ──だけど一体何を警戒しているんだい? 

 

 そうフジキセキが思いながら加速する。それと共に周りが加速し自分がマークされていると気付きペースを維持する。

 

 

 

 ──先輩達の併走でやったところだ。やっぱり先輩達はこういうことを想定してやっているんだな。下手にペースを落としても却って私が不利になるしこのまま続けよう。

 

 

 

 だが彼女は知らなかった。チームトゥバンは今でこそ丸くなったが、元々チームギエナという極悪非道なスパルタオンリーのチームであり、ウマ娘達に浸透されている。素質のあった彼女はその餌食になりシニアのウマ娘や二代目と併走することになる。

 

【さあここで早くも先頭に立ったのはフジキセキ! フジキセキだ!】

 

 その結果、フジキセキはジュニア級に不相応なほど強くなり、フジキセキのペースがジュニア級のレースではハイペースであることにフジキセキは気づかず、そのままバテてしまった周囲のウマ娘達を抜いていき、先頭に立つ。

 

 

 

 ──私以外でマークするウマ娘がいたのかな? 

 

【フジキセキ、これはもう独走だ、10バ身から更に差を広げて今ゴールイン!】

 

 的外れなことを考えながら、先頭に立ちながらまだ加速し、そのままゴールしてしまうとフジキセキ自身が何も異変が起こることなく終わったことに驚愕してしまう。

 

 

 

「もしかして、私なんかしちゃったかな?」

 

 彼女としてはウマなり程度、つまり流して走っていたが他のウマ娘達は違い全力で走り、中には倒れてしまう者もいた。それを汗すらかかずに勝ってしまった。

 

 

 

 その走りを見た観客──スポーツ新聞関係者が呟いた。

 

「三冠ウマ娘だ……」

 

 フジキセキのあまりの強さにそう呟き、その呟きを聞いた周囲の観客に伝染し、次第にフジキセキが三冠ウマ娘確定などという声が挙がるようになる。

 

 

 

 そんな中、フジキセキに声をかけたウマ娘がいた。

 

「フジキセキ、デビュー戦勝利おめでとう」

 

「あっ、グリーンさん。ありがとうございます。それよりも向こうで何をしていたんですか?」

 

「ただいま。向こうで少し武者修行って奴を経験してきたんだよ。ところでフジキセキはどうする気なの?」

 

「どうするって?」

 

「クラシック三冠かトリプルティアラ*1か、それとも私のように海外に打って出るか……その三択よ」

 

「うーん……朝日杯までに決めておきます。はっきり言ってどれもメリットがあるんですよね。三冠路線は王道、ティアラは距離適正、海外は名声。昔でしたら海外なんて考えませんでしたが、グリーンさんが拓いた道があります。仏国三冠なら行けそうですし、凱旋門賞にも繋がります」

 

「凱旋門賞狙いとは思いきったね」

 

「あっ、でもまだ決めてません。とりあえず第一に朝日杯を勝ってからでないと話になりませんから」

 

「朝日杯にいくことは確定?」

 

「ええ。マイル戦から挑んでそこからステップアップしていこうかと」

 

「なるほどね良いんじゃない。確かに凱旋門賞は仏国で行われるレースだから仏ダービーを始めとした仏国のレースを取るにしたってマイル戦からステップアップした方が楽だしね」

 

 

 

「でもグリーンさん、何でこっそりとしているんですか? 帰国したならそう言えば良いじゃないですか」

 

「マスコミがちょっと過剰に騒ぎ過ぎなんだ。あの程度で大喜びしていたら身が持たない。3着のタマモクロス先輩ですらこの扱いだもん」

 

 そういって二代目が取り出したのは二代目が一面、タマモクロスが三面の新聞記事でKGⅥ&QESの詳細がこと細かく書かれており二代目に遭遇次第突撃しそうな文面だった。

 

「とにかくフジキセキ、このことは内密──」

 

「マスコミの皆さーん! ここにアイグリーンスキーさんがいますよ!」

 

「なっ、バカっ!」

 

「何、アイグリーンスキー?」

 

「帰国していたのか!?」

 

「逃げたぞ追え、追えーっ!」

 

 マスコミが駆けつけるとフジキセキの周りには三冠ウマ娘云々を語る者はいなくなっていた。

 

「やっぱりか。誰が宣伝したか知らないけどサンデーサイレンス先生の言うとおり米国の陰謀かな? でもどんなことがあろうと私達の希望──第二の幻のウマ娘は私が守ってみせるよ」

 

 ──それがエンターテイメントとしての役割だからね

 

 フジキセキがそう宣言し、マスコミを回収してウイニングライブへと向かう。

 

 

 

 

 

 その翌日、武田ハルはマスコミに追われていた。

 

「武田トレーナー、アイグリーンスキーさんは何故帰国が遅れたのでしょうか?」

 

「大変申し訳ありませんがそれについてはお答え出来ません。しかし凱旋門賞の後、お話いたします」

 

「何故今だと駄目なんでしょうか?」

 

「今話せない理由についてもその時話します」

 

「答えてください!」

 

「はいはいうるさいぞー」

 

 サンデーサイレンスがどこからともなく現れ、マスコミを眠らせ物理的に黙らせる。

 

「えー、マスコミの皆様ご質問はありませんでしょうか。ありませんようでしたら終わります」

 

 武田ハルがそう言い放ち無理やり終わらせるとサンデーサイレンスに頭を下げる。

 

 

 

「助かったよサンデーサイレンス」

 

「あいつらは米国からの回し者だ。米国出身の余がケジメをつけるのは当たり前だ」

 

「なんで米国が?」

 

「余にもわからん。だが推測は出来る」

 

「推測?」

 

「凱旋門賞というのは極めて特殊なレースだ。それ故に凱旋門賞を制したウマ娘がBCターフやJCを制した例はない*2。あのダンシングブレーヴですら届かなかった巨大過ぎる壁だ。だが同時に欧州以外のウマ娘が凱旋門賞を制した例もない。それどころかあいつがKGⅥ&QESを制するまでKGⅥ&QESも欧州のウマ娘しか制していなかった。だがそれを制したことによって奴ら──つまり米国のURAの連中が妨害を始めたんだ」

 

「日本に対抗意識のある中国とか韓国とかじゃなくて?」

 

「確かにあそこは反日ではあり対抗意識もある。しかし米国のURAの連中は日本に限らずアジア勢が活躍するのを指を咥えて見ているのが相当嫌らしく、中国や韓国にも圧をかけていて日本に妨害する暇がない。事実余の知り合いの香港所属のトレーナーもこの被害に遭っている」

 

「しかしそれが本当だとサンデーサイレンス、お前は裏切り者と認定されているんじゃないのか?」

 

「余がどれだけ活躍しても認めやしない国など不要。米国で二冠を制した時もブーイング、BCクラシックの時もイージーゴアの為にあったようなものだ。引退した後に残されていたのは何もなかった。現役の栄光もトレーナーとしての部屋もな。余が米国を捨てたのではない。米国が余を捨てた」

 

「……改めて聞くと壮絶だな」

 

「とは言えイージーゴアとは個人的には付き合いがある。最終的にあそこで得られたのはイージーゴアをはじめとした米国のウマ娘達との付き合いとトレーナーの国際資格だけだ」

 

 イージーゴアからの手紙と国際ライセンスのトレーナーの証明書を見せるサンデーサイレンス。

 

 

 

「そうか、だが米国が狙う理由はそれだけアイグリーンスキーが強いからってことなのか?」

 

「無論だ。日本のウマ娘でこのような例は三人目だ」

 

「三人目? あと二人は誰なんだ?」

 

「一人はトレセン学園では名前を言ってはいけないあのお方、と言えばわかるか?」

 

「あのお方か……幻のウマ娘。東京レース場に飾られている銅像も彼女ではなくクリフジになったのもアレも米国の仕業なのか?」

 

「そうだ。だが彼女はまだ名前が学園のトレーナーに知られているが、もう一人は最近まで情報収集を得意とする余ですら名前どころか存在すら知ることが出来なかった」

 

「今は知っているのか?」

 

「余が最も尊敬するウマ娘だ。これから会いに行くが着いていくか?」

 

「行こう」

 

「よし、ブルボン。そういうことだから今日は休め」

 

「了解しましたサンデーサイレンス先生」

 

 ミホノブルボンが神出鬼没に現れ、返事をし消える。それはまるで忍者のようだった。

 

 

 

 

 

 翌日、食堂にて新聞を広げながら二代目は朝食を食べていた。

 

【今年のジュニア級、チームトゥバンが最強!】

 

【チームトゥバン、今年は大豊作!】

 

 各新聞がそのように一面に掲載し、チームトゥバンが話題となっていた。

 

『やはり強いなSS産駒は』

 

 二代目が新聞を読んでいると先代がそう呟き、声を漏らす。二代目がマスコミから逃げ切ったとはいえジュニア級のウマ娘達が一面で取り上げられるのはいまだかつてない。

 

「そうだね。おかげで隠れ蓑になれるよ」

 

『隠れ蓑か……確かに俺達の世界のオグリキャップの時よりか倫理的で助かっている部分がある。まあ一部例外はいるがな』

 

 先代が二代目の身体を使って取り寄せた新聞の一面は別のものだった。

 

【アイグリーンスキー帰国後、まさかの逃亡!】

 

【KGⅥ&QESウマ娘の逃げ足は伊達じゃない】

 

「とても新聞とは思えない記事ね。確かに私のことを追いかけたくなる気持ちもわかるけど、ウマ娘にそれをやったら駄目ってわからないのかな?」

 

 二代目が優雅にメロンを食し、そうコメントする。

 

『まあウマ娘の魂にあたる競走馬ってのは本来草食動物で臆病な奴らだ。草食動物ですらない犬にせよ、追いかけようとしたら逃げることもある』

 

「先代の実体験?」

 

『種牡馬を引退した時に経験した。俺の身体が大きいこともあっただろうがTV撮影用のシベリアンハスキーと一緒に写真撮影しようと近づいたら逃げられた』

 

「可哀想な先代」

 

『だからといってお前が逃げる理由にはならないがな。お前はこの世界の俺なんだからよ』

 

「……善処するよ」

 

 二代目が気まずそうにそう答え、メロンソーダに手をつけた

 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 モミジブランド、略してモブと呼ばれるウマ娘こと私はチームトゥバンに所属している。チームのGⅠ競走勝利数は全盛期に比べたら落ち目ではあるものの、それでも勝利し続けていて間違いなくトップクラスといえる。

 

 しかしチームトゥバンの恐ろしさはその規模。どんな落ちこぼれウマ娘でも受け入れてしまうウマ娘の救済場所とも呼べるチームで、その規模は最大級。3人のメイントレーナー、特別講師のサンデーサイレンス先生、そして数多くのサブトレーナーによって支えられている。

 

 

 

 しかしそんな救済場所のチームの上位のウマ娘が弱いかとそんなことはない。むしろ逆で世代を代表するウマ娘がいるくらい。

 

 日本史上初となる海外の国際GⅠ競走、それも世界最高峰のレースKGⅥ&QESを勝利したアイグリーンスキー先輩、昨年のJCを勝利し今も前線で奮闘しているヤマトダマシイ先輩がチームを引っ張っている。

 

 その上の世代にも二冠ウマ娘サクラスターオー先輩、ダービーウマ娘メリーナイス先輩、更にシンボリ家から分家を許されたマティリアル先輩もいる。

 

 また今年のチームトゥバンはフジキセキを初めとしたジュニア級が強く、メイクデビューの勝ち上がりが最多となっていて私も勝ち上がり、期待されていた。

 

 

 

 そんなチームに所属し、私も先輩達のようにGⅠ競走を勝って名前を連ねたいと思い、食堂に向かうとそこには今話題のウマ娘──アイグリーンスキー先輩が新聞を読んでいた。

 

「アイグリーンスキー先輩、今日は何を食べるんですか?」

 

「アイグリーンスキーSP(スペシャル)よ」

 

 先輩の皿には普通のメロンと夕張メロンと……とにかくいろんな種類のメロンが盛り付けられており、飲み物ですらメロンソーダという有り様だった。

 

「メロンばかりじゃないですか!?」

 

「メロンはね、癌を予防してくれる素敵な食べ物なんだよ? いい? デザイナーフーズ計画の3群に含まれていてその中でもトップクラスに癌予防効果がある*3って研究データーがあるのを知らないの? 更に言うならVの──」

 

 早口で蘊蓄をまくし立てられるその姿はオタクか何かを想像してしまうのは私だけでなく周囲にいたウマ娘からも引かれていた。

 

 

 

「いやそんなことを急に言われても……」

 

「それにメロンだけじゃない。ちゃんとメロンサンドとかあるでしょ?」

 

「メロンサンドって何っ!? パンがメロンをサンドしているんじゃなくてメロンがパンをサンドしているじゃないですか!? どうやって食べるんですか!?」

 

「それはこうと」

 

 先輩がメロンサンド(仮)にフォークを突き刺し丁寧かつ豪快に食べる。

 

「いやどんだけーっ!?」

 

「モブちゃん、それはそうと食べる? このメロン丼」

 

 先輩が私の突っ込みをスルーして取り出してきたのは一口サイズに切ったメロンを大量に入れ、それにご飯をかけたどんぶりだった。

 

「いや逆ぅぅぅっ!」

 

「逆? 何を言っているかわからないよ」

 

「先輩のメロン好きは異常です! マヨラーだってマヨネーズにご飯をかける真似はしません! もっとマトモ!」

 

 ──食事に対する冒涜です! 

 

 そう言ってしまうぐらいには荒れていた。

 

「でもナリブ──ナリタブライアンはそれ以上だから」

 

 ナリタブライアン先輩を見ると野菜なし、ステーキのみの食事だった。なんだろう、ステーキだけなのにまともに見えてしまうのは

 

 

 

「とにかく、そのメロンだらけの食事は止めて下さい。みっともない!」

 

「ならあそこを見てみなよ」

 

 不機嫌になった先輩に促されそちらをみると「ニンジンなんぞ知ったこっちゃねえ!」と言わんばかりにバナナを一心不乱に食べ続けるビワハヤヒデ先輩、その隣には比喩表現なしに山盛りのご飯を食べ続け、暴飲暴食をし続けるオグリキャップ先輩だった。

 

「あれを見ても私がみっともないって言える?」

 

「……」

 

 確かにあの二人に比べたらまだマトモかもしれない。そう思えてしまうくらいには二人が異常だった。

*1
桜花賞、優駿牝馬、秋華賞の所謂史実の牝馬三冠

*2
史実ではエネイブルがBCターフを制覇している

*3
あくまで一説




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト11
101.電話帳の番号を書き換えてはならない
102.貴殿方の行動次第で緊急事態となりますのでイタズラは控えるようお願いします
103.緊急事態が発生した場合は貴殿方が対処する必要はありません
104.電話番号案内の声をボイスチェンジャーを使って犯罪者に使う声にしてはならない
105.15×9=市外局番案内などという謎の方程式を教えるのを止めましょう
106.電話詐欺師にコレクトコールをして通話料金を払わせてはならない
107.この番号を利用しても無駄です。列車受付コールは既に終わりました
108.イタズラ電話をする為に自動コレクトコールの機能を停止させてはならない。
109.永久欠番なんてものはありません
110.パトカーのことを犯罪者専用タクシーと呼ぶのを禁止します

この第62Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

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第63R 閑話 生きる伝説

・ヒサトモ
≫シンボリルドルフを管理した調教師がルドルフよりも上と評したクリフジの関係者達ですら全盛期のヒサトモには敵わないと言わしめた史上初の牝馬ダービー馬
≫分かりやすくいうとシンボリルドルフがエフフォーリアだとするなら、クリフジはディープインパクト、ヒサトモは全盛期サイレンススズカのような関係であり一概にどれが最強か言えない
≫主な子孫にトウカイローマン、○○○○○○○○などがいる。○の中はネタバレなので伏せときます

・エフフォーリア
≫2021年の年度代表馬。無敗で皐月賞を制しダービーこそ負けたが天皇賞秋では前年の無敗三冠馬コントレイルを破り、有馬記念ではクロノジェネシスのグランプリ4連覇を阻止し現役最強と言える
≫ダービーで負けた要因として騎手が悪かったなどと言われているがそれだけとは限らない。父、父父、母父が全てダービー2着の血統など色々な要因が積み重なった結果がダービーの惜敗であり、むしろその能力は高いことを示していた。どれか一つでも要因を取り除けたらダービーを勝っていたと推測される

・ベアナックル
≫みどりのマキバオーに出てくるギャグキャラ。マキバオーの作者曰く「常に万全という前提ならベアが最強」とのことで、実際ナリタブライアンやマヤノトップガンをモチーフにした馬が二人がかりでも敵わなかった競走馬相手に120億級の出遅れをしたにも関わらず差しきって勝利を収めた
≫たいようのマキバオーでは地元の九州では英雄扱いされており、麒麟のような銅像が飾られ、Wでは彼と思わしき獣が南米で登場しており伝説扱いされている。また気性難は世界(おそらく史実のヘイローやSSと同格以上)レベルで知られており、ベアナックルが比較対象に挙げられるシーンも多数ある

・120億級の出遅れ
≫2015年の宝塚記念でゴールドシップが出遅れて合計約120億円分の馬券をただの紙切れにした事件、あるいはそれと同じくらいの出遅れのことを指す。前者のことを120億事件とも

・奉仕活動
≫奉仕活動と一言に言っても色々とあるがこの場合はどちらかというとウマ娘のデジタルが放った意味に近い。育成実装された星3ウマ娘を引く為に作者は設定のみになっても引きたいウマ娘の小説を書いている。その結果、何故か書いてすらないファインモーションやサンタビワハヤヒデが出たよ……

・物欲センサー
≫ガチャとか運が絡むアイテムでそれを欲しいと思うと却ってそのアイテムが出にくくなる(と思われる)現象で、よく「物欲センサーに引っかかる」とか言われる。
≫逆に無欲であると良いアイテムが引ける場合があり、無関係な人物にガチャを引かせると自分が欲しいと思った物が手に入ることがある
≫しかし物欲センサーはあくまでもセンサーであり引っかからない時もある。
≫作者の物欲センサーが引っかかるのはミホノブルボン、フジキセキ、タイキシャトル、ナリタブライアン、セイウンスカイ。


・年末ガチャと新年サービス
≫ファインモーションの後、タマモクロスが実装され作者はタマモクロスとカワカミプリンセスを無料ガチャで気合いで引いた

・カワカミプリンセス
≫前述した通り気合いで引いたが、それまでの間引けなかった。ちゃんと作者の拙作の一つであるサイレンススズカのif小説でカワカミプリンセスを優遇しているはずなのに何故今更やねん!

