クリスマスイブの居候 (ポーター)
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初日

クリスマスイブに一日で急いで書いたので誤字や表記揺れがあるかもしれません。
ご容赦ください。
後小説初投稿です(予防線)


今日は妙にイラつく。

 

暗部の仕事があったことはいい。別につらくもなかったし、何か失敗をしたわけでも、おかしなやつがいたわけでもなかった。かなり遅くなって夕日が見え始めているが、それは別の要因によるものだ。

 

それに報酬が出るのだ。ファッションにも趣味の映画鑑賞(B級以下に限る)にも存分に使えるほどの報酬が。

 

じゃあ何が気に食わないのかというと・・・

 

「クリスマスにカップルで映画鑑賞とか・・・超家でやってろって感じです。」

 

朝に暇つぶしで入った映画館と先ほど入った映画館が、小声で話し続けるカップルの温床であったことと、

 

(・・・結局のところあいつはなんだったんでしょう...?あんな場所で座り込んでいたくせに、私の顔を見たとたんにこっちの名前をつぶやいて逃げ出しやがりましたし。)

 

仕事が終わった後の現場に中学生くらいの男がいて、話を聞こうとしたらとんでもないスピードで逃げ回って、挙句の果てに逃げ切られ時間だけを無為に消費したこともそうだった。

 

(おかげで今日はクリスマスイブだっていうのに、大した準備も超できませんでした・・・。クリスマスイブに、とりあえず置いてあるような弁当や総菜を買うのも食べるのも超嫌ですし、せめてそこら辺のコンビニで超飲み物買ってからピザでも頼むことにしましょう。)

 

 そうして明日はそれなりに豪勢な食事になるように予定を考えていると、路地裏から荒い息遣いと疲れ切った足音が聞こえてきた。

 

(・・・?超暗くなり始めているのに路地裏に?喧嘩から超逃げてきた・・・?それにしては一人しかいないし追っ手もいないように聞こえますね。というか、逃げているのだとしても、逃げ切ったにしても表に出たほうが見失いやすいでしょうに、未だに出てこようとしませんね...)

 

明らかに何かあるとわかる状況だが、今の私はイラついてどうしようもないのだ。

訳アリなら一発ぶん殴ったところで大したこともないだろうと、気晴らしのために座り込んだらしい音の主へと足を進めるとそこには

 

「っ!クソっ!」

 

先ほど見事にレベル4(窒素装甲)から逃げ切った推定レベル0が座り込んでいた。

 

「・・・ようやく見つけましたよこの野郎。」

 

別に今の今まで探していたわけではないが、こう言っておけば相手の恐怖心が高まるだろうと半分脅しの言葉をかけてみる

 

「それで?結局なぜあの場所にいたのか教えてもらいましょうか?それとも有無を言わさずぶん殴られるほうが良かったりしますか?」

 

息を切らして、言葉を探しているのだろうその男はゆっくりと、どこか諦めた表情でやっと言葉を発した

 

「・・・休むところを探してました。それ以外は何も。」

 

そう言い終わると男はゆっくりと息を落ち着かせた。

私のことを知っていてあんなに逃げたやつがその程度なのかと少し落胆しながらどこを見ても一般人にしか見えない、私よりも少し背が高い程度の男にさらなる質問を投げかけた

 

「・・・案外超つまらないですね。なら、何故私を知っていて、しかも超逃げたんですか?」

 

「・・・貴方のことを知っていたのはたまたまです。そこらで聞いたとかそんなとこです。逃げたのはいまいち貴方を知っている理由がパッとしないからです。」

 

確かにまったくもってパッとしない。

まぁ情報源なんて簡単にばらしていいものではないし当然隠しているだけだろう。

 

だがこうしてみていると全くもって暗部に所属しているようには見えない。

今も最初も私のことを殺そうという気はなさそうだし、人どころか生き物を殺したことがないんじゃないか、というくらい弱弱しい。

今こうして私に殺されるかもしれないというのに、仲間へと連絡するそぶりも、そもそも電子機器の類すらも持ち合わせていないように見える。

もしかして本当にたまたま聞いただけなんだろうか。いや、警戒は怠るべきではない。

この弱弱しさももしかしたら演技かもしれない。

 

(ただまぁ、いくらか確認をしてあげてもいいかもしれませんね。仲間がいないということはぶん殴った時に回収する人間がいない、ということでもありますし)

 

「確認で聞いておきたいんですが「暗部」というものを知っていますか?それと仲間はいますか?」

 

「・・・「暗部」についてはそれなりに。仲間・・・何か悪いことをする仲間ってことなら今も昔もいませんし、そもそも「暗部」に関係することはなにもしてません。」

 

 ・・・少し危なかった。

全部信じるとして、衝動のままにこの人をぶん殴ってたら暗部をちょこっと知ってるだけの一般人をKOして、後始末を自分で行わなければならないとこだった。

だってもしこの少年が私に殴られて気絶なんかしたりして、私はしないが気絶してる間にチンピラに金をとられたりなんかしたら、確実にいろんなところを通じて私のもとに「なぜそんなことをしたのか」を書くための書類が送られ、最悪警備員(アンチスキル)のお世話になるところだった。

それを防ぐためにわざわざ高い金を使わなきゃいけなくなり、仕事も多少減るかもしれない。

 

そんなことになる前に気づくことができて本当に良かった。そんな馬鹿なことをするぐらいなら適当な廃ビルに赴いて壁を殴ったほうがよっぽどマシだ。

 

「ふーん...そうですか。でも、なぜ私の名前を知っているのかは言えないと?」

 

「・・・はい。」

 

私のことを知っていても大したことではないがこの少年はそれなりに重要なことだと考えているらしく、今も私の顔をじっと見つめてこちらの判断をうかがっている。

もし本当に暗部に関係していないのならば便利な手足にできるかもしれない。

 

このあたりには寮や宿などの宿泊施設もない。

ふつう逃げるならばなるべくそういったものに近いほうに逃げたほうがいいだろう。

部屋に入れば確実に見つかることはないし、今は夕方だから学生たちに紛れることもできる。

それなのにこの男がそれをしない理由は一つ。

 

「あなたは最初に会ったとき泊る場所を超探してましたね。」

 

「!・・・はい、そうです。・・・でもなんでわかったんですか」

 

「少し考えればわかることです。それに、あそこもここも人通りが少なく、教員なんかも少ないところですからね」

 

しかしそうなると少し困る。

 

なぜか罪悪感のようなものを感じ、うなだれ始めた少年の処遇をどうするべきか。

住むところがないということはお金なんかもないということだし。

このままいけば暗部の仕事に手を染めることになるであろう少年を前にどうするべきか悩んだ。

 

(もし私がこの人に超適当な仕事をさせたとして、超本当に完遂できるんでしょうか?とてもじゃないですけれど手際よくいく気が超しませんね。だからといってこのまま超放っておいてもいつか死ぬだけでしょうし、せっかくの超新たな労働力になりそうで超人畜無害そうなこの人を捨てるのは超もったいなさそうですね・・・。有効活用できそうなものは何かないでしょうか。)

 

「・・・あの...?」

 

あまり長く考えていたせいか不安そうに男がこちらを伺っていた。

そんな顔で見ないでほしい。こっちだってどうすればいいのか決めかねているのだから。

 

「少し黙っていてください。・・・いえ、やっぱり一つ聞きます。」

 

いいことを思いついた。暗部の人間には任せられないがやってほしいことがいくつかあったのだ。

これぐらいならこの男もできるだろうし、これだけで生かしてもらえるならばと喜んでやるだろう...自由はなくなるが。

「あなた、家事はどの程度できますか?」

 

そう、家事、主に食事だ。だってこのまま一人家で出前なんかを注文するのはいくらなんでもさみしすぎる。

この少しの間いなくなっても誰も困らなそうな男に家事をしてもらえばあったかい料理とほんのちょっとの楽ができるそうと決まれば話は早い。

 

「へ?家事ですか?あ、えっと一応カレーとかコロッケとか料理で作れて、掃除や洗濯も人並みには。あとは...」

 

いつのまにか息は整えていた男はそういった。合格だ。

 

「それだけできるなら超十分です。せめて今日と明日それをしてもらいます。ほら、いつまでも座ってないで早く行きますよ。」

 

「は?え?」

 

困惑しているようでなかなか体を起こさない男にさらなる言葉をかけてやった。

 

「それともやっぱり気絶するまで殴られるほうがいい感じの超ドMですか?そうならそうと早く...「いっ今行きます!!」

 

 

 

「それではクリスマスにあった感じの料理をお願いします。これを料理にならば好きに使ってもらって構いませんので。」

 

私がそういって5万ほど渡してやるととても驚いた顔をして、

 

「これ全部ですか!?」

 

などと聞いてきたので、

 

「別にそれ全部を使えというわけではありません。なんなら余ったらあなたのものにしてもらって構いませんよ。・・・勿論節約してまずい料理作ったりしたらどうなるかわかってますよね?」

 

と言ってやったらアレルギーはないか、冷蔵庫には何があるか、調味料はどんなものがあるかを聞いた後せわしなくスーパーへと欠けていった。

 

(それなりに真面目にやってくれそうで超良かったです。もちろんあれが超演技でお金だけもらってとんずらこくようでしたら次に会ったとき超容赦なく殺すことになりますけど。それにしても何を作ってくれるんでしょう。・・・あれ、お皿はどのくらいありましたっけ・・・まぁ紙皿で超いいでしょう。あぁあと超適当に服も買っておいてあげましょう。あの人それなりに便利そうですし。)

 

そうして紙皿と上下の服と下着を2セット買い終わりあらかじめ決めておいた集合場所で周りで相も変わらずイチャつくカップル達に辟易としたり、食事の後に何のDVDを見るかを考えていると、男が返ってきた。

20分近い時間がかかったが、早いほうだろう。

二人分にしては少し量が少ない気もするがまぁこれも問題ないだろう。相変わらずこの男は私のことを少しおびえたような目で見ているため、下手な料理はしないだろうから。

 

「さて、では行きますよ。あなたの衣類を先に買っておきましたので今日と明日は許可なしに家から出ることを禁じます。」

 

男は少し意外そうな顔をしながら

 

「服をですか...?あぁ!ありがとうございます!出れないのも...わかりました。」

 

(もしかしたら夜は帰れる気でいたのかもしれませんね。そんなことされると時間がかかってしょうがないからわかりきってるかと思ったんですけど。それにしても仕事量を思うと自分だったら耐えられないかもしれませんね。まぁ、私にはもはや関係ないことですけど。)

 

 

 

「着きました。土足で超構いませんよ。」

 

数十分時間をかけてマンションについた。

荷物は全部持ってもらってそれなりに会話も返してくれたから大分心境としては楽だ。早くも成功を感じている

・・・まぁ別に持ってもらわなくても良かったといえば良かったが。能力があるし。

 

「このマンション、外から見たときも思いましたけど結構デカいですね...」

 

男が荷物をテキパキと分けながら話しかけてきた

 

「まぁ、大能力者ですし。1人用ですけど。」

 

「えっ...それいいんですか?」

 

「あぁ、すみません。マンション側が決めているわけではなく開いてる部屋がもうないってだけです。誤解を招く言い方をしてしまいましたね。」

 

「あぁいやそんな、謝らなくていいですよ、料理はもう始めていいですか?」

 

さっきまで荷物を整理していたと思ったのにもう終わったのか。なかなか優秀だ。

5時を過ぎようとしているしそうしてもらおう。

 

(まぁ私はリビングで映画見ているだけですし超楽にできますね。)

「えぇ、お願いします。キッチンは好きに使っていいので、美味しいものをよろしくお願いしますね。あと、7時までにはよろしくお願いします。」

 

「わかりましたー。任せてくださいー。」

 

ここに来るまでの道のりで多少世間話をしてリラックスしたからか、少し間延びした返事が返ってきた。

 

 

 

(超美味しかったです・・・。)

 

暗部の人間じゃないということで、それなりに気を遣わず和気あいあいと食卓を囲むことができたこともこの満腹感の要因だろう。

ただ一つその中に気に食わないことがあった。

それは、

 

「妙に食材が少ないと思ったら残り物でいいって・・・自分用の食事を作るなというほどケチじゃありませんよ私は。」

 

この男―最上というらしい―は自分の食事を作らなかったのだ。

 

「いや、だってさすがに絹旗さんと一緒のものは・・・。」

 

「なるほど。私に向かって言い訳とは超大したものですね。明日、貴方が日の目を見れるかが怪しくなってきましたね。」

 

「・・・すいません。」

 

「ええ、それでいいんです。この家の主は私です。全部私に従ってもらいます。それで、明日の朝の分の食材はあるんですよね」

 

この弱気な男の考えることだ。

どうせ余計に作ったら機嫌を損ねるとか考えたんだろう。

あの食材をどのように使ってどのような展望を持っているかを聞くべきだった。

とりあえず明日の分があるか聞こう。

少ないように感じたし、なかったら困るから。

もし、なかったらこの寒い中をひとっ走りさせてやろう。

 

「勿論あります!それぐらいはしっかりと!」

 

「・・・あなたの分は。」

 

「・・・ありません。」

 

とりあえず軽めにぶん殴っておいてやった。

 

「いいですか?私の家の中で餓死だとか超ふざけたことは超起こしたくないんです。」

 

「いや一日二日ぐらいじゃ餓死しませんし余りものが・・・」

 

「言い訳の次は口答えとは超偉くなったものですね?」

 

「わかりました・・・明日は自分の分も作ります・・・。」

 

「わかればいいんです。明日は私、昼前に超仕事があるので帰った時、軽めにあなたの分と一緒に昼を超お願いしますね。」

 

「わかりました。朝と昼の食事の量はどのくらいにしますか?あとそれもクリスマスに合った料理のほうがいいですか?」

 

「そうですね・・・朝は超軽めに済ませられるものなら何でも、昼は超それでお願いします・・・というかあなた、なかなか肝が据わってますよね。半ば監禁されてるようなものだっていうのに。」

 

そう私が言うと彼は少し言いにくそうにしながら。

 

「まあ・・・その・・・絹旗さんの人柄っていうのがなんとなくわかったといいますか・・・絹旗さんは優しいので。」

 

そう言われるのはそれなりに嬉しいけれどそこまで恥ずかしそうに言うくらいなら言わないでほしい。

なんとなくこっちも恥ずかしくなってきそうだ。

 

「・・・とりあえず食器を洗っておいてそれが終わったらお風呂にお湯を張っておいてください。」

 

私がそういうと彼は洗い物をしに行った。

それにしても彼は本当に大丈夫なのだろうか?

結構おいしかったのもあって大体のものを食べてしまったし、食べるものがないからって倒れられたら困る。

彼はどうにも無理をしそうで少し不安だ。

 

(特にやれることもありませんし、それを私が気にしても超仕方ありませんね)

 

それに私が渡したお金のお釣りもあるのだ。

いくら彼でも危機感を感じたらなにか買いに行くだろうし大丈夫か。

 

 

 

「んーっと。映画にも超付き合っていただいてありがとうございます なかなか感想を超言い合うこともなくてさみしかったんです 語り合う喜びというものを超思い出すことができました」

 

私は伸びをしながら、ある程度の掃除が終わった後に、暇だからと映画鑑賞に付き合ってくれた彼に感謝の言葉を述べた。

本当に楽しかった。

今日がクリスマスイブとかいうクソくらえな日であることを忘れるくらいには。

 

「私は肌にも悪いのでこの後お風呂に入ってさっさと寝ますが...あなたはどのくらい起きてますか?」

 

(まだ寝ないというなら私の秘蔵の映画コレクションを見てもらって、明日に感想を聞くことにしたいですけど)

 

「あー...っと絹旗さんが寝たら寝ます 寝るところはどうしたらいいですか?」

 

彼は案外どこでもいつでも寝れるような感じらしいと彼から聞いたから好きなとこに寝てもらえばいいだろう...私の部屋以外にベッドなんかないが。

 

「寝る場所・・・そうですね私の部屋以外なら超どこでも...フフッ」

 

そんな風にからかってみるとほんの少し頬を赤くして、

 

「・・・勘弁してください」

 

と言った。

 

結構話しなれた感じがするのに、こうしてからかうと新鮮というか面白いというか...そんな反応を返してくるのですごく気に入った。

多少強引なことをされてもまあいいかで済ませられるであろうという程度には。

 

でも彼はどうにも積極的にそういったものをしようとは思わないようだ。

先程も彼が飲み物を持ってきたときに、気まぐれで足を組み替えてみたらほんの一瞬こちらを見た時以外は、どれだけ何をしようと、足を大げさに組み替えて見せても、こっちをそういう目では見ていない。

なんだか不思議だ。男子中学生なんて私の中では年中発情期のサルと同列程度だと記憶していたのだが。

考えを改めるべきか、彼が特別だと考えるべきか。

まあ彼に直接そういうことに興味があるのか聞けばわかるか。シャワーを浴びながらそう考えた。

 

 

 

お風呂を出ると、彼がホットココアを用意しておいてくれた。

 

「どうぞ」

 

「・・・こんなものを買うくせに自分の食事は買わなかったんですね?・・・どうも」

 

「あはは...勘弁してください」

 

あいまいに笑う彼を横目に見ながらココアに口をつけると意外なほどに飲みやすい温度だった。

 

「・・・!すごく飲みやすいです・・・!わざわざありがとうございますね。」

 

カップを渡しながら自然とこぼれた笑顔を見せると彼は顔をまたしても少し赤くしながら、

 

「あ...あはは よっ...喜んでもらえてよかったです。」

 

と言葉につっかえながらも彼も笑顔を見せてくれた。

 

さすがにここまでしてくれるとはさすがに私も思ってなかった。そう思いながら洗面台に移動した。

思わぬ掘り出し物というか、すごくラッキーだったというか。

明日がここまで楽しみな日は一日中映画漬けになれる日の前日以外に今までなかった。

思わず鏡の前でこう思った。

 

(明日もこうやってすごせるといいなあ)

 

「それでは歯を磨いたのでもう寝ますね 私も不潔なのは好きじゃないので下手なことされたくなかったらしっかりと清潔にしてくださいね。歯ブラシもシャンプーもあるものを使ってもらえば結構ですので。」

 

「・・・?・・・!?え、えっと未使用のものがあるってことですよね!?」

 

やっぱり彼をいじるのは楽しい。

見てわかるほどに動揺してくれている。

 

「さあ?いってみればいいんじゃないですか?フフッ それでは最上、おやすみなさい」

 

「ええ...あ。はいおやすみなさい」

 

寝室兼私室に入ると意外なほど暖かかった。

でも自分は暖房をつけた覚えはなかった。

いつもならお風呂に入る前につけるのだが今日はそれをしていなかったということを思い出した。

 

(・・・超危なかったです つい気が抜けて超馬鹿みたいに冷たい部屋で寝ることになるとこでした。これも最上に超感謝です。)

 

いろいろと気遣いしてもらった私は安心して毛布にくるまり数分と立たずに夢の世界に旅立った。




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誘拐騒動

いい感じにかけました(日付をまたぎながら)


日付が変わって3時間ほど、寝てから4時間ほどたったころ私は目を覚ました。

 

(トイレ・・・昨日寝る前に超行くの忘れてました・・・行ってれば超こんな時間に起きることもなかったでしょうに...朝までぐっすり寝てたかったです...)

 

そう思いながら寝ぼけ眼のままトイレへとのっそりと移動した。

 

(ふぃー スッキリしますねー ・・・でもこんな時間から寝て明日起きれるでしょうか...?・・・いやまあ最上が起こしてくれますか)

 

案外彼のことを信用してるなーなんて思いながら、ふと彼の寝顔を見てみたくなった。

 

(最上の寝顔を撮っておけばちょっとしたときに反撃だったりいじったりするときのための超弱みになりますね よし、間抜け顔をこの私が超とっておいてあげましょう)

 

そう思いながら彼が変えておいてくれたのであろう温水の洗面台の水で手を洗って撮影用のケータイを持ってから彼の姿を探し始めた。

 

(あれー?超おかしいですね?ソファに寝てるもんだとばっかり・・・じゃあどこに寝てるんでしょう... まったく、超寒くて超早く寝たいのにこんなとこで超手を煩わすとか超使用人?失格です)

 

彼の職業はいったい何になるのだろうと考えながら、妙におびえていた彼をその恐怖感のまま連れ去ってここに彼を連れてきた私は携帯の明かりで彼の姿を探し始めた。

 

(んー?好きなところで寝ていいとはいいましたけれど、いざ場所がわからないとなると超面倒ですね...こんなことならソファに寝ろと命令するべきでしたね... どうせ超最上のことですし私が座っていたソファに横になるのは...とか考えたんでしょうけど)

 

しっかり考えればわかることだったな、と彼の単純さと気弱さを再認識しながらキッチンまで見てみると、壁にもたれながら寒そうに寝ていた彼を見つけた。

 

(超何してるんですかって感じです... 餓死の次は凍死チャレンジですかこのバカは...といってもあまりの毛布とか超ないんですよね 私も超寒いですし... リビングのソファに移動させてエアコンつけておいてあげるぐらいはしてあげますか 死なれたら困りますし)

 

面倒くさいと思いながら彼をわざわざ運び、つけるとすぐに部屋を暖かくし始めた学園都市製エアコンに頼もしさすら感じ始めると当初の目的を思い出した。

 

(おっと、寝顔...というか本当によく寝てますね... あんな場所で超寝ていたとは思えないほど超安らかというか・・・こんな面倒かけられなければ可愛らしいとすら思うほどのものなんですけどね...)

 

携帯を横に縦にと傾けて、いい感じの写真を撮ることで満足したので移動されても身じろぎ一つしない彼を尻目に寝室に向かうことにした。

 

(30分も立ってないですけど目が冴えて寝れるか少しだけ心配ですね・・・眠くはあるんですけど...)

 

数時間前と比べれば遅いが起きた後のこと考えているといつのまにか眠りに落ちていた。

 

 

 

朝はかすかに聞こえてくる何かが焼ける音とほんのりとしたいい匂いに起こされた。

 

(ほぁ...うぅ...夜起きたときは全然活動できる気がしたのに・・・超眠いです...)

 

疲れは残っていないが眠気は残っている体をだらだらと動き、寝るとき用の服から着替えて洗面台にいくためにいったん私室を出ると今すぐにでも食べたくなる何かのいいにおいが廊下にも少し漂っていた。

 

(うぅ...まだ超身支度できてないのに...起きたこと伝えるためにも超顔出したほうがいいんでしょうけど、顔出したら今すぐにでも食べたくなっちゃいそうです...)

