喫茶鉄血 (いろいろ)
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プロローグ

今回はプロローグというか、舞台の紹介です。
代理人の他に数体の人形が働いていますが、たまにバイトで処刑人(スキン:ウェイトレス)やハンター(スキン:ウェイトレス)がいます。




絵を描けない自分が恨めしい。


 

S09地区のとある街。

決して大きくはないが、それなりに活気に満ちた明るい街。

街の真ん中をメインストリートが南北にはしり、その脇には様々な店や露店が立ち並び、買い物客でにぎわっている。

街のそばにはグリフィンの司令部が、その隣には大きな病院が並び、街を挟んだ反対側には学校と図書館、その外には広大な自然が広がっている。

 

 

この物語の舞台は、そんな街のメインストリートから少し外れた路地の先、日の当たる公園に面した通りにある、隠れ家のような、小さな喫茶店。

 

 

外観は茶色を基調とした木造風の喫茶店で、ちょっと重たい木製のドアがその入り口。

内装もテーブルと椅子がいくつかとカウンター、観葉植物に古ぼけた振り子時計になんだかよくわからない絵画にボトルシップと、これまたどこにでもありそうなものばかり。

メニューにあるものもコーヒーと紅茶といくつかのソフトドリンク、サンドウィッチやホットドッグのような軽食にパンケーキやスコーンなどのお菓子といった普通のもの。

 

店内にはコーヒーの香りが広がり、近所のマダムたちが世間話で盛り上がったり、若いカップルがぎこちないながらも幸せそうに食事をしたり、非番の人形たちが「私の妹が一番可愛い」談義をしたりと、騒がしいながらもゆったりとした時間が流れている。

 

 

そんな普通の喫茶店の、普通とは違う点が一つ。

それは、マスターをはじめ従業員が()()()()()()()()であること。

カウンターの中ではマスターの代理人がコーヒーを入れ、リッパーやイェーガーが料理を運んだり注文を聞いたりして、その足元でダイナーゲートが床を掃除したりマスコットのように扱われたりしている。

 

 

他の町から来た人は知らないが、この街に住む人は皆知っている喫茶店。

常連さん曰く、「無表情だか優しいマスターのいる店」

近所の学生曰く、「色白で黒髪の美人なお姉さんのいる店」

紳士曰く、「踏んでくださいお願いします」

などなどなど・・・・・

 

 

 

 

 

これは、殺伐とした世界(本編)とは違う、どこかの平和な世界の、小さな喫茶店とそこに通う人々の物語。

 

世話焼きなマスターとそれを支える仲間たちとお騒がせな人形たちとの日常の物語。

 

人形(ヒト)人間(ヒト)の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、『喫茶 鉄血』へ。

空いている席へ、ご自由にどうぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶 鉄血

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、店内は全席禁煙です。違反者はつまみ出しますのでそのつもりで。」




プロローグなので短めに。
舞台設定って結構難しいですね。


次回からいろんな人形(や人間)が登場する予定です。
お楽しみに!


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第一話:彼女は悩めるお年頃

最初は誰の話にしようかと悩んだ末、サイコロ振って決めました。
ダイス神、万歳!!!


 

「それでねぇ、うちの旦那が昼間っから酒場に入り浸ってるとこに乗り込んでって問いただしたのよ。そしたらなんていったと思う?!」

 

 

「・・・旦那様はロシアの方でしたね。となるとおそらく、『あんなものは水だ!』でしょうか?」

 

 

「そーなのよぉ!あの人ったらウォッカ以外なんでも水水水って言ってまた飲むのよ!しかも一緒に飲んでたグリフィンの娘にだらしなく鼻の下伸ばしちゃってねぇ!!」

 

 

今日も平和な平日の昼過ぎ。

客も少なくここ『喫茶 鉄血』が得るはずだったのどかな一日は、近くのスーパーでパートが終わった常連のおばちゃんのマシンガントークであっという間に消え失せてしまった。

 

といってもこのくらいのことは二日に一回くらいのペースであるため、マスターの代理人は落ち着いて対応している。

 

と、そこにカランカランと入口のベルが鳴り、一人の人形『モシン・ナガン』が入ってきた。

なにやら浮かない顔をしている。

 

 

「・・・でね、頭にきたから旦那の股座を思いっきり蹴り上げてやったのよそしたらってあら、あん時の娘じゃないかい!」

 

 

「ぁ、どうも・・・」

 

 

「あの時はごめんねぇ、つい勢いで怒鳴りつけちまって。お詫びに、うちの秘蔵のウォッカ送ってあげるよ。」

 

 

モシン・ナガンに気づくやいなやおばちゃんのマシンガントークの矛先が変わった。

どうやらそのグリフィンの娘とは彼女のことらしい。

だかそれよりも、

 

 

(・・・彼女には数える程度しか会っていませんが、あんな雰囲気の娘だったでしょうか?)

 

 

代理人が感じたのは違和感だった。

彼女のイメージでは、空元気でも明るく振舞う人形だったと思っていたのだ。

 

 

「い、いえ!その、お気持ちは嬉しいんですけど、その・・・」

 

 

・・・ますますおかしい。

彼女をはじめソ連・ロシア系の人形は酒に目がなく、ましてウォッカともなれば『言質はとった!』と言わんばかりのテンションがほとんどだ。

にもかかわらず、彼女は軽くだが断った。

 

 

「ん?珍しいね。あんたが酒を断るなんて。」

 

 

おばちゃんも同意見だったようだ。

心なしか表情も『娘を心配する母親』みたいになっている。

 

そこから5分ほど時間を使って、ようやく彼女が口を開いた。

 

 

 

「・・・私、もうお酒は飲みませんから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・は?」」

 

 

 

代理人(人形)おばちゃん(人間)の心が一つになった瞬間だった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「・・・どうぞ。」

 

 

あの後、おばちゃんは「タイムセールがあるから!」と言って帰り、状況がつかめない代理人はモシン・ナガンをカウンターに座らせ、ホットミルクを出して落ち着かせることにした。

こういう時はコーヒーでも紅茶でもなく、こんなものがちょうどいいのである。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

チビチビと飲みはじめたモシン・ナガンだが、その顔は相変わらず晴れない。

といっても店側としては困ることではないので、落ち着いたら帰ってもらう(代金はおばちゃんが置いていった)つもりでいる。

世話焼きなことでそこそこ有名な代理人ではあるが、それはあくまで頼られた時であって、他人の事情にズケズケと入り込む訳ではないのである。

 

 

「・・・なにも聞かないんですか?」

 

「聞いて欲しいんですか? それと、敬語でなくても構いませんよ。」

 

 

質問されてから即答。

完全に待っていたかのような代理人の対応に、モシン・ナガンは苦笑し、言葉を続けた。

 

 

「そうね。 なら、少し聞いてくれてもいいかしら?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

事の発端は昨日の朝かな。

突然指揮官に呼ばれて執務室に行ってみたら、「今日から三日間の休暇を与える」って言われてね。

それはもうびっくりしたわ。いきなりのことだし休暇の噂すらなかったもの。

で、テンション上がっちゃって通りの飲み屋さんに駆け込んだって訳。

 

そこから先はさっきの話の通りよ。まぁ私もちょっとくっつきすぎたから反省かな。

そのあと日が暮れる手前くらいまで飲んで、二軒目に行こうかとかだれか誘おうかとか考えながら裏路地をぶらぶらしてたの。

その時、若いカップルの喧嘩の現場に遭遇しちゃってね。そのまま通ればよかったんだろうけど、ちょっと気になって盗み聞きしちゃって、ほら、こういう話ってやっぱり気になるでしょ!

 

いえ、特に。

 

あら、残念。で、結構ヒートアップしてたんだけど最後はお互い分かり合えたようで仲直りしてね、そこからお互いのどこが好きなのかっていう甘〜い話になっちゃって。

面白いからこのまま最後まで見てやろうって思ったのよ。

 

あまり褒められたことではありませんが。

 

い・い・の・よ!

でね、そうこうしてるうちに話が変わって、こんな人は嫌だみたいなことになったのよ。

そしたら男の人が、「酒を浴びるように飲む人かな。友達としてなら楽しいけど、異性としては見れないよ。」って・・・

 

 

それを聞いて、私、も、もしかしたら、指揮官に、女の子って、見られて、ないかも、しれないって、き、嫌われるかもって、だから、・・・

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ボロボロと大粒の涙を流しながら語る彼女の姿には、いつもの前向きな彼女らしさがなかった。

そこにいたのは、一人の男性(指揮官)に恋する一人の少女だった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

話を聞いていた代理人は、ぐるっと店内を見渡す。

いつのまにか他のお客さんは帰ったようで、今は店員の人形と彼女(モシン・ナガン)だけである。

 

代理人は小さなため息を吐くと、従業員に指示を出す。

店の扉の札をOPENからCLOSEに変え、最低限の片付けだけをさせて休憩室に下がらせ、自身はカウンターからモシン・ナガンの隣に移動する。

あとは、彼女が落ち着くまでずっと待ってやるだけだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「・・・ごめんなさいね、こんな話を聞かせちゃって。」

 

 

三十分程かけてなんとか落ち着いたようで、来た時よりかは幾分かスッキリした顔をしていた。ただそれは、どこか諦めにも似た表情でもあった。

 

 

「じゃあ私、帰るわね。 ごちそうさま。」

 

 

そう言って席を立とうとするモシン・ナガンの手を掴み、代理人は再び座らせる。

キョトンとした顔に向けて、代理人は口を開いた。

 

 

「これからどうするつもりですか?」

 

 

そう言った彼女の目は、いつもの優しさ溢れるものではなく、かつてクーデターを起こした鉄血の幹部の目だった。

たじろぐモシン・ナガンに、代理人は続ける。

 

 

「お酒を我慢すれば、あなたは本当に幸せになるのですか?

そしてそれは、あなたの指揮官が望んでいることなのですか?」

 

 

その言葉にハッとするモシン・ナガン。

それを見た代理人はフッと息を吐き、いつもの、どこか優しく見守るような目に戻る。

 

 

「私たち鉄血には指揮官というものはいません。あえていうなら私がその立場だったのでしょう。

これはあくまで私の意見です。聞き流していただいて構いません。」

 

「確かに私は部下に対してこうして欲しいと思うこともありました。

処刑人にはもう少し女性らしい振る舞いをしてもらいたかったですし、デストロイヤーはもう少し大人になってほしかったと思っています。」

 

「ですが、私はそれ以上に、彼女たちに笑っていて欲しかったのです。

彼女たちのままでいて欲しかったのです。」

 

 

あなたの指揮官もきっとそう思っていますよ、と付け加えると、隣でまたもや泣きそうになっているモシン・ナガンに帽子をかぶせ、入り口まで送ってやった。

何度も礼を言い、元気よく司令部に帰っていく彼女を見送った代理人は、どこかほっとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その日の夜、昨晩よりは幾分か軽い足取りで司令部に帰ったモシン・ナガンのもとに指揮官が訪れ、なぜか届いたちょっといいウォッカがあるんだが一緒に飲まないかと言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の彼女の顔は、とびきりの笑顔だったらしい。




というわけでモシン・ナガンちゃんの話でした。
ちなみにここの指揮官はラブコメ主人公ばりの朴念仁です。
ライバル多いだろうなぁ。


あと、この話は人間と人形の物語ですので、今後もこんな感じで町の人やグリフィンの人たちが出てきます。


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第二話:姉だけど愛さえあればry

前回は割としんみりした感じだったので、今回ははっちゃけます!


「何度も言わせないで。 9が一番可愛いに決まってるでしょ。」

 

「いいえ、MG42が一番です。」

 

「おいおい何言ってんだ、M4だろ。」

 

「・・・帰っていいかしら。」

 

 

冬を迎え、寒さを増した風が吹くようになったある日のお昼時。

寒さから逃れ熱いコーヒーでも飲もうかという人間や人形で賑わう『喫茶 鉄血』、その店内の一角で行われている盛大に無駄な、しかし彼女たちにとっては死活問題である会議が開かれていた。

 

基本的に他の客の迷惑にならないようにと角の席を選んで行われているが、話の中身が気になるのか周りの客がちらほら聞き耳を立てている。

 

彼女たちはグリフィン所属の人形であり、定期的にこの会合を開いている組織の一員である。

 

 

組織の名を、『妹を愛で、妹に尊敬される姉になるための会(通称シスコン倶楽部)』である。

 

 

 

「あなたにはわからないでしょう。 朝起きてすぐに満面の笑顔で『おはよう、45姉!』と言ってくる9の素晴らしさが!」

 

UMP45・・・『妹を愛で、妹に尊敬される姉になるための会』の創設者で会長。グリフィンの特殊部隊『404小隊』の隊長を務める優秀な人形。過去に妹を(性的に)襲おうとし、グリフィン警備隊に連行されたことがある。妹と二日間会わないと動かなくなる。

 

 

「それなら私のMG42だって、あの舌ったらずな声で『お姉しゃま』って言いながら抱きついてくるんですよ!その破壊力といったらないでしょう!!」

 

MG34・・・会の一員。MG(マシンガン)の最高教導官であり、新人指揮官にMGのイロハを教えたり、新米の人形の面倒を見たりする。教導官に任命された際、妹に会う時間が減ってしまうと考え、ヘリアントスに脅しをかけたことがある。妹と連絡がつかないと辺り構わず銃を撃ちまくる。

 

 

「わかってないなぁ。 そりゃただ可愛いだけだろ? うちのM4は家事全般できるし、私が二日酔いでぶっ倒れた時なんかつきっきりで看病してくれたんだ。」

 

M16A1・・・会の副会長。グリフィンのエリート部隊『AR小隊』の一員でムードメーカー。一見シスコンには見えないが、それは妹の前では優秀な姉でいたいがために特訓した成果。妹に邪な念を抱く者は片っ端からブラックリストに載せ、手を出そうとする者は病院送りにする。

 

 

「あなた達みんな似たり寄ったりよ。 あとM16はお酒を控えなさい。」

 

FAL・・・会の一員。グリフィンの人形部隊『FN小隊』の隊長。シスコンというわけではなくただ面白そうという理由だけで入会し、二日後には後悔した人形。当初は退会することを考えていたが、身内から犯罪者が出ることを危惧し、ストッパーとして参加し続けている。胃薬は戦友。

 

 

「失礼ね、こんな上官反逆罪紛いの女と一緒にしないで。」

 

「そっちこそ、愛でるべき妹に手を出すなんて有り得ないわ。」

 

「全くだ。 それとFAL、悪いが酒はやめねーぞ。 何より酒を飲ませた時のM4がまた可愛いn」

 

「あーハイハイ。 で、そろそろ今回の議題に行きたいんだけどいいかしら?」

 

 

らちがあかないと思ったFALが強引に話を戻す。というよりも今回の集会の本題に当たるまでにすでに二時間は経過している。この時点でFALは午後の予定を大幅に修正する必要があり、大変不機嫌になっている。

 

ちなみに今日の集まりは、この会には所属していない姉妹人形たちから寄せられた相談の解決策を議論する予定である。

 

 

「・・・えーとじゃあ一人目。 名前は95式、内容は・・・

『最近、妹の97式が本部の職員の方から告白されたそうで、本人からどうすればいいか相談されました。 良い案があれば教えてください。 尚、その本部の方は人当たりの良い好青年とのことです。』・・・だって。

さて、何か良い案はある?」

 

「射殺」

 

「蜂の巣」

 

「半殺し」

 

「なんでよっっ!?」

 

 

FALがキレた。むしろここまでじっと耐えていたことが驚きであり、周りの客からもちらほら拍手があがっている。

 

 

「告白を受けるかどうかでしょ!? 彼女たちの印象も悪くないでしょ!? 何が問題なのっ!?」

 

「「「妹に近づく男は悪」」」

 

「なんでっ! そうっ!! なるのよっっ!!!」

 

 

思わず立ち上がり机をバンバン叩くFAL。対してシスコン姉たちは何がダメなのかと首をかしげるばかりである。それを見ていよいよ爆発しそうになるFALだが、コーヒーのおかわりを入れに来た代理人がそっと肩に手を置き、深呼吸させて座らせる。

 

 

「代理人・・・」

 

「言いたいことはわかりますがまず落ち着きましょう。

それに、こういうことは自分に置き換えればいいと思いますよ。」

 

「「「「?」」」」

 

 

そう言ってコーヒーを入れ終えた代理人はいつもの優しい笑顔のまま、

 

 

「もし、皆さんの妹さんに好きな人ができたら、どうしますか?」

 

「ちょっとおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

特大の爆弾を落としていった。間違いなく核レベルである。

目を白黒させていたFALが他の会員たちに向き直ると、そこにはドス黒いオーラをまとった三体の修羅がいた。

 

 

「9に・・・彼氏・・・?」(セーフティーを外す音)

 

「・・・ふふっ・・うふふふふふふふ・・・・・・」

 

「SOPMODをけしかけるか・・・、いや待てここは私が直々に・・・」

 

 

あくまでもしもの話なのだが、本人たちは完全にその気である。

どーすのよこれー!と言うような目で見てくるFALに、大丈夫ですよとアイコンタクトで返した代理人は更に言葉を続ける。

 

 

「皆さん、本当に妹さんのことが好きなんですね。」

 

「「「当たり前よ(だ)!!!」」」

 

 

見事なシンクロで答えが返ってくる。

代理人は、ならばと付け加えて、

 

 

「言葉足らずでしたね。 私が言いたかったのは、妹()好きな人ではなく、妹()好きな人、と伝えたかったのです。」

 

 

火に油どころじゃないでしょぉぉぉ!と言わんばかりにあたふたするFALだが、予想に反して姉バカ三人が何も言い返さないことに疑問を持つ。

 

 

「私と言うものがありながら・・・でも9が幸せになるなら・・・でも・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・グスッ」

 

「M4が・・・そうか・・・いやしかし・・・う〜ん・・・」

 

 

FALは自分が見たものが信じられなかった。あの脳内妹一色集団が本気で思いつめた表情を浮かべている。しかも否定どころか割と肯定的でもある。

 

 

「皆さんが本当に妹想いだからこそ、それだけ悩むことができると言うことです。」

 

「我々鉄血には姉妹というものはありません。 鉄血はそれが一つの大きな家族とも呼べるものですし、ある意味では全員が姉妹とも言えるでしょう。」

 

「だからこそ、私たちはお互いの幸せを願いますし、その人が決めたことには全力で応援します。 それに・・・」

 

 

そこで一度区切り、代理人はふっと息をつく。

一度目を閉じ、深呼吸してから、再び言葉を紡いだ。

 

 

「あなた方の妹が彼女たちであるように、彼女たちの姉もまた、あなた方だけなんですよ。」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

 

店の中は時計の針の音が聞こえるほど静まり返る。

それはほんの数十秒だったのかもしれないし、数分もしくは数十分だったのかもしれない。

 

そうね、と言った呟きは果たして誰のものだったのか。

おもむろに立ち上がった三人の人形は、それぞれ背筋を伸ばしたり肩を回したりして凝り固まった体をほぐしていった。

ただ三人とも、自分の中の答えが見つかったような、スッキリとした表情を浮かべていた。

 

 

「さてと、9のお土産でも買って帰ろっかな。」

 

「最近ゆっくり話せてなかったかなぁ。 帰ったらMG42とお茶しよっと。」

 

「ふふっ、そうだな。 今日はM4の行きたい店にでも食いに行くか。」

 

 

そういうとそれぞれ注文した分のお金を払い、代理人に一言お礼を言ってから彼女たちは帰っていった。

いまだに呆然としていたFALは代理人の顔を見て、

 

 

「ねぇ、あなたうちの会に来てくれないかしら?」

 

 

と言った。割と切実な顔で。

代理人は一瞬困ったような顔をすると、すぐにまたいつもの微笑みに戻る。

 

 

「残念ですが、私はここのマスターですし、店を空けるわけにはいきません。何より、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()が背中を押してくれたから、今私がここにいるのです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

連日冷たい風が続くとある日の午後。

ここ、『喫茶 鉄血』はそこそこの客で賑わっていた。

店内を見渡せば、左右反対の目に傷がある姉妹が一つのケーキをつつき、妹の舌ったらずな話を優しげな表情で聞く姉がいて、五人姉妹が時々喧嘩しながらも笑いあっている。

 

 

それを見るマスターの目は、どこか懐かしげな、優しいものだった。




終始ギャグストーリーで行くつもりだったのに普通にいい話になってしまった・・・。


今回からはこのあとがきで登場人物たちの紹介をしていきたいと思います。(初回は第一話も合わせて紹介します)


代理人・・・主人公。喫茶 鉄血のマスター。かつては鉄血の実質的なリーダーだったが、とある理由により鉄血を部下に任せて人間社会で生きて行くことに。

従業員・・・なんか勝手についてきて勝手に従業員になった鉄血兵。まったくもってどうでもいいが、実はそれぞれのタイプのオリジナル。食費も給与もいらないので経営的には便利。

おばちゃん・・・街の有名人。バーゲンの女帝。一度話すとなかなか終わらないが、不思議と聞き続けられる謎の話術がある。既婚。

モシン・ナガン・・・ダイス神の奇跡によって第一話に抜擢された娘。普段元気っ子がしおらしくなるとめちゃくちゃ可愛いと思う。指揮官と飲んだ翌日は一日中にやけっぱなしだったため、同僚のナガンからドン引きされる。名前の入力がスゴクメンドクサイ。

UMP45・・・シスコン一号。リアル司令部で来てくれた時からこいつはシスコンだと思ってた。使うかどうかわからない設定として、普段は指揮官をからかうくせに撫でられたりハグされたりすると途端にオーバーヒートする。

MG34・・・シスコン二号。ボイスを聞くとほとんどにMG42が出てくるくらいのシスコン。書いてみると意外といじりやすい。どーでもいい設定として、教導官をやってるせいでファンクラブの人数がやたら多い。

M16A1・・・シスコンV3。最初はAR-15がこのポジションだったが、いろんなとことかぶりそうだったので変更。ちなみにSOPMODとはいたずら仲間のような関係なのです、M4の時ほどは暴走しない。
いらない設定として、眼帯コレクションなる趣味がある。

FAL・・・苦労人。この枠は誰でも良かったが、絶賛レベリング中の彼女に来てもらった。指揮官に好意を持ってはいるが、どこか諦めている節がある。使うかもしれない設定として、料理が壊滅的に下手。



年が変わるまでにはもう一話上げたいなぁ。


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第三話:それぞれの道

なんとか年内間に合ったあああぁぁぁぁぁ!!!!!
というわけで今年最後の投稿です。


皆! 読む前に! 大掃除は! 終わらせような!!! (自分の事は棚上げ)


十二月も終わりに近づきはじめ、年内の営業も残りわずかとなった『喫茶 鉄血』。

街がクリスマスや年末年始に向けて盛り上がりを見せている中で、ここは普段と変わらず穏やかな時間が流れていた。

訪れる客もいつもと変わらず、コーヒーや紅茶を飲みながらクリスマスや年末の予定を話し合っている。

 

そんな中、店の入り口が何やら騒がしいことに気付く代理人。

よくある揉め事ならば問題ないが、営業妨害の可能性も考慮しある程度警戒しながら店の扉を開ける。

 

と、そこには・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、代理人。 久しぶりだな。」

 

「急に押しかけてすまない。 年越しくらいは一緒に過ごしたいと思ってな。」

 

 

鉄血のハイエンドモデル、かつての彼女の部下であり親友の『処刑人』と『ハンター』が嬉しそうな表情で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンタの格好で、子供たちに囲まれながら。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「いや〜、大変だったぜ。 まさか身動きが取れないくらい集まってくるなんてな。」

 

「ある程度は仕方がないとは思っていたが、遠足帰りの集団に鉢合わせるとは思わなかった。」

 

「・・・まずその格好(サンタスキン)で来た理由を聞きたいのですが?」

 

 

なんとか店内に入ることができた処刑人とハンターは、カウンターでコーヒーを飲みながら話しはじめ、代理人がつっこめば二人とも「その方が面白い」とやたら真面目な顔で答え、代理人は頭を抱えてため息をつくという普段見ることがない光景が広がっていた。

処刑人は完全に愉快犯だが、ハンターはそういうものだと思い込んでいるド天然である。久方振りに訪れた悩みのタネに辟易とするも、代理人の表情はどこか嬉しそうでもあった。

 

 

「そういえば、他の人たちは?」

 

 

と、代理人が尋ねる。ハンターにとって『一緒に過ごしたい』の『一緒』とは、鉄血ハイエンドモデル全員を指すことを知っていたからである。

 

 

「ん? あぁ、デストロイヤーは今ちょっと手が離せないらしくてな、31日の朝に来るそうだ。」

 

「スケアクロウとイントゥルーダーも今すぐは動けないらしい。まぁ、数日後には来るだろう。」

 

「ウロボロスのやつは『なぜワタシが行かねばならんのだ! ヤツに来させろ!』とか言ってたらしいけどドリーマーとアルケミストが無理やり連れてくるらしい。」

 

「・・・まぁ、普通はまだ仕事がありますからね。 ところであなた方は?」

 

「「アーアーキコエナーイ」」

 

 

要するに全員来るということである。しかしデストロイヤーですら年末ギリギリまで働くのにこの二人は良いのだろうか?

代理人が二人の職場での素行を気にしだしたその時、受付にいた鉄血員(鉄血の従業員なのでこう呼んでいる)が団体の入店を伝えに来た。

 

 

「こんにちは。10名で予約していましたM4です。」

 

「いらっしゃいませ。 M4様ですね、お席へご案内します。」

 

 

やってきたのはAR小隊と404小隊、そしてペルシカリア。

どうやら年始のある計画の話し合いのようであり、事前に申し出があったためこの時間は人形の入店を制限している。

 

 

「あら、久しぶりに会ったわねぇ頭スカスカ女。」

 

「おうおうご挨拶だなぁまな板サイドテール。」

 

「久しぶりね。 南米に行ってるって聞いたけど、大丈夫?」

 

「あぁ。 地元の警察と合同で密売一斉確保はやったが、お前ほど腕の立つ奴には会えなかったよ。」

 

 

顔を合わせるなり毒を吐き始める犬猿の仲(UMP45と処刑人)

そして久方振りの再開で盛り上がる恋人同士(AR-15とハンター)

いつまでも立ちっぱなしというわけにも行かないので、代理人がとりあえず席まで案内する。

 

と、何かを閃いたのか少し考え込み、二人の暇人に向かって言った。

 

 

「二人だけ働かないというのもなんですか、少しここで手伝いなさい。」

 

「「・・・・・・・・・・はい?」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「処刑人はチキって出てこないにパフェ一つ。」

 

「じゃあ私は処刑人じゃなくてハンターがそうなると思う。 パフェ一つ!」

 

「私は9の選択を信じるわ。 パフェ四つよ!」

 

「え〜〜パフェばっかじゃん。 じゃ、私は二人ともノリノリにコーヒー一杯。」

 

「ダメダメ! 賭けなんだからもっと大きく賭けないと! というわけで二人ともちゃんと働くに今回のご飯代!!」

 

「・・・ハンターが私に愛を囁く。 ケーキ一つ。」

 

「人様で賭けなんてみっともないですよ。 というかAR-15は何を言ってるんですか?」

 

「や、やっぱり賭けは良くないかなと・・・」

 

「やっぱりM4はいい子だな! お姉ちゃん嬉しいぞ!」

 

「・・・平和ね。」

 

 

処刑人とハンターが店の奥に変えてすぐに始まった賭け。

ちなみに上から416、9、45、G11、SOPMOD、AR-15、RO、M4、M16、ペルシカである。

こんなことをしているので肝心の話し合いは大して進んでいない。まぁグリフィンとIoPに嫌がらせをかけることは決まっているので特に問題はないが。

 

と、そうこうしているうちに代理人が出てきた。どうやら着替え終わったようである。

 

先に出てきたのはハンターだった。

ただし、服装はこの店の制服であるウェイトレスではなく、ピシッとした執事服であった。

 

 

「ウェイトレスは前に着たからな。 今回はこっちにしてみたが似合うだろうか。」

 

「「「「「「「「「うわぁ〜」」」」」」」」」

 

 

もともと黙っていればイケメンの類のハンターが執事服なんて着ればそりゃ似合う。

皆から感嘆の声を聞く中、AR-15だけは何も言わないことに気がついたハンターは意地悪く笑うと目の前まで近づき、

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様。」

 

「・・・・・(パタン)」

 

 

あまりの衝撃にAIがシャットダウンしたAR-15。それを見て慌て出すハンター。だがもちろんこれだけでは終わらない。

 

いよいよ処刑人の登場とあって全員(二名除く)が注目する。特に45はいつでも大笑いする準備ができている。

 

扉が開き、中から出てきたのはウェイトレス姿の処刑人。

普段絶対に履かないスカートを履き、まっすぐこちらに向かってくる。45以下数名が大笑いしようとしたその時、処刑人がスカートの両端を摘み、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、お嬢様♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「 ( °д°) 」」」」」」」」」

 

 

店内全ての客の動きが止まった。ザ・ワールドもかくやというフリーズっぷりである。

いち早く回復した9がとりあえず声をかける。

 

 

「・・・あー、えっと、処刑人?」

 

「はい、なんでございましょうか?」

 

 

再び絶句する人形たち。というかここまで変わると驚きというよりホラーに近い。

思っていたよりも悲惨な状況なので、仕方なく元に戻す処刑人。

 

 

「あー、仕事がらこういうのには慣れててな。 ほら、ウェイトレスが『俺』とか言わねーだろ?」

 

「いや、でも、えぇ〜・・・」

 

 

それでもこの豹変っぷりに追いつけないようで、結局そのあまりのインパクトから賭けもうやむやになってしまった。

 

ちなみにそれぞれの働きは、代理人曰く「ずっといてほしい」らしい。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

それからさらに数日後のある日。

平日にもかかわらずこの日は休業日となった『喫茶 鉄血』では、ささやかながらパーティーの準備が進められていた。

31日まで来れないと思われていたデストロイヤーが突然休暇をもらい、急遽ウロボロスらと合流してこっちに来ることになったらしい。

店内では代理人を始め鉄血員のメンバー、処刑人、ハンターがテーブルクロスをひき皿を並べ、なんとか間に合わせようと動き回っていた。

 

 

「・・・なぁ、代理人。」

 

 

そんな中、処刑人が代理人に声をかける。もちろん手は動かしたままだ。

 

 

「なんでしょうか? 処刑人」

 

「あんたは何でここにいるんだ?」

 

 

突然の質問。

しかし代理人は表情を変えずいつも通り淡々と答える。

 

 

「前に話した通りです。 私たちが目の敵にしていた『人間』を見てみたかった。 それだけでs」

 

「違うな。」

 

 

会話に割り込んできたのはハンターだ。

その顔はいつになく真剣で、そして納得のいったような顔だった。

 

「私は世界中のあちこちで厄介事に首を突っ込んでいる。 初めは仕事のたびに思ってたさ。 『あぁ、やっぱり人間は愚かだ』って。」

 

「だけどいつからか、そんなどうしようもない人間をどうにかしたいって思うようになった。 何より睨まれるよりも笑ってもらえる方がいいと思えるのさ。 」

 

「酒場の人間や露店の老人、公園のガキどもと話して、笑って、やっと気付いた。 私は人間を嫌っていたんじゃない。 ただ失望していただけなんだなって。」

 

「俺も同じさ。 いろんな奴と出会って、泣いて、笑って、思ったさ。 もう一度、人間を信じてみようってな。」

 

「あんたもそうなんだろ? 代理人」

 

 

代理人は何も答えない。ただ黙々と準備を進めているだけだ。

こうなってはもうどうしょうもないと分かっているため、二人とも作業に集中する。

 

そうこうしているうちに予定の時間が迫ってくる。

なんとか準備を終えたタイミングでハンターの端末が鳴る。

 

 

「・・・デストロイヤーからだ。 もう間も無く着くらしい。」

 

「お、そうか。 なら玄関で出迎えてやるか! な、代理人。」

 

「・・・・・ええ。」

 

 

相変わらずな代理人に二人は肩を竦めながら玄関に出る。

さてこの空気をどうしたものかと思案する処刑人とハンターに、代理人が口を開いた。

 

 

「私には、まだ分かりません。」

 

 

二人は何も言わない。

ただ代理人の話が続く。

 

 

「あの時の私は、確かに人間に対して良い印象は持っていませんでした。」

 

「ですが、今はそれがわからないのです。」

 

 

 

「情けないですね。 人間を知るために鉄血を抜けたのに、この有様です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情けなくなんかねぇよ。」

 

 

処刑人が答える。

口調はきついが、その顔は笑っていた。

 

 

「あんた一人で分からないんなら、皆で探しゃいいじゃねぇか。」

 

「俺たちだって、いつまでもあんたのおんぶに抱っこってわけじゃねぇからよ、皆で分けちまおうぜ。」

 

 

 

 

 

「俺たち、『家族』だろ?」

 

 

ハンターがフッと笑う。

処刑人がニヒヒッと笑みを浮かべる。

 

代理人の顔は変わらない。

ただずっと、前を向いている。

その瞳に、小さな影が映る。

 

 

「お、来た来た。」

 

「あんなに笑顔で走ってきて、まるで子供だな。」

 

処刑人とハンターが迎えに行く。

代理人はその場から動かず、しかし一度目を閉じ、深呼吸をした。

 

 

「・・・そうですね。 では早速、その『家族』を頼らせてもらいましょうか。」

 

 

そう呟いて、ゆっくりと目を開ける。

そして前へ歩き出す。

 

 

 

 

 

いつのまにか大きくなった、家族を迎えに。




というわけで、鉄血ハイエンド勢揃いです。
45とかM16は二話連続の登場ですが、まぁほとんど喋ってないし、今年最後くらいAR小隊と404小隊を出したかったので出しました。
ペルシカ? たまには引きこもりも外に出さないと。

*今回はキャラが多いので一部纏めます。
今更ですがすでに出ているキャラは紹介しません。


処刑人・・・元鉄血の切り込み隊長。現在は傭兵、といっても病院や医師団などを護衛することを専門にしている。始めた頃はその性格や言動から怖がられることが多く、なんとか打ち解けようとした結果、なんか色々できるようになった。子供に好かれやすい。

ハンター・・・元鉄血の特攻隊長。 現在は無制限警察(本作オリジナル職:フリーの警察で、各国の警察組織と合同で動く。割と融通がきく)。 AR-15とは恋人関係にある。基本的には冷静で頼りになるが、変なところで天然なので変人扱いされることも多い。女にモテる。

AR小隊・・・おどおど隊長以下シスコンに豆腐メンタルにトリガーハッピーに委員長気質とやたら濃いメンツが集まる。普段は他の部隊同様に周辺警備や調査が主だが、紛争介入や災害支援、式典参加など何でも屋のように扱われる。休みが少ない。

404小隊・・・かつての404 NOT FOUND 小隊。現在は存在を公にしているが、以前の名残で暗殺等の特殊任務にしか出動要請が来ない。基本的に暇。メンバーはシスコン隊長以下全人形で数少ない良心、完璧完璧と言っていた時が黒歴史、暇すぎて寝るのにすら飽きた人形。

ペルシカリア・・・天才。引きこもり。天才ゆえにめちゃくちゃだが普通にいい人。というか今後出るかどうかすら怪しい。

鉄血ハイエンド勢・・・世界のあちこちで働いている。全員鉄血を抜けているので、現在の鉄血はノーマルモデルだけで運営している。鉄血というだけで差別を受けたことがあったが、それぞれのやり方で見返した(例:ウロボロス・・・建築・解体業。スティンガーバーストのピンポイント射撃で解体時間が大幅に短縮)。





では皆様、良いお年を!
そして来年も良いドルフロライフを!!


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番外編1

書き始めたら止まらなくなっちまった!

新年最初の投稿は番外編です。
番外編は短編を二、三話合わせて、登場人物は本編で登場した人たちにしたいと思います。


今回は
・恋心モシン・ナガン
・シスコンUMP45
・ラブラブAR-15&ハンター

の三本です。


番外1-1:モシン・ナガンのその後

 

私が務める司令部の指揮官は、あまりお酒を飲まない。

弱いわけではなく、翌日の業務に支障をきたすとか人形たちの分だとか、何か理由をつけて飲もうとしない。

以前に一度無理矢理飲ませてみたところ意外と強いことがわかったが、その後こっ酷く怒られてしまった。

 

私はそんな指揮官とお酒を飲むのが好きだった。

話をちゃんと聞いてくれるし、時々おつまみも出してくれる(後で知ったが手作りらしい)。

私自身が司令部の中では古参な方なのもあって、休みの日なんかはよく付き合ってもらっていた。

 

いつのまにか飲む時間じゃなくて飲む相手、指揮官のことが好きになって、でも指揮官にとっての私は多分飲み友達だから振り向いてもらえなくて。

指揮官はモテるから焦って、その結果があんな事(お酒を飲まない宣言)だった。

 

あの喫茶店のマスターに会っていなければ、きっと今も辛いままだったのだろう。今度お礼に何か持って行こうか。

 

 

そんなことを考えていると、指揮官室の扉が開く。言い忘れていたが、今日は私が秘書官だ。

本部から帰ってきた指揮官の顔を見てにやけそうになるのを我慢して、元気よく出迎える。

 

 

「おかえり〜!」

 

私の大好きな指揮官。

 

 

 

 

 

番外1-2:妹さえいればry

 

朝六時

私はだいたいこの時間に起きる。

私たち(404小隊)の部屋は二段ベッドが二つあり、私の上には9が寝ている。

私の一日は、妹の可愛らしい寝顔を見ることから始まる。

 

「・・・むにゃむにゃ・・・45姉・・・大好きぃ・・・」

 

「グハッ!」

 

朝からこの一撃!今日は最高の一日になりそうね。

 

 

七時半

寝顔を堪能していると、この時間に9が起きてくる。

 

 

「ん〜〜、45姉、おはよ〜。」

 

「(9可愛いよ9)おはよう9。」

 

 

いっそこのまま襲ってしまいたいわ。

 

 

九時

 

朝食になると、私は決まってある行動をする。それは・・・

 

 

「あ、45姉、ご飯粒ついてるよ。」

 

「え、どこ?」

 

「今とるからちょっと動かないでね。」

 

 

ごく自然な動作でご飯粒を頬につけること(このためだけに朝食はご飯にしている)。

 

「・・・はい、取れたよ。」

 

「(ああぁぁぁぁ私のほっぺに9の指が! 指がぁぁぁぁぁ!!!!) ありがとう9。」

 

 

この感触は一生忘れないわ!

 

 

 

 

 

 

「何考えてるんだろうね。」

 

「考えるだけ無駄よ。」

 

 

十五時

 

何がいい一日になるよ、いきなり私だけ調査隊の護衛任務になるなんて。お陰で9過ごす時間を大幅に失ってしまったじゃない。指揮官、この件は高くつくわよ。

 

そんなことを思いながら部屋に帰ると、9が箒を持って部屋の隅に縮こまっていた。可愛い。

 

 

「! 45姉ぇ!助けてよぉ!!」

 

「!?」

 

 

いきなり9が抱きついてきた! あぁついに私の愛が届いたのかしらもう死んでも構わないわさぁいますがベッドに行きましょうそしてそのまま朝までムフフフフ・・・・・あ、ヨダレが。

 

 

「そこ! 角に! あ、アレが! アレが!!」

 

 

イカンイカン、今は怯えてる9をなんとかしないと。

見れば部屋の隅、棚の下からまずかに覗く黒いヤツ。なるほど、貴様がこの惨劇(天国)の原因か・・・。

9から箒を受け取り部屋の窓を開ける。そしてヤツをあえて刺激し、飛んだ瞬間に人形のスペックをフルに使って箒をフルスイング。絶妙なタイミングで当たったヤツを窓の外に弾き飛ばしミッションクリア。

 

その後は抱きついてくる9を落ち着かせながら、昼間失った9成分を補給する。あぁ幸せ。

 

 

二十二時

その後はまぁいつも通り。

9とおしゃべりしたり、夕食で9にアーンしてもらったり、お風呂で9の裸を堪能したり・・・。

 

 

「じゃあもう消すよ。」

 

「いいわよ。」

 

「ありがと9」

 

「zzz・・・」

 

 

同居人がいなければこのまま朝チュンコースに突入したいのだが、無理なものは無理だろう。

そして今日起きたことを思い浮かべ、明日に期待を馳せるのだ。ムフフ。

 

 

 

 

 

番外1-3:二人のクリスマス

 

十二月二十四日

街がクリスマス一色となり、メインストリートに面した公園にあるクリスマスツリーの前はカップルや家族で賑わっていた。

その公園の端のベンチ、桃色の髪を揺らして両手に息を吹きかける一人の少女(人形)がいた。AR-15である。

人形なのだからある程度寒さには強いが、それでも寒そうなのは手袋もマフラーも身につけていないせいだろうか。

 

 

ザッザッザッ

 

 

「!」

 

 

足音が近づいて止まる。

顔を上げれば、待ちわびた想い人 ハンターがいた。

 

 

「すまない、遅くなった。」

 

「ううん、さっき来たとこだから。」

 

 

そう言うと「そうか・・・」と言ってAR-15の隣に座るハンター。

自然とAR-15も距離を詰める。お互い目を合わせて微笑むと、ハンターがAR-15の服装に疑問を持つ。

 

 

「おい、お前まさかその格好で来たのか?」

 

「え、ぁ、いや、その、マフラーが、虫に食われちゃって。」

 

 

そう言うと恥ずかしそうに俯いてしまう。

するとハンターはニコリと笑って、

 

 

「なら、これを持ってきて正解だったな。」

 

 

と言って持っていた箱を手渡す。

いきなりのことに困惑するAR-15にハンターが「開けてみてくれ」というと、AR-15はゆっくりと箱の蓋を開ける。

 

 

「わぁ・・・!」

 

 

中に入っていたのは赤いマフラーだった。

隣を見れば、笑顔で頷くハンター。AR-15はマフラーを箱から取り出し、首に巻き始める。

 

 

「? ねぇ、これ・・・」

 

 

巻いてみて気がついたが、このマフラーはかなり長い。地面につくほどではないが、普通のマフラーに比べればかなり余計な長さだと感じるだろう。

疑問に思っているとハンターは意地の悪い笑みを浮かべ、

 

 

「あぁすまない、そいつは()()()じゃなかったな。」

 

 

と言って、余っている部分を自分の首に巻き始める。

さて、長いとはいえ一本のマフラーを二人が使えばどうなるか。結論で言えば、ほとんど耳がくっつくくらいの距離に二人の頭が来るのである。

ハンターはどこか満足げだが、AR-15はすでに耳まで真っ赤になっている。

そのままじっとすること約十分、流石に寒いと思ったのかハンターが店に行くことを提案、AR-15も同意して移動する。相合マフラーのまま。

 

 

「・・・着いたぞ。」

 

 

ハンターの声に顔を上げると、そこは馴染みの店である『喫茶 鉄血』・・・のはずだが何故か看板が外され、ドアには「臨時休業」と書かれた張り紙が。

明らかに閉まっているように見える店にハンターは入っていき、釣られてAR-15も入る。

 

 

「・・・・・!」

 

 

中に入るとそこにまでテーブルと一対の椅子、テーブルの中央にはキャンドルランプが輝いていた。

ハンターは固まっているAR-15の手を引き椅子に座らせると、パチンッと指を鳴らす。

すると店の奥から料理を持った代理人が現れ、皿をテーブルに置きグラスにワインを注ぐ。

驚きの連続で未だに理解が追いついていないAR-15はハンターに視線を移す。と、等のハンターは少し照れ臭そうにしながら言った。

 

 

「まぁ、その、私たちが付き合い始めて初めてのクリスマスだったからな。代理人に頼んでこういう雰囲気にしてもらったんだ。」

 

 

気に入ってくれたか?と聞くハンターだが、よく見ると手先が僅かに震えている。彼女も緊張でいっぱいいっぱいなのだろう。

だからこそ、この後の慌てようは当然の結果であったとも言える。

感極まったAR-15がポロポロと泣き始めたのだ。

 

 

「!? す、すまない! 何か気に入らなかったか!? わ、私はお前に喜んでもらおうと、」

 

「ち、違うの!」

 

「私、今日ハンターと過ごせるだけで嬉しくて、プレゼントまでもらって、おまけにこんなことまでしてくれて、嬉しくて、そしたら堪え切れなくて。」

 

 

その後すぐに涙を拭いた彼女は、ニコリと微笑んで「ありがとう」と続けた。

 

 

「っ! そ、そうか。 それは良かった。」

 

 

その笑顔にドキッとしたハンターだがなんとか普段の調子に戻し、フッと一息ついた。

 

その後は二人で乾杯し、食事を楽しみながら話に花を咲かせていた。

結局遅くまで話していた二人だが気がつけばすでに十一時を回っている。

お互い名残惜しそうにしつつもAR-15が「また明日会いましょう」と言うと、ハンターも「あ、あぁ」とぎこちない言葉を返し、AR-15の後に続いて店の出口まで向かう。

が、店を出るまであと数歩というところで、

 

 

「お客様、忘れ物がございますよ。」

 

 

と代理人が呼び止める。

扉の前でAR-15を待たせてハンターは代理人のもとに向かうと、代理人から渡されたのは一つの鍵。

一瞬何の鍵かは分からなかったものの直ぐに理解したハンターはバッと顔を上げる。それを見た代理人は僅かに微笑み、店の奥、非常口から店を出る。

AR-15はが不思議そうな顔をしながらハンターのそばに行くと、突然ハンターが抱きついてきた。

何が起こったのか分からず目を白黒させているAR-15の耳元で、ハンターは大きく息を吸い、震える声で言葉を紡ぐ。

 

 

「今夜は、一緒に居たい。 一緒に居てほしい。」

 

 

数秒かけてやっと言葉の意味を飲み込んだAR-15は、しかし抵抗することはなく逆にハンターを抱き締め返す形で返事をする。

そして二人は渡された鍵・・・二階の空き部屋の鍵を持って、店の奥に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はい、計画通りに。・・・ええ、店からは出ていません。・・・わかりました。では、お言葉に甘えて。」

 

 

電話を切り、戸締りを終えた店を振り返る代理人。

その顔は、手のかかる子供を見守る母親のそれであった。




皆さま改めまして、明けましておめでとう御座います!


というわけで早速番外編の紹介に移ります。
*番外編は既出キャラの話なので、それぞれの話の設定や時系列などを紹介します。

1-1
第一話から数日後の話。指揮官ラブ勢の話はそのうち書くのでモシン・ナガン以外の人形は出しませんでした。ここの指揮官はロシア組とタイマンは張れるくらいお酒に強いです。

1-2
書けば書くほど悪化するキャラ。書いてる途中に何度かR-18路線にズレそうになったのが一番きつかった。
もういっそR-18版も出しちまおうかな。

1-3
お待たせしました!
ほんとは昨年のうちに上げたかったのですが、この話で一本丸々使うと確実にR-18に突入するのでこの形に。
ちなみに鉄血員は代理人含め全員司令部に泊まりました。


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第四話:ポンコツなお姉さんは可愛いと思います!

新年最初の本編は、リアル司令部でも大活躍の彼女です!






キャラ崩壊がひどいけど・・・

2019/1/4:サブタイトルが空白のままだったので追加しました。
何やってんだ俺・・・


世界中がハッピーニューイヤーで盛り上がり、様々なイベントが行われている頃、このS09地区にある街も活気に包まれ、お祭りムードに染まっていた。

しかし当然のことながら羽目を外しすぎる人たちもいるわけで、その対策のためにグリフィンの人形部隊には新年早々出動命令が下されていた。

もっとも、有事の際は動けるようにと言われているだけで、ほとんどの人形は出店をまわったり逆に出店を出したりと割と自由にしている。

 

 

「・・・で、あなたは行かなくていいのですか?」

 

「あぁ、どうも祭りの雰囲気には慣れなくてな。」

 

 

いつも通りコーヒーを淹れている代理人が聞けば、銀髪の女性・・・GrMG5がため息をつきながら答える。

コトリ、とカップを置く。と、なにかを感じ取ったのか代金をテーブルに置き、スッと立ち上がる。

同時に店の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「「見つけたわっ! お年玉くれないとイタズラするの(わよ)!!」

 

「ええぃもう来たか! というか一〇〇式と57はなぜ止めない!」

 

「何を言ってるんですか。 お正月には大人が子供にお年玉をあげるのは常識です! さあ、そのお金置いていきなさい!」

 

「ほんとは止めるべきなんだろうけど、HG(こども)はお年玉っていう特別給与が貰えるって聞いたから、ね?」

 

「黙って聞いていれば好き勝手言いおって! まずM9とP7、ハロウィンと混ざっているぞ! それと一〇〇式、それはあくまで日本だけの文化だ! 最後に57、何が『ね?』だ! どいつもこいつも浮かれおって!」

 

()()()だけに?」

 

「やかましいっ!!」

 

 

訪れたのはP7とM9、一〇〇式にFive-sevenだった。全員がMG5と同じ番号の腕章をつけていることから、今回は同じ警備部隊に配属されているらしい。

じりじりと迫るちびっ子(HG)から距離を取りつつ、MG5は退路を確認する。だが肝心の出入り口は彼女たちの後ろであり、MG5自身もマシンガンという取り回しの悪い武器しか持っていない。

いよいよ打つ手が無くなったかに思えたその時、双方の間に一人の人形が割り込む。この店の平穏を守る最後の砦、代理人である。

 

 

「そういえば一〇〇式さん。 日本には確か、()()()というものがありましたよね?」

 

 

唐突にそんなことを言い出す代理人。顔は笑っているが目は笑っていない。

一〇〇式は頭に?を浮かべながらも「ええ」と返す。

すると代理人は一切表情を変えず、スカートの内側からソフトボール程の大きさの鉄球を取り出す。

 

「では、私からささやかながら()()()()をあげましょうか。」

 

そう言って振りかぶる代理人。華奢な外見と服装のせいで時々忘れられがちだが、これでも鉄血のハイエンドモデル。当然ながら性能もそれに見合うものであり、そんな代理人が鉄球を振りかぶればどうなるかというと、

 

「「「「て、撤退〜!」」」」

 

脱兎のごとく逃げ出すちびっ子たち。

無言で鉄球をスカートにしまう代理人。

え、どこに入ってるのそれ?と困惑するMG5。

その一連の流れをただただ呆然としながら見ていた客数名。

 

混沌とした空気だけが残った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

あの後店にいた客はそそくさと退散し、それにならってMG5も店を出ようとしたところを代理人に呼び止められ、現在こうして向かい合って座っている。

対面に座る代理人はいつも通りの無表情であり、それを怒っていると感じたMG5はなぜ私ばかりこんな目にあうのかと己の不幸を恨み続けていた。体は小刻みに震え、目には涙を浮かべている。

 

 

「・・・MG5さん。」

 

「は、はいっ!」

 

 

呼ばれた途端に背筋を正し、いつも通り振る舞おうとする。が、声は上ずっており、表情は罪状を読み上げられる死刑囚のそれである。

 

 

「・・・実はですね・・・」

 

 

代理人が口を開く。

それに合わせてMG5の顔色がさらに青白くなる。

いつAIかシャットダウンしてもおかしくないくらいに怯えきっているMG5をよそに、代理人は言葉を発した。

 

 

「私にドイツ料理を教えていただきたいのです。」

 

「・・・・・はい?」

 

 

聞けば昨年のクリスマスシーズンに、ドイツではクリスマスマーケットなるものが開かれると聞いた事が発端らしい。知識としては知っているがそこは飲食店の従業員、本場の者に聞くべきだと考えさて誰に聞こうかと思ったあたりで、知り合いにマトモな人間も人形もいないことに気付く。少なくともドイツ人の人間は知り合いにはいないし、人形もクセの強すぎる404小隊とシスコンマシンガンのMG34くらいであり、こいつらに聞いた日には色々と面倒なことになりかねないと考えたところでMG5が店を訪れたらしい。

が、当の本人にはほとんど声が届いておらず、代理人が話し終えると同時に安堵したのか涙をこぼし始め、ついでに表情もフニャっと崩れいよいよ大泣きしてしまった。

代理人からしても目の前で突然泣き出したことに驚き、号泣するMG5と見た事がないくらい慌てる代理人という珍しい光景が広がっていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「・・・こんなところでしょうか。」

 

「ああ、いいと思う。」

 

 

混沌を極めた珍事から数時間後、代理人はMG5から一通りレシピを教えてもらい、いくつか実際に作ってみてはMG5の評価を受けていた。

とりあえずメニューとして出せる程度には形になり、片付けと店じまいを並行して行っていると、

 

 

「・・・やっぱりすごいな、代理人は。」

 

「?、突然どうしました?」

 

「あ、いや、店を構えるだけでも大変なのにこうして意欲的にメニューを増やしたり、人の相談に乗ったり・・・。」

 

 

そう言ったMG5の顔は、何か思いつめたような、諦めたような表情を浮かべていた。

ある程度片付けを終えた代理人は残りを部下に任せ、MG5から話を聞くことにする。初めはなかなか話そうとしなかったが、吐き出した方が楽な時もあると言いながらスカートから鉄球を取り出して脅しをかけるとあっさり話し始めた。

 

聴くとMG5はMGの中ではそこそこ長いキャリアを持っているものの、そのほとんどは司令部での内勤と訓練であり、マトモな実戦経験など一、二回しかないという。

しかし個々の司令部に配属されてみると元々の雰囲気や製造後の長さから歴戦の猛者のように扱われしまったらしい。

加えて前の司令部には一部隊しかなく、大勢の人との接し方がわからないため言葉数が少なくなり、それがまたベテランの貫禄のように見えてしまうという悪循環に陥っているらしい。

先ほどのちびっ子の相手も、本当はどうすればいいかわからず悩み続けているらしい。

 

 

「・・・・・」

 

「・・・あの子たちの失望した顔を想像すると、やはり私はは・・・」

 

「いつまで『よそ者』でいるつもりですか?」

 

「!?」

 

 

代理人の声にバッと顔を上げる。表情はいつもと同じはずなのに纏う雰囲気が全く違う。

怒っている、とMG5は感じた。

 

 

「あの子たちを失望させたくない、みんなを困らせたくない、経験が少ないことを悟られたくない。 あなたは周りを見ているようで見ていない。 そんな理由を並べてただ自分を守っているだけ。」

 

「ち、違う。 私はそんな・・・」

 

「なによりあなた自身が誰も信用していない。」

 

「っ!?」

 

「あなたに限らず、あなたが以前勤めていた司令部にいた人たちもあなたと同じで、ただキャリアが長いだけの経験不足な・・・」

 

「黙れっ!!!」

 

 

MG5が机を跳ね除けて代理人に詰め寄る。そのまま胸ぐらを掴み壁に叩きつける。

 

 

「私の仲間を侮辱するなっ! 確かにあいつらも実戦経験なんてほとんどない。 だからこそ、訓練を積んでいつでも出られるように備えてきたっ! それをお前はっ!」

 

「ええ、経験の不足を補うため、実戦に備えるために日々訓練を重ねてきたはずです。 今のあなたのように、下らない見栄のためではありません。」

 

「っ!!!!!!」

 

 

違う。見栄のためなんかじゃない。

否定したくてもできなかった。振り上げた拳を振るうこともできなかった。

 

いつからだ?

いつから、()()()()()()()()()()()()()()訓練になっていた?

いつから、訓練が日々の業務になっていた?

 

いつから、私は笑わなくなった?

 

代理人がMG5をそっと抱き寄せる。

ゆっくり包み込むようにし、頭を撫でながら言った。

 

 

「あなたはあなたです。 大丈夫、きっと受け入れてくれます。 あなたは誰よりも仲間思いで、正直な人ですから。」

 

 

それを聞いたMG5は泣いた。大声を出して泣いた。

今まで溜め込んでいたものすべてを吐き出すかのように、ただひたすら泣いていた。

その姿は普段からは考えられないほど弱々しかったが、同時に纏う雰囲気も柔らかなものになっていた。

 

よく泣くが仲間思いでまっすぐな人形。

それが彼女だ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

あの騒動から数日。

店のメニューは日に日に増え、その中にはあの日教えてもらったドイツ料理もあった。

 

あの後MG5は迎えにきたちびっ子たちに連れられて帰り、それからは毎日手紙を送ってくれている。

司令部のみんなに話したこと。受け入れてもらえたこと。指揮官に実践経験を積む機会を与えてもらえるようになったこと。出発日が今日であること等々。

 

どうやら彼女は前に進むことができたらしい。手紙には毎度毎度感謝の言葉が綴られているが、自分はただ話を聞いただけだ。彼女の意思があってこそ、変わることができたといえる。

もっとも、

 

 

バタンッ

 

「代理人! 助けてくれっ!」

 

 

このあたりは変わってなさそうではあるが。

 

 

「何をしてるんですかMG5さん? さあさあ待ちに待った実地演習ですよ! 」

 

「ま、待ってくれ! まだ心の準備が・・・」

 

「訓練とはいえあんなスコアを叩き出しておいて何言ってるんですか? ご安心ください、私が三日であなたを小隊長クラスまで育ててあげますから!」

 

「ああ! 引っ張るな! く、首がっ! 助けてっ、助けてくれ代理人〜〜〜・・・」

 

バタン

 

 

MG34に連れられて行ったMG5を見送る代理人。

帰ってくるのは三日後かと考え、どんな料理で迎えてやろうかと思案するのであった。




というわけで今回はMG5でした。
元々はクールなMG5が代理人に相談を持ちかけるだけだったのですが、
「原作でのセリフは実はそういうキャラを作っているだけ」
という仮定を置いてみた結果、泣き虫ポンコツ娘になってしまいました。


では、本編のキャラ紹介です。

Gr MG5・・・他の地区から異動してきた人形。泣き虫ポンコツ娘。元の場所では内勤と訓練がほとんどであったため、事務系のスキルと基本的な戦術等は完璧ともいえるレベル。また料理が得意で、ドイツに限らず色々な料理を作れる。真面目で努力を怠らないためみんなから人気があり、416曰く「G11に爪の垢を煎じて飲ませたい」らしい。

使うかどうか分からん設定
恋愛話に疎く、免疫もほとんどない。


ちびっ子たち・・・司令部の問題児M9、司令部のイタズラ狂P7、日本の伝統世界標準化計画一〇〇式、一部分が全くちびっ子じゃない57。
ちなみに司令部の職員全員に突撃しており、お年玉をくれる者には笑顔を、くれない者にはイタズラが贈られる。



以上です。
活動報告に質問箱を置いた方がいいですかね?


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第五話:プロ◯ェクトX

今作初のグリフィン人形が出てこない会。

人間だけでも十分キャラが濃いのはドルフロの魅力だと思います!


「はい。 こちらが注文分の品です。 確認をお願いします。」

 

「・・・はい、確認致しました。 ありがとうございます。」

 

「ではこちらにサインをお願いします。」

 

 

年明けムードも落ち着きを見せ始めた今日この頃。

閉店間際の店内には人形の客はおらず人間の、それもグリフィンに関わりのある者ばかりであった。

代理人に荷物を渡し、代金を受け取ったカリーナはヘリアン、ペルシカ、クルーガーのいるテーブルに戻る。

彼らはオープンして間もない頃に査察という名目で訪れ、以来たまにこの四人で閉店間際に訪れては店じまいになるまで話し込んでいるのである。

 

ちなみにこの四人が訪れた時は、面の掛け札は裏返すが店内は彼らが帰るまで営業し続けている。

 

 

「さて、早速本題に入ろうか。 ペルシカ君。」

 

「はい。 ではまずはこちらをご覧ください。」

 

 

そう言って話し始める四人。

その内容は社の会議室で行われるような機密性の高いものがほとんどだが、代理人含め鉄血員の方の硬さを評価しここを会議室がわりに使わせてもらっている。

代理人も、注文して代金を払うなら長居しても構わないというスタンスを取っている。

 

 

「今年の春に向けた新たなスキンの案です。」

 

 

机に広げられているのは人形数名分の資料と、同じ枚数分のスキン(制服)の資料である。

ちなみにこの()()()というものは普段人形たちが趣味で着替えるものとは違い、それそのものが戦闘服や作業服としての機能を持った特殊な装備なのである。

・・・もちろん製作者の趣味全開なのは言うまでもない。

 

なお今回のテーマである()()()は、装備の携行数を増加させつつ、フォーマルな服装にすることで『軍事』と言う泥臭さを抑えると言うのがコンセプトである。

想定される場面は要人や施設、式典の警護である。

 

 

「6P62、Gr MG4、M950Aはセーラータイプ。 ST AR-15はブレザータイプにしました。62は腰部にマガジンポーチを装備、MG4とAR-15にはパーカーを装備することで弾薬の携行数を増やします。 逆にハンドガンであるM950Aは夏服にすることでより身軽にしました。」

 

 

ペルシカの説明を聞きつつ資料に目を通す三人。

それぞれがコンセプトや実際に運用することを想定して話を詰めていく。

 

 

「私から一ついいかね?」

 

「ええ、どうぞ。」

 

 

厳しい目つきで周りを見渡すクルーガー。

彼の手にはMG4のスキン資料が握られている。

 

 

「MG4の上着はもう少し切り詰めるべきだと思うのだがどうかね?」

 

「賛成で。」

 

「その方が可愛いですわね。」

 

「清楚感の中にエロスを混ぜる・・・さすがですクルーガーさん。」

 

 

訂正、欲望のままに話を進めていた。

もっともこの会議の参加者が、

性欲を持て余すクルーガー

可愛いは作れるを地でいくペルシカ

金になるならなんだっていいカリーナ

夏と冬にとある国のアリーナで祭りに参加するヘリアン

と言うメンツなのだからしょうがないといえばしょうがない。

 

 

「冬服とパンストと言う完全装備! 肌の露出が極限まで抑えられた中でヘソチラと言う無防備な一点! そこに神秘性が宿るのだよ。」

 

「では、AR-15にはマフラーと背負うタイプの学生カバンを追加します。 いずれも使い込まれていないような色合いにし、一年生の初々しさを出しましょう。」

 

「でしたらM950Aには逆にアクセサリー類は付けず、夏服の健康的な肌を晒してもらいましょう!」

 

「そういえば学生にありがちな『メガネキャラ』がいませんね・・・。」

 

「「「それだ!」」」

 

 

こうして議論は加熱し、凄まじいペースで完成形に近づいていく。

と、クルーガーが資料の一番下にあったメモ書きを見つける。

 

 

「ん?・・・『MP-446』の案か?」

 

「あぁ、それですか。 途中まではまとまっていたのですが、流石にそのデザインは色々と非難を浴びそうでしたので。」

 

 

そう言ってため息をつくペルシカ。

たしかにそのデザインはランドセルを背負いリコーダーを吹く『小学生』の出で立ちであり、まぁ確かに世のお母様方から何を言われるか分かったものではない。

 

とはいえこのまま白紙にするのではもったいない、と言うよりも思っていたより早く話がまとまり色々消化不良の四人はこの最後の案を考え始める。

が、なかなか思うように案が浮かばない四人。それでも彼らは日が暮れるまで、場合によっては日が変わっても考え続けるだろう。

 

そうなって困るのは場所を提供している店側である。流石に翌朝までいられては困るので、仕方なしに手助けすることに決めた代理人。

 

 

「フォーマルと言うのであれば何も『学生服』にこだわる必要はありませんよ。 例えば学生らしく部活動とか。」

 

「!?」

 

 

それを言われてペルシカに電流が走る。

 

 

(学生服だけが学生じゃない。 そうだ、勉強するだけが、()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 

凄まじい勢いでペンを走らせるペルシカ。

ものの十数分で書き上げたイラストに描かれていたのは、ラフな格好で左手はポケットを突っ込み、右手で愛銃をくるくる回す446だった。

 

 

「真面目に制服を着るだけが学生ではありません。 ストリート感溢れる服装にし、学校に馴染めないやんちゃっ子路線でいきます!」

 

「えぇ〜〜〜・・・・・」

 

 

何故そうなった、という思いを表情と声に乗せる代理人。

しかし他の反応はよく、あれよあれよという間に採用されてしまう。

全ての案がまとまり、テーブルに残った飲み物を飲み干した彼らの表情は、とても清々しいものだった。

 

そして帰り際、クルーガーは代理人の手を取り厚く感謝を気持ちを述べる。最後には、

 

 

「もし君さえよければまたこの会議に参加してくれないか? 報酬は出そう。」

 

 

と言い、自分の名刺を渡す。

首を突っ込まなければよかったかと後悔する代理人であったが、結局できたのは彼らを見送ることと、あの案が実装されないことを祈るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、新たなスキンを四月に実装することが発表され、そのスキンのイラストが公開された。

その中にはあのやんちゃっ子446のイラストがあり、代理人は一日中頭を抱えていたという。




グリフィンはもうダメだと思う。
まぁ変態が溢れるのはそれだけ平和だってことで。


というわけでキャラ紹介に移ります。

クルーガー・・・グリフィンの親玉。ガチムチのイイ男。イラストを見た瞬間に某潜入蛇に似てると思った。人形のことを第一にが考えてくれるいい人なのだが、セクハラが趣味というほどの変態でもある。既婚者。

カリーナ・・・愛称はカリン、なのだが誰も呼んでくれない。別に貧乏だったとか逆に大金持ちだったとかではなくシンプルにお金が好きなだけ。商売上手であり、あっちこっちにツテがある。喫茶 鉄血はお得意様。自分のプライベートは切り売りしないが他人のプライベートは売ってくれる。彼氏いない歴≠年齢。

ヘリアン・・・本名ヘリアントス。グリフィンの上級代行官。早い話が指揮官の上官。部下が優秀すぎて暇になり、なんとなく手を伸ばした同◯誌が彼女を変えた。以来、部屋にこもって何かを書いていることが多くなり、夏と冬のある時期には1週間ほどいなくなる。彼氏いない歴=年齢。



以上です。
次回もお楽しみに。


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第六話:忍び寄る影

ネタバレ) notシリアス

なんか前話の勢いのまま描き始めたらひどい内容になった。
この世界はいよいよダメだと思う。



ここはS09地区のとある倉庫。

日付も変わろうかという時間であるにもかかわらず、そこには男女数名の姿があった。

 

 

「た、頼む! もうやめてくれ!」

 

「それは私が決めることだ。 さて次は・・・ふむ、これにしよう。」

 

「やめろ! それは、それだけはぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「・・・ほどほどにして下さいよ、アルケミスト。」

 

「「「「うわぁ・・・」」」」

 

 

残虐な笑みを浮かべるアルケミストと一応注意はする代理人。

ドン引きしながら見守る404小隊。

そして柱に縛られ恐怖の表情を浮かべる男たち。

 

アルケミストの笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「・・・何ですか、これは・・・」

 

 

それはとある日の喫茶 鉄血。

午前中まではいつも通り営業していたのだが、今は臨時休業となっている。

その店内には代理人含め全ての鉄血員、たまたま客として来ていた404小隊、地元の警察官数名、そしてS09地区の指揮官がおり、一つのテーブルを囲んでいる。

この騒動の原因は、そのテーブルに置いている一通の封筒であった。

 

この封筒が届いたのは正午を少し回った頃。

差出人不明かつ宛名も『鉄血の不良人形様へ』というものであった。

気にはなったが店の対応もあって読むことができなかった代理人だがそれでも放っておくにはあまりにも物騒であったため、店にいた404小隊に代わりに読んでくれと依頼する。彼女らもそれを快諾し、UMP9が手紙を開くと同時に表情を険しくする。

 

そこからの流れは早かった。まず9が小隊全員に内容を共有し416が警察に、45が司令部に連絡した後に代理人に店を閉めるように指示を出す。ただならぬ気配に代理人はすぐに指示を出し、閉店の準備を進める。

その後やってきた警察と指揮官の前で手紙を開いたというところが現在の状況である。

 

 

「何故、デストロイヤーの写真ばかりがあるのですか!」

 

 

封筒の中身は一枚のカードと数十枚の写真。そこに写っていたのは全てデストロイヤーであった。

しかもその内容は彼女の私生活や仕事姿、さらには寝ているところを撮ったものまであり、どう見ても盗撮の類だった。

 

 

「すでに彼女の職場には連絡を取っています。 今のところ彼女は特に変わったこともなく、普段通りだそうです。」

 

「それとこのカードに書かれているマーク。 こっちは我々が知っている相手のものだったよ。」

 

「バラバラにされた血まみれのマリオネット・・・こんな悪趣味なロゴを使う連中なんて一つしかないわ。」

 

「・・・・・『過激派』、ですね。」

 

 

『過激派』

正式名称は『人類の未来を願う会』という組織であり、鉄血のクーデターを機に人形反対運動を激化させた要注意組織。

過去には人形や人形を擁護する人々への暴行もあったため、代理人も警戒はしていたのだが、まさか同僚が狙われているとは思わなかったようである。

 

 

「ともかく、我々はこの写真を元に捜査を進めます。 何か変わったことがあれば、すぐに連絡して下さい。」

 

「わかりました。 よろしくお願いします。」

 

 

そう言って警察官は封筒を持って店を出る。

一方、残った人形たちは独自に捜査を進めようと言い始める。が、デストロイヤーが暮らす町はここから遠く、こと地区の司令部では管轄外となる。何か手はないかと唸る人形たちに、指揮官は言った。

 

 

「・・・さっきの写真、彼女がこの街に来た時のものもあったようだが。」

 

「ええ、ありましたね。 年末にパーティーを開いた時のです。」

 

「うへぇ・・・年末までストーカーか。 相当暇人だね。」

 

「ん? てことはそいつはずっとデストロイヤーを追いかけてるってこと?」

 

「いや、構成員はあちこちにいるんだ。 移動先にいてもおかしくはない。」

 

「・・・いえ、それだけで十分です。」

 

 

そう言うと代理人は閉じていた目をゆっくり開き、まっすぐ指揮官を見た。

 

 

「指揮官さん。 一つお願いがあります。」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

数日後、S09地区

司令部のヘリポート。

 

そこに一機のヘリが止まっていた。

出迎えは指揮官、数名の護衛と代理人である。

扉が開き、中から出てきたのは、

 

 

「やぁ、代理人。 一月も経たずにまた会えるとは思わなかったよ。」

 

「ええ、こちらこそ。」

 

 

鉄血のハイエンド、そして現在はメンテナンスのためにグリフィン本部に()()()()()()()()()()アルケミストであった。

 

 

「で、早速なんだが・・・どこまで()()()いいんだ?」

 

「殺さなければなんでも。 誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやりなさい。」

 

「了解だ・・・ククッ、まさかお前をそこまで怒らせるとはな。」

 

 

今回の作戦は至ってシンプル。

デストロイヤーにS09地区の司令部に出張(という形)で来てもらい、その周辺で怪しい者がいれば町中に配備された人形たちが確保、アルケミストが尋問して過激派を一掃するというものである。

 

・・・この時点で対象はトラウマ確定である。

 

この翌日にデストロイヤーが街に到着。

最低限の警備を司令部に残して全人形を動員した結果、過激派の隠れ家と構成員数名を確保するに至った。

 

そしてその日の夜、街の外れの倉庫で尋問が行われた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・つまり、ただ謝りたかっただけだと?」

 

「は、はいっ! そうですっ! 迷惑をかけるつもりなんて何もっ!」

 

 

いざ尋問を始めてみればあっさりと口を割った、だけでなく思いもよらぬ展開になっていた。

 

なんと『人類の未来を願う会』そのものは、以前の暴行騒ぎがきっかけで内部分裂を起こし、今年の頭に主要メンバーが脱退。なんとなくで集まっただけの人々が残り、ただなんとなく鉄血の資料を集めるだけの集まりになったという。

あの写真そのものは脅迫目的で使われる予定だったのだそうだが、そういった犯罪行為からは手を引くべく、謝罪の手紙とともに鉄血のリーダー(だと思われている)の代理人に送られることになった。

が、ここに来て問題が起きる。なんと肝心の手紙と間違えて会のロゴが入った白紙の名刺を入れてしまい、気づかずに送ってしまったのだという。その結果がここ数日の騒動である。

 

なんとも締まらない結果となったが、一応この件については片付いたとして警察と司令部には報告すると伝え、彼らを解放しようとする代理人。しかしその手をアルケミストが止まる。

 

 

「? まだ何かありますか?」

 

「あぁ、一つだけな。 あの中身についてだが。」

 

 

そう言って指差した先には隠れ家から押収したものの山。

別に犯罪に関わるものは何もないのだが、アルケミストにとっては見過ごせないものでもあった。

 

 

「さて、これは一体なんなのかな?」

 

「そ、それは!?」

 

 

箱の中から取り出された一冊の本、というにはやや薄い漫画。

その表紙にはデストロイヤーのあられもない姿が描かれていた。他にも似たようなサイズの本が山ほどあり、そのいずれにも鉄血のハイエンドたちが描かれていた。

アルケミストの額にはすでに青筋が浮かんでいる。

 

 

「キサマら・・・私の家族に対し随分と好き勝手してくれているじゃないか・・・!」

 

「「「いや、それはフィクションであって・・・」」」

 

「黙れ。 たとえフィクションであったとしても、身内が汚されていることに変わりはない!」

 

「一応全て目を通しましたが、まぁ、その・・・随分と過激なシチュエーションのようでしたが。」

 

 

怒り心頭のアルケミストと、まぁ皆さんの性癖については何も言いませんがと冷たい目で見る代理人。

恐怖とショックと羞恥心で彼らのメンタルはすでに限界であった。

が、鉄血が誇るドS人形のアルケミストがこれで終わるわけがなく、般若のような様相からニヤリと笑みを浮かべると、

 

 

「本当はキサマら一人ずつ拷問にかけて二度とペンを握らなくしてやりたいところだが、今回は大目に見て、ここにあるすべての本を燃やし尽くすことで手を打ってやろう。」

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

そういうとライターを取り出し、火がついたまま押収物の山に投げ入れるアルケミスト。

燃え盛る押収物(男の必需品)を見ながら泣き叫ぶ男たち。

それを見たアルケミストは再び笑みを浮かべ、

 

 

「・・・あぁそうだ、流石に全て燃やすのはかわいそうだからな。 ()()()()残しておいてやったぞ。」

 

 

そう言うと男たちの瞳に光が戻る。その目の前に出されたのは、開封厳禁と書かれ厳重にテープで閉じられた段ボール箱。

男たちの表情が凍りつく。

 

 

「そういえばこれだけ開いていなかったな。 一応目を通しておくか。」

 

「「「や、やめろ〜〜〜!!!」」」

 

男たちの声も虚しく、段ボールから出てきたのはどこにでもある普通のノート。が、その中身は『暗黒』とか『終末の』と言うワードで埋め尽くされており、開いた途端にアルケミストにSの炎がついてしまう。

 

 

「『閃光の守護者』。」

 

「グハァ!?」

 

「『魔眼の淑女』。」

 

「グフッ!?」

 

「『終末の鎮魂歌(エターナル・ダークネス・レクイエム)』。」

 

「ガハッ!?」

 

「クククッ、どうした? 私はただノートを読み上げているだけだぞ?」

 

「た、頼む! もうやめてくれ!」

 

「それは私が決めることだ。 さて次は・・・ふむ、これにしよう。(黒い表紙のノート)」

 

「やめろ! それは、それだけはぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「・・・ほどほどにして下さいよ、アルケミスト。」

 

「「「「うわぁ・・・」」」」

 

 

アルケミストの笑い声が響き渡った。

なお、翌朝警察に引き渡された彼らは口々に「いっそ殺してくれっ!」と訴えたらしい。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「・・・とまぁ、そんな面白いことになっていてな。 私も久し振りに楽しめたよ。」

 

「自業自得、かな? って45姉どうしたの!? なんか冷や汗かいてるよ!?」

 

「っていうか被害者の前で面白いことって言わないでよ!」

 

 

あの事件の翌日、喫茶 鉄血に集まりお茶していたアルケミスト、デストロイヤー、404小隊の面々は、終わってみれば実にくだらない騒動をネタに楽しんでいた。

 

 

「にしても男の人ってよくわかんないよね。 なんであんなのがいいんだろ?」

 

「知らないわよ。・・・もしかして指揮官も?」

 

「ちょっと! ()()指揮官をあんなのと一緒にするつもり!?」

 

「私のって・・・、そこまで言うならもっと積極的になろうよ416。」

 

「あっ、そういえば押収してた本の中に、本部で見たことがあるやつが混じってたよ。」

 

「グリフィンもいよいよ終わりね・・・で、9? どこで見たの?」

 

「ちょっと待って。 う〜〜〜〜〜ん・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ヘリアンの部屋だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・え?」」」」」




アルケミストのSっぷりを表現しようとしたら書いている自分にダメージがきた回。
皆さんももしかしたら、身に覚えがあるかも?



というわけでキャラ紹介です。

アルケミスト・・・鉄血のハイエンドモデル。今現在何をしているのか全くわからない人形。連絡先も代理人含め数名しか知らず、フラッと現れてはどこかへ消える神出鬼没な存在。究極のドSというコンセプトで作られただけあってその性能は折り紙つき。恐らく鉄血中最も家族意識の強い人形で、彼女の前で他の人形を貶すと社会的に死ぬ。

指揮官・・・S09地区の司令部に勤める男性。究極の朴念仁。やたらとモテるが全く気づかない。人形達のことを人形ではなく友人としてみており、それは鉄血であっても変わらない。実は代理人が店を開く際に全面協力した人。朴念仁であること以外はまともな人間。

警察官たち・・・名もない警察官。グリフィンの人形がいるのでぶっちゃけ出番のない人たち。税金泥棒とか言われているが、警察はいることに意味があるのである。グリフィン絡みの事件では一番被害を被る人たち。

人類の未来を願う会の会員・・・こういう組織にいれば人形たちの資料が手に入るはず、という理由で入会した同人作家たち。実際資料は手に入ったので本人たちは満足している。
後日釈放され、鉄血たちの家族愛を描いた全年齢版の同人誌を出し、アルケミストに許可をもらえたので同人活動を再開している。あの事件以来、何故かアルケミストと交流がある。
「YESロリータ、NOタッチ」







おまけ
45「私と9の濃厚なやつを描いてくれないかしら?(100万ドル)」

会員「描きましょう!」


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第七話:口は災いの元

課題が、卒論が・・・。

はい、言い訳してすみません。
ちょっと間が空きましたが、私は元気です!



結構難産だったけど。



「はぁ〜、優雅ですわ〜」

 

「何言ってんだコイツ・・・」

 

 

そんなやりとりが繰り広げられるいつもの喫茶 鉄血。

 

珍しいことに今日は16labでの定期メンテナンスのため代理人がおらず、イェーガーが主に接客を行なっている。

こういった代理人のいない日は基本的に客が少なく(それだけ代理人目当てで来る客が多い)、面倒ごとが持ち込まれることもないため少人数でも回すことができるのである。

 

が、この日に限って面倒が舞い降りる。

グリフィンが誇るロリお嬢様、服装のせいでやたらスペースを取りしかも異様に長く居座る人形、Kar98kである。

この人形、身長に見合わない服や帽子をかぶり、お嬢様のような話し方をするなど大人の女性として見られたい願望が溢れ出ているのである。本人は隠しているつもりのようだが、現にかなり無理をしてカウンター席に座り(当然ながら床から足がかなり離れている)、頬を引きつらせながらコーヒーをブラックで飲んでいる。

当初は客に無理をさせるわけにはと甘いミルクティーやココアを出したのだが、

 

 

「ああもう、そんなに苦そうに飲むなら砂糖なりミルクなり入れればいいだろ!」

 

「な!? わ、私にそんなものは必要ありませんわ!」

 

「・・・あのな、別に無理するもんでもないし、私らとしては美味しく飲んでもらう方がいいんだよ。」

 

「・・・・・・・・・・グスッ」

 

「あ。」

 

この人形はそういった子供扱いされると泣くのである。

しかも泣きわめくと言うよりは、「なんでそんなこと言うの?」みたいな泣き方なので、まるでこちらが悪いかのような空気になりかねない。

代理人がいてくれればものの数分で機嫌が直せるのだが、いないものは仕方がない。

 

 

「ていうか姐さん(代理人)はなんであんなに慣れてるんだろうな。」

 

「ん〜〜〜・・・・・あ」

 

「「駄々っ子(デストロイヤー)か。」」

 

 

そんな結論に至るイェーガーとリッパー。

付け加えると駄々っ子だったのは昔のことであり、今は鉄血組で数少ない常識人である。

そんなことを話している間も98kはグズグズと泣き続け、客の痛い視線が集まる。

いよいよもって打つ手なしかと思われたその時、

 

 

「代理人! 代理人はおるか!? 少しの間匿ってくれ!!」

 

 

顔は青ざめ、目には涙を浮かべたウロボロスが入り込んできた。

 

 

「あ〜えっと・・・代理人は今所用で出かけておりまして。 多分帰ってくるのは夜になるかと。」

 

「くっ! まあ良いわ、とにかく少し邪魔するぞ!」

 

 

そう言って店の奥に行くウロボロス。

それとほぼ同時に店に入ってきたのは、怒るのボルテージが吹っ切れたのかいつもの笑みではなく完全無表情のドリーマー。

入ってくるなり得物のバカでかい銃を突きつけてくる。

 

 

「死にたくなければ答えなさい。 あのバカ蛇はどこ?」

 

「「奥にいまーす。」」

 

「お、お主ら!?」

 

 

店の奥で暴れまわる鉄血二名、いつの間にか泣き止み再びコーヒーを啜る98k、ため息をついたあと何事もなかったかのように仕事に戻るイェーガーとリッパー。

 

いつも通り平和だなと思う客たちであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「全く、加減というものを知らんのか・・・。」

 

「人のものを勝手に食うなって教わらなかったのか、ああ!?」

 

「ふふ、仲がよろしいんですね。」

 

「「いつまでいるんだよ。」」

 

 

結局その後ウロボロスがドリーマーにこってり絞られ、現在は98kと同様にカウンターに座ってくつろいでいる。

その相手をしている二人のストレスはマッハで加速しているわけで、代理人の偉大さを改めて感じていた。

しかも今目の前にいるのはめんどくさい人形といらんことしいの元上司二名。面倒が起きるのはすでに確定しており、

 

 

「のぉ98kよ。 そんなに苦いなら砂糖やミルクを入れたらどうじゃ?」

 

「な!? あなたも子供扱いしますの!?」

 

「はぁ? 子供に子供って言って何が悪いのよ?」

 

((もう黙ってろよこのポンコツ上司!!!))

 

 

少し前と同じ流れが生まれつつあった。

あれ?これ閉店まで続くんじゃね?とか思い始め頭を抱える二人。

再び泣き始める98kと何かおかしなことを言ったか?と首をかしげるウロボロス。

 

 

「というか何故大人ぶりたいのじゃ?」

 

「・・・指揮官は胸の大きな女性のほうがいいと・・・。」

 

「? それと大人ぶることになんの関係がある?」

 

「だって、大人になれば胸が大きくなるって・・・どうしました?」

 

 

本気でそう思っている98kにウロボロスは頭を抱え、ドリーマーは今にも笑そうなるのを必死に我慢し、鉄血員の二人は私ら知ーらねーとばかりに黙々と仕事をする。

 

 

「・・・98kよ。 お主本当にそれで胸が大きくなると思うか?」

 

「で、でも大人の女性の方って皆胸が大きいではありませんか!」

 

「では聞くが、代理人は大人の女性か?」

 

「もちろんですわ! 佇まいや身のこなし、まさに完璧ですわね。」

 

「・・・あやつ、そんなに胸があったかのう?」

 

「・・・・・あっ!」

 

「じゃろう! あやつは確かに大人じゃがそこだけは子供じゃぞ!」

 

「た、確かに・・・!」

 

「ブフッ!!」

 

いよいよ笑いを堪えられなくなったドリーマーがゲラゲラと笑い出す。

そこから体に対する比率ならデストロイヤーの方があるとか、処刑人はふつうにでかいとか、その度に代理人を引き合いに出しては笑い続けるウロボロスと98k。

 

 

「あぁ面白い。 普段いじれんから最高じゃったな! ・・・ん? どうした98k。 もっと笑っていいんじゃぞ?」

 

「・・・ずいぶんと楽しそうですねウロボロス?」

 

 

暖房のついているばずの店の室温が一気に下がった気がした。

彼女の方を向いている98kはすでに半泣きになり帽子を落とし、背を向けていたウロボロスはもともと白い肌をさらに白くし、ドリーマーは関係ないとばかりにコーヒーを飲んでいるがその手は震え冷や汗がテーブルまで垂れている。

いつも以上に、その目にすら感情を表していない代理人がそこにいた。

 

 

「・・・Kar98kさん。」

 

「ひっ!?」

 

 

代理人は怯えきった彼女のもとに歩み寄ると、落とした帽子を拾い、頭を撫で始める。

 

 

「以前似たような方とお話ししました。 その人はある人に好かれたいがために、自分を偽ろうとしました。 ですがそれは本当に幸せなのでしょうか? そう考えた彼女は、何も偽らない自分自身を見てもらおうとしました。」

 

「・・・?」

 

「無理に背伸びをする必要などありません。 残念ながら私たち人形は成長することはありませんから、無いものをねだるより、自分に合った強みを活かすほうが良いと思いますよ。」

 

 

そういうとニコリと微笑み帽子をかぶせる代理人。

98kは少し恥ずかしそうにしながらも「あ、ありがとう」と言いお辞儀をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応悩み事は吹っ切れたと思った代理人はすぐさま先ほどの無表情に戻り、問題児二人(ウロボロスとドリーマー)に向き直る。

 

 

「・・・さてでは二人とも、覚悟はよろしいですね?」

 

 

そういうと、代理人はスカートの裾をつまみたくし上げる。

店内の男どもはおおっ!と歓声をあげてあわよくばチラ見ができればと注視するが、そこから出てきたものにギョッとする。

 

代理人の足の付け根から生えるように付けられているサブアーム。

その先には用途に応じて様々な武器や道具を取り付けることができ、一見武装を持たない彼女が持つ唯一の武器でもある。

ちなみにだがそのオプション装備類は全てスカートの中から現れるため、4次元スカートと呼ばれることもある。

 

そのスカートから飛び出してきたのは四本のサブアームと四種類の武器。

殺意丸出しでブンブンと振り回される両刃のブレード。

逃走即捕縛というオチが透けて見えるウィンチのついたフックショット。

殺傷目的のほかに衣服を壁に縫い付けることもできるニードルガン。

恐怖心を煽る回転音が響く小型のガトリングがついたチェーンソー。

 

 

「「ちょっ!?」」

 

「トイレは済ませましたか? 神様(創造主)へのお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震える心の準備はよろしいですね?」

 

 

 

その日、街全体に二人の少女の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「指揮官さん! あ〜〜〜ん」

 

「ここ最近やたらと甘えてくるな98k。 まあいいか、はい、あーん。」

 

「ん〜〜、美味しいですわ!」

 

 

あの惨劇の翌日、早速素直(というか自分の欲に忠実に)なった98kが指揮官を連れてやってきた。

指揮官は戸惑っているようだが、まぁ彼女が楽しそうだから放っておきましょう、と考えた代理人は店内で働くウロボロスとドリーマーに指示を出す。

 

 

「ウロボロス、これをあちらのテーブルに。 ドリーマーはそこのテーブルを片付け終えたらその隣もお願いします。」

 

「ええいなぜ私が働かなくてはならんのだ!」

 

「諦めなさいウロボロス。 また地獄を見たいなら止めはしないけど。」

 

「返事。」

 

「「はい! わかりました!!」」

 

 

現在二人には昨日の失言の謝罪という形で働いてもらっている。

1日だけではあるが接客業、というよりも他人に頭を下げたり丁寧に接したりすることが苦手な二人からすれば拷問のような時間である。

自業自得ではあるが。

 

 

「くっ・・・お、お待たせしました。 ホットコーヒーとサンドウィッチだ・・・です。」

 

「次、あちらのテーブルのオーダーを聞いて、これをあのテーブルに運んで、その奥のテーブルを片付けてください。」

 

「鬼! 悪魔!! 露出癖!!!」

 

「威勢がいいですね。 これなら休憩も必要ないでしょう。」

 

「嫌じゃ! もうこんなのたくさんじゃああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「「ご愁傷様でーす。」」

 




代理人以外の従業員が目立たないから出番を増やしてみたけどやっぱりハイエンドたちに喰われてしまった回。

実は今回の騒動は指揮官の「胸は大きいほうが〜」発言が発端です。
皆さん、言葉には気をつけましょう。


ではキャラ紹介です。

イェーガー&リッパー
代理人のいない店を任されるくらいには優秀な二人。ちなみにちゃんとしたウェイトレススキン。将来は二号店や三号店をオープンしてその店長になることを目指している。
実はそれぞれの一号機でもある。

ウロボロス
なぜ私が働かねばならん!?とか言いながらノリノリで働くツンデレ。偉くなれば働かなくていいはずと考え今は真面目に働くことにしているが、彼女に任せたほうが効率がいいため、偉くなっても働かされるということに気がついていない。
なんだかんだで困っている人を放っておかない、根の優しいギャルのような人形。

ドリーマー
ニート。 ウロボロスと同棲しており、生活のほぼ全てをウロボロスに依存している。このことには代理人も悩んでおり、その解決策の一つが今回の短期バイトである。家主はウロボロスだがヒエラルキー的にはドリーマーが上なので、冷蔵庫にあるものを割と勝手に食っている。
悩んでいる人を奮起させるのが得意なのだが、その方法はやたらと嫌味を言って焚きつけるというもの。
欲しいものがたくさんあるがウロボロスの稼ぎだけでは全てを買えないことが悩み。

代理人のメンテナンス
鉄血を離れて以降はグリフィンで検査やメンテを受けている。はじめの頃は罠が仕掛けてあったりと大変だったが、ペルシカやヘリアン、クルーガーが睨みを効かせて以降は無くなった。

4次元スカート
なぜか色々なものが出てくる代理人のスカート。何の変哲も無いはずだが、小さいものは米粒から大きいものはロケットランチャーまで様々なものが取り出せる。


以上です。


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CO(クロスオーバー)-1:見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)

ついにやっちゃったぜクロスオーバーだ!
初のクロスオーバー回はとほくれす様のアイデアから拝借しました。

ドルフロ原作なら無双モノでやれたけどここじゃどう頑張っても無理っす!
まぁ敵がいないわけじゃないから別にいっかなと。


「続いてのニュースです。 先月起きた〇〇地区の民家爆発事件で、警察の調査でこの家が国際的なテロ組織『人形師』のアジトであったことが判明しました。 また、この家とその周辺の監視カメラには銃を持った二人の女性が写っており、警察はこの二人がなんらかの関係があるとして調査を進めています。・・・・・次はお天気です。・・・」

 

 

「物騒ですね。」

 

「戦争がなくなっても、争いは無くなりませんから。」

 

 

昼過ぎの喫茶 鉄血。

店内のテレビで流れるニュースを見ながらボヤくグリズリーと代理人。

もっとも自分たちの存在自体がすでにそういうこと(争いのため)であるのでなんともいえないが。

 

 

「あ、犯人の顔が出てますよ。」

 

「監視カメラの映像からここまで割り出しますか・・・。 一応店内に張り紙でも貼りましょうか。」

 

 

違うニュース番組で映し出されたのは犯人と思しき二人の女性。

一人はややトゲトゲした黒髪に赤のロングコート、もう一人はさらりとした黒髪ロングに白い服と帽子。二人の共通点として赤く鋭い目である。

また監視カメラの映像から二人の得物も再現されているが、かなり銃身の長いハンドガンで色は黒と白銀が一丁ずつ、その形状からオートマチックであることが伺える。

 

 

「ハンドガンに関してはあなたに聞いたほうがいいですね、グリズリーさん?」

 

「・・・装弾数はおよそ6発前後でしょう。 見た目からは普通の銃と変わらない構造のように思えますが、30センチ以上ある全長にあの口径・・・おおよそ人が扱える銃とは思えません。」

 

「規格外、という点ではS&W M500というものもありますが実用的とは言えませんね。 そんな銃をあの年の女性が使う・・・」

 

「・・・・・戦術人形、ですか?」

 

「その可能性が高いでしょう。」

 

 

問題はどこで作られ、なぜあそこにいたのか。と考えを巡らせる代理人とグリズリー。

入店を知らせるベルが鳴り、代理人はひとまず考えたことを頭の隅に追いやり、

 

 

「ほぉ、この店にはまだ張り紙がないようだな。」

 

「それは良かった。 そろそろ店を探すのも飽きてきたところだ。」

 

「ブフゥッッ!!!」

 

 

件の二人が入ってきた。

盛大に吹き出すグリズリーと間一髪で避ける代理人。

二人は即座に武器を取り出し構える。

 

 

「私たちと殺り合うつもりか? 面白い!」

 

「まあ待て『ジャッカル』。 私たちはあくまで手頃な店を探していたんだぞ? 余計な騒ぎを起こすんじゃない。」

 

「随分と落ち着いていますね、指名手配犯のくせに。」

 

 

まさに一触即発。ちなみに他の客は店の奥に避難している。

直接対峙しているグリズリーだからわかるが、この二人は恐ろしく強い。ふざけているようで隙がなく、過信しているというよりも自分を分かっているような感じである。

 

 

(これは、刺し違えても一人かな・・・。)

 

 

はっきり言えば勝てるビジョンが浮かばないがそれでもグリフィンの一人形。最悪の事態に対する覚悟を決め、いつでも仕掛けられるようにする。

とその時、

 

 

「・・・グリズリーさん、銃を下ろしてください。」

 

「なっ!?」

 

 

と言いながら展開していたサブアームを全て格納する代理人。

テロリストを前にして正気を疑うような行動だが、代理人に迷いはない。

 

 

「そちらに敵意がなく、ただ店を探していたということでよろしいですね?」

 

「ああ。 そうだ。」

 

「でしたら結構。 あなた方を客としてもてなします。」

 

 

えぇ・・・という顔のグリズリーをよそに話は進み、他の客への配慮から店の奥の空き部屋に通されることになった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「初めて食べたが、食事というものはいいものだな。」

 

「まったくだ。 こっちにきてから訳の分からんことばかりだが、こういうことがあるなら悪くない。」

 

「・・・さて、こちらもいろいろと聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「ああ、構わん。 というよりも私たちから話した方が良さそうだな。」

 

 

そうして情報の共有が行われた。

まず彼女たちの名前だが、赤いコートの方が『.454カスール カスタムオートマチック』、白い服の方が『対化物戦闘用13mm拳銃 ジャッカル』。

以前いた場所は二十世紀末のロンドンで、その時は正真正銘の『銃』だったらしい。彼女らには共通の持ち主がおり(こんな化物銃を二丁も扱うという点がすでに信じがたいが)、主に吸血鬼をはじめとした対化物用の武器だったらしい。

その後も、やれ持ち主も吸血鬼だっただのナチスドイツの残党の吸血鬼部隊がロンドンを襲撃しただのヴァチカンもどさくさに紛れて攻めてきただの最後は敵味方ロンドン市民全てが揉み込まれただのと、突拍子も無い話が続いた。

 

 

「・・・で、気がついたらあの街にいて、変な人たちに連れていかれて乱暴にされそうになったから全員半殺しにしてやっただけだ。」

 

「いやさっぱりわかりませんって。 第一、その話を信じるに値するものがないというか・・・」

 

「それは私が証明するでウィリス。」

 

「「うわっ!!」」

 

 

突然現れた男に驚くグリズリーと代理人。というか代理人の「うわっ!!」なんて初めて聞いたぞとか思いながらグリズリーはその男を見る。そして思う。コイツは何なんだと。

見た目はタンクトップ姿の中年オヤジ、黒いサングラスをかけ、地面からわずかに浮いている。あとなんだその語尾は。

 

 

「私はジャッカルの精でウィリス。 今からその証拠を見せるでウィリス。」

 

「証拠を?・・・・・っ!?!?!?」

 

 

気がつけばそこはさっきまでの店内ではなくどこかの街の上空。そこに四人(と一人)は()()()()()

 

 

「ほぉ・・・。」

 

「・・・・・」

 

「これは・・・というかここは・・・!?」

 

「あれは・・・ビッグ・ベン? ということはここはロンドンですか。」

 

 

各々がそれぞれの反応を見せる(ジャッカルだけジャッカルの精を心底鬱陶しそうに睨んでいる)中で、その下はまさに地獄絵図ともいうべき有様だった。

街中から火の手が上がり、悲鳴と銃声、爆発音が途切れることなく響き渡る。その上を飛んでいる巨大な飛行船にはハーケンクロイツが描かれていた。

 

 

「ナチスドイツ・・・ということは、あそこから出てきているのが吸血鬼部隊でしょうか。」

 

「なんだ・・・何なんだこれは!? こんなの、私は知らない!」

 

「ん? 知らんのか? 到底隠し通せるようなものではないはずだが・・・お、あれはマスターだな。」

 

見れば自分たちのちょうど真下、真っ赤なコートを着た長身の男が二丁の拳銃を振り回しながら進んでいた。さっきの発言から察するにあれが彼女たちの持ち主で、その手に握られているのが彼女たちなのだろう。

その人物は圧倒的なまでの強さを見せ、あの化物銃を乱射していた(どう考えてもマガジン以上の弾数をばら撒いているが)。

 

 

「これは私が見た光景を再現しているのですウィリス。 信じていただけたでウィリス?」

 

 

そういうとすでにジャッカルの精は姿を消し、代理人たちはいつのまにかいつもの店内に戻っていた。

 

 

「・・・まぁ、そういうことだ。」

 

 

そう言って椅子に座り込むジャッカル。

代理人は静かに目を瞑り、グリズリーは相変わらず混乱している。

彼女らは()()()()()()なのである。ただ自らの名前となり、一心同体となる銃の『知識』でしかない戦術人形とはまるで違う。その存在そのものが危険すぎる。

 

 

(・・・やむを得ませんね。)

 

「あなた方に提案があります。」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

一ヶ月後:中東

 

 

「今回の依頼は中東国家群、ターゲットは中規模テロ組織『バイヨネット』、国境付近を主に活動していることで国も容易に手が出せないらしい。 民間人に被害を出さない以外は任せるとのことだ。」

 

「くくっ、了解した。」

 

 

作戦領域を目前にして確認される依頼。

あの後、代理人のつてで旧鉄血工造が運営する軍事会社に所属することになって以降、対テロ部隊として名を馳せているカスールとジャッカル。

基本的に好きなだけ暴れられるこの職場を、彼女たちは気に入っていた。

 

 

「しかし、戦術人形というものは便利だな。」

 

「銃は私が構え、照準も私が定める。 (アモ)弾倉(マガジン)に入れ遊底(スライド)を引き安全装置(セーフティー)も私が外す。 だが・・・。」

 

「殺すのも私の殺意になるとはな。 くく、マスターが知ったらなんと言うか。」

 

「さあな。 ・・・なぁエージェントくん。 確認だがターゲットは殲滅していいんだな?」

 

「あぁ構わない。 ターゲットの生死に関しては特に指定されておらんからな。」

 

「なら話は早い。」

 

「私たちの専売特許、と言うやつだな。」

 

「ん?・・・おい! なんだお前r

ドゥッ

 

 

出会い頭にぶっ放すジャッカル。

銃声を聞いてわらわらと現れるテロリストたち。

ご武運を、とだけ言い残して退散するエージェント。

ニヤリと口角を上げるカスール。

 

 

「テロリスト諸君、お仕事御苦労、さようなら。」

 

 

銃声を響かせ、あたり一帯を血の海にする二人。

しかしテロリストはなおも数を増やし、さらには戦闘車両まで引っ張り出してきた。

 

 

「ほぉ、面白い、実に面白いぞ人間(ヒューマン)!」

 

「最後まで抗ってみせろ。 狗ではなく人間だと言うなら。」

 

「「では教育してやろう、本当の(化物)の闘争というものを。」」

 

 

 

CO-1 完




二人の描きわけが難しい・・・。

というわけでやっちゃいましたクロスオーバーです!
早速キャラ紹介です!


カスール
HELLSINGの主人公アーカードの初期武装。
なぜか装弾数以上に連射し、思い出したかのように弾切れになる。
とにかく闘争だ主義のジャッカルを唯一制御できることや、まだ一応話が通じるため、依頼の際はこっちに話がいく。
胸はない。


ジャッカル
HELLSINGの主人公アーカードの専用武装。
対化物というだけあって凄まじい威力だが、人間や人形には過剰。
闘争を求める闘争バカで、元持ち主の正確に引っ張られたせいか立ち向かってくる人間に好感を持つ。
こちらも装弾数無視で連発する。
胸はない。


ジャッカルの精
ジャッカルに取り憑いている?精霊?
精というにはあまりにもおっさん臭く、また原作でアーカードをイラッとさせた数少ない人物。
基本的に夢に出てくるが、ジャッカルの周囲に限れば夢でなくとも出てこれる。この場合は白昼夢のような不思議な体験をすることになる。
ジャッカルにとってコイツが役に立ったことなど一度もない。


グリズリー
このカオスなクロスオーバー回が初出演となったある意味不幸な人形。
元々はジャッカルらと対峙してボコボコにされるという役割だったが、実際ぶつかると確実に死ぬのでこんな感じに。
天使や妖精といったものにそこらの少女並みには幻想を抱いていたため、ジャッカルの精の姿はあまりにもショッキングだったらしい。
グリフィンではなく警察組織に所属する。


元鉄血工造の軍事会社
会社名はS.F.ミリタリー。(S.F.はSANGVIS FERRIの略)
代理人含めハイエンドたちが抜けた後の鉄血工造。
保有する人形の数は常に一定であり、また人間の職員もそれなりにいる。
幹部から平社員まで人形は全て量産モデルではあるが、人形たちは個々を識別できる(人間にはわからないらしい)。
企業利益はそこまで高いわけではないが、社員のうち人形は給料がほぼ必要ない(何か欲しいものがある場合に一定額出る)ため、人間の給料がとてもいい。
週休二日、フレックス制。


テロリストの皆さん
ほのぼの路線の本作において重要なやられ役。
平和な世界観ではあるが全てが平和ではなく、相変わらず宗教や歴史やその他諸々での争いは絶えない。
まぁ戦術人形やグリフィンの需要があるくらいには揉め事がある世界。
なお『人形師』は人間>人形という世界を作ることが目的であり、冒頭の事件での死者は0である。
一方『バイヨネット』は国にちょっかいかけるメンドくさい部類。もちろん全滅した。名前の由来は申し訳程度のHELLSING要素として、アレクサンドロ・アンデルセンの二つ名のうちの一つ。


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番外編2

なかなか本編の話がまとまらないので気晴らしに番外編第二弾


今回は
・ポンコツ姉さんの日常
・似合う?
・無いなら作ればいい!

の三本です。


番外2-1:ポンコツ姉さんの日常

 

「よーし、演習終了!」

 

 

S09地区郊外にある訓練場。

そこではMG5を隊長とした新設部隊が訓練をしていた。先日導入された新型人形のSG(ショットガン)が加わったことで、それまで支援目的であったMGを前線部隊に組み込むことができたのである。

 

 

「テロ相手には過剰戦力だろうがな。」

 

「どうかしら? 殲滅するならこれくらい必要よ。」

 

 

MG5のぼやきにそう返すのはRMB-93。今回加わったSG人形である。ぼんやりとした喋り方のわりに思考がやや危なっかしいとMG5は思う。ちなみに彼女はまだMG5がポンコツであることを知らない。

 

 

「皆さん、お疲れ様でした。」

 

「想像以上の結果だ。 これなら部隊として十分に運用できるだろう。」

 

 

と言いながら近づいてくるのはMGの長のMG34と指揮官。今回の演習の監督官でもある二人から賞賛の言葉をもらい、喜びをあらわにする人形たち。ちなみにMG5はマンツーマン教導(第四話のその後)を受けてからMG34が苦手になり、若干引きつった顔をしている。

 

 

「特にMG5。 新造された人形たちの部隊であるにもかかわらず、よくやってくれた。」

 

Danke(ありがとう)。 皆優秀な人形だったからな、苦労はしなかったよ。」

 

「ほほぅ、それはそれは。」

 

 

突然の言葉にビクッとするMG5。見れば何やらいい笑顔(悪魔のような笑み)で近寄ってくるMG34。他の隊員はなになに?と近寄ってくるがMG5だけはもはや気が気でない。

 

 

「正直ここまでできるとは思っていませんでしたが、まだまだ伸びしろがありそうですね。 ・・・指揮官様、彼女たちの実戦投入はまだ先になりそうですか?」

 

「ん? あぁ、とりあえずはな。」

 

「わかりました。 では少しの間私に預けて頂いてもよろしいでしょうか? 」

 

 

あのMG隊の教官に教えてもらえるの!?とテンションを上げる隊員たち。それを静かに見るMG5の目からはすでに光が失われていた。

 

 

(頼む指揮官。 何とか断ってくれ!)

 

「わかった。 任せよう。」

 

(あぁ、終わった・・・)

 

 

こうして演習は終わり、彼女たちはさらなる訓練(地獄)に身を投じていく。MG5の災難は、まだまだ続く。

 

 

 

 

 

番外2-2:似合う?

 

『○月△日の16時頃に16labの第二宿舎に来てください。 待ってます。』

 

 

ある日、ハンターの職場に届いたなんとも可愛らしい手紙に書かれた妙に丸っこい字。差出人は確認したが字だけでもわかるこの手紙を送ってきたのは、普段は勝気なくせにすぐに落ち込む可愛らしい人形(ハンター談)のAR-15である。

カレンダーを見ればその日は一応空いている。上司に一応相談したところ、まるで来るのがわかっていたかのように有給を言い渡された。

 

で、当日

ペルシカに話しをすると渡されたのはある服とロングコートの入った紙袋。

 

 

「それに着替えてから行きなさい。 あと、部屋に入るまでコートは脱がないように。」

 

 

と言って送り出される。何か知っていそうだったが、行けばわかるとだけ言って研究室に消えていった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

同施設 第二宿舎 15:56

とりあえず着替えて来たはいいものの、さっぱり意図が見えないハンター。最悪ペルシカの悪ふざけだった場合を考えさてその時はどうしてやろうかと考えを巡らせながら扉を開ける。

 

まず目につくのはいかにも学校にありそうな机と教壇、黒板にコルクボード。実際の教室ほどではないがそこそこ広いその部屋の窓際に、彼女(AR-15)は立っていた。

扉の音で気づいた彼女がゆっくりと振り返る。

 

 

「・・・・・」

 

 

その姿に言葉を失うハンター。

そこにいたのはブレザーに身を包み、マフラーを巻いた女神であった。私服はよく見るがこれは予想外だ。ただ、彼女も彼女で割と恥ずかしいらしく頬を赤く染めながら、

 

 

「・・・その・・・似合う?」

 

 

と困ったような表情で聞いてくる。

しばらく見とれていたハンターだが、クスクスと笑うと

 

 

「あぁ、似合ってるよ。 なるほどそれならこの格好にも納得だな。」

 

「?・・・!?」

 

 

コートを脱ぐと今度はAR-15が言葉を失う。

ハンターが来ていたのもなんとブレザー(ただし男物)だったのである。

 

 

「渡されたから着てみたんだが・・・どうだ?」

 

「・・・・・かっこいい・・・・。」

 

「それは良かった。 似合ってなかったらどうしようかと思っていたよ。」

 

 

そう言いながらAR-15の元へ歩み寄るハンター。

そのまま背中に手を回し口づけをする二人。

西日が差し込む教室で、二人は再会の喜びを分かち合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いわね、家具の手配をさせてしまって。」

 

「構わんさ。 あの二人は貴重なネタの提供者だ、権限の一つや二つ使ってやるさ。」

 

「・・・ほどほどにね。 バレたら私もやばいんだから。」

 

「分かってるさ。・・・む! どうやらキスだけでは済まなかったらしいぞ(じゅるり)」

 

「ヨダレ出てるよヘリアン。」

 

 

 

 

 

 

 

番外2-3:無いなら作ればいい!

 

あの事件(貧乳騒動)から数日後のある日。

 

 

「聞きましたわよデストロイヤーさん! あなたには胸の大きくなるスペアがあるそうですね!」

 

「はぁ? 『ガイア』のこと? あるにはあるけど、どうするのよ。」

 

 

デストロイヤーの貴重な休日に突撃をかましたのは破天荒チビお嬢様のKar98k。

あの日以来、貧乳の希少価値というものに理解を示していたものの、最近になってまた巨乳への願望が首をもたげてきたのである。

 

 

「言っておくけど、あれは私にしか使えないから意味ないわよ。」

 

「もちろん存じておりますわ。 ですからペルシカさんにお願いして私用のものを作って頂こうかと。」

 

 

要するにサンプルとして貸してくれという話らしい。まぁ実際使うこともない上に目の前で悩んでいる人の役に立つならと、とりあえず了承したデストロイヤー。

後日16labに送ると約束してその日は別れた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

そらからしばらく立った日のこと。

ガイアは送ったその日に解析が終了、その二日後にはすでに試作一号機が完成したらしい。

今頃ご満悦だろうなとデストロイヤーは考えながら行きつけの店に入ると、

 

 

「デスちゃんさん〜〜〜〜!!!」

 

「デスちゃんさん!?」

 

 

何やら聞き捨てならないあだ名を叫びながら走ってくる98k。

デストロイヤーに抱きつくや否や、

 

 

「なんなんですかあれは!? 足元は見えませんし肩は凝りますし指揮官には抱きつこうとしたら逃げられますし何もいいことがありませんわっ!!!」

 

(あ〜指揮官さんの理性も限界だったのかな〜)

 

 

と、巨乳への不満を爆発させる98kと遠い目で呆れるデストロイヤー。 まぁ確かにロリ体型だったからこそのスキンシップだったのが色々と当たるようになると、精神衛生上よろしくなさそうではある。

 

 

「決めましたわデスちゃんさん。 私は私のままで指揮官にアタックしますわ!」

 

「あーうん、頑張ってね。」

 

 

それではまた、と言って去っていく98kの背中を見ながら思う。

あの人形とは長い付き合いになりそうだなぁ、と。

 





ペルシカさんが便利すぎる。まぁ研究者でお偉いさんでってなると使い勝手がとてもいいんだけどね。
番外編はなるべく短くを意識しているんですが、どうなんでしょうかね?


というわけで各話の解説です。

2-1
第四話の後日談。
小隊長としての実力を身につけた代償としてMG34に対するトラウマが芽生えてしまったMG5さん。泣き虫ポンコツなところは変わっていませんが自分の行動に自信を持つことができました。
この話を執筆中にRMB-93が来てくれたので急遽出演が決まりました。


2-2
第五話で可決された制服スキンの話。
ちなみにハンターのものはスキンではなくただのコスプレ。どうにかしてムードを盛り上げたいAR-15に新しいスキンを勧め、場所と時間を設定し、ヘリアンに頼んで春の教室セットを配置したペルシカは相当の親バカ(?)だと思う。ヘリアンは新刊のネタにすることを条件に承諾。
この二人の話が書いていて一番楽しい。


2-3
第七話の騒動の後。
本編では出番がなさそうなガイアの唯一の出番。ちなみにデストロイヤーは一度これを体験しており、必要ないと切り捨てた。巨乳に抱きつからたら慌てるくらいには普通の男性な指揮官。背が高くて巨乳の98kはそれはそれでアリだと思います。








2-2 ボツ案

〜二人の『お楽しみ』を、たまたま16lab に来ていたM4がのぞいてしまった〜


AR-15「そこでナニをしているのかしらM4?」

M4「あ・・・その・・・これは・・・」

ハンター「覗きとは、悪い子猫ちゃんだな。」



危うくR-18展開になりそうでした。


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第八話:隊長として

ようやく主人公(原作)の登場です。
あのか細い声といい、大破絵の表情といい、もう可愛くて仕方ないよね!


文字の拡大と縮小を覚えたので使ってみました。


「アルバイト、ですか?」

 

「あぁ。 頼めるだろうか。」

 

 

街中が年明けムードから脱却しつつあるそんなある日のこと。

閉店後に店を訪れてきたヘリアンが何やら真剣そうな表情で聞いてきた。

 

 

「一応聞きますが、あなたがですか?」

 

「もちろん違う。 雇って欲しいのはこいつだ。」

 

 

そう言って渡されたのは街で売っている履歴書。そこになっている写真は、あのAR小隊の隊長であるM4A1であった。

書いてあることはいたって平凡な略歴と自己PR、特技等であるがその裏にはヘリアンのメモが書かれていた。

 

 

「・・・対人、特に男性とのコミュニケーションに難あり。 加えて典型的なマニュアルタイプでとっさの判断が効きにくい・・・なんで隊長にしたんですか?」

 

そういう運命(原作の主人公)だからだ。」

 

「? まぁわかりました。 それともう一点、『住み込みで』と書いてありますが、期間は? というより仕事の方は大丈夫なんですか?」

 

「そこは問題ない。 M16は長期任務、SOPMODは某国特殊部隊と合同任務中、AR-15は海外派遣だ。 ROはこの間他の部隊に臨時編成になる。 というわけでこいつの期間も特に決めていない。」

 

 

さあこれでいいだろうと言わんばかりに履歴書を差し出すヘリアン。少々強引だがこの辺りはグリフィンの上級代行官として必要なスキルなのだろうと納得する。

ひとまず受け取りますがまずは面接ですと応えれば、明日の昼頃に来るらしい。ちなみに明日は定休日だ。

 

その後はヘリアンの話(ハンターとAR-15のイチャラブ話(番外編2-2))と妄想を聞いて御開きとなった。

もちろんアルケミストには通報した。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

翌日

他の従業員は各々の休みを取るために外出、店内にはM4を待つ代理人とペットのように床に寝そべるダイナーゲートだけである。

時計の針がちょうど12時を指したタイミングで店の扉が開き、M4が顔を出す。

 

 

「こ、こんにちは。」

 

「ようこそ。 そこに座ってください。 荷物はそこに置いていただいて構いませんよ。」

 

あ、はい。 失礼します。」

 

何かと語尾が小さくなるM4。

本当に嫌なら無理には働かせないつもりでいる代理人だが、ひとまず(形だけの)面接はする。

 

 

「まず自己紹介・・・は、いいでしょう。 なぜここに来ようと? と言ってもヘリアンさんの命令でしょうが。」

 

「あ、いえ! その、私がヘリアンさんにお願いして、ここで働かせてもらおうと・・・」

 

「え? ご自分で志願したのですか?」

 

 

失礼だとは思いながらも驚く代理人。

正直そんな思い切りというか度胸はないだろうと思っていたのだが。

 

 

「・・・まぁいいでしょう。 では改めてなぜここに?」

 

あの・・・その・・・わ、私は、人と話すのが、苦手で。 皆がいると話せるのですが、その、自分でもダメだなって、思って・・・。」

 

「そこはわかりますが、他にもあったのではないですか? 例えば、スプリングフィールドさんのカフェとか。」

 

「・・・・・い、言いづらいですけど、ここはその、色んなことが起きるから・・・。」

 

 

オブラートに包んではいるが、要するに問題事が多いからそういう環境で頑張りたいということだろう。

前向きなのは認めるが随分と言ってくれるなとこめかみをひくつかせる代理人。はぁ、と息をついて話を続ける。

 

 

「経緯はどうであれヘリアン(常連)さんのお願いですし、そういう理由なら私も手伝いましょう。 これからよろしくお願いしますね。」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 

ややテンパり気味ながら返事をするM4。

その日の夜は簡単な業務説明とささやかながら歓迎会が行われ、喫茶 鉄血の新たなメンバーを迎えた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

数日後

 

「すみませーん。 注文いいですか?」

 

は、い!」

 

 

ウエイトレス姿に身を包んだM4が慌ただしく店内を駆け巡る。

開店前の準備から一通り教えつつ様子を伺っていたが、なるほど確かに酷い有様だ。

もともと優秀な人形であるため準備や皿洗い、簡単な料理くらいはできているのだが、接客になると途端にポンコツになる。同性ならまだマシで人形相手なら普通に話せるのだが、男性相手となると驚くほど硬くなる。

人をマネキンだと思ってみたりメガネをかけてピントをずらしてみたりと色々やってはみたが、どれもイマイチ効果を上げることができなかった。

 

 

「・・・ん?」

 

 

ふとM4の方を見ると、何やら二人組の男性に話しかけられていた。

というよりも絡まれていると言ったほうが正しいか。

 

 

「ねぇ君バイト? かわいいね。」

 

え、あ、ありがとうございます。」

 

「バイトっていつ終わるの? 終わったら俺たちと遊びに行かね?」

 

いや、その、私は・・・」

 

 

どうにも良くない方向に話が進んでしまっているようだ。こう言った手合いの客はたまにいるのだが、M4にとっては初めての相手なのでなかなか断れないでいる。

さしがにまずいかと代理人が出ようとしたその時、

 

 

やめてください!

 

 

店内に反響するほどの声でM4が叫んだ。

一気に静まり返り、ハッと我にかえったM4は目に涙を浮かべ店の奥へ駆け込む。気まずくなったのか食事を終えた客は次々と会計お済ませ、残りの客も帰り支度を始める。

最後の客が店を出たのと同時に、代理人は本日の営業を終了することを決めた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

閉店後 M4の部屋

 

ベッドの上で膝を抱えてうずくまるM4。

後悔と自責の念から、彼女はこの状態でかれこれ三時間はこうしている。

 

コンコン

 

今日何度目かの扉を叩く音。だが、彼女の反応はない。

 

 

「M4? 入りますよ?」

 

 

扉が開き、代理人が入る。それでも彼女はうずくまったままだ。

代理人は部屋の椅子を運び、M4の横に腰掛ける。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・今日はありがとうございました。」

 

 

そういうと、代理人はM4頭を撫で始める。

ようやく頭をあげたM4の顔は、泣きはらした後なのがすぐにわかるくらいにぐちゃぐちゃだった。

 

 

・・・どうして?

 

「ああ言ったお客様は一定数いますが、一応お客様ですので強く断れなかったのです。 はっきり断っていただいて助かりましたよ。」

 

「でも、そのせいでお店を・・・」

 

「今日はもともと早く閉めるつもりでした。 だから気にしなくてもいいんですよ。」

 

「でも!・・・!?」

 

 

M4が顔をあげて叫んだその時、代理人が、優しく抱き寄せる。

 

 

「失敗したからといって、ふさぎ込まないでください。 なんでも一人で抱え込まないでください。 不安や後悔があるなら、私たちに頼ってください。」

 

 

今は私たちがあなたの仲間ですから、と続けると再び頭を撫でる。しばらくそうしていると、M4は落ち着いたのかゆっくりと話し始める。

 

 

「・・・私、皆さんに嘘をついていたんです。 ここにきたのは、もうみんなの足を引っ張りたくなかったから。」

 

「・・・・・。」

 

「M16姉さんは優しくしてくれますし、AR-15姉さんは厳しいけどみまもってくれます。 SOPMODも私のことを慕ってくれていて・・・。」

 

「・・・そうですね。」

 

「でも私は、隊長として頼りないし、ちゃんと報告もできないし、隊の指揮だって、うまくできない。」

 

「?・・・AR小隊は優秀な隊だときいていますが?」

 

「でも、私の指揮が悪いから、みんなが傷ついて。 AR-15が怪我した時はハンターさんがすごく心配してたけど、私のせいだと思うと、もう、どうしたら、いいか、わからなくなって・・・」

 

「・・・・・。」

 

「私が隊長なんてやってるから、みんなが傷つく! 私がいるから! 私なんかがいるから!!!」

 

 

その後もM4は泣き叫び、自分を罵倒し続けた。代理人は抱き寄せたまま、ただただその話を聞き続けていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

どれくらい経っただろうか。

一通り吐き出したM4は落ち着きを取り戻したようで、今は代理人と向き合って座っている。

 

 

「・・・すみません。 お見苦しいところを見せました。」

 

「構いませんよ。 言いたいことも言えたようですし。」

 

 

そう言うとM4は恥ずかしそうに俯く。

ただその顔にはいろいろ諦めに似た表情が浮かんでおり、正直安心できるものではなかったが。

 

 

「では、今度は私が言う番ですね。」

 

「・・・・・はい。」

 

 

一瞬ビクッとしたM4だが、すぐに先ほどの諦観した顔に戻る。代理人にはM4の考えていることが手に取るようにわかり、呆れたようにため息をつく。

 

 

「・・・・・もうすぐ夕飯です。 今日のことはひとまず忘れて、下に行きましょう。」

 

「・・・え?」

 

 

ぽかんとするM4。正直クビか、良くてもひどく怒られるだろうと思っていたからだ。そんなM4をよそに代理人は椅子を元の位置に戻し、手を差し伸べる。

 

 

「クビか、怒られるとでも思っていましたか?」

 

「うっ!」

 

「もしかすれば、怒ったほうがいいのかもしれませんし、あなたを無理やりグリフィンに戻すほうがいいのかもしれません。」

 

 

でも、と代理人は続け、

 

 

「私が怒らなくとも、あなたはきっと自分で変われるはずですから。」

 

「代理人、M4。 晩御飯の準備ができましたよ。」

 

 

エプロンをつけたイェーガーが呼びに来ると、代理人が今行きますと返事を返す。

 

 

(そうか、結局自分は理由をつけて逃げたかったんだ。 家族や仲間さえも言い訳にして。)

 

 

本当にダメだな、と苦笑いして、スッと息を吸うM4。いつもは恥ずかしがってうまく言えない言葉を、はっきり言うことができた。

 

 

「ありがとうございます、()()()()。・・・あっ!」

 

 

・・・盛大に間違えながら。

 

 

「「えっ?」」

 

「あ、いや、その、こは・・・」

 

 

みるみる赤くなるM4。代理人はぽかんと、イェーガーはニヤニヤといながらそれを見る。

 

 

「へ〜、ほ〜、代理人がお母さんですか〜。 M4も甘えたがrグハッ!」

 

 

いらんことを言うイェーガーを蹴り飛ばし、M4のもとに歩み寄る代理人。顔を両手で覆って小さくなるM4の手を引き、少々強引に食卓に向かう。

 

 

「とにかく、行きますよM4。」

 

 

その顔はM4に負けず劣らず赤くなり、その表情は緩みきっていた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「それでは、お世話になりました。」

 

 

翌日の朝、荷物を持ったM4と代理人以下従業員が店の玄関先に集まっていた。

決心したM4は夕食後に店を辞めることを伝え、多少驚かれたものの承諾され、今に至る。

リッパーは涙を流し、イェーガーは昨日の一件をまだ引きずっているのかニヤニヤし、代理人はいつもどおりの笑顔を浮かべている。

 

 

「グスッ、いつでも、遊びに来て、いいからな。」

 

「はい。」

 

「その時はぜひとも()()()()()と呼んでくれよ(ニヤニヤ)。」

 

「・・・・・。」

 

「えっ、スルー!?」

 

「ふふっ、冗談ですよ。 お、お姉ちゃん。」

 

 

目尻に涙を浮かべながら別れの挨拶をするM4

最後に代理人の方を向くが、言葉が出ない。言いたいことがたくさんありすぎて、何から言えばわからなくなる。

代理人はフッと微笑むと、

 

 

「いつでも()()()()()()()()()()、M4。」

 

 

押しとどめていたものがいよいよ決壊し、ボロボロと泣きながら代理人に抱きつくM4。

それを優しく抱きとめる代理人。

 

 

「・・・あ〜、ちと早かったかな?」

 

「そんなに甘えたいならコレ(M16)に抱きつけばいいじゃない。」

 

「あーーー!!! M4ずるい!」

 

「ちょっ、SOPMODさんストップ!」

 

 

みればM16以下AR小隊の面々がいつのまにか揃っていた。

私も!と言って突撃するSOPMODを抑えながら。

 

 

「もうみなさん揃ってますよ。 そろそろ時間です。」

 

「・・・はい。」

 

 

そう言って涙を拭うとAR小隊のもとに帰っていくM4。

彼女たちが見えなくなるまで手を振って見送る代理人。

それが終わるとふ〜と息を吐き、大きく深呼吸をする。そうでもしないと、自分が泣いてしまいそうだったから。

 

 

「・・・さて、もう時間がありませんね。 急いで準備をしましょう。」

 

「「了解!」」

 




どんどん一話の文字数が増えていく・・・。
長いと読むのしんどいだろうしなぁ、でも短くまとめる技術なんてないしなぁ。

正直この話だけで一個の小説になるんじゃないかと思いながら書いてました。M4ちゃんは可愛い(真理)


というわけでキャラ紹介

M4
原作主人公。
原作では指揮能力のある特別な人形ということだったが、この世界では基本的に誰でも指揮が取れる(機能的な制限がない)ので本当にたまたま隊長になった。
なんでもそつなくこなすが本人の過小評価もあってあまり目立たない。

ダイナーゲート
プロローグ以来の登場となる喫茶 鉄血のマスコット。
ぶっちゃけ誰も覚えてないと思うし正直目立たない。神輿を担いだりサンタっぽくなったりと結構いろいろやっている。
動く監視カメラ。

チャラ男×2
本当はこれの倍くらい絡む予定だったが長くなるのでカット。
コレでも常連グループでそこそこの金額が入るのであまり強く出てこれない。




おまけ
男A「ちっ! いけそうだと思ったんだがなぁ。」
男B「しゃーねーよ。 今度は店から出たとこで狙おうぜ。」
男A「だな!」
???「なぁそこのいけてる男子たち。」
男AB「?」
アルケミスト「どうやら私の家族の店で随分と騒いでくれたそうじゃないか。 お礼と言ってはなんだが私がイイことをしてやろう。」


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第九話:想いも弾丸もまっすぐだ!

注意:過去最大のキャラ崩壊!
始めだけ台本形式にしないと誰だかわからなくレベルで。

やりすぎた気はするが後悔はしていない。


NTW-20「やっほー代理人! 来ちゃった♪」

 

「「「「「( °д°)」」」」」

 

 

信じられないものを見たかのように凍りつく朝の喫茶 鉄血。呼ばれた代理人は明らかな警戒意識を持ち、客の何人かは目をこすったり顔を洗いに行ったりしてこの幻覚を覚まそうとする。

 

 

「・・・あまり受けなかったか。」

 

「いやいやいやいや、なにがどうなってそうなったんですか。」

 

 

とりあえず敵意や罠の類ではなさそうなので警戒を解く代理人。と同時に溢れ出る疑問をそのままぶつけてみる。

代理人の知る彼女は、いかにも仕事ができる女といった感じだったのだが。

ちなみに客の何人かは最初のインパクトで気を失っている。

 

 

「ん? あぁこれか。 ・・・そうだな、あなたになら相談できそうだ。」

 

 

そう言って代理人の対面の席に座るNTW。

とりあえずコーヒーを注文し、一口飲んでから真剣な表情で話を始める。

 

 

「どうすればあなたを振り向かせられるだろうか?」

 

「無理ですのでお帰りください。」

 

 

いつになく辛辣な声でバッサリ切り捨てる代理人。え?聞き間違いか、とざわつき始める店内。

NTWはむむむとうなると、

 

 

「伝わらなかったのなら仕方がない。 代理人、私はあなたが好きだ。」

 

「残念ですが私は同性愛者ではありませんので普通に男の方が好きです。」

 

 

突然の告白とお断りの返事にいっそうざわつく店内。

ちなみに一部の男性客はガッツポーズを決める。

 

 

「あなたと始めて会ったのはあの事件(鉄血クーデター事件)、あなたの演説の場だ。」

 

「話を聞きなさい。」

 

「あの時の鉄血をまとめ上げていたあなたの凛々しい姿に、私は心奪われた。」

 

「だから話を・・・」

 

「この気持ち、まさしく愛だ!

 

は・な・しを聞きなさい!

 

 

聞いたことのないほどの代理人の絶叫に、店内は一斉に静まり返る。

失礼いたしました、と一言謝罪を入れた代理人はNTWの首根っこを掴んで店の奥に引っ張り込む。

 

 

「・・・で、なにが目的なんですか?」

 

「それはさっき言った通りだ。」

 

「あぁ、本気だったんですね・・・。」

 

 

冗談であんなことを言うものかと反論するNTWに、冗談の方がずっとましでしたと頭を抱える代理人。

せっかくだから話だけでも聞いてくれと言うと、代理人は諦めたように了承した。

 

 

「気の済むまで話してください。 で、終わったら出てくださいよ。」

 

「ああもちろんだ。 さてと・・・。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

私がどういう人形かは知っているな。

 

・・・ダネルNTW-20、ライフルモデルの人形ですね。

 

そうだ、より正確に言えば『対物ライフル』だ。普通のライフルたちとは違う、より破壊力を求めた人形、それが私だ。

軍との共同運用や対テロ警備の目的で作られた我々人形は、そのほとんどが対人任務だ。故にライフルは敵の後方を狙い撃ち味方の損害を抑える、あるいはターゲットのみを排除し最小限の混乱で済ませることが主な役割となる。

だが私はあくまで『対物』ライフルだ。車両や建物が主だし、前衛の人形たちと協力することも少ない。何より出番がほとんどない。

 

まぁ、そうでしょうね。

 

だからふと思ったんだ。人間に命じられて、人間を殺して、殺す相手がいなくなったら?とね。

 

・・・。

 

そんな時に私は出会ったのだ。自由を手に入れた人形たちに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・それが私たちだったと?」

 

 

やたらと熱く語るNTWの話が一区切りついたようで、代理人はひといきつく。とはいえ彼女の抱える悩みそのものは(愛云々は別として)まともなので話はしっかり聞いている。

 

 

「そうだ。 つまるところ私の想いの始まりは、自由を手にしたあなたへの憧れだったと言うわけだ。」

 

 

わからないのはそこから愛への過程ですよ、とは言わない。言えば確実に長くなる。

 

 

「はぁ・・・でしたら普通に友人関係でもよかったのでは? あの当時ならいざ知らず、今は鉄血製もグリフィンもないんですから。」

 

「いや・・・それはな・・・。」

 

 

途端に小さくなるNTW。さっきまでの強気はどうしたと言いたい気持ちを抑えてじっと待つ代理人。

そこから待つこと約五分。

 

 

「し、親しい友人というものがいなくてな・・・最低でも友達になりたかったんだ。」

 

「??? すみませんがさっぱりわかりません。」

 

「つ、つまりだな、告白→お断り→まずは友達から→OKという流れで・・・ってどうした代理人!?」

 

 

あまりのトンデモ思考っぷりに頭を抱える代理人。ということはさっきの告白はただの虚勢で、本来の彼女はこれだということになる。

・・・友達になるのにすらこのビビリっぷりなら、M4の方がまだマシなんじゃないだろうか。

 

 

「友達になりたいのならそう言えばいいんですよ。 断りませんから。」

 

「そ、そうか。 ありがとう代理人!」

 

 

そう言うと途端に破顔するNTW。

 

 

「初めからこうしておけば、あんな冗談を言わずともよかったんですよ。」

 

「あ、あれは勢いではないぞ。 今は友達だがゆくゆくはそういう関係に・・・

 

「それに関してはお断りしますよ。 諦めてください。」

 

 

ダメか? と聞けばダメです、と返されたNTWは目に涙を浮かべてプルプルと震えだす。

ショックなのはわかりますが、と言葉を続ける前に立ち上がったNTWは、

 

 

「まだ諦めないぞ! 私はあなたが好きだ!」

 

 

と言って玄関まで走り、店を出たところで振り返って、

 

 

「何度でも言うぞ代理人! 私はあなたが好きだからな! この店にもまた来るからな!」

 

 

とだけ言って走り去っていく。

後に残ったのは唖然とする代理人と、状況が飲み込めない客と店員。

誰かが『残念美人』と言ったのだけが聞こえた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「月が綺麗ですね、代理人?」

 

「残念ながらまだ昼ですし、今日は新月です。」

 

 

あれから数日たった今もNTWはしょっちゅう足を運んでは代理人に話しかけている。

あの件以来、少ないながらも何人か友人ができたようで、その度に報告に来ているのだ。少々鬱陶しく感じながらも、彼女が幸せそうならそれでいいかと思い相手をする代理人。

 

一度くらいならデートの誘いに乗ってみるのもいいかなと思うのだった。

 




言われそうなので先に言います。
『これはヒドイ』

スナイパーの中でも対物ライフルってそんなにいないのでボッチ設定は決まっていたんですが、気がついたら代理人に告白してました(白目)
短くまとめようと思うとギャグ路線になるの仕方ないのだろうか?


この話とは別件ですが、多作者様の作品とコラボ話を書きたいなと思っているものの世界観が違いすぎてどうしようかと悩む今日この頃。
・・・時◯管理局にでもお願いしようか。


というわけでキャラ紹介です。

NTW-20
超火力人形。
この世界ではテロ相手に出動するくらいにしか出番がなく、しかも車両相手メインなので本当に出番がない。驚異的な集中力で確実にウィークポイントをつけるため、『ワンショット・クィーン』の通り名を持つ。
鉄血クーデター事件の際に代理人に一目惚れし、店を訪れたのが今回の騒動の始まり(()()()()()のは今回が初めてだが店の前まではすでに何度も来ている)。
基本的に訓練だけで滅多に任務に呼ばれないため、喫茶 鉄血に入り浸っている。


ガッツポーズする男性たち
天文学的確率だが代理人とお付き合いすることを夢みる純粋な心の持ち主(アラフォー以上)。
当然ながらこの店の常連で、その多くが世帯持ち。


声を荒げる代理人
代理人も怒るときは怒るし叫ぶときは叫ぶ。
一応人形なので性格や口調などは自由に変えられるので、相手にあった怒り方を選択できる(例:養豚場の豚を見る目)。




おまけ(ボツ話)

アルケミスト「代理人と付き合いたければ私を超えてみせろ!」

NTW-20「やってやる、やってやるぞ。 鉄血のハイエンドがなんだ!(6-4e 単身攻略)」


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第十話:待った?

待たせたな!(俺の)嫁回だ!

バレンタインデー当日まで待とうと思いましたが我慢の限界に達しました。
バレンタイン当日までに9のスキンが出ますように!


2月某日のS09地区。

なぜか極東の島国の影響を受けているこの地域では、正月に続き一大イベントが待ち受けていた。

女は本命に対する熱烈なアピールやライバルに差をつけるべく手作りのものを作るなどし、男は男で今年はいくつもらえるのだろうかとかどうせ今年もゼロだとかで盛り上がるイベント。

 

バレンタインデーである。

 

初めは街に来た日本人だけで行われていたこの行事は学生を中心に拡散、さらには近隣の菓子メーカーが煽ったことでもはやこの地域のカレンダーにも載るようになってしまった。

で、そんな街中がバレンタインデー一色の時に戦術人形たちが何もしないはずがなく・・・

 

 

「「「作り方を教えてください!!!」」」

 

 

とまあ、こうしてそこそこの人形たちがこの喫茶 鉄血に押しかけていた。

例を挙げれば、いつものシスコン会のメンツに指揮官ラブ勢(M・ナガンとかKar98k)などなど、任務ですら見れない覇気をまとった連中である。

基本的にバレンタインの前々日くらいまでは来るので、代理人は渋々閉店後に料理教室を開いている。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「し、失礼しま〜す。」

 

 

13日の閉店後の店を訪れる一人の人形。栗色のツインテールに黒の髪留め、右目に傷のある彼女は、404小隊のUMP9である。

 

 

「おや、どうされたのですか? 今日はもう閉店ですが。」

 

「いや〜、ちょっとお願いがあって・・・」

 

 

そう言うと9は両手をパンっと合わせ、

 

 

「お願い! 私にもチョコの作り方を教えて!」

 

 

とある意味予想通りの頼みごとをしてきた。実は去年にもこういうヤツはいたのだが、基本的に代理人は期限や時間を遵守するので追い返している。

が、それは普段からややルーズなものに限ればの話だ。

 

 

「珍しいですね、あなたがこんなギリギリに来るなんて。」

 

「え、あ、うん。 それよりその・・・ダメかな?」

 

「・・・今回だけですよ。」

 

「やったぁ! ありがと代理人。」

 

 

そう言って店の奥のキッチンに向かう二人。

料理教室をやっていただけあって用意はすぐにできたため、代理人は9の要望を聞きつつ教えていく。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「なんであんな嘘をついたんですか?」

 

「うぅ、ごめんなさい。」

 

 

作業開始からものの数分で、代理人は9がお菓子作りに何も困っていないことに気がついた。作業を進める手は迷いがなく、隠し味にブランデーまで入れるという手馴れたもの。

あっという間に出来上がり冷蔵庫にチョコを入れた後、代理人による尋問が執行された。

 

 

「だ、だって今日の司令部の食堂は絶対人が多いから。」

 

「・・・まあ皆さんが使うとなると、そうなりますね。 で、それがあなたにとって何か問題でも?」

 

「そ、それは・・・」

 

「なになに? 好きな相手でもいるのか?」

 

 

イェーガーが茶化すようにいうと、9は頬を赤く染めながら視線を逸らす。 それを肯定と捉えたイェーガーはさらに追求しようとするも、代理人の無言の圧力に屈し身を引く。

 

 

「たしかに、そうなればあなたのお姉さん(UMP45)が黙っていませんね。 ですが、友チョコとでも言えばよかったのでは?」

 

「・・・好きな人に見られたくなかったというか・・・サプライズにしたくて。」

 

 

おお〜職場恋愛か〜、と再び首を突っ込むイェーガーを黙らせる代理人。

 

 

「それでしたら時間をずらすなりして気づかれないようにすればいいでしょう。 四六時中一緒にいるわけではないでしょうし。」

 

「だ、だめ! 45姉やG11にも気づかれちゃダメだし、いっつもみんなを誘うのに今回だけ誘わないのは不自然だから。」

 

「・・・・・。」

 

 

この短いやり取りで代理人は思い至る。

当初は9の思い人は指揮官もしくは司令部所属の男性職員だと思っていた。が、その場合は指揮官以外にはまず気づかれないだろうし、指揮官も気を使って食堂には近づきそうもない。にも関わらず『バレる可能性がある』、『一緒にいる時間が多い』、そして話に出てきたのは『UMP45』と『Gr G11』の二人。

同じ小隊で唯一、()()の名前だけあがらなかった。

 

 

「・・・HK416。」

 

「っ!?」

 

 

名前を出された途端に9は血相を変え、懐から取り出した拳銃を突きつける。

イェーガーとリッパーも拳銃を取り出し臨戦態勢に入る。

対して代理人は特に表情を変えることもなく、後片付けを始める。

 

 

「・・・どうして?」

 

「それは、どう言った意味ででしょうか。」

 

 

明らかに困惑の表情を浮かべた9がそう尋ねると、代理人も予想していたかのように返答する。

 

 

「なんでわかったの?」

 

「話を聞いていれば、自ずと答えは出ますよ。 それよりも気になるのは、なぜそれほどまでに臆病になるのですか?」

 

 

よろしければ話を聞きますよ、と言って片付けの片手間に淹れていたお茶を出す代理人。9は戸惑いながら椅子に座り、お茶を一口飲む。

ちなみに残りの二人は代理人がお茶を淹れ始めたあたりでキッチンから出ている。

 

 

「まあ、気持ちはわかります。 基地の中というだけでも気を使うのに、同じ隊でとなると。」

 

「・・・うん。」

 

「それに45はあなたを溺愛しています。 場合によっては416に何をするかわかりません。」

 

「・・・うん。」

 

「そうなると一番辛いのは、隊で唯一無関係のG11。 ギクシャクした隊では、良い結果を出すことは難しそうですからね。」

 

「・・・代理人って、もしかしてk」

 

「心は読めませんし、読めたとしてもこんな使い方はしませんよ。」

 

 

そう言ってお茶を飲む代理人。納得がいかない顔をする9だが、やがてポツポツと話し始める。

 

 

「・・・付き合い始めたのは、二ヶ月前くらいかな。 私の方から告白したの。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

いつから気になってたかははっきり覚えてないんだけど、ちょっと前の作戦で、私が怪我しちゃってね。

その時は隊を二つに分けてて、私は416と一緒にいたの。足をやられて動けな私を416が運んでくれたんだけど、そのせいで敵の弾が416の銃に当たっちゃって壊れたんだ。

私も運ばれるときに銃を手放しちゃってたから、手元には拳銃が二丁だけ。敵が近づいてきた時はもうダメだと思って、泣きながら震えてた。おかしな話でしょ?()()()()なのに。

でもその時、416が私の手を握りしめて『簡単に諦めないで。 私たちはまだ生きてるわ。』って言ってくれたんだ。

その後すぐに45姉たちが駆けつけてくれて、こうして無事でいられたの。

 

 

あの時416がいなかったら、私の拳銃は私自身に向いてたかもしれなかった。それ以来416のことが好きになって、告白して、受け入れてもらえた。

だからこのチョコは、あの時のお礼も添えて渡すつもり。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・結局全部話しちゃった。 なんかごめんね。」

 

「話していいと言ったのは私です。 謝る必要はありませんよ。」

 

 

それから、チョコはもう少しすれば固まりますから、それまではいてもいいですよと言ってカップを片付ける代理人。

しっかり話を聞いて、片付けもきっちりして。そんな代理人を見て9はクスッと笑う。

 

 

「? どうしました?」

 

「ううん、なんでも。 けど、代理人に話を聞いてもらってよかったよ。 みんなの評判通りだったしね。」

 

「え? 評判?」

 

「そうだよ。 98kとかM4とかから聞いたの。」

 

 

聞いてもらうだけでも気が楽だって言ってたよ、と言って立ち上がると、冷蔵庫を開けてチョコを取り出す。

いい感じに冷えて固まったそれを丁寧に箱に入れ、綺麗にラッピングして持ってきていた袋に入れる。

 

 

「ありがとね代理人! まあ多分明日は45姉もいるから渡せないだろうけど。 あと、銃を向けちゃってごめんね!」

 

 

そう言って去っていく9を見ながら、代理人は静かに手を振った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

翌日 2月14日

 

「なんでバレンタインの日に警備任務なんかが入るのよ。」

 

「うぅ〜仕方ないじゃん45。 この日は毎年はハメを外す人がいるんだしさ。」

 

「なら他の部隊にでも頼めばいいじゃない。 ・・・あぁ、私と9の甘いひとときがぁ。」

 

「ダメだこの人形」

 

 

朝一番に街の警備任務を言い渡された404小隊は、決められた二つのルートを回るためにいつぞやと同じ編成で行動していた。

 

 

「ところで45ってこういう時は9と離れててもいいんだね?」

 

「良くはないわよ。 でもSMGとARの組みわせが臨機応変に対処できるんだからしょうがないわよ。」

 

「・・・本音は?」

 

「9と二人っきりになんてなったら任務どころじゃないわ。 最悪人気のないところに連れ込んでむふふふふ・・・あ、鼻血が。」

 

「・・・・・。」

 

 

シスコンは今日も平常運転だった。

 

一方同じ頃の別の場所。

指定ルート上の停止ポイント(そこにとどまり周囲を警戒する場所)にたどり着いた9と416。そこはほとんど人通りがなく、はっきり言えば警備するような場所でもない。

416はこの警備任務を含め疑問を持っているようだが、9はこれを好機ととらえる。

 

 

「・・・ねぇ416。」

 

「なにかしら。」

 

「今日ってなんの日か知ってる?」

 

「任務中よ。 私語は慎みなさい。」

 

「それはわかってるよ。 でも、多分今日はもう今しかチャンスはないから。」

 

 

そう言ってサイドポーチから小ぶりの箱を取り出す。それをしっかりと両手で持つと416の方に向き直り、差し出す。

 

 

「ハッピーバレンタイン。 受け取ってくれる?」

 

「・・・その顔は卑怯よ9。 それで断れるやつなんていないわ。」

 

 

そう言うと、今回は特別だけど仕事と私事は分けなさいと言って受け取り、それをしまう。

 

 

「・・・まぁその・・・あ、ありがとう・・・」

 

「うん! どういたしまして!」

 

 

そろそろ移動しよっかと言うと、二人は並んで警備に戻っていった。

二人で歩幅を合わせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

『本日はありがとうございました。 後日、お礼に参ります。』

 

「いえ、礼には及びません。 結果的に一部の暴走を未然に防ぐことができましたから。 ただ・・・」

 

『? ただ?』

 

「本当にそれが目的だったんですか? 失礼ながら、わざわざあなたが依頼するほどのこととは考えにくい。」

 

『・・・・・鋭いですね。 ですがそれをお答えすることはできません。』

 

「その理由も、ですね?」

 

『ええ。 ですがあえて言うとすれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友人の幸せのためです。』

 




9が他の男とくっつくのを書こうとすると涙が出そうだったので百合にしました(血涙

さあて今年はチョコをいくつもらえるかな。
・・・もらえるといいな。


というわけでキャラ解説

UMP9
本作においてM4と並ぶ良心。かわいい
天真爛漫で誰とでも仲良くなれる。かわいい
胸はちょっとだけ45より大きい。かわいい
ほんとは指揮官ラブ勢にするつもりだったけど上記の通りなので諦めた。
最近の悩みは『ファミパン姉貴』と呼ばれること。


HK416
私は完璧よ、とか言わなくなった人形。この経緯についてはそのうち書く。
公私をはっきり分けてオンオフをしっかり切り替える。
9は彼女のそんなところに惹かれ、416は9の明るさに惹かれた。
まな板気味な404の中でやたらと目立つ胸部装甲の持ち主だが、本人は身軽になれるという理由から邪魔だと思っている。
416が責めで9が受け。



新イベントの低体温症ですが、ジュピターと臨時飛行場が思いのほか鬱陶しいので序盤の方だけで紅包を集めるだけにします泣

個人的にはジュピターっての某小惑星迎撃砲に似てますよね・・・対地対空両用のとことかやたらバカスカ撃ってくるとことか。







ボツ話

「・・・まぁその・・・あ、ありがとう・・・」

「うん! どういたしまして!」


その笑顔にドキッとした416は袖で口元を隠し、


「惚れてまうやろぉぉぉぉぉ!!!!!」
※惚れてます。


なんとなく頭に浮かんだだけ。


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第十一話:薬漬け人形(胃薬)と魔改造の匠

鉄血キャラが増えたぜヒャッハーーー!!!
前話と時系列が異なります(こっちの方が先)が、気にしないでください。
独自設定がありますのでご注意ください(今更)


ア「ジュピターを八基円形に並べてストーンへn
ゲ「やめい」


「この通りだ代理人、鉄血に戻ってきてくれ。」

 

「何度来ようと私の答えは変わりませんよ、ゲーガー。」

 

 

2月の頭、今日も変わらず営業する喫茶 鉄血の店内にはめずらしいきゃくがきていた。鉄血クーデター事件後に完成した新型人形の片割れ、ゲーガーである。

事件後のハイエンド不在の鉄血に産まれた彼女がこうして代理人のもとを訪れるのはこれが初めてではないが、白昼に客として来たのは初めてだった。

 

 

「鉄血の司令塔を押し付けてしまったことは申し訳ないとは思っています。 が、私の道は私が決めます。」

 

「あぁ、それは何度も聞いたし、そのことで私がどうこう言うつもりはない。 それよりもだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・なぜ私よりあのバカ(アーキテクト)を上にしたんだ! 私のメンタルもそろそろ限界だぞ!」

 

「そう作った彼ら(変態たち)に聞いてください。 今頃グリフィンの17labにいるはずですよ。」

 

 

これが現在の、というよりも産まれてから今日に至るまでのゲーガーの悩みである。

彼女と同時期に製造された人形のアーキテクト。その名の通り施設の建造や運用を可能とする拠点型ハイエンドとして設計された彼女だが、その過程で技術者たちが暴走し始める。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「新型は二体で一つというコンセプトだが、何かいい案はあるかね?」

 

「デストロイヤーやドリーマーなんかの人気モデルに倣って腋は見せるべきだと思います!」

 

「二人で一つ・・・プ◯キュア・プロジェクトなんてどうでしょうか!」

 

「クールな姉と無邪気な妹というのは・・・いや、逆の方がいいか?」

 

「ならば上はポンコツ、下はそれを支える苦労人ポジにしましょう。」

 

「だがどこまでポンコツにする? 兵器としては欠陥になってはならんのだぞ。」

 

「戦術面をポンコツの突撃脳にしましょう!」

 

「そして副官ポジに優秀な戦術プログラムを!」

 

「よし、全部採用! 続いて性格や性能面で話を詰めようじゃないか。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ヤツラハイツカコロス」

 

 

ゲーガーの呟きに他の客も頷く。というかクーデターの原因って人間じゃね?とか思ったりする。

その後もゲーガーの恨み節が続く中、店の扉が開き一人の少女が入ってくる。

 

 

「あら、ゲーガーさん。 こちらにいらしたのですか!」

 

「おお、カリン! わざわざ探してくれたのか!」

 

 

そのまま話し続けるゲーガーとカリーナ。意外なことにこの二人は親友と呼べる仲であり、鉄血人形を除けばゲーガーが唯一心を許せる人物でもある。またカリーナの方も、愛称のカリンを呼んでくれる数少ない人物であるため仲がいい。

 

 

「今月は新しいアロマを持って来ましたわ。 まだ市場に出ていない試作品ですよ。」

 

「ほぉ、いい香りだ。 ならこれといつものもの・・・あと胃薬も頼む。」

 

「はいはい。 ですがあまり無理をしてはいけませんわよ?」

 

「わかっているさ。 カリンがいてくれるおかげだよ。」

 

「まぁ、お上手ですこと。 でも、お安くはしませんからね。」

 

 

二人の世界に入り込んでいくゲーガーとカリーナ。客の何人かからは『尊い』という呟きが聞こえてくるが無視する。

そんな平穏は唐突にぶち壊される。

 

 

「あー! ゲーガー見っけ! あ、代理人久しぶり。 アイスコーヒー一つ!」

 

「わかりましたから店内では静かにしてくださいね。」

 

 

りょ〜かい!というとアーキテクトはゲーガーの隣に座り、周りの客に笑顔で手を振る。

鉄血の中でもかなり珍しい社交的な人形なので、いつしかアーキテクトは『鉄血のアイドル』とか言われている。ちなみにゲーガーはマネージャーと呼ばれている。

 

 

「ひどいじゃんゲーガー。 代理人のお店に行くなら誘ってよ!」

 

「なぜ私の癒し空間に貴様のようなノイズ発生機を置かねばならんのだ。」

 

「あなた部下、私上司、アンダスタン?」

 

「(イラッ)」

 

 

フツフツと怒りのボルテージが高まるゲーガーをよそにアーキテクトは代理人の方に向き合うと、持っていた割と大きい荷物をテーブルの上に置く。

 

 

「? これは?」

 

「まあまあ開けてみてよ!」

 

 

代理人が不思議そうな顔で開けると、中に入っていたのは小型のカラオケ機器一式。

 

 

「カラオケ喫茶ってのがどっかの国にあるらしいから、ここにも置いてみたらってことで持ってきました!」

 

「・・・まさか自分で作ったんですか?」

 

 

イエス!とやたらいい笑顔でサムズアップするアーキテクト。まあ彼女の行為を無下にするわけにもいかず受け取り、一言お礼を言う。

ふと以前風の噂で聞いたことを思い出し、確認する代理人。

 

 

「そういえばアーキテクト。」

 

「ん? なに?」

 

「半年前に聞いたのですが、新型のジュピターを作ったそうですね。」

 

「ありがと代理人! お金は置いてくからお釣りはいらないよ!」

 

「逃すかこのバカ上司!」

 

 

目にも留まらぬ速さで財布からお金を出して席を立つアーキテクトと、それ以上のスピードで取り押さえるゲーガー。

代理人としては単に聞いたから確認したいだけだったのだが、こうなっては仕方がないとしてとりあえず話を聞く。

 

 

「はぁ、今度は何をしたんですか?」

 

「聞いてくれ代理人! こいつジュピターを勝手に改造して・・・」

 

「だ、だって火力は高い方がいいじゃん! というか近づかれなきゃいいじゃん!あれがなんのためにあると思ってるの!?」

 

「もしもの場合に備えてに決まっているだろうが!」

 

 

聞けば半年前に世に出された新モデルのジュピターはやたらと攻撃的だったらしい。本来自衛用で搭載されている基部の機銃を撤廃、代わりに主砲と同口径の短砲身を取り付け、遠近共に高い火力を発揮できるようにしたとか。

 

 

「そのせいで重量が増えて旋回速度が下がっただろうが! おまけに装甲まで増やしやがって!」

 

「高火力重装甲の良さがわからないの!」

 

「なら口径の大きい機関砲でいいだろ!」

 

「弾が一種類で済むならそれでいいじゃん!」

 

「持ち込める弾数が減るだろ!」

 

「それがガチタンでしょっ!」

 

「知るかっ!」

 

 

ちなみにそのあまりにも極端な仕様は一部の軍には受けたらしく、すでにいくつかは導入されているらしい。

この二人だけでもうるさいのだが、この話に影響されたのか店内の男性客を中心に話が過熱してしまっている。ガチタンこそ全てだとかブレーダーにかかればただの紙だとかとっつき信者に対する宣戦だとかアクアビットマ-ンだとか・・・。

いよいよ収拾がつかなくなってきた店内を一瞥すると、代理人はわざとらしく大きな展開音を立てながらサブアームを展開する。

 

 

「・・・お静かにお願いしますよ(ニッコリ)」

 

 

それを見て客たちは自分たちの席に戻り、鉄血の二人もとりあえず黙る。皆、代理人を怒らせると怖いと言うのはよくわかっているのだ。

ひとまず元の空気に戻ったのを確認すると代理人はフッと一息つく。

 

 

「・・・その飲み物代はサービスします。 二人には、いろいろ苦労をかけていますから。」

 

「・・・それは違うんじゃないかな代理人?」

 

 

この件の責任は自分にもあると言う意味で言った代理人だが、アーキテクトは即座に否定する。見ればゲーガーも同じように頷いている。

 

 

「私たちも代理人と同じだよ。 代理人がここに居たいように、私たちも鉄血に残りたいから残ってるんだし。」

 

「まあ苦労はしているが、だからといって出ていきたいとは思っていないさ。」

 

「アーキテクト・・・ゲーガー・・・。」

 

 

二人はにこりと笑いながらそれぞれの代金を置いて席を立つ。

 

 

「じゃあね代理人。 コーヒー、美味しかったよ!」

 

「気が向いたら、こっちにも顔を出してくれ。 ちゃんともてなすし、皆も喜ぶ。」

 

 

そう言って店を出る二人。

しばし呆然としていた代理人だが、机の上の代金を回収する。しかし、なぜか視界がぼやけてうまく拾えなかった。

 

 

「・・・愛されてますわね、代理人さん。」

 

「・・・ハンカチ、売っていますか?」

 

「今回は特別に、サービスいたしますわ!」

 

 

 

 

 

 

 

喫茶 鉄血は、今日も平和だ。

 




祝・低体温症「帰郷行動」完全クリア!
資源がものすごい勢いで減ったけど、なんとかなりました!
・・・ランキング戦?ナンノコトデショウ?

終始ギャグで進めるつもりだったのに・・・まぁいっか。



というわけでキャラ(?)紹介です。

アーキテクト
残念系ポンコツ上司。
鉄血自体は代理人が任命したノーマル人形で運営しているが、有事の際には彼女が指揮をとる。こう見えてやるときはやる。
ジュピターや機械兵の整備、改造を主として軍や傭兵と取引している。
某ハイスピードロボットアクションゲーの影響され、ガチタン道にのめりこむ。
部下思いで上司思いのいい子。


ゲーガー
ポンコツ上司の部下。
アーキテクトの無茶振りや後先考えない改造に頭を悩ませ、胃薬の絶えない日々を送る。前衛指揮官として機能することも多く、鉄血参加の傭兵企業で指揮をとることも。
最近、その企業に暴走ハンドガンが二人も入ってきたためストレスがマッハ。
趣味、というよりは必要に迫られてだが、アロマや観葉植物などを集めている。その過程でカリーナと出会う。


カリーナ
二度目の登場。司令部や本部以外でも取引し、その集合場所の一つとして喫茶 鉄血お利用している(代理人公認)。
カリンという愛称を呼んでもらえないことが密かな悩みで、カリンと呼んでくれるゲーガーとはすぐに仲良くなった。危ない商売には手を出さないが、逆に言えば危なくないものにはほとんど手を出すため、商売の幅は広い。


カラオケ機器
その後は毎週金曜日の夜にカラオケ喫茶として設置することになった。アーキテクトが趣味で作ったものだが音楽関係の企業とは許可を取り合っているため、大抵の曲は入っている。


ジュピター改
性能は本文の通り。早い話が包囲してもあの高火力砲が飛んでくる。その分命中率と攻撃頻度が下がっているが、装甲も桁違いに増しているため押し切ることができる。
イベントで出てきたらドルフロやめるレベル。


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番外編3

今更だけどアーキテクトとウロボロスって攻撃手段がかぶってますよね(広範囲爆撃)。
あ、イベント関係ないけどRFBちゃんが来てくれました!


さて今回の番外編は

・はじめの一歩
・暗中模索
・416「一世一代の大勝負よ!」
・(バカ+変態)×技術+資金=???

の四本立てです!


番外3-1:はじめの一歩

 

「今回の護衛任務、ご苦労だった。」

 

「ありがとうございます、ヘリアンさん。」

 

 

任務完了の報告をしに本部へ訪れたM4。任務の内容自体はVIPの護衛だけだが、あの一件(本編八話)以来の任務ということもあっていつも以上に気を引き締めて臨んでいた。

ちなみに他の隊員はすでに帰宅している。

 

 

「・・・変わったな、M4。」

 

「え?」

 

「あぁ、悪い意味じゃない、むしろ良い方だ。」

 

 

そう言って淹れたコーヒーを手渡すヘリアン。一瞬キョトンとしたM4だが、心当たりがあったので少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頷いた。

 

 

「ほら、そこで素直に頷けるようになったじゃないか。」

 

「あっ! ・・・もう、意地悪ですよヘリアンさん!」

 

 

ああすまんすまんと言ってコーヒーを啜るヘリアンの顔は、まるで娘の成長を見守る母親のような表情だった。それにふと気がついたヘリアンは苦笑する。

 

 

(ふっ、あまりアイツ(ペルシカ)のことを親バカとは言えんな。)

 

「楽しそうですね。 何か良いことでも?」

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

日々成長していく彼女を見ながら、ヘリアンは思う。

人形が変われるんだ、人間だって変われるさ、と。

 

 

「私も、そろそろ本気をだそうじゃないか。」

 

「・・・また合コンですか? 失敗しても泣きついてこないでくださいよ?」

 

「(´・ω・`)」

 

end

 

 

 

 

 

番外3-2:暗中模索

 

Q.代理人の好きなものとは?

 

処刑人

「代理人の?・・・家族、とか?」

 

ハンター

「好きかどうかではないが仲間思いだな。」

 

デストロイヤー

「ん〜・・・言われてみればなんだろう?」

 

スケアクロウ

「・・・さぁ?」

 

イントゥルーダー

「うふふ・・・さぁ、何かしらね?」

 

ウロボロス&ドリーマー

「知らん」

 

ゲーガー

「・・・知らないな。 というよりも私たちは代理人がいなくなってから完成しているんだぞ。」

 

アーキテクト

「むむむ・・・確かに知らないかも。 なんか送りたいけどどうでもいいのじゃダメだしかと言って何もなしってのも・・・(ブツブツ)」

 

アルケミスト

「ほう? 貴様性懲りも無く代理人を付け回しているのかそうかそうかでは相応の覚悟もできているということだな実はつい先ほどアーキテクトに頼んで魔改造してもらったマンティコアが届いたんだ是非ともテストに付き合ってくれ」

 

 

 

「・・・ひ、ひどい目にあった・・・。」

 

 

ボロボロになったNTW(アルケミストは晴れ晴れとした顔で帰っていった)は、朦朧とする意識で無意識に、しかし確実に喫茶 鉄血にたどり着いていた。これも愛のなせる技である。

こうなったらもうやけだ、直接聞いてやると意気込んで店内に転がり込むNTW。

 

 

「好きなもの?・・・・・笑顔、でしょうか?」

 

 

そう言って少し困ったような顔をする代理人を見てNTWは、ああそうか、この人はこういう人なんだと納得する。そしてこの人のそういうところに惹かれたんだとも。

それからとびきりの笑顔を浮かべ、注文する。

 

 

「では代理人、ホットコーヒーを頼む。」

 

「かしこまりました。」

 

end

 

 

 

 

 

 

番外3-3:416「一世一代の大勝負よ!」

 

「義姉さん、妹さんを私にください。(土下座)」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

S09地区のの司令部、その中のカフェで起きた唐突な宣言。

あの(以前よりはマイルドになったとはいえ)プライドの塊のHK416が土下座、しかも内容はあの病的なまでのシスコンの妹であるUMP9をくれというもの。店内の人形はランチどころではない。

 

 

「・・・・・ナイン?(震え声)」

 

「だ、黙っててごめんなさい。 私たち、付き合ってるの。」

 

 

わずかな希望を乗せた疑問の声は、実の妹の返答で粉々に砕け散る。その顔は白を通り越して真っ青である。

そして今だに土下座を続ける416。必死さが伺える。

唯一蚊帳の外なG11はもう気が気でない。

 

 

「・・・顔を上げて、というか立って。」

 

 

かつてないほど低いトーンで響き渡る45の声に、416は落ち着いて従う。そして突きつけられるUMP45の銃。

一触触発どころではない空気に人形たちは逃げ出したくなるが、物音一つ立てられない状況に固まるしかない。

 

 

「本当に愛しt」

 

「愛しているわ。」

 

「あ、遊びじゃn」

 

「私は本気よ。」

 

「で、でも」

 

「例え私がここで手足を失っても、彼女がどんな姿になっても、愛し続けるわ。 フラれない限りね。」

 

「う、うぅ〜〜〜〜〜!」

 

 

なんでお前が追い込まれてんだよ、という声が聞こえた気がした。

ちなみに9はすでに爆発しそうなほど赤くなっている。

と、突然416は45の銃をつかみ、自身の胸に突きつけた。

 

 

「認められないなら、今ここで撃ってくれて構わない。 9はあなたの唯一とも言える家族、あなたには私を撃つ権利があるわ。」

 

「416・・・」

 

 

416の目にはすでに覚悟を決めているという意思がはっきりと見えている。

45はゆっくりとその指を引き金にかけ、

 

 

「約束して。 9を必ず幸せにするって。」

 

「えぇ、誓うわ。」

 

「9を悲しませたら、許さないから。」

 

「わかってる。」

 

「9を裏切ったら、地獄の底まで殺しにいくから。」

 

「覚悟の上よ。」

 

 

それだけ言うと銃を下ろし、同時に9に飛びつく45。

 

 

「幸せになるのよ9。」

 

「う、うん。」

 

「辛くなったら、いつでも帰ってきていいからね。」

 

「隊を抜けるわけでも、遠くに行くわけでもないんだけど・・・。」

 

 

それからそれからといつまでも離さない45を9は無理やり引き剥がす。そして416のもとに駆け寄り、腕を組む。

 

 

「認めてくれてありがとう45。 必ず幸せにするわ。」

 

「ありがとう45姉!」

 

 

それを皮切りに周りから祝いの拍手が巻き起こる。45はまだ寂しそうだったが、それをG11がなだめる。

 

 

「元気だしなよ45。 妹離れも必要だよ。」

 

「・・・でも、でもぉ・・・」

 

「ああもう涙拭いて! せっかくなんだからちゃんと祝ってあげないと! 辛いなら私を頼っていいから。」

 

「・・・じゃあ、もらってって言ったらもらってくれる?」

 

「・・・え゛っ!?」

 

end

 

 

 

 

 

番外3-4:(バカ+変態)×技術+資金=???

 

『はじめまして、かな? 元鉄血工造の研究者さんたち。』

 

『我々に何の用かな、鉄血人形?』

 

『失礼ね、私にはちゃんと『アーキテクト』って名前があるの。』

 

『・・・で、何の用だね。 私たちは君たちと違って忙しいんだ。』

 

『相変わらずのクズっぷりだねクソじじいども・・・まあいいや、あんたたちに頼みたいとことがあるんだよ。』

 

『断る。 話は終わりか小娘、もう切るぞ。』

 

『人形のスキン、その鉄血版よ。』

 

『話を聞こう。』

 

『話がわかるじゃない。 で、本題だけど、私らの装備って基本的に白黒じゃない? ぶっちゃけ飽きちゃったのよ。』

 

『それはわかるが何故こちらに頼む? 自分で作れんこともないだろう?』

 

『一応作っては見たんだけどね。 な〜んかこう違うな〜ってなっちゃって。 今データ送ったから見てみて。』

 

『これか?・・・ふむふむ、素体はゲーガーか。』

 

『悪くはないが、面白くもないな。』

 

『これでは所詮IoPの二番煎じと言われるだけじゃ。』

 

『そゆこと。 だからあんたらの力を借りたいんだよ。』

 

『・・・何が目的だ? ただスキンが欲しいわけではないだろう?』

 

『私はゲーガーちゃんを着せ替えたいだけ。 どう? 非公式な依頼だからなんでもありだよ? ()()()()()()んだよ?』

 

『よし乗った。 報酬はスキン使用後のゲーガーの写真だ。』

 

『ありがとーみんな! じゃ、後は任せたよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、この通信ログの意味するところを教えてもらおうじゃないか。」

 

「怒った顔も可愛いよゲーガーちゃんだからその武器をしまってくれるかなまってなんでビーム刃なんて出してるのちょっと待ってそれはダメだってステイステイ待て待て待てぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

end

 




資材消費がえげつない分、紅包ガチャで資材が出るのでそこまで大ダメージにはならなかった今回のイベント。
大破進撃のおかげで好感度だだ下がりだけどなっ!(血涙)

そして今回も盛大に暴走しちまったゼ!
イベントとかで思ったこと・・・グリフィンのヘリって実はCAPC◯M製じゃないですか?


というわけで各話の解説!

3-1
第八話の後日談。
人格面で成長したM4と、保護者枠のヘリアンさんの話。
いい話で終わらせたかったが魔が差してしまいこんなオチに。
何気にM4ってドルフロキャラの中でも性格面をいろいろ弄りやすいなと思いました。


3-2
第九話の後日談。
一つのクエスチョンに複数の回答という方法を試した構成。吉と出るか凶と出るか・・・。
こうして並べてみるとまだまだ出番が少ないキャラがいるなと思いましたね。
こんなオチでいいのかなぁと思いましたが、前の話でふざけたので抑えめに。
結論:アルケミストは動かしやすい。

3-3
第十話の後日談。
416、意を決してカミングアウト!ほんとは45が暴れ出して人形総動員で取り押さえるというドタバタコメディにする予定だったが割とシリアスな方向に・・・ならなかったよコンチクショー!
ちなみに最後のは45がトチ狂っただけなので本心ではありません(重要)

3-4
第十一話の後日談、と今後も変態たちを表に出すための下準備。
ゲーガーはこの技術者たちを嫌っていますが、アーキテクトは技術者仲間として割と好意的。
全て会話文というこのスタイルが受け入れてもらえるかどうか・・・まぁどっちでもいいんだけどね!
ゲーガーの人権? 人形に人権なんてないよ(アーキテクト談)


それでは!


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第十二話:家族と仲間と笑顔と

祝、コラボ(?)回!
※コラボ(?)・・・世界観がいろいろ違うので、『並行世界の住人』という厳密には異なる人物という意味です。

OKを下さった作者様、ありがとうございます!


2月某日の喫茶 鉄血

突然鳴り響く店の電話に出れば、相手はここ最近何をやってるかさっぱりわからない鉄血人形のイントゥルーダーからだった。

 

 

「もしもし代理人? 今いいかしら?」

 

「イントゥルーダーですか? えぇ構いませんよ。」

 

「よかったわ、実は少し困ったことになってね。 二人ほど匿ってほしい子がいるのよ。」

 

 

電子戦モデルである彼女は、聞けばどうやらハッカーとして活動しているらしく、彼女を含めて三人組で危ない企業やらブラックな司令部のデータを盗み出してはばら撒いているらしい。いわゆる『義賊』というやつだ。

・・・身内から犯罪者が出る日が来ようとは夢にも思わなかった代理人である。

 

 

「・・・はぁ、とやかくは言いませんが今一度よく考え直してくださいね。 で、その二人はいつ来るのですか?」

 

「・・・まさかOKが貰えるとは思ってなかったわ。 実はもうそっちに向かってるの。 今日の夕方には着くわよ。」

 

 

断っていたらどうするつもりだったのか。

再び頭を抱えながら二人の情報をもらい、ひとまずアルバイトという形で迎え入れることに決まる。

・・・以前の実績(第八話)があって良かったと心から思う。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「お、お邪魔します。」

 

「いらっしゃいませ。 そろそろ来る頃だと思っていましたよ、『アリババ』さん、『メジェド』さん。」

 

 

閉店後の店に入ってきたのは茶髪の人形と銀髪の女性、アリババこと『FMG-9』とメジェドこと『ヴァニラ』の二人である。

 

 

「お話は伺っております。 あくまで私たちはあなた方を()()()()()として雇うだけですので。」

 

「それで構いません。 お世話になります。」

 

 

ペコリと頭を下げるFMGとヴァニラ。

なんとも奇妙な同居生活が始まった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ここは・・・楽園だわ・・・もうここに住み着いていいかしら?」

 

「何言ってんですかメジェd・・・ヴァニラさん。」

 

 

それから数日後の喫茶 鉄血。

店内のいたるところに咲く百合百合しい光景に歓喜の涙を流すヴァニラとそれをドン引きで見るFMG。一応、客に手を出したら即刻警察と伝えているため今のところは問題になっていない。

ついでに仕事自体はちゃんとしている。

 

 

「お待たせいたしました。 ご注文のバニラアイスです。」

 

「ありがとう。・・・ヴァニラのバニラ・・・フフッ

 

「・・・・・。」

 

 

なんとも言えない空気を作り出してくれたのは、このS09地区の所属ではない人形のVector。

なんとも言えないダジャレにこいつは新顔だなと思いつつも、とりあえず気にしないことにすると、カランカランと入口のベルが鳴り、新しい客の入店を告げる。

 

 

「!・・・いらっしゃいませ。」

 

「三人で。 ・・・窓際の席でもいいかしら。」

 

「はい、ご自由にどうぞ。」

 

 

入ってきたのは親子と思しき二人の女性(片方は少女と言える)と人形が一人の三人、しかも母親(仮)の方はグリフィンの赤い制服を着ているため、自然と新人二人に緊張が走る。

 

 

「お母さん、私これがいい!」

 

「ん〜どれどれ? ・・・うっ! ・・・・・ユノ、こっちとかどう?(リーズナブルメニュー)」

 

「え〜これがいい。」

 

「・・・指揮官よ、わざわざ娘の前でケチらなくとも・・・。」

 

「・・・この前新しいコーヒーメーカー買っちゃって財布が・・・。」

 

「おばあちゃんも一緒に食べよ!」

 

「おぉそうじゃな。 では指揮官、二人分頼むぞ?」

 

「グフッ!」

 

 

・・・一応プライベートで来てるようなのでひとまず警戒を解き、ついでに二人を休憩に入らせる代理人。

 

 

「・・・・・。」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「だ〜〜〜緊張した〜〜〜!」

 

「人形ならそうでもないのに、指揮官クラスが来るだけでここまでとは・・・。」

 

「フフッ、お疲れ様でした。 夕食までは自由にしていただいて構いませんよ。」

 

 

了解で〜すといって部屋に戻るFMGとヴァニラ。

それを見送った代理人は、手元の紙に視線を落とす。

 

 

「それ、あの家族からですか?」

 

「ええ、『また来ます』と。」

 

 

こういったことは開店以来初めてだったので、自然と頬が緩む代理人たち。ふと、その紙に重なってもう一枚あることに気付く。

 

 

「?・・・っ!?」

 

「・・・代理人?」

 

「・・・いえ、なんでもありません。」

 

 

そう言ってポケットにしまう代理人。リーパーは怪しく思いながらも、代理人が言うならと引き下がる。

誰もいなくなった店内で、代理人は再び紙を開く。

 

ー 三人目は見逃してあげる ー

 

そう書かれていた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その翌日

大降りの雨ということもあって珍しく客足の少ない喫茶 鉄血。

店内にいる客もわずか数人で、その入れ替わりもあまりない。それから一人、また一人と店を出て、気がつけば誰もいなくなっていた。

 

誰もいなくなってから十数分、店の扉を開けて入ってくる三人の人影。あの母親指揮官とM1895、そしてVectorだった。

店内に緊張が走る。すると指揮官一行はどの席も空いているにもかかわらず、()()()()()()()()()()()()()()に座った。

 

 

「・・・ご注文は?」

 

「そうね・・・『メジェド』と『アリババ』を。」

 

「申し訳ございませんが、お取り扱いしておりません。」

 

「えぇ、わかってるわよ。」

 

 

代理人はアイコンタクトで部下に指示を出し、店を臨時休業にする。と同時に自身もスカートの中でサブアームを起動、いつでも展開できるようにする。

対する指揮官側も、M1895とVectorはすでに自身の愛銃に手をかけている。

 

 

「・・・・・グリフィンの手も、思っていたより長いようですね。」

 

「? あぁ違う違う。私個人で調べてここにきたのよ。」

 

 

取引のために、と言って意味ありげな笑みを浮かべる指揮官。

すでに件の二人は顔面蒼白で震えており、リッパーとイェーガーも臨戦態勢に入っている。

指揮官の横にいるM1895は銃を置いて手を上にあげ、

 

 

スパーッン

「痛っ!?」

 

「いたずらに不安を煽ってどうするんじゃお主は!」

 

 

思いっきりどついた。指揮官を。

あまりの光景に言葉を失う店員一同。

頭を擦りながら顔を上げた指揮官が告げる。

 

 

「で、あんたたちがメジェドとアリババでいいの?」

 

「・・・・・はい。」

 

「・・・・・えぇ。」

 

「そっかそっか。 ・・・ねぇ、うちで働かない?」

 

「「・・・は?」」

 

 

うちって戦力も心もとないし人形整備士もいてくれたらすごく助かるんだけど、と話す指揮官の言葉が一切入ってこない二人。

それに気がついたVectorが事の経緯と理由を簡単に話す。

 

二人が暴いてきた数々の不正のうち、ブラックな司令部への強制捜査や突撃を敢行していたのがなんとこの指揮官だったのだ。そうして制圧した司令部を調べ続け、たどり着いたのがこの二人というわけである。

ここで指揮官は、グリフィンがこの事実を知らないことを利用して二人を秘密裏に確保、司令部の人員に組み込んでしまおうと画策し、今に至る。

 

 

「抵抗されたら、とは考えなかったのですか?」

 

「その時はその時よ。 やり方はいくらでもあるし。」

 

「・・・まさか三人目にも気がついていたとは思いませんでしたが。」

 

「三人いるのはわかってたけど誰かまでは知らないわよ? ま、あなたに関わりのある人物ってのはわかってたんだけどね。」

 

 

そういうとケラケラと笑い、ハッカーコンビの方に向き直る。

 

 

「立場も保証するし、今までのことも不問にする。 ハッキングからは足を洗ってもらうことになるけど、悪い話じゃないはずよ。 どう?」

 

「・・・わかったわ。 どのみち、正体がバレた以上は続けられないからね。」

 

「・・・私も、それで構いません。」

 

 

ようやく緊張から解き放たれる店内。

指揮官も代理人もふぅ、と息を吐き、顔を見合わせて笑う。

巻き込んじゃってごめんね、と指揮官が言えば代理人も、私たちも彼女たちに協力していましたから、と返す。

 

 

「じゃ、私たちは帰るわ。 明日の朝、迎えにくるから。」

 

「「えっ?」」

 

 

M1895とVectorが揃って声をあげる。

え、帰っちゃダメなの?と指揮官が聞き返せば、ここは飲食店じゃぞ?とか、何も頼まず帰るつもり?という言葉。

 

 

「二人の件で訪れたのは確かじゃが、別に招かれたわけでもなく普通に正面から入ってきたしの。」

 

「飲()店で何も頼まないのは()()()()だわ・・・ふふっ」

 

「あ〜もうお主は黙っとれ。」

 

「ナ、ナガン・・・私今日財布持ってきてないんだけど・・・。」

 

「「・・・・・。」」

 

 

カウンターを見ればそれはそれはいい笑顔で佇む代理人。

ひたすら冷や汗を流すしかない指揮官に、代理人は諦めたようにため息をつき、今日はもういいですと告げる。

その代わり、と続け、

 

 

「今度は、皆さんで来てください。 必ずですよ。」

 

「! ありがと〜代理人!」

 

 

ちゃんとユノも連れてくるね〜と言って店を出る指揮官と、それに続く人形二人。

代理人はそれに手を振り、見送るのだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

二月某日の喫茶 鉄血

 

 

「代理人さん、チョコレートケーキもう一つ!」

 

「ああそれと、コーヒーのお代わりを・・・二つ頼む。」

 

「じゃあ私はアイスコーヒーを」

 

「かしこまりました。」

 

「給料日の翌日だからってちょっとは自重してよっ!?」

 

「レイラさん、実は新作のケーキがあるのですが。」

 

「えっ、本当! じゃあそれを・・・」

 

「「「頼むんかい!」」」

 

「追加で()()()を頼むなんて随分()()がいいのね・・・フフッ」

 

「じゃあ私も!」

 

「かしこまりました。」

 

 

end




というわけで、焔薙 様の「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!」から指揮官一家とVector、ハッカー時代のFMGとヴァニラさんをお借りしました!

他人のキャラクターを描くのってめっちゃむずい・・・その分楽しいけど。


というわけでキャラ紹介、今回はこっちの世界ではこんな感じというやつです。

レイラ
指揮官でユノ(元の作品の主人公)の母親。
一児の母でありながら優秀な指揮官でもあり、情報収集能力も高い。その結果危ない人に狙われたり娘を誘拐されそうになったけど全部撃退した。
M1895のことを「ナガン」と呼ぶ。
娘には甘い。

ユノ
元の世界での主人公、詳しくは『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』をチェック!
食に対する興味がずば抜けて高く、食欲も旺盛。司令部(兼自宅)のエンゲル係数に絶大な影響を与える。
M1895のことを「おばあちゃん」と呼ぶ。
この世界ではまだPPKとはそういう中ではない(というかまだ子供)。

M1895
司令部の副官。
副官としても戦力としてもユノの子守としても優秀ななんでも人形。
指揮官の突拍子も無いことに四苦八苦したり、身の危険を顧みない指揮官にハラハラしたりと苦労が絶えない。
がんばれおばあちゃん!!

Vector
本作を描くにあたって最も苦労した人形。
よくわからんダジャレだけでも大概なのに何考えてるかもよくわからない。実は指揮官とは別ルートで二人にたどり着いた(という設定)。
指揮官との出会いは概ね元の作品と同じだがあっさり返り討ちに遭い、指揮官のもとに取り込まれてしまった。
焔薙さん、似てなかったらごめんなさい!

FMG-9
ハッカーの一人、呼び名はアリババ。
今回登場した濃いメンツの中では(まだ)まともな方なので目立たなくなってしまった。
電子戦も直接戦闘もこなせる優秀な人形。ヴァニラの本性を知る数少ない人物。

ヴァニラ
ハッカーの一人、呼び名はメジェド。
危ない人。どう危ないかは元の作品を見ればわかる。
ハッキングも得意だが人形整備も得意なので指揮官にスカウト(という名の連行)される。
変態どもが発案した「人形=女性」という案だが、彼女にとってはまさに楽園とも呼べる結果となった。

イントゥルーダー
ハッカーの一人、呼び名はネクロ(ネクロノミコンの略)。
FMGとヴァニラの二人をこの話に組み込むために作られた設定。まぁ電子戦モデルだし大丈夫だろ。
なぜか知らないがレイラとは仲が悪いという本作独自の設定がある。なぜか知らないが。



こんな感じです。
焔薙さんとこのキャラをうまく表現できたかどうか不安ですが、幸せな指揮官一家のいる世界線もあるんだという思いで書きました!

ではでは次回もお楽しみに!


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第十三話:酒が飲めるぞ〜♪

関西人の私にとって最も書きやすい人形・・・だと思ってたよコンチクショー!

まぁ実際に関西弁で文字を書くことなんてそんないないので当然といえば当然ですが。

この話の主役は誰かと聞かれてもわからないくらいごっちゃごちゃな話。


「河内の〜おっさんの唄〜♪」

 

「いや選曲っ!」

 

「なんや、あかんのか!?」

 

「微妙すぎんでしょ! ていうかどこよカワチって!」

 

 

二月某日の金曜日。

とある理由(第十一話)により導入されたカラオケ機器が音楽を響かせ、休日前の馬鹿騒ぎ目当てで訪れる会社員と一部の人形で盛り上がる。通常営業と違い、この時間は少ないながらも酒類やおつまみがメニューに追加される。

結果、それ目当てに来る人形がいて、ついでに歌いまくるというサイクルが出来上がっていた。

ちなみに本日は例のシスコン会の面々とガリル、G11という組み合わせである。

 

 

「・・・なんで私が45の見張りなのさ・・・。」

 

「同じ404小隊で唯一彼女に刺激を与えないからよ。 私一人じゃ抑えきれないから。」

 

「明らかに飲む量増えたよね、M16が勧めたのもあるけど。」

 

「「・・・はぁ・・・。」」

 

「お、なんや辛気臭い顔しとるな。 こういう時は呑んで歌ってスッキリしたほうがええで!」

 

 

そう言いながら酒を片手に曲を入れ、それが終われば他の客と世間話に華を咲かせるガリル。

その間も酒の勢いもあって暴走気味なシスコンたちが騒ぎまくる。

 

 

「I Love You〜 今だ〜けは〜」(M16)

 

「少し背の高い〜」(45)

 

「会いたくて会いたくて震える〜」(G34)

 

「って全部失恋ソングじゃないの!」

 

 

しかも歌ってる本人が号泣している。45に至っては泣きすぎて何を歌ってるのかわからないほどである。

それをガリル含め他の客が酒の肴にしている。

・・・グリフィンに苦情が来たりしないだろうか。

 

 

「というかなんで来てくれたのよあなた。 誘ったのは私だけどこの会の面倒くささは知ってたでしょ?」

 

「あれ? ウチは酒代が出るって聞いたで。」

 

「・・・誰から出るって? 誰に?」

 

「FALから。 M16に。」

 

「ちょっとM16!?」

 

 

鬼の形相で摑みかかるFAL。だが悲しきかな酔った時のM16に説教など、マンティコアにハンドガン並みに無意味である。

 

 

「ところでお前さんは歌わんのか?」

 

「やだよ、恥ずかしいし。」

 

「ハハッ、そりゃ残念。」

 

「・・・あっさり引き下がるんだね。」

 

「無理やり歌わせても楽しないやろ?」

 

 

そう言って再びマイクを握るガリル。

本当に変わった人形、と呟いてG11は曲を探し始めた。

 

 

「ほな、パーっと歌ってわーっと泣こうや!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「ほなまたな〜!」

 

「おう! 嬢ちゃんもな!」

 

 

そろそろ店じまいということで他の客は帰り、それを見送ったガリルは代理人から借りた毛布を酔いつぶれた三人にかけていく。

それをジッと見ていたFALだが、先に会計を済ませるためにレジに行く。

 

 

「お会計はこちらになります。」

 

「・・・・・・・・・・G11、ガリル。」

 

「手伝うからそんな目で見ないでよFAL。」

 

「まぁ後でこいつらから返して貰えばええしな。」

 

 

そう言ってレジに来るG11とガリル。そのガリルの手にはすでに財布が握られていた。

ちょっとまけてくれたりは〜とか言うガリルをFALが不思議そうな目で見る。

 

 

「・・・お? なんやFAL、ウチに惚れてもうたか?」

 

「違うわよ。・・・あんたってなんか不思議よね。 喋り方もそうだけど、社交的で面倒見が良くて、ふざけてるようで真面目に見えて。 ・・・あとモテるし。」

 

「ん〜・・・別に意識はしてへんなぁ。 ま、皆が楽しめるようにってやっとるだけや。 モテるんは・・・なんでやろな?」

 

 

ケラケラと笑うガリルと、それにつられて笑うFAL。なんとなくだが、彼女の周りに人が集まる理由がわかった気がした。

 

 

「そろそろ帰るよ。」

 

「そうね。」

 

「せやな。 ほな代理人、また来週。」

 

「ええ、お待ちしてますよ。」

 

 

一人ずつ背負って帰る三人を見送った代理人は、片付けを始めようと店内を見渡して気付く。食器やコップは一つのテーブルに収められ、テーブルもおしぼりで軽く拭いてある。

いったいいつやったのやらと苦笑し、幾分か楽になった片付けに取り掛かった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「とりあえず明日の朝はこれ飲ましたらええから。 あとこれ請求書。」

 

「・・・ほんっと準備いいわね。 まぁいいわ、ありがとう。」

 

「ん? 別にええで。 おやすみ〜。」

 

 

バタン、と扉が閉まり、救護室(という名の酔っ払い収容所)に残されるFAL。本当に不思議な人形、と呟いてそれぞれの枕元に二日酔いの薬を置く。

そして辺りを見渡して誰もいないことを確認し、

 

 

な、なんでやね〜n」

 

ガラガラ「何してるの、FAL?」

 

 

水を持ってきたG11と鉢合わせ、顔を真っ赤にして固まった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「〜♪」

 

「ガリル。」

 

「ん? なんや指揮官か。 どないしたん?」

 

「・・・ありがとう。 非番は明日に回しておk」

 

「はて、なんのことやろうな〜。 ウチはただ飲みに行っただけやで指揮官♪」

 

「だが、あれは俺が頼んだことで。」

 

「ほな指揮官、一個だけお願いがあるわ。」

 

 

 

こんど、ウチとデートしてや、指・揮・官♪

 

end




飄々としながらもちゃっかりしてる、というのがガリルちゃんの印象です。
本当は中の人ネタもぶっ込もうかと思いましたが色々収集つかなくなりそうだったのでやめました。
そして久しぶりに登場の指揮官・・・誰も興味ないか。


というわけでキャラ紹介!

シスコン会
説明不要のシスコン会。
9×416が発覚してから意気消沈気味だった45を元気付けようといたのが今回の発端。
FALのストレスがマッハ。

FAL
気がつけば司令部のツッコミ担当に収まった人形。他人の不幸や浮いた話で愉悦に浸りたいが周りがそれを許さない。
指揮官からもそっち方面で信頼を得ているため、泣く泣くシスコン会に所属し続ける。
ツッコミ担当のせいで最近女性として見られていないのではと不安になり、いろんなことに手を出している。本編のなんでやねんもその一つ。

G11
404のマスコット・・・という立場に収まって面倒ごとから逃げようとする人形。
面倒は嫌いだが頼まれたら断れず、放っておけない性格。9と416がくっついた現在、45の(一方的な)相談相手。
カラオケの選曲がなぜかROとかぶる。

ダリル
初めはただの関西弁キャラとして描いてたのに途中からなんかすごいことになった。
面倒見がいいお姉さんキャラだが見守るより一緒に楽しむタイプ。本人はそんなに起こっていないつもりでも話し方のせいで怖がられやすい。怒りともっと怖い。
酒豪であるが飲ませることはなく、酒飲みや酔っ払いの対処にも手馴れているため、今回指揮官に頼まれて同行(FALが頼んだのはそのあと)。

酒飲みのおっちゃんズ
カラオケ喫茶(というよりも居酒屋)が始まって以来毎週通い詰める常連。
ガリルの飲み友。




結果的に指揮官ラブ勢が増えちまった。
外伝で指揮官の話でも描こうかな。



※お酒は二十歳になってから!
※一気飲み、ダメゼッタイ!
※無理やり飲ませないように!


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CO-2:地獄の町の少女()

忘れた頃にやってくるクロスオーバー回第二弾!

今更ですがバイオハザードRe:2発売記念。
お金と度胸が足りずに未だにプレイできていませんが!

・・・やりすぎた気はしなくもないですが、無限ロケットランチャーと並ぶバイオシリーズを代表する武器だと思います。


それはとある日の夜。

その日たまたま夜風に当たるために近くの公園まで出ていた代理人は、住民が寝静まった街を一人歩いていた。

もともと人形である彼女は本来睡眠を必要とせず、寝付けないなどということもない。しかしその日に限って()()()()()寝る気にならなかったのである。

それが結果的に一人の人形を救うことになる。

 

家(喫茶 鉄血)まで伸びる路地の陰に、一人の少女がうずくまっていた。小柄で長い金髪の少女の手には黒光りするナニか。

不審に思った代理人はスッと忍び寄る。少女はまだ気付かない。

 

 

「・・・みんな・・逃げ切れたかな・・・『 』・・・・・ありがとう・・・ごめんね。」

 

 

そういうと同時に少女はこめかみに銃をあてる。その引き金にはすでに指がかけられていた。

すかさず代理人は手を掴み、銃を奪い取る。少女と目があった。

 

ライトブルーの瞳とブルーの服、カチューシャが黒でそれについている星のアクセサリーが赤とライトブルーと所々違っているが、代理人には見覚えのある人形だった。

 

ベレッタM9

それが彼女の名だ。もっとも外見の際の他にも不審な点は色々あるが。

まず第一に、彼女ら戦術人形は基本的に自害できないようになっている。

よほどの損傷を受け、かつ周囲の状況から生還が絶望的であると判断した場合のみ可能とされているが、今まで発動した人形はいないという。

次に銃そのもの。

人形の外観はスキンだとか着せ替えたとかであれば変更可能だが、銃は基本的に変えられない。にもかかわらず彼女の銃はグリップ部分のメダリオンを含め細部が違う。しかも後から改造したものではなく、もともとそう作られたかのようなしあがりである。

そして最後に彼女自身。

代理人はもともと指揮用人形であり、その都合上簡易ではあるがアナライズ機能が搭載されている。ここ最近は使うことがなかったそれを起動させれば、表示されるデータは『エラー』『未開放』『閲覧禁止』といったものばかり。しかも一体の人形に収まる情報量ではなく、少なくとも四体分に相当する。

 

IoPの実験機か、それとも違法に製造された人形か、、、、あるいは・・・。

警戒度を上げつつそこまで考え、代理人はふと気付く。このM9もどきとは毛色は違うが、彼女のような規格外を二人ほど知っている。それに思い当たった代理人は、

 

 

「私とともに来てもらいます。 拒否権はありません。」

 

 

銃を突きつけ、脅すように言った。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「脅しておいてなんですが、本当についてくるとは思っていませんでした。」

 

 

そう言って温かいミルクを差し出す代理人の対面に座る人形の頭には、終始?が浮かびっぱなしだった。

彼女からしてみれば、死のうと思った矢先に銃を奪われ脅され連れてこられて飲み物を出される。意味不明を通り越して理解不能だった。

そうして只々呆然としていると、向かい合うようにメイドのような姿の変な人(代理人)が座る。

 

 

「混乱しているようですが、私はあなたをどうこうしようとは思っていません。 ただ、少し話を聞かせてもらいたいだけです。」

 

「・・・はぁ。」

 

「あなたは、ここではないどこからか来て、気がつけばこの街にいた。・・・そうですね?」

 

「!・・・はい。」

 

 

何故それを?と聞くと、以前に似たような境遇の方達と出会いましたからと帰ってくる。そう言って彼女はメモ帳とペンを取り出し(見間違いでなければスカートの中から)、質問を始める。

 

 

「まずあなたのお名前を教えてください。」

 

「・・・『サムライエッジ』、()()()()9()2()F()()9()6()F()の改造銃です。」

 

「? 二種類の?」

 

「見てもらったほうが早そうですね。」

 

 

そう言って自分の銃を握り、目を閉じて集中する。

代理人は自分の目を疑った。なんせ目の前で銃が姿を変えたのだ。

初期の状態はスライドストップがやや小型だったものが、次の瞬間には元となった92Fに近くなり、また次の瞬間にはサイレンサーとレーザーサイト、さらに次には銃そのものが大型化し、マガジンもロングサイズとなっている。この変化に合わせて彼女の目もライトブルーから青、黒、赤と色を変えていた。

 

 

「・・・なるほど、それがあなたの正体ですか。」

 

「今見てもらったものが、私の全てよ。」

 

「ん? 口調も変わるんですね。」

 

「あ・・・そう見たいね。」

 

「・・・まあいいでしょう。 では次に・・・」

 

 

そうして話をすり合わせることおよそ二時間。

まず彼女がいたのは1996年のアメリカ、所属はラクーン市警の特殊部隊『S.T.A.R.S.』。警察組織なので相手は当然人間を想定していたのだが、ある事件以降は怪物を相手にするようになる。

 

洋館事件とラクーンシティにおける大規模な生物災害(バイオハザード)

 

彼女の持ち主であった四人はその地獄を戦い(うち一人は事件の首謀者クラスであった)、無事生還したらしい。

らしい、というのは彼女の記憶がその直前で途切れていることと、彼女が自身の持ち主に強い信頼を寄せているからである。

気がつけばこの世界に流れ着き、途方にくれると同時に自身の役目は終わったと感じ、死のうと思ったらしい。

 

 

「・・・そんな過去が・・・。」

 

「彼らならきっと大丈夫。 私の自慢のマスターだからね。」

 

「いやはや全くだ。 我々のマスターがこのことを知ったら是が非でも彼らに会いに行っていただろう。」

 

「「・・・・・ん?」」

 

 

店の上、代理人の私室で行われていたこの会談にまさかの乱入者。

いつの間にかそこにいたのは全身真っ白の闘争バカ、ジャッカルである。

 

 

「絶望的な状況で、それでも前に進む。 やはり人間とは素晴らしい!」

 

 

そう言いながら窓から入ってくるのはジャッカルの相棒、カスール。

というか侵入経路はそこか、今度から防犯設備を増設しようと代理人は誓う。

 

 

「・・・あの、この人たちは?」

 

「この世で最もおめでたくない紅白、で結構です。」

 

「ずいぶんなご挨拶じゃないか代理人。」

 

「久しぶりに闘争の匂いをゲフンゲフン・・・顔を見せにきてやったというのに。」

 

「常日頃からやりすぎるあなたたちのウワサはよく聞いていますよ、紹介した私への苦情とともに。」

 

「殺し殺されるための闘争だ、やりすぎなどない!」

 

見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ。」

 

「話が進まないので黙っていてください。」

 

 

頭を抱える代理人と何がおかしい?と首をひねる紅白、なんだかわからないがいつものことなのかと納得するサムライエッジ。

そんなことを思っていると白いほうが顔を思いっきり寄せてきた。近い。

 

 

「ふむ、持ち主に似たのかいい目をしているな。 だが諦めはいかん、諦めが人を殺s・・・あ、人じゃないな。」

 

「・・・そういうあなたの持ち主は、『人』ではありませんね?」

 

「ほぅ? わかるか? 面白い奴だな。」

 

 

そのまましばらく見つめ合う二人。

ジャッカルはニヤリと笑う(本人は微笑んでいるつもり)と、

 

 

「代理人、こいつはもらっていくぞ。」

 

「「・・・は?」」

 

「だ・か・ら、私が迎え入れてやると行ったんだ。 どのみち行く宛もやることもないなら、私たちと来ればいい。」

 

「いえ、私は」

 

「それに私たちではどうも()()()()()らしいからな。・・・ストッパーがいてくれた方がいいだろう?」

 

「いや、まあ、それはそうですが・・・」

 

「では決まりだな! 必要な手続きはこちらでしておこう。」

 

「世話をかけたな代理人。 また会おう。」

 

「え、ちょっ、ま、いやあああぁぁぁぁぁ・・・・」

 

 

台風一過。

幼女が幼女を連れて窓から出ていく光景を見ながらどこか悟った顔の代理人は、

 

 

「・・・そろそろお店に戻りましょうか。」

 

 

全てを諦めた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

『・・・聞いていますか代理人!』

 

「・・・えぇ聞いていますよ。」

 

『あいつら何行っても聞かないんですよ!? 人質の奪還なら戦闘は最小限に抑えるべきだというのに真正面から突っ込むなんて!』

 

『おまけに貴重な大口径弾をバカスカと・・・弾代だけでいくらかかると思っているのか!』

 

『そのせいで会社からは旅費をケチられて徒歩で帰ってこいなんて・・・私が何したってんだ!?』

 

「人格が混ざってますよ・・・あれ? 銃格でしょうか?」

 

『そこはいいんです! 代理人からも何か言ってk・・ちょ、まだ話してr』

 

『あーあー、聞こえてるか代理人? 例の苦情は減っただろう?』

 

「・・・・・えぇ、一応。」

 

『ならばよし。 ではそろそろ仕事だからな、ここで切るぞ。』

 

「・・・彼女に、頑張ってくださいと伝えてください。」

 

『了解した。 ではな。』

 

「・・・今度、何か送ってあげましょうか。」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

皆は、今どうしてるかな。

 

ジルは、また変なことに首突っ込んでないといいけど。危なっかしくて見てられなかったなぁ。

クリス、銃は持ち歩かないと銃とは言わないんだよ? 無くされた身としては質実な願いだよ。

バリー、はっきり言ってこの口径でその装弾数は無茶だよ・・・。大事なときに壊れても知らないからね。

アルバート、あの事件のことで思うことはあるけど、それでもやっぱり私の持ち主に変わりはないから。

 

 

 

 

 

みんな、ありがとう。

 

end




バイオハザードシリーズよりサムライエッジちゃんです!
ぶっちゃけ書き始めるまでそこまで気にしたことないけど、結構いろんな設定があって面白いですね。


というわけでキャラ紹介。

サムライエッジ
ベレッタ92Fも改造銃。
今作の彼女はさらにそれのオーダーメイド品。持ち主はジル、クリス、バリー(彼のみ96Fの改造)、ウェスカーで、それぞれの銃の特徴はWiki参照。
人形はM9とほぼ同じだが服装と目が異なる。服の色はそれぞれの銃のメダリオンの色に由来している。
四つの銃それぞれに『変化』することが可能で、この際に目の色も対応するメダリオンの色に変わる。ついでに話し方や性格も若干変わる。
HELLSING組に拉致られ、同じチームに所属させられ、二人のストッパーとして奮闘中。

この世で最もめでたくない紅白
CO-1で登場したカスールとジャッカル。
サムライエッジの暗い過去話だけだと軽く六、七千文字くらい行きそうだったので強引に話を変えるために登場。
バケモノの銃とバケモノと戦ってきた銃という異質な組み合わせになったけどまあいいかなと。
ボツ案ではサムライエッジは彼女らと対立する予定だった。

後半のノリ
HELLSINGの短編『CROSS FIRE』のハインケルと由美子(由美江)みたいな感じ。
真面目なキャラほど苦労する。


長々となって、申し訳ございません( ^ U ^ )
それでは!


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第十四話:激突!人間の可能性(前編)

ネジの外れた科学者たちの熱い奮闘劇。

えっ?何を作るかって?
・・・・・察しろよ・・・・。


「・・・新スキンのコンペだと?」

 

「はい、IoP主催で開催いたします。」

 

「また急な・・・で、言い出したのはどこのどいつだ?」

 

「17labです。」

 

「「「あぁ、あの変態か。」」」

 

 

久しぶりに行われたグリフィン人間会議(仮)。

前回(第五話)の制服スキンが成功を収め、いくつかの司令部ではすでに導入が始まっているなかで、新しいスキンについて話し合おうかと言った矢先のことである。

 

 

「スキンのコンペ、とは言っていますが他にも試作段階の人形や兵装の発表と展示も行われるそうですわ。 鉄血工造グループからも参加するそうです。」

 

「そっかぁ、アーキテクトがいるんだから当然っちゃ当然よね。」

 

「その辺りは放っておいてもいいだろう。 目下最大の懸念事項は・・・」

 

「17labが何を企んでいるか、ですね。」

 

「うちに話を回してくるってことは、要するにこのコンペで直接ぶつかるつもりね。」

 

 

その話の通りで、今回の発端は16labを(一方的に)ライバル視している17labの差し金であった。と言っても非合法なことなどするわけにもいかないので、公の場で叩き潰すつもりらしい。

・・・溢れ出る自信とぬぐいきれない不安が漂ってくる。

 

 

「連中が何を出してくるかはわかりませんが、相当な自信作であることは間違いありません。 よって、今回は我々も本気で挑むと同時に、新たな助っ人を呼びました。」

 

 

彼女たちです!とヘリアンが声を張り上げると同時に、いつから待機していたのか店の奥から二人ほど出てくる。

 

 

「・・・お久しぶりです、クルーガーさん。」

 

「ちょっと前まで追われる身だった私が、まさかグリフィンの重役の前に出るなんてね。」

 

「というわけで◯◯地区の指揮官、レイラと整備士のヴァニラです。」

 

「・・・あれ? ユノちゃんは?」

 

「裏で試供品をもらってますよ。」

 

 

現れたのは別地区の指揮官であるレイラと、ハッカーから人形整備士という異色のジョブチェンジを果たしたヴァニラである。

ちなみに今回の報酬はこの喫茶店での飲食全額負担、これにレイラが『娘の分も入れなさい』と強引にねじ込んで了承した。

その(ユノ)は裏で試供品を食べていることになっているが、実際は商品にも手を出しており、現在進行形で支払額が増えている。

 

 

「さて本題。 今回私たちが勝負するスキンは・・・これよ。」

 

「・・・バレンタインとひな祭り?」

 

「時期が近い以外何も接点が見えないんだけど。」

 

「あぁそれは問題ない。 バレンタインに関してはもともと話が進んでいたものだ。」

 

「で、今回のコンペに勝つにはあとひと押したりないと思い、考え出したのがひな祭りというわけよ。」

 

「・・・バレンタインは即決だったの、クルーガーさん?」

 

「・・・・・せめて人形からでもいいから貰いたいんだよ。」

 

「あぁもうそんな顔しないでくださいよ、私があげますから。」

 

「本当かっ!?」

 

「・・・話を戻すわよ。 服装自体はほとんど問題ないんだけど、どの人形を対象にするか決めかねててね。」

 

「一〇〇式以下日本由来の人形は決まりだな。 他となると・・・」

 

「元々の行事にちなんで子供っぽい人形にする方がいいのでは?」

 

「いや、雛人形そのものは大人のようだ。 その点はこだわる必要はないだろう。」

 

「でもそうなるとどこでインパクトを出すか・・・」

 

「男雛とか五人囃子とかならいいんじゃない? M16とかトンプソンとか似合うわよ(じゅるり)」

 

「「「それだ!」」」

 

「時期限定、となるとこのくらいの価格が妥当ですわね。 オプションで何かつけられますか?」

 

 

三人寄ればなんとやらというが、ものすごい勢いで話が進んでいく。あっという間にラフ画を書き上げ、それぞれが問題点や改善点を洗い出していく。

とその時、奥から代理人が困った顔で現れる。

 

 

「・・・あの、ペルシカさん。 もう着替え終わりましたが?」

 

「ん?・・・あっ、忘れてた。 連れてきてくれる?」

 

「かしこまりました。」

 

「・・・あんたうちの娘に何したのよ?」

 

 

訝しむレイラをよそに代理人は店の奥に消え、今度はユノの手を引きながら出てきた。

 

 

「う〜〜〜、この服重い〜〜!」

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

「どうよ?」

 

 

出てきたのは十二単に身を包んだユノ。

あっけにとられる客とドヤ顔のペルシカ、そして彼女を襲うアイアンクロー。

 

 

「いだだだだだだだだだだだだ!!!!!!!」

 

「何うちの娘を勝手に着せ替え人形にしてるのよ!」

 

「これ・・・いい・・・グハッ(鼻血)」

 

「ちょっとうちの子に欲情しないでよ!」

 

「ユノちゃ〜ん、はい、チーズ! ・・・これはいい値がつきますわ!

 

「はい没収っ!!」

 

「お母さん、どう?」

 

「よ〜〜〜〜く似合ってるわよユノ〜〜〜!(デレデレ)」

 

「あれが、母親の顔か・・・・ガクッ」

 

「・・・・・はぁ。」

 

 

目の前の惨状にただただため息が出る代理人。なおこのあと会議は無事終了し、16labはコンペまでの間の睡眠時間トータル一桁台を敢行することになる。

余談だが、この一件で代理人が着物の着付けができることが広まり、一時期着物ブームとなった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「・・・IoPとの共同制作、か。腕がなるじゃない!」

 

「程々にしろよアーキテクト。 今回はグリフィンからの依頼でもある、おふざけは無しだ。」

 

「わかってるよゲーガー。 だから()()()()真面目だよ!」

 

「・・・・・()()()()?」

 

「あっ」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「我々は立ち上がるっ! 何故か!?」

 

「「「そこにロマンがあるから!!!」」」

 

「しかしそれは茨の道だっ! 君たちは何を差し出す!?」

 

「「「全てだ!!!」」」

 

「素晴らしいっ! では行こう! 世界に我々の技術を見せつけるのだ!!!」

 

「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「くっ、このままでは間に合わない!」

 

「諦めないで! これは私たちの悲願よ!? 必ず完成させるの!」

 

「各員! エナジードリンクの残量を確認しろ! ここからが正念場だ!」

 

「やってやる、やってやるぞ、五徹六徹がなんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後編へ続く

 




まさかの前後編。
描き始めた当初は一話に収まる予定だったんですが、ちょっと面白いことを考えたので分けました。
会話ばかりでどれが誰のセリフかわかりずらいことに・・・台本形式にしようかとも思いましたが、読者様の想像に委ねてみることにしました!

代理人以外全員人形という始末・・・ま、いっか。


ではでは解説を。

グリフィン人間会議
第五話以来の登場。
クルーガー・ペルシカ・ヘリアン・カリーナの人間組に今回はレイラとヴァニラ(ついでにユノちゃん)が合流。
グリフィンのトップがこんなとこにいていいのかと思われるかもしれないが、一応S09地区と喫茶 鉄血の視察という建前で来ている。

レイラ
コラボ回だけの予定だったが面白そうなので再度登場。
クルーガーからしてみれば自分の周りで数少ないまとも寄りな女性。
ヘリアンからすれば(元)既婚者という勝ち組。
娘にはとことん甘い。甘ーーーーーーーーーい!

ヴァニラ
同じくコラボ回から。
元作品と同様の変態。 この点に関してレイラは彼女を迎え入れたことを後悔しているほど。
整備士としての腕前はたしかで、整備の際の目や手の動きが怪しかったら鼻息が荒かったりするがほぼ完璧に修復、メンテナンスができる。
実に動かしやすい変態。

ユノ
コラボk(ry
みんなのマスコット。
可愛いは正義という言葉がよく似合う。
ハイエース?やれるもんならやってみろ。

ちょっと出てきた技術者たち
後編への布石。
今考えている『ちょっと面白いこと』が成功した際には出番がもらえるが、失敗したら出番はない。
16labがあるくらいだから1〜15もあるだろうという思いつき。



それでは、後編をお楽しみに!


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第十五話:激突!人間の可能性(笑) 後編

前回のあらすじ
技術者(変態)たちがアップを始めました。

そして二度目のコラボ(?)回!
キャラクターを貸してくださいました作者の皆様、本当にありがとうございます!


『IoP主催・合同技術報告会』

というのがこのイベントの名前である。名前の通りIoPを始めとした様々な企業や研究所による新技術のお披露目会といったものであるが、今回のメインは16labと17labによる新スキンの採用コンペだ。

 

 

「・・・と言っても資料そのものは提出済みだし、プレゼンと結果発表はこの会の最後になるのよね?」

 

「そういうこと。 だからそれまでは他を見てまわるのよ。」

 

「・・・私が来てもよろしかったんでしょうか?」

 

「いいのよ私が招待したから。」

 

 

そんな感じで会場をうろついているのはヴァニラ、ペルシカ、代理人という少々珍しい組み合わせ彼女たちがまず向かった先は鉄血工造グループの大規模ブース。この会の目玉の一つ、鉄血とIoP共同開発の戦術人形の発表である。

 

 

「あ、代理人! 来てくれたんだ!」

 

「ええ。 あなたたちが出品すると聞いていたもので。」

 

「あぁ、今から発表だ。 よければ見ていってくれ。」

 

「えぇ、もちろん。」

 

 

それだけ言うとアーキテクトとゲーガーは代理人と別れ、壇上に向かっていく。

 

 

『・・・あーあー・・・よし。 皆さん初めまして、鉄血工造グループ開発部統括責任者のアーキテクトです。』

 

「彼女、普通に話せるんですね。」

 

「ゲーガーの顔から察するに、相当苦労したようね。」

 

『今回、我々がIoP社との共同開発に至った経緯は・・・』

 

「・・・後でお菓子を持って行ってあげましょう。」

 

『・・・というわけで、お見せしましょう。 これが我々の成果、M1887 ウィンチェスター散弾銃です!』

 

『IoP社由来の高性能パーツを使用しながらフレームなどの基本ハードを整備性に優れる鉄血製、戦術AIなどのソフト面を16lab と、各社と機関の強みをハイブリッドした、新世代の戦術人形です!』

 

『これによりSGタイプの人形でありながら高い機動性と整備製、SGの高火力の両立に成功しました。』

 

 

その後も説明が続き、質疑応答を終えて彼女らの発表は終わった。

・・・身もふたもない言い方をすれば、既に納入が決まっているためどんな発表であろうと結果は変わらないのだが。

 

 

『ご静聴、ありがとうございました。・・・・・じゃあ次は()()ターンだよ!』

 

『!?アーキテクト、何を・・・っておいなんだ貴様ら! 離せ!!』

 

 

突然口調を変えた(戻っただけ)アーキテクトの指示で下級人形に拉致られるゲーガー。

場が騒然とする中で笑顔を崩さないアーキテクトは、指をパチンと鳴らした。

 

 

『さあさあ退屈な時間も終わりだ! これからは鉄血の意地の一品、こちらのご紹介だっ!』

 

『にゃ、ニャンだこれは! どういうつもりにゃアーキテクト!!』

 

 

裏から連れてこられたゲーガーは、服装自体に変化はないもののその頭にはネコミミのカチューシャが、腰には尻尾がついたベルトが巻かれていた。

 

 

『これがその新製品。 つけるだけでどんな人形も猫語に大変身の「にゃんにゃん装備」だ! IoPとの共同開発で得たデータをふんだんに使い、鉄血・IoPどっちの人形にも対応できるのだ!!!