・ウマ娘におけるレース場
≫公式のウマ娘では競馬場と呼ばずレース場と呼び、その設定であったがアプリではレース場の一部に何故か馬の字を変えた競馬場と書かれている。例えば阪神レース場と表記する場面で阪神競馬場と表記されているのでレースをカットせずに見てもらいたい

・三大始祖
≫現在現役の競走馬の父系を辿っていくとバイアリーターク、ゴドルフィンアラビアン、ダーレーアラビアンの三頭に行き着くがダーレーアラビアンが9割前後を占め他は過疎化している
≫また彼らの子孫である、ヘロド、マッチェム、エクリプスを三大始祖と呼ぶ場合もあるがそれは彼ら以外に父系としての子孫を残していないからで事実上という意味では彼らが三大始祖と言える
≫日本でダーレーアラビアンが父系の始祖でない競走馬と言えばパーソロン系(シンボリルドルフ、トウカイテイオー、メジロマックイーン)やマンノウォー系(オートキツ、イットー、クライムカイザー等)が挙げられる
≫ウマ娘では彼らがモチーフと思われる三女神として登場。
≫しかしながら誤解しないで欲しいのは現存する全てのサラブレッドの父系の始祖がこの三頭なだけであり、ありとあらゆる種牡馬の母系の父系を辿ると血統表に三大始祖以外にも一代前に血統表の先が不明な競走馬が現れ、その数は三大始祖を含めて102頭に及ぶ。詳細は【ジェネラルスタッドブックの序巻】を参照

・ジェネラルスタッドブック
≫分かりやすくいえばサラブレッドの血統書の辞書。現代ではサラブレッドやサラ系の定義等も記載されており、序巻には102頭の競走馬が記載されている

・シンボリルドルフ産駒のヤマトダマシイ
≫GⅠどころか重賞未勝利かつ公式にされていない競走馬が二次小説で名前を三つ以上の小説で見かけるのはこのシンボリルドルフ産駒のヤマトダマシイだけ。もちろん最初に彼がウマ娘として登場したこの作品も含める
≫何故そこまで有名かというとこの小説を見て書き始めたから……などという理由ではなく、ヤマトダマシイがシンボリルドルフの厩務員かつゼンノロブロイの調教師に多大なる影響を与えた馬であるのが主な要因
≫この小説では【皇帝の後継者】の渾名がつけられるがやっていることはシルバーコレクターそのものである

・母父マルゼンスキー
≫文字通り母父がマルゼンスキーの競走馬のこと。
≫ウマ娘になった競走馬はウイニングチケット、ライスシャワー、メジロブライト、スペシャルウィークが該当。現在ではスペシャルウィークを通してブエナビスタやエピファネイア、デアリングタクト、エフフォーリアなど子孫を残している

・史実における各トレセンのボス馬
≫美浦だとシンボリルドルフとゼンノロブロイが該当。シンボリルドルフは一睨みで他馬を黙らせ、ゼンノロブロイに至っては同厩舎のシンボリクリスエス相手にボスの座を奪っただけでなく遠征先でも僅か一週間でボスになってしまう程のボス馬。
≫栗東だとトーセンジョーダン。何のジョーダンだと思うかもしれないがガチのボス馬。こいつは厩舎ではなく栗東全体のボス馬であの気性難で知られるオルフェーヴルですらトーセンジョーダンに一睨みされただけで大人しくなるほどだった。冗談だろ?と思うが事実である。尚、ボス気質の強いゴルシはそれを良しとしなかった為トーセンジョーダンに喧嘩を売ることが多々あったが相手にされなかった模様


 サンデーサイレンスが訪れた場所、それはある一軒家だった。

 

「浜野日佐子さん初めまして。私が日本トレセン学園特別講師のサンデーサイレンスです」

 

 珍しく敬語になるサンデーサイレンス。浜野と呼ばれた女性にはウマ娘特有の耳が存在し、人間のそれではないことを示しており、サンデーサイレンスが敬意を示すウマ娘が彼女であることが伺える。

 

「サンデーサイレンスさん、トキノミノルとは違って私の名前は禁じられていないから、ヒサトモでかまいませんよ。ウマ娘としての私に会いに来たのでしょう?」

 

「ではヒサトモさん。貴女のような偉大なウマ娘と御会い出来て光栄です」

 

「確かにダービーこそ勝利しましたが、連対率100%、GⅠ競走6勝のサンデーサイレンスさんの戦績に比べたら私など吹き飛ぶような戦績ですよ」

 

「何を仰られるか。負けた回数や惨敗した数こそ多いけれど全盛期の実力はクリフジに勝るとまで言わしめ、米国を畏怖させた最初のウマ娘。それが貴女なのですから」

 

 サンデーサイレンスがべた褒めする姿に武田ハルが目を丸くする。

 

 

 

「御褒めの言葉ありがとうございます。ところでそちらの方は?」

 

「武田ハルと申します。先日KGⅥ&QESを勝利したアイグリーンスキーのメイントレーナーをしています」

 

「貴女があの娘のトレーナーさんでしたか。TVで拝見させて貰いましたが素晴らしいレースでした。娘も興奮していました」

 

「その年で娘さんが?」

 

「よく言われますけど妥当な年齢ですよ。既に30年以上生きていますから」

 

「!」

 

「見た目こそ若々しく見えますが身体がガタガタでしてね。だからオークスを勝った妹──トウカイローマンに娘の併走相手になってやれないかと頼んだ訳です」

 

「それは楽しみですよ」

 

「素質もさることながら、肝も大きくて将来が楽しみな娘ですよ。何せあのシンボリルドルフ相手に自分も三冠ウマ娘になるって啖呵切ってきたんですから」

 

「あの娘か」

 

 

 

「さて、雑談は終えて本題に入りましょうか。サンデーサイレンスさん」

 

「それもそうですね。私がここに訪れた理由、米国からの嫌がらせについてのお詫びです。もしあれがなければもっと貴女は勝てたはずだった。米国のウマ娘として謝罪したい……申し訳ありません」

 

「貴女が謝ることではありませんよ。それに私は気にしてはいません。例え不調だろうとウマ娘としての能力が優れていれば勝てる相手は勝てる……私はそれだけの能力がなかった。トキノミノルはそう言った意味では私を超えています」

 

「しかしヒサトモさん、貴女はそれで満足なのですか?」

 

「ええ。確かにクリフジやトキノミノルと言ったウマ娘達と戦えなかった未練がない訳じゃない。でも私はトゥインクルシリーズでやりきった。DT(ドリームトロフィー)に出場することはなくてもそれだけで満足ですよ。例え全盛期の頃に戻ったとしても私は出場することなく一人の観客として応援します」

 

「……そうですかヒサトモさん。ならそのレースを盛り上げる為に協力してくれませんか?」

 

「一体何を?」

 

「それはDTのレベル上げです」

 

「レベル上げ? レベル上げをするほどに弱いとは思えませんが……」

 

「DTは確かに実績のあるウマ娘達が揃いますが、トゥインクルシリーズから引退した者達が集まる所。更に言うなら歴代三冠ウマ娘のうち今年出走するのはシンボリルドルフしかおらず盛り上がりにかけるのが現状。他のウマ娘もトキノミノルは当然、クリフジと言った最強候補もいない低レベルの争いと言わざるを得ないのが日本のDTです」

 

「……確かに、低レベルと言わざるを得ないな」

 

 武田ハルが納得した理由は英国寮にてそのレベルを実感していたからだ。トゥインクルシリーズでは最強格かつ今の状態でDTクラスに行ったとしても勝てると予測出来る二代目が英国寮のDTクラスのレベルについていけなかった。それだけ世界は遥かな高みに到達しており、現状ではまるで敵わない。

 

「それで具体的には何を?」

 

「無論──」

 

 それからサンデーサイレンスが説明するとヒサトモ、そして武田ハルが目を丸くし、ヒサトモがそれを条件付きで受け入れると武田ハルが再び驚愕し、サンデーサイレンスに尋ねた。

 

「本当にそれをするのか?」

 

「無論だ。無謀でもやるしかない」

 

「そうか……学園内のことは私が引き受けよう。お前は外のことを任せる」

 

「それが適任であろうな」

 

 サンデーサイレンス達がまとめ、結論を出しヒサトモの条件を達成する方針に切り替えるとヒサトモが茶漬けを出した。

 

 

 

「では楽しみにしていますよ。お二人共」

 

「貴重な時間を頂きありがとうございました。では失礼します」

 

 茶漬けを食べ終えた二人がその場から去るとヒサトモが娘に向かって声を出す。

 

 

 

「テイオー、もういいわよ」

 

「ママ、どうしてボクを除け者にしたのさ? トレセン学園の偉い人がボクのことをスカウトしにしたんでしょ?」

 

「今回は違うわ」

 

「ふぇっ!? じゃあなんなのさ!?」

 

「それは秘密よ」

 

「ぶーっ、ぶーっ! イジワル!」

 

「でも近いうちにとても楽しいことが起こるわ。それを楽しみにしててね」

 

「えっ、シンボリルドルフさんがウチに来るとか!?」

 

「外れ。その時までお楽しみにね」

 

「えーっ!? 何だろう、楽しみだなー」

 

 

 

 ──私の可愛いトウカイテイオー、強いのはシンボリルドルフだけじゃない。シンボリルドルフだけに拘らず強くなって欲しい……それが私の楽しみなのよ

 

 

 

 ヒサトモがそう心の中で呟き、娘トウカイテイオーを見つめる。それは間違いなくトウカイテイオーを思う母の気持ちだった。




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト12

111.ウマ娘専用の道路及び線路を無断で作成してはならない
112.共同電話といって電話を貴殿方とシェアしたウマ娘にイタズラ電話をしてはならない
113.スマホなど故障した機械をエアシャカールに押し付けてはならない。
114.ウマ娘がどこにいるのか掌握するのは結構ですがプライベートを公開しないで下さい
115.ラジオ放送局を開設してはならない。例えその資格があったとしてもです
116.これまでウマ娘諸君には良い環境でレースをする為に副業も認めてきましたがそれすらも禁止しなければならないようです
117.エイシンフラッシュのうまスタ更新が定期的に行われるのを利用して、妄りに更新させてはならない
118.貴殿方が海で溺れているからといって安易に海上保安庁を使ってはならない。安易に使った結果、隣国と一触即発になったことは許されません
119.火災等が発生した際に貴殿方がすべきことはその現場から離れることです
120.貴殿方に許される行動は別紙参考にとは言いましたが、それをやり過ぎてはならない


この第63Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

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第64R UFOvs神のウマ娘vs復讐

・尻を拝む
≫実はマキバオーネタ。とある仏国の馬(マキバオー達の馬は話せる)が発した台詞が元ネタとなっていて、作者はそれを頻繁に用いている

・ナリタトップロード
≫サッカーボーイ産駒の菊花賞馬。通称トプロ、あるいはNTR、トップロードのいずれかで省略されることが多い
≫テイエムオペラオーの初期のライバル……というかクラシック期はむしろアドマイヤベガとナリタトップロードが中心でオペラオーは二頭に割り込んできた脇役でしかなく、高く評価されていた馬だった。ついでにルッキングもその順番だった
≫水面を跳ぶように走る走法が有名で、良馬場などスピードの出やすい状態を得意としていた一方、雨や小回りになる中山がとにかく苦手で2000mのレース以外では酷い成績であり、ラストランとなった有馬記念で一番人気のファインモーションに先着するが4着に入るのがやっとという有り様。逆に中山2000mでは複勝率100%で弥生賞ではアドマイヤベガに勝利し、02年の天皇賞秋でシンボリクリスエスに迫る2着とかなり強かった
≫ウマ娘ではナリタタイシンやナリタブライアン達に遅れる形で公式化。ウマ娘における委員長とスペを足して2で割った性格で語彙力がないことで知られている。メインストーリーでオペラオーかアヤベかトプロかそれとも別の誰かがメインになるのかそれはまだわからない……と思っていたがついに最終章を迎えてメインストーリーにおける99世代の出番を察した

・アドマイヤベガ
≫父は大種牡馬SS、母は二冠牝馬ベガ、母父も大種牡馬トニービンと当時としては日本最高峰の良血馬でしかもグッドルッキングホース。鞍上もスーパークリークを始めとした名馬達の騎手であり非の打ち所がないくらい評価が高く、弥生賞でトップロードに敗れるまでは世代一番手の評価を受けていた。尚、ルッキングも世代ナンバーワンだが母親は不細工だった
≫弥生賞や皐月賞で敗北した雪辱を日本ダービーで晴らすがその後トライアルで勝利するも菊花賞で敗北し宝塚記念に向けて調教中、故障発生し引退。種牡馬入りしても数少ない産駒からGⅠ馬を輩出し良血馬としての期待に答えた
≫省略の仕方がスマートファルコンと同様に競馬出身とウマ娘出身で異なる。競馬出身ならアドベ、ウマ娘出身ならアヤベと省略する
≫ウマ娘のサブストーリーでは双子や降着など史実ネタを露骨に詰め込めている一方で、史実のアドベの弟であるアドマイヤボス(3歳7月のデビューから僅か3戦目でセントライト記念制覇)やアドマイヤドン(朝日杯FS、帝王賞等)といった存在がなかったことにされている……いやそこは出せよ!尚、作者はアニバーサリーで出た模様。

・キタサンブラック
≫某演歌歌手が実質的な馬主の競走馬。史実ではドゥラメンテに一度も勝てなかったが、GⅠ競走7勝(菊花賞、大阪杯、天皇賞3勝、JC、ラストランの有馬記念を制覇)しており間違いなく歴史上でも最強候補に挙がる競走馬。特に天皇賞春でディープインパクトのレコードを更新したのは記憶に新しく、ラストランの有馬記念でそれまで国内獲得賞金ランキング1位だったテイエムオペラオーを2位に引きずり落とし、記録にも新しい競走馬となった
≫ちなみに歴代最強候補の競走馬としては珍しく現役時代にライバルらしいライバルが多いのも特徴で、皐月賞から4歳宝塚までドゥラメンテ、4歳有馬から5歳春天まではサトノダイヤモンド、それ以降はサトノクラウンの名前が挙げられ、特にドゥラメンテは高い壁とも呼べる存在のライバルだった
≫しかし最強候補に上がっても種牡馬としての活躍はそこまで見込まれていない。もちろん理由があり、キタサンブラックの父親がディープインパクトの全兄であることやキタサンブラック自身がスピードよりも豊富なスタミナで勝負するタイプであり現代日本の競馬に合っていないことが主な要因としてあげられるが、きっちりGⅠ馬を出すあたりサクラユタカオー(バクシンオーの父)の血が働いたと思われる
≫アプリ版ウマ娘では超優秀なサポートキャラでアプリをやっている人は知らない人はいないレベルで有名。ユーザーの皆さんの使用率はダントツで1位。それ故に育成キャラで出るのは暫く後と思われたが、まさかの一周年で育成キャラで実装。ミスターシービーが来るかと思いきや予想外にも程がある。育成では皐月賞や日本ダービーで高い確率でキタサンブラックに迫る(あるいは勝利する)順位で特定のモブキャラがゴールしているがドゥラメンテがモデルと思われる

・マチカネタンホイザ
≫ミホノブルボン世代こと92世代の競走馬。日本が誇る大種牡馬ノーザンテースト産駒の中で最も賞金を稼いだ競走馬であり、特に菊花賞ではミホノブルボンを一度差してあわやというところまで追い詰めるなど強かったが、怪我や病気など不運が続きGⅠ競走勝利には至らなかった
≫ウマ娘ではかなりの努力家で知られていて、イベントサポートカードにもなったが得意練習が根性なのでオールBの育成論では助かったがSP&PW特化型になるとリストラ要員になってしまった。しかし、新シナリオで根性サポートが最強となり共に復権を果たした
≫星2での育成ウマ娘として実装された。ちなみに星3で追加されなかったのは彼女が初めてである。尚、GⅠ勝利の台詞は某回転寿司屋を彷彿させるのでウマ娘に興味が沸いたら是非とも引いて欲しい

・サトノダイヤモンド
≫キタサンブラックの中期のライバルにしてサトノの冠名の最高傑作とも言える競走馬。父はリーディングサイアーのディープインパクト、母はアルゼンチンのGⅠ競走3勝、2着5回を果たしたマルペンサという良血でありセリで2番目の高額となる2億3000万円で取引され、新馬戦では自身取引額を上回った高額で取引された馬相手に圧勝。その後、2戦し無敗のまま迎えた皐月賞で3着、ダービーでは2着と惜しいレースが続き敗北を重ねたが神戸新聞杯では後の宝塚記念馬ミッキーロケット相手に勝利し、菊花賞で連勝を重ね、有馬記念でキタサンブラックとの初対決を見事制覇し、翌年阪神大賞典ではナリタトップロード以来となる3分2秒台での勝利を果たす
≫とまあここまでくればかなり強いように思えるがサトノダイヤモンドの衰退はここから始まった。天皇賞春ではキタサンブラックに屈して3着と悪くはないのだが、微妙な着順であり、凱旋門賞制覇を目指して遠征するもトライアルレースの時点で惨敗、そして本番では2桁順位と昨年までの活躍が嘘のように惨めになっていった。その翌年の春も不調さは変わらずいい所を見せずに終わり、ようやく京都大賞典で復活しJCでは従来のレコードを上回るタイムで走破するも6着。その次走有馬記念でラストランとなるがそこでもいい所見せず6着と敗れ引退した
≫ウマ娘ではキタサンブラックと同級生という設定で登場するが早熟なキタサンブラックとは異なりデビューが一年ずれており追いかける形となる。尚、作者の成果はサトノダイヤモンドの代わりにハロウィン米をまた引いた……なんでやねん!

