石垣の上に立つ者への想い (ACS)
しおりを挟む

始まりの始まり


シリアス&一夏敵対作品、アンチタグは付いてますが本格的なアンチはしません。

あくまで敵対です。



––––かつて織斑計画と呼ばれる究極の人類を創造すると言う狂気の計画が存在した。

 

別名プロジェクト・モザイカ、膨大な時間と多大な資金を投じて行われたそれは、一定の成果を上げはしたもののそれによって創り上げられた存在を超える至高が既に存在していた為、完成と共に頓挫してしまう。

 

成功例は二体、そして計画外のつがいとなる成功個体が一つ。

 

成功例の一つはその弟となるつがいを連れて逃げた、もう一人の妹の存在を知らずに。

 

しかし、逃げた彼女を作る為に制作された『きょうだい(失敗作)』はどうなったのか? 究極の人類ではないと言う烙印を押された哀れな数多の人形達は?

 

無論生かしておくだけ金がかかる、権力者達はそんな出来損ないを使う事も考えたが個々にムラがあり過ぎた。

 

 

だからこそ、その中の一体であるPM–S10と呼ばれる個体に一体づつ処分させて行く事に決める。

 

彼は頭脳・肉体のスペックが共に合格基準を大きく上回っており、脱走した成功体のつがいとして期待されていたのだが、彼には致命的な欠点があった、それ故に全てのスペックが高水準であっても出来損ないの烙印を押され同胞の処刑を淡々と行わされていた。

 

 

彼に不満は無い––––その様な物は許可されていない。

 

彼に涙は無い––––その様な物は究極の人類には不要。

 

彼に躊躇いは無い––––その必要は無い。

 

彼に未来は無い––––それが彼唯一の欠点。

 

 

 

そんな彼がとある地下研究所に出荷され、機械的に、事務的に仲間を処理し続けて数年が経った頃、返り血を拭うことも無く頭部が弾けた()()()を見下していた彼は次の指示を待っていた。

 

普段ならば処理場に送られて来たソレらを処理して数分で与えられた部屋への帰投が指示されるのだが、今日は何故かその指示がない。

 

分厚いコンクリートの壁越しに聞こえる研究者達の焦り声から何事か起こったのだろうと予測できるが、それに対する意見・行動を指示されていない為、彼は無表情のまま立ち尽くす。

 

そのまま更に数分で処理場にスピーカー越しの声が聞こえて来た、新たな指示だろうと当たりをつけた彼はスピーカーへと目を向ける。

 

 

『S10番!! 侵入者だ!! アメリカかドイツか或いはそれら以外かその全てかは分からん!!』

 

「…………オーダーを」

 

 

抑揚のない機械と錯覚しそうなほど平坦な声で彼はそう告げる、それは新たな指示を受けた際に復唱と再確認の為に発する数少ない彼の言葉だった。

 

 

『チッ!! 融通の利かん出来損ないめッ!! この基地内に存在する()()()()()()()()()()!! 復唱は要らん!!』

 

 

苛立ちを隠さずに怒鳴り付ける研究者、彼からすれば一刻も早く脱出しなければ命が危ないと言うのに見捨てる予定の廃棄物と会話をしなければならないのは精神的にクるのだろう。

 

––––だが、彼はこの瞬間重大なミスを犯した。

 

最強の廃棄物、S10は兎に角融通の利かない存在であった為、指示を与えるには正確且つ詳細な言葉にしなければならない。

 

故に、焦りによって口を滑らせた『全ての勢力』と言う言葉に自分達も含まれている事を見落としてしまう。

 

 

「……了解、認識した」

 

 

唇から出た言葉は最早取り消す事など出来ない、相互の誤解を訂正できないままS10の持つ端末に侵入者の情報が送られると同時に処理場の扉がアンロックされ––––その先に居た逃げ惑う研究員達は皆鏖殺された。

 

原型が無くなるまでカスタムされた彼専用のハンドガンとアタックナイフ数本、たったそれだけの装備を引っさげた彼は血溜まりの中を堂々と歩いて行く。

 

そしてターゲットを見つけると閉鎖空間なのを利用し、壁を蹴って天井の溝に靴先を引っ掛ける事で身体が落下する前に足を踏み出して天井を駆け抜け、突入部隊の背後に回る。

 

そして外見から見て十数才の少年が見せた現実離れした光景に意表を突かれた者達に容赦無く凶弾を放つ。

 

廃棄物処理(同胞殺し)の為に作られたこの銃はソレを殺害する為にISに用いられる技術を流用して一撃の威力を強化されている。

 

なので一発放った瞬間、まるで水風船が弾ける様に射線上に居た全ての人物が砕け散った。

 

無論こんな物は撃った方にも反動が来る、処分予定の個体に持ち合わせる情などない故に引き金を引く度に腕の骨が砕けるのだが、彼は自分に処理した研究者達から手に入れた治療用ナノマシンを複数本投与することでその欠点を克服する。

 

人間離れした少年に対する動揺と混乱、それによって足の止まった者達を殺戮する事など彼にとっては赤子を捻るよりも容易く、瞬く間に彼らは全滅した。

 

それをS10は幾度も繰り返し続けてあらゆる勢力を血溜まりと肉片に変えた後、彼は最後の生き残りと対峙する。

 

 

––––彼女が幸運だったのはISを纏っていた事だろう、既存の兵器を全て過去の物へと変えたソレは閉鎖空間と言う不利な地形であっても十二分に脅威であった。

 

S10の持つ特別性の銃もISの技術が使われているとは言え所詮は通常兵器、超至近距離ならばともかく距離を離された状態では通用しない。

 

––––そして同時に彼女が不幸だったのはそれ故に最後の最後に処分を回された事だろう。

 

ISを確認した彼は一度その場から逃げ、巧妙に他の階層に大量の爆薬を仕掛けながら最下層まで相手を誘導した。

 

この場所は亡国機業(ファントム・タスク)と呼ばれる秘密結社の施設の一つ、証拠隠滅を図る時の為に意図的に構造的欠陥を作ってあり、最深部まで誘導された彼女は目の前で起爆装置を押され、ISですら耐え切れない量の瓦礫に押し潰されてしまう。

 

崩落位置を正確に把握していた彼は無傷で生き埋めとなったISへと近寄って行き、瓦礫の隙間に銃を捩じ込み露出した首元目掛けて特注の弾丸を放つも、シールドバリアに弾かれる。

 

だが彼は気にする事なく引き金を引き続ける、いくら超兵器ISであろうとも身動きが出来ない様に固定してシールドバリアを発動させ続ければそれに応じたエネルギーがほんの僅かづつとは言え消費されて行きいずれ限界が来る、その瞬間まで引き金を引き続ければ良い、ただそれだけだからだ。

 

地下施設を地上部ごと丸々破壊し、その超質量に押し潰された侵入者、ISは優秀な機体であるラファール・リヴァイヴであったがそれでも限界は来てしまう。

 

何発目かも分からないその一発を放った時、瓦礫の一部が沈み込む。

 

それと共にそれまで無様に命乞いをしていた女の声が消えた、何かが潰れるような音と共に。

 

 

彼は瓦礫を漁って待機状態となったISを圧死した女から回収する、死亡確認の意味が強かったのだが次の瞬間彼の体には今しがた処理した女のISが纏われていた。

 

女にしか使えないISが男の自分に何故?と言った事は考えなかった、オーダーを済ませて次の指示を待つ彼にとってそんな物はどうでも良い。

 

 

「––––あら? 貴方面白いのね?」

 

 

–––––だから、ぶち抜いた天井から降りてきたISに乗った金髪の女性に次の指示を求めた。

 

 

「……オーダーを」

 

「せっかちな坊やね? 先ずは自己紹介といきましょう? 私はスコール、この施設に用があったのだけれど何か知らない?」

 

「……戦闘行為の結果」

 

「そう、で? 貴方の名前は? 二度も聞かせるなんて、モテないわよ?」

 

 

自ら聞いたにも関わらず施設の状態など興味ないと言わんばかりの態度の女––––スコール。

 

彼女に対し彼は名を名乗れない、その様なものは与えられなかった。

 

だから個体番号を答えたのだが、今まで決まった語句しか話して来なかったのか、発音に少々難があったらしい。

 

 

「PMーS10(エスジュウ)

 

「そう、シュウと言うのね? 気に入ったわ、私といらっしゃい」

 

 

エスジュウと答えた筈がスコールはシュウと聞き間違えてしまった、彼は名前と言う符号に興味が無かった為訂正をしなかった。

 

 

––––この後に彼が引き起こす惨劇の序章はこうして終わったのだ。

 





ISを生身やるならヤスリで山を削るような真似したらいいんじゃね? と思ってやってみました。

通用しないってだけでシールドバリアを使用したらエネルギーは僅かでも減るだろうと言う考えが元なので多少は大目に見てください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

商品改良


主人公はとある欠点以外は千冬に匹敵するスペックを所有しています、身体能力に問題はありませんが……ある部分が致命的な欠陥を持った所為で不良品扱いされていました。

公然の秘密としてヒントを出すならラウ・ル・クルーゼリスペクト。

後年齢は一夏達より三、四歳年上です。


––––シュウがスコールに拾われて暫くが経過した。

 

彼女はまず意思疎通の難しい彼と会話を成立させる為にある程度の感情を与える事を考えたのだが、頭を撫でようが年頃の少年が持ち合わせる性への興味を利用しようが一言も発する事無く微動だにもしないシュウに最初は手を焼いていた。

 

動物に対する調教の様に物理的な恐怖を与えようにも感情をオミットされた様な少年には効果が無く、寧ろ超人的な反応速度と人間離れした腕力で左腕を千切り取られ、それに激昂したスコールの恋人オータムが彼を強奪したばかりのISで叩きのめすという一件以来、物理的な調教も出来ないと来た。

 

脳内に反逆防止用のナノマシンを投与していると言うのに命など御構い無しと言わんばかりの戦いぶりに当初はどう首輪を付けたものかと考えていたスコールだったが、ある日幸運にも彼女の手に『織斑』が手に入る。

 

強過ぎる故に捨てられた哀れな妹と織斑殺しの織斑、この二つを並べた時スコールは冷酷な笑みを浮かべて隔離した部屋に居る二人に命令を下す。

 

 

––––二人とも、『きょうだい』なんだから死なない程度に戦ってあげなさい。

 

それはシュウに対するちょっとした嫌がらせ、拾ってあげたのに中々懐かない彼に対する当て付けだった。

 

捨てられた妹––––マドカはその命令に無言で返し、織斑殺しの織斑––––シュウは了承の意を告げる。

 

 

「了解、認識した」

 

「…………ふん、来い死に損ない」

 

 

普段返答以外で口を開く事の無い男だ、その様な安い挑発には見向きもしない、このまま織斑同士の殺し合いが始まると思っていたスコールだったが、一つ意外な事が起きた。

 

 

「–––––辛辣だな『きょうだい』俺はお前を知っている、織斑千冬(ねぇさん)の事と同じ様にお前の事も知っているぞ、織斑マドカ」

 

 

同胞への情なのか機械的な彼らしくない感情の滲む声、二人の様子を別室でモニターしていたスコールは嬉しい誤算に上機嫌となる。

 

だが、言いたい事はそれだけだったのか話し込む事も無くシュウはマドカへと襲い掛かった。

 

しかし、モニターの映像ではその瞬間以降彼らの姿を捉える事が出来ない、いや正確には戦闘が開始して数分で映像機器そのものが耐えられなかったのだろう、画面には砂嵐だけが虚しく映る。

 

やれやれとため息を吐いたスコールはベッドで眠る恋人を起こさない様に軽く上着だけを羽織ると、彼らが戦闘しているであろう隔離区画に足を運ぶ。

 

 

