戦姫絶唱シンフォギア~喪失者のレクイエム (ドロイデン)
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戦姫絶唱シンフォギア~喪失者のレクイエム

――なぜあの日、私はあの場に居たのだろう。

 

――なぜあの日、私は親友を見捨てたのだろう。

 

――なぜあの日、私は全てを失ったんだろう。

 

――なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――なんで私は死ねないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある街の住宅街、閑静な街という言葉が相応しい住み心地が良く、明るい雰囲気だった。とある一つの家を除けば。

 

「…………」

 

 そのとある一軒家に住む少女、御影加古は何時ものようにベッドから出ず、愛用してるヘッドホンから流れる音楽だけを聞いていた。

 

 聞いているのはかの有名な風鳴翼の曲であるものの、その目には光がなく、ただただ惰性で聞いてるようなものだった。

 

 が、しかして燃費が悪い体はエネルギーを求めてしまい、キューというお腹の音が静かに鳴った。

 

「…………ご飯、食べなきゃ」

 

 聞き飽きた音源にため息を漏らしつつベッドから体を起こした彼女は、ノロノロとした足取りで机に向かうと、長く鬱陶しい黒髪を後ろにゴムで束ねる。

 

 オニキスのような黒い瞳は鏡に映る、首もとにできた♯型の古傷を忌々しく見つめると、親友の形見だった紅い水晶がついたペンダントを首にかける。

 

「……行ってきます、永久(とわ)

 

 そしてもう何年も前に撮ったかけがえのない親友の写真に挨拶をして、彼女は部屋から出ていくのだった。

 

 

 

 

 朝食を食べ終え、私服のパーカーにジーンズという、同年代の女子からしたら、ファッションに喧嘩を売ってるのではと問われかねない格好で外に出た私は、何時ものように鞄を自転車の籠に突っ込むとゆっくりと漕ぎ始める。

 

「…………」

 

 人気のない道を通り、たどり着いた目的地は山の中の自然公園だった。

 

 慣れた手つきで自転車を駐輪スペースに停め、鞄を持つと公園内のテーブルがあるスペースへと向かい、そこに座る。

 

 取り出したのはノートとボールペン、そして目を瞑ると……

 

「――高い蒼穹から 堕ちた闇に光を視た

   眩しすぎて 私の闇を照らしたの

 

 胸の中に浮かび上がったそれを口ずさみに、忘れないうちにノートへ書き綴る。

 

 作詞……とは呼べないお粗末なものだけど、これをしてる間だけが私の大切な安らぎだ。

 

「――迷走(かこ)を刻み 妄想(ゆめ)を飛ばせば

   孤独(ひとり)の苦しみをjust know?

 

「――何時からだろう 優しさの奥に闇を視たのは

 ――疑い尽くして 光を求め続けて

 ――何度求めても 解は出ずさ迷って

 ――鎮魂の安寧(やすみ)すら 許されず永遠(とわ)

 

 何時になく気持ち良く、そして調子良く歌っていたその時だった。

 

「っ!?」

 

 聞き覚えのありすぎるけたたましいサイレンに驚くが、すぐに私はノートとボールペンを鞄にしまって自転車のもとへ駆け抜け、瞬く間にそれに股がった。

 

「(聞こえた方向からして此方には向かってきてないから大丈夫だとは思うけど)」

 

 万が一何て言葉は聞きあきるほどに聞き飽きた。けどその危機感は私には忘れてはいけない大切なもの。だが、

 

「ッ!?」

 

 得てしてそれは裏切られ、私の事を追うようにそれは……特異指定災害ノイズは現れたのだった。

 

 私は必死に逃げた。あの日と同じように、助かるために、生きるために必死で、しかしそれを嘲笑うかのように奴は目の前からも現れる。

 

「!?」

 

 慌てて自転車から飛び降り斜面の方へ走ろうとするが、それよりも早く囲まれてしまった。

 

「……ハハハ」

 

 渇いた笑みしか出てこない。それぐらいに追い詰められ、同時に自分の最後を悟ってしまった。

 

「……今からそっちに行けるかな、永久」

 

 そんなことを思って、彼女から貰った形見を右手で握りしめたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――生きるのを諦めちゃダメだよ、加古ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――retaliation fragarach tron(永遠の報復を調べよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸に溢れた旋律を口ずさんだその瞬間、私の永遠はもしかしたら変わったのかもしれない。

 

 黒と白の鎧に短い黒い光を放つ剣を振るいながら、そんな事を思い浮かべるのだった。




オリジナル楽曲

『解剣・フラガラッハ』
作詞 ドロイデン

高い蒼穹から 堕ちた闇に光を視た
眩しすぎて 私の闇を照らしたの

相克する大地の先に 光は影を膿む
飲み込まれそうで 藻掻き溺れ酔う

迷走(かこ)を刻み 妄想(ゆめ)を飛ばせば
孤独(ひとり)の苦しみをjust know?

失って喪って もう何も無いなら
自らを喪っても何も怖くない

何時からだろう 優しさの奥に闇を視たのは
疑い尽くして 光を求め続けて
何度求めても 解は出ずさ迷って
鎮魂の安寧(やすみ)すら 許されず永遠(とわ)




完成度が低いのは突っ込まないで下さいお願いします。


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解剣・フラガラック

 指令室に現れたその聖遺物の反応に気付いた俺達は、その正体に驚きを隠せなかった。

「正体不明の聖遺物……それもシンフォギア……だと!?」

「そんな馬鹿な、シンフォギアはあの二人のもの以外無いはずよ」

 うちの頭脳……櫻井了子のその言葉に俺自身頷く。シンフォギアはまだ二つのギア以外製造されていないのは俺も前から知ってる。

 が、だというのに画面に現れた3()()()()()()()()()()()、一つは翼が纏う『アメノハバキリ』、もうひとつがその側でリディアンに通ってる少女が纏った『ガングニール』、そしてそこから大分離れた場所に現れた『謎の黒いシンフォギア』。

「藤尭!!データ解析は!!」

「ダメです、ジャミングされてるのか、あのギアからの反応がノイズばかりになって!!」

「他者を拒絶してるってこと?それが心象意識としてギアの能力になるまでに至ってるわけね」

 了子くんが興味深そうにしているが、そんな暇は全く無い。

 ドローンカメラからの直接映像からして、どうやら唄いながら戦ってはいるものの、やはり不馴れなのか、それともそういう気性なのか、まるで獣のように暴れるかのようにノイズを倒すその姿に危機感を覚えない訳がない。

「翼、現在地から大分離れたところでノイズが出た!!」

『!?此方を片付け次第すぐに……』

「いや、どうやら謎のシンフォギアが現れたことで現状はなんとかなっている。回収はこちらでやる、そっちは任せるぞ」

『……了解しました』

 随分と不承不承という形だが、翼にはガングニールの少女を保護してもらわなければならないことからして、ここは、

「了子くん、此方を任せた」

「まぁ現状、動けるのは貴方だけよね。此方から指示を出すから、ノイズに手を出さないでよ」

「ふ、流石に俺もまだ死にたくはないさ」

 そう言って飛び出し、車に乗り込むとアクセルを踏みつけ走り出す。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 あの邪魔な化け物を撃退し、いつの間にかもとの姿に戻っていた私はボロボロになった愛用の自転車を見てため息をついた。

「……結構、お気に入りだったんだけどな」

 ノイズは人以外を炭素に分解しないとはいえ、ここまでボロボロになると使う気にすらならない、というよりスクラップだ。

「けど……ノイズを倒したんだ、私」

 あの姿、まるで自然に歌って化け物を切っていた自分、まるで夢物語でも見てるかのようだったが、周りに黒い墨が残って、私は生きてることを考えると事実だということがよく分かる。

「……」

 私は首にかけていたヘッドホンを耳に当てて、愛用の音楽端末の再生ボタンを押す。が、流れるのはノイズばかりで、音楽は全く再生されない。

 恐らく転んだときに壊れたのだろう、最悪だとしか言いようがなかった。

「……失礼」

 と、その時私の後ろから男の人が声をかけてきて、私は思わず振り返った。

 そこには赤いシャツを着たガタイの大分いい男が立っていて、みるからに不自然だった。

「……何のようですか」

「どうやら、つい先程までここにノイズが居たみたいだが、どうして君はここに?」

「!?」

 その言葉に私は思わず下がって、展望台の手摺際まで移動する。

「……その様子だと、君がノイズを倒したと見て良いのかな」

「……要求はなに?」

「む?」

 私のその言葉に男は首をかしげる。

「私がノイズを倒したことを知って、何を要求するのか聞いてるの」

「いや、我々は君と同じようにノイズを倒せる力を持つ少女を知っている。だから」

「着いてこいって話ならお断りします。たとえ国家権力が相手でもお断りします」

 私は二の句を告げずにそう答える。

「……理由を聞いても?」

「私は他人を信じるつもりはありません、特に権力を傘にきる人間は」

 特にジャーナリストや政府の人間は大嫌いだ。善意なんて薄っぺらいもので、悪意こそが全てだと知っているから。

「だが此方も仕事だ。できれば」

「言ったはずです、私は他人なんてどうでもいいんで」

 私はそういうと展望台の手摺から飛び降りる。

「な!?」

 男は驚いて近づいてきた見下ろしてきたが、私は慣れた手つきで伸びている木の枝に乗っては飛び降りてと続ける。

(流石に国家権力っていっても、あんな巨体じゃパルクールまではできるはずが……は?)