・フジキセキ
≫以前にも解説したと思うが作者がブライトをスルーしてまで石を貯めまくった結果引けたので記載
≫通称【幻の三冠馬】。この渾名をつけられた理由はフジキセキに負けた馬達が頭角を表し、皐月賞やダービーといった大舞台で活躍した為、「もし無事に走れたなら三冠馬になれただろう競走馬」と言われ【幻の三冠馬】という評価を得た。特にジェニュインは皐月賞だけでなくマイルCSをも勝利し天皇賞秋でも3着と古馬になっても活躍しており、決して弱くないから尚更評価があがった。ちなみにこの渾名はアグネスタキオンにも用いられるがアグネスタキオンとは異なりフジキセキはクラシック未勝利のまま引退している
≫この小説ではゴルシ並のイタズラガールだが、公式では役者志望だった自称エンターテイメントのウマ娘。元々役者志望だった為か宝塚のような男役だけでなくヒロインや語り手といった役も出来る。ちなみに甘い物が好きな傾向のあるウマ娘としては珍しく甘い物が苦手でプロフィールやイベントでもその事が語られている

・セイウンスカイ
≫フジキセキ同様以前にも記載したと思うがイベントで引けたので記載。
≫以前に書いた解説に捕捉だけ。ウマ娘のセイウンスカイがセイちゃんと自称するのに対して史実のセイウンスカイはウンスと省略されることが多い。ウマ娘になったからと言ってウンスのスを子に変えることはしてはならない。いいね?
≫ちなみに書いている間にニシノフラワーが育成キャラとして実装されたのでそれについてもさらっと解説。詳しい解説は後日ヤエノムテキと同様に行う。史実のウンスとの関係は同じ馬主で世間が認める夫婦だが史実はウンスが年下なのでおねショタな関係ともいえる。

・アンケート結果発表
≫アンケートの結果は【デカくて白いアイツに憑依】に決まりました。自分をゴルシだと思っているマックイーンが主人公の小説連載をお楽しみに!
≫「お前らどんだけマックイーン好きなの?もっと時間が経てば考えも変わるよね?」と考えて時間を置きましたが票もそこまで集まらないしそろそろ良いかなと思い発表しました
≫ちなみにどうでもいいですが作者が一番力を入れていたのは【89式和製ビッグレッド】で、遅くなった原因はお察しください

・メジロマックイーン
≫前にも紹介したが一応。以下マックイーン。史実のマックイーンはメジロ牧場ではなく別の牧場で生まれるが病弱だったが素質は高く評価されており、メジロライアンと並んで2番手あるいは3番手という評価だった。ちなみにパーマーは全く見向きもされなかった
≫また現役時代も実力の割にファンが多くなく、メジロライアンの方が人気があり、またしてもパーマーほどではないにせよ不遇だった
≫競走馬引退後は種牡馬入りするもSS等の三大種牡馬が全盛期ということもありGⅠ馬を輩出することは出来なかったが、母父としてはかなり優秀で特に父ステイゴールド母父メジロマックイーンの配合はステマ配合と呼ばれドリームジャーニー・オルフェーヴル兄弟、ゴールドシップがその代表である
≫尚メジロライアンやテイオーは母父としてはマックイーンに負けているが、父としてはマックイーンよりも優秀でGⅠ馬を輩出している。メジロパーマーの種牡馬成績?そんなもの察しろ
≫そんなマックイーンを不憫に思った作者が【青き稲妻の物語】や【皇帝、帝王、そして大帝】のラスボス級のチート馬、シンキングアルザオの父親としてマックイーンを選んでおり、優遇している。尚、メジロパーマーは相変わらず不遇なままである
≫ウマ娘のマックイーンはお嬢様の皮を被った芸人であり、しかもボケを無自覚にするものだからうまよん等の作品によってはゴールドシップですら真顔になることもある
≫よく二次創作で「パクパクですわ!」などとネタにされているがこれは史実のマックイーンが大型の馬で調整が難しかったことに由来している。しかし公式でウマ娘のマックイーンがそれに似たことをしても直接発言したことはない

・ニシノフラワー
≫92世代のマイル及びスプリンター。スプリンターと言えばサクラバクシンオーが挙がるがこのニシノフラワーは成熟する前とはいえサクラバクシンオーを短距離GⅠの舞台で破っており、スプリンターとしての実力も一級品である
≫ウマ娘の彼女は小学生からの飛び級をした現在唯一確認されている存在で一コマではおバカギャル達に「ニシノ神」と称えられ、テイオーからは「教科書よりも分かりやすい」ノートを作成していることから飛び級も納得の優等生であることが伺える

・ヤエノムテキ
≫オグリキャップ世代こと88世代の皐月賞馬。皐月賞馬としては評価は微妙なところがあるのは仕方なく、何せ皐月賞の前哨戦に使った毎日杯でオグリキャップに完敗した上に、オグリがクラシック登録出来なかった為に皐月賞でリベンジを果たそうにも果たせず【オグリ不在の皐月賞馬】という不名誉な称号を得ることになってしまった
≫その後ダービー等GⅠに出走するも勝てず誰もが終わったと思ったが平成3強のスーパークリークとイナリワンが不在となった天皇賞秋でオグリキャップに勝利し、皐月賞馬でありながら皐月賞のリベンジを果たした稀有な馬である
≫ウマ娘の彼女は気性が荒くそれを落ち着かせる為に武道を嗜む武道派少女。

・アイネスフウジン
≫90世代のダービー馬。朝日杯3歳Sを制し共同通信杯と連勝したが弥生賞と皐月賞で敗北し、19万人の観衆の中、屈辱の三番人気で日本ダービーを迎え、逃げてダービーを制した
≫競馬をただのギャンブルからスポーツに変えた馬であり、ウイニングランや○○コールが定着し始めたのはアイネスフウジンが元で、その年のオグリキャップが有馬を制した時はオグリコールが鳴り止まなかった。もしアイネスフウジンがいなければオグリキャップのオグリコールもなかっただろう。
≫ウマ娘の彼女は下の兄弟の為にバイトをするバイト戦士……なのだが、もちろん元ネタがあり出身牧場は1968年のアサカオー以来重賞馬を輩出せず倒産寸前まで貧困状態に陥り、タマモクロス程ではないにせよかなり貧乏でおそらくそれが由来となっている。また下の兄弟云々についてはアイネスフウジンの下に双子の兄弟が競走馬としてデビューした馬がおりそれが由来となっている。タマモクロスといい、アイネスフウジンといい何故か貧乏な家庭に兄弟が多いのは気のせいだろうか?

・メジロパーマー
≫全盛期メジロ三強の一頭。他二頭が関係者からかなり期待されていたのに対してパーマーは存在感が薄く宝塚記念を制したときも牧場関係者がいなかったほど
≫この小説では同時メジロパーマーが実装されなかったこともあり作者の想像でキャラが真島弁のエセ関西人となった
≫公式のウマ娘の彼女はメジロの名前に辟易しており、自信喪失の状態だったがトレーナーや野良レースの対戦相手、ダイタクヘリオスらの手によってレースの楽しみを覚えた。尚、学業の成績はあまりよくない

・力飯
≫チカラめしではなくパワー型サポートのライスシャワーの略。レアスキル円弧のマエストロが確定で手に入り未確定状態のスーパークリークよりも使い易いという理由で使われていたが、チームシリウスのカードが強すぎて現在編成不可能なアオハル杯やゴルシを除いたチームシリウスのメンバー(スペ、ススズ、マック、ライス、チケゾー、ブライアン)の育成に用いられるようになった
≫サポート復刻でフクキタルを引こうとしたら力飯が完凸。チームシリウスを多様しているこっちからしてみたらあんまりである
≫ちなみにTSファイン育成の天皇賞春で幾度なく妨害され、作者には「お兄さま、ライスの小説まだなの?」と問いかけてくる幻聴が聞こえた……だからお前の小説のラストはバッドエンドになるから書けないんだって!

・イナリワン
≫以前にもイナリワンの概要は記載したが今回育成キャラとして実装されたので記載。オグリキャップ同様芝ダートで活躍した。特に長距離が強く当時3000mの東京大賞典、天皇賞春、有馬記念等勝っている……が実は前哨戦に弱く阪神大賞典といったレースでは勝てていない。本番に強かった競走馬ともいえる
≫ウマ娘の彼女は大井出身にも関わらず江戸っこキャラでタマモクロスから「大井は江戸ちゃうで」と突っ込まれている。またそんなキャラからか面倒見はよく些細なことでも誉めたりしている
≫育成キャラとしてはデジタルに続いて芝ダート共にAである為、マイル適正をA以上に高めればダートでも運用可能。また史実通り中、長距離の適正が高くデジタル以上にTS育成ではレースに出られ、レースボーナス重視のサポート編成ならかなり期待出来る。作者は10連×3で引けた。ちなみに最初の一回は星3ダブりだった

・スイープトウショウ
≫以下スイープ。トウショウ軍団最後の大物。秋華賞馬であり牝馬ながらにして宝塚記念を制覇。その後も前線で戦い時代が時代ならエアグルーヴよりも評価されていた馬。実は牝馬の時代を作りあげたのはこのスイープでエアグルーヴ以降牝馬が中距離以上の距離の牡馬混合GⅠ競走を勝てなかったが、彼女が宝塚を制して以降から秋天覇者ヘヴンリーロマンス等牝馬が暴れだし、ウオ&スカ(07ダービー、08大阪杯、安田秋天、有馬)、ブエナ(10秋天等)、ジェンティル(JC連覇、有馬)とかなり強くなっていった
≫ウマ娘の彼女は魔法使いに憧れる少女。基本的にわがままでメスガキと呼ばれるような性格。しかし史実の彼女が厩務員に対して心を開いたようにトレーナーにも心を開くようになる。しかしウマ娘の彼女の気性はまだマシな方であり史実の彼女はもっと酷いのだからお察しください


 そして時は流れ、凱旋門賞当日。二代目がKGⅥ&QESを勝利したこともあり、凱旋門賞の中継が日本ではかつてない程の視聴率を誇っていた。

 

【さあいよいよ大本命がやって来ました。英ダービーを僅か2戦で勝利したラムタラが神のウマ娘と表されるならば、こちらは極東から突如現れた未確認飛行物体! その名をアイグリーンスキー!】

 

 パドックに現れた二代目を観客が見ると同時に大歓声が沸き上がる。

 

『ブーイングが来ないあたり向こうよりかマシか』

 

「一体ブーイングって何があったの?」

 

 先代は元の世界の凱旋門賞でブーイングを経験している。競馬先進国とは言えない極東*1からやってきた競走馬、つまり先代が他の競走馬の出走枠を押し退けてしまった為に起こった出来事だった。

 

『日本のレースの賞金額と欧州のレースの賞金額の違いで起きた悲劇って奴だ。だがお前が気にすることはない。気にするだけ時間の無駄だ』

 

「……そうだね。それにしても先代の渾名と私の渾名が一致するなんて、本当に皮肉なものね」

 

『安心しろ。俺の渾名は最終的に鵺になったからな。未確認飛行物体、妖怪と結び付いてそうなったんだ』

 

「鵺か……でも鵺って確か和製キメラだよね? キメラが妖怪扱いされるのはわかるけど未確認飛行物体とどういう繋がりがあるのかわからない……」

 

『ん? そりゃあれだ。鵺をモチーフにしたキャラと未確認飛行物体が何らかの関わりがあったからじゃないか? 種牡馬生活していたときにそんな話を聞いていたぞ』

 

「へえ、そんなエピソードがあるんだ?」

 

『UFOだが、鵺だかどちらにせよ俺達の武器は予測不可能な点にある。発見されたときにはもう手遅れってことをこいつらに教えてやろう』

 

「うん」

 

『俺はラムタラに二度も負けた。だがお前はあいつに二度負かしてやれ』

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 その一方でペンタイア陣営は二代目に対して執念と呼ぶほど執着するようになっていた。その凄まじさは理不尽(セントサイモン)を利用してまで対策をし、前走愛チャンピオンSでは先着したタマモクロスとシングスピールに10馬身差をつけ圧勝。史実よりも格段に強化されておりいつしか【復讐のペンタイア】とまで渾名されるほどであった。

 

【さあ凱旋門賞を勝つのは一体誰なのか? 神のウマ娘ラムタラか復讐のペンタイアか、それとも極東の怪物アイグリーンスキーか……いよいよスタートです!】

 

 

 

【凱旋門賞スタート! まず行ったのは──そして三番手にアイグリーンスキー、そしてラムタラ、ペンタイアは互いに牽制する形で中団で控えています】

 

 二代目が先行、中団差しのペンタイアとラムタラが警戒する。

 

「アイグリーンスキーの先行の戦法は重賞アーリントンC以来か」

 

「よくそんなレース覚えているね」

 

「アーリントンCで二着につけた差は大差。彼女本来のレーススタイルと言って良いがラムタラ、貴女はどうする?」

 

「そんなものは決まっている。差して勝つ」

 

「ドバイ所属なだけあって嫌みな女……」

 

「ドバイは関係ない。持たざる者と持つ者の違いなだけ。私には彼女をねじ伏せる末脚がある。私の心配をするよりも貴女自身の心配をした方が良い」

 

「ふん、言われるまでもないよ。今までだったらアイグリーンスキー、ラムタラ、そして私の順にゴールしていた。だけど今回はそうじゃない。私の尻を拝むことになるんだよ」

 

「やれるものならやればいい。私は全てを賭ける。命すらもね」

 

 ラムタラがそう呟き、闘志を宿す。

 

 

 

『おい、俺がラムタラと真っ向勝負を仕掛けた結果負けたのを忘れたのか? この位置取りで勝てるほど甘くないぞ?』

 

 ラムタラの前で先行することは先代にとっても予想外で、何故それをしたのか不可解だった。

 

「確かに先代はラムタラに負けた。でも先代とその騎手だけだったから負けた……でも私は違う」

 

『何がどう違う?』

 

「私についているのはトレーナーや学園の皆だけじゃない。先代がついている。もしKGⅥ&QESの時点で先代がついていなかったら私は力尽きて負けていた。先代がいるだけで私に力をくれる」

 

『……それでも油断はするな』

 

「先代のラムタラ恐怖症、今日こそぶち壊すよ」

 

 先代のラムタラに対する反応はもはやトラウマであり、二代目はそれを克服させる為に自らがラムタラを破ることで示す。それこそが先代に対する今までの恩返しだった。

 

 

 

 その頃、日本では。

 

「ブライアン、このレースどう思う?」

 

「姉さんの真似か、あるいは会長の真似か……どちらにせよ歴代の名ウマ娘達が重なって見える」

 

「へえ、あんたはそう見えたのかいブライアン?」

 

「アマさんには何が見える?」

 

「グリーンを通して感じたのは余裕だよ。それこそアタシ達に手加減していたようにね」

 

「余裕と手加減か……アイツは凱旋門賞を無駄なく勝てると思っているのか?」

 

「かもしれないね」

 

「だがロンシャンレース場はアスコットレース場ほどではないにせよ、かなり特殊なレース場。京都レース場のカーブに坂があるのは知っているだろう?」

 

「ああもちろんだ」

 

「当たり前だよ、確かにアタシはバカだけどね、それくらい知らないとレースで食っていけないからね」

 

「知っていて何よりだ。京都レース場の第三コーナーから第四コーナーにかけてはゆっくり登ってゆっくり下る。これが鉄則だ」

 

「まあね」

 

「ところがロンシャンレース場は京都レース場よりも遥かに高低差があり、しかもフォルスストレート(偽りの直線)というのもあり、下る勢いでロングスパートすらもかけることも出来ない」

 

「下る勢いでロングスパート?」

 

「京都レース場は下りが終わった後短い直線で曲がりさえスムーズに済ませばスパートをかけることも可能だ」

 

「ロンシャンは何故出来ないんだ?」

 

「あまりにも直線が長すぎるからだ」

 

「直線が長い?」

 

フォルスストレート(偽りの直線)、つまりカーブが終わった後の直線とその先にある最後の直線に別れるが最後の直線だけでも東京レース場よりも長い」

 

「っ!」

 

「そんな最後の直線だけでも東京レース場よりも長いのに下り坂時点でスパートをかけたら当然失速する。だから理論上で京都レース場で下りのスパートが出来たとしてもロンシャンレース場にそれは出来ない」

 

「なら差しや追込が有利ということなのか?」

 

「いいやそうとも限らない。凱旋門賞の特徴はあまりにもスタミナを喰う、つまり消耗戦といえそのスタミナが少しでも残っているウマ娘が勝つようになっている。並外れたスタミナを持つウマ娘こそ凱旋門賞を勝つといっても過言ではない。だからこそKGⅥ&QESを勝てたウマ娘、今年であればグリーン君が有力視される」

 

 

 

「何故そこでKGⅥ&QESと関係が?」

 

「KGⅥ&QESが行われるレース場はアスコットレース場。このアスコットレース場というのは理論上世界屈指のスタミナ勝負になりがちなレース場だ。それこそKGⅥ&QESの方が凱旋門賞よりもスタミナ勝負になる」

 

「同じ距離なのにか?」

 

「そうだ。アスコットレース場の高低差はロンシャンレース場の2倍、つまり20m……もはや高低差5.3mの中山の急坂が可愛く見えるものだ。そんな高低差のあるレース場で2400mのレースなんて京都レース場で3600m走っているのと変わりない。それほどまでにタフなレース場なんだよ」

 

「ハヤヒデ先輩、それなら心配は無用って訳かい? KGⅥ&QESの舞台でスタミナ勝負で競り勝ったんだ。負ける要素が見当たらないね」

 

 ヒシアマゾンがそう言うがナリタブライアンが不安げに呟いた。

 

「だといいがな」

 

 

 

「ブライアン、なんでそんなに不安なんだい?」

 

「少なくとも今の私や姉さん、そしてアマさんでラムタラ相手に勝負したら確実に負ける。ラムタラの勝負根性は桁違いだ。KGⅥ&QESで勝てたのは根性勝負に持ち込めなかったのが大きい。だがあの位置だと必ず根性勝負になる」

 

「確かにね……でもグリーンはそれをしているってことは何か考えがあるってことなんじゃないかい?」

 

「パワーだな」

 

 ビワハヤヒデがそう呟き解説する。

 

 

 

「パワー?」

 

「洋芝というのは厄介なものでな、日本の芝とは違い求められるのは高速で駆け抜けるスピードじゃなく芝を掻き分けられるパワーだ。これがなければせっかくのスタミナもどんどん消耗されてしまうだけでなくスピードも出なくなってしまう。そうなれば必然的に失速する」

 

「確かにあいつのパワーはこの学園で随一だ。ダートのウマ娘どころかばんえいのウマ娘達相手にパワーで競り合いが出来てしまうほど……なるほど、それなら分があるな」

 

 ナリタブライアンがそう呟き、ダービーを思い出す。ナリタブライアンが二代目の策により閉じ込められ何度も二代目に突撃しこじ開けようとしたがびくともしなかった。自らの魂を呼び覚ましどうにか同着になったがもし魂が覚醒しなかったら凡走していただろう。それだけ二代目のパワーはトラウマとなり、二度と閉じ込められないように前哨戦で二代目対策の走法をした結果、スターマンに敗北してしまいスランプに陥っていた。

 

「通りで私達が勝てない訳だよ……」

 

 ヒシアマゾンがそう呟き再びTVを見ると状況が変化していく。それはペンタイアが二代目を仕留める為に加速していったからだ。

 

 

 

 仏国、パリロンシャンレース場にて大きな動きを見せたペンタイアがついに二代目を捉えにいった。

 

「悪いけど、あんたの好きにはさせないよ。あんたを仕留める為に寮長(理不尽)に扱かれてきたんだ」

 

「……」

 

「あの寮長に扱かれて極東(辺境)からやって来たあんたに負ける訳にはいかない」

 

「好きにしなさいな。だけど競走妨害はしないでね? そうなったらもっと理不尽な目に遭うよ」

 

「安心しな。凱旋門賞で競走妨害するほどの余裕はない。勝ちに来た……それだけだ」

 

【あーっとここでペンタイアが更に加速! ぐいぐいと伸びて伸びて、今先頭に立ちました!】

 

 

 

「カーブ前で加速って相当なバカか、余程その策に自信があるかのどっちかだけど、ペンタイア程のウマ娘、警戒しない訳にはいかないかな?」

 

『好きにさせろ。二代目の策をぶち壊す程でもない』

 

「かもね。わざわざ潰すほどでもない。どちらにせよ私のレースに無関係なんだからね」

 

 それから二代目はレースに集中し、コーナーを三番手で曲がり、偽りの直線を越え、最後の直線に突っ込んでいく。

 

 

 

【さあ未だにペンタイア先頭、ペンタイア先頭! 日本のアイグリーンスキーは二番手に上がりその後ろ、そして英ダービーウマ娘、ラムタラはまだ中団の位置!】

 

「どんな考えで先行したか知らないがあんたに勝ち目はない。何故なら今の私はラムタラをも上回る!」

 

【ペンタイアが抜かせない、ペンタイアが抜かせない! ペンタイアがアイグリーンスキーに抜かせない!】

 

「確かに大した根性だよ。能力的に限界を迎えているのにまだ先頭に立ち続けている……その執念はこの凱旋門賞で随一と誉めてあげるわ!」

 

【アイグリーンスキーが並んだ! スピードシンボリ達が挑んだ凱旋門賞、ついに悲願達成なるか!?】

 

「させねえ! 極東からやって来た田舎者に凱旋門賞は渡さないし、もちろんドバイの連中にもね!」

 

【しかしペンタイアか、ペンタイアが頭一つ抜ける! ラムタラも上がってきたぞ!】

 

 しかし幾度なくペンタイアがそれを阻害し、二代目に先頭を譲らない。まさしく執念と呼ぶべき勝負根性だった。

 

 

 

「何故あいつは三の脚を使わないっ!」

 

「グリーン君は使っている。実際4番手以降の後続との差は開いている」

 

 ナリタブライアンが激昂するがビワハヤヒデが冷静に返す。事実二代目やペンタイア、そしてその真後ろについているラムタラより後ろのウマ娘はついていけず9馬身以上離されていた。

 

「あの二人が強すぎるって訳かい」

 

