真・恋姫†無双 秋の夜長の夢 (shizuru_H)
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1話 自動販売機に触れて

…騒々しい音が聞こえる。

 

今までに聞いたことが無いような音だ。

戦の先陣に立った時のような音の大きさだが、今はそんな時代ではないはず。。。

 

ズキッ

 

「っつ」

痛む頭を抑えて、体を起こしてみる。

その時に初めて自分が寝ていたことに気づく。

 

じゃり。。

体を支えるために着いた手が冷たい。石畳のような感触だが、石畳とは思えないほどに表面がきれいだ。

その上、継ぎ目もない。

周りを見渡すと森なのか木が連なっている。

そして気づく。空が黒いのに、周りがはっきり見えていることに。

周りを見渡すと灯りが、高い位置に置いてあった。しかし行灯でもなければ見たことのない光だ。

揺らめきもしないその光を見ながら呟く。

「我が名は夏侯…淵。真名は秋蘭。」

確かめるように、一つ一つ噛みしめるように。。

 

なんとか立ち上がり、近くにあったベンチに腰掛けるとだんだんと周りが見えてくる。

祭りのように明るい夜。

それなのに人の気配の感じられない静寂。

見たこともないような遊具?らしきもの。

遠くからは聞いたこともない低音。

「ここは一体。。。」

 

キコ…キコ…

 

揺れるベンチに体を預けながら考える。

しかしいくら考えてみてもここがどこだか分からない。

ふむ、今朝までは普通に過ごしていたはずだが、どうも夕方からの記憶が曖昧だ。

昼過ぎに姉者に強引に街に連れ出され、城に戻った後華琳様に今後の事を相談。

風に軍備を相談され、部屋にて書類整理。。。

「ふっ」

とりあえず記憶喪失にはなっていないようだ。

仲間の顔を思い浮かべられたことで、少し安心できた。

一瞬でも仲間を、愛すべき二人の顔を忘れるなど、耐えられそうにない。

 

「愛する人か。。」

 

星も見えない空を見上げて、一人の青年を思い出す。

私が興味を持った男、私の愛する人の手助けをしてくれた男、くだらないことで笑いあえた男、

愛する人たちが愛した男、愛している国が愛した男、

存在をかけて私を助けてくれた男、そしてありがとうを言わせてくれなかった男、

きっとまだ愛している男。

 

「北郷…一刀」

 

 

 

 

あれから一年経った。

あれからというのは、天の御使い事北郷一刀が現世に帰ってきてからだ。

驚いたことに現世での時間はたいして経っておらず、学校に遅刻するぐらいで済んだ。

それからはあの世界を忘れないように鍛錬したり勉強したりで気づけば、フランチェスカを卒業していた。

俺は卒業し、大学生になった。

1人暮らしをしながら、学業に勤しむ毎日。

特に変わりはなく、今日も昔を思いながらの平凡な日々の欠片だと思っていた。

 

帰ってきてから鍛錬の他に日課ができた。

夜の散歩である。

昼間の喧騒は魏の国とは桁違いに大きく、ここが魏ではないのだと強く意識させられるが、夜の静けさや不気味さは似たものがあり、郷愁もあってか気が付けば日課になっていた。

最初のころは不振がられたが、トレーニングだと言えば何となく納得してくれた。

 

1人暮らしのアパートからは、若干山付近にある公園。

そこが最近のお気に入りの散歩コースだった。

山が近いこともあってか、自然が豊かだし、散歩コースが整備されるぐらいの大き目の公園だから鍛錬にもちょうどいい。

 

ということで今日も、のんびりと歩いていた訳なんだけど、

 

きこっ、、、きこっ、、

 

「ひっ!」

 

一瞬心臓が止まるかと思った。

だって夜中にブランコが揺れてるんだもん!

そりゃ今までだって風で揺れることはあったけど、明らかに人が座ってるし!

秋にもなろうかという夜は冷え込む時間帯に人がブランコで遊んでたら怖いって!

しかも逆光のせいか顔はよく見えないけど、シルエットからして女性っぽいし。

失恋して、意気消沈状態です。とか言われても困る!!

 

…と言う訳で何も見なかったことにして帰ろう。

い、一日ぐらい日課やらなくてもOKだよね。。。

 

そう言って身をひるがえした瞬間、体が硬直した。

 

「愛する人か。。」

 

そう言って呟いたのは、ブランコに座る女性だろう。

綺麗な声だ。

だがそれ以上に懐かしい声。

聞きたい聞きたいと願って、忘れないように夜彷徨うぐらい懐かしい声。

よく見れば恰好も少しおかしい。

どちらかと言うと、昔の人、特に昔の中国大陸で着られていそうな服。

「しゅ。。」

 

まさかね。そんなことあるはずが。。

 

「北郷…一刀」

 

ビクッ、

ぱきっ

 

お決まりのごとく小枝を踏んでしまったらしい。

だって仕方ないだろう?いきなり自分の名前が呼ばれれば、それはねぇ。。

 

「誰だ!」

 

反射的に叫んだのであろうその声が、一瞬弓を探そうとした仕草が…ないと分かり徒手空拳に切り替えたときの型が…

すべてがここにいないはずの人を思い出させた。

 

「しゅう。。。らん?」

 

 

 

「誰だ!」

 

横からの音に対して、条件反射的に弓を構えようとするが、手が空を掴む。

人の気配を感じ取れないほどに動転していたらしい。

あまり素手は得意じゃないんだがな。

相手は構えていないところを見ると、敵ではないのかもしれない。

暗闇で顔は見えなかったが、その男はなぜか私に近づいてきた。

おそろしい言葉を放ちながら。

 

 

「しゅう。。。らん?」

 

途端に体が動かなくなった。

真名は、心許した者にしか授けぬ名前。

逆に言えば授けた者は多くなく、そう呼んでくれる者の声は大体頭に入っている。

一年間呼んでもらっていない声だ。。。

でも、そんなはずはない。だって彼は天の国に、帰ってしまったのだから。

 

だから、きっとそんなはずはない。

きっと夢だ。

でも、もしかしたら。

 

「かず、と。。?」

 

 

 

その声を聴いた瞬間駆け出していた。

「秋蘭!」

思いっきり抱きしめる。

「えっ?え?」

記憶にある凛々しく冷静な顔はなく、鳩が豆鉄砲をくらったような。

更に言えば春蘭に、小難しい話をして暴れだす手前のような。

そんな驚愕に彩られた顔が、徐々に泣き顔へと変わっていく。

「本当に、本当に?」

疑問と安堵と歓喜とに彩られてそれはもうぐちゃぐちゃだった。

 

 

 

 

「忘れてくれ。。」

そういう秋蘭の顔は赤く、耳まで赤く、とてもとても可愛かった。

でもそれを言ったら間違いなく鉄拳が飛んでくるので、言うのはやめた。

 

「その恰好では寒いだろ?とりあえずジュースでも買ってくるから待ってて」

ぐいっ

「「えっ?」」

二人の声が重なった。裾をつかんだ本人も驚いていることから望んだことではないのだろう。

「いや、すまない」

そういう秋蘭の手は少し震えているように見える。

本人の意思に反して、指を離せないようだ。

ぎゅっ

そんな震えを隠すように俺は秋蘭の手を掴み立たせる。

「二人でいこっか」

心細いとかいろいろあるだろうけど、何より自分自身も出来るだけ触れていたかった。

 

「なんだこれは。。?」

まぁ言うとは思った。

七色に光る不思議な箱、24時間営業の頑張る子!日本人で良かったと思う便利屋さん!!

つまるところ自動販売機にあの夏侯淵が慄いていた。

財布から小銭を取り出し入れると

「いらっしゃいませ!」と声を出してくれる最新機!

そんな機能よりsu●ca対応してくれ。。。

「秋蘭って何が好き?って言ってもわからないか、とりあえずはこれで」

ココアを選択。女の子ならきっと好きなはず。

がたん!びくっ!

