問題児が日常を過ごしたかったようですよ (たこ焼き屋さん)
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人生最後の平和

「あぁ暇だ。暇すぎて、暇が売れれば一儲けできるぐらい暇だ・・・・・・」

 

 

 

 少年は本来は閉鎖されている駒王学園の屋上にて、寝そべりながら呟く。

 

 現在の時刻十一時三〇分。あちこちの教室からは教師の授業を進める声や発言する生徒の声、校庭では声を出して走る生徒など授業に勤しんでいる。

 

 だと言うのに春特有の涼しく撫でる風に当たる少年──兵藤一誠は当然のように授業をサボっていた。

 

 母親譲りの茶毛は風の指示通りに靡き、空から降り注ぐ太陽はきめ細かい肌を鮮やかに照らす。黄金に輝く瞳は太陽を直接見つめるも眩しいと顔を逸らすことは無い。

 

 

 

 ガチャガチャ。屋上と校舎を繋ぐ唯一の出入口のドアノブが何度も捻られるが、鍵が空いて居ないのか耳障りな音だけが鳴る。

 

 それが意味するのはドアの鍵が掛かっているという事、しかし一誠は鍵を持っていない。そう一誠は唯一の出入口たるドアを使わずに屋上へと忍び込んだのだ。

 

 

 

「そこにいるのは分かっています!無断で立ち入り禁止の屋上へ侵入するのは私達生徒会が看過できません!」

 

「随分と肩苦しいな、もっとフランクに行こうぜ生徒会長様よ」

 

「やっぱり貴方だったのですね兵藤一誠君」

 

「これは光栄だな、駒王学園の生徒会長様の蒼那先輩」

 

 

 

 鉄のドアを一枚挟み向こう側にいるのはこの学園の生徒会長たる支取蒼那だった。

 

 学年は一誠の一個上の三年生にして、二年連続で生徒会長を務める超絶優等生。学園の風紀が乱れる事を嫌い、校則を一字一句間違えなく覚えている変態までの性格をしている。

 

 この学校には三人の問題児がいる。二人は覗きや盗撮などの常習犯でありながら、親の権力により退学にする事ができない。そして、後の一人は授業をすぐにサボり屋上へと侵入する兵藤一誠である。

 

 その三人が何かしら問題を起こす度に胃を痛めるのは蒼那である。今回も授業を欠席していると伝えられ授業をわざわざ抜けて屋上へと来たのだ。

 

 

 

「にしても良いのかよ。真面目な生徒会長様が俺なんかのために授業をサボってさ」

 

「問題ありません、授業の予習や復習を忘れた事はないので、一度や二度欠席した程度で遅れるほどの学力ではないので。

 

 それに貴方と会話を出来るのは私ぐらいでしょうから」

 

 

 

 その言葉と同時に鉄のドアは鍵を使い錠が開けられ開かれる。

 

 太陽の燦々とした光がドアと壁との隙間から注ぎ込まれ、春を誘う風の匂いが鼻腔をつく。

 

 

 

「で、なんでまたこんな事を?」

 

「別に関係ないだろ・・・一々答える道理がない」

 

「あります、貴方はどんな問題児だったとしてもこの学園の生徒。であるならば私の家族も同然、親身になるが普通です」

 

 

 

 全生徒を家族と言い張る蒼那の顔には一切嘘を付いている様子はなく、本心からそのように豪語しているのだと分かる。

 

 

 

「ヤハハハハ!ほんと物好きだよな生徒会長様はよ。まぁ、今回は大人しく従ってやるよ俺の唯一の理解者だからな」

 

「えぇそうしてください。そうだ今日のよ──」

 

 

 

 蒼那が手を叩いて一人寂しいであろう一誠のために晩御飯に誘おうとしたが、それを聞く前に一誠は屋上を一巡して囲っている金網から外へと飛び降りた。

 

 ドアを使わずに屋上へ入る方法とは、校舎を駆け上がり金網を超えると言う事であった。

 

 だが、人間の身体能力にそのような事ができるわけが無い。海外で活躍するバスケ選手やバレー選手ですら二階校舎の天井を触れる程度だ。だと言うのに一介の平凡な高校生たる兵藤一誠がそんな事出来るのか?

 

 問いに対しての答えはYESである。一誠は地面を蹴るだけで一気に屋上まで飛び上がる事が出来、帰りも勿論命綱無しで飛び降り傷一つなく生還できる。

 

 現に屋上から飛び降りた一誠は小さな砂煙を上げて地面へ着地していた。足を僅かに曲げ、それこそ階段の一段から飛び降りたように軽々着地を成功させている。

 

 そのまま誰に声をかけるでもなく、手を軽く降って校舎の中へと入るため下校口へと足を向けた。

 

 その光景を見ていた蒼那は、

 

 

 

「全くもう・・・またそうやってはぐらかして・・・・・・私はこんなに貴方の事を」

 

 

 

 頬を赤らめ胸に手を当てて呟く。それは恋する乙女のようだ。

 

 んんん。と顔を横に振り邪念を身体から追い出し、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

 

 

「次は次こそは一誠君って呼ぼう」

 

 

 

 ぐっと強く拳を握り覚悟を熱く決めた。このような事を数年繰り返していると言うのに全く進歩していなかった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 つまらない授業が終わった。そもそも一誠が暇だと感じるのは代わり映えのない授業にあった。

 

 弱者によりそうために授業の進行は一番出来ない奴に合わせ、効率の悪い覚え方を教える教師陣。それが小中高と続けば嫌気も次第に刺してくる。

 

 一人で勉強した方が余程有意義で、時間の無駄とまで思っている。

 

 とは言え、蒼那の顔を立てて授業に出てきたのだから今一度バックれる訳にもいかなかった。

 

 空を見つめ、自由に飛び回る鳥に憧れを抱きながら時間を潰しどうにか放課後まで耐え抜いた。

 

 

 

「おーい!一誠一緒に遊ぼうぜ!」

 

「ん?あぁなんだ変態ド畜生か」

 

「なんだその超不名誉なあだ名」

 

 

 

 不名誉なあだ名だと言い張るのは例の問題児の一人たる元浜だ。

 

 眼鏡は不気味な輝きを放ち、鋭い眼光は常に女──獲物を狙うライオンのようだ。家系はここら辺では聞かない人は居ないほどの超名家だ。

 

 その隣で肩をそっと叩いている毬栗頭が畜生僧侶こと松田。

 

 松田は名家と言うよりは政権と強い繋がりを持っているのでと言った方が正確かもしれない。

 

 

 

「諦めろ元浜。強い心と慈愛の心があればあだ名など平気だ」

 

「くっ、なんと強い心!これが畜生僧侶の力か!」

 

「え、ちょっまって、今なんて」

 

「おい待てよ、俺が知ってるのは悪代官僧侶だぞ」

 

「それも関係ねぇぇぇぇ!」

 

 

 

 教室で騒ぐ三人。それに対して注意を行おうとする者はいない。教師や生徒は避けるように足速に出ていく。

 

 そんな中メガネをかけた金髪の三つ編み少女が遠くから何かを放る。

 

 一誠は気づいていたので首を僅かに動かすだけで回避するが、他の二人は一切気づかず思いっきり頭にトランプが突き刺さる。

 

 

 

「チッ・・・あっちゃーごめーん。間違えてトランプ飛んじゃった、めんごめんご」

 

「「てめぇ舌打ちしたろ!!桐生!!」」

 

「やーだケチくさい。そんなんだからモテな・・・ごめんね辛い事を聞いちゃって」

 

「「うぎゃぁぁぁぁ!!ぶっ殺す!」」

 

「何してたんだ?随分と教室を空けてたが」

 

 

 

 桐生藍華。その少女はある意味で三人の防波堤を成す存在でもあった。

 

 小中高とずっと一緒で同じクラスであったためか肩書きを気にしたりしないで、好き勝手に声をかけられる数少ない人物像。一誠に対してもその異常性をしりながらも平凡な高校生として接する事ができている。

 

 

 

「聞いたわよバカ二人、また覗き込んだって。その事で一々呼び出されるこっちの身になってよ、面倒いったらありゃしない」

 

「また桐生を呼んだのかよ」

 

「まぁ仕方ねぇよな。あのクソ親の元に産まれちまったのが運の尽きだからよ、だからまぁその点に関してはすまんな桐生」

 

「あらまぁ随分と素直ね」

 

 

 

 桐生はニヤニヤ笑いながら毬栗頭を撫で回し、焦れったそうに松田は頭を振る。

 

 彼ら問題児二人が問題を起こすのには正当とは言えないがある理由があった。

 

 二人の家の主──父親はそれぞれに厳しい躾を施した。それこそ名家や政界へ強い繋がりがあるので無様な姿を見せる訳にはいかないからだ。

 

 その身体には幾多の痣や傷が刻まれていて、夏場であろうと半袖にする事が出来ない。

 

 だからこそだ、反逆精神が募ったのは。

 

 小学六年生の頃、一誠と松田と元浜はとある大事件を起こす。学校に爆弾をしかけ、爆破すると親を強請ったのだ。

 

 反抗期にしては過剰な物だったが、今までの鬱憤が溜まっていたのか一気に吹き出し暴挙に出てしまった。だが、結果は爆弾はすぐ解体され、終いには学校の点検と称して一時休学にし問題を揉み消した。

 

 そこでタガが外れてしまった。何をしても何をやっても問題にはならいと。その後も犯行を繰り返し続け今はチンケな覗きや盗撮に収まっている。

 

 とは言え他の生徒の心を傷つける訳にはいかないと、全て未然に失敗させて事なきを得ている。

 

 そんな二人に教師達何も言えないなか、唯一友達として接することの出来る桐生に伝えられるのは至極当然の事だ。

 

 

 

「今度四人で飯いくか」

 

「一誠ナイスアイデア!寿司屋いくか寿司屋」

 

「はぁ?元浜何言ってんだよ、桐生居るんだったらイタリアンだろボケ!女はイタリアンが好きなんだよ」

 

「ぷっぷ、女もいないやつの意見誠に参考になります」

 

「はは・・・いい度胸だな、表出ろよ。キレちまったよ久しぶりによぉ」

 

 

 

 目からは火花が飛び散り、額をくっつけながら一矢乱れぬ動きで外へ走っていく。

 

 凡そ殴り合いの喧嘩をするのだろう。昔から意見が別れたり違ったりしたらこうやって喧嘩で方を付けてきた。

 

 

 

「いいの一誠?」

 

「止める理由はないからな。それにたまには発散も必要だろうよ・・・危なくなったら俺が止めるだけだから問題はない」

 

「それもそうね、けど後は私が何とかするから帰えっていいわよ。予定が決まったら連絡するから」

 

「おう、そんじゃな桐生」

 

「えぇまたね」

 

 

 

 満面の笑みで見送る。

 

 窓から入る光は桐生を背後から照らし、神の後光のように煌びやかに飾り、その美貌を高めている。

 

 並の人間、それこそそこら辺に歩いている歩行者ならば一目惚れだろう。だが、一誠は顔色一つ変えず頭を軽く数回叩いて教室を出る。

 

 

 

 

 

 教室を出て、下校口から校舎を出て校門へと足を向ける。すると視界の隅で人を見つけた。

 

 制服を来ていることから同じく高校生だと分かるが、駒王学園の物ではなく近場の別の高校だろうと結論づける。

 

 黒髪は光に照らされ手入れが行き届いているのか妖艶な色を放つ。僅かにテカるリップも禁断の果実のような力を感じた。

 

 

 

「あっ、やっと出てきた」

 

「俺に用か?随分と珍しいな」

 

「はいそうです。兵藤一誠君、好きです付き合ってください」

 

 

 

 少女は頭を低く下げて告白をしてきた。

 

 一誠としては断る理由はない。それこそ美人に言い寄られて悪い気もしないので「付き合おう」と返答する。

 

 その日人生で初めて彼女が出来、それを生徒会室から見ていた一人の乙女を奇声を上げて気絶する事件が発生したと言う。



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告白の余波

 

 電撃特攻の告白をした少女──天野夕麻とは放課後であったため時間も時間なので、帰宅のため別れる事になった。

 

 一応付き合うと言う事なので連絡先を交換し、夕麻は嬉しそうにスキップしながら帰って行った。その後ろ姿を軽くみ送り自宅へと戻る。

 

 自宅はありふれた住宅街にある、二階建ての一軒家だ。小さな庭に服が干せる程度の小さなベランダ。

 時刻で言えば五時ほどで、辺りも少し暗くなっている。普通であれば明かりが灯っていて、帰宅を心待ちにする家族がいるはずである。

 だが、電気は一つも灯っておらず、鍵穴に鍵を刺して開けると自分用の靴二足が玄関にあるだけでそれ以外はない。

 

「ただいま」

 

 その声に答える人物はいない。正確にいえばその家には一誠以外の人間が住んでいない。

 

 ドアを開けても目下に広がるのは暗闇。僅かな月明かりで物の位置がどうにか知覚できる程度。

 

 何度も通っている家の中であれば例え視界が悪くてもさほど問題にはならず、そのまま靴を脱いでリビングへと向かう。

 

 リビングへ入ってすぐに電気のスイッチを付け明かりを灯す。

 視界が二秒ほど光に包まれた後、視界は明瞭に殺風景なリビングを捉える。

 あるのは床に引かれたカーペットとソファーに小さな机と大型の薄いテレビ、それだけである。生活感がまるでないリビングだ。

 

「米は炊けてるな・・・昨日の残りの野菜と肉を炒めて、あ?醤油どこいった」

『ふぁぁ、しっかりしてくれよな相棒。眠い・・・・・・冷蔵庫の中に閉まったはずだ』

「お、役に立つな居候」

『居候言うな!俺だって好きで居るんじゃ無いんだからな!』

 

 はいはいツンデレ乙。心の中でツッコミを入れると共に、自宅での唯一の話し相手が目を覚ました事に気持ちが高まる。

 

「今日は何時間寝てたよ」

『半日以上だな、お前が告られた時は起きてたぞ』

「ほぉん」

『相棒にしては趣味が悪いなあんな鴉を女にするなんてな』

「またそれか」

 

 会話をしながらもテキパキと調理を進め、瞬く間に味噌汁と野菜炒めとご飯を器にのせソファー前の机に乗せ腰を下ろす。

 

「堕天使てか悪魔、天使の話だろ?信じろって言われてもな」

『ここに赤龍帝たる本人がいるのにまだ信じてないのか。やれやれ今年の相棒は随分と頑なだな』

「おいおい俺は一般的な高校生だ。そんな超常的な事を信じられるかよ、悪魔がいる滝とか侵入したが結局居ないし信じるだけ損だ」

 

 イグアスの滝──悪魔の喉笛と呼ばれる世界が誇る危険で美しい滝である。

  世界三大瀑布の一つとされ、常に大量の激流と轟音が発生している。人間が飲み込まれればまず助かることは無い。

 

 その光景などから悪魔がいるのでは?と言われていた。その言葉にワクワクした一誠は命を顧みず滝へ飛び込み、悪魔がいないと言う事を証明してしまった。

  人外であればこの身体能力にも多少は着いてこれるだろうと考えていたからこそ、かなり落ち込んだ。三日三晩寝込んだりしていた。

 

『とはいえなアイツは堕天使だ。それこそ相棒が探して探して見つけられなかった人外だ、もっと楽しそうにしたらどうだ』

「楽しそうね・・・この身体になって此方そんな事思った事は一度もねぇよ」

『まぁいい。あちらから近づいて来たってことはお前を殺す気のようだ。三下それも下級の堕天使事にやれる相棒でも無いからな心配するまでもない、だから俺はまた寝る』

 

 その言葉を皮切りに翌日の朝まで起きることは無い。

  食事を食べ終えた後は簡単に後片付けをして、風呂に入り日課の読書を終わらせてから就寝する。

 

 

 翌朝時刻は九時を回り、遅刻確定の時間。目覚ましは五月蝿いと寝ぼけて壊し続けてきたので寝室にはない。

 

『相棒朝だ。もう九時だ、遅刻するぞ』

 

 そんな仕事が出来るのは居候(ドライグ)だけである。

  オカンのような口うるさい言葉に起こされ若干不機嫌ではあるが、寝坊したこちらが悪いので大人しく布団から身体を出して、カーテンの隙間から入る日光に身体を伸ばす。

 

「んんっん・・・はぁっ・・・・・・学校行くの面倒いな」

 

  高校生や学生は毎日言うであろう文句を口にしながら顔と歯を洗い、制服を着て学校へと向かう。

  時間があまりないのでトーストした食パンを一枚口に加えて家を出る。

 

 

  家を出て数十分。太陽の黒点の数を数えながら歩いていると、前から歩いてきた白髪の男にぶつかる。

 

「おっとすまんな、大丈夫か」

「もちもち大丈夫よ!逆にこっちらこそ申し訳ねぇぜ」

「そうか・・・ん?神父か?」

 

 ぶつかった男は西洋人風の顔に神父のような長いローブの格好をしている。だがどちらかと言うと神父よりは祓魔師の方が近い。

  この真昼間に全身真っ黒はどこぞの剣士顔負けだ。神父と思ったのには男の格好よりは後ろの金髪の女性が見えたからに近い。

 

「あわわわえっとえっと、大変ご迷惑をお掛けします」

「いやいやアーシアちゃん。それ日本語的にはお掛けしましただな、それに言うの普通は俺っちだぜ」

「ヤハハハハ!気にすんな気にすんな、人間常に上を向いて歩くからな前なんて見ないもんだ」

「おっ、旦那いい事言いますね!俺っちもよくそう考えるんですぜ」

「ふぇ?」

 

  意外と気が合う二人の男をよそにシスターはなんでそうなるのか首をかしげている。

 

  ガシッと手を組み合うと同時にとある疑問が浮かんだ。白髪神父に金髪シスター、この地区には教会や聖堂は無かったはずなので場違い感がある。

  記憶を巡らせても寂れた教会ぐらいしか記憶にない。

 

「アンタ達はあのさびれた教会の使者か?」

「・・・んまぁそんなとこだな。本当は別のようがあるんだけど、それまでの暇つぶしで街を観光だな」

「観光か、ならそこを先に進んだ所にある商店街に行くといい。あそこは食べ歩きがし放題だからな」

「おっいい情報まじでたすかるぜ!旦那とは今後もいい付き合いが出来そうだ」

「俺も同じだよ、俺の名は兵藤一誠アンタは?」

「フリード・セルゼンあっちのおどおどシスターが、アーシア・アルジェントだ。よろしく頼むぜ旦那」

「おう。そんじゃな」

「ばいにゃらー」

 

  同気質の男と運命的な出会いを果たした一誠は、やはりいいことをするといい事が起こるなと関心しながらゆっくりと歩いて学校へと向かった。

 それにどこか今後も結構付き合いが長くなるような感じを覚えていた。

 

 



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悪魔の悲劇

 

 

 駒王学園の本棟裏にある旧校舎──オカルト研究部の部室では日夜悪魔達が闊歩していた。駒王町の管理者として人外を抑え込むため力を誇示し続ける赤髪の少女。

 

 その美貌は数多の男をウィンク一つで落としてしまう、まさに悪魔のような美貌を持っているリアス・グレモリー。

 

 

 

 冥界を支配する四大魔王の妹君にして、他の悪魔とは格段に違う特殊な魔力を持っているので実力も折り紙付きだ。そんなリアスは机に突っ伏しながらココ最近の激務の愚痴をこぼす。

 

 

 

「多いわ・・・なんでこんなに」

 

「まぁまぁ部長、随分とお疲れのようですわね」

 

 

 

 辺りに散々している書類の山を超えて現れたのはリアスの劣らずの美貌を持つ黒髪の少女──姫島朱乃だ。

 

 来ている服はピッチリと身体に吸い付いていてそのあまりある体型を惜しげも無く見せつける上に、一度微笑めば既婚者だろうと彼女が居ようと独身だろうと恋に落とすことは間違いない。

 

 

 

 二人は同じ駒王学園の三年生にして、知らぬ者はいないとすらされている二大お嬢様である。

 

 

 

 そんな二人が同じ空間にいるだけで学園の生徒が見れば卒倒物だろう。されどそこには唯一の男が騎士のように立っている。

 

 

 

「昨日ははぐれ悪魔を狩った後に契約者の依頼を数件解決してましたから、疲れるのも無理ないです」

 

「あら、そうなのね。私の方もはぐれ悪魔を退治したのだけど・・・出現数が多くないかしら?」

 

「確かに例年に比べると多いですが、誤差の範囲内だと思います」

 

 

 

 駒王学園にお嬢様が居るのならば王子様がいてもおかしくはない。

 

 日本人では似合わない黄金の髪が食パンとバターのように互いを高め合う相乗効果を産み、左目の涙ボクロがチャーミングポイントの少年、木場祐斗は朱乃に笑顔で返答をする。

 

 うふふ、ありがとうと相槌を返すように朱乃は返答すると淹れたての紅茶をリアスの前に置く。

 

 

 

「とりあえずこれでも飲んで落ち着くといいわ」

 

「ありがとう朱乃」

 

 

 

 ため息を吐きながら上体を起こし角砂糖を一つ加えて飲む。

 

 

 

「祐斗君はどう?」

 

「大丈夫です。そろそろ鍛錬の時間なので」

 

「分かったわ・・・で大丈夫なの?本当に大変なら休んでも」

 

「問題ない・・・と言いたいけどいい加減仕事が多すぎるわね、ソーナにも手伝ってもらいたいんだけど何だか別の仕事?が立て込んでるらしくてね・・・はぁ、せめて事務仕事が出来る人がもう一人居たらねって考えちゃうわ」

 

 

 

 湯気の立つ紅茶を机に置いて一息吐く。

 

 紅茶の一休みによって身体のある程度のリフレッシュが完了した。今日は学校もない土曜日だと言う事も大いに関係している。

 

 

 

 オカルト研究部には計五人入部している。その内一人は能力の危険性から封印されているので事務仕事を任せられない。

 

 他はとなると一年生の塔城小猫はそこまでの知識は無く、二年生の祐斗も同様だ。ギリギリ朱乃も出来なくはないが、及第点でありリアスとやれば足を引っ張ってしまうので参加はできない。

 

 そのせいもありしわ寄せがリアス一人に集まってしまっているのだ。

 

 

 

「そうだ、この後駅前のケーキ屋に行かない?イチゴのショートケーキが有名らしいの」

 

「そうね、祐斗も鍛錬で出ていくし気晴らしも必要か・・・おっけ行きましょ」

 

「ふふ、それじゃあ今から席の予──」

 

 

 

ピピピッ!

 

 これから出かけようとした時に町に起きた異変を告げるアラームが鳴り響く。

 

 

 

「これは、朱乃!地図を出して」

 

「ええ」

 

 

 

 朱乃は慌てて後ろの棚の引き出しから円筒に包まれた地図を取り出し、机の上に目一杯広げる。その地図は駒王町を記した物だ。

 

 市販で売られている物であり裏路地、新設された道路なども載っている完全版だ。

 

 その地図をリアスは覗き込むように見下ろし机の隅に置いてある赤い石を、地図の中心地点に設置し魔力を流す。

 

 

 

 赤い稲妻が迸ったかと思うと石はひとりでに動き出し一つの地点で停止する。

 

 

 

「駒王公園、直ぐに向かうわ!祐斗は小猫に辺りの警戒をするように連絡を、朱乃は私と一緒に来て」

 

「了解です」

 

「分かったわ」

 

 

 

 リアスの迅速な指示通り祐斗は電話でもう一人の部員の小猫へと連絡をし始め、リアスと朱乃は地面に展開した公園へと転移する魔法陣の上に乗る。

 

 魔法陣は二人が乗ると高速で回転を初め地脈を龍脈を読み取り光が包み──こまなかった。魔法陣はその稼働を停止させ転移魔法陣は起動しない。

 

 

 

「なっまさか結界ッ!!どこの誰、このタイミングで結界を使うなんて・・・ソーナからはそんな事打診されてないわ」

 

「となるとまずいわ。別勢力の介入の可能性が高い、急いで向かわないと」

 

「今書き換えてるから少し待って」

 

 

 

 人払いの結界及び転移無効の結界が公園を囲むように展開されているせいで転移が出来なかった。発生地点から離れたこの場所から結界を破壊するなどできる訳もなく、出来ることと言えば範囲外に転移する事だが、一体どれほどの範囲で展開されているのかが分からない。

 

 だからと言えど遠くに転移しては無駄であり限界ギリギリの範囲に飛ばねばならない、その事を考慮しながら計算していると──今度は結界が消失した。

 

 

 

「は?何が起きてるの、全然意味がわからない」

 

「これは戦闘かしら・・・この数分で戦闘が終わったとなると、情報が掴めなくなるわ」

 

「あぁもう!せっかく書き換えたのに!!祐斗連絡は終わったわね、なら一緒に来なさい」

 

「は、はい」

 

 

 

 せっかくの労力が無駄にされた事に怒りをあらわにし、原因が誰であれ捕まえて情報を聞き出さなければ虫の居所が収まらない。急いで設定を戻し転移魔法陣を起動させる。

 

 魔法陣は回転を始め魔力を放出、光が三人を包み込んで数秒も経たずにその場から魔法陣ごと姿が消える。

 

 残ったのはまだ暖かい湯気の立ち込める二杯の紅茶だけだった。

 

 

 

□□□□□□□

 

 

 

 リアス達が転移する事数時間前、私服に身を包んだ兵藤一誠は駅前で一人立って待っていた。

 

 

 

 この日、学校のない休日たる土曜日にカップル定番のデートに出かけることになった。数少ない友に彼女が出来たと報告した時は祝えや踊れやどんちゃん騒ぎになり、収拾がつかない惨事だったが特に問題はなかった。

 

 そして、カップルなのだからと夕麻の方からデートの誘いの連絡が飛んできて、断る理由も無いので了承し今に至る。

 

 

 

「ごめんなさーい。はぁ、はぁ・・・遅れました一誠君」

 

「ん、あぁ問題ねぇよ今来たところだからな」

 

「そうですか・・・」

 

 

 

 彼氏彼女の定番のやり取りをしてから二人は駅前を離れる事にした。

 

 この日の予定は正確には決めていないが色々と歩き回るとの事でまずは駅前のケーキ屋へと足を向けた。時刻は昼過ぎという事もあってか少し混んでいて、数分待たされてから店内へと案内される。

 

 

 

 内装はかなり落ち着き目で、店内BGMは風が木々を揺らすようなゆったりとしたものが多く、至る所の木があしらわれていて心が安らぐ。

 

 

 

「私はイチゴのショートケーキとミルクティーで」

 

「俺はチョコレートケーキとホットのコーヒーだな」

 

「はい、畏まりました少々お待ちください」

 

 

 

 注文を受けた店員は直ぐに次のテーブルに向かう。

 

 

 

「ここのケーキは有名らしいですよ」

 

「へぇそうなのか。あんまりこう言う店は来ないからな・・・男同士で入るのは何か違うだろ?」

 

「確かにそうですね、どちらかと言えば女子の方が多いようですから」

 

 

 

 ケーキを待つ間はたわいもない会話を続けていく。

 

 

 

「学校ではどうなんですか?」

 

「普通だよ普通。逆に暇すぎていつもつまらないな」

 

「今はどうですか、暇ですか?」

 

「ヤハハハ!暇と言えば暇だな」

 

「むぅ辛辣です!」

 

「不貞腐れんなよまだ始まったばかりだからな」

 

 

 

 傍から見れば立派なカップルに見える行動や会話は見事としか言い様がない。周りで二人の会話を聞いてる人達はブラックコーヒーが欲しいと嘆く者達が続出する。

 

 それに対してコーヒーが有名なのか?と首を傾げる二人は余計にタチが悪い。

 

 

 

 注文したケーキは見た目も味も完璧であり有名なだけはあると、一誠の舌を巻かさた。その後も雑談をし二人は店を出ていった。

 

 

 

 服屋、アクセサリーショップ、本屋さんなど色々な所を見て周り初デートとしては満足のいく結果となった。

 

 デート終盤、夕暮れに沈む太陽をバックに二人は公園へと足を運んでいた。

 

 

 

「んんーはっ・・・今日は楽しかったよ、ありがとね一誠君」

 

「気にすることは無いぜ」

 

 

 

 今日一日の会計は全て一誠が受け持つ事になったが、金など腐るほど持っている一誠には心底どうでもいい。けど、相手はそうは思っていないようだ。

 

 

 

「お金を返せと言われたらさすがに無理だけど、何か絶対に返すね。うんん、絶対に返して上げるよ」

 

「期待しないで待っとくよ」

 

 

 

 二人はゆっくり歩きながら木のベンチへと向かう。その過程で一誠は自販機に飲み物を購入してから向かうので、先に夕麻が座って待っている。

 

 

 

「ほらよ」

 

「おっとと」

 

 

 

 投げ渡された缶コーヒーを数度バウンドさせながらキャッチする。缶コーヒーは甘めのタイプ、今日一日で好みを覚たようだ。

 

 二人は互いに一口飲んでから空を見上げる。

 

 

 

「優しいよね一誠君は」

 

「優しい?随分と見る目がないな、俺は俺の好きなように生きてるだけだ。その過程でたまたまお前に優しくしたように感じただけだろ」

 

「そう言う所だよ・・・そうやって自分に近づけ過ぎないようにしている所・・・優しいよ一誠君はね」

 

 

 

 ははは、と気の抜けた愛想笑いをする。

 

 それを疑問にすら思わない一誠は飲み終えた缶をゴミ箱へと投げ捨てる。缶は縁に当たって中央へと落ち他のゴミ達と同化する。

 

 それを真似するように夕麻も缶を投げ捨てる。缶は縁に当たるも外へと跳ね、地面に転がる。

 

 

 

「あはははは、外れちゃった。ちゃんと捨ててくるね」

 

 

 

 立ち上がって小走り気味に缶へ近づき、今度は投げずにしっかりと入れる。

 

 

 

 一度空を見上げ視線を戻した夕麻は、

 

 

 

「ねぇ・・・したい?」

 

 

 

 告白するかのように告げた。

 

 夕暮れに照らされる夕麻の顔は紅く見え、手を後ろで交差させながらもじもじしている。デートの終盤と来たら城跡通りアレのことを指しているはずだ。

 

 

 

「いいのかよ、まだあって数日だぞ?」

 

「いいんだよ。一誠君とは今日一日一緒にいて分かったもの、ね・・・だからしょっ?」

 

「とんだ物好きだな・・・まぁいいぜ、やるか」

 

 

 

 了承の返事をしてベンチから立ち上がり夕麻の前まで移動する。

 

 

 

「目を閉じてね、恥ずかしいから」

 

「キス顔見たかったんだけどな」

 

「恥ずかしい事を言わないの!全くもうそんな事じゃして上げないよ」

 

「そりゃ勘弁だ」

 

 

 

 そっと目を閉じてその時を待つ。

 

 

 

 夕麻は足を伸ばして高さを上げ唇と唇を重ね──その瞬間に手元に光を収縮させて光の剣を精製。人間の急所たる心臓目がけて一思いに突き刺す。

 

 

 

 光の剣は確かに夕麻が持っても問題ないがそれは自分の魔力を使っているからであり、触れればどんな人間でも簡単に殺すことが出来る。だからこそ、

 

 

 

「なんで・・・」

 

「やっと本性を出したか、待ちくたびれたぜ」

 

 

 

 胸部を貫くはずの光の剣を握りつぶしていた一誠に驚きを顕にしてしまう。

 

 屈託なく笑うその様は正しく化け物と呼ぶに相応しい存在であった。



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戦闘狂は嗤う

 

 光の剣──天使の特殊な聖の魔力によって生成された剣。黒い翼を従える堕天使であったとしても使用する事が可能ではあるが、その色は天使に比べると濁っている。

 

 天野夕麻の使う光の剣は濁りが見えている。

 

 

 

「おいおいそんなに驚くことじゃないだろこれぐらい」

 

「そんな訳があるか!今、魔力も神器も仙術も何も使っていない。感知できなかった・・・それでは」

 

 

 

 ──人間の身体能力で防いだと言っているような物だ。そんな馬鹿な話があってたまるものか。

 

 

 

 魔力で防がれるのはいい。

 

 神器で防がれるのはいい。

 

 仙術で防がれるのはいい。

 

 

 

 だが、人間の身体能力で防ぐなどそれは天野夕麻の力が人間以下であると告げているようなものだ。

 

 

 

 

 

「このッッ!」

 

 

 

 近くからの近接戦闘は不利だと早急に判断した夕麻は背中から一対一の黒に染った羽を出し飛翔する。逃げる夕麻に一誠は何も行動をせずただ立ち尽くしている。

 

 

 

(偶然だ、この私が人間以下?ありえない!クソッ!一思いに殺すはずが!!)

 

 

 

 次こそは奇跡が起きないようにと下級堕天使の天野夕麻事レイナーレが同時に展開できる光の剣の数、六本が剣先を一誠に定め停止している。

 

 右腕を上げて最後の通告を行う。

 

 

 

「さっきは偶然助かったのだろうけど今度はそうはいかないわ。助かりたいからと命乞いをしても無駄よ、私の目的は最初から貴方の抹殺だったのだから」

 

「・・・・・・・・・で?言い訳はそれで終わりか?」

 

「このッ、いいわよやってやるわよ!!」

 

 

 

 上げた右腕が降ろされると勢いよく剣は射出され、速度をどんどん上げていき一誠に到達する頃には新幹線と同等の速度に達する。

 

 その速度から放たれた剣はもはや槍と同義であり、人間の肉体で防ごうとも骨を肉を砕き、回避しようにもすでに遅い。

 

 

 

 常人ならば恐怖にむせび泣くところを一誠は笑って受け止める。

 

 

 

 頭一つ抜けてきた二本の剣はを両手で掴んで握りつぶす。その直後に手を素通した一本の剣を右足の回し蹴りで粉砕、残る三本は、

 

 

 

「へっ、しゃらくせぇ!!」

 

 

 

 回し蹴りをした事で崩れた体制から上へと片足で飛び上がり、一回転からの踵落としで三本同時に粉砕した。

 

 それこそ人間がピストルの弾を目の前で撃たれて回避するのと同じぐらいありえない事だ。それを見つめていたレイナーレはやはり魔力等を感知できなかったと、それこそ人間の身体能力で行っているのだと結論づける他になかった。

 

 

 

「ほんとに人間・・・か?・・・・・・」

 

 

 

 もし人間に化けている人外とかであればこの事象に説明もつくのだが。

 

 

 

「分類学上は人間だぜ。それに二人とも親は人間なんでね、人間の純血だよこれでもな」

 

 

 

 しかし願った返答は帰ってこず、帰ってきたのは信じたくもない真実だ。

 

 

 

 だが逆に兵藤一誠を標的にしたのは正解だったと、自分の勘はまだ捨てたものではなかったと嬉しくもある。

 

 現在レイナーレ含む三人の堕天使とその他の落ちぶれた教会の戦士達は、ここ駒王町にてとある作戦を実施していた。

 

 堕天使たるレイナーレ達は自分の欲のために、戦士達は戦場を求めて。互いの一致した理念の元、協力関係を気づき作戦を行っている中とある一人の神器使いを感知した。

 

 

 

 その神器使いこそが兵藤一誠だ。

 

 すぐに身辺調査などをするが重要な情報は六歳の頃に両親が死んだ事と、その後は養護施設を転々と移動を繰り返していた事ぐらいだ。神器に覚醒している情報はナシ。放置していても問題は無いはずだが、レイナーレの勘がその危険性を訴えていたのだ。

 

 放置していれば後々重要な欠陥を産むことになると、だが日本の諺には「触らぬ神に祟りなし」など必要以上に触れればそれはそれで、問題を産む可能性があると言う意味の言葉がある。

 

 だが、レイナーレが選んだのは抹殺だ。神器も覚醒していない人間風情に負けるはずがないと、慢心をしていた。

 

 

 

「しっかしまさかほんとに居るとはな、堕天使か・・・となると天使は必然的にいる上に悪魔も居るんだろうな。ヤハハハ、楽しそうだな。なっ堕天使」

 

 

 

 はなから信じていなかった堕天使や天使などの人外の存在。居候からその情報をもたらされていたが、証拠がなく信じていなかった。

 

 しかし、今は目の前にその言葉を実証する堕天使がいる。人間の科学力では説明のつかない謎の力を使用している人外がいる。

 

 

 

 今まで生きてきた中で一番興奮した時だ。血が肉が骨が心臓が血液が細胞が──肉体全部がこの飢えを抑えてくれるであろう獲物に抑えが聞かない。それは向こうも同じようだ。

 

 

 

「くっ負ける訳にはいかない・・・もう私には後がないんだァァァ!!」

 

 

 

 さっきまでの優しい顔ではなく、焦りや緊張から顔は強ばり般若のように歪んでいる。

 

 指を弾いて音を鳴らしこの公園を全て覆うように結界を展開。その上で公園を起点に一km圏内に人払いの結界で寄り付かせないようにする。

 

 転移不可とは言え、この土地の管理人が気づかないわけがなく早急決着が求められる状況になった。背水の陣とはまさに事のことを指す。

 

 

 

「だったら簡単に死ぬなよ!!俺を楽しませろやぁぁ!」

 

 

 

 遠距離戦での戦闘では勝つ可能性が低いのならば接近戦をしてやると、羽を羽ばたかせ急降下からの低空飛行で一気に駆け寄る。

 

 そうこなくちゃなと吠えた一誠は、足元に落ちていた小石を拾い上げ軽く振りかぶって投げつける。

 

 軽く投げたはずの小石は赤く燃焼を始めその速度は第一宇宙速度に匹敵する。小石は小さな隕石と化した。

 

 

 

 投げつけた三個中二個は外れたが、一個は黒い羽を毟り取って飛行能力を奪った。

 

 

 

 飛翔するための羽を失い、加速していた速度で地面へ激突する。凄まじい土煙と共に公園に生えている木に激突し、太い大木は轟音を轟かせながら倒れた。

 

 さすがは堕天使だ。片羽を奪われ飛翔出来なくなっても着地はギリギリ間に合わせていて、軽傷で抑えている。それでも、白いワンピースは土まみれでかすり傷などの血が滲んでいる。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ、何なのよ・・・なんで邪魔するのよ!所詮ゴミのように湧いてくる人間の一人、私に殺されなさいよ!いい思いもさせて上げたんだから!!」

 

「いい思い?」

 

「ええそうよ。人間のフリして近づいて、デートしていい思いでしょ?最後の時ぐらいいい気持ちで終わらせてあげようとした私に感謝しなさい!結局その考えも棒に振られちゃったけどね!」

 

 

 

 ヨロヨロしながら生き残っていた木に寄りかかりながら起き上がる。

 

 

 

「ヤハハハそうか。けど生憎と今の方がいい思いしてるからな──もう少し食いごたえが欲しいけど選り好みはしてられねぇよな」

 

 

 

 首を数回捻って音を鳴らしながら近づく。全身に力が溢れ指先から毛先の一本まで全てを思いのままに操れるような気すら起きている。

 

 拳を強く握り、弱った獲物に止めを

 

 

 

「馬鹿め!引っかかったな死ねぇぇぇ!!」

 

 

 

 レイナーレが頭を引きずった線の上をある程度歩いたところ、足元に白と黒の入り交じった奇天烈な文様が浮かぶ。

 

 ギリシャやローマ、イギリスなどの多くの神話を排出する国について詳しい一誠ですら、その文様に身に覚えがない。

 

 文様はターゲットを確認し最終制御(セーフティ)を外し、地脈からくすねた魔力をあえて暴発させ大爆発を一誠を中心に発生させる。

 

 

 

ドガンンンン

 

 

 

 公園の遊具は軒並み崩壊。あるのは元から遊具が設置されていない砂場程度、それでも陥没している事などを踏まえると砂場と言えるのかどうか。

 

 大量に巻き上げる砂塵は上空に浮かぶ白の文様に吸い込まれるように上昇し、砂の竜巻を巻き起こす。そこへ追撃として六本の光の剣を投擲。竜巻の風と踊るように剣も上へ上がっていく。

 

 

 

 例えどんなに強力であろうとも爆発のその真の恐ろしさを耐えることは出来ないはずである。

 

 

 

 爆発とは爆風よりもその熱の方が実は恐ろしい。

 

 熱は一気に生き物の水分を吹き飛ばし、空気を吸おうとも熱により呼吸器官を焼きただらせて死に至らしめる。生物であれば絶対不可避だ。

 

 その上熱を逃がさないように竜巻を発生させてダメ押しに光の剣も追加。生き残っているはずのない攻撃にレイナーレは勝利を確信した。

 

 

 

「やった!やったわ!!これで私はアザゼル様に・・・」

 

「随分と気が早いなオイ!せっかく遊べるんだからもっと楽しもうぜ」

 

 

 

 人間ではなく、ましてや人外ではない。正真正銘の化け物がそこに居た。

 

 

 

 爆発をものともせず耐え抜き、ましてや大きな怪我の様子と見受けられない。

 

 

 

「ひぃぃぃぃっっ!くっくるな!化け物!!」

 

「あっ?化け物?堕天使のお前が言うのかよ、冗談にしては面白ろいな」

 

 

 

 戦意は折れていた。

 

 腰は完全に引けていて立ち上がる事は出来ないだろう。肩は震え上がり、歯は高速でぶつけ合い強烈な歯ぎしりをしている。

 

 

 

 その時点で決着が着いていた。兵藤一誠の圧倒的な勝利として、だがその結果に一番満足していないのは一誠だ。

 

 

 

 玩具を見つけた子供のようにまだ遊ぼうと詰め寄り、壊れるまで離そうとしないワガママ。

 

 拳を握り締めて大きく振りかぶり──

 

 

 

「動かないで!動けば手足を消し飛ばすわ!」

 

 

 

 突如──後ろから飛んできた声の方へ振り向く。その最後の隙にレイナーレは転移魔法陣を起動させ逃走を図る。

 

 すぐに前へ向き直した頃にはレイナーレの姿はなく、残留した魔力が小さな光を放つだけだ。

 

 

 

「逃げられたか。まぁいいか、どうせ楽しめそうになかったしな。それにこっちの方が面白そうだな!」

 

「生憎と私は面白そうじゃないわね」

 

 

 

 レイナーレとは対照的に夕日の光で赤い髪を輝かせながら微笑むその様は、絶対的な余裕を感じさせていた。

 



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問題児と悪魔と質疑応答

「まず貴方に問うわ、何者?この街にいる人外に貴方のような者はいなかった。一体どこの誰?正直に答えなさい、さもないと──」

 

「殺すか?いやー怖いね、怖すぎて拳が出ちゃいそうだな」

 

 

 

 その言葉に反応して一人の騎士が二人の前へと出て剣を構える。

 

 刀身が赤一色の両刃──西洋剣だろう。しかし、一誠の勘はただの西洋剣と見るなと訴える。それに

 

 

 

(さっき見た時は手ぶらだった。一体どこから出した?魔法の類と言われればそれまでだが・・・)

 

 

 

 騎士の佇まいは異様だ。両手で持ち正面に構える、至って普通のように感じるが西洋剣の性質上その構えでは強い一撃を放つことが出来ない。

 

 

 

 日本古来の刀はどのような構えでも強い攻撃にする事が可能だ。その細い独特の片刃は切っ先をより鋭利にさせ、鎧と鎧の隙間に突き刺すことが出来る。厚みのない刀身は骨と骨の隙間の関節を縫う一撃を放てる。この特徴の真逆が西洋剣なのだ。

 

 

 

 鎧ごと力と遠心力で断ち切る。小手先の技ではなく剛の一撃。もし、西洋剣の戦闘を第一にするのならば上段に構えて、向かってきたところに振り落ろすのが正解。しかし、騎士の構えは西洋剣と言うよりも中段に構えているので刀の【青眼の構え】に近い。

 

 だからと言って構えは一朝一夕のような適当な物ではなく、騎士に最もあっている構えのように迷いがない。そうなると西洋剣の特徴以外の何かがあるのではないかと考える他になかった。

 

 

 

 騎士こと木場祐斗は一歩前に出て剣を構えた事で一誠の殺気を気配を敏感に感じていた。

 

 

 

(強い。拳法家でも武術家でもないあの構え、喧嘩や何かで鍛えられたに違いないほど自然だ。僕よりも強い・・・けど、部長達を前に逃げるなんて事が出来るはずがない!)

 

 

 

 ごくっ。と喉が音を鳴らす。空気は肌をピリつかせ、髪を掻き乱す。

 

 自身の間合い、祐斗を中心に半径一mの円を脳内で展開し待ち構える。今手に持つ魔剣に魔力を注ぎ何時でも攻撃を打てるように待つ、完全カウンターの構え。

 

 

 

 それに対して出した一誠の答えは、

 

 

 

 

 

「今回は俺の負けだ。かなり不完全燃焼気味だが、まぁいい。さっきのアイツの件も含めて色々聞きたいからな、アンタらなら詳しいんだろ?」

 

 

 

 両手を上げて降参を宣言した。

 

 え?と気の抜けた返事しか返せない三人にヤハハハと笑いかける。

 

 

 

 

 

「アンタら駒王学園の生徒だろ?何せ俺も同じ学園の生徒だ、学園の仲間に喧嘩を売るような野暮な真似はしねぇよ安心しな」

 

「同じ学園の生徒?あっ・・・まさか貴方、兵藤一誠?」

 

「正解。見た目通り野蛮で凶暴な兵藤一誠です。粗野で凶悪め快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と容量を守った上で適切に接してくれよ人外美女」

 

 

 

 それは運命とも思える出会い。

 

 世界を救う英雄の候補たる兵藤一誠がその身を戦火に投じる序章がこの日今宵道を指し示した。この出会いはその始まり、プロローグに過ぎなかったのだ。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 時は少し飛び本校裏のオカルト研究部にて、一誠含む他の部員が集結していた。

 

 

 

 

 

「全く・・・転移魔法が効かないってどういう事よ」

 

「はっ、さすがにそこまでは知らねぇよ。魔法に関してはそっちの管轄だろ」

 

「えぇそうなよ・・・そうなのだけど・・・はぁもう嫌」

 

 

 

 あの後すぐにオカルト研究部にて座って話をしようとなったのだが、転移魔法陣を起動させたら一誠一人だけ飛べずにリアス含む眷属だけが飛ぶ結果になってしまった。

 

 

 

 その原因が何なのか、まだまだ知識の浅いリアスでは判断できず徒歩で向かってもらう事になった。そして、人が歩いてくるからそれなりに時間がかかると思っていたら、第二宇宙速度とか言う馬鹿げた速度であっという間に来ていた。

 

 常識が一切通用しないそれこそ人外より人外じみた少年──兵藤一誠に対して胃が痛いとお腹を抱える事になる。

 

 

 

 

 

「で、アンタらは・・・この陰湿な部屋見れば分かるな、悪魔か」

 

「ほんとに一般人なの?信じられないわ・・・・・・とりあえずその問に応えましょう。そうよ私達は悪魔なの」

 

 

 

 リアス・グレモリーが、姫島朱乃が、木場祐斗が、塔城小猫が四人とも翼を出した。

 

 

 

 それは一対一の黒い翼。少し前に見た堕天使の鴉のような羽とは違い蝙蝠のように凹凸が激しい羽だ。作り物ではなく生きているので呼吸に合わせて揺れる。

 

 

 

 

 

「そう言えば自己紹介をしていなかったわね。私はリアス・グレモリー。悪──」

 

「ユダヤ、キリスト教間におけるソロモンの七二柱の一端をになっている悪魔グレモリーか。これは随分とご大層だなお嬢様」

 

「どこが知識が無いのよ全く」

 

 

 

 何も知らない人物に見せて敬意を閉めさせるのがいつもの常套手段なのだが、一誠は持ち前の多彩な知識を活かして逆にマウントを奪い取った。

 

 それに呆れた声を零しガックリと肩を落とす。

 

 

 

 

 

「ふふふ、では次は私ですね。姫島朱乃、しがない神社で巫女をしていますわ」

 

「神社って悪魔が居ていいのかよ。神の天罰とか下りそうなもんだけどな」

 

「問題はありませんわよ、もう争い事はしていないので」

 

 

 

 口元を歪ませ令嬢のような挨拶をする朱乃の動作一つ一つが、粗相がなく相当いい教育をされたのが目に見えて分かる。一誠とは真逆だ。

 

 

 

 

 

「次は僕だね。僕は木場祐斗さっきはごめんね剣を向けてしまって」

 

「気にすんなよ。どうせ過去の終わった話だからな」

 

「はは、ありがとう一誠君」

 

 

 

 胸に手を当て腰を折る姿は正しく騎士だ。身体の中心に柱でも入ってるかのように姿勢が正しく美しい。

 

 

 

 

 

「私は塔城小猫・・・です」

 

「おうよろしくな白髪幼女」

 

「むぅ幼女じゃありません」

 

 

 

 公園では会合することの無かった少女だ。

 

 無愛想な表情と全てに冷めたような視線。まるで昔の自分を見ているような気分に一誠は襲われる。

 

 だからだろうか小猫の事が頭から離れようとせずどうにかしてやりたいと思ってしまうのは。

 

 

 

 

 

「実はあともう一人いるのだけど、人前に出せる状態では無いので今は無理ね」

 

「ほぉーん。機会があったらもう一人とも是非とも会ってみたいな」

 

「ええそうするわ。さて、貴方は何処まで知ってるのかしら?神器(セイクリッド・ギア)については」

 

「大丈夫だそれは知ってる」

 

 

 

 リアスが話そうとした神器(セイクリッド・ギア)については居候(ドライグ)から既に聞いていた。

 

 

 

 この世に悪魔、天使、堕天使、妖怪、吸血鬼などなど多彩な人外が多く居る。そんな彼らに対して人間の有する武器など数少ない。

 

 魔法を扱う程度だろう。だからこそ神は人間に対抗するための力を授けた。

 

 他人を癒す。魔剣を想像する。能力を倍加させる。全てを半減させる。それこそが神器(セイクリッド・ギア)である。

 

 

 

 

 

「じゃあ何について知りたいのかしら?」

 

「白いフードを被った女を知ってるか?」

 

「白いフード?人間なら沢山いるでしょ、人外でって事ならNOね。情報が少なすぎて絞り込めない」

 

「・・・・・・記憶を奪うやつだ」

 

「記憶を・・・・・・余計に無理よ。記憶操作なんて誰でも出来るから、私ですらね」

 

「そうか分かった」

 

 

 

 一誠自身もそう簡単に正体をつかめると思っていなかったのでそこまで落ち込まないが、十年探し続けても見つからない女に苛立ちが募るばかりだ。

 

 

 

 

 

「詳しく調べたいなら時間をくれれば」

 

「いやいい。これに関してな完全な私情だからな、他人の手を煩わせるわけにないかなぇよ」

 

 

 

 そいつについては別に探すのが必須ではない。

 

 聞きたい事はいくつかあるがそれも生きていくのに必要かと問われれば必要ないと答えることになるので、重要度はかなり低い。けれど探すことを諦める事は出来ない。

 

 一体どこにいんだ?とまたヒントなしで探す事になったと心のなかでため息を吐くのだった。

 

 



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悪魔は決意する

 

 冷めかけの紅茶を一口啜り喉を潤してから次の質問をする。

 

 

 

 

 

「次だ、アンタらは悪魔だがこの町には悪魔以外もいるのか?具体的にいえば堕天使だとか」

 

 

 

 堕天使。そのフレーズにいち早く反応したのはリアスだった。

 

 ソファーを蹴って立ち上がり、両手を机について前のめりになりながら聞き返す。

 

 

 

 

 

「堕天使、堕天使ですって!まさかあそこで戦ってたのは」

 

「その堕天使だよ。で質問の答えは?」

 

「・・・いないわ。この町、駒王町には悪魔や妖怪は入れど堕天使はいない。もし元から住んでいたとするならば私の耳に入ってくるはずだし、移り住んだとの情報も来ていない」

 

 

 

 一度激昴した事で落ち着いたのか思考が安定していた。

 

 両手を組んで顎に手を添えながらゆっくりとソファーに座って自身の情報を渡すと同時に脳内で並行思考を行う。

 

 

 

(まさか堕天使がいるなんて、私達ではとことん相性が悪い。それに、悪魔の領地に侵入すると言うことは腕に自信がある?それなら尚更・・・)

 

 

 

 リアスの考えている通り悪魔と堕天使では一方的に相性が悪い。

 

 

 

 悪魔は元を辿れば天使と同等だったが、その力を返上して悪魔に落ちたため絶対的な不利を強いられている。

 

 陽と陰、表と裏、光と闇──悪として後世に伝えられている悪魔に取って、天使の扱う聖の力は必殺の一撃。悪魔の総大将たる四大魔王や一部の例外家系を除き、悪魔はその身を灰に還してしまうだろう。それだけ恐ろしい相手なのだ。

 

 

 

 さらに、リアスの眷属たる面々はまだ堕天使との戦闘に慣れていない。

 

 姫島朱乃は例外とし、近接格闘が主な二人木場祐斗と塔城小猫は接近を余儀なくされる。近づけば天敵の必殺の一撃、離れれば攻撃は与えられず一方的な暴力に──戦況は絶望的だ。普通に考えれば魔王達に援軍を頼む他ない。

 

 しかし、一人の男はそれを許さない。

 

 

 

 

 

「貴方はどうする気なの?今の情報を聞いて」

 

「そんなの聞く前から決まってる。喧嘩を売ったのはあっちでそれを買ったのはこっちだ、世界の果てに逃げようと殺りにいくさ」

 

 

 

 一誠は当たり前だろ?と語るが当たり前のはずがないと否定する。

 

 

 

 

 

「貴方は人間よ、確かに喧嘩を売ったのはあちらかもしれない。けどねこれは既に人間の干渉する問題じゃない。私達悪魔の──人外の管轄。守るべき人間であって守ってもらう人間ではない。そこを履き違えないで」

 

「よく言うぜ。俺じゃなかったら終わってたクセにな」

 

 

 

 両手を頭の後ろで組んで伸びながらリアスの語った矛盾点を簡単に突く。

 

 

 

 

 

「アンタら悪魔が守ると言った人間だけどよ、その人間が堕天使と遭遇してそう簡単に生き残れるか?初めの一手、光の剣の投擲でおじゃんだ。それなのに、堕天使が出現していつ来た?俺が瀕死に追い込んだ末に現れやがった、その上こっちの不注意とは言え堕天使を逃がした。こんな事になってるのに一体どの口で守るなんて言うんだよお嬢様」

 

「ッ──」

 

 

 

 正に返す言葉が無かった。

 

 あの日あの時気が緩んでいた。この町は安全安心なのだと、問題など起こらないのだと。そんな甘えた考えのせいで全てが後手に回っていた。

 

 

 

 堕天使が出現した事に気づけなかった、侵入されたことに気づけなかった。

 

 結界を張られてから気づき、あまつさえ飛べないと少し考えれば分かっていたのに結界内に飛ぼうと試みる。

 

 人間の命が消されると言うのに全てが遅かった。

 

 

 

 

 

「言い訳はないか・・・まぁそうだろうな。お嬢様を見てればわかる、人生の大変さ一人で生きく抜く辛さ諸々を知らない。甘ったれの温室育ちのような夢物語を語るような目をしてる。はっ、そんなんじゃこの先もこの町は不安だねぇ」

 

「このッ──」

 

「ダメよ祐斗!手を出したら姑息な手段を使った堕天使と同じになる」

 

 