「そうだ、KGⅥ&QESの時よりも相手は遥かに強い。だがそれはグリーン君とて同じだ。三の脚で後続をあれだけ離しているのだから間違いなく強くなっている」

 

「はっ、あいつとタイマンするときが楽しみだ」

 

「タイマンする機会なんかないさ。ヒシアマ君、何故なら私がいる。グリーン君を倒すのは私だ」

 

「頭でっかちの姉さんもボケたか? 私の尻を拝んでおくことだな」

 

「ブライアン、私の頭はでかくないぞ! これは髪の毛が膨張しているのであって──」

 

「はいはいコントはそこまでそれよりも見てみなよ」

 

 そうヒシアマゾンが言い放つとラムタラが加速し、ペンタイアと二代目に迫る様子がTVに映し出されていた。

 

 

 

 ──どいて。さもなくば貴女達を処刑する

 

【英ダービーウマ娘、ラムタラがアイグリーンスキーとペンタイアを抜いたーっ!】

 

 残り僅か10m、ほんの僅かな隙をついてラムタラが一歩抜け出し、先頭に躍り出る。

 

 それに食らいつくペンタイア、そしてわずかに遅れた二代目。それを見た日本のウマ娘達が絶望し、TVから目を背けた。

 

「凱旋門賞は無理なのか……?」

 

 日本にいるウマ娘やファン達、そしてURA関係者達が二代目の勝ち目はなくなった。そう思っていた。

 

 

 

 時は遡り英国寮の併走にてそれは起きていた。最後の直線で遅れを取ったニジンスキーにすら追い付けない二代目が呟く。

 

「これが世界だと言うの?」

 

 いくら欧州最高峰の英国寮とはいえ世界の一部でしかない。米国史上最強のウマ娘と言えばシアトルスルーなどが多数候補に挙がるが最終的にマンノウォーかセクレタリアトのどちらかに収束する。

 

 しかし欧州はそうではなく、米国や日本以上に最強候補がおり、二代目はその氷山の一角に触れただけということを理解していた。

 

「冗談じゃない。これくらいで満足出来る訳ないでしょうが」

 

『なっ──』

 

 その瞬間かつてない程、それこそ二代目だけでなく先代ですら経験したこともない豪脚が炸裂し、ニジンスキーまで5馬身離れていた差を刹那の間に一気に3馬身まで縮め、それを見逃さなかったのはごく一部のみで他はミルリーフとダンシングブレーヴの一騎討ちに夢中になっていた。

 

「姉上、見たか?」

 

「ええ」

 

 そのごく一部のウマ娘、ウィンアップとアブソルートの二人が話し合う。彼女達のウマソウル、つまり前世においては先代の血を継いだ孫であり、運命を感じ取っていた。それ故にダンシングブレーヴやミルリーフではなく後方のニジンスキーや二代目に目を取られその様子を見ていた。

 

「あの末脚を炸裂させれば今年の凱旋門賞を勝つのはアイグリーンスキーだろう。少なくとも速さという一点においてはダンシングブレーヴにも劣らない。後は強さだけで、それを覚醒させる要素はラムタラにかかっている」

 

「姉上、それならば凱旋門賞はあのアイグリーンスキーのものということか」

 

「ラムタラが根性勝負に出なければその限りではないがな」

 

 そう姉妹が締めると別の場所へ向かう。その場所は次の戦場だった。

 

 

 

 そして現在、ラムタラに抜かされた筈の二代目がラムタラよりも2バ身先行していた。

 

【な、なんとアイグリーンスキーだ! アイグリーンスキーが完全に抜けた!】

 

「!」

 

「なんだとぉぉぉっ!?」

 

【アイグリーンスキー今1着でゴォォォールっ! 世界を制したのはアイグリーンスキーだ! ラムタラとペンタイアは2着争い、後は離れて──】

 

 ラムタラとペンタイアが驚愕し、再び二代目を差そうとするが時は既に遅くそのままゴール。

 

『二代目、間違いなくお前は俺を超えた。俺の力を必要ともせず、ラムタラに勝った。こんな必勝法を実践出来るのはお前だけの強みだ』

 

 二人がほんの僅か目を離した隙に、二代目が抜け出し勝負根性を出させる暇もなくそのままゴール板を通りすぎ、日本のウマ娘達による悲願達成となった。

 

 

 

 ゴール後、ラムタラの方へ顔を向けるとラムタラとかつて二代目のトレーナーだったトレーナーリーダーが話し込んでいた。

 

 

 

「今回に関してはお前も俺も言い訳の余地はない」

 

「トレーナー、そんなことはない」

 

「ある。お前は絶好調でレース展開もお前のものだった。通常なら負ける要素がない……だがそれでも負けた」

 

「逆だと思う。デカブツに私のレース展開を利用されたから負けた」

 

「利用、されただと?」

 

「そう。私は中団差し、言ってみれば一瞬の切れで勝負するタイプ。しかも併せることで更に加速する闘志を持つ一方で、長く持たせる脚はそこまであるわけではないし、併せなければその加速は出来ない」

 

「確かにKGⅥ&QESの時は併せることが出来なかったが、今回のレース──凱旋門賞のお前はそれが出来た。なのに負けた……俺の指導不足としか言いようがないんだ!」

 

「トレーナー、差しや追込のウマ娘達の末脚が鈍くなるのにはいくらか理由があるのはトレーナーだからわかるはず」

 

「確かにあるが、それだけじゃ済まないんだ」

 

「原因はどうあれ、ドバイの皆にはこう伝えておく」

 

 ──I Green Sky means almighty.(アイグリーンスキーと書いて何でも出来る)とね

 

「そうか」

 

「次のレース、JCは彼女と戦える今年最後のチャンス、それに賭ける。トレーナー、彼女に勝てるよう調整お願い」

 

「わかったそのように調整しよう」

 

「……ありがとう」

 

 

 

「……」

 

『羨ましいのか? あいつらが』

 

「そうかもね。でも私はあの人が最大の壁として立ちふさがったからこそ強くなれた。だからあの人のことは憎んでも憎み切れない……ましてやあんなものを見せられるとね」

 

『なら次のJCで会ったとき伝えればいいのさ』

 

 ──俺の栄光の道の踏み台でいてくれてありがとうってな! 

 

「そんなの出来る訳ないでしょ!?」

 

 いくら悪役(ヒール)よりのウマ娘とはいえ、そんなことを言えるはずがなかった。

 

『どうあがこうが勝者は勝者だ。敗者に投げ掛ける言葉なんて挑発でいい。よく頑張ったなんて言葉はくそ食らえだ』

 

「……もしかして先代って競走馬のラムタラにそう言われたの?」

 

『さあな?』

 

 そう惚けてみせるとペンタイアがこちらに近づき手に肩を乗せる

 

 

 

「よう。してやられたよ。あんな秘密兵器を隠し持っているなんてね」

 

「大したものだよ貴女もね。英国のウマ娘なだけあるわ」

 

「いくら称賛されても日本のお前やドバイのラムタラにやられちゃ意味がないさ」

 

「だけど確実にいえるのは後5m短かったら負けていたのはこっちの方よ」

 

「バカいうな。その時はその時の走り方をするだけだろうが」

 

「ありゃバレた?」

 

「KGⅥ&QESよりもスタミナを消耗していないのがまるわかりでこの場にいる全員が思っているさ。そしてアイグリーンスキーにたらればは通じないとも思っている」

 

「そう? その割りには心が折れてないようだけど?」

 

「そうだ、JC出るんだろ?」

 

「ええ」

 

「たらればが通じないなら事実を引き起こせばいい。今度のJC、出走する」

 

「……!」

 

「じゃあな、楽しみにしているぜ。もちろんゴールの瞬間お前に尻を見せるのをね」

 

 ペンタイアが去り、二代目が先代に対して呟く。

 

「面白いことになってきたよ、先代」

 

『それでこそ二代目だ』

 

 こうして二代目の獰猛な笑みと共にJCを迎えることになる。

*1
日本は2007年から2022年現在まで競馬先進国といえるパート1の区分になっているが1994年時の日本はそうでなくJCの日本馬の戦績は開催時から負け越していた




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト13

121.アグネスタキオンとスーパークリークを引き合わせることを禁止します。互いに悪い方向に両依存し、元に戻すのに1ヶ月かかりました
122.ヒシアマゾンの勝負服を魔法少女の服に変えてはならない
123.上記に付随してウマ娘の勝負服を勝手に変えてはならない
124.改造も禁止です
125.魔法少女のコスプレをしてレースを行う魔法少女ステークスなるものを禁止します
126.生徒会長の渾名を【たった3度の敗北を語りたくなるウマ娘】に変える等黒歴史を抉るを止めましょう
127.メジロ讃歌をメジロ家以外の敷地で歌うことを禁止します。もちろん替え歌や作曲も禁止します。そのせいでメジロ讃歌がゴルシ建設の社歌に変わったのは許されることではありません
128.スマートファルコンのファンの人数についてですが「一つの細胞が3兆個の人数略して3兆人」ではありません。スマートファルコンのファン人数が3兆人を超えたことを素直に祝福しましょう
129.上記について何も突っ込んではならない。誰がなんと言おうとも、例え人類の総数が死者を含めても1000億人強であろうともスマートファルコンのファンの人数は3兆人超です
130.ストロボ、フラッシュが苦手なウマ娘を騙して茶巾縛りしてはならない


この第64Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

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尚、次回更新は西暦2022年7/4です


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第65R 外敵か、宿敵か、ライバルか

・アグネスタキオン
≫セイウンスカイ同様に以前に記載したと思うが、星5になった為解説
≫父はSS、母は桜花賞馬アグネスフローラ、そして兄はダービー馬アグネスフライトという良血馬で01世代筆頭格の競走馬。クロフネやジャングルポケットのいるラジオたんぱ杯、弥生賞ではマンハッタンカフェ、そしてダンツフレームのいる皐月賞を制した天才であり、3歳時点までで後のGⅠ馬になる、またはなっている彼ら全員を打ち破ることが出来たのはアグネスタキオンとエアエミネムのみである。特にアグネスタキオンは無敗で皐月賞を完勝しているので筆頭格といっていいだろう
≫種牡馬入りしてからは産駒、特にダイワスカーレットやディープスカイといった名馬が前線で活躍し、2008年にリーディングサイアーとなる。しかし速さと引き換えに故障が発生しやすい体質の産駒が多く、タキオン産駒で丈夫なダイワスカーレットにしても半兄(種違いの兄)のダイワメジャーと比較すると一目瞭然で、アグネスタキオンの別の渾名に【アグネスポキオン】またはシンプルに【ポキオン】と揶揄されることもある
≫最近、アグネスタキオンの渾名に【音速の貴公子】が定着しているが元々はフサイチコンコルド、二代目がサイレンススズカである(しかしすぐに返上し、今では【影なき逃亡者】)がアグネスタキオンにその渾名で呼ばれたことはなく【天才】か【ポキオン】のどちらかである
≫ウマ娘ではマッドなロマンチストという訳のわからない属性があり、更に史実では兄にアグネスフライトとかいうダービー馬がいるのでもしフライトが実装されたら妹属性も追加される……

・マキカネフクキタル
≫アグネスタキオン同様に星5になった為解説
≫90年代から00年代で名前を上げたマチカネ軍団のエース格。マチカネタンホイザは長く前線で戦い続けた賞金稼ぎだがGⅠは勝てなかった。しかしフクキタルは旧4歳の秋に覚醒。サイレンススズカなどの猛者相手に連戦連勝し、その勢いのままGⅠ競走菊花賞を勝利し、あまりの勝ちっぷりに「20世紀最高の末脚の持ち主」とまで言わしめたほど。その後は故障し京都記念や産経大阪杯で2着に入るのがやっとで勝てず、オペラオーが制した宝塚記念が最後のレースとなりオペラオーの栄光の影に埋もれるようにこっそりと引退した
≫ウマ娘の方のフクキタルは神社の娘で占いキャラ……なのだが奇声をよく上げ、占いの結果次第で強くなるというムラっけがある為にギャグキャラとなっている。フクキタルとタンホイザのイメージでマチカネ軍団の競走馬がウマ娘になった際に奇声を上げるキャラになったら馬主はサイゲを訴えてもいいと作者個人は思っている
≫ちなみにくっそどうでもいいがホーム画面でマチカネフクキタルが焼きそばを食ってボテ腹の状態で歩く姿を目撃した。むしろこれのせいでフクキタルの項目が追加されたといっていい


・ダイワメジャー1/2
≫ダイワメジャーを主人公とした小説のタイトル。らんま1/2のリスペクトで早乙女乱馬が水を被ると女になる体質であるのに対してこちらのダイワメジャー(ウマ娘)は水を被るとウマ娘になる体質という設定だった
≫しかしながらダイワメジャーが主人公の小説が出たこともあり、ボツとなった。この小説を見たいというリクエストがあるなら感想欄以外で要望どうぞ

・愛され系トレーナーがウマ娘達に頭を撫でられる話
≫公式ではスーパークリークがトレーナーの頭を撫でていたが、それを他のウマ娘がやったら……?という小説
≫実は合法ロリorショタなトレーナーがウマ娘達に逆に調教されるのが元ネタで、それをやったらウマ娘のイメージを損なう恐れがあるので上記の健全なものにした。ちなみにそんな発想が出たのは間違いなく昔作者が書いた原作キャラTS男の娘主人公の小説のせい。昔書いておいてなんだが逝かれてやがるぜ……

・寮のボス決定戦
≫ふと思い付いたネタ。ウマ娘の寮長が倒れ、寮長代理にふさわしいのは誰かというのを決める話。登場人物は前々回の前書きの競走馬達のボスを参照

・ゼンノロブロイ
≫史実では武闘派ヤクザ。父は大種牡馬サンデーサイレンス。厩舎のボスだったシンボリクリスエスに喧嘩を売り勝ちそのままボスに就任した経歴の持ち主。シンボリクリスエスが競走馬生活を終えた翌年の秋に覚醒しテイエムオペラオー以来史上二頭目となる秋古馬三冠を達成。しかも達成した時の有馬記念は未だに破られていない日本レコードのおまけ付きの勝利である
≫その翌年も現役を続行したが精彩を欠きGⅠ勝利ならず、更に無敗で三冠を制したディープインパクトの影に埋もれひっそりと種牡馬入りし、産駒のサンテミリオンがオークスを同着という形で勝利する実績を残してはいるが、後継種牡馬はペルーサしかおらず大種牡馬エピファネイアを残したシンボリクリスエスにはおよばない形となった
≫ロブロイが種牡馬として活躍していた頃は戦国時代そのものだった。父SSで有力な種牡馬はフジキセキ等の実績のある古参がロブロイが種牡馬入りした頃には実績を残しており繁殖牝馬を集められず、更にハーツクライやディープインパクトと言った後輩達が自身よりも話題を呼び寄せたこともあり、こんな状況下でGⅠ馬を輩出しただけでもマシといえる。それよりも過酷な状況下で成功出来た例はステゴくらいしかおらず、同期はGⅠ馬を輩出したネオユニヴァースを除いて悲惨なことになっている
≫ウマ娘では眼鏡文系少女。史実がルドルフよりも大柄であるのに関わらず何故か小柄な身体でスイープトウショウに合わせた形となった可能性がある。図書館の主でもあり双方共にボスという共通点があるが史実がカチコミ系ヤクザだったことを踏まえるとくそ大人しくなったと捉えられる

・シンボリクリスエス
≫シンボリ軍団最後の超大物。大種牡馬エピファネイアの父であるが、それ以上に彼の実績が凄まじくむしろエピファネイアがシンボリクリスエスの息子であると言えてしまう。3歳時に天皇賞秋と有馬記念、そしてその翌年も連覇しており特にラストランとなった4歳の有馬記念の9馬身差は今でも有馬記念の最大着差勝利となっている
≫しかし惜しいといえる競走馬でもあり、現役時はタップダンスシチーがいなければ秋古馬三冠馬になっていたし、ダービーではタニノギムレットに敗れている。更に当馬は僚馬のボスだったが前述するゼンノロブロイにボス争いに負けておりシンボリクリスエスがつかむはずだった秋古馬三冠馬の称号もロブロイが獲得している。そして産駒のエピファネイアも皐月賞、ダービー2着と惜しく、孫のエフフォーリアにもダービー2着は受け継がれてしまった
≫ちなみに作者はシンボリクリスエスがまさかこんなに早く実装されるとは思わず、【青き稲妻の物語】はともかくシンボリクリスエスの出ない【皇帝、帝王、そして大帝】では悩みの種となってしまった

・障害競走
≫日本や米国では主流ではないが欧州では平地競走よりも主流で凱旋門賞が前座という扱われ方であり、種牡馬の種付け料も障害専門の方が高く欧州に挑むなら凱旋門賞よりも障害で挑んだ方が価値があると言える
≫ただし前述した通り日本で障害競走はダートを含めた平地競走よりもマイナーな存在であり欧州で種牡馬入りするとき限定である
≫ウマ娘の世界ではアニメ2期でテイオーが「メジロパーマーはハードルは苦手」と発言していることからあることにはある

・各国のダービー
≫英国のダービー、英ダービーを模範にした日本ダービーがあるように他の国にもダービーがある。著名なダービーといえば米国のケンタッキーダービー、愛国の愛ダービー、仏国の仏ダービー、独国の独ダービー、ドバイWCと同時開催のUAEダービー、伊国の伊ダービー、サウジアラビアのサウジダービーが挙がる
≫その中でも特に価値があるのは英ダービーとケンタッキーダービーの二つで次点に日本ダービー、愛ダービー、仏ダービーと続いていく
≫他に挙げなかったダービーは全く価値がないという訳ではないが日本において種牡馬入りした際に制した国よりも価値がかなり下がってしまう為だから

・コリアンダービーとコリアカップ
≫今話題となっているコリアカップについて追記。韓国のコリアンダービー(ダート1800m)は国際GⅠ競走ではない上に韓国産馬限定──お察しの通りかつての日本ダービーと同じ状況にあり、コリアカップを見ても韓国の競馬自体がレベルが低い。日本レコードが1分47秒であるのに対してコリアンダービーのレコードは1分54秒ととてつもなく遅い
≫コリアカップは韓国版JCの立ち位置で創設され計4回行われているが日本馬の出したタイムが韓国馬が出したタイムより明らかに速く、レベルが違うことがわかる。日本馬が強すぎた為かあるいは反日感情が高まりすぎたせいか第4回コリアカップは日本馬は招待されず、それ以降はコロナ感染予防の為中止となっている

・花の47世代
≫昭和47世代こと72世代のことでロングエースやタイテエム等名馬が勢揃いし、ここまで有力なタレントが揃うのは98世代くらいのものである
≫これを解説したのはタイテエムの馬主が「タイテエムをウマ娘にしてくれ」とサイゲに逆オファーしたからでタイテエムを実装するのであれば最低でも他の同世代の馬もウマ娘にしなければストーリーを作成するのが面倒なことになる

・封獣ぬえ
≫東方Projectより。鵺をモチーフとしたキャラクターで性格はあまのじゃく。先代の世界で東方Projectそのものが存在するか確認されていないが、先代の渾名である【鵺】は彼女がモチーフとなっている可能性がある……明言しないのは彼女が正体不明だから、などという理由ではなくそれをやってしまうと色々と面倒な為である


【さあナリタブライアン、既に独走体勢に入って3バ身、4バ身、5バ身、ナリタブライアンやりました! 史上5人目の三冠ウマ娘誕生です! 凱旋門賞ウマ娘よ、我が三冠ウマ娘を見よ、これがお前のライバルだ!】

 

 ナリタブライアンが7バ身差で菊花賞を制し、日本に衝撃をもたらす。

 

