白い死神 (フラット床)
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それは不思議な―――

メリークリスマスなので初投稿です。


家には誰もいない

 

帰るのがゆううつだ

 

ひとりきりはさみしい

みんなと一緒に居たい

 

でも、わがままは言えない

わたしは良い子じゃないといけないから

 

夕方の放送を聞いてゆっくりと家にむかう

 

町はざわざわとにぎやかだけど

わたしの世界(まわり)はふしぎと静かで

どうしてこんなに違うのかな、なんて考えて

 

ふと、地面のしま模様を見つけ顔をあげる

少し危なかった、とぼんやりしたまま

止めていた足を踏み出して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――電灯が青く光って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が赤く染まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、暗い、けれど黒だけではない。

()()は終着点のようで、そうではなくて。

開始点のようで、それだけでもない。

終わりと始まりが同居する奇妙な混沌。

()()には原因も課程も理由も結果も、すべてがあった。

すべてが混ざり合い、すべてが個で、すべてが始まり、すべてが終わる。

それらはここから生まれ、ここに戻り、また生まれるのだろう。

常に流動し、同時に静止している()()は。

言うなれば渦。

あらゆるものの根本にして原初。(始まりであり、いずれ帰る場所)

 

――――根源の渦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家にはみんながいる

 

けれどなんだか、部屋は落ち着かなくて

独り(ひとり)、庭で空を見上げていた

 

ひどく頭が痛む

 

世界にどうして差があるのかなんて

何時かの疑問はすんなりと解けた

 

静かな世界は私だけなんかじゃなくて

あの喧騒は()()()()故の空元気

 

ツギハギだらけの薄氷上の世界は

等しく終わりを抱えて黙り込んでいた

 

――わからない

 

なぜ、私は()()()()()が視えるのだろう

 

なぜ、こんなにも世界は脆いのだろう

 

私にはわからない

だけど、きっとそれが(ことわり)なんだ

理由はわからなくても、結果は同じ

 

世界はどうしようもなく脆弱で

私には、《それ》が視えてしまう

 

ただそれだけの事実であって

ズレた視界(チャンネル)が偶然合ってしまっただけの話

 

()はいつでもすぐそこにあって

ただ気づいていないだけだった

 

 

 

ぼぅ、と虚空を眺めていると頭痛も引いてきた

そろそろ部屋へ戻ろうか

 

暗い空は昼間よりもやさしくて

暗く、黒く、どこかあたたかい

 

同じ黒でも()とは違う

()にももう慣れてしまったけれど

視えないというのはやはり落ち着く

 

それがただ遠いというだけだとしても

視えないのであれば幸せなことだろう

 

 

 

すぅ、と灰色の雲が晴れる

 

雲間に覗く円は、闇夜になれた目にはまぶしくて

 

 

 

 

―――――――ああ、気付かなかった。

 

 

 

 

今夜は、こんなにも

 

 

 

 

つきが――きれいだ――

 

 

 

 



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1話

プレッシャーをかけるため連続投稿です。


カーテンから漏れた光が顔にかかる。ついさっき止めた目覚まし時計の時刻は七時前。血の巡りが悪い頭で記憶を掘り起こす。

何かに襲われていたような気がする。いや、あれは夢だろう。ここは私の部屋で私は倒れ伏す少年ではない。そう…今日は平日だ、学校がある。

意識が完全に覚醒した。まだ母は起こしに来ていない。自分が朝に弱いことを考えれば珍しい。

頭痛がする。いつものことだ、深くは気に留めない。気にしなければ忘れる程度の弱い痛みだ。

眩暈なんかもないし体に痛みもない。

なかなか調子が良い。そこばかりはいつも通り気怠い低血圧の体をベッドから起こし、支度を済ませてリビングへと向かう。

「あら、おはよう。今日はひとりで起きられたのね。」

「おはよう、お母さん…私だって自分で起きるつもりはあるんだから。」

母からの口撃(ジャブ)を適当にいなす。あるけれど言うことを聞かない体が悪い。

そんなことを考えつつ食事の配膳を手伝っていると父と兄、姉が朝の稽古――父は古武術の師範であり兄達は指導を受けている――から戻ってきた。他愛のない会話を交わしつつ朝食を摂り学校へ行く準備をする。

「それじゃあいってきます。」

いってらっしゃい、と掛けられる声に軽く手を振りつつバス停まで歩く。今日は本当に調子が良い。普段はギリギリで到着する所を五分も前に着いてしまった。待つというのが新鮮なくらいだ。いつになく穏やかな気分で通学バスに乗り込む。

「おはよ、珍しくギリギリじゃないのね。」

「なのはちゃん、おはよう。」

「おはよう、アリサちゃん、すずかちゃん。今朝は早めに起きられたからね。」

「自分で起きたってこと?…今日は雪でも降るんじゃない?」

「アリサちゃんは私を何だと思ってるのかな?」

アリサ・バニングスと月村すずか、私の友達だ。三年目ともなれば付き合いは長いと言えるだろうが…

そんなに私が朝に余裕を持っているのはおかしいことだろうか?……おかしいかもしれない。バス亭へ焦らなかった朝は記憶に数えるほどしか無い。

「遅刻しないのが不思議なくらいの寝坊助少女が何か言ってるわ。」

「…何でもないです…」

 

*

 

特に問題も無く授業は終わった。放課後だというのにいつになく元気が有り余っている。やはり身体に不具合が無いと言うのは良い。一日心穏やかにすごせた。

『…助けて…』

「………」

すごせていた。

今のは気のせいでは無い…と思う。確かに声のようなものが聞こえた。アリサとすずかは習い事があるので先程別れたし、そもそも鼓膜を震わせる音ではなかった。身体のことを考えればあまり一人でふらふらするべきではないが、幸い頭痛は鳴りを潜め気怠さも無い。それほど離れている感じはしないし、助けを求めているのに無視するのも寝覚めが悪い。

『助けて……誰か…』

なんとなくそれらしい方向へと向かう。つい最近見覚えがあるような景色だ。すぐに今朝の夢で見た場所だと思い至る。不思議に思いつつ進むと何かの気配を感じた。一体何が居るのかと身構えていると、

(イタチ…いや、フェレット?)

傷付いたフェレットのように見える動物が横たわっていた。赤い宝石のついた首輪かペンダントの様なものを着けている。ボロボロで意識はないが()()ところ致命傷ではないようだ。慎重に抱え上げてひとまず病院へと連れて行く。獣医の話によると命に別状はないらしいがしばらく目を覚まさないらしいので、このまま預かってもらうことにして私は帰宅する。

命に別状がなかったことに安堵しつつも少々微妙な気持ちになる。ただちに命の危険があるほど深刻な傷ではないことは()()()()()し、傷の原因も謎の声も謎のままで何もわかっていない。他に辺りに妙な物もなかった。それにこのまま放りだすのも胸につかえるものがあるので家で飼わせてもらえるか打診することにした。

 

*

 

夕食の席で細部をぼかしつつフェレットについて家族に伝えると、きちんと世話をするなら良いと言ってもらえた。また明日病院へ行って引き取ってくるとしよう。そうと決まれば今日は早めに寝ようと思い、

『誰か…僕の声を聞いて…』

「昼間の、声?」

また、声が聞こえた。病院の方からだ。

『力を貸してください…僕の所へ…危険が迫って…』

家を飛び出して駆け出す。"何か"があると直感する。

(それに…あの子も心配だし…)

病院に着くとそこは妙な気配で満ちていた。思わず入口で足を止めると奥から走ってくる小さな影に気づく。

「あれは…っ」

後を追うように現れた大きな化け物がフェレットの居た辺りを叩き潰す。

が、体の小ささを活かしてフェレットはそれをかわし

――目が合った。

叩き折られる木から此方へ跳んでくるフェレットに一瞬怯み――なんとか受けとめる。

「なっ…何?何なのこれ!?」

「来て、くれたの?」

「……喋った!?」

思わず叫んでしまうが化け物の咆哮にすぐ我に帰る。取り敢えずアレから逃げなくては。いくら()()()()あんな化け物に近づくなんて無理だ。

遁走しつつ腕の中のフェレットに説明を求める。

「一体全体何が起きてるのこれ!?」

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

「資質?」

彼は「ある捜し物」のために異世界から来たのだという。しかし一人では力不足のため「魔法」を使う資質を持つなのはに、力を貸してほしい、らしい。

「魔法…」

「お礼は必ずしますから!」

「お礼とかそんなこと言ってる場合じゃあ――」

破砕音。既にアレはそこまで来ている。このまま逃げ切ることは不可能だがおとなしく捕まる気もない。

「―っどうすればいいの?」

「これを持って心を澄ませて、僕の言う通りに繰り返して!」

赤い宝石を受け取る。あたたかい。不思議と鼓動を感じる。これは()()()いる。思わず直視してしまった宝石(ソレ)を取り落としそうになり、

「いくよ!」

「…うん!」

しっかりと握り視界から外す。目蓋を閉じて心を落ち着ける。どのみち今より酷くはならないだろう。

 

