ブレイブヴェスペリアが行く (だしィー)
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謎の依頼

どうも、だしィーです。

元々は二次ファンで書いていたものでアットノベルスに引っ越した作品ですが、使いにくかったので削除して、ハーメルンに投稿し直す事にしました。

とりあえずストックを片っ端から投稿していこうと思います。


「なんだこれ?」

 

そう言ったのは黒髪長髪の青年、名をユーリ・ローウェル。彼は自分の部屋のテーブルの上にある黒い色をした封筒を取って眉を寄せる。封筒には白い文字でユーリ・ローウェル様と書かれている。

 

「ラピード、なんか知ってるか?」

 

ユーリは封筒をヒラヒラさせながら青い隻眼の犬、ラピードに訊ねる。

 

「ワフッ」

 

ラピードはそう言うと部屋の隅に置いてある寝床に行きユーリと同じ封筒をくわえてユーリに見せる。こちらの封筒にはラピード様と書かれていた。

 

「あん?おまえもか?」

 

「ワウッ!」

 

ユーリはラピードのくわえていた封筒を取って、自分の封筒と見比べてみた。

 

「うーん、名前以外はまったく同じっと。・・・・・・ま、考えててもわかんねぇし中身見っか。」

 

ユーリは自分の名前の書かれた封筒を開いた。

 

「お、手紙だ。まぁ封筒に入ってるんだから当たり前か。えーと、『突然のお手紙申し訳ございません。わたくしは山奥でとある研究をしている者です。実はこの度ギルド凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)に依頼をしたく、このような手紙を出した次第です。依頼の内容はカルボクラムにてお話しさせていただきます。もしお受けして下さるようでしたら四日後の昼頃にカルボクラムにお越しください。楽しみにしております、星喰みを倒した英雄、ユーリ・ローウェル様。』っと。また何というか・・・・胡散臭さ全開だな。」

 

ユーリは手紙を読んでとても嫌そうな顔をした。

 

「ラピードの見るぞ。」

 

「ワウッ」

 

ユーリはラピードに断わりを入れてからラピードの封筒を開ける。

 

「んー、こっちも手紙か、内容は・・・最後の所だけ違うか、『偉大なるランバートの仔、ラピード様』・・・一体何者だ?」

 

ユーリは目を細めて手紙を睨むように見る。

 

「ガウッ、ウ~」」

 

「ん、なんだ?」

 

ラピードがユーリに何か伝えたそうに何度か吠える。

 

「ガウガウッ、ウォーン!!」

 

「・・・・そうだな。何かよくわからねぇが、招待されてみっか。しかし、この内容からするとあいつ等の所にもいってそうだな。」

 

ユーリはラピードに何か言われ、それに納得したユーリは手紙の依頼を受ける事にした。そして、仲間達の所にもこの手紙がいってる事を推測していた。

 

「よし、ラピード行くぞ。」

 

「ワウッ!」

 

ユーリは簡単に旅支度をし、部屋を出る。目指すは亡き都市カルボクラム。

 

「ん、なんじゃユーリ。またどっか行くのか?」

 

「おう、ちょっくらギルドの仕事してくる。」

 

下町から出ようとした所に出くわしたのは下町を仕切っているハンクスじいさんだ。ユーリが子供の頃から世話になっている人物である。

 

「ユーリが真面目に仕事とは珍しいのぉ。」

 

「ほっとけよ。まぁそう言う訳でしばらく下町開けっから、何かあったら城に居るフレンかエステルを頼ってくれ。」

 

「アホか。あの2人はお前さんと違って忙しいんじゃから迷惑かけられん。それにお前さんがいなくても下町の事はワシ等で何とかするわい。」

 

「へへ、そうかよ。そんじゃあ行ってくるわ。」

 

「わふっ!」

 

ユーリとラピードはハンクスじいさんに挨拶して町を出かけた。それから4日後、何事も無く無事に目的地であるカルボクラムに到着した。

 

「で、着いたはいいが誰もいねーな。これ他の奴等にも届いてると思ってたんだが、違ったか?」

 

ユーリは懐から例の手紙を取り出して眺める。

 

「ま、約束の時間まで少しあるし、のんびりしますか。」

 

「ワウッ」

 

ユーリはそう言ってラピードと散歩をし始めた。しばらく歩いていると、

ガアアアアァァァァァ!!

 

「あん?ありゃあ・・・・」

 

ユーリ達が魔物の鳴き声が聞こえた方を見るとそこに一人の老人が複数の魔物に囲まれていた。

 

「ちっと不味いな、ラピード!!」

 

「バウッ!!!」

 

ユーリはラピードに指示を出し、先行させる。その後をユーリが追いかけて行き魔物と戦闘をしようとすると、

 

「その御名の下、この穢れた魂に裁きの光を降らせたまえ。裁きの光を!ジャッジメント!」

 

老人が術を放つと、周りの魔物に光が降り注ぎ一掃してしまった。

 

「・・・こりゃすげぇな。」

 

「フゥ~」

 

ユーリとラピードは老人が使った術の威力に驚きを見せる。

 

「ふむ、やはり上手く調整出来ておらんのぉ」

 

「じいさん今の術すげぇな。それで未完成なのか?」

 

ユーリは老人に近づき声を掛ける。

 

「む?なんじゃ・・・・お! おお!! お主、ユーリ・ローウェルじゃな! それとそっちのはラピード」

 

老人は声を掛けたユーリとラピードを見てまるで欲しかった玩具が見つかって喜んでいる子供の様な顔をしてユーリ達の名を呼ぶ。

 

「な、何だ!?」

 

「ほっほっほ、多少時間には早いがまぁ概ね問題は無いのぉ」

 

「? ・・・じいさん何者だ?」

 

ユーリは突然意味の解らない事を言う老人を睨みつける。

 

「おお、一人で盛り上がってわるいのぉ。わたしがお主等に依頼した者じゃよ」

 

「あ? あの黒い手紙のか?」

 

「そうじゃ。さて、色々聞きたい事があるじゃろうが・・・わたしが面倒じゃから説明は移動させながらおこなうぞい」

 

老人がそう言った瞬間に足元に魔方陣が浮かび上がり

 

「な!?」

 

「ガウッ!?」

 

ユーリ達は魔方陣の出す光に飲み込まれ、光が収まったときそこには誰も居なくなっていた。

 

「くっ、なにが起きたんだ? ラピード、無事か!」

 

「ワフッ!!」

 

ユーリはラピードの無事を確認した後周りを見て状況を確認する。

 

「ああ? なんだよこれ? 何処見ても真っ白じゃねーか」

 

「ほっほっほ、まあ次元の狭間じゃからの」

 

ユーリが文句を言ってると老人に背後から話しかけられた。

 

「のわっ、じいさん! あんた一体何をしたんだ。次元の狭間ってのは?」

 

「それを今から説明するから落ち着くのじゃ。まずは此処の事を話すかのぉ。此処は次元の狭間と言っていわば世界と世界の間にある亜空間じゃ」

 

「世界と世界?」

 

「そうじゃ、世界とは1つだけでは無いのじゃ。平行、直列、交流、特異、様々な世界が存在する。その世界の数はまさに無限、そしてその世界の間にある空間それが次元の狭間じゃ」

 

「へぇ、で俺達をそんな所に連れてきて何がしたいんだ」

 

ユーリは老人から話しを聞いたが本人はどうでもいいような感じで続きを促した。

 

「ふむ、手紙にも書いたがわたしの依頼を受けて欲しいのじゃ」

 

「依頼ねぇ。人を問答無用で誘拐紛いな事して依頼とか、図太い神経してんのな」

 

ユーリは老人に対して皮肉を言うが、老人はそれを笑いながら流して話しを続ける。

 

「ほっほっほ、で、依頼と言うのはの・・・・・異世界に行って欲しいのじゃ」

 

「は? 異世界だぁ!?」

 

「そうじゃ、そこでしばらくコイツを持って旅をして貰いたい」

 

老人はそう言ってユーリとラピードに宝石を渡す。

 

「それはリリアルオーブと言って、そうじゃのう・・・お主等で言うところの武醒魔導器(ボーディブラスティア)と同じ様なもんじゃ。使い方は・・・・・む、そろそろ着くの。それの使い方は向こうの人間にでも聞いてくれ。武運を祈っておるぞ」

 

「はぁ!? ちょっと待てよ! 俺はまだ依頼を受けるとは・・・」

 

ユーリは老人に文句を言うが老人の姿はもう無く、そして足元が今度は真っ黒くなっていき、ユーリとラピードを飲み込んだ。

 



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出会い

そこは薄暗い何処かの地下。そこに青年ユーリ・ローウェルと青い犬ラピードが意識を失って倒れていた。

 

「・・・・ぐっ、んん、・・・・・ったくあのジジィ、何てことしてくれんだ。」

 

ユーリは意識を取り戻し起きると此処には居ない老人に対して文句を言った。

 

「ラピード、大丈夫か?」

 

「ウゥ~、ガウ」

 

ユーリの声で起きたラピードが返事を返す。それを確認したユーリは周りを見渡し現状を確認する。

 

「っと、此処は地下か? ったく、送るにしても人が居る場所にして欲しかったぜ」

 

「ガウッ」

 

「とりあえず、出口を探すか」

 

ユーリ達が出口を探すために移動していると、

 

「なにするんですか!?」

 

奥の方から人の声が聞こえてきた。ユーリ達は声がした方に行くと

 

「逃がさないよ、僕」

 

黒い鎧を着た兵士が少年を襲っていた。

 

「なんか知んねーが、助けたほうがいいよな。ラピード」

 

「ガウガウッ!!」

 

ユーリは襲われてる少年を助けるためにラピードに声を掛けてから自身も武器を構えて兵士に攻撃を仕掛ける。

 

「っ!?なんだ!この犬は!何処から入った!?」

 

「バウッ! グゥー!!」

 

「えっ? なに?」

 

兵士は突如後ろからラピードに攻撃をされ動揺し、少年も同じく突然の出来事に驚いている。そして2人が混乱している内に、

 

「よくやったラピード! 蒼破刃(そうはじん)!」

 

「なっ!? がはっ」

 

ユーリが兵士を手早く倒した。少年は何がなんだか分からないといった様な顔をして呆然としている。

 

「おいお前、大丈夫か?」

 

「え? あ、はい。大丈夫ですけど。貴方は?」

 

「俺か、俺はユーリ、ユーリ・ローウェルだ。こっちはラピード」

 

「ワウッ」

 

「ユーリさんにラピード。僕はジュード、ジュード・マティスです」

 

「ジュードな。でだ、なんでお前兵士なんかに襲われてたんだ?」

 

ユーリと少年・・・ジュードは互いに自己紹介をし合い、ユーリはジュードに襲われてた理由を聞く。

 

「分からないです。僕はただ教授を探しに来ただけなんで・・・・ユーリさんは何で此処に?」

 

「あ? 俺はなんつーか、迷子みたいなもんだよ」

 

今度はジュードに質問されたユーリが答える。

 

「迷・・子・・?」

 

ジュードがユーリの答えに首を捻る。

 

「まぁいいじゃねーか、それよりもジュードはこれからどうすんだ?」

 

「・・・・僕は教授を探しに行く。元々そのために来たんだから、それにあの子の事も気になるし」

 

それを聞いたユーリは

 

「なるはどな。・・・・・なぁ、俺も付いて行っていいか?」

 

「え!?」

 

「ほら、またあいつ等に襲われたとき一人よりかはいいだろ。それに俺等も出口を探すついでだ」

 

ジュードについて行こうとする。

 

「僕は構わないけど」

 

ジュードはユーリの提案にOKを出す。

 

「よし、それじゃあ行こうぜ。案内頼むぜジュード」

 

「うん」

 

そしてユーリとラピードはジュードについて行く事になった。しばらくして地上に上がるための梯子を見つけ皆であがる。梯子を上ると建物の中に繋がっていた。

 

「コイツはすげぇな。なんつーか、タルカロンぽいな」

 

「なんて広いところなんだろう。このどこかにハウス教授が・・・・」

 

ユーリとジュードは周りを見渡して建物の感想を言う。

 

「で、ジュード。その教授ってーのは何処居るか分かんのか?」

 

「ごめん、分からないんだ。一部屋ずつ探してみるしかないかも」

 

ユーリの質問にジュードが答える。それを聞いたユーリは

 

「なら、ちゃっちゃと探そうぜ。あちこちに怖い人達がいるからな」

 

おちゃらけた様に言ってジュードと探索を再開する。

 

「此処普通じゃ無いよ。一体何をしてるの?」

 

探索を開始して、しばらくするとジュードが呟いた。

 

「ん?そうなのか」

 

「うん、此処ラフォート研究所は精霊術の研究をしてるんだ。なんていうか・・・・兵士ばかりで研究員が少ない。軍事兵器の研究もしてるとはいえ人数の比率がおかし過ぎる」

 

「へぇー、そりゃ確かに変だな。・・・・ん、なんだ?」

 

ユーリはジュードの話しを聞きながら辺りを見回していると、今まで見た兵士とは違う人影が二階の部屋に入っていくのを見つけた。

 

「どうしたのユーリ?」

 

「二階のあの部屋になんか怪しい奴が入ってくのを見たんでな、行ってみるか」

 

「うん」

 

2人は怪しい人影を追って、部屋に入るするとそこは照明が点いておらず暗がりになっていてカプセルの様な物がずらっと並んでいた。

 

「あいつだ」

 

ユーリが見た人物は部屋の中にある上階におり、2人は近づこうとしたら

ボコボコッ!!

 

「「!!?」」

 

「だまし・・・・・・たな・・・・助・・・けて・・・・。もうマナは・・・・・出ない・・・・」

 

近くにあったカプセルの中に老人がおり、助けを求めてきた。

 

「教・・・・・授・・・・・・?」

 

「なんだこりゃ!?」

 

2人が驚愕してるうちに老人は力尽きたように動かなくなり、そして

バシュゥゥ!!

老人の肉体が砕けて消えてしまった。すると照明が点き、2人が部屋を見渡すと

 

「!!!」

 

「おいおい、冗談でも笑えねぇっての」

 

部屋のカプセルには人間が浮かんでいた。2人がその光景に驚愕していると

 

「おいおい、侵入者ってあんた達なの? 見ちゃったんだ?」

 

上の方から少女が声を掛けてきた。

 

「グルルルルル!!!」

 

「・・・・おいテメェ、コレは一体なんなんだ。そんでテメェは何者だ」

 

少女に対しラピードは威嚇をし、ユーリは睨みながら問いただす。

 

「教授になにをしたの!?」

 

ジュードも少女に何が起きたのかを聞くが、それに対して少女はニヤケながら2人を見下ろして

 

「アハ~、その顔・・・たまんない」

 

などと言い、そして

 

「絶望していく人間って!」

 

と叫びユーリ達に斬りかかってきた。

 

「なっ!?この!」

 

ガキンッ! と、ユーリが少女の攻撃を受け止めて、さらに反撃をして少女を引き離す。

 

「戦やろうってんなら容赦はしねーぞ!」

 

「へぇ~、あんたはなかなかやるじゃんか。でもそっちはどうかな!」

 

「えっ、うわぁ!?」

 

そう言って少女はユーリに魔術を放ち目くらましをしたら、真っ直ぐジュードに向かっていき斬りかかるが

 

「ガウッ!」

 

「なっ! おいおい、犬ッコロが邪魔すんじゃねぇよ!」

 

ラピードがジュードと少女の間に入り攻撃を防ぐ。

 

「ナイス! ラピード。このガキ覚悟しろ」

 

「うるさいんだよ! このロンゲ!」

 

ユーリが少女の後ろから攻撃するが少女もそれを魔術で防ぐ。

 

「ったく、なんなんだよ! テメェーは!?」

 

「へっ、教育のなってねぇガキに答えるつもりはねぇな」

 

少女とユーリ達が戦闘をしていると。

ウィーンと、部屋の扉が開き一人の女性が入ってきた。

 

「あ? ・・・なんだまだ仲間が居やがったのか。・・・・・アハ~」

 

少女は女性が入ってくるとそう言った後ニヤリと笑い。

 

「ロンゲ! 今回は見逃してやるが・・・・この女の命は貰うぜ」

 

女性に剣を向けて斬りかかりに行った。

 

「しまった!」

 

「逃げて!」

 

ちょうどユーリ達は女性とは少女を挟んだ位置に居てフォローが出来ない状態であり間に合わないと思ったが、

キュイーン・・・ドゴンッ!

女性は魔術を一瞬で発動させ少女を吹っ飛ばしてしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ワフゥ」

 

あまりの出来事にユーリ達は呆然とし、女性に関しては何事も無かったかのように部屋に入りカプセルを調べ始めた。

 

「・・・・くっ、その顔、ぐちゃぐちゃにしてやる!」

 

少女は吹っ飛ばされたせいか、完全にキレてしまいユーリ達の事を忘れて女性に対して攻撃を仕掛け始めたが

 

「それは困る」

 

女性は困ったと言っているがそんな様子は微塵も見せず。

 

「イフリート!」

 

炎の魔人を出し、また少女を吹っ飛ばした。そして、ジュードは炎の魔人を見て

 

「これって、イフリート!? 四大精霊を召喚するなんて」

 

と、驚愕していた。それを聞いたユーリは

 

「イフリートだって?」

 

その存在に驚きはしないものの不思議な感じで魔人を見た。ユーリにとってイフリートとは星喰みを倒すために始祖の隷長(エンテレケイア)であるフェローが精霊に進化したものだからだ。それゆえにアレが人に使役されるのは違和感がある。と、いってもこの世界とユーリの世界は別なのでイフリートも別精霊である。閑話休題。

 

「帰れといったろ。まさか、ここが君の家というわけか?」

 

少女を吹っ飛ばした女性はジュードに向かってそう言った。それを聞いたユーリは

 

「なんだジュード、知り合いなのか?」

 

「え、いや、知り合いとかではないんだけど」

 

ジュードに女性の事を聞くがジュードの返答も要領を得ない。

 

「ん? お前はだれだ? もしかしてそこの女の仲間か? ならば相手をしても・・」

 

「違うって。いきなり武器を取り出そうとするな」

 

話しかけられたと思ったら急に戦闘態勢になろうとした女性をユーリは止める。

 

「そうなのか。すまなかった」

 

女性は武器を仕舞いユーリに謝ると、近くのカプセルに近づいて

 

「これが黒匣(ジン)の影響・・・・・?」

 

独り言を言い始めた。



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謎の兵器

ラフォート研究所のとある部屋に三人組と一匹の犬がいる。

 

「微精霊たちが消えたのと関係している?」

 

三人のうちの一人である女性はカプセルを見ながら呟いた。

 

「誰と喋ってんだ?」

 

「さぁ? 分からない」

 

ユーリとジュードは女性が誰かに対して話しかけてる素振りに疑問符を浮かべる。そうしていると女性がユーリ達に振り返り、

 

「君たちは早く去るといい。また次も面倒事に巻き込まれるぞ」

 

そう忠告してくる。ジュードはそれを聞くと、教授が入っていたカプセルを見つめ、ユーリはラピードと顔を合わせた。

 

黒匣(ジン)は・・・どこか別の場所か」

 

女性は先ほどの戦いで気絶させた少女の懐からカードキーを探し当てた後そう言って、部屋から出て行こうとする。するとジュードが

 

「ね、ねぇ、待って」

 

女性を止めた。そして話しを続ける。

 

「・・・僕たちあてがないんだ。教授が一緒なら、ここから出られたかもしれないんだけど。僕たちもついていっていい?」

 

すると女性は

 

「ふむ、それはつまり迷子と言う奴だな。私についてくるのは構わないが、面倒に巻き込まれるぞ。いいのか?」

 

女性がそう言ってジュード達を見てくる。

 

「別にかまわねぇよ、面倒事には慣れてるからな。それにどっちにしろ此処から出ないとそのうち捕まっちまう」

 

ユーリがそう言って女性に手を出し。

 

「俺の名はユーリ、ユーリ・ローウェルだ。こっちは・・・」

 

自己紹介をして、次にジュードが

 

「僕はジュード、ジュード・マティス」

 

自己紹介をし、

 

「そんでコイツはラピードってんだ」

 

「ワウッ!」

 

そして最後にラピードを紹介する。

 

「ユーリにジュード、そしてラピードだな。私の名はミラ、ミラ・マクスウェルだ」

 

女性・・・ミラはそう名乗った。ユーリ達は自己紹介をし終わるとミラの後に付いて行き部屋を出る。

 

「む、この光は・・・?」

 

部屋から出るとユーリ達が持っている宝石が光り始めた。

 

「リリアルオーブが光ってる」

 

「なぁ、このリリアルオーブって何なんだ?」

 

「私も知りたい」

 

ジュードが宝石・・・リリアルオーブを取り出して確認してると、ユーリとミラがリリアルオーブについて訊ねた。

 

「えっと、魔物とかと戦えるようになるアイテムだよ。僕も故郷を出る時、念のためにって貰ったんだ」

 

ジュードは2人にリリアルオーブについて細かく説明し始めて、

 

「・・・・・・・・・と言うわけ。僕も成長させたのは初めてだけど」

 

ジュードが説明し終わると

 

「へぇ~、武醒魔導器(ボーディブラスティア)と同じってそう言う意味か」

 

ユーリは例のじいさんに言われた事に納得し

 

「なるほど、潜在能力を覚醒させる道具か。非力な人間には必要不可欠な品だな」

 

ミラもそれなりに納得したがジュードは

 

「本当に人間じゃないみたいな言い方・・・・」

 

と、ミラの言い方に疑問を浮かべる。そして再度ユーリ達はミラの案内のもと、研究所を進んでいく。

 

「ハウス教授・・・期待してるって言ってくれてたのに・・・あんな事になるなんて・・・」

 

と、研究所内を進んでいるとジュードが俯きポツリと呟いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

すると、ミラが突然ジュードの頭を撫で始め、

 

「え?」

 

「なにやってんだ、ミラ?」

 

ジュードは驚き、ユーリはミラの行動に呆れている。

 

「ふむ、人は元気が無いときに撫でられると喜ぶことがあると本で読んだんだ」

 

「それ、なんて本だよ」

 

ミラの説明にユーリは少しニヤケながら聞き返す。

 

「『魔法の手、瞳は鏡』」

 

「・・・それ、育児本じゃないか。僕は赤ちゃんじゃないよ」

 

ミラが言った本の題名を聞いてジュードは肩を落としながらミラに文句を言うがミラは、

 

「む。君には適さない方法だったか? 難しいな・・・」

 

と眉を寄せて考え込んでしまう。

 

「確かに、赤ん坊は撫でると喜ぶが俺達みたいのにはあんま効果はないよな」

 

「あはは、でも少し気が楽にはなったよ。ありがとう、ミラ」

 

「ふむ、どうやら元気が出たみたいだな。では行くぞ」

 

そう言ってユーリ達は先に進んでいく。

 

「そういえばミラ・マクスウェルって名前、変わってるよね」

 

皆で研究所内を探索しているとジュードがミラの名前についてそんなことを言った。

 

「そうなのか?」

 

「うん。だって精霊の主と名前が同じなんだよ」

 

ユーリが聞くとジュードはそれに答え、ミラを見る。すると話を聞いていたミラもジュード達を見て、

 

「同じも何も、本人だからな」

 

「え?」

 

「精霊の主、マクスウェルとは私のことだ」

 

と言った。ミラの言葉にジュードは驚き、ユーリは怪訝な表情をし、ミラに質問した。

 

「ってことは、ミラも精霊ってことになるのか? でも他の奴等とは違うみてぇだが、どうなってんだ?」

 

「うん、どう見ても人間の……女の人にしか見えないよ」

 

「当然だ。そのように体をつくったのだから」

 

二人の質問に、ミラは簡潔に答えた。

 

「体を……つくった!?」

 

「そりゃまた、精霊ってのはすげぇのな」

 

ミラの返答にジュードとユーリはさらに驚いた。雑談しながらも研究所内の奥の方へと探索しながら入っていくと、そこには……

 

「何これ・・・」

 

巨大な砲台の様な物があった。

 

「やはりか・・・黒匣(ジン)の兵器だ」

 

ミラはその砲台を見てそう言い砲台に近づいていき、それに二人はついて行く。

 

「こいつぁ、すげぇな。リタあたりが見たら嬉々として調べ始めるぞ」

 

ユーリはギルド仲間の天才魔導士の事を思い浮かべながら砲台を見上げ、ジュードは

 

「クルスニクの槍・・・? 創世記の賢者の名前だね」

 

砲台下の機械に近づき操作して砲台の情報を見始めたが、

 

「なっ、おいミラなにしてんだ!?」

 

ユーリが叫んだのでジュードが振り向くとミラが魔術を使おうとしていた。

 

「ふん。クルスニクを冠するとは。これが人の皮肉というものか・・・・・・。やるぞ! 人と精霊に害為すこれを破壊する!」

 

ミラがそう言うとミラの周りに四大精霊達が姿を現す。

 

「おお!? なんだこりゃ!」

 

「バウッ!」

 

「彼らが四大精霊・・・。ミラは本当に精霊マクスウェルなの?!」

 

ユーリ達がそれぞれ驚愕しているうちにミラは魔力を溜め、精霊達はクルスニクの槍と呼ばれた物の周りに移動して陣を築く。が、突如クルスニクの槍が起動し始め、驚きジュードが上を見ると

 

「っ! 君はさっきの!?」

 

「ゆるさない・・・! うっざいんだよ・・・!」

 

そこにはミラに気絶させられた少女がいた。少女は血走った目でさらに機械を操作し始めると、クルスニクの槍の先端が四つに分かれて開き、

 

「おい! なんかマズイんじゃねーのか!?」

 

ユーリがそう言うがすでに遅く、開かれた槍の先からマナを吸収し始め、

 

「うっく…! マナが…抜け、る…」

 

「くそっ…! なんだ、これ?!」

 

「ワフゥ~」

 

ジュードどユーリ、それにラピードが座り込み、

 

「バカもの! 正気か? お前も、ただではすまないぞ!」

 

ミラは少女に対して言葉をかけるが、少女の方は聞く耳を持たず

 

「アハ、アハハハ! 苦しめ…し、死んじゃえー!!」

 

そう叫び、そして倒れてしまった。

 

霊力野(ゲート)に直接作用してるんだ…」

 

ジュードは上にある術式を見てそう言い

 

「すこし、予定と、変わったが…いささかも問題は…無い!」

 

ミラはそう言うと足を引きずりながらも装置に近づいていく

 

「おいミラ! 無理するな。くっ、無茶のし過ぎだ!」

 

ユーリは止めようとするがミラはそれを無視してさらに近づき、装置にたどり着くが、

 

「っ! ミラ、下!」

 

ミラとジュード、さらにはユーリとラピードの足元に魔方陣が現れ、皆を拘束しさらにマナの吸収が激しくなり、動けなくなる。ミラはそれでも無理矢理体を動かし装置に取り付こうとしている。すると、ユーリ達の頭に精霊達が語りかけてきて、

 

「な、何? 四大精霊?」

 

「あ? ミラを…連れて…逃げろ…だって?」

 

「え? 何、最後の力をって!?」

 

「まさか、あいつ等!?」

 

ジュードとユーリが精霊達の声を聞き終わると上空に居た精霊達はその身から大量の魔力を放出し、無理矢理クルスニクの槍を停止させた。精霊達の魔力の放出の余波でユーリとジュードは後ろに吹き飛ばされてしまったが、ミラは

 

「うっ…ぐぐっ…」

 

その場に踏み止まり装置に手を伸ばして、装置から何かしらの部品の様な物を引っこ抜く。が、しかし先ほどの衝撃でユーリ達の足元の床も崩れ始めてしまい、ユーリ達は咄嗟に無事な床に掴まる。

 

「ふん。…なっ?!」

 

ミラはとっさに魔術を使おうとするが発動せず、そのまま下に落ちていってしまった。

 

「なっ! くそっ」

 

ユーリは悪態をつくと掴んでいた手を放しミラを追って落ちていく。その後を追うようにラピードとジュードも飛び降りた。

 

 

 

 



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逃走

夜光の王都イル・ファン、その街を流れる川から三人の人影と一匹の犬が上がってきた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。ほらよっと・・・、大丈夫か?」

 

「はぁ、はぁ、ああ、すまなかった」

 

ユーリは川から出た後ミラを引き上げ安否を聞き、ミラはそれに息を整えながら答える。

 

「お前等も怪我ないか?」

 

「はぁ、うん。はぁ、はぁ、大丈夫だよ」

 

「ブルゥゥゥゥ・・・ワン!」

 

ユーリはさらにジュードとラピードのも聞き、それぞれ返事を返す。

 

「それにしてもミラ、泳げなかったんだな。此処まで来るのに一苦労だったぜ」

 

「ウンディーネのようには行かないものだな」

 

ユーリはそう言いながら体を伸ばし、ミラは少し驚きながらそう言い返す。それを聞いたジュードは

 

「やっぱり、四大精霊の力がなくなったんだ・・・」

 

そう呟てからミラに話しかける。

 

「ねえ、これからどうするつもり?・・・精霊の力がないとあの装置はきっと壊せないよ」

 

「あいつらの力、か・・・」

 

ミラはジュードの言葉に暗い表情で悩むがすぐに表情を明るくし

 

「ニ・アケリアに戻れば、あるいは・・・・・・世話をかけたな、二人とも。ありがとう」

 

打開策を見つけたらしく、ユーリ達に明るい声でお礼を言う。そしてミラは

 

「君等は家に帰るといい」

 

最後にそう言ってスタスタと歩いていってしまった。

 

「・・・どうすんだ? あいつ、行っちまったぞ」

 

「どうするって言ったって・・・」

 

ユーリはジュードに言うが、ジュードはオロオロして悩んでしまい、ユーリはそんな姿を見て肩をすくめて、

 

「とりあえず、こんな所にてもしょうがねぇ。行くぞ」

 

そう言って、ジュードの背を軽く叩き、階段を上って行きジュードとラピードもその後について行く。

 

「ガウッ!」

 

「っ! ミラ!」

 

階段をのぼり橋の上に行くとそこに兵士に襲われているミラがいた。

 

「不用意だな。無関係を装えばよいものを」

 

ミラは襲われているのにも関わらずそんなことを言い、兵士は声を掛けたジュード達を見て

 

「貴様等も仲間か!!」

 

と大声を出し睨みつけるた。

 

「・・・・・・・・」

 

「だったら何だってんだ?」

 

