煌めく隠岐紅音の世界から (紅島涼秋)
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煌めきはあなたと共に駆けて

 当作品は、「小説家になろう」投稿作品である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」の二次創作となります。
あらすじ
 隠岐紅音(秋津茜)と陽務楽郎(サンラク)の恋愛SS。秋津茜中学3年生の夏に家族旅行とともに旅狼のオフ会が決行されることになった。二人の仲はどうなるのか?
クターニッド後、旅狼所属済み。オフ会という原作の過去改変にあたります。

 作者である硬梨菜様の作品、いつも楽しく拝読しています。
【注意事項】
 秋津茜可愛すぎて滅びた。という気持ちから書きました。秋津茜と陽務楽郎の恋愛SSです。
 原作である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」とは一致しない設定などもありますが、ご容赦願えればと想います。
 基本的なゲーム部分に詳細な物は無いので、人間関係の設定だけ目をつむっていただければ幸いです。
 最初と途中入るシリアス成分のせいでい秋津茜の性格が光属性ではないかもしれません。そのため、秋津茜に曇りは要らぬというタイプの方はこれを見なかったことにしてくだされば幸いです。ちょっと恋愛につなげるために挟んでしまいました……。
 秋津茜中学3年生の夏に家族旅行で旅狼のオフ会が決行されることになりました。そういう設定で物語を動かしますので、原作の過去改変にあたってしまうと思います。
 文章はほぼ「ですます」で独白みたいな状態です。

 ハーメルン投稿未熟のため不手際等ありましたら申し訳ございません。随時理解次第改善していきますので、ご容赦願えれば幸いです。


 朝の日差しの下で、アスファルトの道を一定のペースで私は走っていた。カレンダー上は春と言われている月の空気は朝でもまだ寒い。

 未来の自分は今の私をどう見るだろう。

 そう考えて、私は"今の自分"から"過去の自分"を振り返る。

 華奢な体に暗い顔をして私を見つめる"私"。でも、今の私はそんな昔の私を尊敬する。歩きだそうとしたから。

 これから私は何を見つけられるだろうか。その答えは、きっと――。

 住宅街を抜けて、高台の上に立てられた学校の校門の前にたどり着く。

 高台にあるここからの景色は、結構好きだった。頑張らないと見れなかったものだから。けど、これも今日で見納め。

 広がる山々は碧く輝き、鳥が空を舞う。

 

 世界はこんなに煌めいている。

 

 

     φ

 

 先輩方にSNSで連絡したのは気まぐれでした。

 偶然ペンシルゴンさんがサンラクさんの住んでいる都市についてお話されたので、私は近く家族旅行でそちらに行きます! と言ったら、ペンシルゴンさんがすごい嬉しそうにオフ会なるものをセッティングしてくれました。

 私はちょっとだけ迷いましたが、ここで踏み出さないのは違うんじゃないかと思ってスケジュールを確認して参加を表明しました。私のお祝いで旅行を組んでくれた両親には悪いのですが、オンラインゲームの中でいつも顔を合わせて楽しくさせてもらっている方たちと直に顔を合わせて話せるというのは、私にとって良いものになるのではないかと思ったからです。

 ペンシルゴンさんはスケジューリングを整えるのが得意なのか、私のスケジュールに合わせてみんなの予定を組み上げていきます。けれど、やはり予定が合わず一部来れない方もいました。

 また不思議なのは、オイカッツォさんとサンラクさんについては参加の可否ではなく、参加決定で話しをされていたことなのですが、きっと仲良しなのでしょう。少しだけ羨ましいです。これがきっと昔からの腐れ縁の以心伝心というものではないでしょうか。

 私はまだまだそういう付き合いが長い友人はいないのです。

 家族も一生懸命説得しました。とりあえず旅狼のトップ三名の写真をペンシルゴンさんが送ってくださり、変な人達――じゃないですよと説得しました。ペンシルゴンさんはゲームアバターとそのままなのは驚きました。もしかして、私と一緒で嬉しくて素顔で登録してしまったのでしょうか?

 さておき、ペンシルゴンさんは楽しそうに私の両親と通話をしていただいて、説得に協力してくれました。サンラクさんやオイカッツォさんはよくペンシルゴンさんとは会話する前に倒したほうが良いと言っておられましたけれど、こんな優しい人にそんなことはできません。

 無事説得に成功した私は、旅行の日を楽しみにしていました。

 

 

 ……楽しみにしすぎました。

 私は夏の日差しを浴びながら駅前に降り立って後悔していました。

 皆さんと会う約束をしている時間よりも早く来すぎたのです。

 SNSを見ても当然「もう着きます!」と書かれてる方はいません。私は恥ずかしいので当然書いていません。

 私はうーんと悩んでから、とりあえず運動がてら歩いて散策することに決めました。旅行中はストレッチはしていますが、日課のランニングが出来ていません。けれど、今ランニングしてしまえば汗で濡れた状態で皆さんに顔を合わせることになってしまいます。

 そういうのは無しだと考えました。

 看板を見て悩んでから、とりあえず大きめのスペースを緑色で塗られた場所へ向かうことにします。近くに川も書かれており、きっと公園でしょう。

 

 

 地図の縮尺に騙されました……。かなり歩いてたどり着いた公園は、木々に囲まれて爽やかな風の香りがしていました。

 公園で走っている人がいます。そんな姿を見ると私もランニングしたくなって、なぜかその人が声を上げて足を止めました。

 

「秋津茜?」

「はい!」

 

 思わずスパッと勢いのある返事を発しましたが、私はきっと間抜けな顔をしていたに違いありません。その人はどうして私のゲームの中の名前を知っているのでしょう。そんなことを思いながらよくよく見れば、写真でお見かけた顔です!

 

「もしかしてサンラクさんですか!?」

「こっちでは陽務楽郎ね」

「あわ、すみません。あのー、私もゲームの名前じゃなくて、……隠岐 紅音です」

「あかねは変わらないんだなー」

「安直ですみません」

「良いと思うよ、俺も同じようなものだから。隠岐さんは、もしかしてもう集合する時間だったか?」

「いえいえ、全然違います。私がちょっと早く来すぎちゃいまして!」

 

 サンラクさん……いえ、陽務さんが携帯端末を見てホントだと納得していました。とてつもなく恥ずかしいです。

 あと、ゲーム内と顔が全く同じだということもバレるということを忘れていて、今気づいたのでそれも恥ずかしくなってきました。

 

「あー、とりあえず俺、家に帰るんだけど、どうする? というか、良くここまで来たね」

「えーっと、地図に騙されてしまいました! 良かったら改めて集合するときに一緒に着いて行かせてもらえれば助かります!」

「隠岐さんは元気だなぁ。良いよ、じゃあ、とりあえず家に行こうか?」

「はい! ありがとうございます」

 

 先輩に付いて雑談しながら家へ向かいます。近くにお店も無いですし、また駅まで歩いたらとても時間が掛かりそうです。

 先輩の家は一軒家でした。私はありがたく家に上げてもらって、同じ年のサンラクさんの妹さんと出くわして一悶着ありましたが、なんとか説明に成功しました。なぜかいきなり「お兄ちゃんが年下の彼女連れてきたあああ!」と大きな声で言われた時はとても焦りました。陽務さん……、妹さんも陽務さんです!