 

わずかに葛藤したのち、いくらなんでも寝ぐせだのなんだのがあるかもしれない状態で顔を見せるのもイヤだしとお腹がすいているのを我慢しながら洗面台に向かった

 

 

 

「ごちそうさまでした。今日も超ありがとうございます・・・でもほんとによかったんですか?これ、あなたの分・・・ですよね?」

 

彼は先程作っていた料理を準備が終わってリビングに入った私にすぐに出してくれたのだ。

 

「いえ?自分のじゃないですよ?仕事の時間は知らされてましたし、あの料理が終わったぐらいに起こせば、余裕もてるだろうなーって感じで、起きたらすぐ食べられるようにしておこうと思いまして。」

 

なるほど、それなら納得だ。出ると伝えた時間の一時間前ぐらいだし確かに丁度いい。

よく考えれば前日に私の分はあるとか言っていたんだから量が多ければ私の分であるほうが普通だろう。

・・・なんだか彼といると頭を使わなくなってきている気がする。

晩御飯はダラダラして待つだけじゃなく多少料理を手伝うことにしよう。

それはそれとして、

 

(あれ?ということはまさかこの男・・・)

 

「・・・まさかとは思いますけど朝ごはん、たべてなかったりしますか?」

 

既に怒られたことをまたやってるんじゃないかと少し呆れた目で彼を見ながら言ってやると、

 

「それはほんとにまさかですよー 余りものだったんで少なくはありましたけど、ちゃんと食べましたよ? 昼までは持ちます!」

 

(怒られたことをやらなかっただけでここまで自信満々とは...超能天気です)

 

ただ、欲を言うなら食べている時に話してくれるだけじゃなくて一緒に食事してほしいと思いながら、朝は忙しくなるかもしれないし別にいいかと自分を納得させた。

 

「それじゃ私は余裕もって出ていきたいので超確認しておきますけど、ここから出るのは食材を買いに行くための1回だけで、家の中は好きに探索してもらって構いませんし、何を使っても構いません。勿論、あなたの良識を超信じてのことですので勝手すぎる行動を起こしたら超命はないと考えてくださいね?」

 

「はい!わかりましたー」

 

(ほんとならPCのパスワードを間違えるとデータ防止用のトラップとかがありますけど、まあ言う必要はないでしょう。)

 

彼の素性は大体わかった。

彼は置き去りとして学園都市に行きつき、能力開発ののち「必要なし」と判断され、怪しげな研究に参加させられそうになった。

その時に「なにかはわからないが研究に参加させられる」というところで危機感を感じ孤児院のような場所から逃げ出してきた、ちょっとだけ他の人よりいろいろできる一般人といったところだ。

 

(実際、その判断は超正解でしょうね 参加したら失敗ののちの死か、成功しても私のように暗部に一生縛り付けられるかでしょうし、少し逃げるのが遅れれば実験の詳細を知るものとして追われ続ける、なんてこともあるでしょうし ・・・でも私に拾われなかったら結局野垂れ死にか暗部に超生きていくことになるわけだし・・・本当に幸運でしたね最上は)

 

まあヘマしたら即バイバイですけど、とさらに頭の中で付け足しながら支度を始めた。

 

 

 

「あっそうだ最上 言い忘れてましたけど買い物のときは超明後日の分ぐらいまで買ってきてくださいね これは追加のお金です」

 

そう言って玄関まで見送りに来てくれた彼に注文と一緒に私が財布から10万円を差し出すと、彼は引きつった顔をしながら

 

「・・・まだ全然余っているので多分こんなに使わないですよ?後、なんでそんなに現金持ち歩いてるんですか・・・なくしたら危ないんじゃないですか?」

 

彼は私の差し出したお金に手を付けないままそう返した。

 

「そうですか?別に超食事にだけ使えってわけじゃないですから、もらっておいてください それに、あなたも変なのに絡まれたとき用に持っておいたほうが便利ですよ 後、これを持ち歩いているのは仕事で使うことがあるからです なくしたってそれなりに分けてありますから問題ありませんよ?」

 

とすべて説明してあげると彼は渋々それを受け取った。

 

「わかりました わざわざありがとうございます しっかりとこの分は返させてもらいます」

 

「ええ、そうしてください。お昼も期待してますよ?」

 

靴も履いて立ち上がった私がそう言って彼を見やると、彼は微笑みながら、

 

「任せてください!あと、いってらっしゃいです!」

 

といった。

私もそれに合わせて顔に笑みを浮かべながら、

 

「ええ、いってきます」

 

と彼に言葉を返した。

 

 

 

「ふぅー やっと着いた」

 

買い物を終えた最上はマンションへと帰ってきていた。

疲れながらも荷物整理を開始するために扉を開けようとする最上の頭に拳銃が突き付けられた。

 

「・・・へ?」

 

最上が手を挙げながら横目で後ろを見るといかにも、といった風貌の黒服にサングラスの男が立っていた。

 

「貴様、いったい何者だ?あの窒素装甲と生活を共にするとは...」

 

「・・・うーん」

 

最上は少し悩んだ後に

 

「10万上げるので見逃してもらえません?」

 

と答えた。

 

 

 

私が仕事用に使っている携帯に電話が入った。

 

(?誰でしょう仕事も超きっちりと終らせたはずなんですけど)

 

身に覚えのない電話にとりあえず出てみるとこれまた覚えのない声が聞こえてきた。

 

「お前の同居人を預かった。生きて返してほしかったら・・・「ああそうですか お元気でと伝えてください」は?お」プツッ

 

(超残念ですね 色々と楽しかったのに)

 

まあこれも暗部に所属する者の宿命だろうと思いながら自宅の扉を開け、リビングに行くとメモと一人分の料理がラップに包まれて置いてあった。

 

(なかなか最上も肝が据わってたんですね 一人分ということは連れ去られることがわかってから作ったってことでしょうし)

 

もう過去形になった彼のことを見直しながらメモを見た。

メモにはこう書いてあった。

 

(昨日と今日楽しく過ごすことができました。ありがとうございます。)

 

 

 

「だから言ったじゃないですかー無駄だって」

 

男は訳が分からなかった。

たとえ暗部の人間であっても家に住まわせているということはそれなりの重要性があるということのはずで、いくら後ろ盾がなく、どの世界でも大した価値のない少年でも窒素装甲にとっては紛れもなく必要な人間であるはずで、それを何の戸惑いもなく捨てると窒素装甲のことがまるで分らなかった。

 

それに加えて、

 

「そもそも価値が低いってことは代わりがあるってことなんですし、いくらコストが低くってもこんなことやるべきじゃなかったですよー?」

 

「うるさいっ!!黙ってろっ!!」

 

さらってきた少年もそれを受け入れるどころか予想していたのだ。

どうせただの出まかせだろうと本人の電話番号をわざわざ情報屋から高い金で入手したのにも関わらずこれだ。

 

「自分はたまたま昨日拾われて家事役を任されただけの一般人なんですから、それをさらって人質にしたってあの子への宣戦布告ぐらいにしかなりませんよー?理解出来たらこの縄外してもらって逃がしてほしいんですけど」

 

男の考えが変わらなければ逃げれないことを理解しているからか、半ば生存をあきらめながら最上は説得のような言葉を発しながら考えを巡らせた。

 

(あの絹旗最愛と会えたのにここで終わるのはイヤだけど、この人拳銃持ってるんだよなー それなりの図体もあるし、喧嘩したこともないような自分がそんなの相手に勝てるわけないよなー・・・あきらめてくれないかなあ...)

 

「決めた...」

 

「? はい?なんでしょう?」

 

逃がしてくれるかもしれない男の決断を聞き逃さないように最上は集中した。

 

「てめぇぶっ殺してあの不義理女への見せしめにしてやる」

 

最上は呆れかえりそうになり、

 

(何考えてんだこの能無し男)

 

という内心を生存のチャンスを勝ち取るために顔には出さないよう(多少出ているが)さらなる説得の言葉を口にした。

 

「・・・僕みたいな価値のない人間をさらうようなところに見せしめなんて行われたって面倒だからつぶしておこう程度にしかならないのでは?それに結局、金が目的なのにそんな手間がかかることしてたら赤字どころの話じゃないですよ」

 

「うるせぇ!てめぇの有効活用法をわざわざアタマひねって考えてやったんださっさと死ね!」

 

と頭に血が上った男がそういって拳銃に手をかけようとしたその時

 

バァン!という大きな音と共に金髪に眼鏡のこの男よりは幾分かアタマのよさそうな男が扉を壊して入ってきた。

 

金髪の男は拳銃に手をかけながら焦ったような顔をしている男に向けてこう言い放った。

 

「やっぱり失敗したじゃねぇか?アァン?だから様子見りゃいいっつったんだよ俺は」

 

どうやらこの金髪は男の仲間らしい。

まあこんなところにピンポイントで入ってくる時点でそれ以外に答えはないが。

 

話を聞いているとこの二人の男は一つのグループを作っていて、他にもメンバーがいるらしい。

 

金髪の男はおそらく金にならないだろうからとバカっぽい(最上の主観)この男の持ってきた話を切り捨てたらしい。

それをバカっぽい男は怖気づいたと捉え、

「俺がやったら全部金は俺のもんだぞ」

と言わんばかりに飛び出してきたらしい。

最上にとっては運のない話だ。

といっても今までの最上の歩いてきた道とあわせて考えれば揺り戻しが来た、という程度のものと言っていいほど今までが幸運だった。

 

今拘束されている最上は入ってきた男に今自分の出せる最高のカードを出した。

 

「10万上げるんで見逃してもらえませんか?」

 

今まさに口論しあっている二人にとっては燃料になりかねないそれをきいて金髪は、

 

「・・・なるほど それは戻った後も俺たちを見逃してくれるという条件のもと、という認識でいいんだな?」

 

と条件を付けたした。

意外に金髪は冷静だったようで、もう片方の男からこの騒動にかかった金額を聞き出ししばし考えると、

 

「よし、ここはそれで済ますことにさせてもらおう すまなかったな・・・おい!早く縄を解けッ!」

 

とどうにもプラマイゼロぐらいにはなったようでスムーズに開放してもらえた。

 

最上は監禁されていた罵り合いの声が聞こえてくる部屋を背にして、

 

(本当に良かった・・・あまりにもバカすぎてあんなのに殺されたりしたら一生成仏できないよ・・・半分成仏してないようなもんだけど...)

 

と研究が始まる前に逃げ出した日と同じだけの緊迫感があった先ほどまでを思いながら、今後の処遇を聞くために絹旗のいるであろうマンションに歩いて帰った。

 

 

 

(やはり多少むなしさがありますね・・・)

 

とやけ食いのような感じで、料理をするのが面倒だからと適当に頼んだピザと彼が気を聞かせてくれたのか外に出してあったお菓子を私は食べていた。

 

(正直もうお腹に入らなそうな感じが超しますけどむしろ全部はいてしまいたい気分です)

と自分でも女の子らしくないなと思う思考で食べ続けていた。

 

そんなときふと玄関のチャイムが鳴った。

 

(今度はなんですか・・・最上に関することだったら憂さ晴らしにぶん殴ってやりましょう...)

 

と多少イライラしながら備え付けのインターホンを覗くとそこには

 

「ハア!?何だってんですかァ!?ちょッ今開けます!」

 

彼が傷一つなく・・・いや頬にちょっとしたかすり傷をつけて立っていたのだ。

私はインターホンの機能を使って扉の前で待ってるのだからすぐ開けに行けばいいだけの彼に一言かけてから玄関にせわしなく駆けていった。

 

扉を開けると彼は曖昧に笑いながら

 

「あはは... あーすいません迷惑かけちゃって...」

 

と謝罪の言葉をかけてきやがったのでとりあえず一発ぶん殴ってやった。

 

(偽物の可能性も一応考えましたけど、この超バカさ加減は超間違いなく本物ですね... )

 

「ふぅ... 何してるんですか?早く入って下さい冬真っ只中なんですから超寒いんですけど。」

 

「ご・・・ゴメン・・・ナサイ・・・」

 

フラフラな足取りで無理に立とうとするもんだから私はしょうがなく手を差し出した。

 

「もうっ!ほらっ! 何してるんですか?まったく...」

 

そうして文句を言いながら私たちはともに家の中へと入っていった。

 

 

 

「はあ・・・なるほど。超良かったですね生きてて。」

 

私が淡白に言い放つと彼はまたしてもあいまいに笑いながら、

 

「あははは... ほんとに申し訳ないです...」

 

といって落ち込む彼の口に冷めたピザを無理やり突っ込みながら、私は言いたいことをいうことにした。

 

「あなたは間違いなく一般人なんですから多少巻き込まれたことに文句を言っても私は怒りませんよ?・・・それとなんですかあの料理とメモはさっきも言った通りあなたは一般人なんですから、あまり誘拐犯なんかの行動に反して怒りを買ったらどうするつもりだったんですか?私の家の中を血に染めるつもりですか?」

 

私がそういうとピザを咀嚼し飲み込んだ彼は口元にピザのソースをつけながら、

 

「文句なんてそんな・・・ありませんよ?変なことになる前に拾ってもらったことに今でも感謝してますから!そっちに関してはやっぱり・・・感謝も伝えずに死ぬのはイヤだったんです 許してください、あとすいませんでした」

 

どれだけ罵倒しても反撃の言葉が返ってこなさそうな彼に呆れながら、

 

「もういいですとりあえずまた家事のほうをよろしくお願いしますね」

 

と最後に残った一切れのピザに見えないところでピザと一緒に届いたタバスコソースをかけてから彼の口にまたも押し付けた。

 

何の気なしに言葉を口にしようとした彼はピザを食べ終えてから言い出そうと、育ちに対して妙な行儀のよさを発揮したのか噛んだとたんに涙目になりながら悶えていた。ざまあみろ。

 

「あれ?返事が聞こえてきませんね?このまま最上をここから追い出してやってもいいんですけどねー?まだですかー?」

 

私が強情なバカにほんの少しの嗜虐心を見せながらもだえ苦しむさまを見ているとやがて何とか落ち着いたのか言葉を発し始めた。

 

「ハイ・・・ズイマ・・・ゴホッゴホッセンデズ・・・ヴェッフッ家事ジマス・・・ガ八ッ」

 

・・・言いたいことはわかるがもう少し治ってからでもよかっただろう。

 

「ほら... これでも飲んで落ち着いてください?」

 

未だにこっちへの反撃の気配を見せない悶え続ける彼に流石に可哀そうになって近くにあった飲みかけの缶ジュースを渡そうとすると、

 

「イヤゾレ・・・ギヌ旗ザンの・・・ゲホッ・・・ノメナイ・・デズア゛ッフ」

 

(このバカは本当に・・・この私が超飲んだものかどうかわからないで渡してると思ってるんでしょうか? あまりバカにしないでほしいですね さっさと飲めこのバカ)

 

「あなたのツバが超入ったのでもう飲めません どうしても飲まないなら醤油とかをとってきてあげますけど、超どうしますか?」

 

そう言ってやると流石に背に腹は代えられないといった感じでタバスコ以外のことであらに顔を赤くしながら半分以上余っていたジュースを口に含んだ。

 

(なまじ何でもやってくれるせいで弱みを握って同時に主導権を握るという私のスタイルが通用しませんね・・・昨日からわかっていたことではありますけど)

 

ジュースのおかげである程度回復したらしい彼が改めて、

 

「えっと・・・その・・・さっきも一応言いましたけどもう一度・・・何でもしますのでどうかここにおいてくださいお願いします!」

 

さっきのタバスコ会話の中にそんなものがあったとは初耳だ。

なんでもする・・・貴方はずっと何でもやってるでしょう、という言葉を飲み込みながら

 

「ええ勿論!・・・こちらこそ超これからもよろしくお願いしますね?」

 

と笑みを浮かべて返すとまたも頬を赤くしながら

 

「はい!ありがとうございます!」

 

と彼も満面の笑みで返してくれた・・・すぐに咳がぶり返したが...




クリスマスに全部やるわけじゃないし日付を合わせて投稿するわけでもない(言い訳)


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わがまま

とりあえずタグに 原作開始前 を追加しました。


私が完全に回復した彼と一緒にお菓子をつまんでいるともともとの予定を思い出した。

 

「それにしても誘拐した超バカ共のせいで大分時間が食われましたね... 実は午後は最上と買い物に行く予定だったんですよ?」

 

そういうと彼は少し意外そうな目をこちらに向けながら、

 

「あれ・・・何か買うものとかあったんですか?そうだったらほんとに申し訳ないです」

 

とか抜けたことをぬかしやがったので、呆れながらも、

 

「少なくともあなたの毛布がないでしょう... 余りに寒そうなところで寝ていたあなたを運ぶのが超面倒だったので暖かいようにしてほしいです、という話を朝にしたはずなんですけどねえ... 頭をぶん殴ったら思い出しますか?」

 

と自分に関することは抜けまくりの彼にわざわざ説明をした。

 

「ああ... そうでした... すいません それで・・・今から行くんです?」

 

彼はこちらにわざわざ謝罪しながら、彼を拾ったときよりはましな夕日を指さしてからこちらに尋ねた。

本来なら映画を見てから雑貨を買いに行こうと思っていたから、正直、映画を見てからでは遅くなってしまうこの時間から行きたいとは思えない・・・行く必要はあるのだが...

それに彼も今どんな心境なのかわからないし・・・無理に連れ出して余計な負担をかけるのも面倒だ。

 

「どうしましょうね...正直予定が狂って面倒なんですけど... あなたはどうなんです?いけますか?いけませんか?」

 

だから私は彼に全部投げることにした。

彼は少し考えた後、

 

「自分は全然いけます!何だったら一人でも行ってきますけど・・・?」

 

と歯切れよく答えた。

この調子なら心労は考えなくても良さそうだ。

 

「一人で行くとか何超バカなこと言ってんですか また攫われますよ」

 

一人でここに残るのも嫌だという気持ちともしかしたらという可能性を考えてそういってやると、彼は生意気にも(面倒だという私の気持ちを汲んでのことだろう)私に反論してきた。

 

「いやあ・・・でも、一回解放されたってことは他の組織にも周知されてるんじゃないですか?そんな問題がある人間をまた捕まえようとは思わないじゃないんです?」

 

まあ一理あるし、それどころか襲われない確率のほうが高いと思うが、こんなクリスマスの日に女の側から「買い物に行きましょう」と誘われて、「一人でできますよー」と答えるとは、彼は自分のことだけじゃなく女心も理解できないようだ。

 

「いいですから、行けるならもう行きますよ 時間が本当になくなります」

 

私がそういって準備をしに行き、戻ってくると先程まで食べていたお菓子などの食べ物のゴミがきれいに片付けられていた。

 

(相変わらずの手際の良さですね)

 

入ってきた私に気付いた彼は、

 

「準備できましたー」

 

と笑みを浮かべながら私を待っていた。

 

(抜けてるとこさえなければこれも超素直に素晴らしいといえるんですけどねえ...)

 

まあそんな彼は彼ではないとも思うのだが。

 

 

 

「大分そろいましたかね?」

 

私はそういいながら私の三倍くらいの荷物を持ったことで、両手がふさがったまま歩いている彼を横目に、荷物とは反対の手に持ったタイ焼きを頭からかじった。

 

「そうですねー 毛布にシャンプーハンドタオル、バスタオル、食器とコップ、歯ブラシ、寝るときの服なんかも買いましたからから大体大丈夫だと思います」

 

買ったのはそれだけではないが、それらのものの名前を聞いて不足はないと思った。

ちなみに昨日はそれでどうしたのかと聞くと、ハンドタオルと歯ブラシは予備のものがあったらしい。

正直私も予備があるのか覚えていなかった。

それとハンドタオルだけで体を完全に拭いたというのは少し驚きもした。

わざわざそんなことするぐらいなら私が使っていようが、バスタオルぐらい使うと思うのだが。

潔癖なのか余程の恥ずかしがり屋なのか、見ていないんだから使えばいいのに、と思いながらかじったタイ焼きを飲み込むと、

 

「・・・よくそんなに食べれますね... さっきピザも食べてたんですよね・・・?」

 

とどこか恐れるような口調と目で彼がこちらを見てやがったので、

 

「あれ、女のスイーツは別腹、というのを超知りませんか?・・・それにこれだけが目的じゃないですから、そんな目で見てると超ぶん殴りますよ」

 

と私は言いながら「それ以外の目的」を考えている彼にその目的の行動を行うことにした。

 

「はい、どうぞ」

 

と私がいきなり荷物で両手がふさがっている彼の目の前にタイ焼きを突き出すと彼はムダに反射神経の良さを見せながらこう言った。

 

「そ・・・それさっき絹旗さんが食べてたやつじゃないですか?さすがに人のは食べませんから!自分も買ってきますから!」

 

「・・・その格好でどうやって食べるのか超教えてほしいものですね ですがそもそも私があげるといっているのだから食べればいいじゃないですか?」

 

そういって彼の口元にぐいぐいとタイ焼きを近づけると、

 

「イヤ・・・でも・・・わかりました食べます...」

 

と彼もさすがに断り続けると脅されるということを学習したようで私が口をつけただけのタイ焼きを真っ赤になりながら小さく一口食べた。

 

「・・・あー... 美味しいですね...」

 

と私から目をそらしながら歯切れ悪くそう言った。

 

(これぐらいで超ここまで恥ずかしがるとはやはり初心すぎるというか・・・いや、そもそも超私が荒みすぎてしまった・・・?・・・そんなことあるはずありません・・・よね?)

 

と彼の恥ずかしがる顔をみながら私はまた一口タイ焼きを食べた。

 

(・・・あと二口ぐらいでしょうか?残りは全部最上に食べさせてしまいましょう)

 

ともともとお腹はすいていなかったがこれをやるためだけにタイ焼きを買った私はそう思った。

 

「ほら、あと二口ほどです 頑張ってください?」

 

まだ別方向を見ていた彼に呼び掛けてこちらを向かせると

 

「・・・絹旗さんが食べるために買ったんじゃないんですか・・・?」

 

私の思惑にようやく感づいたらしい彼がそういってきたので、食べさせてまたどこかへ視線をそらしたのを見てから

 

「さあどうでしょう?何にしても全部食べるのが今のあなたの役目です」

 

と、とても楽しめているという内心を隠しながら、私は答えをぼかした。

ふと最早尾だけ、といってもいいくらいのタイ焼きを見てさらにいいことを思いついた。

 

「さあ!超最後の一口です!超全部味わって食べてくださいね?」

 

とわかりやすく声を上げると彼は訝し気な顔になってタイ焼きと私の顔を見て、この糸が分かったらしく、先ほどまでよりさらに顔を赤くして、

 

「いや、いや... それはさすがにやりすぎといいますか...暴走してますよ・・・?正気に戻ってください・・・?」

 

ととてもうろたえながら懇願するようにこちらを見た。

 

(ふふん 察しがいいと大変そうですね うろたえてて、超最高です)

 

と思いながらもいくらこういうことでしか弄れないからと言ってこんなことばかりやっていたら頭真っピンクの変態女と思われるのではないかという思考が頭をよぎったが、そこはしょうがない、口に出したしこれでしか弄れないんだから、と自分を納得させつつ次はもっと別の何かを考えることにしようと思った。

ただ今はそれより目の前のこれだ。

 

「やりすぎ?超面白いことを言いますね?ただタイ焼きを全部食べるだけですよ?超かけらも残さずに・・・ですよ?」

 

私がそういって心からの楽しさで笑うともう何で赤くなっているかもわからない彼が覚悟を決めたようで

 

「・・・どうぞ...」

 

と私にタイ焼きをねだった。

 

一応彼のほうに近づけていただけのタイ焼きを食べに顔を動かしてくれたほうが私としては良かったがまあ及第点、ということでゆっくりと開いた彼の口の中に手を近づけていった。

 

「フフッ ほら、待ち望んだタイ焼きですよー?しっかり食べてくださいね?」

 

もう指先も口の中ではあるが未だにタイ焼きを放さずに次の彼の行動を待った。

これで手が空いていれば無理に奪い取って終わりなんてことになっていたかもしれないが、今の彼の両手には荷物がある。

この状況でどうすればいいかなんてわかりきっている。

 

少しの間の後、彼は指ごとタイ焼きを口の中に入れた・・・ちなみに窒素装甲はタイ焼きを挟んでいる指には使っていない。

何となくそうしたほうがいいと思ったからだ。

それと彼への素直にお願いを聞いてくれたことへのささやかなお礼のようなものも含んでいた。

 

指先・・・というより彼の口の中で私は二本の指を固く閉じタイ焼きを簡単に離さないようにしていた。

彼は最初に食べやすい私の指の反対側からタイ焼きを食べていった。

多少潰れていてもこのままで終わらせて私が許すわけもないことを理解しているらしく最早タイ焼きではなく指をしっかりとくわえて二本の指の間に残った潰れたタイ焼きのために舌を滑らせた。

そのどの動作の中でも私は生暖かい舌の奇妙な心地よさに安堵すら覚えていた。

 

指の中のタイ焼きを攫うのが終わるとすぐに彼は口を指から放してしまった。

妙な名残惜しさを感じながら多少濡れてはいるが滴るものは何もない、きれいに舐めとったわけではないからタイ焼きのカスがまだ残っている指を見た。

 

(まだ残っていますよ?とか言って、これを舐めさせるのも悪くはないと思いますけどちょっとこれは超やりすぎましたね...まあ後悔は微塵もしてませんが)

 

顔を赤くして呻いている彼を見ながら罪悪感どころか高揚感や達成感すら味わいながら自前のハンカチで指についたものをふき取った後、彼に

 

「早く帰らないと日が暮れちゃいますよ」

 

と声をかけてから帰りの道をスキップになりかける足を抑えながら速足で帰った。

 

(でも人が通る道であれをやったのはさすがに超変態的な気も...)

 

 

 

「ふうーごちそうさまです 今日も美味しかったですよ」

 

と一緒に夕ご飯を食べ始めたのにもかかわらず、私よりも量が多いはずなのに私よりも早く食べ終わって適当な話をしてくれていた彼に、ねぎらいの言葉をかけた。

 

「そりゃあお仕事みたいなもんですしこれくらいはできて当然ですよ それに絹旗さんにも少し手伝ってもらいましたから!」

 

と帰ってきてから真っ赤でほとんど会話にならなかった彼は料理や食事をしたことで大分持ち直したらしく軽快にそう答えた。

 

「そういった心持ちも含めて、ありがとうございます それはそうと先程も言った通り明日は昼前ごろから深夜まで超クソったれな「お仕事」が入りましたので、朝食と軽めに夜食を作っておいてもらえると助かります」

 

と持ち直してはいたが私が横にいるだけで顔が赤くなる、料理をしていた彼を弄りながら私も少し手伝っていた時に、突然届いた電話とその内容に誰が見てもわかるほど顔が歪んだことは記憶に新しい。

 

(にしてもいくら報酬が多くてもこのタイミングでほぼ丸一日費やさなきゃならない仕事とか・・・超憂鬱です...)

 

しかもこのこちらに持ちかけられる類の仕事というのは断っても一つも得がない。

重要性がなくても今後回される仕事の量が微妙に減るうえ、重要性のあるものだったら依頼主に命を狙われることもある。

 

(幸い攻めてくるらしいという情報が入った過激派の武装無能力者集団(スキルアウト)から依頼主とそれに連なるものを守るだけですし、時間が無駄に超広いのもそれが理由なんでしょう ですから終われば解散 こなければ少額でも何もせずに報酬ゲットってことですし超悪いか悪くないかで言えば悪くないんですけど...)