兵士の叫びにジュードは俯き目を逸らし、ユーリは戦闘態勢になる。そうして意識がユーリ達にいってる隙にミラが兵士に攻撃を仕掛けるが、ミラの攻撃は剣に振り回されるようなヘロヘロな感じになっておりまったく当たらず、それを見て

 

「ちょ! なにやってんだよミラ、お前剣使った事ないのか!?」

 

ユーリは目を見開き驚愕する。それを聞いたミラは

 

「うむ。今までは四大の力に頼って振っていたからな。あいつらの力がないとこうも違うとは・・・」

 

と、戸惑いがちに答える。

 

「覚悟しろ!」

 

そうしてるうちに兵士が叫び、攻撃を仕掛けてきた。

 

「ったく。ミラお前は一旦退れ!ラピード行くぞ」

 

「ウォーン!」

 

ユーリはラピードに声を掛け、兵士を倒しに行く。

 

「・・・・ッ、僕も戦う!」

 

俯いていたジュードもユーリが戦い始めたのを見て援護に入った。勝負は兵士の数が少なかった事もありすぐにユーリ達の勝利で終わった。

 

「はぁ、はぁ、何やってんるんだろ。僕は・・・」

 

ジュードは衝動的にとはいえユーリ達と兵士を倒してしまった事に肩を落とす。

 

「重ね重ねすまない。ユーリ、助かった」

 

「別にどうってことねぇよ。そんなことより、急いでこの街出た方がいいんじゃねぇか?」

 

ミラがユーリ達にお礼を言い、ユーリは手を振りながらそれに返してから町を出る事を提案する。

 

「そうだな。ではな」

 

ミラはそう言って、また一人で歩いて行ってしまうが

 

「街の入り口は、警備員がチェックしていることが多いんだ。海停の方が安全だと思うよ」

 

そう言ってジュードがミラを引き止める。

 

「む、そうか」

 

ミラもそれを聞いて足を止め、海停の場所を探して辺りを見回すが分からず。

 

「・・・海停、知らないんだね。・・・こっち」

 

それを見たジュードは呆れながらミラを海停に案内し始める。

 

「すまない。恩にきる」

 

「別にいいよ。色々助けてもらったし」

 

ミラはジュードにお礼を言い、ジュードは何でもないとゆう風にミラに返す。

 

「なぁ、海停ってなんだ?」

 

ユーリとラピードもジュードの後をついて行きながら質問をする。

 

「え、ユーリ知らないの?!海停ってのは船の乗継場のことだよ」

 

ジュードはユーリの質問に驚きながらも答える。

 

「ああ、港の事か」

 

「港? ユーリの所では海停の事をそう呼ぶの?」

 

「あ、あー、そうそう」

 

ユーリはジュードの答えに海停が港と同じと納得して、ジュードはジュードでユーリの質問に納得をする。そうこうしてるうちに一行は海停に到着する。

 

「そこの3人、待て!」

 

ユーリ達は船に乗るために進んでいると後ろから威圧的な声で兵士達に呼び止められた。

 

「え、・・・何?」

 

ジュードがそう言って振り返ると5、6人の兵士がユーリ達に武器を向けていた。

 

「先生? タリム医院のジュード先生?」

 

そして兵士達の隊長らしき人物がジュードの事を戸惑った様子で呼んだ。

 

「あなた・・・エデさん? ・・・なにがどうなってるんですか?」

 

ジュードにエデと呼ばれた兵士は俯き戸惑いながら

 

「先生が要逮捕者だなんて・・・」

 

と呟き、そして顔を上げ兵士としての顔でさらに、

 

「・・・ジュード・マティス。逮捕状が出ている。そっちの二人もだ。軍特法により応戦許可も出ている。抵抗しないで欲しい」

 

と、言ってきた。それを聞いてジュードは驚き、戸惑いながら

 

「ま、待ってください! た、確かに迷惑をかけるようなことはしたけど、それだけで重罪だなんて・・・!」

 

と、エデに言い返したが、兵士達は無言で武器を構る。

 

「問答無用ということのようだ」

 

「エデさんっ!」

 

ミラは兵士達の様子にそう言い、ジュードは止めてくれるように叫ぶが

 

「悪いが。それが俺の仕事だ」

 

エデはジュードの願いを却下する。

 

「悪いがジュード、・・・私は捕まるわけにはいかない。すまないが抵抗するぞ」

 

「俺も捕まりたくないんでね、協力するぜ。ミラ」

 

ミラが剣を抜き構えると、今まで様子を見ていたユーリも武器を取り構える。

 

「・・・抵抗意思を確認。応戦しろ!」

 

エデがそう言うと部下の兵士が術を放つ。ミラとユーリはそれを避け、術はそのまま奥の受付小屋に当たり爆発する。戦闘が始まると周りに居た野次馬達も悲鳴を上げて逃げ始め、さらに偶然なのか巻き込まれたくなかったのか泊まっていた船も出港し始めてしまった。それを見たミラとユーリは

 

「さらばだジュード、迷惑をかけた」

 

「ジュード、ここまでサンキューな。お前も上手く逃げろよ。ラピードいくぞ!」

 

「バウッ!」

 

ジュードに一声かけて、船に向かって走り出した。

 

「さぁ、先生。抵抗したら、その分罪は重くなりますよ」

 

「僕は・・・僕はただ・・・」

 

エデがジュードに抵抗しないように声をかけ、戸惑っているジュードに兵士が捕まえようとしたその時、

 

「がはっ!」「ぐふっ!?」「うわぁっ!!」

 

と、横から一人の男性が兵士達を殴り倒した。

 

「軍はお堅いねぇ。女子供相手に大人げないったら」

 

と、男性は首のスカーフを直しながら言った。

 

「あ、あなたは・・・?」

 

「おっと、話はあとな。連れの奴等がいっちまうよ?」

 

「でも僕は・・・!」

 

「軍に逮捕状が出て、特法まで適用されるってことは、だ。君はSランク犯罪人扱い。捕まったら待っているのは・・・極刑だな」

 

「そんな!」

 

ジュードは突然出てきた男性に疑問を聞こうとするが、男性はジュードの肩に手を回しながら話をはぐらかしジュードを連れ、船の方へ走り出す。後ろから応援の兵士達が追ってきて男性は、

 

「よっと」

 

ジュードを抱きかかえて積荷に飛び上がり、

 

「しゃべるなよ。舌を噛む」

 

そう言って加速し、端まで行くと跳躍した。二人は盛大な音を立てて船の甲板に突っ込むような形で乗り込み、船員は二人に対して

 

「ちょっと、あんたたち!?」

 

と睨みながら問い詰めようとしたが

 

「まったく参ったよ。なんか重罪人を軍が追ってるようでさ」

 

ジュードを助けた男性が立ち上がりながら陽気な声で喋り始めて

 

「おいおい。こんなイイ男と女、ペットを連れた兄ちゃんと子どもが重罪人に見える?」

 

さらにそう言って、ミラとユーリに手をふった。ミラはそれに首を傾げ、ユーリは胡散臭そうに苦笑した。

 

「あの・・・」

 

「アルヴィンだ」

 

「え?」

 

ジュードが何か言おうとしたら男性、アルヴィンが自己紹介してきた。

 

「名前だよ。君はジュードっつったかな?」

 

「う、うん。こっちはミラ。それでこっちはユーリ。そしてこの子はラピード」

 

ジュードは近づいてきたユーリ達をアルヴィンに紹介していった。

 

 

 

 



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船上にて

とある船の甲板を三人の男女が歩いていた。

 

「船長のやつ、勘弁しろよな。いつまで尋問するつもりだったんだよ」

 

アルヴィンはげんなりしながら悪態をついた。

 

「あーゆうのはテキトーに答えてればいいんだって」

 

「それに致し方あるまい。身分を示すものが無いのだからな」

 

「おたくらが、だろ」

 

それに対しユーリが手馴れたような事をいい、ミラはしょうがないと言外に言う。アルヴィンはそれに肩をすくめて言い返した。三人が甲板に着くと

 

「ア・ジュール行きだなんて・・・。外国だよ・・・」

 

「ワウゥ?」

 

海を眺めて落ち込んでいるジュードと寝そべっているラピードを見つけた。アルヴィンはジュードに近づいていくと

 

「見ろよ。イル・ファンの霊勢(れいせい)が終わるぞ」

 

ジュードに話しかけ、空を見上げた。ジュードとミラも同じように空を見上げ、

 

霊勢(れいせい)?」

 

ユーリも疑問を持ちながらラピードと共に空を見上げると、さっきまで夜だったのにも関わらずいきなり昼になってしまった。

 

「うおっ! 何だこりゃ。いきなり明るくなったぞ?!」

 

「バウッ」

 

その現象にユーリとラピードが驚いていると、

 

「どうしたの? そんなに驚いて。イル・ファンの夜域は確かに始めは珍しく感じるけど、そんなに驚くことでもないけど」

 

「・・・・・・・・・。そうだぜ、今のじゃまるで初めて見た様なリアクションじゃねーか」

 

ジュードとアルヴィンがユーリの驚愕ぶりに疑問を持つ。

 

「まるでも何も、俺こんなの見るの初めてだぜ」

 

ユーリは二人の言葉に対して、初めて見ると答える。

 

「ふむ? 私はイル・ファンに入る時に一度見ているが、霊勢(れいせい)の変化など何処にでもあるだろう? ユーリの驚き方はまるで、それすら知らないような感じだったが」

 

とミラもユーリに対して違和感を覚える。

 

「いや、まず霊勢(れいせい)ってなんだ?俺が住んでた所にはそんなもん無かったからよ」

 

「ええっ! 霊勢(れいせい)を知らないってどうゆう事!?」

 

「それはおかしい、霊勢(れいせい)が無いなどまずあり得ない」

 

ユーリの言葉に今度はジュードとミラが驚く。

 

「おいおい、嘘はいけねーよ。リーゼ・マクシアに住んでる以上、霊勢(れいせい)が無いどころか知らないなんて」

 

アルヴィンも同じように驚きながらも軽口を叩くが、

 

「それ以前に俺、この世界の人間じゃねーからよ。俺とラピードが住んでた世界はテルカ ・リュミレースってゆうんだよ」

 

『テルカ ・リュミレース?』

 

ユーリの発言にジュード達は戸惑いながらも口を揃えて言う。

 

「えっ、それって、その・・・つまりは異世界って事!?」

 

「アハハハ、なんだその冗談。笑い話にもなんねーぞ」

 

「他の世界。・・・そんなが存在するのか」

 

ジュードは驚愕し、アルヴィンは笑い飛ばし、ミラは興味を持った様にそれぞれ喋り出す。

 

「嘘じゃねーよ。そもそも俺だって自分の意思でこの世界に来たわけでもねぇんだからよ」

 

「へぇ~。じゃあ、どうしてこの世界に来たんだ?」

 

「それはだな・・・・・」

 

ユーリはアルヴィンにリーゼ・マクシアに来た理由を尋ねられて、皆に簡単な経緯を説明した。

 

「・・・・・と言うわけだ」

 

「じゃあ、研究所の地下で会った時って」

 

「そう、俺が此処に飛ばされた直後って事」

 

ユーリの説明を聞いて、ジュードは研究所の地下でのことを思い出した。

 

「あの時迷ったって言ってたけど、本当に迷ってたんだね」

 

「そういえば研究所で会った時も妙に物珍しそうに周りを見ていたな」

 

「ははは。ま、そうゆうこった」

 

ジュードとミラは研究所でのユーリの行動に納得したという感じで話した。

 

「で、話しを聞く限り行く当ても無いみたいだし、どうするんだ?」

 

「まぁ、とりあえず船下りてから考えるよ」

 

話しを聞いたアルヴィンの質問し、ユーリは肩をすくめながら答えた。

 

「そっか。そういえばジュードが医学生だったとは。こっちにもちょっと驚いたよ」

 

アルヴィンは納得するとユーリの話題からジュードの話題に持っていった。

 

「ユーリの話の後だと、驚いてるようにみえないよ。・・・ねぇ、聞いていい?」

 

アルヴィンはジュードの問にどうぞというポーズを向けた。

 

「どうして助けてくれたの?あの状況じゃ、普通助けないよ」

 

「金になるから」

 

と、ジュードがした質問にアルヴィンは一言で返した。

 

「金になるって・・・」

 

「私達を助けることが、なぜそうなるのだ?」

 

ユーリはそれに呆れて、ミラは疑問を口にした。

 

「あんたらみたいなのが軍に追われてるって事は、相当やばい境遇だ。それを助けたとなりゃ、金をせびれるだろ?」

 

アルヴィンはそう言ってユーリ達を見た。

 

「でも、僕、お金ほとんどもってないよ」

 

「生憎、私もだ」

 

「まず、俺は助けてもらっった覚えがねぇんだが」

 

とアルヴィンに三者三様に言葉を返す。

 

「まじか・・・。ってかユーリ、お前尋問のときフォローしてやったろ。値打ちもんでも受け付けるからよ、異世界の珍しいもんとか。二人はどうだ?」

 

アルヴィンはさらに三人を見るが、

 

「ないよ。あんな状況だったんだ」

 

「高く取引されそうな物などないだろうな」

 

「珍しいもんねぇ、そういえばアレがあったな」

 

と、ジュードとミラは手持ち無しと答え、ユーリは荷物をあさり始めた。

 

「ねぇ、アルヴィンって何してる人? 軍人みたいだけど・・・、ちょっと違う感じだしさ」

 

ユーリの行動に期待した感じで待っているアルヴィンにジュードが何気なしに聞いた。

 

「へえ、いい線いってるよ。傭兵だ。金は頂くが、人助けをするすばらしい仕事」

 

「ふむ。それは感心なことだ」

 

ジュードの質問にアルヴィンが答える。ミラはそれを聞いて感心と頷くが

 

「気をつけろよ。傭兵ってのは胡散臭いやつが多いからな」

 

と、ユーリが横から注意をうながした。

 

「胡散臭いとはひどいねぇ」

 

「なに、ちょっとした経験則だよ。あんた胡散臭い知り合いと雰囲気が似てるからな。ほれ、これでいいか」

 

アルヴィンがそれに対して文句を言うがユーリはギルド仲間のおっさんを思い出しながら言い返し、持っていた物をアルヴィンに渡す。

 

「お。へぇ、綺麗なレンズだな。七色に光ってやがる、結構なもん持ってるじゃないの」

 

「借りはなるべく早く返すように心がけてるもんでね」

 

アルヴィンはユーリから受け取った物を見て笑みをこぼす。

 

「すまなかったな」

 

「別にたいした事じゃねぇよ。アレもたまたま持ってただけだし」

 

ミラがユーリにお礼をいうと気にするなと言って、海を眺める。そして時間が流れて、船は海停に到着した。船からユーリ達は降りると、ジュードは周りを見渡し、

 

「外国っていっても、あんまり変わった感じしないね」

 

「ん? ああ、ア・ジュールっていってもここら辺はな」

 

ジュードの言葉にアルヴィンが答える。その後ジュードはもう一度周りを見て、俯こうとしたが首を振り

 

「へぇ~。あ、地図があるみたいだ。見てくるね」

 

と元気な声を出し地図を見に行った。

 

「空元気、かねぇ」

 

「だろうな。実際、犯罪者にされたわけだし」

 

ユーリはアルヴィンの言葉に同意する。

 

「気持ちを切り替えたのか。見た目ほど幼くないのだな」

 

「おたくが巻き込んだんだろ? 随分と他人事だな」

 

ジュードの態度にミラはそう言うとアルヴィンが非難する様に言う。しかし、

 

「確かに世話になった。だが、あれは本人の意思だぞ? 私は、再三帰れと言ったのに」

 

「あー、確かにそうだな。ただジュード奴はこんな事になるとは思ってなかったみたいだけど」

 

「は~ん。それでミラに当たるわけにもいかないから、あの空元気ってか」

 

ミラとユーリが言うとアルヴィンは納得する。ミラはジュードの所まで歩いていき、地図を共に見始め、アルヴィンは

 

「どっちにしても大人なこと」

 

と、茶化すように言い

 

「本人には言うなよ。多分拗ねるだろうから」

 

とユーリはアルヴィンをたしなめる様に言いジュード達の所へ歩いていった。

 

 

 

 

 



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イラート海停

イラート海停、そこで二人の男女が地図を見ていた。

 

「ここから北か・・・」

 

ミラがそう言いながら悩んでいると

 

「目的地は決まったか?」

 

と、後ろからユーリが話しかけてきた。

 

「目的地ならもう決まっているのだが・・・。そうだユーリ、頼みがある。私に剣の手ほどきをしてもらえないか?」

 

ミラは質問に答えた後、ユーリに剣を教えてくれるように頼んだ。

 

「どうしたんだ? いきなり」

 

「今の私は、四大の力をもたない。剣を扱えないと、この先の道は困難だ。・・・お願いできるだろうか?」

 

ユーリの疑問にミラは答え、お願いする。

 

「別にかまわねぇが、俺の剣って殆ど我流だから剣術の手ほどきと言うより、戦い方のってことになっちまうけどそれでもいいか?」

 

「ああ構わない、助かる」

 

ユーリはそう言ってミラの頼みを引き受けた。

 

「そんじゃあ、出発するか」

 

「そうだな」

 

とユーリが言うと後ろから同意の声が聞こえてきた。

 

「アルヴィン? どうしたの」

 

後ろから話しかけてきたアルヴィンにジュードが聞くと

 

「いやー、ほら。俺も仕事探さなきゃいけないし、見つかるまで一緒にと思って。よく言うだろ、旅は道連れって」

 

アルヴィンは仲良くしよーぜと言ってくる。が、

 

「つまりは、たかりに来たってか?」

 

「おいおい、ひでぇ言い方するなよ。ただ俺は旅は人数多いほうが楽しいだろうなぁって」

 

ユーリの辛辣な言葉にアルヴィン苦笑する。

 

「別にいいじゃない。大人数の方が楽しいってのはその通りだし」

 

「ふむ。私もかまわないぞ」

 

2人のやり取りにジュードとミラも別にいいじゃないかと擁護した。

 

「ほらな。二人もこう言ってることだし、仲良くいこーぜ。な、ユーリ」

 

「はいはい、好きにしろって」

 

アルヴィンはユーリの肩に手を回しながら言うが、ユーリはその手を払い言い返す。

 

「ふむ、それでは行くとするか」

 

「ちょっと、待った」

 

ミラが歩き出そうとしたらアルヴィンが止めた。

 

「なんだよ。まだ、何かあるのか?」

 

ユーリが面倒臭そうにアルヴィンに言うと

 

「いや、行く前に少し腹ごしらえしてこうぜ。俺腹へっちまってよ」

 

「何を悠長な事を言っている。私には「グゥ~」やらなければいけない使命があるのだぞ」

 

アルヴィンの言葉にミラが言い返すが途中でミラの腹が鳴り、ユーリ達は呆れた顔をした。

 

「ミラもお腹減ってるんじゃない」

 

ジュードが困ったような表情でミラに言うと

 

「ふむ? 先ほどから妙に力が入らないと思ったが……ああ、なるほど。これが空腹か。ふふ、興味深い。む、自覚をしたら余計に力が……」

 

ミラはお腹を押さえて、その場に膝をついてしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「ねぇ、ミラ? 最後にご飯食べたのはいつ?」

 

ユーリとジュードが心配して声を掛けると

 

「……食べた事はない」

 

そう言い返した。ジュードは驚き

 

「……一度も?」

 

そう聞くと

 

「シルフの力で大気の生命子を……、ウンディーネの力で水の生命子を……」

 

「何、いってんの?」

 

「ジュード、解説頼む」

 

「えっと、つまりは栄養を精霊の力で得てたってことなんだと思う。ミラ、これからは、ちゃんとご飯をたべなきゃね」

 

ミラは今までどうしてたか説明をするがアルヴィンとユーリは解らず、ジュードが二人に解り易く説明した。

 

「はーい。俺に提案がありまーす」

 

「はい、アルヴィン。どうぞ」

 

「今日のところは宿で休んでから明日あらためて出発したほうがいいと思うんだが?」

 

「奇遇だな。俺も同じ事考えてたところだ。とゆうことでミラ、出発は明日でいいよな」

 

アルヴィンとユーリがおちゃらけながらもミラに休もうと提案し

 

「ふむ、確かにこれでは出発するのは無理だからな。休むしかあるまい。……おっと」

 

「……! ったく、肩貸してやるよ」

 

「すまないな、ユーリ」

 

ミラも提案を受け入れ、宿に向かおうとしたらふらつき、それをユーリが支え、皆で宿に向かった。

 

「いらっしゃい」

 

「四人と一匹だ。とりあえず、すぐに食事だけもらっていいかい?」

 

アルヴィンが宿の店主に話をして、食事を先に貰おうとするが

 

「すまないね。料理人がまだ来てないんだよ」

 

料理人が居らず、店主が申し訳なさそうにしていると

 

「だったら、厨房使わせてもらっていいですか?」

 

ジュードがそう願い出た。店主はミラのことを見て

 

「お連れさん、ぶっ倒れそうだしな。好きにしてもらっていいよ」

 

と、笑いながら許可を出してしてくれた。ジュードはそれを聞くと一言お礼を言い厨房に向かった。

 

「腹と背中がくっつく……、ふふふ。そんなことは不可能だが。なるほど、体験すると、この言葉がよい表現だと感じる。ふふふ」

 

「ワウッ」

 

ミラが突然笑いながらそういい始め、それを聞いたアルヴィンとユーリは顔を合わせて互いに呆れたような表情をし、ラピードも同じような感じで小さく吠えた。しばらくしてユーリ達が食堂で待っているとジュードが料理を持ってきたので、食事を始めた。

 

「お、うまい!」

 

「ああ、なかなかいけるぜ」

 

「それだ」

 

それぞれ料理を食べるとアルヴィンとユーリが美味いと褒め、それを聞いたミラがとても楽しそうに同意した。

 

「食事というのは、なかなか楽しい。人は、もっとこういうものを大切にすればよいのだ」

 

ミラはそう言いながら食事を続け、食事が終わるとミラは満腹になったせいかそのまま突っ伏して眠ってしまった。そんなミラを見て、

 

「もしかすると、寝るのも初めてなのかな」

 

ジュードがそう呟いた。

 

「……さっきの飯を食べてなかったってのもそうだが……何者?この()

 

アルヴィンがジュードの呟きを聞き、ミラについて訊ねた。

 

「マクスウェルなんだって。アルヴィン、知ってる?」

 

「……マクスウェルだって?」

 

ジュードの返答にアルヴィンは眉を寄せた。

 

「なぁ、マクスウェルっての何なんだ?」

 

「精霊の主、四元素の使い手、最古の精霊、色々な呼び名があるが……。この娘が、精霊マクスウェル? 嘘だろ……」

 

ユーリが聞くとアルヴィンはそう説明した。

 

「そんなにすごい精霊なのか?」

 

「ああ。信じられないよ。ガキの頃から枕許で、マクスウェルの話を聞いて育ったんだからな」

 

さらに聞くとアルヴィンはそう話した。

 

「そんなミラが壊そうとしてるものって何なんだろう……?」

 

二人の会話を聞いてジュードはミラを見ながらそう呟き、それを聞いたアルヴィンが

 

「壊そうとしてる? 何を?」

 

と、ジュードに聞いた。

 

「あ、うん。確か黒匣(ジン)とか言ってたかな。研究所にあった装置」

 

「……ふーん」

 

ジュードはそれに答え、アルヴィンは相槌を打ち、ミラを見た。

 

「ミラにちゃんときいてみようかな……」

 

ジュードもミラを見つめながらそう言うと

 

「興味本位で首つっこんだせいで、こっちでも追われる身になったりしてな」

 

アルヴィンが冗談めかしに言い、それにジュードが俯いて表情を暗くしてしまった。

 

「そんなに考え込むなって。別にそうなるって決まったわけじゃあるまいし」

 

「……うん。そうだよね。ありがとう、ユーリ」

 

見かねたユーリがそう言い元気づけて、ジュードもそれを聞き表情を明るくしてお礼を言う。その後、ユーリ達は部屋へ行き、就寝した。次の日の朝。

 

「おはよう。みんな」

 

ジュードは先に宿のフロントにいるユーリ達に挨拶をした。

 

「おはよう。早速だがジュード、これからのことで話がある」

 

「……うん」

 

ミラも挨拶をするが、早々にこれからの事を話す。

 

「私はニ・アケリアに帰ろうと思っている」

 

「ニ・アケリア? ミラの住んでいるところ?」

 

ミラの目的地を聞くと、それにジュードは質問をし

 

「正確には祀られている。そこに帰れば、四大を再召喚できるかもしれん」

 

とミラは答えた。

 

「マジでマクスウェルなのか」

 

アルヴィンはミラの言葉を聞いて小さくそう呟いた。

 

「そこでだ、ジュード。君は、これからどうするつもりなんだ? もう私についてこなくていいのだぞ?」

 

ミラは自分の目的を話し終わるとジュードにそう聞いた。

 

「……それは」

 

ジュードはミラの質問に俯いてしまう。そんなジュードにミラは

 

「ジュード、もし行く当てが無いのなら、私と一緒にニ・アケリアに行かないか?」

 

と、聞いた。

 

「え?」

 

ジュードはミラの言葉に驚き顔を上げる。

 

「今の君の状況は身から出た錆というものだが、私の責任であるのも、また事実。ニ・アケリアの者たちに私が口添えしよう。きっと君の面倒をみてくれるはずだ」

 

ミラは顔を上げたジュードにそう言い、一緒に来るか、と誘う。

 

「へぇ。意外と考えてやってるのな」

 

「ふむ。お前に、まるで他人事だと言われて、少し反省してみた」

 

アルヴィンが驚いて言うと、ミラはそのように言い返す。

 

「で、ジュード。どうするんだ?」

 

「僕、一緒に行くよ」

 

ユーリがどうするか聞くと、ジュードはついて行くと答えた。

 

「わかった。安心するといい」

 

「それじゃあ、もうしばらくよろしくな」

 

「ワウッ」

 

ミラ、ユーリ、ラピードがそれぞれジュードに言う。

 

「そんじゃ、行くか」

 

アルヴィンが言葉を掛けると、ユーリ達はイラート海停を出発した。

 

 

 

 

 



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果樹園の村 ハ・ミル

ミラ一行はイラート間道を進んでいた。

 

「ミラ、確か村は北の方って言ったよな?」

 

ユーリが前を歩いていたミラに話しかける

 

「ああ」

 

「どれくらいかかるんだ?」

 

ミラがユーリに返事をすると、横からアルヴィンが目的地までの距離を聞いたが

 

「ふむ、シルフの力で飛んだのなら、半日もかからない距離だろう」

 

「基準がわからないって」

 

ミラの答えに、頭を掻きながらアルヴィンは困った表情に言う。

 

「途中に休めるところが、あるといいんだが」

 

「地図だと村があるみたいだし、大丈夫じゃないかな」

 

アルヴィンが心配しているとジュードが地図を見ながら言った。

 

「いずれにせよ、進むしかないのだから考えてもしかたあるまい。もしもの時は野宿すればいい」

 

「はいはい。まったく、たくましいねぇ」

 

ミラの台詞に呆れながらアルヴィンは言った。それからしばらく歩みを進めていると

 

「そういえばユーリの世界ってどんなところなの?」

 

ジュードが隣にいるユーリに話しかけた。

 

「あ? 俺の世界? なんでまた」

 

ユーリはジュードの質問に何故、と聞き返すと

 

「なんとなく知りたいと思ったんだ」

 

「お、それ俺も聞いてみたいな」

 

「私も興味がある」

 

ジュードが答え、他の二人も便乗してきた。

 

「ん~、話しても別にいいが。俺、説明下手だからな。まあ、分かる範囲で教えてやるよ」

 

ユーリはそう言ってテルカ ・リュミレースのことを話し始めた。帝国とギルド、魔導器(ブラスティア)、エアル、始祖の隷長(エンテレケイア)、そして星喰みのこと等を説明も加えながらジュード達に話していく。

 

「・・・・・・・と、こんな感じかな。色々と細かいことは俺もよく解ってねえから、質問は無しな」

 

ユーリが話し終わると

 

「精霊が存在せず、エアルというもので世界が保っていたのか。・・・・・信じられん」

 

「やっぱり僕たちの世界と全然違うんだね」

 

「世界を守るために、今までの文明を捨てたって・・・マジかよ」

 

それぞれ、が思い思いに言葉を発する。

 

「ってか、おたく、世界救っちゃてるって・・・。凄いことしてんな」

 

「うん。でも、なんで今もそんな生活してるの? それだけのことしたんだからもっといい生活出来るのに」

 

アルヴィンが驚き、ジュードは疑問を言うと、

 

「別に。今の生活の方が気楽でいいからな」

 

ユーリはそう言った。

 

「ふむ、ユーリは謙虚なのだな」

 

「違げーよ」

 

ミラがユーリに言葉を聞いてそう言うとユーリは半眼になって否定した。そんなこんなでイラート間道を抜けた一行は、村に辿りついた。

 

「果物がいっぱいだ。甘い匂いがするね」

 

「酒の匂いもな。果樹園でもやってるんじゃないか」

 

村に入るとジュードとアルヴィンも匂いを嗅ぎそう言う。すると、

 

「おやまぁ、こんな村にお客さんとは珍しい」

 

老婆が近づいてきて話しかけてきた。

 

「ん? 婆さん村の奴か?」

 

「村長をやっとります」

 

ユーリが老婆に聞くとそう答えた。

 

「ニ・アケリアへ行くにはこの道であっているか?」

 

ミラが村長に聞くと、村長は

 

「ニ・アケリアとは、またずいぶんと懐かしい名を」

 

「どういう意味?」

 

驚いたふうに言った。それをアルヴィンが不思議に思い聞く。

 

「忘れられた村の名じゃ。今ではあるかどうかもわからん。子供の頃にキジル海瀑の先にあると聞きましたが……」

 

村長はミラたちそう説明した。

 

「キジル海瀑?」

 

「大きな滝ですじゃ。ニ・アケリアをお探しなら、起伏の激しい岩場を通り抜けるのお」

 

ジュードが聞くと村長はそう教えてくれた。それを聞いたアルヴィンは

 

「そりゃあ、ちょっとここで休んでから行った方がよさそうだ」

 

そう提案し、他の皆も頷く。

 

「村には宿がないですからの。私の家に空き部屋があるので、使ってくださっても構いませんぞ」

 

「婆さん、ありがとな」

 