・・・というわけでゲーガーちゃん、一言。』

 

『う、うるさい! 見るにゃ!!!』

 

「「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」

 

「いくらでも出すわ! 買いよ!!!」

 

「「・・・はぁ。」」

 

 

混沌とする場に頭痛を覚える代理人とペルシカは、血眼になっているヴァニラを置いて別のブースへと向かった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『狭い屋内や人質の救助に高火力な武器は使えない、音速で飛び回る航空機に戦艦では太刀打ちできない。 ではなぜ大型戦艦は消えないのか、取り回しの悪い武器が出回るのか。・・・・・答えは一つ、ロマンがあるからだ!!!』

 

『圧倒的火力! 絶えない弾幕!! 絶望するほどの資材消費!!!

諸君が、そして我々が求めたロマンがここにあるっ!!!

カモンっ! M61A2 バルカン!!!』

 

『ぃよっしゃー! 私がM61A2だ! 殲滅なら任せなっ!!!』

 

 

喉が裂けんばかりに叫ぶ15lab職員と、叫ぶと同時に銃身を回転、凄まじい勢いで弾(ペイント弾)をばらまくバルカン。

遠くの方が何やら大惨事になっているが本人たちはよほど楽しいのか全く気づかない。ついでにこんな変態のブースに見に来るような物好きたちも全く気にしない。

変に仲間だと思われると嫌なので、代理人たちはブースを後にした。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『戦術人形には女しかいない、何故だ!』

 

『人形たちとは契約できるが、それで恩恵があるのは男どもだけだ!』

 

『我々だって男性モデルの人形と契約したいっ! 優しい笑顔で「おはよう、指揮官。」とか言われたい!』

 

『そんな同志たちの願いを叶えるべく、我々はこの人形を開発した!』

 

 

移動した先のブースも大概だった。担当は11lab、全職員が女性というかなり珍しい部署である。

・・・ついでに全員が独身である。

しかし彼女らの魂の叫びとも言えるプレゼンで配られた資料は、代理人たちを驚愕させるものだった。

 

 

「・・・クリエイター? コンセプトも纏まりきっていないペーパープランだったはずでは・・・。」

 

『その通りだ代理人! というかよく来てくれた礼を言う! 我々に共感してくれた一部の鉄血人形が、このプランを提供してくれたのだ!』

 

『ほとんど決まっていないと言うことは、つまり好き勝手していいということ!』

 

「「いやそれはおかしい」」

 

『そして男型がいない現状に悩んでいた我々は思いついた。 ないなら作ってしまえと!』

 

「「うわぁ・・・」」

 

 

ここまで言っているが結局プレゼンまでには間に合わず、こうしてデータのみの公開となってしまったようだ。

とはいえいくら欲望にまみれていてもIoPの職員、先ほどの15labと同様、実際に運用できる程度にはまともなものである。

 

 

(大型牽引装備『ファクトリー』との併用、戦闘能力を犠牲にしているものの作戦領域での補給と修理が可能で、加えて周囲の物を加工できるため資材の節約にもなる。 大量の電力がネックではあるけど、それさえクリアできれば強力な前線移動基地・・・これはかなりいい線いってるわね。)

 

(初めから物量重視だった鉄血では必要性が薄かったものが、グリフィンにとってはある意味死活問題にも関わる、か・・・IoP製の鉄血人形というのは、なんとも皮肉なものですね。)

 

 

結局この場は比較的平和に収まり、11labは野望が一歩前進したことに歓喜の声を上げていた。

だが、これがのちにある騒動を巻き起こすのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『・・・以上で、我々16labの発表を終わります。 ご静聴ありがとうございました。』

 

 

パチパチパチパチパチ

 

 

「いいんじゃないかしら。」

 

「まぁもともとスキンは趣味嗜好の方だから、どれだけ欲しがってもらえるかよ。 性能なんて二の次でいいわ。」

 

『では続きまして、17labの皆さんです。』

 

 

16labの発表は成功を収め、観衆の手応えもそれなりのものだった。

やはり世の中には、義理でもいいからチョコが欲しいと思う男性指揮官が山のようにいるのである。

 

 

「さて、あの変態たちが何を出してくるか・・・。」

 

「ロクでもないもの、というのははっきりしていますが。」

 

 

客席に戻ってきたペルシカは代理人と合流する。

そして壇上に現れる17labの面々。その容姿は、どこにでもいるような普通の研究員だ。

 

 

『えーでは、早速ですが我々17labのスキンを発表したいと思います。・・・モデルさん、こちらへ。』

 

「「・・・・・・・・・・・え?」」

 

 

発表者の合図で出てきたのはえらく小さい人形。だが、この場にいる人間にはそれが誰であるかすぐにわかった。

特徴的な赤いコートと茶色のブーツ、そして彼女を象徴するボルトアクション式の狙撃銃。

そんな特徴がなければわからないくらいまで縮んだ『リー・エンフィールド』がそこにいた。

 

 

『これが我々の新スキン、「幼き日々」です。 ・・・では皆様、あちらをご覧ください。』

 

 

言われるがままにそっちを向くと、会場の端の天井から的が吊り下げられている。

と、突然銃声が鳴り響き、数百メートルは離れているであろう的の中心に穴が開く。ちっこいリーエンフィールドが構えている銃からは、煙が上がっていた。

 

 

『いかがでしょうか。 ただ小さい体にメンタルモデルを移すだけではなく、姿勢の固定から反動制御、リロードや移動の際の身長差のズレを各人形ごとに個別に設定することで、自身よりも大きい銃を軽々と扱えるのです。』

『移すだけではなく、姿勢の固定から反動制御、リロードや移動の際の身長差のズレを各人形ごとに個別に設定することで、自身よりも大きい銃を軽々と扱えるのです。』

 

『加えて本体が小型化したことのより隠密性が高まり、閉所への侵入も可能となりました。 もちろん、小さいからといってパワーが落ちることはありません。』

 

『そして何と言っても可愛いのです!』

 

「「・・・あぁ、やっぱり・・・」」

 

 

誰だこんな変態に技術を与えたのやつは。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

その後も細かな仕様や実装予定の人形を説明して終わりとなり、いよいよ採用されるスキンが発表される。

とは言えスキンという名の別物をくりだした17labが採用されるのがほぼ確定しているため、特にこれといった盛り上がりはなかった。

ペルシカをはじめ16labの職員も最初はがっかりした様子ではあったが、今は片付けも終えて整列している。

 

 

『・・・え〜、であるからして、我々の意義は・・・』

 

「・・・長いわね、社長の話。」

 

「そして意外とアーキテクトがちゃんと聞いてるのね。」

 

「いえ、姿勢を固定したままスリープモードに入っているだけです。」

 

「人形すげぇ。」

 

 

とまあ長い長い話を聞き終え、ようやく結果発表に移る。壇上に上がったのは、クルーガーだ。

 

 

『IoP、ならびに鉄血工造の技術者諸君、今日は素晴らしいものを見せてもらった。 長く話しても仕方がないから、早速結果を伝えたい。』

 

「といっても、今回は17labにとられただろうからねぇ。」

 

「次回はリベンジ、ってとこですね。」

 

『今回採用されるスキンは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17labの「幼き日々」と16labの「通じ合う心」だ。』

 

「「「「「・・・・・・・・・え?」」」」」

 

「ちょ、ちょっといいですかクルーガーさん。」

 

『あぁ、皆の疑問はよくわかる。 なぜ二つも採用したのかだが、これにはちゃんと理由がある。 ・・・ヘリアン君。』

 

『はい。 本来一つのみを採用とし、協議の結果17labの採用に決まった・・・のですが・・・。』

 

「「「?」」」

 

『・・・・・バレンタインスキンを実装した場合の収益、そして実装しなかった場合に起こるであろうトラブルを避けるため、異例の決定となりました。』

 

「トラブル?」

 

『・・・それだけチョコが欲しい、と言うことだ。』

 

『ちゃんと目を見て答えてくださいクルーガーさん。』

 

 

こうしてコンペは終了、採用されたスキンは時期をずらして実装されることになった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・で、結局この対決はドローってこと?」

 

「あっちからはなにも言ってこないからどうでもいんだけどね。」

 

「代理人! これ付けて接客したらもっと売り上げが伸びると思うんだけどどうかしら!?」

 

「お断りします、というかどれだけ買ったんですか?」

 

「おばあちゃん可愛いよ! とっても似合ってるよ!」

 

「ククッ・・・い、いい感じよナガン・・・プッ!」

 

「くっ・・・覚えておれよ指揮官、あとで後悔させてやるからにゃ。」

 

『・・・続いてのニュースです。 本日の昼ごろにIoP社の11labにて爆発が発生、一体の人形がトラックを奪って逃亡しました。』

 

「「「「「・・・・・・・は?」」」」」

 

 

end





というわけで、『初の二部構成』で『コラボ(?)回』で『複数コラボ』というやりたいこと全部詰めた回でした!
反省はするが後悔はない!

今回はあくまでちょい出しで、今後はそれぞれを絡めた話も書きます。



というわけでキャラ紹介・・・今回は多いなぁ。

16lab
言わずもがなペルシカの所属する部署。
AR小隊作ったりM1887のAI作ったりスキン作ったりと結構色々してる。原作からして頭のおかしそうな連中なのに他の部署を盛り上げたせいでかなりまともに見える。

17lab
今回の元凶。
クソ真面目な顔で「可愛いは正義」と言いきる連中。
個人ではペルシカが最も優秀な研究員だが、部署単位で見ると最も優秀で最もバカなのがここ。
邪念も下心もなしにロリスキンを作り上げた。

15lab
大艦巨砲主義に魅入られた熱い部署。
稼働可能な範囲で限界まで火力を上げようとするため、資材消費は二の次になる。
戦艦大和、スツーカ攻撃機、超重戦車マウスが彼らの理想らしい。

11lab
女性オンリーの部署。全員独身。
よく誤解されるが別にBL好きというわけでは無い。
女性指揮官のために、というスローガンを掲げているが努力の方向性が色々違う。

鉄血工造グループ開発部
こんな肩書きになっているが対外的に必要になった時だけそう名乗っているだけでこんな部署はない。
というのもアーキテクトを中心に好き勝手作ったり実験したりとしているだけなので、別に目的もなにもない。
なんかいいのができたら製品化するのでそこそこの存在意義はある。

M1887
原作では鉄血の技術を使ったIoP製だが、今作ではIoPの技術を使った鉄血製。性能は原作と同じ。
この後、AR小隊に組み込まれる。

にゃんにゃん装備
全人形対象の猫語尾変換器。
カラーリングも白や黒など全五色。ただのカチューシャや尻尾付随のベルトではなく、ちゃんと本体とリンクさせることができるので耳も尻尾も動く。
お値段1000ダイヤ。

M61A2 バルカン
odsnakeさんの作品「破壊の嵐を巻き起こせ!」より。
圧倒的火力と弾幕、資材(弾薬)消費を誇る人形。申請時の扱いはマシンガン。弾薬庫と給弾ベルトを背負いながらもそこそこの機動力を持つため、資材消費にさえ目を瞑れば優秀な人形、資材消費にさえ目を瞑れば。

クリエイター
夜刃さんの作品「鉄血の旧式人形」より。
自分が知る限りドルフロ二次作品唯一の男性人形。
ファクトリーと呼ばれるコンテナ型装備によって様々な武器や資材を生み出せる。本体の戦闘能力は無いに等しい。
バルカンと組み合わせるとより効果的な運用ができるはず。
元作品と同じく脱走。

リー・エンフィールド
初登場がロリスキンというある意味不遇な人形。
彼女自身はいたって普通の人形である。

ロリスキン
人形を小さくする意味があるのかを考えた結果、こんな理由をつけてしまった。可愛い。
銃の持ち運びがすごく不便そうだけど特に気にしない。可愛い。
UMP9のロリスキン出してくれませんか運営さん。


以上です。
総文字数が4500越え、三作品とコラボ、後書きですら1,200時オーバー。
承諾してくださいました作者の皆様、本当にありがとうございました!!!

・・・やりすぎたかなぁ


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第十六話:米英戦争

ドルフロでカフェといえば春田さんなのに今の今まで一度も出てこなかったことにやっと気づいた件。

・・・初登場がこんなんでいいんだろうか?


 

「紅茶なんてこの世から無くなってしまえばいいんですっ!」

 

「それをいうならコーヒーこそ! あんな苦いだけの飲み物の何がいいんですか!」

 

「お、おい二人ともそのくらいに・・・」

 

「「指揮官は黙っててくださいっ!」」

 

「・・・なぜその喧嘩をうちでやるんですか?」

 

 

開店早々の喫茶 鉄血。

モーニングメニューの香りが漂う店内で、そんな優雅な朝をぶち壊しているのは珍しく激怒するスプリングフィールドと同じく怒りをあらわにするウェルロッドMkⅡ、そんな二人に挟まれてなだめようとするもあえなく沈む指揮官である。

 

 

「コーヒーは苦いだけではありません! 渋みやほのかな甘み、そしてあの芳醇な香りがあります! たとえ苦くとも砂糖やミルクを加えれば子供でも飲めるんです!」

 

「はっ! ただ豆を焦がしただけでしょう! なにより紅茶には我が祖国と同じく長い歴史があり、古くから愛されている飲み物なんです!」

 

「ただの豆というなら、そっちこそただの葉っぱじゃないですか!」

 

「うるさいですね! それに昔の偉い人が言ったんです! 『コーヒーは下品な泥水』と!」

 

「泥水!? 泥水と言いましたね!? ただの葉っぱの出汁のくせに!」

 

「ちょっとそれ私の国のお茶にも言えるんですか!?」

 

「どっから出てきた一〇〇式!?」

 

 

ご存知の通りスプリングフィールドは司令部内でカフェを経営している。司令部内とは言っているが一般用の入り口もあり、基本的に誰でも利用できる。彼女はこんなことを言っているが別に彼女のカフェに紅茶や日本茶がないわけではない。

じつは今回の発端にはこの指揮官が関わっている。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おはようスプリングフィールド、コーヒーを頼む。」

 

「おはようございます指揮官。 ちょうど淹れ終わったところですよ。」

 

「ありがとう・・・あぁ、やっぱり君の淹れるコーヒーは美味いな!」

 

「ふふっ、ありがとうございます。・・・やった!

 

「・・・指揮官、私も紅茶を淹れてみたんだ。 飲んでくれ。」

 

「ん? ウェルロッドか、ありがとう・・・うん、美味い。」

 

「そうだろう? やはり()()紅茶の方が美味いだろう。」

 

「ん?」

 

「あらあら何を言っているんですか? ()()コーヒーの方が美味しいですよね指揮官?」

 

「え?」

 

「・・・どうせ安物の豆でしょう。」

 

「・・・そちらこそ、そこのスーパーの茶葉なのでは?」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「お、おい二人とも・・・」

 

「表に出なさいウェルロッド。」

 

「売られた喧嘩は買いますよ。 指揮官も来てください。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・痴情のもつれですか?」

 

「代理人、そんな冗談を言うなら助けてくれ。」

 

「「指揮官、聴いてますか!?」」

 

「あ、あぁ勿論だ。」

 

「自業自得です。」

 

 

結局この二人にとってコーヒーや紅茶などただのきっかけに過ぎず、要は指揮官への熱烈なアピールのつもりだと言うわけである。

・・・わかりづらすぎる。

 

 

「大変ですね、あの二人も。」

 

「で、あなたはもういいんですか?」

 

「はい。 だって本気でお茶のことを悪く言ってるわけではなさそうですし。」

 

 

まぁ実際スプリングフィールドの母国はコーヒーも紅茶もよく飲むし、ウェルロッドの方も決してコーヒー撲滅主義というわけでもない。

ついでに一〇〇式は彼女らがなぜムキになっているのか知っていながら混ざった愉快犯である。

 

 

「・・・この際だから色々聴いておきましょうか指揮官?」

 

「な、なんだ?」

 

「去年の末の頃ですか、モシン・ナガンと二人で部屋にいたそうですが・・・あれはどういうことですか?」

 

「最近ではKarともよく居ますよね。・・・説明、してもらえまうか?」

 

「待て待て! まずモシン・ナガンだが、あれは彼女が何か悩んでそうだったから話を・・・」

 

「お酒を持ち込んでいましたよね?」

 

「そ、それはちょうど手元にウォッカがあったかr」

 

「部屋から出てきたのもずいぶん遅くでしたよね?」

 

「は、話が盛り上がってな。」

 

「Karがいろいろ大きくなった時はずいぶんと挙動不審になっていたようですが?」

 

「自分とこの人形が突然でかくなったら驚くだろう!?」

 

「鼻の下、伸びてましたよ?」

 

「抱きつかれたからびっくりしただけだ! 部下に邪な気持ちを持つなど、言語道断だ。 君たちも嫌だろう?」

 

「・・・嫌じゃないに決まってますよ。」

 

「・・・このニブチン指揮官。」

 

「???」

 

「ふふっ」

 

 

もうここまでくると呆れるとかを通り越して微笑ましくなってくる。

とりあえず一応落ち着いたようなので、、助け舟を出すことにする。

 

 

「二人とも、あなたに感謝の気持ちを伝えたいだけですよ。 ね?」

 

「ん? そうなのか?」

 

「へ!? え、えぇ、まぁ、その・・・」

 

「部下をねぎらうのは上官の責任ですが、部下の好意を受け取るのも、大事な役目ですよ。」

 

「こ、好意って! そんなんじゃなくはないけど・・・

 

「よくわからんが、要は私のためにと思ってくれていたのか?」

 

「「(コクコク)」」

 

 

すでにキャパシティの限界に達しつつあるような真っ赤な顔で頷く二人。どんだけピュアなんだよ。

一〇〇式の顔に愉悦が浮かんでいる。

 

 

「二人とも、指揮官のことが大好きですからね。」

 

「「ひぇ!?」」

 

「そうか・・私も二人のことが好きだぞ。(部下として)」

 

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

「あ、スリープモードになっちゃった。」

 

「え!? 何かおかしなことを言ったか!?」

 

「・・・二人とも本当に、苦労しますね。」

 

 

指揮官にとっては何が何やらよくわからないまま事態は収束、気絶した二人をとりあえず車に運ぶことになるが、いつのまにか一〇〇式が消えていたので指揮官一人で運ぶ。

・・・一人ずつ、()()()()()()で。

 

 

「あれがナチュラルにできるんですからすごいですよね〜(パシャリ)」

 

「・・・手伝わなくていいんですか?」

 

「この方が面白いので。(パシャリ)」

 

「その写真はどうするつもりで?」

 

「司令部内の広報部に渡します! 面白いものができますよ(ククッ)」

 

 

二人を運び終えたところで一〇〇式が全員分の代金を支払い、いいものが見れましたと言って車に向かう。

手を振って見送った代理人はフッと息をつくと、店内に漂う嫉妬の空気をどうにかしようと思案する。

カウンターの中を見渡して目に入ったのは、先日ヴァニラが置いていったネコミミと尻尾付きベルト。

 

一瞬迷った代理人は、苦笑いを浮かべながらそれを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の喫茶 鉄血の売り上げは過去最高を記録したという。

 

end




コーヒー好き、紅茶好きの皆さん、本当に申し訳ございませんでしたあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!(スライディング土下座)

リアル司令部にウェルロッドが来てくれたので出しました!
そしてこの指揮官にイラッ☆ときた皆さん、壁殴り代行のご案内ですよ。(◯◯◯ - □□□□ - △△△△)


ではではキャラ紹介

スプリングフィールド
指揮官ラブ勢。
指揮官の「おはよう」を正面で聞きたいがためにカフェを開いた。でも肝心なところでヘタれる。
指揮官の周りにいろんな人形がいることに危機感を覚える。でもヘタれる。
物理的に独占してしまおうかとも考えるくらいには危ない人形。それでもヘタれる。

ウェルロッド
指揮官ラブ勢。
銃の特性上、裏方(暗殺等)が主目的となるため、表立って活躍できないこと(=指揮官に褒めてもらえる機会が少ないこと)に不満を持っているが、指揮官のためにできることをやり遂げるという健気な子。
バレンタインスキンの対象に選ばれたその日、一日中ニヤケ顔だった。
彼女のいう昔の人とは、1964年のソビエトで蛇のサポートを務めたダンディな英国紳士のことである。

一〇〇式
久しぶりの登場。
司令部を含めこの地域一帯に日本文化を広めている。
とりあえず食いついただけで日本茶がどう思われていても構わないというスタンス。
他人の修羅場で飯がうまい。

指揮官
今更ながら本作のオリキャラ。
なんどもいうが朴念仁であり天然ジゴロ。
キタローや番長もびっくりの鈍感っぷりだが、それに惹かれる人形もいるため、実際にはどれだけの人形が彼のことを好きなのか不明。
遠回しな告白はSMG並みに避け、正面突破も防弾チョッキ装備のSG並みに通らない。そのくせ無自覚に吐く愛の言葉はMG級の連射・RF並みの威力・AR並みの命中率を誇る。
指揮官の「頑張れ」だけで部隊全員に強力なバフがかかる。
爆ぜろ。



以上です!
また次回もお楽しみに!


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第十七話:受〜難は続く〜よ〜、ど〜こま〜で〜も〜

コラボ回の伏線回収。

逃亡の果てに彼がたどり着いたところは・・・
はい、いつものとこです。


一見いつも通りに見えるS09地区の街、だがそこに暮らす人々からすれば明らかに異様な光景だった。

街を見回る警察がいつもより多く、しかも皆緊張した面持ちでいた。さらに近くの司令部から人形部隊も警備に加わっており、その装備も対人用ではなく対人形装備である。

そして、街のいたるところに張り出される手配書には、人相の悪そうな顔が写っていた。

 

 

「・・・では、我々はこれで。」

 

「はい、ありがとうございました。」

 

 

この地区にひっそりと(というにはいろいろ目立っているが)開かれている喫茶 鉄血の店内にも同様の手配書が配られていることから、事の重大さがうかがえる。

 

 

『・・・本日未明にS09地区郊外で発見されたトラックはIoP社のものであり、先日発生しました人形脱走事件の際に強奪されたものと一致しました。 同地区の警察ならびにグリフィン部隊は警戒レベルを上げるとともに、周囲への注意を呼びかけています。』

 

「・・・確認ですが、()には大した戦闘能力がないんですか?」

 

「設計上では、そう聞いてるわ。 けどファクトリーと一緒に逃亡した以上、必ずしもそうとは言い切れないわね。」

 

「人形はスティグマを結んだ銃でなければ性能が著しく低下する、鉄血もIoPも同じはずでは?」

 

「その通り。 でも銃の威力とかが落ちるわけじゃない、ただ上手く扱えなくなるだけ。 ばらまくだけならMGを、命中精度なら追尾式のロケットランチャーを作ってしまえばいいだけだからね。」

 

「・・・そうならないことを祈っていますよ。」

 

 

この騒動を起こしたのは、IoPの11labから逃走した新型人形(第十五話参照)、機体名「クリエイター」である。

この一件で11labは相当のお叱りと大量の反省文を課せられ、事態の沈静化には他の部署にの人間が当たることになっていた。その中で、代理人ら旧鉄血組と面識のあるペルシカに白羽の矢が立ち、彼女経由で鉄血に協力を依頼することとなっていた。

 

 

「と言っても、その頃にはすでにアーキテクトたちが動いていましたが。」

 

「本当に思い切ったことをしてくれたわね。 クリエイターの識別コードに反応する小型発信機を詰め込んで、改造したジュピターで撃ち出すなんて。」

 

「・・・結果的におおよその位置は絞り込めましたが、グリフィンは随分と慌てたそうで。」

 

「・・・あれが実弾だったら今頃大惨事よ。」

 

 

そうした諸々の調査でS09地区周辺に潜伏していることが判明したわけである。

一通り店での聞き込みを終えたペルシカが店を出る。こんな状況だからか店内の人間は数える程度しかおらず、残った彼らも帰り支度を進めている。

残りの業務を部下に任せると、代理人は()()()()()()()()()()二階の自室に上がった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「どうぞ。」

 

「・・・あぁ、助かる。」

 

「ありがとうございます。」

 

「・・・正直、私はあなたのことをもっと真面目な子だと思ってましたよM()4()。」

 

「私は私の判断で、彼を連れてきただけです。 この方がグリフィンにとっても、彼にとっても良い結果になると思いましたから。」

 

「・・・・・。」

 

「悪いようにはしませんから、少しは警戒を解いてはどうですか? ()()()()()()。」

 

 

喫茶 鉄血の二階、代理人の自室にいたのは件の人形「クリエイター」と、クリエイターをここに連れてきたグリフィンの人形「M4」であった。実を言えば本格的な捜索が始まる前にクリエイターはAR小隊に発見され、捕獲済みであったのだ。

 

 

「ヘリアンさんやクルーガーさんが聞けばなんというでしょうね。 脱走犯を匿い車両を全く別の場所まで運転し、発見された頃にはすでに街の中。」

 

「俺がいうのもなんだが、お前本当にあのグリフィンのエリート部隊なのか? 完全に共犯者だぞ。」

 

「双方に利のある結果に、というのが表向きの理由です。 ・・・理由はどうあれあなたは自由を求めて行動した。 私はその行動を支持しますし、幸いまだ死傷者は出ていません。」

 

「あなたが連れてきたときは、何やら良からぬウイルスにでもかかったのかと思いましたよ。 ・・・まぁ、頼られたからには応えないといけませんね、()()として。」

 

「もう! からかわないでくださいよ!」

 

 

当事者を残してワイワイ盛り上がる二人。 さてと、と一言置いて、

 

 

「悪いようにはしない、とは言いましたが、脱走の動機が不明では説得も何もできません。 話してもらえますか?」

 

「・・・・・・・・・・身の危険を感じた。」

 

「「・・・・・は?」」

 

「だから、身の危険を感じたと言ったんだ。 ・・・あの研究者どもの欲望のはけ口にされるぐらいなら、ここから逃げてやろうと思っただけだ。」

 

「「納得しました。」」

 

 

実際のところ、11labの面々の欲望で作られたのは事実であるが別に彼女らは人形に欲情するわけではなく、クリエイターが(性的に)襲われることはない。

・・・多分。

 

 

「ならこんな機能はいらんだろう! 戦闘の邪魔になるだけだ!」

 

「・・・その点だけは概ね同意します。 が、あって良かったという声も一応ありますので。」

 

「AR-15も、そう言ってましたね。」

 

「・・・ハニートラップでもやれと?」

 

 

そりゃ戦闘用として作られたと思ってたのにガッツリ余計な部分まで作りこまれていたら逃げたくもなる。というか逃げた。

 

 

「つまるところ、あなたは本来の運用を希望していたものの、それが叶いそうになかったから脱走したと。」

 

「あぁ。」

 

「・・・まぁあの研究所なら否定できませんが、グリフィンならちゃんと運用してくれるはずですが。」

 

「・・・信用できん。 それに俺自身、活躍の場がそうそうあるとは思えんからな。」

 

 

身もふたもない。

が、実際彼を運用する場面は極端に限られるだろう。戦争ならいざ知らず、テロかデモ相手のこのご時世ではファクトリーを出すほどのこともなさそうだからだ。

このままでは彼の要望を伝えて互いの納得する形で収める、という手が使えない。IoP製とはいえ設計元は同じ鉄血、研究所に戻されて初期化されるというのはちょっと不憫だと考えて匿っているが、何かいい手はないだろうか。

と悩んでいるところで階下が騒がしいことに気がつく。

 

 

「ちょ、おい待て! そこから先は従業員以外t」

 

「うるせぇ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

ドタバタと足音を響かせながら階段を上がり、ドアを勢いよく開けて(施錠していたが壊れてしまった)入ってきたのは代理人も見覚えのありそうな人形。

バルカンだった。

 

 

「見つけたぞM4! さぁここにサインを書いてくれ!」

 

「ってこれ入隊許可証じゃないですか! その話はお断りしたはずですよ。」

 

「ヘリアンからもペルシカからも断られたから、AR小隊の隊長であるアンタに直訴してるのさ!」

 

「勘弁してください!」

 

 

やいのやいのと騒ぐ二人と置いてけぼりの二人。

彼女が暴れまわれる日は来ないだろうなぁ、と考えていた代理人に閃きが走る。

 

 

「・・・これなら、いけるかもしれません。」

 

「「「・・・・・へ?」」」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

数日後、某国国境付近

 

政治的にデリケートなその場所を活動拠点とするテロリストたちは恐怖していた。眼下に広がるのは装甲車両や銃器の残骸、そしてそれらの真ん中を悠々と進む二体の人形。

彼らは事前にグリフィンが人形を投入したことを知っていた。しかしその数わずか二体で、こちらには装甲車両もロケットランチャーもある。物の数ではないと思っていた。

ところが戦闘開始わずか数分でその楽観は覆る。

誰が想像しただろうか、うなり声のように駆動音を響かせながら無数に弾をばらまく人形がいるなどと。装甲車両(といってもトラックに鉄板を貼り付けて武装した程度)はあっという間にスクラップにされ、積み上げた土嚢は同量の土の山になる。

だが彼らもテロとはいえ武器を扱うという意味では一流だ。あの手の銃は数秒、長くとも数十秒も撃ち続ければ弾切れになる。だからひたすら耐えた。

耐えて、耐えて、耐え抜いて・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば拠点まで押し戻されていた。

どう考えてもおかしい、と思った頃にはすでに手遅れで、彼らの根城としている洞窟(山の斜面にいくつもの洞窟が蟻の巣のように掘られている)から頭すら出せない状況だ。

いや、あの無限とも言える弾幕のカラクリ自体はなんとか掴めた。満面の笑みで弾幕を張る人形の後方、やたらと大きな箱のようなものを牽引しながら追従しているもう一体の人形だ。ヤツから無尽蔵に弾を受け取っているからこその芸当だ。加えて部下の一人からこんな証言もあった。

 

 

「あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ! 『ヤツが鉄板を箱の中に入れたと思ったら弾が出てきてた。』 な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何が何だかわからなかった」

 

 

全くもって意味不明だったが、それが今目の前で行われていれば信じざるを得ない。

鉄板、車のパーツ、銃器などなど、あらゆるものを放り込んでは弾を吐き出すあの箱はなんなのかと。

 

 

「く、だがまだ負けちゃいない。 どういう理屈かは知らんが周りの廃材がなけりゃ弾も作れんようだ。 このまま持久戦に持ち込めば・・・」

 

「流石に拉致があかないねクリエイター。 なんか一発ドカンとできるのない?」

 

「ドカンよりも燃やす方が楽そうだ。 ありったけの焼夷グレネードでも投げてみるか?」

 

「おぉいいねぇ! で、出てきたところを・・・」

 

「わかった! 降参する! だからそれはやめてくれ!!!」

 

 

こうしてまた一つ世界からテロが消えたのである。

この実地試験の結果を受け、グリフィンは彼らを自由遊撃部隊として認定、ついにクリエイターとバルカンは日の目をみることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇクリエイター。 連射速度をもっと上げたいんだけどなんとかならない?」

 

「全体的に改造を施すことになるが、可能だ。」

 

「よし! じゃあグリフィンにもそう伝えるね!」

 

 

クルーガーが頭を下げて取り下げてもらったのは言うまでもない。

 

 

end




弾薬超高燃費人形 + 資材自己生産人形 = 無限銃

この二人のおかげで密かに考えていたクロスオーバー(バイオ2の無限ガトリング)が使えなくなったよコンチクショウ!
ちなみにあのまま籠城されても、上空からヘリで鉄板を落とすだけで補給できるので実質いつまでも戦えます。

(二人が恋に発展することは)ないです。


というわけでキャラ紹介・・・ほとんど他作者様のキャラだけど。

クリエイター
脱走に定評のある人形。
元作品では旧式人形だが、今作では新型という真逆の立ち位置。脱走直後にたまたま任務帰りのAR小隊に見つかり、彼女らの協力を得てここに至る。
若干女性不信で、さらに人間に対してかなり懐疑的。なので、打算も何もないバルカンはかなり付き合いやすいらしい。

バルカン
元作品をご覧なった方ならわかるはずの極悪燃費人形。レベリングすら苦労しそうだ。
当初はAR小隊に配属される予定だったのだが、その燃費と運用方法で却下され、訓練以外まともに銃を握っていない。
今回クリエイターに出会ったのは全くの偶然だが、知っていればもっと早くに突撃していた。
自身の欠点を補ってくれるということで、少なからず感謝の念を持っている。

テロリストの皆さん
どこにでもいる連中。やられ役。
BGMはこち亀。



次回は番外編!
お楽しみに!


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番外編4

待たせたな、番外編だ!
思えば三作品とコラボしたり前後編やったりと結構ネタが溜まってしまった・・・まだまだ物足りないけどな!

というわけで今回はコラボ回のその後のお話が多め+α

・二つの世界と一つの店と
・方言女子
・人形がちょっと素直になるお薬
・「ケースレス弾にしたら効率が上がるのでは?」

の四本立て!



番外4-1:二つの世界と一つの店と

 

カランカラン

 

「いらっしゃいまs・・・あらユノちゃん。 一人?」

 

「こんにちは代理人さん。 お母さんたちは司令部でお話があるから後で来るよ。」

 

「そう。ご注文は?」

 

「う〜〜〜ん、オレンジジュース!」

 

「かしこまりました。 ご一緒にケーキはいかがでしょうか?」

 

「じゃあそれも!」

 

「かしこまりました。」

 

 

そう言うと早速準備に取り掛かる代理人。

ユノの方はちょっとでも大人ぶりたいのか、子供が座るにはやや高いカウンター席によじ登るように座る。

そこでふと、机の端に置いてあるコインに気がついた。

 

 

「あれ? これって・・・」

 

「ん? あぁすみません。 そこに置いたままでしたね。・・・・・どうかしました?」

 

「ん〜〜〜〜〜〜、わかんない。 見たことないけど、見たことあるような。」

 

「・・・・・。」

 

 

やっぱりわかんないや、と言うとその()()()()()()()()()()()コインを代理人に返す。

にへ〜と笑う彼女に、もう会うことのない友人を重ねる。

受け取ったコインを大事そうにポケットにしまい、トレーを持ち出す。

 

 

「はい、オレンジジュースとスペシャルケーキですよ。」

 

「わぁ〜〜〜〜〜!!! いただきまーーーす!!!」

 

 

 

この後、彼女を迎えに来たレイラが伝票と娘の顔を見比べ、涙をこらえながら支払ったという。

 

 

 

「何故一番高いケーキを進めた!?」

 

「子供の笑顔はプライスレスですよ。」

 

end

 

 

 

番外4-2:方言女子

 

「ほなさいなら〜」

 

「おおきに〜」

 

「なんでやねん。」

 

「・・・・・。」

 

「何してるの? FAL。」

 

「あなたのせいでしょうが!?」

 

 

現在、一部の人形の間では方言ブームが起きている。そのなんとも形容しがたいゆるい言葉遣いが受けたらしい。

その火付け役?となったのが、FALとG11である。

 

 

「あなたがっ! あのことをっ! 言いふらいたからでしょっ!!!」

 

「あのことってどのこと?(ニヤッ)」

 

「そ、それは・・・くっ・・・」

 

 

広まった理由は、FAL自身の油断(第十三話の最後)にあったわけだがなんとこの人形、それを他の人形に喋ったのである。

・・・人畜無害そうな外見でなかなかエグいことをしてくれる。

 

 

「そんなに方言を使いたいなら本人に直接聞いたらいいじゃんか。 ほら、噂をすれば。」

 

「なんやなんや、気ぃついたら似非方言で溢れかえっとるわ。 なんやこれ?」

 

「FALが、指揮官の気を引こうとして練習したのが始まりだよ。(嘘)」

 

「ちょっ! 違っ!?」

 

「ふ〜ん? そんなんで気ぃ引けんの?」

 

「・・・あなたが思ってるより、その喋り方はその、可愛いのよ。」

 

「あっはっはっはっはっ! そらおおきに。 けどウチはこの話し方しかできへんからなぁ。 別に狙ってやっとるわけやないで。」

 

「そうだけど・・・。」

 

「人間、自然体が一番や。 それはウチら人形も変わらへん。」

 

「・・・そうね。 ありがとう、なんだかスッキリしたわ。」

 

「うんうん、それでええんや。・・・・・あ、指揮官! 今からお昼か? 一緒に行かへん?」

 

 

すごい猫なで声だ。それはもうすごい変わり身である。

 

 

「・・・・・・。」

 

「方言は狙ってないけど、自分の強みはわかってるみたいだね。」

 

「・・・やっぱり方言使う。」

 

end

 

 

番外4-3:人形がちょっと素直になるお薬

 

「というものを作りました。」

 

「素晴らしい!」

 

「そして早速投与した被験tゲフンゲフン・・・協力者がこちら!」

 

「・・・・・。」

 

「あれ? アーキテクト様、失敗なんじゃないんですか?」

 

「そんなはずは・・・おーい、ゲーガー?」

 

「・・・・・や、やっぱり無理だ!」

 

 

顔を真っ赤にして脱兎のごとく逃げ出すゲーガー。

予想外の反応に固まる開発陣(アーキテクトたち)

だが実験は成功したと考えたアーキテクトらは、かねてより渡すことを決めていた協力者たちへ残りの試作品を渡すことにしたのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「こ、これが・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

受け取ったのはなかなか素直になれない二人の人形(スプリングフィールドとウェルロッド)。お互いに目配せし合い、意を決して一気飲みする。そしてすぐに実感する。

これはヤバイ。

体の芯から熱くなるような、いや、何かを求めるような熱にどうにかなってしまいそうだった。

時計をチラッと見る。この時間ならまだ指揮官は執務室だ。そしてこの時間のは大抵仕事が片付いている。

 

 

「・・・お、女は度胸です。」

 

「戦術的撤退は・・・ありえません。」

 

 

覚悟を決めた二人はすぐさま、しかし火照った体のせいで無駄に時間をかけながら、執務室へと向かった。

たっぷり数分かけてたどり着く二人。この扉の奥に思い他人がいるとなると、否が応でも体が求めてしまう。

 

 

「・・・行きますよ。」

 

「・・・ええ。」

 

 

ところでこの薬はまだ試作段階である。

しかもモルモっt・・・実験に協力してくれたのはゲーガーのみ、あまりにもデータ不足であった。

そのわずかなデータから得られたことが一つ

 

 

 

 

 

 

 

効果時間はわずか十分であること。

 

そして二人が扉を開いたまさにその時、ちょうど十分が経過した。

そしてこれはゲーガーからは得られなかったことだが、薬の反動はすぐに出る。その反動とは、一転して驚くほど冷静になること。当然服用中の記憶も残る。

さて二人は扉を開いたタイミングで薬が切れた。

これの意味するところはただ一つ、

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・ん? どうしたんだ二人とも?」

 

 

最愛の人がそこにいる、のだが今二人はそれどころではない。先ほどとは全く別の意味で体が、特に顔が熱くなり、声にならない悲鳴をあげて部屋から飛び出した。

 

この後、指揮官は二人に嫌われたと思い一人泣いたという。

 

end

 

 

番外4-4:「ケースレス弾にしたら効率が上がるのでは?」

 

弾丸とは弾そのものと薬莢に分かれる。対象に当てるのは弾の方であり、薬莢はいわばゴミである。もちろん拾って再利用すればいいのだが、戦場にばらまかれたそれを誰が好き好んで拾うというのか。

そんな無駄に最近気づいたクリエイターは、

 

 

「なぁバルカン。」

 

「ん? なんだ?」

 

「ケースレス弾なんてどうだろうか?」

 

「ケースレス弾?」

 

 

ケースレス弾とは・・・薬莢の出ない弾のことである。(雑)

詳しくはググるか某ガンスミスの武器紹介を見よう!

製造コストや使用面が限られること、湿気などに弱いといった欠点もあるが、クリエイターにかかれば何の問題でもない。

製造コスト?材料は現地調達だ。

使用面?はなから全部ケースレスにしてしまえば問題ない。

湿気?製造即使用なら問題ない。

 

 

「この際だからファクトリーから直接給弾できるようにもしよう。」

 

「そいつはいい! ・・・けど、ファクトリーの方は大丈夫なのか? 前線に出るわけだが。」

 

「装甲を追加すれば問題ない。 移動にしても、ファクトリー用の台車でも作ってしまえば解決する。」

 

「なるほど・・・ならやってみるか!」

 

 

さらっといっているがバルカン用のケースレス弾が作れ、しかもその方が安上がりというあたり、彼らがどれだけ規格外か分かることだろう。

のちにこの二人は、『人形版ボニー&クライド』と呼ばれることになるが、それはまた別のお話。

 

end

 

 




書きたいから書いた! 後悔はない!

・・・すみません、やりすぎました。


はい、というわけで解説です!

4-1
第十二話と「それいけポンコツ指揮官と(ry」の『不思議の世界のユノちゃん』で置いてったコインを回収。
なんとかこの二つの世界線のユノちゃんを繋げられないかと考えた末のこの話。
ちょっと不思議ちゃんになった気がしますが、愛嬌ということで。
スペシャルケーキ:1,500円

4-2
第十三話の後日談。
方言女子は方言を意識してないから可愛いと思います。
そしてなぜかG11が愉悦部に仲間入りしてしまうことに・・・まぁ同じ小隊があんな感じなら無理もないと思う。

4-3
第十六話の後日談。
・・・というよりこの薬を出したかっただけ。
構想自体は第五話を書いてる頃からあったものの、誰に飲ませるか決まらずに。春田さんに飲ませたらエロいんじゃないかと思います!
というかエロい!
で、またゲーガーが犠牲に笑

4-4
第十七話の後日談。
大した知識もないくせに書くからめちゃくちゃなことに・・・。
とはいえこの二人はなんか書きやすいんですよねぇ。
ところでガトリングの先に銃剣をつけて回すとグライ◯ドブレードみたいになると思うのは気のせいでしょうか?



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第十八話:いつも元気な子が珍しく落ち込んでるとめっちゃ可愛く見えると思います!

クリスマスツリーちゃん回。
初めてセリフを聞いた時はなんのことかさっぱりだったのはいい思い出。


「・・・・・。」

 

「おい、どうなってんだありゃ。」

 

「私に聞くなって。」

 

「ちょっと前からずっとこんな調子ですね。」

 

「心ここに在らず・・・ですね。」

 

 

喫茶 鉄血のテーブル席で話し合っているのは処刑人とM16、RO、M4の四人。その彼女たちの視線はカウンター席の隅に座っているSOPMODに向けられていた。

 

・・・おわかりいただけただろうか。あのSOPMODが()()()()()()座っているのである。

 

 

「明日はジュピターが降るのか?」

 

「縁起でもねぇよ。」

 

「本当にどうしたんでしょうか。」

 

「一度診てもらったほうがいいのでは。」

 

 

一人で静かに座っているだけでも異常なSOPMODだが、なんと彼女はこの状態で三十分近く座っている。おまけに何も頼まず、出された水にすら手をつけていない。ただ時折ため息を吐くだけであった。

通常ならこの手の客には代理人からの注意が入るが、今回ばかりは割と深刻そうなので代理人も触れられずにいる。

 

 

「・・・ちょっとちょっかいかけてくるか?」

 

「おいやめろ」

 

「大丈夫だって。 軽い世間話をするぐらいだ。」

 

 

そう言って席を立ち、SOPMODの方に歩み寄る処刑人。

 

 

「よおちっこいの。 今日は寂しく一人か?」

 

(((いきなり煽ったぁぁぁぁぁ!!!!)))

 

 

軽い世間話とはなんだったのか。

ちなみに処刑人から売ればこれでもかなり軽い方である。またSOPMODは『ちっこいの』と言われることをかなり嫌う。

・・・のだが、

 

 

「・・・ん? 処刑人?」

 

「お、おぅ。 お前が一人なんて珍しいからな。」

 

「・・・そう。」

 

「あぁ。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

席に戻る処刑人。

 

 

「・・・誰だあれ?」

 

「言いたいことはわかるがSOPMODだよ。」

 

「いやいやいやぜってぇ違うだろ!? あいつの皮かぶった別人って言われた方がまだわかるわ!」

 

・・・もしかして、私が黙って彼女のプリンを食べたから?

 

「・・・RO? 今のはどういうことですか?」

 

「はっ!? ち、違うのM4! あとで同じものを買ってきたらいいやと思ったら限定品だとは思わなかったの!」

 

「そもそも勝手に食べることがいけません! というかプリンと言いましたね? それは三日前のものでしょう? あれは()()プリンでしたっ!」

 

「まじかよRO・・・よりによってM4のを食べたのか?」

 

「ご、ごめんなさいぃ〜〜〜!!!」

 

 

とか無駄な寸劇が数分間行われ、その間もSOPMODは動くことはなかった。

もはや打つ手なし、と思っていたその時、新たな客が訪れる。

 

 

「お? なんだ、お前たちもいたのか。」

 

「よぅハンター、AR-15。 デートの帰りか?」

 

「えぇ・・・まぁ・・・。」

 

「周知の事実なんだから照れなくてもいいだろうに・・・初々しいねぇ。」

 

「オヤジ臭いですよM16姉さん。」

 

「で? 何かあったのか?」

 

 

このメンツとSOPMODを見ながら訪ねてきたハンターに、M16らがかいつまんで説明する。

 

 

〜〜〜〜五分後〜〜〜〜

 

 

「「恋だな(ね)。」」

 

 

あっさりと結論が出てしまった。

これでようやく疑問が解消され

 

 

「いやいやいやいやちょっと待て!?」

 

 

なかった。

結論を出した二人は首を傾げて『え、何かおかしなことでも?』といった感じだ。だが当然周りにはわからない。

 

 

「何がどうなってそうなったんだよ。」

 

「どうなったも、私がこいつを好きになった時も同じことをやったからだ。」

 

「わ、私もょ・・・。」

 

「惚気かよ。」

 

「ふ、ふん! 一生独り身のM16にはわからないことよ。」

 

「ま、まだ決まったわけじゃねぇし!」

 

「話が進まないので落ち着いてください。」

 

 

さて話を詰めて行くことになったわけだが、なるほど彼女らの言い分もわかる。

物憂げな表情、熱のこもったため息、時折緩む頬、そしてほんのり赤い顔色。言われてみればそう見えてくる。

だがそうなると別の問題が浮上する。

 

相手がだれか、である。

 

 

「いつからだ?」

 

「一週間ちょっと前から、ですね。 詳しくいつからかは覚えていませんが。」

 

「その間に何かあったか? 誰かに会うとか。」

 

「護衛と演習があったくらいです。 護衛の方は正直恋愛対象にはならないくらい歳が開いたおじいさんですし、演習の方もよく見知った相手なので。」

 

「・・・となると残りはプライベートで、か。」

 

「と言ってもあいつが一人になること自体がほとんどないからな。 私かM4にべったりだし。」

 

「ますますわかんなくなってきたぞ。 つか本当に恋愛沙汰なのかよ?」

 

「だが他に思い当たることもあるまい。 というか他のことならお前たちに相談するだろう?」

 

「ですよね・・・。」

 

 

謎は深まるばかり。カウンターの中にいる代理人の方を見ても、首を横に振ってわからないという意思だけが返ってくる。ペルシカにでも頼めば、彼女の記憶モジュールからいくつか候補を絞り込めるかもしれないが、自分たちの興味本位でSOPMODの純情(?)を踏みにじりたくはなかった。

 

万事休す、と思っていたその時、噂をすればということなのかペルシカが店に入ってくる。

いいタイミングだとペルシカを呼んで話をしようと声をかけようとしたその時、店内のだれよりも早く動いた人物がいた。

 

 

「ペルシカっ!」

 

「ゔっ!? そ、SOPMODか。 相変わらず元気だね・・・でもタックルはやめてほしいかな・・・。」

 

「あっ・・・ごめんなさい。」

 

「ふふっ、まあいいよ。 君は元気が一番だからね。」

 

「! ペルシカ〜!」

 

「「「「「「 ( °д°) 」」」」」」

 

 

ペルシカを見つけるなり弾丸のように突撃するSOPMOD。たびたび犬に例えられる彼女だが、もし今の彼女に尻尾が生えていたらものすごい勢いで振っていることだろう。

今の今までの雰囲気からは考えられないほどの変わり身である。

 

この後ペルシカは代理人にいくつか資料を渡し、代理人から袋をもらって帰っていった(こちらには気づいていなかったようだ)。

そして帰るまでの間SOPMODはべったり張り付き、別れた後もずいぶん嬉しそうな表情を浮かべていた。

というか相当嬉しかったのだろう。財布の中身も確認せずにスペシャルケーキと飲み物を注文、そこから先は終始にやけっぱなしだった。

 

 

「・・・・・おい、今のはなんだ?」

 

「わ、私に聞くなよ。」

 

「・・・ぺ、ペルシカは言わば私たちにとって親みたいなものですし、嬉しくなるのもわかr」

 

「落ち着け。 それと幾ら何でもあれは度を過ぎてるぞ。」

 

「で、でもあんなの普通じゃ・・・」

 

「あ、あのぉ〜〜。」

 

 

あまりの出来事に思考AIフル活用で整理を試みる人形たちに、逆に冷静さを取り戻したM4が発言する。

 

 

「そろそろ認めませんか。・・・SOPMODは、ペルシカのことが好きなのだと。」

 

「「「・・・・・。」」」

 

「・・・あれをみれば、そういうことになるな。」

 

「・・・はぁ、にしてもすげぇ変わり方だぞ。」

 

 

比較的早く落ち着きお取り戻した鉄血組。それに続くようにAR-15も復帰する。

が、M16とROだけは未だに現実に帰ってこれないでいる。

 

 

「・・・もしかして私ら・・・」

 

「だ、だめよM16! 言葉にすれば色々と終わってしまうわ!」

 

「そ、そうだな!」

 

「ん? ヘリアン(行き遅れ)コースってことか?」

 

「「かはっ!?」」

 

「ちょっ! こら、ハンター!」

 

 

とどめを刺され机につっ伏せる二人。ハンターとAR-15は知っての通りだし、M4は性別問わずモテる。 これは処刑人にも言えることで、加えて生活能力や女子力に欠けるであろうペルシカと一番子供っぽいと思っていたSOPMODに先を越されたという事実が重くのしかかっていた。

 

 

「・・・まぁひとまず一件落着ということですね。」

 

「そうね。 相手がわかった以上、私たちはあの子を後押ししてあげなくちゃ。」

 

「で、こいつらはどうするよ?」

 

「少ししたら復活するでしょうからこのままでいいでしょう。 ・・・それとRO?」

 

「な、何かしら・・・?」

 

「プリンの件は水に流してあげますから、支払いをお願いしますね。」

 

「・・・はい。」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「ねぇSOPMOD?」

 

「何? M4。」

 

「ペルシカさんのことはいつから好きになったの?」

 

「へぁ!? な、何のこと!?」

 

「(へぁ!?って・・・) 隠してるつもりかもしれないけど、この前の喫茶店のを見たら誰だってわかるよ。」

 

「見てたの!? っていうか居たの!?」

 

「居ましたよ。 ・・・で、答えは?」

 

「う・・・・・い、いつからかは分かんないけど、気がついたら離れたくないとかずっと一緒に居たいとか考えちゃって。 で、でも、

私は人形だし、ペルシカは多分、子供としてしか見てないから。」

 

「確かにそうだけど・・・」

 

「自分が後悔しないようにすればいいのでは?」

 

「あ、代理人。」

 

「AR-15もハンターも同じことを言っていましたし、二人の相談も受けましたからね。」

 

「・・・後悔しない、か・・・。」

 

「SOPMOD、私は応援するわよ、あなたのこと。」

 

「M4・・・うん! ありがとう! わたし、ちゃんと伝える!」

 

「うん、頑張って。」

 

「・・・ところで。」

 

「ん? なに?」

 

「M4と代理人って、なんだか親子みたいだね。」

 

「へぁ!?」

 

 

end




はい、というわけでSOPMODの恋心、でした!
AR小隊の誰か×ペルシカっていう案は前からあったんですが、めでたく彼女に決まりました。
この後SOPMODの告白があるわけですが、それはまた次の番外編で。


というわけでキャラ紹介です!

SOPMOD
今回のヒロイン。普段の無邪気さからは考えられないほどの純情っぷり。
ちなみに彼女が恋愛に興味を持ったきっかけはAR-15とハンターのおかげ。彼女からすれば理想のカップルらしい。
今作では鉄血と敵対していないので、人形分解という趣味はない。

M4
みんなご存知AR小隊の隊長。
ある一件(第八話)以来ちゃんとチームをまとめることのできる隊長らしい隊長になった。
『限定』という文字に弱く、甘い物好き。

M16
残念姉貴。
45といい彼女といい、やたらと残念なことになってしまった。だがわたしは謝らない。
一応フォローしておくと隊長であるM4のサポートからSOPMODの世話、比較的新参者のROの指導などをこなす優秀な人形。
・・・なのだがおれとプラマイ0、むしろマイナスにするくらいAIが残念。

RO
典型的な委員用気質・・・というのが最初期の設定。
気がつけばややポンコツ気味の人形になり、残念組に片足を突っ込んでいる。どこまでポンコツになるかは不明。
余談だが、彼女のスキル台詞に「お前の罪を数えろ」というものがあり、なんとかあの探偵たちとの絡みを作りたいと考えている。

処刑人
割と久しぶりの登場。
ドルフロ全体でも貴重な近接戦闘人形だが、今作でそれが活かされる場面はきっとない。
キャラとか口調とかが微妙にM16と被るのに残念にはならないのはなぜだろうか。

何時ものリア充
末長く爆発しろ

ペルシカ
よもや自分が作った人形から好意を向けられているとは思うまい。
いかにも不健康そうだが美人で色白で美人だからなんの問題もない。





おまけ・・・という名の鬱クラッシャー
(原作6ー4eより)

AR-15「じゃあ・・・元気でね、私の友達・・・」

M4「A・・・R・・・15・・・・」


オーディン「修正が必要だ」<タイムベント
天道「おばあちゃんが言っていた・・・」<ハイパークロックアップ
てつを「キングストーンフラッ!!!」


よし。これで未来を変えられる!


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第十九話:自由を求め・・・なくても自由な世界

コラボ回だぁぁぁぁぁ!!!

彼女たちが出る作品には「自由とは何か?」みたいな話がつきものですが、こっちは初めから自由なので無問題。


(じーーーーーーーーー)

 

「・・・あ、あの・・・」

 

「ほら、45姉頑張って!」

 

「Don’t worry, you can do it.」

 

「ほら、深呼吸深呼吸。」

 

 

特大寒波のせいで寒さの厳しい日が続く二月某日の金曜日。

喫茶 鉄血に訪れた404小隊はあまりの衝撃に言葉を失う。45はいつもの不敵な笑みから一転して随分間抜けな顔に、9も口を大きく開けてポカンとし、416は全思考AIがフリーズ、G11に至っては寝ぼけた目がかつてないほど見開かれている。

そんな彼女らの前にいるのは見慣れた人間と見慣れない人間、そして見慣れすぎた人形四人。

 

 

「あ〜、まさか君達もここに来るとはね。」

 

「ふむ、まさに想定外ですな。」

 

「いやいやいやいやちょっとなにこれどういうこと?」

 

 

ため息をつくペルシカともう一人の男性(首から17labと書かれた名札をぶら下げている)。

そして彼女たちの隊長であろうUMP45もどきはさっきからテンパったままあたふたしている。

 

 

「・・・まぁ想定外の遭遇だったからね。 私から説明するよ。」

 

 

そうして語られる404もどきたちの説明。

まず彼女たちはF計画(feedback=フィードバック)によって生み出された第2.5世代人形であること。F計画は文字どうり、日々成長する人形たちのデータを整理し、それを反映させたAIを搭載した人形たちを作る計画であること。

404小隊に

似ているのは、暇だ暇だとうるさい彼女らに訓練と称してデータを提供してもらったからで、その際隊長には話を通してあることを説明した。

 

 

「・・・45姉?」

 

「し、知らないわよそんなこと!」

 

「確かあの時君はテレビを見ながら話半分に聞いていたよね。」

 

「・・・どういうことかしら()()()()?」

 

「・・・・・11?」

 

「自業自得じゃん。」

 

「45姉のバカッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

地に伏したUMP45(ポンコツ)を放置して話を進める。

 

 

「まずこの子はF11。」

 

「はじめましてG11。 あなたの活躍は聞いているわ、よろしく。」

 

「お、おう。 ていうかデカイ。」

 

「で、次がF416。」

 

「Nice to meet you, HK416.」

 

「・・・話し方が気になるけど、とりあえずよろしく。」

 

「Yeah. Also, is it true that you are going out with 9?」

 

「ちょっ!?」

 

「・・・んで、次がF9。」

 

「よろしくね!」

 

「うん! こちらこそよろしく!」

 

「そして最後がF45・・・ほら、ちゃんと前に出て。」

 

「え、えっと・・・よ、よろしくお願いしましゅ!」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「・・・あのぉ・・・UMP45、さん?」

 

「・・・お姉ちゃんって、呼んでみて?」

 

「ふぇ? えっと・・・お姉ちゃん?」

 

「・・・ペルシカ、この娘は私がもらっていくわ。」

 

「ダメに決まってんでしょ。」

 

 

そうして一通りの挨拶を終えて改めて比べてみると、やっぱり微妙に違う。

F9はまだUMP9に近い、というかそのままだ。F45がアレなのでその分しっかりしているというくらいだろう。

F11は元のG11よりもやや背が高い。おまけに眠そうな感じもなくシャキッとしている。

F416は外見の差異こそないがなぜか英語しか話さない。一応通じるので特に問題はないが、なぜ英語なのだろうか?

そしてまるっきり別人のF45。肌の色がオリジナルよりもさらに白く、その性格も臆病そのもの。F9の妹と言われても信じるレベルである。

 

 

「私たちはともかく、45のなにをフィードバックしたらこうなるわけ?」

 

「45のダメなところをまとめて綺麗にしたらこうなるんじゃない?」

 

「ちょっと二人とも酷すぎない!?」

 

「そ、そうだよ。 45お姉ちゃんはそこまで悪くないはずだよ。」

 

「あぁもう大好きよF45!」

 

 

最近9が416とベッタリなせいかF45にデレッデレな45。

周りが一様にため息をつく中、代理人が人数分のコップを持って現れる。

 

 

「あら? これは?」

 

「せっかくの機会ですから、歓迎会など開いてみてはいかがでしょうか? 幸い今日は金曜日ですから、お酒もいくらかは出せますよ。」

 

「・・・そうね。 じゃ、お言葉に甘えて。」

 

 

閉店間際ということもあって客が少ないので、急遽ここで歓迎会を開くことになった。

運ばれてくる料理や飲み物の中には、当然お酒も含まれていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ。」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「F45のプログラムにやたら拘ってたのはあなたよね?」

 

「えぇ、そうですが?」

 

「何であんなに酒に弱いのよ。」

 

「可愛いでしょう?」

 

「そうじゃない!」

 

 

開始わずか十分。

乾杯の一杯ですでに赤くなり、ジュースみたいだから飲みやすいはずと勧められたカクテルでさらに酔っ払ったF45のせいで場は混沌としていた。

 

 

「んぅ〜〜〜暑い〜〜〜!」

 

「ちょっ!? 45姉ダメだって! 他のお客さんもいるんだから!」

 

「やらぁ〜脱ぐの〜〜!」

 

「わ、わかったから! パーカーは脱いでいいからってダメダメ下はダメ!」

 

「・・・人形なのにあんなに酔うの?」

 

「・・・I don’t know.」

 

「こっちはお酒関係なく寝ちゃったけど。」

 

「ZZZzzzz・・・・」

 

「・・・・・お姉ちゃん・・・」

 

「ん? 何かしらF45っておわっ!?」

 

「お姉ちゃん、好きー!」

 

「そ、そうお姉ちゃんも嬉しいわだけどちょっと離れて顔が近いんむぅ!?」

 

 

酔ったF45はUMP45に抱きついた次の瞬間には熱いキスを交わしていた。舌まで入ったディープなやつである。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってF45って今度はどこ触ってひゃん!?」

 

「えへへ〜、お姉ちゃん可愛い。」

 

「ちょっ、やめっ、あっ、んっ、やぁ・・・」

 

「45姉ストオオオォォォォップ!!!!」

 

「これ以上はまずいって!!」

 

「This novel is an all age version!!!」

 

「そんなメタいらないから止めてよ!?」

 

 

悩ましい声を上げるUMP45と変なスイッチが入ってしまったF45。

そんなカオスな状況と周囲の何かを期待する目の中、ようやくF45が眠りについた時にはほぼ全員が満身創痍だった。

そんな時、店に一人の男性が入ってくる。

 

 

「すみません、遅れましt・・・何だこれ。」

 

「あぁ、来たね。」

 

「ペルシカ、彼は?」

 

「・・・本当はもっとちゃんとしたとこで紹介するつもりだったんだけどね。」

 

 

そう言って男の隣に立つペルシカ。

コホン、と咳をして紹介を始める。

 

 

「F小隊の設立に伴い、新たに彼女ら専任の指揮官を任命した。」

 

「はじめまして。 F小隊の指揮官を務めることになりました、ディミトリ・ベルリッジです。」

 

「彼共々、F小隊はここS09地区の指令部に配属となり、研修を積むことになるわ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ〜〜〜、自己紹介はありがたいんだけど、まずこっちを何とかして欲しいかな。」

 

「アッ、ハイ。」

 

 

なんとも締まらない自己紹介を終え、ひとまずお開きにすることに。

完全に泥酔したF45を指揮官が、いろんな意味でぐったりした45を9が背負い、寝てる11を416が蹴り起こしてそれぞれ店から出る。

 

 

「ごめんね代理人。 せっかく用意してもらったのに。」

 

「構いませんよ、これくらい。 またいつでもお越しください、とお伝えください。」

 

「・・・お酒は無しで。」

 

「当然です。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「ようこそS09司令部へ。 大した歓迎もできずにすまない。」

 

「いえ、こちらこそこんな時間に来てしまって。」

 

「君たちの部屋は用意してある。 好きに使ってくれていい。」

 

「ありがとうございます。」

 

「・・・むにゃむにゃ・・・お姉ちゃん・・・」

 

「・・・研修は明日の午後からにしておくから、ゆっくり休むといい。」

 

「すみません。 お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

「気にしなくていい。 じゃあ改めて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようこそ。 君たちを歓迎するよ、F小隊。」

 

end




はい、というわけでみんな大好き404-F小隊の登場だ!
ちなみに彼女らは『404小隊(大嘘)』の頃の彼女らなのでショットガン内蔵でもコア複合でもありません。

彼女たちはしばらくここで研修を行い、別地区の司令部に異動になります。なので、当分はこの地区にいます。いつでも出せるぜ!


というわけでキャラ紹介・・・と補足。

F45
みんなのアイドル。
他の作品の例にもれずここでも極端に酒に弱く、酔うと脱ぎはじめたりキス魔になったり・・・サイコーだなおい!
元作品では壊滅的な命中率を誇っていたが今作では逆にその辺は優秀。
ユノちゃんと同じく非常に描きやすいキャラ。

F9
オリジナルとの違いが一番少ない(というかほとんどない)キャラ。
なので今作では、『小隊長をサポートすることに特化した支援型人形』という設定を付け加えた・・・結局使わなかったけど。
F9もUMP9も姉の呼び方が「45姉」なので描きわけが結構難しい。

F416
グー◯ル翻訳先生のありがたみがよくわかる人形。
元作品ではかなりきついスラングを使うが今作では割とマイルド。性能面ではHK416よりも多めに榴弾を持っていることが特徴。これはF9やF11に特殊機能をつけたため全体的な火力が下がったから。
面倒見がいい。
オリジナル同様、胸がでかい(重要)

F11
作戦中に寝ない、サボらないG11。
加えて電子戦モデルでもあるため、ハッキングやクラッキング、ジャミング対策もお手の物。G11と比べて語尾に「〜わ」がつきやすい。
あとちょっと背がでかい。

いつもの404
もう何回目の登場かわからないけどよく出てくる。
出てくるたびに45姉が残念になるのでそろそろ救済したいと思ってます。
オンの時はエリートにふさわしい活躍ぶりだが、オフになると四六時中イチャつくカップルに基本的に起きない寝坊助に失った妹分を何かで埋めるように彷徨う姉という変貌っぷり。

新任指揮官
本名:ディミトリ・ベルリッジ
言わずもがなF小隊の指揮官である。
元作品ではF45が変わるきっかけとなった一人だが、今作ではいたって普通の指揮官。
残念ながら多分もうでない。


補足
ハンター&デストロイヤーについて
F小隊といえばこの鉄血二人ですが、今作ではF小隊誕生の経緯からして一切接点がないので、残念ながら元作品のような立場の二人は出ません。







おまけ


コンコン

F45「?・・・はーい。」

UMP45「F45、今大丈夫?」

「うん。 どうしたの、お姉ちゃん?」

「だ、大事な話があるんだけど・・・」

「???」

「あ、あのね・・・私・・・あなたのことが・・・」


続きは番外編で。


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バレンタイン特別回

間に合ったぁぁぁぁ!!!
そして結局9のバレンタインスキンは出なかったよコンチクショー!!!

この作品も結構いろんなカップルが生まれましたね。
今回はそんな彼女たちの話。

最っ高に苦いコーヒーをご用意ください。


二月十四日:バレンタインデー

その日にチョコを渡されたものは幸せを噛み締め、渡されなかったものは涙で枕を濡らし、諦めたものは嫉妬の炎に包まれながら壁を殴る。

 

そんなある意味世紀末とも言えるその日のちょっと、いやかなり甘ったるい人形たちの風景。

 

 

UMP9とHK416の場合

 

「はぁ〜〜〜、終わったぁ〜〜〜!」

 

「ご苦労だった。 今日はもう上がっていい。」

 

 

バレンタイン特別警備任務を終えた404小隊は指揮官に報告、ようやく休みに入ることができた。

この日だけで、乱闘騒ぎ三件にストーカー五件、傷害未遂二件と思いのほか多いトラブルにうんざりしているところだった。

 

 

「ほとんどが痴情のもつれじゃない。 諦めが悪い女は嫌われるのよ。」

 

「・・・それ、45が言うの?」

 

「余計なお世話よ11。 それより9、この後暇ならカフェに行かない?」

 

「あ〜ごめんね45姉。 この後用事があるの。」

 

「・・・うぅ〜11〜。」

 

「あーよしよし、私が一緒に行くから。」

 

 

G11に連れられて部屋を出る45。

そんな哀愁漂う背中を見送り、残された二人も続いて部屋を出て、別々の道を歩いて行った。

 

 

 

〜〜〜〜五分後〜〜〜〜

 

 

「・・・なんでわざわざ別々に分かれてくる必要があるの?」

 

「えへへ〜、その方が恋人ぽいかなぁって。」

 

 

そう言って笑う9。

416も呆れながら苦笑し、昼間にもらった箱をポーチから取り出す。中にはハートや星などの形に作られた一口大のチョコが八つほど並んでいた。

 

 

「せっかくだし、一緒に食べましょう。」

 

「うん!・・・あ、そうだ。」

 

 

なにかを閃いた9はチョコを一つとって口にくわえる。

 

 

「・・・ん。」

 

 

くわえたまま顔をつきだす9。

突然のことに驚く416だが、9が薄目を開けていることと耳まで真っ赤になっていることから、捨て身でからかいに来ていることを察する。

いくらかマイルドになったとはいえ根っこは未だに負けず嫌いな416がここまでされて黙っているはずがなく、薄く笑いながら一気に顔を近づけてチョコをくわえる。

もちろんマウストゥマウスである。

 

 

「っ!?!?!?!?」

 

「ふふっ、ご馳走さま。 美味しかったわよ。」

 

 

顔を真っ赤にして口をパクパクさせる9をよそに、416はチョコを一つ手に取る。

 

 

「じゃ、私もお返しいなくちゃね。」

 

 

そう言うと先ほどの9と同じように口にくわえる。違うとすれば目を開けてこっちをしっかりと見ている点だろう。

 

 

迫る416と箱の中に残る六つのチョコを交互に見て、墓穴を掘ったと知った9は、大した抵抗もできずにチョコ(とキス)を受け入れた。

 

結局箱がからになるまで終わらなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

AR-15とハンターの場合

 

「これを二つ。」

 

「はいよ、六百円。」

 

「はい。」

 

「はい、ちょうど。 毎度。」

 

「・・・ハンター、あーん。」

 

「今日は随分甘えてくるな。 はい、あーん。」

 

「・・・ちょっと苦い。」

 

「ははっ、グリーンティだからな。」

 

「さっきのミルクチョコの方が好きね。」

 

 

二人がいるのはS05地区の町。

規模としてはそれほどでもないが、クリスマスやこの時期になると大きく盛り上がりを見せる町である。その理由が、この『チョコレート街道』と呼ばれる通りだ。

期間限定でさまざまな露店が並び、そのほとんどがチョコレート専門店という、チョコ好きにはたまらないイベントである。

 

 

「でも意外。 ハンターって甘い物好きなのね。」

 

「もともとってわけじゃない。 鉄血を出て初めて食べたのが、たまたまチョコレートだったというだけさ。」

 

「その割には随分と入れ込んでるようだけど?」

 

「お、なんだ? チョコに嫉妬か?」

 

「・・・バカ。」

 

 

チョコにもまさる甘ったるい会話を続けながら歩き、気がつけば通りの終わりが見えてきた。さすがバレンタインというだけあってすごい人ごみであり、油断すればあっという間に離れ離れになっていたことだろう。

 

 

「そのためのコレ(マフラー)じゃないか。」

 

「人混みのせいですごく暑いんだけど。」

 

「じゃあ外す?」

 

「・・・このままでいい。」

 

「了解。」

 

 

そうして通りの最後までチョコを満喫し、今度は人通りの少ない路地に入る。

周りに人がいないところまで来ると、AR-15はハンターの肩を掴んで唇を重ねた。

 

 

「ん・・・なんだ、随分と積極的だな。」

 

「だって、あんな人通りでするわけにもいかないでしょ。」

 

「私は構わないさ。 むしろ見せつけてやりたい。」

 

「恥ずかしいからやめ・・・ん。」

 

 

言葉を最後まで聞かずに再び唇を塞ぐ。

そのまま舌を絡め合い、息を荒げながら熱いキスを交わし続けた。

 

「ぷはぁ!・・・・・甘い。」

 

「そりゃチョコばっか食べたからな。」

 

「それだけじゃ、ない。」

 

「ふふっ、そうだな。」

 

「・・・なんか余裕ね。」

 

「そうでもないさ。 ・・・もう色々と我慢の限界だ。」

 

「・・・・・バカ。」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

NTW-20とM4と代理人の場合。

 

「・・・わざわざ店じまいのタイミングまで待っていたのですか。」

 

「あぁ。 流石に大勢の前で渡すのは恥ずかしいからな。」

 

「その大勢の前で告白した人が言いますか?」

 

 

最後の客が帰り、閉店の準備を進めていた喫茶 鉄血。

それを狙って現れたのは代理人に愛を叫び続ける人形、NTW-20である。その手に持っているのは所々シワがよりながらも頑張って包装したであろうチョコの箱。

 

 

「はぁ・・・まぁせっかく来て頂いたのですから、お茶くらいは出しますよ。」

 

「やった! あ、あとコーヒーで頼む。」

 

「わかりました。」

 

 

そう言って店の奥に消える代理人。

あの代理人と二人きり。そんな状況からあらぬ方向に思考がトリップし、一人でにやけ続けるNTW。(他の従業員のことなどはなから眼中にない)

 

 

(まず代理人にチョコを渡してあわよくばあーんなんてしてちょっといい雰囲気になったらキスなんかもしちゃってそのまま部屋でキャーっ!!!)

 

 

が、彼女の夢気分は唐突に終わりを迎える。

 

 

「し、失礼します。」

 

 

恐る恐るといった感じで入ってきたのは、あの代理人のもとで働くといううらやまけしからんこと(NTW目線)を成し遂げた人形、M4A1。

その姿を視界に収めたNTWに電流が走る。

 

ちょっとおしゃれな私服、綺麗に包装された箱、モジモジとした仕草と表情、しかも薄く化粧までしている。

 

 

(マズイっ!?)

 

 

こちとら任務が終わって飛んできた身である。服は初期装備のものだしなんなら化粧もしていない。

今のところほぼ完敗である。

 

 

「や、やぁM4、どうしたんだ?」

 

 

平静を装うが顔が引きつっているのが自分でもわかる。

 

 

「い、いえ、おかa・・・代理人に用事があって。」

 

「そ、そうか・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

気まずい。

入り口で立たせるのもなんなのでとりあえず手招きで座らせるが、互いに一言も話さない。

 

 

「お待たせいたしました・・・あらM4、来ていたのですか。」

 

「あ、お邪魔してます。」

 

「いえいえ。 あ、ではあなたの分も入れてきますね。」

 

 

そう言って再び店の奥へと消える代理人。

とはいえ代理人が来てくれたおかげで幾分か気が楽になったNTWは、とにかく何か話してみることにした。

 

 

「・・・それ、チョコか?」

 

「え、えぇ。 あなたもですか?」

 

「あぁ。」

 

「そうですか。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

再び沈黙。

いやそれチョコかなんて聞くまでもなかっただろうと一人後悔するNTW。この状況でM4がチョコを渡す相手など一人しかいないわけで、それが無性に不安を煽ってくる。

チラッとM4を見る。

元の良さを十二分に引き出した化粧は一体誰のためのものか。というかコイツが化粧をする時点で相当おかしいわけで、もう十中八九()()()()()()なのだろう。

 

 

「・・・なぁM4。」

 

「なんでしょうか?」

 

「お前、代理人のことが好きなのか?」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

黙り込むM4。ただ時間だけが過ぎて行く。

 

 

「・・・わからないんです。 この『好き』がどんな意味なのか、自分でも。」

 

「・・・。」

 

「ダネルさんみたいな意味なのか、それとも家族愛のようなことなのか。 一緒にいたいと思っていても、何故そう思うのかわからなくて。」

 

「・・・・・M4。」

 

「・・・?」

 

「そんなもん私もわからん!」

 

「えっ!?」

 

「愛だとかなんだとか言っているが本音を言えばさっぱりわからん。 何せ私たちは生まれてからこれまで戦うことしかしてこなかったんだからな。 世間一般を知らない私たちが、普通の恋などわかるはずがない!」

 

 

完全に開き直ったNTW。

だが、と続けて

 

 

「私も代理人と一緒にいたいと思っている。 恋とか愛とかはよくわからないが、代理人が笑っているのを見ると私も嬉しくなる。 その笑顔を守りたいとも思っている。」

 

「・・・・・。」

 

「私の全てをかけて守りたい、だから好きだ!・・・というわけだ。 私の思いは通じただろうか代理人?」

 

「えっ!」

 

「・・・いるとわかっていながら語り続けるあなたの真っ直ぐさには、本当に驚かされますね。」

 

「隠す意味がないからな。」

 

「・・・・・M4。」

 

「ひぇ!? あ、はい。」

 

「彼女にも言いましたが、私は同性愛者ではありませんので、その気持ちに応えることはできません。」

 

「・・・。」

 

「ですので、あなたのことは大切な友人の一人、そしてこの喫茶 鉄血の家族であると思っています。」

 

「代理人・・・」

 

 

M4の頭を優しく撫でる代理人。途端に涙がこぼれ始めるが、それをハンカチで拭き取り、優しく抱きしめる。

 

 

「本当に泣き虫ですね、M4は。・・・さて、コーヒーも入れましたし、皆さんで食べましょうか。」

 

 

M4は涙を拭って笑顔を浮かべる。

NTWはどこか満足したような顔でコーヒーを啜る。

思いは通じなかったが、忘れることのできないバレンタインとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、私もここで働きたい。」

 

「ちゃんと許可をとってから来てください。」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

SOPMODとペルシカの場合

 

「ペルシカ〜! ハッピーバレンタイン!」

 

「お? ありがとねSOP。」

 

 

場所は16lab。

そこにいるのはここの主任研究員のペルシカと、16lab製作の人形M4 SOPMODⅡ。

この日の業務を終えて解散し、自身も後片付けを終えて上がろうと思ったその時、SOPMODから緊急の連絡が入る。

駆動系に違和感があるから()()()()()みてもらいたい、すでにそっちに向かっている、と言うものである。

16labの傑作機の一つにしてペルシカにとって我が子にも等しい彼女からの連絡とあれば断る道理はない。ほとんどの研究員は帰ってしまったが検査と修理なら自分一人でもどうにかなる。

そうして準備を始め、終わった頃にSOPMODが到着、出会うと同時に冒頭のセリフとともにチョコを渡された。

 

 

「しかしまぁ律儀だねぇ、自分の異常があるのにチョコまで買ってきちゃって。 もう少し自分を大事にするんだよ。 ・・・はい、じゃあそこに寝て。」

 

「あ、あの、ペルシカ。」

 

「ん? なに?」

 

「・・・ごめんなさいっ! ほんとはどこも悪くないの。」

 

「・・・・・へ?」

 

「その、あの、えっと・・・」

 

 

急にモジモジとし始めたSOP。ペルシカからしてみれば、異常が嘘だと言われただけでも衝撃なのだが、次の瞬間彼女が取り出した()()()()をみてさらに驚愕する。

 

 

「ちょっ!? SOP、それは!?」

 

 

彼女が取り出したのは、ある一件(番外4-3)を受けて16labが押収したはずのあの薬。それをSOPは一息に飲み込む。

破天荒だが常識のある自慢の人形が繰り広げる奇行をただ呆然と見るしかないペルシカ。保管棚を見れば確かに一本少ない。

 

 

「・・・・ペルシカっ!」

 

「な、何?」

 

「好きよ、愛してる!」

 

「お、落ち着いてSOP。 あなたは薬のせいで・・・」

 

「ペルシカは知ってるでしょ!? これがどんな薬か!」

 

 

そう、確かに彼女は知っている。あの薬h自分の内なる感情を表に出すだけの薬だ。強い憎悪を持っていれば嵐のような罵倒が飛んでくるほどに。

だが裏を返せば、今の彼女が話すことすべてが、彼女の本音であると言うことだ。

 

 

「ほんとはこんな薬なんかに頼りたくなかった。 でも、この想いを伝えられない方がもっと嫌だった! ・・・ダメだよね。 これに頼らなきゃ言えないなんて。」

 

「・・・・・。」

 

「ペルシカ、私やっぱりおかしいよ。 おかしくてどうにかなりそうだよ! ・・・助けて、助けてよペルシカ!?」

 

 

頭を抱えて泣きわめくSOP。いくら引きこもりで常識に疎いペルシカであっても流石にわかる。

SOPは私のことが好きなのだ。いつからかはわからないが、こんな薬に頼らなくてはならないくらい追い込まれるほどだ。

ペルシカは拳をぐっと握った。

 

 

「SOP・・・あなた達がこの研究所を出る時、私がなんて言ったか覚えてる?」

 

「・・・・・。」

 

「自分たちの有用さを証明してきなさい、エリート部隊であることに誇りを持ちなさい、そう言ったわ。 でもね、最後にこう言ったの。

 

 

幸せになりなさい、ってね。」

 

「・・・!」

 

「思い出してくれた? だからAR-15がハンターと付き合ってるって聞いた時、驚いたけどそれ以上に嬉しかった。 私の言葉を覚えててくれたんだって。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・SOP、まだ私は答えを返してなかったよね?」

 

「・・・っ!?」

 

 

悲痛な表情を浮かべ、目に涙を浮かべるSOP。

その瞳には、拒絶されたくないという思いと、選ばれるわけがないという諦めが一緒になっていた。

そんな彼女を、ペルシカが優しく抱きしめる。

 

「・・・え?」

 

「・・・はい、よろこんで。 私もあなたのことが好きよ、SOP。」

 

「・・・ペル・・・シカ?」

 

「ん? なぁに?」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「えぇ。」

 

「・・・で、でも・・・・んっ!?」

 

 

何かを言いかけたその口を、ペルシカは自分の唇で塞いだ。

 

 

「・・・これで、証明できたかな?」

 

「・・・う・・・うぅ・・・ペルシカ〜!」

 

「ふふっ、何?」

 

「グスッ・・・好き・・・大好き!」

 

「私もよ、SOP。」

 

 

言葉を確かめ合い、再び口づけを交わす二人。

 

 

 

 

 

 

カラン・・・

 

 

「「えっ?」」

 

「ヤベッ」

 

「アッ」

 

「違うんです主任! こ、これはですね・・・」

 

 

音のした方を見れば、帰ったはずの職員一同がそこにいた。

気まずい沈黙と同時に、ペルシカは自身の体温の上昇と、耳まで真っ赤になった顔を自覚した。

 

 

「じゃ、じゃあ私らこれで、失礼しますっ!!!」

 

「「「「「「失礼しますっ!!!」」」」」」」

 

 

脱兎のごとく逃げ出す職員達。

 

 

 

 

後日、彼らのボーナスはなくなったという。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

指揮官と指揮官ラヴァーズの場合

 

「「「「「・・・・・あ。」」」」」

 

 

指揮官の私室の前。

自らの思い人に会うべく行動した五人の乙女たちは、ものの見事に鉢合わせた。

 

 

「あら皆さん、こんな夜更けにどうされました?」

 

 

ハートの描かれた包みを大切そうに抱えながら笑顔で、しかし目は一切笑っていない顔で話すスプリングフィールド。

 

 

「そっちこそ、非番だからこんなところに用はないはずだよ?」

 

 

自身の服と同じ真っ白の箱に赤いリボンが巻かれたものをもって、スプリングフィールド同様に敵対心をあらわにするモシン・ナガン。

 

 

「まあまあお二人とも、喧嘩は他所でやってくださいな。・・・ここではないどこかで。」

 

 

ハート型に箱を両手で抱え、前半は優しく、しかし後半は空気が凍るような冷たい声で告げるKar98k。

 

 

「寝る子は育つと言いますよKar。 そのまま回れ右して部屋に戻りなさい。」

 

 

派手すぎない柄の箱を手に、暗にちびっこはすっこんでろと告げるウェルロッドMkⅡ。

 

 

「皆仲ようしようや。 ・・・それとも、他のと一緒に渡したら受け取ってもらわれへんって思っとるくらい自信ないんか?」

 

 

薄ピンクの箱を片手に、背後から猛虎のごとき覇気を出すガリル。

 

互いに睨みを効かせたまま微動だにしない五人。

彼女たちはわかっているのだ。今前に出れば確実に沈められることを、後ろに行けば大人しく帰るしか無くなることを。

 

 

「・・・指揮官は、私たちが争うことを望んでいません。」

 

「せやな。 やけど譲る気もあらへん。」

 

「一斉に動くのが最も公平・・・だけど」

 

「部屋の入り口は一人分。」

 

「・・・手段は限られまわね。」

 

 

瞬間のアイコンタクト。荷物を両手で持っていたものは小脇に挟み、片手を開ける。

決めるのは一人でいい。

勝負は一瞬。

 

 

「「「「「・・・・・じゃんけんぽんっ! あいこでしょっ! あいこでしょっ!! あいこでしょっ!!! あいこで・・・」」」」」

 

「「「「「しょっ!!!!」」」」」

 

 

握られた手が四つに、大きく開かれた手が一つ。

その手がぐっと握り締められ、

 

 

「やっっっっったああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「そ、そんな・・・」

 

「こ、こんなの嘘ですわ!?」

 

「・・・くっ!」

 

「・・・あ〜〜〜、負けてもうたかぁ。」

 

 

かつてこれほどまでに喜びをあらわにしたスプリングフィールドを見たことがあるだろうか。

普段は皆のお姉さんとして広く認知されている彼女が、まるで子供のように飛び跳ねている。

 

 

「・・・・・さて、そろそろ行きますか。」

 

「「「「(ゴクッ)」」」」

 

 

スプリングフィールドがドアノブを握り、ゆっくりと回す。

皆が固唾を呑んで見守る中、扉が開かれ・・・・・

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ指揮官。」

 

「ん? なんだ?」

 

「本当に良かったの? 私なんかと食事で。」

 

「構わない。 むしろ君には苦労をかけているからな、FAL。」

 

「・・・まぁ最近はおとなしいからね、あのシスコンたち。」

 

「それにこちらこそ礼を言う。 招待券を持っていたが相方が見つからなくてな。 この店には、一度きてみたかったんだ。」

 

「他にもいたんじゃないの?」

 

「いや、なぜか皆食堂にこもっていてな。 誘おうとしたら追い出されてしまったよ。」

 

「そ、そぉ・・・私、刺されたりしないわよね?

 

「ん? どうしたFAL?」

 

「な、なんでもないわ!」

 

「?ならいいが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、FALの部屋に五人の人形が押しかけたのは言うまでもない。

 

 

end




総文字数七千字越え!
長くなってしまって本当にすみません!!!
バレンタイン回だからって詰め込みすぎは良くないですね、反省します(目そらし)


ではでは今回は、それぞれのカップリングの紹介。


UMP9とHK416
第十話のフライングバレンタイン回でお披露目になったカップリング。今回の話はその警備任務の後、9が渡したチョコを二人で食べる話。
416の慌てる顔を見るために一芝居うったつもりが逆に喰われるという結末に。
時系列的には、第十話→コレ→番外3-3、なので、この時は45はまだ知らない。


AR-15とハンター
本作で唯一、開始時から成立しているカップル。
私の脳内ではハンターの方がAR-15より5センチほど背が高いことになってます。今回登場したマフラーは、番外1-3でハンターがプレゼントした相合マフラー。
ハンターが攻めでAR-15が受け。


NTW-20とM4A1と代理人
くっついてはいないが一応。
NTWは第九話でその思いを明かしたが、M4のきっかけは第八話。
NTWは終始ギャグ調で行くつもりだったのだが、M4にアドバイスすることに。
敵に塩を送っていることになるが、本人は全く気にしてない。


指揮官と指揮官ラヴァーズ
モシン・ナガン(第一話)、Kar98k(第七話)、ガリル(第十三話)、スプリングフィールドとウェルロッドMkⅡ(第十六話)。
ラブコメ系主人公を外から見たらどうなるか、をやってみた結果ヒロインがどんどん残念なことに。
描いてみてライフル勢が多いことに気がついた。
あくまで出てきたことのあるキャラのみであるため、今後も増える。
FALも指揮官ラブだが、こんな指揮官なので諦め気味。今回の誘いも、そういう意図がないことがわかっていた。


M4 SOPMODⅡとペルシカ
擬似母娘恋愛。
本作で唯一成立している人形と人間のカップリング。
作中で飲んだ薬は、ペルシカにチョコを渡す→ペルシカが受け取り空いてる棚に入れる→その隙に入手。
ファンタジーによくある惚れ薬ではなく『ちょっと正直になる薬』なので、本心ダダ漏れである。
ペルシカさんの貴重な赤面シーン。


以上です!
皆さん、良いバレンタインを(今更)


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第二十話:白衣の悪魔

白い部屋と物々しい器具、鳴り響く駆動音。

恐怖を覚えた方も多いのでは?


「ん〜〜〜美味しい! これすっごく美味しいわ指揮官!」

 

 

そう言ってあっという間にケーキを平らげるのは、この地区一の腹ペコ人形『アストラ』だ。

食べ終わった皿は目の前の『塔』に積まれていき、同時にその脇にある新しい皿を手に取る。

 

 

「あ〜〜〜ん幸せです〜〜〜!」

 

「そ、そうか・・・良かったよ。」

 

 

皿の量に反比例して財布は軽くなる。が、自分で蒔いた種なのでそれ以上何も言わずにコーヒーを啜る指揮官。

指揮官というものは多忙だ。平和であればあるほどどうでもいい、しかし無視することはできない仕事というものが増えていき、休日が飛ぶなどザラである。で、スイーツ食べ放題の店に連れて行く約束がパーになってしまったため、こうして埋め合わせているのだ。

 

 

「失礼します、コーヒーのおかわりをお持ちしました。」

 

「む? あぁ、どうも。」

 

「ふふっ、美味しそうに食べてますね。 ・・・あら?」

 

 

コーヒーを入れに来た代理人がふと違和感を感じる。それがなんなのかわからないが、じーっとアストラの方を見る。

 

 

「・・・アストラさん、さっきから左側でしか食べてませんが、どうかされましたか?」

 

「・・・何?」

 

「ふぇ? あぁ、なんだか最近こっち側で食べるとチクってするの。」

 

 

そう言ってなんでだろう?と首をかしげるアストラ。

顎にて当てて少し考えた代理人は、アストラがケーキを飲み込んだのを確認してから両手を彼女の頬に当てた。

 

 

「アストラさん、大きく口を開けてもらえますか?」

 

「へ?・・・あーーーーー。」

 

 

アストラが口を開くと同時に口内を睨むように見る代理人。その迫力に気圧されたアストラは顔を仰け反らせようとするが、代理人の手ががっちりホールドしているため動けない。

数分間続いたそれからやっと解放されたアストラ。気を取り直して目の前のケーキを食べようとしたところで、代理人がケーキを取り上げる。

 

 

「えっ!? まだ食べてるのに!?」

 

「・・・アストラさん。 残念ですがこれ以上ケーキを食べさせるわけにはいきません。」

 

「な、なんで?」

 

「アストラさん、その痛みの原因は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虫歯です。」

 

「「・・・・・え?」」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

チュイィィィィィィィィイイン

 

 

「いやいやいやぜったいいや〜〜〜〜!!!!!」

 

「諦めてください。 直さないともっと痛くなりますよ。」

 

「それでもやだ〜〜〜!!!」

 

「代理人ちゃん、そのまま抑えててね〜。」

 

「・・・人形も虫歯になるのか。。」

 

 

場所は変わって通りに看板を出す町の歯科クリニック。

その施術台の上で大の字に抑えられているのがアストラ。暴れるそれを二本の腕と四本のサブアームで押さえつける代理人。独特の回転音を響かせる機器を手ににじり寄る歯医者。一応保護者ということで同席している指揮官。

アストラにしてみればさっきの幸せ気分から一転、見るからに痛そうなその機器から逃れるべく全動力を使って逃げようとする。が、明らかな体格差に加えて計六本の腕で拘束されてしまってはどうにもならない。

 

 

「私も人形の虫歯なんて久しぶりですね〜。 第二世代、でしたっけ〜? より人間に近づけた結果、虫歯にもかかるようになってしまったそうですよ〜。」

 

「病気にはならないんじゃなかったのか?」

 

()()かからないそうです〜。 虫歯も放っておいてもただ歯がボロボロになるだけで、それ以外にはなんの影響も出ませんよ〜。」

 

「じゃ、じゃあこのままでいいの!」

 

「痛くて痛くて痛くて痛くて〜、美味しいものも食べられず〜、満足に寝ることもできなくなって〜、泣きながら過ごすことになりますよ〜?」

 

「ひっ!?」

 

「・・・あまり脅さないでください。」

 

「事実を言ったまでだよ〜、代理人ちゃん〜。」

 

「・・・・・。」

 

 

飄々としていてふざけているように見えるがちゃんとした歯医者である。アストラもさっきの脅しが聞いたのか、涙を流しながらも抵抗は諦めたようである。

 

 

「もう良さそうだね〜。 じゃ〜お口開けてね〜。」

 

 

もうヤケクソ気味に口を大きく開くアストラ。 その彼女の前にモニターを持ってくると、口の中の映像を流し始めた。

 

 

「えっとね〜、この奥歯の真ん中に黒い穴が見えるでしょ〜? これが虫歯なんだよね〜。 ここからじわじわと歯を溶かして行って、最後は〜・・・」

 

「すみません、そろそろ彼女も限界ですから始めてください。」

 

「・・・・・じゃ〜始めるよ〜。」

 

「今の間はなんですか?」

 

「さあね〜? じゃ、ちょ〜っとしみるけど我慢してね〜。」

 

 

声にならない悲痛な悲鳴が、町の大通りまで響き渡った。一瞬驚いた住人たちだが、発信源があの歯医者だとわかると、祈りを捧げたり十字を切ったりしていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「お疲れ様〜。 あとは普通に過ごしていいけど〜、ガムとか歯にひっつきやすいものは少しの間我慢してね〜。」

 

「・・・うっ・・・うぅ・・・グスッ・・・」

 

「よしよし、よく頑張りましたね。 ・・・ここのお医者さんは本っ当に容赦がありませんからね。」

 

「経験者は語る、ってやつかな〜。 君の泣き顔は忘れないよ〜。」

 

「・・・・・。」

 

「まぁ何はともあれ。 今日はありがとうございました。」

 

「ちゃんとお代はもらってるからそれ以上はいらないよ〜。」

 

「・・・それと、もしよければ私の司令部で検診をしてもらいたいのだが。」

 

「えっ!? 指揮官!?」

 

「私は対価をもらえたらなんでもいいよ〜、都合はつくしね〜。」

 

「分かった、では後日私の方から連絡する。」

 

 

再び絶望に染まった顔で固まるアストラを連れて指揮官が去り、その背中を代理人と歯医者が見送る。

 

 

「・・・にしてもやっぱり人形は可愛いね〜。 さっきの子なんか暴れてる時に胸がブルンブルンって〜。」

 

「・・・手を出してみなさい。 その時は覚悟してもらいますよ。」

 

「大丈夫だよ〜、そこらへんはわきまえてるからさ〜。 ・・・ところで代理人ちゃん、今ならただで診てあげるけどどうかな〜?」

 

「言われてからはしっかりとケアしています。 確認したいのでしたらどうぞご自由に。」

 

 

その後、完璧な状態の歯を見て舌打ちをする歯医者と、勝ち誇った顔の代理人の姿が見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、司令部で検診を行った際に何名かの人形に虫歯が見つかり、次の非番の日に治療に行くことが言い渡された。

その時の彼女らの顔は、死刑宣告を受けるに等しいと言った表情を浮かべていたという。

 

 

end




親知らずを抜いた&虫歯を治療した記念に書きました。
・・・いやぁ麻酔ってすごいですね、全然痛くないんだもん。

・・・小学生の時はただひたすら痛い思いをした記憶があるのに。


ではではキャラ紹介

アストラ
腹ペコ大食い人形。
食べた栄養価が全部胸に行っているはず。
ぶっちゃけ今回は誰が被害者でもよかったんですが、いっぱい食べる君が好き→食べた結果がこれだよ!みたいなノリにしようと思ったので決まりました。
指揮官ラブ勢ではない。

指揮官
ワークホリックな指揮官。
今更すぎるが男性。
人形たちを人間と同等に見る、というのはこの世界では割と普通なことだが、人形が普及し始めた頃からそうしてきた人物。人形の幸せ>自分の幸せであり、人形の幸せ=自分の幸せでもある。
飲食店巡りがささやかな趣味。

歯医者
女性。
変に間延びした語尾が特徴。
『良薬は口に苦し』という言葉を大切にしており、本当に治したいなら痛いくらい耐えろというのが信条。人形相手に施術経験のある貴重な人材。
あえて痛い方法を選ぶことがあるが、これは治った後もしっかりとケアすることを習慣づけて欲しいと思ってのこと。
女性がというわけではなく、レズでもない。が、女の子の胸は好き。

代理人
街の飲食店従業員向けに診察の案内が届き、ここの歯医者に行ったことがある。その際に軽度ながら虫歯が発覚、その場で治療。暴れることはなかったが未体験の痛みに思わず泣いた。ついでに写真まで撮られた。その結果、歯医者に頭が上がらない。
二度と世話にならないために入念にケアをしている。

人形と病気
人工血液と皮膚、人間を模して作られた歯や髪などはあるものの、基本的には電子機器とプログラミングで動くロボットである戦術人形。
第二世代ではより人間らしさを追求した結果、ごく一部ながら人間の病気が人形たちにもかかることが判明。しかしながら彼女たちの場合、どれほど悪化しても命に関わることがないため大して問題にもなっていない。
余談だが今回のような歯の治療の場合、対象に歯だけ痛覚遮断を行えば痛みに耐える必要はないが、このことを知るのはごく一部だけである。


以上です。
街の住人の紹介文を書いたのが結構久しぶり。
みんな、時々歯医者に行って診てもらったほうがいいぞ!


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第二十一話:心地よい沈黙

一言も話さないけど一緒にいて苦にならない関係・・・あると思います。

組み合わせはなんとなくです。


昼過ぎの喫茶 鉄血。

その窓際の席は、毎週火曜日になると決まってある人形が座っている。二十四時間睡眠すら可能とする寝坊助人形、G11だ。

ちょうど日が傾き始めた頃合いでフラッと現れ、アイスティーだけ注文して二時間近くそこにいる。

 

 

「・・・・・。」

 

 

別に何をするわけでもなく、飲み物を飲みながら窓の外をぼんやり眺めるだけ。外はまだまだ寒いが、暖房の効いた店内は暖かく、冷たいアイスティーを飲むには最適だ。

ぼんやりと外を見て、アイスティーを一口飲んで、また外を見る。

睡眠こそが至高のG11が、睡眠の次に愛してやまない場所がここなのである。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

ちなみにこの席は二人席である。丸いテーブルで向き合うように椅子が並べられ、いまその片方にはG11が座っている。

彼女が入店して三十分後、これまた決まってもう一人の人形が入ってくる。

サングラスと帽子が特徴の、トンプソンだ。

彼女は入ってそのまま窓際の席、G11の向かい側に座り、カバンから本を一冊取り出して読み始める。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

お互い何も言わないのはいつものことで、ついでに彼女らが飲むものもいつも同じ。トンプソンの場合はアイスコーヒーだ。

 

 

「はい、どうぞ。」

 

「ん、ありがとう。」

 

 

代理人がコーヒーを持ってくるときだけ顔を上げるだけで、あとはひたすら本を読み進めるかコーヒーを飲むだけ。

いつもの豪快な彼女を知る者からすれば意外な光景だが、彼女のオフは読書かタバコである。

 

彼女らは初めからこうだったわけではなく、最初は席もバラバラだった。というよりもともとG11一人だったこの席に、後からトンプソンが来るようになったのである。

きっかけは特になんでもないある日のこと。その日はたまたま客が多く、G11はいつもの席に座れたもののトンプソンが来た頃には満席だった。店内を見渡して空いている席を探すも見当たらず、斯くなる上は相席でもいいと探し始め、窓際で一人座るG11を見つけた。

 

 

「・・・悪い、ここいいか?」

 

「・・・ん? 静かにしてくれたらいいよ。」

 

「じゃ、そうさせてもらうよ。」

 

 

といった感じでこの相席が出来上がったのである。以来なぜかトンプソンはこの席に座るようになり、G11も特に何も言わないので今も続いている。

日によってはどちらかがいないこともあるし、来る時間がずれることもある。が、ほとんどの場合はこうなっている。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

カランッ

 

少し溶けた氷がグラスの中で鳴る。

トンプソンが来て約一時間半、本を一冊読み終えた彼女は大きく背伸びをし、固まった体をほぐす。ほぼ同時にG11ものそのそと動き始め、いつもなら特になんの会話もなく別れる。が、今日は珍しくG11の方から話しかけてきた。

 

 

「・・・ねぇトンプソン、いっつも本読んでるけど面白い?」

 

「ん?まぁな。 そういうお前こそずっと外見てるだけだろ?」

 

「なんとなくね。」

 

「そっか・・・今度お前の分も持ってきてやろうか?」

 

「・・・じゃあお願いするよ。」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

昼過ぎの喫茶 鉄血。

その窓際の席には、よく二人の人形がいる。

片方はずっと窓の外を眺め、もう片方はずっと本を読んでいるというのが周りの印象である。

それは今でも変わらないが、ある日を境に二人とも本を読んでいたり、窓の外を見ていたり、ちょっとした会話があったりという変化が生まれた。

 

少しだけ賑やかになった、いつもの火曜日。

 

 

end




(オチなんて)ないです。
かつてこれほど平和で何もない喫茶 鉄血があっただろうか。
・・・平和すぎてすごく短くなってしまったのはちょっと反省。


さてさてキャラ解説です。

G11
公式、非公式問わずほとんどの作品で寝坊助な人形。
本作でも寝坊助ではあるのだが、404自体が暇すぎるのでネタにできない。そんな寝坊助の寝る以外の楽しみというのがこれ。この時に話しかけられるのはあまり好まないが、多少の会話なら可。
これ以上ないくらいまったりした雰囲気にはなったと思う。

トンプソン
カチコミ姉貴、という印象が強いけどオフは読書に耽る・・アリじゃね?
喫煙者だがないと死んでしまうとかではないし、喫茶 鉄血は全席禁煙。読書中でも話しかければ返してくれる。
本は表紙と裏のあらすじで買うタイプ。ジャンル不問。



ちょっと合宿免許行ってくるので次回投稿は遅れます(最短でも二週間ちょい)

ではこれで!


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第二十二話:これまでの私、これからの私

二週間空くと言ったな、あれは嘘だ。

寝る前にちょくちょく書いてたら出来上がったので投稿します。
今回はあの作品とのコラボ!
他作品キャラの救済ならまかせろー(バリバリ)


ウクライナ東部・ドネツク

 

その日アルケミストは友人の頼みでここに来ていた。

その友人というのはハンターのことで、これはもともと彼女が請け負っていた仕事だったのだが、国際指名手配犯の捜査に駆り出されることになったため、代わりにと頼まれたものだ。

その内容というのは、ドネツクの廃工場の調査。この工場はある製薬会社の所有であったが、会社が倒産したため取り壊しが決まったものだ。ところが最近、その工場から女のうめき声のようなものが聞こえるという噂が出ていた。調べに行った地元の警察は中で白衣を着た女の幽霊を見たというので、その手の話に全く関係ない人形に調査を依頼することになったのだ。

 

 

「・・・ここか。」

 

 

もともと気候の厳しい地域である。加えて人の手がなくなった工場は荒れに荒れ、確かにそんな噂の一つや二つは出そうな雰囲気を醸し出していた。

 

 

「まぁ関係ないか・・・さて、どこのバカの仕業かな?」

 

 

ハンドカメラとライトを持って中に入るアルケミスト。この工場は割と広く、声が聞こえたというのはもう少し奥の方だ。

・・・・と思っていたその時、

 

 

「・・・・ぁ・・・・ぁぁ・・・・」

 

「!?」

 

 

確かに聞こえた。風の音でも空耳でもない、間違いなく人の声だと自身の優秀なセンサーが告げている。

ライトを一度下げ、腰に下げたハンドガンに取り付ける。声のした方を照らしながら進み、ある部屋の前にたどり着く。

 

『廃棄室』

 

 

「・・・・・。」

 

 

如何にもな名前の部屋。何かの間違いであってほしいと思うがログから割り出した場所は間違いなくここだ。入ると中は空っぽの棚が並ぶ部屋。すでにこの工場の備品や設備は回収されているので当然といえば当然である。その棚の間を、慎重に進む。

 

 

「・・・誰かいるのか?」

 

 

返事は返ってこない。

やはり気のせいかと踵を返そうとしたその時、

 

・・・ヒタッ・・・ヒタッ・・・

 

足音が聞こえた。

センサーが捉えたその音は棚を挟んですぐ隣、それもゆっくりと近づいてくる。

 

 

「・・・・・。」

 

 

銃を構え、曲がり角に向ける。

足音は以前としてこちらに向かってきており、ついにはその曲がり角まで迫る。

 

 

「・・・そ、そこにいるのはわかっている! 出てこい!」

 

 

叫ぶと同時に角に向けて走る。そして曲がったところで再び銃を向け、

 

倒れてきた人間を受け止めた。

 

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁ・・・って、え?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

 

触れられる、かつ体温も感じるのでどうやら幽霊的なものではないようだと安堵する一方、明らかに衰弱しきっているその体を見て慌てるアルケミスト。

すぐさま病院に電話するとともに、それを背負って走り出した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ん・・・うぁ・・・」

 

 

眼が覚めると、私は知らない部屋にいた。いや、この独特の匂いや白さから、ここが病院であると理解した。

 

 

「・・・な、んで・・・」

 

 

私はE.L.I.Dに感染したはずだ。ドネツクの研究所で。

E.L.I.Dに感染したものは助からない。研究所の隔離棟に連れていかれた私も、例外ではないはず。

・・・気がつけば私はどこかの廃工場にいて、周りには誰もいなかった。

警察らしき人と出会ったが、逃げてしまったのは私がE.L.I.Dだからだろう。

なぜE.L.I.Dになってまで生きなければならないのか、もしかしたらそれは、あの子達を置いてきてしまったことへの罰なのかもしれない。

それでも、もう長くはないはずだ。最愛の彼女の幻覚が見えるくらいには。

だから、その彼女が銃を向けてきた時、不思議と嬉しかった。

 

 

「なのに・・・なんで・・・」

 

 

私はまだ生きている。

いや、生かされているのだろうか。だとしたらさっきのは?どこからが夢で、どこからが現実かもわからない。いや、もしかすると・・・

 

 

「・・・ぜんぶ・・・・・ゆめ?」

 

「何を言っているか知らんが、これは夢じゃないぞ。」

 

 

心臓が締め付けられたような気がした。

聞こえるはずのない、聞こえてはいけない、そして一番聞きたかった声。

うまく動かせない首を動かし、ベッドの脇に座る人物を見る。

 

言葉が出なかった。

忘れるはずがない。その白く長い髪も、顔も、全て。

気がつけば涙が溢れていた、止まらなかった。

 

 

「うっ・・・すまない、咄嗟のこととはいえ銃を向けてしまって。 ・・・怖かったろう。」

 

 

そう言って彼女は私の頭を撫でた。その感触が、夢ではないことを教えてくれた。

痛む体を無視して、私は彼女に抱きついた。

 

 

「お、おい・・・どうしたんだ。」

 

「・・・どうしたんだじゃ・・・ないよ・・・会いたかった・・・ずっと・・・・・ずっと・・・」

 

「な、なんだ? なんのことかさっぱり・・・」

 

「・・・忘れちゃったの? アルケミスト。」

 

「忘れたも何も、お前とはこれが初対面だ。」

 

「そ、そんな・・・嘘だよね・・・アルケミスト・・・」

 

「・・・嘘じゃない。 ついでに言えば、私は生まれてこのかた記憶処理をされたこともない。 あるとすれば、お前が記憶を失っているか、他人の空似・・・あっ!」

 

「な、なに?」

 

「・・・そうだな、こういうことはあの人に相談すればいい。」

 

「???」

 

 

アルケミストの提案にその女性・・・サクヤは首をかしげるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

一週間後

 

アルケミストとサクヤはS09地区を訪れていた。

平日だが夕暮れ時ということもあってそれなりに通りは賑わっている。

 

 

「・・・・・・・・。」

 

「どうした? そんなに珍しいものでもあったのか?」

 

「い、いや、別に。」

 

 

サクヤは困惑していた。E.L.I.Dによる深刻な汚染と第三次大戦によって久しく失われつつあるはずの人々の営みが、今目の前に広がっているのだから。いや、ここだけではない。ここに来るまでも様々な街を通ったが、いずれも活気溢れる街ばかりだった。

まるで夢のような、いや、本当に夢なのではと思ってしまう光景だった。

 

 

「・・・ここだ。」

 

「あ、着いたんで、す・・・か。」

 

 

路地に入って少しひらけた場所に構える一件の喫茶店。お馴染みの『喫茶 鉄血』である。

・・・いつから自分とこの会社はカフェを運営するようになったのだろうか?

 

 

「邪魔するぞ、代理人。」

 

「いらっしゃいませ、アルケミスト。 ・・・そちらが例の?」

 

「・・・・・。」

 

 

あの代理人が、ハイエンドモデルの実質的なリーダーが、カフェでコーヒーを入れている。その現実に思わずフリーズしかけるサクヤだったが、代理人に手招きされて店の奥へ案内される。

 

「・・・さて、アルケミストから話は聞いております。」

 

「・・・はぁ。」

 

「単刀直入に申し上げます。 ・・・あなたは、()()()()の人間ではありません。」

 

「・・・えっ?」

 

「・・・どういうことだ? 代理人。」

 

「前例がありますから。 最も、彼女とは少し状況が異なりますが。」

 

 

そう言うと代理人は一枚のコインを見せる。

 

 

「サクヤさん、これに見覚えは?」

 

「え? 勿論あるわよ、共通通貨だもん。」

 

「・・・これは私が友人からもらった宝物です。 この世界には存在しないコイン、()()()()()()()()の彼女が持っていたコインです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

夜・喫茶 鉄血・二階の一室

 

昼に聞かされたあまりにも突拍子も無い、しかし信じざるを得ない話を聞いたサクヤは、ベッドに腰掛けたまま俯いていた。

恐らく自分は死んだであろうこと。

理由はわからないがこの世界に飛ばされた、あるいは迷い込んだこと。

この世界に『自分』はいないこと。

元の世界に帰るのは、恐らく不可能であること。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・ほら、これでも飲め。」

 

「・・あっ・・・ありがとう。」

 

 

コーヒーの入ったカップを受け取るも、再び俯いてしまう。

当然だ、とアルケミストは思う。彼女の言葉を信じるなら、彼女は鉄血工造の開発部門の主任で、実際に私を作り上げて育てていたことになる。自らの最高傑作、そして最も愛着の深いであろう存在と瓜二つの人形が目の前にいて、落ち着いていられるはずがない。

 

 

「・・・サクヤ。」

 

「・・・なに?」

 

「聞いてもいいか? その・・・そっちの私のことを。」

 

 

正直に言えば、まだ彼女のことを信じたわけではない。代理人が嘘を言うはずはないが、いまいち理解できなかった。

それでも、少しでも話せば楽になるかもしれないと考えたのだ。

 

 

「・・・アルケミストは・・・()()()()アルケミストはね、私たちのチームが完成させた、最初の人形なの。」

 

 

話し始めると、彼女は止まらなかった。

初めはまさに人形のような、感情の希薄な人形。そんな彼女が初めて笑った日のこと。

他の人形を家族だと言ってくれた日のこと。

そして、自分を好きだと言ってくれた日のこと。

 

話すたびに笑ったり、拗ねた顔をしたり、困った顔をしていたが、その目には常に涙を浮かべていた。

やがて堪え切れなくなったのか、ポロポロと涙をこぼしながらかたるようになった。

 

 

「だから、離れたくなかった。 置いていきたくなかった。 ずっと、ずっと一緒にいたかった。」

 

「・・・。」

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 

そうしてしばらく泣き続けるサクヤのそばで、アルケミストもまた悩んでいた。

別の世界というだけでも驚きなのだ。ましてや彼女のいう世界など、想像もつかない。

生み出され、使われて、捨てられる。そんな世界など・・・

 

だからこそ、アルケミストは彼女が異端であったのだと理解した。秩序を維持するためならば、人形が人形である方が都合がいいのだ。

人間にとっては、だが。

 

 

「・・・サクヤ。 ・・・いや、()()()()。」

 

「・・・っ!?」

 

 

彼女の震えが止まる。卑怯な手だが、今にも壊れてしまいそうな彼女を止めるには、これしかない。

サクヤの話した『アルケミスト』の特徴を繋ぎ合わせ、違う自分を演じる。

 

 

「・・・マスター、私はここにいます。」

 

「あ・・・あぁ・・・。」

 

「大丈夫です・・・ずっとここにいますから。」

 

「アル・・・ケミスト・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もう・・・大丈夫よ。」

 

「そんな顔で言われても。」

 

「いいの。 お陰で踏ん切りがついたから。 ・・・ありがとう。」

 

「・・・ならいいが。」

 

 

ひとしきり泣き終えたサクヤと、慰め続けたアルケミスト。気がつけば時計の針は日付が変わったことを告げていた。

 

 

「・・いつまでも泣いてちゃ、怒られちゃうからね。 よし、もう大丈夫!」

 

「そうか・・・何か食べるか?」

 

「いや、こんな時間に食べたら太(グゥ〜)・・・・・やっぱり食べる。」

 

「ははっ、何か作ってきてやらから待ってろ。」

 

 

コロコロと表情の変わるサクヤに、あぁ本来はこういう人なんだと納得してケラケラ笑うアルケミスト。

さて何を作ってやろうかと考えながら扉を開けると、そこにいたのは代理人。手には何やら料理の乗ったトレーを持っている。

 

 

「・・・・・。」

 

「そろそろだと思いましたが、余計なことをしましたか?」

 

 

代理人が薄く笑うと、微妙な顔で返すアルケミスト。肝心のサクヤは料理の匂いが届くと同時によだれを垂らし始める。

 

 

「・・・食い意地が張ってるな。」

 

「はっ!? 私は食いしん坊なんかじゃないぞ!」

 

「ふふっ、たくさんありますから遠慮せずに食べてください。」

 

「代理人ちゃん、嫁に来てよ。」

 

「・・・今なんと?」

 

「くくく・・・代理人・・・『ちゃん』・・・あははははっ!」

 

「え? なになになんかおかしなこと言った?」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。」

 

「ひー、ひー、だめだ、面白すぎrあはははっ!」

 

「(イラッ)」

 

 

その日、アルケミストに制裁が下ったのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

数日後

 

居候のままなのはどうかということでサクヤが喫茶 鉄血を手伝い出し、今ではそこそこ板についてきた頃。

 

 

「・・・え? 鉄血工造に?」

 

「えぇ、アーキテクトが・・・私の仲間があなたを迎え入れたいと。」

 

「もともと鉄血の開発部門だったなら、何の問題もないだろう。」

 

「それは、そうだけど・・・」

 

 

一応乗り越えられたとはいえ、まだ前の世界のことが重くのしかかるサクヤ。たしかに今でもそのスキルは衰えていないと思うし、また人形たちに携われるのは純粋に嬉しく思う。

だが、一度死んで思ったのだ。 後に残される人形たちはどうなるのかと。人形は整備やパーツ交換すれば理屈上は永遠に生きていられる。一方、人間はせいぜい百年程度。どう考えても人間の方が先にいなくなる。

あっちに残してきてしまった最愛の彼女も、きっと悲しんでいることだろう。いたずらに悲しみを増やすなら、もう関わらないという選択肢もある。

 

 

「・・・私は、やっぱr

 

「おっはよー代理人! モーニングコーヒー一つ!」

 

「もうちょっと静かに入れないのかアーキテクト。 あ、私も一つ頼みます。」

 

「あれ、もしかしてサクヤってあなたのこと? 私はアーキテクト、よろしくね。」

 

 

喫茶店のドアをまるで酒場のドアのように開けて入ってきたのは、鉄血が誇る能天気開発バカのアーキテクトだ。その後ろから今にもブチ切れそうなのを必死に抑えるゲーガーも入ってくる。

 

 

「あ、えっと、サクヤです・・・じゃなくて!」

 

「ん?」

 

「その・・・せっかくの誘いは嬉しいんだけど、私h

 

「あーー!!! そうだ!」

 

「最後まで聞いてやれっ!!!」

 

 

突然叫び出したアーキテクトは、ゲーガーの絶叫も無視してポケットを漁る。

アレでもないコレでもないと明らかに容量を超えているものを取り出しながら目当てのものを探し、

 

 

「・・・お? あったあった、ちゃんと探してきたよ代理人!」

 

「あら、やっぱりありましたか。」

 

「っ! それは・・・!」

 

その手に握られていたのは一台の携帯端末。飾りっ気のないそれは、サクヤが生前(?)持っていたものだった。

 

 

「はい、落し物だよ。」

 

 

手渡されたそれを、若干震える手で受け取る。開いてみるとかろうじて電源が残っており、端末は光を取り戻した。

サクヤは画面を切り替え、あるところでその指が止まる。

 

 

「これは・・・」

 

 

そこに表示されていたのは一件の不在メッセージ。記録された日付は、サクヤがアルケミストらの元を去ってから数週間後のものだった。

震える手で端末を操作し、再生する。

 

 

 

 

『マスター、お久しぶりです…アルケミストです、覚えていらっしゃいますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もうすぐだな。」

 

「・・・えぇ。」

 

「・・・よかったのか?」

 

「なんのこと?」

 

「断るつもりだったんだろ、鉄血工造の話。 あの端末で何を聞いたかは知らないけど、相当悩んで決めてたことをあっさり覆して。」

 

「・・・うん、大丈夫。 あの子達が前に進んでるのに、私が立ち止まるわけにはいかないからね。」

 

 

車のフロントガラスに映るその工場は、多少の違いはあれどあの鉄血工造だった。最も大きな違いは、周りが自然に囲まれているということかな。

初めて鉄血工造に努めた日から出て行った日までが、走馬灯のように蘇る。そしてまた、私はここから始まるんだ。

 

 

「・・・ただいま。」

 

 

 

 

end




と、言うわけで書いてしまいました!
「犬もどき」さんの作品『METAL GEAR DOLLS』の過去編より、蝶事件以前の鉄血工造開発部門主任、サクヤさんです!

・・・書いた理由? 救済しなきゃという使命感にかられました。
後悔はないっ!


というわけでキャラ紹介と設定

サクヤ
詳細は『METAL GEAR DOLLS』を参照。
本作初の、「他の世界のご本人様」である。
飛ばされた理由は不明、当初は自分が左遷された研究所の廃墟だと思っており、自分のことを理由は不明だが自我を取り戻したE.L.I.Dだと思っていた。
工場内をさまよい歩くうちに幽霊扱いされてしまう。
その後は本編の通り。

人形が好きで人間と同じように扱うが、前の世界のこともあって一歩引いた位置に立っている。
研究員としてはかなりまともな方。


こっちとあっちのアルケミスト
詳しくは『METAL GEAR DOLLS』をry
すぐわかる違いとして、一人称がこっちは「私」、あっちは「あたし」である。


サクヤの端末
理由は不明だが、彼女の死後しばらく経ってからこちらに流れ着いたと考えられる。にもかかわらず汚れの付着ぐあい等から、こちらにたどり着いた時間は同じであるようだ。
この時間さの原因を調べるとともにこの端末を調査することで、未知なる世界の情報が手に入る可能性がある。・・・しかし彼女の話を聞く限り、我々が知るべき情報ではないのかもしれない。よって、本件に関わる人員は必要最小限とし、最重要機密とする。
ー鉄血工造 幹部会の報告よりー



以上です。
祝、お気に入り数100越え!


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番外編5

そこそこ話も溜まってきたのでここら辺で投下。

今回は、
・自由な彼女と自由すぎる彼女
・歯医者「痛くないと言ったな〜、あれは嘘だ〜。」
・私と彼女とケーキと
・夜戦(意味深)用オプションパーツ

の四本です。


番外5-1自由な彼女と自由すぎる彼女

 

「・・・んぅ・・・朝?」

 

 

窓から差し込む朝日で眼を覚ますUMP45。ぐっと一伸びして大きく息を吸い込む。

9が416と付き合うようになってからそれなりに立ち、今では9分を補充せずとも活動できるようになっていた。

 

 

「・・・今日も任務なし、か。 また代理人のとこでお茶でも飲もうかな。」

 

 

そう呟いて、ベッドから出るために掛け布団をどけようとして・・・

ムニュッ

 

 

「・・・・・へ?」

 

 

その手が何かをつかんだ。自分の小さな手のひらに収まる程度の、何か柔らかいもの。フニフニと揉んでみると、

 

 

「・・・んっ・・・んん・・・」

 

「!?」

 

 

聞き覚えのある、しかし今聞こえるはずのない声が聞こえる。徐々に冷静になっていくと、自分が今()()()()()()()()()()ことに気がつく。顔が半笑いのまま凍りつく。嫌な汗が止まらない。恐る恐る布団をめくってみると・・・

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「!?!?!?」

 

 

彼女の大切なもう一人の妹、F45がそこにいた。・・・しかも裸で。

すぐさま昨晩の記憶を掘り起こす。昨晩はそう・・・確か夕食の後に9と416が外泊届を出して出て行き、何か知らないかと11に聞けば

 

 

『町外れの赤いお城に行くみたいだよ。』

 

 

と言う答え。

・・・そんな建物、この街に一つしかない。

いつか来るとは思っていたことがついにきてしまったのだ。呆然とした私はフラフラと司令部のバーに向かい、一人酒に浸って・・・確かその後にF小隊が来て・・・・・F45が一緒に飲もうとか言ってきて・・・あれ?でもあれはソフトドリンクだったはず・・・で、二人で飲んでそれから・・・それから・・・・・あれぇ〜・・・・・

 

 

「・・・どうしよう、覚えてない。」

 

 

もう一度状況を確認する。

昨夜、私は酒を飲んだ。今、私とF45は同じベッドにいる。二人とも全裸。

・・・ヤバイかもしれない。

 

 

「・・・え、F45?」

 

「んぁ?・・・お姉ちゃん・・・おはよ〜」

 

「おはようF45・・・ってそうじゃなくて、昨日の晩のこと、何か覚えてる?」

 

「昨日?・・・!」

 

 

急に顔を赤らめるF45・・・って何その反応!?

 

 

「ご、ごめんお姉ちゃん・・・まだちょっと恥ずかしい。」

 

「待って待って待って」

 

 

布団で胸元を隠すようにして縮こまるF45。ヤバイぞヤバイぞこれはヤバイ。

というか今気がついたがここは私の部屋じゃない。F45とF9の部屋だ。バッともう一つのベッドに目を向けるが、その持ち主はいない。

 

 

「な、9なら・・・昨日は戻ってきてないよ・・・」

 

 

いまにも消え入りそうな声でF45が告げる。私は昨夜の真相を知るため、F45に詰め寄る。

 

 

「F45! 昨日何があったか教えt

 

「おっはよー45姉! 朝ごはん食べ、に、い・・・こ?」

 

 

部屋に飛び込んできたのはF45の妹のF9。

そして今この状況は、①二人とも全裸、②乱れたベッド、③布団で体を隠すF45と詰め寄る私。

そして最近知ったことだが、F9はUMP9よりも口が軽い。

 

 

「・・・お邪魔しました〜・・・大変よ11! 416!」

 

「待って9! 待って〜!」

 

「ちょっ!? 服着て!」

 

 

これを機に、私は禁酒することを決めた。

 

end

 

 

番外5-2:歯医者「痛くないと言ったな〜、あれは嘘だ〜。」

 

これは、アストラが歯医者に連行される、ほんの一週間前の話。

 

 

「じゃ〜そこに座ってね〜。」

 

「よろしくお願いします・・・人形にこの検査はいるのですか?」

 

「一応前例があるからね〜。 ま、ほとんどないだろうけど。」

 

「はぁ、わかりました。」

 

「それじゃ〜口を開けてね〜。」

 

 

代理人は部下とともに飲食店従業員対象の一斉検診会に参加し、現在歯科医の検診を受けているところである。

・・・のだが、

 

 

「・・・あれ〜?」

 

「?」

 

「代理人ちゃん・・・虫歯があるよ〜。」

 

「へ?」

 

 

口を開けているので間抜けな声しかでないが、相当驚いた様子の代理人。

その後も検診は続き、結局発見されたのは一箇所だけだったのだが、

 

 

「ほっとくのもなんだし〜、治療しちゃおっか〜。」

 

「そう、ですね。 痛くないうちに直してきましょうか。」

 

「わかったよ〜。 じゃ〜後でもう一回来てくれるかな〜?」

 

 

・・・で、その後の検診を全て終え、人がほとんどいなくなった後で再び歯医者のもとを訪れる代理人。

そこはさっきまでの検診用スペースとはうってかわって、物々しい機械が並べられた施術室だった。

 

 

「お、来たね〜、そこに横になってね〜。」

 

「・・・こうですか?」

 

「そうだよ〜、じゃ〜口開けてね〜、ちょっとしみるけど、痛くはないよ〜。」

 

「わかりました、お願いします。」

 

 

そう言って口を開く代理人。ちなみに彼女は口を大きく開く時は目を瞑る。結果、視覚を失ったため聴覚と触覚が鋭敏化してしまう。

 

 

「それじゃ〜いくよ〜。」

キュイイイィィィィィイイイン!!!

 

 

いやに耳障りの悪い音が聞こえてきた直後、あまりの衝撃に代理人は思わず目を見開いた。

代理人自身も戦術人形であるため何度か戦場に立ったこともあるし、何度か被弾もした。それ以外でも日常生活や普段の業務の中で痛みを伴うことが起きることもそれなりにある。

だが今回感じたものは、そのどれとも違うものだった。歯を削っているはずなのにまるで脳を突き刺されたかのような鋭い痛み。歯に伝わる振動もそれを助長し、さらには洗浄のためであろう水が患部にしみるため絶え間なく痛みが襲ってくる。

いい年した女性(という精神設定にされている)である代理人は暴れることはなかったが、全身に力が入りては椅子をしっかりと掴んでいる。

 

数分で終わった治療後も、代理人はしばらく脱力したままだった。

 

 

「終わったよ〜代理人ちゃん。」

 

「・・・痛くないって、言いましたよね?」

 

「痛いって聞いて受ける子が、果たしてどれだけいるのかな〜?」

 

「・・・・・。」

 

「・・・チャンスッ!!!」

パシャリッ

 

「!?」

 

 

普段の動きや言動からは想像もできない速さでスマホを起動、写真モードにして涙目の代理人を写真に収めた歯医者。

呆れて怒るよりも先に歯医者は顔をグイっと近づけ、スマホの画面を見せながら、

 

 

「代理人ちゃ〜ん、ちょ〜〜〜っとだけ手伝って欲しいことがあるんだけど〜?」

 

「・・・脅迫のつもりですか?」

 

「それはどうだろうね〜。 で、やってくれるよね〜?」

 

「・・・・・。」

 

 

結局、代理人は盗撮写真(後で聞いたところ施術台のライトにもカメラが仕込まれ、治療中の顔も撮られていた)に屈し、歯医者の要求を飲むことになる。

 

その要求こそが、喫茶 鉄血の客に歯の異常がありそうな者がいた場合はウチ(歯医者)に連れてくる、というものだった。

 

 

 

「ありがとね〜代理人ちゃん〜。」

 

「・・・・・。」

 

end

 

 

番外5-3:私と彼女とケーキと

 

「う〜〜〜〜ん、疲れたぁ。」

 

「ご苦労様だサクヤさん。 コーヒーを持ってきたぞ。」

 

「あ、ありがとうゲーガーちゃん。」

 

 

ここは鉄血工造の研究室。

新たな人形の量産を中止している鉄血の研究員が何をするかというと、個人単位での細かな調整や新兵装の開発、そしてメンタルケアだ。

さて鉄血の開発部といえば、あのアーキテクトをトップに据えた変態の巣窟として有名である。そしてそのモルモットにされるのはいつもゲーガーである。

そんな心身ともに限界を迎えつつあったゲーガーを担当しているのが、新たに加わったサクヤだった。

 

 

「調整したあとはどう? 何か違和感とか。」

 

「いや、何も。 むしろ体が羽根のように軽くなったよ。」

 

「そっか・・・それ以外では?」

 

「・・・まぁまだ胃薬は手放せないかな。 といっても、服用量は減っているが。」

 

「ふむふむ、じゃあもう少し様子見で。 何かあったらすぐに言ってね。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

 

サクヤにコーヒーを届けたゲーガーは部屋を出ようとする・・・直前で、机の上に置いていた箱に気がつく。

 

 

「あっ、忘れるところだった。 サクヤさん、あなたに届けものだ。」

 

「・・・私?」

 

「あぁ、アルケミストからだが。」

 

「えっ! アルケミストから!?」

 

 

猛ダッシュで箱に向かい、中を開けるサクヤ。

が、開ききったところでその動きを止めた。

 

 

「どうした?・・・ん? メッセージカード?」

 

 

開いたときに落ちたであろうそれを拾い、目を通すゲーガー。

 

『サクヤへ

 

鉄血には慣れただろうか。アーキテクトが迷惑をかけていないか?ゲーガーの世話ばかりしていないか?

世界や環境は違えど、「お前」は「私」を育ててくれていた。そのことには感謝している。何か不自由があるなら、遠慮なく言ってくれ。

それと、あの後お前を見つけた場所を再度探したが、他には何もなかった。力になれなくてすまない。

これを送ったのは、いわば日頃の感謝の気持ちだ。受け取ってほしい。

次にそっちに寄った時は、またあっちの私の話をしてくれ。

 

アルケミスト』

 

 

「・・・律儀なやつだ。 そうは思わないか、さくやさんってうおっ!?」

 

 

読み終えたゲーガーが振り向くと、サクヤは箱の中身を凝視したまま大粒の涙をこぼしていた。

ギョッとしたゲーガーだが、サクヤの表情が柔らかなものであることに気づき、それ以上何も言わなかった。

 

彼女たちの視線の先には、少し小ぶりの、いちごのショートケーキが並んでいた。

 

end

 

 

番外5-4:夜戦(意味深)用オプションパーツ

 

人形というのはほぼ全てが女性である。で、彼女たちが配属される司令部は、一部の人間を除き全て人形・・・つまり、圧倒的男女比が生まれる。

その結果どうなるかというと、ソコソコの確率でデキてしまうのである。人形のカップルが。

その程度は様々だが、行くとこまで行けばそういうことにもなる。

で、そんな連中は日々新しい刺激を求めるのだ。

 

そんな状況を打破すべく、16labの天才があるものを作り上げた。普段の彼女なら絶っっっ対に作りそうにもないものだが、これには訳がある。

・・・彼女もこの問題の当事者だからだ。

 

 

「・・・で、できたのがこれ。 人形用特別夜戦装備『16lab-99X M'sシンボル』よ。」

 

「・・・ほぉ。」

 

「・・・け、結構大きいね。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

完全密室、防音防弾のまるでシェルターのような特別会費室に集まった四人。

ペルシカ、UMP9、ハンター、SOPMODである。

 

 

「ていうか大丈夫かSOPMOD、顔が真っ赤だぞ。」

 

「だ、だって・・・それってアレでしょ?」

 

「・・・ペルシカ、なんでSOPを連れてきたの?」

 

「この装備は()()()よ、私が使えない以上仕方ないでしょ。 ・・・それに可愛いし

 

「私としては9よりも416がくると思ってたんだがな。」

 

「い、いっつも私がいいようにヤられるから、これで仕返ししてやるの!」

 

((無理っぽいなぁ・・・))

 

 

さて一通り雑談やツッコミが済んだところで、いよいよ本題である。

 

 

「じゃあ説明するよ。 これはその名の通り特別夜戦・・・まぁつまり()()()()()()のためにのものよ。 当然戦闘では無用の長物ね。 で、使用方法は簡単。 これの片側、断面になっている部分を指定の場所に取り付ければいいだけ。 あとは勝手に同期されて、本物同様の感覚を得られるわ。 つまりふたn

 

「おっとそこまでだ。 ・・・で、外す時は?」

 

「基本的には回路を切断するように指示を送れば勝手に外れるわ。 一応外れなかった時の場合でも外せるように手は打ってあるけど。」

 

「それって?」

 

「・・・・・許容限界以上の快楽を送るだけよ。」

 

「「「え”っ・・・」」」

 

「あ、あくまで外れなかった場合よ!? もちろん私の設計に不備はないけど、念には念をってやつよ!」

 

 

それだけ言うと手元の袋から箱を三つ取り出し、それぞれに配る。

 

 

「詳しいことは説明書を読みなさい。 ・・・それと、ムードを大切にね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

後日感想を求めた際、彼女らは揃って

 

「凄かった・・・。」

 

と言ったらしい。

 

end




この作品はどこに向かっているんだろうか・・・


ドルフロ二次も続々と増えてきてますね、読みたい作品が山のようにあるのに時間が足りない。


さてさて解説を

5-1
第十九話の後日談。
経緯は、45がやけ酒→F小隊が合流→F45、45姉のお世話→潰れた45姉をF45が自室に運ぶ→シワが寄るといけないので服を脱がせる→寝ぼけた45姉がF45にチュー→微量ながら酒が入り、「暑い〜」と言いながら服を脱ぐF45→そのまま両者とも寝落ち→朝チュン

・・・この誤解がどこまで行くのかは不明。

5-2
第二十話の前日譚。
・・・というくらいしか解説のしようもない話。人形の患者はこの歯医者しかないが、人間相手なら他にもいくつかあり、経営を楽にしたいという歯医者の思惑にまんまと乗ってしまった代理人。
脅迫?・・・いいえ、お願いです。

5-3
第二十二話の後日談。
彼女とアルケミストの関係はここから始まったと言っても過言ではない重要なアイテム・・・と思っている。
アーキテクト的にはゲーガーとサクヤにくっついてもらいたいらしい。

5-4
マンネリ・・・というよりも新しい刺激が欲しくなったペルシカの思いつき。
そんな描写を書くつもりなんてないのに設定だけが増えていく・・・深夜テンションってスゲー。


以上でーす!


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第二十三話:緊急事態

代理人、最大のピンチ!?

・・・って書いても緊張感がないのがこの作品の特徴です。
まぁ平和なだけじゃないんだよということで。


三月初頭、開店前の喫茶 鉄血に忍び寄る一人の影。

その人物はフードのついたパーカーを羽織り、マスクとサングラスで顔を隠したいかにも不審者といった出で立ちだった。しかし本通りから外れていてかつ早朝であったため、誰にも不審がられずに目的地までたどり着く。

『close』の掛け札がかかったドアを開き、中に入ると同時にターゲットに近寄る。

 

 

「? 申し訳ございませんが、まだ開店前でs

 

 

ターゲット・・・代理人がそう言い終わる前にその人物はポケットからなにかを取り出し、代理人に向ける。

それは奇妙な形をしていたが、間違いなく銃であった。

 

 

「っ!?」

 

 

咄嗟に応戦しようとする代理人だが一歩遅く、その銃から放たれた光を受け、気を失う。

その人物は満足げに口元を歪ませると、他の店員が来る前に店を後にした。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

通勤・通学時間。

しかしその日はなぜか騒がしく、路地の奥に何人もの警官や人形が集まっていく。彼らの向かう先には一軒の喫茶店があり、そのマスターが倒れたというのだ。

この事件の捜査に加わっていたAR小隊の隊長であるM4は、妙な胸騒ぎを覚えながら喫茶 鉄血に入る。

 

 

「失礼します、AR小隊のM4A1です。 被害者の方は?」

 

「◯◯警視です。 じつは・・・その・・・」

 

「!? まさか、代理人さんが・・・!?」

 

「い、いえ! 命に別状はないそうですがってちょっと!?」

 

 

警察の不審な反応に焦るM4は、生死の声も聞かずに店の奥へと走る。慌てて追いかける警視とAR小隊。そこにいたのは・・・

 

 

「っ!? こ、これは・・・」

 

「おいおい・・・なんの冗談だこれは?」

 

「嘘でしょ・・・?」

 

「うわぁ・・・」

 

「そんな・・・こんなことって・・・」

 

「・・・・・。」

 

 

 

 

「・・・お姉ちゃんたち、だぁれ?」

 

 

小学生、あるいは幼稚園児くらいまで小さくなった代理人であった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・つまり、なにかが倒れる音を聞いて、見にきたときにはこうなっていたと。」

 

「はい、私たちでも一瞬誰だかわからなくて。」

 

「犯人の姿は?」

 

「イェーガーは厨房にいて、私は二階の掃除をしていた。 誰も見ていない。」

 

「・・・えっと、代理人・・・ちゃん?」

 

「? なぁに・・・えっと・・・」

 

「ROよ。」

 

「なぁにRO()()()()()?」

 

 

ずきゅーーz_____ん!!!!!

かつてない衝撃がROを襲い、一瞬意識が飛びかける。

ハッと我に帰ったROは代理人を抱え上げて、膝の上に乗せる。

 

 

「ふぇ?」

 

「可〜愛い〜〜〜〜!!! よ〜しよし、お菓子食べる〜?」

 

「「「「・・・・・。」」」」

 

「・・・・・はっ!?」

 

 

代理人を下ろして咳払いをし、何事もなかったかのように振る舞うRO・・・なのだが、その顔色は加速度的に赤くなっていく。

 

 

「・・・とりあえずその子から離れなさいロリコン。」

 

「AR-15!?」

 

「いくら出会いがないからって節操なさすぎるぞ。」

 

「あなたに言われたくないわよM16!!」

 

「その・・・誰が好きかは人の自由だと思うから・・・私は気にしないよ。」

 

「今はその優しさが痛いわよM4。」

 

「・・・・・。(ポンッ)」

 

「なにか言ってよSOP!?」

 

 

やいのやいのと騒ぐ隊員の中で、M4は冷静に状況を見ようとしていた。まず店内に争ったような形跡がないこと、スキンでもなんでもなく本当に縮んでしまったということ、そんな怪技術を生み出すことができる相手は限られること。

 

 

(アーキテクト・・・いや、ない。 彼女は悪ふざけはするけど代理人に迷惑はかけないはず。

16lab・・・も同じ。 例え実験に付き合ってもらうとしても、許可や立会人はいるはず。

となると・・・。)

 

「・・・もしもし、私です。 行ってもらいたい場所があるのですがよろしいですか。 理由は・・・」

 

 

用件だけを伝え、電話を切るM4。

ふと隊員たちの方を見ると、なんとも不毛な会話が繰り広げられている。

 

 

「可愛い子供を可愛いって言ってなにが悪いんですか!」

 

「ついに開き直ったか!」

 

「時々ホストクラブの前で止まってる人に言われたくはありません!」

 

「おまっ、なんでそれを!?」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ二人とも。」

 

「「うるさいリア充!」」

 

「・・・グスッ」

 

「SOPお姉ちゃん、ホストクラブってなn

 

「あーそうだ代理人・・・ちゃん、あっちでケーキ食べよ!」

 

 

もう捜査そっちのけで騒ぎ立てる二人にイラッとしつつも、今の状況をなんとかしなければと再び考えを巡らせる。

一応手は打っているが解決するまでにまだ時間がかかるはずで、その間代理人の安全を守らねばならない。店員である鉄血二名は残念ながら戦力としてはあまり当てにならない。

これが一般人であれば司令部で保護するのだが、こんな姿になっても代理人は鉄血である。未だにデリケートな問題でもある鉄血人形を常駐させることは難しいのだ。どうにかして自分たちの手の届く範囲に居させたいが・・・。

 

そこまで考え、ふと一つの策が浮かぶ。これなら代理人を動かすこともなく、何かあっても自分たちがすぐに対処できるはずだ。

思い立ったと同時に、M4は司令部に連絡した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

その翌日の喫茶 鉄血。

正午にさしかかろうかという店内は、平日とは思えない盛況っぷりであった。

 

 

「12番さんオーダーです!」

 

「私がいくわM4。・・・お待たせいたしました。 ご注文は?」

 

「・・・はい、ちょうどお預かりします。 ありがとうございました!」

 

「SOP、6番のテーブルを片付けてくれ。」

 

「了解〜、すぐ行くよ!」

 

 

 

「あれ、この前と同じM4か?」

 

「まるで別人だな・・・ていうか、」

 

「「私ら要らなくね?」」

 

 

そう、この繁盛の原因は、期間限定ではあるが住み込みで店員になったAR小隊のおかげだった。

あの後M4は指揮官の許可を貰い、『長期護衛任務』としてここで働きながら様子を見ることにしたのだった。幸い以前働いていたお陰で仕事はわかるし、隊員には昨日のうちに徹底的に叩き込んでいた。

人形というのはどれも美人であり、さらには人気の高いAR小隊が接客してくれる。そんな情報が流れたものの三十分後にはこんな状況である。

 

 

『こちらM4、怪しい動きは?』

 

『SOP、特に見当たらないよ。』

 

『同じく・・・だけど、代理人がいないから反応がないだけかも。』

 

『じゃあ代理人を出すか? それはちょっと賛成しかねるな。』

 

『接客はさせなくていいと思います。 チラッと、ここにいることを示せばいいのでは?』

 

『それでいきましょう。 全員気を引き締めてください。』

「代理人ちゃん、ちょっといい?」

 

「? なぁに?」

 

 

店の奥からひょっこり現れたチビ代理人に、店内は一瞬どよめく。そこにAR小隊の面々がフォローに入り、ひとまず落ち着かせる。

チビ代理人と他愛もない会話を続ける傍、M4はエリート人形としての機能をフル活用して周囲を監視する。

 

 

(・・・異常なし・・・ん? あれは・・・。)

 

 

ふと視界の端にあるものを見つけたM4。

短く通信を入れた後、足元を走るダイナーゲートを避けながらチビ代理人とともに店の奥に消えた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 

陽も沈みかける頃。最後の客を見送り、店の掛け札を『close』にすると同時に行動を開始するAR小隊。手早く店の片付けを終えると昼間こっそり回収した()()()()をテーブルに置き、M4を残して他は店の奥へ移動する。

 

その数分後、一人の人物が入ってくる。

 

 

「すいません・・・ここに忘れ物はありませんでしたか?」

 

 

入ってきたのはサラリーマン風の男。どこにでもいそうなその男は店内を見渡し、テーブルの上に置いてあるソレを見つけると心底ホッとしたような顔で近寄る。

同時に、M4は隠し持っていた拳銃を突きつけた。

 

 

「両手をあげてください、()()さん。」

 

「な、なんのことだ!? 僕はただ忘れ物を」

 

「そんなどこにでもある()()()()()()()が、よく自分のだってすぐわかるな。」

 

「め、メモリーカードの忘れ物なんてそうあるものじゃない。 だからこれは」

 

「そうね。 でも違う人のものかもしれないわ、だから・・・」

 

()()で確認させてもらいます。」

 

 

そう言ってROが出したのはハンディサイズのビデオカメラ。そこにテーブルのメモリーカードを差し込み、再生する。

流れたのは、チビ代理人が店に現れてから奥に戻るまでの映像だった。

 

 

「・・・盗撮ですか?」

 

「そ、それは済まないと思っている。 あの代理人のあんな姿は随分とレアだから、咄嗟にカメラに収めようとしたんだよ。」

 

「へぇ〜、()()()ねぇ。」

 

「気持ちは分からないですが、ではなぜ()()()()()()()()()()撮っていたんですか?」

 

「っ!?」

 

「加えて、この映像はカメラが一切動いていない。 代理人がそこにいて、あんな状態ってことを知ってなきゃ無理だな。」

 

「そしてあの時、あなたのテーブルには小さな包みが置いてありましたね? わざわざそれにカメラを仕込むなんて、随分と手が込んでいますね。」

 

「・・・何か言い訳、あるかな?」

 

「・・・くっ!」

 

 

不利を悟った男は出口に向かって走る。

が、扉を開く直前で逃走は失敗する。入り口のドアが勢いよく開き、男の顔面を強打した。

 

 

「お? なんか当てちまったぞ。」

 

「問題ありませんよアルケミストさん。 それより、頼んでいたものは?」

 

「あぁ、コレだよ。」

 

「なっ!? それは!!」

 

 

アルケミストが放り投げたのは、なんとも近未来的なデザインの銃だった。グリップの上部には小さなダイヤルがあり、『R』と『N』の目盛りがついている。

 

 

「見覚えがあるようだな。 言っとくが下手な嘘は通じないぞ、私の家族が本気で調べてくれたからな。」

 

 

男はなおも逃げようとするが、玄関をアルケミストが、後ろをAR小隊が塞いでおり、さらにはパトカーのサイレンまでもが響いてくる。

脱出不可能を悟った男は、とうとう抵抗を諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『・・・さぁ今週話題となったニュースを見てみましょう。 今日はこれ、人権団体の運営する研究所が閉鎖。 違法な研究や他社へのスパイなどなどが明るみに出た結果、研究所が閉鎖と。』

 

『週の初めに起きた鉄血人形への傷害行為が発端ですが、いやはやこれほど悪事が湧いて出るところは初めてですよ!』

 

 

「・・・ま、当然の結果だな。」

 

「全くです。 我々の試作品を盗むだけに飽き足らず悪用するなど。」

 

「でも、無事戻れて良かったですね代理人さん・・・あれ?」

 

「あー、代理人ならまだ二階で引きこもってるよ。」

 

 

その後、男は人権団体の過激派に所属していることや、それらが運営する研究所の悪事の数々が暴かれ、事件は収束した。あの奇妙な銃だが、あれはもともと17labがロリスキンと並行して進めていた『全人形ロリッ娘計画』で生み出されたもので、数日前に紛失していたものらしい。

なお、代理人はちゃんと元に戻ったがロリ化していた時の記憶はそのままらしく、戻ると同時にかつてないほど赤くなった顔で部屋に閉じこもってしまった。・・・以来まだ一度も出てきていない。

 

お見舞い?に訪れたアルケミスト、17lab所長、M4、ペルシカだが、そんな感じで会うに会えないといったところだ。

 

 

「・・・まぁ、たまにはゆっくり休んだらいいんじゃないか。 代理人は黙ってたら死ぬまで働くワークホリックだからな。」

 

「それもそうね。」

 

「ふむ、ではまた後日伺いましょうか。」

 

 

そう言ってM4以外の三人は帰り、残ったM4はしばらく悩んだ後、レジにいたイェーガーに一声かけて代理人の私室に向かった。

 

 

コンコン

「・・・代理人さん、M4です。 入ってもいいですか?」

 

「・・・・・(ガチャッ)」

 

 

代理人はM4を招き入れると、ベッドに腰掛けて俯く。

 

 

「・・・今回は、本当に助かりましたM4。 すみませんね、私が不甲斐ないばかりに。」

 

「い、いえ。 困っている人を助けるのが私たちの存在意義ですから。 それに、以前お世話になった恩返しでもあります。」

 

「ふふっ、本当にいい子ですね。」

 

「・・・まだ、気に病んでいるんですか?」

 

 

M4が問うと、代理人は苦笑しながら答える。

 

 

「そう、ですね。 鉄血を捨てたはずなのに、どこでもそれは付いて回る。 それで皆に迷惑をかけるなら、私がいる意味はあるんでしょうか、とね。」

 

「・・・・・。」

 

 

M4はその代理人の表情を、一生忘れないだろう。代理人はずっと悩んでいたのだ。人間やグリフィンの人形に混ざって生活していても良いのか、本当は迷惑になっているんじゃないのか。

それは、まるであの頃の自分を見ているようだった。

 

 

「代理人さん・・・いえ、()()()()。」

 

「えっ・・・」

 

「らしくありません。 いつものあなたはどんなことでも自信を持って決断して、私たちを助けてくれました。 私はあなたに会ったから、今こうしていられるんです。 例え私以外の皆があなたのことを拒絶しても、私はあなたを受け入れます。」

 

「M4・・・」

 

「・・・だから、一人で背負わないでください。 ・・・お母さん。」

 

 

そう言うと涙をこぼしながら抱きつくM4。受け止めた代理人もしばし呆然とした後、ぎゅっと抱きしめて静かに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、『M4お姉ちゃん』。」

 

 

end




ちょっとだけシリアスにしてみた・・・えっ、なってないって?きっと気のせいだ。

歯医者に続き代理人が被害に遭うシリーズ。鉄面皮な代理人が泣いたり笑ったり慌てたりするのがとっても楽しいので書いてます笑


ではキャラ紹介

人権団体(の過激派)
今回の主犯。人権団体そのものは割と普通なのだが、人形の社会進出に合わせて出てきたのが過激派。人形に社会が乗っ取られるだのなんだのと言いふらしては人形を排除したがる。特に一度人間に対して排他的行動をとった鉄血にはかなり厳しい。本人らは自分たちが正しく、評価されてしかるべきと考えているため手に負えない。
幹部たちはアルケミストの粛清を受けました。

17lab
ある意味今回の元凶。
なんと光線を浴びせるだけで人形をロリ化できるアイテムを完成させたツワモノたち。本来は希望する指揮官の元に送られ、使用後は返却されるという予定だった。作ったきっかけは、『いちいちスキンを作るより安上がり』だから。

M4とアルケミスト
M4が代理人を『お母さん』と呼び、代理人に家族認定された後で交流が始まった。代理人が家族と認める=自分にとっても家族ということで、M4を他の鉄血同様に接する。その甲斐あって今回の事件ではアルケミストの協力を得られたのである。
M4曰く「面倒見のいいお姉ちゃん」
アルケミスト曰く「しっかり者の妹」



というわけで、M4は恋愛ではなく家族愛でした。
描くたびになんだか本当に親子でもいいんじゃないかとか思ってしまうほど買いやすい組み合わせです。

ではまた次回、お楽しみに!


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第二十四話:おっぱい万歳!

おっぱいフロントライン(卵豆腐 様作)とコラボ。
っても並行世界なのであちらの人物とは別人です。
ぱっと見で内容が分かってしまうのがゆ
いいつの欠点かなと。余談ですが
万年筆買いました。ヘリアンさんじゅうろく
歳。


「おっぱいは素晴らしい、そうは思わないか?」

 

「いきなり何言ってんのあんた?」

 

「ノーコメントで。」

 

「・・・・・。」

 

 

喫茶 鉄血の二階、空き部屋を借り切って行われているのは不定期の指揮官会議。人形たちとのトラブルや任務、新しく配属される人形との接し方など、日々神経をすり減らす指揮官たちがお互いにサポートし合おうということで開かれたのがそもそもの始まりだ。

参加者は主に四人。

S09地区の指揮官(四行目)

F小隊の指揮官、ディミトリ・ベルリッジ(三行目、第十九話参照)

別地区の指揮官、レイラ(二行目、第十二話他参照)

そして本部直轄地区の指揮官(一行目)である。

第一回は顔合わせ、以降はそれぞれの悩みや疑問などを持ち寄ったり、一番経験の浅いディミトリをサポートしたりと、グリフィン関係者の秘密会議の割にはまともな内容で進んでいた。

・・・この第七回を迎えるまでは。

 

 

「・・・実はまだ皆には言っていないことがあってな。」

 

「・・・何よ?」

 

「俺はおっぱいが好きだ。 特に巨乳が好きだ!」

 

「いちいち叫ばなくても知ってるわよセクハラ野郎。 アンタのせいでどれだけのセクハラ報告が出てると思ってんのよ!」

 

「何言ってんだまな板指揮官、そこに胸があるんだ・・・揉むだろ?」

 

「「「いやその理屈はおかしい」」」

 

 

とまぁ、今回の議題はズバリ『おっぱい』である。

・・・ふざけているように見えるが一応まともな悩みでもあり、一部人形は大変素晴らしいボディラインを持っている。加えてそういった人形に限って、()()()()が強調されるような服装なのだ。結果、多くの指揮官は日々書類と理性を相手にしなければならず、中には過労で倒れる者もいる。

・・・割と重要な案件なのだ。

 

 

「・・・でだ。 俺なりに考えて見たんだが、あっちから寄ってくるならむしろ触ってやればいいんじゃね?」

 

「どこをどう考えたらそうなるのよ。 第一、それでクビになるかもしれないから困ってるんでしょうに。」

 

「まぁ実際問題、距離感が近い娘とかもいますからね。 ここもそうですよね?」

 

「む、そうだな。 だがこんな私といて楽しいのだろうか? 逆に気を遣わせているのではないかと。」

 

(((・・・鈍感)))

 

「というか、胸が大きいだけでそこまで気にするものなの?」

 

「ふっ・・・持たざる者にはわからnアベシッ!?」

 

 

禁句を口にした巨乳主義者に制裁が降る。が、やはり何かしらの対策は必要である。

 

 

「F小隊は・・・そんなことないか。」

 

「ええまぁ、皆良い子ですから。」

 

「なかなか良い案が出ないな。 人形たちに注意喚起する他ないか?」

 

「するとしてもなんて言えばいいかしら? 『近づきすぎるな』なんて言った日には何人かショックで倒れるわよ。」

 

「ここはやはりおっぱいを揉んで親睦をふkヒデブッ!?」

 

 

考えが纏まらずイライラが募り始める。そんなタイミングでトレーを持った代理人とG36が入ってきた。

 

 

「皆さんお疲れのようですね。 一度休憩されてはいかがでしょう?」

 

「紅茶とコーヒー、ケーキも用意しております。」

 

「あぁ、君はいいお嫁さんになれるよ。 おっぱい揉んでいい?」

 

「寝言は寝てから言ってください。 ・・・でもいいお嫁さんって。

 

「なんでこんなのが好かれるんだか。」

 

「だがまぁ指揮官としては優秀だ。 おまけに人形たちのこともよく見てる。」

 

「見習うべき点があるのは確かです。 ・・・変態ですけど。」

 

 

この会議ではこういったブレイクタイムが一度はある。指揮官たちの密かな楽しみだ。主に代理人が用意してくれるが、日によってはそれぞれの司令部の人形が手伝うこともある。

今回は、変態のとこのG36だ。

 

 

「・・・ところで、人形視点だとどう思う?」

 

「まぁ側にいたいという気持ちはあるとは思います。 それに少なからず独占欲というものもあるようですから、無理に引き離すのは逆効果かと。」

 

「ふふっ、G36さんも可愛いことを言うんですね。」

 

「ち、違いますよ代理人!? 私はただそう思っている人形もいるんじゃないかと・・・」

 

「だがまぁその視線を釘付けにするという意味でも、おっぱいは有用だ。」

 

「・・・本当に復活が早いですね。」

 

「これもおっぱいのためだ。 ところで代理人、君のそのおっぱいをより強調する服の方が収益が上がると思うんだが?」

 

「・・・・・。」

チャキッ

 

「撃っていいですよ代理人さん。」

 

「ゴメンナサイ」

 

 

そんな終わりのない議題を話し合うことおよそ四時間、これといって解決策が出ないまま終了となった。

ちなみにおっぱい指揮官がシバかれた回数は、数えるのも面倒になるほどである。

 

 

「あ〜〜疲れた・・・G36、おっぱい揉ませて。」

 

「あらこんなところにキッチンナイフが」

 

「嘘です冗談ですからやめてください」

 

「・・・はぁ、結局は各自の対処というわけか。」

 

「もしくは、さっさと誓約してしまうかね。」

 

「それができれば苦労しませんよ。」

 

「・・・まぁ、それだけ好かれているということでもあると思いますよ。」

 

 

代理人の言葉に、少し笑う指揮官たち。多くの指揮官、少なくともここにいる指揮官たちは、紛れもなく部下に慕われていると言える。だからこそ、こんな贅沢な悩みが生まれるのだった。

 

 

「ま、それもそうね。」

 

「えぇ、そうですね。」

 

「あぁ。」

 

「うんうん、その通りだ。 という訳で帰ったらコルトとも親睦を深めてやろう。」

 

「セクハラと暴言は即処罰ですよ。」

 

 

少し満足げな指揮官たちを見送る代理人。指揮官という上司を持つグリフィンの人形たちが、少し羨ましく思う彼女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なお後日、代理人にセクハラしたということでアルケミストがあのおっぱい指揮官の司令部に突撃をかましたのはまた別のお話。

 

end




指揮官だらけの大コラボ回。

というわけで卵豆腐 様の『おっぱいフロントライン』の指揮官をお借りしました。で、せっかくなのでこれまでのコラボ指揮官も合わせて出すという暴挙に。
まぁ例によって並行世界の別人というわけですが、一応似せているつもりです。


では解説を

おっぱい指揮官
本名不明・・・なので便宜上おっぱい指揮官に。詳細は元作品を。
とくに語る必要がないくらいおっぱいが好きな指揮官。なんか過去にいろいろあったらしいが全部割愛。本部直轄にした理由は、変態だけど有能、でも変態というのを強調したかったから。
なお、文中の「コルト」とは彼の司令部のAR-15である。ひんにゅー。

S09地区の指揮官
本作のオリキャラ。
まぁ真面目で有能な人くらいしか決まってない。

レイラ
どっか別の地区の指揮官にして一児の母。まな板。
指揮官としても兵士としても優秀・・・なのだが本作ではそんな描写はきっとない。

ディミトリ・ベルリッジ
F小隊の指揮官で研修中。
唯一と言っていいくらい珍しいフルネームのある指揮官。

G36
おっぱいのとこのメイドさん。指揮官を物理的にボコボコにできる。
が、指揮官のことを嫌っているわけではない様子。・・・というかあっちの司令部の人形は大体そんな感じ。


こんな感じです。
あ、おっぱい指揮官はこの後もちょいちょい出るかもしれません。書いてて面白いので。
というわけで今回はこれで、さようなら!


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第二十五話:アナザーエンド

救済コラボ回!

バッドエンドは積極的に救済していくスタイル。


それは本当に偶然だった。

その日、S09地区司令部所属となっているF小隊は、そこから少し離れたS06地区に出かけていた。

偶然、受けた任務が救護任務だった。偶然、医者が同行していて救命救急が可能だった。偶然、帰り道にちょっとルートを外れて寄り道した。

そんな幾重にも重なった偶然が、彼らの運命を変えた。

 

ほんの一瞬、砂嵐が起きる。

 

 

「うわっ!? 前が見えないよ!?」

 

「・・・こんなところで砂嵐?」

 

「Hmm? Something appears on the radar.」

 

「え? どれどれ・・・あ、ほんとだ。」

 

 

砂嵐の中、突然現れた反応。その規模からなんらかの構造物であることがわかる。

その直後に砂嵐が晴れ、眼下には先ほどまではなかった建物がそびえ立っていた。

 

 

「What!?」

 

「・・・どうする? 司令部に報告して、一旦帰投する?」

 

「・・・・・。」

 

「45姉?」

 

「・・・このまままっすぐ、あのヘリポートに降りて。」

 

 

何を言いだすんだとF45の顔を見れば、いつになく真剣な表情を浮かべていた。彼女は好奇心で仲間を危険にさらすことはない。そんな彼女が言うからには、何かあるとみていいだろう。

オートモードで進むヘリを手動に切り替え、F小隊はその建物に降り立った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

中に入ってまず飛び込んできたのは、人形たちの残骸だった。IoP製、鉄血製問わずだ。しかも・・・

 

 

「まるで、さっきまで戦ってたみたい。」

 

 

一部の人形からは今なお人工血液が流れ、銃はまだ熱を持っていた。

F小隊は416をヘリと医者の護衛に回し、残りの三人で慎重に通路を進む。その過程で、この施設はグリフィンの司令部であることが判明した。しかし奇妙なことに、この司令部はS06地区のものらしい。彼女たちがさっきまでいたのも、S06司令部だ。

 

 

「反応なし・・・みんな死んでる・・・。」

 

「鉄血とグリフィンが戦う理由?」

 

「・・・ない、とは言えないけど、ここまで大規模にはならないと思う。」

 

『…あぁぁああああぁぁぁ!』

 

「「「!?」」」

 

 

突然響き渡る悲鳴。それは施設全体に反響し、空気を震わせた。

 

 

「・・・あっちだ!」

 

 

45が走りだす。あとを追う二人は銃のセーフティを外し、遭遇戦に備える。

45が行き着いた先は、この司令部の心臓部、司令室だった。そこには、まるでついさっき誰かが通ったかのように血の跡が続いていた。

 

 

「45姉、スモーク準備! 11、いつでも撃てるようにしてて!」

 

「任せて。」

 

「・・・いくよ9!」

 

 

45と9は同時にドアを蹴り開け、銃と手榴弾を構える。

そこにいたのは、血まみれの人間と人形だった。

 

 

「っ!? あれ、グリフィンの制服!?」

 

「それにあの人形、416じゃん!」

 

 

急いで駆け寄り、状態を確認する。

 

 

「・・・まずいよ・・・この人、もうほとんど息してない!」

 

「こっちも、たった今機能停止したみたい。」

 

「・・・416、聞こえる!? すぐにお医者さんときて欲しいの! 急いで!」

 

「45姉?」

 

「機能停止しても、今ならまだ間に合うはず。 11、外部メモリでバックアップとって!」

 

「う、うん!」

 

「9、まだ包帯とか持ってたよね? 急いで止血して!」

 

「で、でもこの傷じゃ・・・」

 

「やらないよりマシっ!」

 

「45! I brought it! Hey, Doctor!」

 

「・・・こりゃまずい! 急いで運ぶぞ!」

 

 

応急処置を施し、二人をヘリへと運ぶ。

指揮官と思しき人物は、運び込まれた先でなんとか一命をとりとめた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

『君が今日から配属になった人形だね?よろしく』

 

『あれ、握手っていうのは知らなかったかな?挨拶だよ挨拶・・・うん、よろしくね』

 

『はは、そりゃ頼もしい限りだよ』

 

 

 

 

 

『僕は君なしにはもう要られない…結婚してくれ』

 

 

「・・・指・・揮・・・・官・・・」

 

 

目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。シミひとつない真っ白な天井と薬品の匂い、わずかに聞こえる話し声から、ここが病院であることがわかる。

 

 

「ここは・・・・・っ! 指揮官!? みんな!?」

 

 

ガバッと身を起こす・・・ことは叶わず、手足や体を拘束されている私は身動きひとつ取れなかった。

まさか、鉄血の捕虜になったのだろうか?

そんな考えを裏付けるように扉が開き、忌まわしい鉄血人形が入ってくる。データで見たことがあるそいつは、確か代理人と呼ばれたハイエンドモデルだ。

 

 

「・・・目が覚めたようですね。」

 

「・・・・・何を聞かれても答えないわよ。」

 

「そう言うと思っていました。 ですが、答えていただかなければ困りますので。 我々にとっても、あなたにとっても。」

 

「・・・どういう意味よ?」

 

「ではまず初めに、今は何年ですか?」

 

 

質問の内容に一瞬戸惑う。わざわざ私に聞くようなことでもないはずなのに。

いや、簡単な質問から答えさせて、情報を引き出すつもりか。

 

 

「言ったはずよ、何を聞かれても答えn

 

「答えないというのであれば、『彼』に聞くしかありませんね。」

 

 

その言葉に頭が真っ白になる。

今、『彼』と言ったか?まさか、指揮官が生きている?そしてここにいる?

気がつけば、部屋を出ようとするそいつを呼び止めていた。

 

 

「ま、待って! 言う。 言うから! だから彼には・・・」

 

「・・・そうですか。 では、続けましょう。」

 

 

グリフィンの人形としてなら、何があっても答えてはいけないはずだった。でも、やっぱり私には、

 

 

「・・・今は、何年ですか?」

 

「・・・20XX年。」

 

「我々とあなた方の関係は?」

 

「・・・敵。」

 

「『はい』か『いいえ』で答えてください。コーラップス、第三次世界大戦、蝶事件・・・これらに聞き覚えはありますか?」

 

「・・・はい。」

 

 

意味もなさそうな質問をしては、手元のメモ帳に書き込んでいく代理人。一体こいつらの目的は何なのか、私と指揮官はどうなるのか、そんな不安が積もる中で次の質問を待っていると、代理人はメモ帳を閉じた。

 

 

「・・・質問は以上です、お疲れ様でした。」

 

「・・・・・え?」

 

 

今何と言った?質問は終わり?じゃあ、もう用済み?

そんな、私はちゃんと答えた、嘘もついてない、なんで、なんでなんでなんで!

 

 

・・・・・いや。

 

「ん?」

 

「・・・嫌、死にたくない・・・死にたくない!」

 

 

力の限り暴れる。でもそんなことは無意味だと言わんばかりに、拘束具は音を立てるだけで緩まる気配もない。

もうだめだ・・・そう思っていた時、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 

 

「こら〜! 怪我人をいじめちゃダメでしょ!」

 

「? そんなつもりはありませんが?」

 

「考えても見てよ代理人ちゃん、目の前に・・・そうね、人権団体のマッドサイエンティストが突っ立ってたらどう思う?」

 

「・・・・・あ〜。」

 

「そういうこと。 ほ〜らもう大丈夫だよ〜。」

 

 

入ってきたのは白衣を着た女性だった。しかも代理人と親しげに話しているどころか、代理人もこの人の言うことを聞いている。

・・・まさか、鉄血側にも人間が?そいつらが襲撃を手引きした?

 

 

「あ、自己紹介がまだだったね。 鉄血工造グループの開発部門所属で人形カウンセラーの『サクヤ』よ、よろしくね。」

 

「S09地区の街でカフェを経営しています、代理人です。」

 

「・・・・・は?」

 

 

え?人形カウンセラー?カフェ?しかもS09ってあの激戦区の?

エリートモデルである私は頭脳をフル回転させてみるが、吐き出されるのは意味不明の四文字だけ。

これはアレかしら?新手の洗脳かしら?

 

 

「・・・まぁ混乱するのも無理はないかな、私もそうだったし。 ・・・ところで、もう動けるよね?」

 

「え? えぇ。」

 

「よし、じゃあ行こっか。 代理人ちゃん、コレ外してくれる?」

 

「わかりました。」

 

 

拘束具が外され、サクヤと名乗る人物の手を借りて立ち上がる。随分長いこと寝ていたのか、平衡感覚の機能が少しズレ、立ちくらみのようになる。

手を引かれたまま、私は部屋の外へ出て行った。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

向かった先は敷地内の()()()の病棟。一応説明されたが、ここはS06地区の近くにある鉄血が運営する病院らしい。さっきまでいたのは人形用の病棟だったというわけだ。

・・・もちろん、そんな施設聞いたこともない。

 

 

「ここね。 え〜と・・・HK416ちゃん?」

 

「・・・何かしら?」

 

「少しショックな光景かもしれないけど、取り乱さないでね。」

 

「その時は私が抑えますので。」

 

 

ショックなこと・・・それを聞いて思い当たることは一つだけ。

胸が締め付けられるような感覚を必死に抑え、扉が開くのを待つ。

 

 

「・・・じゃあ、入るよ。」

 

 

カードキーを使って扉が開く。

そこにいたのは・・・

 

 

「・・・指・・・揮官?」

 

 

私の最愛の人が、眠っていた。腕には何本もの管が刺され、口元を呼吸マスクで覆っている。

走り出そうとして、代理人に止められた。

 

 

「!? 離してっ!!」

 

「病院ではお静かに。 サクヤさん。」

 

「とりあえず落ち着いて416ちゃん、今から説明するから。」

 

「指揮官はっ、無事なの!?」

 

「ぐえっ!? く、首が・・・」

 

「あ、ごめんなさい。」

 

「あ”〜死ぬかと思った・・・で、彼の容態だけど、一応峠は超えてるから安心していいそうよ。ただ、受けたダメージが大きかったから、まず後遺症は残るって。 それと、いつ目が覚めるかもわからないそうよ。」

 

「・・・でも・・・生きてる・・・のよね?」

 

「えぇ。」

 

 

スルッと代理人が力を緩め、私は彼の元に歩み寄る。震える手で触れた彼の頬は暖かく、生きていることを証明してくれた。

生きていてくれた・・・それだけで救われた私は、そのあと日が暮れるまでずっと泣きながら、彼の手を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「じゃー説明するね。 改めてだけど私は『サクヤ』、あなたと同じで()()()()()()()()から流れ着いたのよ。」

 

「・・・・・はい?」

 

 

放っておけば彼が起きるまで泣いていたであろう私は代理人たちに引きずられ、病院の会議室に来ていた。

そこで言われたのがこの言葉。・・・頭のおかしな人なのかしら?

 

 

「・・・今、頭のおかしな人とか思ったでしょ?」

 

 

バレてる。

 

 

「・・・気持ちはわかりますが、事実です。」

 

 

こちらをご覧ください、と言って映し出されたプロジェクターには過去の主だった出来事が載せられていた。

違いは一目瞭然だった。言ってしまえば平和そのものとしか言えない年表、作り物だとしても出来が悪すぎるくらいにめちゃくちゃなものだった。おまけに今は20YY年・・・私の記憶よりも半世紀以上先だった。

 

 

「これを・・・信じろって?」

 

「信じられないのはわかってる、私もそうだったからね。」

 

「私も一人、そのような人物を知っています。 もっとも、彼女は少しイレギュラーですが。」

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

 

年表と代理人の顔を交互に見る。年表には蝶事件の文字もなく(代わりに鉄血工造クーデターというのはあった)、以後も鉄血が人間と戦っているという表記もない。

鉄血工造の病院、人形カウンセラー、敵意のなさそうな鉄血人形、そしてそんな環境で拘束されていない私。加えて言えば私が目覚めた時はすでに修復済みだった。

そこから導き出される答えは、この年表が正しいものであるということだった。

 

 

「・・・私は・・・どうすれば・・・」

 

「一応こっちにもグリフィンはあるけど。」

 

「戦わない、という選択肢もあります。」

 

 

そう言うと代理人は顔を近づけてきて、耳元で囁やく。

 

 

・・・彼とずっといられますよ。

 

「へぁ!?」

 

「ふふっ、指輪までしていて気付かないとでも?」

 

 

自分でもわかるくらい顔が赤くなる。

結局その日は、彼との馴れ初めなんかを根掘り葉掘り聞かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・これで最後ね。」

 

 

目覚めてから一週間。

私たちがこの世界に来たのはおよそ二週間前だと言うから、一週間くらい眠っていたことになる。

あの後は近くの街に出てみたり、資料室でこの世界のことを調べたりしていた。道中で鉄血のハイエンドたちに出くわした時は、一瞬心臓が止まったかと思った。

二日もするともう違う世界なんだと言うことに疑問を持つことも無くなり、これからどうすべきかを考えることが多くなった。。

 

ある時、私たちを助けてくれたと言う人形たち(F小隊というらしい)と会い、私たちが司令部ごとこちらに来ていたことがわかった。

私はすぐにサクヤさんに相談し、調査隊に組み込んでもらえることになった。

 

 

「416さん、こっちも終わりましたよ。」

 

「ありがとう。 ・・・それは?」

 

「ん? あぁ、彼女らの遺品です。 世界が違えど、私らの同僚ですから。」

 

 

そう答えたVespidは、他の仲間たちとともに遺品(銃やコア、その他それとわかるパーツ)を集めては、丁寧に梱包していく。

・・・不思議なものね、敵同士だったはずの彼女らとともに作業なんて。

私も司令部内を歩きながら、残ったデータをコピーしたり仲間の遺体を回収したりしていた。当然ながら生き残りはいなかったが、その顔はどこか満足げな表情だった。流石に外で散っていった仲間はこっちに来ていなかったようで、回収できなかったことが残念だった。

 

ふと足を止める。

司令室と書かれたその部屋はまだあの時のままで、壁には指揮官のものと思われる血がこびりついていた。

 

 

(今更だけど、よく助かったものね。)

 

 

崩れかけた机に手を置き、目を瞑る。

思い起こされるのは、初めてここに来たあの日のこと、そしてそれからの毎日。

もう帰ってこない、毎日。

 

 

 

 

pppppppp

 

「? はい。」

 

 

呼び出し音が鳴り、端末(サクヤさんに持たされた)が震える。発信者は、あれ以来なにかとよく相談に乗ってもらっているF小隊の隊長、F45だった。

 

 

『こんにちは416さん。 突然ですけどすぐに屋上に出てください、もうすぐ着きますので!』

 

「え? 何よ急に。」

 

『それはって11!? 待ってまだ私が話しt・・やぁ久しぶり。 理由は聞かずにすぐに来て、以上。』

 

「あ、ちょっと!・・・切れちゃった。」

 

 

なんなのかしら?とにかく屋上に向かうため、集めた遺品は作業中の彼女らに預けることにした。

崩れかけた階段を上がり、屋上に出た頃にちょうどヘリがやってきた。

 

 

「ナイスタイミング! すぐに乗って!」

 

「理由も言わずに連れていくつもり!?」

 

「Waiting for you! C’mon!」

 

「え!? 何て!?」

 

「あ〜もう! つべこべ言わずに乗って!」

 

 

無理やりヘリに押し込められると、パイロット(彼女らの指揮官らしい)は機体を急転させる。

さっきはあんまり聞こえなかったけど、誰かが待っているらしいわね・・・グリフィンのお偉いさん、とか?

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

「416・・・なのか?」

 

 

F小隊に連れていかれた部屋で待つこと五分弱、扉が開くと同時に私は言葉を失った。

病人服を着て車椅子に座っているが、紛れもなく指揮官だった。

気がつけば私は彼のもとに駆け寄り、抱きついていた。

 

 

「指揮官・・・指揮官・・・!」

 

「416・・・本当に君なのか?」

 

「当たり前でしょ・・・私の指揮官。」

 

「あ・・・あぁ・・・416・・・。」

 

 

—————————————————-

 

 

「上手くいったようですね。」

 

「あ、代理人さん。」

 

 

感動の再会に当てられて涙目(45に至っては号泣している)になっているF小隊のそばで、車椅子を押してきた代理人が言う。

後遺症として下半身麻痺、医者はもう二度と自力では立ち上がれないだろうと言っていたが、そのほかでは特に異常はないらしい。寝たきりだったせいで体力の衰えなんかはあるが、それも一週間ほどリハビリすれば退院できるとのこと。

 

 

「彼に関してはサクヤさん同様、クルーガーさんの働き掛けで新しい戸籍が得られる手筈です。」

 

「そっか・・・って45姉もう泣き止みなよ。」

 

「よ”か”った”・・・ほ”ん”と”に”よ”か”った”よ”ぉぉぉぉ・・・」

 

「あぁもう鼻水が・・・11、ティッシュある?」

 

「え〜〜〜っと・・・はい。」

 

「・・・・・。」

 

「って416もまだ泣いてる!?」

 

 

抱き合った二人はお互いの存在を確かめ合うように、強く抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

1ヶ月後

 

「う〜〜〜緊張する〜〜〜」

 

「な、なんで45姉が緊張してるのよ。」

 

「そう言う9も声が震えてるよ。」

 

「11だって、手が震えっぱなしだよ・・・ていうか416、大丈夫?」

 

「・・・nO prObLem・・・」

 

「めちゃくちゃ声震えてるよ!?」

 

 

「人間と人形の結婚なんて初めてじゃないか?」

 

「そうね。 でも、そんなこと関係ないわよハンター。」

 

「・・・それもそっか。」

 

「ねぇ416、私たちも・・・その・・・」

 

「何かしら9? 私はいつでもOKよ。」

 

「っ!?(ガタッ)」

 

「座りなよ45。」

 

 

「・・・人形と、か。」

 

「ヘリアン? いくら合コンダメだったからってそっちにいくつもり?」

 

「お前が言うな。 SOPとデキているくせに何を言う。」

 

「・・・何? それは本当か?」

 

「あなたは私の父親ですかクルーガーさん?」

 

 

『それでは、新婦のご入場です。』

 

 

 

扉が開き、ウェディングドレスをまとった()()が歩いてくる。その姿はより一層美しく、誰もが見とれるほどだった。

新婦のもとについた彼女・・・HK416は、自身のパートナーに微笑みかける。

 

 

「・・・綺麗だよ、416。」

 

「ふふっ、ありがとう指揮官・・・いえ、()()()。」

 

 

 

 

 

青空が広がる今日、また一つ新しい誓いが立てられた。

指揮官と人形という枠を超えた、新しい誓いが。

 

 

end




カカオの錬金術師 様の短編小説『死する時は共に』より指揮官とHK416をお借りしました。

救わなければならない使命感に駆られた、後悔はない!


というわけでいろいろ解説

指揮官とHK416
別の世界のS06地区所属。かなり古い付き合い。
詳細は元作品。
こっちでは二人ともグリフィンではなくなり、新しい道を歩みだす。

サクヤ
平行世界の人第一号。
今後もこういったコラボ回のときは積極的に出していきたい。

F小隊
じつは最初から出すことが決まっていた。
F416はいつも通りグー◯ル翻訳先生頼み。

代理人
ぶっちゃけこの人出さないと喫茶 鉄血ですら無くなるという理由で出した。
はじめの事情徴収のときはもともとアルケミストを出すつもりだったが、Sっ気が止まらなくなったのでボツ。




遺物『S06司令部』について

内部には多数の人形や戦闘データが残されており、極めて貴重な資料である一方、新たな火種となりかねないことから我々鉄血工造は本件から手を引くと共に、回収された同胞たちの遺品も処分することとする。
グリフィン、IoPも同様のようで、調査資料は極秘とし厳重に保管、調査後は当該遺物の破壊を実行する。
なお観察対象二名への監視も同時に打ち切る予定。

鉄血工造幹部会の議事録より


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第二十六話:ダイナーゲートのとある一日

そろそろ風呂回とか海回とか描きたいなぁ。


S09地区にある喫茶 鉄血。

今まであまり気にされてこなかったが、一応ここにはペットのようなものがいる。鉄血の下級人形、ダイナーゲートだ。

普段は店の中をちょろちょろ動き回りながらゴミを拾ったり、監視カメラのような役割を担っている。そんなダイナーゲートは客から一定の評価を得てたり、特に子供や老人から可愛がられることが多い。

 

しかし、その栄光は突然に終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 

それはある日のこと。

いつも通り店の中で歩き回っていると、やけに入口の方が騒がしい。内容から危険性は薄いと判断できるが、念のため確認に向かうダイナーゲート。

 

そこにいたのは、一匹の茶色いネコであった。誰かの入店に紛れて入ってきたであろうそれは入口付近でちょこんと座り、時折ニャ〜オと鳴いている。

そんなネコが可愛いからか、周りにはケータイやカメラを構えた人だかりができている。

 

 

(・・・・・。)

 

 

()()()()()()()()()()()()()()と感じたダイナーゲート。というか飲食店にいてもらっては困るだろうと思い、退出を促すように近寄る。が、ネコはここは退かないぞと言うかのように体を丸め、スヤスヤと眠り始めた。

 

 

(・・・イラッ)

 

 

軽く体当たりしてみるが、それでも出て行く気配はない。それどころか集まった客の足元にすり寄り、甘えるような声まで出し始める。

しかも逆にダイナーゲートが客に抱えられ、輪の外に出されてしまった。その一瞬、ネコと目が合う。

 

 

(・・・・・フッ)

 

(・・・!?)

 

 

コイツ鼻で笑いやがった。

もちろん人間にはわからないだろうが、この店のマスコットとして長年(?)やってきたダイナーゲートには分かる。

・・・可愛いのは外見だけだと。

 

そんな腹黒ネコは視界の隅にあるものを見つけると、人の輪をするりと抜けて一直線に目指す。

 

 

「・・・っ!? な、何ですか!?」

 

 

その人物・・・代理人の足元に潜り込むと、その足にくっつくように擦り寄る。

これに驚いたのは代理人だ。突然何かが足に当たってきた上に、彼女の服装では足元がほとんど見えない。片手にトレーを持っている以上確認することもできず、珍しくあたふたしながらその場をクルクルと回る。サブアームで探ろうにも、ネコの方も器用に避けるので一向に捕まらない。

 

この事態にダイナーゲートが黙っているはずもなく、一度店の奥に消えたかと思うと、背中のアタッチメントにクローアームをつけて帰ってきた。

ネコに悟られないようにジリジリと距離を詰め、チャンスを待つ。

ちなみにそこそこの勢いで回っているせいで代理人のスカートが若干浮き、そこから見えるふくらはぎや太ももに鼻の下を伸ばす男どもがいるが無視する。

 

待つこと数分、ついにチャンスは訪れ、ダイナーゲートはアームを伸ばす。アームがネコを捉え、引き剥がそうとしたその時、ネコが代理人の足に()()()()()

しかも、

 

 

「ひゃあ!?」

 

「・・・あっ。」

 

(っ!?!?!?)

 

 

喋った。その顔もまるで人間のように「やっちまった」みたいな顔である。

 

コイツ、ネコじゃない!

 

そう判断したダイナーゲートは排除しようとするが、器用にアームから抜け出したネコ(仮)は、なぜか開いている窓の方に向かう。

その窓から飛び出す直前、

 

ボンッ

 

突然爆発?が起き、辺り一面に煙が捲き上る。煙が晴れると、そこにいたのは窓のサッシに引っかかっている()()()()だった。

 

 

「あちゃ〜、慌てすぎて()()人間に化けちゃった。」

 

「・・・ペルシカさん?」

 

 

それはダイナーゲートもよく知る人物、IoP16labのペルシカだった。が、その耳はいつもの髪型よりも猫耳っぽく、白衣の裾からは尻尾のようなものが見える。

 

 

「ペルシカさん・・・それは・・・?」

 

「・・・バレちゃったら仕方ないね。」

 

 

ペルシカはニヤリと笑うと再びネコの姿になり、

 

 

「残念だけど、見られたからには生かして返せないね。 この店は好きだったよ、代理人!」

 

その姿をネコからトラに変えて代理人に襲いかかる。その牙が届く直前、何者かが横合いから体当たりをかます。

ダイナーゲートだ。

 

 

「ま〜た君か・・・本当に邪魔ばかりしてくれるね!」

 

 

ペルシカはダイナーゲートに狙いを変え、前足で吹き飛ばす。テーブルや壁にあたりながら吹き飛ばされたダイナーゲートはノイズが走る視界の中で避難する代理人たちを見つめる。

 

 

(・・・・・。)

 

 

ダイナーゲートは何も言わない。

しかし、どこか満足そうな雰囲気を持ちながら、意識を途切れさせた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

(・・・っ!?)

ガバッと起き上がるダイナーゲート。どうやら窓から差し込む陽気に当てられて眠ってしまったらしい。

急いで店内を見渡し、異常がないことを確認すると心底ホッとしたような動作を取る。

・・・が、視界の隅に()()()()を捉えると、その空気も一変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんかめっちゃ警戒されてるんだけど。」

 

「また何かしたのか? お前まで変態どもの仲間だとは思いたくないぞ。」

 

「またって何よまたって・・・っていうか本当に身に覚えがないんだけど。」

 

「・・・案外、お前のことを人間に化けたネコだと思われてるかもしれんぞ? その耳っぽい髪型のせいで。」

 

「んなアホな・・・。」

 

(・・・・・・。)

 

 

 

end




夢オチ回。
7割ほどは実際に見た夢の通り。
・・・俺、疲れてるのかな・・・。


というわけでキャラ紹介

ダイナーゲート
実は最初期からいるがほとんど目立ってない人形。今回はコイツが見た夢という話で、それ以外特にない。
背部のアタッチメントを換装することであらゆる状況に対応できる。
一定のファン層がいる。

代理人
普段は落ち着いてるけど夢の中では関係ない。
ここまで慌てることなんてないけど夢の中では関係ない。
・・・実際はサブアームにもセンサーがあるのでこんなことにはならない。

ペルシカ(ネコ)
あのネコっぽい耳が本物だったら・・・とか考えながら寝た結果、こんなカオスな夢を見た。
なんか妖怪っぽくなったけど夢だから問題ない。
九つの魂になぞらえて九つの姿に化けることができる、という設定を付け加えたけど特に使う予定もない。
フリー素材(需要なさそうだけど)


以上!


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第二十七話:再会

焔薙さんの大コラボ回に出演させていただいたのでこちらも書かねばと。

もっと洒落たタイトルが良かったんだろうけど思いつかなかったよ!


S09地区、とある日の昼過ぎ。

 

路地の先に店を構える喫茶 鉄血は今日も賑わっ・・・ているわけではなく、本日は休みである。休みの日といっても減ってきた食材やコーヒー豆なんかを買いに行くなど、まるっきり暇なわけではない。

が、この日はなぜか部下たちが買い物を代わり、店の掃除は鉄血工造から派遣されてきた人形たちがやってしまうことになっていた(後で聞いたが、ちょっとした孝行のつもりらしい)。

結果、暇になった代理人は、街の中を散策しているのだった。

 

 

(・・・たまにはこんな日も、悪くないかもしれませんね。)

 

 

クスッと笑いながら街を見て回る代理人。

大通りの店を眺めては従業員たちから声をかけられ、路地を入った先ではお年寄りの人たちと話をして、学校の近くを通ればたまたま休み時間だったのか子供達にも声をかけられる。

すっかりこの街の住人ですね、と一人呟きながら歩いていると、ポケットの中でチャリンッと小さな音がなる。手を入れてみると、どうやら自室の鍵と()()()()()()()が当たっていただけだとわかる。

 

 

(・・・・・。)

 

 

ふと何かを思ったのか、代理人はコインを手に取り、そっと指でなぞる。あの不思議な出会いから日が経つが、今でも鮮明に覚えている。

 

ほんの少し、強めの風が吹いた。

 

咄嗟に髪を抑える代理人。その拍子に指が滑り、コインを落としてしまう。そこはちょうど坂になっており、落ちたコインはコロコロと転がっていってしまう。

 

 

「あっ、ちょっと!」

 

 

珍しく慌てる代理人はすぐに追いかける。が、勢いのついたコインは止まる気配もなく、スピードを上げて転がり続ける。それを追う代理人であるが、まぁもともとこんなに走り回ることもコインを拾い上げるようなことも想定されているわけではなく、なかなか追いつけないまま結構な距離を走らされることになった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

坂が終わり平坦な道になってちょっとした頃。

ようやくゆっくりになりコロンと道に倒れたコインを見て一安心する代理人。息切れ一つ起こしていないところはさすがハイエンドモデルと言うべきであり、今回ばかりは代理人そのことに感謝していた。

 

 

「・・・ん? ここは?」

 

 

ふと顔を上げてみると、そこにはあまり見ない形の建物で、その屋根には大きな十字架ぎ乗っている。

 

 

「教会・・・ですか。」

 

「おや、鉄血のとこのマスターさん。」

 

 

声の方をみると白髪のおじいさんが箒を持って佇んでいた。どうやら掃除中だったらしい。あとこの人は常連さんだ。

 

 

「こんにちは。 こんなところに教会があったなんて、知りませんでした。」

 

「通りからは離れてるからね。 でもこの街のの人は大抵ここで結婚式をしてるんだよ。」

 

「結婚式、ですか。」

 

 

そう呟きながら、教会の大扉の前に立つ。

人形として生まれた身であり結婚などとは縁もゆかりもないようなものだと思ってきたが、周りの人形たちを見ると案外そうでもないのかもしれない。もしかしたら彼女たちが想い人と結ばれてここで式を挙げるときは、呼ばれるかもしれないなと思った。

 

 

 

 

チリーン

 

 

 

「・・・え?」

 

 

小さな音が聞こえた。しかも自身の手のひらの中から。開くとそこにはあのコインだけで、当然それだけで音がなるものではない。

少し首を傾げながら戻ろうと振り向くと、そこにいたはずの老人も走ってきた坂もなかった。

 

代わりに居たのは三人の人形と、純白のドレスに身を包んだあの人物だった。

 

 

「……マスター、さん?」

 

「ユノ、ちゃん?え、どういうことでしょうかこれ」

 

「?指揮官、お主誰と話しておるのじゃ」

 

 

ポカンとするユノと代理人。だがその周りの人形たちの反応とこの不思議な感覚、そして彼女の服装からすぐに察し、ニコリと微笑んでから言葉を紡ぐ。

 

 

「……返事はいいです、そして一言、おめでとうございます、どうか末永くお幸せに」

 

 

そう言って頭を下げ、道を開ける。言葉はちゃんと届いたようで、ユノは微笑むと人形たちと中に入っていった。

 

扉が閉まり、中から拍手が聞こえてくる。本音を言えば代理人も中で祝いたいところだが、この世界では自分はイレギュラーな存在。いつ消えてもおかしくはない。

ならばこのまま去るべきだと考えて歩みを進めるが、少し進んだところで止まり、教会の方に向く。

もしかしたら、消える前にもう一度見れるかもしれない。

もう残された時間がないことを直感で理解しながらも、代理人はその場で待ち続けた。

 

やがてその時が訪れる。

教会の扉がゆっくりと開き、彼女たちが姿を見せる。

彼女の隣にいるのは、確かPPK という人形だっただろうか。その彼女と並ぶユノの姿は代理人も見惚れるほど美しく、その表情は幸せに満ち溢れていた。

そんな二人を心から祝福し、代理人は深くお辞儀をする。

 

 

チリーン

 

 

代理人の周りにいた鳩たちが飛び去ると同時に再びあの音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げると、そこには閉じられた教会の扉と掃除する老人がいるだけだって。

まるで夢でも見ていたかのような時間だったが、今もはっきりと思い出せるその光景は、決して夢ではないと代理人は思う。

 

 

「・・・どうか、お幸せに。」

 

 

手のひらのコインを見てそう呟くと、代理人はどこか満足そうな顔で帰路についた。

 

end




ユノちゃん&PPK 、ご結婚おめでとうございまぁぁぁぁす!!!

ちょいちょい不思議なことが起きるけどもしかしたら限りなく近い世界線なのかも?


今回はキャラ解説なし。
それではまた!


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番外編6

今回はちょっと時間かかったな・・・。


さて今回は
・二人の休日
・需要と供給
・過去と未来と
・科学の敗北

の四本立てです。


番外6-1:二人の休日

 

 

「お母さん、次はどこに行きますか?」

 

「そうですね・・・店の模様替えもしてみたいので、雑貨屋さんに行きましょう。」

 

 

特に何でもない平日、S09地区の大通りを並んで歩いているのは二人の人形。

喫茶 鉄血のマスターである代理人とAR小隊の隊長のM4A1だ。

この日は喫茶 鉄血はお休みで、代理人含め店員たちは在庫の補充や掃除などをこの日に済ませるのである。一方M4も本日は非番であり、前々から代理人と出かけたかったというのもあって今に至る。

ちなみにM4はオフの日に限り、『お母さん』呼びである。

 

 

「あ、これとか可愛いと思いますけど。」

 

「ですがこれだけだと少々不自然ですね・・・こちらの造花と合わせましょうか。」

 

「ならこの花がいいですね。 色合いも綺麗です。」

 

「ではこれとこれと・・・次はあっちを見てみましょう。」

 

 

そんなこんなで買い物を終えて一度店に戻る。どうやら他の人形も帰ってきており、店の奥で楽しそうに話している。

 

 

「ふ〜、結構買ってしまいましたね。」

 

「予算の範囲内ですけどね。 さて、お茶でも入れて休憩にしましょう。」

 

「はい!」

 

 

代理人とM4は並んでキッチンに入る。M4は慣れた手つきで彼女専用のエプロンを着て、カップを用意し、皿を並べる。

 

 

「あ、冷蔵庫の上のほうに試作のケーキがあったはずですので、それも出しましょう。」

 

「は〜い。」

 

「ふふっ、楽しそうですねM4?」

 

「お母さんもですよ。」

 

 

まるで本物の母娘のように笑い合いながら準備を進める。お茶の香りに釣られて奥からリッパーとイェーガーがひょっこり顔を出し、足元からダイナーゲートが走り寄る。

 

その日はM4にとって忘れられない日となった。

 

 

end

 

 

 

番外6-2:需要と供給

 

 

「マスターのコーヒーは美味しいですね、おっぱい揉んでいいですか?」

 

「つまみ出しますよ?」

 

「撃ち抜いてくださって構いませんよ代理人さん?」

 

「嘘です冗談ですごめんなさい」

 

 

微妙に忘れられているがグリフィンは民間企業である。よって会社が定める休日というのもあり、今日がその日なのだ。

でなければ本部勤務のこの指揮官(変態)がここにいるはずがないのだから。

 

 

「あ〜〜休日くらいおっぱいに包まれて過ごしたいなぁ。」

 

「・・・心中お察しします。」

 

「・・・いつものことですから。」

 

 

指揮官のぼやきに頭を抱えるG36に、代理人は労いの言葉をかけながらコーヒーを差し出す。

いよいよもって殴りたくなる衝動に駆られてきたG36だが、その機会はついに訪れなかった。

 

勢いよく店の扉が開き、一人分のシルエットが浮かび上がる。

特徴的なサイドテール、フード付きパーカーとスカート、指ぬきグローブ。常連の彼女だ。

が、代理人含めこの店にいる者全てが目を疑った。トコトコと歩いてくるUMP45はその灰色のサイドテールを揺らす。

・・・いや、揺れているのはそこだけではない。本来の彼女なら到底揺れるはずのない部分も揺れているのは。

 

 

「・・・よ、45、さん? ですか?」

 

「えぇそうよ代理人。」

 

「あの・・・失礼ですが、それは?」

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたわね。」

 

 

待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑い、腕を組んで胸を張る。

タユンッという擬音が聞こえてきた気がした。

 

 

「これが私の新しい姿よ! もう誰にも壁とかまな板とか射撃場の的(紙)とは言わせないわ!!!」

 

 

そう言い放つ45の胸には、確かに大きな二つの実りが付いていた。サイズは同隊の416より少し小さいが、416に比べて背の小さな彼女がそんなものをぶら下げていればどうなるか。

現に店内の男は鼻の下を伸ばしきっている。

 

 

「・・・ペルシカさんですか?」

 

「えぇ。 相談してみるものね、以前作ったきり使わなかった素体があったから私ように調整してもらったわ!」

 

 

ふんすっとドヤ顔の45。かつての暗部部隊隊長が、堕ちるとこまで堕ちたものである。

 

 

「・・・・・なぁ45。」

 

「ん? あら、あなたは本部のとこの指揮官じゃない。 何か?」

 

「いいおっぱいだな、揉ませてくれ。」

 

 

( °д°)

店内のほとんどの人物がこんな表情を浮かべたことだろう。この指揮官、でかけりゃ誰でもいいのか。

これには流石に45でも、と彼女の方を見れば

 

 

「ああ、これが持つ者の宿命なのね! いいわ、揉みなさい!」

 

 

いい笑顔でOKを出してしまった。代理人ですら見誤ったこの行動は、長年持たざる者だった彼女の願望と嫉妬と妄想が色々とこじれた結果である。

 

 

「やったぁぁぁぁ!!!」(ムギュッ)

 

「ひゃあん!?」

 

 

全力で揉みにいく指揮官と、初めての感覚に戸惑いつつ恍惚の表情を浮かべる45。

これはしばらく帰ってこないだろうなと思っていた周りの人間だが、直後に聞こえてきた特徴的な駆動音に一気に現実に戻される。

代理人が笑顔を貼り付けたまま、武装を展開していた。

 

 

「・・・お二人とも。」

 

「「ひゃい!?」」

 

「少しお話がございます、来ていただけますね?」

 

「えっと、俺この後ここの指揮官に挨拶「来・て・い・た・だ・け・ま・す・ね?」・・・はい。」

 

 

久しぶりにブチ切れた代理人に連れられて奥へと消えるバカ二人。

二人が解放されたのは、閉店間際になってからだった。

 

 

end

 

 

 

番外6-3:過去と未来と

 

 

S06地区の空港。

正面玄関を出てロータリーを見渡し、チラリと腕時計を確認する。時刻は10:30、約束の時間には少し早い。

 

 

「ん〜まだ来てないね。」

 

「仕方ありませんよ、サクヤさん。」

 

 

そう言うと代理人とサクヤは近くのベンチに座る。今日この二人がここに来たのには理由がある。と言っても彼女たちの用事ではないが。

 

 

「あら、早いわね二人とも。」

 

 

ぼんやりしているうちに時間が経ったのか、顔を上げれば水色の髪を揺らした彼女がいた。S06地区のHK416である。

 

 

「いえ、先程着いたところです。」

 

「結婚式以来だね、元気にしてた?」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

 

S06地区の、と言ってはいるが彼女はグリフィンの所属ではなく、さらには()()人形でもない。服装は青を基調とした私服で、その左手の薬指には銀色の指輪が光っている。

 

 

「さて、さっそくだけど行きましょうか。 彼も会うのを楽しみにしてるわ。」

 

 

416に促されて用意された車に乗り込む。

行き先は、この地区の司令部だ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

司令部についた三人は車を返し(どうやらここの指揮官の私物らしい)中へと進む。すでに話は通っているようで、三人を見ても誰も気にしなかった。

 

 

「この部屋ね・・・()()()、来てくれたわよ。」

 

 

そう言ってドアを開ける416。中にいたのは、車椅子に座った男性だ。

 

 

「お久しぶりです◯◯さん。」

 

「お元気そうで何よりですね。」

 

「今日は来ていただいきありがとうございます代理人さん、サクヤさん。」

 

 

簡単な挨拶を交わして談笑する四人。

結婚後のこと、新婚旅行のこと、それをクルーガーが自費で出してくれたこと、二人でお店を開いたことなどなど、本当に楽しそうに話していた。

さっき部屋に入るときに『指揮官』ではなく『あなた』呼びになっていたことを指摘すると416は顔を真っ赤にし、しかし開き直ったのか惚気話を始めたりもした。

 

 

ピンポンパンポーン

『◯◯様、HK416様、代理人様、サクヤ様・・・ヘリのご用意ができましたので、ヘリポートにお集まりください。』

 

「お、呼ばれたな。」

 

「では行きましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

S06地区から少し離れた岬。

そのすぐそばに降り立つと、416と彼はそれぞれ花束を持って岬の方に進んでいった。

 

 

「ねぇ代理人ちゃん、あそこって・・・」

 

「えぇ、彼の司令部が現れた場所ですね。 もう解体も済んでいますが。」

 

 

岬から海とは反対の方を見れば、何もない草原の一角に何か建造物があったかのような跡がある。

数ヶ月前に突然現れ、彼らが保護された司令部があった場所だ。内部調査や人形の回収が終わった後、ここにある資料が悪用されることを懸念して司令部は解体されたのだった。

 

 

「鉄血の人形はどうなりましたか?」

 

「うちで回収して、ちゃんと供養してあげたよ。 お墓も建てたし。」

 

 

一方の元指揮官と416は岬に建てられた小さな墓の前に来ていた。

そこに刻まれているのは、かつて指揮官の元で戦った仲間たちの名前。あの時外で倒れた者もいたため全員分を回収することはできなかったが、彼は部下を一人たりとも忘れることはなかった。

もしかしたら生きている者もいるかもしれない、突然自分たちが消えて悲しんでいるかもしれない。しかし帰る手段がない以上、自分たちはここで生きていくことになるのだ。

これはその別れのため、明日へと踏み出すために必要なことだった。

 

 

「・・・皆、すまなかった。」

 

「一番最初にそれ?」

 

「いや、しかしな・・・」

 

「悔いても還っては来ないわ。 なら、私たちができるのは報告だけよ。」

 

「・・・それもそうだな・・・皆聞いてくれ、僕たちは結婚したんだ。 誓約じゃなくて、籍も入れている。」

 

「祝ってくれ、とは言わないわ。 私はみんなのことは忘れない。 だから、彼を見守っていて。」

 

「・・・もう行かなきゃ。 じゃあ皆、また。」

 

「さようなら・・・楽しかったわ。」

 

 

花束を置き、ヘリへと戻る二人。

 

 

ーじゃあね指揮官、416 お幸せにー

 

ーあんまり416を困らせないでよね、指揮官ー

 

ー二人とも、元気でねー

 

ーおめでとう指揮官、416!ー

 

 

風に吹かれて花びらが舞う。

それはまるで、二人を祝福しているかのようだった。

 

 

end

 

 

番外6-4:科学の敗北

 

 

「・・・と言うことがありまして。」

 

「いやいやいや。」

 

「いくらあなたの言葉でも信じられることと信じられないことがあります、今回は後者ですね。」

 

 

場所はIoPの16lab、ペルシカの研究室。

今日は代理人の定期メンテナンスの日だったのだが、先日なんとも不可思議な体験をしたので一応精密検査にかけてもらったのだ。

ちなみにナチュラルに混ざっているのは17labの主任だ。

 

 

「ですが、メモリーには残っていますよね?」

 

「あぁ、これね。 ・・・本当に夢とかじゃないの?」

 

「違います。」

 

「とはいえ体験者もあなただけですから。」

 

 

と行った感じで話し合いは平行線。まぁ実際そんなことを言われて信じる方が珍しいのだ。サクヤやS06地区の二人も似たような事例だが、並行世界を行き来したと言う話は代理人だけである。

 

 

「・・・まぁとりあえず異常はなかったよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「では、私も戻らせてもらいましょう。」

 

 

そう言ってドアを開いて出ようとした矢先、突然固まる17lab主任。

何事かと後ろから覗いてみれば・・・

 

 

「・・・風船?」

 

「何かくっついてますね。」

 

 

ふわ〜っと流れてくるのは風船とそれに括り付けられたボトルのようなもの。どこから来たのかはわからないがなぜか真っ直ぐこっちに流れてくる。

風船はそのまま真っ直ぐ進み、なぜか開いていた窓から入って・・・

 

 

「あら?」

 

「「えぇ〜・・・」」

 

 

ちょうど代理人の手元に流れてきた。

どうやらボトルはプラスチック製で、中に手紙と写真らしきものが入っている以外は何もなかった。

未だに信じられないものを見たかのような二人を置いて中身を取り出す代理人。手紙の差出人と写真を見て、クスッと笑う。

 

 

「ペルシカさん、主任さん。 たった今、証拠ができましたよ。」

 

「「えっ!?」」

 

 

感謝の言葉が綴られていた手紙とともに送られてきた写真の中で、彼女は大勢の人に囲まれながら笑っていた。

 

 

end




というわけで恒例の番外編でした。
どこかの世界では大規模コラボ回もあってドルフロ二次の輪が広がることを嬉しく思うばかりです!


では各話の解説を。

6-1
二十三話の後日談。
恋愛以外のカップリングってあんまり見ないなぁ〜とか思ったので書いたやつ。
この二人を家族とした別作品も描きたいなと思う今日この頃。

6-2
二十四話の後日談・・・というか悪ふざけ。
45姉が使ったのは番外編の2-3でKarちゃんが使った巨乳義体、を改造したもの。
翌日にはもとの体に戻されました。

6-3
二十五話の後日談。
この話だけ時系列が大きく離れているけど気にしなくても問題ない。
この二人の話はひとまずこれでお終いの予定。

6-4
二十七話の後日談+α
手紙が届いたので出しました。
急いで書いた分短くなってしまった・・・。






ちなみに今私はドイツにいます。
ドイツでも頑張って描きますよー!


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第二十八話:エンターテイナー

最初のボスのくせに今まで書いてなかったということに驚く作者。
ちなみに格好を見た時からこれだと思いました。

ちなみに本編は金曜日(バーのある日)です。


『一週間後に帰ります。』

 

 

たったそれだけのことが書かれた手紙が届いたのがちょうど一週間前。なんの飾り気もない封筒に前置きも何もない文章と、イタズラにしても酷い内容の手紙をよこすのは代理人が知る限りただ一人、スケアクロウだ。

ちなみに彼女はいつでも通じる端末を持ってはいるし、なんならメールで伝えることがほとんどの人形の中で毎度毎度手紙を書くのは彼女ぐらいなものである。本人曰く、『人間っぽい』らしい。

 

さてそんな手紙を見て慌てたのはこの店のマスターである代理人。彼女が帰ってくるのは素直に嬉しいが、まず間違いなく忙しくなる。

というよりも現在進行形で忙しい。

 

 

「・・・はい、喫茶 鉄血です。 ・・・申し訳ございません、本日のバーはすでに予約が埋まっておりまして、自由席も混み合うかと。」

 

「代理人、もう結構広まってますよ! 『ミセス鉄血』が来るって!」

 

「・・・彼女のことですから行き先を聞かれたら答えてしまうのでしょうが・・・仕方ありません、なんとか乗り越えましょう。」

 

 

この騒動の原因はスケアクロウの職業による。鉄血でも一、二位を争う電子戦モデルである彼女は元々の高い情報処理能力に加え、ビットを複数操ることでも知られる。その彼女の職業というのが、マジックや手品、その他パフォーマンスを行うエンターテイナーなのだ。

初めは趣味でやっていたらしいのだが、いつの間にかこだわりだし気がつけば仕事になっていたという。なお、『ミセス鉄血』という名前は、名前を聞かれた際に「鉄血の者です。」と返していたことからそう呼ばれるようになっている。

 

 

「?外が騒がしいような・・・」

 

「あぁ、もう来ましたか。」

 

 

そうこうしているうちに扉が開き、騒動の元凶がやってきた。

 

 

「お久しぶりです代理人。」

 

「えぇ、久しぶりですねスケアクロウ。 部屋はもう用意してますよ。」

 

「ありがとうございます。 それと・・・」

 

「構いませんよ、スペースは空けておきますので。 私も楽しみですから。」

 

 

パァっと笑顔(顔半分隠れているせいでよく分からないが)になるスケアクロウ。人の笑顔を見るのが好きな彼女はたとえ休暇であっても求められれば即興で何かするくらいにサービス精神旺盛である。

 

 

「まぁひとまずお帰りなさい。 夜まではゆっくりしていていいですよ。」

 

「えぇ、そうさせてもらいます。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

金曜日のこの時間はバー(元々はカラオケ喫茶だがいつの間にかバーになっていた)なので基本的に数名の常連客が来るだけなのだが、今日はすでに満席である。

 

 

「相変わらずの人気っぷりですね。」

 

「ふふっ、まさかここまで集まるとは思いませんでしたが。 場所を作っていただきありがとうございます。」

 

「いえいえこちらこそ、売り上げに貢献してもらっていますから。」

 

「それもそうですね。 ・・・では、行ってきます。」

 

「えぇ、頑張ってください。」

 

 

送り出させたスケアクロウは店の端に設置された簡易ステージに移動する。彼女が姿を見せると同時に巻き起こる拍手が、彼女の有名ぶりを証明しているだろう。

 

 

「皆さん、今宵はお集まりいただきありがとうございます。 短い時間ではございますが、どうぞお楽しみください。」

 

 

挨拶を終えると同時に音楽が鳴り、パフォーマンスが始まる。

今回のパフォーマンスはマジックをベースにしていて、アシスタント役のダイナーゲートとスカウトがそれぞれ二体ずつ、さらにビットをも使った割と大掛かりなものだった。これを即興でやるのだから慣れたものである。

 

何もないところからコインが現れ、箱に入ったダイナーゲートがスカウトと入れ替わる。手に持った指揮棒型の端末を優雅に振りながら会場を盛り上げる様は、まるで踊っているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間というものはあっという間に過ぎ去るもので、三十分にも及ぶショーは終わりを告げる。

店内には彼女を讃える拍手が巻き起こり、用意された箱(代理人が気を利かせて置いた)にはチップが投げ込まれる。

人形である彼女が汗をかくことはないが、それでも自身の指揮能力を限界まで使ったせいか疲れが見える。しかし客の前ではそんなそぶりを見せることなく笑顔で手を振り、店の奥へと戻っていく。

 

 

「お疲れ様です・・・あら?」

 

 

客から見えないとこまで来るやいなや、出迎えた代理人の胸に倒れこむスケアクロウ。それを優しく受け止めると、代理人は頭を撫で始める。

 

 

「・・・疲れました。」

 

「ふふっ、無事成功しましたね。」

 

「・・・コーヒーが飲みたいです。」

 

「わかりました。」

 

 

世界中を旅し、時には大きなパレードにも呼ばれることもあるスケアクロウ。そんな彼女が心から休める場所、それがこの『喫茶 鉄血』なのだ。

 

 

end




というわけで久しぶりの鉄血回。
名前だけ登場したのが第三話なのでそれ以来の登場・・・というかハイエンド達が意外と出てないという事実。


というわけでキャラ紹介


スケアクロウ

今回の主役。
指揮者を思わせる出で立ちからこの話は決まっていた。実は彼女自身に攻撃手段がないため、護衛としてダイナーゲートとスカウトが二体ずつ付いている。鉄血人形であるためモノクロの服装がメインだが、それがパフォーマンスの彩りを強調している。
彼氏募集中


護衛ダイナーゲート×2

喫茶 鉄血にいるものと同型。
護衛とパフォーマンス補佐を務めるため、通常よりも機動性が高い。


護衛スカウト×2

鉄血の機械人形。
ビットとの連携を想定され通信能力と索敵能力が高い。
この護衛機のみ、鎮圧用に電磁ワイヤー射出機が搭載されている。



次は誰を描こうかなぁ?


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第二十九話:姉妹

二人ともきてくれたので。
ライフル対象の陣形効果って強くね?