あの冷静な秋蘭が挙動不審になっている。まぁそりゃそうか、俺だってそうだったし。

かこっ

「とりあえず飲んでみてよ、温まるから」

「う、うむ」

程よい温度の缶を持ち、おっかなびっくりココアを啜る美少女。

ごめんよ華琳、俺は一人でこんな珍しい秋蘭を堪能してます。

今はいない覇王様に心の中で謝ってみる。

不機嫌そうな華琳が想像できた。

 

 

「おいしい。。」

不思議な味だった。餡子などとも違う味。

でも甘くて、よく分からない緊張で疲れていた体にはすっと染み渡った。

「落ち着いた?」

「あぁ」

一刀が心配そうにこちらを見てくる、

あぁ、一刀なのだ。間違いなく。夢でもなく。

また声が聞けた。また話ができた。それだけで、心が一杯になる。

あの時のお礼を言わなくては。

「かず、」

ゆっくりと体が傾いていくのが分かる。

「秋蘭!」

一刀が叫んでいる。

待ってくれ、まだお礼を言っていな。。。

 

「秋蘭!」

「…」

急に倒れたことにびっくりはしたが、支えてみると気を失っているだけのようだ。

規則正しく胸が上下している。

きっと知り合いに会えたことで、緊張の糸が緩んだのだろう。

「よっと」

秋蘭を背負うと地面に落ちてしまったココアを拾う。

ほとんど飲んでいなかったが仕方ない。

それにしても。秋蘭はこんなに軽かっただろうか?なんとなく知っている秋蘭より痩せている気がする。

とりあえずは

「家に帰るか」

 

 

空を見上げて思った。

「…一人暮らしで良かった」

 

 



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2話 夏侯淵は花となる

待ってくれ!行かないでくれ!

夢の中の私が叫びながら手を伸ばす。

普段の私からは考えられないだろう。

だが夢の中ぐらい許してほしい。

ただこの悪夢は一年間私を離してはくれなかった。

 

 

「ここは?」

どこだ?

見慣れない天井。見慣れない壁。見慣れない部屋。

見慣れないものだらけの中で、唯一臭いだけが私を安心させてくれた。

これは、一刀の臭いだ。

ゆっくりと枕へと頭を落とす。

まるで一刀に包まれているようだ。。。。

「かず、と?」

頭が徐々に動いてくる。昨日の事も思い出すにつれて、混乱も増してくる。。

疑問が後から後から浮かんでくる。

ただその中でも愛する人に再び会えたのだという充実感は大きかった。

 

がちゃ

「あ、起きた?」

そしてその相手がコップを片手に入ってくる。

良かった。夢じゃない。もし夢でも構わないからしばらく覚めないでほしい。

本気でそう思った。

 

 

 

部屋に女の子がいるっているのは落ち着かないなぁ。

朝食の準備をしながらそんなことをぼんやり考える。

あっちに居たときも部屋に女の子はよく居たが、どちらかと侵入されたというのが正しい気がするしなぁ。

フライパンを暖め、ケトルの電気を入れる。

あちらと違い指一本で火が起こせるんだから、すごいよな。

改めて秋蘭に会ってそう思った。

 

がたっ

 

部屋の方で物音がする。

どうやら起きたようだ。

フライパンを乗せているガスコンロを止め、インスタントコーヒーにケトルからお湯を注ぐ。

途中で気づいて、片方には砂糖と牛乳を入れカフェオレに

昔の人にいきなり飲ませたら毒だと思われそうだしね。。

 

「おはよう」

布団から上半身を起こしている秋蘭に声をかけ、近くのテーブルにコップを置く。

「あ、あぁ、おはよう」

どうやらまだぼんやりとしているようだ。

と言うよりまだ状況が呑み込めていないと言った方が正しいかもしれない。

仕方ないよね、目が覚めたら2千年後でした~とか言われても、普通受け入れられないよね。

。。。俺は受け入れてたけどね!

と一人ノリツッコミをしてる間も、まだぼんやりしているのでとりあえずカフェオレを渡す。

「はい、これ飲んでみて、目が覚めるから」

「あぁ」

素直に受け取って、口に運ぶ。

「少し苦いかも」

こくっ

「美味しいな、それに確かにちょっとした苦みが目を覚ましてくれそうだ」

どうやら好評だったようで何より。

 

ゆっくりと何度かカフェオレを傾けて、だいぶ落ち着いたところで状況について確認することにしよう。

「それで、確認なんだけど本当に秋蘭なんだよな?」

「あぁ間違いない。夏侯淵、真名は秋蘭、覇王である曹孟徳様の家臣にて夏侯惇の妹、魏の仲間と天下統一を果たした。」

「本当に秋蘭なん。。だね。。」

涙が出そうになる。改めて夢にまで見た愛する人に会えるなんて

「逆に私からも聞いて良いか?」

「良いよ」

何となくわかるけどね

「北郷一刀であっているのだな?」

「そうだよ、意地っ張りの華琳の部下でいつも春蘭に殴られて、天の御使いや本郷警備隊隊長なんて肩書だけをもってた、そして魏のみんなの事が大好きだった、そんな男」

「ほんご、う…」

ぽろぽろと秋蘭の目から涙が落ちる。

嬉しかった。どうやら会いたかったのは俺だけではないようだ。

ゆっくりと秋蘭の頭を引き寄せ、ゆっくりと撫でた。

何度も何度も、触れる掌の温かさがしっかりと伝わるように。

 

 

「つまりここは天の国なのだな?」

「そうだよ、秋蘭たちがいた時代の更に先の少し違う世界」

落ち着いた後に状況について整理した。

どうやら気が付いたら、あの公園にいたようだが、なぜこちらにこれたのかは分かっていない様子。

まぁ俺もなんであっちに行ったのか未だに本当のところは不明だしね。

でもこっちに来る前の記憶があいまいっぽいから、何かあったのかも。

考えてもわからないけど。。

そして今の秋蘭が置かれている状況を説明中。

あまり驚いていないところを見ると、何となくは分かっていたっぽい。

さすが文武両道の夏侯淵嬢。

「まぁ、北郷がいる時点で何となくは、な」

それはそうか。

「とりあえず起き抜けに考えていても仕方ないから、朝飯でも食べよっか」

「食事なら私が、」

「大丈夫だから秋蘭は座ってて」

「…そうか?」

…秋蘭の料理は美味しかったなぁ

なんて懐かしくもあるけど、男の一人暮らしの朝食レベルに秋蘭の技術は全くの不要なのである!

まぁトーストと卵とベーコンとかだしね。

ホットケーキとか買っておけば良かったかなぁ。。

 

簡単な朝食を食べて、それから今後の事について話す。

「まず秋蘭にはこっちの世界を知ってもらうのが大切だと思うんだ」

「うむ」

「向こうとこっちとじゃ何もかもが全然違うからね」

「そうなのか?確かに見た事もない物がたくさんあるが」

まぁあの時代からしたら電子機器は全部そうだろうね。

「そうだね、物もそうだし、考え方も何もかも違う」

あの世界で一番初めに死にかけたこととか。。

「呼び方もね」

今思い出してもゾッとする。

本当に一番初めに会ったのが、華琳達じゃなくて良かった。

「呼び方?そういえば、天の国には真名がないと言っていたな」

「そういうこと、かと言って夏侯淵っていう名前はこっちじゃメジャーすぎるからね」

「めじゃぁ?」

「有名ってこと」

「そうなのか?」

「そうだよ、あの時代は後世ではとても有名な時代で、だからこそ初めて会った時に魏や曹操の名前を知ってたぐらいだし」

そのおかげで拾われてあの日常があったんだから、義務教育には感謝感謝。。。

「なるほど、そんなこともあったな」

秋蘭がふっと笑う。

大分調子は取り戻したみたいだ。

「しかし、名前か。。困ったな。いくら天の国とは言え真名を呼ばれることには許容できないな」

「ん~、そうだよね。。」

かと言って全然違う名前じゃ呼びにくいし。。

「じゃあ、とりあえず蘭っていうのはどう?春蘭との同じ字だし、繋がりは思い出せるかな、なんて。」

「…蘭。。。」

さすがに安直すぎたかな?

「姉者との繋がり。。」

あ、少し呆けてる。

姉バカは相変わらずみたいだ。

「分かった。この世界にいる限りは私は蘭と名乗ろう」

とりあえず一番危ない話題が終わったことに安心する。

下手すると秋蘭の場合、変なのが真名を呼ぶと路地裏とかで始末してそうだし。。。

 

「じゃあ次は。。。」

秋蘭がいる世界も悪くない!