 忍者顔負けなアクションをしながらチラリと後ろを確認して私はたまらず声が出た。

 あの男の人、なんと壁面ダッシュという重力を無視した走りをした挙げ句、ただのジャンプ1発で地面……というか壁面を壊して、さらに木の枝に飛び乗っては私と同じようにジャンプ移動している。

「どんな肉体してるのよ!!」

 色々と言いたいことはあるけど、私はそれを圧し殺し走り続ける。

 が、流石に体力的に厳しく、国道に出る頃には息も絶え絶え、さらにはあの男の人にまで追い付かれてしまった。

「はぁ……はぁ……しつこい!!」

「俺としてはあんな危険なことをすることを咎めたい位だがな。親御さんが心配するぞ」

「ッ、何も知らないで!!」

 一番触れて欲しくない琴線にずかずかと踏み込む事に私は更なる怒りが湧いてくる。

「私はずっと1人だ、あの事件で全てを失った!!家族も、親友も、居場所さえも!!全部があの化物に消し炭にされた!!」

「……ツヴァイウィングライヴにおけるノイズ襲撃事件のことを言ってるのか」

「そうだ、事件で親友を見殺しにして、報道のせいでただ生き残っただけなのに居場所を奪われ、集団いじめを苦にして両親は自殺した!!全部ノイズと権力を持つ人間に殺された!!」

 あの日、親友は崩れた瓦礫から私を庇って死んだ。助けようとした、けど、親友は……永久はこのペンダントを私に残して死んでいった。

 両親もあの迫害のせいで首を吊っていた。依るべを失ったあの日から、私の時計は未だに動かない。動き出すつもりもない。

「奪われた人間に、奪った側の人間が干渉するな!!」

「……ならば1つだけ聞かせてくれ、君のそのペンダント……シンフォギアについて何か知ってる事を」

「……詳しくは知らない、これはあの事件で親友が身に付けていた形見、そこからただ歌が聞こえた、それだけ」

 私は再びペンダントからの歌をつま弾き、変身した姿でジャンプし、近くの看板に飛び乗る。

「……もう二度と顔を見せないで、私は自分さえ助かれば、もうそれだけでいい」

 仲間なんて作らない、友達なんて論外、他人を助けるなんてくそ食らえだ。

 

 

 

「親友の形見……か」

 彼女のシンフォギア……聖詠からして『フラガラック』だろう黒いシンフォギアに、俺は少しだけ頭を悩ませる。

「了子くん、調べてみてどうだ」

『通信から聞こえてた感じで調べてみたら1人ヒットしたわ。御影加古……それが彼女の名前で、シンフォギアの聖遺物は間違いなく『フラガラック』ね、ケルト神話の大神ルーの意思を持つ剣……未確認のシンフォギアで間違いないわ』

 ケルト神話、つまり北欧神話(ガングニール)日本神話(アメノハバキリ)とは別の神話体系の聖遺物というわけか。

「戦闘データは録れたか?」

『ダメね。彼女自身の心象意識のせいかは分からないけど、シンフォギア起動中の映像記録全てがバグを起こしてる。概念によるジャミングってところかしら』

「概念によるジャミング?」

『ギアを纏ってないおかげで聞こえた通信越しでも分かるくらい、あの子は他人を拒絶してる。つまり他人と自分が関わるものを全て無効化してるんじゃないかしら』

「つまるところ、ギアを展開されては通信機もダメになる……ということか?」

 そうね、と呟く了子の声にまたため息をつきたくなった。

「で、彼女自身については?」

『あのライヴ事件の前までも、記録によればかなり虐められていたみたいよ。普段は図書室で本を読んで過ごしたりして、どちらかと言えば大人しいタイプの人間ね』

「ライヴ後は?」

『此方からは確認できなかったけど、彼女、首を隠してなかったかしら?』

 その言葉に少し考え、

「そういえばフードを被って隠そうとしていたな」

『彼女、どうやら事件の怪我で#みたいな傷を負ったらしくてね、どうも事件前についた傷とそれとで合わさった感じね』

「……そう話をずらすということは、彼女の言葉が真実なんだな」

『そうね。今まで虐められていたのが、一緒にライヴに来ていたその時の友人を喪ったことで周りがさらに増長した、いえ、生き残りであることで増長なんて生なかなものじゃないわ』

 まるで地獄よ、と呟くその言葉になるほど、と呟く。

「彼女の普段は?」

『調べた感じ、普段はあの展望台で1日を過ごしてるらしいわ。そうじゃなければごみ捨てぐらいでしか外出しない、買い物は全部ネット通販だそうよ』

 ちなみに高校には通ってないが、ネットでカバーソングやオリジナルソングを投稿して生活費を稼いでるという。

『ちなみにオリジナルは作詞作曲全て自分で週一投稿してるわね、それも複数のサイトで。再生数もそれなりだから、都内のアルバイトの平均程度の稼ぎは月に得られてるわね』

「……後で俺も確認してみる」

『そうして頂戴、あと翼ちゃんの方の戦闘ももう終わったから、さっさと戻って頂戴な』

 そう言って通信を切った了子くんに、俺は少しだけ悩む。

(ガングニールの少女と御影加古……同じ被害者でこうも違うとはな)

 ガングニールの少女……立花響が誰かのために手をさしのべ、さしのべられた手を繋ぐ人間だとすれば、彼女の場合はその逆、誰かに手をさしのべることを許さず、さしのべられた手を振り払う人間、これで同じ事件の被害者だというのだから運命とは時に残酷だ。

「さて……車を取りに戻らねばな」

 仕方ないとはいえパルクールで往復するはめになった事を思い出しながら、これからの事を考えて歩き出した。



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ワタシが私になって

 自宅に戻った私は、自分の部屋に入って少しだけ安堵した。家の外の周辺に変な視線は感じるが、そんなことはもうどうでもいい。

「……逃げる準備しなきゃ」

 父が元自衛官だったお陰でキャンプ用具は一通り持ってるし、移動手段の予備の自転車……というか、生前母が使っていたママチャリもある。お金もまだ暫くは動画の方で得た収入で少なからず余裕があるし、この際だから東京から離れるのも悪くないかもしれない。お金貯めて買った動画投稿の機材は置いていかなきゃだろうけど。

「それと……永久との写真も、かな」

 両親が永久と私の二人を撮ってくれた数少ない、私という暗闇に、光を与えてくれた大切な親友との思い出。

「懐かしいな……」

 

 

 

 ワタシが永久と出会ったのは、小学校の図書室の人があまりこない隠れたスペースだった。

 当時小学生一年生だったワタシは大人しすぎたせいか、周りから苛められていた。もっとも苛めと言っても男子からからかわれる程度のものだったけど。

 お昼休みや放課後のだいたいはここで、静かに本を読むのが日課みたいなものだった。

「あれ?こんなところで何してるの?」

 けどその日、まるで迷い込んだように現れた彼女、黒いショートカットに綺麗な赤いペンダントを着けた彼女がワタシの親友……梔永久だった。

「……見たら分かるでしょ、本を読んでるの」

「ふーん、なんてタイトル?」

「……封神演義」

「へー、面白いの?」

「……別にそんなにかな」

 漢字が難しくて読めないから、と言うと永久は首を傾げて、

「だったらもっと分かるやつ読もうよ!!こっちの南総里見八剣伝とか!!」

「それはもう全部読んだから」

「うっそ!!凄いね!!」

 まるで楽しそうに話す彼女にワタシは少しだけ楽しかった、そんな気がした。

「ねぇ、名前、名前教えて!!私は梔永久!!」

「……御影加古」

「かこちゃんか~!!ねぇかこちゃん――」

 ――私と一緒に遊ぼう。その一言が、ワタシの全てを変えた、今思えばそう確信できた。

 

 

 

 その日から少ししてワタシは永久の事を知ることになった。ワタシのとなりのクラスで、勉強も運動もできて、皆の中心に居るような人だって事が、そして家もすぐそばだった事も。

「ねぇとわちゃん、ワタシなんかと一緒に遊んでていいの?」

「ん~なんで?」

「だって、ワタシはいじめられっこだし、一緒に居たらとわちゃんにも迷惑がかかるし」

 ワタシのその言葉に永久はケロっとした表情で、

「そんなのはへいき、へっちゃらだよ」

「へいき、へっちゃら?」

「そうだよ。どんなに辛いことがあってもそう言えれば、どんなことでも乗り越えられるんだよ」

「へぇ……誰かから教わったの?」

「あー、そんなところ、かな?」

 永久にしてはなんかお茶を濁すような口ぶりだったけど、小学生だった私にはそこまでは分からなかった。

「あ、それよりもかこちゃん!!このあとどんなことして遊ぶ?」

「ワタシは……本を読んでるのが楽しいから」

「そんなのは家でもできるよ!!けど遊ぶのは今しかできないんだよ!!ほら!!」

「ちょ……」

 無理矢理引っ張られて外に連れ出されたワタシは、とわが良く行く展望台公園に連れてこられた。

「はぁ……はぁ……早いよとわちゃん」

「ごめんごめん、でもほら、見てよ」

「?……ぁ」

 そう促されて見たその景色に、ワタシは思わず驚いた。夕焼けに照らされて、町の景色が一望できるその姿は、

「キレイ」

 そして口から出たその言葉に、永久は笑顔になる。

「ここ、ワタシのお気に入りなんだよ!!人があんまり来ないし、夏場は花火をここから一望できるんだよ」

「凄い、ね」

「うん!!凄いんだよ」

 そう言ってはしゃぐ姿にワタシも自然に笑顔になってしまう。

「――夕焼け惑う 雲眺め

 茜の輝き みーつめた

 そして突然聞こえたその歌声、永久のその歌にワタシは聞き惚れる。

(凄い……うまい)

 なんていうか、テレビでたまに見る歌手みたいな、そんな感じがした。それくらい永久の歌は上手くて、綺麗だった。

空よ暁になれ 時の波を越え

 鳥ははざま 駆けーていく

 歌い終わった永久は此方を見て恥ずかしそうに顔を赤くする。多分、ワタシの驚いた顔に照れてるのだと思った。

「アハハ……ごめん、音痴だったよね」

「」ブンブン!!