「「我、使命を受けし者なり。      

契約の下、その力を解き放て。

風は空に、星は天に。」」

                               この終末にももう慣れた。

「そして、不屈の心はこの胸に。  

この手に魔法を。

  

――レイジングハート、セット・アップ!」

 

                               何時もの様に目を逸らそう。

〈stand by ready.set up.〉




ちなみに現状書き溜めは存在しません。


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2話

あけおめ投稿です。


デバイスの起動(セットアップ)を終え光が収まる。合間に挟まれたフェレットの指示に従いあれこれとイメージをしたがおおむね想像した通りの形の衣装(バリアジャケット)(デバイス)が成形されていた。

「これが…魔法…」

そういう事(非常識)には慣れているつもりだったが、ここまで()()()()なものは初めてだ。少々興奮するが状況を思いだして目の前の化け物に向かって杖を構える。ずきん、と頭が痛む。昼間はおとなしかったのに。

「来ます!」

「…ってこの後どうするの!?」

まだ起動をしただけで使い方が分からない。跳び掛かってくる化け物をどうにかかわすが思わず目で追った先で()を捉え、刺すような頭痛に動きを止める。

「…ぐっ…」

〈―protection.〉

機械音声と共に展開した桜色の障壁が化け物を受け止め、化け物が道路や電柱を破壊しつつ周囲に四散するがすぐひとつに集まり始める。ひやりとしつつこの隙に距離をとりながらフェレットから説明を聞く。

「基本的な攻撃や防御はイメージだけで扱えます!ですがあの思念体を止めるには封印を行う必要があるんです!」

「その封印ってのは?!」

「高度な魔法を行うための呪文が必要です!心を澄ませて、貴女の呪文が浮かぶはずです!」

眼を瞑り痛みを無視して意識を集中すると胸に熱を感じた。仄かな鼓動がレイジングハートと共鳴する。

「リリカルマジカル!」

〈sealing mode.set up.〉

呼応した杖が伸長し光の羽根を広げ(魔法行使に適した形に変形し)た。体を集め終え再び襲い掛かってくる思念体(化け物)に向けて幾条もの光の帯が伸びてその巨体を拘束する。

「ジュエルシード シリアル21、封印!」

〈sealing.〉

もがく思念体はそのまま桜色の帯に貫き、絡めとられて断末魔の唸りとともに霧散する。後には破壊された路面と青い宝石のようなものが一つ残されていた。

「…ふぅ」

「これがジュエルシードです。レイジングハートで触れれば回収できます。」

指示通りレイジングハートを近づけるとジュエルシードを引きよせ格納した。そのあと、役目は終わりとばかりにバリアジャケットが解除され服とデバイスが元に戻る。

「これで…終わり、かな」

「はい、あなたのおかげで…ありがとう…」

「えっちょ、ちょっと!」

糸が切れたように倒れ伏すフェレットに焦るが特に危険な状態ではないようだ。頭の痛みも和らいできた。そうこうしているうちに遠くからサイレンが聞こえてくる。この瓦礫の散らばる惨状で見つかるといろいろと面倒なのでフェレットを回収して素早くこの場を後にした。

 

「じゃあ改めて、私は高町なのは。皆にはなのはって呼ばれてるよ。」

「僕はユーノ・スクライア。スクライアが部族名で、ユーノが名前です。」

現場から離れた公園で目が覚めたフェレット(ユーノ)と改めて自己紹介をしあう。ユーノはこちらを巻き込んでしまったことを申し訳なく思っているようだが多分大丈夫、と返し家路を急ぐ。さっきはは後先考えずに飛び出してきたが日も落ちたこんな時間に一人で出かけたことが知れれば大目玉を食らうだろう。門をくぐりこっそりと玄関の扉を…

「やあ、なのは。お早いお帰りだな?」

「…ただいまお兄ちゃん」

 

 

結局兄に捕まり無断外出を咎められ、姉の仲裁が入ったり可愛い物に目がない母がユーノを見て暴走したりしてそのまま一夜が明けてしまった。

目覚ましを二つセットしどうにか目覚め、学校の片手間に念話――所謂テレパシーで色々と説明を受けている。ジュエルシードはユーノの世界で発見された古代遺産であり、遺跡発掘を仕事にしていたユーノがそれを発見。当局に保管依頼をして移送をしている最中に運んでいた時空間船が爆発事故を起こし、その際に全部で21個あるジュエルシードがこちらの世界に散らばってしまったらしい。ジュエルシードは願いを歪めて叶える半端な願望器のうえ長期にわたって放置すれば昨日のような暴走もありうるという。そんな危険な遺産を発見してしまった責任を感じてひとりで捜索に訪れたが、昨夜回収したひとつを合わせてもまだ2つしか見つかっていない。魔力が回復するまで休ませてもらったら、またひとりでジュエルシード探しに出る…と言うユーノに改めて協力を申し出たところだ。

『でも、昨日みたいに危険なこともあるんだ』

『それこそ一人でなんて行かせられないよ、私なら手伝えるでしょう?』

『そりゃあ…なのはの才能は目を見張るものがあるけど…でも、だからって』

『お父さんがね、困っている人がいて助けてあげられる力が自分にあるなら、そのときは迷っちゃいけないって。それにほら、そういうのは慣れてるから』

『慣れ?…うん、わかった、ありがとう』

 

放課後となり、アリサとすずかとも別れる。

『それじゃもうすぐ家につくから…っ!』

『今の感じ、新しいジュエルシードだ!』

妙な感覚を覚える。ジュエルシード発動の魔力の余波だ。急ぎ反応のあった場所(山の上の神社)へ急行する。

「原生生物を取り込んでいる…実態がある分手ごわくなっているはず!」

「大丈夫…だと思う」

四足の獣のような、おそらくは犬か何かを取り込んだであろう思念体は唸り声をあげこちらを睨んでいる。が、どういうわけか対面しても昨日ほど頭痛がひどくはない。手早くレイジングハートを起動し、構える。

「えっと、封印すればいいんだよね?いくよレイジングハート」

〈all right.sealing mode.set up.〉

突進してくる思念体を後ろへ跳んでかわし、階段を少し降りたところへ着地する。そのまま思念体が体制を整える前にレイジングハートを向けて呪文を唱える。当然視線はそちらを向き鈍い痛みが走るが無視する。

「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル16。封印!」

〈sealing.  receipt number XVI.〉

「よし、これでいいかな?」

「うん…これ以上無いくらいに」

 

ジュエルシードは無事封印され、元となった犬とその飼い主は多少混乱しつつも帰って行った。その様子を隠れて見送り、ユーノが改めて言う。

「なのは、本当にありがとう。これからよろしく」

「こちらこそ、よろしくね」

色々と考えることはありそうだが、ひとまずこれから、がんばろう。



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3話

「ジュエルシード、シリアル20。封印!」

〈sealing.〉

夜の校舎には場違いに思える光を発し、封印を終える。たった今封印したのはプレーンな思念体。あれから何度かジュエルシードを回収し、ジュエルシード探しにも大分慣れてきた。が、相変わらず頭痛がひどい。何もなくとも痛むことは前から有ったが思念体と相対すると普段の比ではなくなるのだ。

「お疲れさま、なのは」

「ふぅ…ねえユーノ君、普段の思念体とこの前の犬型の思念体の違いってなにかな?」

「違い?うーん、前にも言ったけれど実体の有無じゃないかな。初めから依代(じったい)があれば魔力は強化だけに回せるし、ジュエルシードは不完全とはいえ願望器だから、願い…というか動かすための動力(りゆう)が有ると無いとでは発揮できる力も変わってくるはずだからね。」

なるほど二度目に戦った犬を素体とした思念体の時には他の時よりは痛みが弱かった。ということは実体の有る無しが関係しているのだろうか?いや、それよりも――

「急にどうしたの?そりゃあ封印するにあたって情報は多い方がいいとは思うけど」

「えっと、まあそんな感じ…」

いずれ必要になるかも知れないが、()()はあまり言いふらすものではないだろう。

 

*

 