そう思った秋蘭がいる初めての朝だった。

 

 

 




気が付いたら、半年以上経ってました。
感想書いてくださった方、本当にありがとうございます。
長編とはいかないものの、もう少し続きますので、
お時間ある時の暇つぶしぐらいになれば幸いです。


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3話 道のりは長く、夢は近くに

「…ちゃん。え…ゃん。…淵ちゃん!」

「ん」

何やら周りがうるさい。

ゆっくり瞼を開けると、赤い顔をした霞が目の前にいた。

「しゅ~ら~ん」

隣には泣き顔の姉者の姿もある。

「これは。。」

「何寝ぼけてんねん、宴会の真っ最中に」

宴会。。あぁそういえばそうだ。

今日は非番だったから、街に出て、そしたら昔に何度か買い物をした商人に会って。

今は蜀から来たので~。というので立ち話ついてでに酒を買ったんだ。

そしたらそんな珍しい酒のにおいに誘われて霞が来て、

姉者が来て、つまみを取りに行った霞に拉致られた凪が来て。

その最中に寝てしまったようだ。

「はぁ~、淵ちゃん最近ちゃんと寝とる?」

「あぁ、睡眠時間は問題ないと思うが」

「ほんまに?」

「あぁ」

そんなに疲れてみえるのだろうか?

「最近の秋蘭さまは、とてもお疲れのように見えます」

見えているらしい。

凪にまで言われるとは、気を付けよう。

「しゅ~らんは、ちゃん、、ねれるのらぁ~」

姉者も相当酔っているらしい。

「ほんまかいな」

「ほんとうら~ちゃんと寝てぇ~、ときどき、かずとぉって言ってるのら~」

ピシッ

一瞬で世界が凍ったのがわかった。

…姉者以外

「まぁ、それは、その…まぁ淵ちゃんにもいろいろあるわな!」

霞が無理やり空気を換えようとして

「秋蘭様もそうなのですね。。」

凪が少し落ち込んだので

「しゅ~ら~ん、なんれ私の頭をたたくのらぁ~」

元凶の姉は折檻しつつも

「はぁ~、まぁ疲れているのは本当だが、北郷は関係ない。。」

「それは嘘です!」

凪が反論してきたのは意外だった。

しかも自信を持ってそこまで言うとは。

「だって、自分も同じだから…」

「凪、あんた、」

霞が何か言おうとするが言葉にならない。

霞も分かっているのだろう。

なぜならきっと皆同じなのだから。

「ふふっ、そうだな。凪の言うとおりだよ」

皆同じなら隠す必要もないだろう。

隠していた気もないのだが。

「秋蘭様…」

「凪は特に慕っていたからな、北郷を」

「…っ、はぃ」

俯きつつも、しっかりと返事をした凪を見て、

思ってしまった。

「会いたいな、北郷に…」

 

思えばこれが始まりだったのだろうか?

外史とは夢のようなもの、思いが集まって形作られたもの、ならば夢の中で見た夢も世界になるのかもしれない。。。

 

 

 

 

「これは、人の国なのか…?」

あの夏侯淵様が慄いてらっしゃる!

まぁ、こうなるとは思ってたけどね。

昨日は暗かったし、家には俺が連れていったから周りは見てないだろうし。

一歩外に出れば、千年以上の未来でした!って言ったらこうなるよね。

…引き出しから猫型ロボットが出てくるぐらいの驚愕と同じかな?

 

まぁそれはともかく、未来から理由があってやってきた猫型ロボットとは違い、

何も知らずに目が覚めたら未来だった三国志の武将様は、

こちらの世界に来た理由が分からない以上、しばらく帰れない可能性があると見て間違いないだろう。

自分の時みたいに…

衣食住のうち、バイトと仕送りで食と住はなんとかなるだろうけど、さすがに女性物の衣はなかった。

家に華琳様人形とかある人なら別だろうけど。。。

と言う訳でとりあえず洋服を買いに行くことになり、外に出た訳だけど。。

 

「…」

本当に、珍しいことに、あの、秋蘭が固まっている。

まだ玄関出て10分も経ってないんだけどね。

バスに乗って近くのショッピングモールに行ってショッピングをして…の、バス停にたどり着く前でこうなるとはさすがに思ってなかった。

当たり前だけど、あの時代とでは住居やインフラの質も普及率も違う。

街を発展させるために石畳路を整備する。なんて文官としての仕事もやっていた秋蘭だ、

あの時代にはなかった凹凸の少ない地面。あの時代の平民ではありえないような家。

そして車。。。

こうなるのも仕方ないか

 

「いや、すまない、さすがに驚いた」

「まぁそうだよね」

ようやく平静を取り戻した秋蘭と、歩きながら話す。

「なんとなく北郷から聞いてはいたが、こんなに発展しているとは」

人の世とは思えんよ。

そう言って秋蘭は微笑んだ。

「とりあえず今日の目的は洋服を買うことだから、その目的を果たすまでは出来るだけ固まらないでほしい」

「あぁ、努力はしてみるが、」

そう言いながらも落ち着かない様子だが、我慢してもらうしかないよね。

このまま一つずつ説明してたら、目的地にたどり着かないし。

色々と聞きたそうなのを何とかバス停まで引っ張っていき、バスとは公共交通機関とは何かを説明し、

ようやく目的値に向かって進むことができた。

 

 

…耳障りな騒音を聞きながら、未知の速さで流れていく景色を見て

あぁ、本当に知らない場所に来たのだな。

と、なぜか改めて感じてしまった。

しかしこんな状況なのに頭の片隅では、城下ではこれぐらい道が整備されていればもっと人が増えるだろうか、や、さっき聞いた「こうきょうこうつうきかん」という移動手段の適用など

文官としての仕事を考えている自分がいる事実が面白かった。

いや、これはきっと隣にいる男のせいだな。

警備隊として街に治安をもたらし、体長として率先して危機に立ち向かった。

バカと言えるぐらいのお人好し。きっとこの男が今私の隣にいるから、

この男が愛し私が愛したあの国をより良きものにしたいと、改めて今思ったのだろう。

 

「どうかした?」

なぜかこちらを見て微笑んでいる秋蘭。

「いや、なんでもないよ」

「そう?」

「あぁ、ただ華琳様の街での困りごとに何か役立たないかと思ってね」

「困りごと?」

「街の拡大や交通網の整備、それに伴う仕事と食糧の確保。北郷がいた時と変わらないかな」

土の香り漂う城下町、歩くのも疲れる街道。。

「まぁ、、この国の技術を使えば間違いなく良くなるね」

「あぁ、だろう?華琳様もお喜びになるはずだ」

くすっ

こんな時でも華琳様第一らしい。

「ん?何かおかしな事を言ったか?」

「いや、なんでもないよ。でも」

「でも?」

「ゆっくり進むのも悪くないよ」

現代の技術を使えば確かに良くはなるだろう。でもそしたらあの時代の良さを一気に損なうと思う。

時代は勝手に先に進む。人はそれとの歩幅がズレた時、きっと何かしらの歪みが生じるのだろう。

自分のように…

それにゆっくり進むことが悪いことだけではない。

「相変わらず変な男だな、ほんごうは」

「そうかな?」

「あぁ、変わらず変だ」

「酷いなぁ~」

くすっ、

秋蘭が微笑む。

「でも変わらないことも良いことだよ、こうやって秋蘭を愛してる気持ちが変わらないように」

ふっ

一瞬ぽかんとした表情だったが、

「ならば私はこの時代に来たように、気持ちを急変させて、他の男でも見つけてみようか」

と言って挑発的にこっちを見る夏侯淵将軍に、

「かなわないなぁ~」

かなわないので、一兵である北郷一刀は、ゆっくり手を繋ぐのだった。

繋がりが変わらない事を祈って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新遅れてしまい申し訳ありません。
駄文ですが、待っていてくれた方が一人でもいてくれれば幸いです。
2020年は月一ペースであげられるように頑張ります