 

 切りかかろうとした祐斗を静止させたのはリアスだった。

 

 

 

 

 

「確かに貴方の言った通り私は周りに甘えて生きてきた。数少ない純血として、魔王の妹として──けど、夢物語と言った事だけは譲れない」

 

 

 

 リアスは立ち上がり胸を張って語る。

 

 

 

 

 

「他人からは夢物語だと思うような事でも私は本当に実現したいと思ってる。この町を守り抜いて、私は・・・お兄様を超える!だから夢物語だと言ったことは訂正して、これは譲れない私の心情。譲れば私ではなくなる!」

 

「はっ、人間一人守れない(それ)で兄を超える?冗談も華々しいぞ」

 

 

 

 立ち上がったリアスに対抗するように一誠も立ち上がり胸ぐらを掴む。

 

 

 

 

 

「その言葉撤回すんなら今だぞ」

 

「いいえ。例えこの世界を敵に回しても撤回だけはしない」

 

 

 

 リアスも胸ぐらを掴んで応酬する。

 

 さすがに止めようと動き出す小猫と祐斗を、リアスの親友にしてその夢に乗った一人が止める。

 

 

 

 

 

「ヤハハハハハ!最高だなおい!世界を敵に回してもってか、くかっは!はぁー堪んねぇ、なるほどなただのお嬢様じゃないようだな」

 

 

 

 突如として笑いだした一誠はリアスの肩を何度も叩いてからソファーにまた座り直した。

 

 呆気に取られるリアスやその面々を置き去りにして一誠は悪びれたような笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「その言葉に偽りはないな?」

 

「え、ええもちろんよ」

 

「ならすることは一つだ。堕天使を倒してその力を証明する事だな」

 

「は??」

 

「言ったろ、世界を敵に回してもって・・・なら堕天使程度に躓く訳にはいかないよな」

 

「そそそうだけど・・・」

 

 

 

 突然の事に戸惑うリアスはまだ正式な答えは出せていないが凡そ変わらないだろう。

 

 それとは別に一誠はリアスの言葉を聞いてとある言葉を思い出した。

 

 

 

『へぇ貴方そんなに凄いんだ。けどさ、貴方が自分を否定する事は無いんじゃない?』

 

『けどこの世だと俺は楽しめない。つまらないんだ、記憶もない何も無い所に放り出されて悪事暴いて・・・何をするの──』

 

『だからだよ。まだ貴方はこの世の真理を見てない。それに例え世界から貴方は嫌われようと、世界に必要とされなくても、世界を敵に回しても私が貴方を必要としてる。私は楽しかったんだよ?貴方の問題がさ』

 

 

 

 荒んだ時の自分を救ってくれた一言をくれた彼女の言葉に。

 

 彼女の言葉が無ければこの世に絶望し暴虐の限りまたは自殺をしていたかもしれない。だからだ、被ってしまったリアスの言葉が否応に否定できなくなってしまうのは。

 

 

 

 

 

「ぁぁもう!やってやるわよ!やればいいんでしょ!」

 

「喧嘩に乱入は付き物だ。いいぜ歓迎してやるよ」

 

 

 

 自暴自棄のように言葉を吐き出すリアスに口元を歪ませ笑いかけた。

 

 

 

 本来の予定とはズレる結果になったがその方がより面白みが増したと満足出来たので無問題たいだった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「まずは何が目的が探るべきよね」

 

 

 

 この町に侵入をしたのだから何かしら目的があるに違いない。まずは今回の原因となった目的について知るべきだと提案する。

 

 

 

 

 

「却下だ。そんなんは侵入された直後のまだ安定している時期にする事、今は俺の戦闘もあって目的を早めている可能性はある」

 

「確かにそうね・・・ならどうする気なの?いきなり攻めるの?」

 

「それが妥当だな。正し、逆に言えばそれは相手も同じ警戒されている可能性が高い」

 

 

 

 

 

 一誠の考えは目的が不明なこの場合最前の手であり最悪の手でもある。

 

 

 

 それこそ戦闘の準備や敵の戦力調査などを事前に終わらせてから行う物であり、こんな突拍子もなく行う物は無謀の文字がチラつく。

 

 では情報が集まるまで放るのかとなればそんな猶予は無いと言う他に無く、攻めるしかない。攻めこそが最大の防御となっているのだ。

 

 

 

 リアスもそれは分かっているようで攻める事には賛成のようだ。

 

 

 

 

 

「けど私達はあっちの本拠地を知らないのよ?それとも貴方は知ってるの?」

 

 

 

 それこそが最大の問題。

 

 いくら攻める事が確定しても攻める場所が分からねば意味が無い。無意味な出陣ほど価値の無い物はない。

 

 全て後手に回しているリアス達にそれを知る術はなく、つい先日まで人外の事を知らなかった一誠が。

 

 

 

 

 

「知るかよそんな事」

 

 

 

 知っているわけがない。

 

 

 

 

 

「だけどよ候補がない訳じゃない」

 

「え?それは本当!」

 

「まぁな、ただその仮説を確定付ける為にもいくつか聞くぞ、まず堕天使がどれ程天使と近いか、そして堕天使の手下にいるであろうヤツはどんな役職かだな」

 

 

 

 一誠の上げた二つの質問。それを聞いたリアスは自信の持てる全ての知識を総動員させてゆっくり言葉を作り上げていく。

 

 

 

 

 

「そうね、堕天使は天使が欲に溺れた成れの果て・・・とはいえ本質は変わらない。そして堕天使の手下・・・聞いた事のある話だと教会を追い出された悪魔祓い元神父た・・・ち・・・・・・まさか!」

 

「行き着いたな、今ので情報で確証が得れた。ヤツら堕天使が根城にしてるのは間違えなく教会跡地だ」

 

 

 

 方針はまとまった。攻める場所も判明した。それからのリアスの行動は迅速だ。

 

 制服に仕込まれた防御刻印が起動している事を確かめ、人払いの結界などの準備と緊急時に備えた回復のポーション。

 

 準備が終わると転移して行きたいところだが、約一名それが適用されない残念な人がいるので徒歩で向かう事になるのだった。



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問題児は初めて戦闘を行う

 

 

 住宅地の奥、そびえ立つ一軒家達よりも高くそびえ立つ西洋の建物があった。

 

 人の通り道は舗装されていて数本の木々が客人をでむかえる。小さいとは言え庭には花壇で丁寧に育てられていたであろう花々。惜しい点を上げるならばそれが既に風化し過去の異物になってしまっている事。

 

 栄養が行き届いてないようで木々や花々は萎れている。道の舗装もヒビ割れ辺りには瓦礫が散乱していた。

 

 元の白い塗装であったろう教会と既に見る影もない。お化け屋敷として地域の子供達には覚えられていてもおかしくない。

 

 

 

 そこに徒歩でたどり着いた御一行はその惨状を一見して口を開く。

 

 

 

 

 

「なるほどね・・・これは酷いわね。悪魔である私ですらここまでとは思っていなかったわ」

 

「俺も来たのは七年前だ、かなり悪化してやがるな。その方が存分に暴れられるってもんだけどな」

 

「程々にしなさいよ・・・それじゃあ皆じゅんびはいいわね!敵の本拠地に乗り込むわよ!!」

 

 

 

 その問に言葉ではなく行動で示す。

 

 姫島朱乃はうふふふと笑みを浮かべながら手に雷を纏わせる。

 

 塔城小猫は赤いグローブを両手に填めて拳を作る。

 

 木場祐斗は速度重視の短剣を二本神器の力で創造している。

 

 

 

 三人の答えにリアスは笑みで返答して息を整える。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・さぁ行きましょうか」

 

「あぁそうだな・・・そう言えば悪魔が教会に入っていいもんなのか?」

 

「え、今更それを聞くの?問題ないわよ、まだ機能している教会ならまだしも、こんな廃れた教会なら悪魔でも入れるわ。これでいい?」

 

「随分とガバガバな設定だな」

 

「設定言わない」

 

 

 

 一番前衛に位置している二人は互いにアイコンタクトを取って前へ進む。

 

 相手も攻められる事が分かっているのだから防御手段の一つや二つ庭に設置されていてもおかしくない。なので、魔法や光の剣を無効化できる一誠と悪魔の中でも特別な力を持つリアスが先頭を歩いている。

 

 

 

 しかし、警戒をいくらしていても罠の一つも発動しない。正直な話拍子抜けだった。

 

 だがその防御のざるさは絶対的な力を持っているのではないかと脳裏をよぎらせる。

 

 

 

 そして、扉の前まで無傷でたどり着いてしまった。

 

 

 

 

 

「随分とゆるいな」

 

「それじゃあリアス手筈通り、私と祐斗君で裏を塞いでくるわよ」

 

「ええお願い。それじゃあ配置地についた──」

 

「よし、そんじゃあ行くぜ!!」

 

 

 

ドガン!!!

 

 

 

 軽く振るわれた右腕に教会の木の二枚扉は軽く弾け飛ぶ。

 

 強引に剥がされた事により留め具は弾け飛びリアスの頬を通過、その他は全て教会内部を突き進んで奥のステンドグラスが頭上にある壁まで飛び、木の長椅子や牧師の机共々粉砕して巻き添えくった者達の阿鼻叫喚地獄を作っていた。

 

 

 

 

 

「悪魔より悪魔らしいです一誠先輩」

 

「俺は人間だぞ?悪魔なんてそんな馬鹿な話があるかよ」

 

 

 

 だったら普通殴っただけで木の扉を飛ばすのはおかしいのだがと伝えることも馬鹿らしくなる。

 

 土煙が巻いあげる中、人間の呻き声と共に聞きなれた女の怒声が飛び込む。

 

 

 

「いい度胸ね一誠くん?まさか乗り込んでくるなんてね。お仲間の悪魔達も連れて来て」

 

「ヤハハハ!コイツらは勝手についてきただけだ、それとこれとは関係ねぇよ堕天使さんよ」

 

「そう・・・なるほどね逃げ道を塞いだと・・・くくくく、その程度で私を止められると思わない事ね!!」

 

 

 

 吠える天野夕麻は治療の終えた羽を羽ばたかせ宙へ飛び上がる。

 

 

 

 

 

「そっちは任せるぞお嬢様に白髪幼女!」

 

「存分に暴れなさい!」

 

「幼女じゃありません」

 

 

 

 二人は別々に別れ小猫は敵の中へと突撃、リアスは後方支援に徹する構えだ。

 

 瞬時にその行動が行えたのは一重に信頼と信用が二人の間にあった事だろう。

 

 

 

 

 

「それじゃあこっちも始めましょうか」

 

「そうだなかかって来いよ鴉」

 

「くっ、このつけ上がるなよ人間ガァ!それとこの私の名前はレイナーレだ、冥土の土産に覚えておけぇえ!」

 

「そんなんじゃ三途の川も渡れねぇよ!」

 

 

 

 レイナーレは無闇に飛び込むような真似はしない。激情し大量の殺意に包まれているからといえ同じ轍を二度も踏まない。

 

 

 

 ただの光の剣では粉砕されてしまう。だからこそ悪魔祓い達から巻き上げた武器を使う。

 

 本当は人間が使う武器なんて使いたくも無いのだが、背に腹は変えられない。右手を前に突き出して聖の力を送り出す。

 

 すると、一誠の足元から屋根に向けて光の柱が発生する。

 

 反応がワンテンポ遅れた一誠は飛び抜くも足元に柱が掠り靴底が削れる。さらにそこへ追撃が訪れる。

 

 背後の壁から三本の柱が産まれ一誠を貫かんとばかりに肉迫する。されど、さすがにもう遅れを取らない。

 

 体制の安定しない空中でありながら身体を捻りあげて柱の下に身体を忍び込ませ、膂力に任せた蹴り上げを繰り出す。

 

 柱は落ちたガラス細工のように砕け散り鮮やかさに一誠を歓迎した。

 

 

 

 

 

「馬鹿め!引っかかったなぁ!」

 

「なッ──」

 

 

 

 合図を受けた悪魔祓いが床下から飛び出す。

 

 

 

 その数三、体制が崩れその上すでに上へ足を蹴り上げた状態。防ぐ手立てがない。

 

 悪魔祓いは聖の剣(フォトン・ソード)を罠に使ってしまったので使う獲物は大剣。一五〇CMもある巨大な大剣だ。

 

 刃は月の光を受け銀色の閃光を放ち、重力と体重に任せた一撃だけの必殺──振り下ろしを行う。

 

 その威力は熊の極太の首ですら容易く切断してしまう程だ。

 

 

 

 勝利は絶対的だった。

 

 予想に予測を重ね、この場面に持っていくための策を五個は用意し事が運ぶように仕向けた。引いたレールの上に一誠は飛び乗りこの場面まで訪れた。

 

 

 

 確かに一誠の堕天使や天使の光の剣を砕く力は偉大だ。それこそ英雄の領域だろうそんな真似ができるのは・・・ならば異能の力ではなく人間の手で作り上げられた物ならば粉砕する事など出来ないだろうと考えた。

 

 異能の力は力のみで砕ける物ではない。確かに力も必要だが異能を無効化する何かがあるはず、その何かは異能の力を無効化し一誠に強大な力を与えているのだろう。

 

 そんな力に欠点がないわけがない。

 

 この世に完璧な物など創造主以外存在せずありえない。

 

 だからすぐさま大剣を用意させ扱える者を選出して備えた。これならば砕けまい、砕く事すらできまいと。そこで彼女(レイナーレ)は思考を止めてしまった(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「しゃらくせぇ!!」

 

 

 

 止めてしまった思考が動き出したのは異能の力でもなんでもない大剣が人間の手で砕かれた時だ。

 

 

 

 逃げ道が存在せず身体を支えるものがない宙──ならば支えを作って逃げ道を作ればいいだけの事。

 

 咄嗟に左手を床へ突き刺し擬似的な支えを用意、右手で胴体を切り落とそうとする二本の大剣を粉砕。股関節の方から迫り来る方は両足で挟み込んで捻りあげる。

 

 足の力で曲がらない部分を曲げられた大剣はその身を粉にさせて散らせる。

 

 

 

 驚きに足を乱す悪魔祓いを尻目に床へ足をつけ立ち上がり、顎に瞬間的に高威力で小突く。

 

 

 

 

 

「がハッ──」

 

「ほらよっと!」

 

「え──」

 

 

 

 一人目の顎を粉砕させて脳震盪までに至らせ気を奪う。続いて現状を把握し切っていない惚けた一人の胸に蹴りを叩き込む。

 

 サッカーボールのように吹き飛んだ男は(ゴールネット)にめり込んで失神。

 

 

 

 ようやく事を理解した男は懐から銃を取り出してトリガーに指をかけるが、目の前にいた相方が吹き飛ばされた時点ですでに間合いに入っていた。

 

 

 

 

 

「このクソがァァ!」

 

「反応が遅ぇ」

 

 

 

 一誠は一瞬で男の視界から消えた。

 

 正確に言うならば足を折りたたんで視界から消えたが正しい。

 

 

 

 目の前で同じ視線にいた一誠がしゃがみ込んだことで、瞬く間に転移したように写りトリガーに込める力が緩まる。

 

 しゃがんで溜めた力を一気に放出。

 

 顎に目がけて突き上げる拳が激突。顎から数CMのめり込んで屋根の上に頭だけ突き出す。

 

 

 

 

 

「そんな・・・ばかな・・・」

 

「ありえないか?ガッカリさせんなよ、まだまだ戦いからこれからだろうが。もっと策をめぐらせ、力を示せ、技を武を叩き込んでこい!そう簡単に満足はしねぇぞ!!」

 

 

 

 一誠は両手を広げて次の攻撃を誘う。今なら確実に攻撃が当たるほどの隙、だが今のレイナーレにそれを行う余裕は無かった。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・は・・・ぁぁ・・・嫌だ、誰か・・・誰か助けてぇ!誰でもいいわよ、助けてくれればなんでも・・・・・・」

 

 

 

 振り向き仲間に助けを乞う──だが仲間などいなかった。

 

 堕天使の仲間ミッテルトもカラワーナもドーナシークも裏口から逃げようとして、朱乃と祐斗に屠られた。

 

 悪魔祓い達は堕天使達から送られてくる聖の力が無くなった事で一気に制圧された。

 

 

 

 最後の希望すらない。背水の陣の覚悟で挑んだ結果見事に自身で喉元に刃物を押し付ける事になってしまった。

 

 

 

 

 

「お願い殺さないで!そうだ私の身体を好き──」

 

「歯食いしばれよ堕天使!俺に喧嘩を売ったんだその駄賃頂くぞ!!」

 

 

 

 ふり抜かれるは第三宇宙速度の拳。

 

 レイナーレ程度の視界では捉えることの出来ない速度。もちろん避ける事なんか出来なかった。

 

 

 

 拳が頭蓋に衝突すると赤い果実が弾け辺り一面に血の雨を降らす。

 

 一誠の白い服は赤く血に塗れ黒の瞳が赤く染まったようにすら感じてしまう。

 

 目の前で爆ぜた命に一誠は何も思わない。人型の命をこの手で奪った事に何も思わない。なぜならば、

 

 

 

(二度目だあの時と同じ)

 

 

 

 幼少期の頃、まだ大人の世界をこの世の悪事を知らなかった一誠が殺し尽くした組織の連中。その者達は皆人間であり、五〇名に及ぶ研究者の誰一人として生き残った者はいなかったのだ。

 

 

 

 弾けた果実の近くに全て終わったと集まるリアス達はその亡骸に黙祷を捧げてから全てが終わったのだと緊張を解いた



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兵藤一誠を狙うもの

色々設定が公開される重要な回を投稿し忘れるなんて……



 

 冥界のグレモリー家の屋敷。

 

 時刻は人間界と流れる速度が違うので正確ではないが、一誠達が堕天使を倒してから数時間後である。

 

 

 

 そんなとある一室。部屋全体に防音と盗聴阻止の結界が張り巡らされていて、薄暗いランプの明かりに照らされている二人の男女が居た。

 

 

 

 

 

「と、これが今回の事の全容です」

 

「ありがとうグレイフィア助かったよ」

 

 

 

 メイドの格好をした女性から受け渡された資料に目を通し、細部の情報を伝えられた優男は感謝の言葉をかけた。

 

 優男はリアスと同じの真紅の髪を持ち冥界では四大魔王の一人にして、リアスの兄──サーゼクス・ルシファー旧姓サーゼクス・グレモリーが椅子に座っている。

 

 その前で資料と詳細な情報を伝えたのはサーゼクスの眷属にして妻であるグレイフィア・ルキフグス。七二柱にはいない、番外の悪魔(エキストラ・デーモン)の出でありその実力は冥界屈指。

 

 

 

 そんな二人が密会のようにこそこそしているのにも理由があった。

 

 

 

 今回の人間界でのリアス達の戦闘だ。

 

 確かに侵入して暴れたのは堕天使である。だが、その全員を殺した上に「殺りました」との事後報告。いくら魔王の妹と言えどお咎めなしとはいかない。

 

 それにこんな事を上層部の古い思想の悪魔達の耳に先に入れば何を言われるかわかったものでは無い。

 

 だから、穏便にそして的確な処置を早急にしなければいけなかったのだ。

 

 

 

 就寝の寸前に入ったこの情報に眠気も吹き飛び目元を抑えながら手元の紙に今回の罰を記入していく。

 

 

 

 

 

「ふ・・・こんな物かな」

 

「それではそれをリアス様達に?」

 

「まぁそうなるね。謹慎一月とリアスの管理者としての権力を半分にして、残りをソーナ君に・・・ただ、ソーナ君が使えるのは非常時のみの制約付き。これで問題は無いと思うけどどうかな?」

 

「問題はないと思いますよ」

 

 

 

 見るまでもないと人目も確認せずに肯定した。

 

 それは適当なのではなく自分の愛する夫の事を信じているからこそ確認をしないのだ。

 

 

 

 

 

「ならリアスはそれでいいとして、問題は人間の彼だね」

 

 

 

 そう今回の事件には悪魔と堕天使──人間が混ざっていたのだ。

 

 

 

 神器(セイクリッド・ギア)所持者であるかは定かではないがその力の異常性は聞いただけでも唖然とした。

 

 

 

 人間の拳で堕天使の剣を砕いた。

 

 悪魔の目ですら追えない速度で、人間なら動いただけで死ぬ速度で動いた。

 

 人間の身体能力では明らかにおかしい動きをした。

 

 

 

 聞いただけでは人間なのかと疑いたくなる事ばかり、見間違いだと見直してもそれは覆らなかった。あまつさえ

 

 

 

 

 

「祖先、先祖かなり遡って調べましたが純粋な人間です。どこかで人外が混じった形成はありませんでした」

 

「正真正銘の人間・・・そんな彼がなんで・・・他におかしい点は?特に彼に関すること」

 

「これと言って・・・強いて言うならば幼少期に両親が亡くなり、その後に引き取った先で悪事を暴いて多額の金銭を得ていた事ぐらいかと」

 

「え?今なんて」

 

「ですから──」

 

 

 

 兵藤一誠が歳にして六歳の頃。彼は外国に出かけた先でテロに巻き込まれ両親を失っていた。

 

 血縁者は皆引き取りを拒否して児童養護施設に行くことになるのだが、里親となった六家族に七つの施設。その全ての悪事を一人で暴き多額の金銭を手に入れていたのだ。

 

 

 

 悪魔などの人外の観点から見ればおかしいとすら思わない出来事。

 

 しかし、それを人間に置き換えれば異常の二文字がつく。

 

 

 

 六歳となればまだまだ親離れできていない時期。それこそ両親が死んだとなればショックで塞ぎ込んでいてもおかしくない。

 

 だと言うのに彼は逆に伸び伸びとその異端性を顕にしていた。それこそ両親の事など忘れている(・・・・・)かのように。

 

 

 

 

 

「一誠くんの運動神経や身体能力が異常になったのは」

 

「同時期です。このデータも曖昧ではありますが、帰国してから数日も経たずに上がった物かと」

 

「なるほど・・・ありがとう。まだ情報が少ないな、兵藤一誠くんについて情報をより集める事、後リアス達にこの事は伝えておいてくれ」

 

「かしこまりました。それではこれで」

 

 

 

 グレイフィアの姿は霧のように一瞬で消え残滓だけが僅かに存在していた事の証明をする。

 

 

 

 一人自室に残されたサーゼクスは兵藤一誠の資料を片手に今一度情報を整理しその力について考える。

 

 

 

 

 

(情報によると魔力や仙術ましてや神器ですらないと・・・それでいてこの異様なまでの身体能力・・・・・・)

 

 

 

 バラバラのピースを一つずつはめていく。

 

 状況証拠や主観的意見など確実性が乏しい情報なども混じっているが、それ全てを含めて整理していく。

 

 

 

 五分間その事を考え続け一つの答えにたどり着いた。

 

 

 

 

 

「もうそれしか考えられないか・・・”原典

保持者”といことか」

 

 

 

 ”原典保持者”その名を知るのはこの世に数少ない。

 

 この世の創造主たる聖書の神は知っているだろうが、その手下の天使や堕天使はまず知らない上にそれは悪魔にも言える。

 

 サーゼクス以外知らないだろ。例え知っていたとしてもその意味の本質を理解できている者はいない。

 

 

 

 それは各時代に存在していた。

 

 

 

 世界が滅び消滅を決められた時。近年で言えばノストラダムスの大予言だろうか。

 

 世界を改革する”英雄”と呼ばれる存在達。その”英雄”に選ばれたものはその存在(自我)すら変えゆる強大な”原典”と呼ばれる力を手にする。

 

 

 

 ある者は一国の王として”原典(聖剣)”を掲げた。

 

 ある者は市民の力となるため”原典”を元に神の啓示を聞いた。

 

 ある者は”原典”を使い最悪の邪龍を討伐した。

 

 

 

 全てが歴史の転換期。もし彼らがいなければ地球はまた別の運命を辿っていたであろうとすら言える。

 

 人間の身でありながら地球の全人類の未来を決定する力を持った者達こそが”原典候補者”だ。

 

 

 

 

 

「だからこそ一時代に一人・・・多くて二人のはず。なのに今回は三人・・・・・・これはかなりの災厄が近い事を暗示している?だとしたら二人の”英雄”ですら不可能という事、これ以上増えるようならばこの世の存亡にすら関わるっか」

 

 

 

 現状、サーゼクスが把握している”原典保持者”は二名だった。

 

 そこへ異端(イレギュラー)な三人目が出現。これは由々しき事態であり、大きな厄災を暗示しているようにすら思えてしまう。

 

 

 

 

 

「これは急がないといけないみたいだね。三種族だけじゃない、この世の全種族が結集しなければ解決できない厄災がすぐそこに・・・」

 

 

 

 

 

 夜空を彩る星を眺めながら願望にもにた夢を零した。

 

 

 

 他の悪魔が知れば笑うだろ「そんな絵空事」と、だが笑われたとしてもこれはなさなければならない。

 

 すでに事前準備は出来ている。まずは三種族が結束し団結力を見せることで他の種族を招き入れる。

 

 しかし、それをするにはまだ時間が足りない。根回しが足りない、交渉の材料がない。まだ、時期早々なのだ・・・だから今はまだ待つ。いずれ来るその時のために待ち続けるしか”英雄”になれなかった彼はする事が無かった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□

 

 

 

 とある悪魔の豪邸。

 

 広大な庭には噴水や植木が見事なハーモニー生み出していて、見る者の心を奪う作品ばかり。そこに焦点を当てればグレモリー家よりも美しい。

 

 もちろん本殿も凄まじく豪華だ。

 

 大きな大理石の柱や壁、幾重に防御魔法が施され滅多な事があっても破壊できない壁画など、歴史的価値の高いものばかりが並べられている。

 

 その一角、一際大きな白亜色のドアの中、歴史的古文書や莫大な知識が詰まった魔導書。そんな代物が所狭しと詰められている本棚の中央に男がいた。

 

 

 

 今回の事件の一部始終を見ていた金髪の男。

 

 前髪をかきあげてその様子を眺めながらワインを一口飲む。

 

 

 

 

 

「兵藤一誠か・・・人間にしては楽しめそうだな」

 

 

 

 視線の先にあるのは一人の人間。

 

 悪魔であれば一瞬の時しか生きぬ人間。

 

 それでも注目に値すると男は見続け名前を何度も呟く。それこそ恋する乙女のような表情だ。

 

 

 

 だが、その浮かべる笑みの意味を知れば驚愕する事になる。

 

 

 

 

 

「あぁぁ・・・お前なら俺を楽しませられるのか?」

 

 

 

 男は暇潰しだと指を一本一本をナイフで弾き飛ばす。

 

 断面から鮮血が舞踊り、飛ぶ指は回転しながら机の上でブリッジをしている。

 

 

 

 正気の沙汰とすら思えない行動。それはライザーにとっては日常的な事だった。

 

 

 

 天気がいいから切り落とす。

 

 朝食が美味かったから切り落とす。

 

 服が上手く切れたから切り落とす。

 

 いい珈琲を手に入れたから切り落とす。

 

 新たな本を入手したから切り落とす。

 

 

 

 なぜならどうせ回復してしまうから。

 

 

 

 

 

 ──切られた指は即座に灰へ、液体を垂らす断面には炎が灯り肉を再生させる。

 

 それこそが男の特権。死ねない不死の呪い。悪魔の中でもトップクラスで危険で恐ろしいとされているフェニックス家の能力だ。

 

 

 

 そんな男は面白みのある男、兵藤一誠を見つけた事で戦いたい欲求が高まる。されど戦うことは許されないだろう。もし、そんなワガママが通るならば暇など起きないはずなのだから。

 

 

 

 

 

「そうだ確かリアスと関わりがあったな・・・それならば、ククハハハハハ!!そうだアイツを使おうそうすれば殺り合える!」

 

 

 

 どうか自分を殺してくれる存在であるようにと希望的観測を込めてを動くことを決意した。

 

 男は止まらない笑いをそのままに自身の眷属を呼んで動き出した。

 

 

 

 兵藤一誠と殺り合うために──不死の悪魔は動いてしまうのだった。

 

 



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主人公は守るべき者を見つけた

最近とあるTRPGの動画を見ていたせいで、唐突にオルガったりDies iraeの長い詠唱とかやらせたくなってきました



 冥界にてリアス達の処罰が決定した頃、廃教会から離れたビルの屋上から教会を見つめる二人の影があった。

 

 

 

「あっちゃーありゃやられたな」

 

「やられてしまったのですか?」

 

「そそ、あんだけ悪魔が出入りして抵抗ないならね。それに俺っちの剣が展開しないし十中八九殺されたな」

 

 

 

 教会にいた戦士達が持っていた剣と同じものをクルクル手の中で回転させながらフリードは呟いた。

 

 光の剣(フォトン・ソード)は堕天使か天使から聖の力を注がれる事で初めて起動するので、その力を送る相手が居なくなった時点で何にも役に立たないゴミになってしまっている。

 

 

 

 

 

「どうすっかな・・・食い扶持無くなっちまったぜ」

 

 

 

 傭兵の要領で金を受け取って仲間になっていたので死んだ事に対してフリードは差ほど気にしない。

 

 戦場では昨日の友が今日死ぬ事など日常茶飯事だ。だからこそ切り替えがすんなり着くようにしているが、隣の本聖女のアーシアはそうではない。

 

 

 

 修道院にてその神器(セイクリッド・ギア)にて怪我人を癒してきた。瀕死の人、重症の怪我人、かすり傷の人・・・その全てを救ってきた。一人も殺すことなく確実に。

 

 だからこそ聖女ともてはやされ拝まれ敬われた。

 

 そんな彼女の知人が死んだと言う事実をそう簡単に切り替える事は出来ない。

 

 

 

 

 

「うっ゛・・・ぁ゛ぁ・・・」

 

「気にすんなよアーシアちゃん、よくあることだ。俺らの生きてる世界はそんなもんだ」

 

「けどぉ゛けどぉ゛」

 

 

 

 

 

 実際に死体を見た訳でない。けれど感じたのだレイナーレの死を。

 

 傲慢で威張り散らしていて良い印象のないレイナーレであっても、慈愛の塊たるアーシアにとっては死を嘆くべき相手であり悔やむべき堕天使であった。

 

 

 

 あまりにも優しすぎて脆すぎる彼女の心には大きなヒビが入っている。

 

 初めての知人の死はそれほどに恐ろしく悲しい。

 

 

 

 ──フリードも初めのうちはそうであった。

 

 教会の戦士として育てられた彼に与えられた最初に試練は至極簡単な事だった。

 

 産まれた時から戦士として旅立つまでの十年間苦楽を共にしたルームメイト、一番の親友の殺害。

 

 

 

 嫌だと嘆いた。無理だと叫んだ。

 

 

 

 だが大人にとってそれは意味が無い。反抗した子供は大人に殺され、そいつの親友も殺された。

 

 相手を殺さねば自身が生き残るどころか二人共死んでしまう。幼き頭で察したフリードは涙ながらに親友を殺した。

 

 

 

 親友が血の海に沈み、手から滴り落ちる生暖かい液体。肉体に刃物が突き刺さる肉の裂ける音が耳から離れない。

 

 息はいつまで経っても整わず乱れ続ける。

 

 

 

 親友は二度と自分に笑いかけない。二度と親友の声は聞けない。星を見ながら将来の夢を語り合った親友はもう居ない。

 

 

 

 その事実に幼きフリードの心は粉々にヒビ割れ、廃人一歩手前の大人達の操り人形になっていた。

 

 それからは簡単だ。教会に逆らうもの人外その全てを狩り、殺すのに慣れてしまった。友が死ぬのに慣れてしまった。

 

 

 

(だから俺はアーシアちゃんが嫌いなんだ)

 

 

 

 

 

 もう後戻りは出来ないほど穢れ切ったフリードにはアーシアはあまりにも純粋すぎるし温かすぎる。

 

 

 

 死に一番遠くにいながら進んで入ろうとする。愚直なまでな理想主義者にして偽善者。

 

 何度も何度も偽善者だと罵るが彼女は、

 

 

 

 

 

『偽善者でも構いません。私の偽善で一つの命でも救えるのなら』

 

 

 

 

 

 殺す事でしか救えないのに、癒す事で救うと言う。

 

 理想だ。夢だ。非現実的だ。ありえない、不可能だ。出来るわけが無い。

 

 麻薬のようなあまりにも純粋すぎる言葉はフリードを蝕む。どす黒く穢れた心にはあまりにも輝いて見える。

 

 

 

 そのせいで自然と目がアーシアを追うし、ぼっーとしているとアーシアの事ばかりの事を考えてしまうし、アーシアが他の男と駄べっていると苛立つし、鍛え上げた心が突き動かされてしまう危険な存在。

 

 

 

 

 

「ほら泣きやめよ、汚ったない顔だぜたくよぉ」

 

 

 

 

 

 ──なのに、なんで切り捨てられない。

 

 

 

 いつもと同じだ殺すだけ。自分に不要な物は殺して捨てるそれだけの事。

 

 

 

 けどそれが出来ない。アーシアを殺せない、アーシアを殺したくない。こんなにこんなにアーシアの事を思っているのに手が動かない。そんな初めての感情に理解が追いついていなかった。

 

 

 

 勝手に手は動き泣きじゃくる彼女にハンカチを差し出していた。

 

 

 

 

 

「やっぱり優しいんですねフリードさんは」

 

 

 

 ──やめろ、やめろ。

 

 

 

 

 

「フリードさんと一緒で良かったです」

 

 

 

 ──もうその笑顔を向けないでくれ。笑わないでくれ。

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・泣きじゃくるだけじゃダメですよね。もっと頑張らないといけませんよね」

 

 

 

 ──これ以上俺に踏み入らないでくれ。

 

 

 

 

 

 もう限界だ。別れよう、これ以上一緒に居れば俺はおかしくなる。その一言を出せばいいそれだけだ。

 

 

 

 

 

「はは!泣き虫アーシアだな、写真に撮って後世にまで語り継ぎたい顔だったぜ!」

 

「むぅぅ!酷いです!さっきの発言は前言撤回です!」

 

 

 

 

 

 けれどその言葉は出ない。いや出せなかった。

 

 

 

 俺の意気地無し、馬鹿野郎、クズ人間、ロクでなしのゴミ、何度罵っても不可能だ。もう俺は彼女から離れられない、もはや半身とすら錯覚している。

 

 

 

 この沸き立つ謎の感情に結論づけが出せないまま、なぁなぁに過ごすことにした。

 

 

 

 

 



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主人公は守るための力を手にする

タイトル通りフリードの話が続きます。


 一先ずあのままあそこに居るのは分が悪いと一度離れる事にした。

 

 

 

 ビルの屋上から降りても歩くのはひたすらな裏路地。

 

 野生の猫が行き交い、腐敗した食べ物の臭いが充満している。明かりは月の明かりのみで薄暗く先が見えない。

 

 

 

 

 

「ふぁあぁ・・・疲れましたぁ」

 

「そうか?まぁ貧弱なアーシアちゃんじゃあ仕方ないか」

 

「だ、大丈夫です!もっと行けます、さぁ行きましょうそうしましょう」

 

 

 

 ガッツポーズをして笑顔を向けてくるが空元気なのは目に見て取れる。

 

 小一時間行き着く宛もなくひたすらに歩き続けている。

 

 休憩を一回もしてこなかったので彼女も限界のようだ。後々の事を踏まえればここで休むのが得策と判断する。

 

 

 

 

 

「少し休むか確かあっちに公園があった」

 

「えっですけど」

 

「良いんだよ俺っちが疲れたんだ、ほれ休むぞ」

 

 

 

 首を傾げながらキョドるアーシアの手を握り強引に引きずって近場の公園へと向かう。

 

 

 

 近場の公園に辿り着くとあまりにも殺風景な公園に疑問を持った。

 

 木々は根っこから上がなぎ倒されていて、ブランコやジャングルジムなど公園にあるべき遊具がキレイさっぱり消え去っている。

 

 実はここが昼間の一誠とレイナーレの戦闘した公園なのだとフリード達は知るよしがなかった。

 

 

 

 公園に残っている木の長椅子に腰をかけ、水を勢いよく飲んでいるアーシアを尻目に寝転がって空を見上げる。

 

 

 

 暦で言えば春に差し掛かった頃。

 

 冬はとうに過ぎたと言えどまだまだ日が沈むと肌寒く感じる。二人の衣類には防寒作用のある魔法が組み込まれているのであまりその寒さを感じないが、一度でも脱げばその寒さに身を震わせる事になるだろう。

 

 

 

 

 

「さてさてどうしたもんかね・・・食い扶持はないし、家も無いし、金だってありゃしねぇ・・・・・・教会に通帳なんか置くもんじゃないな」

 

 

 

 せっかく度重なる傭兵生活で稼いだ一億が今では悪魔に回収されておじゃん。

 

 割に合わないとボヤくことしか出来ない。

 

 

 

 

 

「はぁ・・・」

 

「ダメですよため息は。ため息をすると幸せがその分逃げていくと言いますから」

 

「そうもうされてもねぇ・・・だったらアーシアちゃん今いくら持ってるのさ?」

 

「あっ・・・えっと、その・・・・・・これだけ・・・」

 

 

 

 か弱い細い指に挟んで差し出すの黄色と橙色の間のような色合いの貨幣。

 

 日本円にして五円だ。五円だった。

 

 

 

 

 

「ぷぎゃぁ」

 

「笑いましたね今!」

 

「いやぁぁ笑って何かぷぷぅいませんよ」

 

「絶対笑いました!このいけず!スカポンタン!」

 

「ん?今言った言葉の意味知ってるのか?」

 

「意味ですか?意味があるんですか?」

 

「もちもち、確か貴方の事を殺してやるって意味だったぜ」

 

「えっ、そんな私は」

 

「うっそ。騙されすぎだぜ!!ギャハハハハ!!」

 

 

 

 

 

 疲労困憊だったアーシアの心底の笑顔を作り出した。

 

 フリードのおちゃらけた態度が絶望に染まりそうだったアーシアの最後の防波堤にして、精神回復の二つの意味を持っていた。

 

 

 

 横になっているフリードの頭の横にアーシアは腰を下ろして一緒に空を見上げる。

 

 

 

 満天の星空。

 

 大都会の進んだ科学技術では霞んで見えづらいこの星空も、夜になってみれば案外見えるもんなんだなと感心する二人。

 

 

 

 二人の間には平穏な一時が流れる。

 

 清流が山を下るように穏やかに、春風が頬を撫でる心地良さのように、暑い日に飛び込む海のような清々しさがあった。

 

 

 

 この時がずっと続けばいい。続くのならば好き嫌いは言わない、贅沢は言わない、だからどうかこのままと、星々に願う。しかし、その願いは聞き届けられなかった。

 

 

 

 

 

「おやおや随分と楽しそうだな」

 

「ッ──!何もんだ!」

 

 

 

 声に反応しいち早く飛び起きたのはフリード。

 

 声に込められた異様なまでの冷徹で邪悪な気配に肌を刺激され身体が防衛体制に入る。

 

 

 

 声のする方に身体を向けさり気なくアーシアの前に立って視線を切る。

 

 

 

 

 

「反応は中々、十分及第点に値するな。贅沢を言うならば声をかける前に反応して欲しいところだが」

 

 

 

 目の前の男は優雅にフリードの行動に点数と改善点を述べ始めている。

 

 

 

 男から発せられる邪悪な気は依然衰えるところを知らず逆に上がっているようにすら感じる。

 

 その気配は悪寒としてフリードの全身を駆け巡る。鳥肌は相手の危険性を告げ、肉体は恐怖から震え始める。

 

 勝てない──いや戦うことすら不可能。

 

 野生の勘とも呼べる能力でその考えを打ち出してからの行動は早かった。

 

 

 

 懐からくすねていた閃光弾を地面へ投擲。

 

 黒のローブでアーシアと自身を覆い隠して閃光が炸裂したと同時にアーシアを抱えてその場から急いで退避する。

 

 

 

 

 

「キャッ」

 

「喋んなよ、舌噛むぞ!」

 

 

 

 その声に余裕はない。

 

 どんなピンチでも消えることのなかったおちゃらけさが掻き消え、焦りが露骨見えている。

 

 それでもなおフリードの脳内は的確に逃げ道を計算し逃走を開始する。

 

 

 

 閑静な住宅街の隙間と隙間を縫うように通り去り、アクロバティックな動きでビルとビルの合間を蹴り上がる。

 

 逃走開始から十分が経過した。額から流れる汗は量を増し大雨にうたれたかのような状態だ。

 

 疲労から恐る恐る後ろに振り向くと着いてきている気配はない。

 

 逃げ切った。そんな安堵はすぐさま消される。

 

 

 

 

 

「人間にしては身体能力が高いな。魔術を使っている形跡がない・・・ふむ、何か力を隠しているな少年」

 

「先回りされたッ!」

 

「生憎と私は君達を驚かせるつもり──」

 

「このッッ!!」

 

 

 

 アーシアを肩に担ぎあげ、手榴弾を二個取り出し口でピンを抜き男へ投擲する。

 

 腕の裾から紐を伸ばして反対側のビルに紐の先の返しの部分を引っ掛け爆発する前に飛び蹴る。背後では二個分の手榴弾の爆発。大量の爆風がフリードの背中を押し五M以上離れた反対側のビルへ辿り着かせる。

 

 

 

 息乱れる中目下に視線を送る。さすがにあの程度で倒せたとは思えなかったからだ。

 

 爆風で上がった粉塵が風で消され視界良好になった頃にはそこに誰もいない。

 

 

 

 

 

「次は耐久性だ」

 

「ッ!!」

 

 

 

 いつの間にか回り込んで待ち構えていた男の蹴りがフリードを捉える。

 

 深く突き刺さる蹴りに骨が悲鳴を上げ何本かが断末魔を上げた。口周りは血化粧を施され十階のビルから下の裏路地へと吹き飛ぶされる。

 

 

 

 高速で地面に落ちる中咄嗟の判断でアーシアを上に放り、自身の身体を先に叩きつけてから自然落下するアーシアを受け止める。

 

 

 

 

 

「うぅ舌噛みました・・・」

 

「一人で逃げるか?」

 

「えっ」

 

「死ぬ気で俺っちが時間を稼ぐ、だからこの路地を抜けて逃げるんだ。さすがに人通りの多い所で襲ってくるとは思えないからな」

 

 

 

 上空で身構える男に鋭い眼光を向ける。

 

 二人で逃げようとすればアーシアのお守りで迎撃ができない。ならばと彼女を逃がす事で戦闘をできるようにして、一人だけでも逃がせればと。

 

 しかし、無情にもその考えは男の一手で壊される。

 

 

 

 

 

「残念だがここ一帯には結界を張っているよ。確かに人通りは少ないがこれ程の音を出せば気づかれるだろう?だと言うのに一向に人が来ない、おかしいとは思わなかったのかね」

 

 

 

 翌目を凝らしてみれば薄く何かの膜が覆っている事が分かった。

 

 目の前の男は戦闘をしながら繊細なコントロールで薄く強靭な結界を展開していた。それが意味するのは、

 

 

 

 

 

「勝てねぇなこれ」

 

 

 

 

 

 必死に傷を癒すアーシアを尻目に今できる最前の手を考える。

 

 

 

 逃げるのは不可能。では戦う?いや武器がない。せめて刃物──剣があれば善戦はできるはずだ。

 

 絶対的に剣がない。今残っている装備は閃光弾一つだけ、これでは勝てない。

 

 

 

 

 

「クソが!アレを使えって事かよ」

 

「アレ?ですか」

 

 

 

 治療を施すアーシアが立ち上がったフリードに疑問を投げかける。

 

 

 

 

 

「まだアーシアちゃんには話して無かったな。まぁ俺も使いたくないから黙ってたんだけどな・・・俺の後ろにいな、その方が安全だ」

 

 

 

 治療をやめさせて背後に匿う。

 

 それが一体何を意味するのかアーシアと男は分からない。ただ、フリードが何かをするのだと言うこと。

 

 

 

 

 

「へっ、行くぜ!来いよォぉ!俺っちの神器(セイクリッド・ギア)

 

 

 

 天に右手をかざす。

 

 ──途端、薄暗かった路地裏は極光に包まれ太陽以上の光を放つ。

 

 暗闇から突然の光に男は目を覆い隠し、光が収まった頃に光の中心点だった場所を見れば異様な武器を持ったフリードがいた。

 

 

 

 右手に持つのは大剣──全長二〇〇CMはある長大剣。フリードの身長を遥かに超えるそれを右手一つで持ち上げている。

 

 さらに、刀身は白銀の輝きを撒き散らし、突風が吹き荒れている。

 

 

 

 それ以上に男は驚くべきポイントがあった。

 

 

 

(神器だと・・・だが、そんな神器見たことが無い!なんだそれは)

 

 

 

 

 

 まだ二人は知らないが男は神器を研究する組織の幹部だ。そのため全ての神器の情報を知っている。だと言うのに、男の知らない神器がそこにあった。

 

 データに一切ない摩訶不思議な神器。それでいて放つオーラは神滅具(ロンギヌス)、神器の最高峰と何ら遜色ない。

 

 

 

 

 

「くかかか!奥の手を隠していたのか、合格だ!貴様こそ我が部下に相応しいぞ!!」

 

「そりゃどうも、けど部下にはなれねぇぜ。何故ならアンタはここで死ぬからな!──掻き毟れ!」

 

 

 

 

 

 短い詠唱(ワード)と共に大剣を振り下ろす。

 

 大剣にまとわりついていた突風が渦巻き状に直上、男の元へ飛ぶ。そして、風はまるで空間を毟るかのように世界の悲鳴が轟く。

 

 

 

 

 

「面白い、其の一撃拳で受けよう!」

 

 

 

 奥の手として力を隠していたのは男も同じ。黒のスーツの背中は部分を大破させて黒い翼を四対四で展開。

 

 一誠にちょっかいをかけた下級堕天使レイナーレとは違い、正真正銘の最上級堕天使にして、聖書にその名を連ねるコカビエルがその本性を表した。

 

 

 

 拳一つに魔力を集中させて擬似的な鎧を装備。高度で言えば神の雷でさえ防げる程、最強の盾である。それを攻撃に使えば威力は明確。耐えられるものなどいない。

 

 

 

 

 

「なッ──」

 

 

 

 しかし、フリードの攻撃には小細工は通用しない。

 

 突風と激突した途端に鎧は砕け散り存在を消失、咄嗟に危ないと肩を外して起動を逸らしたが小指が巻き込まれ消えた。

 

 消えた小指の断面を見れば刃物で切られたとか、燃やされたなどではなく、空間が存在が消されたと言った方が的確だと分かるほど細胞に傷がない。

 

 

 

 

 

「その神器・・・この空間を消すのか。いや違うな、それにしてはおかしい。それはこの世の理を犯す行為だ、あの神がそんな事をするはずがない・・・となると、吸収した?」

 

 

 

 

 

 無数の選択が散りばめられその正体を的確に掴む事ができない。

 

 

 

 だからこそか、血が滾るのは。

 

 生まれてから幾許かの年が立ち未知は無くなった。

 

 未知が無くなれば残るのは無知。

 

 つまらない、面白くない、価値がない。それを埋めるため戦争を今一度起こそうと決めた。

 

 

 

 その前戯、前座として用意されたのが未知の神器だったのか。あぁ、神よ俺を作りし神よ。感謝しよう──この怠惰なる日常の崩壊を。

 

 

 

 

 

「余計にだ!貴様を屈服させるとしよう」

 

「出来るもんならしてみろやぁ!掻き毟れッッ!」

 

 

 

 先程と同じ攻撃。逆巻く突風が空間を削りながら飛んでくる。

 

 それが何なのか解析したい気持ちが高まるが、今は二の次。翼を羽ばたかせ空中で軌道を変えながら回避する。

 

 もちろんフリードはそれに対応し回避する軌道上に突風を放る。

 

 その思考を長年生きてきて培った経験からくる勘でさらに起動を変えて回避する。空中戦闘が主ではないフリードに取っては全てが後手に回っている。

 

 いくら放てど当たる気配は微塵もない。

 

 

 

 

 

(けっ、最初から遊んでたってか。確かに勝てないとは思ってたがよ、こりゃ絶望的だな。降参するって手も・・・昔の俺っちならその選択をしたんだけどな。ホント嫌いだぜアーシアちゃんよ)

 

 

 

 諦めようとする度にチラつくのは今にも泣きそうなアーシア。

 

 両手を身体の前で交えて祈るその姿は正しく聖女にほかならない。神に裏切られ惨めに蔑まれたとしても彼女は願うのだフリードの勝利を全ての元凶たる神に。

 

 

 

 

 

「最っ高にやな気分だよ!」

 

「その割には笑っているがね!!」

 

「知るかよそんな事、イラついてイラついて仕方がねぇんだよ!!!」

 

 

 

 身は加速した。時早く、刻早く、素早く。

 

 肉が剥がれようとも、血を巻き散らそうとも、骨が折れようとも、後ろには彼女がいるのだから問題は無い。

 

 

 

 祈る彼女の手から飛び立つ聖なる光は傷つく大事な人の元へと飛びその速度にて傷つく彼の傷を癒す。

 

 例えどんなに怪我をしたとしても自分がいる。私が絶対に生きてさえいれば治すだから、生きてと。その願いがこもった遠隔治療。神器の力を十二分に使えている証拠にほかならない。

 

 

 

 ただ、惜しかったのはフリードが神器に慣れていない事だった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 一時間に差し掛かる激闘。

 

 裏路地は人がいなかったことが幸いし人体的被害は出ていないが、建物は不自然に抉れていたり砕け散ったりしている散々な有様。

 

 その一角に全身についた傷から血を垂れ流す男がいた。

 

 その男は背中に展開していた翼をしまい、片膝を着くように崩れる。

 

 傷の度合いは様々だが、血を流しすぎた。これでも回避した方なのだが人間特有の生への執着による力に押され、想定以上の傷を負った。

 

 乱れる息のまま瓦礫に崩れふす加害者に語る。

 

 

 

 

 

「やっと大人しくなったか」

 

「全身の骨ボロボロのやつにそれを言うのかよ・・・あぁくそ、超痛てぇ」

 

「我慢しろ貴様が抵抗しなければこうはならなかった」

 

「抵抗しなければ殺したくせによく言うぜ」

 

 

 

 指先一つすらピクリとも動かない身体に呆れながらも、未だに戦闘続行の意思は消さない。そうすれば食われるのを本能的に察知しているからだ。

 

 

 

 

 

「安心しろもう殺しはしない。何、大事な戦力をこんな所で失う訳にはいかないのでね」

 

「戦力ね・・・・・・アーシアちゃんもあんなんだし、敗者の俺に選択肢は無いか」

 

 

 

 瓦礫に埋もれた体制からでも見えるのは息を荒くし上気した頬で倒れるアーシアだ。

 

 完全に神器の使いすぎで能力限界(オーバー・ヒート)をしてしまったのだろう。明らかに異常な状態で普通の疲労とは毛色が違う。

 

 

 

 もうフリードも戦えずアーシアも治療は行えない。

 

 完全な負け、満を持して奥の手をだして起きながら負けた。

 

 

 

 

 

「だっせえな俺・・・」

 

「そうかな?君は随分とカッコイイと思うよ、何せ愛する女を守ったのだろ?命をかけて」

 

「愛する?そんなんじゃねぇよ、ただそいつを見てるとイラつくだけだ。勝手な憶測で決めんなコラ」

 

「そうか、それすまない。で、君はどうするのかな?今回の戦いに免じて逃げるのならば見逃そうと思うが・・・」

 

 

 

 それは最後の確認だ。

 

 ここまでの強者をここで狩っては将来の楽しみが減るので誘いを断るのならば傷を治して逃がす考えだ。

 

 ここで選択を誤ればこの先の道が決まる。それは薄々フリードも感じていた。間違えられない、間違えれば将来的に死は確定的。

 

 

 

 

 

「後ろ盾も必要だし、金もいる。あぁ住む場所もいるな」

 

「全てこちらで用意しよう」

 

「アーシアちゃんにはさ、こんな穢れた俺から離れた方がいいと思うんだよね」

 

「善処はするが結局は彼女の意思しだいだ。無理矢理変えるのは君の考えに反するだろ?」

 

 

 

 震える声で言葉を紡ぐフリードは今の受け答えで決心した。

 

 

 

 

 

「アンタの部下になるぜ・・・旦那」

 

「そうか、そうか。有能な部下を持てて感激だ」

 

 

 

 傷まみれの二人は笑う。

 

 コカビエルは人間界の中でもトップクラスの強者を。

 

 フリードは生きていくための最低条件を。

 

 互いが互いの利を叶えるための協力関係がこの場で提携された。これにより、フリードの人生は大きく変化する。

 

 

 

 それが茨の道であろうと獣道であろうと構わない。

 

 今のフリードにとっては全てがどうでもいい。アーシアが無事に過ごせるならばそれでいいのだと、未だに分からぬ自分の心にそう告げた。

 

 



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始まりの序章

APEXが楽しすぎて止まらない。

オクタンのシャ……加速好きよ




 駒王町にて堕天使と悪魔と人間の激闘から一月あまりが経過しようとしていた。

 

 新学期が始まってからある程度日が経ち道行く学生達に不安の色はない。逆に楽しみで仕方が無いような表情だ。

 

 

 

 そんな中、登校時刻だと言うのにベットから出ようとしない一人の少年がいた。

 

 

 

 その少年は人間でありながら人間以上の身体能力で堕天使の一人を葬った兵藤一誠である。

 

 堕天使に勝てても睡魔には勝てない。

 

 

 

 

 

「起きてください一誠先輩」

 

「・・・・・・・・・あと五分」

 

「すでに十回それを繰り返しています」

 

「・・・・・・・・・ならおはようのキ──」

 

「えい」

 

 

 

 枕元と言うか布団の横にいる白髪の幼女はいくらモーニングコールをしても起きない駄先輩に対して強固手段を行う。

 

 

 

 小さな掛け声と共にその体型からは似つかわしくないほど飛び上がる。天井スレスレまで上がりそこから狙いを定めて肘を突き構える。

 

 数秒も経たずに重力に従い自ずと下へ──ベットで寝る一誠の元へ落下する。

 

 

 

 手厚いモーニングコールに一誠は右手を突き出して肘を掴んで受け止めた。

 

 

 

 

 

「おはようございます一誠先輩」

 

「ふぁ、今起きたところだがなんだこれ?記憶がない・・・まさか一夜を共に」

 

「寝言は寝て言ってください、それとさすがに遅刻するので私は先に行きます」

 

 

 

 自由気ままにしたい事をしたい分だけする一誠のノリに適応した小猫は腕から離れ、朝日を遮る黄色のカーテンを開いてからベット傍においてあったカバンを手に取る。

 

 

 

 太陽からのモーニングコールは苛烈を極め、寝起きの一誠にとっては機関銃で撃たれるほうがマシだとすら思える。

 

 そんなどうでもいいような事を思いながら起き上がると、部屋を出ていく寸前の小猫に声をかける。

 

 

 

 

 

「他の奴らはどうしたんだ?」

 

「とっくに行きました。私が今週は当番なので遅刻ギリギリまで待っていただけです」

 

「そうかサンキューな。学校終わったらケーキ焼いてやるか──」

 

「ショートケーキでお願いします!」

 

「おおう、かなり食い気味だな」

 

 

 

 食い入るように瞳を輝かせ同意を小猫は取ると駆け足気味に部屋を後にした。その小さな背中を見ながら問題はなさそうだなど見送る。

 