 

 

「会長、今のナリタブライアンと三冠達成した時の会長、どちらが勝ちますか?」

 

「恐らくナリタブライアンだろう。しかしナリタブライアンは今の私に勝てない」

 

「それは何故ですか?」

 

「何故なら私は快調だからだ!」

 

「……」

 

「な、なんだその目は!? そんなにつまらないのか私の渾身のジョークは!?」

 

「すみません会長。私には早かったようです」

 

「おいっ!」

 

「さあ会長、このコーヒーでホッと一息つきましょう」

 

「誤魔化され……ふふっ……」

 

「どうしました?」

 

「エアグルーヴ、レースセンスだけでなく駄洒落のセンスもあるとは流石だ」

 

「えっ?」

 

「このホットコーヒーでホッと一息つく。見事だ。確かにこれが相手では、ふふふっ」

 

「あ、あの会長?」

 

 シンボリルドルフが勝手に自爆するとともにエアグルーヴが距離を置く。しかしシンボリルドルフは笑い声を抑えることに集中しておりそんなことを気にしていなかった。

 

 

 

 菊花賞翌日、世間はナリタブライアンを讃える声よりも、二代目と比較する声が上がっていた。

 

「もし菊花賞にアイグリーンスキーがいたら勝てなかっただろう」

 

「アイグリーンスキーのいない低レベルの菊花賞だった」

 

 三冠ウマ娘となったナリタブライアンだが、ミスターシービーやシンボリルドルフに比べ酷評されていた。それというのも凱旋門賞を勝った二代目が不在という不満が積もりに積もっていたからだ。

 

 強力なライバルが不在という状況はシンボリルドルフの時もあったがその時は初期のライバルだったビゼンニシキが早熟かつマイラーだったこともあってか日本ダービーで惨敗、もはや菊花賞トライアルレースの時点でライバルですらなくなってしまい、他にめぼしいウマ娘はいなかった。

 

 しかし今回のケースは違い、二代目(アイグリーンスキー)という世界最高峰のレースを二度も制したライバルがいた。そのライバルがいたならナリタブライアンがレコードを更新してかつ後方に7バ身差という着差をつけたとはいえ、スピードシンボリを始めとした日本の数々の名ウマ娘が惨敗した凱旋門賞をレコードで勝利した二代目の前ではそれすらも霞んでしまう──それが世間の評価だった。

 

 

 

「ブライアン、気にするなよ」

 

「気にしていない。いくら私が菊花賞を勝ってもあいつが凱旋門賞を勝ってしまった以上、評価は向こうの方が上だ。そいつを覆すには有馬記念で勝つしかない」

 

「それもそうだね。アタシは勝ったGⅠ競走は秋華賞のみ。これからの中長距離で狙えるのがエリ女*1、JC、そして有馬記念の三つなんだけど、ローテーションの関係上エリ女とJCは選択。JCに行けばグリーンと戦えるけど、代償が余りにもでかすぎる」

 

「下手をすればJC走った後、有馬記念で走れなくなるかもしれないからな。私だってJCでケリを着けられるなら着ける」

 

「そこなんだよな。アタシとしては万全に仕上げて有馬記念で決着を着けたいんだけどね。ただ──」

 

「ラムタラの存在か」

 

「そうさ。グリーンの最大の障壁になったラムタラはJCに出走しても有馬記念に出走出来ない……角外*2のウマ娘が出走出来るのはJCやチャンピオンズC*3の国際競走*4だけだからなぁ」

 

「私もアマさんもグリーンやラムタラに比べてローテーションがキツい。あの会長ですら体調不良を起こして負けた*5からな」

 

 

 

「……なぁ、ブライアン。いっそのことJCに出走しないか?」

 

「何故だ?」

 

「ラムタラはJCにでても有馬には来ないからだよ」

 

「……ふっ、らしくないなアマさん」

 

「な、何がだよ?」

 

「私の知るアマさんならタイマンと言って一対一に持ち込めるようにする。JCにはラムタラとグリーンがいる以上ごちゃごちゃになるだけだ」

 

「私がタイマン仕掛けるのは直線で最後に生き残った奴だけだよ。だから矛盾はないさ。それにあいつが疲労した状態で有馬に出て打ち負かしたとしても嬉しくも何ともないしな」

 

「ならアマさんだけ出ればいい。私は有馬に集中する。あいつがベストで走ろうがそうでなかろうが関係ない……私は私のベストを尽くす」

 

「そう来たか……なら私もそうするか」

 

 ナリタブライアンはそのまま有馬に向け調整、ヒシアマゾンはJCの変わりにエリザベス女王杯に向け調整することになる。

 

 

 

【ビワハヤヒデは来ない、勝ったのはヤマトダマシイーっ!】

 

【ヒシアマゾン、迫るヒシアマゾン! ヒシアマゾン差しきったっ! 女傑ヒシアマゾン降臨! 恐ろしいウマ娘です!】

 

 

 

 約一ヶ月後、ヤマトダマシイが天皇賞秋、ヒシアマゾンがエリザベス女王杯を勝利しJCを迎えようとしていた。

 

 

 

 そんな時二代目は二人のウマ娘達と遭遇する

 

「やあ、ペンタイアにラムタラお久しぶりだね」

 

「グリーンか。ここは良い場所だな」

 

「ん」

 

 そのウマ娘の名前はペンタイアとラムタラだ。前者は日本トップクラスのタマモクロスを圧勝、後者はそのペンタイア相手に全走先着しており世界屈指の実力を持つウマ娘達だ。

 

「でしょ? 貴女達海外のウマ娘が至り尽くせりの待遇を受けているのはJCで本気になって貰いたいからなんだ」

 

「それは私達を舐めているってことか?」

 

 ラムタラも口には出してはいないが不快になり眉間を狭める。

 

「まさか……そっちこそ舐めていない? 日本のレース場と欧州のレース場の違いをね」

 

「軽い芝だろ? だからスピード勝負になりがちで本来なら私達のほうが不利を受けるがそっちは負け越している……私達にビビってな」

 

「でももうそれは通じないよ。何せ私が凱旋門賞勝ったからね」

 

「だけど、それはデカブツが向こうに適正がありすぎたから凱旋門賞を勝っただけで日本ではまだ未知数。違う?」

 

「日本では未知数、か。確かにそれを言われたらそうかもね」

 

「そしてそれは私達にも言える。デカブツも英国の犬──いやアイグリーンスキーにペンタイア。貴女達を正式にライバルとして認めて走る」

 

「!」

 

「へぇ……歯牙にもかけなかった貴女がね。でも私だけじゃないよ、国内で速いのはね。私はそれをまとめてぶち抜く。6番人気までは警戒した方が良いよ」

 

「その手には乗らない。何故なら私達がいなければ貴女が先頭でゴールするから」

 

「だな。私もその姿を予想している」

 

 

 

「あらら……ところで二人のトレーナーはどこに?」

 

「トレーナーなら英国寮長(セントサイモン)と一緒に理事長と会っている」

 

「げっ、嘘でしょ!? 今日やたら野良猫が見当たらないと思ったらそう言うこと!?」

 

「何か不都合でもあったか?」

 

「日本のトレセン学園理事長は屈指の猫好きなんだ」

 

「なるほどな……」

 

 ペンタイアとラムタラが達観した顔つきで頷く。英国寮長つまりセントサイモンの趣味である三味線造りはあまりにも有名で生死問わず猫の皮を活用するという悪癖がある。野良猫は生存本能が働いたのかトレセン学園から消え、セントサイモンの目の前に映ることはなくなったが理事長の猫等トレセン学園から逃げられない、あるいは生存本能が薄れている猫などは間違いなくセントサイモンの餌食となる。

 

「それの何が問題?」

 

 ラムタラが疑問に思うのは無理はなくラムタラのトレーナー等他人がいる場所ならセントサイモンも手出しが出来ない。それが世間の認識であり最低限の倫理観である

 

「バカ、お前は英国寮長を知らないからそんなことを言えるんだ」

 

「そうだよ」

 

 ペンタイアも二代目もセントサイモンという理不尽を知っており、特にペンタイアは自らの所属する寮長でありよく認識していた。セントサイモンの本性は悪魔か何かが取り憑いているなんてレベルではない。トレーナーの間で気性難のレベルが8段階定められているがその中に【セントサイモン】と気性難の頂点にその名前がつけられる程だ。

 

 ちなみに次点に【ダイヤモンドジュビリー】、その次が【エクリプス】*6となっており如何に彼女達の気性が荒いか理解出来る。それ以降は【野獣】、【激】、【荒い】、【普通】、【大人】である。

 

 閑話休題、そんなセントサイモンが猫を見て大人しくいられるだろうかと聞かれたら間違いなく否だ。隙有らば理事長の猫は三味線の材料となっているだろう。

 

「よし、いこう! 理事長室へ」

 

「出来るかぁっ!?」

 

 二代目が積極的にセントサイモンの鬼畜な所業を止めようとするがペンタイアが嫌がる。よくよく考えれば当たり前である。英国寮のウマ娘の誰もがセントサイモンに逆らえる訳がないのだから。

 

「……私もいく。トレーナーの身に何かあったら心配」

 

「呉越同舟、貴女でもいたら頼もしいよ」

 

「くっそったれめ! 行けば良いんだろうがぁぁっ!」

 

 そんなこんなで三人組の絆はセントサイモンによって深まり、JCを迎えることになる。尚、理事長こと秋川やよいの猫は五体満足であったことを記す。

 

 

 

 ナリタブライアンやヒシアマゾンといった二代目の有力な同期達は有馬記念に向け調整中。昨年のクラシック三冠を分けあったBNW──ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケット、更に昨年の天皇賞秋を制したスーパークリークも故障により不在という日本の有力なウマ娘が出走回避していた。

 

 しかしながら今年の天皇賞秋を制し抜群の安定感を誇るヤマトダマシイ、昨年の有馬記念を制しただけでなく国内ダート王となった二刀流のイナリワン、昨年の年度代表ウマ娘オグリキャップ、そのオグリキャップに先着を許さなかったタマモクロス。そして海外からはKGⅥ&QES、凱旋門賞で二代目を最も追い詰めた英ダービーウマ娘ラムタラと愛チャンピオンSでタマモクロスを千切ったペンタイアを始め、ビッグタイトルを獲得したウマ娘達が参加を示し、宝塚記念に負けず劣らずのメンバーが揃っていた。

 

 

 

【さあ各出走ウマ娘達が顔を出してきました。それではパドックを見ていきましょう】

 

 今、JCが始まろうとしていた。

*1
エリザベス女王杯の略。芝2200mの牝馬限定のGⅠ競走。ウマ娘でいうならティアラ路線版JCのようなもので、史実では英国のスノーフェアリーが連覇している

*2
現実では外国所属の競走馬こと。外国の所属の競走馬は外の字を四角で囲んで表記する為、そのように呼ぶ

*3
史実の開催初期はJCダートという名称で、その名前の通りJCのダート版の国際GⅠ競走だった。二代目がいる時代にはそのJCダートすらなく第1回JCダートは西暦2000年から。主な勝者として2001年のクロフネ等が上げられる

*4
西暦1994年当時ではそうだが、2022年現在日本国内のGⅠ競走は全て国際競走となっており国際グレードも同じ

*5
史実のシンボリルドルフはJC当日、下痢を起こして4番人気まで評価を落としカツラギエースの3着に沈んだ

*6
参考までにエクリプスは史実で去勢されそうになった




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト14

131.スイープトウショウを騙してイタズラに巻き込んではならない。もちろん他のウマ娘に対してもやってはならない
132.確かに理事長の猫はセントサイモンの標的になりませんでしたが「理事長の猫は実は化け猫なんだ」などと嘘を吹き込んではならない。セントサイモンは化け猫であっても猫ならターゲットにします
133.気性難の項目の【大人】よりも大人しい項目は存在しません。あったとしても【バックパサー】でありまかり間違っても【ゴールドシップ】ではありません
134.日本のウマ娘が韓国の国際競走コリアカップに出走することを「韓国で模擬レースする」と揶揄するのを止めましょう。確かにコリアカップは日本のレースと比べたら低レベルですがれっきとした国際競走です
135.オグリキャップの食事を邪魔してはならない。オグリキャップが嫌がります
136.確かに24時間密着取材と称したストーカーもといTV関係者を撃退したことは称賛しますがそのやり口をもう少し考えて下さい
137.ゴールドシチーをはじめシチーの名前がつくウマ娘は全員がシチュエーションが好きな訳ではありませんので恋愛ゲームをさせるのを止めましょう
138.上記に付随して他のウマ娘も恋愛ゲームをするのを禁止します。トレセン学園は婚活会場ではありません
139.よく手洗いにいくことを「花をつむ」と表現しますが本当に花をつむことを禁止します。ラフレシアなんて持ってきても飾る場所がありません
140.だからといってでシルクハットから薔薇等の花を出すのも宴会以外で禁止します


この第65Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は未定です


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第66R クラシック期ラスト編1

・デアリングタクト
≫ウマ娘化されたので記載。父は大種牡馬エピファネイア。童貞キラーとしても有名であり、これから記載していく
≫まず史上初のSSのインブリードGⅠ馬。インブリードのGⅠ馬自体は数多くいるが、血統表にSSのインブリードを持つ馬は彼女が初めて。ついでにエピファネイア産駒としても初のGⅠ馬でもある
≫また厩舎、生産関係者、騎手その他諸々桜花賞を初めて勝たせた馬でこれを童貞キラーと呼ばすなんというのだろうか?
≫次に無敗で牝馬三冠馬。近年無敗でオークス、秋華賞を勝つ馬はちらほらと存在するが無敗で桜花賞を勝つ馬はそれよりも少なく、更に無敗で桜花賞、オークスの二冠自体も63年ぶりであり、牝馬がダービーを制するくらい困難である
≫尚、現在現役馬としては史上初のウマ娘化であり、アニメ一期の最終話に出てきたウマ娘は当時現役だったキタサンブラックと推測されたがそうではなかったし、そうであったにせよキャラが現役時に決まったのは彼女が初めてである……故障など何事もなければ2023年まで現役を続行するのでそれまでに声優まで決まったら完全に決まった現役馬の最初のウマ娘になるぞ!

・エアシャカール
≫実装されたので記載。ダービーを7cm差で敗北し、最も三冠馬に近い二冠馬として有名だが同時に史上最弱の二冠馬とも言われている。その理由だが菊花賞を勝利した後のJCでオペラオーに接戦に迫るどころかアグネスフライトとともに惨敗し、その後もGⅠ勝利することなく引退している為である。その為「三冠馬にならなくてよかった」などと揶揄されている。また気性難としても有名でSS産駒の中でもトップクラスに悪いことでも有名
≫それで種牡馬としての成績が優れていたなら良かったのだが僅か4頭しか産駒を残すことしか出来ず死亡し、しかもその産駒は活躍することもなかった。ファインモーションとの繋がりは気性難と子孫を残すことが出来なかったという共通点がある
≫ウマ娘の彼女はデータ入力しロジカルに答えを出すデータ収集キャラ。しかしその能力は間違いなく優秀で「皐月賞と菊花賞は獲れてもダービーで7cm分届かない」と史実であったことを予言している。ロジカルに説明が出来ない幽霊が苦手なキャラでもある。だからお前は一番になれないのだーっ!

・バンブーメモリー
≫安田記念、スプリンターズSを勝利しただけでなく高松宮杯(芝2000m)も勝利した短距離、マイル、中距離ともに高レベルの実力者。しかし生まれた時代が悪かった。短距離のスペシャリストのダイイチルビーとダイタクヘリオス、マイル無敗のオグリ、中距離のオグリを含め平成三強がいた為実績の割に影が薄い。平成三強がいる中距離の舞台、またはオグリをマイルの舞台で破っていたなら影は薄くならなかったかもしれない
≫ウマ娘では風紀委員長を務めているが、ゴールドシチーに甘い一面が見られ、特に漫画版うまよんでは賄賂でゴールドシチーの遅刻を見逃している……一応彼女の名誉の為に言っておくとそれが賄賂だと気づいていなかったことに情状酌量の余地がある。また育成キャラとしての評価だが、適性距離やダートの有無、そして脚質などを考慮するとタイキシャトルの下位互換といえる。少なくともレオ杯ではぐれメタル並みの遭遇率だった

・レオ杯
≫アプリ版ウマ娘プリティーダービーのイベントで8月に行われるリーグ戦である。今回作者が紹介するのは2022年のレオ杯
≫お察しの通りマルゼン、フジ、バクシン、カレン、フラワー、キンヘ、タイキがゴロゴロいる環境だった。意外に少なかったのバンブー、エアグルーヴ、ブルボン。エアグルーヴやブルボンは本来短距離ではないが他の中距離キャラよりも短距離として育成可能である
≫作者はオープンリーグでAになり惨敗──したとでも思ったか?普通に勝ったよフジキセキで。まあ作者も負けたと思ったけど短距離は運だからね、負けても勝ってもしゃーなし

・コパノリッキー
≫育成で実装されたので記載。GⅠ競走相当11勝の頭オカ、もといダート最強馬。芝GⅠ競走最多アーモンドアイですら9勝止まりで如何におかしいか理解出来るだろう。ちなみにウマ娘化の同期であり彼女のライバルにあたるホッコータルマエもGⅠ競走相当を10勝しており十分頭オカといえる
≫ウマ娘の彼女は風水オタク。奇声奇行のフクキタルと同類かと思えば割りと違い常識はあり、トレーナーも環境開運学と見なして理解している。とはいえ物の場所を変えることで運を変える風水は物や人がその場所にあるから心理的に行動に作用するという心理学染みたことでもあるので作者も理解出来ない訳ではない
≫ちなみにウマ娘としての性能はぶっとんでおり、最強ダートウマ娘でダートでは他のウマ娘が彼女の前ではリッキー☆ラッキー☆ハッピー☆となる

・オウンオピニオン
≫コリアカップの韓国馬が貧弱過ぎたので記載。別名【インドのシンザン】。その別名の通りインドの競走馬であり、三冠馬でこそないものの後ろにシンザンと渾名されるようにインドセントレジャー等かなりの実績を誇っている。そんな彼がJCに招待され彼の実績は最強と呼ぶにふさわしく日本の最強馬と言えばシンザンであった。故に【インドのシンザン】と呼ばれることになった
≫しかしJC前に一回慣らす為に日本(後の富士S)で走らせてみたら最下位、まあ本番で力を出せばいいということでJCに予定通り出走するがこれまた後ろから数えた方が早い程に惨敗。あまりの弱さに【史上最弱のJC招待馬】とまで揶揄された。一応彼の名誉の為に補足しておくと全盛期を過ぎていたことと、JCで彼の後ろでゴールした馬はいたが彼のキャッチコピーが仇となりそのような不名誉な渾名がつけられた
≫また【インドのシンザン】というキャッチコピーのせいで「インドではシンザン級の実績でも実力は二流以下の日本馬の足元にも及ばない」というイメージがついてしまい、以降日本は日本馬が勝てなかった米国や欧州といった一流所の名馬しか招待しなくなってしまい、さらに90年後半代以降日本馬が勝ちまくったせいでその名馬達すらも避けるようになり、つい近年では掲示板に載るのがやっとという有り様である。コリアカップで強すぎる日本馬を出禁にした韓国とは真逆である