その道中、彼女は生贄にしたマドカの処分をどうしたものかと考えていた。

 

シュウは織斑殺しの織斑だ、成功体のマドカとは言え身体が未成熟な少女であり、生身でISを撃墜する程戦場慣れしている男に勝てるとは到底思え無い。

 

だが、彼女のその考えは意外な光景によって裏切られた。

 

 

「あら、意外ね? 手足の一、二本でも落ちてるんじゃないかって心配してたのに」

 

 

思ってもない事を言いながらもスコールが驚いたのはマドカが五体満足な事だった。

 

命さえ奪わなければ良い、そのような意味で指示を出したのだが、まさか手足が揃い指が全て残っているとは。

 

今更同胞への情が湧いたのだろうか? そう考えたが、今の状況を考えるにそれも違いそうだ。

 

 

「ふふっ私は乱暴な子もキライじゃないけれど、妹にはもう少し優しくしてあげたらどう? レディーの扱いは0点よ?」

 

 

マドカは五体満足ではある、しかし両腕は力無く垂れ下がり、両足も反対方向に捻れている。

 

身体の至る所から血が滴り、本人の意思とは関係なく血尿まで流れている、今の彼女で生きている部分と言えば怒りと憎しみが入り混じった瞳ぐらいだろう。

 

だが、対峙しているシュウも無傷では無かった。

 

まず左頬から額まで真上に切り裂かれたのかその整った容姿の左半分が赤く染まっている。

 

そしてマドカを持ち上げている右腕とは反対の左腕、それは彼女と同じように力無く垂れ下がって居たが、よく見れば半ばまで断たれているらしく、遠目からでも骨の断面図がよく見えた。

 

身体中にもナイフが突き刺さったままになり、無数の弾痕も致命傷である事を物語っている。

 

 

––––()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「コレが織斑と言う訳ね、究極の人類を通り越してモンスターになってる様に見えるけど」

 

 

返事を期待したものではない、単なる皮肉として投げた言葉だったが、意外にも彼から返事が帰って来た。

 

隠し持っていた治療用ナノマシンを妹と自分に打った彼は左腕の断面同士を合わせながら、スコールに向き直って口を開く。

 

 

「……俺は石垣の一つに過ぎない」

 

「へぇ、貴方身内の話になると饒舌なのね」

 

「たった二つの成功例と計画外の成功体、俺達はその為の石垣、死んだ『きょうだい』は皆その為の礎、朽ち果てるのを待つばかりの欠陥品()はその石垣の上に立つ者達を知る事無く生涯を終えると思っていたが––––」

 

 

チラリとそう言って言葉を区切り、血溜まりの中に横たわるマドカ()を見る。

 

自分達の上に立つ三つの内の一人、自分と戦い刺し違える一歩手前まで戦った破壊のプリンセス。

 

「––––その内の一つと出会えた、感謝しているぞスコール」

 

 

その一言と共に彼は部屋の外へと出て、与えられた部屋へと戻る、目に宿る光には羨望・嫉妬・怒り・憎しみ・親愛・侮蔑……、あらゆる正負の感情が濁流の様に最早何色かも分からぬほどに入り混じり、彼自身も自分を抑えられないほどの激情となって燃え盛っていた。

 

––––まだ見ぬ『きょうだい』よ貴様らは石垣(俺達)の上に立つ価値があるのか? もしもその答えを知る事ができるのならば、俺は悪魔に魂を売っても構わない。

 




マドカとは違った感情で千冬・一夏に敵愾心を抱きました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

現地調達


精神崩壊済み主人公なのでモラルはありません。


マドカとの出会いで蓋をしていた感情が顔を出す様になったシュウは、亡国機業の持つフロント企業の地下で自分が撃墜し、奪い取ったIS『ラファール・リヴァイヴ』をマニュアル片手に整備していた。

 

この機体は凡用機としては優秀であり、多彩な装備を切り替えながら戦う事によってあらゆる距離に対応出来る強みがある。

 

今回強奪した機体には基本的な装備が一式揃っており、初期化(フォーマット)する前のデータから元々の搭乗者はそれなりの腕前を持っていた事が伺えた。

 

シュウは細かな歪みや機体の各種バランス、システム面の調整などを手際良く且つ完璧にこなして行く。

 

それは監視役として付き合わされたオータムすら舌を巻くような腕前であり、マニュアル片手と言う不恰好な様であるにも関わらず熟練の整備士の様であった。

 

 

(これが究極の人類って奴か? ハッ、パラパラページ捲っただけで辞書みてぇな量の内容丸暗記できる様な記憶力と見た事もねぇエラーが出た瞬間に最適な答えを出せるような能力持ってる奴のどこに人間味を感じろってんだよ)

スコールが回収した研究データの一部に彼の評価が乗っていたが、オータムからすれば薄気味悪い怪物でしかなかった。

 

この男は身体能力だけではない、頭脳面でも他の被験体を大きく上回って居たが人類として致命的な欠陥を有した為、不合格の烙印を押されている。

 

しかしそれは裏を返せばその欠陥さえなければ彼は問題無く石垣の上に立つ存在として認められていただろう。

 

(テロメア遺伝子の異常、究極の人類っつーにはクソみてぇに短けぇ命だったわけだ、そりゃ確かに出来損ないだ)

 

 

究極の人類を生み出したとしても、その寿命が短過ぎれば呆気なく死ぬ、人智を超えた知能も超人的身体能力もその定めには逆らえない。

 

そんな哀れな不良品をオータムが鼻で笑っていると、ISの調整と最適化処理(フッティング)が終わったのかシュウはラファールを身に纏っていた。

 

 

「んで? 終わりか? なら帰るぞエス」

 

 

エス––––シュウに対してスコールから与えられたコードネームを呼びながらオータムは彼を連れて地下施設を出る。

 

道中は完全に無言だったが、店の外へと出た瞬間に珍しくエスが口を開いた。

 

 

「––––オータム、ISを盗ってくる」

 

「おう、勝手に––––って今なんつったクソガキ」

 

 

いきなりの発言にうっかり流しそうになったが、世界に467機しか存在しないISを奪って来ると言った様に聞こえたオータムだったが、その言葉の意味を確かめる前にシュウはラファールを展開して飛び去って行った。

 

「……怪物(モンスター)めッ!!」

 

勝手な行動をしたシュウに対する毒を吐いたオータムだったが、一応命令であるフルスモークのヘルメットを着用してる事を確認すると、頭を抱えながら恋人に連絡を入れるのだった。

 

 

––––一方の空を翔けるシュウ、彼がISを奪う目的は単純な話(マドカ)の為であり、それ以外に理由はない。

 

この行動の数日前、初会合以降毎日の様に彼女と殺し合いを繰り広げながら自分の持つ技術を叩き込んでいたのだが、今の時代の最強の代名詞と言えばIS。

 

自分も教えられるほどISを扱った訳では無いが、それでも女である以上それを扱えなくてはならない。

 

その為シュウは彼女にISを使わせたかったのだが、今自分達の手元にはスコール・オータム・自分の三人分のISしか無かった。

 

自分のラファールを与える事も考えたが、その場合対IS戦をするのがスコールかオータムと言う事となり、マドカの価値をこの目で見極める機会が減る。

 

––––ならば単純な話、無いのなら有る所から持って来たら良い。

 

攻撃対処は何処でも良かったし奪う機体も何でも良かった、挑発する様に空を飛んで向かって来た相手を撃ち落とす、たったそれだけの事。

 

 

その為に深緑の塗装を深紅に塗り替え、街中を低空飛行しながらその存在を知らしめる。

 

ISでの戦闘は今回が初めてだったが、搭乗者の動きが基本となる以上ただの人間に遅れを取る事は無いとシュウは本気で思っていた。

 

「そこの紅いラファール・リヴァイヴ!! 所属と目的を答えて下さい!!」

 

そんな傲慢とも言える暴走から数分も立たない内にISが二機彼の後を追って来た。

 

一機は眼鏡を掛けた自分よりも多少年上の女性、乗っている機体は自分と同型機でカスタムされているらしい、資料で見た事のあるその女性は山田真耶、日本の代表候補生だ。

 

そしてもう一人は彼女の後輩らしき人物、資料に特に記載は無かったのと新型のIS『打鉄』を纏っている事からテストパイロットか何かだろう。

 

そうあたりをつけたシュウは速度を上げながらサブマシンガンを拡張領域(バススロット)から二丁取り出し、後ろ手でばら撒くように追いすがる二機に向けて放つ。

 

打鉄は横に逸れる事でシュウの攻撃を回避したが、真耶はその攻撃を物理シールドで敢えて受け止めた。

 

代表候補生である以上狙いも定めていないような弾を避けるのは造作でもない、しかし此処は市街地のど真ん中避けなかった理由は彼女の後ろにあった。

 

それは一組の買い物帰りであろう親子、彼女が良ければその瞬間流れ弾がこの家族を襲っただろう。

 

幸い打鉄を扱う女性が避けた先には人が居なかった、しかしアスファルトの道路を切り裂く様に弾丸が直撃し、大きく捲れ上がってしまっている。

 

その動きを見たシュウは知識として頭に入れていた瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、()()()()()()()()()()彼我の距離を詰めると、その慣性を余さず使って彼女の脇腹に回し蹴りを叩き込み、盾を弾き飛ばしながら商業ビルの中へと蹴り飛ばした。

 

そして事前に拝借して搭載した亡国機業製のバズーカをコールし、反撃に移れば一般人に直撃し全力で身代わりになりに行けば間に合うと言う絶妙な位置に爆撃を開始する。

 

当然真耶はそれを庇う、その性格もあって搭載した武装全て迎撃に回す勢いで壮絶な射撃戦を開始したが、シュウが使う兵装は全て爆風を伴うものであり、真っ先に避難経路を爆破された逃げ遅れの一般人達に熱波による被害が出始める。

 

そしてそんな様子を見かね、雄叫びのような怒りの声と共に打鉄が斬りかかるがそれに対して悲鳴を上げたのは防戦一方の真耶だった。

 

 

「ダメッ!! その人の狙いはッ!!」

 

 

彼女がその言葉を言い切る前に周囲一帯に強烈な衝撃が走る。

 

 

真耶は青ざめた顔でハイパーセンサーから送られて来た光景に目を向ける、そこには炸薬式六九口径パイルバンカー灰色の鱗殻(グレー・スケール)、通称『盾殺し(シールド・ピアース)』を無理矢理三つ繋ぎ合わせた様な兵装を装備した深紅のラファールが打鉄の胸を貫いている姿が映し出されていた。

 

絶対防御すら貫通させられる様に出撃前に無理矢理の改造を施した三連装パイルバンカー、それは一発目で絶対防御に杭を食い込ませ、続く二発目と三発目でその部分へ強引に打ち抜き搭乗者を粉砕する代物。

 

シュウは機能を停止した打鉄から搭乗者(余計な物)を引き摺り下ろすと、放心している真耶の前にソレを投げ捨てて、周囲に無差別爆撃を行う事で大火災を引き起こす。

 

これで追っ手が来たとしても救助活動や火災の消化に回さざるを得ず、自分は悠々と帰投できる。

 

 

––––自分が引き起こした地獄を一瞥したシュウは、そのまま別の拠点へと飛んで行くのだった。

 






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異名を持つ暴風

––––亡国機業の地下施設、IS同士が戦闘を行うのに十分な広さを持ったその場所は今二人の鬼によって戦場と化していた。

 

床一面には所狭しとばら撒かれた空薬莢と斬り捨てられた弾薬が山積みとなり、折れたブレードや切断された重火器が無数に転がっている。

 

そんな硝煙と殺意が充満した部屋で壮絶な殺し合いを繰り広げていたのはお互いに満身創痍となったシュウとマドカであった。

 