私の眼は少々特殊だ。モノには黒い()が走り、所々にそれが収束するような()がある。

これらが視えるようになったのは、今よりもっと小さかった頃にあった事故の時。横断歩道を渡っていたら信号を無視した車輌が突っ込んできた、という有りがちで何てことのない事故。当然、今に輪をかけて幼かった私は、速度の出たトラックにゴム毬のように弾き飛ばされて路面に叩きつけられた。

その場にいた人が救急への連絡はしてくれたようで暫く生死の狭間をさ迷いつつも一命を取り留めたが、目が覚めたのはそれから数ヶ月が経ってからだった。

目覚めた私は視界に映る()に困惑して周囲に混乱をもたらしたが、

強迫観念にも似た「良い子」で居ようとする想いを持っていた私は()()()こと以外は隠し、眼に障害を負ったということに落ち着いた。

そんなことがあって以来、まっすぐにモノを見ることが苦手になった。なにせそこに視える()に触れれば壊れてしまうのだ。剥き出しの自爆ボタンなんて見ていて気分のよいものではない。もちろんそのまま放置するわけにもいかないため色々と策を構じようとはした。

我ながらよくやったと思うが周囲には視界不良として誤魔化しつつ、隙を見ては異常な視界についての実験を行い理解を深めた。結果、わかったことと言えば対象に集中すると()の他に()が視えること、()をなぞればすっぱりと切れ、()を突けばその機能(やくわり)を停止すること、それもほとんど力を必要としない、くらいだったが。

結局視えているモノの性質はある程度分かったものの、それをどうすれば視えなくする事ができるのかは分からなかった。私にできるのはなるべく視線を逸らして()を意識から外すようにする事だけだ。

 

 

アリサとすずかと共に、父がオーナー兼コーチを勤めるサッカーチームの試合の応援を終え、家に帰ってきた。そこへ一緒についてきていたユーノが声をかける。

「応援の最中もなんだかぼーっとしてたし、少し休んだ方がいいんじゃない?」

「あー…うん、そうしようかな」

朝からどこか上の空だったなのはを見て、日々のジュエルシード回収の疲れがたまっているのだとあたりを付けたのだろう言葉がかけられる。実際は昨日気づきかけた眼の謎について考えていただけなのだが思索を深める口実として受け取る。

(思い返すと建物とか家具なんかは線しか視えないけど、人や動物には点も視えるんだよね…)

()()の視え方には違いがある。基本的に()は何時でも視えていて、()は生物にはよく視える。無生物相手には()を凝らさなければ()は見えないのだ。今まではそれを生きているかどうかの違いかと思っていたのだが、自ら放った魔力弾にも()は視えていたし、考えてみれば無生物も視えにくいというだけで()が無い訳ではない。つまり実際のところどちらも同じであり、その違いの原因はもしかするとあちらではなくこちら…私の()の方に有るのではないだろうか?もし仮に対象物と私の間にある隔たり(理解)によって視やすさが変わってくるとするなら、自分の魔力に()が視えるのはさしておかしな事でもないし、普段視えないモノの()を視ようとして痛みを感じるのもわからないことではない。と、すると思念体と相対する度に起きる頭痛は実体の有無ではなく生物であるかないかによってその痛みの強さが変わる、と言うことだろうか。

 

そんなことをつらつらと考えているとふと魔力の反応を感じた。

「なのは!ジュエルシードだ!」

「―っ!」

適当に父に声をかけつつ家を飛び出す。魔力を感じる方へと走りながら嫌な予感と共に昼間の一場面を思い出す。試合も終わり選手の一人とマネージャーの少女が談笑していた時に一瞬だけ感じたジュエルシードの気配。その時は気のせいと流してしまったが…もしかするとアレがそうだったのかもしれない。そうであるなら、と走る速度をあげるとすぐに街の様子は見えてきた。

「な…何これ…」

街には見たこともないような巨大な樹木が現れていた。市街は大樹に侵食され、アスファルトはひび割れ建物は枝や根に巻き込まれている。

「酷い…こんな被害が…」

「…人間が発動させてしまったんだ。強い思いを持った人間が発動させた時、ジュエルシードは一番強い力を発揮するから」

――ならば、それはやはりあの時に感じたモノか。

「…ねえ、こういう時ってどうすれば良いの?」

「え…あぁ、先ずは元を探さないと。ジュエルシードに近付かなくちゃ封印出来ないから。でもこうも広がってしまうと…」

「元を、見つければいいんだね」

言うが早いかバリアジャケットを展開し、レイジングハートに広域探知を指示する。見つけるのは簡単だ。おそらく純粋な生物ではないだろう大樹に埋め尽くされた視界は()を開けているだけで気絶しそうな頭痛がするが、ある方向を視ると一際強い痛みが走る。考えが正しければそこが元のはずだ、そちらを重点的に探せばすぐに見付かる。

「見つ、けた。すぐにおさえる!」

「ここからじゃあ無理だよ、もっと近くにいかなきゃ」

「…大丈夫、」

眼を凝らし、刺すような痛みを無視して()を捉える。この距離なら、撃つより早い。

「レイジングハート!」

〈blade Mode.Set up.〉

長すぎたためかろくに固定もされていない魔力刃がしかし素早く伸長し、大樹の一際太い幹に視える()へと到達する。

「視えた――」

とん、と音が聞こえそうな程軽く刃が埋まり、その瞬間街中に広がった樹が消滅した。それを見届け、眼を閉じて熱を持った脳を落ちつける。脚から力が抜け座り込み自然と俯く。

「な、なのは?今のは一体………なのは?」

「…気付いてたのに、これじゃあ…」

「…なのはは良くやってくれてるよ。今回だって僕一人じゃこれより酷くなっていたかも知れないし…」

破壊された街並み、幸い数は居ない様だが出てしまった怪我人。気づけていたにも関わらず止められなかった被害。これは、自分の責任だ。ユーノの「手伝い」としてしか認識していなかった甘えが起きなくて済んだはずの災害を発生させてしまった。

(ユーノ君の「手伝い」じゃあなくて…これは私が始めたことなんだ。だったら、もっと私の全力で!)

もう、こんなことは起こさせない。始まりは巻き込まれたのだとしても、そこへ飛び込んだのは自分の意思だ。なら、最後まで責任は持つべきだろう。何より、守れたはずの平和を乱すのは本意じゃあない。

ジュエルシードの発動元には意識を取り戻した様子の男女がいた。怪我をしたのか、マネージャーの肩を借りて歩く少年の姿を遠目に見ながら、もうこんなことは繰り返させないと決意を新たにした。




インフル後モチベーションが下がっていたので遅れました。



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4話

「つまり、なのはには物体の壊れやすい部位を視る力があって、それで暴走していてジュエルシードを壊して停止させた…ってことなの?」

あのあと現場にジュエルシードを回収しに行ったものの、結局()を突いたジュエルシードは砕けてしまっていたためユーノに説明を求められてしまった。とりあえず詳しい説明は避けて前述のように()()を視てモノを壊せることだけを教えた。

「まあ確かにあの樹は一刻も早く消滅させるべきだったし、あの距離でジュエルシードを封印するのは難しいことだったけど…一応研究のために輸送してきたわけだし、結果的にそうはならなかったとは言え魔力が暴走して次元震が発生する危険もあるから、もうなるべく壊さないでね」

「善処します…」

「それにしても物を壊す眼かぁ、聞いたことはないけどレアスキルってことかな」

「レア…スキル?何それ?」

希少技能(レアスキル)とは読んで字のごとく普通の人は持っていない稀少な技能(スキル)のことらしい。超能力のようなものだろうか。

(珍しい力で済ませるにはちょっと物騒すぎる気もするけどね…)

 

 

鳴り響いたアラームを一瞬で止める。このところの寝起きはとても良かったが、今日は思い出したと言わんばかりに調子が悪い。そのまま忘れてれば良いのに…、と寝ぼけた頭で愚痴りつつ布団に引きこもりをきめる。

『なのは、今日は友達の家に行くんでしょ?そろそろ起きなくちゃ』

「…はーい…今起きます…」

ユーノの念話(モーニングコール)に不服感ををあらわにしつつ――自分で頼んでおいた癖に――しぶしぶといった体で起き上がる。今日は兄の恭也と共に月村家へと出かけることになっていた。

『もしかして体調が良くないの?それなら無理はしない方が…』

「ううん大丈夫、ちょくちょくなる…っていうかここのところ調子良かっただけでいつもこうだから」

『そうなんだ…いや、それはそれで大丈夫なの…?』

 