村長が部屋を貸してくれると言うので、ユーリ達は礼を言い、村長の家に向かった。

 

 

 

「ふぁ~、ん。よく寝たっと、ありゃ? 他の奴等はもう起きてんのか」

 

翌日、ユーリが目を覚ますと部屋にはユーリしか居らず、

 

「なんだよ、起こしてくれてもよかったのに」

 

愚痴り、ベットからおりて部屋を出る。一階に下りるとラピードが隅っこで丸くなっており、他の皆はいなかった。

 

「散歩でも行ってんのか?・・・むぐもぐ」

 

ユーリは家を見回しながらテーブルの上にあった果物を手に取り、食べながら家を出て行くと

 

「それはほら、危ないから」

 

ジュードの声が聞こえてきて、そちらを見ると、ミラとジュードが何か話し合っていた。

 

「正しい使い方も知らないだろうし、ケガだってするかもしれない……」

 

「そういうことだ」

 

「僕たちは赤子じゃないよ! どういうものかわかったら、ちゃんと自分で考えて間違わないように……」

 

ジュードがミラの言葉に対して怒ったような感じで言い返すが

 

「私にとっては同じなのだ。ユーリの世界のことを聞いただろ」

 

「…………」

 

ミラの言葉に切り捨てられた。

 

「人間は危険とわかっていても、それを使おうとしたがる。だからこそ、世界を守るため必ずクルスニクの槍は破壊する。それが私の使命だ」

 

「使命……」

 

ジュードはミラの言葉に表情を暗くし、小さく呟いた。

 

「安心しろ、ジュード。ニ・アケリアに着けば、君には無縁の話だ」

 

ミラが話を切り上げようとしたとき、村の入り口が騒がしくなり始めた。

 

「なんだ?」

 

ミラとジュードの話を聞いていたユーリは騒ぎに気づきそちらを見ると赤い服の兵士がおり、何やら話し合っていた。

 

「どうやら、これ以上のんびりしてるわけにもいかなそうだ」

 

果樹園がある方からアルヴィンが急いで来て、ミラとジュードに話しかける。ユーリも三人の所へ下りていき合流する。

 

「やっぱり僕達を追って来たんだよね……」

 

ジュードが不安気に言うと

 

「さてな。国外捜査には早すぎる気もするけど」

 

「尋ねるわけにもいかないからな。どちらにしても見つかる前に出よう」

 

アルヴィンとミラはそう言った。

 

「なら、早くしようぜ。見つかったら厄介だ」

 

「村の西に出口があった。キジル海瀑はあっちだろうな」

 

ユーリが言うとアルヴィンが出口の場所を皆に教え、そこに向かった。一行が出口に近づくとそこには既に兵士がおり、ユーリ達は姿を隠した。

 

「もう兵士がいる」

 

「どうすっよ?」

 

ジュードとアルヴィンがどう対処するか聞くと

 

「しゃーない、俺が何とかする。幸いこうゆうのには慣れてるからよ。ラピード、いいか?」

 

「ワウッ」

 

ユーリがそう言って立ち上がり、ラピードはユーリの後について行く

 

「よし、ではユーリが隙を作ったら、私たちも行くぞ」

 

「うん」

 

「りょーかい。ってかこんなことに慣れてるってどうなのかね」

 

ミラたちもそれぞれ立ち上がり、突破の準備をしていると

 

「あ、あの……」

 

後ろから女の子が話しかけてきた。

 

「え、えと…………なにしてる……んですか?」

 

「うむ。邪魔な兵士をどうにかしようとしていたところだ」

 

「……直球だね」

 

女の子の質問にミラは簡潔に答え、ジュードは呆れ気味に言う。それを聞いた女の子は

 

「あの人たち、邪魔……なんですね」

 

兵士たちを見てそう言った。そして、女の子は何か考えるようなしぐさをすると、彼女が持っていたぬいぐるみが突如動き始め、兵士たちに向かっていった。

 

「うわ! なんだこれ!」「ひぃ!」

 

兵士たちはいきなり現れたぬいぐるみに驚き慌てる。

 

「これは……」

 

「どうなってるの? ぬいぐるみが??」

 

それを見て、アルヴィンとジュードも驚いていると

 

「ここで何をしておる」

 

また後ろから、今度は大男が話しかけてきた。大男は女の子を見ると

 

「こら、娘っ子。小屋を出てはならんというに」

 

そう言い、そして、出口の兵士を見て

 

「ラ・シュガルもんめ。勝手な真似を」

 

と言いながら兵士たちのところへ走って行ってしまった。ミラたちがそれを見ていると女の子は走って行ってしまった。

 

「娘っ子はどこに行った?」

 

兵士を倒して、戻って来た大男はミラたちにそう聞き

 

「広場の方に……」

 

「なに? い、いかん!」

 

それにジュードが教えると大男は慌てたようになり

 

「お前たちよそ者だな。なら、とっとと行ってしまえ」

 

そう言って、広場へ行った。

 

「おいおい、なんだ今の?まあ、手間が省けたからいいが」

 

ミラたちが顔を合わせていると、兵士を退かそうとしていたユーリが戻ってきてそう言い

 

「まぁあれだな、お疲れさん?」

 

アルヴィンが半笑いでユーリに労いの言葉をかけた。

 

「ユーリには悪いが、兵士がいなくなったんだ。今のうちに行くぞ」

 

ミラがそう言って一行はキジル海瀑に入った。

 

 

 

 

 

~チャット~

『ナップル』

 

ユーリ(以後ユ)「むぐむぐ……」

 

アルヴィン(以後ア)「お、美味そうなもん食ってんじゃねーか。どうしたんだ?」

 

ユ「ん?これか?上の樹にいい感じで実ってたから、取ってきた」

 

ジュード(以後ジュ)「それって勝手に取ってきちゃダメなんじゃないの?」

 

ユ「そうなのか?ミラが取ってたから俺はてっきりいいもんかと……」

 

ミラ(以後ミ)「もぐもぐ……。ん?どうした?お前たちも食べたいのなら上にたくさんあるぞ」

 

ジュ・ア「………………」

 

 

 

 



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キジル海瀑での再会

ハ・ミルから出て、ガリー間道を抜けてキジル海瀑に入った一行は辺りを見渡した。

 

「へぇー、これがキジル海瀑か……。すげぇな、岩が地面から角みてーにのびてやがる」

 

ユーリがキジル海瀑を見て、感嘆の声を出した。

 

「このキジル海瀑を超えれば精霊の里、ニ・アケリアか。連中も追って来てないな」

 

アルヴィンがそう言い後ろを気にしていると

 

「村の人たちに悪いことしちゃったね……。よくしてくれたのに」

 

ジュードが俯きながら言うと

 

「別に俺たちを追って来たって決まったわけでもねーし、ただの偶然ってこともありえるんだ。気にするこたぁねーよ」

 

「そうそう、ユーリの言うとおり。それに逃げるが勝ちって言葉もあるしな」

 

「どうするか決めたのは、彼らだ」

 

ユーリ、アルヴィン、ミラがそれぞれの意見を言い、それを聞いたジュードは

 

「僕らを守ってくれたのかもしれないんだし、そんな言い方しなくても……」

 

そう声を荒げて言ったが

 

「気になるのか。ならジュード、君は戻るといい」

 

「おいおい……」

 

ミラはそう言って歩き出してしまった。ユーリも今のセリフに呆れた声を出した。

 

「短いつきあいだったが、色々感謝している」

 

「どうしてそうなの?」

 

さらにミラがそう言うと、ジュードは声を荒げたまま言い返す。

 

「……もっと感傷的になって欲しいのか? ……それは難しいな。君たち人もよく言うだろ? 感傷に浸ってる暇はない、とな」

 

しかしミラは淡々とそう言った。二人の言い合いの様子をアルヴィンとユーリは横から眺めながら

 

「うーん。どうもジュードは少し真面目過ぎるねぇ」

 

「だな。別に悪いことじゃねぇんだが、融通が利かねーのはなぁ」

 

と、小声で話し合っていた。アルヴィンとユーリがそうしてる間も、ジュードとミラは

 

「……使命があるから?」

 

「そういうことだ」

 

「やるべきことのためには感傷的になっちゃいけないの?」

 

と、言い合っていた。

 

「人は感傷的になっても、なすべきことをなせるものなのか?」

 

「わからないよ。そんなの……。やってみないと……」

 

ミラが質問するとジュードは弱々しい声で答えた。すると

 

「なら、やってみてはどうだ?」

 

「え?」

 

ミラからそう返ってきた。ジュードはその言葉に驚き、聞き返した。

 

「君のなすべきことを、そのままの君で。それで答えが出るかもしれない」

 

「僕のなすべきこと……」

 

ミラは微笑みながら言うと、ジュードはミラの顔を見ながらそう呟いた。

 

「マクスウェル様のようになる必要は無いだろうさ。普通、ああはなれないっって」

 

「あんま思い詰めるなよジュード。人それぞれってな」

 

アルヴィンとユーリがフォローを入れると

 

「ねぇ、アルヴィンとユーリには、なすべきことってある?」

 

ジュードが不安そうに二人に質問をし、それを聞くとアルヴィンはジュードに歩み寄り

 

「……さて、な。あるって言ったら余計に迷うだろ。ジュード君。僕もきめなきゃ~ってな」

 

「…………」

 

肩に手を回してニヤケながらそう言った。ジュードはムッとした表情でアルヴィンを見上げたが

 

「んで、どうすんの? 村にもどる?」

 

アルヴィンが真剣な表情で聞いてきた。ジュードはそれを聞くとミラの方を向いて、

 

「ううん」

 

「んじゃ、行こうぜ」

 

戻らないと、意思表示をした。それを聞いたアルヴィンは明るい声で言った。

 

「ところで、ユーリはあるの? なすべきこと」

 

「あ? またその話か」

 

キジル海瀑を進んでいるとジュードがユーリに話しかけた。

 

「うん。別にさっきのことを引きずってるわけじゃないよ。ただ聞きそびれちゃったから気になって……」

 

「俺もちょっと聞きたいかも」

 

ジュードがそう説明すると、アルヴィンがふざけながら賛同した。

 

「別になすべきことって言うほど大仰なもんじゃねぇけど、とりあえずこの世界を旅し続けることだな。例の爺さんの依頼がそれだからな」

 

「ああ、そういえば船の上で言ってたな」

 

ユーリが言うとアルヴィンは船の上で聞いたことを思い出しながら言った。それから一行がキジル海瀑の半分程まで来ると

 

「もうすぐニ・アケリアか~。どんなところなんだろう。いいところなの?」

 

ジュードが明るい声色ミラにそう尋ねた。

 

「うむ。私は気に入っている。瞑想すると力が研ぎ澄まされる気がする。落ち着けるところだ」

 

「へぇ~」

 

ミラはそう答え、ジュードは期待をするような表情をした。

 

「ちょっと休憩。岩場歩きで、足痛え」

 

二人が話していると、後ろで様子を見ていたアルヴィンがいきなりそう提案した。

 

「到着してから休めばいいだろう?」

 

「そう言うなって。ニ・アケリアは逃げやしないさ。な? 休もうぜ?」

 

ミラは村についてからにしろ、と言うが、アルヴィンはジュードの肩に手を乗せながら言い返しながら、ジュードにも休もうと誘いを掛けた。

 

「え、うん。じゃあ、そうしようか」

 

声を掛けられたジュードがそう言ったので、それぞれ休憩を取り始めた。

 

「お前って結構気を遣えるんだな」

 

「何言ってんの、俺は心優しい傭兵だぜ? ジュードが無理に気持ちを切り替えようとしてるのなんて見てりゃあすぐ分かるって」

 

ユーリが話しかけると、アルヴィンはジュードを見て、そう言い返してきた。

 

「……無理してるように見えちゃったんだ」

 

ジュードはアルヴィンの言葉を聞いて、声を落としながらそう言い、さらに

 

「でも、ホントに大丈夫だよ。僕、難しく考えないようにするの得意な方だから」

 

そう続けた。それを聞いたアルヴィンは

 

「そっか」

 

と、微笑した。

 

「ウォーーーーーーン!!! バウッバウッ!!!」

 

「なっ! くっ!?」

 

三人が話していたら、奥の方に歩いていったミラのうめき声とラピードの鳴き声が聞こえてきた。それを聞いたユーリたちは、すぐさまミラたちの所へ向かって行った。するとそこにはメガネを着け本を持った青い服を着た女性がミラを精霊術で拘束していた。

 

「誰だ!」

 

ユーリが女性に対してそう言うが、女性はそれには答えずに

 

「今は、この()にご執心なのかしら?」

 

アルヴィンを見ながらそう言ってきた。

 

「放してくれよ。どんな用かは知らないが、彼女、俺の大事な旅仲間(ひと)なんだ」

 

アルヴィンは女性にそう言いながら前に出て行くが

 

「近づかないで。どうなるか、わからないわよ」

 

女性にそう言われ、アルヴィンは動きを止めた。ユーリたちはミラが人質になって動けないでいると、

 

「アルヴィン、そのまま聞いて」

 

ジュードが小声でアルヴィンに話しかけた。

 

「右上の岩。撃てる? もしかしたらミラを助けられるかもしれない」

 

「すぐ撃っていいのか?」

 

ジュードの提案にアルヴィンは銃を取り出し聞き返す。

 

「え、うん」

 

ジュードはすぐに信じてもらえるとは思ってなかったのか、アルヴィンの言葉に驚いたがすぐに頷いた。アルヴィンがそれを聞き、銃の弾を確認していると

 

「あら! この()は見殺し?ひどいヒト」

 

女性が話しかけてきたが、アルヴィンは無視して岩めがけて発砲した。弾は全て岩に当たると、突然岩が動き出し、岩の下から手足の様な物が現た。ソレは岩に擬態した魔物(モンスター)で、ソイツは一旦地面に降りて、そして女性に襲い掛かった。その際に、女性は逃げるためにミラを拘束していた精霊術を解いたためミラは地面に落ちた。女性は逃げようとしたが間に合わず、魔物の攻撃を受けそうになった瞬間

キュィィィィィィィィ!

という鳴声と共に空から高速で飛んできた竜の背に乗った女性に手を掴まれて助けられた。

 

「……っ!? なっ、ジュディス!?」

 

ユーリは竜の背に乗った女性を見て驚きながらその女性の名前を言う。

 

「あら。久しぶりね、ユーリ。元気だったかしら?」

 

ジュディスは助けた女性を引き上げながら暢気に挨拶をしてきた。

 

「ユーリ知り合い?」

 

「ああ、ギルドの仲間だ」

 

ジュードが聞くとユーリは簡単に答えた。

 

「おいジュディス、聞きたい事があるんだが、いいか?」

 

「別に私はかまわないのだけれども、彼女がねぇ。それに後ろの方を何とかしたほうがいいわよ?」

 

ユーリがジュディスに話しを聞こうとするが、ジュディスの方は女性に睨まれており話をさせてくれなさそうで、さらに先ほどの魔物が後ろの方でミラとアルヴィンに襲い掛かろうとしており、ユーリはそんな周りの様子を見て、

 

「ちっ、今度会ったときには話し聞かせてもらうからな」

 

「ええ、それじゃあね」

 

ジュディスにそう言葉を掛けて、背後の魔物を倒しにジュードと向かい。ジュディスたちは飛んで行ってしまった。

 

「二人とも遅いぞ」

 

「まったく、俺らにこんなの押し付けて美女とお話しなんてずるいぞ」

 

ユーリとジュードが加勢に来ると、ボロボロのミラとアルヴィンがそう言い、それに

 

「すまねぇ。遅れた分はキッチリやってやるよ」

 

「すぐに回復するね」

 

ユーリはミラたちの前に出て構え魔物の攻撃を捌き、ジュードはミラたちに治癒術を掛け回復させる。ユーリはラピードと連携しながら魔物に攻撃を仕掛けるが、硬い殻と長い触手で思うようにダメージを与えられずにいたが、回復したミラとアルヴィン、それと二人を治療してたジュードが戦線に復帰し、反撃に出る。

 

「で、どうする? 意外に硬いぞ」

 

「……誰かが囮になって、その隙に倒すしかないと思う」

 

「んじゃ、誰が囮やる?」

 

ユーリが聞くとジュードが作戦を提案し、それにアルヴィンが誰が囮をやるか聞く、

 

「なら、俺とジュードが囮、アルヴィンは俺たちを援護してくれ。ミラ、ラピード、よろしく頼む」

 

ユーリが言うと

 

「うん」「了解」「任された」「ワウッ!」

 

と、それぞれ頷き、行動に入った。囮組の二人は魔物に突込み、左右に分かれて同時に攻撃をしかけ魔物の気を逸らし、アルヴィンも離れた所から攻撃を放ち、魔物が動きにくいように牽制する。そして、魔物が三人に気を取られて、動きが鈍くなって来た所を、

 

「アサルトダンス!」

 

ミラが姿勢を低くして魔物本体に5連撃を与えて、

 

「ウォーン!」

 

怯んだ魔物にラピードはすばやく距離をつめて、必殺の斬撃を与え、魔物は動かなくなった。

 

「魔物が岩に擬態してたのか。よく気づいたな」

 

「魔物があの女ではなく、真っ直ぐお前たちに向かうとは考えなかったのか?」

 

魔物を倒すと、それぞれ構えを解き一息つくと、アルヴィンとミラがジュードに話しかけた。するとジュードは

 

「それでもよかったんだ。そうすれば、アルヴィンがあの人の死角に入れる位置だったからね」

 

そう説明した。

 

「すごいな。あの一瞬でそこまで考えるなんてよ」

 

それを聞いたユーリは感嘆した。

 

「大したものだ。誰にでもできることではないな」

 

それにミラも同意しジュードを褒めた。

 

「僕にしかできないこと……」

 

二人に褒められて、ジュードはそう呟き、頬を綻ばせた。

 

「ありがとう。みんな」

 

ミラはユーリたちを見て、そう言い微笑んだ。ユーリとアルヴィンはそれに微笑し、ジュードは顔を赤くした。

 

「さて、行こうぜ」

 

アルヴィンがそう言い、一行はキジル海瀑の移動を再開した。

 

「そうだ、ねぇユーリ。さっきの人たちって誰なの? 知り合いだったみたいだけど」

 

しばらく進むとジュードが先ほどの二人のことをユーリに聞いた。

 

「あー、本を持ってた方はしらねぇが、もう一人の方はジュディスつって、ギルドの仲間だ」

 

「む? ではユーリはあいつらの手先なのか?」

 

ユーリの説明にミラは警戒して聞き返す。

 

「違うって。俺の予想だけど、たぶん雇われたとかそんなんじゃねーのか? 実際、あいつとは全然会ってなかったしな。俺の方はいいとしてもう一人の方はアルヴィンの知り合いみたいじゃねーの?」

 

ユーリは警戒するミラにそう言って安心させ、アルヴィンに話をふる。

 

「あー、あれね。なんか向こうは知ってたみたいだけど、俺は」

 

「傭兵とは、恨みを買う商売のようだな」

 

アルヴィンが答えていると、それを聞いたミラがそんなふうに言い、アルヴィンは苦笑いをした。

 

「でも、キレイな人たちだったね」

 

「ああいうのが好み? ジュード君は年上好みか」

 

ジュードがジュディスたちのことを言うと、アルヴィンはニヤつきながらからかう。

 

「よくわからないけど、そうなのかも」

 

ジュードは慣れたのか、アルヴィンのからかいに笑いながら返した。そして、一行はキジル海瀑を抜け、ニ・アケリアに入った。

 

 

 

 

~チャット~

 

『必殺の一撃』

 

ミ「ユーリ!最後にラピードがおこなった攻撃は凄まじいな!」

 

ユ「ん?ああ、フェイタルストライクのことか」

 

ジュ「なにそれ?」

 

ユ「ん~、なんつーか……。会心の一撃って奴かな。相手が怯んで隙を見つけたらすかさず強力な一発をお見舞いしてやるって感じだ」

 

ア「へぇ~。それって凄いことじゃねーか。ラピードやるじゃねぇか」

 

ラピード(以後ラ)「ワフッ」

 

ア「あれ?」

 

ユ「『気安く触るな』だってよ」

 

ア「つれないねー」

 

 

 

 

 



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首領登場

「到着だ」

 

キジル海瀑を抜け、村の入り口に来るとミラが言った。

 

「ここが……」

 

「へえ、意外と普通の村だな」

 

「のどかでいい所じゃねーか」

 

ユーリたちは村を見渡しそれぞれ感想を言う。ミラは近くにいた村人に近づいていき

 

「すまない。イバルはどこにいる?」

 

「ん? イバルならマクスウェル様を追って……」

 

質問すると、村人はそれに答えながら振り向き、ミラを見ると

 

「マ、マクスウェル様?!」

 

驚いて、その場で手を合わせてひざまずいた。

 

「うむ。今戻った」

 

「あ、わわ、私なんかにお声をかけてくださるなんて」

 

ミラに対する村人の態度を見て、アルヴィンは

 

「やっぱ、本物なんだよな」

 

そう呟いた。周りにいた村人たちもミラが居ることに気づき、近寄ってきて先ほどの村人と同じように頭を下げ始めた。

 

「ミラ、すごいんだね」

 

「さすがマクスウェル様ってところか?」

 

「ちょっと疑ってたんだがな」

 

ジュード、ユーリ、アルヴィンが村の反応に思ったことを言った。

 

「緊張するな。普段のとおりにしていればいい」

 

ミラが村人たちにそう言うが、村人たちは一向に顔を上げずにいた。ミラは諦めたように嘆息して、質問する。

 

「イバルは、いないと言ったか?」

 

「は、はい! いつもより戻りが遅いと心配して……」

 

「そうか。相変わらず短気だな。手を止めさせてすまなかった」

 

質問に村人が答えるとミラは礼を言い、ジュードたちに付いてくるようにと合図し、歩き始めた。

 

「私は、これからすぐに社で再召喚の儀式を行う。だが、巫子(みこ)が不在のようだ。悪いが少し手伝ってもらえないか?」

 

ミラが歩きながら三人に話しかけた。

 

「ん? 俺たちなんかでいいのか?」

 

「俺、祭事には縁がないんだがなぁ」

 

ミラの頼みにユーリとアルヴィンが疑問を言う。

 

「そんなに難しいことはない。村には四つの祠があり、そこには世精石(よしょうせき)があるのだ」

 

「それを社まで運べってか?」

 

「うむ」

 

ミラの説明にユーリがそう言うと、頷きかえされた。

 

「それなら、村の人に頼んでもいいんじゃないの?」

 

と、アルヴィンが聞く。

 

「さっきのを見たろう? 巫子(みこ)以外は日頃、私とあまり接していないからな。あれでは全く話にならない」

 

ミラはアルヴィンの質問にそう答え、

 

「なるほどね」

 

「ふーん。ま、力仕事は男の役目かね」

 

ユーリとアルヴィンは歩いてる途中でも近寄ってミラに頭を下げる村人を見ながら言葉を返した。そして、村の北側の門まで来ると、ミラは止まり、振り返って

 

「ジュード、すまない。君の件は儀式のあとで村の者に頼む。もうしばらく待って欲しい」

 

「あ、うん」

 

ジュードにそう言った。言われたジュードは声を落としながら返事をした。

 

「四つ集めて社に運んでくれ。社は村を抜けた先だ」

 

「じゃあ、手分けして世精石(よしょうせき)とやらを持ってこようぜ」

 

ミラが説明し終わると、ユーリがそう言い、それぞれ世精石(よしょうせき)を取りに行き始めた。

 

「これか……、っと。見た目と違ってそんなに重くないんだな」

 

ユーリとラピードは祠から世精石(よしょうせき)を取り出すとそう言う。

 

「じゃ、戻るか。しかし、変わった形の家だよな、どうやって建ててんだ?」

 

ユーリが村の建物を見ながら呟いていたら

 

「この村の家は風と地の精霊術を使って建てている」

 

「へぇ。精霊術って便利なんだな」

 

世精石(よしょうせき)を持ったミラが後ろから近づいてきて答えた。ユーリはそれを聞いて、感心しながら建物を見る

 

「ところでユーリ。世精石(よしょうせき)は持ってきたか?」

 

「ほら、ちゃんとあるって」

 

ミラの質問にユーリは世精石(よしょうせき)を見せる。

 

「なら、あとはジュードとアルヴィンだけか。……そうだ、二人が戻るまで少しユーリの世界のことを聞かせてくれないか?」

 

ミラが暇をもてあましユーリの話しを聞きたいと頼んだ。

 

「別にいいぞ。っつても何はなしゃあいいんだ?」

 

ユーリはミラの頼みにそう答え、話をしようとする。

 

「そうだな、ではユーリの世界の家はどんな感じなんだ?」

 

「あー、そうだな。場所によって結構個性があるからな……、変わった建物で言えばハルルって街があるんだがそこの家は大木がそのまんま家になってたりするぞ。他には、アスピオって言う街は洞窟の中にあってだな……」

 

「ふむふむ」

 

とユーリの話に楽しそうにミラは頷きながら聞き入っていた。二人が話しているとジュードとアルヴィンが戻ってきたので、話を終わらせると

 

「よし、では社へ行くぞ」

 

ミラが立ち上がりながら言い、社へと向かった。ニ・アケリア参道を通り、社に着いた。

 

「この奥だ」

 

社の前に来たミラがそう言う

 

「ミラは、ここに住んでるの?」

 

「住んでいる、か。そう考えたことはないが、そういうことになるか」

 

ジュードの質問にミラがそう答えた。

 

「何もないところだなぁ。退屈じゃなかったのか?」

 

次に社の周りを見渡していたアルヴィンがそう聞くと

 

「私の使命においては、なんの問題もない。人の記した書物などを読んだりもしたがな」

 

「ふーん」

 

ミラはそのように答えた。

 

「さぁ、儀式をすませよう」

 

ミラがそう言い、社に入ろうとすると

 

「まったく、酷いよイバルは。僕に雑用押し付けて自分はどっか行っちゃうんだから」

 

中から声が聞こえてきた。

 

「む? 誰かいる」

 

ミラは剣を抜き、警戒する。

 

「村の誰かなんじゃない?」

 

「いや、違う。社には巫子(みこ)以外入ってはいけないと、村の者は思っている。だから決して村人ではない」

 

ジュードの質問にミラは答えながらも気配を消して社に近づく。

 

「……今の声って」

 

そんな中ユーリは聞き覚えのある声に驚きつつも、面白そうなことになりそうだったので何も言わずに成り行きを見る。

 

「はぁ、なんでこんなことになっちゃたんだろ。僕帰れるのかなぁ」

 

社の中に入ると鞄を提げた子供が箒を持って掃除をしていた。ミラは子供に近づき

 

「おい、お前。一体何者だ」

 

剣を突きつけ子供に聞いた。

 

「へ? って、うわぁ!!」

 

振り向いた子供はいきなり目の前に剣先があることに驚き、足を縺れさせて後ろに転んだ。

 

「え!? なに? ちょっ、危ないっって!」

 

「お前は何者だと聞いている」

 

転んだ子供はさらに剣を近づけてくるミラにそう言うが、ミラは気にせず問い詰める。

 

「ちょっとミラ、やりすぎじゃない? その子怖がってるじゃない」

 

と、ジュードが注意するが

 

「しかしだな、何もないとはいえ勝手に社に入ってる不審者に情をかけてやる必要もあるまい」

 

「そうだな。怪しきは罰せよ、なんて言葉もあるしな」

 

ミラとアルヴィンはジュードの言葉をバッサリと切り捨て、子供に向き直る。

 

「えええ!? 不審者? 僕が? 違うってば! 僕はイバルから自分がいない間、ここの掃除とかをするように言われただけだって」

 

「そうなのか? しかし私が知る限りお前みたいな村人はいなかったはずだが」

 

「それは、その、色々事情があって……」

 

子供は弁明しようとするが、ミラの質問に言葉を濁す。

 

「やはり怪しいな。とりあえず抵抗しないのであれば、縄で縛って村の者につきだす。抵抗するのであれば致し方ない」

 

ミラはそう言って、剣を構える。

 

「そ、そんな! 僕なにも悪いことしてないのに」

 

「坊主悪いが、大人しく捕まってくれな」

 

子供が落ち込んでいるところにアルヴィンがそう声をかけ、

 

「そうだぜ、悪いことしたら罰則だろ?」

 

「ワウッ!」

 

とユーリとラピードも子供にニヤケながら声をかけた。

 

「ううう……って、へ?! あ、あー!! ユーリ! それにラピード」

 

すると、ユーリの声を聞いた子供がユーリとラピードを指差して驚き叫んだ。

 

「よ、カロル。楽しそうだな」

 

「楽しくないよ!」

 

ユーリはカロルと呼ばれた子供に声をかけた。

 

「ん? なんだ、ユーリの知り合いだったのか?」

 

「おう。俺の仲間だ」

 

ミラが剣を仕舞いながらユーリに聞くとそう返ってきた。

 

「なら、なんで早く教えてくれなかったんだ?」

 

「いや、なんか面白かったから」

 

「ヒドイよ、ユーリ!」

 

アルヴィンが聞くと、ユーリは笑いながらそう言い、カロルはそれを聞いて非難した。

 

「とりあえず紹介してもらっていい?」

 

「あ、うん。僕の名前はカロル・カペル。ギルド『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の首領(ボス)なんだ。よろしく」

 

ジュードがそう言うとカロルが自己紹介をした。

 

「ん? 凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)ってユーリが入ってるっていう何でも屋だろ。そこの首領(ボス)ってこいつなのか?」

 

アルヴィンがカロルの話しを聞いて、ユーリに聞く。

 

「ああそうだ」

 

「ふむ。それはすごいな。こんな子供が組織のリーダーとは」

 

「えへへ。そうかなぁ」

 

アルヴィンの質問にユーリが答え、それを聞いていたミラは驚きカロルを褒めた。

 

「さて、カロルと話したいことが山ほどあるが、とりあえず先に儀式をやっちまおうぜ」

 

とユーリが言うと

 

「ああ、そうだな。では世精石(よしょうせき)を今から言う場所に置いてくれ」

 

ミラはみんなに儀式の準備を指示した。

 

 

 

 

 



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社にて

「これで、いいの?」

 

「うむ、助かった」

 

ジュードが最後の世精石(よしょうせき)を配置し、これで大丈夫か聞くと陣の中心に座っていたミラが答える。そして、準備が終わりミラは儀式を始めた。

 

「ねえ、ユーリ。僕、全然事情が分からないんだけど、今なにしてるの?」

 