 楽郎さんが瑠美さんに無事事情を説明して、私はリビングで楽郎さんが着替え終わるのを待つ間に、瑠美さんとたくさんお話できました。モデルのお仕事をしているということで、私と違ってもっと女性らしいスタイルをしていました。同い年なのに羨ましいです!

 楽郎さんが愛飲しているライオットブラッドなるものを示されて、滔々と楽郎さんの生活についても聞かされました。うーん、確かにこれは良くないと私も思います!

 楽郎さんが着替え終わってリビングに姿を見せた時に、私は瑠美さんと一緒に徹夜の問題について楽郎さんと向き合って話しました。健全な生活が大事だと思います! ランニングもされているようなのに、勿体無いです。

 

「いやー、時間がなくて頼っちゃんだよね」

「でも、楽郎さん無理し過ぎは駄目だと思います! 体がもちません。徹夜した次の日のランは自分でも良くない結果にしかならないんです」

「隠岐さんはアスリートだなー。俺は勉強やってゲーム開始すると遅くなっちゃったりしてね」

 

 う、あんまり強く言えそうに無いです。私もリュカオーンの時もついつい遅くなったりしました。それ以外でもこっそり遅くまでゲームをしている時があります。結局説得は上手くいきませんでしたが、よほどのことが無い限りは無理しないと約束いただけました。リュカオーンやクターニッド、クソゲー(??)攻略などのレベルでなければ無理ではないらしいです。あまり変わらなかったかもしれません。

 そんな話しをしていたら、良い時間になったらしく妹さんに見送られて二人で集合場所へ向かうためのバスに乗るため歩きました。

 並んで歩いていると、楽郎さんは私が見上げなければ視線が合わないくらい背が高くて、大人の男性という感じです。

 

「あの、陽務君」

「あ、斎賀さん。ちょうど良かった一緒に行く?」

「こ、こんにちは。その、この方は」

「隠岐紅音さん、秋津茜だよ。隠岐さん、こちら斎賀玲さん」

「サイガ-0さんですか! 隠岐紅音です。斎賀さん、よろしくおねがいしますっ!」

「ふわぁ、よろしくお願い、します。あのどうしてお二人は一緒に?」

「道に迷ったら楽郎さんに助けられました!」

「ら、ららら――」

「ら?」

 

 楽郎さんに聞くと、よくあることらしいです。大事なのは時間を置くことらしいです。とりあえず三人で目的地に向かいます。斎賀さんはゲームの時とはイメージが違うので驚きました。ムキムキじゃないです。清楚なお嬢様です。

 楽郎さん達とシャンフロの話しで盛り上がり、さらに私の部活動の事で話しを聞いてもらいました。

 格闘ゲームで初めて出会った時も初心者の私に戦闘しながら教えてくれました。楽郎さんの初心者というか先輩として後輩に対するスタンスはとても優しいです。実は今までプレイしたゲームの内容をあげていくと、楽郎さんもプレイしたことがあるゲームばかりでとても盛り上がってしまいました。

 頑張ってクリアしたつもりですが、まだまだ見落としていることが多かったみたいで、プレイしてきたゲームのイメージがまた変わります。たくさんのことを教えてもらい、私の気持ちはほくほくです。

 

 オフ会の集合場所にはペンシルゴンさんやオイカッツォさんとシルヴィアさんという方が居て、楽郎さんが何故か逃げ出そうとしたので、ペンシルゴンさんに言われて追いかけて手を取りました。捕まえるなんて大層なことは出来ませんが、私が楽郎さんの手を捕まえるとあっさり足を止めてくれて、なぜか諦めた顔をしていました。

 逃げ出さないように捕まえていてとペンシルゴンさんがなぜか楽しそうに言うので私は楽郎さんと手をつないだまま合流します。……父親以外で、さらに年の近い男の人の手は私と比べると大きかったです。ドキドキしました。お店に着くまで結局繋いだままでしたが、楽郎さんは良かったのでしょうか。

 手を繋いでる間、楽郎さんの顔を見ることは出来なくて私にはわかりません。

 でも、私は嬉しくて良かったです。

 

    φ

 

 秋が過ぎてすっかり冬になりました。たくさんある写真を振り返れば、オフ会の楽しい時間が蘇ってきます。オフ会ではほとんど楽郎さんの隣に座って話してしまいましたが、楽郎さんには個別の連絡をもらえました! 聞いたら案外すぐに教えてもらえたのです。

 シャンフロや旅狼SNS以外でも、個人的にお話したいことがある時はやり取りしています。

 たまに、クソゲー(??)期間という物で連絡が取れなくなります。その時はシャンフロでも会えないので寂しいです。

 オフ会の後に悩みがあって、両親に相談しました。何度も両親と話し合いましたが、秋からずっと両親は難しい顔をしているばかりです。

 とりあえず冬休みも勉強を頑張って、受験をするつもりです。今の住んでいるところからは遠くなるので両親の説得を頑張っています。

 無駄にしたくないです。

 さらに説得方法を天音さんや魚臣さんに相談して学びました。勉強になることばかりです。

 

    φ

 

「サンラクさん」

「どした?」

「ここに行ってみませんか?」

 

 ゲームで私はサンラクさんを誘って、そこへ向かいました。

 それは海を望む街にある教会の塔のてっぺんにあるひらけた空間です。

 時間は夜で、海は黒い鏡みたいになって満月を反射していました。

 二人共軽量敏捷寄りなのでスキルを使ってこっそり駆け上がりましたが、とても高いです。きっと高所恐怖症の人はゲームとはいえ立っていられないでしょう。

 強い風が私の体を撫でてどこかへ消えていきます。

 いつも着けている狐の面を外して、素顔を晒します。ここなら誰に見られることも無いでしょう。サンラクさんも珍しくあの仮面を外してくれました。

 ……うーん、姿に関してツッコミは止めておきます。真面目な話です!

 

「ここに何かクエストでもあるのか?」

「ごめんなさい。クエストなんて無いです。話があってお誘いしました。

 サンラクさんは未来の自分が憧れって言ったじゃないですか」

「懐かしすぎる」

「ふふ、そうかもしれません。……私はサンラクさんとここに来たかったんです」

 

 海のうねりが見えて、波の音が聞こえてくる気がします。けれど、やっぱりそれは気のせいです。だって、風の音だけがここで私達を包んでいますから。

 

「楽郎さんは陸上部の私しか出会ってないかもしれませんけど、私、元々虚弱だったんです」

「オフ会で在った時はそんなイメージ全く無かったな」

「はい、頑張りましたから! 私は頑張る人を応援したいです」

「……ずっと思っていたけど、なぜ?」

 

 尋ねられると思っていました。けれど、尋ねられると答えに詰まってしまいました。

 私の目の前に立つ彼に私は何度も考えて来た言葉を言おうとして、ああ、これは違うんだなとその言葉を選ぶのを止めました。

 どうして楽郎さんの瞳はこんなに前を見つめられるのでしょう。

 

「私は、諦めたくない」

 

 それは私の内心。それが私の根底。

 頑張る人を応援したい。どうして?