結局準備に時間がかかりギリギリでバスに乗ることになったがそれ以外は問題なく月村家に到着した。インターフォンを鳴らすと内側からドアが開けられる。

「恭也様、なのはお嬢様、いらっしゃいませ」

「あぁ、お招きに預かったよ」

「こんにちは」

二人を出迎えたのは月村家メイド長のノエルだ。口数は少ないが仕事はきっちりこなす格好いい系の美人である。そのまま中へと通されるとすでに来ていたアリサとすずか、すずかの姉の忍がいた。高校時代からの恭也の恋人だ。そばに控えるのはすずかの専属メイドでありノエルの妹のファリン。明るくて優しい…が、よくドジを踏む。おまかせでお茶を頼むとメイド二人は準備のために退出していき、忍と恭也は部屋に行くとのことでなのはたちはそのままテラスでお茶会を始めた。

「相変わらず、すずかの家は猫天国よね」

「あはは…でも、子猫かわいいよね…私には近寄ってこないけど」

「うちの子達人見知りはしないんだけどなぁ…」

基本的に動物の方から私に近寄ってきたためしは無い。動物は感覚が鋭いというし、おそらく()の事を察知して警戒して近寄ってこないのだろう。

「里親が決まってる子もいてお別れもしなくちゃいけないんだけど…」

「そっか…少し寂しいね」

「でも子猫たちが大きくなっていってくれるのは嬉しいよ」

そんな他愛もない話題で談笑していると、思い出したようにアリサが言った。

「ま、見たところ今日は元気そうね。良かったわ」

「へ?」

「最近なのはちゃん何か悩んでるみたいだったから」

どうやらふたりがなのはを誘ったのは、最近なのはの元気がないように見えたかららしい。ジュエルシードまわりの悩みが自分でも気づかないうちに態度に出てしまっていたようだ。

「悩んでる事が有るなら相談しなさいよね、友達なんだし」

「私たちにもできることが有るかもしれないから」

「アリサちゃん…すずかちゃん…――っ!」

不意の違和感。空気を読まない、いやある意味完璧なタイミングで訪れたそれはもうすっかり慣れてきた感覚。魔力の反応だ。

『なのは!ジュエルシードだ!』

『うん!…でもどうしよう、二人が…』

『……そうだ!後から追いかけてきて!』

言うが早いか鳴き声をあげながら森へ向けて走り出すユーノ。コレを理由に追いかけろと言うのだろう。

「あら?ユーノ、どうしたのかしら」

「あー、何か見つけたのかも。ちょっと探してくるね」

声を掛けてくる二人に一人で行くと押しきり急いでユーノと合流する。現場に向かううちに反応が強まった。ジュエルシードが発動したようだ。人目につくことを避けるためにユーノが結界を張り、ジュエルシード発動の光を見れば。

 

「………なにあれ」

 

見上げるほどの大きな子猫がいた。ただ大きくなっただけに見える子猫は暴れる様子もなくのんきににゃーにゃー鳴いて居る。しかし軽くはあるがいつもどおり頭痛がするのでこの子猫がジュエルシードによるものであるのは確定だろう。

「たぶん、あの子猫の"大きく"なりたいって言う願いを"正しく"叶えたんじゃないかな…」

なるほど暴走もしなければ願いも叶っている。これこそまさしく正しい願望器の使い方…

「――ってなるか!!はぁ、とにかくこのサイズで放っておくわけにも行かないし、早いところ封印を…」

レイジングハートを取り出し、封印のために展開しようとした瞬間、飛来する金色の光。それは巨大な子猫に直撃し、子猫は衝撃に倒れ込む。

「な―」

「魔法の光!?」

光弾の飛んできた方を振り返る。遠くにの電柱の上に立つのはなのはと同年代に見える少女だ。腰ほどまである金の髪を二つに纏め、黒衣に身を包んで同じく黒い杖を持っている。少女が手に持った杖をこちらに向けたまま何事か呟くと先ほどの光弾が連続で放たれた。

「お願い、レイジングハート!」

〈Stanby ready.Set up.Flier fin.〉

当然それを黙って見ているわけには行かない。急いで展開、継いで飛行魔法を発動し射線上に移動する。

〈Wide area Protection.〉

防御魔法が広がる。光弾は障壁によって阻まれ、その役目を果たすことなく霧散する。目先の危機を回避し向こうの様子を伺うと、あちらも攻撃が防がれたのを見て手を止め、すぐ側の樹上に移動してきた。

「同系の魔導師…ロストロギアの探索者か」

「…」

「それに、バルディッシュと同系のインテリジェントデバイス」

『やっぱり僕らの世界の魔導師だ!ジュエルシードの事も…』

〔Scythe form.Setup.〕

確認するように呟いた後、鎌状に魔力刃を展開してそのまま鎌を振り斬撃を飛ばしてきた。

〔Arc Saber.〕

〈Protection.〉

すぐに動けずとっさに障壁を張り防御すると爆発が起こった。が、ダメージは無いようなので急いで爆煙から離脱する。目の前には鎌を振りかぶった少女。こちらも魔力刃を展開して受け止める。

「ジュエルシードは頂いていきます」

「くっ…何で、突然こんな…っ」

「答えても、多分意味が無い」

対話の意思は無し、刃を払いお互いに距離をとる。

(…どうしよう、相手は人。今までは化物が相手だったけど…魔導師って言っても視えないわけじゃない…!)

なのはにはこのまま戦うことに躊躇いがある。少女は素早く、今のなのはには狙って刃を当てるようなことは出来ない。当然、当てないように振る事も不可能だ。ならば()が視えている以上、そこに触れて切り離してしまう可能性は高い。出逢ったばかりの、それも同年代の少女相手にそんなことはしたくない。そもそもこの()は人に向けて使った事さえないのだ。いや、それならばいっそ刃を使わずに…

――だが、戦闘の最中にそんなことを考えていれば。

 

〈master!〉

「あ…」

 

レイジングハートの警告に我にかえれば、隙と見た少女が既に準備を終えていた。

 

〔Shooting mode.〕

「……ごめんね」

〔Photon lancer.〕

 

回避は叶わず、防御も間に合わない。一瞬のスローな視界を挟み、意識が落ちた。

 

*

 

結局目を覚ましたのは夕暮れ時だった。落下するなのははユーノがかろうじて救出してくれた様だが、巨大子猫のジュエルシードは少女が封印して持っていってしまったらしい。

「あの子…ジュエルシード、集めてるんだよね」

『そうだね、目的は分からないけど、僕らがジュエルシードの回収をする以上は、きっとまた…』

「…次に会ったときは、ちゃんとお話ししたいな」

(剣はダメ…魔法の使い方、考えなきゃだね…)

彼女とはきっと再び遭遇する。一度きちんと話を着けたいところだが、あの様子では聞く耳を持ってはくれないだろう。先ずは彼女を話をする体勢に持っていく必要がある。そのためにも、再会までに眼に関わりなく扱える魔法を覚えておくことを決めた。




あんまり見返してないけど書いたので上げます


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5話

遅かったじゃないか…多分次も遅いです。


ある週末、なのはは車に乗っていた。高町家が営んでいる喫茶店、翠屋は基本年中無休だが、連休などにはほかの店員に店を任せて家族で出かけることがある。今日がその連休開始であり、温泉旅行へと向かう道中なのである。今回の旅にはアリサとすずか、そして恭也のつながりで忍とメイドたちも同行している。

『色々と気になるのはわかるけど、旅行中くらいはゆっくり休まないとダメなんだからね』

ユーノから念話が飛んでくる。どうやら考え事をしていたのが顔に出ていたようだ。先週出会った黒衣の少女やらそれ以来ひとつも見つけられていないジュエルシードやら、色々と悩みのタネはある。先の戦闘でも考えた()と魔法の扱いに関してはひとまず策は考えたが…

(ま、今ジュエルシードの反応を探すのは出来ないし…イメージトレーニングでもしとこうかな)

『わかってるよ、休むときは休まないとね』

『……わかってなさそうだ……』

 

*

 

そして、まるで仕込まれていたかのようにユーノはアリサに捕獲され女湯に消えていった。なにやら激しく抵抗していたが頼みの綱の少女は一緒に入らないと言い、既にフェレットの首を差し出した後だったので助かる道はなかった。実を言うとなのはは最初から温泉に入るつもりが無かったのだ。事故以来なのはは、表向きには事故によってできた傷を言い訳に、実際のところは皆の身体に視えるであろう()を視ないようにするため、他者(ひと)と一緒に入浴する事は基本的に無い。いくら見慣れたモノとはいえ何の保護()もないのに()を視続けるのは精神衛生上良くない。もちろん温泉自体は後で一人で入るつもりであるし、そのあたりの話は皆了解しているため今回騙されたようになったのはユーノのみである。