 

強奪したISをマドカに渡してからというもの、シュウは彼女との殺し合いに一日の大半を費やし徹底的にその力を磨き上げている。

 

午前中は白兵戦、午後からはIS戦というシンプルな殺し合いと言う名の日課、歪んだ存在が歪んだ環境で育てばそれ以外の行為で物事を図ることが出来ないのは道理であり、お互いのコミニュケーションの為にはそれが一番手っ取り早かったのだ。

 

シュウは両手のサブマシンガンの引き金を引きながら超高速で全く同じ銃を拡張領域(バススロット)から取り出し、弾切れになる瞬間に交換する事で永続的な弾幕を張る。

 

その無数の弾雨を突き抜けるように半壊した盾を壁にしながら瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰めたマドカは下から弧を描く様に刃こぼれが始まったブレードで一閃し、両手が空になった深紅のラファールに向かって肩から体当たりを入れた。

 

そしてシュウが代わりの武器をコールする瞬間を見計らい、出現した銃にサマーソルトを放つと斬れ味の落ちたブレードを投げ捨てて彼の顔面を掴んで壁へと押し当てた。

 

 

「……やる様になったな、エム」

 

「黙れエスッ!! このまますり潰してやる!!」

 

 

その言葉通り、彼女は背中から壁に押し当てたラファールを削る様にその壁面に機体を押し付けながら周囲をなぞるように飛ぶ。

 

金属が削れる音と共にラファールの装甲から火花が散り、

残り少ないシールドエネルギーが見る見る減って行く。

 

抵抗しようとしても両腕は打鉄の身体で挟み込まれて武器を呼び出す事が出来ず、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をしたくてもスラスターが壁に押し当てられて使えない。

 

このまま一方的に嬲り殺す、そんな殺意が籠もった目でシュウを睨むマドカだったが、ラファールを駆る彼の目は彼女の殺意に反して非常に嬉しそうだった。

 

 

「エム、まだ足が残っているぞ?」

 

 

そう言うや否や、押し当てられた状態から無理矢理壁を蹴って僅かな空間を開けると、肩から反転する様にして機体に密着したエムを振り払う。

 

更に彼はその際の回転を利用して打鉄に回し蹴りを放って彼女を床へ叩きつけると、頭部に向かって踵を振り下ろす。

 

彼女の機体も戦闘によってエネルギーが削れており、普段ならなんでもないこの一撃も残り少ないエネルギーを削る一撃には変わりない。

 

だが、だからと言ってその一撃は避けられるほど甘い物では無く、震脚と呼べるほどの重さを持ってマドカの頭を踏み付けた。

 

ハイパーセンサーからはマドカが怒りと屈辱に満ちた瞳で鋭く自分を見つめてくる姿が伝わってくる、圧倒的な力の差に屈すること無く相手を惨殺すると言わんばかりのその目はシュウの空虚な心を満たすのに十分で、それ故に彼は心の内をそのまま写したような歪んだ笑みを浮かべる。

 

「コレで終わりか? 地べたに這い蹲り、頭を踏まれ、惨めに見下される今の気分はどうだ?」

 

「貴様、キサマァッ!!」

 

 

マドカは常人ならば腰を抜かしそうな声を上げながらシュウの足を振り払い、残り一本のブレードを取り出しながら斬り掛かる。

 

だがその動きは見切られていたのか、ブレードを握る拳を掴んでその一撃を止め、膝蹴りを叩き込みながら掴んだ拳の上からブレードを彼女の首に押し込む事で打鉄のシールドエネルギーを削り切った。

 

 

機能を停止した打鉄を見ながらシュウはラファールを待機状態へと戻し、挑発するように拡張領域(バススロット)に格納していた白兵戦用の装備を彼女の前に投げ捨て、機体から降りてくるのを待つ。

 

怒りに染まったマドカが飛び出すように打鉄から降り、目の前のハンドガンとナイフを拾いながらシュウへと襲い掛かるが、鞭のようにしなる蹴りが彼女の脇腹に突き刺ささり、体格差で彼女の身体が一瞬浮いた瞬間、シュウは頭を掴んで自分の方に引き寄せると柔らかな腹に拳を捩じ込だ。

 

一方のマドカもその一撃を叩き込まれつつも、握ったナイフをシュウの胸に突き立てながら彼の頭に狙いを定めて引き金を引く。

 

彼は撃たれた弾丸を最小限の動きで掠らせると、胸に突き刺さるナイフを物ともせずマドカの心臓目掛けて膝蹴りを再び突き立てて彼女の身体の自由を奪い、顎を殴り抜いて失神させた。

 

 

「また派手にやったものね、エス」

 

「……スコールか」

 

 

戦闘時の饒舌さは何処へ行ったのか、普段の無口に戻ったシュウは自分とマドカに治療用ナノマシンを打ちながら振り返る事無く彼女の声に応える。

 

 

「ふふっ、つれないのね? そんなにもエムが大事?」

 

「……ふん」

 

「ま、良いわ、それよりも仕事よエス」

 

 

そう言って、彼女は紙媒体の資料らしきものをシュウへと手渡す。

 

内容はISによる襲撃任務、以前の打鉄強奪の一件以降、彼には過激なテロリズムに似た仕事が割り当てられる様になった。

 

本来ならば裏の裏に存在する組織の人間がこの様な目立つ事をするのは御法度であり、彼は殺処分一歩手前のところまで立場が悪くなっていたのだが、貴重なISを一瞬で強奪する実力やマニュアルを読んだだけで強奪したISを再調整してしまう頭脳を失うデメリットや、そもそも現状唯一と言っても良い男のIS乗りであり、自分達に繋がる証拠を一切残していなかった事からその一件は不問とされた。

 

むしろその手際を考えるならば自分達と取り引きしている者達への武力として売った方が利益になり、それがきっかけで戦争でも起きれば更に富を稼げる。

 

本人も命令には従順であり、反逆防止用のナノマシンや延命用の薬もこちらが握っている、万一逃げ出したとしてもその命はないのだから上層部は彼を過激なテロリストとしてデビューさせる事に決めた。

 

 

シュウ本人もそれに異論は無く、むしろその戦闘行為で向かって来るIS達を返り討ちにし続ける事でIS戦の経験を積める、そして自分が強くなれば強くなるほどマドカの糧に出来るのだから正に一石二鳥。

 

今回の襲撃先はイギリス、攻撃目標は名門オルコット家の当主夫妻、殺害対象を確認したシュウは資料の束を投げ捨てるとその部屋を出ようとしたところでスコールに声を掛けられた。

 

 

「そうそう、一般人への被害や向かってくるISを返り討ちにし続けてる貴方に遂に賞金が掛けられる様になったの、その金額なんと三百万ドル、貴方の首を持って行けば正に億万長者ね」

 

「……欲しければくれてやる、残り二つの成功体を見極めた後ならばな」

 

「そう、ならお金に困ったらそうさせて貰うわ、異名持ちさん」

 

「……異名?」

 

「『死血の深紅(ブラッディ・マリー)』『殺戮の疾風(ラファール・マサクル)』とか色々あるけれど、最近だと『戦の女神(マーズ)』かしらね、総じて『最強のラファール使い』とも、誰も彼もが好きよねそう言う下らない異名」

 

「……呼びたい奴には好きな様に呼ばせておけばいい」

 

 

そう言って彼は出撃の為に酷使したラファールを修理する為、今度こそ部屋を出て行った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最強の紅

オルコット夫妻が死んだ時期が分からないのでセシリアが中学生の頃と仮定してます。

なので年代的には第2回モンド・グロッソが開催されるかその前くらいの年ですね。


ラファールを修理し、出撃可能の状態にしたシュウはオルコット夫妻の乗る列車に居た。

 

目深くつば付きの帽子を被り、口元まで襟がある黒いコートを身に纏い、極力素顔と肌を晒さない様にしたその姿で彼は目標の存在を確認する。

 

丁度食堂車で二人で会話を交わしながら食事をしている最中だったらしい、顔の確認の為にシュウは隣の席に座ったのだが、目立たないように食事をする事を彼は億劫に感じていた。

 

そもそも食事は栄養摂取の手段でしか無く、味や食感などに一切の拘りがない彼からすれば完全食のパウダーを摂取するだけで十分な行為と言える。

 

彼は自身の短命さ故に無駄を嫌う、一分一秒が貴重な人間である以上、注文の言葉も食事が運ばれて来る時間もそれを摂食する事も、全てが無駄に見えた。

 

だからだろう、彼は周囲に人が居るにもかかわらず様々な異名を付けられた自身のISを展開する。

 

 

注文を受けに来た乗務員、食事をしていた客、そして殺害対象であるオルコット夫妻、その場の全ての人間が深紅のラファールに目を奪われ、同時に言葉を失った。

 

何せ男がISを動かしているのだ、あれだけ女性しか使えないと言われてきたISを二十歳にも満たない少年がである。

 

だが、それに驚きの声を上げる事は誰も出来なかった、それよりも先に彼の手元に現れたサブマシンガンの掃射で目撃者が悲鳴を上げる間も無く肉片に変わったからだ。

 

ISを展開する際に吹き飛んでしまった帽子には目もくれず、目標たるオルコット夫妻にその銃口を向ける。

 

 

「き、貴様は一体何者だ!! 何故男にもかかわらずISを起動出来る!! 答えろ殺戮の疾風(ラファール・マサクル)!!」

 

 

妻を庇いながら前に出て叫ぶ夫、だがその叫びには一切答える事無く、返答は引き金を引く事で行うシュウ。

 

目の前であっさりと弾け飛んだ夫に夫人は悲鳴を上げたが、シュウは余裕を見せるかの如く拡張領域(バススロット)から取り出したフルスモークのヘルメットを被り、夫人の頭に銃身を叩きつけた。

 

 

ISのパワーと専用の銃ならば生身の人間を撲殺する事など容易であり、殴りつけられた彼女は頭部の中身を床一面にぶちまける。

 

これにて任務は終了、禍根を断つならばこのままオルコット家の屋敷に向かって、一人娘を殺害すれば完璧なのだがそこまでしろと言う命令は受けていなかったし、彼自身も他の事に興味があったのでそのまま銃撃の余波で吹き飛んだ壁から外へ出た。

 

そして列車の後部へと向かい、屋根の上を横断する様に飛びながら二丁のサブマシンガンで列車を襲撃する。

 

先程とは違い僅かながら乗務員の生き残りを作った彼は、彼らが緊急連絡を行って救助を要請した事を確認してからはそれ以上相手にする事無く、その場で静止して自分を討ちに来る者達を迎え討ちに行った。

 

 

暫く飛ばして接敵したISは三機の同型機、この紅いラファールを撃ち墜とそうと躍起になってるのか、或いは最強のラファール使いの名を奪おうと考えているのかは定かではないが、どちらにせよ彼には都合が良い。

 

何故ならば近いうちに始まる第二回モンド・グロッソ、その日本代表に織斑千冬(ねえさん)が選ばれたのだ、それを知った瞬間彼は何を置いても会いに行くと決めた。

 

戦乙女(ブリュンヒルデ)世界最強の称号を持つ女、石垣(我々)の全てを積み上げた頂点、最愛にして怨敵たる伴侶となるはずだった姉。

 

それがそう遠くない未来に会いに(殺しに)行ける、その価値を確かめに行ける。

 

 

「クッ、クククッ、アハハハッ!! 織斑千冬(ねえさん)!!織斑千冬(ねえさん)!!織斑千冬(ねえさん)!! やっと会える、会いに行ける!! 見極める!! 見定める!! 貴女の存在を!! 貴様の価値を!!」

 

 

誰も聞いていないにも関わらず口から思いの丈が溢れて出る、無駄口を嫌う男が愉快で堪らないと言った風に笑う。

 