 彼女に出会う前の廃れた自身の映し鏡のような小猫から目を離すと言うことが出来ずにいた。それが決してロリコンなどの感情によるものでは無い。

 

 

 

 

 

 そして一誠の言葉にあった通り現在この家には一誠と居候(ドライグ)以外にも住人が増えた。

 

 

 

 あの事件以来、悪魔サイドから目を付けられたようで監視にリアス眷属全員が引っ越しましたと事後報告をしてきたのが半月前、そこから今のように慣れるまでに半月と言ったところだろうか。

 

 最初こそ戸惑ったが帰る時には家に明かりがついているのは以外に悪くは無いと思い始めている。

 

 

 

 考え深いなと頷いていると九時を告げる時計が鳴る。

 

 一限目の遅刻は確定。小猫のように転移したいもののこの身体は受け付けないので足を使う他ない。

 

 

 

 

 

「一限目サボるか、ふぁっ・・・まだ眠いし、シャワー浴びて飯適当にだな」

 

 

 

 潔く本日のこれからの予定を立てるとまずはシャワーだと服を脱ぎ捨て二階から一階の浴室へと向かうのだった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「たくよう随分な重役出勤だな一誠くんよぉ~」

 

「そうだそうだ!ダルい朝から来てる俺らに失礼だと思うだろ?」

 

「いや全く全然そんな事思わないな」

 

 

 

 結果を告げるならあの後何故かフレンチトーストが食いたいとなり、食パンを探すも発見できない。なので近くのコンビニで購入して作って食べるをして、ゆっくり朝のオリーブ番組を見ていたらまさかの二限目も遅刻し三限目からの重役出勤をしてしまった。

 

 それをからかうのはいつもの悪友達。

 

 

 

 

 

「かぁぁっー聞きました今の松田氏」

 

「ええ聞きました事よ、なんとまぁ最近の若い子は」

 

「アンタらマダム口調になってるわよ。あっそれ美味そうねもーらい」

 

「なぁ!てめぇこら桐生!!俺のハンバーグだぞ!」

 

「ふっ・・・他人が食べてるのは美味そうに見えるのだよ」

 

 

 

 舌で親指を舐める一連の動作をしてからドヤる。

 

 奪われたから奪い返すと今度は元浜が桐生の黄色い弁当箱に入った卵焼きを強奪。元浜好みの甘ものだし焼き卵で普通に美味い。

 

 

 

 

 

「ちょっとそれ返してよ!」 

 

「いやですぅー、もう胃の中でーす」

 

「こっの!」

 

「なるほどなこりゃ美味いな」

 

「確かに美味い」

 

「アンタら二人までぇぇぇ!!」

 

 

 

 元浜に続き二人の問題児もだし焼き卵を盗み食う。

 

 

 

 その味は高級店などで鍛えられた松田や元浜の舌をうならせる完璧な味。これを作っているのが桐生藍華本人だと言うのだから驚きだ。

 

 

 

 

 

「あぁ桐生じゃなければな・・・」

 

「全くだな。それはいつも思う」

 

「確かにな・・・どんなに美味くても桐生が作ったからな、プラマイマイだな」

 

「それな」

 

「いい度胸ねアンタら!そこまで馬鹿にされたらこの桐生の名が黙ってらんないわ!」

 

「ない胸を張るなみすぼらしい」

 

「言ったわね、遂に言ったわね観念なさい。逃げ道なんて無いから!」

 

「しまった、二人共」

 

「にしても空は清々しい」

 

「こんなに清々しいと食事が捗る」

 

「薄情者ぉぉ!」

 

 

 

 四人にとってみれば当たり前の日常。

 

 バカ騒ぎして笑って泣く。家ではそれから最も遠い四人だからこそ尊く楽しいと思える空間。

 

 そんなドンちゃん騒ぎもランチタイムを終わらせるチャイムが鳴ればお開き。無情にもその音が鳴り響き四人は片付けをして午後の授業へと切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 午後の授業はあっという間に終わりすぐに放課後。

 

 本当は家に真っ直ぐ帰りたい一誠だが残念な事にオカルト研究部に呼び出しされているのだ。

 

 

 

 軽い別れの挨拶を交わして向かうのは旧校舎。

 

 花壇の花や木々を素通りして木々の中で開けた位置にある旧校舎へと辿り着く。

 

 

 

 本当は行く気などないのだがなんでも面白い事があるとの事で向かうことにしていた。

 

 

 

 

 

『うふふふ、そう言えば明日の学校ですけども、放課後オカルト研究部に来れば面白い物が見れますわよ』

 

『面白い物ってなんだよ』

 

『来てのお楽しみですわ』

 

『ヤハハハ!それは面白そうだな』

 

 

 

 アレは背中を流す昨日の夜の入浴中に侵入してきた朱乃から告げられた情報だった。

 

 面白い事を目の前に垂らされてその欲求に従わない一誠ではない。例えそこに凶悪な罠が仕掛けられていても問題なく突っ込む。

 

 

 

 不用心に鍵が掛けられていない旧校舎のドアを開け堂々と入る。

 

 古めかしい木の軋む音が校舎を駆け回り一誠の訪問を中の十人に伝える。

 

 いつもならば幼女の一人や二人出てくるのだがこの日ばかりは出てこない。帰ってくる返答は静寂だけだ。

 

 

 

 

 

「なるほどね。これがお楽しみと・・・さすがにそんな訳が無いか。さてさてさーて、何が待ってるのか楽しみだね」

 

 

 

 そう告げる少年は笑みを抑えられないと笑いながら廊下を進んで行った。

 

 



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リアスは結婚をしたくない

 

 

 朱乃の言った面白い事。それはリアスから見れば面白い事ではない。

 

 とある忌むべき男の来訪。

 

 あちらから見れば歓迎するような事だがリアスからすれば溜まったものでは無い。

 

 

 

 

 

「どうぞ粗茶です」

 

「んんありがとうマドモアゼル。ところで今晩」

 

「お茶請けを持って参りますね」

 

「残念・・・フラれてしまったよハッハハハハ!」

 

「いい加減にしてライザー。例え何度伝えられても結婚なんて嫌」

 

 

 

 リアスが嫌悪する理由それは親同士が定めた政略結婚だと言うこと。

 

 

 

 相手の金髪の黒のタキシード姿の男──ライザー・フェニックスは焦れったいなとソファーに両手を広げながら座っている。

 

 

 

 フェニックスは七二柱の一つであり数少ない純血悪魔の一家系。悪魔の中でも異端の”不死”の力を持つ悪魔である。

 

 数が少ない純血悪魔(リアス・グレモリー)純血悪魔(ライザー・フェニックス)が結婚しその間に純血悪魔の子供をもうけるのは悪魔社会にしてみれば当然の結露。

 

 人間社会では日本の天皇、イギリスにしてみれば法皇などに位置するほど純血悪魔とは強い権力を持っている。

 

 そこに個人の感情が挟めるわけもないのだが、リアスはワガママを続け一向に首を縦に振らずにいた。

 

 

 

 

 

「諦めろよリアス。確かに俺だって嫌だよ、こんな青臭い女・・・まだ熟した果実を食べた方がマシだとすら思うね。けどな、これは悪魔社会の今後のためだ。そこに個人の感情はいらない、所詮俺達は親の遊び道具に過ぎないんだからな」

 

 

 

 ライザーの語ることば全て正しい。正論だからこそリアスは真っ向から否定出来ずのらりくらり躱してきた、だが何故か本腰を入れたライザーによってその逃げは許されない。

 

 

 

 

 

「けど」

 

「けども嫌もない、これは上からの命令だ。それに逆らうことは魔王ですら不可能だ」

 

 

 

 リアスの兄たるサーゼクスも今回の婚約には反対派ではあるがその強制力はない。なぜならそれが正しい事だからだ。

 

 絶対数の少ない純血悪魔を残すのは必然の事、なのに魔王が無下にしたとあればそれこそ魔王の座剥奪もありえてしまう。だからこそ全てにおいて放任しているのだ。

 

 

 

 

 

「だが俺もお前も嫌と意見は一致している。であれば力で白黒付けよう。弱肉強食、それこそが冥界の悪魔の掟だ」

 

 

 

 と、ライザーの後ろに魔法陣が展開され一人のメイドが現れる。

 

 黒を基調に白のフリルや腰掛け、市販のメイド服を改造した彼女だけのオリジナルメイド服。

 

 さらに、透き通るような銀髪がメイド服と相俟り美しさをより際立ている。

 

 

 

 その女性はリアスのよく知る人物であった。

 

 

 

 

 

「グレイフィア」

 

「お久しぶりですリアス様。先月以来でしょうか」

 

 

 

 魔王サーゼクス・ルシファーの妻にしてリアスの義理の姉、グレイフィア・ルキフグスであった。

 

 

 

 なぜ?と思ったが事の全容を彼女の口から教えてくれる。

 

 

 

 

 

「今回私がこの場にいるのは御二方のご意向を汲み取り、レーティングゲームにて決着をつけると決められたからです」

 

「レーティングゲームですって!」

 

「お前も知っているだろ、今回はそれで白黒はっきりさせる。勝者にはリアスの所有権と言うわけだ、俺が勝てば婚約、お前が勝てば晴れて自由の身とな」

 

 

 

 嘲笑うかの如く笑いながら両手を広げる。

 

 

 

 レーティングゲームは悪魔が死ぬ事の無い安全な戦争を行う事が出来る。

 

 知力、武力、戦術、戦いにおいて重要な全てを一気に試す戦いでありながら、娯楽へと繋げたゲームである。

 

 そのため悪魔の殆どがこのゲームに参加をしていて、ランキングのトップ十〇位以内は魔境とすら言われている。

 

 

 

 リアスも例に漏れず将来的には参加する予定ではあった。なのでレーティングゲームの詳細な情報も集まっているのでやる分には問題がない。ただ、ある一点ライザーの実力を除いてだ。

 

 

 

 

 

「けど、ライザーはランキング十一位!私達とは圧倒的に地力が違うわ」

 

「知ってるさだからこちらからは一週間の猶予、そしてレーティングゲームには俺と四人の眷属だけしか参加はさせない。プラスでお前らには援軍を一人入れることを許可している

 

 そうすれば頭数は同じ。囮や自爆特攻などをしても問題ないだろ。かなりの高待遇だがまだ何かを求めるか?」

 

「・・・・・・分かったわ、なら援軍は」

 

 

 

 現状リアスの知り合いでまともに悪魔とやり会えるのは、同級生にして生徒会長のソーナだけ。なので援軍は彼女に決めようとした瞬間、応接室の扉が蹴り飛ばされて突風が侵入する。

 

 

 

 ライザーは飛んできたドアを人差し指で触れただけで燃やし尽くし無傷。視界を完全に覆っていたドアが消えると、一人の男がそこに膝を突き出しながらいた。

 

 

 

 

 

「オラッ!」

 

 

 

 話を盗み聞きしていた問題児の蹴り。

 

 それは堕天使を殺した拳と同じ第三宇宙速度だが、威力は桁違いに高い。リアス程度の悪魔であれば一瞬で消せる威力。

 

 だが、ライザーは目を瞑ることなく逆に笑みを浮かべて避けなかった。

 

 

 

 ドゴン!!!!

 

 

 

 一誠の蹴りはライザーの頭を消し去り、衝撃に伴って残った身体ごと背後へ吹き飛ばし壁を破壊する。

 

 普通ならこれで終わる、だがライザーはこの程度では死ぬ事は許されない。

 

 

 

 

 

「随分と温いな・・・もっと死んでもおかしくないと思っていたんだがな・・・・・・これじゃあ肩こりも取れないぞ」

 

 

 

 再生した頭から発せられる第一声。その声に痛みや苦痛の色は一切ない。

 

 

 

 

 

「おいおい、軽い挨拶で死なれちゃこっちが困るっての。それじゃあ俺が楽しめねぇよ。どうした挨拶でビビったか?悪魔さんよぉ」

 

 

 

 出会い頭に殺人キックを御見舞した上にかける言葉はあまりにも非情だ。

 

 挨拶で死んだらどうするだと心の中で思ったものは数少なくない。

 

 

 

 

 

「ここでの争いごとはおやめ下さい」

 

「だがよぉあっちが仕掛けたんだこちとら黙ってらんねぇよな」

 

「ヤハハハ!黙る?鳥頭のアンタがよくそんな事覚えてるよな」

 

「あ゛っ?」

 

 

 

 一触即発。正しく導火線に火のついた二つの爆弾。

 

 少しで衝撃が加わればこの場で爆発して甚大な被害を蒙る事になってしまうだろう。だからこそそれを唯一静止できるグレイフィアが二人の間に割って入る。

 

 

 

 

 

「でしたらこうしましょう。今回のレーティングゲー厶にてリアス様の援軍は兵藤一誠という事で。この勝負後日本番にて付けると言うのは」

 

「いいぜそっちの方が面白そうだ」

 

「いいだろう。この俺を侮辱したその男を合法的に痛めつけられるなら拒否はせん」

 

 

 

 二人の賛成を得てリアスの預かり知らぬ所で援軍は決まった。

 

 一誠のあの力を見ているリアスにしてみれば逆に願ってもない程のチャンス。ライザーに勝てる可能性があるのは一誠だけの可能性すらある。

 

 

 

 勝利を確信したリアスをよそに、予め予測してあった通りに事が運んだとライザーは笑みを抑えて俯く。

 

 

 



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最後の晩餐のようなもの

エンドゲーム楽しみ


「ちょっと朱乃取らないでよ」

 

「残念早い者勝ちよ」

 

「はむ・・・一誠先輩は嫌いですけど、料理は好きです」

 

「お褒めに預かり光栄ですよと、さっき作った炒飯だ食べるだ──まだ渡してないのに完食しやがった」

 

 

 

 一つの机を囲んでリアス眷属達と一誠は食事をしていた。

 

 和気あいあいとしているがこれからの一週間は地獄の特訓が待ち構えている眷属たちからすれば、最後の晩餐のようだ。

 

 一人関係ないやと構えている一誠は戦前の激励に意味を込めて手料理を振舞っているのだ。

 

 

 

 

 

「けど、ホントにいいのかい一誠くん?僕達と特訓しなくて」

 

「はっ、今更特訓したところでたかが知れてるしな。俺はテスト前の一週間はゆっくりする派だから、のんびり待つぜ。それに俺はお前らの転移使えないから別の生行き方をしなきゃいけねぇしな」

 

 

 

 兵頭一誠がレーティングゲームに参加する上で最大で最難の課題がそれだ。

 

 初めてあった時もそうだが、なぜか一誠には転移魔法陣が通用しない。そうなると別世界の冥界に行く手段が全くない。

 

 どうにか行けるようにとリアスは試行錯誤するもまだ幾許も生きていない人生──いや悪生か、それでは知識が足らず改良は出来なかった。

 

 

 

 

 

「転移する方法に関してはお兄様がなんとかすると言ってたから問題は無いと思うわよ」

 

「お兄様ね・・・そいつ魔王なんだろ?随分とトンデモネーミングじゃないかよ、俺としてはそっちと殺り合いたいだけどな」

 

「ダメに決まってるでしょ!それにケンカを売ったのは貴方よ、もう私がいくら言葉をかけても出場は決定事項よ」

 

 

 

 口いっぱいに回鍋肉を詰め込む様は正にハムスター。

 

 その隣の白髪幼女に至っては体型が微動だにしてないのに、すでに六人前は平らげている。

 

 

 

 

 

「ん、ほれ動くな」

 

「くすぐったいです・・・ロリコン先輩」

 

「ロリコン?自分の体型を認めたか白髪ロリ」

 

「ぐっぐぐぐ」

 

 

 

 口周りを中華料理特有のソースで汚したままなので、ハンカチで拭き取る。少しくすぐったそうに顔を背けるも、無理やり拭き取り食事へと戻す。

 

 

 

 

 

「ほんとに面倒見良いわよね貴方」

 

「そうか?こんなんだろ」

 

「僕はてっきり子供とか嫌い──痛ッ」

 

 

 

 子供と呼ばれ反応したロリは対面にいる美形の男のスネを蹴り飛ばす。

 

 とはいえ、椅子の高さから空中に浮いている状態で蹴ったので威力はそこまでない。せいぜいハリセンで殴られた程度の威力だろう。

 

 

 

 と、一誠に昔から触れてこなかった者達は口を揃えて「面倒見がいいんだな」と言うがそれは正確ではない。

 

 一誠としては、面倒見がいいのではなく手が出てしまうのだ。

 

 

 

 例えば目の前で転びそうな子供がいれば地面を砕いて抱きとめるし、事件に巻き込まれそうなら総じて犯人を半殺しにして助ける。

 

 結論としては簡単だ、子供に弱いのが兵頭一誠だった。

 

 

 

 

 

「これが普通だと思うけどな・・・まぁいいや。おい、リアスアイスはまだ食うな、後でワッフル作るからそれがデザートだ」

 

「えっ、ワッフル?よし!早く食べましょ」

 

「待て待て、俺としてはそれより先にレーティングゲームの詳細や相手の情報が知りたい。そっちが済めば作ってやる」

 

「ワッフル絶対に作ってよね」

 

「はいはい」

 

 

 

 うんん。一度を間を空けてからリアスは空間に穴を開けてその中からよく見なれた物を取り出す。

 

 透き通るような紅の兵士の駒(ポーン)だ。

 

 

 

 

 

「これが何か分かるわよね」

 

「チェスの駒だな」

 

「そう、私達悪魔はこれで仲間を増やしているのよ。ここにいる私の眷属たち全員にそれぞれチェスの駒が割り当てられていて、それで他の種族から悪魔へと転生したわ」

 

 

 

 リアス・グレモリーが王の駒(キング)

 

 姫島朱乃が女王の駒(クィーン)

 

 木場祐斗が騎士の駒(ナイト)

 

 塔城小猫が戦車の駒(ルーク)

 

 他に僧侶の駒(ビショップ)がいる。

 

 

 

 

 

「この駒一つ一つにそれぞれ効果があるの、騎士は速度、戦車は防御力と攻撃力、僧侶は魔力、女王は三つ全てを。これらの戦力を上手く使って戦うのがレーティングゲームよ」

 

「なるほどね、擬似的な戦争ってわけか。確かにそりゃゲームになるわな」

 

 

 

 レーティングゲームについての説明に納得がいったようで次へと移る。

 

 

 

 

 

「今回の敵、ライザーね。アイツは悪魔の中でも種族で言えばトップクラス。なにせ」

 

「不死身か、不死鳥ことフェニックスには数々の不死伝説がある。死ぬ間際になると灰の中から蘇るだとか、死を感じると自身を燃やして産まれ直すとかな。それから推測するに不死身が能力って推測はついた」

 

 

 

 語る必要なんてないじゃかいと満点の回答をした一誠に呆れる。なんでわざわざ聞くのかと。

 

 

 

 

 

「俺が知ってるのはそこまでだ。推測に憶測を重ねる最悪の思考だが、弱点の一つや二つはあるだろ?そうしなけりゃリアスの発言に辻褄が合わなくなる。トップクラス、それが意味するのはトップではなく、他に同率の強さがのやつが居ることを指してる。

 

 だが普通に考えれば不死であれば負ける事が無いんだからトップになるはずだ。となれば、何かしらの弱点で倒せる可能性はあるわけだ。俺はそれが聞きたい」

 

「はぁ・・・それを今のちょっとした時間で推測したと言うんだからホントに人間か分からなくなるわね。貴方の質問に答えるのならばYESよ」

 

 

 

 

 

 そう言って一枚の紙を取り出した。

 

 それはどこにでもある平凡な紙、詳しく言えばこの家にあった折り紙だ。

 

 

 

 

 

「簡単に説明するならばこういう事」

 

 

 

 

 

 綺麗な折り跡一つ無かった折り紙をぐちゃぐちゃにしてからまた広げ直す。そしてまたぐちゃぐちゃにして広げ直す。

 

 これを繰り返すこと数十回。紙に蓄積されていったダメージにより一部の折り目に亀裂が走る。

 

 

 

「確かに不死身よ。けどそれは何回も再生できるわけではないの。数は個人差があるから明確には分からないけど、何度も殺していればいずれ再生が出来なくなる。そこまで追い詰めれば勝ちよ」

 

 

 

 

 

 折り紙を握りつぶして強く宣言した。

 

 

 

 リアスの唯一の勝ち筋だ。

 

 フェニックス家はその不死性故に攻撃を避けようとしない。どうせ死なぬのだからと、ある意味で悪魔でありながら生への欲が薄いと言ったところだろうか。

 

 それは、ライザーも例外ではなく全ての攻撃を被弾しながらカウンターでトドメを指すパターンをよく行っている。だからこそ勝つにはその慢心を突き倒す他にない。

 

 

 

 とは言えその勝利の希望はあまりにも細い糸だ。

 

 ちょっと何かしらのアクシデントが起これば切れてしまうほど危うい糸。それをどうにか手繰り寄せて勝つしかない。

 

 

 

 

 

「ふーーん。なんか思ったより呆気ない弱点だな、結局倒れるまで殴り続けるだけだからな・・・・・・当初の予定と変わんないな」

 

「随分と簡単に言うわね・・・はぁ、この一週間でできる限りの事しないとね」

 

「まぁ頑張れや、俺はその時が来るまで待つだけだからな。おっとワッフルそろそろ焼くか」

 

 

 

 

 

 作戦会議と言うか情報交換も程々に最後の晩餐たる食事へと戻る。

 

 リアスに取ってみれば負ければ人生が全てライザーの物になり自由がなくなる。

 

 本当の最後の晩餐になってしまう可能性すらありえるのだ。なので味わうようによく噛み締めながら食事をして行った。

 

 



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開戦!!リアスをかけたゲームが今始まる

エンドゲーム最高すぎないか??
後、二三回見に行くかな


 特訓の一週間はあっという間に過ぎ去り、レーティングゲーム本番。

 

 すでに会場に入場しているリアス眷属とライザー眷属はそれぞれ離れた場所に陣どる。

 

 ライザー眷属は学校校舎の屋上に。

 

 リアス眷属は慣れ親しんだオカルト研究部に。

 

 そう、ここは学生であるリアス達が日常を共にしている駒王学園であった。されどここは本物ではない。

 

 本物を使えば戦闘の余波などで周りに被害が出てしまうだろう。だから、ここは魔力で生成した第二の駒王学園と呼ぶのがふさわしい。

 

 電気水道などは一切通っていないハリボテの学園。

 

 逆にそれ以外は完璧に複製できている。それはオカルト研究部にある備品が一つもかけていない事などを踏まえれば明確だろう。

 

 

 

 

 

「それじゃあ一誠はまだこれないのですか」

 

『残念ながらね、少し魔法陣の改造に手間取ってしまって・・・今会場でアジュカが頑張ってくれてるんだけどね……もう少しかかるみたいだ』

 

 

 

 リアスの話し相手は空間に浮かぶモニターに映っている兄、サーゼクス・ルシファーである。

 

 その兄は困ったように頬を掻きながら面目ないと頭を下げている。

 

 

 

 本当は一誠は初めから入場させておく手筈だったのだが、悪魔上層部が人間のために魔法陣を変えるのを良しとせず、その説得及び了承に手間取ってしまった結果と言える。

 

 六日に及ぶ説得でどうにか許可を貰えそこからアジュカと共に構築を始めた。普通の悪魔なら最低五日以上かかる改変も、一日でほぼほぼ完成。後は仕上げと言う所で時間切れ、レーティングゲームの開始時刻になってしまったわけだ。

 

 

 

 

 

「私達だって一誠だけを頼りに勝つつもりはありません。別にこのまま来なくても大丈夫です」

 

『そう言ってくれて助かるよリアス。さて開始前の会話もここまでだ。これ以上していると不正を疑われるからね、それじゃあ僕の可愛いリーア頑張ってね』

 

「はい、お兄様!」

 

 

 

 見栄張った。一誠がいなくても大丈夫なわけが無い。

 

 先日言っていた通り一週間でライザーに勝てるようになれるわけが無い。そんなに簡単ならばランキング十一位なんて順位からすぐに転がり落ちてるだろう。

 

 

 

 一誠を覗いた場合の勝率は多く見積っても一%程度だ。

 

 だからといえ勝負を投げ出すのはリアスの心情にはない。例え勝つ確率が小さくても、僅かにアレばそれを掴み取るだけ。それが以下に困難な事であってもだ。

 

 

 

 不安や恐怖を見せずに笑顔で返した。

 

 後ろで見ていただけの眷属達はそれぞれ震えるリアスの手を見て、この勝負絶対に負けられないと覚悟を決める。

 

 

 

 

 

「さぁ!行きましょう。泣いても笑っても・・・勝つわよ!絶対に!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「作戦はさっき伝えた通り!それじゃあ」

 

 

 

 開始の時刻を告げる時計は数字をゼロにし、開始の音を鳴らす。

 

 

 

 『行くわよ!』

 

 

 

 リアス眷属達は作戦通りオカルト研究部を全員で空けた。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

「良かったのですかお兄様?戦力外の私を入れて」

 

「構わんさ、どうせ勝負は分かり切っている。俺の居るここに来るのは不可能だろうさ。あの人間を除けばな」

 

 

 

 グラスに注がれているワインを揺らしながら優雅に語る。

 

 黄金を散りばめられた豪華な装飾に、赤い生地に覆われ中の天然羽毛は安心して背中を任せられる柔らかさ。足を組んで座っているその態度は正に王そのもの。

 

 

 

 リアスが眷属の味方になる王国の王ならば、全てを支配する冷血なる帝国の王こそライザーだ。

 

 

 

 その隣で王と同じ目線で会話する幼女はあまりにも異質な存在感を放っている。

 

 ライザーと同種の落ち着いた青銅の瞳。それに対して髪は太陽が似合う黄金の鬣ロール。

 

 小説などでは威張り散らす女王様のような風貌でありながら浮かべる笑みは柔らかく穏やか。

 

 着ている服は一見何の変哲もないないように見えるが、細部をよく見れば多数の術式が織り込まれているのがわかる。彼女こそ、ライザーの妹たるレイヴェル・フェニックスその人なのだ。

 

 

 

 兄妹二人が仲良く会話しているのに割って入る一つの影がある。

 

 戦場には似合わない純白の美しいドレスを完璧に着こなしている女性。その風貌は正しく女王。誰かの下につくとは思えない存在感はライザーを本当に敬っているのか疑わしく思えてしまう。

 

 それでも、ライザー眷属の中で一番本質を理解していると言うのだから見た目が全てではない。ライザーの眷属”女王の駒”を与えられたユーベルーナは一度会釈をしてから発言をする。

 

 

 

 

 

「先程リアス様とその眷属が陣地から飛び出しました」

 

「やはりそう来るか。いくら頭数が同じと言えど実力の差は歴然。となると数で押す他あるまい」

 

 

 

 すでに推測していた通りの結果に落胆しながら淡々と用意していた戦略を選んでいく。

 

 その数百。ライザーがリアスの条件になったとして考えられる全ての戦略を用意していた。リアスはこの一つしか戦略が用意できなかったが、ライザーは遥かに上回る莫大な数の戦略を用意していた。

 

 そこから選んだであろう戦略を絞り込んでいく。

 

 力だけではない、知恵ですら、経験ですら圧倒的なライザーだからこそできる作戦。

 

 

 

 だからこそつまらんと吐き捨てる。

 

 この作戦の特異点たる人間はいない。もし入れば新たに別の作戦をその場で組み立て、接戦を強いられることになっていたと思ったからだ。

 

 

 

 もし一誠が居なければこのような作戦を考えずにただ殲滅して終わりで良かった。一誠に期待していた分いないと知れば落胆は凄まじくやる気が一気に落ちていく。

 

 

 

 

 

「イザベラと一緒に迎撃に当たれ、カーラマインは最終防衛ラインとして校舎一階の出入口を封鎖。倒せるようであれば倒して構わんが、リアスだけは残せ。早く終わらせては観客も不満だろうからな」

 

「御意に」

 

 

 

 ユーベルーナは作戦を伝えられてすぐに行動に移した。先に激突しているであろうイザベラの元へと急行し、カーラマインに防衛を支持する。

 

 迅速なその行動に迷いは一切なく、完全にライザーを信頼仕切っている証でもある。

 

 

 

 蝙蝠の羽を服を裂いて展開し空へと飛び上がり第一戦闘場たる体育館へと向かう。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「雷よ!」

 

「無駄だよ!遅い遅い!!」

 

 

 

 朱乃の指先から唸る電撃を左半分仮面を被っているイザベラは余裕な笑みを浮かべながら躱している。

 

 彼女の駒は戦車。

 

 特性として速度は早くならず防御力と攻撃力特価のはずなのだが、彼女の速度は騎士の裕斗より速かった。

 

 騎士の裕斗の速度の早い攻撃も易々と受け流され、未だに決定打が打てていない。

 

 

 

 

 

「このッ!!」

 

「狙いが甘いよ王様、それじゃあ意味が無い。確かに貴方の攻撃は一撃必殺。下級悪魔の私じゃあ倒されちゃうだろうけど、完全にコントロール出来てればの話。仲間との混戦じゃあその真価が発揮できてないし仲間の動きで狙い場所が丸見え。残念だよ楽しめなくて」

 

 

 

 たった数分の攻防でリアスの弱点まで的確に推測していく頭脳はゲームメイカーに近い。

 

 普通に考えれば四対一でここまで善戦出来るわけもないが、空間が狭い体育館の上に一撃一撃が重いリアス達の能力を鑑みれば負けないことはない。

 

 

 

 とは言えそれは時間稼ぎが限界で、一手でも間違えれば一撃必殺の攻撃を受けてしまい負けるので無闇に攻められずにいた。

 

 

 

(せめてもう一人援軍がいればな・・・無い物ねだりはダメか。けどまぁそろそろ仕掛けないとね!)

 

 

 

 ギリギリを綱わたるこの感覚が堪らないと、獰猛な笑みを見せて防御から一気に攻撃移る。

 

 

 

 

 

「ボディーががら空きッッ!」

 

「くはっ──」

 

 

 

 接近戦しかないのか距離を詰め拳を穿つ小猫のパンチを紙一重で避けながら、防御の出来ないタイミングで一発腹部へ入れる。

 

 腹部深くへ抉り込むように放たれたカウンターパンチは手を伝い骨を砕いた感触を教える。

 

 

 

「これでひと──」

 

「捕まえました。副部長」

 

「えぇ待っていましたわ」

 

 

 

 ハメられた。その事実に気づいた頃には小猫と同時に雷を落とされる。

 

 腹部へのカウンターパンチはわざと誘われた物だった。速度も早く裕斗ですら動きをとめられない。けど、止めなければ攻撃は当たらない。

 

 となれば捨て身で受け止めるのが早いと戦略でも知恵でもない気合いの一言で受け止めた。

 

 

 

 そこへ放たれる雷はもちろん小猫も同時に食らう。それでも良かった。

 

 死ぬ気で受け止めた時点で身体はボロボロになり第二戦までいける状態ではなかった。だから、ここで食らって敗退しても本望だと。

 

 だと言うのに。

 

 

 

 

 

「小猫急いでこれを飲んで」

 

「なん・・・で・・・ですか・・・私は・・・」

 

「貴方が私の眷属だからよ!あの場面アレしか選択肢はなかったわ、けどねそれを眷属を見捨てる理由には出来ない」

 

 

 

 本当に甘い。けど、それだから心を許したんだ。

 

 自分の過去を罪を一緒に背負ってくれたリアスだからこそこの身を尽くせるんだ。その覚悟が決まった、だから。

 

 

 

 万能の治療薬”フェニックスの涙”を飲まそうとしたリアスの手を押しのけ、

 

 

 

「副部長!!」

 

 

 

 小さい身体は立ち上がる。

 

 口からこぼれる液体を撒き散らし、それでもなお吠える。 

 

 惨めだ無様だと嘲笑う者もいるだろうだが、ここで彼女を笑うものはいない。代わりに

 

 

 

「小猫!!!!!」

 

 

 

 耳に届くのは王の悲鳴だった。

 

 

 

 何故か悪い気配を感じた。途端に気分が悪くなった。

 

 感覚的な物で確証はなかったが、朱乃の隣に変な渦が産まれたのを知覚した時から幻覚ではないと察した。

 

 

 

 このままではやられてしまう。そう感じた小猫は死に体のこの身をくれてやると、朱乃を押し飛ばして代わりに全てをくらった。

 

 

 

 渦は次第に強く集まり、限界に達すると業火を放つ。

 

 渦で集めた空気中の酸素と突発的に発生した火炎により小猫の真横で爆発が起こる。威力にしてダイナマイト三個分。

 

 多分これは高速で放った一撃なため絶大な威力はないが昏倒させるには十分すぎた。

 

 すでにボロボロな身に鞭を打って立ち上がったため、ほぼ意識はない。だけど身を呈して朱乃を守った事はこの戦の大きなポイントになったのだ。

 

 

 

 

 

「よくも私の可愛い小猫を!!」

 

「ダメよリアス。ここで止まる訳にはいかない。裕斗くんと一緒に先に行きなさい」

 

「けど、」

 

「それが最善策よ。相手の女王は私が抑える・・・負けるつもりは毛頭ない。勝って後から追いかけるから先に行ってて」

 

 

 

 決断の時だ。

 

 この場に残り一緒に倒せば相手の女王は落とせるだろう。だが、そうすればこっちはかなり消耗しこの後に控える戦いに支障が出る。

 

 朱乃を見捨てれば次の戦闘には万全な体制で入れるので勝率は上がる。

 

 

 

 

 

「でも私は」

 

「行きなさい!!小猫ちゃんの意志を無下にするき?」

 

「・・・・・・絶対に後から来なさいよ朱乃」

 

「もちろんですわ」

 

 

 

 閉じれた体育館の扉を魔力で粉砕。そこから一気にライザーが潜む校舎へと二人は向かう。

 

 

 

 空から見下ろすユーベルーナは女王に敬意を表すようにゆっくりと体育館内の床へと着地する。

 

 

 

 

 

「自己紹介はいりませんよね”雷の巫女”」

 

「えぇ”爆弾女王(ボム・クィーン)”。挨拶はいりません・・・どうせ貴方は私に倒されるのですから」

 

 

 

 言葉での威嚇は終わる。

 

 次に始まるのは空気を裂き悲鳴を上げる雷と空気を圧縮し爆弾とかす豪炎の激突音だけだった。



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男子三日会わざれば刮目して見よ

ライザー戦長そう……誰だ?こんなの書いてるの。
あっ、俺だった。


 

 

 体育館を出ても尚轟く雷鳴と爆発。

 

 その激しさは戦闘の激しさを物語っている。

 

 だからこそ願った。絶対に勝って合流してと。

 

 

 

 

 

「待ってください部長」

 

「どうしたの・・・あれは」

 

「ようやく来たのか。待ちわびたぞ」

 

 

 

 校舎の出入口の前で立っているのは銀に輝くフルプレートの鎧を着ているカーラマインだ。

 

 右手には両刃の西洋剣。こちらを認識したとしてもその剣先は地面に向いたままで、構えようとしない。それが余裕から来るものなのかと思ったがそうでも無い。

 

 

 

 

 

「あぁ、すまないね。私の剣には構えがないんだ。いや正確には私の自然体が全て構えと言ったところかな・・・君も薄々勘づいているのだろ?騎士くん」

 

「はい。その佇まい、僕の師匠からも感じた事があります。一流の剣客特有のオーラ」

 

「一流の剣客・・・ハッハハハ!私は一流などではないよ、二流や三流でもない出来損ないの剣士だよ私はね」

 

 

 

 会話をして隙を伺うも彼女自身が語ったようにその自然体こそが構えであり、隙が一切見えない。

 

 

 

 喉を伝う緊張が音をあげる。

 

 軽く息を吐き自身の最も高速で初速の早い構えをする。

 

 創造するのは日本特有の刀、刃には特徴的な能力は付けない。側の強度のみに重きを置いたためだ。そして、剣と地面を完全に水平に構え剣先はターゲットの胸に狙いを固定する。

 

 

 

 木場祐斗の師匠──沖田総司が教えた最速の暗殺術。刀のみで使用できる技であり、沖田総司が最強の剣士として恐れられる所以でもある技。

 

 

 

 ”三段突き”

 

 放てば最後、相手の目には一度の”突き”であっても現実には三度の”突き”を放っているため防御不可の一刀。

 

 さすがにまだ裕斗はその領域に達していないがそれでも”二段突き”までは使える。

 

 さらに、大きなためを必要とするのでまだ実践には程遠い。今回は運がよく大きく溜めても問題ない。相手はこちらが構えるのを待ってくれているからだ。

 

 

 

 

 

「部長ここは僕に任せてください」

 

「けど相手は」

 

「お願いします。僕の力を試したいんです」

 

「・・・勝ちなさい、こんな所で負けたら許さないわよ」

 

「ありがとうございます部長」

 

 

 

 沖田総司程ではないが圧倒的な剣客とやれる機会など滅多にない。だからこそ、どれだけ力が通用するのか試したかったのだ。

 

 その思いをヒシヒシと感じたリアスは大人しく身を引いてこの場を最強の騎士へと託した。

 

 

 

 背中を押してくれた王に惨めな姿を見せられないとやる気が刀に籠る。

 

 

 

 

 

「それじゃあ行きます」

 

「優しいね教えてくれるなんて」

 

「ふぅ・・・・・・・・・」

 

 

 

 空気が凍りつく。

 

 二人の殺気と殺気がぶつかり合い空気を張らしている。

 

 

 

 二人の剣士はそれぞれの得物を握る手に更に力を込めて──地を蹴り抜いたのは裕斗一人だ。

 

 

 

 指先から膝、腰の付け根、腰、背骨。全てに加速のための力が伝わる。

 

 地を蹴った瞬間からこれは自身最速だと察した程に完璧に完全に初速は成功。

 

 構えた刀に震えはなく完全に狙いを定め二度穿つ。

 

 

 

 キン!!!

 

 

 

 金属と金属の大きな接触音が甲高く鳴り響く。

 

 僅かな時であり異様なまでに火花が鎧から散り一瞬裕斗の勝利を見ていたリアスは確信した。

 

 

 

 

 

「まさか通らないとは」

 

「確かに早く速い。惜しい点としてはその技西洋との相性が悪い。鎧と戦うことを想定したものではないね」

 

 

 

 刀は鎧に確かに窪みを付ける。だがそれは窪みまで、胴体に届いておらずダメージになっていない。

 

 いまの一撃、動けなかった(・・・・)のか。動かなかった(・・・・)のか。定かではないがそれでも初撃をミスったのはかなり痛い。

 

 

 

 

 

「次は私の番だ」

 

「くッッゥ!」

 

 

 

 ”突き”に全体重をかけたせいで回避への動きが遅れる。

 

 伸び切った筋肉を急速に戻した事で不自然に身体が捻れそのおかげで独特な回避になり、回避読みを予想していた斬撃をかすり傷ですました。

 

 

 

 それでも下から上の振り上げを刀で受け流そうと触れるたが、直ぐに砕け散ってしまい高めた強度が意味の無い事を理解した。

 

 身体はそのまま少し吹き飛び校舎の窓ガラスを破って一階のクラスへと飛び込む。

 

 

 

 コンクリート壁は簡単に砕け散り剣の破片と瓦礫に板挟みにされながら、廊下側の壁に背中を打ち付け停止する。

 

 痛む背中に目がカッ開くと追撃を狙っている騎士の姿が目にはいる。

 

 

 

 

 

魔剣創造(ソード・バース)ッッ!」

 

 

 

 手を床につけ、伝うように剣が地面を進み騎士の下で急速に魔剣を天に向け創造する。

 

 数多の魔剣を想像のままに創造する神器”魔剣創造(ソード・バース)”それが裕斗の持つ神器である。

 

 

 

 魔術が苦手な裕斗に残された道は剣一つだった。神器を上手く扱えるようにと、特訓に特訓を重ね自身の最も合っている戦場を作り出すことに成功する。

 

 

 

 魔剣の創造範囲をさらに拡大。クラス一つ分全ての足場を魔剣まみれにし、まともに地面が踏めないようにした。

 

 

 

 

 

「小癪な」

 

「ここはもう僕のステージだ。残念だけど決めさせてもらう」

 

 

 

 使い慣れた黒色の西洋剣を掴む。

 

 地面から抜かれた魔剣は火を纏いクラスの温度、特に鎧の中の温度を急激にあげる。

 

 

 

 

 

「鎧の特性を利用したか」

 

「初撃を防がれた時点でもう僕には手が殆どありません。力より速さが僕の剣・・・なので勝つためにはこれしかありませんでした」

 

「気にするなそれが戦闘と言うものだ・・・・・・だが、勝負はまだ分からんぞ?」

 

 

 

 綺麗ないくつもの銀閃が舞う。

 

 数撃で身動きを塞いでいた魔剣を破壊。

 

 そこから剣を横なぎして裕斗に回避を選択させ、わずかに距離を開けそのタイミングで自身の鎧のつなぎ目を破壊した。

 

 

 

 

 

「これで鎧も何もあるまい」

 

 

 

 

 

 密閉度が高い鎧の中に居ることで上げた温度に耐えられず倒す算段だったのだろうが、それならば鎧を脱いでしまえば元も子もない。

 

 普通に脱ぐのでは時間がかかってしまう。惜しいとは思うが鎧を破壊して脱ぎ去った。

 

 

 

 中からは胸に包帯のサラシを巻き、膝まで伸びている白のロングコートを羽織っている女が出てきた。

 

 

 

 鎧の残骸を足場にして空中で姿勢を直して突貫する。

 

 

 

 地面には容易に着地できないのならば空中戦をすればいいのだと。羽を生やして空へ舞う。

 

 

 

 

 

「予想通りです!!」

 

「!!」

 

 

 

 裕斗の狙いは鎧の中で蒸し焼きにするのではなく鎧を脱いで突貫するタイミングを狙っていたのだ。

 

 炎の魔剣の後ろ、にて最初に使っていた刀が防御力を失った獲物を待ち構えている。

 

 

 

 炎は鎧を脱がすと同時に刀を見えないように隠すための物でもあった。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!二段突き!!!」

 

 

 

 炎の魔剣を捨て、刀を両方の手で持った事で技を打った。

 

 煌めく鋼が狙うは急所の喉仏と胸部。

 

 裕斗の姿は幻影を掴むように消え再び姿を現したのは刀を突き出して攻撃をし終え、カーラマインの後ろで佇んだ状態。

 

 

 

 ──刹那、消えた銀光が喉仏と胸部を強襲し逆方向、今の裕斗がいる方向へと飛ぶ。

 

 

 

 既に意識は消えかけ回避はできない。

 

 待ち構える三段目。

 

 使えない師匠の”三段突き”を今使えるように改良したさしずめ”偽・三段突き”がライザーの騎士の腹部に刺さり、勝者を決定づける一打になった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ライザーの騎士撃破。

 

 それにより残るライザーの部下は女王とあともう一人の眷属だけ。

 

 女王は朱乃が抑えるとして問題はもう一人の眷属だが、データを見た限り問題になるうる眷属はいなかった。リアスの消滅の魔力で普通に倒せるはず。

 

 

 

 勝利の可能性は見えてきた。

 

 薄かった希望の糸は徐々に太くなる。

 

 あと一歩、あと一歩で決まる。

 

 

 

 階段を上る足が早くなる。四階分階段を上がればライザーのいる屋上へとたどり着いた。

 

 

 

 

 

「待ちわびたぞリアス」

 

「私は待ってなんて言ってないけどね」

 

「そう邪険にするな、これでも褒めているのだぞ?俺の予想ではお前はここまで来ることは出来ないはずだった。これは俺の眷属が弱いのではない、お前の意思の力が強かったからここまでこれた」

 

 

 

 拍手を送ろうと両手を叩いて歓迎した。

 

 

 

 

 

「このレーティングゲーム事前の調査では俺の圧勝で終わるとなっていてね、だからこそここまで持ちこたえた礼だ。三度攻撃を受けてやろう」

 

「舐めているの?」

 

「舐めていないさ。これは観客を楽しめさせるエンターテインメントだ。それにそうでもしないと君ら二人では勝ち目がないだろ?」

 

「随分と余裕ね・・・けど願ってもない言葉だわ、やるわよ裕斗」

 

「了解しました部長!」

 

 

 

 

 

 武器を構える。今回は未完成な技を使わないいや、使っても決定打にならないが正しい。

 

 一度や二度殺せるだろう。だが、一度や二度殺したところで不死身のライザーを倒す事ができるわけが無い。なので刀ではなく超巨大な剣を作る。

 

 五、六、七・・・・・・二〇Mの大剣。

 

 それを振るのではなく天に聳え立たせるように持ち自然落下で相手に超ダメージを与える算段だ。

 

 

 

 

 

「ちなみに貴方の方は戦わないのかしら?」

 

「はい戦意はありません。数合わせ及び傍観者としてここにいますので」

 

 

 

 なら良かったと思う。もし、ライザーに加えもう一人のフェニックス家の次女たるレイヴェルが出ばれば勝つ確率は無かっただろう。

 

 もしその言葉が騙った物だった考えるが、フェニックスの家名が地に落ちることになるので大々的に宣言したという事は絶対的に揺るがない事実である。

 

 

 

 裕斗と目配りを送り合い息を合わせて突貫する。

 

 

 

 

 

「消滅の魔力よォォ!」

 

焔食いの魔剣(フレイム・イーター)ァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 二人が別々に攻撃するのではなく、最大最強の技を同時にぶつける。

 

 裕斗は速度を捨て一度きりの超大技を放つ。

 

 焔食いの魔剣(フレイム・イーター)はその名の通り炎を食らう魔剣だ。

 

 対ライザーように開発してきた魔剣。相手が炎から蘇ると言うのならばその炎を食らってしまうまえば復活できまいと考えたからだ。

 

 例え、その能力を除いたとしても二〇Mも長さがあればそれなりの威力が出る。ライザーを殺すには十分であろう。

 

 

 

 さらにリアスの放った魔力球も同じだ。

 

 フェニックス家が不死身の固有能力があるのだから同じく純血悪魔のグレモリー家にも固有能力がある。

 

 それこそが消滅の魔力。

 

 その魔力の前にはどんなに防御力を上げようとも貫通するダメージ及び、当たった場所を完全に消滅させる特殊能力がある。

 

 それを裕斗と同じ思考の元、炎事消滅させる目的で放つ。

 

 直径一〇Mの巨大球体が二つ。それを力に任せて押し出す。

 

 

 

 ライザーは宣言した通り動かない。

 

 両腕を組んでただ攻撃が届くのを待つ。

 

 

 

 そして、二人の攻撃はライザーを直撃する。

 

 大爆発。焔食いの魔剣は一撃でその生涯を終え、二つの魔力球は辺りの空間事消し去る。

 

 

 

 ライザーのいた場所を中心に校舎全体に亀裂が入り、大量の粉塵を巻き上げた。

 

 屋上には大きなクレーターと衝撃波により豪華な椅子や屋上を囲うフェンスが吹き飛んでいく。

 

 

 

 全ての爆心地。

 

 ライザーがいた場所は粉塵が消えた後人影が一切無い。

 

 

 

 

 

 

 

「やったの?」

 

「はぁ・・・部長!!」

 

 

 

 勝利したのかと思ってしまった直後背後から強襲を受ける。

 

 

 

 咄嗟に気づいた裕斗がリアスを押し飛ばして攻撃から庇った。

 

 火山の噴火の如く焔が背後に突如でして現れたライザーの右腕から放たれ、焔に服が焦げ落ち肉の焼ける匂いが備考を刺激する。

 

 

 

 手加減していたのか表面と僅かな肉だけをいているが、赤い蒸気を焔と裕斗との接触地点から上げている。

 

 

 

 

 

「がぐがぁぁぁだがぁ」

 

「ほほう耐えるか騎士!余興の礼だ、貴様には技を使ってやろう」

 

 

 

 

 

 ライザーは死神のような言葉を告げた。

 

 この火力、この威力でありながら技ではないと。ただの力に任せた暴力だと言うのだ。

 

 

 

 意識が飛びそうになるのを必死に堪える裕斗だが、

 

 

 

 

 

「死なん程度には加減をしてやる。まぁこの俺にこれを使わせたのだから泣いて喜ぶがいい──火銃(ピストル)

 

 

 

 左人差し指と親指をピンと張り、銃のような形を作って先を裕斗に向けた。

 

 その指先、第一関節の指から先が炎の塊となって打ち出された。

 

 一瞬空気が膨張したかのように破裂し、炎の塊は消える。それと同タイミングで裕斗のおでこの中心が焦げ意識を完全に刈り取った。

 

 

 

 本来は質量のない炎を極限まで圧縮して放つ火銃(ピストル)は、五段階ある内の二段階目の技ではあるが、威力は下級悪魔であれば一撃必殺。

 

 現にレーティングゲームではこの一個上、火銃(ライフル)をよく多用している。

 

 逆に言えば使わせた時点でそれなりに奮闘していたと言える結果だった。その事実を知らないリアスに取っては絶望的な結果だったのだが。

 

 

 

 

 

「この程度か・・・余興にしては盛り上がったか?結婚式の披露宴ではこれを流すとしよう」

 

「それでは編集は私が行いましょう」

 

「ん、ユーベルーナか。その様子ならしっかり倒してきたようだな」

 

 

 

 虚しい余韻に浸っていたライザーに言葉をかけたのは腹心の部下たるユーベルーナだ。

 

 服は多少ボロ付き片膝をついての帰還になっているがその顔から倒したのかは確定的だ。

 

 

 

 

 

「そんな朱乃が負けたの・・・」

 

「そうですよリアス様。もし、彼女が秘めた力を使っていればどうなったかは分かりませんが、力を隠し通して勝てるわけがありませんから」

 

「そんな・・・・・・私は・・・」

 

 

 

 勝てる可能性は完全に潰えた。

 

 女王も騎士も戦車も倒された。

 

 それなのにこちらの戦果は戦車一人と騎士一人の二名だけ。さらに言えば数合わせで戦闘にすら参加しない眷属もいる事を踏まえれば分かってしまう。

 

 

 

 初めから出来レースだったのだと。

 

 いくら躍起になった所で勝つことなんて出来なかったのだと。

 

 

 

 

 

 徐々に目から希望の光が抜けていき頬を伝う涙は惨めさをより表わしている。

 

 

 

 

 

「さっさと終わりにするか。もう気が済んだだろ、娘の我儘もここまでだ。いい加減諦めろ」

 

「あ・・・・・・っ・・・」

 

「はぁ・・・降伏すらできんのか。ホント惨めな女だよ貴様は」

 

 

 

 裕斗を仕留めた時と同じく指を向ける。

 

 

 

 

 

「最後の勧告だ降伏をしろ。そうすればそこまで惨めにはならんぞ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「落ちるところまで落ちたな。これで終わりだ火銃(ミサイル)

 

 

 

 

 

 五段階中四段回目の威力にして上級悪魔を簡単に屠る事が可能とすらされている。

 

 先程の火銃(ピストル)と比べ圧倒的に火が大きく、ライザーの全身を覆い隠す程。

 

 

 

 この技の利点はその広範囲破壊力。

 

 一段回下の火銃(ライフル)と威力面は変わらないがその効果範囲の大きさから『ミサイル』と呼ばれている。

 

 

 

 完全にオーバーキルではあるのだが、念には念をそして力の誇示を目的として放たれた。

 

 完全に戦意を喪失した彼女は迫る火炎に見向きもしない。ひたすらに空を見上げ天を仰いだ。

 

 

 

 

 

(私は自分の好きな人と結婚したかった。学校で出会ったりして、学校帰りに買い食いをして立ち寄って遊んで・・・・・・そんな当たり前を謳歌したかっだけなのに)

 

 

 

 ポツリ。ポツリ。心の中の隙間に水滴が垂れる。

 

 

 

 

 

(分かってた。グレモリーとして産まれた私にそんな事許されないって・・・けど夢をみたかったのよ・・・・・・それも無駄になっちゃった)

 

 

 

 滴る水滴は隙間を埋めていく。

 

 懺悔と後悔が心を支配していく。

 

 

 

(私のせいで皆傷ついた。私が我儘言ったから・・・)

 

 

 

 水滴は積もり大きな塊となった。

 

 心の隙間を埋める巨大な感情の塊。そこには自尊心や自己欲が詰まる。

 

 

 

 大きな殻で包んでもう溢れないように封印する。

 

 もう私の人生は私のものでは無い、ライザーの物になるのだからそこに感情はいらないと消えていく。

 

 

 

 残ったのは言うことを聞くだけのロボット。操り人形。もう終わりだ、全てが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ホントに諦めるのか?

 

 

 

 声が聞こえた。どこか聞きなれた男の声。

 

 

 

 

 

 ・・・どうしろって言うのよ

 

 

 

 

 

 ──お前は兄を超えるんだろ?

 

 

 

 

 

 ・・・私にそんなに力は無かった無理なのよ。不可能だったの。

 

 

 

 

 

 ──随分と簡単に諦めるんだな。世界を敵に回してもと言ってたのにか?

 

 

 

 

 

 ・・・それは、

 

 

 

 言葉が詰まった。あの時は確かに言った。絶対に叶えると、兄を超えると。

 

 けれどそんな資格消えた。消えてしまった。

 

 負けたのだから。ここからどうやっても負けは決まっているなのに何をしろと言うのか。

 

 

 

 

 

 ──ふぅぅん。そうやって逃げるのか。おまえが選んだんだろ?眷属を仲間を巻き込んで戦うって、そのお前が諦めんのか?