「ん〜美味しい! 来た甲斐があったわ!」

 

「ありがとうございます。 おかわりもありますよ。」

 

「やったー!」

 

「・・・・・(ムッス-)」

 

 

だんだんと暖かくなってきたS09地区、その路地の先にある喫茶 鉄血では、少し珍しい客が来ていた。

美味しそうにケーキを食べ、コーヒーを啜るのはカルカノM1891、その横でふくれっ面をしているのがカルカノM91/38だ。

戦術人形としては珍しく装飾の多い服装の彼女たちだが、これは彼女たちが戦闘目的の他に式典用としても作られたからである。

 

 

「本部ではちょっとした有名店なんですよここ! はぁ〜来てよかった〜!」

 

「・・・楽しそうですね姉さん。」

 

「お口に合いませんでしたか妹さん?」

 

「えぇ、そうですね。」

 

 

言いながらコーヒーを啜るカルカノ妹。見ての通り、なぜか分かりやすい嘘をつくのが特徴だ。

 

 

「ごめんなさい、妹はちょっと素直じゃないだけなんです。」

 

「余計なことは言わなくていいわよ姉さん。」

 

 

ツンとした態度でケーキを食べる妹を見て苦笑するカルカノ姉。その時、姉の端末が鳴り響く。

 

 

「あら、失礼。 ・・・もしもし私です。 えぇ・・・はい・・・」

 

 

ジェスチャーで謝りながら外へと出るカルカノ姉。それを見送ると、つまらなそうな顔のカルカノ妹に声をかける代理人。

 

 

「お姉さんのことが好きなんですね。」

 

「いえ、別に。」

 

 

まったくセリフと表情が一致しないが、あえて何も言わないことにする。代理人としても手のかかる妹のような感じなので、別に悪い気はしないのだ。

 

 

「ふふっ。」

 

「・・・何ですか?」

 

「いえ、私に妹がいたらどうだろうかと。」

 

 

カルカノ妹は目をパチクリさせると、すぐに普段の無表情に戻る。が、はぁ〜っとため息をつくと、珍しく彼女の方から話しかけてきた。

 

 

「私には分かりません、何故初対面の相手に素直に話すことができるのでしょうか?」

 

「・・・私の場合は職業柄でもありますが、例え初対面でもわずかな会話でもその人となりは感じ取れます。 そして、悪い人ではないと思うから、こうして話せるのではないでしょうか。」

 

「・・・・・。」

 

「お姉さんが心配なんですね。」

 

 

そう、彼女の性格の所以はそこであった。

誰にでも明るく社交的な姉。式典用でもある自分たちは必然的に多くの人間、特に企み事に秀でたお偉い様と話す機会が多くなる。姉の正直な性格が利用されるのではないか、足元をすくわれるのではないかと気が気でなかった妹は、分かりやすくも本心を隠すように振る舞い、姉に近寄る人々を観察することにしたのだった。

 

 

「・・・今までは、何事もなく過ごせています。 ですが、それが続くとは限りません。」

 

「取り返しの付かなくなる前に、防いでおこうと?」

 

「・・・はい。」

 

「それで自分が嫌われることになってもいいと?」

 

「姉さんのためですから。」

 

 

クスッと笑うカルカノ妹。その仕草から、本心であることが伺える。

釣られて代理人も笑うと、一度背を向けて棚を探り始める。

 

 

「あなたがお姉さん思いなのはよく分かりました。 ですが・・・」

 

「?」

 

「お姉さんは、あなたにも笑っていた欲しいと思いますよ。 ね、お姉さん?」

 

「あちゃ〜、バレてたか!」

 

 

カウンターの隅からひょっこり顔を出したカルカノ姉。なんとも気まずそうな苦笑いを浮かべて戻ってくる。

 

 

「ね、姉さん!?」

 

「いや〜妹のためにやってるつもりが、全部裏目に出てたなんてお笑いぐさですよ。」

 

「本当に、姉妹でそっくりですね。」

 

 

妹が妹なら姉も姉。妹に負担をかけまいと進んで前に出て明るく振舞っていたが、それが返って妹を追い詰めることになるとは思わなかったようである。

 

 

「ごめん!」

 

「え、あの、姉さん?」

 

「全然構ってあげられなくてごめん! なんか心配させてごめん!! 他にもいろいろごめん!!!」

 

 

両手をパンッと合わせて謝るカルカノ姉に、呆気にとられるカルカノ妹。代理人を見ればクスクスと笑うだけで何もしてこない。

 

 

「・・・そ、その・・・」

 

「え?」

 

「私も、迷惑かけてごめんなさい!」

 

 

勢い余って声が裏返る妹。

一瞬シーンとするが、カルカノ姉と代理人が同時吹き出し、笑いに包まれる。

 

 

「な、なんですか二人とも!」

 

「い、いや・・・可愛い妹だなって。」

 

「ふふふっ、本当に姉妹ですね。」

 

 

あー笑った笑ったと目尻に涙を浮かべながら笑う姉に、妹はむすっとした顔で睨むもなんの迫力もない。

そんな二人を眺めつつ、代理人は用意していたあるものを差し出した。

 

 

「? 代理人これは?」

 

「先ほど飲んでいただいたブレンドになります。 あちらでも淹れられますよ。」

 

「え、でも・・・。」

 

「サービスです。 二人でゆっくり飲んでください。」

 

 

微笑む代理人に、二人は顔を見合わせるとクスッと笑って袋を受け取った。

 

 

 

 

 

数日後、ある式典を取り上げた新聞記事を見て、代理人は一人微笑んでいた。

そこには、いつもの笑顔で手を振る姉と、ぎこちないながらも同じく笑顔で手を振る妹の姿があった。

 

 

end




最近もう一方の作品を書くほうが楽しくなってる・・・いかんいかん、こっちがメインだぞ!(自己暗示)

旅行先では思うように書かなかったけど、リアルMP5を見れたので大満足です。
・・・お土産?思い出話なら語ってやろう。


ではではキャラ紹介を。

カルカノM1891
姉の方。この姉妹の名前を毎回書くと面倒な上長いので姉と妹で書くことに。
原作では姉妹の服は彼女が作った(らしい)が、ここではもともとそういうデザイン。よく笑う明るい人形。

カルカノM91/38
妹の方。「私は明るい人形です」(自己申告)
あの分かりやすい嘘に理由があるとしたら、という感じで書き始めたのがきっかけ。


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第三十話:休暇(自主申告)

でっかいG11。
この娘だけ影というか線というか、薄すぎませんかね?


突然だがこの世界では人形にも労働基準法のようなものがある。民生人形が社会進出を果たした当時はそんなものはなかったのだが、人形協会やら鉄血クーデターやらでいろいろ見直された結果、ある程度は休めるようになっている。

またも突然ではあるが、グリフィンは民間企業である。よってある程度休暇を与えなければならないのだが、世の中そんな都合よく行くはずもない。

 

 

「だから私はサボタージュを敢行するのだ〜。」

 

「怒られても知りませんよ。」

 

 

喫茶 鉄血の角の席、外からも中からも目立たない場所でグデ〜っと机に突っ伏しているのは割と最近やってきたライフル人形『ゲパードM1』。

自分で言ったように、現在進行形でサボっているのだ。

 

 

「・・・ほら、外で探してる声がしますよ。」

 

「アーアーキコエナーイ」

 

 

外では彼女と同じ部隊の人形たちが探し回っているようだ。特に普段ストレス漬けのFALは怒り心頭である。

そこで扉が開き、彼女を探していたスプリングフィールドが入ってくる。

 

 

「うげっ・・・」

 

「『うげっ』じゃありません。 皆さん心配してますから戻りますよ。」

 

「え〜やだ〜今日はサボる〜」

 

「ダメです!」

 

 

首根っこを掴んで連れ去ろうとするスプリングフィールドと机にしがみついて抵抗するゲパード。

チラリと代理人を見るが代理人は苦笑するだけで助けようとはせず、事の成り行きを見守っている。

 

 

「・・・ねぇスプリング。」

 

「言い訳は後で聞きます。今は巡回任務に戻」

 

「指揮官とのデート、セッティングしてあげるよ?」

 

「ちゃんと任務をこなしているようですね! FALさんには私から伝えておきます!」

 

 

満面の笑みで出て行くスプリングフィールド。

代理人はゲパードの勝ち誇った顔を見て、盛大にため息をつく。

結局その日、ゲパードは巡回任務が終わるまで居座り続け、至福の一日を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

その翌日。

昨日の報告書(嘘)を提出したゲパードは日のよく当たる机でのんびりしていた。

 

 

(はぁ〜やっぱり休みはいいなぁ〜)

 

 

昨日も休んだというのにこれである。とはいえ今日はちゃんとした休日だし、報告書も受理されてしまった(FALは最後まで疑っていたが、決定的証拠がなかった)ので何も言われない。

 

 

「お待たせしました、ホットコーヒーです。」

 

「ん、ありがと〜」

 

 

代理人が運んできたコーヒーを一口すすり、さらに表情を緩ませるゲパード。

が、いつまでも立ち去らない代理人に訝しむ。

 

 

「ゲパードさん、今日はお客様がいらっしゃいますよ。」

 

「・・・え?」

 

 

昨日のことで文句を言いにきたのか?そうなるとせっかくの休みがパーだ。

などと考えながら視線を移すと、気だるげな目をした人形が一人。

 

 

「あなたがゲパードだね。 私はG11、よろしく。」

 

「え、あ、ゲパードM1です。」

 

 

では失礼します、と言って代理人は下がり、11がゲパードの対面に座る。

得体の知れない威圧感が漂い、ゲパードはかつてないほど緊張していた。

 

 

「あぁ、そんなに緊張しなくていいよ。」

 

「は、はぁ。」

 

「で、今日来た理由だけど・・・明日からの巡回任務、()()()と来てもらうから。」

 

「私たち・・・っていうと・・・」

 

「うん、404。」

 

 

その瞬間、ゲパードの頭の中はフル回転していた。

404といえばかつて極秘任務のみを扱ってきた特殊部隊だ。が、今は基本的に暇なのほほん部隊だと聞いている。買収するなら誰か、注意すべき相手は誰か・・・サボるためなら全力投球なゲパードは、明日以降の休みのために思案する。

 

 

「じゃ、明日の10時に指定の場所に来て。 ・・・まぁ逃げてもいいけど。」

 

 

妙に不吉なことを言いながら去って行く11の背中を見ながら、ゲパードは策を練り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さらに翌日。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

路地裏を全力で逃げる一人の少女。灰色の髪を揺らし殺人鬼から逃げるかのような形相で走っているのはあのゲパードである。

さて本日は404との合同任務だが、彼女はいつも通り途中で姿をくらましサボり始めた・・・

 

 

 

 

 

のだが、なぜか隊員たちに見つかり追い回されているのだ。

 

 

「そんな・・・なんで・・・!」

 

 

それが彼女の感想である。サボり始めて早々に見つかり、連れ戻されては再び姿を消し、そしてまた見つかるの繰り返しである。どこに行ってもすぐに見つかるという恐怖から、絶賛逃亡中というわけである。

 

 

(お、おかしい・・・こんなに簡単に見つかるなんて・・・!)

 

 

 

 

『ちょっと! 11じゃないんだからサボらないでよ!』

『はーい、すみませーん』

 

『あ、ゲパードみっけ! もぅダメだよサボっちゃ。』

『うへぇ・・・』

 

『あらぁ、そんなところでどうしたの?』

『ひっ!?』

 

『・・・まだサボる気?』ピキピキ 

『・・・・・』

 

『あ、今度はここにいたんだ! 探したよ!』

『嘘・・・』

 

 

 

 

 

(こうなったら仕方がない、いつものとこで匿ってもらおう!)

 

 

そう考えたゲパードが向かった先は路地の先にある喫茶店。

勢いよく扉を開け、目的の人物を見つけると抱きついて懇願する。

 

 

「お、お願い代理人! 匿って!」

 

「あらゲパードさん、そろそろいらっしゃる頃だと思っていましたよ。」

 

「ふぇ・・・?」

 

 

フフッと笑う代理人か視線を向ける。ゲパードもつられてそちらを見て、いよいよ泣き出しそうになった。

 

 

「待ってたわよ。」

 

「ニシシ〜、まだ鬼ごっこを続けるの?」

 

「観念しなさい。 あなたじゃ逃げきれないわ。」

 

「まぁ、そういうことだよ。」

 

 

逃げていたはずの404小隊が勢ぞろいしていた。テーブルには人数分の飲み物があることからそこそこ前にはここにいたことになる。

ゲパードは信じられないものを見るかのように立ち尽くしていた。

 

 

「ど、どうして・・・」

 

「あなたは確かにサボりのプロとも言えるわ、そこは認めてあげる。 ・・・でもね。」

 

「上には上がいるんだよね!」

 

「そんなのを追いかけ回してれば、嫌でも予想がつくわよ。」

 

 

45、9、416がそれぞれ述べ、11が前に歩み出る。その小さな体からは圧倒的強者の雰囲気が溢れ出ていた。

 

 

「みんなから逃げ切れるなんて思わないことだね。 それにサボることに関しては

 

 

 

 

 

 

私の方が断然上手い!

 

 

その言葉に崩れ落ちるゲパード。流石に不憫に思ったのか、困ったような顔で11は近く。

 

 

「まぁ大丈夫だよ。 ただ普通に仕事して、終わってからゆっくり休めばいいんだし。 なんなら私が相談に乗るよ?」

 

 

その姿はゲパードには女神のごとき姿だったという。そんな崇拝の(ちょっと危ない)目で見つめるゲパードは11の手を取る。

 

 

「あ、ありがとうございます! 一生ついていきます『お姉様』!」

 

「「「「・・・・・へ?」」」」

 

 

目をキラキラさせるゲパードに狼狽える11と、唖然とするその他隊員。

その後結局任務どころではなくなり、ゲパード含め五人まとめてお叱りを受けることになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ〜お姉様ぁ〜」

 

「416助けて」

 

「まぁ、その・・・頑張りなさい。」

 

 

 

end




なんだこれ?
ぶっちゃけ町の警備とか巡回にライフルとか過剰戦力過ぎるとか思ったけど特に気にしない。


てな訳でキャラ紹介

ゲパードM1
絶対休暇取得するウーマン。
間延びした喋り方といい休みたがるところといい、まんまでかいG11じゃねえかとは常に思っていた。
サボりの先輩としてG11を尊敬(というよりも崇拝)しているが、当のG11本人は基本的にサボっていない。

G11
サボるというよりただ寝たいだけの人形。
ここの404は基本的に暇なので、その寝ることすら飽きてきた。以降何かにつけてゲパードに引っ付かれることになる。



キャラや話のリクエストとか受け付けてます(クロスオーバー系も含む)
感想でも活動報告の要望箱でもいいので何かあれば是非送ってください!

それでは!


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第三十一話:感謝とプライドとツンデレと

WAちゃんきたあああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!(魂のシャウト)


「どうやら私はツンデレだと思われているらしいわ。」

 

「そうですね。」

 

「ちょっとは否定してよ!?」

 

 

昼下がりの喫茶 鉄血。世の中は卒業シーズンだったり新生活に向けてだったりと日頃の感謝を告げるムードが漂っている。一年に何度かあるこんな日には、少なからずムードに染まってしまう人形も当然いたりする。

その典型がこちら、S09地区のツンデレ代表『WA2000』である。

 

さてその彼女が一体何に悩んでいるかというと、周りから見た彼女のイメージらしい。本人曰く「できる女」なのだが・・・

 

 

自警団(男性)『頑張ろうとして空回りしてるとこが可愛い』

 

酒屋のオヤジ『美味い酒を飲んだ時に素直に美味しいと言えないとこが可愛い』

 

地元の男子高校生『一見冷たいけど実は優しいとこが可愛い』

 

近所の子供『猫を撫でてる時がとっても笑顔だった!』

 

 

「・・・ねこ、好きなんですね。」

 

「ち、違うわよ! ただちょっと足元にすり寄ってきたから撫でてやっただけでってなによその顔は!」

 

 

こんな感じである。

その彼女だが、客としてここにいるわけではない。その身をウェイトレスの服装で包み、お盆を片手に店内を動き回っている。

想像してほしい。戦術人形の中でも屈指のナイスボディな彼女が『いらっしゃいませ』と言ってくれるのである。

・・・デイリー来店必至だろう。しかも、

 

 

「ああもう口元汚れてるわよ。」

 

「溢れちゃったの? しょうがないわねぇ。」

 

「あら?風邪気味? これ使いなさい」つ ティッシュ

 

 

代理人が見ても素晴らしい接客というかサービス精神である。これが素なのだから驚きであり、さすがは『できる女』といったところか。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、WAさん。」

 

「ふ、ふん! 当然よ!」

 

 

その夜。

閉店後にもかかわらず明かりのついた厨房には、代理人とWAの二人の姿があった。その前にはびっしりと書かれたレシピの数々、だがそのほとんどにはチェックが付けられ、残っているのはあと一品だけである。

 

 

「さて、いよいよこれで最後ですね。」

 

「・・・・・。」

 

 

目の前には、硬い殻を背負ってうねうねと体を動かす怪生物・・・食用カタツムリだ。

そう、最後の一品は誰もが知るフランス料理、エスカルゴである。ここまで代理人に手伝ってもらいながら様々な料理を勉強し、普通の料理本に乗っているものならほぼ作れるくらいになった彼女。その最後の難関は、料理の難易度ではなく見た目の問題だった。

 

 

「だ、大丈夫よ私、やればできるやればできるやればできる」

 

 

そ〜〜〜〜・・・ちょんっ

ムニュッ

 

 

「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

 

 

ジ◯リもびっくりなほどに髪を逆立て、全身鳥肌だらけになるWA。その後ろで必死に笑いをこらえる代理人。彼女がエスカルゴに挑戦したのはこのプチ料理教室の初日で、その日も全く同じ反応だった。

が、そこはプライドの高いWAちゃん。今度はしっかり押さえつけ、調理を開始する。

・・・目に涙を浮かべながら。

 

 

「う〜〜〜なんでこんなモノ食べるのよ〜〜〜〜!」

 

「あの・・・無理して作らなくても・・・」

 

「絶対やだ!」泣

 

 

殻から取り出し(小さく悲鳴をあげる)、内臓を取り除き(結構ガチ泣きする)、加熱する(同時に凄い勢いで手を洗う)。

あとはソース(エスカルゴバターというらしい)と絡めて殻に盛り付けるだけで調理方法としては割と簡単な部類なので苦労はしないが、これまで作ったどの料理よりも神経を使った気がする。

 

 

「お疲れ様ですWAさん。」

 

「・・・・・。」

 

 

ぐったりしていつもの見栄すら晴れないWAに、代理人は語りかける。

 

 

「そういえば言っていましたよね? 最後の料理を作り終えたら説明すると。」

 

「・・・まだ終わってないわよ。」

 

 

やっと復帰したWAは身を殻に盛り付け、その上で味見する。

予想よりも美味しかったのか、はたまた成功したことが嬉しかったのか、パァっと笑顔を見せるも代理人の視線に気づきすぐに顔をそらす。

その後、食べたものを飲み込んでから、WAは静かに語り出した。

 

 

「私ね、ここの司令部に来たくて来たわけじゃないの。 ・・・とばされてきたのよ。」

 

「・・・・・。」

 

「私は戦術人形として誇りを持っていたし、自信もあった。 でも前のとこではろくに出撃もないし、指揮官はセクハラばっかり。 で、ある日思いっきり蹴り飛ばしちゃってね。」

 

「それでここに来たと。」

 

「えぇ。 で、ここは確かに前よりはマシだったけど、相変わらず警備が主な仕事。 指揮官に訴えても『平和なのはいいこと』って返されるだけだったわ。」

 

「まぁその通りですからね。」

 

「その時は相当イライラしてたから。 しかも間の悪いことに、その日は司令部で小さなパーティーがあったの。 みんな楽しそうにはしゃいでるのが気に食わなくって叫んだわ。 『こんなことのために生まれてきたわけじゃない』って。」

 

「・・・・・。」

 

「みんな静かになってようやくやっちゃったと思ったの。 私は怖くてずっと下を向いてた。」

 

「・・・・・。」

 

「初めは確か、M16だったかしら。 酒ビン片手に『私は戦うことと酒のために生まれてきた!』って叫んだのよ。」

 

「ふふっ、らしいといえばらしいですね。」

 

「そっからもう大騒ぎよ。 『私はウォッカだ!』とか『お姉ちゃん大好き!』とか・・・脱ぎだす娘もいたわね。」

 

「目に浮かびます。」

 

「開いた口が塞がらなかったわ。 そんな騒ぎの合間にいろんな人形が来て、名前と目的だけ話していったわ。 でもみんな決まって『戦うことと〜』とか『敵を倒すことと〜』って言ったのよ。」

 

 

笑いながら話す彼女の目には涙が浮かび、頬を伝って落ちる。

 

 

「そんなの見てたらなんだか、戦うこと以外ない私が馬鹿みたいに思えちゃってね。

・・・それからよ、みんなとも話せるようになったし、警備の任務だって苦じゃなくなった。」

 

「・・・いい仲間ですね。」

 

「・・・あの時から、まだ私は謝れてないのよ。 それで近いうちにまたパーティーがあるって聞いて、これだって思った。 でもただ謝るだけじゃダメだと思ったから・・・」

 

 

そう言って彼女はレシピを手に取る。

そこに書かれていたレシピは簡単なものから難しいもの、ファストフードから伝統料理まで・・・様々な国の料理が並んでいた。

 

 

「私はほら、こんな性格だから、きっと素直に言えないと思うの。 だから私のもう一つの生まれた理由、『料理』で伝えようと思ってね。」

 

 

そして彼女はペンを取り、『エスカルゴ』と書かれた欄の最後の一つにチェックを入れる。

満足げに笑う彼女につられて、代理人も笑った。

すると突然WAはうつむき、深呼吸する。

 

 

「・・・あ、ありがと。 代理人のおかげよ。」

 

 

そう言ってカバンから何やら分厚い封筒を数個取り出す。

差し出そうとする手をそっと抑えて、代理人は言う。

 

 

「お礼は結構ですよ、WAさん。」

 

「で、でも!「そのかわり」・・・え?」

 

「今度来た時は、その話を聞かせてくださいね。」

 

 

ニコリと笑う代理人。

キョトンとしていたWAもつられて微笑み、頷いた。

 

 

 

end




ライフルレシピでデイリー回してきた甲斐があったというものだ!
実はギャグかこういった話かでWAちゃんが出る前から悩み続けていたわけですが、これで良かったのかな?


ほなキャラ紹介するで〜。

WA2000
ツンデレ・ボイン・黒タイツというなんともけしからん人形。加えておばけ嫌いという萌えポイント付き・・・いいっ!
一方で仕事はしっかりする感じなので、そんな仕事に生きる彼女を表現したかったんや。
料理が得意。

食用カタツムリ
<来いよ小娘、手袋なんか捨ててかかってこい!
<かかったなアホが!(粘液ボディ)
・・・みたいなネタが思い浮かんだけどカット。





最近R-18のエロコメディも描きたいなぁなんて思ったりもするんだけどどうだろうか?


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番外編7

妖精実装はいいけどウィークリーが増えたせいで資源とかいろいろ厳しくなった件。
当分は貯蓄だな!

てな訳で今回は恒例の番外編。
・子供目線
・コミュニケーション
・G11の憂鬱
・感謝を乗せて
の四本です!


番外7-1:子供目線

 

 

とある日の喫茶 鉄血。

カレンダーを見れば本日は土曜日で、店内はそこそこな賑わいを見せている。特に昨晩はスケアクロウのショーがあっただけに、朝から彼女に会いたいという客が後を絶たなかった。

・・・が、残念ながらそのスケアクロウは朝早くから外出中であり、その日店に帰ってきたのは日がくれた後のことだった。

 

さてそんな彼女が朝から出かけたのにはちゃんとした理由がある。目的地は路地のを進んだ先にある小さな公園。街のメインストリートから離れているだけあって静かな、しかし休日なので子供達が元気に走り回るその場所で、スケアクロウは大きく深呼吸をした。

その後は近くのベンチに座り、公園を見渡す。

 

 

「はいタッチ! ◯◯ちゃんが鬼ね!」

 

「パスパス! こっちだって!」

 

「くらえ! 特大ホームラン!」

 

「あっ!? バカッ! ・・・やべ。」

 

 

そこかしこで遊ぶ子供達(窓ガラスの割れる音も聞こえるが)を、ジッと観察するように見るスケアクロウ。これは彼女が休日に必ずと言っていいほど行うもので、子供達がどんな時に喜び、笑顔を見せるのかを観察しているのだ。

 

 

「・・・・・あれ? もしかしてスケアクロウさんですか?」

 

「あら、どうも。」

 

 

そこはたまたまやってきたこの地区の広報幕僚のカリーナが声をかける。ちなみに今のスケアクロウの格好だが、水色のワンピースに白っぽいカーディガンを羽織っている。さらに髪を下ろしてマスクも外しているので、この顔を知っているものでなければまず気づかないのだ。

 

 

「お隣よろしいですか?」

 

「えぇ、構いません。」

 

 

では失礼しますと言ってスケアクロウの隣に腰を下ろすカリーナ。再びスケアクロウは子供達の観察を始めるが、ふと思いつきカリーナに声をかける。

 

 

「カリーナさん、今お時間よろしいでしょうか?」

 

「? えぇ大丈夫ですよ。」

 

「あの・・・カリーナさんの子供の頃のお話を伺いたくて。」

 

 

目をパチクリさせるカリーナに、スケアクロウは話を続ける。

 

 

「私たち人形に子供の頃などありません。 ショーの参考に子供達の笑顔を見ているのですが、やはり体験談に基づいた喜びというものを知りたいと思いまして。」

 

 

少し恥ずかしそうに、ダメですか?と問うスケアクロウにカリーナは微笑んで応える。

それから彼女は、自身の幼少期の記憶を思い出しながら語り始めたのだった。

 

 

end

 

 

番外7-2:コミュニケーション

 

 

グリフィン本部、人形用居住区。

本部所属の人形や出張で来た人形のための場所に建てられている宿舎の一室で、ある姉妹がある問題に直面していた。

その彼女たち・・・カルカノ姉妹がぶつかっている問題、それは今まで通りのコミュニケーションが取れなくなってしまったのだ。

 

 

(あれぇ〜、今までどうやって話してたっけ?)

 

(姉さんとの話題が・・・見つからない。)

 

 

片方は椅子の上で、もう片方はベッドの上でそれぞれ背を向けて頭を抱えている。偶然にも全く同じ体勢になるあたり姉妹なのだが、先日のすれ違い解決の結果、今まで気を使って会話してきた二人は本心からの会話ができずにいた。というよりも何を話せばいいのかすら思い浮かばないのだ。

 

 

「・・・ねぇ。」 「・・・姉さん。」

 

「「あっ。」」

 

「先にいいよ。」 「先にどうぞ。」

 

「「・・・・・。」」

 

 

意を決して話しかけるが口を開くタイミングが思いっきり被り、微妙な空気が流れ始める。

かれこれ三十分は経っただろうか、姉が口を開きポツンと呟く。

 

 

「よく考えたら私たち、姉妹なのにお互いのことほとんど知らないね。」

 

「・・・そうですね。」

 

 

クスクスと笑う姉につられて妹も笑い出す。

ひとしきり笑い終えると、チラリと時計を見る。今日は非番で、時間はまだまだある。

 

 

「ねぇ、ちょっと買い物に行かない?」

 

「買い物・・・ですか?」

 

「そう! 好きなもの買って、好きなことしよう、二人で!」

 

「・・・いいですね。 行きましょう!」

 

 

じゃあ早速と荷物をまとめ、部屋を出るカルカノ姉妹。

この後二人仲良く買い物し、また初めて姉妹喧嘩もしたのだがそれはまた別のお話。

 

 

end

 

 

番外7-3:G11の憂鬱

 

 

春先になり徐々に暖かくなりつつあるS09地区。

その司令部の一室に設けられた404小隊の部屋が二つある。UMP姉妹の部屋と、G11・HK416の相部屋だ。

その片方、11と416の部屋で、目覚ましがなっていないにもかかわらず11はパッチリと目が覚めてしまった。

というのも・・・

 

 

「えへへ〜、お姉様〜・・・」

 

「えぇ〜・・・」

 

 

11の身長の都合上一人ではやや広いベッド、そこに収まるようにして眠ってのは先日の一件から11を『お姉様』と呼び慕うゲパードである。11よりも背の高い彼女は幸せそうな笑みを浮かべながら11に抱きつくように眠っている。11はさながら抱き枕のようだった。

 

 

(なんだってこんなことに・・・とにかく起こさないと。)

 

 

ふと枕元の目覚まし時計を見ればもうすぐ鳴る時間だったので、11は起こすのを諦め、目覚ましがなるまでの数分間をため息をつきながら待つのであった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「おはようございます、お姉様!」

 

「あぁ、うん・・・おはよう。」

 

 

時間は進んで朝食、404の面々と食べているところに笑顔でトレーを持ってくるゲパードをいかにも面倒くさいですといった顔で迎える11。

しかしゲパードはそんなことなど一切気にせず(と言うより気づいていない)11の隣に座り朝食を食べ始める。ちなみにこのズボラな人形たちは意外なことに三食きっちり食べるうえ、間食もほとんどしない。

 

 

「仲良いわね二人とも。」

 

「うんうん! 本当に姉妹みたいだよ!」

 

「ちっこい姉と大きな妹・・・あら、どこかにいたわね。」

 

「誰のことかしら416?」ピキピキ 

 

「私は身長のことを言ったつもりなんだけど・・・何を考えたのかしら45?」ニヤニヤ

 

「遊んでないで助けてよ。」

 

「何かお困りですかお姉様? 私が力になりますよ。」

 

 

11は騒がしい仲間としつこい自称妹にげんなりしながら朝食を済ませると、こうゆうキャラじゃないんだけどなぁとぼやきながら45をなだめて司令室に向かった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その指令書を読んだ11の顔は、かつてないほどの絶望に染まっていた。側では45と9が大笑いし、416が口元を押さえて震えている。そして・・・なぜかいるゲパードの目はこれまたかつてないほどのキラキラ光っていた。

 

 

「・・・指揮官、これは?」

 

「上層部の決定だ。 ゲパードM1を期限付きで404小隊に配属させる。」

 

「よろしくお願いします、皆さん、お姉様!」

 

「は、はは・・・」

 

 

もはや乾いた笑いしか出ず、目にはうっすらと涙さえ浮かべている。チラリとカレンダーを見るがまだ三月の末、当然エイプリルフールではない。

泣く泣く了承した11はこの時、いつかグリフィン本部にカチコミをかけてやるということを固く誓ったという。

 

 

end

 

 

番外7-4:感謝を乗せて

 

「・・・よし、後は一煮立ちさせるだけね。 次は・・・」

 

 

ふと時計を見ると、パーティーの開始時間まであと少しといったところだった。私はやや急ぎつつ、しかし慌てることなく準備を進めていく。すでに出来上がっている料理は皿に盛り付け、手伝ってくれている人形・・・スプリングフィールドとM4に渡していく。

 

 

「はい、これもお願い。」

 

「わかりました。 ・・・間に合いそうですか?」

 

「ええ、なんとか。 ・・・ごめんなさいスプリングフィールド、それオーブンから出しといてくれる?」

 

「はい。 ・・・あら、美味しそうですね、見た目以外は。」

 

 

焼きあがったスターゲイジーパイは香ばしい焼き目がつき、食欲をそそる香りが広がっていた。

私は内心ガッツポーズをしながら冷蔵庫の中をチェックする。

・・・うん、デザートも大丈夫そう。

 

 

「ワーちゃん、持ってきたよ!」

 

「なんとか間に合ったわ。 ・・・ん、いい香りね。」

 

「ありがとう9、416。 あとワーちゃん言うな。」

 

 

二人が持ってきてくれたのは前もって注文しておいた酒類。特に日本酒や中国酒はこの辺りじゃあんまり見ないから結構時間がかかった。

各テーブルに料理と食器を並べ、厨房の空きスペースにはデザートをスタンバイさせておく。えーっと、ワインがあの席でビールがこっち・・・ウォッカとウイスキーがここで日本酒が・・・

 

 

「・・・ってしまった! 肉じゃが!」

 

「火は止めておきましたよ。 安心してください。」

 

 

スプリングフィールドの言葉にホッとしつつ、時間を見ればもうほとんどない。締め切った扉の向こうからはもう既に話し声が聞こえ、人が集まっていることがわかる。

最後にこれをあっちに運んで・・・・・よし、終わり!

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「うめぇ! これめちゃくちゃうめぇぞSOP!」

 

「イギリス料理が・・・美味しいなんて・・・」

 

「あなた自分の国の料理をなんだと思ってるのよ。」

 

「これはお酒が進むね・・・ウォッカおかわり!」

 

「ちょっと一〇〇式どうしたのよ!?」

 

「うぅ・・・ずっと洋食だったから・・・ご飯と肉じゃがが・・・美味しくて・・・」

 

「すげー虫料理まである・・・。」

 

「あっこれ結構いけるよ。」

 

 

そこかしこから聞こえてくる感想に、私は思わず泣きそうになる。もちろんそれなりに練習したし味にだって自信はあったけど、とりあえずホッとした。

とはいえまだ泣くわけにはいかない。今泣いたら、ちゃんと伝えられなくなる。

 

 

『あーあー・・・皆さん、お楽しみのところ失礼します。」

 

 

本日の司会的な役割のスプリングフィールドが壇上に上がる。

・・・そろそろね。

 

 

『さて本日の料理はいかがでしょうか? ふふっ、実はこれ、全部ワルサーさんが作ってくれたんですよ。』

 

 

おぉ〜という歓声と拍手が巻き起こる。・・・改めて言われると恥ずかしいわね。

 

 

『さて、今日はそのワルサーが、皆さんに話したいことがあるそうですよ。』

 

 

とうとうね。

注目が集まる中、私は意を決して壇上に上がった。

 

 

『あ、改めまして、ワルサーWA2000よ。 今日はその、このパーティーの料理を作ったわけだけど・・・みんなに、聞いてほしいことがあるの。

私はずっと、戦うためだけに生きてきたし、それを誇りにも思っていた。 でも、実際与えられるのは警備とかがほとんどで、私が思ってたのとは全然違った。 それを不満に思って、イライラして、みんなの前で喚いて・・・でも・・・その・・・・・』

 

 

あ、あれ?言葉が出ない?嘘、そんな、何度も練習したのに!?

みんな見てる、ちゃんと言わなきゃ・・・言わなきゃ・・・言わな「WAちゃん!」・・・っ!?

 

 

「今日のご飯、すっごく美味しいよ! ありがとう!」

 

『・・・え?』

 

「うんうん、お酒にもよく合うし、文句なしだよ。」

 

「私、こんな美味しい料理初めてかもです!」

 

「自分の国の料理が美味しいと思ったのは初めてよ。」

 

「あぁ、飯も上手くてコイツ(ジャックダニエル)もある、最高だな!」

 

 

誰が言い出したのかはわからない。けど気がつけばみんな口々に言ってくれる。

美味しかった、ありがとう、また作ってね・・・

 

 

「ワルサーさん。」

 

「ス、スプリング・・・」

 

「私からもお礼を言わせてください。 ・・・ありがとうございます。」

 

 

そう言ってくれる彼女の顔が、私にはよく見えなかった。もう視界はぼやけっぱなしで、拭っても拭っても治らない。

でも、今なら少しだけ、少しだけ素直になれる気がした。

 

 

『・・・みんな・・・あ、ありがとう。』

 

 

本当に、本当にありがとう。

 

 

 

 

その後に撮った集合写真に写る私は、涙で顔がくしゃくしゃだったけど、これ以上にないってくらいの笑顔だった。

 

 

end




意外と難産だった。
そういえばもうすぐレアキャラドロップのチャンスがあるみたいですが、多分私は第三戦役までしか周回しないと思います・・・資源節約のために。


そんなどうでもいい話は置いといて解説!


番外7-1
二十八話の後日談。
スケアクロウってマスク外すとどんな顔なんだろうって思ったのがきっかけでできた話。成長のない人形と寿命のある人間の会話って、なんかくるものがあります。

番外7-2
二十九話のその後。
元となった銃という意味の姉妹から、本当の意味での姉妹になる二人の話。本部ということで今作コラボ回で登場したおっぱい指揮官(本部所属)を出そうか悩んだけど結局やめた。

番外7-3
三十話の翌日。
404にゲパードが加わり、SMG×2・AR×2・RF×1という編成に・・・あれ、バランス良くなった?
UMP9「これかぞ!」

番外7-4
三十一話のその後。
終始WAちゃん目線で進んだ。なんやかんやで最後はちょっと素直になるのがWAちゃんらしいと思っている。
WAちゃんのロリスキンとか出ませんかね?


ではここまで。
次回は4月1日の予定。


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エイプリルフール特別編

新社会人の皆様、新大学生の皆様、おめでとうございます。

皆様の新生活を祝うとともに、本作品も最終回を迎えることとなりました。
長らくのご声援、ありがとうございました。
では、最後までどうぞお楽しみください。


「店を畳むことになりました。」

 

「無理して嘘つかなくていいですよ。」

 

 

四月一日。

それは一年で一度、大手を振って嘘をつける日、エイプリルフールの日である。こういうイベントに敏感な戦術人形たちは前日の夜まで嘘を考え続け、当日は誰を騙すかを楽しみにしているのだ。

 

 

「フフッ、意外ですね。 お母さんはこういうことには参加しないものだと思っていましたから。」

 

「せっかく人間社会の中で生きているのですから、参加しないわけにはいきませんよ。」

 

 

さて、時刻はまだ8時を過ぎた頃。開店直後から訪れたM4に代理人が言った台詞が冒頭のやつである。

 

 

「ところでM4、あなたは何か言わないのですか?」

 

「・・・エイプリルフールって振るものじゃないと思うんですけど。」

 

 

はぁ、と息を吐き、人形らしく一瞬で表情を作り変える。

十分に間をとって、渾身のネタを言い放つ。

 

 

「・・・隊員がしんでしまっt

 

「それはやめなさい。」

 

 

いろんな意味でシャレになっていない。M4としては自信作だったようで、ぷくぅと頬を膨らませている。

と、そんなタイミングで店の扉が開き、本日第二号の客が訪れる。

 

 

「あらM4、早いのね。」

 

「あ、AR-15・・・と処刑人?」

 

「よっ。」

 

 

見れば非常に珍しい組み合わせ、AR-15と処刑人が()()()()で現れる。

この光景にM4は即座に反応、笑顔を貼り付けてドスの効いた声で問いかける。

 

 

「・・・浮気ですか?」

 

「待って待って、エイプリルフールよ。」

 

「コイツが浮気ネタでいこうって言いだしてな、面白そうだから乗っかった。」

 

「鬼ですかあなたたちは。」

 

 

真面目で心優しいM4からすれば浮気=解体処分クラスの重罪である。代理人はそれをなんとか抑えつつ、二人に白い目を向ける。

AR-15としては日頃いいように(いろんな意味で)弄ばれることへのささやかな仕返しのつもりであり、処刑人はただの愉快犯である。

 

今日はもしかしてこんなことばっかりなのか?

 

代理人とM4がそう思う中、またまた客が現れる。今度はスプリングフィールドと、それに引きずられるアーキテクトというこれまた珍しいコンビだ。その後ろからゲーガーが呆れた顔でついてくる。

 

 

「おはようございますスプリングさん、ゲーガー。 ・・・とアーキテクト。」

 

「朝からすまない代理人。 エイプリルフール早々にコイツがやらかしてな。」

 

「あの、何やったんですか?」

 

 

代理人始め店内の人形たちの視線が刺さる。なにせあのアーキテクトだ、生半可なことはやらないだろう。

 

 

「春田ちゃんに手紙を送ったんだよ、日付が変わってから届くように!」

 

「いくらなんでも悪ふざけが過ぎます!」

 

「何送ったんだよ。」

 

「結婚しますって、私とここの指揮官のツーショット(合成)と一緒に。」

 

「バカだろお前。」

 

 

で、受け取ったスプリングフィールドは錯乱した末、なんと鉄血工造に殴り込みをかけたという。それも深夜に。

隣を見れば机に突っ伏してシクシクと泣いているスプリングフィールド。嘘だとわかっても相当ショックだったらしい。

 

 

「・・・浮気といいこれといい、今日はとんでもない日になりそうですね。」

 

「・・・臨時で閉店したい気分です。」

 

 

揃ってため息をつく代理人とM4。だがもちろんこれだけで終わるはずがない。

その後やってきたG11はいつものテーブルへと向かうと大量の参考書を並べて勉強し始め、それを見たゲパードが即倒。彼女に対するドッキリであったらしく、気絶した途端片付けて眠ってしまった。

 

次にやってきた9と416は。彼女らのターゲットはUMP45で、部屋に『駆け落ちします』という手紙を置いてきたらしい。そのうち死んだ顔でここに来るはずだよと笑顔で言うあたり、9はなかなか鬼畜なことをする。

 

さらにその後にはMG5が神妙な顔つきで訪れる。今度は何かと思えばどうやら彼女は被害者の方で、『五月一日はなんでも嘘をついていい日、代理人とかに相談したら?』とM9とP7に騙されたとのことだった。

 

それを眺めながら、代理人は思う。

なぜうちに来るのだろうか、と。

 

 

「それだけ君が慕われてるということだよ。」

 

「あ、ペルシカさん、SOPも。」

 

「やっほーM4、朝から人が多いね。」

 

 

ペルシカとSOPMODも現れ、そこまで広くない店内の席はほとんど人形で埋まってしまう。まぁ一応客ではあるしちゃんと注文してくれるので文句はないが、今日に限っては全員トラブルメーカーになりうるのだ。

その後、仕事のある人形たちは帰り、特に何もない者は残って談笑を続けた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

昼前。

ドアが壊れるような勢いで開き、トラブルの到来を知らせる。

見ればそこにいたのは五人の人形。だがその表情はそれぞれ違えど等しく切羽詰まった感じがしていた。

 

 

「だ、代理人! ここに9と416が来なかった!?」

 

「スプリングフィールドさん、この写真はなんですの!?」

 

「なんでウチの指揮官と鉄血のコギャルが写っとんや?」

 

「そしてなぜ、あなただけがこの写真を持っているんですか!」

 

「事と次第によってはタダじゃ済まないわよ!?」

 

 

この世の終わりだとか嘘だと言ってよバ◯ニーみたいな顔で詰め寄るUMP45。

スプリングフィールドの部屋から見つけたであろうその手紙を片手に錯乱するKar98k。

同じく写真を見て額に青筋を浮かべるガリル、ウェルロッドMkⅡ、モシン・ナガン。

代理人は割と本気で店を閉めようかと考え始めた。

 

そんなタイミングで、店の時計が正午を知らせる音を鳴らす。

 

 

「あら、ここまでね。」

 

「いいタイミングだったね! 45姉、エイプリルフールだよ!」

 

「ふぇ?」

 

 

45の死角から出てきた9と416がネタバラシする。エイプリルフールの嘘は午前中のみで、午後にはネタバラシをしなくてはならないのだ。

私たちはどこにも行かないよと9が言えば、45は途端にブワッと泣き出してしまう。

ほぼ同じタイミングで再び店の扉が開き、もう片方のカオスの元凶であるアーキテクトが姿をあらわす。

 

 

「ハッピーエイプリルフール! みんな楽しんでもらえt『ガシッ』・・・え?」

 

「これはこれはアーキテクトさん、少しお話しよろしいでしょうか?」

 

「ここやとなんやから外に出よか。 ・・・そこの路地裏で話そうや。」

 

「ふふふ、楽しみですね。」

 

「私の祖国で木を数える覚悟はあるかしら?」

 

「・・・私も参加しましょう。」

 

 

アーキテクトが弁明を図るよりも先に身柄を拘束し、素晴らしいチームワークで外へと連れ出す。

45も泣き止むまで慰められ、9と416に連れられて外へと出る。ついでに眠りこけている11も叩き起こし、ゲパードを担がせて連れて行く。

代理人はようやく静かになったと溜息を吐き、M4に慰められるのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

夜。

喫茶 鉄血としての営業は終えているが、店の明かりはまだついている。そこに続々と集まるのは、昼間に訪れた人形たちを含めた団体客だった。

 

 

「え〜、というわけで皆、ご苦労だった。」

 

『お疲れ様でした!』

 

「・・・こういうことなら事前に伝えていただければよかったのですが。」

 

「まぁまぁ、お陰でうまくいったんですから。」

 

 

S09地区司令部の全人形+αで行われているこの打ち上げは、今日行われたある作戦のものである。

エイプリルフールはあらゆる噂やデマが流れる日であることを利用し、さまざまな嘘とそれによる混乱に乗じてとある組織を殲滅してしまおうというもので、なんとグリフィン・軍・鉄血工造が手を組んでしくんだことでもある。ターゲットは麻薬の密売だったり汚職横領の常習犯だったりテロ組織だったりと多岐にわたり、グリフィン管轄のほぼ全ての地区で同時に行われた。

組織からしてみれば溢れ出るデマにまさか事実が隠されているとは思わず、大した抵抗もできずに潰れてしまった。

 

 

「でもこの地区なんてまだましな方だよ代理人。 他のとこなんて結構派手に動かしたからね!」

 

「あなたが指揮するとろくなことにならなさそうですが・・・ちなみに何を?」

 

「軍に宣戦布告と同時に強襲、お互い模擬弾と血糊でベットベトだったよ!」

 

 

そう言ってケラケラ笑うアーキテクトに代理人は肩をすくめる。ちなみに彼女は『おはなし』の後らしく、大破寸前である。

他にもクルーガー社長が過労で倒れたとか人形がボイコットしたとか軍の一部がクーデターを起こしたとか国が禁酒令を出したとか・・・とにかく大小問わず数えきれない嘘を流したというのだ。おまけにこれはあくまで組織だって行われたものであり、個人単位のものを合わせるとそれはもう大変なことになったという。

・・・無関係の一般市民にしてみればいい迷惑だが。

 

 

「まぁ無事に終わってよかったわ、私の演技もなかなかだったでしょ?」

 

「あれ? 45姉結構ガチで泣いてt」

 

「そんなこと言うのはこの口かしら?」

 

「スプリングさんは知っていたのですか?」

 

「いえ、全く。 知っていたらあんなに取り乱しは・・・思い出したら腹が立ってきましたね。」

 

「ちょちょちょちょっと! もう十分でしょ!?」

 

「乙女の純情を弄んでおいてこの程度で終わるとでも?」

 

「お姉様はサボってこそお姉様ですね!」

 

「君なかなか失礼だと思うよ。」

 

「・・・まさかお前も同じ手に出るとは思ってなかったぞ、ハンター。」

 

「ククッ、せっかくのエイプリルフールだしな。 ・・・ほら、私はどこへも行かないから泣き止んでくれ。」

 

「・・・ほんとに?」

 

 

・・・嘘に振り回された人形も災難である。

しかし、と代理人は思う。初めて店を開いた頃、これほど人が集まる店になるとは思ってもみなかった。初めて訪れた客にはその無表情が気味が悪いと言われ、初めて訪れた人形には銃を向けられたりもした。

ふと前を見ればM4がニコニコと笑っていて、代理人もつられて笑ってしまう。

 

 

「なんですかM4?」

 

「いえ、なんだが嬉しそうな顔だったので。 いいことでもありましたか?」

 

「・・・ふふふ。 えぇ、そうですね。」

 

 

毎日のこの日常が、楽しいことですね。

代理人は改めて店内を見渡し、そう思うのだった。

 

 

end




最終回と言ったな、あれは嘘だ(エイプリルフール

せっかくの特別編なのに普段とあんまり変わらない気もするけどまぁいいか。
私の今年度の目標としては、本作を書き続けることと他の作品を完結させることですね。


それでは皆様、本年度もどうぞよろしくお願いします!


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第三十二話:そうだ、温泉に行こう(二部構成:前編)

新年度早々に体調を崩すという・・・

皆さんお待たせしました、温泉回です。


それは三月の末頃のこと。

 

 

「温泉、ですか?」

 

「あぁ、人数に余裕があるから一緒にどうだ?」

 

 

珍しく普通に来店したNTWが、そう提案してきた。聞けば極東の島国である日本に住む指揮官の友人が働いている温泉宿に、団体客として招待されたらしいのだ。人数的には司令部の全人員が参加できるのだが、流石に司令部を空っぽにするわけにもいかず、結果として空きができてしまったという。

 

 

「代理人には私を含め多くの者が世話になったからな、ささやかながら恩返しというわけさ。」

 

「お気持ちはありがたいのですが、私にはこのお店が・・・」

 

「そういうと思ったよ代理人。」

 

 

店のテーブル席から声が上がり、二人の人物がやってくる。サングラスとマスクを外し、ロングコートを脱ぐと・・・

 

 

「・・・やはりあなたたちでしたか。」

 

「あれ? バレてる?」

 

「完璧な変装だと思ったが、見破るとはさすが代理人だな。」

 

 

現れたのは、何かといいタイミングでやってくることが多いハイエンドモデル、処刑人とアルケミストだ。

・・・ロングコートにサングラスとマスクなど、通報一歩手前である。

 

 

「お前がいない間は私たちが店を回してやる、だから行ってこい。」

 

「そーゆーことさ、行ってきなよ代理人。」

 

 

そう言って完全に追い出しにかかる処刑人とアルケミスト。とはいえ嫌がらせでもなんでもなく純度百パーセントの親切心なので断るわけにもいかず、代理人は苦笑しながら招待を受けた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけでやってきました日本です!」

 

「テンション高いわね一〇〇式。」

 

「まぁこの国の銃がモデルだしな。」

 

 

ヨーロッパを出発して六時間、この時代最速を誇る旅客機に揺られた一同は空港に降り立つ。道中の機内でも雲や海の上(S09地区は内陸にあるため、海を見る機会はほぼない)を通るたびに子供のようにはしゃいでいた人形たちだが、流石に少々疲れているようだ。

 

 

「指揮官さん、今日はこのまま旅館に向かいましょうか。」

 

「む、そうだな。 今日はゆっくりさせるとしよう。」

 

 

引率の先生のような立場になってしまったなと指揮官は思うが、まぁ部下が楽しんでいるようなので良しとする。代理人も人形たちがはぐれないように注意しているので、そこまで負担も大きくない。

こんな時は、人形の中でも精神年齢が高めに設定されている者が率先してまとめていくものなのだが・・・

 

 

(指揮官と温泉・・・混浴とかあったら・・・キャー!)

 

(フフッ、この機会に代理人との距離を詰めてあわよくば・・・)

 

(ひ、飛行機とはあんなに怖いものなのか・・・)

 

 

こんな感じでまるで役に立たない。ちなみに上から順にスプリング・NTW・MG5である。

とりあえず全員いるようなので、迎えが待っている予定のバスターミナルまで移動を開始した。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

空港からバスに揺られること数時間、山々を超えてたどり着いたのが、今回招待を受けた温泉旅館である。

 

 

『おぉ〜・・・』

 

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。」

 

 

旅館に入るやいなや、感嘆の声を上げる人形一同。空港では旅行客も多くてあまり『日本に来た』感がなかったのだが、如何にもな旅館と着物姿の人物を見れば実感が湧くと言うものである。

 

 

「着物だ・・・」

 

「綺麗・・・」

 

「コスプレ以外で初めて見たよ。」

 

「何ビクビクしてるのよMG5。」

 

「い、いや・・・ニンジャとかいるんだろう?」

 

「いませんよ。」

 

 

そんなこんなで一同は部屋に案内されるが、その途中でも人形たちのテンションは上がりっぱなしだ。欧米とは全く文化の異なるアジア圏、その中でもひときわ特徴的なことで有名な日本では、見るもの全てが新しく見えるのだった。

さっきまでの疲れは何処へやら、通された部屋でもそのテンションは落ちることがなかった。

 

 

AR小隊の部屋

「うわぁ〜!」

 

「広いわねぇ・・・ベッドがないからかしら?」

 

「海だー! 海が見えるよ!」

 

「あ゛ぁ゛〜ダメになりそう。」

 

「姉さん、いきなり寝転ばないでください。」

 

 

404小隊の部屋

「見て見て9、変な着物があるわよ!」

 

「それは浴衣ってゆうらしいよ。」

 

「? サイズが小さいのかしら、これ。」

 

「うわっ! 416エロっ!」」

 

 

指揮官ラヴァーズの部屋(抜け駆け防止策)

「お茶を入れましたよ。」

 

「これが日本茶・・・変わった味ですわね。」

 

「このマンジュウというのも美味しいですね。」

 

「温泉に入りながら一杯やりたいわね!」

 

「お、ええなそれ!」

 

 

代理人・FAL・NTW・MG5・一〇〇式の部屋

「・・・大部屋とは聞いてないぞ。」

 

「あんた一人にしたら代理人に襲いかかりかねないでしょ。」

 

「日本の旅館といえば怪談話が鉄板ですね!」

 

「ひぃ!?」

 

「大丈夫ですよMG5さん、実際に出るわけじゃありませんから。」

 

 

そんな感じでワイワイと騒ぎつつ、各々の部屋でゆっくりとくつろぎ始める。まだ昼過ぎなので夕食までは時間があり、温泉に行くのも少し早いため暇といえば暇なのだが、せっかくの連休(今回は3泊の予定)なのでもいっきりだらけているのだ。

ある者は早速布団を敷き、ある者は窓辺でやや冷たい海風にあたり、ある者は畳に寝そべりながらテレビをつけ、ある者は旅行ガイドブックを読む。

思い思いの時間を過ごしながら、時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『うわぁ〜!』

 

「随分と豪華ですね・・・。」

 

「変な気は使わなくていいと言ったんだがな。」

 

夕食の時間となり、食事の会場へと移動した一同。そこに並んでいたのは地元で取れた海産物を中心とした豪勢な料理の数々だった。

指揮官がチラリと廊下の先を見ると、いい笑顔で手を振る女性が一名。なるほど彼女が指揮官の友人のようだ。

微妙に困った顔をする指揮官をよそに、人形たちは飛びつくように席につく。

 

 

「指揮官っ! カニよ、カニがいるわ!」

 

「船の形の器なんて洒落てるわね・・・うわっ!?動いた!?」

 

「お、酒もあるじゃないか! ナガン、早速飲もうか!」

 

「少しは自重しなさい、あなたも乗ろうとしないで!」

 

 

ここにきてテンション上がりっぱなしの彼女らはすでに我慢の限界に達している。というわけで指揮官と代理人も席に着き、お待ちかねの食事タイムとなった。

・・・のだが、

 

 

「WAちゃんさん、正座がキツイなら無理しなくていいですよ?」

 

「む、無理なんてしてないわこんなの余裕よあとWAちゃん言うな。」

 

「・・・へぇ〜、余裕なんだぁ〜。」<チョン!

 

「ひぃあぁぁぁ!? な、何するのよFAL!」

 

「油断大敵y(モニュッ)ひゃあん!?」

 

「普段着もあれやのに浴衣まで着崩すなんてさすがやなFAL、胸がガラ空きやで!」

 

「はいKarさん、あ〜ん。」

 

「? あーん・・・んむっ!?」

 

「うふふ、美味しいですか? わさびをたっっっぷり入れておきましたからね。」

 

「おーいスプリング、ちびっこ達が怯えてるぞー。」

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ。」

 

「フフッ、指揮官というのも大変ですね。」

 

「まぁ、彼女達が笑っていられるならそれでいい。」

 

「なるほど、ですがその上司たるあなたが楽しそうでなければ、彼女達も十分に楽しめないでしょう。」

 

「む、それもそうだが・・・。」

 

「こういう時くらい、難しいことは考えずに楽しみましょう。 はいどうぞ。」

 

「・・・あぁ、ありがとう。」

 

「だ、代理人・・・私と、その、一緒に・・・いや、いい。」

 

「なぜそこでヘタれる。」

 

 

 

 

 

「416、あーん。」

 

「あーん。」

 

「うぎぎぎぎ・・・・・」

 

(・・・美味しい。)

 

「ほんとはハンターと来たかったんじゃないのか?」

 

「仕事だから仕方がないわ。 でも、次は二人で来たいわね。」

 

「ん〜〜〜美味しい! 生のお魚やカニがこんなに美味しいなんて知らなかった!」

 

「あぁSOP、口元汚れてますよ。」

 

「・・・M4って、お母さんみたいですよね。」

 

「へぁっ!?」

 

 

大広間のあっちこっちでどんちゃん騒ぎである。まぁ一応旅行客ということでそこまで大騒ぎはしていないが、程よく酒も入っているため大いに盛り上がっている。

指揮官もそれを眺め、安心したように微笑んで騒ぎの中に混ざっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

食事後、少し経って。

 

 

「おっ風呂! おっ風呂!」

 

「はしゃぎ過ぎやP7。」

 

「欧州とこっちとではやっぱり違うのね。」

 

「温泉の効能って人形にも効くのかしら?」

 

「FAL、どこか悪いn・・・あぁ肩こりか。」

 

「45姉、そんな隅っこでどうしたの?」

 

「ミンナ...オオキイ...ワタシ...チイサイ....」

 

「混浴・・・なかった・・・」

 

「え!? 冗談じゃなくて本当に指揮官と入るつもりだったの!?」

 

「そ、そんなふしだらなこと許しませんわ!」

 

「・・・先に入ってましょうか、お母さん。」

 

「そうですね。」

 

 

女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものだがそこは人形も変わらないようで、温泉に入る前からキャーキャーと盛り上がっている。

この温泉宿には温泉が複数あり、その一つを貸し切ってもらえたのでこうして騒げるのだが、すぐ横には壁一つ隔てて男湯がある。当然この会話も聞かれてしまうだろうが彼女達は知っているのだろうか。

 

 

「あ゛ぁ゛〜生き返る〜。」

 

「カリーナさん、その・・・」

 

「おじさんみたいですか? いいんです、こういう時くらいは。」

 

 

目一杯までだらけるカリーナに苦笑するM4と代理人。そこでふと思い出したかのように、カリーナが話し始めた。

 

 

「代理人さんは、楽しんでいらっしゃいますか?」

 

「? ええ、それなりに。」

 

 

カリーナはふふっと笑うと、ダネルさんを焚きつけた甲斐がありましたと付け加えた。

代理人とM4は目を丸くし、初めて聞きましたというような顔になる。

 

 

「というよりも、司令部の皆さんの総意でもありますけどね。」

 

「え?」

 

「ダネルさんも言っていましたよね? お世話になったって。 あ、M4さんにだけは言ってませんけどね。」

 

 

顔に出やすいので、と言うとカリーナは代理人の横に座り、

 

 

「代理人さんはもうただの店員さんではありません。 私たちの大切な友達ですからね。」

 

「ふふふ、ありがとうございます。」

 

「カ、カリーナ!? 私の代理人を取るつもりか!?」

 

「違いますしあなたのものでもありませんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、男湯の脱衣所にて。

 

 

「ふ、ふふふ・・・ついに、来てしまいました。」

 

 

貸し切りなので指揮官しかいないはずのそこにいたのは、騒ぎに紛れてしれっとこっちにやってきた指揮官ラヴァーズの一人、ウェルロッドだった。すでに服を脱ぎ終えてタオルを巻いただけの格好なのだが、恥ずかしさから顔が真っ赤である。

抜け駆け禁止という取り決めがあるためバレたらタダではすまないが、そんなことは御構い無しだ。整わない息を整えようと深呼吸し、震える手で浴場の扉に手をかける。

そして、意を決して扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ていたのでしたら、言っていただければ。」

 

「お忍びで来ているんだから言うわけにはいかんだろ。」

 

「それもそうですが・・・ん? ウェルロッド? 女湯はあっちだぞ。」

 

「・・・あのぉ、なぜ社長がここに?」

 

 

扉を開けた先、指揮官しかいないと思っていた男湯にいたのは我らがG&Kの社長、クルーガー氏であった。

呆然とするウェルロッドに首を傾げながらも、クルーガーは答える。

 

 

「いや、出張で日本に来ることになってな。 ならば温泉だと思いここに来たわけだ。」

 

「ということは予定よりも早く来たんですね社長、カリーナあたりにバレたら怒られますよ?」

 

「問題ない、バレなければいいのだ。」

 

 

ガハハと笑うクルーガーを死んだ魚のような目で見つめるウェルロッド。想い人と二人で温泉、あわよくばその先までと期待していただけにそのショックは計り知れない。

俯いてプルプルと震えだしたウェルロッドを不審に思い、指揮官が声をかけようとすると、

 

 

「社長のバカッ!」

 

「「んなっ!?」」

 

 

彼女らしからぬ暴言を吐き捨てて走り去り、指揮官とクルーガーはしばし呆然としていたのだった。

 

 

 

 

この後クルーガーはもちろんカリーナに見つかり、こっぴどく怒られることになる。

 

 

 

続く




う〜ん、体調が悪いと纏まらねぇな・・・え、いつものことだって?

それはさておき書きたくなった温泉回。長くなりそうだったので二部構成にしたわけですが、人数が多いと書ききれないという。


新規キャラはいないので特に解説とかはなし。巨乳っ娘の浴衣とか最高だと思います!


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第三十三話:説教と怪談と着物と(二部構成:後編)

せっかくWAちゃんがいるんだからこのネタはやっておきたいなと。

・・・ところで限定ドロップの確率低すぎませんかね?


WA・カリーナ・グリズリー・57の部屋

「で、なぜここにいらっしゃるわけですか?」

 

「い、いや、こっちで会議があるのでな。 距離もあるから前入りしようかと。」

 

「・・・その前入りした分のお仕事は終わっているんですよね?」

 

「・・・・・。」

 

「クルーガーさんっ!?」

 

 

部屋のど真ん中で仁王立ちするカリーナ、その正面にはクルーガーが正座で小さくなっていた。周りでは人形たちがその様子を白い目で見ており、ガタイの良い強面のおっさんが少女に囲まれている光景はまるでオヤジ狩りのようでもある。

・・・今回に関しては大体クルーガーが悪いのだが。

 

 

「まったく・・・いくら印鑑を押すだけとはいえ、秘書さんに任せて良いわけではありません。それに温泉なら会議が終わってから来ればいいじゃないですか。」

 

先に来て早めに帰っても変わらんだろうに・・・

 

「な・に・か!?」

 

「いや、何も。」

 

 

あの後、ウェルロッドから通報を受けて飛んできたカリーナはそれはもう恐ろしい形相だったという。逃げるクルーガー(元軍人)を取り押さえて部屋に引きずり込み、かれこれ三時間に及ぶ説教が始まったのだ。

流石に不憫に思ったのか、人形たちが止めに入る。

 

 

「まぁまぁカリーナさん、そこまでにしてあげましょう。」

 

「怒るなら向こうに戻ってからでもいいじゃないですか。」

 

「え? まだ怒られるのか?」

 

「「「「当たり前です!」」」」

 

 

ひとまずカリーナを落ち着かせて、クルーガーには釘を刺した上で退出させる。WAは机にうつ伏せるカリーナの頭を撫で、グリズリーと57はお茶とお菓子を用意する。この優秀な後方幕僚には普段から世話になっているため、こういう時くらいはゆっくり過ごしてもらいたいのだ。

 

 

「あ〜、人に何かしてもらうってちょっと久しぶりですね。」

 

「カリーナは働きすぎなのよ。 指揮官もそうだけど、もっと私たちを頼ってもいいんだから。」

 

「戦うだけが戦術人形じゃありませんからね。」

 

「そういうこと。 たまには私たちに甘えてもいいのよ?」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

 

じゃあそろそろ布団を出しましょうか、と言ってWAが立ち上がり押入れへと向かう。茶をすすりながら談笑するカリーナたちだったが、ふと見るとWAの様子がおかしいことに気がつく。押入れを開けたまま固まる彼女を不審に思った三人は、後ろからそっと覗き込んだ。

 

 

「「っ!?!?!?」」

 

「・・・へぇ。」

 

 

瞬間、人形二人は揃って絶句する。押入れの奥、積み上げられた布団に隠れるようにして貼られていた如何にもな『お札』が姿を現していたのだ。明らかにおめでたいお札の類ではない・・・というよりもはっきりと『封』の字が書かれたそれを発見してしまったWAはもう涙目だった。ともかくこれは晒し続けておくのは良くないということで、手早く布団を引きずり出して押入れを閉じる。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・見た?」

 

「・・・見間違いでは・・・ないですよね。」

 

 

揃って青い顔をする三人。一方唯一ケロっとしているカリーナは壁掛けや物の影などを探り始める。

 

 

「あ、またあった。」

 

「なんで探すのよぉ!?」

 

 

今度は『除』と書かれた札と盛り塩。塩の意味がわかっていない人形たちにカリーナが教えると、グリズリーも57は互いに抱き合って震え始めた。

無言で立ち上がり、三人の元に戻ってくるカリーナ。机の上で手を組み、ニッコリと微笑むと、

 

 

「では、怪談話でもしましょうか。」

 

「バッッッカじゃないのっ!?」

 

「カリーナさん鬼ですかあなたは!?」

 

「よくこの状況で言えたわね!?」

 

 

三人揃ってひとかたまりになると、今の今まで仕事姿しか見てこなかった三人は理解した。

この人(カリーナ)は、ドSであると。

 

 

「ではまず・・・この国でもメジャーなものにしましょうか。」

 

 

こうしてカリーナの怪談話が始まる。

この後たまたま部屋に遊びに来た人形たちが参加し、一〇〇式も話に乗っかり、怖くなった人形が他の部屋のものまで集め、気がつけば全人形が集まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、もうすぐ日も変わろうかという頃。

本来ならよほど夜更かし好きな人形以外は寝静まる頃なのだが、なぜかどの布団ももぞもぞと動いていた。動いていないのはカリーナと一〇〇式くらいである。

 

 

「だ、代理人・・・起きてるか?」

 

「・・・・・。」

 

 

布団にくるまりながらすがるような声で問いかけるNTW。だが返事は返ってこず、代理人は寝ていることがわかる。

直後、背中に何かが当たった。

 

 

「ヒィッ!?」

 

「お、落ち着けダネル、私だ。」

 

 

振り向けばそこにいたのは青みがかった髪の人形、MG5だった。どうやら一人では眠ることができずにこっちに来たらしい。

見ればどこの布団も二人以上になっており(たいして怖がっていなかったG11の布団には五人くらい固まっているが)、今の状況をカリーナが見れば大笑いすることだろう。

 

 

ガタガタ

「っ!?」

 

「うぅ〜、もうヤダァ〜」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」

 

「お化けなんていないお化けなんていないお化けなんていない」

 

「つ、潰れる・・・」

 

 

風で窓が揺れただけで身を縮こませて震え上がる人形たち。化学の結晶たる彼女たちが非科学の塊に怯える姿は滑稽そのものだが、本人らにとっては一大事である。

 

 

〜♪〜〜〜♪〜♪

「!?」

 

 

突然聞こえてきた鼻歌に再び身を固くする人形たち。だが、それが怪奇現象の類でないことに気がついたのは、なんとNTWだった。

 

 

(・・・代理人?)

 

 

鼻歌はNTWにとって聞き馴染みがないもの。それが一分程度続くと、今度はまた別の歌に変わる。不思議と怖さを忘れせるその歌に聞き入っていると、背中に張り付いていたMG5が震えていない、それどころか規則正しく呼吸を行なっていることに気がつく。

 

 

(なんだ・・・みんな寝たのか?)

 

 

その後も歌が変わるたびに、動いている気配が少なくなる。そうして残っているのはおそらくNTWだけとなった頃、また曲が変わった。

そして理解する。なぜ皆が眠り始めたのか。

 

 

(・・・そうか・・・そういうことか。)

 

 

代理人が歌っていたのは子守唄だったのだ。どこで知ったのかはわからないが、この部屋にいる人形たちの母国の唄が人形たちを安心させていたのだった。

人形たちにとって本当の意味での親はいない。幼少期もなければ子守唄を聞いたことのないものもいる。だがモデルとなった銃の、あるいはその持ち主たちの影響か、彼女たちにはそれが子守唄であることが理解できた。

NTWも気がつけば震えが止まり、やがて瞼が重く垂れてくる。こちらに背を向けたままの代理人をちらりと見て、NTWは静かに感謝する。

 

 

(ありがとう、代理人。)

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「本っ当に怖かったんですからね!」

 

「この埋め合わせはどうしてくれようかしら。」

 

「とりあえず何か奢ってれ。」

 

「あ! 私あの抹茶パフェがいい!」

 

「えぇ〜結構高い・・・いえ、払います払いますから。」

 

 

翌日。

せっかく日本に来たのだからと、人形たちはそれぞれの行きたいところに遊びに行っていた。ある者は近くの漁港に行き海産物を堪能し、ある者は桜の名所と呼ばれる場所に訪れる。

そんな中、スプリング・WA・NTW・P7・カリーナは日本の観光名所である京都を訪れていた

 

 

「でも珍しいですね。 他の方はともかくダネルさんが来るなんて。」

 

「ん? まぁそんなに大した理由じゃない。 代理人のお土産だ。」

 

 

この五人はもともと京都に来る理由があり、目的地が同じ者同士集まって訪れたのだ。

スプリングフィールドは自分のカフェのレパートリーのために抹茶を買いに、WAは趣味の料理の一環で京料理を学びに、カリーナは商店の品揃えを増やすために、P7はイタズラ道具(木刀や鳴り子など)を買いにである。

そしてNTWは代理人のお土産だが、なぜ代理人のお土産が必要かというと・・・

 

 

「代理人さんも真面目ですわね、鉄血の日本支社を訪れるなんて。」

 

「ここから東京だけでも相当かかるから、朝一番に出て行ってしまったわけだが・・・まったく何のための休暇なのか。」

 

「まっ、代理人さんらしいといえばらしいですわ。」

 

「ははっ、違いない。」

 

 

せっかく日本に来た、ということでわざわざ鉄血工造の日本支社(社名:SGJ)に顔を出すために代理人は出かけ、日が昇る頃にはすでに部屋にいなかったのだ。

代理人を愛していることに加え、昨晩のこともあるので何かお土産をと考えたのだが、こういうことに疎いNTWは何を買うか迷っていた。

 

 

「食べ物にするか、それ以外にするか・・・あぁもう右も左もいいものばかりだ。」

 

「独特の文化に加えて一大観光地ですからね。」

 

 

悩みながら街を歩く。まず第一の候補は和菓子なのだが、食べてしまえばそれで終わりだし、置物その他工芸品はかさばりそうだ。そうでなくてもここでしか買えなさそうなものが山のようにあるのだから大変である。

 

 

「身に付けるものはどうでしょうか?」

 

「アクセサリーとかか? 確かにそれなら良さそうだな。」

 

「フフフッ、ならいい場所がありますよ。」

 

 

案内されたのは少し外れた場所にある着物専門店。二階では着付け教室もしているそうで、その道のプロたちが揃っているのだ。

 

 

「あらカリンちゃん、来てくれたのね!」

 

「お久しぶりです! では早速・・・」

 

「はいはい、ちょっと待っててね・・・そちらはお友達?」

 

「あ、はじめまして、ダネルNTW-20です。」

 

「あら戦術人形ちゃんね、今日は多いわね。」

 

「・・・今日は?」

 

 

そんな話をしていると、二階から人形たちがぞろぞろと降りてきた。WAにスプリング、さらに海の方に行ったはずのMG5や、桜を見に行っていたモシン・ナガンとAR小隊、行き先不明だった404小隊まで一緒だった。

 

 

「あれ? ダネルも来たの?」

 

「お前たちこそ、なんでここに?」

 

「代理人にプレゼントしようと思ってね。 私は着物がいいと思ったのよ。」

 

「私は扇子かなぁって思ってたらWAと合流してね。」

 

「私たちも似たような理由でして。」

 

「じゃあせっかくだからみんなでお金を出し合って一番いいのを買おうってなったのよ。」

 

「でも肝心のサイズがわからなくってね・・・。」

 

 

なるほど、皆考えることは同じだったわけだ。

 

 

「しかし意外だな、M4は知っているだろうと思ったんだが。」

 

「子供が母親のスリーサイズを知っていると思いますか?」

 

「そういうあなたは知ってるの?」

 

「勿論だ。」

 

「おまわりさんこいつです。」

 

 

どこでそんなことを知ったのかと疑いの目を向けられてたじろぐNTW。が別にやましいことはなく、プレゼントの参考になればとペルシカに聞いていただけだ。

・・・けしてやましいことなどない。

 

 

「まぁいいわ、じゃあさっそく選びましょう。」

 

「色はどうするの?」

 

「やっぱりピンクじゃない?」

 

「青とかもありだな。」

 

「・・・おや?ニンジャの衣装まであるのか。」

 

「くノ一・・・だと・・・」

 

「ちょっと! 変な案を出してこないでよ、ダネルがトリップしてるでしょ!」

 

「でもありだろ?」

 

「ちょっとあr・・・ダメ! 絶対ダメ!!」

 

「なんでだ!」

 

「エロすぎんのよ!」

 

 

やいのやいの騒ぎながらもきっちりと選んでいく人形たち。カリーナはその光景を見ながら、メールを打った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

夕方、電車を乗り継ぎ帰ってきた代理人は、待ち伏せていた404小隊に連れられて大部屋へと連れてこられる。

そこにはなぜか全員集まっていた。

 

 

「お、来た来た。」

 

「あの、これは一体・・・」

 

「ふふふ、実はね。」

 

「私たちからお母さんにプレゼントがあります!」

 

 

そう言って控えていた人形たちが、昼間に買ったものをバッと広げる。

 

 

「・・・まぁ。」

 

 

人形たちが感謝の意を込めて選んだのは、桜色の着物だった。とにかく質の良いものを選び、金に糸目をつけずに選ぶあたり、代理人がどれほど慕われているかがよくわかる。

そして代理人も、それがわからないほど鈍感ではなく、気がつけばポロポロと涙をこぼしていた。

 

 

「あ、あれ? 代理人?」

 

「うそ!? まさかダメだった!?」

 

「ま、待て、まだくノ一がある!」

 

「なんで買ってんのよ!」

 

 

突然泣き出した代理人に、勘違いした人形たちが騒ぎ始める。それが可笑しくて、代理人は泣きながら笑ってしまっていた。

 

 

「フフッ・・・ごめんなさい・・・嬉しかったのでつい・・・」

 

「そ、そうか、よかったぁ。」

 

 

ふぅ〜っと息をつく。その後代理人が泣き止むと、人形たちは待ってましたというように代理人を囲む。

 

 

「というわけで早速着替えましょ!」

 

「ほら、脱いで脱いで!」

 

「あ、指揮官はあっち向いててね!」

 

「ん、あぁ勿論だ。」

 

「改めて見ると、代理人って肌綺麗よね。」

 

「うん、髪も黒いからさらに際立つわね。」

 

「あ、あの・・・あまり見られると恥ずかしいのですが・・・」

 

「ヤバイ、鼻血が・・・」

 

「ダネルは隔離しなさい、今すぐ!」

 

 

わいわい騒ぎながら着せ替える人形たち。

ちなみに着付けはWAを筆頭に時間と記憶容量を潰して覚えているため、割とスムーズに進んだ。

なお、ダネルが購入したくノ一衣装はいつのまにかスプリングフィールドが着ており、指揮官を誘惑しようとしたが阻止された。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『おぉ〜〜〜・・・』

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「いい・・・いいわ!」

 

「すごく綺麗です!」

 

「あぁ・・・もう死んでも良い。」

 

「え? ダネル? ダネルっ!?」

 

 

着替え終わってお披露目となると、はじめは皆一様に言葉をなくした。元がいいのもあるが人形の中では珍しい黒髪のおかげでよく似合っている。

自分たちの見立ては間違っていなかったと彼女らは喜び、代理人も自然と笑みがこぼれる。

 

 

「ですがいいのでしょうか・・・こんな高価なものを。」

 

「何言ってるんだ、私たちはそれ以上のものを代理人からもらってるさ。」

 

「これはそのささやかなお礼ですよ。」

 

「昨日の夜のこともあるしね!」

 

 

皆口々にお礼を言い合う。

なんというか、最近はもらってばかりだなと思いながらも、代理人は微笑み感謝の気持ちを表したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・が、

 

 

「ところで、昨日の夜とは?」

 

「え? 子守唄のことだよ、おかげでぐっすり眠れたし。」

 

「というよりも、よく知っていたな子守唄なんて。」

 

「もう怪談なんてこりごりよ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、そんなことをしていたのか。」

 

「なるほど、だから誰も部屋にいなかったんですね。」

 

『・・・・・え?』

 

 

部屋の温度が下がった気がする。

 

 

「・・・か、確認なんだけど代理人、昨日はどこにいたの?」

 

「今回の件でお礼を言いに、指揮官のお部屋にお邪魔していましたが?」

 

「・・・指揮官?」

 

「あぁ間違いない。 他にも来るかと思っていたが、なるほど皆そっちにいたのか。」

 

 

背中に冷たいものが降りる。

 

 

「ふ、FALは確か、代理人に誘われたのよね?」

 

「え、えぇそうよ・・・確か十時頃かしら。」

 

「え? その時間はもう指揮官の部屋にましたが?」

 

『え?』

 

「え?」

 

 

 

end




秘書「なにか言うことはありませんか社長?」ニコリ
クルーガー「ごめんて」


日本といえば京都、京都といえば着物、そして旅館といえば怪談・・・これだっ!
なお、今回の話の一部は留学生の友人の話を参考にしています。


というわけでちょい解説

温泉旅館
架空の旅館ですが、イメージはK崎温泉です。

着付け
本来は相当覚えることがありますが、人形のスペックを無駄にフル活用した結果数時間で覚えました。

カリーナのショップ
カリーナ「指揮官様! 今回は特別に、ダイヤで買える家具をご用意しましたよ! ・・・今日だけお安くしますよ?」チラチラ

くノ一衣装
春田「これを着たらいけると思った。」
ラヴァーズ『ギルティ』
備考:とにかくエロい。



次回もお楽しみに!


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第三十四話:家族

バッドエンドとか微妙に救われてないとか世界は守られたけど愛する人を失ったとかも好きですがハッピーエンドが一番好きです。

というわけで畑渚 様の作品『That ID was Not Found』のキャラをお借りしました。




撃鉄が落ちる。

胸に痛みが走り、身体中の体温が失われていくのがわかる。

霞む視界の中、銃を構え涙を流す彼女の顔だけが焼きついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜〜〜?」

 

「どうしたのペルシカ?」

 

「レーダーに妙な反応があってね・・・ていうかなにしれっと胸揉んでるのよ。」

 

「えへへ〜、だって柔らかいもん。」

 

 

IoP・16labの所長室。

恋仲のSOPMODによってある程度の清潔さを取り戻したペルシカの部屋だが、相変わらずものは溢れて机の上は多数のモニターが占拠し、

机の裏や壁沿いはコードが入り組んでいる。

そのモニターの一つ、S09地区とその周辺一帯を感知しているものに、ごく小さな反応があった。

 

 

「サイズ的には人形だけど・・・でも小さいね?」

 

「小型の発信機・・・それもかなり小さいやつね。」

 

「私が行こうか?」

 

 

SOPMODが『任せろ!』というように胸を張るが、ペルシカは手を振って止める。

 

 

「その必要はないよ。 ちょうどそこを通過する一団がいるから、連絡して拾ってもらいましょ。」

 

「え? でも危なくない?」

 

「大丈夫よ・・・鉄血工造の輸送チーム、指揮をとってるのはゲーガーね。」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「不明な反応・・・この辺りか。」

 

 

そう呟くと、得物である遠近両用の装備を構えて部下に指示を出す。S09地区へと納品予定の品物を運ぶ最中、ゲーガーの端末にペルシカから連絡が届いて今こうしているわけだ。

 

 

「さて、どこにいる?」

 

 

だだっ広い荒野のど真ん中、道を外れれば大小様々な岩や大きな窪みがあり、身を隠すにはうってつけの場所と言える。

戦場を離れて久しいが、それを言い訳にすることなく周囲に気を配る。

 

 

ガサッ

「! 誰だ!」

 

 

背後から音が聞こえ、とっさに振り向き構える。が、そこには誰もいない。

するとゲーガーは直感で再度振り向く。同時に盾にするように構えた武器に、重い蹴りが炸裂する。

両者は一度距離を取り、互いに睨み合う。

 

 

(・・・なんだ、こいつは!?)

 

 

ゲーガーに視界に映る()()は、所々違う点もあるが自身も何度か会ったことのある人形に見える。だが表示される情報のどこにも、()()()()()()()()()()()()

 

 

(まさか・・・こいつは・・・)

 

「隊長!」

 

「っ!?」

 

「! よせ、撃つなっ!」

 

 

彼女の言葉よりも早く部下が発砲し、避けきれなかった一発がそいつの足に当たる。

流れ出たのは、人工血液よりも鮮やかな・・・

 

 

 

人間の血だった。

 

 

「うっ・・・ぐぅ・・・」

 

「ちっ、全員攻撃やめ! 指示あるまで発砲禁止だ!」

 

「し、しかし!」

 

「命令だ! おい、誰か医療キットを持ってこい!」

 

 

そう指示を出して駆け寄る。幸い当たったのは一発だけのようで、大事には至らなさそうだった。

部下が持ってきた医療キットから道具を取り出し、応急措置を始める。

 

 

「・・・前とは随分対応が違うのね・・・情けのつもり?」

 

「・・・・・前、と言ったか? いつの話だ?」

 

「へぇ・・・覚えてないんだ・・・この腕を切り落としたのは、あなたでしょっ!」

 

 

意識が右腕に逸れたタイミングで、左腕を思いっきり振るう彼女。だがそれは読まれていたようで、当たる直前に手首を掴まれて止められる。

 

 

「くっ、離して!」

 

「・・・なるほど、サクヤさんと同じか。」

 

 

ゲーガーはそう呟くと、部下とともに彼女・・・片腕のUMP9をトラックへと運んだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

私は今、『鉄血工造』と書かれたトラックの荷台にいる。きっと大事なものなんだろう、ハイエンドを護衛につけるくらいだ。

そう思っていたのはほんの数分前で、今はむしろなにもわからない。運んでいるものはわからないけど宛先は貼ってあった。『S09地区司令部』『喫茶 鉄血』『◯◯工業S09支社』などなど・・・、まるで鉄血との抗争なんてないようなラインナップだった。

しかも・・・

 

 

「・・・8。」

 

「ダウト。 ほら、全部持ってけ。」

 

「くぅう・・・顔に出てたのか。」

 

「いや見えねぇよ。」

 

「なんだとっ! このつぶらな瞳を見ろ!」

 

「センサーカメラじゃねえか! しかも汚れてるし!」

 

 

私のそばでは鉄血の装甲兵(Aigis)がカードゲームを楽しんでいる。・・・シュールだ。

私の状態だが、なんと一切拘束されていない。確かにAigis四体を相手にすることはできないけど、誰もまるで私を警戒していない、むしろたまに話しかけてくるくらいにフレンドリーだ。

 

 

「おーいもうすぐ着くぞ、そろそろしまえよ。」

 

「はぁ〜結局負けかぁ。」

 

「悪いな嬢ちゃん、騒がしかったろ。」

 

「・・・・・。」

 

 

窓の外を見ると、街の入り口が見えてくる。あれがS09地区か。鉄血との最前線、グリフィン管轄の中でも激戦区。

ここに来れば何かわかる・・・・・なんとなく、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「確かに〜、私は一応医者もできるけど〜、餅は餅屋だと思うよ〜。」

 

「それはわかっているんだが・・・こいつはちょっと訳ありでな。」

 

 

 

 

 

街に着くと、ゲーガーとUMP9はトラックを降りて(ゲーガーが背負っている)街を進む。住人たちが次々とやってきてはゲーガーに挨拶する姿に、UMP9はいよいよ混乱し始める。

 

 

(この人たち、鉄血工造を恐れていない・・・むしろ普通の知り合いみたい。)

 

「お、見えてきたな。」

 

 

やってきたのは歯とドリルが描かれた看板のお店・・・例の歯医者だ。入るやいなや妙に間延びした話し方の女性が現れ、奥の処置室へと案内される。

そこで交わされたのが先ほどの会話だった。

 

 

「・・・そういう患者を受け入れるときは何か対価が欲しいなぁ〜。」

 

「あぁわかったわかった。 ほれ、『喫茶 鉄血』のクーポンだ。」

 

「まいど〜。 でもまぁ〜、応急処置もしっかりしてるから軽い消毒だけでも十分だねぇ〜。」

 

「・・・あ〜9、腕掴んでろ。」

 

「?」

 

「じゃ〜いくよ〜。」

 

 

治療には痛みが伴う、が信条のこの医者は消毒液どっぷりの綿で傷口を拭く。ゲーガーからすればいつものことだがUMP9的には医者=優しい、である。

が、この瞬間だけは危険度が鉄血を上回った。

 

 

「は〜い終わりだよ〜、じゃ〜あとはごゆっくり〜。」

 

「ゲーガー、その娘ですか?」

 

「あぁ、恐らくな。」

 

 

歯医者が消えると同時に鉄血のハイエンド・代理人が現れる。痛みで朦朧とする中、UMP9は静かに覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「平行・・・世界・・・?」

 

「えぇ、恐らくは。」

 

 

せっかく決めた覚悟が脆くも崩れ去る。

対面に座る代理人から聞かされたその内容は、到底信じられるものではなかった。

なにせ並行世界、要するに別の世界である。そんなオカルト満載な話を誰が信じるのか。だが聞けば聞くほどこの世界の歴史や関係が違うことがわかり、さらには過去にも前例がいることまで説明され、信じざるをえなくなっていた。

 

 

「そっか・・・私、死んじゃったもんね。」

 

「しかしまぁ、よく似てるなお前。 本当に人間か?」

 

「いえ、彼女の世界ではたまたま人形の9がおらず、彼女は似せたわけでは無いようです。」

 

「・・・UMP9は全世界共通でこれなのか?」

 

「さぁ、どうでしょうか。」

 

 

チラリとUMP9を見ると、その顔は諦めや無気力感一色だ。戦うことしか知らず、身内もいない。ただひたすら自身を殺し続けてきた彼女は今、空っぽなのだ。

 

 

(さて・・・どうしましょうか。)

 

 

これまで流れ着いてきたもの全てに関わってきた代理人だが、彼女たちは最後は笑って明日を迎えた。この少女にもそうしてもらいたいのだが・・・。

と考えたいたところで、何やら入り口が騒がしいことに気がつく。

 

 

「もう45姉! ここまできて逃げようとしないで!」

 

「そうよ45、あなたの蒔いた種じゃない。」

 

「大丈夫、痛いのは一瞬だよ・・・多分。」

 

「待ってお願いやっぱり明日にして今日はちょっとお腹の調子がそれに一日くらいなら大丈夫よというか我慢すればいいだけじゃないだからこの手を離してヤだヤだヤだぁ!!!」

 

 

小隊全員に引きずられるようにやってきたのは、ここ最近隊長としての威厳が皆無なポンコツ人形の45。どうやら虫歯らしい。

そんな悲鳴が面白いのか、歯医者が邪悪な笑みを浮かべながら出てくる。

 

 

「いらっしゃ〜い。」

 

「ひぃ!? 神様仏様指揮官様助けてぇ・・・あっ! そっちの9でもいいから助けてってええええ9!?」

 

「えっ!? うわっ、私がいる!」

 

「あら本当・・・ってどうしたのよその怪我!」

 

「・・・・・なんか変だね、本当に9?」

 

 

45を処置台に縛り付けてから詰め寄ってくる9。それを呆然と見ていたUMP9は、気がつけばポロポロと涙を零し始める。

自分とは違う、偽りのない本物の姉妹。そう思うたびに、自分が何をしてきたのかが、重くのしかかる。

そばに寄ろうとする代理人だが、9はそれを止めると、UMP9を連れて外へと出た。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・落ち着いた?」

 

「・・・うん。」

 

 

通りに面した大きな公園、そのベンチにUMP9を座らせると、9はハンカチを取り出して涙を拭いた。

 

 

「じゃあ改めて、私はUMP9! 9でいいよ!」

 

「・・・UMP9・・・だったけど、今は名無しね。」

 

「う〜ん名無しの9・・・名9(ナナイン)?」

 

「それはやだなぁ。」

 

 

思わずクスッと笑うUMP9に9もつられて笑う。

 

 

「ねえねえ、あなたにも45姉はいたの?」

 

「うん、いたよ。 みんないた。」

 

「へぇ! ねえその話を聞かせてよ!」

 

 

何が面白いんだろうと考えながらも、UMP9は話し始める。なぜ話す気になったのかはわからないが。

 

11のほっぺが柔らかかったこと。

完璧を目指す416は手がかかったこと。

45姉とストレッチをした時は、反応が面白かったこと。

架空の人形・UMP9として404小隊に入ったこと。

姉が大好きな人形を演じ続けてきたこと。

ある日突然、終わりを告げたこと。

45姉との最後の会話のこと。

 

話の順番もバラバラで、自分でも支離滅裂な会話だと思った。だがUMP9は止まらない。涙を流しながら、全てを吐き出すように話し続けた。

9はそれをただ黙って聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、ここにいるの。」

 

「・・・そっか。」

 

 

どれだけ話し続けただろうか。気がつけば日は傾き、公園で遊んでいた子供達もほとんど帰ってしまっていた。

なんだかスッキリした気がしたが、同時にもうなんの活力も湧いてこなかった。戦う理由もない、45姉も仲間たちもいない・・・

 

 

 

 

 

 

自分がここにいる意味は、何もない。

 

 

ぎゅっ

「・・・・・え?」

 

「辛かったね・・・苦しかったね・・・」

 

 

9はUMP9の顔を胸元に抱え、頭を撫でる。

 

 

「ずっと・・・ずっと戦ってたんだね。」

 

「・・・・・。」

 

 

9は泣いていた。UMP9と自分を重ねたのか、あるいは違う世界の自分だからなのか・・・本人にも分からなかったが、それでも9は泣きながら撫で続けた。

 

 

「もういいんだよ・・・戦わなくてもいいんだよ・・・」

 

「9・・・・。」

 

「ここにいていいんだよ・・・生きていていいんだよ・・・!」

 

「あ・・・あぁ・・・・」

 

 

生きていていい、言葉にすればたったそれだけのことだが、UMP9には十分だった。そして、一度溢れてしまえば止まらなかった。

 

 

「う・・うぅ・・・うぁあああ・・・」

 

 

UMP9は、9の胸で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぷはぁ! 生き返る!」

 

「・・・美味しい。」

 

 

その後さらに時間が過ぎ、暗くなってしまったので9行きつけの店(喫茶 鉄血)に移動した二人。

代理人も帰ってきていたようで、閉店直前であるにもかかわらず入れてくれた。ちなみに他の隊員とゲーガーも帰ったらしい。

 

 

「その・・・9。」

 

「ん? どうしたの?」

 

「・・・・・ありがとう。」

 

「・・・うん!」

 

 

満面の笑顔で頷く9に、UMP9も笑顔を浮かべる。その顔には、先ほどの陰りはもうなかった。

9はチラッと奥を見る。代理人と目が合い、ウインクを返された。

それを見て満足げに微笑むと、UMP9に向き合う。

 

 

「ねぇUMP9、私たちと家族にならない?」

 

「・・・え?」

 

「私と45姉、416に11、あとゲパードも!」

 

「ゲパード?」

 

 

聞きなれない人形?の名前に首をかしげるUMP9。

っていやいやそこではなく。

 

 

「家族って・・・?」

 

「そう、家族だよ!」

 

「私が・・・家族・・・ほ、本当に・・・?」

 

「もう、疑り深いなぁ。 いいよね、45姉!」

 

「可愛い妹の頼みよ、断る理由はないわ。」

 

 

UMP9が振り返ると、そこには45、416、11が並んでいた。

 

 

「で、でも私は人間・・・」

 

「あらそう。 で、それが何?」

 

「家族に人形も人間もないわ。」

 

「みんなが家族といえば、家族なんだよ。」

 

 

頭が追いつかない、嬉しさと戸惑いが交錯する。

45はその様子を見ると、両手を広げて迎え入れる。

 

 

「いらっしゃい、私の新しい妹。」

 

「っ! 45姉ぇ!!!」

 

 

思わず抱きつくUMP9。それを45が優しく抱きしめ、416と11もそれに続く。

当然、9もそこに加わった。

 

 

 

 

「やったぁー! みんなこれからは家族だ!」

 

 

 

 

 

 

end




45「妹が増えたわ! これで勝つる!」
歯医者「じゃ〜いくよ〜?」チュィイイイイイイン
45「ぎゃあああああああああ!!!!!!!」



はい、というわけで畑渚 様の作品『That ID was Not Found』より、UMP9(人間)でした!
畑渚 様、キャラを貸していただきありがとうございます!


では解説など。

UMP9
流れ着いてきた()()。詳細は元作品で。
右腕を失っており、また武器もない丸腰。服の裏が防弾チョッキのようになっているが銃弾を防ぎきれるほどではない模様。
外見や口調などは9と同じだが、話し方や笑顔は作られたもの。しかしこの世界で新しい家族と出会い、やがて自分自身として定着していくことになる。

ゲーガー
元作品で唯一の鉄血ハイエンド、という理由で出した。
サクヤのカウンセリングの影響か以前よりも生き生きとしている。
部下の多くが装甲兵。

Aigis
装甲兵。メンタルモデルは男性。
重装甲で接近し、近接武器で粉砕するというタイ◯ンフォームのような連中。
本人ら曰く「感情豊かな親しみのある人形」

歯医者
久しぶりの登場。歯医者だが、簡単な処置ならできる。
撃たれた後にこの消毒とかトラウマものである。

45姉
みんな大好きポンコツまな板人形。ついに虫歯にまでなってしまった。
とはいえ9の姉にして404の隊長なので、頼りになるときは頼りになる・・・その後反動でさらにポンコツ化する。

9
貴重な常識人。
なおこの後の話し合いで9が姉、UMP9が妹であることが決定した。
もっとも、UMP9は人間なのでそのうち色々と追い抜かれる。



以上!


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第三十五話:着ぐるみのお姉さん

57の着ぐるみって相当暑いと思うんですよ。
普通に服の上から着たら脱水どころではないわけですよね。
ということは着ているのは最低限のものだけってことですよね。


・・・よし、脱がそう(パァーン


「FALお姉ちゃん!」

 

「フェレットのお姉ちゃん!」

 

「はいはいそんなに慌てないの、順番にね。」

 

 

S09地区にある公園。

いつもは人もまばらで静かな公園なのだが、今日は多くの人間が集まっていた。年に一度行われる、地区の司令部との交流イベントだ。司令部に指揮官と最低限の人員を残し、公園とその周辺にも警備を配置してそれ以外の人形達は住民との親睦を深める。

ほとんどの人形は改めて親睦を深める必要がないくらいに仲がいいが、最近きた人形やほとんど街に来ない人形はこの機会に街の人間と話すのである。

中でも特に人気なのがFAL・・・の肩に乗っているフェレットだ。

 

 

「わぁ〜可愛い〜!」

 

「ねぇねぇ触ってもいい?」

 

「順番順番、まずはあなたね。」

 

 

慣れた様子で子供達の相手をし、フェレットを触れさせるFAL。フェレットのほうも慣れているようで大人しくしている。

 

 

「相変わらずの人気ですね。」

 

「動物は子供達のアイドルじゃからな。」

 

「わしらのアイドルは代理人ちゃんじゃよ!」

 

『わははははは!!!』

 

 

この交流会に参加しているのは、なにもグリフィンだけではない。鉄血工造グループは式典用装備(デコレート)したダイナゲートやデチューンしたドラグーン(の下のやつ)を用意し、喫茶 鉄血スプリングと協力して青空カフェを設置している。ちなみにこの後は正規軍による航空ショーも行う予定だ。そのため参加者も子供から大人、老人にオタクまで幅広い。

 

 

pppppppppp

「あら、時間ですね。 ・・・57さん、休憩終わりですよ。」

 

「あ、あと五分・・・」

 

「ちょっと57! 早く戻ってきなさいよ!」

 

 

FALにどやされて渋々起き上がるFive-seven。喫茶 鉄血の臨時屋台のうらにいる彼女は今、上下ともに水着だった。

もちろん水を浴びるわけでも濡れるわけでもない。気だるげに起き上がった57はそばに置いてある白い塊を掴み、のそのそとそれに入る。最後に別のパーツ・・・フェレットの頭を被れば、S09司令部公式マスコットのでかフェレット(愛称:フェレットちゃん)の完成である。

 

 

「あ゛〜あ゛つ゛い゛〜」

 

「マスコットが出していい声ではありませんよ。 はい、いってらっしゃい。」

 

「・・・行ってきます。」

 

 

最後に大きなため息をつくと、マスコットらしい元気な仕草で飛び出していく。跳ねるように駆け寄り、短い腕をブンブン振る。この着ぐるみ、マスコットという立場上武装できない57のために最新鋭の技術を駆使して作られた、超防弾防刃機能の特注品である。イベント毎にアップグレードされ、その都度57の身の安全は高まるのだがそれに比例してあるものも増えてしまう。

重量だ。

 

 

(ヒィ・・・ヒィ・・・ヤバイ、いろいろヤバイ!!!)

 

「わぁーいフェレットちゃんだ!!!」

 

(へぶぅっ!?)

 

 

無邪気な子供というものは無慈悲でもある。全力で飛びつかれた衝撃でそこそこのダメージを受ける57。この着ぐるみ、無駄に背が高いくせに視界が悪く、足元をうろちょろする子供達がほとんど見えないのだ。そのため急に抱きつかれると反応できず、不意打ちで衝撃を受けてしまう。

だが彼女の悲劇はまだ終わらない。

 

 

プチン

(え? なんの音・・・ってえええええええええ!!!!!)

 

 

何かが切れる音と同時に、汗に濡れた胸元がやけに涼しく感じる。視線を下げるとそこにあるべきもの・・・水着のトップスがなかった。どうやら先ほどの衝撃で切れてしまったらしい。

さらに・・・

 

 

(ちょ、ちょっと! こっちもヤバイじゃない!!!)

 

 

ボトムスの紐も解けかかっていた・・・というか片方はもう解けている。ぬいぐるみの裏地に引っかかって辛うじて耐えているというだけだった。

着ぐるみなので別に解けてしまっても困ることはないのだが、57的には大問題である。

 

 

(こんな真っ昼間に外で全裸なんて死んでもごめんよ!)

 

 

とりあえず救援だ、そう考えた57はFALの方に合図を送る。

しかし・・・

 

 

「ほらみんな、手を振ってくれてるよ〜。」

 

(違ぁぁぁぁぁぁぁう!!!)

 

 

声を出すわけにもいかず、通信機なんてあるはずもないので身振り手振りで合図を送るが、そのどれも伝わらない。FALなら楽しんでいる可能性がワンチャン・・・とも思ったがどうやら純粋に子供達目線な様子。

さっき休憩から戻ったばかりだから次は短くてもあと一時間。なんとかこの危機を脱したい57だが、もはや打つ手がない。

57は祈るような気持ちで子供達の相手を続けた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なに? 盗撮魔?」

 

「ただの盗撮魔ってわけでもないみたい・・・これを見て。」

 

「おいおい、なんでこいつら下着姿なんだ?」

 

 

公園警備中のAR小隊、その一人であるM16のもとに来たAR-15は、持っていた写真を見せる。ぱっと見では水着姿の女性の写真にも見えなくはないが、その背景はなんと街中。しかも来ているものは水着だはなく下着だった。

 

 

「・・・改造カメラか。」

 

「ええ、どうやら服一枚分くらいは透過できるみたいね。」

 

「で、その写真がばらまかれてるってわけか。」

 

 

まさしく女性の敵である。この写真にはモザイクがかけられているものの不特定多数の人間に見られ、しかもオリジナルは犯人の手の中ということになる。写真をグシャッと握りつぶしたM16は他の人形にも連絡し、警戒度を上げた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

(うぅ〜〜〜・・・ホンットにマズイわ・・・)

 

 

一方その頃、着ぐるみの中で57は新たな危機に直面していた。

あの後結局たいした時間も立たずにボトムスもずり落ち、ヤケクソになりながらパフォーマンスを続けていた57。FALから告げられた残り四十分という言葉を希望に働いていたのだが、ちょうどそのタイミングであの感覚がやってきた。

 

 

(・・・トイレに行きたい。)

 

 

着ぐるみを着ては脱ぐたびに大量の水分を摂取していた57。その弊害が今ここにきて訪れてしまう。そして、一度知覚してしまえば無視することは不可能だった。

そして、残り三十分を切った頃。

 

 

(無理無理無理無理ヤバイヤバイヤバイのおおおおおおおお!!!!)

 

 

着ぐるみの中で内股になりながら悶えていた。

幸い着ぐるみの足が短いため内股でもバレはしないが、もう最初の頃の激しい動きは出来そうにない。しかし子供達はまだまだ元気で、しかも入れ替わり立ち替わり新しい子供がやってくる。そんな子供が最初にすることといえば、とりあえず抱きつくわけである。

57は比較的背が高い方の人形である。そしてちょうどお腹あたりが、子供が一番抱きつきやすい位置だった。

 

 

(ひぃいいいいいいい!!!!!)

 

 

なんとか、本当になんとか耐えて子供を離す。

ほとんど役に立たない視界を頼りに探せば、新しくきたであろう子供があと三人。

・・・無理かもしれない。

 

 

(あぁ・・・ほんとにダメだからぁ・・・)

 

 

FALの『一人ずつだよ〜』という声が、『お前の寿命もあと三人分だ』という風にしか聞こえない。

終わった・・・そう思っていた57だが、意外なところで救いの手が差し伸べられる。

 

 

「いやぁ〜フェレットさんは人気ですね、お一ついかがですか?」

 

「あら? 写真屋さん? みんな〜並んで〜!」

 

 

カメラを持った青年が近づいてきて、FALの合図で子供達が並び始める。

57はホッとしつつカメラマンに感謝し、子供達の後ろに並んだ。カメラマンの後ろには子供達の保護者らしき姿もあり、恐らくこの写真撮影でお開きだろう。

ここを耐えれば、助かる!

 

 

「それではいきまーす。 ・・・3・2・1」

カシャッ

 

 

シャッターが押され、カメラマンが写真を確認する。

その確認作業いらないからまとめて全部取りなさいよ! 57の声なき叫びなど聞こえるはずもなく、諦めて大人しく待つことにしたのだが・・・

 

 

「? おじちゃん大丈夫?」

 

「鼻血出てるよー!」

 

「い、いえ、大丈夫ですから!」

 

「え、でも処置した方が・・・」

 

「大丈夫だっつってんだろ!!!」

 

 

心配して近づいたFALを、青年は思いっきり突き飛ばす。

瞬間、空気が変わった。青年はしまったという顔でにげようとするも、いち早く復帰したFALに取り押さえられる。その隙に相棒のフェレットがカメラを奪い、近くにいた代理人に渡す。

 

 

「か、返せ!」

 

「これは・・・どういうことでしょうか。」

 

「お、なんだもう捕まえてたのか。」

 

 

騒ぎを聞きつけてきたAR小隊ら警備要員たちがぞろぞろと集まる。揃ったところでカメラを確認していくと・・・

 

 

「あ、この写真だ!」

 

「こいつだったのか・・・。」

 

「見た目が好青年だから、警戒されなかったのね。」

 

 

その後現れた警察に男とカメラを引き渡す。子供達はその一部始終を間近で見て、さらに尊敬の念を強めるのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

後日。

 

「な、なによ貴方達!?」

 

「57さんですね。 貴方にはまぁ・・・その・・・いろいろ聞きたいこともありますので。」

 

 

なんとも微妙な顔の警察官に連れて行かれる57。妙なことに全員が女性なのだが、何か関係あるのだろうか。

警察車両の中に入れられ、リーダーと思しき警察官(女性)と一対一になる。

 

 

「・・・で、私がなにをしたっていうのよ。」

 

「その前にですが57さん・・・貴方は子供が好きですか?」

 

「は? ・・・まぁ嫌いではないわね。」

 

「・・・聞き方が悪かったようですね、貴方は子供を見て性的興奮を覚えますか?」

 

「んなっ!? そんなわけないでしょっ!」

 

 

机をバンッと叩いて立ち上がる。一体自分のどこがそう見えるのか、全くわけがわからないという態度で再び座る57。

すると警察は一枚の写真を取り出し・・・

 

 

「・・・これを見ても違うといえますか?」

 

「これってなによこれ・・・って・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

直後、聞いたこともないような悲鳴が響き渡り、顔から文字通り湯気を出しながら机に突っ伏す57の姿があったという。

 

 

 

end




アップデート後の57に衝撃を覚えたのは私だけではないはず。
というわけで彼女には犠牲になってもらいました。


ではではキャラ紹介とかを。

57
当地区の愉快犯。ハンドガンとは思えないほどの高身長とおっぱいの持ち主。
着ぐるみって暑いよね・・・というわけで脱いじゃおうというのが今回の発端。写真? カリーナあたりに大金積んだら出てくるんじゃない?(テキトー)

でかフェレット
無駄に洗礼された無駄のない無駄な着ぐるみ。
どれだけ厚かろうと一枚は一枚なので透視カメラで透ける。
魚型の大型ハンドガンというオプションパーツが存在する。

FAL
シスコン会で胃を痛める人形。
子供とのふれあいと笑顔が私の癒し、故に邪魔されることを本気で嫌う。
着崩した服を目当てに子供を連れてくるお父さんもいるとかいないとか。

フェレット
銃弾飛び交う戦場を、生身で縦横無尽に走り回る謎の生き物。
白旗を振ることができるが意味はわかっていない。

青年
透視カメラを作ることができるくらいには優秀な男。
・・・なのだが母親以外の女性の裸を見たことがなく、まるっきり耐性がない。
故に、海水浴場で写真を撮る勇気もない。今回の不幸は、57のハプニングのせい。



・・・なに書いてんだろうな俺。


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番外編8

気がつけばUA15,000越えだしお気に入りも150人近くいるし評価にも色がついてるし・・・書き始めてまだ半年も経ってないのにここまで評価をもらえるとは思いませんでした。
皆さん本当にありがとうございます!


てな訳で番外編!
今回は
・不器用な男
・IoP開発部特別会議
・未来予想図
です!


番外8-1:不器用な男

 

 

温泉旅行、その初日の夜。

一人部屋でのんびりくつろぐ指揮官は、扉をノックする音で立ち上がり、扉を開ける。

 

 

「あぁ代理人、よく来てくれた。 入ってくれ。」

 

「えぇ、失礼します。」

 

 

指揮官の部屋を訪れたのは代理人だった。というのも、先ほどの夕食の時に指揮官が誘い、代理人がそれを受けたためだ。

スプリングフィールドあたりが聞けばパニックになりそうな出来事である。

 

 

「代理人、酒は?」

 

「そこそこですが。」

 

 

テーブルに向かい合って座ると、指揮官が用意していた日本酒をお猪口に入れて乾杯した。

それから二人は他愛もない世間話から始まり、互いに部下を持つ身(代理人の場合は鉄血時代のこと)として意見を言い合ったりと、静かだが楽しいひと時を過ごしていた。

飲み始めてしばらくし、互いに少し酔いが回ってきた頃、それまでニコニコと笑っていた代理人が突然真顔になり、口を開いた。

 

 

「・・・それで、話したいこととは?」

 

「・・・気づいていたのか。」

 

「ただ世間話をするだけで呼び出すような人ではないと思っています。 今までの話も有意義なものでしたが、わざわざ呼び出してまで話すことではないでしょう。」

 

 

代理人はじっと指揮官を見つめ、指揮官も目をそらさずに見返す。

見つめ合うこと数十秒、指揮官が口を開いた。

 

 

「そうだな、では話そう。」

 

 

覚悟を決めたような顔つきで、大きく息を吸い込む。

 

 

「代理人、君に聞きたいことが一つある。」

 

「答えられるものであれば。」

 

 

いつも、こんな休暇の最中であっても真面目な指揮官が、さらに真面目になって聞くことだ、容易に相談できないことだろう。

代理人も覚悟を決めて、彼の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「皆が、店にいる時のことを聞きたいのだ。」

 

「・・・・・は?」

 

 

思わず間の抜けた声が出てしまう。

店にいる時の? 皆というのは部下なことか? え、それだけ?

 

 

「それだけですか?」

 

「あぁ、それだけだ。」

 

 

なんでまたそんなことをと聞けば、指揮官は語り出す。

妙に暗かったモシン・ナガンが明るくなったのを皮切りに、司令部に所属する人形たちに笑顔が増えていったという。もともとブラックどころかグリフィン有数のホワイトな職場だが、皆今まで以上に生き生きとしてきたらしい。

そしてその人形のほとんどが喫茶 鉄血、もしくは代理人と関わっているということを突き詰めたのだ。

そこで彼は思った。自分は皆のことをあまり理解していないのだと、素の彼女らを知らないのだと。

 

 

「・・・ふっ、ふふふっ・・・」

 

「む、何かおかしなことを言ったか?」

 

「ふふふふ・・・いえ、ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「不器用な人だな、と。」

 

「なっ!?」

 

 

コロコロと笑う代理人に一瞬ムッとする指揮官だが、代理人はコロコロと笑い、話を続ける。

 

 

「特別なことはしていませんよ。 ただふらっと現れて食事をして、話したいことを話して帰っていくだけです。 頼まれれば相談に乗ったり手伝ったりもしますが、私から何かしたことはありませんよ。」

 

「・・・・・。」

 

「それに、皆さんはあなたのことをとても慕っていますし、あなたのことが好きなんですよ。 だから迷惑はかけたくない、心配かけたくないということです。」

 

 

どちらも本当に不器用ですね、と代理人が締めくくると、指揮官は黙って代理人を見る。

彼女の表情からは本心は読み取れない。だが彼女の言っていることは本当だと、その雰囲気で理解できた。

そして、なぜ人形たちが代理人と話したがるのかも・・・。

 

 

「ふっ、君に相談するとなぜかスッキリするな。」

 

「買い被りすぎですよ、たかが人形相手に。」

 

「私はこれでも指揮官(人形の長)だ。 人形を見る目はある。」

 

 

ニヤッと指揮官が笑うと、つられて代理人も笑みを浮かべる。そしてカラになったコップに残りの酒を注ぎ、再び乾杯する。

 

 

「何にですか?」

 

「そうだな・・・皆が楽しくいられる世界に、か?」

 

「随分キザなことを言いますね。」

 

「嫌いか?」

 

「いいえ、気に入りましたよ。」

 

 

カチンッ

コップの音が響いた。

 

 

end

 

 

 

番外8-2:IoP開発部特別会議

 

 

「えー、では会議を始めます。 まずはこちらをご覧ください。」

 

 

スクリーンに大きく映し出されるフェレットの着ぐるみ。サイズや重量、その他の機能まで全て記されているそれを見ながら、IoPの研究者たちは頷いた。

 

 

「うむ、いい出来だな。」

 

「マスコットとしての愛嬌と使用者の保護機能・・・完璧です。」

 

「実際使用した際、やはり子供を中心に好評を得ています。」

 

 

口々に賞賛の声を上げる技術者たち。そんな中、一人の技術者が手をあげる。

 

 

「・・・で、本題は? まさかこの報告だけではないだろう?」

 

「おっと、そうですね。 では本題に入りましょう・・・このマスコットの改善案です。」

 

「廃止しろっつってんのよ!」

 

 

会議室の隅、ポツンと置かれた椅子とそれに座る人形が一人いた。この着ぐるみの使用者、Five-Sevenである。

 

 

「廃止だと? おいおい冗談はその胸だけにしたまえ。」

 

「は? さては貴様ヒンヌー教徒だな!」

 

「このデカパイの魅力がわからんとはゆ゛る゛せ゛ん゛!」

 

「胸なんて飾りです! 偉い人にはそれがry」

 

「なら貴様らはあの胸を揉みしだきたくないのか!? 私は揉みしだきたい!」

 

「何言ってんのよあんたら!?」

 

 

議論が白熱するが、57にそれを止めるすべはない。というのも両手両足ともにガッチガチに固定されているのだ。

・・・こうでもしなければ殴りかかっていただろう。

 

 

「・・・で、改善の要求点は一つ、暑すぎるということです。」

 

「使用者曰く、汗が止まらなかったと。」

 

「汗で蒸れ蒸れの57・・・いいじゃないか!」

 

「改善の必要なし、解散!」

 

「待てええええええええ!!!!!」

 

 

57の悲痛な叫びに白い目を向ける研究者たち。57の常識など、この天才(変態)たちには通用しないのだ。

 

 

「やれやれ、これだから最近の若者は。」

 

「仕方がない、不本意だが考えるとしよう。」

 

「まったくだ。」

 

 

不承不承といった感じで座ると、そこは天才らしくすぐに案が飛び出す。冷却機構を備えるべきだとか排熱性をあげるとか吸水・脱臭機能もいるとか・・・

 

 

(初めからそうすれば良かったのよ。)

 

 

げんなりとした57は、もう大丈夫だろうと思い一眠りすることにした。流石に疲れたし、会議が終わるまでどうせこのままだ。

・・・だが、果たしてコイツらがまともに会議を終わらせるだろうか?そこまで考えが廻らなかったのが、57の失敗だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「よしっ! これでまとまったな!」

 

 

びっくりするほど元気のいい声で、57は目を覚ます。残念ながら目をこすることはできないので瞼をパチパチさせて、そしてモニターを見る。

 

 

「って何よそれええええええ!?」

 

「残念だな57君、もう可決されたよ。」

 

 

そこにあった修正案は、一見すればまともなものだった。以前の防御性能をそのままに、内部で温度調整可能なナノマシンを散布することで快適な温度を保つというものだ。

・・・ただ一点を除けばだが。

 

 

「このナノマシンは元々人形の特殊外装に使用される予定のものでした。 なので、通常の衣服などを着用した場合に十分な効果を得ることが難しくなってしまいます。

というわけで、使用の際はあらゆるものが身につけられなくなります。」

 

「ふざけんじゃないわよ! 女の子に・・・は、裸になれっていうの!?」

 

「言うも何も、すでに経験済みだろう?」

 

「好きでやったんじゃないわよ!」

 

 

何が楽しくてわざわざ真っ裸にならなければならないのか!

憤慨する57は抗議の声を上げ続けるが、()()()()()と思われているため聞く耳持たないといった感じだ。

 

結局この案が採用され、57は泣く泣く着ぐるみを受け取るのだった

 

 

end

 

 

 

番外8-3:未来予想図

 

 

『まもなく、S06地区南、S06地区南でございます。』

 

 

バスの車内アナウンスで目を覚ます。S09地区から長距離バスに乗って、『UMP9』はS06地区までやってきた。窓の外には牧草地帯が広がり、あちこちに動物たちが見える。

大きく伸びをして固まった体をほぐすと、ポーチから端末を取り出して目的地を確認する。

 

 

「え〜っと・・・停留所を出てメインストリートを真っ直ぐ、銀行の角を曲がってしばらく道なり・・・タクシー使おうかな。」

 

 

そう呟いて端末を閉じる。

彼女がここにきた理由は主に二つ。世界を見て回りたいという本人の希望と、代理人から『あなたに会わせたい人がいる』と言われたからだ。

期待と不安がないまぜになる中、新調した義手を撫でながら窓の外を眺めた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

大きな街のメインストリートというだけあって、平日にもかかわらず多くの人間が行き来していた。車道には絶えず車が走り、昼前ということもあってか飲食店も賑わいを見せている。生まれてこのかたこれほど多くの人間に出会ったことのない彼女は、ただただ驚くばかりだ。

 

 

(・・・本当に平和なんだ、この世界は。)

 

 

人混みの中には民生人形もちらほらいるが、よく見ると鉄血製の人形も見かける。建物の工事現場では、プラウラーやダイナゲートといった鉄血機械兵たちが資材を運ぶ姿も見かける。あっちの子供が抱えているのは、どうやらダイナゲートを模したぬいぐるみのようだ。

 

 

(そっか・・・違う世界なんだから当然だよね。)

 

 

この世界に流れ着き、こっちの404小隊たちと出会ってそれなりに経つが、彼女は未だにこの世界に馴染めていなかった。

生まれた時から世界は荒れ果てていた。物心ついた時からその手にはペンではなく銃を持っていた。

だからだろう、人形を演じることになってもなんとも思わなかった。

 

 

(・・・来るんじゃなかったかな。)

 

 

いろんな場所を、人を見れば見るほど、自分だけ浮いているような気がしてくる。

小さくため息をつくと、もう一度端末を取り出して位置を確認する。約束の時間には少し早いが、目的地はすぐそこだ。

 

 

(会わせたい人って、誰だろう?)

 

 

代理人の知り合い・・・ということは、やはり鉄血のハイエンドだろうか?そういえばあのイェーガーにまだ謝っていなかったな。

などと思っているうちに、端末上では現在地と目的地が重なる。顔を上げると、こじんまりとした真新しい喫茶店が目に入る。看板や幟には、『café 416』とある。

 

 

(・・・416?)

 

 

店に入ると、主婦や学生を中心にそこそこの賑わいを見せている。と、奥からエプロン姿の鉄血人形がやってきた。服装こそ違うが、確かブルートという人形だったはずだ。

 

 

「いらっしゃいまs・・・あ、UMP9さんですか?」

 

「え? あ、はい。」

 

「わかりました・・・店長、来られましたよ。」

 

 

ブルートが呼ぶと、今度はエプロンにポニーテールという装いのHK416が現れる。・・・416っていっても色々いるんだね。

 

 

「だから私は店長じゃないと・・・いらっしゃい、今ちょっと忙しくてね、悪いけど座って待っててくれる? 飲み物はサービスするわよ。」

 

「・・・じゃあ、コーヒーで。」

 

 

注文を聞いて再び奥に消える416とブルート。

9は空いている席へと移り、先ほどの416のことを考える。代理人が会わせたかった人とは彼女のことだろうか。

確かにこの喫茶店はグリフィンとも関係なさそうだし、彼女もグリフィンの所属ということでもなさそうだった。

コーヒーが運ばれてきて、一口啜る。合成粉末のものではなく、天然物のコーヒーは美味しかった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「待たせたわね。」

 

「いえ、全然。」

 

 

やや日が傾き始めた頃、店の客がいなくなるまで待って店じまいを始める。その間に奥の部屋に案内された9は、今416と人間の男性に向かい合って座っている。

 

 

「じゃあ改めて、私は元グリフィンのHK416。 こっちが私の指k・・・夫よ。」

 

「はじめまして、僕は◯◯、まぁ416の元指揮官だよ。」

 

「えっと、UMP9です。」

 

 

いつものニコニコ顔で応える。と、416がじっとこちらを見ていた。

 

 

「・・・本当に人間なの? 人形の9にそっくりね。」

 

「あははは・・・まぁ色々ありまして。」

 

「ふぅん・・・・・いつまで『UMP9』でいるつもりなの?」

 

(っ!?)

 

 

まだ会って話して数分程度、それだけなのにどこか見透かされているような気がした。ポーカーフェイスを保ったまま答えを返すよりも早く、416は話しはじめた。

 

 

「・・・まぁ気持ちも分からなくはないわ。 私たちも似たようなものだからね。」

 

「え?」

 

「僕たちも、ここに流れ着いたんだよ・・・死ぬ間際にね。」

 

 

そして語られる彼らのこと。

一介の指揮官として人形たちを率い、鉄血と戦ってきたこと。仲間と過ごしてきたこと。鉄血の奇襲に合い、全てを失ったこと。

そして、この世界に来たこと。

 

 

「・・・・・。」

 

「僕も悩んだよ。 みんなを殺したも同然なのに、のうのうと生きていていいのかって。」

 

「私は彼がいたからまだ落ち着いて入られたけど・・・いざ戦わなくていいって言われた時は、困惑したわ。」

 

「・・・・・。」

 

 

代理人が会わせたいと言った理由がわかった。話を聞けて少し気が楽になったのも事実だ。だが、結局は支えとなる人がいたからだと諦観する。

自分はいつからこんなに捻くれてしまったのだろうか・・・自己嫌悪に陥る9に、416は名刺を差し出す。

 

 

「?」

 

「一人で抱え込んでもいいことなんてないわ、困った時はお互い様よ。」

 

「そうそう、遠慮せずに頼ってくれていいよ。」

 

「はぁ・・・・・ん?」

 

 

名刺を見ると、そこに書かれていた416は『HK416』ではなかった。

隣の彼と同じファミリーネームが付いているのだ。

 

 

「え? これって・・・え?」

 

「あら、驚いたかしら。 こっちに来た時に作ってもらったのよ。」

 

「僕も驚いたよ。 いくら平等だからって人形にも戸籍が作れるなんてね。」

 

 

ポーカーフェイス・・・はもはや諦めて唖然とした顔で二人の顔と名刺を見比べる。これではまるで・・・人間ではないか。

そこで街の様子を思い出す。人間も人形も混ざったあの大通りにいたのは、『人間と人形』ではなく『人』だったのだと。

 

 

(・・・私も、『人』になれるの?)

 

「なれるわよ。」

 

 

びっくりして416の顔を見る。ついでに自身の口元を抑えるが、それが416を笑わせることになる。

 

 

「あははは、別に声に出してたわけじゃないわよ。」

 

「・・・え?」

 

なんとなく、『人になれるのかなぁ』とか考えてそうだったからね・・・っていうかあなたそんな顔するのね。」

 

「うん、こう見ればふつうの女の子だよ。」

 

「へぁ!?」

 

 

ボッと顔が熱くなる。いやそういう意味で受け取ったわけではないが、その手のことに一切耐性がないのだ。

両手で顔を抑えてしばらくして、おずおずと上目遣いで問う。

 

 

「・・・私が? 人形の生き方しかできない私が?」

 

「それがどうしたのよ、そんなこと言ったら私はそもそも人形よ。」

 

「戦うだけの過去でも、未来がそうだとは決まっていないよ。」

 

 

そう言われて俯く9。

時間にして数分、やがて9は立ち上がると、お礼を言って店を出て行く。

それを見送った二人は顔を見合わせると微笑み、416の名刺の代わりに置いていった紙のアドレスを登録した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

太陽がビルの陰に隠れている。

通りは帰宅する人でごった返し、道路は渋滞気味だ。

 

9は大きく息を吸うと、バッと顔を上げる。

その顔には、何かを決意したような表情を浮かべていた。ポーチから端末を取り出し、電話をかける。

 

 

「もしもしお姉ちゃん? 今大丈夫?」

 

『あ、9! 大丈夫だよ、ちゃんと会えた?』

 

「うん。 ・・・それでね、一つ聞きたいことがあるんだけどいい?」

 

『ん? なになに?』

 

「・・・戸籍って、どこで作れるかな?」

 

『えっ? 戸籍?』

 

「そう。 戸籍を作ってから私、旅に出てみる!」

 

 

姉との通話を終えて、帰路につく9。

UMP9のような、しかしいつも以上に生き生きとした笑顔を浮かべながら、確かな足取りで歩いていった。

 

 

 

end




UMP9の話だけで半分以上あるという・・・まぁいっか。

そう言えばイベントが近いようですが、果たして今回の難易度はどうなんでしょうか・・・攻略情報が出てから挑みたいと思います。


というわけで各話解説。

8-1
三十二話の後、三十三話と同じ時間でのお話。
何気に指揮官とここまで話す機会がなかったのでやってみた。
二人ともそこそこお酒が飲める。

8-2
三十五話のその後。
何かと脱がせたくなる57・・・いや、あんなエロボディ見せられたらそうなるやろ。
着ぐるみは倉庫に封印されました。

8-3
三十四話の後日談。
畑渚 様のとこのUMP9の悩み、というか闇を晴らすために、カカオの錬金術師 様とのコラボ回で登場した二人を出しました。
なお人形には一応寿命というものがないので、数年に一度戸籍の更新が必要。戦術人形として戦場に戻る際は、一度戸籍を取り消す(申請すれば再び戸籍を与えられる)。


※ブルート
鉄血工造が貸し出してる人形のうちの一つ。
新しくお店を開きたい、でも人件費とかを今からかけたくない、でも人手が欲しい。
そんな要望に応え、鉄血工造では人形を貸し出すサービスを行なっている。数年契約で、その後は返品となる。ただし、そのまま使い続けたいという場合は購入。この場合、新品を買うよりも安くなる。


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第三十六話:編・成・拡・大

鉄血の人形もバックアップ取ってたり予備の義体があったりするのにハイエンド達にはダミーシステムがあんまりないという。

いや、編成拡大5のハイエンドとか死ねるけど。


編成拡大というものがある。ダミー人形に代用コアを入れることで自身がコントロールできる部下を作れる、というものだ。とはいえ無制限というわけでもなく、演算システムとかその他諸々の事情により最大で四体までしかダミーを作ることができない。

 

 

「じゃあ指揮能力とかが高い人形ならどうかなってことになったのよ!」

 

「それで、私が呼ばれたと。」

 

 

ここは鉄血工造の開発部研究所。サクヤが鉄血工造に赴任したことでメンテナンスをIoPに頼る必要がなくなった代理人は、こうして鉄血に来ているのだ。

・・・が、今日に限ってはメンテナンスだけでは済まなかった。

 

 

「・・・サクヤさんとペルシカさんはまだわかりますが・・・残りの二人に不安を感じるのですが。」

 

「えーなんでそんなこと言うのさ代理人!」

 

「まったく・・・私たちが何をしたと言うんです。」

 

(((どの口が。)))

 

 

ぷくーっと頬を膨らませるアーキテクトとやれやれと言った感じで嘆息する17lab(変態)に白い目を向ける三人。ペルシカも一歩間違えればあちら側だが、ギリギリのところで踏みとどまっている。

 

 

「・・・とりあえず本題に入ろうか。 単刀直入に言うと代理人、君のダミーを作りたいんだよ。」

 

「・・・まぁ、ダミーがいて困ることはありませんが。」

 

「そりゃ良かった。 というわけで今回用意した案は二つ、『指揮タイプはダミーをいくつまで運用できるかの検証』と『ダミーの限界の検証』だよ。」

 

 

そう言ってスクリーンに映し出される二つのプラン。一方は単純に代理人のダミー・・・メインフレームの指示に忠実な人形だ。

が、もう一方はというと・・・

 

 

「いわば『もう一人の代理人』だね。 同程度の指揮能力に加えてある程度まで自己判断が可能なAIを積んだ特別仕様。」

 

「・・・ちなみに、この案の立案者は?」

 

「私と17labさんだよ!」

 

「却下で。」

 

 

技術的には凄い、性能も申し分ない、ペーパープランなら言うことなし・・・なのだが、立案者がこの二人というだけでその全てが罠に見えてくる。

 

 

「あ〜、嫌なのはわかるけど代理人、今回だけは付き合ってくれないかな?」

 

「私とペルシカさんでちゃんと見張っておくから。」

 

「・・・まぁそれなら。」

 

 

二人を信じてとりあえず了承し、その日は代理人のパーソナルデータのコピーだけで終わる。

だが代理人はひとつだけ思い違いをしていた。ここの研究バカ達は、やることがないから無駄なことに走るのではない。やることをやった上で、いらんことに走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

二週間後

 

 

『おかえりなさいませ。』

 

「・・・・・。」

 

 

再び研究所を訪れた代理人は、自身のダミーに迎えられていた。その数なんと十二体、どれも同じ顔で同じ服、ダミーなのだから当然ではあるが、今までダミーを持っていなかった代理人は少しだけ恐怖を覚える。

 

 

「あ、いらっしゃい代理人ちゃん。 こっちこっち。」

 

 

角の部屋から現れたサクヤに招かれ、『調整室』と張り紙が貼られた部屋に入る。

そこにはペルシカ、アーキテクト、17lab主任が揃っている・・・自分のところはいいんだろうか?

 

 

「よく来てくれたよ代理人。 ダミー達は見てくれたね?」

 

「えぇ、なんとも不思議な気分ですが。」

 

「彼女達はコアこそ入れているものの、まだダミーリンクが結ばれていません。 今日は今回の本題、『通常のダミーをいくつまでリンクさせられるか』を検証します。」

 

「というわけで代理人、こっちに寝転がって。」

 

 

アーキテクトに促されるまま、やたらとコードが伸びているベッドへと移動する。寝転がると何やらゴツいヘッドレストをつけられ、それにコードが次々と繋がれる。

 

 

「じゃあ始めるけど、何か異常があったらすぐに言ってね?」

 

「今回の実験は初めての試みだからね。 失敗はないはずだけど念のためにね。」

 

「わかりました。」

 

「では始めましょう・・・アーキテクトさん。」

 

「はいはーい、スイッチオン!」

 

 

アーキテクトがボタンを押し、機械が作動する。代理人のヘッドレストから伸びたコードがつながる先、大きな機械からさらにコードが伸びて十一体のダミーへとつながっている。

今、そのうちの四体の頭上にあるランプが緑色に点灯している。

 

 

「5link完了・・・バイタル正常。」

 

「OK、次は一体ずつ追加。」

 

 

コンソールを操作し、五体目ダミーとリンクさせる。同期率とバイタルを見つめる四人の額に汗が浮かぶ。

80%・・・90%・・・95%・・・99%・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・100%

 

 

「や、やったぁ! 成功よ!」

 

「ば、バイタルは!?」

 

「オールグリーン・・・代理人、どう?」

 

『今のところ何も。』

 

 

ひとまず胸をなでおろす四人。が、実験はまだ終わりではない。

 

 

「ここから先は本当の意味で前人未到よ、覚悟はいい?」

 

「えぇ。」

 

「はい。」

 

「うん。」

 

 

全員が頷いたのを確認すると、ペルシカは再びコンソールを叩く。

その後、八体目のダミーで同期率が止まるまで実験は続いた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・気分はどう、代理人。」

 

「今のところは特に。 ただ、慣れないことで疲れはしましたね。」

 

 

結果はダミー七体までリンク可能。ただし、細かい指示が出せてその通り動けるのはダミー四体までで、それ以降は細かい指示にズレが出たり、大雑把な指示以外では動かないなどの問題が判明した。

 

 

「う〜ん、やっぱり今の人形じゃ5linkまでかなぁ。」

 

「でもまぁ、指揮タイプのダミー同期率が高いってのは証明できたんだからいいんじゃないかな。」

 

 

目を向ければ、壁沿いにずらりと並ぶ十一体の代理人ダミー。そのうちの四体は代理人の所有として喫茶 鉄血に送られ、残りの七体は予備だったり他の実験に回される。

 

 

「さて、あとは・・・」

 

「『アレ』ですね。」

 

 

どこか不安な視線を向ける先、十二体目のダミーがアーキテクトと17lab主任の手によって最終調整を受けていた。鉄血工造のデータベースからわざわざ作り出した本物と何ら遜色ないダミー。性能、演算能力、指揮能力、武装もまるっきりオリジナルと同じ高性能ダミーは、果たしてリンクできるのだろうか。

 

 

「でも、できたら便利じゃないかな?」

 

「喫茶 鉄血・二号店とか?」

 

「なるほど・・・そういう使い道もありですね。」

 

 

そんな想像を広げていると、アーキテクトが身振り手振りでベッドに寝るように指示を出す。

どうやら準備が整ったようだ。

 

 

「さて・・・どうなることやら。」

 

 

代理人も一応覚悟を決め、再びヘッドレストを被った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こんにちは!」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

代理人が、そしてペルシカとサクヤが睨みつける。その視線を、アーキテクトと17lab主任は目線をそらすことで回避する。

実験は成功した。

成功したのだが、目が覚めたダミーの反応はそれはもう予想外のことであった。

まずやたらと物腰が低い。続いて常におどおどしている。そしてなんといっても恥ずかしがり屋。

 

 

「・・・アーキテクト?」

 

「こいつよ! こいつが『女の子女の子した代理人とか最高ですよね』とか言い出すから!」

 

「な!? それを言うなら先にあなたが『面白みにかけるから何か加えよう』と言い出したのが始まりでしょう!」

 

 

醜い、それはもう醜い罪の押し付け合いが始まる。一応ダミーとしては普通に優秀で、オリジナルの統制下でしっかり作動し、さらに自立行動も可能という高性能っぷりだった。

が、性格その他ではオリジナルとは程遠いものではあるが。

 

 

「だいたい女の子女の子した代理人ってなによ!」

 

「そう言ってあなたが作り上げたのがアレでしょう! あなたもそんな願望があったということですね!」

 

「んなっ!? い、いいじゃん! 代理人に『アーキテクトちゃん』って言ってもらいながらギュ〜ってされたいじゃん!」

 

「「うわぁ・・・」」

 

「っていうかアンタはどうなのよ! 知ってるのよアンタがダミー製作の片手間にコスプレ衣装まで作ってたことをね!」

 

「恥じらう代理人が見たいだけ・・・それが何か?」

 

「「うわぁ〜〜〜・・・・・・」」

 

 

サクヤとペルシカ、ドン引きである。その横でダミーは顔を赤くしてアウアウと言い、オリジナルは仮面のような笑顔を貼り付けている。

 

・・・とその時、部屋の扉が開き誰かが入ってきた。

 

 

「お〜いアーキテクト、依頼されてた物資は運び終わったぞって何だこれ?」

 

「あら、ゲーg「ゲーガーちゃんだぁ!!!」・・・!?」

 

 

それまでのおどおどした雰囲気から一転、満面の笑顔でゲーガーに飛びつくダミー。飛びつかれた方は大混乱であるが。

 

 

「うおっ!? 何だ!? 代理人か!? え、何だこれ!?」

 

「いつもありがとね〜ゲーガーちゃん! 構ってあげられなくてごめんね〜。」

 

 

ゲーガーの顔を胸に押し当てて頭を撫でるダミー。代理人も怒りを忘れて呆然としている。

 

 

「これは・・・一体・・・」

 

「ん〜〜〜・・・あっ、もしかして。」

 

「おや? 何かわかったのサクヤ?」

 

 

何かを閃いたサクヤはだあいり人のデータの入った端末を操作し、ダミーのメンタルモデルと比較する。

 

 

「うん、やっぱり・・・あれは代理人ちゃんの本心だよ。」

 

『へっ?』

 

 

つまりこういうことだ。女の子らしいとは何かを(本気の冗談で)考えたアーキテクトと17lab主任は、普段何を考えているかわからない代理人の感情がすぐに現れるようにしようとした。もとが代理人のメンタルのコピーで、これまでの代理人を引き継いでいると言える特別なダミーである。

・・・つまりこれは

 

 

「・・・めちゃくちゃ素直な代理人、と?」

 

「そうなるかな。」

 

 

そんなことを側から聞いていた代理人は、顔を覆ってしゃがみこんでしまっている。

 

 

(あ、あれが私の本心!? い、いやでもたしかにゲーガーには苦労ばかりかけていますし労うこともできていませんがでもあれは・・・)

 

「えへへ〜、ゲーガーちゃんの髪って綺麗だから私は好きだよ。」

 

「んなっ!?」

 

「ねぇゲーガーちゃん、私のことはどう思う?」

 

「まっ、待ちなさいっ!?」

 

 

その後代理人がダミーを引き剥がし、放心状態のゲーガーをアーキテクトが連れ出してうやむやとなったまま御開きとなった。

 

 

なおこの高性能ダミーと通常のダミー5linkが両立できることがわかったため、後日まとめて喫茶 鉄血の届けられることになり、代理人は羞恥に頭を抱えることになるのだった。

 

 

 

end




代理人ってドルフロのシステム的には何になるんだろう。
SMG? 打たれ弱そう。
ARやRF、MG・・・は火力不足か。
SGは論外で、消去法でHGかなぁ。


ではキャラ紹介。

通常ダミー
それ自体は意志を持たず、本体の指示に従う。
他の世界でよくあるような、意志が芽生えてさぁ大変ってことにはならない。
が、増やしてもあまり意味はない模様。

高性能ダミー
鉄血工造・IoPの技術を集結し、変態とバカの悪ふざけによって完成した一品。
ダミー<オリジナルの序列は守るので代理人の指示は普通に聞く。
ほぼポーカーフェイスな代理人に対し、こちらは感情豊かで素直な性格。彼女の行動と表情を見れば、代理人がポーカーフェイスの下でどれだけ耐えているかがよくわかる。


以上!
高性能ダミーと通常ダミーの余りはフリー素材ですのでご自由にお使いください。


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第三十七話:寝不足ダメゼッタイ

買ったゲームはとりえず1周するまでぶっと押す系の人形。
電気代?司令部のバッテリーで十分だろ。

そしてコラボ回以来の『ヤツ』が帰ってきた!


「製造さ〜れて、指揮官(あなた)だけに〜ついて〜ゆく〜」

 

「・・・・・。」

 

「今日も〜遠征・戦闘・拡大そして〜・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強化〜材料〜。」

 

「・・・なんですかその歌は?」

 

 

今日も平和な喫茶 鉄血。

マスターである代理人は、その対面に座る人形・RFBの微妙に物騒な歌に顔をしかめる。当のRFBは、入店してからずっと携帯ゲーム機に向かっており、大型の携帯充電器まで持ち込んでいる。

一応注文はしており、無くなればまた注文してくれているので追い出すことはないが。

 

 

「ん? これ? 人形コレクションRe:Diveっていうゲームの歌だよ。」

 

 

そういって彼女が見せてきた画面には、二頭身くらいの可愛らしいキャラクターがダンジョンを進んでいる姿が写っている。キャラクターや敵のレベルから相当終盤のようではある。

 

 

「発売日に並んで買って正解だったね! お陰でまだ一睡もしてないよ!」

 

「寝てください、隈がすごいことになっていますよ。」

 

 

二パーっと笑うRFBだが目元にはガッツリ隈ができており、ゲームから目を離すと焦点があっていないようにも見える。

ちなみにこのゲームは昨日の昼ごろに発売されたもので、それだけならここまでひどくはならないのだが・・・。

 

 

「最近のゲーム業界は熱いね! 欲しいゲームばっかりで時間がいくらあっても足りないよ!」

 

「・・・ちなみに今日で何日寝ていないのですか?」

 

「ん〜〜〜・・・五日?」

 

 

だめだこの人形、早くなんとかしないと。

とはいえ彼女もグリフィンの人形、当然任務などもあるはずだがまさか・・・。

 

 

「・・・任務を抜け出してまでゲームを?」

 

「いやいやいやいやそんなわけないじゃん。 ちゃんと任務は真面目にこなすしこれでもサボったことは一度もないんだよ!」

 

 

プンスカと頬を膨らませながら再びゲームに戻るRFB。度々誤解されるが、彼女はあくまで仕事の合間にゲームをやっているだけで、仕事そのものには一切手を抜かない。緊急出動と言われればすぐさまゲームを閉じることだってできる。

ただ、任務以外での最優先がゲームというだけである。

 

 

「ですが、いくら人形とはいえ休息は必要です。 一度横になりましょう。」

 

「え〜〜大丈夫だよ〜!」

 

「ダメです!」

 

 

とそこへ突然割り込む新たな人物。代理人と瓜二つでありながら雰囲気とか口調とか表情とかまるっきり違う人形、高性能ダミーである。

そんな彼女が今、腰に手を当てて私怒ってますといった感じで見下ろしている。

 

 

「寝不足はいろんなところに影響が出てくるんです! お肌も悪くなりますし判断も鈍りますし、何よりその顔! 可愛い女の子が台無しですよ!」

 

「・・・代理人?」

 

「彼女の言葉が本音であることは認めますが誇張表現でもあります。 ・・・D、仕込みは終わったのですか?」

 

「もちろんですよOちゃん。」

 

 

早口でまくし立ててRFBからゲームを没収しようとするダミー。

ちなみに『D』とはダミーのDであり、『Oちゃん』とはオリジナルのOである。

 

 

「ぶー、別に見た目なんて気にしないしいいじゃん!」

 

「だーめ、たまにでもしっかり休みなさい!」

 

 

そう言ってDは慣れた手つきでゲーム機の電源を落とし(ちゃんとセーブはしてくれた)、今尚ふてくされるRFBを引き寄せた。

 

 

「わわっ! なになに!?」

 

「はいはい、ちゃんと寝ましょうね〜。」

 

 

RFBの隣に座ったDは彼女を膝の上に乗せると、後ろから手を回して優しく包み込む。

左腕で優しく、しかし抜け出せない程度にはしっかりとホールドし、右手でRFBの頭をゆっくり撫でていく。

店内の男どもの視線が突き刺さり、なぜかDではなく代理人の方が赤くなる。

が、それ以上に恥ずかしいのは撫でられているRFBだった。

 

 

「うぅ〜、恥ずかしいよ〜。」

 

「ふふっ、大丈夫大丈夫、ゆっくり瞼を閉じて〜。」

 

 

撫でながら体をゆらりゆらりと左右に揺らすD。その揺り籠のような動きに、RFBの瞼は次第に落ち始める。

そして抱きついてものの数十秒で、RFBは静かに寝息を立て始めた。

 

 

「あら、寝てくれましたね。 Oちゃん、二階のベッドに運んできますね!」

 

「・・・えぇ、早く行ってきなさい。」

 

 

満面の笑顔でRFBを抱え直し、所謂お姫様抱っこで運んでいくD。

代理人は変に熱くなった顔を仰いで冷まし、再び業務を再開する・・・が、男どもの妙な行動が目に入る。

 

 

「お、俺も最近寝不足だな〜」(チラッ)

 

「さ、最近寝付けないな〜」(チラッ)

 

「あ〜このままじゃまた三徹(大嘘)かなぁ〜」(チラッ)

 

 

誰かに話しかけているというわけでもなく、しかし独り言にしてはやや大きめの声で時折こっちをチラチラと見ながらボヤく男性陣。その透けて見える魂胆に女性陣は呆れ、白い目を向ける。

中には嫁の前で言い放つ猛者までおり、向かいに座る嫁の額に青筋が浮かぶ。

何を求められているかを察した代理人は再び顔を赤くするが、一度小さく咳払いしてから例の笑顔を浮かべてカウンターを出る。

そして一番近くの、一番初めにぼやいた男の側に立ち、

 

 

「そうですね、どうしてもというのであれば私がしっかりと起こしてあげましょう。」

 

「へ?」

 

 

ぽかんとする男に、代理人は右手を大きく振り上げ、

 

 

「ふんっ!」

 

バッチィィィィィィン!!!!

「ありがとうございます!」

 

 

全力フルスイングで平手を放った。軽い殺意すら感じるそれを受けた男は驚愕の表情を浮かべ、しかしすぐに恍惚の表情に変えてなぜか(我々の業界ではご褒美です)お礼を言いながら壁まで吹き飛んだ。

 

 

「」ギロッ

 

「あ、あ〜背筋伸ばしたら目ぇ覚めたわ〜!」

 

「そ、そうだガムがあったんだこれを噛んで目を覚まそう!」

 

 

代理人がひと睨みすると挙動不審な動きで目が覚めましたアピールをする男性陣。女子陣と代理人のため息が響き渡る。

と、そこにRFBを寝かせてきたDが降りてくる。

 

 

「何か大きな音がしたけど大丈b・・・わぁ! 大変!」

 

 

心配したような顔で降りてきたDは店の隅で転がっている男を見つけると、パタパタと駆け寄る。そして優しく上体を起こし、覗き込みながら異常がないかを探す。

そして、男の赤く腫れた頬に手を添えた。

代理人の柔らかい手、至近距離の綺麗な顔、そして触れることができるくらいに間近に迫ったおっp・・・膨らみ。

男の理性は音を立てて削られていく。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「な、ナイスおっぱい!(はい!大丈夫です!)」

 

「ふぇ?」

 

「・・・ってあなた本部の指揮官じゃありませんか!」

 

「あ、やべっ」

 

 

男・・・改め本部所属の指揮官(おっぱい指揮官)は人間業とは思えない動きで復帰し、財布からお金を取り出して(ぴったし釣り銭なし)、

 

 

「ではな代理人、Dちゃん! また近いうちに来るよ!」

 

 

とだけ言って玄関ではなく開いた窓から出て行った。

そして遅れること数瞬、店の玄関を開け放って彼の副官であるG36が鬼のような形相で入ってきた。

 

 

「指〜〜揮〜〜〜官〜〜〜〜!!!!」

 

「・・・彼ならもう行きましたよ、あの窓から出てあっちに。」

 

「あ、そうですか。 これは失礼しました、では。」

 

 

 

 

クタバリナサイ!

ギャアアアアアアア!!!!

 

 

 

 

遠くから銃声と断末魔が聞こえてくる。

唖然とするDだが、代理人に肩を叩かれて振り向く。代理人の顔はそれはそれはいい笑顔だった。

 

 

「D、ちょっと奥に来なさい。」

 

「な、なんでですか!?」

 

「あなたは甘やかしすぎです! もう少し距離感というか・・・」

 

「で、でもそれはOちゃんが素直になれなくてついつい強く当たっちゃうから!」

 

「Dっ!!!」

 

 

その後逃げ回るDと顔を真っ赤にして追いかける代理人という珍しい光景が見られることとなった。

また翌日以降、妙に客から優しくされることになり、代理人はしばらくのあいだ羞恥に耐えながら接客することになるのだった。

 

 

 

end




RFB<(˘ω˘)

やたらと優しいけど元が代理人なので仕事は完璧というDちゃん。
まさしく『童貞を殺すダミー』だな!


てな訳でキャラ紹介。

RFB
生活<ゲームな人形。「働かざる者食うべからず」ではなく「働かざるもの遊ぶべからず」という考えを持つ。
ゲーム機が故障した場合に修理に出すとその間プレイできないことに気がつき、自力で修理できるようになった。
ジャンルの得意不得意はない。

D
高性能ダミー。
他のダミーと違いほぼ自立しているため固有の名前をつけられた。やや過保護気味で距離感が近く、誰にでも優しいという天使のような代理人。
ハグしてくださいと言ったら何も疑わずにハグしてくれる。
下心には鈍感。

Oちゃん
代理人本人。
Dのみこの呼び方で呼び、他のダミーは『メイン』と呼ぶ。
優しい代理人の需要がDに行ったため、ご褒美(意味深)目当ての強者が寄ってくることが多くなった。
なんだかんだまんざらでもない。

おっぱい指揮官
いつぞやぶりの登場。
巨乳をこよなく愛し、特定の人形以外の攻撃を変態じみた動きで回避する凄腕の指揮官。
こんなんでも本部所属のエリートなので、指揮能力はかなり高い。

G36
おっぱいのとこの副官。
気苦労が絶えず、このバカを追ってわざわざS09地区まで飛んできた。
巨乳。


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4月16日特別編:喫茶 鉄血

4月16日は416の日(自己申告)
というわけで彼女たちを使ってこの作品の解説とかをやります。


HK416(以下HK)「あーあー、聞こえてるわよね?」

 

S06の416(以下06)「えぇ、大丈夫よ。」

 

F416(以下F)「All right.」

 

HK「じゃあ始めるわよ・・・はい、というわけで4月16日スペシャル、416のみんなによる『喫茶 鉄血』の解説回よ。」

 

パチパチパチパチ

 

 

HK「まずは自己紹介。私はこの作品のHK416よ、9とは恋仲ね。」

 

06「で、私は『カカオの錬金術師』氏とのコラボキャラのHK416。 今はS06地区で指揮k・・・夫とカフェをやってるわ。」

 

F「私は『Big Versa』氏とのコラボキャラ、F小隊のF416よ。 英語で書くと大変だから斜体にするわ。

 

HK「というわけでこの三人で進めていくわ、よろしくね。」

 

 

喫茶 鉄血の世界観について

 

 

HK「一言で言えば平和、といってもテロとか犯罪の類はあるけど。」

 

06「人類の存亡が〜とかはないわね。」

 

F「原作との違いで言えば、鉄血人形とグリフィン人形の経緯が違うわね。

 

 

原作

・鉄血→軍用

・グリフィン→民生用を改修

本作

・鉄血→主に民生用で一部軍用にカスタム

・グリフィン→民生用だけど警察部隊としても機能するくらいには武装

 

 

HK「まぁE.L.I.Dもいないし基本的に大きな揉め事は正規軍が対処してるしね。」

 

06「グリフィンはより融通の利く警察組織、と言ったところかしら。」

 

F「それ以外に設定らしい設定もないけれど。

 

 

喫茶 鉄血と鉄血工造

 

 

HK「喫茶 鉄血はS09地区の街にある、こじんまりとしたカフェよ。 テーブル席とカウンター席があるわ。」

 

06「当初は純粋に喫茶店だったけど、今は金曜の夜のみカラオケ喫茶もやってるわね。」

 

F「他にも、予約すれば貸切にできたり二階を使わせてくれたり、個人経営ならではの自由度があるわよ。

 

HK「マスター兼店長は代理人。 ややこしいけど所属は鉄血ではなくフリーよ。」

 

06「蝶事件こそないけど、一応鉄血工造のクーデター的なことはあったのよね。」

 

 

鉄血工造のクーデター↓

当時の鉄血研究員の変態っぷりに嫌気がさしたハイエンドたちが独立を宣言。ハイエンドたちはその後混乱の責任を取る形で鉄血工造から離れる。

ちなみに当時の研究員が集まったのが現在の17lab。

 

 

F「でもアーキテクトとゲーガーは代理人たちの離反後に完成したから鉄血工造の所属なのよ。

 

06「で、鉄血を抜けた時に『人間の中で暮らしてみたい』という思いつきで開いたのがこのカフェ。 S09地区司令部の全面協力で、初期の仕入れやらなにやらはカリーナが手伝っていたそうよ。」

 

 

コラボ回について

 

 

HK「この作品でコラボ回というと二種類あるわ。 まず一つが『並行世界の同一人物』、もう一つが『本人が流れ着いてくる』っていうパターンね。」

 

06「ここでの前者はF416、後者が私ね。」

 

F「並行世界案は、コラボを考えた時にまるっきり世界観が違うことによる苦し紛れの策よ。 厳密にはコラボ元のキャラクターとは別人物だけど、『いくつもの可能性の中の一つ』ということよ。

 

06「本人が来るパターンは、その本人が元作品で死んでしまうパターンね。 作者はバッドエンドが嫌いってわけではないけど、救えるなら救いたいってことらしいわ。」

 

HK「そのおかげでこっちでは籍も入れられたじゃない。」

※コラボ回を読まれる際は、コラボ元の作品を先に読まれることを強く推奨します。

 

 

振り返り

 

 

06「・・・って何するの?」

 

HK「今まで書いた話の、ちょっとした裏話的なことよ。この作品を読んで、自分も書いてみようと思ってくれる人の参考のためにね。」

 

F「全てを紹介するわけではないわよ。

 

第一話

HK「サイコロ振って決めたやつね。」

 

F「記念すべき第一回、最初はAR小隊か404だったみたいだけど、初めてで小隊規模の人数は書ききれないってことになったのよね。

 

06「決め方は単純。 6面サイコロの数字に銃種を割り振って振る。 次にレア度を決める。 最後にゲームの図鑑を開いて、条件を絞り込んだ上で2回振る。 左上から右下に数えて行って、止まったキャラを採用。」

 

HK「最初からいきなりノープランだったわけね・・・。」

 

番外編1

06「三話分を書き終えていきなりネタが尽きた時に書いたやつよ。 要するに箸休めというか、後付けというか。」

 

HK「えぇ・・・・・。」

 

F「とはいえ、各話の後日談という形式で今も続いているから、怪我の功名かしら。

 

CO–1

F「思い立ったが吉日、な勢いで書いたものね。

 

06「wikiも使ったし画像も調べたしスレも漁ってみたわ、版権キャラ?を使うときは結構気をつけてるわよ。」

 

HK「といってもおふざけ全開だけどね。」

 

第十二話

HK「十二話にしてコラボに踏み切る作者がいるらしい。」

 

F「実はちょっとした救済案ということで書いた話ね、だからあっちのユノちゃんとは結構違うわよ。

 

06「まさかこれがきっかけで代理人が世界線を越えるとは思ってもみなかったわ・・・。」

 

第十四話・十五話

06「前後編の二部構成に同時コラボ回もやらかした回よ。 ついでに17lab(変態)の初出回でもあるわ。」

 

HK「勢いってのもあったけど、失敗するなら早いほうがいいっていうやけくそ思考で書ききったわね。」

 

F「だから評価してくれた感想が来た時は飛び上がって喜んでたわ。

 

第二十二話

F「死亡キャラの救済・・・これもほぼ勢いね。

 

06「・・・救済とはいえ、向こう側の人とはもう二度と会えないことに変わりはないからなにもかもハッピーエンドではないわ。」

 

HK「・・・あなたが言うと重いんだけど。」

 

 

作品の形式について

 

 

HK「台本形式だったり日記だったり、書き方は人によって千差万別よ。 どれが良いとか悪いとかはないけど、伝わり方は違ってくるから注意が必要ね。」

 

F「今のこの書き方は誰が話しているかわかりやすい反面、書くのがすごく面倒なのよ。

 

06「作者の場合は他の二作品と合わせてそれぞれ違う書き方にしてるのは、そういった手探りも兼ねてのことよ。」

 

F「・・・そういえば日記形式はまだ試してないわよね?

 

HK「三作品のどれかが完結したら試すらしいわよ。」

 

 

終わりに

 

 

HK「4月16日をHK416の日、と言った割に内容は全く別物だったわね。」

 

06「まぁ本編に絡まないおまけ話だしね。」

 

F「とはいえ、見ての通り同じHK416でも書く人によって様々。 ドルフロに限らず書いてみたい話があるなら、ぜひ挑戦してもらいたいわ。

 

HK「というわけで今回はここまで。 機会があれば、また会いましょう。」

 

06「さようなら〜。」

 

F「See you again.」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

17lab「こんな感じで我々の商品を発信してもらいましょう。」

 

アーキテクト「良い案だよ! じゃあ今度は視聴率を上げるために全員水着で・・・」

 

代理人「」(ニッコリ)

 

17lab・アーキテクト「・・・・・あ。」

 

 

end




自分自身の振り返りも兼ねて書いてみました。
書きたいけどなぁと思う人たちのきっかけになればと思います。

しかしまぁ・・・台本形式じゃないと誰が喋ってるかわからんな。


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第三十八話:平和な悩み

ROって大破絵が胸を強調するような腕の組み方だったりSDの勝利モーションが胸に手を置く仕草だったりと、なにかと胸をアピールしてる気がします。


「・・・・・はぁ。」

 

 

とある日の午後の喫茶 鉄血。

窓際のテーブル席で肘をつきため息を吐く人形が一人、AR小隊唯一のSMGであるRO635だ。

別段、人形が一人物思いにふけっていたところである意味いつも通りなのだが、今回はどうやら毛色が違うらしい。

 

 

「一体どうしたんでしょうか。」

 

「う〜〜・・・私の特等席が〜・・・」

 

「まぁこんな日もあるって。 けどまぁほっとけねぇな。」

 

 

その姿を遠目に見るのはマスターの代理人とG11、トンプソンの三人である。

トンプソンが放って置けないのは単純に彼女の心配からだが、11には別の理由がある。今ROが座っている席こそ、11がいつも座っている席だからだ。11が来る時間は決して早い方ではないが、その前からずっとああしているのだからよっぽどだろう。

 

 

「っていうかいつからいるんだ? というより昨日まではあんなんじゃなかっただろ?」

 

「来たのは11さんが来るおよそ1時間前くらいです。 来た時からあの様子でしたよ。」

 

「・・・ん〜見当もつかない。」

 

 

三人で首を傾げ、どうしたものかと話し合う。同じ人形としてなんとかしてやりたいところだが、その糸口すら見つからないのだ。

しかも・・・

 

 

「・・・まさかDがいってもダメだったとは。」

 

 

代理人がちらりと視線を向けた先、えらく落ち込んだ様子で食器を洗うDがいる。基本的に代理人同様お節介な彼女はいの一番にROの元へと向かい、一生懸命話しかけていた。が、帰ってきたのは「えぇ・・」とか「はい・・・」とかの気の抜けたものばかり。結局何もできないまま、すごすごと戻ってきてはあぁして落ち込みながら仕事をしている。

 

 

「こういう時は時間が解決してくれるのを待ちたいところだが・・・」

 

「モシン・ナガンさんの時・・・いえ、それ以上ですね。」

 

「・・・あんなの、どっかで見た気がするんだけどなぁ・・・」

 

 

そう、あんな感じでいかにも悩んでますという雰囲気を出す人形は意外と多い。微妙なところで人間によく似た彼女たちは、本人は周りに隠しているつもりというところまでよく似ている。

そこまで考え、三人ともがそれぞれ答えを導き出す。

 

 

「わかった! 9だ!」

 

「AR-15の時もだぞ。」

 

「直近ではSOPさんですね。」

 

 

身近な例を列挙し、ここまで出せば三人とも一つの可能性にたどり着く。・・・が、今度はまた別の問題にぶつかる。

すなわち・・・

 

 

「・・・十中八九『恋』だろうけど・・・誰だ?」

 

「皆目見当も・・・というより昨日の今日でですよ?」

 

「そもそも、ROの浮いた話も男の知り合いも聞いたことないよ。」

 

 

早くも挫折。

 

 

「・・・とりあえず昨日までを振り返っておこうか。」

 

「昨日は・・・AR小隊の方が全員来られましたね。」

 

「あ〜確かAR-15とSOPの近況を聞いて、M16がやけ酒するとか言って、ROとM4が止めて・・・」

 

「基地の方では何かありましたか?」

 

「いや、何も。 ・・・ん? そう言えば9と416がROと話しているのは見かけたな。」

 

「え? 本当に?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「昨日? 確かにROと話したけど・・・ってなるほど、アレね。」

 

「うわぁ・・・ずっとあの調子なの?」

 

「えぇ、まぁ。」

 

 

昨日の当事者、9と416を呼び出して話を聞いてみる。デートの最中に呼ばれたことで若干不機嫌だった416だが、事情が事情なので切り替えて話に乗る。

 

 

「まぁおそらくそういうことでしょ。」

 

「うん、昨日も私と416が今に至るまでの話を聞いてきたから。」

 

「・・・となると次は、何故そうなったかですね。」

 

 

窓際席の彼女、ROはAR小隊の中では新参の方である。真面目な彼女はいち早くAR小隊の一員として馴染めるように飲み会や集まりには積極的に参加してきた。当然そんな場ではAR-15やSOPの赤裸々な話に触れる機会が多いが、だからこそ昨日の話がきっかけではないと言える。

 

 

「う〜ん・・・ちなみに一昨日は?」

 

「直で会ったわけじゃないからはっきりとは言えないけど、普段どおりだったよ。」

 

「となるとやっぱり昨日か・・・。」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

今日何度目かわからないため息に、自分でも嫌気がさす。

民生品モデルではなく、戦術人形の新世代機として製造されて、エリート部隊と名高いAR小隊に配属されて、今日までやってきた。

躓くこともあったし、壁に当たったこともある。でもそのたびに困難を乗り切ってきた。前に進むことができれば必ず道は開けると、自分の経験から言える。

なのに今は、身動き一つ取れずにただただため息をつくばかり。

 

 

「・・・・・何やってるんだろ。」

 

 

ようやく絞り出せた言葉が、よりによってこんな言葉だとは思わなかった。

注文もせず、代理人が来ても上の空、迷惑だけかけて馬鹿みたいだ。

馬鹿馬鹿しい、とあの頃の私なら振り切れただろう。でもAR小隊のみんなと出会って、それぞれの生き方に触れて、私の中に迷いが生じた。

 

 

「・・・結婚、かぁ。」

 

 

きっかけは大したことじゃない。昨日だってAR-15とハンターの話や、SOPのノロケ話もいつものこと。

・・・帰り際に、『あの写真』さえ見なければ。

 

 

(・・・・・綺麗だったなぁ・・・)

 

 

代理人の知り合いだろうか。壁に書けられた写真の中に、少女とも言える年齢の女性二人のウェディングドレスとそれを囲む人形たち。片方はデータベースで見覚えのある顔だったので多分人形だろう。

人形と人間、女性同士の結婚、そんな自分にとって無関係だと思っていた事柄が、写真という形で目の前に現れてしまったのだ。そこから今まで聞き流していたAR-15とSOPの話が結びつくまでに時間はかからず、『その先』を考えてしまった彼女の中には一つの淡い願望が芽生えてしまった。

 

 

「・・・・・いいなぁ。」

 

 

いい加減諦めよう、もう帰ろう、と思っているのに体は動かない。思考と身体が噛み合わない。苛立っているのか悲しんでいるのかも分からない。

視界がどんどん狭くなり、やがて真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・ストレスによるメンタルモデルの摩耗とAIのオーバーヒート、要するに考え込みすぎね。」

 

 

店の奥のベッドで寝るROを診断したペルシカが、そう結論づける。

突然倒れた彼女に店は軽い騒ぎとなり、人形総出で事態の収拾に動いた。幸いペルシカは用事があってこの地区に向かっており、連絡して急遽ここに来てもらえることになった。トンプソンが彼女を抱えて運び、404のメンツがベッドや必要なものを用意した。

 

 

「寝かせておけば大丈夫だけど・・・起きてからは私たち次第だね。」

 

「・・・・・。」

 

 

原因の解明・・・という名目で彼女の直近の思考を見せてもらったが、まさかその原因が自身のもつ写真だとは思わなかった代理人。ペルシカもこうなった要員の一人として責任を感じており、申し訳なさそうな顔をしている。

 

 

「・・・ん・・・ここ、は・・・?」

 

「おはようRO、よく眠れたかい?」

 

「え? ペルシカさん・・・?」

 

 

目が覚めたROは周りを見渡し、自身に起きたことを整理する。

が、その前にペルシカが彼女に告げる。

 

 

「・・・RO、君はストレスとオーバーヒートで倒れたんだよ。 で、君の記憶を見せてもらったけど・・・。」

 

「ごめんなさい。 私の写真のせいですよね。」

 

「写真? ・・・あ。」

 

 

何を言われているかを飲み込むと、再び暗い顔に戻るRo。

ペルシカと代理人が何かを言おうとしたその時、11がROの側に立つ。

ROが顔を上げると11は口を開き・・・

 

 

「・・・あの席は私の特等席なんだけど。」

 

「・・・え?」

 

⦅えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!⦆

 

 

開口一番に文句である。

言われた方も唖然としているが周りも驚愕の表情を浮かべている。というか叫ぶことすら忘れるレベルだ。

 

 

(何言ってるのよ11! それ今言うことじゃないでしょ!)

 

(く、空気読んでよ11!)

 

 

416と9が無言の抗議を発するが11は無視し、今度は両手でガッとROの肩を掴んで詰め寄る。

 

 

「まぁそのことはもういいよ。 ・・・・・で、ROは何がしたいの?」

 

「え? それは・・・」

 

「恋? 結婚? 幸せな家庭?」

 

「・・・でも、そんなこと・・・」

 

「私はできるかどうかなんて聞いてないんだよ、ROが何したいか聞いてるの。」

 

 

ハッと顔を上げると、いつになく真剣な表情の11と目が合う。

いつもの気だるげでどこか眠そうな顔の彼女とは全く違う姿に、ROを含めほとんどのものは驚いた。

 

 

「・・・私たち404は元々特殊部隊だったのは知ってるよね? 正規の任務から汚れ仕事までなんでもやる裏方、殺すことと壊すことが私たちの存在意義、そのためだけに生きてきたようなものだよ。」

 

「・・・・・。」

 

「存在しない部隊じゃなくなって、私たちは表の世界にやってきた。 右も左も違和感しかない世界にね。」

 

「11・・・。」

 

「私は表情が死んでるって言われた、9は目が笑ってないって怖がられた、416はぬるい世界にイライラしてた、45はそんな私たちを裏に戻そうと働きかけ続けた。」

 

 

いつになく口数が多く、心なしか言葉尻が大きくなっている11。かつてAR小隊の対と呼ばれていた404の過去に、皆驚きを隠せなかった。

 

 

「・・・はじめに踏み出したのは45だったよ。 今でこそあんなんだけど、あの時はいろんなことを私たちにくれた。」

 

「45が・・・。」

 

「戦う以外の目的のために、私たちを連れ回してくれた。 9はよく笑うようになったし、416も笑顔が増えた。 私だって色々変わった。

・・・私たちは、ただ逃げてただけなんだよ、知らない世界からね。」

 

 

そこで言葉を区切り、再びROと目を合わせる。突然のことに目をそらすROに、11は語気を強めて続ける。

 

 

「・・・いつまで逃げるつもり? そうやって『人形』のままでいるつもりなんだ。」

 

「な、なにを・・・」

 

「知らないことは知らないままの方が、怖くn

 

「だまれっ!」

 

 

叫ぶと同時に、11の襟首を掴んで引き寄せる。顔と顔が触れる距離まで近づき、ROは見たこともないほどの形相で、11は逆に冷めきった表情で睨み合う。

 

 

「何がわかるの? 私は戦術人形として作られた! 戦うことが使命で、それが存在意義よ!! それのどこが悪いの!?」

 

「だから、それ以外には興味もない? 自分のことも、仲間のことも。」

 

「な、何を言って・・・」

 

「見てればわかる。 AR小隊のなかで、あなただけ『笑ってない』。」

 

 

突きつけられた言葉に目を見開くRO。

違う、そんなはずない・・・言葉にしようとしても、なぜかできない。

いつの間にか11は肩から手を離し、ROの両手を包み込むように握る。そしてそれまでの表情から一転してニコリと微笑むと、今度は優しく語りかける。

 

 

「・・・怖がらなくてもいいよ。 銃を握らなくたって、私たちはわたしたちなんだから。 ね、ペルシカ?」

 

「・・・はぁ、似合わないことをしてくれるじゃないか11。」

 

「む〜似合わないとは失礼だよ。」

 

「・・・ごめん、本当に11?」

 

「一度メンテナンスを受けるべきよ、今すぐに。」

 

「ちょっと酷くないかな!?」

 

 

9と416に突っ込み、まわりもつられて笑う。

そして無意識に、ごく自然にROもクスリと笑った。

 

 

「あ、今笑った!」

 

「え? あ!」

 

「なんだ、今まで本当に笑ってなかったんだな。」

 

「うん、その笑顔の方が似合ってるわよ。」

 

 

ただ笑っただけ、それだけで少し軽くなった気がした。

そして一度溢れると、あとはもう止めようにも止められなかった。周りにつられて笑い、くだらないことを言って笑い・・・気がつけばさっきまでの悩みが嘘のように消えていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・代理人さん、その人たちはどんな人たちなんですか?」

 

「そうですね・・・真面目でまっすぐで可愛らしい指揮官と、その仲間たちですよ。」

 

 

すっかり日も暮れた街。

街灯の明かりも少ない路地の一角で、喫茶 鉄血はまだ灯が点っていた。店は閉めているが、店内のテーブルでは二人の人形が、一枚の写真を囲んで楽しそうに話し続けていた。

 

 

 

 

end




おかしい・・・ギャグ路線のつもりがシリアスになってしまった・・・っていうか11がイケメンすぎてつらい。


というわけでキャラ紹介

G11とトンプソン
第二十一話参照。喫茶 鉄血の特定のテーブルでただただじっとしているだけの二人。指定席とか特等席とか言ってるけどただの自己申告なので座っても問題ない。

9と416
本作ではおなじみのカップル。なんやかんやでデートよりも仲間を優先する優しい人形たち。
よく考えたら今回45だけはぶられてるという・・・。

D
ダミーなので人件費のかからない貴重な戦力。
感情の起伏が大きく落ち込むのも復帰するのも早い。

404の過去話
以前(鉄血ハイエンド離反以前)までは概ね原作と同じ、存在しない部隊。
鉄血との緊張状態が解除されると同時に正規部隊に変更になり、現在に至る。
ポンコツな45姉が隊長として信頼されている背景を描きたかった。

ペルシカ
用事(会議)に遅れたためこっぴどく怒られたらしい。


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第三十九話:私の姉はポンコツ

PKPが来てくれた記念に。
いやぁ〜無心で建造するって大事ですね(物欲センサー回避)


珍しく大粒の雨が降りしきる日の喫茶 鉄血。

雨が降れば気分も落ち込むというが、それだけでは言い表せないほど淀んだ空気が店内に広がっている。そんな空気の中、うんざりした顔でアイスコーヒーを啜るのは最近設立されたMG部隊の一人、PKPだ。

ちゅ〜っとストローでコーヒーを吸い、机に突っ伏すと目の前の代理人に文句を垂れる。

 

 

「・・・なぁ代理人。 客の快適のためになんとかしてくれないか?」

 

「そう言われましても・・・それに、あなたのお姉さんでしょう?」

 

「あんなポンコツが私の姉なはずがない!」

 

 

視線の先、この粘り気を持ったようなどんよりムードの発生源にいるのは、PKPと同じMG部隊の副隊長でありPKPの姉でもあるPKだ。

白い服に透き通るような銀髪、そして圧倒的ボリュームを誇る胸部装甲を持つ彼女だが、今はその胸をテーブルに乗せて頭も下げ、その長い髪が顔を完全に覆い隠している。

まるで銀髪になった貞子のように見え、さらに時折めちゃくちゃ重いため息を吐くのだから完全にホラーである。

 

 

「・・・で、ああなった原因は?」

 

「・・・実は今朝な、姉貴がシャワーを浴びた後・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーー回想だよーーーーー

 

 

 

 

 

『ふんふんふ〜ん♪』

 

『なんだよ姉貴、鼻歌なんて歌って。』

 

『うふふ・・・今日は隊長とデートなのよ♪』

 

『デートって・・・ただケーキ食いに行くだけだろ。』

 

『何を言ってるの? 私がデートと言ったらデートなのよ。』

 

『ふ〜ん・・・ま、太らない程度にな。』

 

『太っ!? 何を言うのPKP!』

 

『いやだって、姉貴割と夜食食うだろ? その上ケーキまでって危ねぇ!?』

 

『ふんっ! そこまで言うなら今から測って証明してあげるわ! 私は断じて太っていないと!』

 

 

 

 

 

 

ーーーーー回想終わりーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・で、脱衣所から出てきた時にはあのざまだったよ。」

 

「それでも来るんですね、彼女。」

 

「流石に断れなかったんだろ・・・隊長のこと好きだし。」

 

 

果たして彼女の想定していた数値はいくらだったのか、実際に針が指した数値はいくらだったのか、それは彼女にしかわからない。が、失敗してもくよくよせずに前を向く彼女が顔を上げないレベルであることは確かなようだ。

と、そこへ慌てた様子で店に駆け込む人形が一人。銀髪ショートに青い瞳が特徴のMG部隊隊長、Gr MG5だ。

 

 

「すまない、遅くなった。」

 

「やぁ隊長、何かあったか?」

 

「報告が長引いてしまっただけだ。 あ、代理人、コーヒーをホットで。」

 

「かしこまりました。」

 

 

やや慌ただしく注文だけ告げてPKのいる席に向かうMG5。流れるようにコーヒーを頼んで行ったが代理人は知っている、彼女はコーヒーよりもジュースの類の方が好きだが、隊長としての威厳を損なわないためにやや無理をしていることを。

以前の一件(第四話)以来、代理人の前では素でいることが多くなったMG5だが、部下はもちろんそのことを知らない。

MG5が近づいてくるのがわかると、PKは顔を上げてパァっと笑顔になる。ちなみにだが本人はPKP以外にはこの気持ちを隠しているつもりらしい。

 

 

「待たせてしまったようだな、すまない。」

 

「い、いえ! 私が早く来すぎてしまっただけですから。」

 

 

濁った空気が一転、なんともむず痒い気持ちになる。かたや必死で『頼れる上司』を演じ、かたやバレバレな恋心を隠そうとする。

代理人が微妙な顔をするくらいなのだから相当なものだろう。

二人の話は軽い世間話から始まり、続いてMG部隊の今後の運用や各々の得手不得手の整理といった『隊長』と『副隊長』としての話し合いになる。基本的に真面目で優等生と言っていいPKは、こういう時はしっかりと話すことができている。

 

 

(なんであれが普段からできないかねぇ・・・)

 

(単純に度胸がないだけかと。)

 

(違いない。)

 

 

そんなこんなで話は進み、仕事の話に一区切りつけたMG5は今日の本題に入る。

 

 

「そういえばPK、ここのケーキを食べたいと言っていたな?」

 

「へ? あ、まぁ・・・その・・・」

 

「ん? なんだ遠慮するな、部下の頼みくらいいくらでも聞いてやる。」

 

 

そうじゃないんだけどなぁ、と店内の客と従業員の心が一致する。が、言われたPKの方はまんざらでもなさそうで、顔を赤らめてモジモジしている。

チョロい・・・。

 

 

「そ、その・・・ケーキなんですが・・・」

 

「ん? どうした?」

 

「き、今日はやめておきます・・・。」

 

「え?」

 

 

割と深刻そうな顔で告げるPKに不審がるMG5。

彼女は基本的に色恋沙汰にも他人の善意にも鈍い、だが戦闘やどうでもいいところでは無駄に鋭い答えを導き出すことがある。

・・・今回もそうだった。

 

 

「・・・まさか、太ったのか?」

 

(直球っ!?)

 

(MG5・・・あなたという人は・・・)

 

 

泣きそうな顔で固まるPKと、頭を抱えてため息をこぼすPKPと代理人。いや、店内のほとんどのものが同じ反応だった。

男性陣からは『やっちまったなぁ』という視線を、女性陣からは非難の目を向けられるが、MG5はそんなことに気づかずに話し続ける。

 

 

「まぁ私たちは人形とはいえ生体パーツを使っているから太っても仕方がない、気にするだけ無駄だ。」

 

「い、いや、その・・・・」

 

「というより本当に太ったのか? いつも通り綺麗だぞ?」

 

「ふぇっ!?」

 

 

まさかの一言に顔がボッと熱くなるPK。しかしMG5はそんな様子に気がつくそぶりすらなくケーキを頼み、コーヒーを啜る。それを見つめるPKの顔はまさしく少女漫画にヒロインのようであった。

やがて二人分のケーキが運ばれてくると、ここでもMG5のど天然っぷりが発揮される。

 

 

「・・・そっちのケーキも美味そうだな、一口くれないか?」

 

「え? あ、どうぞ。」

 

「んむ・・・あーん。」

 

「っ!?」

 

 

上体を突き出し、口を開けるMG5。声にならない悲鳴をあげるPKだが、震える手を必死に押さえつけてケーキを口まで運ぶ。

 

 

「・・・うん、美味い。」

 

(私のフォークで食べた私のフォークで食べた私のフォークで食べた)

 

「じゃあこちらもお返ししないとな、ほら。」

 

 

そう言って自分のケーキを一口分刺し、PKの口に持っていく。本人としてはコミュニケーションの一環としてやっているだけなのだが、もちろんそんなことは知らないPKはあわあわしながら狼狽える。

これがMG5と二人っきりだったなら襲いかかっていたかもしれない、しかし周りの目もあるので衝動を抑えて口を持っていく。

 

 

パクッ

「どうだ?」

 

「・・・美味しいです。」(あぁもう死んでもいい・・・)

 

 

もしもPKに尻尾が付いていたなら、犬のようにブンブンと振られていただろう。

冷静に冷静にとしているPKだがそれでも頬は緩み、自然と笑みを浮かべてしまう。で、上司として部下の些細な変化に身を配ることを大切にしているMG5は、当然その変化にも気がつくわけで・・・

 

 

「うん、やっぱり美味そうに食べている方が可愛いと思うぞ。」

 

「ひゃいっ! あ、ありがとうございましゅ!」

 

 

こんなセリフを素面で言えるのだから大したものである。

そんなココアに砂糖をぶち込んでさらに煮詰めたような甘ったるい空気は二人がケーキを食べ終えるまで続き、その間のコーヒーの追加注文が激増した。もう誰から見てもデレデレなPKとなぜかそこには気がつかないMG5に、代理人とPKPはもやもやしたなんとも言えない気持ちが募っていく。

PKPとしては、残念な姉ではあるが同時に大切な姉でもある。なんとかくっつけたいと考えていると、なんとPKが自ら動き出した。

 

 

「隊長、いえ・・・え、MG5さん・・・」

 

「どうしたんだ、急に改まって。」

 

 

背筋を正し、深く息を吸い込んで真剣な顔つきで話し始めるPKに、MG5も真面目な態度で対応する。

もうPKが言わんとすることはわかっているPKPと代理人、あと他の客は固唾を飲んで見守る。

 

 

「わ、わた・・・私、と・・・」

 

 

震える声でなんとか言葉を絞り出すPKに、PKPは自然と手を組んで祈る。

 

 

「その・・・えっと・・・・つ・・つきっ・・・」

 

 

しどろもどろのなりながらも着実に言葉を紡いでいき、周りもその瞬間を今か今かと待ち続ける。

というかここまで聞いたら察しろよという視線も混じっている。

爆発しそうなほどまで赤くなったPKは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっぱり無理です〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

「えぇっ!?」

 

『えええええええええええ!?!?!?!?!?!?』

 

「あ、姉貴ぃぃぃいいいいいいいいい!!!!!」

 

 

ゴール目前でヘタレて逃亡した。店を飛び出し雨の中を傘も差さずに一目散に走るあたり、色々と限界だったのだろう。

残されたMG5は呆然とし、周りは自分のことでもないのに頭を抱え、PKPは姉を追って同じく雨の中を飛び出していった。

状況をうまく飲み込めないMG5はゆっくりと代理人の方へとやってきて、いまにも泣きそうな顔で言ってきた。

 

 

「・・・・・だ、代理人、私はまた何かしてしまったのか?」

 

「・・・・・・・・・・はぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

「・・・姉貴、大丈夫か?」

 

「うぅ〜〜〜〜PKPぃ〜〜〜〜。」

 

「あ〜よしよし、姉貴は頑張ったよ。」

 

「隊長に嫌われたらどうしよ〜〜〜〜・・・」

 

「嫌われないって。 あの隊長だぞ?」

 

「でも、でもぉ〜〜〜〜」

 

「わかったわかった、あとで私から謝っとくから。」

 

 

うじうじと泣き続けるPKを相手に、PKPは一晩中付き合うことにしたのだった。

 

 

 

end




新カップル成立ならず。
PKPが来たらPKとの姉妹愛を書こうと思ってたのにPKとMG5の話になってしまった。
ところでPKの妹というわりには胸がn(パァーン)


PKP「というわけでキャラの紹介だ。」

PKP
今日のデイリー建造で出てきた人形。レベリングもまだなので使い勝手とかさっぱりわからんけどとりあえず書きたかったから書いた。
姉のポンコツ具合に辟易しているが嫌ってはいない。
MG5の本性(ポンコツ)は知らない。

PK
PKPの姉。
MG部隊の副隊長で、頼れる参謀。同隊の隊長であるMG5に惚れている。MG5のポンコツさは知らないが、知っていても気にしない。
巨乳

MG5
温泉回ではポンコツったが幸いMG部隊の面々にはバレていない。隙を見せないようにポーカーフェイスを意識しているが、結果として寡黙で有能な上司だと思われている。
ハーレム主人公のような鈍感っぷりだが、幸いなことに惚れているのはPKだけなので刺されることはない。
きっとこいつもヘタれる。


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番外編9

番外編もなんだかんだでもう九回目ですね・・・というわけで十回目は皆さんのリクエストを募集したいと思います。
詳しくはあとがきに書きますのでよろしくお願いします。


さて今回は
・代理人着せ替え計画
・自分らしさ
・Q.ヘタレと鈍感をくっつける方法
の三本です。


番外9-1:代理人着せ替え計画

 

とある日の鉄血工造、その会議室。

大きな円卓とそれを囲むようにずらりと並んだ椅子には、人間人形合わせて三十人以上が集まっていた。グリフィンの制服を着た者もいれば『IoP』と書かれた名札をつけた白衣姿もいる。人形も鉄血とグリフィンが入り混じり、全員が手元の端末を凝視している。

 

 

「さて、一通り目は通してくれたかしら?」

 

「なるほど、今日は話し合うことが多くなりそうですね。」

 

「時間も限られます、先に結論を出せそうなものを話し合いませんか?」

 

「それでいいんじゃない? じゃあまずは・・・次期採用の人形スキン、これは16lab担当でいいの?」

 

「えぇ構いません、今回我々17labは降りますよ。」

 

「珍しいね、何企んでるの?」

 

「グリフィンから新型人形の開発依頼がありましてね、人手を割けないわけですよ。」

 

「じゃあ16labがスキンを製造ってことでいいね? なら次は・・・」

 

 

三社合同開発協議会、これまで各々でプランを用意しコンペにて競うという方法が非効率であると考えた役員が、それぞれの開発部門を一堂に会して決めさせようと提案したものである。

グリフィン・IoP・鉄血工造の開発部門や役員以外は参加することができず、その内容は秘密に包まれている・・・のだが、それはあくまで彼らの『仕事』の話のみだ。

『仕事』以外・・・すなわち『趣味』となると、部外者だろうが一般人だろうが割と普通にいる。

 

 

「・・・さて、退屈な『仕事』の話はここまでだね。 みんな、目隠しと耳あて外していいよ。」

 

「ふっ、ようやくか。」

 

「なんでそんなに気合入ってるのよダネル?」

 

「なんだ? 今回の議題を知らないのか?」

 

「今回の議題ってどれよ・・・・・あぁ、なるほど。」

 

 

アーキテクトの合図で会議に参加するのは五人。

NTW、M4、おっぱい指揮官、レイラ(+ユノ)、そしてD(ダミー)である。

五人の準備が終わると、端末が一斉に切り替わって『今回の議題』をでかでかと表示する。

 

 

「というわけで、『第一回・代理人を着飾っちゃおう会議』」をはじめまーす!」

 

 

司会を務めるアーキテクトが端末を操作し、代理人の身長や体重、スリーサイズが表示され、それぞれが個別に案を考える。

・・・個人情報流出甚だしいが、Dも参加しているので誰も気にしない。

ここで疑問に思ったペルシカが声をかける。

 

 

「ねぇ、ダネルと変態はまだわかるんだけど、他はなんで来たの?」

 

「私はその、お母さんに何かプレゼントしたいなって思って、オリジナルの服がいいかなって。」

 

「私が、ってよりユノに招待状が来てね。 なんか子供の目線は重要だって言われて、せっかくだから来たんだけど。」

 

「私は集客率向上のためです!」

 

 

各々が一応理由があって来たらしい。ちなみに今回のこの会議、もちろん代理人には秘密であり、加えて『隠すところが隠れていえば』なんでもいい。

そんな自由なお題、研究者(変態)はもちろんそうでない者も結構遊び心を加えるのだ。具体的にはNTWとおっぱいである。

 

 

「この前は着物だったが、今回はどうするか・・・ウェディング、チャイナ、ウェスタン調・・・いや、いっそ男装・・・うふっ。」

 

「DTを殺す服、DTを殺すセーター・・・水着なら黒のビキニ、もしくは競泳水着か・・・」

 

 

もう機能性とか普段から着れるとか一切考えていないあたり完全に自分の世界である。そんなのをやや白い目で見ながら、比較的まともな参加者は考える。

 

 

「ワンピースとかの普段着のほうがいいかな、それともパーティードレスみたいなのかな?」

 

「ユノ、ネックレスはいいけどちょっと派手すぎない?」

 

「え〜お母さんのやつ地味だもん。」

 

「スカートを短くしたやつと、逆に長くしたやつ、飲み屋のマダムみたいなのもいいかな・・・あーでももっとフリフリの可愛いのとか着てみたいなぁ〜。」

 

 

純粋な思いと己の欲望が入り混じった会議は数時間にも及び、50以上出た案のうちいくつかが作られることになる。

もちろん、突然変な衣装を着せられた代理人は顔を真っ赤にして怒るのだが、それはまた別のお話。

 

 

end

 

 

番外9-2:自分らしさ

 

「私の趣味? そりゃ酒だな。」

 

「趣味か・・・本を読むのは好きだぞ。」

 

「料理ね。 といっても、趣味って言えるほど長くはやってないけど。」

 

 

皆さんどうも初めまして、AR小隊のRO635です。以前ちょっとある方にきつい一言を言われまして・・・いえ、悪いのは私なんですけどね。それで自分らしいとは何かを探そうということで、司令部の皆さんに話を、というか趣味を聞いているわけです。

皆さん色々な趣味を持っていることはわかりましたが、肝心の趣味の作り方がわかりません。興味を持ったら始めるというのはわかるのですが、そもそも興味を持ったものがないんです。

 

 

「・・・あれ、これはまずいんじゃないでしょうか。」

 

 

本当に、本っ当に周りに興味を持っていなかったことが証明されてしまったわけで軽く凹みそうなんですが・・・まぁそれはいいでしょう。

・・・・・と考えている間にある部屋の前まで来ました。G11と416の部屋ですね。

 

 

「・・・うぅ・・・背に腹は変えられませんか・・・」

 

 

あの一見で感謝してはいるのですが、どうにも会うのが気まずくてずっと避けていたわけですが、やっぱり相談するなら彼女でしょうか。

・・・よし、深呼吸深呼吸。

 

 

「・・・・・よし・・11さん、いらっしゃいますか?」

 

 

シーン

 

 

「・・・あれ? もしかして外出中?」

 

 

いえ、外出届者名簿には名前がなかったはずで、ここまで一度も見ていないので部屋にいるはずですが。

もう一度声をかけてみましょうか。

 

 

「あの〜、11さ〜ん?」

 

 

シーーーーーン

 

 

あれ?本当にいない?

それとも・・・居留守?もしかして、あのことでまだ怒ってるとか?

うぅ・・・どうしよぉ・・・とはいえ今頼れるのは11だけだし・・・ほか?M4は何やら会議だそうで、AR-15とSOPはデート、M16姉さんはさっき聞いたし、指揮官はこういう時はちょっと頼りない感じが・・・やっぱり11に聞かないと・・・で、でも本当に怒ってたらどうしよう・・・どんな顔して会えばいいの?・・・

 

 

「・・・・・ねぇ。」

 

「うぴゃあ!?」

 

 

突然声をかけられ、思わず飛び上がってしまいます。っていうか『うぴゃあ』って・・・。

振り返ると、ハンカチで手を拭く11が・・・あぁなるほど、お手洗いに行っていたんですね。

 

 

「えっと、こんにちは。」

 

「・・・何か用?」

 

「そ、その・・・・ちょっと相談したいことが。」

 

「いいよ、中に入ろ。」

 

「勝手なお願いだとはわかっているんですが・・・え?」

 

「だからいいよって。 悩みがあるなら聞くよ、どうせ任務もないしね。」

 

 

なんでしょう・・・後光が見える気がします。11はカードキーを取り出してかざし、部屋の鍵を開けて扉を引いて・・・

 

 

「お帰りなさいませっ!お姉さm

 

 

バタン

 

 

・・・今、何かいたような・・・

11の方を見ると、それはもうすごい渋面で扉を、いえその向こうをにらんでいました。

 

 

「・・・ねぇRO。」

 

「? はい、なんでしょう。」

 

「あれを黙らせてくれたら話は聞くよ。」

 

「・・・・・え?」

 

 

end

 

 

番外9-3:Q.ヘタレと鈍感をくっつける方法

 

そんなことを調べたところで意味がないことはわかっているが、流石にあのままだとこっちの身がもたない!

そんなことを考えながら必死にキーボードを打ち、マウスを動かすのは、先日ストレスと悩みのタネが一つ増えてしまったPKPだ。

ヘタレPKと鈍感MG5という最悪の組み合わせを前に並の方法では通用しないことがわかっているため、藁にもすがる思いでネットの海に飛び込んでいる。

 

 

(二人を部屋に閉じ込める・・・◯◯◯しないと出られない部屋に入れる・・・薬を盛る・・・媚薬・・・発情プログラム・・・既成事実・・・)

 

 

ちなみに時計の針はすでに日付が変わって二時間にもなる。俗に言う深夜テンションに突っ込んでいるPKPの思考はどんどん危ない方向へと進んでいった。

 

 

(まず三人で飲みたいと言って部屋に隊長を呼び出す・・・頃合いを見て薬を混ぜて、適当な理由で退出・・・鍵と鉄板でドアを塞いで・・・ついでに棚の中にそういう道具を入れておいて・・・)

 

 

目をぎらつかせてタガの外れた思考をフル回転させる。気がつけば検索ワードがもう完全にソッチ方面になっており、手元には良さそうなものをメモした紙が散らばっている。

 

 

(代理人の伝手で鉄血から購入・・・いや、いっそアーキテクトを焚きつけて強力なやつを作ってもらう方が・・・)

 

 

思い立ったが吉日、とばかりに部屋の電話に手を伸ばし・・・視界の隅で寝返りを打つPKの姿を見る。

よほどいい夢を見ているのか、幸せそうに頬を緩めて眠っている。そんな顔を見たPKPの頭は一気に冷め、PCの電源を落としてメモを捨てる。

 

 

(・・・無粋なことしない方がいいな・・・姉貴のためにもならんし。)

 

 

ポンコツだが優しい姉の髪をそっと撫で、PKPは自分のベッドに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、結局またまたへたれた姉を見て、今度こそ強硬手段にでることを誓うことになるのだが。

 

 

end




この作品、残念なやつが多い気がするのは気のせいだろうか?


ではでは各話の解説。

番外9-1
三十六、七話の後日談。
ほんとはこれだけで一話分の予定だったけど、グダグダになったので短くして番外編に。
個人的にオススメなのは裸Yシャツ。

番外9-2
三十八話の翌日。
くっついてはいないけどいい関係な二人のお話。
この後、嫉妬に狂ったゲパードと一戦を交えることになるが割愛。

番外9-3
三十九話の数日後。
こうでもしないとくっつかねぇんじゃね?とか思ったので描いたやつ。
姉への優しさと我慢の限界、どっちが上回るかで結果が変わる。




前書きでも書きました番外編10のリクエストは、メッセージもしくは活動報告で受け付けます。
内容は過去の話ででてきたキャラクターに限りますが、それ以外は特に制限はありません。
また、リクエストに対する返信はしませんのでご了承ください(それ以外の要望や指摘等には返信します)
リクエストがなければいつも通りの番外編になります。

それでは!


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第四十話:親友

待たせたな!(土下座)

四十話ということでUMP40にしようかと思いましたが実装まで待つことにしました。


「あ゛〜つ゛〜い゛〜・・・」

 

「はい、ご注文のアイスコーヒーです。 ・・・代金は?」

 

「ウロボロスにツケといて。」

 

 

四月も終わりを迎えようかという頃のS09地区。

まだまだ夏には遠いはずなのだが、その日は何と最高気温が25℃近くまで上がるというやけに暑い日となった。衣替えもまだで長袖や人によってはジャケットを羽織っている時期にこの暑さ、おまけに見事なまでの快晴と無風で真夏のような天気となっていた。

そんなわけでアイスコーヒーの注文が殺到する喫茶 鉄血、働く社会人に混じってアイスコーヒーをズズズッと吸っているのは鉄血ハイエンド唯一のニート、ドリーマーだ。

 

 

「・・・それで、今日はどんな用事でここに? それにウロボロスはいないのですか?」

 

「アイツは仕事、暇だから遊びにきただけよ。」

 

「働きなさい。」

 

「やだ。」

 

 

そう言ってベチャ〜っと机に突っ伏すと、腑抜けきった顔でダラけるドリーマー。ちなみに働けと言っても意味がないことはすでに周知の事実であり、彼女の生活は全て同居人のウロボロス頼りである。

 

 

「そろそろ追い出されても知りませんよ。」

 

「・・・そうかもね・・・・・まっ、そうならないからこうしてられるのよ。」

 

(・・・弱みでも握られてるのでしょうか。)

 

 

十分あり得る・・・どころかまず間違いなく弱みを握っている。鉄血時代はアルケミストと並んでサディスティックで狡猾だったドリーマーなら納得だ。しかもアルケミストが物理的にSならばドリーマーは精神的にSと言えるほど捻じ曲がっている。

 

 

カランカラン

「いらっしゃ・・・あ、アルちゃん!」

 

「えっ、あ、ダミーのほうか。 久しぶりだな。」

 

「おや、珍しいですねアルケミスト。」

 

「久しぶりに代理人のコーヒーが飲みたくなってね。 ところで・・・」

 

 

Dの出迎えに優しく微笑むアルケミストだが、ドリーマーの姿を見つけると笑顔のままツカツカと歩み寄り、隣の席に着いたところで急に真顔になる。

 

 

「いつまでも入り浸ってないでハローワークにでも行ったらどうなんだドリーマー?」

 

「そういうあんたこそ、皆に隠れてよからぬことでもしてるんじゃないでしょうね?」

 

 

まぁた始まった・・・と思う喫茶 鉄血一同。

鉄血時代からなかなか方針が合わずに衝突を繰り返していた二人、鉄血を抜けた後もそれは変わらず、顔を合わせればこうしてぶつかるのである。

 

 

「まったく・・・貴様は昔からそうだ、他人に押し付けて自分は何もしようとしない。」

 

「前線に出張って部下に心労を与えるよりはマシじゃない?」

 

「あ?」

 

「ん?」

 

 

 

「二人ともやめなさい、それ以上は黙っていませんよ。」

 

 

いまにも掴みかかろうという勢いの二人を、代理人は静かに、そして強く止める。怒らせると怖い、というより代理人に迷惑をかけることを二人とも嫌うので、大人しく引き下がる。

こんな二人だが、決して仲が悪いわけではない。むしろ前線指揮の最高権力者(代理人は基本的に前線に出ない)であった二人は、互いに高め合う良きライバルでもあったのだ。

・・・そんな過去があるからこそ、アルケミストは今の自堕落なドリーマーを見過ごせないわけだが。

 

 

「・・・あの頃のお前はまだ真面目だったなぁ。」

 

「またそれぇ? もう昔のことじゃない。」

 

「正直言って、今のお前とは張り合いがない。」

 

「張り合うつもりもないし、そんな必要もないでしょ。」

 

 

そう言ってコーヒーを一口飲むと、再び机にうつ伏せるドリーマー。いつもならここでアルケミストが小言を言ってドリーマーが聞き流すというのがお決まりの流れなのだが、今日はアルケミストの小言よりも先にドリーマーがポツリと話し始める。

 

 

「・・・大体、私じゃあんたとは張り合えないのよ。」

 

「・・・ドリーマー?」

 

 

今まで一度も聞いたことのない、いつもの強気な態度とは全く違うか細い声に、アルケミストは眉をひそめる。

 

 

「ねぇアルケミスト・・・あんたが何をやってるか知らないけど、きっと危ない橋を渡ってんでしょ。」

 

「・・・・・。」

 

「はっきり言って理解できないわ・・・なんでわざわざ死にたがるのかね。」

 

「あいにくとこの生き方しか知らないんでな。 それに、死ぬつもりは毛頭ない。」

 

「ほんと変わんないわね、あんたは昔っからただ真っ直ぐ進むだけで、後ろなんか見向きもしない。」

 

「何だ・・・何もしない奴が随分と偉そうな口をきくな。」

 

 

アルケミストの目がスッと細まる。一方のドリーマーはただ無表情にコーヒーを飲むだけ。

一触即発、といった空気が流れ出し、代理人も警戒を強める。

 

 

「・・・ふん、まぁいい。 そうやって一人ヘラヘラしていればいいさ。 だがこれ以上仲間に迷惑をかけるつもりなら、さっさと荷物をまとめて鉄血に帰るんだな。」

 

「あ? なんつった今? 迷惑をかけてんのはそっちも一緒でしょうが!」

 

「貴様と一緒にするな。 私は私のやり方で自立している。」

 

「人に言えない仕事でしょ。 いつ死んでもおかしくないようなね!」

 

「そんなものは鉄血の頃は日常茶飯事だっただろ。 それに私がそうやすやすとくたばるとでも思っているのか?」

 

「・・・あんた・・・一度死にかけたことを忘れたの?」

 

「死にかけただけで死んではいない。 ちゃんと戻ってくる約束は果たし

 

 

パァーン

 

 

破裂音が響き渡り、代理人も客も目を丸くする。

それはアルケミストも同じで、ただただ自分の身に起きたことに驚いていた。

遅れてやってくる左頬の鈍い痛みと視界に映るドリーマーの右手で状況を理解し、しかし向き直ると同時に再び目を見開いて驚く。

 

 

「この分からず屋! こっちの気持ちも察しなさいよ!!!」

 

「ドリー・・・マー・・・」

 

 

ドリーマーは泣いていた。いつもの不敵な笑みや攻撃的な態度は鳴りを潜め、大粒の涙を流しながら泣いていた。

口調こそ強いが睨んでいるわけでもなく、ただ悲しそうな目をしていた。

 

 

「あんたはいっつもそう! 皆の前に出て一人で戦って! 無駄に傷ついて帰ってきて!」

 

「・・・・・ドリーマー。」

 

「なんで・・・なんでよ・・・・・もう戦わなくていいって言ったのは・・・あんたでしょうがぁ・・・・!」

 

 

ボロボロと泣きながら、それでも喋り続けるドリーマー。呆然としていたアルケミストだったが、徐々に冷静さを取り戻すとドリーマーの手を引き、代理人に一言謝罪して店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

喫茶 鉄血からそこそこ近い小さな公園、そのベンチに並んで座るアルケミストとドリーマーだが、互いにまだ一言も話していない。

冷静ではあるが、ドリーマーの予想外の反応にどうすればいいかわからなくなるアルケミスト。

ようやく泣き止んだものの、ぶったことに負い目を感じているのか俯いたままのドリーマー。

いつもの減らず口の応酬が、なぜか一言も出てこなかった。

 

 

「・・・なぁ。」

「・・・ねぇ。」

 

『・・・・・・・・。』

 

 

意を決して話しかけるも、全く同じタイミングになりますます気まずくなる。そしてまた黙り込んでしまうわけだが、アルケミストが再び話しかける。

 

 

「・・・・・その・・・すまなかった、心配をかけていると知らずに。」

 

「・・・私も・・・その・・ぶって、ごめん。」

 

 

ポツリポツリ、といった感じではあるが、ようやく会話が始まった。互いに遠慮しながら、それでもゆっくり話し合う。

 

 

「・・・私ね・・・あんたが羨ましいなって思ってたのよ。 怖いもの知らずでみんなを鼓舞できて。」

 

「私だって同じだ。 あれだけの部隊と火力型のハイエンドを指揮できる能力は、私にはない。」

 

「ふふっ、ありがと。 でも結局、私はただ臆病だっただけよ。 ・・・ただ死にたくない、傷つきたくないって思ってただけ。」

 

「・・・・・・。」

 

「そのくせ戦場じゃ高みの見物決め込んでるんだから、もうどうしようもないわよ。」

 

「・・・・・真逆だな。」

 

「でしょ? あんたと私とじゃ「違う。」・・・え?」

 

「私は・・・仲間を傷つけられることが怖かったんだ。 だから私が倒してしまえばいい、そう思っていた。」

 

 

そう言って笑うアルケミストだが、ドリーマーにはその顔がいまにも泣きそうなものに見えた。

 

 

「・・・でも、結局それで皆に心配をかけてしまったわけだ。 ははっ、何をやってるんだろうな私は。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「・・・どうしたドリーマー? うおっ!?」

 

 

じっと見つめるドリーマーを不審に思ったアルケミストだったが、次の瞬間には思いっきり抱きつかれていた。

 

 

「ど、ドリーマー?」

 

「・・・・ごめん、ちょっとこのままでいて。」

 

「え?」

 

「死にたがりなんて言って、ごめん。 みんなのことを考えていてくれてたのに・・・私・・・」

 

「ドリーマー・・・・」

 

「・・・ごめん・・・・・ごめんなさい・・・・」

 

「私も・・・すまなかった・・・・」

 

 

アルケミストはしっかりとドリーマーを抱きしめ返すと、今まで溜まっていたものを吐き出すように二人とも泣き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・心配いらなかったかもしれませんね。」

 

「・・・そうだね。」

 

 

公園の二人を遠目に見る代理人とD。二人が心配で後を追ってきたが、どうやら余計なお世話だったようだ。

 

 

「・・・さて、戻ってコーヒーを淹れましょうか。」

 

「二人分、だね!」

 

 

にこりと笑うDを連れて店に戻る代理人は、最後に一度だけ振り向き、満足そうに微笑みながら公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、ウロボロス宅に書き置きが残され、そこにはアルケミストについていく旨と二人の写真が添えられていたという。

 

 

end




鉄血回、それだけで説明ができるくらいのお話。
リアルで忙しくなって更新が遅れ気味ですが、たとえ牛歩とか亀の歩みであっても書き続けます(宣言)


てな訳でキャラ紹介と過去話

アルケミスト
割と久しぶりの登場。働いてはいるのだが何をしているかは一切不明。忙しいのか忙しくないのかも不明だが、代理人に呼ばれればすぐにやってくる。
前線に出て部下と共に戦うリーダータイプ。

ドリーマー
こっちも相当久しぶりの登場。正真正銘のニートでウロボロスのヒモ。本人にその気がないだけで働こうと思えばどこでも働けるくらいに適応力が高い。
戦況を見ながら部下を的確に動かすボスタイプ。
そしてようやく脱ニート。

D
オリキャラにしてほぼレギュラーの位置に落ち着き始めた代理人のダミー。
アルケミストのことをアルちゃん、ドリーマーのことをユメちゃんと呼ぶ。

鉄血時代の上下関係
鉄血工造の役員が決定を下し、人形たちの最高責任者である代理人が統括。前線指揮者のアルケミストとドリーマーが作戦を遂行するという流れ。
アルケミストの配下に処刑人とハンター、ドリーマーの配下にデストロイヤーとウロボロス、両者の合同管轄でスケアクロウとイントゥルーダー。当時設計段階だったアーキテクトとゲーガーは、ドリーマーの管轄予定だった。
同じ地位にいたアルケミストとドリーマーは親友でありライバルでもあった。




鉄血工造時代
軍用の指揮タイプとして開発されたハイエンドたちは、多かれ少なかれ殺し合いを経験している。クーデター後は軍が鉄血人形の採用を中止した為、戦う必要がなくなった。







ほんとはギャグのはずだったのになんでこうなったんだろう?


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第四十一話:メイドさんのオフ日

ブラックカードが溜まったので9のスキンと交換しました。
これで一年中バレンタインだぜ!(現実逃避)

ところでもうGWですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
個人的には10連休でもあんまり変わらないですね、、バイトとか講義とか。


金曜日の夜。

一週間で唯一の夜間営業日である喫茶 鉄血では、休日を前にした社会人たちが飲んで歌ってと盛り上がっていた。といってもここは飲み屋ではないので、どんちゃん騒ぎというわけではないが。

そんなお酒も飲める憩いの場として提供している代理人は、つい先日レパートリーに加えたカクテルを作りながら、ふと店の外が騒がしいことに気がつく。

 

 

「? D、少し見てきてください。」

 

「はぁーい。」

 

 

手の空いていたDに見に行かせ、自分は再び接客に戻る。

・・・が、壊れそうなほど勢いよく開いた入り口のドアに、何事かと注目する。

開け放たれたドアの向こう、おそらくドアを蹴って開けたであろう本人が、下着が見えることを気にするそぶりもなく佇んでいた。そしてドカドカという音がするほど荒々しく中に入り、一番近くのテーブル席に座る。

そして普段の優雅さとは程遠いくらい乱暴に足を組み、メニューも見ずに注文する。

 

 

「ビール、ジョッキで十杯。」

 

 

白を基調としたメイド服を身にまとい、赤くなった顔とやさぐれた目つきで彼女・・・Gr G36は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとぉ・・・聞いてるのぉ?」

 

「き、聞いてますよ・・・。」

 

「まったく・・・で、どこまで話したかしら・・・まぁいいわ、それでそこの指揮官がとんでもなく変態でね、気持ち悪い笑みを浮かべるわ会うたびに『ナイスおっぱい』なんて言ってくるわ・・・次会ったら玉の一つでも潰してやろうかしら。」

 

(その話三回目ですよ・・・)

 

 

ジョッキ(特)を片手にベラベラと愚痴り続けるG36。対面に座ってその全てを聞き続けるDは、笑顔こそ変わっていないもののその心中では今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

幸い今の所絡まれているのはDだけで、むしろDが緩衝材となって周りへの被害を防いでいた。他の客はとばっちりを避けるために帰ったり、珍しい醜態を晒すG36を見るために残ったり、酔った勢いでポロリもあるんじゃね?と期待したりと様々だ。

そんな周りの視線など意にも介さずジョッキの中身を飲み干し、ダァーンとテーブルに置く。これでめでたく十杯のビールが空になったわけだ。

ようやく解放されると思ったのか安堵のため息を着くDだが、続くG36の言葉で凍りつく。

 

 

「あ? もう無い・・・マスター、追加で十杯。」

 

「・・・飲み過ぎですよ。」

 

「はぁ? 飲まなきゃやってられないわよこんな仕事!」

 

 

聞く耳持たずな彼女に代理人は諦めて追加を用意し始め、Dは今にも泣きそうな顔で座り続ける。

その間、流石に十杯(ここに来る前にも相当飲んでいたようだが)も飲んで暑くなったのか、G36は胸のリボンを解き胸元を大きく開ける。ついでに手袋とブーツも脱ぎ捨て、片足を椅子の上に乗せて抱えるように座る。

そんな一気に解放的になり、見えそうで見えないG36の姿に男どもは大いに盛り上がった。

 

 

「G36さん!? 見えちゃいますよ!?」

 

「ふんっ、こんな面倒な女の下着なんて見て何になるのよ・・・」

 

(メンドくさっ!?)「そんなこと言わないでくださいよ・・・ほら足も下ろしてください。」

 

 

Dに促されて渋々とった感じで従うG36。周りから舌打ちが聞こえてきた気がしたが、努めて無視した。

 

さて基本的に品行方正で礼儀正しく、皆の模範となることの多いG36がここまで荒れている理由だが・・・実は彼女、もともと本部勤めの人形だったのだ。

・・・そう、あの本部(変態の巣窟)である。そこで長らく働くうちに積もり積もったストレスから酒に溺れ、昼間とは180度違う姿を晒すことになってしまった。それは結局このS09地区に来ても治ることはなく、頻度こそ減ったもののたまに夜にふらっと出かけては飲み明かすのだという。

ちなみに本部のある街では割と有名人でもある・・・残念さの方で。

 

 

「で、でもここの指揮官さんはそんなことないですよね?」

 

「はっ、男なんて頭の中で何考えてるかわかったもんじゃないわよ。」

 

「・・・重症ですね。」

 

 

一応グリフィンの名誉のために言っておくが、けして乱暴されたわけでも枕営業があったわけでもない。変態なりの一線はちゃんとあるのだ・・・変態だけど。

 

 

「グスッ・・・私だって飲みたくて飲んでるんじゃないわよ・・・」

 

「あぁよしよし、泣かないでくださいよ。」

 

「私だって・・・素敵な指揮官の元で働いて・・・・・恋もして・・・・・・・Zzzz」

 

 

机に突っ伏して、泣きながら眠ってしまうG36。時計を見ればもうすぐ閉店の時間であり、客の姿もまばらになっている。

 

 

「寝ちゃいましたか・・・D、少しの間お願いしますね。」

 

「うん、部屋に運ぶの?」

 

「起こして帰すのも可哀想ですからね。」

 

 

そう言ってG36を抱えた代理人は、二階の空き部屋に運んでいった。

ようやく解放されたDは机に寝そべると、深く深くため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「姉が本っっっっっっっっ当にご迷惑をおかけしました。」

 

「い、いえいえ・・・」

 

 

翌朝、開店前にやってきたのはG36の妹であるG36C。やってきて早々に姉の所在を聞き上で寝こけているとわかるとそれはそれはいい笑顔で愛銃片手に上に上がっていき、鈍く重い音がして数分後には姉の首根っこを掴んで引きずってきた。

 

部屋の番をしていたイェーガーに聞くと、スヤスヤ眠る姉の腹を銃のストックで思いっきり殴りつけたらしい。流石に大事にはならない程度には加減していたらしいが、悶絶する姉に身も凍るほどの冷たい声で問い詰めていたそうだ。

 

 

「ほら、姉さんも謝って。」

 

「うぅ・・・本当にごめんなさい・・・。」

 

「重ね重ねすみませんでした。 代金の方は後日必ずお持ちいたします。」

 

 

36Cがこれほどまでに怒るもう一つの理由・・・それは、姉が財布も持たずに出かけた挙句結構な量を飲み食いしたからだった。

ちなみにこれが判明した途端、姉に銃口を向け出したためスタッフ総出で止めに入ることになった。

 

 

「ではこれで・・・姉さん行きますよ。」

 

「ま、待って・・・今動いたら色々出そう・・・。」

 

「吐くなら司令部に戻ってからにしてね。」

 

「うぅ・・・・・妹が冷たい・・・」

 

 

 

「・・・G36さん、はい。」

 

 

流石に見かねたのか、代理人が小さな紙袋を渡す。中身はペルシカと例の歯医者と鉄血工造が合同で作った人形用の万能薬で、開発陣の怪しさとは裏腹に割とまともな薬だった。

 

 

「あまり無理はしないように。 疲れた時は、いつでも来てください。」

 

「・・・代理人、さん。 ・・・・・はい!」

 

 

目に涙を浮かべながら、吹っ切れたような笑顔を見せるG36。

妹と並んで出て行く姿を見送ると、店の入り口の掛札をひっくり返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、この日以来G36は妹と毎週金曜に必ず訪れるようになり、すっかり常連客として定着するのであった。

 

 

 

end




全国のG36ファンの皆さんごめんなさい!
G36ってどこの世界でも苦労してるようなイメージが・・・。
皆さん、お酒を飲む時は周りの迷惑にならないように気を付けましょう!



ってことでキャラ紹介

Gr G36
元本部、現S09地区所属の人形。
性能の高さと見た目、そして礼儀正しいということで本部では戦闘から接待、新人指揮官の臨時後方幕僚など多岐にわたる仕事をこなしていた。が、再三にわたるセクハラに耐えかねて異動届を出すことに。
ドイツ銃だけあって結構飲む。
おっぱい指揮官のとことは別の人形。

Gr G36C
G36の妹。姉のストッパー役。
夜な夜な飲み屋をめぐる姉に頭を悩ませ、姉が異動届を出したと聞くとすぐさま自分も後を追った。
姉に対する容赦が日に日になくなっていき、一部ではこっちが姉なのではとも言われている。
昔は「お姉ちゃん」や「お姉様」だったが、今では「姉さん」としか呼ばない。が、姉のことは好き。

変態の巣窟
レベルの高い変態が集う魔境。
変態だからレベルが高いのか、レベルが高いから変態なのかは不明だが、おっぱい指揮官が中堅に収まるくらいには変態がいる。
それぞれに一応の信条があるらしく、一線は超えない紳士の集まりであるため、ブラック司令部から人形を受け入れることもよくある。


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第四十二話:異世界ダブルデート?

うちに来ることがもうオカルトみたいになってる件。
まぁノエルとかエルフェルトみたいな前例があるから大丈夫でしょ。

せっかく投げていただいたのに忙しくて遅くなっちまったよ泣



平日の真昼間、いつも通りと言えばいつも通りなS09地区。

その路地の先にある喫茶 鉄血では、ちょっと変わった客がやってきた。

 

 

「げぇ・・・」

 

「ム・・・」

 

「マジかよ」

 

 

やってきたのは人間の男性が一人に人形が二人・・・と言えば別に変わった客でもないが、問題はその内訳。

まず男性の方、はまぁいい。人形を連れている時点でどこかの指揮官だろうか何かだろう。

次にHK416に()()()()人形、パッと見で違和感があったがよくよく見れば代理人が知る416に比べてやや背が低く、胸が大きい。そのためより胸が強調されており、男性客の何名かはだらしない表情を浮かべている。

そして最後にデストロイヤー・ガイア。・・・もう色々とおかしい、鉄血工造はグリフィンと協力関係ではあるがグリフィンの部隊に編入されることはないし、ましてガイアは素体こそあるもののコアのない状態だったはず・・・またアーキテクトあたりがやらかしたのだろうか?

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、喫茶 鉄血へ。空いている席へ、ご自由にどうぞ」

 

 

考えても仕方がないので、代理人は席へと案内する。初めて訪れたせいか戸惑った様子で店内を見渡しているのが妙に微笑ましい。

 

 

 

「メニューを見せてくれます?」

 

「こちらです、お決まりになったらどうぞ」

 

「・・・・・え、天然物?」

 

 

男が随分と驚いたような声を上げる。実際この店の商品はそれなりのものを仕入れているので自信はあるが、この反応はちょっと珍しい。

・・・普段はインスタント漬けなのだろうか?