追記
感想いただけた皆様、本当にありがとうございます

ギャグの方も書き始めましたのでよろしければお読みください
真・恋姫無双~耳篭絡伝~


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4話 胡蝶の夢は下に着く

疾風の如く馬が駆ける。

一瞬の風切音と放たれた弓が奏でる弦楽器にも似た残像音

その音が鳴るたび、一人また一人と倒れていく。

 

怒号が飛び交う洛陽近くの小さな農村。

夏侯姉妹が妹、夏侯淵の弓矢から逃れられる賊はその場にはいなかった。。。

 

黄巾党の残党がいるという報告を受け、一個中隊を引き連れてきたのだが、

そこまで必要なかったかもしれないな。

しかし数が多いな。

残党自体の戦闘力は高くない。

先の大戦を潜り抜けた兵士達には、大した脅威とはならなかった。

ただ近辺の散っていた人数が集まったのだろう。

一瞬で制圧できる人数ではなかった

 

「きゃあ~」

「待てっ」

農村の奥では、勝つことが不可能と悟った残党が少女を人質を取ろうとしていた。

さらに数人の盗賊が商人と思わしき行商たちを同様に人質にしようと襲っている。

「ふんっ、いくら魏の正規軍だろうがこの人数を人質にとれば何もできまい!」

そういって粋がる男の周りには5人の男。

そして5人が人質となっていた。

少女や老人、力のない民が人質となっていた。

「くそが!」

若い兵士が苦虫を潰したように、愚痴る。

守るべき民が人質になっているのだ。そうは動けない。

「人質を殺されたくなかったら、道を開けろ!」

月並みなセリフだがその効果は絶大だった。

兵士の動きが止まる。

にやっ

「そうだよ、それで良いんだ。」

来い!と言いながら残党を連れて行こうとする男だったが、

 

ざすっ、ざすっ、ざすっ、ざすっ、ざすっ

 

「うっ」

「ぐふっ」

「げふ」

「がっ」

勝負は一瞬だった。

「な、何が?」

そういう男の胸には矢が突き刺さっていた。

「お前らごときに、好き勝手させるわけなかろう」

一瞬五射で賊の命を断った綺麗な青髪の奥には、明らかな侮蔑と怒りを灯していた。

「あいつが守った国を賊風情が汚せると思うな」

そのつぶやきが聞こえたかは知らないが、兵士たちが賊の残りを一掃していき、

 

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

口々に感謝を言われるまでさして時間はかからなかった。

問答無用で屠ったそのオーラを感じたのであろう。

さしたる抵抗もなく。大半の賊は降伏した。

 

部下たちに賊の確保と移動の準備を指示し、助けた人々に近寄る。

そのたびにお礼を言われる。

今回は村人に死者はいなかったが、それでもやはり考えてしまう。

あいつならば敵の死にさえ嘆きそうだと。

 

「ありがとうございます」

そんなことを考えながら歩いていると、一人見知った老人がいた。

いや正確には対して親しいわけではない。

それどころか話したのもあの一度きりだ。

目深に布を被った老人のような占い師。

相変わらず顔は分からないが、この声は忘れるわけがない。

 

「大局の示すまま、流れに従い、逆らわぬようにしなされ。

さもなくば、待ち受けるのは身の破滅」

もしこの時の占いの内容をきちんと考えていれば。。。

 

何度そう思ったか分からない。

華琳様や姉者と覇道を誓った日がすべての始まりなら、

終わりが始まってしまったのはこの時ではないか。

そう思えるほどに、苦しく苦しく過去は今を縛ってくる。

 

「お主からは強い相が見えるの」

いつぞや聞いたようなセリフだ

「ほう、私に強い相が見えると?」

「えぇ、ただ中々に歪な相ですな」

「…どういうことだ?」

「胡蝶の夢。つまり不思議な体験をするでしょう」

胡蝶の夢か、その話も昔あいつが華琳様としていたな。

「ほう、それは詳しく聞かせてもらおうか」

「いえ、私が言えるのはここまででございます」

「ふっ、それではなんとも言えんな。」

「申し訳ありませぬ」

「まぁいい、忠告として受け取っておこう」

「はい。ですが最後に、、、」

 

はたして運命なのか

ある男の将来を予見した老人は、次は女の将来を占ってしまった。

「影と手を繋ぎなさい。」

「そうすれば本当の。。。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可愛い。。。」

「そうか?」

 

ショッピングモールでの試着室前で、俺は現代に帰ってきたことを、

そして秋蘭を現代に呼んでくれた誰かに、今までにないぐらい感謝した!!

もともと美女の秋蘭だが、現代の洋服を着るとその破壊力はとんでもなかった。

特段高い洋服を買ったわけでもなく(と言うか普通の学生にそんな高い服は買えない。。。)

ユ●クロの服なんだけど、ヤバイ綺麗だ。

今は白いブラウスに、青のロングスカート。ただそれだけなのに!それだけなのに!!

「またほんごう、目が危険だ

少し距離を置かれてしまった。

どうやらあまりの可愛さに一瞬理性が飛んでいたようだ。

自粛しよう…

 

 

 

…自粛しよう?

そう思った矢先に秋蘭が寄った店は、あろうことかランジェリーショップ、いわゆる下着を売っているお店!

大抵の男なら目線を反らしてしまうお店を秋蘭様はお選びになられました!!

「おや、この店では選んでくれないのか?」

「秋蘭…分かって言ってるだろ…」

口では真面目に言ってる風だが、明らかに目が笑ってる。

普通の人には気づかないかもしれないが、あれだけ付き合いの長かった俺には分かる。

絶対こっちの反応を楽しんでいる。

「ふふっ、」

「いらっしゃいませ~」

こちらの会話に気付いたのだろう。

ニコニコとしながら、店員が近づいてくる。

自分達よりも少しだけ年上な女性だ。

営業なんだろうけど、気を聞かせてこないという選択肢を取ってくれてもいいのに!

「どのようなモノをお探しですか?」

「あぁ、この男が気に入るようなモノを探していてね」

ニヤニヤ

「なるほど、そうでしたか~、どのようなモノがお好みですか?彼氏さんは」

ニヤニヤ

あぁ、これは店員さんも分かってやってるな。。

なんでこうも、年上の女性には弱いのだろう。

「そうだな、あぁ見えて意外と夜には強いんだ。」

何人もの女を侍らせてる種馬だからな

まぁ、それならお姉さんも気が気ではないのでは?

あぁ、だから一発で堕とせるやつを頼むよ。

あらまぁ、それなら。。。

そんな会話をしながら奥へと向かっていく秋蘭と店員さん。

…まだこっちに来てそんなに経ってないのに何でそんなに馴染んでるんだろう。

そしてなんで二人して、そんなに楽しそうな顔でこちらを見ているんだろう。。。

こちらの黒い・・・スリットが入ってまして・・・レースの刺繍が可愛く・・・

男の人は意外と白も好きで・・・ピンクだとフリルがついていると・・・

…絶対こっちまで聞こえてるの分かってる。

…逃げよう

そう決めると、とりあえず近くのベンチ(店の中は見えない位置)へと腰を下ろした。

 

「疲れた~」

そう言って秋蘭が来たのは30分後、両手にはあまり大きくない袋がある。

お金を事前に渡しておいて良かった。。。

その大きくない袋を渡すために店の外まで出てきた店員がやけに生き生きと手を振るのと

満足気な笑顔を見ていると、なんというかこうゾワゾワする。

目が言ってる。

”今晩は頑張ってくださいね!”

あいまいな感じで会釈する以外、何もできなかった・・・

「この時代の物売りはすごいな」

「ん?」

なんかあったのだろうか

「商品を渡す時に店の外まで持ってきて渡すのか、まるで華琳様になったようだ」

両手の袋を見て感慨深げにつぶやく秋蘭に、

あぁ、確かにこの国のサービスは凄いんだよな

と改めて思ってしまう。

確かに行き過ぎることもあるが、基本的にはそれが日本人のいいところだと一刀は思う。

「こういうところも魏に普及したいな」

くすっ

でもやっぱり考えていることは魏のことらしい

 

並んでショッピングモールを歩く。

口には出さないが、聞きたいことは山ほどあるのだろう。

珍しくきょろきょろと周りを見ている。

そして時折我慢できずに

「北郷あれはなんだ?」

「あれはエレベータだよ。」

「北郷あれは、」

「あれはテレビだね」

「北郷、、」

といった具合に質問責めにしてくる。

まぁ、ショッピングモールなんて、現代の技術が至る所に散りばめられてるし。。

 

…これが春蘭や季衣だったら大変だっただろうなぁ~

猪突猛進に色々なところに行って、下手したら何かを壊していそうだ。

流琉がいてくれれば少しはマシか?