とカロルが隣のユーリに聞く。

 

「ん? ああ、これなミラが精霊の再召喚をやるんだってよ」

 

「精霊?」

 

「そ、精霊。イフリートとかウンディーネとかな」

 

「えっ! それって、あの精霊達?」

 

「違う違う。こっちの世界のだ」

 

「だよね」

 

と、ユーリとカロルが話していると、ミラは術を起動させ、彼女の上に陣が現れて、ソレから光が四ヶ所に置いた世精石(よしょうせき)に当たる。そして、光が当たった世精石(よしょうせき)は罅が入ると爆発するように砕けてしまった。

 

「なっ! ミラ、大丈夫か!?」

 

ユーリは荒い息を吐きながらふらついたミラを見てすぐに駆け寄る。

 

「すまない、ユーリ。大丈夫だ」

 

ミラは駆け寄ってきたユーリにそう言った。その時、

 

「ミラ様!」

 

物凄い勢いで、一人の少年が入ってきた。ミラはその少年を見ると

 

「イバルか」

 

と、少年の名前を言った。

 

「ミラ様。心配いたしました」

 

イバルはそう言った後、顔を上げると、目を見開き

 

「なっ!? 貴様! なにミラ様とくっついているんだ! さっさと離れろ!」

 

イバルはミラの隣にいたユーリを見るや、そう叫びユーリをミラから離れさせた。さらにイバルは周りを見て

 

「これは四元精来還(しげんせいらいかん)の儀? 何故今このような儀式を。しかし、これは……。イフリート様! ウンディーネ様! ミラ様。一体何が……」

 

慌しくミラに聞いてきた。ミラはイバルの質問にイル・ファンでのことから儀式までの経緯を説明した。

 

「そんなことが……」

 

説明を聞いたイバルは沈痛な面持ちでそう言った。

 

「んで、精霊が召喚できないのって、そいつらが死んだってこと?」

 

「バカが。大精霊が死ぬものか」

 

アルヴィンが召喚の失敗に関して聞くとイバルは半眼になりながら言い返してきた。

 

「あれ。常識?」

 

「大精霊も微精霊と同様、死ねば化石となる。だが、力は次の大精霊へと受け継がれる!」

 

「って、言われてるね。見た人はいないけど」

 

「あー、それね」

 

アルヴィンの質問にイバルは得意げに身振り手振りで精霊の説明をし、ジュードが最後に一言そえて言う。

 

「ふん。存在は決して死なない幽世(かくりょ)の住人。それが精霊だ」

 

イバルは最後にそう言って説明を終わらせると、ジュードは指でこめかみ辺りを叩きながら

 

「だったら四大精霊はあの装置に捕まったのかも」

 

そう言った。それを聞いたユーリとミラは表情を険しくした。

 

「バカが! 人間が四大様を捕らえられるはずがない!」

 

「けど、その四大精霊が主の召喚に応じないんでしょ? ありえないことでも、他に可能性がないなら、真実になり得るんだよ」

 

イバルがあり得ないと反論するが、ジュードは冷静に言い返す。

 

「何もない空間で、卵がひとりで潰れた場合、その原因は卵の中にある……」

 

「え? なにそれ?」

 

アルヴィンはジュードの言葉を聞いて妙なことを言い、それを聞いたカロルは質問した。

 

「これは『ハオの卵理論』ってやつだ。意味はさっきジュードが言ってた通りだ」

 

「へぇー」

 

カロルに簡単にアルヴィンが説明してやっていると、イバルは悔しそうにして唸っていた。

 

「四大を捕らえるほどの黒匣(ジン)だったというのか。あの時……、私はマクスウェルとしての力を失ったのだな」

 

ミラはイル・ファンでのことを思い出して俯きながら呟いた。

 

「ミラ。大丈夫か?」

 

「…………ッ!」

 

俯いていたミラを心配しユーリが声を掛けると、ミラは少し動揺しながらも立ち上がり奥の方に歩いていった。

 

「さぁ! 貴様たちはされ! ここは神聖な場所だぞ! ミラ様のお世話をするのは、巫子(みこ)である俺だ! 貴様のようなチンピラ風情が軽々しくミラ様と親しくするな! あとカロル、もう社の掃除はいいから村のほうの仕事に行け」

 

と、ここぞとばかりにイバルは大振りなしぐさでユーリたちの前に立ちはだかるようにし、威張りながら命令してきた。が、

 

「イバル、お前もだ。もう帰るがいい」

 

「は?」

 

ミラがイバルに向かってそう言い、イバルは呆けた表情になってミラに振り向いた。

 

「そうだな、有り体に言うぞ。うるさい」

 

「な………」

 

ミラは振り向きながら続けてそう言い、イバルはそれを聞いてショックを受けて涙目になりながらフラフラとジュードたちと共に社を出て行った。

 

「四大を救い出すのにも、これがなければならない、か」

 

皆が出て行ってからミラは懐からイル・ファンで盗み出した物を取り出しながら呟くと

 

「それって、あの変な装置から取ってきたやつか?」

 

「……ッ!? なっ」

 

背後からユーリが話しかけてきた。

 

「ユーリ。私は出て行けと言った筈なのだが」

 

「わりぃな。俺、『ほっとけない病』にかかってるからよ。辛そうな面してるお前が心配でな」

 

ミラは咎めるように言うが、ユーリは気にする事もなく言い返す。

 

「ほっとけない病とはよくわからんが、私はそんなに辛そうにしていたか?」

 

「ああ」

 

「そうか。すまないな、心配かけて」

 

ミラはユーリの言葉を聞いて心配かけたことを謝った。

 

「別にいいって。で、お前が狙われてる理由ってそれなのか?」

 

「ああ。キジル海瀑の女やハ・ミルのラ・シュガル兵。私を追う理由はやはりこれだろうな」

 

ユーリは聞くと、ミラはそう答えた。

 

「これからどうすんだ? やっぱり、大精霊とやらを助けに行くのか」

 

「ああ。私の使命を遂行するには彼らの力が必要だからな」

 

「でもお前、力を失くしてんだろ。大丈夫なのか?」

 

「ふむ。多少不安だが、このままでやるしかないな」

 

ユーリがこの後の事を聞くとミラはそう話す。するとユーリは

 

「……じゃあ、俺も手伝ってやるよ」

 

と、言った。

 

「いいのか? この件はユーリには関係ないことなんだぞ」

 

「そうか? もうガッツリ巻き込まれてる気もするが。それに、ジュディスの事もあるしな。ミラと一緒に行けばまた会える気がしてよ」

 

「……そうか。なら、言葉にあまえよう。よろしく頼む、ユーリ」

 

「ああ、これからもよろしくな」

 

二人はそう言いながら互いに手を伸ばし、握手をした。

 

 

一方その頃、外では……

 

「貴様らがしっかりしていないおかげでミラ様があんなことに! くそ! 俺がついて行っていれば!」

 

「イバル、落ち着きなよ。そんな言い方よくないって」

 

「マジで短気なヤツだなぁ」

 

と、イバルがジュードたちに向かって怒鳴り散らしていた。そんなイバルを見て、カロルは落ち着くように言い、アルヴィンは呆れ気味に呟き、ジュードはイバルの声を無視して考え事をしていた。

 

「貴様! 聞いているのか!」

 

「あ、ごめん。何?」

 

ジュードはやっとイバルが自分に話しかけていることに気づき反応し返す。

 

「チッ! いいか。これからはミラ様のお世話は俺がする。余計なことはするなよ!」

 

イバルはそう言うと、早足で村に戻ってしまった。それを聞いたジュードたちは、呆れたような表情をした。アルヴィンはジュードに近づき、

 

「もう少しここにいるか?」

 

「うん」

 

と声をかけ、ジュードは頷いた。

 

「んじゃ、俺は先に戻ってるわ」

 

それを聞いたアルヴィンはそう言って村に戻って行った。

 

「なすべきこと……自分の力……」

 

ジュードはアルヴィンがいなくなった後、自分の手を見つめながらそう呟いた。

 

「はぁ~。なんか変なことになってるね。ラピードもそう思うよね?」

 

「ワフッ」

 

と、端っこで見ていたカロルはラピードに話しかけ、ラピードは興味ないとばかりに返事をした。

 

「あれ? そういえばユーリはどこ?」

 

とカロルが今更ながらにユーリがいないことに気づき、辺りを見渡していると、

 

「なにやってんだ。カロル?」

 

「あ、ユーリ」

 

社の扉が開きユーリとミラが出てきた。

 

 

 

 

 

 



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新たなる旅立ち

「あ、ミラ。どうしたの? というかユーリ、社の中にいたの?」

 

「まあな。で、お前らもどうしたんだ? てっきり村に戻ってると思ってたぜ」

 

ジュードが社から出てきた二人に聞くと、ユーリがそう言い返した。

 

「うん。ちょっと」

 

「ふむ。ではこれから村のものに君のことを頼みに行くとしよう」

 

ジュードがユーリの質問に言い淀んでいると、ミラがそう言ってきた。しかし、ジュードは険しい表情をして考え込みそれを見たミラは

 

「どうした? 村になじめるか心配なのか?」

 

と、ジュードに聞いた。

 

「ううん。そうじゃなくて……。ミラは……これからどうするの? クルスニクの槍を壊しに、イル・ファンに戻るの?」

 

聞かれたジュードは、少し考えてからミラに聞き返した。

 

「ああ。四大のことと、あの場にいたマナを吸い出された人間たちを考えると、クルスニクの槍とは、マナを集めて使用される兵器なのだろう。あれが今すぐ使われることはないだろうが、やつらのマナ確保は続くと考えているからな。」

 

ミラはジュードの質問にそう答え、聞いたジュードは

 

「でね……それ、ひとりでやるの?」

 

と、さらに質問した。

 

「ん? いや。ユーリが手伝ってくれることになった」

 

「えっ? ホントなのユーリ」

 

「ああ」

 

とミラが言うと、横で聞いていた驚いてカロルがユーリに聞き、ユーリはそれを肯定した。

 

「回りくどいぞ。ジュード。何が言いたい?」

 

「……二人は、どうしてそんなに強いのかなって」

 

「ふむ。強い、か。考えたこともないな。私にはなすべきことがある。私は、それを完遂するために行動しているだけなのだから」

 

ミラはジュードの質問に簡潔に答えた。答えを聞いたジュードはさらに

 

「で、でも今の力で……たった二人じゃ無理なんじゃない? 死んじゃうかもしれない」

 

と、ミラとユーリに聞いたが

 

「だが、やらねばなるまい。もう決めたことだ」

 

「そうだな。俺も手伝うって決めたし。まあ、死ぬ気なんてねぇけどよ」

 

二人は自分の決意を言った。

 

「……やっぱり強いよ」

 

ジュードは二人の決意を聞き、俯きながら呟いた。そして、そんなミラとユーリを見て、

 

「ミラとユーリって凄く似てるよね」

 

と、カロルが言ってきた。

 

「ん、そうか?」

 

「うん、そっくり。自分で決めたことにを意地でも貫くところとか特に」

 

ユーリは聞き返すと、カロルは苦笑しながら言い返した。

 

「そうなのか? ……ふむ、よくわからんがなんだか少し嬉しいな」

 

「嬉しいのか?」

 

ミラはカロルの言葉を聞いて、微笑みながら言い。ユーリは何で? というふうに首を傾げた。

 

「ふむ。では村に……」

 

「ミラ!」

 

「ん?」

 

ミラが村へ戻ろうと促そうとしたら、ジュードが呼び止め

 

「僕も行っていいかな。一緒に」

 

と、言った。ミラはジュードの言葉に驚いた表情になった。

 

「君は、私に関わって普通の生活を失ったのだろう? 後悔していたのではないのか?」

 

「うん……。ホント言うと少し。でも、いくら後悔したって戻れないものは戻れない……。だったら、今の僕の力でもできること……、僕もミラの手伝いをしようかなって」

 

ミラが聞くと、ジュードはそう答えた。

 

「君たちは本当にお節介だな。皆を巻き込まぬよう、遅れて社を出たというのに」

 

ミラはそれを聞くと一旦皆を見渡してそう言った。

 

「そうだったの?」

 

「うむ。君たちとの短い旅路で学んだ気を遣う、というヤツだ。なかなか難しいな。とにかく村に行こう。こうなってしまった以上、急いで発つ意味も弱くなってしまったしな」

 

ミラはそう言って、皆と村に下りて行った。山を下り、村に入るとアルヴィンが門の近くに座っていた。

 

「よう。遅かったな。ミラたちも一緒か。身の振り方、決まったんだな」

 

アルヴィンはミラたちを見つけると、そう言いながらジュードに近づいていった。

 

「うん。ミラたちと行くことにしたよ」

 

「どういう心境の変化だよ……。後悔するんじゃないのか?」

 

アルヴィンはジュードの言葉に驚いて、再度尋ねた。

 

「うーん……でも、もう決めたんだ。ミラの手伝いをするって」

 

「あっそ」

 

と、ジュードの答えに納得したのかアルヴィンはそう返した。

 

「アルヴィン、今まで世話になったな」

 

「別にいいって。勝手について来ただけだしよ。あーそれと、村のじいさんがこれ払うって渡されたんだけど?」

 

ミラがアルヴィンに礼をいった。アルヴィンは照れくさそうにした後、ミラにお金が入った袋を渡した

 

「村の人が?」

 

「ああ。マクスウェル様を守ってくれてありがとう~ってな。俺は要らないって言ったんだけどよ、どうしてもって」

 

ミラが怪訝そうに袋を見ると、アルヴィンが事情を簡単に説明した。

 

「ふむ。長老だろう。いらぬことを。これは私の方から返しておこう」

 

ミラは事情を聞くと、そう言って袋を持って行こうとしたら

 

「ちょっと待ってよミラ」

 

「ん? なんだカロル」

 

カロルがミラを呼び止めた。

 

「えっとね。長老さんに突き返すのは止めてあげて」

 

「ん? なぜだ。これは村の物であるし、勝手な勘違いで貰うわけにもいくまい」

 

カロルはミラに突然そう言うが、ミラはそう言い返した。

 

「そうじゃなくて、きっと村長さんはそれに感謝とか色々な気持ちもたくさん込めて渡してくれたんだと思うんだ。だから、それを突き返すって言うのは長老さんの気持ちを無碍にしちゃうと同じだと思うんだ。だからね」

 

とカロルはミラにちゃんと説明をした。

 

「む、そういうものなのか? しかし、それでは困った。これはどうすれば」

 

「貰っちまえばいいんじゃねーのか。じいさんにはミラからサンキュって言っとけば喜ぶと思うぜ」

 

と、説明を聞いたミラが困っていたらアルヴィンがそう言った。

 

「しかしだな」

 

「じいさんもじいさんなりの誇りがあんだよ。カロルの言ったとおり断るのも失礼ってもんだ」

 

「そうか」

 

ミラがまだ煮え切らない態度をしていたのでアルヴィンがさらに言って、ミラはやっと納得した。

 

「さてと、じいさんに待てと言われて待ってはいるものの、一向に来なくてな」

 

「村にはいるんだろ?」

 

「ああ。捜してみるとしよう」

 

ミラが納得したあと、アルヴィンはそう言って村を見渡すとユーリとミラがそう言い、皆で村長を捜し始めた。村人たちから話しを聞き、一行は村の集会場に入り村長を見つけた。

 

「マ、マクスウェル様! それに皆様も。お待たせして申し訳ございませんっ!」

 

村長は慌てた様子でミラたちに謝罪をした。

 

「構わぬ。それより謝礼を用意していると聞いているぞ」

 

「はい。私たち、戦うことは無理でもマクスウェル様のお力になれるようにと。以前、村の皆で出し合ったお金がありましてな」

 

ミラが村長に訊ねると、村長はミラのためにと笑顔で説明した。

 

「……そうか」

 

「ね。言ったとおりでしょ。」

 

ミラは村長の言葉を聞いて少し俯き、カロルはそんなミラに得意げに声をかけた。

 

「お前たちの誇り、ありがたく受け取るとしよう」

 

ミラは顔を上げて村長にそう言い、村長はユーリたちにお金を渡した。

 

「ところでアルヴィン。お前はこれからどうするんだ?」

 

「ん? そうだな。とりあえず仕事探さなきゃならねーし、なんにしろイラート海停に戻んなきゃな。あんたらもまたイラート海停に戻るんだろ?」

 

ミラがアルヴィンに聞くと、アルヴィンはそう答える。

 

「そうだな。イル・ファンに戻るには海停を使うしかないから」

 

「じゃあ、もうしばらくはご一緒ってことで」

 

ミラがそう言うとアルヴィンはとりあえず海停までと言った。

 

「まだついてくるのかよ。そのうち、俺らみたいに指名手配されるぜ」

 

と、ユーリはアルヴィンに冗談めかしに言うと

 

「えっ? ユーリまた指名手配されてるの?」

 

「む。言っとくが俺は何も悪いことしてねぇーからな」

 

と、カロルはジト目でユーリを見て、ユーリはそう言い訳した。そうしていると集会場の扉が勢いよく開き

 

「ミラ様!」

 

と、イバルが入ってきた。

 

「またいずこかへ赴かれるのですか?」

 

「ああ、留守を頼む」

 

イバルがミラに訊ねると、ミラはそう言った。が

 

「自分も、ご一緒いたします!こんなどこの誰ともわからんヤツらにミラ様のお世話を任せられません!」

 

イバルはミラの世話をするのは自分だ、とユーリたちを見ながら言ったが

 

「イバル!お前の使命を言ってみろ」

 

「え、あ、自分の使命はミラ様のお世話をすろこと、です」

 

「それだけか?」

 

「……戦えない、ニ・アケリアの者を守ることです……。」

 

ミラに使命のことで叱咤されて、イバルは俯きながら答えた。

 

「理解したか?私の旅の供はユーリたちが果たしてくれる。お前はもうひとつの使命を果たすんだ」

 

「しかし、こいつらのせいでミラ様は精霊達を!」

 

とイバルはミラに言われたが、イバルは納得できずに反論するも

 

「それは私の落ち度だ。それどころかユーリがいなければ、ニ・アケリアに戻れなかったかもしれない」

 

ミラはユーリたちを見てイバルに言った。

 

「しかし!」

 

「なすべきことをもちながら、それを放棄しようというのか?イバル」

 

「……いえ」

 

それでも、食い下がるイバルにミラは冷たい視線で言うと、イバルもさすがに引き下がった。

 

「さぁ、出発しよう。海停が封鎖されていなければよいのだが」

 

イバルとの話も付き、ミラは出発を促す。

 

「……海停に行くなら、途中、またハ・ミルを通ることになるな」

 

アルヴィンはミラにそう言うと

 

「ふむ。では、まずハ・ミルを目指そうか」

 

「ん?急がなくていいのか?」

 

ミラはアルヴィンの提案に頷いた。それにユーリは疑問を抱く。

 

「確かに急ぎたいが、ア・ジュール内でラ・シュガル軍の動向を探れる貴重な場所だ。もしかしたらイル・ファンに潜り込む妙案が眠ってるかもしれん」

 

「じゃあ、ハ・ミル経由で海停ってことで」

 

ミラはユーリの疑問に答えて、それを聞いたアルヴィンはルートを確認した。

 

「マクスウェル様、行ってらっしゃいませ」

 

「うむ」

 

「ミラ様!お、お気をつけて!」

 

村長がそう言うと、少々放心していたイバルはミラが出て行こうとしいてるのに気づいて意識を戻し、腕を大きく振って見送り、ミラたちはそれに答えて集会場を出て行った。

 

 

 

 

~チャット~

 

『ほっけない病』

 

ミ「なあ、ジュード。ほっとけない病とはいったいなんなのだ?」

 

ジュ「へ?ほっとけない病?なにそれ」

 

ミ「うむ。なんでもユーリが罹っている病らしいのだが」

 

ジュ「うーん。聞いたことないなぁ。ねぇユーリ、一体どんな病気なの?」

 

ユ「ん?ああ。困っているヤツを“ほっとけなくなる”病気だ。これに罹ると、誰でも構わず助けたくなっちまう困った病気だよ」

 

ア「それは、ただのお人よしっていうんじゃないのか?」

 

 

 

『カロル・カペルの場合』

 

ユ「そういえば、お前なんで社の掃除なんかしてたんだ?」

 

カロル(以後カ)「え?あ、うん。僕がこっちに来たとき、落ちた場所があの社の前だったんだ。そこをイバルに見つけられて……」

 

ア「それで、なんで掃除なんだ?」

 

カ「うん。見つけられた後、怪しいヤツっていきなり攻撃されて。訳を話しても聞いてくれないし、その後捕まって、村に連れて行かれたんだけど事情をちゃんと話したら村長さんの好意で村の手伝いをする代わりに住まわしてもらってたんだ。で、色々出来るってわかったらイバルが『お前は役に立つから巫子である俺様のサポートをさせてやる。光栄に思え!』って言って雑用をやらされるはめに」

 

ジュ「で、掃除なんだ」

 

カ「ホント酷いんだよ!俺様は忙しいからって自分の家の家事までやらさせるんだから!」

 

ユ「あー、なんかイバルの気持ちスゲェーわかるわ」

 

カ「ひどっ!いいよ。僕なんて所詮そんなもんだよ。いいんだいいんだ、僕は使い走りてすよー」

 

ユ「あ、いや、わりぃ。元気出せ」

 

 

 

 

 

 



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天才少女

「あの女がマクスウェルか」

 

ニ・アケリアを出発し、ハ・ミルに向かうミラたちを丘の上から見ている紅い炎をあしらった様な服の男がそう言った。男はさらに

 

「プレザ。確かに力を失っていたのだな?」

 

と、プレザと呼ばれたキジル海瀑にいた眼鏡の女性に聞く。

 

「はい」

 

プレザは男に頷く。

 

「既に『カギ』もどこかに隠された可能性があるとなると、少し面倒だな」

 

黒い服の男がプレザの話しを聞いてそう言う。

 

「ごめんなさい。侮ったわ」

 

プレザは黒い服の男の言葉に対してキジル海瀑のことを謝った。

 

「あの娘がマクスウェルと知っておれば、ワシも『カギ』のありかを吐かせたのじゃがのう」

 

ハ・ミルにいた大男が悔しげに言った。

 

「まぁいい。今となっては、泳がせた方が都合がよかろう」

 

「ええ。ラ・シュガルの目を奴らに向けさせ、我らは静かにことを進めるのが得策かと」

 

紅い服の男がそう言うと、黒い服の男はそれに賛同する。

 

「アグリアから何か連絡は?」

 

「失われた『カギ』を新たに作成するという動きがあるとか」

 

「……捨て置けんな」

 

紅い服の男が黒い服の男から報告を聞くとそう言い、黒い服の男に目配せをした。黒い服の男は頷くと

 

「ジャオ、例の娘の管理はもういい。お前は『カギ』の件を探れ」

 

と大男に言った。

 

「いや、しかし……」

 

「ラ・シュガル兵どもが去ったというのなら、もうお前が直々につく必要はない」

 

「データが無事なんだから、優先事項が変化するのは当然ね」

 

ジャオが思うところがあるのか戸惑っていると、黒い服の男とプレザがそう言ってきた。

 

「う、うむ……」

 

ジャオは渋々納得したような声で頷いた。

 

「プレザ、アグリアとジュディスと連携をとってイル・ファンに潜れ」

 

黒い服の男は次にプレザにそう指示を出した。

 

「あら、マクスウェルはいいのかしら?」

 

「ああ、あの男に任せる。『カギ』のありかも探らせる」

 

プレザがミラたちのことはどうするか聞き返すと黒い服の男はそう言った。

 

「あいつね。大丈夫なの? だって、あいつは……」

 

「もし裏切るのなら別にかまわん。他にも駒はある」

 

プレザが心配そうに言い返すと、黒い服の男は淡々と言い切った。そして、話し合いが終わると一団は丘から居なくなった。

 

一方、ニ・アケリアを出発したミラたちはキジル海瀑を進んでいた。

 

「……ふむ」

 

「どうした、ミラ?」

 

ミラが俯きながら途中で止まったのでユーリが声を掛けると

 

「イル・ファンへ船で行けぬ場合はどうするか考えていたんだ」

 

「そうだな。山脈越えは厳しいから、ア・ジュールからの陸路の線はないだろうな。そうすると、サマンガン海停からカラハ・シャール方面になるんじゃないか?」

 

ミラが航路の心配をしていると、アルヴィンが別のルートを教えてくれた。

 

「なるほど。さすがアルヴィン。礼を言う」

 

「何、別にどうってことないって。傭兵家業で色々な路を知ってるだけだしな」

 

とミラが感心してるとアルヴィンは照れたように言った。

 

「なら、船がダメだった場合はアルヴィンの言った道でってことでいいな。じゃ、行こうぜ」

 

ユーリがそう言うと、一行はキジル海瀑を抜けハ・ミルに入った。

 

「出て行けよ、おら!」「厄病神! あんたなんかいるからっ!」

 

ミラたちが村の広場に入ると大勢の村人が一人の女の子に叫んでおり、さらに道端に落ちている石なんかを投げつけていた。

 

「きゃっ……。やっ……」

 

「やめて、ヒドイことしないで。お願いだよー!」

 

女の子は身を屈めてながら震えて、人形が止めてと叫んでいた。

 

「………」

 

ユーリはそれを見て無言で村人に近づき、村人の腕を掴んだ。

 

「なっ、あんたらは!」

 

「ガキ相手になにやってんだ」

 

村人が驚いてるのもお構い無しにユーリは睨みつけながら言う。

 

「けっ、よそ者には関係ないだろ」

 

「ああ。関係ねぇが見てていいもんじゃねぇんでな」

 

「知るかよ、何なんださっきから」

 

と、ユーリと何人かの村人が争っていると

 

「……ッ! 危ないっ!?」

 

人の拳より少し大きめな石が女の子に投げられたのカロルが見て叫ぶが

 

「えっ!?」

 

女の子は驚いて動けず、頭に直撃する寸前、バシンッ! と石は布で払い落とされた。

 

「………?」

 

女の子が顔を上げるとそこには頭にゴーグルをつけ、服にも色々と物をぶら下げた少女がいた。

 

「……あんたたち。こんな小さな子になんてことしてんのよ!」

 

少女の怒気を含んだ声に村人たちは固まりうろたえた。が、

 

「う、うるせー! よそ者のクセに邪魔すんじゃねー!」「そ、そうだ。関係ないだろ!」

 

何人かの村人は言い返す。

 

「……っ! ムカついたっ! ぶっ飛ばす!」

 

村人の言葉を聞いた少女は持っていた布を回し始めた。すると、少女の周りに術式が現れ、

 

「うわ。ちょ、マズイって」

 

「やべぇな。カロル行くぞ」

 

そんな中、少女の行動を見たカロルとユーリは慌てて村人を掻き分けて少女に向かう。そして、村人たちの前に出たユーリは

 

「おい! 落ち着けリ「ぶっ飛べ!!」…のわっ!?」

 

と、少女に声をかけようとしたタイミングで魔術を放たれ、とっさに横に跳び回避をするも

 

「やっと出れぶわぁび!?」

 

後から出てきたカロルに直撃したのだった。

 

「あ? なに? あんたたち、いたの?」

 

「『いたの?』じゃねーよ。当たるとこだったろ」

 

少女は魔術を放った後にユーリとカロルに気づき声をかけ、ユーリは少女に文句を言う。

 

「知らないわよそんなこと。いきなり現れたあんたが悪いんでしょ」

 

「相変わらずだな、おまえ」

 

「あんたこそ」

 

と、少女とユーリが話していると、ミラたちは安全と判断したのか近寄ってきた。すると

 

「お前たちのせいで、こっちは散々な目じゃ!」

 

と、村長が怒鳴ってきた。ユーリたちは改めて村の様子を見ると、村人たちは怪我をしており、さらに争った形跡も村のあちこちにあった。

 

「ラ・シュガル軍にやられたか」

 

それらを見たミラはそう言った。

 

「やつ当たりかよ。大人げないな」

 

「よそ者に関わるとロクなことにならん! すぐに出て行け!」

 

アルヴィンの言葉に村長は悔しそうにするが、すぐに怒鳴って歩いて行ってしまい、村人たちも広場からどっかに行ってしまった。

 

「なによ、あいつ。感じ悪いわね。悪いのはそっちじゃない」

 

「まあ、確かにそうなんだが」

 

と村長の態度に少女は不快だと言い、ユーリはそれに困った表情をする。

 

「ユーリ。もしかしてその者は」

 

と、ミラがユーリに話しかける。

 

「ん? ああ。俺と同じ世界のやつだ」

 

「リタ・モルディオよ」

 

ユーリはそう答え、少女・リタは簡単に自己紹介をした。

 

「それよりも、ってあれ? あの子は?」

 

リタは先ほど石を投げられていた女の子がいないことに気づき辺りを見渡すと村の西側に走って行ってしまうのを見て

 

「何よ、あの子。走って逃げる必要ないじゃない」

 

と、呟いた。

 

「大丈夫かな、あの子」

 

「う、う~ん。痛たた。もう~! ヒドイよリタ~」

 

ジュードも走って行く女の子を見ながら呟いていると、カロルが意識を取り戻しリタに文句を言った。

 

「大丈夫?」

 

「うん。ありがとうジュード」

 

フラフラしていたカロルをジュードは支え、カロルはお礼を言った。

 

「うっさいわねぇ。ガキんちょのクセに」

 

「ホント、相変わらずなヒドさ」

 

リタが理不尽なことを言い、カロルは呆れてそう言うとガンッ! とリタに殴られた。

 

「で、聞きたいんだけど。ここって何なの?いきなり訳わかんない術式で変なじいさんに飛ばされたんだけど。説明してくれるわよね?」

 

とリタがユーリに聞いた。

 

「あれ? お前っていつこっちに着たんだ?」

 

「いつって、今さっきよ。いきなり見たこと無い場所に放り出されて、人の声が聞こえたからそっちに行ったら女の子が石を投げられてたから」

 

リタに質問するとそう答えが返ってきた。

 

「マジか。つーことは色々説明する必要があるのか」

 

「だから、説明しろって言ってんじゃない」

 

とユーリとリタが話していたら

 

「すまないが、話しは後で頼めないだろうか?」

 

ミラがユーリにそう言ってきた。

 

「ん? あー、そうだな。村の奴らから話しも聞かなきゃなんねぇしな。それに、用事を済ませたいやつもいることだし。それぞれで話しを聞きに行くってことでいいか?」

 