・バックパサー
≫作者がウイポ8と9において種付けを好む馬。バックパサー自身の能力も高いのもそうだが、介入無しで系統確立してしまう馬にバックパサー自身やその父トムフールの血が含まれないことが多いからアウトブリードが成立しやすく自家生産として優秀と言える。作者は8のバックパサー産駒で全ステータスカンスト及びその産駒(牝馬)で牝馬三冠、古馬王道完全制覇など出来ました。勿論共に架空馬
≫ 史実においては競走馬として性格、体格、血統、その他全てが完璧とされ、その期待に応えるように米国の年度代表馬になり生涯成績は31戦25勝、4着以下になったのはデビュー戦のみという凄まじいものである。またスピード違反馬ことドクターフェイガー、後の大種牡馬ダマスカスの三強対決を繰り広げたウッドワードSはあまりにも有名
≫種牡馬としても後継種牡馬を残す等優秀だが彼の場合は母系に入ってからが本番だった。世界共通でバックパサーが母父というだけで良血馬という扱いになるほどで、当時の世界一の母父と言っても過言ではなく、マルゼンスキーやエルグランセニョール、イージーゴア、シーキングザゴールド(ドバイミレニアムやシーキングザパールの父)、ミスワキ(サイレンススズカやガリレオ、シーザスターズの母父)と言った名馬の母父がバックパサーである
≫特に前者3頭に関しては日本で良血馬で知られるキングヘイローが霞むほど騒がれ、見事その期待に答えた。厳格に言えば三代目ビッグレッドとまで言われたイージーゴアに関してはその期待に答えることは出来なかったが、それでもGⅠ9勝とぶっとんだ成績でありマンノウォーやセクレタリアトの異常さが際立つだけなのだが
≫ちなみにバックパサーは責任から逃れる者という意味であり、父トムフールは大馬鹿者という意味である。母父ウォーアドミラルは孫であるバックパサーとは違い炎のような闘争心を持つといわれその結果史上4頭目の米国三冠馬となっている

・ドバイミレニアム
≫名前の通り2000年のドバイWCを制した競走馬。ウイポシリーズではSPが78とシンボリルドルフといった日本史実馬よりも上で、更にスピード因子を二つも持っており仔出しが優秀な馬の中では米国ではミスタープロスペクター、日本ではトウショウボーイくらいしかいないことからとてつもなく優秀な競走馬と言えるが残念なことに1世代しか仔を残せずに死亡。しかしドバウィがSS並みに種牡馬として大成功を納め、主流血統となっている
≫一世代しか残せなかったが故にシリーズの2021以前の過去スタートはドバイミレニアムを所持してSP系となるドバイミレニアム系を確立させるのが基本中の基本だったが、2022にprivate種牡馬施設が登場し現役時に所持しなくても金さえあれば種牡馬として購入可能となり系統確立が可能となった

・アプリ版ウマ娘とアニメ版ウマ娘の相違について
≫バクシンオーがアニメ版では目指していないのにアプリ版では全距離制覇を目指しているとかモンジューがアニメでは名前を変えていたのがアプリでそのままだったりとかそんな細かい違いがあるが下記を参照にして頂きたい

・アニメ版ウマ娘の特徴
≫アプリ版とは異なりどちらかと言えば史実通りになることが多く、例外と言えば1期はクラシック期のエルコンドルパサーくらい。尚、エルコンドルパサー容疑者はライバルの被害者である凱旋門賞ウマ娘の名前と毛色を変えさせた疑いがあり現在グラスワンダーに追走されています。エル、腹を切りなさい
≫つまりスペのJC勝利もターボのオールカマーの逃げ切りもテイオーの復活の有馬記念も実際に起きた出来事……本当に競馬はロマンしかねえや!
≫またグラスワンダーとライスシャワーのように鞍上が同じだったりすると縁を感じることがアニメ版でははっきりと名言されている
≫アプリ版のアオハル杯同様チームを組むのが当たり前の世界でトレーナーがウマ娘の指導を一対一で見る描写はなく、その為ウマ娘達はいずれかのチームに所属している可能性が高い。まあトレーナーの数がウマ娘に比べて少ないことを考えたら当たり前で一対一で面倒をみるトレーナーが多いアプリ版が異常と言える
≫誰がどこに所属しているかまでは名言されているウマ娘もいるが2期のラスボスことビワハヤヒデですら所属チームについては名言されていないこともあり、曖昧な部分が多数ある。一応アニメ版に近い世界線の小説版でセイウンスカイがチームに所属している
≫人員がはっきりしているのがチームスピカとチームリギル、チームカノープスの3チームのみであり、トレーナーのみが決まっているのがミホノブルボンとなっている。
≫またほとんどの二次創作ではアニメ版の設定になりがちだが、オグリキャップ等の世代のウマ娘はアニメ版では定められていない場合はシンデレラグレイの設定を用いられることがあり、またアプリ版ライバルトレーナー達を導入することもある

・アプリ版ウマ娘の特徴
≫アプリ版のウマ娘は育成キャラストーリーは原則トレーナーと一対一であり、例外にあたるメジロドーベルはサブトレから転身した形となる
≫またアオハル杯ではチームをそれぞれ結成する為一対一ではなくなり自分自身もチームを結成することになる。アオハル杯のテーマソングの曲の割り振りから推測するとミホノブルボンが育成キャラでハルウララ、マチカネフクキタル、ライスシャワー、タイキシャトルはサポートっぽい立ち位置になる
≫メインストーリー第一部ではオグリキャップ等ウマ娘のほとんどいなくなってしまった名門チームシリウスの後任をし、残ったウマ娘メジロマックイーン達と共にチーム再興をすることになる。
≫チームシリウスに所属することになる主なウマ娘はメジロマックイーン、ライスシャワー、ウイニングチケット、ナリタブライアン、サイレンススズカ、スペシャルウィーク
≫尚、メインストーリーの各章をクリアすればそれぞれに応じたサポートカードがもらえるので挑戦して頂きたい。特にチームシリウスのサポートや最終章後編でグラスワンダーに

・樫本理子
≫後述の地方競馬について調べていたついでに追記
≫アオハル杯のライバル役トレーナー。アプリユーザーからは「理子ちゃん」と呼ばれることが多い。URAの幹部であり、秋川やよい理事長不在の間、理事長代理を務めることになった人物。ウマ娘の為に徹底した管理体制を築き上げようとするがウマ娘達から反対され、代案として「私以外のチームでアオハル杯を1位取れたら管理体制を撤回する」ことを出し、万全な管理体制のチームファーストを設立し容赦なく蹴散らしていく
≫その手腕は確かなもので自らがまとめ上げたチームファーストのウマ娘は恐ろしく強く前シナリオのラスボスポジのハッピーミークが弱く見えるほどで、特にリトルココンやビターグラッセはAランク相当の力を持っており、ユーザー達を幾度なく絶望の淵に落とした
≫聞けば聞くほど完璧超人のように見えるが弱点もあり、身体能力など身体にありとあらゆる関係のある能力が弱く、StarHorse4とのコラボでは一般人からみても脚が非常に細いことが明らかで、前転がつい最近出来るようになった、コーヒー2杯飲んだだけで眠れなくなるといったエピソードがある
≫作者が後述の地方競馬について調べていったついでにJRAのお偉いさんを見たら「えっ?この人が理子ちゃんのモデルじゃね?」と思わせるエピソードがある。もちろんその方の競馬に関するエピソードである
≫サポートでは友人キャラとして登場し、理子ちゃんのポンコツヒト娘だと判明するだけでなくスタミナが不足しがちな場合や体力回復に用いられるのでスタミナ不足に悩まされる場合は使っても良いかもしれない。またアオハル杯だとスタミナ獲得量も増加するのでチームシリウスが使えないアオハル杯にオススメ。獲得レアスキルは【一陣の風】

・桐生院葵
≫理子ちゃんを紹介したついでに追記
≫シナリオURAにおけるライバルトレーナー。名門桐生院家の秘蔵子で短距離から長距離、芝ダート全て問わない万能白毛ウマ娘ハッピーミークの担当……なのだが、アプリ初期は調整をミスったせいでハッピーミークがURAファイナルで3着以内に絡まないことがしばしばあり、むしろ逃げウマ娘や先行ウマ娘の進路妨害こそ最大の敵と揶揄されるほどで、また彼女の家の秘蔵の本から得られるレアスキルが最弱と呼び声の高い【鋼の意志】、しかもアオハル杯でリトルココン等に比べてハッピーミークが能力的に遥かに劣る為アプリユーザーからのトレーナーとしての評価は微妙だった。その後調整が入り3着以内に絡むようになったが調整自体が遅かったので微妙なところではある
≫しかし前述した理子ちゃんとは異なり身体能力は非常に高く巷ではウマ娘よりも身体能力が高いとまで言われており、アプリユーザーは理子ちゃんが出るまで桐生院がトレーナーとして求められる身体能力の基準だと思われていた
≫サポートカードとしての評価だがあまり優秀とは言えない。というか理子ちゃんとたづなさんが強すぎる。スキル獲得量が増加するので使えないことはないが桐生院を入れるくらいなら前者の二人のうち片方を入れる

・トレセン学園におけるトレーナーの数
≫現実の調教師は全体で180人程度でこれを目安にこの小説のトレセン学園のトレーナーの数は200名前後としている……が何か書いていて不安になってきた
≫というのも各世代の馬はウイポですら数百、現実だと1万頭で一年間に調教師が5~8人しか増えないとなると相当な数がいないと無理なはず
≫しかも公式でURAファイナルズは18000~28800(3600×5~8)人で行われることが明らかにされていてドリームトロフィーやらなんやらでトレーナーがついている状態のままのウマ娘もいるから担当数がえげつないことになっている
≫そもそもトレーナーの数が200人というのは少な過ぎじゃないかと思うが、トレーニング場所などの問題もあるのでどうしようもない。そもそもその数の10倍いたとしても現役のウマ娘9人以上担当する計算になり、割りと人数の多いはずのリギルですら平均以下となる
≫ウマ娘のシンボリルドルフの【全てのウマ娘を幸福にする】という夢は担当トレーナーが見つからないまま退学するウマ娘もいる以上、叶えられない夢なのかもしれない


・チームトゥバンの解散
≫主人公の所属するチームトゥバンが解散するifルート。実は本気で書いていたが取り止めた。解散すると話が続かないから。それと前述したトレーナーの数云々もその話を書いているときに記載したものでもある

・ウマ娘ゲ○インダービー
≫シリアスな話が続いたところで作者が思い付いたシリーズ。お察しの通り、プリティーなウマ娘がゲロインと化する銀魂パロの最低最悪なギャグストーリー。元ネタは史実でバナナを喰おうとしたビワハヤヒデ
≫尚、これの派生にベ○インダービー(エアグルーヴ)がある。汚さでいえばこちらの方がマシ……人によってはご褒美といえる

・地方競馬場
≫ウマ娘アプリでようやく地方レースが充実され始めたので記載
≫地方競馬場を取り巻く環境は以前解説したがダートが主流であり、芝もないことはないが岩手の盛岡競馬場のみといえ、芝中心の中央とはねじれ国会ならぬねじれ競馬と言える状態
≫その為、芝適性がなさそうな地方馬が中央の芝に殴り込むというと無謀だと言われ、地方所属のまま中央の芝レースで善戦したのはロッキータイガー、コスモバルクくらいしか思い付かない
≫また地方競馬はその名前の通り国ではなくNRAの管轄にあり、国つまり中央に比べてレース賞金も安く、レース、競走馬、人材等ありとあらゆるレベルが低くなってしまい、さらに予算が減り……という悪循環が生まれている。その結果いくつもの競馬場が潰れている
≫幸いハルウララで盛り上げた高知、オグリキャップの笠松、そしてイナリワンの大井は超有名馬を輩出したこともあり潰れずに済んでいる。特に大井はJDD、東京大賞典などGⅠ競走やそれ相当のレースが多数ある為、潰したくても潰せないほど影響力は大きい
≫もっともJDDも東京大賞典も中央所属の競走馬に蹂躙されがちであり、東京大賞典なんかは国際GⅠ競走であるにも関わらず外国馬が出走しないので中央に搾り取られているのが現状


 ──何故だ、何故君は私よりも速く走れる? 

 

 そう声を上げるのはオグリキャップ。かつて年度代表ウマ娘になった芦毛の怪物がJCの直線で失速する。

 

 

 

【さあ抜けた抜けた抜けた! 2バ身、着差をつけて今、ゴールイン! ラムタラ(ドバイの英雄)も、ペンタイア(英国の復讐者)も、ヤマトダマシイ(大和魂)も全て蹴散らしたのは世界最強、アイグリーンスキー!】

 

 楽勝だと言わんばかりに二代目が余裕の笑みを浮かべ、走りながら観客席に手を振る。

 

「ようやく勝った……これで完全勝利だよ」

 

『そうだな。ラムタラとの決着はもう着いた』

 

 二代目がJCを制しそう呟くと先代がそれに頷く。

 

「……先代?」

 

『なんでもない。気にするな。それよりもライブやってこい』

 

 違和感を感じた二代目が先代に声をかけるが先代はそれを無視し、ライブをするように促す。

 

 ──俺ももうただの荷物か。人間の隠居生活ってのはこういうことを言うんだろうな。

 

 二代目が自身を超えたと認め、遠い目をする。その瞳からはかつて自身の息子であるカーソンユートピアを見るような目付きだった。

 

 

 

 ウイニングライブが終わると二代目はラムタラとトレーナーリーダーの姿を見かけた。

 

「……すまない」

 

「そこはお疲れ様、でしょ?」

 

「そうだったな、お疲れ様だラムタラ」

 

「トレーナーもお疲れ様。私の為にありがとう」

 

「でも勝たせてやることが出来なかった。勝てるレースだったのにな。気づいたんだろ? あいつの最後の伸びの正体に」

 

「うん、でも悔いはない」

 

「そうか……なぁラムタラ、お前はまだ現役(トゥインクルシリーズ)を続けたいか? このまま引退(ドリーム行き)してもいいが、俺としてはまだ──」

 

「トレーナー、現役(トゥインクルシリーズ)でいても私の身体は万全の状態に仕上げられる状態じゃない。ある程度は戦えてもデカブツに勝てるとは思えない」

 

「……そうか」

 

「トレーナーが悪いんじゃない。これは私の体質の問題。DT(ドリームトロフィー)で十分通用する程度の力は持っているつもりだからそこで勝ってデカブツに挑戦する」

 

「そうだな、お疲れ様だ。DTで勝ちまくろう」

 

「……ありがとう」

 

 それを見ていた二代目は感傷的な気持ちになり、涙を流す。

 

 

 

 翌朝、二代目が新聞を広げ朝食を取っているとその一面には二代目がJCを勝利した記事とその隣にラムタラの記事が記載されていた。

 

【ラムタラ、トゥインクルシリーズからドリームシリーズへ】

 

『ラムタラはこれで引退か。世間から二代目に勝てないからDTに逃げたなんて言う奴らがいるんだろうがな』

 

「うん、ラムタラの為にも勝ち続けて誇りあるウマ娘になるよ」

 

 そう決意し、メロンを食べ終わり席を立ち教室へ向かおうとしたが芦毛のウマ娘によってそれは阻害された。

 

 

 

「少し良いだろうか?」

 

 そのウマ娘は笠松──地方から中央(トレセン学園)に入り、マイル、中距離、長距離全てにおいて現在も活躍し続け、その灰色の芦毛とサクセスストーリーからシンデレラ(灰かぶり姫)と呼ばれることもある。

 

「オグリキャップ先輩、それって長くなります?」

 

「いや短い。前のJCで気になったことがあるからそれを聞きに来たんだ」

 

「何を聞きに来たんですか?」

 

「JCで見せたあの走りについてだ」

 

 その後、オグリキャップの質問に二代目が答えると納得し、その場を去き二代目も教室へと向かった。

 

 

 

「やっほー、ナリブにアマちゃん」

 

「来たか、グリーン」

 

「よっ、今や時のウマ娘だね」

 

「その時のウマ娘とやらを打ち負かす可能性がある二人は有馬記念、出るの?」

 

「当たり前だ」

 

「勿論だよ」

 

 ナリタブライアンとヒシアマゾンが即答し、二代目が頷く。

 

 

 

「なるなる。ナリブとアマちゃんは私の対策は出来ているって訳ね。でも対策しても勝てないものは勝てないよ?」

 

「そんなことはわかっている。姉さん曰く、対策とは任意のレースに対するメタであり決してそれに頼りきりにしてはならない。一番大切なのは基礎能力である。……この中で基礎能力が高いのは間違いなくお前だ、グリーン」

 

「そうさ、アタシの追込を追込で打ち負かすなんてあんただけしかやれないよ」

 

「どうかね? 私は素質がなくておハナさんに切り捨てられたウマ娘だから素質でいうなら二人の方が上だよ」

 

「基礎能力は何もスピードだけじゃない。スタミナ、パワー、根性、賢さ……他にも色々とある。スピードなら今の時点なら私の方が速いかもしれないが、それ以外特に宝塚で姉さん達相手にみせたスタミナと根性は私よりも遥かに上回る」

 

「ずいぶん誉めるね~照れちゃうよ!」

 

「事実だ。グリーン、お前にここで勝てなければ私は永遠に勝てないだろう。今回の有馬記念は全力でぶっちぎる」

 

「ぶっちぎれなかったら、アマちゃん相手に全敗することになるよ」

 

「アタシが三人の中で格下みたいに聞こえるのはなんでかな? グリーン」

 

「世間からの正当な評価だよ」

 

 ヒシアマゾンにそう告げる二代目にヒシアマゾンが抗議する。

 

 

 

「アタシの何が格下だってんだい?」

 

「そりゃ勿論、凱旋門賞ウマ娘である私を物差しとしたらダービーで同着になったナリブと、NHKマイルCで私に負けたアマちゃん、どっちの方が強いと思う?」

 

「ぐっ……」

 

「それに追込ウマ娘としては普通だしね」

 

「アタシが普通?」

 

「あぁ、ゴメンゴメン。ダンシングブレーヴとかシルキーサリヴァンとか世界最高峰の追込ウマ娘と比較しちゃったら誰だって普通に見えるよね」

 

「おい、止めろグリーン。お前がアマさんを挑発して有馬記念のレース展開をごちゃごちゃにするのはわかっている」

 

「ありゃバレた?」

 

「流石に露骨だったからな、そのくらいはわかる」

 

「流石三冠ウマ娘、大したもんだね」

 

「そのうち一つはお前と同着だからな……しかし解せないのは何故、有馬記念に出るんだ?」

 

「二つ理由があるよ。一つ目は決着をつけにきた」

 

 

 

「決着?」

 

「ナリブが菊花賞を勝った後、【アイグリーンスキーのいない低レベルの戦い】なんて言われてなかった?」

 

「確かにな」

 

「私はラムタラに因縁があったからKGⅥ&QESや凱旋門賞に出走したけどもし因縁がなかったり、日程が重ならなければ菊花賞に出走したかった。ナリタブライアンというウマ娘は私のライバルなんだからね」

 

「ふん、どうだろうな」

 

「ブライアン照れているのか?」

 

「アマさん、余計なことをいうな」

 

「もちろん、ナリブだけじゃない。本来だったらビワハヤヒデ先輩といったシニアの先輩方にも決着をつけにいく。それが頂点たる私の義務だから」

 

『決着をつけるというよりかは王者として挑戦者達を迎え討ちにいくって考えだなそりゃ』

 

 先代がそう感想を述べる。

 

 

 

「そしてもう一つ目、それは日本の年度代表ウマ娘になれない可能性があるから」

 

 二代目が凱旋門賞、JCと立て続けに激走したにも関わらず有馬記念に出走を決めたもう一つの理由、それは至って単純なものであった。

 

 年度代表ウマ娘に選ばれない可能性があるからだ。

 