 目的に向かう人を手助けしたい。どうして?

 今の私の言葉を、過去の"体が不調にならないようにじっと耐えていた私"が尋ねていた。

 楽郎さんは何を言うでもなく、私の言葉を待ってくれている。

 

「手を伸ばすのは憚れた。私が体調を崩せば親に迷惑がかかる。クラスメイトに迷惑がかかる。だから、諦めるしか無かった。クラスメイトが気軽に投げ出したものは私が欲しかったもの。だけど、それは私の物じゃない」

「……そうだよ、紅音がほしかったものは何だ」

「手を伸ばしたい。自分の出来る範囲、狭い世界じゃなく、楽しそうに新しいことを話すクラスメイトたちと少しでも理解したい。私は置き去りにされたくなかった。だから、私は走り出した」

 

 そう、私は走り出した。虚弱体質を治すために走って倒れて、だけどもう私は走り出していたから、足を止めることを私自身が許さなかった。

 

「親が止めたほうが良いと言っても、私はもう走り出したから!

 私は走るのを止められるよりも、応援されたかった!

 頑張れって言ってほしかった!

 何を言われても私は静止を振り切って走り続けて、私は今の私になった。

 両親は良かったって、友達も良かったって、虚弱じゃない私を褒めてくれる。

 でも、私はそれは違うと思う。

 挑戦しなかったら今の私は無かった、違いませんか?」

「それを俺に聞いて、今の、これからの隠岐紅音に大事か?」

「……はい。いいえ、大事じゃないです。そうですね。私、間違えちゃいました」

 

 初めて変わろうと思って走り出したのは、今みたいに大きな満月が空にある時でした。その時は誰も私を応援してくれなかったかもしれないけど。

 

「私は誰に何かを言われても良いです。

 せめて、私の近くで努力する人がいれば応援したい。

 目的に向かって進む人がいれば手助けしたい。

 努力を選ぶなら、私はそれを間違いだと思いません。目指すものがあるのなら、その道を私は誤りだと思いません。

 だけど、ふと立ち止まって迷った時に、偶然楽郎さんがいました。あんな質問をしたのは本当に偶然だったんけど、私は私以外から私の答えを聞きました」

「そんな大層なもんじゃないと思うけどな。みんなやめたいから、足を止めるんだ。……挑戦しない人はわかんないけどな」

「そうですね」

 

 楽郎さんはそんな風に気楽に言いました。けれど、それはどれほど高く遠い先か私にはわかりません。

 楽郎さんの視線はいつもまっすぐで強いです。シャンフロを始めてリュカオーンと戦う楽郎さんに出会った時から変わりません。でも、変わらないのに楽郎さんは前へいつも進んでいます。いつもあなたを見ていたつもりだったけど、気がつけば走り出して私の視界から居なくなっていました。追いつけないです。

 だけど、私は知っています。追いかけなくて良い。

 楽郎さんは走っている。だから、私も前へ向かって走れば楽郎さんと必ずどこかで交差する場所があると分かってます。

 初めて出会ってから、今までもずっとそうでしたから!

 

「私が振り返れば、虚弱だった頃の"私"が私を見てます。これが"私"だった。でも、今の私も私自身なんです。

 頑張ったら今の私になったから、今の私の先が分からなかった。何を目標にすれば良いんだろう。そんな風に思っていて、私はただ"私"から離れようとしただけだった」

「逃げたいだけの人間は他人の応援なんて出来ない。無償の手助けなんて出来やしない。お前は」

「私はっ」

 

 楽郎さんの優しさを遮って、でも、私は大丈夫。だって、とっくに私はもらっているから。

 

「今の私は過去の私に誇れます。そして、私は楽郎さんと同じように未来の自分に憧れたい。未来の自分が今の私になった時に、過去の私が今の自分に向けて誇れるようにありたい。だから、楽郎さんありがとう」

「なぜお礼?」

「だって、楽郎さん。あなたのいる世界はこんなに楽しいから!」

 

 私は彼の手を取って、塔から飛び出す。もう足を置く床は無い。

 浮遊感の伴う自由落下から、私はスキルを使って足を踏み出した。

 楽郎さんの持つスキルとは比べ物にならないけれど、でも、空を歩くにはきっとちょうどいい。

 楽郎さんがびっくりしている顔がとても楽しくなって笑っていたら、いきなり楽郎さんに引っ張られ、気づけば飛び降りた塔の先をも越えた遥か高い空の上だった。

 どんどんと空を駆け上がって、気づけば遠くに見える雲を眼下に収めて、私も楽郎さんも重力に捕われてすごい速度で海へ向かって落ちていく。

 黒い海の鏡に映った月が青白く輝いて、空と海から私達を照らしていた。

 きっと楽郎さんには聞こえないだろう。こんなに風がうるさいんだから。

 今言うべきことは想いじゃなくて、だから私は感謝を声に出した。

 

「ありがとうございます」

 

 あなたと出会った世界はこんなに楽しい。

 あなたと出会えた世界はこんなに輝いている。

 

   φ

 

 中学の卒業式、いろんなクラスメイトや陸上部の後輩たちから尋ねられました。みんな比較的近くの高校に通います。でも、私は違う。

 別れを惜しむ声に答えていく中で、友人が私に尋ねました。

「どうして紅音はそんな遠くの高校に進学するつもりになったの?」

 私はそれに笑顔でまっすぐ答えます。

 きっと分かってもらえない内容かもしれないけど、これが私だから!

「これが私の誇れる道だから!」

 

    φ

 

 青空の下、軽やかな風が吹いて桜を散らしている。春の日差しをいっぱい受けた通学路を私は駆け抜けていた。

 高校の制服はまだ着慣れないけれど、これが今の私だ。

 学校へたどり着けば、私は彼の後ろ姿をすぐに見つけることが出来た。なんとなくだったけど、私は運が良いみたいだ。

 思いっきり息を吸って声を発した。

「楽郎さん!」

 彼が振り向けば、驚愕の表情を貼り付けていた。それはそうだろう。こっちに来ることを相談なんてしていなかったから。

 後で怒られるかもしれないけど、私は振り向いた彼の胸の中へ思いっきり飛び込んで抱きしめる。

「楽郎さん、あなたが好きです! 大好きです。あなたと一緒に走って行きたい。だからまずはここまで来ちゃいました!」

 

 あなたのいるこの世界は、こんなにも煌めいている!