そんなわけで新たに考え出した魔法のイメージトレーニングをしながら旅館内をひとりでぶらぶらしていると、道をふさぐように赤髪の女性が現れた。

「あら、おちびちゃん。キミかね、うちの子をアレしてくれちゃってるのは…」

こちらを値踏みするように眺めながらそんなことを言う。女性に見覚えはないし、抽象的な発言のため心当たりも思い浮かばない。出会い頭に不躾な態度をとられたことへの非難をこめた視線を向けながら言葉を返す。

「えっと、どちらさまで…?」

「――っ……いや悪いね、あたしの勘違いだったかな」

そんなことを言ってどこか焦るように横をすり抜けてこの場から離れていった。むこうから絡んできた割にあっさりと引く姿に首をかしげるが、面倒にならないならばいいかと散歩を再開しようと歩き出す。

『忠告はしておくよ。子供はいい子にお家で遊んでなさいね、おいたが過ぎるとガブリといくわよ』

「!」

振り返ればちょうど廊下の向こうに赤い髪が消えていくところだった。

(念話…今の人、だよね。ならあの女の人、あの子と…)

 

*

 

『――ということがあったんだけど…』

時間は流れ、もう日も暮れた旅館の一室で昼間に起きた一件をユーノと共有していた。既に同室の友人二人は眠りについている。

『状況からして彼女の協力者で間違いないだろうね。それに、あえて姿を見せたってことはそれだけ本気だって言いたいんだろう』

わざわざこちらに接触を図ってきたからにはむこうには何らかの意図があるのだろう。実力差を考えればあまりうろちょろするな、ということだろうか?実際に彼女とは一度しか戦っていないがその一戦でも彼女の攻撃をいなすだけで精一杯だった。もちろん対策は考えてきたので次はもっと上手くやるつもりではあるが…

考え初めて場が沈黙するとユーノが惑うような声を発する。

『……あのさ、なのは』

『…ここからはひとりでって?…それは聞けないよ。私もあの子の事とか気になるし、始めた以上は最後まで付き合うよ』

『そうか…ごめん。ううん、ありがとう』

案の定、状況が変わってきた事から協力関係を続けることに迷いが生じたのだろう発言だった。出会ってからまだ数週といったところだが真面目過ぎる程に真面目なのはよく分かる。そこまで抱え込むこともないと思うが、自分が発掘したと言うだけでわざわざ回収作業をしに来る程なので相当に責任感が強いのだろう。しかしそれにも限度があるだろうし、もちろん私も途中で投げ出す気はない。

『ユーノ君はひとりで抱え込もうとしすぎだと思うよ』

『そう、かな?』

『そうだよ。あの子が出て来て不安になるのはわかるけど、私だってもうなんにも知らない部外者って訳じゃないんだからもっと頼ってもらっても―――ジュエルシード…此処にも!?―って、そっか、だからあの人…』

『すぐ近くだ!急ごう、なのは!』

考えてみれば単純な話であるが警告のためだけにわざわざこんなところまで来る理由は無い。ならばここに来るだけの理由――ジュエルシードの反応があったはずだ。そもそもユーノがここに来たのは事故の詳細を知る当事者であったからで、一見関わりのなさそうな彼女たちが海鳴を訪れたからには何らかの捜索手段があるのだろう。とにかく今は励起状態の魔力反応のある方へと急ぐ。彼女らはほぼ確実に居るだろうし、そうでなくても放置などもっての他だ。

 

*

 

「あれ、昼間の…っ!」

道中でバリアジャケットを纏いつつ現場へとたどり着くと既に封印を終えたらしい例の少女達がいた。

「子供は家でおとなしくしてろって言わなかったかい?」

煽るように言う赤毛の女性。少女と似た意匠の装束を纏い、耳は犬に似た物で尻尾らしきものも見える。だいぶ違う装いだがその顔には見覚えがある、昼間の女性で間違いないだろう。

「ジュエルシードをどうするつもりだ!それは危険なものなんだ!」

「さぁね?それに、言ったよねぇ?いい子でないとガブッと行くって!」

その言葉と同時に赤毛の姿が変貌する。爪は鋭く伸び、噴出するような勢いで体毛が生えそろう。人型だった身体は赤い体毛に覆われた獰猛な狼へと変身した。

「やっぱりあいつ、あの子の使い魔だ!」

「つかいま?」

「そうさ、私はこの子に造ってもらった魔法生命。契約者の魔力を貰って生きる代わりにその命を懸けて主を護るのさ!」

私の疑問に答えるように宣言する使い魔。口ぶりから察するにあちらに退く気はないようだ。

「先に帰ってて、すぐに追いつくから」

「…無茶しないでね」

「OK!」

使い魔は少女と言葉を交わし、すぐさまこちらへ向かって飛びかかってきた。展開の速さについ呆けてしまったがすぐに後ろへ下がり回避する。しかし相手は純粋では無いとはいえ獣、ともすれば魔力的な補助がある分単なる獣よりも強力である可能性もある肢体から発揮される速度は想像よりもずっと速く、既に完全に避けることは不可能な所まで来てしまっていた。

しかしそこへ割り込む半透明の壁。私と使い魔の間に移動したユーノが障壁を張っていた。

「ユーノ君!?」

「あっちの子をお願い!」

そう言いながら追加で魔法陣を展開する。

「させるとでも…」

「させて見せるさ!」

力強く言い切ると同時に強烈な光が溢れ、それが消えると既に両者の姿はそこにはなかった。痕跡すら残っていない空白に一瞬戸惑うが、聞こえて来たいまいち感情の読めない声に引き戻される。

「結界に強制転移…良い使い魔を持っている」

称賛と思われる言葉だったが生憎私は彼を作ったわけではないし、契約した覚えもない。

「…ユーノ君は使い魔ってやつじゃなくて、私の友達だよ」

スタンスの違いの主張として反論はしたものの特に言い返されることもなく微妙な沈黙が流れる。

……何か言うべきだろうか?

「…で?どうするの?」

あちらが先に痺れを切らしたらしい。どう、と言われてもこちらは準備はしてきたとはいえ、初めから争いがしたいわけではない。

「話し合いで解決できるってことはない?」

今のところ私が知っているのは彼女がジュエルシードを回収しようとしていることだけだ。目的によっては手を取れる可能性もなくはないだろう…もちろん可能性は低いだろうが。

「私はロストロギアを、ジュエルシードを集めるために此処へ来ている。貴方もそうなら、私と貴方はジュエルシードをかけて戦う敵同士って事になる」

そしてその予想は当たっていたようだ。主従揃ってあまり友好的な意思はないらしい。

「…だからそういうことをきちんとはっきりさせるためにも話し合いをして…」

「話し合うだけじゃ、言葉だけじゃきっとなにも変わらない…伝わらない!」

そう言い切った瞬間少女の姿が掻き消えた。気配を感じて振り向けば背後に回って大鎌を振りかぶる少女がいる。

〈Flier Fin.〉

「ちょっ…まだ話はっ―」

とっさに飛行魔法を発動して距離をとる。

〈Shooting mood.〉

さらにデバイスを斬擊形態(ブレイドモード)から砲撃形態(シューティングモード)へと切り換える。

「賭けて…持っているジュエルシードをひとつ」

「……仕方ない。あんまり気はすすまないけど」

今回の話し合いは始める前に決裂だ。当初の目標通りにジュエルシードを回収するしかない。

〔Photon Lancer. get set.〕

射撃の準備をしながら既に上方へと移動している少女に向けてこちらも魔力を圧縮しつつデバイス()を構えた。

〔Thunder Smasher.〕

〈Divine Buster.〉

桜色と金色の光線がぶつかり合う。押し合う魔力の奔流は想像よりも激しい圧を与えてくるが、想定通り十分な威力を発揮したようだ。追加で魔力を注いで火力を上げると案外あっさりと相手の砲撃を押し切れた。そのまま弾けた魔力の爆風に乗るように後退してあたりを見回すと更に上方から迫る刃が見える。

「シュート!」

さがったことでできた猶予を使って牽制の魔力弾を放ちつつ次弾の準備をするが、少女は魔力弾を危なげなくかわしながら距離を詰めてきた。このまま射撃を続けていては敗北は濃厚だ。

(やっぱり速い…受け止めるしか…っ)

