EverythingOK. (詩夜さん)
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第1話

「蘭、聞いた?外部受験の子の中にあんたと同じ蘭って子いるんだって」

「入学式で少し見たけど小さくて可愛い子だよね。仲良くなれたらいいなぁ。同じ名前の子ってなかなかいないだろうし」

 

 

米花保育園さくら組の時から仲の良い幼馴染である鈴木園子、毛利蘭はクラスを確認するためにクラス表の前で立ち止まる。工藤新一は、彼女たちからく少し離れたところで中学からのサッカー部の級友と共にその場を立ち去った。

 

新学期、一部を除いては小学校からほぼ内部進学のため代わり映えのしないなかの楽しみは、外部からの受験してきた子が入ってくること。だから、内部生は外部生の子達の情報は素早く伝わるものだ。

神奈川からわざわざ受験してきた四人組の情報は園子の興味を引いた。

 

 

「わたし、聞いちゃったんだけど新一くんと同じ成績の男の子もいたみたいでさ、これはますます誰かさんたちと同じだなって思ったわけよ〜」

 

 

 

情報はまだまだあるんだけど〜と言いながら園子は蘭を連れクラス表の前から離れていく。

毛利たちの後から、少し小柄な四人がクラス表を見ようとぴょんぴょん飛びながら自分たちのクラスを探す。

 

「冴子、翠、見えるー?」

「だめ、届かなくて見えない。留衣くんはどう?」

 

 

女の子3人よりは少し大きな留衣は、背伸びをして、自分たちの名前を表から探す。あ行である自分たち幼馴染3人はすぐに見つけた。名波の字がなかなか見つからない。

 

「えっと、……四人ともB組、かな」

 

やったぁ!と磯崎蘭は声をあげて、翠と冴子に飛びつく。留衣はその光景を見て微笑んだ。

 

 

留衣は、この3人の中では他の人よりは素でいられる。

さくら幼稚園パンダ組の頃から一緒だった自分の中で大切な存在である磯崎蘭や蘭と同様に幼稚園からの伊藤冴子、中学一年の春に知り合った大阪弁を話す名波翠。

 

 

明るくて、お人好し。正義感のある優しい女の子の蘭を放っておけないのは留衣だけではなくて。翠や冴子も蘭が大好きだ。

 

 

「名波さん、蘭の親友は私だから。負けないからね」

「望むところや、一緒にいる時間は長くてもソウルメイトはうちなんや。負ける気せぇへん」

 

 

まあまあ、と蘭は苦笑いしながら二人を宥める。どっちも、大好きな親友だ、どっちが一番好きとか蘭は決めたくないのだ。

喧嘩している二人はそのままにして、蘭は留衣の手をとる。

 

「お先〜、私と留衣先行ってるからねー!」

 

 

置いてかないでよ、と冴子と翠は少し笑って二人の後を走ってついて行った。

 

 

教室に入ると、名簿が貼られておりその順に席が振られている。

綾瀬留衣は、一番前、磯崎蘭はその後ろ、伊藤冴子はまたその後ろ。

脇に鞄を掛けてから、席に着く。 そういえばさ、と呼びかける磯崎の声に留衣はうん?振り向く。

 

 

「名簿順だと私たち前になっちゃうのちょっとやだよね。自己紹介とか一番最初に考えなきゃだし」

「蘭は、自己紹介考えた?」

 

 

蘭という単語で、隣の背の高いクラスメイトがぴくり、と肩を揺らしす。

うーん… と少し磯崎は考え込む。

 

 

「部活はまだ決まってないし。今までやったことないのにしたいなって思うからなー。勉強頑張ります!くらいしか思いつかないんだよね」

「自己紹介って、難しいな……どうやって表現したらいいか分からない……」

「んー、留衣は得意な事とか趣味とかあるよね。それで十分だよ。

読書が好きで、絵が上手って十分に留衣らしさ伝わると思うよ」

「…ありがとう」

 

 

いえいえ、と磯崎が嬉しそうに笑うと留衣は少しだけ恥ずかしそうにはにかむ。気持ちはちゃんと言葉に出して伝える、少し気恥ずかしいが大切なことだと、留衣は思う。彼女たちに不思議な力があるからこそ、本音は言葉で伝えてほしいし、自分も伝えたいのだ。

 

 

とんとん、と軽く肩をつつかれ留衣はその相手を確認した。

隣の席の少し背の高い少年だった。

 

 

「あー…あの、すげえいい雰囲気の中悪いけど、おめー俺に新入生挨拶譲ったっていう綾瀬?」

「あ……あの……工藤さん?」

「そう。工藤新一。隣の席だし、これからよろしくな」

 

 

最前列に座る二人の男子の挨拶が終わるとちょうど担任の教師が入ってくる。

最初の授業は、教師、クラスメイトともに名前を一致させるための自己紹介。

 

 

「じゃあ、一番前の人から自己紹介しましょうか」

 

帝丹以外の子は出身中学と、高校で頑張りたいこと、ひとことをお願いしますね、と教師は付け足した。

一番最初、留衣は立ち上がってから言葉を探す。えっと、と小声でつぶやいてから深呼吸をして少し声を大きくする。

 

 

「綾瀬留衣、です。……神奈川の蔦野第3中学出身です………あの、頑張ります」

「同じく蔦野第3の磯崎蘭です。部活はまだ決めてないですが、やっと入れた高校なので勉強を頑張りたいと思います!」

 