 

 




少しでも楽しんでいただければ幸いです。
お読みいただき、まことにありがとうございました。

一部加筆修正12/27 18:13
一部修正12/27 20:27
シャンフロで見るまで紅音は海を見たことがなかったため
序盤の部分 広がる海→広がる山々に訂正


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雪に消えゆく面影は-されど想いは煌めく

 隠岐紅音(秋津茜)と陽務楽郎(サンラク)の恋愛SS。同じ高校に通い交際している二人。
 クリスマスも間際、クリスマスイヴを楽しみにする茜。けれど、楽郎が冷たいような? 楽郎と同じクラスの女性がよく楽郎に話しかけていて……。「私が彼女だよ?」茜は彼へそう言った。

 当作品は、「小説家になろう」投稿作品である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」の二次創作となります。
 作者である硬梨菜様の作品、いつも楽しく拝読しています。
【注意事項】
 秋津茜可愛すぎて滅び継続中です。もう駄目です。秋津茜と陽務楽郎の恋愛SSです。
 原作である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」とは一致しない設定などもありますが、ご容赦願えれば幸いです。
 基本的なゲーム部分に詳細な物は無いので、人間関係の設定だけ目をつむっていただければ幸いです。
 隠岐紅音(秋津茜)と陽務楽郎(サンラク)は同じ高校で春から交際中です。
 文章はほぼ紅音の「ですます」で独白みたいな状態です。

 ハーメルン投稿未熟のため不手際等ありましたら申し訳ございません。随時理解次第改善していきますので、ご容赦願えれば幸いです。


 冬が来ました。私が高校生になってから初めての冬です。家族と一緒に過ごさないクリスマスは初めてになります。冬休みになったら実家へ帰ってきてほしいと両親からは言われているのですが、クリスマスはまだ冬休みじゃないので私は安堵しました。

 でも、仮に冬休みであっても、きっと私は部活動を理由にわざと先延ばしにしていたと思います。ちょっとだけ私は悪い子になってしまったかもしれません。

 両親との通話を終えて、明日のお弁当の用意を夜の間にしておきます。楽郎さんのお弁当を作るのはいつも楽しいです。明日もお弁当を喜んでもらえるでしょうか?

 

    ◇

 

 今は昼休みになった学校の廊下です。廊下から教室の中を覗けば、いつもいろんな人に囲まれている彼がいます。清楚なお嬢様の見た目をした女性がよく話しかけているのを教室に立ち寄るとよく見かけます。お弁当を作ってきた私は楽しげに話している彼に近づいて声を掛けました。

 大事なのは間合いですね。走って近寄らず、ゆっくりと近づきます。

「楽郎さん、お昼、一緒に食べませんか?」

「茜か。ごめん、今日はちょっと昼は学食で食べるから」

「そ、そうですか。ごめんなさい」

 謝るのが大事らしいです。教わりました。本当は問いただしたいです。

 お嬢様な見た目の女子学生が、私をちらりと見てから私を隠すように動いて彼に話しかけます。彼は楽しそうな声でその人と話します。

 ここで大事なことは学んでいます。我慢して、立ち去らなければなりません。立ち去る前に一声残すのが必要です。

「それじゃあ、また」

 

 そんなお昼を何度か繰り返しますが、携帯端末では彼と連絡を取ることが出来ます。彼は私の作った質問に短く答えるだけですが、それも仕方ありません。彼は忙しいということです。

 これも言われたことですが、根気よくこちらから連絡を送るのが大事と教わりました。

 部屋から駆け出したいのを必死で我慢します。

 

    ◆

 

 もう冬は目前です。放課後の騒がしい教室の中で私はある人物に向かって近づきます。私は目の前に迫る冬の大イベントのために気合を入れました。

「あの! 瑠美ちゃん!」

「紅音ちゃん。どうしたのー?」

 同じ高校に入って偶然クラスが一緒になった友達の瑠美さんに話しかけます。いつも良くしてもらっています。

「休日で空いてる日ある? あの、クリスマスプレゼント買いたくて、協力してほしい!」

「お、おぉぉ」

 どうしてか瑠美ちゃんが私の言葉にうろたえてます。ついでなぜか放課後の教室に残っていたいろんな学生の視線が私を見ている気がします。

 でも、気のせいですね!

「私の目には眩しすぎるよ」

「何がでしょう?」

「ううん、良いんだ。そのままの紅音ちゃんで居て」

「はい! それでどう?」

「良いよー。土曜日が私は良いかな」

「ありがとう! 部活が終わってからで良いかな? 日曜日よりも土曜日のほうが都合つくから良かった!」

 強力な味方が居てくれて嬉しいです。私はとりあえず陸上部があるのでお別れします。バイバイと瑠美ちゃんに手を振って教室を出る時、やっぱり周りから視線を感じました。

 何か変なことをしてしまったでしょうか?

 気になって振り返ってみると男子のクラスメイトたちが顔を動かした気がします。でもはっきりしません。

 うーん、やっぱり気のせいですね!

 いつも私は上級生のクラスへ寄り道して楽郎さんに顔を出して挨拶をしてから陸上部へ向かいます。

 放課後に顔を出すと同じクラスの斎賀さんが楽郎さんと話していることをよく見かけます! 斎賀さんと楽郎さんは仲が良いです!

 

     ◆

 

 陸上部が終わって、家に帰ります。

「ただいまー」

 ついつい言ってしまうのは未だに直りません。暗い部屋は電気を着けても誰もいません。一人暮らしのマンションなので私一人です。

 とりあえず習慣になった洗濯や夕飯の準備を終えます。こちらに来てからゲームの時間が取りにくくなったのが皆さんに申し訳ないですね。

 楽郎さんの悪魔の誘惑に唆されてしまいそうです。

 課題を食事前に行い食事を取ってお風呂などを終えたらライオットブラッドを飲んでVRゲームという生活です。私は食事を簡単でも作らないといけませんが、明らかにお風呂を終えた後からカフェイン飲料を飲んでVRゲームをやるのは駄目だと思います。

 今日ぐらいはゲームよりもクリスマスに向けて、楽郎さんに何を贈ったら良いか迷ったほうが有意義ですね。

 それと明日の私と楽郎さんのお弁当はどんな内容にしましょうか。ストックしてきたパターンのどれで作ろうか悩みます。こういう時間もとても楽しいです。

 

     ◇

 

 冬へ変わる時期の冷たい雨が降っています。

 ショッピングモールの中にあるカフェで、妹さんと顔を向き合わせます。すごく悩んだような顔をしているのです。私は彼女に向かって尋ねます。尋ねるタイミングが大事です。マグカップを置いて、私と彼女のマグカップの側にミルクとスティックシュガーを一つずつ取って置きます。そして私が膝に手を置いてからです。