 

 

 

 

 

 男の声は閉じ込めた感情の殻にヒビを入れる。

 

 導火線に火をつけ徐々に限界が近づく。

 

 

 

 否定していも分かっているのだどうすればいいのか、何をすればいいのかは。

 

 

 

 男の声は聞こえなくなった。けど、それで良かったのかもしれない。最後の決断は自分で決めなければいけないのだから。

 

 

 

 私は空に向けて

 

 

 

 

 

「負けたくない!!勝ちたい゛!!」

 

 

 

 叫んだ。

 

 木霊する声。空は大きく嘲笑う。手を差し伸べない。

 

 

 

 この行動に意味があったのか。そんなことを思った直後──

 

 

 

 

 

 

 

「ヤハハハハハ!!俺を忘れてんじゃねぇぞォォ!!」

 

 

 

 空から飛来する言葉と人影。

 

 

 

 ソレは踵落としでリアスを倒すべく放たれた火炎を粉砕した。

 

 

 

 

 

「一誠・・・」

 

「たく、勝手に終わらせんなよ。俺がまだやってねぇってのによ」

 

 

 

 

 

 その背中はどこか大きく偉大で──英雄に見えた。

 

 



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問題児は何をするも常識外

長い……ライザー盛りすぎた


 

 レーティングゲーム開始直後に時は戻る。

 

 一人一誠は制服を着て部屋にて本を読んで寛いでいる

 

 

 

 その本にはフェニックスについて記載されていた。

 

 

 

 そも悪魔の七二柱として知られる前は神聖な物として崇められていた。

 

 世界最大勢力のキリス・・・キリ・・・・・・キリス〇教においても、死んだ直後に蘇る事からキリストの復活を象徴する物とされてきた。

 

 だが、キリス〇教の元となったユダヤ教の教えの基礎となったヘブライ神話においては、悪魔として恐れられている。

 

 結果として聖なるフェニックスと魔なるフェニックスの二つの相反する属性が存在していた。

 

 

 

 

 

「てなわけだがよ。そこら辺どうなんだ?」

 

「それはどっちに対する問だい?フェニックス家とは本当に純血の悪魔なのか、それかフェニックス家は悪魔なのか(・・・・・)

 

「断然後者だ。俺の見解てか、この本の通りに読み解けば悪魔と聖のフェニックスは別個体なんだろうな。現に、フェネクスと悪魔の方は呼んでるわけだからな。となるとだ、さて今の悪魔サイドにいるフェニックスはどっちなのかって疑問がわくね」

 

 

 

 色々セッテングしている人妻メイドを尻目にその夫たるサーゼクスは暇そうな一誠と言葉を交わしていた。

 

 数々の文献を漁った上での疑問はつい最近悪魔の事実を知った一誠では答えを出せず、数百年生きているサーゼクスだからこそ答えられる質問だ。

 

 

 

 その上でサーゼクスは驚嘆に値すると心の中で思っていた。

 

 

 

(人間に与えられた情報は数少ない。だからこそ、私達を本当に存在すると信じる者は少ないし、例え信じたとしてもこちらが歩み寄らない限り交わらない。だと言うのに彼はその少ない情報から、この一月あまりでここまで考察を・・・・・・本当に)

 

 

 

 ──人間でよかった。

 

 

 

 もし彼が悪魔であったのならば現状の冥界事情は大きく変貌していたであろう。良い方向または悪い方向にでも。

 

 だがそれはあまりに早すぎる変化だ。

 

 生き物とはその早すぎる変化について行くことはできない。そのように出来てしまっている。

 

 確かにサーゼクスも冥界を変えていこうとしているが、それは永遠に近い寿命によりゆっくりじっくり急激ではなく慎重に変えていこうと策略していた。そこに特異点(兵藤一誠)が居たのであれば策略は見事に頓挫していた事だろう。

 

 

 

 逆に言ってしまえばそれほどまでの頭脳を有している存在が人間側にいると言うこと。

 

 大きな変革が訪れようとしているこの世に産まれた逸材。果たしてそれが偶然なのかはたまた必然なのか。

 

 

 

 

 

「さすがに始まりの七二柱を知っている訳じゃないから明確な答えを与える事はできない。けど、悪魔であって悪魔ではないとは言えるよ」

 

 

 

 それは独自の路線から七二柱を研究していたサーゼクスが行き着いた答えだった。

 

 魔王の業務をしながら趣味でその土地に元から住む悪魔、家に継がれている古文書などを読み解き集めた点を線で結んで形作った答え。

 

 始まりの七二柱は全員死んでいるのでその答えを合否するべき存在がいない。なので前置きをした上で行き着いた答えを発表する。

 

 

 

 

 

「聖のフェニックスと魔のフェニックスは違う別固体と言ったが明確には違う。元は同一存在であったが分裂したが正しい」

 

「同一存在から分裂・・・・・・なるほどね。悪魔の名にルシファーが居た時点でそれを考慮すべきだったか。聖と魔の相反する二つの属性を宿している悪魔もいると」

 

「そういう事だよ。さすがに別れた理由までは見つからなかった。それこそ信仰されたから分裂したのか、はたまた分裂したから信仰されたのか。鶏が先か卵が先か問題だから祖先様に聞く他にないね。

 

 ただ、これだけは言える。今のフェニックス家には悪魔としての側面が強く反映されていて、表立って聖の力が現れていないが、聖の力を覚醒させる要因は十分にありえる。もし、そうなれば悪魔の勢力図は大きく変化するだろうね」

 

 

 

 腕が落ちても瀕死であっても治してしまう万能治療薬【フェニックスの涙】

 

 例えどんなに強大な技であっても死ぬ事の無い【不死性】

 

 悪魔に対して絶対必殺の文字を掲げる【聖の力】

 

 

 

 この三つが揃えばフェニックス家が独立し新たに4大勢力となる可能性すらありえる。

 

 その事なども考えるとサーゼクスの父が強引に婚約を決めたのは妙案でもあった。

 

 魔王の妹のリアスとフェニックス家始まって以来の天才ライザーがくっつけば独立を防ぐ防波堤にすらなりえている。

 

 とはいえ、感情を無視して強引にくっつけるのは反対と思うのが兄としてのサーゼクスの考え。しかし、魔王としてのサーゼクスは政略結婚もありだと考えてしまう。

 

 今回は下手に介入しなかったのはこの矛盾に苛まれていた事も起因する。

 

 

 

 

 

「結局倒すには殺す気でボコれって事か」

 

「ごめんね必勝法とかは授けらないよ」

 

「いやいい。勝負の前に疑問が解決出来たのはラッキーだ」

 

「そう言ってくれと助かるよ・・・さてアジュカ準備はとうだい?」

 

『全く・・・こちらも忙しいと言うのに面倒な仕事を押し付けおってからに。終わったよ、あとは飛ぶだけだ』

 

「なら上々。さぁ始めようか一誠くん」

 

 

 

 開始を告げる言葉に自然と口角が上がる。

 

 堕天使レイナーレは確かに人間よりかは戦えたが、それでも一誠が楽しめたか?と聞かれれば楽しめなかったと言う他にない。

 

 もっと強者を。最強を──退屈を飛ばせる相手を欲した。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

「随分と負けてんなリアス。あんなに倒すって言い張ってたのにな」

 

「うるさいっ!ちょっと見誤っただけよ」

 

「ヤハハハハ!言い訳にしちゃ苦しいぞ」

 

 

 

 頬を含ませて不貞腐れるリアスだがどこか安堵した表情であった。

 

 

 

 

 

「ホントに待たせてくれたよ人間。あまりにも遅すぎてもう少しで終わっていたところだぞ?」

 

「その文句は魔法陣の設定に手間取ってた魔王に言ってくれ。俺は関係ないからな」

 

「ハハッ!この勝負が終わったあとにでも文句を言うとしよう」

 

 

 

 掌に炎を圧縮させ先程放った時よりも高威力高火力の技の準備に入る。

 

 その隣で構える手を前にかざし構える女王。

 

 

 

 二対一。

 

 セコいと言われようともこの盤面を作ったリアスの問題であり、途中乱入の一誠に選ぶ権利などない。それは一誠も分かっているようで口を出すつもりは無い。と言うよりそうしないと身体が温まらないと思っているので問題ですらない。

 

 

 

 

 

「ちっとは俺を楽しませろよォ!」

 

「俺のセリフだよ!」

 

 

 

 

 

 先手を放つのは女王。

 

 一誠の完全な真横に六つの爆発源を発生させる。

 

 波が集まるように魔力が圧縮され一秒にも満たない時間で臨界点を突破。姫島朱乃との戦闘時よりも遥かに高い威力で襲う。

 

 

 

 だが爆発するより早く一誠は地面を蹴っている。

 

 第二宇宙速度。加速時に起きるソニックウェーブで爆発源は圧縮を乱され想定より早く起爆。

 

 それが一誠の追い風を作り一瞬で女王との間合いを詰める。

 

 体制を低く空気抵抗を減らして肉迫し女王の真下へと滑り込ませ、そこから上空──顎に向けての強打、左足をバネに右足で渾身の一蹴りを狙う。

 

 

 

 

 

「甘い!俺をリアスのように力をコントロールできない軟弱者だとでも思ったか!」

 

「チッ、めんどくせぇなおい!」

 

 

 

 集めていた炎を拡散、小さな追尾式の銃弾として撃つ。

 

 視界の端に飛び込む火花や足にまとわりつく火炎、体制が僅かに崩れている今邪魔以外の何物でもなく、さらにこの隙に軽く後ろに飛び退き女王は回避している。

 

 

 

 完全に距離を取ったのを確認してからライザーは開いてた手を握りしめ連鎖起爆させる。

 

 最初は小さな爆発、それが隣の火球を引火させ爆発──これを瞬時に数百個行い回避どころか、防御も許さない全面爆発を繰り出す。

 

 ユーベルーナは爆発のプロだが。その術を鍛え上げたのはライザーであり、爆発のコントロールや力も格段にライザーの方が高い。

 

 だからこそ爆発源を最高十個発生させるのが限界のユーベルーナに比べ、超極小サイズの火球を爆発源にして動かしながら起爆する事が出来ていた。

 

 

 

 一誠の居た場所を覆い尽くすように爆発が支配する。瓦礫の焦げる匂いと共に衣服の焼ける匂いを感じる。

 

 

 

 (この程度か?あの時感じた脅威はこんな物では・・・なッ!)

 

 

 

 爆発が収まりそこにあったのは黒焦げに炭化した瓦礫と黒焦げのブレザー。そして、屋上から下の階へと続く大穴。

 

 一誠の焼き爛れた姿など一切なかった。

 

 

 

 危険を察知し後ろを振り向く。もし、自分を襲う目的で下の階へと避難したのならばすぐに攻撃するはず、それが無いと言うことは狙いは一人。

 

 女王──ユーベルーナが危ない。

 

 その直後真横を何かが通り過ぎていく。

 

 

 

 遥か後方に、リアスが座っている真横を通り屋上の出入口に激突。そこから漏れる女の声からその正体を察した。

 

 

 

 

 

「これで一対一だなライザー」

 

「面白い。だが本当に良かったのかな?この俺を本気にさせたこと後悔させてやるよ」

 

 

 

 炎の熱量が跳ね上がる。数十M以上離れていると言うのにそのとてつもない熱気を感じる。

 

 肌を照りつかせ水分を奪い、にじみ出る汗が地面に着くより先に姿を水蒸気へと気化させる。

 

 

 

 目の前に溶鉱炉があるのではと間違えるほどの熱量に学校の枠組みが徐々に溶け始めている。

 

 もしその熱量で地肌を触れられたらと後ろから見てる事しかできないリアスはぞっとする。

 

 

 

 

 

「もう」

 

「そう来なくちゃな!行くぞ!!!」

 

「来い人間!!」

 

 

 

 

 

 もういいと。私のために傷つかなくていいと伝えようと手を伸ばすが、二人の男にはその声は届かない。

 

 

 

 

 

「オラァァァァァァァァアア!!」

 

「速い、だが所詮早いだけ、貴様の肉体能力ですら防ぐ事の出来ない熱量だ。貴様に蹴れるかな?」

 

 

 

 その熱量はもはや魔力で防御をしていてもその上から貫通してダメージを通す事が出来てしまう。

 

 言わば超高温の鎧を着ているようなもの。

 

 防御力は不死性から度外視して、一誠の攻撃手段の接近戦を潰す算段だ。

 

 

 

 高機動、高威力、ついぞ人間では不可能な所業。終いには火銃(ミサイル)を破壊した。

 

 神器を一切使わずにだ。しかし、そう考えると一誠の肉体は本来ありえない事柄が競合している事になる。

 

 

 

 肉体を攻撃力を強化する能力に、相手の魔力及びそれに該当する力の無効化。

 

 陰と陽や聖と魔などの表裏の関係ではない。相反する力であればコインのように存在できる。だが、一誠のソレは相反する表と裏の力ではない。+と+を繋げるような所業。

 

 同じ力を強引に繋ぎ合わせる愚かな行為にほかならない。

 

 そこから考えたたライザーの考察とは。

 

 

 

 

 

「貴様の能力は大幅な肉体強化だ。それこそ仙人と呼ばれる存在は極限まで肉体鍛え上げて、熱や寒さ等どもビクともしない肉体を得ると言う。貴様はそれを擬似再現しているんだ。

 

 私の能力を無効化したのではない、あの程度耐えきれたと言うこと。私の爆発の時も無効化能力があるのならば無効化していればいいはずだ。なのに、わざわざ階層をぶち抜いて不意打ちするなど、回りくどい方法を取った理由はそれだな?」

 

 

 

 それが理由だろうと揺るがない自身のまま宣告した言葉。それを聞いた一誠は

 

 

 

 

 

「あ?そうなのか?」

 

「は?」

 

 

 

 気の抜けた答え。逆に聞き返してしまうのだった。

 

 

 

 

 

「まて、私は貴様の能力を考察したのだぞ。合否ぐらい言ったらどうなんだ!」

 

「知るかよ、こちとらお前ら悪魔を知ったのは最近だ。次いでに言えばこの力だってつい最近使い始めたんでね、生憎と知らねぇぇよ!!」

 

 

 

 高熱の鎧。それを纏い安全だと鷹を括っていたライザーの顔面に拳がめり込み、首から上を消失させた。

 

 反動で身体は後方へ吹き飛び屋上から落ちるギリギリのラインで踏みとどまる。

 

 

 

 だが顔はない。視界はない。嗅覚はない。聴覚はない。

 

 五感の内四感が一瞬でも奪われた事で大きな隙が──回避すらできない状態を作りだした。

 

 顔の修復を急ぐが顔を炎で形作ってからそこに重要なパーツを後から付ける。この工程で最低でも二秒かかる。

 

 二秒も殴れる時間があるのならば、一誠はラッシュを食らわせられる。

 

 

 

 

 

「オラオラオラァ!!再生させる猶予なんて与えるわけ無いだろォ!」

 

 

 

 一誠の言葉が聞こえてはいないだろうが、何をされているのか体感で分かっていた。

 

 炎で顔を形作った段階で飛んでくる隕石級の拳に頭蓋は吹き飛びまた一から作り直す。そして作って破壊する。それの繰り返し。

 

 ゲームで言うところのハメ技。

 

 

 

 再生させて消されるその光景を何度見せつけただろうか。二十回以上行われた末でどうにか蹴り腹部に入れてラッシュを止める。

 

 人間がいくら鍛えても防御力の高まらない場所。腹部へ沈み込むような感覚が足を伝い手を止めさせた。

 

 

 

 二秒の時間を稼げ回復し暗黒から色がついた視界へと移行した。

 

 

 

 

 

「ヤハハハ!決まったと思ったかよォ!」

 

「がふっぁ」

 

 

 

 ラッシュ終わりのお返しの腹部蹴り。

 

 人間と同じ肉体をしているライザーもその弱点は補えず確実に骨を粉砕し、身体をくの字に曲げさせて校庭へと吹き飛ばす。

 

 地面に向けて超高速で走り着地すれば、大きな地割れを発生させて校庭全域が崩壊寸前までになる。

 

 

 

 白ワイシャツの腹部に付いた汚れを払い落としながら、校舎の屋上から見下ろす青年の目はこれで終わったとは思えていなかった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「やっぱり彼の能力は異端的だね」

 

 

 

 サーゼクスは一誠の肉体におきた異常や今目の前に広がる光景を見ながら呟く。

 

 

 

 そもそもなぜ転移魔法陣が効かなかったのか。それは、魔法や異能を砕く拳のせいではなく魔力の総量が問題だった。

 

 転移魔法陣はB点とC点とを異空間を介して繋ぐ。

 

 悪魔、人間、魔物……様々なものを転移させる。それを一から構築などをしていれば時間がかかりすぎて無駄すぎる。そこで世に出回る際に簡略化させるため指定を設けた。

 

 生き物や無機物などが必ず持つ【魔力】があるものだけを転移せるようにした。

 

 本来ならそれで問題がないはずなのにどこぞの問題児は魔力を一切持たない摩訶不思議な現象が起きていた。

 

 

 

「まるで分からんぞ。私も(ライザー)と同じ推測をたてた。私が戦ったとしても同じ戦法を取っただろうな」

 

「それじゃあダメなんだよアジュカ。彼の使っている力の前にはね」

 

 

 

 一誠を送り出したあと観戦ステージへと向かった二人は魔王特別席に腰を下ろしながら観戦している。

 

 その流れでライザーの取った行動を見ながらアジュカはもうお手上げだと告げる。

 

 

 

 一誠の力の招待を知るサーゼクスは含み笑いをしながら首を横に振る。

 

 

 

 

 

「一誠くんの使う能力は”原典”──”神器”などとは格が違う。多少の不合理も不都合も常識も通用しない力。僕達が考えようと努力すだけ無駄なんだ」

 

「”原典”ね・・・私にすら秘密にしていたのか、そんな面白そうな事を」

 

 

 

 新たな未知との遭遇に都市を忘れ玩具を見つけた子供のように無邪気な笑みを浮かべる魔王の一人。

 

 だから伝えてなかったんだよと苦笑いを返すサーゼクスはすぐにモニターへと視線を戻した。

 

 

 

 

 

「ささ、そんな事より今は彼だ。ここまで追い詰められたんだ多分出るいや、覚醒するよ(ライザー)は」

 

「さてなどうなる事やら。あちら側(フェニックス家)が勝手に言ってるだけだからな、信用性などないよ」

 

「でも、もしもがあるからこうやって居るんでしょ?僕達が。もし彼が覚醒したのならば──一誠くんではとてもではないが止められなくなる。その時は僕達が乱入して止めるよ」

 

 

 

 アイコンタクトで二人は最後の確認を取る。

 

 この二人は送り出した一誠を見るために二人だけで集まっている訳では無い。もし、ライザーがただの最上級悪魔ならば一誠が勝つ事は確信できていて、見る様子すら必要はなかった。

 

 そう、ライザーが普通ではないから二人はもしもの時のために集まっている。

 

 悪魔の枠組みを超えた【超越者】と呼ばれる二人が集まり、その二人でしか止められない力。そんなもの一つしかない。

 

 

 

 

 

 ライザー・フェニックスは【超越者】の候補である。

 



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不死鳥の夢

なんか超行き詰ってました。
アベンジャーズ最高ですぅぅぅぅ


 フェニックス家の三男として誕生した。

 

 その出生からライザー遺憾無く才能をあふれさせている。

 

 

 

 生まれた直後に身体の衰弱から死亡。しかし、すぐにフェニックスの特徴の不死性を利用し生き返る。

 

 本来は鍛錬を積んで最短でも十を超えた段階で習得する不死性をら、産まれた時から己が物としていた。その才能は留まるところを知らず成長する度に周りに見せつけていく。

 

 

 

 齢三歳にして炎を自在に操る。

 

 十二にして【王の駒】を手に入れ眷属を持つチャンスを自身の力だけで掴み取る。

 

 数えあげればキリがなくなるがその全てが異常を示している。

 

 

 

 現悪魔界にて三人しか存在していない【超越者】の一人だとフェニックス家の誰もが思った。

 

 

 

『お前はいずれ【超越者】と呼ばれる存在。負ける事は許さぬ』

 

『レーティングゲームは一○位以降との対戦は禁ずる。これはお前のためだ理解してくれ』

 

 

 

 箱入り娘のように丁重に丁重に扱われ続け、その才能は燻っていく。

 

 

 

 

 

 ──俺は死を味わいたい。絶望し失望し恐怖する死を。

 

 

 

 ライザーはいつからかそのように思い始めた。

 

 だが、それを許さない。許されない。

 

 

 

 不死者であるからこその死への渇望。

 

 願いにも似た夢はずっとライザーの心の中に残り続けた。

 

 

 

 フェニックス家の三男でありながら将来は当主となる事を約束されているゆえに長男からは忌み嫌われ、二男からは避けられていた。

 

 死も愛も受け取れなかったライザーは生きる希望すら無くなっていき次第にその才能が覚醒することが無くなった。

 

 

 

 そして親が勝手に決めた婚約も特に反対すること無く受け入れる。

 

 もう全てに諦め失望していたから。

 

 

 

 なのに、一人の男を目にした。

 

 人間の身でありながら並の悪魔以上の力で堕天使を屠り、あまつさえ異端なその力を持っていながら周りから慕われ愛を受け取っている。

 

 自身と同じ異端なのに手に入れてきた物はまるで違う。

 

 

 

 ──だから俺はこの男と戦いたかったんだ。俺に足りない物はなんなのか、なぜまともに生活ができているのか。全てを聞きたい、全てを受け入れたい。愛を感じたい。

 

 

 

 

 

 願うことをやめた心に火が灯る。

 

 最後の希望にして切望の眼差しを向ける相手。

 

 妄想の中の自分と退治するような感覚。

 

 

 

 ──あぁ俺は・・・・・・

 

 

 

 諦めたはずの夢を願いを空想を口にする。

 

 

 

『生きたい』

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 数分間意識が飛び走馬灯が巡っていたらしい。

 

 おかげで気分は最悪最低。死にたい気分だ、死ねないのだが。

 

 

 

(・・・久々だなこんなに勝ちたいって思ったのは)

 

 

 

 走馬灯のおかげで童心に戻ったと言うべきか表情はどこか柔らかい。

 

 なんの為に死を望み切望したのか。思い出せた。

 

 

 

 人間は圧倒的な力の持ち主だ。

 

 こちらがいくら策を弄しても力で推し破る策略潰し。

 

 今までに経験したことのないタイプの敵。

 

 

 

 (分かってる。俺じゃあ勝てない。この力だって生き残るためじゃない、死ぬために付けてきた。けど、アイツは違う。生きるために強くなったタイプだ)

 

 

 

 似てるようで違ったんだなと笑みを浮かべた。

 

 

 

 もう答えは知った。ライザー・フェニックスと兵藤一誠の違いは明白。

 

 ゲームは降りても問題ない。と言うかさっさと終わらせて寝たい気分だ。

 

 

 

 絶対に手に入れられない力なのだから求めた所で意味が無い。望んでいた答えは得られなく最後の希望の糸は切られた。

 

 

 

 両親が地面に大の字で横になるこの様を見たら激怒必死だろうなと苦笑いし負けを宣言しようとした。

 

 

 

 そんな時に目が合う。

 

 屋上の上から見下ろす一人の挑戦者()は口にするでもなくただ見つめるだけだ。

 

 

 

 ──やめてくれ、そんな目で見るな。俺はそんな器じゃなかったそれでいいじゃないか。

 

 

 

 否定する。

 

 

 

 男が訴えるのはただ一つ『立ち上がれ』

 

 

 

 ──なんでそんな目で・・・

 

 

 

 脳裏をよぎるのは自身の思考。

 

 そして、兵藤一誠と言う人間の思考。

 

 

 

 確かに手に入れた物は違う。真逆と言ってもいい。

 

 けれど同じ異端なら思考も同じになるはずだ。

 

 

 

 【死を味わいたい】それはひっくり返せば【生を感じたい】という事だ。

 

 

 

 紙一重。行き着いた正解は違えど同じ所にたどり着いた。

 

 

 

 ──そうか・・・そうなのか・・・・・・俺がお前に夢見てたようにお前も俺に見ていたのか。だったら──

 

 

 

      『負けられないな

 

 

 

 感情を薪として焚べる。

 

 生への謳歌、勝利への渇望。

 

 今までの人生で湧いたことの無い感情が新たに産まれそこから新たな力が開花した。

 

 

 

 駒王学園全体を蒼い光が包んだ。

 

 

 

□□□□□□□□□□□

 

 

 

 屋上から見下ろして目下の先にある光景に驚きを隠せずにいる少女が一人居た。

 

 

 

 

 

「なにが・・・」

 

「目をしっかり開けとけよリアス。これからだやっと面白くなる」

 

 

 

 フェンスに飛び乗り光の中心点。蒼炎の発生源たるライザーを見つめる。

 

 横から覗く一誠の顔はどこかワクワクしてる子供のように感じたのだ。

 

 

 

 蒼炎が収まりようやくグラウンドを視界に収めることができ、ゆっくりと頭だけを出して覗く。

 

 そこに居たのは露出度がかなり上がったボロボロのスーツを着たライザーが一人。

 

 

 

(まだ倒れていない・・・・・・それにこの感覚は何?まるで)

 

 

 

 お兄様を見ているようだと呟く。

 

 それはサーゼクスのようなカリスマ性や顔が似ているとかではなく、その放つオーラが一瞬だけ似ていると錯覚してしまっただけの事。

 

 

 

 リアスが感じ取ったのは純粋な力【超越者】へと覚醒した予兆だった。

 

 

 

 そも【超越者】とは何なのか。それは単純明快だ。

 

 悪魔としての力を逸脱している力及び始まりの悪魔(七二柱の悪魔)にどれだけ近づけたのかが規定だ。

 

 

 

 既に判明している三人の【超越者】は、ルシファー家アスタロト家バアル家の三家の血による覚醒によって齎された物である。

 

 そう最低条件が純血悪魔である事と七二柱の悪魔の血を引いている事であった。

 

 

 

 今回のライザーも例に漏れず始まりの真のフェニックスが使ったとしている蒼炎を身に纏う事に成功していた。

 

 事実上【超越者】へとライザーは至った。

 

 

 

 それを兄として近くで見続けてきたリアスだけが肌で感じる事が出来た。

 

 

 

 

 

「あ・・・っ・・・」

 

 

 

 その事を伝えようと口を開くも声が出ない。

 

 ライザーが一誠に向けた殺気が僅かに当たっただけで恐怖から喉が声を出す事拒絶した。

 

 

 

 

 

「随分と見違えたなライザー」

 

「そうかな?私はさして変わったとは思っていないんだけどね。まぁ、力が湧いてくるのは事実だよ」

 

 

 

 身に纏う蒼炎は風に揺れる。

 

 その度大気中の空気を燃やし続け火の粉を散らす。

 

 

 

 

 

「今のあんたなら十分に楽しめそうだぜ」

 

「そうか残念だが──私はそうは思えんな」

 

 

 

 炎が揺れ陽炎だけが取り残されライザーは一誠の背後に一瞬で回り込み、残念だと告げ先程のお返しで腹部へと蹴りを捻り込む。

 

 確実に肋骨を幾つか砕き、破片が内蔵を傷つけ血が逆流する。

 

 口から赤い鮮血が飛びライザーの白いワイシャツを汚すも、そんな事にお構えはない。大気圏に突入するのと同義の速度で加速しグラウンドを大胆に削る。

 

 

 

 地割れが起きたかのように接着地点から真っ二つに別れていき二つの山を作ってしまう。

 

 それは今までの戦闘がまるでお遊びだと告げるかのような破壊力だ。

 

 

 

 

 

「何この威力」

 

「驚くなよリアス。まだ全力の半分以下さ、それにこの程度でアイツを殺れると思うか?」

 

「それは・・・・・・」

 

 

 

 悪魔の中で最も身近であの異常な力を目にしてきたリアスであっても、簡単に安堵は出来ない。

 

 隣に立つ男の底が一切見えなくなり、一誠の勝つ姿が一切イメージできない。

 

 最初の一誠さえ居ればいいと思っていた自分の考えは粉々に砕け残ったのは、自身も参戦しなければいけないと思い始めた。

 

 

 

(なのに、何でよ!何で足が動かないの・・・手も魔力も動かない)

 

 

 

 生物がDNAまでに刻み込まれた恐怖への怯え。

 

 暗闇を恐れ、獣を恐れ、不幸せを恐れ、死を恐れる。それが生物としての本能であり抗えぬ呪いでもある。

 

 一度その恐怖を感じてしまえば滅多な事が無ければ立ち上がる事は出来ない。

 

 俗に言う『心が折れた』に近い。

 

 

 

 

 

「負けを宣言しようなんて考えるなよ。そんな事をすれば私は貴様を例え地の果てに居ようと殺してしまう」

 

「分かってる、このゲームはリタイアはしない」

 

 

 

 震える声に脚。もう自分の物でないようだ。

 

 こちらからの指示は一切受け入れずひたすらに身体は戦闘を拒む。

 

 血の力にかまけ技を磨いて来なかったからこその心の弱さ。

 

 口では兄を超えると言いながらもその本質は超えること拒む。所詮口だけの女──もし一誠がこの場に居ればそう言っただろう。

 

 

 

(分かってる、分かってるのよ。私は意気地無しだって事なんて。努力をいくらしてもお兄様に勝てないけど、努力をしている体で居たいから無駄な努力をする。

 

 そんなの言われなくても分かってた。だから、あの時それを言われた時は自分自身が一番驚いたわ。世界を敵に回してもなんて・・・・・・)

 

 

 

 空を見上げ自問自答を繰り返した。

 

 幼少期にも何度もしたが答えが出なかった質問。

 

 

 

 ──貴方のしたい事は?

 

 

 

 兄を超えるのは夢。自由に生きるのも夢。

 

 

 

 だったのならばしたい事は一つ。

 

 

 

『その夢を掴む力を手に入れる事』

 

 

 

 人生にて初めてその日一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

「はァッ!」

 

 

 

 近場に転がっていたフェンスの欠片を太ももに勢いよく突き刺した。

 

 日焼けをした事がない白く美しい肌に赤い液が彩る。

 

 痛みに顔を歪ませ苦痛に膝が折れそうになるもしっかりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

「何をして」

 

「ライザー・・・貴方が一歩踏み出したなら、私も踏み出す。それが茨の道だとしてもね!」

 

 

 

 死んだ瞳に光が宿った。

 

 

 

「くかっハハハハハハ!いいぞ、あぁ余興程度だと思っていたが、その瞳その心欲しくなった!余計にこの勝負負けられないな!」

 

 

 

 乱れた髪を掻き揚げながら堂々と宣言した。

 

 今まで義務だからと諦め興味を示してこなかったリアスに初めて抱いた感情──独占欲だ。

 

 

 

 新たな感情を持ったのと同タイミングで地面が再度割れ、狭間から一人の男が生還する。

 

 制服はズタボロに裂け、ブレザーは最早見る形もない。長ズボンもダメージジーンズの比では無いレベルで傷がある。

 

 

 

 

 

「俺を抜きで随分と面白い事をしてんなおい!」

 

「別に君を抜きでやっていた訳では無い、復活が遅かったのがいけないだけだ」

 

「よく言うぜさっきの時戻ってくんの時間かかったくせによ」

 

「そこを突かれると痛いな」

 

 

 

 二人の会話はまるで昔からの旧友と話すかのように穏やかであった。

 

 そんな二人にリアスは堂々と割り込む。

 

 

 

「一誠これを」

 

 

 

 リアスが懐から取って放ったのは小さい液体の入った瓶。

 

 ちょっと力加減を間違えれば砕け散るガラス製のようだ。空中で巧みに状態を変え続ける瓶を割る事無くキャッチして

 

 

 

 

 

「おっとなんだこれ?」

 

「フェニックスの涙よ。どんな怪我でも治す万能治療薬・・・さっき怪我してたでしょ?一誠には頑張って貰うんだから傷を治して貰わないとね」

 

 

 

 自分の足に突き刺さったフェンスの欠片を無視して一誠に支給されたフェニックスの涙を渡した。

 

 その様子を見て大体事情を察した一誠は瓶の中身を一気飲みして後ろ髪を掻き毟る。

 

 

 

 

 

「たくっ、女がこんな事をしてんじゃねぇよ」

 

「痛っ!ちょっと、覚悟を決めてやったんだから褒めても良いじゃない!」

 

「馬鹿だな。これで婚期を逃したらどうすんだよ、女の傷は結構響くぞ」

 

「えっホント?」

 

「あぁマジマジだから傷を残さないためにさっさと決めるか」

 

 

 

 目の前にいながらも手を出さずに待っていたライザーの方へやっと視線を向け直す。

 

 

 

 

 

「なんだもういいのか?もう少しイチャイチャしていても良かったんだがな」

 

「おいおいこちとら戦闘しに来てんだぞ?そんな事言ってくれんなよ」

 

 

 

 そう言いながら左手を上空へ掲げる。

 

 まるで太陽を掴むかのように拳を握りしめながら。

 

 

 

 何かの儀式かと首を傾げるライザーは何もせずに見つめ続け、一誠から戦闘を再開するのを待つ。

 

 

 

 

 

「おい居候!久々に使ってやるよ」

 

『・・・・・・』

 

「・・・よし、切り落とすか左腕」

 

『待て待て相棒!ちょっとした茶目っ気だろ?そんな事で早まんな』

 

 

 

 一誠の問に答えを出したのは人間でも悪魔でも無い。上空に掲げた左手を覆う赤い篭手からだった。

 

 

 

 手の甲の部分に水晶玉のような大きい黄緑(エメラルド)の宝玉。そこを中心に凹凸の激しい、まるで龍の鱗のように真紅のプレートが覆っていき、左腕の肘まで全てを覆う。しかし、それはどこか生物と言うよりは人工物のようなメカメカしさがある。

 

 

 

 

 

龍の篭手(トゥワイス・クリティカル)か?」

 

『この俺をあんな紛い物と一緒にしてくれるとはな、いい度胸だ余程死にたいしいな蝙蝠』

 

「だったら力をもっと出せよ──禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 

 

 

 力を解放するため合言葉(ワード)を告げた。

 

 禁手化(バランス・ブレイク)は神器に備わった奥の手である。

 

 これは本来安定している神器(セイクリッド・ギア)の力のバランスをあえて崩す事により、従来の性能以上の力を解放する技である。

 

 全ての神器使いに使える可能性はあるが、使えるのは極僅か。それでいて一誠はその領域へと至っていた。

 

 

 

 全身を覆う赤の鎧。

 

 全身の要所要所に黄緑(エメラルド)の宝玉が散りばめられていて、胴体の胸部には一際大きい宝玉が堂々と存在している。

 

 顔は左右に別れる黄色のヒゲのようなパーツに宝玉と同じ色の瞳。龍のような彫りの深い顔へと変貌を遂げ正しく【赤い龍】その物が人型になったようにすら感じる。

 

 

 

 

 

「まだ力を隠していたか人間ンンンン!!」

 

赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)それがこの状態の名だ。使うのはこれで二度目、楽しませろよライザー」

 

 

 

 顔は隠れて見えないがその下が愉快に笑っているのだと安易に想像出来る。



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不死鳥は覚醒する。

 この戦いにおける最前線にいながら傍観者しか役目がないリアスは目の前のそれに言葉を上手く表すことが出来ずにいた。

 

 一誠が禁手化(バランス・ブレイク)を用いた直後に互いは駆け出し超高速戦闘を開始した。

 

 

 

 その速度は互いに太陽を起点とした銀河系脱出速度以上──第四宇宙速度である。

 

 二人が加速する度にソニックウェーブにより周囲の木々や建物は壊れていき、さらには空間自体も不安定にさせている。

 

 通常ではありえない速度の二つが接触すればその衝撃は核爆弾以上。

 

 もはや人類では再現不可能であり観測すら怪しいレベルだ。

 

 

 

 もちろんそれをリアスが終えるわけがなくただ見つめているだけだった。

 

 

 

「キャッ!・・・また衝撃波が横をこれで何度目?」

 

 

 

 二人の余波は当たり前だがリアスの方にも飛んでいくのだが、それを回避する手段はなく防御なんて取ることすら出来ない。なので既に余波で殺られていてもおかしくないのだが、何故か先程から横を通り過ぎていくばかりでかすり傷の一つすら負わない。

 

 

 

 勝利の女神はどちらに微笑むのか。それはもはや戦況をしっかりと把握できていないリアスには到底判断できることではない。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 小さな爆発と大きな爆発が休む暇なく発生し続け、最後の派手な花火が延々と続いているような華やかさすらある。

 

 その発生源の戦闘スタイルは全く一緒同化している。

 

 回避を一切捨て攻撃にだけ集中し殴る。

 

 ライザーは右ストレートの拳を顔面に受け跡形も無く吹き飛ぶが直ぐに再生させ、カウンターの顔面パンチを捩じ込む。

 

 一誠は微動だにせず鎧の硬さを物語る拳を阻止する鎧の甲高い音が鳴り、僅かに傷がつく程度しかダメージを与えられていない。

 

 

 

(足りないのかここまでの力を出しても)

 

 

 

 確かに互いにダメージを負っていなく互角のように見えるが本質は違う。

 

 鎧に阻まれ入らないダメージと再生により残らないダメージでは明らかに後者の方が不利であり、持久戦をしていけばいずれ負けるのは後者だ。

 

 そうならないために覚醒したての【超越者】としての力を一〇〇%──一二〇%──二〇〇%と限界を超えた使い方をしているのだが、それでも決定打になりえない。

 

 それだけ兵藤一誠と言う男は遥かな高みに居るということに他ならない。

 

 

 

(負けそうだと言うのに・・・)

 

「楽しくて仕方が無いぞ一誠!!!!」

 

「はっ、それはこっちも同じだぜライザー!!ここまで殴り会えたのはお前が初めてだよ。いつもは一撃で沈むからな!」

 

 

 

 つい口から零れた感情に好敵手(一誠)は同調し獰猛な笑みを見せつけてくる。

 

 もう兵藤一誠を人間だとは思わず、一人の男、一人の戦士、一人の・・・・・・好敵手として心の底から認めた。

 

 その思いは重い一撃を放つ事に成功する。

 

 回避を完全に捨て拳のみに全神経を集中させる。

 

 右肩、二の腕、肘、肘先、手首、手の甲、第一関節、指先まで──その先の炎や火の粉まですら身体の一部として感じて操作出来る。

 

 

 

(なんだこれは・・・)

 

 

 

 刹那蒼炎にある変化が起こる。

 

 地球における高温を意味する蒼炎は徐々に色が抜け落ちていく。残ったのは僅かに青色がかっている白炎だ。

 

 何故そんな色に変化したのか一切合切不明であり効果も不明。正体不明のそれだが、勝つために使えるならば何でも使ってやると拳に纏わせ胸部を強打する。

 

 すると、白炎が赤を飲み込み消失させる。

 

 

 

「なにッ──」

 

 

 

 一誠は初めて自ら距離を取って一旦戦闘を中断させる。

 

 ツーステップ、念の為のスリーステップ下がり京田を受けた場所を確認してみる。

 

 その場所は溶鉱炉に溶かされた鉄のようにグチャグチャに溶けて混ざり合い、地面へぽたぽたと溶けた鎧を垂らしている。

 

 

 

『馬鹿な!この俺の鎧を溶かしただと!!そんな事できるわけが無い!』

 

「残念ながら目の前でそれが起きてんだから認めろよ。結論として、お前の力よりも上の炎で上書きされて溶けたってところだろうな。まぁそうなると、炎を司る炎龍の居候(ドライグ)より上の炎を持ってるって事だけど」

 

 

 

 推測は経つが如何せんそれをすぐに信じる事は二人共出来ずにいた。

 

 確かにフェニックスは炎を媒体にして復活をするなど炎と深い関係があるのは分かるが、それでも本質は何度でも再生する不死性にあるのであって炎が強力などではない。

 

 赤龍帝──ドライグ・ア・ゴッホは赤言わるゆる炎の化身に近く、炎を完璧に操り例え神のような上位種であっても殺すことは容易い。なので皮膚や鱗の装甲はそれなりの炎耐性があり神器になってもそれは同じだった。

 

 逆に能力の幾つかを封印されている今の状態では防御の方が強力だと言っても良いかもしれない。

 

 ならばこそこの装甲を超えてダメージを与えた事は想定を軽く超えた物であった。

 

 

 

「油断すんなよ居候(ドライグ)

 

『当たり前だ。それに俺が油断したところで戦うのは相棒だろうに』

 

「だな。まぁいっちょやりますか」

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「アジュカもう一度確認をするよ。フェニックス家の超越者の能力は【蒼炎を操る事】で良いんだね」

 

「それに関しては間違いはない。候補者として伝えられた段階で、過去の文献から古文書を精査して能力を確定付けた」

 

「だったらアレはなんだ!」

 

 

 

 アジュカから渡されていた【フェニックス家の超越者について】の資料を持っていた手を机に思いっきり叩きつける。

 

 魔王の拳に耐えられず机は殴られた場所から全体にヒビが入り瞬時にで砕け散る。ちなみにこれは日本円にして三○○○万円の机である。

 

 通信モニターが一瞬乱れるがすぐに安定し掛けているメガネが怪しく光る。

 

 

 

『なら簡単な事だろサーゼクス。彼は過去の血の呪縛を超えて新たな力を覚醒させた、あの男のようにな』

 

「リゼヴィム・リヴァン・ルシファー・・・始まりのルシファーの血を色濃く継いでいる故に覚醒し、先代を超えた力を覚醒させた超越者。

 

 彼と同じように先代を超える力を覚醒させたと言うのか・・・僕達には不可能だった事を」

 

 

 

 資料を握る手に言葉と共に力が込められ、もはや資料として再度使用するのは難しい状態になる。

 

 そこにどんな感情があったのかアジュカはある程度予測がついていた。

 

 四大魔王とはその家名通り四家の悪魔から始まった。【ベルゼブブ】【レヴィアタン】【アスモデウス】【ルシファー】

 

 三種族による戦争の末死亡や疾走などが起き後釜として当時の最強だった四人がその家名を襲名して四大魔王として君臨するようになった。

 

 サーゼクスは【ルシファー】の家名襲名しルシファー家の、屋敷に足を踏み入れた後から何故か目の敵にするような態度を取り始め、自身の眷属に至ってもリゼヴィムの能力の対象外の者を集めている。

 

 リゼヴィムに出来たのだからと躍起になって始まりの悪魔を越えようと頑張ったが無意味に終わり、成果は出なかった。

 

 半ばリゼヴィムが特殊なんだと諦めていた所へ自分より若い悪魔が軽々と超えてしまった。それも【超越者】として初めて覚醒した当日にだ。

 

 純粋に悔しいのだろう。努力で越えられない壁を才能で超えてしまった彼が。

 

 

 

『認めるしかないさ。彼は冥界始まって以来の天才であり最強の超越者であるとな』

 

 

 

 終わったら一杯行こうと付け足して励ましの声をかけた。

 

 数秒沈黙を貫いてから、少し落ち着いたのか小さく首を縦に振って心を落ち着かせていく。

 

 

 



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問題児VS不死鳥決着

うんん長い。
想像通りの物を文にできないせいで、もやもやが残るな。もっと文才をオラにくれ。


 

 二人だけの大決戦はライザーの覚醒により戦況がひっくり返った。

 

 今まではダメージが入らず一方的に攻撃をしていた一誠であったが、ライザーの白炎は鎧を溶かしダメージを如実に与え始める。

 

 それが意味をするのはダメージを受けても回復する術を持つライザーに比べ、回復手段がない一誠の圧倒的不利が定められたという事だ。

 

 

 

「どうしたどうした!その程度では無かろう一誠!!」

 

「クソ──攻撃は当たっちゃいけなくて、ダメージが入らない?とんだクソゲーだなおい!」

 

 

 

 幸いなのはまだ完全にコントロール出来ていないという事だと、冷静に分析しながら思考を止めるために飛んでくる拳を紙一重で躱していく。

 

 

 

「いつまでもお守りをしながらでいられると思うなよ?」

 

「はっ!何を言ってやがる。俺は別に」

 

「ほらまただ。これが俺とお前との絶対的条件の差だ」

 

 

 

 狙いを一誠ではなく呆然と見ているリアスに向けた瞬間、無理やり身体を捻りあげ拳を蹴り飛ばして逸らす。が、その体制から新たに捻って回避するのは空中に足場があっても不可能。

 

 白炎を一誠の鎧を参考に纏わせガラ空きのボディーに回転を加えて捩じ込む。

 

 鎧は一瞬で融解し拳の回転に合わせて腹部全体の鎧は渦を描く。

 

 赤の渦の中心点。そこは皮膚の肉の焦げる不快な匂いが二人の鼻腔を刺激する。

 

 

 

「くっ・・・そ・・・」

 

「確かに一対一なら俺にこのような勝ち方は出来なかっただろうな。だが、これは大将の首をかけたゲームだ。一兵士のお前と、大将の俺では戦い方がまるで違うよ」

 

 

 

 意識を反転させて頭から校庭に真っ逆さまで落ちていく。

 

 腹部を焼かれた痛みは脳にダイレクトに激痛を伝えさせ、それにより強制的に意識が戻される。

 

 校舎より遥かに上からの落下。いつもの一誠であれば難なく着地できるが、初めて受けた大ダメージに肉体が硬直しまともに動かない。

 

 

 

 地面と接触すると校舎を揺るがす衝撃波と、苦痛に叫ぶ一誠の声がリアスの耳に届く。

 

 

 

「何を泣きそうになっている。これがお前の選択した事だぞリアス。

 

 眷属を巻き込み友を巻き込んだ対価だ。血を、肉を、魂を、寿命を、精神を、命を削らせる。それが戦いだ。これはゲームである前に戦いでもある。それを知らなかったで悲しむなど哀れな女だな」

 

 

 

 その場に徐々に崩れていき、フェンスに指が伝い指先を傷つけていく。

 

 完全に床にへたり込んだリアスは目から大粒の水滴を流して落下地点を見続けている。

 

 

 

「悔やんだか?この戦いにあの男を巻き込んだ事を・・・泣いて許してもらおうとでも言う気か?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「答えないか。まぁいい、勝手に語りかけるだけだ」

 

 

 

 ライザーは残っていたフェンスに寄りかかり、体力の回復を図るついでにと口を開いた。

 

 

 

「もし俺と一誠がサシで殺りあったら間違いなく負けていた。だがそんな事に今回はならなかった、その核たる理由が互いの立場の差だ。

 

 俺は自身の首が取られれば負ける。逆に言い返せば俺が負けなければ負ける事はない。だが一誠は違う。俺が一誠に勝ったところでこのゲーム自体の勝者にはなれない、何せ大将はリアスお前だからな。

 

 不自然に思わなかったか?お前にだけ何故か攻撃がいかなかった事をな」

 

 

 

 その言葉を聞いていたリアスは何かに気づいたのか肩を揺らす。

 

 

 

「気づいたな。さすがにそこまでバカではないか。そう、一誠はお前を守りながら戦闘をしていた。そのせいで本来食らうはずも無かった攻撃を喰らい地に伏している訳だ」

 

「・・・それじゃあ私のせいなの?一誠があんなに傷ついてるのは・・・」

 

 

 

 夢を奪われた子供のように絶望に満ちた声を上げた。

 

 それを、哀れと思ったのかライザーは苦笑し語──

 

 

 

「な訳が無いだろ」

 

「一誠!」

 

 

 

 問いに答えたのはライザーではなく問の根幹である一誠本人だ。

 

 生きていて良かったと笑顔で振り返ればその笑顔の意味が逆転した。

 

 

 

 鎧の大部分は大破していて顔が半分露出し、腹部に至っては人間の皮膚とは思えないほど赤黒く変色している。

 

 左手は辛うじて動いているが右手は肘が三回転したようで繋がっているだけの状態であり、宙に垂れ身体の動きや風に合わせて揺れる。

 

 

 

「何が・・・」

 

「落下の衝撃を右腕だけに集中させてどうにか耐えたか。それでもその状態ではもう碌に戦えないだろ」

 

 

 

 身体が殆ど動かない状況下においても一誠は的確に判断してすぐに右腕を捨てる判断を取った。それにより、右腕が完全に逝ったが脚や左腕は残す事が出来た。

 

 これでまだ戦える。まだやれると歩みを止めない。

 

 

 

「ダメ・・・もうやめて。何でそこまでするの・・・貴方に取って私なんてどうでもいいじゃない。つい一月前ぐらいに出会って、そこから流れで一緒に居る私のためになんで・・・」

 

「自意識過剰だな、俺は別にリアスのために戦ってる訳じゃない。これは俺が売った喧嘩でライザーが買った喧嘩だからやってるだけだ。リアスなんてオマ──」

 

「嘘ッッ!」

 

 

 

 目が朦朧としていながらも歩いて近づく一誠にリアスは立ち上がって抱きつく。

 

 顔の位置的にリアスの胸の上部に顔が沈み込む。

 

 

 

「だったらこのゲームとは別でやれば良かった。わざわざこのゲームでやる理由は何?」

 

「誰が答えるかよ。答える理由なんかねぇよ」

 

 

 

 痛みから掠れた声で答える。そこにいつもの覇気はなく弱々しい年相応の少年の声だ。

 

 今考えれば胸に沈むこの少年は劇的な人生の転換期を迎えたばかりなのだと気づいた。

 

 堕天使の彼女に裏切られその手で殺し、人間以外の種族を知った。悪魔の純血種との戦闘により経験した事のない大怪我を負い満身創痍である。

 

 

 

 もし自分が同じ立場であるならば絶対に生きていけない。まともな精神状態では入れないと思う。

 

 

 

「バカ・・・バカよ」

 

「バカバカ五月蠅ぇ・・・声が頭に響くからやめろ」

 

「この戦闘狂・・・・・・この戦闘バカ・・・この問題児・・・このえっとその」

 

「思いつかねぇのかよ。そこは考えておけよな、たくっ気がくるな・・・・・・ありがとよ支えてくれて」

 

 

 

 か細くボロボロな身体で再び立ち上がる。

 

 剥がれて歩みを始める英雄(一誠)を送り出すのに涙は失礼だと、涙を指で弾いて屈託ない笑顔で送り出す。

 

 歪む視界で数歩歩いて立ち止まる。

 

 腹部の傷などを含めれば持ってあと数分。それ以上は意識が強制的に落ちるか死亡するかのどちらかだろう。

 

 肩を上下に苦しそうに息をしながらライザーを見つめる。

 

 

 

「覚醒に次ぐ覚醒、そっちももう限界だろ?」

 

「・・・・・・やはり気づいていたか。いくら強がった所でもう身体は持たない、気を抜けば今にも崩れ落ちる」

 

 

 

 この戦闘は一誠に初めての苦戦を強いらせたが、それはライザーにも同じ事であった。

 

 格上との戦闘を止めさせられていたライザーには全力でかかっても勝てない相手など体験したことも無く、【超越者】としての第一覚醒からのそれを超える第二覚醒。この戦闘だけで数十年──数百年分の進化を急速に遂げた。

 

 その反動はライザーの身体に知らず知らずの内に疲労とダメージを蓄積していき、遂にそれが今爆発する一歩手前まで来ている。

 

 

 

 両者とも満身創痍でありながらも勝負を捨てるような事はしない。しっかりと向き合い何時でもやれるように心構えをしている。

 

 

 

「俺ももう限界でお前も限界・・・だが、それではい終わりなんて出来ないだろ?」

 

「もちろんだ。終わるならせめて最後に殴って終わりにしてやるよ」

 

「こちらも同じ、残された力はラスト一発・・・そこに全てを込めよう」

 

 

 

 フェンスから跳ね互いに十歩の間を取る。

 

 ライザーは両腕を垂らした状態で目を瞑り力を精密にコントロールする。

 

 足や胴体、頭にバラけていた力を全て一箇所左腕だけに集める。

 

 無駄に放出していた力は左腕の内側に集約していきまだ蒼が見え隠れしていた炎は完全に変貌し、蒼が色が一切ない白炎へと至る。

 

 閉じていた目がゆっくり開かれ、瞳に落ち着いた色が写り左腕を後ろに下げる。

 

 

 

「俺はこれを放てばもう動けん。だからリアスを潰す気で打つ、分かるな?躱すことは出来んぞ」

 

「だろうな。だからこっちも」

 

『BBBBBoost』

 

「全身全霊をかけてやるよ」

 

 

 

 最後の壁としてリアスの前に動き、生き残っている左腕を同じく後ろに下げ最後の攻撃を放つために構える。

 

 口角を上に上げそれでこそと心の中で呟く。もうここから先に会話は必要ない。

 

 会話に割く力すらもこの一撃に回すからだ。

 

 

 

 互いに一歩にじり寄り

 

 

 

「一誠ェェェェェェェェェェェェェエエエエエ!!」

 

「ライザーァァァァァァァァァァァアアアア!!」

 

 

 

 ライザーの白炎は肥大化し一個の巨大な球体になる。

 

 火球から放たれる熱は触れてすらいないのに熱風によって、校舎のコンクリートを溶かし木々を燃やす。

 

 それにライザーは気づいていないが一誠は大まかに正体を判断していた。

 

 火を司る赤龍に対して優位に立てる、それでいて最も色濃くそれの証拠として提示されている白炎。この二つがで揃えば簡単である。

 

 その正体は自然界に存在し地球に多大なる影響を及ぼし、銀河が存続していく上でもっとも重要なファクターである【太陽】である。

 

 太陽の光は本来何も色がない白であり、それが地球の酸素や海などの数多の色素に触れることで色を持つ。

 

 【太陽】であれば火を司る赤龍よりも銀河を照らす【太陽】の火が勝つのは自然であり、【太陽】以外の候補など火の神シヴァなどしか思い当たらず、もっとも証拠が示しているのが太陽であった。

 

 一体そこにどんな理由がって太陽になったのかなど考える余地も無く、分かっているのが太陽であると言うこと。

 

 

 

 それにより目の前の火球は正に太陽の化身であり、擬似的な太陽のような物だ。あまり長時間顕現すれば肉が溶け去るだろう。

 

 早急に決着をつけたいが、太陽を惑星一つを砕く力など四大魔王ですら出せない。もちろん人間で出すことは不可能であろう。

 

 恐ろしい推測に行き着いたはずの一誠であるが笑みは消えていなかった。

 

 

 

 引き下げられた左腕の【赤龍帝の篭手】は解除(パージ)して生の腕が飛び出す。

 

 生身の腕で太陽を殴るなど自殺志願者のそれであり、ライザーも何故解除したのか明確な理由は分からない。

 

 

 

擬似創世図(アナザー・コスモロジー)起動”w(Aqk@G”」

 

 

 

 その合図(ワード)と共に瞳の色はその闘志を物語るかの如く燃え上がる。瞳は赤より紅く、紅より緋に。さらに、左腕から極光の柱が伸びる。

 

 三つ、五つ、七つ、十に及ぶ光の柱群。

 

 一つ一つの質量が高エネルギーであり、空間を破壊するには十分すぎる威力を持つ。それらが一誠の左腕を中心に混ざり合う。

 

 繊細に精密に確実に融合していく柱は最終的に一つの細長い柱──槍へと姿を変えた。

 

 十個の高エネルギーを圧縮させた光の槍は左腕に被さり、指示通り太陽に向けて突き出される。

 

 

 

 太陽と光の槍の激突。

 

 

 

 世界の終焉を表すかのように空間が泣き叫ぶ音がこの領域全てを支配する。

 

 二つの光がぶつかり合い視界を完全に封殺。

 

 

 

 莫大な質量を持つ太陽──惑星が壊れる事などまずありえない。遠目で見れば銀河の至る場所で惑星が壊れる事が起こるが、今さっき完成した惑星がその日にすぐ壊れるのはありえない。

 

 自然崩壊はありえない。

 

 ならばこれは故意による破壊なのかと目を疑う。

 

 

 

 太陽のある空間自体にヒビが入り、光の槍との激突部は砕かれたガラスのように徐々に粉々になり始めている。

 

 

 

(まさかその一撃、惑星を砕く威力があるのか!)