 首を思い切り横に降ってそれを否定する。あんなにキレイな歌を音痴だという奴がいればそれはもう手遅れだと思う。

「凄い、凄いよとわちゃん!!あんなキレイな歌、それもテレビとか授業とかで聞いたことのない、オリジナルの歌を歌えるなんて!!」

「か、かこちゃん?」

 飛び付くように肩を掴み、若干引いてる加古を知らずにワタシは加古に言った。

「お願いかこちゃん!!ワタシにもとわちゃんの歌を教えて!!」

 

 

 

 加古と歌を練習するようになって6年の月日が経って、ワタシは中学1年生になった。

 ワタシと加古は揃って合唱部に入って、クラスも同じ私達はもはや親友と読んでおかしくない間柄だった。

「ねぇ永久~」

「……どうしたの加古?」

 その日は加古の趣味のダンスのためにパルクールというのをやりに来ていた。ワタシも一緒に軽く練習しつつ、加古の言葉に答えた。

「永久ってホント良く本を読んでるよね~」

「まぁ、これでも小学校じゃ図書室の化物なんて苛められてたからね」

「アイツらは口だけのおバカさんだからどうでもいいの。それよりも永久、お願いがあるんだけど」

 永久のお願い、その言葉にワタシはジトリと目を細める。親友とはいえ、いや、親友だからこそ、永久のお願いというその言葉の意味を知らないわけがない。

「……話を聞くだけだからね」

「いやさ、それだけ本を読んでるならさ、永久に私達の歌の作詞をしてよ……ってダメだよね」

「……なんだ、そんなことか」

 てっきり前に加古の家の楽器屋に置いてあるのを使って既存曲のカバーをやろうなんていう、小学生じゃ無理だろとでも言わんばかりの無理難題を押し付けられるかと思ったら。

「そんなことって、つまり」

「少し前からだけど、そのうち加古が言い出すかなって思って始めてたよ。一曲だけだけど」

「ホント!!」

 ホントだ。正確にいうと、

「実はワタシさ……リディアンを目指そうかな、って」

「!!……リディアンって、あの音楽学校の?」

「うん、リディアンに入って……作詞家の勉強をしたいって思ってたんだ」

 音楽のための専門学校とでも言うべきリディアンに行きたい、その一言を告げた親友の目はどこか真剣で、何かを見つめていた。

「永久?」

「へ……あぁ、うん。でも作詞家なら別に大学からでも良くない?」

「勿論大学も行くつもりだけど、やっぱり身近に音楽のための専門の学校があるんだし、そこで基礎だけでも身に付けようかなって」

「……そっか」

 永久はそう言うと立ち上がって練習を再開する。

「加古」

「うん?」

「この際だからさ、私達二人で作曲と作詞して、動画サイトにでも上げようよ!!その方が近道だし」

 いきなりそんなことを言う親友に私は驚いた。

「ちょ、流石にそこまでのは出来てないからね!!」

「大丈夫大丈夫!!失敗しても損なんてしないんだし、何より私達の作曲で加古の作詞なんだよ、受けないはずがない!!」

「ワタシの負担は無視なの!?」

 

 

 暫くして、漸くの思いで作った曲を投稿して、二週間で1万も見られた事にワタシ達は歓喜した。

 そこからは二週に一度のペースでオリジナル曲を投稿して、間の一週にカバーソングを二人で歌ってという楽しい日々が続き、夏から始めた私達の歌い手として、作詞者として楽しい日々が続いた。

 勿論楽しいことばかりじゃなくて、作詞や作曲に行き詰まって辛かったりもしたけど、でも親友と一緒にこんなことをできるというだけで、ワタシは嬉しかった。

 そう、あの日……ツヴァイウィングのライブまでは。

 

 

 

「……ぅ、永久」

 ライブ会場の階段の踊場の側、意識を取り戻したワタシは思わず親友の名前を呟いた。

 確か自分はツヴァイウィングのライブを見に来て、あの二人の歌に驚いて……突然現れたノイズに驚愕した。

「そうだ!!永久!!」

 そしてワタシは思い出した、私と永久はすぐに側の階段から逃げて、けど、ノイズの襲撃のせいで崩落した階段の上層から、永久はワタシを突き飛ばして庇ったのだ。

「永久!!永久!!」

 ワタシはすぐに踊場に戻った、が、今思えば戻らなければ良かった。だって、瓦礫に体の半分埋もれた親友を見てしまったのだから。

「う……うぅ」

「永久!!しっかりして永久!!」

「……アハハ、聞こえてるよ、加古」

 声が聞こえて、私は少しだけ安堵した。まだ生きてる、それだけが私の希望だった。

「待ってて永久、すぐにそこから引っ張り出して」

「……うーん、それはちょっと、やめた方が良いよ」

「止めるわけないでしょ!!すぐに……ぇ」

 引っ張り出そうとして手を握った瞬間、ワタシは気づいてしまった。永久の手が異様に冷たくて、握った手にはべったりと血がついていたのだ。

「う、うそ……嘘だよね、永久」

「……ごめんね、自分でも分かるくらい、体が重いんだ」

「そんな……」

 直感的に悟ってしまった、けど、ワタシはそれを受け入れられなくて、ただただ呆然としてしまった。

「ねぇ……加古」

「……なに、永久?」

「これ……」

 永久はそう言うとまだギリギリ動いた左手で首からペンダントを千切り取って、ワタシに向けた。

「これ……加古が持ってて」

「でもこれ、永久が昔から大切にしてたペンダントだよね、そんなの……」

 出会った日も身に着けていた、ワタシですら触らせて貰えなかったほどに大切にしていたペンダントを向けられ、ワタシは困惑した。

「私からの……最後のお願いだよ」

「いや……イヤだよ、最後なんて言わないでよ、とわぁ……」

「加古ちゃんが持ってて……私は、もう加古の隣には居れないから、それと一緒なら――」

 その最後の言葉を聞いた直後、永久の手がだらりと下がった。

「永久?永久!!とわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その日、私の光が闇のなかに消えていった。



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言ってること、分かってたまるか

 思い出と共に思い出したくもない事まで思い出した私は、一先ず写真を鞄にしまいこみ、玄関の側へと移動する。

 もはや幽霊屋敷とも呼ぶような我が家を少しだけ見つめると、すぐにママチャリを動かして移動を開始する――

「おや、こんな時間にお出掛けですか」

「ッ!!」

 つもりだったところに突然声をかけてきた男に私は驚いて振り返り、次の瞬間、さらに驚いた。

「貴方……確かツヴァイウィングのマネージャー……でしたよね」

 芸能界を……というか風鳴翼のことを調べたときに偶々見つけた人物が、まさかこんなところに現れるなんて思いもよらなかった。

「はい、正確には今は風鳴翼さんのマネージャー業務をしています」

「それは良いんですけど、なんでそのトップアーティストのマネージャーさんがこんなところに?」

「理由は2つありまして、1つは貴方がシンフォギア奏者であるから」

 その一言に納得した。つまり帰ってから感じてた視線はこの人のものだったわけか。

「……あれ?でもそうなると風鳴翼と天羽奏さんは……」

「一応国家機密なのですが、ご想像の通りと考えて貰ってかまいません」

「ふーん」

 少しだけ驚いたが、考えれば納得はできる。あのノイズ襲撃事件で、1万以上の被害者が出た中で、ノイズによって殺された人数が余りにも少ないのはこのためだったか。

「それで、私を監視をして何のよう?国には協力しないって、あの大男さんにも言ったはずよ」

「いえ、協力して欲しいという要請は今のところ上からは来てません。ただ奏者とはいえ我々の協力者でない以上、民間人として最低限の護衛をと、上からの命令です」

 詰まるところ監視をしたいだけじゃないか、と言外に言ってるが今はとりあえず無視だ。

「それで、もう1つの要件は?」

 ぶっちゃければ変な要求なら無視して逃げるが――

「はい、もう1つの理由ですが、単刀直入に申します。御影加古さん、貴女に風鳴翼の歌手としてのコンビ……新しいユニットとして活動してもらいたいんです」

「……言ってること、分かってたまるか!!」

 いったいどこをどう考えたらそうなるのかと、小一時間ほど問い詰めたい気持ちを込めて突っ込むと、

「これは風鳴翼のマネージャーとしての質問なのですが、貴方から見て翼さんの印象はどう思われますか」

「印象?……なんていうか、古風っていうか、色物と際ものの中間?」

 偶に見たバラエティー番組に出てたときも、その圧倒的な古風な喋り方とキャラのせいか、結構バラエティー番組に引っ張りだこなイメージだ

「まぁ翼さんのバラエティー体質についてはご存じの通りですが、今のは歌手としての方です」

「あぁ、そっちなら単純にザ・歌姫でしょ。独学とはいえネット歌手やってるから分かるけど、あの声量と声質は同年代ではトップでしょ。最低でも日本では」

 勿論ツヴァイウィングの『逆光のフリューゲル』のような激しいダンスも一流というイメージは捨てるつもりはないが、どうしてもアーティストとしてはトップクラスの歌い手……これが風鳴翼の印象だろう。