「どうしたの?」

「……茜はこのままで良いの!?」

 すごい大きな声を上げた彼女に驚いた顔で返します。

「いきなり言われても何か分からない」

「茜はお兄ちゃんの彼女でしょ。なのになんであの女がいるのを見ると引いたりするの!?」

「私は別に」

 平手で頬を叩かれました。思ったよりも衝撃が強いです。テーブルに置かれていた陶器のマグカップがお店の床に落ちて砕けました。

「そんな嘘をつかないで、私達友達でしょ!?」

「そうだよ、友達だよ」

「だったら本当はどうしたいか言ってよ!?」

 ひどく彼女がヒートアップします。それを少しでも抑えるために私は顔をうつむかせます。

「私、楽郎さんが幸せなら」

「お兄ちゃんの幸せは茜と付き合うことだよ! なのに、どうして茜はそんなこというの!? お兄ちゃんへのプレゼントを買いに私と来たのに、そんなことを言う茜に対する私の気持ちを考えてくれないの!?」

 ここで私が取れる選択はとても少ないです。そして、一番良いのは一言謝ることでした。

「ごめん」

 私の言葉を聞き終わると、短く「馬鹿」と発して彼女は私の前から立ち去ります。残された私の足元にはコーヒーで濡れたプレゼントの紙袋があります。

 

     ◆

 

 日曜日に私は珍しくゲーム以外で楽郎さんと会っていました。本当は楽郎さんと出歩きたかったけれど、期末テストがもう目の前です。そのため、楽郎さんに勉強を教わりたいと私のお部屋に誘いました。

 もう何度も私の部屋に楽郎さんは遊びに来ているので、今日も慣れた調子で置いてあるコタツの定位置に座ります。残念ながらライオットブラッドは無いので、コーヒーで我慢してもらいます。

 美味いよと言ってもらえるだけで、とても心が温まります。

 

 勉強タイムが終わって、私は楽郎さんが買ってきてくれたお菓子を用意します。

 お菓子は珍しくケーキです。しかも美味しいと前に瑠美ちゃんがおすすめしていたお店です。私は良いなーと思うだけでしたが、楽郎さんは並んで買ってきてくれたみたいです!

 一口食べれば、とても美味しく思わず頬がほころびます。

「美味しい! 買ってくるの大変だったんじゃないですか?」

「良いよ、勉強には糖分が大事だから」

「ありがとうございます!」

 あっという間に食べてしまいました。その後はとりとめのない話しをして、勉強を再開し、夕ご飯の時間になってしまいます。楽郎さんと一緒にいると時間があっという間です。楽郎さんを夕食に誘って一緒に食べます。

 私の部屋で会う時はいつもこのパターンです。

 今日は冬なのと明日以降も作り置きで食べることができるシチューです。楽郎さんに喜んでもらえたのが一番作ってよかったなって思います。

 そして、一緒にお風呂のお湯に浸かりながら過ごす時間は、きっと楽郎さんより私の方が癒やされているでしょう。一人暮らしをしてから、とても人恋しい時があります。

 楽郎さんの体に背中を預けると、抱きしめられてホッとしました。

「楽郎さん」

「なんだ?」

「幸せだなぁって思って呼んじゃいました」

 こんな幸せな日曜日は多くないですが、こういう日はとても貴重で忘れがたい日です。

 

 クリスマスデートの約束を楽郎さんとしました。私のスケジュールもですが楽郎さんも都合がついて大丈夫と言ってくれて良かったです。

 今から楽しみですね!

 

    ◇

 

 人がランダムに周囲を動き回ってどこかへ立ち去ります。

 クリスマスツリーを彩ったイルミネーションの傍で私は待っていました。

 クリスマスです。あの人は来てくれるだろうか、と呟いてから腕時計で時間を確認して待ちます。

 吐き出した息は白く、ここはとても寒く感じます。約束した時間はとっくに過ぎてしまいました。

「楽郎さん」

 ぽつりと吐き出した声はあっという間に霧散していきます。名前を言うつもりはありませんでした。でも、ついつい会いたくて、口に出てしまいました。早く楽郎さんに会いたい、そんなどうしようもない気持ちがぐるぐる胸の中に回ります。

 鞄が異様に重く感じられてしまいます。いや、これ本当に重くなってきてます。

 携帯端末が着信を伝えてきました。私はそれを手にして、頑張ってゆっくり開きます。勢いよくメッセージを開いては駄目です。

『茜ごめん、あいつが助けてほしいって。だから行けない』

 それを見た私は一度端末を閉じて、時計を見て周りを見てからもう一度端末を開きます。この動作が必要です。

 そして、ここで大事なことがあります。走ったりするのは駄目です。じっと我慢してCALLボタンを押します。彼が通話に出ました。早いですね。

「どうして」

「ごめん。ごめん、茜。俺やっぱりあいつが困ってるから助けてやりたい」

「私が彼女なのに? どうして今日なんですか」

「本当にごめん。今日、あいつ見合いなんだよ。好きでも無い奴と結婚しないといけないって、それが親からの命令だからって我慢して言うんだよ」

 私はここで即声を発して言葉をはさみます。かなりの気合が必要でした。

「でも! 私が彼女だよ?」

「そうなんだ。でも、俺わかったんだ。俺あいつのことが好きなんだ」

「彼女の私より?」

 あーあーあー。

「そうだ。ごめん茜。俺あいつが好きなんだ! だから別れよう」

「はい!」

 その瞬間――。

 

     ◆

 

 もうクリスマスイヴも遅い時間、私は楽郎さんと手を繋ぎ、イルミネーションに彩られて青く染めあげられた道を歩いていました。とても綺麗なのですが、きっとVRゲーム内の方が派手で綺麗なのがあるという人がいるかもしれません。

 でも、今私にとってはこの時間がとても貴重で大切で私が去年の私に誇れることです。繋いだ手から伝わる楽郎さんの体温はここに来なければ得られないものですから。

 人が少しだけ減って、人の歩く流れから外れたところで足を止めました。

「楽郎さん」

 私は彼の名前を呼んで、背伸びをして彼の唇に私の唇で触れました。私の大切な人。

 唇が離れて、楽郎さんが恥ずかしそうにしています。でも、私は恥ずかしくないです。だって、

「大好きです」

 ああ、楽郎さんからの声はありません。でも、答えはわかります。だって、今度は楽郎さんからキスをしてくれました。

 目を閉じても唇と抱きしめた全身で、彼の温もりが伝わります。

 

 あなたと過ごす世界はいつまでも煌めいている。

 

    ◇

 

「そうだ。ごめん茜。俺あいつが好きなんだ! だから別れよう」

「はい!」

 その瞬間――。不正解を告げるクイズ番組で良く聞く音がゲーム世界に鳴り響いて私はチャプター進行度が表示されたのをSSに撮って旅狼SNSにアップロードしてログアウトしました。

 

    ◆

 

 ログアウトすれば、みなさんが待っています。VR機器を外して横に置きます。

「はい、紅音ちゃんはおめでとう! 3位です」

「……私にしては頑張れたと思います。ノベルゲーは苦手、です」

 天音さん、魚臣さん、楽郎さんやシルヴィアさん、斎賀さんなどが斎賀さんのお家の応接室に集まっています。

 年越しゲーム大会! を天音永遠さんが企画して、どれだけノベルゲーロールプレイを頑張れるかを競っていました。

 このソフトのチョイスは天音さんです。男女別で主人公を選べる珍しいタイプでストーリー難易度が高くストーリーが短く終わるからと言ってましたが、魚臣さんは最後までプレイ済みで終わった後には泣いてました。

 なぜか男主人公でプレイしてたのに友達の男と付き合うことになったらしいです!