こんな思いはマドカと対峙した時以来でしかもその質はその時以上、平坦な心の起伏が激しくて自分の感情を整理する事が出来ない。

 

その声は招待を秘匿する為にヘルメットに備え付けられたボイスチェンジャーによって、ノイズ混じりのマシンボイスとなり、不気味な笑い声だけが辺りに響く。

 

目の前に敵が居ると言うのに腹を抱えて笑う紅いラファール、三対一という数の暴力を前にしてのその態度、三人のIS乗り達は背筋に走る恐怖に生唾を飲み込んだ。

 

 

「前哨戦だ、肩慣らしだ、幾らでもこい、深紅の風は此処に居るぞ有象無象共!!」

 

 

そう叫ぶと共にシュウは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、先頭にいる女に蹴りを突き立てる。

単なる飛び蹴り、確かに瞬時加速(イグニッション・ブースト)による加速を加えれば強烈な一撃となり、異様な空気に呑まれた状態ならば避ける事は難しい。

 

 

この一撃で意識が切り替わったのか、三機のラファールは三角形を作る様に陣取り、そのフォーメーションを崩さないように各々のコールしたサブマシンガンを放つ。

 

包囲された状態からの集中砲火、付かず離れずの一定距離を保ちながら弾数の多い得物で相手を削り殺す単純にして強力な戦術ではあったが、彼女達は自分が相手にしている者が並みの相手では無い事を関連した事件資料から知っている、そう単純に沈みはしないだろうと。

 

その証拠に目の前の紅い機体は二丁のライフルを取り出しながらその場で回転し、三機の持つサブマシンガンの銃口全てに弾丸を打ち込んで破壊して見せた。

 

 

対IS戦でのワンホールショット、ハイパーセンサーがあるとは言え高速で移動できるIS相手にそれを行うのは想像を絶する腕前である。

 

モンド・グロッソに出場するヴァルキリー達ですら可能かどうか、対峙した三人は相手の恐ろしいまでの才能と実力に戦慄し、その思考の空白が致命的隙となった。

 

シュウはその瞬間を逃さず、目の前に居た女との距離を詰めて改造した三連装の灰色の鱗殻(グレー・スケール)を叩き込む。

 

絶対防御すら貫通する威力の武装、それは戦乙女(ブリュンヒルデ)が扱う零落白夜と同じく一撃必殺。

 

貫かれた女性はISの生命維持装置によって一命こそ取り留めているものの、一瞬で意識を刈り取られ墜落した。

 

シュウは撃破したISに目を向ける事無く、威力の代償に一回しか使用出来なくなった灰色の鱗殻(グレー・スケール)をパージすると、反転して残り二機に向かって掛かって来いと言わんばかりに手招きする。

 

 

「……その深紅の装甲は返り血の紅とでも言うのか、ふざけるなッ!!」

 

「よくもッ、よくもあの子をッ!!」

 

 

激昂した二人が突っ込んでくる、それは女尊男卑の世の中で自らがその頂点だと驕る者特有の短慮だった。

 

スモークの下に隠れたシュウの加虐的な表情を知る事が出来ればまだ戦えただろう、だがしかし彼女達にその表情は伺いしれない。

 

向かってくる二人に対して二丁のライフルを取り出した彼はその銃口を的確に額や心臓へと当てて行く、相手の銃撃は銃口と視線の先を読む事で最低限の動きで避け続け、絶対防御によるエネルギーの減少をまざまざと見せ付けた。

 

攻撃が当たらない事への焦り、どう避けても一方的に被弾する恐怖、目に見えて減って行くエネルギーはさながら死刑台への十三階段を登っているような感覚であり、間近に迫る死の恐怖が二人を恐慌状態へと陥らせる。

 

そうなれば最早成すすべは無く、最初に蹴りを入れられたリーダー機が撃墜されると間を置かずに最後の一人が撃墜された。

 

 

撃墜した三名を見下しながらシュウは機体の強奪をするか考えたが、そろそろマドカの体力が回復している頃であり、追撃部隊を待ち構えるよりも彼女と殺し合った方が有意義だと判断した彼はそのまま帰投するのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘拐

 

その日、シュウは自室のベッドの上で横たわりながら絶叫を堪える様に胸を押さえながら蹲っていた。

 

彼は外傷や拷問による痛みに関しては無痛とも呼べる耐久性を持っていたが、唯一耐えられないのがこの自身の短命を補う薬の副作用の痛み。

 

テロメアの異常による急速な老化とそれに伴う寿命の浪費、それを抑制する薬は手離せば数年で肉体の機能が衰え果てて老衰を起こして死亡する。

 

だがこの薬の作用も控えめに言っても劇薬としか言えず、細胞分裂を低減させる効能を持つものの効果が切れた際の痛みは最早地獄と言う表現すら生温く、投与を続ければ細胞がコピーミスを引き起こしてガン化、どの道短命と言う運命からは逃がれられない。

 

声にならない悲鳴と全身の痛みに身悶えながらも、自分の命を繋ぐ劇薬が入った小瓶を握りしめて彼は嗤う。

 

 

––––これが、この痛みが俺の欠陥だ、短命を補う薬を使用してもまだ短い命、それさえ無ければ日の当たる場所に居たのは俺だったのだろうが、そんなものは最早どうでもいい。

 

俺の両手は血の山と火の海しか作り出せない、既存の物を改良出来ても新しい物を作る事のできない欠陥品だ、自分に生まれ持って備わらなかった物を嘆いても無駄なのだ。

 

「ねぇさん……やっと、やっとだ、やっとその価値を知れる、俺やきょうだいの全ての上に立つ貴女の価値を、漸く見に行ける……」

 

薬の効果が出始めたのか、シュウは荒い息を落ち着かせながら立ち上がると、全身の汗を流す為に自室に備え付けられたシャワールームに移動した。

 

この行為も彼からすれば無駄の一言なのだが、汗を流さずに行くとスコールが良い顔をしない為、不要と思いつつも行なっている。

 

––––今日の正午に織斑千冬が連れ去ったきょうだいである織斑一夏を誘拐する、目的は俺と同じ様にISが使用できるかどうかの検証と、不可能ならば()()()()()()()

 

その新技術がなんなのかは知らされていない、知る権限も無いから気にもならないが、ロクでもない内容には違いない。

 

 

「フフッ楽しみだ、実に実に楽しみだ、そうだろう? 織斑一夏」

 

「ふん、悪趣味な独り言だな」

 

 

シャワールームの中で独り言を呟いたシュウだったが、その外からマドカの声が聞こえて来た。

 

彼女の部屋への侵入に気が付かなかった事に彼はとても嬉しそうな笑顔を浮かべると、シャワーを切り上げて外へと出る。

 

「やぁエム、我が最愛の妹よ。何の用かな? 愛の抱擁かい? それとも殺意の暗殺かな?」

 

「そのどちらでも無い––––ラファールを私に渡せ」

 

「フフッ、何の為に?」

 

「今回の任務は死に損ないの貴様には荷が重い、織斑千冬(ねぇさん)と出会う役は私が引き受けてやる」

 

 

だから私に変われ、マドカはそう言ってシュウに向けて手を出しラファールを要求した。

 

待機状態となった彼のラファールは紅いチョーカーとなってその首元に纏われている、それをくれてやる事は吝かでは無いのだが今のマドカ実力ではくれてやる訳にはいかない。

 

第一回モンド・グロッソの映像から判断できる彼女の実力は今のマドカを遥かに上回っている、ラファールを渡してもみすみす潰させるだけだ。

 

そもそも打鉄で出て行けば良いじゃないかと考えたが、少し前に自分の手で盛大に破壊し、修理中だった事を思い出しシュウは苦笑いを浮かべる。

 

 

「そう言えば打鉄は修理中だったか……」

 

「盛りのついた貴様の所為でな、でなければわざわざ貴様の部屋に来たりしない」

 

 

氷のような眼差しで自分を睨むマドカ、その殺気を心地良く思いながらも彼女の手を振り払いながらシュウは着替えに入った。

 

彼としても自分の体がいつまで戦えるのか分からない以上、確実に織斑千冬と戦う事のできるこの機会を逃したくは無い。

 

仮にこの任務で自分が死んだとしても、それが自分の価値であり人の器を測るに値しない存在だったというだけの事。

 

彼のこの一戦への想いはその空虚な心を埋め尽くすほど煮えたぎっていた。そしてその熱気に当てられたのか、マドカもそれ以上は機体の要求をする事無く、さっさと部屋を出て行った。

 

 

––––それから数時間後、シュウは口元までかくれる襟の高いロングコートを着込み、帽子を目深く被りながらモンド・グロッソの会場に紛れ込んでいた。

 

入場ゲートの検問は自分達の手の者が配備されているのでボディーチェックはスルー、ISによるテロはいつでも可能なのだが、今回の目的はあくまで織斑一夏の誘拐。

 

無線で末端の人間からはいる情報を脳内で整理しつつ、アリーナの上段から周囲をハイパーセンサーで伺いながら空き席を探すふりをして会場を一周して行く。

 

そうやって探す事数分、対象と同じ背格好かつ()()()()()()()()()()()()()()()

 

間違い無く織斑一夏、常人とは比べ物にならない速さで肉体が老化していく自分とは違い年齢相応の容姿をしているので同一、とは呼べないが血縁を疑うレベルで似通っている。

 

それを確認したシュウは思わず顔に手を当て爪を立てそうになる、何故なら自分は失敗作であり彼こそが成功体、この顔は彼に許された『織斑一夏』という個体名の顔だ、自分に許されたものじゃない。

 

今すぐに自分の顔を引き裂きたい衝動が湧き上がるが、『あら、綺麗な顔に傷を付けるのは感心しないわね』というスコールの命令を思い出してそれを堪え、無警戒にも一人で席を移動した織斑一夏の後を追う。

 

彼はどうやら飲み物を買いに行ったらしく、売店へと向かうようなのでその道中の人払いを構成員に指示したシュウは足音を殺してその背後を取った。

 

「あーあ、早く千冬姉ぇの試合始まらねーかなぁ」

 

「……織斑、一夏だな?」

 

「へっ? そ、そうですけどアンタは––––」

 

 

背後から声を掛けられて反射的に振り返った一夏だったが、その顎先に裏拳が振り抜かれ話かけられた人物を確認する間もなく意識を刈り取られてしまう。

 

 

「……対象の確保に成功、コレより回収班へと引き渡す」

 

 

振り抜いた拳の手ごたえから呆気なく失神した一夏に対して若干困惑した様子のシュウだったが、いつまでも寝かしたままでは色々と都合が悪いので別の人員へと彼を回収させてシュウは会場を去った。

 

彼がその気ならこの場で暴れる事も出来た、しかしそれでは余計な各国代表どもも死に来るので手間がかかる。

 

 

––––故に彼は織斑千冬の控え室の扉に弟を誘拐した旨と、取り返したくば指定の場所までISを持って来いと言う内容の張り紙を貼り付けて置いた、一対一の一騎討ちをする為に。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最強と最恐





 

  織斑一夏が誘拐してから数分後、姉である千冬は自分の控え室に貼られた張り紙に気付き、全てをかなぐり捨てる様に会場を後にした。

 

  張り紙の内容が千冬を呼び出す罠だと言う事は誰の目にも明らかだ、呼び出した先に一夏が居る可能性も低いだろう。

 

  しかし今の千冬にそれを判断するだけの冷静さは無い、一夏が拐われたと言う事とそれに付随する心配と恐怖が彼女から判断能力を奪っていた。

 

 

  (一夏!! 一夏!! 頼む、無事で居てくれ!!)