「では逆に問いますと、御影さんのオリジナルソング、周囲からの評価がどんなものかはご存知ですね」

「……まぁ、所謂ダークポップ系だっては言われてるよ、さらに言うならダンスがあればなお良しって」

 勿論最初は私と永久の二人がある程度認知されるようになったら、オリジナルソングをダンスを加えた形で再投稿する形を取るつもりだったのが……。

「その通りです。そしてもう1つ加えるなら、作詞と作曲、それ事態はかなり完成度が高いということ」

「それは良いけど、それとこれがどう関係するの?」

 はっきり言って関係が……いや、まさか

「翼さんは歌手としては現在、海外での活動も視野に入れてます。ですが、今現在のスタイルをそのままにするよりも、新しいことに挑戦し翼さん本人の可能性の枠を広げたい、そう思っています」

「だからユニット……しかも流れからして作詞作曲は私に振るつもりですか」

 余りにも大きく見られ過ぎていて正直開いた口が塞がらない。

「私の楽曲……聞いてくれてるなら分かると思いますけど、かなりダークな歌詞っていうか、ネガティブ思考な歌詞ばかりですよ」

 正直向きが正反対過ぎて風鳴翼の持ち味を消しかねない。

「構いません、寧ろファンからすれば新たな翼さんの一面を見れると喜ぶかもしれませんよ」

「……」

 どうにもこの人、梃子でもやらせたいつもりだ。

「理解できません。勿論お話は嬉しいですが、なぜそこまでして私なんです?他にも適任が居るでしょ」

 特に歌い手なら洋楽だが、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴも若干歳上だが存在する。態々無名の新人を抜擢する理屈が分からない。

「……翼さん本人が偶々貴女の歌ってる動画を見まして」

「……本気ですか」

「はい、司令達が聞いていたのを偶々聞いたらしく、本人がいたく気に入ったらしく私に頼んできた次第です」

 まさかの本人からの指名という事実に私は悩んだ。いや、翼さんに聞かれるならまだ百歩譲って何とかなるが、気に入られるとは思っても見なかった。

「……条件付きなら構いません」

 だからか、頭がパンクしてそんな風に安請け合いをしてしまったのは。

「此方で対応可能なら構いませんよ」

 とか言いつつ、この手の人間は条件を簡単にクリアするから困るので、結構吊り上げてみようか。

「まず第一に、ユニットとしての活動は1曲限りにしてください。此方はネットではそれなりに知名度はあっても表面的には0なんで」

「一曲限りですか……」

「新曲だしてたった一回だけのライブなんてファンもですけど、テレビ局やレーベル的に困るでしょ、なんで発表から向こう3ヶ月、尚且つこちらの本来の活動に支障をきたさないならライブだろうがテレビだろうがやっても良いです」

 結局のところ、アーティストも慈善事業じゃないし、何よりCDが売れなきゃ大赤字になる。それは曲という作品を作るうえで一番やってはならないことだと思う。

「分かりました、ただCDの売上が良かった場合は正式にユニットとしてまた打診させて貰います」

 まぁそれについては反響があればってところだろうけど、こんなにわか素人を応援する奴など居るまい。

「次に当然ですがレッスン……ダンスもですけどヴォーカルレッスンの手配をお願いします。あと私とは別に編曲する人も一緒に」

 独学で身に付けてきたからというのもあるが、何より翼さんの楽曲のダンスはかなりハードなのは知らないところじゃない。体力は勿論、声だって変なところはなるべく減らすようにしたい。

 そして作曲できるとはいえ、それを手直し……電子ピアノを使った単調な曲から、ドラムやギター、シンセサイザーなどを織り混ぜたアーティストらしい曲に仕上げるプロだって必要になる。

「分かりました、そこは此方で対応を「ただし」」

 私はそこで一瞬止める。

「ただしシンフォギアって言ったっけ? あれに関する組織の人間とは貴方と翼さん以外ノータッチで頼みます。あくまで此方は依頼されてる身ですし、何より権力側の人間は嫌いなんで」

「……分かりました、可能な限り善処します」

 まぁこれであの規格外なおっさんと会うことも無いと思いたい?

「3つ目、ノイズが現れても私は基本的には対応しません。あくまで目の前に出てくるなら蹴散らしますが、基本的に馴れ合うつもりはありません」

 恐らくこれには納得できない筈だ。何せ力を持った人間が使わないのは何事か、とか頭の硬い政治家みたいな事を言うのが関の山――

「分かりました。本部にはそう伝えておきます」

「は?」

 あまりの即答具合に私は目を見開いた。

「どうかしました?」

「い、いえ……普通私がこんなこと言ったら反対するって相場が決まってるような。特に権力が上の人間は」

「司令はそういうのは大概無視するような人ですからね。それに元より貴女がそう言い出すと分かっていたので」

 正直ドン引きだった。いやまぁ此方の気持ちを汲んでくれるのはありがたいが、ここまで要求が通ると逆に背筋が寒くなる。

「……もう1つ、衣装についてです」

「首もとを隠したいんですね」

「……そこまで知ってるなんて、かなりの地獄耳ね」

「一応組織としては国の重要なものなので、調査部門もかなり優秀ですよ」

 そうですか、とため息混じりに呟いた。

「……それと最後にもう1つ」

「なんでしょうか?」

「可能ならこの家、部屋の一部を改築工事してもらえると助かります。具体的に言うと建物自体と防音設備、あと警備システム」

 何せライブ後の苛めのせいで半ば幽霊屋敷みたいにボロボロで、今でもたまに面白半分なのか、家に石を投げ込んでくる阿呆が居るくらいだ。

 窓ガラスを強化ガラスにするぐらいしか手がなかったので、ついでにオリジナル曲の収録のための防音設備を付けられれば万々歳という気持ちで言ってみる。

「でしたら此方で住居を確保することができますが」

「……それはやめとく、かな。ここには一応、家族と親友の思い出が残ってるし」

 一時的に居なくなるなら兎も角、出ていったら思い出が全部消えるような、そんな思いがするから。

「……分かりました。此方で手を回しますが、それでも工事の間は別の住居を用意させて貰います」

「それはしょうがないから諦めますよ。ただしリディアンの寮……なんてオチは要りませんからね」

「え?」

「え?」

 何やら嫌な間が入ってしまった。

「……冗談ですよね?」

「いえ、実はどうせなら交流も兼ねて翼さんのお部屋へ、と思いまして」

「……なんのつもりの当て擦りですか」

 思わず防人語が出てしまうくらいに私はため息をついた。

「……流石に編入、って事は止めてくださいよ。普通に勉強についていけないですし」

「ダメですか」

「高一の基礎すらやってない私に高三の勉強させられても赤点になるのが関の山ですよ、最悪の場合留年」

 一曲だけとはいえユニットを組む以上、そういった面で翼さんに迷惑は掛けられないし、何より翼さんに勉強を教えてもらったりなどしたら

「……防人語が移るのは勘弁したいですしね」



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片翼と尽きぬ影

連載に変えて一発目の投稿です。オリジナル曲(歌詞オンリー)も作ってみました。

そんなこんなで本編をどうぞ


 色々あった数日前、ノイズをぶっとばしたり翼さんとデュエットを組むことになった私だが、正直言ってしまえば

「やっぱり歌詞がなぁ……」

 当然というように難航していた。正直な話、和をイメージする翼さんと、ダークロック系の私だとどうしても悪い方に引っ張られるというか、簡単に言えば喧嘩するわけで。

「うーん、せめて方向性さえ決まればなー」

「方向性か?」

 と、後ろから聞こえてきた声に振り返ってみれば、かの歌姫様ご本人がペットボトルのお茶を片手に部屋に入ってきたのだ。

 さて、ここで何故翼さんが私の部屋に居るのかということなのだが、これは単純な話、あの敏腕マネージャーに翼さんの部屋の片隅を貸す代わりに、衣食住を世話してくれと頼まれたからである。

 当初はなんでそんな面倒なことをと思ったが、その強盗でも押し入ったのかと思うくらいに散らかり放題荒れ放題のそれを見たことで納得した。せざるを得なかった。

 なんでもそれまではマネージャーの緒川さんが、生活能力皆無の翼さんの代わりに掃除洗濯等をやって来たのだが、流石に女性の……それも幼い頃から知ってるとはいえ少女の下着を洗うのには若干の抵抗があったらしい。

「いきなり話しかけてこないでくださいよ……って言っても通じませんよね」

「む、流石に隙はうかがったぞ。どうにも煮詰まり噴煙をあげてるのでな」

「それはどうも……そっちは例の新人さんでしたっけ?その人と揉めてるのかなんとか」

「……干渉しないのでは無いのか?」

「しませんよ。しませんけどね、部屋の中まで抜き身の刀みたいにギラギラしてたら流石に気づきますよ」

 それはもう妖刀の類いか何かと言うくらいに不機嫌さのオーラを出してたから、知らないわけがない。

「……御影とはまるで真逆の存在が、しかも奏が守った者が、奏の代わりをするなど、堪えられるものか」

「……つまり、その新人さんは奏さんが間際に助けた子で、その子がシンフォギア動かして、奏さんの代わりに~とかなんとか言って翼さんの逆さ鱗に触れるどころかひっぺがしたわけですね」

 はっきり言ってなぜその新人がそこまで他人のことを思えるのか、私には不思議でしかならない。奏さんが救ったということは少なくともあのライブ会場に居たはずだ。

 てことは当然、その新人も私と同じぐらいの凄惨な苛めを受けたはず、それでも他人を信じられるなんて、理解することすらできない。

「まぁそれは良いですけど、そろそろ着替えないとリディアンに遅れますよ」

「案ずるな、私は普段はバイク通学だ」

「リディアンってバイク有りなんですね。どうでも良いですけど、駐輪場の一角丸々バイクで埋め尽くすバイク好きも女子高生では珍しいですよ」

「そ、そんなに買い集めてなんて居ないわ!!たったの5台だけよ」

 慌てて返してるが、普通の一般人からしたら一人でバイクを5台も所有してたら、それも女子高生となれば十分に珍しい。

「そんなことはどうでもいいんで、さっさと当て付けのようにリディアンに行ってください。私はたった半日で地獄と化した部屋の整理をしなきゃいけないので」

「地獄ではない……まだ煉獄と言って」

「大差ないです」

 そのバッサリと切り捨てた一言に、歌姫にして防人の剣はパッキリと中折れして崩れ落ちたのは言うまでもない。

 