「バカなことをいうな、何故お前程実績のあるウマ娘が年度代表ウマ娘になれない?」

 

 NHKマイルC、日本ダービー、KGⅥ&QES、凱旋門賞、JCとすでにGⅠ競走5勝、そのうち国内GⅠ競走3勝を重ねているウマ娘が何を言っているんだと突っ込み所はありナリタブライアンがそう疑問に思うのは無理はなかった。

 

「それはナリブ、三冠ウマ娘つまり貴女の存在そのものが年度代表ウマ娘になれない理由よ」

 

「私が?」

 

 しかし、同期には三冠ウマ娘ナリタブライアンがいる。もしナリタブライアンが二冠だけで止まったなら有馬記念に出走することはなかっただろう。だが運命(史実補正)なのかナリタブライアンは三冠をとってしまった。

 

「いくら私がGⅠ競走5勝しているとはいえ、それが喩え世界最高峰のGⅠ競走KGⅥ&QESと凱旋門賞が含まれているとはいえ、国内では3勝しかしていない」

 

「いくらなんでも暴論過ぎないかい? それにその理論が正しかったとしてもあんたのいない有馬記念でブライアンが勝ったとしてもブライアンが年度代表ウマ娘になる確率は多くても半々くらいじゃないかい?」

 

 有馬記念に出走するウマ娘はナリタブライアン、ヒシアマゾン、ヤマトダマシイを除いてほとんどが終わったウマ娘と評され、そのヤマトダマシイですら勝てないレースが多く、ヒシアマゾンは一歩劣ると見なされてナリタブライアンが有馬記念を勝つ確率は濃厚だった。

 

 そうなればナリタブライアンは国内GⅠ競走4勝その内の3勝は三冠。二代目は国内GⅠ競走3勝しかしておらず頭の堅い審査員はナリタブライアンに票を入れてしまうだろう。

 

 しかしヒシアマゾンの言う通りそういった審査員は少なくともいるというだけでそれが大半を占める訳ではない。

 

 

 

 先代がダービーで負けても年度代表馬になれたのは有馬記念でナリタブライアンを打ち破ったからであり、もし有馬記念に出走していなかったら年度代表馬はナリタブライアンのものとなっていただろう。

 

 だが二代目は先代とは違いNHKマイルCと日本ダービーを追加で勝利しており、有馬記念を取る必要性はほとんどなかった。

 

 

 

「そういうけどねアマちゃん、出走出来るのに逃げたと思われたら心証が悪くなって年度代表ウマ娘になれる確率も低くなる」

 

「まあ確かに……」

 

「それでも欧州の年度代表ウマ娘──カルティエ賞は受賞している*1し、国内の年度代表ウマ娘になれるのはほぼ確定しているようなものだけどね」

 

「それじゃなんで有馬記念に?」

 

「満票での年度代表ウマ娘狙いよ。あの年の年度代表ウマ娘は(アイグリーンスキー)じゃなくナリタブライアンだって声が上がるのは我慢できない」

 

「それが本心か……」

 

「何はともあれ有馬記念で全て決着つける……それが今の私の本心だよ」

 

「面白い、逆にいえばここでお前に勝てば私は年度代表ウマ娘になれるということか」

 

「おーっと、アタシも忘れないで欲しいねブライアン。アタシに勝てなければグリーンに勝ったとしても年度代表ウマ娘になれないよ?」

 

「そうだったな」

 

 そんなこんなでチャイムが鳴り、教室に学問の教師が入って来たのを確認して三人が席について別れた。

*1
欧州は年末よりも早めに賞を決める




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト15

141.ビワハヤヒデの傍にメイショウドトウは近づいてはならないという注意書きをメイショウドトウに送ったのはビワハヤヒデに対しての名誉毀損となりますので速やかに謝罪するように!例えビワハヤヒデの髪の毛からバナナの皮を落としてそれをメイショウドトウが踏んで周囲を巻き込んで転んだ前科があったとしてもです
142.セントサイモンとダイヤモンドジュビリー、そしてエクリプスの三名が三女神に抗議するために神界に向かったからといって貴殿方がそこに向かう理由はどこにもありません。というか神界にいくことすら無理な上に行ったとしても返り討ちにあうのが関の山なので諦めましょう
143.20mシャトルランの派生の50mシャトルランをウマ娘体力検定に導入するようにURA本部に掛け合ったとおうかがいしましたが、如何なる理由があれど取り合って貰えません
144.特定のウマ娘のやる気を下げさせる為にシンボリルドルフにナゾナゾ辞典を見せるのを止めましょう。そのせいでエアグルーヴのやる気が絶不調になりました
145.上記に加えクイズ辞典も禁止します
146.辞典を渡せないからといってナゾナゾ大会、クイズ大会を開催するのも禁止します
147.トレセン学園の七不思議にトレーナーの数とウマ娘の数の比率を付け加えることを禁止します
148.樫本理事長代理を焚き付けてはならない。焚き付けた結果セントサイモンに立ち向かった樫本理事長代理が救急搬送されました
149.だからといって桐生院家を焚き付けてはならない。おかげでセントサイモンが艶々する結果となりました
150.ファラリスなるウマ娘は確かに存在しますがファラリスの牡牛とは一切関係ありませんので「ファラリスの牡牛で処刑された人間がウマ娘になったのがファラリスなんだ」と嘘をつくのは止めましょう

この第66Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

また感想は感想に、誤字報告は誤字に、その他聞きたいことがあればメッセージボックスにお願いいたします。

尚、次回更新は未定です


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第67R クラシック期ラスト編2

・高松宮杯
≫前回のバンブーメモリーといい今回のダイイチルビーなどの解説にちょくちょく出てくるので解説
≫高松宮杯は高松宮記念の前身となるレースなのだが、芝2000mと中距離御用達のレースで今でいう札幌記念のような役割だった。しかし1996年にGⅠ競走に格上げされ高松宮記念になってからなぜか芝1200mのレースとなり、現在ではスプリント路線の春の王者を決める戦いとなっている
≫ウマ娘化されている高松宮杯の勝者はオグリキャップ、メジロアルダン、バンブーメモリー、ダイタクヘリオス、ナイスネイチャ、マチカネタンホイザで、マチカネタンホイザが高松宮杯の最後の勝者となった

・ダイイチルビー
≫ウマ娘化されたので記載。華麗なる一族ことマイリーのファミリーラインから生まれた競走馬。母は無敗で桜花賞を制したハギノトップレディ、叔父は宝塚記念馬ハギノカムイオー、祖母は高松宮杯馬イットーとここまでみてもかなりの良血馬であるが父はトウショウボーイ(ミスターシービーの父)と期待するなというのが無理をいうなというレベルの良血馬である。これを上回るウマ娘化されている著名な良血馬はエアグルーヴ(母ダイナカール)とキングヘイロー(父ダンシングブレーヴ、母グッバイヘイロー)、アグネスタキオン(父SS母アグネスフローラ、全兄アグネスフライト)、ダイワスカーレット(父アグネスタキオン、母系スカーレット一族、半兄ダイワメジャー)くらいしか思い浮かばないくらいには良血
≫そんな彼女の実績だが安田記念とスプリンターズSを勝利しており「勝ち鞍に高松宮杯がないからバンブーメモリーの劣化じゃん」などというたわけがいたらすぐにその評価を改めろ。そのバンブーメモリーに相手に幾度なくスプリント及びマイル路線で先着しており、その路線の主役の一頭だった。祖母がイットーなだけに
≫ウマ娘としての彼女はドリルと悪役令嬢らしい見た目をしており誰ともつるまない。コミュ力お化けことダイタクヘリオスが絡むも完全スルーするほどである

・ケイエスミラクル
≫ダイタクヘリオス、ダイイチルビーに並び得たかもしれないスプリント及びマイル路線の競走馬……というのもレコード勝利3回、ダイイチルビーやダイタクヘリオス、おまけにバンブーメモリーを撃ち破っておりこれからという所でまさかの予後不良。また予後不良キャラかよ……
≫予後不良キャラ、レース中に故障したことが原因で死亡してしまった競走馬がモデルのウマ娘のことでサイレンススズカやライスシャワーが該当する。アニメ一期を見た方は察すると思うがそれはもう悲惨なものであり、その日サイレンススズカの名前がトレンド入りしたし、もしあのままサイレンススズカが史実通り死亡したなら炎上待ったなしとなっていただろう。
≫ウマ娘の彼女は男装の麗女。一人称はオレ、メス墜ちする者が絶えないほどのイケメン。サイゲよ……しないとは思うが予後不良にしたら炎上するぞ、これは!

・実は……
≫シンボリルドルフの調教師の方は騎手としてはGⅠ競走相当を勝ちまくっているが調教師としてはシンボリルドルフともう一頭以外は勝てていない
≫一応調教師としてはルドルフ以外にも重賞勝利をしているが、とてもルドルフを育て上げたとは思えないほどのルドルフに頼りきった成績である
≫ルドルフの騎手はレジェンド、調教助手の方はシンボリクリスエスやレイオデロなどを育て上げた後の名伯楽。その為当初この事実を知った時は「調教助手の方がルドルフを育てたんじゃね?」などと失礼なことを思った。むしろ逆でルドルフの調教をするときは調教師自ら行ったくらいにはルドルフを可愛がっていたのでルドルフを育てたのは間違いなくこの調教師である。ルドルフに育てられたのは騎手の方
≫しかしながらそれが仇となり、シンボリルドルフと同じ調教をしたからこそ他の競走馬がついていけなくなったのではないかと思われる。実際シンボリルドルフ以降預かった競走馬は3頭しか重賞を勝たせておらず、預かる以前は5頭(しかもうち一頭は安田記念勝利)で明らかに衰退していったと考えられ、更にこの調教師とは別の厩舎の競走馬マティリアルはシンボリルドルフと同じように外厩を何度も続けた結果ストレスを溜めてしまった経緯がある。やはりルドルフは厩舎キラーと言え、ウマ娘のアプリ版Tや東条ハナはかなり優秀なトレーナーといえる

・グランドライブ
≫アオハル杯、TSに続いて新たに出た新シナリオ。グランドライブ実装前はファン数重視のシナリオかと思えばそんなことはなく友情トレ重視のシナリオでアオハル杯以上にレースに出る必要性はない
≫ちなみに8/24時点で1200までしか上昇させることが出来なかったが新シナリオ搭載と共にそれを大幅に越えることが出来るようになった。おかげで作者はS+楽々育成可能となり、サイレンススズカに至ってはスピード1600超え達成している

・日本競馬における金字塔
≫達成しているのがドバイWC(ヴィクトワールピサ)、BCシリーズのいずれか(マルシュロレーヌ等)、日本の種牡馬の産駒で海外のクラシックGⅠ競走制覇(ディープインパクト)、輸出された日本産の競走馬が一国のリーディングサイアー(アグネスゴールド)、日本調教馬が欧州GⅠ競走制覇(シーキングザパール等)
≫他にもあると思うが最後を除けばSSの血を継いでおり影響力が半端ないことがわかるが、最後の項目は日本の環境が影響しているせいでSS系に限らず勝てない状況が続いている

・ドバイワールドカップミーティング
≫ドバイWCやドバイシーマC、ドバイターフなどドバイの国際競走の総称。ドバイワールドカップナイトとも。ドバイは世界各地の競走馬が互いに遠く離れた異国の地であるため最も実力差を測るのに適しているが、欧州から見れば欧州の馬が苦手とする高速馬場であり、日本や米国から見れば欧州よりも遠い地で遠征しなければならないというハンデを抱えている
≫芝での日本馬の戦績は海外の国際競走の中ではかなり高く、トップクラスといえる≫しかしダートでは勝率が低めでドバイWCを勝利したヴィクトワールピサにしてもダートではなくAWだった
≫ちなみに国際的な評価は賞金の多いドバイWCよりもドバイシーマCやドバイターフの方が評価を上回る

・ウマ娘の耳は大きさの価値はヒト男の男性器の価値と一緒である
≫ふと思い付いたシリーズ。ライスシャワーやアドマイヤベガといった耳デカウマ娘が美人で逆にスペシャルウィークがぶ……もといモテない世界観で異世界からやって来た男性トレーナーとスペシャルウィークが恋愛する話。スペシャルウィークの小さい耳を見て思い付いた。スペシャルウィークの耳つんつんしたい

・夢でトレーナー、現は系統確立
≫ふと思い付いたシリーズ。夢の世界でウマ娘トレーナーとして活動するが全くスカウト出来ず、悩んでいたが現実の世界のウイポで系統確立(牝系確立)した所有可能な競走馬が夢の中で担当ウマ娘になるというストーリー。ミスターシービーやラムタラ
、メジロマックイーンの系統確立ができたので絶対書きたい

・夜更かし気味
≫育成中にあるウマ娘のバッドステータス。こいつになると余計に体力が減らされるのでさっさと治すと良いが、最近一回で治らないようにバランス調整されている気がする
≫ちなみにリアルに作者は夜更かし気味で徹夜することが幾度なくあり、目の下の隈がヤバいことになっている

・新作について
≫一応第1話くらいは出来ている。しかし逆に言えばそれだけしか出来ていない。この小説の方が楽に書ける……何故だ?


【今年の有馬記念の注目すべきウマ娘はやはりこの二人でしょう】

 

【トゥインクルシリーズ世界最強ウマ娘、アイグリーンスキー。シンボリルドルフ等数々のウマ娘が出来なかった年間GⅠ競走5勝に加え欧州GⅠ競走制覇したこともありダントツの1番人気です】

 

【今や彼女がトゥインクルシリーズを盛り上げているウマ娘ですからね。1番人気は当然でしょう。それにここまで無敗というのがあまりにも大きいですよ。あのシンボリルドルフですら有馬記念まで無敗でいられませんでしたから】

 

 

 

 無敗で三冠ウマ娘となったシンボリルドルフが初めて敗北したのはJC。その時は日本のウマ娘であるカツラギエースこそ覚醒し勝利したがシンボリルドルフは3着と米国のウマ娘にも先着されカツラギエースがいなければ三冠ウマ娘ですら世界に届かないと言われるようになっていた。

 

 シンボリルドルフだけでなく有馬記念を無敗で迎えたウマ娘は皆無といえ、クリフジやトキノミノル、マルゼンスキーといった無敗ウマ娘ですら故障して有馬記念を迎えることが出来ず、二代目が無敗で有馬記念に出走出来たこと自体が偉業といえる。

 

 

 

【そして三冠レース全てレコードで勝利した国内最強ウマ娘、ナリタブライアン。日本の三冠ウマ娘たる彼女にも注目が集まります。しかしながらアイグリーンスキーに押されて三冠ウマ娘ながら2番人気です】

 

 

 

 ナリタブライアンは無敗でこそなく、しかもデビュー戦で負けてしまったりと現時点の戦績のみでいえば三冠ウマ娘の中でも最弱と呼ばれても仕方ないものだった。しかし三冠そのもののレース内容に限ればケチのつけようがなく皐月賞、日本ダービー、菊花賞全てレコード勝利。強いて上げるなら二代目に幾度なくタックルし続け同着に滑り込んだことくらいだろうか。尤も二代目はビクともしなかったし、それが二代目の策略であるのだが。

 

 

 

【彼女も闘志がみなぎっていますね。彼女が勝てる要素は十二分にあると言えますよ。何せアイグリーンスキーはJCで激走しています。このJCで激走すると有馬記念を勝てなくなるジンクスがありますからね。それに無敗であるが故に敗北を知りませんが、ナリタブライアンは幾度なく敗れています。敗北を知ったウマ娘は負け癖がつくデメリットもありますがその分強くなりますよ】

 

【なるほど、それではナリタブライアンが勝つと?】

 

【勝つ可能性はあります。しかしレースに絶対はありません。アイグリーンスキー然り、ナリタブライアン然り、全てのウマ娘にチャンスが与えられています】

 

【本音は?】

 

【私一押しのウマ娘です。是非とも勝って三冠ウマ娘が最強と呼ばれる所以を証明して欲しいところです】

 

【解説ありがとうございました】

 

 

 

「ナリブ、アマちゃん。いよいよだね」

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

「センターで踊るのは私よ」

 

「上等だ」

 

 ナリタブライアンの他ウマ娘達が獰猛類の笑みを浮かべ、睨みつける。それに動じもしない二代目は間違いなくかつてのシンボリルドルフを彷彿をさせていた。

 

 

 

【有馬記念スタート! まずハナに立ったのは──】

 

 ナリタブライアンが中団の位置、ヒシアマゾンが最後方と控える中、二代目の位置はオグリキャップをマークするかのように引っ付いていた。

 

「……っ!?」

 

 ──一体どういうことだい? 

 

 ヒシアマゾンだけでなく、ナリタブライアンや他の有力なウマ娘達がそう疑問に思う。二代目のこれまでのレースといえばレースを支配し、掻き乱すようなものでKGⅥ&QESや凱旋門賞にしても今のように大人しくするレーススタイルではない。大人しくするにしてもマークする相手がオグリキャップで人気こそかなり高かったが終わったウマ娘と評価されており、そんなウマ娘をマークするならナリタブライアンをマークするのが定石であり意表をついた形となった。

 

 しかしマークされたウマ娘オグリキャップは例外で、予想していたかのように動じていなかった。

 

 

 

 ──やはり君はそう来たか

 

 

 

 オグリキャップの予想が当たった理由はJC出走直後にまでさかのぼる。

 

 

 

 JCが終わった直後、オグリキャップが二代目に尋ねていた。それはとある疑問から浮かんだものだった。

 

「JCで見せたその走り、あれは私のフォームだろう?」

 

「そうですよ」

 

「やはりか……ブライアンは天性のものだが、君の走りはどこかちぐはぐだった。でもこれで納得した」

 

「やはり先輩からもそう見えました?」

 

「ああ、最初に気づいたのは凱旋門賞の時だ。凱旋門賞で一瞬だけだがどこか違和感を感じていたんだが、JCで確信した。勝負根性の象徴ともいえるラムタラを抜かすには一瞬だけ脱力し別のフォームに変えることで更に加速することが前提となる。その場合私やブライアンのように加速に最も適したフォームが必要となる……違うか?」

 

「当たりです。よくわかりましたね」

 

「わかるさ、私もフードファイトで似たようなことをしたことがある」

 

「え?」

 

「フードファイトの短距離競争つまり早食い大会のことだ。その時私の他にウマ娘が三人いてその内の一人が強力なライバルだった……引き離そうとしたけど、中々引き離せなかった。何故引き離せないのか、彼女の食べ方を見てそれを真似してみたら一息つけたこともあり、楽に引き離せたんだ」

 

「確かにそれは出来るかもしれませんけど、他人が食べているのをみて食欲失せませんか?」

 

「いや全く」

 

「メンタルが強すぎる」

 

「君ほどじゃない。君は日本ダービー、宝塚記念、KGⅥ&QES、凱旋門賞、JCを勝ってきたんだ。クラシック最高峰、シニアからのプレッシャー、初の海外遠征、世界最高峰の舞台、そしてホームならではのプレッシャー。普通なら潰れてもおかしくないものだ」

 

「でもオグリキャップ先輩は地方からやって来たのにそういうプレッシャーなんて関係ないと言わんばかりにレースをしてきたんでしょ?」

 

「私には笠松の皆やベルノ、キタハラ、六平(ろっぺい)*1が支えてくれた上に離れているとはいえ国内だ。だからこの程度はなんでもない」

 

「なるほど」

 

「それに遠征先で食事が取れるかどうか」

 

「あー……英国はともかく仏国はフランス料理なんて言葉がある通り食事は美味しかったですよ」

 

「足りるかどうかの問題なんだが」

 

「いやそっち!?」

 

 ──オグリキャップの胃袋はブラックホールか何かで出来ているのだろうか? 