 

留衣や磯崎から始まった自己紹介が終わると、授業や学校生活についての説明になる。

学校のシステムや、委員会。学級委員の推薦、色んな事が決まっていく。

 

「なあ、おめーらは部活とか入んねーの?」

「決めてないなら磯崎さん達、明後日からわたしと一緒に見学回らない?」

 

席が近い園子と新一は少し小柄なクラスメイトに積極的に声をかける。米花以外からの生徒で、輪に入りにくいだろうと。

磯崎は留衣、冴子の方をちらりと見て二人が微笑うのを見てから頷いた。

 

「僕は……入る部活、決まってるけど………でも、他も見てみたい」

「わたしは勉強に邪魔にならない程度の部活探したいな」

「冴子や留衣とかも一緒にいい?」

 

もち!と園子は指を鳴らす。

 

「あ、そうそう、みんなって神奈川住みだからこっちの事分かんないんだっけ?部活見学もまだだし案内しようっか?」

 

どうよ?と新一、その隣の留衣に問いかける。磯崎と冴子はすでにその気だったらしく、二人の返答を待つ。

 

「わーったよ、俺が案内してやる。園子の事だし、図書館とかの綾瀬が好きなそうなところすっ飛ばしそうだしな」

 

 

 

初日のガイダンス的授業が終わり、放課後。カバンを持って、教室を出ようとしていた蔦野組に園子が駆け寄る。

 

「磯崎さん、伊藤さん、名波さん、綾瀬くん校門前で待ってて!両親との食事とかは大丈夫なんだよね?」

「大丈夫〜。そうだ、席離れちゃって紹介できなかった親友も良い?」

「もちろん!こっちも席離れちゃった子紹介するしさ」

園子が紹介する新しい友達は、先輩に呼び出されて少し遅れる、との事。先に下駄箱前で彼女を待つことになった。

 

 

「そういえばさ、皆は昨日のテレビ見た?ほら超能力がどうのってやつ」

 

 

園子が問いかける。内容にどきりとした。

磯崎は親には不思議な力は言わないようにしている。がなんとなく察している気もするのだ。今まで色々あったのだから推理作家、ホラー作家という肩書きを持っている以上なにかしら気づいている可能性は高い。

 

 

超能力なあ、と新一が呟く。

「超能力ってさ、現実味ねえけど実際海外だと捜査とか考古学の研究使われてんだよな……おめーらはどう思う?」

 

 

問いかけられ、磯崎たちは少し考え込む。現実味ないよねー、と話を合わせようと、磯崎が口を開こうとした時、翠が「もし、」口を挟んだ。

 

 

「もし、もしの話です。私たちの中にテレパシーとかそういう能力使える人がいたら工藤さん達はどうなさるの?」

まだ彼らに心を許していない。翠の関西弁は封印されている。

これは磯崎や翠にとって賭けだった。新しく友達ができるかもしれない、しかしその友人たちが自分達の能力を見て気味悪がるのでは無いか、そんな恐怖があった。

 

 

「もしもの話だろ?別に悪い事しねーんだったらいんじゃねえの?

まあ、俺が持ってたら、ちょっとつまんねえけどな。だって推理する前に相手の心読めたり、事件現場がそのまま頭ん中出てくるのって面白味がないだろ?」

「私も別にいいんじゃない?別にそういうのって個性だと思えばさ 」

 

園子もニッと笑った。

少し、ホッとした。ここで、気味が悪いとか変だとか、マイナスなことを言われればこれからどう接したらいいか分からなかった。そう話していれば、向こうから黒髪の少女が駆けてくる。

 

「あれ、園子がもしかして紹介したい子って名波さんだったの。」

「鈴木さんが紹介したいの、毛利さんだったんだ」

お互いが、お互いの親友を紹介する。

「あたしの親友毛利蘭、美人で空手の達人なのよん」

 

 

よろしくね、と磯崎に笑いかける少女は同い年なのに少し大人びて見える。

サラサラの黒い髪と、すらっと伸びた手足に、自分よりも何倍もある胸の膨らみ。特徴は翠に似ているような気がする。がまとう雰囲気から全然違う。優しいふわふわしたいい香りがしそうな女の子だ。

 

 

それに比べて、と自分の体を見下ろすとため息が出てしまう。

子供みたいに小さい背、中学よりは大きくなったけれどまだまだ未発達な胸の膨らみ。 陸上部ゆえの日焼け止めを塗っても焼けてしまった少し色の濃い肌。

 

 

落ち込んでいると、目の前に毛利の姿がある。きらきらした表情で、こちらを見ていて。

 

 

「かっ、かわいい〜〜っ!ね、ちょっとぎゅっとしてもいい?」

「へ……どうぞ!」

 

ばっ、と腕を広げてみると、毛利は磯崎とぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「びっくりしたよね、ごめんね。可愛くて思わずぎゅっとしちゃって」

「大丈夫大丈夫!ちょっと驚いたけど、おかげで毛利さんと仲良くなれる気がしてきた!」

「よかった〜。あ、私蘭ちゃんって呼んでいいかな?」

「じゃあ私も蘭さんって呼ぶよ!」

 

 

 

よろしくね、と手を差し出されて握手をする。温かい手は自分よりも少しだけ大きい。

同い年ではあるがお姉さんのような雰囲気がある毛利と合流し、学校の周辺と彼女たちの家を中心に案内することになった。

 



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