と、ユーリはジュードを見ながら言った。

 

「え? あ、うん。ありがとう、ユーリ」

 

ジュードはユーリにお礼を言って、女の子を追って行った。

 

「あ、ジュード。僕も行く」

 

「ワフッ」

 

と言って、カロルとラピードもジュードと共に追っかけて行った。

 

 

 

 

 



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それぞれの行動

「異世界~?」

 

「そーゆうこと」

 

騒ぎの後、ミラたちは一旦別れてそれぞれ行動し始めた。ユーリとリタの二人は村にある丘にいき、現状の説明をした。

 

「まったく。今度は一体何に首つっこんだのよ、あんたは!」

 

「ちょっ、待て。なんで俺が原因みたいな言い方すんだよ!」

 

「そんなの当たり前でしょ。大体トラブルを起こすのあんたじゃない。どうせ胡散臭い依頼を面白半分で受けたりしたんでしょ? 巻き込まれるこっちの身にもなりなさいよね」

 

リタはユーリに対して不平不満をストレートにぶつけた。ユーリはリタの言葉に思うところが在り過ぎて言い返せずにいた。

 

「で、今んところ、この世界にいる知り合いは、ジュディス、ガキんちょ、あんたに犬。そして私。そして、あんたの手紙の内容からすると、多分おっさんとエステルもこっちにいるわね」

 

「まあ、そうだろうな。ところで、お前んところには手紙きてないのか?」

 

ユーリがリタに尋ねると

 

「きてたわよ。すぐ捨てたけど。大体あんな怪しげなもんをいつまでも持ってるわけないでしょーが」

 

「いや、まあ、確かに怪しいが……。まぁいいか」

 

リタの答えにユーリは脱力した。

 

「んじゃ、話し戻すわよ。ここがテルカ ・リュミレースじゃなくリーゼ・マクシアっていう世界だってのはわかったわ。ただそうなると、色々な疑問がでるわね」

 

「疑問?」

 

ユーリの言葉に呆れながらリタはさらに話す。

 

「バカね。あんたは何か変に思わなかったの? 私たちが普通に術技を使えることとか、話しが通じるとか」

 

「ん? あ~、術技が使えんのはこのリリアルオーブのおかげだろ? 話しが通じんのは……まあ、別段気にする事でもなかったし」

 

「はぁ~。やっぱりそんなことだろうと思ってたわ」

 

リタは馬鹿にするようにため息をつき、それにムっとしたユーリは

 

「じゃあ、リタはわかるのか?」

 

と聞くが

 

「さっきこの世界に来た私が分かるわけないじゃないの。バカなの?」

 

リタの正論にバッサリ斬られた。

 

「お前なぁ」

 

「なによ、うっさいわね。とにかく帰るためにはしばらくこっちにいなきゃいけないんでしょ? だったらちょうどいいわ。今してる研究に役立つものがあるかもしれないし、色々知らない技術も調べられる。……そう考えると意外とメリット多いわね」

 

リタはユーリの言葉を一蹴して一方的に喋った。

 

「う~ん。そうなると、……うん、そのほうがいいわよね」

 

「おーい。俺の話し聞いてっか?」

 

「よし。私、あんたらに付いて行くわ。よろしく」

 

ユーリが声を掛けても無視いてブツブツ呟いていたリタはいきなり顔を上げてそう言った。

 

「はぁ、まあ別にかまわねぇが」

 

「そんじゃあ、私ちょっとそこらへん見てるから」

 

リタはそう言って歩いていってしまった。

 

「ホント、相変わらずだな」

 

ユーリはリタの様子に嘆息しながら丘を降りて行った。

 

同じ頃、村長の家では……

 

「出でけ! 話すことなどないわ」

 

皆と別れたミラとアルヴィンは村長から話しを聞こうとするが村長はミラたちにそう怒鳴っていた。

 

「前来た時と随分扱いが違うんじゃね?」

 

「ふん」

 

アルヴィンは村長の態度に文句を言うが、村長は疎ましそうな表情でそっぽを向いた。

 

「安心しろ。長居するつもりはない」

 

「あんたが、そんな感じのままじゃ、長居することになるかもしれないけど」

 

「……何が聞きたい」

 

ミラとアルヴィンの言葉に村長は渋々と言った感じで言い返した。

 

「ラ・シュガル軍の動きを知りたい。ヤツらは去ったのか?」

 

「ふん。ジャオ殿が追い払ったわ」

 

ミラが村長に尋ねると村長はそう返した。

 

「ジャオ殿?」

 

「それって、髭の大男か?」

 

「そうだ。ジャオ殿がおらなんだら、もっと酷いことになってたかもしれん」

 

ミラとアルヴィンが聞き返すと村長はそう説明した。

 

「ふーん。んで? そのジャオ殿は今どうしてるんだ?」

 

「知らんわ。そもそもジャオ殿があの娘を連れてきてから災難続きじゃ。去るのならあの娘も連れて行けばいいものを……。よそ者は二度とゴメンじゃ」

 

アルヴィンがさらに聞くと、村長は不満を言い家の奥に行ってしまった。二人は村長の態度に肩をすくめながら、もう聞くことは無いと判断し、村長の家を出た。

 

その頃、少女を追っていった二人と一匹は

 

「あそこがあの子の家かな?」

 

カロルが少女の入っていく小さな小屋を見てそう言った。ジュードたちは少女が入っていった小屋に上がり、少女を探た。すると、少女は小屋の地下室に居り、カロルたちを見ると部屋の隅に逃げて身体をちぢこませてしまった。

 

「ちょっとお話ししない? 大丈夫。僕たちはいじめたりしないよ」

 

と逃げた少女にジュードは優しく声を掛けた。少女は声に恐る恐ると言った感じで顔を上げた

 

「こんにちは。前にも一度会ったよね?」

 

ジュードが話しても少女は目を逸らしたが

 

「こんちはー!」

 

と、少女の持っていぬいぐるみが大きな声で挨拶し返してきた。

 

「わっ! ぬいぐるみが喋った!?」

 

カロルは驚きながらも珍しそうにぬいぐるみを見て、ジュードはぬいぐるみが近くで不意に動いたせいか驚いてしりもちをついてしまった。

 

「あららー、お兄さん結構臆病だねー」

 

「へぇ、すごいね。どうやって喋ってるの?」

 

ぬいぐるみがジュードを見てそんなことを言い、カロルはさらに興味津々と言った感じで少女に聞いた。

 

「ティ、ティポ……名前なの」

 

「彼女はエリーゼっていうんだ。ぼくはエリーって呼ぶけどね。よろしくねー。あと、ぼくがなんで喋るかはぼくだから」

 

と、エリーゼと呼ばれた少女はぬいぐるみのティポを紹介し、ティポはエリーゼを紹介した。

 

「よろしく。僕はカロルって言うんだ。それで、こっちはラピード」

 

「ワフッ」

 

「わわわ、大きい……犬さん、です」

 

カロルはエリーゼたちに自己紹介をした。

 

「あ、はは……よろしくね。二人とも。僕はジュードって言うんだ」

 

ジュードも起き上がりながらエリーゼに自己紹介をした。

 

「あ、あの……だいじょうぶ……えと、ですか?」

 

「うん。ちょっとびっくりしたけどね」

 

ジュードはエリーゼの気遣いに笑顔返す。

 

「ねぇ、エリー。何があったの? よかったら聞かせて欲しいんだ」

 

カロルがエリーゼに先ほど広場の事を聞くと、

 

「んっとねー、外国の怖いおじさんたちがいっぱい来たんだけど。おっきいおじさんが、やっつけたんだよー」

 

と、ティポが答えた。

 

「ああ、あの人……」

 

「ジュード知ってるの?」

 

ジュードが思い出しているとカロルが尋ねてきたので

 

「うん、前にこの村で会ったんだ」

 

とジュードは答えた。

 

「……でも、おじさん、どこかにいっちゃった……」

 

「そうそう、そしたら外国のおじさんたちが村のみんなをいじめたんだー」

 

エリーゼが言った後にティポが引き継ぐように話しをした。

 

「おっきいおじさんは、エリーゼのお友達なの?」

 

ジュードが聞くとエリーゼとティポは

 

「ううん……」

 

「エリーを閉じ込めた悪い人だよー」

 

「……水霊盛節(リヴィエ)に……いっしょに来たの」

 

「でねでね、外に出たらみんな石ぶつけてくるんだ。もー、ヒドイよねー」

 

と話した。

 

「なにそれ、ヒドイ!」

 

「…………」

 

「ジュード……さん?」

 

話しを聞いたカロルは怒り、ジュードは怖い表情で押しだまっていた。エリーゼは困惑しながらもジュードに話しかけた

 

「あ、ごめんね。エリーゼとティポは、ここで他のお友達を待ってるの?」

 

「……お友達……いないから……」

 

ジュードがエリーゼに尋ねると、エリーゼは伏し目がちになって答えた。

 

「じゃあ、僕達が友達になるよ」

 

「……え?」

 

カロルがそう言うとエリーゼは驚いてカロルを見た。

 

「あ……」

 

「わーい♪友達ー♪カロル君たちは友達ー♪」

 

エリーゼは嬉しいかったのか頬を赤らめさせ、ティポは大喜びで言った。そんな様子を見てジュードは

 

「ねぇエリーゼ。君のこと、僕たちの友達に話していい?」

 

と言った。

 

「……どうして、ですか?」

 

「君が、村のみんなにいじめられてるのがイヤなんだ。友達と、なんとかできないか考えたいんだよ」

 

エリーゼは当然の如く聞き返すが、ジュードはすぐに説明した。エリーゼは少し戸惑っていたが

 

「うん! ジュード君たちは友達だからジュード君のことは信じちゃうよー。ね、エリー?」

 

とティポが言った。

 

「それじゃあ、みんなの所に行こうか?はい」

 

とカロルはエリーゼに手を伸ばし、エリーゼは少し恥ずかしそうにしながらもカロルの手を取った。

 

 

 

 

 

 



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ぬいぐるみ少女・エリーゼ

ジュードたちが広場に戻ると、ちょうど他のみんなも集まってきていた。

 

「あ、みんな!」

 

ジュードはそう言って、ミラたちのところへ行く。

 

「じゃあ、俺からの報告。こいつも一緒に行くことになったからよ。よろしく頼むわ」

 

「よろしく」

 

ユーリはそう言い、リタは間単に挨拶をした。

 

「む、いいのか? 我々はこれから色々と危険な場所に行くのだが」

 

「別に構わないわよ。こいつが絡んでる時点でそんなの百も承知だし」

 

ミラが尋ねるとリタは気にもしないといった感じで言い返した。

 

「そうか、わかった。私の方は特に有益な情報はなかった。ここにもう用はない。すぐにも発とうと思う」

 

ミラはそう言い、皆を見る。

 

「待って、この子のことで話があるんだ」

 

ミラの言葉にジュードはそう言いながらエリーゼの事を説明する。ジュードとカロル以外の皆はやっぱりなというような表情をしてジュードの話しを聞いた。

 

「村民がエリーゼを疎んでることは間違いなさそうだ」

 

「うむ。村長の態度からもそれはうかがえた。ジャオという男が戻らねば状況は変わるまい」

 

話を聞くとアルヴィンとミラがそう言った。

 

「でも、エリーはそのジャオって人のこと嫌ってるみたいだよ」

 

カロルはミラの言葉に言い返した。

 

「あのおっさんがいたら閉じ込められて、いなきゃいないで村の奴らに疎まれるか」

 

「大概閉鎖的な村っていうのはそんなもんよ。身内で争いたくないから、悪いことはよそ者に押し付ける。ホント、ムカつく」

 

ユーリとリタは苦虫を噛み潰したような表情で言う。

 

「一緒に行けないかな……」

 

「連れ出してどうする? その先のことを考えているのか? 私の目的は、わかっているだろう?」

 

「……うん」

 

ジュードがエリーゼを連れて行きたいと言うが、ミラは厳しい口調でそれは無理だと言う。そして、ジュードとミラが互いに見合っていると、

 

「別にいいんじゃねーか?」

 

「ホント!?」

 

ユーリがエリーゼを連れ出すのに賛成をした。それを聞いたジュードは驚きながらも嬉しそうな表情でユーリを見た。

 

「ユーリ。君まで何を言ってるんだ。私たちはピクニックに行くわけではないのだぞ」

 

「わかってるって。でも、ここまでしてやっぱり無理だからって放り出すのも後味わりぃだろ?  それにミラ、ちょっと前に言ってたじゃねーか。やりたいことがあったらやってみろ、みたいなこと」

 

ミラがユーリに責めるように言うが、ユーリはそれっぽいことを言って説得をする。

 

「確かに、似たようなこと言ったが」

 

「ならいいだろ? 安心しろ、ちゃんと面倒を見させるからよ」

 

「……はぁ、仕方ない。好きにしろ」

 

ミラはそう言って、ユーリに任せた。

 

「つーわけで、エリーゼだっけか? 連れて行ってもかまわねぇぜ」

 

「ホント! ありがとう、ユーリ」

 

カロルがユーリの言葉に喜びながらお礼を言う。

 

「ただし、ちゃんと面倒見ること。わかったら、エリーゼに話聞かせてこい」

 

「うん」「わかった」

 

ジュードとカロルは元気よく頷いてエリーゼの所に歩いていった。

 

「やさしいんだな」

 

「別にそんなんじゃねぇよ。あの顔みたろ? もう連れて行くって顔してたし、それならここでウダウダ言ってるより、いっその事ってな」

 

「でも大丈夫なの。あんたの話だとこの先危険なんでしょ?」

 

「そんときゃあ、ジュードとカロルに守らせるさ。それにラピードもいるしな」

 

「バウッ」

 

アルヴィンとリタの言葉にユーリが答えていると

 

「ユーリは皆を信じているんだな」

 

とミラが話しかけてきた。

 

「まあな。ギルドってのは仲間を思いあってこそだしな」

 

「そうか。しかし、この先足手まといになったとしても、仮に命を落としたとしても、私は使命のために行動するつもりだ。そのことは覚えておいてほしい」

 

ミラはそう言って村の出口に歩いて行ってしまった。

 

「何あいつ? 感じ悪いわね」

 

リタはミラの言葉にムスッとした表情で呟き、ユーリはそれを聞いて苦笑した。

その後、エリーゼを仲間に連れて、ハ・ミルの村から出て行った。その際、エリーゼはお別れの挨拶に村人に手を振るが、村人たちはエリーゼから目を逸らすだけだった。

 

 

 

~チャット会話~

 

『お礼』

 

エリーゼ(以後エ)「あの……ありがとう……です」

 

ユ「ん? お礼ならカロルたちに言ってやれよ。村から連れ出したのあの二人なんだし」

 

エ「そうじゃ……なくて。村の人から……助けてくれて……です」

 

ユ「ああ、それか。別に気にすることねぇよ」

 

リタ(以後リ)「そうよ。あいつらがムカついただけで勝手にやったことだし」

 

ティポ「それでも、ありがとー。ホント、怖かったんだよー(カプッ)」

 

ユ「のわっ! こらっ! 頭にひっつくんじゃねー」

 

 

『科学者魂』

 

リ「ねぇ、チビッ子。お礼はいいからさ、そのぬいぐるみ見せて欲しいんだけど」

 

エ「えっ? ……どうしてですか?」

 

リ「気になるからよ。どうやって自立稼動してるか、とか。どんなふうな術式で意思を確立してるか、とかね」

 

ティポ「なにそれー、意味わかんなーい」

 

エ「その……ティポを……どうするんですか?」

 

リ「そんなたいした事じゃないわ。ちょーーっとそのぬいぐるみを開いて中身を見るだけだから。ね?」

 

エ・ティポ「!!?」

 

リ「えっ? ちょっと! いきなり逃げないでよ。別にバラすわけじゃないんだから。ねえ、待ちなさいよ」

 

カ「ちょっとリタ! 何やってんのさ!? エリー怖がってるじゃん」

 

リ「うっさいわね! 科学の進歩には必要なことなのよ」

 

エ・ティポ「~~~~~~~~!」

 

 

 

 

 

 



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サマンガン海停へ

ハ・ミルの村を出た、一行は新しく仲間に入ったリタとエリーゼに自己紹介などをしながらイラート海停に向かった。

 

「あの、イル・ファンに行く船はいつ出ますか?」

 

イラート海停に着いた一行は船着場の連絡小屋に行き、船の予定を聞いた。

 

「すいません。首都圏全域に封鎖令が出たおかげで前便欠航なんです」

 

小屋の連絡員は申し訳なさそうに欠航の説明した。

 

「他の便は?」

 

「サマンガン海停行きしか出ませんね。他の海停に向かう船は、しばらくありませんよ」

 

ミラが他の船の事を聞くと、連絡員はそう答えた。

 

「どうすんだ? 船が出られない以上、船以外で行く方法を探さなきゃなんねー訳だが」

 

「ふむ。困ったな。……そうだ、アルヴィン。君なら何か別の道を知っていないか?」

 

ユーリが連絡員の話を聞いて、困ったふうに言うと、ミラも同じような表情になり、アルヴィンに話を振った。すると

 

「ああ、知ってるぞ。直接船で行けないんなら、少し遠回りになるがサマンガン海停から陸路でいける道がある。丁度サマンガン海停行きの船があるみたいだし、こいつで行くしかないだろ」

 

と、アルヴィンが説明してくれた。

 

「へぇ~。アルヴィンすごいね」

 

「だてに傭兵家業で稼いでるわけじゃないからな。これくらいとーぜんよ」

 

カロルがアルヴィンの知識に感心していると、アルヴィンもまんざらではない感じでドヤ顔をした。

 

「サマンガン海停行きの船に乗りますか? であれば、乗船してお待ちください」

 

連絡員がミラたちの話を聞いてそう言ってきたので、ミラたちはサマンガン海停行きの船に乗船し始めた。

 

「手紙? 珍しいね。鳥でやりとりしてるんだ」

 

「ん、まあな」

 

乗船途中にジュードはアルヴィンが手紙のやり取りをしているアルヴィンを見て声を掛けた。

 

「遠い異国の愛する人にさ。素敵な女性が目の前に現れたってな」

 

「へぇ。奥さんいたんだ」

 

アルヴィンの茶化すような言葉を、ジュードは真に受けてそんなことを呟いた。

 

「はは。優等生の発想だな。結婚してるように見える?」

 

「え、違うの?」

 

「さて、な」

 

二人が話していると船から出港の合図の汽笛が鳴り

 

「あ、もう出るみたいだね」

 

「ああ」

 

二人は乗船しに歩き出した。そして、その様子をユーリは船の上から眺めていた。

 

「わぁ……!」

 

船が出港して、しばらくした後、エリーゼは海を眺めなが嬉しそうに声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

そんなエリーゼの様子にカロルが声を掛けると、エリーゼは

 

「海……初めてなの……」

 

と、少し俯いて頬を赤らめながら言った。

 

「へぇ、そうなんだ。それじゃあ海見れてよかったね」

 

「……うん」

 

カロルとエリーゼは海を見ながら楽しそうに話をした。

 

「あの子、あの村で何してたんだ」

 

「監禁されていたのだろう?」

 

そんな二人を見ながらアルヴィンとミラが会話をしていた。

 

「逆かも。匿われてたって可能性もあるんじゃないかな」

 

「それにしちゃあ、匿い方が雑すぎねーか?」

 

二人会話を聞いていたジュードがそう言うと、ユーリがそれに疑問を言う。そんなふうにエリーゼのことを話していたら

 

「きゃーーー!」

 

「どうした!?」

 

悲鳴が上がり、咄嗟にエリーゼの方を向くと

 

「あははは。ティポ見て」

 

「海すごーい。落ちたらしんじゃうところだったよー」

 

「分かってるなら、身を乗り出さないでよ。もう、ビックリしたんだから」

 

「それはこっちのセリフよ。ったく、ちゃんと面倒見てなさいよね」

 

楽しそうに笑っているエリーゼとティポ。それに疲れた様子のカロルとリタがいた。どうやらエリーゼが海に落ちそうになっていたらしく、カロルとリタが落ちるのを止めたみたいだ。

 

「悪い子じゃないよ」

 

「そうみたいだな」

 

そんな様子を見て、ジュードがそう言い、アルヴィンが同意した。

 

「引き取ってくれるいい人が見つかるかな?」

 

「それは連れ出した君らが探すしかない。それが責任というものだろう?」

 

ミラはジュードの呟きに対してそう厳しく言うと歩いて離れて行ってしまった。

 

「やっぱり怒ってるのかな……」

 

「んー、いつもあんな調子じゃないか? ミラは」

 

「俺も同感。むしろ、エリーゼのことはもっと拒否すると思った」

 

ジュードの呟きに、アルヴィンとユーリがそれぞれ思っていることを言う。

 

「どうして?」

 

と、ユーリの言葉にジュードは聞き返すと

 

「ん、ああ。なんつーかミラのやつって、こうと決めたら一直線て感じ出し」

 

「俺もなんとなくわかるぜ。目的の邪魔になることには、もっと一方的かと思ってたよ」

 

と、ユーリとアルヴィンがそれぞれ意見を言い返した。

 

「ミラは、そんなに冷たくないよ」

 

「そうかな……」

 

アルヴィンはジュードの言葉にミラを見ながら呟いた。が

 

「そういや聞いたぜ。イル・ファンの研究所じゃ大変だったらしいな」

 

アルヴィンは急にチャラけた感じでジュードの肩に手を回しながらそう言ってきた。

 

「ミラから聞いたのか?」

 

「あいつ、あそこから何か奪ったんだって? 国の研究所じゃ、そりゃ、軍も出動するって」

 

「え? なんだろ、僕は知らない」

 

「ふーん。おたくは知ってるか?」

 

「いんや、しらねーな」

 

アルヴィンの急な質問にジュードは戸惑いながら答え、ユーリはとぼけながら答えた。

 

「本当かあ? 隠してもすぐわかるぜ」

 

「そんなに気になるんだったら、直接ミラに聞いてくりゃあいいだろ?」

 

アルヴィンがしつこく聞いてくるのでユーリはそう提案を出すが

 

「教えてくれると思うか?」

 

「いいや」

 

アルヴィンもその提案が冗談であるとわかっていたのか、軽く流した。

 

「……あいつはやっぱ、俺たちを信用してないのかね」

 

「さあな。ま、会ってからほんの数日程度しか一緒にいないんだから、しょがねーと思うけどな。で、どうするんだ?」

 

「んー、おたくらでも知らないなら、いいや」

 

アルヴィンは、もう興味ないという感じで話を切った。

 

「いいの?」

 

「俺が聞き出そうとしてたら、あいつが怒るかもしれないからだよ。だからさ、俺が聞いたってことも黙っててくれよ」

 

「うん……わかったよ」

 

ジュードの問に、アルヴィンは別にと答えて、ついでに黙っとくようにと言い、ジュードは頷き、ユーリもいぶしかみながらも了承と手を振った。

一方、ユーリたちと離れたミラは

 

(……『カギ』は手の内にあるが……いつまで時間が稼げるものか……)

 

海を眺めながらクルスニクの槍のことを考えていた。そうしていたら

 

「……ミラ……?」

 

「何か見えるのー?」

 

「いや、少し考えごとをしていただけだ」

 

エリーゼとティポが話しかけてきたので、ミラはそう答えた。

 

「エリーゼ。これからどうするつもりなんだ?」

 

「え……わたし……わかりません」

 

ミラはエリーゼを見ながら質問したがエリーゼはうまく答えられなかったので

 

「ふむ……わかることはないのか?」

 

と、簡単な質問をするも

 

「カロル君やリタ君、他のみんなも友達ー!」

 

「たぶんそういうこと聞いてんじゃないと思うわよ」

 

ティポの見当違いの答えにリタが呆れた表情でツッコミを入れた。

 

「ふむ、その通りだ。そもそも、このティポはなんだ? 何故ぬいぐるみがしゃべっている?」

 

「ティポはティポだよ。そんでエリーの友達ー!」

 

「お前と話すのはなかなか難しいな。何故か論点がずれる」

 

さらに、ミラはとりあえず別の話をするが、やっぱり微妙に会話にならないでいた。

そんなふうに話していたら、船の汽笛が鳴り

 

「おーい。そろそろ到着みたいだぜ」

 

ユーリが声を掛けてきた。

 

「ああ。わかった」

 

「さて、ラ・シュガルの警戒がどれほどのものか、な」

 

ミラは頷き、アルヴィンは軍のことを気に掛けていた。

 

「ミラ君は友達、友達ーっ♪」

 

「…………」

 

「仲良くなったみたいだな」

 

ティポがミラの周りをぐるぐる回りながらの言葉にミラは嘆息し、ユーリはからかうように言った。

そして、船はサマンガン海停に着き、一行は船から降りた。

 

「思ったほど厳重じゃないが……」

 

「それなりに兵士がいるな」

 

サマンガン海停の様子を見て、アルヴィンとユーリがそれぞれ思ってること言う。

 

「妙だな……。一時はア・ジュールにまで兵を出していたというのに」

 

「君らを追うよりも重要なことができたか、な」

 

ミラは海停の様子に少々違和感を感じたがアルヴィンの推測に思うところがあるのか

 

「好都合だ。気づかれぬうちにイル・ファンへ向かおう」

 

と言い、海停の出入り口に歩いていった。他の皆もミラの後に続いて歩き出した。

 

「……ごめんね、エリーゼ。大きな街に着くまで、もう少し待っててね。そしたら、きっと引き取ってくれるいい人がいると思うんだ」

 

そんな中、ジュードがエリーゼに対して、そう言うと

 

「……え、でも……わたし……」

 

「ジュード君、それなんのことー!」

 

「えっ、なにそれ?」

 

ジュードの言葉にエリーゼ、ティポ、カロルが驚きの声を上げた。

 

「ねえ。あいつって、バカなの?」

 

「まあ、いきなり引き取ってくれる人がどうとかお譲ちゃんに言ってもね。聞かされてない本人は、そりゃ、驚くよな」

 

「気遣い、が足りないな。ふふ」

 

と、そんなジュードの様子を見ていた、リタ、アルヴィン、ミラの三人はそれぞれ思ったことを言った。

 

「なんつーか、責任を取ろうとしてんのはわかるが、独断過ぎだな」

 

「そうだな。どんなに頑張ってても、やっぱりガキだよ……」

 

三人の言葉に続くようにユーリも言い、それにアルヴィンが声を落としながら呟いた。

そして、ジュードたちも出入り口に集まり、一行はサマンガン海停から出発した。

 

 

 

 

~チャット会話~

 

『手配書』

 

エ「この手配書……ユーリとミラとジュード!?」

 

ティポ「わー、さんにんともキョーアクー!」

 

ミ「これが私たちか?」

 

ユ「ひでぇ絵だな」

 

カ「なんていうか、手配書ってどこも同じ様なもんなんだね」

 

ア「これなら捕まる心配はなさそうだ」

 

ジュ「……よくないよ」

 

 

『手配書2』

 

リ「にしても、コレそっくりじゃない(笑)」

 

ユ「どこがだよ」

 

ミ「ふむ。全く似ておらんぞ」

 

ジュ「そうだよ」

 

リ「だって、ユーリは黒くてロンゲののところがそっくり。ミラはこの髪がぐるぐるしてる所。ジュードはなんかヘタレっぽい感じかね」

 

ユ・ミ・ジュ『似てない!!』

 

 

 

『予定は未定』

 

エ「わたし……みんなと……さよなら……ですか」

 

ティポ「そんなのやだー!」

 

カ「別にそう決まったわけじゃないって」

 

エ「でも……」

 

カ「そんな思い詰めなくてもいいよ。エリーが納得できるまでに待つからさ」

 

エ「……えっと。その……」

 

ティポ「カロル君! ありがとー!(カプッ)」

 

カ「のぉっ! ちょっ、ティポ!」

 

 

 

 

 

 



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サマンガン樹界

一行がサマンガン海停を出て、サマンガン街道をしばらく進んでいると複数の兵士とそれに停められている複数の馬車が見えてきた。

 

「検問か」

 

「ま、当然だな。そんなにうまい話はないって」

 

ミラとアルヴィンが仕方ないというような感じで口に出した。

 

「どうすんの。あんた他に道知らないの?」

 

「んー、あるにはあるんだか……」

 

リタの質問にアルヴィンはある方向を向いて答える。

 

「あっちには何があるのー?」

 

「あっちは樹界なんだ。上手く抜けるとカラハ・シャールの街に出られるが……」

 

「迷う必要はないな」

 

ティポが聞くとアルヴィンは簡単に説明し、それを聞いたミラは樹界がある方に歩き出した。

 

「滅多に人が立ち入らないんだよ? エリーゼには……」

 

樹界に行こうとするミラに驚き、ジュードは咄嗟に声をかけるが、

 

「こうなることは予期できただろう」

 

ミラは冷たく言った。ジュードはそれを聞いて言い返せず、二人は黙ってしまい、空気が重くなっていると

 

「……わたし……あの、だいじょうぶ……です。だから……」

 

「けんかしないでー。友達でしょー」

 

エリーゼとティポがそう言った。

 

「エリーゼ……」

 

「エリーゼも了承した。これで文句はあるまい」

 

エリーゼの言葉を聞いたジュードは心配そうにエリーゼを見て、ミラは早く行くぞと歩き出した。

 

「ね、ねえジュード。ほ、ほら危険なんだったら僕たちでエリーを守れば何の問題もないじゃん。だから、そんなに落ち込まなくていいんじゃないかな。あははは……」

 

「……うん。そうだね」

 

カロルは落ち込んでいるジュードに励ましの声をかけるが、ジュードは気落ちしたまま皆の後について歩いていった。

 

「深そうな森だな」

 

「はぐれないように気をつけないとな」

 

森に入ってミラとユーリはそう言った。他のみんなも森の様子をそれぞれ見渡していると

 

「ガウッ!」

 

ラピードが突如吠え、皆そちらを向くとそこには一匹のウルフがミラたちをジッと見ていた。ウルフはミラたちをしばらく見続けていたが、特に何かするわけでもなく森の奥に行ってしまった。

 

「何だ? ありゃ……」

 

「警告……だったりして」

 

「これ以上立ち入るなってか。だがその警告も、ミラには効果がないみたいだな」

 

「ここからいけるみたいー! みんな早くー」

 

アルヴィンとカロルはウルフが去った後、ミラたちを見るとミラは植物で出来た小さいトンネルを進んでおり、エリーゼもティポを抱いて入ろうとしていた。

 

「臆病なのは俺たちだけのようで」

 

「アホなこと言ってないで早く進むわよ」

 

アルヴィンの発言にリタが一蹴してエリーゼに続いてトンネルに入っていった。その後を男性陣も追って森に進んでいく。

魔物に注意しながら森を進んでいき中ほどまで来た頃、高所から何人かが飛び降りたその時、足元に群生していたキノコを踏んだとたん、ボフンッ! とキノコが破裂し中から大量の胞子が噴出した。

 

「ごほごほっ! みんな無事かっ!」

 

「クゥ~ン」

 

「勘弁してくれ。この煙はなんだ?」

 

「いたた、目が……」

 

先に下に飛び降りたユーリとラピード、ミラにジュードがキノコの胞子にまかれて咳き込んだ。

 

「みんなー、大丈夫!?」

 

「ありゃ、キノコの胞子か?」

 

カロルとアルヴィンが飛び降りたメンバーに声をかけ安否を気にしていたら、

 

ギャアアアアアアアア!!