 

 

「毎朝新鮮な物を届けてもらっていますよ」

 

「えぇ・・・毎朝?どれだけの出資が・・・」

 

「・・・・・通貨単位が違くないか?」

 

「・・・げ、マジだ・・・コインじゃないの?」

 

 

そんなことをコソコソ言いながら財布を開ける三人。一応ここではどの国の通貨でも払えるのだが・・・悪いと思いながらも財布を覗くと、なんとも見覚えのあるコインがいくつも見えた。

 

 

(・・・このコインは・・・・・)

 

 

ポケットに入っているものと同じ、()()()()()()()()()()()コインを見て察する代理人。

それを踏まえて見ていると、ちょっとあたふたする三人が滑稽に見えてくる。

探すこと数十秒、悩んだ末にかやや申し訳なさそうな顔で416っぽい彼女が声をかける。

 

 

「ちょっと良いかな、肉体労働で払うっていうのはどうかな?」

 

「ム、そうか・・・それでいいか?」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。 ご注文のコーヒーです!」

 

「かしこまりました・・・マスター、ホットドッグとブレンドだ。」

 

「わかりました。 ・・・タカマチさん、7番のテーブルのオーダーをお願いします。」

 

「了解ですっと・・・お待たせしました、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 

結論から言えば、お昼時のちょっと忙しい時間だけ手伝うということに決まり、こうして働いているところである。

ちなみに彼らはD08地区所属の指揮官とその人形で、指揮官の名をディーノ・タカマチ、416もどきはHK417、デストロイヤーはヴィオラというらしい。もちろんそんな情報など探しても出てこないことを、コインを見た瞬間から代理人にはわかっていた。

まぁ今回のケースなら別に働かせる必要などないのだが、本人たちも納得しなさそうだったので手伝ってもらうことにした。

 

 

「ぐへへ〜ねぇちゃんいい体してるね〜」

 

「おいこらなに人の嫁に色目使ってんだ。」

 

「ぐはぁ!?」

 

 

・・・こんな感じのトラブルも絶えないが。

だが実際、417ボディラインは犯罪臭がするほどに魅力的だった。なにせ416よりも背が低いくせに反比例するかのように胸がでかいのである。そりゃもう目で追ってしまうわけだ。

またヴィオラの方もなかなかのもので、クールな見た目や話し方からすでに絶大な人気を博している。

で、色目を使うたびに旦那がやってくるという流れがここ数分で出来上がってしまった。

 

 

「ふふっ、でも驚きました、まさかお二人ともと結婚されてるとは。」

 

「改めて言われると結構照れますね・・・っていうかマスターも笑うんですね。」

 

「ええ、もちろん。 もっとも、そこまで愛想のいいわけではありませんが。」

 

 

そんな会話をよそに、417とヴィオラは満席に近いお昼の店内を歩き回る。

三人が手伝ったこともあって、特に問題も起きずに業務を終えることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・はい、これで今日はおしまいですね。 お疲れ様でした。」

 

「あ〜疲れた〜」

 

「接客業なんてやったこともなかったからな〜」

 

「だがいい経験にもなった、感謝する。」

 

 

日が傾き始めた頃、いつもより早めに切り上げて店じまいを終えた代理人は、満身創痍といった感じで机に突っ伏す三人にコーヒーとケーキを運ぶ。

 

 

「当店自慢のブレンドとケーキです。 今日はありがとうございました。」

 

「え? いやでも俺たちは飲食代のために・・・」

 

「お礼に関しましては()()()()とさせていただきます。 お手持ちのコインではお支払いできませんからね。」

 

「・・・まさか本当に別世界なのか? というよりもなんだか慣れているようにもみえるのだが。」

 

 

メニューの通貨と手元のコインを見比べて疑問を声に出すヴィオラ。すると代理人は微笑み、ポケットから一枚のコインを取り出す。それは間違いなく、417たちの世界のコインだった。

 

 

「・・・これは、私の大切な友人から頂いたものです。」

 

「友人・・・」

 

「えぇ・・・ユノ、という方をご存知ですか?」

 

「え? もしかしてS09地区の指揮官の?」

 

「おや、ご存知でしたか。」

 

 

知っている名前が出てきたことで驚くD08組。なんか色々変わった娘だなぁとは思っていたが、まさか別世界にまで友人がいるとは思わなかった。

その後はユノちゃんの近況を聞いたり、他の司令部の話を聞いたり、結婚式の様子を聞いたり、逆にこの世界のことや代理人自身のことを聞いたりと、気がつけば窓から西日が差し込む時間まで話していた。

 

 

「・・・そうですか、ユノちゃんが・・・・」

 

「えぇ・・・でもきっと大丈夫です、なんたってユノちゃんですから。」

 

「ふふっ、そうですね・・・・・でしたら。」

 

 

代理人は店の奥に合図を送り、用意してあった瓶を二つ、Dに持ってきてもらう。代理人のダミーにもびっくりだが、本体とは全く違うキャラにも驚くD08組だった。

 

 

「こちらには当店のブレンドを詰めております。 ユノちゃんに渡してあげてください。」

 

「・・・はい、必ず。」

 

「それと、こちらは皆さんの分です。 十分なお礼が用意できずに申し訳ございません。」

 

「えっ!? いえいえいいですよ、もともと無銭飲食なのはこっちなんですから。」

 

「いえ、これは今日お話を聞かせていただいたことへのお礼です。 ・・・どうか、これからもユノちゃんのお友達でいてくださいね。」

 

「それはもちろんですけど・・・いやでも・・・」

 

「受け取ろうよダーリン、せっかく用意してくれたんだしさ。」

 

「私もそれに賛成だ。」

 

「・・・それもそうか。 わかりました、ありがたく頂きます。」

 

 

瓶を大切にバッグにしまい、出口へと向かう。

三人は代理人に見送られ、仲良く並んで路地を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し進むと、もうあの香りは消えていた。

試しに戻ってみてもそこには当然何もなく、あの不思議な体験がまるで白昼夢のようだった。

 

ただ、バッグの中で揺れる二つの瓶が、幻でないことを教えてくれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てなことがあってな。」

 

「ダーリン大丈夫?」

 

「今日はもう寝たほうが・・・」

 

「おっぱい揉んだら治る?」

 

「チクショー」

 

 

 

 

end




というわけで今回は カカオの錬金術師 様の『元はぐれ・現D08地区のHK417ちゃん』とのコラボ回でした!
しかしまぁ喫茶 鉄血って都市伝説になっちゃったんですねぇ・・・神隠しのごとく迷い込んでくる人形が増えそう。


というわけでキャラ解説とか

D08地区の指揮官
本名をディーノ・タカマチ。数多の人形と重婚しやがったリア充。
今回はダブルデートの最中に迷い込んでしまったご様子、お土産に天然物のコーヒーを渡されました。

HK417
巨乳。
だんだん胸が成長したり指揮官とイチャコラしたりとリア充っぷりを見せてくれる人形。細かい設定は元作品を見てね!

ヴィオラ
元々は同作者様の別作品の主人公。その後『元はぐれ〜』に登場し、指揮官と結ばれることに。
ガイアモデルなので胸はあるが、こちらも成長しているらしい。

ユノちゃん
今回は名前だけの登場。
世界戦をぶち破ってきた最初の来訪者、おそらく共通通貨のコインはこの出来事が発端だと思う。
喫茶 鉄血とD08組、一切関わりのない両者の共通の友人として出しました。








喫茶 鉄血に来る方法
1、世界戦を超えて迷い込む
2、死んだ時・死にかけた時に不思議なことが起こる。
3、超技術
4、おのれディケイド
5、夢オチ?


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第四十三話:日常の出発点

新年号になって平成振り返り特番も多いですね。
というわけで今回は過去話です。


「マスター、コーヒーおかわり!」

 

「あ、私も!」

 

「お会計お願いね〜。」

 

 

休日、家族連れや仕事休みの社会人で賑わう喫茶 鉄血。

昼時ということもあって人の出入りが多く忙しい時間帯ではあるが、代理人始め喫茶 鉄血の従業員は特に慌てる様子もなくテキパキと動き回っていた。

そんな様子を眺めながらくつろいでいるのは、ペルシカとAR小隊と404小隊の16lab組だ。

 

 

「相変わらずすごいよね代理人は。 一体幾つ耳がついてるんだか。」

 

「私、代理人がオーダー間違えてるとこみたことないんだけど。」

 

「代理人だけじゃないわ、他の人形もよ。」

 

 

基本無表情、というよりも感情が表に出づらい代理人と鉄血人形だが、不思議と冷たさの感じない接客でそれに不満を持つ客もほとんどいない。Dだけは例外的に感情豊かだが、それはそれで受けが良かったりする。

 

そこでふと、ROがポツリと疑問をこぼす。

 

 

「・・・そういえば、いつからあるんでしょうかこの店。」

 

「あ、そっか。 ROは知らないんだったね。」

 

「鉄血の騒動があってそれが収まって・・・一ヶ月後くらい?」

 

「なるほど、そんなに前から・・・その頃からこんな感じなんですか?」

 

「それには私が答えよう。」

 

『うわっ!?』

 

 

いつの間に現れたのか、空いているスペースに収まるように座っているのは神出鬼没なハイエンド、アルケミストだった。

腹たつくらい優雅な仕草でコーヒー(となりに座るペルシカの)をすすり、ROに向き合って話しかける。

 

 

「ではまず・・・お前はあの騒動のことをことは知っているか?」

 

「えぇ、一通りは。」

 

「ふむ、ではその後に我々ハイエンドが鉄血工造を脱退し、同時に人形の雇用が広まったことも知っているな?」

 

「はい。」

 

「・・・では、ハイエンドを狙った襲撃が何度もあったことは?」

 

「え?」

 

「あぁ、あれか。」

 

「今思ったら、よく見て見ぬ振りなんてできたわよね。」

 

「何気に私たちの最期の任務も、それ関連よね。」

 

 

「じゃあ話そうか。 ・・・当時の我々に起こったことと、喫茶 鉄血ができた頃の話を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・続いてのニュースです。 鉄血工造製の人形による鉄血工造占拠事件からまもなく一ヶ月が経ち、各企業では人形の雇用に関して様々な議論がなされています。』

 

「・・・本気か代理人?」

 

「えぇ、このままただ人間が我々を受け入れてくれるのを待つだけでは、状況は改善されません。」

 

「だが危険すぎる。 固まって動くのならともかく一人でなんて、過激派のいい的だぞ。」

 

 

 

当時、鉄血工造自体はもう話題から遠ざかっていたが、私たちハイエンドは常に過激派の襲撃の恐れがあった。実際、騒動の間はメディアによく出ていたからな。

特に、代理人はリーダー的な存在だったから、昼夜問わず狙われたよ。

 

・・・グリフィンに保護を求めなかったんですか? 敵対していたとはいえ、見捨てるほど非情でもないでしょう。

 

いいえ。 当時のグリフィンは、彼女たちを見捨てることにしたんです。

 

M4の言う通りだ。鉄血に次いで人形保有数の多かったグリフィンも、鉄血のようになるんじゃないかってことで騒がれてた。騒ぎを大きくしないために、関わらないことにしたんだ。

 

・・・そんな中、代理人はこの地区で店を開くと言い出した。S09地区はまだ治安がいい場所だったからな。

 

 

 

「場所は・・・ここですね。」

 

「いやいやいや、こんな路地裏なんて襲ってくれって言ってるようなもんだぞ!」

 

「流石に堂々と店を構えるわけにはいきません。 それに、人間には落ち着ける場所が必要なのでしょう?」

 

「・・・何かあってからじゃ遅いんだぞ。」

 

「承知の上です。」

 

 

 

で、この場所に店を開いたわけだ。後で聞いたが、ここの指揮官やカリーナも秘密裏に協力していたらしい。

そして・・・

 

私たちも、ね。

 

 

 

「ぐっ・・・なぜだ、なぜ邪魔をするっ!?」

 

「あら、無害な一般市民を襲う輩を鎮圧してるだけじゃない。」

 

「アイツはあの鉄血のリーダーだぞ! 我々人類の敵だ!」

 

「日和った軍もグリフィンも信用ならん! 我々が正義の鉄槌を下すのだ!」

 

「・・・馬鹿馬鹿しい。 彼女はもう無害だと判断された、だからここの市民権も得てるのよ。」

 

「ふん、どうせ裏で何かしたに違いない! お前たち人形のやりそうなことだ!」

 

「・・・ねぇ45、撃っていい?」

 

「模擬弾じゃないからダメよ11、殴るのはいいけど。」

 

 

 

当時はまだ非公式の特殊部隊だった404が、ペルシカの要請を受けて代理人の身辺警護に就いていた。お陰で大きなトラブルもなく開店までこぎつけたよ。

 

・・・今思ったらあの頃の11ってずいぶん過激だったわよね?

 

うっ!? それを言うなら45はあの頃のほうが頼り甲斐があったよ!

 

ちょっと!? 今は頼りないみたいに言わないでよ!

 

頼りないのは事実だろ・・・で、一応開店したはしたんだが、まぁ当然人は来なかったな。代わりに脅迫文は山のように来たが。

 

 

 

「やぁ代理人・・・閑古鳥が鳴いてるな。」

 

「予想はしていたことです。 そしておめでとうございますアルケミスト、あなたが最初のお客様ですよ。」

 

「・・・マジかよ。」

 

「こういった手紙なら毎日届きますが。」

 

「はぁ、わざわざ玄関まで来るなら入ればいいのに。」

 

 

 

こんなに嬉しくない一番客も珍しいわね。

 

だろ? マジで泣きそうになったぞ。

 

あ、そう言えばこのころよね?あんたとハンターが付き合いだしたのって。

 

今言わなくてもいいでしょ。ていうかなんで知ってるのよ。

 

お前たちが団体(2名以上)最初の客だったからだ。

・・・で、そんなある日にある一団がやってきてな。

 

あぁ、S09商人の会(仮)ね。

 

 

 

「お待たせしました、ご注文のランチセットです。」

 

「・・・・うむ。」

 

「・・・・・・・・。」

 

「ど〜も〜。」

 

 

 

あの時は緊張したよねぇ。一般市民だから止めるわけにもいかないし。

 

盗聴器と監視カメラと望遠レンズだけが頼りだったからね。

 

 

 

「・・・・代理人、といったか?」

 

「はい。」

 

「ここに店を開いた目的は?」

 

「・・・我々鉄血が無害であることを知ってもらうため、です。」

 

「信用できるとでも?」

 

「こればかりは、信じていただくしかありませんが。」

 

「けどまぁ、あんなことがあった後じゃねぇ。」

 

『こちら416、ちょっとやばそうじゃない?』

 

『最悪の場合は突入、でも撃っちゃだめよ。』

 

『代理人も自衛手段くらいあるんでしょ?』

 

『・・・全部取っ払ったらしいわよ。』

 

『はぁっ!? じゃあ丸腰ってこと!?』

 

 

 

堂々と護衛できなかったあの時ほど、特殊部隊であることを恨んだ日はないわね。

 

・・・ど、どうなったんですか?

 

ん?あぁ別にどうとも・・・強いて言うならちょっと拍子抜けするくらいだったわね。

 

 

 

「・・・では、君は人間に仇なす存在ではない、と。」

 

「はい。」

 

「・・・・・・では、これに署名してもらおう。」

 

『ちょっと45姉! なんかヤバそうな書類出てきたんだけど!』

 

『ちっ・・・だれか書面見える!?』

 

『だめ、角度が悪い!』

 

『あぁ!? サイン書いちゃったよ!?』

 

「・・・これで、よろしいですか?」

 

「・・・あぁ。」

 

『・・・11、416、いつでも撃てるようにしておいて。 9、行くわよ。』

 

「じゃ〜これで〜・・・」

 

『3つ数えたら突入、スモークを焚いて救出。』

 

『OK!』

 

「君は我々の・・・」

 

『3・・・2・・・1・・・今っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「商売仲間だな。」

 

『ズコー!!!!』

 

『ちょっと45! 9! 大丈夫なの!?』

 

「不法侵入だ! 捕らえろ!」

 

『待って待って! 私たちは違ギャー!!!』

 

『誰よ! どさくさに紛れて胸揉んでるのは!?』

 

「揉むほどの胸もないだろ!」

 

『あ゛あ゛っ!?』

 

 

 

・・・あの店主はいつか泣かす。

 

あはは・・・でもよかったよ、ただの組合加入の話で。

 

っていうか肝心の組合に入ってなかったなんて代理人も変なところで抜けてるわよね。

 

で、それからだな。組合の協力で宣伝してもらって、人が少しずつ集まり始めた。初めは警戒心丸出しだった客も、いつのまにか常連だ。そういう意味では、代理人には人を惹きつける何かがあるんだろう。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・で、今に至るというわけだ。 ちなみに私たちが人間社会に馴染めているのも、元を辿ればこの店のおかげだな。」

 

 

懐かしそうに語り終え、コーヒー(今度は45の分)を飲み干したアルケミスト。

一方でその対面のROは・・・

 

 

「・・・う・・・うぅ・・・」

 

「えぇ!? RO!?」

 

「今の話のどこに泣く要素が!?」

 

 

ポロポロと涙を流すROにやや慌てる一同。正直笑い話のつもりであって泣かれるとは思っていなかったので、いつも飄々としているアルケミストも珍しく慌てている。

 

 

「いえ・・・鉄血の皆さんが・・・そんな苦労をされていたなんて・・・・・。」

 

「フフッ、心配してくれてるんですか?」

 

「うおっ!? 代理人!」

 

 

そこにはいつの間にかこっちに来ていた代理人が、薄く微笑みながら佇んでいた。随分と話し込んでいたようで、気がつけば客もまばらになっている。

・・・いや、よく見れば自分たちの周りの席にしかいない。

 

 

「いやぁ〜あの頃はすまんかったねマスター!」

 

「あたしはこの店好きだよ代理人!」

 

「代理人! 今度はうちの店にも来てくれよな!」

 

「ついでに健康診断でもしてってねぇ〜!」

 

 

周りの客、よくよく見ればさっきの話に出てきた組合員ばかりである。皆楽しげに代理人に話しかけ、代金を置いて店を出て行く。

代理人はそれを見送り、今度はROに話しかけた。

 

 

「昔のことは昔のことです。 それに、今の私はとても幸せものですから。」

 

 

そう言って微笑む代理人は、新しい客が訪れると軽い足取りで迎えるのだった。

 

 

 

end




というわけで今回は喫茶 鉄血の開店前後のお話。
人形に対する迫害とか色々あったころの、小さなお話。


・・・の予定だったのになんかコメディになってしまうのは45姉の魅力だろう。



というわけで解説。

過激派
このほのぼのストーリーにおいてテロ同様に唯一と言っていいほどのシリアス成分。
最近はめっきり数が減った。

S09地区と喫茶 鉄血
もともとこの地区の指揮官は親人形派であり、グリフィンから関わるなと通達を受けてなお秘密裏に援助していた。鉄血というだけで仕入れルートが限られるので、表向きはカリーナが仕入れていることになっている。
現在は代理人が仕入れているが、当時のこともあって珍しいものは今もカリーナが仕入れていたりする。

404小隊
NOT FOUNDだったころ。
そこの読めない隊長に笑顔の暗殺者、超至近距離グレネード姉貴と無慈悲な眠り姫というよくわからないあだ名が出回るほどだった。
この当時は45姉が進んで道化を演じ、隊員の笑顔を増やそうとしていた。

組合員の皆さん
主にメインストリートに店を構える店主や歯医者などの集まり。
気さくで仲間意識が強く、新参者を温かく迎える気質。
45に狙われている店主は、今も躱し続けているという。

AR-15とハンター
当時はすでに敵対関係ではなかったが、表立って関係を持つことはできなかった。そんな二人が堂々と会える場所が、当時グリフィンと鉄血にとって中立とされていた喫茶 鉄血である。
・・・本人らは隠しているつもりだったが、周りには割とバレていた。


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番外編10

昨年の十二月に始まった今作ですが、なんやかんやでここまで来ちゃいましたね。
これからもよろしくお願いします!


というわけで今回は
・NEET後遺症
・ズボラ系残念美人
・二度あることは三度ある?
の三本立てです!


番外10-1:NEET後遺症

 

「も〜無理ぃ疲れた〜。」

 

「ええい日頃の運動不足だこのポンコツ!」

 

 

猛烈な日差しが照りつける中、広大な大地を歩く白と黒の女性。日光に当たっていいのか心配になるほど白い方はアルケミスト、熱吸収100%と言わんばかりに真っ黒な方がドリーマーである。喫茶 鉄血でのプチ喧嘩以来、二人は荒事何でも屋として世界を放浪していた。

ちなみに今の場所は北米大陸の南側、アメリカとメキシコの国境近くである。

 

 

「だいたいなんでこのクソ暑い中を徒歩なのよ! おかしいでしょ!?」

 

「バカか貴様は。 こんな荒野を車両で移動してみろ、土煙で丸わかりだ。」

 

「やだやだもう歩きたくない〜〜!!!!」

 

 

さてなぜ二人がこんなとこに来ているのか。

荒事メインの何でも屋なのでそういう以来なのだが、今回のターゲットは両国にまたがる武器商人である。割と昔からいざこざのあるこの国境でそんな輩がうろつけばどうなるか・・・想像に難くないのだ。

そんなわけで今回の依頼者はアメリカ・メキシコ両政府、内容は組織の殲滅である。

 

 

「あぁもうイライラする! さっさと潰してシャワーよ!」

 

「それには同感だ・・・・・見えてきたぞ。」

 

「じゃあ手筈通りに・・・派手にやりますかぁ!!!」

 

 

ドリーマーが叫ぶと同時に得物の狙撃銃を構え、アルケミストは光学迷彩と高速移動で一気に詰め寄る。

見張りが狙撃で潰され、仲間が気付いた時には既に拠点に入り込んだアルケミストの餌食になる。遠近の絶妙な連携とハイエンドの圧倒的な性能の前に、そこそこの規模を持っていた組織は僅か数刻で壊滅してしまった。

 

なお、今回は非公式な依頼であり、表向きには内輪揉めで壊滅したということになっている。なので二人には表立って賞賛こそされないものの、報酬としてアメリカの超一流ホテルのVIPルームの年間使用権が与えられることになったのだった。

 

 

「あぁ〜私ここに引きこもる〜〜〜」

 

「まったく・・・次の依頼が来るまでだぞ。」

 

「・・・ここって完全防音なんだってね。」

 

「? それがどうし・・・待てその手はなんだこっちに来るな!」

 

「日頃の感謝も込めてマッサージだよグヘヘ・・・」

 

「き、貴様さては飲んだな!? この酔っ払いがあああああ!!!!」

 

 

end

 

 

番外10-2:ズボラ系残念美人

 

カチ・・・カチ・・・カチ・・・・・・カチッ

『お姉ちゃん、朝だよ! 起きて!』

 

「うへへ〜〜待って36Cぃ・・・あと五分・・・」

 

「ふんっ!」

 

「ふがっ!?」

 

 

ここはS09地区の司令部、その人形棟の一室。

独特のアラーム音に頬を緩ませて枕にしがみつくG36だが、直後に訪れた腹部への強烈な一撃によって無理やり意識を覚醒させられる。涙目で上を向けば、顔を真っ赤にしていかにも私怒ってますといった感じの人形・・・妹のG36Cが立っていた、可愛い。

 

 

「姉さん、何度も言ってますがいい加減この目覚ましをなんとかしてください。」

 

「えぇ〜これじゃないと起きれないのに〜〜〜!」

 

「それでも起きなかったでしょ! はい没収!」

 

「そんなぁ・・・」

 

 

お気に入りの目覚まし時計『天使の囁き』を没収され、渋々起き上がる。今日の予定はカリーナの手伝いと臨時の料理教室だったか。

 

 

「・・・って姉さん!? なんで裸なんですか!?」

 

「え? だって暑かったし・・・」

 

「せめて下着くらい着けてください! あぁもうタンスの中もぐちゃぐちゃ・・・。」

 

 

頭を抱える妹をよそにG36はベッドの上で胡座をかいて大きくあくびをすると、のそのそとシャワーへと向かう。

シャワーを浴びて髪をとかし、用意していたいつものメイド服(これだけは仕事着なので綺麗にしている)を身につけて大きく伸びをする。

 

 

「・・・よしっ、じゃあ行こっか!」

 

「・・・・・はぁ。」

 

 

普段からこれくらいテキパキやってくれたらなと思う36Cだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリーナさん、こちらの書類は片付きましたよ。」

 

「ありがとうございます。 さすがはG36さん、仕事が早いですね!」

 

「ふふっ、メイドとして当然のことです。」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

「・・・さて、もういい頃合いでしょうか。」

 

「じゃ、じゃあ開けますね・・・えいっ!」

 

「わぁ!!!」

 

「ふふっ、上手に焼けてるみたいですね。」

 

「あ、ありがとうございますG36さん!」

 

「やっぱりすごいですG36さんは!」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ〜〜つ〜か〜れ〜た〜!」

 

「だから全裸で寝転ばないでください! だれかに見られたらどうするんですか!」

 

 

今日の仕事を終え、部屋に戻ったG36はメイド服一式を脱いで綺麗にたたみ、しかしそのあとは一切身につけずにベッドへダイブする。

G36Cは言ってやりたい、これが皆の尊敬する姉の本当の姿なのだと。

 

「む〜・・・・・じゃあこれで。」

 

 

仕方なし、といった感じで着たのは無地のYシャツ一枚。しかもボタンをかけるのも面倒になったのか、二つほど付けたところで再びベッドに寝そべる。

・・・ここにいるのが妹ではなく男だったらまず間違いなく襲われてるだろう、と36Cは思う。

そのまま惰眠を貪ろうとする姉にため息をつく、とその時ドアがノックされ、36Cはのぞき穴から来訪者を確認する。

 

 

「・・・あ、指揮官様、どうなさいましたか?」

 

「む・・・G36に用があったのだが、お休みだったか?」

 

「え、えぇ姉は今・・・え?」

 

 

振り返り、絶句する。そこにいたのは先ほどまでの駄姉ではなく、一体どうやって着たのかメイド服を身にまとった姿であった。

 

 

「お待たせしました指揮官様。 それで、どのようなご用件で?」

 

「あぁ、確か君は本部に勤めていたな。 少し聞きたいことがあるのだがいいだろうか?」

 

「わかりました、では準備をしてから司令室にお伺いします。」

 

 

指揮官が去り、呆然とする妹をよそに部屋の中へと戻るG36。その直後・・・

 

 

「・・・うふふ、指揮官様と、二人っきり・・・えへへ〜〜」

 

 

あ、いつも通りだ、と一安心する36C。そしてあの駄姉がここまで必死になる理由といえば・・・

 

 

「・・・姉さん。」

 

「ん? 何?」

 

「・・・・・そのまま指揮官と過ごしてきてもいいからね。」

 

「へっ!?」

 

 

普段は白い目で見る36Cだが、姉の恋路は素直に応援したいのだ。

顔を赤くして狼狽える姉を落ち着かせ、資料とついでに秘蔵のワインを持たせて送り出す。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、恥ずかしさのあまりに逃げ帰ってきた姉に頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

end

 

 

番外10-3:二度あることは三度ある?

 

平日の真昼間、普段ならランチ客でいっぱいのはずの喫茶 鉄血だが、今日は珍しく誰もいない。

それもそのはず、今日は珍しく休業日なのだ。

その店内、四つほどテーブルをつなげて周りをぐるりと椅子で囲んだ席で、ここの従業員とペルシカ、サクヤ、17lab主任、アーキテクトがずらりと座っていた。

そしてテーブルの中央にはモニターとコインが一枚。そのモニターには、とある日の喫茶 鉄血の店内カメラの映像が流れている。

 

 

「・・・・・うん、やっぱりこんな人形のデータなんてないよ。」

 

「こっちも同じ、ガイアは素体のままだしデストロイヤーもあの子だけだからね。」

 

「・・・さらに言えば、この人物は例の結婚式の写真に写っていた人物のようですね。」

 

「じゃあやっぱり・・・例の並行世界的な?」

 

 

そう、今回緊急で集まったのは、先日来店したある一行についてである。

一度目の目撃者は代理人だけだった。その後も一度だけ不思議な体験があったが、これも代理人だけ。

だが今回は、他の従業員も客も完全に認識している。幻でも夢でもなく実際にそこにいたのだ。

・・・もうただの偶然とか不思議とかでは片付けられないというわけだ。

 

 

「一つ確認だけど、サクヤはこのコインに見覚えは?」

 

「えぇ、あるわよ。 あっちでの共通通貨だから。」

 

「・・・他の三人にはまだ聞いてないけど、おそらく同じ答えが返ってくるでしょう。 となると・・・」

 

「あれ? 実は並行世界ってすぐそこなんじゃね?」

 

 

アーキテクトの疑問に、しかし今回は誰も異議を唱えない。代理人が遭遇した人物(ユノという指揮官の少女で、こっちにも同名の人物がいる)、流れてきたサクヤやS06地区の二人、UMP9と言う名の少女、そして今回の三人組・・・どうなってんだこの世界。

 

 

「・・・で、今回集まった理由だけど・・・この並行世界について干渉すべきか否か、まずそこよ。」

 

「・・・そうですね。 おそらくみなさんの技術力があれば、干渉することは難しくないのでしょう。」

 

 

干渉するか否か。

代理人としてもサクヤとしても、あっちの世界の知人友人には会えるなら会いたい。特にサクヤはかつての教え子がどうなっているのかを全く知らないのだ。

だがその一方、干渉すればどんな弊害が起きるか想像できないのだ。会いに行ったまま帰ってこれなくなるのかもしれない、一度死んだ人間は会うべきではないのかもしれない。

 

 

「・・・あっちの世界って、その・・・いろいろ大変なんだよね・・・」

 

「・・・そう聞いています。」

 

 

そのことは既にこちらに流れてきた者からも聞いている。アーキテクトは干渉したい派だが、その背景には純粋に助けたいと言う思いがある。

 

 

「・・・・正直、これはここだけで済む話じゃないわよね。」

 

「・・・ひとまず、我々と鉄血工造でシステムは作ります。 不要となればすぐに破棄しますが。」

 

「あるに越したことはない、か・・・余計な心配だとは思うけど、悪用しないようにね。」

 

 

結論の出ないまま、臨時会議が終わった。

その後17labとアーキテクトの手によって試作品が作られるのだが、試験もないまま倉庫で眠ることになる。

それが必要となる日がくるのか・・・それは誰にもわからない。

 

 

end




GWをバイトと授業に吸われているのでちっともGW感がありませんね泣
ところでもうすぐ?新イベントですが、待望のUMP40に会えるのでしょうか。今から楽しみです。


ではでは各話の解説!

番外10-1
第四十話のその後。
ノリとしては砂漠を歩くR2-D2とC-3POみたいなイメージ。そしてまたしても被害にあう裏稼業の皆さん・・・もはや様式美だな。


番外10-2
第四十一話から。
メイドさんって裏ではこんな感じだと思う(偏見)
やるときはやるので別に問題ないと思っている。G36Cの胃に積み重なるダメージが怖いところ。

番外10-3
第四十二話の後で。
本当は誰でも気軽にこれるマシーンを作ろうみたいな話だったけど、気がついたらややシリアス寄りになっちゃった。
まぁ善意が必ずしもいい方に向かうとは限らないので。

ちなみにこの試作品ですが、もちろんフリー素材なので好きにしてくれて構いません。
なんか電波が繋がったとかで起動してもええんやで?


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第四十四話:衣替え

空襲妖精って便利ですよねぇ・・・要請ポイントがガリガリ減ってくけど。

暑くなってきたので薄手の服を用意しましたが、まだ五月始まってちょっとしか経ってないのに・・・・・・夏、生きてられるかなぁ。


・・・代理人のことか? あぁ、知ってる。

話せば長い・・・古い話だ(大嘘)

 

知ってるか?代理人の魅力は三つある。

クールな表情、透き通るような肌、綺麗なうなじ・・・この三つだ。

 

 

「・・・くだらないことを言ってないで本題に入ってくださいダネルさん。」

 

「アッハイ」

 

 

さてまだ五月だというのに暑くなり始めた頃、喫茶 鉄血の一角にはちょっと珍しい組み合わせの一行が座っていた。

一息ついたところで意味不明なことを語り出したNTW、それをイイ笑顔で黙らせるM4、徹夜明けなのか目の下に深い隈をつくっているアーキテクトの三人だ。

 

 

「コホンッ・・・まぁ一応本題に関わることでもあったんだが。」

 

「これ以上くだらないことを言うつもりなら覚悟しておいてくださいね。」

 

「・・・あれぇ〜M4ってこんな娘だったっけぇ・・・・」

 

 

かつてのオドオド隊長はどこへやら、今では怒らせるとやばい人形トップクラスになってしまったM4に遠い目をするアーキテクト。だがこのままでは一向に話が進まないので、NTWが大事そうに持っていた書類を奪い取る。

 

 

「あぁっ!? そんな乱暴に!?」

 

「破れてないから大丈夫っしょ・・・・・で、なにこれ?」

 

「・・・『喫茶 鉄血・夏服プロジェクト(仮)』、ですか?」

 

 

ホッチキス留めで十枚ほどに綴られたそれは、代理人始め喫茶 鉄血の従業員の夏服案が書かれたものだった。

代理人は製造時のデフォルトであるメイド服で、ローエンドたちはそれをベースにしたウエイトレス姿、代理人のダミーやDもオリジナルと同じ格好で、腕こそ出しているが流石に見てると暑そうな格好ではある。

 

 

「へぇ〜・・・結構まともな案が多いですね。」

 

「お前は私を何だと・・・まぁいい、ともかく日頃の感謝の意も込めて、これをプレゼントしようと思ってな。」

 

「ん? 私が呼ばれた理由は?」

 

「お前に頼めば早いだろ?」

 

「いやまぁそうだけど・・・・・」

 

「・・・実はニッポンに行った時に買ったコスプレカタログがここに」

 

「私を頼るなんてイイ目をしてるじゃないか、任されたよ!」

 

 

ガシッと固い握手を交わす二人をジト目で見つつ、M4は手元の資料に目を落とす。全十枚・・・そのうち代理人だけで八枚になる資料は、思ったよりもはるかにまともだった。

スカート丈を膝くらいまで切り詰め、ロングブーツから短めのもの(コメントに『生足』と書かれている)にする案や、逆に服の通気性を限界まで上げる案などなど。

 

 

(・・・あ、これ可愛い。)

 

 

中でもM4が目を止めたのは、メイド服と言うよりは給仕のような格好のもの。質素な色合いと頭に巻いた三角巾がM4の好みと一致したのだ。

 

 

(・・・・・というより、これ全部ダネルさんが書いたのでしょうか?)

?)

 

 

何気なく見ていたが、スケッチ画にしても結構うまい。まるで本人を前にして書いたかのようだが・・・これも愛のなせる技なのだろうか。

 

 

「ん? 結構ちゃんと読んでくれているようだな。」

 

「えぇ、思っていたよりもしっかりしていたので、つい。」

 

「そうか・・・ちなみに私の一押しは最後のページだ。」

 

「最後のページ・・・・・・・・・ってなんですかこれ!?」

 

「メイド服(海の家風)だ!」

 

「メイド要素ほぼ皆無じゃないですか!」

 

 

完全に油断した・・・こいつがまともに終わるはずがなかったと後悔するM4。

最後のページに載っていたのは水着の上にメイド服、それも膝上の極短スカートのみというもはやメイド関係ないじゃんと言いたくなるイラスト。しかも水着は黒のビキニタイプで、足もサンダル状のもの。

極め付けは・・・・・この妙に恥じらっているように描かれているイラストだ。

 

 

「我ながら会心の出来だと思っへブゥ!?」

 

「こ、こんなの却下ですっ! 絶対に認めませんっ!」

 

「なっ!? 考えても見ろM4! 慣れない格好でちょっと恥ずかしそうにしながら『ご、ご注文は?』とか言われたくはないのか!? 私は言われたい!」

 

「発想がオッサンのそれじゃないですか! そんな邪な目で見るなんて最低です!」

 

「だが間違いなく集客効果は上がる! これは代理人のため、喫茶 鉄血のためでもあるんだぞ! っていうかこっちの方が絶対涼しい!」

 

「そ、それはそうですが・・・でも、いくらなんでもこんな格好は!」

 

 

 

 

 

 

「二人とも?」ゴゴゴゴゴ

 

「「・・・・・あ。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まったく、二人して騒いでは他のお客様に迷惑でしょう。」

 

「ご、ごめんなさい・・・。」

 

「・・・悪かった。」

 

「・・・なんで私もこっち側なんだろ・・・」

 

 

散々騒ぎ倒した二人を待っていたのは、羞恥と怒りで赤くなった代理人の、割とガチな説教だった。

ちなみにアーキテクトは二人を止めなかったと言うことで同罪扱いである。

 

 

「・・・で、これがその騒動の原因ですか?」

 

「だ、代理人はどう思う!?アリじゃないか!?」

 

「なっ!? まだ言うんですかこのスットコライフル!」

 

「お前段々口悪くなってないか!? 姉が泣くぞ!」

 

「もうすでに泣かれてますよ!」

 

「M16ゥ・・・・」

 

 

再び再燃しだした二人は放っておき、ペラペラと企画書をめくる代理人。しかもただ流し読みしているわけではなく、割とちゃんと読んでいるようだ。

で、出た結論が・・・・・

 

 

「・・・アリかナシかで言えば、アリですね。」

 

「えっ!? お母さん!?」

 

「! だろ! そう思うだろ!」

 

 

まさかのYESに崩れ落ちるM4と、かつてないほどの喜びをあらわにしたNTW。

しかし、

 

 

「まぁ私ではなく、Dが着るならですが。」

 

「「えっ?」」

 

 

NTWと、奥で様子を伺っていたDから間の抜けた声が出る。

NTWにしてみれば代理人が着るからいいのであって、ダミーが着てもそこまで嬉しくはない。Dに至っては完全にとばっちりである。

 

 

「いやいや! Oちゃんが着ればいいじゃない!」

 

「本体の命令は絶対ですよ。」

 

「ぱ、パワハラだー!」

 

 

Dは忘れることはないだろう。その時の代理人の、妙に勝ち誇った目をした顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

「・・・い、いらっしゃいませ・・・」

 

「・・・・・Dちゃんこれからおじさんとイイコトしnグハァ!?」

 

「お客様、当店ではそのようなサービスはございません。」

 

 

快晴無風の今日、いつも以上の賑わいを見せる喫茶 鉄血。その原因は、例の企画から採用された水着メイドを着せられたDの存在である。

下に着ているものは下着ではなく水着なのだが、それでも恥ずかしいのか短いスカートを目一杯まで下に引っ張って隠そうとする。

熟れたトマトのように真っ赤になり、目に涙を浮かべてプルプル震えるDに、Sっ気が刺激される客が後を絶たない。

 

 

「・・・意外だな、Dならノリノリで着ると思ったが。」

 

「Dさんって確かお母さんをより素直にしたものだって聞いたんですけど・・・」

 

「まぁつまり・・・・・代理人も相当恥ずかしいんだろうねアレ。」

 

「・・・ん? じゃあDが喜ぶものって実は代理人も嬉しいのか?」

 

「「・・・・・なるほど。」」

 

 

 

 

「うぅ〜、Oちゃん覚えててよね!」

 

「本体に向かって随分生意気な態度ですね・・・そう言えば今日はかなり暑くなると聞きました。 テラス席も設置しましょう。」

 

「えっ!? ちょっ!?」

 

「ちゃんと注文を聞きに行ってくださいね・・・その格好で。」

 

「鬼! 悪魔!! スカート上げなきゃ撃てない露出魔!!!」

 

「・・・・・なんならそのスカートも外しますか?」

 

 

 

 

 

「・・・・・誰か止めろよアレ。」

 

「あの服の提案者が行ってください。」

 

「・・・これ、私のとこに来るのかなぁ・・・」

 

 

 

 

end




夏まで待てなかったのでフライング水着回!!!

集客効果アップだよやったねDちゃん!


では、解説です。
・・・・ほとんど言うことないけど。

夏服案
NTWが徹夜で考えた案。
なので最初こそ真面目に考えていたが、ローエンド組のあたりで睡魔に襲われ、それを乗り切って深夜テンションで書き上げたのが最後の一枚。
ちなみにこの代理人の姿は、人形用の高性能シミュレーティングシステムの応用で書いたもの。

コスプレカタログ
いつぞやに温泉旅館に行った時に買ったやつ。
ナースやメイドなどのよくあるコスプレからアニメや漫画のコスプレまで幅広く掲載された分厚い一冊。
お値段一諭吉。

代理人とD
代理人の感情をより表面化したのがD。
なので一見なんでもない風な代理人が何を考えてるか、Dに同じことをすればだいたいわかるのである。
ちなみに最近Dが小生意気になってきたのでそろそろ上下関係を再確認させることにしたらしい。


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第四十五話:新世代ニューフェイス

オリキャラ注意!

リクエストを頂いたのでオリジナル鉄血人形が登場します。
もらったアイデアはフル活用!


とある日の喫茶 鉄血。

この日は珍しいことに店内の客は人間だけで、喫茶 鉄血始まって以来最も平和な日なんじゃないだろうかと思う代理人。

別にいつもの騒がしさが嫌いというわけではない、むしろそれはそれで好きなのだが、やはり喫茶店とはこういうものだろうと思うのだ。

 

・・・だがしかしここはあの喫茶 鉄血。人間と人形の憩いの場にして厄介ごとの集積場である。

カランカランと入り口のベルが鳴り、代理人が顔を上げる。そして悟った、これは厄介ごとだと。

 

 

「えぇっと、あなたが代理人?」

 

「えぇ、そうです。 ・・・あなたは?」

 

 

現れたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。アーキテクトのように製造中だったわけでも、クリエイターのようにペーパープランだったわけでもない・・・正真正銘、新規製造のハイエンドモデルだ。

 

 

「私は『マヌスクリプト』、よろしくね代理人。」

 

 

マヌスクリプトと名乗った彼女は、なんというか色々と規格外だった。外観は鉄血人形らしい色白な肌で、白いメッシュの入った黒髪、羽をあしらった髪飾りのようなものをつけている。

だが、その服装は鉄血人形にしては珍しくモノクロではない、普通の服装だった。その背中には何やら四角いパーツが取り付けられており、しかし武装らしい武装は確認できない。

 

 

「・・・それで、マヌスクリプトさんはなぜここに?」

 

「ん? あぁそうそう、突然で悪いんだけどさ・・・・・私を雇ってくれないかな?」

 

「・・・え?」

 

 

予想外の申し出に思わず声が出る代理人。会って間もない以上流石にはいそうですかとは言えないのだが、なんとなく訳ありそうなので奥に案内して話を聞くことにいたのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なるほど、サクヤさんが。」

 

「で、出てきたはいいけどお金もあんまりないしね。 とにかく今は資金調達が最優先だから。」

 

 

語り始めておよそ一時間、この珍妙な来訪者がどういった経緯でここにいるかはわかった。

確かに彼女は鉄血工造製だが、サクヤが完全オリジナルで生み出した人形だという。背中に二本のサブアームこそあるが固有の武装はなく(鉄血工造は新規に()()人形を作ることを禁じられている)、単体での戦闘能力はほぼ無い。

初めから人間社会で生活することを想定された、ある意味では次世代機というわけである。そんなコンセプトとサクヤの望みもあり、製造後間もなく鉄血工造から出て行くことになったという。

 

 

「まぁしばらくは不自由しないくらいのお金はもらってるんだけどね。」

 

「サクヤさんも過保護ですからね・・・しかし、人の社会でと。」

 

「そ、これもその一環みたいなものかな。 ・・・・・まぁやりたいこともあるんだけどね。」

 

 

微妙に、それこそ代理人が見逃すくらいに黒い笑みを浮かべ、しかし次の瞬間にはさっきまでの飄々とした雰囲気に戻る。

 

 

「・・・いいでしょう。 私としてもあなたに協力したいと思いますから。」

 

「やった! これからよろしくね代理人!」

 

 

そんなわけで意外なほど呆気なく、喫茶 鉄血に新しい仲間が迎えられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「はいお待たせ〜、ケーキセットが三つとコーヒーね!」

 

 

マヌスクリプトが加わって早一週間、完全に馴染むどころか、今やこの喫茶 鉄血の貴重な戦力となった彼女の働きぶりは偉大だった。

武装がない、つまりは身軽な彼女は軽快に店内を動きまわる。さらに背中のサブアームは代理人のものとは比べ物にならないほど高性能で、一人で二人分以上の活躍だった。

おまけに明るくフレンドリーな彼女は客受けもよく、そう時間も経たずに受け入れられた。・・・ノリが良くたまに変わった衣装を着てくれるので、主に男性客から人気だ。

 

 

「めっちゃ働きますね彼女。」

 

「そうですね・・・いずれここを出ても、うまくやれるでしょう。」

 

 

嬉しい誤算で完全に手持ち無沙汰なイェーガーと代理人は、今ではカウンターの内側から出ることがめっきり減ってしまった。とはいえ二人の視線は優しく、まるで娘を見守る親のようだった。

 

 

「・・・そういえば、普段部屋にこもって何やってるんでしょうね彼女?」

 

「趣味で漫画を描いていると言っていましたよ。 ・・・見せて欲しいと言っても見せてくれませんでしたが。」

 

「漫画、ですか・・・でも初任給でいきなりあんなに買うとは思いませんでしたよ。」

 

「・・・お金の使い方だけは指導が必要かもしれませんね。」

 

 

二人が話す通り、マヌスクリプトは割と豪快に買い物する。もちろん生活費や貯金も確保しているが、欲しいものにはとことん使うタイプのようだ。

ちなみにマヌスクリプトが初任給で買ったものはペンタブとかスケッチ用紙とか、いかにも何か描きますといったものばかりである。

 

 

「でも、芸術に目覚める人形って珍しいですよね?」

 

「そうですね・・・グリフィンならスオミさんが音楽を嗜んでいると聞きますが・・・意外と芸術は少ないですね。」

 

「でも漫画かぁ・・・一回読ませてもらいたいですね。」

 

 

軽い気持ちで語る二人。

だが、()()()()()()()が豊富な二人は知らない。彼女の言う()()が、一般的なものよりもはるかに薄いものであることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・ついでに、ごく限られたルートですでに出回っていることも。

 

Prrrrrrrrr……

「ん? 誰でしょう? ・・・はい、喫茶 鉄血です。」

 

『・・・代理人か?』

 

「アルケミスト? どうしましたか?」

 

 

電話に出ると、かけてきたのはいつもどこにいるかわからないアルケミスト。しかし雰囲気は完全に仕事のソレなので、なにかあったのだろうと察する。

 

 

『いや、実はあるヤツを探していてな。』

 

「・・・ある奴?」

 

『あぁ、まだ特定はできていないのだが、個人的なことでもあるのだ。』

 

「何か協力できることはありますか? その人の特徴とか。」

 

『生憎とネット上での名前しかわからんが・・・そいつは写本先生(Mr.Shahon)と呼ばれているらしい。』

 

「・・・写本先生?」

 

 

ガタッ

「ん? どうしましたマヌスクリプト?」

 

「い、いや大丈夫だよ! ちょっとぶつけちゃって・・・」

 

『・・・今なんと言った?』

 

 

電話の奥、アルケミストの声が一気に冷え込むのがわかる。

 

 

「マヌスクリプト、と。 ・・・もしかして。」

 

『マヌスクリプト・・・ニホン語とやらに直せば写本だな。』

 

「・・・・・ちなみに追っている理由を聞いても?」

 

『今すぐそっちに行くからその時に話す。 ・・・そいつを逃すなよ。』

 

 

それだけ言うと電話を切られる。

なんとなく、大事にはならないが面倒の嵐がやって来る予感をしながら、とりあえずマヌスクリプトにも聞いてみようと振り返ると・・・

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・マヌスクリプト?」

 

「ひゃいっ! な、なにかな代理人?」

 

 

引きつった笑みにしどろもどろな応答、挙動不審な態度・・・何かわからないが『黒』だと思った。

ジーっと見つめ続けると目を逸らし、やがて顔も逸らし、ついには明後日の方まで見る始末。

 

 

「・・・マヌスクリプト。」

 

「だ、大丈夫! 代理人には迷惑をかけてない、はず!」

 

「とりあえず裏に行きましょうか?」

 

 

初日に感じたあの予感は正しかった。そんなことを考えながら、サブアームまで使って抵抗するマヌスクリプトを引きずっていく。

・・・とりあえず、話はアルケミストが来てからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・おい貴様。」

 

「な、なんでございましょうか・・・・・?」

 

「私の見間違いでなければこれは私とドリーマーに見えるのだが?」

 

「ソ、ソウデスネ」

 

 

店で待つこと約三十分、鬼のような形相で入ってきたアルケミストとともにマヌスクリプトの元へ行き、彼女の端末とパソコンのデータを全てさらけ出した結果、彼女が書いたという漫画のデータが山のように掘り出された。

・・・その全てがいわゆる『薄い本』である。

 

 

「これについて、何か申し開きは?」

 

「夢×錬金っていいよnぎゃあああああああああ!!!!」

 

「しかもこっちはデストロイヤーか! 一番新しいのなんて代理人とDじゃないか! 貴様身内をそんな目で見ていたのかっ!?」

 

「ちゃ、ちゃんと『この物語の登場人物は全て架空の人物です』って書いてあるし!」

 

「それは暗にノンフィクションと言ってるようなものだっ!」

 

 

説明しよう!

アルケミストは身内が薄い本のネタになることを心底嫌うのだ!

 

そんなわけでアルケミストの制裁が下される一方で、代理人はそのデータの山をひたすらチェックしていく。が、チェックするだけで一向に消す気配はなく、しかも割とじっくり眺めている。

 

 

「だ、代理人?」

 

「・・・いえ、絵が上手なんだなと。」

 

「そんな純粋な眼差しで見るものではないぞ! とにかくこれは全て削除する!」

 

「お、横暴だ! 個人の権利の侵害だ!」

 

「そんなに書きたければ自分を書けばいいだろ!」

 

「需要があるから書くんだ! 二人は今後のトレンドになるよ!」

 

「知るかっ!」

 

 

そんなコントを繰り返しつつ、消す消さないの攻防を繰り広げる二人。まぁお互いの言い分もわかるので、代理人も止めるに止められないのである。

だがふと何かを思いついたのか顔を上げると、ガチの殴り合いに発展している二人に・・・というよりマヌスクリプトに言った。

 

 

「・・・では、こういうのはどうでしょう。」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヌスクリプト、追加で一つお願いします。」

 

「はいは〜い!」

 

「こっちも追加、三杯です。」

 

「は〜い!」

 

「先生、私も一杯。」

 

「はいよって先生言うな!」

 

 

数日後、それまでとは一転してマヌスクリプトがカウンターの奥、代理人らが接客という立ち位置になっていた。そのマヌスクリプトはサブアームを合わせた四本の腕で、真剣に何かを作っている。

ようやく出来上がったそれを代理人に渡し、代理人が運ぶ。

 

 

「お待たせいたしました、特製ラテアートです。」

 

 

運ばれてきたのは、可愛らしくデフォルメされた鉄血人形の描かれたラテアート。絵心があり手先が器用なマヌスクリプトに、代理人が思いつきで始めさせたものだ。

道具は違えど絵を書くことが好きなマヌスクリプトはすぐに習得、今では人気メニューの一つとなっている。

 

 

「・・・相変わらずの出来だな。」

 

「お、アルケミストじゃん! 一杯飲んでく?」

 

「頂こう・・・で、まだ描いてるのか?」

 

「当たり前じゃん! そのためにこれやってるんだし。」

 

 

代理人が提示した条件、それはラテアートをはじめとした喫茶 鉄血への貢献である。ラテアートの他にもメニューのデコレートや店内に飾る絵、オリジナルグッズ(ポスター)などなど、得意な絵を活かして売上拡大を目指したのである。

その見返りとして趣味であるソッチ方面を許可、今まで以上に大手を振って活動しているせいか、一部では『先生』と呼ばれている。

 

 

「・・・・・まぁいい、代理人が許可したんだからな。 だがなぜ私とドリーマーなんだ?」

 

「え? お似合いじゃん。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

アルケミストの微妙そうな顔を受け流し、仕事に戻るマヌスクリプト。

彼女の社会進出と野望は、まだまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、私と代理人の純愛モノを描いてくれないか?」

 

「責めを希望かい? それとも受け?」

 

「・・・責めで頼む。」

 

「ちょっとダネル、そろそろいくわよ。」

 

 

 

 

 

end




というわけでリクエストされましたオリジナル人形、マヌスクリプトです!
送られてきた設定を見たときは爆笑しましたね、ある意味アーキテクトよりヤベェやつだと思います。


というわけでキャラ紹介

マヌスクリプト
『写本』の意。
鉄血工造、というよりサクヤが独自に作り上げた人形で、背面のサブアームが特徴。また服装も特定のものはない。
リクエストの時にたくさん設定があったけど初登場では書ききれてない、なので今後も出てくる予定。
何気にこっちにきてサクヤが作った最初の人形。そういう意味ではあっちの世界のアルケミストの妹ということにもなる・・・多分

代理人
お金は計画的に使う派。
特に趣味とかがあるわけではないが、店の内装の小物などを買うのは好き。

アルケミスト
何にお金を使ってるかよくわからない。
ただ、身内が困ったときはパッと現れて助けてくれるのでそれが使い道といえば使い道。


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第四十六話:妖精のいる喫茶店

う〜んこの不定期っぷり・・・そして今回は短め。


無骨な機械だろうと女の子のイラストさえあれば可愛くなるという一例・・・はっ! ならガチタンに美少女のイラストを書けば可愛なるということでは!?(錯乱)


ここはS09地区にある、そこそこ大きな街。

その路地を少し入った先にある小さな店が、人間と人形の集う『喫茶 鉄血』である。

その日、開店前の店の前には小さなバンが止まっており、従業員たちがそこから大きな箱を運んでいた。

 

 

「・・・これで全部、ですね。」

 

「いやぁ悪いね、付き合ってもらっちゃって。」

 

「構いませんよ、日頃からお世話になっていますから。」

 

 

搬入作業を見守るのはこの店のマスターである代理人、そして16labのペルシカだ。

最後の荷物が店に運ばれると二人はそれに続いて入る。中では先に運び込まれた箱がすでに開けられており、中から何やらゴツい機械が顔をのぞかせている。

 

 

「これが、ですか?」

 

「そう、これが試作の新型ドローン。 ・・・あ、箱から出したら下のスイッチだけ入れてね。」

 

 

最後の箱の梱包も解かれ、床に並べられた三機のドローン。形状こそ違うものの武装のようなものは見当たらず、作業用ドローンであることは伺える。

ドローン全ての電源が入ったことを確認すると、ペルシカは手を叩きながらやや大きめの声で言い放った。

 

 

「はーいおはよう! 仕事だよ!」

 

 

するとドローンたちの眼?の部分が光り、ほとんど音もなくスゥーっと浮き上がる。

そして上面の平らな部分がピカッと光り・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・二等身くらいの少女が現れた。

 

 

「・・・は?」

 

 

間の抜けた声が漏れる。こんな物々しい機械には明らかにミスマッチなそれに、しばし言葉を失う。

 

 

「驚いたかい? これが新型ドローンの『妖精ちゃん』よ!」

 

「よ、妖精・・・?」

 

 

ペルシカの説明によると、職種別に機能を割り振られた作業用ドローンであり、鉄血工造がもつ浮遊ビットの技術を解析、応用したものなのだそうだ。サイズはやや大きいが浮遊するという特性上移動しても邪魔になりにくく、工場や倉庫、飲食店などで幅広く活躍できるという。

・・・・・が、こんなメカメカしい外見ではアレなので、ホログラムで少女の姿を映すことにしたという。

 

 

「ちなみにこの子達も自分のことを妖精だと思ってるから、話は合わせてあげてね。」

 

 

ペルシカの説明を聞いて、改めて妖精を見る。

作業用らしいゴツめの外観に、『妖精』というメルヘン感溢れる名称。こう言ってはなんだが、出来の悪いファンタジーと科学の融合のように思えてくる。

しかも、違和感はそれだけではない。

 

 

「・・・なぜ、この服装に?」

 

「ん? あぁそれはね・・・」

 

『この方がかっこいいからだ!』

 

『ふふ、素敵でしょ?』

 

『落下傘って、こんな感じですよね?』

 

 

突然喋り出すドr・・・妖精たち。というか喋れるのか。

彼女たちの服装だが、まず一人目はかなり身軽な格好になぜか洋弓を持っている。二人目は服装こそまだまともだが、背中や足に飛行機を思わせるパーツが付いている。しかもなぜかあの対地番長のようなヤツだ。三人目はパッと見では一番まともだ。まともだが、落下傘は傘と書いてはいるが傘ではないと言いたくなる。

 

 

「というわけで、しばらくこの子達を預けるからモニターよろしく。」

 

「まぁ構いませんが・・・ええっと、では皆さんよろしくお願いします。」

 

『『『お願いしまーす』』』

 

 

そんなわけで、この奇妙な仲間を加えて本日の業務が開始した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだこのドローンは?」

 

『我々はどろーんなどではない、妖精だ!』

 

 

本日の客一号、AR小隊のM16の疑問に妖精が抗議の声を上げる。このAR小隊はペルシカから頼まれたモニターで、新型の業務用ドローンの感想が欲しいとのこと。ちなみに飲食代は全てペルシカ持ちなので、五人とも財布は持ってきていない。

 

 

「接客態度には難ありね。」

 

「でも、仕事はきっちりしてますよね。」

 

「あと、とても静かですね・・・埃も舞ってないですし。」

 

「けど妖精っていうには無骨すぎんだろ。」

 

「え〜私は可愛いと思うけどなぁ。」

 

 

それぞれが感想を述べながら手元の調査用紙に記入していく。なんだかんだで真面目に記入するあたりは流石エリート人形たちではある。

ただ、あくまで16lab製だから安心できるのであって、これに17labやらアーキテクトが加わっていたら気の抜けない時間になっていただろう。

 

 

「おや、思いのほか高評価ですね。」

 

「あ、お母さん。」

 

「・・・M4のお母さん呼びもなんか普通になっちまったな。 あ、コーヒーおかわり。」

 

「じゃあ私スペシャルケーキ!」

 

「そ、SOP!? 流石にそれは・・・」

 

「気にしなくていいわよRO、ペルシカが()()()()頼んでいいって言ったから・・・てことで私も一つ。」

 

 

「じゃあ私たちも貰おうかしら。」

 

 

ふと聞き慣れた声がした方を見ると、そこにはグリフィンの暇人部隊・404小隊の面々。どうやら彼女たちもモニター役に選ばれたようだ。

 

 

「機能的には問題ないでしょうけど・・・やっぱり外見が悪いわね、店の雰囲気とは合わないわ。」

 

「相変わらずの辛口ね。」

 

「モニターってそういうものでしょ?」

 

 

416のコメントに肩をすくめる45。AR小隊の隣の席についた45たちは、改めて店内をぐるりと見渡す。

 

 

「・・・いつの間にか賑やかになったわよね。」

 

「そうですね。 お母さんもよく笑うようになりました。」

 

「あなたが『お母さん』って呼ぶようにもなったしね。」

 

 

開店当初は代理人と人形二人、あとはダイナゲートだけというこの喫茶 鉄血だが、今ではDやダミーたち、マヌスクリプト、そして妖精と、店の規模に対して充実したスタッフが揃うようになった。

 

 

「これは、そろそろ店の拡張も視野に入れるのかしら?」

 

「なるほど、それもアリですね。」

 

『その時こそ我々の出番だ!』

 

『お役に立ちますよ』

 

「私たちも協力しますね!」

 

「あ、じゃあテラスもつけましょう!」

 

「地下にも部屋を作って、そこを本格的なバーにするとか!」

 

『敷地拡張(爆撃)ならまかせろ〜!』

 

「「「「「それはやめて」」」」」

 

 

騒がしいくらいに賑やかな、ある意味いつも通りな喫茶 鉄血。

妖精たちのモニターも終えて、AR小隊と404は揃ってケーキを食べながら残りの時間を過ごしていった。

 

 

 

 

後日、九人分のケーキと飲み物代にペルシカは頭を抱えることになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

end




??妖精『よう指揮官、まだ生きてるか?』
指揮官「ファッ!?」

・・・ただ思いついた一発ネタです。



というわけでキャラ解説

妖精
16labが開発したドローン。本体が妖精だと思い込んでるのは原作通り。今回は原作でいうところの勇士妖精、空襲妖精、空挺妖精の三体。ただし、戦闘能力はほぼない。
アーキテクトあたりに捕まると確実に魔改造されるので要注意。

AR小隊
この作品で一位二位を争う扱いやすい部隊。404と違って暇というわけではないが、なぜかよく居る。

404小隊
多分グリフィン一暇な部隊。もともと特殊部隊だったことが原因で、有事の際にしか呼ばれない。
きっつい性格だった416が穏やかになるくらいには暇な部隊。

スペシャルケーキ
久しぶりの登場。厳選した食材をふんだんに使い、なおかつ利益を得られるようにしているため一切れのくせにめちゃくちゃ高い。
当店の嗜好品人気No. 1であり、子供の笑顔と親の涙が見られる一品。


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第四十七話:アルケミスト「鉄血工造はもうダメかもしれない」

ミス・トラブルメーカーは伊達じゃない!
ところでもうすぐ『深層映写』が始まりますね、なんでもUMP40が出るとか・・・これは頑張らざるを得ない!


鉄血工造、研究開発部

 

 

「ゲーガーちゃん、休憩しよー。」

 

「うるさい、黙って手を動かせ。」

 

「・・・ゲーガーちゃん、休憩しよー。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・ゲーガーちゃん、休憩しよー。」

 

「あぁもううるさい! 貴様それでも私の上司・・・か・・・」

 

 

「・・・ゲーガーチャン、休憩シヨー」

(ちょっと出かけてくるから身代わり人形置いとくね!byアーキテクト)

 

「あのポンコツがぁあああ!!!!」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

同刻、S09地区・喫茶 鉄血前

鉄血工造が誇る天才にして天災、フ◯ム脳に染まったトラブルメーカーであるアーキテクトは、業務を全て部下に押し付け遥々S09地区までやってきた。

目的はただ一つ、鉄血の最新鋭ハイエンドであるマヌスクリプトに会いにきたのだ。

 

 

「いや〜楽しみ! どんな娘なのかな?」

 

 

期待を膨らませつつ、軽い足取りで店に入る。

マヌスクリプトは鉄血工造製ではあるが制作に関わったのはサクヤだけで、しかも完成してすぐに出ていってしまったためアーキテクトは一度も会っていないのだった。

単純に会ってみたくもあるし、何よりサクヤが一人で作り上げた人形というものに興味がある。

 

 

「いらっしゃいませ・・・おや、久しぶりですねアーキテクト。」

 

「こんにちは代理人、ちょっと息抜きにね。」

 

 

間違ってはいない、ただ部下に一言も言わずに出てきただけである。

 

 

「では空いている席へ。」

 

「ありがと。 ・・・ところで代理人、マヌスクリプトっている?」

 

「そういえば会っていませんでしたね、連れてきますか?」

 

「ん〜ちょっと会ってみたいかな。」

 

 

わかりました、とだけ言うと代理人は水を置いて奥へと下がる。

そして入れ違うように、マヌスクリプトが注文を聞きにきた。

・・・のだが。

 

 

「おまたせー! あなたがアーキテク・・・」

 

「お? もしかしてマヌスクリ・・・」

 

 

互いに目を合わせた瞬間、ほぼ同時に動きが止まる。似通った部分があったのか、二人の心境的には『目と目があう〜』とか『ティンときた』とか・・・とにかく運命的なものを感じたのだ。

もちろん悪い方向で。

 

 

「・・・ねぇアーキテクト。」

 

「何かな?」

 

「魔改造って・・・どう思う?」

 

「っ! ・・・じゃあ逆に聞くけど、欲しいけど無い物があったらどうする?」

 

「もちろん作るわ。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

 

ガシッ

二人は固く握手を交わした。このわずかな問答で、二人は同じ志を持つもの同士であることを理解したのだ。天才を・・・いや、天災を知るのはやはり天災なのだろう。

アーキテクトにしてみれば17lab主任以来の、そして人形では初めての同類であり、マヌスクリプトにしても生まれて初めて出会う仲間である。

それを影から見つめる代理人は深くため息をついた・・・これは、会わせてはいけない者同士だったのではないか、と。

 

 

「・・・で、これが今考えてるプランなんだけど・・・」

 

「マンティコアに・・・レーザーブレードとビーム兵器、ブースターも増量と・・・・超短期決戦だね。」

 

「ロマンは詰め込んだけど実用性がねぇ・・・」

 

「え? ロマンで作っちゃダメなの?」

 

「その言葉を待っていた。」

 

 

止めるべきか?いや、まだ様子見だろうか。

代理人は葛藤していた。このまま放っておくと確実にゲーガーが倒れるし、最悪の場合アルケミストにも余波が及ぶ。世間的には「また鉄血か」で済むが、身内が倒れるのはできれば避けたい。

しかし、アーキテクトとマヌスクリプトがここまで生き生きしている時間を奪いたくもない。せっかく同志が見つかったのだ、目一杯好きにさせたいとも思う。

皆のことを考えるあまり、思考が堂々巡りとなってしまっていた。

 

 

「ジュピターって、前に改造版を出したんじゃなかったの?」

 

「あんなのはただの改造。 魔改造なんてとても言えないかな。」

 

「砲身を伸ばして超射程化・・・だけじゃ面白みに欠けるね。」

 

「あ、じゃあ車輪をつけて自走させよう!」

 

 

日頃はここら辺で止められるであろう話を、ストッパーがいないのをいいことに延々と語り合い続ける二人。

後に代理人は語る、無理矢理にでも止めておくべきであったと。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

時間がさらに経ち、西日が差し込むくらいになった頃。

喫茶 鉄血も閉店時間が迫ってきたために店内にはまばらな客しかいない。だがその一角、午前中からずっと居座っているアーキテクトが一心不乱に設計図を書き続けていた。マヌスクリプトは流石に仕事があるのでずっとではないが、時間が空けば頻繁にいるようになっている。

今日何杯目かのコーヒーを飲み干し、凝り固まった体をほぐすように伸びをするアーキテクト。彼女の目に広げられている端末には、今日一日で書き上げたであろう設計図がいくつもある。

 

 

「アーちゃんおつかれ〜、はいコーヒーのおかわり。」

 

「あ、ありがとマヌちゃん。」

 

 

作業が終わったタイミングを見計らってコーヒーを注ぎに来るマヌスクリプト。この短時間で信頼関係を築いた二人は互いを『アーちゃん』『マヌちゃん』と呼ぶようにもなっていた。

 

 

「で、これ全部作るの?」

 

「流石に今すぐには無理かなぁ。 とりあえず二、三個作ってみようかと。」

 

 

そう言いながらデータを保存して端末を閉じる。カフェのど真ん中で作業しているが、本来は完全社外秘の機密情報ばかりである。

・・・もっとも、見たからといって作ろうとするものなどまずいないのだが。

ともかく作業を終えてのんびりするアーキテクトに、マヌスクリプトは黒い笑みを浮かべながら手を伸ばす。

 

 

「・・・じゃあ、協力した報酬をもらおうかな。」

 

「くくくっ、わかってるよ。」

 

 

差し出された手に乗せたのは、ごく普通のUSBメモリ。

もちろんアーキテクト印の超容量タイプだが、このUSB自体にそこまでの価値はない。

報酬はその中身・・・それをマヌスクリプトは自前の端末に刺し、中身をチェックする。

 

 

「・・・どう?」

 

「・・・・・いい・・・いいわ! 最高よ!!!」

 

「喜んでもらえたようで何より。 データはあっても形にできないまま埋もれてたらからね。」

 

「なんてもったいないことを・・・でも大丈夫! 私がこの全てを描いて見せるわ!」

 

 

恍惚の笑みを浮かべてよだれまで垂らし、薬でもキメてるんじゃないかという表情を浮かべるマヌスクリプト。データの中身は、設計段階で(他のハイエンドから)ストップがかかった鉄血用スキン集である。

IoPのものも参考にされたそれは、メイド服やナースといったコスプレの王道とも言えるものからロリスキン、文字にするだけでR-18にされそうなくらいの過激なやつまで・・・マヌスクリプトからすればお宝資料のような内容だ。

ちなみにこのデータには秘密裏に17labも関わっている。

なぜかって?彼らも立派な変態だからだよ。

 

 

「ふっふっふ・・・これで夏のネタは決まりね、さぁ早速描くわよ!」

 

「それは構いませんがマヌスクリプト、まだ仕事は終わっていませんよ。」

 

 

不意に肩に手を置かれ、振り向くとそこにはそれはいい笑顔の代理人が立っていた。

まだ付き合いの長くないマヌスクリプトでもわかる、これはアカンやつだと。

 

 

「あなたの趣味にとやかくは言いません、交友関係に関してもです・・・が、それはサボっていい口実にはなりませんね?」

 

「いや・・・あの・・・」

 

「言い訳は聞きません。 今日は片付けまで休憩無しにします。」

 

「( ;°д°)」

 

 

涙目で固まるマヌスクリプトに心の中で手を合わせるアーキテクト。だが代理人は笑顔のままアーキテクトに向き直る。

 

 

「・・・それとアーキテクト。」

 

「うぇっ!?」

 

「先程ゲーガーから電話がありまして・・・あなた、仕事を押し付けてきたそうですね? サクヤさんもお怒りでしたよ。」

 

「ゔっ・・・それはちょっとマズイかな・・・」

 

 

ゲーガーが怒っているのはある意味いつも通り(だいたいアーキテクトのせい)だが、サクヤまで怒っているとなると流石によろしくない。

サクヤに怒られるといろいろと堪えるのだ・・・主に精神的に。

そしてタイミングを計っていたかのように店のドアが開け放たれ、人形と人間の二人組が姿をあらわす。

 

 

「見つけたぞアーキテクト!」

 

「今日という今日は許さないからね!」

 

「ひぃ!? ごめんなさい〜!!!」

 

 

一気に騒がしくなる店内に、しかし客たちは特に気にすることもなく眺めている。

ある意味いつも通りな喫茶 鉄血は、こうして一日を終えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「書類仕事なんてヤダヤダヤダ〜〜〜〜」

 

「あぁもううるさい! その構想案?の中から二つくらいなら作っていいから仕事しろ!」

 

「言ったね!? 作っていいって言ったね!? 約束だよ!」

 

 

 

end




リクエスト消費回。
アーキテクト×マヌスクリプトの奇天烈アイデアのお話でした!
ゲーガーの胃袋やいかに!?


というわけでキャラ解説

マヌスクリプト
頂いたアイデアから生まれたオリジナル人形。艦◯れでいうところのオータムクラウド先生みたいなポジション。
関係ないけど裸をかける人ってめちゃくちゃ絵が上手ですよね。

アーキテクト
公式からしていろいろおかしい人形。ノリと勢いに頭脳と閃きがくっついてしまった暴走特急。
ピンクのネイルが可愛い。

代理人
問題児たちに手を焼く一方で、好きなことを好きなだけ追いかける彼女たちを好ましく思っている。
行き過ぎた時は言うが基本的に自由にさせている。

ゲーガー
被害担当人形。今作では45姉と並んでイジられる役に。
立ち絵の腰のくびれがエロい。

サクヤ
ある意味この作品の代名詞みたいになったバッドエンド救済、その第一号。
しれっとハイエンドを作るあたりペルシカ並みの天才だと思う。
なお常識度で言えばサクヤ>ペルシカ>アーキテクト=17lab主任


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番外編11

なんとか・・・なんとかイベント前に間に合った・・・!
とりあえず出るであろうUMP40を目標にします!


話が逸れましたが今回は
・夏に向けて
・拡大改装
・緊急ミッション
の三本です。


番外11-1:夏に向けて

 

 

「こんにちはマリーさん!」

 

「あらDちゃん、代理人さんもいますね。」

 

「・・・D、ここは?」

 

 

S09地区の一角、寂れてはいないが繁盛もしていない雑貨屋。

そこに訪れた代理人とD、そしてマヌスクリプトの三人は、若い女店主に迎えられていた。

Dがマリーと呼んだその女性はどうやらDの知り合いのようであり、今日は彼女に用事があったようだ。

 

 

「ここは私のお気に入りのお店で、可愛い雑貨とか服が置いてあるの! しかも安い!」

 

「いや、それは見ればわかるんだけど・・・。」

 

 

自信満々に答えるDに首をかしげるマヌスクリプト。実際見渡せば小物からサーフボードのような大きなもの、服もカジュアルなものからフリフリのついたものまで、とにかく沢山あるといった感じだ。

一行はマリーに案内されるがままに店の奥へと進む。

店内を抜け、レジ奥の扉を抜け、従業員用の通路を通りたどり着いた先にあったのは・・・

 

 

「「・・・・・水着?」」

 

「そ、水着!」

 

 

従業員用の会議室だろうか、本来何もなさそうな部屋にはハンガーにかけられた水着がずらりと並んでいる。おそらくもう少しすれば表に並ぶのだろうが、なぜこんな場所に連れてこられたのか。

 

 

「Dちゃんから、夏は海に行くと聞きまして。 彼女はよく来てくれますから、特別にいち早く選んで頂こうかと。」

 

 

もちろん特別価格で、と付け加えて見事な営業スマイルを浮かべるマリー。だが、代理人といては聞き逃せないことがあった。

 

 

「・・・海?」

 

「あれ? 言ってなかったけ?」

 

「聞いてませんし、店はどうするんですか?」

 

「え、閉めちゃダメなの?」

 

 

キョトンとするDに頭痛を覚える代理人。D的には以前の温泉旅行のようなノリだろうが、そう何度も臨時休業にするわけにもいかないのだ。それにここでまた休んでしまったら、一年間に何度も店を閉めることになる。

 

 

「あのですねD、年間に休みは決ま「私は賛成よD!」・・・マヌスクリプト?」

 

 

代理人が怪訝な顔で振り返ると、鼻息を荒くしたマヌスクリプトがいい笑顔でサムズアップしていた。しかも片方の手にはいつのまにか水着が握られ、今まさに試着室に行こうかという勢いである。

 

 

「これで二対一だねOちゃん!」

 

「・・・。」

 

「みんなも誘ったら喜ぶと思うよ、ダネルとかM4とか。」

 

「・・・・・。」

 

「「ねーねー行こうよー」」

 

「・・・はぁ、わかりました。」

 

「「やったぁ!!!」」

 

 

最近このダミーが独立しているのではないかと思い始める代理人は深くため息を吐く。それをよそにDとマヌスクリプトは水着を選んでは試着室に向かい、出てきてはまた選んで戻るを繰り返す。

その光景をあきれた様子で見ていた代理人だが、やれやれといった感じで自分の水着を探し始める。

 

 

 

ちなみにこういうことに疎い代理人がDやマヌスクリプト、その他の店員によって文字通り着せ替え人形になったのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外11-2:拡大改装

 

 

それはある晴れた日の早朝。

まだ開店前の喫茶 鉄血に集まったのは、代理人をはじめとした店員と妖精、鉄血工造から派遣された土木作業部隊の、総勢二十名ちょっとの人形たちだ。

 

 

「・・・揃いましたね、では始めましょう。」

 

『了解!』

 

 

作業のリーダーを務める代理人の合図で、一斉に動き出す。皆あらかじめ決められた道具を手に取り、所定の場所へと移動する。

そして次の瞬間、玄関周りと二階の壁一面を破壊した。

 

 

「おや? 今日は工事かい?」

 

「あら、おはようございます。 ちょっとした改築工事ですね。」

 

 

散歩の途中で立ち寄った老人にそう話す。

順調に客が増え、ダミーたちやマヌスクリプトや妖精といった従業員も増えてやや手狭になった喫茶 鉄血は、思い切って拡張工事に踏み切ったのだ。具体的には、二階も店といて開いてバルコニーも増築、その下にも屋外席を設ける予定だ。

喫茶 鉄血の隣には誰が管理しているのかわからなかった空き地があり、地区行政の許可で譲り受けたことで工事が可能になった。

 

 

「うーん、じゃあ今日は一日閉店かのぉ。」

 

「いえ、午後までには間に合わせる予定です。 テーブルなどの調度品はすでに用意していますから。」

 

 

そう、朝一番に工事を始めた理由はこのためである。必要な部分だけ解体し、塗装済みの建築資材で組み上げていけば人形の効率作業をもってすれば半日と経たない。

本音を言えば夜間にやっておきたかったが、近隣への迷惑を考えてこの時間になった。

 

 

「おぉ! 話しとる間にほぼ出来上がっとるぞ!」

 

「あとは中を掃除して内装を整えるだけですね。」

 

 

あれよあれよと組み上がり、すでにほとんどの人形が工事から掃除へと作業を変えている。それに合わせてテーブルや椅子が運び込まれ、もうほとんど工事が終わったと言っていいほどだった。

すると、その作業も終えた人形が今度は屋根の方へと登っていく。

 

 

「ん? まさか三階も作るのか?」

 

「まぁ簡単にですが。 今日の業務が終わる頃までには、私たちの部屋も完成しているでしょう。」

 

 

開いた口が塞がらない、と思いながら呆然と見上げる老人。長く生きてきたがこれほど短時間で工事を終えた例が他にあっただろうか。

恐るべし鉄血工造。流石は技術的変態集団である。

 

 

「さて、そろそろ開店の準備をしましょうか。 ではお爺さん、また後ほど。」

 

「お、おぉ・・・」

 

 

そう言って、三階以外ほぼ完成した店へと入っていく代理人。

のちにこの超短時間工事は一躍話題となり、鉄血工造には注文が殺到したという。

 

 

end

 

 

 

番外11-3:緊急ミッション

 

 

マガジンを確認して、ホルダーにしまう。

隣を見れば、久しく見なくなった真面目な顔つきの45姉が同じように武器のチェックを終えている。

そう、今の私たちは404小隊・・・決して表に出せない仕事を請け負う特殊部隊だ。

 

 

「・・・こちらUMP45。 ヘリアン、着いたわよ。」

 

『ご苦労だ45。 ターゲットはその扉の先に閉じ込めている。』

 

 

目の前には何重にも電子ロックがかけられた金属の扉。

今私たちがいるのは鉄血工造の『特別演習場』と書かれた部屋の前。

・・・そう、あの問題児がまたやらかしたのだ。

 

 

「・・・で、中に何がいるのかはまだわからないの?」

 

『すまない、アーキテクトはまだ気を失ったままだ。』

 

「・・・よっぽど勢いよく殴ったのね、ゲーガーは。」

 

 

45姉はため息をつくと、後ろを振り返る。そこには当然416や11もいて、当然ながら準備は万全だ。

二人とも手で簡単に合図して、いつでも行けることを伝えてきた。

 

 

『繰り返すが、今回のターゲットは決して世に出してはいけないものらしい。 ゲーガーも詳しいことを話す前に過労で倒れた。』

 

「・・・終わったらお見舞いに行くわ。」

 

『よし、では始めてくれ。』

 

 

45姉が通信を切り、扉とつながった端末を操作する。ロックが全て外れた扉はゆっくりと開き、私たちは素早く中に入って扉を閉める。

 

 

「・・・この先ね。」

 

「機密保持のために処分するなんて・・・今度は何を作ったのかしら。」

 

「あいつのことだからロクなものじゃなさそうだけどね。」

 

「11、結構辛辣だね。」

 

 

この実験場は三つに区画が分かれていて、それぞれが八角形の部屋になっている。今いるところから奥に行けば行くほど部屋は広くなり、また部屋同士の通路には扉はない。

 

 

「・・・静かに。 何か聞こえる。」

 

 

45姉の言葉で止まり、耳をそばだてる。

かすかに、本当にかすかにだが、何かが歩く音がする。這うような、何かを引っ掻くような・・・それでいて聞いているだけで不快感が増してくる不思議な音だ。

 

 

「・・・・一番奥の部屋ね。」

 

「うわ〜、なんであそこだけ電気消えてるのかなぁ。」

 

 

奥に行けば行くほど聞こえてくるその音に、私たちは警戒を強める。最奥の部屋はなぜか電気が消えていて、奥の方までは見えない。

45姉が416に指示を出す。416が取り出したのは、照明弾だ。

 

 

「・・・撃って。」

 

「了解。」

 

 

416がランチャーの引き金を引く。放物線を描いたソレは奥へと飛んでいき、そして光を放った。

 

 

 

・・・・・そして私たちは理解した。外に出しては行けない理由を。

 

 

 

カサカサカサカサカサカサカサカサカサ………

 

 

「「「「いやぁあああああああああ!!!!!!」」」」

 

 

見間違いであって欲しかったが、現実は非情だ。

光に照らされて浮かび上がったのは地面いっぱいの黒い点・・・パッと見ただけでも百は下らないであろう、Gによく似た小型ロボットだった。

そして今のを攻撃だと認識したのか、そいつらが一斉にこっちに向かってくる。

 

 

「きゃああああ!!! 来ないで! 来ないでぇ!!!」

 

「ひいいい!? こんなの聞いてないよっ!?」

 

「どうすんのよ45ってうひぃ!? まだいるの!?」

 

「と、とにかく撤退! 撃ちながら下がって!」

 

 

迫り来る黒い波に銃弾を叩き込み、グレネードで吹き飛ばす。確実に数は減っているがそれでも多い、というより一匹たりとも触れたくない!

え? ロボットってわかってるんだから触っても平気? リアリティ溢れるコイツらを見てもそう言えるなら代わってほしいかな!?

 

 

「ってうわぁっ!?」

 

「11!?」

 

「新手!? 上・・・え?」

 

 

突然11が宙を舞う。それは跳んだというよりも、文字通り浮き上がったような感じだった。その先に銃を向けた私は、自分でも間抜けだと思う声が出た。

 

そこにいたのは、まるで蜘蛛のように天井や壁に張り付き、ワイヤーで11を絡め取っているマンティコアだった。

ワイヤーには粘着質なのか、11はもがけばもがくほど糸に絡まっていく。そして次の瞬間、無情にもワイヤーが切り離された。

 

 

「ぐぇ!」

 

「11っ! 逃げて!」

 

「え? ・・・ひぃ!?」

 

 

全身ぐるぐる巻きの11に迫るのは、ようやく追いついてきたG部隊。床に倒れる11には、その絶望感は半端じゃないだろう。

 

 

「なっ!? うわぁあああ!!!」

 

「このっ! 離しなさいよ!」

 

 

45と416の声に振り向くと、なんと二人も糸に絡みとられていた。マンティコアは全部で三体もいたのだ。

そして11と同じく雁字搦めで床に捨てられ、身を捩りながら黒い波から逃げようとする。

救助は間に合わない、敵を倒しきる武器はない、あの糸に捕まれば負ける、打つ手のない私はただ愛銃を握りしめることしかできなかった。

 

やがて三体のマンティコアに囲まれ、私は目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ふぇええええ怖かったよおおおお!!!!」

 

「ガタガタガタガタ・・・・・・」

 

「あれはGじゃないあれはGじゃないあれはGじゃない」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「・・・あー、ご苦労だった四人とも。」

 

 

連絡が途絶えて数時間後、彼女たちから送られてきたデータから部隊を編成し、無事鎮圧と同時に救助することができた。

どうやらあのGもどきは非武装のようで、45たちの周りを囲むように動き回っていただけだという。またマンティコアについても鎮圧が目的であったためかワイヤー以外の武装は使っていなかったようだ。

結果、完全な敗北であったにもかかわらず45たちを五体満足で回収できた・・・・・メンタルに多大なダメージを与えたが。

 

 

「・・・で、何か申し開きはあるか? 貴様ら。」

 

「「申し訳ございませんでしたっ!!!」」

 

 

深々と土下座するのは今回の主犯、アーキテクトとマヌスクリプト。この二人によって立案された悪魔の兵器が、あの鬼畜コンボである。

延べ三時間に渡る説教が堪えたのか、大人しく謝罪してはくれた。

・・・まぁ()()()()説教だがな。

 

 

「随分と迷惑をかけたようですね、二人とも?」

 

「うちの子を泣かせてくれるなんて、いい度胸じゃない。」

 

「私言ってるよね? 人に迷惑をかけちゃダメだって。」

 

 

代理人、ペルシカ、サクヤ、三人揃っていい笑顔を浮かべている。笑顔というものは本来攻撃的なものだと聞くが、どうやらそれは正しいようだ。件の二人はすっかり真っ青になっている。

 

 

 

 

その日、鉄血工造からは怪音波とも言えるほどの悲鳴が響き渡り、翌日にはモノクロのごとく真っ白になった二人が見られたという。

 

 

end




みんな喜べ! 戦闘描写のあるドルフロ小説だぞ!(白目
ちなみに作者はGも蜘蛛もムカデもダメです。


というわけで各話解説

11-1
四十四話の後、なんだかんだで水着が着たくなったDが代理人を巻き込む話。
久しぶりのオリキャラとして、雑貨屋のマリーさん登場。
ここまでやったから海回は確定だな。

11-2
四十六話の続き。
一夜城のごとき早業で行われる改装作業、鉄血驚異のメカニズム。
余談だが、11とトンプソンの定位置が一階から二階に変わった。

11-3
四十五話・四十七話から続くおはなし。
珍しく喫茶 鉄血が出てこない上、この作品では貴重な戦闘シーン。
今回登場した兵器はリクエストからで、設定は以下の通り。
*土蜘蛛
・マンティコアの隠密作戦仕様。全身のワイヤー射出機と脚部の吸盤で立体的な機動が可能。走行を削って関節部にも特殊加工を加えてステルス化した。粘着ワイヤーによって捕縛も可能。
*ザ・ネスト
・見た目はGそのものの昆虫型小型ロボ。生産性を極限まで高めた結果、このリアリティ溢れる見た目になった。武装はないが、メンタルにダイレクトアタックをかますことができる。飛ぶ(ここ重要)。


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第四十八話:暑い夜の過ごし方

昨日ちらっと寄った映画館で、貞子が4Dで上映されると知りました・・・いやいや誰か倒れるだろ・・・

あ、私はゴジラが見に行きたいです。


それは喫茶 鉄血の改築工事が終わった、次の金曜日の夜。

以前まで金曜日の夜はバーとして営業していたのだが、二階席もできたのでより本格的なバーへと進化した。

一階は今まで通りのカラオケバーで、二階は貸切会場になっている。その貸切部屋は今、白いスクリーンとプロジェクターが設置され、照明をいつもの八割減まで落としている。

この『特別上映会』に集まったのはある意味いつものメンツ・・・AR小隊に404小隊、それと保護者枠で代理人、ハンター、ペルシカの計十二名。

 

 

「よし、じゃあ始めるぞ。」

 

「ねぇM16、上映会としか聞いてないんだけど何見るのよ?」

 

 

今回の発案者であるM16がDVD片手に宣言するも、この場で何を上映するのかを知っているのは彼女と代理人とペルシカだけ。他は皆首を傾げており、呼ばれたハンターに至ってはいかにも不機嫌ですといった表情だ。

 

 

「・・・前にニホンの旅館に行ったのは覚えてるな?」

 

「えぇ・・・それが?」

 

「そしてその晩、何があったかも。」

 

「・・・・・・忘れかけてたのに思い出させないでよ。」

 

「その時私は身が凍るような思いをしたんだが・・・ふと思ったんだ、暑くて寝苦しいなら冷やせばいいと。」

 

「OKよM16、あとはあんただけで楽しみなさい。」

 

「怖がった拍子にハンターにくっついてもいいんだぞ?」ボソッ

 

「っと思ったけど今日は付き合ってあげるわ。」

 

 

どうでもいい茶番に白い目を向けるその他。まぁつまるところ、日本でジャパニーズホラーを体験したM16が、ホラーにはまってしまったのだ。とはいえ常日頃からドンパチやってる彼女からすれば所謂パニックホラーにはさほど驚くことはなく、そこで目をつけたのがとある一本のDVD。なんでも、かの国では伝説的な人気を誇る有名ホラー映画らしい。

ちなみにAR小隊の作戦資料映像名義での経費購入であり、バレたら問題なのだ。

 

 

「じゃあ見るぞ・・・席は自由で構わないか、代理人?」

 

「えぇ・・・席と言っても、ただカーペットを敷いているだけですが。」

 

 

その合図でのそのそと動き出す人形たち。

AR-15はハンターの隣へ行き、SOPはペルシカの膝の間にすっぽりと収まり、9と416は可能な限り身を寄せ合う。

あとは独り身集団だが、この手に話に耐性のあるG11の周りには45とROが集まり、M4は代理人のそばに寄っている。

言い出しっぺのM16は、結局どのグループにも入れなかった。

 

 

「・・・へぇ、雰囲気出てるわね・・・。」

 

 

映画が始まり、西洋ホラーにはない雰囲気に感嘆の声をあげる45だが、誰の目にも強がっているのがわかる。この手のホラーは、いつ出てくるかがわからずに常に身構えていなければならないことが多く、誰一人ピクリとも動かない。

 

 

(・・・暑い・・・)

 

 

ROと45にサンドされている11はそう思う。ぶっちゃけ断っても良かったこの上映会だが、彼女が参加した理由はただ一つ。

 

 

・・・ギュッ

「っ!? ・・・9、脅かさないで」

 

「ご、ごめん・・・」

 

(ププッ 416、ビビってるのが丸わかりだよ。)

 

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

(意外だね、AR-15はともかくハンターも結構怖がるんだ・・・っていうかちょっと涙目かな?)

 

 

彼女の目的は、ただビビっている同僚を見たいがためである。うまくいけば今後もこれをネタになにかを要求できるし、割と恩恵があるのだ。

 

 

 

 

11が内心黒い笑みを浮かべている頃、別の意味で危ないヤツがここにいた。

 

 

「〜〜〜〜〜〜!」

 

「SOP、目を閉じたら余計に怖いよ?」

 

「だ、だって『ジリリリリリリ』ひぁあ!?」

 

(か、可愛すぎるわよSOP・・・ヤバイ、理性が・・・)

 

 

ここ最近は研究室にこもり、たまの休日はSOPが任務で全く過ごす時間がなかったペルシカは、加虐心をくすぐられるSOPのビビリように当てられていた。

もしこの場にいるのが二人っきりだったら、間違いなく襲っていただろう。ガリガリと削られる理性の裏で、わずかに冷静な部分がそう考えていた。

 

 

「う、うぅ・・・・ペルシカぁ・・・」

 

(っ!?)

 

 

涙目のSOPが、振り向きながら見上げてくる。上目遣いのその破壊力に持っていかれそうになるが、ここで襲ってしまえば確実にあの変態どもの仲間入り(アーキテクトと17lab)になってしまうと考え思いとどまる。

ペルシカ自身はホラーに強いわけではないが正直、映画どころではなかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・ねぇお母さん。」

 

「? なんですかM4。」

 

 

映画もいよいよ終盤というところ、どうやら少し慣れてきたM4が代理人に呼びかける。呼びかけながら何かを確かめるように腕を握ってくるのは、以前の怪談話の影響だろうか。

 

 

「前に・・・お母さんみたいな霊?の話、しましたよね?」

 

「えぇ・・・ダネルさんの話では、悪い霊ではなかったようですが。」

 

「・・・なんで、あの霊はお母さんの姿を真似たんでしょうか?」

 

 

思わずくすりと笑ってしまう代理人。普段から可愛らしい一面があるM4だが、今回も随分と可愛い疑問だ。

残念ながら代理人はその霊に会っていないし、あの旅館で何があったのかも知らない。だから、おそらくこうだろうとしか言えないのだ。

 

 

「そうですね・・・その霊は子守唄を歌ってくれたそうですが。」

 

「えぇ。」

 

「ふふっ、だとすれば・・・きっとお世話好きな幽霊さんだったのかもしれませんね。 あっちからすれば、私たちなんて赤ん坊のようなものでしょう。」

 

 

我ながら随分とメルヘンな考えだが、M4も妙に納得がいったようで、釣られて笑ってくれた。

そんな時、背中に何かがしがみついてくる感触が。振り向くと、身を極限まで縮こまらせたM16が引っ付いていた。

代理人とM4は顔を見合わせると、やれやれといった感じで苦笑し、二人でM16を挟むように座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜終わったぁ〜〜〜〜〜」

 

「ぺ、ペルシカ! なんかあっちで動いてる!」

 

「大丈夫よ、ただカーテンが揺れてるだけだから。」

(一番近くのホテルに連れてって・・・あ、先に替えの下着とか買っとくかなっていやいや何この流れで連れ込もうとしてるのよ自制しろ私!)

 

「よしよし・・・ハンターがホラー苦手なのは予想外ね。」

 

「グスッ・・・もう絶対観ない」

 

「9・・・しばらくこのままでいて・・・」

 

「うん・・・・・」

 

「「—————————」」

 

「うわぁ!? RO! 45! 大丈夫!?」

 

 

上映会終了後、ようやく全てから解放された人形たちは安堵のため息を吐く。

クライマックスを終えてホッとしたのも束の間、実はまだ終わっていないというオチに再び顔面蒼白となり、ROと45に至っては緊張が途切れた途端に意識を手放した。

AR-15は珍しく弱気になるハンターをなだめ、9と416は抱き合ったまま震えている。ペルシカとSOPも似たようなものだが、ペルシカの目が怪しく光っては正気に戻るということを繰り返している。

 

 

「Oちゃん、店じまいしたよ。」

 

「あらD、ありがとうございます。」

 

 

時計を見ると、もう日が変わって一時間以上経つ。彼女らは外泊申請しているので無理に帰す必要はないが・・・ホテルでもとっているのだろうか?

 

 

「あの・・・お母さん、言いづらいんですけど・・・」

 

「その・・・ここに泊めてくれないかなぁって・・・」

 

「も、もちろん明日お店は手伝うし、迷惑はかけないから!」

 

「・・・・・ダメだといったらどうするつもりだったんですか・・・」

 

 

呆れた顔でため息をつく代理人。ちなみにペルシカはこの後ラボに帰る予定だし、ハンターは遅くなることを見越してホテルをとっている。

SOPとAR-15はそれぞれの相方に乗っかる形になるので、残りがお泊まり組となる。

 

 

「お願い代理人! あんなの観た後でホテルなんて泊まれないのよ!」

 

「布団なしでもいい! なんなら雑魚寝でもいいからいさせて!」

 

「今回ばかりはお願いするわ代理人。」

 

「・・・もう眠いからいいよね?」

 

 

必死の形相(一名除く)で訴えかける404小隊に結局代理人は折れ、七人の人形たちは震えながら一夜を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルシカ? 研究所には戻らないの?」

 

「近くのホテルに泊まるのよ・・・ほら、あれ。」

 

「あれ・・・ってえぇ!? ぺ、ペルシカ!?」

 

「今日は寝かさないわよ。」

 

 

end




きっと来る〜、きっと来る〜〜〜

ちなみにAR-15とハンターも同じホテルに泊まりました。


ではキャラ解説

M16
今回の元凶。割と普通にビビる。
ホラーに強いわけでもないのに見たがるのは怖いもの見たさからだろう。経費を使ったのはもちろんバレた。

M4
みんなの癒しにしてこの作品の良心。
こんな娘と付き合いたい。

SOPとペルシカ
昨夜はお楽しみでしたね
SOPは身長も低いのでイケナイことをしているようにも見える。

AR-15とハンター
昨夜はry
どっちかが明確に受けと攻めに分かれているわけではなく、その時の空気で変わる。今回はAR-15が攻め。

45姉
みんな大好きポンコツ姉さん。
こんなんでも昔はカリスマ溢れていたが、今は見る影もない。
このままいけばヘリアンコースなんじゃないかと思いちょっと焦る。

G11
時々毒を吐くマスコット。
こいつが本気で泣き喚いたのはあの緊急任務(番外編11)だけ。
愉悦部になりつつある。

9と416
おっぱいのでかい俺得カップル。
基本は416が攻めだが、まれに入れ替わる。
学園モノならおっぱいのついたイケメンとそれを慕う後輩みたいな感じ。

代理人
この人が出ないと喫茶 鉄血要素がない、それだけの理由で出場。
ホラーもGもドッキリも平気であり、こういうイベントの引率に呼ばれる。

D
ちょい役のはずが準レギュラーになってしまったダミー。
代理人の本音や感情がストレートに出る・・・はずだったがいつのまにか独自のメンタルモデルを持ち始めた。
ホラーは平気だがGはダメ。


もうすぐ本編が五十話になるのでアンケートもやってみます。
気が向いたら投票してね!


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第四十九話:シスコン会、再び

深層映写の難易度に心が折れそうなんですが・・・
でもUMP40は欲しいのでE1-1と3をを周回中です。




「・・・そういうわけだから・・・お願いね。」

 

「それは構いませんが・・・大丈夫ですか? FALさん。」

 

「これが大丈夫に見える?」

 

 

よく晴れた春空の下、今日もそこそこの客で賑わう喫茶 鉄血の一角に、まるでそこだけ雨雲がかかっているかのようにどんよりムードが漂っている。

そこにあるのは丸いテーブルと椅子が二つ、座っているのは代理人とFALだが、この重たい空気は項垂れるFALから漂っている。彼女の悩みにして胃痛の種、それはこのテーブルの上に置かれた紙・・・部屋の貸し切り申請用紙に書かれた利用目的だ。

そこには、『シスコン倶楽部』と書かれている。

 

 

「胃薬、持ってきますね。」

 

「ありがとう代理人、でも自前のが山ほどあるから大丈夫よ。」

 

「・・・その、断ろうとは思わないんですか?」

 

「・・・・・以前断ったことがあったのよ。 そしたらアイツら、私の部屋で始めちゃったのよ・・・お願い代理人、私の安眠のために協力して(泣)」

 

 

そう言って泣く泣くペンを差し出すFAL。彼女としても代理人に、喫茶 鉄血に迷惑はかけたくないのだろうが、最後の安息地には変えられないのである。

もともと承諾するつもりではいたが、流石にこれ以上この話題を続けるべきではないと考えて早急にサインする。

そこで一気に緊張の糸?が切れたのか、FALは盛大なため息とともに机に突っ伏す。そのまま呻くように泣き始め、彼女の相棒であるフェレットが頭を撫でる。

流石に可哀想になったので、その日の代金はタダにしてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数日後

貸し切られた二階の部屋では、例の四人がテーブルを囲んで議論を白熱させていた。

 

 

「絶対に連れて行くべきだ!」

 

「いいえ認められません、危険すぎます!」

 

「でも9たちも楽しみにしてるわ。」

 

「45さんこそ分かってるんですか!? 海にはナンパ男しかいないんですよ!」

 

「・・・それは偏見よMG34。」

 

 

今回の議題は『海』。内陸にあるここS09地区に所属する人形の中にはまだ海に行くどころか見たこともないという人形もおり、今夏最大のイベントになると思われる。

さて、ではなぜそんなお楽しみイベントに反対意見が出るのか。その理由は単純で、予定されているビーチが一般開放されているごく普通のビーチだからだ。

もちろん例え暴漢野郎が出ようとも戦術人形の敵ではないのだが、彼女らが危惧する点は他にある。

ナンパだ。

 

 

「奴らはあの手この手で可愛い妹たちに迫ってくるわ。 ワザとらしくビーチボールを飛ばしてきたりサンオイル片手に『塗らないとお肌が傷ついちゃいますよ?』とか!」

 

「いや、そんなのほとんど居ないから・・・」

 

「・・・M4にサンオイルを・・・だと・・・?」

 

「待って? 何でもう被害済みになってるの?」

 

「9に邪念を持っていいのは416だけよ・・・特に男なんか認めないわ!」

 

「あ、416は大丈夫なのねってあんたは父親か何かなの?」

 

 

ひたすらトリップするシスコンどもに辟易としながらも、そういう性格なのかはたまた義務感に駆られてなのかツッコミを連発するFAL。

FALとて分かっているのだ、いくらツッコんだところで意味などないということは。だがそれでもやはりツッコミを入れてしまう・・・悲しきかな苦労人の性である。

こんなんだが、最初期に比べれば幾分かマシになった方だ。あの頃であれば場所をプライベートビーチにした上で周囲数キロ以内に誰一人近づけようとはしなかっただろう。

別に人間不信とかではない、ただ妹が可愛いだけなのだ。

 

 

「そんなに言うなら、あなたたちが塗ってあげればいいじゃない・・・」

 

「そうは言うがなFAL、そこに我々は大きな問題を抱えている。」

 

「・・・なによ?」

 

「「理性を抑えられる自信が無い。」」

 

(メンドクせぇええええ)

 

 

さも当然のように言い放つシスコン。というか身内に欲情するこいつらの方が遥かに危険なんじゃなかろうか・・・。

 

だがそれよりも意外なことがある。

あのシスコン筆頭のUMP45が大人しいのだ。

 

 

「え? だって416が塗るでしょ。 そしてそのまま9とイチャついて・・・・・うぅ・・・」

 

 

あ、変な方向で面倒になったわねと思うFAL。

9と416が正式に付き合いだして以降はシスコン度は下がったものの、9を盗られたショックと9の幸せを思う気持ちに挟まれて情緒不安定気味になってしまったのだ。まぁFALとしては面倒なだけで胃には優しくなったので良しとしている。

 

だが、そんな45の姿を同志たちが見て見ぬ振りをするわけが無いのだ。

 

 

「グスッ、9が・・・妹が遠くにいった気がする・・・。」

 

「それは違うぞ45。」

 

「えぇ・・・9ちゃん()の嫁ということはつまり義妹、ということは416はあなたの妹なのよ!」

 

「いやいやいやそれは飛躍しすg「その発想はなかったわ! 流石は同じ道を志す同志ね!」っておいいいいい!!!」

 

 

さっきまでの死んだ魚のような目から一転、活力と欲望にまみれた瞳を取り返した45に、FALはいよいよ頭を抱えた。

完全復活を遂げた45は改めて海水浴に賛成、予定されているビーチやその周辺のスポットで妹たちとより親密になろうと提案する。

愛する妹と一日中一緒に居られる上に邪魔者を排除できる素晴らしい計画だ。それぞれ妹とのムフフなイベントを想像したM16とMG34もこの案に乗っかり、あとは流れるように話を進めて解散する。

 

そして残されたのは、ただ真っ白に燃え尽きたFALだけだった。

 

 

「・・・あの・・・・FALさん?」

 

「もうヤダ解体されてくる」

 

「落ち着いてくださいというか逃げないでください。」

 

「生まれ変わるのなら貝になりたい」

 

「FALさん? FALさん!?」

 

「この際戦車の中にいてもいいわ・・・今よりきっとマシよ」

 

「・・・あ、ペルシカさん? 理由は聞かずにすぐ来てくださいとにかく急ぎでお願いします!」

 

 

 

 

数分後、駆けつけたペルシカによって簡単な記憶処理がなされたFALだが、夜な夜な悪夢にうなされるようになったという。

頑張れFAL!グリフィンの明日は君にかかっている!!

 

なお、彼女への正式な配給品として胃薬と睡眠剤が導入された。

 

 

 

 

end




ま・た・せ・た・な!!!
なんとかE3-3まではクリアしましたが、3-4をクリアするメリットが薄いので断念します。
あとはひたすら物資箱の周回だ!


では今回のキャラ解説

FAL
今作でも屈指の苦労人。FAL推しの皆さんごめんなさい!
シスコン会最後の砦にして良心、暴走人形鎮圧のスペシャリスト。胃薬を手放せないどころか日に日に服用数が増えている。
作中セリフの「戦車の中に〜」はとある作品のリスペクト。あっちはあっちで地獄だが胃には優しいはず。


UMP45
(斜め)45(度チョップを当てても治らないくらいネジが飛んだ)姉。
こんなんでも戦闘では頼れる・・・がそんな描写はおそらく無い。
9と416の件で大人しくなったが、同志二人の余計な一言で再暴走。

45「416が妹ってことはその同型も妹ってことよね?」
F416「What's!?」


M16
AR-15がハンターと、SOPがペルシカとくっついたので残る二人に全愛情を注ぐシスコン。
最近M4が代理人とベッタリなのでそのうちROに傾くかも。
三人の中ではまともな方だが、酒が入ると確実に手が出るという点では最も危険。


MG34
妹の脅威を物理的に排除しにかかるシスコン。
自分をまともな妹スキーだと思っている点では八十神高校のシスコン番長に通じるものがある。
こんなんだがMG部隊の教官を務めるほどのベテランにして猛者。


代理人
時々シスコン会に部屋を貸している。
基本的に面倒と言わない代理人だが、シスコン会の話し合いだけはその限りではなくなった。
FALを不憫に思う一方、防波堤として頑張ってもらいたいとも思う。
妹ができたら多分すごく過保護になると思う。



本話投稿時点でアンケートを締め切りました。
多数の応募ありがとうございます!
次回は投票結果の通り、AR-15とハンターのお話です!


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第五十話特別編:二人の始まり

この作品は季節感や月日の流れこそありますが、いわゆるサ◯エさん方式となっています。
なので過去編も、明確に何年前や何ヶ月前ということはありません。
こまけーことはいいんだよ!

というわけで今回はアンケート結果から、この二人のお話です!
今回めっちゃ長いのでごめんなさい!


「そのケーキ美味しそうね、一口くれる?」

 

「ん? いいぞ・・・はい、あーん。」

 

「あーん・・・・うん、美味しい。」

 

 

 

 

「相変わらず甘々だな、あの二人。」

 

「ほんと、眩しいくらいね。」

 

 

とある晴れた日の昼下がり、テーブルを囲んで座っているヘリアンとペルシカ。

二人の視線の先には、これでもかというくらいに甘ったるい空気を振りまく一組のカップル・・・AR-15とハンターだ。

もうこの街では知らぬ者などいない二人であり、まだ二人とも凛とした美人であるため人気も高い。そんな二人がケーキを食べさせあう光景に、男女問わず惹かれる者も多い。

 

 

「あ〜いいな〜、私もあーんってしてもらいたい。」

 

「ハンターさんって、なんか王子様って感じなのよね。」

 

「AR-15さんはお姉様ってイメージよね。」

 

 

こうやって盛り上がる観衆もいるが、そんなことなど御構い無しに二人だけの空間に浸るAR-15とハンター。

それを微笑ましく眺めていたヘリアンだが、ふと思い出したかのようにペルシカに尋ねる。

 

 

「・・・なぁペルシカ、あの二人はいつから付き合っているんだ?」

 

「え? あぁそれは・・・・・あれ? いつからだっけ?」

 

「知らないのか? AR-15ならお前に相談くらいはしそうだが。」

 

「いや、そんなことは一度もなかったわ・・・本当にいつから?」

 

「それは私が答えよう。」

 

「「うわっ!?」」

 

 

突然降りかかる声と、同じく突然姿をあらわす人物に驚き椅子から転げ落ちそうになる二人。

光学迷彩を解除して現れたのは、神出鬼没で有名なアルケミストである。店内をよく見れば隅の方の席で呆れ顔のドリーマーが座っているので、もしかしたら初めからいたのかもしれない。

 

 

「お客様を驚かせないでくださいよ、アルケミスト。」

 

「すまんすまん、ちょっと面白そうな話が聞こえてきたもんでね。」

 

 

そう言うと椅子を持ってきて座り、頼まれてもいないのに語り始めた。

 

 

「・・・そう、あれはまだ私たちが鉄血工造にいた頃だ。」

 

「普通に語り始めたわよこいつ。」

 

「一応聞いてやれ。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あくまで私がハンターから聞いた話だ。より詳しいことは本人に聞くのが良いだろう。

さて、あの二人が始めて出会ったのは、我々が鉄血工造を占拠してから数日経った頃だ。知っての通り占拠したと言っても各地の支社や工場はその日のうちに制圧されていて、我々はメインの工場がある本社に籠城していたわけだ。

 

当時はその本社から半径数キロ圏に境界線が引かれていたな。よくうちの部隊と鉄血のパトロールが揉めていたようだが。

 

その通り。

ただ境界線さえ超えなければこちらから仕掛けることもないし、せいぜいが境界線を挟んでの口喧嘩ぐらいなものだったよ。

・・・だが、ある部隊だけはしつこく境界線ギリギリに居座り続けていた。

 

AR小隊、それと404小隊ね。

・・・もっとも、404は記録自体がないのだけれど。

 

AR小隊は名前くらいは知っていたさ、なにせグリフィンのエリート人形部隊だ。

こいつらが動くと並みの部隊では太刀打ちできん。 よって私はハンターの部隊を配備することにした。

 

 

 

『・・・貴様らがAR小隊だな?』

 

『・・・ハイエンドモデル・・・・・ハンターですね。』

 

『で、その狩人様がなんの用だ?』

 

『簡潔に言えば監視だ。 余計な真似をしないかどうかのな。』

 

 

 

本人の報告と通信ログで確認した内容だ。

 

・・まぁそうなるわよね。

 

だがこちらもそれで引くわけにはいかなかった。

 

あぁ、面倒なことにな・・・だが二人にとってはそれで良かったのだろう。

その後さらに数日間、互いに補給に戻ることはあれどほぼ四六時中見張りあっていたんだが・・・・・。

 

あぁ、あの事件か・・・。

 

そう、人類人権団体どもの工作だ。おかげで危うく戦争一歩手前までいったからな。

 

あれはびっくりしたよねぇ・・・404出しといて良かったよ。

 

その隊長が、今やアレだからな・・・・・。

 

アレとか言わない。

 

 

 

 

『・・・ケホッ・・・なんだ今のは?』

 

『榴弾だけど・・・どこから?』

 

『もしかして、ハンターのヤツじゃないかな?』

 

『・・・噂をすれば、ですね。』

 

『・・・随分と派手に侵入してきたものだな。』

 

『はっ、先に仕掛けたのはそっちでしょ。』

 

『なるほど、()()()()()になるのか・・・ならここで潰す!』

 

 

 

・・・今思ったんだが、なんでお前たちは増援を送らなかったんだ?

 

AR小隊の実力は確かよ・・・・・それに、増援を送れば確実に侵略行為になると思ってね。

 

結果としてそれで良かったが、流石に肝が冷えたよ。

 

ふむ、まぁいい。で、銃撃戦の末に互いに負傷。だが引くに引けずに睨みあっていたと。

 

残弾わずかで満身創痍、双方中破までで済んではいたけれど・・・そんなタイミングで仕掛けてきたのよね、あいつら。

 

 

 

『っ!? なんだ!?』

 

『た、隊長! 9時の方向より敵接近、人形ではありません!』

 

『人間だと!? まさか人権団体の連中か!』

 

『グリフィン側にも攻撃しています、間違いありません!』

 

 

『きゃあ! ね、姉さん! みんな! 大丈夫!?』

 

『な、なんとかな! SOP、榴弾で足を止めろ!』

 

『わかった! ・・・あっ! AR-15、こっち!』

 

『っ! どこ、どこなの!? 何も見えないの!』

 

『しまった! 目を・・・ダメだAR-15! 立つな!』

 

 

『ちっ・・・あのバカ!』

 

 

 

いやぁ、戦闘記録を見たときは驚いたよ。あんな戦力が一体どこに隠れてたのか・・・それに、まさかハンターが助けに行くとはね。

 

 

 

 

ドォーッン

『があっ!?』

 

『きゃあ! な、何!? 誰!?』

 

『ぐっ・・・間に合った、か・・・』

 

『その声・・・離して!』

 

『落ち着け! まずはここから・・・ちっ、こっちに来るか!?』

 

 

 

でも妙だったのよね・・・M4も他のみんなも敵を倒したのはAR-15って言うのに、当の本人がそれを否定してたから。

 

ん? あぁそうか、アイツは目をやられてたから映像が見れなかったのか。 まぁAR-15が仕留めたのは事実だが、より正確に言えば「引き金を引いた」のがAR-15だ。

 

 

 

『・・・確か、AR-15だったか?』

 

『何?』

 

『セミオートで撃て、私が狙う。』

 

『えっ?』

 

『他に方法がない。 私もさっきの爆発で足がうまく動かん、このままでは互いに死ぬだけだ。』

 

『・・・・・分かったわ。』

 

『よし、ならもう少しこっちによれ。 密着させた方が狙いやすい・・・頭は下げてろ、私の合図で引き金を引け。』

 

『注文多いわね・・・外させないでよ。』

 

『やってやるさ。 ・・・・・今だ、撃てっ!』

 

 

 

へぇ、そんなことが。そりゃ話したがらないわよね、あの娘プライド高かったし。

 

私も、まさかハンターが誰かと協力するとは思ってもみなかったよ。

 

ん?処刑人と組むことがあるだろ?

 

アレもまぁ突撃脳な処刑人をコントロールしてるだけだからな・・・誰かと息を合わせてっていうのは、多分初めてだったんじゃないか?

 

 

 

『・・・よし、今ので最後だったようだ。』

 

『・・・・・で、いつまで引っ付いてるのよ。』

 

『む? それもそうだがまずは・・・よいしょ。』

 

『わわっ!? ちょっと!』

 

『目が見えないんじゃまともに歩けんだろ? 運んでやる、さっきの礼だ。』

 

『余計なお世話よ! 降ろせ!!』

 

『おーいAR-15、無事・・・か・・・?』

 

『わ、わぁ・・・』

 

『お姫様抱っこなんて初めて見たよ。』

 

『見るな! 見るなぁ!!!』

 

 

 

いや、どこのラブコメよ・・・

 

抱える側が足引きずってて、抱えられる側が失明してなければな。

まぁいい、これが恐らく二人の始まりだ。

 

確かにお姫様抱っこなんて報告できなグェッ!?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「余計なことは喋らないでくださいねペルシカ?」

 

「イタタタ・・・そんなに強く叩かなくても。」

 

「ちょうどよかった、この後のことはよく知らんのでな・・・お前たちが話せ。」

 

「嫌よ、そんなに言いふらすことじゃないわ。」

 

「ここに有名テーマパークのペアチケットが・・・」

 

「分かった、話そう。」

 

「え!? ハンター!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

実はその後互いの連絡先を交換してな。まぁ信頼できる相手だと思えたからなんだが。

 

え?本当に話すの?

 

久しぶりの休暇に、お前と遊びに行きたいんだよ。

 

ハンター・・・・・

 

ハイハイ後でやってネー

 

・・・まぁいい。連絡先を交換したと言っても、それっきり互いに連絡なしだった。当時のことを考えれば、バレたらタダではすまなかっただろう。

 

次に私たちが再会したのは、クーデター事件が終わった後。鉄血工造の再編とか人形の待遇の見直しとか、色々とゴタゴタしてた時期ね。

 

 

 

『あ。』

 

『お。』

 

『・・・久しぶりねハンター、ここで何を?』

 

『いや、日用品を買いに来たんだが・・・どこも歓迎されなくてな。』

 

『それは・・・』

 

『いや、自業自得なのは分かってるさ。 ただどうしたものかと。』

 

『・・・よかったら、うちの司令部に来る? 日用品くらいなら売ってるわよ?』

 

『いいのか? 助かる。』

 

 

 

司令部に鉄血が来たって騒ぎはお前が原因か。

 

なんか、ほっとけなくて。

 

あの後の対応で私の合コンが潰れたんだか?

 

どうせ失敗でしょ?で、一人で帰しても危なそうだったから途中まで付いてったのよ。

 

 

 

『・・・その、あの時はありがと。』

 

『ん? あの時?』

 

『前の、人権団体のとの戦闘があった時よ。』

 

『あぁ・・・いや、こっちこそ助かった。 私一人では、最悪死んでいただろうしな。』

 

『・・・これからどうするの?』

 

『鉄血は抜ける。 その後のことは、まだ考えてない。』

 

『・・・・・。』

 

『今日は助かった。 じゃあまた、どこかで。』

 

 

 

ん?この頃には気になってたのあんた?

 

気になってたっていうか・・・この時はまだよくわかんなくって、ただほっとけないかなって。

 

乙女だねぇ。

 

うるさい!

・・・で、その後すぐね。人権団体の鉄血狩りが始まったのは。

 

鉄血を抜けたハイエンドを殺す、グリフィンが見て見ぬ振りをすれば配下の人形に危害は加えないってやつだな。

あの事件以来、人形に対する見方が変わった者も大勢いる。従うしかなかっただろう。

 

・・・・・そうだな。

 

・・・いや、一応反省はしてるわよ?

 

 

 

『ちっ、しつこい連中だ・・・。』

 

『こっちに逃げたぞ!』

 

『人形のくせにしぶとい奴だ、追え!』

 

『っ! しまった、行き止まりか!』

 

『へへっ、追いかけっこはお終いだzぎゃあ!?』

 

『なんだ!? どこかrぐあっ!?』

 

 

 

追い詰められた時に現れたのは、黒いフード付きのローブを纏った人形だったんだが・・・まぁ武器で丸分かりだったな。

 

アンタ大問題じゃ済まなかったのよ?

 

悪かったわよ、でもほっとけなかったの。

 

開き直らないでよAR-15。

 

 

 

『お前! なんでここに!?』

 

『これで貸し借りはチャラよ、とりあえずこの服に着替えて。』

 

『・・・分かっているのか? バレたらグリフィンも標的になるんだぞ!』

 

『だからって見殺しにはできないの! 服を変えてウィッグでも被れば騙せるわ。』

 

『・・・・・はぁ、まぁいい。 助かる。』

 

『どうも。』

 

 

 

過ぎたこととはいえ、これは後でお説教ですねAR-15?

 

待ってM4、なんでそんなに怒ってるの!?

 

私たちになんの相談もせずに一人で危ない橋を渡って・・・ねぇ。

 

悪かった! 悪かったから穏便に済ませて!

 

ふふっ、それは後のおたのしみですね。

 

・・・そう言えばその日の夜だったな? お前の告白があったのは。

昼間に何があったんだ?

 

うぇ!? そ、それはまぁ・・・いいでしょなんでも!

 

大人しく吐くか一日お説教か、選ばせてあげますよ?

 

あんた微妙に黒くなってないM4!?

分かったわよ! 話せばいいんでしょ話せば!

 

 

 

『・・・じゃあ、夜にはここのホテルに来て。 それまではくれぐれも目立たないように。』

 

『分かってる。』

 

『・・・何か困ったことがあったらすぐに言って。 駆けつけるから。』

 

『あぁ。』

 

『そ、それとこれ! ちょっとだけどお金も渡しとく。』

 

『・・・なんでここまでするんだ? もう貸し借りなしだろ?』

 

『い、いいでしょ別に! じゃ、夜にね!』

 

 

 

 

『・・・・・なんであんなこと言ったんだろ? ほっといても私は困らないはずなのに・・・』

 

『お困りのようだね、お嬢さん?』

 

『・・・占い?』

 

『ふふ、胡散臭そうだろ? だが私の占いは割と当たるんだ・・・今回は特別にタダで見てあげるよ。』

 

『結構よ、私は占いなんて信じな・・・・』

 

『気になる人でもいるのか?』

 

『・・・・・・何?』

 

『ククッ、これはお節介だが・・・今日中には気持ちをはっきりさせとくんだな、でないと・・・・・遠くへ行ってしまうぞ?』

 

『・・・・・・・。』

 

 

 

 

 

 

いやぁあの時のお前は可愛かったな。

 

・・・待って、あれってあなただったのアルケミスト?

 

暇だったのでああして路銀を稼いでいたのだ。 ちなみにそれっぽく言ったが全部でまかせだぞ?

 

・・・連絡がつかなくて心配したんですが?

 

そ、それは悪かったと思ってるぞ代理人。 だが余計な心配はかけたくnイタタタタタタ!!!!

 

 

 

(私の気持ち・・・私はアイツのことをどう思っ・・・ってなんでハンターが出てくるのよ! 別にアイツとはただの知り合いで・・・そりゃ助けてもらったりしたけど・・・でも・・・・・・うぅ・・・・)

 

『・・・AR-15?』

 

『ひゃい!?』

 

『うおっ!? ど、どうした?』

 

『な、なんでもない、わよ!』

 

『そ、そうか・・・・・なぁAR-15。』

 

『・・・なに?』

 

『欧州はもうこんな感じだ、だから・・・・海を渡ろうと思う。』

 

『・・・・え?』

 

『仲間から聞いた話だが、どうやら欧州以外ではそこまで大事にもなっていないらしい。 そこで仕事を探そうと思う。 まぁ荒事がメインになるだろうが・・・手伝ってくれないか?』

 

『な、なんで私なのよ・・・』

 

『なんというか・・・自分でもなぜかはわからんが、お前になら任せられると思ってな。』

 

『そ、そう・・・』

(『遠くに行ってしまうぞ』)

 

『・・・急に頼んでしまって悪かった。 今日はもう寝よう、おやすみ。』

 

『・・・いや、って言ったら?』

 

『ん?』

 

(いやじゃない・・・けど・・・)

『協力しないって言ったら・・・どうするの?』

 

『・・・そうか・・・なら無理強いはしない、他をあたってみるさ。』

 

『・・・・・外には、出て行っちゃうの?』

 

『あぁ。 どのみち、ここには未練などほとんどないからな。』

 

『・・・・・。』

(・・・・・そうか、これが自分の気持ちなんだ・・・。)

 

『・・・・・AR-15?』

 

『・・・いや、行かないで。』

 

『え?』

 

『自分でも、よくわからないの。 でも・・・あなたと別れたくない。』

 

『・・・・・。』

 

 

 

あまぁぁぁぁぁぁぁい!

 

なんだAR-15、随分と可愛いことを言ったんだな?

 

ああああだから言いたくなかったのにいいいいいいい!!!

 

いや、確かにこの時はドキッとした。

 

うぅ・・・恥ずかしすぎて死にそう・・・・・

 

・・・で、この後どうなったんだ?

 

もう聞かないでよ!(泣

 

・・・まぁ結論でいうと、その時ははぐらかしてしまってな。

翌朝、私は逃げるようにホテルを出て行ったよ。

 

・・・あぁ、だからAR-15は元気がなかったのか。

 

私のことなど忘れた方がいい、と思っていたんだがなぁ・・・

 

 

 

翌々日

『・・・・・で、こんなところに呼び出して何の用だ、AR-15?』

 

『・・・出て行く算段はついたの?』

 

『・・・あぁ、一応な。』

 

『一人で?』

 

『あぁ。』

 

『そう・・・・・なら。』ギュッ

 

『お、おい!?』

 

『・・・私も連れてって。 一緒にいさせて!』

 

『お、お前・・・』

 

『私は本気よ! 今はっきりわかった、私はあなたが好き! だからお願い、私も連れて行って!』

 

『だ、ダメだ! 言っただろ、私は荒事に首を突っ込む。 お前を巻き込むわけには・・・』

 

『それでもいい! だから・・・』

 

『お前が傷つくのが嫌なんだ!』

 

『っ!? ・・・・・え?』

 

『あ、いや・・・・・・・・はぁ、もういい。』

 

『ハンター? ・・・んっ!?』

 

『・・・これが私の答えだ。 だから、連れていけない。』

 

 

 

・・・いや、キスまでしてそれは無理でしょ?

 

う、うるさい。 私だってこんなの初めてだったんだから仕方ないだろ!

 

ニヤニヤニヤニヤ

 

・・・・あぁもう!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「はぁ・・・話すんじゃなかった・・・・・。」

 

「まぁそう言うなって・・・ほら、約束のペアチケットだ。」

 

「しかしまぁ、ハンターもAR-15も乙女だったんだなぁ。」

 

「えぇ・・・まさかあの事件の時にそんなドラマがあったなんて・・・。」

 

「何も言わずに抱き寄せてキス・・・ほら、想像した女客どもが悶絶してるぞ?」

 

「もう忘れてくれ・・・・・。」

 

 

その後二人はめでたく恋人同士になった・・・のだが当然ながら当時の情勢的に公にできるものでもなく、ハンターの渡米計画の協力という形で会いに行っていたのだという。

ちなみにAR-15はかなり入念に足取りを消したつもりだったが、同じAR小隊の面々にはバレバレだったようだ。

そして喫茶 鉄血が開業すると会合場所をそこに移し、代理人とアルケミスト経由でハイエンド全員に知れ渡ることとなる。

 

 

 

 

「当分はお前のいじりネタだなハンター。 今度の飲み会が楽しみだよ。」

 

「・・・・・はぁ。」

 

「・・・夜景の綺麗なスウィートを予約してやるから。」ボソボソ

 

「・・・約束だぞ?」ボソボソ

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追記(endとか書いときながらまだ終わらねぇよ!)

 

 

 

渡米当日

 

ハ「・・・じゃあ、行ってくる。」

代「えぇ、気をつけて。」

処「達者でな。」

ハ「あぁ・・・さて、そろそろ・・・」

 

ア「ちょっと待ったぁああああ!!!」

AR-「ひぁあああああ!!!!」

キキィイイイイイイ!!!

 

ハ「え、AR-15?」

ア「ほれ、間に合ったぞ。」

AR-「あ、ありがと・・・・・もう行くのね、ハンター。」

ハ「・・・あぁ。」

AR-「・・・たまには、帰ってきてね。」

ハ「分かってる。」

AR-「落ち着いたら、そっちに遊びに行くから。」

ハ「あぁ、待ってるよ。」

 

AR-「・・・愛してる。」

ハ「私も、愛してるよ。」

 

 

 

 

true end




七千文字超えってなんだよ!(セルフツッコミ)

悩んだ末に回想と語りメインで進めるという手法を取りました、わかりづらかったらごめんね!
あ、これを読む前にとびきり苦いコーヒーを用意しましょう(今更)


てなわけでキャラ紹介!

ハンター
おっぱいのついたイケメン。
プライドはそこそこ高いが結果を優先するくらいには抑えられる。
恋愛に関してはからっきしなので見て見ぬ振りをした・・・つもりだったがAR-15に感化されて一歩踏み込むことに。
AR-15の笑顔が一番の幸せ。

AR-15
メインヒロイン。
胸はないがそのことについてはあまり悩んでいない。
ほんとはもっと悩む描写を入れたかったのだがどうがんばっても一万文字を超えるのでカット、枕に顔を埋めて転げ回るところを想像してほしい・・・可愛くね?
ハンターの笑顔が一番の幸せ。

アルケミスト
当時からすでに神出鬼没だった模様。
ただの冷やかしというか愉快犯のつもりが本当に進んだ関係になってしまったことに内心びっくりした。
ペア券をあげたりスィートを予約したりするが素直におめでとうと言えないのが微妙な悩み。

AR小隊
当時はROがまだいないし、M4の指揮もまだまだ。
妙にツンツンしていたAR-15と、それにおどおどしていたM4のせいで微妙な雰囲気だったが、この件がきっかけで少しだけマシになった。
M16、このころはまだ禁酒できた模様。

代理人
当時の鉄血を指揮していた人形、よって騒動終了後はよく狙われた。
今回はそれ以外に書くことがほとんどない。

処刑人
ちょい役で登場したが、ハンターの一番の親友。
AR-15と付き合い始めたと知った時に誰よりも早く祝いの手紙を送るほどで、その関係でAR-15とも仲がいい。

店の女性客
イケメンに抱かれることを夢見る人々。
そこに異性や同性は関係なく、ハンターとAR-15の姿は眩しすぎるようだ。
腐女子ではない。


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第五十一話:Open your History(Black)

UMP40キタァーーーーー!!!
てっきり777個開けるまで来ないと思ってましたが、思いのほか早く来てくれました。

9「家族が増えるよ! やったね45姉!」
416「おいやめろ」


それは、よく晴れたある日のこと。

同じく活気にあふれた喫茶 鉄血の一角で、その人形は隠れるようにチビチビとコーヒーを啜っていた。灰鼠色のサイドテールと片目の傷跡が特徴のUMP45である。

不敵な笑みと空回りがよく似合う彼女が憂いた表情で一人コーヒーを飲む、見る者が見れば明らかに面倒ごとの予感しかしない光景だ。

・・・日課として訪れたG11はそう思った。

 

 

「・・・45?」

 

「ん? あぁ、11か。」

 

 

そう呟いて再びため息とともにカップを手に取る45。

ここでまず、9絡みではないことがわかる。シスコンを発揮した45なら、まず間違いなく11に絡んでくる。愚痴か、不平不満か、はたまた妹の行く末を心配しているかの誰かだが、今回は違うようだ。

 

 

(・・・まさか、本当に()()()()なのかな?)

 

 

今でこそポンコツで通っている45だが、かつては冷酷ながらも最も仲間思いだった。故に全員の生存が難しいような任務の前は、こうやって悩んでいたこともある。

11はスイッチを切り替え、45に尋ねた。

 

 

「何か悩んでるの? 私でよければ聞くよ?」

 

「・・・・・そうね、聞いてもらおうかな。」

 

 

一度息を吐き、スゥーっと大きく吸い込むと、45は静かに語り始めた。

 

 

「・・・今朝、ペルシカから連絡があってね。」

 

「・・・うん。」

 

「・・・・・UMP40が、妹が帰ってくるって。」

 

「代理人、アイスコーヒーとショートケーキ。 45につけといて。」

 

 

ちょっと!? と叫ぶ45をよそに、今度は11が頭を抱える。それもそうだ、心配して聞いてみれば結局シスコンではないか。いらんことに首を突っ込んでしまった自分に呆れつつ、仕方なく続きを聞いてやることにする。

 

 

「で、なんでそれで落ち込んでるというか、そんな表情なの? シスコンの名が泣くよ。」

 

「いや、その、40はね・・・あとシスコンじゃなくて妹が好きなだけよ。」

 

「それをシスコンって言うんだよ・・・・・何? 嫌いなの?」

 

「嫌いってわけじゃなくて、その・・・ね?」

 

 

な 何がね?だよ・・・と思いつつ、これは何かあるなと勘ぐり始める11。自分でも分かる、愉悦を求める自分が首をもたげている。それはつまり、美味しいネタがやってくるということだ。

 

 

「ふぅん・・・で? 何時頃くるって?」

 

「・・・多分、もう着いてる頃だと思う。」

 

「へー。」ポチポチポチポチ、ピロンッ

 

「待って、誰に何送ったのよそれ。」

 

「さぁね〜。」

 

 

内容は45の居場所、メールの宛先はカリーナ。司令部最速の情報伝達網であり、11の同志(愉悦部)だ。

あとは件の彼女がやってくるのを待つだけ。

 

 

「お待たせしました、アイスコーヒーとショートケーキです。」

 

「頂きまーす。」

 

「そしてこちらが伝票です。」

 

「いやなんで私に出すのよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

バァーーーーッン

「45! 逢いたかったわよ45!」

 

「げっ! 11! あんた私を売ったわね!?」

 

「ん〜? なんのことかな〜?」ニヤリ

 

「こんのド腐れロリ人形がぁああああ!!!」

 

 

11のタレコミによって猛ダッシュでやってきたUMP40。グレーの髪に黄色い目の元気のいい彼女は、その名の通り45や9の姉妹銃をモデルに作られている。

そんなわけで本来なら45のシスコンレーダーに引っかかるはずなのだが、当の45は珍しく引き気味だ。

・・・まぁ速攻抱きつかれた上に頬擦りまでされては当然といえば当然の反応だが。

 

 

「あ〜ん45、そんなに照れなくても〜!」

 

「照れてないわよ! ていうかくっつかないで!」

 

「あたいがいなくて寂しくなかった? 今日は一緒に寝てあげるからね! あ、妹がいるんでしょ? 紹介してよ!」

 

「ああもう一度に喋るな! 寂しくなかったし一緒に寝なくてもいい! 9は今度紹介したげるけど変なことはしないでよ!」

 

 

まるでコントのような会話に、いよいよ11の顔がにやけ始める。何せここ最近は微妙な9離れで弄るネタが減っていたのだ。おまけにこのUMP40とやらは昔の、404小隊以前の45を知っているようで、それはそれは面白い話を聞けるだろう。

 

 

「よかったじゃない45、妹が好きなら喜ばしい限りでしょ。」

 

「え? 本当? なんでそれを言ってくれないのよ〜!」

 

「ロクなことにならないからな決まってるでしょ!」

 

「あ、好きなのは否定しないんだ!」

 

「・・・チクショー」

 

 

ヤベェ超楽しい。

グリフィンきってのトラブルメーカーな45がここまで翻弄されるなどレアどころではない。これは是非ともお近づきになっておきたいものだ。

 

 

「えーと、UMP40だったよね。 404小隊のGr G11、よろしくね。」

 

「あ、どうも。 あたいはUMP40、姉がお世話になってます。」

 

「・・・で、45に最後にあったのはいつなのかな?」

 

「ん〜・・・まだ義体調整とかの段階だったから、少なくとも404に配属になる前だよ。」

 

「ほぉほぉ、ちなみにその頃の45はどんな感じなのかな?」

 

「ちょっ!? 喋らないで40! あとでスペシャルケーキ奢るから!」

 

「え!? しょーがないなー・・・まぁお姉ちゃんの頼みだし。」

 

「話してくれたら数に応じてケーキセットを奢るけどどう?」

 

「乗ったわ!」

 

「40っ!?」

 

 

40とて女の子、甘味の魅力にはかなわず、よりたくさん食べられる方を選ぶのは至極当然の結果だ。

それに45があのスペシャルケーキを出してまで止めたい話、聞かないわけにはいかない。

 

 

「そういうわけで45は縛っちゃおうねー。」

 

「ま、待って11! お願いだからやめさせて! 11ぃいいいいいい!!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『ほぉ、これが・・・。』

 

『はい、姉のUMP45と妹のUMP40です。』

 

『だが特殊任務用なのだろ? 大丈夫なのか?』

 

『はっきり言えばまだ調整段階ですが、必ず期待に応えてみせます。』

 

『・・・わかった、任せるよペルシカリア主任。』

 

 

 

 

 

『・・・45、大丈夫?』

 

『うぅ・・・グスッ・・・もうやだぁ。』

 

『命中率二割弱・・・想定外の低さね。』

 

『だ、大丈夫だって! あたいがなんとかしてみせるよ!』

 

『ふぇえええええん。』

 

『ほら、泣き止みなって。』

 

 

 

 

 

『はっ、はっ、はっ・・・』

 

『ほら! 動きながらでもちゃんと狙って!』

 

『くっ・・・に゛ゃっ!?』

 

『狙う時に足を止めない! もう一回いくよ!』

 

 

 

 

 

『・・・40、一緒に寝ていい?』

 

『ん? 怖い夢でも見た?』

 

『・・・・・うん。』

 

『ふふっ。 ほら、こっちおいで!』

 

『うん!』

 

 

 

 

 

『ーーーーそこまで、訓練終了。』

 

『やった、やったよ40! ペルシカ!』

 

『おめでと45! 特訓の成果だよ!』

 

『・・・うん、これなら十分実戦に出せるね。』

 

 

 

 

 

『・・・・・それじゃあね45、応援してるから。』

 

『ううぅ・・・40、また会えるよね?』

 

『大丈夫! だから45も頑張ってね!』

 

『・・・うん。』

 

『今度会った時は、思いっきりギュってしたげるからね!』

 

『うん、私もギュってする!』

 

『よし、じゃあ行くね。 バイバイ!』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「もうお嫁にいけない・・・。」

 

「大丈夫だよ45、あたいがもらったげるから!」

 

「ププッ、45も可愛い頃があったんだね・・・・・ブフッ!」

 

「うぅ・・・もういっそ殺して・・・・・。」

 

 

よほど45が好きなのか、40は話題を振るまでもなくペラペラと話してくれた。今のいろいろと汚れた45からは想像できないほどピュアな姿に、11や偶然聞いていた代理人も思わず微笑んでしまう。

40も40で、おそらくここまで45について語ったことなどなかったのだろう。それこそノンストップで語り尽くした。

 

 

「45さんのことが好きなんですね、40さんは。」

 

「もちろん、私の可愛いお姉ちゃんだからね!」

 

「いやぁ、いい話を聞かせてもらったよ。 今日は私の奢りだ。」

 

「やったぁ! じゃあこのスペシャルケーキのセット!」

 

 

耳まで真っ赤にして机に伏せる45をよそに、40はホクホク顔で運ばれてきたケーキを食べる。のそりと顔を上げた45はそれを恨めしそうに見つめるが、ため息を一つついて笑う。

 

 

「ん? どしたの45?」

 

「いや・・・・・今更だけどお帰り、40。」

 

「うん! ただいま45!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは・・・あれ? 誰?」

 

「45と似てるわね・・・姉妹銃?」

 

「お? もしかしてあなたがUMP9? UMP40だよ!」

 

「9、416、この方は昔の45を知る貴重な人物なんだよ。」

 

「ちょっ!? 11!?」

 

「えっ!? ほんと!?」

 

「それは是非とも聞いておきたいわね。」

 

「いいよ! まずはあたいと45の出会いから・・・」

 

「も、もうやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

end




45ほどいじりがいのある人形がいるだろうか?いや、いない。(反語)

45姉の意外な出自が明らかになった今回のイベントですが、本作には一切関係ないので45も40も16lab製です。
40は出たけど日課の物資箱集めは続けます。資源とかおいしいしね。



ではキャラ紹介

UMP40
45と同時期に製造された人形。特殊任務用に調整され、装備の換装なしで高機動にも高火力にもなれる。
位置的には45の妹だが、当時は散々だった45の支え役だったためむしろ姉っぽい。
シスコンではない普通の妹好き。

45(旧)
性能的にも性格的にも指揮能力的にもパッとしなかった頃。
これを今のような優秀な指揮人形に育てた40やペルシカの苦労は計り知れない。
40に会いたくなかった最大の理由。

G11
愉悦部。
趣味=睡眠だった頃のおかげか使い道のない貯金が大量にあり、それを使った買収が得意。
引き際は絶対に外さない。


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番外編12

デストロイヤー(in ガルム)が可愛いと思うのは私だけでしょうか?


今回は4本立て!
・怪我の功名?
・レッツ ウェディング!
・最高の一日を、あなたとともに
・ご挨拶
です!


番外12-1:怪我の功名?

 

 

ホラー映画上映会後、すでに電気も消えた部屋で固まるように眠る六人の人形。

・・・いや、正確には眠っているのは G11一人で、あとは全員起きていた。なんとか眠ろうとしているのか毛布を頭から被り目を瞑っている。だが、窓の軋む音や誰かが動いた拍子に立てる音がするたびに、ビクリと体を震わせる。

 

 

「・・・RO、起きてるか?」

 

「お、起きてるわよM16。」

 

「その・・・もうちょっとだけこっちに来てくれるか?」

 

「・・・・・わかった。」

 

 

ヒソヒソと話してモゾモゾ動く二人。正直ホラーを舐めていた二人は、今更ながらものすごく後悔していた。

これがパニックホラーとかモンスターホラーとかならまだ良かったのかもしれない。だが今回観た映画は完全に別物である。お陰で積み上げられた机の影とか戸棚のガラスとか、はたまた扉の下の隙間とか普段なら全く気にもしない場所が気になってしょうがない。

周りを見れば9は416とくっつくようにして震えており、45は熟睡する11にしがみついている。というか11スゲーな。

ちなみにM4はちゃっかり代理人と同じ部屋で寝ている。

 

 

「・・・うぅ、なんであんなの観ようって言い出したのよぉ。」

 

「いや、その・・・マジですまん。」

 

 

チラッと時計を見ると、時刻はちょうど二時を回ったところ。見るんじゃなかったと再び後悔する。興味本位で集めたジャパニーズホラーの知識が、完全に裏目に出てしまった。

 

 

「ひっ!? M16! 窓に! 窓に!!」

 

「お、落ち着けRO、ただの煙だ・・・・・煙?」

 

 

ガバッと起き上がって窓の外を見る。見ればここからすぐの民家の一階から火の手が上がっている。住人も周りも気がついていないのか、なんの反応もない。だが放っておけば間違いなく大惨事だ。

 

 

「おい、起きろ! 火事だ!」

 

「えっ!? 火事!?」

 

「どこ?」

 

「あの民家ね、行くわよ!」

 

「こんなこと思っちゃいけないけど火事ありがとぉ!」

 

「Zzzz・・・」

 

 

その後、駆けつけた彼女らによって住人に被害が及ぶ前に救出、消防も間に合って大事には至らなかった。

あの場にすぐ駆けつけられた理由を聞かれた際、彼女らはとてもいい笑顔で

 

「人を助けるのに理由なんていらないさ!」

 

と答えたという。

 

 

end

 

 

 

番外12-2:レッツ ウェディング

 

 

「・・・おはようFAL、気分はどうだい?」

 

「ペルシカ・・・えぇ、だいぶマシよ。」

 

 

ここは16lab。

シスコン会による過度なストレスからメンタルがやられてしまったFALはここに運び込まれ、処置を終えてようやく目が覚めたところだ。

 

 

「あーその、いつも面倒かけるわね、うちの45とM16が。」

 

「いえ、ペルシカが悪いわけじゃないわ・・・多分。」

 

 

とはいえ流石に疲れきった感じが隠せないFAL。戻ればまたあの連中のストッパー生活が待っていると考えると、なかなかに憂鬱だった。

そんなFALの目の前に、一冊のパンフレットが置かれる。ウェディングドレス姿の女性が写ったそれは、結婚情報誌のようだ。

 

 

「うちに案内が来てたのよ、次号の表紙を飾るモデルが欲しいって。気分転換にどう?」

 

「・・・私がモデルに?」

 

「そう。 お給料も出るし、撮影期間中は休暇みたいなものよ。 いくらかお小遣いも出してあげるから行かない?」

 

 

そこまで言われたら行かないわけにもいかないし、まぁ確かに気分転換とかにはなるだろうとFALら二つ返事で了承した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「はいもう一枚いくよ・・・はいOK! お疲れ様!」

 

「ふぅ、ありがとう・・・にしても意外と重いのね、ウエディングドレスって。」

 

「基本的にオーダーメイドの方が多いですから重さに関しましてはまちまちです。 まぁ幸せの重さ、としておきましょう。」

 

「ふふっ、それもそうね。 もうこれでおしまい?」

 

「はい。 あとよろしければ、そちらのドレスは差し上げます。 FALさん用にオーダーしたものなので。」

 

「え? いいの? じゃあ貰っておくわ。」

 

 

二日間に及ぶ撮影が終わり、地元の美味しいものとウエディングドレスを堪能したFALの心は、この上なく晴れ上がっていた。正直ペルシカから回ってきた話という時点で怪しいと思っていたが、あとで謝っておこうと思う。

 

 

ppppppp

「あら? 誰かしら・・・・・ヘリアン?」

 

『お、その様子だと撮影は終わったようだな。』

 

「・・・なんであなたが知ってるのよ。」

 

『ん? 私が紹介してやったんだから知らないはずがないだろ。 ・・・それよりFALよ、いいことを教えてやる。』

 

「・・・・・何よ。」

 

『結婚するわけでもないのにウエディングドレスを着ると、婚期が伸びるらしいぞ。 ではな。』ブツッ

 

「な!? ちょっ・・・あんの売れ残りがぁあああああ!!!!」

 

 

後日、送られてきた冊子の表紙を飾るFALは最高に輝いた笑顔だったが、当の本人は涙を流しながら受け取ったという。

 

 

end

 

 

 

番外12-3:最高の一日を、あなたとともに

 

 

「あら、意外と空いてるわね。」

 

「まぁ平日だしな。 ・・・さて、どこに行くか。」

 

「こういうところって来たことないのよね。 じゃあまずアレに乗りましょうか。」

 

 

とある平日の朝、AR-15とハンターがやってきたのは日本にある地球儀がよく目立つテーマパーク。

アルケミストにペアチケットを渡され、さらにお節介で飛行機代や前日と当日分のホテルまでとってもらった二人は、朝一番から遊びに来ていた。

とはいえこういう所に一度も来たことのない二人は入場早々に立ち止まるも、とりあえず一番目立つジェットコースターに乗ることに。

 

「け、結構高いのね・・・。」

 

「乗ってから怖気付いたか? こういうのは万歳するといいらしいぞ。」

 

「そ、そうなの? じゃあそうするってきゃぁあああああ!!!!」

 

「ははははっ! わーーーーーー!!!」

 

 

急降下の瞬間、嵌められたと感ずくもあえなく絶叫するAR-15と、そんな彼女の姿が可愛いのか笑いながら叫ぶハンター。

降りた時には恐怖と面白おかしさで涙目だった二人だが、それで吹っ切れたのか次々とアトラクションを回り始めた。

カチューシャをつけたり写真を撮ったりショーを見たり・・・とにかく羽目を外して遊びまくり、夜のパレードも見終えた二人は楽しさと疲れでヘトヘトになりながらゲートを出た。

 

 

「はぁ、楽しかった。 たまにはこういうところもいいかもな。」

 

「えぇ・・・でも、出来ればハンターと二人っきりがいいかな。」

 

「ふふっ、そうだな・・・じゃあこれからは二人の時間だ。」

 

「うん。」

 

 

互いに笑い合い、手を繋いで帰る二人。

なお、今日一日送られ続けたツーショット写真を、M16は砂糖を吐きながら見る羽目になったとさ。

 

 

end

 

 

 

番外12-4:ご挨拶

 

 

「・・・へぇ、この45がねぇ。」

 

「45姉も苦労したんだね・・・。」

 

「 」チーン

 

 

ちょっと日がくれてきた頃の喫茶 鉄血。UMP40による暴露大会(第二部)を終えて、45は完全に沈んでしまった。真っ白に燃え尽きた45を慰める9をよそに、416はこの突然現れた9の姉に意識を向ける。

 

 

(まさかもう一人姉がいたとはね・・・あれ? ということは義姉さんということかしら。)

 

「ん? どしたのHK416さん。」

 

「416でいいわよ。」

 

 

見た感じコイツもシスコンっぽいが、おそらく45よりはマシだろう。というより直接の面識がない分、9に対してはそこまで過剰に迫って来ないようだ。

まぁテンションとか波長とかが合うのか、出会ってすぐに意気投合したが。

 

 

「ねぇねぇ9。」

 

「どしたの40?」

 

「いやぁ気のせいだったらごめんだけど・・・二人はその・・・・・付き合ってるの?」

 

「へぁ!?」

 

(いや、『へぁ!?』って・・・・。)

 

 

可愛い反応するなぁとか思いつつ、意外と勘が鋭い40にますます興味が湧く416。実際のところは妙に距離感が近かったり入ってきた時に手を繋いでいたことから推測しただけなのだが。

 

 

「えぇ、9は私の恋人よ。」

 

「よ、416・・・。」

 

「あはは! お熱いねお二人さん。」

 

 

付き合ってそこそこ経つのだが、未だに恥ずかしがる9の初々しさといったら・・・45が可愛がりたくなるのも分からなくもない。

もう完全に真っ赤になった9は置いといて・・・。

 

 

「そういうことだから、これからもよろしくね義姉さん。」

 

「義姉さん、かぁ。 じゃあ416もあたいの妹だね!」

 

 

何故だろう、先日45にも似たようなことを言われたはずなのに、感じるものが全然違う。ちなみに45の時は変な寒気がした。

 

 

「ところで、式はいつ挙げるの?」

 

「ふぁ!?」

 

「そ、それはその・・・・どうしよう9?」

 

「わ、私に振らないでよ・・・。」

 

「あははは! 二人とも可愛いねぇ。」

 

 

人畜無害そうな見た目をしておいて結構グイグイくる人形だ。手玉に取られているようで若干悔しい416だが、まぁ言い返せない時点で勝負は決まっている。

 

 

「姉に勝つなんて百年早いよ!」

 

「・・・そうね、なら祝辞は義姉さんに読んでもらいましょうか。」

 

「いいよ! あたいと45でいっっっぱい祝ってあげる!」

 

 

ケラケラと笑う40に、これは敵わないなと思う二人。

式を挙げたら、最高の笑顔で見返してやろうと思う416だった。

 

 

end




書いていて砂糖を吐きそうになった回。
電車の中でにやけながら描く姿はさぞかし気持ち悪かろう!(泣)


そんなわけで各話解説

番外12-1
四十八話の後、喫茶 鉄血で雑魚寝していた時の話。
ドアの隙間とか人形とか、なんか怖く見えますよね?
ちなみに後日宿舎に戻った後も、しばらく眠れない日々が続きましたとさ。

番外12-2
四十九話の後日談。
FALのウェディングスキンを使いたいなと思って書いた話で、他作者様のところでも結婚式とか結婚誌とかの話が上がっていたので乗っかる形に。(今更)
ヘリアン氏、渾身の嫌がらせ。

番外12-3
五十話の続き。
ちなみに私は西日本住まいなので東の国よりも西のスタジオの方が好きです。
でもひ◯パーはもっと好きです。

番外12-4
五十一話のすぐ後。
気がつけばG11以外みんな家族になっちゃったね!まぁ11ははたから見ては愉悦に浸る主義なので問題ないけど。
9可愛い。


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第五十二話:全自動修羅場人形

先日、貞子の4Dを見ました。
その晩ちょっと眠れなくなったのは秘密だぞ☆


今回もキャラのリクエストをいただきました!
オリキャラが増えるとできることも増えますね!


「はぁ・・・素敵な出会いでも落ちてないものかしら。」

 

「そろそろ現実をみてくださいよ姉さん。」

 

「うぅ、いつからそんなに冷たくなったの36C?」

 

 

夕暮れのS09地区を歩く人形二人、G36とG36Cは買い物袋を片手に帰路についていた。

姉の残念思考に辛辣な言葉を投げつける妹に、G36はますます落ち込む。もっとも、買い出しの間ずっと彼氏が欲しいだの出会いが欲しいだの寿退社したいだのと言い続けていれば自業自得なわけだが。

そんな姉に対する妹の評価は、『黙っていればいい女』、だ。

 

 

「まったく・・・あ、買い忘れたものがありました。 姉さんはここで待っててください。」

 

「えぇ、わかったわ。」

 

 

それだけ言うと急ぎ足で店に戻る36C。

G36は近くの公園のベンチに座ると、ぼんやりと眺め始めた。平日ではあるが仕事終わりなのか、カップルと思しき二人組がいくつも見られ、見かけるたびにG36の顔に影がさす。

 

 

(どうしよ・・・泣きそう・・・)

 

「・・・どうしたんだ? 美しい顔が台無しだぞ。」

 

「・・・え?」

 

 

突然声をかけられ、しかも妙にキザなセリフにG36は顔を上げる。そこにいたのは綺麗な白髪とオッドアイの女性、中性的な顔立ちで黒を基調とした服を身につけ・・・・・

 

 

「・・・って、鉄血の方ですか?」

 

「ん? あぁ、『元』な。」

 

 

よく見れば尻尾のような長いユニットが背後で揺れている。こんな人形いただろうか、と疑問に思う中、その鉄血人形?は突然立ち上がり、G36に向き合う。

 

 

「実は私はアマチュアながらダンサーをしていてね。 よければ見てもらえないだろうか?」

 

「え? 私がですか? でもダンスなんて・・・」

 

「構わないよ、正直な感想が欲しいんだ。」

 

 

そう言うと端末から音楽を流し、踊り始める。ダンスに詳しくないG36だが、どうやらブレイクダンスというやつだということはわかる。そして上手い。両手両足は当然だが尻尾も器用に使い、まるで重力なんてないかのように踊る。

思わず見とれてしまったG36は、終わった後もしばらくポカンとしたままだった。

 

 

「ふぅ・・・さて、どうだったかな?」

 

「え、あ・・・・すごい、です。」

 

「そうかそうか、そう言ってもらえて何よりだ。 君のために踊ったのだからな。」

 

「へ?」

 

「だが、君の笑顔が見られないところを見ると、どうやら失敗したようだ。」

 

 

そう言ってわざとらしく泣き真似をする女性に、G36は思わず笑ってしまう。キザな話し方といい突然踊ることといいコロコロと表情が変わることといい、なかなか面白い人形だ。

 

 

「ようやく笑ってくれたな。」

 

「え、あら本当ですね。」

 

「ふふっ、やはり笑っている顔がよく似合う。 美しい顔だ。」

 

「ふぇ!?」

 

 

唐突な一言で顔がボッと熱くなる。ナンパじみていることはわかっているが、なぜか嫌な感じはしない。それがまた、彼女を混乱させていた。

 

 

「どうやら何かお悩みのようだが・・・恋愛について、かな?」

 

「へ!? なぜそれを!?」

 

「おや、当たりだったか。 しかしそれは残念だ、もし私が男だったら、あなたのような美しい女性を放ってはおかないだろう。」

 

「そ、そんな、美しいだなんて・・・」

 

 

顔を赤くして俯く。しかし女性はG36の手を取り、まっすぐ見つめる。綺麗なマゼンタとシアンの瞳は見る者を引き込むように透き通っており、彼女もまた、引き込まれた一人だった。

 

 

「・・・おや、君の連れが戻ってきたようだな。 では私も帰るとしよう。」

 

「え? あ、あの!」

 

「ん?」

 

「・・・お、お名前を伺っても?」

 

「名前か・・・あいにくと今の私は名無しだ。 が、以前は『ゲッコー』と呼ばれていたよ。」

 

 

それだけ言うと、公園の奥へと消えていくゲッコー。G36はそれをただただ熱がこもった瞳で見送る。

妹が傍にきたことにも気がつかず、その日一日はどこかぼぉっとしていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「「「「「さぁ! キリキリ吐いてもらおうか!」」」」」

 

「隠し事はなしだよアーキテクトちゃん!」

 

「な、何事!?」

 

 

数日後、鉄血工造の研究室にいたアーキテクトの元に、それはそれは怒りに燃えた形相の人形・人間が訪れていた。

G36CにM16にHK416にペルシカにハンター・・・そしてサクヤだ。

流石にこの面子に暴れられては身がもたない、そう考えたアーキテクトは・・・・・

 

 

「なんか知らないけどすみませんでしたぁー!!!」

 

 

渾身のDO☆GE☆ZAで危機回避を図る。ぶっちゃけ怒られる覚えなど数えきれにほどあるが、この面子にまとめて怒られるようなことはしていない・・・はず・・・・・多分。

 

 

「・・・アーキテクト、こいつに見覚えはあるかしら?」

 

 

416がポケットから取り出したのは一枚の写真。そこに写るのはいかにも鉄血人形といったデザインの人形・・・G36に甘い言葉をつぶやいた彼女である。

 

 

「あぁ! ゲッコーのことね。 いやぁどこにいったかと思ったけどそんなとこにいたんだ。」

 

 

機体名:ゲッコー。アーキテクトが『秘密裏』に開発した『新型の』鉄血人形であり、固有武装ではなく汎用性の高い『パワフルな』テールアームによる高機動、超馬力人形として作られた『戦術人形』である。

 

 

「・・・ねぇアーキテクトちゃん、鉄血工造は戦術人形を作っちゃいけないって知ってるよね?」

 

「・・・・・え? でもマヌちゃんは・・・」

 

「あれは非武装の人形として作ったし、いろんなとこから許可ももらってるの。 ・・・まさか黙って作ったの?」

 

「・・・・・テヘペロ!」

 

 

ゴチーーーーーン!!!!!

 

鈍い音が響き渡り、脳天を抑えて転げ回るアーキテクト。強烈なげんこつをお見舞いしたサクヤは、なんでもないかのように被害者に向き直り、頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、私たちの不始末よ。」

 

「いや、サクヤさんが悪いわけじゃなくて。」

 

「・・・まぁ不快だったのは変わらないんだけど。」

 

「・・・・・ところで、一体何があったんですか?」

 

 

サクヤのもっともな疑問に、被害者一同は口々に語り出した。

状況や被害の程度はまちまちだが共通して言えるのは・・・なんか美形の人形が、人形たちを口説き、風のように去っていったということ。

G36もROもすっかり虜になってしまい、9とSOPはちょっとでもなびいてしまった自分に自己嫌悪中、AR-15はキッパリと断ったがどこからか聞きつけたハンターが怒り心頭で探しているところだ。

おまけにその後の調査で、すでに『食べられた』人形や人間がいることも発覚、巷では「王子様」と言われているらしい。

 

 

「・・・アーキテクトちゃん?」

 

「待って待って確かに作ったのは私だけどそんなAIにした覚えは・・・・・あ。」

 

「なにか心当たりでも?」

 

「・・・・・マヌちゃんの作品(薄い本)を読ませたことがあるような・・・。」

 

 

ゴッチーーーーーーーン!!!!!!!

 

二度目の、今度は助走をつけたげんこつに完全に伸びるアーキテクト。

ともかく、このまま放置していては大変なことになることは想像に難くない。グリフィン上層部や軍にバレたら鉄血は物理的に終わるだろうし、なにより世の女性の敵を放置しておくわけにはいかないのだ。

 

 

「すぐに情報を集めて探し出すわよ。 できれば今日中に『ppppppp 』・・・はい、鉄血工造のサクヤです。」

 

『あ、サクヤさんですか? その、確認したいことがありまして・・・』

 

「なにかな代理人ちゃん。」

 

『そちらでまた新たに一体、作りませんでしたか? なにやらそれっぽい方がいらっしゃってるのですが。』

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

喫茶 鉄血にて。

 

 

「見つけたぞゲッコー・・・ってRO!?」

 

「え、M16!?」

 

「おや、君のお姉さんか。 はじめまして、名前がなく一応ゲッコーを名乗っているものだ。」

 

「あ、どうもM16です・・・じゃなくてだな!」

 

 

ちなみに今の状況は、向かい合って座るROの顎に手を添えたゲッコーが、ちょっと顔を寄せている所だ。顔を真っ赤にしながら一切拒絶しなかったところを見ると、ROも完全に飲まれてしまったのだろう。

M16始め怒りに燃える被害者一同が向かおうとしたその時、喫茶 鉄血の扉が勢いよく開け放たれ、メイド服に身を包んだ人形がズカズカと歩み寄る。

 

 

「この泥棒猫!!!」

 

「なっ!? 泥棒猫はどっちですか! ゲッコー様が愛を囁いてくださったのは私の方ですよ!」

 

「うるさい! あなたじゃゲッコー様に釣り合わないでしょ! 譲りなさいよ!!!」

 

 

出会って秒で取っ組み合いを始めるROとG36。もちろん互いに武器は持っていないのだが、戦闘モードのフルパワーで取っ組み合う様はまさに怪獣映画であり、近くの客は慎重に席を移動した。

やってきた一同も目の前で展開される修羅場に唖然とし、36Cは姉の姿に顔を覆ってしまった。

 

 

「こらこら君達、美しい顔に傷がついてしまうだろ?」

 

「で、でもこいつが・・・」

 

「君が美しいのは内面もじゃないか、黒く汚れた心は君らしくないよ。」

 

「・・・それでも、納得いきませんわ。」

 

「君の気持ちもわかる、でも汚れた心は君から笑顔を奪ってしまうよ。 私は君の笑顔が見たいんだ。」

 

「ゲッコー様・・・」

 

 

やたらとかゆくなるようなセリフを吐きながら、あっという間に喧嘩を止めてしまったゲッコーに再び呆然となる一同。

今回は完全に蚊帳の外な代理人は、新たな面倒ごとの予感に大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「おや、また来てくれたんだねレディ。 ご注文はなにかな?」

 

「あ、アイスコーヒーを・・・。」

 

「ふふっ、ありがとう。 これは私からのサービスだ。」投げキッス

 

「はぅ!」

 

 

後日、完全中立地帯である喫茶 鉄血に引き取られたゲッコーは、17labとアーキテクトによる燕尾服をまとい、今日も客に愛を囁くのだった。

 

 

 

 

「ほどほどにしてくださいよゲッコー。」

 

「やれやれ手厳しいな代理人は。 一体いつになったら私の思いが届くのか。」

 

「一生ありえませんのでご安心ください。」

 

 

 

end




キタロー「手当たり次第口説くのは感心しないね。」
ハム子「見境なさすぎない?」
番長「まったくだ。」
ジョーカー「改心させてやる。」
ツッコミはコメントにてお願いします。


今回もマヌスクリプト同様、キャラのリクエストから生まれた話です。
やったねG36、彼女ができたよ!



というわけでキャラ紹介

ゲッコー
オリジナルのリクエスト人形。
マゼンタとシアンのオッドアイに尻尾状のユニットが特徴。ユニットの先には五本のマニピュレータがついており、またかなりの馬力があるため本体の支えが万全であれば戦車でも振り回せる。またマニピュレータの先には吸盤があり、天井に張り付くことも可能。
アーキテクトによって造られ、その後人知れず世に出た。節操がなく誰でも口説くし、その自覚もあるためたちが悪い。
左腕と尻尾で優しく包み、右手で顎クイされたら大体堕ちる。

G36
ヘリアン予備軍。
それゆえこんな単純なナンパにも引っかかってしまった。
本人は嬉しいようだ。

RO
別に恋には飢えていないが憧れている一方、自分には縁がないものと思い込んでいたため引っかかった。
他に目を向けられるのは嫌だが優しいので最終的には許す。

G36C
姉のストッパー。
姉の恋愛に口出すつもりはなかったが、今回は何が何でも阻止したい模様。

M16
シスコン。
ROをナンパしたという罪は大きく、彼女の中ではA級戦犯である。

HK416
ちょっと別々になっていた間に9を口説かれたのでブチ切れる。

ペルシカ
SOPを口説かれたのでry

9
416一筋なのだが、はっきり断れなかったことから罪悪感で倒れてしまう。

SOP
ペルシカ一筋なのだがry

ハンター
AR-15が口説かれた現場にはいなかったが、たまたま近くにいた仕事仲間からのタレコミで激怒する。

AR-15
一切なびかなかった。
本人曰く「当然のこと。」

サクヤ
アーキテクトの保護者。
人形とはいえ金属製の頭部をぶん殴っておいて手を傷めない。
最近アグレッシブになったと思う。



この泥棒猫! でファ◯タのCMを思い出した人はファン◯を買いに行きましょう。


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第五十三話:勝負服(海仕様)

指揮官ラブ勢にまともなのはいない・・・それが世界の摂理である。

今回はそんなラブ勢と指揮官のお話。


「「「・・・あ。」」」

 

 

日に日に気温が上がり続け、徐々に夏の足音が聞こえてきた頃。

S09地区の隣町の洋服百貨店のとあるフロアで、全く同じ声が聞こえた。

わざわざ隣町にまで買い物に来たのはスプリングフィールド、モシン・ナガン、Kar98kの三人である。

この町は洋服や下着等、ファッションの最先端を行く街として有名であり、今の季節最も人気なのは水着などの夏服コーナーだ。

その水着エリアで、ばったりと出くわしてしまったのだ。

 

 

「おやおやお二人とも、今日は任務ではなかったんですか?」

 

「そっちこそ、カフェはどうしたのよ?」

 

「結局考えることは一緒、というわけですわね。」

 

 

三人が出会ったのは全くの偶然。というのも、三人が三人とも互いに用事があると伝えていたからである・・・抜け駆け防止条例に則って。ちなみに残りのウェルロッドとガリルは本当に任務である。

三人ともある意味当然という反応をするあたり、この条例ももはや形骸化しているといえる。

 

 

「・・・まあいいでしょう。 目的は同じで、妨害する理由もありませんしね。」

 

「ふん、その日になれば分かることよ・・・誰が勝者かはね。」

 

「えぇそうですわね。 では皆さん、御機嫌よう。」

 

 

ニッコリと笑みを浮かべ、しかし視線だけは敵対心丸出しの三人はそこで別れ、各々目的のものを探しに行く。

全ては、想い人と過ごす夏のために。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふ・・・これで・・・・これで今年は勝てるわ!」

 

 

水着が並ぶハンガーの隙間で怪しげに笑うモシン・ナガン。周りの客がドン引きしているのすら眼中になく、ただただ怪しげに笑ってはトリップしてまた笑うを繰り返す。とはいえその手に持つのはシンプルなビキニタイプの水着、昨年までとの違いはパレオがあるかどうかくらいしか違わない。

強がってはいるが想い人の前で肌を晒すのを極端に恥ずかしがる彼女は、今年は思い切って露出を増やす方向に出てみたのだ。

 

 

(でも、いきなりここまでして大丈夫かしら? はしたない女とか思われると嫌だし・・・でも・・・)

 

 

根は真面目・・・というかモシン・ナガンとガリルは比較的まともな部類なので、なんだかんだ考え込んでしまう。

水着の色にしたって、元々の服と同じ色にすべきかどうかで昨晩ずっと悩んでいた。

 

 

「うぅ・・・どうすれば・・・」

 

「お困りのようじゃな!」

 

「え!?」

 

 

突然降って湧いた声に驚き振り向く。そこにいたのは『ナガンM1895』に『AK−47』、『トカレフ』に『マカロフ』に『OTs−14』の同志一同だった。

 

 

「み、みんな・・・どうして・・・?」

 

「まぁちょっとしたお節介かな!」

 

「こういう時くらい手伝わせなさいよね。」

 

「そういうことよ。」

 

「ふふっ、じゃあ早速選びましょうか。」

 

 

同志との熱い友情に涙しつつ、モシン・ナガンは水着選びに取り掛かった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・というわけなのだけど、何かいい案はないかしら?」

 

『いや、なんで私に聞くのよ。』

 

 

同じ頃、別区画にいるKarはとある人物に電話をかけていた。とある一件で交流が生まれて以来、割と親しい中になった二人である。

 

 

「そこをなんとかお願いします、デストロイヤーさん!」

 

『・・・まぁいいけど・・・で、どんな水着が好みなの?』

 

「この体型で忌まわしき巨乳に勝てるものですわ!」

 

『・・・・・言ってて悲しくならない?』

 

「すみません、少し。」

 

 

ハンカチで涙を拭う。電話越しのデストロイヤーは心底面倒臭そうだが、頼られたからには応えなければならない。

 

 

『ワンピースタイプとか、フリルがついたものとかかしら。』

 

「こ、子供っぽく見えませんか?」

 

『背伸びしてるのが丸わかりの方が子供っぽいわよ。』

 

 

妙に説得力のある言葉だが・・・そういう経験があるのだろうか?

ともかくデストロイヤーにアドバイスをもらいつついくつか選び、実際に試着してみる。

なるほど確かに、先までの背伸び感よりはマシに見える。

 

 

『まぁ気になるなら薄手のを一枚羽織るとかね。 それでもだいぶん違うはずよ。』

 

「あ、ありがとうございます! なんとお礼を言えば良いか・・・」

 

『ん、じゃあ今度そっちに戻った時に奢りなさい。 じゃあね。』

 

 

それだけ言ってブツリと切れる。

端末をしまったKarは、先ほどまでとは打って変わって晴れ渡るような笑顔でレジへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「うふ、うふふふふふふ・・・・・・」

 

 

またまた同じ頃、怪しげな水着が並ぶ一角で怪しげな笑みを浮かべた女が怪しげな笑い声を上げていた。

もう完全にトリップしてしまっているであろうそれは、あの清楚さNo. 1(グリフィン調べ)と言われるスプリングフィールドだった。

幸いこのコーナーは客も少ないため大衆の目に触れることはないが、戦術人形でなければ通報ものであろう。

 

 

「あら、あらあら、これなんてもうほとんど紐ですね♪」

 

 

そんなことを呟きながらしっかりとカゴに入れていくスプリング。カフェ経営という他にはない財源をふんだんに使って、気になったものはまとめて買っていくスタイルのようだ。

一応保険のつもりかまともな水着も見えるが、それも今やキワドイ水着に埋もれてしまっている。

 

 

「既成事実さえ手に入れれば、こっちのもの・・・・・」

 

 

物騒極まりない、がこれが彼女の最適解だそうで、もはや誰も止められないのだ。

 

 

「あぁ・・・・夏が待ち遠しいですね。」

 

 

またもやトリップするスプリング。

その日は両手に抱えるほど買って帰った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・てなことがあったらしくてな。」

 

「あぁ、だからあんなに。」

 

 

翌日、喫茶 鉄血のカウンター席に座るガリルとウェルロッドからもたらされた昨日の情報によって、今なお満面の笑みを浮かべ続ける三人に納得する代理人。

聞いている感じでは前二人はまだ大丈夫だろう。

問題は・・・・・・

 

 

「・・・スプリングさん?」

 

「うふふふふふ・・・・・は! はい、なんでしょうか?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい、私は大丈夫ですよ。 ・・・・・うふっ!」

 

 

ダメそうである。

まぁ気持ちは分からなくもないのだが、知り合いが道を外れるのだけはちょっといただけない。

というわけでなんとかまともな水着にさせようとするのだが・・・

 

 

「・・・一応、ほかのお客様もいるんですよ?」

 

「えぇ、ですが私は指揮官一筋です。」

 

「過激すぎる格好は小さな子の教育によろしくないと思いますが。」

 

「ご安心を、指揮官と二人っきりで過ごしますので。」

 

 

完全にそっち方面のスイッチが入ってしまたのか、全く聞く耳持たない。というかここまでダメな人形だったかと頭を悩ませる代理人。

もはや打つ手なしと思われたその時、一人の来訪者が流れを変えた。

 

 

「・・・む、今日は随分と集まっているな。」

 

「おや、いらっしゃいませ。」

 

「あ、指揮官!」

 

「へぁ!? 指揮官!? ど、どどどうしてここここに!?」

 

「いや、予定よりも早く仕事が終わったのでな。 たまに来たくなるんだよ。」

 

 

指揮官の来訪に驚き喜ぶラブ勢なのだが・・・スプリングだけはやたらと挙動不審だ。

その様子に、代理人は閃く。

 

 

「指揮官さん、もうすぐ海の予定ですね。」

 

「ん? あぁそうだな、君も来るんだろう?」

 

「えぇ、誘われましたから。 それよりも・・・」

 

 

視線をスプリングの方に向けると、顔を真っ赤にしてモジモジとしている。

・・・・・既成事実とか無理なんじゃないかと思うくらいに照れている。

 

 

「指揮官さんは、どんな水着を着てくれる娘が好きですか?」

 

『っ!?!?!?』

 

「と、唐突だな・・・うーむ・・・・・」

 

 

店内が一気に静まり返り、五人の人形は固唾を呑んで見守る。

 

 

「・・・私個人の意見だが、シンプルなものがいいと思う。 皆美人だから、それが一番映えるだろう。」

 

『指揮官・・・・・』

 

(なるほど、これは苦労しますね。)

 

 

ナチュラルにこれが言えるあたり、鈍感とかそんなレベルではないような気がしてくるが。

代理人はそぉっとスプリングのもとの行くと、静かに耳打ちする。

 

 

(・・・だそうですよ、スプリングさん。)

 

(そ、そうですよね、普通が一番ですよね!)

 

 

先ほどまでの暴走状態から戻ってこれたようだ。これで多分大丈夫だろう・・・多分。

 

 

「もちろん君もだ、代理人。」

 

『指揮官っ!?』

 

「うおっ!? なんだ?」

 

「ふふっ、ほどほどになさってくださいね指揮官さん。」

 

 

指揮官の余計な一言で再び騒がしくなる喫茶 鉄血と、それをクスクスと笑いながら見守る代理人。

乱闘直前の騒ぎに呆れながらも、やれやれといった調子で止めに行くのだった。

 

 

 

end




ゴジラ見てきました!
なんというか・・・ヤバイ!それでいてしっかりゴジラしてました!
大満足です!!!



ではでは今回のキャラ紹介

スプリングフィールド
ラブ勢のやばいやつ。
なんでうちの春田さんはこうなったのか・・・本当は究極の料理下手にする予定だったのに。
一応自制できたが、海に行けば再び目覚めるかも。

モシン・ナガン
ラブ勢ではまともな方。
普段の肌の露出が少ないせいか肌を出すことにやや抵抗がある。
「ハラショー」が可愛い。

Kar98k
ラブ勢のマスコット的存在。
行動力と空回りのサイクルを突き進む。
デストロイヤーとは番外2−3で仲良くなった。当時は「デスちゃんさん」だったが、デストロイヤーの猛反発で元に戻った。

ガリル&ウェルロッド
ラブ勢の計算高い方とおとなしい方。
今回は任務のため水着を買えなかった。
後日、指揮官と買いに行く約束を取り付ける。

代理人
どんな客であろうとクレーマーであろうとテロであろうと穏便に始末してきた凄腕店長。
これだけ問題児の絶えない店でありながら胃薬を必要としない猛者。


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第五十四話:大人な女性

うちの春田さんに足りないのはこんな感じの色気だと思う。あと自制心。


カランカラン・・・

喫茶 鉄血の入り口にかけてあるベルが鳴り、新たな客の訪れを知らせる。現れたのは、見慣れないライフルを担いだ人形だった。

ちなみに喫茶 鉄血では銃の持ち込み等は規制していない。人形たちが利用するため、緊急の要件が入ることを考慮しているからだ。

 

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

 

「えぇ。 ・・・ところで、喫茶 鉄血というのはここでいいのよね?」

 

「はい、そうです。 何か要件が?」

 

 

この見慣れない人形は、どうやらフラッと訪れたというわけではなさそうだが・・・となると目的はなんだろうか?

 

 

「はじめまして。 この度S09地区に配属となりました『Gd DSR-50』です。」

 

「あらどうも。 喫茶 鉄血の店長をしております代理人です。」

 

 

きちんとした挨拶から入る、よくよく考えればそんな人形はほとんどいないだろう。

新規に配属された人形がやってくる、しかも丁寧な物腰で名乗るということは、やはり何かあるのだろうか。

 

 

「では、アイスコーヒーを頂けますか?」

 

「え? あ、はい、かしこまりました。」

 

「ふふっ、もしかして何かあると思っていましたか?」

 

 

クスクスと笑うDSRに、どうやら代理人の早とちりだったと察する。しかしまぁ言葉足らずというか思わせぶりというか、誤解されそうな人形である。

 

 

「まぁご挨拶に伺った、というのが要件です。 この地区の人形は何かしらここでお世話になることがあると聞きましたので。」

 

「・・・お世話、ですか?」

 

「はい、本部でも有名な話ですよ。」

 

 

再び笑うDSRとは対称に、なんとも微妙な顔になる代理人。本人としてはひっそりとやっているつもりだったし、世話をしたというよりも話を聞いただけだったりするのだが・・・

なんて思っているのは代理人くらいで、S09地区の人形はもちろんのこと本部の人形やIoPも代理人には感謝しており、不定期だが社内報にものってたりする。

つまり、違法製造とかでもなければ喫茶 鉄血のことを知らぬ人形などいないのである。

 

 

「ふふっ、そのご様子ですと知らなかったようですね?」

 

「えぇ、全く。 そんなに目立つようなことはしていないはずですが・・・」

 

(((いやいやいや)))

 

 

キョトンと首をかしげる代理人に陰から総ツッコミを入れる人形たち。常識的で頼れると思われがちな代理人だが、微妙なところで抜けていた。

当の本人がそのことに気がつくはずもなく、注文のアイスコーヒーを淹れに奥へと消えたのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さて、この喫茶 鉄血では多くの人形が世話になったりアドバイスを受けたりしている。それはつまり、それだけ問題を抱えた人形が多いということだ・・・というよりそれは、人間に限りなく似せるという開発指針にしたIoPに責任があるのだが。

とにかく、人形の訪れはイコール問題の訪れ。それはこのDSRも例外ではなかった。

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・ゴクッ」

 

「・・・・・・・・ふふっ。」

 

「「っ!」」

 

 

DSRの微笑みに、一斉に目をそらす男性客たち。何が行われているかというと、DSRはコーヒーを飲みながら頻繁に足を組み替えては目が合いそうな客を流し目で見ているのだ。

スタイル抜群、やたら胸元の強調された服、露わになった手足、艶かしい瞳・・・それらが合わさり、男たちはまるで男子中学生のように落ち着きなく視線を動かしている。

そんな男性陣を楽しそうに見つめるあたり、完全にわかってやっているようだ。

 

 

「・・・ほどほどにしてあげてくださいよ。」

 

「あら? なんのことかしら?」

 

 

さも可笑しそうに笑うDSR。ひとしきり笑ったあとで、今度はDSRの方から代理人に声をかける。

 

 

「まぁ他の客に手を出すことはないわ。 向こうから来ない限り、ね。」

 

「・・・向こう?」

 

「ほら、あれよ。」

 

 

DSRが視線を向けた先、それは客席ではなくカウンターの奥。せっせと働きながらも時々こちらに視線を送るゲッコーだった。その視線が完全に獲物を見る目だったが、なるほど同類だったか。

 

 

(・・・反省してアレ、なんですよね。)

 

 

先日の一件でナンパ癖がやや落ち着いたかに見えるゲッコーだが、あくまで人の女に手を出さなくなったというだけ。本人曰く『美しい人に美しいといって何が悪い?』らしい。

そして今、完全に互いの視線が合った。そのままニヤリと笑いあうと、ゲッコーが奥から出てくる。

 

 

「・・・ふふっ、随分と熱い視線のようだが?」

 

「あら、それはお互い様でしょう?」

 

(・・・あぁ、始まった。)

 

 

近くの椅子を動かし、ナチュラルにDSRの隣に座るゲッコー。まるで恋人のような距離感だが、そんな甘い空気は微塵もない。

 

 

「あなたからは私と同じ匂いがするわ・・・可愛いものは食べちゃいたくなるような。」

 

「奇遇だな、私もそう感じていたよ。 これは運命の出会い、というやつなのだろう。」

 

「うふふ、それで? あなたと私、どっちがどっちを()()のかしら?」

 

「あなたのように情熱的な女性は初めてだ・・・是非とも味わってみたいよ。」

 

(・・・・・明日の分のケーキでも作っておきましょうか。)

 

 

肝心なのは諦めだ、そんな何処かの誰かが言っていた言葉を思い出した代理人は、二人でやりあっている分には被害もなさそうだと判断して放っておくことにした。

 

 

 

後日、DSRがS09地区にやってきた理由がこの誘惑癖であることを知り、また上層部が『きっと向こうの指揮官か代理人がなんとかしてくれる』という思いつきで送ってきたことを知り、代理人は頭を抱えたという。

 

 

 

end




DSRのイラストがエロすぎると思ったのは私だけではないはず。
どこぞのおっぱい指揮官歓喜の巨乳である。


そんなわけでキャラ解説

Gd DSR-50
新型にライフル人形・・・なのだが開発陣が何をトチ狂ったのか、色気というステータスに力を注いだ結果こんなことになってしまった。
本部の指揮官および候補生が全員食われるのも時間の問題であると判断され、超鈍感で有名なS09地区の指揮官の元に送られた。
ゲッコーとは波長があう模様。

ゲッコー
あの後彼女持ちにこってり絞られたためちょっと大人しくなった。
とはいえ欲には忠実なので今でも独り身相手には口説く。
喫茶 鉄血での服装は執事服だったり燕尾服だったりの男装がメイン。

代理人
最近諦めることを覚えた。



今回は短くてスマンね。
梅雨の前ってことで気温が不安定だけど、体調管理はしっかりとね!(風邪気味)


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第五十五話:雨と着替えと

同じ雨でも梅雨と夕立とで感じるものが違うのはなんでなんでしょうか?

ちなみに私は梅雨が大っ嫌いです。


これ書いてる時に読者の方から戦友承認をいただきました!
素直に嬉しかったです!!!


ここはS09地区。

真っ昼間にもかかわらず、珍しく客足の少ない喫茶 鉄血では代理人以下従業員が暇を持て余していた。

理由はこのどんよりとした天気。梅雨前線の影響で分厚い雲が覆いかぶさり、シトシトと雨が降り続けているため、ここ数日は外出する人がめっきり減っている。

 

 

「あ、また降ってきた。」

 

「あちゃぁ、土砂降りだねこれ。」

 

「ふむ、どこかで濡れて困っている子猫ちゃんがいるかもしれないな、傘を持って行くとしよう。」

 

「自重しなさい、この前反省したところでしょう。」

 

 

そんなコントじみたことができるくらい暇なわけだ。仕方なく代理人とマヌスクリプトは新メニューの考案を、Dは気になるところを掃除し、ゲッコーは乾いたタオルを用意する。

人形が人間と違うところはこうしたジメジメした空気であってもあまり不快感に苛まれない点がある。皮膚があるとはいえ人工のもので、湿度は湿度として感じ取るだけなのだ。

 

それ故に濡れても気にしなかったり、雨の中を走ってくるような人形もいるのである。

 

 

バタンッ

「ひゃ〜急に降ってきたわね。」

 

「全く・・・これだから梅雨って嫌いなのよ、降るなら最初から降っててほしいわ。」

 

 

扉を開け放ち、愚痴りながら入ってきたのはグリズリーとFive~sevenの二人だった。傘ではなく上着を頭に被せるようにしているところを見ると、どうやら近場の警備任務だったようだ。

おおかた、さほど激しくないからと傘を持たずに出てきてしまい、急に強まった雨足に急いで駆け込んできた、といったところか。

 

 

「ほら、これで拭くといい。 濡れっぱなしではせっかくの美人も台無しだ。」

 

「ありがと。 タオルは受け取るけど好意は返すわ。」

 

「それは残念。」

 

「はいはい、ゲッコーもほどほどに。 お二人ともとりあえず着替えましょうか。 流石にそのままの格好はアレですから。」

 

 

アレ?と首をかしげるふたりだが、代理人が店内の客をひと睨みする。とても客に向ける視線ではないが、睨まれた客はササっと視線を逸らし、しかしそれでもこちらが気になるようでチラチラと見ている。

その視線を辿ると・・・・・

 

 

「っ!? そういうことですか。」

 

「あちゃ〜、たしかに刺激が強すぎるかもねぇ。」

 

「ってなんでそんなに余裕なのよ!? めちゃくちゃ恥ずかしいわよ!」

 

 

慌てて胸元を隠すグリズリーと、逆にわざとらしく胸のあたりで腕を組む57。あの雨の中で上着一枚を盾に守りきれるはずもなく、結構な量の雨を染み込ませた服は下着を透けさせるには十分だったのだ。

まして、二人ともそれなりにいい実りを持っている上に、上着を脱いでいる今は比較的薄手だ。ブラの色も形もくっきりである。

ちなみに57は以前の一件から羞恥心のハードルがかなり下がってしまったようで、下着ぐらいではほぼ動じない。

 

 

「そういうわけですので奥で着替えましょう。 服は貸しますので。」

 

「すみません、お言葉に甘えます。」

 

「ふふっ、では行こうかお嬢様方?」

 

「なんでかしら、やることは同じくせにこっちからは犯罪臭がするわ。」

 

「ふむ、随分と警戒されているが何故だろうな?」

 

「「日頃の行いよ。」」

 

 

そんなわけでゲッコーには警戒しつつ、二人は代理人に連れられて奥へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

 

「・・・・・ってなんでコレなのよ!?」

 

「あら、意外と動きやすいのね。」

 

「ふふっ、お二人ともよく似合ってますよ。」

 

 

三者三様のリアクションで奥から現れたのは、ウェイトレス姿に身を包んだグリズリーと57、そしてそれを微笑ましそうに見守る代理人。

57はなんだかんだで着たことにないロングスカートに興味を示し、結構ノリノリで着替えてくれた。スカートともに長い銀髪が揺れ、くるりと一回転するだけで多くの客の注目を集める。

一方のグリズリーはというと・・・・・

 

 

「うぅ・・・落ち着かない・・・・。」

 

「何よ? いつもの服の方がよっぽど露出してるじゃない。」

 

「そ、そうじゃなくてスカートよ! こんなの、わたしには合わないというか・・・」

 

 

慣れないスカートにかなり過剰に反応し、顔を真っ赤にして俯いている。その仕草やいつものボーイッシュな姿とのギャップに客は大いに盛り上がる。閑散としていた空気があっという間に酒場のノリになってしまった。

 

 

「ううう・・・・恨むわよマヌスクリプト・・・!」

 

「ひっひっひっ、じゃあこのバニーにしとく? スカートじゃなくなるけど。」

 

「それが嫌だからこれにしたんでしょ!」

 

 

恨めしそうに睨む先、不敵な笑みを浮かべながらスケッチを取るのは『先生』でおなじみのマヌスクリプト。今回の衣装選びを担当し、口八丁で代理人を丸め込んでグリズリーらにウェイトレス服を着させた張本人である。

ちなみに選択肢はウェイトレスかバニーかミニスカフリフリのやつ、グリズリーに選択の余地などなかった。

 

 

「じゃあ早速、『おかえりなさいませご主人様』って言ってみてよ。」

 

「調子にのんじゃないわよこの変態作家!」

 

 

いい笑顔でとんでもないことを要求してくるマヌスクリプト。というかそのセリフはウェイトレスではなくメイドなのでは?と思う57だったが、グリズリーの反応が面白いので黙っていることにした。

 

 

「まぁまぁせっかく着たんだから・・・ね、代理人!」

 

「なぜ私に振るんですか? ・・・ですがそうですね、せっかくですので。」

 

「ちょっ!? 代理人!?」

 

 

まさかの裏切りに愕然とするグリズリー。この店を開いて人と接する機会が増えたからなのか、代理人も茶目っ気がではじめたようだ。

 

 

「ほらほら、あんな感じでやってよ!」

 

「あんな感じ・・・って57?」

 

「うふふ、なんだか楽しくなってきちゃったわ。 グリフィンで変な着ぐるみ着せられるぐらいならここで働こうかしら?」

 

 

一体いつの間に溶け込んだのやら、完全に店員になりきっている57がそこにいた。愛想のいい営業スマイルを浮かべ、それはそれは楽しそうに接客している。

案外、こういったことが得意なのかもしれない。

 

 

「ほら、57もやってるしさ。 まぁあそこまで求めるわけじゃないから。」

 

「うぅ・・・でも・・・」

 

「・・・・・やってくれないと君の想い人に写真を送っちゃうかもよ?」ボソッ

 

「へぁっ!? なんでそれを!?」

 

「それは言えないなぁ・・・で、やるよね?」

 

 

マヌスクリプトがこれ以上にないくらい悪い笑みを浮かべ、グリズリーは思いっきり苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。代理人には最後の方はよく聞こえなかったが、弱みでも握られているのだろうと諦める。

やがて観念したのか、グリズリーが半分涙目で口を開いた。

 

 

「や、やればいいんでしょ!・・・・・・・・お、おかえりなさい、ませ・・・ご、ご主人、様・・・。」

 

(YESっ!!!)

 

 

羞恥心とやけくその狭間で絞り出された言葉に、心の中でガッツポーズを取るマヌスクリプト・・・と男性客。

言い終えたグリズリーは両手で顔を覆ってうずくまり、深い深いため息をつく。57が慰めにいくが、しばらくは立ち直れそうにない。

 

 

「・・・まぁ、大丈夫よグリズリー。 もう着ることなんてないんだし。」

 

「うぅ・・・57・・・」

 

「ほら、あんたはそんな泣き虫でもないでしょ?」

 

「・・・・・ありがと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、好きな人がいるんですってね? 話しなさいよ。」

 

「い、嫌よ! なんであなたに話さなくちゃ・・・」

 

「写真、ばら撒いちゃおっかなぁ〜」

 

「・・・・・ふぇえええもうやだぁ・・・。」

 

 

 

end




濡れ透けが描きたかった、後悔はしていない。
まぁ〜たカップル作っちまったよこの作者・・・しかも名前もないモブと。
でもある意味この世界ならではだと思うので、生暖かく見守ってください。




と、いうわけでキャラ紹介

Five−seven
着ぐるみきたり水着になったりといろいろ忙しい人形。
ハンドガンの中でもお姉さん的な立ち位置になることが多く、同じ立ち位置のグリズリーとは仲がいい。
ウェイトレスは割と気に入った。

グリズリー
今回の被害者。
なんとCO回以来の登場となる。
グリフィンではなく警察組織の所属で、活動範囲にS09地区が含まれているというだけ。
ボーイッシュだけど実は乙女とかめちゃ可愛いと思う。
年上の同僚に片想い中。

ゲッコー
自重しないやつ。
代理人にもDにもマヌスクリプトにも口説いたが、代理人にははっきりと断られDにはやんわりと断られマヌスクリプトには「私は見る専だから」と断られた。
趣味のブレイクダンスはたまに公園でやっている。

マヌスクリプト
我らの先生。
互いに認知していないが、ヘリアンとはネット上での知り合い。
ゲッコーの口説き癖にうんざりしていたが、多くの人形の乙女な顔が見られるため今では割と協力的。
実は普通の服もあったのだが、わざと隠しておいた。
次の新刊は『57×グリズリー』。


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番外編13

暑すぎて寝れない日々が続き、眠くなるまで書いて翌日昼まで起きれない・・・いかん、生活リズムが崩れる。


というわけで今回は番外編!
・激オコ代理人
・普段は頼れる姉なんです
・夜のお誘い
・グリズリー乙女化計画
の四本をお届けします!


番外13-1:激オコ代理人

 

 

とある日のこと。

いつものように喫茶 鉄血を訪れていた客たちは、かつてないほどの居辛さに身を縮こませていた。

その原因は店の中央、正座でうなだれるゲッコーと客がいることすら完全に忘れて額に青筋を浮かべる代理人だ。

 

 

「・・・ゲッコー、あなた先日あんなトラブルを起こしたばっかりでしたね?」

 

「はい。」

 

「SOPも9も悲しんでいましたしみなさん怒っていましたよね?」

 

「・・・はい。」

 

「その上で・・・・・なんでまた口説こうとしたんですか? しかもお相手がお手洗いに行っている間に。」

 

 

代理人は基本的に叫ばないし怒鳴らない。ただただ単調に怒り続けるだけなのだが、いつもであればため息とともに終わっている頃である。

だが今日はどうやら終わりそうにない。

 

 

「いや、口説いたわけではなくただちょっと話を・・・」

 

「もしそうなのであればもう少し言葉を選びなさい。 事あるごとに『美しい』とか『心奪われる』とか言えばあらぬ誤解を受けますよ。」

 

「それはそうだが・・・・・」

 

 

美しい人には美しいとはっきり言うのが信条のゲッコーにはやや納得のいかないようだが、代理人がここまで怒るのは何も客とのトラブルを避けたいと言うだけではない。

 

 

「ゲッコー、あなたはあなたが思っている以上に微妙な立場なんですよ。 正規の手続きを踏んでいない以上、何があった時に助けを呼ぶこともできないかもしれないんです。」

 

「代理人・・・」

 

「私たちはこの街で受け入れて頂いてますが、全てが全てそうだとは限りません。 我々のことを快く思わない方からすれば、あなたは格好の的なんですよ?」

 

 

ここまで言われて何も感じないほど薄情なゲッコーではない。代理人がここまで怒る理由、それは間違いなくゲッコーの身を案じてのことだった。

 

 

「・・・すまない。」

 

「わかればいいんです。」

 

 

それだけ言うとポンっと頭に手を置き、優しく撫でて奥に戻る代理人。

やっぱりこの人には敵わないなと思いつつ、ゲッコーもまた後に続いて戻っていった。

ちなみにゲッコーのナンパ癖は治らなかったものの、見境なく口説くことはなくなったのでトラブルも減ったようだ・・・もっとも、減っただけで無くなってはいないのだが。

 

 

end

 

 

 

番外13-2:普段は頼れる姉なんです

 

 

「うふっ、うふふふ・・・・・」

 

「・・・あの、姉さん?」

 

「あら? 何でしょうかガーランド?」

 

「楽しみなのはわかりますがまだ海は当分先ですよ。」

 

 

ここはS09地区、グリフィンの指令部。

いくつもある宿舎の一つであるRF棟の一室では、スプリングフィールドが買ってきた水着に着替えてはニヤついている。それを側から見ながらも脱ぎ捨てられた水着を畳んでいるのは、同室のM1ガーランドだ。

指令部の誰もが知るお姉さん人形、明るく親切で包容力のある頼れる人形、料理や掃除など家事全般もこなす万能人形、そんなイメージを持たれているスプリングフィールド()の非常に残念な側面を知る、数少ない人物だ。

 

 

(指揮官が絡まなかったらまともなのになぁ。)

 

「ふふふっ、見てくださいガーランド。 これなら指揮官の視線を釘付けにできます!」

 

「はいはい、今度はどんな・・・・・ってなんですかそれ!? ほとんど紐じゃないですか!!!」

 

 

ガーランドのツッコミなどどこ吹く風でほぼ紐な水着を披露するスプリングフィールド。ちなみに指揮官が絡むと残念になるのは周知の事実だが、恥じらいや貞操観念すら放り投げることを知るのはごくわずかである。

 

さっきまでもやや面積の小さいビキニやうっすらと透けそうな生地のものなどのキワドイ水着が多かったが、これは流石にいただけないと頭を抱えるガーランド。

姉の行動もそうだが、これでも指揮官が動じる光景を思い浮かべることができないという点が大きい。

 

 

「・・・姉さん、お願いですからそれだけはやめてください。 上手くいくいかない以前の問題です。」

 

「・・・・・チッ」

 

「舌打ちもダメです。」

 

 

指揮官さえ、指揮官さえ絡まなければまともなのに。

別に指揮官が悪いというわけではないし、誰にでも等しく優しい姉がここまでのめり込むのも喜ばしいのだが、スプリングフィールドに淡い幻想を抱く人形のためにもほどほどにしてもらわねばならないのだ。

ガーランドの苦悩は続く。

 

 

「い、いっそ丈の長いパーカーだけで中に何も着ないというのも・・・」

 

「姉さんっ!?」

 

 

end

 

 

 

番外13-3:夜のお誘い

 

 

「指揮官・・・今夜、お待ちしておりますね。」

 

「うむ。」

 

 

S09地区の指令部、そのカフェで行われたDSRと指揮官によるこの短い会話に、多くの人形が衝撃を受けた。特に指揮官ラブ勢の受けたダメージは計り知れない。現に、カフェのカウンターに立っているスプリングフィールドなんかは笑顔のまま凍りつき、傾けられたポットからコーヒーが延々と注がれている・・・というか溢れている。

 

 

「今夜・・・ですって・・・?」

 

「嘘よ・・・嘘よね指揮官?」

 

「す、スプリング?」

 

「」チーン

 

「メディーーーーック!!!」

 

 

阿鼻叫喚。ラブ勢でなくとも指揮官を慕う人形には少なからずショックだったようで、祝っていいのか悲しんでいいのかといったところだ。

しかし当の指揮官は

 

 

(うむ、今日も仲がいいな。)

 

 

とか思ってたりするのだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その夜。

DSRの部屋に招かれた指揮官の後を追ってやってきたラブ勢の人形たち。ちなみにスプリングは完全に落ち込んでおり、今はそっとしておくほうがいいと判断された。

 

 

「指揮官、私というものがありながら・・・」

 

「油断したわ・・・まさかDSRがここまで手が早かったなんて。」

 

「いえ、まだ間に合います。 今は機を待ちましょう。」

 

「しっ! 静かに・・・始まったで。」

 

 

四人は会話をやめ、ジッと聞き耳を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

『ーーーーーー。』

 

『ーー、ーーーーーー。』

 

『ーーーー! ーーー?』

 

『ーーー。』

 

 

 

((((全っ然聞こえねぇ!!!))))

 

 

思いのほか声のトーンが低く、会話の内容が全く聞こえない。おまけに茶でも飲みながら話してるのか、食器の音が邪魔でわずかな声もかき消えてしまう。

ただ、雰囲気からは割といい感じで話しているようには聞こえた。

 

 

「あかん! これは想定外や!」

 

「ど、どうしましょう?」

 

「扉か壁に穴を開ければ・・・」

 

「いやバレるでしょ。」

 

 

カチャンッ

ヒソヒソと話していると、突然食器が重なるような音が聞こえる。どうやら二人ともコップを置いたらしい。

これはチャンスとばかりに再び耳をくっつけると・・・・・

 

 

『ふふっ、じゃあお願いね。』

 

『あぁ。』

 

『・・・・んっ・・・はぁ・・・』

 

『む、痛かったか?』

 

『いえ・・・大丈夫よ・・・・・続けて。』

 

『そうか・・・では次だ。』

 

『んんっ! あぁ・・・気持ちいいわ・・・』

 

『それは、何よりだ。』

 

 

 

 

「「「「させるかぁ!!!!!」」」」

 

 

二人の会話にもうここでいくしかないと感じだ四人は、扉をブチ抜く勢いで開けはなつ。正直修羅場確定な案件だが、既成事実を作られるよりは何万倍もマシだ。

・・・・・と思っていたが。

 

 

「な、なんだお前たち。 緊急事態か?」

 

「・・・えっと・・・これは?」

 

「ふふっ、見てわからないかしら? マッサージよ。」

 

「ま、マッサージ・・・・・。」

 

 

ベッドの上でうつ伏せになるDSRと、その背中に手を添えている指揮官。指揮官のぽかんとした顔に、DSRのからかうような表情・・・・・

 

 

((((は、嵌められた・・・))))

 

「うふふ、何もやましいことはしてないのだけれど・・・何を勘違いしたのかしら? ねぇ指揮官。」

 

「ん? そうだな。」

 

 

事態を飲み込むにつれてだんだん顔が赤くなっていく四人に、DSRはただただ面白そうに笑うだけ。

この日、四人の中でDSRは要注意人物に位置付けられた。

 

なお、後日復活したスプリングがこのことを知ると、指揮官にマッサージ(という名のナニか)を敢行しようとして取り押さえられた。

 

 

end

 

 

 

番外13-4:グリズリー乙女化計画

 

 

S08地区、とある広場。

休日ということもあって人通り、特にカップルや親子が多いこの広場に、あの人形がいた。

 

 

(うぅ・・・早くきすぎちゃった・・・・・この服落ち着かないのよ57!)

 

 

広場の一角にある時計の下でやや顔を赤らめながら立っているのは、いつもの服ではなくワンピース姿のグリズリーだった。

彼女がここにいるのには、それなりに深いわけがある。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ねぇグリズリー。」

 

「なによ57。」

 

「あんた今度の日曜暇でしょ? ここに映画のペアチケットがあるんだけど・・・」

 

「行かないわよ。 しかもそれラブストーリーじゃない、あなたと見に行く理由なんてないわ。」

 

「私とじゃないわよ・・・・・愛しの彼と、よ。」

 

「ブフゥ!? ななななに言ってんのよ!?」

 

「まぁまぁ・・・彼も同じ日に非番よね? せっかくなんだから誘いなさい、というかあなたの名前で誘ったわ、OKだそうよ。」

 

「ちょっ!? ええっ!?」

 

「そんなわけで、今から服を買いに行くわよ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そんな感じでほぼ強引に服を買わされ(57持ち)、チケット(後で聞いたがこの地区の416が手配)を片手に想い人を待っているのだ。

夏を感じさせる薄手の服、慣れない肩や足の露出に戸惑いながらも、一方で期待感も膨らんでいった。

 

 

「・・・グリズリー?」

 

「へ? あ! こ、こんにちは。」

 

 

不意に声をかけられ、飛び上がりそうになるのをなんとか堪える。いつのまにかそこそこ時間が経っていたようで、彼も無事に合流できたようだ。

 

 

「その服・・・」

 

「こ、これは違うんです! 変な友人に無理やり押し付けられたというか気がついたら着させられていたというか似合わないのになんでこんな」

 

「・・・・いや、似合ってるよ。」

 

「っ!?!?!? ほ、ほんとですか?」

 

「あぁ。 可愛いと思うよ。」

 

「か、かわっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ、無意識で言ってると思う?」

 

「いや、映画の誘いの時も即答だったし、これはもしかすると・・・」

 

「いやぁあんたに相談して正解だったわよ、G11。」

 

「お褒めに預かり光栄だね。 あ、もう行くみたいだよ。」

 

「じゃ、私たちも行きますか。」

 

 

件の二人から少し離れた物陰で見守る変装済みの57とG11。堪え切れないニヤケ顔を必死に隠しつつ、二人もペアチケット・・・あの二人の真後ろの席の分を持って入っていった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

(あらぁ〜、二人とも可愛い反応ね。)

 

 

映画が終わり、出てくる客の中にその姿はあった。他の客が涙を浮かべたり映画の感想を言い合っている中で、二人は顔を真っ赤にしたまま一言も話さずに歩いてくる。

 

 

「・・・・い、いい映画でしたね。」

 

「そ、そうだね。」

 

(いやいや、二人とも映画どころじゃなかったくせに。)

 

 

映画はとある男女の恋愛を描いたものだが、このうち男の方が某国のスパイであったという設定だ。そのためアクション要素もあったりするのだが、その時ついついグリズリーが彼の腕にしがみついてしまう。そこからはもう二人とも意識しっぱなしで、映画の内容なんか頭に入っていなかったのだ。

 

 

「・・・あ、あの!」

「・・・な、なぁ!」

 

「「・・・・・・。」」

 

(あ、ヤバイ、めっちゃにやけてるわ私。)

 

 

同時に話し始め、同時に黙り込む。初々しいとかを通り越してもどかしい空気だが、まだ介入すべき時期ではない。

とはいえ流石にこのままでは微妙な空気のまま解散しそうなので、57とG11は次の手を打った。

 

 

「うわっ!?」

 

「え? きゃっ!?」

 

 

突然角から現れた女性とグリズリーが衝突、女性の持っていた飲み物がかかってしまう。女性は慌てているのか急いで謝り、そのまま走り去ってしまった。

 

 

「う〜、びしゃびしゃだよ・・・。」

 

「だ、大丈b・・・!?」

 

「え? どうしましたか・・・ってきゃあ!?」

 

 

今日のグリズリーの服は()()()ワンピース。当然濡れれば・・・まぁそうなる。

 

 

 

 

「ご苦労。 いい仕事だったよU()M()P()9()。」

 

「思いっきり悪役なんだけど・・・あれで良かったの?」

 

「えぇ、脈ありな彼なら濡れたままの彼女を放ってはおかないわ。」

 

 

路地に駆け込んだ女性・・・()()()UMP9は57、G11と合流する。ちなみに彼女がかけたのは文字通りただの水。

UMP9は服はもちろん髪型も変えているのでごく普通の一般人にしか見えない。というか義手以外人間なので人形センサーにも引っかからない。

 

 

「・・・で? ここで濡れさせると何があるの?」

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたわ。 ここはさっきの商業地帯から少し入ったところで、通称ラブロード・・・そういう店やホテルが多い場所なのよ。」

 

 

 

 

「・・・すみません、私から誘ったのに迷惑かけちゃって。」

 

「いや、気にすることはない。」

 

「「・・・・・・・・・・。」」

 

 

濡れたままの服で外にいるわけにもいかないので、とりあえず手頃な避難場所・・・『休憩』と書かれたホテルに入った二人。

入った時はとにかく乾かさないと、と思っていたのだが、落ち着いた途端とんでもないところに連れてきて(入って)しまったと気づき気まずくなる。

腕時計の小さな針の音だけが響き、それがますます気まずさを増長させる。

 

 

「あ、あーその・・・濡れたままなのもアレだし、シャワー、浴びておいで。」

(ああああ何いってんだ俺は!!! この状況でシャワーとか誤解されんだろ!!!)

 

「え!? あ、そ、そうですね!」

(しゃ、シャワー!? って違う違う! 親切心で言ってくれてるんだからそんな・・・・・うぅ、変に解釈しちゃって恥ずかしい・・・)

 

 

 

 

「・・・あれ、どう思う?」

 

「う〜〜〜〜〜ん・・・・いけそうだけどヘタレそう・・・」

 

「ん? でも替えの服って無いよね?」

 

「「・・・バスタオル一枚・・・・・」」

 

 

あれ?これ心配しなくても襲うんじゃね?

現にさっきから意識しまくりな二人、特に彼の方はシャワーの音にも過剰に反応している。これでタオル一枚で出てきた日には・・・・・。

 

 

「・・・・念のため、ドアだけ外から閉じときましょうか。」

 

「「そだね。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、結局二人が出てきたのは明け方であり、ドア封鎖が無駄になったのは言うまでも無い。

 

 

end




やっちまったZE☆
実は恋愛絡みでまとまった番外編ってこれが始めてなんだよね。

あ、そう言えばとある作品にイラストがつきましたね! 417ちゃんめっちゃ可愛かった!
うちのとこも書いてくれないかなぁ〜(チラッ)


そんな冗談はさておき、各話解説。

番外13−1
五十二話の後日談。
M16にもハンターにもペルシカにもみっちり怒られましたが、こう言う怒り方の方が精神的にくるかな。
ゲッコーは喰っちゃ捨てるというわけでは無いのでご安心を。

番外13−2
五十三話の後。
この番外編が初登場となるガーランドさん、開幕早々苦労人ポジ入り。
春田さんが一際目立ってますが、ガーランドもなかなかなボディをお持ちですね。実は当初は春田さんではなくガーランドが残念になる予定でした。

番外13−3
五十四話の数日後。
何気に連続登板の春田さん。
コミュニケーションボイス3から思いついた話で、よくある「止めに入ったらマッサージだった」というアレ。
指揮官の得意項目にマッサージが追加されました。

番外13−4
五十五話の数日後。
コラボ回(救済回)の416は「人間と人形がくっつくなら応援する」という理由で、UMP9はたまたま捕まえました。
指揮官よりマシな鈍感男にするつもりだった『彼』ですが、こんな感じの話もありかなということで割と普通な性格に。
寿退社まったなし・・・かな?


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第五十六話:アニマル?セラピー

代理人に癒しを、とか聞こえた気がするので。
ガルムにすると大きすぎて店を圧迫するのでダイナゲートに変更。


カランカランッ

喫茶 鉄血の入り口のベルが鳴り、その日は実に珍しい客が訪れた。

店のカウンターから出迎えの声をかけようとした代理人は、しかしその声を中断せざるを得なくなる。

 

 

(あら? いたずらでしょうか?)