 

明日から二週間近く仕事はなく、入る予定もなさそうだからとゆったりしていたのにこの始末はあんまりではないか。

せっかく彼を映画漬けにして完璧なC級映画中毒者(ジャンキー)にしてやろうと目論んでいたのに初日がこれでは台無しだ。

 

(そういえば今日も最上に超買い物のついでに映画を見せようとしていたような・・・超気のせいですね)

 

ほんのちょっとした偶然だと自分に納得させていると食事の洗い物を終えたらしい最上が

 

「お風呂はもうつけておきましたー」

 

と私の近くに寄ってきた。

おそらくもう大してやることもなかったはずだからと自分の座っているソファのすぐ横をぺたぺたとたたくと、意図を察したようで少し躊躇しながらも隣に座ってきた。

 

「・・・まだ慣れませんか?」

 

と彼に聞くと、

 

「いや―・・・アハハ... なれるとかなれないとかの話じゃないといいますか...あれです!美人は三日じゃ飽きないみたいな・・・・・・」

 

といいながら彼にとっては失言だったらしく語気をだんだんと弱めていった。

 

「別にそれぐらいじゃ超怒りませんし何もしませんよ・・・私を何だと思ってるんですか・・・むしろ褒められたのですから嬉しいぐらいですよ?」

 

と彼の発言を肯定してあげると

 

「そ・・・そうですよねっ 良かったです!」

 

と本気で何らかの勘違いを起こしていたらしい彼は元気になった。

 

(いったい何考えてたんでしょうこのバカは・・・どうせ超ろくな事じゃないので聞かないでおいてあげますけど)

 

私が暇つぶし程度につけていた過去の名作映画に彼は目をとられながら、

 

「どうして慣れだのなんだのって聞いたんです?」

 

と私に聞いてきた。

なので私はそれなりに正直に答えることにした。

 

「あなたがこの家に情報を盗みに来た輩に女だからと気を許さないかが心配だからです 今もこうしているだけで超動揺してますし。」

 

これは確かに心配なことだ。

大したものはないがそれでもなくすと困るものはあるのだそんな時に女にうつつを抜かして大事なもの全部取られましたとか、たまったもんじゃない。

とありうるかもしれない未来を嘆いていると、

 

「・・・絹旗さんみたいに過激なことしなければ動揺も何もしませんよ・・・」

 

とか何かを思い出したのか顔を赤くしながら抜かしてきた。

それはつまり...

 

「それはつまり、私以上に過激なことをされれば何があるかわからないと?これは驚きました それなりに信用できる、という程度の位置にはおいていましたがこれは評価を見直さないといけませんね?」

 

と言葉が口をついて出た。

さすがにたった二日目とはいえなんだかんだで私のほうを優先すると言うかと思えばこれだ。

 

多少不機嫌になる自分の心を感じながらさらなる言葉をかけた。

 

「そういうことには超興味なさそうなふりをしててもやっぱりそうなんですか ・・・この変態」

 

「いや・・・興味がないといえばうそになりますけど、今のはそういう意味じゃないんです! ただ・・・過激なことをされた後に隣にいられると動揺するってだけの話です!」

 

先程とは違って青くなり始めている顔を見ながら、

 

「そうですか・・・それで?」

 

今すぐにでも言葉を取り消したくなりながらもそれでもほしい言葉があった。

 

「別に過激なことをされればそちらに協力するという話でもないんです だから・・・」

 

私の待ち望んだ答えが出ることがなんとなくわかり、世界が止まるような感覚がした。

 

 

「何があっても絹旗さんのことを優先します!絶対に!」

 

 

その言葉を聞いて自分でも訳が分からないほど安心した。

他にも何か言おうとはしていたみたいだが私にとってはそれだけで十分だったので、胸のあたりに抱き着いて言葉を止めた。

 

自分の思っていた回答とは違うものが来て、しかも他の誰とも知れない奴に気を許すかもしれないというものだったから、柄にもなく動揺してしまった。

見捨てても、笑って戻ってきてくれたから気を許せた。

初めてできた気を許せる人間だったから、どうしても離れたくなかった。

明日ほぼ丸一日離れるのが嫌だった。

 

そんな不満たちが思わず爆発してこんなことをしてしまった。

自分の不甲斐無さに思わず涙が出そうだった。

 

それでも一言

 

「ごめんなさい」

 

というと、わかってないのかもしれないが多分わかってくれたのだろう彼はかすかな微笑みの音をだして、

 

「いいですよ」

 

と言ってくれた。

優しすぎて、いろんな感情があふれてきそうで、抱きしめる力をもっと強くした。

彼も弱弱しくはあったけれど、それでも固く抱きしめてくれた。

 

 

 

落ち着くと私は彼に膝枕をするように言った。

 

「超勘違いしないでほしいですけど、ただ一緒にいてほしいってだけです 調子に乗ったりしたら頭が割れますからそのつもりでいてくださいね?」

 

無事に涙を出さずに済んだ私は優しく笑いかける彼にそう言った。

こうして弱みを見せた私の手を握ることも、頭を撫でることもしない彼だから、こんなことを言ってもしょうがないのかもしれないが、これで情けないことを開口一番に言ったのならば私は一生彼に対して優位に立てない。

 

だからこんなに幸せな気分であることを隠すための言い訳なんかじゃないし、散々彼を恥ずかしがらせた私が今更彼と黙って見つめあうと恥ずかしいからそれを隠すためとかでは断じてない。

 

「最上・・・超今何時ですか?」

 

「…自分で見たほうが早いと思いますけど、8時です」

 

今の私に起き上がらせるつもりなのか。

 

「そうですか 映画が見たいです 持ってきてください」

 

「はあ・・・?何がいいですか?」

 

私がいない間にここにある映画の種類を覚えたらしい彼がそう言う。

正直なんでもいい。

わざわざ記憶媒体化しておいてあるものなどどこか物足りないし。

 

「なんでもいいです 最上が見たことないヤツなら 早く持ってきてください」

 

「わかりました... 手を放してください・・・えーと・・・すぐ戻ってきますから」

 

私の考えることがだんだんわかってきたらしい彼がすぐ戻ってくる、の言葉を付け足したので仕方なく手を離した。

 

「20...19...18...」

 

「カウントダウン!?準備の時間とかありますから、もうちょっとゆっくりとお願いしますー!?」

 

そういいながらもいそいそと準備をして

私のわがままをかなえてくれる彼はまるでサンタのようだった。




きれいにかけそうだから締めちゃった(無計画が原因の事故)
なんか書いてたらこうなった感があふれ出た(見切り発車の恐怖)
でも絹旗は知り合いに依存するタイプって言ってたし多分これでおっけー


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お出かけのち災難

映画のアレをアレしてアレしようと思ったらアレだったのでアレしました。
ついでにアレをアレしたため遅れました。


「ふあぁ...うーん・・・うぁ...」

 

(超よく寝ました... にしてもやっぱり朝は超冷えますね...)

 

起床とともに自然と声をあげながらそんなことを考えた。

目が覚めたのならこんなところでうだうだやっても時間の無駄だ、と私はベッドから降りて着替えを始めた。

 

(うーん昨日は大分遅くまで超起きてたんですけど・・・彼と生活し始めてからだんだん規則正しいリズムに超なってきたような気がしますね)

 

まあ悪いことではないか、と着替えを終えてリビングへと向かった。

 

「あ!おはようございますー 今、朝ごはんの準備しますねー」

 

と彼は今日も元気にその顔を見せてくれた。

 

「ええ おはようございます」

 

と私は短くいってソファにかけてある毛布にくるまりながらソファの上に横になった。

最近仕事のない日はいつもこうして彼が朝食を作るのを待つ。

暖房でこの部屋は暖かくなってはいるが、自室は夜中の間寝苦しさを防ぐために暖房をつけていないから起きた時に寒いのだ。

冷えた体は心地よさのある毛布によって温められていく。

 

(こうしてるともう眠くないのに眠ってしまいそうです...)

 

といつものように温まっていると、またいつものように彼が

 

「もうできるのでー、いろいろ準備してください―」

 

と声をかけてきた。

 

のそりのそりとソファから這い出して洗面台で顔を洗い髪を整えたりとしてリビングに戻ると今日も、美味しそうな朝食と彼の笑顔が私を待っていた。

 

今日の朝食は二枚の食パンの間に二枚のレタス、1枚のハムと1個の目玉焼きを入れたサンドイッチのようなものだ。

それを食べながら適当な雑談をしていたところに今日の予定について私から切り出した。

 

「昨日は朝食の時間に急に仕事が入りましたが、今日は無事入ってません・・・なので・・・ね?」

 

私がそういうと彼は照れ臭そうに笑いながら前々から決めていた予定を口にした。

 

「わかってますよ 今日は一日デート・・・ですよね!いっぱい楽しませるので任せてください!」

 

これまで何度も一緒に出掛ける・・・デートする、ことはしてきたけれど、どの日も私がリードしていた。

この日はたまには最上にリードしてほしい、と今日のこの日は特別だから、という勢いに任せていつもなら言わないようなわがままを言ったことでやっと彼主導のデートが実現した。

 

(あの日の夜はかなり後悔しました... いつも彼を弄ってるような私が超あんなことを言ったのも、なにより言われた最上がすごく嬉しそうで、それでいて意外そうな、生暖かいものを見るような目で見られたせいで超恥ずかしかったです...)

 

おかげでその日は2時間ほどベッドの上で悶えることに時間を費やしたが、そこまでしたくなるほどに今日という日は特別だった。

だって今日は、

 

(最上と会ってからちょうど1か月が経った日なんです...! 普段どれだけ超起伏の少ない日常を送っていようとも、こういった日に超一歩ずつ違ったことをしていかなければ、1年たっても10年たってもこの関係のまま変わらなくなってしまいます... それだけは超避けなければなりません... ・・・別に最上と超何かしたい、とか恋人になってほしいとかそういったものでは絶対にありません 絶対に)

 

誰に言うわけでもないのに自分の中で言い訳しながら楽しませると断言した彼に期待の目と言葉を送った。

 

 

 

「まあ、最初は超映画ですよね これで最初に別の場所に連れて行こうとしたら超私の何を見てきたのか問い詰めることになってましたよ」

 

そうは口で言いながらも、私は大事なところを抑えてくれている彼に友人などに向けるそれとは確実に違うものを彼に向けながら、彼主導のデートにさらなる期待を寄せた。

 

「あははは... やっぱり絹旗さんが一番喜ぶのは映画だっていうのはさすがにわかってますよ 伊達に1ヶ月一緒にいませんよ?」

 

そういいながら彼はこれから見る映画のチケットを渡してきた。

 

「それと、今回見る映画は恋愛映画になるんですけど、普通のそれとは確実に毛色が違うのが映画の紹介や評価なんかからわかったので、これにしました 映画自体の面白さも評価から保証できるので楽しみにしててください」

 

彼の観察眼はなかなかのもので、単に試行回数の問題かもしれないが今のところ大きな外れはひいていない。

 

「恋愛映画ですか... 私も超映画を探すうえで偏見はないようにしてるんですが、恋愛映画ははずれが多くて... 超詳しく調べることもあまりしないんですよね... まあ、最上の選んだものですから、超期待してますよ?」

 

それだけではなく、彼と一緒ならどんなクソ映画でも楽しく愚痴を言い合って楽しむことができるだろう。

そういう意味でも私は彼に期待している。

 

シアター内部に定番のポップコーンとジュースを持ちながら入ると、やはりともいうべきかカップルが多かった。

 

「やっぱり超カップルが多いですね まあ、クリスマスイブほどではないですけど あの時は当日にチケットが取れたのが不思議なほど人が多かったですから。」

 

今来ている映画館はちょうどあの時、やかましいカップルの熱量に押されてやむを得ず退場したあの映画館だった。

・・・自分たちもあの時見たようなカップルに見えていたりするのだろうか?

私たちは迷惑がかかるのはイヤだから(そこから何かの問題に発展したら面倒だから)、めったに上映中は話したりしないが。

そう考えるとなんだか感慨深い、などと思っていると

 

「へー、そうなんですか?イブのときはどんなものを見ようとしてたんです?」

 

と彼が質問してきた。

さて、何を見ようとしていたんだったか...

 

「・・・正直、覚えてませんね・・・半ば、憂さ晴らしのようなものだったので、適当に選んだ記憶があります まあ、クリスマスイブでも埋まらない程度にはつまらないものだったんじゃないかとは思いますよ?逃げ回る誰かさんを何の目的があるのかを考えながら追いかけて、疲れた頭で選んだから覚えてないんだと思いますけど」

 

私はカップルがうるさくて集中できなかったことは隠しながら、そう皮肉気に答えた。

 

「あー... あの時はほんとにすいません... 絹旗さんの名前なんて、問い詰められても理由がうまく答えられないようなことが口から思わず出ちゃって・・・もう逃げるしかないって感じで・・・実際は絹旗さんがとても優しかったのでこうして生きてますけど 本当に申し訳ないです」

 

彼はからかう程度に発したその言葉に真面目に答えたので、私は

 

「それはもう超構いませんよ むしろそれがあったから二回目に話した時に最上を家に入れようと考えた、みたいなところが超ありますから 私はあの時最上と会えて超幸運でした」

 

と普段伝えられていない喜びをそれとなく伝えながら微笑んだ。

そうして二人話しているとシアター内は暗くなり他映画の宣伝が始まった。

 

 

 

「今回の映画もかなり良かったです 特に最初はいろいろな場所でのシーンがあったのに後半に行くにつれて自宅オンリーになったり、主人公の男子高校生の夢が宇宙飛行士で女子のほうもそれについていこうとして主人公の部屋で口論を交わした後、すぐ廊下で話し合っていたのとか超ポイント高いです 場面転換入れたかったけど予算がなかった感があふれ出てましたね」

 

とお昼も近くなったので映画館の近くにあるファーストフード店で感想を言い合っていた。

 

「ストーリー性がしっかりあったのもなかなか良かったですねー 本当に宇宙に行って二人で告白しあったところなんか、宇宙服来てるのにそれが全く気になりませんでしたよ」

 

本当にそうだ。

逆に言えば、告白も終わって熱も冷めたころに、

 

(ああ、ここは宇宙だったんだ...)

 

と微妙にテンションを下げられたということでもあるが。

 

「あとただ予算がないからと言って諦めるのではなく、おそらくスタジオで撮ったんでしょうけど、超微妙に解像度の低い宇宙を背景に、エフェクトを使って代り映えのない風景をごまかした後、そのエフェクトが実は超伏線で、乗ってきた機体がバラバラになりながら、それでも互いに愛してるといって二人が別れたシーンは思わず超涙が出そうになりました 超名作です」

 

と私は締めくくりながらもちょっとした考えを共有するためにもう一度口を開いた。

 

「ただ、確実に宇宙要素は後付けでしょうね 微妙に詳しく宇宙飛行士になる手順が説明されていたのでおそらく宇宙飛行士オタクか何かが製作メンバーに紛れ込んでいて、宇宙なら漂って話をすればどこか盛大に見えますし、背景を超妥協できますから仕方がなくそっちに行った、というところでしょうか」

 

私がそういうと彼はうなづきながら

 

「あと、宇宙船の乗組員が主人公と女の子の二人しか出てこなかったところなんかもそう思わせる原因ですよね... 主人公が宇宙飛行士の夢を語ったあたりからだんだんと登場人物の量が減りましたし・・・時間に困ったのかどこか主人公の部屋の面影のある場所で最初のほうに出てきた登場人物達と主人公がテレビ電話始めて宇宙で恋愛相談してましたし、映画そのものには関係ないですけど、微妙な空気を感じ取ったのかたまに小声で話してた二人が話し合ってから帰ったのを皮切りに、四分の一ぐらいの人が帰っちゃってましたね...」

 

微妙な思いというのは共有してしまえばトンネルの中で出す声のようにさらに増大していくものだ。

どれだけつまらない雰囲気が漂ってもそれを共有してはいけない。

見ているものがとてもつまらないものに見えてしまうから。

 

「まあ仕方ありませんね 一応きれいに終わったような感じですけど、主人公たちがその後どうなったのか、とか唐突に起きたエフェクトをごまかすためであろう事故の原因は何か、とか超色々疑問が残りますからね それを自由気ままに考えるのが私たちが求める面白みの一部でもあるので私たちは楽しめましたけどそれが目的じゃない方々は超疑問でいっぱいでしょうね。」

 

と私はいまいち楽しめなかったであろう映画館のカップル達に憐れみを向けながら、最後の二口ほどになっていたハンバーガーをササッと片づけた。

最後にジュースを飲んで口を拭いていると、いつも通り私より早く食べ終わって、私の話を聞きながら氷だけになったジュースを飲んでいた彼は

 

「楽しんでもらえたようで何よりです そろそろ行きましょうか?」

 

と私に投げかけ、私が微妙に口の中に残っているハンバーガーを気にして頷きだけで返すと、にっこりと笑って私に次の行き先を伝えた。

 

 

 

「アクセサリー、選んでもらってありがとうございます つけ外しのしやすいタイプなのでケータイにもバッグにもつけられそうですね」

 

私はそういいながら、先程アクセサリーショップで選んだアクセサリーを薄いピンクのケータイに取り付けた。

ひし形で薄紅色をした宝石に何かしらの金属で回りを縁取った小さなアクセサリーだ。

一応色違いで水色のものがあったので彼にも買わせた。

 

(まあ、買わせた、といっても私が超週に一回ほどの頻度で渡す生活費からですけどね それに彼には携帯を買わないようにさせてますし、基本バッグを持ち歩かないので、つけるところに超困るでしょうけど)

 

案の定となりを歩く彼はそれのつけ場所に困っているようだった。

 

「どこかにつける必要はありませんよ 持っているだけでいいんです 別に肌身離さず持っておけという話でもありませんから」

 

そう私が言うと

 

「じゃあ、とりあえずポケットにでも入れておきます」

 

といって彼はアクセサリーを包んでいた包装紙に入れなおしてからそれをポケットへと仕舞った。

 

そうはいったものの私は彼ならば何らかの形で活用してくれるのだろう。

私は彼がこの二つ合わせて5000円程度の安物でも、もらったものを粗末にしないことを充分に理解していた。

 

「何にしてもそれも喜んでもらえてよかったです 持ち歩きやすい小物があればいいんですけどねー ボールペンあたりでも持ち歩きますかね」

 

「ボールペンなんて持ち歩いて何になるんですか... 使わないでしょう、最上は」

 

その言葉に情けなさそうに笑う彼を見ながら彼の持ち歩くものについて言葉をつづけた。

 

「とはいえ、何がいいんでしょうね あなたにケータイは持たせられませんし」

 

彼はまた少し視線を外した後に彼は元気に言った。

 

「うーん... 後で考えておきます それはともかく、まだまだ次の場所へ向かいましょう!」

 

ずっと楽しさでいっぱいだが、私もまだまだ足りない。

彼が次の場所を私に告げた。

太陽はまだ下がり始めたばかりだ。

 

 

 

アクセサリーショップの次に来た、大きなショッピングモール内の服屋で問題は起こった。

 

こんな感じの帽子がいいです、この色なんか絹旗さんに合いますよ、なんて楽しく服を選んでいると、ケータイに電話がかかってきた。

楽しい時間が終わりを告げた。

一応反論なんかもしてみたが、

 

「このままじゃホントに危険なの、お願い!」

 

とかいう言葉でかき消された。

 

私はそのクソったれなな電話を返事もせずに切ってから

 

「・・・超申し訳ないですけど仕事が入りました... いまいちかかる時間もわかりませんが行ってきます ・・・本当なら行きたくないですが、取り消せないので超申し訳ないです」

 

と不満たらたらな声で彼に告げると彼はとても残念そうな顔をした後に、笑って

 

「・・・そうですか... なら!今日のデートは何点ぐらいでしたか?」

 

と明るい声で返してくれた。

私のわがままで彼に先導してもらって、しかも一ヶ月の記念日にこんなことになってしまったのに恨み節一つ吐かずに最後まで楽しくしようとしている彼に私は、愛おしさすら感じながら、彼にならって明るい声で

 

「100点満点です!超これからもよろしくお願いしますね?最上!」

 

と言葉を返し、その場を後にしようとした。

 

しかし彼が私の腕を引いて彼自身の胸の中に私は引き込まれた。

上を見て彼の顔を見る前に、私を力強く抱きしめている彼ははっきりとした声で言った。

 

「差し出がましいことしてすみません... それでも自分からも言いたいことがあります これからもよろしくお願いします、絹旗さん」

 

一歩進むという私の目的は見事に実を結んだようだった。

 

 

 

「うまくできたかな...」

 

そんなことを口に出しながら絹旗と一緒に回る予定だった店の一つのCDショップで最上は時間をつぶしていた。

 

(何でもできるわけじゃないけど、求められたのにやらないで終わり、なんていいはずがないから思い切ってあそこで抱きしめたけど、絹旗さんに満足してもらえただろうか... むしろ嫌われてたらどうしよう...)

 

最上は急に終わってしまったデートのこともあって、思考を暗くしながら、彼の趣味の一つである音楽を聴いていて、心を落ち着かせた。

 

(絹旗さんが帰ってきて、彼女にもう一度聞いて、答えてもらえなかったらまた考えよう いつまでも暗いこと考えてたってしょうがないな!)

 

最上はそう考え、ヘッドフォンを外して、知っているアーティスト達のCDを二枚買ってから店を出た。

 

 

 

気晴らし程度にモールの中のゲームセンターに向かう途中、最上は泣いている少女を見つけた。

 

(ありゃ... 迷子?・・・な訳ないか ここ学園都市だし 何かあったんだろうな)

 

と最上は考えながら、泣いている小学校に入ったばかり、ぐらいの少女に声をかけた。

 

「大丈夫ー?何があったの?」

 

と最上は優しい声色で声をかけながらハンカチを差し出し、少女を観察した。

 

(んー?こういう感じの小さい子ならバッグとか持ってるだろうし、なくしちゃったかな? 座り込んでてあまり見えないけど、膝を下に向けてるから転んだから、からとかじゃないのは確かだな)

 

とあたりをつけて涙をぬぐったハンカチをポケットにしまってから話しかけようとしたその時に二人に近づいてきた二人組がいた。

 

最上は足音から誰かが来たのを認識しそちらに顔を向けると2人の少女がいて、片方の少女が最上と泣いている少女に声をかけた。

 

「この子のお知合いですの?わたくしたちも、丁度その子が一人で泣いているのを先程見つけたのですけれど、こちらのこの子が荷物をぶちまけたせいで来るのが遅くなってしまいまして...」

 

とピンク髪にツインテールの少女が少し息を切らしている頭に花を乗せたもう一人の少女にジトっとした目を向けながら最上に質問した。

 

最上は多少動揺しながらも、

 

「あー・・・っと、知り合いじゃないんですけど、一人で泣いていたので何かなーと思って もしかして風紀委員の方だったりします?多分、何かなくしたのに気付いて泣いてるんだと思うんで、風紀委員の方なら簡単に話がすむのでいいんですけど」

 

とわかりきったことを二人に聞きながら、少女に向き直った。

 

「もしかしてさ?バッグなくしちゃったりした?」

 

「・・・うん」

 

今にも泣きだしそうな少女は優しく丁寧に聞いてくる最上に赤くなった目を向けながら、

 

「お兄さんが探してくれるの?」

 

と間の言葉も待たずにそう言った。

 

 

 

最上と少女、それに風紀委員だから、と二人の横を歩く少女二人組、名前を白井黒子、初春飾利という、彼女達で少女のなくしたバッグを探しあてた。

 

どうにも少女は丁度二年生に上がる準備をしていたため、文房具を買いに来たらしい。

そこで財布の中身を確認するためにいったんバッグを商品棚の上に置いてバッグから財布を取り出し、中身を確認した後、気に入って買おうとしたノートの余りの高さに驚き、財布をバッグに入れたまま置いてきてしまったらしい。

 

心優しい店の人がたまたま置いてあったバッグだけを見つけて店で保管してくれていたようだ。

 

「これがそのノートなんですね!とってもカワイイです!・・・値段とあってませんけど...」

 

初春は野次馬根性のようなもので彼女の言っていたノートを見てそう言った。

 

(言えませんわ・・・わたくしがこれから通うことになる学舎の園ではもっとも一般的なものであるらしいことなど...)