「どうしてこのゲームのヒロインさんは彼氏に向かって何も言わないんでしょう? しかも、私だけ相手の名前について楽郎を指定をしたのはなぜですか……。ゲーム内で呼ぶのがとても辛かったです」

「いやー、だってこんな話で指定じゃないと絶対今の紅音ちゃんは我慢できちゃうだろうなーって。ま、私は全然平気だけどね」

「いや、楽郎とほぼ同じタイミングで魔王モードで話して終了したお前が言うな」

「正しい選択肢を選んではずなのにギャグエンディングの男ルートに落ちるとか、笑うんだけど」

「お、やるか?」

 わいわい騒ぐみんなを見て、楽しくて自然と笑顔になりました。楽郎さんの近くにいそいそと近づいて、こっそりその手を握ります。

 窓の外を見れば、斎賀さんのお家の庭が雪化粧した姿が外の電灯で綺麗に照らされていました。雪化粧して幻想的な庭を見るために私一人だけ窓に近づきます。

 

 ちなみ私が頑張った理由は、ビリの人がトップの人からの命令に一回従うという罰ゲームだったからです。楽郎さんが早々にビリ確定のミスをしたので私が頑張らないと駄目だと思ったんですが、負けてしまいました。

 名前を呼ばれて振り向けば、天音さんがすごく楽しそうな笑顔で斎賀さんと私にもしもトップだったら何をお願いするつもりだったのか聞いて来ます。

 斎賀さんは顔を真っ赤にして、固まってしまいました。天音さんも「え」みたいな顔をして困ってます。

「斎賀さんは時間を置けば回復するらしいから大丈夫です!」

「あ、そうなんだ。わかったよー。で、紅音ちゃんは何をお願いするつもりだったのかなー?」

「ライオットブラッドを減らして体を大事にしてくださいってお願いするつもりでした!」

 その瞬間なぜか天音さんが倒れ伏して苦しみだしたので心配しましたが、笑顔の魚臣さんと楽郎さんに連れられて部屋の隅に放置されてしまいました。

 楽郎さんはとてもいい笑顔で、私に気をつけるよ、出来る限りと言ってくれたので聞かれたことが恥ずかしいです。でも、出来る限りなので多分変わらないと思います。

 

 これからも皆さんと過ごしていける日々が続けば良いなと考えてから、違うと内心で頭を振ります。

 これからも皆さんと楽しく過ごしていける日々を続けていくために行動するのが大事ですね!

 

「楽郎さん、今年も、……ううん、これからもよろしくお願いします!」

 

 私は楽郎さんの返事を待たず、つい背伸びをして一瞬触れるぐらいのキスしてしまいました。

 彼の胸の中へ飛び込んだ桜が舞い散る日を思い出します。

 走り続けたから、私はここにいる。

 走り続けると、気づけばあなたの隣にいる。

 

 胸の中にある煌めきは冷めないから、これからも私は走り続けたい。

 

 

END

 

「-雪に消えゆく面影は-」VRノベルロールプレイングゲーム

 フラグ管理が厳しいため進行が少々難しいが、一番評価が下がっているのはあまりのバカさ加減な男主人公側の各バッドエンドの締め方である。エンド以外は真面目な内容で絶妙に重い展開が続くストーリーのためエンドとストーリーとの落差に賛否両論な作品となってしまった。

 作品テーマ「あなたの優しさは誰に向けられていますか」

 男女別主人公選択可。

 男主人公ストーリー:あなたは告白された後輩の彼女と付き合っているが、名家のお嬢様である幼馴染とも昔からの関係は変わっていない。しかし、最近暗い顔をしだした幼馴染のことが心配になって元気づけようと奮闘する。だが、そのせいで彼女と距離ができてしまうが、今は幼馴染のことが心配だ。でも、好きなのは後輩だから別れるだなんて考えもしなかった……。

 バッドエンド1:幼馴染に冷たくすると幼馴染に仕えるNINJAに吊られる

 バッドエンド2:後輩彼女を完全に無視すると後輩彼女の友達の妹から幼馴染と無理やり距離を取らされNINJAに吊られる

 バッドエンド3:どちらにも全く同じレベルで良い顔をして対応したためクリスマスの日、どちらも選べずNINJAに吊られる。

 バッドエンド4:クリスマスの日、お見合いをぶち壊しに来なければNINJAに吊られる。

 トゥルーエンド:主人公は幼馴染と付き合うこととなった。後輩彼女は身を引く。しかし「私、いい女になってみせますから」と最後に告げる。

 グッドエンド:あなたはただあなたに無償の優しさをくれる男の友人に救われていることに気づいた。ズタボロに傷ついていたあなたは――。

レビュー

良い:バッドエンドさえ見なかったらとても良い作品。

悪い:バッドエンドで唐突に、あなたはNINJAに吊られましたってなるのがクソ。

悪い:グッドエンドでゴリラみたいな男友達とキスする寸前まで顔を近づけないとタイトルに戻らず何もメニュー操作を受け付けないのはクソ。

悪い:EDの曲が終わってから屋上から飛び降りたら即強制的にタイトル戻れるぞ? あと、飛び降りる以外だと、キスする寸前じゃなくてキスしないとタイトル行かないのは検証されてるので嘘は良くないぞ。

 

 女主人公ストーリー:あなたは告白して先輩の彼と付き合っている。しかし、最近彼は幼馴染の女性が心配だとあなたを後回しにしてしまう。けれど、あなたはそれを許してしまう。そんな優しい彼も好きだから……。でも、私が恋人ですよね、先輩?

 バッドエンド1:先輩に対して顔を出さなすぎて幼馴染への気持ちが強くなった先輩から早々に別れを切り出されてしまった。

 バッドエンド2:先輩に対して私を優先してと押しすぎて先輩から別れを切り出されてしまった。

 バッドエンド3:先輩の妹に対処を頼んだ結果、無事彼は幼馴染と距離をおいた。しかし、クリスマスの日、彼は交差点で信号無視の車に引かれてしまった。

 バッドエンド4:クリスマスの日、彼とデートをした。しかし、その翌日に彼は首を吊ってなくなった。遺書には幼馴染への懺悔が書いてあったという……。

 トゥルーエンド:クリスマスの日、幼馴染を無事始末したあなたは彼と"永遠"の幸せを手にした。(ただ文字だけが画面に出て終わる)

 ノーマルエンド:あなたは身を引いた。しかしあなたは彼へ最後に「私、いい女になってみせますから」と告げる。

 

 続編「-雪に出逢いし思い出は-」

 ストーリクソゲーはいくつかあるであろうが、ピザ留学とは異なる方向性のストーリークソゲーとして、前作「-雪に消えゆく面影は-」とは違い完全にクソゲーとして評判になった作品。ゲーム性は高いが、「VRノベルロールプレイゲームでのゲーム性とは何ぞや」とプレイヤー達に考えさせた作品となった。