 

 

扉は開き、今まさに閉じようとしているのだが、その扉の周りには誰もいない。近所の子供か、はたまた稀に訪れる反人形思想の者か、しかしいつまでたってもそれらしい人影も見えず、代理人は首をかしげる。

そんな時、ふと足元に何かが擦り寄ってくるのが見えた。視線を下ろすと、そこにいたのは一体のダイナゲート。だがここのマスコットとは違い背中のアーム等がなく、完全に『箱に足がついている』だけのダイナゲートだった。

 

 

「? 珍しいお客様ですね。」

 

『っ! っ!!』

 

 

代理人に気づいてもらえたのが嬉しいのか、顔を見上げてぴょんぴょん跳ねるダイナゲート。とはいえダイナゲートに言語機能は存在せず、ごく一部(喫茶 鉄血のダイナゲートなど)に搭載されている人形間通信システムも、このダイナゲートには載せられていないようだ。

 

 

「すみません、流石に言葉はわかりませんが、とりあえず奥に行きましょうか。 ・・・D、少し店を任せましたよ。」

 

 

そう指示を出し、代理人ははぐれダイナゲートを抱えて奥へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

同じ頃、S09地区にて。

 

 

「・・・・・なに? デストロイヤーが?」

 

「えぇ、まだこっちの家に帰ってきてないらしいの。 一昨日向こうを出たはずだから、どれだけ遅れても今日の夜明け前には着いてるはずなのに。」

 

 

そう話すのはアルケミストとドリーマーの二人。仕事がひと段落したデストロイヤーがこちらに帰ってくるということで、簡単な出迎えパーティーを開こうと思っていた矢先に、その情報が伝わったのだ。

 

 

「まさか・・・誘拐か?」

 

「それこそまさかよ。 非武装でもあの子の力は相当なもんだし、まして帰ってくるときには護身用に武器を持ってる。」

 

「とにかく足取りをつかむことが先決だな。 お前はグリフィンの方に連絡を取ってみてくれ。 私はアイツが降りた空港周辺の情報を集める。」

 

 

二人にとって妹分のようなデストロイヤーだ。彼女を探すために、二人は端末を片手に走り出した。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・通じませんか?」

 

『ーーーーー。』

 

「わかりました。 店の方に戻っておいてください。」

 

 

場所は戻って喫茶 鉄血。増築された三階の代理人の部屋では、ダイナゲート同士のコミュニケーションが図られていた。が、なぜか互いに通じることはなく、このダイナゲートにはそもそも通信能力がないことがわかったくらいだ。

仕方なく店のダイナゲートを下に帰し、じっとこのダイナゲートを見つめる。ごく少数販売された民間ペット用かとも考えたが、あちらはむしろコミュニケーション能力が高めに付けられているし、またアーキテクトに試作品かとも思ったがそれにしては何の特徴もない。

ただ、どことなくしょんぼりしたりする仕草はあるのでちゃんとしたAIは使っているようだ。

 

 

「・・・仕方ありませんね、持ち主が現れるまでは保護しましょう。 ・・・・・ん?」

 

 

とりあえず部屋に置いて自分も店の戻ろうとするが、ふと見るとこのダイナゲート、ところどころ汚れているのがわかる。

あっちこっちを走り回ったのか知らないが、流石に返すときに汚れたままでは可哀想だろう。そう思った代理人は、タオルと汚れ落としを持ってダイナゲートを持ち上げる。

 

 

「結構汚れてますね。では掃除しますのでじっとしておいてくださいね。」

 

 

そう言ってダイナゲートのボディを拭いていく。足回りはもちろんだが意外と全体的に汚れており、それらを隅々まで拭いていく。

ダイナゲートはそれを、どことなくくすぐったそうにしながら受けていた。・・・というかそんな感覚があるのだろうか。

 

 

(ペットというのも・・・悪くないかもしれませんね。)

 

 

そう思う代理人は、無意識に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

さて再びS09地区の一角。

二人の懸命な情報収集の結果、デストロイヤーはここに向かう途中に簡易メンテナンスのために鉄血工造に向かったことを知る。ところが出迎えるはずのゲーガーもサクヤも彼女の姿を見ておらず、研究室から出ていないアーキテクトはもちろん知らない。

 

 

「ど、どうしようアルケミスト。 デストロイヤーに何かあったら・・・」

 

「落ち着け、まだそうと決まったわけじゃない。 とにかく今から向かうぞ。」

 

 

二人は急ぎ鉄血工造へと向かう。

そこに、驚きの事実が待っていることも知らずに。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

『っ!? っ!!!』

 

「ふふっ、こうしてみるとちょっと可愛いですね。」

 

 

さらに戻って喫茶 鉄血の代理人の私室。

そこでは非常に珍しいことに、代理人が見たことのないほど頬を緩ませてダイナゲートを撫でている。ダイナゲート的にもちょっと予想外なのか、足をばたつかせているが全く意に介さない。

やがてダイナゲートが抵抗を諦めると、代理人は膝の上にちょこんと乗せて猫のように撫でる。

 

 

「〜♪ 〜〜〜♪」

 

 

いよいよ鼻歌まで歌い出す代理人。というか意外と音程が外れている気がする。心なしかダイナゲートも微妙そうな顔に見えなくもない。

 

 

「ふふふっ♪」

 

 

まぁ代理人が楽しそうなので、じっとしておくことにした。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

同刻、鉄血工造。

その研究室の一室で、アーキテクトが壁際に追い詰められている。その前には鬼のような表情の四人組・・・アルケミストとドリーマー、ゲーガーにサクヤだ。

 

 

「・・・これはどういうことだアーキテクト?」

 

「待って待って!? 今度は本当に知らないよ!?」

 

「まだシラを切る気か貴様? あの場にこれがある時点で言い逃れはできんだろ!」

 

 

そう言って指差す先に転がっているのは、探し回っていたデストロイヤー、より正確に言えばその体だ。AIが完全に抜け落ち、抜け殻のようになっているが。

 

 

「私だってびっくりしたんだよ!? あんなとこに入れた覚えなんてないし、第一身内を実験台にするわけないじゃない!」

 

「はいダウト! 貴様に前科がある以上信用できるか!」

 

「アーキテクトちゃん、自首しよ?」

 

「待ってサクヤさん!? その笑顔はちょっと見せちゃいけないやつだよ!?」

 

 

ギャーギャーと揉める五人だが、そこにある下級人形がやってくる。

 

 

「アーキテクト様、持ってきました。」

 

「でかした! これで私の無実が証明されるよ!」

 

 

彼女の部下が持ってきたのは監視カメラの映像。パァッと明るくなったアーキテクトは急いでそれを再生する。

自分の無実が証明されると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・あれ? こっちにも入り口あったんだ。』

 

 

「おい、開放厳禁の扉がなぜ開いている?」

 

「ちょ、ちょっと閉め忘れただけだよ。」

 

 

『暗いわね・・・誰かいる?』

 

『んあ? 寝ちゃってたか・・・どこまで進んだっけ・・・・・』

 

『おーい。 誰かいないの?』

 

『え〜っと・・・あ、これを押して起動チェックと。』ポチッ

 

ゴウンゴウン

『え!? 何!? 何なの!?』

 

『AI転送システム起動・対象ヲ ロック シマス』

 

『ちょっ!? 何これ出れない! あ! アーキテクト! 助けて!!!』

 

『これで・・・よし・・・・・Zzzz』防音ガラス越し

 

『アーキテクトぉおおおおおお!!!!』

 

 

 

 

ピーーー

『転送ガ完了シマシタ』

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 

「・・・何か申し開きは?」

 

「申し訳ございませんでしたぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん・・・ふあぁ・・・あら、寝てしまいましたか。」

 

 

窓から差し込む西日で目が覚めた代理人。腕の中ではすっかり大人しくなってしまったダイナゲートが心配そうに見上げている。

本来睡眠を必要としない人形(鉄血製は特に)だが、つい眠ってしまうくらいに疲れていたのだろうか。

 

 

「ふふっ、なぜかゆっくり眠れた気がします。 これもあなたのおかげでしょうか?」

 

 

そう言ってニコリと微笑みかける代理人。

だがその平穏(?)は階下から聞こえてくる喧騒で四散した。しかも声の主たちはドカドカと上に上がってくる。

 

 

バァーーーーン

「代理人! 居るか!?」

 

「見つけた! この子だよ!」

 

「え? あの? 皆さん???」

 

 

代理人の疑問の声など完全に無視して闖入者・・・アルケミストやアーキテクトたちはぞろぞろと部屋に入る。

そして代理人が抱えるダイナゲートを一瞬で捕獲すると、アーキテクトは強引に機械に接続し始める。

 

 

「ちょ、ちょっとアーキテクト?」

 

「代理人、疑問はもっともだが今は我慢してくれ。」

 

「事態は一刻を争うんだよ代理人ちゃん!」

 

 

アルケミストもサクヤも真面目な顔でそういうので大人しく待つことにする。しばらくジタバタ暴れていたダイナゲートだが、やがて大人しくなると同時に機械のモニターが点灯する。

そこに写っていたのは、なぜか二頭身くらいにデフォルメされたデストロイヤーだった。

 

 

「で、デストロイヤー?」

 

『ちょっとアーキテクト! 何なのよこれは!?』

 

「仮想空間の新型スキンだよ! ・・・てのは置いといて、これで無事確保できたね。」

 

「あの・・・これは一体?」

 

「あぁ、実はな・・・・・」

 

 

 

 

 

アルケミスト説明中・・・

 

*仮想空間スキンとは、AIを仮想空間に移すことで体型や服装などを自由にエディットできる、人形にとっては夢のような装置なのだ(発売日未定・外部操作可)

 

・・・中明説トスミケルア

 

 

 

「・・・というわけだ。 迷惑をかけたな代理・・・人?」

 

「・・・・・・。」

 

 

アルケミストからとてもわかりやすい説明を受けた代理人だが、正直途中から全く頭に入ってこなかった。

・・・つまり、今まで散々撫で回したり抱きしめたりしていたのはデストロイヤーだった?あのニヤケ顔も鼻歌も寝顔も見られた?

そこまで考えると同時に体温が急上昇、熱処理もできぬままにパタリと倒れてしまった。

 

 

「ちょっ!? 代理人!? 代理人!!!」

 

「オーバーヒートしてる! とりあえず冷まさないと!」

 

『代理人!? どうしちゃったの!?』

 

「また何かやったのか貴様!」

 

「やってない! 今度こそ何もやってない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、目を覚ました代理人は顔を真っ赤にしながら部屋に閉じこもり、枕に顔を埋めていたという。

 

 

end




可愛い代理人が描きたくなった。
ところでイベントのUMP装備が全然落ちないんですがどうすればいいでしょうか?


さてではキャラ紹介

代理人
書くまでもないが本作の主人公。
最近個性あふれる人形やトラブルに見舞われたのでちょっとお疲れ。
皆の前では凛とした姿でいたいため、今回デストロイヤーに見られたのは相当恥ずかしかった様子。
後日、ペット機能満載のダイナゲートが贈られた。

デストロイヤー
多分原作でも有数のスキンを持つ人形(ノーマル・ガルム・ガイア)
原作よりかははるかにまともだがそれでもポンコツなのでこんな事に巻き込まれる。
代理人と一緒にいられたので結果オーライ。

アーキテクト
みんなのトラブルメーカー。
人形でも疲労が溜まるくらいに研究に没頭した結果、今回の事件が発生。
なお実験自体は成功しているので満足している。

アルケミスト・ドリーマー・サクヤ・ゲーガー
みんなの保護者たち。
やたら暴走しがちなアーキテクトを四人がかりで見張っては取り押さえる。
一人当たりの負担は減ったがアーキテクトのレベルも上がった。

仮想空間スキン
スキンとついているが要するにキャラエディット装置。
人形たちの夢を叶える・・・というのが建前で、外部から人形をあんなことやこんなことするために作られた。
有料コンテンツにRー18MODもある。




いつものことだけどとんでもなく頭の悪い作品だな(開き直り)


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第五十七話:邂逅

互いに遠く離れたネット上の人だと思っていたら共通の友人がいたというような感じ。

・・・そんな夢みたいな話、あったらいいですね。


それはとある日の喫茶 鉄血での出来事。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん。」

 

「なんですかD。」

 

「あれ、ヘリアンさんだよね?」

 

「えぇ、そうですね。」

 

「・・・黙ってれば美人だよね。」

 

「本人には言わないでくださいよD。」

 

 

そんなくだらない会話が生まれるくらいには暇な店内では、代理人とDが窓際の席を見ている。そこに座って端末を眺めているのは、グリフィンでは(いろんな意味で)知らぬ者などいない有名人のヘリアントスである。

今日はどうやら仕事ではなくただの客として来ているようで、夏らしい涼しげな服装だ。そして時折微笑みながら端末を見るその姿は、ヘリアンのことをよく知らぬ者からすれば思わず見惚れてしまうものである。

 

もっとも、それはあくまで端末の中を見なかった場合ではあるが。

 

 

(へぇ、前回のUMP三姉妹モノかぁ・・・45総受けだったかな?)

 

 

そんなことを一人考えるのは、同じく窓際の席、ヘリアンの背中側の席で端末を覗き見るG11である。

ヘリアンの端末・・・彼女愛用の作業用パッドには、彼女の作品が山のように入っている。練習のためのまともな絵から、ジャパニーズ・コミケ用の作品まで。しかもそのほとんどが戦術人形を題材にしたものだ・・・彼女からすれば身内を売っているようなものである。

 

 

(まぁ一回ハッキングしたんだけどね。)

 

 

彼女がこの席でこうやって自分の作品を眺めているのはそこまで珍しくもない。どうやら過去の作品を見返すことで、新しいインスピレーションが浮かぶようだ。

そのため以前、ヘリアンが席を立った隙に中身を吸い出したことがあるのだが、さすがというか付き合いの多いAR小隊か404小隊が圧倒的に多い。

G11自身人の趣味にケチはつけないし、吸い出したのだっていざという時の取引(脅迫)材料のためだ。

 

さてそんなヘリアンだが、これだけ穏やかな表情を浮かべながらもちょっとした、本人にとっては重大な悩みがある。

 

 

(・・・いいネタがないな。)

 

 

過去の作品を流し読みしてはみたが、どうもピンとくるものがない。彼女がメインに書くのはグリフィン人形であり、あまり人間を書くことはない。また鉄血人形は最近この界隈で話題の『写本先生』なる人物が人気を独占しており、今から書き始めるにはややハードルが高い。というか立場上問題になりかねない。

 

 

(写本先生、か・・・一度会ってみたいものだな。)

 

 

一応ネット上では互いのことは認知しているが、願わくばあって直接語らいたいのだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜休憩〜!」

 

「お疲れ様、何か飲みますか?」

 

「んー、じゃあアイスティーで。」

 

 

仕事合間の休憩に入り、ついでにケーキも注文(こっちは自腹)したマヌスクリプトは、早速愛用の端末を開く。流石にここで絵を描くと騒がれるので描かないが、SNSで作家仲間の情報や活動報告には目を通す。

 

 

「お? 『向日葵』さんも今日は休みか。 ネタがないのは辛いねぇ。」

 

 

その中の一人、最近知り合った『向日葵さん』(ペンネーム・日陰の向日葵)のページをみていく。今日は休みだとかネタが浮かばないだとかいろいろ書いてあるのを読み進めつつ、ふとあるところで目が止まった。

 

 

『行きつけの店でコーヒーブレイク。 あ、なんかネタが浮かびそう!』

 

「・・・・・うん?」

 

 

つい数分前に投稿されたつぶやきに書かれたコメントと載せられた写真をみて、マヌスクリプト首をかしげる。写っているのはなんの変哲も無いよくあるケーキとコーヒーのセット・・・・・なのだが、そのコーヒーカップの柄に見覚えがあった。

 

 

「あれ? これってうちのやつじゃない?」

 

 

こだわってはいるがこの店にしかないと言えるメニューはそんなにない喫茶 鉄血。そんなわけでせめて食器だけでもオリジナルをということで、鉄血工造のロゴをモチーフにした絵柄の描かれた食器を使っていたりするのだが、それが写真に載っているのである。

 

思わず顔を上げて周りを見る。暑くなってきたこの時期にホットコーヒーを頼む人はそう多くない、その中でケーキまで頼んでいる人物となれば・・・・・

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

(あ、向こうも気がついたかな。)

 

 

相変わらずヘリアンの後ろで端末を覗き見るG11は、写本先生ことマヌスクリプトがヘリアンに気づいたことを確認する。この場でヘリアンとマヌスクリプトの活動内容やペンネームを知るのは彼女くらいで、それ故これから起こるであろうことを想像すると笑いがこみ上げてきそうになる。

 

さて、『向日葵さん』がヘリアンだということに薄々感づいたマヌスクリプトだが、恐る恐るといった感じで近づいていく。一応ヘリアンと面識はあるが、その第一印象はまさに仕事人間、正直こんなもの(同人作品)を書いているようには見えないのだ。

 

 

「・・・こ、こんにちはヘリアンさん。」

 

「ん? おぉマヌスクリプトか、休憩か?」

 

「えぇ、まぁ。 ここいいですか?」

 

「あぁ、構わん。」

 

 

さて役者は揃った、あとは二人がカミングアウトするのを待つだけ。G11は寝たふりをしながら黒い笑みを浮かべてじっと待つ。何気に接客以外でマヌスクリプトが敬語を使うのもレアなので、今後はそれもネタにしていこうと思う。

そんなこんなで数分、ヘリアンとマヌスクリプトは軽い世間話から入り、ついにその瞬間が訪れた。

 

 

「ところでヘリアンさん。」

 

「ん? なんだ?」

 

「・・・・・『日陰の向日葵』って、知ってます?」

 

「っ!?」

 

 

その言葉に思わず動きが止まるヘリアン。表情に出さないのは流石は上級代行官といったところだが、ピタリと止まった手や顔から動揺がうかがえる。

必死に笑いをこらえるG11・・・わずかに肩が震えているがそれに気付くものはおらず、ヘリアンとマヌスクリプトも話を続ける。

 

 

「な、なんのことだ?」

 

「えっと、その・・・・わ、私が『写本先生』です!!!」

 

(〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!)

 

 

とぼけるヘリアンにいよいよ我慢の限界、というか緊張に耐えられなくなったマヌスクリプトが小声で叫ぶように宣言する。

当然G11は笑ってしまうが、机に伏せることで気づかれないようにする・・・・・何もないのにプルプルと震えている時点で十分怪しいが。

 

さて、意を決したカミングアウトを行ったマヌスクリプトだが、チラッと見るとヘリアンが目を輝かせながらこちらを見ていた。

 

 

「お、おぉ! 君が・・・いや、あなたが写本先生か! まさかこんなに近くにいるとは!!」

 

「〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

さっきまでとは打って変わってやたらと饒舌に話し始めるヘリアン、というかキャラ変わりすぎだろ。

G11もいよいよ声が抑えきれなくなってきたのか、口元に手を当ててなんとか堪える。側から見ればバレバレだが、幸い二人にはまだバレていない。

 

 

「なるほどなるほど確かに鉄血人形なら鉄血のことは詳しいはずだなぜそんなことに気がつかなかったのだろうかいやしかし本当に会えて光栄だいつも新作を楽しみにしているところで・・・・・」

 

「は、はぁ? なんでしょうか?」

 

 

堰を切ったように話しだすヘリアンに若干圧倒されながらも、そんな彼女からどんな疑問が飛んでくるのか身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はAR小隊で描こうと思うんだが・・・・・M16には生やすべきか?」

 

「生やしましょう、というか生やさない選択肢なんてないです!」

 

「だな!!!」

 

「ブフッ!!」

 

 

ついに吹き出してしまうG11だが、二人とも熱く話しているので気がつかない。

ヘリアンの疑問も疑問だが、それに間髪入れずに即答するマヌスクリプトもかなり手遅れ感がある。しかもヘリアンからすれば親友(ペルシカ)の娘を、マヌスクリプトからすれば上司(代理人)(M4)の姉をネタに盛り上がっているのである。

・・・・・ペルシカが助走をつけて殴りそうな案件だ。

 

 

「M16と言えばAR小隊の実質長女といっていいでしょうそんな彼女が慣れないモノに翻弄されたり妹たちに治療と称されてあんなことやこんなことされたり・・・・・描くしかないでしょ!!!」

 

「勿論だ! AR-15がため息をつきながらも興味津々で近づいてきたりROが顔を真っ赤にしながらも『これは必要なことです!』と言いながら寄ってきたりSOPが何も知らないまま段々染まっていったりM4が甲斐甲斐しく世話してくれたり・・・・・夢が広がるじゃないか!」

 

「ぷっ、くく・・・・ひひひひ・・・・」

 

 

声を出して笑えるなら床を転げ回っているくらいに限界が近づくG11。

マヌスクリプトのM16に対するイメージもそうだが、ヘリアンの頭の中も完全に腐りきっている。鼻息を荒くして息継ぎすらも忘れて語り合う二人には恐怖すら覚えるが、幸か不幸か題材にされている者が誰一人ここにいないので止めようもない。

 

その後数時間に渡り熱く語り合った二人は連絡先を交換し、後日合同作品を描くことを約束しあって御開きとなった。

数時間にわたって笑いをこらえ続けたG11は酸欠状態で机に突っ伏し、閉店までぐったりする羽目になった。

 

なお、本来一時間の休憩を無断で数倍に延長したマヌスクリプトは、代理人からのキツイ説教と小遣い削減が言い渡されたという。

 

 

 

end




原作よりもある意味残念なヘリアン女史。
そして愉悦部筆頭のG11。

グリフィンはもうダメかもしれない(今更)



さてさてでは解説

マヌスクリプト
ネットでは『写本先生』と呼ばれる、人形モノ同人界に颯爽と現れたサラブレッド。それまで数の少なかった鉄血メインを大量に描き上げ、今や鉄血モノ=写本先生とまで言われる。
純愛からハードまで幅広く対応。

ヘリアン
合コンの負け犬が余計な方向に進化を遂げた姿。ペンネームは『日陰の向日葵』(ヘリアントスは向日葵の学名)。
三次元に愛想を尽かし、二次元で性欲やら何やらを開花させ、ある意味身内とも言える戦術人形モノを描きあげる。グリフィン所属という権限を活かした細部までの書き込みが人気。
なにかと姉妹をくっつけたがる。

G11
もうお馴染みの愉悦部。
この話を匿名でAR小隊に流すのも面白そうだし、AR小隊宛に買って送るのも面白そうだと思っている。
自分がネタにされることに特に何も思っていないが、受けに回ることが多いのには不満な様子。





UMP三姉妹モノ
ちょっと前に再会を果たした三人の姿に感銘を受けたヘリアンが徹夜で休日返上で描いたもの。
再開してべったりな40とそれに嫉妬する9、二人に翻弄されながらもなんとか仲良くさせたい45の姿が描かれる。
通常版と18版がある。





たぶん今までで一番ひどい内容(笑)


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第五十八話:スイーツ女子

人形だから太らない、そう思っていた時期が私にもありました。


「春、といえば?」

 

「イチゴのパフェが美味しいですよね!」

 

「では夏は?」

 

「スイカ! あとマンゴータルトとか!」

 

「秋。」

 

「大学芋にスイートポテト、モンブランもありかも!」

 

「・・・冬は?」

 

「みかんとりんご! そのままでも美味しいですよね!」

 

「・・・・・果物とかお菓子ばかりですね。」

 

「だって好きなんだもん!」

 

 

いよいよ夏のような暑さになってきた今日この頃。喫茶 鉄血でも夏に向けた涼しげなメニューを増やす中、そんなことを言いながら試作のフルーツセット(フルーツパフェとフルーツティー)を頬張るのは水色の髪を揺らした人形、SPAS–12である。

メニューとして出す前のモニター役に誰かきてもらおうと思ってはいたが、この人形は人選ミスだったのかもしれない。

 

 

「・・・それで、感想の方は」

 

「ん? 美味しいですよ!」

 

「いえ、例えばどこがどう美味しいとか・・・」

 

「ん〜〜〜・・・全部!」

 

 

今からでもM4あたりを招待しようか、割と本気でそう思う代理人。美味しいと言ってもらえるのは嬉しいのだが、彼女の場合なんでもそう言いそうなのでモニターとしては・・・。

さてそんなことを考える代理人をよそに、SPASは最後の一口をペロリと平らげ、見事完食した。

 

 

「あ〜美味しかった〜! ごちそうさまでした。」

 

「いえ、こちらこそ配属前にご協力いただきありがとうございます。」

 

「いえいえ、また何かできたら呼んでください。 ではさようなら!」

 

 

最後だけちょっと慌ただしくなったが、荷物をまとめたSPASは最後に愛銃を担ぎ、()()()()()()()S()0()9()()()()()()へと向かった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

数日後。

あの日ふらっと現れて試食を頼んだSPASだが、この平和すぎる地区に配属になって以降は何度も喫茶 鉄血を訪れ、今では常連のようになっている。

その度にケーキとかパフェとかを頼んでくれるので、代理人としては割とありがたい客なのだ。

 

・・・・・なのだが、それも流石に行き過ぎれば心配する。

 

 

「・・・ところでSPASさん?」

 

「モグモグ・・・ん? なんでしょうか?」

 

「あれから毎日のように来ていただけるのは嬉しいのですが、大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫ですよ! お給料も食べる以外に使い道もありませんから!」

 

「そうですか・・・ところでここ数日この街のケーキ屋さんで爆買いする女性の目撃情報が・・・」

 

「どこのケーキも美味しいですよね! 同じショートケーキでも場所で全然違いますし。」

 

「・・・・・ちなみに一日にいくつぐらい食べるんですか?」

 

「う〜〜〜〜ん・・・最低三つ?」

 

 

それが何かと言わんばかりに目の前のケーキ・・・今日これで四つ目のケーキを平らげる。もうとっくにこの店のメニューは食べ尽くしているはずなのだが、それでも毎回美味しそうに食べてくれる彼女に代理人も嬉しく思う。

が、さすがに見過ごせないものもある

 

 

「・・・SPASさん、大変言いづらいのですが、その・・・・・」

 

「ふぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ちょっと、丸くなりましたか?」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、S09地区の歯医者(と言う名のなんでも診療所)

 

 

「・・・うん、なるほどね〜。」

 

「ど、どうでしょうか先生?」

 

「・・・・・・。」

 

 

一通りの診察を終え、ついでに問診も済ませた歯医者の言葉を、SPASは祈るような気持ちで待っている。

もっとも、代理人はすでに答えは決まっているとして黙ったままであるが。

 

 

「・・・まぁ私の本業は歯医者だからね〜、虫歯とかになってないから止めはしないけど〜・・・」

 

「そ、それじゃあ!」

 

「まぁ端的に言えば太ったかな〜。」

 

「」

 

 

目から光を失わせて固まるSPASと、あぁやっぱりという目で見守る代理人。今回の診察に当たってIoPからSPASのデータを借りてきているのだが、まぁたしかに色々とついてしまっている感は否めない。

・・・おもに二の腕とか脇腹とか頬とか。

 

 

「SGタイプの人形ってそんなに動かないでしょ〜?」

 

「ウッ」

 

「 それにこの地区はパトロール以外ほとんど出番がなくて〜。」

 

「グフッ」

 

「しかも毎日高カロリー高脂肪の食生活〜・・・・・太って当然だよね〜?」

 

「カハッ!」

 

「おまけに〜・・・」

 

「あの、そこまでにしてあげませんか?」

 

「・・・・・・チッ

 

 

いい笑顔で小さく舌打ちする歯医者。一方ぐうの音も出ないほど現実を叩きつけられたSPASは、まるで魂が抜けたような顔で椅子に沈む。

・・・だが、彼女の苦労というか災難は、まだこれからなのだ。それを伝えるのは、配属初日にモニター役なんてものを任せてしまった自分がやるしかない。

 

 

「・・・まぁ、その・・・しましょうか、ダイエット。」

 

「うぅ・・・・・例えば?」

 

「適度な運動と・・・・・甘いものを控えるとか。」

 

「あと野菜もしっかり食べようねぇ〜。」

 

「あ、甘くなければ大丈夫ですよね!?」

 

 

運動はまだいい、これでも戦術人形だ。

野菜も別に構わない、嫌いというわけでもないし。

だが甘いもの自粛は待ってほしい、それが生きる糧なのだ。というか自粛なんてできるはずがない。

そんなわけでじゃあビターなものならという提案は、残念ながら二人とも首を横に振るという結果に終わる。

 

この翌日以降、街ではジャージ姿で涙を流しながら走るSPASの姿が見られるようになり、喫茶 鉄血では低カロリーメニューが追加されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで代理人ちゃん〜?」

 

「? なんでしょうか?」

 

「君は相変わらず素晴らしいプロポーションだけど〜、何かしてるのかな〜?」

 

「いえ、特に何もしていませんが?」

 

「・・・・・・・世の中不平等だよね〜。」

 

「???」

 

 

end




虫歯になるんだから太りもする、それが戦術人形。
・・・ぶっちゃけ『人形』としてなら欠陥以外の何物でもない機能だけど。


そんなわけでキャラ紹介

SPAS–12
公式からして食いしん坊なキャラ。割と肉付きのいい体をしてるが、これはIoP技術部の趣味。
アストラ並み、いやそれ以上によく食べる上に甘味に目がなく、結果として重量増加を招いた。
歯は磨いているので虫歯にはならない。

代理人
新メニューを考案しては誰かにモニターを頼んでいる。今回はたまたま配属前に訪れたSPASに頼んだが、ある意味それが全ての元凶。
特に努力もせずに体型を維持出るタイプ。

歯医者
歯医者と言う名の万能医。
事実を言っているが伝え方が完全にSのそれ。
昔は丸かったらしい。


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第五十九話:頑張れMG5隊長!

本作品における元祖ポンコツ。

何気にこの人もスキン多いですよね。


カランカラン

「いらっしゃいませ・・・あら、MG5さん。 お久しぶりですね。」

 

「ああ、久しぶりだな代理人。 二階の個室は空いているか?」

 

 

六月に入りいよいよ夏のような暑さが本格的に顔を出し始めた今日、額の汗を拭いながら入ってきたのはMG5、それと彼女が率いるMG部隊の隊員たちだ。

MG部隊の隊長、といってもそれは一部隊の隊長というわけではない。MGのみの編成やSGとの混成など、様々な場合において指揮官を持つ、いわばMGたちの作戦指揮官といった立場なのである。

そんなわけで彼女が連れてきたのはPKやPKP、M1918に62式にFF M249SAWなどなどのMG人形たちである。

 

 

「えぇ、空いていますのでご自由に。 一応、使用目的を伺っても?」

 

「ただの反省会、というか振り返りだ。機密に関わるものはないから気にしなくていい。」

 

 

それだけ言うと部下を引き連れて上に上がる。初対面でのインパクトとかが強かったが、どうやらちゃんと隊長としてやっていけているらしい。

幸い、部下にも本性(ポンコツ)はバレていないようだ。

 

 

「・・・さて、何かお菓子でも持っていきましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶 鉄血には個室がある。金曜夜のバーのためにやや力を入れた一階部分とより広々とした二階で構成されているが、その二階の一角に設置されているのが個室である。壁と扉に囲まれているが小物などもあって割とオシャレなのだ。

その個室に集まったMG人形一同は、先日行われた強化訓練期間の反省会兼振り返り会を始めていた。

 

 

「さて、みんなご苦労だった。 慣れないことも多かっただろう。」

 

 

隊長であるMG5の言葉に、緊張した面持ちで聞いていた隊員はホッと息をつく。PKやPKPなどの割と古参なメンツはともかく、作戦や関連以外での関わりがあまりない他の隊員からすれば、MG5のイメージは物静かで厳格な人物なのである。現にこの会が始まる前からピクリとも笑らっていない。

 

・・・というのが他から見た彼女である。

 

 

(よ、よし。 なんとか緊張を和らげることはできたな。)

 

 

製造され、MG部隊の隊長に就任してそこそこ経つはたずなのだが、未だに慣れていないのである。

そもそも製造当初は人前で話すことすら稀であったのだから、むしろここまで来れたことの方が驚きといえば驚きだ。よほどMG34の教導はキツかったらしい。

 

 

(次は、一人一人の問題点の指摘か・・・うぅ、胃が痛くなってきた。)

 

「・・・まずM1918。 動きは良くなったがリロードの時にもう少し周りに気を配れ。」

 

「うっ、はい・・・。」

 

(ああもうせっかく落ち着いたのになんでもっと優しく言えないんだ私は!)

 

 

これが部屋で一人だったら頭を抱えて転げ回っているだろう。一応言うとM1918もその指摘は自覚していたので、そこまで落ち込んでいると言うこというわけではない。

・・・まぁそれがわかれば苦労しないが。

 

 

「・・・・・次は、PKだな。 技術面で言うことはないが、お前の言葉は小隊長としての言葉だという自覚を持つように。」

 

「は、はい!」

 

 

(や、やっと二人目・・・後何人続くんだ・・・・・。)

 

 

今すぐ泣いて逃げ出したい気持ちを抑え(そもそもそんな度胸もない)、他の部下の指摘を続けていった。

そんな様子を壁越しに見守るのは、飲み物と茶菓子を持ってきた代理人だった。

 

 

(ふふ・・・なんとかなりそうですね。)

 

 

MG34から連絡があり、もし空気が悪くなったらちょっと助けてほしいと言われた代理人。あまり心配はしていなかったものの、念のためにと気にかけてはいたが・・・

 

 

(どうやら杞憂だったようですね。)

 

『・・・まぁこんなところか。 ともかくご苦労だった、明日は休みだから各自しっかりと休むように。』

 

『『『『『はい!』』』』』

 

 

元気のいい返事とともに会が終わったことを確認すると、代理人はドアを開けて入る。

人数分のコーヒー又は紅茶を配る中、ふと見るとMG5の足がわずかに震えている。というよりポーカーフェイスを保っているがガッチガチに固まった表情は代理人にバレバレである。

その様子に代理人はふふっと笑うと、茶菓子を置きながら近くの人形に話しかける。

 

 

「怖い隊長さんですね。」

 

「っ!?」

 

「え? いえ、厳しいですけどいい人ですよ。」

 

「指導も丁寧だし、危ないときはしっかり止めてくれるし。」

 

「どんな時でもヘラヘラせずに真面目に話を聞いてくれますから!」

 

 

おおよそ代理人が予想していた通りだが、皆MG5には好意的な様子。ちょっと身構えていたMG5もそれを聞いていくうちに少しだけ安心したようで、足の震えは無くなっていた。

 

 

「・・・みんな、ありがとう。 好きなものを頼んでくれ、私の奢りだ。」

 

『ありがとうございます! 隊長!』

 

 

次々とくる注文を聞き取りながら、代理人は相変わらず真顔な、しかしどことなく嬉しそうなMG5を見て、少し微笑んだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なぁ代理人、彼女たちの言葉は本心なんだろうか?」

 

「あら? 部下を疑うのですか?」

 

「えっ!? いや、そ、そういうわけではないが・・・」

 

 

部下たちを解散させ、一人店に残ったMG5はコーヒーを飲みながら呟く。あの時は素直に嬉しかったが、元々の過小評価気質なせいかやや疑心暗鬼になっているようだった。

代理人の前ではこんなにも表情豊かでおどおどした彼女が、部下の前では厳格な隊長として振舞っている、そう思うと少し可笑しく思うのだった。

 

 

「まぁもう少し笑ってみるといいと思いますが、彼女たちはあなたを嫌っているわけではありませんよ?」

 

「・・・多分、そうなのだろうが・・・・・私といても楽しくなさそうというか、むしろ余計なプレッシャーをかけているんじゃないかと。」

 

「考えすぎですよ。 あなたのことはMG34も私もわかっていますから・・・まさか、私たちも疑われているんですか?」

 

「なっ!? 違うぞ! 私はただ・・・」

 

「ふふっ、わかっていますよ。」

 

 

クスクスと笑う代理人に、MG5は大きくため息をつきながら机に伏す。その頭を、代理人は優しく撫でる。

 

 

「・・・すぐには変わらないものです。 人も、人形も。 ご自分のペースでは進めばいいですよ。」

 

「・・・そう、だな・・・・・ありがとう、代理人。」

 

「えぇ、どういたしまして。」

 

 

今度は、自分から歩み寄ってみよう。そう心に誓ったMG5は、残ったコーヒーを飲み干した。

 

 

 

この後彼女は部下との交流を積極的にしていくのだが、それがまた新たな騒動を呼んでしまう。

それはまた、別のお話。

 

 

end




最近いろんな作品で代理人が出てきますね、嬉しい限りです!
これは是非一度、全作品の代理人を集めたコラボ回とかやってみたいところですが・・・収集つかなさそうなのでやめときましょうか。


ではではキャラ紹介を。


MG5
MG部隊の隊長。MG人形最古参のMG34から直々に指導を受けた優秀な人形・・・なのだが中身はかなりヘタレなポンコツ。
真面目で努力を怠らないが、部下との距離感を掴めないでいる。
代理人の前では素でいることが多い。

MG部隊
MG人形のみで構成されている部隊・・・というのもSG人形配属以前はARやSMGと組ませにくく、いっそMGだけで固めて運用しようという流れでこうなった。
現在はSG人形の普及によりMGのみでの作戦は減ったが、状況によりけりなのでMGのみでの対処法も続けている。

強化訓練期間
MGそれぞれや欠点の洗い出しや成長確認を目的とした訓練期間。
性能的な欠点としてはリロードの遅さや弾のばらつき、個別の場合は視野の狭さや移動速度など。
隊長格やMG34などはAR並みに動くことができる(MGとは一体・・・)


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番外編14

今回の目次
・代理人、ペットを飼う?
・発覚
・食いしん坊万歳
・ラノベハーレム系主人公
の四本です。



・・・前書きに書くことなくなってきたなぁ。


番外14-1:代理人、ペットを飼う?

 

 

ここはとある街のペットショップ。S09地区を含むこの辺り一帯では最大規模を誇る大型のペットショップで、犬猫はもちろん鳥類やネズミ系の小動物、蛇などの爬虫類から昆虫まで禁制品以外のほぼ全てを取り扱っている。それらが階層ごとに別れており、さらに細かな種類や大きさでもエリアで分けられていて、それぞれ専門のスタッフが常駐している。

そんなある意味動物園のような店を、代理人とデストロイヤーは訪れていた。

 

 

「それで代理人、どんなのを飼うの?」

 

「まだ飼うと決まったわけではありませんが、あまり大きいものは難しいかと。」

 

 

先日の一件でアーキテクトからペット用のダイナゲートを贈られた代理人だが、プログラミングされた仕草にあまり満足せず、またデストロイヤーも代理人は実は疲れているのではと思いこうして同伴しているのである。

・・・・・見た目には親子としか思えないが。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・困りましたね、見て回れば回るほど飼ってみたくなります。」

 

「動物に好かれやすいもんね代理人、犬でも猫でも鳥でも蛇でも。」

 

「そうですね、なぜでしょう?」

 

 

午前中いっぱい使って一通り眺めた代理人とデストロイヤーは、軽い昼食がてら併設されている猫カフェなるところに来ていた。お値段は少々お高いが猫と触れ合える人気の店だ。

二人は座椅子のある席に座り軽食を取っているのだが、すでに代理人の周りには何匹も猫が集まっている。

心なしか代理人の表情も緩んでいる。

 

 

「・・・やっぱり子猫とかがいいんじゃない?」

 

「ふふっ、私もそう思います・・・デストロイヤーは何か飼いたいのですか?」

 

「私? う〜〜ん、飼ってみたいけどずっと一緒にいられるわけじゃないしなぁ。」

 

 

クスクスと笑いながら話す二人。

この日は結局買わなかったが、代理人は時々この猫カフェを訪れるようになったという。

 

 

end

 

 

 

番外14-2:発覚

 

 

(最近暇ね〜。)

 

 

IoP、16labの一室。

その部屋の主であるペルシカは頬杖をつきながらコンピューターを眺めていた。映し出されている図面はあのAR小隊たちを基にした人形のもの・・・なのだがほぼ白紙である。

 

 

(また誰かのパソコンでも覗こうかなぁ・・・ポチッと。)

 

 

こんな時の暇つぶし、天才的頭脳の無駄遣いとも言えるハッキング&覗きで部下のPCを拝見する。ネットの購入履歴や閲覧履歴など面白いことがあれば今後のネタにするだけだ。

はっきり言って立派な犯罪だが、残念ながらここ(16lab)に彼女を止められる者はいない。

 

 

(・・・お? 面白そうなのみっけ!)

 

 

探し回ること数分、研究員の一人の購入履歴に『年齢認証』が必要なものがあるのを見つける。出会いがなかったり研究一筋であっても男だ、こういうものを買うのは理解できる。

だがそれをネタにするしないは別問題、ということで何を買ったのかと開いてみると・・・

 

 

「・・・・・え、なにこれ?」

 

 

ペルシカは自分の頭が急速に冷静になっていくのを感じた。そこに映し出されたのはペルシカの予想通り()()()()本だったのだが、その表紙とか内容が大問題だった。

なんとよりによって、AR小隊(彼女の愛娘たち)の本だったのである。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「この本の作者のこと、全部吐きなさい。」

 

「ぺ、ペンネーム以外のことは知りません!」

 

 

発見してわずか数十秒、件の部下のところに殴り込みをかけたペルシカは怒りを通り越して真顔で詰問する。だが残念なことに本からわかること以上の情報は得られなかった。

 

 

(仕方ない・・・・・その『日陰の向日葵』とやらのSNSから探すか。)

 

 

ともかく本は没収し、ペルシカはその天才的頭脳を使って犯人を探し始める。

数時間後、ある人物へと辿り着くと同時にグリフィン本部へとヘリを飛ばすのだが、それはまた別のお話。

 

 

end

 

 

 

番外14-3:食いしん坊万歳

 

 

「人形が太る理由、ですか?」

 

「その、たまにふt・・・いろいろ付いてしまう人形がいると聞いて。」

 

 

訓練も任務のなにもないある日、SPASはIoP本部の開発部を訪れていた。自身の重量増加はもしかしたら仕様とかなんらかの機能的理由があるのかもしれないというわずかな望み、ダイエット生活から逃れたいという願いから、自身を開発した担当官に話を聞きに言ったのだ。

 

 

「ですがなぜそんなことを?」

 

「えっ!? いや、ちょっと気になる噂だったので・・・」

 

「・・・あ、もしかして太りましtゲファ!?」

 

「はっきり太るとか言わなでください!」

 

 

とっさにぶん殴ってしまったが彼女はきっと悪くないだろう。デリカシーのないこの男が悪いのだ。

 

 

「ふむ、そうですね・・・」

 

「なんでケロッとしているんですか・・・」

 

「それは私が研究者だからです。」

 

「えぇ・・・・・」

 

「さて、結論から言いますと・・・単純に余剰カロリーが人工皮膚などに脂肪としてつくというだけです。 人形の運動はほぼ全て内部の駆動機関で行われますので、どれだけ走っても脂肪が落ちることはありません。」

 

「ええ!? じゃあダイエットは・・・」

 

「えぇ、無意味です。」

 

 

orz

両手をつけて項垂れるSPAS。正直手を抜いていたし間食もなんだかんだでやってしまっていたが、はっきり無意味だと言われるとそのショックたるや。

しかもその理屈だと、飲まず食わずで落ちるまで我慢(人形は本来食事を必要としない)しなければならないということになる。

・・・・・ダイエット以上の苦行、いや地獄だ。

 

 

「そんな・・・私はどうすれば・・・」

 

「ん? 簡単ですよ。 ようは本来のボディに余計なものがついているだけですから・・・」

 

「それをどうやって取れというんですか!?」

 

 

号泣しながらすがりつくSPASに、男ははっきりと言い放つ。

 

 

「修復ポッドを使えば治りますよ。」

 

「・・・・・・・・は?」

 

「人形のハード部分を元に戻す、それが修復ポッドですから。 ですので以前の虫歯、でしたっけ? それも修復ポッドで治ります。」

 

「え、でもそんな話一度も・・・」

 

「えぇ言っていません。 虫歯になったり太ったりする方が人間っぽいでしょう?」

 

 

しれっと言い放つ男に、今度こそ脱力してヘタリ込むSPAS。

その後修復ポッドに入り元の姿に戻ったSPASは、喜び勇んで喫茶 鉄血へと走っていった。

 

 

end

 

 

 

番外14-4:ラノベハーレム系主人公

 

 

それは、反省会後のある日。

 

 

「この日はこうして、次の日はこう・・・よし。」

 

 

私室でカレンダーと予定帳、部下の任務担当日などを見ながら予定を組んでいくMG5。部下との距離を詰めるために彼女が取った手段は、一日一人ずつ話を聞きながら一緒に過ごすというものだった。

もちろん彼女たちも予定や仕事はあるが、そこはMG部隊長としての権限で合わせる。

 

 

「・・・・・よし、早速来週からか・・・が、頑張るぞ!」

 

 

 

 

月曜日

 

「で、どういう風の吹き回しなんだ隊長?」

 

「いや、たまにはPKPとも二人で話し合いたいと思っていたからな。」

 

「ふ〜ん・・・なぁ隊長、MGってテロとか暴徒鎮圧が主だろ? 私は他の任務も請け負ってもいいんじゃねえかって思うんだが。」

 

「ふむ、例えば?」

 

「災害復興とか難民救助とか・・・壊すだけがMGじゃねえだろ?」

 

「・・・そうだな。 ありがとうPKP、お前と話せて正解だったよ。」

 

 

火曜日

 

「聞いてくださいよ隊長! また近所の子供達に『BARちゃん』って言われたんですよ!? 確かにモデルになった武器は古いですけど私はまだお姉さんくらいの年数しか生きてませんよ!」

 

「あ、あぁそうだなM1918、だが子供は直感で物を言うんだからあまり真に受けるのも・・・」

 

「それはぱっと見がばーちゃんってことですか!?」

 

「い、いや違うぞ! それに君の見た目は美しいお姉さんそのものじゃないか。」

 

「・・・・・はっ! だ、騙されませんよそんなやすい慰めなんかで・・・」

 

「出まかせなんかじゃないさ、私はそう思っている。 ・・・お前は綺麗だよ。」

 

「〜〜〜〜〜っ!!! ・・・あ、ありがとうござい・・・ます。」

 

「うん、わかってくれてよかったよ。」

 

 

水曜日

 

「なぁ隊長、前に日本に行ったんだろ? どうだった?」

 

「ん? あぁ、ヤーパンか。 そうだな・・・楽しかったよ。」

 

「いいなぁ、私も行きたいよ。」

 

「ふふっ、なら今度は隊の全員で行くか。」

 

「そうだな! あぁ楽しみだ・・・温泉に刺身に布団に怪談!」

 

「・・・・・か、怪談?」

 

「そう、怪談! その時は朝まで語ろうぜ隊長!」

 

「あ、あぁ・・・・そうだな・・・・」

 

 

木曜日

 

「FFはその・・・隊に仲のいいやつはいるのか? その、よく一人でいるのを見かけるが。」

 

「・・・心配してくれてるの隊長? 大丈夫、一人でいるのが好きなだけ。」

 

「・・・そうか。」

 

「・・・・・でも、隊長といるとなぜか落ち着く。 嫌いじゃない。」

 

「FF・・・。」

 

「私・・・隊長の部隊に来れて、良かった。 ・・・・・また話を聞いてくれる?」

 

「あぁ、勿論だ。」

 

 

金曜日

 

「・・・・・・・・。」

 

「だ、大丈夫かPK? 顔が真っ赤だが・・・」

 

「だ、大丈夫です隊長!」

 

「そ、そうか・・・なにか悩みとかあれば、話してくれていいんだぞ?」

 

「えっ!? いえ、その・・・・わ、私は・・・」

 

「ん? なんだ?」

 

「私は・・・た、隊長の・・・・・・・隊長のことが・・・・・・・・・・・」

 

「私が?」

 

「・・・・・・や、やっぱりなんでもありません! 失礼します!!!」

 

「なっ!? おいPK!? PKぇえええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

土曜日

 

「うぅ・・・・・やっぱり私はPKに嫌われてるんだ・・・」

 

「気のせいですよMG5、本当に嫌いならあんなにオシャレをしてきますか?」

 

「・・・あれはきっとあの後誰かに会う予定だったんだろう。」

 

「・・・・・・・はぁ。」

 

 

end




最近9(嫁)や45姉(ポンコツ枠)やM4(天使)が出てない気がする。
それだけ魅力的なキャラが多いのがドルフロのいいところだね!


ではでは各話解説!

番外14-1
五十六話の後日談。
猫に囲まれながらうとうとする代理人という絵が浮かんできたのでそれをモデルに書いたもの。
某司令部の美味しそうな名前の猫を出す予定だったが、文量が軽く三倍にはなりそうなのでカット。

番外14-2
五十七話の数日後。
ついに保護者にバレたヘリアンの運命は!?
なお同時刻にマヌスクリプトもアルケミストに〆られた模様。

番外14-3
五十八話のちょっと後。
人形が太る理由とかをいろいろ考えた結果、この設定ならいけそうな気がした。これなら無理がないはず!(目そらし)
ちなみにこのことを公表しない理由は、見ていて楽しいから。

番外14-4
五十九話の翌日以降。
もっと隊員はいるが、一部抜粋。
ちなみにFFはFF M249SAWという人形(第6戦役のボスドロップ)。
MG5とPKがくっつくかは私の采配次第だ(ニヤリ)


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第六十話:感謝と感情

アーキテクトはよく出るのにこの娘の出番があんまりないのはね・・・。


「・・・なぁ代理人。」

 

「なんでしょうかゲッコー?」

 

「あそこでカタログを眺める見目麗しい女性は誰だろうか?」

 

「鉄血工造のゲーガーですよ。 あと口説こうとする前に仕事してください。」

 

 

今日も平常運転な喫茶 鉄血。店内では代理人やそのダミーたち、マヌスクリプトにゲッコーに下級人形たちがせっせと働いている。

・・・気がつけば鉄血工造以上のハイエンド保有数となっているが、気にするものは誰もいない。

そんな店内の、四人席の大きいテーブルの上いっぱいにカタログを広げているゲーガーは、人形機能をフルに使って読み進めてはため息をついて閉じるを繰り返している。

またアーキテクト絡みかとも思ったが、苛立っている様子はないので違うと推測する。では何事だと代理人が近づけば・・・

 

 

「・・・『ギフト選び』、ですか?」

 

「ん? あぁ代理人か。 まぁそんなところだ。」

 

 

広げられているのはどれもギフトや贈り物の特集が組まれたもの。内容は花束や食べ物、アクセサリー類に旅行券など様々で、よくよく見れば発刊年数もバラバラだった。

おそらく今書店に並んでいるものや倉庫で眠っていたものをかたっぱしから集めてきたのだろう。

 

 

「それで、どなたにあげるつもりですか? ・・・・・まさかアーキテクトに?」

 

「ははは・・・代理人も冗談がきついな。」

 

 

私が奴にあげるはずないだろうと笑うゲーガー。まぁ常日頃の行いのせいなので何も言えないが、これでも別に嫌っているわけではないのだ・・・・・好きでもないが。

さてそうなると、あと一人くらいしか思い浮かばなくなる。

 

 

「サクヤさん、ですね?」

 

「そうだ。 サクヤさんには世話になってばかりだから、何かお返しをと思ってな。」

 

「ふふっ、サクヤさんのカウンセリングを受けてから、顔色も良くなりましたしね。」

 

 

サクヤがやって来る前のゲーガーはそれはもうひどい状態だった。年中暴走特急なアーキテクトを監視し、指揮能力に欠けるアーキテクトに代わって会社を運営し、アーキテクトがやらかせば自分が頭を下げる。

その結果、人工皮膚は荒れに荒れて目元にはクマが現れて元々白い顔もまるで歌舞伎役者のごとく真っ白。一度見かけた街の歯医者が素で心配するくらいには酷かった。

 

だからこそ、サクヤを迎え入れた後の変化は劇的なものだったという。サクヤとて生まれた世界が違うとはいえペルシカ並みの天才だし、人形開発主任としてのノウハウもあった。アーキテクトも完全に懐き、ゲーガーも話しているだけで楽になれたりもした。

そのため、一部の下級人形からは『天使』とか『救世主』とか呼ばれている。

 

 

「・・・今あの頃に戻ったら間違いなく過労で倒れてるよ。」

 

「迷惑をかけますね・・・。」

 

「いや、代理人が謝ることじゃないさ。」

 

 

そんな何度もやったやり取りに笑い合うと、再びカタログに目を落とす。どれも良さそうだがいまいちピンとこない物ばかりで、しかしそこそこいいものばかりなのでバッサリ切り捨てるわけにもいかない。

しかも・・・

 

 

「あの人のことだ、何をあげても喜んでくれるんだろうが・・・」

 

「だからこそ『一番』がわからないんですよね。」

 

 

思えば自分たちの要望やわがままは聞いてもらっているが、サクヤがわがままを言ったところをあまり見たことがない。言ったとしてもそれは人形のためだったりするので参考にもならない。

なにより、サクヤのことを知らなさすぎる。

 

 

「生まれも育ちも別の世界だから故郷のものもないし、今までの好みとか思い出の品とかもほとんど向こうにあるものだろう。 それにあまり踏み込んでいきたくない。」

 

「そう、ですね・・・・」

 

 

考えれば考えるほど泥沼にはまっている気がする。チラッと奥を見るが、ゲッコーはそもそもほぼ面識がないしマヌスクリプトの場合は自分で絵を描くとか言いそうだ。あいにくとゲーガーにそんな技術はない。

 

やっぱりシンプルに花束だろうか・・・いや、そのうち枯れてしまうか。

食べ物に関しても、サクヤ含めて鉄血工造三人組は料理が上手というわけでもない。

アクセサリーならどうだ・・・ありかもしれないがあまり興味がないようにも見える。

旅行券は・・・それなら全員でと言われそう、というか言われる

 

 

「じゃあみんなで旅行に行って、美味しいもの食べて、お土産プレゼントして帰ってきたらいいんじゃない?」

 

「ん〜〜〜そんなに詰め込んで大丈b・・・ってアーキテクト!?」

 

 

いつの間に現れたのか、目をキラキラさせたアーキテクトがそこにいた。

 

 

「やっほーゲーガーちゃん! ちなみに私は南国に行きたいぞ!」

 

「それはお前の要望だろ! しかもサクヤさんならそれでいいって言いそうだからダメだ!」

 

「こんにちはーって私がどうしたの?」

 

「わああああなんでもない!」

 

 

アーキテクトが連れてきたのか、今だけは会いたくなかったサクヤまでやってきた。どうにか隠そうとするがテーブル一杯の冊子を細身のゲーガーが隠し通せるはずもない。

 

 

「ん? 旅行に行きたいのゲーガーちゃん?」

 

「い、いや、そういうわけではなく・・・・」

 

「じゃあ今度みんなでいこうよ! そして南国でバカンス!」

 

「お前は黙ってろ! ・・・・その、サクヤさんはどこか行きたいところとかないか?」

 

 

もうサプライズは諦めて大人しく意見を聞くことにするゲーガー。アーキテクトがブーブー言っているが務めて無視する。

 

 

「行きたいところ・・・・・・・海、かな?」

 

「ほら! じゃあ南国で決まりだね!」

 

「頼むから黙っててくれ・・・・・なぜ海なんですか? いや、別にダメだというわけではありませんが。」

 

 

正直に言えばサクヤと海に全くの接点が思い浮かばない。このS09地区は内陸にあるし、もしかしたらサクヤもあっちにいた頃から海を見たことがないのかもしれないが・・・・・。

まぁ何であれサクヤの要望は聞き出せたので、それをもとに計画を練ることにする。

 

 

「・・・本当はサプライズが良かったんだが、私からのせめてものお返しだ。 受け取ってくれるか?」

 

「ふふふっ、お返しなんていいのに。・・・・でもありがとね、ゲーガーちゃん!」

 

「っ! あ、あぁ。」

 

 

サクヤの笑顔に不意にドキッとしてしまうゲーガーと、それを面白そうに見つめるアーキテクト。

いぢりネタが見つかった悪ガキのような表情を浮かべ、そっと耳元で囁く。

 

 

「・・・それはもしかしたら、恋かも。」

 

 

この後ゲーガーが顔を真っ赤にして慌てふためき、それをさらにアーキテクトがいじって追いかけっこが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

という予定だったのだが・・・・・。

 

 

「恋・・・・・そうか・・・これが恋か・・・・・。」

 

「え? あれ? ゲ、ゲーガーちゃん?」

 

 

アーキテクトの言葉など全く聞こえていないようで、楽しげにカタログを眺めるサクヤを見つめているゲーガー。想定外すぎる展開にアーキテクトの方が慌て始めるが、いまさら嘘だとか冗談だとか言える雰囲気でもなくなり一人微妙な表情で固まる。

 

 

「・・・・そうか・・・・・私はサクヤさんが好きなんだ・・・・。」

 

「うん? 何か言った?」

 

「・・・いや、なんでもない。 それよりどこに行こうか?」

 

「うーーーん、仕事もあるからあんまり遠出はしたくないんだよね。」

 

「なら一番近い場所は・・・ここだな。」

 

 

地図を広げ、二人で行き先を決め始める。今回ばかりは完全に蚊帳の外なアーキテクトだが、頭を整理すると再びニヤリと笑みを浮かべ、この旅行で二人をくっつけるべく策を練り始める。

 

この数日後、荷物をまとめた三人は車で海に向かう。

そしてそこで、忘れられない思い出を作るのだった。

 

 

end




ゲーガー、恋に芽生える。
でもサクヤさんって一応恋人がいるんですよね・・・もう会えないけど。
ところでその恋人、今は『海上にある』基地にいるんですよね。そして彼女たちが向かう先は海・・・・・・。


うん、言ってみただけで深い意味はないです。



ではキャラ紹介!

ゲーガー
鉄血工造の苦労人。アーキテクトの暴走に過労死寸前までいったが、サクヤのおかげでなんとか持ち直せた。
アーキテクトの何気ない一言で恋を抱いていると自覚する。
割と積極的になる予定。

サクヤ
完全に馴染んでいるが元は別作者様の作品の人物。
過去を振り切って前に進む強い人物で、ゲーガーもそこに惹かれた。

アーキテクト
我らがトラブルメーカー筆頭人形。
引かぬ、媚びぬ、顧みぬ、アーキテクトに逃走はないのだ!
ただし素の戦闘力はハイエンド最低クラスなので捕まったら終わる。



この話の続きは番外編で!


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第六十一話:おばあちゃんの憂鬱

合法ロリババァというある意味強キャラ。
年来確認待った無し。


ロリッ娘、という存在がいる。呼び方は幼女だったりチビだったり天使だったりと色々だがようは小さな子供のことである。

一方で合法ロリ、という言葉がある。類義語にロリババァや見た目は子供などがあるが、つまりは見た目はアウトだけど年齢的にはOKというやつである。

 

 

「まったくグリフィンのお偉方は頭が硬いのぉ! ワシだってウォッカが飲みたいし未成年でもないというのに!」

 

「いえ、見た目というかイメージというか・・・面倒な団体に目をつけられるからでは?」

 

「言いたい奴には言わせておけば良い、ところでこの店にはウォッカはあるか?」

 

「まぁ一応は。」

 

 

とある金曜日の夕方。

まだまだ明るいが店によっては閉め始める時間であり、喫茶 鉄血も『喫茶店』としての営業時間もあと僅かになった。そんなタイミングでやってきて涙をこぼして熱弁するのは、グリフィンの古参人形のナガン M1895である。

彼女の悩み、それは単純に見た目の問題なのだが、これには一応訳がある。IoPが人形を開発した当時、そのプロジェクトの責任者がこう言った。

『武器の大きさに合わせて体を作ろう』と。

その結果、初期に設計されたハンドガン人形の多くは年齢の低そうな見た目で、しかし元となった銃はわりとロングセラーなものを選んでしまった。そうして出来たのが、見た目と中身のミスマッチである。

ナガンの場合はモデルがロシア銃、同国モデルのモシン・ナガンがそうであるように、彼女もまたウォッカ好きだった。

 

 

「それは良かった。 この後はバーになるんじゃろ? 一杯用意しておいてくれ。」

 

「・・・司令部に戻らなくていいんですか?」

 

「くくっ、言い訳など山のように用意しておるわ。」

 

 

黒い笑みでそういうあたり、碌でもない言い訳であることがうかがえる。というか指揮官(上司)を騙してまで飲みたいのか。

そんなことをしているうちに店の奥の時計からアラームが鳴る。どうやら閉店時間のようで、それを聞いた客たちも荷物をまとめ帰り支度を始める。

もっとも、ナガン同様に何人かはこの後も残るようだが。

 

 

「くくく、楽しみじゃな。」

 

「ほどほどに、ですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、なぁにが『子供はお酒買っちゃダメよ?』じゃ! グリフィンの社員証を見せても信じてもらえんかったぞ!」

 

「・・・はぁ〜〜〜〜〜。」

 

 

喫茶 鉄血改めBar 鉄血、開店してわずか十分後の出来事である。この店では代理人のこだわりでちょっとでもいいものを直接仕入れていることが多い。コーヒー豆や茶葉などはよく知られているが、実は酒類もちゃんと選んで仕入れている。

結果、ナガンはいつもの安いウォッカから格段にグレードアップした味に、完全にペースを間違えたらしい。

 

 

「モシン・ナガンと買い出しに行った時でさえ、『可愛いお子さんですね。』なんて言われる始末じゃ! モデルの製造年もそこまで違わんわ!!!」

 

「それ、モシン・ナガンさんもショックだったのでは?」

 

 

実際『母親』に見られたモシン・ナガンは、その時こそかろうじて笑顔で乗り切ったが、司令部に戻るやいなや部屋に閉じこもってしまったという。

まぁ身長差といい体型といいカラーリングの似た服といい、親子に見られなくもないが。

 

 

「うぅ・・・いいんじゃいいんじゃ、どうせ世の男なんてボインなナイスバディが好きなんじゃろ? わしだってその気になればできるんじゃぞ!」

 

「飲み過ぎですよナガンさん。」

 

 

ちなみにナガンはこれで誰かに話しかけているというわけではない。酔った勢いでただベラベラと喋り続けているだけだ。

またナガンの言う『なれる』とは、以前にKarが作ってもらったヤツ(番外編2–3参照)のことである。ペルシカ曰く技術的に難しいことではないらしいので、頼めば理想の体型がすぐ手に入るのだ。

 

・・・・・特に胸と身長を気にする人形から注文が殺到しやすい。

 

 

「代理人、おかわり。」

 

「・・・これが最後ですよ?」

 

「代理人もそんなことを言うのか・・・世間は老人に厳しいのじゃ。」

 

「都合の悪い時だけ老人にならないでください。」

 

 

へっ、と鼻で笑いながらウォッカをあおるナガン。まぁ普段は自制できている彼女がここまで荒れるのだから、古参なりの苦労とか苦難があるのだろう。

と思っている間にまたコップを差し出してくる。

 

 

「・・・それ以上飲むと言い訳できなくなりますよ?」

 

「人形のアルコール分解機能を使えば問題ない。」

 

「ん? そんな機能ありましたっけ?」

 

「一応全員に積まれておるが・・・まぁ知っておるのは初期に製造された人形くらいじゃな。」

 

 

これのおかげで騙せとるんじゃよ、とケラケラ笑うナガン。おばあちゃん扱いが嫌だったりするわりにはその立場をちゃっかり利用するあたり、意外とそこまで気にしていないのかもしれない。

さて再び差し出されたコップにウォッカを注ごうとした代理人だったが、ふと入り口の方に目を向けて急いで引っ込める。目の前でお預けをくらったような形となったナガンはムッとするが、肩にポンっと手を置かれて一気に青ざめる。ついでにさっきまで赤くなっていた顔が一気に冷めていくのは、例のアルコール分解機能を使ったからなんだろう。

 

 

「ナガンさん?」

 

「ど、どうしたんじゃモシン・ナガン?」

 

 

振り返った先、代理人ですら見たことがないほど真顔のモシン・ナガンが見下ろしていた。そこでようやく、代理人が酒を隠した意図を知る。同時に、それが手遅れであったことも。

 

 

「ねぇナガンさん、ナガンさんは今何してたの?」

 

「ま、待て、これには深いわけが・・・」

 

「な・に・し・て・た・の?」

 

 

怒鳴るわけでもなく、にらみを聞かせるわけでもない、ただただ真顔で迫ってくるだけ。

司令部での立場はナガンが上だが、今この場では見事に逆転した。

ここまでモシン・ナガンが切れる理由、それは・・・・・

 

 

「騙したの? 指揮官を。」

 

「えっと・・・その・・・・・」

 

「騙したの?」

 

「わ、悪かった! この通りじゃ!」

 

 

愛しの指揮官に迷惑をかけるものは敵、とまではいかないが言語道断だと判断するモシン・ナガン。指揮官ならまぁわけを話せば許してくれるだろうが彼女は無理そうだった。

 

 

「・・・ねぇ代理人、なんで止めなかったの?」

 

「私に飛び火しますか・・・・来ていただいた方は等しく『お客様』ですから。 注意喚起はしますけど。」

 

「あとは自己責任、と?」

 

「えぇ。」

 

 

これがDとかマヌスクリプトだったらしどろもどろになった挙句余計なことを言っていただろうがそこは代理人、この程度で動じる人形ではない。

モシン・ナガンもとりあえずは納得したようで、改めてナガンに詰め寄る。

 

 

「・・・・・帰ろっか?」

 

「そ、そうじゃな! 指揮官も心配すr

 

「つべこべ言わずに会計して。」

 

「アッハイ」

 

 

後ろからの無言の圧力に怯えながら代金を支払うナガン。さっきまでとは一転して悲壮感溢れているが、まぁ自業自得だろうと努めて無視する。

会計が終わると同時に、ナガンは首根っこを掴まれて引きずられていった。

 

 

「ま、まて! 歩ける! 歩けるから!!!」

 

「・・・・・・・。」

 

「なんとか言ってくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

悲痛な叫びを残して店から消える白服二人組。

徐々に遠ざかる悲鳴を聴きながら、代理人は・・・・・

 

 

「・・・さて、片付けましょうか。」

 

 

今回のことは見なかったことにした。

 

 

 

 

end




頼れるおばあちゃんだったり副官だったりツッコミ役だったりすることが多いナガンおばあちゃんですが、うちではこんな感じです。


というわけでキャラ紹介

ナガン
多くの指揮官が初期からお世話になるであろうハンドガン人形。
ウォッカ好きなのじゃロリという犯罪臭漂う人形。
作者はリボルバーが好きなので割とお気に入り。

モシン・ナガン
信じられるか?この娘、この作品の最初のゲストなんだぜ?
指揮官ラヴァーズの中では問題行動の少ない方だが、指揮官過保護でもある。
彼女の真顔だけは全く想像できないが、きっと怖い。

代理人
開店前は人権団体に、開店後はこんなトラブルに巻き込まれやすいある意味幸薄な人形。
それでもめげずにほぼ毎日営業している。
この世界のロボット協会では喫茶 鉄血は聖地として、代理人は聖母として崇められているとか。


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第六十二話:ちょっとしたイタズラ・・・・・のつもりが

可愛い女の子にイタズラされたいだけの人生であった・・・
学生生活ももう一年ないのにそんな気配微塵もねぇよ!


某日、16labにて。

 

 

「ペルシカ、いる?」

 

「ん? AR-15、どうしたの?」

 

 

任務の帰りにペルシカの研究室を訪れたAR-15。ペルシカが気づくと彼女は自身の愛銃を手渡し、調子が悪いから見て欲しいと伝える。

ペルシカは銃の専門家ではないが、彼女が設計したAR小隊と404小隊だけは銃から人形まで全て一人で治せる。

 

 

「わかった・・・・・でもそれだけなら呼んでくれれば私が行ったのに。」

 

「それはついでよ。 ・・・頼みたいことがあるの。」

 

 

AR-15はペルシカに耳打ちする。一瞬驚いた顔になったペルシカだが、やがて二人ともニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

数日後、相変わらず平和なここS09地区の一角でそれは行われていた。

その場所は喫茶 鉄血、その二階にある個室である。終日貸し切られたそこには物々しい機械が並べられ、窓からは小さなアンテナが顔を覗かせる。

普通はこんな利用目的などあり得ないし認めない代理人だが、今回だけは常連として特別に認めている。

 

 

「これでよし・・・あとは二人が会うまで待つだけね。」

 

「うわ、AR-15の悪そうな顔久しぶりに見たよ。」

 

 

部屋に集まるのはAR小隊の面々。今回の企みの主犯格は、意外なことに優等生っ子のAR-15だった。

 

それは、ペルシカに相談しに行くさらに数日前のこと。

その日は任務も何にもなく、出かける用事すらなかったAR-15は日がな一日テレビを見たり本を読んだらしていた。そんなある時、ふとテレビをつけると面白い番組をやっていたのだ。

それは遠く離れた島国・・・・・ニッポンのバラエティー番組で、様々な出演者に数々のドッキリを仕掛けるというもの。普段は見られない反応や表情が見られたりする(もともとの人物像も知らないが)ので、そこそこ楽しみながら見ていた。

そして、ある企画に目を止める。それは、双子が入れ替わっても気付くかどうかというものだった。見た目も声もそっくりだから、あとは仕草さえ合わせればもう見分けがつかなくなる。

 

それを見て、AR-15の悪戯心が首をもたげる。すなわち・・・・・

 

 

「ハンターは、私とダミーを見分けられるのかしら。」

 

 

ということである。

双子には僅かに差異があるものの、人形のダミーは見た目に限れば一切の違いはない。問題はソフト面だが、それもすでに解決済みだ。

 

 

「・・・まぁコスト度外視ならできるだろうな、自立可能なダミーは。」

 

「代理人とDという前例がいてよかったです。」

 

 

今、目の前のモニターに映るのは待ち合わせ場所で佇むAR-15のダミー。本体と遜色ない自我をもたせつつ、本体の命令に従う優秀なダミーだ。喫茶 鉄血の二階から本体がインカムで指示を出し、ハンターの様子を見守るのである。

 

 

「・・・・・見分け、つくのかこれ?」

 

 

M16の疑問はもっともで、違いといえば実際に会った記憶があるかどうかという点くらいだ。

 

 

「ふふふ・・・いつも前を歩いてくれるのは嬉しいけど、たまには慌てた顔も見たいのよね。」

 

(あ、なんかダメそうな気がする。)

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

 

「悪い、待たせたか?」

 

「いいえ、私も今来たところよ。」

 

 

待ち合わせ場所に現れたのは、半袖のシャツに薄手の長ズボンという涼しげな服装で現れたハンター。それをジッと見つめたダミーが一言。

 

 

「・・・・・カッコイイ。」

 

「そうか? いつも通りだと思うが・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なぁ、もしかして私はずっとこんなのを見せられるのか?」

 

「独り身には眩しすぎるんですけど・・・・・」

 

「え? そうですか?」

 

「ペルシカの方がもっと甘えてくるよ?」

 

 

モニターを囲みつつ、軽食のサンドイッチを食べながら感想をこぼす。今更ながらこんな企画に乗っかった自分を恨むM16とROだったが、一度乗っかってしまった以上は最後まで見るしかない。

 

 

「・・・・・確かにカッコイイけど・・・わざわざ言うかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇハンター、私あの店に行ってみたいわ。」

 

「ん? あぁあそこか・・・そうだな、少し早いがランチにしようか。」

 

「ふふっ、ありがと。」

 

 

そう言ってハンターの腕に抱きつくダミー。これにはハンターも少し驚いたようで、ちょっとだけ目を見開いた。

 

 

「なんだ? 今日は随分と甘えん坊だな。」

 

「だって、すぐに会えるわけでもないでしょ? それとも、嫌?」

 

「まさか。 嫌なわけないだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

「離してM4! あのダミー叩き壊してやるわ!」

 

「落ち着いてAR-15! ダミーなら命令すれば・・・・・」

 

「それがなぜか無視されてるのよ! あの店には私だって行きたかったし、私を差し置いて白昼堂々と腕を組むなんて許されないわ!」

 

 

暴れるAR-15を必死に押さえるM4たち。モニタリング早々にトラブルで、なんとダミーが本体の管理下から離れたのだ。いくら呼びかけても応えず、ついさっき通信を切られた。初めからモニターと連動している眼だけは繋がっているが、こっちから干渉はできない。

 

ちなみにAR-15は普段腕を組むことがあまりない、理由は恥ずかしいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーん。」

 

「・・・珍しいな、お前から求めてくるなんて。」

 

「今日はそういう気分なの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

「いや、自分のダミーに恥ずかしがらないでよ。」

 

 

AR-15はいつもあーんする側である。そのお返しでハンターがしてくれるのを狙ってのことだが、自分から行くのは恥ずかしすぎるのだ。

モニター越しのハンターも戸惑っているようだが、今の所バレている様子はない。

 

 

「でも気づかないもんなんだね・・・コレ、いつまで続けるの?」

 

「その・・・・・・・ほ、ホテル・・・・まで・・・」

 

「・・・私は今初めてお前をバカだと思うぞAR-15。」

 

 

まぁ入った時点でネタバラシに行くのだろうが、気づかれなかったらどうするつもりだったのだろうか。

そんなことをしている間にも、ダミーの暴走は続く。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇハンター、あなた本当にスカートとか履かないわね。」

 

「うっ・・・まだそれを言うか・・・・・」

 

「似合うと思うんだけどなぁ。」

 

「落ち着かなくなるんだよ、こう言う服装が合ってるっておいどこに」

 

「せっかくだから一度着てみましょ。 ・・・・・ダメ?」

 

「・・・・・はぁ、一回だけだからな。」

 

 

諦めに入ったハンターは、テンションの上がったダミーに連れられて近くの服屋に入る。もちろん今までもこんな話はあったが、AR-15が強引に引っ張っていくことなどなかった。

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな・・・私が言っても着てくれなかったのに・・・・・」

 

「お前が怖気付いただけだろ。」

 

「もっと積極的になりましょう、AR-15。」

 

 

モニターの前で軽く涙目になるAR-15をよそに、ケーキを食べながら鑑賞するAR小隊一同。ハンターが気付くかどうかよりも、ダミーに反応するAR-15(オリジナル)の方が面白くなってきた。

 

 

「あ、着替え終わったみたいだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・や、やっぱり落ち着かない。」

 

「・・・・・・・。」

 

「だ、黙ってないでなんとか言ってくれ、恥ずかしすぎる・・・・」

 

「・・・・可愛い・・・・・」

 

 

試着室から出てきたのはノースリーブスにロングスカートという出で立ちのハンター。本人の最後の抵抗で長めのスカートにしたのだが、それでも落ち着かないのか顔を真っ赤にしながらソワソワしている。

その姿にダミーはもちろんモニターの前のAR-15も、それを見るAR一同も思わず見ほれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・。」

 

「おい大丈夫かAR-15、顔真っ赤だぞ?」

 

「服を変えるだけで、こんなに違うんだ・・・・」

 

 

普段着はハンターと同じく男物が多いM16だが、ちょっと思い切ってスカートにしてみようかと思うのだった。

 

 

「・・・・・・ってちょっと待って! この後って確か・・・」

 

「あ!? もうすぐ終わりだよ!?」

 

「い、今から行かなきゃ間に合わないわ!」

 

 

二人のデートコースがもうすぐ終着・・・そういうホテルに向かう時間であると気がつくと、五人はすぐさま荷物をまとめて店を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ねぇハンター?」

 

「ん?」

 

「今日は、楽しかった?」

 

 

ダミーはちょっと顔色を伺うように尋ねる。今回の企画は知っていたし、本体からこういう風にしてほしいとも聞いていた。

自分は完璧なダミーだ。オーダーには従って当然、そのはずなのに気がつけば当初の予定から大きく外れた行動を取ってしまった。いや、元がAR-15であることを考慮すべきだったのかもしれない。

 

・・・惚れてしまったのだ、ダミーである自分が。

結果、自分一人で舞い上がってしまい、ハンターにも随分とわがままを言ってしまった。さっきだって、本体ならあんな強引に誘いはしないだろう。だから、もしハンターがイヤイヤ付き合ってくれたのだとしたら、謝らなければならない。

 

 

「・・・ふふっ、本当に今日はどうしたんだ? お前らしくもない。」

 

「そ、それは・・・・・」

 

 

当然だ。

ハンターのいう「お前」とはつまり本体のこと、自分ではない。だから、らしくなくて当然なのだろう。

 

 

「楽しかったよ。 スカートなんて絶対履かないと思っていたが、お前が喜んでくれてるのを見ると、よかったと思う。」

 

「え?」

 

「・・・ありがとう。」

 

 

・・・ダメだ・・・・・自分は本体のダミー、これ以上は進めない。今回のドッキリのゴールは目前、そこで終わりだ・・・・・終わりなんだ。

 

 

「・・・あの・・・・・その・・・ハンター・・・・・・」

 

「ん? どうした?」

 

「わ、私・・・・・」

 

 

違う、ネタバラシは本体の役割だ。私はその時まで待っているだけでいい。

本体の反応が近づいてくる・・・あと数秒待てば、それで役目も終わる。

・・・・・・でも・・・・・・・

 

 

「・・・いた! ハンt「私はAR-15じゃない、ただのダミーなの!」・・・え?」

 

「・・・・・・。」

 

「はぁ、、、はぁ、、、、、、え? なにこの状況?」

 

 

叫ぶと同時に、ハンターに抱きつくダミー。ほぼ同時に曲がり角から出てきたAR-15も呆然とし、後から追いついたM4らは状況の把握すらできていない。

抱きつかれたハンターは目の前のダミーとAR-15を見比べると、フッと笑って口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・知ってるよ。」

 

「「・・・・・・え?」」

 

「まさか、私がダミーとお前の見分けがつかないとでも思ってたのか? 心外だな・・・」

 

「え、いや、そういうわけじゃ・・・・なくは・・・ないけど・・・・」

 

「え? でも、いつから・・・・」

 

 

困惑したままのダミーだが、ハンターはその頭を撫でながら話す。

 

 

「う〜ん・・・会った時から違和感はあったが、確信を得たのはカフェに入った時だな。」

 

 

結構序盤だ。しかもそのあとはダミーとわかっていて付き合っていたということになる。しかも・・・

 

 

「どうせAR-15のことだ、私にダミーをぶつけてどこかで見ているに違いないと思ってな。」

 

「うぐっ!」

 

「もろバレてんじゃねぇか・・・」

 

「愛って・・・すごいですね・・・・・」

 

 

最初から破綻していた、というわけだ。ハンターはそんなAR-15を呼び寄せると、トコトコとやってきたAR-15をダミーもろとも抱きしめる。

 

 

「ひぇっ!?」

 

「わ、わぁ・・・」

 

「ははっ、それにこれだけ反応も違うんだ、間違えるものか。」

 

 

抱きしめられたAR-15は顔を真っ赤にしながら目を泳がせ、ダミーの方は同じく真っ赤な顔でハンターの顔を見上げている。だがすぐに物悲しそうな目になり、顔を伏せる。

その様子に、ハンターは何かを察した。

 

 

「・・・・・これが終われば、解体か?」

 

「・・・・・え?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

驚きの声を上げるAR-15の横で、顔を伏せたダミーが頷く。これは本体にも伝えられていないことで、この高性能ダミーはその性能と引き換えに『戦術人形』としては欠陥品とも言えるほど各種プログラムを外されている。終わっても作戦に参加できるわけでもなく、それならと解体を希望したのは、他でもないダミー自身だ。これにはペルシカも同意し、帰還後は解体処分となる。

AR-15に伝えなかったのは、本体に余計な心配を与えないための配慮だった。

 

 

「そんな・・・・・・。」

 

「いえ、私が望んだことです・・・・・」

 

「い、今からでも取り消してもらえれば・・・。」

 

 

AR-15の言葉に、ダミーは首を横に振る。ダミーゆえに命令や契約に忠実なのかとも思ったが、ダミーの苦しそうな表情からAR-15も悟る。

どうしようもない、と思っていた時、ハンターが突拍子も無いことを言い出した。

 

 

「・・・なぁAR-15、私が()()()()()()()()()()()()()()と言えば、お前は怒るか?」

 

「え?」

 

「は? まっていきなりどういう意m・・・・・・あぁなるほど・・・いいわよ、特別に許してあげる。」

 

「えぇ? ど、どういう意味が・・・・」

 

 

顔を合わせて何かを企んでいる笑みを浮かべている二人に困惑するダミー・・・・・に突然、ハンターは口を重ねた。

 

 

「っ!?!?!? な、なにを・・・」

 

「あら、やっぱり言わないとダメみたいよハンター。」

 

「そこはお前とそっくりなんだな・・・・・・好きだ、私と付き合ってくれ、A()R()-()1()5()。」

 

「えっ!? で、でも私は」

 

 

処理が追いつかないのか、自分が受けても良いのかわからないのか狼狽えるダミーだが、それを優しくAR-15が抱きしめる。

 

 

「ごめんなさい、私がわがまま言わなければよかったわ。 だからこれは私のわがままの延長よ・・・・・一緒に幸せになりましょ、()。」

 

「・・・う・・・うぅ・・・うぁああああああ」

 

 

泣き出したダミーを、AR-15とハンターが包み込む。それをM4たちが優しく見守る。

たっぷり時間を使ってようやく泣き止んだダミーに改めてハンターは告白、ダミーもこれを受け入れ、晴れて恋人となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、そのドッキリの最後はどうなるんだ?」

 

「えっ!? そ、それは・・・その・・・・・」

 

「このまま進むと・・・・まぁそういう場所になるが?」

 

「う、うぅ・・・・・・・」

 

「ふふふ・・・私を騙そうとした罰だ、今日は寝かさないぞ?」

 

「「ひゃい!?」」

 

 

 

 

 

「なぁM4、もう帰っていいか?」

 

「いいと思いますよ姉さん。 いつまでもいるのは野暮ですし。」

 

「あぁ・・・私も恋してみたいなぁ。」

 

「だ、大丈夫だよRO! 私もできたんだから!」

 

 

引きづられるようにホテルへと向かうAR-15とダミーを見送り、AR小隊は本日の任務?を終えて帰路に着いた。

なお、AR-15とダミーは朝帰りだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「ふふふ、昨日は随分と乱れていたようですが?」

 

「だ、代理人・・・・お願いだからそれは忘れて・・・・」

 

「そうは言いますが・・・・・・・機材をそのまま一日ほったらかしにしていかれるのは流石にどうかと。」

 

「そ、それは本当に悪かったわ! だから、その・・・・」

 

「ふふ・・・まぁ私は忘れることにします・・・・・が、」

 

「『が』?」

 

「一部始終を目に焼き付けていたマヌスクリプトは・・・どうでしょうか?」

 

「い、いやぁああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

end




AR-15のスキン、増えねぇかな・・・・
そして今回はなんと総文字数6千越え! 長くなってホントごめん!!!
書き始めたら止まらなくなったんだ!


というわけでキャラ紹介

AR-15
ハンターの恋人。
当初はハンターを驚かせようと思ったら逆にドッキリにかけられる、という話だったのだが何故かこうなった。
二次創作の中では貧乳であることを気にして無い珍しいAR-15。

ハンター
AR-15の恋人。
機転も気もきく優秀な人形。
ダミーがこうなったのには自分も責任があると感じており、少々強引だがこの手に出た。
二人相手でも余裕。

AR-15のダミー
ペルシカによって、今回のドッキリのためだけに作られたダミー。代理人のダミー(D)は代理人と同コストというものだが、こちらは通常ダミーとどうコスト、その代わり戦闘システムやスティグマなどを完全に取っ払っているので戦えない。
Dに自我が芽生えているように、こちらも普通にオリジナルを裏切る。
晴れてハンターの恋人となった。
名称募集中、あとフリー素材。

代理人
貸切部屋のモニターから延々といかがわしい声が聞こえてくるのでかなりご立腹。
今回の件で大型機械の持ち込みは完全不可となった。

マヌスクリプト
「こんな生々しい資料が手に入るなんて! こうしちゃいられないわ、すぐにでも描かなければ・・・・・あぁいい、いいわ!!!」


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第六十三話:共同戦線、夏の陣!

変態の利点はその立ち直りの早さと頭の回転、そして驚異的な行動力。


「触手プ◯イって、良くない?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

場所は鉄血工造、アーキテクトの研究所。

開口一番にそんなアホなことを言い放ったのは、一部からは鉄血ハイエンドの面汚しとまで言われる変態「マヌスクリプト」である。あのアーキテクトですら一瞬言葉に詰まることをさらりと言ってのけるが、その顔はマジである。

 

 

「触手プレ◯って・・・良くない!?」

 

「二度も言わんでいい!!」

 

 

大事なことなのでry

ゲーガーのツッコミにも冷静に対処し、なお語り続けようとするマヌスクリプト。そんな鉄血三人娘がワイワイやっている隣で、こちらもまたなんとも言えない空気に包まれていた。

 

 

「・・・で、あなたもですかヘリアンさん。」

 

「フッ、愚問だな。」

 

「なんでそんなにドヤ顔なんですか・・・」

 

 

ため息をこぼすサクヤの正面、顔のいたるところに絆創膏やガーゼを貼っているヘリアンがいい笑顔で座っている。先日ペルシカに再起不能寸前までボッコボコにされた(瀕死、もしくは半殺しともいう)彼女だが、相変わらず懲りていないようだ。

 

 

「まぁ流石にAR小隊や404小隊のネタは控えるがな。」

 

「辞めはしないですね・・・・・」

 

「私に死ねと?」

 

「そんなにですか!?」

 

 

一応彼女のために行っておくが、平和になっても彼女のような中間管理職は大変なのだ。何をしでかすかわからない部下と、ポンコツやパワハラセクハラ上司、それに挟まれた彼女にはストレス発散材料が必要だった。それがたまたま同◯誌だったというだけである。

 

 

「・・・・・で、今回は何をご所望ですか? 言っておきますが直接危害を加えるものは作れませんよ?」

 

「じゃあ、直接じゃなかったらいいんでしょ?」

 

 

マヌスクリプトとヘリアンの目がキラリと光る。そしてその目が向く先は、鉄血が誇る『天災』アーキテクト。思い当たる点があるのか目をそらす。

 

 

「仮想空間スキン。」

 

「な、なんのことかな?」

 

「とぼけても無駄だぞ? 我々の情報収集能力を舐めてもらっては困る!」

 

「それは仕事で発揮してほしいかな!?」

 

 

珍しくアーキテクトがツッコミに回る。色々とやらかすことの多いアーキテクトだが、この変態どもとは相性が悪い様子。

さてその仮想空間スキン(第五十六話参照)だが、これを要求する理由は二つある。

 

 

「R18MODがあったな?」

 

「確かに作ったけど使う気は無いよ!?」

 

「外部操作可能よね?」

 

「あ、あれはいろんな娘の要望を聞けるようにしてるだけだよ!?」

 

「「じゃあ外からあんなことやこんなこともできるな! しかも仮想空間なら実害もない!」」

 

「助けてゲーガーちゃん!!!」

 

 

実際目が血走っているヘリアンとマヌスクリプトは怖い。鼻息まで荒げていて恐怖すら感じる。

黙らせるのは簡単だが確実に復活するのが目に見えているので使わせるほかないのだが、問題は誰を犠牲にするかだ。

 

 

「まぁそんなに難しく考えなくてもいいわよ。 私らが中を作り変えるから、VR訓練とでも言って集めてくれれば十分よ。」

 

「いや、うちの評判が下がるんだけど・・・」

 

「普段から貴様が下げきっているから問題ない。」

 

「かはっ!?」

 

 

ひどい言われようだが擁護のしようがない。

しかも・・・・・

 

 

「そんなに言うなら二人が入ったら?」

 

「えぇ!?」

 

「はぁ!?」

 

「うむ、名案だ。」

 

「待って、それは私が認めn

 

「サクヤさん、ダメ?」ウルウル

 

「ゔっ・・・・・今回だけ、よ。」

 

「「サクヤさん!?」」

 

 

ここに来てサクヤの過保護が発動、結局二人が入り込むことになった。

怪しげな笑みを浮かべる二人と冒頭のセリフ・・・二人は生きて出ることを誓って仮想空間に身を投じることを決めるのだった。

出撃まで、あと三日。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「なぁマヌスクリプト。」

 

「ここではペンネームで話そうよヘr・・・『向日葵』。」

 

「なるほど、ではどうする『写本』。」

 

 

今、二人の目の前にはデザイン画が大量に散らばっている。VR訓練の環境設定のための資料なのだが、精査を重ねた結果二つに絞られた。すなわち・・・・・

 

 

「洞窟風のダンジョンのようなものにするか、近未来な施設にするか。」

 

「前者なら生物的な触手、後者なら機械の触手だね。」

 

「甲乙つけがたいな、いっそどっちもと言いたいところだが・・・」

 

「まぁ最初は機械の方でいいんじゃない? 謎の施設に調査に行った二人が見たものとは!? とか。」

 

「そうだな、ダンジョンは続編で謎の転送装置によって飛ばされたことにしよう。」

 

 

一体二人の頭はどうなっているのか、ペルシカ並みの頭脳を持つサクヤをもってしてもわからない。二人の間から見える画面には、白を基調とした部屋のいたるところからウネウネと細長い機械が現れ、モデルとして用意した棒人間に絡みつく。

その先端には、一体何に使うのか検討もつかない、と言うより考えたくないような機械がくっついている。棒人間なので今はなんともないが、後々二人がこれに出会うと思うといたたまれなくなる。

 

 

「機械といえば電気だと思うのだが?」

 

「刻印レーザーとかもありかな?」

 

「ちょっとファンタジーよりじゃないか?」

 

「エロけりゃいいのよ。」

 

(ゲーガー、アーキテクト・・・本当にごめんなさい。)

 

 

できるなら今すぐ止めたいが、この二人はそのあと何をやらかすかわからないので止めるのも怖い。

ならば機械を、とも考えたがこれはアーキテクトの自信作なので壊したくはない。

結局、この二人を止めるすべはないのだ。

出撃まで、あと二日。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ど、どうにかならないかなゲーガーちゃん!?」

 

「わ、私に聞くな! そもそもお前が作ったシステムだろ、なんとかしろ!」

 

 

実験(という名の資料提供)を明日に控えた二人は、ここに来てなんとか回避しようともがいていた。昨晩サクヤから『ごめんなさい。』とガチで謝られたのが不安な拍車をかけ、きっととんでもないことになると察し始めた。

 

 

「さ、サクヤさんは何を見たんだろ?」

 

「・・・きっと世にもおぞましいものを見たに違いない。 そうだ! ペルシカに頼んでみるのはどうだ!?」

 

「無理だよ・・・・・だって今回のことはペルシカに許可をもらってるらしいから。」

 

 

許可、というがその実態は『認めてくれないと超過激なM4本を書いちゃうゾ☆』という脅迫である。AR小隊の癒しであるM4をこれ以上汚すわけにもいかず、というかAR小隊と404小隊がネタにならなければ割とガードが緩い。

そんなわけでペルシカの助力は期待できないのだ。

 

 

「そ、そうだ! 明日その時間に会議を入れれば・・・」

 

「そんなことをしてみろ、昼は会議で夜は地獄のVRになりかねんぞ。」

 

 

まさに打つ手なし。その日二人はヤケクソ気味に酒を飲み、泥のように眠ったという。

出撃まで、あと一日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう二人とも! 待っていたぞ!」

 

「ついでに私らは待ちきれなくて一睡もしていないわ!」

 

「・・・なんでこんなに元気なんだ。」

 

「もうやだおうちかえる」

 

 

当日、仮想空間用のポッドの前に集まったアーキテクトたちは、仕様の前に簡単な注意だけ話す。

まず、仮想空間とはいえ入っているのは本人のメンタル部分だ。よって危険な状況なれば強制停止させること・・・・・まぁ命の危険は皆無だと思うが。

次に、この実験は社外秘であること。これはこの装置の評判を下げない以外に、二人のあられもない姿を晒さないためでもある。というかそっちがメインだ。

そして最後に、一応口出ししないがサクヤの指示には従うこと。二人に任せると絶対にやりすぎるからだ。

 

 

「よし、では始めようか!」

 

「二人とも頑張ってね〜!」

 

 

こうして二人は、なんの事前情報もないままに未開の魔窟へと足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあー、聞こえてる?』

 

「あ、うん、聞こえてるよ・・・・・で、この格好は何?」

 

 

二人が立っているのはどこかの施設っぽい部屋。休憩室なのかロッカーや棚があり、誰かの服っぽいオブジェクトもある。

微妙にこだわっているところがよくわかる。

 

 

『それは私が説明しよう。 今回二人の設定だが・・・施設に潜入した捜査官ということにしている。』

 

『潜入といえばやっぱりピッチリスーツだよね!』

 

「ふざけるな! というか武器はこれだけか!?」

 

 

二人の腰にあるのは消音器がついた拳銃が一丁、予備のマガジンすらない。そして端末から地図を開くと、この部屋をスタート地点としてほぼ一本道となっている。

・・・・・明らかに怪しげな部屋が並んではいるが。

 

 

『まぁ安心しろ、回避できないほどの難易度ではない。』

 

『じゃ、頑張ってね〜!』

 

「ちょっ、待って! せめて何が出てくるかだけでも教えて!」

 

 

アーキテクトの叫びも虚しく通信が切られる。余談だがこの仮想空間装置、そんじゃそこらのゲームなんかよりもよっぽど自由度が高く、マップはもちろんNPCも自由自在、つまり何が出てくるかは作った側にしかわからないほど多様性に富んでいる。

 

 

「うぅ、ゲーガーちゃん、頑張ってきて。」

 

「それでも構わんがその次はお前一人になるぞ?」

 

「・・・・一緒に行く。」

 

 

そう言って恐る恐る扉を開き、変態どもの魔窟に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁああああ!!!」

 

「なんて悪趣味なんdうおっ!?」

 

「私も大概だと思ってたけどこいつらより断然マシだよ!」

 

「間違いない。 今までバカとか変態とか言ってきたけど訂正するぞアーキテクト!」

 

 

 

 

 

『ううん、これも避けられたか・・・。』

 

『二人のステータスも弄るべきだったかな?』

 

『捕まるのも時間の問題だろう・・・まぁ避けてもネタにはなるんだがな。』

 

『お主も悪よのぉ。』

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで二人は危なっかしくも無事進み、なんとか最後の扉の目前まで来ていた。これを越えれば脱出できるのだ。

 

 

「だ、大丈夫か、アーキテクト。」

 

「ひぃ、ひぃ、あのまま捕まってたら・・・どうなってたか・・・」

 

「連中のネタになるのは間違いないだろう・・・・・くそ、誰か奴らを止められんのか。」

 

 

悪態をつきながらもなんとかここまで来れた二人。だが道中で武器を失い、そして最後のこの部屋でこれ見よがしに置いてあるバカでかいコンテナ。これまでの経験から、絶対にロクでもないものであることがわかる。

そして、そのコンテナが今、ゆっくりと展開した。

 

 

「ひぃ!?」

 

「な、なんだこいつは!?」

 

 

現れたのは、巨人としか言いようのないデカブツだった。身長は3メートルをゆうに超え、筋肉むきむきのボディを持つ。

そしてそいつの背中から大量に生えているのは、なんかヌメッとした粘液を帯びた無数の触手だった。

 

 

『これが今回のボス、新型の生物兵器(という設定)だ!』

 

「ふっざけるな! あんなのと素手で戦えと!?」

 

「な、なんかヌメヌメしてるぅ!?」

 

 

そっち方面の知識に乏しい二人から見てもわかる、明らかにアブナイやつだ。

一応身構えてみるが、どう頑張っても勝ち目がない。やがてそいつがゆっくりと歩き始めると同時に、アーキテクトも泣き出した。

 

 

「やだぁ・・・助けてゲーガーぁ!!!」

 

「む、無茶言うな! 私だって怖いんだぞ!?」

 

 

万事休す、哀れ二人はこのままウス=異本のネタとなるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思われたが、突如閉ざされた扉を蹴破る者が現れる。

 

 

「「!?!?!?」」

 

 

身を寄せ合う二人はいよいよダメだと覚悟を決める。だが土煙の中から現れたのは、二人のよく知るあの人物だった。

 

 

「「あ、アルケミスト!!!」」

 

「待たせたな、二人とも。 ・・・すぐに終わらせる。」

 

 

そう言ってアルケミストが地を蹴る。そしてその勢いのまま巨体を蹴りつけ・・・・・壁まで吹き飛ばした。

 

 

「「えええええええええ!!!!!」」

 

 

あまりにも衝撃的な光景に、開いた口が塞がらない。まさかあの巨体が吹き飛ぶとは。

実はごく単純なことで、この仮想空間では中に入った人形のステータスも自由自在。どこからか聞きつけ駆けつけたアルケミストはマヌスクリプトを締め上げたのち、サクヤの協力によってもはやチートクラスの強さになって助けに来たのである。

 

と、そんな説明をしている間にパパッと片付けたアルケミストは腰を抜かしたままの二人を支えて出口に向かう。

こうして、二人は無事脱出できたのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ネタの提供に協力するって言ったのに・・・・」

 

「だから提供してやっただろう? 『仲間の窮地に駆けつける』というヒーロー物のな。」

 

 

やれやれ、といった顔でマヌスクリプトを見下ろすアルケミスト。その横では特大のたんこぶを生やしたまま地に伏すヘリアンの姿が。

今回の件は、アルケミスト的にはまぁ悪ふざけの範疇であるようで、最後のアレ以外はそこまでお咎めなしらしい(一応避けれる程度だったから)。

それと、マヌスクリプトに鉄拳制裁がないのにはもう一つ理由がある。

 

 

「さて、二人が帰ってこれたんだ・・・お前も帰ってこれるな?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「返事は?」

 

「は、はいぃ!!!」

 

 

 

 

後日、マヌスクリプトは語る。

マジですまなかった、と。

 

 

end




・・・なんだこれ?
マヌスクリプトって書けば書くほどやらかすキャラになってくんですよね・・・まぁもともとそんな設定だけど。
そういえば、私はこの作品を書くにあたってほぼ実際にプレイした経験からしか書いてません。そんな中で先日知ったのが『イントゥルーダーは蝶事件後に作られた』・・・・・え?マジで?
まぁこの世界では一切関係ありませんが!


ではここらでキャラ紹介

マヌスクリプト&ヘリアン
ヘリアンはともかくマヌスクリプトに関してはそろそろまともな話を用意してやりたいと思う。でも今のマヌスクリプトが輝いているのも事実・・・うーんどうしよう。

サクヤ
マヌスクリプトの保護者的なひと。
こっちの世界ではある意味一人娘なマヌスクリプトに甘くなる時がある。
責任を取って仮想空間に入ろうとして全員から止められた。

アーキテクト&ゲーガー
今回の被害者。
アーキテクトに関しては巡り巡って返ってきた感じはあるが、ゲーガーはただのとばっちり。

アルケミスト
登場までの過程を一切書かなくていいくらい神出鬼没な人形。
今回も唐突に現れ、解決し、去っていった。


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番外編15

皆様からダミーAR-15のお名前をたくさんいただきました!
本当にありがとうございます!
いろいろ考えた結果、「D-15」と呼ぶことにしました。F小隊っぽいのと、ダミーに名前をつける→本体が拗ねる→本体にもつける→AR-15だけ?→他にもつける・・・と収集つかなさそうなので、あえてこの形にしました。
今後ともD-15をよろしくお願いします!

では各話のリストは以下の通り
・保護者なお子様
・後輩
・β版配信



番外15-1:過保護な保護者

 

 

「やぁ代理人、ウォッカを頼む。」

 

「おや、今日は保護者同伴ですね。」

 

「あはは、まぁ一応は。」

 

 

前回の騒動から一週間後、再び飲みにやってきたナガンは開口一番にお気に入り(ウォッカ)を注文する。付き添い、というか飲み仲間のモシン・ナガンも同じものを頼み、二人並んでカウンター席に座る。

 

 

「ふふっ、そういえばモシン・ナガンさんがきた時は確か、『もう酒は飲まない』でしたっけ?」

 

「ちょっ!? そ、それは言わないでよ代理人!」

 

「はははっ!! なんじゃモシン・ナガン、お主そんな似合わん事を言ったのか?」

 

「あ、あの時は私もいろいろあったのよ!」

 

 

あの頃(第一話)の頃のモシン・ナガンはそれはそれは初心で、今思えばなんであんな事で悩んでいたのか馬鹿馬鹿しいくらいだった。それが今ではほかのLOVE勢とタメを張れるのだから、人形も成長するという事だろう。

 

 

「まぁそれでも相変わらず妙なところでしおらしくなるがな・・・ほれ、この前の宴会でもいい雰囲気だったじゃろ?」

 

「そ、それはそうだけど・・・なんていうか、その・・・・・・」

 

「その?」

 

「・・・・・・・お、お酒の力を借りるなんて、ず、ズルイじゃない。」

 

「素面で告白できんくせに何を言っとるんじゃ。」

 

 

そう言ってモシン・ナガンの頭をポンポンっと撫でるナガン。同郷のよしみだし何より一番と言っていいくらい親しい二人だ。だからこそナガンも応援したいのだろう。

 

 

「あたって砕けるのは辛いかもしれんが、何もせんまま他に取られるのはもっと辛いぞ?」

 

「うぅ・・・でも・・・・・・」

 

「勢いというのも大切ですよ。 それがたとえお酒であっても。」

 

「・・・・う、うん・・・・・。」

 

 

しばらくじっとグラスを眺めていたモシン・ナガンだが、ウォッカの入ったそれを一気にグイッとあおると、

 

 

「わかった! 今からちょっと行ってくる!」

 

「おぉ頑張れよモシン・ナガン、今日は帰ってこんでいいからな。」

 

「お会計はまた次回でいいですよ。」

 

「ありがとうナガン、代理人!」

 

 

帽子をかぶり、ダッシュで店を飛び出すモシンナガン。

その姿を、ナガンはただ優しい目で見つめていた。

 

 

 

 

 

ちなみにその後、司令部に戻るまでに冷静さを取り戻してしまったモシン・ナガンは直前でやはりヘタレ、一時間後には泣きながら店に戻ってきたため、ナガンは朝まで付き合うことになったという。

 

 

end

 

 

 

番外15-2:後輩

 

 

AR-15のダミー騒動から数日後。

あの後ハンターと三人で一夜を共しに、翌朝に若干の疲労と多大な幸福感を漂わせながら帰宅した二人は、代理人からの説教と仲間からの冷やかしにげっそりとしながらも、ようやくいつも通りのAR小隊として動き始めていた。

その中でも以前とは違う点が一つある。

 

 

「えぇっと、こっちに纏めて置いてあるのが報告書類、こっちが経費関係ですね。」

 

「はい。 ・・・・あの、カリーナさん、こっちは?」

 

「これですか? これはよっぽどのことがなければ使いませんが・・・・・いわゆる始末書です。 最近多いのはスプリングフィールドさんですね。」

 

「なるほど・・・・・。」

 

「あとは隊員の給与明細とか16labへの報告書とか、そのくらいですね、AR小隊で必要なことは。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

AR-15のダミー・・・改め『D-15』の扱いだが、戦闘能力がほぼ皆無であることやAR-15のダミー(つまりはそこそこ優秀)なことを考慮し、AR小隊専属の後方幕僚という立場に落ち着いたのだ。もともとAR小隊は単独で行動することが多く、また少々変わった任務を受けることも多かった。カリーナはその点でも非常に優秀だったが、流石に一人でなんとかできる限度を超えつつあったので、D-15の話は渡りに船だったのである。

そのため今、D-15はカリーナから業務を教えてもらっているのである。

 

 

「AR小隊独自のルール・・・はD-15さんには改めて言うこともありませんね。」

 

「はい。 ですが一応教えていただいた方がいいかと。」

 

「そうですね。 ではまずこれですが、M16さんがジャックダニエルを申請するときの審査書類です。 そしてこれが・・・・・・・」

 

 

そんな感じで順調に後方幕僚として学ぶD-15。カリーナも当初はただ教えるだけのつもりだったが、いつのまにか後輩として可愛がるようにもなっていた。

 

 

「でも、本当に良かったんですかD-15さん? ペルシカさんに頼めば戦うこともできたはずですよね?」

 

 

後輩ができて嬉しい、のは事実だが彼女はもともと『戦術人形』のダミー、もしかして仕方なくいまの立場にいるのではないだろうかとも考えてしまう。

 

 

「そう、ですね・・・・・・最初はそう思ってはいたんですが・・・・・」

 

「?」

 

「・・・・ちょっと恥ずかしいですね。 ハンターが愛してくれているのは、私と本体(AR-15)です。 AR小隊はいまでも危険な任務に従事することもありますし、必ずしも無事帰ってこられるとは限りません。 だから」

 

 

彼女たちが無事帰ってこれるように支えたい、D-15はそう言った。ダミーだろうと本体だろうと、この真面目さは変わらないんだなと思うカリーナは、彼女の願いを叶えるべく、丁寧に教えていこうと誓うのだった。

 

 

「・・・というよりナチュラルに惚気るんですね、ごちそうさまです。」

 

「ふぇ!? そ、そんなつもりじゃ・・・」

 

「ふっふっふ・・・ところで、初体験はどんな感じだったんですか? 教えてくださいよ。」

 

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 

 

end

 

 

 

番外15-3:β版配信

 

 

「あの・・・・私まだ何もしてないんですけど・・・」

 

 

先日の一件から数日、突然鉄血工造に呼ばれたマヌスクリプトは、通された部屋で縮こまりながら冷や汗を流していた。

無理もない、その対面に座るのは事実上鉄血最強のハイエンドモデル、アルケミストだ。何かあるごとに(だいたいマヌスクリプトが悪い)飛んできては鉄拳制裁をかますこの人形は、やらかす人形からすれば天敵に近い。

 

 

「『まだ』というところは引っかかるが、今回は別に怒っているわけではない。 というよりも協力して欲しいから呼んだだけだ。」

 

 

そう言って一枚の紙を渡す。受け取ったマヌスクリプトは恐る恐る広げるが、そこに書いてある文字にポカンとする。

 

 

「・・・・・『ダンジョン・クラフト』?」

 

「そうだ。 アーキテクトの作った仮想空間スキン、これを応用したオンライン型のゲームらしい。」

 

 

先日の一件でこの装置の応用の高さは実証された。その気になれば建物どころか広大なフィールドを作ることすら可能で、しかも自分自身がプレイヤーにもなれる。

いくつかのシステム(R18など)をオミットすることでこれをオンラインゲームとし、『基本無料』で配信しようというのである。

 

 

「・・・・・で、なぜに私は呼ばれたのでしょうか?」

 

「? なんでそこまで警戒しているのかは知らんが・・・・・まぁいい。 アーキテクトはモノは作れるが基本的に人形の装備メインだ。こういう『一般人が好むもの』には疎い。私にしてもゲーガーにしても同じで、サクヤさんは・・・・・そもそも興味がない。」

 

「は、はぁ・・・・。」

 

「そこで、ハッキリ言えば度し難いが俗世的で感性が人間よりなお前なら、いいアイデアを持っていると考えたわけだが。」

 

 

まぁ私はその監視だな、と言ってのけるアルケミストに、マヌスクリプトは微妙な表情だ。まぁ彼女とてエロしか描けないわけでもないし、こういうヤツは多分得意だ。

ではなぜ乗り気になれないのか、その理由は単純明快・・・・・・面倒だからだ。

 

 

「できないことはないけど・・・・・正直メンd「ちなみに売り上げの一部を報酬としてやろう。」任せなさい。」

 

 

金には勝てない、というより争うことすらせずに了承する。アルケミストがしてやったみたいな顔をしているが正直どうでもよく、彼女の頭にはすでに数え切れないほどのアイデアが浮かんでいた。

 

 

「ちなみにどこまでならOKなの?」

 

「システム的なことならアーキテクトがやる。 『設定年齢は高めだからD指定までならセーフ』と言えばわかると言っていたが。」

 

「OK! それで十分だよ!」

 

 

両目に「$」を浮かべながら端末に向かうマヌスクリプト。

この数日後、いくつかのアイテムやらモンスターやらを盛り込んだお試し版が配信され、多くのプレイヤーを引き付けたという。

 

 

 

 

 

 

「・・・へぇ、ファンタジーとかアクションとかだと思ってたけど、本当になんでもできるんだ・・・」

 

「サクヤさんもやってみる? ゲームの中なら結婚もできるよ?」

 

「それはいまだに独身の私に対する当てつけかなアーキテクトちゃん?」ピキピキ

 

いひゃいいひゃいごふぇんなひゃい!(痛い痛いごめんなさい!)

 

 

end




自由にいろんなキャラクターになれる、そんな感じの映画がちょっと前にありましたね・・・・・見てないけど。
この作品を書き始めて日に日に強まる『鹵獲システム』実装の願い、運営さん実装はよ!


というわけで各話の解説!

番外15-1
六十一話のその後。
微妙にお子ちゃまなナガンもいいけどやっぱり面倒見のいいおばあちゃんもいいよね!
モシン・ナガンを出すたびに、あぁこの作品はこの娘から始まったんだなと感慨深くなります。

番外15-2
六十二話の後日談。
六人目のAR小隊、戦場ではドローンを操作したり妖精(手動)を使ったりでサポート。
本体との扱いは双子で、D-15は妹。区別のため、ストッキングや髪留めが逆になっている。

番外15-3
六十三話のすぐ後。
正直こんなゲームがしたいだけで書いたようなもの。乗りとしてはRPGツ◯ール並みの拡張性にマイン◯ラフト並みの自由度、洋ゲー並みの広大なマップと高いグラフィックに、VR(人形の場合はダイブ)機能をつけたもの。
作り手によってはモン◯ンにもCo◯にもダー◯ソウルにもシ◯シティにも塊魂にもなる。
拡張アイテムは有料。


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第六十四話:人類人権団体

過激派がボッコボコにされるのはよくあるけど、穏健派とかただいるだけの人たちはどうしているのか。
まぁ穏健派でも人権団体なので人間>人形でしょうけどね。


「失礼・・・・私、こういうものでして。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

とある日の喫茶 鉄血。ごくごく平穏な一日は、突如として現れた団体客によって終わりを告げる。全員がスーツ姿という妙に身なりのいい団体のリーダーと思しき人物が出した名刺、そこには、代理人ら人形にとって天敵とも言える名前が記されていた。

 

 

「人類人権団体・・・『マイスターの会』・・・・・会長。」

 

「えぇ、初めましてですな、代理人さん。」

 

 

代理人が名刺を読み上げた瞬間、同じくカウンター内にいたイェーガーは服の内側の拳銃に手を当て、接客中だったリッパーも意識を集団に向ける。また本体の反応を受け取ったDはダミーたちを次々と起こし、マヌスクリプトとゲッコーを店の奥に引っ込める。

 

 

「・・・・・ご用件は?」

 

「ここでは人が多すぎます・・・・・場所を変えたいのですが?」

 

「・・・二階に個室があります。 こちらも護衛をつけさせていただきますがよろしいですね?」

 

「えぇ、構いません。」

 

 

代理人はイェーガーとリッパーに指示を出し、共に二階に上がる。Dには本体命令で指示を出し、残りの業務を引き継がせた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「起きなさい11、緊急任務よ。」

 

「えぇ・・・またアーキテクトの失敗作ぅ?」

 

「それの方がまだマシ・・・いや、それもそれで嫌だけど。」

 

「もうないかと思って油断してたわね・・・・・人権団体が代理人に接触したわ。」

 

 

それを聞くと、G11もすぐさま支度を始める。404小隊、かつてはNot Found(存在しない)小隊と呼ばれていた頃に、代理人と人権団体とは因縁関係にあった。

人形の待遇改善直前、彼女たちが最も多く()()してきたのは、他ならぬ人権団体の過激派である。

 

あれから随分経ったが、まさかこのタイミングで再び仕掛けてくるとは。

 

 

「被害は?」

 

「まだよ。 Dからの報告では、連中は六人ほど。 代理人は部下二人を連れて個室に入ったそうよ。」

 

「冗談でしょ? いくら人形だからって分が悪すぎる。」

 

「起こっちゃったものはしょうがないよ。 それよりどうするの45姉?」

 

 

聞いた9だったが、今の状況ではどうすることもできないというのが現状だ。連中が武器を所持しているのか、悪意を持って接触したのかさえわからない以上、こちらから仕掛けることもできない。

 

 

「悩んでいても仕方ないわ・・・・404小隊、出るわよ。」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いい店、ですな。 品揃えもそうですが、雰囲気もいい。」

 

「それはどうも。」

 

「ふふっ、人形が経営する世界で初めての飲食店。 いずれは当たり前になるであろう、第一歩でしょうか。」

 

「・・・・・・・。」

 

 

個室に入ること数分、代理人はこの男の考えが読めないでいた。人目を避けたいというからには、世間話などではないのだろう。しかし一方で、人権団体と言う割には人形に対しての敵意というか、蔑みがあまり感じられない。先ほどもこの店を、『いずれ当たり前になる』といったことから、むしろ人形の社会進出を肯定しているようにも思える。

 

 

「それで・・・・・本題はなんでしょうか?」

 

 

わからないなら聞き出す。今代理人にできるのは、それくらいだった。この男はこの店に、代理人に何を求めてくるのか・・・・・代理人は静かにその答えを待った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

『それで・・・・・本題はなんでしょうか?』

 

「ついに聞き出すつもりね・・・416?」

 

『配置についたわ。 結構微妙な角度だけど、いけるわよ。』

 

『こちらG11、こっちも問題ないよ。』

 

『あれ? ゲパードはついてこなかったの?』

 

『ついてくる前に眠らせたよ・・・・・・「人殺し」は私たちだけでいい、そうでしょ45?』

 

「そうね、それが私たちだもの。」

 

 

Not Foundでなくなって(存在するようになって)、45たちは多くのことを手に入れた。皆笑うようになり、それぞれが自由でいられるようにもなった。その要因の一端である代理人には、皆感謝している。

だから今だけは、あの頃の空っぽな『人形』に戻るのだ。

 

 

『お願いしたいことは、他でもないあなたにしかできないことであると考えています。』

 

(さぁ・・・それが遺言にならないように気をつけなさいよ『人間』。)

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・聞きましょう。」

 

 

人権団体からのお願い、そんな日がくるなど思っても見なかったが、現に目の前にそれがある。人間五人相手なら、全力で抵抗すればねじ伏せることもできるだろう。だがそれは、全く関係のない多くの客を巻き込むことになりかねない。

あの頃とは違う、『ただの人形』ではなくなった代理人には、そんな選択肢はなかった。

そして、人権団体会長が口を開き・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリフィン、IoPとの和解・・・その仲介役となって欲しいのです。」

 

「・・・・・・・・・・・仲介、役?」

 

「・・・あなたは、我々人権団体についてどうお考えですか? 正直に言ってくださって構いません。」

 

 

人権団体。

それはAIというものが人類から仕事を奪うと囁かれ始めた頃から存在し、今日では人形たちを迫害することが目的となっている集団。

例外こそあれどそういうものであると、代理人は包み隠さずに答えた。それを聞いた会長は納得するように頷く。

 

 

「そう、今や人権団体は破壊者、あるいは異端者と同義です。 それもこれも、ごく一部の過激派と呼ばれる者どもが行う活動のせいです。」

 

 

会長・・・以前は人権団体の理事長を務めていたというこの男は、数年前に理事長の座を追われて以降、増大する過激派に手を焼いていたという。

当初の目的は人間の生活の基盤たる職、それを守りたいがための活動が、今ではただのアンチ人形集団となったという。

 

 

「しかしここ最近、その活動も減ってきました・・・・・大人しくなったわけではなく、単純に数が減っているそうですが。 ですが私は、これがチャンスであると考えました。 今や過激派よりもわずかに多くなった我々はグリフィンやIoPと和解し、過激派を根絶やしにするためです。」

 

「・・・・理由はわかりました。 ですがなぜ私に?」

 

「あなたは鉄血工造・・・いえ、元鉄血ではありますが、グリフィンともIoPとも現鉄血工造とも交流がある。それでいて中立であり、人間社会にも密接に関わっていらっしゃる。 そんなあなただからこそ、我々と人形をつなぐ架け橋になっていただけると考えております。」

 

 

勝手なことではありますが、お願いします。そう言って頭を下げる会長に、代理人は戸惑っていた。

過激派が一部であることは知っている。その陰で穏健派がいることだって知ってはいたが、あまりにも急な展開についていけていないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・わかりました、私でよければお受けします。」

 

「! 本当ですか! ありがとうございます。」

 

 

悩んだ末、代理人が出した答えはYES。

人形のためとかではなく、人間人形双方にとってこの方がいいはずだと思ったからだ。

それと同時に窓の外からの射抜くような視線がふっと消える・・・・・おそらくは404小隊だろうが、彼女たちも敵ではないと判断したようだ。

 

 

「詳細は追って連絡させていただきます。 本当にありがとう。」

 

「こちらこそ、その言葉が嘘偽りでないことを信じています。」

 

「えぇ、あなたの信頼に背くことのないよう、頑張りましょう。」

 

 

そこでようやくフゥッと一息ついた代理人。つられて控えていたイェーガーとリッパーも額の汗を拭い、警戒を解く。

今ここでは小さな一歩、だがそれは、歴史的瞬間への確かな一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話は変わりますが、実は個人的にお願いしたいことがもう一つございまして。」

 

「? なんでしょうか?」

 

 

お願い・・・のところで苦笑していたので、これ以上の話ではなさそうな雰囲気。そこで会長が取り出したのは、六枚の真っさらな色紙だった・・・・・・・色紙?

 

 

「大変勝手なお願いではありますが、こちらにサインをいただけないでしょうか?」

 

「・・・・これは?」

 

「あぁ、申し遅れました。 実は私、こういったこともしておりまして。」

 

 

そして再び差し出される名刺。黒地に白で書かれたそれは・・・・・

 

 

「人形ファンクラブ・・・カテゴリー『鉄血工造』・・・・・種別『代理人』・・・・・・会員No.00・・・」

 

「お恥ずかしながら、私はあなたの個人的なファンでもあるんですよ! あ、あと今日の護衛の皆さんもそうですよ。」

 

 

そういうとビシッと名刺を差し出す五人の護衛。その名刺の番号は、それぞれ01から05だった。

 

 

「わ、私のファンクラブ・・・・ですか? なんでそんなものが・・・」

 

「美しい人形がそこにいる、それだけで十分では?」

 

「で、ですがなぜ私が・・・・・」

 

「あなたがお美しいから、他にも理由はありますが、語れば日が変わってしまいます。」

 

「いや、その・・・正直恥ずかしいというか・・・・・」

 

「そこをなんとか、お願いいたします!!!」

 

「「「「「お願いいたします!!!」」」」」

 

「え、えぇ〜〜〜〜・・・・・」

 

 

その後、困り果てる代理人にいよいよ404小隊が介入、懇願する会長以下ファンクラブ員を全員店から追い出すことで解決した。

後日、あまりにも不憫だったので色紙を書いて送ったところ、やたらと達筆な感謝状と最高級のワイン、見るからにいいものを使っていると分かるメイド服(サイズぴったり)が送られてきたため、代理人は別の意味で警戒度を上げるのだった。

 

 

 

end




いつから人権団体が悪者だと錯覚していた?
こういうめっちゃ有能なポンコツを描くのって楽しいんですよねぇ。


てな訳で解説。

人類人権団体『マイスターの会』
人権団体最大の穏健派。名前の由来は、マイスターは自身の作品に命を吹き込む→命の宿った人形を祝福するという意味合い。
人権団体と名乗ってはいるが、ようは人形のような無休で働く環境に人間を働かせるべきではないという感じの団体。
ファンクラブ会員者が最も多い。

会長
代理人に一目惚れしたが、年齢を理由に断念。しかしその熱意だけは消えず、ファンクラブを設立した。
実は喫茶 鉄血に行く大義名分が欲しかっただけでもある。

護衛たち
代理人ファンクラブの最初の五人。
そんなわけで当然武器など持っているはずもなく、何かあっても手を出すことはない。
たとえ会長が殴られようとも代理人>>>>>>>会長である以上止めもしない。

404
久しぶりに仕事モードで行ったらこんなオチ・・・・・最近こんなのばっかだね。
なお、彼女らの中で最もファンクラブが多いのは416だが、最も濃いのは45のところである。



あ、この人権団体(笑)はフリー素材だよ☆


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第六十五話:「私たち」「入れ替わってる!?」

こんなタイトルを書いておきながら私はあの映画を見たことがありません。
貞子とかゴジラは見にいくんですけどね・・・。


人形は機械で動いている。それはどれだけ外観が人間と似ていて、どれだけ表情豊かであっても変わらない事実である。電子脳から全身へ信号を流し、いくつものパーツが一つの(人形)を動かしているのである。

 

ところで人形の場合、予備の素体に意識を移すのも全て電気信号である。人の目には見えないそれらが一瞬で駆け巡り、さっきまでとは全く違う姿になっても問題なく動けるのだ。

・・・・・・つまり、わずかな電気信号のズレで、大惨事にもなるということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、416と9は隣町のスーパーに訪れていた。基本的に暇だが給料は出るという、それはそれは羨ましい立場にいる404小隊、そんな彼女らは暇な時間を思い思いの過ごし方をする。

例えばG11は喫茶 鉄血やその他の喫茶店でひたすら窓の外を眺め、45は料理をしたり妹の動向を伺ったりやたらとひっついてくる40から逃げ回ったり、40は45を追いかけたり散歩に行ったり他の人形と喋ったり・・・そんな感じである。

そして416と9は、こうして二人でどこかに出かけるのがほとんどだった。

 

 

「ねぇ416、あと何買ってくの?」

 

「これで全部・・・・・あ、新しいアルバム買おうかしら。」

 

「アルバム?」

 

「えぇ、もう今のアルバムも写真を入れておけるスペースがなくなってきたから整理のついでにね・・・・・9の寝顔の写真だけのとか。」

 

「もうっ、416!」

 

「ふふっ、冗談よ。」

 

 

なんとも甘ったるい空気を撒き散らしながら並んで歩く姿は、S09地区を中心にその周辺の街では今や名物だ。社交的な9と面倒見のいい416はどこでも人気者であり、そんな二人が付き合っていることはすでに誰もが知っている。

 

 

「でも帰るには少し早いのよね・・・・・9?」

 

「え? あ、なんか美味しそうな匂いがして。」

 

 

9の言うとおり、どこかから香ばしい匂いが漂ってくる。匂いを辿ると、どうやら地下の飲食店コーナーからのようだ。

 

 

「ねぇ見にいかない? 何か面白いのがあるかも!」

 

「あ、こら走ると危ないわよ!・・・・・全く。」

 

 

こういう妙に子供っぽいところが9らしいといえばらしいので、416も呆れつつ苦笑する。まぁ実際食欲をそそられる匂いなのだから、無理もないだろう。

すでに階段の下にまで行っている9を追い、416も階段を降りようとしたその時、不意に足が沈むような感覚に襲われる。いや、正確には足に異常はない、原因はその足元だった。清掃後だったのかそこは水に濡れたままで、おそらく日の当たりにくい角度だったのかまだ乾ききっていなかった。そこに踏み込んだ416の足がズッと滑り、階段を踏み外したのだった。

 

 

「なっ!?」

 

「416危ない!!!」

 

 

落ちる416と、それを受け止めようとする9。それらがまるでスローモーションのように感じ・・・・・・・・次の瞬間には星が舞った。

 

 

「ガッ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

9はちゃんと受け止めた、受け止めたのだが勢いそのままに416の頭と9の頭が衝突。そのまま9を押し倒す形で地面に転がる。

ほんの一瞬だけ意識が飛び、しかし遅れてやってきた激痛に頭を抱える二人。そのままゴロゴロと転がり続け、数分経ってようやく起き上がる。

 

 

「いててて・・・・4()1()6()大丈夫?」

 

「え、えぇ・・・・・9()のほうは?」

 

 

互いに安否を確認し合う。

『416』が416を、『9』が9を呼んで・・・・。

 

 

「「・・・ん?」」

 

 

二人が同時に顔を上げる。そこには見慣れた()()()()・・・・・いや待て、鏡もないのになぜ自分の顔が?

そうして今度は視線を下に向ける。こちらも見慣れた服装と体型だ・・・ただし、想い人のものだが。

そしてゆっくりと自分の顔を触る。何もないはずの右目には傷跡の感触が、何もつけていないはずの前髪には十字の髪留めが・・・・・。

同時に察し、そして叫んだ。

 

 

「「い、入れ替わってるぅうううううう!?!?!?」」

 

「え、え!? ど、どどどうしよう416!?」

 

 

あたふたしながら涙目で慌てる『416』。

 

 

「お、落ち着いて9。 まずは落ち着きましょう!」

 

 

手先が震えているがなんとか冷静さを保とうとする『9』。

見るものが見れば目を疑う光景だが、残念なことに事実である。頬をつねってみたり一度スリープモードに入ってみたり胸を揉んでみたり(『9』に止められた)してみたが、やはりこれは現実である。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、スーパーの屋上。

一応子供の遊び場のようになっているが、一つ下の階にゲームコーナーが出来てからは誰も来なくなった場所である。

そこのブランコに、なんともいえない表情で黄昏る二人の姿があった。

 

 

「・・・どうしよう・・・・・。」

 

「・・・・・ペルシカに診てもらうのが確実よね。」

 

 

見るからにシュンとなる416‘*1と、冷静ではあるがやはり落ち着かない9’*2。あれからもう一時間も経つというのに、なんの兆しも異常も見られない。

そう、なにも異常がないのだ。その事実が、もう元に戻れないかもしれないという恐怖を煽る。

 

 

「・・・・・そう・・・わかったわ・・・・・・えぇ、ありがとう。 それじゃあ。」

 

「・・・? 416?」

 

「ペルシカは今、出張で国外にいるそうよ。 事情を話してすぐに戻ってきてくれるらしいけど、早くても明日になるわね。」

 

「・・・・・・・。」

 

 

再び俯く416‘、そこの9’はポツリとこぼす。

 

 

「・・・ごめんなさい、私の不注意のせいよ。」

 

「そんな! 416は悪くないよ!」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が9を巻き込んでしまったのは事実よ。」

 

 

そう、ただ巻き込まれただけ。それがわかっているからこそ、互いにそれ以上なにも言わなかった。

 

 

「・・・・・帰りましょう、9。」

 

「・・・うん。」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

S09地区、喫茶 鉄血。

なんとかここまで帰ってこられた二人は、こういう自体にも冷静に対処できる協力者として代理人に相談する。代理人も事情を察し、客はおろか店員にも一切事情を話さずに奥の部屋に案内する。

 

 

「それはまぁ・・・災難、でしたね。」

 

「もう一周回って冷静よ。 きっとペルシカなら直せるでしょうしね。」

 

「今は純粋に楽しいかな、こんな経験そうないし!」

 

 

ここまでの間でなんとか折り合いをつけ、むしろ状況を楽しみだした416’。だがここまではなんとかなっても、ここから先が問題だった。

まずこのままでは司令部は大混乱だ、とくに45あたりは大変なことになるだろう。

カミングアウトした場合、その被害は抑えられるが気を使われ続けるというなんとも居心地の悪いことになる。逆に隠し通す場合、416は9を、9は416をというほぼ真逆な人形を演じることになる。

 

 

「まぁそれはそれで面白そうだけどね!」

 

「あなたのポジティブさが羨ましいわよ9・・・。」

 

「ふふっ、まぁそうですね・・・混乱は起こるでしょうがそれだけですので、お好きなように過ごされては?」

 

 

そう言って9‘の頭を撫でる代理人。いつもは撫でる側であるせいか、9’はどうにも恥ずかしそうだった。

 

 

「困ったことがあれば、すぐに言ってください。 先日のお礼もありますし、協力しますよ。」

 

 

代理人の助言・・・というか後押しをもらって、二人はこのまま『416と9』で行くことに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、想像以上に難易度が高いことを思い知らされる。人によって仏頂面とも言われる416を演じるのは、いつも笑顔の9だ。逆に416は普段まずないほど笑顔を維持しなければならず、もうすでに口角がヒクついている。

 

 

((めっちゃシンドイ・・・!))

 

 

しかも二人が付き合っているのは公然の事実、いつもは甘える側の9が演じる416‘は毅然としていなければならず、甘えなれない9’は顔を真っ赤にして腕にしがみついている。

そして(9‘にとっては)運の悪いことに、416‘はそんな9’の姿にSっ気が首をもたげる。

 

 

「あら9、今日は随分と甘えん坊さんね?」

 

「っ!? う、うん・・・今日はそんな気分・・だから。」

 

 

そう言うとますます顔を赤くする9‘。こうなってしまえばもう416’は止まらない。普段は澄ました表情の416に仕返しできる唯一のチャンスだ。

わざとらしく肩に手を回して歩いてみたり、路地裏に引っぱっていってキスしたり・・・その度に顔を赤くして睨んでくるが、まぁまんざらでもなさそうだ。

そのおかげか、今日の416はちょっと積極的なんだなという認識で済んでおり、それは司令部についてからもなんとか通せた。

 

 

「あら45、ただいま。」

 

「た、ただいま45・・・・姉。」

 

「? なんかいま変な間が・・・」

 

「気のせいよ。」

 

「・・・・・なんか怪s「見つけたよ45! どうして逃げるの!?」うげぇ! 40!? くらえ閃光弾!」カッ!!!

 

「甘いよ! 特注サングラス!」スチャッ

 

「ええいこのシスコンストーカー(ブーメラン)め!」

 

 

猛ダッシュで逃げる45と、それを追う40。誰も止めないあたりよくあることなのだ。ともかく一番の難関を脱した二人は、冷や汗をかきつつもなんとか自室に転がり込んだ。

 

 

「あ゛〜〜〜〜疲れたぁ〜〜〜・・・・」

 

「まったく・・・悪ふざけが過ぎるわよ9。」

 

 

ムスッとする9‘に、416’はニヤリと笑みを浮かべる。自分の姿に欲情するわけではないが、あの416が今や自分の好きにできるとなると・・・・・そこまで考えたらあとは体が動いていた。

怪訝な表情の9‘の腕を引き、ベッドに押し倒す。目を白黒させている間に両手をひとまとめにして片手で抑え、動きを封じる・・・・・うん、やっぱりAR人形はパワーが違う。

さてそんなパワー差に抑えられた哀れな9’(SMG)は、ようやく416‘の魂胆に気がついた。

 

 

「・・・あとで怖いわよ9・・・・・」

 

「んふふ・・・・そう言ってられるのも今のうちだよ416?」

 

 

ギシッと軋む音が鳴り、二人の夜が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、ペルシカに『迎えに行くから喫茶 鉄血で待ってて。』という電話をもらい、開店前から待たせてもらう二人。

いつになくツヤッツヤな416‘と、ぐったりしながら机に伏せる9’。時々顔を赤くして首をブンブン振るあたり、昨夜のことはまんざらでもなかったのかもしれない。

 

 

「ふふふ、これは戻った時が怖いですよナイ・・・416さん。」

 

「そうね、だから今のうちに楽しませてもらうわ。」

 

「・・・まだ何かする気?」

 

「はい、アーン。」

 

 

ケーキを一口、フォークに刺して近づける。何故だろう、普段からやってることなのに今日ほど恥ずかしいと思ったことはない。

口を一にして拒み続けると、諦めたのか416‘はフォークを置いてジュースを飲む・・・・・そしていきなり唇を重ねてきた。

 

 

「んむっ!?」

 

「・・・・・はい! これとアーンとどっちがいい?」

 

「・・・・・・・・・・アーン、で。」

 

「はいっ、アーーーーン!」

 

 

こいつ、戻ったら絶対泣かす!

そう誓った9’は、ペルシカが迎えにくるまで羞恥と幸福感に包まれながら待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の夜、ようやく元に戻ると同時に今までにないほど416は攻勢に出たことは言うまでもない。

 

 

 

end

*1
9が入っている416

*2
416が入った9




無邪気っ子な416が描きたかった、それだけ。
ぶっちゃけ喫茶 鉄血に行く意味ないとか言ってはいけない、それを言われちゃおしまいだぜ?(焦り)


というわけでいろんな紹介

入れ替わりについて
なんかごちゃごちゃ書いたけど深い意味はない。
お姉さんしてる9と困り顔の416が書きたい。そう思っただけ。

416‘
9からすれば笑わないことがどれほどしんどいかがよくわかった一日。
やっぱり笑顔は一番だよ!

9’
9・・・あなたすごいわ・・・
翌日、9‘の時に笑顔でいすぎていつもの表情に違和感が出た様子。

ペルシカ
なるほど・・・入れ替わりというのもありなのか・・・・・

代理人
いろいろと察してくれるお姉さん。
困ったら警察より先にこっちを頼ろう。



M16とROに合いそうなカップリングを探してます。
いい意見があったら是非教えてください!

45姉?独身コース真っしぐらだよ!


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第六十六話:店長代理

今日は代理人はお休み。
スペック的には同等のDが、店を取り仕切る!


ドルフロのコンサート行きたいけどお金が・・・


「では、お願いしますよ。」

 

「うん! 任せてOちゃん!」

 

 

そう言って荷物を持って歩いていく代理人と、それを見送るD。

今日から数日間、代理人はいない。どれほど高性能なハイエンドモデルといえど、日々自分たちでできるメンテナンスには限度がある。特に彼女の場合は鉄血工造製の中でも割と初期に製造されたモデルであり、技術的にも完成しきっていなかった部分の含めてメンテナンスは欠かせない。

そして今日は、これまでの定期メンテナンスではなく数日間に渡る徹底的なメンテナンス、むしろオーバーホールとか言われてもおかしくないようなレベルだ。

 

そんなわけで代理人が店を離れる間、代理人と同等のAIを持つDが店長代理として取り仕切ることとなったのだ。

 

 

「さて、じゃあ早速いってみよー!」

 

『おー!』

 

 

こうして、店長代理Dの数日間が始まった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは代理n・・・あ、今日からいないのよね。」

 

「あ、45さん。 えぇ、今日から私が店長代理です。」

 

「店長代理・・・代理人の『代理人』、ってことかな?」

 

「なんかややこしくなりそうですね。」

 

 

代理初日の最初に訪れた人形は、ここ最近一人で訪れるようになったUMP45・・・・・なのだがなんだか落ち着かない様子で店内を、そしてメニューを見渡す。特にドリンクメニューや期間限定の欄を凝視し、そして解決したのかホッと息をつく。

 

 

「ん? どうしたの45さん?」

 

「え゛っ!? いや、なんでもないわよ。」

 

「?」

 

 

挙動不審な45に首をかしげるD。するとそこへ元気よく扉を開く人物が。

 

 

「あっ! ここにいたのね45! お姉ちゃんも誘ってよ!」

 

「ギャー! いちいちくっつかないでよ40!」

 

「そんなこと言って、あたいがいなくて寂しかったのをごまかしてるんじゃないの?」

 

 

入店早々45に抱きつき、ごく自然流れで隣の席に座る40。というか普通向かい合う丸テーブルで隣に座るあたり、寂しかったのは40の方なのかもしれない。

そんな40はメニューを眺めつつ、ポツリと一言。

 

 

「・・・ここ、タピオカないんだね。」

 

「ブフゥ!? な、なんでタピオカなのよ!」

 

「え、一回やってみたくない? 『タピオカチャレンジ』・・・・・あ、ごめん。」

 

「謝らないでよ悲しくなるから!」

 

 

タピオカチャレンジってなんだろう・・・そう思いつつ45が探していたのがタピオカドリンクであったことを理解したDはすぐさま厨房に戻り、あちこち探し回って何時ぞやに買ってみたタピオカを発見する。

善意100%、一切の邪念も何もない純粋な気持ちで用意したタピオカドリンクを、今なおワイワイ騒ぐ二人の元に持っていく。

 

 

「お待たせしました! ご注文・・・じゃないけどタピオカミルクティーです。」

 

「ってなんで持ってくるのよ!?」

 

「あ、ありがとー! ・・・・・うん、美味しい!」

 

「普通に飲むな!」

 

 

さてそこで45はハッとDを見る。その目は何かを期待したようなキラキラを放っており、逆に45はこめかみをひくつかせる。

 

 

「あの、よろしければ『タピオカチャレンジ』なるものを見せていただけませんか!」

 

「・・・だって、45。」

 

「なんで私なのよ!?」

 

 

45は決して冒険家ではない、むしろ堅実に生きるタイプだ。作戦においても成功するかどうかを第一とし、失敗のリスクを負ってまで全員生存を狙いはしない(404結成時の場合)。

そんな彼女が、果たして『アレ』をやるか・・・・・まぁ失敗する未来が見えているのが悲しい現実だが、やれば確実に何かを失うのだ。

 

 

「・・・・・・」キラキラ

 

「うっ・・・・・・・あんたがやりなさいよ40。」

 

「え? 別にいいけど・・・」

 

 

そう言うと40はタピオカを手に取り、ストローを口にくわえて椅子にもたれかかる。そしてゆっくりとコップを自身の胸部に置き、安定したところで手を離し・・・・・・

 

 

「・・・・・・ん。」

 

「チクショーーーーー!!!!! みんな大っ嫌いだぁああああああ!!!!!」

 

 

45が泣きながら机に突っ伏した。結果が見えていた40と周りの客は同情の目を、ようやく意味を理解したDはちょっと申し訳なさそうな目を45に向け、お詫びにケーキを置いていった。

 

 

「・・・・・その、45・・・あたいは気にしないよ!」

 

「グスッ・・・ふぇええええん・・・・・」

 

「あぁほら泣かないで・・・よしよし大丈夫だよ。」

 

 

まぁ結果的に45と40の溝が埋まったので結果オーライではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

前日の反省から自分の興味本位での行動は慎むと決めたD。そんな心機一転気分の中、訪れたのは喫茶 鉄血メンドクサイ客リスト上位に乗っかりつつある人形、スプリングフィールドである。

容姿端麗、頭脳明晰、面倒見がよく料理上手で若手人形たちのお姉さん・・・・・それが()()()()彼女のイメージだ。

 

 

「指揮官・・・どうして私に振り向いてくれないんですかぁ・・・・」

 

「ほんっっっっっっっとうにごめんなさい! すぐにこの飲んだくれを引きずり出しますから!」

 

 

指揮官が絡まなければ、であるが。

昨夜何があったかは知らないが、相当量を飲んでいるせいか完全に潰れているスプリングフィールドを、同室であり妹のM1ガーランドが起こそうとする。だがスプリングはまるで机が愛しの指揮官であるかのようにしがみつき、全く離れようとしない。・・・・・ガーランドの額にはすでに青筋が浮かんでいる。

 

 

「・・・あー、大丈夫ですよガーランドさん。 いまはそっとしときましょう。」

 

「・・・・・わかりました代r・・じゃなかったDさん。 コーヒーをもらっても?」

 

「かしこまりました!」

 

 

飲んだくれの残姉(スプリングフィールド)は放っておき、運ばれてきたコーヒーをすするガーランド。だがチラチラと後ろで寝息を立てるスプリングを気にするところを見ると、決して嫌っているわけでもなさそうだ。

 

 

「はぁ・・・・・あの非常識さがなければ全力で応援しているんですよ、あの非常識さがなければ。」

 

「私、その、()()()()彼女を見たことがあまりないんですが。」

 

「この地区に来る前は・・・まぁイメージ通りのちゃんとした姉でしたね。 自分よりも他人に気を遣う・・・遣いすぎるくらいに。」

 

 

ここで指揮官と会えて、ようやく自分のやりたいことを見つけたんです、と嬉しそうに語るガーランド。妹としては、やはり姉の恋路は応援したいんだろうとDは思う。実際、自分ももしOちゃん(オリジナル)が何かやってみたいことを見つければ、全力で応援するだろう。

だから、ガーランドの気持ちはよくわかる・・・・・ついでに青筋が浮かぶ理由も。

 

 

「えへへ〜・・・・・大丈夫ですよ指揮官・・・今ならガーランドも付きますから・・・・・」

 

「やっぱり叩き起こして連れ帰ります。 コーヒーありがとうございました、お代はここに置いておきますね。」

 

 

寝ながらにやける姉にげんこつをかまし、ズルズルと引きずって帰るガーランド。

Dはそれを見送りながら、そんな姉妹がちょっと羨ましいなと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さらに翌日。

その日訪れたのは結構珍しい組み合わせの三人、別地区の指揮官であるレイラとその娘のユノ、そしてどこで知り合ったのかS08地区にいるはずの『UMP9』である。

 

 

「あ、ユノちゃん! こんにちは〜!」

 

「こんにちはDさん! オレンジジュースとケーキ!」

 

「あの・・・いいんですかレイラさん?」

 

「いいのよ、好きなもの頼みなさい()()()。」

 

 

三人でテーブルを囲み、ケーキをつついたり紅茶を飲んだり。さっきレイラがUMP9を『ノイン』と呼んでいたが、どうやら名前をもらったらしい。

そういえばいつもの副官さんがいない気がするが。

 

 

「あの・・・ナガンさんは今日は?」

 

「・・・・・・。」

 

「? お母さんが、『今日はお仕事があるから来れないって』って言ってたよ。」

 

「・・・レイラさん、娘に嘘つくのはどうかと。」ボソッ

 

「しょ、しょうがないでしょ! あのままじゃ書類終わらなかったんだから。」ボソボソ

 

 

なるほど、ようは黙って出てきたということらしい・・・・・あとが怖いなこれは。

 

 

「そういえばノインさん、今もまだあのお店で働いてるんですか?」

 

「ん? うん、でももうそろそろやめるつもり。」

 

「え? なんでよ。」

 

「お金も溜まってきたから・・・・・本格的に旅に出ようかなって。」

 

「え! ノインお姉ちゃん旅するの!?」

 

 

子供らしく目をキラキラさせながら聞くユノに、ノインは苦笑しながら話す。

そういえばもともと彼女は旅に出たいと言っていたし、そのことを先方にも伝えているのだろう。Dは直接会ったことはなかったが、彼女は異世界の人間だ。だから、この世界での自分を見つけるために旅に出るらしい。

 

 

「そう・・・・・じゃあはい、これ。」

 

「え・・・・・番号?」

 

「そう、私の端末のね。 隣のは私の司令部のやつだから、困った時は遠慮しないで連絡ちょうだい。」

 

 

そう言ってニカッと笑うレイラ。

ノインは、思う。本当にここの人たちは明るくて親切だ。人間も人形も、グリフィンも鉄血も関係なく、気がつけば()()()では手に入らなかったものが、身の回りにあふれている。

 

 

「あ、じゃあここの番号も教えておくね! それとこっちがOちゃんのやつ、こっちが鉄血工造のやつだよ。」

 

「・・・・・みんな、ありがとう。」

 

 

幸せって、こういうことを言うのかな・・・・・今はもう会えないかつての仲間たちに、そう呟く。

願わくば、いつまでもこの日々が続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と楽しそうにしておるのぉ指揮官?」

 

「げっ!? ナガン!?」

 

「あ、おばあちゃん!」

 

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 

「うむ、ではアイスコーヒーを頼もうか。 ・・・・で? 司令室にあった山のような紙は一体なんじゃろうな指揮官?」

 

(・・・そっか、これがOちゃんがお店を開いた理由なんだ。)

 

 

小柄な人形に締められる大の大人という構図を笑いながら見守るDは、その日一つの決心を固めたのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ただ今戻りました・・・・・・D?」

 

「Oちゃん。 私、自分のお店を開きたい! Oちゃんみたいに、いろんな人に笑顔になってもらいたい!」

 

 

代理人がメンテナンスを終えて帰ってきた日、Dはその想いを伝えた。

これが、後の喫茶 鉄血2号店誕生のきっかけとなるのだが、それはまた別のお話。




本作には独自設定が多々あり、原作と異なる場合がございます(今更)
今回はDが見た喫茶 鉄血、という感じのお話です。ここまで書いてきましたが、コラボ回含めて多くのお客さんが訪れました!
改めまして、今後ともよろしくお願いします!


というわけでキャラ紹介

D
代理人の高性能ダミー。
ダミーと言う名の別機体のような感じになっているが、代理人の命令にはしっかりし違うので一応ダミー。
彼女を主役にしたスピンオフもありかな・・・・・誰か書いてもええんやで?

45
いつもの彼女。
タピオカチャレンジなるものを知った時、同時に出てきたのが彼女でした。・・・・・悪気はないよ?

40
シスコンではないが妹が大好き。
なんか微妙に避けられている気はしていたが、今回でちょっと近づけた。

春田さん
45姉とは別ベクトルで残念な人形。
聖母の皮を被ったサキュバスみたいな感じ。

ガーランド
そんな春田さんの最後のストッパー。最近実力行使に出ることが増えた。
おっぱいが大きい。

レイラ&ユノ
別の地区の指揮官とその娘、コラボ回から登場。
本作品では衝撃の事実が明らかにされたが、ここでは一切関係ない。

ノイン
コラボ回で流れ着いたUMP9(人間)。
さすがにいつまでもUMP9ではアレなので9のドイツ語読みでノインに。
人間なのでちょっとずつ成長している・・・・・主に胸部が。


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第六十七話:指輪

いくつものドルフロ世界があり、いくつもの物語がある。その中でも忘れてはならない、人形と人間を結びつけるアイテム。

さぁ、ドルフロ界のトラブル発生アイテム、『指輪』の登場だ!


「お待たせしました、ホットコーヒーが二つとロールケーキです。」

 

「ありがとう。 これもここで作ってるの?」

 

「すごいな・・・あとで店の中を見せてくれないかな?」

 

「えぇ、構いませんよ。 ではごゆっくり。」

 

 

気温は高いが実にいい天気のここS09地区、その一角に店を構える喫茶 鉄血では、ちょっと珍しい客が来ていた。

一人は車椅子に座った男性、優しげな笑顔を浮かべながらコーヒーをすすっている。もう一人は水色の髪をポニーテールにした女性、服装こそ違うが十字の髪飾りと目元のタトゥーが特徴の彼女の名はHK416。

そして二人の左手の薬指に光るのは、銀色の指輪だ。彼女たちはS08地区の街でカフェを営む、かつては別の世界で指揮官とその人形という関係だった二人だ。

 

さて、実はグリフィンやIoP、鉄血工造など戦術人形を扱う企業や組織ではこの二人を知らぬ者などいないほどの有名人である。

別世界云々を除いても、人形と人間が『結婚』したというほぼ唯一の実例だ。人形の社会進出、および人間との共存関係を強く望む企業や組織にとっては最高のモデルであり、また人形たちにとっては夢を与えてくれる理想のカップルなのだ。

 

 

「人間と人形の愛の結果か・・・素晴らしいな。」

 

「手を出さないでよゲッコー、私でもあの二人をネタにはしないんだから。」

 

 

そんな二人は、行く先々で注目の的だ。夫の方こそ半身不随というペナルティを抱えているもののそれを苦にするようなそぶりは一切ないし、嫁である416は甲斐甲斐しく世話をする姿から本当の愛を感じる。

 

で、当然そんな姿を見た人形たちはこう思う・・・・・結婚したいなぁ、と。

 

 

「あれが姉さんの理想、ですね。」

 

「そうね・・・でもライバルが多いわ。」

 

「スプリングフィールドさんにガリルさん、ウェルロッドさんとモシン・ナガンさんとKar98kさん・・・・・前途多難ですね。」

 

 

幸せムードの二人を眺めるのはG36と36Cの姉妹。姉であるG36が指揮官に好意を抱いているのはすでに周知のことであり、ラブ勢同士のにらみ合いにも参加している。

そして今日は、なんと別の席にウェルロッドとKarも座っているのだった。

 

 

(指揮官と・・・結婚・・・・・)

 

(この薬指に・・・・・指揮官が・・・・・・・)

 

 

妄想ではすでに行くとこまで行ってしまっている二人だが、二人とてライバルが多いということはわかっている。ついでに言えば『指揮官が』選ぶためそもそもラブ勢であるという保証もない。ついでに言えばその前段階にすら至っていないのだが、そんなことは誰も気にしていない。

その後も店内のいたるところ、人間人形問わず話題は指輪や結婚でもちきりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな会話が繰り広げられる店内、その窓際の席にもまた別の人形が座っていた。

 

 

(指輪、ねぇ・・・・・随分とタイミングのいい話題だよ。)

 

 

相変わらず頬づえをつきながら窓の外を眺め、しかし周りの会話をきっちり聞き取っているのはこの店の常連にして愉悦部筆頭のG11。

そんな彼女の顔は、いかにも『いいこと』思いつきましたと言った表情を浮かべている。それもそうだろう、何せ彼女は・・・・・

 

 

(人形用の指輪があるって知ったら・・・・・どうなるかな?)

 

 

そう、そんなある意味爆弾に等しい情報を持っているのだ。理由は単純で、その指輪型アクセサリーを開発したのがペルシカであること、この地区の指揮官に支給されるものを運んだのが404小隊であるためだった。

 

この指輪型アクセサリーは『誓約指輪』と呼ばれており、IoPが人形のリミッター解除装置として開発したものである・・・・・のだが別にリミッターを外さなければならない場面など皆無であり、そういう意味では『おまけ』機能である。これの最も重要な点は、指輪を与えられた人形の所有権が指揮官に移る、というもの。

 

もちろん、誰に渡すかなどは指揮官に委ねられる。あえて誰にも渡さず返還するということもできるため、『指揮官が指輪を持っている』という情報は完全極秘だ。

・・・・・逆に言えばそれ以外のことは言ってもいいのだ(曲解)。

 

 

(ふふふ・・・・・さて、どうなるかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

先に気がついたのは、視界の隅に彼女を写していた36C。フラッと立ち上がったG11が出口ではなくこちらに向かってくることに違和感を感じ、一応警戒する。何せプライベートでは他の人形といるところなどほとんど見ない彼女が自らこっちに来るのだ。

 

 

「やぁ36姉妹、何かお悩みかな?」

 

「あらG11。 珍しいわね、あなたが人の悩み聞くなんて。」

 

「同郷のよしみじゃないか・・・で、どうしたの?」

 

 

姉が事の顛末をペラペラと話す間、36CはジッとG11を見ていた。正直、彼女のことは苦手だ。何を考えてるかよくわからないし、何よりあの腑抜けた顔の内側に何かが潜んでいる気がしてならない。

そんな36Cの予感は当たっており、G11はG36の話を聞き終えるとこう言った。

 

 

「う〜ん、もしかしたらチャンスがあるかもね。」

 

「え、どういうこと?」

 

「・・・いや、ちょっとした噂を聞いてね。 IoPが()()()()指輪を作ったって話。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

目を見開いて食いつく姉の姿に、36Cはようやくその魂胆に気がついた。こいつは初めからこの話をするつもりだったと。彼女は噂だと言ったが、かつては存在しない部隊とさえ言われたあの404の隊員だ、当然何処かから仕入れた情報だろう。

彼女はその情報(マッチ棒)を、夢見る姉(火薬庫)に放ったのだ。しかも・・・・・

 

 

「あらあら、随分と楽しそうな話ですわね。」

 

「情報は、共有すべきですよ。」

 

「っ!? な、なんのことでしょうか?」

 

 

あっという間に引火、というか誘爆した。どうやらG11の声が聞こえていたようで、黒い笑顔を浮かべたKarとウェルロッドがやってくる。なんとか隠したいG36だが、どう見ても旗色が悪そうだ。

 

 

(・・・何が目的ですかG11!)

 

(ん〜? なんのことかな?)

 

 

しれっと言い放つG11だが36Cは一瞬見た、G11がニヤッと笑うのを。

完全に愉快犯である。

 

 

「わかりました! 指揮官に直接問いただしましょう!」

 

「そうですわね、なら今すぐ行きますわよ!」

 

「指揮官なら何か知っているはずです!」

 

 

気がつけば3人組はさらに炎上し、真偽を確かめるという結論に至る。もう完全にG11の掌の上で踊らされてる感があるが、残念ながらそれに気がつくのは36Cだけである。

だが・・・・・

 

 

「・・・で、誰が行きますの?」

 

「「・・・・・・・・・・。」」

 

「・・・・・・え?」

 

 

Karの疑問に、燃え上がっていた二人が一気に鎮火する。これには流石のG11も面食らったようで、誰も見た事のないような間抜け面を晒している。

指揮官をデートどころか食事や買い物に誘うのですら一大決心が必要な彼女らが、指輪の有無や誰に渡すかなど聞くことができるか。否である。

そんなヘタレっぷりを考慮していなかったのか、G11は呆然突した様子で固まり、36Cは逆にニマニマと笑みを浮かべる。

 

 

「当てが外れましたね、G11?」

 

「うぐっ・・・・・こ、今回は引いておくよ。」

 

 

心底悔しそうな顔で退散するG11をなぜか勝ち誇った顔で見送る36C。だが満足げな顔で振り返った彼女は、なぜか再び炎上している三人に言葉を失う。

 

 

「き、既成事実さえ作ってしまえば!」

 

「この際お酒でもウイルスでも構いませんわ! 素面でダメなら素面でなければいいだけ!」

 

「ヤってしまえばあとは流れです!」

 

 

公共の場、それも飲食店でソコソコの音量で話す三人は、周りの客から無駄に注目を浴びている。完全にヒートアップしているせいか周りも見えておらず、野次馬たちがニヤニヤしながら話を聞いている。

 

 

「・・・・・・・はぁ〜〜〜〜〜・・・・」

 

 

今日何度目かわからないが、36Cは盛大にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まぁ、襲ってしまった方が早いかもね。」

 

「え? 416?」

 

「ふふっ、冗談よ『あなた』。」

 

「あぁもう・・・・・君には敵わないな・・・・」

 

「えぇ、なにせ私は完璧だもの。」

 

 

 

end




指揮官の元に送られた指輪は一つ、それを狙うは6人の人形・・・指揮官の運命やいかに!?


なんて冗談は置いといてキャラ紹介です

HK416&元指揮官
以前のコラボ回でこっちにきた『別世界の指揮官と人形』。
現在はS08地区でカフェを営んでおり、今日は休みついでに遊びにきた。
カカオの錬金術師さん、見てるかい? こっちの二人は平和に過ごしてるよ!

G36&36C
ダメ姉と苦労人妹。こんな感じの姉妹がわりといる。
こんなんでも表向き優秀な人形という認識になっているので、そのギャップが嘆かわしいとは36C談。

Kar&ウェルロッド
ラブ勢の中でも直接衝突が少ない二人、そのためたまに二人でいる時がある。
度胸でいえばウェルロッドが一番あるのだが、総じてヘタレなので進展なし。

G11
愉悦部。
404という立場とペルシカに近いこと、普段は暇であることを生かした情報収集によりあらゆる人形を焚きつけることができる。
指揮官と彼女らのドタバタを期待したが、今回は失敗に終わった。
G11「まだだ、まだ終わらんよ・・・」

代理人
普通なら出禁にされてもおかしくない客でもちゃんと迎える聖母のような人形。
今日も、騒がしくも平和な喫茶店でコーヒーを淹れる。


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番外編16

モンハンの新作、ティガレックスが出るということで買おうと思います。
ところでPS4のゴジラVS、新作とかでないですかね?

今回はこの四つ。
・利害一致
・416の逆襲
・トレーニング
・根掘り葉掘り


番外16-1:利害一致

 

 

某月某日、人類人権団体『マイスターの会』の事務所。

普段は過激派やロボット協会からの抗議の電話しかかかってこないのだが、その日は珍しい相手からの電話だった。

 

 

prrrrrrrrrrr

「・・・・・はい、人権団体『マイスターの会』です。」

 

「おや、会長さんですか?」

 

「ん? どちら様ですかな?」

 

 

電話の相手は若い女性のようだが、初めて聞く声だ。

警戒心をあげる会長だったが、続く言葉で一気にそれを解く。

 

 

「私はマヌスクリプト、喫茶 鉄血のマヌスクリプトです。」

 

「おぉ! あなたがあの・・・お電話いただき光栄ですよ。」

 

 

まるでロボットのごとくクルクル回る手のひら。まぁこのゆるさが会長らしさではあるが。

 

 

「して、本日はどういったご用件で?」

 

「その前に・・・『写本先生』って、聞いたことある?」

 

「えぇ、存じております・・・あなたのことでしょう?」

 

「お、そこまで知ってるなら話は早いね。」

 

 

ちなみに写本先生=マヌスクリプトというのはあまり知られていない。知っているとすれば鉄血工造関係者か一部の人形、人間、あとはかなり熱心なファンかストーカーである。そして会長はどっぷりファンだった。

 

 

「私は今好きに本を出せないんだよ。 まぁ身内を売ってるようなものだからね・・・・・でも抜け道が一個だけある。」

 

「ほぉ、それは?」

 

「禁止されてるのは、『私が直接出す』こと。 だから書くことはできるけどそこまで。 だから・・・・・私の販売担当になってよ!」

 

「わかりました、受けましょう。」

 

 

即答である。

もちろん会長とてバカではない、というか頭の回る方でもある。それがなぜ即答かというと、理由はいくつかある。

根底には人権団体というイメージの悪さを払拭したいというものがある。写本先生は鉄血、少なくとも人形関係の者であるということが一般的な認識であり、手を組むことで人形と友好的な立場であるという証明にもなる。加えて即売会などで売る場合、より直接的に、より多くの人間にそのイメージを与えられる。

 

・・・・・というのが約四割で、残り六割が私欲である。

 

 

「一つ確認ですが・・・・・代理人モノは?」

 

「あるよ。」

 

「いいでしょう。 詳しい話はまた後日に。」

 

「OK! じゃあね会長!」

 

 

こうして両者の思惑が絡み合った結果、マヌスクリプトは販路拡大を、マイスターの会はそのイメージ改善を成し遂げることとなる。

なお、見事に抜け道を使われたアルケミストはかなり苦い表情だったという。

 

 

end

 

 

 

番外16-2:416の逆襲

 

 

9‘が416’に押し倒された翌朝のこと。

ツヤッツヤな416‘を恨めしそうに見る9’の表情は、迎えに来たペルシカによって一気に晴れやかな、そして意地の悪い表情へと変わる。

 

 

「おはよう二人とも・・・・・うん、その表情でナニがあったかはわかるよ。」

 

「なら早く戻してほしいわ。 任務どころか日常生活にすら支障をきたすのよ。」

 

「あと45姉にバレると大変だからね。」

 

 

というわけで早速車に乗り込んで16lab・・・ではなく最も近いメンテナンス施設の鉄血工造へと向かう。

そこではすでに事態を把握しているサクヤが待機しており、装置の準備も終えていた。

 

 

「まぁやることは簡単よ。 今の二人は単純にAIが入れ替わってるのと同じ。 だから元に戻すだけで治るわよ。」

 

「はぁ良かった〜、いつまでもこれじゃあ疲れちゃうよ。」

 

「その体で散々遊んだのは誰かしら?」

 

「散々遊ばれたのは誰だろうね416?」

 

「はいはい、惚気はいいからポッドに入って。」

 

 

二人を押し込んで、ペルシカは装置を起動する。といってもやっていることは予備素体に移すのと何も変わらないので、あとはゆっくり茶でも飲みながらサクヤと話すだけ。

そうしておよそ十分後、ポッドから出てきた9はぐいっと背伸びし、416は体を動かしてはホッと安心したように息をついた。

 

 

「その様子じゃ上手くいったみたいね。」

 

「えぇ、助かったわペルシカ、サクヤさん。」

 

「ありがと!」

 

 

この後二人はS09地区まで送ったもらい、ペルシカとはそこで別れる。

・・・・・あとは司令部に帰るだけなのだが、もちろんそんなことは416が許さなかった。

 

 

「んむっ!? よ、416?」

 

「あら、昨日は随分と積極的だったじゃない。」

 

「ま、待って、せめて部屋に戻ってから・・・・・ここじゃ人が・・・」

 

「ダ〜メ、いったでしょ? あとが怖いわよって。」

 

 

悪魔のような笑みを浮かべながら、416は唇を重ねるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外16-3:トレーニング

 

 

Dの、二号店進出宣言のあと。

代理人以下全従業員との話し合いで無事賛成されたDは、翌日からいつもとは違った姿を見せるようになった。

 

 

「・・・・・これ、全部お店の運営関係、なの?」

 

「えぇそうです。 一日に書く量はさほどでもありませんが、開店後しばらくは書類との戦いです。 普段の業務と並行してこれも覚えてもらいます。」

 

 

今、Dの目の前に積まれているのは様々な形式の書類。それは代理人がこの喫茶 鉄血をオープンしてから、今日まで書いてきた書類の山である。収支はもちろん税金やその他の出費、客数の推移やそれに合わせた入荷量などなど、普通の人間や戦術人形なら目を回すほどの量である。

 

 

「期限は設けません。 それに接客面や部下の動かし方も覚えることが多いですから・・・・・無理はしないように。」

 

「・・・・・うん、ありがとうOちゃん!」

 

 

こうして、Dの店長になるためのトレーニングが始まった。まぁ実際のところは面倒な手続きなんかは鉄血工造の財政部やグリフィンなんかが手伝ってくれるが、それに甘えない心構えが大切なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「D、自分の接客も大切ですが視野は広く持ちなさい。」

 

「店長代理、今日はケーキどれくらい用意しましょうか?」

 

「Dちゃん、そろそろ休憩入っていい?」

 

「D、この茶葉がなくなりそうだがどこかに置いてるのか?」

 

「明日から数日間、アルバイトの子が来ます。 お願いしますよ。」

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜〜〜〜〜〜疲れた〜〜〜〜〜〜〜」

 

 

店長って大変だ、そう思うDだった。そして改めて代理人(オリジナル)の凄さがわかる。

Dは代理人のダミーだが、それはDが生まれる以前の代理人をモデルにしているに過ぎない。今ではほぼ別個体といってもいいくらいに違うが、だからこそ代理人の実力というか経験が大きいことがよくわかった。

接客しているのにちゃんと店全体を見ながら部下に指示を出し、きっちり仕事が回るように休憩に入らせる。店のどこに何が置いてあるかを完璧に把握し、しかもわかりやすく説明できる。

 

そして最も重要なこととして、おそらく自分が運営する二号店の従業員の多くは、人間だ。人形以上に気難しく、そして人形ほどタフじゃない。

 

 

(・・・ううん、言い訳はなし! 絶対認めてもらうんだ!)

 

 

顔をパンパンと叩いて気合いを入れるD。

彼女の挑戦は、始まったばかりだ。

 

 

end

 

 

 

番外16-4:根掘り葉掘り

 

 

とある日の夜。

S09地区司令部の一室に集まった人形たちは、珍しく真面目な表情で一点を見る。

集まったのはスプリングフィールド、モシン・ナガン、Kar98k、ガリル、ウェルロッド、そしてG36。その彼女らの視線の先にいるのは・・・・・

 

 

(・・・え、何この状況?)

 

 

よくわからずに拉致られてきた、S08地区の416だった。

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は昼間の喫茶 鉄血。指輪の話から始まった指揮官ラブ勢の暴走は、あわや司令室突撃一歩手前という事態にまで進んでしまう。しかし彼女らにとっては幸運なことに、その日予備宿舎の一室に泊まることになっていたのが、S08地区からやってきた二人である。

 

ラブ勢は考えた、経験者から情報をもらおうと。あとついでにリアルな『夜』についても聞いてみようと。

そんなわけでほかのラブ勢も捕まえて予備宿舎にやってきて、まくし立てるように416と元指揮官に説明してから416を拉致り(夫の方はよくわらないが優しい笑顔で送り出してくれた)、そして今に至る。

 

 

「416さん、あなたはあの男性と結婚されてますよね?」

 

「え、えぇ、そうだけど。」

 

「彼との出会いは、どんな感じでしたか?」

 

 

一番に切り出したの最近「春田さん」と呼ばれるようになったスプリング。流石に彼女も順を追って聞くことにしたらしい。

 

 

「私が彼の司令部に配属された最初の人形だっただけよ。 その頃にはまさかこうなるとは思わなかったわね。」

 

「いつから今の関係に?」

 

「ど、どっちからこ、告白したんですか!?」

 

 

続いてG36とKarが質問する。そろそろ突っ込んだ話題にシフトし始めたようだ。

 

 

「いくつも作戦を成功させて、私も彼のことを信頼するようになってからね。 告白は・・・・・か、彼からよ。」

 

(乙女の顔だ・・・)

 

 

もともと凛とした、あまり喜怒哀楽のはっきりしない部類の人形である416の貴重な照れ笑いに、彼女たちも思わずドキッとする。

さてそろそろかというところで、いよいよガリルがぶっ込んできた。

 

 

「は、初めてってどんな感じなんや!?」

 

「なっ!? そそそそれは聞かなくても」

 

「い、いえ話してください!」

 

「そうです、というかぶっちゃけそのために連れてきたんですから!」

 

 

顔を真っ赤にして狼狽える416に、ウェルロッドとモシン・ナガンも畳み掛ける。ジリジリと下がる416だが、ついに壁際に追い込まれて六人に囲まれる形となる。

 

 

「大丈夫です! 私たちの間以外では話しませんから!」

 

「私たちにとっては死活問題なんです!」

 

「・・・・・わ、わかったわよ! だから・・・もう少しこっちによって・・・・・」

 

 

七人の少女が顔を真っ赤にしながらのガールズトーク。416の赤裸々な体験に茹で蛸のように顔を赤くしつつも、416が語り終えるまで一切無駄口を挟まずに聞き入るのだった。

ちなみに話し手の416は、誰よりも真っ赤になっていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、お帰り416。 みんなとは仲良くなrうわぁ!?」

 

「・・・・・あなた、今夜は寝かさないから。」

 

「・・・・わかった、おいで416。 愛してるよ。」

 

「えぇ・・・私もよ。」

 

 

 

end




朝チュンとか「おたのしみですね」な話が多い気がするけどまぁいいよね?
というわけで各話の解説!

番外16-1
六十四話の後日談。
平和なキャラや集団はギャグ堕ちするのだ。
なお写本先生には直接お金が入ってこないが、団体からのお礼としてお金が振り込まれる。

番外16-2
六十五話のすぐ後から。
なんやかんやで416は受けより攻めだね!
あと狼狽える9が可愛い。

番外16-3
六十六話の翌日から。
Dの夢のために協力する喫茶 鉄血の仲間たち。
こういうハートフルを描きたいがためのこの作品なので、個人的にはお気に入りの話。

番外16-4
六十七話の夜。
この世界では唯一の『人間と人形の夫婦』ということで捕まった416がいろいろ聞かれる話。
ちなみに416ちゃんは鳴される側らしい。


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第六十八話:After Episode of K

救済回、再び。
今回はBig Versa様の短編小説『Episode of Kar98k』より、主人公のKar98kです。

何とかしてと言われたらやるっきゃないでしょ!


この世界では、時々不可解な現象が起こる。珍しいとか異常気象とかどこかの研究所の失敗とかではなく、文字通り非科学的な、まさにSFのような現象だ。

ロシアのドネツクの幽霊騒ぎやS08地区近隣の砂嵐と存在しない司令部、あるいは突如レーダーに現れた小さな信号。

 

そしてこれもまた、そんな不可解で奇妙な出来事の一つ。

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜♪〜〜♪」

 

 

その日、グリフィンS09地区所属のKar98kは大変ご機嫌だった。ご機嫌すぎて鼻歌まで歌ってしまうくらいには。

そんな彼女の腕の中にはやや大きめの紙袋、その中には真っ白の箱が収まっている。これは最近話題の超高級チーズケーキで、一日数量限定かつ常に長蛇の列ができるというもの。

徹夜組に混じって並んだ甲斐があるというものだ(人形である彼女に眠気や寒気は関係ない)。

 

 

「〜〜〜〜♪・・・あら?」

 

 

ご満悦の表情で帰路についていたKarだが、ふと嗅ぎ慣れない臭いがすることに気がつく。人形ゆえの嗅覚センサーに反応するかしないかの、ごくわずかな臭い。普段はアレな人形のKarだが、これでも何度か作戦に参加したことのある人形。

それが、血の匂いだと気がつくのに時間はかからなかった。

 

 

「・・・・・この奥、ですわね。」

 

 

見える先は長く続く薄暗い路地。人一人分くらいしかないその狭い路地を進むと、そこにあったのはまるで映画のセットのような一軒家だった。

ボロボロの外観はともかく、あちこちに穿たれた弾痕や焼け爛れた跡、路地裏ということもあってやや古い家もあるにはあるが、これはそんなものじゃないことはわかる。

 

 

「・・・・・。」

 

 

袋を片手で抱え直し、サイドアームを引き抜いて中に入る。火薬の匂いに混じって血の匂いも濃くなり、やがて一つの部屋の前まで来る。

物音は聞こえないが、誰かが・・・・・動かない誰かがいることはわかった。

 

 

(・・・・・よし、いきますわよ!)

 

 

一気に足を踏み入れ、サイドアームを構える・・・が、その覚悟を決めた顔は次第に歪み、目は大きく見開く。

そこにいたのは一体な人形。特徴的なコートを羽織り、装飾の多いブーツや帽子を身につけるそれは、Karもよく知っている人形だった。

 

腹部から人工血液を流し続けるそれは、間違いなくKar98k(自分)たった。

 

 

「ひゃああああああああ!!!!!!!」

 

 

思いっきり腰を抜かした。

そりゃそうだろう、なにせ自分と同型が血を流して目を閉じてるのだ。ドッキリでも卒倒ものである。だがそこグリフィンの戦術人形、すぐに異常事態であることを認識し、救援を呼びかける。

 

 

「こ、こちらKar98k! 応答してください!」

 

 

しかし端末から聞こえるのはノイズだけ。この地球の裏側まで時間差なしで通話できるこのご時世に、ボロ家の中で通信障害などあり得ない。だが現実は現実、彼女は救援を呼びかけつつ、血を流すKar98kのもとに向かう。どうやら腹部に銃撃を受けたようで、当たりどころが悪かったのか機能停止にまで追い込まれている。だが、人形は機能停止=死ではなく、適切に処置すればまだ助かる。

Karは自身のコートを脱ぐと、彼女の腹部を強引に縛る。そして慎重に担ぎ、ボロ屋を後にした。

 

 

『・・・・・・ちら、S09地区司令部のカリーナです。 Karさん、聞こえますか?』

 

 

外に出た途端、Karの通信が回復してカリーナから応答が入る。

 

 

「か、カリーナさん! すぐに救援をください! 人形が一人重症で・・・え?」

 

 

場所と状況を伝えようとして、振り向いたKarは絶句した。そこにあったはずのボロ屋は跡形もなく、あるのはただの小さな公園だけ。

Karは、その日二度目の悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん・・・・・・。」

 

 

システムが再起動し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

視界に入ったのは茶色い木造風の天井。明るすぎず暗すぎない照明が照らし、視界の端では観葉植物が揺れている。こんなご時世に随分と小洒落た内装だ、グリフィンの宿舎ぐらいなものだろう。

・・・・・ということは、私は助かったのだろうか。

 

 

(死にぞこなった・・・・と言うべきかもしれませんね。)

 

 

だがそうなると、ここはどこだろうか。友軍に回収されたのならば研究室の白い天井が見えるはずだ。逆に鉄血に捕らえられたのなら・・・いや、それはあり得ないだろう。

 

 

「・・・・・ここは・・・」

 

「あ、起きましたよ代理人、ペルシカさん!」

 

「けが人の前ではしゃがないでくださいD。」

 

「ふぅ・・・間に合ってよかったよ。」

 

 

聞き慣れない声と、一応聞き覚えのある声が聞こえる。首だけ動かすと、そこにいたのはやはりと言うべきか、IoPの研究員であるペルシカ。

だが、その隣にいたのは・・・・・

 

 

「・・・・・鉄血・・・工造。」

 

「はじめまして、Kar98kさん。」

 

 

目の前のハイエンドモデル・・・確か代理人と呼ばれていた個体がそう言ってくる。その隣にいるのはおそらくそのダミーだろう。

 

 

「・・・・私のことを、ご存知なんですね。」

 

「えぇ。 最も、同型の人形に会うのは初めてですが。」

 

 

・・・同型?そう言った彼女が視線を向け、釣られてそちらを見ると

 

 

「ほ、本当ですのよ!? 本当にボロ屋があって、その中で彼女を・・・・・なんですのその目は!?」

 

「いや、ちゃんと聞いてるよ・・・・・新刊の設定の参考にね。」

 

「ムキーーー!!! ちゃんと聞いてくださいませ!」

 

 

・・・なるほど、私の同型機が見たこともないようなハイエンドと戯れている。というか遊ばれている。

 

 

「全く・・・あら? 目が覚めたんですね、気分はいかが?」

 

「え、えぇ・・・大丈夫ですよ。」

 

「それは良かったですわ! わざわざここまで運んできた甲斐があるというもの。」

 

「腰抜かして立てなかったとこを代理人が運んでくれただけなんだけどねぇ。」

 

「よ、余計なことは言わなくて結構です!」

 

 

・・・・・なんだこれ?

そんな感想しか出てこないが、まぁ誰が見てもそう思うだろう。視線を戻すと、代理人もペルシカも呆れ返っている。が、しばらくしてこちらに向き直り、話しかけてきた。

 

 

「・・・さて、君の傷は直したし、そのついでにメモリーも覗かせてもらったけど・・・・代理人。」

 

「えぇ・・・・・では単刀直入に申し上げますね。」

 

 

随分と改まった態度だ。だがメモリーを見られたということは、あの作戦も、そしてハンターに話したことも知られているのだろう。

代理人がいるという謎はあるが、ここはおそらくグリフィンの管轄下、そんなグリフィンに不利益を被った人形の末路など、一つしかない。

だが不思議と、不安や恐れはなかった・・・・・あるのはただ、諦めだ。

 

 

(ふふっ・・・まぁ、彼女たちを巻き込み殺した私にはお似合いですわね。)

 

 

これでいい、誰一人守ることのできなかった自分に、これ以上生きる意味はない。

静かに目を閉じ、その宣告を待つ。

 

だが、聞こえてきたのは予想とは大きく違ったものだった。

 

 

「・・・ここは、あなたが生きてきた世界とは別の世界です。」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

それから、代理人はいくつか資料を持ってきては私に見せてきた。年表や歴史書、街の地図からグリフィンの社内報まで・・・その一つ一つを見せられるたびに、彼女の言葉が嘘ではないことを理解していった。

・・・・・いや、理解はしていないが、どこか納得していた。今まで自分を形作ってきたものが全て失われた世界、出来損ないの人形の末路とは、ここまで残酷なものなのかと。

 

 

「そう・・・ですか・・・・」

 

「えぇ・・・・・それでKar98kさん、これからのことですが。」

 

「・・・・・・。」

 

 

じっと目を瞑り、これまでのことを思い返す。悲劇の部隊を、それを率いた自分に、もう生きる意味があるとは思えなかった。

解体してほしい、そう伝えるつもりで口を開いたが、言葉を発する前に横槍が入った。

 

 

「え〜っと・・・Kar98k、さん?」

 

「・・・・・なんでしょうか?」

 

「その・・・よろしければ、私の部隊に来ませんか?」

 

「「「・・・・・・は?」」」

 

 

突然の提案に思わず声が溢れる・・・・・ことはなく、では先ほどの反応は誰かというと代理人とそのダミー、そしてペルシカだった。

 

 

「Karさん? あなた部隊を持っていたんですか?」

 

「この前、『隊長がいじめるぅ!』って言ってきたよね?」

 

「Kar、言ってみたいのはわかるけど今じゃないのよ。」

 

「もうっ! なんで皆さん乗ってくれないんですか!?」

 

 

プンスカとでもいうような表情のKar・・・・・本当に同型かというくらい似ていない。

だが彼女はコホンと咳払いし、真面目な顔で話し始めた。

 

 

「まぁ冗談は置いておきましょう。 ・・・・・正直、自分でもあやふやなんですが、あなたからは危うさを感じました。 このまま消えてしまうような危うさを。」

 

「・・・・・・。」

 

「私は・・・あなたが歩んできた道を知らない。 どんな仲間がいて、どんな敵と戦ったのかも。 でも、ここであなたと会ったのは、きっと何かの縁だと感じたのです。」

 

 

そう言いながら、ゆっくりと近づいてくるもう一人の私。その手が私の手を優しく包み、なお語りかけてくる。

 

 

「・・・消えようなんて、思わないでください。 あなたに迷いがあるなら、私も一緒に悩みます。 一緒に探します! だから、一緒に来てください。」

 

 

その目が、一瞬『彼女』と重なった。まだ新米で、それでも自分を信じてついてきてくれた彼女に。

 

 

(・・・・・マウザー・・・。)

 

「っ!? ど、どうされましたか!?」

 

「え・・・?」

 

 

突然慌て始めたKarはハンカチを取り出し、私の涙を拭き取る・・・・・・涙?なぜ涙を?

その涙をどう感じたのか、困惑する私を彼女はぎゅっと抱きしめる。

 

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・大丈夫です。 もう、ここには敵なんていません。 私たちみんな、あなたの仲間です。」

 

「仲・・・間・・・・・」

 

「・・・はい!」

 

 

気がつけば、私は彼女を抱きしめ返していた。その手が震える理由も、涙が止まらない理由もわからない。

もしかしたら、私はただ、だれかに助けて欲しかっただけなのかもしれない。そう思うと、スッと胸が軽くなるような気がした。

 

 

「・・・・・ありがとう、ございます。」

 

「えぇ、こちらこそ、Kar98kさん。」

 

「・・・・・カラビーナ、と呼んでください。」

 

「えぇ・・・ようこそカラビーナ、歓迎しますわ。」

 

 

そう言ってくれた彼女は、私以上に泣いてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでカラビーナ、あなた胸が大きいんですね。」

 

「え?」

 

「背も高いようですし・・・・あなた本当にわたし(Kar98k)ですの?」

 

「え、あの・・・え?」

 

「・・・・・見てたら腹が立ってきましたわ、えいっ!」モニュッ

 

「ひぃやああああああああ!?」

 

「ちょっ!? Karなにやってんの!?」

 

「D! 今すぐ取り押さえなさい!」

 

「いい加減胸は諦めなさいこのちんちくりん!」

 

「世の中不公平ですわぁああああああ!!!!!」

 

 

・・・・・彼女について行って大丈夫なのだろうか。そんな不安が胸をよぎって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴り響く目覚ましを止め、ベッドから降りる。髪をとき、ハンガーにかけてある服とコートに袖を通し、仕上げに帽子を頭に乗せる。大きめの姿見で身だしなみを整え、部屋の鍵を持ってドアを開けた。

 

 

「あらカラビーナ、おはようございます!」

 

「おはようございます、Kar。」

 

「ふふっ、今日からですわね。 ・・・・緊張してます?」

 

「いえ、むしろ・・・少し、楽しみです。」

 

「そう・・・・・では早速行きましょう!」

 

 

そう言って彼女はわたしの手を取り、先を歩いていく。

やがて『食堂』と書かれた大きな部屋の扉の前に立つと、やや大きめの音でノックして、一気に扉を開ける。

 

連発する破裂音、舞い散る紙吹雪、巻き起こる拍手・・・・・どれも私にとっては初めてのことで、しばし呆然としてしまった。

そんな私に、彼女はクルリと振り返り言った。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、S09地区へ! あなたを歓迎しますわ、カラビーナ!」

 

 

そう・・・これからが、私の新しい物語(Episode)

 

 

 

 

 

end




何気に今までで一番気難しいキャラだったんじゃないかな。
そんな彼女に誰を当てようか考えた末、同じカラビーナ嬢をぶつけたら面白いんじゃねということになりました。
・・・・・やりすぎた気はするけど後悔はない!


というわけでキャラ紹介

カラビーナ
Big Versa氏の短編小説『Episode of Kar98k』の主人公。
詳細は本作品・・・ですが、もろバッドエンドなので気をつけてね!
同型機よりも背が高く、それに合わせて胸部も盛った。まだ過去を吹っ切れているわけではないが、どっちかっていうと過去を受け入れて前に進む感じにしたい。
Karよりもお姉さん感はある。

Kar
ポンコツの方、もしくはこっちのカラビーナ。
大人の皮を被った子供、もとい駄々っ子だが、人に寄り添える優しい人形。
カラビーナの世話係に任命され、おもに欠如しまくりな日常生活能力の強化を請け負っている。
戦闘面ではカラビーナに手も足も出ない(経験が違う)。

代理人
Karの悲鳴(二回目)をたまたま近くで聞きつけてやってきた。二人を店の二階に運び込み、Karの反応を追ってきたペルシカに引き継いだ。

ペルシカ
Karから通信を受けるも、直後に聞こえた絶叫にただ事ではないと感じたカリーナから要請を受ける。
16lab主任とは思えないくらいフットワークが軽い。

D
ペルシカの手伝いと処置後の看病。





経過報告:個体名『カラビーナ』

久方ぶりの『イレギュラー』と言える彼女だが、発見者の証言から一時的に建物ごと手にしてきたものとされる。似た事例に、代理人が遭遇した『教会』もあり、人形ないし人間に付随する形で出現するものと考えられる。
その他の『イレギュラー』からはその後の変化、および多世界との干渉は確認されていないため、この報告を持って対象の監視を解くものとする。

グリフィン最高評議会 議事録より抜粋


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第六十九話:9!9!!9!!!

(俺の)嫁回。
そういえばこの作品って9と416は三人ずついることになるんですよね・・・・・まぁだからどうしたというわけでもないですが。

話題があっちこっちに行くのは女の子の会話っぽくていいと思います!


久しぶりの大雨となったS09地区、外出客が減る中で雨が降ってもそこそこ賑わう喫茶 鉄血。

その2階にある個室では、ちょっと奇妙な集会が行われていた。まずこの個室に入って行ったメンバーを見た他の客は皆、『同じ顔が三人も入っていった』と語り、ついでに中から聞こえてくる声もほぼ同じ声。同型の人形が一箇所に固まることはほとんどないため、物珍しさから周りの興味を引いていた。

 

さて、そんな注目を浴びているなど知らずに集まったのは、栗色の髪を揺らした快活そうな人形の『UMP9』。

・・・・・正確にいえばそれをモデルとされた人形と人間である。

 

 

「というわけで、『第一回UMP9の会』をはじめまーす!」

 

「いぇーい!」パチパチパチ

 

「い、いぇーい・・・」

 

 

皆同じ顔なので区別がつかないため、胸元に名札を張っている・・・その中の『9』と書かれた人形(UMP9)が高らかに開会を宣言する。それに続いて『F』と書かれた人形(F9)が盛り上げる。そして一拍遅れて『ノイン』と書かれた少女がやや恥ずかしそうにしながら乗っかる。

 

 

「あ、今更だけど416と付き合ってるんだよね? おめでと9!」

 

「お、おめでとう・・・ございます?」

 

「二人ともありがとう! あとノインはもとフランクでいいんだよ!」

 

 

さてこの会の目的だが・・・ぶっちゃけ大した目的なんてない。たまたま見かけた姉の参加する集会(例のシスコン会)を目撃した9が、自分たちも何かやってみたいと言い出したのがきっかけだ。

そんなわけで以前から交流のあったUMP9タイプだけの会を作った結果がこれである。

 

 

「・・・で? 毎晩416に鳴されてるって本当なの?」

 

「ふぇ!? い、いやそれは・・・・・」

 

「ほらほら、情報共有は大事だよ9。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

開幕早々とんでもない話題を振られてキョドる9。Fとて一人形として気になる話であるし、ノインも恥ずかしそうにしながらもしっかり聞こうとしている。

 

 

「そ、その話は後! 後でちゃんと話すから! ・・・まずはみんなの悩みとか、共有したい話とかからだよ!」

 

 

こいつら絶対後で恥かかせてやる!

そんなことを誓いながら話題を強引に変える9。釈然としないがまぁ仕方ないとばかりに従う二人だが、正直困ってることは特にない。

Fの方は強いて言うなら暇すぎるくらいで(配属先がそもそも出撃する機会もほとんどないほど平和な場所)、ノインに至っては先日レイラと話して解決したも同然である。

 

 

「・・・・・あれ、本当にないの?」

 

「ないんじゃ・・・・ないかな?」

 

「・・・じゃあ、近況報告とか?」

 

 

流石にわざわざ集まっておいて話すことがないんじゃ仕方がない、そんなわけで話題はそれぞれの司令部や街、仲間に起こった面白いことを話す流れになる。

 

 

「こっちはいつも通りかな。 45姉が40姉に追いかけられてるくらいだよ。」

 

「そのUMP40?って、なんで追いかけてるの?」

 

「会わないうちに45姉に可愛げがなくなったって言ってた。 昔の45姉は可愛かったらしいよ。」

 

「「へぇ〜」」

 

 

それがいまやあの残念っぷりである。人形も変わるんだなぁとしみじみ思うノインだが、なんだかんだで自分も変わったなと改めて思う。

 

 

「そっちは? F45とか何かあった?」

 

「お、よくわかったね。 間違ってお酒飲んで指揮官にチューしてたよ。」

 

 

危うく指揮官がしょっぴかれるところだったよ〜と明るく話すFだが、完全に被害者であろうベルリッジ指揮官に同情する・・・というか誰だ飲ませたのは。

 

 

「遊びに来てたAR小隊・・・のM16。 M4にめちゃくちゃ怒られてたよ。」

 

「自業自得すぎる・・・。」

 

 

ちなみにだが彼女らはそこそこ飲める。人間であり未だ未成年のノインは全面禁酒だが、9とFは普通に飲める。アルコール除去機能もあるので、作戦ギリギリまで飲んでられるのが人形の強みっちゃ強みだ・・・そのためロシア勢はギリギリまで酒ビン片手である。

 

 

「で、ノインは・・・もうすぐ旅に出るんだっけ。」

 

「うん・・・・・この世界を、もっと歩いて見たいからね。」

 

「応援してるよ。 そうだ、何かあったらここに連絡して!」

 

「あ、じゃあこっちも。 これが私宛で、こっちが私たちの基地の。」

 

「・・・二人とも、ありがとう。」

 

 

自分は間違いなく幸せ者だ・・・・・見ていますかおじさん、45姉、G11、416・・・私は、この世界にきてよかったです。

 

さて若干しんみりしてしまったが、もともとそんな空気に長時間耐えられる人形ではない9とF、無理やり話題を変えようとすると、必然的にあの話題に戻る。

 

 

「じゃ、じゃあ9! そろそろ夜の話を聞かせてよ!」

 

「え!? て、ていうか二人はどうなの!? 気になってる相手とか理想の相手とか!」

 

「う〜〜〜〜〜〜ん・・・・・いない、かな?」

 

「私も・・・それに、片腕義手の女なんてね。」

 

 

みんな遠巻きに珍しがって見てるだけだよ、とノインは言うが、実際は全く別の部分を見ているだけ。

ノインは人間だ。過度な訓練やら薬の使用やら手術やらを受けたせいで成長が若干遅れていたが、こっちにきてからは順調に大きくなっている・・・・・主に胸が。

快活なイメージのUMP9と同じ姿で、深窓の令嬢のような落ち着きを持つ彼女はいわば高嶺の花、問題はそれに気がつかない本人の鈍さだけだ。

 

 

「・・・・そういえばその義手、前に使ってたのとちょっと変わってるよね?」

 

「え? えぇ、ペルシカが・・・・・護身用に色々作ってくれたから。」

 

 

そう言って微妙に暗い表情を出しながらノインはカバンを漁り・・・・・カラーバリエーション豊富な義手を取り出す。今つけているものは赤色のものだが、出てきたのは黄色に薄銀色、そしてなんかおもちゃっぽい水色。

 

 

「え? これ全部?」

 

「ペルシカも色々頑張ったんだね・・・・・ノイン?」

 

 

ペルシカの善意と疑わない二人だったが、ノインのどこか遠い目でなんか色々察する。

ちなみにこの義手一号(赤色)は善意100%の代物だ。もともと彼女がつけていたらしい(こっちに来るときには無くなっていた)はかなり無理してつけていたものであると推測され、ペルシカが久しぶりにガチで作ったらしい。

 

・・・・・ここまでならよかったが、本人の開発魂に火がついてしまったこと、制作の合間にやっていた「あるゲーム」の影響を強く受けたこと、そして数日徹夜したこと。

この結果出来上がったのが、

 

 

「え〜〜〜っと・・・『推進器をつけた遠隔操作可能な義手』?」

 

「『発射するときは「ロケットパァーーーンチ!!!」と叫ぶように』・・・だって。」

 

「こっちは放電機能、こっちは・・・なにこれフック?」

 

「・・・・ペルシカの血走った目が怖かったよ。」

 

 

気がついたらモニター役にされていた彼女だが、これがまた普通に使えてしまうところがあの天災らしいところである。

まぁ善意の代物なので無碍にするわけにもいかないし、旅するにあたって役に立つこともあるだろうと一応前向きには考えている。

 

 

「・・・・そうだ! ちょっとこれ借りるね!」

 

「え? うん、いいけど・・・」

 

 

そう言って彼女は義手の一つ、銀色のやつを持って部屋を飛び出す。残されたFとノインは首をかしげるが、まぁ悪いことはないだろうと放っておくことにした。

 

 

「ねぇノイン、他からも言われてるかもしれないけど、うちに来てもいいんだよ?」

 

「・・・ううん、いいの。 旅に出たいのは本心だけど、出なきゃいけないっていう気がするからってのもあるからね。」

 

「? どういうこと?」

 

「私は、ずっと人形として生きてきたの。 もちろん今は人間として暮らしてるし、周りもそう扱ってくれてる。・・・でも、今でも人間か人形かあやふやなところもあるんだ。」

 

 

だから、自分探しのためでもあるの。

そう言った彼女は、初めて会った時よりもずっと生き生きとしているように感じた。もちろんFには彼女の境遇も、ましてや異世界から来たなんてことも理解できないし、できるはずもない。でも、それでも前向きでいようとする彼女を応援したくなるのだ。

 

 

「・・・そっか。 ごめんね、困らせること言って。」

 

「ううん、ありがとう。 うちに来るって言われた時、すごく嬉しかったから。」

 

「えへへ。」

 

「おっ待たせぇ! ・・・ってあれ? どしたの二人とも、何かいいことあった?」

 

「「なんでもないよぉ!」」

 

「? まぁいっか。 それよりもはい! みんなに頼んで書いてきてもらったよ!」

 

 

9が差し出したのは持っていった銀色の義手・・・・・なのだが綺麗だったその表面には、統一性も一貫性もない色や字体で文字が書かれていた。

長いものも短いものも様々だったが、どれも最後には書いたであろう人の名前、喫茶 鉄血の従業員たちの名前が書いてあった。

 

 

「これって・・・・・」

 

「そう、寄せ書き! 手紙とかだとかさばりそうだけど、これなら大丈夫だよ!」

 

「いいね! 私も書こっと!」

 

 

Fがペンをとって書き始める中、義手に書かれた文字を読んでいくノイン。

 

ー いつでも寄っていってくれ・リッパー

ー おみやげ話、待ってるぞ・イェーガー

ー 素敵な出会いがありますように、なければ私がもらう・ゲッコー

ー 百聞は一見にしかず! 良い旅を!・マヌスクリプト

ー 怪我と病気には気をつけてね! いつでも待ってるよ!・D

ー 美味しいコーヒーを淹れて待っています、どうかお元気で・代理人

ー 離れ離れでも家族だよ!・UMP9

 

「これで・・・よし!」

ー いつでも頼りにしていいからね! また一緒にお茶しよ!・F9

 

 

「・・・・・・・。」

 

 

ポロポロと涙が溢れる。そういえばこっちにきてからずっと、泣きっぱなしな気がする。

読むんじゃなかった・・・・・・読んじゃったら、別れたくなくなっちゃうから・・・。

 

 

「みんな・・・ありがとう・・・・・」

 

「えへへ・・・当然だよ、家族なんだから!」

 

「そうだよノイン、私たちみんな家族だよ!」

 

「そうだね・・・・・みんな、家族だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

「・・・・・・ほ、本当に言うの?」

 

「だってそう書いてるし。」

 

「女は度胸だよノイン!」

 

「うぅ〜〜〜〜〜〜〜・・・もうどうにでもなれ! ロケットパァアアアア「あら? 何事ですか?」あああああ代理人危なあああい!!!???」

 

「え?」ゴツンっ

▽STN▽

 

「「「だ、代理人〜〜〜〜!!!!」」」

 

 

end




なんだこれ?
というわけで9好きの9好きによる9好きのための9回。
これもコラボしていただいた作者の皆様のおかげですね、本当にありがとうございます!


というわけでキャラ紹介

UMP9
本作のUMP9。
HK416と交際中で、それ以外は普通の人形。
UMP9の会を作ったものの、特に集まる理由もないのであってないようなもの。

F9
第十九話のコラボ回が初出。
厳密にはあちらのF9とは別物だが、まぁ気にしなくていいと思う。
基本的にUMP9とあまり変わらないが、若干口が軽い。

ノイン
バッドエンド救済回でこっちにきた人間。
人間なので成長する・・・胸が(重要)
義手に関しては済まなかったと思っているがどうしても書きたくなった。別に復讐に燃える鬼になったわけではないので安心してほしい。


義手
わかる人にはわかるアノ義手。気になる人は『ボス ハイダラー』などで検索。
水色っぽいやつの掛け声はもちろん「はいだらー!」
空港の手荷物検査で引っかかりそう。


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第七十話:世界は違えど

気がついたら救済したい旨のメッセージを送り、気がついたら書き始めていた・・・・・うちの作品が救わなくて誰が救う!?

というわけで今回は焔薙 様のとこから、ミーシャちゃんです!


子供は、大人が思っているよりも強いんです。


「異世界かぁ・・・なんだか夢があるね、おばあちゃん!」

 

「ん? お、おぉ、そうじゃな。」

 

 

牧草地隊の広がる一本道を、ただひたすら走る車が一台。ハンドルを握る女性は後ろで楽しげに話す可愛い娘と頼れる副官の会話に耳を傾けながら車を走らせる。

この一家・・・レイラとユノとナガンの三人は、とある人物たちとの待ち合わせのためにS09地区へと向かっていた。

 

 

「ねぇねぇお母さん! 異世界ってどんなとこなんだろ!」

 

「そ〜ねぇ・・・もしかしたら悪い魔女がいるかも。」

 

「ひぃ!?」

 

「娘を脅す親がどこにおる。」

 

 

だってねぇ〜、と返すレイラだが、ナガン共々異世界の実情を聞いているからこその対応だった。サクヤに始まりS08の二人、ノイン、そして先日保護されたカラビーナ。

彼女らは皆、地獄というのも生温い世界からやってきたのだ。立場上そういった情報を知る必要のあったレイラとナガンは、それをよく知っている。

 

 

「・・・・・あ、見えてきたわよ。」

 

「お、ほんとじゃな。」

 

「もう着いてるかな・・・ヴァニラさんとFMG-9。」

 

 

後部座席から身を乗り出し、街の入り口を見つめるユノ。

ちょっとの間離れ離れだった二人との再会を心待ちにしながら彼女は・・・・・一瞬跳ねた車のせいで頭を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

S09地区にはいくつか入り口がある。車が入れるほどの道幅があるところもあれば、散歩道と呼べるほど狭いところもある。レイラたちが入った道はちょうど教会の裏手から出てくる形になり、今日はミサをやっていないのか静かな教会が一望できる。

何の気なしに通り過ぎようとしたその時、頭を抑えて悶絶していたユノがヒョコッと顔を上げる。

 

 

「・・・・・? 誰?」

 

「え? 何?」

 

「誰かいる。・・・・・・あ! あそこ!」

 

「っ! 指揮官! 車を止めよっ!」

 

「え!? ちょっ、こら勝手に降りるな!」

 

 

車が止まりきる前に扉を開け、ユノは教会の方に走り出す。ナガンも後に続き、遅れてレイラも走り出す。

立ち入り自由な教会とはいえ勝手に裏手の方に進んでは何を言われるかわかったものではないが、そんなことはお構いなくユノは進んだ。

 

 

「ま、待ちなさい! ユノっ!!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・あっ。」

 

「いきなり走り出すでn・・・うおっ!?」

 

「やべぇ最近運動不足かも・・・ってえ? 誰?」

 

 

ユノに追いついた二人が見たもの。

それは教会の裏手に蹲るようにして倒れていた女の子だった。見かけは綺麗そうだが靴は履いておらず、まるで死んだように・・・・・

 

 

「っ! ナガン、近くの医者に連絡とって! ユノは車に戻ってなさい!」

 

「了解じゃ!」

 

「う、うん・・・」

 

 

ナガンが端末を開いて最寄りの・・・最も近いのはあの歯医者モドキだ。そこに電話をかける。その間にレイラは少女を抱きかかえ、車へと走る。

車に乗り込み、捕まるかどうかギリギリの速度で車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、S09地区の『例の』歯医者。

 

 

「・・・・・はい、OKだよ〜。 それにしてもレイラちゃん、私は医者は医者でも歯医者だよ〜。」

 

「あなたなら簡単な処置くらいできるでしょ。 ていうか人形まで診れる人間が歯医者なものですか。」

 

「ほれほれ、そこまでじゃ・・・・この子も怖がっておる。」

 

 

三人が視線を向けると、その先ではやや怯えた表情の少女。銀髪の整った顔立ちで、どことなく知り合いに似ている気がしなくもないその少女は、名を『ミーシャ』というらしい。気を失っていたようだが特に体に異常は見られず、健康そのものだという。

現在、ユノには席を外してもらっている。その理由は、彼女が目覚めた後に聞いた、「なぜあそこにいたのか」という質問の答えだ。

 

 

「わからない・・・・・死んだと思ったら、ここにいた。」

 

 

その言葉でおおよそ察した二人はユノを下がらせ、彼女から話を聞き始めた。覚えている限りで、ということだが、思いのほか彼女の話は複雑怪奇で、さらにはまだ子供であるせいか伝え方もままならず、とりあえず聞き出したことをまとめるくらいしかできていない。

 

 

「・・・・え〜っと、まず君はミーシャちゃんで、お母さんは『レナード』さん。お母さんはどこかで働いてて・・・・・・今は人形さんと暮らしてる?」

 

「・・・うん。」

 

「えっと・・・・・その間あなたは?」

 

「痛いのを我慢してたら、人形さんの中にいたの。」

 

「んんん???」

 

 

さっぱり意味がわからない。人形の中にいた・・・という言葉に何か闇を感じるが、それ以外はさっぱりだ。あと父親はわからないらしい。

 

 

「えっとね、死んじゃったと思ったら人形さんの中にいて、もう一回死んだの。」

 

「???????」

 

「・・・・・レイラちゃんあとはパ〜ス。」

 

 

歯医者は匙を投げたようだ。

レイラは相変わらず混乱していたようだが、彼女の言葉をそのまま受け取れば・・・・・

 

 

(子供の頃に死んで・・・人形として蘇った? そして再び死んだってこと?)

 

 

あまりにも無茶苦茶な、しかし彼女の言葉を信じるならこれしかないという答えに、レイラははらわたが煮えくりかえりそうになる。子供が容易く死ぬ世界もそうだが、その死すら大人に振り回される世界などあってはならない。

無意識に相当怖い顔をしていたのだろうか、怯えた表情のミーシャが視界に入りパッと表情を崩す。

 

とはいえ、これは相当重い案件だ・・・・・と思っていると、何やら入口が騒がしい。続いて部屋の扉がやや乱暴に開かれ、入ってきたのは連絡を受けて飛んできた代理人、それと途中で合流したらしいFMG-9とヴァニラだった。

 

 

「・・・レイラ? その子が?」

 

「えぇ・・・・・どうしようかしr「お、お母さん?」・・・え?」

 

「「「「・・・・・は?」」」」

 

 

この時、ヴァニラはひどく混乱していた。いうまでもないが彼女はいろいろ手遅れな人間である。人間人形問わず可愛いものは愛でたいというある種の無差別テロみたいなことをやらかすくらいには。

そんなヴァニラだが、目の前の可愛らしい幼女から『お母さん』などと言われるとは思っても見なかったのだ。

いや別に呼ばれたくないわけではなくむしろバッチコイなのだがいざ呼ばれてみると理性と疑問と欲望でがんじがらめになるというかあぁでも可愛いから襲ってもいいんじゃないか(ここまで約0.1秒)

 

 

「え・・・・・っと、ミーシャちゃん、だっけ?」

 

「お母さ〜〜〜〜ん!!!」

 

「うおっ!?」

 

 

いよいよ堪え切れなくなったのか、ミーシャは泣きながらヴァニラに抱きつく。

・・・というかお母さん?

 

 

「・・・・・今なら間に合います、自首しましょう相棒。」

 

「え?ひどくないFMG?」

 

「ヴァニラ・・・ついにこの日が来てしまったのね。」

 

「待って、いつかくると思ってたみたいに言わないで。」

 

「まぁ当分はムショ暮らしじゃろうが・・・面会くらいは来てやろう。」

 

「あれ?なんで味方がいないの?」

 

 

残念ながらここには味方などいない。哀れヴァニラは警察のお世話になってしまうのだった・・・・・とは流石にならず、この場で唯一冷静に見ていられた代理人が口を開く。

 

 

「・・・ミーシャちゃん、ヴァニラさん、少しいいでしょうか?」

 

「え? いいけど・・・」

 

「うぅ・・ぐすっ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

場所は移して喫茶 鉄血、その三階にあるマヌスクリプトの自室。

ここは本人の希望で完全防音であり、中の声が漏れることは決してない。

 

 

(さて、彼女の話と容姿からヴァニラさんの子であることは確実・・・ですが、それはおそらく()()()()ヴァニラさんの話。 それをどうやって伝えるか・・・)

 

「あのぉ・・・そろそろ何か話してくれないかしら。」

 

 

代理人が静かに考えをまとめる間、ヴァニラは膝の上にミーシャを乗せてじっと待っていた。

代理人も確証があるわけではない。以前の結婚式(第二十七話)の時にチラッとよく似た人物を見かけたというだけだ。

 

 

「・・・・・ミーシャちゃん、落ち着いて聞いてくださいね。 その・・・あなたは「お母さんは、本当のお母さんじゃないの?」・・・・・え?」

 

 

言葉を遮るように聞こえたつぶやきに、代理人もヴァニラも目を丸くする。そんなヴァニラを見上げながら、ミーシャは続けた。

 

 

「お母さんは、お母さんだけどお母さんじゃない・・・・・うまく言えないけど、違うの。」

 

「ミー・・・シャ・・・・・」

 

「ここは・・・どこなの?」

 

 

そう言ったミーシャの顔には、悲壮感などなかった。まだ親が必要なはずの年頃なのに、現実に向き合おうとしている。

代理人は後悔した。少しでも不安を和らげようと、嘘を交えて話すつもりだったからだ。だがミーシャは、代理人が思っている以上に強かった。

 

代理人は全てを話した。

ここが違う世界であること、おそらくもう帰ることはできないこと、ヴァニラが本当の母親ではないこと。

だが、話し終えて最初に口を開いたのは、ミーシャではなくヴァニラだった。

 

 

「・・・・・代理人、少し、席を外してくれるかしら。」

 

 

理由を聞こうとした代理人だが、ヴァニラの瞳に映った決意の色に、何も言わず部屋から出る。

残された二人はしばらく何も言わなかったが、やがてヴァニラが話し始めた。

 

 

「ミーシャちゃん・・・・・いえ、ミーシャ。」

 

「っ!」

 

 

その呼び方にピクリと反応する。違うとわかっていても、声も顔も同じなのだ。それを割り切ることなど、大人でもできやしない。

 

 

「・・・・・ごめんね・・・私はあなたの母親じゃないけど、一緒にいられなくて、ごめんなさい。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・寂しかったね・・・辛かったね・・・・・」

 

「あ・・・あぁ・・・・」

 

「ねぇミーシャ・・・こんな私でも・・・・・・あなたのお母さんに、なっていいかな?」

 

「お母・・・さん・・・・」

 

「うん、ミーシャ。」

 

「うぁああ・・・お母さぁあああん!!!」

 

 

それまで堰き止めていたものが一気にあふれたかのように、ミーシャは泣いた。一度溢れたものは止まらず、それをヴァニラは優しく受け止める。優しく、しかし力強く包み込み、ミーシャが泣き止むまで抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

「お母さん! 私これがいい!」

 

「う〜ん? どれどれ・・・・うっ!? す、スペシャルケーキ・・・」

 

「あ、じゃあ私もそれがいい!」

 

「ま、待ってユノ・・・今月ちょっと厳しいから・・・・・」

 

「お主今度は何を買ったんじゃ?」

 

 

喫茶 鉄血のテーブルで、メニューを囲みながら喜怒哀楽をコロコロ変える二組の家族。どちらの母親も娘の要望をつき返すことが出来ず、乾いた笑みを浮かべながら項垂れた。

そしてヴァニラの・・・母親の膝に座っているミーシャは、そんな母の顔を見上げながら笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう! お母さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

end




お前がママになるんだよぉ!!!

というわけでやっちまいましたコラボ救済回!
・・・まぁ本音を言えばこっちに来なくていいくらい幸せであって欲しかったんですが。
そんなわけで許可をくださった焔薙 様、ありがとうございます!


ではキャラ紹介

ミーシャ
『それいけポンコツ指揮官〜』のとこのヴァニラさんの一人娘。
こっちに来るまでの経緯は元作品で・・・・・めっちゃヘヴィーだけど。
肉体的に死んでからも長らくFMG-9の中で生きていたという点をやや大げさに解釈し、見た目以上に賢い子に。
人を気遣える優しい子。
この後ちゃんとヴァニラは母子関係を届け出た。

ヴァニラ
こっちの世界のヴァニラさん(独身)
男に全く縁がなく、また本人の性癖も若干歪んでいるので当然と言えば当然。
この一件で完全に母性本能が目覚め、親バカに堕ちることになるがそれはまた別のお話。

レイラ・ユノ・ナガン
こちらの世界の指揮官一家。ユノちゃんはミーシャちゃんとはいい友達になってくれるだろう。
気がつけばいつも金欠気味になっているが、深い理由はない。

歯医者
もう医者でいいんじゃないかなと思うがいまでも歯医者。
オリキャラの中で最も出番が多い。

代理人
だってこの人出さないと喫茶 鉄血じゃなくなるし。


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第七十一話:コスプレ喫茶

どうにかして従業員一同を着替えさせたいと悩み続けた末に、
梅雨→生乾き→ショーガナイネ

これだ!


本日も快晴なり・・・なんて日を最後に見たのはいつだったか、というくらい雨が降り続けるS09地区。今日も今日とて相変わらずどんよりした雲が覆い、大降りではないがザーザーと降り続ける。

そんなある日の喫茶 鉄血では、ちょっとした問題が起きていた。

 

 

「・・・・・・。」

 

「乾いて・・・ないよね。」

 

「うへぇ、じっとりしてる・・・。」

 

 

三階、誰も使っていない部屋(M4用)で唸るのは喫茶 鉄血のトップである代理人たち。その視線の先にはハンガーに揺れるいつものメイド服。一見なんともなさそうだが、触るとほんのり湿っているのがわかる。

その隣に掛かっているDの服も同じで、この部屋には同じ服があと3着ほど掛かっていた。

 

計六着、それが代理人とDの制服全てなのだが、それがこの梅雨のせいで乾かないのだ。

 

 

「まぁ、乾きにくい服ではありますが。」

 

「うん、流石にこれは予想外だよ。」

 

 

う〜んと唸る二人だが、乾かなかったものは仕方がない。というのも店内もこの湿気をどうにかすべく、部屋中の乾燥機やら除湿機を持ってきているため、必然的に生活スペースの湿度は高まり続けるのだ。

 

 

「・・・・・はぁ、使いたくはありませんでしたが仕方ありません。」

 

「うげっ・・・()()使うの?」

 

「下着や寝間着で接客するわけにもいかないでしょう。」

 

 

そう言って隣の部屋・・・物置のクローゼットを開くとそこに並ぶのはマヌスクリプトやらアーキテクトやらが作ってはためている用途不明の服の数々。

所謂コスプレ衣装というやつだった。

 

 

「お、ついに着てくれるんだね代理人!」

 

「・・・この雨マヌちゃんが降らせてるんじゃないよね?」

 

「人聞きが悪いなぁD。」

 

「悩んでいても仕方ありませんが・・・・・ふむ、ではこうしましょう。 マヌスクリプト、全員を集めてください。」

 

 

どこか諦めた表情の後、代理人は何か閃きましたというように指示を出し、下で接客中だったリッパーやイェーガーたちを呼びつけた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「みんな上に上がっちまったなぁ。」

 

「なんかあったんかね?」

 

「俺たちに何か見せてくれんのかな?」

 

「へへへ・・・ストリップかな。」

 

 

 

 

「・・・皆さま、大変お待たせいたしました。」

 

 

ここが喫茶店ではなくどこかのバーだとでも思ってそうな客もいる中、ようやく姿を現した代理人・・・・・の、着物姿。

 

 

「本日は諸事情によりこのような姿となり、大変ご迷惑をお掛け致します。 本日もごゆるりとお過ごしください。」

 

 

その言葉に続いてぞろぞろと出てくる従業員たちに、客は一瞬言葉を失う。そこにいたのはセーラー服や婦警、ゴスロリにチアの服にナース・・・と言った色とりどりの人形たち。

頬をつねったり同僚に叩いてもらうなどしてこの光景が夢ではないことを確認すると、

 

 

『う、うおぉおおおおおおおお!!!!!』

 

 

歓喜の叫びをあげた。

そんなこんなでここに、コスプレ喫茶 鉄血が臨時オープンしたのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「Dちゃん、おじさんもう仕事疲れたよ・・・・・」

 

「元気出してください。 せっかくのお休みが台無しになっちゃいますよ?」

 

「じゃぁ・・・・Dちゃんに応援してほしいかなぁ。」

 

「え? えぇっと・・・・が、頑張れ! 頑張れ!」

 

「うおおおお! ありがとうDちゃん、おじさんまだまだ頑張れるよ!」

 

 

いつもは静かでゆったりとした時間が流れる喫茶 鉄血・・・は鳴りを潜め、店内のあちこちではいい年こいた大人たちが鼻の下を伸ばしながらデレデレと顔を緩ませてくつろいでいた。

ちなみにこの客、疲れているのは事実だがオーバー気味に伝えているのは間違いない。全ては、チア服のDに応援してもらいたいがためだ。

 

他にも、ナース服のリッパーに看護されたいおっさんがセクハラまがいのことをのたまい(返事はビンタだった)、婦警姿のイェーガーの尻を触ろうとした男は手錠をかけられて捻りあげられ(喜んでいるようにも見える)、マヌスクリプトのセーラー服はやや需要が少ない・・・ようにも見えたがむしろ本人がノリノリでべったりくっつき(イェーガーらが引き離した)、着物といういつもとは別の気品さを醸し出す代理人に多くの客が目を奪われた。

 

が、そんな中で最も人気があったのが・・・・・

 

 

「ほらゲッコーちゃん、もっと笑って!」

 

「そのドレスも似合ってるよ!」

 

「う、うるさい! さ、さっさと注文を言えっ!」

 

 

フリッフリのゴスロリドレスに身を包んだゲッコーだった。本人の性格はかなり男寄り、というか女性を()()()くらいなので当然なのだが、そんな彼女は今、かつてないほど顔を真っ赤にしながら口をキュッと食いしばり羞恥に耐えながら接客していた。

すでに涙目ではあるが。

 

 

「わ、私のこんな格好誰が喜ぶんだ・・・・」

 

『俺たちが喜びます!』

 

「ゲッコーちゃん可愛いよ!」

 

「かっ!? 可愛いとか言うな!」

 

『ゲッコーちゃん可愛い〜!』

 

「うううううるさいっ!」

 

 

かつてない可愛さを見せるゲッコーに店は大盛り上がりとなり、ついでにマヌスクリプトの次回作のネタも決まった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました。 ・・・・・・・・さて、閉めましょうか。」

 

『了解〜。』

 

 

日も暮れ始めた頃。

最後の客を見送りようやく今日の営業を終えることできた喫茶 鉄血。苦渋の選択というか背に腹は変えられないというか、ともかくその場しのぎで揃えたコスプレ策は意外にも好評で、しかも時間が立つにつれて噂が広まったのか来客数も増え続けた。雨にもかかわらず来てくれる分には嬉しいが、その大半が下心だと思うと微妙である。

 

 

「ほらゲッコー、もう終わりよ。」

 

「うぅ・・・もうやだニンゲンコワイ」

 

「でもおさわりはなかっただけマシじゃない? 私は触らせたけど。」

 

「マヌスクリプト、あとでお話が。」

 

「・・・・・ヤッベ。」

 

 

店の隅でしくしく泣くゲッコー・・・だがバッと顔を上げると涙を浮かべた瞳でキッと代理人をにらみ、

 

 

「そもそも、なんで全員巻き込む必要があった!? 代理人とDだけでよかっただろう!」

 

「あぁ、それですか・・・・・まぁウェイトレスの中で別な服装が混じるのは違和感があった、というのもありますが・・・・・」

 

「ありますが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・端的に言えば道連れです。」

 

「ふっざけんな!!!」

 

 

ギャーギャーと揉めながら片付けを進める人形たち。

ゲッコーが不貞寝してしまったりはしたが、まぁこれくらい緩いくらいが自分たちらしい。

 

 

(それに、もらったまま着ないわけにもいきませんからね。)

 

 

脱いで綺麗に折りたたまれた着物を眺めつつ、代理人は小さく笑うのだった。

 

 

 

end




以前代理人がもらった着物をもう一度出したい&赤面するゲッコーを描きたい=コレ。
まぁ欲望の赴くままに書いたせいで若干短めではありますがね。


ではでは今日もキャラ紹介

代理人+着物
いつぞやの温泉回の着物。
着付け方はDにインプットしてるので問題ない。洋風の喫茶 鉄血が一気に和風に変わる不思議。

D+チア服
ボンボンはないが健康的な半袖とミニスカート、下はスパッツ。
疲れ(た仕草をし)ていると頑張れと言ってくれる。

リッパー+ナース
シンプル イズ ベスト。露出が多いわけでもないがなんかエロい。調子に乗るとペンを注射器に見立ててぶっ刺される。

イェーガー+婦警
夏服仕様の半袖。本物の手錠まであるので、セクハラ客を簡単に制圧できる。拳銃は流石に偽物だが、いざという時は打撃武器になる。

マヌスクリプト+セーラー服。
本人自らネタになるスタイル。
注文を迷っていると向かいに座ってデート気分を味わわせてくれる・・・ついでにいい値段がするものをねだる。

ゲッコー+ゴスロリ
まるでお人形さんのようだ!(マヌスクリプト談)
男物を中心に来ており、スカートは履くとすればシンプルなもの・・・それがいきなりゴスロリはきついのだ。
恥ずかしさで項垂れる尻尾型ユニットがまた可愛い。


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番外編17

気がつけば累計90話を超え、大台の100話が目の前まで迫ってきました。
できるかどうかはともかく、意気込みとしては『ドルフロがサービス終了するまでは書き続けたい』と思っています。
・・・・・え? ドルフロは終わらないって? じゃあ死ぬまでだな笑


今回は四話構成
・私とワタシ
・旅立ちの日に
・母と娘と
・17lab、再び


番外17-1:私とワタシ

 

 

作戦が開始される当日、カラビーナは作戦概要が記載されたタブレットを片手に武器庫へと向かっていた。装飾が施された宿舎から無機質な武器庫へ・・・・・あの時とよく似た景色を眺めながら歩く。

集合場所である簡易作業室と書かれた扉の前で止まり、フゥと息をついて取っ手に手をかけ・・・その手が震えていることに気がつく。

 

まだ、あの時のことを引きずっているのか。

 

なんとも人形らしからぬ思考にカラビーナは自嘲気味に笑い、少しの間これまでのことを思い浮かべる。

この司令部に配属され、いくつもの訓練や試験を繰り返してきた。起きる、訓練、ミーティング、寝る・・・・・そんなことは今までも、()()()()()散々やってきたことだ。

違う点があるとすればそれは、常に隣に彼女がいてくれたことだ。私と同じ、ここでは『Kar』と呼ばれているKar98k。私とは真逆で喜怒哀楽に満ち、社交的で明るい人形。訓練の成績は・・・・・まぁまぁといったところでその度に突っかかってくるのもいつも通りだ。

 

彼女のおかげで、何もかも変わった。以前は面倒で『補給』しか受けなかった私が、食事に楽しみを覚えるようになった。部屋の内装も今では自分で飾り付けているし、街に買い物に行くようにもなった。

 

 

「・・・・・人形も、変わるものなんですね。」

 

 

以前Karに「会っておいたほうがいい」と言われて会いにいった、S08地区の()人形のHK416(プティというらしい)から言われた言葉だ。

 

 

「まるで人間のように・・・・・ふふっ、一度捨てたはずの願いなんですがね。」

 

 

あの時のハンターが見たらなんというだろうか。

へーネルが、エルマが・・・・・マウザーが見たら、なんと言ってくるだろうか。

 

 

「恨んでいる、かもしれませんわね・・・・・それでも、私は前に進みます。」

 

 

恨み言は、地獄でゆっくり聞きます。

そう付け足して、カラビーナはドアを開く。いくつもの人形がこちらを振り向き、その中に一人・・・Karが駆け寄ってくる。

 

 

「準備は・・・・・良さそうですわね。」

 

「えぇ、もちろん。」

 

「ふふっ、では行きましょう、カラビーナ()!」

 

「はい、Kar()。」

 

 

長いコートを翻し、私たちは足を踏み出した。

 

 

end

 

 

 

番外17-2:旅立ちの日に

 

 

「忘れ物はない・・・・・って、これもう十回くらい聞いたわね。」

 

「心配しすぎだよ416(プティ)・・・・じゃあ、元気でね。 辛くなったらいつでも帰ってくるんだよ。」

 

「・・・うん、ありがとう。 行ってきます。」

 

 

少し曇り空の今日、私ことノインは今までお世話になっていたカフェを後にした。この地区の駅から列車に乗って、そこから旅が始まるのだ。

歩き出して数歩、住み込みで働いていたあの店のことが一瞬で駆け巡る。特に、夜に盛り上がりすぎた二人の部屋に怒鳴り込んだのは一番鮮明に覚えてるかな・・・あれは安眠妨害だよ。

 

 

「あ、ノイン! 今日出発なの?」

 

「元気でねノイン!」

 

「困ったら呼んでよ。 すぐに行くから。」

 

「Good luck, Neun.」

 

「みんな・・・ありがとう!」

 

 

F小隊と会った回数は、実はそんなに多くない。でも、あの気弱な隊長さんとその仲間には、何かと助けてもらったかな。

でもF45、君にはもうお酒は出さないよ(戒め)。

 

 

「ん? ノインか。 達者でな。」

 

「ありがとうゲーガー。 あ、今更だけどあの時は、ごめんね。」

 

「本当に今更だな。 まぁいいさ、もう昔のことだ。」

 

 

この世界に来て初めて会ったのが、よりによってゲーガーだとは思わなかったね。世界が違えば人も違う、っていうのがよくわかったよ。

今でもちょっと苦手だけど・・・いい人なんだよね。

 

 

「あれ〜? ノインちゃんだ〜。 またいつでも来るんだよ〜。」

 

「あ、あはは・・・できればそうならないようにしますね。」

 

「・・・・・チッ」

 

 

あ、今舌打ちしたよあの歯医者!? 本当にそれでもお医者さんなの!?