 

黒子は堂々と書かれた、少女には見えない高さにあった商品推薦のプレートを初春から隠しながらそう思った。

 

「ほしいなら買いましょうか?多少余ってますし、三人分買っても大丈夫なんで、お二方のお礼もかねて」

 

最上は少女がバッグを捜索中にどこに行ったのかあまり覚えていない、という言葉に困り果てて一個一個回ろうかと考えていた時に、このぐらいの子ならこういうところに行く、という二人の助言を受けてなんとか探し出せたのでお礼をしようと考え、その言葉を発した。

 

「ほんとに!?わたしにも買ってくれるの!?」

 

少女は優しくしてくれた最上の更なるプレゼントに心の底から喜んだ。

 

 

 

「もうバッグなくさないようにね?それじゃあ、さようなら!」

 

と悲しそうにしながらも門限が近づいているらしい少女は帰っていった。

 

「あの子が無事にバッグ見つけられたのも二人のおかげですよ 先程も言いましたけど、本当にありがとうございます」

 

「いえ、わたし達はもうこれをもらったので大満足です!ねっ!白井さん!」

 

「うぇっ!?そ、そうですわねとっても可愛らしくっていいと思いますわ」

 

最初は遠慮しながらも、最終的には買ってもらったノートを大切そうに抱える初春と、どことなく申し訳なさそうにも見える黒子とが最上の目に映り、最上はクスリと笑った。

 

「それはそれとしてわたくしからも風紀委員としてお礼を申し上げますの 貴方のように立派な方がいればこの町はもっと良くなっていくに違いありません 貴方のような方にこそ風紀委員になってほしいものですわ」

 

と黒子は偽りのない本心を最上に告げた。

 

最上は感動すら覚えながら、

 

「自分も、白井さんや初春さんのように意志に満ち溢れた人たちに守られてここにいることがわかりました どうかこれからも、この町の平和をよろしくお願いします」

 

と最上もまた偽りのない本心で黒子たちに告げた。

 

黒子と最上が二人で固い握手をしてから、別れの挨拶をしようとしたその時、モール内が少し騒がしくなり始めた。

 

「?なんですの・・・?初春!なにか情報はありますの?」

 

「ちょっと待ってくださいね・・・非番の日にここまで仕事することになるとは... さすが風紀委員、て感じです・・・」

 

初春がそういいながらキーボードをたたくとすぐに情報が出た。

 

「出ました!この付近で無能力者一名による暴力事件との通報です!」

 

初春がそういうと、先ほどまではつけていなかった腕章をつけて、白井は最上にむけて

 

「申し訳ありませんが事件発生ですの!人手が必要かもしれませんので今すぐ向かいますの!またいつかゆっくりとお話いたしましょう」

 

そういって走り出した黒子と初春に向けて、最上は

 

「何か手伝えることは!」

 

と簡潔に聞いた。

避難のみを、と思ったが、すぐに風紀委員や警備員(アンチスキル)が到着できない可能性があること、最上が時間をかけて失せもの探しをするほどの善良な人間だということを考慮して、白井は言った。

 

「避難誘導をお願いしますの!このモールの北方面で行われていますので南から北に行くことのないようにしていただけると幸いですの!それが終わったのであればあなた御自身も非難を!」

 

おそらく必要か必要でないかは最上自身が判断できることだろう、と細かいことはあまり言わずにそれだけを伝えて白井は走り出した。




映画のアレを理解してからアレしようと思ったら時間がかかりすぎたので断念しました。
ついでに映画の内容をアレしたため遅れました。(OPで黒い影に色がついていくヤツ)(自分で考えて書いてなかったから埋まらなかった)


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終結

ヒロイン不在とか・・・この小説の存在意義何だと思ってんだ バカにしてんのか?


何かがおかしい

 

黒子がそう感じたのは無能力者一人で暴行事件が起こったと聞いたとき・・・つまり、最初の時からだった。

無能力者一人で起こした程度の騒ぎがモール全体から非難するほどまで大ごとになることはなくはないと思った。

しかし、一人で、しかも無能力者で、目的が不明瞭だった。

初春に聞いた時も、犯人と対峙した時も、完全に犯人を拘束した時も、警備員(アンチスキル)がやってきた時も犯人の目的はわからなかった。

 

犯人がやったことといえば、まず民衆の中で拳銃を取り出し、一発の音を鳴らして、爆弾を爆発させると宣言し、体に取り付けていた10数個うちの一つのいかにもといった爆弾を見せびらかすように爆破させたことぐらい。

 

そこに到着した黒子は怪我人がいないことを確認したのちに、相手の出方を見てから戦闘を始めたのだ。

 

(わたくしが犯人は心中や自殺目的ではないことを見抜いて、逃げ回りながら爆弾をばらまく犯人に接近し腕の拘束をしたことで、無力化には成功したのですけれど、それっきり黙りこくっているんですのよねぇ...)

 

黒子が全く見えてこない犯人の目的を考えながら、遅れて到着した爆弾を取り外すために四苦八苦している警備員達の姿を見ていると、突然とてつもない速さで金髪に眼鏡をかけた男が警備員達を押しのけ一瞬のうちに爆弾を持った犯人を連れ去ってしまった。

 

犯人が反抗心をかけらも見せなかったため、警備員達はすでに武装解除してしまっていたのだ。

 

「容疑者と連れ去った男は南東方面に逃走!何らかの身体強化を行っている可能性あり!充分に注意せよ!」

 

警備員たちはいっせいにあわただしくなり始めた。

余りの事態に呆然としていた黒子は、急いで犯人達を捕まえるために、走り出した警備員の後を追った。

 

その方向は最上と別れた方向でもあった。

 

 

 

「事件がこのモール内で起こっています!こちらに出口があります!焦らず、押しのけずに避難してください!」

 

最上はそう言いながら、今も爆発音が聞こえてくる方向に進むんでいた。

すると、最上は自動ドアの前で立ち尽くしている集団を見つけた。

 

「どうしましたか!?」

 

最上は集団に駆け寄りながら質問した。

 

「どうしたもこうしたも・・・開かなくなっちまってんだ...やっぱり他もそうなのか?」

 

事件の発生地に走ってきた最上を他のドアが開かなくてこちらに逃げてきたものだと思ったらしく、多少焦ったような高校生ほどの男がそう尋ねた。

 

「開かなくなっているのはおそらくここだけです!自分の来た、こちらの方面は問題なく開いていましたので、こちらに避難を!」

 

そう最上が言うと、「何でここだけ!」という恨み節と「すまん!ありがとう!」という感謝の言葉を残して立ち尽くしていた15人ほどの集団は走っていった。

 

最上がふと周りを見ると、電気がこの周辺に来ていないことに気が付いた。

 

(だからか... あの中の誰かがこの状態から電気が来てないと勘違いしたか それで、むやみやたらに動き回るのも危ないと立ち尽くしていた・・・そんなところかな?)

 

しかし自動ドアというのは大抵電気が通っていなくても開きはするものだ。

それを知っていた最上は自動ドアが開かないことを確認し、手に持っていたCDの入った袋を近くに置いた。

 

(ここはおそらく、事件が起こった場所に一番近い南東のドア 他にも避難者が来るかもしれない あの人たちはおそらく集団心理のようなものでとどまっただけだとは思うけどここに来て、またとどまる人がいないとは限らない そのためにもここで、このドアに施された細工を解くか、ここに逃げてきた人に逃げる場所を伝える必要がある)

 

最上はそう考えてその場にとどまり自動ドアを調べようとしたその時、爆発音が鳴りやんでいたのに気づいたと同時に、大きなクラクションの音と共に大きな車が最上のいる場所にドアを突き破って入ってきた。

 

 

 

ほんの少し前、大きな車の中で、

 

「・・・宮木のやつ・・・うまくやっていると・・・思うか?」

 

その車にいる3人の中の、一番図体の大きい助手席に座る男が茶髪のやや細身で運転席にいる男に尋ねた。

 

「さあ?今日初めて会ったからわからん ただ、うちの大将いるし、逃げるだけならできるだろ なあ柴原?」

 

柴原と呼ばれた二人の中間位の体の男は前のシートに足を乗せながら答えた。

 

「あの金髪が大したことできるとは思えね 宮木の踏み台ぐらいにはなるんじゃね?」

 

柴原がそういうと、細身の男は

 

「またお前はそんなこと言って... あの時なんかお前が独断専行したのを大将が止めてくんなきゃ俺ら巻き込んで血の海ができてたかもしんないんだぞ?」

 

と柴原を咎めるようにそう言った。それから細身の男は

 

「ま、そんなわけで、うちの大将も面倒見はいいんだ どんなバカでも、な だからま、気にすんなよ堀木 それに今は駒場が留置所にいるんだ 今のうちに成功しておけば後々楽だろ?しっかり気を引き締めていこうぜ?」

 

と堀木と呼ばれた男に励ましの言葉を送った。

 

「そうか・・・すまないな... !連絡だ・・・こちら側の避難があらかた完了だそうだ・・・!行こう...」

 

その言葉を聞くと細身の男はしっかりとハンドルを握りこう言った。

 

「りょーかい!お前もそんな座り方してたら落ちても知らんからな!飛ばすぜ!」

 

「お前もビビッてスピード落とすんじゃねえぞ松原」

 

松原と呼ばれた男がスピードをさらに上げながら「余計な心配すんなよ」という言葉を発そうとすると車内に堀木の声が響いた。

 

「・・・まずい...!離れると思ったら一人離れなかったと連絡が来た!・・・止めろ!」

 

「はあ?・・・まあいい!このまま突っ込むぞ どうせ一人なら避けるだろ!」

 

「な!?・・・俺は・・・もう知らんぞ...」

 

堀木のその声とともにショッピングモールのドアを車が突き破った。

 

 

 

(うっはー... 何とか避けれたけど・・・なんだこいつら?というかCD壊れてそうだなー・・・もったいない)

 

と体にいくらかのガラス片とそれによる切り傷をつけた最上は立ち上がってガラス片を落としながら考えた。

 

(ナンバーついてたっけ?というかここの車ってなにで判別するんだ?もう少し普段から気を配っておくべきだったなー おっ 出てきたー・・・まずい)

 

最上は目の前に突っ込んできた、何かを移送するためであろう車から降りてくる人物の一人に見覚えがあった。

 

「アン?・・・てめえ!あの時の!」

 

その男・・・柴原は最上を金目的でさらい、ほぼ失敗したあの男だった。

 

「あー・・・どうも? ここに何をしに来たんです?」

 

最上がなるべく平静にそういうと言われた男ではなく、この場に出てきた3人のうちの一人・・・松原が声を上げた。

 

「柴原!そんな奴とおしゃべりしてる時間はないぞ!金目の物かき集めろ!」

 

「あぁ・・・そういう感じ...」

 

最上がこの状況にどうしようもなさを感じながらそういうと、柴原は笑いながら答えた。

 

「そういうことさ 松原ァ!目撃者はそのままにしておくわけにもいかねぇだろ!その役を俺がやるってだけだ 時間はかけねぇ!」

 

その言葉に松原は呆れながらも頷くともう一人の男・・・堀木と共にどこかへ駆け出した。

 

(多分金目の物、さがしにいったんだろうなぁ... どうしようぶっ倒されてたほうがいいような気がする... 白井さんたちがこっちに来るの願って粘るか...? それよりこの車のタイヤどうにかパンクさせたほうが役に立つか? どっちにしたってあまり大した効果ない気がするけど...)

 

最上が頭を巡らせていると、

 

「さっさと決めさせてもらうぜ!」

 

と柴原が最上めがけて走り出した。

最上はとりあえず地面に残っているガラスの破片を柴原めがけてばらまくと、ちょうど目に入った柴原は悪態をつきながら一旦後ろに下がった。

 

「悪いけど容赦できないからね!」

 

最上はそれだけを言うと、どうにか柴原を無力化するための策を考えた。

 

(こいつがここに残されたってことはそれなりに力があるってこと... そんでもっておそらく無能力者 つまり力勝負はおそらく悪手 それにこいつを無力化してもどこかに行った二人が戻ってくれば、警戒されてさらに状況が悪化するだけ だからこの場合するべきは...)

 

そう考え、周りを観察し、目的のものを見つけた最上は走り出した。

ようやく目に入ったガラスをなんとかした柴原は、

 

「クソッ!バカみてぇに逃げるだけか!?次はねぇぞ!」

 

と怒鳴り、何らかの店の近くへと逃げていった最上の後を追った。

 

「へっ!自分から逃げ場をなくすとは、そんなに自信があったのか?残念だな!そんなことすりゃあよお!俺にぶん殴られてオシマイなんだよ!」

 

最上は和菓子店を背にしながら、殴りかかってきた柴原に向かってお土産用の和菓子が置かれている布を、和菓子ごと投げた。

 

「てめえ!舐めた・・・おごっ!?」

 

柴原が地味に角が当たった和菓子の箱と布を払おうとすると、最上は素早く2回、蹴りを体のどことも決めずに放ち、十歩ほど離れた車のほうへとまた戻り、落ちているガラスの破片をタイヤに突き刺し思い切り引っ掻いた。

 

(ここが狙われたのはこんな非常時でもシャッターを下ろさない店員が多いからか!それはともかく、これで逃げ足は...)

 

ここが狙われた理由に辺りをつけた最上を、いつの間にか戻っていた堀木が無表情のままに殴り飛ばした。

 

「・・・油断しすぎだ... こんな一般人相手に...」

 

そう堀木が柴原に向かって言うと、柴原は布と格闘しながら、

 

「うるせえ!すばしっこく動き回るから殴れなかっただけだ!お前だって俺がいなきゃ殴れてねえよ!」

 

と布によってくぐもった声でそう言った。

 

「タイヤが2個・・・破裂か... あいつならできるか?」

 

堀木がそう聞いても、柴原は答えず最上への怒りを燃やしていた。

 

「柴原、もう時間がない... 車に乗れ」

 

堀木は会話をあきらめ、立ち上がることのできない最上を車の進行方向からどかすと、布を取っ払った柴原を引っ張って車に乗せた。

 

堀木が車を動かしやすいように進行方向からガラスをどかして暇つぶしをしていると、ATMを荷台に乗せて運んでいる松原が返ってるのと同時に、すさまじい速さで金髪に眼鏡の男ととそれに抱えられた男がやってきた。

金髪に眼鏡の男がその場にいるものに対して

 

「全員いるか?」

 

と短く確認をとると、車に乗り込んだ。

 

「・・・随分と少ないように見えるが、儲けはどのぐらいだ?」

 

と金髪の男が車の後ろの物品を見やると、丁度物を持ち帰った松原が答えた。

 

「自分はこのATMとついでに近くにあった募金箱を、他は適当な宝石と高そうなネックレス、ぐらいだぜ」

 

と積まれた物品を軽く説明した松原に合わせて金髪の男に抱えられていた男・・・宮木

 

「オレも適当にレジから金盗んできたぞ ・・・お札しかないけどな」

 

と答えた。

松原は荷台を閉め、車の運転席に座った。

それに合わせて堀木は自分が悪いわけでもないのに、黙りこくっている柴原の代わりに謝罪をした。

 

「・・・悪い、松原・・・左後ろのタイヤが・・・二つ・・・壊された...」

 

それを聞いた松原は固まり、顔を白くしながら、

 

「えっ... ウソ...?動かないよ?・・・そんなの・・・?」

 

と言うと、できるものだとばかり思っていた堀木は松原よりもっと顔を白くしながら、言った。

 

「は・・・?10個あるのに...?動かないのか...?まだ8個あるんだぞ...?」

 

「動くわけないじゃん!もっと早くいってよ!なんで皆普通に座ってるの!?今から直して逃げれるか...?」

 

やけになりかけながらも頭をフル回転させる松原に、宮木は

「タイヤパンクした状態で運転したことあるの?ないんだったらもう挑戦したほうがよくない?今からタイヤ直して間に合わないより、よっぽどいいと思うし」

 

と楽観的な言葉を口にした。

松原は頭を悩ませながら、今から間に合う気がしないのでその宮木の案に乗っかることにした。

 

「恨むなよ...?すげえスリップとかすると思うし、下手したら車が横になるからしっかりつかまってろよ!」

 

そうして動き出そうとした車の前に、先程柴原の目くらましに使われた布が突然現れた。

 

もうどうにでもなれ、と最初に突っ込んできたときに、すぐ出ていけるように外向きにしていたため、アクセルのみを踏んで布を払わぬままに飛び出した。

 

確かこの辺に路側帯、この辺に植物、と自分の頭の中では松原は完璧に進むことができていた。

しかし、タイヤがパンクしていたこと、騒ぎを聞きつけた警備員が横合いから車をぶつけたことで木にぶつかり、車は完全停止した。

 

「・・・大将...」

 

「・・・こりゃ無理だ 罪を増やしたいやつは俺が手伝ってやるが...」

 

その言葉に答えるものは誰もいなかった。

 

 

 

「最上さん?大丈夫ですの!?最上さん!」

 

黒子は初春から自動ドアが開かなくなる細工がしてある場所が二か所あるという情報を受け取り、自動ドアを開かなくすることで絶対に一般人がいない状態を作りたかったのではないか、という推理にいたった。

 

黒子はあまりにも速いスピードで南東へと去ったために見失った犯人を、手分けして探そうとする警備員達を無視し、独断であの場所へと先行した。

 

おそらく犯人であろうグループが車を発進させようとしていることは見えたので、たまたま落ちていた布を目くらまし程度にでもなれば、と車の前へとテレポートさせていたのだ。

 

そのまま出たら後を追うほどのスピードはないので断念しようとしていた矢先に、犯人が動けなくなり、他に被害はないかと周りを見渡すと、先ほど避難誘導を頼んで分かれた最上があおむけになって倒れていたのを見つけた。

 

「いや、まあ、呼吸が,さっきまで、できてなかった、ので、ちょっと、深呼吸、させてもらえば、だいぶ...」

 

最上は堀木に腹を殴られてから犯人が捕まる今まで強く背中と腹を打ったことで呼吸困難に陥っていた。

 

(呼吸ができないのは小学生のころ滑り台の一番上の柵を乗り越えて、足を滑らせて背中からおちたとき以来だな)

 

と最上はわりと心中は穏やかなまま酸素を欲していた。

 

顔自体はかなり苦しそうな笑顔を浮かべる最上を黒子は心配そうに見ながら、

 

「大変申し訳ありませんの... あなたに町の平和を願われたというのに、そのあなたをこんな危険に巻き込んでしまって... 何と言われても返せませんわ...」

 

と気分を沈ませた。

そんな黒子に呼吸を大分整えた最上は起き上がって、不安そうにする黒子の顔を見ながら、ねぎらいの言葉をかけた。

 

「いや、自分が避難誘導でこっちまで来なければ起こらなかったことです むしろこっちの自業自得というか... 白井さんたちが頑張らなければあの犯人たちも運転を成功させて、捕まらなかったかもしれません 白井さんたち風紀委員、警備員の方々のおかげです 絶対に」

 

そういって最上が笑顔で締めくくると、黒子は多少元気になったのか

 

「ありがとうございますですの その言葉を糧にわたくし達も頑張らせていただきますわ」

 

と最上に微笑みで返した。

 

 

「白井さーん!」

 

そんな二人を見つけて笑顔で駆け寄ってくるのは初春、先程何かの助けになれば、と端末からこのショッピングモールに関する情報を見ていたところ、自動ドアが開かなくなっていること、その場所の監視カメラにアクセスし、車が入ってきていることを確認し、黒子に伝えた少女である。

 

「あっ最上さん!実は私、さっき見ちゃったんです!最上さんがあの強そうな男の人をシャシャっとどけてタイヤに穴をあけちゃったのを!最後はあの人に思いっきり吹っ飛ばされちゃいましたけど、なんだかプロレスみたいで、とってもすごかったです!」

 

と少し興奮気味に話す初春に最上は苦笑しながら

 

「ほんとはあそこで気絶でもさせて、後から来た人も倒せればよかったんだけどね... それはそうと、もしかして見てた、ってことは白井さんだけあんなに早く来たのも初春さんのおかげってこと?」

 

おそらく頑張ったのであろう元気いっぱいな初春にそう質問をした。

急に自分に矛先が向いたことでテレテレし始めた初春に代わって黒子が答えた。

 

「そうですのよ 初春がここで最上さんとあの男たちの戦闘を見つけて、それをわたくしに教えてくれたんですの わたくしも、いつも助かっていますわよ、初春」

 

「そっか うん ありがとう初春さん」

 

普段裏方が基本のためなおさら誉め言葉になれていない初春は、黒子と最上の素直な感謝に顔を真っ赤にし、俯いてもじもじし始めた。

 

「えへへ... やっぱりこうして面と向かってお礼を言われるのって照れちゃいますよねぇ... えへへ...」

 

そう言ってから、声にならない声で恥ずかしがる初春に可愛らしさを感じ、黒子と最上は顔を見合わせて微笑みあった。

 

 

 

「なににしてもあなたのやったことは称賛されるべきことです おそらくわたくしたちのほうからあなたのことを伝えれば表彰もあり得ますの あなたは殴り飛ばされていましたし、もし骨が折れていたりしたら、その時にはその治療費も出るかもしれませんのでそうしたほうがいいと思いますわ」

 

黒子は本当に骨が折れてるかもしれない最上を心配して、そう提案をしたが最上は少し考える仕草をしてから、

 

「うーん... やめときます 目立つのは好きじゃないですから それに、自分、頑丈ですから、そんなに心配しないでください、大丈夫ですよ」

 

と二人を安心させるために言葉を紡いだ。

 

「そうですか... でも、頬にある傷ぐらいは絆創膏貼っちゃいますね?えーっと・・・絆創膏、絆創膏・・・」

 

「・・・それはそうと最上さんはなぜ初春には崩した感じでわたくしには敬語なんですの?」

 

黒子が些細な疑問を口に出すと、右頬にいつの間にかできていた、おそらくガラスによる小さな切り傷に絆創膏を張ってもらいながら、最上は口を開いた。

 

「んー・・・やっぱり何となく・・・ですかね?しいて言うなら、自分は基本敬語なので初春さんが話しやすいから・・・とかですかね?」

 

語尾に疑問が付きまとう最上の言葉に黒子も眉を寄せながら自分のことについて考えた。

 

「・・・わたくしが話しづらかったりしますの・・・?」

 

「あー、でも白井さんはそんなとこありますよね なんか気品が高いっていうかまず話しかけるのは難しいっていうか... 私もよく話すようになるまでは私のほうから話しかけにくかったですし あっ絆創膏はしっかり貼りましたのでもう動いていいですよ」

 

初春が遠慮なくそう言うと黒子も遠慮なく初春のほっぺたを引き伸ばし始めた。

 

「ホントによく躊躇なくいってくれますわねこの口は・・・というかアレ以外にばんそうこうなかったんですの?ピンクは殿方に似合いませんのよ?初春」

 

その黒子の言葉に最上は思わず見えない絆創膏に手をやりながら初春に聞いた。

 

「えっ・・・これピンクなの?初春さん・・・? ・・・まあいいか そういう感じは高根の花っていうか、それも白井さんの良さの一つなんです 白井さんは白井さんらしくいるだけでいいんですよ」

 

最上は少し悩んでいるような黒子にそう声をかけてから、

 

「じゃあ、もう行きますね お二人とも、さようならー」

 

とその場を去ることにした。

しかし、黒子のほっぺた伸ばしの刑から逃れた初春が、大分離れ始めた最上を呼び止めこう言った。

 

「あっ!待ってください!良ければ電話番号交換しませんかー!もっと私も白井さんもお話してみたいことあるんですー!」

 

黒子は勝手に自分も含まれていることに初春に向けて抗議の目を送ろうとしたが、もっと話してみたい、というのは事実だったので、今日は見逃すことにした。

 

「んー・・・実はケータイ持ってなくてさー!ごめんねー!またいつかー!」

 

その言葉に二人は多少落胆しながら最上を見送った。

 

「せっかく白井さんの数少ないお友達になってくれそうないい人だったのに・・・残念ですねー、白井さん」

 

「確かに・・・わたくしの数少ない友達・・・って何言ってるんですの!また頬っぺた伸ばされたいんですの!?」

 

二人はそうしてじゃれあいながら事件の後始末へと向かった。




長編書けないマンだったのでほぼ二話完結の新編でした。(衝撃の新事実)


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特別編 年明けぐっどないと

年明け、つまりは三話と四話の間の話です
文章の量少ないし、年明けまでイチャイチャ書けないことを悟ったため、このタイミングの投稿になりました


「···超あけましておめでとうございます...」

 

四人ほど座れそうなソファに隣り合わせで座って一緒に遊んでいた最上に、つけっぱなしにしていたテレビから大きな鐘の音が聞こえてきたのと同時にそういった。

 

「あははは···あけましておめでとうございます ···どうです? 年越しの瞬間は」

 

「超眠くて、正直昼寝でもすれば良かったと超後悔してます」

 

私がそう言うと彼は、そうでしょうね、と苦笑いをした。

 

「最上は超平気なんです? 今朝からずっと起きっぱなしなのに全然堪えてるように超見えませんが」

 

私の記憶によればそうであるはずなのに、彼はいつものように元気だ。

さすがの彼も数回あくびをしていたがそれだけだった。

 

「絹旗さんの前で無様に寝落ちするわけにはいきませんから それはそうと、どうします? もう少しなにかやってから寝ます? もしもう寝るなら暖かい飲み物作りますけど」

 

そういって立ち上がって伸びをする彼を見ながら、もう一つの選択肢を選んだ。

 

「···ここで寝たいです」

 

彼はその動きを止めた後、ゆっくりとソファに座ってからこちらを見ずに言葉を発した。

 

「···ここじゃ寒いですよ?」

 

「今暖房もつけずに超冷えきっている私の部屋より、現在進行形で暖まっているここの部屋のほうがいいと思いますけど」

 

私の熱視線に今も目をそらしながら最上は苦肉の策を口にした。

 

「暖まるまでこの部屋で待っていたほうが...」

 

「私は今寝たいんです 今じゃなきゃ眠れないかもしれません 朝まで起きることになったら責任とってくれますか?」

 

渋り続ける彼に私は猛攻撃ならぬ猛口撃を仕掛け、困り果てた彼の手を引いてソファの上に二人で横になった。

そこまでソファが広いわけではないので、私が下に彼が上に重なっていた。

 

「···せめてベッドにしませんか? ここ狭いですし...」

 

もう隠すことができないほど顔を赤くした最上は、私が最上と一緒に寝たいというだけということをなんとなく理解したらしく、そう提案してきた。

 

(ですがダメです 私にも超プライドというものがあるのです それを認めることは一緒に寝たい、ということを認めることにもなります それに最上はベッドに行ったりしたら、即一番離れたところに行くに決まってます ···ちょっとした間違いも起きるかもしれませんし···)

 

それは避けなければならない、と更なる反論をした。

 

「···さっき寒いから超イヤだと言ったはずです ···しっかり考えることもできないほど眠くなっているようですね さあ寝ましょうすぐ寝ましょう。」

 

私が引かずに、ソファに引き込んだときから繋がっている手をさらに引いてこちらに寄せると、ようやく覚悟を決めたようだった。

 

「···電気消して毛布持ってきます」

 

そう言って私とソファの上から降りた彼の手を離さず、私もソファから降りて彼の隣を歩いた。

 

そのまま私と彼は、毛布を手に取り、電気を消した。

 

部屋が暗くて最上の顔が見えないこと、実際に眠気がピークに達していたこともあって深夜テンションになっていた私はソファの上に彼を押し倒した。

 

その勢いのままに彼を腕ごと抱きしめ、彼の胸の上に頭をのせた。

 

これ以上はないし、彼もこれ以上のことはしないはずだ、と願いながら思っているはずだが、そんな意思とは無関係に、というやつなのか、私のお腹に、服があるにも関わらず熱く固いものが触れていた。

 

(···彼のコレ、機能していたんですね...)