三羽烏なら、真桜が電気屋から離れないだろうし、沙和は洋服やアクセサリーショップから離れなさそうだし、

それどころか「隊長買って~」とねだられそうだ。

凪はそんなことしないだろうが、きっと周りが気になってチラチラ見てる凪が気になって俺が何かを買ってあげそうだ。

…別に凪だけ特別なわけじゃないぞ。。

華琳だったら。。。

 

ふと、そんなことを考えていると

「ん?」

秋蘭がこちらを見て微笑んでいた。

「今、姉者や季衣だったら大変そうだ。という顔をしていたぞ」

ギクッ

「よ、よく分かったね」

「ふ、分からいでか」

 

北郷は分かりやすいからな。

 

そう言って笑う秋蘭はほんとに可愛くて、可愛くて。。。

それに、と続けて

どれだけ一緒にいたと思っている。

 

そんなことを言うもんだから、、

だからこそ少し怖くなる。。。

 

これは夢じゃないのかと

 

 

 

 

 




色々とあり、全然更新できませんでした。。
構想と枠組みだけなら1月には出来てたんですが。。。

あいも変わらず駄文ですが、読んで感想頂けるとすごく励みになります。

コロナで皆さん大変だと思いますが、少しでもお役にたてれば幸いです


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5話 凍った心は直火で炙るが吉

「秋蘭、貴女は今晩は私のところに来るように」

「はい。。はい?」

「あら。私と閨を共にするのがそんなに嫌なのかしら?」

「い、いえ、そんなことはありません。ただ」

「ただ?」

「最近ご無沙汰だったので、急で少し驚いてしまって」

「そう?そういえば最近はあまり可愛がってあげられてなかったわね。なら今晩はその分も可愛がってあげるわ」

「はっ」

「ふふっ、あぁ今夜は貴女一人で来なさい。せっかくだし良いでしょう?」

「はい、もちろんです.。ただ、、」

「何かしら?」

「こう、皆の前で言わなくても宜しいかと」

「ふふっ」

 

 

「はぁはぁ」

「ん、ぁむ」

「んぁ、かり、ん、さ、まぁ。。。」

「秋蘭、次は四つん這い」

「っ、、はい。。あ、んっっ。」

 

「ねぇ秋蘭、貴女最近寝れているのかしら?」

やはりこの人にはお見通しか。

「一応。とは言っておきます」

「やっぱり」

ぎゅっ

「華琳様?」

「そろそろあいつがいなくなった季節だものね」

「。。!?」

「分かっているわ、一刀がいなくなって、それでも一刀が守ってきたこの平和を維持しようとして頑張って」

かなわないな。。

「それでもちょっと前までは忙しさに身を任せていれば良かった」

そして気づく

「でも最近は平和にもなってきて、考える仕事が増えてきて」

華琳様のお体も以前に比べると若干痩せて。。。

「考える時間ができてしまうと考えてしまうのよね、一刀のことを」

あぁ、きっと華琳様も私と同じ。。。

「私も以前あいつに命を助けられたわ。私のことを殴ってまでね」

「そうでしたね、華琳様に手を挙げるとは、さすがです」

「本当よ、この曹孟徳を殴るなんて」

ふふっ

「でもだからかしらね、最近思うのよ、あの時一刀に助けられなかったらって」

「。。。」

「そしたらきっと、今こうやって貴女を抱きしめることもできないんだって」

「。。。。」

「それなのに、そのことの重要さに、生きていることの幸せをこんなにも再確認したのに、」

「。。。。。」

「それを教えてくれたあいつに、ありがとうを伝えたいのに。あいつはもうどこにもいないんだもの」

「。。っ、ぅ」

涙が自然と頬を伝って枕を濡らした。

「秋蘭」

「っ、はいっ」

涙で濡れた顔で主の顔を見つめる

「貴女は赤壁での感謝で、存在をかけて救ってくれた感謝で、届かない感謝で苦しんでいる」

そうだ、もし私があそこで撃たれていたら、今頃一刀が私の代わりに華琳様と寝ていただろう。

その方がいっそ、

「でも、もしあの戦いで貴女が撃たれていたら、きっと一刀は苦しんでいた」

「。。。えぇ、そうだと思います。」

そうだ、そうなっていたらきっとあの男は、平和になった後でも、死んだ私やほかの兵たちを思って苦しんでいただろう。

そういう男なのだから。

「だから秋蘭、貴女は、いえ私たちはあいつへの感謝を胸に秘めながら明日を生きなくてはならないのよ」

「、、っ、はい」

 

 

「すーすー」

静かな寝息が、規則的に聞こえる。

月の光が薄く世界を照らしていた。

その照らされて輝く銀の髪を撫でながら華琳は思う。

月の光は嫌いだ。一刀が消えた日を思い出すから

そしてまた誰かが消えてしまうのでは。そう思えてしまうから。

そう、例えば隣で眠る愛すべき部下。彼女も消えてしまうのではないかと不安になるから。

「生きなくてならない。。か」

生きなくてはならない。生きていたい。

近い様で違うこの言葉の差の重さを、小さな覇王は噛みしめながら呟いた。

 

 

 

  

 

「冗談キツイで華琳、いくらなんでもそないな冗談笑えへんわ」

霞が発した言葉に

「こんな冗談私が言うと思う?」

キッ

魏の王は部下を睨みつけた

「!?」

目が赤く、明らかに泣いた後であることが分かる。

この覇王が泣くことなどほとんどなく、

たとえ泣いたとしてもそれを他人に気取らせるなんてことはありえない。

それなのにはっきりと号泣したと分かる跡。

そして三国を平定し、すべてが満ち足りたこのタイミングで彼女が泣くなど余程のことだと分かる。

華琳の泣き腫らした目

ここにいない唯一の仲間

それだけで、部下たちは理解した。

『北郷一刀は天の国に帰った。もうこの世界にはいないし、会えない』

そう宣言した主の言葉が事実なのだと。

 

「ははは、そんな訳ないやん、一刀がうちらのこと置いてくなんて」

霞は半笑いになりながら、涙を浮かべて反論した。

「そ、そうですよ華琳様。霞のいう通りです。いくらなんでもあの男がいなくなるなんて」

珍しく桂花が一刀を思い遣る発言をした。

「ねぇ流琉、ボク、華琳様が言ったことよく聞こえなかったんだけど。。。」

「季衣、私も、、だよ」

肩を震わす季衣にそっと寄り添う流琉、認めたくない現実に脳がついて行っていないのだろう。

「一刀殿が天に?一刀殿が?私たちを置いて?」

凛は永遠と思考の渦に巻き込まれていた。

「お兄さん。やっぱり。。。」

風は何かに気づいたように衝撃を受けていた。その衝撃のせい飴を落としたことにも気づいていない。

「う、嘘なの。隊長が私たちのこと置いてくなんて、そんなはずないの!」

「そ、そうやで、大将。嘘、、、なんやろ?」

涙を浮かべて沙和は抗議し、それに真桜も続いた。

「隊長。。。私は。。。」

凪は呆然として、天を見上げた。

「でも、華琳様、あいつは戻ってくるんですよね?」

絶望半分、希望半分で春蘭は聞いた。

「分からない。。わ」

そう答えるのが精一杯だった。

「、、、かず、と、、」

いつもなら姉を宥める秋蘭は空を見上げて一言つぶやいただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今はちゃんと食べてるみたいだけど、あの国ではどうだったんだろう」