でも命の恩人に変わりはないんだよね・・・あの時は死ぬほど痛かったけど。・・・・・うん、もう行かない。

 

 

「あら、ノインさん。 そういえば今日でしたね。」

 

「うん。 代理人は買い出し?」

 

「えぇ、今日は遠出になりましたけどね。 会えてよかったですよ。」

 

「えへへ、ありがとう。」

 

 

ここが違う世界っていうのは、確か代理人から言われたんだっけ。あの時は色々疑ったりしてたのに、いまはこんな風に話せるようになるんだもんね。

・・・・・やっぱり、私は『人間』なんだな。 あ、もちろんいい意味でだよ!

 

そんな感じで見知った人たちに会いながら、私はようやく駅に着いた。まぁ時間まではまだあるんだけどね。

それを知っていたのか、改札の前には404のみんながいた。

 

 

「お見送りはいらないって言わなかったっけ?」

 

「ふふっ、可愛い妹を見送らないなんて姉失格よ。」

 

「そうだよノイン、そんな選択肢なんてないんだよ!」

 

「まぁ、気恥ずかしいのはわかるけどね。」

 

「・・・ねぇゲパード、こういう時くらいは離れてくれないかな。」

 

「お姉様の身辺警護ですよ・・・・・ノインさん、あんまり会ってなかったけど、お元気で。」

 

「・・・・・みんな、ありがとう。」

 

 

見送りはいらない、と言ったのは本当だ。だって、こんなの泣いちゃうに決まってる。最後まで泣かないって決めてたんだから、来ちゃダメだよ。

 

 

「泣くのをこらえてるところ悪いけど・・・・はい、これ。」

 

「・・・・なに・・・・これ?」

 

「ふふっ、さぁ? 開けてみれば?」

 

 

45姉が渡してきたのは小さな箱。手荷物を置いて箱を開けると、そこには小さなバッジ・・・・・404小隊の部隊章だった。

 

 

「これって・・・・・・」

 

「そう・・・といってもそれは『404小隊』という意味じゃないわ。」

 

「え?」

 

「そのバッジの意味はね・・・・・ジャーン!!」

 

 

そう言って彼女たちはポケットから同じものを取り出し、胸につけ始める。・・・・・ゲパードにはないのかと思ったけど、G11が隠してただけだった。 あ、泣いた。

 

 

「意味は『家族』! 離れ離れでも、どこにいても家族だよ!」

 

「ゲパード・・・隠してたのは悪かったから泣き止みなよ。」

 

「うぇえええええ・・・・あ゛り゛が゛と゛う゛お゛姉゛様゛ぁ!!!」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

私は何も言わず、みんなと同じ場所にバッジをつける。なんの変哲も無いただのバッジ・・・・なのになぜか、みんなと繋がっていられる気がした。

 

 

「あ、そろそろ時間かしら。」

 

「え!? もう!?」

 

「・・・・だから道中に人を出しすぎたんだって。」ボソッ

 

「しっ! ま、間に合ったからいいでしょ!」コソコソ

 

 

涙がこぼれるのをなんとかこらえながら、荷物を持ち直して改札に進む・・・・・前にやっぱりどうしてもこれだけはやっておきたい。

私は9に抱きついた。

 

 

「ありがとう9・・・・9のおかげで、ここまで来れたよ・・・・」

 

「ううん・・・違うよ・・・・・これは、ノインが・・が、頑張った、からぁ・・・・」

 

 

泣かないと決めたのに、あっけなく泣いた。私も9も周りなんて気にせずに泣いた。いつまでもこうしていたかったけど、駅員さんが呼んでくれたから、そろそろ行かないと。

 

 

「じゃあねノイン、元気でね。」

 

「うん・・・・行ってきます、9。」

 

「行ってらっしゃい、ノイン。」

 

 

それだけ伝えて、私は改札をくぐって列車に乗った。

今振り返ったら戻りそうだったから、もう後ろは見ない。

 

列車のドアが閉じた。ちょっとだけ揺れて、徐々にスピードが上がっていく。私は荷物から義手を・・・・・もう文字だらけになっちゃった義手を取り出して、握りしめる。

9とF9があっちこっちから人を集めて書いてくれた寄せ書きは、何度も読んで何度も泣いた、私の宝物だ。これを持ってると、みんなの声が聞こえてくる気がする。

 

 

『・・・おーい!』

 

 

そう、こんな風に・・・・・

 

 

『おーーーい!!!』

 

 

・・・・・・ん?

 

 

『おーーーーーーーーーい!!!!!』

 

 

幻聴ではなく、それは間違いなく9の声だった。慌てて窓の外を見ると、そこには猛スピードで走るバンの窓から身を乗り出す9が叫んでいた。・・・・・明らかにスピード違反だけど。

というかよく見ると、バンに乗っているのはさっきまで会った人みんなだった。しかも運転してるのは代理人だし。

 

 

「な、9!?」

 

『やっぱり言いたくなっちゃったぁ! ノインがあった人は! みんな私たちが呼んだのぉ!!!』

 

 

あぁ・・・通りで運良く会うなと思ったら。

すると今度はバンの天井が開き・・・・・うん、違法改造だよそれ・・・・・出てきたのはカフェの夫婦とF小隊。

・・・・・え? どうやって入ってるのみんな?

 

 

『ノイン! 元気でねぇ〜!!!』

 

 

そんなこっちの気も知らずに、バカみたいに大声で叫ぶ。

・・・ほんと、泣くの我慢してたこっちがバカみたいだ。

 

 

「みんなぁ!!! ありがとぉ!!!!」

 

 

やがて列車のスピードに負け始めたバンが後ろに下がっていき、というか警察に追われ始めた。

・・・・・あ、めっちゃ逃げてる。 え、代理人そんな人だっけ?

そんなバカ騒ぎを見送りながら、私の旅は始まるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外17-3:母と娘と

 

 

「・・・・・はい、これでお手続きは終了です。」

 

「ありがとう。・・・じゃ、帰ろっかミーシャ。」

 

「うん! お母さん!」

 

 

S09地区の役場から出てきたのは、まるで親子のような二人。

・・・・いや、『親子のような』という表現はもう適切ではない。今日この日、ヴァニラはミーシャを連れて役所に向かい、正式に母子関係となるように届け出たのだった。

実際はどこからか聞きつけたクルーガーが裏で手を回し、書類を持ってきた時点で通ることにはなっていたが、これで晴れて二人は『親子』となったのである。

 

 

「お迎えにあがりましたよ。 ヴァニラさん、ミーシャちゃん。」

 

「あ、代理人さん!」

 

「・・・ねぇ、後ろのバンはなんなの?」

 

「・・・・・さぁ、こちらへ。」

 

「え? スルー?」

 

 

タイヤから煙を吹き、明らかに搭乗人数オーバーな人形たちがぐったりするのを無視して別の車(代理人の自家用車)に乗る三人。

というかサラッと乗ってしまったが、自分たちはどこに連れて行かれるのだろうか。

心底嬉しそうにする娘の隣で、ヴァニラはずっと『?』を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・はい、着きましたよ。」

 

「・・・・・え? あんたの店じゃない。」

 

「さぁさぁこちらへ。」

 

 

連れてこられたのはいつもの喫茶 鉄血。ただ入り口には『Closed』と書かれた掛札がぶら下がり、店内は電気も付いていない。二人は案内されるがままに店に入り、階段を登って二階に上がる。

そして二階の部屋に入るとそこには・・・・

 

 

「わぁ〜、綺麗〜!」

 

「これって・・・・・」

 

「あら、ようやく主役の登場ね。」

 

 

いくつものテーブルに所狭しと並べられた料理の数々。そして部屋の隅から現れたのはつい最近母親協定を結んだレイラ指揮官。彼女が指を鳴らすと、隣や上の部屋からぞろぞろと現れる人形やら人間たち。そのうち何人かが壁の一部(そこだけ不自然に明るい)を掴みベリッと剥がす。

 

 

「っ!?」

 

「わぁ! おめでとうだってお母さん!」

 

 

壁に書かれていたのは、『ヴァニラ・ミーシャちゃん、家族おめでとう!!!』という文字と派手な装飾。

キャッキャッとはしゃぐミーシャの隣で口元に手をやるヴァニラだったが、やがて状況を理解するとポロポロと泣き始めた。

 

 

「お、お母さん!? どこか痛いの!?」

 

「だ、ダメだよヴァニラ! こういうめでたい時に泣いちゃ!」

 

「だ、だって・・・だってぇ・・・・・」

 

 

ヴァニラとて辛かったのだ。母親になると決めてから周りは応援してくれるし助けてくれた。ミーシャも自分を母親として受け入れてくれて、何不自由なかった。それがかえって、本当に母親としてやれているかという不安になっていたのだ。それをなんとかするために思い切って母子関係を届け出た訳だったのだが・・・・・

 

 

「よ、ようやく・・・母親に、なれた気がして・・・・」

 

「バカねぇ、もうとっくに母親でしょうに。」

 

「あのヴァニラが泣くなんて相当レアだよね・・・・どうだいヘリアン、先を越された気分は?」

 

「喧嘩を売っているのかペルシカ? 私だって最近彼氏が・・・」

 

「はいダウト、それ二次元でしょ?」

 

 

人間組のバカみたいな会話を聞きながらようやく泣き止んだヴァニラ。心配そうに見上げるミーシャを抱き上げると、思いっきり頬にすり寄った。

 

 

「ふふっ、大丈夫よミーシャ。 ・・・・・ねぇ代理人、これもう食べていいのかしら?」

 

「そうですね、いつまでもこのままだと冷めてしまいますから・・・ではみなさん、どうぞ召し上がってください。」

 

「よしっ! ミーシャ、たくさん食べようね!」

 

「うんっ!」

 

 

end

 

 

 

番外17-4:17lab、再び

 

推奨BGM:地◯の星

 

 

突然だが彼らを覚えているだろうか。予想の斜め上からさらに勢いをつけてコースアウトするような連中を。

欲望に忠実でありながら実用性をも残し、コアなファンに長く愛される商品の数々を世に送り出す変態集団。

なければ作ればいい、そんな彼らの名を・・・・・IoP 17labという。

 

 

「所長、こちらを見てください!」

 

「こ、これはっ!?」

 

 

そんな彼らの導火線(可燃材増し増しの)に火をつけたのは、先日喫茶 鉄血で開かれたコスプレ喫茶。わずか一日ということもあり、その日にとられた写真は大変レアで、裏では数十万円で取引されているとも言われている。

 

 

「それを経費で落としました!」

 

「素晴らしい! 早速『写本』氏に連絡を!」

 

「はいっ!」

 

 

彼らの経費管理はガバガバである。だが何故か創設以来赤字になったことがなく、大元のIoPも何も言えないのだ。以前に一度まともな経営者が送り込まれてきたが・・・・・三日で倒れてしまった。

そんな彼らが『写本』ことマヌスクリプトに連絡をとる間にもすでに何枚もの企画書を作成している。ここ最近マンネリ気味だったスキン作成に、新たな風が吹こうとしていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

だが、彼らとて何もかも自由でいられるわけではない。ロリスキンや変なアタッチメント、そのような技術が人形を不幸にするというロボット協会からの苦情や、高度な技術を人類の発展のために使うべきだという人権団体の声が絶えることはない。

 

 

「所長、また脅迫文書です。」

 

「よし、溶かして再生紙にしろ。」

 

「はいっ!」

 

 

だが、彼らのことを本当に理解している者達は口を揃えてこういう。

・・・・・時間の無駄だ、と。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

彼らが試作品を作り上げる期間は物によってまちまちだが・・・・・スキン程度ならおよそ半日。

今回のように熱意が暴走した際の平均時間は、わずか三時間である。

 

 

「できました! こちらが今回のスキンのコンセプトです!」

 

「ついでに実装人形用に試作品も作りました!」

 

「あと暇だったんでアタッチメントも作りました。」

 

 

そうして出来上がった企画書が、『カッコいいお姉さんに可愛い服を。』・・・・・企画書と同時に試作品を作るあたりが17labである。

これはゲッコーのゴスロリ服からヒントを得ており、意外といけるんじゃね?という安易な発想から実現したものである。

例を挙げると、トンプソンのシンデレラドレスやMG5の猫耳パーカー、Vectorのカエルさん合羽などなど・・・。

ちなみにアタッチメントはガラスの靴(回避値+50)やら猫のヒゲと首輪(命中+20・リロード時間半減)など。

 

見た目を除けば完璧なのだが、この見た目が通らなければ彼らは作らない。故に通ってしまうのである。

 

 

「所長、本社から苦言が。」

 

「高級キャ◯クラの招待券を送ってやるといえ。」

 

「はいっ!」

 

 

だが彼らは知らない、彼らの終生のライバルとなる組織が目覚めようとしているのを。

その組織の名はIoP技術局 日本支部・・・・・その設立を1週間後に控えていたのである。

 

 

プロジェクト I

 

 

 

 

end




感動と涙と変態・・・それで説明できるこの番外編。
こう見るとコラボキャラ増えたなぁと思う今日この頃。これも皆様のおかげですね!


ではでは各話の解説

番外17-1
六十八話の後。
Karや春田、モシン・ナガン有するRF部隊に配属されたカラビーナ。彼女のKarへの想いは友情か、それとも・・・

番外17-2
六十九話から少しして。
いよいよ旅立つノインと、それを見送る仲間たち。
ちなみに警察はクルーガーの差し金で、要するにただの茶番。ただしそれを知っているのは運転する代理人だけである。

番外17-3
七十話の後日談にして番外17-2の直後。
これでめでたく二人は家族となり、幸せな家庭となるだろう。ヴァニラが『娘に近づく男絶対許さないウーマン』になるのも時間の問題。

番外17-4
七十一話の翌日。
この前たまたまプロ◯ェクトXを見る機会があり、こいつらならいけるんじゃね?と思って書き始めた。
実は番外ではなく本編で書く予定だったが、収集がつかなくなったのでボツに。
日本支部の社員、絶賛募集中。
応募条件:人形に対する並々ならぬ熱意


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第七十二話:夏だ!海だ!!(前編)

七月に入ったら書こうと思っていた海回、ついに解禁!
こんなの書いてますが水着スキンを一つも持っていない私です・・・いいもん、バレンタインスキン三つあるもん!


サンサンと照りつける太陽、雲ひとつない青空、そしてその色をそのまま写したかのような青い海。

S09地区の人形たちは一斉に駆け出し、海に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりはおよそ一週間前。

各々が用意を進めている中、グリフィンの社長であるクルーガーからある提案がなされた。

 

 

「実は軍の演習場であるプライベートビーチを貸してもらえることになったんだが、どうだろうか?」

 

 

クルーガーが軍時代のコネで勝ち取った・・・わけではなくなんと軍からの提案、カリーナら計画立案組も大丈夫だろうと了承し、行き先が決定した。

ではなぜ軍がそんな提案をしたか・・・・・もちろん目の保養のためである。当日は一応警護目的で十数名の軍人が同伴することになるが、その枠を争って現在血みどろの争いが繰り広げられている。

 

まぁ人形たちにそんなことなど知ったこっちゃないので、プライベートビーチを満喫すべく用意を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

で、当日。

わざわざ迎えに着た軍用輸送ヘリで近くの基地まで向かい、そこから歩いて演習場に併設されている簡易宿舎へと向かう。

簡易宿舎、と聞いて微妙な反応だった者も多かったが、着いてみるとそこにはホテルばりの立派な建物。内装から全て一新してくれたのだ、軍人が。

まぁ日々訓練漬けな彼らも暇なのだ。

 

 

「でも、思ってたより綺麗な場所ですね!」

 

「えぇ、なんでもこの日のために軍総出で清掃活動をしたとか。」

 

「・・・・・軍ってなんだっけ?」

 

「筋肉と変態の巣窟でしょ?」

 

 

呆れ顔で窓の外を見るペルシカ。まぁそこはカリーナもヴァニラもレイラも同じだ。しかしそんなことは些細な問題で、今はとにかく早く海だ。キャリーケースを開けて水着を引っ張り出し、日焼け止めなどの必需品も持っていく。

ちなみにちびっ子たち(ユノとミーシャ)はすでに飛び出していった。

 

 

「でも珍しいわね、引きこもりのあんたが海なんて。」

 

「SOPあたりにでも泣かれたんじゃないの?」

 

「・・・・・・・・。」

 

「「図星かよ。」」

 

「皆さん、そろそろ行きますよ。」

 

 

赤くなって黙り込んでしまったペルシカを引きずりつつ、人間組三人は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・指揮官・・・」

 

「なんで来ないのよぉ・・・」

 

「・・・・・もういっそ、連中全員始末して・・・」

 

「いや、それはアカン。 あくまで最後の手段や。」

 

「・・・・・あれ? Karさんは?」

 

「カラビーナを連れて泳ぎに行きましたよ。 ふふ、なんだかお姉さんみたいですね・・・・・はぁ。」

 

 

いい天気にも関わらず顔色の冴えないのはこの指揮官ラブ勢(Kar除く)。指揮官との甘いひと時を夢見ていたのだが、蓋を開けてみれば指揮官はクルーガーと一緒に軍のお偉いさんと会合があるという。まぁビーチを貸してもらってるので当然っちゃ当然なのだが、彼女らの中で軍への評価は急降下中である。

 

 

「・・・泳ぎますか。」

 

「・・・泳げますか?」

 

「いえ・・・・。」

 

『・・・・・・。』

 

 

まだ昼前だというに黄昏る五人。

結局指揮官が帰ってくるまで待ちぼうけて日に焼かれてしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海を眺めているのは、何も人形たちやその関係者だけではない。この炎天下の中をビシッと軍服を着こなして木陰に待機する男たちもいるのだ。

 

 

「・・・なぁ相棒。」

 

「・・・なんだよ相棒。」

 

「美女たちの水着が見られるからって志願したが・・・こいつは新手の訓練なんじゃねえか?」

 

「同感だ、誰もこんなとこまで来やしねぇ。」

 

 

遠巻きに眺めるしかない彼らには、すでに志願当初の熱意も意気込みも消えかけていた。といっても彼らが勝手に過大解釈していたにすぎないため、自業自得とも言える。

そんな中、一人の影が近づいてくる。

 

 

「皆さん、お疲れ様です。」

 

「っ!? ど、どうも。」

 

「こ、これが仕事です、ので。」

 

 

突然の来訪者、というよりその姿に思わず息を飲む二人。やってきたのは黒のビキニに身を包み、トレーに飲み物を乗せた代理人だった。

元々からして色白な彼女が惜しげも無く肌を晒す、そんな姿をマジかで見た二人のテンションは静かに、しかし勢いよく急上昇していった。

 

 

「先程作ってみたカクテルです。 ノンアルコールですので是非。」

 

「え? いえ、お構いなく。」

 

「それにその・・・・・立場的に受け取るわけにもいかないので。」

 

「ふふっ、そうですね。 でも・・・・・・」

 

 

ノンアルカクテルを差し出しながら、代理人はいたずらっぽくウィンクしながら言った。

 

 

「バレなければ、大丈夫ですよ。」

 

「「ありがたく頂きますっ!!!」」

 

 

いうや否や一気に飲み干す二人。強すぎず弱すぎない炭酸と柑橘系の爽やかな味、何より代理人の優しさが染み渡る・・・気がする。

というかあんな表情で渡されて断れる男などいない、二人はコップを返しながらそう思った。

 

 

「ありがとうございます。」

 

「美味かったです。」

 

「ふふふ、ありがとうございます。 ではこれで。」

 

 

踵を返し、とことこと歩いていく代理人。その後ろ姿を見つめ・・・・というより凝視する二人には、その姿はまさにヴィーナスのようだったという。

 

 

「来年も志願しねぇか相棒?」

 

「当たり前だぜ相棒。」

 

 

男たちは単純だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな代理人が向かった先、即席で作ったであろう簡素な建物がぽつんと建っていた。店内にはいくつかのテーブルと椅子、外にもバラソルが張ってあり、その下にも椅子とテーブル。

手書きで書かれた看板には、『喫茶 鉄血・海の家』と書かれていた。

 

 

「あ、お帰りOちゃん! どうだった?」

 

「好評でしたよ、早速メニューに加えましょうか。」

 

「熱っ!? ちょっ、あぶっ!油がっ・・・ギャー!!!」

 

そんな格好(水着一枚)で鉄板の前に立つからだろ、エプロン着ろ。」

 

 

中ではおなじみのメンツが、いつもとはちょっと違うメニューを作りながら過ごしていた。この店は代理人が伝えた要望で、Dの店長訓練の一環でもある。そのため店の内装や出すメニュー、価格帯(今回は決めるだけでお金はとらない)に至るまで全てDが決めている。もちろん代理人を始め喫茶 鉄血初期メンバーらのサポートや監修はあるが、それでも取り仕切っているのはDだ。

 

 

「・・・・・あんたらここでも働くのね。」

 

「好きでやっていることですし、皆さんも喜ぶでしょう?」

 

「これ、一応あなたの慰安でもあるんだけどね。」

 

 

そう言いながらもかき氷をチビチビ食べるペルシカ。その横ではSOPが頭を抑えて震えており、目の前にはごっそり削られたかき氷の山が見えている。

まぁ見たこともない食べ物にかぶりつくのは分からなくもないが、今回は相手が悪かった。

 

 

「SOP、大丈夫?」

 

「う〜〜〜〜ペルシカ〜〜〜〜〜〜」

 

「(やばい涙目可愛いじゃなくて堪えろ私!)・・・ほら、ゆっくりでいいから。」

 

「ペルシカって、SOPのこと本当に好きよね。」

 

「あのすまし顔の下で相当葛藤しているようだがな。 ほら、アーン。」

 

「あーーん・・・うん、美味しいわ。」

 

「ず、ずるい! 私も!」

 

 

ペルシカが理性と戦い続けている横で、こっちはこっちでアイスを食べさせ合っているAR-15とハンターとD-15。丸いテーブルにも関わらずハンターを挟むようにして座っている二人は、時に笑い合い時に睨み合う良きライバルだ。

 

 

「ふふっ、そんなに膨れるな・・・・そっちのアイスも美味しそうだな、()()もらうぞ。」

 

「んっ? んむっ!?」

 

「あ、あーーーー!?」

 

「・・・・ぷはぁ、ご馳走さま。」

 

「//////」

 

「は、ハンター! D-15だけズrんんっ!!」

 

「ほら、これで問題ない。」

 

 

臆面もなくやりやがったよ、と観衆が思うほど派手にやってくれたハンター。ちなみにこの三人は海に来てからずっとこんな感じで、ハンターが二人をいいようにしているといった感じだ。

・・・・・まぁ二人もまんざらでもなさそうだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユノちゃん! もっと右だよ!」

 

「ユノ〜、もうちょっと前〜!」

 

「ふぇえええどこなn(グニュっ)にゃあああああああ!!!!!」

 

「あ、クラゲ踏んだ。」

 

 

慌てふためくユノとそれを見守るレイラたち。彼女らは今、喫茶 鉄血組から渡されたスイカでスイカ割りを楽しんでいた。

さっきから全く違うとこしか言わないミーシャと微妙に違うとこしか言わないレイラのせいで、ユノは打ち上げられたクラゲを思いっきり踏んづけてしまう。その感触といったらないだろう。

 

 

「わぁあああお母さああああん!!!」

 

「あ〜よしよし、大丈夫だよ。」

 

「じゃあ次はミーシャね。」

 

「うん! 頑張るよ!」

 

 

目隠しをして棒を手にその場で三周すると、ややふらつきながらも前に進む・・・・・もちろんその先にスイカはない。

 

 

「お、お母さん、どこなの!?」

 

「ふふふ・・・もう少し左に向いて、そうそうそのまま真っ直ぐ。」

 

「真っ直ぐ・・・真っ直ぐ・・・」

 

「もう少し・・・・そこよミーシャ。」

 

「え? えいっ!・・・・・当たった、のかnみゃああああああ!!!!」

 

 

フルスイングで叩きつけ、おそるおそる目隠しを取ると同時に逃げ出すミーシャ。そりゃスイカだと思ったらクラゲでしたは衝撃だろう。

 

 

「お母さんのバカぁ!!!」

 

「あははは! ごめんごめん・・・・はい。」

 

「・・・・・・・え? わしもやるのか?」

 

「あんたとFMG-9もでしょ? Vectorは・・・・まぁいっか。」

 

「おばあちゃん頑張れー!」

 

 

渋々、といった感じで準備するナガン。この後人形ゆえの高い位置把握能力を駆使して見事スイカを割ったのだが、勢い余って割るというより砕いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で、そのスイカがこれと。」

 

「ほぼかけらですわねコレ。」

 

 

割られたスイカは喫茶 鉄血に運ばれ、人形たちに配れるだけ配ることに。まぁ流石に少ないのと形が不揃いなので、代理人らが新たに切ってくれることにはなったが。

それでも早く食べたい人形や、そんなに大きいのはいらないという人形はこうして先に食べているのだ。

 

 

「・・・・・甘い。」

 

「カラビーナ、塩を振るともっと甘くなりますわ。」

 

「え、えぇ・・・・あら本当。」

 

 

長きに渡る拒食・・・というより何か食べるという動作を怠ってきたカラビーナの味覚は正直言ってかなりズレている。以前もイギリス勢渾身のネタ料理である『うなぎゼリー』を美味いと言ってしまい、16labに緊急搬送されるに至ったこともある。

そんなわけであまりにもカラビーナの将来が不安になったKarは、指揮官に会いたい気持ちを抑えてカラビーナに付き添っている。

 

 

「食べるって・・・大事なことなんですね。」

 

「えぇ。 とある国では『食べるという字は人が良くなると書く』と言った方がいらっしゃったそうですわ。」

 

「なるほど・・・・でも、わかる気がします。」

 

「ふふっ、すぐ出なくても構いませんわ。 ゆっくり変わっていけばいいんです。」

 

「・・・はい。」

 

 

カラビーナの笑顔が見れたところで話を区切り、自分の皿のスイカに手を伸ばして・・・・・そこに何もないことに気がつく。

 

 

「? あの子(P7)が持って行きましたわよ。」

 

「なっ!? お待ちなさいP7! それは私のスイカですわ!!!」

 

「取られる方が悪いんだよ〜! ほらほら、追いついてごらんよぺったん子!」

 

「ぺっt!? も、もう許しませんわ! お待ちなさぁああああああい!!!!」

 

「・・・・・ふふっ。」

 

 

砂浜を猛ダッシュで追走するKarに思わず笑ってしまうカラビーナは、きっと追いつけないだろうなと思いながら彼女の分のスイカを取りに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな、お前も部下たちと遊ばせたかったんだが。」

 

「いえ、お礼を言いに行くのは当然のことですし、明日もありますから。」

 

「そう言ってくれて助かる。」

 

 

演習ビーチの近くの軍基地。

廊下を歩くクルーガーと指揮官は、明日の予定について話し合う。

 

 

「明日は沖に出るんだったな。 ・・・・彼女らは泳げるのか?」

 

「浮き袋をつけさせますし、軍も水中作戦用の人形を配置してくれるそうです。」

 

「・・・で、君は?」

 

「・・・・泳げないので、釣りでも。」

 

「そうか・・・ところで、お前は気になる人はいないのか?」

 

「な、なんですか藪から棒に。」

 

「いや、普段から彼女らに囲まれているだろう。 で、気になる娘は?」

 

「いませんよ。 彼女らとは上司と部下ですし、彼女たちも嫌がるのでは?」

 

「(刺されても知らんぞ)・・・まぁ、それはそれで面白いかもな。」

 

「???」

 

 

ただの独り言だ、と言い放ってガハハと笑うクルーガーに首をかしげる指揮官。

何はともあれようやく解放された二人は、軍の送迎でビーチへと向かうのだった。

 

ちなみにこの後無事海についたものの、指揮官だけを待ち望んでいたラブ勢から蹴り出されてしまうのだがそれはまた別のお話。

 

 

 

続く




キャラ出しすぎた・・・めっちゃしんどい・・・
でもどれかなんて選べないよね!

リアル司令部ではコツコツ貯めたダイヤがもうすぐ1600になるわけですが、AEK–999のスキンを買うべきか迷い中・・・・・どうしよ?


さて今回はキャラ紹介・・・すると長くなるので行くつく簡単に。

喫茶 鉄血・海の家
代理人発案の元、プレハブで作られた小さな海の家。
設営には軍が全面協力し、運営はDが行なっている。

軍人さん
ビーチのいたるところにいるよく訓練された軍人。
なおこの警備任務の志願に階級は一切関係ないため、二等兵もいれば中佐もいる。

クラゲ
幼女に踏まれ、幼女に棒で叩かれる。
<ありがとうございます!

人形たちの水着
明確な描写はあまりしないので脳内補完よろしく。


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第七十三話:夏だ!海だ!!(中編)

二部構成だと思ったか?残念、三部構成だ!
ちなみにこの旅行は2泊3日で、まだ一日目だよ!
ところで公式さん、UMP9の水着スキンまだですか?


突然だが人形は機械である。どれだけ人間に似せようとも中身は一昔前の精密機器ですらひっくり返るほどのハイテクちゃんだ。そのくせ食事もできるし涙も出せるし夜の・・・・・もできる。開発陣が何を思って作ったのかは甚だ疑問である。

ところで彼女らは人間によく似ている。外見もそうだが、前述の通り人間の生活に溶け込めるようになっているので尚更人間っぽい。そしてその皮膚だが、限りなく人間に近づけた人工皮膚を使っている。これもまた人間にそっくりだ。

 

・・・・・結果、日にやける人形が続出した。

 

 

「痛っ!? し、しみるぅ〜〜〜!」

 

「日焼け止め塗ったのにぃ。」

 

「45姉真っ黒だよ!? ていうかどんな水着着てたのそれ!?」

 

「アタイが着せたんだよ、あのマイクロb」

 

「ドウシタノ40ハヤクハイリマショウ」

 

「待って45心の準備が(ジャポン)ぎゃああああああああ!!!!」

 

 

悲鳴と笑い声とくつろぐため息が響き渡る大浴場。流石に以前の温泉には劣るが、これはこれでいいものだ。

 

 

「MG5さん、その・・・お隣いいでしょうか?」

 

「ん? PKか、いいぞ。」

 

(頑張れ姉さん!)

 

「9、湯船に髪をつけてると痛むわよ。」

 

「ふぇ?」

 

「こんがり焼けたねスプリング。」

 

「それはあなたもでしょうモシン・ナガン。」

 

「あれ? ユノちゃんとミーシャちゃんは?」

 

「疲れて寝ちゃったそうです。」

 

 

MG5とPKの進展を祈るPKPに9の髪をまとめる416、お互い軽口を言い合いながらしみるのを我慢しつつ湯船に浸かるスプリングとモシン・ナガン、そして肩を並べてくつろぐDと代理人。

それぞれがそれぞれの時間を使っているなかで、ススっと代理人の隣に来るのは司令部の頼れる後方幕僚、カリーナだ。

 

 

「楽しんでますか代理人さん。」

 

「えぇ、とっても。 誘っていただきありがとうございます。」

 

「お礼を言うのはこちらの方です。 美味しい料理も作ってくれましたし。」

 

「ふふっ、ではそのお礼はDに言ってあげてくださ・・・・あら?」

 

 

気がつけば代理人の方にもたれかかるように寝息を立てているD。模擬といえどはじめての店長に緊張していたのかもしれない。

見ればあちこちでウトウトする人形たちもおり、皆初日から羽目を外していたようだ。

 

 

「・・・・上がりましょうか。」

 

「そうですね。 あ、手を貸していただいても?」

 

「はい、お任せください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ・・・すぅ・・・・」

 

「むにゃむにゃ・・・・・お母・・さん・・・・」

 

「やれやれ、これは起きる気配もなさそうじゃの。」

 

「そうねぇ・・・このまま寝かせときましょうかってヴァニラ、あんた何枚目よその写真?」

 

「さぁ、もう数え切れないくらいね。」

 

 

そう言ってまたシャッターを押すヴァニラ。すっかり親バカになったと言うか、母親の顔になったと言うか、まぁ喜ばしいことである。ヴァニラにとってもミーシャにとっても。

 

 

「でも、たまに思うのよね。 この寝顔を本当に見たかったのは、()()なんだろうなって。」

 

「ヴァニラ・・・」

 

「・・・・・大丈夫よ。 過去はともかく今は私がこの子の母親なんだから。」

 

 

そう言って優しく撫でると、ミーシャはくすぐったそうに身じろぎする。そして何か夢でも見てるのか、何かを掴むように手を上げてヴァニラの腕にしがみつく。

レイラとヴァニラは顔を見合わせ、クスリと笑った。

 

 

「先にお風呂はいってきなさい。 二人は見とくから。」

 

「そうね、お願いするわ。 行きましょナガン。」

 

「うむ。 ではなヴァニラ、ユノを頼むぞ。」

 

「りょ〜かい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏といえば肝試しですね。」

 

「ええぃまたかカリーナ!」

 

「もう懲りたんじゃありませんの!?」

 

「あ、あれはきっと旅館のせいだったんですよ!」

 

 

風呂上がり、すぐ横の談話室に集まった人形たちを震え上がらせたのは、カリーナが発したこの一言。

いつぞやの温泉旅行に参加した人形からすれば恐怖でしかなく、みんな揃って代理人の方を見る。

 

 

「こ、今度は本物だよな代理人?」

 

「い、一応触ってもいい?」

 

「もしかして・・・海に来てからずっと入れ替わってるとか」

 

「やめて416!? 45姉が泣きそうだよ!」

 

 

まさに阿鼻叫喚、というかまだか始まってもいない。それでも逃げないあたり、彼女たちもちょっと気になっているのだろう。

この光景にずっと首を傾げているのは前回いなかった組。40は泣きかけの45に抱きつき、カラビーナは涙目で震えるKarを慰める。マヌスクリプトはむしろネタ調達として前向きで、ゲッコーに至っては合法的に抱き寄せられるとかなり前向き。

 

 

「・・・で、具体的にはどうするおつもりですか?」

 

「よくぞ聞いてくれました代理人! 実はこの近くに洞窟がありまして、昼間そこにカメラを置いておいたんですよ!」

 

 

ルールはいたってシンプル。一人、もしくは複数名で洞窟まで歩いて行き、用意されたお札(一〇〇式が本気で書いたかなり禍々しいヤツ)を設置された台の上に置く。そしてそこに置いてある紙を開き、書いてある通りのことをしてから戻ってくる、というもの。

企画、カリーナ。協賛、マヌスクリプトというある意味地獄のようなメンツである。

 

 

「ここにカメラ付きのヘルメットもあります。 これを被っていただいて、皆さんはここのモニターで見守りましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけですので、よろしくお願いしますね。」

 

『了解した、任せておけ。』

 

 

再集合の時間を伝えて一度解散した後、カリーナとマヌスクリプトは屋上で誰かと通信していた。相手は野太い声の持ち主で、しかし割と乗り気なのがうかがえる。

 

 

「わかっているとは思いますがおさわり厳禁です。 それ以外でしたらまぁ何やっても大丈夫かと。」

 

『ノータッチは紳士の鉄則だ、任せておけ。』

 

『日頃の訓練によるチームワーク、存分に発揮しよう。』

 

 

電話越しの相手・・・ビーチ近くの基地の軍人は電話越しに敬礼を返す。

後方幕僚であるカリーナは意外とグリフィン以外との繋がりが多い。鉄血は言わずもがな軍とのコネクションもあり、この時代でも男率の高い軍ではアイドルのように扱われている。

そんな彼女が目に涙を浮かべて(目薬をさして)上目遣いで頼めば、大体の要望は通るのだ。

 

 

「では確認します。 A隊は光学迷彩で後ろから近づき、ターゲットが逃げたらB隊が装置を起動、洞窟へ誘導してください。 ターゲットがお札を置いたら、C隊が行動開始、あとは流れに応じて脅かしてください。」

 

『対象が動かなくなったら?』

 

「近くで待機している別働隊が救助に向かいます。 適当に争うふりをして戻ってください。」

 

『了解した。』

 

 

コネと戦力の無駄遣いとも言える肝試しが、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

*ここからはダイジェストでお楽しみください*

 

(404小隊・スタート〜森の中)

宿舎をスタートし、ちょっとした森を抜けて浜辺を進み、洞窟に入って戻ってくる。そんな子供でもできるほどの簡単なルートだが、夜のそれは全くの別物だ。

先陣を切ることとなった404小隊(ゲパード、40含む)は、常日頃の人工的な明かりの大切さをよく思い知らされた。月明かりしかない森は常に何かが潜んでいそうな気配がし、この手のホラーに弱い45と9はそれぞれG11と416にくっつきながら進む。

 

 

「ゲ、ゲパード・・・怖くないの?」

 

「お姉様といれば怖いものなんてありません!」

 

「いつまでお姉様呼びなんだろう・・・」

 

 

そんなよくわからない理屈で恐怖心を抑えているゲパードだが、その程度の化けの皮など容易く剥がれ落ちる運命にある。

風に揺れる草木の音、六人分の足音・・・・・・に混じって、

 

 

「・・・ねぇ、今一番後ろにいるのって誰?」

 

「っ!? な、9と416じゃないの?」

 

「・・・・・・・二人の後ろには、誰もいないのよね?」

 

『・・・・・・・・・。』

 

 

一斉に振り返る。六人分の足音が止まり、何もない空間を注視する。

 

 

 

 

 

 

・・・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・

 

 

「いやぁあああああ!!!!!」

 

「きゃああああああああ!!!!」

 

「っっっっっ!!!!!!」

 

「ま、待ってみんな! 置いてかないで!」

 

「お姉様ぁ!!!!!」

 

「やめてゲパードくっつかないでぇ!!!」

 

 

全員が、あのG11ですら悲鳴をあげて走り出す。その後ろを()()()()()()()()をまとった男が追いかけ、さらに追い討ちとばかりに彼女たちの目の前にポゥッと光る火の玉(よく見れば糸で吊るされている)が現れる。

 

 

『ぎゃああああああああ!!!!!』

 

「悪霊退散悪霊退散悪霊退散・・・・・」

 

「ごめんなさいごめんなさい明日からちゃんと働きますから許してください」

 

「」

 

 

UMP姉妹らは完全にすくみ上がり、416は帽子を深く被って蹲る。G11とゲパードは抱き合いながらヘタリ込む。

その後数分間、気がつけば足音も火の玉も消えていた頃になってようやく、彼女らは泣きながら先に進むのだった。

 

 

 

 

 

 

(AR小隊+ハンター+ペルシカ・浜辺)

404小隊同様に最新技術を駆使したドッキリの洗礼を浴びたAR小隊。ようやく森を抜けて浜辺に着くと同時にドッと息を吐く。見通しの悪い森とは違い浜辺は月明かりでも十分明るい。ハンターとAR-15はこれがデートならば最高だったのだが、今ではさっさとここから立ち去りたい一心だ。

 

 

「ぺ、ペルシカ・・・大丈夫?」

 

「だ、大丈夫よSOP、ただちょっと・・・・・腰が・・・」

 

 

意外だったのは、この手のことは平気だと思われていたペルシカがいきなり腰を抜かしたことだろう。科学者の一員として非科学など信じない、というわけでもなく(一応科学によるものだが)ビビりきってしまった。

404ほどではないがこちらも阿鼻叫喚な道中だったが、もちろんこの浜辺で何も起こらないはずはない。

 

最後尾を歩いていたM16がこけた。周りにいた者は皆そう思ったが、M16の青ざめた顔と先頭のM4の悲鳴でようやく理解する。

 

 

「きゃあああああ!!!!」

 

「足に、足に何かが・・・・!」

 

「な、なんだ!? うわぁああああ!!!」

 

 

M16とM4の足元、その足首をがっちり掴んでいたのは青白いを通り越して真っ白に近い腕だった。しかも現在進行形でニョキニョキと生え続け、それぞれが足をつかもうと伸びてくる。地面に倒れるM16は両足どころか両腕や服まで掴まれており、いよいよ泣きながら暴れ始める。

 

 

「うわあああああ!!!! やめろ! 離せ!!!」

 

「ひぃいい!? た、助けてハンター!!」

 

「やぁああ・・・いやぁあああああ!!!」

 

「待ってろふたりとも! 今行く!!」

 

「ペルシカ!? 起きて!!!」

 

「ブクブクブク」

 

 

白い手たちは思いのほか力が強く、全く離れる気配がない。

その時、倒れるM16の目の前の砂がポコっと膨らみ、徐々に大きくなっていく。恐怖でこちらも真っ青な顔のM16は、震えながらそれを観続ける。さながら呪いのビ◯オから出てくる貞◯に怯えるように。

そして唐突にそれは崩れ、中から現れたのは顔が大きくえぐれた人間の顔だった。

 

 

「 」チーン

 

「え、M1ろk・・・キャアアアアアア!!!!」

 

「来ないで・・・来ないでぇ!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

その間もゆっくりと地面から這い出るソレ。まるで人形たちの体を這い上るように迫り来るソレにいよいよ堪え切れなくなり、結局全員気を失ってしまった。

 

 

目がさめるとそこにはまるで何もなかったかのように綺麗な砂浜が広がり、AR小隊は我先にと洞窟に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(MG部隊・洞窟)

ビビり筆頭、今回のカリーナの予想では誰よりも早くリタイアすると予想していたMG5だったが、なんとここまで一度も気を失わずにたどり着いたのだ。これには色々と理由があるが、一番はやはり・・・

 

 

(か、彼女たちにはバレるわけには・・・・・)

 

 

という強がりである。森では恐怖で顔が引きつり立ったまま固まってしまうもソレがまるで動じないように受け取られ、浜辺では腕を蹴ったり気絶した仲間を背負って逃げたり(本人は早く逃げたかっただけ)、とにかくここまではなんとか耐えていた。

 

 

「あ、あとはこのお札を置いて・・・・・指示書はこれ?」

 

「な、なんて書いてるの?」

 

「・・・・・『生贄を置いていけ』・・・と。」

 

 

揃って顔を見合わせる。要するに誰か一人ここに残れ、と言いたいらしいが、問題は誰が残るか。

 

 

「こ、これって、全員で帰っちゃダメなのか?」

 

「で、でも指示書には・・・・」

 

「ど、どうするの隊長・・・・・隊長?」

 

 

隊長であるMG5に注目が集まる。はっきり言えばさっさと帰りたいが、誰か一人残すのは彼女の良心というか責任感が許さなかった。

真剣な顔(単純に泣きそうなのをこらえてるだけ)で考えること数分、ようやく口を開いた。

 

 

「・・・・・私が残る。 PK、みんなを連れて戻ってくれ。」

 

「え? そんな・・・・・」

 

「・・・・・命令だ。」

 

 

震える声をなんとか抑えて命じる。PK以下隊員はどうすべきかと迷っていたが、再度命じると大人しく戻っていった。

 

 

「・・・・・・・・うぅ。」

 

 

誰もいなくなると、一人うずくまって泣き始める。指示書にはいつまでとか書かれていないために、逆にいつになったら出て行っていいのかすらわからない。

 

 

 

 

 

そんな時、一際強い風が吹き込んだ。

そして次の瞬間、火の元も何もないはずのロウソクに火がつき、ソレは次第に他のロウソクにも移り始める。

 

 

「っ!!??」

 

 

ロウソクの明かりで明るくなった洞窟・・・・・そして始めて、その全貌が見えた。

洞窟の奥は、朽ちかけた木造の格子がかけられ、さながら牢獄のようになっていた。そして鍵が崩れ落ちていた牢の扉がひとりでに開き、中のロウソクに火が灯る。

 

 

「・・・・・・・・。」

 

 

入ってこい、とでもいうかのようなソレに、MG5は恐る恐る近く。やがてゆっくりと牢に入り、完全に潜りきったその時。

 

 

ガシャンッ

「ひぃっ!?」

 

 

風もないのに突然扉が閉まり、同時にロウソクも全て消える。相変わらず鍵は地面に転がっているようだが、MG5がどれだけ押しても開く気配がない。

 

 

「う、うそ・・・・・誰か! 誰か助けてぇ!!!!」

 

 

もう恥も外聞も気にしていられずに牢を叩きながら叫ぶ。が、当然()()()()()()()()ので来るはずもない。

 

そんな時だった。MG5の背後、牢の奥でなにかが立ち上がるような気配がした。先程見たときは何も、誰もいなかったはずにもかかわらずだ。MG5は固まったまま、振り返ることなく気配だけを感じる。

その気配が、ゆっくりと近づいてくるのがわかった。そしてひどく冷たい手が首に触れると同時に、MG5は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでドッキリ大成功! 皆さんいい笑顔でしたわ!」

 

「というわけで、じゃないわよ! 本っっっっ気で怖かったんだから!」

 

「ほらRO、もう大丈夫よ。」

 

「ってうか軍人て暇なの?」

 

「・・・・・・あ、隊長! おかえりなさい!!」

 

「あ、あぁ・・・ただいま。」

 

 

MG5が洞窟に残ったあとでカメラが止まるというアクシデントはあったが、全員無事に帰ってこられたようだ。参加した人形たちは皆緊張が解けたせいか次々に泣き出してしまい、代理人ら居残り組がソレをなだめる。

 

 

「でもMG5さん、いつの間に洞窟から出たんですか?」

 

「え? いや、気がついたら外に・・・ってどうしたPK?」

 

「た、隊長・・・そんなネックレスつけてましたか?」

 

「・・・・・え?」

 

 

言われてみればMG5の首には水色の水晶がついたネックレスが光っている。しかも・・・・・

 

 

「それ・・・手形、ですよね?」

 

「ね、ねぇハンター・・・どうして私の足にだけ手形がついてるの?」

 

「9・・・・・その痣、どうしたの・・・?」

 

 

MG5の首を筆頭に人形たちの手足に残る痣や手形。カリーナが指示したドッキリではあくまで軽く掴むだけで、しかも首などは触らないようにと伝えていたはずなのだが。

 

 

「・・・・・・もしもし、カリーナです。 ちょっと伺いたいことが。」

 

『あぁ、君か。 ちょうどこっちも聞きたいことがあってな。』

 

「? はい、なんでしょうか?」

 

『いや、その、映像を見させてもらったんだがな・・・・・・』

 

「あ、浜辺のやつですね。 あんなにたくさん出るとは思ってませんでしたよ!」

 

『・・・・・・・・・あそこには四人ぐらいしかいないはずなんだが・・・・。』

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

 

そんな不思議な出来事とともに、夏の小旅行一日目が終了したのだった。

 

 

 

 

続く




夏といえば海やプールですが、夏の夜といえば肝試し。旅館の時と同様、『本物』の方に出ていただきました。

ちなみに私の実話としては、十人くらいで手を重ねて(エイ、エイ、オー!みたいな感じ)で写真を撮った時、何度数えても十一人分だったという思い出があります。


さぁて次回はついに後編!
沖での釣りとダイビング、そしてポロr(銃声)


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第七十四話:夏だ! 海だ!!(後編)

小さい頃は祖父に連れてってもらった釣り・・・・・今では遠い思い出。

関係ないですけど第9戦役を(友軍部隊で)クリアしました。
ジャッジちゃんクソ可愛いな!
あと復刻ガチャで57ちゃんの水着でたよヤッター!


微妙に眠れない一夜を明かした人形たち。もっとも、人形にとって睡眠は必ずしも必要なものではないので問題なかったが、ペルシカやカリーナにとっては結構堪えたようだ。

 

 

「も、もう肝試しなんてやりません・・・・・。」

 

「やったとしても参加しないわよ・・・・。」

 

 

そんなグロッキーな二人を含め、彼女らが乗っているのは軍が所有する訓練艦。今はビーチからずっと沖に出た、綺麗なサンゴ礁が広がるマリンブルーの海である。

昨晩の体験で疲れ切っていた人形たちも、透き通った海やその下を泳ぐ魚たちにはしゃぎ回る。

その様子を微笑ましく眺めるのは海軍きっての鬼教官。部下たちには見せないその表情は、ある意味とてもレアかもしれない。

 

 

「はい皆さん、艦は暫くここで止まりますから、ここで自由行動です。 慣れない海ですのではしゃぎすぎないようにしてくださいね。」

 

 

すっかり引率役になった代理人の指示に、人形たちは元気に返事をする。ちびっ子や元気の有り余っている人形は浮き袋をつけて海に飛び込み、のんびり過ごしたい者は浮き輪を浮かべて波に漂い、またある者は用意されてある釣り竿を持って外に行く。

 

 

「はい、艦長さん。」

 

「どうも・・・・・あなたは遊びに行かなくても?」

 

「ふふっ、楽しんでいるあの子達を見るのが、私の楽しみですから。」

 

「まるで保護者ですな。 ですが、彼女たちはそう思っていないようですよ。」

 

 

振り返ると、ゴーグルやらフィンやらを持ったM4とダネルがそこにいた。二人に半ば強引に引っ張られていく代理人だが、その顔は困ったような嬉しいような顔だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「し、指揮官は泳がれないのですか?」

 

「む? あぁその・・・実は泳げないんだ。」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

 

一人釣りを楽しむ指揮官の周りに集まったラブ勢たちは、皆一様に落胆の表情を浮かべる。

自分たちどころかどの人形にも(そういった方面で)興味を示さず、男色の疑いすら出ている指揮官の興味を引くべく、海で遊んでみんなでポロリして悩殺作戦(命名:春田さん)を画策していたのだが泳げないのでは始まりもしない。

 

 

「なぁなぁ指揮官、ウチにも釣り教えてくれん?」

 

「ん? 構わないが・・・泳がなくていいのか?」

 

「あはは・・・泳ぎたいんは山々やけど、コレ(日焼け)が滲みてまうからなぁ。」

 

『っ!?』

 

 

誰よりも早く軌道修正し、指揮官と仲良く釣りコースに乗っかるガリル。ようやく魂胆に気がついた他の面々も、次々と指揮官に詰め寄る。辛いだけだった日焼けだが、今だけは感謝しかなかった。

 

とはいえ基本的に指揮官の分と予備がいくつかあるだけで、とてもではないが全員分はない釣竿。仕方なしにローテーションを決め、交代で楽しむことになる。

 

 

「し、指揮官、これどうやって付けるんですか?」

 

「ゴカイか・・・まずは針を刺して、次に針が隠れるように・・・・・・」

 

 

とまぁそこは人のいい指揮官。全員が楽しめるように善意100%で教えていく。

無論、その教え子たちにあるのは下心でしかないことなど気付くはずもない。

 

 

(ち、近いっ! 指揮官の顔が! 顔が〜〜〜〜〜!!!)

 

「・・・・これでよし。 ・・・ん? どうしたウェルロッド、顔が赤いぞ?」

 

「ひぇ!? な、なんでもありません!」

 

「? そうか。」

 

 

絶好のチャンスにもかかわらずヘタれたウェルロッドは逃げるように釣り場に向かう。一応海に糸は垂れているが、本人はそれどころではないほどの興奮と後悔に揺れていた。

 

 

「あ〜もったいない・・・・あ、指揮官! 私も餌つけてほしいな!」

 

 

それに便乗する形でモシン・ナガンが指揮官を呼び、餌を取られた針をゆらゆら揺らす。もう指揮官は自分の釣りどころではないが、楽しそうだからまぁいいかと思っているようだ。

 

 

「釣りって思ってたより難しいね。 もっと簡単だと思ってた。」

 

「釣りは魚との駆け引きだ、焦れたほうが負ける、と聞いたことがある。」

 

「そっか・・・・・じゃあ気長にやろっか! 指揮官も一緒n「きゃあ!? し、指揮官助けてください〜!!!」・・・・・チッ。」

 

「ん? どうしたスプリング。」

 

 

せっかくいい感じだったのに邪魔しやがって・・・といった恨み顔でスプリングを見るモシン・ナガン。ところがスプリングは割と本気で困っているようで、指揮官の急接近にもそれどころではなさそうだ。

 

 

「か、かかったみたいなんですが・・・・どどどどうすれば!?」

 

「落ち着けスプリング。 まずしっかり竿を握って、ゆっくりリールを巻くんだ。」

 

「で、でも・・・・・」

 

「私も手伝う。 ・・・失礼するぞ。」

 

『ああ〜〜〜!!!!』

 

 

一言言うと指揮官はスプリングの後ろから手を回し、釣竿を支える。側から見れば抱きついているようにも見え、それはそれは羨ましい光景だった。当のスプリングはその状況を理解していないが。

 

 

「そうだ、いいぞ。」

 

「は、はい。」

 

 

指揮官はやはり手慣れているのか、さっきまで振り回されていたスプリングも落ち着いて魚を釣り上げる。上がっても暴れる魚を網で掬い、驚きと感動の入り混じった顔で指揮官を見る。

 

 

「や、やりました! 釣れましたよ指揮官!」

 

「おめでとうスプリング。 ・・・・そろそろ交代か。」

 

 

釣った魚をボックスに入れ、それを満足げに見つけるスプリング。

 

 

(うふふ・・・釣れちゃった釣れちゃった♪ でも指揮官が支えてくれなかったら釣れなk・・・・・・・・・・・・・)バタンキュ〜

 

「うわっ!? スプリングが煙ふきよった!」

 

「あ〜今来たか〜・・・」

 

「だ、大丈夫かスプリング!?」

 

「大丈夫よ指揮官、ちょっと興奮しすぎただけだから。 奥で寝かせてくるわ。」

 

 

そう言うとG36は幸せそうな顔で倒れるスプリングを(やや乱暴に担ぎながら)部屋に連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって艦の下、横付けされた救命ボートに集まる人形たちは、一応泳いだことのあるレイラから軽いレクチャーを受けている。水中任務用の人形もいるため泳ぐ程度なら可能な人形だが、性能的にできるのと実際にできるかはまた別問題。安全のためにもきっちり説明する。

 

 

「・・・・・はい、これで説明は終わり。 じゃあ早速入りましょうか!」

 

『いぇーーーーーい!!!!!』

 

 

我先にと海に飛び込む者、浮き輪を浮かべて乗っかる者、気ままに波に漂う者・・・・・それぞれが思い思いに海を楽しむ。

その中の一組、代理人とダネルとM4はゆっくりと海を潜って行った。

 

 

『代理人! 魚が泳いでる!』

 

『お母さん! こっちにも可愛い魚が!』

 

『そんなに慌てると魚が逃げてしまいますよ。』

 

 

まるで子供のようにはしゃぐダネルとM4に苦笑する代理人。ちなみに人形たちは呼吸もある程度調整でき、無制限ではないが息をしないことも可能だ。よってシュノーケルもボンベもいらないし、気泡も出ないので魚も逃げにくい。

 

 

『綺麗・・・・・』

 

『あれは・・・ウミガメか?』

 

『大きいですね・・・・・その後ろにいるのは・・・・・あら。』

 

『うわぁ!? サメだぁ!!!』

 

 

慌ててもがき、慣れない水中でクルクル回る二人に、代理人はおもわず笑ってしまう。確かにサメはサメだが特徴的な頭部のそれはハンマーヘッド・・・いわゆるシュモクザメと呼ばれる、おとなしいサメだ。

その証拠にゆら〜っと代理人のそばを通り過ぎ、そのまま泳いで行った。ちなみにシュモクザメは群れでいることが多く、後から続々とやってきた。

 

 

『あーあー、代理人? サメを間近で見た感想は?』

 

『あら、レイラさん? ふふっ、楽しいですよ。』

 

『だ、代理人! 食べられるぞ!?』

 

『さ、最近のサメは竜巻に乗って人を襲うんですよ!?』

 

『映画の見過ぎですよM4。』

 

 

とはいえこうも群れの中に居続けると流石にアレなので、そのまま沈むように下に降りる。明るい海面をバックに泳ぐサメたちが、とても優雅だった。

 

が、海というのは綺麗なだけではない。広大な自然界の一部であり、弱肉強食の世界だ。

たっぷり楽しんだ代理人はそろそろ戻ろうかと姿勢を変える・・・と同時に近くの岩場からナニカが勢いよく飛び出してきた。

 

 

『っ!?』

 

 

突っ込んできたそれを体をそらして躱した代理人。すぐに目で追い、その正体を掴む。

黄土色のまだら模様、蛇を思わせる長くしなやかな体、獰猛な顔つきと捕食者であることを隠す気もない歯・・・・・海のギャング、ウツボだ。代理人は慌てて海面に上がり、ボートにしがみつく。

 

 

「うわっ!? どうしたの代理人?」

 

「う、ウツボが・・・噛みつかれそうに・・・・・」

 

「あ〜なるほど、下に住処があったのね。 とにかく災難だったわね、上がりまsy・・・・・って代理人! 前!」

 

「・・・・・前?」

 

 

レイラが慌てた様子で手を引っ込め、身振り手振りで何かを伝えようとする。何事かと甲板から身を乗り出した屈強な軍人らはさらに身を乗り出し・・・・・あ、ヴァニラにしばかれてる。

 

 

「代理人! どうした・・・・うわっ!?」

 

「お母さん! 前隠して!!!」

 

「え? 前?」

 

 

みんなしてどうしたのか、と思いつつ彼女らの視線・・・顔ではなく胸の方に向いているのを追って自分も視線を下に移し・・・・・

 

 

「っ!?!?!?」

 

 

勢いよく体を沈めた。首から上だけ出した代理人の顔はすでに真っ赤で、珍しくパニックになっていることが伺える。

それもそうだろう、なにせ気がついたら()()()()()()()のだから。

一体いつ? 潜った時は付いていたしサメに囲まれた時もあったはず。激しい動きなんてウツボに会ったときにしか・・・・・

 

 

「! まさか!」

 

 

心当たりはそれしか無い、とばかりに顔を水面下に向け、人形としての機能をフル活用してあの岩場を探す。

程なくして、岩場の陰からひょっこり顔を出すウツボを見つける。そしてその口には、()()()()()()()()()がしっかり咥えられていた。

・・・・・ウツボの顔がどことなく笑ってるように見えなくも無い。

 

 

「・・・・・あ〜その・・・とりあえず上がりましょうか。」

 

「お母さん、元気出して。」

 

「よし、私が取り返してこよう!」

 

「無理だと思うけど行ってらっしゃ〜い。」

 

 

その後とりあえずタオルを巻き、日焼け対策で持ってきていたパーカーを着ることでなんとか解決する。若干いじけてしまった代理人だが、ユノたちの相手をしているうちに機嫌を戻してくれた。

 

なお、ダネルはウツボに完敗したらしく、こちらも上だけ剥ぎ取られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜もう終わりか〜・・・」

 

「明日は昼頃の出発ですが・・・・・遊び納めでしょうね。」

 

「カラビーナ、海はどうでしたか!」

 

「えぇ、楽しかったですよ。」

 

 

日も暮れて真っ暗な海を眺める人形たち。指揮官らが釣ってきてくれた魚と最後の夕食ということで、Dたち喫茶 鉄血組が腕をふるって豪勢な料理を作っている。疲れ切って瞼が重くなってきた人形たちも、匂いにつられて続々と食堂に集まってくる。

 

 

「・・・あれ? 代理人は?」

 

「ん? Oちゃんならユノちゃんの部屋だよ。」

 

「呼んできましょうか。」

 

「そうね、ついでにユノとミーシャも連れてきて。 ・・・多分また寝てるだろうけど。」

 

 

それに頷くと、M4は階段を登ってユノたちの部屋へ。部屋の前に着くが、中からは物音や話し声は聞こえない。

もしかして入れ違いになったのだろうか、と思いつつドアを開けると中はしっかり電気がついている。

 

 

「・・・お母さん、ユノちゃん、ミーシャちゃん? ごはんですよ〜・・・・・・あら。」

 

 

部屋を覗き込むと、確かに三人ともいた。きっと直前まで写真を見ていたのだろう、カメラを覗き込むようにして眠るユノとミーシャ。

そしてそれを撫でていたのか、頭に手を置いたまま代理人も眠っていた。

 

 

「・・・・・お、なんだ全員寝てたのか。」

 

「あ、姉さん。」

 

「どうする? 起こす?」

 

「・・・・・いえ、このまま寝かせておきましょう。」

 

 

そう言って大きめのタオルをかける。いつも働いてばかりの代理人の寝顔が、M4はなんとなく嬉しかった。

起こさないように優しく撫で、にこりと笑う。

 

 

「・・・いつもありがとう、お母さん。」

 

 

 

 

 

 

end




意地でも描きたかった『泳ぐ代理人』。
ちなみに描写の参考にしたのはWiiの名作『フォーエバー・◯ルー』、の『海の◯び声』の方。グラフィックは時代を感じるけどひたすら癒されるのでオススメ!


というわけで長きに渡る海回は一応終了。
番外編では本編で書ききれなかった人形たちのワンシーンを書きたいと思います。


というわけで解説!

訓練艦
実際にあるのかどうかは知らないが、要するに戦闘艦のレプリカ。シミュレーションによる訓練が主であるため、砲や機銃、ミサイル等はハリボテ。
今回はそんなハリボテを取っ払って甲板を広く開けたもの。流石に海面からの高さはあるため、海に出る際は救命ボートを使う。

ラブ勢
日焼けしたため海には入れない(スゴクイタイ)
指揮官と釣りを満喫したが、気がつけば釣りに夢中になって当初の目的を忘れてしまった。
まぁ楽しかったからいっか!

海の生態系
ぶっちゃけどの海域にどんな魚がいるかさっぱり知らない。よって書きたいように書いたのでおかしなところがあるかも。
でもいいんだ、こんな海で泳ぎたいって思えば。

ウツボ
ほんとは代理人の谷間にウナギっていう選択肢だったんだけど、果たして泳いでて天然ウナギなんかに出会うだろうかという疑問から変更になったやつ。
谷間には入れないが持ち前のパワーで水着を奪い取る。
モ◯ハンで例えるなら歴戦王


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第七十五話:かざした刃の下ろし方

救援依頼とあらば即参上!

今回はムリーヌ様の作品『とある復讐者の追憶』から。
前作から読むことをお勧めします。
*『とある復讐者の追憶』10話からのコラボです。

・・・・・流れ着いたキャラの中で一番『危ない』人形だと思う。


「・・・・・・・うっ・・・・ここ、は・・・」

 

 

目を開けるとそこには重く暗い曇天が広がる。少し首を動かすと周りは土砂となぎ倒された木々。先ほどまで雨が降っていたのか、地面がぬかるんでいるようだ。

痛む身体に鞭打ち、体を起こす。鋭い痛みが走り、胸を見ると小さな穴が空いている。幸い重要な器官からは外れているようだが、まともに戦えるかは怪しいところだ。

 

 

「・・・・・そうか・・・私は・・・・・・・・」

 

 

直前の記憶を思い返し、状況を把握する。

アーキテクトからメンテナンスの要請があり、渋々SO10地区から移動を開始したのが数時間前。順調かと思われていた道中でグリフィンの大部隊に遭遇し、交戦状態に入る。ハイエンド由来の高性能を活かすもこちらはただの移動のための最低戦力、多勢に無勢で次々と仲間を失った。

そして、なんとか生き残った私は重症のリーを連れて歩き、銃声と同時に胸の痛みを覚えながら崖から落ちて・・・・・

 

 

「っ! リーは・・・・・リー!!!」

 

 

痛みを無視して立ち上がり、叫ぶ。どうやら逸れたらしい。近くに落ちていた私の武器である大斧と散弾銃を拾い上げ、よろめきながら探す。

 

 

「りー・・・どこだ、リー。 返事をしてくれ・・・・・」

 

 

また仲間を失うのか・・・・・その恐怖に苛まれながら、私は足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「土砂災害の現場は・・・・・ここですわね。」

 

「幸い近くに民家はありませんでしたが、これは・・・・・・」

 

 

グリフィンの管轄する街、その近くで土砂崩れが起きたと通報が入った。最寄りの基地であるS09地区から急行したKarとカラビーナは、その惨状に息を飲む。

 

 

「雨は止みましたが、またいつ崩れ始めるかわかりません。 急ぎましょう。」

 

「えぇ。」

 

 

彼女らはもともと、晴れ予報であるあしたに調査を始める予定であった。前泊するために訪れた街で、その情報を聞くまでは。

 

 

「『土砂が崩れると同時に、悲鳴が聞こえた。』・・・・本当なら早く見つけなければ。」

 

 

情報からのおおよその方角、そしてセンサーだけを頼りに探す二人。雨でぬかるんだ土砂の上を慎重に歩き、周囲を注意深く探す。だが目視はもちろん、センサーにも一切の反応がない。

間に合わなかったのか・・・・そう思ったその時、カラビーナから通信が入る。

 

 

『Karさん、こちらカラビーナ。 負傷したリッパーを発見しました。』

 

「リッパー? 悲鳴は彼女のものなのでしょうか。」

 

『わかりません、ともかく救助をっ!?』

 

「カラビーナ? カラビーナ!」

 

 

突如、息を飲む音とともに地面を蹴る音。

そして、何者かの絶叫が響き渡った。

 

 

『やめろぉおおおおおおおお!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉおおおおおおおお!!!!!」

 

 

地面を蹴り、飛び上がる。勢いのままに斧を振り下ろすが、先に気がついていたのか難無く躱される。

これがそこらのグリフィン人形なら、ここまで激昂することもなかっただろう。だがコイツは、コイツだけはダメだ!

軍帽に大きめのコート、長い銀の髪を揺らし身の丈ほどある銃を手にした人形・・・・・かつて私から()を奪った、忌まわしき人形。

そいつが倒れたリーに手を伸ばした時、視界が真っ赤になった。

 

また、奪うのか?私から仲間を、最後の仲間を!!!

 

 

「うぉおおおあああああああ!!!!!」

 

「っ!? なんてデタラメな・・・・!」

 

 

奴にとっても想定外の接触だったのか、あの余裕に満ちた顔ではない。それでわずかに溜飲が下がるが、それだけだ。

 

 

「奪わせない・・・・これ以上貴様に! 奪われてたまるかぁああああああああ!!!!!!」

 

 

大斧を振り抜き、散弾銃をばら撒く。そのおおよそ高機動戦には向かなさそうな見た目とは裏腹に、そいつは倒れた木々や土砂の山を巧みに使い避け続ける。

 

 

「誰と間違えているのかは存じませんが、今すぐ武器を下ろして投降なさい! これ以上はこちらも応戦せざるを得なくなります!」

 

「投降だと・・・? 捕虜を虐待し、ボロ切れのように捨てたお前が、そんなことを言うのかああああああ!!!!!!」

 

 

その時だった。飛びのいたやつの足元が崩れ、体勢を崩す。

この好機を逃しはしない、一直線に走り、力の限り大斧を振り下ろす。

 

 

「・・・・っ!!!」

 

「なにっ!? がはぁ!!?」

 

 

斧が当たる直前、逆にこちらに飛び込んできたのだ。突然のことに思わず斧を落としてしまい、そのまま斜面を転げ落ちる。

 

 

「くっ・・・・このっ!!」

 

「なっ・・・・・あぐぅ!!!」

 

 

だがこの距離ではコイツも何もできない。首を思いっきり掴むと地面に押し倒し、そのまま馬乗りになって首を絞める。

 

 

「苦しいか? 怖いか!? あいつは・・・・・アウストはそんなことも言えずに死んだ! お前にっ! 殺されたんだっ!!!!」

 

「かはっ・・・なに・・・を・・・・・」

 

「なぜだ・・・・・なんでこうなった・・・グリフィンも、鉄血も・・・・どうして・・・・・・・」

 

「グリフィン・・・・鉄血・・・・・・まさか・・・あなたも・・・・・」

 

 

目の前のコイツも何か言ってくるが、ジョジョに抵抗も弱まり瞼が閉じ始める。

あと少し・・・あと少しで・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タァーーーーーーーッン

 

 

「っ!?」

 

「うぅ・・・・・Kar、さん・・・」

 

 

銃声が鳴り響き、私のすぐそばの土が爆ぜる。顔を上げるとそこには、目の前で苦しむ人形と瓜二つの人形が、鋭い眼光で銃を握っていた。

 

 

「そこまでです。 どうやらお互いの認識に齟齬が生じている様子・・・一度話し合いましょう。」

 

 

齟齬・・・だと・・・・?コイツは私の仇だ、それのどこに齟齬がある?

・・・・・お前も・・・お前も私の邪魔をするのか!

 

 

「ふざけるなぁああああああ!!!!!!」

 

「聞く耳持たず、ですか・・・・・仕方ありませんわね。」

 

 

キッと睨みつける私に、ヤツは小さく溜息を吐く。そして構えを解いて銃を背負うと、足元に手を伸ばし・・・・・何かを引き上げた。

 

 

「っ!? リー!!!」

 

「この方はあなたのお仲間なのでしょう? こちらとて無益な殺傷は避けたいところです。 ・・・・・投降しなさい。」

 

 

はらわたが煮えくり返りそうになる。ヤツは言外にこう言っているのだ・・・・・従わなければ殺す、と。

震える手を必死に抑え、押し倒したやつの首から離す。それと同時にヤツは勢いよく立ち上がり、腕をひねり上げて逆に押し倒された。いつのまにかヘリの音まで聞こえ、私たちの上空に一機、ホバリングを始める。

私はただ、無力さを噛み締めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって鉄血工造のラボ。以前の旅行で海水の影響がないか、代理人はメンテナンスを受けにきていた。

 

 

「・・・・・うん! 異常なし!」

 

「・・・サクヤさん?」

 

「ちょっとぉ!? 私の診断が信じられないのぉ!?」

 

「あはは・・・・まぁアーキテクトの言う通り、異常なしだよ。」

 

 

憤慨するアーキテクトを無視して話を進める二人。まぁ普段の行いというヤツだ。

プンプンとわざわざ口に出して怒ってますアピールのアーキテクトは、コーヒーもらってくると言って部屋を出ようとし・・・・・

 

 

バァン!!!

「アーキテクトさん! 急患ですわってあら?」

 

「お、久しぶりKarちゃん。」

 

「アーキテクトなら、そこにいますよ。」

 

「え? こっち・・・・きゃあ!? どうされたんですか!?」

 

 

壁とドアに挟まれてペッチャンコになっていた。それにあたふたするKarと、微笑ましく眺めるサクヤと代理人だったが、次に入ってきた人物たちを見てギョッとする。

まずは泥だらけのカラビーナ、次に彼女が背負っているボロボロのリッパー、そして極めつけは見たこともない鉄血人形(たぶん)。しかも後ろ手で拘束までされている。

 

 

「・・・・カラビーナさん、これは?」

 

「・・・・・・・おそらく、()()()()です。」

 

「だ、代理人? なんだこれは・・・・どうなっている・・・・・・」

 

 

目の前のものがまるで信じられない、そういった目だ。そして代理人も、そういった目の持ち主をたくさん知っている。

 

 

「・・・ともかく修復が先ですね。 サクヤさん、アーキテクト、頼みますよ。」

 

「まっかせて代理人! 『アーアー、アーキテクトよりメンテ班へ、緊急修復案件につき全員ラボに集合!』」

 

「サクヤさん、シャワーをお借りしてもいいでしょうか?」

 

「ん? いいよ。 場所はわかる?」

 

「えぇ、案内板もありますので。 行きましょうKarさん。」

 

「さぁさぁその子だね、うわ結構ひどいな・・・・あ、君もおいで、すぐに治すから。」

 

「え? あ、あぁ・・・・・・。」

 

 

何が何だかわからずに、それこそ拘束具が外されていることにすら気がつかずにアーキテクトの後を追う人形。

代理人は喫茶 鉄血のDに連絡を取り、今日は帰らないことを伝えて後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・。』

 

「あ、あの・・・・リベンジャー様、これは?」

 

「私に聞くな・・・・・」

 

 

結論から言えば修復はなんの問題もなく終わった。まぁ別世界の天才と、ぶっ壊れているバカだがハイエンド1の天才にかかればどうということはない。ついでに彼女の直接的な配下の人形たちも、戦闘・生活・家事・その他日常能力のほぼ全てを犠牲にして高度な頭脳(AI)を手に入れた強者である。

お陰で完全復活を遂げた二人だが、この重い空気の原因もまた、彼女たちにある。

 

修復にあたり、特に直前に何があったのかがわからない人形はその記憶を調べながら修復する。場合によっては当時の記憶を消す必要もあるからだ。

そしていつも通り記憶を除き、そこで見た地獄に皆閉口しているのである。

・・・だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。彼女がいつまた、カラビーナたちに襲いかかるかもわからないからだ。

 

 

「・・・・・アベンジャーさん、そしてリーさん。 お二人には大事な話があります。」

 

「「・・・・・・・。」」

 

「・・・ここは、あなた方が生きてきた世界とは全く違う、いわゆる別世界というものです。」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

「じょ、冗談がすぎるぞ代理人・・・・・・そんなことが・・・」

 

「事実ですわ。」

 

 

カラビーナが口を開くと同時にアベンジャーがキッと睨みつける。過去を見た今、アベンジャーがどれほど『Kar98k』を憎んでいるか、それは睨まれたカラビーナも痛いほどよくわかっていた。

 

 

「・・・崩壊液、コーラップス、北蘭島事件、蝶事件、そしてグリフィンと鉄血工造との抗争・・・・・・そのどれも、この世界では起こっていません。」

 

「嘘だ! そんな話が信じられるか!」

 

「では今この状況をどう説明しますか? グリフィンが鉄血に降った? それともその逆?」

 

「それは・・・・・・」

 

 

悔しそうに俯くアベンジャー。だがカラビーナはなんと彼女のもとに歩いて行き、その手に自身の手を重ねる。

一瞬ビクリとしたアベンジャーだが、特に抵抗はしなかった。

 

 

「ここに来る間も、大勢の人間や人形とすれ違った。 ですが、あなたはその誰にも敵意を向けなかった・・・・・私とKarさんを除いて。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・きっと、そちらの私とあなたは因縁浅からぬ関係なのでしょう。 恐らくは、あなたが本当に殺したい相手。」

 

「・・・・っ。」

 

 

するといつの間に取り出したのか、カラビーナはアベンジャーの手に一丁の拳銃を握らせていた。仲間が慌てて駆け寄ろうとするもそれを片手で制し、銃口をまっすぐ自分に向ける。

 

 

「私もかつて、この世界に流れ着いた者です。 もしあなたが望むのなら、私がその仇となりましょう。」

 

「カラビーナっ!?」

 

「ですが、一つだけ約束してください。 ・・・・・『復讐者』という名前を、過去を捨てると。」

 

 

さぁ、とカラビーナは手を離し、まっすぐに向き合う。銃口は未だしっかりと眉間に向けられており、引き金を引けば彼女は死ぬだろう。

アベンジャーは、ゆっくりともう片方の手を添えて狙いを定める。視界が再び赤く染まり出し、殺意が腕を伝って指先に力を入れる。

 

その視界の隅に、一体の人形が写り込んだ。他の人形では気にもしなかっただろうが、その人形もまた、仇と同じ(Kar98k)だったからだ。

そいつは泣いていた。きっと同型の彼女にとっては大切な仲間なのだろう。それを私が殺そうとしている。

 

 

(・・・・・・あ。)

 

 

アベンジャーがどこか違和感が、どこかで見たような光景だと思っていたこの状況が、ようやく理解できた。

あの時と同じだ。(Kar)アウスト(カラビーナ)・・・・・そしてあの人形(私自身)だ。

そしてはっきりと今、アベンジャーと『Kar98k』が()()()()

 

 

「あ・・あぁ・・・・うぁあああああああああ!!!!!」

 

 

バンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・はぁ。」

 

「・・・・・え? あ・・・」

 

 

きつく瞑った目を開く。()()()()()()()()銃口はわずかにそらされ、天井には一発分の弾痕が残される。

その手を握っていたのは、あの人形(カラビーナ)だった。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・・な、なんで・・・・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・っ!」パァン

 

 

乾いた音とともに、左頬に鈍い痛みが走る。だがコイツはそれでもおさまらないのか、もう一度手を振り上げる。

 

 

「カラビーナさん! ・・・・・もう結構ですよ、ありがとうございます。」

 

「・・・・・・・。」

 

 

代理人に止められたカラビーナはしばらく腕を振り上げたままだったが、やがて立ち上がって部屋から出て行った。

入れ替わるようにして抱きついてきたのはリーだった。

 

 

「リー・・・・・」

 

「アベンジャー様・・・・死なないでください・・・いなく、ならないで・・・・・私を一人にしないでください!」

 

 

それを言われて、ようやく自分がなにをしたのか、してしまったのかを知った。私は、コイツを残して一人楽になろうとしたのだ。この世界に、一人残して。

 

 

「・・・・アベンジャー、彼女にはあなたが必要です。」

 

 

代理人はそう言って私から銃を取り上げ、仲間を連れて部屋から出て行った。

それから私はリーを震える手で抱きしめ、泣いた。

互いになにも言わず、二人のすすり泣く声だけが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてカラビーナ、何か申しひらきはありますか?」

 

「・・・・・・・・。」

 

「では、しっかり歯を食いしばりなさい。 ・・・・・・フンッ!」

 

 

スカッ・・・・・・・パァン

 

響きのいい音と同時に、カラビーナがよろめく。

・・・・・空を切った音も聞こえたが、そこは誰も言わなかった。

 

 

「まったく・・・・いいですかカラビーナ、あなたがなんと言おうと、あなたは私の仲間で、かけがえのない友人なんですのよ。 なのに勝手に命を投げ出そうとして・・・・・聞いてますの!?」

 

 

ちょっと遅れてこの部屋に入ってきた代理人らだったが、かつてないほどの剣幕で怒るKarにやや引き気味だ。まぁキレるのも無理はないし、なんだったらビンタ一発では絶対に済まさない。

 

 

「あなたは彼女の復讐を終わらせるつもりだったのでしょうけど、それで全て元どおりになると思っているのですか!? しかも結果的に彼女を追い詰めてしまってますし、完全に悪手ですわよ!」

 

「あの、Karちゃんそのへんで・・・・」

 

「いぃえまだですわ! だいたいあなたは自分のことに頓着がなさすぎるんですわ! 食事や衣服は百歩・・・いえ一万歩譲ったとしても命にまで頓着なしとはどういうおつもりですの!?」

 

 

カラビーナの両肩を掴んでガックンガックン揺するKar。泣きながら怒りながら叫びながら揺らすという実に忙しく動いているが、絶賛絶叫中のカラビーナも反省の意を込めて大人しく聴いている。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・今日は、この辺にしておきますわ。」

 

「『今日は』?」

 

「ともかく行きますわよカラビーナ! まずはあの方々に謝って、あとはその場の勢いですわ!」

 

『えぇ・・・・・』

 

 

呆れ返る一同をよそに、Karはカラビーナを引っ張っていこうとする。ちなみに長時間正座で説教を受けていたカラビーナはなかなか立ち上がれそうにない。

そんな時、部屋の扉が開き目元を赤くしたアベンジャーとリッパーが入ってきた。

 

 

「・・・・・その、すまなかった。 すぐに此処を出る・・・・迷惑になるだけだからな。」

 

 

あ、と行ったのは誰だったか。アベンジャーがそう言ったのはまぁ別にいい、責任を感じてのことだし言うのはわかっていた。

問題は、未だ収まりきっていないKarがそれに反応してしまったことだ。

 

 

「『迷惑だから』・・・・・ですか?」

 

「え?」

 

「なんっっっっっっっにもわかっていませんわね! ちょっと泣いて落ち着いたと持ったら自分から除け者扱いですか!? 一体いつ! 私たちが!! あなたのことを!!! 邪魔だと言いましたかっ!?」

 

「「ひぃ!?」」

 

「Kar、怯えてますよ。」

 

 

一応代理人が声をかけるが止まりそうにないため、仕方なく鉄血兵数名で押さえ込んで強制退出させる。

入れ替わって彼らの前に来たのは、ようやく足のしびれから立ち直ったカラビーナだ。

 

 

「こちらこそ、申し訳ございません。 あなたのためと思いながら、不必要に追い込んでしまいました。」

 

「・・・・・いや、いいんだ。 もともと先に手を出したのはこちらだ。 恩を仇で返してしまったしな。」

 

 

謝罪の堂々巡り、なので一通り話がついたところで代理人がわざとらしく咳払いし、二人の間に入る。

 

 

「ともかく、この件は双方の不可抗力ですのでこの辺に。 ・・・・・アベンジャー、リッパー、私とともに来なさい。」

 

「「え?」」

 

「右も左も分からずに出て行くなどと認めるわけにはいきません。 しばらくはこちらで・・・この世界を、感じてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

あの騒動から数日が経った。半ば無理やり連れてこられたこの『喫茶 鉄血』で、私とリーは働いている。といっても最初はただの居候だったし、なんなら働かなくてもいいとさえ言われていた。

だがまぁいつまでも居候というのも、というわけで働き始めて、ようやく此処が私たちの生きた世界ではないことを理解した。

夢なんじゃないのか、そう思えるほどに私の夢見た世界だった。人形が笑い、遊び、恋できる、そんな世界。

 

 

「いらっしゃいませ。 お席はご自由にどうぞ。 ・・・アベンジャー、注文を。」

 

「はい。」

 

 

もし彼と・・・アウストと会った世界が此処だったなら、私もまた『復讐者』ではなかったのかもしれない。

 

 

(もっとも、過ぎた話だが・・・)

 

 

ひとり自嘲気味に笑い、新しく来た客の元に向かう。その客の風貌がどことなく『彼』に似ている気がするのは、私の思い込みだろう。

そう思っていたからこそ、その顔を見た瞬間のことを、私は忘れない。

 

 

「お待たせしました、ご注m・・・・・・・・・」

 

「あ、えーっと・・・アイスコーヒーを。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・え? 何? どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・アウスト・・・・」

 

 

 

end




と、言うわけでムリーヌ氏の作品から『アベンジャー』をお借りしました!
・・・・・なんかすごい文字数になったけど許してちょんまげ。


はいそんなことは置いておいてキャラ紹介!

アベンジャー
ムリーヌ氏の『鉄血兵を拾いました』と『とある復讐者の追憶』から。数あるドルフロ作品の中でも狂気が垣間見える世界なので読む際はご注意を。
もとはリッパーだがそんな面影はほぼない。
出会いや別れを短い期間で受け過ぎたためメンタルに不安定さが見られる、という解釈で書いてるので話し方もばらつきがある。
流れ着き組の中では最強クラス。

リー
『とある復讐者の追憶』から。
普通にリッパー。アベンジャーが見分けがつかないという理由で名付けたが、本人は気に入っている様子。
おどおど気味で可愛い。


Kar
気がつけばお節介説教小娘になってしまった。シリアスからギャグまで幅広く対応でき、お姉さんキャラもチンチクリンもラブ勢もできる万能キャラ。
戦闘能力はカラビーナにこそ劣るが、カラビーナが高すぎるだけで決して弱くはない。

カラビーナ
流れ着き組。
アベンジャーとKar98kの因縁というなら出さないわけにはいかない、という理由で出した。
人間味は出てきたがまだまだ。








最後に出てきた客。
この話は番外編でだが・・・・・もちろん『彼』。


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番外編18

前回は長くなり過ぎた、というよりここ最近長くなりがちなのでちょい反省。
やっぱり3000字くらいが読みやすいですよね。

というわけで今回は番外編!
・サマーバトル!
・もう一度、あなたと


番外18-1:サマーバトル!

 

 

海、一日目。

あっつい日差しの中、簡単なネットを張って砂に線を引いたコートで、二つのチームが向かい合っていた。

片方にはM4をリーダーとするAR小隊・・・残念ながらAR-15とD-15とSOPは不在なため、代理で入るのはWA2000とカリーナだ。

反対側は45たち404小隊・・・G11は身長的に不利だが拒否権はなかった。

 

 

「ふふふ・・・・今日こそどちらがエリート部隊にふさわしいか、はっきりさせてやるわ!」

 

「あの・・・404小隊って特殊部隊ってだけでは?」

 

「シャラーーーーップ!!! あなたにはわからないでしょう、裏の主人公だとか言われても結局表の主人公には勝てないという屈辱が! というか大人しくて気弱なキャラ被ってんじゃないわよこの微(妙な)乳(の)人形が!!!」

 

カチンッ「頭にきました・・・徹底的に叩き潰します!!!」

 

『いや、勝手にやってろよ。』

 

 

完全に巻き込まれただけの他メンバーだが、一応参加する理由はある。これに勝てば、喫茶 鉄血で使える食事券千円分が十枚綴りでもらえるのだ。

特にほぼ毎日のように入り浸るG11あたりは喉から手が出るほどほしい。

 

 

「しゃーないか。 ま、勝たせてもらうぜ!」

 

 

M16が勢いよくサーブを放つ。それを416が難なく受け流し、G11が打ち上げてゲパードが振りかぶり。

 

 

「・・・・よっと。」

 

 

ちょっとだけ浮かせてブロックを躱す。完全に裏をつかれたブロックの後ろにポトリと落ちる・・・・・わけにもいかず、いち早く反応したWAがスライディングでなんとか持ちこたえる。

 

 

「ちっ!」

 

「ふんっ! 残念だったわね!」

 

 

WAが負けず嫌いなのはわかっていたが、これで火がついたのかゲパードの目つきも変わる。と言うか気がつけばほとんどの人形が戦場に立つ時の目だった。

 

 

(あれぇ〜・・・私間違えたかなぁ・・・・。)

 

 

この中で唯一の人間であるカリーナは冷や汗を流しながら構える。ぶっちゃけ本気で打たれたらカリーナが耐えきれるとは到底思えない、というか最近運動不足気味なのでそれ以前の問題だ。

 

 

「これで・・・どうですか!」

 

「はい残念! 45姉、お願い!」

 

「くたばりなさい後半見せ場のない主人公!」

 

「くたばるのはそっちですよイベント限定さん!」

 

 

もはや罵倒の嵐である、がさすがは戦術人形、それも指揮モジュールを積んだ人形が両陣営にいるのだ。お陰で互いに一点も入らない膠着状態が続く。

 

 

 

 

 

 

そんな様子を遠くで見つめるのは、警備役の軍人やドローン越しに警備する基地の軍人だ。

もっとも、彼らが見ている場所など一点しかないが。

 

 

「うぉおおおおまた揺れたぁああ!!!!」

 

「見ろよ! ビーチボールが山のようだ!」

 

「いけぇ! そこでポロリ・・・・あ〜ダメかぁ〜。」

 

 

警備そっちのけで揺れる双丘たちを見守る野郎ども。ビキニタイプだったり競泳水着だったりとよりどりみどりだが、あれだけ激しく動いても全くこぼれ落ちる気配がない。だが布地では抑えきれないほど揺れているため、溢れそうで溢れないそれを息を荒げながら追いかけるのだ。

その一方で・・・・・

 

 

「見たか今のジャンプ! 足先から頭のてっぺんまで()()()()()このフォルム!」

 

「やはり貧乳はステータスだ! 希少価値だ!!」

 

「貧乳マイクロビキニとか分かってるじゃないか45姉!!!」

 

「G11ちゃんに白スク水を着せたい・・・・」

 

「もちろん旧タイプだろ同志よ。」

 

「当たり前だぜ同志。」

 

 

こんな手遅れ組もいる。いつのまにかドローン管制室にはポップコーンとドリンクが持ち込まれ、誰が最初にポロリするか、誰が得点を入れるかなどの賭けが始まる。

・・・・・軍人としてはいささか問題だが、悲しきかなこれを咎める者などいない。

 

 

 

結局この勝負の決着は付かず、だれのハプニングも起きなかった。だが男たちは今日の光景を糧に明日からの訓練に精を出すだろう。

ちなみに喫茶 鉄血のクーポンは、全員に一枚ずつ配られた。

 

 

end

 

 

 

番外18-3:もう一度、あなたと

 

 

「・・・・・・・アウスト・・・。」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

まるで時間が止まったかのように、私はそこから動くことができなかった。髪も少し伸びているしヒゲも同じ、だがその顔を、一度たりとも忘れたことなどない。

そして、彼の言葉で確信が持てた。

 

 

「どうして・・・・その名前を?」

 

「っ!」

 

「うわっ!? ちょっと!」

 

 

気がつけば私は、彼を引っ張って店の奥へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、お客様を連れてここまで来たと?」

 

 

さて冷静に考えれば問題しかないこの行動、当然のごとく代理人に捕まり、ひどく冷たい目で睨まれている。

・・・うん、短略的だったのは認めよう。だが私にとっては最優先事項だったんだ。

 

 

「・・・はぁ。 もう起こってしまったことは仕方ありません。 それに・・・・・私から見ても間違いないようですから。」

 

「! じゃ、じゃあ!!」

 

「えっと・・・・説明を聞いても?」

 

 

彼が・・・アウストが困り顔でそう尋ねる。なぜわからないんだ、と言いかけるがよくよく考えれば私はもうリッパーではない。わからなくて当然だ。

 

 

「そうですね・・・ではまず、あなたは()()()()の人間ではありませんね?」

 

「っ!? ・・・なぜかな?」

 

「何をバカな、と言わないだけでも怪しいのですが、彼女が何よりの証人ですよ『アウスト=ヴィノ=スコヴィッチ』さん。」

 

「なっ!? どうしてそれを!?」

 

「・・・・・・あとはあなた次第です、アベンジャー。」

 

 

それだけ言って代理人は表に戻る。残されたのは驚愕の表情を浮かべるアウストと、私だけだ。

もう間違いない、ならばあとは伝えるだけだ。

 

 

「・・・・アウスト。」

 

「・・・君は、誰だ? すまないが君に見覚えは」

 

「あぁそうだ、私は変わってしまった・・・・・・あの時のちっぽけな、非力なリッパーから。」

 

「リッパー・・・・・・・・まさか!」

 

 

彼の瞳が、()()()()()を見る目に変わる。思い出した、思い出してくれた!

 

 

「そうだ、私だ・・・・・会いたかったよ、アウスト!」

 

「リッパー・・・お前なのか?」

 

「あぁ・・・そうだよ・・・・・・アウスト、本物なんだね?」

 

 

そのまま私は抱きついた。最後にこうしたのはあの逃亡生活の中でだったが、彼の匂いは変わらなかった・・・・・・もちろん泥臭いというわけではないぞ。

 

 

「お前、なんで・・・それにその姿は・・・・」

 

「アウストこそ・・・・・どうして・・・・・・」

 

 

お互い聞きたいことが山のようにあった。が、流石に店でそれをやられるのはまずかったのか、ここの従業員のリッパーとイェーガーに三階の部屋に連行された。というか私の部屋に放り込まれた・・・・・・・ごゆっくり?やかましいわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・そうか・・・それが今のお前なのか。」

 

「・・・・・うん。」

 

 

あのあと、気まずくなりながらも互いのことを話した。まずアウストだが、彼も気がついたらこっちの世界にいたらしい。拾ってくれたのは近くの住人で、自分のことを記憶喪失か何かだと思われていたらしい。

で、いつまでもそうしていられないので思い切ってグリフィンに突入、案の定『アウスト』なんて名前はなかったけど、社長が出てきて新しい戸籍やらを用意してくれたらしい。

それがおおよそ、1ヶ月前だ。

 

私も全て話した。

自分で命を絶とうとしたこと、ハイエンドモデルとして蘇ったこと、多くの人形を殺したこと・・・・・ここに流れ着いた時のこと。

 

 

「・・・・・すまん!」

 

「・・・え?」

 

 

彼が頭を下げた。彼が謝ることなんて何もないはずなのに。

 

 

「俺がお前を巻き込んだようなもんだ・・・お前がそんな姿になったのも。」

 

「違う・・・違うよアウスト・・・・・」

 

 

たしかに私は、彼への気持ちを利用されていた、それを復讐心に変換していたのは事実だ。

でもそれは、彼の責任なんかじゃない。

 

 

「私は、アウストに出会えてよかった。 初めてあった時は殺されると思ったのに殺さなかったし、食べ物までくれた。」

 

「リッパー・・・・」

 

「服を選んでくれた時は、すごく嬉しかった。 あなたといれば、何も辛くなかった。」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

涙が落ちる。一度溢れ出したそれは、もう自分では止められなかった。

あの時話せていれば、どれだけ楽しかっただろう。どれだけ笑えたのだろう。そう思うと同時に、全て遅すぎたのだと感じた。

会いたかったはずのアウストに、さっきまで抱きついていたアウストに、手を伸ばせない。私は、殺しすぎた。

 

 

「・・・・リッパー。」

 

「っ! い、いや・・・・」

 

「大丈夫だ・・・おれはここにいる。」

 

「だめ・・・・・私にそんな資格なんて・・・・・」

 

「そんなもんクソくらえだ。 ・・・・・お帰り、リッパー。」

 

「あ、あぁあ・・・・・・」

 

 

無意識に、彼に腕を回していた。血に濡れた腕だ、彼に触れたら汚してしまう。なのに、離したくない。

 

 

「アウスト・・・・好き・・・・・」

 

「・・・・俺もだ、リッパー。」

 

 

唇を重ねる。それだけで、今までの不安や恐怖が消え去る。もっと彼を感じたくて、より体を寄せると、彼は一瞬驚いたような顔をした後で私をベッドに押し倒した。

 

 

「・・・・お前、どこまでわざとなんだ?」

 

「え? 何が・・・・?」

 

「いっつもいっつも押し当てやがって・・・・・勘違いしちまうだろうが。」

 

 

すると彼は小さく、嫌なら押しのけてくれ、と言って再び唇を重ねる。それで全てを察したが、押しのけるつもりなんてなかった。

鼓動が早まる。期待で胸がいっぱいになる。

 

 

「・・・・・・・きて。」

 

 

ベッドが、軽く軋んだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私は代理人にある場所に呼び出された。S09地区の高台にある、小さな公園だ。夜ということもあって人はおらず、代理人も連れてきただけですぐに帰ってしまった。

 

 

「・・・・なんなんだ。」

 

「・・・リッパー。」

 

「ひゃいっ!?」

 

 

突然声をかけられ、慌てて振り向く。そこにいるのはきちっとしたグリフィンの制服を着た彼・・・・先日名前を元に戻したアウストだった。

 

 

「今日は、その・・・・大事な話があってな。 ・・・・・・・グリフィンの指揮官になったんだ。」

 

「・・・・そう・・おめでとう。」

 

 

まぁたしかに見ればわかることだが、そのために呼び出したのだろうか。・・・・私に祝ってほしいと思ってのことならそれはそれで嬉しいが。

 

 

「それで、そのな・・・・・遠くの地区に行ってしまうわけなんだが・・・・・・・。」

 

 

そう言うと彼はポケットに手を入れ、何かを取り出そうとする。

・・・・引っかかってなかなか出てこないが。

 

 

「このっ・・・よし。 リッパー、こっちに来てくれ。」

 

「う、うん・・・・。」

 

 

なんだろう? 別れの品かとも思ったが別に今世の別れでもあるまい。

目の前まで来たところで、彼は突然その場で片膝をつき、両手で小さな箱を・・・・・・・・・・え?

 

 

「好きだ・・・・・・・一緒に来てくれ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

私は無言で箱を受け取り、そっと開ける。中に入っていたのは銀色に輝く指輪・・・・・それと彼の顔を見比べ、次第に視界がぼやけ始める。

 

 

「アウスト・・・これ・・・・・・え、本当に・・・・?」

 

「あぁ・・・・・もう一度言うぞ、好きだ・・・・・・返事を、くれないか?」

 

 

何度も目をこすった。何度も頬をつねった。

夢じゃないのか?白昼夢とかシステムトラブルとかじゃないのか?

だが帰ってくる答えは一つ・・・・・・現実だ。

 

 

「・・・・・はい!」

 

「っ! リッパー!」

 

「アウスト!」

 

 

思わず抱きついて、そのまま泣いた。嬉しすぎて、頭が可笑しそうになる。だがこのまま壊れてしまうなら、それでもいいと思えるくらい、私は幸せだった。

願わくば、いつまでも、続きますように。

 

 

end




三部構成だった海回と救済回だったので番外編は二つだけ。
でもまぁたまにはこんなのでもいいよね。


というわけで早速解説!

番外18-1
七十二話の一場面。せっかく海に来たんだからビーチバレーだろ!
惜しむらくは、これが全年齢向けのKENZEN小説だということ・・・・・お陰で全員ポロリの場面はボツになった(流石に怒られそう)

番外18-2
七十五話の最後から。
実はもともと出すつもりじゃなかったアウスト君、でもせっかくだしこっちでは結ばれて欲しかったしね!
これを本編に書かなかった理由は、ただでさえ長いのにさらに長くなることと、本編最後のサプライズ的な意味合いがあったから。
これで一応アベンジャーちゃんは本編から下がります。番外編とか他の話でちょいちょい出るかも。

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『通算100話記念』+おまけ

去年の年末から書き始めて半年以上、ついにここまでたどり着けました!
これも皆様のご声援のおかげです!
これからもどうぞ、喫茶 鉄血をよろしくお願いします!

ちなみにこの作品はドラ○もん的な感じで、時間は進めど歳とったりとかは基本的にありません。




*悲しい報告を受け、急遽おまけとして追加しました。
417ちゃんに、幸あらんことを。


七月の猛烈な日差しが照りつける欧州。S09地区近くに本社兼メイン工場を構える鉄血工造の会議室では、珍しく満席で会議が行われていた。

というのも鉄血工造のトップはアーキテクト、ゲーガー、サクヤの三人であり、彼女らの会議といえば自室か研究室であるため会議室が使われることなど滅多にない。

 

 

「・・・・さて、今日はわざわざ集まってくれてありがとね。」

 

「また良からぬことを企んでるんじゃあるまいな、アーキテクト。」

 

 

円卓の一席にゲン○ウポーズで構えるアーキテクトに、白い目を向けながら言い放つアルケミスト。集まったのはこのほかにも鉄血ハイエンドたちにサクヤ、ペルシカ、17lab主任、そしてM4だ。主任はなぜかアーキテクトが招待し、M4はS09地区司令部を代表して参加している。

 

 

「今回は真面目な話だよアルケミスト・・・・・もうすぐ()()()がやってくるんだけど、わかる?」

 

「喫茶 鉄血の開業一周年だろ? 私たちが忘れるとでも?」

 

「うんうん。」

 

(やっべぇ全然覚えてなかった・・・・)

 

 

もったいぶったアーキテクトの質問にあっさり答えるハンターとそれに頷く処刑人。その横で冷や汗を流しながら内心焦りまくるドリーマー。

そう、代理人が経営するみんなの憩いの場、喫茶 鉄血がもうすぐ一周年を迎えるのだ。今でこそS09地区では知らぬ者などいない店として観光パンフレットにすら載っているが、開店当初はまさかこんなになるとは思ってもみなかったものだ。

 

 

「その通り! というわけで我々は代理人にお祝いする義務が・・・・というよりお祝いしたい願望があるのだよ!」

 

「・・・・で?」

 

「何か問題でも? まぁどうするかって話でしょうけどそこまで神経質にならなくても・・・・・」

 

 

やけに熱のこもったアーキテクトを半ば呆れながら疑問をつぶやくスケアクロウとイントゥルーダー。だがアーキテクトは微妙な顔でM4を見る。それを合図にM4が引き継いで話し始めた。

 

 

「そのお祝いの件ですが、じつはここ最近でそう言ったイベントをいくつかやってしまいまして。」

 

「直近なら海、その前は温泉旅行ね。」

 

 

そう、割と結構お祝いごとをやっている(それだけ慕われていると言える)ため、イマイチ特別感が薄いのだ。ではこの場合は本人の希望を聞くのがいいのだが・・・・・

 

 

「・・・・・・・代理人って、わがまま言わないよね。」

 

「本人は、あそこで店を開いているのがわがままと言っておったぞ。」

 

「あの人に欲はないのか?」

 

 

デストロイヤーのつぶやきにウロボロスが答え、ゲーガーが頭を抱える。これがアーキテクトなら間違いなく山のように要望を伝えてくるのだが、逆にここまで無欲だとそれはそれで困るのだ。

 

 

「でもわかる気はするわ。 私もM4たちや45たちが幸せそうならそれでいいもの。」

 

「ふむ、ということは保護者目線ですね。」

 

「ん〜〜じゃあまた旅行ってのは無しかな。」

 

「お母さんは働きたがりですからね。 あまり店から離すのもよくないですし。」

 

 

人間組にM4が口々に言いながら、では何がいいかというとなかなか出てこない。

旅行? さっき言った通りダメ。

プレゼント? 物欲すらあまりなさそう。

食事? 後日のお返しが凄そうなので却下。

 

代理人を喜ばせようにも、普段から喜びに溢れてるようなのでどうしようもない。できることがあるとすれば毎日通うくらいだが、結局もてなされる側になってしまうのでは意味がない。

なにか、代理人の好きなことでもあれば・・・・・

 

 

「・・・って言っても働くことよね。」

 

「より正確には接客だな。」

 

「お客さんの笑顔が一番・・・・・民生人形よりも民生よりじゃない?」

 

 

う〜〜〜〜ん、と唸り初めて黙り込む一同。そんな時、一体のドラグーンが人数分のコーヒーとお茶を持ってきた。ちなみにこのドラグーンは受付や案内担当で、外部の人間や人形と接する機会が多いためスーツを着ている。

 

 

「・・・・・・待て。 前はメイド服じゃなかったか?」

 

「その前はドレスよね?」

 

「お前・・・・従業員にすらコスプレを・・・」

 

「ち、違うし!? あの子は仕事柄接待が多いから、そういう服を支給してるの!」

 

「まぁ接待や接客であれば当然・・・・・・・・・あ。」

 

『それだぁ!!!』

 

「ひぃ!?」

 

 

小さな悲鳴をあげるドラグーン。まぁ十人以上からいきなりマジな顔で指を刺されればそりゃビビる。

ともあれ服であれば普段から使えるし、趣味とかがなさそうな代理人でも喜んでもらえるはず。そんなわけで早速行動に移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「そうだねぇ・・・・・上のクローゼットもコスプレ衣装ばっかりだから。」

 

「まともな服なんてコレくらいです。」

 

「代理人とDに至っては初期装備一択ですから。」

 

 

翌日、喫茶 鉄血で聞き込みを始めてみる。さすがに代理人に直接聞くわけにもいかないので、本人とよく似た嗜好を持つDと、初期メンバーであるリッパー、イェーガーに聞いてみる。

思った通り服に関してはいつものやつしかなく、あってもマヌスクリプトのコスプレ衣装と以前にプレゼントした着物だけ。その着物も、『汚れると嫌』という理由で代理人はあまり着たがらない。

・・・大切にしてもらえるのは嬉しいが着てくれなければ意味がない。

 

 

(となると、あまり高価なものや綺麗すぎるものはダメでしょうか。)

 

(だろうな・・・・・普段の業務で来てくれそうな感じがいいだろう。)

 

 

聞き込み担当のM4とゲーガーは頭を悩ませる。代理人に似合う服とかアクセサリーとかは山のように思い浮かぶが、『ちょうどいい物』というのはほとんどない。渡したいものを渡すだけでは、渡す側の自己満足で終わってしまう・・・・・というか余計に代理人に気を遣わせそうだ。

 

 

「・・・・・そういえば、お母さんの好きなものってなんでしょうか?」

 

「ん?・・・・・・あれ? なんだろう?」

 

「私も知らんな。」

 

「「うわっ!?」」

 

 

湧いて出た、という表現がよく当てはまるくらいに突然現れたのはアルケミスト。・・・今更だがコイツの服装も結構攻めてると思う。

 

 

「でも意外です、アルケミストでも知らないんですか?」

 

「あぁ、思い出す限りはな。 ・・・・・代理人は、鉄血工造で製造されたハイエンドの中でも最初期の一人だ。」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

『処刑人、髪が跳ねてますよ。 ハンターも。』

 

『え? あ、ほんとだ。』

 

『む、少し慌ててたかな。』

 

『身だしなみは大切ですよ。 ほら、こっちに来てください。』

 

 

 

『代理人! ドリーマーが私のプリン食べたの!』

 

『よしよし・・・ドリーマー?』

 

『わ、わざとじゃないわ! 本当よ!』

 

『まったく・・・・・新しく作りますから、少し待っていてください。』

 

『『やったぁー!!』』

 

 

 

『で、相談とはなんですかウロボロス?』

 

『いや、そのな、スケアクロウのことなんだが・・・どう会話すればいいものかと。』

 

『あぁ、まぁ無口ですからねあの子は。』

 

『こっちばかり話してしまってな・・・・・嫌われておらんかの?』

 

『考えすぎですよ、私もついていきますから話してみましょう。』

 

『おお! 助かる。』

 

 

 

『いつもありがとうございます、アルケミスト。』

 

『どうした、藪から棒に。』

 

『あの子たちのこと、気にかけてくれてますよね。 お陰で助かります。』

 

『それを言うなら代理人もだ。 それに、()()()()()の中には私も入っているんだろ?』

 

『ええ、もちろん。 辛ければ甘えてもいいんですよ?』

 

『・・・・・ふふ、ありがとう代理人。』

 

 

 

『ハッキングで足がつきかけたんだけど。』

 

『そういうことをサラッと言わないでくださいイントゥルーダー。』

 

『まぁ今は大丈夫よ。 でも、その時が来たら迷わず見捨t

 

『お断りします。 たとえ軍を相手にしてでも助けますよ。』

 

『・・・・・・・・。』

 

『ですから、ちゃんと私たちに相談してください。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まるで母親だな。」

 

「そうだ。 そういう意味では、大抵のものは『気持ちだけで嬉しい』とか言われてしまうだろう。」

 

 

なるほど確かに強敵だ。というか代理人の性分的に貰いっぱなしは気が済まないのだろう。事実、先日の海の一件のお礼としてスペシャルケーキをホールで送ってきたほどだ。

 

 

「・・・・・あ、ケーキ!」

 

「確かにお祝いとしては鉄板だが・・・そんなものを渡してみろ、お礼の応酬だぞ?」

 

「う〜〜〜〜ん・・・・・あ! これならどうでしょうか!」

 

 

M4はポンっと手を叩くと、ゲーガーとアルケミストに耳打ちする。聞いた二人はニヤリと笑うと、それぞれ行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数日後、喫茶 鉄血オープン一周年当日。

にもかかわらず店内はいつも通りで、代理人らも特に気にしていない様子・・・・・というよりも今日がなんの日か気づいていないようだ。だが優秀なハイエンドである代理人は、その日は何かおかしな空気が流れているとには気がついていた。

 

 

(・・・・・なんでしょう、何か視線を感じるような・・・それに今日は常連さんばかりな気もしますが。)

 

 

そんな代理人の直感はどうやら当たっていたようで、時間が経つにつれて客の方もソワソワし始める。イェーガーとリッパーも気がついているようだが、他はいつも通りに対応していた。

そしてその違和感は、訪れた一向によって一気に膨れ上がる。

 

 

「いらっしゃ・・・・いませ。」

 

「やぁ代理人、数日ぶりだな。」

 

「こんにちは、お母さん。」

 

 

やってきたのはアルケミストやドリーマーはもちろん、普段は忙しいはずの処刑人やデストロイヤー、はては滅多に顔を見せないイントゥルーダーまでハイエンド勢揃いで、しかも一緒にいるM4は何か大きな箱を持っていた。

 

 

「あの・・・・・これは?」

 

「あーその前に、代理人とイェーガー、リッパーの三人はこれに着替えてくれ。」

 

「え? 私たちも?」

 

「でも今仕事中・・・・・」

 

「マヌスクリプト、ゲッコー、D。」

 

「「「連行〜!」」」

 

「えっ!? ちょ、D!?」

 

 

投げ渡された紙袋を持ったまま、まさかの身内の裏切りになすすべなくつれて行かれる三人。その様子を眺める客たちの反応とこの無駄のない連携にようやく察した・・・・・嵌められたのだ、と。

 

というわけでギャーギャーと騒ぎながらも裏で着替えさせられた三人。表に戻ると今度はテーブルやら椅子やらの配置が大きく変わっていることに驚く。というかほとんど端に寄せているだけで、三人分の椅子とテーブルだけポツンと残されており、その上にはM4が持っていた箱が置かれている。

 

 

「あら、いいんじゃない?」

 

「えぇ、綺麗ですよ。」

 

「代理人! 表情かたいよ!」

 

「・・・・・・なんですか、これは?」

 

 

出てきた三人の服装は、ごくシンプルながら小洒落たウェイトレスの服。店の雰囲気に合った落ち着いた色合いで、胸元には喫茶 鉄血のロゴが書いてある。

一応プレゼント・・・・なのだろうが、突然のことに三人は困惑しているようだった。

 

 

「驚かせてごめんなさい。 実は鉄血の皆さんから今日のことを聞いて、私が提案したんです。」

 

「・・・・・今日のこと?」

 

「そう! というわけで座ってよ三人とも。」

 

 

M4の言葉に首をかしげるも、デストロイヤーに言われるがままに座らされる三人。そしてM4が箱に手をかけ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃん! 喫茶 鉄血、一周年おめでとうございます!!!」

 

『おめでとう!!!』パァーーッン

 

 

箱が開けられるとともに鳴り響くクラッカーの破裂音。紙吹雪が舞う中で三人は、特に代理人は目の前の光景に言葉を失った。

箱から現れたのはシンプルなホールのケーキだが、砂糖菓子で作ったであろう『ありがとう』の文字が乗せられ、そこでようやく今日がどういった日かを思い出した。

 

 

「えっ!? 代理人!?」

 

「・・・・・・。」ポロポロ

 

「お、お母さん!?」

 

「え、失敗した!? やっぱり営業中はダメだった!?」

 

「な、なんとかしろアーキテクト!」

 

「なにその無茶振り!? えーっと、えーーーっと・・・」

 

 

突然静かに涙をこぼし始めた代理人にパニックになる人形たち。というかそれにつられて周りの客も慌て始め、若干収拾がつかなくなっている。

その時、小さく漏れる笑い声が聞こえた。その発生源は、相変わらず泣きながらも笑う代理人だった。

 

 

「ふふふ・・・・あははは・・・・」

 

「あれ? 代理人?」

 

「ふふふっ・・・・・ごめんなさい・・・・・嬉しすぎて・・・泣けばいいのか、笑えばいいのか・・・・・・」

 

 

そう言いながらも泣き続け、笑い続ける代理人に、一同は顔を見合わせてホッとする。どうやら伝わったようだ。

 

 

「代理人。 今日の客はな、私たちが呼んだ客なんだ。」

 

「一周年のサプライズがしたいって言ったら、みんな協力してくれたのよ。」

 

 

なるほど、よく見れば常連の他にもこの町の住人、特に同業者や組合の仲間や例の歯医者までいる。その彼らも口々に言葉を発し始めた。

 

 

「おめでとう代理人。 いつもコーヒーありがとう。」

 

「困った時やお祝いはお互い様だよ、あんたもこの街の仲間なんだからさ!」

 

「お礼ならいらないよ〜、強いて言うなら私らが死ぬまで営業してほしいね〜。」

 

「ふふっ、そういうことですよお母さん・・・・改めて、おめでとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ・・・皆さん、ありがとう、ございます。」

 

 

涙で誰が誰かはもうわからなかったが、代理人は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食をとる客から仕事帰りにくつろぐ客まで、朝から日暮れまで人が賑わい、コーヒーの香りが漂う喫茶 鉄血。

店のロゴが入った服を揺らし、お客に笑顔を届けるのはここの店長の代理人。

そのポケットの中には、大きなケーキを囲んで撮った一枚の写真。そこには、代理人の笑顔が咲いていた。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

あれから随分と時間が経った。S09地区で始まった小さな喫茶店は、気がつけば一地区に一つはあるチェーン店となり、そこでは最初期のメンバーたちが持て成しているはずだ。

そして一号店であるここ『喫茶 鉄血』では、今も変わらず一人のマスターがコーヒーを淹れている。そしてここは、今も変わらず『不思議な』客が訪れる、不思議な店でもある。

 

 

カランカラン

「・・・・・すげぇ、あの時のまんまだ。」

 

「というかまた迷い込んだんだね。」

 

「? パパ、ママ、ここどこ?」

 

 

そんな店に訪れたのは、幸せそうな一組の家族。代理人には見覚えがあり、男性の方は少し歳をとったが、その傍の少女はそこまで大きく変わっていない様子。一番大きな違いがあるとすれば、その二人の間にいる子供の存在だろう。

 

 

「いらっしゃいまs・・・・あら、もしかして。」

 

「あ、マスターさん、お久しぶりです。」

 

「えぇ、お久しぶりです・・・・・そちらのお子さんは?」

 

「私とパパの子供だよ、名前はネーナ!」

 

「こんにちは!」

 

「はい、こんにちは。 ふふっ、ではご注文を伺いますね。」

 

 

 

 

 

おまけ・end




大変長らくお待たせしました!せっかくリクエストを受け付けたんだからキビキビ書こうとしたらリアルでちょっと忙しくなって間が空いちゃった、マジですまん!
そしてたくさんのリクエストありがとうございます!他のリクエストも、通常回で少し書くかもしれません。

そしてこの場で大変恐縮ですが、『カカオの錬金術師』改め『ムメイ』様、今までありがとうございました!


というわけで簡単な解説

新しい服
モデル的には春田さんのカフェ服みたいなシンプルなやつ。胸に喫茶 鉄血のロゴが入っている(描いてくれてもいいのよ)チラッ
シンプルながら機能性に優れ、丈夫で洗いやすく汚れにも強い。
代理人ら初期の三人はこれと以前の服でローテーション。

ケーキ
アーキテクト考案、M4作成のケーキ。アーキテクトが遊ぶに走らずに考えた数少ないまともなやつ。M4作なので味もバッチリ。


おまけ
少し未来のお話。
未来感を出すためになんか店舗拡大してしまったが後悔はしていない。
本編に一切絡まないストーリーであり、この話はこれで終わり。
この頃の喫茶 鉄血は、人間と人形の従業員がいる。


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第七十六話:ヒーロー

アーキテクト劇場開幕

ニチアサヒーローの最強談義は色々ありますが、みんな違ってみんな強いと思います。
ちなみに好きなライダーは龍騎・王蛇・ファイズ・ブレイド・カリス・キックホッパー・てつを。


アーキテクトが研究室から出てこない、という事態が数日続く鉄血工造。その事態を、最高幹部であるサクヤとゲーガーは重く受け止めていた。べつに悲観すべきことではない。アーキテクトが鬱になるなど、地球が真っ二つに分かれるくらいありえないのだから。

二人が危惧する点・・・・・それは、絶対よからぬことを考えているに他ならないからだった。

 

そんな二人の心配などまったく知りもしない当のアーキテクトは、薄暗い部屋で目の下にクマを浮かべながら妖しい笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「これで・・・これで世の子供たちの夢が叶う・・・・・うへへへへ・・・・・」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

刻は進み数日後のS09地区。平和で知られる(どこの街も平和だが)この街に、突然悲鳴が巻き起こる。その悲鳴を駆けつけたのは司令部所属の人形部隊、その中でも機動力に優れたSMG部隊だった。

だが彼女らは、そこで信じられないものを見る。

 

 

「な、なによこいつら!?」

 

 

そこにいたのは二足歩行の虫・・・・・という見た目がしっくりくる怪物だった。まぁべつにリアリティに溢れる見た目ではないのだが、よりによってそいつはあの『G』によく似ていた。先ほどの悲鳴も、その見た目の悪さゆえだ。

 

 

「まぁいいわ、止まりなさい! 大人しくしないと撃つわよ!」

 

 

SMG部隊の一人、MicroUziが警告する。しかしそれはのそのそとこちらに歩いてくるだけで、まったく止まる気配がない。仕方なく照準を足に向け、一発だけ撃ち込んだ・・・・・のだが。

 

 

カキンッ

「っ!? 嘘でしょ!?」

 

 

あっさり弾かれる。生物的な見た目に反してめちゃくちゃ硬いのだ。もう警告する意味もなさそうなのでフルオートで叩き込むも、その全てが弾き返される。同僚のスコーピオンもMP5も、絶望的な表情になる。

 

ガサッ

そんな音が聞こえ、振り向いた三人は一斉に悲鳴をあげた。そこには開け放たれたマンホールと、そこからまるでGのごとく這い出てくる同種の化け物・・・・・ぶっちゃけキモい。

だが退路を断たれた今、彼女らに成す術などない。そんな時・・・・

 

 

「待てぃ!!!」

 

「「「!?」」」

 

 

地位書くの建物の屋上に見える一つの影、フード付きのローブをまとっていて顔は見えないそいつはそのまま飛び降り、怪物の前に飛び降りる。そしてローブを一気に脱ぎ捨てた。

 

 

「アーキテクト、参上!!」

 

「「「ってお前かい!!!」」」

 

 

一気に溢れる残念感。そんな外野の評価など気にすることもなく、アーキテクトは腰にベルトのようなのを巻きつけ、化け物と対峙する。

 

 

「人に仇成す化け物を、私は絶対に許さんっ! <ppp…standing by> 変身っ! <complete>」

 

 

そんな掛け声とともに数世代前の通信端末風なアイテムをベルトに差し込む。するとどうだろう、なんか光のラインが現れて次の瞬間にはアーマーを纏ったアーキテクトがそこにいた。

 

 

「「「えええええええっ!?」」」

 

「いくぞ化け物め!」

 

 

そう言って化け物の群れに突っ込み、次々と殴り飛ばしていく。銃ではかすり傷一つ負わせられなかった化け物が次々に倒れ、起き上がってはまた倒れる。やがて動きが鈍くなったところで、アーキテクトは腰のアイテムを足につけてボタンを押す。

 

 

「<exceed charge>・・・覚悟ぉ!!!」

 

 

飛び上がって、その場で一回転したから前に進むという意味不明な動きで蹴りを放つ。そして直撃した化け物たちは爆発四散し、アーキテクトは変身を解いた。

 

 

「「「・・・・・・・。」」」

 

「ふぅ・・・・君たち、無事だったkグハァ!?」

 

 

キメ顔で三人の元に歩み寄るアーキテクトだったが、突然後ろから殴り飛ばされる。まだ残っていた一体だ。その拍子にベルトを落とし、しかも運の悪いことに化け物のに踏み潰される。

 

 

「ああああああ!? ちょっ、そんなプログラム入れてないのに!?」

 

 

慌てまくるアーキテクトは今度はバックルのようなものを取り出して腰に当て・・・・・る前に化け物に殴り飛ばされる。

 

 

「うぎゃっ!? へ、変身中の攻撃とか反則じゃん!」

 

 

どこぞの蛇な男が聞いたら鼻で笑いそうだが、アーキテクトにとっては死活問題、しかもバックルは化け物の後ろだ。

万事休す、という時に助けは現れるものである。具体的には、たまたま買い物帰りに通りがかった代理人だ。

 

 

「・・・・アーキテクト?」

 

「うげっ! 代理人・・・・」

 

「うげっ、とはなんですか・・・・というよりもこの状況は?」

 

「・・・チャンス! 今のうちにゲファ!?」

 

 

化け物の意識が一瞬代理人の方に向いた隙にバックルの元へと走り、しかしあえなく迎撃されるアーキテクト。そのバックルは蹴り飛ばされて放物線を描き・・・・・・・・代理人の腰にくっついた。

 

 

「・・・・・あら?」

 

「っ!!」

 

「やば・・・・代理人すぐに逃げて!」

 

「え? あの・・・え?」

 

「ああもう! とにかく逃げるかそのレバーを引くかして!!」

 

 

バックルが引っ付いた・・・というより勝手にベルトが現れて外れなくなった代理人の元に、化け物が走り寄る。未だに事態を飲み込めない代理人だが、言われるがままにベルトのレバーを引き、

 

 

『turn up』

 

「は? え、なんですかこれ?」

 

 

突然現れた壁が化け物を吹き飛ばし、困惑の表情をうかべる代理人。恐る恐るその壁に触ると、いきなり体が引き込まれる。

そして壁を通り過ぎると、近くの窓ガラスに映る自分の姿に驚いた。

 

 

「な!? え、えええ!?」

 

「お、ガチでびっくりしてる代理人とかレアじゃね?」

 

「アーキテクト、なんですかこれは!?」

 

 

なんか赤と銀色の配色のそれに狼狽える代理人。しかもやたら物々しい銃が腰にぶら下がっており、お世辞にも新しい衣装とは言い難い。

そんな時、マスクの内側(代理人には空間投影に見える)に説明書きが表示され、使い方やら敵情報やらが映し出される。

 

 

「代理人、とにかく頑張って!」

 

「え? 何を・・・というよりも敵って・・・・アレですか?」

 

 

見た目の気持ち悪さが目立つそいつがようやく起き上がり、代理人めがけて走り出す。よくわからないが敵というらしいので、腰の銃を手に取り応戦した。

その威力はなかなかのもので、数発撃ち込んだだけで膝をつく。

 

 

「今だよ代理人! 必殺技だ!」

 

「えっと・・・・これですか?」

 

 

表示の通りにカードを選び、一枚ずつ通す。すると突然右手が燃え上がり、若干パニックになる代理人。そしてそのタイミングで起き上がった化け物が、再び走り寄ってくる。

 

 

「代理人! 前、前!」

 

「え!? あ、こ、この、えいっ!」

 

 

わけがわからないまま思いっきり拳を振り上げると、絶妙なタイミングでぶち当たり吹き飛ばされる化け物。叩く打ち上がったソレは地面に落ちると同時に無駄に派手な爆発を起こした。

未だ混乱状態でありながら指示されるままに操作し、変身を解く代理人。するとあちこちで拍手が巻き起こり、いつのまにかギャラリーがいたことに気がつく。

 

 

「す、すごいよ代理人! 初めてなのにあそこまで戦えるなんて!」

 

「・・・・・・。」

 

「あれ? 代理人?」

 

「・・・・・・アーキテクト?」

 

「ん? 何かnひぃ!?」

 

 

代理人の方に向くや否や、小さく悲鳴をあげるアーキテクト。代理人の顔は非常にいい笑顔であったが、思いっきり青筋が浮かんでいた。そのままアーキテクトのサイドテールを無造作に掴むと、有無を言わせずに引っ張っていく。

 

 

「ちょっ! 痛っ、ま、やめっ!!」

 

「お話なら、この後たっっっっっぷりしましょうね。」

 

「ああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

「・・・・・帰ろっか。」

 

「「賛成。」」

 

 

残されたSMGの三人は、なんとも言えない顔のまま帰っていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「うちのバカがほんっっっっとうにごめんなさい!!!」

 

「すまなかった代理人、アーキテクトを抑えられなかった私の責任だ。」

 

 

数時間後、連絡を受けて飛んできたサクヤとゲーガーは開口一番謝罪した。その二人に挟まれるように正座するアーキテクトの頭には、五重の塔のように重なったたんこぶがくっついている。

 

 

「・・・・・まぁ、終わったことですからもういいですが。」

 

「そもそもなんでそんなものを作ったんだお前は!?」

 

「だ、だってヒーローだよ!? 憧れるじゃん!」

 

「一人で! 訓練室で!! やればいいだろ!!!」

 

「痛ぁ!? ま、また殴った!!」

 

「うるさいっ!!!」

 

「フゴッ!?」

 

 

サクヤ渾身の拳骨でようやく沈んだアーキテクトを、襟首をひっつかんで引きずって帰る二人。

結局のところ、アーキテクトの暴走が原因だったというので一件落着・・・・・したかに見えたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、動画サイトに載ってたぞ。」

 

「お母さん、カッコいい。」

 

「意外とアグレッシブなのね代理人。」

 

「・・・・・・うぅ。」

 

 

しばらくの間、代理人は文字通りヒーローとして扱われてしまうのだった。

 

 

end




棚に眠っていたパラダイス・ロストを見て勢いで書いた。
ちなみに厳密にはヒーローではなくヒロインですが、まぁそこはイメージ的な感じです(ヒロインっていうと助けられるイメージが)


さてではキャラ紹介+α

アーキテクト
今回もやらかしたヤツ。ふと見たニチアサヒーローにはまり自分で作るという暴挙に出る。
なんなら敵も作って、戦うなら街中がいいという理由でここに至った。
成功した暁にはヒーロー体験型アトラクションを作るつもりだったらしい。

ゲーガー&サクヤ
最近おとなしかったアーキテクトだったため、今回の暴走に対応が遅れた。実は拳骨の威力はサクヤの方が上。

代理人
たまたま通りがかって、たまたま戦わされた。
なお、代理人ファンクラブは今回の事件をモチーフにした自主制作アニメ『仮面ヒーロー・エージェント』なるものを制作中らしい。

SMG三人組
特に意味もなく出した・・・・とうわけではなく、これ書いてる時にレベリング中だったから。

ベルトとかバックルとか
わかる人にはわかるあのアイテム。

化け物
モチーフは生態系をリセットするために大量に出てくるあれ。
ただの安価なロボットで、頑丈さが取り柄。全く似ていないが、以前マヌスクリプトと合同で作ったザ・ネスト(番外編11参照)の発展型。




今回ほど内容の薄い話は無いと思う。


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第七十七話:想いよ届け×2

最近筆が進まない・・・これはアレかな、2ヶ月遅れの五月病かな?
あと今月は色々立て込んでて更新遅れます。


皆さんこんにちは、F45です。

突然ですが、UMP45のフィードバックモデルとして製造された私には、文字通り家族がたくさんいます。UMP45お姉ちゃんに、私の妹のF9にそのオリジナルのUMP9、さらには別の世界から来たというノインちゃん。あ、あと9は416とも付き合ってるから家族で、ということはF416とS08地区のプティさんもちょっと離れた家族?

 

 

「45姉、どうしたの? もうすぐ着くよ。」

 

「え? あ、うん。」

 

 

ちょっと考えこみ過ぎたみたい。窓から顔を出すと、いつのまにかS09地区の中に入ってました。舗装された石畳の上をゴトゴト走って、ちょっと大きめの公園の前で止まります。

 

 

「う〜〜〜〜ん、着いたぁ! 運転ありがと指揮官!」

 

「はは、どういたしまして。 じゃあ行こうか。」

 

「We arrived a little early.」

 

「まぁギリギリになるよりいいんじゃない?」

 

 

車を降りて路地を進むと、その先にはあの代理人さんがいる喫茶 鉄血。実はこっちにくる時の待ち合わせスポットなんです。

ドアを開くと同時に漂うコーヒーの香り・・・・・あぁ〜美味しそ〜。

 

 

「45飲めないじゃん。」

 

「み、ミルクと砂糖を入れたら飲めるよ!?」

 

「ふふっ、無理に飲まなくても大丈夫ですよ。」

 

「すみません、上の部屋を借りても?」

 

「えぇ、話は伺っています。 どうぞご自由に。」

 

 

そう言って案内してくれる代理人さん・・・服変えたんだ、似合ってるなぁ。

で、案内されたのは上の個室だけど、ここを使うのは私たちの指揮官とあっちの指揮官だけ。私たちは下で待ってるよ!

 

 

「うん、わかった。 これで好きなだけ楽しんできて。」

 

 

・・・・・指揮官、そうやすやすとカードを渡すのはダメだと思うよ?

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ〜45〜、なんで他にも妹がいること教えてくれなかったのさ〜!」

 

「聞かれなかったからよ。 あとあの可愛い妹に手ぇ出したら承知しないから。」

 

「出さないよ、出すのは45だけだもん!」

 

「それをまずやめなさい!」

 

 

抱きつく40を引きずりながら歩く・・・・もはや苦行じゃないかしらコレ。G11、暇なら笑ってないで手伝いなさいよ。9、気を使ってくれるのは嬉しいけど助けてくれないのね。416、あんた見向きもしないわね!?

 

 

「相変わらず、仲がいいな二人は。」

 

「指揮官? それ本気で言ってるなら病院に行くことをお勧めするわ。 眼科じゃなくて精神科よ。」

 

 

今更だがこの指揮官は色々ずれている・・・・そろそろ刺されそうだけど助けてやんないからね。

ってそうこうしているうちに目的地(喫茶 鉄血)に到着。もうあっちは来てるのかしら?

 

 

カランカラン

「こんにちは・・・・あ、F9!」

 

「あ、9! それに416も!」

 

「早かったのね。 ベルリッジ指揮官は上に?」

 

「Yes.」

 

「そう。 指揮官、待たせるのもなんだし行ってちょうだい。」

 

「あぁ、そうする。 好きなものを頼んでいいから伝票は私に出してくれ。」

 

 

さすが指揮官、太っ腹だね。代理人も心なしか嬉しそうだよ。ところで・・・・・

 

 

「40、いつまでくっついてるのよ離れなさい。」

 

「い〜や〜だ〜! 離れ離れの数年間はこの程度じゃ埋まらないよ!」

 

「なら私のダミーかそこらへんの木にでも抱きついてなさい!」

 

 

あぁもう! F45たちがへんな目で見てるからやめなさいっての!

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

なんだろう、この感じ。

F45は自分の胸に芽生えたこの感情に首をかしげる。あの後はそれぞれグループに分かれて話しており、9と416のカップルの元にはFの方の二人が、また別の席では二人のG11が談笑?している。

で、残った三人は同じテーブルでお茶を飲んでいるわけだが、丸テーブルにもかかわらず三人は横並びで座っている。

 

 

「ほら45、あ〜ん!」

 

「この! あんたちょっとは自重しなさいよこのシスコン!」

 

「・・・・・・・。」

 

「F45ごめんね・・・・・F45?」

 

 

じっと45を見る目が、次第にムッとしたものに変わっている。いや、よく見るとその視線は今なおベッタリな40の方に向けられている。

45が訝しんでいたその時、ついにF45が動き出す。

 

 

「40ばっかりずるい!」

 

「ぐぇ!? え、F45!?」

 

「むっ、可愛いFちゃんでも譲れないよ!」

 

 

それぞれが片方ずつ腕にしがみつき、45を挟んで睨み合う。

突然のことに驚く45。40はともかくF45がここまで積極的になるなんて、それこそ酒を飲んだ時くらいなものだからだ。まさか酒か、とも思ったがあの代理人がそんなことをやらかすはずもなく、というか昼間はメニューにすらないので違う。

 

 

「40はいっつも一緒にいるでしょ! 今日は私に譲って!」

 

「あの・・・二人とも・・・・」

 

「あたいは数年間も我慢したの! これでもまだ足りないくらいだよ!」

 

「ほ、ほら・・・そろそろ腕から変な音が・・・・」

 

「譲って!!!」

 

「やだ!!!」

 

「イダダダダダ!!!! もげるっ! もげるからぁあああああああ!!!!」

 

 

両方から人形のフルパワーで引っ張られる45。これが人間ならかるく持ってかれているがそこは人形、まだ痛いで済んでいる。とはいえ流石に妹たちとじゃれついていて大破しましたとは言えないのでなんとかしたいところ。

 

 

「私は45お姉ちゃんが好きだもん!」

 

「あたいも同じ、いやそれ以上だよ!」

 

「ふ、二人とも落ち着いて・・・・・・」

 

「むぅ〜〜〜〜〜・・・・・えいっ!」

 

 

突然引き寄せられるとともに感じる唇への柔らかい感触に、45は一瞬ぽかんとする。その後ろの40も然りだ。

ほとんどその場の勢いでチューしたF45は顔を真っ赤にしながら、しかししっかりと40を見据えている。

 

 

「・・・・あ、あたいだって!」

 

「え!? 嘘でしょ!?」

 

「ああああ〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

 

グイッと顔を向けると同じくマウス トゥ マウスする40。45は相変わらず口をパクパクさせ、F45と40は再び睨み合う。

別段鈍感というわけでもない45はここまでされて気づかないはずもなく、しかしそれはそれで大変なことになったと感じる。

 

これはアレだ・・・・・・修羅場というやつだ。

 

 

「45お姉ちゃん!」

 

「45!」

 

「「どっちを選ぶの!?」」

 

「えぇ!? いや、その、えっと・・・・・」

 

 

まずい、これはまずい。どっちの√に入っても不正解なのは目に見えている。それに今はこんなんだが二人とも可愛い妹である、悲しませるのはよろしくない。

ここは頼れる友人を頼るのみ!

 

 

「だ、代理n「相談は結構ですが投げるのはダメですよ?」・・・・・。」

 

 

代理人、それを予測できるのならなぜ止めてくれなかった?という視線を送れば、45さん自身の問題だからですよ、と無慈悲な答えが返ってくる。店内を見渡してもこの騒動に気づいている客はあまりおらず・・・・・G11は気づいているが止める気配は微塵もない。

万事休す、とはいかずそこは特殊部隊隊長。奥の手は常に隠し持っているものである。

 

すなわち・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、ごめんっ!!!」

ガッシャーーーーーンッ

 

「「よ、45(お姉ちゃん)!?」」

 

 

手近な窓ガラスをぶち破っての逃走だった。完全に不意をつかれた二人はやや遅れて入り口から追い始める。

後に残ったのはぽかんとする客たちと腹を抱えて笑うG11、そしていい笑顔で青筋を浮かべる代理人だけだった。

 

 

この後45はなんとか二人のへの返事を保留にしてホッとしたのだが、後日送られてきた窓ガラス等への請求書に頭を抱えるのは、また別のお話。

 

 

end




累計100話記念を終えた途端これだよ。
リクエストでもらった45×F45を書きたい、でも45×40も書きたい・・・・・よろしい、ならば修羅場だ(白目)


さてバカな言い訳は置いといてキャラ紹介。

F小隊
いつもながらキャラの濃いメンツ・・・なのだがこっちの404はそれ以上に濃いためや常識寄り。
40というライバル登場によってF45の45への意識がはっきりした。
基本はおどおどだがここぞでは思い切りの良さがある。

UMP40
本来は45の姉・・・・なのだが何を間違えたのか書き始めた時は妹になってしまった。なのでこの作品では長女45、次女40、三女9である。
姉妹へのスキンシップから気がつけば恋愛感情に至っていたが、F45への対抗心から勢いで言った感があるため、これからより意識していくことだろう。

UMP45
修羅場、極まる。
あっちでも受けだがこっちでも受け。45のサディスティックな笑みやら態度やらは、残念ながらこの作品では見る影もない。
こんなんでも特殊部隊の隊長で優秀なSMGなので、逃走手段は豊富。




というわけで今月は更新頻度少なめにします。もしかしたら来月も少ないかもしれませんが、適度に休みながらも書き続けますのでよろしくお願いしますね!


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第七十八話:巨乳に正義の鉄槌を!

強キャラ感のあるセリフとともに現れるまな板のようなシルエット、そしてSOPとの舌戦ですら互角というポンコツ感溢れる人形・・・そんな印象のジャッジちゃん。
彼女を作った人は何を思って作ったのか小一時間ほど問い詰めたいところ(いいぞもっとやれ!)


最近、S09地区周辺で不可解な事件が多発している。なんでも、立て続けに人形が襲われているらしい。被害者は人形である以外に接点はなく、グリフィンから鉄血さらにはハイエンドまでと見境なし、発生場所も一貫性がなく、まさに目に付いたやつから襲っているといった感じだ。

そして、被害者の証言から次のようなことがわかっている・・・・・黒と白のモノクロカラーで小柄な人形だった、と。

 

 

「という噂を聞いたのですが、何かご存知ですか三人とも?」

 

「「「・・・・・・・。」」」

 

 

喫茶 鉄血の従業員控え室、そこにいるのは正座で項垂れる鉄血工造の三人と、それを冷ややかな目で見下ろす代理人。

これがアーキテクト一人ならいつものことなのだが、そこにゲーガーとサクヤまで加わったとなるとただ事ではない。というか貴重な常識人枠やストッパーがいなくなるのは非常に不味く、なんとしても原因を解明したいと思う代理人だった。

 

 

「あ、あのね代理人ちゃん、実は多分その子は・・・・うちの子なの。」

 

「・・・・・ほぉ。」

 

「ま、待ってくれ代理人! 確かに作ったのは私たちだが私たちが解き放ったわけじゃないんだ!」

 

「あの子がいきなり逃げ出しちゃったんだよ!」

 

 

一層冷ややかな声と目つきになった代理人に慌てて弁明する二人。

話を聞いてみると、どうやら今度はまともに要請があって作った人形らしい。

 

鉄血の騒動から一年以上、いくつか騒動やら馬鹿騒ぎやらはあったもののなんとか信用を取り戻した鉄血工造に、なんと軍から新型のハイエンドの発注が届いたらしい。人形・人間両方を指揮できて、単体での戦闘能力も高くてというそんな要望で。

・・・・・というだけなら問題なかったのだが、追加でこんな注文が殺到した。

 

『出来るだけ可愛く』

『ちっぱい』

『強気な性格』

『隊のマスコット的な感じで』

 

などなど、それはもう細かい要望がビッシリであった。これの正体はとある部隊の隊長で、配属されるのが自分たちの部隊であると知ると部下を巻き込んで要望を書きためたらしい。

 

 

「・・・・・で、あの子、『ジャッジ』が完成したんだけどね。」

 

「その・・・見られちゃったわけよ・・・・・・その要望書を。」

 

「そしたらその・・・・・急に暴れだしてな。」

 

「いや、当然でしょう。」

 

 

考えても見てほしい、自分のデザインが下心丸出しなものだったら、しかも配属先がそんな連中の配下だったら。

ジャッジでなくても逃げ出してることだろう。

加えて・・・

 

 

「襲ってるのはね、多分その、胸が大きい子ばかりだと思うの。」

 

「こればっかりはアーキテクトが悪い。」

 

「待って!? 確かにチンチクリンとは言ったけど私のせいなの!?」

 

「「当たり前だ(でしょ)!」」

 

「・・・・・はぁ。」

 

 

どうやらそのジャッジという人形、自分の容姿に相当のコンプレックスを持っているらしい。グリフィンにも似たような人形がいた気がするが武力行使には至らなかった。

まぁ確かに、これが噂ではなく事実として上に上がれば間違いなく不採用、鉄血の信用は再び落ちるだろう。

 

 

「どどどどうしよう代理人ちゃん!? あの子本当はいい子なのに解体処分とかされちゃう!」

 

「サクヤさん落ち着いてください。 というかそんなキャラでしたか?」

 

「だって、だってぇ〜!」

 

 

大袈裟かもしれないが、実はサクヤにとってはかなり大きな問題だ。些細な(と言っていいのかは怪しいが)事件で正当な評価が下されないというのは、彼女の生前の心残りの一つでもある。

そんなわけでポンコツに成り果てたサクヤを落ち着かせるため、また一応の部下というか同僚にあたる人形を助けるために、代理人も協力するのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

『・・・・あの、代理人?』

 

「なんでしょうかアーキテクト?」

 

『いや、その・・・・なんかゴメン。』

 

「別に気にしてませんよ、えぇ気にしてませんとも。」

 

『ほんとに悪かったから! でもこれが今一番確実なのよ!』

 

 

代理人、アーキテクト、サクヤ、ゲーガーが小一時間ほど考えた策、それがこの『豊胸パッドをつけて人通りの少ない路地で待ち伏せよう』作戦である。

・・・・・もちろん反対したが残念なことにこれ以上の案は出なかった。そしてこの作戦のある意味犠牲者となった代理人は大変ご立腹である。

 

 

「まったく・・・・というよりも、本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

『一応捕縛用の強化サブアームに換装してるし、ステルスドローンで周りも警戒してるから。』

 

「ですが、あの404小隊ですら一方的にやられたのですよ。」

 

 

そう、これに先立って厄介ごと専門の404小隊が捜索を開始したのだが、ものの見事に返り討ちにあった・・・・・・G11と45だけを残して。

残されたG11曰く、「自分よりも胸があるかどうかしか見ていない」らしい。45は大いに荒れたそうだ。

 

 

「でも本当なんですか? 蹴りだけで襲ってくるというのは。」

 

『う〜ん、確からしいよ。』

 

『家出したのは武装チェック前で、実弾一発も持って行かなかったからそこは大丈夫よ。』

 

『あぁ、だから近づいてきたところを捕縛すれば・・・・・待て、今のはなんだ?』

 

『代理人、上!』

 

「っ!?」

 

 

代理人が飛び退くのと何かが地面に激突するのはほぼ同時だった。慌てて顔を上げる代理人だが、土煙を破って現れたソレの猛攻をなんとかサブアームで防ぐ。

現れたのは情報通り、鉄血特有のモノクロカラーリング人形のジャッジだった。小柄な体躯に見合わずかなりのパワーで、それが軍用に調整されていることを物語っている。

そしてジャッジの目線は、はっきりと代理人の胸に突き刺さっていた。

 

 

「この脂肪の塊に鉄槌を!!!」

 

「いきなり何を言っているんですかジャッジさん!?」

 

 

わかっちゃいたが相当の巨乳嫌いである。その瞳はもはや親の仇を見るような目であり、心なしかさっきから蹴りの高さがちょうど胸のあたりに感じる。

 

 

「貴様にはわかるまい! 持たざる者の屈辱が!!」

 

「そこまで言うのでしたら盛ってもらえばいいのでは?」

 

「盛ったら不採用と書かれてたんだぞ!? そんなことできるか!」

 

「えぇ・・・・・・。」

 

 

この前の海の一件といい、この世界を守る軍隊はどうなっているのだろうか。一応補足しておくとごく一部がそうなのであって、決して全部が全部HENTAIなわけではない。

が、そんなことなど知るはずもないジャッジは、今の自分(持たざる者)盛った自分(不採用)かで揺れているのだ・・・・・軍に抗議したほうが早そうである。

 

 

「でしたら私も一緒に説得します。 このままでは不採用どころか解体ですから落ち着いてください。」

 

「チチデカの言うことなど誰が信じるか!」

 

「で、でしたらほら! これでいいでしょう!」

 

「っ!!!」

 

 

そう言ってパッドを捨て去りアピールする代理人。パッドで結構盛っていたので服がダボつくぐらいには慎ましくなったが、そもそもとして代理人は理解していない。

・・・・・代理人は、そこそこ()()のだ。

 

 

「何がほら、だ! それで無いとか嫌味か貴様ぁ!!!」

 

「えぇ!?」

 

『代理人ちゃん、流石にそれは無理があるよ・・・・。』

 

「でも、アルケミストとかに比べれば・・・」

 

『アレを基準にしたら世の中の大半はナイ側だよ代理人。』

 

 

思わぬところで火に油を、いやガソリンをぶち込んでしまった代理人。しかもまずいことにさっきから受け止め続けているサブアームが嫌な音を立て出した。そろそろ耐久的に限界らしい。

 

 

(・・・・一か八か・・。)

 

 

代理人はじっと機会を伺い、やや大ぶりの蹴りが来たタイミングでサブアームを引っ込める。勢いよく空を切って体勢を崩した間に一気に間合いを詰め、久しぶりのフルパワーで思いっきり殴りつける。

 

 

「ゲファ!?」

 

「いい加減・・・・大人しくなさい!」

 

「ゴハッ!?」

 

 

完全に間合いに入ったジャッジをサブアームで押さえつけ、ひたすら殴りつける代理人。基本的に大人しいことと普段の服装、そしてそもそも戦っているところをあまり見たことがないせいでイメージがつきにくいが、代理人は鉄血が誇る最高クラスの戦術人形である。当然、それなりに強い。

一応急所は外したものの完全に伸びるまでぶちのめした代理人はジャッジを担ぎ上げ、ドローン越しに見守るアーキテクトに通信を入れる。

 

 

「対象を確保しました。 そちらに戻りますのでよろしくお願いしますね。」

 

『う、うん、ありがと・・・・・・ねぇ代理人。』

 

「? なんでしょうか?」

 

『・・・・・まだ怒ってる?』

 

「・・・ふふっ、さぁどうでしょうか。」

 

『マジで謝るから本当に許して!!!』

 

 

その後、代理人が戻るまでひたすら通信で謝り続けるアーキテクトであった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、その・・・・・すまなかった、うちの部下がバカなことを言ってしまって。』

 

「い、いえ、お構いなく。」

 

『そう言ってもらえると助かる・・・・・で、ジャッジの件だが。』

 

「っ!?」

 

 

数日後の鉄血工造。

なんとか騒動が収まり軍に当たり障りのない範囲で伝えたらいきなり出てきたのはなんとカーター将軍。アーキテクトなんかさっきから冷や汗かきながらガタガタ震えている。その横で今までの行いを猛省しているジャッジに至っては刑を執行される前の罪人のような表情だった。

 

 

『先日の騒動での高い白兵戦能力、および市街地での機動戦も十分であることが証明されたわけだ・・・・・ぜひ、我が軍に来てもらえないだろうか。』

 

「!!! ほ、本当か!?」

 

「じゃ、ジャッジ! 落ち着いて!」

 

『あぁ、高待遇を約束しよう。』

 

 

感極まって泣きだすジャッジとサクヤ。カーター将軍は、詳細は追って伝えるとだけ言って通信を切り、アーキテクトはドッとため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご協力、感謝します。」

 

「なに、彼女の配属はすでに決定していたのだ。 あの程度の騒動で覆るはずもない。」

 

「ですが、彼女たちを安心させることができました。 ありがとうございます、将軍。」

 

「それはこのコーヒーでチャラになったんではないかね代理人?」

 

「・・・・ふふっ、そうですね。 おかわり、いりますか?」

 

「あぁ、頂こう。」

 

 

 

 

end




と、いうわけで第9戦役のボスキャラ、ジャッジちゃん登場。ボスなのでなかなか強力だけど実はジョットガン一体と互角という悲しい性能・・・・・SG三体で余裕でした。


というわけでキャラ紹介

ジャッジ
鉄血の新型。初めから軍に配属される予定なので性能も折り紙つき・・・・なのだが性格面でポンコツ。ガイア同様に大人ボディを用意すべきか悩みどころ。

鉄血首脳陣
いつもの三人。珍しくサクヤも怒られている。
愛情を持って作ったため解体されるのはなんとかしたいところ、だけど彼女たちではあまりに頼りにならない(そもそも人間なサクヤ、運動不足なアーキテクト、実は戦闘経験皆無なゲーガー)

代理人
なんか段々武闘派になってきた気がするが、至って普通のオールラウンダー。今回装備したサブアームは先端に捕縛用の指、全体的に強度を増した接近戦用。それでも大破寸前まで蹴られた。

カーター将軍
群を出してこの人を出さないわけにはいかないだろう。今のところ原作(日本版)で最も偉そうな人。
この人も変態かポンコツにするかする予定だったが、収拾がつかなくなるので今のところ常識人。


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第七十九話:大きくなっちゃった!?

ロリ化はあるけど大人化スキンはないんですか運営さん?


その日、UMP45はなにが起こっているのか理解できなかった。いや、45だけではない、9も40も416もそして彼女をお姉様と呼び慕うゲパードもだ。

そんな彼女たちの前にいるのは、見慣れた格好をしたしかし決定的に違う人形。眠そうな目にボサボサに伸びた髪、帽子やら服やらは大きめでダボつき、両腕をだらんと下げている見た目も合わさってなんとも言えない無気力感を醸し出すそいつは、隊の中で()()()()()()4()1()6()()()()()()()()()

たっぷり数分使って呆然としている仲間たちを見下ろしながらその人形、G11は口を開いた。

 

 

「・・・・・・どおしたの?」

 

『いやいやいやいやこっちが聞きたいわよ!』

 

 

ちなみに今日はいつも通り暇なわけで、せっかくだから久しぶりにみんなで喫茶 鉄血にでも行こうかとG11を起こしにきたところである。すでに起きていたこともだがそれ以上にその見た目にびっくりである。

本人曰く、なんか寝苦しかったから起きたらしいが、釈然としないままとりあえず出かけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・。」

 

「あー、言いたいことは分かるわよ代理人。 私たちも同じだから。」

 

 

 

到着早々、店内の空気が固まる。それもそうだろう、常連にしていつのまにかこの店のマスコット的存在になりつつあったG11が長身で出るとこは出る素敵な女性になったのだから。

 

 

「・・・・・と、とりあえず席にどうぞ。」

 

「ありがと〜。 あ、私アイスコーヒーで。」

 

「あ、あんたほんと気にしないのね・・・。」

 

 

ここら辺は高くなっても彼女のままらしい、むしろ体の大きさに伴って重くなった体にうんざりしているようだ。

 

さて、大きくなったG11だが単純にスケールアップしただけではない。全体的な雰囲気こそそのままだが縦に伸びたことで丸っこい感じからすらっとしたフォルムになり、短パンから伸びる足も実に健康的なものになっている。

そして、これが一番大きな違いなのだが、404小隊では45と並んでぺったん娘だった彼女には今、二つの大きな実りがあるのである。

 

 

「それが一番邪魔なんだよねぇ。」

 

「そ、そう、なのね・・・」

 

 

言葉だけは同情の念を表している45だが、その目線は机の上にデンと乗っかっている双球にガッツリ食いついている。が、それ以上に食い気味に見ているのがもう一人、ゲパードだ。

 

 

「お、お姉様・・・」

 

「ん?」

 

「その・・・・・揉んでも、いいですか?」

 

『!?!?!?』

 

「え? 別にいいけど。」

 

『いいの!?』

 

 

ゲパードのトンデモな要求もそうだがさらっと了承したG11に店内いたるところから喜び混じりの声が上がる。客とて男は男だ、気にならないはずがない。

 

 

「で、では失礼します。」モニュッ

 

「・・・・・・んっ。」

 

「ひゃあっ!? ご、ごめんなさい!」

 

「いや、なんか変な感じがしただけだから。」

 

 

そんな光景を無言でガン見する45と、鼻の下を伸ばしながら眺める男性客。流石にこのままでは店の風紀に関わるので代理人は一つ咳払いしつつ、とりあえず彼女がこうなった原因を究明する。

 

 

「それで、いつからこんな姿に?」

 

「朝迎えに行ったらコレだったわ。 おそらく寝てる間ね。」

 

「昨日はなんともなかったよね?」

 

「・・・・なんか変なものでも食べた?」

 

「食べてないし、もし何か混ざってたらみんなも大きくなってるはずでしょ?」

 

 

ごもっともである。となると犯行は全員と分かれていた数分か、もしくは眠っている間。犯人は身内のもので間違いないだろう。そこまで考えるとこの案件、実はそんなに重要性はないのかもしれないと思う一同。まぁ身内の仕業ならおそらく愉快犯程度で、時間が経てば元に戻るはずだし、加えて・・・・・

 

 

コイツ(G11)の場合はこっちの方がいいんじゃない? 銃のサイズ的に。」

 

「えぇ〜やだよゆっくり寝れないじゃんか〜。」

 

「その格好でぐっすりだったのは誰なのよ。」

 

 

ともかく現状では特に問題なし、ということで解散となる。G11は相変わらず不服そうだったが、今日一日元に戻らなかったらペルシカに相談するということで手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

解散してから数刻後、なんやかんやで喫茶 鉄血に残り一人優雅にコーヒーを啜っていたG11だが、そこにあるのは先ほどまでのうんざりした表情ではなく、なにやら良からぬことを企てているような顔だった。もちろん相変わらず重たいこの脂肪の塊やら無駄に高くなった身長は邪魔だが、それも使いようによっては・・・・・

 

 

「あ〜〜〜ほんと重たいなぁコレ。」ユサッ

 

『・・・・・・。』ゴクッ

 

「肩が凝っちゃいそうだよ・・・・・あ、そうだ。」

 

『・・・・・・?』

 

「重たいならテーブルに置けばいいんだ。」ノシッ

 

『・・・・・・!!!』

 

 

決して大きくはなく、しかし店内で聞こえる程度の音量の独り言をぼやきながらその脂肪の塊を揺らすG11。客はその光景に目を奪われており、それにG11はフッと鼻を鳴らす。

別に自分に女性としての魅力があるとは思っていなかったし、むしろ自分に発情するような連中はいわゆるロリコンだろうとも思っていた。だが自分でも驚くぐらいのナイスボディになってみれば、今までできなかったあんなことやこんなことができるのである。

具体的には、男の視線を手玉に取るくらいは。

 

 

「楽しそうですねG11さん。」

 

「まぁね、Dもやってみる?」

 

「あはは・・・・遠慮しておきます。」

 

 

苦笑いを浮かべるDの後ろでウンウンと頷く代理人。純粋無垢なDがわざとでもわざとじゃないにしてもそんなことをすれば、あっという間に群がられるのがオチだろう。

さてそんな話をしている間もG11の攻勢は終わらない。これ見よがしに背伸びしてみたり大きく足を組み替えてみたりと、普段のG11であれば可愛いで済んでいた動作が抜群の破壊力を持つようになっているのだ。

 

 

「大きいのも悪くないね、代理人。」

 

「ほどほどにしないと痛い目にあいますよ。」

 

「ははは、私が遅れをとることなんてないよ。」

 

 

余裕たっぷりに言い放つG11。結局この後、閉店ギリギリまで居座っては男性客を悶々とさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ということがあったんだけど。」

 

「ふむふむ、実験は成功っと。」

 

「「「お前の仕業か。」」」

 

 

翌日、全く変化が見られないのでペルシカに見てもらおうとしたが、そのペルシカが犯人だったようだ。本人も一切悪びれる様子がなく、また被害者も被害意識が全くないので何も問題ないが。

 

 

「で、その体になった感想は?」

 

「いや、まずは謝るとか元に戻すとか・・・・」

 

「いやぁ結構楽しめたよ。」

 

「って何まんざらでもない風に言ってんのよ!?」

 

 

416のツッコミも虚しく、独特の感性というか価値観というか性格な二人に頭を抱える。一応放っておいても三日程度で元に戻り、今すぐに戻すことも可能なそうだが。

そこまで聞くと疑問が二つ。どうやって仕組んだかと、なぜこんなことを、というやつである。

 

 

「あぁそれ・・・・・以前に代理人が小さくなった事件を覚えてる?」

 

「えぇ・・・待って、まさかと思うけど。」

 

「うん、あれをチョチョっと改良して、遠くからビビッと。」

 

「なんで私に撃たなかったのよ!?」

 

「45姉!?」

 

 

泣きながら食ってかかる45を必死になだめる9。まぁ無害とわかってしかもナイスボディになれるチャンスとあれば、そりゃ食いつく。というか遠距離スナイピング可能で人形のサイズを変えられる銃とかなんだそれ。

 

 

「・・・・まぁいいわ。 で?なんでコイツに使ったのよ。」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・ペルシカ?」

 

 

急に黙り込んだ上、よくよく見えば耳まで真っ赤になるペルシカに、これは何かあるなと感づく404一同。がっちりペルシカの周りを取り囲み、尋問体制に入る。ちなみに一番ノリノリなのは、やはりG11だ。

 

 

「私、いきなりこんな格好にされてびっくりしたんだよ?」

 

「えっと、それはごめn」

 

「でもね、思ったんだ。 ペルシカにもきっと事情があるんだなって。」

 

「うっ・・・・」

 

 

 

 

 

 

「教えて欲しいなぁ。」

 

『欲しいなぁ。』

 

「う、ううううぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜」

 

 

こういう時は抜群のコンビネーションを見せつける404小隊に、ペルシカはなんとも言えないうめき声をあげて蹲った。コレはもう間違いなく何かある、というわけでさらに詰め寄ろうとしたその時。

 

 

「コラァーーーー! ペルシカを虐めるな!!!」

 

 

馬鹿でかい声とともに腕をブンブン振り回しながら現れたのは、AR小隊の猛犬にしてペルシカの恋人であるSOP・・・・・のでかくなった奴。それだけでペルシカの魂胆がバッチリ見えてしまった。

 

 

「あぁ、なるほど。」

 

「コレはアレね、いつも可愛がる側だけどたまには逆がいいと。」

 

「で、体格差も逆転させたかったと。」

 

『ペルシカは可愛いなぁ〜。』

 

「うぅ〜、私が悪かったからもうゆるしてぇ〜・・・」

 

 

その後G11は無事に戻してもらったがここぞとばかりにペルシカと、ついでにSOPにもアレコレ質問攻めし、G11を筆頭にホクホク顔で帰っていったそうな。

ちなみにその日、SOPは16labに泊まりだったらしい。

 

 

 

end




大きくなったG11に冷たく見下ろされたい。
あと描いてて思ったのが、G11が大きくなるとペルシカっぽくなるんじゃないかなということ。ペルシカがSOPとくっついてなければペルシカ×G11もありだったかも。


というわけでキャラ紹介

G11
416よりも背が高くなり、胸も大きくなった。服装はそのまま(こちらもなぜか大きくなった)なので微妙にダボついた上と短パンというスタイル・・・・なのだが子供っぽさが消えて色気が増えた。
性格面で変化はない。

ペルシカ
SOPとのイチャイチャにさらなる変化を加えるためにこの案を決行。ちなみにSOPも大きくなった際に出るとこは出たため大満足だった模様。

人形の大きさを変える銃
第二十三話で登場した銃を回収、改良したもの。射程が大幅に伸び、スコープ装備で狙撃もできる。改良前はロリ化一択だったが、大きくも小さくもできるようになった。
17lab→人権団体過激派→16labという順に流れた。


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幕間:時を超えて

コラボの件・託されたなら・拾うのみ(心の一句)

というわけで何か届いたので書きます。喫茶 鉄血の本筋にはあまり関わらないけど重要な話なので『幕間』としました。

しかし人が流れてきたり迷い込んできたりモノが流れ着いたり・・・・・この世界はどうなっているんだか。


「・・・・・・・はぁ。」

 

 

S09地区近くに本社を構える鉄血工造。その研究室に響き渡るのはまるで鉛のように重いため息。その発信源は、ソファに腰掛けながら妙にボロくなっている携帯端末に視線を落とすサクヤだった。

 

 

「・・・・・サクヤさん、元気ないね。」

 

「・・・・・あぁ、ジャッジの一件以来ずっとだな。」

 

 

それを影から見守るようにしているのは現在の鉄血工造を運営しているハイエンド、アーキテクトとゲーガーだ。

事の発端は以前に起こったジャッジの騒動。結果的には無事採用されたものの、事態が解決するまでの間のサクヤの様子はかなり切羽詰まった、というよりも怯えているような様子だった。

その原因はわかっている。サクヤを加入させた頃に聞いた彼女自身の過去、そして最愛の娘とも呼べる人形達との別れのきっかけとなったのが、今回の騒動と似たようなものだったからだ。それ以来、仕事の合間にはこうして今は繋がらない携帯を眺めてはため息をついているのだ。

 

 

「・・・・・なんとか、できないだろうか?」

 

「難しいね、なにせサクヤさん自身のことだから・・・・・・・・一応手がないことはないんだけど。」

 

「あー・・・アレか。」

 

 

アレ、というのは以前に(番外10)IoPと鉄血工造が合同で作り出した簡易転送装置・・・・・・という名の並行世界突破装置である。理屈の上では転送可能で、時間制限でこっちに戻って来られるというもの。ちなみに非武装のダイナゲートで試した場合は成功した。

 

 

「でもねぇ・・・・肝心のサクヤさんの会いたい相手がどこにいるのかがわからないのよ。」

 

「聞くだけでもヤバそうな世界で手がかりもなしに人探しはできんな。」

 

「というわけでこれはボツ。 でもどうしよっか〜・・・・」

 

 

そんな感じで悩んだ挙句、結局今日もいいアイデアが出せずに一日を終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・・。)

 

 

部屋の明かりが消え、テーブルランプの明かりだけが照らす自室。昨夜はそこで、ベッドの上で膝を抱えたままカレンダーを見つめる。なんの変哲も無いカレンダーだが、あの一件以来それまで気にならなかった()()()から目が離せなくなっていた。

カレンダーの特になんでも無い一日・・・・・・かつてあの世界で、サクヤがドネツクの工場へと左遷させられた日。大好きだった、家族同然の人形たちと別れた日。

 

 

(アルケミスト・・・・・・・・)

 

 

この世界の彼女ではない、サクヤが愛情をかけて育てた人形。その手に握り締められている端末に残された、最後の繋がり。

あの留守番電話のおかげでサクヤはこの世界を受け入れることができたが、同時に心残りでもあった。あの声はとても苦しそうで、辛そうで、悲しそうだった。

 

 

(・・・・・もし・・・もし会えたら。)

 

 

彼女も、アーキテクトらと同じことを考えていた。彼女がアルケミストに会いに行ける唯一の手段。最悪の場合片道切符になってしまうであろう、危険な賭け。

もう会えないと割り切ったはずなのに、そんな決意がこんなにも簡単に崩れてしまう自分に嫌気がさしてくる。

 

 

(・・・・・・・。)

 

 

指が、携帯の再生ボタンに伸びる・・・・が、押し込む直前で止まる。今もう一度彼女の声を聞いてしまったら、きっと会いに行こうとしてしまう。

端末をテーブルの上に置き、サクヤはベッドに身を投げ出した。夢でもいいから会いたい、そう願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、そこは見知らぬ施設の上だった。だだっ広い敷地に物々しい建造物、そしてそこかしこに構えている対空機銃の数々。そして視線の先に映るのが地平線ではなく水平線であることから、ここが海の上にできた施設であることを理解した。

 

 

(・・・・・・・夢?)

 

 

夢だろう、でなければこんな非現実的な光景なんてありえない。そもそもこんな軍事基地?のど真ん中に突っ立っていることそのものが夢である。

さてそんないかにも夢という感じのコレであるが、見渡す限り誰もサクヤに気づく様子はない。まぁ夢なので当然といえば当然だが。そんな時、前方の建物の陰から土煙を上げて走ってくる人影が見える。突然のことにびっくりして逃げようとするサクヤだったが、その人影が誰のものかを理解し動きを止めた。

 

 

「・・・・・・え? アルケ・・・ミスト・・・・?」

 

 

猛ダッシュで走ってきたのは見間違えようもない人形、アルケミスト。ただしその表情は切羽詰まったようなもので、サクヤの近くの物陰に隠れると荒げた息を整えようと大きく息を吸う。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・なんとか・・・撒いたか・・・・」

 

「それはどうだろうな?」

 

「「ひぃ!?」」

 

 

サクヤとアルケミスト、二人は同時に悲鳴を上げて振り返った。そこにいたのは視線だけで人を殺せそうなほど鋭い目つきの男性・・・・・サクヤは知らないが見るからにヤバイ人間であることはわかる。

 

 

「オ・・・オセロット・・・・」

 

「さて、来てもらうぞアルケミスト・・・・・逃げられると思うなよ?」

 

「待て、悪かった! 謝るから許してくれうわぁあああああああ!!!!?」

 

 

オセロットと呼ばれた男に引きずっていかれるアルケミスト。それを呆然と眺めるサクヤは、あまりの衝撃にフラフラと後ずさり・・・・・・そのまま海に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ふぎゃっ!? はっ! ゆ、夢・・・・?」

 

 

目がさめるとそこは見慣れた自室の床、どうやらベッドから落ちたらしい。

しかしなんという夢だろうか・・・たしかに会いたいと願ったが、あんな出会いはいくらなんでもないだろう。というかなんだあの男私の可愛いアルケミストをいじめやがって!

 

 

(・・・・・あれ? なんであのアルケミストが()()だってわかったんだろう?)

 

 

冷静に考えればおかしな話だ。こっちの世界にもほぼ同じ姿のアルケミストがいるのでアレが別人だという可能性もある(というかそもそも夢だが)。しかしサクヤにはなぜか、彼女はあのアルケミストであると理解できた。

 

 

(・・・・・・・海、かぁ。)

 

 

あの夢は何かのメッセージなんだろうか。それに夢という割にははっきりと覚えていることも多く、確か施設には大きく『MSF』と書かれていたと思う。

・・・・・ダメ元で探してみるのもいいかもしれない。

 

そんなわけでサクヤは早速有給申請を書き(受理するのもハンコを押すのも彼女だが)、荷物を持って飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

(う〜〜〜〜〜ん・・・・・やっぱり無いかぁ。)

 

 

列車の中で端末を開いて調べてみたが、やはりというか該当しそうなものはなかった。MSFといえば国境なき医師団だが、それがあんなガチガチの装備を持っているとは思えないし、の強面の男が医師だとも到底思えない。

やはりただの夢か、とも思ったが生まれてこのかたあんなに意味深な夢を見たことがなく、やはり気になるのでこのまま海を目指す。

 

数時間後、列車やバスを乗り継ぎやってきた海。今は絶賛海水浴シーズンだが、この辺りはビーチがあるわけでも無いので人もそんなにいない。

 

 

(やっぱり、アルケミストと来たかったなぁ。)

 

 

以前にゲーガーに連れてきてもらった時も思ったが、まだまだ彼女と行きたい場所も食べたいものもたくさんあった。別に今の生活に不満はないが。

なんてことを考えながら浜辺を歩くサクヤ。波打ち際は磯の香りを運ぶ風が吹き、夏の日差しの中でも少し涼しいくらいだった。

 

ところで、人というのは何かを考えている間は特に足元の注意が疎かになりやすい。ちょっとした段差を踏み外したりタンスの角に小指をぶつけたり・・・・・何かを踏みつけたり。

 

 

・・・・・グニュッ

「へ?・・・ひゃああああああああ!?」

 

 

ザクザクとした砂浜の感触から一転、なんともいえない柔らかさを感じ取って足元を見ればそこには打ち上げられた大きめのクラゲ。

驚いて足を大きく上げ、しかし不安定な砂浜に足を取られてバランスを崩し、サクヤはそのまま海の方に倒れ込んでしまった。

 

 

「うぅ〜〜〜・・・・もうなんなのよぉ・・・・・」

 

 

濡れる予定皆無だった服が思いっきり水浸しになる。恨みがましくクラゲを睨むがなんとなく虚しくなり、地面に手をついて起き上がろうとする。

 

その手が、浅瀬に埋まった何かに触れた。

 

 

「・・・・・・うん? なにこれ?」

 

 

触れたものを持ち上げていれば、それは瓶詰めにされた何かの機械。レコーダーっぽく見えることから、おそらくボトルメールというやつだろう。

・・・・・こういうのはなにも見ずに届け出るものなのだが、好奇心の権化たる研究者にそんな発想はない。というわけで早速開けて中身を取り出す。密閉されていたため無事だったレコーダーの再生ボタンを押し、恐る恐る耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあマスター、あたしだよ…アルケミストだ。』

 

 

急いで停止ボタンを押し、レコーダーを抱え込む。

今、この声はなんと言った?マスター?アルケミスト?その二つが重なることなんて、私は一人しか知らない。

 

高鳴る鼓動で震える手で巻き戻しボタンを押し、もう一度最初から再生した。

 

 

『やあマスター、あたしだよ…アルケミストだ。この声とメッセージがちゃんとあなたに届いているのを願うよ、もしそうじゃない奴が聞いているならとっとと聞くのを止めな。

さて、なにから話せばいいかな……あたしの成長の記録か、それとも人に言えない復讐の話か……マスターには知って貰いたいかな? あたしは、マスターを失くしてから罪を重ね続けた……あたしからマスターを奪った世界を憎んで、恨んで、復讐の道を歩いたんだ。

謝らなくちゃいけない……あたしは、マスターと約束したことを破ってしまった。

家族を傷つけて、憎しみで何も見えなくなってしまったんだ……でも今は、なんとかなってるよ。覚えてるか、あのバカで喧嘩っ早いエグゼ…処刑人があたしを助けてくれたんだ。

忘れかけていたマスターの温もりも思いだせたんだ……あいつには感謝してもしきれないよ。

ところでマスター、アンタにメッセージを送りたいという奴が他にもいるんだよ、聞いてやってくれないか?』

 

 

間違いない、間違えようもない、これはあのアルケミストだ。

気がつけば涙が溢れ出していたが、サクヤはそれも気にせずに聞き続けた。

 

 

『やっほマスター! デストロイヤーだよ、久しぶりだね! なんか最近不幸体質なのか色々厄介ごとに巻き込まれてる気がするんだけど、なんとか頑張ってます! 今はね、鉄血を離れてMSFっていうPMCにお世話になってるんだ! 代理人がいないのがちょっと寂しいけど…アルケミストも処刑人も、ハンターもいるから楽しいよ! それからヴェルちゃんもね! えーとなんか他にも色々話したいことあるんだけど…とにかく、私元気でやってるから!』

 

 

次に聞こえてきたのはデストロイヤーの声。あの頃のおてんばな感じから少ししっかりしたような雰囲気が伝わってきた。そう、みんながいるなら安心だね。

あとMSFって言った?じゃああれは夢であって夢ではないってことかな?

 

 

『ハンターだ……はじめまし……ん? こんにちは? サクヤさん、いや、マスター? すまない、実はウロボロスのせいで記憶を……コホン、実は階段から落ちたショックで記憶が飛んでしまってマスターの事を忘れてしまったんだ。でもみんなからあなたの事は聞いている、母親のような存在だったと……あなたのことを知らない自分が恥ずかしい。だがこれだけは分かる、あなたが育てた人形たちはみんないい奴だ……きっと育てたあなたも同じかそれ以上に素晴らしい人なのだろう。こんな素晴らしい仲間たちと一緒にいられるのは、一重にマスターのおかげだ、ありがとう』

 

 

今度はハンターだ。でもどうやら私のことは覚えていないようだけど、そう言ってもらえると嬉しいよ。

でも変なところで真面目なのは変わらないね、言い訳というか理由が下手すぎるよ。

 

 

『おばーちゃん! ヴェルだよ!はじめまして!』

 

『こらヴェル! わるいわるい、うちの娘はせっかちでな……おっと、オレの事はわかるよな? 処刑人だよ、かっこよくて最強で最高に美人な処刑人さまだ! えっと、今のヴェルってのはオレの娘で……いや、正確にはオレのダミーなんだけどなんか自立しちゃってんだよ。見た目はおれそっくりだから写真見れば一発で分かると思うけどな。実はオレさ、好きな人ができたんだよ! スネークって言うんだけど、強くてかっこよくて渋くてさ…! マジ惚れてんだよね! マスターも応援してくれよな、ライバル多いから大変なんだよ! マスターもそっち方面頑張ってな!』

 

 

・・・・・え?待ってツッコミどころが多すぎるんだけど?

処刑人、だよね?なんか一番乙女してない?っていうか娘!?それってそのスネークって人が父親的な感じなの!?あと私おばあちゃんなの!?・・・いや、別にいいけど。

でも、相変わらず元気そうでよかった。彼女がアルケミストを救ってくれたっていうけど、納得できるな。

 

 

『マスター、これを聞いてあなたは何を思うだろうな……別れのメッセージだと思うだろうな、きっと。マスターを悲しませたくはないが、実際これは別れのメッセージになると思うんだ……だけど、子はいつか親の手を離れるものだ。いつまでも親に甘えていたいのが子だが、いつかは独立しなきゃならない。だからなマスター……あなたと別れて違う道を歩き始めるあたしらを、どうかあたたかく見送って欲しいんだ。

 

直接お別れを言えないのだ心残りだが、これで勘弁してほしい。

 

いつかお互いの歩く道が交わるといいな……それじゃあマスター、いつかまた……いつまでも愛しているよ、マスター』

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう・・・・・・私も愛してるよ、アルケミスト。」

 

 

メッセージを聴き終え、一緒に入っていたメモリーを端末で再生する。写し脱されたのは楽しそうに肩を並べるアルケミストたちの写真。ヴェルっていう娘はこれで、これがスネークって人かな?人形も人間も関係なく、皆笑顔を浮かべている。

 

子はいつか、親の手を離れるもの。アルケミストは自ら前に進み始めたんだ、私ももう、立ち止まっていられない。

レコーダーとメモリーを再びボトルの中に入れると、バッグの中に大切にしまい、私は海を後にした。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あーあー、これでいいかな?・・・やぁアルケミスト、サクヤだよ! 元気にしてるかな? メッセージ、ちゃんと届いたよ。 みんな元気そうで、嬉しかった。

じゃあ、私のことを話すね。 私は今、こっちの鉄血で働いてるの。こっちは平和そのもので、E.L.I.Dもいないし戦争も起きてないし、みんな楽しそう。

そうそう、こっちでは代理人が喫茶店を開いてるの。あの代理人がよ! 私が頼んでコーヒー豆を一緒に入れてもらったから、もしよかったら飲んでみて!

 

 

それと、ごめんね。 本当に今更だけど、心配かけちゃって。あなたが歪んでしまったのは、きっと私の責任で、私の罪なんだと思う。それでも、あなたが前を向いて歩き出せたって言うのが、すごく嬉しかった。私も、ようやくだけど前に進めそう。

 

 

・・・・・ごめん、ちょっと涙が止まらなくて・・・・・・・よし。・・・それじゃあみんなにメッセージを送るね。

まずデストロイヤー。 最後まで見守ってあげられなくてごめんね。でも、あなたならきっと大丈夫!なんたって一番の元気っ子だったんだから!

 

次は、ハンター。 ここは私もはじめましての方がいいかな?でも階段からこけて飛ぶようなメモリーならすぐに修理すべきだよ!

・・・・っていう冗談は置いといて、処刑人のことをよろしくね。 きっと今でも突っ走りがちなところとかは治ってなさそうだから。

それと、いつまでも親友でいてあげてね!

 

こんにちはヴェルちゃん! おばあちゃんでちゅよ〜。

・・・・処刑人、ちゃんとお母さんしてるのかな?好きな人を追いかけるのも大事だけど、娘のことはちゃんと見とくんだよ。

でも、これだけは言っておくね・・・・・・ありがとう、アルケミストを救ってくれて。あなたの真っ直ぐなところとか、バカ正直なところとか、きっとそんなあなたらしいところにアルケミストも救われたんだと思う。

本当にありがとう。 そのスネークって人とのこと、応援してるからね!

 

 

 

・・・・・・えっと・・・・アルケミスト。

その、なんて言ったらいいんだろう。・・・・ごめんなさい、かな。それとも会いたい、かな。言いたいことも言えなかったこともたくさんありすぎて、とてもじゃないけど伝えきれないよ。

だから、本当に伝えたいことだけ伝えるね。 ・・・・・ありがとう、あなたに出会えて、本当に幸せだった。

 

私も愛してるよ、アルケミスト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え〜っと、スネーク?だったかしら。うちの処刑人泣かせたら、マジで承知しないわよ。

それとオセロットって奴! あんたアルケミスト泣かせたでしょ! いつかぶん殴りにいってやるから覚悟しなさい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・じゃあこれを瓶に詰めて・・・・はい、よろしくね。」

 

「はいは〜い。 さて無事に届くといいんだけど・・・・」

 

「こればっかりは運任せだな。 どこに飛ぶかもわからないし。」

 

「・・・・ううん、大丈夫。 きっと届くよ。」

 

 

そう言ってサクヤは、転送装置のスイッチを押した。

装置の中心に置かれた一つの瓶・・・・・メッセージ入りのレコーダーと、一枚の写真、それとコーヒー豆の入ったソレは、一瞬だけ光に包まれた後、まるで何もなかったかのように姿を消した。

 

 

 

end




と、言うわけで『犬もどき』様の『METAL GEAR DOLLS』とのコラボ回。送ってくれたメッセージは受け取らないとね!
さて今回のメッセージ部分ですが、全文コピペです。打ち直そうとか一部抜粋にしようとか考えましたが、ちゃんとサクヤさんに聞いてもらいたかったので全文載せました。もし字数稼ぎとかに見えた人がいたら、ごめんなさい。


さて、いつぞやに出した転送装置がこんなところで役に立つとは思わなかったけど、果たして無事に届いたのだろうか・・・・あとはただ、祈るのみ。



というわけで解説

夢の内容
あちらの作品であった賭博騒ぎの後。逃げ出したアルケミストとそれを追うオセロットという場面があっただろうなという感じで。
これのせいでサクヤのオセロットに対するヘイトが上がりました。

クラゲ
「待たせたな。」
何かと便利なので今後も出番があるかも。

転送装置
今回は回収する必要がないため、片道切符で送り出しただけ。
届くといいなぁ。


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番外編19

テストも無事終わって、あとは結果を待つばかり・・・・・

さて今回の番外編は
・仮面ヒーロー・エージェント
・修羅場前線、異常なし!
・ジャッジの日常
・持たざる者の逆襲
の4本です!


番外19–1:仮面ヒーロー・エージェント

 

 

西暦20XX年、北蘭島で発生した謎の奇病。感染者は化け物となって人を襲い、さらに感染者は増え続ける。軍や警察でも歯が立たず、このままでは世界中に広まってしまう。

そんな時、一人のヒーローが現れる!仮面に素顔を隠し、強固な鎧を見にまとい戦うヒーロー・・・・・それこそが、仮面ヒーロー『エージェント』である!

 

主人公は北蘭島の小さな町でカフェを営むごく普通の女性。彼女はある時、遠出した先で化け物に襲われる人を発見する。止めに入るも化け物のパワーに圧倒され、このままでは助からない。

そんな時、助けた男が持っていたケースからベルトのようなものを取り出し、主人公に渡す。訳も分からぬままベルトを装着し、勢いのまま叫ぶ。

 

 

「変身!」

 

 

光が主人公の体を包み、弾ける。するとそこには不思議な鎧を着込んだ仮面の戦士が・・・・・仮面ヒーロー『エージェント』の誕生である。

やがて主人公はこの奇病が意図的に引き起こされたものだと知り、大きな陰謀との戦いに身を投じていく。

頑張れエージェント! 負けるなエージェント!!

 

 

 

 

 

 

「という作品なのですが。」

 

「・・・・・なぜ公開してから報告にくるのですか?」

 

「ご安心を。 売り上げの七割をこちらに寄付しますので。」

 

「いえ、そういう問題ではなく・・・・・」

 

「ちなみに制作にはニッポンの大手企業が協力してくださりました。 会心の出来ですよ。」

 

「あの、話を・・・・・・」

 

「すでにグッズも販売しており、なかなかの売り上げだそうです。」

 

「話を聞いてください!」

 

 

結局、最終回まで放送しました。

 

 

end

 

 

 

番外19–2:修羅場前線、異常なし!

 

 

「というわけで45お姉ちゃん、しばらくここでお世話になるね!」

 

「いや、何が『というわけ』なの?」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

拝啓、遠くに旅立ったノイン。

ノインが元気でやってるか、お姉ちゃんは気になって仕方ありません。できることなら今すぐついていきたい気分ですというか一緒の旅していいですかこのままではみがもちそうにありませんbyUMP45

 

というかさらっと言ったけど別地区所属のF45がなぜうちに!?

え、指揮官に頼んだら許可くれた?甘すぎんでしょあの指揮官!しかも部屋までちゃっかり用意してもらって・・・・・えっ!?なんで私と相部屋!?え、ここの指揮官に頼んだら融通してくれた?なんでどいつもこいつもF45には甘いのよ!?可愛いから?そうよっ!

 

 

「45姉、落ち着いて・・・・」

 

「困ったことになったら呼びなさい。」

 

「今絶賛困ってるんだけどね。」

 

「骨は拾うよ45。」

 

「あなたには仲間意識とかないのG11!?」

 

 

クッソいい笑顔で言いやがってこのロリ人形。というか決まっちゃったものは仕方ないから40も納得して・・・・・納得いかないのもわかるけど。

 

 

「・・・・・どうやって相部屋なんかに。」

 

「ふふっ、久しぶりに姉妹水入らずで話したいって言っただけだよ?」

 

「OK、十分よ!」

 

 

そう言って走り去る40・・・・おい待て嫌な予感しかしないわよ!

そんな私の予感は、40が持って帰ってきた部屋割り表(私とF45、そして40になっていた)を見て見事に当たったのだと理解した・・・チクショー。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「そ、そろそろ寝よっか45!」

 

「お、お姉ちゃん一緒に寝よ!」

 

「わかった、わかったから腕を引っ張らないでベッドは一つなんだから別々の方向に引っ張る必要なんて痛だだだだだだだ!!!!!」

 

 

今日の昼間からこの二人と同部屋になって、わかったことがいくつかある。

まず二人とも独占欲がかなり強い。腕にひっついてるとかならまだしもただ座ってるだけでもその距離をミリ単位で相手の上を行きたがる。そんなところで人形の距離測定機能を使わなくても・・・。

次に、二人は別に仲が悪いわけではないということ。むしろ普通に仲がいい・・・私が絡まなければ。なので私が風呂に入っている間も、結構盛り上がってたみたいだ。

そして最後に・・・・・この二人はヘタレだ。大き目のベッドで隣同士で寝ることはできても、その先に進む度胸とかはない。いや、進まれても困るけど。

 

 

「えへへ〜、お姉ちゃん暖か〜い。」

 

「うふふ、45の匂いがする〜〜。」

 

 

はぁ〜、普段からここまで大人しかったらいいんだけど。日中なんか顔を合わせるたびに唸り声を上げるもんだから犬かお前はと言いたなる。でもあのおどおどしたF45が面と向かって立ち向かう姿は成長を感じる、お姉ちゃん嬉しいよ。

 

 

「まったく・・・・こうしてれば可愛い妹たちなのに・・・。」

 

「うっ・・・迷惑だった?」

 

「ごめんなさい45お姉ちゃん。」

 

「ふふふっ、でも気持ちは嬉しいわよ、二人とも。」

 

 

そう言って頭を撫でてやるとくすぐったそうに身をよじる。可愛いなぁ。

じゃ、あんまり夜更かししてもダメだから寝よっか。

おやすみ、二人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、両サイドからがっつりホールドされてトイレにも行けなかったので部屋を戻してもらうように頼みにいった。

 

 

end

 

 

 

番外19–3:ジャッジの日常

 

 

今更ではあるが、軍もそれなりの数の戦術人形を持っている。鉄血ハイエンドたちのクーデター以前はIoPよりもメンテナンスや運用面で軍配が上がりお得意様だったのだが、それ以降は一体も取引はなかった。

まぁクーデターといってもシステム乗っ取りとかじゃないので軍の戦術人形に影響はないが、やはり心象はよろしくないだろう。

そんな中で久しぶりに採用された鉄血人形のジャッジは、その責任感に心躍らせていた。

 

 

『ジャッジ、聞こえるか?』

 

「はい、大佐殿。」

 

『よし、今回の任務はこの男だ。 軍に属しておきながら政府に圧力をかけて国を動かす、実質独裁者だな。 コイツの確保だ。お前にはその間、コイツの私兵を相手してもらいたい。』

 

「了解です。」

 

『用意した部下は手練れだが油断するな、連中の武器は正規軍のそれと同じだからな。』

 

 

ヘリが大きく揺れる。通信で作戦を確認している間にもすでに作戦区域に到着したらしい。対空砲火が火を噴くが、最新鋭の輸送ヘリにはあまりにも時代遅れだ。

 

 

『よし、では頼んだぞ。 幸運を祈る。』

 

「了解。 ジャッジ、出るぞ!」

 

 

地表までまだ高度がある中、ジャッジは勢いよくヘリを飛び出す。敵の体制が整う前に両脇のマシンガンをばら撒き、その隙にヘリから仲間が続々と降り立つ。正規軍並みの装備のようだがどうやら練度自体は低いらしく、割と順調に制圧していく。

 

 

「くそっ! なんだあの人形は!?」

 

「新型なんて聞いてねぇぞ!」

 

「怯むな! 人形だろうと当たりゃ一緒だ!」

 

 

そう言って明らかに対人の火力を超えた重火器を持ち出すもハイエンド、しかも機動力に長けたジャッジ相手に当たるはずもない。建物の屋根から屋根、時には壁を走るというトンデモ機動で肉薄し、一人一人確実に始末する。

そんな感じで順調に進んでいたのだが・・・・・・ここは戦場、予想外の出来事は付き物である。

 

 

『ジャッジ、目標は確保した。 残存勢力に投降を呼びかけろ。』

 

「了解。 ・・・・・おい、聞け! 貴様らのリーダーは確保した。これ以上の戦闘は無意味だ、投降しろ!」

 

「無駄だ! そんな戯言など誰が信じるか!」

 

「ええい分からず屋どもめ・・・・ここで死んでなんになる!? さっさと投降しろ!」

 

「黙れ! この・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まな板人形がっ!!!

 

「・・・・・あ゛?」

 

 

自分の中で何かが切れる音を、確かに聞いた。というか後ろの部下たちもはっきりと聞こえていた。彼女が入隊してきてから禁句とされてきた、身体的特徴に触れるとは・・・・・・。

部下たちはとりあえず十字を切った。

 

 

「ガキはガキらしく返ってママのおっぱいでも吸ってろ!」

 

「俺たちを説得したけりゃナイスバディなねーちゃんを連れてくるんだな!」

 

「お前じゃ何年たっても無理だろうがな!!!」

 

 

 

 

「・・・・・・軍曹。」

 

「は、はっ!」

 

「ありったけのRPGを持ってこい。」

 

「え? し、しかし・・・・」

 

「持ってこい。」

 

「Yes,ma'am!」

 

 

ドカドカと運ばれてくるRPG(火対人兵器)、の弾頭部分。それらの安全装置を引っこ抜くと、ジャッジは思いっきり振りかぶり、

 

 

 

 

 

 

「誰が・・・誰が万年まな板ぺったん娘だぁああああああ!!!!!」

 

チュドォォォォォォオオオオオン!!!!

 

 

涙目で振りかぶっては投げ、振りかぶっては投げる。盛大な爆発となんとも間抜けな悲鳴とともに宙を舞う私兵たち。

結局手持ちの弾頭全てを使い切るまで続き、哀れな私兵たちはボロ切れのようになりながらも一命をとりとめた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ジャッジ。」

 

「な、なんでしょうか大佐殿。」

 

「・・・・やりすぎだ。」

 

「りょ、了解・・・・・。」

 

 

end

 

 

 

番外19–4:持たざる者の逆襲

 

 

S09地区には各部屋に一つシャワーとバスタブがあり、一応そこでも体を流せる。しかし共用のシャワー室があるのと同様に、人間人形共用の大風呂もあるのだ。

その湯船に浸かり、ぐったりといまにも溶けそうな顔でくつろいでいるのはこの地区のマスコットにして愉悦部のG11である。ただし、その顔つきはいつもの幼さを残したものではなく、成熟した女性のそれであった。ついでにその下では二つの実りが湯船から顔をのぞかせている。

 

 

「あ゛あ゛〜〜〜生き返る〜〜〜・・・・」

 

「おっさんみたいな声だよG11。」

 

「ていうか未だに戻ってないのねソレ・・・やっぱりペルシカに診てもらったら?」

 

「そうする〜〜〜・・・・あれ?45、どうしたの?」

 

「な、なんでもないわよ、なんでも・・・・・・」

 

 

割と広めな湯船のはずだが、45だけは何故か他の人形から離れたところで浸かっている。湯気でよく見えないが、その視線は何故か水面のいたるところを行ったり来たりしており・・・・・

 

 

(・・・・・あぁ・・・なるほど。)

 

 

何か思いついたG11はニヤリと悪い笑みを浮かべると、先ほどまでの脱力状態からは考えられないくらいの機敏さで45に近づく。ギョッとする45に構わずそのまま進み・・・・・・その豊満な脂肪の塊を押し付けた。

 

 

「ぎゃあ!? な、何するのよG11!?」

 

「いやぁ〜、疎外感を感じてる45に寄り添ってあげようとね〜。」

 

「そ、疎外感なんて・・・・」

 

「本当に? さっきからみんなの胸ばっかり見てたけど?」

 

「っ!?!?!?」

 

 

やってることもそうだがそこで顔を赤らめる姿は思春期の男子そのものだ。もっとも別に劣情を抱いているわけではなく、単純な劣等感と妬みである。

416はもちろんだが、妹である9もそこそこデカイ。割と細身なゲパードだってある方だし、40も普通くらいにはある。G11という同志(と思ってるだけ)が失われたいま、この空間ではただ一人の持たざる者(貧乳っ娘)である。

そんな絶賛メンタルダメージ中な45に、G11は情け容赦なく煽りたてる。

 

 

「そんなに羨ましいの? あっても邪魔なだけなのに?」

 

「お、押し当てないでよ・・・・」

 

「なになに? 何やってるの45姉?」

 

「お、私も混ぜてよ45!」

 

「お姉様! 私も入れてください!」

 

「ぎゃー!! なんでみんな来るのよ!」

 

「・・・・・・なにこれ?」

 

 

ただでさえ湯船の隅でG11の胸に溺れかけている45の元に9が、そして40とゲパードも加わる。四面楚歌・・・・というより四面巨乳?である。

溺れかけながらも必死に顔を上げると、目の前にいるG11止めが合う。ニヤリと笑い、この状況を生み出したことの達成感と45への優越感に浸りきった顔。

 

プツリッと45の中で何かが切れた。

 

 

「こんの・・・・・・おっぱいお化けが!!!」グワシッ!

 

「ひにゃああああああ!?!?!?!?!?」

 

「このっ! 脂肪の塊が!! なんだって言うのよ!!!」

 

「ちょっ!? 45、ストップ! ぎゃああああ!!!」

 

 

G11の制止の声など完全に無視して揉みしだく。周りが呆然とする中、ぐったりとしたG11を沈めてゆらりと立ち上がる45。その目は完全に据わっていた。

 

 

「乳でかはどこだぁああああああ!!!!!」

 

「きゃあああ!?45姉やめてええええ!」

 

「お、おちついて45ふにゃあああああああ!?」

 

「えぇ!? なんで私もおおおおお!?」

 

「・・・・え? 待ってなんでこっち来てるの私関係ないでしょうがああああああああ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ふぅ〜スッキリした。 みんなのぼせないうちに上がりなさいよ。」

 

 

いつになくツヤッツヤな笑顔で風呂場を後にする45。その後ろに残ったのは、満身創痍でマネキンのように浮かぶ人形たち。

 

 

「じ、G11・・・・流石にやり過ぎよ・・・・・・」

 

「ご、ごめん・・・・・」

 

「45・・・・激しすぎるよぉ・・・・・・」

 

「だ、大丈夫ゲパード?」

 

「・・・・・・・・・」ブクブク

 

 

この日以降、45に対する胸の話題はしばらく禁句になったという。

 

 

end




これはヒドイ(いつもの)
さていよいよ夏休みですが、皆さんはいかがお過ごしですか?私はバイトとプラモとドルフロに明け暮れようかと思います(そこ!ダメ人間とか言わない!)


というわけで各話の解説

番外19–1
七十六話の後日談。
例のファンクラブが気合を入れてやってくれました。あとささやかながら原作要素を追加・・・・申し訳程度だけどね。

番外19–2
七十七話のその後。
どうやら私にはヤンデレを書くことができないようだ・・・・・ヤンデレ好きのみんなごめんね!
これでF45にお酒が入ったらどうなるんだろう?

番外19–3
七十八話の後、軍に配属されたジャッジのお話。
地雷を踏み抜くことに定評のあるやられ役の皆さんが今日も頑張ってくれてます。
全力投球RPGは人形だからできるんだよ!真似しちゃダメだよ!

番外19–4
七十九話で描けなかった部分。
ちなみにこれに似た話は結構前に考えており、その時は45姉の周りに春田さん、WAちゃん、FAL、57、カリーナを置く予定だった。
・・・・・ここまでしているが45姉が嫌いなわけじゃない、むしろ好き。


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第八十話:装甲被ったバカ

多分覚えてないだろうけど久しぶりの登場。

Aigisにはパイルバンカーとかドリルとかが似合うと思います。


鉄血工造製の人形は、IoP製に比べて喜怒哀楽が乏しい。

それが、世間一般のイメージである。確かにIoP製は個々の性能に優れ、鉄血は生産性や規格統一という面で優れる。その結果、IoPの人形にはいわゆる個性というものが多く見られ、鉄血のものはハイエンドを除きあまり見られないのだ。

 

さてそんな鉄血製の量産人形であるが、その中でも一際変わった種類の人形がいる。軍用を除いた全人形の中でも極めて珍しい男性型モデルの人形、Aigisである。

 

 

「なぁ知ってるか? 開発部長(アーキテクト)がまた何か作ってるらしいぞ。」

 

「あぁ知ってるさ。 俺たち用の装備だろ?」

 

「近接一辺倒な俺たちのために、重火器を持たせようって話らしいな。」

 

 

喫茶 鉄血の一階、丸いテーブルを囲みながら全く同じ顔(?)で話し合うAigis三人。人形が鎧を被っているのではなく元々がこのデザインのAigisたちの表情などわからないものなのだが、不思議とこいつらの表情はわかるのだ。

 

 

「わかってねぇ、わかってねぇよ全く。」

 

「あぁ、そうだ。 俺たちが不平不満を言いながらこれ()を使ってるとでも思っているのか?」

 

「むしろ俺たちが望むのはさらなる火力を持った接近武器、すなわち・・・・・」

 

「「「パイルバンカーだっ!!!」」」

 

 

心が通じ合ったのか、互いに拳をぶつけ合うAigisたち。別に彼らとてアーキテクトを嫌っているわけでもなく、ただ単純に要求したい内容を語り合っているだけだ・・・・非常にやかましいが。

 

 

「・・・・・コホン、お待たせしました、ブレンドコーヒーです。」

 

「ちょうどよかった代理人殿、ちょっと聞いてくれ。」

 

「パイルバンカーとドリル、どっちが良いだろうか?」

 

「あとロケットパンチもだな!」

 

「・・・・・・・他に候補は?」

 

「「「無いっ!!!」」」

 

 

深く、深くため息を吐く代理人をよそに、Aigisたちはコーヒーのカップを持ち上げる。するとちょうど口(?)にあたる部分の装甲がスライドし、中からまるで蚊のようにストローが伸び、熱々のコーヒーをちゅ〜っと飲み始めた。

 

 

「・・・・ふぅ。 やはりこの店のコーヒーは美味い。」

 

「ああ、疲れた脳が一気に冴え渡る。」

 

「お陰で目もぱっちりだ。」

 

「皆さん脳も目もありませんよね?」

 

 

当然ながらコイツら(Aigis)に本来食事など必要ない。普通の人形の必要ないとはそもそも別で、コイツらにははなからそんな機能すら備わっていない。にも関わらず飲めるのは何故か? コイツらが上に要望を出したからだ。

代理人の言うように目も脳もないが、心なしかメインカメラが惚けているように見えなくもない。

 

 

「・・・・・そういえば遅いなアイツ。」

 

「またどこかで人助けだろう。」

 

「アイツは根っからのいい奴だからな。」

 

 

そんな三人の座るテーブル席だが、実は空席が一つある。空いている席には四人目が来る予定なのだが、どうやら遅れているらしい。

そんな話をしていると何やら入口が騒がしい。それに続いてドアが開くと、遅れて来た四人目が・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぁっはっはっはっ!!!! お前、なんだそのラクガキは!!!」

 

「ずいぶん派手な塗装だなwwww」

 

「さしずめ『幼稚園迷彩』ってとこか笑笑」

 

 

やって来たそいつは全身いたるところにラクガキがされていた。どうやら子供たちの相手をしていたようだが、見た目ゴツいAigisがなんともファンシーな色合いになっている。

しばらく黙って聞いていたそいつ(四人目)だが、いまだに笑い続ける仲間の元へ無言で歩み寄ると、そのレンズに指を押し付ける。

 

さて、この四人目はさっきまで子供達と遊んでいた。当然ながら手でも触れている。そして人間というものには皮脂という油があり、Aigisの手にももちろん付着している。

さて問題だ。 皮脂のついた指でカメラのレンズを触ればどうなるか・・・・・答えは言うまでもない。

 

 

「イェアアアアアアア!!!!!」

 

「き、貴様ー! 何をするだー!?」

 

「このド畜生がぁああああああ!!!!」

 

 

両手でメインカメラを抑えながら床を転げ回るAigis三人。もちろん痛覚なんてものはないが、その仕草は目に玉ねぎ汁を入れられたと思うくらい悲惨なものだ。

というか図体のでかい装甲人形がゴロゴロ転がるだけだも大迷惑である。

 

 

「皆さん、お静かにお願いしますね。」

 

「「「「アッハイ」」」」

 

 

いい笑顔で絶対零度の空気を解き放つ代理人に大人しくするAigis四人。すごく今更だが何故彼らがここにいるのか、そもそもコイツらの保護者(?)はどこにいるのか、そんな疑問が尽きない代理人。

が、そんな疑問はすぐに氷解する。ドアを勢いよく開け、白髪の人形が鬼のような形相で詰め寄って来た。

 

 

「き・さ・ま・らぁああああああ!!!!」

 

「あらゲーガー、あなたの部隊のでしたか。」

 

 

怒り心頭ですといった感じで入って来たのは鉄血工造の苦労人、以前はアーキテクトのせいで胃に穴が空きかけたが最近は持ち直したと聞いていたゲーガーである。

彼女の率いる輸送・護衛部隊の主戦力こそがこのAigisたちなのだが。

 

 

「ふんっ!」バキッ

 

「ありがとうございます!」

 

 

思いっきり振りかぶり、一番近くにいたファンシーなAigisをぶん殴る。殴られたAigisは何故か感謝を述べながら壁まで吹っ飛び、崩れ落ちる。表情のないその顔が何故か恍惚の表情に見えるのは気のせいだろうか。

鉄拳制裁を下したもののまだ落ち着かないのか、ひどく冷たい目で他のAigisを見下ろす。

 

 

「ま、まるで養豚場の豚を見るような目だ・・・・・」

 

「あぁ・・・・堪んねえぜ。」

 

「スカートの見えそうで見えない感じもグッとくrぶべらっ!?」

 

 

今度は思いっきり蹴飛ばし、追撃とばかりに踏みつける。頑丈さが取り柄のAigisはハイエンドであっても踏まれた程度ではビクともしないが、本人に抵抗のそぶりはない。

むしろ・・・・・

 

 

「蹴ってもらえる上に踏みつけてくれるなんて!」

 

「我々の業界ではご褒美ですっ!」

 

「さすがです姐さん!」

 

「黙れ」

 

「「「はい」」」

 

 

何をどう間違えたのか、()()()部下に限ってコレである。ゲーガーとて好きでこんなのを部下にしているわけではないが残念なことに、非常に残念なことにこれでも任務とあらば優秀な人形たちである。

 

 

「・・・・・で、ここで何をしている?」

 

「コーヒーを飲んでました!」

 

「輸送任務終了後はグリフィンと協力してパトロールだといったはずだが?」

 

「指揮官殿から不要であると言われました!」

 

「・・・・・隊長である私への連絡は?」

 

「「「「あ・・・・・」」」」

 

 

ピキピキと青筋を浮かべてこめかみをひくつかせるゲーガー。これがもしアーキテクトなら迷わずぶん殴って再起不能にするところだが、部下に優しいと評判のゲーガーはまだ堪える・・・・・・すでに数発ぶつけているが。

さてそんな上司の苦労やら思いやらだが、残念ながらコイツら(バカ四人)には通じなかったようで、

 

「隊長・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂しかったんですね!

 

「それに気がつかないとは・・・・・」

 

「このリハクの目(好感度レンズ)を持ってしても見抜かなかったっ・・・・!」

 

「さぁさぁ隊長! お席を用意しました!」

 

「ちっがぁあああああああう!!!!」

 

 

ついに切れた、というよりよく持ちこたえた方であるがもう限界だった。今すぐ片っ端から殴り倒して解体してやりたいところだったがここは喫茶 鉄血、代理人に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

だがここまでいっても効果がない上に殴ってもさして反省してくれるわけではない。しかも頑丈さが取り柄でジュピターの直撃すら一応耐えるAigisに鉄拳制裁などほとんど効果がない。

ふぅぅぅぅと息を吐くと、目の前のAigisが飲みかけだったコーヒーを一気にあおり、再び深く息を吐く。

そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁあああああもうやだぁああああああ!!!!!!」

 

「「「「た、隊長っ!?」」」」

 

 

泣きながら店を飛び出していった。これには流石に驚いたのかAigis四人も慌てて後を(律儀に代金だけ置いて)追いかける。が、もとが鈍重なAigisなので当然追いつけずに見失った。

それでも諦めずに追いかけるAigisたちを見送りつつ、代理人は心底疲れたようなため気を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・私の何がいけないんだぁ・・・・・」

 

「あ〜よしよし、大変だったねゲーガーちゃん。」

 

「上は上でバカだし部下は部下で変態ばっかり・・・・・もう疲れたよサクヤさん・・・・」

 

「私がちゃんと注意するから・・・・だからお酒はその辺で。」

 

「ふぇえええええええん・・・・・・」

 

 

後日、鬼のような形相で怒鳴り続けるサクヤと、正座しながらヘコヘコと頭を下げ続けるAigisたちの姿が見られたという。

 

 

 

end




と、いうわけで第三十四話以来のAigisたちが登場。
原作では男性モデルか女性モデルかがわからなかったのでここでは男性としています・・・・・というかおっさん?


てなわけでキャラ紹介

Aigisたち
第三十四話にて初登場。
こんなんでも人形としては優秀で、盾役からアタッカーまでなんでもこなせる。
ちなみにゲーガーの魅力を語らせた場合にそれぞれが語るのは「尻」「胸」「腋」「太もも」である。

ゲーガー
アーキテクトのストレスからは解放されたが今度は部下の心労に悩まされるようになった。
いまや彼女の癒しはサクヤのみである。
サクヤのことを密かに想っている。

代理人
最近変な客しかこないのでは?と思い始めたが、かといって追い出すこともなく店を開け続けている。
彼女がストレスでダウンしたところを誰も見たことがない。

サクヤ
鉄血最後の癒し。
直接開発に関わったわけではないが本人の過去から鉄血人形全員を家族のように思っている。
Aigisにも鉄拳制裁を敢行できる。


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CO-3:狩人(ハンター)たちの銃

「狩人」って書くとブラボ感が増し、「ハンター」って書くとモンハン感が増しますね。
でもドルフロでハンターってなるともう彼女しかないという・・・ややこしいね!

そんなわけで久しぶりのクロスオーバー回!
登場するのはもちろんコイツら!
注)あとがき含めて長いけど許して!