 

 

「果てに尽きた音は天に消え……違う、こんな歌いだしは翼さんぽくない、ボツ」

 静かになった一室で、私は書いて紡いでみたそれを口ずさむが、どうにも何かが私の心音からずれる。

「片翼だけでもと飛ぼうと嘆き、失ったものをともがく……これは歌いだしよりBメロ向きかな、ボツ」

 歌は掴みとサビが肝心だという私なりの……というか大体の事だ。特に翼さんが歌い始めなら尚更。

「あー、だめだ。空回りしすぎて鳶に軽々持ってかれる」

 こうなったらもう何も良いものが出てこない。経験則から間違いなく出てこない。

 さてどうしたものかと思い部屋の中を歩いてみる。今日も翼さんは向こうの活動があるから遅くなると聞いてる。となれば、

「……少し早いけど昼御飯にしますか」

 冷蔵庫に立って開けてみると、なんというかそれなりに食材は揃っていて、寧ろ珍しい野菜とか切り身も入っててびっくりした。

「確か緒川さんは自由に使っていいとは言ってたし……何を作るべきか」

 少しだけ悩んだが、普段の自分なら買えない高級魚を使ってアクアパッツァ擬きを作ることに決めて、せっせと圧力鍋(自宅から持ってきた愛用)を取り出す。

「やっぱり圧力鍋は万能、煮込み料理が簡単時短で作れるし」

 ついでにとばかりに翼さんの夜食用も作っておくことにした私は材料をそれはもう適当に入れて蓋をし、圧力鍋を火にかける。

「30分も似れば大丈夫かな」

 できたアクアパッツァは、夜に戻ってきた翼さんがキャラ崩壊になるほど、とても美味だったとここに明記しておく。

 

 

 

「さて、作詞の続き……」

 片付けを終えてテーブルに戻った私はノートを再び開き目を閉じる。

 

いつか聞いた 誓いの空へ

 互い(つがい)の翼で羽ばたく 影法師

 キーワードは『翼』、そして『影』。この二つを主軸に歌詞を書いていく。

虚空の闇へ もがれ尽きた

 互いの心を 奏ることもうない

 Bメロは闇への抗い、Aメロの追想を引き立てるようにして――

喪うことに慣れて磨り減った 私と君は何を目指す

 それでもと噛みしめ 抗うのなら

 この闇の狭間(かくりよ)夜明け(うつつ)に変えてみせる

 ここからはサビ、一気に駆け抜けるように――

蒼穹(そら)高く舞い上がり 銀狼は駆けぬける

 あと少し もう少し その一瞬の輝きを

 もう喪わないと 胸に抱く誇りを いま

 黄昏へと穿ち貫け

 

 一先ず歌詞の1番になる部分を歌いながら書き出してみるが、これがどうして中々の出来映えだった。あくまで自分一人で歌うならの話だが。

「二人で歌うとなると微妙……」

 特に相手は風鳴翼その人、歌姫に歌わせるとなると少し厳しい気がする。全然しまくる。

「うーん、けどボツにするのもそれはそれで勿体無い……」

 かといってこれを作曲、編曲して動画サイトに上げるのも惜しい。

 そう思って私は携帯を取り出し、登録されている彼女のマネージャーのアドレスに歌詞を添付し送信、さらに番号に電話をかけ、確認だけしてもらう。

『こちらで確認させてもらいましたが、これで微妙なんですか?』

「少なくとも、私個人としてはこのレベルじゃ翼さんに歌わせるレベルの歌詞じゃないって感じてまして」

『なるほど……一応これを一旦お預かりしてもよろしいですか』

 その一言に私は嫌な予感がした。

「どうするつもりですか?」

『自分はマネージャーですが、流石に作詞については門外漢なので、翼さんの曲をいつも頼んでる作詞家と作曲家の人達に見てもらって、さらにサンプル音源をつけようかと思いまして』

「いやそれかなりお金かかりますよね!!大丈夫なんですかそんなことして!?」

 プロへ依頼となればそれなりに高額な金額が行き来する、正直こんなことで使わせるのもどうかと思ったが

『依頼して数日でこのレベルなら十分に良い出来だと思いますよ。これなら音を付けても充分に満足できる域に出来るかという判断をするため、一度音をつけてやってみるのが一番だと考えました』

「……わかりました、プロの判断なんだったらそこはお任せします」

 ただ、と私は呟き

「このレベルで満足するような出来にはしたくないんで、他の詞も書いてみます」

『……そうですか、ではそちらも出来ましたらメールをお願いします』

 それだけ言ってマネージャーは電話を切った。

「……クオリティ上げないと」

 今のままで満足できない、私は良くても翼さんの今までの歌を越えるような歌じゃないと、その気持ちで私はノートを開く。

 まさしく狂ったように書き連ねる詞の文は止まることを知らず、結果深夜近くに帰ってきた翼さんに無理矢理止められるまで書き続けたのだった。




『黄昏の翼』
作詞 ドロイデン
歌 御影加古、風鳴翼

いつか聞いた 誓いの空へ
互い(つがい)の翼で羽ばたく 影法師

虚空の闇へ もがれ尽きた
互いの心を 奏ることもうない

喪うことに慣れて磨り減った
私と君は何を目指す

それでもと噛みしめ 抗うのなら
この闇の狭間(かくりよ)夜明け(うつつ)に変えてみせる

蒼穹(そら)高く舞い上がり 銀狼は駆けぬける
あと少し もう少し その一瞬の輝きを

もう喪わないと 胸に抱く誇りを
いま 黄昏へと穿ち貫け

追いかけ綴った 彼方の空虚
零れ潰えた 蜃気楼

握れぬ手と手を恨むなかで
置いてきた闇に呑まれ

だとしてもと食い縛る
この煉獄(さだめ)呪縛(くさり)を抜き去って

荒野を走りぬいて 蒼隼は彼方へと
あと一つ もう一つ 積み重ねてく未来(いま)

もう手放さない 胸の夢の欠片ごと
いま 黄昏を斬り拓く

蒼穹(そら)高く舞い上がり 銀狼は駆けぬける
あと少し もう少し その一瞬の輝きを

荒野を走りぬいて 蒼隼は彼方へと
あと一つ もう一つ 積み重ねてく未来(いま)

もう覚悟は決めた 胸に火照る魂ごと
いま 黄昏をここに示すんだ
私はここにいたのだと


――――――――――――――――――――――――

完全オリジナルの歌詞を作るのめっちゃ疲れた……これで批判殺到なら心折れる自信あります、はい。


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誰が為の歌

 翼さんとのユニットを組むことにあたって頼んだダンスとボーカルのレッスンはいまいち不調だった。

「つい先日まで素人ってのを加味しても、歌はともかくダンスはいまいちね」

 トレーナーさん曰く、私の行ってきたパルクールで身に付いた技術が微妙に足枷になってるらしく、さらに言えば体力も無さすぎだそうだ。

「勿論ジャンプとかのアクションは身に付いた技術で並以上はあるわ、けどステップやターンといったものの癖が……簡単に言えばストリートダンスに近い形だから、そこもある程度修正しないとね」

 そう言われて終わった今日のレッスンに私はため息を漏らす。

「分かってたけど、今の私じゃプロどころかアマチュア未満か」

 自分を過小評価するわけじゃないけど、それこそアーティストでプロを目指す人間はそれこそ幼い頃から練習に練習を重ね、それで漸くなれたような人ばかりだ。

 それもちゃんとしたトレーナーに教えられてと考えると、独学の私はまともに練習してないのと同じだ。だから酷評されるのは当然だと割りきる。

「はぁ、こういうときは新曲作って投稿するに限るかな」

 何個か作り貯めしてるオリジナル曲のうちどれを流すか考えていたその時、嫌な殺気が背筋を襲う。

 まさかと思って周囲を確認してみると、森林公園の近くから巨大な存在……ノイズが群れを成して暴れていたのだ。

「こんなところで……」

 どうやら周りの人達は逃げるように立ち去っているが、私としてはもしかすれば此方に向かってくることになりかねない。

「けどギアを使えばバレるし……うん」

 あくまで偵察、そしてあの風鳴翼さんの戦いが参考にできるか、自分の糧にできるかの確認のために私は歩き出す。森林公園の方へと向かう道を。

 

 

 公園までの道のりは意外というか、誰にもどころかノイズの1体すら出会わなかった。

「ここまですんなり……運が良かった?」

 いや、何か違う気がする。そんな気持ちを覚えながら、木々に隠れの姿を見ることなく中央の広場まで来てしまった。

「っ!?」

 次の瞬間、まさしく爆音と共に地面が吹き飛んだ。

 何事か、そう思って見ていると紫色のノイズが飛び出してきて、さらにそれに続くように白とオレンジのツートーンの鎧……シンフォギアとやらを纏った少女が現れた。

(あれが翼さんが言っていた、天羽奏さんのギアを纏ったっていう)