春蘭ほどではないが、少しだけ姉妹の面影のある食べ方をしている秋蘭を見てそんなことを思ってしまった。

皆どうしてるだろう。

「ん?どうかしたのか?」

「いや、なんでもないよ」

知っている顔より少しやつれた美少女を見てそう思ってしまった。

しかし、、

「美女」に「ハンバーガー」

なんでこんなにもミスマッチなんだろう。

はむはむ。と、ゆっくり食べてはいるが、知っているよりも食が早い気がする。

まぁ、このジャンキーな味はあの時代にはない、魔性の味なので仕方ないか。。

俺も修行中なんどマク●ナルドに行こうと思ったことか。

「?やっぱり食が止まっているようだが?あまり好きではなかったのか?」

「大丈夫だよ。秋蘭こそ、味大丈夫だった?あの時代にはない味付けだっただろう」

「あぁ、問題ない。特にこの「照り焼き」とかいうものは、特に好みだ」

照り焼きバーガー。甘いものが好きな子供が一度ははまるであろうバーガーを、

例にもれずこの現代食初心者の武将もはまったらしい。

「ソースついてるよ」

「ん、ありがとう」

ふふっ、

そんな他愛無いことでさえ笑えてしまう。

やっぱり、この時代に戻ってきて、俺寂しかったんだな。

 

 

一刀が笑っている。

釣られて私も笑みがこぼれる。

どうしてこうもこの男と一緒にいると楽しいんだろうか

分かってる。

好きだからだろう。

私がこの男を。

だから久しぶりにこんなにも食事が美味しい。

何を食べても、好きだった物を食べても何も感じなかったのに。

ふっ

全くこの夏侯淵がこうなるとはな

しかし、、

 

「しかしこの時代の食はすごいな。」

「ん?」

「こんなにも多種多様なものが食べられるとは、野菜だけでなく肉や魚、それに見たこともないものばかりだ」

周りを見渡して思う。

「ふーどこーと」なるところに連れてきてもらったが、様々な匂いがする。

そして、目にする食材は多種多様だ。

あの時代では、割と似た食事を出す店が多かった。

それでも味付けなどが違うので、色んな店に通ったものだ。

だけどここはそもそも取り扱っている食材が違うように見える。

「あぁ、そうだね。あの時代には冷凍庫とかないしね」

「れいとうこ?」

「そう、食材を凍らせる技術」

「食材を凍らせる?」

あまりピンと来ていないようだ。

それはそうだ、あの時代冷凍技術などないから、氷水に冷やすなどして食材を冷やすしかなかった。

「そう、凍らせるんだ。そうすることで長時間痛まずに済む。」

「それは分かるが、」

食材が傷みにくいことは理解できているようだが、それと食材が多様にあることが繋がらないのか。

「成都で畜産している牛を食べたい。とするだろう?その場合、どうすればいい?」

「そんなの決まっている。成都に行くしかないだろう?」

「その通り、だけど今の時代だと凍らせれば、肉が傷むことなく手元に届く。簡単に言えば洛陽で成都の牛の肉を食べることができるってこと」

「あぁなるほど、それはすごいな」

「しかも、この時代の移動手段はあの時代の早馬の比じゃないからね」

しゃべりながら気が付いた。秋蘭の移動速度があの時代だったから、たとえ食材を凍らせたとしても、それが他の街まで届くことが想像できていないんだ。

クール宅急便なんてないしね。

「あぁ、確かにさっき乗ったバスとかいう乗り物も速かったしな」

「うん、でもあれ以上の速い乗り物もあるよ。しかもあの乗り物もまだ速くなるし」

新幹線とか飛行機とかね

「!? あれ以上速くなるのか?」

「なるよ、しかも運送するときには、常に冷凍状態で運べる乗り物とかもあって。。。」

 

 

まさか、自分が秋蘭に物を教える立場になるとは。

この光景を見てたら

『へぇ~良いご身分ね、一刀』

って華琳は言うだろうし

『貴様!秋蘭に説教垂れるとは何事だ!』

って春蘭は追いかけまして来るだろうな。

うん、改めてこの時代に来たのが妹の方で良かった。。。

「どうかしたのか?」

秋蘭が不思議そうな顔をしている。

「いや、来たのが春蘭じゃなくてよかったな。って思っただけ」

「…あぁ、まぁ確かに姉者がきてたら大変だっただろうな」

秋蘭も理解してくれたらしい。もし来てたのが姉だったら、この建物が倒壊する可能性に。

「あ、でも、秋蘭をもとの時代に帰す方法も考えないとね」

俺がこっちに来た時同様、一瞬しか時間が経ってなければ良いんだけど、

逆パターンで戻ったらすごく時間が経ってましたじゃ、笑えないし。

気持ち的にはブゥに精神と時の部屋に閉じ込められた時のピッ●ロさん。。

「そうだな、いずれ帰らねばならないが、せっかくだししばらくはこの時代を楽しむさ」

「なんか余裕そうだね」

俺が向こう行ったときはもっと、四苦八苦したのに

「何かあっても一刀が何とかしてくれるだろう?」

そう言って笑う秋蘭を見れば、何とかしないわけにはいかないなぁ。

 

決意が一つ増えた昼下がりだった。

 




読んで下さった皆さま。
お久しぶりでございます。
もう読んでくれてる人いないんじゃないか?と思いつつも、最新話公開いたします。
宜しければご感想頂けるとすごく嬉しいです。

今、BORUTOの二次小説も書きだしており、サラダが千鳥を覚えるきっかけをオリジナルで書いています。そのせいで遅れてしまいました。
宜しければこのシリーズももうしばらくお付き合いください。

ちなみに私もマクドナルドでは照り焼きが一番好きですw


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6話 月見の友に達磨をどうぞ

「妙ちゃん!たまには飲もうや!!」

そう言って酒瓶片手に部屋を訪ねてきたのは霞だった。

どうやらここ最近色んな人達のところに行っては愚痴を聞いているらしい。

愚痴を聞く場が全て酒の席と言うのが何とも彼女らしいが。

「あぁ、分かったよ。他はどうする?」

「他の人はえぇやん、たまには2人っきりでな」

にしし

「霞と2人で、飲むのは初かもしれんな」

「そうやったっけ?」

「まぁたまには良いだろう。酒は、、用意してないわけがないな」

「あたりまえやん♪」

そういう彼女の傍らには酒樽が。。

酒のこととなると力を発揮するのは変わらずか。

 

チン、

静かに盃を当ててから、お互いのペースで飲む。

酒の肴の代わりに無駄話から仕事の話をしながら。。。

「最近部下や他の仲間のところを訪ねては愚痴を聞いているらしいじゃないか」

「あぁ、ばれとったん?皆には内緒や、言うといたのになぁ」

「ふふっ、人の口に戸は立てられない。ということさ」

そして気づけば話題は愛しの男の話になっていた。

 

「前な。。。一刀が言うとったんや。天の国には『まんが』とかいう、架空の物語が流行ってるんやって」

「あぁ、私も少し聞いたことがあるな」

架空の物語。そして私たちの時代は三国志という名で親しまれているとか。

「そん中でうちにぴったりの言葉があるって言うてな」

「ほう?」

少しだけ懐かしそうに、空を見上げて。。

「『春は夜桜、夏には星、秋に満月、冬には雪。それで十分酒は美味い』。。やって」

「ぷっ!」

「ちょ、笑わんといてな!」

「あぁ、すまんすまん、しかしそれは確かに霞にぴったりだな」

「まぁ、確かにしっくりきたんやけど。。」

少し真面目な顔をして

「妙ちゃん、あんた今その酒、美味しいか?」

 

美味しいか。そう問われれば美味しい。

霞が持ってくる酒はいつも銘酒ばかりだ。

業務の大半が酒蔵巡りと言われるだけのことはある。

しかし…なるほど、確かに。

その言葉を聞いた後だと気づいてしまう。

華琳様が上機嫌に一刀に無理難題を言いつけた時も、姉者の勘違いで一刀を殴り倒した時も、

勝戦祝いだ!と言って霞が一刀を引き連れて宴会を開いた時も。。。

そこにある、花鳥風月で、いやむしろ花鳥風月さえなくても酒が美味かった。

そうあの頃は。。

 

その表情を読み取ったのだろう

「もう少し続きがあってな。『それでも不味いんなら、それは自分自身の何かが病んでいる証だ』らしいわ」

「病んでいる。か。。」

あながち間違いではないその言葉を、ゆっくり噛みしめながら注いであった清酒を嚥下する。

うん、確かに美味しい。

けど、確かに美味しくない。

病んでいる。その理由は簡単だ。そして、きっと目の前の猫のような女性も同じ病だ。

 