やむなくデバイスを斬擊形態へ戻し鎌と切り結ぼうとした

「――へ…?」

が、しかし反射的に振るった魔力刃は空を切った。

「……っ!」

気付けば背後から首に刃を突き付けられていた。刃同士が重なる直前に最初にやったような高速移動で回り込んだのだろう。

〈put out.〉

「…主人思いの子なんだね」

レイジングハートがジュエルシードを一つ排出する。もう決着は着いたので約束通りに差し出そうと言うのだろう。その判断に否やは無いが、瞬く間に勝負が決まってしまい反応が返せない。

「帰ろう、アルフ」

少女はジュエルシードを回収し、いつの間に戻ってきていた使い魔(アルフ)と一緒に立ち去ろうとしている。

「ぁ…ちょ、まって!」

その言葉に足を止め、半身だけ振り返る少女。

「できるならもう私たちの前に現れないで。次があったら今度は止められないかもしれない」

その言葉に僅かばかりの気遣いを感じる。だがそれは()()()()相談だ。だからその警告には答えず問を返す。

「…あなたの、名前は?」

「…フェイト、フェイト・テスタロッサ」

「私は――」

名乗ったフェイトは間髪入れずにこの場を去ってしまった。名乗り返そうとした言葉はそのまま消えていく。結局、今回もいいところ(ジュエルシード)は取られてしまった。

 

・・・けれど、まあ。

「…名前を知れたのは進展だよね?」

「なのはって、妙に前向きだよね…」

失敗を嘆くのは後でいい。まずは良い事にしっかり目を向けるのがストレスを減らすコツだ。



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6話

色はなんか使いたくなかったので。ちょっと読みづらいかも


「う"あ"ーー…」

「…どうしたのよなのは?」

「いやあ、ちょっとね…」

旅行先でのフェイトとの戦闘から暫く、なのはは悩みに悩んでいた。二度の戦いで二度とも負け越している現状は個人的にあまり面白くない。一度目がある意味での初戦だったとはいえ、二度目は遠距離攻撃(対策)を用意しても敗北した。負けず嫌いの気があるなのはとしては次は勝ちを取りたいところだ。なお、目的(話し合いをする)手段(勝利して大人しくさせる)が入れ替わっている事には気付いていない。

「それってこないだから悩んでること?」

「うーん関係はあるけど別件…まあ、前のはとりあえず方針は固まったから心配しないで」

アリサとしては友人として力になってくれようとしているのだろう。しかし言い方は悪いが現状手を貸して貰ったとして状況に大きな変化はないうえ込み入った事情を説明する必要があるのであまり詳しくは話さないでおく。

「…そう、ならいいけど…あんた体調崩しやすいんだから考え込むのもほどほどにしなさいよ」

「うん、気をつけるー」

「こいつ…」

「まあまあ、なのはちゃん今回は結構余裕ありそうだし」

「はぁ…まあいいわ。じゃあね、また明日」

アリサとすずかの二人は習い事があるため今日は別々に帰るので別れを交わす。特に予定のないなのはは一旦帰ってから再びジュエルシードを探すつもりだ。

 

「ふぅ、こんなものかな」

遠距離での戦闘力の向上のため小サイズの魔力塊を同時に複数動かすトレーニングを終えて呟く。別に遠距離にこだわる必要はないのだが、格闘技術は一人で訓練するには少々効率が悪い。そのため実戦と大きく勝手の変わらない魔力操作に力を入れている。

「ねえ、いつも帰ってからはそれやってるけど、宿題とかは大丈夫なの?」

「あぁうん。私、時間があるときにささっと終わらせちゃうから」

このところは調子が良いがなのはは頭痛持ちだ。酷いときは一日寝込む事もあるため、その時やれることは直ぐに終わらせるようにしている。それに、今はジュエルシード捜索に時間を割いているが、それまでは頭痛や()のこともあり突然生活に支障が出たときのために先の範囲の予習を行っていたのだ。既に小学5年程度の学習をこなしているなのはにとっては現状の時間的な負担はほとんど無いようなものである。

「ならいいんだけど…勉強といい訓練といいなんか色々と準備が良すぎない?」

「まあね。気が付いたら遅すぎたなんてことが無いように早めに動いてるだけだよ」

そう、確かに行動が早い自覚はあるが、なにか特別な理由があるわけでもなくただ早めに準備を始めているだけだ。体調はいつ崩れるかわからないし、事故に遭うことだってそう珍しくもない。失くなるかもしれないものが有るなら先に手に入れておくようにするのが確実だ。喪ってからでは遅いのだから。

 

それを私は識っている。

 

*

 

『そういえば聞きたいことって何?』

『?…あ、そうそう!こないだの事なんだけど。フェイトちゃん達の所に着いたときにはもうジュエルシードは封印されてたけど、戦った跡とか無かったじゃない?あれってどういうことかなって』

前回のフェイトとの遭遇の折、場所は橋の上であったが特に壊れていたりした様子はなかった。暴走していたのなら思念体なりが出て来てある程度の被害が出そうなものだが。

『あぁ、あれは多分だけど強制発動したんじゃないかな?』

『強制、発動?』

話によればロストロギアの中には過剰に魔力を注ぐと多少の条件を無視して起動するものがあるらしい。ジュエルシードの場合は願いを掛ける手順を省略して起動するため、魔力の指向性が定まらずに思念体の発生も遅れるのだろう、という事らしい。

『現代のデバイスなんかはきちんと安全装置が有るからそういう暴発事故はほとんど無いんだけど…ロストロギアは出自が出自(過去文明の遺産)だから安定性に欠けるものも多いんだ。なんならそれが原因で滅んだ文明なんかもあるみたいだしね。一応、暴発を防ぐような遺物もあったみたいだけど、そういう物は大抵構造が繊細で完全に残っているのは結構珍しいんだよね』

管理体制がなっていないというか、その辺り開放的だったからこそ強力な品物ができたのか…まあ要はロストロギアは不安定なうえ強力な力を秘めた危険物らしい。なかなか厄介な代物である。

『過剰な魔力で起動を促す、か………ねぇそれって…これ…?』

そんな話をしていれば丁度近くからジュエルシードの反応が現れた。注意すれば不自然に多い魔力も感じ取れる。

『!?こんな町中で…結界を張るからすぐに封印を!』

『わかった!』

結界の展開を確認し、すぐにバリアジャケットを纏う。急いで反応のある方へ移動すれば異常な魔力を放出しているジュエルシードが見えた。

〈sealing form.set up.〉

「リリカルマジカル!」

封印準備を始めるとジュエルシードを挟んで反対側見えるに金色の魔力光。やはりこの強制発動はフェイト達がやったことらしい。

「ジュエルシード、シリアル19。封印!」

あちらからもほぼ同時に閃光が放たれジュエルシードを挟んでぶつかり合う。数瞬の間光は押し合っていたがどちらからともなく混ざりあって大きな光を放った。。

 

〈device mode.〉

魔法の余波が収まるのを待って空中に留まるジュエルシードへと近付く。封印は無事に済んだようだ。だが…

「やった…!なのは早く確保を…」

「させないよ!」

そこへビルの上から落ちてくるようにアルフが飛びかかってくる。それをユーノが防御魔法で弾くがその一瞬でフェイトはすぐそばの街灯の上に移動していた。お互いにらみ合う。しかし、目的はあくまでもジュエルシードの回収であって戦闘ではない。

「今度はこっちから名乗るね。私は高町なのは。改めて、あなたの理由を聞かせてほしい。」

〔scythe form.set up.〕

返ってきたのはそんな電子音(こえ)

「…答えては、くれないね!」

鎌を振り上げ突進してくるフェイトにこちらも飛翔(回避)して対峙する。

ユーノとアルフも戦い始めたのを確認しつつ魔力弾を撃ち合うがお互いに有効弾は出ない。しかしこちらの弾を巧みにかわしながら近付いてきたフェイトが急加速し背後を取ろうとする。死角を突かれる事を予測していたなのはは振り向き様に魔力刃を形成し()を避けて切り結ぶ。数瞬の鍔迫り合い。視線が交差して、互いに距離を取り、再び話しかける。

「フェイトちゃん!話し合ってもなにも変わらないかもしれないけど、なにも知らずに刃を向け合うのは…嫌だ!」

僅かにたじろぐフェイト。それを機と見て畳み掛けるように言葉を続ける。

「私達はジュエルシードが街に散ったままなのは危険だから集めてる!知っているのにそのままにして誰かが傷付くのは嫌だから!それが私の理由、貴女がジュエルシードを集める理由は何!?」