 

 

  弟の身の安全を心配するばかりに人気の無い港へと誘導

 されて行く事に気が付かず、目標のポイントに到達した際に海中から不意に現れた紅いラファールに襲撃される事となった。

 

 

「ッ!? 死血の深紅(ブラッディ・マリー)だと!?」

 

 

  フルフェイスのヘルメットを着用し、血塗れの紅い塗装を施したその機体は明確な殺意と共にその銃口を千冬に向ける。

 

  世界的な指名手配をされ、今世紀最大の犯罪であるISテロを行い続ける凶悪犯罪者、それと対峙した彼女は初めから狙いが自分だったのだと気が付いたがそれは最早遅かった。

 

 

  「会いたかった、会いたかったぞ織斑千冬!! この身朽ちる前に出会えたこの幸運、逃すものかァァァア!!」

 

 

  マシンボイスのノイズ混じりの声ながらも気迫のこもった咆哮、千冬は己が恨まれる理由を考えはしたものの思い当たる節が無く、暮桜を展開しながら相手の銃撃を回避する。

 

  今まで戦ってきた誰よりも正確かつ実戦的な射撃、殺意の鋭さも天下一品、正しく最強の敵と言えるだろう。

 

  問答無用の榴弾混じりの弾幕の雨、相手をしている場合では無いのに否が応でも相手をさせられる焦りのあまり、千冬は反撃も出来ずに回避し続ける事しか選択出来なかった。

 

 

  「くそっ、貴様何が目的だ!?」

 

「目的? 目的だと? クククッ、目的は勿論貴様だよ織斑千冬、軟弱な弟は貴様を釣り出す為のエサに過ぎん!! 少なくともこの私にとってはなァ!!」

 

 

  最早それ以上言葉は要らないと言わんばかりに両腕にガトリングを取り出して更に火線を厚くして行くシュウ、人気の無い港とは言え流れ弾による周囲の破壊を続ければ戦闘行為が気付かれるだろう。

 

  しかし、一人称を変えるという最低限の秘匿はしているものの思考が熱くなった彼はそんなこと御構い無しに逃げる暮桜を追撃し、千冬もまたその苛烈な攻撃に徐々に余裕が消えて行く。

 

 

  「どうした!! 逃げるばかりではどうにもならんぞ!!」

 

  「私を狙う理由は何だ!! 一体貴様は––––」

 

  「私は貴様だよ織斑千冬!! 千番目の織斑!! 石垣の上に立て無かった憐れな出来損ないだ!!」

 

「な、に?」

 

 

  自らの出自に纏わる発言、それを知る者は極一部しか居らず、いずれその追手が現れると覚悟していた彼女だったが、それがよもや自分と同じ存在だとは夢にも思わなかったらしい。

 

  彼女が一夏を連れて逃げた際、他の家族の安否までは分からなかった、少なくとも自分の他には一夏しか知らなかったし、同じ施設には居なかったのだ。

 

  それ故に彼女は動揺してしまう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そんな的外れな考えと共に、そしてその動揺を逃すほどシュウは甘くない。

 

 

  一瞬動きの止まった暮桜にシュウは瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用して急接近し、機体胴体目掛けて膝蹴りを叩き込む。

 

  本来ならこの隙は致命的で、普段の彼ならばそのがら空きの胴体に灰色の鱗殻(グレー・スケール)の一撃を入れていただろうが、殺害そのものが目的でない以上()()()は見逃した。

 

  彼にとって同胞に対する感情は愛と憎しみがイコールであり同伴した物、殺意と慈しみが混ざり合った複雑なそれは誰にも理解する事が出来ない。

 

  ––さあかかって来い!! 弟を助けたいのだろう!? 攫った俺が憎いだろう!! 究極の完成を証明して見せろ!! 激昂し、斬りかかり、この俺の命を奪って見せろ!!

 

 

  「くっ、私が憎いのか!? お前を見捨てた私が!?」

 

「……なに?」

 

「いいだろう、お前が私を憎むというならばこの命はくれてやる、だがその代わり一夏の命だけは助けてやってくれ、頼む………」

 

 

  蹴り飛ばしされた千冬は、シュウの望みとは全く正反対の言葉を口にした。

 

  この時、彼は頭の中で何かが切れたかの様にとめどない怒りが湧き上がってくるのを自覚する、彼が聞きたいのはそんな謝罪でも両腕を下げて無抵抗な姿を晒すこの女の姿では無い。

 

 

  「……ふざけるな、的外れなんだよ織斑千冬!!」

 

  「私はふざけてなど––––」

 

  「黙れ!! 貴様一人の為にどれだけの石垣が積まれたと思っている!! 簡単に捨てられる様な命だと思っているのか!!」

 

  「だったら何故こんな真似をする!!」

 

「貴様が我々の命の上に立つ相応しいか見極める為、積まれた石垣の価値は貴様の価値で決まるからだ!! 最強を証明してみせろ!! そうでなければ貴様の弟を殺す指示を出すッ!!」

 

 

  彼がそう吼えた瞬間、今まで無抵抗な姿を晒していた暮桜の姿が消えたかと思うと、零落白夜を発動した状態で背後に斬り抜けられていた。

 

  反射的に身体が反応したおかげで一撃死は間逃れたが、半分以上シールドエネルギーが減衰してしまう。

 

  ハイパーセンサーから伝わってくる明確な殺意が篭った眼差し、漸く相手が本気になったと言う事を知ったシュウは嬉しくて堪らないといった風に大笑いをしながら千冬へと向かって行った。

 

 

  高速で武装を切り替え、拡張領域(バススロット)に搭載した凡ゆる火器を使用しての擬似一斉射撃(フルウエポンアタック)、並みの人間ならそのIS一機で出せるとは思えない圧倒的な弾幕を越える事が出来ずに撃墜されてしまうだろう。

 

  しかしここに居るのは並の人間では無い、海上で暴れるシュウの全力射撃の中を針穴に糸を通すが如く繊細によけて行き、二度目の零落白夜を叩き込む。

 

  この時千冬はほんの僅かに手心を加えたつもりだった、いくら激昂したとしても一夏の居場所を聞き出さねばならない以上殺してしまう訳にはいかなかった。

 

  だが彼女のその思いとは裏腹に紅いラファールは絶対防御が発動する事なく、零落白夜の一閃はシールドバリアを貫通してその身を切り裂いてしまう。

 

 

  「な、なに!?」

 

「く、ククッ、やはり失敗作では、成功作の器を図りきれない、か」

 

「敢えて絶対防御が発動しないように細工をしていたのか……」

 

「は、はは、お前はご、合格だ、少なくとも、今まで戦ってきた同胞とは比べ物にならない強さ、強さを持っているからな……織斑一夏はこ、ここから南に、14キロ行った先のかし、貸し倉庫の中に居る」

 

「……感謝する」

 

 

  最後にそう言いながら破壊されたラファールと共に海中へと落ちて行くシュウ、千冬は複雑そうな顔をしながらもその姿を見ると、彼の言葉を信用してその貸し倉庫へと向かって行った。

 

 

  ––––それから少しして、織斑千冬はドイツ協力を得て弟の救出に成功する。

 

  さらに彼女が破壊した紅いラファールも搭乗者のパーソナルデータや会話ログなどが完全に消去されてはいたものの海中からサルベージされ、その戦闘記録を見た者達によってこの事件は当事者以外にとっては美談に仕立て上げられてしまう。

 

  最悪のテロリストから最愛の弟を助け出した英雄、そう囃し立てられる千冬はしかし嫌な予感がしていた。

 

 

  ––––その理由は犯人の死体が上がらなかった事、最後の一太刀は確実に胸を斬り裂いたのだ、生きている訳が無いのだが果たしてどうだろうか?

 

 

 





これで一旦エスの暴走は止まりました。

次回はまた別のところへ行きますが、まだプロローグ段階です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

潜入





織斑千冬との交戦で撃墜されたシュウは乗機を乗り捨てて脱出し、致命傷を庇いながら回収班に収容されてそのまま治療施設へと搬送された。

 

彼の乗機には特殊な細工を施して絶対防御を発動させず、そちらに回す分のエネルギーを他に回す事で他のISよりも機動力とパワーを確保している。

 

絶対防御は搭乗者の致命傷なり得る部分への被弾に対しての発動なので劇的に性能が向上している訳では無かったが、それでも絶対防御が発動しない事で被弾しても大幅にエネルギーを削られる事が無くなり継戦能力が上がっている、尤も生存率は大幅に下がっているが。

 

そんなカスタム機だったからこそ彼は致命傷を負い、治療用ナノマシンと失った血液の補充を行なっていた。

 

当然見舞いは来ない、そもそも今回の一戦は彼の独断行動だったのでそのまま見捨てられて居てもおかしくはなかったのだが、やはり男性IS操縦者は価値が高いのだろう。

 

シュウが姉の一刀で負った傷口を撫でながらその痛みと熱に喜びを感じていると、仕事の話でも持って来たのかスーツ姿のスコールが病室に入ってきた。

 

 

「ごきげんよう、独断の末に織斑千冬に撃墜された気分はどうかしら?」

 

「……最高だ」

 

「案の定ね、男の子ならもう少し悔しがりなさいな」

 

「……俺の事はいい、要件を話せ」

 

「はぁ……貴方には暫く潜入してもらう事になったわ、理由はISを失った事に対する罰、というよりも独断行動に対する左遷や降格に近いわね」

 

 

そう言ってスコールは持って来ていた書類の束をシュウへと手渡す。

 

内容は簡単な作戦概要と人物設定、潜入時の偽りの経歴と身分がつらつらと並んでいる物で、その手の教育も十全に施されている彼はその内容に目を通しながらも横目でスコールに続きを促し、自分が偽る人物像を暗記して行く。

 

 

「貴方の潜入先はフランスのデュノア社、そこの社長令嬢のボディーガード兼執事(バトラー)として勤めて貰うわ。目的は獅子身中の虫を作るってところかしら?」

 

「……簡単に近付ける相手では無いと思うが?」

 

「でしょうね、けれど貴方が思うよりも亡国機業(ここ)は小さくないの、不自然なくらい自然に信用できる相手として貴方を送り込む方法はいくらでもあるのよ?」

 

「……了解、認識した」

 

「貴方が回復しだい執事(バトラー)として必要なスキルと知識を習得して貰う事になるわ、期間は一ヶ月」

 

「……なら今から始めるとしよう」

 

 

シュウはその一言と共に暗記した資料を投げ捨て、自分に刺さっている点滴の袋を握って一気に薬液を体内に送ると、そのまま体に刺さる針を引き抜いて足早に退室してしまう。

 

そんな彼の様子に呆れるような仕草をしたスコールも今更規格外の化け物に驚く事は無く、講師役の工作員数名に連絡を入れた後は、用は済んだと言わんばかりに一足遅れてその部屋を出て行くのだった。

 

––––一ヶ月後、燕尾服に身を包んだシュウはオータムが運転する車の助手席に乗り、茶髪に染めてオールバックにセットした髪と、老化による年齢不相応な顔を隠す包帯を巻いた自分をサイドミラーで眺めながら、今回の護衛対象の事を脳内で整理していた。

 

 

––––まずこれから自分が上部だけ仕える相手の名はシャルロット・デュノア、デュノア社現社長アルベール・デュノアの一人娘であり、社長令嬢と呼べる身分ではあるが本妻であるロゼンダとの娘では無い。

 

愛人は既に死亡しているらしく、その後の身元を引き取る形で庶民から一転して上流階級への仲間入りを果たし、それ故に内部で妬み嫉みを受ける事になった、と言ったところだろう。

 

先日アルベールとは面通しを行い、人格に難はあれど実力に問題は無いと判断されて執事兼護衛として雇わせる事に成功している、まぁ娘への暗殺計画が現実味を帯びて来れば腕の立つ護衛は欲しくなるのが人情らしい。

 

