双空 (文月りんと)
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1.私の願い

現在 日本某所


「ようやく見つけたぞ…」

 

 男は部屋の片隅で電気もつけずにPCのキーボードを叩きながら、何か作業をしていた。男のいる建物は通常の雑居ビルにも見えた。

 だが、最新鋭の研究機材や解析装置などが設置されており、施設などを見ると研究所のようだった。

 

「これで積年の恨みを晴らす事ができる。あとはこのデータを復元できれば…」

 

 男は作業に夢中で他の事など気づいていなかった。そう、男の背後には“砂”が大量にあった。

 一見、何の変哲もない“砂”だったが、それは意思を持っていた。

 

『その願い、叶えてやろうか? ただし、お前が払う代償はただ一つだ…』

 

 男にだけ聞こえる問いを“砂”は投げかけた。

 

「ん? ………なんだ、空耳か」

『空耳ではない。お前だけに聞いている。もう一度だけ聞こう、その願い、叶えてやろうか?』

「!!!」

 

 男がPCから一歩離れると、足下が砂だらけなのに気がつく。

 

「これは…。お、お前は一体誰だ!まさか、新しい仮面ライダーじゃないだろうな!?」

 

 現在の男の所属先は財団Xだった。彼自身、過去にとある組織に所属しており、その組織も仮面ライダーによって壊滅させられていたのだ。

 

『違うな。俺はお前の味方だ。さぁ、望みを言え』

 

「わ、私の願いは…。仮面ライダーの奴等によって、人生を変えられた。だから、この手で奴等を一人残らず倒したい!」

 

『………了解した。契約成立だ』

「なっ!?」

 

 契約が成立したことにより、“砂”は形をなしていく。それは先ほどまで自分が見ていたPCに出ていたとある怪人達を模した姿だった。

 

「お前のその姿は…」

 

『俺はイマジン。あぁ、これは貴様が復活させたい怪人なのだろう? 多少、みてくれは違うだろうが、まずはお前の願いの原因となったライダーとやらを教えろ』

 

「か、仮面ライダーストロンガーだ!アイツのせいで、クラゲロンは!!」

 

 男は握り拳を机に叩きつける。

 イマジンはチケットを取り出し、契約した男の頭に近づけた。

 すると、何も記載していなかったチケットが1980年2月15日を示した。

『このままでは不便なのでな、貴様の身体を借りるぞ?』

「なにっ!?」

 

 イマジンは男に飛び込んだ。

 身体を内側から壊されるそんなイメージが駆け巡る。

 男は頭を抱え、暴れ回った。

 

「や、やめろ!? なにがどうなって、うわぁぁぁああああ!!!」

 

 男の目が一瞬だけ光り、そして、イマジンは瞬時に男の意識を奪い、同時に殺した。 男だった者はこの瞬間、消え失せたのだ。

 

「あぁ…実に気分が良い。身体にも馴染む。……よし、まずは契約をこなさねばな。

過去へとさかのぼり、憎き仮面ライダーストロンガーを殺す。そうすることで……フフフ!」

 

 不適な笑みを浮かべ、イマジンは過去へのゲートを開く。

 ふと、PCに見えたデータが目にとまる。

 

「……だが、その前に己を強化しておくのも手だな」

 

 不完全だった自身の身体を改良すべく、PCに手をかざす。一気にデータを自身の身体へと吸い出したイマジンの姿が更に変わっていく。男が調べていたデータとは過去に発掘されたとある怪物達だった。

 

「ゴルドラとシルバラの力を得た俺は無敵だ!」



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2.イマジンズ

現在から過去 移動中


 レールの上を時の列車、デンライナーが駆け抜けている。

 車内では賑やかな乗客達が城茂を囲み、自己紹介をしていた。

 

「なるほどな。大体把握したが、とにもかくにも信じてみるしかなさそうだな、お前達を…」

 

 腕を組み、城茂は周囲を見渡す。

 城茂の周りを取り囲む赤鬼を模したモモタロス、海亀を模したウラタロス、クマを模したキンタロス、リュウタロスのイマジン達。

 そして、その契約者である野上良太郎がいた。

 

 現在に発生した世界が消えてしまう事件に遭遇した城茂だったが、事件発生直後にやってきた良太郎達に連れられ、彼が、仮面ライダー電王として行ってきたこれまでの事、現在、消失の原因となった過去の世界で筑波洋を救うべく時間旅行の移動中だった。

 良太郎の話では悪のイマジンによって、過去が改変されてしまい、その後の未来が無かった事になっているそうだ。

 しかも、その原因となった時間では、仮面ライダーストロンガーがスカイライダーと合流前にイマジンに遭遇し戦いに破れ、スカイライダーはクラゲロン、サイダンプの二人の怪人に敗北してしまったという。

 結果、改変された過去では歴代のライダー達が奮戦したものの、生き残ったライダーはストロンガーだけという状況となっていた。

 

「それでオレだけが残ったってワケか。どんな相手なんだ。過去のオレを退けたってイマジンは…」

 

 複雑な心境な茂だったが、そんな様子を知ってか知らずかモモタロスが近づいてくる。

 

「おうおう! 茂兄ちゃん、あのバイクなんだよ、カブトローっての! イカスデザインじゃねーか!」

 

 良太郎達は茂と共にカブトローもピックアップしてきた。そのバイクに興味津々なモモタロスは意気揚々としている。

 