 

と彼に失礼なことを、ほんの少しだけ、きちんと私に反応したことに喜びながら考えた。

 

コレについて言及しようかとも考えたが、私がこういったことで彼を弄りすぎて、彼が私のことを変態だと思い始めているらしい、ということを思いだし、これ以上の勘違いを防ぐためにその考えを捨てた。

 

ちなみにそれがわかったのはお風呂から上がって、面倒だからと彼に髪を乾かして貰おうとしたときに、脱衣場の扉の前で彼が

 

「···服は着ていますか?」

 

などと聞いてきたおかげだ。

 

···私は変態ではない。

 

彼の胸にそれなりの一撃をお見舞いすることでその場は手打ちにした。

 

ちょっとだけならコレについて言っても···という自身の思考を、ギリギリを狙うなんてそれこそ変態じゃないか、とさっぱり忘れることにした。

 

押し倒してからなんの言葉も発していない彼に私は言葉を投げ掛けた。

 

「最上...」

 

「···はい」

 

「来年も、また私の隣で、超一緒に、超元気に、年を越してほしいです」

 

こうして抱きついて、初めて出てきたような、ずっと思っていたような、普段の私では絶対に言えない言葉を言い終えると、彼の反応も待たずにさらに強く抱きしめた。

 

それを言えただけでよかった、むしろもういっぱいいっぱいな私に彼は追加で攻撃をしてきた。

 

「今年、絹旗さんと出会えて、本当によかったと思います だから約束します 来年も同じように年を越しましょう」

 

彼は真剣な声でそういった。

 

私はそれを聞き届けたと同時に、油断してしまい、睡魔に負けて最上の上で眠りについた。




ちょっとエッチなんじゃないですか!?(微興奮)

まあ、それはそれとして

あけおめことよろです(挨拶はできる)(文章を量かけない)(年明けぴったりに投稿できない)(時系列を分かりやすくできない)(挨拶が適当)(本文2019文字)(今年もよろしくお願いします)


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7話

本文書く前になにかいい感じのもの前書きの話題があったはずなのに前書き書く頃には忘れてる


「―――ということがありました」

 

彼はそう言って説明に一区切りをつけ、このモールで買ったらしいドーナツをテーブルの上に置いてあったドーナツの箱から取り出し、食べ始めた。

 

(・・・私が数時間いなくなっただけでそこまでになるとは・・・超予想外です... もういっそ、私がいない間の買い出しも禁止してしまいましょうか...? いや、むしろ普段もこんなことやってるけど言ってないだけとか... ・・・それはさすがに超あり得ませんね、ええ)

 

「・・・怪我は、してないんですね? 後、あなたのことも」

 

あまり人に聞かれていいことでもないので少しぼかしながら暗に身元関係がばれていないかをそう言い換えて聞いた。

 

「ふぁい? あ、はい、どちらも さっきも言った通り一時的に呼吸ができなくなっただけですし」

 

それなら特にいうことはない、安心だ。

 

(ケータイも、持たせていなくて超正解でした 暗部に利用されるのを防ぐため、という意味で、彼にも超そう言って説明してましたけど・・・予想外のとこでも機能しましたね)

 

連絡が取れなくても仕方がない。

これらの理由は私にそう思わせた。

・・・彼をこんな風に待たせてしまうのは、少しだけ、申し訳ないと思うが・・・まあ、我慢してもらいたい。

 

「そうですか それは良かったです 骨折でもされたら超面倒なことになってたでしょうし」

 

IDカードもない人間を骨折から完治までもっていくのはどれだけ面倒なことなのか、想像もつかない、なんて思いながら私も箱からドーナツを取り出した。

 

「それからこれを買って、とりあえず夕食代わり、ということですか ・・・なんか不健康じゃないです?それに少なくありません?」

 

(まあ私が色々な理由のために一緒に出掛けるときには鍵を超持たせていなくて、しかも今回に限ってそれを渡し忘れてしまったのが超悪いんでしょうからあまり強くは言えませんけど...)

 

そう思いながら手に持ったドーナツ_おそらくスタンダードなもの_を一口かじった。

 

「お腹いっぱいまで食べたら絹旗さんが戻って来た時に食べられないですから 後、その騒動とこれ買うまでの間に、人がだんだん戻ってきたので、なくしたCD買ったりー、ゲーセンでこのでかいぬいぐるみ兼クッション取ったりして時間つぶしてました」

 

彼はそう言って手をハンカチで拭いてから、彼の横の席に置いてあった大きな袋から、使っているソファの、一人が座る場所よりも少し小さいぐらいのデフォルメされた、頭だけの茶色いカエルを取り出した。

 

「超まあまあ って感じです、色々と それはそうと戻ってきた時って... いや、そっちはやっぱり超いいです ・・・もう戻ったんですし、食べましょう、夕飯を」

 

彼に自分のことも考えろ、と言ったところで大した意味もないことを知っている私は口をつぐみ、代わりにそう提案をしてから手に持ったドーナツをすべて口に入れた。

 

「わかりました 何食べます―?ここ、割と何でもあるんですよ あそこにガイドもありましたけど・・・とってきます?」

 

「まあ・・・正直、超家で食べたかったのでもう何でもいいです こんなに遅くまで待たせて、挙句に家まで帰らせて夕食を作らせるのは流石にないと思いますし」

 

私がふてくされたようにそういってテーブル席から見える、後十数分もすれば完全に日が落ちるであろうという外の景色に目をやると、彼は苦笑しながら

 

「自分は全然、今から帰って、作ってもいいですよ?材料も家にありますし こっちで食べるなら、やっぱり鍋とかがいいですかね 鴨肉の鍋とかあるらしいですよ ここ」

 

と、どちらも魅力的な二つの提案をしてきた。

 

(鴨肉・・・前に超どこかで食べましたね... 何で食べたのかはさっぱりですけど、普通の肉より良いものに感じたことだけ覚えてますね ・・・でも超帰って最上の料理を食べるのが... ・・・!そうでした!明日も超最上の料理は食べられるじゃないですか! 少し惜しいとは思いますけど、最上が超鴨肉買ってきて料理として出してくれるなんてことは超ないでしょうし、ここは鴨鍋にしましょう!)

 

自身の中で少し興奮気味になりながら、私は彼の二つ目の提案である鴨鍋を選んだ。

 

「最上、今日は鴨鍋にしましょう! ドーナツ一つじゃ超お腹すいてきました!」

 

「ええ、そうしましょう!じゃあもう行きましょうか」

 

そういって彼は私に手を伸ばして、立ち上がった私の手をとった。

 

(お・・・おおう... 超積極的・・・いつもなら私が手を差し伸べるか、彼の腕に引っ付いた私に、「せめて手をつなぐぐらいにしましょう...?」と赤面していってくれるかぐらいでしたが...)

 

多少頬を赤くしながらも積極的に手を差し伸べてくれた彼に私はかなり嬉しくなり、心臓の鼓動を早くしながら、ふとこれからのことを考えた。

 

(・・・もし最上がこの積極的なままでいたら私はどうなってしまうんでしょう... まったくもって悪くはないんですけど、彼から手をつながれただけでここまでになるのに...)

 

まともな思考ができなくなりかけて、むしろできていなかったようなとき、もし彼に抱きしめられたら、という妄想を考えかけ、それはもうされていたことを思い出した。

 

(でもあの時、いえ、さっきは・・・)

 

そこで先程、仕事へと見送られたとき、抱きしめられていたのにも関わらず何故こうなっていなかったのかを理解し、それと同時に彼が積極的である理由を思い出した。

 

(つまり・・・ああ、なんかもう、超私は馬鹿な奴です... 最上に「今日一日先導してほしい」と言ったのは私じゃないですか... さっき抱きしめられた時でデート終了だと思って・・・いやデート終了はしたんです そういう感じの言葉も交わしましたし... ただ今は、彼が途中でデートを終わることになった私を気遣ってこうしてるってだけのことですね・・・これ... 嬉しくないわけじゃないですけど・・・超複雑です...)

 

抱きしめられた時の理由が「私が言ったから」というものであったため、予測もでき、なおかつ、自分が言ったということをあまり意識していなかったために、充足感だけがあったのだということ、それとは違い手を繋がれただけだが、全くもって予測のできない不意打ちであったため、充足感とともに、嬉しさやほんの少しの恥ずかしさもでてきて、私はここまでの混乱を引き起こしたのだ、ということを理解した。

 

同時に、今後こういったことがあった場合は、まず自分が何をしたかを一から考える、ということを固く決意した。

 

 

 

「じゃあ食べさせあいでもしますかー」

 

「超何を言ってるんですか貴方は」

 

本来、あの騒動の途中の時間からここへ入ろうとしていた団体客たちが、食べられなくなっていたここから別のどこかの店へと鞍替えしたらしく、部屋が大分開いていた。

そのため、どうにか都合よく二人っきりの部屋となり、料理も運ばれ、もう食べ始めようといったところで彼が落としたのは爆弾だった。

 

「・・・ダメですか・・・?食べさせあい・・・?」

 

少し悲しそうにする彼を見て、私は湧き上がる罪悪感と嗜虐心を抑えた。

 

「それ自体はダメじゃないですよ? でも、何となく違うんです ええ、それだけです」

 

(しょうがないじゃないですか!?それは嬉しいですよ!?でも一旦ああやって考えたら複雑な気持ちになってしまって、とてもじゃないですが素直に喜べないですよ!)

 

なるべく悟られないようにしていたが、思わず出てきた私の「うーん...」という言葉を聞いて彼は悲しそうにしながらこういった。

 

「・・・さっきのことが喜ばれたので、今もそんな感じでやろうとしたんですけど... 余計なことだったみたいですね、すいません」

 

さっき・・・これはまあ抱きしめてもらった時のことだろう。

あの時は何でもないような顔もできずに、つい頬が緩んでしまっていた。

だからしょうがないといえばしょうがない。

 

(・・・むしろ、私が最上の行動の理由に気付かないでいれば、今も私たちは平和に、しかも喜びに溢れながら互いに食べさせあっていたはずです。・・・なぜ私は気づいてしまったんでしょう...)

 

十数分前の私を「何故気づいたんだ」と殴りたくなった。

だがそうなってしまったものは仕方がない。

落ち込んでいる彼を元気づけるための言葉。

これを言うのは下手したら公衆の面前で抱きしめられたことを理解した時よりも恥ずかしいかもしれないが、もうどうにでもなれだ。

 

「・・・最上は、今日超頑張ってくれました 嬉しかったです でも、もう今日は先導とか、しなくていいです この後は、その、超ありのままの貴方でいてほしいんです」

 

顔から火が出そうになりながらも私はそう彼に伝えた。

彼は目を見開いてから顔を赤くし、いったん深呼吸をしてから彼のいつもの笑顔で、

 

「ちょっと考えすぎちゃったみたいですね ほんとに申し訳なかったです ・・・じゃあ、もう食べますか」

 

彼はどうにか私の想いを感じ取ったようだ。

恥ずかしさでほとんど動けなくなっている私を気遣ってか私の分も鍋からよそってくれている。

・・・彼は鈍いようでいて時々妙に鋭くなるから、もしかしたら私がどういう風に考えてさっきの言葉を発したのか、私が今どういうなの気持ちなのかをハッキリと理解したのかもしれない。

・・・もしそうだったら余計に恥ずかしさで消えてしまいたくなるが。

 

私は気恥ずかしさを防ぐために彼がおこうとした私の分の入った取り皿を指して言った。

彼ならばもうそうなっているだろう。

 

「最上... 食べさせてください」

 

私が感情を抑えて簡潔にそれだけを言うと、私の皿を持っている手も止めて、真っ赤になった顔で私のほうを見た。

彼は涙目になっていて、本気でそんなことを言っているのか、とでも言いたげな顔で私を見ていた。

自信をもって先を行ってくれている顔よりもこういうちょっと情けない顔のほうが好きかもしれない。

 

「どうしたんですか? 超食べさせてください 冷めちゃいますから」

 

彼の顔を見て段々と調子を取り戻してきた私は、彼に続けてそう言った。

 

「・・・さっき、食べさせあえばよかったじゃないですか...」

 

「最上はわかっていますよね」

 

私がそれじゃダメだったことはわかっているだろう彼に、それだけを言うと、彼はどうにでもなれというように私の箸と鴨鍋の中身の入った皿を持った。

・・・もしかしたら私がさっきどうにでもなれと思ってやったのと同じような気持ちなのかもしれない。

そうだったとしてもやめないが。

 

「見つめられるのは恥ずかしいでしょうし、目を瞑っておいてあげます ちいさな口に変なもの突っ込まなければ、何してもいいですよ?」

 

私が含みを持たせてそう言うと、彼は落ち着きかけた顔色を、また赤く変化させた。

 

その顔を見届けて私は目を閉じ、口を開けた。

 

といっても、彼のことだから変なことはしないだろう。

言ってしまえば、これは当たりしかない宝くじのようなものだ。

何が出てもがっかりはしない。

当たりはしっかりと食べさせてくれる、私はこれだけで大満足だ。

それともう一つ、もっと良いものだから大当たりか。

確率は低いがなくはない、気がする・・・やっぱりただの自惚れみたいなものかもしれない。

彼は進んでそういうことをしないと思うが、それでもそれであってほしいと少し思う。

 

「・・・しませんからね? そんなこと じゃあいきますよ」

 

全くもう... と呆れと羞恥を含んだ声で彼がそう言った。

 

「はい、どうぞ」

 

口の中に入ってきたものは間違いなく、箸といつか食べた鴨肉だった。

 

(・・・超美味しいです 当たり、ですね まあいいですけど)

 

しっかりと味わってから目を開けて、何もせず、おそらく私が食べ終わるのを待っていた彼に感想を言った。

 

「超美味しいです ただ、新鮮さというか、なかなか食べないものだというのもあって美味しく感じている、という感じですね」

 

普段から食べていればそこそこぐらいの美味しさ、といったところだろうか。

 

「口に合ったようで良かったです ・・・もう食べてもいいですか?」

 

「んー まあ、超構いませんよ ・・・ただキスしてくれてもよかったんですよ?」

 

一応私が食べ終わるのを待っていたらしい彼は、私の言葉に驚いて、むせながら答えた。

 

「ゲホッ... 勘弁してください... そんなことしないですって...」

 

(・・・しないとまで断言されると超自信なくなってきますね ・・・私がなにか言うまでおそらく何もしないんでしょうね... むしろ言ったとしても最上は何もしてこないのでは...? ・・・超不安です)

 

今後に多大な不安を抱きながらも、今はただ目の前の鴨鍋を食べることにした。

 

 

 

食事を終えてモールの外に出ると太陽の光はなく、人口の明かりと月あかりのみで、まさに真冬といった寒さだった。

 

「最上・・・超寒いです」

 

「防寒具とか買ってからにします?手袋なら一応持ってますけど」

 

私がそう言うといつから持っていたのか、クッションを入れていた大きな袋の中から白に近い茶色の手袋を1セット取り出した。

 

(手を繋いでほしかったんですけど... ああ、いい方法がありました)

 

素の彼の不甲斐なさにほんの少し落胆しながら私は彼の手から手袋を片方、左手のみをとり、歩き出した。

 

「最上はそれつけてください それで超こうすればいいんです」

 

私は左手に手袋をつけ、言われるがままに右手に手袋をした彼の左手をとり、しっかりと握った。

 

「こうしておけばいい感じに寒くないでしょう?・・・貴方の手なんだか冷たくありません?まあ、いいですけど」

 

「冷たいなら手、離しましょうよ... なんかあれですし」

 

彼の手はひんやりとしていて、先ほどまで食事をしていた店で温まった私は、彼の心地よい冷たさに包まれた。

 

「あれってなんですか? それは超どうでもいいですけど、このまま手を繋いでいればそのうち暖かくなりますよ」

 

私がさらに固く手を握ると、すでに赤かった顔をさらに赤くした。

 

「フフッ ほら暖かくなったじゃないですか 最上のそういう反応、私超好きですよ? 今日いろいろしてくれた最上には悪いと思いますけど、やっぱり私は最上に何かされるより、最上に何かするほうが好きなんだと思います 超すみませんね」

 

言葉に全く謝罪の色を乗せないままに私がそう言うと、彼も大して気にしていないような声色で

 

「大丈夫ですよ 自分から何かしようって、あまり思えなくて、だからそれよりは、絹旗さんみたいな人に引っ張られてるほうが楽しいんです」

 

と言って、そのまま笑顔で私の手を握り返してくれた。

 

 

 

家につき、手を洗ってから、彼に借りた手袋を持ってリビングのソファに座った。

しばらく新作映画を扱っている雑誌を読んでいると、掃除と洗濯物を取り込んだ彼が隣に座ってきた。

彼が少しだけ開けた間を詰めながら私は言った。

 

「手袋ありがとうございます それでこの映画はどう思います? 良い感じの雰囲気出てません?」

 

「あ、はい、良いと思います 一応ホラーって感じですけど、こういうメンバーでの制作ならぶっ飛んだ方向に行きそうで楽しみですね」

 

彼はそう言いながら、あの名作なんちゃらを手掛けた制作陣がなんとアクションからホラーへと!? と聞いたことのない映画名とともに書かれた推薦文の映画を見てから言った。

 

「ただ... 手袋は本当だったら絹旗さんに渡すためのものだったんですよ 受け取ってもらえればいいなーって感じで買ってたんでさっきまで忘れてたんですけどねー ・・・要ります?これ?」

 

彼はそう言って手に持っていた手袋を見せてきた。

そんな彼に私は呆れながら雑誌を置いて、彼の手の上にある手袋を手に取った。

 

「最上はホント、どこかで抜けてますね 超もっと早く言ってほしかったものです まあ、これはありがたくいただくことにします 超どうもありがとうです」

 

手袋は白に近い茶色でおそらく私に合う色、私に合うサイズでで手袋を選んだのだろうということが分かった。

 

「・・・ちょっといいですか」

 

ただ気になることがあった。

私は彼の手を取り自身の左手と彼の右手とを重ねた。

 

(超やっぱりです)

 

「同じぐらいですね、私達の手」

 

「・・・ああ! ホントですね! なんだか嬉しいです」

 

笑顔で彼がありのままに嬉しさを表現すると、私もうれしい気持ちでいっぱいになって笑みがこぼれた。

 

「女の子と手の大きさが一緒って、男の子なら落超ち込むことじゃないです?・・・まあ。全然いいですけど」

 

笑みがこぼれたことの照れ隠しに私がそう言うと彼は情けないような、まだ嬉しいような、といった顔で

 

「それでも嬉しいんです!」

 

と私に言った。

その姿にどこかが耐え切れなくなって、ソファの上に座っている彼の膝にまたがり、真正面かつ至近距離から彼の顔をじっと見つめた。

 

(彼から何かをしてもらえるわけじゃありませんし、もう合意のようなものということで超いいですよね)

 

今の状況をうまく呑み込めていないであろう彼に、私は猶予など与えるつもりのない、無慈悲な言葉を投げかけた。

 

「嬉しいってことは・・・いいですよね」

 

その言葉にやっとなにかを理解したらしい彼が何かを言う前に、その口に自身の口を押し付け、どうにか抵抗しようとする彼の腕をも押さえつけ、彼の口内を満足いくまで蹂躙した。

 

「・・・なんか、急じゃないです...?」

 

私が彼の口から口を離すと、まだ先程の感触が残っているのか、どこか呆けたような声で彼は私に抗議してきた。

私は口の周りについたどちらかの唾液をティッシュで拭った。

 

「私と同じで嬉しい、悔しくない、ということは別に私にこういうことされても平気でしょう?私のために、今後も甘んじて受け入れてくださいね?」

 

私がそれを言い終わると、彼は忘れていた感情をやっと取り戻したらしい。

いつものように顔を赤くしていた。

 

「後、超好きですよ 最上のこと」

 

私はそう言って一度だけ、口と口が触れ合うだけのキスをした。

 

何もかもを彼がしっかりと理解した上で贈ったそれらは彼にとって絶大なダメージとなったらしく、声のようで声ではないような何かを口から漏らしながら私から視線をそらした。

私は満足したため、そんな風になっている彼をとりあえずここにおいて、彼の上から降りて、お風呂へと向かおうとすると彼は私を呼び止め、ハッキリと目を見て言った。

 

「絹旗さん ・・・自分も好きです 絹旗さんのこと...」

 

私が「そうですか」となるべく感情を出さないように答えてお風呂へと足を向けた。

後ろでは先ほどまでのように声のような何かが聞こえてくるが私はそれどころではない。

 

(言ってしまった? 超やってしまった? 嬉しい、いや、でも)

 

整理しきれない感情をぐるぐると考えの巡る頭の中と、声にならない声を吐き出す口とで整理し続けた。

 

どうにか一人きりになったことで、冷静になり始めている思考の中で私はここまでできた私自身を褒めたたえた。




後書きも忘れました(かなしい)


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寝起きのこと

前回なに書こうとしたのか思い出しました
前々回の後書きで終わりとか言ったんですけどまだ続いてます ってことを言いたかったんです

後前回タイトルつけ忘れてました


とあるファミリーレストランにて初春飾利と白井黒子は二人で事件の発生に備えていた。  ・・・ただ、今日一日は今のところ何も起きていなかったため、ファミレスで雑談をするだけにとどまっていたが。

 

「本当、暇ですわね... ここまでやることがないのならいっそ風紀委員の訓練所でトレーニングでもしていたほうが良いんじゃありませんの?」

 

初春のキーボードを叩く音と店が流しているラジオが聞こえてくる店内で、テーブルの上に頭を乗せ、冬の寒さによるものなのか人通りの少ない店の外をながめながら黒子はそう言った。

 

「暇なのはいいことって風紀委員の先輩も言ってましたよ? それに白井さんは真面目過ぎるというか・・・ワーカーホリックってヤツなんですよ こういう時は私みたいにしっかり休憩しておけばいいんです」

 

ノートパソコンから顔を移さないままにそう言う初春に黒子は呆れながら言った。

 

「・・・なら、それは今、何してるんですの? やたら熱心じゃありませんこと?」

 

「仕事じゃないので息抜きです ・・・実はちょっと調べものをしてまして... 最上さん、って覚えてます?」

 

初春はやっと手を止めてほんの少しの伸びをしてから、少し考え、そう言った。

 

「最上さん、といいましたら、2週間ほど前の?」

 

「はい、そうです その最上さんなんですが・・・」

 

初春は先程まで操作していたノートパソコンを黒子の方へと向け、初春自身も席を移動してから話し始めた。

 

「あのとき最上さんって、気にしなくてもいいですよ頑丈だから大丈夫です、って言ってたんですけど、なんだかその理由が違うように感じたっていいますか... それがどうしても気になっちゃいまして、なにか特別な理由があるんじゃないかなーって感じでちょっとだけ調べてみたんです」