もっとも、そうなるように仕向けているのはこちらなのだが。

 

 

「そろそろ目的地だぞ、分かってんだろうな?」

 

「……問題ない」

 

「ケッ、スコールもコイツを護衛に使うより相手側に売り込んだ方が楽だろうによ、オマエもこんな任務よりはそっちの方が向いてるって分かってんだろ?」

「……無駄口が多いな」

 

「チッ、可愛げのねぇガキだ」

 

 

車中で穏やかとはいえない空気を作りながらもデュノア邸に到着した二人は、出迎えの老僕と挨拶を交わした後に邸内に案内された。

 

オータムは本来の荒々しい性格を切り替えてシュウのフォローをするフリをしながら『腕は立つが口下手で不器用な人間』と言う彼への評価を刷り込み、ある程度性格の悪さのカバーと、包帯に関する『酷く焼け爛れて醜い顔』と言う偽の同情話をした後、多少の世間話してからデュノア邸を去る。

 

そしてそのお膳立てと共に彼は当面の護衛対象兼主人である、シャルロット・デュノアと対面するのだった。

 

彼女は人の良さそうな雰囲気を出しながら部屋の中でシュウの入室を待っていたらしく、多少の緊張感がその表情から読み取れるが、シュウはその表情の中に他の感覚が混じっている事を見抜く。

 

––俺と対面する事への緊張感以外に不信感と警戒心か。

 

劇的に生活が変わったのにも関わらずアルベールからのフォローは無しと資料には書かれていた、成る程俺の事を自分への監視か束縛だと捉えているのだろう。

 

氷のような無表情でシュウはそう考えたが、相手が自分にどの様な感情を抱いていたとしてもやる事は変わらないのでそこで思考を打ち切り、軽い自己紹介と共に一礼する。

 

 

「シュウと呼ばれています、本日よりシャルロット様付きの執事として雇われました、どうぞ今後とも宜しくお願い致します」

 

「えっと、シャルロット・デュノアです、それで私付きの執事って? 社長の執事じゃ無いんですか?」

 

「私めからはなんとも、シャルロット様へお従えする様にと雇われた次第でございますので、真意までは知らされておりません」

 

 

この屋敷で働く使用人達は社長であるアルベールの雇った者達であり、基本的には彼が主人なのだが、シュウに関しては表向きは執事であるものの本命は護衛、更にその裏は工作員なので社長令嬢であるシャルロットに張り付いていた方が裏の意味でも表の意味でも()()都合が良い。

 

その為彼はアルベールに雇われているものの最優先はシャルロットであり、彼女からの命令の遂行や身の回りの世話が主な仕事となる。

 

だが、アルベールからはその旨を伏せる様に言い含められているので少々芝居がかった様な口調でシュウは誤魔化した。

 

 

その結果、更にシャルロットの懐疑心が強くなったが、シュウは何処吹く風、ティータイムに合わせて紅茶とお茶受けを取りに行くのだった。

 

 





以降シュウは顔を隠しながらデュノア社に潜伏する事になります。

狙いはシャルロット・デュノアと言うスキャンダルとのコネクションと、落ちぶれ始めはしたもののネームバリューのあるデュノア社が研究・開発中であろう第三世代機の強奪と言ったところでしようか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平穏

 

シュウがシャルロットの護衛として雇われて一ヶ月が経過した。

 

最初は胡散臭い芝居掛かった口調でシャルロットと接していたのだが、その演技臭い喋りを見抜かれてしまい、普段通りの口調で接する様に彼女からお願いされた為、仕え早々に何時もの無愛想に戻ったのだが、それでもなお一定の信頼関係が築けたのはシャルロットの人の良さだろう。

 

彼女は普段から様々な事をシュウに話しかけた。学校の事、ISの訓練のハードさ、ファッションや流行りについてなど、彼が不要と切って捨てて来た瑣末事を楽しげに。

 

普段から生き急いでいる彼からしたら時間の浪費でしか無いのだが、執事として仕事をしている以上その無駄話にも付き合わなくてはならず、最初はその手の話を煩わしく感じていたのだが、最近は不思議とその無駄話に不快感を感じなくなった……相変わらず返事をする事は少ないが。

 

 

そして今はシャルロットの通う学校の前に車を止め、彼女が下校してくるところを待っていた。

 

 

「ごめんシュウ、HRが長引いちゃって……待った?」

 

「……五分遅刻だが、別に構わない」

 

「あれ? 珍しいね、シュウは時間に厳しいのに」

 

「……無駄話はそこまでだ、早く乗れ」

 

「はーい」

 

 

助手席のドアを開けながらむすっとした雰囲気を出してそんな事を言う執事にシャルロットはくすりと笑いながら席へと座る。

 

恐らく子供っぽいなぁとでも考えてるんだろう、からかうような柔らかな雰囲気がそれを物語るのだが、それに反応しては彼女の思うツボなのでシュウは無言のまま車を発進させた。

 

そのまま暫く道を走っていたのだが、反応しない為に普段以上にむすっとしたシュウの様子に思いの外拗ねてる事に気が付いたシャルロットはここぞとばかりに彼をからかい始める。

 

 

「シュウってさ、私より五つ上なのに変に子供っぽいとこがあるよね」

 

「……そんな事は無い」

 

「ほらムキになってる」

 

「……それは気のせいだ」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 

柔らかな笑顔を浮かべながら横顔を覗くシャルロット、比較的年齢が近いと言うのもあるんだろうが、シュウの人となりを知って放っておけないと言う母性のようなものが生まれていたシャルロットは自分が思っている以上に彼へ心を開いていた。

 

父からの監視の可能性は捨てられないにしても、シュウは完璧主義に近い気質を持っている為、もしそうなら授業中や就寝中などの私生活も監視されてる筈。

 

しかし自分の気が付く範囲内ではその気配が無い、部屋を調べて盗聴やカメラの類いも調べたがそれも無かった。

 

だから彼女はひとまずは信用できる執事として彼を受け入れた、警戒しつづけるには非常に疲れる相手であり、いっそ歳の離れた友人として接した方が気楽で良い。

 

肩の力を抜いて大きな子供の相手をしていたシャルロットだったが、シュウは逆に姿勢を正しながらバックミラーに視線を向けていた。

 

––––後方にスモークを貼った車が一台、影の動きから追跡者は2名と言ったところか……思いの外行動が遅かったな。

 

シャルロット暗殺計画、自分を潜り込ませる為に密かに燻っていたそれを組織の連中が焚きつけたのだが、直接的な手段はこの一ヶ月一度も無かった。

 

毒殺やその手の方法に関してもシャルロットの行動範囲内では確認できず、このまま無駄に平和ボケしていくかと思っていたところだから丁度良い。

 

スモーク越しの影が後部座席から銃を取り出した事だし、向こうが白昼堂々と襲撃してくるのなら、俺も堂々と仕事をさせて貰うとしよう。

 

 

「……シャルロット、シートに掴まれ」

 

「どうしたのシュウ?」

 

 

困惑するシャルロットに答えたのはシュウの返事では無く、後方から放たれた銃弾によって車のガラスが破壊される音だった。

 

代表候補生として訓練されている彼女は反射的に頭を下げてその銃撃をやり過ごしながらシュウの顔を見上げたのだが、当の本人は全く銃撃を気にしておらず、シャルロットの安全を確認した後、アクセルを踏み込み一気に街中を駆け抜ける。

 

そして懐に隠していた銃を引き抜き、まず蜘蛛の巣状にひび割れていたフロントガラスに発砲してガラスを破壊して視界を確保し、バックミラーを使って後方の様子を伺う。

 

襲撃者は二人組、 人目に付く上に派手過ぎるこの襲撃は正直シュウからしたらお粗末とすら呼べない物であり、本命では無いだろうと彼は判断していた。

 

目的は精神的追い込みだろう、常に死の危険が付きまとう生活という物は正常な精神をしている者にとっては苦痛以外の何者でもない。

 

手に取るように分かる相手の思考を鼻で笑った後、シュウはバックミラーを見ながら後方に銃を向ける。

 

ただの殺し屋如きに遅れを取る気は無い、IS戦の強さばかりを組織に買われているが白兵戦も最強の一角である以上、こんな得るものも無い三下には関わっているだけ時間の無駄だ。

 

シュウは照準を定めて引き金を引き、ボンネットの留め具を撃ち抜いて開かせて襲撃者達の視界を奪うと、身を乗り出して発砲していた助手席の男の肩を撃って落車させる。

 

続けてタイヤを撃ち抜いて追跡能力を奪い、他の追跡者が居ない事を確認したシュウはそのまま帰路に着いた。

 

「……さて、三分四十秒も帰宅時間が遅れてしまったな」

 

「は、はは、シュウはこんな時も時間厳守なんだ……」

 

「……時間は有限だ、無駄にはできん」

 

 

襲撃者を何事も無かった様に撃退した彼の口から漏れた言葉は酷く切実な感情を含んだ物であり、包帯越しにもかかわらず悲しい顔をしていると何故かシャルロットは感じたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

表舞台

シュウがシャルロットの護衛兼執事としてデュノア社に潜入して一年が経過した。

 

あの襲撃以降シャルロットはシュウへの警戒を解き、信頼を寄せてくれているのだが、対するシュウはその信頼に応える事無く常に一定の距離を保っている。

 

彼の事を兄の様に慕い始めたシャルロットからすればそれは不満な事だったが。

 

シュウも彼女の不満には気が付いているのだが、この一年で薬の量が増え、それに伴う副作用が更に強く現れる為他人に構っている余裕など無い。

 

現に今も与えられた部屋のベッドの上で薬の効果切れによる激痛でのたうちまわるのを堪えながら横たわっている、普段ならば寝起きと共に服薬する事で薬効の切れ間を無しているのだが、肉体の老化が進む事で効き目が薄れてしまい、時折この様な地獄の朝を迎えるのだ。

 

 

朝食の用意をする時間まで後五分、シュウは枕元に置いてあったピルケースに手を伸ばしたが、震える指の所為で上手く開ける事が出来ない。

 

もたつけば当然時間が掛かり、遅刻すれば誰かが様子を見に来るだろう、そうなれば自分のザマを確認されて病院行きになる、そして待っているのはモルモットか標本化の二つのみ。

 

––––織斑一夏の評価を終えた後ならばともかく、そんな結末はぞっとしないな。

 

 

自嘲するようなか細い呟きを誰に聞かせる訳でもなく呟いた彼は、枕元のピルケースを床に落として衝撃で蓋を開けて、這うようにして散乱した錠剤を口に入れて行く。

 

用法容量と言う言葉を無視した乱雑な服用だったが、その甲斐あってかなんとか彼は身体を動かせるようになり、ベッドに背中を預けながら呼吸を整えると、フラつく身体を立ち上がらせて着替えて行った。

 

 

––––シュウがこの屋敷で働く様になってからはシャルロットへの料理は彼が作っている、これは毒殺を警戒しての事なのだが、最初の頃は非常に不評であった。

 

何故なら彼は食事という行為すら時間の無駄だと切り捨て、パウダータイプの完全食で栄養を補っていた為味や食感など一切考慮していない。

 

なので出された料理がその手の味を考慮していない完全食しか無かったのだが、それに対するシャルロットの猛抗議によって一応は普通の料理を作っている。といっても、フランスの朝食は甘い菓子パンとカフェオレ等で軽く済ませるのが一般的なのでさほど難しい物でも無いのだが。

 

そんな問題児の彼が朝食の用意をしていると何やら厨房の外が騒がしくなってきた、というよりも足音がこちらに向かって近づいて来ている。

 

反射的に包丁に手を伸ばしたシュウだったが、音の軽さと歩幅から向かってくるのはシャルロットだろうと判断し、作業を続行しようとしたのだが、その前に厨房の扉が開かれた。