「…私、は――」

「フェイト、言わなくていい!そんなぬくぬくと甘ったれて暮らしてるような奴には何も教えなくていい!私達はジュエルシードの捕獲が最優先だ!」

なのはの声がが届いたのか思わず、といった様子で言葉を漏らすフェイト。しかしそこへアルフの声が割って入り開きかけた口を閉ざす。一瞬躊躇うようなそぶりを見せたがすぐにジュエルシードへと飛び出した。当然なのはも追従する。

瞬間、どくん、と不気味な鼓動を感じた。

迂闊だった。よく見ればしばらく放置していたジュエルシードの封印が解けかけている。双方が速度をあげて接近するがこの距離では間に合わない。

「いけない…っ!」

普通に封印したのでは時間が足りないと判断して、()()を選ぶ。

()を凝らす。

停止を考えず更に加速し、

視界に写る()が濃い。だがまだだ。

一気に突っ込んでレイジングハートを突き出して。

頭が痛む。もう少し。

爆風のような魔力が吹き荒れ、

()が視えた。

一拍遅れて刃を突き立てた。

 

無事に終息したことを確認して地面を擦りながら着地する。案外呆気なく危機は去った。()を貫く感触を得た時にはジュエルシードは砕け散ってあらゆる現象が停止していた。一瞬だけ暴走による衝撃が発生してしまったようだが眼に見える被害は無さそうだ。その事に安堵すると同時に、ユーノに止められていたジュエルシードの破壊を行ってしまった事を少々後悔しつつ視線を戻すと、その場にいた全員が固まっていた。

思わずなのはも動きを止める。

「え…えーっと…」

なんで皆固まって、と言う前に。

 

「な、に…その、眼……?」

 

怯えたような声が聞こえた。

 

*

 

夜の闇に蒼く滲んだ()

それが自分を見つめていて。

ただ見られているだけの筈なのに。

私は、それが、とても、とても怖かった(自分を殺せると識っていた)



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7話

話は進める。面白くもする。「両方」やらなくっちゃあならないってのが投稿者のつらいところだな。準備はいいか?オレはできてないけどとりあえず上げる。


結局、ジュエルシードの暴走が止まった後すぐにフェイト達は居なくなってしまった。私が破壊してしまった以上あの場に留まる意味はないので当然と言えば当然なのだが…

『私、あんなに怯えるような事した…?』

『え…いや、まぁうん。少し…少しだけ、怖かったかなって…』

いまいち自分ではピンとこないがこの()で視られるのは気分の良いものではないようだ。昨日のフェイト達も完全に異常な物を見る目だったし。生物の勘と言うものか、私が視ているもの()を感じ取っているのかもしれない。そうでなくとも仕組みはよく分からないが()凝らす(使う)と蒼に鈍く光るのだ。それだけでも不気味さは十分だろう。改めて考えると相当奇妙な()を持ったものだと思う。おまけにそうやってモノを視た後は大抵酷い頭痛がする。おかげで今日は朝からどんよりムードである。

『それにしてもだいぶ辛そうだけど大丈夫?』

『半日くらいしたら良くなると思う…』

 

『そういえばごめんね、ジュエルシードまた壊しちゃって』

『いや、昨日のは仕方ないよ。あのまま放っておいたら間違いなく大きな被害が出てただろうし、あの場での戦闘は避けられなかった。それにあの子達の事は僕も気になるしね。』

『ユーノ君…ありがとう。でも今度から気を付けるから』

『うん、僕も封印の時には気を配るようにするよ』

ジュエルシードの破壊は二つ目であるがもう「またか」という空気になっている。というのもジュエルシードはそもそも危険物でありそのうえユーノが

(むしろ僕としては魔力暴走を起こしたロストロギアを完全に停止させたなのはのレアスキルの方がどうなっているのか知りたいけど)

と思っているためである。実のところ既に半分くらい()の方に興味が移ってしまっていて、ジュエルシード集めは最優先ではあるがその処遇に関しては被害が出ない形ならあまり気にしないようになっているらしい。危険の種を蒔いてしまった責任感から回収を始めたとはいえそんな調子で良いのか疑問だが、放っておいてもいくつかなのはが壊していただろう事は想像に難くないのであまり変わらないだろう。

 

*

 

それはともかく(巻きで行くぞ)、今日も今日とてジュエルシード探索である。今回は自然に発動したようで反応を辿っていけば樹木と一体化した思念体がその奇怪な姿を晒していた。動くようになった根を操って攻撃を仕掛けてくるがそれほど速度は出ていないため難なくかわす。見ればフェイト達も来ているようだ。ひとまず封印を済ませるという意志はあちらも同じようでブーメランのような魔力刃を飛ばして思念体と対峙している。その隙に距離をとって砲撃魔法(ディバインバスター)を撃ち込み、フェイトも砲撃魔法(サンダースマッシャー)を放ち思念体はつつがなく封印された。

「………」

どちらからともなくデバイスを向け会う。前回は色々としゃべったがあちらが譲る気がないのはもうわかっているし、こちらにもない。故ににらみ合った二人は同時に飛び出して――間に割り込んできた光に受け止められた。

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。ここでの戦闘行為は危険すぎる、双方武器を引け!」

光のおさまったそこには黒ずくめの少年が居た。二人の中間辺りで両腕でデバイスを受け止めている。

「なに!?」

「…!」

二人ともクロノと名乗った少年から少し離れて様子を窺う。

「封印状態とはいえ不安定なロストロギアの近くで戦闘なんて危険だ。先日の次元震についても聞きたいことがある。二人とも武器を収めて同行してもらおうか。」

その言葉に戸惑いつつもデバイスを心持ち下げるなのは。対するフェイトは対応を考えあぐねているようで警戒を解かない。と、そこへ数発の魔力弾が飛来しクロノが防御する。

「フェイト!撤退だ!」

魔力弾を放ったのはアルフだろう。爆煙に紛れてジュエルシードへ飛びつくフェイトだったが、すぐに立て直したクロノの射撃魔法に撃たれる。

「フェイトッ!」

大きなダメージを負った様子のフェイトを辛うじて受け止めたアルフだったが、クロノは更に魔力球を生成し追い討ちをかける。だが、その光弾が着弾する前にアルフ達は姿を消した。あらかじめ準備してあったのか転移を行ったようだ。その様子を何処かへ報告するのか、なにやら通信をおこなったクロノはなのは達の方に向き直り。

「管理外世界での魔法の無断行使にロストロギアがらみの小規模次元震…重要参考人として、君たちには僕らの艦まで着いて来てもらおう」

 

*

 

連れてこられたのは日本風の似非和室。初めての転移魔法を体験したり近未来的な通路を通ったりフェレット(ユーノ)が人間だったりしたがこの妙な感覚にくらべれば些細なことである。

いかにもな金属製の壁のくせに畳や多数の盆栽、鹿威しとやたら和チックな内装をしている。

(これは…海外の人が日本かぶれになるやつ…?)

正直なところ違和感がすごいが目の前の緑髪の女性が緑茶に砂糖を入れているのを見てなのはは考えるのをやめた。

「それじゃあ、色々と聞きたいことはあるけど…まずは自己紹介しましょうか。」

そう言って話を始めた緑髪の女性はこの次元航行艦アースラの艦長を務めているらしく、リンディと名乗った。こちらからも名乗りを返し話を進める。

内容はおおむね想定できたもので、ユーノの行動が責任感あるものだった反面向こう見ずだった点の叱責やらロストロギア回収の感謝やらだった。

「それでは、本件はこちらが預かります。あなたたちは手をひいて日常に戻りなさい」

「えっ…」「あっ…」

「?…本来ならこれだけの規模の案件に民間人が関わること自体が問題なんだが…今回は僕達の対応が遅かった事もある。大人しく回収済みのロストロギアを引き渡してくれればそれ以上の事は――」

「それはそうかもしれないけど!私たちが始めたことです!」

「…まあ、あなた達も急に言われても納得できないわよね。一旦時間をとって、明日また話をしましょう」

 

そんなわけで元居た場所まで転移してもらい一時帰宅となったのだが。

「私、ジュエルシード砕いてるの不味くない?」

「…だよね」

先程妙な反応を返してしまったのはこれだ。二十一有る内の二つとはいえ、ロストロギアを完全に破壊してしまっているなどと言えばどんな反応をされることか。ひとまずは特殊なレアスキルと言ってやりすごせるだろうが、体ひとつでロストロギアを破壊できるなど最悪身柄を拘束されかねない。とはいえ砕けた破片が手元に有る(後先考えなかった)以上、管理局とやらの倫理委員会を信じるしかない。