「先輩、ダメだよ。今、大事な話し中なんだから…」

 

「うるせー! オレだって今、大事な話をだなぁ…」 

 

 今にも飛びかかりそうなモモタロスを身体を張って止めるウラタロスだったが、なかなか抑えられずにいた。

 お茶を飲みながら、その様子を眺めるキンタロス。

 

「なんや、もう茶は無いんか? ナオミ、おかわり!」

 

「はーい!」

 

 客室乗務員のナオミは奥のスペースで新しいお茶を作っていた。

 ナオミの近くで折り紙をしていたリュウタロスは良太郎達めがけて、出来上がった紙飛行機を投げつける。

 

「ぶーーーん! えーーい!」

 

 紙飛行機はモモタロスの頭に直撃に突き刺さった。

 

「い、痛ぇ!! おい、リュウタ! テメェ、呑気に遊んでんじゃねーぞ!!」

 

「………いつもこんな感じなのか、この部屋は」

 

 落ち着きのない面々を見て、行き先が不安になってくる茂。

 

「ははは…すみません」

 

「スゲぇな…こんな状況でお前も大変じゃなかったのか?」

 

「いつもこんな感じですね…」

 

 頭をかきながら、はにかむ良太郎。

 

「はい、どうぞ。コーヒーのおかわりよ!」

 

 コハナと呼ばれた少女がナオミの代わりにコーヒーを持って来た。

 

「あぁ、サンキューな、コハナちゃん。ってなんだ、これ…」

 

 先ほどとは違う、カラフルな色に彩られたコーヒーを見て絶句する茂。

 

「さて、まもなく目的の時間に到達します。ご乗車のみなさん、準備はよろしいですか?」

 

 チャーハンに指した旗を倒さぬよう奥の座席で食べ続けていたデンライナーのオーナーが告げた。

 

「え!? もう着いたのか?」

 

「はい、到着です。それじゃ、改めて城茂さん。どうぞ宜しくお願いしますね」

 

 座席から立ち上がると良太郎は、茂に向かって右手を差し出した。

 

「あぁ、こちらこそ宜しくお願いするぜ。今回は洋だけじゃなく、俺たちが生きていた未来を救わなきゃならねぇからな」

 

 笑顔の茂は良太郎の手をがっちりと握手した。



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3.急がば回れ

過去 1980年2月15日


『さぁて、悪さしやがったイマジンはどこにいやがる!』

 

 デンライナーから降車した良太郎にすぐさま、モモタロスが憑依した。赤いメッシュ色の髪の毛を帯びて、姿も筋骨隆々となり、周囲に向けて目を血走らせている。

 その横で茂はカブトローの点検をしていた。

 

「おい、モモタロス。少しは落ち着けよ」

 

 普段は突っ走ってしまう性格の茂ですら、憑依後の良太郎の姿は驚きを隠せなかった。

 

『なんだよ、急がねぇと茂兄さんが危ないんだぜ? いくら良太郎が特異点だからといっても、限度ってもんがあるんだよ」

 

「だったら、尚更だ。急がば回れってヤツだな。なぁ、この時代の俺の事は把握してるのか?」

 

『あぁ、そこは抜かりねぇぜ。今が何時か確認できりゃわかるんだが…』

 

「わかった。ちょっと待ってろ」

 

 カブトローのエンジンを吹かし、茂は周囲に人がいないか捜索しに向かった。

 

 

 カブトローを走らせ茂はこの時代の人間を探した。

 すぐに喫茶店の前でバイクのメンテナンスをしていた男性を発見する。

 茂は男性の前でカブトローを停車させた。

 

「すまねぇ、ちょっと聞きたいんだが、今が何時何分か教えてくれるか?

時計の持ち合わせがなくてよ…」

 

 男性は茂に気づき、顔を上げる。

 

「お安い御用だ、ちょっと待ってろ」

 

 男性は左腕に身につけていた腕時計で時間を確認した。

 

「今は午前九時ってトコだな」

 

「おじさん、ありがとう。それじゃ!」

 

 茂はカブトローを走らせ、すぐにその場を立ち去った。

 

「うん、いいエンジン音だ。それに、面白いデザインのバイクに乗ってるな。

ありゃオリジナルか?」

 

 男性は茂のカブトローに興味津々で反応していたが、その時、喫茶店のドアが開き、ウェイター姿の男性が出てくる。

 

「マスター、洋さんからコール鳴ってますよ!」

 

「おお、今行く!」

 

 茂は知らない。今し方、茂とやりとりしたこの人物を。

 そう、彼はスカイライダーを日頃からサポートしていた谷源次郎その人だった。

 

 

 

 デンライナーで降車した場所へ戻ってきた茂。

 

「モモタロス、時間が分かったぞ。今、午前九時だそうだ」

 

『九時だと!? 危ねぇ! もう少しで洋がクラゲ野郎やサイ野郎と戦う前じゃねーか!』

 

「急ぐぞ良太郎。場所は分かっているんだろうな?」

 

『あぁ、ついてこい!』

 

 停めておいたマシンデンバードに飛び乗ったモモタロスはすぐにエンジンを吹か

せ、目的地へ移動を開始した。

 

「あっ、おい! 相変わらず短気みてぇだな、アイツ。おい、待てってー!!」

 

 茂もカブトローでモモタロスを追いかけた。



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