 なるほど、見ただけで分かるくらいの素人臭い動きで、言葉と実力が合ってないタイプの典型だと感じた。

 と、そんなことを思ってるうちに青い光がノイズを真っ二つに切り裂く。空を見てそれが翼さんが放った斬撃だと気付いた。

「私だって、守りたいものがあるんです!!」

 オレンジのギアを纏う少女のその言葉に不愉快な気分になった。

(なんでそんな大言壮語を言えるんだろ……私と同じ立場の筈なのに)

 翼さんの話通りならば彼女も私と同じ、あの事件の被害者のはずだ。なのになんであそこまで他人のために動こうとできる、あかの他人を助けようと思うのか、私には理解できなかった。

「だから――」

「――だから、で、どうすんだ?」

 オレンジのギアの少女のその言葉に答えるように、謎の声が場に響く。

 その声の主へ私は隠れながら視線を向ける。そこにいたのは白の鎧を纏った少女で、その手にはトゲのような鞭がついている。

(あれもシンフォギア?けどなんか毛色が違うような……)

 それに手に持ってる杖のようなもの、あれはいったい――

「――ネフシュタンの鎧」

 まるであり得ないものを見たような声を翼さんが発した。

「へぇ、こてとはアンタこの鎧の出自を知ってんだ」

「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか」

(つまり、元々は翼さんの所属してる組織が保管してた代物だったわけか)

 なるほど、と思っていた時

「何より、私の不始末で奪われた命を忘れるものか!!」

 その一言に心の内が真っ白になった。

「は?」

 まさかと思った、あり得ないと思った、けど、だけれども思ってしまったそれが頭から離れない。

「へぇ……ならその言葉、そこに隠れてる女の前でも言えるのか」

「!?」

 私はすぐに気配を消して木に隠れる。

「なんだと?」

「だからよ、そこの木に隠れてるやつの目の前でも同じことが言えるのかってよ。テメェらの不始末のせいで全てを喪ったやつによ」

「な……まさか」

 翼さんもこちらに気付いたようで視線を此方へ向けたため、私は揺れるように前に出る

「……翼さん、どういうことですか、それは」

「……御影」

「教えてください翼さん……私の親友は、あの事件は……」

 私のその問に翼さんは答えない。だが、それが余計に答えだと教えてるようなもので

「そこのアンタが言わないなら、アタシが教えてやるよ。あのライブ事件、発端はアタシが纏ってる完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』を起動させるための実験だったんだからな」

「完全……聖遺物?」

「単純に言えば姿形が完全に残ってる聖遺物の事さ。そいつらが纏ってるシンフォギアに入ってる聖遺物の欠片なんかよりも強力だが、動かすための動力が必要になる」

「それとライブになんの関係がある……むしろなんでそんなものをアンタが持ってる」

 私の問ににネフシュタンの少女は肩を竦める。

「関係あるんだよ、完全聖遺物を起動させるためのエネルギーに必要なフォニックゲイン、それを発生させるもの、それが歌だからさ」

「歌……まさかあのライブが起動実験だっていうのは……ライブの裏でそれを起動させるための隠れ蓑だってこと!?そのせいで私の親友は!!」

「まぁノイズの襲撃が作為的か自然発生なのかはしらねぇがな、が、失敗でもしたらノイズが無くても最悪ライブ会場がオジャンじゃ済まなかっただろうがな」

 その一言で私の腸が煮え狂うのが自覚できた。そして

「――retaliation fragarach tron」

 

 

 

 目の前で聖詠を歌う御影の姿に、私は嫌な気配を感じた。

 殺気なら分かる、二年前の不始末で私を恨むのなら仕方ないことだということも、納得はできなくとも理解はできる。

 が、それ以上に何か、なんとも例えようができない感覚が私を襲ったのだ。

 そして現れた漆黒のシンフォギアに、まるで担ぐように持つ巨大な大剣、私の蒼ノ一閃を放つときの剣並に巨大なそれを片手で持つ御影の姿はまるで狂戦士のようだった。

「――キヒ」

 だが、その洩らした言葉に違和感を覚えた。まるで歪んだように嗤う表情は、纏う前の鬱屈した暗い表情ではない。

「御影……!?」

 声をかけた次の瞬間、たった一度の踏み込みで私の側まで飛んできたかと思うと、その手に持った大剣を振り回してきた。

「ぐ!?」

 慌てて防ぎ後ろに下がると、御影の表情はさらに酷く歪んだ。

「キヒヒ、流石は風鳴翼。()()()の攻撃ぐらい簡単に防げますよね」

「貴様……御影ではないな、何者だ!!」

「何者って酷いですね、私は私、御影加古以外に違いないじゃない。もっとも」

 加古の意識は今はありませんけどね、そう言う目の前の奴の言葉に私は眉を潜める。

「どういうことだ」

「うーん、なら自己紹介したほうが早いですね。そっちのネフシュタンちゃんもわけわからないって表情してますし。私としてはそんな表情してる彼女も好きなんですがね」

 そう言って剣を地に突き刺した彼女はまるで退屈そうに、

「ワタシの名前は()()()、このギア『神剣フラガラック』の本来の持ち主であり、今は『フラガラック』に宿る神意(AI)です」



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永劫

 梔永久は所謂転生者と呼ばれる存在だった。別に転生トラックやらなんやらをしたわけじゃなく、ただの不摂生……オタサーの姫とか言われてチヤホヤされていたらいつの間にかアル中になって死んだただの一般人だ。

 別段その事に後悔もなにもないし、転生されてもただただラッキーとしか思わなかった。小学校入る直前に見たそのニュースを見るまでは。

 ノイズという存在を知り、永久は狂気を感じた。なぜ自分なのか、なぜモブに優しくないとまで言われるほどの死亡リスクの高いシンフォギアという世界に産まれたのか。

 しかもご丁寧に生まれたときから持っていたペンダント……シンフォギアのペンダントという存在を持たされた私はふざけるなと嘆いた。なぜ自分があんなバケモノと戦うことになるのだと。

 確かに死ぬ前は歌手を目指して頑張った、だからってこんな戦場の最前線で歌って戦う度胸なんて私にはない。

 悩み悩み悩み抜いて、私はとある結論に至った。そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。この時、まだ小学一年生。

 そこからは早かった。なんとなくで選んだ少女……御影加古と友人になった私は親友と呼べるくらいに遊んで、歌って、仲を深めた。ただ自分の代わりにシンフォギアを纏って戦って欲しいがために。

 けど、どうしてか時々自分の心が痛くなる感じがした。これは自分の利己的な為の行動だというのに、なぜ感傷的になる必要があるのか、と。

 そんなとき、加古とパルクールの練習(仮に目論見が果たせなかったとしてもの護身目的)の時、何の気なしに作詞してと頼んだその日、加古がリディアンに入ると知ったその時、私は大声で叫びたかった。

 行くな、死ぬつもりか、別のところがあるだろ、と。そこで私は気付いたんだ。私のなかで、加古がどれだけ大事な存在になっていたのかを。

 心のそこから大切な親友で、私が失いたくない大事なものだと、今さらになって気付いた。

 だから私は残したかった。私が側に居たという証を残すために、動画投稿サイトに自分達の曲をあげることで、自分という存在を忘れ去られないように、加古という存在が忘れ去られないように。

 けど、それでも無理だった。あのライブの日、私は自分のギアを纏って動けるくらいには努力した、だから加古を守るぐらいどうとでもなるって。

 そう油断して、実際に逃げて、けど加古を下敷く天井の崩落を私は庇うことしかできなかった。

 ギアを纏う聖詠すら歌えず、体の下半分を押し潰され、けど、それでも、大切な親友を守れた。それだけで充分だった。あぁ、こんなにも心が満たされたのはいつ以来だろう、と。

 だから、私は生き延びた加古に私の全て足り得るペンダントを渡した。少しでも加古がこの先生き延びれるように、そう思って渡したそのギアを持つ親友の顔を覚えれずに私の意識は儚く消えた。

 

 

 

 筈だった。

 ()()()の意識は残っていた。それもシンフォギアのペンダント、ワタシが持っていた、今は加古が持つペンダントにワタシは残っていた。

 なぜ、どうして、そんな疑問は長く続かず、ワタシは加古が受けた地獄を共に見た。

 いじめなんて生ぬるい、そう呼べるほどの惨状を加古は一人で耐えた。幸い中三の時だからそこまで長く続かなかったけど、それでも、加古がリディアン進学を諦めるほどの地獄と呼べるには間違いなく凄惨だった。

 加古のお父さんたちも自殺して、本当に一人ぼっちで生活してる永久を見て、それでもワタシは安堵していた。これならシンフォギア装者や突起物の連中と関わることはない、そう安堵してた。

 時は経って、加古がいつもの場所、ワタシたちの思いでの展望台で何時ものように作詞をしていたときだった。

 鳴ったのだ、あの恐怖のサイレンが、ノイズ襲撃のその知らせが。

 いや、知らせだけじゃない、加古の目の前に群れをなして現れたその存在に、加古は逃げた。逃げて逃げて、けど、追い詰められて諦めた。

 だからワタシは、聞こえないと思いながらも叫んだのだ

 

「生きるのを諦めちゃダメだよ、加古ちゃん!!」

 