 あと少し悪化すればフレーム単位になりかねない秒単位での挙動や発言によるフラグ管理である。

 例えば一歩踏み出すのが遅ければ、すぐに進行が不正解として終了する。ヒロインの発言を遮る展開の時は、差し込む位置を間違えると進行が不正解として終了する。セーブは任意のタイミングで行えるとはいえ、不正解として終了すればセーブした進行状況からやり直しである。

 作品のレビューは炎上してしまった。

悪い:格ゲーが得意な友人に協力してもらいクリアしてもらったが、全てのエンディングがクソどうしようもないので、虚無感がすごい。前作と脚本担当は変わってないはずなのに。

悪い:答えがわかればリズムゲー。だが、このゲームはカンペはあれどもタイミングを教えてくれる音符が飛んでくることはない。やりきった後のエンディングは全てひどい出来。メインヒロインは二人ではないのか?

 作品テーマ「あなたにとって大事な想いは何ですか」

 大学卒業間際、幼馴染と婚約している主人公の目の前に元彼女の後輩が現れる。束縛の強い幼馴染に疲れていた主人公はその後輩の優しさに抱きしめられて……。

 男主人公のみプレイ。

 トゥルーエンド:互いに憎しみをぶつけ合った結果冷たくなった二人の体を抱きしめているあなたの傍に、NINJAが現れる。彼女は素顔を晒しあなたを救ってみせると告げた。その後、あなたは彼女とともに温かい小さな幸せを手に入れた。

 

◆◇




 文章直前のマークが「◆=現実」、「◇=ゲーム」

 展開的にはバレバレだったと思いますが、少しでも楽しめましたら幸いです。
 この作品の設定では斎賀玲が本気出せなかったせいでサンラクと付き合ってません。本気出したら既成事実……!
 私は原作でヒロインちゃんの恋愛部分もとても好きです。斎賀玲がメインヒロインだなぁって思って原作の展開を楽しみにしているのもあるのですが、他キャラにエモさを感じたので今回天音永遠と隠岐紅音SS書いてしまった次第です。

 長々と失礼いたしました。少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。お読みいただき、まことにありがとうございました。

修正:ヒロインちゃんのあれこれをカット。最後のEND前の文言修正。


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空は遠く、けれど眼前に広がっている


 当作品は、「小説家になろう」投稿作品である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」の二次創作となります。
 作者である硬梨菜様の作品、いつも楽しく拝読しています。
【注意事項】
 秋津茜とサンラクの二次創作SSです。
 原作である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」とは一致しない設定などもありますが、ご容赦願えれば幸いです。
 基本的なゲーム部分に詳細な物は無いので、人間関係の設定に目をつむっていただければ幸いです。
 文章はほぼ紅音の一人称です。


-a

 

 学校はとても楽しくて。とても退屈なところだった。

 

 

 放課後の小学校の窓からのぞく春の空は、どこよりも青く澄んで鳥が心地よさそうに泳いでいた。明日からのGWで浮足立つクラスメイトたちは仲の良い友だちと声を掛け合いながら、教室を続々と出ていく。私はじっと手に開いた本に視線を向けていた。

「ねえ、隠岐ちゃんはどうする?」

「え! えっと」

 急に声をかけられて驚いて、言葉に詰まった。視線を向けて、その瞳から逃げるようにすぐにうつむく。先ほどまでの教室の喧騒を思えば、放課後に"みんな"で遊びに行く話だろう。一学年一クラスしかない小学校の、もう四年も顔ぶれの変わらないクラスメイト達に声をかけられたのに、私はうまく応じることができずにいた。

「隠岐ちゃん?」

「あ……、あの、私」

「隠岐ちゃんはまっすぐ家に帰らないといけないんだから誘ったらかわいそうだよ」

 くすくす笑いで教室の扉近くにいるクラスメイトが告げた。私のそばに立ち声をかけてくれたクラスメイトが困ったような声で彼女へ返答をしていることに胸が締め付けられた。

「そんな」

「あ、あの、私、帰らないとだめだから、ごめんなさい」

「やっぱりそうだよね。ごめんね」

「……うん」

 そして、彼女たちはすっぱりとすぐに教室から去っていく。廊下で響いた声が耳に届いた。隠岐ちゃんはいつも来れないんだから良いじゃん。

 私は十分な時間を待ってから、ランドセルを担いで学校を出る。帰り道を本当にゆっくりと歩いていた。

 コンクリートの地面に伸びる影は長く濃い色をしていた。たくさんの影が私を追い抜いていき、騒がしく駆けていく。

 

 家に帰ると珍しく祖父母が顔を出していた。全員から今日は無理しなかった? と質問攻めをされて、私はなんとか笑って大丈夫だったと答えて食卓を囲む。

 どうして祖父母もいるのか聞くと、今日は良いものを持ってきたと言って、大きな箱を私に見せた。

 

「これどうしたの?」

「紅音ちゃんのゴールデンウイークの気晴らしになるかと思って、持ってきたの。お父さんもお母さんもうちの田んぼの手伝いで掛かり切りになってしまうでしょ?」

 

 誕生日でもないのに、どうしてと思っていたけど、おばあちゃんからそう返ってきた。

 休日にほぼ一歩も外に出ない私のために用意してくれたんだ。本来は私も家族の田んぼを手伝う愚痴を言うクラスメイトたちみたいに、駆り出されないといけないんだ。

 ……私は申し訳なさとかいろんな感情がぐるぐると混ざりあいながらも懸命に笑った。

「ありがとう」

 

-b

 

 次の日、私はそれを取り出して必要な道具を設置する。それはちょっと古い型式のVRマシンだった。VRといっても、ゴーグル型のマウントディスプレイに映像を映すタイプで、最近話題になっている意識没入型タイプではない。部屋のあちらこちらにモーション読み取り用の機器を置いた。簡単に置けたのでほっとする。一本だけ入っていたゲームをインストールして起動する。

 しっとりしたBGMとともに目の前に広がるくすんだ色合いの世界。

 流れ落ちるように現れたゲームタイトルは風にさらわれてあっという間に消えていった。薄暗い木々に囲まれた広場で、私の視線は持ち上がる。

 

「なんだ……。お前、生きておったのか」

 

 そうしてすぐに掛けられた声にびくっとして、声の方へ振り向けば、そこにはお腹に刀を刺された青年が枯れ木に背中を預けてこちらを気だるそうに見ていた。

 地面に広がる血溜まりはもう広がることはなく、黒々として乾きつつあった。

 

「なんとか、……言わんか」

「あ、あ、あの、はい、すみません」

 

 また出てしまった。ゲームなのに。どうして小学校で声をかけられた時みたいに、言葉に詰まって謝ってしまうのだろう。

 しかし、私の発言に彼は力なく一笑するだけだった。

 