キシャアアアアアアアアアァァァ!

 

上の木々から大量のモンスターが降ってきた。

 

「なっ! やられた!」

 

「うわー! いっぱいきたー」

 

「えええっ! なんでこんな時に!」

 

「こんな時だからだろ? こいつら張ってやがったんだ」

 

上にいたリタ、エリーゼとティポ、カロルにアルヴィンは落ちてきたモンスターに対し戦闘態勢を取る。さらに下に降りていたメンバーも胞子にやられながらも武器を取ってそれぞれ構えた。

 

「エリー! 危ないから僕の後ろに」

 

カロルはそう言ってエリーゼを背後に庇いながらモンスターと戦うが敵の数が多く、エリーゼを守りながらのため防戦一方になってしまっていた。そして

 

「うわっ!」

 

ついに防御を破られ直撃を食らい、吹っ飛ばされてしまった。

 

「……カロル!」

 

「エリー、……危ないから、下がってて……」

 

近づいてきたエリーゼにカロルはフラフラと立ち上がりながら言い、再度武器を構えてモンスターたちの前に出る。そんなカロルを見て、エリーゼはカロルに近づき、

 

「エリーきちゃ「ピクシーサークル!」ふへっ?」

 

術を発動させ、カロルを回復させた。

 

「わ、わたしも……カロルと戦い……ます。足手まといには、なりたくない……です」

 

「ぼくだってやるぞー!」

 

「エリー、ティポ。……わかった、援護をお願い!」

 

「……はい!」

 

「いくぞー!」

 

エリーゼとティポの言葉にカロルは昔の自分に似たものを感じて二人に援護を頼んだ。

 

「いくよ! 剛招ビート!」

 

カロルが赤いオーラを纏い、敵に向かっていき、

 

「お願い。ティポライジング!」

 

「いくぞー!」

 

エリーゼが命じると、ティポは地面に潜って敵に突っ込んでいく。

 

「あの二人は大丈夫そうだな」

 

「そうね。じゃ、こっちもちゃっちゃと終わらせましょ」

 

アルヴィンとリタは二人を見て安心だとわかり、自分達の戦闘に集中する。

 

「援護たのむぜ。リタ」

 

「あんたこそ私の盾として頑張んなさい」

 

「盾とはひでーなっと」

 

ドンドンッとアルヴィンは銃を撃って、遠くの敵を攻撃し、近づいてきたモンスターは剣で斬り捨てる。

 

「よっ、はっ、よいしょ!タイドバレット!」

 

アルヴィンがリタの詠唱を守りながら戦っていると

 

「退りなさい! 一気に吹っ飛ばす。来たれ、爆炎! 焼き尽くせ! バーンストライク!! 」

 

上空より複数の炎の弾が降ってきてモンスターたちを殲滅していった。

 

「うっわ、こえ~」

 

その光景を見てアルヴィンはボソッと呟いた。

 

「はぁっ!」

 

「せやっ!」

 

下ではユーリたちがおのおの戦っていたが、

 

「キャウン!」

 

「ラピード!大丈夫?」

 

「クゥーン。グルルル」

 

先ほど吸い込んでしまった胞子のせいで目や呼吸がままらなくなり、さらに敵の数も多かったので苦戦していた。

 

「ったく、こうも目がチクチクしちゃな。くっ!」

 

「ふむ、少々辛いな。ファイヤボール!」

 

「わりぃ。助かった」

 

そんなふうにユーリたちが防戦を強いられていると、

 

「ティポプレッシャー!」

 

上の方から巨大化したティポがモンスターを潰した。さらに

 

「鬼神超重バスター!」

 

「スパイラルフレア!」

 

ブウサギの銅像がジュードの近くのモンスターを吹っ飛ばし、遠巻きにいたモンスターは炎に飲まれた。

 

「お前ら、無事だったか」

 

「人の事より自分の心配しなさいよ。あんたらの方がピンチじゃない」

 

ユーリが上にいたメンバーの安否を確認すると降りてきたリタにツッコまれた。

 

「今……治します」

 

「エリーゼ?」

 

「リカバー!」

 

ジュードに近づいてエリーゼは術を放ってジュードを治す。さらに他の胞子を食らった二人と一匹にも術を掛け、症状を治す。

 

「ほう、これは凄いな」

 

「サンキュー、エリーゼ」

 

ミラとユーリがエリーゼに感謝して武器を構えなおす。

 

「へへ、そんじゃあ、ここから本番だぜ」

 

ユーリはそう言って残りのモンスターを倒しに行こうとしたら、

 

「これで終わり、レイジングドライヴ!」

 

リタが全てのモンスターを焼き払っていた。

 

「まさかこの歳で、あんなに術が使えるとはね」

 

「エリーゼに救われたな」

 

全てのモンスターを倒した後、アルヴィンとミラはエリーゼを見ながらそう言った。

 

「うっう……」

 

が、何故かエリーゼは泣いてしまっていた。

 

「ど、どうしたのエリー! どこか怪我したの?」

 

「違うの……」

 

カロルが慌ててエリーゼに聞くがエリーゼはそうじゃないと言い

 

「仲良くしてよー。友達は仲良しがいいんだよー!」

 

「わたし……邪魔にならないようにするから……だから……」

 

とティポとエリーゼが泣いている理由を話した。

 

「……だってさ。エリーゼに免じて許してやれば?」

 

「免じるも何も別に私は怒ってなどいないが……」

 

アルヴィンがニヤニヤしながらミラに言うも、ミラ自身は怒っていないと少々困惑気味に言い返した。

 

「ウソーん。みんな、もっと仲良しだったもんねー!」

 

「わたし……頑張るから……!」

 

しかし、ティポとエリーゼは納得いってないのかそんなことを言った。

 

「いつの間にか私が悪者か……。ふふ、わかったよ」

 

ミラはしょうがないなと言う感じで、エリーゼの言い分を聞いた。

 

「ほれ。エリーゼに言うことあるだろ?」

 

「心配をかけてすまなかったな。これからはアテにするぞ」

 

「やっぱり友達はニコニコ楽しくだねー!」

 

アルヴィンがやっぱりニヤニヤしながら言うと、ミラはエリーゼに謝罪とお礼をした。それを聞いてエリーゼは嬉しそうにし、ティポは元気に騒いだ。

 

「じゃあ、改めてよろしくねエリー」

 

「……はい」

 

「そんじゃあ、いい感じになったところで、先進もうぜ」

 

ユーリの言葉に一行は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 



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VSジャオ&おっさん

「うわっ」

 

サマンガン樹界を一行が進んでいると、カロルが咳き込んでいた。

 

「ったくガキんちょ。あんた気をつけなさいよね」

 

「ううっ、ごめん。」

 

リタが半眼で睨みながらカロルに文句を言う。

 

「しっかし、あちこちに生えてんのな。まったく迷惑だな」

 

「しょうがねーよ。この森はケムリダケの群生地なんだからよ」

 

ユーリの愚痴にアルヴィンが肩をすくませる。

 

「ケムリダケって……あのキノコの……ことですか?」

 

「うん。あれは強い衝撃を与えると周囲に催涙性の胞子をばら撒く性質があるんだ。煙みたいにね、だからケムリダケって名前が付いたんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「ジュード君、物知りー」

 

エリーゼが質問するとジュードがケムリダケについて説明をする。そして、話しながら進んでいると

グルルルルルルッ!と唸りながら複数のウルフが現れた。

 

「こいつら……」

 

「森に入った時のっ!?」

 

アルヴィンとカロルが周りを見渡しながら表情をこわばらせ。

 

「今度はやる気になったようだな」

 

「どこからでもかかってこーい!」

 

ミラと何故か自信満々のティポが構えたとき、ガサゴソと茂みが揺れて皆そちらを向くと、そこにはハ・ミルの村で会った大男、ジャオが現れた。

 

「あんたは……」

 

「おっきいおじさん……!」

 

「おうおう。よう知らせてくれたわ」

 

ジャオは驚いているミラたちを見るとウルフの頭を撫でながらそう言った。そして、ジャオは再度ミラたち、正確にはエリーゼを見ると

 

「うむ……。おいっ! 何故娘っ子が村から出ていることを知らせなかった!」

 

顔を上げ森に向かって怒鳴った。すると

 

「そんなこと言われてもねぇ。俺の仕事はマクスウェルちゃんたちの監視とその報告。むしろエリーゼちゃんに関してはあんたの個人的な問題でしょ?」

 

「うむむ……」

 

と、木々の上の方から男性の声が返ってきた。それにジャオは言い返せずに唸る。

 

「……ねえ、今の声って」

 

「あ・の・お・や・じ・はッ!」

 

「あはは……。まあ、らしいっちゃらしいがな」

 

そして、上からの声に困惑気味なミラたちに対し、カロルは呆れたように、リタは怨嗟の如く低い声で、ユーリは苦笑いで顔を上げる。

 

「まあいい、さあ娘っ子。村に戻ろう。少し目を話してる間に村を出てるとはのう。心配したぞ」

 

ジャオは言い返しても言いくるめられると思ったのか会話をやめてエリーゼに手を差し出すが

 

「いやー! カロル君かばってー」

 

「ぬう……」

 

エリーゼはカロルの後ろに隠れてしまい、ジャオは困ったふうに頭を掻く。

 

「あんたが、ジャオか?」

 

「ん? お前たちには名乗っておらんはずだがのう」

 

「ハ・ミルのひとたちにな。んで? 見て分かるとおりエリーゼは嫌がってるわけだがどうするんだ?」

 

「どうすると言われてものう」

 

ユーリはそうジャオに話しかるがジャオは困った顔をしながらもエリーゼを連れ戻したいと言う感じで言い返す。

 

「ねえちょっと、エリーゼが村で放って置かれて、どうなったと思ってるのさ!」

 

「……すまんとは思っておる」

 

カロルがジャオに文句を言うとジャオは素直に謝り

 

「あんたって、エリーゼとどういう関係なの?」

 

「その子が以前いた場所を知っておる。彼女が育った場所だ」

 

リタがエリーゼとの関係を聞くとこれもまた素直に教えてくれた。

 

「じゃあさ、チビッ子の故郷に連れて行ってはあげられないの?」

 

「……………」

 

しかし、エリーゼの故郷のことを聞くとジャオは顔を逸らし黙ってしまった。

 

「……また、あの村に戻すの?」

 

「……お前たちには関係ないわい! さぁ、その子を渡してもらおう!」

 

カロルが聞くとジャオは急に大きな声を出して強気な態度になって武器を構えながら言ってきた。

 

「おいおい、いきなり力ずくかよ」

 

「おいっ! お前も手伝え」

 

アルヴィンが呆れたように言いながら武器を構え、他の皆も戦闘態勢になる。ジャオはまた上に向かって声を張り上げる。すると

 

「まったく。俺は荒事は好まないんだけどね~っと」

 

木の上から紫色の服を羽織り、髪を無造作に後ろで結わえた男が降りてきた。

 

「よっ、青年たちひっさしぶりってのわぁぁぁ!」

 

男が振り返りながらユーリたちに挨拶をしようとするが、途中でリタの魔術を食らい吹っ飛ぶ。

 

「ちっ、避けられた」

 

「ちょっとリタっち! いきなりなにすんのよ~」

 

「うっさい黙れ! あんたこそ何してんのよ」

 

「え? 俺様は見ての通りよ」

 

「うわ……答える気ゼロだよ」

 

男は不機嫌なリタに対してヘラヘラしながら受け答えし、カロルはそれを見て呆れ顔で男を見た。

 

「へぇ、ふ~ん、そう、わかったわ。つまり……敵だから容赦なくぶちのめしちゃっていいってことよね。ふふふふふふふふ」

 

「ちょ、リタっち? 目が怖いんでけど。青年っ!」

 

リタは妙な敵意で男を睨みつけ、男の方は少々たじろぎユーリに声をかけた。

 

「これはおっさんが悪い」

 

「うん。レイヴンが悪い、リタの相手頑張ってね」

 

ユーリとカロルは男……レイヴンに対して素っ気ない態度で言い返した。

 

 

 

「ガウッ!」

 

「おっと。ラピード助かったぞ」

 

一方、ミラとラピ-ドはジャオの操る魔物と戦っていた。

 

「おりゃっと、すまねぇ。加勢する」

 

「まったく。なにを遊んでいるんだ」

 

「ホントわりぃって」

 

「まあよかろう。ところであの男はユーリの仲間だったヤツなのか?」

 

「ああ。レイヴンっつってな。まあ、あっちはリタがどうにかするから大丈夫だろ」

 

「そうか。なら私たちもこいつらをとっとと一掃するぞ」

 

ミラとユーリは会話しながらも周りの魔物達を倒していった。

 

 

「エリーゼ、わしと一緒に帰るんだ!」

 

「わ、わたし、帰りたく……ない」

 

「エリーをあの村に無理矢理連れ帰ろうとするなんてひどいよ」

 

「エリーゼは渡さない」

 

エリーゼを守るようにカロルとジュードがジャオの前に出る。

 

「……仕方あるまい!」

 

ジャオは持っている大槌を振り上げカロルたちに向かって振り下ろす。

 

「なんのっ!」

 

ガッ! とカロルはジャオの攻撃を受け止め、その隙にジュードはジャオの後ろに回りこみ攻撃を繰り出す。

 

「ぬうっ。甘いわ!」

 

しかし、ジャオはカロルを直ぐに吹き飛ばしジュードの攻撃を防ぐが

 

「ティポ戦吼!」

 

「ぐっ!」

 

エリーゼが後方から追撃をしてきた。

 

「……何故だ娘っ子。その者たちといても、安息はないぞ?」

 

「……ともだちっていってくれたもん!」

 

「もう寂しいのはイヤだよ!」

 

ジャオは攻撃してきたエリーゼに驚きながら聞くと、エリーゼとティポがそう言い返した。

 

「……エリーゼ」

 

「おっさん。こいつが嫌だって言ってるんだ。無理強いはよくないぜ」

 

「そうだな。それにエリーゼ自身があの村から出ると決めたんだ。放って置いたお前にどうのと言われる筋はないと思うが」

 

ジャオがなんで分かってくれないというような表情でエリーゼを見ていると、魔物を退けたユーリとミラがエリーゼの後ろから歩いてきた。

 

「正直に言おう。わしも、連れて行くのは本意ではない。しかし、そう簡単な問題ではないのでな」

 

ジャオはそう言い返すと、再度武器を構える。

 

「そうかい。なら、ゴリ押しさせてもらうだけだ」

 

ユーリたちも武器を構える。が、その時

 

「うおおおっ! ちょ、ちょっとリタっち!? ギルド仲間のよしみで手加減してくれたっていいじゃないのよ~!」

 

「知るかっ! あんたのそのヘラヘラした感じが昔からムカついてたのよ。それに、せっかくだし私の憂さ晴らしの的になれっ!」

 

「い゛っ!? なにそれっ! 八つ当たりってっぇぇぇぇぇ!」

 

ジャオとユーリたちの方にレイヴンとそれに向けて放ったリタの術が飛んできた。

 

「ぬうっ!?」

 

リタの放った術がレイヴンと共にジャオとユーリたちのいた場所を吹き飛ばし、衝撃で飛び散った大小の土岩石があちこちに群生しているケムリダケに直撃、胞子がばら撒かれ視界が遮られた。

 

「チャンスッ。おい、今の内に行くぞ!」

 

「戦わなくていいのなら無駄に戦う必要はないな」

 

ユーリとミラは他の皆に声をかけて走り出す。

 

「えっ? ったく、なんなのよ?」

 

「ほれ、こっちだ」

 

「うわっ。いきなり引っ張んないでよ!」

 

いきなりの事に戸惑っていたリタはアルヴィンに手を引っ張られて、

 

「エリー、こっち!」

 

「はい」

 

「逃げろー」

 

エリーゼはカロルに手を引かれて、

 

「ワウッ」

 

「ラピード。ありがとう」

 

ジュードはラピードの後を追い、ジャオから遠ざり樹界を出て行った。しばらくし、煙が晴れるとジャオは寂しそうな表情をしながらユーリたちが出て行ったであろう樹界の出口を見つめ

 

「寂しいのはイヤ、か……。お前にとっては、奴らといる方が幸せなのかもしれんのう……」

 

そう、呟いた。

 

「いててて。まったく、最近の若もんはひどいねぇ」

 

「それは、仲間を裏切っているお前の自業自得ではないか? それと、少々ワザと過ぎるのではないのかのう」

 

「ん~。何のことやらさっぱり」

 

「ふん、まあいい。では引き続きあやつらの監視をしておけ」

 

「了解了解っと」

 

二人は軽く言葉を交わし合うと、ジャオは森の奥へと去っていきレイヴンもまた別の方向へと歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 



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カラハ・シャール

「まったく、あのオヤジは何考えてんのよ!」

 

ミラたち一行がジャオとレイヴンを振りきり、サマンガン樹界から出てしばらくした後、リタが(いきどお)っていた。

 

「まあ、おっさんの行動がおかしいのはいつも通りだし、気にしないほうがいいんじゃねーか?」

 

「確かに。レイヴンだから仕方ないんじゃない?」

 

ユーリとカロルは先ほどサマンガン樹界で出会った仲間(ギルドメンバー)であるレイヴンへの愚痴を言っているリタへ言い返した。

 

「……そうね。いくら愚痴ったっておっさんをぶっ飛ばせるわけじゃないし、今は我慢しときましょ。でも次ぎ会ったら、そんときは……」

 

リタはその後ブツブツと小さな声で何かしら物騒なことを言ったが、それは誰にも聞こえなかった。

 

「ふむ、あのレイヴンとか言う男はなにやら、あまり好かれていないみたいだな」

 

と、ユーリたちの会話を聞いていたミラはカロルにそう聞いた。

 

「ん? あ、いや、別に好かれてないって訳じゃないよ。だたちょっと自由過ぎると言うか何というか……。でも、ああ見えてギルドと騎士団、両方にとってすごい人なんだよ」

 

「あのおっさんがか?」

 

「まあ、全然そう見えないってのはあるよね」

 

アルヴィンは胡散臭そうな顔をして聞くと、カロルは苦笑いした。

 

「……あの、ユーリと……あのおじさんは……友達なのに、戦うことになって……、私のせいで……」

 

「けんかしちゃって、大丈夫ー?」

 

と、エリーゼが俯きながら泣きそうな声でユーリに言った。

 

「ん? あー別に全然平気だろ。確かにおっさんたちとは敵対関係になったみてぇだけど、だからって仲間じゃなくなるって訳じゃねーからな」

 

「そうよ。それに敵対してくれたおかげで、堂々とおっさんを痛めつけられるしね」

 

「えっと……」

 

「ま、簡単に言やぁお前らが気に病むことはねぇってこった」

 

「……はい。あ、ありがとう……です」

 

と、ユーリとリタの言葉にエリーゼは頬をほんのり赤くさせお礼を言った。そして、ミラたちが話しながら、またしばらく進んで行くと、

 

「お、見えてきた。あれがカラハ・シャールだ」

 

アルヴィンが遠目に大きな門を見ながら言った。そしてミラたち一行は街に入った。

 

「やっとカラハ・シャールに着いたね」

 

「えらく遠回りしちまったな」

 

街へ入るとジュードとアルヴィンが検問のせいで樹界を通ってきたことに対し、しみじみと言った。

 

「もうでっかいおじさんたち来ないかなー?」

 

ティポが街の出入り口を見ながら不安そうにする。それを聞いたミラは

 

「この雰囲気の中までは追ってこれまい」

 

と、街の様子を見て判断する。

 

「……おっ、この店、なかなかいい品がそろってるな」

 

アルヴィンもミラと同様に街の様子を観察し、多少兵士が多いと思いながらも近くに開いていた店に視線を移す。

 

「いらっしゃい! どうぞ見て言ってくださいよ」

 

「骨董か……ふむふむ」

 

皆は思い思いに骨董店の品を見始める。

 

「なあ、なんだが街のあちこちに妙に物騒なのがいるけど何かあったのか?」

 

そんな中、そういった物に興味が無いユーリは店主に話しかける。

 

「ええ。なんでも首都の軍事研究所にスパイが入ったらしくてね。王の親衛隊が直々に出張ってきて、怪しい奴らを検問してるんですよ。まったく迷惑な話で……」

 

「へえ、そりゃ、確かに迷惑な奴らだな」

 

と、ユーリはまるで他人事のようにすまし顔で店主の言葉に同意する。

 

「お、分かってくれるかい兄ちゃん、ん? あんた……」

 

店主はユーリを見た後、ジュードとミラも見て訝しい表情になった。

 

「……キレイなカップ」

 

「でも、こーゆーのって高いんだよねー」

 

そんな時、カチャリと元々いた女性客が1つのカップを取って見ており、たまたま女性の近くにいたエリーゼとティポもそのカップを見て思ったことを言った。

 

「そりゃあ、そいつは『イフリート紋』が浮かぶ逸品ですからねぇ」

 

と、店主はユーリたちから視線を移し、女性にカップの説明をした。

 

「『イフリート紋』! イフリートさんが焼いた品なのね」

 

女性は店主の説明に顔をほころばせていたが、ミラが急に女性からカップを引ったくり、まじまじとカップを観察すると、それをお手玉をするように投げたりしながら

 

「ふむ。それは無かろう。彼は秩序を重んじる生真面目な奴だ。こんな奔放な紋様は好まない」

 

とカップのイフリート紋を偽者だと指摘した。

 

「ほっほっほ、面白いですね。四大精霊をまるで知人のように」

 

すると突然背後から声をかけられ、振り向くとそこには気の良さそうな老人が立っていた。老人はさらに

 

「確かに、本物のイフリート紋は、もっと幾何学的な法則性をもつものです」

 

そう言いながらカップのソーサーを手に取り、裏側を見て、

 

「おや。このカップがつくられたのは十八年前のようですね?」

 

「それが……何か?」

 

「おかしいですね。イフリートの召喚は二十年前から不可能になっていませんか?」

 

「う……」

 

と、老人が指摘すると、店主は苦虫を噛み潰したような表情になり目を逸らす。そんな店主の態度に女性は残念そうにミラからカップを返してもらいが

 

「残念、イフリートさんがつくったんじゃないのね……。でもいただくわ。このカップが素敵なことに変わりないもの」

 

と、笑顔でカップを購入すると店主へ言った。

 

「は、はい。……お値段の方は勉強させていただきます……」

 

店主は騙した後ろめたさにいくらか値引きをして女性にカップを売った。

 

「ふふ、あなたたちのおかげで、いい買い物が出来ちゃった。あ、私はドロッセル・K・シャールよ。よろしくね」

 

「執事のローエンと申します。どうぞお見知りおきを」

 

と、カップを買った女性ドロッセルと老人ローエンは自己紹介をしてきた。

 

「お礼に、お茶にご招待させていただけないかしら?」

 

ドロッセルは笑顔でお礼にとお茶の招待をとミラたちを誘うと

 

「お、いいね。じゃあ後でお邪魔するとしますか」

 

アルヴィンがノリノリで承諾した。

 

「私の家は、街の南西地区です。お待ちしておりますわ」

 

ドロッセルはそれを聞くと、家の場所をミラたちに教え、ローエンと共に家へ戻っていった。二人が見えなくなると

 

「ちょっと、タレ目。あんた何勝手なこと言ってのよ」

 

「リタの言うとおりだ。私たちにそんな暇などないのだがな」

 

リタとミラがアルヴィンに対して苦情を言った。

 

「まあまあ。この街にいる間は利用させてもらう方が色々好都合だろ。ってかタレ目って……」

 

「確かに、下手に宿に泊まって通報されたら厄介だしな」

 

アルヴィンは現状の街の様子を見て、そう言い返し。過去に通報された経験のあるユーリもそれに納得した。

 

「ふむ。では街の様子をうかがってから、お茶にするとするか」

 

ミラも一理あると考えたのか、アルヴィンの提案を受けれた。

ドロッセルと分かれたミラたちは、しばらく街の様子を見て回った後、街の南西地区へと足を伸ばした。

 

「お待ちしておりましたわ」

 

南西地区へ行くとドロッセルが手を振って呼んでくれた。

 

「わあ、すごい家」

 

カロルはドロッセルの屋敷を見て、感嘆の声を出した。皆が屋敷を見ていると、中から兵士が現れた。

 

「ラ・シュガル兵!」

 

ミラは兵を見た瞬間驚きの声を上げ、腰の剣に手を伸ばすが

 

「待て」

 

と、アルヴィンに制止された。しばらく見ていると兵士のあとに壮年の男が二人出てきた。男たちは兵士に護衛されながら、屋敷の入り口に停めてあった。馬車に乗り込み去っていった。

 

「今のは……」

 

「……お客様はお帰りになりましたか」

 

ローエンは屋敷から出てきた男を見ると、何故か神妙な声でそう言った。ドロッセルは馬車が完全に去ると、ミラたちに笑顔で手招きをし、屋敷へ案内をする。

 

「やぁ、お帰り。お友達かい?」

 

屋敷に近づくと、そこには青年がおりドロッセルに声をかけた。

 

「お兄様! 紹介します。……あ、まだみんなの名前きいてなかった」

 

ドロッセルは青年を兄と呼んで笑顔で近づき、ミラたちのことを紹介しようとしたが、ミラたちの名前を聞いていないことに気づき、しまった、という感じで首を傾げた。

 

「ははは、妹がお世話になったようですね。ドロッセルの兄、クレイン・K・シャールです」

 

「クレイン様は、カラハ・シャールを治める領主様です」

 

と、青年クレインは自己紹介し、ローエンはクレインの紹介の補足をした。

 

「立ち話もなんです。さぁ、どうぞ屋敷の中へ」

 

クレインはそう言ってミラたちを屋敷の中へ招き入れた。

 

 

 

 

 

~チャット会話~

 

 [レイヴンという男]

 

ユ「へぇ、ここがカラハ・シャールか。賑やかでいい街じゃねーか」

 

リ「(キョロキョロ)」

 

カ「リタ。さっきから何キョロキョロしてるの?」

 

リ「ん? あのおっさんを探してんのよ」

 

エ「えっ……でも、ここなら……追ってこないって」

 

ユ「あー、確かにジャオって奴は無理だろうが、レイヴンの奴なら普通に居そうだよな」

 

???「へっくしゅ!! っとやばいやばい」

 

ユ・リ・カ・エ『!?』

 

 

 [はじめての街]

 

エ「わぁ、いっぱい人がいます」

 

カ「あ、エリーはこういう大きい街ははじめてなんだね」

 

エ「はいです」

 

ティポ「でも、たくさん人がいて、ウザいね」

 

ジュ「ティポ、そんなこと言っちゃダメだよ」

 

リ「でも実際、大きい街ってロクでもない奴らがいるから気をつけなさいよ」

 

エ「ロクでもない?」

 

リ「そ。例えばほらあそこでユーリにシメられてる奴とかね」

 

ユ「なんだ?まだやるってのか。あ゛あ゛?」

 

男「す、すいませんでしたっ!」

 

エ・ティポ「街って怖い」

 

カ「いや、アレは悪い例だから……」

 

 

 

 

 

 



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お茶会

現在あるストックはここまでです。

更新は遅いですが頑張ります。


「なるほど、また無駄遣いをするところを、みなさんが助けてくれたんだね?」

 

と、クレインはドロッセルの話を聞いて苦笑した。

 

「無駄遣いなんて! 協力して買い物をしたのよね」

 

ドロッセルは頬を膨らませてクレインに講義し、皆から同意を得ようとミラたちを見た。ドロッセルの言葉にクレインとミラたちは苦笑いをした。そんなふうに談笑をしていると、ローエンがやって来て、クレインに耳打ちをした。

 

「・・・・・・わかった。みなさんのお相手を頼むよ」

 

「かしこまりました」

 

クレインはローエンから何かを聞くと、先ほどまでののほほんとした表情から領主としての引き締まった表情になり席を立った。

 

「申しわけありませんが、僕はこれで」

 

クレインはミラたちにそう言ったあと、ドロッセルに目配せをして屋敷から出かけて行った。

 

「俺も、ちょっと」

 

「どこいくんだ?」

 

と、まるでタイミングを見計らったかのようにアルヴィンも移動しようとした。それをユーリは疑問に思い、訊ねると

 

「生理現象。一緒に行くかい?」

 

「行くかよ」

 

アルヴィンは遠まわしに答えて、トイレに行った。

 

「ねぇねぇ、みんな旅の途中なんでしょう? 旅のお話をきかせて」

 

と、ドロッセルは残ったメンバーに旅の話をしてとお願いした。

 

「あの……わたし……」

 

「私、この街から離れたことがなくて……。だから、遠い場所のお話を知りたいの」

 

エリーゼはドロッセルの言葉に戸惑うが、ドロッセルはお構い無しにエリーゼの隣に座り自分の事を話した。

 

「わたしも……外に出たことなかったです。でも……」

 

「カロル君たちがエリーを連れ出してくれたんだー。海や森を通ってねー、波やキノコがすごかったー」

 

エリーゼとティポはドロッセルの話を聞くと、自分の体験したことを話し始めた。

 

「エリーは海を渡ったんだ? いいなぁ。私、まだ海を見たことないの」

 

「海には気をつけろ。岩に化けるタコがいるからな」

 

「岩に化けるタコさん!?」

 

ドロッセルはエリーゼの話を聞くと羨ましがっていると、ミラがキジル海瀑の時に戦ったモンスターの事を話した。ドロッセルはそのことに驚いたりしながら楽しく旅の話を聞いていると

 