 次の瞬間、弾かれるようにワタシの視界が真っ白になると同時に、ワタシが忘れていた重みのようなものを感じた。

 まさかと思い見たのはノイズと、自分の意思で動かせる腕。間違えるわけがない、今の私は加古の体を操っているのだ、と。

「……キヒヒ」

 嗤うしかなかった。無意味に、無価値に、本来なら存在すらしなかった(モブ)が、親友の体を使ってとはいえ、親友を守ることができる、その狂喜が堪らなく嬉しかった。

「さぁ、殺戮の時間だ、雑音風情が!!」

 取り出したアームドギアたる大剣を振るい、目の前の雑魚ノイズを吹き飛ばす。

 後悔はある、けど、その全てがこの一瞬のためならば、ワタシはその全てを受け止める。

無価値と決めた 誰かのため

 ワタシの全てを 賭けて守ろう

 自然と漏れ出る魂の歌に、沸き上がる力はまるで二人分、ワタシと加古の二人の二重奏はまさしく一人で歌った時よりも強くフォニックゲインを高める。

君が怒るというなら ワタシはそれを包もう

 そのために ワタシは今再び ここに立つと決めたのだから

 腕に持った大剣をぶん投げ、ブーメランのように斬り飛ばす。

 ―ƎᗡU⅃ЯƎTИI・oƚ・ИЯUTƎЯ―

 戻ってきた大剣を掴むと、私は背中に意識を集中させ、刃によって翼を作り、軽く飛び上がる。

幾らの詞を生み出でようとも

 君の歌を 聞けぬのなら

 全て 意味がないのだ

 そして大剣を握り直し、産み出したバーニアを吹かして真下へ急降下――

だからここに誓おう

 勢い諸とも地面に刃を突き立て、産み出された衝撃波を残るノイズの全てへ叩き込む。

貴女を守る刃となると 永久に

 ―ƎᗡU⅃ЯƎTИI・oƚ・TƆAꟼMI―

 

 

 

「キヒヒ、これで加古は大丈夫だよね」

 戦い終わって、アームドギアを解除した私は揺れる木々にそう呟く。

「大丈夫だよ、加古。ワタシが加古を守るから、もう加古を誰にも傷つけさせないから」

 だから

「加古の歌を、安心して歌って聞ける世界にワタシがするんだ。まぁ、ワタシが楽しみながらだから、もしかしたら時間は掛かるけど」

 一度死んだワタシ(モブ)だから、もう誰にも負けない、負けるつもりもない。全ては加古の安寧のために

「これからもよろしくね、加古ちゃん」




神剣・フラガラック
作詞 ドロイデン
歌 梔永久、御影加古

無価値と決めた 誰かのため
ワタシの全てを 賭けて守ろう

もういない ワタシだからこそ
君の過去を 照らす光でありたい

君が怒るというなら ワタシはそれを包もう
そのために ワタシは今再び
ここに立つと決めたのだから

幾らの詞を生み出でようとも
君の歌を 聞けぬのなら
全て 意味がないのだ

過去に縛られ 未来を閉ざした
復讐だとしても
君が望むなら それでいい

だからここに誓おう
貴女を守る刃となると 永久に

――――――――――――――――――――――――

正直二番までは思い付きませんでした。

なおフラガラックの本来の特性……つまり永久が生身で使う場合は『超高速演算』(本編二話のジャミングはこれの副産物)ですが、本編以降ではこれに『二重奏(デュエット)』が含まれる形になります(能力的に言えば一人ユニゾン状態です)


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二重に奏で

「御影の親友……だと」

 目の前に立つ黒いシンフォギアの言った言葉に、私は思わず繰り返した。

 情報によれば御影の親友……梔永久はあの事件の際に瓦礫の崩落に巻き込まれて死亡したとなっていたはず、だというのになぜ。

「言っても意識だけだけどね、フラガラックは神の意思を持つ剣、加古に渡す直前まで装者だったワタシの意識がAI化しても不自然とは思わないよ」

 よっ、と見ただけで重量のある大剣を片手で軽々と振り回しジャグリングのように何本も生み出して扱うその姿は、正直狂っていると言っても外れてない気がした。

「……ならば問おう、そのシンフォギアをどこで手に入れた、一般人が聖遺物を持ってるなど不自然しかない」

「さぁね。ワタシとしても生まれたときからあったからどうこうってのは知らないし、仮に知ってたとしても教えるつもりはないよ」

「なに?」

「だってさ――」

 そこで言の葉を続けず、振り回していた大剣を投げつけてきた。

「ぐ!?」

「――加古の事をいじめる奴は全員敵なんだから、さ!!」

 アームドギアで弾いた次の瞬間、先程よりも早い踏み込みで大剣を両手にそれぞれ持って振り回してくる。一撃一撃が致命的なほどの威力を持つ攻撃を、何とかアメノハバキリのアームドギア()で弾くが、技を圧倒的に上回る力で押し通してくる。

 さらに言えば

「アタシを無視してるんじゃねぇっての!!」

 ネフシュタンの少女さえも乱入してきて、振り回す鞭を避けつつ大剣を弾くのはさすがに無理がある。

「翼さん!!」

「来るな立花!!」

 あの子が参戦してこようとするのを私は声で押し止める。

「けど2対1じゃ」

「二人とも立花の思ってる以上の強者、新米が入っても邪魔なだけだ!!」

 それに、

「2対1じゃねぇ!!三つ巴だぁ!!」

 ネフシュタンの少女の攻撃は御影……もとい梔の方にも向かってるが、それも圧倒的な力ではね除け、逆に梔の必殺の一撃も、ネフシュタンの少女は危なげなく回避してる。

 一進一退、どこかが崩れただけで崩壊する危ない戦場、対処のひとつでも間違えば大怪我は必死。

「ならば!!」

―千ノ落涙―

 一旦距離を取り得意の技の一つで手数を通す。

「ここで範囲技を使う?」

「ち、ピーチク五月蝿い技を!!」

 対個人には向かい技だが、少しでも足を止められれば、

「やぁ!!」

―蒼ノ双閃―

 一撃の技で伏せさせる。

「そんな大振りの一撃!!」

「ちょっせぇんだよ!!」

―ƎᗡU⅃ЯƎTИI・oƚ・ИЯUTƎЯ―

―NIRVANA GEDON―

 私の放った青い斬撃2つはそれぞれの技で相殺され、互いにその場所から少し後退する。

「ち、余計なことしやがって、私の邪魔をするってのか」

「キヒヒ、別にアンタの目的があるならこっちに構わなくても良いのに。どうせ私は楽しめれば良いから」

「ふーん、なら……そうさせてもらおうか!!」

 その叫びと共に持っていた杖を翳すと、

「な、ノイズが!!」

 流れた光の場所からノイズが出現し、下がっていた立花を囲んだのだ。

「アンタが主役だと思いがってたか!!アタシの目的は、そこの世間知らずなんだからな!!」

「なんだと!?させるもの……っ!!」

 そう言って離れようとするネフシュタンの少女を追おうとするが、それを邪魔するかのように梔は剣を振るってくる。

「キヒヒ、アタシから目を反らすなんてさせないよ、歌姫さん」

「貴様、なぜ邪魔をする!!」

「別に深い理由なんてないけど?強いて云うなら、ここで釘付けしとけば絶唱を使う暇を与えなくて済むから、ね!!」

 振り下ろされる剣の一撃をかわし、蒼ノ一閃を放つことで距離を取ろうとするが、

「そんな威力、屁でもないんだよ!!」

 なんと梔は拳を握り、殴り付けただけで蒼ノ一閃を吹き飛ばし、

「そんなに助けに向かいたいなら、これでも食らって吹き飛びな!!」

-ƎᗡU⅃ЯƎTИI・oƚ・HƧA⅃Ƨ-

 光の色こそ違うが、私の蒼ノ一閃と同じように斬撃を飛ばしてきた。

「ぐ、うぁぁぁぁぁ!!」

 踏み込み、踏ん張ろうとしたが私の蒼ノ一閃とは比べるべくもないほどの苛烈な一撃にあっさりと吹き飛ばされた。

「ぐ、絶唱を使ってないというのに、なんていう威力」

「当然だ、ワタシは一人にして二人、加古にして永久、フォニックゲインは並みの装者の二乗なんだから!!」

 普通の人の二乗、なるほど、そういうことならば話は早い。

(立花は……)

 ちらりと確認して見れば、ノイズの出した粘液のようなものに捕まってしまった立花と、それごとあの鞭で縛ったネフシュタンの少女の姿があった。

「……っ!!」

 再び飛び上がり、千の落涙を二方向に振り下ろす。

「キヒッ、自棄っぱちになって考え無しですか?」

「いまさらそんなへなちょこが食らうかってんだ!!」

 二人は当たる攻撃だけを鞭で弾く。が、

「な、体が」

「いったいこりゃ!!」

 それこそが狙い。

―影縫い―

「捕まえた」

 動きを止めたとはいえ正直、どちらもすぐに抜け出してもおかしくない、だから

「立花!!何時でも受け身を取れる準備をしておけ」

「え、翼さん?」

「っ、まさか!!」

「コイツ!?」

 私の一言に気付いた二人だが、既に遅い。

「――Gatrandis babel ziggurat edenal

   Emustolronzen fine el baral zizzl

 自らの獲物を手放し、奥義にて仕る。それが防人として、今の私にできる最善手だから。

「翼さん!?」

 立花も何をするつもりか漸く把握したようだが、だからといって止まるつもりはない。止まれるはずもない。だって、

「――Gatrandis babel ziggurat edenal

   Emustolronzen fine el zizzl

 多分奏なら、私と同じようにここで歌う筈だから。




若干中途半端ですが、今回はここまでです。

なお技名が反転してるのは仕様です。後で他の話の技名もこのように変更しておきますので悪しからず


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知るべきこと

 放たれた絶唱の衝撃は、その場の全てを破壊するほどの衝撃を発生させ、ノイズだけでなくネフシュタンの少女を撤退に追い込み、梔永久を気絶させるほどの威力を放った。

 が、その代償はあまりにも大きく、翼は全身から血を吹き出し、無事なんて部分はまるでなかった。

 この日を境に、立花響は少しずつだが変わっていくことになった。翼の生きざまを知り、自分の意思を貫く強さを求め、司令こと風鳴弦十郎を師匠として鍛えていく。自分に足りないものを補うために。