「主殿は、その道の先にいる、はずだ。後は任せたぞ。……ああ、この腹に刺さった刀を持って、いけ。私の鎧を豆腐のように貫いた――」

 私が何か聞こうと思って、声を出す前に、彼はもう目を閉じ首は力なく顔を伏せた。もう動くことはない。おろおろとしている私を無視して、キャラクターが自動で動いて、彼の腹に刺さっていた刀を引き抜く。

 眼前に文字が並ぶ。おそらくこれを読めばいいようだ。おそらく先程、目の前の彼に声をかけられた時も見落としたが、表示されていたのだろう。

 私の分身であるキャラクターの手が合わさる。

「南無阿弥陀仏」

 お盆の時期にお墓参りをする際に読み上げるぐらいの言葉だ。ずっと実感の伴わない言葉だった。なのに、仮想のゲームの中で私は初めてそれを読み上げる意味にしっくり来たのかもしれなかった。

 

 亡骸から踵を返し、抜身の刀を持ってまっすぐに主殿がいるという道を進む。見上げた空は徐々に白くなりだして、朝へと向かっていた。

 多くの人が踏みしめることですっかり草も生えなくなった地面はなだらかな下り坂になっており、私を明るい世界からどこか暗い淵へと連れて行こうとしているみたいだった。

 

 思ったよりも長い、枯木でできた並木通りの先に、唐突に鮮やかな色が世界を明るくした。

「青い、藤の花」

 そして、その一本の藤の木に寄り添うように、少年が立っていた。おそらく彼が主殿だろう。主殿は哀愁を抱えた瞳を私に向けた。

「……そなた、生きておったのか。存外丈夫だな」

「すみません」

「そなたが謝って何になる。それで、刀を持って私を追ってきたのは、私の首を兄上に持っていくためか?」

「いえ、あの、あ……あ」

 私はそれで言葉に詰まってしまう。画面にはちゃんと言うべき内容が文章で表示されているのに、上手く声にならなかった。向けられた瞳の色が哀愁から別のものへと変わったせいだ。

 だって、その瞳は知っている。話しかけるのも億劫な、けれど義務感から向ける瞳。

 

『ねえ、隠岐ちゃんはどうする?』

 

 私は――。

 

 結局、私はその日すぐにゲームをログアウトした。

 

-c

 

 部屋の窓から見上げた空は間際に迫る夏の足音を含みつつも、爽やかな春の香りをまだしっかりと抱いた色合いだった。

 両親たちは朝も早くに田んぼのために出かけていった。私は両親に迷惑をかけないために、両親が出かけるのに合わせて早く起きして一緒に朝食を取り、いってらっしゃいと見送るしかできない。

 

 一人ぼっちの家の中で、私は何度も電源の入ったVRゴーグルを持ち上げながら、結局装着せずにいた。本棚から一冊の本を取り出してぼんやりと広げる。読むというよりは読むふりをしているだけだ。

 何もするでもなく、時間が過ぎて、気づけば夕暮れに空が染まっていた。

 水田仕事に疲れた母親が晩ごはんを用意して、私に田んぼ仕事の疲れなどを話す。毎年毎年の習慣だから、それは愚痴というよりは日常会話だった。私は曖昧に笑ってうなづくしかない。

 

「紅音は無理しちゃだめよ」

「今はおじいちゃんとおばあちゃんがくれたのを遊んでるから大丈夫」

 嘘だった。けど、両親はほっとしたような顔をする。父親のごつごつとした皮膚の手のひらが私の頭をなでて、無理はしないようになと伝えてくる。

 私はただただそれにうなづいて見せて、両親の不安が軽減された顔を見て、安心していた。

 

 自室に戻って机の上に置いたままのVR機器を持ち上げた。機器のランプが通知を知らせていた。

 疑問に思いつつ、先ほどまで装着するつもりがなかったそれを自然と起動していた。

 起動した画面には、効果音とともに画面に大きな文字が跳ねるようにバウンドしながらこちらへ"たくさん"近づいて飛び込んでくる。同じ文章が何個も何個もあって、画面を埋め尽くしていく。

 

『さっさとログインしてゲームを進めろ!』

 

 だから、私はあわててゲームにログインした。

 まだ1日も経っていないはずなのにひどく久しぶりに感じた。離れた位置にある青い藤の花の木々、そして土がむき出しの地面。

 重くじっとりした空気が漂う空間に、刀を腰の両方に備え仁王立ちしている"変な人"がいた。

 頭の部分は深く兜をかぶっており頬当をつけているため、顔が見えない。これで体に鎧をつけていれば私は変な人だと思わなかったと思う。その人は頭だけ立派に備えて、あとは着物だった。そんなちぐはぐな人が、私を見下ろしている。

 響いたのは、男の子の声だった。

 

「はぁー、ようやくログインしたか」

「あ、……あの、すみ、すみません」

「このゲーム、人なんていないと思ったのにまさかいるとは。何年前のゲームかわかってる?」

「え、いや、えっと。もらい、物なので」

「ああ、そっか。このゲームってオンラインマルチプレイ強制なのね。ゲームスタートした時に、進行エリアとログインタイミングが合うと、強制的にパーティが組まれて一定進行までストーリー進めないと解散とかもできなくて困るわけ」

 

 もう彼が何を言っているのか訳が分からなかった。おんらいんまる、ち? 頭の中をハテナが埋め尽くしていた。彼もそれを察したのか、考え込むような仕草をして思いついたように手を叩く。

 

「俺についてきてほしい」

「え、あの、知らない人に付いて行っちゃいけないって」

「子供か!」

「え、その、四年生、で――」

「個人情報!! ぬおおお、あんたゲーム初心者なのにこんな面倒なゲームチョイスするなんて無謀だろ」

「あ、ごめ、ごめんなさい。もらい、物」

「ああ、分かった分かった。それじゃあ、もう長々と説明するのは放棄する。ゲーム初心者ならまずは習うより体験しろ、だ。だから、あんたには選択肢が二つしかない。俺と一緒に行くか、俺の後ろに離れてついてくるか、だ」

「え、それって、一緒じゃ」

「? 全然違うだろ」

「何が、ですか?」

 

 彼は私の質問に一度首をかしげてから、思いついたようにうなづく。

 

「俺と二人三脚するか、俺のマラソンを画面越しに見るかは全く違うだろ」

「あ……」

「俺とゲームしようぜ」

 

 清涼な風が私を洗うように吹き抜けていく。

 私はどんな顔をしただろう。私はなんて答えようとしただろう。

 私が何かを言おうとしたのを遮るように彼は私を急かした。

 

「ほら、行くぞー」

 

 それまで動こうとしなかった私のキャラクターは、"私の足"は、確かに一歩前へ踏み出した。

 鮮やかな青い藤の花は風に揺れて、私たちを待っている。

 




続きは頑張ります。

シャンフロの更新が楽しみです。心待ちにしております。
二次創作SSとして、前の二作と違う物になっております。
お時間いただきお読みいただき、まことにありがとうございました。


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