 

 

 

 その結論に至ったと同時、太陽は無残にも全てが砕け散り光の槍──一誠の左腕が胸部を深く貫く。

 

 再生させる力すら残っていないライザーはその一撃を持って完全に意識が消える。

 

 それにより勝負が決まった。

 

 

 

 リアス・グレモリーは初めてのレーティングゲームを勝利で幕を下ろした。

 

 



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激戦を終えた後

 

 

 巷で騒がれる事になった【龍VS不死鳥】のレーティングから二日余りが経過していた。

 

 今でも二人の激闘のシーンだけが切り抜かれた映像が多数で周り、龍と聞けば兵藤一誠、不死鳥と聞けばライザーの名前が上がるほど多大な影響が現れていた。

 

 その話題の中心人物たる二人は

 

 

 

「なぁ普通こういう時は部屋を分けると思わないか?」

 

「なんでも病室が満室なんだとよ、このリンゴ美味いな」

 

「はぁ・・・あんな死闘をしたと言うのに締まらんな。あっ、俺は梨を寄越せ」

 

「ほらよっ」

 

 

 

 冥界屈指の大病院の一室のすぐ真横同士で入院していた。

 

 ライザーの傷は初日に治っているのだが覚醒した【超越者】としての力の計測のためそのまま入院。

 

 一誠は人間離れした回復力を見せているが腹部がやき爛れたのだからまだ完治にさ至っていない。幸いなことに傷口が焼けていたおかげで出血も感染症も起こらずかなり安定して治療ができた。

 

 二人は果実にそのまま齧ぶりついて口いっぱいに果汁を溢れさせて間食を済ませる。

 

 

 

「ふむ・・・何にしてもだ中々良かったよ一誠」

 

「だな。あんだけ興奮した戦いは初めてだ、それにこんな大怪我もな」

 

「それは光栄だ。一誠の初めてを貰えたのだから純粋に喜ぼう」

 

 

 

 廊下で貴金属が落ちる音と共に周りの人に謝る看護婦の声が微かに間扉の隙間から聞こえる。

 

 

 

「にしてもあの力何なんだ?神器でも無いようだが」

 

「さぁな・・・この力はあのクソッタレに植え付けられた力だ。確か”原典”とか言ってたか」

 

「生まれつきではないのか。てっきり生まれつきの力かと思ってたが」

 

「全然そんな事はねぇよ。昔に色々あってなその時に対価を払って植え付けられた」

 

「対価?」

 

 

 

 齧りかけの梨を自分のテーブルに置いてから疑問を聞き返す。

 

 本能でこれは重要な会話なのだとどこかで感じていたのだろう。

 

 

 

「面白い話じゃねぇよ。フードを被った女に『何時の記憶と控えに英雄の力を授けよう』とか言って、両親の記憶を奪いやがった」

 

 

 

 さもそれが日常の会話であるかのように簡単に言ってのけ、どこか他人事であるかのように語るら、

 

 だが、逆にそれはしょうがないのかもしれない。

 

 記憶を奪われたそれが意味する事は

 

 

 

「初めから親がいない。喜怒哀楽全ての感情が両親を知らない。それが当たり前常識だと言わんばかりに世界は普通に回る。それは俺も例外がない。

 

 この話をしても自分の事なのかどうか怪しいと思ってる。現実味がない・・・いやリアリティーがないが正しいか。幾度も家庭を見て回ったけど欲しいとも思わないし憧れもしない」

 

「それは・・・・・・」

 

 

 

 言葉が何一つ続かない。

 

 自分には両親がいない事は想像出来ても、両親が初めから存在していない事は想像が出来ない。

 

 厳しいルールを決めた両親であってもそれは将来の事を考えての事であり、愛情の裏返しのような物。だから本質的には恨んだり憎んだりした事がない。

 

 その感情すらも一誠は感じた事がないと言う。

 

 幼少期にそんなに経験していれば必然的に精神は崩れ並の人間には育たないだろう、一誠の狂った性格がそれを証明してしまっている。

 

 

 

 果実で潤っていたはずの喉から水分が消えた。

 

 

 

「そんな顔すんなよ。俺は別に悲しいとか思ってないんだからよ」

 

 

 

 それは愛を知らないからだと口から出そうになるがぐっと堪える。

 

 愛を知る者が愛を知らない者に愛を知れなど哀れみでしかない。それは一誠が望まない事だ。

 

 

 

「まぁなんだ。俺はお前の好敵手()だからな苦しい事やしたい事があったら言ってくれ手伝うぐらいは出来るからな」

 

「あんがとよ」

 

 

 

 二人は正面を向いたまま掛け布団から一誠は右手、ライザーは左手を出して互いの拳をぶつけ合わせる。

 

 小っ恥ずかしいそうに鼻で笑いまたリンゴと、梨をかぶりつきその日を待った。

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 一日後。互いに退院が決定し一誠は最後の検査を終わらせて病室へと戻る。

 

 最後の検査は冥界に訪れた事による肉体への負荷だわ、

 

 冥界は魔素が濃く人間が生きるには明らかに不可能な数値を示していて、訪れただけで穴という穴から血が溢れ死に至る。

 

 それを阻止する護符は存在しており一誠は所持はしていたが、もしかしたら貫通し何かしら異常をきたしている可能性を考慮しての検査だ。結果としては何も反応なく問題が一切無かった。

 

 

 

「にしても・・・冥界て意外と俗世に染まってんな。あんまし日本と変わってないように見えるが」

 

「それもそうだろうな。ここはサーゼクス様の直属の領地、日本をモデルに制作したと言っていたよ。あの人はかなり俗世に染まり切っているからな」

 

 

 

 日本と代わり映えのない高層ビルやコンクリートの建物を眺めながら感想を述べた。

 

 技術力としては魔力を使える分かなり進んでいると期待をしていたが、日本とほぼほぼ同じで少しがっかりしていた。

 

 やはり夢にまで見た人外の街が日本と同じなのにショックは隠せそうにない。日本に訪れた外国人が忍者が居ないことに驚くのと同じ感じだろう。

 

 

 

「全くもう露骨にがっかりしないの」

 

「いやこれっぽっちも全然全く九割しかガッカリしてない」

 

「ほぼじゃない・・・また今度機会が会ったら凄いとこを見せるから」

 

「お?マジか?約束だぞリアス」

 

 

 

 露骨に気分が変わるわねと苦笑いを浮かべながら首を縦に降る。

 

 

 

「そう言えばもう帰るのにいつまでここに居るの?」

 

 

 

 今居る場所は病院の出口から出てすぐの場所。

 

 ライザーは自分の領地に帰るために向かいを待つのは分かるが、一誠はリアスが連れて帰ると言うのに何故か一向に動こうとしない。

 

 そこに疑問を思ってしまったリアスは逃げるのではなく聞く選択をしてしまう。

 

 

 

「そりゃ待ってるからだろ」

 

「待つ?何を?」

 

「なーに焦るなよリアス。貴様がガッカリするような代物ではない」

 

 

 

 満面の笑みで被害者に近づく二人はがっつり肩を掴んで離さない。

 

 

 

「ねぇ、何でそれなら肩を強く掴むの?」

 

「逃げないためだよ」

 

「なんで逃げるなんて選択がでるの?」

 

「なんでってお前がこれからメイドになるからだろ」

 

 

 

 咄嗟に振り返り逃亡を図る。

 

 が、【超越者】と【超越者】以上の戦闘力の持ち主の二人に肩を捕まれ、逃げられる物などこの世に存在しない。

 

 振り返る事は出来ても足が一歩前へ出ることが無く逆に地面へめり込む。

 

 

 

「あははは・・・ねぇ二人とも離してくれない?私用事が」

 

「どんな用事だ?要件によるぜ」

 

「生徒か──」

 

「学園の仕事は女王の朱乃嬢に依頼してある」

 

「・・・グレ──」

 

「グレモリー家の方はサーゼクスがやってるぜ。てかこれもサーゼクス公認でリアスの両親も了承してるからな」

 

(逃げ道が・・・ない・・・!?・・・)

 

 

 

 頭脳ですらトップクラスの二人には所詮凡人より秀でてる程度のリアスが取るような行動は手に取るように考えられ、先回りをして逃げ道を潰すことなどお茶を淹れる如く簡単だ。

 

 逃げ道を完璧に防がれたリアスの額を汗が伝う。

 

 

 

「な、なんで私がメイドに?どこからそんな話が」

 

「おいおいレーティングゲームの賞品は覚えてるか?」

 

「えっ?・・・レーティングゲームのよね?それは勿論自由だけど」

 

「そうだ。そして、そのゲーム勝てたのは俺が居たからだな?」

 

「まぁそうね。貴方が居なきゃ【超越者】のライザーを倒すなんて不可能だったわ。それが何?」

 

「それで俺が勝った。そして賞品はリアスの権利って訳だ」

 

「ちょっ──」

 

 

 

 突然飛躍した答えに後ろを振り向けば

 

 

 

「くくくくく」

 

「ヤハハハハ」

 

 

 

 二人の悪魔が居た。

 

 目が不気味に光り輝き口元は嬉しさからか大きな弧を描いている。

 

 それは玩具を手に入れた子供と同じ笑みだ。

 

 

 

「それは・・・あっ、そもそも私が受けなきゃ」

 

「だから権利としてはリアスに一がある。で、俺が居なきゃ勝てなくて実際勝った。なら、権利が一なんて言わないよな?てか勝ったの俺だし、だから俺が権利を二貰う。そしたら分かるだろ?リアスの権利より俺の方が上」

 

「いやいやさすがにそれは」

 

「さっき言ったろ?サーゼクス及びグレモリー家が同意してるってな」

 

 

 

 勿論愛する愛娘がメイドになるなど普通なら許容出来ないだろう。特にリアスは将来が有望視されている貴族。

 

 そんな者がメイドの真似事などさせられる訳が無い。

 

 だがそこは巧みな一誠の口車によって上手く騙されメイドになる事に許可を出した。サーゼクスに関してはメイド写真を渡す事で手を打つ。

 

 

 

「ははっ冗談・・・よ・・・ね・・・」

 

 

 

 理解した──いや本能が察知した。

 

 この二人は本気だと。本気でメイドにする気だと。

 

 

 

「百歩譲ってメイドになるとして、服はさすがに用意──」

 

「お待たせしました。リアス様に合わせた特注のメイド服完成致しましたのでお届けに上がりました」

 

「完璧のタイミングだユーベルーナ」

 

 

 

 いつもライザーの隣で支える女王は静かにアタッシュケースから綺麗に畳まれた白と黒の女中服──特注のメイド服を手に取り主に渡す。

 

 

 

 完成品を確認するため広げる。

 

 全体的に黒が基調され、胸元は大きく開け放たれ乳房がチラ見所ではなく大胆に見える。そこから締まった腰を強調するように実用性のない白い装飾の前飾りがある。

 

 フリルもかなりあしらわれていて、リアスが着れば妖艶な雰囲気が一気に増すこと間違いなし。

 

 付属品としてミニスカートのため素足を隠すごく一般的なタイツのように見せているが、濡れれば身体に吸着し素足の形を丸写しするこれまた特注品。後はメイド用のフリルがうねりを上げるカチューシャ一つ。

 

 

 

「こ、こ、これを私が?」

 

「YES」

 

「冗談よね」

 

「NO」

 

「・・・・・・土下座をしても」

 

「ダメ。リアス・・・諦めろ。なるようになるさ、時期になれる」

 

「いぃぃぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 少女の悲劇的な叫び声はその日生まれ変わる事を告げる悲しきベルであった。

 

 



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暗躍する魔王様

お仕事大っ嫌い


 

 

 駒王街の奥地。

 

 一般人ならば気づくことすらできない僻地にある建物のさらに裏側。マンションとマンションとの間にある個人を示すフェンスの扉を開閉し奥へと進む。

 

 それで初めて訪れる事のできる人気の少ないカフェ。

 

 一見には訪れる事が少ない故人が少なく、その道の極秘の会話をする際などによく使われる。

 

 バーテンダーのようにスーツでしっかり決めた一人だけの店員のマスターがコップを磨き、コーヒーを丁寧に淹れる。そのコーヒーの豆自体はそこら辺で売っている市販なのだが、マスターが淹れれば高級の豆と何ら劣らない最高級の味へと昇華する。

 

 そんな隠れた名店のカフェにまた秘密裏に会話をする影がある。

 

 

 

 片方の男は顔つき体格が明らかに日本人離れしていながらも流暢に日本語を喋っている。特徴的な赤髪もそうだが常に笑っている点から優男の印象を強く受ける。

 

 その男と会話をするのは一回り小さい日本人の体格の少年。

 

 黒髪黒目とアジア特有の性質を持ち、淡い色のジーパンに白のワイシャツと何処にでもいそうな格好をしている。

 

 少年がイヤホンを付け爆撃を写すモニターを見始め数十分。映像の再生が止まり操作を何もしていないのにモニターの画面が自動で真っ暗に落ちる。

 

 

 

「どうかな、(一誠くん)は君のお眼鏡にかなっているかな?」

 

「映像を見たが間違いなく”原典”保持者か・・・確かに貴方が警戒している通りかもしれないな」

 

 

 

 流れていた映像はつい先日行われたレーティングゲームの終盤戦。ライザー・フェニックスVS兵藤一誠の戦闘シーンだ。

 

 冥界の悪魔の中ででしか出回っていない物なのだが、それを人間界に持ち出し人間へ提供する行為をしているのが赤髪の男であった。

 

 渡された映像を見終わり戦闘の余波、常識離れした機動力や破壊力などからその正体を明確に突きつける。

 

 

 

 ”原典”それに関しては深い事はあまり解明されておらず、誰がつけたのかその名で呼ぶようになっている。

 

 一時代に最高二人。世界が崩壊へと向かう時にそれを止めるために世界を救う使命を帯びた人間に授けられた究極の力の権化。

 

 使い方を謝れば意図も容易く世界は崩壊し破滅へと向かうだろう。だからこそ細心の注意を払い丁重に扱わねばならない。だと言うのに、

 

 

 

「ところで私利私欲に彼を良くも使ってくれたな。一歩間違えば冥界が無くなっていたぞ」

 

「それはご最もで・・・特に最後の一撃の時、アレは流石の僕も死を覚悟してね、ハハハハ」

 

「笑い事か!・・・たく、まぁその危険を犯してくれたおかげで彼がどの程度”原典”を扱えているのか理解出来た。その点に関しては良かったと礼をしよう。ただし、二度とこのような事をするなよ」

 

「それは約束するよ。さすがに同じ鉄を二度踏まないよ」

 

 

 

 まるで親と子の会話のように叱り反省する二人。見た目だけを見れば確実に逆だと思うのだが、その本性は互いに見た目とは逆のようだ。

 

 

 

「しっかし危惧していた通りになったな」

 

「だね。僕としては最も当たって欲しくない方に当たってしまったよ」

 

「一時代に三人の”原典”保持者か・・・やってられんな」

 

 

 

 先程の説明通り一時代に多くて二人が限度である。それは世界を救うのに二人で十分だからだと言える。

 

 神話の世代はすぐに時代が動くため多くの”原典”保持者の英雄が現れていたが、それでも三人に被る事は有り得なかった。

 

 なのに今宵は三人。それが意味するのは神話の世代の危機以上の事がこの時代に起きると言う事であった。

 

 

 

 最悪だとボヤきながら背中合わせの相手に向けてため息を吐く。

 

 

 

「急いだ方が良いだろうな。一誠はもっと昔からこの力を手に入れいたが日の目に当たる事は無かった。それは原則二人のルールから外れないためだ。だが、ここに来て突如として見つからなかった”原典”保持者が現れた。偶然と片付けるには楽観視しすぎている」

 

「そうしたい気持ちは山々だよ。けど、昔からいがみ合い殺し合いをしてきた三種族ですら手を取り合うのにきっかけが必要なんだ、まだそれすら出来ていないのにそのはるか先神々との協定(・・・・・・)何てまだまだ夢の夢だよ」

 

 

 

 焙煎され香ばしい匂いを備考で感じなかまら一口コーヒーを口に運び、マイナス感情で支配されていた脳をリセットする。

 

 少年の方は黄金に光り輝き、何重の層が重なり切り裂かれた山の断層のような白きケーキ【ミルクレープ】をフォークで押し切り、差し込んで口へ誘導する。

 

 ミルクの甘みと生地の食感をしっかりと噛み締めて、下を支配する甘味を苦味の塊であるコーヒーで流し込む。少年にとっての最大級の贅沢だ。

 

 

 

「どうする私達がしかけてきっかけを作るか?」

 

「いや、君達は僕達にとっても未来への希望。変なところでイザコザを残して欲しくない」

 

「了解した。ならば時が来るまで待とうか・・・」

 

「それでお願い。ところで──」

 

 

 

 話が変わるけどと前置きをしてから別の話を切り出す。

 

 

 

「一誠くんの件に関しては」

 

「暴走した場合だな。安心しろ、私が直接近くで監視をして様子を見る」

 

「お?それはそれは何て豪華な。でも勝てるのかい?」

 

「はっ、まだ”擬似創世図”すらまともに扱えていないような子供に()が負けるとでも?」

 

 

 

 数秒前までそこには無かったはずの長槍を握りしめ赤髪の男の首元に剣先が触れる。

 

 マスターからは死角で何も見えないギリギリのラインを攻めつつ、男の命を一瞬で奪えると宣告している。

 

 

 

「念の為の確認だよ。神器の神滅具(ロンギヌス)最強の槍を持ちながら、”原典”を持つ英雄史上最強の英雄さんが負けるなんて微塵も思ってすらいないさ」

 

「ならいい。私達は所詮商売の関係、そちらがこちらを舐めるのならば力を見せつけるまでの事」

 

 

 

 首に悪魔の弱点である【聖】の槍を押し付けているにも関わらず、男はまだ余裕そうに笑っている。

 

 

 

「機嫌を損ねてしまったようで残念。ならコッチもサービスしようか」

 

 

 

 机を三回指で小突き、魔法陣を起動させる。

 

 発動させたのは二つの魔法陣。一つは屋敷からこのカフェのテーブルの上に空間を繋いで書類を取り出す魔法陣。もう一つは少年のテーブルの上と自身のテーブルの上を繋げる魔法陣。

 

 この二つの魔法陣を使いやり取りするのは三枚の資料。

 

 それぞれ片隅にフルカラーの写真が張られていて、名前や職業、出生から現在に至る諸々のデータなどが鮮明に書かれている。

 

 

 

「これは?」

 

「いつものやつだよ。今回は三人、二人はこの街で暗躍しているであろうフリード・セルゼンとアーシア・アルジェント。両者とも教会に拾われて育ったが、フリードはあまりの強さから危険視され除名、アーシアは悪魔を治した事で魔女扱いされ除名。毎度お馴染みの人間のエゴの被害者達」

 

「教会か・・・アーシア嬢の方は問題なさそうだがフリードか。強化人間の後遺症が出てる可能性が高いな」

 

「そこまでは判明できなかったからとりあえず次に行こうか」

 

 

 

 今見ていた二人の書類を置いてもう一つの資料を手に取る。

 

 だが、妙に情報が少なくアーシアやフリードの半分ほどしか埋まっておらず、白面がかなり目立つ。

 

 

 

「子供か?」

 

「その通り、九歳が今の年齢さ。ロンドンにて彼を発見してね、僕の眷属が捜索に向かったが残念ながら返り討ち。先週あったロンドンのガス爆発を知ってるかな?」

 

「たまたまテレビでやってたが・・・まさかその被害なのな」

 

「お恥ずかしい限りね。彼は神器を完全にコントロールできてなくて暴走気味、ただの神器なら良かったんだけど生憎と彼のは神滅具(ロンギヌス)の一つ魔獣創造(アナイアレーション・メーカー)の所持者だよ」

 

「問題が次から次へと・・・こちらで対処をする。連絡用の端末に詳しい位置情報を送っておいてくれ」

 

「それじゃあ、お願いするよ。僕はまだまだ仕事があるからこの辺で失礼させてもらうよ」

 

 

 

 悪魔の契約としての仕事を終わらせ一伸びしてから立ち上がり、足のそばには銀のアッシュケースが置いてあるがスルーして会計へと向かう。

 

 アタッシュケースの中身は日本円にして五億円の価値がある貴金属。身元不明の金より換金してお金を得る方がまだ現実的だと対価として支払っている。

 

 男が二人分の会計を終わらせてベルを鳴らし店を出ていく。その背中を眺め、今日もまた一仕事無事に終われたと安堵のため息を吐き出す。

 

 

 

「一難去ってまた一難か・・・ほんと平和には程遠いよ金糸雀(・・・)()は上手くやれてるかな」

 

 

 

 窓から注ぐ太陽の光に質問を問い掛けるも答えはやはり返って来ない。

 

 だが、どこまでも続く青い空がまだ終わりではないと答えているように、未来へと歩むための足が止まる事は無い。



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騎士は渇望した

 

 銀閃が空を彩る。

 

 舞い踊るように弧を描いたり直角に曲がったり、双閃が交わり離れる。形に縛られ切っていない自由な剣舞。

 

 それらが作られる度に少年の息遣いが早まる。

 

 既に三時間ぶっ続けで剣を振っている。

 

 (木場祐斗)の師匠は確かに剣を触り続けろと言っていた。その理由として身体と完全に融合させ、思いのままに動かすために慣れるためだ。さらに手が伸びた感覚だと伝えていた。

 

 それでもここ最近はあまりにも重度なトレーニングを積んでいる。

 

 

 

 睡眠時間すら二時間を切り学校以外では常に剣を振っている。あまりにも過剰とも取れるトレーニングだが、木場祐斗はそれでも満足できない。

 

 

 

「はぁはぁ・・・まだまだ。あの時(レーティングゲーム)にもっと力がアレば一誠くんが僕達のいざこざに巻き込まれる事は無かった。本来は彼が関わるべきじゃない・・・なのに、なのにッ!」

 

 

 

 剣舞の合間に剣を上空へ投げ捨て、一瞬でかがみ勢いよく地面を強打する。

 

 空を浮遊する剣は数回回転し剣先が地面に突き刺さる。その直後に殴った地面を中心に、均等に六角系の角の関係で剣が地面から出現する。

 

 

 

魔剣乱舞(ソード・ユニバース)──」

 

 

 

 地面から生えた剣は更に伸び祐斗の身長を遥かに超え三Mに至ると途端に崩れ、粉々になった刀身が粉吹雪のように舞い散る。

 

 差し込む光が尽く反射し通常ではありえない鏡の世界に迷い込んだかと錯覚してしまうほどに、祐斗の周りの空間だけが不気味に世界を虚像する。

 

 

 

爆裂(バースト)ッッ!!」

 

 

 

 引き込まれるような美しさがあった銀世界の均衡が崩れる。

 

 祐斗の流した魔力に反応し全てが直列回路になり高速で魔力を循環させていく。数千以上ある欠片全てに魔力が行き渡るのに今間一秒。たとえ気づけても対処すら出来ない速度だ。

 

 循環した魔力は欠片の方向を決める。祐斗とは真逆の方向、四方八方へと飛ばす。

 

 欠片を直列回路とし魔力の威力を底上げして得た速度は第一宇宙速度。物体が衛星として存在するための最低速度。

 

 それでも威力は十分であり辺りに置いた二十体の鉄人形──オリハルコン製の上魔力を流して、隕石や核爆弾にすら耐える耐久力を得ている人形達を粉砕していく。

 

 全ての攻撃が終わった段階で姿形をしっかりと保てている人形は一つも無かった。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・なんで、なんで!」

 

 

 

 乱れる息のままに声を張り上げる。

 

 それは自身へと向けた怒りだった。

 

 確かにライザー戦より圧倒的にレベルが上がっていて、魔剣を作るタイムも威力も属性も何もかもが違う。だが、ここ数週間は驚異的に伸びた成長が完全に停止している。

 

 いくら魔剣を作っても剣を振ってもその全てが潜在的に成長できる上限を満たしている。

 

 もうこれ以上の進化をする事はできない。だと言うのに一誠やライザーの足元にすら及ばない。

 

 

 

 泥臭くても血にまみれても祐斗は諦められずその日も気絶するまで件を振り続けた。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「おかわりください」

 

「ほれ」

 

「この煮物美味しいわね、今度作り方を教えてくださいね一誠くん」

 

「おう」

 

 

 

 もう既に慣れたが朝の日課、五人分の朝食を一人で作り奪い合うようにして食べる。

 

 最初はメイドが作っていたが流石はお嬢様かと言わんばかりの問題作ばかり作るので、飯に関しては一誠が全面的に作る事になっている。

 

 一人茶碗に山盛りにされた米を三杯平らげて尚止むことのない勢いの小猫の隣で、祐斗は食事を半分以上残して誰よりも先に席を立つ。

 

 

 

「ご馳走様」

 

「まだ残ってるぞ木場」

 

「お腹がいっぱいなんだごめんね。それじゃあ先に行きます」

 

 

 

 反論する時間すら与えずにせっせとリビングから出ていく。その背中を黙って見つめるメイドは一誠の空いたコップにお茶を注ぎながら感じた事を話す。

 

 

 

「あの子、最近おかしいわよね。一人だけ早く出ていくし、ご飯だって残すし・・・大丈夫かしら」

 

「問題ないだろ。思春期の子供によくある反抗期だろどうせ。それに、もし大丈夫じゃないんだとしてもこっちに話してくれないと何もできない」

 

「・・・・・・そうよね・・・お願いだから危ない目にあって欲しくないわ。だって祐斗は・・・」

 

 

 

 その後の言葉は続かず視線を下に落として口ごもる。

 

 反応から何か過去にあったのだろうと予想はできるものの、人間みな過去に何かある奴が多い。もちろん一誠も例外はなく【ソーナ(理解者)】に出会わなければもっと荒れに荒れていただろう。

 

 だからか、深く詮索せずになるようになるのを待つ事だけをする。

 

 

 

「一誠先輩」

 

 

 

 少し深く考え込んでいた一誠の意識は小猫の呼び声で強制的に戻らさせられた。

 

 

 

「祐斗先輩の残り食べていいですか」

 

「食い意地だけは凄まじいな。大食い幼女か」

 

「てい」

 

「ヤハハハハ!はっ、その程度余裕で避けられる」

 

「陽動です。一誠なら避けると思っていましたから」

 

「なっ、」

 

 

 

 感情の起伏がさほど大きくない小猫が明らかに喜んでいる表情で、投げたフォークの陽動から奪ったのは真ん丸のハンバーグ。

 

 昨日から煮込んでいた煮込みハンバーグ。

 

 味付けは一誠オリジナルブレンドながらも高級料理店にも劣らず、一口食べればすぐ虜になる魅惑の料理。

 

 小猫が大好きな料理の一つでもあり、何個でも食べたいと常に願っている。

 

 なのでこうやって奪い食にありつくのだ。

 

 

 

 勝利とブイサインを出す小猫は気づけなかった。いつの時代も勝利を確信した瞬間が一番無防備であり、敵の罠に気づきにくい事を。

 

 

 

「あ・・・っ・・・・・・」

 

「ヤハハハハ!大食い幼女の考える事の一つや二つ手に取るように分かるぜ。だからこうやって簡単に罠にハメられたんだ・・・良かったなそれを食べれば大きくなるぜ?」

 

「は、謀りましたね。私の嫌いなチーズを入れるなんて・・・」

 

「少しは小さい背を伸ばさせようと思ってな。感謝しろよ大食い幼女」

 

「不覚・・・」

 

 

 

 口中に広がるチーズの独特の臭みに全身を蝕まれ、机にうつ伏せで倒れ込む。

 

 

 

「はぁ・・・貴方達ね、後片付けは私の仕事なのよ。あまり散らかさないで」

 

「どちらかと言えばあっちが先に仕掛けてきたぞ」

 

「いえ、先輩が先に仕掛けました」

 

「どっちでもいいわ。とりあえず・・・遅刻間際だから急いで行くわよ」

 

 

 

 リアスがさした指の先は朝のニュース番組の右上に表示されたデジタル表記の時刻【八︰五五】であり、学校の授業が始まるのが九時なので残り五分。

 

 普通に歩いていけば遅刻確定の時刻であり、急いでも遅刻。転移魔法陣を使えばギリギリと言うところ。となれば選択肢は一つ。

 

 

 

「「おかわり」」

 

「この、問題児が!!!!!!」

 

 

 

 問題児二人に切れるリアスといつも過ぎる光景に口元を緩ませて笑う朱乃は、一人だけ先に抜け駆けして学校へと向かった。

 

 



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問題児の理解者

 

 その日の午前から午後にかけた授業は何事もなく終わった。

 

 理科室が吹き飛ぶのは時々あるのでもはや日常である。

 

 

 

「あっーくそ。電子回路をあそこで間違えなければな」

 

「ん?爆弾を作ってたんじゃないのか?明らかに荷重があるなと思ってたけど、爆弾を作るならそうだろうと見逃してた」

 

「言ってくれよ!・・・・・・まぁもうやっちまった後だから良いけどよ」

 

 

 

 反省用紙五枚で理科室を吹き飛ばしたのは許され、適当に文字の量を盛った反省の一欠片もない反省文は受理され三人は帰路へ着くことを許された。

 

 

 

「そう言えばよ知ってるか?三丁目の路地裏に幽霊が出るって話」

 

「幽霊?なんだそれ」

 

 

 

 いつも通りの楽しく自由な会話。

 

 夕暮れに照らされたアスファルトやコンクリートが赤く染まり、いつもの駒王町ではないように感じる。

 

 教室の扉を適当に閉め、階段を下り下駄箱付近に近づいた時、緊急時や職員を呼ぶ時に使われるスピーカーに電気が入る。

 

 

 

『二年生の兵藤一誠くん、直ちに特別指導室へ来てください。繰り返します。二年生の兵藤一誠くん、直ちに──』

 

 

 

 スピーカーから聞こえた声は生徒会長様の声で同じ内容を後二三回繰り返した所で今度は電気が切られ、スピーカーから音が鳴ることは無くなる。

 

 この放送を聞いたとしても聞いてないで通そうと思えば通せる。

 

 それこそ、放課後の一般生徒が帰り部活をしてる学生しかいないこの時間に放送をかけるのがいけない。

 

 とは言え、相手はあの生徒会長だ。

 

 一誠が人生で初めて負けた彼女の呼び出しなのだから行かない訳にもいかない。

 

 

 

「残念、放送通りだ」

 

「仕方ねぇな。生徒会長様ならな・・・あの人の呼び出しを無視ると後がめんどい」

 

「それ、一年の頃無視ったら謎の不幸に見舞われてさ」

 

「俺もだ俺も。一日で十回小指をタンスの角にぶつけたな」

 

 

 

 悪魔の特権をフル活用した嫌がらせに事実を知らない二人は地獄だったなと、身震いしながら語り出す。

 

 この後三人で悲しい男の夜遊びをしようと画策していたのだが、それも放送の呼び出しでまた後日と言う事になる。

 

 

 

「また時間があった時にでも行こうぜ」

 

「だなすまん」

 

「いいってことよ。なぁ元浜」

 

「おうともさ松田」

 

 

 

 男の暑い有情が育まれ彼ら三人が問題児でなければ微笑ましい光景だ。

 

 

 

 残り惜しいが一誠は二人から離れ特別指導室へと向かう。

 

 特別指導室は生徒会室に隣接する形で設計された特殊な部屋で、爆弾が爆発しても外に音を一切漏らさない完璧な防音設備が整ってる駒王学園の名物室。

 

 昔はこの特別指導室にて、力による説教や教えをしていたなどと噂が流れているいわく付きである。

 

 

 

 一誠自身も噂や通りがかりで見てきた程度で実際に中に入るのは初めてであった。

 

 

 

(やっぱり外から見ると普通の部屋なんだよな)

 

 

 

 外観は至ってシンプルな黒い木の二枚扉。

 

 校長室の扉とかなり近いデザインで、違いと言えばドアノブが校長室の金ではなく銀な程度。

 

 煌めくドアノブを捻り押し込む。

 

 ゆっくりと木の擦れる音が鳴りつつ扉同士の隙間から光が漏れる。

 

 

 

「来たわね一誠くん」

 

「おう来たぜ」

 

 

 

 そこに居たのは入ると同時に振り向いた支取蒼那ことソーナ・シトリーだ。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 二人が会うのはかなり久しぶりである。

 

 方や生徒会長の激務をこなしつつ悪魔家業も疎かにしていない超優等生で、言わずもがなもう一人は圧倒的な問題児。

 

 混ぜるな危険。水と油。そのように外から見た者は考えるだろう。

 

 しかし、二人はとある出来事から他の人、一誠に関して言えば元浜や松田達よりも深い関係にすらある。

 

 

 

 その二人の再会。

 

 ソーナは待ちに待ち焦がれた時ではあるが、隠し事をしていたせいで思うように声をかけられない。

 

 

 

「気にすんなよ。人外じみた俺だ、そんな俺に近づく物好きは馬鹿か人外だからな。アンタが悪魔だって知って逆に納得してる」

 

「けど」

 

「俺が気にすんなって言ってんだからそれで納得しとけ、なっ?ソーナ」

 

 

 

 自分を責め続けるソーナの傍らにより頭に手を乗せる。

 

 駄々を捏ねた子供をあやす様に、艶々しく軽やかな髪を揉みしだく。

 

 これではどちらが年上か分からないが、この時ばかりはソーナが王でも生徒会長でもなく──一人の女として、ソーナとして居れる。

 

 

 

「全く本当に変わりませんね、昔から撫でるこの手だけは」

 

「心外だな。純粋さは昔から変わっていないぜ?こんなに礼儀正しいくて優しい人間なんかいないぞ」

 

「そう言う傲慢な態度は確かに変わってませんね」

 

 

 

 自身より背の高い彼の顔を見上げながら微笑む。

 

 微笑んだタイミングおでこにデコピンを食らわせさっさと黒いソファーへ腰を下ろす。

 

 デコピンされたおでこを抑えソーナはむぅと頬を膨らませながら対面のソファーに座る。

 

 

 

「で、なんでわざわざ呼んだんだ?それなりの理由があるんだろ?」

 

「えぇそうです。今回呼んだのは貴方の今後についてです」

 

 

 

 予め準備しておいた書類の束の片方を一誠へと渡し一ページ目を捲る。

 

 

 

「昔から一誠くんは欠席が多かったです。けれどそれも、ある程度計算してギリギリのラインを守ってきました。ですがレーティングゲーム参加など、休む場合が増えこのままのペースだと留年してしまいます。そこのところどのように考えているのですか?」

 

「それならリアス達も休んでるだろ?」

 

「彼女らはあの後に補習等で賄っています。先生から通達があったと思いますが・・・」

 

「そうだったか?俺は聞いて」

 

 

 

 ──突然大きな音が鳴る。

 

 ソーナはソファーから飛び上がりその爆発の大きさを物語る。

 

 爆発が日常的に起こるはずのない駒王学園で校舎を揺るがすほどの威力はふつうあり得ない。当然、一誠は原因について知らないのだが、心当たりのあるソーナはデコピンの痛さではなく別の痛さで抑える。

 

 ぜひとも何が起こったのか知りたいのだが、ソーナは言及したくないようで話を逸らす。

 

 

 

「はぁ・・・書類などの何もかもに目を通しています。渡しているのも確認済み、誤魔化そうと思わないでくださいね?」

 

「へーい。面倒くさくてバックれた」

 

「・・・・・・逆にそこまで開き直られると返す言葉がありません」

 

 

 

 今は逸らした意思をくみ取りすぐに返答し、下手に誤魔化せば拳骨の二つや三つ魔法の三つや四つ飛んできそうなので正直に包み隠さず大人しく答えた。

 

 いつものように暴走したり暴れたりしないのは、やはりソーナに救われた恩があるからこそだろう。そこを学校側も分かっているのか一誠に対して極力はソーナ向かわせるようにしている。

 

 

 

「とりあえずその事などを踏まえ補習授業を行います」

 

「ゲッ・・・帰っていいか?」

 

「ダメです。こればかりは大人しく受けてもらいます。もし逃げたら地の果てまで追いかけるのでそのつもりで」

 

「はぁ・・・分かった、大人しく受ける。じゃあこの話はここまでで、本当の理由を教えろよ」

 

 

 

 空気が一変する。

 

 先程まではソーナが場を支配していたが、簡潔にそれでいて核心をつく一言に表情が凍る。

 

 

 

「建前だろそれ。本当の目的は俺の行動を制限する事だ違うか?」

 

「・・・なぜそう考えたのですか?」

 

「はっ、そりゃわざわざアンタが放送を使ったからだぜ生徒会長様(ソーナ)

 

 

 

 推理小説の終盤のように持ち前の推理を堂々と語る。

 

 

 

「俺を名前で呼ぶ時はプライベートだ。けど、その場合生徒会長としての特権は常に使用しない。職権乱用とか嫌いな真面目な性格をしてるからな。

 

 だが今回は使った。もし、これがプライベートなら職権乱用をした事になる。それは絶対にありえない、ソーナと言う性格からして絶対だ。となると、ここまでの話は仕事としての話──生徒会長としての物だ。嘘だとは言わないが本質じゃない。ご満足したか?ここまでが作戦なんだろ?ソーナがこんか初歩的なミスはしない、となれば故意だろうよ」

 

 

 

 完璧すぎる推理にため息を零した。

 

 元のソファーに座り直してから、諦めて隠していた事を全て暴露していく。

 

 

 

「一誠くんに隠し事をするなんて意味ないって私は知ってるのよ。貴方の性格を一番熟知してる私からしたらね。一度推理する材料を渡せばそこから簡単に推理してしまう、リアスから言われたのは隠せるレベルで隠してとの事。バレたらなら語るのが通りよ」

 

 

 

 言わば初めのファーストコンタクトから既に種は仕掛けおいていた。

 

 後は勝手に推理して物事の本質に気づく一誠の性格から遅かれ早かれ特定された事だ。

 

 一誠に対して隠し事をすれば逆にそこへ全身を突っ込む。

 

 ならば最初から隠さなければ突っ込む愚かな真似もしない。と、ソーナは考えリアスのお願いを実行しつつ一誠に特定させた。

 

 

 

「実はね──」

 

 

 

 思惑通りに動いてくれた一誠に今回の事の真実を語る。

 

 特別指導室とは別の部屋、オカルト研究部で現在起こっている状況について一から話す事にした。

 

 



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教会との因縁

 

 部活に所属していない生徒が帰路につき始め、校門から外へと出ていく中二人の不審人物が当たり前のように侵入する。

 

 二人共顔はフードを深く被っているので一切見えず、自身と同じサイズの何かを片方は背負っていて明らかな不審者だ。

 

 どう考えても人目を引くはずのそれに、帰宅する生徒達はまるで見えていない(・・・・・・)のか横を素通りして行く。

 

 そんな中、二人に意図的に近づく姿がある。

 

 

 

「天気がいいな。ちなみに明日の天気は知ってるか?」

 

「知ってるさ、雪時々晴天(・・・・・)だろ」

 

「お待ちしてましたよ。俺の名は駒王学園生徒会書記の匙元士郎だ、よろしくか」

 

「私達としてはよろしくしたくないがな。ゼノヴィアだ」

 

 

 

 フードを取りつつ二人は握手を交わした。

 

 蒼に煌めく頭髪の中に数本下へ伸びる翠色の髪が彼女の破天荒な性格を表している。

 

 肉体もかなり洗練されていて全身を布で覆って隠してはいるが、チラ見する足や手の筋肉の付き方は女性とは思えないほどしっかりとしている。

 

 なのにも関わらず顔も美女と呼ばれるレベルの物であり、駒王学園に居ればトップクラス【リアス・グレモリー】や【姫島朱乃】と並ぶ。

 

 

 

 握手を交わした時でさえ男の匙がドキッとするほど可愛い笑顔を浮かべている。

 

 明らかに匙以上の握力で握り返してこなければ惚れていたかもしれない。

 

 

 

「つつっ・・・そっちは」

 

「はーい、よろしくね私は紫藤イリナよ。ゼノヴィアと違って日本人なのよろしくね」

 

 

 

 もう一人の方は全体的に細く、女子と言えばのイメージそっくりのプロポーションだ。

 

 両サイドから伸びている。今どきは珍しいツインテールを完璧に装備している。

 

 

 

 握りつぶされるかと思った右手を振りながら軽く会釈し、先導するために校舎とは別の方向へ進んでいく。

 

 

 

(こいつらが教会の戦士・・・それもソーナ会長が言った通りなら、駒王学園にいる悪魔総出でも勝てない程の実力者か)

 

 

 

 内心この役を任命された事を嬉しいとは思っているが恐怖している部分もある。

 

 教会の戦士は日本の妖や外国の怪異、冥界から逃げ出したまたは主人を殺したはぐれ悪魔の討伐を専門にしている。

 

 それこそ匙が勝てないような相手にも命ある限り攻撃し続け、死ぬまで攻撃の手を辞めない人間よりも人外に近い存在だ。

 

 

 

 彼らからしてみればはぐれ悪魔も眷属悪魔も変わりない人間に取っての悪であり、本当はこうやって馴れ合う事すらしたくないはずだ。

 

 しかし、状況が状況のため渋々彼女らから今回の面談を申し出てきた。

 

 

 

(一体何のようなんだよ。あんまりソーナ会長を無理させたく無いんだけどな・・・けど、何か今日嬉しそうだったような気がしたんだけど、まぁ気のせいだろ)

 

 

 

 慣れた足取りで校舎からそれ、一般人が迷い込まないように張ってある結界を超え目的地へとたどり着く。

 

 

 

「ここがオカルト研究部。アンタらが会う、ここ駒王町の主人がいる」

 

「確かにな、この距離からでも分かる。濃厚な悪魔の気配が」

 

「ゼノヴィアダメよ。今回は戦闘に来たんじゃないから」

 

「分かっているさ・・・私からは喧嘩を売らないよ」

 

「もーう、なんでこんな戦闘バカになっちゃったのかしら・・・・・・あっ、ありがとね匙くん」

 

「いえ、仕事ですから。それじゃあ後は普通に入れば良いだけなんで失礼します」

 

 

 

 何か問題や戦闘が起こる前にさっさと逃げようと足早に駆け出して、生徒会の本部たる生徒会室へと急ぐ。

 

 残された二人はゆっくりと扉を押し、中へと警戒しながら入っていった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 二人が昔踏み込んだ悪魔のアジトは血臭漂い、至る所に肉片や食い残しはてには遊ばれ捨てられた子供や女性が転がっていた。

 

 それと比べればラベンダー系列の花の馨しい匂いと小さな戸棚に置かれた骨董品の数々。悪魔より貴族の屋敷に足を運んだような感覚だ。

 

 質素な生活を心がけている二人からしてみれば金の無駄使いとしか思えない。

 

 二人が進先を示すように明かりが先導して道を照らしどんどん奥へと進ませる。

 

 

 

(随分入り組んでいるな。戦闘になれば逃がさない腹か、悪魔らしい考え方だな)

 

 

 

 普通なら入ってすぐの場所に招いた客を向かわせるが、悪魔と戦士ではそのような関係に居られずあえて入り組ませそう簡単に逃げられないようにした。

 

 とは言えそれは道がないと言う意味で、その気になれば力技で壁を抜いて出ることも可能なので無駄に足を使うだけの行為であった。

 

 

 

 道を進んで四・五回角を曲がった所で目の前に一つの扉が行方を塞ぐ。

 

 先導していた明かりは周囲を照らしドアに当たると弾け、目的地に着いたと伝え仕事を終える。

 

 

 

「良いわね、確認するわよ。戦闘はしない、強そうな相手に喧嘩を売らない」

 

「私は子供じゃないからそんなかくに──」

 

「前そう言ってお偉い様を殴ったのは誰かしらね?あの後何故かパートナーも連帯責任で叱られたのよね。あぁ可哀想、可哀想」

 

 

 

 瞳を俯かせ鼻をすすって泣いてるフリをする。

 

 

 

「それは・・・あい・・・つぁ・・・・・・ごめん」

 

「別に怒ってるわけじゃないのよ。ただ、注意として」

 

「分かってる今回はヘマはしない」

 

「ならいいのよ。さっ!入りましょう」

 

 

 

 再度の忠告をしっかり心に留めイリナが先に扉を開ける。

 

 四度ノックをすると中から「どうぞ」と声がかけられ、ドアを開いてお目当ての人物と会合する事になる。

 

 

 

 目と鼻の先には夕日に燃える赤髪をたなびかせるリアス・グレモリーが、空いてるソファーに指をさしながら堂々と座っていた。

 

 中央に座るその女性がメイド服を着ている点を除けば何もおかしくはない。

 

 

 

「これは・・・貴方がリアス・グレモリーであっているのか?いや、別に服のセンスに文句をつけるわけではないが」

 

「はっ──しまった、いつも通りすぎて着替えるの忘れてたわ。懇親のミスね」

 

「ナ、なるほど。これが日本か・・・勉強になった」

 

「一番勉強しちゃいけないタイプよこれ」

 

 

 

 日本の文化を漫画から得る残念美女は、こちらに来るまで侍や忍者が道を歩いてる物だと思っていたらしくいなかった事にショックを受けていた。

 

 もし日本の私服がメイド服なんて勘違いを覚えたら大変だと指摘する。

 

 

 

 恥ずかしそうに一瞬目を背けたがすぐに向き直り空いてるソファーに座るように再度指示を出す。

 

 指示通りソファーに座り、その際イリナは良いがゼノヴィアは大きい荷物を持っているので、それを壁に立て掛けてから座る。

 

 

 

「自己紹介は要らないわよね」

 

「話が早くて助かる、私はゼノヴィアでこっちがイリナだ」

 

 

 

 さっさと任務に戻たいとの事なのか簡潔に自己紹介をして、出された紅茶に一切口を付けず話を進める。

 

 

 

「単刀直入で言えばこの町で私達が行動する事を許してもらうのと、君達側の味方を教えてもらいたい」

 

「随分と適当ね、何があったのかを教えてもらわないとこの町での行動なんてそう簡単にさせないわよ?」

 

 

 

 胸を支えるために組んでいた右腕だけを崩して、顔の横で手を構え消滅の魔力を球体にして浮かばせる。

 

 笑って言葉を返したとは言え表情から笑っていないのは読み取れ、肌がピリつく空気をだしている。

 

 

 

 イリナとの約束もあり戦闘はしないと決めたので残念ながら直接的な答えは返さず、壁に立て掛けた物を取り布を外す。

 

 

 

「君達なら見ただけで分かるだろ、これは破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)。君達が忌み嫌う聖剣だ」

 

 

 

 右手一つで軽々持ち上げるのは剣とはとても呼べそうにない形の剣。

 

 日本刀の鍔の部分には左右に刃が展開してる斧のような形状の武器。刀身は先へと伸びるほど太くなり、剣先の方は三又に別れている。

 

 刀身の中心に教会のシンボル【十字】が刻印されている。

 

 全身が銅色で錆びているように思えるが、元は鮮やかな白だったのを悪魔達の血で染めたと知ることはない。

 

 

 

 破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)

 

 エクスカリバーにはそれぞれ能力が宿っていて、その中でも単純な力では最強の破壊を振りまく聖剣である。

 

 

 

 捨てられた布にはいく重にも重ねられた封印や抑制の魔法陣が内側に刻まれていて、布で覆っているうちは外からの干渉を一切受け付けさせなかった。

 

 布を外した今、悪魔のリアス達は見ただけで全身に悪寒が走る。

 

 魔の力を使う悪魔には天敵の聖の力の集合体──聖剣。

 

 それも名もない無名の剣ならまだしもかの有名なエクスカリバーだと言うのだから驚きだ。

 

 

 

「それが対戦時に折れたエクスカリバーの断片・・・貴方も持ってるのかしら?」

 

「もちろん、じゃっじゃじゃーん!」

 

 

 

 玩具を自慢する子供のように元気よく左腕に巻いていた紐を引っ張り腕から離す。

 

 直後形は変化し紐から柄、鍔、刀身が作られていい、純白の日本刀が彼女の手に握られている。

 

 

 

 擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

 

 ゼノヴィアの戦闘力に特価した聖剣とは真逆の力よりその特殊能力の形態変化を使った、多彩でトリッキーな動きを得意にしている。

 

 

 

 二人の聖剣を見て木場祐斗が浮かべていた笑みから光が消え、内部から巻き起こる悪感情に手を突き動かされる。

 

 

 

「まさか後輩とこんな所で出会うなんてね」

 

「ん?悪魔側にいるのに先輩なのか?」

 

「まぁそうだよ。僕自身その事に関してはあまりいい思い出がないから、殺したい程憎いけどね」

 

 

 

 宣戦布告とも取れるその発言にゼノヴィアは表情を僅かに乱す。

 

 

 

 リアス以外に語ってこなかった自身の出生の秘密、教会にて受けたまだ人間の頃の人権のない実験の数々への怒りが爆発する。

 

 聖剣使いとはそう簡単に出会えず、よりにもよって実験の目的の代物が出てくるなんて思ってすらいなかった。

 

 

 

 そう──木場祐斗は悪魔で魔剣使いの前に【聖剣使い候補】だったのだ。

 

 

 

 



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先輩と後輩

夏休み満喫してました。
トリニティのイベント行ったりなかなか充実してました。


 

 

 聖剣を扱える者は稀であり、三種族での戦争において大きな戦力だが貴重な戦力であった。

 

 戦争に勝つにはやはりと言うべきかその数がネックであり、どれだけ強かろうと一瞬の判断ミスで死んでしまう。なので、前線に安心して出せず結局殆ど戦闘をさせずに終戦を迎えて行った。

 

 本来ならば終戦と共に結ばれた不可侵条約により互いに無関係を貫かねばならないのだが、はぐれ悪魔と呼ばれる存在の脅威が終戦後に発生し聖剣使いの必要性が増した。

 

 とは言え戦争時もその数のネックによって押し勝てなかったのに、ポンポン作れる訳がなくその改善は常に難航し続ける。

 

 すると一人の男がある発見をした。

 

 

 

『私の研究によりますと聖剣を扱うには”因子”が一定値必要です。近代に生まれる聖剣使い候補達は皆、その特殊な因子を持っていますが残念ながらその一定値に至っておらず、聖剣を扱えていない物だと

 

 ですので私はここに進言致します。バラバラの小さな因子を一つにまとめる事ができれば、聖剣使いは量産可能だと』

 

 

 

 バルパー・ガリレイ。

 

 教会にいながら悪魔的なまでの残虐性を内面に秘めた狂人。

 

 この当時はまだ教会のため、はては天使や聖書の神のために純粋に研究をしていた。

 

 

 

『良くやったバルパーよ。これで民の安全を守る事ができる』

 

『この計画このまま進めてもよろしいですかな?』

 

『もちろんだとも。この計画は以降【聖剣計画】と呼称しバルパー、お主に全権を委ねる。結果を着実に示せ』

 

『御意』

 

 

 

 これから約二年後。

 

 バルパーは気が狂ったのか因子を奪った子供達を虐殺し、暴走してしまった。

 

 教会上層部もなぜこうなったのか理解出来ず、バルパーが記していた日記に何か原因があるのではないか?と解析するとある一文字が頻繁に出て来ているのが分かる。

 

 

 

Akasha-Chronik(アカシック・レコード)

 

 

 

 これが一体何を示しているのかは一切不明ではあるが、このような愚行を犯したのはこれが原因だろうと決定づけられ、教会から禁書と指定される事になった。

 

 だが、この時バルパーによって人生を全て狂わされた少年が居たのを教会は感知できていない。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「先輩が何故そちら側にいるのかどうか聞くのは野暮だろう。だから聞かないが・・・これは決闘を売ってるって事で良いのか?」

 

 

 

 興奮し息を荒らげながら自身の首元に振られている剣に触れながら確認を取る。

 

 

 

「決闘・・・僕は見た目通り西洋の生まれだ。決闘する気なら手袋を投げているさ」

 

「じゃあ決闘ではないんだな?」

 

「もちろん。これは僕のわがままさ・・・何せ僕は悪魔。僕の欲通りに生きて悪くはないだろ?」

 

 

 

 思っていた事の斜め上の返答に笑いが込上げる。

 

 リアス眷属を見回した時に一番楽しめそうだと思えたのは木場祐斗一人だけだ。

 

 その理由は佇まいとでも言おうか。

 

 リアス、朱乃、小猫、この三名は何かあった際の心構えをあまりしていない。多少はしているだろうが、音を超えて切りかかれば簡単に首を取れる。

 

 しかし、一人の男は違う。

 

 自然体が構えに近く、剣を持っていないのに首を掻き切られるような錯覚を一目見て受けてしまった。

 

 これはライザーとのレーティング・ゲームで得た経験の一つ。カーラマインの自然体が構えを独自に習得した成果である。

 

 他人の真似はすでに師匠でやっている。

 

 その師匠以下のカーラマインならば出来ない通りがないと修練を重ね会得した。

 

 

 

 一流の戦士として歴戦の修羅場を潜り抜けてきたゼノヴィアに死を錯覚させるのだから、もはやカーラマイン以上の完成度と言ってもおかしくはない。

 

 だが、見た目からして騎士道に重んじるタイプで個人の感情では動かない人間だろうと残念に思っていたのだが、悪魔だと言う事を忘れていた。

 

 欲に忠実に欲のままに動くのが悪魔。彼ももちろん例外なく欲のままに動き、決闘ではなく喧嘩を仕掛けたのだ。

 

 

 

「なぁイリナ、私からは喧嘩を売ってないし喧嘩をしないと誓ったさ。だが向こうから売ってきたのなら買ってもいいよな?」

 

「はぁ・・・言っても聞かないわよね。一応言うけど殺しちゃダメだからね」

 

 

 

 まるでゼノヴィアが勝つのが当たり前のような言い方にリアスは苛立ちを覚えたが次の行動により、そんな感情は消え失せた。

 

 

 

「十分、それが私が許せる時間」

 

「十分・・・充分過ぎる時間だ──」

 

 

 

 ゼノヴィアは巨大な大剣を担ぎあげ腰を捻りる。

 

 

 

 当たり前だが聖剣とは言え素材は金属。それなりの重さはあり、大剣になると一般人なら持てない。

 

 本来なら魔術なり魔法なりで身体強化をするのだが、ゼノヴィアは魔術や魔法は大の苦手で自前の筋力のみで持ち運んでいる。

 

 さすがに戦闘まで自前とはいかず、渋々簡易式魔術刻印に聖剣の力を宿らせ起動させる。

 

 それにより、ライダースーツのようにピッタリ身体に張り付くタイツが青白い光放ち、身体能力は通常時の三倍──音を置き去りにするには充分な身体能力を得る。

 

 大剣がありながら速度がメインの祐斗の視線から外れ、真横に回り込んで

 

 

 

「なぁっ!!」

 

「くッッ゛」

 

 

 

 剣の大振りではなくまさかの右足蹴りを繰り出す。

 

 視線から消えた時点で剣による攻撃を想定し構えていた祐斗の予想を裏切る行動に、防御が僅かに遅れ速度重視の魔剣を蹴りぬき空いたボディーを抉る。

 

 祐斗は中庭へと続く横スライド式の窓を砕いて中庭へと飛び出る。

 

 

 

「咄嗟に後ろに飛んで威力を消したか。だが、ダメージはゼロと言う訳でもないだろ?」

 

「がッぁ、蹴りなんて予想外な動きをするなんてね。おかげで防御が遅れたよ」

 

「戦場では常にそうだ。予想通りに物事が運んだ時は何者かの罠にハマっている。そう考えろと師匠に言われたよ・・・覚えておくといい」

 

 

 

 ダメージが入り体制の整っていない祐斗を詰めればいいのに、わざとゆっくり歩いて中庭へと向かうのは剣士としてのプライドを傷つける行為に他ならない。

 

 砕かれたガラスの破片を靴底で踏み砕き、中庭へと飛び降りる。

 

 衝撃を逃がしたがそれでも骨が砕け、口に血が滲むが地面に吐き捨て体制を整える。

 

 

 

「君の聖剣の能力をこっちが知ってるのに、僕の能力を知らないのは不公平だから教えるよ。魔剣創造(ソード・バース)、名前の通り魔剣を創造するだけの神器。触れた場所のみに創造ができる。突然相手の臓器にとか周りにってのは不可能かな」

 

「なるほど・・・情報はありがたいが、敵に塩を送るとは随分と余裕だな」

 

「そうかな?これで不公平は無くなったとおもうけど、まぁ塩を送ったの事実だよ。【トロイ】という名の塩をさ」

 

 

 

 地面から急激に成長した剣が喉元を掻き切るように伸びる。

 

 その数十本。

 

 それぞれが干渉しないように四方八方から様々な形で獲物を狙っている。

 

 屈むのも飛んで避けるのも得策ではないと一瞬で判断し、向かってくる十本の内二本を先に身体に突き刺して右に飛ぶ事で、大ダメージではなく軽傷ですませる。

 

 人間は鉄の塊にぶつかっただけで死ぬほど上弱だ。

 

 魔剣と魔剣同士のぶつかり合いなら祐斗の方が負けるが、人間の骨と魔剣なら祐斗が負ける筈がない。

 

 

 

 肉を裂き骨を断つ。

 

 腹部に二本の剣が突き刺さり鮮血の花を咲かせる。

 

 太ももを滑り落ちる赤の液体は膝から土へ飛び降り、円を少しずつ広げていく。

 

 痛みに耐えるため唇を強くかみ締め追撃を放つ斬撃を見射る。

 

 

 

(読まれた・・・けど、関係ないこれは初見殺し)

 

 

 

 地上と水平に構えられた日本刀が禍々しいオーラを放つ。

 

 剣の腹を斜めに構えていたのを文字通り撃つ瞬間、垂直にし光の反射などから一時的に刀身が消失。この時点で慌てて回避しようとも遅すぎる。

 

 

 

「消え──」

 

「偽・三段突きッッ!!」

 

 

 

 さらにそれは回避不可能の同時三連突き。

 

 向かってくる突きを地面スレスレにあった破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)で上方向へ弾く。

 

 

 

 同時三連突きの詳細は知らないが回避よりも防ぐ選択を取ったのは良案で、上へ弾くものレイピアとの戦闘経験による所が多い。

 

 それが、ただの三連突きであればこれで完璧に防げている。あまつさえ大きな隙を生み出し追撃のチャンスすら貰える。

 

 

 

(なっ、馬鹿な何故そこにある!!)