 

 そう疑問に思わざるを得ないほど二代目は衝撃を受けていた。

 

「そういうが君も大変だっただろう? メロン調達する為に一々帰国するほどのメロン好きなら……私の場合そのメロンが食べ物になるだけなんだ」

 

「まあ、それは確かに」

 

 勿論英国や仏国にメロンはあるが二代目は日本で作られた高級メロンが大好物であり英国や仏国のメロンは好みではなく、口の中の寂しさを埋めるためのものであった。

 

 

 

 そんなこんなでオグリキャップの疑問は晴れ、そして確信した。

 

 ──今度の有馬記念、私をマークするだろう。

 

 

 

 オグリキャップがマークされると思った理由は二つ。

 

 一つ目はオグリキャップのフォームを完全にものにする為だからだ。ラムタラやペンタイア等海外の強豪がいるJCの時点でオグリキャップのフォームを試していた。普通の精神ならそんなことはできない。何故なら今まで勝ち続けていた走りを捨ててまで新しいフォームで挑むということは負けに繋がる可能性もある。結果としては勝ったものの、もし一つ間違えばラムタラ達に負けていただろう。そんなレースの中二代目はやり遂げ、次の有馬記念でもそれをする。ましてやラムタラ等の海外のウマ娘がいない有馬記念ならオグリキャップを完全に真似る為にその姿を観察し続ける。

 

 二つ目は純粋に二代目のマークする相手がその出走しているウマ娘の中で最も手強いと思ったウマ娘に対してマークするからだ。

 

 

 

「流石、世界を制しただけのことはある。私の力見せてやろう」

 

 そう呟き、最終コーナーを曲がり切り、先頭にナリタブライアンとオグリキャップが立っていた

 

【ナリタブライアンだ、ナリタブライアン……いやオグリキャップだ! オグリ復活なるか! 三冠ウマ娘か、地方の怪物か!?】

 

「勝負だ、若いの」

 

 オグリキャップが魂と共にクラシック世代二人にそう告げるとナリタブライアンを置き去りにした。

 

【オグリ先頭、オグリ先頭! オグリキャップだ! スーパースターの復活なるか!?】

 

「ふ……ざけるなっ!」

 

 ただ指を咥えて見ているほどナリタブライアンも甘くなく地を這うフォームへと変換し、加速するとオグリキャップに食らいついていった。

 

 だがこの時二人に違和感が襲う。

 

 

 

 ──いつからアイツがいない? 

 

 

 

 それは二代目の存在であり、オグリキャップをマークしていたはずなのにこのデットヒートに食い込めていない。普通のウマ娘ならそれが当たり前だが二代目は違いそれに食い込めるだけの実力がある。だが現に二代目はおらず困惑する。

 

 ──待たせたね。

 

 その呟きがオグリキャップやナリタブライアンの二人に寒気を覚えさせた。

 

「まさか、そういうことなのか!?」

 

「大した奴だよ、お前は!」

 

 ナリタブライアンのセリフと共に二代目が大外から強襲。その加速はダービーや凱旋門賞の時の比ではなく、8バ身の差がほんの僅かな間に2バ身まで縮まり、今にも捉える勢いだった。

 

「だがミスだったな、グリーン。お前の敗因は仕掛けが遅れたことだ!」

 

 ナリタブライアンがオグリキャップを差し返し、二代目を突き放す。

 

 ナリタブライアンの言うとおり二代目は仕掛けが遅れている。それには理由がありオグリキャップだけでなくナリタブライアンのフォームすらも取り込む為だった。

 

「その通りだ。そんな付け焼き刃で私に勝てると思うなっ!」

 

 オグリキャップがナリタブライアンをまた差し返す。

 

 だが二人のデットヒートを尻目に二代目が徐々に迫っていく。

 

「くそがっ!」

 

「ぐぁぁっ!」

 

 野獣のごとき断末魔の叫びが響く。

 

【ついにアイグリーンスキーが、凱旋門賞ウマ娘が三冠ウマ娘と年度代表ウマ娘を捉えたーっ!】

 

 そして残り150m、二代目がついに二人を差し切る。

 

「こっちも負ける訳にはいかないんだ!」

 

「絶対に行かせるものか!」

 

 必死に離されまいと二人が泡吹きながらももがき、二代目に食らいつく。

 

 ──忘れたの? 私の脚は三の脚まであると。

 

 そう頭の中にテレパシーされたかのように二代目が更に加速し、二人いや有馬記念出走者を絶望させた。

 

「……こいつ、ばけものか?」

 

【アイグリーンスキーが1馬身、2馬身、どんどん差を広げていくーっ!】

 

 共に走る者を絶望させ、瞬く間にゴールへと向かっていく。まさしく宇宙からの侵略者そのものだった。

 

 

 

 だが丁度その時、二代目が躓き僅かにヨレてしまい、減速してしまった。

 

【あっと、なんだ!? アイグリーンスキーヨレた!】

 

 オグリキャップのフォームに二代目の身体がまだ対応しておらず、足が早く地面に着いてしまった為に躓き、事故を防ぐ為にヨレて減速。それ故の結果だった。

 

「よしっ!」

 

 絶望から希望に変わり、二人が復活し差を縮めていく。

 

【残り50m、ナリタブライアン、オグリキャップ届くか!? アイグリーンスキーか逃げ切るか!? 残り半分、半馬身! 届くか届かないか!?】

 

 二人が必死の形相で追い詰める理由、それはここで気を抜けば二人のマッチレース状態になったからではなく、いつ二代目に加速されるかわからず、油断すれば間違いなくその瞬間に加速され心を折られてしまい、3着になってしまいかねないからだ。

 

【アイグリーンスキーを捉えたか! 捉えた! ナリタブライアンとオグリキャップの一騎討ちムードだ!】

 

 ──もうお前が出し惜しみする余裕はない。さっさと加速して負けろ

 

 そう言わんばかりに二人が二代目を横目で見る。

 

 ──いいだろう。望み通り加速してやるが貴様ら後悔するなよ? 

 

 二代目の雰囲気が変わり歴然の雰囲気を醸し出した。

 

【いや終わらない終わらない! アイグリーンスキーが差し返すか大激戦でゴール(ドゴーン)! 四着争いにヤマトダマシイとヒシアマゾンです。さあ誰が勝ったんだ。グリーンか、ブライアンか、オグリか……】

 

 

 

「ナリブ、まさかまた俺を引き出させるとは大したやつだよお前は」

 

「その口調は、魂の方か?」

 

「まあな。咄嗟に変わらざるを得なかったからな。JCと有馬記念(このレース)で新たな課題も見つかったことだし、次が楽しみだ……春天で待っている」

 

 そう言い放つと掲示板に二代目の番号が一番上に載せられ、その次にナリタブライアンとオグリキャップの番号が記載されていた。上から順に着差はハナ、同、9、ハナと記載されており二代目が1着、ナリタブライアンとオグリキャップが2着同着であることが伺えた。

 

「待て……大阪杯は出ないのか?」

 

 大阪杯はこの世界ではGⅠ競走であり、出走しない理由があるとしたら天皇賞春に向けて距離が近い阪神大賞典にするか別の日経賞にするかのどちらかしかない。

 

「土の魔王、世界が待っているからそっちが最優先だ」

 

「土の魔王というとドバイWCか?」

 

 大阪杯に出走しないもう一つの理由、それはドバイ遠征だ。ドバイワールドカップミーティングに出走する為に期間の近い大阪杯などのレースには出られないというデメリットがあるがその分レースの賞金は多く、先代のいた世界では日本馬の金蔓となっていた。

 

 しかしその中で最も賞金の多いドバイWCだけは中々勝てなかった。その理由はドバイWCはダートであり、日本がダートを主流にしていない為にレベルアップせずにいるからだ。

 

 この世界でもイナリワンが挑んでいるが惨敗に終わり、KGⅥ&QESや凱旋門賞等芝の最高峰レースを制した以上ドバイWCやBCクラシックといった世界最高峰のダート競走が日本のウマ娘の悲願となっていた。

 

「そうか……グリーンはイナリが倒せなかったあいつを倒しにいくんだな?」

 

 復活したオグリキャップが先代に近づきそう尋ねる。

 

「そうだ」

 

「有終の美、という訳にはいかなかったが世界一のウマ娘や三冠ウマ娘の門出を祝う特等席に座れたのだから悪くないレースだったぞ」

 

 オグリキャップがそう言い放ち、ウイニングライブ場へ向かうとナリタブライアン、そして先代の気づけによって目を覚ました二代目もそこへ向かった。

*1
むさか




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト16

151.コパノリッキーの風水は確かなものですがそれを理由に教室にある椅子や机などを動かしてはならない
152.根拠のないマチカネフクキタルの占いなら尚更です
153.いくら不審者がいたからといってそれを実験台にしてはならない。もちろん直接でも間接でもです
154.エリクサーなるウマ娘がいるのは事実ですが彼女は名前がそうなのであってファンタジーな世界のエリクサーを使ってウマ娘になった訳ではありません
155.同様にオームなるウマ娘がいるのは事実ですが彼女は名前がそうなのであって電気抵抗ではありません
156.トレセン学園の用意したVR機能はウマ娘達の為にありますがそれを改造してはならない。少なくとも全自動こけし割器に変えたのは許されることではありません
157.確かに生徒会や学園、URAといった組織が認めれば学園内でもレースを開催しても可能となりますが障害とつく名前で障害競走をしないのは禁止します
158.「あれは障害競走じゃなく障害走なんだから文句は言わせねえぜ!」なんて言い訳はとっくの昔に聞きました
159.貴殿方は黙っていればおっぱいがついたイケメンなのだから黙っていて下さい
160.かといって本当に黙ってトレーナー達を戦慄させてはならない。ほどほどに奇行を抑えて下さいという意味です

この第67Rのお話をお楽しみ頂けた、あるいはこの小説自体をお楽しみ頂けたならお気に入り登録や高評価、感想の方を宜しくお願いいたします。

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尚、次回更新は未定です


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第68R クラシック期ラスト編3

・年末年始ネタ
≫実はこのネタは2022年の年末年始に上げる予定でしたが、間に合わず断念し、どうせ書くなら有馬記念の後の話で書くことを決めて現在に至ります

・サウジカップ
≫2022年現在世界一賞金額が高いレース。1着賞金が1000万米ドルと桁違いに高く、ドバイWCですら総額で1200万米ドルとぶっとんでいるのに何事かと思える
≫サウジアラビアは国際的にはグレードはパートⅡ国で日本よりもレベルが低いのだがこのサウジカップは例外にダートでは世界最高峰のレースとなっていて、ダートの競走は開催国に関係なく賞金額とレベルが芝よりも比例関係が強くなることが伺える。極端な話、低レベルなコリアカップの賞金を3000万米ドルにし、国際競走に戻したら世界最高峰のレースになってしまう……まあ韓国における競馬の扱いは賭博要素が強いのでコリアカップが世界最高峰になるのは絶対あり得ないと思うが

・ついにイカれた◯◯
≫携帯がリンゴモードになったので機種変更してきたので記載。作者の二の舞になりなくなければリンゴモードになる前に皆様は携帯を機種変更して下さい


【年度代表ウマ娘はアイグリーンスキー】

 

【URA賞だけでなくカルティエ賞も受賞!】

 

 年末年始。そのような新聞が飛び交う中、アイグリーンスキー先輩と私は某番組に出演していた。

 

 

 

「メリー苦しみます!」

 

「違うでしょ! メリークリスマスだし、今はお正月!」

 

 先輩がボケて思わず突っ込みを入れる私、モブことモミジブランド。この先輩、ゴールドシップ程ではないにせよ基本的にボケるから大変なんだよね。

 

「いいじゃない、メリーさんを苦しみませるって意味じゃ」

 

「それはそうですけど」

 

「さて、新年明けましておめでとうございますと言ったところでメロンでも食べましょう」

 

「メロンじゃないでしょう!? そこはお雑煮とかで良いんじゃないですか!?」

 

「じゃあメロンお雑煮で」

 

「先輩のメロン推しが酷すぎる」

 

 

 

「さて、笑ってはいけないウマ娘達やこれから行われる地獄の背走サンタSPの為にもウマ娘格付けランキングをやって行きましょう!」

 

 地獄の背走サンタSPは昨年から始まったTV番組でサンタ衣装を前後ろ逆に着た芦毛のウマ娘達が、他のウマ娘達に追いかけるというもので、捕まえたウマ娘には賞金が与えられるけど昨年は全員逃げ切り今年はどうなるか期待されている。

 

 笑ってはいけないウマ娘達も年末の番組で選ばれたウマ娘達を美浦寮と栗東寮が一年置きで交代で笑わせるというものだ。もちろん選ばれたウマ娘達は笑ったらペナルティが与えられる。

 

 ちなみに今回私達もTV撮影に参加することになり、その名前も【ウマ娘格付けランキング】。ウマ娘達が音楽、食材、物品などを見分け、間違えた分だけ扱いが酷くなっていく番組だ。

 

 

 

「さて皆様よろしくお願いいたします」

 

「シンボリルドルフだ、よろしく頼む」

 

 シンボリルドルフ会長をはじめとしたレギュラー、そして今回ゲストとして呼ばれた先輩達が挨拶し、番組が進行していく。

 

 

 

 それからは阿鼻叫喚、エアグルーヴやフジキセキ、そしてナリタブライアン先輩がしかめっ面を晒す嵌めになり、会場は大爆笑。唯一絶叫もしかめっ面もしなかったのは全問正解した会長だけだったのが心残りだ。このまま収録しても面白くない。

 

「ねぇ、ポニーちゃん」

 

 そっくりさんに降格したフジキセキが声をかける。

 

「フジ、どうしたの?」

 

「あの会長に少しイタズラしてみない?」

 

「よし乗った」

 

 ここで盛り上げなければ芸人として詰まらない。その誘いに乗るのは当たり前だった。

 

 

 

「さて最後にこちらの二つを飲み比べて貰います。こちらは一杯1万円のロイヤルビタージュースの水割りと500円の安物の青汁です」

 

 ロイヤルビタージュース。これを飲むとウマ娘達の体力がほぼ全回復する現代の秘薬とも呼ばれる飲み物。その為トレーナーからかなり需要があり一時期は一杯百万円を超えたとも言われている。値段が大幅に下落した今でも8万円以上で取引されているほど貴重なものだ。

 

 しかしその一方でウマ娘から大変評判が悪い。それというのも味が不味い……いやそんな次元ではなくウマ娘のやる気を下げさせる物で暴飲暴食、悪食王ことオグリキャップ先輩ですらこれを飲んだ後は気分を悪くしていた。そのくらい辟易している。

 

材料はどんなの(聞いていないよ、それ)?」

 

 先輩がそう私にそう尋ねるが即興で思い付いた物なんだから当たり前だ。

 

「それはお答え出来ませんよ」

 

「ふむ……」

 

 なんてね。実際にはどっちも安物の青汁。甘味のある先輩特製メロンジュースを飲んだ直後だと苦味が強調され、メロン慣れしている先輩以外はわからない。その先輩ですら悩んでいる程難しい。

 

 

 

「ふむ……時にモミジブランド。皐月賞は最も速いウマ娘、菊花賞は最も強いウマ娘が勝つとされている。日本ダービーはどんなウマ娘が勝つと言われているか知っているかな?」

 

「最も運の良いウマ娘が勝つ、でしたよね」

 

「その通りだ。ミスターシービーがいない今、私はこの中で最速かつ最強でしかも運が良いウマ娘と言える」

 

「ほざけ、それは私に対する挑戦状か? 会長さんよ」

 

「ブライアン、君の三冠はダービーでアイグリーンスキーと同着だったはずだ。最速や最速であったとしても運は良くない」

 

「くっ……」

 

「さて話を戻す。これはどちらでもないな?」

 

「そう思われるなら、第三の選択肢のCでいいんですね? ファイナルアンサー?」

 

「ファイナルアンサーだ」

 

「ではCの部屋へ移動して下さい」

 

 第3の選択肢用に用意してあった部屋に会長が移動する……いやこれ本当にどうしよう? 

 

 

 

 案の定、会長だけが正解して私達が恥をかく結果となったのはいうまでもなかった。

 

 

 

「さて二地域で年度代表ウマ娘となったアイグリーンスキー先輩に今年の抱負についてお伺いしても良いでしょうか?」

 

「もちろん。私はこれからサウジC、ドバイWC、天皇賞春、宝塚記念、KGⅥ&QES、凱旋門賞、BCクラシック、JCを予定しています。そのレースを手土産にDTのウマ娘達に挑みたいと思います」

 

「それってつまり……トゥインクルシリーズにいながらDT入りするってことですか?」

 

「DT入りはまだよ、モブちゃん。トゥインクルで走るウマ娘とDTで走るウマ娘、どちらが強いかノンタイトルレースを開催する予定です」

 

「!?」

 

 その言葉に全員が驚き、一部に至っては席を立ち上がった。

 

「それはなんとも壮大な話だな……」

 

 会長が絞った声でそう呟く。私だってそう思うもの。

 

「先日英国寮の寮長が来日したのは覚えているでしょう? あの時には既にその話があがっていました」

 

「ノンキャットデーのことか……呑気に雑談していた訳ではなかったのか」

 

「会長、仮にも英国の代表者が呑気に雑談する訳ないでしょう」

 

「すまない今のはシャレだったんだが……」

 

「あっ……」

 

 エアグルーヴのやる気が下がり、先輩が話を続ける。

 

「何はともあれ私は芝ダート全ての頂点に立ってDTのウマ娘達を蹴散らせます」

 

「楽しみにしているよ、アイグリーンスキー君」

 

 会長がそう微笑むも目が笑っておらず、先輩も獰猛類の笑みを浮かべていた。エアグルーヴがやる気をなくして凹んでいるせいもあり、空気が淀んでいるからか余計に怖くみえる……

 

 

 

 こうして私達の年末年始は終わった。あ、後シンザン記念は勝ちました。




ゴールドシップとフジキセキの禁止されているイタズラリスト17

161.コパノリッキーやマチカネフクキタルに「ラッキー、クッキー、八◯あき」と吹き込んで流行させたのは大罪です。
162.アグネスタキオンの薬を薬用したウマ娘を放置してはならない。貴殿方は気合いで克服したのだからその方法を伝授すること
163.男女関係なくトレーナー達をメス堕ちさせてはならない
164.【アグネスのやべー方アンケート】なるアンケートをすぐに締め切るように。もちろんそのアンケートを破棄するように
165.メジロマックイーンなど体重に悩まされるウマ娘に「ドーナツは0の形しているからカロリー0、アイスも冷凍しているからカロリー0」といった謎のカロリー論を吹き込んで太らせたのは重罪です
166.確かに貴殿方のトレーナーを含めトレーナーは変人が多いことは事実ですが、貴殿方の奇行を学園は認めた訳ではありません
167.貴殿方の奇行にトレーナーを巻き込んではならない
168.カツカレーに何をかけるかで論争が起きるのは仕方ありませんがそれをレースを開催する理由にはなりません。そんなことがまかり通ったらレース至上主義になるからです
169.理事長をたらしこんで劇場や回転寿司を作ろうとしてはならない。試験的に運営した結果、ウマ娘に人気過ぎてレースや学業が疎かになるとトレーナーや教師陣から苦情が入った為です
170.夜更かし気味といった体調不良を隠す為に奇行を増やすことは許されません

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