 

「・・・それにしては情報が多くありませんこと? ・・・ストーカーは嫌われますわよ」

 

黒子が見ている画面には無数のウィンドウが表示され、最上のプロフィールが書かれたページを表示している一つのもの以外は乱雑に置かれていた。

 

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ まずこのページが目に入ったんですけど、これが大分おかしなもので... ここです」

 

そう言って初春がさす場所を黒子は見た。

 

「最上アオイ・・・カタカナですのね 無能力者、備考には名前の由来まであるんですの、ね・・・? これは・・・!」

 

「はい、そうなんです・・・! どうも最上さんは置き去りよりもひどい状態で、名前もなしに名字だけでこの学園都市にいたようなんです」

 

「拾ってもらった研究者に名前が付けられたとも・・・でも、これがいったいなんなんですの? 確かに酷いものだとは思いますけれど...」

 

そんな風には全く見えなかった最上の姿を思いながら、それでもわざわざここまで調べ上げるほどの必要性が見えてこない、と黒子は思った。

 

「この写真を見てください ・・・少しあのときと違って見えませんか? ここは住む場所のない子供たちの情報をまとめて、それをデータ化した場所なんです 一般的に公開されているものではありませんが、それなりに更新されているものでもあるようで、このページは1年に数回程度ですが情報が更新されているようです」

 

初春はそう言いながら、最上と同じ施設に住む他の子供のページと最上のページの情報を黒子に見えるように画面に出した。

 

「ですが、最上さんのページは5月、他のページはその後に9月や10月、と最上さんのページだけが5月から今まで、ページの更新が行われていないんです それで私は最上さんがいた研究所を調べて何があったのかを確認しようとしたんです そしたら・・・」

 

初春は画面に何らかの実験について書かれたレポートを出した。

 

「説明は省きますが、この研究所で11月に実験が行われたんです 結果、この実験では多数の犠牲者が出たようです ですがその中にも、片方は植物人間、もう片方は行方不明、となっている方たち、どちらにも最上さんの名前がなかったんです」

 

「・・・それでは、最上さんは・・・?」

 

黒子は非人道的な研究と不可解な物事とに頭を悩ませた。

初春は首を横に振りながら、

 

「分かりません 研究所に限って言えば実験の4ヶ月前、つまり7月中に人員入れ替えが行われていて、その結果がこの実験のようです それから、最上さんは年齢で言えば中学生でしたが、学校に通っていたわけでもないようで、ハッキリとした記録は残っていませんでした」

 

と黒子の疑問に答えることはできなかった。

二人がどうするべきかと対応を考えていると、隣のテーブルに来たらしい女性が二人に声をかけた。

 

「あっ! 君たちも風紀委員? そんでもってもしかして休憩中?」

 

黒髪に高校生ほどの背の、見知らぬ女性から突然かけられた明るい声に二人は戸惑い、先に初春が答えた。

 

「えっと、はいそうです! はじめまして!初春飾利です! こちらの白井さんも風紀委員で、私たちはとりあえず何かあるまでここで待機してたんです」

 

「それがいいよー 外なんか超寒くってさー、そういうことが起こりやすい路地裏にだって人がいなくって、ほんとに無駄足っていうか・・・あっ!忘れてた!私、守道中子(もりみちなかこ)!風紀委員の高校生!よろしくね!」

 

守道中子は身長と制服のみを除けばまるで子供の様で、胸に顔、自由奔放な言動には高校生らしさは見えてこなかった。

元気の塊の様な守道は一旦言葉を切ってから二人の反対側に座り、次いでまた言葉を発した。

 

「・・・それで、なんだけどね・・・?さっきそれを見ちゃって、しかも最後のほう、学校に通ってないって辺りから聞いちゃったの・・・ ごめんね? それでさ、その最上くんって子、私も知ってるんだよね... 私、彼に色々してもらっちゃったから・・・良ければなんだけどー・・・聞かせてくれない?」

 

申し訳なさそうな顔をしながら最上の顔写真の映っているノートパソコンを指した女性にそう聞かれた二人は、少し悩んでから黒子が答えた。

 

「構いませんよ・・・と言いたいところですが、まずどんな風に彼と知り合ったのかを教えていただけませんか? ・・・あまりみだりに話せることでもありませんので」

 

黒子にそう言われた守道は恥ずかしそうに頬を掻きながら話し始めた。

 

「あー... えっとね? まず私は8月の終わりごろに悪いことしてる人いないかなーって、使われてないビルやあまり表から見えないような路地裏を見回ってたの ・・・見回って何かしてる人を見つけることもあるんだけど、それで通報してからいったん拘束したりして警備員の人たちに会うと決まって「危ないことするな」って言われちゃうんだけどね...」

 

守道はあははは...と笑いながら次の言葉を発した。

 

「それでそれで、そんな感じで見回ってたらたまたま最上くんを見かけてね 彼、どこにいたと思う? 使われてないビルの一部屋に電気もつけずに・・・ってつかなかったのかな?まあいいや! それで体育座りしながらウトウトしてたんだよ? 夕方に近かったかな? 私もちょっとだけびっくりしちゃって結構大きな声出したら、完全に目が覚めたみたいで、「あっ...すいません すぐ出ていきます」とか言ってどっか行こうとしたから、詳しくお話聞かせてもらうことにしたんだ」

 

「体育座りで睡眠・・・しかも誰が来るかもわからないような場所で・・・過酷ですのね・・・」

 

黒子と初春は思った以上に大変な目にあってそうな最上に憐れみを覚えていた。

 

「うんうん、だから私も多分住むところがないんだろうなーって感じで可哀そうだし一晩私の家に呼んだんだよね」

 

「えっ!?たまたま見つけただけなんですよね? 周りの人とかに相談したんですか?」

 

「私も一応、大人に相談しようかなーって考えたんだよ? でも彼、あんまりそういう風にしてほしくなさそうで「迷惑かけちゃうといけないので...」とか言ってどうにか逃げようとする彼を私が、一晩だけ!なにか手伝ってくれればいいから!誰にも言わないから!とか言って無理やり私の自宅に連れて帰ったの 彼、そうでもしないとまた彷徨うことになっちゃうだろうからね」

 

(引っ張り方が危ない誘拐犯みたいですの...)

 

黒子は内心そう思いながらも口には出さず、代わりに

 

「そこまでして人を助けるなんて、守道先輩は優しいんですのね」

 

と、確かに本心ではある、褒め言葉のほうを口にした。

 

「いやーそれほどでもないよ 私元気だけが取り柄とか言われて、それがちょっと嫌だったから、能力もそれなりだったし、折角だしって風紀委員になっただけだもん まあそれでね、家で色々やってもらったんだけど、それがすっごく上手で・・・私、いつも部屋きれいにしてなかったから、散らかってるの一緒にきれいにしたり、冷蔵庫の中にあったからスパゲッティを作ろうとしたんだけどそれもやってもらっちゃって、すっごく美味しかったんだよ? いつもトマトソースをかけるだけだった私のスパゲッティがあの日だけ豪華になったんだ・・・また食べたいなぁ...」

 

守道のその時を思い起こしているような言葉と表情で、初春は自分が熱中しすぎて何も口にしていないことを思い出した。

 

「スパゲッティですか!いいですね 私も今食べたくなっちゃいました!」

 

「えっほんとに? 私も話してたらもう何でもいいから何か食べたくなっちゃって・・・一緒に頼む? っていうかここに来てから何も頼んでなかった...」

 

「わたくしは遠慮しておきますわ 調べものに熱中してた初春をおいて先に食べましたの」

 

三人が軽く雑談をしたり、黒子と初春がドリンクバーのジュースを取りに行ったりしてから、店員に二人が注文をするとまた守道が話し始めた。

 

「それでね? 彼に掃除に料理・・・流石に洗濯は任せてないよ?やっぱり女としてそこまで任せちゃアカンですよ」

 

「何キャラですのいったい... まあ洗濯は確かにあり得ませんけど」

 

「えへへ... それで色々任せて、最上くんがお風呂に入ってる間に机の上で寝ちゃって・・・まあすぐに上がってきた最上くんに起こされたんだけどね... ・・・その時私ほんっとうに寝ぼけてたから抱き枕にしてそのまま寝ちゃったんだよね...」

 

「・・・それも十分あり得ないと思いますわよ」

 

恥ずかしがりながらそう言う守道に黒子は呆れの目と、先ほどまでとは違った意味で最上に憐れみの目を向けた。

 

「そうだよねー・・・えへへ... やっぱりその頃色々あってさみしかったから・・・つい、ね? 朝起きて顔が目の前にあった時はちょっとびっくりしたけどね それから最上くんも起こしたら朝ごはんも作ってくれたんだ! でも、一晩だけって言っちゃったからなのかなー、それだけしたらどっか行っちゃって一応引き留めようともしたんだけど「これ以上迷惑かけられませんから」って私が支部に顔出すために外に出たらそのままね・・・彼がいなくなってからの数日は耐え難いさみしさでいっぱいだったよ...」

 

その時のことを思い起こしたのか、顔を下に向けた後、あっ今は全然平気だけどね!このとおり!と元気いっぱいに体全体でアピールした守道には確かにそんな影は見えなかった。

 

「まあ、そんなわけで、彼には私のつらい時期、少しだけ救ってくれた大切な人なんだよ... だから!何か彼に返したくって... 是非!私もそれに一件噛ませてください!」

 

テーブルに頭が付くほどに頭を下げて懇願する守道に黒子と初春は

 

「構いませんわ!でしょう?初春」

 

「はい!あっ!でも情報源を言いふらしたりしなければ、ですけど」

 

と了承の言葉を口にした。

すると守道は目を輝かせ、先ほどまでの活発さを更に強めた。

 

「やった!それは約束するよ!むしろ彼のためになることなら何でもするから!それじゃ、これからよろしくね!」

 

 

 

こんなにも時間がかかるとは思っていなかった。

仕事は予定では夜中の間に終わるはずだったというのに今はもう太陽が昇って6時間ほどたっている。

遅れた理由なんてどうせ、こちらが警戒しているという情報を掴まれたせいで相手方も様子見に回ったとかそんなとこだろう。

 

(寝ててもいいからとりあえずいてくれとか・・・超早く帰らせろて感じです どうせ相手が様子見に入ったらそのまま何日かは何も起こらずに居れるでしょうに...)

 

大して暗部で長く過ごしていなさそうな依頼主だったからある程度のアドバイスはしてやったのだが、結局「朝までは頼む」の一点張りでこんな時間まで私を引き留め、無駄に私に報酬を払う羽目になっていた。

 

(ある程度名前も知れてて実力もあるこの私をお金に糸目もつけず選んだのは超いい判断ですが、あれじゃあ先にお金がなくなって事業を続けられなくなるのがオチでしょうね)

 

4時間ほどの仮眠と、帰れずにイライラしている私にせめてと研究員が出してきた菓子類を原動力にして、私はやっと家へとたどり着いた。

 

(眠いわけではありませんが超疲れました... 最上には悪いことをしましたかね 朝には帰ると言っておいたのにこんな時間まで連絡もできずに... 彼のことですし夜明け近くまでは待たせてしまったでしょうね)

 

心優しい居候のことを考えながら部屋へと入り、いつも食事をしているテーブルの上に明らかに夜用のものではない食事が置かれていた。

彼のことだ、朝になっても戻ってこない私を気遣って古い作り置きの晩御飯を処理して、朝御飯用の食事を新しく作ったのだろう。

 

(・・・それにしては彼が来ない・・・というか生活音がしませんね 起きっぱなしだったから今寝てるんでしょうか?)

 

いつも彼が寝床としているソファと、テレビ、その前に低いテーブルがある場所で、やはり彼は寝ていた。

 

(疲れていて声を出せなかったんですが、超出さなくて良かったです 余計に起こすわけにも超いきませんからね)

 

最初に寝顔を見たとき、今も写真データとして残っていて自由に見れるようになっているそれと変わらない、安らかな顔で、彼は寝息を立てていた。

その姿は私が起きる前に朝食を作り、私が寝た後に就寝するためなかなか見れない、そこそこ貴重なものでもあった。

 

(こういう時、ほっぺたつついても起きないんですよね、この人 無理やり上に乗って寝ても起きませんし、もしもの時が超心配ですね)

 

上に乗って寝ると大抵起きたときに自分の部屋にいるのだが。

起きるまで待ってくれればいいのに、なんて思いながらすやすやと寝息を立て続ける彼に何もせず、食事のために手を洗うことにした。

 

(何はともあれ超起こすわけにはいきませんね まあ、仕事で一緒に食べれないこともありますし、折角超家にいるのだから一緒に、とは思いますけど ・・・超ただのわがままですね)

 

そんなことのために彼を起こせない、でもたまたま今起きてくれたりしないかな、なんて思って洗面所を出ると、その願いが通じたかのように彼は起きて、こちらに挨拶をした。

 

「あ、おかえりなさい 帰ってたんですね 良かったらそれにおかずとか足しましょうか?」

 

さっきまで寝ていたとは思えないほどはっきりと受け答えをする彼に内心驚きながらも、おかずを足してくれるように頼んだ。

 

テーブルの上で、彼が追加のおかずを作るのと冷めた朝食を温め直すのを待っている間、彼が「何もなしに待たせるのは気が引けるので」といって出してきたサラダを私は食べていた。

 

「ところで、超さっき寝てましたよね? 起きたばっかりなのに、なんで超そんなに眠くなさそうなんです?」

 

彼の動作に注目していてもあくび一つ聞こえてこないことが気になり、そう質問した。

 

「んー... 自分、寝てる時にたまにパッと起きる時があるんですよ そうやって起きると眠気もほとんどなくって普段普通に起きた時よりも動けたりするんですよ それから、そうやって起きた時は大体自分のことを誰かが起こそうとしてたり、やらなきゃならないことがあったりーみたいな事がありますね」

 

随分不思議な体質だ。

それあたりが理由でここに放り込まれたのかもしれない、と思いながら彼に言葉を返した。

 

「随分都合がいい力ですね 私にも超欲しいです ・・・ということは私が起きてほしいと思ったからこうなったってことですかね?」

 

「そうだと思います ただ、良いものではなくって、例えば誰かが部屋に入って僕の代わりに小さいゴミ箱の中のゴミを捨てようとしたらその人が入ってくる前に起きたりしますし、目を覚ましても何もないだろう、って起きようとせずにいるとあと少しでもう一度寝れるぐらいになった時に結局やらなきゃいけない事がでてきたりする、ってこともあって・・・そうなるとまともに頭が動ないんですよねー」

 

そうなのか。

能力のように切り替えがないというのはなかなかに大変そうだ。

まあ、そのおかげで私は彼と一緒にこの微妙な時間帯に食事をすることができるのだから正直感謝しかない。

 

「できました! 今持っていきますー」

 

そう言って料理を彼の分と私の分を合わせて作った彼を労る気持ちも込めて、料理を運ぶのを手伝った。

 

 

 

食事も終わり、本来ならばここから自堕落に遊ぶところなのだが、流石に今日は疲れのほうが先に出た。

 

「私、超眠いのでこの後シャワーだけ浴びて夕方ごろまで寝ることにします 晩御飯出来ても起きなかったら起こしてください」

 

食器を洗い始めた彼に眠気を抑えながら、簡潔にそう伝えてお風呂場へ向かおうとすると彼に呼び止められた。

なんだろうと思って振り返ってから思い出した。

 

「ああ、パジャマ...」

 

「あっ思い出しました?何も持たずに行こうとするから少しビックリしましたよ」

 

眠気がだんだんと増してきた私に、彼はそう言ってから手をタオルで拭き、私の部屋へと行き、パジャマを持ってきた。

彼に任せてからは着替えの用意もだいぶ楽になった。

私はもともと、面倒だからと服と下着をひとまとめにしていたから、たまに下着が服の間に挟まったままになってしまい、その下着を見つけるために畳んである服をすべて広げるようなこともあった。

 

今は彼の提案で下着が洗面所、服などが私の部屋のタンス、となって一人の時も服を探しやすくなっていた。

 

「ありがとうございます これはお礼です」

 

私は眠気が頭にあるまま、半ば深夜テンションのようなものでパジャマを持ってきた彼の腕を引き頬に軽く口づけをした。

 

私はそのままお風呂場へと向かった。

・・・なにかおかしなことをした気もするが気のせいだ。

多分大したことでもない。

私はそう思いながらシャワーを浴びた。




前回から今回までの間に感想をいただいたんですが、その返し方がへたくそで初めて感想に返信した時と違って大分後悔してます
具体的に言うとビックリマーク多用することしかできませんした

それと大分投稿が遅れて申し訳ないです
今までは早めに投稿してましたけど、これからも遅れることになると思います
二週間・・・って思ってたんですけど感想返したときに早くするとか言ったので10日以内ってことでお願いします


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昔のこと

イチャイチャ要素はほぼありません(技量不足)


私は用事を終わらせ、最上からもらった手袋で寒さをしのぎながら歩き、やっと帰宅することができた。

外は、日が出ているが時折雲に隠れることで白い息が出ない程の絶妙な寒さを保っており、後1時間もすれば日はオレンジ色の光を放ちながら沈んでいくであろうという程の位置に太陽はあった。

部屋の中は暖かすぎる、ということもなく、身にまとった防寒具などを脱いでも寒くはない、といった過ごしやすそうな温度だった。

彼のいるであろうリビングへと向かうと彼はソファに座りながら何らかの本を読んでいた。

 

「超ただいまです それ、何読んでるんです? 漫画ですか?」

 

「お疲れ様ですー 今日暇だったので食べ物なんかと一緒に買ってきたんですよ」

 

(そういえば朝「本棚を使っていいですか」とか聞いてきましたっけ 最上のことですし超唯一私が知ってる趣味である音楽のCDあたりでも入れるのかと思ってました 最上らしいといえば最上らしい気もしますけど)

 

新発見した最上の趣味にどこか納得をしながら彼の隣に座り、邪魔にならない角度でそれを覗き込んだ。

 

「・・・可愛らしい子たちですね」

 

そこには全部がそうとまではいかないものの、可愛らしい、制服を着た少女たちが多く描かれていた。

 

「そうですね すごくかわいいですよ クスっと来るような面白い話もありますしオススメですよ 読みますか?」

 

そう言って彼は題名の横に小さく「2」と書かれた本を閉じないように片手で持ちつつ、またもや題名の横に「1」と書かれた本を差し出してきた。

 

「・・・まあ、いいですけど 読んでみます」

 

(普通こういう状況でそうなりますか? まあ超最上ならあり得てしまいますけど)

 

相変わらずの鈍感さに最上らしさを感じながら差し出された本を手に取り、彼の膝に頭を乗せて横になった。

普段から少し休みたくなった時にもそうしているためか、彼は何も言わずに、少しうれしそうに、それでいて恥ずかしそうにしながら、片手にあった本をまた開き、読み始めた。

・・・いつだか頭が痛くするとダメだから、とか何とか言っていつだかにとったカエルのクッションを頭と膝の間に挟んだ時はそれを投げ捨ててお腹に一発食らわせてやった。

 

その漫画は高校生の少女たちの平和な学校生活を描いていた。読み進めると確かに面白く、癒された。ただ彼がわざわざいくつもの漫画の中からこれを選んだ理由が思いつかなかった。・・・もしかして表紙がかわいかったから、とかだろうか。

 

「超いいものですね でも、なぜわざわざこれを?なんで3冊も買ったんです?立ち読み程度で見たなら一巻だけでいいような気もしますけど」

 

漫画から顔を上げ、表情を変えずにそういうと彼は何でもないような表情で漫画に目を向けながら言った。

 

「実は昔、こういうのを見たことありまして 今はどんな風にやってるのかなーって思ったんですよ ・・・変わってないみたいで何よりです」

 

「はぁ... 昔ですか その昔見た理由はどんなもんです」

 

小さな疑問を片付けた私はついでにそう聞いた。

 

「んー... 人気だったんですよ、自分のところで その時自分も読んで、キャラクター・・・この子がすっごい好きで、覚えてたんです」

 

彼が指さすのは、友達である少女を魔の手から守るため、そしてそばにいるためにつねにその友達のそばについて回る、その友達に関すること以外には冷静であり、時に少女らしい一面を見せる、体が全体的に成長していない女の子だった。

 

「・・・意外ですね超こっちの子かと思いました」

 

私が指さしたのはピアノを弾き、どこか影のある表情で笑う、お菓子関係の料理が得意な、下級生にも敬語で話す程に弱気で、豊満な体を持つ女の子だ。

 

「その子もかわいいと思いますよ でも自分は・・・なんていうんでしょう ・・・誰の助けも必要としなくて、でも一生懸命になれるものがあって、その為に周りを巻き込んだりして、それをやってるときは何より幸せでみたいな... それでいて何もないときにチラッとぐらいこっちを見て「振り回してごめん」とか言いそうな感じの女の子が好きなんですよ」

 

「・・・確かにその子は超そんな感じですね こっちの子はどっちかというと超振り回されるタイプですしね」

 

思わぬところで最上の好みを知り、一石二鳥を感じながら漫画に目を落とした。

 

「でも超えらく具体的ですね ・・・そういう人でもいました?」

 

私が漫画を読みながら、疑いを声に乗せてそう言うと、最上はその意図を何となく読み取ったようで、少し笑いながら答えた。

 

「あはは・・・そういうんじゃないんですよ もっと昔にいろいろありまして...」

 

答えにくそうな、悲しそうな声と顔でそういう彼を見て、私は

 

「そうですか」

 

と一言返して漫画を読むことに集中することにした。

 

 

 

小学六年生の時に困っている人を助けた。何に困っていたかは忘れたけれど、終わった時に何を言われたかは覚えていた。

 

「なんで私だけ助けてくれたんですか...?」

 

どこか期待するような目で自分にそう言う同年代の少女に疑問を抱き、その言葉追及することにした。すろとこう帰ってきた。

 

「だって、皆言ってますよ ●●君は全然人のこと気にしないって」

 

その後に「だからやっぱり」と言葉をつなげようとする彼女にただ「ありがとう」と返してその場を後にした。

 

そこからわかったのは誰かが困っている時に自分がたまたまその横を通り過ぎることが多く、小学生が抱える悩み程の些細なものではあるもののそうしているときに横を通り過ぎていったことを、悩んでいた人間が愚痴として吐き出したものが、いくつも積み重なっていたらしい、ということだ。

 

それを踏まえて、ただ生きることに一生懸命だった自分が周りを見て生きてみると、確かに困っている人がいた。些細な問題だからすぐに解決するだろう、と見逃していたそれは、その人にとっては大事なことなようで、一緒に困り事を解決すると喜ばれた。

問題を解決していくうちにそのスピードが異常であることを感じ、その上で体質か何かだとだと受け止めることにした。

 

しかし人助けを続けても今までのイメージは消えず、さらに男子が思い悩むことが少ないのか、女子がよく思い悩んでいるのかは定かではないが、自分が困りごとを解決するのは女子が多くそのことで酷くからかわれた。

 

別にそれは良かった。 それまでただひたすらに生きてきた自分は息抜きの方法としてそれを選ぶことができるようになった。気を抜いて生きていても別に死にはしないことを覚えた。だから問題はなかった。

 

問題は中学生に上がってクリスマスが近づいたときだ。

中学校でも自分についてのうわさは消えず、人助けも続けていた。困っている人がいたからだが。

その頃には音楽や漫画などあまり現実の人間の関係しないものを好んだ。一人で楽器を演奏していたし、単行本で時間を潰していた。

人の出るところには進んでいきたいとは思わなくなった。それでも困っている人がいることのみを原動力に休みには無理やり外へ出た。

 

そんな中ふと思った。

困っている人にできれば立ちすくんでいるだけじゃなく、自分で立って解決しようとして欲しいとも思った。しようとして欲しいだけだが、思うだけで声には出さなかった。それらを一番できる、やらなければならない場所にいるのが自分だと思ったからだ。

 

一番最初に助けた女子が自分にまとわりついて傍を離れようとしなかった。こちらのことしか見ていないらしく、勉強もせずまっとうに生きることもせずに近づく女子に敵意を振り撒いていた。そんな時に下駄箱に手紙が入っていた。わかりやすく言えば内容はこうだ。

 

「良かったらクリスマスパーティーに来ませんか? 詳しく話が聞きたいです」

 

自分は行く気だった。文末にあった女子の名前にではなく、自分の話を聞きたい、という部分に心を惹かれた。もしかしたらどこかで、この自分の状況に疑問でも抱いてくれたのかもしれない。いや、その時はきっとそうだと感じた。

 

しかしその日が来る前に大きな事件へと発展した。

そうは言ってもただ自分のことを好きな女子が先程の手紙を送った女子を何故か嗅ぎつけたらしく、手紙を送ってくれた女子にカッターを持ち出し右腕をほんの少し切りつけたらしい。

自分はその日は休んでいた。自分が必要とされる時の数分前に起きる、困っている人がよく近くにいる、に次いで、何かをするときに危険な場合にそれを何となく感じ取る事ができ、それで危険だと感じたからだ。