 

「ハァァァァァッッッ!!」

 

 

 

 上空へ弾いたはずの剣が何故か目先にある。

 

 上へ弾いた影響で破壊の聖剣はまだ浮遊中、防御を取る事は明らかに不可能。

 

 咄嗟の判断で剣から手を離し防御ではなく回避に専念する。

 

 

 

 ふくらはぎの筋肉は隆起し爆発的なまでの加速を生み出し、祐斗に背を向け地面を蹴っただけで地面にヒビを入れる。

 

 だが、その程度の速度木場祐斗にとって見ればもっと早い男を知っていた。

 

 

 

「ひとーーつ!」

 

 

 

 とは言え飛ばれ続けても面倒なので最初に狙ったのは足。

 

 骨にぶつかれば当たり前だが剣がかける可能性がある上に筋肉に挟まれ武器を奪われるかもしれない。

 

 ならば、人間が生きる上で最も柔らかく鍛えても決して強度の上がらない弱点、骨と骨の狭間関節に細い刀は突き刺さる。

 

 軟骨を砕き簡単に反対側の空気を割いて土に突き穿つ。

 

 

 

「あ゛っ──」

 

 

 

 既に二本突き刺さった状態で関節を狙われた攻撃に声を抑えきれず漏れる。

 

 短く苦痛に歪んだ声にリアスは顔を背け自分が受けたように感じる。

 

 主が敏感に反応したがその騎士は止まらずそのままゼノヴィアの喉仏を狙う。

 

 

 

 心臓や脳みそを穿てば死ぬのは確定するが、喉仏程度ならば悪魔流の応急手当で間に合うのでそこの部位を狙う。命までは取らないと言う優しさだ。

 

 

 

 刀は何か硬い物に当たりそれを傷つけ外へ跳ねさせる。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 刀が切り裂いたのと同タイミングで外から見ている彼らはそれぞれ別々の反応を取る。

 

 リアスは顔を背け、朱乃は応急措置の用意──

 

 

 

「あちゃーやっちゃったか」

 

 

 

 ゼノヴィアの付き人のイリナはどこか他人事のように心配ではなく呆れたように声を出す。

 

 その声を隣で偶然聞いていた小猫はなぜだか異様な感覚を感じ聞く。

 

 

 

「心配じゃないんですか?」

 

「心配か・・・そうだね確かに心配だよ。この任務は大丈夫なのかとか、老後はどうしようとか・・・けど、貴方が聞いてるのはそれじゃなくてあの子(ゼノヴィア)の事でしょ?だったら」

 

 

 

 それを語る時の表情は信頼でも信用でもない。

 

 ヒーローを英雄譚を見る一人の子供のようだった。

 

 

 

「負ける姿なんて想像出来ないわ」

 

 

 

 その直後祐斗は突然軽くなった刀に違和感を覚え跳ねさせた刀の方を見る。そこにあったのは中間から先が何かに噛み砕かれたように消失した刀だ。

 

 

 

 直ぐに気づく何が原因でこうなったのか。

 

 

 

「ちょうど良かった。失った鉄分()を補給したいと思っていたのでね、それにこの刀美味しいじゃないか」

 

 

 

 まるで舐め終わる前に噛んだキャンディーかの如くモグモグしていたのだ。

 

 悪魔よりも悪魔じみた行動に目が見開き、徐々に近づいてくる彼女の顔の細部にまで目がいく。

 

 

 

「石頭だが許してくれ!!」

 

 

 

 激しい頭突きを繰り出す。

 

 短くまとめられた髪ですら乱れ、女性の尊厳よりも戦士としてのプライドを優先したゼノヴィアの強烈な頭を使った攻撃に目を回し沈む。

 

 勝敗が決したタイミングで十分を告げるタイマーがイリナの右手から鳴り響く。

 

 

 

「あぁギリギリだったか、遊びすぎたな」

 

 

 

 祐斗よりも大怪我をしているはずのゼノヴィアが何故か笑っている異常な状態で幕が降りる。

 

 

 



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問題児の理解者

 

 服が破けそこから滴る血により、白い肌は色っぽく映る。

 

 その箇所に雑に布を巻きながら破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を地面に突き刺しその反動で起き上がる。

 

 

 

「すまない、彼に怪我を負わせてしまったかもしれない」

 

「あの子は大丈夫よ。悪魔の頑丈さを舐めないで、それより貴方の方が重症よね」

 

「この程度の怪我問題ない。肉を沢山食べれば勝手に治る」

 

 

 

 本当に人間なのか疑いたくなる答えに驚きながらも頭を下げる。

 

 今回の件どちらが悪いのかは明白。

 

 非行に走った眷属を諌められずその相手に怪我まで負わせてしまったのだから、これで二種族間における関係が悪化など起これば大戦争の幕開けとなってしまう。

 

 

 

「ごめんなさい本当に・・・」

 

「気にしなくていい。それに・・・なぁイリナ、君は何か見たか?私が怪我を負ったのは鍛錬の最中だよな」

 

「えぇそうね、一人の鍛錬ではなく二人で行う鍛錬で負った傷よ。鍛錬で怪我をするのはいつもの事だし何の問題もないわ」

 

「だそうだよ」

 

「二人共ありがとう」

 

 

 

 寛大な措置に深々く頭を下げ感謝を示す。

 

 これにより両種族の関係が悪化し戦争に発展する事は無いだろう。

 

 

 

「祐斗はどう朱乃」

 

「完全に気絶してますわ、保健室に連れて行くから先に部室に戻っていて」

 

「そっちの事は頼むわ」

 

 

 

 朱乃は軽々と祐斗を抱き抱え部室から離れ本棟の一階にある保健室へと向かう。

 

 小猫も付き添おうとしたが「一人で大丈夫よ」と拒否され、その場に残る事になる。

 

 

 

「順序がと言うか話がかなり脱線したけど、改めて話をしましょう」

 

「それで構わない・・・だけど、その前にシャワーを借りていいか?一応こう見えて女なのでね、身だしなみにはそこそこ気を使っているんだ」

 

 

 

 確かにその言葉通り戦闘や隠密の邪魔になる香水などは付けていないが、髪の保湿を保つ無臭のオイルを塗っていて薄くメイクもしている。

 

 そこを見れば女性なのだとさっきの戦闘を思い出しながら考えつつ、部室に備え付けてあるシャワー室に案内をしようとする。

 

 

 

「あっ、シャワー室は壊れたのよね。と言うより、修復を後回しにしてて直すのを忘れてた」

 

「むっそれは困った」

 

 

 

 ライザーに殴り込んでくれた一誠のおかげでオカルト研究部の備品や設備は壊れ、修復をする事になるのだがついでと改修も行っていた。

 

 一誠の家に住むようになってからシャワー室より、大浴場付きの家のお風呂の方が気持ちがいいとそっちばかりを使うので、ついつい設置を後回しにしていてほぼ改修も終わっているのに忘れていた。

 

 その改修も先程壊されほぼではなくなってしまったが。

 

 

 

(どうしようかしら。部室の方にシャワー室は壊れてる・・・けど、一誠には)

 

 

 

 今までこの街で過ごして初めてと言うぐらい大事件に巻き込まれてきた。

 

 その全てに【兵藤一誠】の存在は欠かせない。堕天使の最初の標的にされ、レーティング・ゲームの勝利に不可欠であった。

 

 まるで彼を中心に世界が回ろうと動き始めたように。

 

 

 

 そんな彼だが、化け物じみてても人間である。

 

 

 

 車に跳ねられば死ね──ない。

 

 高層ビルから落ちてもし──なない。

 

 銃で撃たれても──死ぬことはないだろう。

 

 

 

 本当に人間?とまた思うが、それでも百年あまりしか彼は生きれない。肉体などを調べたがそれは確定的だった。

 

 分類学上はしっかりと人間と定義され短い命を燃やして生活している。

 

 人間をこれ以上こちら側に関わらせていいわけが無い。

 

 本来は問題児三人衆などと呼ばれ続け、楽しく命の危険もない人生を送るはずだ。

 

 

 

 それを壊してしまったのはリアスが張本人で、何度も何度も後悔し続けながらもどこか彼がいるから大丈夫だと思うようになっていた。

 

 

 

 昔はそんな事はなかった。

 

 一人の王として、主として、悪魔として、誰にも頼らず自分の力だけでたち続けてきたはず。

 

 それが腑抜け他人に全てを託すようになっている。

 

 ダメだ。駄目だ。だめだ。

 

 だから今回は一誠は排除し兄に伝えずに事を進めている。自分だけの力でも充分なのだと勇気を得るために。

 

 

 

(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 そのはずだったのに、眷属は暴走し部室はいくつかの場所が壊れた。

 

 情けなく哀れだ。

 

 

 

「仕方ない・・・私達のホームにお風呂があるからそっちを使って。ただし、そこには人間が住んでるからできる限り関わらないで」

 

「了解した。それで汗を流せるならいい」

 

 

 

 自身の不手際を帳消しにするためにまた彼に頼ってしまう。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

「なるほどな。それでわざわざ関わらせないように俺をここに呼んだのか」

 

「リアスもここ最近メイド服で特攻してきたりおかしな箇所が目立つのよ。制服にしなさいと言ったら制服ぽくしたメイド服着るし、行動の意味がまるで分からない」

 

 

 

 その全ての原因は一誠ですと知らないソーナは嘆く。

 

 外と空間が隔絶されている影響で、二人の戦闘音や衝撃は伝わらず何も起こっていないと思っていた。

 

 

 

「それだったら正直に言えば別に関わらないんだがな」

 

「ならこのボタンを押しちゃダメよ」

 

 

 

 机の裏側に付いていたボタンを取り外して一誠の前に置く。

 

 もちろん、先程自分で語ったように【ダメ】と言われればその事はしない──はずもなく人差し指で置かれた直後に押す。

 

 

 

「リアスもこれが分かってるから言わないんでしょ」

 

「バレちまったか、聖剣だとか聖剣使いだとか興味が唆られるネームが並んでて超関わりてぇ・・・てか関わるわ」

 

「一誠これは仕事でも何でもない、貴方の理解者としての発言”これ以上、こちら側に関わらないで”」

 

 

 

 ソーナが初めて見せた明確な拒絶である。

 

 仕事や業務として拒絶する事はあっても一友人として拒絶を示したのは、長い人生の中でまだ一度もなかった。

 

 それだけ、関わらせたくない思いが強いと言うことでもある。

 

 

 

「・・・・・・分かったよ。今回は進んで関わらない」

 

「ホントね?」

 

「あぁソーナに面と向かって言われれば無下に出来ねぇよ」

 

 

 

 頭の後ろで手を組んで飄々とした表情で誓う。

 

 

 

「ならいいわ、これで一安心」

 

「じゃあもう帰っていいか?これ以上ここにいるメリット無いんだが」

 

「そうね・・・時間も時間だし良いでしょう。真っ直ぐ家に帰るのよ」

 

 

 

 隔絶されていた空間は接続され特別指導室としての学校の一教室へと様変わりする。

 

 内装は一切変貌していないが体感として空気が軽くなったような気がする。

 

 

 

「また今度生徒会室行く時は菓子でも持っていくよ」

 

「一誠くんのお菓子は美味しいと好評ですので是非お願い」

 

「おう」

 

 

 

 カバンを肩からかけるようにして持ち上げヒョイっとドアから出ていく。

 

 特に何か待ち構えている事はなくいつもの静かな放課後の廊下が広がっている。

 

 

 

「くうっっ・・・っぁ・・・・・・良かった、一誠くん許してくれた」

 

 

 

 一誠が姿を消して数秒の間を開けてから年相応の声を漏らす。

 

 ずっと騙してきた嘘が発覚しそれにより嫌われたらどうしようと、思考がその事ばかりを考えていたが許され一安心し気が一気に緩む。

 

 ソファーに体重を預けていきスカートが捲れ、生徒会長にあるまじき格好を取るが今ここで起こる人物はいない。

 

 

 

「それにしてもリアス一緒に住んでるのよね?それもメイド姿で・・・・・・私ですらした事ないのに!!ずるいずるいぶるいずるい!」

 

 

 

 食事を作り、背を流し、夜のお務めをする。

 

 なんて羨ましいと身悶えしながら妄想を膨らませていく。

 

 この状態になったソーナは当分戻らず迎えに来た椿姫の見られるまでこのままであった。

 

 

 

 



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運命に定められた親友

2週間家に戻らないから、事前に投稿してたはずなのにできてなかった……乙


 人前でおいそれと転移魔法陣を使えないので十五分かけていつもの道を戻る。

 流れる木々や車などの街並みは平和そのものである。

 この街が実は悪魔が支配していると知っている人間がどれだけ居るだろうか。しかし、それも一誠にとっては考えるべき事でない。

 今考えるべき事は

 

「確か賞味期限の近い肉があったな・・・キノコ類もそろそろか」

 

 今晩の献立である。

 昔とは違い常に大家族並みの料理をしなければいけない。特に大食い幼女がいるおかげで十人分相当を一気に作るので、かなりの苦労がある。

 テレビで取り上げれば「兵藤一誠の大家族」と一つの番組でもできてしまう。

 

 大変だと思いながらも苦痛だと思っておらず、他人と生活するのも悪くないと冷蔵庫の中身を思い出しながら献立を組み立てる。

 そうこうしてれば家の玄関まで一直線の歩道に出て考える時間が残り少ないのを告げる。

 

「ん?誰だアイツ」

 

 一直線という事もあり視界が良好で、向かってくる人離れていく人達を簡単に確認出来る。

 その中で一誠が首を傾げたのは一人の男が自宅の前に立っていた事だ。

 

 横顔なので顔だけで性別は判断できないが、黒の短髪に白のTシャツの上に紺色のジャケット、青白いジーパンと男らしいファッションから男だと判断する。

 ただ、手に持つ白く包に覆われた大きい箱は用途が一切不明だ。

 近所でも見たことの無い男で、余計にそこが怪しい。

 悪魔や堕天使と出会ってきた事を考えればそろそろ天使と出会ってもおかしくはない。もしかしたら、天使か?と内心テンションを上げて近づく。

 

「なぁアンタ、俺の家の前で何してんだ」

「あ、もしかしてここの住人かな?良かった・・・インターホンを押しても出てこないから無駄足かと思ったよ」

 

 少し殺気込めて声をかけてみるが相手の男は無反応だった。

 天使なのだとしたらこれに察知できないようではレイナーレ以下の楽しめそうにないレベルになってしまう。

 上がっていたテンションは途端に落ち、警戒を僅かに解く。それでも、敵の可能性があるので完全には油断しない。

 

「申し遅れた。隣の家に引っ越してきた、曹阿瞞(そうあまん)と言う者です。名の通り生まれは中国でして、日本の文化に興味がありましてこちらに参りました」

「へぇ中国人か・・・にしては日本語が上手いな?どこかで習ってたのか?」

「えぇ、仕事先に日本語を話す人が居ますので喋れないと支障がありますから」

 

 問答に対して特に何か不審点もなくただの普通の隣人のようだ。

 引っ越してきたと言うのであれば身近で見た事が無かったのにも納得が行く。

 ただ引っかかるのは【曹操】とある意味では同姓同名であると言う事だろうか。しかしそれも、中国にしてみれば故意に被らさせ恩恵を得ようとするので疑う事でもない。

 

「なるほどな。俺はここに住んでる兵藤一誠、自他共に認める問題児だがよろしく頼むぜ」

「よろしくお願いします」

 

 箱を脇で挟むようにして持ち替えて一誠の差し出した手を握る。

 手には僅かなマメが付いていて握った時の感触に違和感があるが、何らかの仕事柄付いてしまったのだろうと握り合う。

 

(このマメ棒状の何かか?中国と言ってたし棍棒とか大道芸の何らかだろうな)

 

 職業病のように曹の職業を軽く推測し数秒の後に離す。

 

「あっそうでした、そうでした」

 

 握り終わった直後に曹は何かを思い出したように脇に抱えていた箱を、両手で持ち直して一誠に差し出す。

 

「日本には確か引っ越しした際に隣人に蕎麦を渡すと聞きました。ですのでこちら引っ越し蕎麦です、どうぞお受け取りください」

「今の日本じゃこんな事やってる奴殆どいないぜ、確かにこう言った習慣はあるがな・・・その口だと忍や侍が居なくてショックを受けたろ」

「あははは、お恥ずかしい話ですがその通りです。忍者を見たかったのですが残念でした」

 

 箱のサイズからしてかなりの大容量の蕎麦の詰め合わせで、持った瞬間かなり重いのが分かった。

 これで今晩の決めかねていた献立が決まったなと隣人に感謝する。

 

「忍者村とか行ってみるといいぜ、本物は居ないがそこそこのもんが見れるからな」

 

 忍者より忍者の動きができる一誠では”演じている忍者”程度では本来驚くべき事ではなく、昔遊びに行った時も落胆した。

 一誠がダメでも外国人き勧めるには充分過ぎるので適当にお世辞を加えながらオススメしておく。

 

「ほほう・・・今度行ってみる事にしま──」

 

 

 ガシャガシャン!!

 

 一誠の家から出はなく曹の方の家から何やら食器の割れる音と怒声が響いてくる。

 

『ちょっ、何やってくれてんの!!』

『布切れ一枚に気を使いすぎだ、極論身体を隠せれば問題なかろう。それより酒だ酒、布より酒が大事に決まってろうが!』

『かぁぁーー!これだから単細胞バカは、この服は私のデザインして商品化した物なんですぅ。その酒も食べ物も買ってるのは私のこの稼ぎのお・か・げ。そんな事も分かってないなんてお可愛いこと

『よく言ったなビッチが!表出ろや!!』

『びびビッチ!!??こっちがブチ切れよ!!』

 

 ご近所に聞かれれば恥ずかしい限りの痴話喧嘩が開いた窓から漏れてくる。

 これにはクールに過ごしていた曹も頭を抑えながらため息を吐き出す。

 

「すまない、色々と迷惑をかけるよ」

「こっちも大所帯だしなお互い様だ」

 

 軽い別れの挨拶をしてから曹はかなり急ぎ足で玄関の扉を開け喧嘩の仲裁に向かう。

 どこかのスパイとかも考えていたが、それならこんな露骨なアホな真似はしないだろうと一般人であると確定させ、良き隣人として付き合うことを決める。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 そんなこんなで新たな出会いがあったおかげで悩みの種が一つ消え、明かりが一つも付いていない家内へ鍵を開けて入っていく。

 入って直後に貰い物をキッチンに起きそこから風呂場へと足を進める。

 この家は設計の都合上手洗い場と浴槽が隣同士に隣接されていて、うがいや手洗いをするにはキッチンからまた玄関へと向かわねばならない。

 別にキッチンで手を洗ってもいいのだが、次いでにシャワーを浴びるのが日課なので分担するよりまとまってる方が選択肢として上位に来る。

 外で曹と会った時に言われたがインターホンを押しても人が現れず、今は誰も同居人は居ないという事だ。それな、誰かとバッティングする事はない。

 

 第二まで開けられたボタン全てを外し、筋肉の形をくっきりと出している上半身を隈無く見えるように脱ぎ、左手で丸めて持ち右手でドアを押し開ける。

 

「「ん?」」

 

 いつもなら木で出来た硬いまな板を押すような感覚があるはずなのに、この時ばかりはゼラチンやプリンなどの柔らかい丸みを帯びた何かが手のひらに収まる。

 手のひらの中央部には何か突起物もあり完璧な楕円とは違う。

 

 その手の感触の正体を確かめるため前を見るとそこには誰か知らない謎の青髪の女がいた。

 髪を雑に吹くタオルを握る手は女性と言うより男性のような肉付きで、足は女性の細さではなく男の格闘家のような力強さがある。

 それでいながら胸部の左側は握られ変形しているが、もう片方の方はリアスと同等に近いほど大きく、重力や物理法則に逆らうように立派な形を維持している。

 

「君はここの家主の兵藤一誠でいいのかな?」

「・・・あっぁ、そうだ。でこの乳の持ち主のアンタは誰だ?」

「ふむ、ゼノヴィア。教会の戦士として働く以上名はこれのみ、苗字もあるにはあるが教える意味もないだろ」

 

 胸を揉むては離れずそのまま揉み続ける。

 それでもゼノヴィアは顔色一つ変えず髪の水滴をタオルで適当に拭き取ろうとしている。

 

「おいおい女がそんな雑に髪を拭くな、ドライヤーはそこにあるだろ。同居人の中に女がいるから最近買ったはずだ」

「ドライヤー?・・・あの丸っこい機械の事か?私は機械にはからっきしでね、最たる理由はめんどくさいもあるのだが」

「ヤハハハハ!それ、よく分かるぜ。髪を乾かすのに一々ドライヤーを使うとか馬鹿らしいよな」

「その通りなんだよ、なのに同僚は分かってくれなくて・・・口うるさく言ってくるんだ」

「マジかよ、ここまで息が合うのは珍しいな。アンタとなら仲良くなれる気がするぜ・・・ゼノヴィア」

「こちらも同じ気持ちだ」

 

 ガシッと一誠は左手をゼノヴィアは右手を前に出し胸の前で固く手を繋ぐ。

 この時ですら胸から手を離しておらず逆に傍目から見たら二人の変人が絡んでいるようにしか見えない。

 男は上半身裸で胸を揉み、女は全裸で揉まれていない方の乳首はタオルで隠す程度で他は堂々と隠す素振りはない。

 言わずもがなだがこの二人はこの時が初対面なので決して顔見知りではない。

 

「ゼノヴィアはなんでここに居るんだ?鍵も閉まってたし不法侵入って訳じゃな無いだろ?」

「もちろん・・・君ほどの男にそんな失礼な真似はしないさ。リアス・グレモリーに話があったのだが、色々あって騎士と戦ってね。その影響で汚れたので一汗流していたんだ」

「騎士──祐斗か。へぇ・・・アイツが戦闘ね、何かわけアリか?」

「確か私の事を後輩と読んでいたよ。となると当てはまるの──」

 

 

 

「って何やってんのよ!この問題児達が!!」

 

 背後から強襲してきたのは二の腕に巻いていた紐をハリセンに変化させ、二人の頭部を強打する金髪ツインテ少女──紫藤イリナであった。

 

 

 

 



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問題児の矛盾

 

 数分後半裸の男と全裸の女はリビングで一人の悪魔のように怒り狂う少女の前に正座して周りから冷ややかな目で見られている。

 

「で、なんであんな事をしてたの?まずはゼノヴィア」

「いや何か勘違いしているが胸を揉まれたのだから、私はやられた側だ。反省も何も無いはず」

「ふーーーーん、じゃあ揉まれたらそのまま揉まれ続けるんだーー」

 

 未だに手には聖剣が変化したハリセンがある。

 ツインテが下克上するかの如くメラメラと揺らぎ、光の灯っていない瞳は冷酷に鋭い殺意だけが迸る。

 過去、子供を弄り弄び嗤った悪魔と出会ったゼノヴィアだが、その時よりも恐怖を感じている。

 

「違うぞ、私だって嫌な時は嫌だという」

「ならなぜ今回はしなかったの?」

「その・・・話してる途中で気があったし・・・・・・ジャパニーズ漫画やアニメだと胸を揉むのが挨拶だと思ったから」

「だからアレは現実ではありえないって何度言ったら・・・あぁもういい!後でゼノヴィアにはお仕置きだから覚えていてね」

「はぁいっ・・・」

 

 問題は別にあるとゼノヴィアへの怒りも程々に正座しながら欠伸してる一誠を睨む。

 

「次は一誠くん、特別に言い訳を聞いてあげる」

「言い訳?違うなこれは立派な理由だ。どこぞの登山家は言った『そこに山があるから登るのだと』」

「なるほどなるほど」

「そこに胸があったか──」

「バカらっしゃい!」

 

 渾身のフルスイングが一誠の頭を揺らす。

 その速度は単純計算でいけばマッハ以上は出ている。怒りのパワーや中に来てるスーツの強化の影響も込なら第一宇宙速度程。

 当たり前だがそのフルスイングによって衝撃波が辺りに発生する。

 

 木の床は割れ目からめくれ上がり、キッチンの洗われた食器は粉々に砕ける。

 足の裏が地面に付いていない状況ではさすがに堪えきれずに後方へ飛ばされ、改築された家にまた大きな穴が一つ産まれた。

 

「この変態!エッチ!思春期!兵藤一誠!」

「最後のは悪口じゃないだろ・・・思春期もだいぶ怪しいが」

 

 本来開通して居ないはずの廊下を挟んだ向かい側の部屋に腰から上が入っていながら、随分と余裕そうに冷静なツッコミを入れる。

 

「昔遊んでた時はこんな子じゃなかったのに・・・どうしてこうなったのよ!!」

「端的に言うなら元からこうだった。複雑に言うなら運命だった」

「どっちも一緒じゃない!!」

 

 パラパラと髪や服に付いたホコリを払いながら大きく空いた穴からリビングへと戻る。

 当たり前だがそこにはあまりのことに頭がついていってないリアスがいる。

 

「えっとそのぐらいでいいんじゃないかなかしら?」

「このぐらいでいい?貴方は一誠くんとそこそこ付き合いは長いのでしょ?なら分かるはずです!ゼノヴィアと一誠くんは混ぜてはいけない人種だと!!ほらこの通り」

 

 リアスに前かがみになりながら捲し立て後ろを振り返らず指を指す。

 そこには見てすらいないはずのイリナの推測通りの光景がある。

 

 互いに露出の多い二人は何事もないかのように満面の笑みで握手を交わし「お前ほんとに分かってるな」と互いに言い合う問題児がいる。

 

「昔からゼノヴィアはマイペースで、日本の知識は漫画から得るし、戦闘になるとすぐに猪突猛進するし、それでいながら乙女笑とか言うしまつ。分かりますか?貴方に、どれだけ私の胃が痛められてきたか・・・これが神の試練なのだとしたら私に何になれと?」

「落ち着いて、ね?」

 

 教会の戦士にあるまじき神への冒涜にどれどけストレスが溜まってるのか伺えた。

 その裏でどんどん仲良くなる問題児。

 保健室に祐斗を預けてきた朱乃が帰宅し見た時は顎が外れたらしい。

 

 

 とりあえず平常心を取り戻したイリナは聖剣を元の紐に戻して二の腕に巻く。

 二人もしっかりと衣服を着て外に出ても恥ずかしくない格好だ。

 ただゼノヴィアのセンスなのか彼女の服には真ん中に『令和』の文字が描かれた酷いTシャツを着ている。

 外国旅行者定番のお土産を買ってしまったようだ。

 

「まぁ大体の事情は知ってる」

「そうなら話は早いわね。ここから先は私達人外の境界よ、人間の貴方が関わるべき事ではない」

「確かにそうだな、ソーナにもキツく言われたし大人しくしてるぜ」

 

 随分とあっけなく引き下がる一誠に驚くが、ソーナが私に任せてと言った意味がこれなのだと理解出来た。

 

「邪魔者は消えるとしますかね」

 

 大人しくするが話は聞くと言い張ると予想しそれの対抗する方法も考えていたが無駄に終わった。

 一体ソーナと一誠の間に何があったのか──何があるのか(・・・・・・)そんな疑問が心の奥底で生まれる。

 

「ところでイリナ、お前俺の知り合いみたいな事を言ってたが──俺にはそんな記憶ないぞ」

「え?何を言ってるの、昔良くお母様とお父様」

「まて、俺には父親も母親もいない」

「・・・?どうしたのよ?確かに一誠くんの両親は事故で死んでしまったけど、そんな言い方」

「言い方が悪かったか・・・俺にはそもそも(・・・・)両親はいない」

 

 両手を組んだ一誠はなんの迷いもなく告げた。

 しかし、それはおかしかった。イリナの記憶では二人の両親が一誠には居たのは間違いなく、サーゼクスが調べた情報にも両親が昔の事故で死んだのは確認できた。

 詳しく言えば五歳の七月、家族旅行にアメリカへ向かう途中で飛行機の墜落事故に巻き込まれ、奇跡の生存者一人だったのが【兵藤一誠】だと報道され史実もそうであった。

 本来それはとても重要な記憶であり成長により忘れるほど印象が薄い出来事ではない。

 ましてや、両親が元から居なかったと言い張るなんてのは異常にほかならない。

 

「じゃあどうやって産まれたって言うの」

「そこは普通に決まってんだろ。幸せの青い鳥が運んでくる訳でもないし」

「なのに両親は元からいない?」

「その通り、で?俺は初対面だと思うけどイリナは初対面じゃないって事だなよな、それならまぁそうなんだろ初対面じゃないのかもな」

「??ますます言ってる意味が分からないよ」

「これは一人言みたいなもんだ気にするな」

 

 勝手に自己完結し他人に詳しく教えようとしない。それは裏返せば誰にも深く立ち入らせないという事だ。

 他人が心にかける鎖を簡単に砕いて侵入するくせに、他人は自分の鎖を断ち切らせない。

 ラブコメ漫画の主人公のようなクソッタレな性格とでも表現しようか。それを一誠は行っているのだ常に。

 

 推測になるがその鎖を切ったのがソーナだけであり、ソーナの言う事を聞くのはそれが理由だとリアスは考えた。

 未だに疑問符を浮かべてるイリナの頭を軽く叩き

 

「今日飯を食べてくだろ?」

「う、うんまぁ」

「よしきた、ゼノヴィアも食べるな」

「当たり前だ。私の親友のご飯を食べないで帰国するなど出来るわけがない」

 

 そもそも話を聞いていないゼノヴィアはいつもと何ら変わらず返事をした。

 食事するのが二人増えた事により蕎麦だけでは足りないと、急遽買い出しに行く事を決める。

 

 リビングに置いてある学生鞄から黒い長財布を後ろポケットに押し込んで、小猫の首根っこを掴んでリビングを出ようとする。

 

「何ですか?」

「どうせ暇だろ・・・荷物持ちだ」

「不服ですがその通りなので仕方なく従います」

 

 短い会話を交わしせっせとリビングを出ていく。

 小猫は昔の姉の事件の影響で他人に心を開こうとしない。

 長期間過ごした上で心を徐々に開いていく。リアス、朱乃、祐斗もそうだったように。

 だが、一誠に関しては自然といつの間にか仲が良くなっていた。自分から他人に関わろうとしている節まである。

 

 最近自身の眷属が目まぐるしく変化している事実に、能力の危険性から封印されている最後にして最強の眷属の事を思う。

 一誠にすら勝つ可能性がある彼が一誠と出逢えば何か変わるのではないか・・・

 

(ダメよダメ!決めたじゃない、一誠にはもう頼らないって。早速今日は頼ったけど誤差よ誤差、今後気をつければいいわ)

 

 それぞれ闇を抱えるリアス眷属達。

 その闇を払うのは一誠なのか、はたまた別の人なのか。それはまだ分からない。

 



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ひと時の安らぎは一瞬で去る

 

「それじゃあ話の続きといきましょう」

 

「そうだな。彼もいない事だし」

 

 

 

 部外者である一誠が居なくなった事でやっと中断していた、訪問の理由が判明する。

 

 

 

「ふむ・・・どこまで話した?」

 

「行動の自由と私たちがどちら側につくかって所よ」

 

「そうだったな。なら簡潔に言おう」

 

 

 

 ここまで右往左往ありタイミングが伸びたが、ゼノヴィア達はリアス達に求めたのはあまりにも不自然な事だ。

 

 行動の自由、これに関しては聖剣使いが悪魔の領地を彷徨くのだから問題ない。

 

 誰の見方か求める。これはあまりにも不自然だ。

 

 まるでその言い方では天使以外の別勢力がこの町に潜伏しているかのような言い草なのだから。

 

 

 

「この町は滅びる」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「はぁ・・・まとめ過ぎよ。もう私が変わるわ、初めからこうしてれば良かったのね」

 

 

 

 簡潔にまとめると言ったが簡潔にまとめすぎて何を言ってるのかさっぱりのゼノヴィアの代わりに、幾分かまともに喋れるイリナが口を開く。

 

 

 

「過去の大戦で分割されたエクスカリバー、その内の六本を私達は保有している。残りの一本は相変わらず行方不明・・・この点は理解してるわよね?」

 

「えぇもちろん。で、今回わざわざその聖剣(エクスカリバー)使いがこの町に訪れたのと何か関係があるの?」

 

「六本中四本が無理矢理強奪されたの」

 

「なっ!!!」

 

 

 

 三種族が休戦している今ではどこかの陣営が襲撃されるなんて事はまず無かった。

 

 人間世界に紛れているはぐれ悪魔が教会の戦士に討伐される事などは合ったが、それは人間を守るための戦闘で冥界側にとっても敵なので黙認していた。

 

 もちろんこの世には天使、悪魔、堕天使、以外の種族も居るには居るが表立って行動する種族は三種族だけなのである。

 

 そのはずが教会側が襲われあまつさえ聖剣が奪われたなどと、行った種族が種族なら休戦が終わるような大事件に他ならない。

 

 

 

「聖剣を盗んだのは聖書にすらその名が載っているビッグネーム──コカビエル。堕天使の中で幹部に位置するかなり危険な存在よ」

 

 

 

 リアスの想像しうる上で最悪の悲劇だ。

 

 三種族の内の一つ──堕天使が天使側に宣戦布告仕掛けたのと同意義の大事件。

 

 既に彼女一人でどうにかできるレベルの事件ではなくなった。

 

 普通ならこの時点で魔王等に掛け合うのが正解なのだが、今のリアスにその選択肢はない。いつまでも一誠に助けて貰い続けるのを脱するのに必死で思い浮かばなかった。

 

 

 

「・・・・・・まさか!コカビエルが来ているの?この町に!!」

 

「残念ながらね。この事件はかなりの大事よ、教会上層部がすぐに収拾に乗り出すけども後手後手で、もうこの町に逃げ込まれた後になってしまった」

 

 

 

 朱乃もこの事実に唖然としていた。

 

 教会に宣戦布告した相手がこの町に逃げ込んできた、故意であれ偶然であれ黙っていられる問題ではない。

 

 

 

「なるほどね、だから貴方達二人しか教会は派遣しなかったのね」

 

 

 

 それに同意するようにイリナは頷く。

 

 

 

 リアスは今出された情報から教会から逃げたコカビエルを追いこの町に辿り着いた事に気づいた。

 

 逃げた者を追う直後はかなりの人数が居た事だろう。百や千はくだらない。

 

 その人数全てが武装しこの町へ侵入してきたとしたら・・・それは天使側からの悪魔への宣戦布告と読み取れてしまう。

 

 魔王とは別の意思決定機関の長老達がこれを見逃す程バカではない。

 

 止まった戦争がまた動きだし多くの血が流れ、今度こそいずれかの種族がこの世から消える事になる。

 

 

 

 それでも追わねば堕天使と天使は結託していると戦争を再開する口実にもなってしまう。

 

 だから二人という最初人数で戦場へと派遣したのだ。

 

 最悪死んでもいいラインでありながら勝てる可能性を少しでも含んでいる二人を。

 

 

 

「貴方達は理解してるの?対戦時代にあの大虐殺を起こしたコカビエル相手に二人だけなんて」

 

「まず持って勝てないでしょうね。多く見積っても一%未満・・・本当にやな仕事──けどやらないわけには行かない。私達は教会に拾われ育てられ剣となると誓った身、例え死ぬと分かっていても戦う。それが宿命」

 

 

 

 もしリアスがその立場であれば絶対にこの仕事は受けない。

 

 確かに恩義も大切だがそれ以上に自身の命の方が大事なのだ。見知らぬ誰かより知っている誰かを守るそれが普通の思考。

 

 彼女らの思考では自身より他人を優先する歪な価値観があった。

 

 それこそが戦士となる上での絶対条件なのかもしれない。

 

 

 

 その覚悟を示す彼女らに自然と冷や汗が滲む。

 

 

 

「一応助っ人もいるのよね・・・ただ異常に遅れてるだけで。日本に帰るなら実家に挨拶をしてから行くなんて言って、どこかに姿を消したわ……自由人目」

 

「大変そうね貴方も」

 

「ゼノヴィアと暴走機関車(アレ)に囲まれるなんて地獄以外の何物でもない」

 

 

 

 かなり鬱憤が溜まってたのか眉間に血管が浮かぶ形相で語る。それを聞きショックを受けたゼノヴィアはソファーの上で、体操座りをして膝に円を指で描き続ける。

 

 

 

「そんな話は置いておいて、それで貴方達の立場を聞いて起きたかったの。堕天使につく?天使(私達)につく?」

 

 

 

 ここでの返答が今後の冥界を揺るがす重要なファクターになるだろう。

 

 選択を誤れば滅び、正解すれば生きる。この二択だ。

 

 

 

(順当に言えば天使側よね。堕天使と結託する理由も何も無い、戦争を再開させるわけにも・・・再開?まってそうなると天使側にもつけない)

 

 

 

 天使側と返答する直前にこの考えの過ちに気づく。

 

 確かに堕天使に付かないのなら天使に付くのが普通に見えるが、敵の敵が味方とも限らない上に戦争が再開してしまう。

 

 

 

 ここまでの話を全て信用すれば天使と協力しコカビエルを撃退または殺害する。

 

 そうすれば仇をとるのに躍起になり堕天使側が総攻撃を仕掛けてくる事になる。幹部の一人であるコカビエルが殺られればその道は回避できない。

 

 敵に狙われる二種族と同盟を結ぶに十分すぎる理由。

 

 同盟を繋ぎ多数の血を流して堕天使を滅ぼす。それは正しく戦争にほかならない。

 

 

 

「どちらにもつかない。悪魔は悪魔──私達の信念の元に行動するわ、だけどこれだけは約束する。決して堕天使と結託はしないしするつもりもない」

 

「神・・・貴方達で言うところのソロモンに誓える?」

 

「もちろんソロモンに誓って」

 

「ならおっけー・・・これで安心できるわね。はぁ良かった後はコカビエルをどうにかできれば良いんだけど」

 

「そればっかりは私達でもどうにでも出来ないわね」

 

 

 

 互いに緊張が解けたのか口調が少しマイルドになり親しみが増した。

 

 それでも本来は敵同士なので必要以上に関わろうとしない。

 

 

 

 ふと、時計を見れば一誠が出て言ってから三十分が経過していた。

 

 何時もならとっくに帰ってきそうな時間であるが、そのような気配はまだ微塵もない。なので一息入れるために立ち上がりキッチンへと向かう。

 

 

 

「二人共紅茶に砂糖かミルクは入れるかしら?」

 

「両方ともお願いします」

 

「ストレートで頼む」

 

 

 

 二人の注文を受け取りメイドとしての本領を発揮する。

 

 水を沸騰直前まで一気に温度を上げる。この間にガラスのポッドに常に湧いてる湯ポッドのお湯を入れ温めておく。

 

 沸騰直前まで至ったらポッドの湯を捨てティースプーンでしっかりと測って投入し、一気にお湯を注ぐ。

 

 すると紅茶の芳しい匂いがキッチンからリビングに居る三人の元へ届く。

 

 そこからは時間勝負、蓋をして二分間蒸らすので適当な摘む焼き菓子を皿に乗せ、ミルクと砂糖を用意テーブルへ運ぶ。

 

 二分が経過しリビングへ運び四人分のティーカップへ淹れる。

 

 

 

「どうぞ召し上がれ」

 

「凄いなこれが悪魔の王なのか」

 

「王よりメイドの方が向いてる気がするわよ」

 

 

 

 二人共凄まじい手際に驚いて純粋に賞賛の声しかかけられない。

 

 その言葉に何故か嬉しそうに笑い一息つく。

 

 話で疲れた身体全体に生気が戻っていく。紅茶はやはり最強の飲みのもだと考えながら小さく何回も口に運ぶ。

 

 三人も同じようで頬が緩んでいる。

 

 

 

 と、和やかな空間が出来つつある中玄関の開閉音がリビングに届きやっと帰宅したとドアを向く。

 

 遅いの一つでも言おうとあの問題児を思い浮かべ待つがドアを開けたのは、全身から汗を吹き出し血が滴る眷属の小猫だった。

 

 

 

「一誠先・・・輩・・・・・・がぁ・・・死んじゃいます!助けてください!!」

 

 

 

 焦燥し疲労が目に見てわかる状態の下僕が告げたのは雷が落ちたような衝撃だった。

 

 手元からカップが落ちカーペットを紅茶が侵食していく。

 

 

 



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最悪の襲来

 

 小猫が慌てて帰宅した理由を語るには時間を少し遡る事になる。

 

 家を出ていつもの慣れ親しんだ地元の商店街へと向かっていた。

 

 

 

 強引に連れてこられ多少不服そうに頬を膨らませていた小猫だが、商店街特有の和気あいあいとした雰囲気、揚げたてのコロッケや惣菜の匂いに尻尾があれば高速で振っている顔になる。

 

 

 

「一誠先輩」

 

「あまり食いすぎるなよ」

 

「・・・ありがとうございます」

 

「もう買ってきたのかよ」

 

 

 

 首根っこを離した途端一陣の風が走り、作りたての食べ歩ける惣菜を紙袋一杯に買い終えていた。

 

 熱々のコロッケを人齧りし「はふはふ」と白い蒸気を口から零しながら美味しそうに頬張っていく。

 

 その光景を見ている周りの一般人達はこぞって小猫の買った商品を買っていく。一種のプロパガンダになっているようだ。

 

 

 

「そんなに食って大丈夫か?」

 

もんはいありはせん(問題ありません)

 

「小猫が言うならそれでいいが・・・おっと、おやっさん牛のバラ八○○g貰えるか」

 

「あいよ!ちょっとまってな!」

 

 

 

 肉のショーウィンドウを凝視して注文した店は駒王町では定番の精肉店だ。

 

 実家で育てている牛、豚を直で卸しているため値段も安く新鮮で美味しい。スーパーよりは多少高いが、それを吟味しても美味さは格段にこの店の方が高く有名だ。

 

 そこの店主のおやっさんは御歳六八でありながら、現役を退く気は無いようで看板店主になりつつある。

 

 

 

「今日は可愛い彼女を連れてるのかい?」

 

「こいつか?いや、彼女じゃ・・・・・・」

 

 

 

 商店街では距離感の近い会話など日常茶飯事で、昨日何食べたからドラマの話、近所のとある人の噂まで数多い。その中で一番返答に困る質問がおやっさんからかけられた。

 

 まず家族がいないのは知れ渡っているので妹は通じない。

 

 では、彼女か?となるがそれにしては身長差がありすぎる。否定をしたとして同棲しているのは事実、彼女では無く家族でも無い。それなのに同棲。どう説明したらいいものかまるで分からない。

 

 

 

「あぁ。うん・・・そうだな彼女だな」

 

「違います。全然ちょっとも違います」

 

「おっ、照れてるようだねぇ。フゥーフゥーお熱いね!!特別にサービスしたるよ」

 

「せんきゅーおやっさん」

 

 

 

 口では勝てないと悟り横っ腹を小刻みに殴り続ける小猫の事を気にもとめず、財布から代金分の金を取り支払って肉を受け取る。

 

 薄い皮のような何かで包まれた二つの肉の塊を確認しグッと親指を突き立てる。

 

 おやっさんもそれに応え親指を突き立てる。

 

 

 

 増えた二人分の調理もしなければいけないので、世間話をし続けるわけにも行かず早々に切り上げ次の目的地──八百屋へと向かう。

 

 

 

 肉屋から数十歩進んで反対側にある店で野菜の品揃えは抜群。さらには無農薬をに拘る徹底ぶりをしているので、身体に安心の食材が立ち並ぶ。

 

 

 

「お!いつものメイドのお姉ちゃんじゃなくて、可愛い彼女連れなんだねぇ今日は」

 

 

 

 店の奥のレジ横の扉から出てきたのは顔中がシワだらけのおばあちゃん店主だ。

 

 商店街が始まった直後から店を開いていたらしく、ここら一帯の顔役すら務める重要な人物である。

 

 

 

「外に出てきて腰は大丈夫なのかよ。前それでぎっくり腰やったろうが」

 

「いつまでも年寄り扱いはやめとくれ。香苗はいつまでたっても──」

 

 

 

 杖を突きながら慎重にあるくおばあちゃんだが、曲がった背を縦に伸ばす行動で腰に激痛が走る。

 

 

 

「あ・・・・・・やっぢもうた」

 

「だからアレだけ動いちゃダメって言ったでしょおばあちゃん!」

 

 

 

 ぎっくり腰の痛みで漏らした声にいち早く反応したのは、暖簾の向こう側から暖簾を割って入ってくる一人の女性だ。

 

 年齢は二五歳と本来ならどこかの会社に勤めるなり、起業するなり明るい年代であるのだが何故かこの店に勤めていた。

 

 大見得切って言えることでは無いがこの場とはとても似合わない。

 

 

 

 腰に巻いた新品のエプロンに、店名が刺繍された半袖の服。

 

 まだ居酒屋に勤めてますと言われた方が納得出来る。

 

 

 

「ごめんね一誠くん、おばあちゃんが迷惑をかけたみたいで」

 

「いや、そうでも無いぜ。こうやって眼福な光景に巡り会えたんだからな役得ぞんだ」

 

「あっはははは!!私にまだそんな事を言ってくれるのは君ぐらいだよ!!そっちの彼女さんと仲良くね」

 

「ちち、ちが」

 

「私はおばあちゃん連れて裏で寝かせてくるから、店内の商品勝手に見てて」

 

 

 

 行くよ。と手馴れた様子でおばあちゃんを担ぎあげ裏へ連れていく。

 

 上腕二頭筋に力を込めればここいらの男では到底叶うことのない領域の筋肉が盛り上がる。それにより六○少しの体重のおばあちゃんであっても簡単に持ち上げられ、楽々と暖簾を潜って裏へ連れて行く。

 

 初めてこの店に訪れた人はこれに驚くが一誠は百は超えるほど見飽きているので気にもとめず居る。

 

 隣で固まる小猫は狐につままれたような顔をしている。

 

 

 

「ふ・・・・・・ん、キャベツにニンジン、キュウリか」

 

 

 

 気を取り直して食材達を見ていく。

 

 どれも煌びやかに輝きその新鮮さを訴えてくる。

 

 

 

「どれも美味しそうですね」

 

「そりゃな、ここいらでは一番品質の高い店だからな。そうそう悪い物に当たる事はねぇよ。何か食いたい物はあるか?」

 

「ピーマン食べたいです」

 

「了解、これで大体献立は決まりつつあるな」

 

 

 

 買うべき物の洗濯を終えたがまだ裏から帰ってこないのでひとまずレジに全て置き、隅にある二つのパイプ椅子を勝手に展開して座る。

 

 一誠は適当に捕まえてきたがこの二人にはそこまで深い仲は無い。

 

 友達の友達と言った具合の微妙な関係が一番表しているだろう。

 

 そのためかいざ、話す番になれば二人は黙ってしまう。

 

 人混みが消え無人の商店のような静けさのある中、ここの店にだけは活気と言うか会話があった。

 

 

 

「一誠先輩この際だから聞きたい事があります」

 

 

 

 先陣を切ったのは何と小猫の方からであった。

 

 

 

「なんでも聞いてくれていいぜ。彼女、趣味、性癖、その他諸々何でも話す所存だ」

 

「でしたら・・・先輩の力についてです。他人と比べ圧倒的に異常で強力な力・・・・・・怖くは無いんですか?」

 

「怖い?怖いね・・・そんな事考える暇もなかったな。記憶を失って途方に暮れながらこのばかげた力だけが、自己の証明になってた。

 

 飯を食うために他社を蹴落す。雨風を凌ぐために他人を殴り飛ばす。昔はそんな荒れた生活をしてたよ。日本の救助隊に見つかって帰国するまではな」

 

 

 

 それは語られることの無かった一誠の昔話だった。

 

 父と母親が元からいない存在として記憶は合理性を求め、他人とは違う秀でた暴力を得た少年。その話を聞く限り彼の起源はここにあったのかもしれない。

 

 

 

 傍若無人なまでの自由主義。

 

 覇道を歩む絶対的自信。

 

 快楽のためにどこまでも求める戦闘狂。

 

 

 

 その全てがこの時の何も無い状況で生き抜いてきた経験から来ている。そう考えれば納得がいくのだ。

 

 

 

「その後は施設の闇を暴いて、転々としてたな。まぁ最後はパッとしないな、他人に救われて尊重をするという事を覚えた」

 

「尊重?・・・尊重してますか?」

 

 

 

 明らかに相応しくない言葉が飛び出た事に首を傾げ不思議そうな顔をする。

 

 

 

「ヤハハハハハ!!俺ほど尊重って言う言葉が似合う奴はいないぜ?確かに小猫にはまだ分からないだろうけどな」

 

 

 

 突然ドアを蹴破ったり、悪魔に喧嘩を売ったり、許可を求めず連れ出す。そこのどこに尊重があるのか一切わからない小猫は問題児だったという事を思い出す。

 

 彼の気まぐれに理屈はないし理由はない。ただただ自分が楽しめるか否かなのだと。

 

 

 

「もしそれが分かるなら私は相当異常だと思うので遠慮します」

 

「お前が拒否しても俺が強引に渡すから安心しろ」

 

「安心できないから言ってるのですが」

 

 

 

 何を言っても無駄だと半ば諦め流れに逆らわず従う事にする。

 

 

 

「てな感じが俺の昔話だな。で、これを聞いて何か納得できたか?無駄話をするために選んだ話題なわけでもないだろ」

 

「む、そこまで分かってたのにわざわざ話してくれたんですね」

 

「人の嫌がることしたくないことをするのが俺の専売特許なんでね、ついつい口が動く」

 

 

 

 小猫が思ったのは両親を失う現場を目の前で目撃し、復讐のために得た力で暴走し失踪した姉。まるで一誠と同じような過去を経験した唯一無二の家族の話だ。

 

 

 

「・・・まだ話しません。もう少ししたら話す勇気も湧くと思います」

 

「ならそん時まで待つとするかなっと・・・いい加減遅いから様子を見るか」

 

 

 

 わざとらしく話の話題を逸らす一誠。

 

 それは彼なりの優しさなのかもしれない。その不器用なまでの優しは確かに小猫の心の氷を溶かしていた。

 

 

 

 表と裏を繋ぐ暖簾を割り顔だけを突っ込んで声を出す。

 

 

 

「おーーーい、いい加減会計をだな」

 

 

 

 無反応。物音一つすら無く小猫の呼吸音がよく目立つ。

 

 

 

(あ?呼吸音?普通そんなの目立つわけがないだろ、車の音やら鳥やらで・・・)

 

 

 

 異常なまでの静寂に疑問を抱きながら耳を澄ます。

 

 するとやはりだ、聞こえるべきはずでない小猫の小さな呼吸音が無音世界の中でよく聞こえてくる。

 

 百歩譲って鳥程度なら確かに居なくてもおかしくはないが、道路に面してるこの商店街で車の音が聞こえないのは明らかにおかしすぎる。

 

 慌てて小猫の横をとおりすぎ店を出て左右を見渡す。

 

 

 

 道端にはカバンやら食べかけのコロッケが落ちていて、人っ子一人誰もいない。

 

 

 

 途端に背後に寒気が走る。

 

 今までに感じた事の無い寒気、その発生源は──

 

 

 

「小猫!!!」

 

「キャッ──」

 

 

 

 椅子に座ってた小猫の手を掴んで後方へ投げ捨てる。

 

 

 

 すると、メキメキと音を立てコンクリートで出来た天井が裂け始め、一誠目掛けて雪崩のように襲いかかる。

 

 

 

「そんなのが俺に効くかよ!!」

 

 

 

 降り注ぐ瓦礫を蹴って殴って破壊して安全を確保していく。

 

 一分に及ぶ崩落の被害も一誠の周りだけ何も無かったかのように綺麗な有様だ。

 

 

 

「いやいや端からそれは知ってたんだけどなぁ、やっぱり登場シーンはハデにいかないとな!」

 

 

 

 ビルを倒壊させた張本人であろう青年の声が頭上から聞こえてくる。

 

 急速に飛来するそれは巨大な白銀の剣が地上に突き刺さり、その上に白髪を揺らす顔なじみが降りた。

 

 

 

「やっほー一誠くん。俺っちのことを覚えてるかな?」

 

「随分と早い再開だったなフリード」

 

 

 

 あの時の神父様──フリード・セルゼンが不敵に笑って剣に跨っていた。

 

 つい先日意気投合し友になれたと思っていたのだが天は問題児に友を作ることは許さなず、不倶戴天の敵としてフリードを差し向けてきた。

 

 そんな彼の襲撃も不敵な笑みを浮かべて迎え撃つ。

 

 



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二人の狂人は出会ってはいけない

 

 白がメインのありふれた司祭平服を着ながら、その上に黒いロングコートを羽織っている。

 

 白と黒のコンストラストにより神父としての異端さが強調されている。

 

 

 

 前にあった時は比較的まともな神父の格好をしていたが、今は神父と言うよりカッコ良さを求めたコスプレイヤーのように感じている。

 

 それを差し引いてもフリードから漏れる気配は尋常ではない。

 

 

 

「随分と変わったな、一体どんな心境の変化があったのかね」

 

「いやーーー、一誠くんに伝えたいけどあまり楽しい話じゃないからメンゴ」

 

 

 

 放つ気配はライザーにすら引けを取らない。

 

 気配だけで見ればライザーより下。だと言うのに額を流れる汗が格下ではないと語っている。

 

 

 

 フリードは軽薄で道化師のようにケタケタと笑い続ける。

 

 

 

「怖い怖い・・・怖いついでにそんな剣捨ててそこの喫茶店とかで話そうぜ。俺は男女平等の平和主義だからな、無益な争いは好まない」

 

「あっははははは!!いーっひひひぃ!」

 

 

 

 途端に腹を抱えて地面へ転げ大爆笑し始める。

 

 先程から明らかに情緒が安定していない。壊れたラジカセのように途切れ途切れに笑い続け、辛うじて落ち着気を取り戻し剣を壁にしながら起き上がる。

 

 

 

「平和主義っっ!!いひゃひゃひゃ!随分と面白い事を言うね。人を殺し回った一誠くんが言うなんてこりゃなんて冗談だろな?」

 

「なんでそれを知ってる」

 

「知ってるぜそりゃ。この街で事を起こすには一番の障害は一誠くんだ。相手の情報を集めるのは上等手段だろ?」

 

 

 

 意図も容易く行ったように言うがそれはありえない。

 

 確かに後からの細工ではあるものも、ソーナが家の名【シトリー】を使って権力により捏造した記録が史実になっている。

 

 政府と深い関係性がある悪魔達との取り引きにミスをする彼らでもない。

 

 言うなれば難攻不落の一夜城だろうか。

 

 人を殺した情報は引き出せないはずだった。

 

 

 

「十や百ならまだ可愛げもあるのによ、九歳児が千人以上殺してるとかマジモンの化け物じゃねぇかよ!!」

 

「一誠・・・先輩・・・・・・」

 

「おっ、そこの悪魔っ子も初耳って顔だな。いいぜだったら教えてやるよこいつが何をしてたのか」

 

 

 

 少し離れた位置で会話の内容を聞いていた小猫は信用しかけていたのに、裏切られるような発言に驚きを隠せない。

 

 もしそれが事実でないならすぐに否定するはずなのに、どこか気まずそうに顔を逸らしている。

 

 

 

「まずは紛争地帯、アソコは血と鉛で溢れかえってる。戦場帰りの大半が頭がイカれる程にな。それに単身乗り込んだんだよガキが・・・普通なら笑い話で済むんだがな、そのガキが訪れた場所は敵味方関係なく皆殺し。血のオアシスをあちこちに作ったから【殺戮の天使】なんて二つ名があったな」

 

 

 

 ネタばらしを楽しむ子供のように告げるフリードは意気揚々と続ける。

 

 

 

「次は日本で話題になった組織だな。これはマジすげーぜ、何せ命乞いをしてきた奴の顔面を一撃殴って殺していくんだからな。骨って砕かれた時ガラスが割れる時みたいな音がするんだぜ?いひゃひゃひゃひゃ!マジ最高!