 

 

「はぁはぁ、シュウ!! 今朝のニュース見た!?」

 

「……いや、まだだ」

 

「い、今、日本でISを使える男の子が見つかったんだって!!」

 

「……名前は?」

 

「へっ?」

 

「……そいつの名前だ、実名報道はされてないのか?」

 

「あっ、ごめんね? 確か……織斑一夏って言ってた様な」

 

 

その名前を出した瞬間、背を向けたままで微塵も興味がなさそうだったシュウがシャルロットへと振り返り、その目を真っ直ぐに睨みつける。

 

視線の中には『本当だろうな?』という無言の圧力が込められており、それに呑まれたシャルロットは必死で頷く事しか出来なかった。

 

「……そうか、そう来たか」

 

「しゅ、シュウ?」

 

「フッ、フフフッ、アーッハッハッハッハ!!」

 

 

殺気にも似た雰囲気を出していたシュウがそれを四散させたと思ったらいきなり笑い出した、側から見ていたシャルロットは唐突に気でも触れてしまったのかと思わず困惑してしまう。

 

彼を知る者ならば、また身内に対する狂気的愛憎が発現しただけだと察せるのだが、この屋敷に来てからはマドカとも合わなくなったおかげでこの様な姿を人前で見せる事は無かった為、彼女の困惑も当然と言えば当然である。

 

 

「シャルロット!! 俺は今非常に機嫌が良い。どうだい? 今日は君も休みだし、二人で出かけないかな?」

 

「う、うん、私は別に構わないけど……」

 

「そうかそうか!! ならば朝食を終えたら直ぐに行こう!! 時間は有限だからね?」

 

 

嫌に上機嫌で饒舌になったシュウからのデートのお誘い、普段のシャルロットなら身近な異性からのお誘いとしてそれなりに意識はしただろうが、自分が知る始めての彼に恐怖と困惑の中間の様ななんとも言えない感情を抱いていた為、その様な甘い気持ちには浸れなかった。

 

尤もそんな彼のハイテンションもシャルロットが食事を済ませている間にクールダウンされたのか、彼女が彼の車に乗る頃には普段の無口に逆戻り、彼女は『さっきのはさっきので新鮮だったのになぁ』と内心で思いながらも助手席に座る。

 

「ねえシュウ、やっぱりシュウも男のIS操縦者が見つかって嬉しかった?」

 

「……そう言う事にしておこう」

 

「もう、素直じゃないんだから」

 

 

そんな会話を交わしながらも二人はそれなりに楽しみながら街中を回って行く。

 

最初は若干不安を抱えていたシャルロットだったが、シュウは服を選べばちゃんと意見をくれるし、自分の好みを把握してくれているのかそれに合わせた小物も選んでくれる、買い物が終われば何も言わずに重い物を持ち、車道側を歩きながら自分に歩調を合わせてくれる、更に言えば年上の包容力に似た気の使い方でしっかりとリードしてくれるので、最初の不安とは裏腹に存外に楽しかった。

 

しかし一方のシュウはというと、潜入に際してスコールによって女のリードの仕方と言う物を面白半分で教え込まれており、それに沿った行動をしているに過ぎない為、彼本人は楽しむ楽しまない以前に何も感じていない。

 

少なくとも彼女と行動するという時間の浪費は許せる範囲のものであり、特段不快に感じる物ではないと言う程度だ。

 

今回のデートにしても、彼の目的が今後行われるであろう二人目探しとそれに伴う生活の変化の為に日用品を買い揃える事であり、護衛対象を放置して買い出しに行けないからついでにデートをしているに過ぎない。

 

なんとも言えないすれ違いではあったが、無事に楽しい時間を過ごした二人はその後ものんびりとした時間を過ごしたのだった。

 

 

その後、フランスで二人目の男性IS操縦者が発見される事になり、シュウは表舞台へ上がる事になる。

 

 

––––ふぅん、コイツが二人目なんだ? いっくん以外にも居たんだねぇ、化け物が。

 

だが、それと同時に一人の天災にも目を付けられた。

 

 

––––どれどれ……へーほーん、『個体番号PMーS10。テロメアに異常をきたした失敗作。急速な老化による短命、あらゆるスペックが千冬に匹敵するも、その短命さは究極の人類としてはあまりにも致命的な欠陥である』ねぇ……。

 

私からしたら、無駄に長寿になった所為で無能な人類が増えすぎたんだから? あっさり老化してぽっくり逝った方が賢いんじゃないかなぁ? そういう意味では彼は究極の人類にふさわしいね、何せ頭の固い老害とか漫然と生きてるだけの有象無象に比べて無駄無く生きてるだろうし?

 

それにしてもねぇ? 生身でISを撃破出来るなんて私も思わなかったなぁ、うーん私もまだまだ常識を捨てられてないって事なのかな?

 

 

天災の前に映し出された映像には、当たり前の様にハッキングした亡国機業の持つパーソナルデーターと戦闘記録が映されている。

 

最強のラファールとしての戦歴と生身でISを打ち破った手腕、天災の興味を引くには十分過ぎる材料出会った。

 

––––うんうん、シュウくんだからしーくんに決定!! 近々逢いに行くからね、しーくん?

 

 

そんな風に、まるで()()()()()()()()()()()()()()天災は一人笑うのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

専用機

クッソ久々に投下。


 

 

織斑一夏の一件以降、全世界で同時に行われた調査にてISを起動出来る二人目の男として表舞台に立つ事になったシュウは、現在デュノア社の持つ研究所に顔を出していた。

 

目的は自分の専用機となる新たなラファールの受領と塗装や装備の要望、正直なところISによるテロ活動やそれに伴う対IS戦の経験がある以上どのような機体に乗せられても十全に使い熟す自信を持っている彼からすれば、それこそ時間の無駄でしかないのだが、様々な理由を建前にしてでも男性操縦者のデータが欲しいのだろう。

 

彼は自分の正体に繋がるパーソナルデータ等の提出は拒否してはいるが、それの代償としてその部分を除いたあらゆるデータが観測される、今回の呼び出しもその為の物だ。

 

 

「やあやあ我が社の救世主どの、よくぞここまで来てくれましたな、我々一同貴方様の到着を––––」

 

「……本題に入れ、時間の無駄だ」

 

 

シャルロットの護衛として雇われていた彼はその都合もあり、そのままデュノア社に囲われる様な形でなし崩し的に専属の操縦者として再雇用される事となった、いや正確には結果が出た瞬間に迅速に雇用条件の見直しと再契約を行ったと言うべきだろう。

 

マスコミが追加報道するよりも早く二人目の身柄を抑えたデュノア社は、それを盾にするかの様に政府と交渉を行いつつも支援の約束を取り付けた為、それまでの冷遇から一転して予算も潤沢になった。

 

それ故に研究所に足を運ぶ度におべっかを使う開発者連中にシュウは軽い嫌悪感を抱く、その一言一言が既に時間の浪費でしか無いのだから。

 

顔を隠す包帯の下から覗く射殺すような視線にたじろいだのか、出迎えた男は冷や汗と共に顔を逸らして手に持つ端末を操作する。

 

 

「こ、今回は君の要望通りにカスタムしたラファール・リヴァイヴ・カスタムⅠの装備をチェックして貰うのが目的だ」

 

「……深紅の塗装は?」

 

「無茶を言うな!! あの忌々しい紅の所為で我が社にどれほどの被害が出たと思うんだ!! 世間ではラファールの紅は鮮血の紅だと揶揄されるほど、後ろ指を刺される物なんだぞ!!」

 

「……ふん、なら目立つ色にしろ」

 

 

かつての搭乗機に愛着など無いが赤い色は良く目立つ、自分の存在を証明する事の出来る色だとシュウは感じていた為、専用機のカラーリングを要望したが残念ながら通らなかった。

 

仕方がないので二番目に目立つ色として金色を選び、それの通りに塗装されて行く機体を一瞥した彼は、手渡された資料の内容を頭の中へと入れて行く。

 

以前使用していた機体はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡであった為か、それなりの差異はあるものの基本的な操作感までは変わらないはず、乗り慣れないと言う事は無いだろう。

 

資料に一通り目を通した彼は今しがた読み終えたソレを通り掛かりの職員へ押し付けると、腕を組みながら塗装の完了を待つ。

 

今回自分の乗る機体はカスタムⅠ、大幅な改修がされたカスタムⅡに比べて攻撃・防御面に劣るものの、コンセプトは機動性重視。

 

迅速且つ的確な一撃を叩き込む事が出来るのなら、対IS戦においては無数の武器など不要だとこれまでの経験から感じていた彼は自分の機体の武装にそれを取り入れた。

 

まず機動性・運動性を手に入れる為に装甲の軽量化とスラスターを増設、初期装備(プリセット)にはブースターを取り付けた三角錐型の大型シールドと、同じく刀身を射出出来る大型ランスの二種類を装備、後付武装(イコライザ)には申し訳程度に超近接戦用に搭載されたハンドガンとショートソードが一対とカスタムした盾殺し(シールド・ピアース)のみ、拡張領域(バススロット)の残る全ては推進剤と弾薬の積載に使用されている。

 

射撃兵装は一応ランスの縁に搭載されたマシンキャノンがあるにはあるが、装弾数と連射力を重視した射程・集弾率が劣悪な代物、もう一つのハンドガンも普通の装備の枠を超えたモノでは無いので超攻撃型のISに仕上がった。

大型シールドを構えながら超高速で吶喊し、ランスやパイルバンカーで相手を叩き落とす、以前の多彩な装備に比べて非常に簡素な物になった理由は彼の身体にある。

 

ズキリと走る心臓の痛み、肉体の不調がここ最近余計に酷くなった。

 

シュウは人知れず胸を押さえながら痛みを堪える様に拳を握る、デュノア社に潜入してからというもの、碌な延命治療を受ける事が出来ていない事が要因だろう。

 

コレが意味する事、それは即ち……。

 

 

(––––織斑一夏(きょうだい)が見つかった事で最早俺は用済みと言う事か)

 

先が無く、独断専行を繰り返す金の掛かるモルモットか、完全にデメリットの無いモルモット、選ぶなら断然後者。

 

 

(それならそれで構わん、どの道俺は生きる事を許されていない失敗作、織斑一夏(きょうだい)の器を測った後ならなんの未練も無く死んでやろう)

 

 

遠く離れた島国に居る己と同じ顔を持つ織斑一夏(きょうだい)、そんな彼への愛憎入り混じったドス黒い炎が胸中に宿ったからか、身体の痛みが幾らか引いた。

 

それと同時に塗装が終わったらしく、彼は格納庫へと向かって歩き出すのだった。





亡国機業からは一応延命用の薬は送られて来てますが、たったそれだけなので普通にガリガリ寿命が減ってます。

そのせいで顔も……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学

–––––気まずい、それがIS学園と呼ばれる女の園に入学する事になった織斑一夏の感想だった。

 

男女比1:9、全校生徒の中で男子と呼べるのは自分と二人目だけ、異性からの奇異の視線を受けながら平静など装えない。

 

二人目と会話をして気を紛らわそうとしてもその本人は周囲の目線など気にも止めていない、それどころか話しかけている金髪の少女との会話ですら無言を貫いている。

 

彼女の様子からすると知り合いらしいが、身近な人との会話すらしないような寡黙な男に話しかけても返事が返って来ることは期待出来なさそうであり、自分以外の男子生徒は四つ年上の彼だけである以上今後の人間関係を円滑にする為にも下手な事はしない方がいい。

 

そんな風に、一夏が話しかけたい衝動を堪えながら居辛さを感じていると、その二人目が近付いて来た。

 

 

「……織斑一夏だな?」

 

「あ、はいそうですけど……えっとシュウ・スプリングスさん、ですよね?」

 