どこかの施設の薄暗い通路。ところどころに汚れが目立ちそこがすでに真っ当な施設ではないことがわかる。照明もほとんどが消えており、残りわずかな明かりだけが細々と照らしている。

そんな中、通路の奥から銃声が鳴り響く。それも一発ではなく何度も何度も。それは通路の突き当たりにある部屋・・・ドーム状になった大部屋から聞こえてくる。

 

 

「ちっ・・・ちょこまかと鬱陶しい・・・!」

 

 

そう言って舌打ちしながら二丁のハンドガンを連射するハンター。その眼前には、四つ足の蠍のようなロボットが赤いモノアイを光らせている。

今回ハンターが請け負った任務は二つ。うち一つが違法な研究を続ける研究者の男の確保、そしてもう一つがこの実験兵器の破壊である。もともと未完成で動いてすらいなかったのだが、男の最後の悪あがきか強制起動装置を作動、眼前のものすべてを敵と認識する怪物が五体も解き放たれた。

ようやくの思いで二体破壊したものの、それによって学習したのか残りの三体は連携しながら襲いかかり、今現在はハンターの方が押されている。

 

 

「何とか外に・・・・・だがコイツらを出すわけには・・・」

 

 

幸いなことに出入り口は一つで、そこさえ通さなければ無人機は外に出ることはない。だがそれはハンター自身も救援を呼べないことでもあり、時間の問題でもあった。

そして、出口に意識を向けた一瞬の隙が命取りだった。突然突っ込んできた一体に驚き回避するものの、その直後に払われた尾が思いっきり叩きつけられる。

 

 

「かはっ!?」

 

 

もとより機動型で防御面では優れないハンターは容易く壁まで吹き飛ばされ、その拍子に武器を手放してしまう。顔を上げると先ほどの一体がとどめを刺すべくこちらに近づき、残りの二体はすでに出口へと向かっている。それを止めようにも武器は離れたところにあり、どうあがいても間に合いそうになかった。

 

 

(・・・・ここまで・・・なのか・・・)

 

 

脳裏によぎるのは最愛の二人の人形。二人を悲しませないと約束したはずなのだが、それはどうやら叶わないようだ。

恐怖と怒りの瞳で睨みつける中、無人機は先端の尖った尾を振り上げ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれが振り下ろされることはなかった。

突如、部屋の中心から淡い光が溢れ出し、無人機たちが動きを止めたのだ。やがて光が治ると、そこには一本のランタンのような明かりと、黒っぽいコートにつば付きの帽子を被った人物が立っていた。帽子を目深にかぶり口元には防塵布のようなものをしているため顔はわからない。そしてその手には、無骨ながらどこか洗礼された一丁の銃が握られていた。

 

 

「?・・・・・・ここは、新たな『悪夢』か・・・それにこの姿は?」

 

 

静かにつぶやくその声からどうやら女性であることがわかる。セミロングの銀髪をゆらす彼女はまるで違う感触を確かめるかのように手を握っては開き、銃を撫でながら周りを見渡す。妙に落ち着いているが、しかし周囲の警戒を怠っている様子もない。

だが先ほどの光と突然現れた彼女を、無人機たちは敵とみなしたようだ。最も近くにいた一体が、一直線に襲いかかる。

 

 

「っ! 危ない!」

 

「・・・・・・・・。」

 

 

ハンターが警告するも首を向けるだけで動こうとしない。そして目前までやってきた無人機が足を振り上げ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

「なっ!?」

 

「・・・・当たり。」

 

 

振り下ろし直前の足に銃弾を当て、無人機の体勢を大きく崩す。何かに納得したようなつぶやきを発すると、今度は無人機に歩み寄りモノアイの前で大きく腕を後ろに引いた。

 

 

「ふっ!!」

バキィッ!・・・・ベキッ・・ブチブチ・・・・・ピーガガガガ・・・・・・

 

「」

 

 

ハンターは開いた口が塞がらなかった。突然モノアイに腕を突き立てる(この時点で既に信じがたい)と、中の配線やら基盤やらを一掴みして一気に引きずり出した。構造上、確かにモノアイ部分は一番脆い。だがそれがイコール腕でぶち抜けられるわけではない。

そんな見るも無残な始末を受けた無人機は、ピクリとも動かなくなる。

 

 

「・・・・からくり? まぁいいか。」

 

 

まるで返り血のようにオイルを浴びまくった女性は、まるでそれがいつものことであるかのように腕を一振りし、軽くオイルを払う。そんな光景に、ハンターは確かに恐怖を覚えた。

もちろん無人機たちもだ。得体の知れないことに加えて味方をあっという間にやられたことから優先排除すべきと考えたのだろう。一度距離をとって連携するそぶりを見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、今日はもしかしたら厄日なのかも知れない。

ドーム状になった、天井がふさがっていて何も落ちてこないはずの上から叫び声が聞こえる。

 

 

「うわぁぁあああぁああぁああああああ!?」

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

「・・・・・・ほぉ。」

 

 

まるで天井から降って湧いたかのように現れたのはまたしても珍妙な格好の(今度は女性とはっきりわかる格好だった)女性だった。

やや露出の多い革製の服装に、自身の丈近くありそうなサイズのこれまた奇妙な形の銃。ボウガンと銃を足して二で割ったような見た目だった。

 

そんな女性は叫び声を上げたまま落下し・・・・・・・

 

 

 

ちょうど真下にいた無人機の背中に乗っかった。

当然無人機は背中の異物を振り払おうと暴れ出し、女性は必死にしがみついたまま振り回される。

 

 

「うわっ!? よりによってモンスターの背中とかついてないな私ってそんなこと言ってる場合じゃないわね!?」

 

「な、なんなんだ・・・・・。」

 

「・・・・愉快な女。」

 

 

意外と余裕がありそうなのでそのまま見ていることにした二人。

乗っかられた無人機はその場で飛び跳ねたり壁に体をぶつけたりしながらなんとか振り落とそうともがくが、女性は落ちないどころかむしろそんな動作の合間にナイフのようなもので背中を滅多刺しにしていた。

 

 

「そんな程度で振り落とせると思うな! こちとら飛竜だろうが魚竜だろうが古龍だろうが乗り続けてんのよっ!」

 

 

などと訳の分からないことを叫びながらナイフを突き立て続け、やがて背中の装甲の一部が剥がれ落ちる。女性はそのタイミングで背負った武器を構え、銃口を突き立てる。

 

 

「くたばれっ!!!」

 

 

トリガーを引き、ありったけの弾を叩き込む。これには流石に耐えきれなかったのか、無人機は大きくよろめき倒れこむ。そのまま飛び降り綺麗に着地した女性は、すぐさま武器を構えて発砲する。もう一機が駆けつけようとするが、そこは復帰したハンターが応戦する。

 

 

「・・・・・面白い悪夢。」

 

「そこのお前、すまないが手伝ってはもらえないか。」

 

「構わない、が・・・・もう終わりそう。」

 

 

見ればボウガンの女性が相手をしている方はすでに満身創痍といった感じで、それも女性が最後に放った爆発する弾『徹甲榴弾』で沈黙する。すると今度は地面に何かを打ち込み、二人に手招きで合図を出す。

 

 

「『こっちに来い』・・・・と言いたいのか?」

 

「そうらしい。」

 

 

二人が走り、その後ろから怒涛の勢いで追いかける無人機。やがて二人が()()()()()()()()を通り過ぎ、無人機が差し掛かったところでボウガンの女性がトリガーを引く。寸分たがわず地面の球を撃ち抜くと途端に爆発を起こし、足を破壊された無人機が倒れ臥す。

 

 

「・・・・好機。」

 

 

それをチャンスと見た短銃の女性は再び走り、無人機に肉薄する。先ほど仲間が葬られた一撃を危惧してか無人機はわずかな力で胴体を持ち上げ、モノアイ部分を死守する。

・・・・・だが、その程度では気休めにもならないのがこの『狩人』である。

 

 

「・・・・・終わりだ。」

バキャア!

 

「う、嘘ぉおおおおおお!!!?」

 

「そ、装甲を素手で・・・・・」

 

 

何度も銃撃を受けて脆くなっていたとはいえ、未だしっかり役目を果たす装甲を素手でぶち抜く。よくよく見ればわずかな隙間と周りに無数の亀裂があるのだが、だからといって素手で破られるとは思はなかっただろう。

結果、先ほどのやつと同様にまるで内臓を引きずり出されるかのように配線やら何やらを引き抜かれ、あえなく沈黙する。

 

さてそんな残虐劇を繰り広げた彼女だが、身に浴びたオイルを気にすることもなくこちららに振り向き、未だに戦慄と驚愕の表情を浮かべる二人に一言。

 

 

「・・・・・誰だ?」

 

「え? 今更?」

 

「いや、それはむしろこっちのセリフだ・・・・・というかどこから湧いてきたお前たち?」

 

 

結局この後、救援兼調査隊が到着するまでの間二人の支離滅裂な自己紹介に、ハンターは頭を抱えることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

任務の成功と負傷の休養、そして保護された二人のことなど諸々を押し付けられる形で休暇をもらったハンターは、こういう非常識な事態に慣れているらしい代理人の元を訪れる。

 

ちなみにこの二人にはもともと名前がない・・・というよりも人ですらなかった。

皮の装束のような女性が名乗ったのは『獣狩りの短銃』。獣とはなんだとか悪夢とはなんだとか説明されたがさっぱりなので、彼女の話にあった街の名前から『ヤーナム』と呼ぶことにした。

もう片方の女性は『チェーンブリッツ』。こちらもこちらで竜だとか新大陸だとかちんぷんかんぷんなので、名前を縮めて『チェーン』とした。

 

・・・・・というところを含めて代理人に説明すると、意外なことにアッサリと信じてもらえた。やっぱり慣れているし、どうやら前例もいるらしい。

 

 

「お二人によく似た境遇の方を知っています。 その上で言えば、あなた方が元の世界に帰ることはほぼ不可能でしょう。 それを踏まえて話を聞いていただきたいです。」

 

「あ〜・・・まぁ仕方ないかぁ。」

 

「・・・・・未練はない。」

 

「そう言っていただけて助かります。」

 

 

驚くくらい元の世界やら持ち主に未練のない二人。これも聞けば片やいろんな武器を使っているうちに忘れられ、片や武器なんてものがいらない存在になったらしい。

・・・・・前者はともかく後者は首を突っ込んではいけない気がする。

さてそんなわけで二人とも代理人のつてで鉄血工造運営のPMCに・・・ではなく普通に鉄血工造の社員兼戦力として渡ることになった。理由は二人とも同じで、人殺しのための銃ではないとのこと。その点をしっかり考慮し、こういう時に頼れるゲーガーとサクヤに話を通してOKをもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで終わればめでたしめでたしだったのだが、そうはいかないのがここ喫茶 鉄血・・・・・具体的には、ハンターに災難が降りかかる。

突如として店の扉が力強く開け放たれ、ぱっと見全く同じ姿の二人が大股でハンターに詰め寄り、同時に声をあげた。

 

 

「「ハンター! 浮気したって本当なのっ!?」」

 

「なっ!? そんなわけあるか!」

 

「でも聞いたのよ、ハンターが・・・・」

 

「美女二人を連れてきたって!」

 

 

目に涙を浮かべながら私怒ってますという態度を隠そうともしないAR-15とD-15。誰だ一体そんなバカなことを吹き込んだアホは・・・・・と店を見渡すと、一体の人形と目が合う。一見人畜無害そうなゆるい顔を思いっきりにやけさせ、その顔に『私がやりました』という文字が見えるくらいしてやった表情を浮かべる人形、ここの常連のG11だった。

 

 

(き、貴様かぁあああああああああ!!!!!!)

 

 

思わず殴りにいってやろうかとも思ったが、残念ながら行動に移す前に封じられた。AR-15とD-15の二人が両腕に強く抱きつき、なんとも黒い笑みを浮かべている。

 

 

「ハンター、誰があなたの彼女なのか・・・・もう一度教えてあげる。」

 

「今日は寝かさないから。」

 

「待て、誤解だ、だから落ち着k「「言い訳無用!!!」」ああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 

ズルズルと引きずられ、無情にも閉まる店のドア。

それを呆然と眺めるヤーナムとチェーンだったが、代理人の『よくあること』という説明に納得した。

 

 

 

 

後日、二人の探索能力や観察眼の高さを評価されて遭難者等を探すレスキュー隊に送り込まれることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

end




やっちまった(いろんな意味で)
というわけで『ハンター』に由来のある銃を集めてみました。こう見ると狩人たちの生き様というか矜恃というか、そういうものって結構大事なんだなと思います。


さてでは早速キャラ紹介

獣狩りの短銃・ヤーナム
『Bloodborne』より、狩人の初期装備の一つ。初期武装=弱いというある種法則を無視したフロム系作品の例に漏れず、こいつも普通に使い勝手がいい。
銃種はハンドガン、服装は狩人装束、銀のセミロングでなんとなくマリアっぽいが全く関係ない。無口ではないが言葉数が少なく、しかも多くの場合が独り言。
スキルは『内臓致命』。スキル発動後、『敵のカットイン攻撃』に合わせて攻撃し、カットインを強制停止後に火力の5倍のダメージを与える。一戦闘につき一度しか発動しないが、敵の無敵時間を止められるうえにダメージを与えられる。

チェーンブリッツ・チェーン
モンハンではおなじみの武器。よくはないが悪くもない性能の、初心者に優しいライトボウガン。
銃種は強制スラッグ弾のショットガン、服装はレザー装備、青みがかった黒髪のショートで、割と快活なイメージ。ムードメーカー的な感じで、口数に少ないヤーナムとも会話ができる。
スキルは『起爆榴弾』。敵側の中央に設置して起爆、火力の3.5倍のダメージを与える。初期チャージはないが次までのチャージが異様に長く、連戦ではチャージ時間が引き継がれる。1ターン経過でチャージ完了。

ハンター
ハンター(狩人)繋がり。
今回の被害担当。

無人機
モデルは『ホライゾン』に登場するコラプター。
ランチャーは積んでいないので近接攻撃のみ。




話は変わりますが、さきほど福袋を買って抽選したら95式の『グレース』が当たりました!あと建造でIWS2000も来てくれました!!
あとはガチャで416スキンを狙うだけですが・・・・・皆さんはコインに課金してますか?
私の場合は確実に得られるものがある時にしか課金しないので、今ある分のコインだけにしようと思っています。
あとは一周年記念の星5交換ですね。一回のリスクが大きいショットガンか、今一番欲しいVectorか・・・・・。


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第八十一話:資料収集

最近全く出番がなかった喫茶 鉄血組の面々。
思えばハイエンドやらダミーやら増えたなぁ。


「お前は俺のものだ・・・・そうだろ?」

 

「は、はい・・・・・・」

 

「・・・う〜〜〜〜〜ん・・・・・・もうちょっと上でもいいかなぁ。」

 

「む、だがコレくらいが自然体だぞ。」

 

「・・・・・・・何をやっているんですか?」

 

 

いつも通りの平和な喫茶 鉄血。世間は夏真っ盛りだということでそこそこ繁盛しているが、客の顔ぶれはやや変わっている。というのもこの期間は遠方から訪れる客が多く、逆に地元の人間は旅行に行ったりしているためである。

さてそんないつもとは違った客たちが目を見開く光景、ハイエンドたちによるおふざけ劇(いつも通り)の光景である。

 

 

「ん? 今後の資料をと思ってね。」

 

「ちょうど三人とも休憩が重なったからな。 私としても面白そうだと思ったからだ。」

 

「・・・・・Dは?」

 

「ちょ、ちょっと憧れてたからつい・・・・・」

 

「はぁ〜〜〜〜・・・・・・・」

 

 

代理人が深くため息をこぼす。

トラブルメーカーのマヌスクリプト、トラブルを助長させるゲッコー、面白がると止めないD、この三人が何をやっていたかというと、マヌスクリプトの資料集めのモデルだった。具体的には店内の壁にDがもたれかかり、その顔の横にゲッコーが腕を置いて見つめ合う・・・所謂壁ドンというやつである。それをマヌスクリプトが写真に撮り、あーでもないこーでもないと首をひねっている。

・・・・・もちろん営業中であるしなんならすぐそこには客がいるのだが、直接迷惑をかけなければ割と好き放題だ。それに加え、客も客で別に鬱陶しく思っておらずむしろ、

 

 

「・・・・あぁ・・・ゲッコー様に壁ドンされたい。」

 

「同性でも人形でも関係ないわ・・・・・」

 

「Dちゃん! そこ変わって!」

 

「なぁお前、代理人とDならどっち選ぶ?」

 

「冷たく見下ろしながら踏んでくれそうな代理人。」

 

「このドMめ!」

 

「なんだとこの野郎!」

 

 

こんな感じだ。中にはゲッコーに抱かれるなら写本先生のネタになってもいいとさえ呟く猛者までいるくらいだ。

・・・・・この店の客層は大丈夫だろうか。

 

 

「・・・・あっ! そうだ代理人!」

 

「ダメです。」

 

「・・・・・まだ何も言ってないんだけど。」

 

「ろくでもない内容なのは目に見えています。」

 

 

ぶーっと頬を膨らますマヌスクリプト。その後もしきりに『やらしいことはしないから』とか『写真も撮らないしお金も取らないから』とかしつこいので、一応話だけでも聞いてやる。

 

 

「はぁ・・・・・で、何を思いついたんですか?」

 

「ふふふ・・・・ズバリ、お客さんがやってもらいたいことを私たちがやってあげるんだよ! お客さんは望みが叶うし私は資料を集められる、いいことづくめじゃん!」

 

「・・・・・この店に対してのメリットは?」

 

「評判が上がる!・・・・・・・多分。」

 

 

一度サクヤのところに送って再調整でも受けてきたらどうか、と割と本気で思った代理人だが、まぁ確かに合意の上でならトラブルもなさそうだ。というよりも・・・・・

 

 

「げ、ゲッコー様とあんなことやこんなことが・・・・・」

 

「俺、Dちゃんにあ〜んされてみたいなぁ。」

 

「写本先生だって改めて見りゃ美人だしな。」

 

「・・・・・・はっ! これは夢にまで見たハーレム体験ができるチャンスなのでは!?」

 

 

客の方がすでに盛り上がっている。子連れなどは単純に写真を撮りたいだけのようだが、明らかに危ない妄想にまで走るバカも散見される。非難じみた目でマヌスクリプトを見ると、本人もここまで反響が大きいとは思っていなかったようで明後日の方角を見ながら口笛を吹く。

代理人はそれ以上文句は言わなかったが、とりあえず付け足しておく。

 

 

「・・・・お一人様一回まで、それとご注文された方に限る、これでよろしいですねマヌスクリプト?」

 

「あ、ありがとう代理人!」

 

「後日何らかの処分を考えておきます。」

 

「・・・・・・・はい。」

 

 

何はともあれ要望は通った。客の何人かはガッツポーズしたり感極まって泣き始めたり・・・・カオスだ。

釈然としないまま、厨房から出された料理を客のところまで持っていく。おそらくこれが最初の要望になるんだろうなぁなどと考えていると、注文した客が誰かわかった時点で思いっきり渋面になる。

 

 

「おぉ代理人さん。 聞きましたよ、さっきの話。」

 

「・・・・・暇なんですか?」

 

 

そこにいたのは在ろう事か、いつぞやの人権団体の会長だった。無駄に紳士的な服装と立ち居振る舞いだが、その実態は代理人ファンクラブ創設者という(代理人にとっては)とんでもない男なのだ。

嫌ってはいないが最大限にまで警戒を強め、さっさと料理を置いて立ち去ろうとするが、まぁ世の中そんなに甘くない。

 

 

「では早速ですが・・・・・」

 

「あぁ、やっぱりあるんですね。」

 

「思いっきり罵ってください!」

 

「・・・・・・・・・・・。」バチンッ

 

 

気がついた時には平手を振り抜いていた。完全に無意識、そして純度100%の敵意だった。かつてここまで無表情で人を殴ったことがあるだろうか、と言えるくらいに。

 

 

「・・・・バカなんですか?」

 

「おぉ・・・・ぶっていただいた上に罵ってもらえるなんて・・・・」

 

「・・・・・もうよろしいですか?」

 

「はい! ありがとうございます!!」

 

 

あのおっさんスゲェ・・・・・それが他の客たちの心境だった。が、良くも悪くも最初の勢いというのは肝心で、その最初があれだけやってくれたのだから他の客も我先にと頼み始める。注文がまだの客などものすごい勢いでメニューをめくっては目で追いかけている。

当然こうなっては店員は引っ張りだこで、中にはハイエンドではなく奥のリッパーやイェーガーを呼ぶ者までいる始末だ。

 

 

「ほら、恥ずかしがってないで口を開けてくれ、お嬢様。」

 

「は、はい・・・・・・あ〜〜ん。」

 

「ふふっ・・・おや? 口元にクリームがついてしまった。」

 

「え? あ、ほんと・・・・・あっ。」

 

「・・・・・これで取れただろ? 美しい顔に元どおりだ。」

 

「・・・・・・・はぅ。」パタン

 

 

「もう・・・・・本当に甘えん坊さんだね()()()()()は。」

 

「そ、それはDちゃんだけだよ(何だこの子天使かよ!)」

 

「お兄ちゃんって猫舌なんだよね? じゃあ冷ましてあげるね・・・・ふーっ、ふーっ・・・・・」

 

(うぉおおおおおおおDちゃんがフーフーしてくれるなんてぇええええええええええ!!!!!!!)

 

 

「あ・・・・あの、先生?」

 

「ん? 何を言ってるんだい? 今の私は()()だろ?」

 

「え、あ、はい・・・・じゃなくて、そ、そうだね・・・・・ただ、あんまり見られると食べづらいっていうか・・・・・」

 

「うん? 美味しそうに食べる君を見るのが楽しいだけだよ。」

 

(あああああああこんな彼女が欲しかったあああああああ!!!!)

 

 

「だ、代理人さん! 『おかえりなさい、あなた』と言ってもらえますか!?」

 

「うわっ、コイツ本当に頼んだぞ!」

 

「マジですみませんうちの後輩が・・・・・」

 

「いえ、これも仕事ですので。 では・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかえりなさい、あ・な・た♪」

 

「かはっ!?」

 

 

いろんな意味でひどい光景だった。ごく一部が白い目で見ているが、止めようとしないあたりどこか楽しんでいるのだろう。それとここは常連が目を光らせている店でもあり、幸いなことに良識から外れた注文はなかった。

その後はいつも通りきた人形たちも巻き込み巻き込まれ、騒がしくも楽しげなひと時が流れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ疲れた・・・・・でも結構面白かったね。」

 

「うむ、なかなか楽しい時間だった。」

 

「それは何より・・・・・で、いい資料は取れましたかマヌスクリプト?」

 

「もっちろん! 特に代理人の『あ・な・t「何かおっしゃいましたか?」・・・・いえ、何も。」

 

 

ようやく閉店となり、まだ店の前にいた客には丁重におかえりになってひと段落がついた。結局最初の客がどこかで話したのか、噂を聞きつけた客が殺到するという事態になり、予定外の大繁盛でケーキの在庫が尽きかけたほどだ。まぁ儲かったのでいいとするが。

 

 

「でも意外だったのよね、処刑人の迫真の演技。」

 

「あぁ、あなたたちは見たことがなかったんでしたね。」

 

「WAさんと416さんのツンデレ対決も面白かったですよね!」

 

「そうだな、二人とも想い人がいるのが悔やまれる。」

 

「直す気はないんですかそのタラシ癖。」

 

 

終始ノリよく楽しんだD。

女性から求められるケースが多く大満足だったゲッコー。

ノリノリで資料を集めまくったマヌスクリプト。

そしてほとんどの要望が罵りと叱責という変な心労を背負った代理人。

慣れないことの連続でぐったりしたまま部屋に戻っていったリッパーとイェーガー。

大変な一日ではあったが、まぁそこまで悪くない一日だったのかもしれない。

 

 

「今日は本当にありがとう、代理人。」

 

「私だけではありません。 協力してくださった皆さんやお客様のおかげです。」

 

 

そうだね、といってニカッと笑うマヌスクリプト。その笑顔を見てついつい代理人も口元が緩むが、忘れないうちにこれだけは告げておこう。

 

 

「それはそうとマヌスクリプト。」

 

「ん? なになに?」

 

「今回の一件は全てあなたの休憩時間としてカウントします。 当分は業務に励むように。」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 

end




マヌスクリプトやゲッコーを出したい。
でも毎回騒ぎを起こして怒られるのでは忍びない。
・・・・・そうだ、代理人も巻き込んで楽しめばいいんだ!

以上、深夜に目が覚めて思いついたことでした。


というわけでキャラ紹介。

マヌスクリプト
今回の元凶。ある意味いい仕事をしてくれた。
お姉さんキャラから妹キャラ、子供っぽさから大人の色気まで幅広く演出できる。こんな彼女が欲しかった

ゲッコー
いつもの。
女性人気が凄まじいが男性からも熱い支持を受ける。この時は主に幼馴染キャラになることが多い。
倒れそうになった女性は両手と尻尾で優しくキャッチ。

D
こういうイベントが楽しくってしょうがない。
見た目は代理人なのに中身は快活な少女なのでそのギャップがいい。
お兄ちゃんって言われたら誰だって堕ちる。

代理人
喫茶 鉄血が誇るS担当。
手が出たのは会長だけだが、それだけ遠慮がないと言える。
ちなみにあの後輩は『ご飯にします?お風呂にします?それとも・・・・ry』と言わせたかったらしいが、直前でへたれた。

リッパー&イェーガー
番外編で。

処刑人&WAちゃん&416
番外編で。

会長
普通の客を殴らせるのはなぁ。でも一発目くらい飛び抜けて変態がいいなぁ。
・・・・あ、いるじゃん。


別の作品でリクエスト用の活動報告を載せているのでこちらでも載せます。本編・番外編・もしくはこんなIFでも構いません。
ぜひ送ってね!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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外伝:ドルフロ幼稚園の鉄血先生たち

なんかパッと浮かんだけど短編で投稿するのもなぁ、って感じだったので外伝ってことで。

クルーガーを園長にしたらそれこそ「組長」って呼ばれそうなのでボツに。


ここはどこかの平和な世界。

特に大きな事件が起きるわけでもなく、人々がいつも通りの営みを続ける街。欧州にある一角、通称S09地区と呼ばれる場所では、ちょっと変わった幼稚園がある。

無駄に広い敷地に、服装もまばらな先生たち。そんな用意園では、今日も今日とて子供達の元気いっぱいな声が聞こえる。

 

 

「うぇええええええん・・・・」

 

「おいおまえ! 私の妹をいじめるな!」

 

「ふん! 私はカンペキよ! M4とはちがうの!」

 

「おいおいなんの騒ぎだ?」

 

「びぇええええええええ!!!!!!」

 

「エクス先生! こいつが私の妹をなかせたんだ!」

 

「わ、私はわるくないもん!」

 

「あ〜わかったわかった。 よしよし、泣き止んだか〜?」

 

「うぅ・・・ぐすっ・・・・」

 

「おう、偉いな。・・・・さて416、とりあえず謝れ。」

 

「な、なんでよ!」」

 

「人を泣かせたら謝る、それができなきゃ完璧とは言えねぇ。」

 

「うっ・・・・ご、ごめんなさい。」

 

「・・・・・・・うん。」

 

「手慣れてるな、処刑人?」

 

「なんだハンター、いつもの寝坊助はどうした?」

 

「今頃あの3姉妹におもちゃにされているだろう。」

 

「・・・・・・止めてやれよ。」

 

 

 

 

「うぅ〜〜〜〜〜〜ん・・・・・」

 

「45ねぇ! ぜんぜん起きないね!」

 

「そうね、こんどはほっぺたを伸ばしましょ。」

 

「あたいもやる〜。」

 

「こーら、寝てる子にいたずらしちゃダメでしょ?」

 

「ふふ、本当に仲良し姉妹ね。」

 

「あ、カカシ先生!」

 

「と、いんとるーだー先生。」

 

「ぷっ、『いんとるーだー』ですって。」

 

「黙りなさい『カカシ』のくせに。」

 

「あ゛?」

 

「先生先生!」

 

「ん? なぁ〜に?」

 

「そこでくろい虫拾ったの!」カサカサカサ

 

「「ーーーーーーーーー」」バタッ

 

「あれっ!? 先生!?」

 

 

 

「きゃはは! ここまでおいでー!」

 

「ちょ、ちょっと! 落ちたら危ないからちゃんと掴まってなさい!」

 

「えぇ〜大丈夫だよ、ね! P7ちゃん!」

 

「そうだねG41ちゃん!」

 

「二人とも、降りてきなさい! 先生の靴に画鋲を入れたのは許してあげるから!」

 

「やーだよ! 捕まえたかったら捕まえにおいで!」

 

「チビ先生じゃとどかないかもね〜!」

 

イラッ

「・・・・・怒らないから降りてきなさい!」

 

「「あはははははは!!!!」」

 

「・・・・・・・・・・。」スタスタスタ

 

「「・・・・・・・あれ?」」

 

ダダダダダダッ

「二人とも、覚悟しなさい!」ガイア装備

 

「「うわぁあああああああああ!!!!?」」

 

 

 

「・・・・・・なんで私がガキの相手なんか・・・。」

 

「代理人の、それとエルダーブレインからの命令だ。 従わない理由などない。」

 

「全く・・・いいわよねあんたは、ガキの相手なんか苦でもないでしょ。」

 

「くくく・・・・それはこっちのセリフさ。」

 

「あ? どういう意味よそr「(ガラガラ)・・・・・せ、先生。」・・・なぁに? どうしたのスプリングちゃん?」

 

「こ、これ! 先生のために作ってきたの! ・・・食べてくれる?」

 

「(真っ黒だけど・・・)・・・クッキー? ありがとう。」パクッ

 

「・・・・・ど、どうかな?」

 

「・・・・(苦い、不味い、パサパサする)・・・・お、美味しいよスプリングちゃん。 じゃあ今度は先生と一緒に作ろうか?」

 

「いいの!? やったー!」

 

「やれやれ、さすがは子供に夢を見せるのが上手い。 なぁドリーマー先生?」

 

「好きに言ってなさい・・・・・あ、ううん、なんでもないわよスプリングちゃん!」

 

 

 

 

「せんせ〜、今度は何作ってるの〜?」

 

「ん〜? なんだと思う?」

 

「う〜〜ん・・・あ、線路!」

 

「じゃあ電車?」

 

「でも、電車って空とぶの?」

 

「ふふふ・・・・これはね、ジェットコースターっていうとっても速い列車なんd「アホかっ!!!」痛っ!? 何すんのよゲーガーちゃん!?」

 

「お前は! こんな小さい子供を!! ジェットコースターに載せるつもりか!?」

 

「あ、安全装置だってついてるもん! それにジェットコースターが嫌いな子供なんていないし!」

 

「トラウマになったらどうするつもりだ!!!」

 

「あーー!!! ゲーガーちゃん先生がまたアーちゃん先生をいじめてるー!」

 

『わーるいんだ、わるいんだ! せーんせーに言ってやろー!!!』

 

「子供に混じって・・・・それでも先生か貴様は!」

 

「わぁ! ゲーガーちゃんが怒った!」

 

『逃げろー!!!』

 

「ま、待てこのアホ上司がぁああああああ!!!!!!」

 

 

 

「相変わらず楽しそうなところですな、園長先生。」

 

「申し訳ございません、騒がしい者ばかりで。」

 

「・・・・まぁ、先生としてはどうかなってのが多いのは事実ね。」

 

「ほぉ、お前が言えるのかペルシカ。」

 

「それはどういう意味かな負け犬先生?」

 

「よし、表に出ろこの病弱引きこもりが。」

 

「やってやろうじゃない。」

 

「・・・・・はぁ。」

 

「はっはっはっ! まぁ我々先生がこれくらい自由でちょうどいいじゃないか。 その方が、子供達も伸び伸び過ごせるというものだ。」

 

「・・・・感謝します、クルーガー理事長。」

 

「うむ、ではこれからも頼んだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エージェント園長先生。」

 

 

 

これはどこにでもありそうな、しかしどこかおかしな先生と園児たちの物語。

 

 

 

 

続かない。




というわけで、ちょっと息抜きに投稿してみました。
これ自体に続きなんてありませんが、フリー素材ですので書いてくれてもいいのよ?

喫茶 鉄血同様終わりの見えなさそうな話だけど。


喫茶 鉄血のリクエストを受け付けてます。
が、今回みたいな小話も一応受け付けてます。
よろしければどうぞ!
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番外編20

この番外編もついに20回目。
長いような短いような・・・・・おっと、なんだか年寄りくさくなってしまった。

さて今回は
・装甲兵たちの日常
・side彼女
・資料収集・一般参加の部
の三本です!


番外20-1:装甲兵たちの日常

 

 

土煙を上げ、荒野を走る一台のトラックとその前後を走る装甲車両。側面に描かれたマークは『鉄血工造・輸送部門』のもので、そのすぐ横にはこの部隊のパーソナルマーク、ゲーガーの部隊であるものが描かれている。

鉄血工造は基本的に武装した人形がほとんどおらず、時と場合に応じて傘下のPMCから借りてくるのが基本だ。だが輸送部門に関してのみ、護衛と障害排除を目的として武装されている。

 

それはつまり、それだけ妨害が多いということだ。

 

 

「・・・・正面から対向車両、三台。」

 

「総員警戒態勢、こんな場所にあんなバンがそう何台もうろついてるとは思えん。」

 

「了解・・・・・っ!? ロケットランチャー!!!」

 

 

明らかに改造車なのだろう、天井がパカっと開き身を乗り出した男がロケットランチャーをぶっ放し、護衛の装甲車両に直撃する。

もちろんこんな程度で破壊できるものではない(アーキテクト印の超装甲である)が、爆風と砂塵で視界が奪われる。車両に乗っていたAigisたちはいち早く飛び出していったゲーガー(隊長)に続き、各々の武装を持って応戦する。

 

 

「今度はなんだっ!? また人権団体か!?」

 

「武装は・・・・一つ前の主力ライフルだと!? 軍隊か何かかよ!」

 

「ま、最新型じゃないなら問題ないな!」

 

 

敵に最も近かった一人が、盾を構えて肉薄する。敵は慌てて銃を撃ちまくるが、ただでさえ硬いAigisの、それもさらに硬い盾など貫けるはずもない。結果そのまま盾でど突かれ、10メートルくらい吹き飛ばされた。

 

 

「おい! 射線開けろ! 先にバンを潰す!」

 

「よし、任せた!」

 

 

後ろにいた一人は護送車からなにやらゴツいものを取り出し、両手で構える。それは大昔の対戦車砲・・・・・というより戦車の主砲をそのまま手持ちにしたような感じで、Aigisが両手で持たなければならないほどの重量と反動がある。

アーキテクト曰く、「社長砲の劣化版」。

 

 

「ファイアアアアアアア!!!!!!」

 

 

チュドーーーーーーーーッン

 

そんな映画のような爆発を巻き起こし、三台のバンがまとめて吹き飛ぶ。もともと勝てる見込みもなかったが流石にこれは無理だと諦めたのか、襲撃者たちは武器を捨てて投降の意思を見せる。

 

 

「ご苦労だった。 二号車はグリフィンの回収部隊が来るまでここで待機、一号車はこのまま護衛を続行する。」

 

「了解です。 ・・・・・・よっこいしょ。」

 

 

ようやく重すぎる武器を地面に置き・・・・・・しかしその姿勢のまま顔だけ上げる。

その視線の先では、彼らの敬愛してやまない上司が護送車の、やや高めにある助手席に乗り込むために足を上げている。

 

その短いスカートの下の布を、戦闘用の記録容量を使って録画する。

 

 

「・・・・・・・ふぅ。」

 

「よくやった同志よ・・・・・あとで送ってくれ。」

 

「あぁ、勿論だ同志よ。」

 

「? 何かいいことでもあったのかお前たち?」

 

「「「いえ、なにも。」」」

 

「??? そうか。」

 

 

武装を積み込み、再び護送車が動き出す。

これが彼らの日常の、ほんの一部分である。

 

 

 

 

 

 

 

「今日の隊長はな・・・・・黒だったよ。」

 

「「・・・・ほぉ。」」

 

 

end

 

 

 

 

番外20-2:side彼女

 

 

それは突然の電話だった。

その日私とD-15は朝からずっとそわそわしていたのだ。だってあのハンターが、仕事先で負傷したと聞いたから。幸い大したことではないらしいが、療養ということなら私たち二人で労ってあげよう。

・・・・・と思っていたところへの電話だった。

 

 

「はい、AR-15です・・・・・G11?」

 

『やぁ、こうして電話するのは久しぶりだね。』

 

 

かけてきたのは404のゆるキャラ、G11。でも普段から宿舎も近い私たちは基本的に電話しない。よっぽどの緊急事態かとも思ったけど、声の感じからしてそんなものではないらしい。

 

 

「何か用?」

 

『うん、でもその前に・・・・D-15もいる?』

 

「D-15? えぇ、いるわよ。」

 

 

D-15に用事かしら?正直心当たりはないけど、まぁ二人の話に首を突っ込むのも野暮よね。

 

 

「じゃあ呼んでくるわね。」

 

『あぁいや、呼ばなくても大丈夫だよ、あなたに伝えるから。』

 

「伝言? なら直接言ったほうが・・・・」

 

『いやいや、二人に関わることだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきハンターがね、女の人と一緒に来たんだよ。 それも二人、どっちも美人さんだね。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

今なんと?

 

「・・・・・それ、本当なの?」

 

『うん。 今もまだいるよ。』

 

「喫茶 鉄血よね? すぐ行くわ、ありがとう。」

 

『どういたしまして〜。』

 

 

乱暴に通話を切り、D-15を呼びに行く。

ふふふ・・・そう、人が心配してあげてるのにそんなことするのねハンター・・・・・今行くから待ってなさい!

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さて、AR-15から事情を聞いてやってきたわけだけど・・・・・いた、確かにいた。二人とも身なりはわかっているけど、確かに美人さんだ。しかもなにやら親しそう。笑い合う、ってわけじゃないけど自然体で話してる感じ。

っていうか近くない!?まるっきり他人であの距離感はないよね!?隣を見ればAR-15も同じことを考えていたらしく、憤怒の炎が見えるようだ。

 

 

「・・・・・ねぇD-15。」

 

「なに? AR-15。」

 

「もうそろそろ我慢の限界なんだけど。」

 

「奇遇ね、私もよ。」

 

「「・・・・・・・・・。」」

 

 

私たちは同時に窓から離れ、入り口のドアに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?その後どうしたかって?言わせないでよ・・・・・。

でも可愛かったなぁ、涙目で謝るハンター・・・・・えへへ・・・・。

 

 

end

 

 

 

番外20-3:資料収集・一般参加の部

 

 

「・・・・・どういう状況なの、これ?」

 

「あら、いらっしゃいまs・・・・・・珍しい組み合わせですね。」

 

「あぁ、そこでばったり会ってな。 立ち話もなんだしってことで来たんだが・・・・なんだこりゃ。」

 

 

マヌスクリプトの提案により訳の分からない企画が行われている喫茶 鉄血の現れたのは、処刑人に416にWA2000というかなり珍しい三人組。ちなみに彼らが遭遇している場面だが・・・・・

 

 

「イェーガーちゃん! もう一回、もう一回言って!」

 

「・・・・・あ、あなたのことなんて、好きじゃないんだからねっ!」

 

「いぇええええええええええええい!!!!!!」

 

「・・・・・・死にたい。」

 

 

「リッパーちゃん、これ付けてこのセリフを言ってくれ!」

 

「・・・・・・冗談だろ・・・・」

 

「・・・・・覚悟を決めてくださいリッパー。」

 

「厄日だ・・・・・・・・・(ネコ耳装備)・・・・あ、遊んでニャン。」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「だ、代理人〜〜〜〜〜〜。」

 

 

なるほどこれはヒドイ。

が、本当に今日は厄日なのか、イェーガーの方にいた客の集団が三人を見る。より正確には、WAと416の方を。

 

 

「おい見ろ、グリフィンのツンデレ女王だ!」

 

「素直になれないWAちゃん、いい!」

 

「認めたいけどプライドが邪魔する416ちゃんも最高!」

 

「「・・・・・・・・。」」

 

 

悪夢だ。これはきっと悪夢に違いない。そそくさと帰ろうとした二人だったが、

 

 

「あれ、できないんだ?」

 

「ぐりふぃんのエリート(笑)」

 

「やってやるわよ!」

 

「その言葉、後悔させてあげるわ!」

 

「・・・・・・え?俺もやる流れなのか?」

 

 

安い挑発で乗ってしまった二人にひきづられる形で、処刑人も店の奥へと消える。

数分後、制服に着替えた三人が出てきた途端に場は大いに盛り上がった。

 

 

「さぁ、いつでも来なさい。」

 

「私は完璧よ。」

 

「あ〜、まぁ、お手柔らかに。」

 

 

そんな三人に、客たちは我こそ一番と言わんばかりに要望をぶつける。もちろん際どいことをやろうとすれば代理人が本気で怒るのでナシだ。

 

 

「・・・・ほら、注文のケーキよ、ありがたく受け取りなさい。」

 

「あ、ありがとうWAちゃん!」

 

「別に・・・・あなたのために作ったんじゃないから・・・・・・何見てんのよ、勘違いしないで!」(演技)

 

「す、素晴らしいツンデレだ。」

 

 

「はいご主人様、アイスコーヒーよ。」

 

「416ちゃんに飲ませて欲しいなぁ。」

 

「はぁ? バッカじゃないの? ・・・・・・まぁ、いいけど。」(演技)

 

「ゴクゴク・・・・・うん、美味い!」

 

「・・・・・・そ、じゃあ私は戻るから。・・・・・・お、美味しいって言ってくれた・・・・」(演技)

 

 

「・・・・・・なんであんなにノリノリなんだよ。」

 

「他人事のようで申し訳ありませんが処刑人、お呼びですよ。」

 

「チッ、絶対無理難題言うつもりだろあの顔。」

 

「ふふっ、そうですね・・・・・あなたにはできないと()()()()()のでしょう。」

 

「はっ、しゃあねぇ、本気出すか。」

 

 

WAと416がツンデレ祭りを繰り広げる一方、とあるテーブルで語られていたのは処刑人のこと。男勝りな性格ということはわかっているので、そんな処刑人に恥ずかしがるようなセリフを言わせたいらしい。

・・・・・・追加注文したケーキやドリンクの数が、その熱意を物語っている。

 

 

「・・・・で、まずはどいつだ?」

 

「俺たち仮にも客なんだけど・・・・・・まぁいっか、じゃあ早速、満面の笑顔で『おかえりなさいご主人様』と言ってもらおうk

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

 

 

( °д°)

「・・・じゃ、じゃあそのまま語尾をネコっぽくして接客してくr

 

「うふふ、今日のケーキのお味はどうでしたかニャ?」

 

 

 

( °д°)( °д°)

 

「じゃ、じゃあ逆に優雅な感j

 

「あらお客様、口元が汚れておりますよ。」フキフキ

 

 

( °д°)( °д°)( °д°)

 

 

誰だこいつ、と思ったのは要望を言った客だけではないはず。代理人とイェーガー、リッパー、416は以前に見たことがあるためそこまで驚きはしなかったが、初見ではまず開いた口が塞がらない。

普段の格好や口調から荒々しいイメージが多いが、その仕草と口調を変えるだけで、黒の長髪も相まって一気に清楚感が溢れ出す。

 

 

「つ、ツンデレとk

 

「ほ、ほら! 食べさせてあげるから口開けなさい! ・・・・・・か、勘違いしないでよね、早く帰ってもらいたいだけなんだから!」

 

「ヤンデr

 

「美味しかったですか? 美味しかったですよね? よかったぁ〜・・・あ、まだまだありますから()()()食べていってくださいね! はいあ〜〜〜ん・・・うふふふ・・・・・」

 

「・・・・・あそこまでやれたら尊敬するわ。」

 

「完璧って、あんなのを言うんでしょうね。」

 

 

結局後半、処刑人が仕事で戻らなくてはならない時間になるまで、彼女の独壇場は続いたのだった。

帰り際のその顔は、やけに清々しかったらしい。

 

 

end




キャラ崩壊どころじゃないけどもう気にしないよ!
何気に今回はどの話にもハイエンドが出てくるという珍しい回になりました。

ではでは各話の解説

番外20-1
第八十話・・・・とは厳密には関係ないお話。ふざけているけど彼らだってゲーガー直属の部下なので普通に優秀。
映像はメンテの際に発見、没収されました。

番外20-2
CO-3の同時間軸。
G11は決して嘘は言わないけど真実も言わない、よって聞き手の解釈が全て。
明らかに誘導してはいるけれど。

番外20-3
第八十一話の一場面。
処刑人のキャラ崩壊がすごいけど、演技だからきっと問題ない。
おさらいしておくと、処刑人は病院なんかを守るような任務によく出る傭兵。老人や子供、難民と話していくうちになんか色々できるようになった。

リクエスト、受け付けてます(無視してもいいよ!)
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第八十二話:飛べ、私!

翼だとか高所恐怖症だとか暗号だとか、ツッコミどころ満載の人形ちゃんですねM1014って。
まぁ、(多分)飛べるって言ったから飛んでもらおうか。


「だ、代理人! 助けてください!」

 

「な、何事ですかというかその翼をしまってください。」

 

 

昼真っ盛りの喫茶 鉄血。ここ数日ゴタゴタ続きで忙しかったが、今日は比較的穏やかに過ごせそうだ・・・・・そう思っていた朝の自分を恨みたくなる。

駆け込んできたのは大きな翼状の装甲が特徴のショットガンタイプ、M1014だ。悲痛な声と涙目なので何かあったんだろうが、正直面倒な予感しかしない。

 

 

「・・・・それで、どうされましたか。」

 

 

努めて冷静に尋ねる。ちなみに泣きついてきて次の言葉がアイスコーヒーとパンケーキだ。どう考えても大したことじゃないだろう。

パンケーキを頬張りコーヒーを飲んでふぅと一息つくと、

 

 

「あ、そうそう、相談したいことがあるんでした!」

 

「・・・・・・・。」

 

 

そっちが駆け込んできたんだろう、という言葉をぐっと飲み込んだ。まぁいつまでも泣かれるよりかはマシだが、これは別の意味で苦労しそうだ。

ようやく話す気になったM1014だが、突然閉じていた翼を開き(両隣に客がいなくてよかった)パタパタと動かす。

 

 

「代理人さん。」

 

「なんでしょう。」

 

「・・・・・コレ、飛べますか?」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

 

沈黙。

パタパタという音だけが二人を包み、互いに言葉を必死で探す。

というか今なんと言った?飛べるかと聞いたか?コレが?確かの彼女の装甲はSGの中でも特殊で、どういう意図かは知らないが翼のような形状だ。形だけなら飛ぶ姿は想像できる。

だが、これは装甲なのだ。銃弾を防ぐ鉄の塊。羽ばたくと言っても根元で動くだけで、とてもじゃないが飛ぶ姿は想像できない・・・・・いや、無理だろう。

 

 

「・・・まず、何があったか教えていただけませんか?」

 

「え? あ、そうですね。 ついさっきのことなんですけど・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜〜〜〜〜ん、今日もいい天気。 さぁてパトロール頑張りますか。」

 

 

グリフィンの戦術人形は、その任務の多くがパトロールや軽微である。人権団体の過激派やテロなどはいるがそういうのは軍が先に出るため、よほどの小規模かつこの街中にまで来ないと戦うこともほぼない。

で、パトロールというとしっかりとしているようにも聞こえるが、その時間の半分以上が住民との立ち話である。これは指示というよりも推奨されていることで、人間とコミュニケーションを取らなければただの冷たい人形だと認識されてしまう。よって、話しかけられたら理由がない限り応えてほしいと上に言われているのだ。

 

そして今回は、まさにそれが原因でもあった。

 

 

「セーフティ・・・よし。 服装、よし。 装甲は・・・・・うん、大丈夫。」

 

 

いつも通り簡易の点検を済ませ、その一環で翼をパタパタと動かす。これが商店街や路地ならまだよかったのだろうが、彼女がいたのは公園。そしてこの時間、公園は子供達で賑わっている。

そんな子供たちが、面白そうなこと(羽ばたく翼)に興味を示さないはずがない。

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん! それもう一回やって!」

 

「え? これ?」パタパタ

 

「すごーい! ね、もっと速くやって!」

 

「う、うん、いいけど。」パタパタパタパタ

 

「すごいすごい!」

 

「んふふ・・・・すごいでしょ!」

 

「うん! 羽が生えた人形なんて初めて!」

 

「じゃあお姉さん飛べるの!?」

 

「わぁ! 飛んで飛んで!」

 

「・・・・・・・うん?」

 

 

誰も飛べるとは言っていない、がそんなこと子供に言っても意味がないことくらいわかっている。だがどうにかして誤解を解かないと・・・

なんて思っているうちにふと子供たちの会話を聞くと、自体は思いもよらぬ方向に動いていた。

 

 

「お姉さんは人形だから、きっとものすごく速いんだよ!」

 

「マジで!? 鳥よりも!?」

 

「それにきっと高くまで飛べるんだよね!」

 

「いいなぁ、私も飛んでみたいなぁ。」

 

「え、えっとね・・・お姉さんはその・・・・」

 

「じゃ、じゃあ私、お姉さんに背負ってもらったら飛べるかな!?」

 

「あ、ずるい! 俺が先だ!」

 

「ご、ごめんね、実は私飛べn

 

「お姉さん、いいよね!?」

 

「も、もちろんよ!」(あぁあああああ私のバカああああああ)

 

 

見栄っ張り、しかも子供にいいところを見せたいという欲求が、ついつい口を滑らせる。結局その後、来週のこの時間に公園に集合ということで解散、後に残されたM1014は真っ青になりながら走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ということなんですよ!」

 

「・・・・自業自得では?」

 

「うぐっ・・・・」

 

 

ぐうの音も出ない現実である。とはいえわざわざ頼ってもらって何にもアドバイスできない、というのは流石にアレなので、代理人も割と真剣に考える。

まず断る方向だが、これは正直難しい。あった子供がどこに住んでいるかもはっきりせず、しかも子供のことだからもう言いふらし回っているだろう。最悪、街中の子供がきてもおかしくはない。

次に飛ぶ方法。しかも予定では子供を載せるというのだから大変だ、が不可能ではない。要は無理やりにでも飛ばせばいいのだから。ただこの場合、一週間という短い期間が問題になる。

短期間で、確実に成果を出し、アフターケア(元に戻す)してくれるところ・・・・・・・・・・あ。

 

 

「あそこなら・・・・・いや、でも流石に・・・」

 

「なになに? できそうなとこがあるんですか!?」

 

 

あるには、ある。だがちょっと、けっこう、かなり頼りたくない。

 

 

「・・・・・正直、安心できる要素はありませんが、一つだけ。」

 

「どこですか!? 教えてください!」

 

「・・・・・・・17labです。」

 

「17・・・lab・・・・?」

 

 

首をかしげるM1014。まぁこれは当然のことで、16labがアタッチメント等の販売も行っているのに対し17labはスキンやら怪しげな装置やらを作るだけなので、いまいち一般には知られにくい。スキンに関してもグリフィンに卸されたものを支給、もしくは購入という形でグリフィンから人形が買うため、17labの名前はまずでない。

知らないとは、時に残酷なことである。

 

 

「そこならできるんですよね!? じゃあ行ってきます!」

 

「・・・・・・・いってらっしゃい。」

 

 

代理人から連絡先をもらい、早速飛び出していくM1014。

そして彼女は知ることになる、17labがどう行った集団なのか、なぜ代理人が渋るような態度だったのか。

そして、そんな17labと非常に仲の良い人物がいることを。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さて諸君、今日は集まってくれてありがとう。

 

早速だが、本題に移ろう。まずはこの資料を見てくれ。・・・・・そう、戦術人形M1014だ。これは彼女からの依頼である。

内容は至極シンプル、『空を飛びたい』そうだ・・・・・・もう一度言うぞ、空を飛びたいそうだ・・・・・・・心が踊らないかね?

これは我々への挑戦状ととってもいいだろう。戦術人形を空に上げる、素晴らしいじゃないか。では早速議論していこうじゃないか。

 

 

はいはーい! じゃあこの試作ターボジェットを使うべきだと思うよ。

これなら推進力も得られるし、なにより速度が段違い!

 

 

ふむ、燃費が悪いと言う理由だけでボツにされたあれか・・・・・・よし、採用!

 

 

主任、そのままでは彼女はともかく乗せる予定の子供たちが保ちません。そこで・・・・・・この『気流操作くん』を積みましょう!

 

 

それも確か燃費が悪いと・・・・・・・採用!

 

 

しかしこのままでは飛行時間はごくわずかに・・・・・そこでこの超小型マイクロウェーブ送受信装置を使います!これなら燃料分の重量も削減でき・・・・・その分ナニカ積むこともできます!

 

 

見た目がダサいと言うくだらん理由で廃案になったヤツか・・・・・・・もちろん採用!

 

 

あ! じゃあウチで作ったこの『反重力た〜ぼ君』を載せてほしいな!生産コスト云々でゲーガーちゃんに止められたけど私は諦めないぞ!

 

 

素晴らしい!そう言うものを待っていた!採用だ!

 

 

主任、まだまだ提案したいことがありますがこのままでは終わりそうにありません!

 

 

よし、では会議はここまでだ。これから一週間、不眠不休で作り上げるぞ!あと何か載せたくなったら載せてしまえ、全部採用だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

五日後。

17labの研究所を訪れたM1014と、その付き添い兼何かあった時のストッパー役である代理人は、目の前の物々しい物体に開いた口が塞がらなかった。

形状としてはM1014の装甲を一回りほど大きくしたようなもので、通常の装甲に追加する形となる。取り回しやらは大幅に悪くなるがもともと飛ぶためだけのユニットだ、問題ない。

むしろ問題なのは、そのユニットに取り付けられたいかにも怪しい部品の数々だった。

 

 

「おぉ、お待ちしておりましたM1014さん!」

 

「やぁやぁ待ってたy・・・・だ、代理人?」

 

「・・・・・またあなたですかアーキテクト?」

 

「待って!?今回は誘われただけで実質無害だよ!?」

 

「まぁまぁ今それは置いておきましょう。 では早速ですが動かしてみましょうか。」

 

 

そう言った主任の顔はげっそりやつれて目の下にはクマができている。が、それに反してやたらと上機嫌なところがすでに危なっかしい。

言いようのない不安にかられながらM1014はユニットをつける。つけ心地に関しては流石と言うべきか、全く問題なく動かせる。そして接続してみて改めてわかったが、やはりとんでもないものを積んでいる。

 

 

「このユニットはご要望通り、空を飛ぶことを目的としております。さらに今回は人が乗ると言う条件ですので、一人分背負えるスペースと取手もつけております。」

 

「・・・・・あ、私? じゃあ次はその性能! 試作の強力なジェットエンジンを乗っけて、さらに反重力装置での滞空も可能! 本人と同乗者のために周囲の気流を受け流す装置も乗っけてるからどれだけ飛ばしても問題ないよ!」

 

「またこれにより通常ではわずか数分しか行えない飛行ですがこれも問題ありません。小型のマイクロウェーブ受信機を搭載し、地上からエネルギーの充電を行えます。」

 

 

鼻息を荒げて説明する主任とアーキテクトに若干の恐怖を覚えつつ、しかし意外とまともと言える出来であることに驚く代理人。もっとこう、夢とかロマンとかを乗せると思っていたのだが、まぁ一般人が絡めば多少は自重するようだ。

 

 

「ほ・・・・・本当に飛べるんですか・・・・?」

 

「えぇ、では試してみましょう・・・・・・・遠隔起動!」ポチッ

 

 

真っ赤な、いかにも危険なボタンを力強く押し込むと、M1014のユニットから一斉に火が吹き、次の瞬間には垂直に飛び上がっていた。

 

 

「いやぁああああああああああああ!!!!!????」

 

『あーあー、聞こえますかM1014さん?』

 

「聞こえてるっ! 聞こえてるから止めてええええええ!!!!!」

 

 

涙声で要求する空中で変に姿勢を変えてしまったせいで、今の彼女は高速で円を描きながら緩やかに高度を上げているところだ。

 

 

『止める、というのは少し難しいですねぇ。』

 

「な、なんで!?」

 

『このボタンはただの起動装置でして、軌道を操作できるわけではありません。 なのでこれを切ると、その高さから墜ちることになります。』

 

「ひぃ!? ど、どうすればいいんですか!?」

 

『まぁとりあえず飛び方を覚えてもらって、あとはご自身で高度を下げるしか。』

 

 

M1014の悲痛な叫びが聞こえる。それでもどこかやりきった顔の主任とアーキテクトを拳で黙らせると、代理人は通信機と装置をひったくってM1014に語りかける。

 

 

「聞こえますか?」

 

『いやぁああああああ助けてえええええええええ!!!!!!』

 

「落ち着いてください。 まず反重力装置というものを起動して、エンジンを切ってください。」

 

『反重力装置・・・・・・こ、これ・・・・・・で、エンジンを・・・・切っていいの!?』

 

「装置があれば浮遊できるはずです。」

 

 

説明を聞いておいてよかった、と思う代理人。もう豆粒よりも小さくなっているM1014だが、どうやらその場で止まっているようだ。それを確認すると、代理人も次の指示を飛ばす。

 

 

「徐々に出力を下げて、高度を下げてください。 落ち着いて、ゆっくりとですよ。」

 

『りょ、了解・・・・・』

 

 

高度を下げ始めて十数分後、途中で小さく悲鳴をあげたりしながらもなんとか地上に帰ってきたM1014は、泣きながら代理人に抱きついた。よっぽど怖かったのだろう、濡れた子犬のようにブルブル震えている。

 

 

「代理人〜怖かったよ〜!!!」

 

「あぁよしよし・・・・・」

 

「うぅ・・・ぐすっ・・・・私、高所恐怖症なんですよ〜〜〜・・・・」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

なぜ今更それを言う、というかなぜそれで見栄を張ってしまったのか。もう飛べる飛べない以前の問題じゃないか。

という言葉をぐっと飲み込んだ代理人。だがもうそれに関しては自分でなんとかしてもらうほかにない。それこそ、そこで伸びている変態技術者どもに頼るとか。

 

 

「高所恐怖症? よろしい、私がなんとかして見せましょう!」

 

「腕がなるねぇ主任!」

 

「ふぇええええもうやだぁああああああ・・・・・・」

 

「・・・・・・・はぁ。」

 

 

結局残りの時間を使ってなんとか対策を練り、本番では一応の成功を収めることになるのだが、17labの変態っぷりも世に知らしめることにもなったのだった。

 

 

end




やりすぎ?17lab+アーキテクトならこれでもぬるい(断言)
技術的に困ったら17labを出せば解決するんじゃないかと思ってるけどきっと間違いじゃないはず。


というわけで今回のキャラ紹介

M1014
グリフィンのSG人形。
装甲の形状が翼っぽいなと思ったら本当に「飛べるかも」みたいなことを言い出したのでじゃあ飛んでもらおう、と。
ところでSGってMなんたらばっかりでややこしいんですけど・・・・

代理人
いつものストッパー。
これだけの惨事やトラブルに見舞われながらも決して壊れない鋼の胃をもつ。

17lab、主任
変態。これでもドルフロでいうと編成拡大×3を超えて×4が目前になったくらい。
彼らに生物兵器を作らせるときっと緑色のダニっぽいのになると思う。

アーキテクト
トラブルをさらに増長させて自分も突っ込むタイプ。起爆剤にも燃焼材にもなり得る万能ちゃん。
仕事、という理由を除けば彼女が一番のオシャレさん。



喫茶 鉄血のリクエスト、受け付けてます!
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第八十三話:彼女の一番になれたなら

今の今まで放っておいた二人をくっつけよう!(唐突)

ちなみに微妙な伏線もどきやそもそも放り投げているカップル予備軍が何組いるのやら・・・・・。


「ねぇ代理人ちゃん、ちょっと相談があるんだけど。」

 

「? 珍しいですね、サクヤさんが相談とは。」

 

 

喫茶 鉄血のカウンター、そこに座るのは休日のややラフな格好のサクヤだ。休みとなれば私服を着こなして街に出るあたり、年中白衣で引きこもるどこぞの猫耳天才と違って女を捨てていないのがわかる。

・・・・・まぁあちらはすでに恋人がいるので問題ないが。

 

さてそれはともかく、トラブル解決係にして人形カウンセラー、悩みをいうよりも聞く方が多いサクヤからの相談はレアだろう。またアーキテクト絡みかとも思ったが、表情から察するにそういうトラブルではないらしい。

 

 

「うん、実はね・・・・最近ゲーガーの様子がおかしいんだ。」

 

「ゲーガーが? ・・・またアーキテクトでしょうか?」

 

「私もそう思ったんだけどね、問い詰める前にそのアーキテクトちゃんからも様子がおかしいって言われちゃってね。」

 

「なるほど・・・・・・」

 

 

これだけ聞けばアーキテクトがどれだけ疑われているかがわかる。が、別に彼女を信用していないとかそういうことではなく、ただ鉄血一のトラブルメーカーだからという理由である。

だがそれでもないとなると、さっぱり見当がつかない。サクヤによるとゲーガーは自分のことをよく信用してくれていて、何かあれば相談に来るのだという。溜め込むよりは吐き出すタイプだ。そんな彼女が溜め込むということは、やはり何かあるのだろう。

 

 

「わかりました。 こちらでも気にかけておきます。」

 

「ありがとう。 ごめんね、巻き込んじゃって。」

 

「いえ、私も放っておけませんから。」

 

「身内に甘いね代理人ちゃん。」

 

「サクヤさんこそ。」

 

 

あとはもう普通の雑談。この日はゲーガーが来ることはなく、何かあれば連絡するとだけ伝えてサクヤは店を後にした。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

あの後特に何かあったわけでもなく、至って平穏な日常が過ぎていった。代理人もゲーガーの件を忘れてはいなかったが、それほど強く気にも留めていなかった。ゲーガーが店を訪れるまでは。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・・ゲーガー?」

 

「あ、あぁ、久しぶりだな代理人。」

 

 

現れたゲーガーの姿は、一言で言えば細かった。もちろん人形なので痩せすぎるとか過度にやつれるとかはない。だがうっすらとしたクマやどことなく虚ろな瞳、いつもよりも格段に細い声のせいで全体的に細く見えた。

ゲーガーはアイスコーヒーだけ注文すると店の奥の方の席に座り、両手をテーブルに置いて俯いたまま動かなくなる。店の常連にしてボイスレコーダーと拡声器と掲示板を足して三倍にしたような人形であるG11も、流石にこれはダメなやつだと判断したのか心配そうに見ている。

サクヤから連絡がなかったから大丈夫と思っていたがこれは重症だ、そう判断した代理人はDに店を任せ、コーヒーを運んだついでにゲーガーの対面に座る。するとゲーガーはスッと姿勢を正し、ニコリと笑顔を作る・・・・・誰が見てもわかるくらいに無理した笑顔で。

 

 

「どうしたんだ、代理人?」

 

「どうした、はこっちのセリフです。 あなたこそどうしたんですか。」

 

「どうもしていないよ、ただ少し寝不足なだけだろう。」

 

 

嘘だ。これに関しては本当ならサクヤから連絡が入る。きっとアーキテクトも知らないことだが、サクヤは寝る前に必ず二人の寝室を見にいっては、ちゃんと寝ているかチェックしている。過保護もいいところだが、もし夜更かししていればすぐにバレる。

 

 

「・・・・・・そんな嘘が通じるとでも?」

 

「・・・・大丈夫だ、心配しないでくれ。」

 

「ご自身の姿を鏡で見ましたか? それで大丈夫と言われても冗談にも聞こえませんよ。」

 

「少し寝たら治るさ・・・・だからもう気にしないでくれ。」

 

「何かあったのでしたら、相談してください。 話すだけでも

 

 

 

 

 

「大丈夫だと言っているだろ!!!」

 

 

 

 

 

店内が静まり返る。客も、Dたちも、そして代理人も、ゲーガーの豹変ぶりに言葉を失った。

ハッと我にかえったゲーガーは周りを見渡して代理人と目が合い、泣きそうな顔で店を飛び出す。

 

 

「っ! ゲーガー、待ちなさい!」

 

 

代理人もそれを追いかけ、店を飛び出した。そのまま逃げるゲーガーを追い、街中を走る。接近戦を前提に製造されたゲーガーの機動力はかなり高いが、ハイエンド最高クラスである代理人がわずかに勝り、徐々に距離を詰めていく。

 

 

(ゲーガー・・・一体どうしたんですか・・・・)

 

 

アーキテクトに怒ることは多々ある。怒りっぽいわけではないが怒りにくいというわけでもなく、口調が荒くなることもしばしばあったゲーガーだが、今回のことは明らかに異常だった。それに、普段から聞き分けが良く自分の非を認められる彼女がこうして逃げ続けていることも、十分異常と言えた。

 

 

「・・・・・・・っ!?」

 

「そこまでですよゲーガー。」

 

 

追いつかれることに焦ったのか、すぐ近くの曲がり角を曲がったゲーガー。だがそこは少し進めば行き止まりとなり、完全に逃げ場を失う。これだけ走り続けて息を荒げていないところが人形らしく、代理人は一切の隙を見せずに道を塞ぐ。

だがゲーガーは諦めるつもりはないのか、強行突破の構えを見せる。無手でできることは限られるが、そうまでして逃げたいのだろう。

 

 

「・・・もうやめましょうゲーガー。」

 

「・・・・・・放っておいてくれ、それで十分なんだ。」

 

「理由も聞かずにそれはできません。 話してください。」

 

「代理人・・・・・できれば手荒なことはしたくないんだ。 だから「だから、なんだ?」・・・・なっ!?」

 

 

光学迷彩解き、ゲーガーの真後ろから現れたアルケミストがゲーガーを取り押さえる。完全に不意をつかれたゲーガーはそれでも逃れようと抵抗し、しかしアルケミストも一切手を抜かず押さえつける。

 

 

「アルケミスト? なぜここに?」

 

「なに、久しぶりに帰ってきてみれば二人の追いかけっこが見えたんでな。 こうしてこっそりついてきたんだよ。」

 

「くそっ、離せ!」

 

 

なおも抵抗するゲーガーを、アルケミストは多少手荒に押さえつける。

本当に異常だ、そうとしか思えないほど抵抗しようとするゲーガーに、代理人が近づく。

 

 

「・・・・何があったんですか? 私たちが協力できることがあれば、なんでもしますから。」

 

「そうだ、それにこれ以上代理人に迷惑をかけるんじゃない。」

 

「うるさい・・・・・これは私の問題「サクヤさんも心配していましたよ」・・・・・・え?」

 

 

突然抵抗がなくなる。その表情は、信じられないものを見たかのように呆然としている。だがその反応で、二人は何が原因でこうなったのかを推測できた。

おそらく、サクヤだ。

 

 

「・・・・教えてください、サクヤさんと何があったんですか?」

 

「・・・・・・・。」

 

「おい、もう大人しく話してくれ。」

 

「・・・・・・は・・・・ははっ・・・・・・」

 

「・・・・・・ゲーガー?」

 

 

小さく笑い始めるゲーガーに、代理人もアルケミストも眉をひそめる。すでに拘束の手は緩めているが逃げ出すそぶりはない。ただ、笑い続けた。

 

 

「そうか・・・・サクヤさんが・・・・・・結局、私も・・・・迷惑をかけるだけだったか・・・・・・・」

 

 

笑い声に自嘲気味の声が混じり、その声に震えが混じる。

ゲーガーは泣いていた。泣きながら、笑っていた。その笑った顔も、諦めたような観念したような、そんな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・落ち着きましたか。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「はぁ・・・・本当に壊れたかと思ったぞ。」

 

 

ひとしきり泣き続け、それが終わると代理人は近くにあったベンチにゲーガーを座らせる。彼女を挟むようにして反対側にアルケミストが座るが、もう取り押さえる必要もなさそうなのでただいるだけだ。

泣き終えたゲーガーは落ち着きを取り戻したようだが、その表情は晴れない。むしろ放っておけば命を立ちそうなほど危うい雰囲気だ。

 

 

「・・・・なにか、あったんですね? 教えてください。 私たちなら力になれるかもしれません。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

 

キュッと唇を噛み締めるゲーガーだったが、一度大きく息を吸い込むと『誰にも話さないでくれ』と言ってから話し始めた。

 

 

 

 

 

 

内容は、やはりサクヤのことだった。ゲーガーにとってサクヤは頼れるカウンセラーであり、アーキテクトの防波堤仲間であり、気の知れた同僚で・・・・・想い人だ。以前のとある一件でその想いに気がつ

き、いつしか彼女の隣に居続けたいとも思うようになった。もちろん想いは伝えていないし、なんだったらこのままでもいいとも思っていたが。

 

ある時、勇気を出して告白してみようかと考え始めた。どんな場所で、どんな言葉で、いやそもそもどうやって呼び出せば・・・・・などなど、それはそれは恋する乙女モード全開だった。たまたま彼女の部屋を覗いてしまったアーキテクトが言葉を失うくらいには。

だがいざ告白することを考えた時に、ふと考えた。

 

・・・・・断られたら、どうしよう・・・・

 

一度そう考えると、それまでの気持ちが全て正反対となってしまった。期待は不安に変わり、彼女の側に立てなくなる未来が頭をよぎる。フられることそのものは別に構わない、だがそのせいで今の関係が壊れてしまうことが怖くなった。

想いを伝えたい、伝えたくない、先に進みたい、今を変えたくない・・・・・そんな正反対の思いが重なり続けた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

「あとは、見ての通りだ・・・・・・ふふっ、サクヤさんに心配かけたくないから隠していたのに、それで迷惑をかけていたのでは意味ないじゃないか・・・・・・。」

 

 

話し終え、乾いた笑いで自嘲するゲーガー。その間、代理人もアルケミストもただ黙って聞いていた。そしてようやく代理人が口を開こうとしたところで、わずかに早くアルケミストがポツリと話し始める。

 

 

「・・・・・最低だな。」

 

「・・・あぁ・・・・・・まさか私がサクヤさんに迷惑をかけ「違う。」・・・・・え?」

 

「私は、お前自身サクヤさんを全く信用していないことが最低だと言ったんだ。」

 

「なっ!?」

 

 

一瞬呆気にとられるが、すぐさまアルケミストを睨みつける。しかし当のアルケミストはそれを冷ややかな目で受け流すだけだった。

 

 

「なんだ? なにか気に食わないことでも言ったか?」

 

「私が・・・・サクヤさんを信用していないだと・・・・・!」

 

「ああそうだ、あれだけ世話になった恩人に対してな。」

 

「っ! 貴様ぁ!!!」

 

 

アルケミストの胸ぐらを掴み、壁にぶつける。怒りと屈辱の入り混じった瞳を、だがアルケミストはフンッと鼻で笑って

 

 

「そうだろう? 何せお前がそうなったのは、サクヤさんを疑っていたからだ。」

 

「私が、いつそんなことをした!」

 

「自分で気づいていないのか? お前は言っただろう・・・・・『今の関係が壊れる』、と。」

 

「それがどうした!」

 

「・・・・・・お前、サクヤさんがその程度のことでお前たちから離れると思っているのか? 自分の子供のように可愛がっているお前たちから!」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

「・・・・・・・はぁ。」

 

 

代理人のため息から、考えていたことは同じようだ。ゲーガーは、拒絶されると思っていた。思い込んでいた上に、そうに違いないと決めつけてもいた。サクヤが、多少気を使うことこそあれど今まで通りに接してくれるはずだとは、微塵も考えずに。

拒絶するような人だと、思い込んでいた。

 

 

「うっ!?」

 

 

一瞬力が緩むと、今度はアルケミストが胸ぐらを掴んで壁に叩きつける。苦痛に顔を歪め、なにをすると文句でも言ってやろうかと見上げると、そこにいたのは修羅のように険しい表情に染まったアルケミストだった。

 

 

「お前はあの人の過去を知っているな、鉄血に加わることになった日に話したはずだ・・・・・その上で、お前はサクヤさんをそんな人だと思ったのか!?」

 

「ち、違っ・・・・・・」

 

「人間に裏切られ、それでも人形たちの身を案じていたあの人を、その想いを踏みにじったんだよ、お前は!!!」

 

「あ・・・あぁぁ・・・・・・」

 

「アルケミスト! それ以上はいけません!」

 

 

火がついたアルケミストを、代理人が止める。だが一度こうなったアルケミストはなかなか止められず、さらに追撃とばかりに口を開く。

これ以上は、ゲーガーが壊れかねない。やや危険だが、武力行使しかないと考えた代理人はサブアームを展開、アルケミストを取り押さえようとし・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲーガー!?」

 

「「「!?」」」

 

 

突然響く女性の声。そこにいたのは、息を切らせながらも確かな足取りでたつ人物、サクヤだった。その後ろからひょこっと顔をのぞかせているのはアーキテクトである。

 

 

「アルケミスト! なにしてるの!?」

 

「え、あ、これは・・・・」

 

「今すぐ離して! ・・・・・大丈夫ゲーガー? アルケミスト、ちょっと話があるから来て!」

 

 

有無を言わせず引き剥がし、連れて行って完全説教モードで喋り始めるサクヤ。座り込みながらポカンとするゲーガーを、アーキテクトが心配そうに見る。代理人もサブアームを格納し、ゲーガーの隣にしゃがみこむ。

 

 

「ゲーガーちゃん、心配したんだよ・・・・・最近ずっとおかしかったから。」

 

「アーキテクト、どうやってここに?」

 

「サクヤさんがDちゃんから連絡もらって、私はG11が連絡してきてね。 代理人が追ったって聞いたから発信機を追って・・・・・・あ。」

 

「・・・・・・・・・・発信機?」

 

「待って待ってちゃんと防犯とかセキュリティ目的だからやましいことはないから痛だだだだだだだだだだだ!!!!!!!」

 

 

アーキテクトの暴露こそあれど、どうやら協力者がいてくれたようだ。まぁ発信機の件は後できっちり聞くとして、サクヤがアルケミストに説教している間に伝えることを伝えてしまおう。

 

 

「・・・ゲーガー。」

 

「っ! だ、代理人?」

 

「・・・・・伝えるなら、堂々とですよ。」

 

「・・・・・え?」

 

 

さっきの話の流れでダメだと思ったが、よもや後押しされるとは思っても見なかったため思いっきり面食らうゲーガー。代理人の後ろでアーキテクトが意味もわからず頷いている。

だが・・・・・

 

 

「わ、私に・・・・・そんな資格なんて・・・・・」

 

「信用()()()()()()()だけ、ですよね。 今はどうですか?」

 

「も、もちろん信用している! だがそれとこれとは・・・・・」

 

「なら十分です。 それに・・・・・・・」

 

 

そう言いながらゲーガーの顔に近づき、ゲーガーにだけ聞こえるような声で言った。

 

 

「好きになるのにも、告白するのにも、資格なんて必要ありませんから。 ・・・・・・応援してますよ、ゲーガー。」

 

「代理人・・・・・・。」

 

 

それだけ言ってスッと離れると、さらにヒートアップしているサクヤの元に向かいなんとかなだめる。散々怒られたのだろうか、あのアルケミストが半泣きになっているのが滑稽だが、生憎と今それを弄る人形はいない。

一人蚊帳の外感があったアーキテクトだが、ゲーガーのそっと近づくと申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「多分、私の一言が原因だよね・・・・ごめんねゲーガーちゃん。」

 

「・・・・お前が謝ることじゃないだろ。」

 

「それでも、だよ。 私もゲーガーちゃんには笑っていて欲しいしね。 あ、もちろんサクヤさんもだよ! ・・・・あれ? そう考えたら二人がくっついてくれた方がいいのかな?」

 

「お、お前なぁ・・・・・・」

 

「あはは! まぁ冗談はそのくらいにして・・・・・頑張ってゲーガーちゃん、お祝いは用意してあげるよ!」

 

「余計なお世話だ・・・・・・・・まぁ、ありがとう。」

 

「どういたしまして! あ、終わったみたいだねってアルケミストなにその泣き顔受けるwwwwゴハァ!?」

 

 

宙を待って墜落したアーキテクトを回収し、代理人とアルケミストは先に店に戻る。サクヤもついてこようとしたが、ゲーガーのケアを頼むというと快く引き受けてくれた。

最後に一度だけ振り返り、ゲーガーと目が合う。代理人は軽くウィンクだけして、帰っていった。

 

 

 

 

 

その一時間後、なぜか顔が真っ赤になった二人が帰ってきたのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

end




あっちで子供(アルケミスト)が前に進み出したのでこっちも進ませようと思いましてね。
なんか久しぶりにアーキテクトがいいキャラになってくれたけど、多分次はないかもしれんな。


てな訳でキャラ紹介

ゲーガー
苦労人。サクヤのお世話になることが多々ある人形で、そのおかげか恋心が。
実はこの作品初期の方では代理人に対して敬語だったが、時間が進んだことでこの口調に。
文章上ではアルケミストとの描きわけが難しい。

サクヤ
人形思い出家族思いな天才。
コラボ当初は1話、もしくは長くても2、3話程度の出演予定だったのに気がつけばもうレギュラー化してる。
ときどき子供っぽくなるのが可愛い。

アーキテクト
トラブルメーカー。
だが仲間思いでとくにサクヤとゲーガーには感謝してもしきれないくらい。
G11とは愉悦仲間で、彼女の開発した極小カメラやマイクなどのモニター役としてG11に渡している。

アルケミスト
いつも通り神出鬼没。
原作でのあの攻撃が瞬間移動なのか光学迷彩なのかわからず、とりあえず光学迷彩にしている。
こいつが身内にキレること自体かなり珍しい(アーキテクトに対してはこれに含まれない)

代理人
ここ最近の面倒ごとに比べれば実にやりがいのある相談。
他人の恋愛は成就させてあげたいが自分のことはほぼ興味なし。


喫茶 鉄血のリクエストボックスはこちらから!
・・・・って書くと催促してるみたいで好きじゃないんですけどね(意訳:見なくてもいいよ!)
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第八十四話:鉄血に育てられた男

リクエストを頂いたので。

ドルフロに限らずこういったIFを考えたりするのがとっても楽しいです。そんな私の最近の妄想はゴジラとガメラが共闘してギドラ一族と戦う話です笑


その日、鉄血工造は大変な混乱に見舞われた。以前のクーデターやハイエンド一斉離反から今日まで、これほどまでに混乱をきたしたことなどないだろう。もちろん普段からアーキテクトのアホな発明やそれを抑えようとするゲーガーとのドタバタ劇が繰り広げられているが、そんなものはトラブルの範疇ではない。鉄血の新入社員マニュアルにも『慣れろ』とだけ書かれているほどだ。

 

ではそんな鉄血工造がなぜ?

その理由はいくつかある。まず一つ、厳重に見張られているはずの敷地内で倒れている人物が見つかった。二つ、その身なりやIDカードから鉄血工造の社員であることはわかったが、肝心の本人の情報が一切見当たらないこと。そして三つ目が・・・・・

 

 

「さ、サクヤ・・・姉さん・・・?」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

サクヤを、この世界には本来いないはずの人物を『姉』と呼んだことだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・それで、私が呼ばれたと?」

 

「そ、そうなのよ代理人。」

 

「話の内容や噛み合わなさから、おそらくサクヤさんと同じ現象のようだが・・・」

 

 

チラッとサクヤと話すその人物を見る。見た感じ若く、まだ二十歳になったかどうかというところだろう。男性だが黒髪を後ろで結ってポニーテールにしており、細く見えるがスキャンした結果はそれなりに筋肉質である。遠目から見ても話が噛み合っていない上、こういう時に冷静に対処できるサクヤも『姉』と言われたことで動揺してしどろもどろになっている。

このままでは埒があかないので、代理人が首を突っ込むことにした。

 

 

「失礼します。 少しよろしいでしょうか?」

 

「あ、代理人ちゃん。」

 

「代理人姉さん。」

 

「・・・・・うん?」

 

 

代理人『姉さん』と言ったか?そんな呼ばれ方などされたこともないし、なんだったら『代理人ちゃん』だってサクヤを含めたごく僅かな人間にしか呼ばれていない。そんな感じで軽く動揺してしまったが、すぐに立ち直って話を続ける。

 

 

「申し訳ございませんが、私はあなたのことを存じ上げておりません。」

 

「そんな・・・でも確かに・・・・・・っ! まさか、エルダーブレインが!?」

 

「「「「エルダーブレイン?」」」」

 

 

説明しよう。

エルダーブレインとは、かつてまだ人間がトップにいた頃の鉄血工造で設計されていた、全鉄血人形の最上位に位置する人形のことである。彼女の指揮の元でハイエンドたちが動き、その指示で末端の人形が動く、そういう予定だったのだ。

・・・・・その容姿を女王様にするかロリっ娘にするか男の娘にするかで揉めたために完成しなかった、という事実は代理人しか知らない。

さてそんな未完成人形の名が出てきたことで、さらに別世界の住人疑惑が高まった。いや、もう十中八九そうなのだが、どうやってそれを伝えるか。

 

 

「サクヤ姉さん、エルダーブレインはどうなったんだ!? 僕はあの時撃たれたはずなのにどうして!?」

 

「お、落ち着いて! まず順番に、ここに来るまでのことを、ゆっくり話して。」

 

 

いまだにパニック状態にある男性をサクヤがなんとか説得し、話を聞いてみることにする。男性はゆっくり、少しずつ話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

男性の名前は『ユウト・スズミヤ』、17歳。物心ついた頃にはすでに鉄血工造に住んでおり、実の両親の顔は見たことがないという。そしてサクヤやハイエンドたちに育てられ、親しみを込めて彼女らを姉と読んでいた。

15を超え、鉄血工造の技師として働き始めるにあたって、始めて自身の過去を明かされた。赤ん坊の頃に鉄血工造の敷地内に捨てられているのを見つけたサクヤが引き取り、育てたのだ。『ユウト・スズミヤ』という名も、煤けた名札に書かれていただけだったという。

そして17歳になったある日、鉄血工造の最高AIであるエルダーブレインが暴走、人形たちが次々と制御不能になったいく。そこで彼は苦しむ姉たちを救うべく、ハイエンドたちをエルダーブレインの制御下から無理やり切り離したのだ。間一髪間に合ったが、その直後に乗り込んできた下級人形に撃たれ、意識を落とす。

 

そして、目が醒めるとここにいた。

 

 

「・・・・・・・・そんなことが。」

 

「そんなことが、って・・・・覚えてないのか?」

 

「ごめんなさい、その「・・・こちらからよろしいですか。」・・・代理人ちゃん?」

 

 

どう答えるべきか困ったサクヤに変わって、代理人が対応する。スッと表情を消し、一切の私情を挟まないまま告げた。

 

 

「スズミヤさん、あなたにとっては残酷なことかもしれませんがお伝えします。・・・・・ここは、あなたの住んでいた世界とは違う世界です。」

 

「・・・・・・・え?」

 

「・・・・・ごめんなさい。 私もあなたのことは知らないし、それに、私も似たような感じなの。」

 

 

それから代理人がこの世界のことを、サクヤが自分の世界でのことを話す。告げられるたびに違うと首を振るも、ニュースやカレンダー、そして写真などの証拠を見せられ、それが事実であることを思い知った。だが事実を知ったからといって割り切れる歳でもなく、まして実の家族のように過ごした人たちと永遠に分かれることになるなど、到底耐えられるものでもない。

 

 

(さて、どうしましょうか・・・・。)

 

 

必要があったとはいえ、冷たく事実を突きつけた代理人はその後のことを考え、悩んでいた。引き取る、というのは言葉では簡単だが実際は色々と難しい。これまでは大人であるサクヤや人形、あるいは常に戦場に身をおいていた者ばかりで、どこか諦めの表情もあった。だが今回はまだ子供と言える年齢で、しかも命の危機に瀕したこともほぼ無い、ただの一般人だ。

預かったところで、目を離した隙に首をつられる可能性だってある。

 

 

「・・・・・・う〜〜〜〜〜ん。」

 

「サクヤさん、どうされましたか?」

 

 

「・・・いや、もううちで引き取ってしまおっかなって。」

 

「本気ですか?」

 

 

雰囲気としては軽くだが、その目にはしっかりと意思が見える。決心したサクヤは立ち上がり、彼の元に歩み寄る。アーキテクトもゲーガーも不安そうに見守る中、サクヤは目線を合わせて離し始める。

 

 

「・・・・・ねぇ、そっちの私は、君のことをなんて呼んでたのかな?」

 

「・・・・・ユウト、と。」

 

「ユウト、か。 ・・・・・ねぇユウト、もしよかったら、一緒にここで働かない?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

俯いていた顔を思わずあげるユウト。目の前の人物が姉と慕う彼女とは別人なのにもかかわらず、ごく自然に重なった。

 

 

「私は、ユウトのお姉さんにはなれないし、代わりにもなれないかもしれない。 でもきっと、向こうの私も困ってる人がいたら、こうしてると思うの。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・これから一緒に暮そ、ね?」

 

 

冗談めかしてウインクまでするサクヤに、ユウトはプッと笑ってしまう。あ、なんで笑うの〜!っと頬を膨らませるサクヤに、ユウトはいよいよ笑いが止まらなくなる。

 

 

「あはははは・・・・・いえ、その、姉さんもよく、そんな冗談っぽい仕草をしてたので、つい。」

 

「なるほど、つまりサクヤさんはどこまでもサクヤさんなんだな。」

 

「ちょっとそれどういう意味!?」

 

 

ゲーガーの茶化しにムキーっと怒るサクヤと、それを煽るアーキテクト。問題の本人そっちのけで騒がしくなる三人に代理人はため息をつきながら、放ったらかしになっているユウトの方へ話しかける。

 

 

「申し訳ございません、いつもこんな感じなので。」

 

「いえ、こちらこそ・・・・・・それに、決心がつきましたから。」

 

 

そう言ってスッと立ち上がり、いつの間にやらアーキテクトを〆ているサクヤの元に歩み寄る。ギリギリと締めあげるサクヤはその手を緩めることなくユウトと目を合わせる。

 

 

「・・・・僕、ここで働きます。 その代わり、あなたのことを、姉さんって呼んでもいいですか?」

 

「・・・・・うん、いいよユウト。 そしておかえり。」

 

「っ! ・・・・・うん、ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい話のところ悪いがそろそろ離してやったらどうですかサクヤさん?」

 

「え?」

 

「」チーン

 

「わぁあああああアーキテクト!?」

 

「惜しい奴をなくしたな。」

 

「まだ死んでないよっ!?」

 

「あ、起きた。」

 

「・・・・・本当によろしいんですか?」

 

「・・・・ちょっと不安になってきました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉さん、見てますか。

僕は今、新しい家族と、新しい世界で暮らしています。ここにも姉さんと同じ人がいて、でも世界は全然違うんだなって、つくづく思います。もしかしたら、姉さんが本当にやりたかったことがここにはあるのかもしれませんが、それを姉さんと共にできないことだけが、心残りです。

 

僕はもうきっと、そっちに帰ることはできないでしょう。でも、心配しないでください。こっちでも、元気にやっています。

最後になりますが、僕はあなたの、みんなの家族でいれて本当に良かった。

ありがとう、サクヤ姉さん。

 

 

 

 

end




9・F9・ノイン『みんなこれからは家族だ!』
45「9?」
9「言わなきゃ」
F9「いけない」
ノイン「気がして」


というわけで今回はリクエストからいただいたお話。セルフ救済ってやつかな?
並行世界はそれこそ数え切れないほどある、そして世界観もバラバラ、それでいいと思います。
・・・・・原作にもうちょっと救いがあってもいいんじゃないかなぁ。


ではではキャラ紹介。

ユウト・スズミヤ
身長170センチ、17歳、黒髪を後ろで結っている男性。過去に関しては本文で書いた通り。これにより並行世界のサクヤさんが出てきましたが、今回限りなのでご安心を。
17歳ながらサクヤの周りで生活していたせいか技師としてはかなりの腕で、サクヤほどではないがとても優秀。
ハイエンドたちを『〜姉さん』と呼ぶ。

サクヤ(並行世界)
鉄血に勤めている頃に0歳のユウトを拾い、そこから17年間立ったとすると・・・・あれ?もしかして三十s(血濡れで読めなくなっている)


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だいたいの要望は受けるつもりでいますので!
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番外編21

今回の番外編、まさかの喫茶 鉄血メンバー皆無という。


というわけで今回は、
・人形用空戦ユニット
・苦労人アーキテクト
・義姉さんと義弟
の三本です。


番外21-1:人形用空戦ユニット

 

 

あの一件(八十二話)から数日後のとある場所、そこでは軍とテロ組織が一進一退の攻防を繰り広げていた。国家転覆を目的にいくつかの中規模テロ組織が集結、さらに違法ブローカーや武器商人といった者達まで集まった結果、装備こそやや古いが軍隊並みの武力を持つようになったのだ。

とはいえそんな膠着状態が続いていたのも昨日まで、今現在は軍優勢で着実に押し返しているところだ。その決め手となったのが、今彼らの頭上を飛び交う人形達である。

 

 

<ブラボーはそのまま敵航空戦力を排除、デルタは爆撃装備に換装し敵拠点へ攻撃せよ。>

 

<オメガは着陸後に突入部隊と合流、制圧に向かえ。>

 

<こちらチャーリー4、敵拠点より逃走するトラックを確認、指示をこう。>

 

<HQよりチャーリー隊、全車両破壊せよ。>

 

 

Aigisをモデルにされた軍用人形達が、そのごつい外見に似合わず軽快に飛び回る。その背中にはこちらもごつい翼のようなユニットが取り付けられ、まるで初めから空戦用に作られたのかというほど自由自在に操っている。

 

 

「しかし便利なものだな。」

 

「あぁ、地上に降りれば折りたたむだけでいい。」

 

 

このユニットこそが戦況を変えた新装備である。開発元はIoPの17lab・・・・・・そう、このユニットの元となったのがM1014の飛行実験である。あの日たまたま見にきていた軍のお偉いさんはすぐさま17labに接触、軍用にチューンしたものを開発してほしいと申し出たところ、その場でOKが出たという。

設計図さえあればものの数日で完成させるような変態集団、それも一度作ったものなのだからもう一度作るなど造作もなかった。その結果、わずか数日で四部隊分の飛行ユニットを納品したのである。

 

 

「知ってるか? これの元になったやつ、ある戦術人形の要望らしいぞ。」

 

「何? 自分から飛びたいとか言ったのか?」

 

「あぁ、変わり者だな。」

 

 

軍の評価は抜群だった。17labも良い宣伝となり、一癖あるが強力な装備の開発を請け負うことになるのだが、その陰で軍からの評価やら噂が絶えなくなるM1014。

彼女がそのことに気がつくのは、当分先の話だった。

 

 

end

 

 

 

番外21-2:苦労人アーキテクト

 

 

「・・・・・サクヤさん、これ・・・」

 

「あ、あぁ・・・・ありがと・・」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

 

目の前のその光景を、鉄血のトラブルメーカーことアーキテクトは苦い表情で見守っていた。彼女の眼に映るのは頼れる同僚と鉄血の良心、ゲーガーとサクヤだ。昨日めでたく付き合い始めた二人だが、一晩明けた今日、なんともむず痒い空気を垂れ流し続けている。

 

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「「あっ、あのっ!」」

 

「さ、先にいいよ・・・・」

 

「いや、サクヤさんこそ・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・・。」」

 

 

ずっとこんな感じだ。お互いほとんど会話もなく、それどころか顔を合わせることすらほとんどない。たまたま同じ場所に欲しいものがあった時なんか十分以上は譲り合い続け、たまたま目があった時はまるで思春期の男子中学生のように顔を赤らめて目をそらす。

そんな甘々空間に居続けなければならないアーキテクトの心中は穏やかではない。

 

 

「・・・・・ねぇ二人とも。」

 

「なんだ?」

 

「何かしら?」

 

 

ほぼ同時に振り向く二人、息ぴったりだ。別に二人がいちゃつこうがナニしようが構わないし喜ばしいことである。だが、いつまでも進展がないのでは面白くない上にむしろこっちが先に糖尿病で倒れそうだ。

 

 

「そんなにお互いが気になるなら二人で部屋にでも行ってきたら? 防音だから心配いらないよ。」

 

 

むしろさっさとヤってこい、と言外に言うアーキテクト。ぶっちゃけ今日やるべきことなんか彼女一人でも十分だし、二人が愛を確かめ合う時間というのであれば喜んで引き受ける所存だ。

 

 

「な、ななななにを言ってるんだっ!?」

 

「そそ、そうよアーキテクト! それにそういうのはまだ早いっていうか・・・・」

 

「ヘタレか。」

 

 

アーキテクトは正直なめていた。彼女の周りでカップルといえば『416・9』『ハンター・AR-15・D-15』『ペルシカ・SOP』・・・どいつもそれなりにいちゃつき、朝帰りだって一回や二回ではない。それが健全なカップルの当たり前だと思っていたアーキテクトだが、どうやら目の前の二人は当てはまらなかったようだ。

 

 

「だ、だいたい・・・・サクヤさんが嫌かもしれないだろ。」

 

「ゲ、ゲーガーちゃんの同意がないと・・・・」

 

 

二人とも離れたところにいるせいか、ボソボソと話す二人の言い分は互いに聞こえていない。もうすでに砂糖の塊を吐きそうなアーキテクトはいよいよ頭を抱える。

 

 

(あぁもう・・・・いっそ薬でも盛ってその気にさせるしかないかな。)

 

 

アーキテクトにかかればその手の薬の一個や二個などものの数時間で作れる。だができることならば二人が自分たちの意思で前に進んで欲しいのだ。

・・・・・・まぁ、あくまで理想は理想でしかないのだが。

 

 

「ちょ、ちょっと休憩しよっか! 私コーヒー入れてくるね!」

 

「そ、それなら私が入れてくる。」

 

「い、いいよゲーガーちゃん。」

 

「さ、サクヤさんこそ休んでいてくれ。」

 

「あーじゃあ私が入れてくるから二人で部屋片付けといてよ。」

 

 

よもや自分がコーヒーを入れにいく日がくるとは・・・そう思いながら、もしかしたら帰ってくるまでに進んでいるかもしれないという淡い期待も抱いてコーヒーを入れにいく。

 

結局、時間をかけて戻ってきたにもかかわらず部屋は綺麗に片付き、相変わらず微妙な距離感で無言になっている二人を見て、アーキテクトは盛大にため息をつくのだった。

 

 

end

 

 

 

番外21-3:義姉さんと義弟

 

 

あらすじ

サクヤ姉さんには恋人がいましたbyユウト

 

「はぁ・・・・じゃあついこの前付き合い始めて・・・。」

 

「そ、未だに手を握れるかどうかってとこ・・・・・ヘタレかよ!」

 

 

ここは鉄血工造の主任研究室・・・の隣にある休憩室。現在隣の部屋ではサクヤが作業を進めているのだが、助手を頼まれたアーキテクトは「ちょっと用事が」と言ってユウトを連れて休憩室に閉じこもってしまった。そのため今頃残されたゲーガー助手を務めていることだろう。

 

 

「こうでもしないと一言も話さないからね!」

 

「あぁ、なるほど。」

 

 

要するに、ただのお節介だ。だが正確には違うとはいえ姉の恋事情だ、悠人も協力することにやぶさかではない。それになんというか、いつもニコニコしてて楽しい人である姉のあんな表情、大変レアである。

 

 

「ところで、ゲーガー姉さんはサクヤ姉さんのどこが好きになったんですか?」

 

「それがねぇ、全っ然教えてくれないのよ。 なんでかなぁ?」

 

 

信用ないからですよ、とは言わない。まだここに来て一週間程度ではあるが、アーキテクトがどんな人形なのかはよ〜く理解している。だが今の彼女は純粋にゲーガーを応援したいだけであるのだが、普段の行いのせいである。

 

 

「そうですね・・・なら、一度直接聞いてみましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、ゲーガー姉さんはサクヤ姉さんのどこが好きになったんですか?」

 

「ブフッ!?」

 

 

業務終了後、二人っきりになったところでそんな質問をぶつけられ、激しくむせ返るゲーガー。ちなみにあの後全くと言っていいほど進展がなく、アーキテクトが頭を抱えて項垂れたのはいうまでもない。

 

 

「い、いきなりだな・・・・・・そんなに気になるのか?」

 

「はい、違うとはいえあの姉の恋愛事情です、気にならないわけがないでしょう。」

 

「はっきり言うな・・・だがそうか。」

 

 

それから周りをきょろきょろと見回し、ついでにファイルの影やロッカーの中などを念入りに調べ、最後に「誰にも言うなよ」と付け加えて話し始めた。

 

 

「・・・・彼女の過去は、一応聞いたな?」

 

「はい・・・・・今でも信じられませんけど。」

 

「残念ながら、事実だ。 で、こうして流されてきて、ここの研究者になったわけなんだが、最初はただ話を聞いてもらうだけだったんだよ。」

 

 

主にあいつのせいで、とここにはいない相棒に恨めしい目を向ける。心中お察ししますとだけ伝え、話の先を促す。

 

 

「なんというか、楽しかったんだ。 誰かと話すのがここまで楽しいとはって感じだ。 もっとも、その頃はまだ気軽に話せる相手っていうだけだったが。」

 

 

ところが、そのサクヤのたまに見せる暗い表情、とくに悲しみにあふれた薄い笑顔を見たときに、胸が締め付けられる思いがしたという。いつもリラックスさせてくれるが、彼女に何かをしてやった覚えがないことに気がついた。

 

 

「彼女に暗い表情は似合わない、なんとかしたいという一心でいろいろ手は尽くした。結果的には一応解決はしたがな。 だがその過程で、私はどうやら彼女に恋をしていたらしい。 つまりは、私が彼女の笑顔を見ていたかったんだ。」

 

 

きっかけ、と呼べるものはそんなものだ、というゲーガーの顔は結構満足げで、あぁ本当に好きなんだなということは伝わった。

伝わったのだが、

 

 

「では、もっと踏み出してみては? 告白はしたんでしょう?」

 

「か、簡単に言うがな、なかなか難しいんだぞ! それに・・・・み、見てるだけでもいいというか・・・・・。」

 

 

それを見てるこっちが甘ったるいよ、という言葉をギリギリで飲み込み、アーキテクト同様に深い溜息を吐きながら話を切り上げる。

 

 

「まぁなんでもいいですよ、本人たちさえ幸せなら。 ただできれば、僕も早く義姉さんと呼びたいので。」

 

「そ、そうか・・・・善処、しよう・・・・きっと・・・・たぶん・・・・」

 

 

結局また真っ赤になったまま黙り込んでしまったゲーガーだが、それでもユウトは応援し続けようと心に決めたのだった。

が、ここから次の段階に進むのにさらなる時間が必要であることを、まだ誰も知る由もなかったのである。

 

 

end




ほとんど鉄血工造組の話じゃねーか(セルフツッコミ)
ちなみに作者の場合、本編を書き終えると同時にこの番外編も書き始めているので、時系列もちょっとややこしくなってるんですよね、ごめんね!

ではでは早速解説!

番外21-1
八十二話から数日後。
あの冗談みたいな装備が軍に支給されたというだけのお話。
わかりやすく言えばAigisをさらに硬くしてブルート並みの機動性と空戦、爆撃能力を持ったような感じ・・・無理ゲーすぎる。

番外21-2
八十三話のあと。
ほんとはホテル直行にしたかったけどこの二人ならヘタレそうだなって。珍しくアーキテクトが悩む回。

番外21-3
八十四話の後日談。
ちなみに時系列は八十三話→番外21-2→八十四話→番外21-3。
ユウト君は数少ない常識枠なのです。


例によってリクエスト受け付けてます。
頑張って応えていくのでこれからもよろしくね!
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第八十五話:カカシと傭兵

Q(急に)M(メッセージが)K(きたので)
という冗談はさておき、コラボの依頼とあらば引き受けない理由などない!
そんなわけで今回はコラボ回です・・・・・あくまで並行世界の同一人物だけど。


「はい、存じております。 ですが私もハイエンドの端くれ、自衛程度はできますが。」

 

『万が一があってはならない、ということだ。 というのは一応の建前で、本音は彼に仕事を回してやりたいからだが。』

 

「・・・・・私のそのような魅力があるかはともかく、男女が数日間行動を共にする方が危険では?」

 

『なに、彼にそんな度胸などないさ。 もしも襲ってきたら逆に喰ってくれて構わんよ。』

 

「いえ、そういう問題では・・・・・・あら。」

 

 

通話が切れ、ほぼ強引に護衛対象にさせられてしまったのは世界を股にかけるエンターテイナーのスケアクロウ。ちなみに電話はグリフィンの社長であるクルーガー氏だ。今回もいつものように出演依頼のあった場所へと移動するのだが、その道中に人権団体の動きがあったのだという。グリフィンが出向いて制圧してもいいのだが、それを待ってからだと到着が遅れてしまう。そこでクルーガーが提案したのが、護衛をつけて強引に乗り切るというものだった。

・・・・・しかもその護衛はすでにこちらに向かっているらしい。もし断ったらどうするつもりだったのか。

 

 

「・・・・まぁいいでしょう。戦力は多い方がいいですからっと噂をすれば、ですね。」

 

 

見れば彼方から、土煙を上げながら走ってくる一台のサイドカー付き二輪車。みるからにオンボロで、良く言えば年季の入った、悪く言えば廃車間近のものである。そこから現れたのは話に聞いていた男性。まだ若く見えるがそれなりに場数を踏んだいるようにも見える、れっきとした傭兵だ。

 

 

「えーっと、あんたが今回の護衛対象か?」

 

「そういうあなたが、今回護衛してくださるという?」

 

「あぁ、『レイ』って言うんだ、よろしく。」

 

 

一応礼儀はあるようで、なるほど欲にかられるような人物ではなさそうだ。が、保険をかけてちょっとつついてみることにした。

 

 

「お一人なのにサイドカーをお持ちなんですね。 それは女性を連れ込むため、もしくはその上で襲うつもりですか?」

 

「Youなに言っちゃってんの!?」

 

 

なかなかに面白いツッコミと共に反論する。うん、社長の言う通り、そんな度胸もなさそうだ。ひとまず安心してもいいだろう。

 

 

「冗談です。 これから数日間、よろしくお願いしますね。」

 

「真顔だと冗談に聞こえねえよ・・・・まぁよろしくな。」

 

 

そう言ってレイは二輪(オンボロと呼んでいるらしい)にまたがり、スケアクロウはサイドカーに乗り込んで出発する。人形らしい無表情ではあったが、その下では生まれて初めて乗ったサイドカーにテンションが上がってしまっていた。

そんな傍目には羨ましい、しかしロマンスのかけらもない男女ふたり旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日目

この旅は五日ほどの予定であり、二日かけて会場となる町に向かい、二日間の上演とその間の護衛、そして最後の一日で別の町に送って依頼は終了となる。

そんな初日はちょうど中間にある町まで進み、そこのホテルで一泊する。流石にまだ人権団体の根城までは距離があるためとくにトラブルもなく、むしろ予定より早く着いてしまうことに。

 

 

「あら? レイさんはどちらへ?」

 

「え、俺は近くの安ホテルに泊まるよ。」

 

「仮にも護衛がそれでよろしいんですか?」

 

「いや、あのホテル高いし。」

 

「・・・・・でしたら、私が差額を出しますのでこちらに来てください。」

 

「えっ!? いや、でも・・・・」

 

「あーなんということでしょーこれでは誰かに襲われた時に助けが来ないなー」

 

「わかったわかったわかりました!」

 

「それでよろしいんですよ、ただし・・・・・襲わないでくださいね?」

 

「Youなに言っちゃってんの?」

 

 

そんなわけで強引に同じホテルにさせられるレイ。まぁそこは依頼主(ということになっている)の好意を無下にするわけにもいかないので、大人しく好意に甘えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

二日目

昨夜はまさかの相部屋。まぁ人間と違いいろんな意味で気にしなくていいと言われたが、言われなければ人間とは区別のつかない美女である。そんなスケアクロウと一夜を共にした(深い意味はない)レイは、若干の寝不足気味で出発した。

で、しばらくは順調に進んでいたのだが案の定、人権団体の集団が進路上にいたのである。早めに出ていたのでまだまだ時間に余裕はあるが、だからといって迂回してもいられない、大変迷惑なところに居座っている。

 

 

「見た感じアサルトライフルがいいところで殆どがSMGだな、一人ずつ狙撃で仕留めるか。」

 

「私が出た方が早くありませんか?」

 

「護衛対象を前に出す奴がいるかよ。 それに、いくら人形でもお嬢さんを前に出すほど男が廃れちゃいないさ。」

 

 

そう言って狙撃銃を取り出し、スコープを覗き込むレイ。その様子を見たスケアクロウは自身も身をかがめながら、久しく使っていなかった戦闘モードで視界を写す。

 

 

「・・・・・風向きが変わりました、照準をツークリック左へ。」

 

「あいよ。」

 

 

引き金を引き、ちょうど誰の視界にも入っていなかった一人が地に伏す。その音で全員が振り向くが、その隙に最も外にいた一人を仕留める。どこから撃たれているかもわからないままパニックになれば、あとは一人一人仕留めるだけだ。

スケアクロウの的確な指示によって狙撃に集中できたレイは、かつてないほど順調に数を減らしていった。

 

 

「・・・最後、目標よりワンクリック右。」

 

「これで終わりだ。・・・・・よし。」

 

「お疲れ様でした。」

 

「いや、こっちこそ助かったよ。」

 

 

スポッターの存在がここまで大きいとは、ということをしみじみと感じるレイは、周囲に隠れている敵がいないかを確認し、スケアクロウを連れてオンボロに戻る。

その後の行程はとくにトラブルもなく、時間までには町に到着して先方と舞台の確認と準備を行ってホテルへと向かう。殲滅した人権団体の情報が入ってきていたのかホテル周辺には警官がうろついていたが、それ以外は平穏そのものだった。

 

 

「・・・・・で、また別のホテルですか?」

 

「・・・わかった、じゃあ同じホテルにするよ。 だが今度は部屋を分けてもらうからな。」

 

「あら、同じだと何か不都合が?」

 

「大有りだよ! っていうかお前無表情に見えてメッチャ楽しんでんな!」

 

 

そんな一悶着こそあれど、今日も無事に仕事を終えた二人は、今度こそ別々の部屋で眠りにつくのだった。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上演期間である三日目と四日目、レイは会場の警備員に紛れて周囲を警戒し、スケアクロウが楽屋に戻ればそっちでも周りを警戒する。今回は何度も仕事をした信用できる楽団なのだが、仕事となればそんな過去の関係など関係ないのがレイの意見だ。

 

 

「しかしなんというか、意外と仕事熱心ですわね。」

 

「ん? そりゃあ仕事だからなっていうかなんだよ意外とって。」

 

「ふふ、そういうところが見た目によらず真面目なんですね。」

 

「見かけによらずって・・・まぁ傭兵は信用第一だからな。」

 

 

そんな他愛もない話をしつつ、上演中は互いに演技と警備に集中してこの二日間を過ごしていった。幸いにも道中の人権団体は全く別目的だったようで、おまけにこの町自体は人形に対し特に肯定的だったので問題もなく終えることができた。

強いて言うなら、スケアクロウのからかうような冗談にレイが振り回されたくらいだろう。まぁ護衛対象のご機嫌取りも、仕事の一つだと思って振り回されるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最終日。

協力してくれた楽団に見送られ、スケアクロウとレイは町を出る。次の町へはそんなに距離もなく、高速道路が通っているので襲撃なんかの心配もそこまでない。相変わらずロマンスとかはないが、決して気まずくない空気のまま道を走っていく。

そんな中、ふと何かを思いついたスケアクロウがレイの方は見ずに声をかける。

 

 

「そういえばレイさん。 今回の依頼の期限は、今日一日までのはずですよね?」

 

「ん? あーそうだな。」

 

「でしたら、このまま向かってほしい場所があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「はいよ、じゃあナビはよろしくな。」

 

 

スケアクロウの指示のもと、二人はまっすぐ最終目的地であるS09地区の街へと向かっていった。大通りを少し進み、そこから側道に入ってさらに細い道に入る。サイドカー付きには少々狭苦しい路地を抜け、少しだけひらけた場所に出ると、スケアクロウが止めるように言った。

 

 

「着きましたわ、ここです。」

 

「『喫茶 鉄血』・・・・なるほど、里帰りか?」

 

「ええ。 さぁレイさん、中に入りましょう。」

 

「え? 送り届けて終わりじゃないの?」

 

「今日一日、が依頼の期限ですわ。」

 

 

えぇ〜、と渋るレイを引きずって店に入る。気がついた店長である代理人が迎えに来て、スケアクロウと二、三言話すと上へと案内される。用意されたのは二階の個室で、そこで代理人は二人のオーダーを取ってから退室する。スケアクロウと二人っきりとなったレイの心中は、疑惑やら後悔やら疑問やらで埋め尽くされていた。

 

 

(待て待て待て依頼は終わったはずだそれにもうこの後の予定もないしじゃあなんでこんなことになったまさかどっかでミスがいやいやそんな覚えはないしもしそうならその場で気づくはずだじゃあなんだこの依頼自体が嘘で『騙して悪いが』的なやつかちくしょーまだ死にたかねぇぞこんちくしょうどうしてこうなった・・・・・)

 

「・・・・・レイさん。」

 

「な、なんだ?」

 

 

努めて冷静に、内心の動揺を悟られないように返事を返す。スケアクロウは冗談だろうがマジだろうが表情を変えることがあまりない。つまり、現時点で冗談かどうか判別することができないのだ。冷や汗を流しながら、レイは彼女の言葉を待つ。

 

 

「今回は、ありがとうございました。」

 

「い、いやいや、当然のことだ。 それが仕事ってもんだしな。」

 

「えぇ、仕事に関しては。 ですがそれ以外でも、今回は本当に助かりました。」

 

「・・・・・え?」

 

 

それ以外?なんだろう、身に覚えが全くない。思い返してみよう、テロを退けたことや会場の警備、本人の護衛などを除いてなにがあったか。

・・・・・あれ?なにもなくね?

 

 

「え〜〜〜っと・・・・・何かしましたでしょうか?」

 

 

思わず意味不明な言葉になってしまうレイ。するとスケアクロウはクスッと笑い、次に首を振って向き直る。

 

 

「いえ、なにも。 ですがそれは、あなたにとっては当然のことなんでしょう。・・・・・私はいつも、一人で旅をしていました。 どこにも所属していないフリーのエンターテイナー、それが私です。 一人でいることの方が性に合ってますし、それで十分だとは思っていたのですが・・・。」

 

「・・・・・ですが?」

 

「・・・・・・・改めて言うと恥ずかしいですわね。 レイさん、私はこの五日間がとても楽しかったんです。 ドライブも、ホテルでの会話も、演技の合間の休憩でも、話し相手がいるというのは新鮮でした。 本当にありがとうございます。」

 

「・・・いや、そんな大したことはしてないよ。」

 

 

レイのいうことも最もだ。あくまで彼女の護衛なのだし、側にいるのは当然なのだ。が、スケアクロウにとってはそうではないらしく、端的にいえば彼のことを気に入ったらしい。

するとスケアクロウは椅子に座りなおし、姿勢を正してレイと向き合う。そして・・・・・

 

 

「レイさん。 今回の依頼はこれにて完了です、お疲れ様でした。 ・・・そして改めて、私から依頼を出させていただきます。」

 

「・・・・・依頼を?」

 

「はい。 レイさん、私専属の護衛になってはもらえないでしょうか?」

 

「あらあら、随分と変わったプロポーズですね。」

 

 

タイミングがいいのか悪いのか、注文したものを持ってきた代理人が妙なことを言いながら入ってくる。

え?今のってそういう意味?

 

 

「ち、違いますよ代理人!」

 

「ふふっ、冗談です。」

 

 

鉄血人形は揃いも揃って冗談がわかりずらい。そう思うレイに、代理人はフッと真面目な表情に戻って話し始める。

 

 

「彼女に限らず、鉄血工造を抜けた彼女たちはなにかと一人でいることが多いのです。 もちろん自衛程度であれば十分でしょうが、それでも心配であることに変わりはありません。 レイさん、私からもお願いします。」

 

 

真摯に頼む代理人の姿は、妹を心配する姉か、もしくは娘を心配する母親のようだった。

さてここまで真面目に頼まれているレイではあるが、彼はどこかに所属しているわけでもないフリーの傭兵。特に帰る場所があるわけでもなく次の仕事が決まっているわけでもないので、正直いえば断る理由は皆無だった。

というわけで、

 

 

「わかった。 俺でよければ引き受けよう。」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「ふふっ、良かったですねスケアクロウ。」

 

 

純粋に喜ぶ仕草は年相応の女の子っぽいんだなぁ、と思いつつ出されたコーヒーをすする。その後、契約書は改めて後日用意し、そこで正式に契約すると約束する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、有名エンターテイナーであるスケアクロウの隣には、必ずレイの姿が見られるようになったという。

 

 

end




はい、というわけで今回はchaosraven氏の『裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件』より、主人公のレイに登場してもらいました。chaosravenさん、こんなんで大丈夫ですか!?

カカシちゃんの小説は、鉄血ハイエンド好きなら一度は読んでほしい作品だと思います。あとあっちの鉄血工造の役員達とはいい酒が飲めそうだ。


ではではキャラ紹介

レイ
カカシちゃんのとこの主人公・・・・の並行世界同一人物。
何でも屋ではなく傭兵という名前にしているが、やってることは何でも屋。元作品では貧乏っぽかったけどこっちでは普通に暮らせるくらいにはある。
スケアクロウに振り回される運命からは逃れられない。

スケアクロウ
いつかぶりの登場。エンターテイナー。
ただでさえ口元をマスクで隠しているせいで表情が伝わりにくいが、本人は喜怒哀楽に溢れる人形。
レイに抱いているのは友情であって恋愛感情ではない。

代理人
この人出さないと『喫茶 鉄血』じゃなくなるので。
全鉄血人形がいろんな意味で逆らえない、ある意味この世界ではエルダーブレイン的なポジションでもある。


喫茶 鉄血のリクエスト、受付中!
感想も待ってるよ!(注:書かなくても問題ありません)
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第八十六話:ドールズシャッフルライン

ここ最近リクエストが多くて嬉しい限り!それだけ興味を持ってもらえてるということですね。

今回はそんなリクエストから。
ちなみに組み合わせはルーレットアプリで決めたもので、狙ったものではないとだけ言っておきます。また、今回は誰が誰になってるか大変わかりにくいので、別紙にメモを取っておくと楽かも。


「・・・ん・・朝ですか。」

 

 

早朝、日が昇り始めてすぐの時間に彼女たちは目を覚ます。別に人形に睡眠は必要ないし、定期的にデータのバックアップや整理を行えば四六時中動いていられるのだが、人間の生活に合わせる以上は人間に近い生活リズムであるほうがいいという代理人の方針である。これには完徹で描き続けたいマヌスクリプトが反対したが、給料削減をチラつかせたら従ってくれた。

 

さてそんな清々しい朝、グーっと伸びをしながらクローゼットを開き・・・・・いつもの服がないことに気がついた。そこにあるのは代理人とD以外が着ているカフェの服、そして()()()()()の服だけであった。

 

 

「・・・・・うん?」

 

 

そこでやっと、自分の視界がやけに低く声も違うということに気がつく。そしてクローゼットの内側に付けられた姿見を見て、その表情を凍りつかせる。

そこにいたのはいつも見ている部下の顔・・・イェーガーのものだった。かつてない緊急事態にパニックになりそうになるが、それ以上の喧騒が他の部屋から聞こえてくる。

 

 

『うわっ!? なにこれなにこれ!?』

 

『な、なんだこれは・・・いつのまにかリッパーに?』

 

『だ、代理人大変です! 朝起きたら何故かマヌスクリプトに!』

 

『うわぁ!? 代理人どうしたんですか!?』

 

 

馴染みの声の、馴染みのないセリフや口調にいよいよ一大事だと認識した代理人?だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「さて、状況を整理しましょう。」

 

 

表の看板を『臨時休業』とし、窓もカーテンを全て締め切った上で丸テーブルを囲む五人と一匹。今朝の騒動とそれぞれの証言、そしてこのカオス極まる現状から導き出されたのはただ一つ。

喫茶 鉄血の全員が、なぜかバラバラに入れ替わっているというものだった。大変わかりづらいので今の体(中の人)とすると、

 

イェーガー(代理人)

ダイナゲート(D)

ゲッコー(マヌスクリプト)

リッパー(ゲッコー)

マヌスクリプト(イェーガー)

D(リッパー)

代理人(ダイナゲート)

 

となっている。そのためテーブルを囲む椅子の一つにはダイナゲートがちょこんと座り、イェーガーの足元には代理人が擦り寄るというかなりカオスな空間が出来上がっている。

 

 

「では、皆さん朝目が覚めたらこうなってたと。」

 

「そうだね、流石の私もびっくりだよ!」

 

「あぁ、廊下に出たら私に出くわしたんだからな。 ましてその中身がこの変態だとは思わなかったよ。」

 

「マヌスクリプトさん、もうちょっと部屋片付けませんか?」

 

「Dさんの部屋って、可愛いものが多いんですね。」

 

 

なんとも酷い光景だ。ともあれこれでは店どころではなく、しかも人為的なものだとしたら夜間に侵入を許したことになる。何時ぞやにあった416と9の入れ替わり事件みたいな原因がはっきりしてるものならともかく、今回は完全に原因不明でしかもこの人数だ。

 

 

「ひとまず、ペルシカかアーキテクトに言うべきでは?」

 

「そうですね、原因究明も大切ですがまずは元に戻ることでしょう。」

 

「・・・・・まさかとは思いますがまたアーキテクトさんの仕業では?」

 

「流石にアーキテクトでもここまでダイレクトな迷惑はないんじゃないかな?」

 

「あとグリフィンにも協力を仰ぎましょう、これがテロなら被害が広がる前に防ぐべきです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・え? ごめんもう一回言ってくれるかな?」

 

「ですから私が代理人で、今朝なぜか全員の体が入れ替わっているということが起きまして・・・なにか知っていますか?」

 

「いやぁ、さっぱり・・・・・とにかく見てみないとわかんないからそっちに行くね!」

 

「はい、お願いします。」

 

カランカラン

「こんにちは、AR小隊ですが。」

 

 

アーキテクトへの連絡を済ませ、そのタイミングでちょうどAR小隊も到着する。一応事前に現状を聞いてはいたが、なるほどそれぞれの仕草に違和感バリバリである。

その最たる例として、代理人はM4を見つけるとトコトコと歩み寄り・・・

 

 

・・・・・ギュッ

「わわっ! だ、代理人・・・・・じゃなくてダイナゲートですね・・・。」

 

「なるほど、これは一大事だな。」

 

「ていうかM4ってダイナゲートに好かれてるの?」

 

「私もギュ〜ってする〜!」

 

「こ、こらSOP! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!」

 

 

M4に抱きつき満面の笑みで頬をスリスリと擦り付ける代理人。中身がダイナゲートとはいえ確かにこんな姿が表に出回ったら・・・・・考えるだけで面倒なことが起こりそうだ。

他にも口調が軽く「これはこれで・・・」みたいなことを口走ってるゲッコーや、やたらと物腰の低いDや、なんとか意思疎通を図ろうとするダイナゲートなどなど、間違いなく大問題である。

 

 

「そう言えば代理n・・・いや、今の格好で読んだ方がいいか?」

 

「いえ、元の呼び方で結構です。 仮に『イェーガー』と読んだ場合、私と『マヌスクリプト』も反応してしまいますから。」

 

「そうですね、その方がいいかと。」

 

 

至極まともに、めちゃくちゃ礼儀正しく同意するマヌスクリプトに衝撃を受けつつ、とりあえずは元の名前で呼ぶこととする。

(文章上は入れ替わった体の方、誰かが呼びかける時は中の方で表記します)

 

 

「・・・で、代理人。 これには鉄血もIoPも関わってなかったのか?」

 

「えぇ、確認を取った限りでは。 アーキテクトも17labもそのような装置等に覚えがないそうです。 ペルシカさんは仕事中のようです。」

 

「う〜ん・・・じゃあ416たちみたいな感じですか?」

 

「流石にこの人数で、しかもこうもバラバラにはならないでしょう。 ほぼ間違いなく人為的なものです。」

 

 

ちなみにアーキテクトはさっきの通り、17labの方は「そんなアイデアは盲点だった、早速取り掛かろう!」と言って電話を切られた。あそこまであからさまなら逆に安心できる。確信が持てないのはペルシカだが、彼女に限ってそんなことはしないだろう。

 

 

「・・・・・え? ペルシカ今日仕事なの? このあとデートに行こうって言ってたのに。」

 

『・・・・・・・え?』

 

 

SOPが首を傾げながらそうボヤく。そう、この中でペルシカの予定を最もよく知るのは彼女であり、またペルシカも何か予定の変更があればSOPに伝えるようにしている。で、空いた時間にデートしたり遊んだりホテルに行ったり・・・・・まぁそんな感じだ。ちなみにどれだけ急に入った予定であろうとメールの一つは飛ばすのがペルシカだ。

なのだが、今日に限って一切連絡がないうえに電話も繋がらない。だが試しにSOPは16labの副主任(なんか知り合った)に連絡を取ってみると、

 

 

『主任ですか? 今日はあなたとデートするって言って早朝に飛び出しましたよ?』

 

「・・・そっか・・・ありがとね副主任! 今度クッキー焼いてあげる!」

 

『ははっ、お気持ちだけ受け取っておきます。 嫉妬に狂った主任に殺されかねませんので。』

 

 

そう言って通話が終わり、瞬間SOPの表情が一切消え去る。見てる方がぞっとするほどの無表情で携帯端末を握りしめ、よほど力が入っていたのかミシリッという音とともにヒビが入る。

だが、これで容疑者がはっきりした。なおペルシカがこんな手を使ってコソコソするなんて、やましいことがなければ絶対にありえない。そしてどうやら、世の中悪事は回らないようにできているらしい。

 

 

カランカラン

「ほら、なんで今日に限ってそんなにはずかしがってるの?」

 

「違っ、そういうわけじゃ・・・・」

 

「いいから、今代理人たちが大変なことに・・・・あ、代理人、来たよ!」

 

 

連絡通り、アーキテクトがやってきた。どこかで拾ってきたのかペルシカをずるずると引きずって。そのペルシカも見たことないくらいに必死で逃げようとしており、もう間違いなく黒だった。

 

 

「アーキテクト、彼女をどこで?」

 

「うん? そこの公園にいたよ。 なんか双眼鏡使ってのぞいてたから・・・恥ずかしいなら私が一緒に行ってあげるよって言って連れてきました!」

 

 

どうよ!とドヤ顔で鼻息を鳴らすアーキテクト。普段ならちょっとイラっとくるところだが、今回に関しては大手柄なので頭を撫でておく・・・・・代理人が。

そしてペルシカはというと、M4とM16に両腕を捕まれてまるで罪人のように引っ張られる。イェーガーが確認を取ろうとするが、その前にSOPがズイッと割り込みペルシカの首根っこを引っ掴む。

 

 

「代理人、奥の部屋借りるね? ・・・・・じゃあペルシカ、行こっか?」

 

「え? 待ってSOPちゃんと話すからああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」

バタンッ

 

 

無情にも閉じられる従業員用控え室の扉。直後に聞いたこともないほどの怒鳴り声と何かを思いっきり叩く音が聞こえ、とりあえず全員で合唱しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「「本当にすみませんでしたっ!!!」」

 

「・・・まぁこれ以上は言いませんが・・・・・もう十分そうですし。 というかSOPまで謝ることはないのでは?」

 

 

十分後、両頬に思いっきり紅葉を貼り付けてガチ泣きしたペルシカとなおも怒り心頭ですという感じのSOPが帰ってきて、イェーガーの前まで来るとガバッと土下座した。

結論から言えば犯人はペルシカだった。ただ狙ってやったというわけではなく半分事故のようなもので、しかしその理由がペルシカのうっかりだったのだ。

彼女が作ったのは文字通り人形の中身が入れ替われる装置、これがあれば理屈上いつでも本体とダミーが入れ替わることができ、本体を前線に置きながらいつでも基地においてある予備のダミーに移せるという、画期的なものだった。その試運転として、ここS09地区の一角でドッキリついでにSOPとその改造ダミー(巨乳タイプ)を入れ替えようとしたのだ。が、作動させても一向に変化がなく、あれ?おかしいなと何度か連打した時にハッと気がついた。

 

設定が、『鉄血人形』になっていることに。

 

サーっと血の気が引くとはこのことで、しかし今から確認に行ってももう真夜中、確かめるすべはない。

結局そのまま帰ると同時にS09地区の鉄血人形を調べ上げ、幸か不幸か喫茶 鉄血しかないとわかってから急いで留守電を設定、早朝から店前の公園で張り込み確認するとなるほど入れ替わってるこれは大変だとなったわけだ。

 

 

「・・・・・で? なんで出てこなかったんですか?」

 

「いや、その・・・・・研究者としてのサガというか・・・・・・反応が気になってつい。」

 

「・・・・・・・・・・。」

 

「お願いSOP、そんな目で見ないで!」

 

 

ここにSOPとペルシカしかいなかったら今頃どうなってるのか、というくらいに冷たい目でペルシカを見るSOP。というかAR小隊全員がそんな感じだ。被害者である鉄血組の方がまだマシだろう。

 

 

「・・・・・まぁいいでしょう。 今回は厳重注意ですが、次はありませんよ?」

 

「も、もちろんよ!」

 

「それで、すぐに戻せるんですか?」

 

「し、試験的なものだから効果は一日くらいだけど、すぐに戻すこともできるよ。」

 

 

結局、一日で戻るならたまにはいいかということでこの日はこのまま過ごすことになり(中身がDのダイナゲートは不満そうだったが)、翌日改めて元に戻っていなかったら戻してもらうことにした。

さぁこれで終わり・・・・・となればよかったのだが。いや、正確には鉄血組とSOPを除くAR小隊は解散の流れだ。

 

 

「じゃあペルシカ、行こっか?」

 

「・・・・え? どこに?」

 

「決まってるじゃん・・・・・・『オシオキ』だよ。」

 

「ひぃ!? 待ってSOPさっきので終わりのはずじゃ・・・」

 

「あれはみんなに迷惑かけた分。 今からのは私に嘘ついた分だよ。」

 

「」

 

「うふふ・・・・・・楽しみだなぁ・・・・・たっっっぷり可愛がってあげる。」

 

 

再びずるずると引きずられていくペルシカ。

翌日、鉄血組は元に戻りダイナゲートが結構頻繁に代理人に甘えてくるようになった。他にもマヌスクリプトの部屋が綺麗に掃除されていたことで一悶着あったりもしたが平和そのもので、いつも通り営業を開始した。

 

改めて謝罪に来たSOPとペルシカだったが、SOPはやけにツヤツヤした表情で、ペルシカは逆にげっそりした様子だったという。

 

 

 

end




書いてる方も途中でわからなくなるんですが・・・・・
というわけで今回はリクエストから、喫茶 鉄血のみんなが入れ替わっちゃうお話。偶然とは言えダイナゲートin代理人は可愛いと思う。


ではでは今回の解説。

入れ替わり装置
試作品だが、その効果範囲は街一つ分にもなる。ちなみになぜ鉄血人形の設定になってたかというと、いたずらの対象が『SOP』と『アーキテクト』だったのと、鉄血人形はまだ細かい判別ができなかったから。

ペルシカ
今回の黒幕。みんなアーキテクトだと思った?残念ペルシカちゃんでした!
SOPを怒らせてはいけない、それを心身ともに理解した一夜でしたbyペルシカ

代理人(ダイナゲート)
ちゃんと二足歩行してくれるが喋れない。
感覚もダイナゲートの時のままなので椅子ではなく床に座る。
表情もほぼ変わらないので仕草でなんとかするしかない。
かわいい。



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第八十七話:着ぐるみ、再び

書きたい話もあるけどリクエストの方を優先するスタイル。リクエストを書く間も新しい話が浮かんでくるので大変有意義な時間なのです。

台風も! ちょくちょく現れるゴ◯ブリも!! 私の邪魔をするものは、皆◯ねばいいっ!!!


諸君は覚えているだろうか。かつてIoPが開発し、とある人形が受け取った着ぐるみのことを。多少の銃弾やナイフ程度なら防ぎ暑苦しい見た目に反して最新のナノマシンによる温度調整機能を追加された技術の塊。そして唯一の、開発陣に言わせればデメリットにもならないデメリット・・・・・着用時は全裸であるというそんな着ぐるみ。

譲り受けた人形、57によって倉庫に封印されていた代物だが、今の今まで本人も忘れていたものである・・・・・が、それが見つかってはいけない人形に見つかった。

 

 

「と、言うわけでこれがその人形です! じゃあ着てみてよ57ちゃん。」

 

「嫌に決まってんでしょ! 誰がそんな悪趣味な着ぐるみなんて着るか!」

 

「まったく、相変わらず頭の固い人形だ・・・そのオッパイくらいに柔らかく考えたまえ。」

 

「程よい張りと弾力、そして柔らかさを兼ね備えたな。」

 

「だがどれくらい柔らかいかまだまだ不明だ、揉んでもいいかな?」

 

「もしもしポリスメン?」

 

「もうやだコイツら。」

 

「こっちのセリフです。 なぜわざわざここで話すんですか?」

 

 

喫茶 鉄血の二階、収容人数をちょっとオーバーした上に着ぐるみまで突っ込まれて狭苦しい個室の中、アーキテクトと57と代理人とIoP技術部の面々がテーブルを囲んでいた。話の内容は先の通り、この万能着ぐるみについてである。近々IoPと鉄血が共同で運営するテーマパークを作ろうと考えており、そのマスコットキャラとして着ぐるみを使おうというのだ。

そこで当然というべきか、話題に上がったのは57の所有するフェレットの着ぐるみ。この技術を使ってさらなる着ぐるみを作ってしまおうというのが今回の目的だ。

 

 

「と言ってもデザインが決まればすぐに出来るんだけどね。」

 

「では唯一の所有者である57よ、何かいい案はないかな?」

 

「今すぐ中止すべきだと思うわ。」

 

「なるほど、どうせ裸なら水中でも使えるやつか。」

 

「さすが人前で肌を晒すことに定評のある人形だ、発想が違う。」

 

「人の話を聞け!!!」

 

 

57のツッコミも虚しく、あっという間に新作の着ぐるみが考案されていく。項垂れる57とワクワクしたアーキテクト、白熱する技術者たちを眺めながら、代理人はそっと個室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、鉄血工造にて。

 

 

「・・・・・ねぇゲーガーちゃん。」

 

「なんだこのポンコツバカ。」

 

「流石にひどくない? 今回は私も被害者なんだよ?」

 

「貴様が持ち込んだ話だろ。 それとも何か? これをサクヤさんに着せるつもりか?」

 

「・・・我慢する。」

 

 

わずか一週間という短期間で新型の着ぐるみを二つも作り上げ、鉄血工造に納品したIoP技術部。なぜこれをわざわざ鉄血に持ち込んだかといえば、これを着るべき者が技術部にはいなかったからだ・・・・・なにせ技術部には男しかいない。

そんなわけで鉄血工造の女性陣三名のうち、誰か二人が着る羽目になったのだが、いくらなんでもサクヤにやらせるわけにはいかないのでハイエンド二人に決まったのだ。

ちなみにユウト君には着ぐるみの下とはいえ真っ裸は刺激が強すぎたらしく、真っ赤になって出て行ってしまった・・・可愛い奴め。

 

 

「・・・・・私の気持ち、理解できたかしら?」

 

「あ〜、うん、ごめん57ちゃん。」

 

「うちのバカが本当に済まない。」

 

 

現在、それぞれが個性あふれる着ぐるみに身を包んでいる。57は言わずもがなフェレットの着ぐるみ、アーキテクトは水陸両用を意識してなぜかサメの着ぐるみ、ゲーガーはひときわ大きいゴリアテの着ぐるみ。ちなみにサメとゴリアテは顔の部分だけ開いている。

 

 

「まぁたしかに着ぐるみの割には快適だ。 暑くも寒くもない。」

 

「うん、まぁ水着だと思えば納得できる、かな?」

 

「なんでそんなに順応早いのよ・・・。」

 

「あ、それが例の着ぐるみ?」

 

 

三者三様の反応を返していると、奥の方からひょっこり現れたのは鉄血の常識人であるサクヤ。57は期待した、彼女ならこのおかしな状況を打破してくれると。ついでにこのアホな技術者どもにも喝を入れてくれるだろうと。

だが、現実は非情である。

 

 

「ねぇ、私も着てみていい?」

 

「「「ふぁっ!?」」」

 

「え、えぇ、構いませんが・・・・・・。」

 

 

まさかの提案、よもやこの着ぐるみを着たなどと言い出すとは、あの技術者連中ですら予想だにしていなかった。ドがつくほどの変態集団である彼らとて、女性が全裸で着ぐるみを着ることに抵抗がることくらい知っているのだ。

57? 彼女は自主的に脱いだし問題ないでしょ。

その間にもアーキテクトの手を引いて奥の更衣室に消えていくサクヤ。そして十分くらい経った頃、それはそれは晴れやかな表情で踊るように出てきた。

 

 

「あはははっ! なにこれ全然暑くない! しかも泳げるんでしょ!? ちょっと泳いでくる!」

 

「さ、サクヤさん・・・?」

 

「・・・・・あんたの彼女、疲れてるんじゃないの?」

 

「サクヤさん、なんの抵抗も躊躇もなく服脱いでたよ。」

 

 

酷い言われようだが別に疲れているわけでもおかしくなったわけでもない。もともと殺伐とした世界を生き、こんな平穏極まりないイベントとは無縁であった彼女は、こう行った見るからに面白そうなことにはとことん首を突っ込みたがるのだ。

隣接したプール(実験用の水槽)にドボンと潜ると、着ぐるみのくせにやたらと軽快に泳ぎ始める。

 

 

「あの着ぐるみの尻尾には水中でのみ機能するモーター類が内蔵され、見た目通りサメのように泳ぐことができるのです。オプションでフェイスプレートを装備すれば、あのまま長時間の潜水も可能ですよ。」

 

「なんて無駄な性能を・・・・・。」

 

「でもサクヤさん、楽しそう。」

 

「まぁ、たまにはいいんじゃないのか。」

 

 

なんとも微笑ましい様子で眺める人形三人。それほどまでにいい笑顔で泳ぎ続けるサクヤの姿は大変レアだったのだ。

そんな感じで眺めていること三十分、ふとゲーガーが違和感を覚える。

 

 

「・・・・・・なぁ、最後に顔を上げたのはいつだ?」

 

「え? でも潜水できるんでしょ?」

 

「フェイスプレート付きならね・・・・・付いてないわよね? あれ。」

 

「「「・・・・・・・・。」」」

 

 

今尚止まらず泳ぎ続ける着ぐるみ。そして改めてよく見ると、全くずれなく綺麗な円形に泳いでいることに気がつく。まるで泳いでいるというより、ただ勝手に回っているというような・・・・・。

 

 

「っ!? まさか!」

 

「え? あっ! ゲーガーちゃん待って!」

 

「ちょっとあれ溺れてるんじゃないの!?」

 

 

場が騒然となる。ゲーガーの呼びかけにも反応せずぐるぐる回り続けるサメの着ぐるみにいよいよヤバイと気がついた技術者連中も白衣を脱いでプールに飛び込む。大人たちと人形三人がかりでなんとか動きを止め、陸まで引き上げると案の定というか溺れていたサクヤはすでに虫の息だった。ゲーガーは周りの目すら気にせず着ぐるみから上半身を出し、サクヤの着ぐるみをはだけさせて肺を押して水を吐き出させる。

 

 

「頼む、目を開けてくれ・・・・・!」

 

「さ、サクヤさん・・・・・。」

 

 

苦しそうな表情のまま目を閉じているサクヤに呼びかけつつ、なおも懸命に救助活動を続ける。そうやってしばらく続けると、ようやく咳き込みながらサクヤが目を覚ました。

 

 

「ゲホッ! ゴホッ! ・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・げ、ゲーガー?」

 

「っ! サクヤさん!」

 

「よ、よかったあ〜・・・・」

 

 

なんとか最悪の事態は免れたようで、皆一様にホッとする。と、そこに駆けつけてくる二人分の足音。どうやら技術者の一人がユウトを呼びに行っていた様である。血相を変えたユウトが叫びながら走ってきた。

 

 

「ね、姉さん!」

 

「ゆ、ユウト・・・。」

 

「姉さん、無事なのk・・・・・」

 

 

さて状況を整理しよう。この着ぐるみは一切の衣服を着用しないまま着ており、先ほどの救助活動のためにゲーガーとサクヤは半脱ぎ状態にしている。技術者連中は無事だとわかった瞬間潔く目線を彼方に向け、アーキテクトはやっちゃったみたいな顔で苦笑い、57に至ってはこの後の結末を予想して医務室に連絡している。

・・・・・そう、ゲーガーとサクヤの上半身が普通に露わになっているのだ。

 

 

 

 

 

キュ〜〜〜〜パタンッ

 

「ゆ、ユウト!?」

 

「わぁ!? とりあえず前を隠してサクヤさん!」

 

「え? あっ! きゃあああああああああ!!!!!!」

 

「あっち行ってろこの変態集団!」ゲシッ

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

鉄血工造は、今日も平和だ。

 

 

 

end




俺は一体何を書いてるんだろう・・・・・(自問)
まぁでもユウト君は17歳の男の子だからね、仕方ないね。


そんなわけでサクッとキャラ紹介とか。

57
この破廉恥着ぐるみ最初の犠牲者。

アーキテクト
被害者二号。

ゲーガー
被害者三号。この件以来ユウトが目を見て話してくれなくなった。

サクヤ
自主的に着た人。ユウトに性教育を施していなかった向こうの自分に憤慨する。

IoP技術者たち
変態的な頭脳と紳士的な心の持ち主。バカと天才は紙一重である。

ユウト
ごめんよ、こんなオチ担当の予定じゃなかったんだけどね。
あんな世界でまともな恋愛なんてないだろうからきっとウブなんだろう。


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第八十八話:シスコン会にFALが呼ばれるのは当然のこと(無慈悲)

ドルフロの数だけ指揮官や人形はいるのにカリーナだけはどうしようもないよねって思ったけどジョーイさんやジュンサーさんみたいにめちゃくちゃよく似た親族ってことならありなのではと考え続けて気がついたら窓の外が明るくなってました笑


「さて、始まりました第一回『お姉ちゃん大好きな妹の会』、いぇーい!!!」

 

「「「い、いぇーい。」」」

 

「・・・・・・・。」

 

「みんなノリ悪くない!?」

 

 

そんな唐突にアホなことを言い出したのは元気溢れる妹キャラでおなじみのUMP9。それにとりあえず乗っかっておくのはM1ガーランドとM4A1、そしてG36Cの三人。最後に無言で頭を抱えるのが苦労人でおなじみのFALだ。

喫茶 鉄血のテーブルを囲んで始まった新手のシスコン会、メンツからして9が声をかけて集めたのだろうが、なぜそこに自分も呼ばれたのか、FALは不思議でならない。

 

 

「ねぇ9、他の三人は分かるけどなんで私も呼ばれたの?」

 

「え? だって45姉たちの集まりの時って絶対いるよね? だから呼んだの!」

 

 

要するに、姉の集まりを真似たかっただけらしい。もっとも9は姉がどんな話し合いをしているのかなんて詳しく知らないため、それが知りたくて呼んだのもあるようだが。

だが呼ばれた方はたまったものじゃない。何が楽しくてあの悪夢のような集会の真似事に付き合わされねばならないのか、FALがいくら優秀な人形だとはいえ、精神的なダメージ(主に胃にくる)に耐えられるほど頑丈でもない。45の変態的ストーカーを止めてM16のからみ酒を躱してMG34の妹絡みトリガーハッピーを押さえつけて・・・・・・

泣いていいかな。

 

 

「・・・で、具体的には何をするのかしら? 呼ばれた以上はある程度協力してあげるけど。」

 

 

至極面倒だがかといって切り捨てることなどできない、それがFALなのだ。おかげで密かに想いを寄せる指揮官からも『頼りになる部下』として信頼してもらえている。

まぁ、そのせいで恋愛感情には気づいてもらえないのだが。

 

 

「お姉ちゃんって、妹の方が好きでしょ?」

 

「まぁそうね。 ていうかそういうこともはっきり言うのね。」

 

「えへへ〜。 でね、じゃあどれくらい好きか確かめようって思って。」

 

 

なんだろう、嫌な予感がする。それも面倒極まりないほどの、直接の被害はないが胃にくるタイプの、そんなやつが。

 

 

「というわけで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大変! 大事な妹が◯◯されちゃったドッキリ』をやりたいとも思います!」

 

「お願いやめて!?」

 

 

とっさに止めたFALはきっと正しいのだろう。そんなことをすれば暴動どころか一歩間違えれば、いや間違えなくとも死人が出る。というかいい笑顔でなんてことを言い出すんだこの人形は!?◯◯の中身が何かは知らないが絶対ロクなもんじゃない!

他の三人も唖然としてて、互いに顔を見合わせながらなんとか止めようとしてくれる。

 

 

「ね、ねぇ9。 それは流石にちょっと・・・・・」

 

「あ、M16の場合は『一日禁酒しないとM4の配属を変える』っていうクルーガーさんの命令。」

 

「・・・・・ありかも。」

 

「M4っ!?」

 

 

だって姉さん、飲んでない日なんてないんですよ!?とうんざりした顔で愚痴るM4。なるほど酒か妹か、彼女にとって究極の選択とも言えるだろう・・・・・もし酒に負けるようなら本気で配置転換だなと思うM4だった。M16にしてみればAR-15とSOPがそれぞれ彼女持ちとなりM4まで離れたらそれこそ酒に溺れる日々だろう、そしてROにも呆れられて一人ぼっちに・・・・・・。

 

AR小隊の闇を見た気がするFALだった。

 

 

「そういう9は? というよりもしかして全部考えてきたんですか?」

 

「もちろん! 私は『部隊再編に伴って416と別れることになってしまったのを45姉に相談する』ってヤツ。」

 

「地味にエグいのぶっ込んできたわね!?」

 

 

妹といられることに変わりはないがそうなると妹と最愛の人が離れ離れ、二人をくっつけるとなると妹と離れ離れ・・・9は本当に姉が好きなのだろうかと疑いたくなるくらいひどいものだ。相談された45は堪ったものじゃないだろう、上の命令は絶対だが妹の悲しむ顔は見たくない、そんな板挟みだ。

 

 

「もう少しマイルドにしてあげたら? 『妹が本当に好きならサルミアッキ一箱分食べる』とか。」

 

「それもそれでひどいと思いますが・・・・・。」

 

「えぇ〜、でも味覚切られたら終わりだよ?」

 

 

ごもっともだ。だがこのままでは本当にエグい精神攻撃系ドッキリを実行してしまいかねない。そうなればどうなるか、十中八九後始末にFALが駆り出されることになる。断ればそれで終わりなのだがそうするとまた別の厄介ごとが増える気がするため、実質選択肢などない。

なんとか、せめてまだまともと言えるようなものは・・・・・

 

 

「バーンッ! なかなか面白そうな話をしてるじゃないか!」

 

「その話、私たちも一枚噛ませてもらおうか?」

 

「お願いですからじっとしていてください二人とも。」

 

 

自分で効果音まで言って無駄に派手な演出で現れたのはトラブルメーカー筆頭とその燃焼材、アーキテクトとマヌスクリプトのコンビだった。代理人も流石にこの二人を絡ませるのは危険だと判断したのか、青筋を浮かべながら止めに入る。

が、何度も怒られるうちに彼女らは学習したのだ。勝手にやるから怒られるなら、許可さえ取ればいいのだと。

 

 

「というわけでこれが私たちの企画だ!」

 

「名付けて! 『捕まった妹たち! 満足な装備もない中、押し寄せる機械兵相手に彼女たちを救うことができるのか!?』作戦だよ!」

 

「「「「「うわぁ・・・」」」」」

 

 

FALや代理人、ガーランドにG36CにM4までドン引く内容のフリップとタイトルだった。シナリオは至極単純で、とある人権団体過激派によって人形(妹達)が攫われたという情報が()()()()姉達の耳に入る。彼女達は激怒し、ろくに調べもせずに敵陣に突っ込む。しかし待ち受けているのは人形を弱体化させる謎電波と、いつぞやの虫型機械兵(ネストや土蜘蛛)。捕まったが最後、機械とはいえ虫に群がられてしまうのだ・・・・・。

 

最後まで聞くと流石に9も青い顔をする。なにせこの場で唯一、あの昆虫ロボットの餌食になったのだから。

 

 

「あ、あれって全部廃棄したんじゃないの?」

 

「あの時現存してたやつはね。 まぁ設計図があるからすぐ作れるよ!」

 

「生産性が売りだからね!」

 

「ちなみに人権団体役の人も手配してるよ! はい、どうぞ!」

 

「どうも、会長です。」

 

「お帰りください。」

 

 

人権団体(ガチ)じゃねーか。友好的とはいえそんなのを連れてくるとは、というかなぜかこんな茶番に協力してくれるのか。

 

 

「こう見えて鉄血工造にも出資していましてね、株主優待(喫茶 鉄血のクーポン)に色をつけてくれるというので。」

 

「もちろん合法だよ!」

 

「・・・・・・・。」

 

 

今すぐ追い出したいが残念ながらここまで用意周到ではどうしようもない。さらに彼女らは使う廃墟の許可やら使用後の処分など諸々の手続きを済ませる用意があり、参加する当人ら以外には一切迷惑をかけないつもりらしい。

気がつけばFALと代理人を除いて何故か賛成の方向で進んでいる。まぁ多かれ少なかれ、姉の暴走には手を焼いているのだろう。ちなみにガーランドは春田の指揮官絡み暴走癖に、G36Cは姉の酒癖の悪さにである。

 

 

「じゃあ決まりだね! 準備ができたら連絡するからよろしく!」

 

「これでまた新たな資料が・・・・・クククッ。」

 

「・・・・・代理人、胃薬もらえる?」

 

「はい、どうぞ。 それと今日の分はサービスしておきます。」

 

「・・・ありがと。」

 

 

FALの受難は続くのだった。

 

 

 

end




ちゃうねん、別にFALが嫌いなわけやないねん、ただ常識人なだけやねん。
ちなみに一番最初に思いついたドッキリは、姉のポケットに仕込んだ妹の下着を見つけて『お姉ちゃんなんて大っ嫌い!』というシンプルなやつでした。


ではではキャラ紹介とか。

9
元凶。姉のことは好きだがややおかしな方向に進んでいる。似たようなドッキリを416にやると上手いこと返されて逆にはめられるのでそのせいかも。

M4
普段はあまり言わないがふつふつと溜め込むタイプ。最近黒っぽい面が出てくることが増えた気がする。

M1ガーランド
春田の相談役兼ストッパー。微妙にヘタレなところ、妹が大勢いるのに姉としての威厳が失われつつあることを嘆き、このドッキリで逆に姉としての自覚を取り戻してもらおうと考えている。
この作品の中ではかなり珍しい普通のいい娘。

G36C
隠れ苦労人。ヘリアン化しつつある姉に嘆くも、なんだかんだで放っとけない。あんなんでもきっとまだマトモだと信じたい一心で、今回のドッキリに賛成した。
酒にめっぽう強く、ロシア勢とタメを張れるレベル。

いつもの二人
説明不要。

会長
支援要員。



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番外編22

難産だった・・・・・
最近なんだか異様に眠気に襲われるというか、スマホを開いたまま寝落ちすることも多くなったような・・・おかしいなぁ、ちゃんと寝てるはずなのに。


さて今回はこの四つ!
・新規契約
・ペット代理人
・サクヤ先生のカウンセリング(57)
・緊急クエスト.妹たちを救え!


番外22-1:新規契約

 

 

それはこの前の依頼が終わって数日後のこと。スケアクロウのあのインパクトの強い専属依頼の話になんか勢いとかでOK出したはいいけど詳しいことはまた後日、となってようやく今日がその当日。

 

 

「では、こちらがその契約内容です。」

 

「はいはい、え〜っと・・・・・って高っ!? えっ、なにこの金額!?」

 

「この依頼は私との個人的なものですので。 やはりもう少し多い方が・・・」

 

「いや、十分! 十分だから! ていうかそんなに出して大丈夫なの?」

 

「稼いでますので。」

 

「アッハイ」

 

 

では改めて、と契約書にサインを求めてくるスケアクロウだが、レイはサインする直前で再びペンを止め、しばらくすると契約金の『0』を一つ消してからサインした。スケアクロウと、それからそれを見守っていた代理人も目を見開く。そしてレイはペンを置くと、椅子に深く腰掛けて言った。

 

 

「やっぱり俺はこれで十分だ。 貰いすぎは良くない。」

 

「ですが・・・・・」

 

「それに、もう書いちゃったしな。」

 

 

そう言ってヒラヒラと契約書を揺らすレイ。まぁ勝手に契約書の中身を書き換えた上でサインする方が色々とおかしいのだが、スケアクロウは呆れたように笑うと、それを受け取った。

 

 

「わかりました。 ではこの金額で契約しましょう。 ・・・・・これからよろしくお願いします、レイさん。」

 

「あぁ、こちらこそ。」

 

 

二人は握手を交わし、無事契約は完了となる。珍しく嬉しそうな表情を隠そうともしないスケアクロウに代理人もつられて笑うと、コーヒーのおかわりを入れるためにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だがら、ここは俺が払うって。」

 

「いいえ、雇い主である私が払います。」

 

「じゃあその分報酬から引いとけ。」

 

「お断りします。」

 

「・・・・・ふふっ。」

 

 

 

が戻ってきてみれば、どっちが会計を支払うかでさっそく揉める二人に、代理人は思わず苦笑してしまうのだった。

 

 

end

 

 

 

番外22-2:ペット代理人

*ややこしいので『中の人』で呼んでいます。

 

 

「そういやさぁ、コレ(代理人)に入ってるのってダイナゲートだよね?」

 

「えぇ、ついでにあなたの足元で飛び跳ねてるダイナゲートがDです。」

 

 

ペルシカがSOPに連行された後のこと。

そのうち戻るということでじゃあせっかくだからとこのままでいることに決めたのだが、改めてこの状況の物珍しさにアーキテクトの興味が向いていた。見た目は代理人なのに中身はお世辞にも知能が高いとは言えないダイナゲート、そのミスマッチ感とどことなく抜けてる感じのする代理人がなんとなく面白かったのだ。

う〜ん、と悩んだアーキテクトはダイナゲートの前まで行くと、両手を広げて、

 

 

「ねぇ! ギュ〜ってしてみて!」

 

「あ、アーキテクト?」

 

 

なんか突拍子も無いことを言い出した。これには流石に代理人も面食らうが、ダイナゲートは首をかしげると言われるがままにアーキテクトをギュッと抱きしめる。あとついでに頭まで撫でてくれる。

 

 

「あぁ〜、なんか新鮮〜! ・・・ほらM4も!」

 

「ええっ!? で、でも・・・」

 

 

ちらっと代理人を見るがやや困ったような表情でいるだけです止めようとはしない。迷うM4だったがすでにダイナゲートがスタンバイしてるので諦め気味に抱きつかれにいく。

すると、これまで無表情だったダイナゲートが突然満面の笑みを浮かべながらM4を抱きしめ、犬猫のように頬にすり寄ってきた。

 

 

「えっ!? ちょっ、お母s・・・じゃなかった、ダイナゲート!?」

 

「へぇ、M4はダイナゲートにも好かれるのか。」

 

「なんだか複雑な気分です。」

 

「じゃ私も混ざr・・・グハァッ!?」

 

 

アーキテクトも混ざろうと突っ込んでったが、ダイナゲートは迎え入れるどころか裏拳で思いっきりぶん殴り、猫が威嚇するようにキッと睨みつける。

・・・・・嫌われてるんだろうか?

 

 

「まぁ、当然かな。」

 

「すみません、私も擁護はちょっと・・・」

 

「お前、ダイナゲートまでいじめたのか?」

 

「違っ、誤解だよ! ていうかいじめてないよ!? ねぇダイナゲート?」

 

『・・・・・プイッ』

 

「ダイナゲートっ!?」

 

 

ダイナゲートにすら見放されるアーキテクトが哀れに思えてくるが、相変わらず抱きつかれているM4は、こういうのも悪く無いなぁなんて思うのだった。

後日、M4が店に来るたびに元に戻ったダイナゲートがすり寄ってくるようになったとか。

 

 

end

 

 

 

番外22-3:サクヤ先生のカウンセリング(57)

 

 

鉄血工造には人形のカウンセリングを専門に行う人がいる、という噂がある。民間、戦術人形含め人間と同等の権利やら扱いやらが浸透してきたが、未だかつてそのカウンセリングなどという話を聞いたことのない人は多いに驚いた。開発ものと技術者らが個別に相談を受けることはあるが、どちらかというとバックアップの一環であってあまり効果は見込めていなかったのだ。

さてさてそんな人形カウンセラーと呼ばれる鉄血の研究員、サクヤは研究所の一角にある小部屋で座っていた。もともとはただの空き部屋だったのだが、度重なるゲーガーのカウンセリングについにこの部屋をそれ専用に譲り受けたのが始まりだ。以来ここは、世界で唯一の人形専用カウンセリングルームなのである。

 

 

「・・・・ん、来たかな? どうぞ。」

 

「失礼するわ。」

 

 

そんなカウンセリングルームの今日のお客さんはなんと鉄血外から、IoP技術部に振り回される不幸体質のFive-sevenである。サクヤとは先日の一件で知り合い、見るからにストレスを抱えてそうな57を見かねて話だけでもと声をかけたのが始まりだった。そして今日、都合がついたのでカウンセリングを受けてみよう、となったのだ。

 

 

「あの時はごめんなさいね、私が巻き込んだようなものだし。」

 

「いやいや気にしなくていいよ、私が着てみたいって言っただけだから。」

 

 

とりあえず世間話から、とも思ったがこの57という人形、どうやら何かと責任を負いたがるような性格らしい。彼女の所属するFN小隊の隊長であるFALとは、その辺が似てる気がしなくも無い。

まぁ要するに、いつもの相手(ゲーガー)と同じタイプだ。

 

 

「じゃあ悩み事・・・・って言ってもアレかな、無茶振りは断りたいけど自分の製造元だから断りづらいってことだね。」

 

「まだ何も話してないのに、流石カウンセラーね。」

 

「まぁ一応ね。」

 

 

そう、今回の相談事は例の着ぐるみ関連、IoPからの要望をどうにか断れないものかというものだった。57としてはやはり製造元=生みの親ということで断りづらいのだろう・・・・・が、実際のところ断る例の方が断然多い。例えば16labの場合ならなんらかの装備やアップデートの際はペルシカと人形が直接話し合うようにしている、17labの場合も彼らから要望を出すことは極めて稀で、言質を取って始めて行動に移すのだ・・・・・それがうっかり口を滑らせた場合であってもだが。

そんなわけで、

 

 

「うん、嫌なら断ればいいよ。」

 

「え? でもそれは流石に・・・・」

 

「57ちゃんは優しいね。 でも今の君はIoPではなくグリフィンの所属、こう言っちゃなんだけどIoPの指示に従う理由はそこまで無いんだよ。」

 

「それはそうだけど・・・・いいのかしら?」

 

「全然問題ないよ! むしろ嫌なことは嫌って言ってあげる方がいいんだよ。」

 

「そう・・・・・・・わかったわ、次から断ってみる。 今日はありがとうね。」

 

「うん。 またいつでも相談にのるからね!」

 

 

一礼して部屋を出る57を見送ると、今度は入れ違いにゲーガーが入ってくる。またアーキテクト絡みかな? と思うサクヤだったが、彼女が持ち出したのは先ほどの57のことだった。どうやら話を聞いていたらしい。

 

 

「ま、典型的な()()ってところだろうな。」

 

「盗み聞きは感心しないよ・・・・・でもまぁ、その通りだね。」

 

 

今回の相談の根底にあるのは、彼女自身が自分のことを企業の『商品』としてみていることだ。これは多かれ少なかれIoP製の人形なら

全員が持っているようで、16labのように生まれつき自由と独立を与えられているのは極々稀なのだ。故に今回のような、不平不満はあれど従っているという事態が起こってしまう。

グリフィンはもちろん、IoPもこれに関してはよしとしてはいない。が、なかなか人形に『自由だ』と言っても聞いてくれないのが現状なのだ。

 

 

「だから、サクヤさんのような人が増えてくれればいいんだが。」

 

「私じゃなくてもいいし、なんだったら指揮官たちが一番近いんじゃないかな? ほら、指揮官のためならグリフィンの命令すら無視する娘もいるし。」

 

「それもそうだな。」

 

 

そう言って二人は笑い合う。

願わくば、人形たちが本当の意味で自立できますように。

 

 

end

 

 

 

番外22-4:緊急クエスト.妹たちを救え!

 

 

あらすじ・妹たちがなんかアブナイ施設に連れていかれました(ドッキリ)

*飲み物を口に含んだ状態でご鑑賞ください。

 

「・・・ここか。」

 

「えぇ、そのようね。」

 

「私の大事な妹を攫うなんて・・・・・タダではすみませんよ。」

 

「ガーランド、今すぐ助けますからね・・・・・そしたら指揮官に褒められるかも。

 

 

風の噂で妹たちの危機を知った(ダメ)姉たちは、その手に愛銃を握りしめてとある施設跡に集まっていた。妹を溺愛しているM16や45は言わずもがな、普段は辛辣だが優しい妹を拉致られたG36や一番の理解者であるガーランドを攫われたスプリングフィールドも完全に怒り心頭、大した情報収集すらせずに突っ込もうとしていた。

それこそが、妹たちの狙いであるとも知らずに。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「おぉ、45姉めっちゃ怒ってるよ!」

 

「なんでそんなに楽しそうなのよ9。」

 

「姉さん、本当に大丈夫でしょうか・・・・・。」

 

「流石に酒には負けたくはないでしょうからね。」

 

「なんというか、久しぶりにまともな姉を見た気がします。」

 

 

別室のモニタールーム。施設の各所に取り付けられた監視カメラにより四人の行動が手に取るようにわかる妹たちとFALは、ポップコーン片手にまるで映画でも楽しむかのようにモニターを眺めていた。

ちなみのこのドッキリの流れは以下の通り。

①大量の虫型無人機による精神的ドッキリ

②弾薬が尽きかけたところで個別に分断

③さらに多数の無人機をけしかけて絶望の中で捕縛

④捕えた姉の目の前で妹を人質にとり要求を突き付ける

⑤姉が応えたところでネタバラシ

 

 

「さぁもうすぐ第一段階だよ!」

 

「あの趣味の悪い無人機ね。」

 

「どこまで粘れるでしょうか。」

 

「AR二人に前衛のSMG、後衛のRFならバランスはいいはずですが・・・・・」

 

「あ、始まりましたよ。」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「いやぁああああああ!!!!! なんでこいつらなのよおおおおおおおお!!!!!!」

 

「こんなものを作るだなんて・・・・度し難いですね!」

 

「くそっ、数が多すぎる!」

 

「・・・・このままではまずいですね、そこの通路に逃げ込みましょう!」

 

 

第一段階の無人機(ネスト)を結構な勢いで減らす四人だが、撃てども数が減らない黒い波に弾薬だけが減っていき、苦渋の選択で逃げに走る。狭い路地に入ればまとめて吹き飛ばすこともできるはずで、広い廊下で戦うよりはまだマシだろう。

後衛のスプリングから路地に入り、最後の45が路地に足を踏み入れたところで・・・・・・45の足元がパカッと開く。

 

 

「へっ? うわぁあああああああ!!!!!!!!?」

 

「よ、45!?」

 

「一体何が(ガコンッ)きゃああああ!!!?」

 

「スプリング!」

 

 

突然消えた45に気を取られた隙に、スプリングの横の壁が開いて無数の腕が彼女を捕えた。そのままなす術なく引き摺り込まれ、無情にも壁が閉まる。

その後も逃げ続けたM16とG36だが、途中でM16が45と同じように床下に消え、G36は一人走り続ける。ふと気がつくとG型無人機の音は完全に消え、自分が今少し広めのドーム状の部屋にいることがわかる。走ってきた道を警戒しながら銃を構え・・・・・・次の瞬間にはその銃が突然宙を舞う。直前に見えたのは、何か糸のようなものに絡め取られていたことくらいで・・・・・そこまで考えて恐る恐る上を向くと、

 

 

『ジー』

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

ドームの天井を、びっしりと覆い尽くすやや小型のマンティコア・・・土蜘蛛たちが赤いモノアイを光らせていた。そして銃を奪われ呆然とするG36の元に一斉に襲いかかり・・・・・

 

 

「い、いやぁあああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

断末魔だけが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外とあっけなかったね。」

 

「いや、むしろよく逃げた方じゃないかしら。」

 

 

結局数分と経たず、残りの三人も次々と捕縛される。G36は糸でぐるぐる巻きにされ、M16は壁に貼り付けられて無数のネストが迫ってきたところで強制スリープに入り、スプリングは落ちた先が大量のネストの上だったので悲鳴もあげずに意識を飛ばし、45はいつぞやのトラウマ再発であえなく取り押さえられた。

まぁなんにせよ第二、第三段階もクリアし、残りは妹たちを使った脅迫だけだ。というわけでモニタールームにFALを残し、9たちはそれぞれの部屋へと向かっていった。

残されたFALはそれぞれの部屋の様子を見つつ、部屋の前にダミーたち(ネタバラシ要員)を待機させる。やがて最後のドッキリが始まると、コーヒーをすすりながらそれを眺めるのだった。

 

 

『な、9!?』

 

『UMP45、妹の命が惜しくばこちらの要求を飲んでもらおう。』

 

『くっ、なによ。』

 

『今後、任務以外でUMP9と接触することを禁ずる!』

 

『はぁっ!?』

 

 

『ね、姉さん!』

 

『くそっ・・・M4を離せ!』

 

『それは貴様の態度次第だM16・・・・・・M4を返して欲しいなら、死ぬまで禁酒すると誓うのだ。』

 

 

『貴方達・・・何が目的ですか!?』

 

『G36、貴様は夜な夜な酒場を荒らし回っているそうだな?』

 

『あ、荒らしてなんてないわよ! ・・・・・多分。』

 

『そうか・・・・では今後一切、酒場には行かないと約束できるのならば返してやろう。』

 

 

『私の妹に何をするつもりですか!? まさかあんなことやこんなことを・・・・・この変態!!』

 

『き、貴様にだけは言われたくはないぞこの淑女の皮を被った変態め!』

 

『変態!? 私のどこが!?』

 

『全部だっ!!! そうだな、では妹に無事でいて欲しいのならばあの指揮官へのアプローチをやめてもらおうか?』

 

 

 

 

「・・・・・うん、地味にエグいのばっかりね。 でも、」

 

 

FALと妹達が見守る中、四人の姉はギュッと拳を握り堂々と言い放つ。

 

 

 

『わかったわ、それで9が助かるなら安いものよ!』

 

『あぁわかった。 M4のためならやめてやる!』

 

『そんなことですか? いいでしょう、では今すぐ解放してください!』

 

『・・・・・わかりました。 それで満足するならばそうしましょう。』

 

 

「・・・・・・・ほらね。」

 

 

わかりきっていたようにFALは呟くと、ダミー達に指示を送りプラカードを掲げて突撃させる。突然現れたFAL(のダミー)と『ドッキリ大成功』と書かれたプラカードを見て姉達は目を白黒させるが、それが落ち着くと一斉にダミーに襲いかかる。まぁ想定内なので直前にリンクを切ってはいるが。

だが妹達は満足したようで、特に久しぶりに姉の勇姿(?)を見たM4とガーランドは泣きながら抱きついている。内容はともかくとして、結局姉は妹が大切なのだということがわかっただけでもよしとしよう。

 

 

(ふふっ・・・・ま、これでいいんじゃないかしら。)

 

 

FALは満足そうに笑みを浮かべると、荷物をまとめて先に帰ることにした。そして扉をあけて廊下に出ようとして・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カサカサカサカサカサカサ

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

 

思いっきり扉を閉める。

そう時間が経たないうちに、妹達に救難信号が届けられた。

 

 

 

end




なんとでも言ってくれ、ここまで酷い番外編はないだろう(自虐)
ところでクモ糸に絡め取られるG36がエロいと思うのですがいかがでしょうか?


さてでは各話の解説

番外22-1
八十五話の後日談。この二人はこんな距離感がいいんじゃないかなぁ。
スケアクロウとセットになったので今後も出番があるかも。

番外22-2
八十六話の一幕。
Dほど明るく喜怒哀楽がはっきりするわけじゃないけど、動物型ゆえに素直な感情が態度に出る代理人(ダイナゲート)。M4そこ代われ。

番外22-3
八十七話の番外編というよりも鉄血工造の一場面みたいな感じ。
何かと便利そうなので今後はコーナー化しようかと検討中。

番外22-4
八十八話の計画。
久しぶりのネスト&土蜘蛛によるメンタルダメージ要員。
『マイスターの会』会員による迫真の演技と、姉達の威厳が少しでも戻ればと・・・・・え?春田さんは手遅れだって?そこを見逃すのが大人の余裕というものだよ。



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第八十九話:わがままレディ

416のスキンが出ないのでロリスキン書きます(錯乱)

いいもん、カードの力で春田とWAちゃんとBARちゃんのスキン出たもん!


「〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪」

 

 

その日、グリフィンS09地区所属の人形・UMP45は大変ご機嫌だった。先日行われた『姉は本当に妹が大切なのか確かめよう作戦(命名:UMP9)』のお詫びということで、9と丸一日過ごすことができるからだ。あの時はとりあえずFALをボコらねばと殺意に沸いていたが、こんなご褒美があるなら何度だって受けてもいい(シスコン脳)

そうこうしているうちに9(と416)の部屋にたどり着く。9が416と付き合いだしてから部屋が別れてしまいG11を起こすのが日課となった45は、ドアに掲げられた『UMP9とHK416の部屋』というカードに軽くイラっとするが、気持ちを切り替えて部屋をノックする。

 

 

「9、おはよう。 今日はどこに行こうかしr・・・・・・・」

 

「あ・・・・・・・」

 

「すー、すー、すー・・・・」

 

 

今すぐ飛びつきたい気持ちを抑えて自然に開いたドアの向こう、そこにいたのは愛しの妹であるUMP9と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・・え?

なんか困ったような顔の9の膝の上で眠るソイツは水色の髪に涙のような赤いタトゥー、そして髪の色によく似た十字の髪飾り・・・・・・・・・・・・・・・・・HK416によく似ていた。

 

 

「・・・・・9」

 

「ど、どうしたの45姉?」

 

「おめでただったのね知らなかったわ416似の娘なのはちょっと残念だけど二人の愛の結晶なのねしっかり育てるのよお幸せに」

 

「待って待ってまず話を聞いて!?」

 

 

血のように赤い涙を流しながら笑顔で息継ぎもせずに言い切った45を落ち着かせるのに三十分もかかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・つまり、こいつはあの416ってことなの?」

 

「そうみたい。 見た目も思考も子供っぽくなってるけど間違いないよ。」

 

「・・・・・・・・」ギュッ

 

「ああ、大丈夫だよ416ちゃん! この人は私のお姉ちゃんだから!」

 

 

それでも本能的な危機を感じているのか、一向に袖から手を離さないチビ416。が、これがあの416本人だとしてもいくつか疑問がある。まず第一に416は昨日から新型スキンのテスターとしてIoP本部に行っているはずで、もし終わったのなら9に連絡が来るはずなのだ。さらに、この416は見ての通りこれまでの記憶がほとんどない。9に関係することはほぼ覚えているようだが、それ以外はまるでなかったかのように抜け落ちている。間違いないと言った9だが、正直確証は持てていない。

あとちっこいの、今日は私と9がイチャつくんだから離れなさい。

 

 

「と、とりあえずペルシカに連絡しましょう。 あとはこの娘をどうするか・・・・・」

 

「う〜ん、でもこのままここに置いとくのは・・・あ、そうだ!」

 

「・・・・・・・?」

 

 

9が何か閃いたような顔で45を見る。その晴れやかな表情は45にとって大変微笑ましいものではあるが、同時に突拍子も無いことを考えている顔であることも察していた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

人形は基本的に無神論者である。まぁ人間と違いその起源がわかっているからというのが大きい。だがこの日、45はその神に感謝の念を抱いていた。

 

 

(あぁ、神さま本当にありがとう!)

 

「? どうしたの45姉?」

 

「んふふ、なんでも無いわよ9♪」

 

 

明らかに浮かれている理由、それは9と約束した一日を過ごしていることと、その9が抱えているチビ416にある。久しぶりに二人で肩を並べて街を歩くだけでも満足なのに、ちびっ子までいるとまるで本当に家族になったような気分だ。娘の顔が416似なのがちょっと残念だが、まぁ家族気分に浸れるなら些細な問題だろう。

そんなわけで45の表情は終始腑抜けっぱなしだった。

 

 

「で、どこに向かってるの9?」

 

「うん、ペルシカに連絡したらすぐには行けないからって代わりにアーキテクトに来てもらうんだって。 だから集合場所は・・・・・ここ!」

 

「あーうん、そんな気はしてたわ。」

 

 

そんな三人がやってきたのはお馴染みの喫茶 鉄血。まぁ相談事にも集合場所にも最適だが、いまいち新鮮味のないデートに若干がっかりする45。だが9にしてみれば最愛の彼女がこんな姿になっているのでは落ち着かないだろう。

そういうわけで困った時の駆け込み寺、安心と信頼の喫茶 鉄血である。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいませ・・・・・おや、45とナイn・・・ん?」

 

「あはは・・・・いきなりだけど個室は空いてるかしら?」

 

「突然ごめんね代理人。」

 

 

いつも通り出迎えようとした代理人の動きが止まり、目をパチパチさせる。そりゃそうだろう、9の腕の中でキュッと小さくなっている416っぽい子供がいればそうなる。どうやら訳ありらしいので、幸い空いていた個室へと案内して話を聞く。合流することになっているアーキテクトにも伝え、来るまでの間に確認できることだけ確認しておく。

 

 

「なるほど、つまり現れた時にはその姿だったと。」

 

「うん、泣きながらベッドに入ってきたからビックリしちゃって。」

 

「ていうかこんな子供の侵入を許すなんてどんな警備してるのよ。」

 

「9! あーん!」

 

「ん? あーん。」

 

「・・・・えへへ〜!」

 

(((可愛い)))

 

 

つついていたケーキを一口、9の口に持っていく416。

なんというか、以前よりはましだが普段からツンツン気味な416がここまでデレるとなかなかのものだ。世のロリコン大歓喜だろう。しかしスキンのテスターと言ったが一体IoPはどこを目指しているのだろうか・・・・・・あ。

 

 

「IoPに直接聞けばいいのでは?」

 

「「あ・・・・・。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で? つまり成功したはいいけど幼児退行が進みすぎて泣きながら逃げ出したと?」

 

『も、申し訳ございません! ずっと敷地内に隠れていると思っていたのですが、まさかそっちまで行ってしまうとは・・・』

 

「帰り道とか電車の乗り方とかはわかるんだ・・・・。」

 

「縮んでも幼児退行しても中身は変わらない、ということでは?」

 

「とりあえず、そっちに送り返せばいいの?」

 

『ええ、すぐに元の体に戻しますし、記憶も元通りになります。』

 

「やだっ!!!」

 

「・・・・・416ちゃんが嫌がってるのは?」

 

『何もしてませんよ!?』

 

 

かつてないほど冷たい声で問い詰める9にヒヤヒヤしながらも、担当研究員は事情を説明する。今回は以前17labが開発したロリスキンの改良を目指し、ついでに対象を『ツンツンした人形』に絞って調整していたらしい。が、ロリ化の反動かはたまた普段から寂しさを抱えていたのか、スキンを適用した途端に泣き出し研究員たちを振り切って逃げ出してしまったという。人形としての性能に加えて小さくなった体は見つけにくく、また研究員達の運動不足も相まって一向に見つからないまま丸一日が過ぎたらしい。

・・・まさか自力で帰るとは思ってもみなかったらしい。

 

 

『とにかく、一度こちらに来ていただく必要がありまして。』

 

「ヤダヤダヤダっ!!!」

 

「よしよし、大丈夫だよ〜・・・・・はぁ、今すぐは無理だけどそっちに行くよ。」

 

『えぇ、こちらもすぐに戻せるように準備はしておきます。』

 

 

それだけ言うと通話を切り、ぐずる416にケーキを与えて落ち着かせる。9の中でIoPへの不信感が爆発的に大きくなっているが、416が行きたがらない理由はただ9と離れ離れになるのが嫌なだけなので彼らに非はないのだ・・・・・実験中の顔が妖しい笑みなのを除けば。

そんな時、個室の扉が勢いよく開き、何やら怪しげな装置を背負ったアーキテクトが駆けつけてきた。

 

 

「お待たせっ! とりあえず色々持ってきたよ!」

 

「わざわざありがとうアーキテクト。 でももう解決しちゃった。」

 

「この『超・解析くん』にかかればどんな不調の原因だって丸わかr・・・・・え?」

 

「本当にごめんね・・・・・そんな悲しそうな顔しないで!? 本当にごめんって! なんでも奢るから!」

 

「ん? 今『なんでも』って?」

 

「・・・・・45姉が。」

 

「9っ!?」

 

 

しれっと姉を売る9に非難の目を向けるが、もうすでに決まったことのようでアーキテクトが目をキラキラさせながらメニューを指差す・・・・・スペシャルケーキ(1200円)を。

妹のお願いでなければその目に閃光弾を埋め込んでから起爆してやるところだが、渋々財布から1200円を支払う。代理人もちょっと呆れ顔だったが、あくまで止めるつもりはないらしい。

 

 

「・・・・で、これがあの416? 可愛い〜!」

 

「ちょっとアーキテクト! 416ちゃんが怯えてるんだけど!?」

 

「大丈夫大丈夫、怖くないよ〜アダッ!?」

 

「こっち来ないで!」

 

 

416の平手をまともに受けてよよよっと泣き崩れるアーキテクト。しかし元が416だからかかなり警戒心が強く、9以外には45でさえも懐く気配がない。代理人に関しては無反応だったが、アーキテクトには露骨に警戒心をあらわにしている・・・・・日頃の行いだろう。

なるほどこれでは研究所から逃げ出すわけだ。

 

 

「・・・ねぇ9?」

 

「ん? なぁに416ちゃん?」

 

「ギュ〜ってして。」

 

「こんな感じかな?」

 

「・・・えへへ〜〜、暖か〜い!」

 

「・・・・・これ、本当に416?」

 

「9にはデレッデレよね・・・・・G11に写メ送っときましょ。」

 

 

パシャっと一枚撮り、G11(愉悦部)に送りつける。アレのことだから有効活用してくれることだろう。

だがしかし、本来は9と二人っきりの一日のはずなのに416にとられたのは正直面白くない。ちっこくなってるからといっても416は416、たまには隊長であり姉である自分に譲ってもらわねば・・・・・というわけで、

 

 

「じゃあ私はこっち〜♪」

 

「むっ!」

 

「よ、45姉?」

 

 

9の隣に席を移し、肩にもたれかかるように座る45。幸せ顔から一転、新たな敵と認識した416がキッと睨みつけるが、大人であるならともかく子供のままでは大した威嚇にもならず、45はフンっと鼻を鳴らす。挟まれている9はオロオロするしかないが、助けを求めようにもアーキテクトはスペシャルケーキを頬張るだけで我関せずといった感じだ。

結局最後は416が泣き出し、代理人が仲裁に入る形で解決。後日9の付き添いで研究所に戻り、ちゃんと元の姿と記憶(チビ状態も含む)を取り戻した416であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ねぇ9。」

 

「なぁに416()()()?」

 

「その・・・・『416ちゃん』っていうのはやめないのかしら。」

 

「んふふ〜、いいじゃん可愛いんだし!」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「ほらほら、またギュ〜ってしてあげようk・・・んむっ!?」

 

「・・・・・・プハッ・・・ねぇ9、ここでもう一度どっちが上かはっきりさせようと思うのだけど?」

 

「ふぇっ!? ここで!? せ、せめてホテルとか・・・・・」

 

「ダメよ、お調子者にはお仕置きしないとね・・・・・・・ウフフ。」

 

「ま、待って416! ここじゃ人が来ちゃう・・・・・あっ」

 

 

その日以降、9が416ちゃんと呼ぶことはなくなったとさ。

 

 

end




体だけ小さくすべきか、それとも幼児退行させるべきか・・・・・サイコロ神は後者を選んだようです。
いやぁ416ちゃんは可愛いなぁ!


というわけでキャラ解説

416
ちっこくなっただけでなく幼くなった。
もちろんスキンなので戦えるが、そこらの武器よりも防犯ブザーの方が強力。

45
作戦以外はダメな姉。
任務中は404小隊のトップだが、それ以外では最下層にまで落ちぶれる。こんなんだが妹に手を出すことはない。

9
家族が増えるのはいいけど恋人がいなくなるのは嫌。
ここぞとばかりに攻勢に出て返り討ちにあうのはお約束。

アーキテクト
呼ばれたけどなんの役にも立たなかった。
ケーキ一個で機嫌が直るアホの子。

代理人
不測の事態でも臨機応変に対応してくれる頼れる人形。
困ったことがあればとりあえず連絡すればいい。

IoPの皆さん
二徹三徹する体力はあるが走り回る体力はない。
やましいことは何もないが疑われやすい。



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自分の作品では書きにくいけど・・・ってやつでもOKだよ!
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第九十話:彼女の好みは

忘れた頃にやってくるアイツ

そういえば結構前に銃の擬人化アニメがあったりしましたが、戦術人形もリンクした銃を触ったら反応とかしないんでしょうか?
もしするならUMP9の銃床をなでまわs(銃声


「代理人の好みって、なんだろうな?」

 

「ふむ、そういえば聞いたこともないな。」

 

 

酒が入っていい感じにほろ酔い状態のダネルとゲッコーがいるのは、週に一度だけバーの時間が訪れる喫茶 鉄血。今日はちょうどその日で、通常の営業時間が終わると同時に飲み目当ての客に入れ替わる。

任務終わりのダネルも、その一人だ。

 

 

「なぁゲッコー、お前は代理人のそばにいるんだから、何か浮いた話とか聞かないのか?」

 

「残念だが、全くの皆無だ。 何より客の『好きです』がどこまで本気かわからん・・・・・アイドルに近いんじゃないか?」

 

「あ〜、なるほど。」

 

 

ちなみにゲッコーが飲んでいるにも関わらず咎められないのは、彼女が今日は休みだからだ。だが特に行くあてもないし用事もないので日中は適当に時間を潰し、夜になってちょっと飲みにきたのである。ついでに社員割りがきくのもある。

そこでダネルと出会い、代理人の話で意気投合して盛り上がっているところだ。

 

 

「くそっ、せめて代理人好みの容姿でもわかれば・・・・・」

 

「だが代理人の理想か・・・想像もつかんな。」

 

 

代理人に想いを寄せる、どころか告白紛いなことまでやった上に玉砕したにも関わらずしぶとくアプローチをかけ続けるダネルはなんとか代理人の好みを知りたいのだ。ゲッコーの方は別に代理人を狙っているわけではないが、今後の参考のために知っておきたいのだろう。

が、最大の難点は彼女の周りに男の影すらないことだ。人の幸福を願うあまり自分の幸福を疎かにしがちな代理人らしいといえばらしいのだが、もうちょっと異性に興味を持ってもいいんじゃないだろうか。

 

 

「むむむ、考えても仕方がないな・・・・ここは協力者に頼ろう。」

 

「協力者?」

 

「あぁ、何人か当てはある。」

 

 

そう言って端末を取り出し電話をかけ始めるゲッコー。彼女の提案に一抹の不安を覚えながらも、現状どうしようもないダネルはおとなしく見守ることにした。

 

 

 

 

 

協力者A

 

「どうも会長です。」

 

「・・・・・いきなり人選ミスではないのか?」

 

「安心しろ、代理人の情報にかけては最も頼れる男だ・・・だがその自己紹介はなんとかならんのか?」

 

「これがしっくりハマってしまったので。 で、代理人のことでお悩みですな?」

 

 

何人かに連絡を取り、最初に来たのが例の人権団体の会長。鉄血人形ファンクラブ『代理人の部』の会長でもあるこの男なら、おそらく二人の知らない情報も持っているはずだ。

というわけでさっそく事情を説明し、何か心当たりがないか聞いてみる。

 

 

「ふ〜む、好みですか・・・残念ですが、それらしい情報は我々も持っておりませんな。」

 

「そうか・・・・・」

 

「ですが、彼女のハードルはあまり高くないとは思いますよ。」

 

「うん? どういうことだ?」

 

「まぁあくまで想像ですが・・・彼女は家事全般はほぼ完璧です。それこそ、パートナーができても彼女一人でこなせてしまうでしょう。 ということは、求める条件に家事云々はないと思ってもよろしいのでは?」

 

 

なるほど、と唸るダネルとゲッコー。まぁ確かに代理人の家事は問題ないし、なんだったら一人で全部こなしてしまいかねない。こういうのを尽くすタイプというのだろうか。

家の扉を開けば、エプロン姿の代理人が優しい笑顔で『おかえりなさい』と・・・・・・

 

 

「・・・・・いいな、それ。」

 

「ダネル、鼻血出てるぞ。」

 

「ほっほっほっ、若いですなぁ。」

 

 

 

 

 

 

協力者B

 

「・・・・こいつらこそ人選ミスだろ。」

 

「失礼な。 代理人と最も付き合いの長い『男性』といえば、我々17labの他にありませんよ。」

 

「まぁ、そういうことだ。 本当に不本意ではあるがな。」

 

 

次に呼ばれたのはあのIoPにおける最強の変態集団、そして元鉄血工造の技術部門である彼ら17labである。

そう、『元』鉄血工造なのだ。当然代理人の製造にも携わり、また戦闘やその他のプログラミングも担当した、まさに代理人の生みの親である。そう言った経緯から、他のハイエンドほど代理人は彼らを毛嫌いしてはいない・・・・・トラブルメーカーなのを除けば。

 

 

「鳶が鷹を産むというが・・・・・こんな変態どもからあの女神のような代理人が生まれるとは・・・・・」

 

「ふふっ、褒めても何も出ませんよ?」

 

「褒めてねえよ。」

 

 

だがこいつらを呼ぶのは一理ある。なにせ代理人のAIを設計した連中ならば、代理人の好みを設定したと言っても過言ではないはず。

だが・・・・・

 

「好み・・・・ですか? 残念ながら我々にはわかりませんな。」

 

「「・・・・・は?」」

 

「なにせ我々が設計したのはあくまで代理人という人形とそれを動かすプログラム、あとは彼女の学習機能だけですから。 彼女が何を見、何を感じ、何を考えるのかは彼女にしかわかりませんよ。」

 

「・・・まぁ、確かに。」

 

「そういう意味では、彼女が健全に育っているというのは喜ばしい限りですよ。」

 

「鉄血工造を乗っ取られたのにか?」

 

「それも、彼女らがそうすべきだと判断したからにすぎません。 つまり、彼女らは人形で初めて、自由を叫んだのですから。」

 

 

チラッと代理人を見る主任の目はいつもの得体の知れないものではなく、娘の成長を喜ぶ父親のような目だった。なんだかんだで、彼らも人形を愛する研究者なのだと思うのだった。

 

 

「しかいいつ見ても素晴らしいフォルムだ。 やはりメイド+ガーターベルトは正しかった。」

 

「今ので全部台無しだこのやろう!」

 

「というかやはり貴様らの趣味か!?」

 

『当然です!』

 

「素晴らしいっ!」

 

「おいこら会長!」

 

 

 

 

 

協力者C

 

「えっと・・・・・なぜ私なのでしょうか?」

 

「いや、よくよく考えればD(ダミー)に聞くのが一番だと思ってな。」

 

「最初からこうすればよかった・・・・・」

 

 

三人目の協力者はあの代理人の高性能ダミー、いつの間にか自我を持ったり本体とは違う成長を遂げているDだ。今でこそ個性というものが出ているDだが元は代理人、よって彼女の好みは代理人の好みであると言えよう。

 

 

「好み、ですか? う〜ん・・・・・優しい人、ですかね。」

 

「そ、そうか・・・他には?」

 

「他には・・・まぁ家事は私、じゃなくてOちゃんができますからそこは重要ではなく・・・・・あ、自分を大切にする人ですね。」

 

「「自分を大切にする人?」」

 

「えぇ。 仮にOちゃんがだれかと結ばれたとして、二人でこのカフェを営むのかそれとも専業主婦になるのかはわかりません。 ですが、私たちはメンテさえすれば変わらぬ人形です。 当然人よりも長く生きていられますから、相手の方には自分を大事にしてもらって、長く隣にいられるようにしたい、と思いますよ。」

 

 

言いながら若干顔を赤らめるD。おそらく代理人ではなくDの理想やらが入ってはいるが、言っていることは理解できるし納得もできる。誰にでも優しい代理人だが、惚れたらきっと一途なんだろうとも。

だがそこまでならよかったのだが、Dがいらんことまで話し始める。

 

 

「あ、でもOちゃん宛てにラブレターが届いたこともありますよ。」

 

「「なにぃ!?」」

 

「というかお前は知らなかったのかゲッコー!?」

 

「初耳だぞ!?」

 

 

送ってきた相手は誰だとか、見つけ次第蜂の巣にしてやるなどと過激なことを言い合う人形二人に苦笑しつつ、Dは話を続けた。

 

 

「まぁ流石に冗談か何かだと思っていたので心配はいらないと思いますよ。」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

「でも、『ウェディングドレスとか似合いそうだね』って言ったらちょっと照れt「D?」・・・・ギクッ」

 

 

ピシッと石のように固まったD。その背後には笑顔の、凍りつくような威圧感を漂わせた笑顔の代理人が立っていた。そしてその右手がゆっくりと持ち上がり、Dの頭に乗せられて・・・・・・

 

 

「イダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!!」

 

「D、休憩はとっくに終わってるはずですよ? それと・・・・・『口は災いの元』という言葉は知っていますね?

 

「ご、ごめんなさいいいいいいいいい!!!!」

 

 

ギリギリと頭を握りながらギロッとダネルたちを見る代理人。そしてニコッと笑うと、

 

 

「他言無用、わかっていますね?」

 

 

とだけ言ってDを引っ張って戻っていった。しかもいつの間にやら会長も17labの連中も帰っていたようで、ダネルとゲッコーだけがビクビクと震える。

結局好みやらのはっきりしたことはわからなかったものの・・・・・

 

 

「あれ? 私がダメな理由ってなかったような・・・・・」

 

「ん? そうだな。」

 

「つまり、チャンスはまだあるのか・・・・・・よし!」

 

 

ひたすら前向きなダネルが再びアプローチをかけていくきっかけにはなったようだ。

もっとも、ダネルが断られる理由が『同性』なのだが、それに気づくのは当分先のこと・・・・・もしかしたら一生ないのかも知れない。

 

 

end




17labが元鉄血工造の研究員って設定、覚えていた人はどれくらいいるのだろうか。
それはさておきここまで残念なダネルって結構珍しいなってのに最近気づきました。


ではキャラ紹介

ダネル
代理人に想いを寄せる乙女。
今のところ代理人に恋愛感情を抱いているのは彼女だけなので、粘ればなんとか・・・・・ならない(同性なので)
竹槍要員だからか、微妙に突撃脳。

ゲッコー
今日は非番。
相変わらずの口説きグセだが、さすがに恋する乙女には言い寄らない。今回は自分がくどく時の参考で付き合っている。
忘れられがちだが、喫茶 鉄血で最強クラスのパワーを持つ。

会長
名前もないのに主張の強いモブ。
代理人が主役である限りこいつの出番は終わらない。

17lab
みんな大好き変態集団。
ACで言えばアクアビット、バイオで言えばアンブレラ、MGSで言えばMSF開発班。
こんなんだが人としての道は踏み外さない。

D
最近被害者寄りになっている。
他の方の作品でも見られるので探してみよう。



喫茶 鉄血のリクエスト募集中です!
可能なものは応えていくつもりですので!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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CO-4:邪教徒絶対◯すウーマン

リクエスト兼自分の思い入れが深い作品から。
見た目はほぼ一緒だし名前も一緒だけどどう考えてもSMGなんて威力じゃない彼女のお話。


「・・・・・は? 私?」

 

「えぇ、昨日はどちらに?」

 

 

平穏な空気漂う喫茶 鉄血・・・は唐突に終わりを迎え、ドカドカと入り込んできた軍人たちが窓際で本を読んでいたトンプソンを囲む。これには側にいたG11もびっくりしたらしく、今は狸寝入りを決め込んでいる。どう見ても穏やかではない様子に、流石に代理人も止めに入ろうとする。

 

 

「いきなり大勢で囲んで、というのは褒められたことではありませんね。」

 

「確かにその通りだ、だがそうも言っていられないのだよ。 さて戦術人形トンプソン、君は昨日どこにいた?」

 

 

おそらく隊長格であろう男が語尾を強めて尋ねる。それに対しトンプソンは一日中ここにいて、日が暮れる頃に帰ったと答えた。彼女の言うことが事実であるのは代理人を含めた店員と昨日も同席だったG11が証明できる。それに彼女は早朝から現れて帰りはG11とともに司令部に戻ったので、あとは司令部の出入り時間を調べれば済むことだ。

それよりも・・・・・・

 

 

「彼女が何かしたのですか? 同型の間違いでは?」

 

「その可能性もあったがこのS09地区にいるトンプソンは彼女一人だ。 そして昨晩・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カナードはどこだ!?』などと訳のわからんことを言いながら徘徊する姿が目撃されている。」

 

「「・・・・・・・・は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてちょっとした騒動があった翌日。

S09地区の外縁部に集まったのはトンプソンと代理人ら喫茶 鉄血組の面々、しかも久しく見ていなかった完全装備である。

結局彼女の疑いは晴れたのだが、同型機が訳のわからないことを叫びながら徘徊するというなんとも不名誉なことをやらかしている状況に、トンプソン自ら調査に向かうことになった。だが妙なことに他のトンプソン全員もアリバイがあり、グリフィンもIoPも混乱状態にあるため増援が出せず、止むを得ず喫茶 鉄血を臨時休業として応援に駆けつけたのだった。

 

 

「すまない代理人、付き合わせてしまって。」

 

「お気になさらず。 それにどうも今回の件は普通ではなさそうですので。」

 

 

そういう代理人はスカートの下からサブアームの銃口をちらつかせる。Dは捕縛用のアームを装備し、マヌスクリプトとゲッコーも防御と捕縛を重視した装備となっている。イェーガーとリッパーは基本そのままだが、予備兵装としてトリモチランチャーを背負っている。メインの他に大きなカメラを背負ったダイナゲートを偵察要員とし、徘徊トンプソン捕獲作戦が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くたばれぇえええええええ!!!!!」

ドガガガガガガガッ!!!

 

「な、なんなんだあいつは!?」

 

「どう見てもあなたの同型(トンプソン)ですが?」

 

「見た目はともかく威力がおかしいよ!? SMGじゃなくてMGじゃん!」

 

 

外縁部を探し回ること一時間ちょっと、意外にも早く見つけることができたのだが、ファーストコンタクトからすぐにこの有様である。まずトンプソンが近づいた、これはいい。次に代理人が近づき、これも怪しまれたがまぁ問題なし。だがその次にゲッコーがいつもの口説き癖で前に出た瞬間に敵対しだしたのだ。理由は一切不明、あっちのトンプソンは「やっぱり教団か!」と言っていきなりぶっ放してきた。

 

 

「ゲッコー! あれほど口説くのは自重しろって言われてたよね!?」

 

「待て!? 私はまだ口説いていない!」

 

「そもそもなんで撃ってきたのでしょうか?」

 

「聞いてみればいいんじゃない? 話が通じればだけど!」

 

 

もう一度チラッと見る。見た目は完全にトンプソンのそれだし、武器も特に変わった様子もない。だがおかしいのはその威力と、撃ちっぱなしのくせにここまで一切リロードしていないこと・・・・・明らかに反則である。

 

 

「出てこいヴェルデューゴ擬きめ! 凍らせるまでもなく蜂の巣にしてやる!」

 

「なんか物騒なこと言ってるんだけど!?」

 

「おい、呼ばれてるぞゲッコー。」

 

「私か!? というかなんだそのヴェルなんたらってのは!」

 

 

悪態をつくも弾幕は一向にやまず、しかも何度か威嚇射撃を行うも謎の急回避で避けられてしまう。

ラチがあかない・・・そう思っていたその時、彼女らの頭上を一気のヘリが通過して暴走トンプソンの後ろに降り立つ。そこから現れたのはグリフィンの荒事担当、404小隊だった。

 

 

「ちっ、新手か!?」

 

「待ちなさい! 私たちは敵じゃないわ!」

 

 

降り立つ彼女らに銃口を向けるトンプソン(?)だが、隊長の45は銃口を下げて敵意がないことを伝える。幸いそれは通じたようで、代理人は45とアイコンタクトを取るとその場を任せることにした。

 

 

「・・・で? あんたらは敵じゃないって言ったが、あいつらの仲間か?」

 

「えぇ。 それと紹介が遅れたわね。 私はUMP45、後ろにいるのがUMP9にHK416、それとGr G11よ。」

 

「・・・・・全部銃の名前じゃねぇか、何者だお前ら。」

 

「それはこっちのセリフ・・・・と言いたいけどそれじゃ話が進まないわね。 私たちはG&K社の戦術人形よ。」

 

 

明瞭簡潔、()()()()の人間や人形なら誰もが知っている社名を出して答える。反応を見てみないことにははっきりとはわからないが、45は彼女が何者であるかがある程度は察している。

つまり、()()()()()()()()の人形、ないしは銃だった者だろうと。

 

 

「G&K? 戦術人形?」

 

「あぁ、やっぱり聞き覚えなしか・・・・・いいわ、代理人。」

 

「ふぅ、一時はどうなることかと思いました。」

 

サブアームを格納しつつ代理人が近づくと、トンプソンも警戒しつつ後に続く。流石にゲッコーを出すとまた揉めそうなのでまだ隠れてもらっている。

銃こそ構えていないが警戒心をあらわにしているトンプソン(?)に代理人は手を差し出し、

 

 

「お互い情報の交換が必要なようです。 少し、お話ししませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

場所を喫茶 鉄血に移し、個室を貸し切って話し合うこと数十分。404小隊には対象の捕縛の報告に行ってもらい。代理人とトンプソン以外は店を開いて働いてもらっている。

さて話を聞いてみると、どうやら彼女はSMGタイプの人形トンプソンで間違いないようだ。が、予想通りというかやはりこの世界の者ではなく、しかも半世紀も前の銃らしい。そこでは欧州辺境の邪教徒たちを根絶やしにすべく戦っており、彼女の持ち主であった男性はその任務を無事完遂したようだ。こっちに流れてきて何故か人の形になったが、これはつまり邪教徒らを殲滅しろということなのだろうと考えてひたすら探し回っていたらしい。

 

 

「しかしまぁ、異世界か・・・・・にわかに信じがたいが。」

 

「私も同様だ。 というか代理人は妙にその・・・慣れてないか?」

 

「ええ、こういうことは何度もありましたから。」

 

「嘘だろ・・・・・」

 

 

ちなみにこの流れトンプソンは自身のことを『シカゴタイプライター』と呼んでいる。これはトンプソンの別名のようなものだが、区別するために以後タイプライターと呼ぶことにしよう。あと無限に撃てることについては、

 

 

「え? そういうものじゃないのか?」

 

 

などと言ってトンプソンを凹ませていた。

 

 

「まぁいいでしょう。 あなたに関しては今のところ実害なし。 軍の方の事情聴取はあると思いますが、お咎めなしでしょう。」

 

「そうか・・・・・じゃあその後のことだな。」

 

「ええ。 一応当てはありますが・・・・・」

 

 

流れ着く者は大きく分けて二つで、一つは人や人形がそのまま流れ着く例。サクヤやノイン、ユウトあたりがそうだ。もう一つは銃が人形となって流れ着く例。迷惑トリガーハッピーコンビやサムライエッジがそれだ。このうち後者は基本的に元の世界に戻る意思がなく、そのままこちらで働いたり暮らしたりしている。タイプライターもこっちなので、あとは仕事や居場所を探すだけなのだが。

 

 

「・・・・なぁ、もしよかったらグリフィンに来ないか? 指揮官には話を通してやるよ。」

 

「ん? グリフィン・・・・・例の人形部隊というやつか?」

 

「よろしいのですか、トンプソン?」

 

「まぁ別世界とはいえ、こうして同型にあったのも何かの縁だ。 それに、事情を知ってるやつがいる方がいいだろ?」

 

 

実際は指揮官以前にグリフィン上層部を説得しなければならないのだが・・・弾薬費0となればきっと大歓迎だろう。

代理人は例のPMCを紹介するつもりだったのだが、あっちはあっちでカオスなのでもういいのかもしれない。

 

 

「そうか・・・ならその言葉に甘えよう。 これからよろしく頼む。」

 

「あぁ、よろしくな。」

 

 

固く握手を交わす二人に、代理人は無言で席を立ち部屋を出る・・・・・ところで入り口に立っていた軍関係者とばったり鉢合わせた。代理人は苦笑しつつ、水を差すようですがと付け加えて、

 

 

「タイプライターさん、事情聴取のお時間だそうですよ。」

 

「君の事情は加味する・・・が、市街地での銃乱射についてはしっかりと反省してもらおう。」

 

「・・・・・・泣けるぜ。」

 

 

 

end




というわけで今回は『バイオハザード4』よりクリア特典の隠し武器、『シカゴタイプライター』です!バイオでは珍しい実銃そのまま(威力等除く)な武器で、単純に強いのが売り。


では早速キャラ紹介!

シカゴタイプライター
バイオハザード4にて、ミニゲームをクリアすると使える原作最強クラスの武器。連射はもちろんだがその威力は一発あたり10。最大強化のセミオートスナイパーが12なのでその威力の高さがわかるはず。弾数無限。
見た目はトンプソンと全く同じで、威力と装弾数と使用者がおかしいだけ。持ち主だった彼の影響を受けて、『泣けるぜ』が口癖。

トンプソン
全く同じ外見なのにこの格差・・・・異世界のトンプソンは化け物か。
トンプソンといえばフォースシールドだが、タイプライターの方も持ち主が謎回避(QTE)やったりするのであんまり凄みがない。
今後どうやって見た目を分けようか検討中。

ゲッコー
黒っぽい体に長い尻尾・・・さてはヴェルデューゴだな!
比べるまでもなくあっちの方が強い(機動力と鬼耐久)のでタイプライターにかかれば蜂の巣待った無し。

代理人
久しぶりの戦闘装備だったが問題なく動いてホッとしている。

404小隊
こういう時は頼れる。45姉の貴重な隊長姿。



喫茶 鉄血のリクエスト、感想、批判、要望などなど、気になったことはなんでも書いてってください。
あとこの場で言わせていただきます、いつも誤字修正してくださっている方、本当にありがとう!
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番外編23

コラボ依頼にリクエストに感想に・・・私はなんて幸せ者なのだろう!
だが! なぜ!! そういう時に限ってバイトが忙しいんだっ!?

というわけで今回は以下のラインナップ
・買い物デート
・続・彼女の好みは
・常識外の人形たち
・ノインの旅路


番外23-1:買い物デート

 

 

「・・・ねぇ9。」

 

「ん? どうしたの416?」

 

「この服のチョイスはなんなのかしら?」

 

 

416ちゃん騒動から数日、416が改めて立場をわからせてから大人しくしていた9だが、喉元過ぎればなんとやらで再び調子に乗りだしたのだ。具体的には、あの時の416の子供服が忘れられないらしい。

 

 

「こういうの似合うと思うよ、416!」

 

「はぁ・・・9、切り替えの早いところはあなたのいいところだけど悪いところでもあるわよ。」

 

「で、こっちが私の! うふふ、お揃いだね!」

 

「だから話を・・・・・はぁ、まぁいいわ。 でも私はこっちの方がいいと思うのだけど。」

 

 

もう一度お仕置き(意味深)してやろうかとも思ったが、9が楽しそうなので苦笑しつつ見逃してやる416。なんだかんだで416も9に甘々なのだ。

さてそんな9が選んでいるのは黒いワンピース。流石にあの子供服とかは着られないので、色やデザインが似ているもので選んだのがこれである。一方の416は彼女にしては珍しい白と黒のボーダー柄・・・9の私服(バレンタインスキン)によく似た色合のものだ。

 

 

「よ、416・・・///」

 

「あら? 恋人とはお揃いにしたくなるものでしょ?」

 

「も、もぅ・・・!」

 

 

自分から言うのはいいが言われる側だとすぐに照れる9に、416はニンマリと笑ってまたからかう。

そんなイチャラブムード全開の二人を、45と40は物陰から見つめるのだった。

 

 

「うわぁ、見てるこっちが恥ずかしくなるよ・・・」

 

「ほんと、もはやテロよねあの二人の空気・・・・・おのれ416私の9とこんな白昼堂々とイチャつきやがって・・・!」

 

「でも見守ってあげてるんだね45。」

 

「9の笑顔のためよ。 決して! 断じて!! 416のためなんかじゃないわ!!!」

 

 

妹を取られた妬みと妹の幸せを願う心で板挟みになりながら、45は今日も二人を見守る。

今日も一日、平和であった。

 

 

end

 

 

 

番外23-2:続・彼女の好みは

 

 

その日、代理人は一人悩んでいた。つい先日のダネルたちの会話で、聞けばどうも自分の好みについて話していたらしい。Dがいらんことまで話し始めようとしていたので軽く『おはなし』したが、しかし言われてみれば自分のことにはまるで頓着なかったことに気がつく。

 

 

(容姿・・・性格・・・経歴・・・・・ダメですね、どれもピンときません。)

 

 

代理人自身、まさか自分のことでこれほど悩む日が来るとは思わなかった。別に結婚願望があるわけでもないし、彼氏が欲しいわけでもない。だが自己分析の結果、彼女の中のハードルがやたらと低いために絞り込めないでいるのだ。

案外、ストレートに告白したらお付き合いしてくれそうな気がしなくもない(異性に限る)

 

 

「Oちゃん! どしたの難しい顔して?」

 

「いえ、なんでも・・・そういえばD、あなたには理想像とかはありますか?」

 

 

ふと思いついた疑問をぶつけてみる。製造当初は『素直な代理人』だったDだが、強い自我のせいかメインフレームとは違う独自の趣味嗜好を持つに至る。それでもダミーに変わりわないので、Dの好みは代理人の好みに近いものになるはずだ。

 

 

「私? う〜ん・・・・・優しい人、かな?」

 

「またざっくりな・・・」

 

「えへへ、でも理想ってそれくらいかな。 あとは人形としてじゃなくて一個人としてみてくれるなら、ってとこだね。」

 

 

ニヘッと笑うDに、代理人もつられて笑う。生まれた時は恋愛なんて全く無関係だった話なのに、自分たちも随分と人間じみたことを考えるようになったものだ。

それが良いことなのか悪いことなのか、今はまだわからない。ただ人形でも変わっていける、そう実感する代理人だった。

 

 

 

 

 

「・・・でもOちゃんもそういうの気にするようになったんだね。」

 

「ん? どういう意味ですか?」

 

「いやぁ、てっきりこのまま行き遅れコースかなって待って待って腕はそっちには曲がらなああああああああ!!!!!!!」

 

 

end

 

 

 

番外23-3:常識外の人形たち

 

 

あらすじ・規格外の人形たち(クロスオーバーキャラ)たちが一堂に会しました(白目)

 

「・・・・・ほぉ。」

 

「これはまた楽しめそうな連中だ。」

 

「お願いですから自重してくださいよ。」

 

 

喫茶 鉄血・・・・・ではなく鉄血工造の会議室を貸し切って行われた会合、そこに集まったのは諸事情により通常のメンテナンスを受けられないため鉄血工造でメンテを受けている人形たち。この世界の常識を軽く突き抜けた連中である。

ある意味帰る場所のない孤独な彼女らでコミュニティを形成すれば何かと有意義なのではという思いつきは、開始速攻で舌なめずりをするカスールとジャッカル(戦闘狂)のせいであっという間に瓦解した。

 

 

「・・・・・殺る気?」

 

「あ? 相手になんぞ。」

 

「わーわー! 二人とも落ち着いて!」

 

 

まず殺気やら狂気やらにやたらと敏感なヤーナムが目を細めて臨戦態勢に移行し、血の気の多いタイプライターもギャングのような目つきで得物を構える。すかさずチェーンが止めに入るが、今ここでドンパチが始まれば間違いなく部屋どころか建物ごと吹き飛びかねない。この中で唯一()()()()威力しかないサムライエッジなどあっという間にすりつぶされてしまうだろう。

・・・・・だが、意外なことに一番最初に殺気を解いたのはジャッカルとヤーナムだった。

 

 

「・・・・・ふっ、冗談だ。 日和った奴らと馴れ合うつもりはなかったが、貴様とはうまくやれそうだ。」

 

「・・・・・私は、『獣狩りの短銃』・・・獣以外を狩る気はない。」

 

「クックックッ・・・・貴様の言う『獣』、なぜか我々には他人事には聞こえんがな。」

 

 

ジャッカルに続いてカスールも雰囲気を和らげ、それに合わせてタイプライターも銃口を下げる。ドッと疲れたようにため息を吐くサムライエッジとチェーンは互いに顔を見合わせると、何かを通じあったように握手を交わした。

と、誰にも知られぬ鉄血工造の危機が去ったところでタイミングよくノックが鳴り、テンション高めのアーキテクトが入ってくる。

 

 

「やっほー! おまたせ〜って、あれ? どうしたの?」

 

「あぁ、うん・・・・やっぱり一悶着あったんだね。」

 

「だから言っただろう、こいつらだけで一緒にするなと。」

 

 

アーキテクトの後ろから現れたのは頭に手を置き深いため息をつくサクヤとゲーガー。なにせ彼女らのメンテナンスが終わったと聞いて話を聞きに行こうと来てみれば、アーキテクトがすでに全員を同じ部屋に案内した後。

最悪、鉄血工造がなくなるかもしれない事態に大いに慌てたのだ。そんな二人の苦労など知らず、アーキテクトは呑気にメンテナンス結果を伝えていく。

 

 

「まぁみんな健康そのもの、むしろ人形としての性能は頭おかしいレベルで高いよ!」

 

「ふっ、当然だ、そこらの銃と一緒にされてはかなわん。」

 

「もとより人が扱うべきモノではないのだ。」

 

「まぁ、私もカスタム銃ですし。」

 

「・・・・・愚問。」

 

「ん? そうなのか? 私は普通だと思ったんだが。」

 

「ん〜、まぁ相手がモンスターでしたからね。」

 

 

そんな感じでこの破天荒で常識外の人形たちの最初の会合は無事終了する。ちなみに、彼女ら異世界チート銃らは有事の際は軍の指揮下に入るということになっているのだが、当の軍が手綱を握りきれないということで突き返されてしまうのは、また別のお話。

 

 

end

 

 

 

番外23-4:ノインの旅路

 

 

並行世界からきた『人間の』UMP9改めノイン。新たな世界、新たな自分を受け入れて自分探しのために世界を旅する彼女は今・・・・・

 

 

「ま、待ってぇえええええ!!!!!」

 

「にゃ〜お」

 

「くっ、そこでおとなしくしt『バキッ』うわああああああ!!!?」

 

 

一匹の猫に振り回されていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ヨーロッパを出発し、とりあえず大陸をまっすぐ突っ切っていたノインだが、別に自転車の旅でもバックパッカーでもないので割と順調かつハイペースで進んでいった。その結果はやくも大陸の端までやってきて、さぁ次は北米大陸だと思った矢先にまさかの列車の行き先を間違えるというポカをやらかす。戻ればそれで済むがまぁ来ちゃったものは仕方がないとそのまま進んで、今現在は極東の島国・日本にいる。

民宿やらカプセルホテルやら田舎の家やらに泊まりつつとりあえず首都までは向かっているのだが、その過程で受けた依頼がまずかった。

 

 

「え? 猫ですか?」

 

「そ〜なのよ! うちの『おモチ』ったら全然捕まえられなくって・・・一回獣医さんに見せたいから捕まえてくれないかしら?」

 

「わかりました。 私に任せてください!」

 

 

自信たっぷりに引き受けるノイン。前の世界でも彼女は猫に懐かれていたし(姉は懐かれなかった)、たかが猫一匹捕まえるなどあの地獄に比べれば容易い、そう思ったのだ。

そしてその思い込みは、おモチを見つけて数分で崩れ去る。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・な、なんで捕まらないの・・・・」

 

「にゃ〜」

 

「くっ・・・卑怯だから使いたくなかったけど、くらえ! ロケットパーンチ!」バシュッ!

 

「にゃっ」

 

「あっ!? はずしたってぎゃあああああ!!!!!」

 

 

おモチという名にふさわしい丸くずんぐりな体型、ふてぶてしい表情、そしてそんな見た目に反してやたらとフットワークが軽い猫に、ノインは終始振り回されっぱなしだった。懐く懐かないの問題ではない、もはや舐められている。

ノインは理解した。彼女に懐いていたのは同じ地獄を生きてきたあの猫だからであり、平和なぬるま湯に浸りきったこいつにそんな優しさは微塵もないのだと。

アームが引き寄せてしまった木の枝で真っ赤になった顔をさすりつつ、『人形』時代の全経験と知識を駆使して本気で捕まえにかかる。塀や壁、木々を戦闘機動で駆け抜け、鬼気迫る表情で追いかける。

 

そして、日も暮れ始め夕日が眩しくなった頃・・・・・

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・つ、捕まえ、ました・・・・・」

 

「に゛ゃ〜〜〜〜」

 

「あらあら、どうもありがとうね。 はい、これお礼よ。 それともう遅いから、今日はうちに泊まっていきなさいな。」

 

「お、お世話になります・・・・・」

 

 

息も絶え絶えにデブ猫を抱えて戻ってきたノインを迎えたのは、明らかに猫探しにしては多いお礼と美味しいご飯、温かいお風呂と柔らかい布団だった。

あぁ、なんかようやく『人間っぽい』なぁ、などと思いつつノインは安らかな気持ちで眠りにつくのだった。

 

 

 

 

翌朝、上に乗っかったおモチの重さに悪夢まで見た上に無駄な疲労感で起こされたのさえ除けば、最高の一日だったという。

 

 

end




はい、というわけで今回はリクエスト消化も兼ねた番外編でした。
これ書いてる途中にコラボ依頼とかコラボ回とかがあっちこっちから来てもうびっくり!
というかみんな世界線超えすぎだろ・・・・・。


では、各話の解説!

番外23-1
八十九話の後日談。
9と416がイチャつく、ただそれだけ。45姉と電信柱がいい組み合わせだと思った。

番外23-2
九十話のすぐ後。
読者諸君、つまりまだチャンスがあるということだ。あとは2次元と3次元の壁を超えるだけだぞ!

番外23-3
リクエストから。
クロスオーバー組を集めた結果混沌としだしたけど絶対HELLSING組のせい。なお、この六人で部隊を組む場合は前衛がカスール・ジャッカル・ヤーナム、中衛がタイプライター・チェーン、後衛(司令塔)がサムライエッジ・・・・・勝てる気がしねぇ。

番外23-4
こちらもリクエストから。
ノインを日本に連れてくる案は前々からあったけど、喫茶 鉄血関係ないじゃんと言われそうだったのでお蔵入りになっていた。
ボツ案んではコミケの波に揉まれるというのがあったが、他ならぬ作者がコミケ未体験なので書きようがなかった。



喫茶 鉄血のリクエスト、まだまだ受け付けてます!
パンクしない程度な頑張るので応援もよろしく!
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第XXX話:先輩と後輩と

コラボがあったので。

今回はムメイ様の『カフェD08へようこそ!』とのコラボになります!おっぱいぷる〜んぷr(銃撃)

遅れてすみませんでした!


このカフェを開いてから、どのくらい経っただろうか。当時は代理人と部下のイェーガー、リッパーだけでやっていたこの店も、気づけばダミーが増え新たなハイエンドが増え、訪れる客もグリフィンの人形から地元の人間、はたまたちょっとした有名人(悪い意味で)などなど・・・・・随分と大きくなったものだ。

だがそれもまた昔の話。ここS09地区に構える『喫茶 鉄血・本店』に残る初期メンバーは、今や代理人だけとなっている。鉄血の家事用カスタム人形や地元の学生らがバイトとして働き、目まぐるしく変わる店内にいて代理人だけが変わらずそこにいた。

 

 

(Dの二号店も軌道に乗っているようですし、イェーガーとリッパーの三号店ももうすぐオープン・・・最近見ませんがマヌスクリプトとゲッコーは元気でしょうか?)