「あ、海といえば。貝殻でつくったキレイなアクセサリなら、広場のお店で見たわ」

 

「キレイなアクセサリ……」

 

ドロッセルがアクセサリのことを話すとエリーゼはそれを想像して欲しいなぁと思った。

 

「興味あるの? だったら今度プレゼントするわね。お友達の証よ」

 

すると、ドロッセルはエリーゼの思ってることを察して、そう言った。するとエリーゼは顔を赤くしてとても嬉しそうにし、

 

「わーい。生きてる貝は気持ち悪いけど、死んでる貝殻はキレイだよねー」

 

「あんたねぇ。嬉しいのは分るけど、もっとマシな言い方があるでしょうが……」

 

ティポもアクセサリを大喜びして言い、リタがティポの言葉にツッコミをいれた。

 

「プレゼントをするのが友達の証なのか?」

 

ミラがドロッセルとエリーゼのやり取りを聞いて質問すると、

 

「ええ。信頼を形にして贈るの」

 

「タダでもらえると得した気分だしねー」

 

「ちょっとあんたは黙ってない」

 

ドロッセルは笑顔で自身の考えを答え、ティポは茶化しているのか思っていることを言い、リタに叩かれた。

 

「なるほど……」

 

ミラはそれを聞くと納得したような表情をした。

 

「ほっほっほ、お嬢様によいお友達ができたようですね。ではゆっくりおくつろぎください」

 

と、ローエンはそういいながらおかわりのお茶とお菓子をもって現れ置いていった。しばらくして、

 

「では、我々はそろそろおいとまするとしよう。楽しかったぞ」

 

「私も楽しかったわ」

 

そろそろ出発しようとミラがドロッセルに挨拶をし、玄関へ移動しようとすると

 

「なにするんだよー!」

 

クレインが歩哨を連れて、ミラたちの前に立ちはだかった。

 

「まだ、お帰りいただくわけにはいきません。……あなた方が、イル・ファンの研究所に侵入したと知ったいじょうはね」

 

クレインはミラたちを鋭い眼差しで見渡した。

 

「ふーん。で、犯罪者は捕まえて軍にでも引き渡すってか?」

 

「ちょ、ユーリ」

 

ユーリは研究所に侵入したことを否定せず、むしろ堂々と公言し、そんなユーリにカロルは動揺した。

 

「いいえ。イル・ファンの研究所で見たことを教えて欲しいのです。……ラ・シュガルはナハティガルが王位に就いてからすっかり変わってしまった。何がなされているのか、六家(りくけ)の人間ですら知らされていない……」

 

クレインはユーリの言葉を否定し、研究所のことを教えてほしいと表情を暗くして聞いてきた。ミラはユーリとジュードに目配せをしたあと、研究所であったこと話し始めた。そんな中、

 

「ねぇ、マナってどう言うこと?」

 

「あと、人体実験ってなにさ」

 

「ん? ああ、そうか。お前らには話してなかったけか。実はな……」

 

と、リタとカロルが怪訝な顔をして聞いてきたので、ユーリは経緯を教えた。

 

「なにそれっ! 酷すぎるよ」

 

「マナに精霊術、兵器に人体実験。ちょっとこれは色々詳しく調べたほうがいいかもしれないわね」

 

二人がユーリの話を聞き終わると、それぞれ思ったことを言った。それと同じぐらいにミラとクレインの話も終わり、

 

「……ドロッセルの友達を捕まえるつもりはありません。ですが、即刻この街を離れていただきたい」

 

「ま、そりゃそうよね」

 

クレインの言葉を聞いていたリタはそう言い、他の皆もしょうがないという感じで屋敷のから出ていった。その途中、

 

「なあ、一ついいか? 俺らの事誰から聞いたんだ」

 

と、ユーリはクレインに質問をした。

 

「アルヴィンです。彼から教えていただきました」

 

「やっぱりか。サンキュー」

 

「ちっ、あいつもおっさんと同じ類の奴ってことね」

 

クレインの返答にユーリは目を細め、リタは殺気を出し、他のみんなも多少戸惑った。

屋敷から出た後、ミラたちは中央広場まで来ると、アルヴィンが鳥で手紙をやり取りしている所を見つけた。アルヴィンもミラたちが来たことに気づいて、手を軽く上げた。

 

「あんのぉタレ目がぁ!」

 

「ちょ、ま、リタ落ち着いてって」

 

今にもアルヴィンに殴りかかる、又は魔術をぶっ放しそうになるリタをカロルはなんとか抑える。

 

「アルヴィン君、ヒドイよー! バカー、アホー、もう略してバホー!」

 

「なぜ、私たちをクレインに売った?」

 

近づいてくるアルヴィンにミラはティポの悪口を一旦やめさせ、質問した。

 

「売ったなんて人聞きの悪い。シャール卿が、今の政権に不満をもってるってのは有名だからな。情報を得るには、うってつけだ。交換で、こっちの情報を出しただけ。いい情報きけたろ?」

 

「なにしゃあしゃあと言ってんだよ。ったく」

 

アルヴィンはミラたちの事情をバラしたことに何も思ってないらしく、いつものようにチャラけた感じのまま、理由を説明した。

 

「ラ・シュガル王ナハティガル……。こいつが元凶のようだ。ナハティガルを討たなければ第二、第三のクルスニクの槍が作られるかもしれん」

 

ミラはクレインから聞かされたナハティガルのしていることを考え、目的を明確にする。

 

「ええっ、それって王様を討つってことだよね……?」

 

「ああ。国は混乱するだろうが、見過ごすことは出来ない」

 

「確かに人さまの命を平然と奪うようなやり方なんざ許せねぇだろ」

 

カロルの困惑した言葉にミラとユーリはそう答えた。そんな時、

 

「お前らは……手配書の!?」

 

と、街を警邏していた兵士達がミラ、ジュード、ユーリを見つけて叫んできた。

 

「はっ、往来で堂々としすぎたかもな」

 

アルヴィンがそう言い、みな臨戦態勢になると

 

「南西の風2……いい風ですね」

 

屋敷のほうからローエンが歩いてやってきた。ローエンは一旦ミラたちを向くと

 

「この場は、私が……」

 

と言い、懐から三本のナイフを取り出した。

 

「おい! じいさん! こっちを向け! 何をたくらんでいる」

 

兵士は凄み、ローエンを向かせようとして叫んだ。その声にローエンは振り向き、と同時に素早い動きで先ほど取り出したナイフを空中へ投げた。

 

「おおっと。怖い怖い……。おや? 後ろのお二人。陣形が開き過ぎではありませんか? その位置は、一呼吸で互いをフォローできる間合いではありませんよ?」

 

そして、ローエンはおどけながらも兵士たちに話しかけた。

 

「貴様……余計な口を叩くな!」

 

兵士はなれなれしく話しかけてくるローエンに対し、怒鳴りつけるが

 

「そしてあなた。もう少し前ではありませんか? それでは私はともかく、後ろのみなさんを拘束できません」

 

ローエンは気にした風でもなく兵士に話しかけた。兵士はまるで知ったような口調で話すローエンに対し、ふん、と鼻で笑い数歩後ろへ下がった。それを見たローエンは笑顔で

 

「いい子ですね」

 

と言い、兵士を見事に誘導させた直後、上空からローエンが投げたナイフが兵士を取り囲むように落ちてきて

 

「うぐっ! これは……」

 

「では、これで失礼します。さぁ、みなさんこちらへ」

 

ナイフを基点に地面に術式を発動させて兵士を拘束した。ローエンはミラたちへ向きかえると皆を兵士から逃がした。

 

「ローエン君、すごいー! こわいおじさんたちもイチコロだね!」

 

「いえいえ。イチコロなど、とてもとても。私程度では、ただの足止めです」

 

「ありがとう。ローエン。助かったよ」

 

「いえいえ」

 

兵士たちからそれなりに距離を取った後、ティポはローエンの実力を褒めて、カロルはお礼をいった。ローエンはそれに笑顔で言葉を返した。

 

「それでローエン。我々に用があるのだろ?」

 

話が一区切りすると、ミラはローエンに対して質問をした。

 

「おや、直球ですね。……実はみなさんにお願いがあるのです」

 

ローエンは一旦佇まいを直してから、ミラたちにお願いを申し出た。

 

「お尋ね者のいる一行に? あんまり楽しそうな話じゃなさそうだ」

 

「先ほどラ・シュガル王が屋敷に来られ、王命により街の民を強制徴用いたしました」

 

アルヴィンの茶化しに気を悪くした風もなくローエンは事情を説明し始めた。

 

「何? ナハティガルが着ていたのか?」

 

「もしかして、あの馬車に乗っていった奴らか?」

 

ミラと驚き、ユーリは屋敷から出て行った二人の男について思い出す。

 

「はい。その通りです。先刻馬車に乗って出て行かれた額に傷のあるお方がナハティガル王です」

 

「あの人が……ラ・シュガルの王様……」

 

ローエンの説明でエリーゼは屋敷から出て行くナハティガル思い出した。

 

「しかし、なんで強制徴用なんて……」

 

「そんなの決まってんじゃない。人体実験に使うつもりなのよ。ったく、ホントに人の命をなんだと思ってんのよ」

 

アルヴィンが徴用に疑問を持つとリタが忌々しいという表情でそう吐きすてた。

 

「民の危険を感じた旦那様は、徴収された者たちを連れ戻しに向かわれました。しかし、ナハティガルは反抗者を許すような男ではない……」

 

「ドロッセルのお兄さん……危ないの?」

 

エリーゼはローエンの話を聞いて心配そうにする。

 

「力を貸していただけませんか? クレイン様をお助けしたいのです」

 

「ドロッセル君のお兄さんを助けよ~! ね? エリー」

 

「うん。クレインさんもだけど、連れて行かれた人たちも心配だし」

 

「そうだね。クレインさんや連れて行かれた人たちを助けなきゃ!」

 

ローエンの話を聞き終えると、ティポとジュード、そしてカロルが助けに行くと主張した。

 

「あーあ、お子様組みは行く気満々みたいだけどどうするんだ?」

 

「いいだろう。アレを使おうというナハティガルの企みは見過ごせない」

 

「だってさ」

 

アルヴィンはミラに話を振ると、ミラもクレインの救出に賛成し、ローエンに引き受ける旨を伝えた。

 

「ありがとうございます。民が連れ去られた先は、バーミヤ峡谷。急ぎましょう!」

 

そうして、ミラたちはクレインを助けるためにバーミヤ峡谷へ出発した。

 

 

 

 

 

 



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不整合大地バーミヤ峡谷

久々に書いたからちゃんとした内容になってるか心配ですね。


クレインと街の人たちを助けるためにミラたちはカラハ・シャールからクラマ間道を抜け、バーミヤ峡谷へと到着した。

 

「すごい地層だね……」

 

「ここは、ラ・シュガルでも有数の『境界帯』ですからね」

 

ジュードが峡谷の岩肌を見て驚いているとローエンがそう補足をする。

 

「……? 境界帯って?」

 

「えっと、複数の霊勢がぶつかってる場所のことだよ。あ、霊勢っていうのは精霊の力のことね」

 

「へぇー」

 

リタの疑問にジュードは説明し、それを聞いたリタは納得したというような声を出して峡谷を観察するように見渡し、

 

「もしかして、ここ登るのー? 疲れちゃうよー」

 

「確かにちょっと大変かも」

 

ティポとカロルは峡谷の岩山を見上げてながら面倒そうな声を出した。他の皆も辺りを見渡していると、

 

「ガウッガウッ!!」

 

ラピードがいきなり吠え出しエリーゼを突き飛ばした。と、同時にどこからか鉄の矢が飛んできて、先ほどまでエリーゼが立っていた場所へと突き刺さった。さらに何発と矢が放たれてミラたちを攻撃し続ける。

 

「なっ!?」

 

「隠れろっ!」

 

ユーリが叫び、それぞれ近くの大岩の影に隠れて相手からの狙撃を回避する。ミラたちが隠れると、相手も攻撃が届かないと理解したらしく、一旦攻撃が止む。

 

「軍か」

 

「よほど見られたくないことをしているのだろう。……アルヴィン」

 

アルヴィンが呟くとミラが冷静に辺りを見渡し、アルヴィンに指示を出して敵を撃ち抜かせようとするが、アルヴィンが立つと敵はすぐさま矢を放つ。

 

「だめだ、場所が悪い」

 

ドスッドスッドスッとその後も、牽制のためか散発的に矢を放たれミラたちは動けないでいた。

 

「わーなんとかしてよー!」

 

「リタ、術でどうにかできねーのか?」

 

「さすがに見えてない相手に攻撃当てんのは無理よ」

 

ティポの叫びとユーリの提案にリタは無理と言い返す。

 

「なんとか隙をつくれれば……」

 

「俺が出て注意をひきつける。その隙にたのむぜ」

 

「……囮になる気か。大丈夫なのか?」

 

「任せろって」

 

ミラの言葉にユーリがそう言い返し、武器を構えて岩陰から飛び出す。敵は飛び出したユーリに気づくとすぐさまユーリに向かって矢を放つが、

 

「そりゃ! はっ! せいっと」

 

ユーリは飛んできた矢を叩き落したり、さばいたりして回避する。

 

「すごい……」

 

「あの若さで……。見事なものですね」

 

矢をさばいているユーリを見て、ジュードとローエンは感嘆の声を上げる。兵士たちはユーリに攻撃が当たらないことに焦りを感じ、さらに攻撃を加えるがそれすらもかわされ、そして

 

「はあぁっ!」

 

「なっ、しま…ぐあぁっ」

 

背後から忍び寄っていたミラによって敵の兵は倒された。他の兵士達もいつの間にか近づかれたミラに動揺し隙を見せた瞬間にアルヴィンの銃撃によって瞬殺される。

 

「大丈夫かユーリ」

 

「おう、平気だ。二人ともごくろーさん」

 

そう言ってユーリはミラの言葉に軽く手を振って答えた。

敵兵がいなくなったあと、周辺を探索すると洞窟の入り口らしき場所が見つかり、中を覗くと

 

「これは……、イル・ファンで感じた気配……?」

 

ミラが顔をしかめてそう言った。

 

「まさか……ここにもあの装置が?」

 

「もしそうなら急がねーとな」

 

ミラの言葉にジュードとユーリも表情を曇らせ、急いで洞窟へ入っていく。

洞窟の中をある程度進むと魔法陣によって道を遮られており、その奥には大きな広間が在った。そして広間の中を見ると奇妙な装置が稼動していていた。

 

「なに、あれ……」

 

カロルが装置を見て不安そうな声を出した。さらに広間をよく見ると壁際の牢屋のような物の中に街の人たちやクレインが苦しそうにしていた。

 

「クレイン様! ……やはり人体実験を行っていましたか」

 

ローエンは中に様子を見ると忌々しそうに声を出した。ミラは広間に入るために魔法陣に触れようとすると、

 

「よせっ、手が吹き飛ぶぞ」

 

アルヴィンがそれを止めた。

 

「おいジュード。ありゃぁ……」

 

「うん、研究所でハウス教授を殺した装置と似てる!」

 

ユーリとジュードは中の装置を見ると表情を険しくしてそう言い。

 

「ここでも黒匣(ジン)の兵器をつくろうというのか? それほどたやすくつくれはしないはず……」

 

二人の言葉にミラは驚き、再度広間の装置を見ていると、何かに気づいたように懐からイル・ファンで入手した物を取り出してそれを少し見てからまた懐に戻した。

 

「ミラ?」

 

「……私たちを追うのをやめた理由がこれか。くだらぬ知恵ばかり働く連中だな」

 

カロルが心配そうに声を掛けるが、ミラの耳には入っておらず、一人忌々しいというように言葉を吐き出した。

 

「……展開した魔法陣は閉鎖型ではありませんでした。余剰の精霊力を上方にドレインしていると考えるのが妥当です。谷の頂上から侵入して、術を発動しているコアを破壊できれば……」

 

ローエンは広間の中央で展開されていた魔法陣や装置の状況から中の様子を推測し、侵入方法を提案した。

 

「それならみんな助けられるの?」

 

「おそらくは……」

 

カロルが聞き返すとローエンは頷きながら返答をする。

 

「……よし。では行こう」

 

ミラがそう言って、一行は洞窟から出て峡谷の頂上へと向かった。

 

「カロル、エリーゼ大丈夫?」

 

「僕は…このぐらい…ハァハァ…大丈夫だって……それよりエリーのほうが…」

 

「私も……だ、大丈夫…です」

 

「ボクはダメかもー」

 

峡谷を登り始めて半ばまで来た頃、ジュードが後ろに居る息が上がっている二人に話しかけた。カロルは見栄を張っているのか気丈に振る舞いエリーゼは迷惑をかけない様と微笑を浮かべた。

「一旦ここで休憩を取ったほうがよろしいですね」

 

「そうだな」

 

先頭の方を歩いていたローエンとユーリが後方の状況に目をやって休憩を取ろうと話し合っていたのだが、

 

「何を言っている。休んでいる暇などは無い。早くあの装置を止めなければならないのだぞ」

 

ミラが不満を呈してきた。

 

「そうは言っても、ガキンチョ共があれじゃあどうしようもないでしょうよ」

 

「それなら置いていけばいい」

 

「あんたねぇ、自分勝手じゃない?」

 

「自分勝手も何も装置を一刻も早く止めなければならないことは分っているだろう?」

 

「そうだけど……」

 

ミラの言葉にリタが食いつき、互いに言い合いを始めてしまった。実際リタもおうとつの激しい峡谷に疲労が溜まっていたので少々イライラしていたのだった。

 

「おいおい、二人とも止めろって。別に長く取る訳じゃないんだ。一息入れようってことだろ」

 

「……仕方ない。少しだけだぞ」

 

二人の言い合いにアルヴィンは肩をすくめながら仲裁に入り説得するとミラは渋々ながら休息を許可した。

 

「ごめんねミラ」

 

「ごねんなさい…です」

 

「休憩を取り終わったら頂上まで一気に上る。しっかりと休むことだ」

 

先頭まで追いついたカロルとエリーゼの謝罪にミラはきつめに言い返して近くの岩へと腰掛け、他のメンバーも思い思いに休憩を取り始める。

 

「それにしても、あのナハティガルって奴は一体なんの実験をしてるわけ? 王様直々に来るなんてよっぽどのことじゃない」

 

と、リタが疑問を口にした。

 

「わかりません。以前の彼は、必ず最前線に出てきましたが……」

 

「なんだ? 王様なのに前線に出るのか?」

 

ローエンがナハティガルのことを話し始めると、ユーリは加わり質問をする。

 

「ナハティガルが王族クセに軍で叩き上げた実戦派だからな。もっとも最近は、権力を独占するための戦いに忙しいみたいだがな」

 

「以前のあの男は……。いえ。とにかく、独裁体制を完全にしようとするナハティガルにとって、人望とカラハ・シャールの財力をもつクレイン様は、最後の邪魔者なのです」

 

アルヴィンの説明に何かしら思うところが在ったのかローエンは表情を暗くして小さく呟いたが、頭を振り話を続けた。

 

「しかし、目を付けられてるのにも拘らずナハティガル王に直に逆らうとは、シャール卿もバカなことするよ」

 

「私も、お止めしたのですが、ああ見えて頑固な方で……」

 

「もー! ドロッセルのお兄さんを悪く言わないでよー」

 

「クレインさんは、いい人……です」

 

アルヴィンの話にローエンは困ったという表情し、会話が聞こえてきたエリーゼとティポは頬を膨らませ睨みながらアルヴィンに抗議すが、残念ながらその表情には怖さがまったく無かった。

 

「もちろんですよ。あの方ほど、民を大切にする領主はいません。……いいえ、領主以前に本当に優しい人なのです。二年前、行く当てのをなくしていた私に、執事という居場所を与えてくださった」

 

「へぇ~、相当信頼してるのね」

 

「はい。とても」

 

クレインに対するローエンの話を聞き、リタが言い返すと笑顔で頷く。

 

「おまけに、アルヴィン君よりカッコイイしねー」

 

「あ? 今、なっつった?」

 

「ふも~~~。あふふぃんふんのぼほ~~!?」

 

ティポは今の話しを聞いてアルヴィンをからかうが、それを聞いたアルヴィンはティポを半笑いで引っ張り回して遊び出す。

 

「なら、絶対助けねぇとな」

 

「もちろんですとも。必ず助け出してみせます」

 

その様子を見て笑いながらもローエンはユーリの言葉にしっかりと言い返した。

 

「おい、お前たち。そろそろいいだろう。頂上へ向かうぞ」

 

そして、ミラの一言で休憩を終え、一行は頂上へと再び上りはじめた。

 

 

 

 



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うずまく陰謀

書きやがれー的な感想を貰ったので久々に書いてみた。

書き途中のがあったのでそれをキリのいいところ(?)までなんとかして完成させてみました。

続きの方は・・・・まあ書けたら書いていきます。


ミラたち峡谷の頂上へと行くとそこにはポッカリと穴が開いており、その穴から紫色の光が勢いよく噴出していた。

 

「くッ……。コアが作動している! けど、この高さ……」

 

「どうするよ?」

 

ジュードとアルヴィンが穴の中を覗きこみ地上までの高さに困惑していると、

 

「時間がありません。吹き上がる精霊力に対して魔法陣を展開します。それに乗ってバランスをとれば、無事に降下できるかもしれません」

 

「つまり飛び降りると?」

 

「ってことは、コアを狙うチャンスは一度か」

 

ローエンが今の状況を分析し、皆に案を提示する。ミラとアルヴィンはその内容に穴の中を覗き込みそれぞれ呟き、

 

「他に案がねぇなら、行くしかねーよな」

 

「行こう。みんなを助けなきゃ」

 

「ふふふ。なかなか度胸がおありだ」

 

ユーリとジュードは行く気満々で穴を覗き込こむ。そしてそんなみんなの様子を見てローエンは微笑んだのだった。

 

「………」

 

「エリー大丈夫? ここで待ってる?」

 

そんな中、エリーゼは穴の中を覗き込んで不安そうにしており、カロルが声をかける。声をかけられたエリーゼはカロルの言葉に首を振り、大丈夫と意思を示した。

 

「わかった。じゃあ行こう」

 

カロルは笑顔でエリーゼに手を差し伸べるとエリーゼは一瞬キョトンとしたがすぐにその手を握り返した。

 

「ではまいりますよ」

 

ローエンが周りの様子を伺い、言うと空中に向かって3本のナイフを放ち魔法陣を展開させるとミラたちは魔法陣の上に飛び乗り、穴の中へと降りていった。中へ入ると精霊力の噴出に合わせて魔法陣のバランスをとりながら巧みに突き出している岩を避けて下降していき、

 

「あれか! アルヴィン頼んだ!」

 

ユーリが叫ぶと同時にアルヴィンが銃を構えて狙いを絞ろうとするが

 

「こう揺れちゃ……」

 

精霊力の揺れに上手く狙いが付けられず苦闘していたら

 

「これなら!」

 

「少しは安定するよね!」

 

「…ッ! 気が利くな」

 

と、ジュードとカロルがアルヴィンの身体を固定するために支えた。アルヴィンは一言お礼を言うと再度狙いを定めて、コアに近づく中アルヴィンはトリガーを引いた。

ガシャン! と、銃口から放たれた弾丸は見事に中央に浮いていたコアを砕き装置を停止させた。装置が停止すると、それと連動して洞窟内の各所にある人々を閉じ込めていた小部屋の機能も停止し、ロックも外れ閉じ込められていた人たちが逃げられるようになった。

 

「旦那様!」

 

コアを破壊し、地上へと降り立ったローエンたちはフラフラとよろけながら出口へ向かう人の中、膝をつき倒れそうになっていたクレインを見つけて駆け寄る。

 

「……うう」

 

「おい、大丈夫か?」

 

「すまない。忠告を聞かず突っ走った結果が、これだ……」

 

「ご無事でなによりです」

 

倒れかかっているクレインに肩を貸しながらユーリが声を掛けるとクレインは顔色が悪いものの、はっきりと答え返し、それを聞いてローエンは胸をなでおろした。

 

「ナハティガルは、ここに着ているのか?」

 

「僕も、あの男を問い詰める気で来たのですが、親衛隊に捕らえられてしまって……」

 

「そうか」

 

ミラはクレインの安否もそこそこにナハティガルの事を問うが、残念ながら良い情報を手に入れられることが出来なかった。

 

「もーこんなとこ、早く外に出よーよー!」

 

「だな。長居は無用だ」

 

洞窟内で少々話し込んでいたらティポが騒ぎ出し、アルヴィンもティポの言葉に同意した。そしてユーリが歩くこともままならないクレインを背負い出口へと移動し始めたその時、広間の上にあった繭のような岩が光り出した。

 

「危ない! 下がれ」

 

ミラが叫ぶと、それぞれが光っている岩から距離をとり各々臨戦態勢になる。光る岩からは、まるでサナギから脱皮する蝶のように巨大な虫型の魔物(モンスター)が現れ、襲い掛かってきた。

 

「うわー! む、虫!」

 

「な、なにこいつ……」

 

「くるぞ! 構えろ!」

 

カロルは虫型の魔物に対し即座に鞄からスプレーを取り出し、ジュードとミラも武器を構えて魔物の攻撃に対処し始めた。

 

「クソッ! とにかく捕まってた奴ら逃がさねーとまともに戦えねぇ」

 

「あんたも下がりなさい! そんな状態じゃ戦えないでしょ」

 

「ユーリさん。クレイン様をよろしくお願いします」

 

リタ、ローエンはクレインを背負って戦闘に参加できないユーリを背に庇いつつ魔術を放ち、魔物を遠ざける。

 

「すまねぇ! ラピードも手間かけさせて悪いな」

 

「バウッ!」

 

と、ラピードは逃げ遅れている人々を魔物の攻撃から守り、ユーリもクレインを外へと運び出すと逃げ遅れている人達へと魔物の意識が向かないように囮になりながら逃げ回る。

 

「ティポサライブッ!」

 

「ワイドショット!」

 

エリーゼとアルヴィンも空中を飛び回る魔物が人々に近づかないように魔力弾や銃撃を浴びせて遠ざける。

 

「この魔物、強力な精霊術を纏っています!」

 

ローエン、リタ、エリーゼの三人がそれぞれ魔術を発動させ当てるも魔物が纏っている精霊術により威力が弱らせられてしまっていた。

 

「こいつを産み出すのがやつらの目的か!?」

 

「でもなんだが、この感じどこかで……」

 

「分析は倒してからにしてくれ!」

 

攻防の中、なかなか頑丈な魔物にミラとジュードはその正体について考えるがアルヴィンによって一旦遮られた。

 

「ウォーーン!!」

 

「今だ! カルロウXビーム!」

 

ラピードの空破特攻弾(くうはとっこうだん)が魔物に当たり、よろけた所にカロルの攻撃を連続で食らい、そして

 

「覚悟!」

 

ミラによる渾身の一撃が入り、魔物は地に伏して動かなくなった。

 

「はあああああ!」

 

「ダメだよ!」

 

そしてミラが完全にトドメを刺そうと再度剣を構えて魔物に切りかかろうとした時、突如横からジュードが止めに入りミラはたたらを踏んだ。

 

「なんのつもりだ!」

 

「よく、感じてみてよ」

 

ジュードの行動にミラ以外にもどうしたんだ?と言う雰囲気になるが、ジュードは魔物に目をやる。その行動に他のメンバーも倒れて動かなくなっている魔物に顔をを向けると、

 

「……何、これ」

 

「微精霊だよ」

 

リタが呟きにジュードが言い返した。倒れていた魔物は突如として発光し、その光は粒子のようになって魔物の身体からあふれ出し始めた。

 

「おお、これは」

 

「すごい、すごーい」

 

「ホント、すっごく綺麗!」

 

ローエンはしみじみとその光景をみて感動し、ティポとカロルは目を輝かせながら驚いていた。次第に魔物の身体が砂のように崩れて行き、そして身体の半分程が崩壊した辺りでパッと弾けるように光の粒子を弾けさせ消えていった。

 

「……ありがとう」

 

「え?」

 

「我を忘れ、危うく微精霊を滅するところだった」

 

「あ……うん……」

 

ミラは過ちを犯そうとしてしまう前に止めてくれたジュードにお礼を言うと、ジュードは頬を染めて恥ずかしそうにしていた。

 

「さあ、カラハ・シャールに戻りましょう。皆、大量にマナを吸い取られて相当弱っています」

 

これ以上危険が無い事を確認したローエンがそう締めくくるとユーリ達は洞窟の外に居る人々の所へと移動し、皆を引き連れてカラハ・シャールへと帰るため歩を進めた。

 

攫われた人々をモンスターから守りながらクラマ間道を越え、ユーリ達はカラハ・シャールへと辿り着くと警備隊の人達によって病院へと運ばれていった。マナの消耗が軽微で症状の軽い人達は軽い健診程度だが、重度の人達は数日間の入院をすることになった。

 

「街の人達はこれで安心です」

 

「そんじゃあ、早く屋敷に戻ろうぜ」

 

「そうだね。はやくドロッセルさんを安心させてあげようよ」

 

ローエンが警備隊への指示だしを終え、ユーリ達の所へ戻り街の人たちの事は問題ない事を伝えた。それを聞いたユーリはクレインに肩を貸し屋敷へ行こうと言う。それにカロルが返答しユーリ達は屋敷へと歩き出した。

 

「お兄様!」

 

屋敷に前の広場まで行くとドロッセルがずっと待っていたのか、門扉の前で立っていた。ドロッセルはユーリ達の姿を見ると一目散に近寄ってくる。

 

「すまない。心配をかけてしまったね」

 

クレインはユーリから離れるとドロッセルへ弱々しいながらも笑顔を向けて言った。そして話もそこそこにユーリ達は屋敷へと入った。

 

「徴収された民も皆、命に別状はないようです」

 

「皆さん、本当にありがとうございました」

 

「私からも、お礼を申し上げます。ありがとうございました」

 

屋敷の応接間でユーリ達はそれぞれ休んでいると、ある程度回復したクレインとローエン、ドロッセルが今回のことの礼を言ってきた。

 

「みんな無事でよかったです」

 

「では、私たちは行くとしよう」

 

3人の言葉にジュードはよかったと胸をなでおろし、ミラはもう用は済んだとばかりに出発しようと皆をうながした。

 

「え! もういくのー?」

 

ミラの行動にティポが驚いて言うもミラは耳を貸さずに玄関へと向かって歩いて行った。

 