これも万能ではなく、無視しても多少気持ち悪くなるだけ、何かを回避しても、その回避した時に起こした行動による危険は察知できなかった。

車をよけてもその先の自転車には当たってしまうようなものだ。

 

案の定起こった事件に関係するとして自分はそれに巻き込まれ、彼女達の停学、出席停というらしいが、それが1ヶ月だと聞いた。被害者の少女には酷じゃないかと聞いたが、彼女も一応彼女も煽るようなこと、「●●が可哀そうだ」とか「別に●●は君のこと好きじゃない」など言いにくいが、確かにこの自分の本心でもあることを口にしたらしい。自分のことを欠片でも理解しようとして、助けようとしてくれている人がいる。それだけで心が躍り、生きる活力になった。

それに伴って、学校はどちらも悪いことをしたのに期間が違うのはおかしいとカッターを持ち出した少女のほうに期間を合わせたらしかった。

 

腕にほんの少しの切り傷を負った少女の母親は何処かの重役らしく、こんな危険なところに娘は置いていけない、と言ってとりあえずといった感じで三月までの休学を申し出ていた。

 

逆に怪我をさせた方の少女はまた何か問題を起こしたのか、こちらも三月までは出てこないことを知らされた。

 

しかし彼女は現れた。2月14日、バレンタインだ。今度はナイフを持っていた。ついでにチョコも。下校の最中に、彼女はナイフをちらつかせながら現れた。「愛しているの」という言葉とともに突き出されたチョコを、自分は受け取らなかった。愛してないからだ。好きでもない。

・・・実は朝から危険信号は鳴りやまず吐き気でフラフラだった。

それでもわざわざ登校したのは、チョコを渡したい友人と、チョコを渡されたいから明日は傍にいさせてくれ、という微妙にすれ違っている、可愛らしい幼馴染同士をこじれることなくくっつけるためだった。

 

受け取らなかったチョコを彼女は地面に落としてから、両手でナイフを持ち突撃してきた。吐き気はあったが避けられた・・・はずだがその場を動かなかった。

頭をよぎったのだ。あの日、自分は図らずとも彼女を起点に人助けを始めた。そうじゃなく初めから助けて続けていればこんなことにはならなかったんじゃないか。

もしくは二人が争った日と。

そのまま抵抗もせずに彼女にめった刺しにされその生涯を終えることになった。

 

 

 

見た夢の残酷さに比べてあっさりと目を覚ました。今のは自分の前世であり変えようのない自分の過去だと割り切っていた。それでも悲しい記憶として残っているのだろう。整理でもするためなのか数年に一回ほどこんな夢を見る。

でもそれは二日前、あの時に少しでも思い起こそうとしたのが原因なのかもしれない、とも思った。

 

どれだけ辛くてもこの時間に起きたということはそろそろ絹旗さんも起きるころだ、ということ。支度を済ませて朝食の準備を始めた。

妙に胸騒ぎがした。これはこのまま行動をしていると危険なことが起こる、という危険信号でもあった。無視すれば出てくる吐き気に比べれば些細なことだろう。問題は何をすればこれを回避できるのか、だ。

それを考えながら軽い料理を済ませて、起きてきた絹旗さんの前に朝食を置くと、声と同時に額に手が当てられた。

 

「・・・超大丈夫ですか...?顔色悪いですよ 今日は私も超仕事で、夜まで帰りませんし、この後は私が洗い物とかやっておきますから、ゆっくり休んだらどうです?」

 

まったく気づかなかった。自覚した気分の悪さを確かめるように、まだ額に手が置かれているままの顔の右頬を触ると、触った反対側の目から涙が出てきた。

 

「・・・洗い物ぐらいはやっておきます 朝食食べて、洗い物を終えたら休むことにします」

 

あまりにも酷い自分の状況に困惑しながらも、自分に与えられた仕事を簡単に欠くわけにはいかない。そんなプライドの様な何かをたぎらせ、絹旗さん席の反対側に自分の朝食を置いてから座って、何の気なしにカレンダーを見た。

 

 

今日は命日らしい。

 

 

 

それでもただ家にいるわけにはいかなかった。この時期の、この日だ。関係がないわけがない。自分の今日行おうとしていたことを思い出し、その通りに行動することにした。

 

(誰にも何も言ってないから、何もできなければ死ぬんだろうな あの時もそうだ)

 

そう確信を持ち、同時に乗り越えなければいけないものなのではないか、と焦燥感をたぎらせた。

 

足はふらついていないはずだ。顔も・・・まあ大丈夫だろう。問題は調子のほうだ。いつまでも気分が沈む。同時に気分が悪くなっていく。吐いてはいない、おそらく吐くこともない。こういう時は大抵吐き気だけで吐くことはないのだ。

 

自分がそう感じていても周りはそうじゃないらしく、声をかけられた。

 

「おーい... ・・・なあ、大丈夫か? すっげえ気分悪そうだけど・・・あれだったら近くの医務室とかに送っていこうか?」

 

・・・おそらく男の声だ。上手く脳が処理をできていないが、このままベッドの上で何もできないで終わるのはダメだ。やるべきことがあるはずだ。

声をかけられたときに優しくかけられた右手を外しながら、顔も見ずに答えた。

 

「・・・一応タイムセールだから、それまではいい」

 

「うぉっ!忘れてたー!このままじゃまた金欠もやし三昧コースだ!いや、でも... あー、一緒のとこなら肩ぐらい貸すけど・・・どうする?」

 

放っておいてもいいのにそう声をかけてくる彼に甘えてゆっくりと、それでも先ほどまでより早く歩き始めた。

 

 

 

「ホントに大丈夫か? 正直見てるだけで、フラフラしてて、不安なんだけど...」

 

「ああ... ・・・うん 大丈夫 この後は帰るだけだから」

 

買えたタイムセール商品はおひとり様一つ系の油と卵8個入り一パックだけだった。隣で騒ぐ彼にただ安く済ませたかっただけだから、と5000円をお礼として渡すと、遠慮した後、取り出すのに苦労して、また入れるのに苦労することになってしまう自分を前に受け取った後、孫を心配するおじいちゃんのようにスーパーの入り口までゆっくりと付き合ってくれた。

 

彼と別れて、フラフラしてはいないものの、まるでナメクジなのではないか、という程のスピードで歩き出した。

正直今までの会話の内容も覚えていない。かろうじて彼のほうはもう少し他のスーパーをあさってみるといったことぐらいか・・・彼もやっぱり困ってたんだろうか。最近は家にいるからそういう事全然なかったから楽なんだけど・・・やっぱり助けたほうが良いんだろうか。

 

でもこの街で安易に人助けするとなあ・・・なんてことを気を紛らわすために考えていると足音が聞こえてきた。

 

直感だ。これだと思った。いや、間違いない。

 

今まで斜め下に向けていた頭を、もしかしたらこうして歩いていたせいで余計に気分が悪そうに見えたのかもしれない、と考えながら上げると、そこには見覚えのある顔、見覚えのない薄い水色の髪があった。

 

(吐き気が引いた・・・いや、まだあるな でも、大分マシだ。それでもあの死んだときよりも酷いけど...)

 

「久しぶり、雫」

 

それはいるはずのない人間だ。それは別に居てもいい。どうせ大したことはしない。ただ、「実験」で生きている人間がいるはずがない。例え詳細がわからなくてもこの街の「実験」がそんな生易しいものであるはずがない。それでも見た目はそうなのだ。

 

「うん、久しぶり 元気だった? 私もいろいろあったけど元気だよ?今日はお買い物?」

 

ああ、あの時もそうだった。最後がどこ行くの?だったぐらいか。

 

「元気だよ、この通り 怪我一つない 僕は買い物だけど、雫はなんでここに?」

 

彼女の手には何もなかった。彼女の能力からすれば一応些細なものでも武器にはできるから気を付けるべきだ。少なくとも買い物ではないのだろう。ゆっくりと近くにあったベンチに荷物を置いた。

 

「わたし?わたしはアオイお兄ちゃんに会いに来たんだよ?アオイお兄ちゃんに会うなんてこと、「会いたい」って思った時以外にあり得ないでしょ?」

 

危険な動作をしないかに注いでいた集中力をほんの少し割き、彼女がヒーローか何かの手によって安全に保護された可能性を考えたが、無駄だったようだ。彼女はこんな風な子ではなかった。実験の結果か、もしくはまた間違ったことをしたか。

 

「そうかな たまたま会うことだってあるんじゃないかな 何をしに来たの?」

 

絹旗さんを巻き込むのはあり得ない・・・巻き込む気なら教えていたが。それはともかくマンションには行けない。なるべくならこの周辺で終わらせるべきだ。

今いる場所は住宅街に通じる小さな小道だ。低木が植えられており、先の住宅や周りの建物にいるわけではないのなら今は互いに一人だ。

 

「何をしに来たの・・・かあ... やっぱり、そうだよね お兄ちゃんは良く知らないよね うん、良かった」

 

さっきまでの自分のように下を向きぶつぶつと言っている彼女とは自分があの研究所にいたときに知り合った。元気でわんぱくな子だった。争いには向かない性格だと思っていた。

 

「あのさ、お兄ちゃん 覚えてる?わたしに言ってくれたこと わたしの名前、雨音 雫 どっちも雨のことを意味してるんだね、って一緒に笑いあったよね」

 

さっきまで暖かさをくれていた太陽は雲に隠れていた。

 

「・・・覚えてるよ 雫が、わたしは捨てられたんだ、って言って泣き止まなかったから、そう言って、愛されていたことを君に教えたんだ」

 

「うん、そうだよね でもね親に愛されていたってどうでもいいの お兄ちゃんだけいればいいって気づいたの」

 

こんなことは言う子じゃなかった。間違いない。特に母親のことが好きでその人の名前を付けたぬいぐるみを可愛がっていた。

 

「でもね、でもね・・・みんなが言うんだ お兄ちゃんはわたしたちを置いて逃げたんだって どんなことが起こるか知ってて逃げたんだって」

 

それはある意味では本当だ。あの日も危険を感じた。あのままでいたら例え皆で逃げても逃げ切れなかっただろう。

 

「そうだね 僕は逃げたよ 研究なんて危ないものだと思ったから」

 

正直にそう言うと彼女は裏切られたように目を見開いた。

 

「・・・なんで?なんで?なんでッ!やっぱりそうなんだ...みんなの言う通りなんだ!信じてたんだよ?みんながそう言ってもそんなはずないって信じてたんだよ?」

 

「みんなで逃げることなんてできない みんなを説得するのもそうだけど、あのままモタモタしていたら僕も死んでいた」

 

あの時は完全に自分の感覚によるものだったけれど、今はわかる。彼女をこんな風にしたものが死を伴っていないはずがない。

 

「そっか、うん、そっかあ ごめんねわたしが間違ってたよみんな 悲しいけどそうなんだよね でもみんな、一回だけチャンスをちょうだい?わたしがお兄ちゃんを倒したら・・・うん、うん、ありがとう」

 

どういうものか断片的に理解した。人格に関係する物だろう。もしくは記憶。

 

「だからね、お兄ちゃんここでわたしにおとなしく降伏して? そうしたらみんなでまた楽しく暮らせるよ?」

 

「みんなはもういない 死んだ 君のことは信じない」

 

信じられないものを見るような目で見た後顔に笑みを浮かべた。

 

「死んだけど、死んでないよ 私と生きてるの もう、何を言っても無駄だよね 聞こえてないや ・・・ねえ、覚えてる?私の能力」

 

「・・・覚えてるよ 雨を操作するんだよね でも、今雨は降っていないよ」

 

そういうと、彼女は砂漠でオアシスを見つけた人のような喜びを顔に浮かべた。

空は雲ってはいるが今のところ雨は・・・

 

「ねえ、お兄ちゃん知ってる? この街が作った機械、「樹形図の設計者(ツリーダイアグラム) これはね、天気を完全に予想するんだって 私たちの実験は予想もされずにただ行われたのに、天気を予想してるんだって、おかしいね」

 

笑みを浮かべる彼女にさらなる危機感を抱いた。かなりまずい。

 

「でも、でもね だから今、私はお兄ちゃんとこの力で戦えるんだよ? こうなってからの能力の初披露がこんなのなんて悲しいね でもしょうがないよね」

 

地面に、頬に、道に、広がっていく雨の中から彼女の周りに落ちる雨のみが規則性をもって彼女の周りを飛び始めた。

彼女は大きく腕を広げて言った。

 

「うん、全力を出せる気がするよ アオイお兄ちゃん」




終わらせるために全力を出そうとしたら七千文字どころか八千文字行きました
ここまで読んでもらえるのは本当に感謝の極みです。

ほぼほぼ機能しないと思われた、データとして出すために必要だっただけの最上くんの下の名前が幼女(小三ぐらい)(幼女とは言わないかも)によってそれなりに有効活用されました。
次に最終回が来るといいですね

今回はちょっとあれでしたけど最終回はイチャイチャしていきたいですね


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過去の完結とこれからの始まり

戦闘とかあるけど・・・飛ばしたほうが・・・って思う。書けてるといいな。
後見直しとかできてないので誤字は許してください(見直さない)

そんなわけで最終話です。
是非楽しんでください。



結局のところ、今の彼女にそこまでこちらを殺す気はない。

たとえ、操る雨水を肌が切れるほどに加速させることができていても、それを腕や足にわき腹と大したことのない位置にしか当ててきていない。それに彼女が操れるのは流れる液体全般のはずだ。大量に使えるからと言って雨水である必要はない。

一応水鉄砲のように液体を発射する装置を使っているが、使ったのは塩酸で、しかも普通の缶ジュースほどの容量しかない。

こちらを殺す目的であるのならガソリンでも使えばいい。雨の中でも燃えたはず・・・多分。

 

そんな彼女の目的は・・・おそらくまた一緒に暮らすこと、だろう。

前の彼女ならまだしも、今の彼女とそれができるとは到底思えない。おそらく彼女は簡単に人を殺す。こうして戦っていても援護の一つもないし、それは自分に会うために周りの人間を殺したから仲間がいない、という事なんだと思う。

仲間じゃなくとも回収に来る誰かだって本来ならばいるはず。彼女が時間を気にしているような素振りもないからそれらを殺してしまったのは間違いない。何をやったのかは知らないけど、研究者側も実験の詳細を知っている人間を逃すほど甘くはないはずだ。

 

そして、このまま粘っていればいいわけじゃない。殺す気がなくとも、このまま戦っていればいずれ疲れで動けなくなるだろうし、おそらくだがそれよりも先に風紀委員辺りが来てしまう。そうなれば彼女は殺人未遂あたりにでもなるだろう。

・・・あの時はただ殺させたが、それではダメだ・・・と思う。どちらも自分のせいで起きたことなのに、彼女たちにただ罪を被せるだけなんて無責任が過ぎる。

 

「お兄ちゃん 抵抗しないなら、もうやめない?わたしもただ傷つけたいわけじゃないの ただあの時のことをしっかり悔やんでもらって、そこからまた一緒に暮らしたいだけなんだよ」

 

そう言って雨のしずくを周りに展開しながらこちらを見る彼女の目は狂気的で、ただこちらを信じるような盲目的なものを感じさせる。

 

「イヤだよ あの時のことは確かに悲しい、けど、あの時も、今も、彼らみんなを助けることができるような奴じゃないんだよ、僕は だから逃げた 全部わかってて逃げたんだ これ以上彼らにすることはもうないよ」

 

そう言うと、彼女は戦闘開始時の様な、その体に似合わない異様な殺気を出した。

死にたくはない。この世界に来てからそう思った。前は死んでもいいと思っていたけれど、あれを体験してそのままでいられるはずがない。それに、今はあの人がいてくれる。死にたくはない。

 

「・・・やっぱり、お兄ちゃんじゃないのかな こっちに攻撃しようとしないからもしかしたらって思ったのに...」

 

彼女の目には悲哀も混ざった。

攻撃して何になるんだ。張り倒して気絶させればいいのか?自分のせいでこうなったのに、そんなことができるものか。

 

彼女は諦めたのか、人の肌を切り裂ける雨粒たちをこちらへと飛ばした。

彼女の能力で加速した雨粒たちは、彼女が能力を解除してもそのままの勢いと方向で飛ぶ。減衰はするし、物に当たれば弾けて消える程で、皮ではなく腕にしっかりと当たると痛みとともにわずかに傷ができた。

この目の前にある大量にある雨粒に次々と当たれば吹き飛ばされてしまうぐらいはあるだろう。

彼女は蛇口やホースほどの流れる液体も一応操っていたが、一定の方向に規則正しく流れていないと操れないためそこまで気にする必要はない。

 

その雨粒はそれほど多くない。直径30メートル程の円状で、2センチ程の奥行きの中に雨粒がある。

広場に立っている自分に向かうそれを右に跳ぶことで、なんとか避けた。それでもそれなりの速さでやってくるそれらを完璧によけきることはできずにいくらか左肩を切られてしまった。

 

「ッ!・・・また...!」

 

先程から疲れのせいか何度も当たり続けている。出血はそれほどではないが痛みがかなりキツイ。そろそろ本当によけきれず全てに当たってしまうかもしれない。

 

解決策はある。だがその為には川が必要だ。どうにかそこまで逃げ切れないだろうか。

そう思いながらも、背を向けて走り出したところで追撃の恐れがあるためどうしようもない。そう思っていると、どこからか少年が走り出してきた。殴るまで行くんじゃないかと思われたがどうにか左腕を掴んで走ってきた彼に向き合わされただけで済んだようだ。

そういう組織が来るには早すぎる、と思いながらも彼女はそんな程度じゃ止められない、そう言おうとしてから気づいた。

 

彼は、

 

「テメェ、何してやがる!?お前たちの間に何かあったのかもしれない そっちの奴が何かしたのかもしれない でも、反撃もしない奴をただ能力で痛めつけるのは違うだろ!どれだけアイツが酷いことしてようが、お前が悲しかろうが、相手が何もしないなら、話し合って決めるべきじゃねえのか!?お前みたいな能力者が、能力どころか体調も悪くてフラフラしてたような奴を思いのままに傷付ける権利があるっていうのかよ!?そんなのこと認めねぇ!それでもアイツを傷つけるっていうなら、そんなことが許されるっていうなら、その幻想を俺がぶち壊してやる!」

 

「か・・・みじょうさん...」

 

左腕を抑えられた彼女は目の前に現れた上条さんに驚いているのか、それとも能力が使用できないことに驚いているのか何も言葉を発そうとしていない。

彼女を警戒しながらも、彼は吐き気ではなく痛みでフラフラしているこちらに声をかけた。

 

「おうよ その上条さんだ いまいち聞こえてんのか怪しかったけどしっかり聞こえてたみたいだな」

 

聞こえちゃいなかった。それどころか顔も見ていなかった。おそらく買い物をしたときに話していたんだろうけど・・・まったく記憶にない。それでも知ってはいる。“あの”上条当麻だ。

 

「・・・んで、今どういう状況?正直掴めてないけどさっきからコイツがお前に何度か攻撃してたのだけ見てたからつい突っ込んじゃったんだけど・・・もしかして、俺お邪魔?」

 

彼はしっかりとこの町のヒーローをやっているようだった。実際来てくれなければタイムリミットで彼女が捕まるか、こっちが倒れるかの2択と最悪な状況だった。

 

「・・・全然大丈夫です でも、こっちもいろいろ悪いことはしたので話してあげてください」

 

「いや・・・でもなあ...」

 

彼が戸惑ってこちらへ向けていた目を彼女のほうへと目を向けると、能力を使えないままの彼女は素早く液体を流体として発射する小さな装置を取り出し、彼の顔へと当てた。

 

「うぐあっ」

 

目は左手で覆ったがそこ以外はかかってしまい、ひるんで手を離した彼に

 

「それは塩酸らしいです!なるべくそのまま目に入らないように洗い流していてください!後は自分がやります!」

 

と言い、更に追撃を加えようとする彼女を

 

「彼を人質にするつもりがないならこっちに来るんだ!その人は関係ない!」

 

と煽り、こちらに向き直ったのを確認して走り出した。追撃はあるが先程よりも少ない。能力が一時的にでも使えなくなったことで動揺しているのだろう。こっちも彼がそばにいたというだけで力が湧いてきた。このまま川へと向かおう。

 

 

 

20メートルほどの幅に高さは5メートルほどの川の上にある橋へとたどり着いた。

自分はきっと、ただ人を傷つけることはできない。自分にそれを許せないから。だからこうするのが正しい。

 

彼女は息を切らしながらここまで走ってきていた。もう少し彼女が成長すれば雨の日は自分の能力で移動できるようになるかもしれない・・・サーファー的な感じで。

 

彼女に誤解なく認めさせるには今も自分が変わっていない事、彼女が変わってしまったことを伝えなければならない。簡単に言えば、今までのように彼女に優しくするもしくは自分らしい行動を見せる、もう一つはほぼ確定している。彼女に嫌いだと言うこと。まともな方法ではこれら二つを出来ないし、あまりやりたくはない。

でも、自分も納得できる方法が見つかった。

 

息を切らして橋の真ん中でもう一度雨粒を操ろうとする彼女に近づき、自分より身長が小さく、頭が自分の鼻あたりに来る彼女をの体を引っ張った。

 

「あっ...」

 

そのまま引っ張って橋の手すりに乗って流れる川を見てから彼女に言った。

 

「君のことが嫌いだ」

 

予定通りにそう言って雨のおかげでそれなりに激しくなっている川に二人で落ちた。

彼女の顔には喜びと困惑・・・恨みとかそういうのには見えなかった。

 

彼女に何もできずに死ぬのはきっと自分らしいことなんだ・・・というより前の世界がそうだったから間違いない。多分あの時はただ殺されるだけだからあの子もただ殺した。自分の責任なのになんの報いも受けないのは自分らしくなかったと思う。最後はこっちのことを嫌いになっていたかもしれない。そんな悲しいものじゃダメだ。

 

時間があって、こういうことに頼れる人にすぐ連絡がつくのなら良かった。でもそれはできない。なら、この子を殺そうとする誰かが来る前に、こうしてしまえばいい。きっと彼女も生きることができれば思い直すはずだ。

 

きっと死ぬことはない。いつの間にか収まっていたが吐き気などを自覚しながらそう思い、川に落ちた。

 

 

 

「・・・い! ・・・きろ 起きろ!」

 

「あ・・・ぇ・・・?」

 

さっき?聞いた声で目が覚めた。上条さんだ。

周りは・・・見覚えないがとりあえず外だ。草があって・・・河川敷?的な場所。

おそらく水を飲みこんっだのだろう微妙に違和感を覚え、咳き込んでから答えた。

 

「あれ... あー・・・顔にかかった塩酸大丈夫でした?」

 

何があったのかを思い出し、彼にそう言うと彼は濡れて汚れた服をずっこけて汚しながら答えた。

 

「ええー・・・ああ、おう 大丈夫さ ピリピリするぐらいだったしな 理科の先生なんかが結構脅してた記憶があったからすっげー驚いたけど、普通に洗い流せたと思うぜ」

 

そう言うと彼は巻き込まれたことなど気にしていないような笑顔を見せた。いや、多分気にしていないのだろう。すごい人だ。

 

「で、だ お前は大丈夫なわけ?一応落ちたとこだけ見たから、そこからどうにかここら辺まで辿って助けられたんだけど」

 

(その言い方だとそれなりに流されたんだろうなー さっきのところと川幅がだいぶ違うけど・・・あっ、ここあれだ 上条さんと御坂さんとで喧嘩するとこだ)

 

どうでもいいことを考えてから、何故落ちたのか、を視線で聞いてくる彼に応えるために気持ちを切り替えた。

 

「はい、大丈夫です どうしてもあれが必要だったからやったんです 別に心中とかじゃないですよ? それにしても足が早いんですねー 割とついてからすぐに落ちたつもりだったんですけど」

 

面倒だから適当に説明して、いまいちよくわかっていなさそうにしている上条さんに適当な話題を持ち掛けた。

 

「んあ? まあ、俺高校生だし、さすがに・・・中学生?と小学生に簡単に遅れは取らねーよ 見ろ、このセールの時にダッシュすることで鍛えられた脚を!」

 

そう言って脚どころか全身が濡れている彼は褒めるべきなのかがわからない微妙な脚をズボンの裾を上げて見せてきた。

 

「うーん・・・普通ですね 一般的な脚だと思いますよ でも上条さんも財布とか大丈夫でしたか?川に入る前にどこかにおいてきたりとか・・・」

 

そういうと彼は青い顔をして裾を上げたままのズボンのポケットに手を突っ込み、濡れた財布をゆっくり取り出し中身を見た後に手前に財布を置いてうなだれた。

 

「忘れてた・・・折角の金がびしょ濡れだし多分カードも壊れてる・・・不幸だ...」

 

アイデンティティーは今もなお健在のようだ。折角あげた5000円もビショビショで、機械に通したら間違いなくエラーが出るだろう。それどころか彼なら機械ごと壊すこともあり得る。

 

「じゃあ、とりあえず自分が荷物置いてきた場所に行きましょうか 上条さんはさっき会ったとき何も持ってませんでしたけどどこにやったんです?」

 

手を差し伸べようとして自分が濡れていることを思い出し、結局彼も濡れていたことも思い出して手を指し伸ばした。

 

「あー・・・最初のとこに置いてきちまった... あそこまで戻るのか?流石の上条さんも疲れでぶっ倒れますよ?」

 

気力も体力も使い果たしていていいはずの彼はそんなことを言いながらもしっかりと立ち上がり、さっきまで履いていなかった靴を履いて歩き始めた。

 

「自分も助けてもらったことですし財布とか取られてなかったらある程度は上げますよ? プライベート用に渡されてるけどなかなか使えないーみたいなのがあるんです」

 

「なっ!お前あの状況でそんな判断を!?もしかして上条さんより頭いい!?」

 

そんな風に話しながら目的地へと向かった。

彼女のことは・・・正直どうしようもない。こっちがこのぐらいの時間で起きたのなら後は運任せだ。こっちはどうにかなったけどそっちまではやれない。ただ何となく大丈夫あってほしいとは思った。

自分の手の届く範囲をこの世界ではだんだんと実感出来ていることが分かった。

 

 

 

(・・・あれ・・・?ここは・・・?みんな・・・?)