「とりあえず、私は最後までやりたいんだけどユーノ君は?」

「僕もここまでやってきたからには最後まで見届けたいけど…なのはも、いいの?」

「私ももうこんな中途半端なところで投げ出すなんてできないよ。まだ、フェイトちゃんともまともに話せてないし。」

という事で一応の方針としては素直に情報を吐きつつ協力をとりつけることにした。ジュエルシードに関わる以上は管理局とも付き合っていかねばならないだろう。ならば嘘をつくよりも信用を得た方がなにかと動きやすいはずだ。

 

*

 

と、まあ色々考えていたものの案外すんなりと事は運び説得は成功裏に終わった。どうもあちら側もこちらの動きはある程度予想していたようで、「そういうと思っていた」みたいな反応をされた。見透かされていたようで少しばかり不快だったが、流石にロストロギアの破壊までは想定していなかったようで動揺した様子を見ることができたので特に機嫌を悪くしたりはしなかった。もっともそれ(破壊)について詳しく聞かれる事にはなってしまったが、レアスキル()の事を言えば少しばかり首をひねったあと事態終息までは一旦保留とするらしいことを言い渡された。どうやらすぐに判断をつけられる情報は無いようだ。

その後は家族へのしばらく家を空ける旨の説明をした。探索を円滑に行うためにも活動拠点をアースラに移す必要があり、そのあたりの事情を上手いことぼやかして説明したのだ。こちらもすんなり…とは少し違うものの、なのはの意志が固いことが伝わり承諾を得ることができた。

 

細かな調整が終わればあとは局員たちと協力しながらジュエルシードを回収するだけだ。アースラからのサポートもあればユーノと二人だけで探すよりも格段に効率は上がる。時折フェイトらしき反応が見つかることもあるが、警戒しているようですぐに居なくなってしまい、言葉をかわすことはできなかった。管理局としてもフェイトは重要参考人として身柄を確保したいらしいが今のところそれができそうにはない。

しかし、そんなモヤモヤとした心の内とは裏腹にジュエルシードは順調に集まって行った。




ネットで出てこない細かな設定はわからない、私は雰囲気で二次小説を書いている。


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8話

メンタル破壊チキンレース中

初版↓
《最期の…本編です…伝わって…下さい…受け取って下さい…
活動報告に事情(?)があげてあります。》


「フェイトちゃんが見つかったんですか!?」

 

拡散が予想される陸地をほとんど探し終え、残りは海上に散っているのだろうと詳細な反応の探査を行う方針に切り換えて数日。探索に追われて取れなかった落ち着いた時間を使ってユーノと身の上話をしているところにもたらされた情報を聞き、思わずなのはは艦橋へとかけ込んだ。

「あぁ、少し前に海上に現れてね。どうやら海に沈んだジュエルシードを強制発動する気らしい」

「なら、早く――」

「いや、もう少し様子を見よう。彼女が封印するか…失敗するにしても消耗させたところを狙った方が効率的だ」

クロノの言った言葉に耳を疑う。それはつまり、フェイトが思念体と戦って双方が消耗する(潰し合う)のを黙って見ていると言うことだ。

「だ…だって、それじゃあフェイトちゃんが…」

「…僕たちが優先すべきなのはロストロギアによる災害を食い止め、不要な犠牲を出さないこと…今出ていくよりも、このまま放っておいてどちらも弱ってからの方が回収も確保もしやすい」

そう固い声で言い渡される。積極的にそういう判断を下したい訳ではないようだが、その意志は固そうだ。そこへリンディからも声がかけられる。

「私達は最善の選択をしなくてはならないの。残酷かもしれないけれど、それが現実なのよ」

そうこうしているうちモニターの中で繰り広げられているフェイトと思念体の戦いは佳境に入ってきていた。同時に六つものジュエルシードが励起したらしく、それらが一斉に襲いかかってくる現状ではフェイトが押されているのも当然だろう。さらには強制発動に使った魔力も馬鹿にならないため確かに自滅するのは時間の問題だ。

だが、それを黙って見ていたいかと言われればそうではない。

(行って、なのは!)

(!ユーノ君!?)

(僕が転移ゲートを開くから、なのははあの子の所へ!)

思わぬ助け船に戸惑う。ユーノの目的と直接関わりの無い事なのに何故手助けをしてくれるのか?

(僕の事情とは関係ない。けど、なのはが困ってるなら助けになりたいんだ。僕にそうしてくれたように)

(わかった、ありがとう!)

返すと同時にすぐさまゲートへと走る。クロノの制止を無視して転移魔法陣へ飛び込んだ。

 

*

 

海上、その上空へと転移したなのはは落下しながらバリアジャケットを展開する。眼下の戦場に向けて砲撃形態のデバイスを構えて、撃ち込む。これまで(局員との協力中)もそうだが斬撃()は封印だ。落ちながら放った砲撃はかわされたが水の竜(思念体)の動きはそれほど素早いものではない。あちらの射程距離に入る前に二体を吹き飛ばす。しかし周囲に暴走したジュエルシードが有る以上、個別に封印しても再び暴走を始めてしまう。だが時間稼ぎにはなったため一旦無視して満身創痍といった風体のフェイトの元へ近寄る。

「どうして…?」

フェイトは何故わざわざ介入してきたのかわからない、という様子だ。当人も自分がどんなことをしているかの自覚はあったのだろう。

「こんなやり方じゃあ一歩間違えれば死ぬかもしれない…そんなのを見過ごすのは嫌だったから」

しかし、だからこそなのはは助けに来た。管理局(リンディ達)の指示に背いてまで出張ってきたのは見殺しにはできないというただ一点の為だ。

「それに私たち、敵同士だったとしても別に命の取り合いまではしてないでしょう?」

その言葉に驚いたような顔をするフェイト。確かにジュエルシード回収において致命的な攻撃を行うことは避けてきたが、それもできる限りというものだ。互いに譲れないものが有る以上、それこそ何かの拍子に取り返しのつかない傷を負う可能性だってあったのに、それをただの権利を手にするための勝負(喧嘩)だったと言うのだ。

それは結果としては間違ってはいないがしかし万人がそうと判断するものでもないだろう。それが原因で生涯禍根を残すような事例だって有るだろう。だが、だからこそ問題無いと言ってのけるなのはに、こんな状況だというのに若干の畏怖と憧憬を感じた。

そんな、意識が状況に追い付いていないフェイトにデバイスを通じて魔力を受け渡すなのは。

「丁度半分ずつ。まだ決着は着いてないけど…こんな時だもん、一緒にやろう?ひとりよりふたり、だよ!」

それを聞いてフェイトは少しの間逡巡したが、しっかりと頷いた。

 

 

即席ではあるが上手く連携して封印は済んだ。しかしいざ事態が終息すればどうすれば良いのかわからず気まずい空気が流れた。なのはも目の前の戦いを収める事しか考えていなかったのでジュエルシードの扱いは特に決めていなかった。そもそも管理局が居る以上ロストロギアの所有を勝手に決めることはできなかっただろうが。

しかし今気にするのはそこではない。フェイトとは幾度か交戦してきたが何も争いを目的としていたわけではないのだ。あくまでも望んでいたのは対話で。決裂してからもなお話し合いを求めていたのはジュエルシードだけが理由ではなかった。

「…私ね、あなたと友達になりたい―」

 

閃光が迸る。

 

フェイト達の動向に気をとられていたなのはは唐突に撃ち込まれた(いなづま)に反応できず、意識を落とした。

 

*

 

気付けばベッドの上だった。

海上での戦いから記憶がないので、どうやらあの時の光によって気を失っていたようだ。あの閃光は外部…おそらくはフェイトの関係者からの攻撃であり、未回収のジュエルシードが無いことから介入してきたのだろうとのことだ。それは同時にアースラをも襲い、追跡は難航中。フェイトは巻き添え…というよりはなのはが巻き込まれたようなものでこちらも攻撃をうけてアルフに助けられ、すぐさま転移したクロノの妨害を受けつつも3つのジュエルシードを奪って逃げたようだ。

 

ということをリンディから多少の説教と共に教えて貰った。命令違反に関しては最終的に新たな手掛かりが手に入ったので不問らしい。だがそれはそれとして、ジュエルシードの回収が済んでしまった以上あちらの動きがなければ直接事態を動かせないため、しばらくの間待機を言い渡された。




まだやれるので初投稿です。

初版↓
《続きは皆の心の中に―――
活動報告に事情があげてあります。》


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