「……敬語は不用だ。()()()()()()()()、今後とも宜しく頼む」

 

「あ、ああ!! こっちこそよろしくな!!」

 

偽名を名乗りながらシュウは一夏に近付いて握手を行う、コレは彼自身が一夏との接触の機会を狙っていた為だ。

 

(マドカ)の時は明確な殺意を向けられていたので、それに乗ればコミニュケーションが自然と取れていたのだが、肝心の(一夏)は彼女に比べて非常に大人しく、こちらから行かなければ接点が生まれない。

 

それともう一つ、彼の人生において身内と呼べる存在は同じプロジェクトから作り出されたきょうだい(同族)のみ、愛憎入り混じった複雑な心が話のきっかけを作り出せずに悩んでいる弟を放っては置けなかったのだろう。

 

 

「もう!! さっきからずっと話し聞いてないと思ったら……いきなりごめんね? 織斑君、シュウはちょっと無愛想なところがあるから」

 

「いや全然大丈夫、むしろ話しかけてくれて助かったくらだ。……んで、その」

 

「あ、ごめんね? 私はシャルロット・デュノア、シュウとは−–––」

 

と、シャルロットが自己紹介をしようとしたところで副担任である山田真耶が教室に入って来た為、彼女は一旦話を打ち切って自分の席へと戻る。

 

その際、ほんの一瞬だけシュウの目が山田真耶の顔を見つめていたのだが、それはシャルロットの洞察力を持ってしても察知出来ないほどの刹那であり、目に映った色も値踏みをする様な物だった。

 

 

(––––山田真耶、以前打鉄を強奪した時に交戦した女か)

 

シュウは以前戦った彼女の事を思い出そうとしたものの、手傷すら負う事無く圧倒した彼女を気にする事そのものが時間の無駄だと判断、無言で着席する。

 

その後は騒がしい自己紹介を無心で聞き流して居た彼だったが、遅れて教室に入って来た担任を見た彼は思わず喜びのあまり悲鳴をあげそうになった。

 

敬愛(憎悪)している織斑千冬(ねぇさん)、それが自らの担任であると言う事は常日頃から彼女の全てを見る事が出来ると言う事。

 

千冬()一夏()が同じクラスであり、最低でも今年一年間はいつでも会える、同胞に対する激情に突き動かされ、今すぐISを起動して一夏の真価を図りたい衝動に駆られるが、先程の握手で彼はまだ原石のままなのだと察していたため、拳を血が滴るほど握りしめて漏れ出しそうになる殺気を抑え込む。

 

次の休み時間には一夏が知人である少女と教室の外へ出て行った為、一旦シュウはため息を吐いて気持ちを落ち着ける。

 

そんな時だった、シャルロットが他のクラスメイトと会話をしている間に一人の少女が彼の元へ来ていた。

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

話しかけた少女の名はセシリア・オルコット、嘗て彼が殺害したオルコット夫妻の忘れ形見である。

 

本来ならば淑女である彼女は目上の人間には敬語を使う、しかし所謂女尊男卑の考え方に毒されている為か四つ上のシュウに対して高圧的に話しかけて来た。

 

彼自身は特に彼女と話す事は無い、そもそも護衛対象のシャルロットとすら会話のキャッチボールを成立させる気が無い以上、初対面の彼女と会話をする事などあり得ない。

 

第一彼は彼女からすれば両親の仇、真実を知ればまず間違いなく敵対する事は目に見えている上、シュウ本人も人を煽る物言いしか出来ない為、当時の所業をうっかり喋ってしまう可能性もある。

 

故に彼は意図的に彼女を無視して目を瞑る、耳から入ってくる彼女の声は意識しなければ問題ない。

 

だが、プライドの高い彼女はシュウの態度が気に入らなかったのだろう、無視されている事を悟るや否や彼の正面へと回り込んで抗議をしようとしたのだが、その前に彼が立ち上がり、殺気を込めながらセシリアを睨み付けて黙らせると、そのままトイレへと向かう。

 

包帯によって隠れた顔色は青白く、素顔を晒せば誰もが体調不良を察せるほど苦悶に歪んでいる、人目につく所でこの様なザマを見られるのは不都合であり、それを誤魔化す為には急造された男子トイレへと行くしか無かった。

 

 

(––––今朝も薬を服用したにも関わらず発作が起きたと言う事は……今の薬では効かなくなるほど状態が悪化していると言う事だ)

 

 

包帯を取りながら素顔を晒す、入学の際は亡国機業のエージェントを通じて様々な偽装工作を行った為、顔の秘密はバレなかったが、その様な事をしなくても千冬()以外には自分の出自は知られなかっただろう。

 

何故なら既に彼の顔は書類上の年齢よりも遥かに年上になっており、それは彼自身の抱える欠陥が徐々に重度の物へと進行している証拠だった。

 

 

(––––––俺は後一年も生きられまい、時を刻み始めた砂時計を止める事は誰にも出来ないのだからな)

 

 

老化した自分の顔を忌々しく睨みながら彼は懐の薬を服用した後、身体の不調が落ち着くまでその場に座り込むのだった。

 





シャルロットは男装が不要なので一人称は私のままです。

そして主人公の顔は急速に老化して最早三十代半ば、身体も衰え始めてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラス代表

––––それは、授業が始まる直前に織斑千冬が零した一言が発端だった。

 

再来週から始まるクラス対抗戦、その代表者を決めねばならないと言う話なのだが、その際にクラスの大半が織斑一夏を指名したのである。

 

理由は少し考えれば分かる。『同年代の男子であり世界で二人しか居ない男のIS乗りだから』たったそれだけの理由。

 

だが、この指名に異議を唱えたのがイギリス代表候補生のセシリア・オルコットだ。

 

彼女からすれば男性がクラスの顔と言う時点でも業腹なのだが、それ以上に織斑一夏の致命的な知識不足を目の当たりにしてもなおその様な選出を行った者達にも怒りが募っていた。

 

直前の授業で彼はその内容に着いて行けていなかった。これは元々別の学校へ進学する予定であり、IS関連の知識を必要とする進路を取っていなかった点を考慮しても必読書である参考書を読まずに捨ててしまう様な認識の甘さが原因なのは明らかである。

 

彼がISを起動した今回の一件は確かに事件とも言える出来事であり、同情する気持ちも彼女の中には無いわけでは無いのだが、それを差し引いても典型的な女尊男卑主義者彼女の目には粗が目立ってしまう。

 

「––––いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 

更に言えば、彼女は専用機を持つ代表候補生。 シュウの付き添いで入学して来ているフランスの専用機持ちであるシャルロットが選出されているのならばともかく、自分を差し置いて素人をクラス代表に選ぶなど正気の沙汰とは思えない。

 

怒りと高い自尊心が相乗し合って昂ぶった感情は徐々に過激な内容の言葉を口にし、不満とストレスの溜まっていた一夏を刺激する。

 

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない事自体、わたくしとっては耐え難い苦痛で––––」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。 世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 

売り言葉に買い言葉、こうして二人の口論は熱を帯びるのだが、その様子を見ていたシュウは果たしてどうした物かと頭を悩ませていた。

 

彼は一夏と違い推薦されなかった。年頃の少女達にとってコミニュケーションの取り辛く、包帯で顔を隠した青年と言うのは中々気安く触れられる物では無かったのだろう。

 

その結果割りを食ったのは一夏だったのだが、彼本人はこのクラス対抗戦に出ても良いと考えていた。

 

勿論、クラス代表になれば生徒会の開く会議や委員会への出席といった時間の浪費をする事になるのだが、織斑千冬()のメンツを保てると考えるのならば悪くない。

 

そして、この選出には拒否権が無い。 つまり選ばれてしまった一夏()は代表選出の為に他の相手と強制的に戦う事になる、手っ取り早く彼を鍛えるのならコレを利用する手は無かった。

 

もう一つ、彼がこの対抗戦へ出る理由を付け加えるとすれば––––様子見をしている間に一夏に対してまるで笑い者にする様な物言いをするクラスメイト達から血の気を引き抜いてやろうと言う冷酷且つ加虐的な思考。

 

男であると見下す事には何の感慨も湧かない、しかし彼を笑う事はその為に散ったきょうだい(我々)を笑う事と同じ事、到底許せる物では無かった。

 

一瞬、自分を推薦するだろうと考えていたシャルロットの方を見たのだが、彼女は二人の喧嘩の仲裁を行なっていた為期待出来そうにない。

 

それ故に、余計な事を言ってしまうと分かりながらも彼は手を挙げた。

 

 

「––––なら、俺も出ようじゃないか。一夏が出ているのだから同じ男である俺も出ない訳にはいかないだろう?」

 

「ふん! 素性の知れない貴方もですか、身の程知らずとはこの事ですわね。 ハンデは必要かしら?」

 

「……必要無い。 しかし皮肉だな、セシリア・オルコット」

 

 

嘲笑するようにセシリアを見るシュウ、その彼の表情を見てシャルロットは嫌な予感を感じ、咄嗟に彼を宥めようとしたのだが、残念ながらその仲裁は間に合わない。

 

 

「––––貴様の両親はISによるテロによって殺害されているそうじゃないか、そんな貴様がISを憎まずそれに乗ってあまつさえそれを誇っているのは非常に滑稽な事だが、それ以上に愉快なのは俺の専用機もラファール・リヴァイヴなのだよ。 確か深紅のラファールが貴様の仇だったな? 貴様との試合では紅く塗装してやろう。 安心しろ、サービスだ」

 

かつて最強の名を欲しいままにして来た最恐最悪のテロリスト、ラファールの赤い塗装をタブーにするほど暴虐を尽くした『死血の深紅(ブラッディー・マリー)』によるオルコット夫妻の殺害。

 

古傷を抉った上にそれを嘲笑うかのような挑発を行ったシュウに対し、一夏やクラスメイト達への怒りがかき消されるほどの激情に駆られたセシリアは、シュウの発言に絶句した一夏を無視しながら彼へ詰め寄り、襟を掴んで包帯越しの見下した目を睨みつける。

 

 

「貴方はッ!! 貴方と言う人はッ!!」

 

「……時間は有限だ。俺は貴様の怒りに付き合うほど暇じゃないんだよ」

 

「人を煽る様な言い方をしておいて何を偉そうに……ッ!!」

 

「……事実じゃないか。何時までも両親の死を引きずり、その為に牙を研いだのだろう? にも関わらずこんな平和ボケした国で学ぶ屈辱が許せない、ククッお前の内心は手に取る様に分かる。 だが、一つ言わせて貰うならば貴様のその感情は時間の無駄だ、死んだ人間など何の価値も無い生ゴミに過ぎない。 いつまでもそれに囚われている事自体が人生の浪費なんだよ」

 

「シュウ!! もうその辺で––––」

 

 

人の尊厳を踏み躙る様な発言をし始めたシュウを止めようと、シャルロットが立ち上がった瞬間、乾いた音が教室に響き渡る。

 

それは怒りを通り越して殺意を目に宿したセシリアが振り抜いた平手、出来る事ならばこの手で八つ裂きにしたいくらいの殺意なのだが、ISを用いた戦いが控えている以上そちらで思い知らせてやればいい。

 

「––––楽しみにしていてくださいね、貴方は私がいたぶり尽くして差し上げますから」

 

「……やれるものなら、な」

 

 

その後に及んでの挑発、セシリアは泣いて謝ったとしても彼を許さないと決め、同時にどう血祭りにするかを考え始めた。

 

 

––––だが、彼女は知らない。彼こそがまさに自身の怨敵である事を。

 




途中から一夏は冷や水ぶっかけられたくらいシュウの発言にドン引きしてるので口を挟めませんでした。

シャルロットは止めようとしたけど間に合わなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。