 

!」

 

 

 

 嘘ですよねと黙っている一誠を見つめる小猫。

 

 しかし、その返答は無言だった。

 

 

 

 とは言え大人しく聞いてるだけに止めるほど大人しい問題児ではない。

 

 

 

「まるで見たような言い方だなフリード」

 

「ビンゴ!!俺っちは確かに一誠くんの過去を見てきたぜ。君が覚えてない親の顔もその死に様も──」

 

「ならこれが駄賃だ受け取れ」

 

 

 

 座っていた瓦礫の欠片をもぎ取り勢いよく投擲した。

 

 会話し煽る事に集中していたフリードには身体で隠してバレないようゆっくり行動していたので気づけない。

 

 

 

 第三宇宙速度で投擲された瓦礫の欠片に気づいた時には既に遅い。

 

 気づく前に回避行動に移ればまだしも見てからでは確実に当たる。剣を抜く間も与えず瓦礫は肉を断つ。

 

 ぐちょぐちゃと肉の捻れきれる気色の悪い音に加え、火薬を積んでいないただの瓦礫なのに激突と同時に小さな爆発を起こす。それは第三宇宙速度で投げられた事による効果であった。

 

 

 

「あがっあが!」

 

「安心しろ捕獲した後に治してやるよ!」

 

 

 

 右腕が引きちぎれ小猫の傍に落下する。

 

 その痛みは想像を絶する物であり意識を保てている方が異常である。

 

 歯を食いしばり引きちぎれ血のたれる二の腕の中間地点を強く圧迫し、出血による意識が落ちること死ぬことにならないように応急的であるが対処する。

 

 だが、その動きにより剣から手を離してしまい一誠の接近を許す。

 

 

 

「砕けな!!!」

 

 

 

 地面を蹴り砕き飛翔。

 

 空中で回転しながら踵を高く上にあげ遠心力を込めた踵落としを繰り出す。

 

 一誠の蹴り出しからの遠心力を加えた一撃は絶大な一撃であり当たればまず間違いなく勝てる。それも悪魔でも天使でも堕天使でもない、人間のフリード相手なら過剰すぎるほどに。

 

 遠くから見ていた小猫の目には何も見えず、ライザー戦の時の一誠と同等以上の力に見える。

 

 

 

「甘ちゃんだね・・・頭を狙えば良いものを!!」

 

 

 

 一誠の踵落としより先に届いたのは腹部に骨を砕きながら侵入するフリードの右腕。

 

 

 

 ついさっき右腕を失い痛みに苦痛の音を上げていたはずなのに、そこには何事も無かったかのように腕がある。

 

 殴られながら飛んだ腕は幻影だったのかと小猫を流しみるが、確実に本物の腕がある。

 

 幻影や厳密に再現された偽物ではない。多くの血肉が弾ける様を見てきた一誠だからこそ断言出来る。あの腕は本物であり、フリードの右にある腕も本物だと。

 

 フリードの足場が悪かった事もあってかそこまでの威力ではないが、前へ加速した分の力を逆に後ろへ飛ぶ力へと変えられ肉屋に突撃。築三〇年の皆に愛された肉やを破壊してしまう。

 

 見慣れた看板を砕いて背もたれのようにもたれ掛かり現状の確認をした。

 

 

 

「肋は・・・折れた・・・・・・左腕もやられたか」

 

 

 

 最初に確認した脚はかすり傷や瓦礫が刺さっているが、再起不能とまではいかない。

 

 しかし、店へ突っ込む時や加速の衝撃を左腕一本に集中させたせいで、関節から本来曲がってはいけない方向に折れ曲がってる。

 

 肋も見事に折れていて口内に血が上がってきている。

 

 

 

『相棒急いで俺を展開しろ!!』

 

(バランス)

 

「ところがぎっちょん!!それはさせないぜ!!掻き毟れ白亜の聖槍(アウスヴァール・ロンゴミニアド)!!」

 

 

 

 つい少し前とは逆のフリードが追撃を仕掛ける番。

 

 完全に完治した右腕と左腕で槍という名の剣を振りかぶり、その能力を発動させる。

 

 幾重にも風が重なり小さな竜巻が周囲の存在そのものを破壊しながらターゲットに向かう。

 

 

 

 赤龍帝の篭手を禁手化(バランス・ブレイク)させる時間はなく、先に迎え撃つことになる。

 

 上半身を後ろに傾け頭を振りその反動で起き上がる。

 

 起き上がりの反動で左腕がさらに捻じれ痛みが全身に駆け巡るがお構い無し、まだ動く右腕で全力で殴る。

 

 

 

「やっぱしそっか!あひゃひゃ!!俺っちの予想通り一誠くんには俺の神器の能力を無効化できない様だね」

 

「なん・・・だと・・・・・・」

 

 

 

 悪魔の魔術。天使の光の槍。悪魔の炎。それら全てを無効化し砕いてきた一誠の拳が、フリードの作りだした竜巻に関しては何故か無効化せず破壊できない。

 

 逆に右腕に無数の傷が生まれ始めダメージを負い始めてる。

 

 

 

「このッ!!」

 

 

 

 無効化出来ず破壊できないとなれば逸らすしかない。

 

 飲み込まれかけてる右腕を犠牲に右方へ進行方向をずらす。

 

 右腕の肘から先がねじ切れ、血肉が爆ぜるが直撃するよりダメージは少ない。

 

 

 

 血はねじ切れた事により流れる事は無かったがこれで戦闘力は半分に低下する。

 

 

 

「一誠先輩!!」

 

「小猫逃げろ・・・庇いきれねぇ」

 

 

 

 いつもの余裕が欠片も存在してない。そもそもここまで追い込まれた一誠を見るのすら小猫にとっては初めてだ。

 

 

 

「おや?そう言えば邪魔な悪魔っ子が居たんだった。よしそんじゃ、悪魔祓いのお仕事をしますかね」

 

 

 

 そう言いながら剣をまた上段で構え振り下ろす。

 

 先程よりも小さく細い。竜巻と言うよりは針のような風が無数に降り注ぐ。

 

 一誠の損傷、突然の戦闘に身体が追いついてない小猫は震えるだけで避ける動作がない。

 

 

 

「さっと逃げろ!!」

 

「え、」

 

 

 

 横から怒声が聞こえた。

 

 腹部に軽い衝撃が走り一気に遥か後方へ飛ばされる。

 

 飛ばされながら遠くなる視界の先に一誠が居て、無数の針に貫通される場面を目撃する。

 

 

 

 

 

 商店街を覆っていた結界を突き抜け、何時もの人通りのある大通りへと飛び出る。

 

 周りの人達は何故かボロボロの状態の少女に怪訝な目線を向け、何人かはケータイで警察にかけたり動画の撮影を行っている。

 

 商店街での体験。それはトラウマレベルで身体を震わす。

 

 

 

 目元からは涙が溢れ右腕は痙攣を続ける。腰を抜かしたのか立ち上がれず、また付近は生暖かくアンモニア臭がする。

 

 一誠に蹴られた腹部には目立った外傷は無く、かなり手加減して逃がすために蹴ったのだと気づく。よく見ればワイシャツには赤い蹴られた後が刻印されていた。

 

 では、一誠先輩はどうなった?その思考に至るまでにそう時間はかからない。

 

 両腕を奪われ何時ものように無効化できる能力でもない。オマケに神父は謎の再生能力を持っている。信じたくはないが一誠が負ける。そう考えてしまう。

 

 

 

(けど、私が行っても何も出来ない・・・あんな化け物と戦えない。怖い怖い)

 

 

 

 今まで討伐してきたはぐれ悪魔や、リアスの眷属になる前の主にすらこんな感情を抱いた事は無い。

 

 純粋な恐怖。負けるはずがない、ずっと勝ち続けるのだと思っていた、理解してた、想像していた、理想としていた。そんなヒーロー(兵藤一誠)が負けかけている相手に、足元にすら及ばない力しかない自分が入った所で足を引っ張るのが精々。そのせいで死ぬことすら考えてしまう。

 

 じゃあこのままここで泣き続けるのか。

 

 何も出来ないと嘆き続けるのか。

 

 子供のように言い訳を連ね続けるのか。

 

 

 

(違う!それじゃ何も変わらない!私は決めたんだ、強くなる・・・一誠先輩みたいに、それで・・・それで)

 

 

 

 まだガクガクと震える身体にムチを打ち立ち上がる。

 

 まるで生まれたての子鹿だ──いや子猫か。

 

 涙を払い除け今できる最前の方法を実行する。

 

 

 

 小猫一人では意味が無い。なら、一人じゃ無ければいい。

 

 協会側の聖剣使い、頼れる副部長、居場所をくれた部長。四人がいる一誠の家に戻って連れていけばなんとかなる。

 

 

 

 家の方角へと必死に駆け出し、周りの目など気にせず人外の秘匿も気にしない。ただ、無心でひたすらに一誠の事を考えながら駆ける。

 

 息も絶え絶えながら最短でたどり着き急いで玄関へ飛び込んだ。

 

 

 

 



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絶望の始まり

 出ていった時に比べ服がボロボロになり、ストレートの綺麗な白髪だったはずの髪の毛はホコリにまみれ濁っている。

 

 いつも付けている猫の髪留めもない。

 

 それでありながら、髪留めを探すより先にここに帰宅したと言うのは余程の一大事なのだろう。

 

 

 

「どういう事、一誠が死ぬ?あの一誠が?」

 

「これが・・・しょ・・・うこです」

 

 

 

 証拠として示したのはワイシャツに不釣り合いの赤い模様。

 

 いつも小猫といるリアスはこれがファッションの一環で付いている模様ではなく、出ていって帰ってくる間に付けられた模様だと気づく。

 

 

 

「・・・小猫には外傷はない、朱乃!!急いで地図を出して」

 

「ええ、今取って来ますわ」

 

 

 

 恐ろしく不安だった。

 

 確かに小猫は時々冗談や嘘をつく、それでも誰かが死ぬなんて言う嘘はつかない。他人を卑下し蔑ろにする嘘はつかないのが彼女なりの信念だ。

 

 

 

 ではこれがホントだとしたら一誠が出血するレベルの敵が居て、倒すのではなく小猫を逃がすことしか出来なかったという事になる。

 

 もしなんの対処もせず暴れているのなら外は大騒ぎになってるはずだが、そうはなっていない。何時もの平和な日常の風景そのまんまだ。

 

 ならば堕天使のように結界を張っている可能性が高い。

 

 杞憂であって欲しいと願うばかりである。

 

 

 

「持ってきたわよリアス」

 

「ありがとう、一応魔法陣の準備をしておいて」

 

 

 

 オカルト研究部にある地図とはまた別の地図だが、内容は全く同じ範囲の探知地図である。

 

 報告のない魔法や結界などを探知し、異常な魔力や先頭にも反応する万能地図。はぐれ悪魔が多数現れるこの街においては必須のアイテムである。

 

 それを起動させるため円筒状に丸められていた紙を広げ、端から魔力を流す。

 

 一見無印の普通の紙に見るが魔力が流れた場所から徐々に駒王町を上から見た見取り図が浮かび上がっていく。

 

 

 

「そんな・・・朱乃商店街前に転移魔法陣の用意をして」

 

「分かりましたわ」

 

「貴方達も来てくれるわね」

 

「お茶の例は払おう。しかし、そんなに慌てる事なのか?」

 

「そうねかなりまずい。今この町に張られている結界は数ヶ月前の人払い結界──堕天使の使うそれと全く同じ反応。それでそうね・・・一誠の実力で言えば冥界だと魔王様以上、天界で言えば熾天使以上とでも言った方が分かるかしら」

 

「私で無ければ天界への侮蔑と受け取られるぞ」

 

 

 

 ゼノヴィアとイリナは聞いてませんと言うポーズを取りながら今聞いた事実を理解する。

 

 

 

「だがそれは確かにまずいな。コカビエルは確かに強いがそれでも熾天使の方々に比べれば弱い。だがあの方々以上の実力を持つ一誠がやられた・・・コカビエル陣営にはそれ程までの実力持ちがいるか武器がある事になる」

 

「それますます私達だけじゃ不可能じゃない」

 

「この際自爆特攻も覚悟するか」

 

 

 

 何やら戦士二人が不穏な話をし始めているが、その間に朱乃の魔法陣設定が完了し一般的な木の床に不相応な奇天烈な文様が浮かぶ。

 

 

 

 戦士二人と部長と副部長は魔法陣に乗り今すぐにでも転移できる。

 

 

 

「小猫あなたはどうするの?」

 

「私は・・・」

 

「強制じゃないわ。それこそ一誠が負けるような相手に私達が行ったところで勝てる確証はない。救出第一で考えてるけどそれ相応の危険はあるの」

 

 

 

 その危険から逃げてきたばかりの小猫にまたそこに戻れと命令するほどリアスは冷酷ではない。

 

 一誠の救出には確実に頭数が必要で、一人居ないのと居るのでは生存率や救出率が大幅に変動する。本心で言えば来て欲しい。

 

 されど小猫は恐怖に折れている。

 

 今までの温かった戦闘とは違い血を血で洗う戦場。

 

 戦場へ赴き人を殺して帰国する軍隊の隊員の多くは心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、二度と戦場へは戻れないと聞く。軽く見て発症したと断言出来る訳では無いが、この先トラウマで戦えなくなるかもしれない。

 

 だったら、この安全な場所に残らせゆっくりしてもらうのが得策ではあるのだが、

 

 

 

「行きます行かせてください」

 

「いいのね。貴方にとっては最悪の場所かもしれないわよ」

 

「あの時私は蹴られるまで何もできませんでした。逃げる事も戦う事も・・・けど、もうそんな私にはなりたくありません。自分で考えて行きたいと思いました、だからお願いします連れていってください」

 

 

 

 口では大見得を切っているが、身体の節々は震えていて恐怖が抜けていないのがわかる。

 

 それでも彼女は彼女なりに結論を出した。

 

 恐怖の現況に打ち勝つためには今行かねば後悔すると本能的に察知しているのかもしれない。

 

 

 

「・・・分かったわ。正し無理はしないこと、私が見て無理だと判断したら強制的に戻す」

 

「はいありがとうございます」

 

「私の可愛い眷属の珍しい我儘よ答えるのが王の務めよ」

 

 

 

 これで救出作戦にあたれる人数は五人。

 

 戦力的に今後を考えれば自身の命を投げ打ってでも一誠は助けると一人リアスは覚悟を決め、転移魔法陣は目的地の場所へと五人を飛ばした。

 

 

 

 

 

 商店街には薄い結界が張られていて【結界】を見ようとしなければ見えない程隠密性が高い。そのせいもあってか周りの一般人は不自然に思わず、無意識に避けるようにして歩いていた。

 

 五人は息を飲んで中に入る。

 

 戦闘を歩くリアスは第一歩目で硬い何かを踏む。

 

 力を込めても砕けず何なのかと思い結界に頭を突っ込んで確認すると、分厚いコンクリートの破片で周りの建物の多くが倒壊しているのが目に入る。

 

 

 

「なにこれ・・・」

 

「これは酷いな。大型台風でも通り過ぎたようだな」

 

「結界で人がいないのが良かったって事ね」

 

 

 

 もし結界がなくこの有様になっていれば商店街の住民は揃って巻き添えで死亡していただろう。

 

 人払いの結界を張って戦ってくれたと感謝をすべきかもしれない。

 

 

 

 そのような事も考えながら辺りを見渡す。

 

 一誠が敵とやりあっているなら何かしらの爆音や衝撃波が起こるはずなのだが、この場にてはそのような物は感知できない。

 

 

 

「一誠ーーーーーーー!!」

 

 

 

 大きな声を出して名前を呼んでみるも返事は何も返ってこない。

 

 もしかして結界から外に出て移動した?はたまた決着が着いたから帰宅した?返事が無いなりの理由を考え始めた時、瓦礫の向こう側から瓦礫を踏んで歩む音が聞こえる。

 

 

 

「はぁ・・・一誠居たのなら返事の一つ」

 

「おや?これはこれは悪魔様御一行に、教会の戦士達じゃないですか」

 

「え」

 

 

 

 待望した男は表れず代わりに現れたのは土埃を払うようにして笑っている軽薄な男だ。

 

 右腕の肩から先の袖を失い、黒のコートは腰から下の部分を紛失している。それがファッションだと言い張ればそれ迄だが、この戦場においてファッションなどでは無いのは明白。

 

 

 

「フリード・セルゼン貴様がそちら側にいたのか!」

 

「そうだぜ後輩ちゃん達」

 

「君に後輩と言われると虫唾が走るよ」

 

 

 

 布を取り捨て隠していた青い大剣を構える。

 

 両手でしっかりと持ち最大の一撃が放てるように構え、相方にアイコンタクトを一つ取り警戒を強める。

 

 

 

「貴方知り合いなの?」

 

「いや直接は知らない。まぁ簡単に言えば私達戦士には世代があってね、彼は薬物や代償による強さを得た第一世代。私達は純粋な修練で力を得た第二世代と教わってる」

 

 

 

 戦争時は早急に戦力を揃えなければいけないため薬物などの簡単に力を得られるアイテムを使う物が多かった。教会としては止めさせたいところだが、戦力なくしては戦争は乗り切れないと見て見ぬふりをしていた。

 

 しかし、戦争も終わりはぐれ悪魔などの平和から溢れた魑魅魍魎を狩るには、第一世代はあまりにも凶悪すぎる。

 

 手足を引きちぎり、目の前で仲間を殺し、嬲るように殺し、欲を満たすためだけに弄り殺す。

 

 教会の戦士と言うよりは殺戮者となっていた。

 

 そのため早急に第一世代は封印。指名手配とし教会の支援を打ち切り安全で健全な信者を戦士にする第二世代の運用に切り替えた。

 

 これが教会にて戦士達に教えていた事だ。

 

 

 

「あひゃひゃひゃ!!マジかよ、教会もそこまで腐ってんのか!!確かに俺っちを嵌めようとしたりクズだとは思ってたが、ここまでとはな!それを盲目的に信じてるお前ら哀れすぎて抱きしめたくなるぜ」

 

 

 

 腹を抱えた曲げられた真実を語る彼女らを罵倒する。

 

 

 

「なんだと!貴様どこまで侮辱すれば・・・」

 

「いいぜどうせ落ちてくる(・・・・・)まで暇だろうし教えてやるよ」

 

 

 

 フリードは暇潰しだと吐き捨てながら瓦礫の上に腰を下ろして昔を思い出しながら話し始める。

 

 

 

「第一世代、薬物や代償によって力を得たのは事実だ。昔は俺っちも薬物で痛覚や恐怖を消して殺し回ってたからな。けど、封印された理由は別だ。結論で言えば第一世代は強すぎた、戦士を支配すべき教会の大司祭や枢機卿よりも力があった。中に崇拝すべき天使よりな」

 

 

 

 足をパタパタ動かしながら楽しそうに語る。

 

 それを聞きながらゼノヴィアとイリナ少しずつ歩み寄っている。この会話の隙をつこうと動いているのだが、語っている最中でも一切隙がないので攻めきれずにいる。

 

 

 

 

 

「自分達より強い部隊なんか要らない、要は下克上を恐れた上層部が自分の保全のために無くしたのさ。勿論俺っち達は即刻処刑。教会のためにと頑張ってきた俺っち達を簡単に殺していきやがった。

 

 多分第一世代は殆ど残ってねぇだろうな、多く見積って三人か四人。多くの組織に紛れてると思うぜ。俺っちが堕天使側に組みした時は誰も見なかったからな」

 

「それが真実だったとしても、堕落して堕ちた天使達の仲間であるなら私たちの敵に変わりない」

 

「ゼノヴィアに賛成。私にとって真実は関係ないの、主が私たちを救ってくれた。だからその恩返しをしてるだけ!!」

 

「所詮相容れないって訳か・・・まぁなれるとは思っちゃいなかったけどな」

 

 

 

 教会から厚く保護されていた第二世代と差別され皆殺しにされた第一世代では元から違う。

 

 人形のように上からの命令を聞くだけの彼女達を哀れだと感じたから真実を教えたが、善だと崇拝してる時点で聞き入れるわけがなかった。

 

 

 

「それで一誠は何処なの!」

 

「ん、そろそろ落ちてくると思うぜ。ほら──」

 

 

 

 指で指し示した通り何かが高速で落下する。

 

 地面へと着地すると肉が弾け血が飛び散った。

 

 位置的には丁度小猫の傍で、白い髪は赤く染まり涙のように掛かった血が目元から垂れる。

 

 

 

 その何かを先に目にしたのはもちろん真横に落ち被害を被った──

 

 

 

「一誠先輩・・・いや、いやぁぁぁぁぁァァ!!」

 

「行くぞ!」

 

「あ・・・え」

 

 

 

 この中で一番思い入れの少ないゼノヴィアだからこそ最初に脚を踏み出すことができた。

 

 小猫はその場に崩れ落ち奇跡的に一誠という体を保っている肉塊に顔を埋める。

 

 脚は右が引きちぎれ左は新たに二個関節を作り複雑に折れ曲がってる。身体の至る所に穴が開き血がたれ続け、口から呼吸の音が聞こえない。

 

 その様は数々のピンチを救ってくれ負けないと信じていた三人の心を砕き、大好きな幼馴染として死なせないと誓った少女を壊す。

 

 

 

「もう少し遊べると思ったんだけど一誠くんは意外と脆かったな・・・おっと」

 

「このッッ!!良くも私の親友を殺ってくれたな!!!」

 

 

 

 確かに付き合いは数分しかない。

 

 それでも心が通じ合い運命共同体のように共鳴しあった親友が死に体にまでさせられて、黙っている程薄情なゼノヴィアではない。

 

 戦士として一番に捨てた感情ではあるがこの場にてはその感情の一つ【憤怒】が沸き起こっている。

 

 瓦礫の上でケラケラと余裕の笑いをしている神父の顔面目掛け、大剣を横薙ぎするが意図も容易く頭を下げる事で回避する。

 

 頭を下げたままの状態で防御ができないゼノヴィア腹に槍の柄を叩きつけ、その場に崩れさせる。

 

 

 

「あがッ」

 

「弱いな弱い。そんなんでよく戦士が務まるな、たく呆れるぜ」

 

 

 

 右手で蹲るゼノヴィアの首を絞めながら持ち上げ苦しむ様を楽しむ。

 

 必死に離させようと手を殴るがビクともしない。

 

 女離れした怪力のゼノヴィアであっても殺すために鍛えに鍛えてきたフリードには及ばない。

 

 

 

「ゼノヴィアを離しなさい!!」

 

 

 

 一誠の衝撃からゼノヴィアの悲鳴により立ち上がりすぐに背後に回ってイリナは不意打ちを仕掛ける。

 

 

 

「はぁ・・・不意打ちの時は声を出すなって教わらないのかよ」

 

 

 

 呆れながらレイピアのような形に変化した聖剣の突きを身体を少しだけ捻り躱し、イリナの首を空いてる方の手で鷲掴みにする。

 

 

 

「がっぁ」

 

「うわっこれが教会の戦士様たちですか!ウケるーー!!」

 

 

 

 二人を締める手にさらに力を加えながらいい事を思いついたと耳元に口を近づける。

 

 

 

「さっきの話だけど確かにさ第一世代の戦力は魅力的だぜ?けど、聖書の神がそんな薬物とかを認めると思うか?いいや思わないよな。

 

 神を主と慕うお前達なら分かるだろ。そんなわけはない。試練は与えても不幸は与えない、それが神のはずだからな。じゃあなんで第一世代は存在したのか・・・・・・神が死んでていないからだ」

 

 

 

 その言葉を聞いた二人の顔色が一気に変わる。

 

 

 

「あ、ありえ・・・なぁい」

 

「否定するのは構わないけど、第一世代が存在できた理由は?お前らの主と崇める神はそこまで残酷な神なのか?人の感情をねじまげ兵器とし最後は捨てる。そこのどこに救いがある、ほら言ってみろよ。あっいけねぇ首絞めてたんだ。じゃあ、これで喋れるなァァ!」

 

 

 

 二人は首を絞められた時に手から聖剣を滑り落とし、かなり身軽な状態だ。その二人を左右に少しだけ振って勢いをつけてから瓦礫群へと投げつける。

 

 神が本当はいないのではと僅かに疑問を覚えた時点で、行動理念が消え抜け殻のように抵抗力は消えた。

 

 二人は簡単に飛んでいき瓦礫群へ頭から飛び込んで全身を瓦礫まみれにしていく。

 

 

 

「ちなみに答えは聞いてないから答えなくていいぜ。あひゃひゃひゃ!!」

 

 

 

 足元に転がる二本の聖剣を持ち上げここに来た本来の目標を達成するためとどめは刺さず帰還を優先する。

 

 剣を持ったフリードを誰も止めるために動かないので何も使わずに歩いて、仮拠点として使っているあの廃教会へと歩く。

 

 

 

 三人の悪魔は絶望に涙を流し、二人の戦士は生きる目的を奪われた。

 

 

 

 



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問題児のいない日

なんかうまく書けないなぁもっとうまくかける才能が欲しい


 

 

 兵藤一誠が瀕死の重傷を負ってから二時間後。

 

 町の異変に気づいたソーナ達により救助され一誠の家にて集合している。

 

 

 

「リアス何があったの」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 あの泣き崩れた場所から強引に引きづって連れてきたが一向に喋ろうとしない。

 

 教会の戦士二人は応急手当程度の怪我で済んでいたが、四肢の骨が砕け血を大量に流した一誠は人間の医者に見せれば死亡と片付けられる重症だ。

 

 幸いな事に堕天使侵入以来、両家に【フェニックスの涙】が支給されていたのでその二つを使い傷を癒した。

 

 今では落ち着いた呼吸を取り戻し自室のベットに横になっているが、重症だった事もあってか意識が目覚めない。

 

 なのであの場で何があってどうしてあんなことになったのか聞きたいのだが、リアスは黙り続けた。

 

 

 

「リアス・・・・・・ふざけないで!なんで、なんでこんな事になったのよ!!」

 

 

 

 反応のない彼女に痺れを切らして激怒し怒鳴り声を上げ、胸ぐらを掴んで立ち上がる。

 

 いつもの彼女らしからぬ行動にソーナの眷属達は困惑の表情を浮かべる。

 

 このような展開になっても副生徒会長の真羅椿姫が仲裁に入るのだが、兵士(ポーン)の匙を連れ街に起きた異変について調べている。

 

 

 

「こんな事にならないために・・・もう二度と一誠が、傷つかないようにしたかったのに、なんで・・・答えなさいリアス!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「このッッ!!」

 

 

 

 パチ────ン!!

 

 

 

 手を開いて頬を強打する。殴られたリアスの頬には赤い椛が浮かび上がる。

 

 丁度と言えばいいのかこのタイミングで椿と匙が帰還する。

 

 

 

「何をやっているのソーナ!!」

 

「放しなさい椿!私はまだ」

 

「匙くん取り押さえるのを手伝って」

 

「え、ですが」

 

「早く!!」

 

 

 

 もう一発殴りそうなソーナを早急に取り押さえるがじゃじゃ馬のように暴れてくれるので、椿は弾かれそうになり近くにいた匙に救援を求める。話の流れについていけない匙はとりあえずは椿の指示に従い取り押さえるのに協力する。

 

 それから数十分は落ち着かずこの問答が続く事になる。

 

 

 

 ようやく冷静さを取り戻しソーナはソファーに腰を下ろして頭を抱える。

 

 

 

「ごめんさいどうかしてたわ」

 

「あの勢いだとリアス様を殺すところでしたよ。確かにソーナが怒る理由も分かりますが、その分彼女も傷ついているのです」

 

「そうよね・・・今こそ落ち着かないと」

 

 

 

 深い深呼吸をして気持ちを切り替える。

 

 手を離されたリアスはまたソファーに自然落下し俯いたまま呼吸だけを行う。

 

 

 

「それで結界の詳細ですが、堕天使がよく使う人払いの物に近いようです。しかし、仕組みは別物でした」

 

「別物?確かにここまで巨大な結界はそうそう見れないどころか、維持するのすら無理に近いと思うのだけれど」

 

「えぇ、アレを体験するまではそうでした。結界から外に出ようと通ってみても、使い魔を通らせようとしても、紙だけを通そうとしてみても・・・出来うる限りの通信手段を試しましたがどれも反応なし。完全に駒王町に隔離され出られません」

 

 

 

 商店街の出来事から数分も経たずに駒王町をぐるりと囲む結界が出現した。

 

 町の管理者の補佐として生徒会を運営し町の安全の維持に関わるソーナはそれに気づくとリアスに連絡をとった。何度通信を行っても反応がないので一大事と判断し、限定的に管理者代理として事の収集に当たる。

 

 その一つが結界の詳細。これは椿と匙の二人に任せる。

 

 

 

 二つ目がどれ程の被害があったのか。

 

 これは結界内に誰がどれだけ居るのか怪我人の有無はなど町の維持をするために必要な事だ。これには眷属で当たるより使い魔による空からの情報を元にすることで解決するため、今現在も駒王町の上空を飛び交っている。

 

 あと三十分もすれば被害が判明するだろう。

 

 焦って行動して無駄な二次災害を出すのは得策でない。そのため使い魔からの情報が来るまでは待機する他ない。

 

 

 

 三つ目が原因。

 

 これは堕天使の幹部コカビエルとその一味が関わっているのは判明しているのだが、結界が張られた直後に駒王学園にて謎の術式が起動し始め何かが行われている。こちらは──

 

 

 

「すまない確認に手間を取った」

 

「構いません。怪我人の貴方に無理やり調べさせたのですから」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

 

 

 まともな医療器具や治療術がないので全身のかすり傷に包帯を巻きながら二階から一階へと下ってくる。

 

 左目の近くの前髪を全て上へ包帯で巻き上げ顔の横を何周かさせつつゼノヴィアは判明した詳細を説明する。

 

 

 

「あの術式だが根幹は錬金術だ。それも至って簡単な結合のな」

 

「それなら私にも分かるはずですが、アレはそんな簡単な物では無いと感じましたが?」

 

「だろうね。下手に知識があればあの複雑と言うより適当な術式が意味不明な物に見えてしまうさ。錬金術に魔法、魔術、ルーン、陰陽術、上げればキリがない。はっきり言ってデタラメのチグハグで起動してる理由はさっぱり。それでも効果までなら分かる。

 

 聖剣の結合だな。フリードがあの場にて私達の命でなく聖剣の回収を優先した。それにより聖剣は六本手元にある事になる。最後の一本は生憎と行方不明で所在は掴めないとなれば、六本で完成へ漕ぎ着ける方が優先だろ」

 

 

 

 ゼノヴィアが告げたのは想定する上で最悪な情報だった。

 

 聖剣が完成すれば悪魔であるソーナやリアス達は簡単に屠られる。それを防ぐための戦力も最大戦力の一誠はダウンな上に、リアス達超火力も動けそうにない。

 

 ソーナが自分達だけで現状を変えられるほど楽観しするはずもない。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・完成までの時間はどれぐらい?」

 

「今日の日付が変わる時と同じだ」

 

「あと四時間程度」

 

 

 

 残された時間はあと僅かでありながら準備は不完全ときた。今すぐ投げ出したいそんな気持ちになる。

 

 

 

「この後は」

 

「もちろんイリナと私は戦う。あいつに事の真意を聞かねばならないからね」

 

「そう、なら二時間後またここに来てくれる?作戦を立てる事になるから」

 

「了解した。流石に休ませてもらうよ」

 

 

 

 ボロボロの肉体を無理やり動かしまた二階へ戻っていく。

 

 この場では最も脆弱で短い寿命の人間が無理をする姿はどこか可哀想にも見えた。

 

 

 

 

 

 それから数刻後使い魔から回ってきた駒王町の惨状について考えを纏めている。

 

 約二万四○○○人程が集合し町と化した駒王町は、その三分の一程度が人外でさらもう三分の一がそのような裏事情に精通している人物達。そこから残った約七○○○人程がなんら関係ない一般人。

 

 血なまぐさい裏の事情を知らず、安全に安心して暮らしている人達だ。

 

 そのため日常的に魔法や魔術などで不安を煽るような行為をしないよう禁止事項とし、悪魔などの人外が関わる事自体隠匿されるべき物となっている。

 

 現に壊れた公園などはガス管の爆発と発表し早急に修理している。

 

 

 

 だが、攻めてくる言わば侵略者はそんな事お構い無しである。

 

 残されたのは約一万人。

 

 一般人、人外、裏に精通している人。この全ての合計である。

 

 結界と言う一般人からしたらフィクションのような自体に阿鼻叫喚となっていた。

 

 泣き叫び天に許しを乞う。家族全員で手を繋いで「大丈夫」と言い合う。結界に体当たりをして壊そうとする。

 

 駒王町の公民館に避難の指示を飛ばし避難させてはいるが、後の状況説明などは正に地獄のような事になるだろう。

 

 

 

「──避難誘導に人員を割いて護衛にも・・・・・・戦力がまるでない」

 

 

 

 リアスが動かないせいで全ての総指揮を取るソーナは頭を悩ませながら今後の事を考える。

 

 敵の堕天使は聖書に名を連ねる幹部コカビエル。並の戦力では足らない。

 

 

 

「コカビエルならば後でくる援軍で余裕だ」

 

「それはホント?」

 

「勿論だとも・・・そうだなイリナと私が束になっても勝てない。直に手合わせをしてないから分からないが、一誠と同程度の戦力だとでも思ってくれ」

 

「それは喜ばしいわね」

 

 

 

 政治の荒波に揉まれていたソーナだから分かるが、相手(ゼノヴィア)が嘘をついていない。

 

 あの戦闘力を直接見てないから言えたのかとも思えたが、教会の戦士として名を轟かせる彼女が強さを見間違えるとは思えなかった。

 

 今はその言葉に納得するとして問題は、

 

 

 

「その援軍は何時来れるの?」

 

「そればっかしはな・・・スマホが苦手らしく持ち歩いていないからこちらから連絡は取れない。決戦が終わった後に来る可能性もある」

 

「・・・だったら私達全員死んでるのよ。となると頭数に入れて計算するのは危険か」

 

 

 

 貴重な強力な戦力ではあるが合流出来ないのであれば無いも同然。

 

 無い戦力を含めて勝とうなどと言えるほど甘い相手ではない。

 

 

 

「椿は町民達の安全を守る事、現場の指揮権を譲渡する」

 

「はいわかりました」

 

「匙はこっちで、ゼノヴィアさんにイリナさん・・・そして」

 

「私ですわね」

 

 

 

 唯一戦力として動けるのは姫島朱乃ただ一人であった。

 

 

 

「言うまでもないけど戦場に行けば守る事なんてできない。彼の事が心配でなんて言い訳は聞かないけどいいのね」

 

「えぇ、私は二人に較べて軽傷ですわ。確かにリアスや小猫ちゃんと同じく好きだと思ってます。けど、大切な大好きな人が死ぬ気持ち(・・・)は既に味わってますので、切り替える事は簡単ですわ」

 

 

 

 ──それは切替ではなく壊れている。

 

 そんな返ししかできそうにないので言葉を飲み込む。

 

 

 

「これでも足りない・・・やはりリアスに来てもらいましょう」

 

「だがあんな状態だぞ?」

 

「うーーんあまり気乗りはしないわね。あそこまで落ち込んでいる人?悪魔?を戦いに駆り出すなんて」

 

「ですが四の五の言えるほど無駄な戦力はありません・・・私達は先に向かいます。できれば連れてきてください」

 

 

 

 リアスの傍に最も居て、最初の眷属の姫島朱乃にあとの事を任せ他のメンバー四人は立ち上がり家から出ていく。

 

 

 

 二人残され朱乃はゆっくりとリアスの前に向かう。

 

 

 

 リアスは相変わらずの無反応だ。

 

 親友のソーナが何をしても目覚めなかったのにただの友人で眷属の私に何が出来るのだろうかと、疑問視しながらリアスを見つめ、

 

 

 

「こんな事で諦めるの?一誠くんに問い詰められた時言いましたわよね、サーゼクス様よりも強くなると・・・あの時の意気込みは嘘だったの?」

 

 

 

 ──・・・・・・

 

 

 

「・・・何か言いなさい!!」

 

 

 

 無反応の彼女の頬を叩く。

 

 当たり前だが防御の姿勢など無く簡単に頭は横を向き、頬には椛の形で赤く膨れる。

 

 そこから胸ぐらを掴んで椅子からすくい上げ視線を無理やり合わせる。

 

 

 

「私の知ってるリアスはどんなピンチでも諦めない。皆を助けると息巻いて無茶をする。夢を必死に追いかけて夢中になって死ぬ気でもがく。そんな貴方に私達は救われた。

 

 小猫ちゃんは姉に捨てられ凶悪な力がある。

 

 祐斗くんは教会に実験体と弄られ家族を親友を失った。

 

 ギャスパーくんはハーフと蔑まれ種族から勘当された。

 

 私は母を失い住むべき家を失った。

 

 

 

 皆絶望し生きることさえ諦めた。けどそれを救い上げたのがリアス・・・貴方なのよ。

 

 生きる希望を与え、夢を見せ、抗う力をくれた。そんな貴方がこんな事でどうするの!!」

 

 

 

 心から沸きあがる言葉は全て本心だ。

 

 絶望の縁から救われまともに今を生きる。その道を示したのリアス本人。

 

 もしリアスが居なければ全員が自殺や悪人になる道しか無かっただろう。そんな世の中のはぐれ者を集めたのがリアス眷属。

 

 サーゼクスとその力を比べられ卑下されてきたリアスだからこそ、弱者に寄り添い支え一緒に歩む選択をできた。それがリアスの自己満足であっても救われたのは事実なのだ。

 

 その魂の訴えは儚くも届かない。

 

 

 

「そう・・・なら仕方ないわね。私は行くわよ、これ以上待たせられない」

 

 

 

 ここまでしてダメならもう無理だと諦め手を離した。

 

 ソファーに自然に落下し数度バウンドする。

 

 

 

 少し悲しげな表情を見せてから横を通って背後に周り玄関へ向かう扉へ手を伸ばす。

 

 

 

「なんで行けるの」

 

 

 

 背後から待ち望んだ主の声が聞こえる。

 

 

 

「あの一誠ですら負けた・・・それなのになんで」

 

「昔の貴方ならそんな事考えなかったはずよ。勝ち負けを考えるのでなく、動くか動けないかそれが重要だったわ」

 

「それでもよ!この異変にお兄様が気づかないわけがない!時間が経てば助かる・・・なのに・・・なんで・・・なんで・・・・・・」

 

 

 

 朱乃の問はリアスの止まった心を動かし始めた。

 

 親友でもなく、友人でもなく、知人でもない。救われた眷属だからこそできたことだ。

 

 

 

 動き始めたリアスの方を向き直り首を横に振る。

 

 

 

「本当は気づいてるわ」

 

「・・・話は聞いてた。無実の町民達の多くが残され命の危険があるって・・・分かってる。私は駒王町の支配者として町民を守らなきゃ行けない。そんな事分かってるの」

 

「リアス背負いすぎなのよ・・・私は貴方の眷属──だから重荷を半分私が背負う」

 

 

 

 今にも崩れそうなリアスを抱きしめ優しく耳元で囁く。

 

 支配者としてしっかりせねば、主として見本となるようにしなければ──そんな重荷が度重なるプレッシャーとなってリアスを押し潰そうとしていた。

 

 その重荷の半分を朱乃は受け持つ。

 

 果てしない重圧。弱みを見せれば飲み込まれる暗黒。一度背負えば逃げる事など簡単にできない。それを理解しながら笑って背負った。

 

 

 

 ──もっと頼れば良かったんだ

 

 

 

 初めて軽くなった重荷の事を考えながら眷属の四人の大切さについて気づいた。

 

 自然と目から水が流れる。

 

 感謝なのか解放の嬉しさなのか、はたまた両方なのか。本人でも分からないが一つだけ、前に進むべき足は軽くなった事には気づく。

 

 



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二人の敗北者

ついに新年ですね。
来年度もよろしくお願いいたします!!


 

 深い微睡みの世界へと沈んでいく。

 

 何度も何度も水に似た薄い膜を破る事でより深く沈んでいき、朧気だった意識も鮮明になりつつある。

 

 まず動いたのは頭。人間が最も必要とし身体を動かすための司令塔の役割も担う重要な部分。だからこそか、この微睡みの世界でいの一番に動き始めたのは・・・

 

(ここは・・・ダメだ記憶が混乱してやがる。覚えてる中で一番最近のは、小猫と買い物にでかけて)

 

 何が起こり何があったのか。それを探るため動き始めた頭をフル回転させ記憶の紐を解く。

 

 拙く細い糸を辿るように慎重に行う。

 

 その間にも他の部分は徐々に動き出すようになり、心が宿るされる心臓、肺、諸々の内蔵、足、手。全てが動き出しげ何があったのか思い出した頃には微睡みの最下層──精神世界の深層へとたどり着いた。

 

 

 

(ここは俺の精神世界か、でもなんでだ。何故(・・)ここにきた)

 

 

 

 初めて神器(セイクリッド・ギア)に覚醒しその場で禁手化(バランス・ブレイカー)へと至った際に訪れた己の世界に酷似していた。

 

 辺りに明かりはなく広がるのは闇。

 

 人を殺す事に抵抗のなかったあの頃の荒んだ心の現れとでも呼ぶべきほど恐ろしく悲しい世界。そんな世界に二度と来ないようにと、居候(ドライグ)に封印を頼んだはずだった。

 

 

 

「で、精神世界って事はいんだろ?出てこいよ」

 

 

 

 一誠の精神世界であるはずの空間が大きく揺れる。まるで大地震が起こり建物が揺れるかのように。

 

 その音の正体は直ぐに闇から現れた。

 

 凹凸が激しく全ての先端が棘のように尖り、隆々とした人ではなく四足歩行の生き物で──丸太以上に膨らんだ足が地を掴む。

 

 腰の尾骨辺りからは二M以上はあろうかと言う細長い尾が備わっていて、背中に付いた空を赤く染めてしまう羽と見合えば御伽噺に登場し、世界を何度も破壊へと導く悪役としての側面の大きい龍に近いと感じる。

 

 首だけでも人を巻き殺せる長さでありながら、蜥蜴に近いながらも鱗の厚さや強度、見た目の恐怖度などは桁違いに高く、骨すら容易く砕く凶器の牙の間から漏れる火の粉は火龍であると証明している。

 

 

 

 加の龍こそが神器(セイクリッド・ギア)に封印された悪逆非道の暴龍──赤龍帝【ドライグ・ア・ゴッホ】であった。

 

 

 

 仰々しい生身のドライグを久々に見た感想としては、昔見た時ほどの恐怖感は無いなと楽観的なものだ。

 

 

 

『訳が分からん!一体何が起こった・・・強制的に外側からこじ開けられたと思ったら、相棒が目の前にいて俺の制御を失うとは』

 

「おーけ、おーけ。これがお前の仕組んだ事じゃないのは理解した。で、気になったのが二つ、外側から開けられた?ってどういう事だ」

 

 

 

 獰猛な眼を大きく開け辺りを見渡しながら一番この世界に詳しい龍は困惑していた。

 

 

 

『そのままの意味だ。本来この世界は相棒の言った通り封印して、神器の方に引きこもってたんだがあの白髪の男にやられた直後に強制的に封印を解除された。そのうえ神器から俺だけの魂が引き出され、相棒も無理やり招待された・・・こんな事長い時を神器として過ごした俺ですらさっぱりだ』

 

「て事はその何者かによって強制的に呼び出されて、終いにはこの世界の支配権を奪われたと?俺の精神世界なのにか」

 

『さっきから何度も目覚めようと働きかけてるが無理だ。第三者に完全に支配権を奪われた・・・この俺からですら奪うとは人や蝙蝠などの低俗な人外ではありえん。高位の存在が関わっているとしか』

 

 

 

 ドライグですらてんやわんやの状態でまともな情報が引き出せるわけが無いと早急に話を聞くのをやめ、今何が起こっているのか再度整理を始める。

 

 精神世界に囚われた。ドライグと自身の記憶を頼りにすればフリード・セルゼンが関わっていると見るのが普通だろうが、ドライグも言ったように人程度が到底他人の精神世界を支配するなんて技を駆使できるはずがない。

 

 それに、フリードの不死身じみた再生能力と神器の能力を破壊できなかった説明は大体判明してるので、そこに新たに謎の力が加わるとは考えられない。

 

 

 

「待てよ・・・一人だけ心当たりがある。ドライグ以上の高位の存在であり、俺の精神世界を支配するに足る力を持ってるやつが」

 

『本当か相棒!!』

 

「あぁ、ゴーストいや確かあの女は自分を先導者(メサイア)とか言ったか」

 

 

 

 一誠が人生を謳歌した中で一番謎であり莫大な力を持っていると思っているのが彼女であった。

 

 顔は見えなかったが全身黒のスーツでかため、シルクハットの帽子とどこかゆっくりとした喋りの女。

 

 兵藤一誠がここまで人外ばりの力を手に入れる”原典”を与え、両親の記憶を奪い去った最も嫌悪を抱く女でもある。

 

 と、第三者の介入及びその犯人の特定が終わったところで風の一つすら起こらない、精神世界にて髪を捲揚げる風が後方から発生する。

 

 風の発生地の方に向き直るとそこには巨大な扉があった。

 

 ドライグが潜ってもなんら問題ないサイズの超巨大な扉で、材質としては研磨された大理石であると判断できる。

 

 扉の中央、二枚の板がぶつかり合う部分に小さく抉り抜かれ黒い穴がある。

 

 

 

「反対側には何も無いか・・・」

 

 

 

 扉とはその性質上空間と空間を繋ぐ側面が大きい。

 

 となれば見るべきは扉よりも反対側の空間にあるはずだ。何があるか見えないでも囲われた一定の空間があるはずで、その大きさ等から推測する事は不可能ではない。

 

 だが、反対側を覗くも同じ形の扉があるだけで囲われた空間は何も無い。

 

 

 

(精神世界における支配力は俺の方が高いはずなのに、さらに別途で空間を用意するってのがまずもって無理か。となれば・・・何かしらの暗示の類か比喩だな)

 

 

 

 扉に触れながらこれの目的を推察し始める。

 

 一方脳筋で考える事が苦手な龍は自分なりに扉について探る。

 

 

 

『扉なら開ければ分かるはずだ!』

 

 

 

 扉の前まで近づき、後ろ足で地を支え二つの前足で扉を全力で押し込む。

 

 ドライグの巨大な肉体で押してなお扉はビクリともせず、まるで鍵がかかっているかのようだった。

 

 

 

『なら壊せば』

 

「やめとけ、この扉は正攻法じゃなけくちゃ開かねぇよ。精神世界のここなら俺でも破壊できない材質を作る事なんてのは簡単だからな」

 

 

 

 精神世界のここでは現実世界の物理法則は何一つ通用しない。

 

 バカ正直に押せば開いたり壊せば潜れるなんて場違いな扉を作るはずがない、何かしらの謎解きが必要なのだと言うのは分かった。そう、分かっただけなのだ。

 

 はっきり言って何かしらの文字や術式があればそこから足をつけ判断できる。目の前にある扉には何ら文様はなく、有るとしたら真ん中の穴だけ。

 

 そこに鍵となる物を刺すなのだとしたら、その鍵とは何か。

 

 そのヒントとなる物が何一つとしてなかった。

 

 

 

「だークソ!行き詰まりかよ!!」

 

 

 

 考えるのすら無駄だと両手を上げ床に倒れ込む。

 

 無駄に思考を続け空回りする方が困ると精神世界であるのにまた瞳を閉じた。

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

『嫌だ死にたくない!!』

 

『なんで、なんで!!』

 

『神様助けて』

 

『主は居ないの?・・・』

 

 

 

 ここは薄暗闇で食事すらまともな物は出されない教会の施設。

 

 犯罪者が収容されるような粗悪な部屋で今子供達は喉を抑え悲鳴を上げている。体の小さい子供から順に倒れて動かなくなっている。その事実は無知な子供でも分かる。

 

 殺される、命を奪われる、絶命する、息絶える。

 

 まだ数十年や数年しか生きてない子供達にとっては早すぎる死。教会の上層部が早い段階でこの事に気づけていれば彼らも殺される事は無かっただろう。

 

 バルパー・ガリレイの暴走。

 

 最も信徒として従順で神を信じていた神父のまさかの行動は対応を遅らせた。

 

 

 

 その間にも徐々に子供は動かなくなっていく。

 

 最後まで僕の隣に居たのは親友のトスカ。

 

 いつも笑顔で辛い時も笑い飛ばしていた元気な女の子だった。初恋とは多分あの感情の事を言うのだろう。

 

 周りが死んでいく中でもトスカは必死に笑い、神父達にバレないように作っていた穴を使い脱出させてくれた。

 

 トスカと一緒に逃げようと思ったが、異変に気づいた神父にトスカは足を強引に折られ逃げられなくなる。

 

 自分の死を理解し僕を押し出して逃げさせてくれた。

 

 

 

 ──なんで僕なんかが、トスカが極秘に作った逃げ道を横から攫うように使い、本人は死んでしまった。僕なんかが生きていいのか?生きてちゃいけない・・・なのに、

 

 

 

「はっぁ・・・・・・──」

 

 

 

 全身から流れる冷や汗は妙に息苦しく、恐怖の夢から覚めた今でも無性に恐ろしい。

 

 それは懐かしい昔の夢。

 

 リアス部長に拾われる前の過去であり、名を変え切り捨てる事で乗り越えたトラウマ。

 

 ゆっくりと上体を起こし頭を抑える。

 

 

 

(これは保健室のベット?そうか、僕はまた負けたのか)

 

 

 

 人間であるはずの少女に負けてしまった。

 

 例え聖剣を使えたとしても身体能力のアドバンテージ、魔剣を作れる手数の多さで負けるはずが無い。だと言うのにまた負けたのだ。

 

 最後の最後、完璧に決めたと勝利を確信し慢心した瞬間に簡単にひっくり返され、聖剣の少女は──笑顔で頭突きをしてきた。

 

 トラウマになりそうな光景ではあるが、それ以上のトラウマを持っている祐斗ではトラウマなり得ない。

 

 何を言っても負けたのだからまた鍛錬に務めるしかない。

 

 今の時刻を確認するため起き上がり保健室の天井スレスレにある電子時計を見つめる。

 

 

 

「一〇時か随分と寝ちゃってたね」

 

 

 

 軽く見積もっても五時間以上眠っていとすれば、夜寝る時間よりも長いのでは?と考えてしまう。

 

 眠り凝り固まった身体をほぐすため軽く一度伸びる。

 

 

 

「おや?目覚めましたね」

 

「──ッ、誰だ!!」

 

 

 

 気持ちが緩んでいたのか保健室に入ってくるその人に気づかなかった。

 

 無地のワンピース姿の美女である。

 

 腰近くまで伸びた髪は黄金色に光り輝き、華奢な身体で全体的に細い彼女は簡単に組み伏せる弱さが垣間見える。

 

 

 

 この学校の生徒であれば制服を着ているはずだが、着てないところを見るに部外者である。まだ全容は知らないが教会の戦士二人が来た目的の人物であるかもしれない。

 

 それでいながら隙がありすぎる動きに祐斗は思うように動けずにいる。

 

 

 

「そんなに警戒されますか」

 

「当たり前ですよ。この時間に部外者がここに居る事の方が異常です、後一歩近づけば斬ります」

 

 

 

 慣れ親しんだ黒の魔剣を創造し両手で構える。

 

 寝起きで遅かったが冷静さを取り戻しつつあり、冷静に現状を把握し謎の少女に殺気をぶつけている。

 

 

 

「私は貴方とはな──」

 

「警告はしました!!」

 

 

 

 少女は警告を無視し一歩前へ踏み出してしまう。

 

 その一歩は奇しくも祐斗の間合いへの踏み込み。速度に関しては自信のある祐斗は一秒で間合いを詰め剣を突き立てる。

 

 情報を聞き出したいので首ではなく腹部に刺し、そばで超高速創造を行い短刀で両足を切りつけ行動不能にしようと画策した。

 

 

 

神器(それで)私を傷つける事はできません」

 

 

 

 剣が当たる直前に粒子になり手元から消失する。

 

 そばで作ろうとした短剣に関しては創造すらできない。

 

 少女の真横で武器と攻撃手段を失った祐斗は咄嗟に防御の姿勢──両腕を前で組んで後方へ安全確保のため飛ぶ。

 

 

 

神器(セイクリッド・ギア)を無効化・・・いや無力化させられた!!)