「こっからだとガンダラ要塞を抜ける必要があるな」

 

「ガンダラ要塞って?」

 

「ん? ああ、ここからタラス街道を抜けた場所にある要塞だ。元々交易路の安全を守るためって名目で作られた関所みたいなもんだったんだが、ナハティガルが王位をついでからは軍事要塞としての役割が強くなっちまってる」

 

リタがガンダラ要塞について聞き返すとアルヴィンは要塞の事を簡単にだが説明をした。

 

「ガンダラ要塞ということは……。皆さんの目的地はイル・ファンですか」

 

「そうだ。あそこには、やり残したことがある」

 

ローエンが目的地を推測してミラに聞くとミラは頷き肯定した。

 

「ガンダラ要塞をどう抜けるつもりなんですか?」

 

ミラの返答にクレインは経路の途中にある要塞をどうするのかを困惑しながら聞く。

 

「押しとおるしかないかもしれないな」

 

「はぁ!? あんた本気ッ?」

 

「そのつもりだか?」

 

と、ミラの行き当たりばったりで無茶苦茶な指針にリタは頭を抱え、他の皆も流石に驚いたり困惑した表情になった。

 

「さすがにそれは難しいでしょう。そうですね…、僕の手のものを潜ませて通り抜けられるよう手配してみます」

 

「あの、僕たちに協力して大丈夫なんですか? 僕たち、軍に追われている身ですし……」

 

「元々、我がシャール家はナハティガルに従順ではありません。それに先ほど軍に抗議し、兵をカラハ・シャールから退かせるよう手配したところです」

 

クレインの好意にジュードは心配そうに聞くとクレインは少しおどけた口調で心配は無いと返答した。

 

「これ以上は軍との関係は悪化しようがない、と言うことか」

 

「え、それってマズイ事なんじゃ……」

 

「今更の事です」

 

ミラの言葉にカロルが動揺し、クレインは苦笑いして言い返した。

 

「……んじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうぜ。無策で要塞に突っ込むより何倍もマシだからな」

 

「…だな。他にいい考えがある訳でもねぇし」

 

「そうだな……。では頼んでいいだろうか?」

 

クレインの提案にアルヴィンとユーリ賛成し、ミラも無策で行くことは無謀と思っていたようでクレインの好意を受け取った。

 

「任せてください、色々お世話になったお礼です。ただ手配は上手くいってもしばらく準備がかかるでしょう。それまで滞在なさるといい。ローエン、君は彼らと共にいてくれ。彼らものお世話もその方がしやすいだろう」

 

「承知いたしました」

 

話をまとめたクレインからユーリたちの世話を仰せつかったローエンは頷いた。

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとう!」

 

「わーい。まだドロッセル君といっぱいお話しできるねー」

 

ジュードとカロルがお礼を言い、ティポは嬉しそうにエリーゼの周りを飛び回っていた。

 

「今日はもうお疲れでしょう。部屋を準備させておきます。休まれるのなら、おっしゃってください」

 

クレインは最後にそう言うと自室へと戻っていった。その後は皆がそれぞれお茶をしたり散歩に出かけたりと好きに過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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色々な思惑

ちまちま書いて完成したので投稿




「すまないな、2人とも。参考になった。剣、と言うより戦い方はユーリに教えてもらっているが精霊術は学ぶ機会がなかったからな」

 

「別にいいわよ。わたしもこの世界の術式を調べたかったし、色々参考になったわ」

 

「私もリタさん達が別の世界からやってきたと言う事や、その別世界テルカ・リュミレースの術式や理論の話が出来てとても有意義でした。むしろ私の方が感謝したいものです。それにミラさんには指導の必要はなかったのではないですか?」

 

夜。辺りに灯りも少なく暗くなっている広場をミラ、リタ、ローエンが話しながら歩いていた。

 

「いや、技術として扱った事がなかったのでな。今までは感覚だけだったんだ」

 

「技術を学ばずに感覚だけであれほど? それはすごい」

 

「確かにすごいけど、でもローエンのに比べて術式は雑だった。あれじゃあマナの無駄遣いの上に効果も減少しちゃうわ」

 

「リタさんは厳しいですね」

 

3人の会話は精霊術についてことこで、四大精霊が居なくなってしまったミラとリーゼ・マクシアの術式を調べたいリタに教授するというものとだった。

ローエンは優しく微笑みながらミラの術を褒めるも、リタは反対に厳しく至らない点を指摘した。

 

「しかしこの先の事を考えるといつまでも感覚だけでとはいかないだろうからな。出来うる限り厳しくしてもらっても構わん。色々と頼む」

 

「ん」

 

「私などでよろしければ、いつでも」

 

ミラは2人に言われたことに頷き、再度頭を下げた。そんなミラにリタは小さく答えてローエンはいつものように微笑み返した。

 

「ん?あれはジュード?」

 

「それにガキんちょじゃない」

 

3人が屋敷に近づいくとジュードとカロルの姿を見つけた。

 

「何か言い争っている様ですね。エリーゼさんのことでしょうか。先ほど彼女を見て、思い悩んでいる表情をしていましたし」

 

「ああ、その事ね」

 

「ふむ、同じお人好しな性格でもあのように対立をするものなのか。人間とは難儀な物だな。おい、ふた……」

 

「ここは私にお任せを」

 

2人の言い争いに声を掛けようとしたミラをローエンは制して2人へと近づいていった。ローエンが歩いて行ったあとミラとリタの2人は空気を読みジュード達から見えない位置に移動して話が終わるまで待つことにした。

 

 

 

 

 

「でも、だったらッ」

 

「それでもそんなのはダメだよ!」

 

「お二人とも、どうされたのですか?」

 

「あ」

 

「ローエン」

 

カロルとジュードが言い合いをしている中、ローエンは2人に近づきながら話しかけた。

 

「何か剣呑な雰囲気のようですが……、よろしければ相談にのりましょう」

 

「……うん。ありがとう」

 

「その、実は…」

 

「エリーゼさんのこと、ですかな?」

 

「えッ? あ、うん……」

 

カロルがローエンに言い争っていた原因を話そうとしたらローエンはまるで分かっていたようにその理由を言い当てられ、カロルとジュードの2人は驚き目を見開いた。そんな2人の様子にローエンは微笑むと話を続け始める。

 

「彼女がこの旅路に加わった経緯は、お嬢様より伺いました」

 

「ドロッセルさんに?」

 

「はい。エリーゼさんが嬉しそうに語ってくれたそうです」

 

ジュードの疑問の声にローエンは頷きエリーゼが話した事をドロッセルからまた聞きしたのだと言う事を説明した。ローエンが大体の事を知ってる分かった2人はこれから先、エリーゼの事をどうしたいのかをそれぞれ話し始めるのだった。

 

「エリーゼは、ミラがやろうとしてることとは関係ないから……。これ以上巻き込まない方がいいかなって。……ねえ、ローエン。この家でエリーゼを引き取ってもらえないかな。ドロッセルさんとも仲良しだし。クレインさんもローエンも、エリーゼにはよくしてくれるから……」

 

「確かにジュードの言う通りミラの事とエリーは関係ないし、クレインさんの所でお世話してもらえればそれはそれでエリーの為かもしれないけど……。でも、エリーに何も言わないで一方的に決めるのはよくないよ! 僕はエリーが思う様にさせてあげたい。 エリーと話して付いて来たいって言うんだったら、これからも一緒に旅をしてあげたいんだ」

 

ジュードはこれ以上エリーゼに危険な目に遭ってほしくないから多少無理にでも安全な場所に置いていくべきだと。

そしてカロルは危険な目には合わせたくはないけど、でもエリーゼの気持ちを無下にはしたくないと言う主張をお互いに話した。

 

「お二人は、他人である彼女のためにそこまで考えていたのですね」

 

「ミラやアルヴィンにはお節介、お人好しって言われちゃうけど、ほっとけないから」

 

「うん。ほっとけない病だからね」

 

「ふふふ、ほっとけない病ですか。さて、お二人のお話はわかりました。ジュードさんの言い分もカロルさんの言い分もよく分かりました。その上で、私はその事をきちんとエリーゼさんにお話しすることがよろしいかと。

 私の考えを述べてさせてもらいますと、お嬢様から聞き及んだ事から察するに話を聞けばエリーゼさんは確実に付いて行くとおっしゃるでしょう。ですが、だからと言って彼女をこれ以上の危険に巻き込むような事もやはりよろしくないかと思います。

 ですので、少々時間を掛けてでもきちんと3人でお話し合いを行いべきだと私は思います」

 

と、ローエンは微笑みながらも2人の目を見て真摯に自らの考えを言い聞かせた。

 

「そう……かもだね。ちゃんと話をしなきゃね」

 

「僕も、ただ単にエリーの気持ちだけを優先しちゃダメだったのかな」

 

「何事も考え方、見方1つです。エリーゼさんがどのような選択をするにしろ、ここに残る場合はこのローエンにお任せください。旦那様とお嬢様には私から口添えをさせていただきます。さあ、もう遅い時間です。夜更かしは身体に毒ですよ」

 

「うん。ありがとうローエン。おやすみなさい」

 

「おやすみローエン」

 

「はい。おやすみなさい」

 

ジュードとカロルはローエンに挨拶をすると屋敷へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「やはり、エリーゼさんのことで揉めていたようです」

 

ローエンは2人を見送るとリタとミラが待っていた門へと戻り、2人に声を掛けた。

 

「だろうとは思ってたけどね」

 

「そうか。2人は自らに課した責任をしっかり受け止めていたのか」

 

「責任ねぇ。ま、自分達で蒔いた種をきちんと処理しようとしてるみたいだし、何も文句はないけどね」

 

ローエンの言葉にミラは関心をリタは当たり前の事だと肩をすくめた。そんな2人の様子にローエンは小さく微笑み、

 

「賢い子達ですね。特にカロルさんは年齢に似合わないほどです」

 

「そお? まだまだ甘々だと思うけど? まあでもあの頃に比べれば多少は成長したとは思ってやらなくもないかしらね」

 

「ふむ、これが噂にに聞くツンデレというやつか」

 

「ツンデレ言うなッ!」

 

ジュード達が戻っていった屋敷の扉を見ながら言ったローエンの言葉にリタは仏頂面で言い返すも、その様子を見たミラが放った言葉にリタは目を吊り上げ顔を赤くして怒鳴り返した。

 

「ふふふ。さて我々もお休みにしましょう。夜更かしはお身体の毒ですから」

 

ローエンは2人の様子に笑顔を浮かべながら戻りましょうと促して、3人は屋敷へと入っていった。

 

 

 

 

 

「あ、おはようユーリ」

 

「あんたやっと起きてきたの?」

 

朝、ユーリは大きなあくびをしながら一階へと下りるとすでに起きていたカロルとリタが声を掛けてきた。

 

「おう、おはようさん。……ん? 他のみんなは?」

 

「例の侵入経路の確認にローエンが少し出るからって見送りに外に出てるわよ」

 

ユーリは2人に軽く返事を返した後、屋敷に内にミラ達が居ない事に首を傾げ疑問を口にするとリタが簡単に説明をする。説明を聞いたユーリはそうなのかと納得し自身も挨拶しておくかと屋敷の外へと移動していった。

 

「ではローエン。よろしく頼む」

 

「かしこまりました」

 

「よう。もう出るのか?」

 

クレインがローエンに事を頼んでいるところにユーリは声を掛けた。

 

「おや、ユーリさん。お話はお聞きで?」

 

「いまさっきリタからな」

 

「そうでしたか。そういう事ですので少し出てまいります」

 

ローエンはユーリの返答に軽くお辞儀をして出かける旨を言った。

 

「ローエン、どのくらいで戻ってくるの?」

 

「そうですね。馬を使えば1日もあれば戻れるかと思います」

 

ドロッセルの問いにローエンがあごに手を当て大体の予測を答え返した。

 

「それならもしかしたら明日には皆さんとお別れかもしれないのよね」

 

ローエンの答えを聞いたドロッセルはジュード達を見て悲しそうな表情をした。それを聞いたカロルとエリーゼ、ティポは寂しそうな表情をし、そんな3人を見てジュードとアルヴィンは複雑そうな表情を。そしてミラ、ユーリ、リタは仕方がないと言うような表情をしたのだった。

 

「首尾よく進んでいればそうなるかもしれないな」

 

「それなら。約束してたお買い物にいきましょう♪」

 

アルヴィンの言葉にドロッセルはお茶会をしたときにエリーゼとカロルと約束したことを思い出し、今から行こうと2人に提案をした。

 

「お買い物? 行こう行こう!」

 

「うん!」

 

「決まりね♪ さっそく行きましょ」

 

ティポとカロルが元気よく返事を仕返し、エリーゼは笑顔で小さくうなずた。3人の了承を得たロッセルも笑顔になった。

 

「まて、話が見えない」

 

「え? ちょ、あたしも!?」

 

そしてドロッセルはミラの腕を取り、エリーゼはリタの腕を掴んで街の方へと歩きだした。

 

「エリー達とお買い物の約束したもの。明日お別れかもしれないのならチャンスは今日だけだよね?」

 

「そう、らしいな。行ってくるがいい」

 

ミラはドロッセルの言葉に困惑しながらも皆で楽しんで来いと言う意味で言い返したのだが、ドロッセルとエリーゼにカロルは笑顔になり

 

「じゃあ出発~」

 

「「「出発~」」」

 

と腕を振り上げて何事もなかったかのようにミラとリタを引きずって歩みを再開させた。

 

「だから、なぜこうなるんだ? 私が行く必要はないだろう?」

 

「……諦めなさい。こういう手合いは話を聞かないから」

 

「いいんじゃねーの?」

 

「たまには人間の女の子っぽいことするのもおもしろいかもよ」

 

ミラはちょっと待てとさらに混乱して周りに助けを求める視線を送るも、リタは過去の経験談から観念しており、半笑いのアルヴィンとジュードからは楽しんでこいと見送られた。

 

「ふむ、なるほど。だが厳密には私に人の性別の概念は当てはまらないぞ。現出する際に人の女性の像を成したが………」

 

3人の言葉にミラはそういうものなのかと考えて納得して、そして何故かジュードの言った事に注釈を言いながらおとなしく街へと引きずられて行った。

 

しばらくしてドロッセル達の姿が見えなくなるとクレインは難しい顔になり、何かを考えるそぶりをすると、

 

「この今の幸せのために、僕も決心しなけらばいけない……。やはり、民の命をもてあそび、独裁に走る王に、これ以上従うことはできない」

 

と、空を見上げながら何かを決意するように言った。

 

「……反乱を起こすのか?」

 

「……戦争になるの?」

 

クレインの言葉を聞いてユーリは眉を(ひそ)め、アルヴィンとジュードは心配するように聞き返した。

 

「ナハティガルの独裁は、ア・ジュール侵攻も視野に入れたものと考えられます。そして彼は、民の命を犠牲にしてでもその野心を満たそうとするでしょう。このままでは、ラ・シュガル、ア・ジュールともに無為に命が奪われる。僕は領主です。僕のなすべきこと、それは、この地に生きる民を守ること」

 

「……なすべきこと……」

 

クレインは遠くない未来に起こるだろうこと、そしてそんな事はさせないと。させないために自身がやるべきことをジュード達に語った。それを聞いたジュードは何か思うところがあるのか小さく呟く。

 

「勝算はあんのか。今まで見てきた感じ、あんたんとこの王様ってのは相当アレっぽいぜ? 負ければあんたは勿論のこと、最悪この街に住んでる奴ら全員あの谷ん中と同じような場所に、ってこともあり得るんだぞ」 

 

とユーリはクレインの行動の末に失敗した場合どうなるか分かってるのかと、険しい表情で問い詰める。

 

「はい。分かっているつもりです。そして、今の私にあのナハティガルを止めるだけの力が無い事も。ですので皆さん、どうか力を貸してくれませんか?」

 

「…わりーが俺はミラの手伝いをするって決めてんだ」

 

「うーん。まあ俺は傭兵だし報酬次第ってとこかねぇ?」

 

「……ぼ、僕は」

 

ユーリの問いにクレインはそんな結末にならないためにとユーリ達に協力を求めた。だがユーリ、アルヴィン、ジュードと反応を見るも芳しくなく、クレインは残念そうに顔を俯かせた。

 

「…ッ! ガウガウッ」

 

「その面白そうな話し、俺っちも混ぜてほしいなー」

 

その時、突如ラピードが吠え、皆が吠えた方向を向くとニヤケ面で紫色の羽織を着て大きな麻袋を担いだ男が近づいて来た。

 

   

 

 

 

 

~チャット会話~ 

 

 

  [買い物]

 

リタ「ふーん。色々あるのねぇ」

 

ミラ「そうだな。むぐむぐ。人間の作る物と言うのはどれも素晴らしい物が、もぐもぐ、たくさんある」

 

リタ「あんたいったいどんだけ買ってんの!? しかも口周りベッタベタじゃない!」

 

ミラ「うむ。とても素晴らしい匂いがしたのでな」

 

リタ「あーもう。両手に抱えちゃってッ! ほら拭いてあげるから」

 

ミラ「ふむ。リタはまるで『お母さん』とやらみたいだな」

 

リタ「だれがお母さんだッ!!」

 

 

 

 

 

  [可愛いもの]

 

ドロッセル「わあ、これいいわね」

 

ティポ「わはぁ。キレイだね~」

 

エリーゼ「あ、これ、すごくカワイイ」(巨大化して戦いそうな人形を持って)

 

カロル「え? それが?」

 

ティポ「匠の技だね!」

 

エリーゼ「可愛く、無い?」

 

カロル「そ、そんなことなよ……。(女の子ってわかんないなぁ)」

 

 

 

 

 

 

 

 



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様々な思惑

もう1つの小説のモチベが上がらないから気分転換に書き始めたら一気に書けちゃった。

前回からほぼ1年半ぶりの更新。




な、レイヴン!」

 

「よっ、青年達元気だったかい。って待て待て待てッ!」

 

クレインとの会話中、突如として現れ爽やかに挨拶して来たレイヴンにユーリは剣を抜き、ジュードは拳を構え、アルヴィンは銃口をレイヴンへと向けた。

 

「なんだよ?」

 

「なんだよ、じゃないわよッ! なんでいきなり攻撃しようと構えるのッ!?」

 

とユーリの冷ややかな視線と言葉にレイヴンは冷や汗を流しながら待ったをかけた。

レイヴンは全く最近の若者ってのは…とやれやれと肩をすくめて担いでいた荷物を地面へと降ろした。

 

「彼はいったい……」

 

「ア・ジュールの人間だ」

 

ユーリ達の行動にクレインが怪訝な表情で誰にもとは言わずに呟く。

それ聞いたアルヴィンは決してレイヴンから視線と銃口を外さずに端的にレイヴンの素性を答えた。

 

「ミラを狙ってきたの? それともエリーゼ?」

 

「だ~か~ら、話しに混ぜに貰いに来たって言ってるっしょ。大体、ミラちゃんやエリーゼちゃんを狙ってるんなら、青年達の前に姿なんか現さないで最初からあっちの方にむかってるってーの。まあ、あんな怖い嬢ちゃん達だけの所、頼まれても行きたくないけどね…。何されるか分かったもんじゃない」

 

睨みを利かせ敵意を含めたジュードの質問に、レイヴンは担いでいた麻袋を地面へと置きながらうんざりしたような呆れたような表情で本当に危害は無いと説明し返した。

 

「まあ、あいつらの前にアンタが姿を現したら問答無用で斬られて爆破されるわな」

 

「あー確かに。しかもあの面子に対してカロルくんに止めろってのが酷だしな」

 

「でしょ? だからさっきから一向に下がる気配の無い武器を下げてくれない? ね? おっさんの一生のおねがいだからね?」

 

ユーリとアルヴィンがレイヴンの言い分を聞いて納得し、渋々と言った感じでそれぞれの武器を仕舞った。

 

「ったく、ちょっと話しようとしただけで何でこんなに疲れなきゃならんわけ…」

 

「どう考えてもおっさんの普段の行ないのせいだろ」

 

「まあ、それは置いといて」

 

ユーリの的確な指摘にレイヴンは無理矢理話題を変え、クレインへと顔を向けた。

 

「さっきの反乱の話し、本気でやるつもりなら俺らと手を組まないかい?」

 

「……それは、ア・ジュールの軍門に下れと言う事ですか?」

 

「そこまで大仰な事じゃ無いって。ま、詳しい事は中で話さないかい? こんな話し、外でするようなことじゃないでしょ」

 

レイヴンはそう言って屋敷の中でゆっくりと話そうと提案をあげる。が、

 

「…いいえ、残念ですがそれはできません。あなたが敵国の人間である事には変わりませんので、そう易々と懐に入れるにはいきません」

 

クレインはそれを拒否した。 

 

「ま、だろうね。じゃあちょっとこいつで信用してもらおうかね」」

 

「…?」

 

そう言ってレイヴンは先ほどまでのヘラヘラした表情を引っ込め、クレインや皆が(いぶかし)しむ中、地面に置いていた麻袋の口紐を解き、中身を皆へと見せた。

 

「ッ!? …おいおっさん。こりゃあちょっとシャレって言うには(たち)が悪くねぇか?」

 

と、ユーリの怒気の含んだ声と睨みに中身を見たジュード達も嫌悪の眼差しでレイヴンを見る。

 

「ま、そう言うふうに解釈するわなぁ普通。でも言っとくけどコレ、俺がやったんじゃないからね」

 

と麻袋の中身、ラ・シュガル兵の死体を足先で軽く小突いて言った。

 

「俺様がのんびりと散歩してたらさ、裏でコソコソとしてたこいつを偶然(・・)見つけてね。ちょっくらお話し聞かせてもらおうと捕まえたんだけどさ。どうも思ってた以上に悪いことしようとしてたみたいで自決かましやがったのよ。で、持ち物調べてみたらこんなの持ってたんだわ」

 

レイヴンは説明と共にラ・シュガル兵が持っていた矢とボウガンを見せ、それをローエンが受け取った。

 

「むむッ。…これは狙撃用のボウガン。それにこの矢…毒が塗られています!」

 

「なっ!? まさか…」

 

矢を検分したローエンの言葉にクレインは目を見開き驚きそしてラ・シュガル兵がそれを使って何をやろうとしていたのかを察し、恐怖に震えた。

 

「ま、そういうこと。ね? つまり俺っちはあんたの命の恩人みたいなもんなわけだし、そろそろ信用してもいいんじゃない?」

 

「えっと、それって屁理屈じゃ…」

 

「青春くんは黙らっしゃい! 余計な茶々いれないの!」

 

「青春くん!?」

 

偶然クレインを助けた事を自分の成果にしようとするレイヴンにジュードは呆れ気味に言い返そうとしたら、逆に妙な呼ばれ方をされ驚き、固まってしまった。

 

「……わかりました。ローエンお茶の準備を」

 

「かしこまりました」

 

クレインは僅かに悩むも仕方なくレイヴンの言葉を信じ、屋敷へと招いた。

 

 

 

 

-------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

丁度レイヴンが屋敷へと招かれている頃……

 

「決めた。エリーには、これをプレゼントするわね」

 

「うわー。高そー。ドロッセル君はお金持ちだねー」

 

ミラ達は商店をあちらこちらと見て回りながら買い物を楽しんでいた。

 

「ちょっと、ティポっ!?」

 

ティポの無遠慮な言葉にカロルは驚き(たし)めるように言い返すもドロッセルはそれに気にした風も無く、

 

「ありがとう、ドロッセル」

 

「うふ、どういたしまして」

 

と、エリーゼの言葉に微笑み返した。

 

「うむ……?」

 

そんな中、露店を見ていたミラはそこに並んでいた商品の1つを手に取り興味深げにしげしげと見つめる。

 

「何? ソレ、気に入ったの?」

 

ミラがそういった物に興味を抱いたことが珍しく思ったのか、リタはミラが手に取ったペンダントを見ながら言った。

 

「あ、いや、私も同じような物をもっているのだ」

 

リタの言葉にミラはペンダントを戻すと懐から小石程度の大きさの玉を取り出して見せた。

 

「うわー、ただのガラス玉だー!」

 

「とってもキレイな色ね」

 

ガラス玉を見たティポは相変わらずの発言をし、ドロッセルはその綺麗さに感嘆の声を上げた。

 

「ミラ……どうしたんですか、これ?」

 

「昔、人間の子どもにもらった物だ」

 

「へぇ、あんたでもそう言うの大切にするんだ。てっきり使命に必要無いとか言って突き返してるもんだと思ってた」

 

エリーゼの質問にミラが答えると、その内容を聞いたリタは素なのかそれとも(わざ)となのか意地の悪い感想を言った。

 

「ちょっとリタぁ。なんでそんな言い方しかできないの? ぁだッ!?」

 

「別に普通に聞いただけじゃない。何よ、文句あんの? 殴るわよ」

 

「もう殴ってるじゃん」

 

カロルがリタの言い方を咎めようと苦情を言うとリタは眉を顰め心外だと言う様にカロルを殴り黙らせた。

 

「いや、私も貰った直後は特に必要性を感じてなかったのだが、これをくれた子の顔を見ていたらどういう訳か断れなくてな」

 

だがミラはそんなリタの言葉に気を悪くしたふうでも無く、ガラス玉を貰った時の事を話した。

 

「うふふ。大切にしてきたのね。なら、失くさないようにしないと」

 

「それなら、こちらのようにペンダントにして差し上げましょうか? ついでにこいつもセットでどうです? 安くしておきますよ」

 

「そうしてもらった方がいいわ。やってもらいましょう」

 

そんな会話を聞いていた露天商の店主が先ほどミラが手に取った物を()しながら、これを買ってくれるなら安く加工するよと、交渉を持ちかけてきた。

それにドロッセルは笑顔で賛同し、ミラもそうだなとペンダントを購入。そしてミラはガラス玉を渡して購入したペンダントと同じように加工してもらった。

 

「ふむ、これはなかなかよさそうだ。店主、感謝するぞ」

 

露天商から買った物と加工してもらった物、2つのペンダントを見ながらミラは満足気に頷き店主へと礼を言った。

 

「わッ、やめてください!」

 

と、ペンダントをしげしげと見ていると突然広場の向かい側の方から悲鳴が聞こえてきた。

ミラ達はその悲鳴に驚き、振り返ると奥の方から武装したラ・シュガル兵が続々と現れた。

 

「グアッ!」

 

「……抵抗するな。容赦せんぞ」

 

現れたラ・シュガル兵たちは広場に居た街の人達に武器を突き付け追い回し、駆け付けた衛兵達にも躊躇無く攻撃をくわえ始めたのだった。

 

「乱暴はおやめなさい! 一体なんのつもりです! ラ・シュガル軍は、この町から退去するよう領主から命を受けたはずですよ!」

 

ドロッセルはそんな光景を見てすぐさま攻撃を止めるようにと声を上げた。

 

「あなたは……?」

 

するとラ・シュガル兵達の後方から一人の男が現れ、ドロッセルへ何者かを尋ねた。

 

「シャール家の者です」

 

「ふん、何にも知らぬ小娘が」

 

ドロッセルが男の質問に自分の身分を答え返すと、男の隣に居た兵士が馬鹿にした口調でドロッセルを鼻で笑うが男が手で制して黙らせ、そして……

 

「これは王勅命による反乱分子掃討作戦。おとなしくしていただきましょうか」

 

と、ラ・シュガル軍がカラハ・シャールおこなっている行動理由を簡潔に説明した。

 

「な、なんですって?」

 

それを聞いたドロッセルはあまりの事に驚き、かすれたような声が出た。

 

「捕らえなさい。謀反を画策した領主家シャールの者です」

 

男はドロッセルの心情などお構いなしにラ・シュガル兵にドロッセルを捕まえるように指示し、兵たちが動き始めた。

 

「マズイよこれ。早く逃げなきゃッ!」

 

「ああ。何かが起きてる。完全に包囲される前に退くぞ。皆遅れるな」

 

「あんたこそ!」

 

「わ、わかりました!」

 

カロルの悲痛な叫びにミラも共感し、腰の剣を引き抜き構え、カロル、リタ、エリーゼもそれぞれ武器を構え戦闘態勢へと移行した。

 

「はあああああぁ!」

 

「な! と、取り押さえなさい!」

 

男はこの状況なら投降すると思っていたのか、ミラの呼気に驚き尻もちをつくも兵士たちに命令を飛ばしミラ達を捕らえるようにと叫んだ。

 

兵士たちは男の命令に従い武器を構えミラ達へを襲い掛かる。

ラ・シュガル兵の数は多く、普通ならばあっという間に取り囲まれ捕らえられてしまうような状況であり、ラ・シュガル兵達も逃げられまいと高を括っていた。

しかし、ミラ達の攻撃はラ・シュガル兵達の予想以上に苛烈であり、ラ・シュガル兵達は次々に倒され全滅までとはいかないものの、このままいけば逃げられる程度には数を減らしていた

 

が……

 

「きゃあああッ!」

 

「えッ? ドロッセル! うがッ!?」

 

突然の悲鳴にカロルが振り向くと、どこぞに潜んでいたのであろうラ・シュガル兵がドロッセルの首元に刃物を突き付けており、それに驚いたカロルはその隙を突かれて精霊術を撃ち込まれ気絶してしまった。

 

「カロル!? こンのぉ!!」

 

「そこまでだ」

 

リタが術でドロッセルから兵を引き離そうとしようとした直前、先ほどの男がストップをかけた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「これでもまだ抵抗を続けるかね?」

 

と、男の方を向くとそこにはドロッセルと同じように羽交い絞めにされ首元に刃物を突き付けられているエリーゼがおり、更には気絶したカロルにも兵士が近づいて剣をカロルへと向けた。

 

「ちぃッ!」

 

「……」

 

人質を取られ、身動きが取れなくなり詰んだ状況にリタとミラは忌々しそうにラ・シュガルの男を睨みつけた。

 

「武器を捨てろ。抵抗すればどうなるかわかっているな?」

 

「くそっ」

 

「この状況では仕方ない…か」

 

リタとミラは自分の得物を地面へと投げ捨て両手を上げて無抵抗の意思を示した。

 

「よろしい。全員とらえなさい」

 

男はミラとリタが完全に降参したのを確認すると兵たちに命じて縄をかけ、街の門に止めてあった護送用の馬車へと連れ込ませた。

その後、馬車には他にも幾人もの街の人々が連れ込まれ、ある程度の人数になると馬車はカラハ・シャールより出発して行った。

 

 

 

 

 

 

 



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