「なぁ、もし天の国に行けたらどないする?」

暗い空気を察したのか話題を変える霞。

「こっちに帰ってきたくなくなるんかな?」

しかしやはり話題は病の元からは変えられなかった。

「天の国か、行ってはみたいが。。。それは…ないだろう」

以前も私なら即答したであろう内容も、すぐには回答出来なかった。

もう一度会えたなら、こちらに華琳様や姉者がいたとしても、あるいは。。

そんな風に思ってしまう自分が嫌だった。

自分の中の順位付け、あるはずもなかった最優先の割合の変更。

これが病の症状か。

 

そんな思いを振り払いたくて、同じ病を患っている彼女に聞いた。

「そういう霞はとうなんだ?」

「ウチか?ウチは帰ってくるに決まっとるやないか!」

「ほぅ」

意外でもあり、そうでなくもあり。

「もちろんすぐにやないよ、せっかく天の国に行くんやから、天の国の酒を全部飲んでからや!」

さっきまでの暗い表情はなく、笑顔で答える。

「あぁ、霞らしいな」

「そやろそやろ♪」

昔聞いただけでも、日本酒、わいん、びーる、うぃすきー、かくてる等聞きなれない酒の種類が出てきた天の国だ。

「帰ってくるだけでも、何年もかかりそうだな」

霞のことだから本当に全部飲み干しそうだからな。

「同時に一刀の財布の中も干上がりそうだな。」

「あぁ~確かにうちが向こう行ってもお金持ってへんからね」

そいつは困ったわ~

「まぁ、大丈夫だろう。なんだかんだ言ってあいつは優しいし意地っ張りの部分があるからな」

「そやな~前も凪たちと一緒におごってもらったし」

きっと警備隊のメンバーと一緒になって昼飯でも奢らせた時を思い出したのだろう

 

ここは隊長のおごりなの~!とか言いながら勝手に決める沙和

さすが隊長!ごちそうさんです!と言ってあおる真桜

いや、え、ちょ、た、隊長、私は自分で。。と言いながら財布を取り出そうとする凪

凪、えぇんや、かずとに花持たしたり!とか言いながら笑顔の霞

えぇい!分かったわ!ここは俺が持つ!!と言って泣きながら金を払う一刀

そんな風景を見たのも一度や二度ではない

 

「まぁでも」

くいっ

一気に酒を煽る

「もしも飲みきれんほどの酒が天の国にあったら」

「あったら?」

「全部一刀に買わせて。持って帰ってくるわ。一刀と一緒に!!」

にししと笑う霞

「そんで皆で天の国の酒で宴会するんや!!」

つられてこちらも笑みがこぼれる。

「ふふっ、それは良いな。私もそうしよう」

そう言って飲んだ清酒は先ほどよりも美味しかった。

 

 

「すごいな」

目の前に広がる食材の山に秋蘭はそうつぶやいた。

「いや、すまない。正直他の物も十分驚いていたのだが、あまり実感がなくてな」

「あぁ、まぁ、電化製品とかあの時代じゃありえないしね」

電化製品やテレビ、更には物流の話までしたが、現実感がなかったのだろう。

でも今目の目にあるのは、ショッピングモールの一角の食材コーナー。

野菜などはあの時代から変わっていない。

自分の知っている物が、あの時代とは明らかに量も種類も違う方が、より身近に変化を感じやすいのだろう。

「これほどの量の食材が鮮度を保ったまま置いてあることがそもそも驚きだ」

「あぁ、それは冷蔵庫のおかげだね」

「れい、ぞうこ?」

「そ、その野菜の入ってる箱に手をかざしてごらん」

「あぁ、、、、冷たい!」

先ほども説明したが、中々理解は難しかったようだ。

ならば実物を触ってもらうのが一番!

まぁ、全部説明してるだけなんだけどね。

「その冷気が常に出ている箱のおかげで、これだけの食材を置いてても問題ないんだ」

「なるほど、、」

「それのおかげで飲み物とかも、氷を入れなくても冷たくておいしいんだよ」

「それはいいな」

秋蘭が笑う。

あの時代だと夏場の訓練の後などは地獄で、飲み物も井戸水か川の水などがメインだ。

だけど、場所によってはあまり冷たくはない。

もしくは手に入れるまでに時間がかかる。

竹筒などに入れてもいいが温くなってしまう。

。。。ヤカンに麦茶で、長スカートが天国に見えるぐらいかもしれない

「こんなに冷やせるなら酒もおいしそうだ」

「じゃあ食材終わったらお酒の店に行こうか」

「ん、ここにはないのか?」

「あるにはあるけど、量が少ないからね。せっかくなら秋蘭をびっくりさせたいし」

「ふふ、私はもう十分驚いているのだがな」

「いや、きっとそれ以上にびっくりするよ。あのバーは。いや、本当に色々と。。」

「?」

「ま、まぁ行けばわかるさ」

 

 

「…これ全部酒なのか?」

私は圧倒されていた。目の前に並ぶ酒瓶なのかもわからない色とりどりの瓶に。

もう十分驚いているとは言っていたが、それでもまだまだ驚愕は終わらないらしい。

「確かに色々あるとは聞いていたが、これほどまでとは」

これは霞。全部飲み干すのは無理そうだぞ。

「まぁここはお酒の品揃えが良いから」

「はぁ、すごい種類の酒だ」

「でも、ここにはない酒もまだまだ沢山この世界にはあるよ」

これよりも多いというのか。。。

「いやはや、本当にすごいところだよ天の国というやつは、先ほどの食材もだが。。」

十分驚いている。そうは言ったもののまだまだ驚くことは多そうだ。

「あら~ん、ご主人様。今日は珍しく女の子ずれなのね。私嫉妬しちゃうわん」

「やめてくれ」

びくっ

いや、これはさすがに驚いた。

いきなり人が現れたことや、急に声をかけられたことではない。

さすがに誰かいたのは気配でわかっていたし、そんなこともわからなければ、我が主にお叱りを受けてしまう。

ただこれは、、、ある種この世界に来て一番驚いたのではないだろうか。

「かずと。。?」

巨漢。そのうえ筋骨隆々。

なのにほぼ半裸。

申し訳程度に袖のない上着と首飾りをしている。

「あいかわらず、そのベストに蝶ネクタイはえぐいな」

「やだん、最高の誉め言葉じゃない!」

くねくね動く巨漢

「かずと。。。?」

「あぁ、ごめん、こいつは貂蝉。まぁ…」

目を逸らすかずと、言葉を選んでいるらしい、

「見た目はちょっとバケモノだけど、中身は…純正の変態で、ゲイで、かなりバケモノ臭いけど…だけどそれさえ我慢すりゃ、そんなに悪いヤツでもない」

選んだ結果、選ぶ言葉がないと判断したらしい。目を逸らしながらそう答えた。

「あ、あぁ」

酒以上の衝撃に戸惑っていると。

「いやだわぁ、私の美貌に女の子まで虜にしてしまったのねん」

「いや、それはない。単純に貂蝉の姿を見たら誰だってこうなるって」

「誰が一度見たら夢にまで出てくる妖怪筋肉達磨ですってぇぇ!」

「そこまで言ってない!」

いきなり始まった漫才についていけずにいる私を見て

「忘れてた。貂蝉、この子は蘭。えぇと、初めてこの国に来たので色々見せて回っているんだ」

「よろしく、、頼む」

何とかそれだけ言えた。

「ふふっ、そう、この世界(くに)に来れたの。ならせっかくだし、一杯奢っちゃう!」

「来れた?」

「なんでもない、それで何にする?初めてだと分からないだろうからご主人様決めちゃいなさいよ」

「そうだね、注文しておくからその奥の席にでも座ってて。良いよな貂蝉?」

「えぇ、いいわよん♪」

 

 