 

わたしは目が覚めると一人でベッドに眠っていた。病院ではないようだ。どこかのビルを寝室として使えるようにしたぐらい。濡れているはずの服はなく、普通のシャツとスカートだった。・・・冬にしては寒い服装な気がする。

 

(それにしても久しぶりだな・・・みんなに起こされないの もしかして一回もなかったかな ・・・うん多分ない)

 

実験によって記憶や経験などが流入し、わたしはいわゆる多重人格になっていた。そしてわたしは記憶があるなら、経験があるならみんな一人ひとりの人間だと思っていた。そう、思っていた。

 

(わたしのこと、きらいかぁ... そりゃそうだよね わたしもきっと攻撃しようとするお兄ちゃんは・・・そこそこいいかもだけどしないほうが好きだし やっぱり、あれってただわたしがお兄ちゃんを嫌いたくなかったから、最後にそういう感情になった記憶のみんなを盾にしちゃってただけなんだろうな・・・ごめんね、みんな)

 

※好きな人に限る を実感して、同時にだれもいなくなってしまった現状を把握した。

周りには誰もいない。それどころかドアに鍵もない。暖房器具なんかはないから毛布にくるまっていなければ寒い。

 

(よくわかんないけど、まずはお兄ちゃんに好かれることを目標にしよう! きっといつかわたしを好きになってくれる!)

 

溢れる自信をガッツポーズで表現していると、中学生くらいの女の子が現れた。

 

「おや、超目が覚めましたか 体に悪いところはありませんか?」

 

「え・・・うん ないよ・・・お姉ちゃん、誰?」

 

知らない人だ。助けてくれたってことはいい人なんだと思うけど...

 

「そうですか まあ、ゆっくりと聞いてほしいのですが、貴女はこれから暗部で生きることになりました 超クソったれなおめでとうございますを差し上げます」

 

不満そうな表情でそう言う彼女に質問することにした。

 

「暗部って・・・?お兄ちゃんは・・・?」

 

「・・・お兄ちゃん・・・なるほど 妹キャラを超微妙に嫌ってた理由もああいうタイプが好きな理由も超わかりました・・・まあ、その“お兄ちゃん”は無事だと思いますよ 殺しても死ななそうな感じありますし」

 

何事かをぶつぶつとつぶやき、適当にも見えるそれを名前も知らぬ少女は答えた。

 

「それと、暗部は説明が超面倒なので適当にこれから理解してくれればいいです わかりやすく言うなら、研究者を数名殺した貴女でも超生きていける素晴らしい世界です」

 

その言葉で忘れていたわけではないが、しっかりと思い出した。彼らを殺して逃げ回って、そこからやっとお兄ちゃんを見つけたんだ。お兄ちゃんが不良グループを撃退したっていううわさが広まってて・・・それを話していた研究員たちに出れないかを相談して、だめで・・・それをみんなが・・・いや、わたしの意思で殺したんだ。わたしはこの記憶と体験の数々と生きていくんだ。

 

「・・・はい」

 

「超物分かりが良くて助かります ついでに彼、最上に危険が及びそうになったらそれを止めるように尽力お願いします 今でも好きなんでしょう?彼のこと」

 

わかりきっていることのように聞く。なぜ、そう思うんだろうもしかしてお疲れ様です。お兄ちゃんの知り合いなのかな...

 

「あの・・・お姉ちゃんは、誰ですか・・・?」

 

色々な言葉が飛び出そうになったが、抑えて、それだけを言った。調べるなら後でもできる。

 

「・・・そうですね 私は絹旗最愛 窒素装甲という名もあります そして最上の・・・彼女です そして貴女は・・・「あの絹旗最愛の彼氏に手を出しておいて大した被害を被らなかった超新星」です 超良かったですね そのネームバリューがあればこれからしばらくは生きていけますよ」

 

(・・・彼氏?彼女?・・・うん抑えればいいだけ 抑えればいいだけ ・・・わたしのことを好きにさせればいいだけだよね わかってる)

 

溢れる嫉妬心を抑えながら、そもそもそんな簡単に好きになったり嫌いになったりする人ではないということも忘れてそう心に誓った。

 

 

 

「はあ・・・なるほど あの時はそんなことしてたんですね ・・・いくら相手が同じ条件でも死ぬかもしれないようなことをそう気軽にやらないでほしいものです」

 

絹旗さんはそう言って手袋のついた手でわき腹をつついてくる。

 

「あはは・・・ああしなきゃきっといい気分で生きていけなかったので・・・ただ、ごめんなさい」

 

あまり深刻さを感じさせないような声でそう言うと、

 

「構いませんよ 大体最上のことはわかってきたつもりです いつかそういう事もあるだろうな、程度には超考えてましたから なるべくしないでほしいとは思いますけどね」

 

とわき腹をつついていた手をこちらの手に合わせて歩き出した。

許してもらえて何よりだ。死のうとしなければ大抵死なないような気がする・・・多分。これからも同じようなこともあるかもしれないけど・・・大丈夫。多分!

 

「たまにはただ歩くのも超いいものですね 寒さが欠点なぐらいです」

 

「そうですねー 人が少ないのもあってゆっくり話せますから、とても楽しいです」

 

そうして歩いていると路地に入る道の横にある、一つの広告が目に入った。

どうにも彼女の目に留まるほどのレアものらしい。彼女は手も放して考え込んだ後に目をきらめかせながら、その路地へと迷いなく進んだ。

 

そのままゆっくりと後をついていこうとすると彼女はこちらを振り返り、不機嫌そうな顔で戻ってきた。

 

「あれ・・・なんかダメでした?」

 

一目で見てわかるほどダメな要素はないように見える小さな映画館の入り口を見ていると、彼女から不満そうな声が届いた。

 

「ダメなのは貴方のほうです わたしが行こうとしてるんですからしっかりと隣にいてください 確かに映画は超好きですけど、あなたが隣にいなきゃ超意味ありません」

 

そう言って手を繋ぎ直して、ほんの少しだけ引っ張られるようにしてそこへと入った。

彼女の顔は楽しそうで、まさしく趣味へと一直線に向かい、ほんの少しだけこちらを見てくれた。

 

自分の好きになりたかった人そのもので、どうしようもなく嬉しくなった。




読んでいただきありがとうございます。
最後にものぐさが発生して今日中の投稿も怪しかったですが、何とかなりました。(書き始め今日の17時)

どうにか一貫性が欲しかったけど文章では表せませんでした。かなしみ
でも一応24日23時30分に始めて同じく24日23時30分に終わらせることができたのでこれも一種の一貫性(多分違う)

1年後くらいにリメイクも一応考えてます。一応、一応(重要)

諸々良くなるといいですね
他のもできたら投稿してみたいですね
構想も書き溜めもないですけど

色々始めたやったので、楽しく、そして短い間でしたが、皆様が見てくれたおかげで自分の中での最後までを完結させることができました。ありがとうございます。

読んでいただき本当にありがとうございました(ございmしたになったからそのままにしようか迷った)


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特別編 バレンタイン

なんか終わった後にお気に入りがいくらか増えてくれたので書きましたです

そして今は2月14日26時30分です

バレンタインです

嘘です

一日で書くの無理です

間に合わなくて誰にってわけではないけど申し訳ないです

あとこれは“新作”ではないです


ある日、私はとある用事のために、とある店へと足を運んだ。

 

その店とは・・・

 

「あっ、いらっしゃいませー」

 

「・・・どうも チョコを作ってくれると聞いたのですが、今からでバレンタインに間に合いますか?」

 

そう、チョコの店だ。

彼に手作りのものを渡すとしたら、作るタイミング、渡すタイミング、彼がそれを食べるタイミング、とそれなりに考えなければいけない事が増えてくることを予想した私は、それらを幾分か減らすために、そしてそれなりに気持ちのこもったものであることを伝えるために、わざわざバレンタイン二日前のこの日に彼が家にいるのにも関わらず出てきたわけだ。

 

・・・まあ、三日前になったのはそもそも忙しくて、そんな中息抜きで見た映画関係の雑誌に「バレンタインにオススメ!」と大きく書かれていた映画を見つけたからだ。

その映画は“普通”の恋愛映画で、当日も仕事でそこまで時間がないことからおそらく二度と見ることはないと思うが。

 

「はい! 全然間に合いますよー ただ受け取りの方はバレンタイン当日の午後からとなってしまいますが・・・よろしいですか?」

 

どことなくせわしない店員はそう言った。この店を見つけたときにあった情報には、「店員2人とアルバイト一人で頑張ってます!」などという、いわゆるブラック企業というヤツではないかと思うほどの文章があったので、おそらくそのアルバイトなのだろう。

 

店自体はこじんまりとしていて、今でこそ私のほかに客はいないが、どうもそれなりの人気があるらしい。

実際、店員・・・彼女が店の奥に「まだいけますかー?」という声を出した後、「まだあるのー!?・・・いけるよ!」という、おそらくこの店のウリであるオーダーメイドのチョコを作り続けているのであろう、その声に疲れの見える女性の声が聞こえた。

 

「ええ、超構いませんよ それならおそらく当日の午後になると思います それで、こんな感じですけど・・・大丈夫ですか?」

 

その言葉は本当に大丈夫かを問うわけではなく、ただの確認レベルの質問だった。なぜなら、ハート型・・・は気恥ずかしくてやめたが、四隅の丸い四角形に、最上へ ハッピーバレンタイン 絹旗より と英語で書かれただけの単純なものだったからだ。

 

しかし、彼女は折りたたまれて渡されたその紙を見ることもなく顔を曇らせた後、「少々お待ちください」と、先程の、チョコを作っているのであろう店員のところへと向かっていった。

 

(もしやこの時間帯というのはやはり問題があったのでしょうか いや、でも大丈夫とは言われましたし... 中身・・・も見てないはずで・・・「透視能力」だったら・・・でもそもそも中身自体も超大したことないわけですし...)

 

と、誰もいない店内で商品を見回しながら考えていると彼女らの声が聞こえてきた。

 

「あのー・・・注文なんですけど・・・その、紙で来たので...」

 

「へ?ああ、どれどれ・・・確かに追加料金の計算とか面倒だけどさ・・・そろそろわかるように・・・ってオイ!めっちゃシンプルなんですけどこれ!さては見ないで持ってきたなーこのポンコツー!」

 

「ひえー!すいません、すいません!だって、紙で持ってくる人いつもすっごい量のトッピング頼んでくるんですもん!今回もそんな感じだと思ってついー!」

 

・・・どうやらあのアルバイトらしき店員は料金の計算が苦手で、紙で来るものは大抵追加料金が発生するレベルの複雑さを伴ったものばかりだったから私のもそうだと考えたようだ。私もたまたま店の情報を見たときに、「紙に詳しく書いた注文も受け付けます!」と書かれた文字と、「紙があると楽になります!」と小さく書かれているのを見つけなければ、わざわざ紙に書かずにただ伝えて、何事もなく終わったのだろう。

 

お叱りの声・・・といったほどのものではないが、その内容がこちらにだだ漏れだが大丈夫なのだろうか。

「後できっちりお説教だからね!という声とともに、大して時間もかからずにそのお叱りは終わったようだった。

 

「そんなんじゃ噂の最上くん見つけたときに大変だよー」

 

「もー!うるさいなあー!大丈夫ですー!」

 

(・・・はあ 最上・・・ですか まさか彼のことじゃありませんよね まさか)

 

「最上・・・ってなんです?会話的に・・・彼氏とかですか」

 

何気ない世間話程度に、戻ってきた彼女に飛ばしたそれを聞くと、彼女は顔をほんの少し赤くさせて答えた。

 

「彼氏・・・じゃないんだけどね いちおう!一緒に寝たけどね、うん えーっと・・・助けてくれた人?みたいな感じです、はい」

 

それが終わるのと同時に店の奥から変な声が聞こえてきた。手でも切ったのだろうか。

さて、どうだろう。いや、まだ情報不足か。・・・正直助けて一緒に寝て、なんていう突拍子がない行動をしてるような人間など彼しかいない気もするが。一応数か月前までは学園都市内を転々としていたらしいし。

 

「一緒に寝た・・・?のに彼氏じゃないんですか どんな方なんです?乱暴だけど優しいみたいなかっこいい系ですか?」

 

その質問に彼女ははっきりと答えた。もしかしたら話したがりなのかもしれない。

 

「いや!全然!こう・・・なんだろう・・・カワイイ・・・?心が安らぐ感じ!その時いろいろ悩んでた時期だったんだけど・・・ってすいません!お客さんなのに...」

 

敬語が抜けきっていた彼女はそこまで言ってから私に謝罪をした。別にこのまま話していても良かったが、これ以上聞こうとすると不信感を抱かれるだろう、と私は質問をやめることにした。

これは彼で決定でいいだろう。わずかな情報ではあるが、勘がそう言っている。

 

(超不明瞭な最上の過去が分かったと思ったらこれですか やはり彼にあまり自由に外出させなくて超よかったです いつかのショッピングモールでも私のいない間女子小学生三人と仲良くなったと最上自身からも聞きましたし・・・ というか、この人・・・高校生ぐらいでしょうか、彼女もそれなりに押しが強そうですし、というか、押しが強ければ誰にでもついていってしまうのでは・・・? まあ、高校生でいろいろ成長してて頼りになりそうなこの人より私のほうを超選んだ、ということで素直に喜んでおくことにしましょう)

 

彼には・・・まあ聞かなくてもいいだろう。必要になったら話すだろうし、と考えながら会計を済ませ、後2時間近くあれば日が沈みそうな空の下に、手袋をつけてから歩き出した。

 

 

 

そして、バレンタイン当日。

 

残念ながら朝から一緒にいることは仕事によって叶わず、さらに体調・・・というかなにかマズそうな彼を家へと残して、朝食を食べたらすぐに仕事へ行くことになったが、その落ち込みをいくらか必要経費として考えられるだけの情報を手に入れることができそうだ。

 

「・・・って感じでね、最上君がいなくなってから本当に大変だったのよ 偶然の連続っていうか、予測不可能なことの連続だったっていうか・・・その結果当時の研究員はほぼバラバラで、ここにはワタシと、そこで今は寝てるけど、いつも経費のやりくりを考えてくれている彼のことしかその後の消息がつかめてないのよね・・・実験のほうは大失敗だと聞いているけど・・・死んじゃったのかしらね、あの子たち」

 

彼がいたという、研究所に偽装したような形の孤児院のようなものに所属していた人間に接触をすることができた。なにも彼女は今日あったばかりの私に事情を話すほどのバカというわけではなく、私のそれなりの対応に信頼感を持った上で、色々と話してくれている。

私も流石にそこそこクリーンで、誠実で、安定感のある対応を見せてくれるこの人たちにただ高額の報酬をもらうために仕事をするのも少し罪悪感があったのだ。

話し合いをした今ではそれなりにこちらに利益もあるしここにいる人間にとっても利益があるといった、いい関係になれたと思う。

 

ちなみに彼女らに最上のことは言っていない。一応そんな人間を知っている、という体でそこそこに深い情報も聞くことができている。 もしかしたら暗部の何らかの問題に巻き込まれるかもしれないからだ。

・・・彼女たちも私のことを知っているがあえてそこまで話さない、というスタンスをとっている、というのはあり得るが。なにしろこの学園都市でそれなりの期間レベル2の混じった子供たちをまもった人間たちだ。そこら辺の立ち回りも心得ている可能性は十分にある。

ちなみに彼は大雑把な機械で測ったものの、レベル0だそうだ。そして彼に一番懐いていたのは一番の能力者にして、いわゆる良い研究者と子供たちが、悪い研究者に目をつけられた原因であると推測されるレベル2の液体を操作する女子小学生だ。またか。

 

(まあ、最上の女性関係は超置いておきましょう。幸い恋人に値するものになった人間はいないようですし)

 

と思いながら、半分最上の武勇伝となっている語りに耳を傾けた。

 

「・・・それでね~・・・っと起きたのね 寝坊助ね、貴方は もうお昼時よ」

 

話していた彼女がそう言って視線を向けた先を見ると目を覚ましたらしい男の研究員があくびをしていた。

そこにすかさず女性の研究員は赤い包み・・・おそらくバレンタインチョコだろうものを差し出した。

 

「・・・んあ・・・なんこれ」

 

「バレンタインチョコに決まってるでしょ、もう・・・何年の付き合いだと思ってるの?それとも、今日が何の日かもわからないの?」

 

彼は「マジ!?」といって体を跳ね起こして、包装紙に包まれたそれをゆっくりと眺めた後、「サンキュ」とだけ言って、そのボサボサとした髪と薄汚れた白衣といった、粗暴そうな見た目に似合わず、丁寧に包装を剥がしていった。

別に渡すのはいいのだがもう少しムードというものを考えたほうが良いような気もするが、幼馴染といえるほどに共に歳を重ねた彼女らはこれが一番心地いいらしい。実際私もこんな風な仲になってみたいと思う。

 

「バレンタインかあ・・・そういや、最上君はどうかなー」

 

彼はそう言ってから、取り出したハート型のチョコをかじり始めた。

どう、とはどういう事だろう。バレンタインにいっぱいチョコもらってるかー、とかそういう事だろうか。

 

「そうねー・・・でも、案外バレンタインのことド忘れするぐらい幸せな生活贈ってるかもしれないわよ?」

 

「はあ・・・超いまいち掴めないんですけど、どういう事なんです?」

 

「ああ、そうだなー・・・うーん・・・説明が面倒なんだが・・・彼、バレンタインの日を少し怖がってな・・・よくわからんが、最後の日・・・みたいなことを言ってたな まあ、バレンタインってことを忘れるくらい一生懸命に何かやってると恐怖も大分少なくなるみたいで・・・無くなるわけじゃない様だったから気付かずに「今日は特別寒いですね」とか言うんだよ」

 

「はあ~...」と声の様な溜息のようなものを吐き出すと、女性の研究員から補足が入った。

 

「私たちも、その日になると怯えたようになる彼のことを考えて数日の間カレンダーとかを見せないようにして、研究所内でもチョコの類をなるべく出さないようにしたりするのよ だからほとんど一日遅れでバレンタインデーをやったりしてたわね、懐かしいわ」

 

そう言い終えると、彼女は思い出すような仕草をし始めた。

・・・しかしそうだったか?彼は怯える、というのもあったがそれ以上に吐き気をもよおしていたように見えたが・・・それに私がそれを言及した時初めて気づいたように周りを見渡して、頬を触って自分の状態を確かめるような・・・そんな風に見えた。

 

(もしや、あの時の最上はもっと危険な何かを感じ取っていたのでは・・・? もしそうなら今すぐ彼のもとに・・・ダメですね 多少円満な関係を築けているとはいえ、これは仕事です 放り出してしまえば何らかの制裁が加えられる可能性もなくはありません 彼が買い物に行く時間は伝えられていますし、そこにどうにか調整を・・・)

 

そう考えていると男性の研究員から声がかけられた。

 

「実はな・・・今日呼んだのはただのここの防衛のためじゃないんだ 確かに危ない状態ではあるが最初よりは大分マシになったからな 実はな・・・最上君らしきヤツ・・・それに雫・・・件のレベル2のヤツが見つかった そいつらを助けてほしい」

 

そう言う彼の目は真剣そのものだった。真剣にこちらを見つめ返答を待っていた。

彼らの話では雫、という少女は研究の要に近いものになっていて、助かったとしたら実験が成功したときのみ・・・失敗すれば死んでいるはずだ、という話だった。彼ら自身の見立てでは他に要とされるであろう二人は成功率が低い、という話でもあった。

つまり成功したのだろう・・・おそらく他二人は失敗で。

 

「・・・はあ、超具体的には?」

 

「・・・そうだな、雫のほうは・・・おそらく実験における影響を受けているはずで、聞くところによると新しい研究所の人間を十人近く殺したらしい・・・なるべく危険な目に合わないように、回収してくれ もちろん生きてだ 最上のほうは・・・話せばわかると思うから、ともかく保護をしてやってくれ 二人の救助隊はこちらで手配できる」

 

そこまで言うと、彼は言葉を切ってから、真剣なままに私に向かって頭を下げた。

 

「頼む!二人を救ってくれ!」

 

さすがにしっかりと私と最上との関係を理解していたわけではないらしい。そうでなければわざわざこんなことは言わないだろう。だからこそ言わなければならないことがある。

 

「それは超無理な話ですね」

 

その言葉に彼は苦しそうな顔をした後にこちらを見て何かを言おうとした。おそらく報酬の追加なんかの話だろう。だがそうではない。

 

「だって、最上はもう救われてますから」

 

 

 

私はそう言った後、彼の言う救助隊を借りて雫という少女が川に流れていたところを救助した。こうなった理由は把握している。彼が自ら少女と一緒に川に飛び込んだのだ。そのしっかりと見ていた。これに理由がなければ多少怒ることもできたのだが、少女は人を何人も殺したという割には随分理知的な印象を私に残した。つまりそれなりに意味があったのだろう。

ともかく、後は依頼主である彼らに任せた。私はこのまま退場することにしよう。

 

私は注文したチョコを受け取り、「三角関係ってマジですか・・・?」と、見たことのない店員、おそらくあの時裏でチョコを作っていた人間にそう言われ、「超よくわかりませんね」と答えた後に自宅へと帰った。

 

 

 

「ただいまですー 最上ー超いますかー」

 

彼は川に落ちてあの青年に助けられていたが、その後の動向がいまいち掴めていなかった。前々から彼から伝えられていた時間としては、3時前という話だったが今はまだ2時だ。こちらの仕事も早めに終わったこともあって彼がいない可能性もある。

そうして確認しようとしたが、何かが聞こえてきたり、見えたりする前に、特有の甘い匂いで彼の存在を知ることになった。

 

「あ、お疲れ様ですー 色々話すことがあるんですけど、とりあえず」

 

彼の言うことをこの甘い匂いが漂う状況からいち早く察した私は、彼の言葉をさえぎって声を出した。

 

「ハッピーバレンタインです!・・・女の子より先に渡そうとしないでください 全くもう・・・」

 

私がいじけたような声を出しながら彼に不服そうな顔を見せてチョコの入った箱を取り出すと

 

「あっ・・・あははは・・・えーっと、ありがとうございます!絹旗さん!」

 

彼は曖昧に笑ってからそれを手に取り、曇りのない笑顔を見せてくれた。

そんな彼に私は

 

「それ、確かに既製品ではないですけど私の作ったものってわけではないので超早めに食べてくださいね あなたは超遠慮して食べるタイミング失いそうですし」

 

としっかりと忠告をしておいた。

その言葉に彼はまた顔を綻ばせながら、彼はいつのまにか手に持っていたチョコの入っているであろう箱を私に差し出して言った。

 

「ええ、わかりました!じゃあ、これ、ハッピーバレンタイン!です!」

 

(・・・こうしてもらうと、なんだかんだ私も大事にしまってしまいそうですね・・・もういっそ、一気にここで食べることにしましょう!)

 

そう考え、リボンのみで閉じられた、ほぼ形式的ともいえる箱を開けようとして、その前に言うべきことがあるのを思い出した。

 

「最上」

 

自分でももう一度出せるのかわからないほどの優しい声で彼に呼び掛け、彼が首をかしげたのを見てから言った。

 

「大好きですよ」




7000文字行けなかったって言うね

ある程度ごちゃごちゃにしたものをまた拾いました

どういう設定したか忘れたから前回までを見直そうとしたら身悶えしました。5分

最上君はなんか神様的な人に「お前こんな感じの力上げるから会う人全員救ってね」って感じの能力を押し付けられた人って感じです。前世からずっと。

バレンタインの恐怖感はただのトラウマも混ざってます。

そんな感じでこんどこそ終了

あとこれは“新作”ではないです(確固たる意志)


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