 

 

 

 神器を失った祐斗に残ったのは速さだけ、速さは確かに威力を高めてくれるがそれは元の大きい数字にかけているからだ。元の数字が小さい今攻撃手段は何も無い。

 

 

 

「私は泣きそうです。攻撃する気は無いのにここまでするなんて・・・そんな子に育てた覚えはありません!」

 

「いや誰も育てて貰ってないです」

 

「屁理屈言わない!言葉のあやですあや」

 

 

 

 どこか不貞腐れた様子で不服そうに否定した。

 

 

 

「うぅぅっ・・・」

 

「あっ、あのゴメンね。悪気は無かったんだ」

 

 

 

 泣いた演技かもと思ったが良心が泣いてる少女を見過ごす事を許さない。原因が自分なら尚更だ。

 

 距離は詰めないが声だけでも誠意を示す。

 

 

 

「本当にそう思ってますか?」

 

「もちろん」

 

「良かった・・・あなたに信じてもらえて」

 

 

 

 コロコロと顔の表情が変わる。

 

 つい数秒前は泣きじゃくる少女が、今では嬉しい事のあった少女のように笑う。

 

 あまりの変化具合に油断できないとより気を引き締め、僅かに姿勢を下ろし突進する構えをとる。

 

 

 

「それじゃあ信じてくれた所で気を取り直して、初めまして木場祐斗くん。私は先導者(メサイア)、一誠くんに力を託した謎の美少女です」

 

 

 

 明らかな敵対行動をとった祐斗に対し少女はもてなすようにお辞儀をし笑みをかけた。

 

 



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問題児の秘密を知るとき

気が付いたら4か月過ぎてました。
時間が流れるのは早いですね…更新再開してもいいですか?


 

 彼女は言った。一誠に力を託した者だと。

 

 一誠本人が語るには現状の力があっても届くかどうかは掛けである。もし出会ったなら即逃げろ。

 

 戦闘を好む一誠が撤退を進言するほど恐ろしい相手であるらしい。

 

 

 

「勝手にひどい噂を流しているのですね、親心の私としては悲しいばかりです」

 

 

 

 心を読んだのか声に出してもいないはずの事に対して返事が返って来る。

 

 警戒心が格段に上がる。

 

 心を読むというのは戦闘において必ず先行を取れるという事と同義であり、攻撃をする側は読まれる事を前提に避けきれない軌道で攻撃をしなければいけない。かなりのアクロバティック差を求められる。

 

 武器を封じられ素手しかない現状では速度で撹乱できても倒しきるのは不可能に近い。

 

 

 

「貴方も貴方です。せっかく数少ないチャンスが巡ってきたのに手放す気ですか?」

 

「チャンス・・・?」

 

「えぇそうです、本来であれば適合者は貴方以外にもう一人居たのですが、残念ながら敵の手に落ちているようなのでこの力を渡すわけには行きません。何故ならこれは世界を救うために必要な力なのですから」

 

 

 

 【原典】を手に入れた物は軒並みこう呼ばれる【英雄】と。

 

 英雄それには興味が無い。が、ある一つの点に関しては興味が湧く。

 

 

 

 ただの人間。神器を使わずに悪魔等の人外を上回る耐久性と身体能力。既に成長が頭打ちの現状で手に入れれば革新的に変化をもたらしてくれる。

 

 チャンスと言ったとこと先程の発言から手に入れる事ができるとなれば余計に喉から手が出るほど欲する。

 

 力が欲しい、他人の生殺与奪権を握れる程の強力な力を。自分で絶対的に運命を決められる力を。

 

 

 

「僕で良いんですか・・・」

 

「はい、資格はあると思ってください」

 

「資格はある?くれる訳ではないのですか?」

 

「これに関しては言質を取らないとダメです。何せ英雄の呪いを課すことになるのです、自分の意思で選択しなければいけませんので。それと──」

 

 

 

 少女はベットの手すりを擦りながら回り込み窓の枠に背中を預ける。

 

 

 

「原典とは人間が英雄になるための力です。そう、人間用と言い換えてもいいです。元人間であるとは言え貴方は現在は悪魔。人間に害をなし恐れられる存在。英雄の力を受け止めきれるのかそこが私でも分からない」

 

 

 

 英雄とは存在を語れば【聖】に近く教会の聖人と呼ばれる存在の上位互換版だと考えればいい。

 

 聖と魔は絶対に交わることはなく、最悪体内で反発反応で爆裂し死ぬかもしれない。力を手に入れる前段階で死ぬ可能性があると言っていた。

 

 

 

「それに力を得る代償をいただきます」

 

「代償?」

 

「・・・・・・貴方の存在の一部、分かりやすくいえば生きる目的ですかね。貴方で言うところの復讐と呼ばれる感情」

 

「ッッ──」

 

 

 

 少女は少し俯きながら言葉をこぼす。

 

 これに関しては彼女は申し訳なく思っていた。

 

 

 

「人間は神が生み出した最前の生命。生命の行き着く際と言っても構いません。数字で例えるなら一○○。これ以上容量は増えず、減りません。

 

 神器を生まれつき手に入れてる者はこの一○○に合うように自然と調整されているのです。ここに、神器に等しい容量の【原典】を入れれば溢れるのは必然。なので容量の大部分を占める目的を抜いて空いた穴に入れます。悪影響として性格が真逆になったり変化する事があるようです」

 

 

 

 この時の祐斗は知らなかったがそれこそがイリナが感じた違和感の正体であった。

 

 性格がまるで違う。そんなのは当たり前だ生きる目的を奪われたのだから、前の人格と違う人生を歩むことになるのだから。

 

 当時の一誠が捨てたのは親の記憶。消えても違和感がないように完全に帳尻が合うように修正されていて、両親がいないことを不自然に思っていなかったのはそれ故だ。

 

 

 

 そうなると木場祐斗──イザイヤが生きている意味とは教会の負の遺産だ。

 

 皆に背を押され生き延びて復讐を誓い悪魔に転生し力を求め続けた。家族のように接してくれるリアス・グレモリーであっても所詮は似たような物。

 

 家族に売られ物心着いた頃からいたのは教会の皆だ。

 

 彼ら全員が本物の家族と言ってもいい。

 

 力を得る代償に消えてしまうにはあまりにも大きすぎる代償だ。

 

 

 

「ぁ・・・・・・」

 

 

 

 頭を押え必死に思考をめぐらせ続けていた。それは今やめれば必ず後悔すると警鐘が鳴っている。

 

 人生において大きなターニングポイント。

 

 過去を捨てるか未来を捨てるか・・・究極の二択である。

 

 

 

「私は待ちます。貴方の返答を」

 

 

 

 考えに考え導き出した答えを告げるのはグラウンドにて行われている戦闘が悪化してからだった。

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 駒王学園の裏口にて生徒達の影がある。

 

 生徒会長にして悪魔のシトリー家の一人【ソーナ・シトリー】その兵にして、ポテンシャルは最高峰の【匙元士郎】

 

 教会の狂犬こと【ゼノヴィア】と飼い主【紫藤イリナ】

 

 駒王町の支配者【リアス・グレモリー】に信頼が厚い【姫島朱乃】

 

 合計六人からなる現最高戦力である。

 

 

 

「もうここまできたら泣き言は言えない・・・今更引き返すなんてのも無しよリアス」

 

「問題ないわ。これ以上無様なさまを見せるつもりは無い」

 

「それでは作業分担を」

 

 

 

 目下の敵はコカビエルとフリード。

 

 正直厄介さで言えばコカビエルよりフリードの方が上なのが共通認識である。

 

 この場の六人が協力しても一誠に及ぶかどうかは微妙ではあるのに、軽くあしらったフリードを抑えなければいけないのだから無理難題すぎる。

 

 

 

「私とイリナでフリードを抑えさせてくれ。あの時の意趣返しをさせて欲しい」

 

「作戦はあるの?」

 

「ない!!」

 

「できればサポートを一人欲しいんですけど・・・」

 

 

 

 脳筋バカのゼノヴィアに比べ冷静なイリナある程度役割分担を理解し恐る恐る発言していた。

 

 三つの部隊に別れる必要がある。

 

 コカビエル、フリードを抑えるので各二部隊。人手を迎えに行く一部隊。系三部隊編成で挑む事になっている。

 

 

 

 人手を迎えに行くのは一人で良いとして、この土壇場で突然あったばかりのそれも敵に背中を預けて戦えと言うのはあまりにも不条理だ。

 

 前線で戦うならばやはり同郷の者の方が安心できる。

 

 しかし、それでは前回と同じで脳筋のバカゼノヴィアが猪突猛進し同じ結果になりかねない。それ故のサポート役が必要だ。

 

 

 

「ふむ・・・」

 

「消去法ならソーナの所の兵士(ポーン)ね」

 

 

 

 作戦立案のソーナが分担について考えていると口を挟んだのはリアスだった。

 

 

 

「ソーナと私が抜けるのは戦力ダウンが大きいから迎えには回れない。朱乃はサポートよりも火力重視のアタッカーの面が大きいのよ。はっきり言って足並みを崩す可能性しかないの・・・だからソーナの所になるんだけどいいかしら?」

 

 

 

 リアスの理論はかなり理屈が通っていて匙の能力を知らないのならばそういう結論に至るのは必然だったろう。

 

 ソーナも解説が終わる頃には同じ結論に行き着きそれを承諾する。

 

 

 

 これで作業分担は終わり突撃をする事になる。

 

 六人が互いに頷き合い状況開始しようとした途端激しい爆発音と共に天井が割れ、無数の光の槍が降り注ぐ。

 

 



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意外と気の合う三人

メモ帳を見たらどれが本編か分からなくなってきた。


 突然の崩落に殆どが意表を突かれ行動が遅れる中いち早く全員を守る為に動く姿がある。

 

 地下道を支えていたパイプが尖った尖端を下に自然落下し、首を僅かに躱すことで頬に小さなかすり傷を作り紅髪を割って地面に突き刺さる。崩落で一番何が危険か理解していたからこそ、小さな物には反応せず全身の魔力を活性化させる。

 

 地中にいる状態での崩落で一番危険なのは瓦礫に埋もれることだ。

 

 酸素も限られている地中で全方位囲まれれば酸欠で死に、そこに至る前に瓦礫に圧死なんてのもありえる。それをどうにかする事がこの場で自分を含め生き残るの必要条件である。

 

 

 

「消えなさいッッ!!」

 

 

 

 全身から溢れんばかりの紅色の魔力を掌に圧縮し角のない直径一m程の完璧な球体を押し出す。

 

 質量に関係なく素材に関係なくこの世から文字通り消失させる【滅びの魔力】は、天から降り注ぐ瓦礫を完璧に消滅させていき、数秒も経たずに月明かりがぽっかり円状に空いた頭上から降り注ぐ。

 

 丁度真上に一人の男が四対四の漆黒の翼を展開し腕を組んで見下ろしていた。

 

 その顔にいち早く反応したのは資料を見ていた教会二人組だ。

 

 

 

「コカビエル!!」

 

「良くもやってくれたわね!!」

 

「この程度で死ぬなら戦闘も楽しめないのでね。どっちにしろフリードに全滅させられたと聞いているから楽しめるとは考えてはいないがな」

 

 

 

 舐めてはいるが油断は一切していない。聖書に名を刻まれる程の有名格であり、三種族対戦の時にも遺憾無く才覚を発揮し戦場を駆けた堕天使側の英雄とまで呼ばれている人外だ。

 

 戦場に居たので必ずしも【弱いから勝てない】とはならない事を知っている。

 

 優勢であったのにたった一度の偶然が致命傷や大きな隙が生まれ死んだ同胞など数しれず。それ故にフリード以下だとしても一人の戦士として眺めていた。

 

 それでも下卑た笑みはやまず品定めするように一通り目を通す。

 

 

 

「所詮はこの程度か」

 

「なんですって」

 

「呆れているのだよ・・・この程度の戦力で私に挑むなどね。こんな時にこそ英雄──兵藤一誠が居れば・・・くくく、すまない既に殺したも同義だったか!!クハハハハハハ!!」

 

「このッッ──」

 

 

 

 今度は瓦礫を破壊するのではなく回避不可能で防御貫通とチート性能の【滅びの魔力】を当てれば言い訳なので、それぞれを小さく多面展開する。

 

 総数五○にして直径一○cmの球体。

 

 現状最小サイズにして最大操作数のリアスの最大の攻撃手段。一撃必殺に近い【滅びの魔力】ではテクニックよりも、単純な火力で攻めた方が効果が強く現れる。

 

 【滅びの魔力】を規格外の領域まで操作し【超越者】と恐れられているサーゼクスはもっと小さく大量に操作できるが、基本の攻撃においては直径一○cmの魔力球を使っている。

 

 

 

 だからこそリアスの選択は正しかったのだが、間違ってもいた。

 

 リアスの手元から離れた魔力球達は視界に飛び込む影のひと薙ぎで全て削り取られる。

 

 

 

「フリード!!!」

 

「いっーーひひひひひひ!よっす、さっきぶりだな。聖剣を届けてくれた無能さん達も準備万端すか?」

 

「はは・・・言ってくれるな、これでもかなりイラついているんだよ」

 

 

 

 今までの優しかった声から一変、明確な殺意と怒気が含まれた低い声になる。

 

 細くなった目はコカビエルからフリードに移り獲物を決定し、隣のイリナにアイコンタクトを送るとため息混じりに了承される。

 

 

 

「ごめんなさいね、私の相棒がどうしても狂信者からやりたいって事らしいの」

 

「構いません。私達は私達で喧嘩を売ってきた鴉とやるだけです。彼流に言えば『売られた喧嘩はそれ以上で返す』でしょうね」

 

 

 

 こくと軽く一礼し近くにいた匙の首元を掴んで、最初に飛び出したゼノヴィアの後を追って地上へ飛び上がる。

 

 それを見届けた三人もこのまま空を取られたままでは不利だと羽使い飛び上がり、その過程で朱乃一人だけは滑空し保健室へと向かう。

 

 軽く反応を見せたコカビエルだが力を恐れる女よりも、滅びの魔力を警戒しすぐさまリアスに向き直る。その頃には同じ高さまで駆け上がり二人は対等の目線で宣言する。

 

 

 

「私達に喧嘩を売ったこと後悔させてあげるわ」

 

「だと良いがね」

 

「その余裕の顔が崩れるのを楽しみにしていますよ」

 

 

 

 言葉のジャブを終わらせるとソーナは腰から手で掴めば隠れてしまう杖、顔の横で開いた掌の上を高速で回転する二つの魔力球、片手に細めの光の槍を携える。

 

 空気は独特な緊張感も合間り張り詰める。

 

 糸が限界まで引き伸ばされたかのように、沈黙が流れれば流れるほど重くなり伸びた糸ははち切れ、三人は同時に前へ直進し始めた。

 

 

 

△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 言わば数刻前にできた因縁の対戦がそこにある。

 

 破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)それらを持っていながら無様に負け奪わらるという失態を起こしてしまった。

 

 

 

「全くあんだけ無様に負けたのに力の差を理解してないのかな?それも今は獲物も無いのに男が一人加わった程度・・・まさから愛の力とか言わないよな」

 

「愛か、そんな不確定な物で強くなれると思うなよ・・・私が紡いできた力は歷とした努力の結晶だ」

 

 

 

 拳を握って音を出しながら威嚇する。

 

 拳術(ステゴロ)を使ったところで実は素手の方が得意でしたと後出しジャンケンをしてくるほど、巫山戯た連中ではないと思っているので何かしらあるのだろうと動作一つ一つを丁寧に見つめる。

 

 もし、拳術であるならば間合いの長いこちらが有利ではあるが懐に入られると、小回りの聞く拳の方が強く早いのでこちらから仕掛けることはできない。

 

 

 

「漫画みたいなカッコイイこと言うな後輩ちゃん」

 

「戦士崩れの狂人が私の先輩だとは思いたくないよ──来い!!デュランダル!!!」

 

 

 

 天高く手を伸ばし空に向けて究極の聖剣の名を叫ぶ。

 

 聖剣の中でもっとも強いのは多様な力を備えるエクスカリバーではなく、純粋な力に振り切った万物を両断する究極の切れ味と破壊力を兼ね備える【デュランダル】である。

 

 呼び声に反応し手の近くの空間が裂け始める。

 

 異空間(次元の狭間)と現実世界の中間世界──亜空間を解放しそれは徐々に全身を表す。

 

 刀身は細い女性の腕では簡単に折れてしまう程分厚く大きく、細工等の煌びやかな物は一切なく青藍色一色で刃が唯一金で塗装されている程度。純粋な戦闘力を高めた聖剣なのは見て取れる。

 

 型落ちの破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)ではなく正真正銘の純正品デュランダルから放たれる純粋な聖のオーラは近くにいるだけの匙の肌を少し焼く。

 

 

 

「熱っっっつつつ!!」

 

「すまない如何せん放り込んでいたせいで機嫌が悪い。出力が安定するまで近づかない方が良い」

 

「ありえんぞ!!そんな事は!!!!」

 

 

 

 ゼノヴィアの取り出したデュランダルを指さし素っ頓狂な声を張り上げたのは悪魔祓いの黒の装いとは真逆の、教会の神父かのような純白の装いに身を包む年寄りだ。

 

 聖剣の融合を現在進行形で務められる上位の神父はありえないと手を止めてまで非難した。

 

 

 

「私の作り上げた因子では後数百年は経たないと純正品の聖剣は使えないはずだ!!なぜ使えている!!」

 

「簡単な話さ・・・私は因子を使わない天然という事だ」

 

「・・・・・・な・・・・・・」

 

 

 

 拳を作ってぷるぷる震え始める。

 

 

 

「くそ野郎共がァァァァ!!俺の研究の成果も使いながら天然の聖剣使いも獲得してただとぉぉ?ふざけるのも大概にしろ!俺がなんの、何のために研究をしたと思ってやがる!!フリードさっさとそいつらを始末しろ!視界に入るだけで不快だ」

 

「絡んだのはアンタだろうに」

 

「口答えする気かフリード・セルゼン。彼女についた爆弾がどうなっても良いと言うならもう一度言いたまえ」

 

「・・・・・・ちッ、たぬき親父が。いいぜもうお喋りは辞めだ、完璧に完全に潰してやるよ」

 

 

 

 彼女の話題が出た途端雰囲気が一気に切り替わる。

 

 今までは曲芸士のピエロだったが、今は一人の大切な物を守る戦士の顔つきだ。

 

 何か守るべきものができてある男というのは存外しぶとい。守る事こそに命を燃やす傾向にあり、並大抵の攻撃では倒すことができない。

 

 デュランダルを両手持ちにし力を込め呼吸により大量の酸素を取り込んで、筋肉の動きを一気に万全に仕上げる。

 

 

 

「イリナ手加減をするなよ」

 

「もちろん、剣がない分──こっちが本領だもの」

 

 

 

 初手は安全と思っていた間合い七mを一歩で詰めたイリナの拳からだ。

 

 姿勢をかがめ剣と地面の隙間に入り込んだイリナは、拳を天高く突き上げ──アッパーパンチを打ち込む。

 

 が、それはフェイントだとすぐにフリードは気づき紙一重で避け次の──

 

 

 

「次は見えないわよ」

 

「くかッッ」

 

 

 

 二発目がくると分かり警戒していたはずが何故か肋骨に穿つように拳がのめり込む。

 

 骨は拳の衝撃に悲鳴をあげ強引に粉砕される。内側にめり込むように折れた骨は心臓以外の臓器全てを貫き、体内で大量の出血を発生させる原因になる。

 

 さらに衝撃は直接身体を後方に吹き飛ばし意識が飛ぶことすら許さないGが全身を包み込む。

 

 

 

 すぐさま肉体は超速回復し出血も骨折も無かった事にはなったが、威力までは戻せない。時間の遡りではなく怪我の治療が超速再生の正体だからだ。

 

 校庭の端にそびえる木々に袖口に隠してた高密度ワイヤーを絡みつかせ、減速を行うも反動はすぐに止まるはずがなく木が地面から分離する事を条件にどうにか生還する。

 

 

 

「飛んだ漫画キャラだな、二人して力を隠してるなんてなぁ先輩として悲しいぜ?」

 

「あら、聞いてこなかったのは貴方でしょ?そちらの落ち度をこちらのせいにしないでよ」

 

 

 

 先制攻撃を完璧に決められたイリナは自分の拳が通用するのだと確証を得られ内心安心していた。

 

 教会の先輩から教わったのは本来は拳一つだったのに剣を使うようになったのは、巨木や巨石を容易く砕くその拳では死体が残らず辺りに散った破片などの回収が大変だからだった。

 

 上層部から許可が降りなければ使えないはずの拳ではあるが、一誠を殺しかけた張本人とあって手を抜く事はない。

 

 骨が甲高い音を上げるまで強く握りしめられた拳を前に向け

 

 

 

「覚悟をしなさいフリード・セルゼン。本気の私達は簡単に負けるほどヤワじゃない!」

 

「私の聖剣の錆にしてやる」

 

「程々にして欲しいぜたくよ、先輩としては体力な問題があるからな」

 

 

 

 三人は準備運動は終わりだと告げるたのか先程以上のオーラを互いに放ち次弾の攻撃へと移ろうとする。

 

 

 

「えっ、俺は?影薄くね」

 

 

 

 一人因縁という因縁が無く、野獣の群れに放り込まれたエゾジカみたく何も出来ていない男はぽつりと悲しく呟いた。

 

 そんな声に誰しもが反応すること無く三人は動き始め戦闘を再開する。

 



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教会同士の因縁の対決

 

 駒王学園とは、駒王町の僅かに隆起した土地を土台に力を霧散させる目的で建てられている。

 力と言うのは地球が生まれながらにして持っている莫大な力の集合体。そのままの地脈や荒々しい力から龍脈などと呼ばれていて世界各地に存在している。

 それらがある場所では何かしらの力が活発に働き、火山活動を今現在も続けている富士山や桜島等がそれに該当する。そして駒王町がその名で呼ばれる前から不自然な程食物が育つと有名だった。

 品質も良く尚且つ早く育つ。

 農民に取ってはありがたい効果で、次第にその感謝は【信仰】へと変化する。

 毎年育った食物を領主様に渡すのと別に供物として捧げ終いには人柱まで使う程に狂信していたのだ。火山がなく安全性の高い地でありながら高密度の力の噴出地点でもある。人外達が喉から手が出るほどに欲する物でもある。

 それを封印し拡散させるためにあるのが駒王学園であった。

 この事実を知るのはごく一部ではある。堕天使、天使では到底知り得るはずのない情報だ。それこそ過去を直接見ない限りは分からないはず。

 

「六本と少ないせいか予定より早く結合する・・・完全体とはいかないがこれでも十分な性能を発揮するだろう。さらには地脈と繋ぐことで更なる力を・・・くくくくく」

 

 虚ろな目で誰に語り掛けるわけでもなく言葉を紡ぎ続ける。その姿は健全とは言えず狂人が相応しい。

 目の前にそびえる光の柱。

 六つの聖剣が重なり始め一本の形に変化──元に戻り始めた。

 あと少しで夢が叶う。

 

 ──夢?そういえば何故作っているんだ?

 

 僅かな達成感で満足していたのだろうと湧き上がった考えを放棄し、目の前にある甘美な光景に身をよがらせる事しかできなかった。

 

△△△△△△△△△△

 

「ち、クソ厄介だテメェら!」

「ならば嬉しい限りだね!」

「私も──よッッ!!」

 

 一撃必殺。通常の人間ならば防御をすれば防御を貫通して命まで奪う凶悪な拳が、これみよがしに数十発以上打ち込まれている。

 とある手段で超回復しているとは言えダメージを受けないのではなく、ダメージを回復しているので毎回死ぬ一歩手前まで至り続けている。

 拳を警戒し剣で受け流すと次は青い聖剣が隙を狙う。

 破壊に特化した聖剣と矛盾があるような気もするが、嘘ではなく空振り地面に当たった場所は一撃で陥没している。

 生身の人間に近いフリードが喰らえばこちらも即死。

 歯を食いしばり必殺級の一撃を交互に相手をしなければいけない。

 だと言うのに──

 

「またか!!!」

「へっ、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」

 

 二人の攻防の隙間を縫って飛び出してきたのは細い管。

 影の薄さにより二人との攻防では存在が脳からこぼれ落ちてしまう匙だが、その薄さを利用し他人の力を吸収する管を身体に巻くことで足止め件持久戦に持ち込ませない二段構えの策があった。

 近接戦最強格の二人とサポート特化の能力。この二つが混じりあった事で過去幾度となく経験した多人数戦の中で一番の強敵と言っても良いレベルにある。

 これがつい少し前にであったと言うのだから驚きだ。もし、三人が最初から連携を鍛えていた場合フリードの負けは決まっていたに違いない。

 

「掻き毟れ!!」

 

 土を上へ巻き上げる旋風により大量の土煙が立ち込め全員の視界を完全に奪う。

 

(土煙を上げた・・・やはり空間を切り取る能力ではない)

 

 三人は優勢で攻められているがフリードの能力自体は不明な点が大きかった。

 白亜の槍から放たれる旋風は先程【滅びの魔力】を消した。無論切断や逸らすではなく消失した。

 質量や性質に関係なく消滅させる【滅びの魔力】を消失させるということは、上位互換にあたる消滅能力で無ければならないはずだ。

 となれば戦闘などひと薙ぎでで終了のはず。なのに、先程から時々距離をとるために砂塵を巻き上げて時間稼ぎをしている。

 明らかに能力とやってる事がチグハグすぎる。ともなれば能力は【消滅】ではない可能性があるそれは何か──

 

「フリード・セルゼン。君のその剣の能力当初は消滅系かと思っていたが、戦闘を通じてそれは無いと確信した。そうなるととある結論に至る、無効化だな。魔法、魔力その他もろもろの無効化がその剣の能力だ!!」

「と言われてもはいそうですなんて答えるわけがないだろ。けどまぁいい所まで推測できてるからな答えてやるよ」

 

 土煙が収まり視界に入った塵ゴミを書き出しつつ前を見ると剣を地面に突き刺し、剣によりかかるフリードが映る。

 

「半分あたりで半分不正解──答えは言わないがヒントをやるよ。果ての槍(ロンゴミニアド)これが分かれば近づけるはずだぜ。」

「ロンゴミニアド・・・」

 

 アーサー王伝説に登場するエクスカリバーに並ぶ秘宝こそがロンゴミニアド。語る人によってはロンゴミニアドの方が強力であると言う。

 この世の果てに位置する柱の形状が変化し人間でも扱える槍になっているとされ、この世の果てにあるため人間では絶対に辿り着く事が出来ない。

 槍がある場所こそが果てである事から選定の槍とも呼ばれることがある。

 

 ゼノヴィアが知り得るのここまで、枢機卿以上の階級であれば知っているかもしれないが本質的に分かったとしてこの力の理由を説明できるとは思えない。

 フリードが求めているのは並べられた知識ではなくその先。

 

「残念ながら勉強は嫌いな立ちなので詳しい事はさっぱりだ」

「そりゃ残念・・・この場なら一誠くんの次に頭の回転が早いと思ったが、如何せん知識が足りねぇか」

「まさかそこまで褒めてもらえるとは」

「褒めちゃいねぇよ。嫌味だ嫌味・・・たくっ、教会の戦士はこうだからいけねぇ。せっかく神なんか死んだと伝えてやったのに愚直にここまでされるとはね」

 

 神は死んだ。

 このワードにぴくりとゼノヴィアとイリナは反応し、匙はなんの事だ?と頭を傾げている。

 これでも教会に信徒として入会し適性があったため戦士となった二人は、朝目覚めた時から夜眠る時まで何回も神に祈りを捧げている。

 神に祈りを捧げるのが日常でありいると信じているからだ。

 

 それなのに神は死んだと告げられた。

 神の存在自体が否定された言葉はありえないと否定をしても僅かな疑念が大きな疑念になる材料足りえた。

 

「それは所詮貴様の戯言だ、私達が直接見た訳じゃない」

「あひゃひゃひゃ!!随分と面白いこというじゃねぇの。その口ぶりからすると神様を見たって事か?じゃあどんな顔でどんな体型でどんな神か言ってみろよ、なぁ!!」

「・・・・・・それ・・・は・・・」

「ゼノヴィア!アイツのペースに巻き込まれてるわよ」

「そうだなすまないイリナ」

 

 二人は我を戦場で失うのは負けだと分かっているからこそ抑えようと言葉を交わし、頭は冷静に心は熱く保ち攻撃に備える。

 後ろでこそこそして影を薄くしてる匙もそのために神器(セイクリッド・ギア)を展開して後方支援の体制を万全にしている。

 三人の動向を伺い冷静さを奪おうと煽ったのだが、逆に闘争心を増してしまったなと自分の煽りスキルの高さに後悔をしながら大剣の先を突きつける。

 

「お喋りもここまでにしてそろそろ再開しようぜ」

「勝った暁には聞かせてもらうぞ貴様の戯言の真実を」

「いいぜなんなら一誠くんが記憶を失った理由もセットで付けてやるよ」

「──お前が一誠くんの記憶ォォォォォ!!」

「イリナ待て!」

 

 道化師は笑い続ける。

 観客のイリナは激高し拳を握りしめ突貫する。先程のように技で攻め立てるのではなく力によるゴリ押し。身体強化に全神経を注ぎ込み一撃で龍すら殴り倒せる領域にまで昇華させた究極の一打。

 だが──フリードの作戦通り一人を炙り出せた。

 問題だったのは殺人級の拳でありながら、破壊に関しては右に出る物はない聖剣と、ちょこまか力を奪う神器との三連携が一番の苦だ。

 琴線を触れるワードに連携を忘れ一人イリナは飛び出し、慌てて二人が合わせようとしているが何もかもが遅い。

 

「このぉぉぉぉぉぉ!!」

「いい闘志だが大きいだけでそれじゃあ無意味だぜ!!」

 

 太陽でも纏ったかのように熱く燃える魔力が圧縮された拳が穿たれる。身体強化を少し下げ右拳に大量の魔力を集結させていた。

 今の拳ならば山を容易く粉砕できる災害級の拳である。

 

 狙い通りに動いたイリナにフリードは笑いが止まらなかった。

 剣で防ぐ振りをして拳を右手で受け止める。当たり前だが受け止めた右手は肩からねじ切れるように引きちぎれ、身体も僅かに反り返る。

 人外より人外地味たパワーではあるが右手一本なら安い。

 身体強化=防御力が低下した現在であれば大剣は確実にダメージをイリナに与える事ができる。

 反らされた身体を元に戻す反動の力も使い一刀両断の絶技を繰り出す。完全な突貫の構えに防御の姿勢は遅れ死は避けられない。

 他の二人はまだ距離が足らず援護に間に合わないず無慈悲にも剣は振り下ろされた。

 

「イリナァァァァ!!」

 

 ゼノヴィアの悲痛な叫びだけが虚しく木霊する。

 



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リアスの成長は続いていく

Apex楽しすぎて全然筆のらない……
最近毎日6時間ぐらいApexに時間を使ってんだけど


 時は少し遡る。

 ゼノヴィア達と別れコカビエルとその場に残された二人は、攻撃の体制を解かず口を開く。

 まだリアス達が産まれる前にに起きた三種族間の大戦争によって多数の死者を出し、両陣営共に悲惨な終末を迎えた。そのためすぐさま和平条約が結ばれ、互いに干渉しないようにとなっているにも関わらず今回なぜ干渉してきたのか、その真意を問いただす。

 

「お兄様に聞いていた貴方の印象とかなり違うのだけど、どうしてかしら?」

「はっ、印象など所詮他人が勝手にイメージしたものに過ぎん。私は生まれた時から貴様らを滅ぼしたいと思っていたさ」

(確かに戦闘狂なのは事実だけど、それ以上に仲間を思っていると聞いてるわ。なにせ和平条約に最初に乗り出したのがコカビエルからと・・・)

 

 互いに意固地になり中々終戦に向かわなかったのだが、コカビエルが最初に声を上げ堕天使陣営が賛同。悪魔、天使も賛同し和平条約へと続いていく。

 戦争を止めたコカビエルの印象と今の闘争を望む暴力の権化のコカビエルとでは、あまりにも齟齬があった。

 

(まさか操られている?でも私じゃ解け・・・いやいけるかも)

「ソーナ少し時間を稼いでくれる?私に考えがあるの」

「相手は聖書に名が載るコカビエルです。そこまで時間は稼げないでしょうが、一誠に比べればまだやりやすい」

 

 掛けていたメガネを外し魔力操作で擬似コンタクトを作り出し目に装着する。

 激しい戦闘によりメガネが割れ視界を奪われたりせず、広範囲をしっかりと視認でき魔力コントロールをより高める本気のソーナの姿がそこにある。

 一誠宅から持ってきていた水筒を開け中の水を手のひらの上に凝縮させていく。

 

「シトリー家は水を操るのを得意としているが、そんな少量で私に勝てるとでも?その一○○倍は持ってこなければ話にならんな」

「えぇでしょうね。ですから大量の水を持ってくるまで」

 

 凝縮した水を地面に向け高速で水弾を射出して地面に穴を開ける。

 カン、という鉄製の何かが壊れる音が鳴った瞬間地面からけたたましい爆音が響き渡る。

 何か小細工をしたのだと察しコカビエルはすぐさま攻撃に移る。

 右手に光の槍を生み出しおおきく振り被りソーナに向けたたき落とす。大きな巨体が生み出す破壊力は素手で岩を粉々にする程で、それが槍を投げる事に移されればマッハに近い速度が出る。

 槍も先に到達するソニックウェーブはまだ接触していないにも関わらず地面を砕き、ソーナの足場を不安定にする。

 

「悪手ですよそれは」

 

 ソーナに槍が当たる前にコカビエルが壊した地面から大量の水が脇だし瞬時に支配下にして、槍を水で包み込み完全に無力化した。

 

「どこからその量の水を・・・」

「ここは学校です。水道管の一つや二つ校庭にもあるのは知っています。なにせ生徒会長ですから」

「ちょこざいな!だが所詮水が増えただけ」

「自分で仰ったことをもうお忘れで?私は水さえあれば貴方を抑えるのは容易なんですよ」

 

 噴水のように湧き上がる水がみるみる形を安定させていき、短い手足に胴が蛇のように長い一匹の長蛇な竜へ変貌する。

 コカビエルを食い殺すため大きな口を開口し無限に続く水流地獄を味合わせる。

 防御の姿勢をとるが激流の渦を防ぎきれるはずが無い。

 四方八方全てから攻撃を与えているため回避は不能。捕食される前に動かなければいけない絶大な一撃をかます。

 さすがのコカビエルも悶絶の声を上げソーナは計算も何も無い初手からの大技に冷や汗を流す。

 

(魔力消費が凄まじく本来は弱りきった段階で使うのがセオリー、なのでできればこれで終わって欲しい所なのに耐久力はさすがと言うことですね)

 

 この技は最後の決めて相打ち覚悟の必殺技として使わなければ初手でソーナは全魔力を使い果たし戦闘を続行出来なくなる。

 リアスが決め手を成功させる集中の時間を用意するには並大抵の技では時間を稼げない、だからこそ必殺技を使い時間を稼ごうとしたが

 

「煩わしい!!」

 

 全方位に光の障壁を展開し一気に弾けさせることで水竜を簡単に元の水に戻した。

 羽が二本折れ曲がり左腕もかなりの深手を負わせ使えなくしているが、それでも魔力のほとんどないソーナでは今のコカビエルにすら勝てるイメージが湧かない。

 水で湿った髪を左手でかきあげてかなりの深手を負わせた悪魔へと視線を落とし鋭く睨む。

 

「油断したよまさかここまでやるとはな」

「今のでやられてくれれば楽なのですが」

「お遊びにしては良くやった方だ、礼に一時だけ本気を見せてやる」

 

 左手を天にかざし慢心を全て捨て去り周囲に光の槍を展開する。数は一○○、二○○本超え正確にはもはや数えられない。

 光の波とでも呼べばいいのか、ソーナに対して過剰な戦力を投入し圧倒的な力の差を見せつける。ここから逆転する手だてはソーナにはない。

 前へ伸ばしていた手を下げ光の大群を見上げる。

 

「もう私ではどうする事も出来そうにないですね」

「そうかそうか、諦めるというのならば遺言を聞いてやろう。私をここまで負傷させ全力を出させた褒美だ、忘れずに記憶しておいてやる」

「・・・確かに私は諦めます。そこに間違いはありませんが、まだ諦めていない者がいる!リアス今です!!」

「薄く広範囲に喰らいなさい!!」

 

 入れ替わり前に立ち塞がるのは赤髪をたなびかせるリアス・グレモリーであった。

 今までの滅びの魔力を球体にして射出ではなく薄く霧状にした滅びの魔力をコカビエルに向けて撒く。薄くした事で人体を直接消滅させることはできない。

 霧に触れたコカビエルはコケ脅しかと鼻で笑い槍を撃ち出す指示を飛ばすが、槍が射出されることは無い。なぜなら霧に触れ一つ残らず消滅したからだ。

 最大展開の技を小娘に邪魔をされ今日だけで二回も格下から予想外の攻撃を受けていた。

 

「貴様ら・・・確実にころッッ──」

「やっぱりそうだったのね」

「リアスもしかして今のは」

 

 聡明なソーナだからこそ今の攻撃の意味について理解出来た。

 滅びの魔力は質量全てを無視して問答無用で消滅させる恐ろしい魔力だが、完全な制御下に置けば消滅するものとしないものを選ぶ事ができる。始まりのバアルは自身で選択をして消滅させていたと語られている。

 魔王サーゼクスは初代とは違い完全制御下ではなく完全放出の方に特化していて、自分の周囲全てを消滅させる技を持っている。リアスも兄の姿を見ていることから力をそのまま使う事に専念していたが、あまり才能があるとは言えなかった。

 だがとある少年と出会い兄を超える意志を強固にした事で別側面の力を得る事にしていた。まさに初代と同じ完全制御をするという道だ。

 今まで成功した事が無かったが土壇場で成功させ、コカビエルを消滅させるのではなくコカビエルを操っている異能の方を飛ばした。

 光の槍が消滅したのはその巻き添えを喰らったからで、狙いは既に攻撃を放った時点で決まっていた。

 空から地へ二度目の墜落を余儀なくされたコカビエルはクレーターの中心から上半身だけを起こす。

 

「やってくれたな・・・まさかサーゼクスの妹がここまで力をつけているとは。いや、セラフォルーの妹のお前もだな」

「その声色から考えるに本物のコカビエルでいいのかしら?」

「あぁお前のおかげで洗脳から開放されたよ。全身はボロボロだがな」

 

 先程と口調自体はそこまで変わっていないが大分優しい声色に変化していて、孫娘に接するような温かさを感じていた。

 落下の拍子で外れた右肩を掴んで無理やりはめ直して、軽く回転させて調子を確かめつつ起き上がる。

 視線は自分がしでかしたあたりの惨状に向けてだった。

 

「慢心していたとはいえこれだけの被害で収まって良かった」

「アレで慢心・・・はぁ、私もまだまだね」

「そうでもないさ。もしサシでやるなら嫌な相手に変わりない。さてとすまない幼いのに怪我を負わせてしまった」

 

 地面を砕いた時に瓦礫がソーナの肌を掠め無数のかすり傷を作っていた。血が流れている箇所もあるが全体的に深い傷はない。

 懐からハンカチを取り出しソーナへと差し出す。

 

「戦いですのでこれぐらいはもん──」

「問題ないわけがなかろう。その年なら色恋に胸を躍らせる時期、こんなボロボロの身体では男にフラれてしまうよ」

「なっ!やっぱり傷があるとダメなのでしょうか」

「うーむ人によるが大半の男が傷ありは許容できないだろう」

 

 帰ったらしっかりと治療しなければと忠告を素直に受け取り内心強く心に決めていた。

 渡された白いハンカチで傷口の血を拭っていき血まみれのハンカチを返す訳にもいかないので、一度持ち帰り洗ってから返す事をその場で約束した。

 未だ激しい戦闘を繰り広げているフリードの方に熱い視線をコカビエルは向けていて、その目は息子の成長した姿を喜ぶ父のようにリアスは感じる。見つめ続けていたコカビエルはハッとした表情で見続けてはダメな事に気づく。

 

「フリードは洗脳を施されていないはずだから、私が声をかければ戦闘も終わる」

「さすがにこれ以上の戦闘は私たち含め限界だから助かったわ」

「私の処罰は軽くて監禁、悪ければ死刑だな。はてどうなるか楽しみにしておくと・・・し・・・・・・クソがッ!」

 

 温厚な顔だったコカビエルは突然声を張り上げ二人の傍から一気に離れていく。

 

「どうし」

「私に近づくな!!やられたよ、まさか洗脳がフェイクだとは!!既に身体の支配権の半分が奪われた!!どうにか避けてくれぇぇ!!」

 

 勝手に動く右手の上に生成されたのは槍ではなく魔力を極限まで圧縮させた光球である。槍への形状維持に回す力すら破壊力にシフトしたコカビエルの本気の一撃。

 慌ててリアスが防ごうと滅びの魔力を展開するがそれよりも早く光が駆ける。

 第三宇宙速度で放たれたそれを視認出来るはずもなくリアスは防御する前に身体へ──

 

 

 

 

 

 

 

 接触するかに思えたが攻撃は停止する。フリードの方ではイリナに向けて剣を振り下ろそうとしているタイミングだった。

 さらに止まっているのは攻撃だけではなくリアス達の呼吸、風、それこそ時間が停止したのか全て灰色と黒の二色しかない寂しい世界に移り変わっていた。

 そんな孤独の世界を一人虚しそうに歩む姿がある。

 人工的に染めた髪のような不自然感が一切ない正真正銘の綺麗な黄金に、人の血を想起させる鮮やかな赫色の双眼。背格好はどこか子供じみていて小学三年生と言われても通用しそうだが、着ているのは駒王学園の女子制服だ。

 小さな一歩積み重ねてたどり着いたのはリアスの目の前。それでも彼女やその他の人物達は反応を示さない、いや示せない。

 

「僕は静かに寝ていたのにこんな間近くでドンパチしないでください。援軍のあの人達がくれば問題なく片付くとは思いますが、その前に部長が死んでは後ろ盾が消えて後が面倒なので助けます」

 

 病的なまでに白い肌の手を光球に伸ばして小さな手で鷲掴みにした。

 

「ついでにあっちも助けますね」

 

 不敵に笑みを浮かべた口元には二本の鋭い八重歯が見えた。

 彼女──彼こそはリアス・グレモリーの最終兵器。本来悪魔に転生させるために使う駒の数は一個、強力な力があったりしても三個や四個がいい所だろう。だが彼を転生させるのに用いた駒は『兵士(ポーン)』を八個全て用いた。

 リアスが他の眷属を中々増やせない原因となった最強の眷属、ギャスパー・ヴラディが戦場に姿を表した。



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最強の問題児が復活する

やっと一誠の能力を説明できた。
初投稿し始めた2018年12月26日から考えていたので約一年半かかってやっと表に出せたぜ。本来ならもう少し早くするはずだったのに……


 世界は瞬く間に色を取り戻していく。

 太陽の日がなく月と星の明かりが遠慮気味に照らす中、人工灯により照らされた薄暗くも視認可能な黒い空。自然の緑や茶色、戦闘で髪を揺らす赤髪や黒髪など見慣れたものとなった世界だが、節々で異変が生じていた。

 

「あ?避けた・・・いやありえない、あの角度速度は全て完璧だ。避ける所かダメージを抑える事すらできるはずが・・・」

 

 フリードは剣を振り下ろしていたが手には何かを切った感触はない。

 剣先を見れば切るべき対象はそこにおらずもう一人の膝をついているゼノヴィアよりも後ろに転がっていた。

 何かしらの高速移動系術式を使ったのかと辺りを確認するが、それらしき術式の痕跡はなく彼らの顔を伺うがそれぞれ驚愕しているようで原因は他にある事がわかった。

 

「こりゃやべーかもな」

 

 それこそ時間が消し飛んだような違和感にフリードは警戒をより強くする。

 

△△△

 

 死ぬ恐怖から目を閉じたが一向に身体を貫く痛みは訪れない。

 恐る恐る目を開けると身体には致命傷になる傷はなく、光の球体は投擲した本人を強襲していた。

 

「今何が起きた!まるで時間が飛んだような」

 

 身体と頭が別々に動いているからこそ落ち着いて考える事が出来ているのだが、それでも何が起きたのか正解に至れない。

 この場にいる誰かに攻撃を反射する手段などないのは実力差から明白で、ましてや反射した瞬間すら察知させないなど下級悪魔程度にできることでは無い。

 駒王学園で戦闘する者の殆どが原因不明の現象に頭を傾げる中、約一名戦闘のさなか別の方向へ頭を向けていた。

 視線の先にあるのは旧校舎。オカルト研究部のある建物である。

 

(助けてくれたのねギャスパー)

 

 最強の眷属が窮地を救ってくれた事に心の中で感謝を表した。

 だが窮地を脱しただけで未だに戦力差は埋まっていない。

 イリナ、ゼノヴィアはダウン寸前、ソーナは魔力切れ、リアスと匙だけが今辛うじて戦闘を続行できるが、一対一で勝てるとは到底思えない。

 

「今の内だ私がこれの対処をしてる内に逃げるんだ」

 

 コカビエルが動けていないのは最大威力の矛を跳ね返され、当たらないように両手で弾き返しているからに過ぎない。これが大きく逸れて当たらなければすぐさま戦闘を再開するだろう。

 そうなればもはや勝ち目はない。この場にいる全ての者達が殺されるだろう。それを皮切りに三種族を巻き込んだ大戦争がまた起こってしまう。

 コカビエルを倒せていれば最初から倒せていれば良かったが現状まで続いてしまい、もしここで魔王の妹達が殺されれば戦争の回避は不可能になってしまう。

 最悪戦争さえ回避出来ればいいのだからリアスとソーナに逃げろと告げ続けた。

 

「確かに戦争を回避するために私達が逃げるのが得策よ・・・でもね、私たちの街で好き勝手されて終いには私たち二人だけがおめおめ逃げるなんてプライドが許さない!!」

「そんなプライドな──」

「捨てられない。これだけは絶対に譲れない物だから!!」

 

 逃げない、背を向けない、隠れない。

 恐怖で目を閉じた自分が恥ずかしいと責め続ける。

 もう二度とこんな愚かな真似はしない覚悟と共に、最強の敵に胸を張って立ち続ける。

 戦況は劣勢で最悪という文字が一番似合う盤面だが、リアスの宣言は二人の男を動かすには十分足りえた。

 

「よく言ったぜリアス」

 

 校舎の方から発せられた音はいつもピンチを救ってくれた英雄の声。

 人間でありながら人間を超えた異常な力を保持する人類最強の男が飛び立つ。

 リアスの前に土煙が僅かに立ち込めその中には見慣れた背中が浮び上がる。

 

「お前が何故ここに」

「はっ、そんなん俺抜きでこんな面白そうな事をしてるからだろうが。なぁ木場」

「それは一誠くんだけだよ」

 

 首を少しだけ傾け声を上げると突然音もなく人影が現れ問に答えた。

 数日前の力に固執しすぎてどこか様子がおかしかったはずの木場が、全てキレイさっぱりしたのかいつもの優しい笑みを浮かべている。

 

「リアスごめんなさい遅くなったわ」

「朱乃・・・これは」

「一応言っとくが寝起きの運動がてら来たからな、小猫には留守番させてるぜ」

「そんな事より色々聞きたいけど、あっちはそうも言ってられないわよね」

 

 突然の莫大な情報量に一度整理したい思いが強いのだが、ここは戦場。そんな事が許されるはずがない。

 光球を上空をはじき飛ばしたコカビエルは増えた標的に誰から殺すか目配りを始めていた。

 

「だけどお前の敵は俺じゃねぇぜ」

「そうだね。ここは僕の持ち場だ・・・一誠くんは借りを返してきなよ」

「お言葉に甘えて俺はあっちに行くとするか!」

 

 肩を並べた二人は拳を軽くぶつけ合わせてそれぞれの目的を遂行する。

 木場は新たに得た力を試す実験台としてコカビエルと単独での戦闘を望み、ボコボコにしてくれたお礼参りをしたい一誠は地面を蹴って一旦停止しているもう一つの戦場へ移動する。

 

「よっ、さっきぶり」

「本当に人間かよ」

「分類学上は一応こう見えて人間になってる。まぁ、あの時のお礼をしてやるよ」

 

 大剣を振り下ろしではなく、全力で初手から倒すために振り上げるため後ろへ引く。

 飛んできた一誠は不意打ちで剣を引く前に攻撃が出来たのに、わざわざ引かせる時間を作るために口を開いて言葉を交わす。

 一誠を半殺しにした一撃が来る事を分かっていながら、その技を使えるようにするとなると何かしら対応策があると思われるが、どんな対策をしようとも一誠の能力上不可能な物は不可能だ。

 生憎と一誠の背後にはゼノヴィアやイリナがいて攻撃を躱す事も許されない。

 

「慢心してるところ悪いが雑魚には用はねぇよ!掻き毟れッッ!」

 

 風──空間を刈り取る鎌鼬が剣から放たれ真っ直ぐに一誠に向けて直進する。

 フリードはあの時の拳と接触し砕け散った右腕のイメージが脳裏を過る。同じ結果になるだろうと思われたのだが、

 

「成長しないな。馬鹿の一つ覚えかよ!」

 

 つい少し前には決着が着いたはずの一撃が簡単に右腕で簡単に殴り壊された。

 これにはさすがのフリードも動揺が隠せず目をめいっぱい見開く事になり、その反応を見て一誠は不敵な笑みを浮かべた。

 

「どういうことだ・・・お前は神器(セイクリッド・ギア)の能力だけは破壊できないはず!!なのに何故無効化している!!」

「簡単だよ俺は今まで使おうとしなかった力を使う事に決めたからだ。こんな考えに至ったのはアイツらに出会ったおかげだな」

 

 そう言いながら視線を配るのは木場の背中で守られているリアス達である。軽く殴れば人間を容易く殺せてしまう一誠は力を極力使わないようにしていたため、自身の力と向き合おうとすらしてこなかった。

 だが、人外という存在と出会い殴り合える好敵手とも出会え、力を徐々に解放する方向に向かっていく。

 リアス・グレモリーと出会わなければ一生不完全燃焼のまま、死んで行った事だろう。それには感謝してもしきれない。

 それでも敗北にまで至る明確な弱点があった。

 それは神器を無効化できないということ。

 自分以外の神器使いに出会った事がないので気づかなかったが、魔力や超能力は無効化できても神器だけが無効化できない。木場祐斗のような武器を作るタイプの神器ならば力で破壊できるから良いが、能力を駆使するフリードタイプは致命的な弱点となる。

 

 人間の絶対容量を一○○として考える。この数値を超えたり減ったりすると死亡してしまう。生まれた瞬間から既に容量を何に使うかは決められていて、それを「運命」や「人生」と呼ぶ。

 兵頭一誠も莫大な魔力と赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を元から所持していた。その時点で一○○の容量を使い切っているのだが、とある人物が後付けで別の力を加えようとする。

 救世主(メサイア)による原典の付与だ。

 本来原典を足せば容量オーバーで死に至るのだが、その対策として原典が付与される前に生きていく糧「運命」を一部抜き取って、空いた容量に原典を入れる事で容量を一○○でキープしている。

 両親の記憶を失ったのはこのためで必要な犠牲だった。

 これで容量ぴったり問題ないとなるはずが、原典の無効化能力が一誠の膨大な魔力と神器に反応してしまう。

 本来ならば簡単に打ち消せばいいのだが魔力を消せば大きな容量のマイナスになり、神器を消せば反発神器抜いた影響で死ぬ事になる。

 入れた瞬間に強烈な痛みが走りこれが原因で一部記憶が欠如してしまう。それでも早急に対処しなければいけなくなり妥協案を設定した。

 失った魔力分の容量を身体能力や肉体強度に回し、神器を能力の例外とする事で反発を抑え完全に定着させるというもの。

 この時に一誠の弱点が作られた。

 

「その通り神器が弱点だった、それが原因でお前に負けたよ。だったらその弱点を無くせばいいよな」

「それができるならあの場でしていたはずだ!!だがしていない、そう簡単にできるはずが」

「俺もできないと思ってたさ。お前の神器の名白亜の聖槍(アウスヴァール・ロンゴミニアド)を聞くまではな」

 

 一誠は総じてこの事実を知らないが故に今まで解決してこなかった。というよりも原典に対しても詳しくは知らなかった。

 使えるから使ってるのであって無ければないで別の物を使っていた。それがフリードの神器の名を聞いた瞬間部分的に原典について思い出した。

 

「俺の原典の名【最果ての聖槍(ロンゴミニアド)】を思い出したんだ」

 

 最果ての聖槍(ロンゴミニアド)とは文字通り世界の果てに位置する聖槍ではなく、聖槍がある地点を最果てとする剪定武具である。

 これが無効化能力に繋がるのは最果てを設定する事に起因する。

 徒競走にしてみればわかりやすいのだがスタートとゴールどちらが良いかと言われればゴールで、最果ての聖槍が最果てと今現在認識しているのは一誠達がいる世界ではない。

 槍自体は一誠が所持しているが最果てとしているのは平行世界の一つ、魔法も悪魔も堕天使も人外を全てオカルトとし化学だけが発展している世界を最果てとしている。

 一誠は世界と世界の衝突をその掌で起こしている。

 世界の衝突は突然力が強い方が残りそれが最果ての世界の事象である。魔法は存在しないため意味が無い、魔力もないため意味が無い、この原理により数々の人外の力を無効化してきた。それでも絶対的な限界があって生き物を触れて無効化まではできない。

 そのため神器を例外というよりも、神器があるが悪魔等の人外がいない世界を最果てとしていると言える。そうではなぜ一誠はフリードの神器を無効化できたのか、それは──

 

「なぜだ何故!」

「そんなの簡単だろ。原典と神器を融合させて、異物と認識させないようにしただけだ」

「な・・・・・・」

 

 簡単に言ってのけたが原理は複雑で一歩間違えれば死んでいてもおかしくはない。割に合わないギャンブルだったが、一誠は命をかけてギャンブルに望み望んだ成果を得た。

 

「だから改めて紹介するぞ。赤龍帝の篭手改めて【最果ての赤き聖篭手(ブーステッド・ロンゴミニアド・アライヴ)】そしてこれが、禁手(バランス・ブレイク)いや【禁典(バランス・アポカリプス)】ッッ!!」

 

 掲げた左手に篭手が出現するがいつもと姿形が違い極光を放つ。

 篭手は手首から指先までは今まで通り赤い鎧なのだが、そこから先に広がるのは赤黒いラバースーツだ。見た目がラバースーツに似ているだけで、その本質は極小の龍の鱗が隙間なく並んでいるのでそのように見えているだけで、動きやすさを追求しながら防御力を兼ね備えた一誠らしい進化だ。

 そこに足首から下、脛、腰周り、胸部、頭に部分的に鎧が付け加わる。

 鎧の凹凸は今まで以上で鎧というよりはもはや龍そのもの、巨大な龍を人型にした物という印象が強くなる。身を守る事よりも戦闘をする事に特化したのだ。

 フェイスの変化は凄まじく人の口に当たる部分には鋭い牙が上下立ち並び、双眼の翠色をより目立たせる般若のようなシワは龍をより表している。

 |最果ての赤き聖篭手の鎧《ブーステッド・ロンゴミニアド・アライヴ・スケイルメイル》はここに完成した。

 

「こっちの準備は終わったぞ」

「マジかよ・・・」

 

 直接見たのは初めてとはいえ映像越しに見た旧鎧よりも、凄まじいオーラを肌で感じ取りまるで地球そのものを相手にしているような錯覚に陥る。

 兵頭一誠はもはや誰にも止めることは出来なくなった。



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