 では御影加古のほうはと言えば

「聞かせてください緒川さん、なぜ翼さんは私を選んだんですか」

 特異災害機動本部二課……通称突起物の一室にて気絶した自分を寝せていたベッドに座り、目の前の風鳴翼のマネージャーを問い詰めていた。

「それはどういう意味でしょうか?」

「そのままの意味です。前報酬が美味しすぎて気にしませんでしたが、この前の翼さんの戦場を見れば幾つかおかしいところが多い」

 私のその言葉に緒川は眼鏡を外し、近くの椅子に座ると、話の先を促す。

「まず1つ、私の動画を見て、尚且つ私がシンフォギアの装者とやらだとして、あのもう一人の娘のことを無視していた翼さんが私をユニットメンバーに選んだこと」

 幾ら翼さんの目に止まったとしても、あそこまでギラギラした翼さんが、素人に毛が生えた程度の私を歌姫のパートナーに選ぶなどありえない。

「2つ、さらに私の過去……つまり二年前のライブの件を知っていたのなら尚更」

 あの事件の主犯がノイズだとしても、元凶は彼女が所属していた組織が行っていた実験だ。知られれば敵に回るかもしれないのになぜという疑問は尽きない。

「3つ、なにより、自らを剣と研ぎ澄ますほどにギラギラしていた翼さんが私に眼をつけた理由がわからない」

「なるほど」

 そこまで言うと緒川はため息と共に加古のことを見る。

「そういうことならお教えします。というより、翼さんからも聞かれれば教えていいと言われてましたから」

「……予見してたんですか?」

「なんとなくだとは思いますが」

 それを皮切りに緒川は話を始めた。

「翼さんが貴女を選んだ理由、それを話すにあたってまずは天羽奏さんという人物の事を話さなければなりません」

「奏さん……ですか?」

「ええ」

 その前置きをすると、緒川の目はどこか遠くを見るような、悲しげな表情をするのだった。

 

 

「奏さんはあのライブより以前に行われた、ノイズに襲撃された聖遺物の発掘チームの唯一の生き残りでした」

 当時はまだ『ガングニール』と『アメノハバキリ』、そしつもう1つのシンフォギアが完成したばかりで、シンフォギアに使うことが可能な聖遺物の収集が数回行われていたらしい。

「それによって家族を喪った奏さんはノイズへの復讐を誓い、どうやって調べたのかシンフォギアの事を知り、我々の元に接触してきました」

「ノイズに……復讐ですか」

 さもありなんだとは思う。実際、もし私が目の前で永久をノイズに殺されていたのだとしたら、私はノイズへの復讐を考えていたのかもしれない。

 そう考えれば、奏さんと私は過程が似ているのだろう。性格のほうは真逆だけど。

「えぇ、結果として奏さんはシンフォギア装者となりましたが、翼さんとは違って第二種……とある薬を使うことでシンフォギアを纏えるというものです。さらに言えば、奏さんはその薬の被験者でもあります」

「!?シンフォギアって誰でも使えるんじゃ」

「そんなわけありません。響さんは例外ですが、本来シンフォギアは適合係数がしっかりとなければ起動できませんし、他人のギアを自分が使うこともできません。そういう意味でなら、加古さんの場合は運が良かったというべきかもしれません」

 その言葉に若干微妙に思いながらも納得できた。確かにそんなにほいほいと成れるようなら、今頃その存在をもっと公にしてもいいはずだ。

「シンフォギア装者となった奏さんは翼さんと共にノイズを倒していきました。そしてある時を境に、二人はツヴァイウィングとして活動を始めます。そこについては本人から聞くべきですので、僕からは何も言いませんが」

「……そしてツヴァイウィングとしての活動から暫くしての、あのライブ襲撃ですか」

「そうですね、奏さんはあの事件で響さんを守り、そして救うために、LINKERを……シンフォギアの適合係数を引き上げる薬を使わない状態で無理に絶唱を歌った」

「使わなかった……ですか」

「えぇ、ライブのために使ってなかったことが災いして、奏さんは無茶を通して戦ってました」

 もし薬を使って全力の状態ならとも言うが、結局はたらればなので一先ず捨て置く。

「その後は翼さんは暫くは歌手活動を止め、ノイズ打倒のために奮起しました。自分が弱いせいで奏さんを死なせたと、遮二無二と戦ってきました」

「それは……」

 なんというか、翼さんの行動に理解できてしまった。というのも、方向性の違いはあるけどその行いは正しく

「私と同じ……ですか」

 そう、自分のせいで永久を失い、永久との繋がりを忘れたくないがために続けてきた音楽投稿と同じだった。

「えぇ、だからこそ翼さんは加古さんのこと信頼できた。奏さんと似たような過去を持ち、翼さんと同じく友を思う気持ちを持つ貴女を」

「……けど、それでもなんで私のことをパートナーとして」

 私がそういうと、緒川さんは懐からタブレットを取り出すと、とある画面を開いて私に渡してくる。

「これ……」

「あなたが投稿した音楽の全てです」

 そんなこと、言われなくても分かる。だからどうしたのかと思ったが、それはすぐに気付いたその事によって有耶無耶になった。

「ダウンロードされてる……しかも一番最初の日付は……私が一人で初めて投稿した日」

 その日は両親の自殺から暫くして、リディアンへの進学を諦め、卒業式から一人で帰った私が、何となくで投稿したものだ。

 歌詞は勿論、曲も今見ればちぐはぐなあの歌が、投稿して数日で恥ずかしくなって削除したはずのそれが、なんと投稿したその日のうちにダウンロードされていたのだ。

 いや、それだけじゃない。その後の曲も投稿して二時間以内にはダウンロードしていて、それまでの曲も全て再開したその日のうちに入っている。

「これって」

「翼さんは貴女の曲のファンだったんです。偶然開いたサイトで聞いたその時に聞いたその曲が、大切なパートナーを失った、同じような存在が歌を歌っている。それに何となく気づいて翼さんは音楽の世界への復帰を考えたんです。自分の夢とそんな夢を応援してくれる人のために」

 言われてみれば翼さんがソロアーティストとして復活したのは、私がこの曲を投稿して二週間後。そしてその時の曲をもって歌姫という称号を翼さんのものとした。

 あの裏にはそんなことになっていたなど知るよしもなかった。

「貴女が装者と知った時も翼さんはかなり動揺しました。まさか自分が応援していた相手がシンフォギア装者で、かつ自分達とは一緒に居ないと突っぱねたなんて」

「当然でしょ。国がもっと対応を……ノイズの襲撃に関する実際のことを早く報道してくれてれば、両親は自殺なんかしなくても済んだかもしれない」

 まぁ最も、たとえそうだとしてもマスゴミがあることないこと書きまくるだろうから、どっちにしろだったかもしれないが。

「だから翼さんは、自分のユニットパートナーとして、尚且つ一緒に生活させれば、加古さん、貴女を無闇に戦わせずに済むうえ、こちらでも自然と守れる、何より僕も翼さんの部屋の家事をしなくて済むし、翼さんは同年代交流もできると一石四鳥だったわけです」

「おいこら」

 さらっと自分のことを入れてるな、コイツ。まぁ正論と言えば正論だけど。

「……それならその事を最初から話せば良かったでしょ。そうすれば受けたかは別問題として報酬で釣るよりはまだ」

「組織や権力が嫌いと突っぱねたのはどちらでしたか?」

 その一言に何とも言えなくなる。

「まぁそれはそれとして、本人はそれを知られるのが恥ずかしく、しかも事件での負い目もある、だから偶々を装うように僕にお願いしたんです」

 唖然とした。そんな夢物語みたいな話が本当に存在するのかと疑いもした。だがその日付は間違いなく本物で、なにより、削除したはずのその曲が真実だと肯定していた。

「……加古さん、ここからは僕の意見ですが、翼さんは多分、貴女のことを皆に認めさせたかったんだと思いますよ」

「……」

「実際のところ翼さんは貴女の親友があのライブ事件で亡くなった事は情報としては知ってますが、その後の事はしりませんし、我々も教えてません。何よりどうして亡くなったのかも伝えてません」

 その一言に私は何も言えない。

「それでも翼さんは、貴女の歌と、加古さんと暮らした数日で大体のことを察してました。だからこそ大勢の前で認めさせたい、彼女はこんなにも素晴らしい歌い手なのだ、と」

「……結果論ですよ、それは」

「確かに結果論です。ですけどもう1つ理由がありました」

 ――ファンとして、芸能界の先達として、後輩を支える義務がある。

「……ハハ」

 なんだそれは、その思いと裏腹にどこか高鳴る鼓動は、どこか高揚感にも似ていた。

「分かりました。ならこれ以上は何も言いません」

「……そうですか」

 そう言って緒川さんは退出しようと立ち上がり、

「一応契約した立場ですから、仕事はちゃんとやりますよ。作詞も曲作りも……ノイズ討伐とやらも」

「!?」

「勿論基本的に目の前に出てきた相手だけですが、翼さんがICUにいる以上、あの新人だけで回せるものじゃ無いんでしょ。仕方ないので()()として手伝いますよ、ちゃんと報酬はもらいますけど」

「あくまで国家権力に属するつもりはない、ですか」

 そういうことです。そう伝えると私はベッドから立ち上がり、

「私の歌は高くつきますよ?」

「……具体的には」

「そうですね、一先ず暴れても誰も来ない土地を貸してもらえると助かります」

 シンフォギアの訓練は自分でやる、そのついでに

「勝手に人の体を使った親友へ、折檻してやらないといけないので」



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