「美味い」

不思議な味だった。

かずとが注文し持ってきてくれた酒は、『かるあみるく』とか言っていた気がする。

甘いがアルコールの香りもある。

一瞬本当に酒なのかわからなくなるような飲み物だった。

「あの時代だとあんまり甘いお酒ってないだろ?だから頼んでみたんだ」

たしかに向こうでは甘い酒はほとんどなかった。

「でも気をつけないと。どんどん飲んで酔いつぶれちゃう人もいるし」

「ふふ、私にそれを言うか?霞程ではないが、そこそこ飲めるぞ」

「それは知ってる。でも、お酒にも色々あってその種類によっては合う合わないあるから」

「なるほど、気を付けよう」

くいっ

そう言いつつもグラスを傾け、酒をあおる。

綺麗な氷がグラスの中で揺れる。

向こうでは貴重な氷がこんなにも簡単に出てくるなんて。。

冷えた室内。夜なのに明るい店内。常に聞いたこともない音楽が奏でられ、

あぁ本当に天の国にいるのだと改めてしみじみと思う。

「さて一刀、次のお勧めはなんだ?」

その雰囲気なのか理解はしつつもいつもよりハイペースで酒が進んでいく。。。

 

 

「酔っているかもしれないな」

珍しく口に出してそう言ってみた。

結構なペースで飲んだ。

おかげで4人用のテーブルには空いたグラスで一杯になっていた。

「秋蘭がここまで飲むのも珍しいね」

確かに珍しい。いつもなら自分で止めるのだが。

「でもよってる秋蘭も可愛いよ」

「ありがとう」

きっと酔っているのは異国の酒だけではない。

こんなにも心地よく酔えるのは間違いなくこの男のおかげ。

逆にこんなにもすばらしいことがあってもよいのだろうか。

「ふふっ、こんなに幸せなんて。もしかしたら私は、夢かまがい物かもしれんな。」

そんなことさえも思ってしまう。

「そうだとしたら、、、怖いな」

こんなに都合がいいのだ。もしかしたら、明日には夢から覚めてすべて嘘だったと絶望するかもしれない。

そう思うと、、怖い。

酔っていても一瞬で冷めるようなそんな恐怖。

それを忘れるために、残っていた酒を煽る。

 

「秋蘭。。」

『怖い』と確かに口にした秋蘭の顔は儚くて。本当に消えてしまいそうだった。

きっとそれは俺が消える前に感じたものと同じなのだろう。

「しゅ、」

「あらあら、夢だってまがい物だって、どうでもいいじゃない」

「どうでも、いい?」

追加した酒とつまみを持って貂蝉が現れる。

「えぇ、そうよ。どうでもいいのよん」

先ほどのつぶやきが聞こえたのだろう。注文の品をテーブルに置きながら答える。

「この時が、この時間が嘘でも構わない。そう言うのか?」

秋蘭の口調が荒くなる。

どうやらいつもより酒が回っているらしい。

「そうは言ってないわ。でも」

秋蘭の怒気を含んだ返しも、受け流しながら周りを見渡す。

「たとえばあれを見て頂戴」

そう言って貂蝉が指した先には、少し大きめの手鏡。

縁に彫刻がしてあるあたり、既製品ではないのだろう。

「何が見えるかしらん?」

「何って、鏡に映った俺らだろう?」

「そう。鏡に映る世界。でもそれはこちらから見れば、ここと同じだけど真逆の世界が広がっている」

鏡の中の貂蝉が、現実と真逆にくねくねする。

気持ち悪い。

「だけど入れない。挿れないのよ」

手の形が放送禁止の形をする。

それは入る違いだ。。。

秋蘭は不思議そうな顔をしているが、分からなくて良かった。

「けど誰もが一度は考えるはずよ。あの鏡の奥には、こちらからは見えなくても鏡の世界が広がっていると」

鏡の中の自分と目が合う。

もしかしたらあの世界は鏡の向こうにあるのかもしれない。

そう思ったのは一度や二度ではない。

「そして写っているときの自分は、瓜二つの動きをするけど、写っていない時の自分はどうしているのだろうってね」

そして鏡の中の秋蘭と目が合う。

可愛い。

きっと俺の知らない時間を過ごしている皆も、可愛いままなのだろう。

「見えないからわからないの。でも見えないから自由なの」

「自由?」

秋蘭が問う。

「そう、認識できないなら何でもいいじゃない。」

「。。。」

「自由なんだから、どんな夢にだってなれる」

自由に見れる夢。

「偉くなって総理大臣になることも。お金持ちになって豪遊することも。好きな人と幸せになることも」

いつまでもみんなといられる夢

 

「偉くなって総理大臣になることも。お金持ちになって豪遊することも。好きな人と幸せになることも」

あの国とあの仲間たちの中に、この男がいるそんな夢。

「だから私の妄想の中ではいつもご主人様とくんずほぐれつなのよん」

「うげ。やめてくれ」

「ふふ、そういうわけなの。だからどんな夢であってもいいじゃない」

ゆっくりと貂蝉と目が合う。

「その虚像が人を満たしてくれる。それで誰かが幸せになれるなら、ほら夢でもまがい物でも構わないでしょ?」

「虚像が誰かを幸せにする?」

「そうよ、」

目の前の一刀を見る。

確かにこの男が存在していたのが嘘か本当かはわからないが、

あの時代に来てくれたおかげで、私は私たちは幸せになれた。

そういう意味では、きっとこの時間のおかげで幸せになれる誰かがいるのかもしれない。

「まぁその虚像が現実になった方が幸せなのは間違いないのだけどね」

 

珍しく貂蝉が真面目な話をしている。

ぱちっ

そして気色悪いウインクで、話をしめる。

「お酒の席だからって少々堅い話をしてしまったわん。ごめんなさいね」

「いや、こちらこそ礼を言う。」

少しだけ秋蘭の顔が晴れたように見えるのは気のせいではないだろう。

「そうだ、せっかくだからご主人様とそちらの彼女さんにその鏡をプレゼントするわ」

「良いの?高そうだけど」

「出会えた記念よん、それにここにあると美しい私が二人になったみたいで、より繁盛しちゃうでしょう!」

鏡の中と無駄にシンクロしてくねくねするのはやめてほしい。

「いや、そもそもこの店対して繁盛してないだろう」

むしろどうやって経営してるのかたまに不思議になる。

「あら、それともご主人様ってば、やっぱりその体で払うって言うの!」

「それはない!!」

「ふふ」

最後には秋蘭も笑ってくれたから、これはこれで良かったのかもしれない。

 

「また来て頂戴」

「あぁ、ありがとう」

そう言って店を一刀と出た。

「体が熱い」

店を出て空を見上げながら私はそう言った。

ぽかぽかする。

そんな酔い方をしたのはいつ以来だろうか。

いつもはドロドロに渦を巻いたような、そんな酔い方だった気がする。

「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」

「帰ったらゆっくり休もう。俺も飲みすぎちゃったし」

「ふふっ、良いのか?せっかくお前好みの下着を買ったというのに」

うっ

北郷が顔を赤くする。

相変わらず可愛い奴だ。

『誰かが幸せであるなら夢やまがい物でも構わない』

私が何であれ、こうして一刀の隣にいる。それだけで一刀が幸せだと思ってくれるなら。。。

それだけで私がここに来た意味があるのかもしれない。

そう思いながら、

夜空に浮かぶ満月を眺めて、美味しかった酒の味を思い出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~蛇足~~~

がちゃ

「あぁ、秋蘭お風呂あがっ。。。」

「ふっ、なるほど、あの店員が言ったことはは本当だったようだな」

「な、な、、」

「ふむ、さすがに黒で見えにくいとは言え、上下ともに透けているのは少し恥ずかしいな」

くるっ

「どうだ後ろも可愛いだろう?」

「な、あ、、、」

「後ろが紐なのは若干不思議な感じだが」

「か、」

「わざわざ腰から靴下を釣り上げる必要はあまり感じんな。このさらさらな感じは良いが」

「秋、、蘭。。」

この後風呂どころじゃなくなったのは察してくれ。。。

 

 

 




まだ読んでくれている方いらっしゃるか分かりませんが、遅くなりました。
読んで下さった方。本当にありがとうございます。
良ければ感想や評価を頂けると幸いです。

もしかしたら後2話分ぐらい書くかもしれません。
その際はもう少しお付き合いくださいませ


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