 

 

などと物思いにふけながら店を回す代理人。あの頃を懐かしく思いつつ、だが今は新しく入った新人の研修にも力を入れなければならないと気を引き締める。

が、そういう時に限って何かしらのトラブルが起こるのだ。まぁ今回はいい方でだが。

 

 

「店長、代理人に用があるという方が裏口に。」

 

 

厨房裏からひょこっと顔を出したガードがそう告げる。いまや代理人は有名人であり、そんな彼女に会いにくる者は結構いる。だがその多くは真正面から来ており、裏からくるのはあまり歓迎されない類の者たちだ。

 

 

「・・・・それで、その方たちの特徴は?」

 

「えーっと、ドリーマーさんやデストロイヤーさんに似た人形のような方が・・・あとHK416によく似たのも・・・・・あ、皆さんおっぱいが大きかったですよ。」

 

「まるでさっぱりわかりまs・・・・・・・あ。」

 

 

ガードのいう特徴にだんだん怪訝な表情になる代理人だったが、思い当たる者たちがいるので急いで裏口に向かう。彼女も正直今の今まで忘れていたが、メモリーに残っていたことでなんとか拾い出せた。

裏口のドアを開けると、予想通りそこにいたのは何時ぞやに流れ着いてきたHK417とヴィオラ、あと知らない顔がいるのとタカマチ指揮官がいないことぐらいだ。

 

 

「あ、代理人久しぶりー!」

 

「すまない、突然押しかけてしまって。」

 

「いえ、こちらこそすぐに出られずに・・・・・来てくださったなら表から入っていただいても良かったのに。」

 

 

久しぶりの再会に談笑しつつ、代理人はD08組を従業員控え室に招き入れる。もちろん彼女たちを知らない従業員たちはびっくりしたような顔でいるが、代理人が連れているのなら問題ないと判断して持ち場に戻る。

控え室で簡単にお茶と茶菓子だけを出して近況を報告しあい、当時を懐かしく振り返り笑い合う三人。どうやらD08地区はその後後方の施設に異動となり、そこでカフェを開いているらしい。その一環でデリバリーもはじめ、なんの因果か再びここに迷い込んだらしい。あっちの世界はいまだ平和とは言えないらしいが、それでも彼女たちは幸せに暮らしているようだ。

・・・・・節操のないタカマチ指揮官には一言言ってやりたいところだが。まぁ愛しているのなら問題ないか。

 

 

「あ、そうそう代理人。 うちで作ったケーキとかシュークリーム持ってきたんだけど、良かったら食べて!」

 

「あら、ありがとうございますね。 ・・・・・ふふっ、ですが417ちゃn・・・いえ、今はシーナちゃんでしたね。 あなたが同業者になるのは、なんだか嬉しく思います。」

 

「うふふ、私もだよ♪」

 

 

それからはせっかく貰ったということなので休憩に来た従業員に配りつつ、そこそこ量もあったので一部をメニューとして出してみた。すると珍しいものがでたからかあっという間に完売し、これには流石の代理人もびっくりしていた。どうやら普通のシュークリームとかとはちょっと違う味わいがあるそうで・・・・・原材料を聞いた時は一瞬目眩がしたが無害そうなので特に何も言わなかった。まぁ実際美味しかったのだからいいだろう。

ちなみにその際に接客を手伝ってもらったのだが、当然というかやはり男性客の視線を釘付けにするブツをお持ちだったのでそれはそれは好評だった。もちろん最後はシュークリームの売り上げとバイト代を(渋ったので強引に)渡し、長いようで短かった再会は終わりの時間となる。

 

 

「今日はありがとうございました。」

 

「いや、こちらこそ。」

 

「お世話になりました・・・・・って大丈夫だよドリーマー、ちゃんと帰れるから。」

 

「って言われても、どうやって帰るのよ?」

 

「う〜ん・・・・・まっすぐ進む?」

 

「嘘でしょ・・・・・」

 

「ふふふっ。 大丈夫ですよ、きっと帰れますから。 ・・・・・それとシーナちゃん、コレを。」

 

 

別れ際に代理人が差し出したのは挽いたコーヒーの入った瓶。シーナたちが接客中に、代理人は店の商品から選びオリジナルのブレンドを挽いていたのだ。今日のお礼と再会への感謝、そしてカフェの先輩としてのささやかなアドバイスのつもりだ。

 

 

「指揮官さんと・・・・・旦那さんとゆっくり飲んでくださいね。」

 

「・・・・・うん、ありがとう代理人。 またいつか!」

 

「ええ、またいつか。」

 

 

Transitのエンジンが音をたてて喫茶 鉄血を、S09地区を、この世界を後にする。その影が見えなくなるまで代理人は見送り続け、見えなくなると少し寂しそうな笑みを浮かべながら店に戻る。そして最後に残っていたシュークリームを手に取り、一口かじる。

 

それは甘く、優しい味がしたのだった。

 

 

 

end




はい、というわけでD08地区のみんなが来たので出迎えました!
時系列が大きくずれているので『XXX話』という表記に・・・・・まぁガン◯ムで言う所のター◯エーみたいなもんだよ。

リアルで忙しい&慌てて書いたので分量は少なめですが、なんとかまとまったかなと思いますがいかがでしょうかムメイさん!?


てなわけでキャラ紹介・・・というよりもコラボ元紹介?

カフェD08へようこそ!
ムメイ氏の最新作。おっぱい好きなら読むべき。前作にあたる同作者様の他の小説も読むとより楽しめる。
417ちゃん改めシーナちゃん可愛い!

喫茶 鉄血・本店
ちょっと未来の喫茶 鉄血。代理人を除いてみんな独立or巣立っていったので従業員はノーマル人形かバイトの学生。


喫茶 鉄血のリクエスト、要望、その他コメント受付中!
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第九十一話:妹、襲来

二話連続コラボ回なんて初めてじゃなかろうか。

今回は『焔薙』様のとこのユノちゃん・・・ではなくノアちゃんです!


追記:コラボしといて思いっきり名前間違えてたぁ!?訂正しましたが本当に申し訳ございません!!!


突然だが、この店では不可解なことがしょっちゅう起こる。ここがそういう場所に建っているからなのか、それともこの店が引き寄せているのか。

それとも、ここの店主である代理人が呼び寄せているのかもしれない。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

その日も平和に過ごしていた代理人だが、妙に入り口が騒がしいようだ。Dの元気な声が聞こえてきたのだからトラブルではなさそうだが、一応様子を見ようとカウンターの方に出てみれば・・・・・そこにいたのは彼女の大切な友人。

 

 

「もしかして、ユノちゃん、ですか?」

 

「あ?」

 

 

とりあえず確認の意味で呼んでみたが、返ってきたのはやや威圧的な返答・・・・・ちょっと見ない間にグレてしまったんだろうか?パアッと輝く笑顔も今日はまだ見せておらず、何か大きな問題を抱えているのかもしれないと思い、Dにカウンターに案内するよう指示する。

ここまで違うとなると、この世界でもあっちの世界でもない、第三の世界から来たユノということだろうか。

 

 

「もしや、貴女は別の世界のユノちゃん、でしょうか?」

 

「あ~、アイツを知ってるってことはマジでアイツが言ってた別世界の喫茶店ってことか……その様子だと深くは聞いてねぇか、それともアイツもまだ知らない頃か」

 

 

・・・・・ん?今『アイツ』と言ったか?

しかもその『アイツ』というのからこの店のことを聞いたようで、しかもその人は別世界の人間。つまり『アイツ』とは、あっちの世界のユノちゃんということだろう。

そしてその推測は、目の前の彼女が出した端末の写真で当たりだと知る。

 

 

「まぁ、アタシとアイツは同じ世界から来てる……ちょっと事情があってな。んでこれが今のアイツ」

 

「そ、育ちましたね」

 

 

写っているのは確かに目の前の少女と、彼の地で指揮官として頑張っているというあのユノちゃんだった。が、全体的に大きくなっている上に一部は成長期という言葉では説明がつかないほど育っている。

これはアレだろうか、こっちでは数日であっちでは数年とかいう浦◯太郎的なものだろうか?

 

 

「本当に何も聞いてねぇって感じか。言っちまえばアタシらはクローンだよ、多分この世界にいる【ユノ】から生み出されたな」

 

「!?」

 

 

周りの気遣ってか小声で話す内容は、代理人とって衝撃的なものだった。が、少女(ノアちゃんというらしい)もそれ以上暗い話はしないつもりのようで、今度はユノちゃんの近況と彼女自身のことを話す。長く体を蝕んでいた症状はすでに治っていること、娘ができたこと、命を狙われたこと・・・・・自身の出自と、他のクローンと、ノアとの出会い、そして彼女を迎え入れるというあの娘(ユノ)らしい決断をしたことなどなど、結婚式以来情報のなかった代理人にとって、ノアの話すこと全てが新鮮で、一つ一つが思い出となっていった。

そんなこんなで数十分、気がつけばもうすぐ短い針が一周しそうなくらいまで話し込んだ二人の時間も、いよいよ終わりを迎える。

 

 

「わりぃ、忙しいのにあれこれ語っちまって」

 

「いえ、ユノちゃんの今が分かってとても有意義でしたよ、幸せそうで何よりです」

 

「まぁ、あの能天気バカ(ユノ)が真面目な時はだいたいヤバいって時らしいけどな……んあ?」

 

 

突然ノアが顔を上げ、怪訝な表情で周りを渡す。もちろん何かが起きた様子もないし、他の客も特に何もリアクションはない。

だが、代理人はその反応に見覚えがあった。

 

 

「もしかして、鈴の音が聞こえましたか?」

 

「アンタもか?」

 

「いえ、ですが前にユノちゃんが来た時もそれが聞こえて帰られましたので」

 

 

ふふっと笑うと、ノアもどこか納得したような様子でフッと笑う。もう帰る時間なのだ。

だがポケットに手を突っ込んで何やら難しい顔をしているノア。どうやら代金を心配しているようだが、彼女がこちらの通貨を持っていにことはわかっているので、

 

 

「代金は今の会話で十分です、ああ、ですがユノちゃんに伝えてください、今度はご家族皆で来てくださいと」

 

 

有意義な会話が、代金の代わり。それが異世界から来た客へのルールだ。

 

 

「……ああ、しっかり伝えといてやるよ、じゃあっと!?」

 

 

いよいよ帰ろうと振り返るノアだったが、そのタイミングで入ってきた一組の客に目を見開く。それは現れた客・・・こっちの世界のユノと母親のレイラも同じで、特にレイラの方は完全に固まるほどだった。

 

 

「ユノ、なの?」

 

 

なんとか絞り出したような声で、そう呟く。だがノアはそれには答えず微笑み返し、その隣にいるユノ(オリジナル)に近寄ると膝を折って目線を合わせる。

 

 

「なぁ、母さんや、皆のこと、好きか?」

 

「え、うん、大好きだよ!」

 

 

一瞬戸惑いながらも満面の笑顔でそう答えるユノ。その頭を撫でるノアの顔は嬉しいような悲しいような羨ましいような、そんな感情が綯い交ぜになったような表情だったが、最後は優しく微笑みかけると、

 

 

「その気持ち、ずっと持ち続けるんだぞ……アタシや、アイツみたいにならねぇようにな。何時までも幸せにな【オリジナル】」

 

「オリ……ジナル?え、そ、それって!」

 

「アンタもだ、この娘から目を離すなよ、後悔したくねぇなら絶対に一人にすんなよ!!」

 

 

ノアの言葉に困惑するレイラの言葉は聞かずに、二人の間をすり抜けて店を出る・・・・・前に何かを手のひらに作り出し、それを代理人に向かって放り投げた。

代理人が慌てて受け止めると、それは青く輝く、拳くらいもある綺麗な『サファイア』だった。

 

 

「代金だ、やっぱり受け取っとけ!」

 

 

そういった彼女は今度こそ振り向かず店を出て、すれ違ったナガンにも言葉をかけずに跳躍、飛行ユニットを生成して飛び立つ。

 

 

「マスター、ケーキ最高に美味かった……じゃあな!!!」

 

 

そんな言葉とともに彼女は大空へと消えていった。大きく手を振るユノの横でレイラとナガンがポカンとする中、代理人はテーブルの上に残された端末を拾い上げる。

 

 

「あら、これ」

 

「さっきの娘の端末、ですよね?」

 

 

後ろからひょこっと現れたDが画面を覗き込み、そして思わず笑ってしまう。画面の中ではちょっと大きくなったユノとさっきの少女(ノア)が並んでおり、笑顔のユノとやや仏頂面のノアが同じピースサインをとっていた。

 

 

「ふふふ、奥に置いとこっかOちゃん?」

 

「えぇ、きっと取りに来るでしょうから。」

 

「あ、スペシャルケーキ一つ!」

 

「なんだったのかしら、今のは・・・・・ってユノ!?」

 

「む? ならわしもそれにしようかの。」

 

「ナガン!?」

 

 

急に騒がしくなるのもいつも通り。代理人はクスッと笑いながら端末とサファイアを奥へと持って行き、鍵のかかった戸棚にしまう。

隣に並べられたコインが少し輝いて見えるのは、案外見間違いでもないのかもしれない。

 

 

end




端末取りに来る名目でまた来れるよ、やったねノアちゃん!

さて冗談はさておきようやくリアルで落ち着く時間が取れました。バイトしながら考えていた内容をガンガン書いていこうと思います!


ではいつものキャラ紹介

ノア
『それいけポンコツ指揮官と〜』のところの娘。詳しくはそちらで。
何気にコーラップスのないこの世界で初めてのコーラップス持ち。無害。
その場で宝石が作れるとかチートだと思うの。


喫茶 鉄血のリクエスト、コラボ依頼などなど受け付けてます!
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第九十二話:(自称)恋人の先輩と後輩

まさかの三話連続コラボ回。

今回は『通りすがる傭兵』様のところから元指揮官の戦術アドバイザーと指揮官の後輩ちゃん・・・・・どうするか悩んだ結果いつも通りのガバガバ世界線にすることにしました。
まぁ一回ガンスミスがこっちにきたしね!(サムライエッジ回参照)


恋愛、と一口に言ってもその形は様々だ。人間同士や人形同士、あるいは人間と人形。純愛から同性愛に独占欲丸出しのだいぶん歪んだ愛情にそもそも一方的なものまで。もちろん代理人自身は恋愛経験などなく、別に彼氏募集中でもないが、彼女の周りは意外と多くのカップルがいたりする。

だが、彼女は思う。目の前の二人ほど先に進まなさそうなカップル?はいないだろう、と。

 

 

「先輩、あ〜〜〜〜ん!」

 

「何? この何も刺さってないフォークをあんたに突き立てればいいの?」

 

「辛辣ッ!? でも先輩のそういうところがいいんです!」

 

「はぁ・・・・・ただでさえよくわかんない所に来たってのに、なんであんたはそんなに元気なんだか」

 

 

いかにも憂鬱ですという表情で隣にいる男性をあしらう女性。二人とも小柄なので一瞬子供か?とも思ったが、男性の方はグリフィンの制服を身に纏い女性の方はラフな格好だがグリフィンの部隊章をつけていることから、それなりの立場であることがわかる。

が、そんな彼女らは店に入って早々に挙動不審となり、メニューの値段表記を見てさらに困惑していた。この手のリアクションを何度か経験した代理人でなければ、最悪通報されそうなほど怪しかった。

 

 

「悪いわね、ご馳走になっちゃったのに騒がしくて」

 

「いえ、構いませんよ。 こういうことは慣れていますから」

 

「・・・・・その感じだと、私の持つ違和感の正体も知ってそうね」

 

 

ジロッと値踏みするように見つめる女性。この反応もある意味正常なもので、むしろユノちゃんのような方が稀だ。

・・・・・あの無警戒さで大丈夫だろうかと思うことも多々ある。

 

 

「ふむ、そうですね・・・・・ユノちゃんやタカマチ指揮官をご存知ですか?」

 

「え、ええ」

 

「彼女たちもここを訪れたことがあります。 ちゃんと元の世界に戻ったようですので、心配せずとも戻れますよ」

 

「「・・・・・・は?」」

 

 

となりの男性もろとも、ポカンと口を開ける。まぁいきなり知り合いの名前を出されたり元の世界とか言われても、ということだろう。もちろんこういう反応も想定内なので、順を追って説明する。

まず彼女たちは街へ買い物に出かけた。やはりというべきか別世界の指揮官らであったようで、女性の方は前任の、男性の方は現在の指揮官だそうだ。そしてたまには寄り道をということでフラッと路地に入り、そこを抜けるとまるで違う場所に出てしまったという。元の道を戻っても変えることができず、さまよい歩いた結果ここにたどり着いたとか。

そんなわけで代理人はここの世界の情報を話しつつ、必要があれば新聞などの物的証拠も持ち出す。ここまですればさすがに信じざるを得ないようで、唸りながらもなんとか飲み込めたようだ。

その間に後輩ちゃんはケーキを二つ平らげてしまった。

 

 

「・・・・・まぁ、一応は納得するわ。 けど本当に帰れるのよね?」

 

「私の知る限りでは、ですが」

 

「先輩、心配しすぎてもどうしようもないですよ、はいあーーん!」

 

「あんたねぇ、指揮官ならもうちょっと危機感をってそれ何個目よ!?」

 

 

先輩後輩という関係だけあってやはり仲はいいようだ。微笑ましく眺める間も二人の言い合いというかイチャつきは続く。やれ指揮官としては優秀だけどそれ以外はポンコツだの、やれ女性としてもう少し慎みを持って欲しいだの、やれガンスミスにもうちょっと構ってやれだの・・・・・うん?

 

 

「すみません、今ガンスミスと言いましたか?」

 

「全くあんたは・・・・・え? えぇ、言ったけど」

 

「ガンスミスさんって、有名人なんですね」

 

「一応ですが、その方は銃を見れば語らずにはいられない方でしょうか?」

 

「「ソイツ(その人)です」」

 

 

よもやこんなところで以前訪れた客の知り合いに出会うとは・・・・・世の中、というか世界は意外と狭いのかもしれない。別世界だけど。

さて共通の友人という話のタネが見つかってからは話が弾みに弾み、その間に後輩ちゃんがケーキを全種類制覇して先輩が頭を抱え、お代は結構ですよと代理人が言うとパァッと顔を輝かせ・・・・・そんなこんなで結構な時間が経った時。

 

 

・・・・チリーン・・・・

「ん?」

 

「え?」

 

「・・・・おや、鈴の音が聞こえたようですね。 名残惜しいですが、そろそろ帰るお時間ですよ」

 

 

指揮官と後輩ちゃんは顔を見合わせ、首をかしげる。だが周りの客に聞こえた様子が見られず、それはつまりあの音が本当にその合図だと言うことなのだろう。

席を立ち、代理人に礼を言う二人。すると代理人は空き瓶を一つ手に取ると、ブレンドしたコーヒーを瓶いっぱいに詰めて手渡す。

 

 

「そちらでは、天然のコーヒーはなかなか手に入らないそうで・・・・・こちらはお土産としてお持ち帰りください」

 

「え? いや、悪いですよ」

 

「貴重なお話を聞かせていただいたお礼ですよ。 ぜひ、ガンスミスさんにも開けてあげてくださいね」

 

「・・・・そうね、じゃあありがたく貰っておくわ。」

 

「はい。 きっともと来た道を戻れば帰ることができるはずです、お元気で」

 

「えぇ、ありがとう」

 

「ケーキ美味しかったですよ!」

 

 

瓶を抱え、二人は店を後にする。その背中が見えなくなるまで、代理人はにこやかに見送り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろん二人はこの後あまりにも帰りが遅いので副官にがっつり怒られるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

end




後輩ちゃんを出して、って言われたけど後輩ちゃんだけじゃ難しかったので指揮官ちゃんも出させていただきました。
・・・・・正直特徴を捉えている自信が全くないんですが、間違ってたらごめんなさい傭兵さん!


そんなわけでキャラ紹介

指揮官
ガンスミスんとこの『元』指揮官。詳しくはそっちで。
後輩ちゃんといる時の苦労人感がなんとも言えない。

後輩ちゃん
ガンスミスんところの『現』指揮官
中性的な顔立ちの男性で、指揮官ちゃんに想いを寄せている。がそのアプローチがだいぶアレなので失敗続き。



リクエストとか色々受付中!
頑張って応えていくぞ☆
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第九十三話:再びのパラレルワールド

四話連続のコラボ会・・・だと・・・

というわけで今回は依頼がありましたので『葉桜さん』様の『鉄血もグリフィンも争わない平和な世界を死に損ないが満喫するだけ』とのコラボ!
あっちではすでにDちゃんがお世話になっていますが、これはそれとはまた違う分岐・・・ですのでDはちゃんとうちにいます。


「う〜〜〜〜〜〜ん・・・・・不思議なこともあるんだねぇ」

 

「この短期間に二度もとは・・・・・」

 

「二度あることは三度あるって言うし、また来るんじゃないの?」

 

「まぁ来ていただいている以上はお客様ですが、何かしらの対策はしておいた方がいいのかもしれませんね」

 

 

複雑そうな顔でテーブルを囲む四人の人形。アーキテクト、ゲーガー、D、そして代理人の目の前には、つい先日ここを訪れたある少女が置いていった大きいサファイアと端末が置かれている。

喫茶 鉄血が始まって以来、大勢の客が訪れるようになってきたのだが、時たまどこからともなくフラッと現れる客がいる。彼らに共通するのは、皆()()()()()()()()からやってきたということで、不思議なことになぜか元の世界に帰っているのだ。これが一度や二度ではない以上、今後もあると考えていいだろう。

 

 

「例の転送装置は?」

 

「ん〜、サクヤさんが動かしたっきり動いてないよ」

 

「それにあの機械ができる前からこのようなことが起きています。 無関係と言っていいでしょう」

 

「それにしても、なんでこの店なんだろうね?」

 

 

そう、そんな客が来るのは決まってこの店なのだ。もちろんサクヤやノインのようにどこか違う場所で見つかることもあるが、それはその場所で命を落とすようなことがあったから。だが迷い込んできた者はなんの因果かここにしか現れず、グリフィンやIoP、鉄血で調査しているもののここ以外ではそんな事例はないらしい。

むむむと唸る四人だったが、そんな時従業員であるイェーガーが代理人を呼びにきた。

 

 

「あ、すみません代理人。 少しいいですか?」

 

「? ええ、なんでしょう」

 

「えっと、先程男性の方が一人来られたのですが・・・どうにも話が通じなくて」

 

「話が通じない?」

 

「はい。 なんでも、『鉄血工造はいつのまにカフェまで始めたんだろう』って・・・・・」

 

「「「・・・・・・・・あ〜」」」

 

「・・・・・噂をすれば、というやつですか」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さて表に戻って出迎えてみれば、なるほど挙動不審な男性が一人。見た目は二十代前半といったところで、まぁ悪くない外見だと思う。整備士と思しき道具をぶら下げた服にはグリフィンのマークが入り、ついでにこのご時世のグリフィン非戦闘社員には珍しいハンドガンが腰にぶら下がっている。

・・・・・うん、十中八九()()()()()()だろう。

 

 

「いらっしゃいませ。 本日は一名様でお越しですか?」

 

「え? あ、はい・・・・・失礼ですがここは・・・?」

 

「当店は初めてですね? ここは『喫茶 鉄血』、私はここでマスターをしております、代理人と申します。 以後、お見知り置きを」

 

 

この辺りはまぁマニュアルというか、一応こういう店ですという紹介だけ行う代理人。これに男性はポカンとした表情で、だが代理人やDにはその表情に見覚えがある。

これは人形が店主であるというよりも、『なぜ代理人が?』という表情だ。

 

 

「なにやら事情がおありの様子、よろしければこちらでお話を伺いましょう」

 

 

そう言って困惑する男性をカウンター席に案内する。とりあえずサービスでコーヒーを出し、少し落ち着いてから再び話を始める。

 

 

「さて、ではお名前を伺っても?」

 

「ああ、俺は『リオン』、リオン・アッシュフィールド。 グリフィンの整備士だ」

 

 

そこから彼が所属する司令部のこと、そこの指揮官のこと、そして・・・・・鉄血のハイエンドたちが部屋でくつろいでいることなどなど。もちろんそんな事実は存在しないし、代理人含めどこかの司令部の一室を占拠するようなことはしていない。またこの話と同時にアーキテクトがグリフィンに問い合わせてくれたようだが、やはりリオン・アッシュフィールドという人物は存在しなかった。

 

 

「・・・・・なるほど、それで気がついたらここに」

 

「司令部とも連絡がつかず、困っていたところなんだ。 助けてくれてありがとう」

 

「それはどうも。 ですが・・・・・これはあなたにとってショックなことかもしれませんが・・・・・・」

 

 

ん?という顔で代理人を見るリオンに、代理人は真剣な表情で答える。

 

 

「ここは、あなたが住む世界とは違う世界です」

 

 

ガタッ

思わず椅子を倒しながら立ち上がるリオン。その顔は驚愕のの色に染まっており、信じられないとでもうようなものだった。

無理もない、だがこのままでは不安なままなので先に無事帰ることができることだけでも伝えておこう。そう口を開こうとしたその時、

 

 

「ま、また・・・なのか・・・・?」

 

「? また?」

 

 

リオンの言葉に、今度は代理人が固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さてそこからさらに数十分。今一度互いの情報を共有し始めてみれば、出てきたのは驚くべき内容のものだった。

リオン・アッシュフィールド。彼はもともとグリフィンと鉄血が敵対する世界に住んでおり、そこで死んだ。しかし眼が覚めるとそこはグリフィンも鉄血も敵対しない世界、こちらでいうサクヤのような現象が起きたのだ。その世界では彼は存在せず、新たに用意してもらった身分で今に至る、というわけだ。

だからこそ、彼はこう思ったのだろう。『自分は死んだ、もう仲間たちに会うことはない』と。

 

その様子があまりにも不憫なので、もう色々とすっ飛ばして先に伝えることにした。

 

 

「あの、リオンさん。 心配せずとも帰ることはできると思いますよ?」

 

「・・・・・・は?」

 

「その・・・・どう説明しましょうか。 ともかくこう言った事例は何度かありまして、皆さん無事に帰っていったようですので」

 

「何度かって・・・・そんなにあることなのか?」

 

「えぇ、この店に限れば」

 

「嘘だろ・・・・・」

 

 

それについては代理人も同感だ。そんなファンタジーな現象が何度もあっては困る。だが現実として何度もあり、代理人ももうそういうものだと諦めている節がある。

帰ることができる、というのを聞いて安心したのか、リオンはヘナヘナと椅子に座り込んで机に突っ伏す。

 

 

「ご心配をおかけしました」

 

「いや、代理人が悪いわけではないので」

 

「・・・・・よろしければ、そちらの私たちの話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

このなんとも言えない気まずさをなんとかすべく、ついでに気になった別の世界の自分たちの様子を聞いてみる。リオンの方もちょっと驚きつつ、だがなにかしら話していないと落ち着かないと思ったのかちゃんと話してくれた。

ほぼ毎日のように人形たちが部屋に上がり込んでくること。男勝りでまっすぐな処刑人や面倒見のいいハンター、情報屋としてなんか軽い騒ぎを起こしたイントゥルーダーにアルケミストのことが大好きなデストロイヤー、そんな彼女を溺愛しているアルケミストや、煽ることに関しては抜群のドリーマー。アーキテクトとゲーガーに関しては似たようなものらしく、ウロボロスは黒光りするGに鉛玉を使うというポンコツっぷり。スケアクロウは・・・・・きっと彼にとって特別なのかもしれない。

 

 

「・・・・・ふふっ。 そちらも随分と楽しそうですね」

 

「え? 話聞いてた?」

 

「ええ、もちろん。 みなさんがリオンさんのことを好いているということがよく分かりました」

 

 

納得いかねぇという顔のリオンを無視し、せっかくなのでと袋にコーヒー豆や茶葉を入れていく。次に会うことはないかもしれない客だけの、特別なお土産だ。それを差し出すと流石にリオンも一度は断るが、強引に押しつけるようにして手渡す。

 

 

「・・・・ここらへんの強引さも変わんないのかな」

 

「あら? その割には顔が笑っていますよ?」

 

「うるせえ」

 

 

軽口を叩きながら、リオンは席を立つ。代理人もそれに合わせて入り口まで見送りに行き、最後の挨拶を交わす。

 

 

「このまま帰れば、きっと帰れるはずです」

 

「そうか・・・・・世話になった、ご馳走さま」

 

「えぇ、ではまた」

 

「あぁ、またな」

 

 

紙袋を抱え、まっすぐ帰っていくリオンを見守る代理人。その横からヒョコッと顔を出すDと目をわせると、互いにクスッと笑い会う。

 

 

「・・・・・今度は、そういう方用のメニューも作りましょうか?」

 

「いいね! でも料金とかはどうするの?」

 

「それもこれから考えましょう」

 

 

そう言って、二人は並んで店に戻る。

その翌日以降、喫茶 鉄血には少し変わったメニューが追加されたそうだ。

 

 

end




三つの世界を渡った男がいるらしい・・・・・

そんな冗談はともかく、今回は『葉桜さん』の作品から、主人公の『リオン・アッシュフィールド』が登場。
『もしもリオンがこの世界で目覚めていたら』という要望もいただきましたが、到底一話では終わらない分量になった+途中でデータ全消えになったのでいつものパターンになりました。
ごめんよ!


では早速キャラ紹介とか!

リオン・アッシュフィールド
今回の客。死んで世界を超えて、今度は死んでもないのに世界を超えて、なかなか忙しいな君は。

コラボ用メニュー
一応作ったけど多分出番のないメニュー。
過去の来客たちから聞いた話を元に金額を設定しており、支払いはあっちのコインが使える。
が、大抵話が代金になると思う。



喫茶 鉄血のリクエスト、募集中!
あとエルダーブレインどうしよっか迷ってるんだけどどうすればいい!?
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第九十三話:地下室の怪

今明かされる、喫茶 鉄血創業秘話!
ついでにイベントキャラである彼女も登場。


シトシトと雨が続けるS09地区。ここ最近ずっと雨雲が覆いかぶさり、どんよりとした空気を運んでいる。その程度で活気がなくなるような街ではないが、やはりどこか気分が晴れないものだ。

それは路地の先に店を構える喫茶 鉄血も同じで、特にマヌスクリプトあたりはかなり憂鬱な表情を浮かべている。店内の客もまばらで、唯一珍しいと言えるのはKarとデストロイヤーがセットでいることぐらいだろう。

そんなKarから、耳を疑うような話を聞くことができた。

 

 

「・・・・・対幽霊用の人形、ですか?」

 

「えぇ、ここ最近話題になっていますわ。 なんでもこのような雨の日にフラッと現れて、いかにも怪しげな場所に入っていくと」

 

「そういう場所ってまぁ出るって噂が多いとこで、それがその人形が入ったあとはパッタリと止むらしいのよ」

 

 

Karの言葉にデストロイヤーも乗っかる。Karだけならガセネタをつかまされたと断じることができるのだが、デストロイヤーが言うのならそんな噂が本当にあるのだろう。もっともそんなわけのわからない人形をIoPが作るかといえば・・・・・まぁ作りそうだがもう少しまともに使えるものにするだろう。加えてその人形の特徴もまばらで、唯一の共通点は現場に白い花が残されることぐらいらしい。

ところでKarはこういう話は大丈夫なのだろうか?

 

 

「代理人、よろしければその人形を探すのを手伝ってもらえませんでしょうか? そうすればこの世の霊という霊を全て駆除できるはずですわ!」

 

 

訂正、大丈夫じゃないようだ。むしろビビりまくっているからこその発想だが、となりでデストロイヤーも呆れたように首を振っている。

これでも戦闘では優秀なライフルであり頼りになると評判の人形なのだが、こと平穏時では誰もが認めるポンコツである。

 

 

「ふっふっふ・・・・その話、ただの噂話じゃ無いよ代理人?」

 

「・・・・・皿洗いは終わりましたかマヌスクリプト?」

 

 

そんな彼女らの前にフラッと現れたのは奥で皿を洗っていたはずのマヌスクリプト。陰鬱な表情があまりにも接客にふさわしくないということで皿洗いを命じられた彼女だが、こういう話に対するアンテナがやたらと鋭いのかササっと切り上げてこっちに来たらしい。

だが、ただの噂では無いと?

 

 

「人形による除霊・・・かどうかはまだ判明していないんだけどね。 ただ、目撃情報は結構ある。 ガセも多いけど、ガセだけにしては多すぎるくらいね」

 

「だそうですよ代理人! これはぜひとも迎え入れなければ!」

 

 

確かに実在しているというのであれば探すこともできるだろう。だがつまり()()()()()()に探しに行かねばならず、場合によっては長期的に店を空けることになりかねない。

さてどうしようか、と考えていたその時、店のベルが鳴り新たな客の入店を知らせる。そしてチラッと見たマヌスクリプトとKarはギョッとした。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

「ええ・・・・・このカウンターでもいいかしら?」

 

「構いませんよ」

 

 

ありがとう、と言って座ったその女性の見た目はかなり異様だった。喪服のような黒い服に手袋や靴に至るまで真っ黒で、髪飾りなのか白い大きな花をつけている。どこかの墓参りから帰ってきたと言われても納得できるような、そんな装いだった。

そしてマヌスクリプトとKarは代理人のそばに寄り(Karはしれっとカウンター内に入っているが)耳打ちする。

 

 

「だ、代理人! あれですよ!」ヒソヒソ

 

「目撃情報とも一致してるよ代理人!」ヒソヒソ

 

「二人とも落ち着きなさい。 あとKarさんはカウンターから出てください」

 

「・・・・注文、いいかしら?」

 

 

件の女性の言葉にビクッとなる二人を放っておき、代理人は注文を取るべく目の前まで移動する。さっきの話はともかくとして、やはりパッと見たときから感じた通り彼女は人形だった。服装こそ変わってはいるが、それを言い出すと変わっていない服装の人形の方が珍しいくらいだろう。それにKarの方が何倍も変わった服装だ。

 

 

「すみません、彼女たちには私がしっかり言っておきます」

 

「ふふっ、構わないわ・・・・・この姿はなにかと目につくしね」

 

「ですが、変えるおつもりは無いと?」

 

「ええ、だってこれが『仕事着』ですもの」

 

 

やはり彼女は人形、それも戦術人形で間違いないようだ。だが仕事着と言いつつ彼女は武器を持っていないようにも見える。ハンドガンや小さめのSMGなら服の下に隠しているとも考えられるが、それでも示威行為を兼ねて見える位置にぶら下げているものだ。

それでも彼女は『仕事着』と言った。それはつまり普段は私服で過ごし、仕事の時はこれに着替えるということだ。

 

 

「自己紹介がまだだったわね・・・・・私は『AUG』よ、よろしく」

 

「喫茶 鉄血のマスターをしています、代理人です・・・・・失礼ですが、戦術人形の方ですよね?」

 

「ええ、アサルトライフルのね。」

 

 

あくまで本職は、と付け加えて薄く笑いながらコーヒーを啜る。『本職』と言うのも別に珍しいことではなく、人形によってはグリフィンで働きながら内職等で稼ぐ者もいたりする。

そして目の前に彼女は、仕事でここにきていると言うことになる。

 

 

「・・・・・どういったご用件でしょうか」

 

「あら、やっぱり聞いた通り鋭いのね。 ご想像の通り仕事で来たのよ・・・・・たまたま通りがかっただけでもあるけど」

 

 

コーヒーカップをカチャッと置き、代理人を見据えるAUG。そしてゆっくりと口を開き・・・・

 

 

「・・・・・ここって地下室か何かがあるのね?」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「? えぇ、ありますが」

 

 

それが何かと言うように首をかしげる代理人だが、聞いていたマヌスクリプトら三人は驚きを隠せない。まずここに地下室があることすら初耳だし、しかもそれを初めて来たAUGが言い当てたことにもびっくりだ。そして例の噂と照らし合わせると・・・・・

 

 

(え? もしかしてここって出るの?)

 

(じゃ、じゃあそれを祓いにきたってこと?)

 

(そもそもこの店ってどうやってできたんだろう?)

 

 

対してAUGはそれを聞くと納得したように頷くと、目を瞑りなら話し始める。

 

 

「この店ができたのは1年と少し前くらいかしら、おそらくもともとあった古家を買い取って改築したのがこのお店ね。 そしてその時からあったのが地下室・・・・・でもあなたはそこに触れなかった」

 

「・・・・・えぇ、そうですね。 物置くらいになればと思っていましたが、結局使わずじまいでしたので」

 

「ふふっ、でも結果的には良かったのかも・・・・・・・()()()()()()()()()

 

 

ガタンッ

思わず椅子から崩れ落ちるKarに、デストロイヤーが慌てて起こそうとする。そりゃ今まで普通に過ごしていたその真下に何かいると言われたらこうなる。代理人の方は特に気にした様子もないし、何だったら放っておいてもいいのではとも言える表情だ。

 

 

「まぁ悪さをしているわけでもないし、ただそこにいるだけだから何もしなくてもいいかもしれないわ。 でも地下をテリトリーと思っているのなら、今のうちに引き剥がしてしまった方がいいわよ」

 

「・・・・・可能なのですか?」

 

「ふふっ・・・・・安心して、私は()()()()()()が見えて話せるのよ」

 

「」ガクガクブルブル

 

 

オカルト極まりない内容だが、嘘をついている様子もないしすぐそこで泡を吹いているKarを安心させるためにも祓ってもらったほうがよさそうだ。

とうわけで店のことをDに任せ、代理人とAUG、ついでにマヌスクリプトは地下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「階段横の扉って、地下の階段だったんだね」

 

「ええ、もう使うことはないと思っていましたが」

 

「確かにこの階段の狭さや通路の薄暗さでは、物置としても使いにくそうね・・・・・この先よ」

 

 

久しく使っていなかった階段を降り、照明も通っていないので懐中電灯だけを頼りに進む三人。と言っても人形なのである程度の暗視機能があり、それだけでも問題なく進めるのだが一応である。

そうしてたどり着いた先は突き当りの部屋。家具も何もない、かと言って地下牢のような曰く付きの部屋でもないらしい。部屋の前まで来た三人だが、AUGはドアに額をつけて目を閉じると、囁くように呟いた。

 

 

「・・・・・寂しかったね・・・ここから出て、みんなのところに行こう」

 

「っ!?」

 

「これは・・・・・」

 

 

彼女がそう呟き終わったと同時に、なんとドアがひとりでに開く。窓も何もないはずの地下に冷たい風が突き抜け、あまりにも不可解な現象にマヌスクリプトが震える。

だがAUGはフッと優しく微笑むと、両手を広げてまるで迎え入れるように佇む。その直後、ひときわ強い風が部屋から溢れ出し、暗い廊下を突き進んで外に向かう。それが過ぎると、まるではじめから何もなかったかのような静けさだけが残った。

 

 

「・・・・・もう大丈夫よ。 無事外に出ることができたから、あとはそのまま天に導かれるはず」

 

「・・・・・・・・」

 

「ありがとうございます・・・・・・・それより、早く戻ってあげないと・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャー! 扉がひとりでに!?』

 

『今! なんか通った!!!』

 

『キュー・・・・パタン』

 

『カラビーナ!?』

 

 

「・・・・阿鼻叫喚ね」

 

「戻りましょうか・・・・・お礼をさせていただきますよ、AUGさん」

 

「ふふっ、じゃあ美味しいコーヒーをもう一杯いただけるかしら」

 

 

その後、晴れて使えるようになった地下室は酒蔵として利用されるようになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・え? AUG? 誰それ?』

 

「え? IoP製の人形ではないんですか?」

 

『私は知らないよ・・・・・17labの方は?』

 

『こちらも存じておりませんよ。 本当に人形だったんですか?』

 

「ええ、間違いなく」

 

『・・・・・・ま、こっちでも探してみるけど・・・・ヤバそうなら関わらないようにね、代理人』

 

 

 

 

end




夏といえばホラーや怪談。特に雨が続くこんな日はより一層『出そう』ですよね・・・・・・


てな訳でキャラ紹介

AUG
アサルトライフルタイプ。
どこで生まれて、どこから来て、どこへ向かうのか全てが謎に包まれた人形。霊や妖と言葉を交わすことができるらしいが詳細は不明。
この一件でIoP、グリフィンによる捜索活動が行われたが、今だに発見には至っていない。

Kar98k
いつものヘタレお嬢様。
ギャグ担当だがやるときはやる。

デストロイヤー
原作とかに比べてやたら大人びている。当然ドリーマーの挑発にも引っかからず、そこまでプライドが高いわけでもない。

地下室の幽霊
喫茶 鉄血の建物自体は大して古くはないが、調べてみるとこの土地には過去何度か建物が建てられては取り壊されているらしい。そのほとんどに『地下』という表記がなかったことから、この地下空間はかなり昔からあったのではないかと考えられる。
幽霊は無害。



喫茶 鉄血のリクエストとか、お待ちしております!
感想も書いてくれるとうれしいなぁ(チラッ
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第九十四話:不思議の国のM4

いやぁ、昨日のバルス祭りも凄かったですね、これは来年にも期待

リクエストはなんとか書きたい、でも書いてるうちにまたリクエストが増える・・・・・私が人形だったら即編成拡大するのになぁ

というわけで今回はリクエストから!
参考元は『人形小劇場 6』で検索してみよう!


「あ゛〜〜〜〜〜〜ネタが欲しい〜〜〜〜〜」

 

「なんだ、またネタ切れか? その程度では到底有名作家にはなれんな」

 

「うぐっ・・・ねぇゲッコー、一回だけでいいからフリフリ着てくれない?」

 

「断る」

 

 

喫茶 鉄血の三階、従業員たちの部屋があるこのフロアには小さいながら談話室のような部屋もある。そこでペンと紙を持ったまま固まっているのは最近働くことに前向きになりだしたマヌスクリプトであり、その前で呆れながらくつろぐのはなぜかセットでいることが多いゲッコーである。マヌスクリプトは働くことで順調に資金が増え、ついでに飲食物の絵が格段に上手くなったが、肝心の創作活動がてんで進んでいないのだ。

理由は単純、ネタ切れである。

 

 

「この前はファンタジーものじゃなかったのか? あれはどうした?」

 

「描いたよ、描いてみたよ『くっ殺』。 でもなんかピンとこないっていうかね」

 

「かといって現実路線は監視者(アルケミスト)の目があると・・・・・それとフリフリは絶対着ないからな」

 

「ぶー、ゲッコーのケチ・・・・・・はぁ、誰かあの衣装たちを満足させてくれる娘はいないものか・・・・・」

 

 

衣装、というのはマヌスクリプトが趣味で作っているコスプレ衣装のことである。「ないなら作ればいいし既製品よりも安くできるかも」という理由で始まって以来、暇な時に創作活動と並行して作っているのだが、残念ながらあまり日の目を見ることはない。一番新しいもので言えば『不思議の国のア◯ス』風のやつであるが、いかにも子供っぽいのでゲッコーは断固拒否する。

 

 

「私が着てもピンとこないし、代理人やDは元から似たような服着てるしなぁ・・・・・ん? あれは・・・」

 

 

少し開いたドアから見える廊下、そこを並んで歩くDの姿が見え、その後ろについて歩いているのは喫茶 鉄血の準従業員であるM4だ。

 

 

「ごめんねM4、手伝ってもらっちゃって」

 

「ううん、大丈夫ですよD、ちょうど暇してたところですから」

 

 

二人とも買い出しの後なのか、大きな紙袋を抱えて奥の物置に入っていった。その瞬間マヌスクリプトの目がキラリと光り、ついでにゲッコーも引くほどの笑みを浮かべる。

長い黒髪、おしとやかな性格、普段は実践重視の服装だが可愛いものにも興味あり、そして何より『ちょうど暇』と言った。これはチャンスと言えるだろう。というわけでクローゼットから服を取り出し待つこと十数分、DとM4が出てきたところで声をかける。

 

 

「あ、M4いいところに! ちょっとこっち来て!」

 

「え? 私ですか?」

 

「マヌちゃん、今度は何企んでるの?」

 

 

M4は単純に疑問を浮かべ、Dは明らかに警戒しながらマヌスクリプトの部屋に入る。そして入ると同時にマヌスクリプトは土下座して壁にかけている服を指差す。

 

 

「お願いします! あの服を着て写真を撮らせてください!」

 

「え? えぇ・・・・・」

 

 

いきなりのことに困惑するM4と、相変わらず冷ややかな目で見下ろすD。ちなみにゲッコーはシレッと出ていった

ところでマヌスクリプトが言い訳もせずにストレートに頼んだのには一応理由がある。見ての通りM4はとてもいい娘であり、それゆえ言い訳や嘘というものを嫌うことが多い。逆にちゃんと頼まれれば渋々でも引き受けてくれることが多く、つまりは誠意を見せれば可能性はあるのだ。

 

 

「えぇっと・・・・・あれ、ですか?」

 

「何卒、何卒お願いします!」

 

「その、着て写真を撮るだけですよね?」

 

「はい! 撮った写真は責任を持って管理いたします!」

 

「・・・・・わかりました。 そこまで言うのなら協力します」

 

「ありがとうM4!!!!」

 

 

ガバッと起き上がり、M4に抱きつくマヌスクリプト。その間わずか0.5秒、驚きの速さである。そういうわけでさっそく着替えて・・・・・もちろん鍵はDがきっちり締めたので覗くことはできない。

そして待つこと十分弱。

 

 

「・・・・ど、どうでしょうか?」

 

「いい・・・・いいよM4! 作った私が言うのもなんだけどめちゃくちゃいいよM4!!」

 

「M4可愛いぃ〜!」

 

 

くるっと一回転してスカートをなびかせるM4(アリススキン)水色と白というシンプルな色合いながらM4の上品さを引き立たせ、長い黒髪と合わせていいとこのお嬢様のような雰囲気がある。男なら、いや男でなくとも襲ってしまいたくなるほどの無垢さがそこにはあった。

着ているM4も思ったより悪くないと感じたのか、結構ノリノリになってきた。

 

 

「ほんと素材がいいよねM4・・・・・そうそうそのポーズで・・・よし次は・・・・」

 

「こ、こうですか?・・・・・次はこう・・・・ふふっ」

 

 

ちょっと、の予定を大幅に超えて撮影会を続行する二人に思わず苦笑するD。もっとも今日の業務はとっくに終わってM4の方もあとは帰るだけだから別に構わないのだが・・・・・まぁM4の可愛い一面を見れたからよしとしよう。

それにしても本当に素材がいいんだな、と思うD。子供っぽい服でも大人びた服でも、なんでも似合いそうなところはシンプルに羨ましいと思うのだ。自分はどうしても明るい服の方が似合うし、逆に代理人は落ち着いたものが似合うだろう。なんでも似合いそうなM4が、ちょっと羨ましい。

 

 

「はいOK! ありがとM4、おかげでいいのが撮れたよ!」

 

「いえいえ、お役に立てて良かったです。 こう言う服ならいつでも着ますから、また呼んでください」

 

「M4ちゃんマジ天使・・・・専属コスプレイヤーにならない?」

 

「はいストップ。 Oちゃんに怒られるよマヌちゃん」

 

 

ちぇー、と言いながら機材を片付けつつM4の着替えを手伝うマヌスクリプト。ハンガーにかけられた服がクローゼットに収められ、その中身を覗いたM4が一瞬固まる。

喫茶 鉄血の従業員から『開けてはならない』と言われているマヌスクリプトのクローゼット。今しがたM4が着たようなまともな服から、明らかに人前に出れないような際どいものまで多数収められたそれは、魔窟と呼べるほどカオスな空間なのだ。

もちろんそういうものの耐性がそこまでないM4は、ハンガーにかかったほぼ紐のような水着や明らかに丈の足りないスカートなどに驚くが、それ以上に彼女の興味を引いたのが・・・・・・

 

 

「・・・・綺麗・・・」

 

「ん? あぁそれね、『お姫様』をモチーフにしたやつなのよ・・・・ティアラもあるけど、着てみる?」

 

「え? いいんですか!?」

 

「うわっ、すごい食いつき」

 

 

M4、興味を持ったら一直線の人形。結局そのドレスだけでは終わらず気になったものを片っ端から着ていき、M16から心配する電話が来るまでずっと続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん、私マヌスクリプトさんのことを勘違いしていたのかもしれません」

 

「え? M4?」

 

「あんな素敵な服をたくさん作れるなんて・・・・・ふふっ、ちょっと羨ましいです」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・あ、そうだ。 今度のお休みに作り方を教えてもらおうかな」

 

「ROっ! M4が、M4がぁあああああ!!!!!」

 

 

 

end




リクエスト消化 兼 マヌスクリプトの株があがる話。
コスプレイヤーさんって本当にすごいと思うんですよ、服は一から作るしメイクもほぼ一人で、そして何より2次元をそのまま3次元に持ってこれるというのが素晴らしい!
・・・・・・会ったことないけど


というわけで今回のキャラ紹介!

マヌスクリプト
日中は喫茶 鉄血の従業員、夜間やオフの日は『写本先生』とコスプレ服作り・・・・・人形でなければぶっ倒れるほどのハードスケジュールをこなす何気にすごいやつ。
言動とか描いてるものがアレだが服飾技術はかなり高い。が、それも基本的には薄い本のためである。

M4
この作品の天使。喫茶 鉄血の準従業員。
16lab、S09司令部に続き喫茶 鉄血を第三の家であると認められている。家事全般を普通にこなし、戦闘面でもエリートにふさわしい活躍をする。可愛いものが好き。



少し忙しくなり始めるので更新頻度が下がると思います。
リクエストを送っていただいている方々には申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。


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第九十五話:自由遊撃部隊

これ書いてる時にふと思ったんだけど・・・・・番外編書いてなくね?
で、確認したら本当に書いてなくて焦ったけどもう開き直ってしまえばいいかと思いこのまま書くことにしよう。
まぁ優先順位がコラボ > リクエスト > 通常回なので。

というわけで今回もリクエストだよ!
この二人を忘れた人は第十五話と第十七話を見よう!


『・・・・・昨日未明、A国にて行われた大規模なテロ掃討作戦。 グリフィンは遊撃部隊を派遣し、これを制圧したと発表しました』

 

「へぇ、遊撃部隊なんているんだね」

 

「正しくは自由遊撃部隊ですが・・・・そう言えばDは知っらなかったんですねあの二人を」

 

「私たちは絶対忘れませんけどね・・・・・」

 

 

ここは喫茶 鉄血。店内のテレビに映るニュースを見ながら不思議そうに声を漏らすDと、それに答える代理人。そしてその話題にいい思い出がないので苦い表情のイェーガーたち。

Dが不思議そうに首をかしげるが、その疑問は店の奥で鳴り響く電話でかき消される。予約席や個室の貸切などの問い合わせ用に喫茶 鉄血でも電話が置いてあるが、だいたいここに着てから個室を借りたいという客が多いので、あんまり使われることはない。さてその電話は誰からかというと、噂をすればというやつである。

 

 

「はい、喫茶 鉄血でございます」

 

『ん? その声は代理人か? あたしだよあたし』

 

「新手の詐欺か何かでしょうか?」

 

『ノリがいいじゃねぇか・・・まぁいいや、バルカンだ。 今からそっちに行くけど大丈夫だよな? じゃあすぐ行くからな!』ブツッ

 

「ちょ、バルカンさん? ・・・・・まったく」

 

 

これから慌ただしくなるだろうなぁ、と思いつつも代理人は受話器を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ代理人、来たぜ!」

 

「世話になる」

 

「お待ちしてましたよ二人とも、二階の個室でいいですか?」

 

「あぁ、構わない」

 

 

数分後、店の前にあられたいかにもなトラックから出てきたのは例の自由遊撃部隊の二人、『M61A2 バルカン』と『クリエイター』である。過去に一度だけしか来店しなかったこともあり、客や従業員からは物珍しい感じの視線を受けているが、本人らは慣れているのか全く気にしない。まぁ何せ一部では超がつくほどの有名人だ、いちいち気にしていては身がもたないのだろう。

 

 

「二人ともお久しぶりです。 元気なようで何よりですね」

 

「そっちこそ、相変わらずだな」

 

「まぁ、あんたのおかげでこうして戦っているられるんだ、今更が礼を言う」

 

 

そう、代理人はこの二人にとって恩人のようなものだった。開発されたラボを脱走したクリエイターを匿い、なんか乱入してきたバルカンと組ませることで有用性を示してみせた。クリエイターは『ファクトリー』という特殊装備があるにも関わらず使いどころがなく、バルカンはその威力の代償に大量の資材を消費するハイリスクハイリターン、その二人を組ませることで互いの欠点を補い合い、強みを最大限に活かせるようになったのだ。

 

 

「へー、そんなことが」

 

「そ、代理人がいなけりゃあたしらはここにいないってことさ」

 

「そう思うのでしたらあの時のドアの修繕費、払っていただいても?」

 

「ぴゅ〜、ぴゅ〜・・・・・」

 

「すまない代理人、いくら払えばいい?」

 

「ふふっ、冗談ですよ」

 

 

バルカンが目をそらして下手な口笛を吹いてはいるが、実際のところ弾薬費ゼロで報酬たんまり貰っている彼らの懐は大変潤っている。よってドアの一枚二枚くらい余裕なのだが、かつての消費資材の関係から貧乏性が抜けないバルカンだった。

 

 

「それにしても本当に久しぶりですね。 お仕事がひと段落ついたところと?」

 

「ああ、そんなところだ。 要請があれば片っ端から潰してはいるんだが、それもだんだん減ってきてな」

 

「規模が小さいのはどうしてもほかの連中に取られちまうし、仕事がなくなるのはなぁ・・・」

 

「平和になるのが一番ですよバルカンさん、たとえそれで仕事がなくなるとしても」

 

 

代理人の言葉になんともいえない顔で笑うバルカン。

戦術人形の本分は戦うことにある。それでもここ最近ではグリフィンに所属しない人形もおり、鉄血工造に至っては非武装の人形がそれなりにいるほどだ。特に一部のハイエンド(デストロイヤーやイントゥルーダーなど)は完全に武装を放棄しており、そういう意味では戦術人形=戦う者というイメージは薄れつつある。だが一方でバルカンのように戦闘特化の人形もおり、彼女らにとって平和とは存在意義の消失と同義とも言えるかもしれない。

要するに、素直に喜べないのだ。

 

 

「ま、そん時が来たら考えるさ。 今はとりあえずこのままでいいよ」

 

「そうですか・・・・・何かあれば遠慮なく言ってくださいね、いつでも力になりますので」

 

「安心してくれ代理人、こいつが道を踏み外すようなことは俺がさせん」

 

「お、嬉しいこと言ってくれるね相棒!」

 

 

バシバシと背中を叩くバルカンを若干鬱陶しそうにジト目で見るクリエイターだが、どうやらそこまで嫌ではない様子。むしろ相棒と呼ばれたことに若干の嬉しさが読み取れる。

あれからうまくやれているようだと感動しつつ、代理人はコーヒーを淹れにいくのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「だろ? やっぱり大口径弾には憧れるんだよ!」

 

「ここはやはり砲身から何まで全面改修が妥当か・・・・」

 

「『アヴェンジャー』が30mmだからとりあえずそこを狙うのがいいんじゃない?」

 

「・・・・・・・・」

 

 

コーヒーを淹れに言ってその他諸々の用事を済ませて数分、帰ってきた頃にはさっきの感動が完全に薄れるほどの事態にまで進んでいた。

『たまたま』代理人がいないときに来店し、『たまたま』バルカンの隣に座ったアーキテクト。彼女がこの火力至上主義な銃に興味を持たないはずがなく、しかも隣には『歩く工場』であるクリエイター・・・・・よからぬ方向に話が進んでしまったようだ。

 

 

「じゃあ早速やろうぜ!」

 

「お願いですからやめてください、過剰火力もいいところです」

 

「えー代理人のケチー!」

 

「む、やはり問題が出るか?」

 

「問題しか起こりませんし、そもそも銃種が変わるのに烙印システムはどうするおつもりですか?」

 

「え? なくても撃てるだろ?」

 

「そうそう、バラまくだけならなんでもいいよ!」

 

「ほぉ、仕事を抜け出してどこをほっつき歩いているかと思えば随分楽しそうなことを話しているなアーキテクト?」

 

 

ビクッと背を縮こませて固まるアーキテクトの背後、それはそれは恐ろしい形相のゲーガーが仁王立ちし、そのまま首根っこを掴んで有無を言わさず引きずっていく。が、一度立ち止まって二人の方を・・・というよりバルカンを見ると、

 

 

「・・・一応だが、あまり代理人を困らせないことだ。 何が出てきても知らんぞ」

 

 

という脅迫だけ置いて帰っていった。その時の顔がよほど怖かったのかバルカンは若干青い顔をしながら「やっぱり今のままが一番だな!」と言って震える手でコーヒーを飲む。

・・・・・あ、むせた。

 

 

「ふぅ・・・まぁやりすぎなければ大丈夫ですよ。 その点はしっかりと保護者の方もいるようですしね」

 

「あぁ、やりすぎないようには見張っておこう」

 

「え? お前が保護者か?」

 

「お前じゃ契約も取引もできんだろ・・・・」

 

 

結局この日の残りは全て、どちらが立場的に上かを言い争うことになった二人。

その光景に軽く微笑むと、代理人はお代わりのコーヒーを入れるのだった。

 

 

 

end




宣言通り、遅々として筆が進まなくなりました。まぁモチベーションの問題ではないのでただ遅れるだけですが。
一応書けるときに書いて溜めているのもあるので、投稿できるときに投稿していきたいと思います。


というわけでキャラ紹介

M61A1 バルカン
いつぞやのコラボで出して以来。圧倒的な火力はそのままに極悪燃費をクリエイターと組むことでチャラにしたため絶賛活躍中。
大鑑巨砲主義ではないが、かなり火力重視の思考。

クリエイター
同時期のコラボで出た、作中唯一の男性人形。
ファクトリーによる無尽蔵の弾薬供給でバルカンと組んでいる。
話が進みづらいバルカンに変わって依頼を受けたりしているが、自身のスペックをフルに発揮してくれているということもあってバルカンにはやや甘い。


喫茶 鉄血のリクエスト・・・・・ですが、しばらくは今あるリクエストを書く&コラボも書くことにしますので少しお休みします。
その間にリクエストを温めておくんじゃぞ?


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番外編24

なんか思いの外予定がうまいこと進んでくれたので無事復活!
よし、今度からは『一週間以上空く』時だけ遅れるというようにしよう。

そんなわけで久しぶりの番外編、今回はこちらの四話
・思い出整理
・特殊クエスト『所属不明人形捕獲作戦』
・天使と変態
・快眠プログラム


番外24-1:思い出整理

 

 

「D、それはあっちに持っていってください・・・・マヌスクリプト、気になるようでしたらそれはあげますので手を動かしてください・・・ゲッコー、手が空いたらイェーガーたちの手伝いを」

 

 

代理人の指示で慌ただしく動く店員たち。気温はまだ夏真っ盛りだが季節で言えばもうすぐ秋になるということで、喫茶 鉄血は臨時休業で模様替えを行なっていた。秋といえば食欲の秋、そんな秋の味覚を使ったメニューを増やすということで、それなら内装もちょっとそれっぽくっしようということになったのだ。もともと木造風の落ち着いた感じだが、ところどころに秋を感じさせるインテリアを置いたり照明を少し暗めにしてみたり、いろいろ試しながら模様替えを進めていく。

ついでに厨房や従業員側の整理もしておこうかと代理人は戸棚を一つ開け、そこに並んでいるものに目を止める。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

その戸棚はいわば喫茶 鉄血の歴史・・・と呼べるほど古くはないが思い出を集めた棚である。オープン当初の写真や一番初めに作った手書きのメニューなどが置かれているが、それとは少し分けるようにして置かれているものがある。

代理人はその一つ、鈍く輝く一枚のコインを手に取るとフッと笑いながら手のひらの上で転がす。なんの変哲も無い(と代理人は思っている)この店で、他には無い特別な出会い・・・・・その始まりとも言えるのがこの一枚のコインだ。それ以来なぜかよく()()()()()()()()客が訪れるようになり、時にはその客がまた何かを置いていくこともある。

 

 

「・・・・・そうですね、ここも一度整理しましょうか」

 

 

今までは棚の中に並べられていただけのそれらを代理人は一度取り出し、机の上に並べてきれいに掃除する。始まりのコインに結婚式の写真、最近のものでは大きなサファイアと忘れ物の端末。ここにあるものはごく一部だが、それほど多くの客がここにきたのだ。それも異世界から。一時的に迷い込んだものもいれば、もうこの世界の住人として暮らす者もいる、不思議なことに、そのいずれもここ喫茶 鉄血が関わっているのだ。

そんな思い出の品を一つ一つきれいにしていき、ついでにきれいな小箱を用意して一つ一つ収めていく。端末はきっと取りに来るだろうから、そのまま棚に戻した。

 

 

「・・・・・・・ふふっ」

 

「ん? どうしたのOちゃん?」

 

「いえ、なんでも」

 

 

満足したように笑い、店の模様替えに戻る代理人。

今度誰かが来るときは、美味しい秋のスウィーツを出してあげようと思うのだった。

 

 

end

 

 

 

番外24-2:特殊クエスト『所属不明人形捕獲作戦』

 

 

所属不明の人形がおり、それが今S09地区にいるらしい。そんな情報とともにここ最近まで暇だった404小隊に久方ぶりの指令が届く。内容はその人形の捕獲だ。

・・・・・そんな特殊任務のブリーフィングを喫茶 鉄血の貸切個室で行うあたり特殊部隊としての矜持が見えなくもない。

 

 

「対象は『AUG』と名乗るアサルトライフル、薄桜色の髪に黒い服、頭に白い花の飾りをつけているそうよ」

 

「随分と詳細な情報ね。 だれか会ったことがあるの?」

 

「代理人たちとKar、あとデストロイヤーが会ったって」

 

「どこにも製造履歴のない人形・・・・・」

 

「おお、やっと特殊部隊らしい任務だね!」

 

「えぇ〜、寝ていたいんだけどなぁ」

 

 

あくまで情報は直接会った人の目撃情報でしかないが、本人が『アサルトライフル』と名乗ったことから武装してる可能性が高い。名前となったと思われる銃の性能からもそれなりの強者であることを予想し、こうして404小隊全員出動となったのだ。

初期の四名に加えてゲパードと40、SMG三人にAR二人とRF一人というガチ部隊での捜索だ。

 

 

「よし・・・・・じゃあいきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 

「あら、どうしたのかしら? ここに入りたいんだけどいいかしら?」

 

 

喫茶 鉄血の二階から一階へ、そして入り口のドアを開けたところで第一段階の『目標の発見』を達成してしまう。

情報通りのその人形は白昼堂々と正面から店に入ろうとしていたようで、入り口で固まる404に困ったような表情を浮かべる。相変わらず丸腰のようだが、その身のこなしはやはり戦術人形特有のものだった。

で、いち早く復活した45が警戒しつつ問いかける。

 

 

「・・・・・あなたがAUG、で間違いないかしら?」

 

「えぇ、そうよ・・・・・そういうあなたたちは、噂の404小隊でいいのよね?」

 

「・・・・よく知ってるわね、グリフィンにもIoPにも所属していないくせに」

 

「そうね、でも情報を集めるだけならいくらでも手段はあるわ」

 

 

グリフィンにもIoPにも所属していない、それを認める形となったAUGに、45たちは改めて任務の遂行を決意する。

 

 

「戦術人形AUG、貴女を所属不明の人形として身柄を確保するわ。 同行してもらってもいいかしら」

 

「ふふふっ、まぁそうなるわよね・・・・・・いいわ、ただし一つだけ条件があるの」

 

 

条件、という言葉にさらに警戒度を上げる45たち。その様子に満足そうに微笑んだAUG。

 

 

「・・・・・条件?」

 

「そう・・・・言い換えればゲームね。 私はこれから一時間逃げ回るわ。 捕まえることができたら、そのまま連行してくれて構わない」

 

「・・・・・・もし捕まえられなかったら?」

 

 

45がそう問いかけるが、これは本来なら不要な質問である。彼女らは特殊部隊としてグリフィンの看板を背負っている以上失敗は許されない。だが45はあらゆる可能性を考慮するために、あえて尋ねたのだ。

 

 

「そうね・・・・・・私はこの店のスペシャルケーキというのを食べてみたいの。 だから私が逃げ切ったら、それを奢ってちょうだい」

 

「・・・・・それだけ? いいわ、やってあげる」

 

「45、いいの?」

 

「ここで捕まえようとしたら何をされるかわからないわ。 周りに被害を出さないためにも、ここは乗っかりましょう」

 

「ふふ、話が早くて助かるわ・・・・・・じゃあ、スタート」

 

 

そう言うと同時にAUGは路地を走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、そっちは?」

 

「いないね、完全に見失った・・・・・あとそろそろ『お姉様』はやめてくれないかな?」

 

「私のお姉様はお姉様だけですよ」

 

「あーうん、もういいよ」

 

 

このS09地区は中央の大通りを中心に枝分かれするように大小様々な路地が四方に伸びている。走り出したAUGはまるで道が上から見えているかのように走り続け、固まって追っていた404をあっという間に振り切ってしまった。仕方なく45は散開を指示、G11とゲパードは高い民家の屋根に登って上から探していた。

 

 

「下よりは見やすいですけど、やっぱり路地が多いですね。」

 

「おまけに人もそこそこいる・・・・あんなに目立つ格好なのにどこに?」

 

「ここにいるわよ?」

 

「「へ?・・・うわぁあああ!?」」

 

「あら大変」

 

 

上から見下ろすために屋根の淵に陣取っていた二人。その後ろから突然現れたAUGにビックリし、G11は思わず足を踏み外してしまう。落ちる直前でなんとかAUGが手を貸してくれたので無事だが、今手を離されたら間違いなく真っ逆さまだ。

 

 

「ふふ、大変・・・・・このままじゃ落ちちゃうけど、助けてほしい?」

 

「くっ・・・・・ゲパード!今のうちに・・・」

 

「うふふ」

パッ・・・・ガシッ

 

「ひゃあああああ!!!?」

 

 

G11をつかんでいるうちにゲパードに確保させようとするも、それを見越してなのか手を一瞬離して再び掴む。それにビックリしたゲパードは動きを止め、G11は涙を浮かべながらプルプル震える。

そんな様子にAUGはケラケラ笑うと、

 

 

「ふふ、貴女たちの負けね? 引き上げてあげるから大人しくさっきの店で待っててくれるかしら?」

 

「ど、どう言うつもりよ・・・・・」

 

「あら? 私は言ったわよ、『ゲーム』だって・・・・・で、いいかしら?」

パッ・・ガシッ

 

「わあああああ!!! わかった! わかったから早く上げて!!?」

 

 

G11とゲパード、脱落。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・はぁ!? ちょっとそれどう言うことよ!?」

 

『ご、ごめんよ416・・・・でも命は惜しいんだよ・・・・』

 

「それについては構わないけど・・・そう、『ゲーム』ね・・・・」

 

「416、大丈夫?」

 

「ええ、これではっきりした・・・・・あっちは攻撃する手段がないか、あってもその気はない・・・・見つけたら全力で捕まえに行くわよ9!」

 

「うん!」

 

 

とりあえず攻撃の心配がないことだけを確認できた二人は両手を開けるために武器を背負い、いつ飛び出してきても捕まえられるように進む。

そして最初の角を曲がったところで・・・・・・

 

 

「わー! おねーちゃんじょうずー!」

 

「ね! もっかいやって!」

 

「ふふふ、いいわよ・・・・・・よっ、ほっ・・よっと・・・」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

 

路地の真ん中でボールやらペットボトルやらで奇妙にジャグリングするAUGと出くわした。その周りには近所の子供が四人ほどおり、キラキラした目でAUGのジャグリングを見ている。

 

 

「・・・・よししょ・・・・・はい、これで終わりね」

 

「すごーい! かっこいいー!」

 

「ありがとう・・・・じゃあまたね」

 

「うん! おねえちゃんバイバーイ!」

 

「・・・・・・・はっ! お、追うわよ9!」

 

「え? あ、うん!!」

 

 

あっけにとられる二人だったがAUGが路地の角に消えたところで正気に戻り、すぐさま追いかける。一度見失ったら次見つけるのが骨だ。

・・・・・が、曲がったところに転がっていたバナナの皮を踏んづけた416が顔から綺麗に転倒、それに足を引っ掛けた9も盛大にこけ、二人揃って近くのゴミ箱に突っ込んだ。

 

 

「うぅ・・・・・は、鼻が・・・・・・」

 

「いたたた・・・・・・・はっ!? AUGは!?」

 

「呼んだかしら?」

 

「わああああ!!?」

 

 

顔を上げるとわずか数十センチの距離にAUGの顔。さっきまで背中が見えていたはずなのになぜここまで近づかれたのだろうか。

 

 

「じゃあ、貴方達もここでリタイアね・・・・・掃除が終わったら店で会いましょ」

 

「ちょっと! まだリタイアなんて言って「コラァ! 何やってんだいあんたたち!!!」うげっ!?」

 

「ち、違うんですこれは・・・・ってもういない!?」

 

「あ、あんの性悪人形があああああああ!!!!!」

 

 

416、9、おばちゃんに見つかり清掃活動(脱落)。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん、了解〜・・・・・45、416たちもダメだったって」

 

「・・・・・これはひょっとしてまずいんじゃないかしら」

 

 

まさかこうも立て続けにやられるとは思ってもみなかった45は冷や汗を流す。ゲパードはまぁ後で加入したのでいいとして残りの三人は初期からいる精鋭だ。それがあっさりと手玉に、それも闇討ちとかではなく単純にしてやられたという事実がAUGの手強さを表している。

だがこれではっきりとわかったことがある。AUGに隠れ続けると言う選択肢はなく、必ず目の前に現れるのだと。

 

 

「なら待っていればあっちからきてくれるわ・・・・・そこを捕まえましょう」

 

「うん! みんなの仇を取ろう45!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、時間切れ♪」

 

「なんで出てこないのよ!?」

 

「よ、45落ち着いて・・・・・・」

 

 

45たちの懸命な捜索・・・・・の甲斐もなくしかもなんのトラブルもなく、気がつけば時間切れとなってしまった。項垂れながら喫茶 鉄血に戻ってみれば何食わぬ顔でケーキとコーヒーをいただいているAUGの姿があり、いよいよ45が爆発してしまったのだ。

404小隊の完全敗北である。

 

 

「うふふ、このケーキ美味しいわね、もう一ついただけるかしら?」

 

「かしこまりました・・・・・でもよろしいんですか? お会計は・・・・」

 

「えぇ、彼女たちの隊長さんにツケといて頂戴」

 

「・・・・・・は? え、ちょ、嘘でしょ!?」

 

「あら、隊長なら失敗の責任を負うべきじゃないかしら?」

 

「くぅ・・・・って待ってなんで二個目なの!?」

 

「一個しか頼まないとは言ってないわ、ご馳走さま」

 

「ちくしょぉおおおおおおお!!!!!!!」

 

 

机に突っ伏して泣き出す45。だがAUGはその方にポンっと手を置くと、なだめるように言い出した。

 

 

「安心して、食べ終わったらちゃんと同行するわ。」

 

「え? じゃ、じゃあなんで逃げたのよ!?」

 

「ここのケーキが食べたかったから。 あとゲームとは言ったけど同行しないとは言ってないわよ」

 

「自腹で食べなさいよ!」

 

「高いじゃない」

 

「うわぁあああああん40〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

「あーよしよし・・・・」

 

「あ、お土産用にも一つもらえるかしら?」

 

「カハッ!」

 

「よ、45〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

こうして、404小隊の任務は終わった。一応連れてくることができたので評価としては成功だったが、なんとも言えない敗北感と45宛の伝票が残ったと言う。

 

 

end

 

 

 

番外24-3:天使と変態

 

 

その日、S09地区で一番品揃えが豊富と言われるホームセンターに来ていたのはコスプレ材料を揃えに来たマヌスクリプト。結構な頻度で買いに来る鉄血ということもあって特に服コーナーやハンドメイドコーナーではすでに顔なじみと言って良いくらいに知られている。

だが今日はそんな彼女の隣に、まず見ない組み合わせの人形が一人いた・・・・・・AR小隊の隊長、M4A1である。

 

 

「・・・・・で、この生地は裏面とおもて面で触り心地が全然違うの。 こっちのは結構しっかりしててちょっと重いけど形が崩れにくいよ」

 

「へぇ・・・・生地だけでこんなに・・・・・」

 

「これはあくまで服のベース。 リボンとかアクセントになるとあっちの棚が全部それ」

 

「えっ!? あんなにですか!?」

 

 

結構フランクにだがわかりやすく紹介していくマヌスクリプトの隣で、生真面目な気質からかメモを取りながら話を聞くM4。もともと一人でいることの多いマヌスクリプトが誰かと一緒でいることも珍しいが、それが品行方正なM4だとなおさらである。

というのも今回、前にマヌスクリプトの服飾技術に興味を持ったM4が彼女に頼んで教えてもらおうと思いついたのが始まりだ。そこでまずは生地や道具選びということで、ここに買い物に来ているのだ。

 

そしてその数メートル後ろ、柱に隠れるようにして覗き込んでいるのはAR小隊のシスコン、M16である。

 

 

「うぎぎぎぎ・・・・・あの変態め、M4と楽しげに話しやがって・・・・」

 

「M16、これはふつうにストーカーなのでは?」

 

「何をいうんだRO、これは可愛い妹が変態の毒牙にかからないように見守っているだけだ!」

 

(変態という意味では似たり寄ったりだけど黙っておこう・・・・)

 

 

そのM16に付き合わされているROは大きく溜息を吐くと、M16とともに監視を続行した。

 

 

「ミシンも結構色々だけど・・・・よっぽど凝ったのを作るんじゃなかったらシンプルなので十分だよ」

 

「なるほど・・・・・でもやるからには本格的にやりたいですね」

 

「それもそうだけど、まずは簡単なのからかな。 基本を覚えてから先に進んだ方がいいよ」

 

「・・・・そうですね、じゃあこれにします!」

 

 

 

「なんかいい雰囲気ですね・・・・・」

 

「うぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜」

 

「犬みたいに唸らないでください」

 

 

 

「アクセサリー・・・・結構簡単に作れるのもあるんですね」

 

「一からだと結構手間がかかるけど、あるものを組み合わせるなら以外と簡単だよ。 プレゼントとかにはもってこいだね」

 

「たしかに・・・・・うん、隊のみんなにお揃いのネックレスとかいいかもしれませんね」

 

 

 

「うぅ・・・M4・・・・私は気持ちだけで嬉しいぞ!」

 

「あ、すみませんこの人私の知り合いです。 けして怪しい者とかではないので・・・・はい、すみません、注意しておきます」

 

 

 

「マヌスクリプトさん、それは?」

 

「ジーンズ生地なんだけど、今まで作ったことなかったんだよね。 今回初挑戦」

 

「なるほど・・・・・私は何を作ろうかな?」

 

「手編みならマフラーがオススメなように、まずはシンプルなものだね。 Tシャツやワンピースとかかな」

 

「M16姉さんは結構ラフな格好が好きだからTシャツで・・・・あとはワンピースの方がいいかな?」

 

 

 

「うちの妹が天使だった件」

 

「M4、楽しそうですね・・・そう言えば彼女って趣味とかありましたっけ?」

 

「ん? いや、どうだろう・・・・・」

 

「無いなら、ちょうどいいかもしれませんね。 趣味があるのはいいことです」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さてそんな感じで二時間ちょっと。終始興奮しっぱなしだったM4はフードコートのテーブルにべちゃりと突っ伏し、その向かいではマヌスクリプトが苦笑しながらジュースを吸っている。

 

 

「つ、疲れました〜・・・・」

 

「お疲れ様。 やっぱりいきなりここは数が多すぎたかな?」

 

「いえ、知らないことばかりでとても勉強になりました。 今日はありがとうございます!」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

 

その後少し話、M4が化粧室に行ったタイミングでマヌスクリプトは隣の席を見る。自分の話とかで夢中だったM4には気づかれなかったようだが、そこにいたのはなんとも貧相な変装のM16とROの二人。サングラスと何故かつけ髭というチョイスのそれは逆に目を引くと思うのだが。

 

 

「・・・・・で、何か用かなストーカーさん?」

 

「訂正してください、私は違います」

 

「おい、それは私がストーカーだということか?」

 

「「え? 違うの(んですか)?」」

 

 

二人のツッコミにウッとなるM16。だがもう変装は無意味と思ったのかサングラスとヒゲを外し、マヌスクリプトに向き合う。

その目はいつになく真剣で、まさにエリート部隊AR小隊のメンバーと言えるのもだった。

 

 

「今日一日、お前がどういうやつかを見極めさせてもらった。 正直お前のことはただの頭のネジが外れた変態だと思っているが一応だ」

 

「え? 結構酷くない?」

 

「事実では?」

 

「ひどい・・・・・・それで、お眼鏡にはかなったのかな?」

 

 

スッと目を細めてM16を見据えるマヌスクリプト。それにも動じずまっすぐ睨むように見返すM16だが、フッと表情を和らげると一息ついて、

 

 

「・・・・・あぁ、そうだ。 お前はM4のためにいろいろとアドバイスしてくれた。 自分の用事もあっただろうに親身になってだ。 ・・・・・お前のことを誤解していた、すまなかった」

 

「え、いや、そこまでされるようなことは・・・・・」

 

「いや、あいつの姉として失礼な態度を取っていたんだ。 ・・・・・できればこれからも、あいつとは仲良くやっていてくれないか?」

 

 

頭を下げて謝罪し、頼み込むM16に若干戸惑いながらも、マヌスクリプトは迷わず頷いた。そもそもM4は喫茶 鉄血にとっても家族のようなものだし、今更といえば今更だ。

それに、人に教えるというのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが、妹に変なことを・・・・・特に破廉恥なものを着せるようなら容赦しないからな」

 

「そのシスコン癖は直した方がいいよM16・・・・あとあの子はすすんで着てくれるから」

 

「なにっ!? 貴様まさかあんな服やこんな服を!?」

 

「・・・・・・姉さん?」

 

「お、M4! 大丈夫か!? こいつに変なものを着せられたりとかはしてないか!?」

 

「ちょっとマジで人聞きの悪いことを言わないでよ!?」

 

「そうですよ姉さん! マヌスクリプトさんに失礼です! それ以上言うならもう姉さんに話すことなんてありませんっ!!!」

 

「えっ、M4ーーーーーっ!!!!」

 

 

end

 

 

 

番外24-4:快眠プログラム

 

 

人形は本来、睡眠を必要としない。というより『睡眠』という行為をわざわざする必要がないと言う方が正しい。姿形こそ人間を模してはいるが動力が続く限り動いていられるし、修復やバックアップの際にポッドに入ればそれだけで十分だからだ。

しかしその一方で、一度も睡眠をとったことのない人形は極めて稀だ。製造完了から少ししか経っていない新人はともかく、ある程度配属先で過ごすとみんな眠るようになる。理由は人形によってまちまちだが、大体が『悪くない』だそうだ。

 

さて、眠るということは夢を見ると言うことである。人形が夢を見るのかというと見るのだ。多くの場合がメモリーに記憶されているデータの再生のようなものだが、中にはそれらがごちゃごちゃにまざり合ったり突拍子も無い内容のものだったり・・・・・端的にいえば『悪夢』を見るのだ。そしてそれは、日頃ストレスを抱えている人形程よく見る。

 

 

「ということで例のプログラムをインストールして一週間経ったんだけど・・・・あれからどう?」

 

「悪くない・・・どころか本当に快眠だったよサクヤさん」

 

「なるほどなるほど、流石は『救護者』を名乗るだけはあるんだね」

 

「私も半信半疑でしたが・・・・・優秀な人形だったようですね」

 

 

鉄血工造の医務室に集まったのゲーガー、サクヤ、代理人の三人。先日またしても別の世界からやってきた客、そのうちの救護者という人形からもらった『快眠プログラム』なるものを、人形随一のストレス保有者であるゲーガーにインストールすることで効果を確かめていたのだ。

そしてインストールしてからちょうど一週間後の今日、検査にやってきたゲーガーは見るからに調子良さそうだった。

 

 

「解析してみたけど、見たことないような独自のプログラムが組まれてた。 ただ複製自体は結構簡単にできそうだから、あとでみんなに配るね」

 

「あら? てっきり売り出すのかと思いましたが」

 

「貰い物で商売はしないさ・・・・・それと、礼を言う代理人、ありがとう」

 

「お礼なら渡した彼女に・・・・言えませんね」

 

「あはは、じゃあ次にきてくれたときに言おうか?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

後日、大量に複製されたプログラム入り端末がグリフィンに納入され、各司令部へと配られることになったという。

 

 

end




低体温症が常設イベントになるそうですね。
いつでもアーちゃんに会えるよ、やったねみんな!


というわけでさっそく各話の解説!

番外24-1
なにかの後日談とかではなく、これまでのコラボ・・・・というか迷い込んできたみなさんの振り返り的な話。ユノちゃんに始まりD08の面々、あとまだお返しを書いてないけど他からも続々と集まってきてますね・・・・・・うちの世界線はあれかな、水に濡れた和紙よりもペラペラなんだろうか?

番外24-2
九十三話の後日談。
AUGの神出鬼没感とか余裕の笑みとかを想像しだしたらDSR並みの強キャラに変貌した。なおお支払いはスペシャルケーキ×3(うち一つ持ち帰り)+コーヒー=約5000円

番外24-3
九十四話の後日談。
きっとマヌスクリプトは自分の趣味になったら親切丁寧に教えてくれると思うんだ。
M4が変態に染まることは決して無いのでご安心を笑

番外24-4
『村雨 晶』様の作品『鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。』でのコラボ回より、救護者の置いていった快眠プログラムが登場。
あちらの世界も鉄血たちが仲良くやってるほのぼのライフな作品ですのでおススメです!


無事帰ってきましたが引き続きリクエスト募集を一時休止します。
ある程度消化できたらまた募集しますのでよろしくね!


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第九十六話:二人のレイ

すみません コラボが遅れて マジごめん(心の一句)

というわけで今回はコラボ回。
『chaosraven』様の『裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件』より、本物のレイとスケアクロウが飛んできました。あちらで投稿されている内容の別視点、という形です。なのでセリフなどは途中まで同じです。
・・・・・マジでうちの世界線はペラペラだな


side 代理人

 

なんでもない一日が流れる喫茶 鉄血。その店内でコーヒーを入れてケーキを並べて客の注文を取ってといつも通りの業務をこなしている代理人。そんな代理人が最初に聞き取ったのは、妙に重たいエンジン音だった。喫茶 鉄血はS09地区の中でも路地の先にあって大型車両が通りにくいところにある。一応搬入車両用の道路が近くを通っているのでそこから来ることもできるが、一般にはあまり知られていない。そんなところにこの重たい音・・・・・あの細く曲がりくねった路地を進んできた猛者がいるらしい。

・・・・・と思っていると、入り口のドアが開く。入ってきたのは友人のエンターテイナーとその専属護衛の男性だ。

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶鉄血へ。お好きな席にお掛けください」

 

 

知った顔、それも片方はかつての彼女の部下だが、接客という点で妥協はしない。ところが入ってきて早々に二人ともポカンとした表情になり、二人揃って口を開く。

 

 

「「・・・何やってんの(ますの)??」」

 

「何って、いつも通りに仕事をしてるだけ・・・あら?」

 

 

なんともいえない違和感に、もしかしてそっくりに仮装しているだけなのでは?とさえ思うが相手もこっちを知っているようなので違う。ではなぜこんな反応をと考えた末行き着いたのは、まぁこの店ならではと言える結論だった。

そんなわけでよくあることと流しつつ仕事に戻ろうとするが、そこは件の二人に止められる。

 

 

「あの、一人で納得してないで答えてくれませんかね?」

 

「ああ、それもそうですね。では突拍子もないお話になると思いますが、聞いていかれますか?」

 

 

質問の答えとしてはいささか不十分な答えに二人は顔を見合わせると、とりあえず頷いた。

 

 

「それじゃあお願いしようか。スケアクロウも、それでいいか?」

 

「構いませんわ」

 

「では、どうぞお掛けになってください。レイさんはコーヒーで、スケアクロウはココアの方が良かったかしら?」

 

「ああ」

 

「なるべく甘めにお願いしますわ」

 

「ふふ、少々お待ちくださいな」

 

 

なるほど、その辺の好みはどうやら()()()でも()()()でもそう変わらないらしい。しかも今更だがスケアクロウと組んでいるのも、もしかしたらそういう運命にあるということなのかもしれない。

そうこうしているうちにコーヒーとココアが出来上がり、相変わらず難しそうな顔をしている二人に差し出す。レイはそれを一口飲むと目を細めて口元を緩ませる。逆にスケアクロウは一口飲むとビクッと震え、小さくしかし結構頑張って息を吹きかけて冷まそうとする・・・・・どうやら猫舌だったらしい。

 

 

「・・・美味いな」

 

「ありがとうございます。”並行世界”のレイさんにもそう言っていただけて光栄ですわ」

 

「ぶふっ、へ、並行世界だって??」

 

 

レイの感想に代理人はそう答え、そのとんでもない内容にレイは思わず吹き出しかける。まぁ確かに息なそんなことを言われればそうなるが、残念ながらこれが一番手っ取り早い。

 

 

「驚くのも無理はありません。ですが、あなた方のいた世界とこの世界は確かに違うはず。そう、この世界の歴史を証明するものをお見せすれば納得できるでしょうか?」

 

「・・・それが本物って確証をどこが担保するんだ?って言いたいところだが、はぁ・・・頭が痛い。とにかく、その証明するものってヤツを見せてほしい」

 

「私も、この目で確かめさせていただきたいですわ」

 

「ええ、少々お待ちを。この世界で発行された新聞などを幾つかお持ちしますわ」

 

 

予想通りというか、やはりこれだけでは信じてもらえないようだ。なので、いつからかこういう時のためにとっておいた新聞を取りに行く。サクヤやあっちの世界のユノちゃんなど、割とな頻度で流れ込んでくるこの店ならではな対策だ。

その中でも、かなり古い記事のものを選ぶ。これはあくまで仮定だが、おそらくほとんどの世界ではこの年代に歴史を大きく変える出来事が起きているはずだ。

 

 

「お待たせしました。お二人が最も分かりやすいのは、この日付の前後に発行された新聞でしょうか」

 

 

カウンターに戻り新聞を渡す。二人はまず発刊年月を見て、そのまま食い入るように新聞を読み始める。

・・・・・いや、読むというよりは何かを探しているようだ。おそらく彼らの世界で起こった出来事、もしくはその場所の名だろう。だが残念ながら、そんな名前はこの新聞にはない。サクヤに確認してもらっているので確実だ。

 

 

「・・・エージェント」

 

「なんでしょう」

 

「これは、本物なのか?」

 

 

額に手を当てながら苦々しく呟くレイ。隣のスケアクロウも信じられないといった表情で、代理人と新聞を交互に見る。だがいくらそうしたところで事実は変わらず、徐々に顔色が悪くなり始める。

ここはさっさと別の事実を伝えるべきだろう。そう、死んだわけではないのならすぐに帰れるはずだと・・・・・何故かはいまだにわからないが。

だがそんな時、正直最悪のタイミングと言っていいところで新たな客が入ってくる。それはなんの因果か、目の前の二人とほぼ同じ姿をした二人組だった。

 

 

「いやぁー代理人、申し訳ないんだけどスケアクロウが忘れ物しちまったみたいでさ。この間スケアクロウが泊まった部屋の鍵をちょっと開けてもら、っても・・・っ!?」

 

「っ!!?」

 

「えっ」

 

「なっ!!?」

 

 

四人が一斉に固まり、しかし次の瞬間異世界のレイがFive seveNを、こっちのレイがリボルバーを引き抜き互いに向け合う。突然の事態に店内は騒然とし、代理人は急いで各人形に指示を出す。今でこそもう見る影もないが開店当初は襲撃もあった喫茶 鉄血、こういう事態も想定済みだ。

 

 

「・・・オイオイ、一体何の冗談だ?」

 

「そんな、レイさんが、二人・・・?」

 

 

こっちの世界の二人がそう呟き、

 

 

「なんの冗談だって? それはこっちが聞きてえな?」

 

「・・・あぁ・・・」

 

 

異世界の二人もそう答える。こっち側にいるスケアクロウはこの状況で異世界に来てしまったという事実を飲み込んだらしく、呆然とした感じだが。

 

 

「・・・おい。お前、俺のクローンか何かか?」

 

 

こっちのレイがそう尋ねる。まぁもっともな意見だ、他人の空似にしても似すぎているし、なによりスケアクロウが二体いることがもうおかしい。ちなみにだがこの五人の中で異世界というカラクリを知らないのはこっちのレイのみ。

 

 

「いーや、違う。店主のエージェント曰く、俺とこっちのスケアクロウは”並行世界”からやってきたんじゃねえか?って話をしてたところだ」

 

「はぁ? 並行世界だって?? 何をバカなことを・・・嘘付くならもっとマシな嘘を付くんだな!!」

 

 

そして異世界の方のレイが言った言葉を挑発と受け取ったのか、ついにこっちのレイが発砲。だが有ろう事かそれを見てから避けた上、一気に肉薄する。

 

 

「っ!」

 

 

とっさのことに反応できないうちに銃のストックで数度殴られ、マウントを取られて銃を突きつけられる。時間にすればほんの一瞬、だがその一瞬だけほとんどの客が呼吸すら忘れ、張り詰めた殺気に当てられていた。スケアクロウたちのビット展開も間に合わず、しかし勝負は呆気なくついた。

 

 

「チェック、だな。いきなりぶっ放してくるから咄嗟に反撃しちまったが、俺には今の所”お前”を殺すつもりは無い。だから、抵抗しないでくれよ。俺に『チェックメイト』をさせないでくれ」

 

「ぐっ・・・反則、だろ、撃たれた弾を、見て、避けるなんて・・・」

 

 

息を荒げながら忌々しげに見上げるレイ。だがもう決着がついていることから抵抗するそぶりはない。だが念のためか、銃はまだ持ったままだ。

 

 

「悪いな。俺は裏稼業やってる身の中じゃ相当に修羅場を潜って来てるもんでな」

 

「うら、稼業だと・・・? お前、傭兵じゃ、ねえのか、よ?」

 

「傭兵? そういうお前はオモテで傭兵やってんのか?」

 

 

ここへ来て互いの違いというものが見え始める。傭兵と裏稼業、似ているようで全く違う両者という存在が、異世界という突拍子もない話を信じさせたようだ。

 

 

「お二人とも、そこまでにしてください」

 

 

もうこれ以上暴れることはないはず、ということで代理人はサブアームを展開して二人に近寄る。裏からもイェーガーとリッパーが武装して現れたことで完全に大人しくなった。ちなみにイェーガーとリッパーの武装だが、実はこれは『銃』ではなくそれによく似たただのレプリカであり、ようするに鈍器だ。だが傍目にはしっかりと銃に見えるので、二人とも銃をしまって裏稼業の方は手を上に上げる。

ところでその際、代理人のサブアームを見たときの顔色が若干悪くなったのはなぜだろうか?

 

 

「・・・レイさん」

 

「「うん?」」

 

「いえ、傭兵の方のレイさんです」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

ややこしい、なので次からは『傭兵』と『裏稼業』とすることにしよう。さて喧嘩両成敗だがまずはいの一番にぶっ放した傭兵のレイに注意喚起を行う。

 

 

「目の前に自分と瓜二つの存在が現れて動転するお気持ちは分かりますが、くれぐれもお店で銃を抜かないよう、厳重に注意させていただきます」

 

「あ、ああ。それは、申し訳ない・・・」

 

 

シュンとする傭兵のレイの後ろで、スケアクロウも申し訳なさそうに頭を下げる。それが終わると今度は裏稼業のレイに向き直り、こちらにもしっかり注意をしておく。

 

 

「そして、もう一人のレイさん。貴方も同じく、お店で銃を抜くのは止めていただきたいですわ。お気持ちは分かりますが、いきなり拳銃を抜くというのはいささか早まり過ぎな行動ではないかと」

 

「裏でチンタラ相手の出方を待ってたらあっという間に殺されるもんで、つい癖で・・・。ともかく、こちらも申し訳ない。トラブルを起こしたことは謝らせてもらう」

 

 

さてこれで両者への注意が終わり、イェーガーとリッパーを下がらせる。店内の客もホッとしたようでそれぞれの席に戻り、再び食事や会話を楽しむ・・・・・図太い神経してるなぁ。

代理人がサブアームを格納したことで二人の緊張も落ち着き、それぞれ歩み寄って握手を交わした。

 

 

「こっちの世界の”俺”で、いいんだよな? さっきは散々殴りつけて悪かった。痛みは無いか?」

 

「ああいや、大丈夫だ。それにこっちこそ、いきなり撃っちまって悪い。でもはっきり言ってカスってすらも・・・ないよな?」

 

「ああ。それは心配いらない。さて、ファーストインプレッションは正直最悪だったが、だからってその後の関係まで最悪にする必要は無いだろ? いっそこの出会いを飲みの会の笑い話に出来る位、友好的な関係を築こうぜ」

 

「やれやれ。ったく、なんて話のオチだよ」

 

 

これならもう大丈夫だろう、ということでカウンターに戻る代理人。

さてこれで一件落着・・・・・なのだが肝心のことをまだ伝えていない。裏稼業のレイもさてこらからどうしようという顔でスケアクロウと目を合わせているが、ここはさっさと伝えてしまう方がいいだろう。

 

 

「ではそちらのレイさんとスケアクロウは奥へ来ていただけますか? それと・・・・・マヌスクリプト」

 

「えっ!? なんでこっちに飛び火すんの!?」

 

「違いますよ、少しお願いしたいことが。 ・・・・・・・・・・・ということなんですが」

 

「OK! そんなことなら私に任せてよ! というわけでレイさんとスケアクロウ、今時間ある? あるよね? じゃあこっちに来て!」

 

 

やたらとハイテンションになったマヌスクリプトに引っ張られる形で傭兵のレイとスケアクロウが二階に連れて行かれる。その様子を呆然と見ていたもう一人のレイとスケアクロウは、代理人に手招きされて裏へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「さて、一つだけお伺いしたいのですが・・・・・・あちらで死んだ、というわけではありませんね?」

 

「いきなりだな・・・・・まぁ死んでない

はず・・・・」

 

「寝て、目が覚めたらここにいた、ということですわ」

 

「結構。 では早速お伝えしますが・・・・・・おそらく帰れます」

 

「「ファっ!?」」

 

 

唐突に告げられた帰れます宣言になんとも間の抜けた顔で返事を返す二人。思わず笑いそうになるのを持ち前のポーカーフェイスと人形の表情操作系システムを切るという強引な手法で乗り切った代理人は、その話を踏まえた上で続ける。

 

 

「私も理屈は不明です。 が、これまでこられた方は皆さん無事に帰っていますので、問題ないかと」

 

「え? これまでって・・・・・他にも俺たちみたいなのがいたのか?」

 

「ええ、それも何人も」

 

 

いくつか例を出し、ついでにあのコインも持ち出すことで説明する。えぇ・・・・という顔のレイと、純粋に驚いたような表情のスケアクロウだが、帰ることができるという情報は彼らにとって嬉しいもので、あからさまに安堵する。ちなみに帰るまでの時間は結構まばらで、ほんの数時間の場合もあればほぼ一日の場合もある。

 

 

「ふふっ、まぁここに来たのも何かの縁、今日はゆっくりとくつろいでいってください」

 

「ああ、恩にきるよ」

 

「助かります」

 

 

そう言って二人とともに表に戻る。そこそこ話したことで、ちょうど表では面白いものが見られるかもしれないと思いながら。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょー! なんでこんなの着なきゃいけねえんだ!」

 

「自業自得でしょう、むしろ私もとばっちりなのですが?」

 

「でもスケアクロウは雇い主だよね? じゃあ一緒に責任とらないと!」

 

「わぁ、レイさんもスケアクロウちゃんも似合ってますよ!」

 

「「えぇ・・・・・・」」

 

「ふふふっ、ではお願いしますね二人とも」

 

 

戻ってきてみればやはり面白いことになっていた。顔を真っ赤にしながら地団駄を踏む()()()()()()()()()のレイと、その隣でやや顔を赤らめながらため息をつく()()()()()()()のスケアクロウ。その横でツヤツヤ顔になるマヌスクリプトと、純粋に褒めているD。

異世界組が唖然とする中、マヌスクリプトはこちらを見つけると軽やかな足取りで近づき、興奮したように喋りだす。

 

 

「ありがとう代理人! まさかこの服が日の目をみるなんて思ってもなかったよ!」

 

「ええ、喜んでもらえて何よりです」

 

「「いや、喜んでない(ません)!」」

 

 

というわけで、迷惑料としてこっちの二人にはマヌスクリプト作のコスプレ接客をしてもらうことになった。怪我人が出なかったとはいえ店内で発砲事件である、それ相応の代償を支払ってもらおうと思い、じゃあついでにマヌスクリプトの欲望発散に貢献してもらおうと考えた末のものだ。

二人にとってはたまったものではないが、むしろこのくらいで済んでよかったも思うべきだろう。

 

しかし客にとっては大変好評なようだ。異世界の二人も席についてコーヒーとココア(今度は緩くしてもらった)を啜りながら見るが、顔立ちの良いレイは本当にホストのようで女性ウケが良く、スケアクロウのチャイナドレスはきわどいスリットのおかげで男どもの目線も釘付けだ・・・・・こっちのレイも例外ではない。

 

 

「・・・・・どこを見てますの?」

 

「へぁ!? い、いや、それはだな・・・・」

 

「つーーーーん!」

 

「まじかよ」

 

((『つーん』って自分で言うのか))

 

 

そんな可愛いスケアクロウの嫉妬に振り回されるのはいつものことのようで、レイが頼んだケーキを一口差し出すと頬を膨らませながらパクッと食いつき、一気に表情を緩めるあたりいつものことなのだろう。レイもレイで恥ずかしがる様子もなくやっているため、周りにはもうただのカップルにしか見えなかったりする。

 

そんなこんなで陽も傾き始めた頃、天然物のコーヒーにどっぷりハマって何度目かのお代わりをもらっていたレイだが、不意に聴き馴染んだ音が聞こえて慌てて席を立つ。

 

 

「これは・・・・・オンボロのエンジン!?」

 

「まさか、誰かが勝手に!?」

 

 

二人が急いで外に出ると、そこにはエンジンがかかったオンボロ。ところがその周りには誰もおらず、しかもポケットに入れていたはずの鍵までしっかりと刺さっていた。

まるで、何かの合図のようにエンジンを鳴らしていた。

 

 

「おや、もしかしたらそろそろお時間なのかもしれませんね」

 

「え、時間?」

 

「はい・・・・・・少々お待ちを」

 

 

そう言って代理人は一度店に戻り、少ししてコーヒー豆の入った瓶を持って現れる。その後ろには、こちらの世界のレイとスケアクロウもいた。

 

 

「今なら、元の世界に帰ることができるはずですよ。 これはお土産に」

 

「いや、俺たちまだ代金も払ってないんだが」

 

「サービスです。 遠いところから来ていただいたお礼に」

 

 

渋るレイに代理人は強引に瓶を渡す。そしてそのまま下がると、入れ違いにこっちのレイたちが前に出る。

 

 

「もう帰るのか、達者でな」

 

「・・・・ああ、お互いにな」

 

「お元気で・・・・・・それとそちらの私」

 

「・・・?」

 

 

こっちのスケアクロウは異世界のスケアクロウに近寄り、その耳元に口を寄せる。何事かと怪訝な表情になるスケアクロウに、小声でそっと伝える。

 

 

「想いを伝えるなら、思い切りよくですよ・・・・・応援してますね」

 

「へっ!?」

 

 

一気に赤面して目を見開く彼女を見て、クスクスと笑いながら下がる。二人のレイは互いに首を傾げたままだが、何かあったかと聞いてもそのままそっぽを向かれてしまった。

そんな時、スロットルに触れてもいないのにひときわ大きくエンジンが鳴るオンボロ。いよいよタイムリミットのようだ。

 

 

「ふふ、ではこれでお別れですね」

 

「そうみたいだな、世話になった」

 

「ご馳走様でした、代理人」

 

「ええ、またお待ちしております」

 

 

スケアクロウがサイドカーに乗り、レイがアクセルを吹かして発進させる。最後に無言で右手をあげると、そのまま狭い路地をゆっくりと走っていった。やがてエンジンの音が小さくなり、消えると同時にふぅっと一息つく。

 

 

「・・・・無事に帰れたようですね」

 

「マジでこんなことってあるんだな・・・・」

 

「世界は広い、ということですよレイ」

 

 

かすかに残るガソリンの匂いで感傷に浸りながら、三人は彼らが消えていった方を見続けていた。

もしかしたら、また会えるかもしれない。そんな淡い期待も持ちながら。。

 

 

end




名前も一緒だし違いも顔に傷があるかないか、スケアクロウに至っては全く同じというややこしさ・・・・・分かりづらかったらごめんね!


というわけでキャラ紹介!

異世界組
レイ
chaosraven氏の『裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件』の主人公。左頬骨に傷があり、持っている銃は57、裏稼業。
あっちの代理人が色々とアレなのでそのギャップを感じてたのかも。

スケアクロウ
レイのパートナー。もとはとある一件で『生まれたての雛鳥』のように初めて見たレイを所有者と認識してしまったから。
「つーん」と口で言うのが特徴、可愛い。

こっちの世界組
レイ
傷がない、所持する銃はリボルバー、傭兵。
スケアクロウと専属契約を結んでおり、彼女の身辺警護からプライベートでの話し相手まで多岐にわたる契約内容・・・・という名のなにか。

スケアクロウ
世界を飛び回るエンターテイナー。鉄血ハイエンド組では珍しく職業のはっきりしている人形。
レイのことをどう思っているかは本人のみぞ知る。

代理人
今更知人によく似たのが一人二人現れたって気にしない。
ちなみにあっちの世界の代理人は辺り一面を更地にできるほどの火力を持つが、こっちのは鉄血製SMGと同程度である。

マヌスクリプト
「私の衣装は108着まであるぞ(大嘘)」


そろそろ落ち着いてきた気がしなくもないのでリクエストを再開します!
あとコラボについての諸注意ですが、『死亡キャラ』はこちらに居座ることができますが『迷い込んできたキャラ』は必ず元の世界に送り返します。ご了承ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第九十七話:世界が違えば人も違う

ここ最近コラボ関係ばっかり書いているのは実に喜ばしいことだと思います(唐突)

というわけで今回は『一升生水』様の『本日もよき鉄血日和』とのコラボ!
鉄血主体のカオスな日常は是非読んでもらいたい!


夏真っ盛り、空には綺麗な入道雲が漂っている今日この頃。今日も今日とて繁盛しつつも緩やかな時間がすぎて行く喫茶 鉄血では、代理人以下従業員がキビキビと働いていた。つい昨日には店内での発砲事件もあったというのに、そんな騒動の面影など微塵も感じさせないのは流石と言ったところか。

 

 

カランカラン

「ただいま戻りました」

 

「いやぁ、相変わらず暑ぃな・・・・・」

 

「あら、おかえりなさい。 アイスコーヒーでもいかがですか?」

 

「ええ、頂きます」

 

 

まるで実家のような雰囲気で帰ってきたのは昨日の発砲事件の当事者、傭兵のレイとその雇い主であるスケアクロウだ。忘れ物を取りに帰ってきたついでに少し休暇を取り、せっかくなので近くの公園やホールでショーを披露しているのである。その間、宿代わりに喫茶 鉄血の空き部屋を使わせてもらっている。

 

 

「お、お帰り二人とも! 実は新作の衣装が・・・・・」

 

「「お断りします(する)」」

 

「ちぇ〜」

 

 

ぶーっと膨れたまま奥へと消えるマヌスクリプトをジト目で追いつつ、出されたアイスコーヒーを一口飲む。冷たいコーヒーとその風味が口いっぱいに広がり、さっきまでの暑さを一気に吹き飛ばしてくれるようだ。

 

 

「あ〜生き返る〜」

 

「昨日は昨日でいろいろありましたから。 なんだかようやく一息つけた気がします」

 

「ああ、あんなことそうなんども続かねえだろ」

 

 

昨日の珍妙な出会いを思い返しつつ、二人揃って気の抜けたようなため息を吐く。

 

・・・・・ところで世の中には、滅多に起こらないことが続けて起こるということが少なからずある。『二度あることは三度ある』とか『稀によくある』とか。

そして今回は、言うなれば『おかわり』である。

 

 

カランカラン

「鉄血っていつからカフェも開いたんだろうね?」

 

「というよりも大丈夫なのか? 寄り道したことが01あたりにバレると面倒なんだけど」

 

「まぁなんとかなるでしょ・・・・・・あ」

 

「いらっしゃいませ。 開いている席へどうぞ」

 

 

新しく入ってきたのはやや小柄で中性的な男性と、2メートルに迫るかというほど背の高い女性。腰にぶら下げた銃とかやや荒っぽい服装から傭兵、もしくはPMCや軍などの荒事メインな方々であると察しがつく。が、それ以上に目を引くのは女性が背負っている大振りの『クレイモア』だ・・・・・時代錯誤にもほどがあるだろう。

さてそんな異様な見た目であってもお客様はお客様、キチンと接客したつもりなのだが、男女二人は若干引きつったような笑みを浮かべている。というより若干警戒しているように見えなくもない。

 

 

「? どうされましたか?」

 

「え? あ、えっと・・・・・・代理・・人?」

 

「ええ、そうですが・・・・・・失礼ですがどこかで?」

 

「え!? お、俺だよ代理人!」

 

 

なんとも噛み合う感じのしない会話に、それを聞いていたレイとスケアクロウは首を傾げ、そしてこんな反応に覚えのある喫茶 鉄血一同は速やかに行動を開始する。まずDが代理人に変わって指揮をとり、代理人はカウンターの端・・・・・()()()()()用の席に水を置いて招く。

 

 

「立ったままというのもなんですから、どうぞこちらへ」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

その日、鉄血工造でハイエンドたちの訓練やら教導を請け負っている傭兵四人のうちの二人、03と04は街へ買い物に出かけていた。03が出かけるということもあって案の定代理人が暴走したり、04が出かけるということで案山子が尾行しようとしたりしたが01や02に捕まって連行された。

そんな二人は街で必要なものを買い、04の思いつきでちょっと散策ついでに寄り道してみることになった。ところが道を進み入ったことのない道を抜けていくと、目の前に現れたのは自分たちが世話になっている『鉄血』の文字が入ったカフェ。興味本位で入ってみればそこにいたのは・・・・・

 

 

「・・・・・ねぇ、アレって本当に代理人?」

 

「そうとしか見えないけど・・・・・・・」

 

「でも代理人がカフェやってるなんて知らないんだけど・・・ていうかさっき連行されたばっかでしょ?」

 

「新手のドッキリ、とか? ほら、あそこに案山子もいるし」

 

「本当だ・・・って隣の男は誰よ?」

 

 

終始疑問の絶えない光景だった。

まず代理人。03をみれば目の色を変えて襲いかかってくる(本人はスキンシップのつもり)のだが、今のところそんなそぶりはないどころかまるっきり別人だ。ちゃんとしてれば美人なのになぁ、と常々思っていた03の予想は当たったのだ。

次に案山子。彼女も04を見つければすぐに寄ってくるはずなのだが、ちらっと見たっきり隣の男性と親しげに話すだけ。むしろまるで面識がないかのような態度に違和感と寂しさを覚える04だった。

 

 

「どうぞ、ご注文のアイスコーヒーです」

 

「あ、どうも・・・・・ってそうじゃなくて代理人」

 

「おっしゃりたいことは存じております。 少々お待ちを」

 

「行っちゃった・・・・・」

 

 

首を傾げながらコーヒーをすすり・・・・・その美味しさにびっくりする二人。まぁ知らないので当然だが、ここは彼女たちが住む世界とは違う場所、コーヒーも天然ものなのだから美味しくないわけがない。

というところで代理人が奥から何かを抱えて戻ってくる。見た感じ新聞のようだが、結構年代に幅があるのか古いものはもう数年前のようだ。

 

 

「・・・・・うん? あれ?」

 

「どうしたの03?」

 

「いや、なんかどこにも・・・・・E.L.I.Dとかの文字がないんだけど」

 

「えっ!? 嘘っ!?」

 

「嘘ではございませんし、ドッキリでもございません。 ・・・・・・単刀直入に申し上げますと、ここはあなた方の世界とは別の世界、異世界や並行世界というものです」

 

「「・・・・・・・・は?」」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

つい昨日もこんなやり取りをしたなぁ、と思いつつ一つ一つ丁寧に説明していく代理人。その過程で彼らのことも聞き、彼らの世界との違いも擦り合わせていく。

なんでも、彼らは別の世界の鉄血工造でハイエンドたちの訓練やら教導やらを行うために雇われた傭兵であるらしく、守秘義務からか本名は教えてもらえなかった。男性の方は『03』、女性の方は『04』というらしく、ハイエンドに訓練をさせるくらいなのだから相当腕が立つのだろう。そして意外なことに、彼らは割とあっさり異世界であることを受け入れてしまった。それはいずれ帰れるという楽観からなのかはわからないが、今はのんびりコーヒーを飲みながら()()()()鉄血の話をしてくれている。

 

 

「でね、03の悲鳴が聞こえたと思って駆けつけたら、全裸の代理人が覆いかぶさってたってわけ。 いよいよやっちゃったかぁって思ったわね」

 

「ほ、本気で怖かったんだぞ!?」

 

「はぁ・・・・・・異世界とはいえ私が・・・・嘆かわしい限りですね」

 

「安心してください代理人、あくまで異世界の話です」

 

「あ、でもあっちの案山子ちゃんは盗撮魔だよ」

 

「へぁ!?」

 

「スケアクロウ・・・お前・・・・・」

 

「違います! あくまであっちの私であって私は違います!」

 

 

聞けば聞くほどまともなのはいないのか、そう思えるくらいにはひどい有様だそうだ。ちなみに破壊者とか計量官とかはマシな部類だし建築家もやらかしはすれどヤバい部類ではないのだが、それを知らない代理人の中では全員やばい扱いである。

 

 

「・・・・まぁ、その節はあちらの私がご迷惑をおかけしました」

 

「おぉ・・・まともなのに違和感が・・・・・」

 

「04、それは言わないであげようよ」

 

「私にお詫びができるのでしたらなんでもいたします」

 

「・・・・・・だって、03。 頭でも撫でてもらったら?」

 

「うぇ!?」

 

「? それでよろしいのでしたら」

 

 

カウンター越しに頭の手を置き、撫で始める代理人。最初は戸惑っていた03だがだんだん顔を赤くしながら小さくなっていき、その隣で04がニマニマ笑う。なんともフランクで緩そうな感じ(背負っている得物を除く)に、同じ傭兵であるレイは若干複雑そうな表情を浮かべるが、昨日世界の広さというものを実感したばかりなのでそういうものだと受け流すことにした。

 

さて一通り03の醜態を楽しんだ04は、グッと背伸びをすると席を立ち、レジの方に向かう。

 

 

「さて、じゃあ私たちはそろそろ帰るわね。 お会計は・・・・・あれ?」

 

「ふふっ、お代は結構ですよ。 皆さんこちらとは通貨が違うようですので」

 

「う〜ん、なんか悪い気もするけど・・・・ありがと代理人、ご馳走さま」

 

「ええ、またいつでもいらしてくださいね」

 

「う、うん・・・・・ありがとう代理人」

 

「はい、また・・・・・あぁ、忘れていましたね。 はい、これを」

 

 

二人が店を出る前に思い出したかのようにカウンターの下から瓶を取り出す。いつのまにか渡すのが当たり前になってきた、『喫茶 鉄血ブレンド』である。

 

 

「ぜひ、あちらで皆さんと飲んでください。 それ、そっちの私に程々にするように、と」

 

「うん、ありがとう。 じゃあね!」

 

「さようなら、代理人」

 

 

手を振りつつ店を出て、そのまま路地の先へと消える二人。少し気になってちらっと路地を覗くとそこにはもう二人の姿はなく、無事元の世界に帰ったのだと安堵する。

 

 

「・・・・こんなにあるのか、こんなことが」

 

「私も話には聞いていましたが、二度も会うとは思いませんでした」

 

「ふふふ、皆大切なお客さんですよ」

 

 

そう言って代理人は笑うと、一度だけ振り向いて店へと戻っていった。

いつか、別の世界の自分とも会ってみたいな、なんて思いつつ。

 

 

end




口調ってこんな感じだったっけ?
きっと二人から見ればこっちの代理人はおかしく見えることだろう。何を言っているかわからないという人は今すぐ『本日もよき鉄血日和』へGO!


というわけでキャラ紹介

03
男性。背が低く中性的な顔立ち。
一人称は『俺』だが、よく代理人がらみで怯えている気がする。代理人に好意を持っている、らしい。

04
女性。2メートル近い身長で、だいたい背中にクレイモアを背負っている(地雷の方じゃないよ)。
かなりいたずら好きで、電子戦のプロでもある。案山子と侵入者が可愛いらしい。

代理人
まともな人形。きっとあっちの代理人と出会ったら即倒からの説教コースだろう。

スケアクロウ
こっちのほう。あっちのほうが盗撮魔なのであらぬ容疑をかけられてしまった。二話連続の登場。

レイ
スケアクロウ出しといて出さないわけにもいかないくらいペアになったコラボキャラ。何気にコラボキャラが二話連続は珍しい。
異世界ってすごいなぁ、と純粋に思っている。



コラボ、リクエスト受け付けてます!
*コラボ依頼の場合、その作品を読んだことがない場合は最新話まで読んでから書き始めるので時間がかかる場合がございますのでご了承ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第九十八話:異世界の英雄

おかしいな、コラボ依頼を書き上げたと思ったらまたコラボ回を書いていた、何を言っているのかry

というわけで今回は『じゃすてぃすり〜ぐ』様の『ROCKMAN CROSSLINE』とのコラボ。
実は作者はロックマンをほとんど知らないんですが、それでも楽しめるいい作品だと思います!


世界にはいたるところに不思議な現象を引き起こす場所が存在する。いくつもの飛行機や船が消息を立つことで有名なバミューダ・トライアングルなど、一説にはそこは異世界と通じているのではないかとも言われている。

そんな魔境と呼ぶにふさわしい場所と同じくらい摩訶不思議なことが起こる店が、ここS09地区にはある。それが、喫茶 鉄血だ。

 

今日も今日とて仕事に励む代理人。この不思議なカフェを営む彼女は、もしかしたらそういう運命の元に生まれているのかもしれない。

そんなわけで今日もまた、一風変わった客が訪れる。

 

 

カランカラン

「「っ!?」」

 

「いらっしゃいませ、ようこそ鉄血喫茶へ」

 

 

入ってきたのは一組の男女。まだ10代くらいの若いカップルだろうか、男性の方は青色系、女性の方は緑色系で揃えた服を着ており、初々しいデート姿に見えなくもない。

が、そんな二人は実はこの世界の人間では・・・・というより人間でもない。こことは違う世界で鉄血と戦い、かたや世界を救った英雄でもある『ロックマン』ことロックと、そんな彼と映画館デートしてきたばかりのM4A1である。その二人は代理人を見るや表情を硬ばらせた。

 

 

「どうかしましたか?そんな驚かれた顔をして」

 

「え?ああ、いえ・・・なんでもありません」

 

 

そう言って目を泳がせる二人に首をかしげる。男性(ロック)の方は店を見渡し、何かを見つけたのかさらに驚いたような顔になる。

女性(M4)の方も若干・・・いやかなり挙動不審で、二人は小声で話し始める。

 

 

「ど、どうしましょう・・・」

「と、とりあえず落ち着こう。今の僕達の格好は普通の私服だから、グリフィンの人間だってバレてはいないはずだ。

 見たところ、一般人のお客さんも居るみたいだし・・・一般人の振りをしていれば大丈夫の筈・・・多分、きっと、メイビー」

 

 

かなり小さい声だったことと店内の喧騒で代理人には聞こえていなかったが、二人とも人形とは思えないほど人間臭い挙動で冷や汗ダラダラである。

そしてそんな反応は、接客業として人を見る目のある代理人には違和感の塊なのだ。

 

 

「お客様?どうかなされましたか?」

 

「「ウェイ!?」」

 

 

思わず上ずった声になる二人。それもそのはず、今はまだ気づかれていないが目の前には敵の親玉、対して二人は丸腰・・・・・そりゃ焦りもする。

 

 

「な、ななななな何がでしょうか!?」

 

「いえ、物凄く汗をかいておりましたからどうかなされたのかと」

 

「だ、大丈夫ですよ。ちょっと軽く走ってきただけですから」

 

「そ、そうですか・・・(はっきり言って、軽く走ったというレベルではないほどの汗をかいてるのですが・・・とやかく聞かないでおきましょう)

 

 

 

 

・・・あら、M4?よく見たらM4じゃないですか」

 

 

―ギックゥ!

バレた、思いっきりバレた!警笛を鳴らしまくるもどうすればいいかわからず、縋るようにロックを見る。

そんなM4の心中など露知らず、代理人は善意100%で尋ねた。

 

 

「珍しいですね、男の子と一緒にここに来るなんて。貴方の友達ですか?」

 

(誰だお前?誰だ、お前!?貴方、そんなキャラじゃなかったですよねぇ!?もっと冷酷無比でしたよねぇ!?あの時、思いっきり首締めて殺そうとしてましたよね!?なのに何でこんなにフレンドリーなんですか!?)

 

 

いよいよ混乱極まるM4。当たり前だ、ちょっと前まで殺しあっていたどころか何時ぞやには鬼気迫る形相で首を絞められた(原作プロローグ参照)のが、今度は一転して優しいお姉さん調である。

・・・・・新手のウイルスか何かだろうか?

 

そんな時、

 

 

ガチャリ

「あら、いらっしゃいませM16」

 

「よォ、()()()・・・」

 

 

店を訪れたのは代理人にとっても、そしてM4(とロックも一応)にとっても見覚えのある人形、M4の姉であるM16A1である。

ここにいるはずのない姉の登場にさらに混乱したM4は、やや慌てた様子で、

 

 

「え、M16姉さん!?どうしてここに!?」

 

 

そう尋ねた。

ん?とM16はM4の方を向き、そして妹の見慣れない服に疑問を覚える。妹の私服全てをインプットしている彼女は、こんな私服は知らないのだ。

 

 

「M4何だ、その格好h」

 

 

そこまで聞いてハッと気づく。というより服という疑問のせいで妹しか見ない視野がやや広まったせいだろう。M4()の隣にいる、そして妙に距離の近い『男』の存在に。

 

 

「おい、M4・・・。何だ、その男?彼氏か?」

 

「「・・・へ?」」

 

 

目が座り、声の抑揚が減る。

シスコンモードが発動してしまったのだ。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいM16さん!僕とM4さんはそんな関係じゃないですよ!」

 

「・・・じゃあどんな関係だ?」

 

「僕と、M4さんは仲間ですよ」

 

「仲間?」

 

 

なんか本当に化けそうなくらいに低い声で聞き返すM16に、M4がはいっ!と答える。

 

 

「かけがえの無い仲間です。私が安心して背中を預けられる、大切な仲間です!」

「大切・・・、そうかぁ・・・」

 

 

わかってくれたか、と安堵する二人だが、直後にガバッと顔を上げながらM16は背筋も凍るような声色で言い放つ。

 

 

「大 切 な 仲 間 か ぁ ・ ・ ・」

 

「「怖ッ!?」」

 

 

そんじゃそこらのホラーやハイエンドよりもよっぽど怖い。何が怖いって、ちょっと見ない間に豹変していた姉が怖い。目から血涙を、そして口からは明らかにおかしな量の血をダラダラと垂れ流してけたけた笑い始める・・・・・怖い。

 

 

「大切な仲間なら、それはそれで仕方ないさ。私は、とやかくは言わないよ。M4、お前が幸せならそれでいいんだ」

 

((せ、盛大に誤解されてる・・・!))

 

 

何やら思いっきり誤解されているがそれを正す勇気はない。というより今何を言っても無駄な気がする。ならばと代理人を見るがそっちはそっちでじっと何かを考えている・・・・・というよりもう目星はついていたりはするが。

 

 

「んで?アンタ、名前はなんて言うんだ?」

 

「え、ええと・・・ロックです」

 

 

ヌッと近寄ってきたM16に顔を引きつらせながら答えると、両肩をガシッと掴み掛かられる・・・・・めっちゃ怖い。

 

 

「良い名前じゃあないか。なぁ、ロック」

 

「な、なんでしょう」

 

 

いよいよナニカサレルんじゃないかと思うロックをグイッと引き寄せたM16は、突然オイオイと鳴き始めた。血涙ではなく普通の涙である。

 

 

「M4の事を幸せにしてくれよな~・・・頼むよ~・・・可愛い妹だからさ~」

 

 

号泣である。代理人は相変わらず、少し考えがまとまってきたようだがそのまま静観している・・・・・止めてくれよ。

さて流石にこのままでいるわけにもいかず、嘘をつくのは心苦しいがここはそういうことにしておこう。

 

 

「はい、えm「こんにちは~、M16姉さん来てませんか?」M4さんが二人ィ!?」

 

「えっ!?私!!?」

 

「はい?」

 

 

とりあえず覚悟を決めて言おうとした言葉は、現れた()()()()()M()4()によってパッと消え去る。代理人はやっぱりという顔でいるが、他は皆目を点にして固まっている。

 

 

「ど、どうなってるんだ!?AR小隊の戦術人形は、同じ個体は存在していなかったはず・・・。まさか、コピーロボット!?鉄血の奴らが、こんな技術まで持っていたなんて!」

 

「コピー?一体何の話ですか?私、れっきとした『M4A1』なんですけど」

 

 

ロックの困惑した言葉にM4ははっきりと否定を述べる。

ちなみにコピーロボットと言うのはry(あっちで解説してくれてるよ!)

そして、考えることはこっちも同じようだ。

 

 

「どうなってんだ、コリャ?まさか、AR-15や代理人の時と同じような自立可能なダミーなのか、このM4は?」

 

「いえ、私立派なオリジナルのM4ですが」

 

 

ちなみに自立可能、ということになっているがいつのまにか独立してしまったダミー達のことだ。よってダミーでありながらダミーではないのだが、そんなことは今どうでもいい。

これにはあっちのM4も困惑しつつ否定し、事態はますます混沌としていく。そんな中・・・・・

 

 

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

 

代理人がそう言いながらすっと手を上げたことで注目を集める。皆が静まり、そして代理人は言葉を続ける。

 

 

「来店した当初から、お客様方の様子がおかしいと思っておりましたが・・・この事態を見て確信に変わりました」

 

「確信・・・って言うと、どう言うことだよ代理人」

 

 

M16が首をかしげる。それもそうだ、今でもさっぱりなこの状況を一体どうやって説明しようというのか。

とりあえずどんな説明が出てくるのかと待ち構えれば・・・・・

 

 

「まぁ、単刀直入に申し上げれば・・・こちらのお方とM4は『違う世界の人間』と言う事です」

 

「「・・・は?」」

 

 

やたらと荒唐無稽な話が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・信じがたい話ですね。『この世界』が『僕達のいた世界』とは全く別の世界だなんて・・・。並行世界ってコミックだけの話だと思ってましたよ・・・」

 

 

衝撃的な話から数十分後、テーブルへと案内していくつかの資料とともにこっちの世界のことを話した代理人。ロック達はにわかに信じられないと言った表情だが、代理人以下誰も嘘をついていない様子と、そもそも鉄血とグリフィンが並んで座っているというこの現状に渋々納得するのだった。

 

 

「『貴方達の世界』では鉄血(わたしたち)が人類に宣戦布告する以前に、悪の天才科学者が世界征服を企んでいた・・・ですか。・・・何と言うか荒唐無稽ですよね」

 

「だな。しかも、それを阻止するために生みの親に頼んで戦術人形に改造してもらってそいつと戦うって・・・ぶっちゃけ、アニメかゲームになってそうだよなぁ」

 

 

信じられない、という点では代理人達も同じだ。特に過去に何度もこう言った事例や話を知っている代理人でも、世界征服などという規模の大きい話は聞いたことがなかった。しかしながらいくら安全な街だとはいえ、そんな世界で丸腰で歩くのはどうなんだろうっと思う代理人でもあった。

そして話がひと段落ついた頃、異世界のM4は今一番気になることを聞いてみた。

 

 

「それはそうと、元の世界に戻る方法ってあるんですか?」

 

「ありますよ」

 

 

あっさりと返ってきた言葉に拍子抜けする。

え?だって異世界だよ?そんなにホイホイ行ったり来たりはできないでしょ。

 

 

「・・・マジですか?」

 

「ちょっとキャラ崩壊してませんか、私」

 

 

もしかして、あっちではこれが私のキャラなのだろうかと少し不安になるこっちのM4。だがまぁ気持ちはわかるのでそっとしておく。

 

 

「ええ・・・、何でか分からないですけどね。皆様無事に帰られましたよ」

 

「『皆様』って言うと、僕達以外にも来た人がいるんですか」

 

「はい、こういう事例は結構あるんですよね。・・・どういう訳か知りませんが・・・」

 

「「えぇ・・・(困惑)」」

 

 

なんとも不思議なことがあるものだと思いつつ、なるほど代理人が妙に落ち着いてたり手際よく説明してくれたのは慣れているからかとも納得する。

そして同時に、帰ることができるという事実に安心して気を抜いてしまう。

 

 

-グゥ~・・・。

 

「「あ」」

 

 

気を抜いたからか、二人のお腹がいい音で鳴る。

それに代理人はふふっと笑い、二人は気恥ずかしそうに俯く。

 

 

「お腹がすいているみたいですね」

 

「ええ、お恥ずかしながら。昼食を食べようとおもって、ここに来たもので」

 

 

時計を見ればお昼時をちょっと超えている。そりゃお腹も空くわけだ。ふむ、と代理人は顎に手を置き・・・・

 

 

「ちょっと待っていてください、今からお二人のお昼をお作りしますので」

 

「え、いいんですか?」

 

「勿論です」

 

 

そう言ってウインクすると、代理人は店の奥へと入っていく。さてでは何を作ろうかと考えて、厨房にある食材と時間を見ながらメニューを決める。お腹を空かせた客を待たせるわけにはいかず、手軽に食べられてお腹も満たせるもの・・・・・そうだ、サンドイッチにしよう。

パンを軽く焼いて、その間に野菜とハムを切っていく。熱したフライパンに溶いた卵を入れ、ささっと火を通しながら混ぜていく。あとはパンに挟んでカットすれば、シンプルなサンドイッチの完成だ。

最後に皿に盛り付け、代理人は厨房を出た。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。サンドイッチです」

 

 

代理人が言うより早く振り返ったのは、その匂いに釣られたからなのかもしれない。皿をテーブルに置くと、二人は最初は遠慮がちに一口かじり・・・・

 

 

「お・・・」

 

「美味しい・・・」

 

 

どこかで誰かが言った、『空腹は最高の調味料である』と。

というわけで腹ペコだった二人は結構勢いよくがっつき始める。代理人はそれを見ながら微笑ましそうに笑い、追加でコーヒーも持ってくるのだった。

 

やがて二人はあっという間に完食し、コーヒーも飲み干して満足げな顔で手を合わせる。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

「いえ、お粗末様でした」

 

 

空になった食器を重ね、片付けようとする代理人。ふと二人を見れば、またまた挙動不審な様子で周囲を見回す。

 

 

「何だろうこの音・・・」

 

「音?何も聞こえないが」

 

「私も聞こえます。・・・これは・・・」

 

 

ロックとあっちのM4は何か聞こえたようだが、M16たちこっち組は首を傾げたままだ。だがそんな光景も代理人からすれば()()()()()()だ。

 

 

「どうやら、そろそろお帰りになるようですね。恐らく、ここを出ればすぐ『元の世界』に戻る事ができると思います」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、実際に『この世界』に来られた方は皆そうでしたので」

 

 

何故かはわかりませんけど、と付け加えて。

顔を見合わせたロックとM4は、よくわからないが帰る時間だと言うことなので帰ることにした。

 

 

「それじゃあ帰ろうか、M4さん」

 

「はい、では代理人コーヒーとサンドイッチご馳走様でした」

 

 

二人は席を立ち、店を出ようとしたところで代理人はふとまだアレを渡していないことに気づく。急いでカウンターの裏に行き、袋を取り出して二人に手渡した。

 

 

「これは?」

 

「お土産です、基地の皆さんと飲んでください」

 

「ありがとうございます。あっ、そうだ・・・ここって、『ゼニー』は使えませんよね・・・」

 

「『ゼニー』?ああ、『貴方達の世界』の通貨ですか。取り扱ってませんね」

 

「そうですか・・・、このまま金を払わずに帰るのはなんか後味悪いや」

 

 

そんな反応に思わずクスッと笑う代理人。きっと根っからの真面目な人なんだろうと思い、それならばと一つ案を出してみる。

 

 

「今度こちらにお出でになられた時に、ロックさんには店の手伝いをしてもらいます。それならば、今回の件はチャラになるのではないでしょうか」

 

「・・・そうですね、いつこちらに来るかは分からないですけどもし来たら、お手伝いします」

 

「ふふっ、楽しみに待ってますよ」

 

「はい、ではまた」

 

 

二人は並んで店を出て、やがて路地に入るとその気配もなくなってしまう。毎度毎度どうやって帰っているのかはわからないが、今回も無事に帰ることができたようだ。

しかしあの二人、恋人ではないとは言っていたが果たしてどうだろうか。ロックの方はともかく、M4はもしかしたら・・・・・

 

 

「・・・・ふふっ、応援していますよ」

 

 

きっとあっちでは多くの困難が待ち受けるのだろう。願わくば、また会える時まで元気で。

 

 

 

end




はい、というわけでロックとM4が迷い込んできちゃいました。
ほんとうちの世界線はガッバガバだな(今更)


というわけでキャラ紹介!

ロック(ロックマン)
ROCKMAN CROSSLINEの主人公。やたらとチート気味な戦術人形。鉄血よりも嫉妬に狂った身内の方が怖いと思い知ったことだろう。

M4
ロックに恩を感じており、そしてその先は・・・・・
典型的ないい子ちゃん。

代理人
もう慣れた。

M16
彼氏だと!?ゆ゛る゛さ゛ん゛!!!

M4(喫茶 鉄血)
もっとお話しできればよかったかも。


リクエスト用活動報告↓
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第九十九話:Doll's Guardian小隊

大変遅くなりました!
まさか今月はここまで忙しくなるとは・・・・しかしせっかくにコラボをこれ以上先延ばしにするわけにも行きませんので。

というわけでは今回は『NTK』様の作品『人形達を守るモノ』とコラボ!
ドルフロ二次でも貴重な男性型戦術人形ですよ!


喫茶店、というのは昔から話し合いの場としても使われることが多い。落ち着いた雰囲気とか料理を食べることがメインではないからとか飲み物が美味しいとかいろんな理由があるが、一番はやはり長くいられる点だろう。それはここ喫茶 鉄血でも同じである。

そして今日はそこに、なんとも変わったメンツが集まっていた。

 

 

「むむむ・・・・・・」

 

「ペルシカ、貴女の趣味やら好みには口を出すことはないわ。 百合の花が美しいのも認める。 でも、」

 

「もしあの子が・・・・SOPちゃんが男の子だったら、いいと思わない?」

 

「服装そのままに『男の娘』とかでもいいと思うのよ」

 

「ぐぬぬぬ・・・・・」

 

 

丸テーブルを囲む白衣の女性四人。一人は相変わらずボサボサ気味の髪で、しかし最近は妙にお肌ツヤツヤな引きこもりのペルシカ。そして残り三人は彼女とは違う部署の同僚たち。彼女らの所属は、あの11labだ。

又の名を、『独身女性研究員の墓場』である。

 

そんな三人は今、ある計画を企ててペルシカを取り込もうとしていた。無論16lab主任であるペルシカを11labに引き入れることはできないが、思想という意味で味方につければこれ以上にないくらい心強いのだ。

そしてその計画とは、『戦術人形性転換計画(仮)』である。

 

 

「で、でもそれは本人の了承がないと・・・・・」

 

「それはもちろんよ、でもSOPちゃんは貴女のためなら喜んで受け入れてくれるはず」

 

「というか以前生やしたんでしょ? わざわざアタッチメントまで作って」

 

「それでなにを今更怖気付いてるのよ」

 

「かはっ!?」

 

 

ペルシカが押されている。そんな珍しい光景を眺めつつ、最悪の場合武力行使で止める必要があるなと思いながらコーヒーを淹れる代理人。

そんな時、代理人の後ろでチリーンっとか細い音が聞こえた。振り返ってみると、そこには彼女の思い出の品である一枚のコイン。だがそれを仕舞っていたはずの戸棚はきっちり鍵が閉められ、落ちてくるような隙間などは見当たらない。

 

 

(? ・・・・・・・もしかして)

 

 

彼女がそう思い戸棚にコインをしまうのと、入り口のベルが鳴るのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「さて、状況を確認しよう」

 

 

平日でもまばらながら人がいる小さな公園。その片隅で四人の男が円になるようにして向かい合っていた。それだけでも十分怪しいのだが、そのうち一人は執事服にモノクルというまず街中では見ない格好・・・・・通報されないのは単純に人が少ないからだった。

 

 

「陸路で帰還中に砂嵐が発生、それが去ると見知らぬ街の目の前ときた。 ・・・・・だれか説明できそうなのはいるか?」

 

「悪いなバレット、俺も何が何だかさっぱりだ」

 

「右に同じく」

 

「だな」

 

 

揃って項垂れる。

四人は警戒しつつ街に入ったものの、そこはまるで戦争やらの爪痕が全く見えないくらい栄えた街だった。表通りはもちろん裏路地に入っても暗い表情の者などほとんどおらず、まるで夢を見ているかのような気分だった。そうして一通り周り、こうして公園に集まって途方に暮れているところだ。

 

 

・・・・・グ〜〜〜

「・・・腹、減ったな」

 

「こんな状況でも腹は減る、か」

 

 

ひとまず四人は店を探し、程なくして一件の喫茶店を見つける。よほどお腹が空いていたのか、はたまたとりあえず平和だと判断したからなのか、店の名前をろくに見もせずに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、四名様ですか?」

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

 

入った途端、いや代理人が出迎えた途端に固まる男四人。それもそのはず、目の前にいきなり鉄血のハイエンド、しかもその最上級クラスが現れればこうもなる。むしろとっさに銃を引き抜かなかったことを褒めて欲しいくらいだ。

対する代理人もこの反応に、そしてさっきのちょっと不思議な出来事もあってなんとなく察した。

・・・・・「あぁ、またか」と。

 

 

「お客様?」

 

「! あ、あぁ、そうだ」

 

「ではこちらへ」

 

 

とりあえずいつまでも立たせるわけにはいかないので、代理人は四人をごく自然に二階の個室へと案内した。すれ違ったイェーガーにさり気なく交代の指示を出したので、あとはDたちがやってくれるだろう。

そうして個室に案内すると、代理人はさっそく本題に触れることにした。

 

 

「・・・そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ。 ()()()()の皆さん」

 

「っ!?」

 

「よせ、スミス」

 

 

代理人の言葉にとっさに銃を抜きかけるのをリーダーと思しき男性が止める。そう、代理人の瞳には目の前の四人が『戦術人形』であると表示されているのだ。だがもちろん見たことのないタイプなのでそれ以上のことはわからなかったが、現状はそれで十分だ。

 

 

「・・・・・その反応、()()()我々鉄血の人形は敵、少なくとも友好関係ではなさそうですね」

 

()()()? ・・・・・どういう意味ですか?」

 

 

執事服の男性が怪訝な表情で聞き返す。どうやら今の会話で、互いの認識に齟齬があることには気がついたらしい。

これで今のところは騒動が起こる心配はなくなり、あとはいつも通り、代理人が状況を説明する番だ。

 

 

「では単刀直入に申し上げます・・・・・・・ここはあなた方の住む世界とは異なる、いわゆる並行世界というものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

これで今月何件目だろうな、と思いつつコーヒーのおかわりを注ぐ代理人。彼女の目の前では四人がそれぞれこの現実を受け入れようとしていた。

・・・・・・いや、正確には全員もう受け入れてはいる。隊長格の男『バレット』は帰れるとわかるや否や休暇だと思ってのんびりすることに決め、『レスト』と呼ばれる男性はこっちの新聞を興味深く眺めている・・・・・彼自身辛い過去があったらしく、それと照らし合わせているのかもしれない。

『スミス』と呼ばれる男性は未だに代理人、というより鉄血人形がそばにいるのには慣れないようだ。彼らの仲間にも鹵獲されたドリーマーがいるそうだが、やはりそれとこれとは別らしい。

そして最後に『ウェイター』と名乗る執事服の男性・・・・・名前と格好から想像できたがやはりとある屋敷で執事をしていたらしい。そういった過去からか天然物のコーヒーや紅茶に割と食いつき、時々代理人と意見を交わしたりもしている。

ちなみに彼らは『DG小隊』と呼ばれる、人形を守ることを主とする部隊だそうだ。

 

 

「やれやれ、こっちの世界は羨ましいくらい平和だな」

 

「もしこっちで作られてたら、なんて思っちまうよ」

 

 

まさに平穏そのもの、それが四人から見たこの世界の感想だった。それはある意味正しく、ある意味で間違っている。

大きな戦争もコーラップス汚染もなく、人々の生活が脅かされないというのは良いことだ。それは間違いなく平穏と言っていいだろう。だが、世の中決して『平和』=『平穏』ではないのだ。平和だからこそ、()()()()連中もいるのである。

 

そして忘れてはならない。この店には客として、11labの女たち(男に飢えた独身)がいるということを。

 

 

コンコンッ

「? はい、何でしょうか」

 

「あー、ちょっといいかな代理人」

 

 

個室の扉がノックされ、開けてみればそこにいたのは妙にげっそりしたペルシカ・・・・・ある意味彼らの上司と言えるその人物の何とも言えない表情に、四人とも若干ひきつる。

 

 

「実はね・・・・11labのがその・・・・・彼らに会いたいって」

 

「ん? 話した覚えはないのですが・・・・・」

 

「うん。 でも本人たち曰く「ティンときた」って」

 

「えぇ・・・・・」

 

 

どうしようか、と悩む代理人だったが、直後にペルシカの後ろからヌッと現れた11labの面々が扉をこじ開けて強引に入ってきてしまう。

そして彼らの前に立ちはだかると開口一番、

 

 

「貴方達、男の戦術人形ね!」

 

「是非とも私たちの研究に協力して欲しいの!」

 

「報酬は何でも払うわ! なんだったらこの体でも「「抜けがけ禁止!」」グハッ!?」

 

 

まるでコントのような、いかにも残念美人というにふさわしい白衣の女達に、四人は唖然としたまま眺めるしかない。それにしても直感だけで人形であると見破るとは・・・・・欲とは恐ろしいものである。

 

 

「あ〜、悪いがそういう話はお断りだ。 事情が事情なんでな」

 

「ほら、やっぱり無理だって言ったでしょ」

 

「え〜〜〜〜・・・じゃあ質問一個だけでもいい?」

 

 

意外とおとなしく引き下がる11lab組。その中でも主任格の女性は、表情を引き締めて彼らを見据える。きっと彼らの答え次第では研究が大いに進展するのだろう。全く関係ない世界とはいえ、バレットらDG小隊も真剣に答えようと思う。

 

 

「じゃあ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレのサイズを」

 

「つまみ出しましょう」

 

「ちょっとなんでよ!? めちゃくちゃ大事なことでしょ!?」

 

「あんたらの頭はそういうことにしか興味がないわけ!? ともかくさっさと出て行くわよ!」

 

「あ、ちょっ! ペルシカ、覚えてなさいよ!」

・・・・バタン

 

 

台風一過のごとく消えていった残念集団とペルシカ。こっちのペルシカはえらくアグレッシブなんだな〜、と半分現実逃避のようなことを考えるバレットらに、代理人は深く頭を下げる羽目になる。

 

 

「申し訳ございませんでした」

 

「い、いや、あんたが悪いわけじゃない」

 

「ですが当店でのトラブルは私の責任でもありますので・・・・・では、今回のお食事代は不要とさせていただきます」

 

「え? いや、それは悪いって・・・」

 

「そういうことにしておいてください。 どのみち、こちらとは通貨が異なるはずですから」

 

「「「「・・・・あ」」」」

 

 

腹が減っていたこともあって結構な量を飲み食いしてしまった四人は思わず口を開く。それにクスッと笑うと、代理人はそのまま伝票を回収してしまった。

そしてちょうどその時、レストの持っている端末・・・・・この世界に来てから一切繋がらなかった端末に連絡が入る。驚いて落としそうになるそれをキャッチし、通話モードにして耳を当てると・・・・・

 

 

『レストさん!? 今どこにいるんですか! 誰にかけても繋がらないし・・・・・』

 

「の、ノア!? いやその、今はな・・・・・」

 

 

レストはチラッと代理人の方を見る。すると代理人はニコッと微笑んで、「そろそろ帰る時間のようですね」と小声で伝える。四人は顔を見合わせるとどこかホッとしたような表情を浮かべ、レストはそのまま通話を続けた。

 

 

「・・・・悪い、ちょっと寄り道してたんだ。 すぐ戻るよ」

 

 

通話を切り、荷物をまとめ始める。その間に代理人は一足早く一階に降り、これまたいつも通り、紙袋にいつものモノを詰めていく。そして四人が降りてくると、出る間際に最後尾にいたウェイターに手渡した。

 

 

「せっかくですので、これを。 少し多めに入れていますので、皆さんで飲んでください・・・・・この出会いに感謝を、ということで」

 

「・・・・・わかりました。 ありがとうございます」

 

「もしまた訪れることがあれば、今度は一緒に働いてみたいものです」

 

「そう言っていただけて光栄です・・・・・・それでは」

 

「えぇ、皆さんもお元気で」

 

 

並んで歩く四人の姿が見えなくなるまで見送る代理人。彼らの他にも、きっと多くの闇を抱えた仲間達がいるのだろう。

願わくば、彼らが笑っていられる未来でありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人! 我々はまだ諦めないぞ!!!」

 

「店の外に出てしまえばこっちのもの!」

 

「全ての女性指揮官のため、我々は止まるわけにはいかない!」

 

「もう帰られましたよ」

 

( °д°)( °д°)( °д°)

 

 

 

 

end

 

 




はい、というわけで今回はリクエストで「DG小隊」の男性型戦術人形たちに来てもらいました!
DG小隊は彼らが全員ではないけど、これ以上増やすと収集つかなくなるので許してちょんまげ


というわけでキャラ紹介、詳しい説明はあちらの作品をご覧ください。

バレット
バレットM107の戦術人形で、DG小隊の隊長。
あっちでは子供なったりブラコンに襲われそうになったりしてる。

レスト
MP5Kの人形・・・・なのだが元は全く別用途の人形だった。
基本的に過去が重い人形が多い向こうの作品だが、その中でもダントツな気がする。

スミス
S&WM500の人形、気になる人はググってみよう・・・・どう考えても人が撃つことを想定していない。
しかもこれを二丁拳銃にするらしい、ハンドガンと言う名の何か。

ウェイター
SCAL-Hの人形。執事服とこの名前から分かる通り執事であった。
こっちもなかなかに過去が思いが、一応救いがあった。
彼に任せておけば喫茶 鉄血以上の味を引き出してくれるだろう(無茶振り)

ノア
名前だけ登場。あっちの世界の9A-91。
レストとはそう言う関係らしい・・・・・式には呼んでくれよ。





今回もリクエストを置いておきます。
・・・・・が、今月と来月はどうやら忙しくなりそうで、更新もかなりバラつくと思います。
ですが!いただいたリクエストは(基本的に)責任を持って書き上げますのでご安心を!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百話:サブカル大国の人形

百話だから一〇〇式、っていうのは安直だっただろうか。
でもそれを言い出すと97式とか95式もやれって言われそうだけど仕方ないじゃん!気がついたら百話だったんだもん!

とうわけで番外編やクロスオーバーを除く通常回が百話を迎えました。
みんなありがとう!


一〇〇式、という人形がいる。全人形的にも珍しい極東の島国・日本の銃をモデルとした戦術人形だ。何かの記念に設計され、開発の大部分に日本人技術者(HENTAI)が関わっているというこの人形は、他の人形以上にぶっ飛んだことをやらかしたりする。

銃撃戦が当たり前のこのご時世に銃剣突撃、ニンジャのごとき変態機動をもって懐に近づき、SMGにあるまじき火力を叩き込むのだ。プライベートでも祖国の良さを徹底的に布教し、お陰でここS09地区にはバレンタインや日本版ハロウィン、クリスマスなどの行事が多い。

 

 

「そんなわけで、もうすぐハロウィンの季節です! トリックオアトリートと仮装ですよ!」

 

「一応言っておきますが、本来のハロウィンは収穫祭ですからね?」

 

 

カウンターに身を乗り出し、鼻息を荒げて語る一〇〇式をつれない態度でバッサリ切る代理人。もちろんそんなことは言わなくともわかっているし、住民だって知っている。だが人というものは、楽しければ本来の道から外れたっていいのである。

 

 

「まぁ、こちらでもいくつか企画を考えていますが・・・・・」

 

「さすが代理人です! でも今日は代理人ではなくマヌスクリプトさんにお願いしたいことがありまして」

 

「マヌスクリプトに? ・・・・・・あぁ、なるほど」

 

 

鉄血のハイエンド・マヌスクリプト。喫茶 鉄血の服飾担当にして同人作家、最近は他店では頼めないような服をオーダーで作るという方向で収入を得ており、その筋では有名である。

そんな彼女に、ハロウィンの話を持ち出してまで頼むこと・・・・・コスプレ衣装以外にあり得ないだろう。

 

 

「わかりました。 呼んできますので少々お待ちを」

 

 

なんとも言えない不安を抱えながら、代理人は渋々マヌスクリプトを呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「お願いします!」

 

「任せたまえ」

 

「内容を聞く前に了承しないでください」

 

 

まるでコントのようなやりとりに頭を痛める代理人。もっとも、話せば二つ返事でOKになるのだから結果は変わらないが。

 

 

「それで、どういった衣装がお望みかな?」

 

「事前に希望者には要望を出すように伝えておきました。 これがその全てです」

 

 

一〇〇式が持ち出したのは厚さ数十センチにはなろうかという紙の束。S09地区司令部所属と、彼女らと交流のある人形たちの要望を一人一枚でまとめた結果、思いの外大勢の人形が募集してきたのだ。

そんなわけでまだ早いとわかっているが、時間がかかりそうなのでマヌスクリプトの元へと持ってきたのだった。

 

 

「一応、ジャンル別に簡単に分けておきました」

 

「ジャンル別? 例えば?」

 

「あ〜・・・代理人には言ってもわかんないかもしれないけどまぁ、要するにまともなのかアッチ系なのかとかだよ」

 

「・・・・・・・一応、表に出られる程度にしてくださいよマヌスクリプト」

 

 

念のため釘を刺しておく。もちろんマヌスクリプトとて流石にあまりにもアレな服は作らないし、世間の目が厳しいのはよく知っている。

とりあえず大丈夫か、と代理人は適当に数枚手に取り、パラパラとめくっていく。

 

 

「ふむ・・・・意外とまともというか、可愛らしいものが多いですね」

 

「吸血鬼や黒猫、あとは魔女とかが王道かな」

 

「黒っぽい服に翼やツノをつけるだけでそれっぽく見えますからね」

 

 

ちなみに今めくっているのはハンドガンの人形たちの要望をまとめた部分だ。基本的に子供の多いハンドガンなら、そこまで危なっかしいものはないだろう。ちなみに57は今回も着ぐるみらしい。

 

 

「・・・・・・ってなんですかこれは!?」

 

「ん? うわっ、これはまた・・・・・・」

 

「さすがDSRさん・・・・・攻めますね」

 

 

では大人な人形の多いライフルの方はどうかと手にとってみれば、一枚目から飛び込んでくるのはなんとも過激なものばかり。DSRはぱっと見普通の黒いパーティードレスだが、胸元や足の方は際どいところまでスケスケでちょっとした拍子に見えてしまいそうである・・・・というか絵上手いな。

続くスプリングはもうターゲットの指揮官を悩殺することしか考えていないのか、胸の部分が大きく開いた上にスリットが太ももの付け根まで入った確実にアウトな服。おまけに下着までセットで要望を出しており、こちらに至っては外を出歩けないレベルである。

 

 

「もうちょっとまともな人はいないんですか・・・・・」

 

「作れなくはないけどこれで出歩かれるのはちょっと・・・・・」

 

「スプリングさん、昔はあんなに凛々しかったのに・・・・・」

 

 

DSRは単純にそれを楽しんでいるが、スプリングはもう手遅れなのかもしれない。同じ指揮官ラブ勢のモシン・ナガンが氷をイメージしたドレスというまともなものだけに、これ逆効果なんじゃないかと思ってしまう。

一応フォローするとすれば、深夜テンションで書き上げたために歯止めが効かなかったらしい。

 

 

「ところで、代理人はしないの? 仮装」

 

「・・・・・今度は何を着せるつもりですか?」

 

「信用ないね!? ちゃんと要望通りにするよ」

 

 

ジト目でマヌスクリプトを見るが、たしかに町のイベントに乗らないというのはちょっともったいない。普段はアレだが衣装の腕に関しては信頼できるマヌスクリプトがいるのだ、当日一日限りでもやって損はないだろう。

さてそうなると服装だけではもったいない。やるからには、店の内装までしっかりこだわりたいところだ。

 

 

「一〇〇式さん、何かいいアイデアとかはありませんか?」

 

「アイデア、ですか?」

 

「えぇ、飲食店という点を殺さず、お客さんに楽しんでいただけそうなものです」

 

 

ううん・・・・・と悩むこと数分。一〇〇式のこれまでの様々なイベント情報(提供:IoP Japan)を整理し、代理人の要望に合うコンセプトを探し出していく。従業員は代理人含めて人形だけ。店の雰囲気は落ち着いた感じで、どちらかといえば客の年齢層は高めな方だ。子連れも来るかもしれないが、どちらかといえば表通りのイベントの方に行くだろう。ということは狙う客層は『大人』でいいかもしれないなどなどなど・・・・・・作戦中、もしくはそれ以上に頭を回転させて考え込む。

そして・・・・・

 

 

「・・・・あ! こういうのはどうでしょうか!」

 

 

一〇〇式の出したアイデアに驚きつつ、しかし面白そうだということで採用する代理人。マヌスクリプトも人形たちのコスプレ服の採用不採用を仕分けれたようで、ちょっと早いがハロウィンに向けて動き出す。

この日以降、マヌスクリプトは店のシフトから外れて部屋に閉じこもり、代理人も頻繁に買い出しに出て合いそうな小物を探し始める。

 

いったいどんな店に変わるのか、それは当日になってのお楽しみ。

 

 

end




ハロウィンには気が早い?日本の二大テーマパークがハロウィンと言ったらハロウィンなのだよ。

今回は全体的に短めですが、ハロウィン回(十月ごろ)の伏線ということで。


ではキャラ紹介!

一〇〇式
銃剣突撃型SMG。
日本の伝統やサブカルチャーに染まっているが、オタクというわけではない(本人談)
武道全般にも長け、これも相まって近接戦闘では無類の強さを誇る・・・・・銃いらねぇんじゃねえのかお前。

マヌスクリプト
初登場はあんなにトラブルメーカーだったのに、今ではそれなりに信頼を得ている。
残念ながら同人活動では稼ぐことはできないが、オリジナル衣装等で結構稼いでいるらしい。
大人しくなっているように見えるが一度部屋に戻れば元どおりである。

代理人
店の雰囲気がマンネリ化している気がすると思いつつ、変わらない雰囲気に惹かれる客もいるので変えない。
今回は終始平和だった。



いつも通りリクエストBox置いときます。
ヴァルハラコラボ楽しみじゃ。
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番外編25

最近めちゃくちゃ眠くなることが多いんですよね、おかげで全く筆が進まない・・・・・モチベーションはあるのに。

そんなわけで今回は番外編
・ほろ酔い気分
・敬老の日
・百式
・元 復讐者の眼に映る世界


番外25-1:ほろ酔い気分

 

 

人形は酔うのか?と聞かれることがしばしばあるが、その答えは『YES』だ。より正確には、『酔うことができる』と言ったほうがいいだろう。お酒の場とは古くからコミュニケーションの場として親しまれており、人間の姿を模している人形たちにとって、人間とコミュニケーションをとることはとても大切なことなのだ。そんな酒の場でいくらなんでも全く酔わない、というのはやや不自然であるため、ある程度酔うことができるようにしてあるのだ。

 

 

「・・・というわけでSOP、これ以上飲んだら潰れちゃうから」

 

「やらっ! もっろのむろぉ!」

 

 

ペルシカの説得も虚しく、コップを手放そうとしないSOP。強引に剥がそうとしてもそもそもが相手は戦術人形、おまけに準ひきこもりのペルシカの腕力ごときではまるで足りず、結果としてまたSOPの一気飲みを防ぐことができなかった。

 

 

(不味いなぁ)

 

 

苦笑するペルシカだが、内心かなり焦っている。今日はAR小隊のメンテナンス日であり、それが終わってせっかくだから泊まっていくことになったSOPと飲む流れになった。その際にM4からは「絶対に飲ませ過ぎないでください」と釘を刺されており、酔いつぶれるようなことがあればお説教コース待ったなしだ。

 

 

「ほらSOP、もう今日は寝よ?」

 

「ん〜・・・ペルシカだっこ〜」

 

「はいはい」

 

 

今日は一段と甘えん坊だな、とか思いつつもSOPを抱き上げるペルシカ。そのまま寝室に運ばれる頃には静かに寝息を立て、だがそれでも離す気はないのかガッチリと掴んだままのSOPにペルシカはちょっと困ったような顔をしながら、

 

 

(はぁ〜、明日にはしわくちゃになってるかな)

 

 

なんて考えながら、二人揃ってベッドに倒れこんだ。

翌日、酒臭さで目を覚ますと同時に、昨日の甘えっぷりを思い出して真っ赤になったSOPが見られたそうだ。

 

 

end

 

 

 

番外25-2:敬老の日

 

 

「「お母さん、いつもありがとう!」」

 

「ど、どうしたの急に?」

 

 

9月16日の昼ごろ、いつも通り自分の司令部でデスクワークに勤しみ丁度昼時だからと食堂にやってきたレイラと、同じく食堂にやってきたヴァニラを出迎えたのはエプロン姿のユノとミーシャ。そしてその後ろではおそらく彼女たちが作ったであろうオムライスが二つ並んでいた。

 

 

「あ、あのね、今日はお世話になっている人に感謝する日なんだって!」

 

「ニホンっていう国の特別な日なの! FMGさんが教えてくれた!」

 

 

なんかよくわからないがFMGグッジョブ!と心の中でガッツポーズを決める二人の親バカ。むしろこれでも耐えている方で、ここが食堂ではなく私室だったら抱きついて頬ズリだけでは済まないだろう。だがここでは人目がある。

 

 

「ところで二人とも、その特別な日ってどういう日なの?」

 

「えっとね、『ケーローの日』って言うんだって!」

 

「お世話になっている人や偉い人に感謝する日なの!」

 

 

なるほど、だから二人はこっちにきたのか。

ますますFMGグッジョブ!と思う二人は、幸せいっぱいの昼食をとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな幸せ時間が過ぎ、二人でそれぞれの職場に戻ろうかという頃、ふとレイラが気になってたことを口にした。

 

 

「そういえばさ、『ケーローの日』って本当はどういう日なんだろうね?」

 

「あの子達が言ってた通りじゃないの?」

 

「でもニホンのそんな日をあの子たちがちゃんと知ってるか怪しいじゃない」

 

「まぁたしかに・・・・・じゃあ聞いてみる?」

 

 

そう言ってヴァニラはおそらく詳しいであろう一〇〇式に電話をかける。

その後、鬼のような形相でFMGを追いかけることになるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外25-3:百式

 

 

一〇〇式は思い悩んでいた。そしてそれは現状自分だけでは到底解決できないことであるのも知っていた。それは一〇〇式自身の問題であり、同時に彼女のモデルとなった銃の問題でもある。

その問題とはズバリ、火力不足である。

 

 

「むむむ・・・・どうしましょう」

 

 

一〇〇式という人形は、言うまでもなくSMGタイプである。それもヴェクターやUMP40のようなアタッカー向きのものではなく、トンプソンらと同様の回避重視型である。敵を倒すことよりも、囮として部隊に貢献することが主となる。

それは一〇〇式とて理解している。理解してはいるがそれでいいかと言われればNOだった。なんとか前衛でも敵を倒せるようにと銃剣突撃やその他近接戦闘をこなしてみたが、やはり1対多では思うようにいかないのだ。

 

 

(ある程度機動性を犠牲にして・・・でも根本的にこの銃では・・・)

 

「お困りのようだね!!!」

 

 

一人悩む一〇〇式の前に突如として現れた二人組。

黒っぽい服に黒のサイドテールを揺らし、キラッと言う音が聞こえそうなポーズを決める女性。見慣れた店の服を着たまま鏡合わせになるように同じポーズを決める女性。

サブカルチャーにどっぷり浸かった女・・・・・アーキテクトとマヌスクリプトだった。

 

 

「火力が出ない? なら火力が出せるものを持ち歩けばいい!」

 

「機動性が犠牲になる? ならば武器そのものに機動性を付与すればいい!」

 

「「ここに、君の望むものがあるっ!!!」」

 

 

・・・・と手渡された地図に印がつけられているのは街外れの小さな倉庫。早速向かってみるとそこに転がっていたのはいかにも珍兵器扱いされそうな代物ばかり。そのいずれにも鉄血工造のマークが彫られており、おそらくゲーガーらが身を呈してストップをかけたものなのだろうと察する。

そんな中の一つ、馬鹿でかい砲に足場とブースターをつけたようなものに目を引かれる一〇〇式。

 

これは、後にグリフィン・鉄血・軍による三つ巴の戦いを駆け抜けた一人の人形の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というのを書こうと思う」

 

「どう考えてもバッドエンドじゃん」

 

 

end

 

 

 

番外25-4:元 復讐者の眼に映る世界

 

 

とある地区のとある基地。辺境とも言えるこの場所にも一応グリフィンの司令部があり、指揮官と人形たちがいる。とはいえ辺境中の辺境で周りを豊かな自然にかこまれ、テロどころか過激な集団すらいないようなど田舎。町で売っている銃はどれも猟銃というくらいの町だった。

 

 

「リー、アウストを呼んできてくれ」

 

「了解です、リベンジャー様」

 

 

そんな平和な町の司令部、そのキッチンで朝食を作るのはこの司令部に所属する二体の人形の片割れ、表向きは鉄血工造の人形であるリベンジャーだった。鉄血由来の黒っぽい服の上から白いエプロンを身につけ、その手の薬指の指輪から新妻感が伝わってくる。

 

 

「さて、これで完成だな。 アウストはじきに来るだろうから先に食べててくれ」

 

「ありがとう、いただきます」

 

 

そう言ってトーストにかじりつくのは旅の一環で立ち寄ったノイン。といってもノインもリベンジャーも、サクヤを中心とした『流れ者の会』で情報を共有しているので互いの事情は知っている。こういう時は助け合いだ。

 

 

「おはようリベンジャー」

 

「おはようアウスト、相変わらずお寝坊さんだな」

 

「休日の朝くらいゆっくりしたいのさ」

 

「なんだ? 私の朝食を食べたくないのか?」

 

「まさか」

 

 

そんな軽口を言い合って口づけを交わし、席に着く。指揮官であるアウスト、「妻」兼「副官」兼「第一部隊隊長」のリベンジャー、第一部隊副長のリー・・・・・それがこの司令部の全戦力だ。ちなみに最初の頃はリッパーと呼んでいたアウストだが、せっかく名前があるのならと言うことでリベンジャー呼びに戻し、リベンジャー自身もそれを『復讐者』ではなく自分の名前として名乗っている。

 

 

「そういえばアウスト、今朝早くに町の自警団が来ていたぞ。 なんでも、クマが町の近くまで降りてきたから手伝って欲しいそうだ」

 

「あぁ、そんな時期か・・・二人とも、悪いが」

 

「こら、仮にも指揮官だろ? ちゃんと命令してくれ」

 

「そうですよ指揮官。 私とリベンジャー様にお任せください!」

 

「あ、じゃあ私も手伝うよ。 泊めてくれたお礼にね」

 

「・・・・うん、わかった。 じゃあ第一部隊とノイン、出撃してくれ」

 

「「「了解!」」」

 

 

end




書けるうちに書かねば・・・!
というわけであとがきで書くこともなさそうなので早速各話の解説!

番外25-1
リクエストから。
酔っちゃったSOPとそれを介抱するペルシカさん。このまま夜戦でもいい気がしたけどたまにはこんな終わり方でもいいんじゃない?

番外25-2
敬老の日・・・多年にわたり社会に尽くしてきた()()を敬愛し、その()寿()を祝う日のこと
子供らしい勘違いだけど可愛いからいいんじゃないかな。
FMGに悪意はない

番外25-3
やってみたかっただけ。
百式と違って頭部武装はないので両手両足を失ったら終わり。

番外25-4
番外編でのシリーズ化を考えているノインの旅路、その一つ。
リベンジャーの笑顔を見ながら朝食を食べたいです。


リクエストは引き続き受け付けます。
バッドエンドの救済依頼も可。
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第百一話:クールな彼女の裏の顔

ねんがんの Vectorを てにいれたぞ!

というわけで実は初登場なVector回。
いつぞやのコラボ回でちょっとだけ出ましたが、純粋にこっち側のVectorはこれが初。

ところでヴァルハラコラボですが、大破撤退と資源を大量消費してなんとか『通常難易度』はクリアしました・・・・・え?高難易度?ナンノコトヤラ


Vector、という人形がいる。容姿端麗・・・なのは全人形共通だがSMGタイプの中では珍しい火力型、コンパクトな銃で閉所の戦闘でも参加でき、クールな見た目や言動も相まって人気の高い人形である。

 

 

「そんなVectorが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて意外だったなぁ〜」

 

「くっ・・・殺しなさい・・・!」

 

「ほどほどにしてくださいよアーキテクト」

 

 

そんなVectorは今、喫茶 鉄血三階の従業員用フリースペースで真っ赤になったまま俯いていた。つい先日司令部で発表されたハロウィン企画。そこで募集されていた仮装の依頼に申し込もうと思っていたVectorは、自身の少女趣味を極力知られるわけにはいかないと思い、秘密裏にマヌスクリプトへ依頼しようと思っていたのだ。

だがその結果、待っている間に出されたコーヒーで猫舌と苦いものダメなことがバレ、たまたま遊びにきたアーキテクトがたまたま依頼書を見たことで一番厄介な相手にバレてしまったのだった。代理人も哀れんではいるが、ある意味自業自得なので止めてはくれない。

 

 

「まぁまぁいいじゃないVectorちゃん、なんならアーキテクトも巻き込んで最高の一着を作ろうよ」

 

「ぜ、絶対言いふらさないでよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「何か言いなさいよっ!」

 

 

プルプルと震えるVectorに冷ましたコーヒー(砂糖とミルク増し増し)を差し出しつつ、代理人はそっと頭を撫でる。なんというか、小動物的な可愛さがあるのだ。

 

 

「さて、じゃあ早速本題だけど、Vectorちゃんが着たいっていうフリフリってどんなものかな? ゴスロリとかメイド服とかお姫様みたいなドレスとか」

 

「な・・・なんでもいいの・・・?」

 

「うん、いいよ。 なんだったら先にいくつか見てみる?」

 

 

そう言って自室のクローゼットの前に連れて行き、それを次々に開いていく。余談だがマヌスクリプトの自室には大きなクローゼットが四つもあり、衣装用作業机と作画用作業机もあって生活できるのはもはやベッドの上ぐらいという狭さだ。本人もそろそろ離れ的な感でプレハブ小屋が欲しいらしいが、残念ながら手が届かない。

さてそんな話は置いておき、ずらりと並んだ衣装を前にしたVectorの目はそれはそれは輝いていた。というかもう他の事など、自分を見ている周りの事などまるで見えていないらしい。

 

 

「・・・・予想以上の反応だね。 そんなに着てみたかったのかな?」

 

「本人曰く、気を抜ける場所なんてないそうですよ。 なので自室もシンプルなんだとか」

 

「なるほどねぇ・・・・・・・・あっ!」

 

 

突然顔を上げて大声を出すマヌスクリプト。周りが驚くがそれ以上に嫌な予感しかしなかったりする。こういう時のマヌスクリプトは、何か良からぬことを考えていたりするものなのだ。

 

 

「ねぇねぇVectorちゃん、ちょっといいかな?」

 

「ひぇ!? な、なにかしら?」

 

「どんだけ没頭してたのよ・・・・まぁいいわ。 実は協力して欲しいことがあってね。 協力してくれたら、服を一着タダで譲ってあげるよ」

 

「話を聞きましょう」

 

 

あぁもう止められないな、と思いつつ代理人は店の方へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、買い出しなんかを含めて店を休みにした喫茶 鉄血。カーテンまで締め切っているその一階では、何やらガチな撮影機材を使った撮影会が行われていた。と言っても撮影に参加しているのはマヌスクリプトとD、そして衣装に身を包んだVectorだけだが。

 

 

「いい、いいよVectorちゃん! 次はスカートの裾をちょっとだけ持ち上げて・・・・・あぁもう最高!」

 

「Vectorさんいい笑顔ですよ!」

 

 

鼻息を荒げながらシャッターを切るマヌスクリプトと、その横で照明を調節しながら同じく盛り上がるD。その先には可愛げなポーズを決めるVectorの服は、ピンク色を基調とした如何にもなフリフリのドレス。ご丁寧にリボン付きの靴まで履いており、ただひたすら『可愛い系』の服だった。

 

 

「じゃあちょっとその場で一回転・・・・OKだよ!」

 

「お疲れ様Vectorさん。 じゃあ次はこれですね」

 

「ええ、ありがとう・・・・・ふふっ、こんなに楽しいのは初めてかもしれないわ」

 

 

そう呟いて受け取ったのは、今女の子に人気の女児向けアニメの主人公が着る衣装。さっきのドレスと色合いとかは似ているが、Vectorが惹かれているのは他にもある。

手早く着替えたVectorは、今まで以上に軽い足取りでカメラの前に立った。

 

 

「じゃあいきなりだけど決めポーズ・・・・おお! いいね完璧だよ!」

 

「当然よ、長年のファンである私を舐めてもらっては困るわ!」

 

 

変身アイテムであるロッドを前に突き出すようなポーズ。手の位置から腰の角度、足の開き具合に至るまで完璧にインプットしてあるVectorにとっては造作もないことだった。今まできっと使う事などないと思っていたこのポーズデータ、それを披露できるとなればテンションも上がるというものだ。

 

 

「そういえば資料の参考に貸してもらったコミックとか資料集って、あれどうやって手に入れてるの?」

 

「あぁ、本は基本的に注文してるけど、イベント限定とかの時は有給使って買いに行ってるわ」

 

「え? わざわざ日本に? それもバレずに?」

 

「もちろんよ、たとえあのG11であっても振り切れるわ」

 

 

自信たっぷりに言うがそんなところに人形の全性能をつぎ込んでどうするのだろうか。ちなみにG11の情報収集能力が高いのも周知の事実で、それにいまだに引っかかっていないのも事実である。

ドヤ顔でポーズを次々と決める彼女の姿は、世間一般の『Vector』をイメージする指揮官らからすればきっと衝撃どころではないのだろう。

さてそんなこんなで楽しい撮影時間も終わりを迎え、実に六時間もの間連続で写真を撮りまくっていた三人にも若干の疲れが見える。その間にVectorが着た衣装は計六着、そして約束通りそのうちの一着をもらうことになり、彼女が選んだのはやはり最後に着たアレだった。

 

 

「あぁ、こんなクオリティの衣装を手に入れられるなんて、まるで夢みたい・・・・・」

 

「こちらこそ、いい資料が手に入ったよ!」

 

 

そう言って熱い拍手を交わす二人。後日、衣装は完全梱包でVectorの元に送られ、彼女の部屋の隠しクローゼットに保管されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Dも着てみる? きっと似合うよ!」

 

「えっ! いいの!?」

 

「うん、もちろん」

(くっくっく・・・・これで無表情っぽくさせて『代理人コスプレ集』として売り出せば一攫千金に!)

 

 

結局未遂に終わった。

 

 

end




おかしいな、マヌスクリプトが出ているのに終始平和だなんて・・・(最後除く)
あのクールな態度が体面を気にしてるだけだったら・・・・と思い始めたら止まらんかった。
ちなみに今回出てきた女児向けアニメは、みなさんお馴染みのニチアサ系がモデルです。

では早速キャラ紹介


Vector
キャラ崩壊著しい人形。可愛いものが好きだがそれを表立って言えないでいる。特にある女児向けアニメの熱烈なファンで、発売されている公式アイテムはあらかた持っている。普段は宿舎にある私物のクローゼットの隠し扉の奥へと隠している。

マヌスクリプト
最近トラブルメーカー感が薄れた気がしなくもない。だが同人作家としての活動は一切手を抜いておらず、今は来たるべき時に備え力を溜めている。
最近、人に何かを教えることにはまりつつある。


リクエスト募集中!
ところで今回のコラボ、難易度は高くないけどめんどくさすぎませんかね?
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第百二話:キャストオフ!

龍騎のBlu-rayボックス買っちった!(¥52.000
そして作者がこの作品を書く上で参考にしている『人形小劇場』が日本版としてミニアニメ放送決定だぜヤッホー!

それはさておき暑くなったり肌寒くなったりと忙しい季節ですね
というわけで見た目が暑そうなので脱がせました。


「きゃぁあああ!」

 

「だ、ダネルさん!? しっかりして!」

 

「っ!? D! 奥の部屋に運びますので手伝ってください!」

 

 

まだまだ暑さの続くS09地区。冷房の効いた店内でアイスコーヒーを飲むべく客の集まった喫茶 鉄血で事件は起こった。悲鳴をあげる客、必死に呼びかけるM4、驚きながらも冷静に指示を出す代理人、そして血を流しながら倒れ伏すダネル。

騒然とする店内で何があったのか、その始まりは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

その日はここ数日で最も暑い日となった。猛暑日の連続だった夏から少しずつ気温が下がり、先日までは比較的過ごしやすくなっていたのだ。だが今日になって再び暑さが襲いかかり、その日警備に出ていたダネルは暑さに耐えかねて喫茶 鉄血に転がり込んだ。

 

 

「おや、お久しぶりですね・・・って、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ・・・まさかここまで暑くなるとは思っていなくてな・・・」

 

「なるほど、ではアイスコーヒーかアイスティーはいかがでしょうか」

 

「じゃあアイスティーで頼む」

 

 

そう言ってダネルは自身の半身とも言える愛銃のセーフティをロックし、カウンターの横に立てかける。冷房の効いた店内は快適で、机もひんやりしていて心地よかった。やっていることはただのサボりだが、こんな暑さでは悪さをしようとする奴らもやる気をなくすだろうとまったり考える。ちなみに隣には先に来ていたM4の姿、どうやら彼女は非番らしい。

やがて、アイスティーをお盆に乗せた代理人が戻るとダネルはパァッと顔を輝かせ、その様はまるで飼い主を見つけた犬のように見えなくもない。

 

 

「はい、ご注文のアイスティーです」

 

「ありがとう、結婚してくれ」

 

「丁重にお断りします」

 

 

流れるように告白と拒否を述べる二人だが、もちろんこれもいつも通りだ。もっとも、ダネルの方は本気で言ってはいるが、それでもM4はため息を吐く。

ストローでアイスティーを吸い上げ、ふぅと息をこぼすダネル。人形とはいえ人間に近く作られている以上暑さも感じるし、暑い時に冷たいものを飲めばホッとしたりもする。ホッとしたところで、ふとM4はテーブルの上に置かれた代理人の手に目を止める。

 

 

「そういえばお母さん、今日は手袋はしていないんですね」

 

「あら、気づかれましたか?」

 

「ええ、やっぱり暑いんですか?」

 

「いえ、ここは空調が効いていますし人形なので多少の暑さは気になりませんが、やはり見た目が暑そうに見えるようですので」

 

 

確かに言われてみれば、従業員であるイェーガーやリッパーもこの店の制服のままだが袖をまくったりしているし、ウェイター姿のゲッコーも上着は脱いでどちらかというとホストに近い。

だがそんなことはダネルにとってどうでもよく、その視線はずっと代理人の手に向けられている。

 

 

(綺麗だなぁ・・・・・)

 

 

人形なのだから当然、などという無粋なことは言わない。知っての通り代理人の初期装備は手袋着用であり、本人もそれを気に入っているのかどの服を着てもだいたい手袋ははめている。

所詮手袋だがされど手袋、それが外されたことで代理人の細く透き通るような手や指が露わになっているのだ。

 

 

「? どうしましたかダネルさん、顔が赤いですよ?」

 

「い、いや! なんでもない・・・」

 

 

想い人の素肌というものはとても魅力的だ。赤くなった顔をM4に指摘されたダネルは、熱くなった顔を冷ますようにドリンクを飲み干す。だが一度意識してしまえば無視することなど、(代理人限定で)思春期の男子中学生並みに純情なダネルにはできなかった。

さてそんな純情少女に、代理人は知らず知らずにさらに追い討ちをかける。

 

 

「あ、代理人! こっちのオーダーお願いしていい?」

 

「ええ、わかりました」

 

 

マヌスクリプトの要請で注文を取るためにカウンターから出て行く代理人。手袋こそ外しているがきっちりと着こなされたメイド服、そしてそこからすらっと伸びる黒いブーツが・・・・・

 

 

「っ!?!?!?」

 

 

そこまで目で追っていたダネルに衝撃が走る。そう、いつもはブーツとガーターベルトでほぼ黒一色の足、だが今日はその真反対の『白』と呼べるほど光り輝いていた。履いていたのはブーツではなくサンダルタイプの靴、当然ながらブーツとセットのガーターベルトもなく、その綺麗な足が惜しげも無く晒されている。

もちろんダネルとて代理人の生足ぐらい見たことはある。だがそれは海だったり温泉だったり・・・とにかく見えて当たり前の状況だったのだ。

 

普段見えないものが見えている、そんなレアケースにダネルのキャパシティは限界をやすやすと突破した。

 

 

「かはっ!」

 

「・・・・・え? きゃぁあああ!」

 

「だ、ダネルさん!? しっかりして!」

 

「っ!? D! 奥の部屋に運びますので手伝ってください!」

 

 

勢いよく、それこそ噴水のように鼻血を吹き出して倒れるダネル。阿鼻叫喚の店内で、ダネルの顔はなぜか幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・はっ!?」

 

 

気がつくとそこには見知らぬ天井・・・・・と、代理人の顔があった。よく見るとその右手にはうちわが握られ、それでパタパタとダネルの顔を顔を仰いでいる、あとなんか額が冷たい。

やや古典的な手法だが、これと氷嚢で冷却していたらしい。

 

 

「あら、目が覚めましたか?」

 

「だ、代理人?」

 

「突然倒れたので心配しましたが、どうやら大丈夫そうですね。 おそらくオーバーヒートでしょうから、この後は一度メンテナンスを受けることをお勧めします」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

 

そう言って今一度目を瞑り、ん?と湧き上がってきた疑問に頭を働かせる。

今、ダネルは仰向けになって寝転んでいる。どうやら更衣室の簡易長椅子のようだ。そしてダネルから向かって左手側に代理人の顔が見え、ダネルの真横に体が下りている。そして後頭部に感じる程よく柔らかい感触、それはつまり・・・・・・

 

 

(ま、まさか・・・・・・・)

 

 

できる限り動揺を悟られないように(それでもかなり挙動不審だが)目を右に向け、その壁に掛けてある姿見に映る自分と代理人の姿を捉えた。

それは紛れもなく、()()だった。

綺麗に足を揃え、太ももにダネルの頭を乗せている代理人は相変わらずの無表情だが、なんとなく心配そうな表情に見えなくもない。

 

 

「えっと・・・・代理人、これは?」

 

「人形のオーバーヒートを修復する設備はここにはありませんので、少々雑ですがこの方法で冷却することにしました」

 

「いや、そうではなくこの・・・・・・」

 

「?」

 

 

コテンと首をかしげる代理人。まるで、氷嚢を置いてうちわで扇ぐのに膝枕は当たり前、と思っているかのようだ。その様子がなんとも可愛らしいが、流石にいつまでも膝枕され続けるのは悪いので起き上がろうとするダネル。

だがそれは、代理人がダネルの額を抑えたことで防がれる。人は額を抑えられると起き上がることができないが、人形でもそれはあまり変わらないらしい。

 

 

「ダメですよダネルさん、まだ休んでいないと」

 

「え? でも・・・・」

 

「でも、じゃありません。 こういう時はしっかり休んでください」

 

 

やや強めの口調で代理人がそう言うと、大人しく力を抜くダネル。すると代理人は氷嚢を取り、うちわで仰ぎながら優しい手つきで撫で始める。

またまたびっくりするダネルだったが、涼しい風と撫でられる感触が心地よく、やがて瞼がトロンと下がり始める。目を閉じ切る直前、代理人の顔は微笑んでいるようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Oちゃん、どう?」

 

「今眠ったところです。 もう少しそっとしておきましょう」

 

「うん・・・・・でもちょっと羨ましいなぁ」

 

「お母さん、今度私にもしてください」

 

「あっ! ずるい! 私も膝枕されたい!」

 

「ふふっ、二人ともまた今度ですね」

 

 

 

end




頭が冴えない、思うように書けない、最近やたらと疲れる・・・・・気がつけば3000字越えるのがやっとという始末。
だが!それでも!私は書き続けるぞ!

ダネルがドタバタやらかすだけの話だったのに代理人のママ感が強まった気がする。


というわけでキャラ紹介!

ダネル
いつもの代理人ラブ。どうあがいても成立しないカップルなので、たまにはご褒美をあげたくなった。

M4
常連、そして準レギュラーになっている原作主人公。
知ってるか?原作冒頭で殺しあってるんだぜ代理人とM4。

D
こっちも生足。
快活な感じはビールの売り子っぽくもある。



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第百三話:人間観察

要望があったので。

言われてみればハンドガンの話が少ないなって思いますね、深い理由はありませんが。
そしてコラボイベントでスピットファイアが手に入りました!この娘の服、いい!


人形は製造というシステムによって生み出される。義体と対応する銃、それらを結びつけるスティグマなどを現在の形に完成させたのがあのペルシカだということはあまりにも有名だ。だが、そんなペルシカをもってしても任意の人形を作り出すことは難しく、日夜多くの指揮官が喜怒哀楽の表情を浮かべながら製造システムを利用する。

 

その一方、製造システムでは作り出せない人形も少なからず存在する。より正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という摩訶不思議なものである。ペルシカ曰く、「まぁできるんならいいんじゃない?」だそうだ。

G(グロック)17という人形も、そんな不思議な人形の一体である。

 

 

「ボス、休憩中に申し訳ありませんがお尋ねしたいことがあります」

 

「ん? なんだG17」

 

 

今日も平和な喫茶 鉄血、そのテーブル席に指揮官と二人っきりという特定の人形が見れば発狂モノのシチュエーションを作り出しているG17はそう言った。

対面に座る指揮官はコーヒーをすすりながら新聞に目を通し、昼休みのおっさん感満載である。

 

 

「先日、ダネルが任務をサボりここで休憩していたそうですが」

 

「あぁ、聞いている。 まぁ暑かったし休息は必要だろう」

 

「その前もVectorが勝手に有給をとって遊んでましたし、その原因も一〇〇式の余計な一言だったと聞いています」

 

「有給は受理したし、一〇〇式に関しても良かれと思ってやったことだ」

 

「・・・ここの人形は気が緩みすぎだと思います」

 

 

各々が自由に趣味を持ち、主な任務であるパトロールとたまにやってくる作戦に参加する以外ほとんど制限のないこの司令部は、真面目な性格のG17にはどうやら合わないようだった。言葉から分かる通り彼女はもともと他の地区の所属であり、そこは軍の基地とも近かったため規律の厳しい司令部だった。AR小隊や404小隊といったエリート部隊が所属するS09地区に憧れて転属してきたのだが、期待が大きかった分落差もひどいのだろう。

 

 

「ふふっ、そんなに責めてあげないでくださいグロックさん。 それに彼女たちもやるときはちゃんとやっているはずですよ」

 

「む、代理人か。 すまないがコーヒーの」

 

「お替りですね、お待ちしてますよ」

 

 

頼まれてもいないのに、まるでそんな注文がくるとわかっているかのように用意がいい代理人。ずっとこっちの話を聞いていたわけでもないのに会話に入るタイミングも完璧と言ってよく、広い視野を持っていることがうかがえる。

そんなことを考えながら代理人を凝視するG17が気になったのか、代理人は首をかしげる。

 

 

「あの、何か?」

 

「あ、いえ・・・・・この店は、規律がしっかりしているなと」

 

 

G17の言葉にキョトンとした後、代理人は思わずくすりと笑ってしまう。開店当初はそんな感じだったが、仲間が増え客層も広がるうちにかなり自由な風潮になったので、そんなことを言われるとは思っても見なかった。

 

 

「そうでもありませんよグロックさん。 とくに私から言っていることはほとんどありません」

 

「え? じゃあマニュアルがあるとか?」

 

「いえ、マニュアルもありません。 各々が自分で考え、行動しているだけです」

 

 

代理人の言葉に目を丸くするG17。長らく規律や規則の中で生活してきたせいか、規律規則がない=だらけているのイメージを持つ彼女には信じがたい光景のようで、これには思わず指揮官も苦笑いしてしまう。

 

 

「そういえばグロック、お前の趣味は人間観察だったな」

 

「え? あ、はい、そうですが・・・」

 

「なら、一度個々の仕事を見せて貰えばいい。 きっと見る目が変わるはずだ」

 

「あら、それはいい考えですね。 私たちも歓迎しますよ」

 

「・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、その場の流れと指揮官の権限によってあっという間に申請が進み、気がつけば一泊分の荷物を持って開店前の喫茶 鉄血を訪れていた。ポカンとしたまま突っ立っていると、中から現れたDに招かれる。

 

 

「あ! あなたがグロックちゃんだね。 私はOちゃ・・・代理人のダミーの『D』だよ、よろしくね」

 

「え、あ、はじめまして、G17です。 お世話になります」

 

 

中に入ると、そのまま二階を通り過ぎて三階の従業員のフロアに連れて行かれる。そこに待ち構えていたのは何やら気味が悪いくらいにいい笑顔のマヌスクリプトと、その後ろにずらりと並んだ服の数々・・・・・明らかに仕事着に相応しくないのまで混ざっているが。

 

 

「・・・・マヌちゃん、また怒られるよ?」

 

「ふっ、そんなこと覚悟の上だよD。 そして君がG17だね、私はマヌスクリプト、というわけで今からお着替えしようか!」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

しばらくお待ちください(見せられないよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひどい目にあった・・・・・」

 

「うん、やっぱり素材がいいと何を着せても映えるねぇ!」

 

 

数十分後、げっそりとしながらも新しい服に着替えたG17は恨めしげにマヌスクリプトを見る。散々着せ替え人形のようにいろんな服を着せられ、まだ何もしていないのに疲労困憊になってしまった。おまけにそこまで時間を使ったにもかかわらず最終的には従業員用のスタンダードな服に決まり、今までのはなんだったのかと問い詰めたい気分だ。

 

 

「おや、終わりましたかマヌスクリプト」

 

「あ、代理人! これでバッチリでしょ」

 

「ええ、サイズもぴったりのようですね。 流石はマヌスクリプトです」

 

 

違う、こいつはそんな褒められるやつじゃない、と言いたかったがそんな気力もなくなり渋々その場の流れに従う。

さてこれで全員の準備が整ったため店の一階に戻り、開店前の朝礼を始める。

 

 

「さて皆さん、おはようございます」

 

『おはようございます』

 

「まずはじめに、今日はこちらのグロックさんが一日一緒に働かれます。 不慣れな面もあるでしょうから、皆さんでサポートしてあげてください」

 

『はい』

 

「次に今日の天気ですが、午後から少し崩れるかもしれません。 まだまだ日中は暑くなりますし急な雷雨もあり得ますので、そういった場面に出くわしてしまったお客様への対応もお願いします。 その他はいつも通り・・・・・ですがグロックさんもいますので確認しておきましょう。

まずお客様の安全と店内の清潔が優先です、食器類は割れ物ですのでよく注意するように。 お客様への対応は迅速にですが、慌ただしく感じられないように落ち着いて行動してください。 あとは常々言っていますが、お客様に感謝の意を持って接すること・・・・・お客様に満足していただける最高のサービスを届けましょう」

 

『はい!』

 

 

では、開けましょうか、という代理人の言葉に一斉に開店準備に入る。あまりにも内容の少ない朝礼にここでもポカンとしていたG17は代理人に尋ねてみる。

 

 

「あの、いつもこんな感じなのですか? もっと、こういう時はこう動く、とかは・・・」

 

「ふふっ、そういう指示は今までほとんどありませんでした。 私たちは人形ですから、指示を与えればそれ通りに動くことができるでしょう・・・・・ですがそれでは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()し、きっと寂しい雰囲気になってしまうでしょう」

 

「・・・・・・・」

 

「グロックさんにも実際働いていただきますが、もし気になられるようであれば、見ていただくだけでも構いませんよ」

 

 

そう言ってニコリと微笑むと、ドアの前に向かい鍵を外していく。

 

 

「では、今日も一日頑張りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

喫茶 鉄血は大通りから少し外れた路地にある。そのため決して客の数は多くはないが、昼時などはそこそこ繁盛したりする。最初こそ彼女たちの動きを観察していたG17だが流石に何もしないのは申し訳なく感じ、今は彼女たちに混ざって接客したりしている。

 

 

「グロックちゃん、コーヒーのおかわりもらえるかい?」

 

「あ、はい!」

 

「すみませーん、お会計お願いします」

 

「い、今いきます!」

 

 

が、慣れないことに加えて真面目すぎる彼女はどうにも動きが固く視野が狭い。やや急ぎめでコーヒーを入れ、レジの方に向かおうとしたところで後ろから止められた。ゲッコーだった。

 

 

「ちょっといいか? ・・・・・あーすまんイェーガー、レジに行ってくれ」

 

「了解・・・・お待たせしました」

 

「ふぅ・・・・・さてグロック、服がちょっと乱れているぞ」

 

 

え?と声を上げるが見てみれば確かに襟が少し裏返ったりエプロンの紐が緩んだりしている。ワタワタと動いているうちに緩んでしまっていたようだ。

 

 

「す、すみません・・・」

 

「いや、謝るようなことじゃないが・・・・・・そうだな、少しこっちに来てくれ」

 

「? はい」

 

 

そう言われてついていくと、ケーキが二つ乗ったお盆を持たされて手招きされる。ゲッコーはティーポットとカップを二つ持って先を進み、あるテーブルで待つ二人の客の前にそれぞれ置いていく。

 

 

「お待たせいたしました、お嬢様方」

 

「あらやだ、お嬢様なんて・・・」

 

「お世辞が上手ねゲッコーちゃんは」

 

「ふっ、お世辞でこんなことは言わないさ・・・・まぎれもない本心だよ」

 

 

といきなり口説きだした。といってもこれは大変分かりにくいがゲッコーの挨拶のようなもので、客の方も常連なのかわかった上で乗っかっている。

見方によっては客によって差別しているとも取られかねない様子に唖然とするG17だが、不思議とその客も周りの客も誰も気にしていない。慣れているというのもあるが、あまり不快感を感じさせないようにしているらしい。

 

 

「ではごゆっくり・・・・・さて、次に行こうか」

 

「えっと、今のは?」

 

「ん? 私なりのサービスだよ。 もちろんそれを望んでいないお客もいるし、全てではないがな」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

「それに、この店ではルールを守ることはそこまで重視していない・・・・・代理人なんて一番笑顔が少ないんだぞ?」

 

 

言われて改めて周りを見ると、確かに人によって接客の仕方も全然違う。マヌスクリプトはきっと常連相手なんだろうが、かなりコアな話までしているものの周りのことは気にしつつといった感じ。Dは元気いっぱいで明るい雰囲気で、とくに若い人や子連れに進んで話しかけている。イェーガーとリッパーは目元をあのバイザーで覆っているため表情は見えにくいが、口元だけでもその表情が伝わってくるように話しているらしい。そして話に上がった代理人だが、確かに表情の変化に乏しいもののそれを不気味に思ったりする人はいないらしい。

 

 

「真面目で規則通りというのは立派なことだ。 だがそれだけで回るほど世の中単純でもないし、時には型破りな方がいいこともある・・・・・ここは、そういう街なんだ」

 

 

さぁ、次に行くぞとゲッコーはキッチンに戻りティーポットとカップを用意する。それに続きながら、G17はゲッコーの言葉を何度も反芻していた。

ルールは守るもの。それは確かに当然のことなのだが、ではルールを守れば全て正解かと言われた時、自分ははっきりと『YES』と言えるだろうか・・・・・そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、またお越しくださいね」

 

「ああ、今日もありがとう」

 

 

夕方、この時期になると少し薄暗くなってきたあたりで最後の客が店を出る。時計を確認し、営業時間を超えていることを確認すると代理人は閉店の指示を出した。

 

 

「では閉めましょうか。 D、後をお願いします。 グロックさんはこちらへ」

 

 

代理人に呼ばれて控え室に入ると、小さなテーブルと向かい合うように置かれた椅子が二つ。二人ともそこに座ると、代理人は少し表情を緩めながら話し始めた。

 

 

「さてグロックさん、今日は一日お疲れ様でした。」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「・・・・・・どうでしたか?」

 

 

何が、とか何を、とかはない。だがG17なりに今日一日を振り返り、見て感じたことを話す。

 

 

「その・・・・・意外でした。 あなたが率いているのだから、もっとキッチリとしていると思っていたのですが。 ゲッコーはずっとあんな調子だし、マヌスクリプトは何度かサボっているようにも見えました」

 

「ええ、あれはサボってますよ。 何度言っても聞かないどころかサボり方が上手くなっていますが」

 

「・・・・・・でも、なんというか、あんまりゆるいと感じることはなかったというか、やるべき時はやるという感じで・・・」

 

 

G17も、どう表現すればいいのかわからないのだろう。だが少しでも、この雰囲気になじんでもらえたのなら十分だ。G17には黙っていたが、もとより指揮官からはそういう依頼になっているのだから。

 

 

(着任以来休んでいるところをあまり見ない、何かと理由をつけて働こうとしている、ですか・・・・・ふふっ、この分だと改善されそうですね)

 

「・・・・・そう感じていただけたのなら、きっともう大丈夫でしょう。 ゲッコーも言ったと思いますが、真面目なのはあなたの長所です。 ただもう少し、肩の力を抜いてもいいと思いますよ」

 

「・・・わかりました。 今日はありがとうございました」

 

 

ぺこりとお辞儀をすると、そのまま店の片付けに加わろうと部屋を出る。去り際に見せた笑顔が、ここに来たときよりも柔らかくなっているような気がして、代理人もホッとしたようだ。

 

 

「失礼するぞ代理人・・・・ん? 何かいいことでもあったか?」

 

「あら、きっとお察しのことだと思いますよ」

 

「・・・・・あぁ、なるほど。 確かにいい顔をするようになったな。 真面目に後ろをついてくる姿は可愛かったが」

 

「手を出すな、とまでは言いませんが、ほどほどにですよ?」

 

「勿論だ、何度も代理人に怒られるほど馬鹿じゃない」

 

 

なら結構、と言って笑う代理人とゲッコー。

この日以降、G17は何度かこの店を訪れたが、雰囲気も良くなり笑顔も増えていたため、きっと上手くいっているのだろう。

また余談だが、この日を境にゲッコーに尊敬の眼差しを向けるようになったため、代理人はゲッコーに「襲わないように」と注意するのだった。

 

 

 

end




コラボドロップのステラちゃんが手に入りました!あとはセラちゃんを狙いつつホワイトナイトの欠片を集めるだけですね!

最近思ったことは、お世辞にも座り心地のよくない硬い椅子の方が捗る気がするんじゃないかな、ということ。みなさんはどうでしょうか?


ではではいつものキャラ紹介

G17
皆さんお馴染み第1戦役ボスステージのドロップキャラ。この世界では特定の資材量(5linkのAR×5体分の配給・弾薬・人力×10とコア5つ)で入手することが可能。
指揮官のことをボスと呼び、以前の配属先の環境から規則を重んじるちょっと堅物キャラ。趣味が人間観察の割に視野が狭いという欠点があったが、ちょっとは改善された。
胸が大きい。

指揮官
破天荒かつ個性の強い部下たちを束ねる優秀な指揮官。
口数は相変わらず少なく、そのせいで 誤解されることもしばしば。

D
マスコット。

マヌスクリプト
コスプレ(を着せる)担当。

ゲッコー
最近出番がなかったのでちょっとピックアップしてみよう、としたらなんかいい感じの先輩になってしまった。
G17とはちょっとちゃらけた先輩×真面目な後輩みたいな感じにしようかなと考えている。



リクエスト、置いてます。
それと良かったらドルフロ系のイベントの話も聞かせてください、いつか行きたいので!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百五話:ポンコツ隊長とヘタレ副長

そろそろくっつけろという天の声が聞こえたので(幻聴
そうそう、先日U◯Jに行った時に、仮装した客に紛れてグリフィンのワッペンをつけた人を見かけてちょっと嬉しく思いました。


「・・・・本当によろしいんですね?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

だんだん涼しくなってきた頃、いつも通り営業する喫茶 鉄血のカウンター席の一角、通称『相談席』に座ったPKはいつも以上に真面目な面持ちでそう言った。せっかくの相談なので代理人としても乗ることに吝かではないが、失敗したときのことを心配して一応確認は取っておいたのだ。

 

 

「その時は、その時よ・・・・・素直に受け入れるわ」

 

「・・・わかりました。 そこまで言うのであれば、こちらも全力で応援しますね」

 

「ありがとう、代理人」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

二日後。

S09地区司令部の宿舎の自室で、いつもの服ではなくワンピースタイプの私服を身にまとい、姿見の前で何度もチェックするPKの姿があった。最後のチェックを終え、よしっ、と一言呟くと鞄を持って部屋を出ようとする。ちなみにここまでの所要時間はこれまで平均一時間くらいかかるのだが、今日は何と10分くらいで終わっている。PKの覚悟が見えるようだ。

そんな姉の姿を眺めていた妹のPKPは、どこか心配そうに見守りながら一言だけ言った。

 

 

「頑張れよ、姉さん」

 

「・・・・・・ええ、行ってくるわ」

 

 

そう返事をして、PKは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端、と呼べるものは特にないが、長い長い時間をかけて悩み続けたPKがついに覚悟を決めたことだ。妹に手伝ってもらいながら服も選んだ、ちょうどこの時期公開の恋愛映画のチケットも二人分とった、代理人の紹介で美味しいスイーツのお店も予約できた、綿密かつ柔軟に対応できるプランも練ってきた。

ここまで来たらもう退けない、そしてついに今日、想い人であり隊長であるMG5をデートに誘ったのだった。もちろんあっちはデートだとは思っていないだろうがそれは承知の上、今日で白黒はっきりさせるのだ。

 

 

(うぅ・・・・き、緊張してきた・・・・・)

 

 

いつも通りの凛とした表情の下、まるで新兵のようにガッチガチに緊張したPKは、集合場所であるS08地区の駅前に来ていた。実はMG5はこの前日に泊まり込みでメンテナンスを受けており、そのままこちらに合流するのでここで待っているのだ。

チラッと時計を見ると約束の時間の十分前、PKがここにきてから三十分くらいはたっただろう。そこでようやく、駅からの人混みに紛れてMG5が現れた。

 

 

「すまない、待たせたか?」

 

「いえ、私もさっき来たばかりです」

 

「そうか。 じゃあ、行くか」

 

「はい!」

 

 

返事をして、まず最初の目的地・・・・・映画館まで並んで歩く。軽い世間話なんかをしながら、PKはMG5と手を繋ごうと手を伸ばして・・・ここではヘタれた。

さて、そんな二人が観に行ったのは世界的に有名な恋愛映画。といってもハッピーエンドでもないし、なんならパニック映画でもあるようなもの。主人公らが乗った豪華客船が、極寒の海で座礁、沈没するという例のアレである。大昔の史実をもとにして作られており、現在でもチケット即完売の人気作である。

 

 

「PKは結構映画は見るのか?」

 

「たまに、ですね。 隊長は?」

 

「私はあまり観ないが、興味はあったんだ。 ただ、一人で映画館に来るのが慣れなくてな・・・・・だから、今日は誘ってくれて嬉しかったよ」

 

「っ!? あ、ありがとうございます・・・・」

 

 

恋愛感情ではない、と分かっていてもこう言われれば嬉しくもなる。そしてちょっとだけ嫉妬する。こんな台詞を、できれば自分だけに言ってもらいたいのだ。

とかなんとか思っていると、入場受付のアナウンスが流れる。二人は適当にポップコーンとジュースを買って入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ・・・・・すごいな・・・・」

 

「常に予約がいっぱいだとは聞いていましたが・・・・これなら納得ですね」

 

 

数時間後、映画を見終えた二人は近くにあるスイーツ専門店を訪れていた。この店は欧州でも特に人気の店であり、要予約制でもないのに予約しなければ入れないほどの人気っぷりだ。その席を何とか予約(裏でカリーナが全力で動いたことは知られていない)し、二人は若干目元が赤いままメニューを眺めていく。流石は欧州1の人気店だけあって種類も豊富で、結局決められなかった二人は注文を取りに来た店員のおすすめにすることにした。

そうして運ばれてきたのはシンプルなストロベリーパフェと、様々なフルーツが乗っかった季節のパフェ。食べてみれば上品な生クリームとフルーツが絶妙に絡み合い、一瞬だがPKの頭からは『デート』の文字が抜け落ちたほどだった。

 

 

「ん? そんなに美味しいのか?」

 

「はい! よければ隊長も一口いかがですか?」

 

「そうだな、じゃあいただこう」

 

 

わかりました、と器を移動させようとしたところでピタリと腕を止める。これはもしや、恋人っぽいアレをするチャンスなのでは?

というわけで一度器を手元に寄せ、スプーンで掬うとそれをMG5の口に近づけた。

 

 

「た、隊長・・・どうぞ・・・・・」

 

「えっ!? ・・・・・あ、あーーーん」

 

 

パクッとMG5が咥えると、なんか妙に二人の顔が近いことに気がつく。あーんする方もされる方も顔がだんだん熱くなっていき、慌てて二人とも離れた。

 

 

「ど、どうでしたか、隊長?」

 

「あ、あぁ、う、美味かっ・・・た?」

 

 

ぶっちゃけ恥ずかしさで味どころではないのだが、もらっておいて分かりませんでしたでは格好がつかないのでそう答えた。PKも恥ずかしそうだがどことなく嬉しそうに笑い、再び自分のパフェを食べ始める。

ところでMG5は基本真面目な性格である。恩を恩で返すのは当たり前だという考えであり、そんな彼女が貰いっぱなしでいるかというとそうでもない。

 

 

「・・・・PK、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「? なんでしょうか?」

 

「はい、あーーん」

 

 

ずいっと差し出されるスプーン。一瞬固まった後、ようやく処理が追いついたのかボンっと赤くなると、慌てて言った。

 

 

「い、いえ! 私は大丈夫でしゅ!」

 

「まぁそう言うな、私からのお礼だ・・・・今日は誘ってくれてありがとう」

 

「・・・は、はい・・・・・・いただき、ます・・・・」

 

 

そう言って一思いにパクリと咥える。やっぱり美味しいパフェなのだが、もうPKにはそんなことどうでもよかった。これが例え戦場の泥水であっても同じだっただろう。

 

 

(あああああああ!!! た、隊長と間接! 間接キス!!!)

 

 

叫ばなかっただけすごいと思う。だが当然顔はさらに真っ赤になり、結局二人とも気恥ずかしい空気の中黙々とパフェを口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでさらに数時間後。

店を出てからは街をぶらぶらと歩き、途中の雑貨屋で仲間や妹にお土産を買ったり、アクセサリー店でお揃いのネックレスを買ったり、酒屋で美味しいビールとウォッカを買ったり・・・・・気がつけば日が傾くまで楽しんだ二人は、S09地区行きの列車に揺られていた。

 

 

「・・・・PK、今日はありがとう。 久しぶりにゆっくりとできた気がするよ」

 

「・・・・こちらこそ、お付き合いいただきありがとうございます」

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 

沈黙が続く。目的地まではまだ少しあるが、そう時間があるわけでもないことに焦りを感じていたPKは、大きく息を吸って立ち上がる。そしてMG5の前に立つと、その目を真っ直ぐ見て口を開いた。

 

 

「・・・・隊長、私は『キキィィィィィィィ』きゃあ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

突然の急ブレーキによろめき、PKはMG5のほうに倒れ込んでしまう。幸い受け止めることができたので怪我はなさそうだったが、突然のことんびっくりしてしまった。

 

 

『お客様にお知らせします。 ただ今線路上に動物が侵入したため、止むを得ず急停車いたしました。 お詫び申し上げます』

 

「な、なんだ・・・・・大丈夫かP・・・K・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 

受け止める形になったいたため、互いの顔がすぐそばまで近寄っている。たじろぐMG5に思わず逃げ出したくなるPKだったが、ぐっと思いとどまると同時に意を決し、そのわずかな空間を自ら埋めた。

 

 

「っ!?!?!?!?」

 

「・・・・・・」

 

 

静かな車内、最後尾車両だけあって他の客もおらず二人だけの空間で、PKはMG5の唇を奪った。そしてゆっくりと離すと、未だ状況が飲み込めていないMG5に告げた。

 

 

「・・・・隊長・・・・・いえ、MG5さん・・・・・・・・好きです」

 

「P・・・・・・K・・・・・?」

 

「私は、あなたが好きです」

 

 

口付け、そして二度も言った告白に、こういうことには疎いMG5でも流石に理解できた。

だがそれでもすぐに返事を返すことができなかった。自分の一体どこに惹かれたのか?自分のどこがいいのか?それとも何かの冗談か?

しかしPKの震える体と、涙で潤んだ目元が真実であると語っている。では自分はどうだ?彼女のことは当然嫌いではないし、むしろ好意的だ。だがそれは部下としてではないのか?それとも・・・・・

 

 

「・・・・・・ごめんなさい、隊長。 突然変なことを言ってしまって・・・」

 

「え?」

 

「・・・・・・その・・・忘れていただいて、結構です」

 

 

長い思考の時間を拒絶と捉えたのか、PKがそっと体を離し始める。涙をこぼさないようにしてはいるが、震える声は隠し通せていなかった。その表情にMG5の心は締め付けられ、そしてようやく自分の感情がはっきりした。自分は、彼女に笑っていてほしい。泣いていて欲しくない・・・・・・・それだけで十分だ。

だから、離れるPKの体を思いっきり抱き寄せた。

 

 

「ひゃっ!? た、隊長・・・・?」

 

「・・・・・私でいいんだな? こんな私で」

 

「・・・・・・え?」

 

「私も、恥ずかしいからな、一度しか言わないぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・好きだ」

 

 

抱き寄せているせいで、MG5からはPKの、PKからはMG5の表情は見えない。だが、見えないだけで互いの表情は()()()()()()。抱き寄せられているMG5の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめる。

目的地まで、二人は一言も話さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、喫茶 鉄血。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん・・・」

 

「大丈夫ですよD。 心配いりません」

 

「・・・・・うん、そうだよね」

 

 

本来ならばまだ営業時間であるにもかかわらず、窓のブラインドは締め切り入口の掛札も『closed』にしてある。だが店内には料理が並び、テーブルには蝋燭が立てられている。

その店内で、代理人とDはじっと待っていた。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん」

 

「なんですか? D」

 

「他の人は呼ばないの?」

 

「・・・・・ふふっ、大丈夫ですよ。 すぐに分かります」

 

『あっ! 来た! 来たよ代理人!』

 

「マヌスクリプト、二人に聞こえてしまいますよ・・・・・さて、ゲッコー」

 

「もう連絡した、すぐ来るそうだ」

 

「え? えっ???」

 

「さて、扉を開けましょうか」

 

 

タイミングを見計らい、締め切っていたドアを開ける。目元を赤らめながら笑うPKとちょっと驚いているMG5を迎え、代理人は言った。

 

 

「ようこそ、喫茶 鉄血へ。 お待ちしていましたよ、二人とも」

 

 

 

end




・・・・・これ、喫茶 鉄血関係ある?と思っているあなた、私もそう思うよ。
まぁ細かいことは気にしないでキャラ紹介といこう!

PK
恋愛ヘタレなMG部隊副長。今回は頑張った。
恋心が発覚してからここまでが長かった・・・・・。
彼女自身の頑張りもそうだが、その大半を陰で支えたPKPの苦労を忘れてはならない。

MG5
メンテナンスから直帰・・・ではなくデートに合流。武器は直接司令部に届けてもらった。
ポンコツに変わりはないが隊長としての責務はこなす。
この二人の進展は亀の歩みより遅そうだ。

代理人
PKから依頼されたのは、戻ってきたら祝ってくれ、というもの。当然失敗すればここに来ることはなく、作った料理も無駄になるのだが、代理人は二人を信じて待っていた。
代理人曰く、「帰ってこないことは考えなかった」


リクエスト〜、リクエストはいかがですか〜(売り子風)
感想をいただければ作者のモチベーションが上がりますよ(小声)
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番外編26

先生、ドルフルのイベントに行きたいです・・・・・

大変今更ですが、実は今月大学を卒業しました。
四月の入社まではアルバイト生活なのでこんな感じの投稿ペースを維持していきたいなぁと考えてます。

というわけで今回は番外編
・魔法少女☆Vector!
・水着の露出と普段着の露出とでは全く違う、言うなればry
・真面目ちゃんとナンパさん
・奥手な隊長とヘタレな副官・・・・・と、苦労人な妹


番外26-1:魔法少女☆Vector!

 

 

『なんだお前たちは!?』

 

『弱きを助け、悪きをくじく、魔法少女☆クリスタルV(ファイブ)!』

 

「おぉ〜・・・・・」

 

 

休日の宿舎・・・それも自室ではなく予備宿舎で一人座っているのは、この司令部所属の人形であるVectorだ。彼女は今、持参した椅子と大きめの箱以外何もない部屋で端末を開き、ヘッドホンをかけて録画していた『魔法少女☆クリスタルV』を一気見していた。すでに放送は終わった作品であるが、Vectorはこの作品が一番好きで、登場キャラのポーズから口上まで全て覚えているのだ。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

さてちょうど全話の半分ほど観終わったところで一度端末を閉じ、目を閉じて余韻に浸る。任務もなく誘いもない休日は、だいたいこうして過ごしているのだ。もちろん彼女はこの趣味を外部へ漏らすわけにはいかない。なのでわざわざ正面出入り口から外に出て、裏の非常口から入り開いている窓からこの部屋に入る。さらにセンサー類も全て起動し、万全の警戒態勢を整えてから視聴するのだ。

だが彼女の趣味は、むしろこれからが本番と言える。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

スッと立ち上がるとまず窓から外の様子を伺い、次にセンサー類に反応するものがないことを確認する。そして大きめの箱を開けると、中に納められた『魔法少女☆クリスタルV』の衣装を取り出す。といってもこれは普通の衣装でもなければ市販品でもない。

クリスタルVは5人1組で構成され、それぞれの衣装と主人公であるクリスタルレッドには強化フォームの衣装がある。これらは公式で販売されておりVectorも手に入れているが、実はこれ以外に一つだけ、作中一度しか出ていないフォームがある。それがこの、『クリスタルブルー・ミラージュ』である。

そして先日、製作を依頼していたマヌスクリプトからついに完成品が届いたのである。

 

 

「・・・・・すごい・・・細かい所まで再現されてる・・・」

 

 

というわけでテンションの上がり切ったVectorは誰も見ていないのをいいことにその場でポイポイと服を脱ぎ捨て、早速袖を通していく。見た目のクオリティに反して着やすくなっているのは流石と言えよう。御丁寧にカツラとカラーコンタクトまで用意してくれている。

 

 

「・・・・・・うふ♪」

 

 

見るものが見れば失神しそうなほど気味の悪い笑みを浮かべ、その場でクルリと一回転する。一通り堪能すると今度は箱からカメラと三脚を取り出し、慣れた手つきでセッティングすると、意気揚々とタイマーをつけてカメラの前でポーズを決めていく。

 

 

「・・・うふ、うふふふふ♪」

 

 

終始にやけっぱなしで一人撮影会を満喫し、彼女の一日は終わる。そうして明日には、誰もが知るいつもの『Vector』に戻るのだった。

 

 

end

 

 

 

番外26-2:水着の露出と普段着の露出とでは全く違う、言うなればry

 

 

「先日は迷惑をかけてしまった、申し訳ない」

 

「いえ、何事もなくて安心しました」

 

 

この前の鼻血事件の謝罪にきたダネル。代理人もそんなに気にしているわけでもなく、この件はこれで無事終了した。

だが府に落ちない表情を浮かべるものが一人いる。代理人を母と呼び慕い、ダネルとも友人関係にあるM4だ。

 

 

「・・・・・・」

 

「ん? どうかしましたかM4」

 

 

難しい顔をしたままのM4に声をかけると、M4はダネルにこう尋ねた。

 

 

「・・・・ダネルさん、この前のアレ、本当はなんだったんですか?」

 

 

そう、M4の疑問とはつまり、本当にダネルは代理人の素足を見ただけで倒れたのか、というものだった。実際なくはないと思う。だがダネルの場合はどうしても納得できないのだ。

 

 

「ああそうだ。 代理人の素足にドキッとして気がついたら倒れていた」

 

「真顔で語らないでください・・・・・それで、それが何か?」

 

「・・・・・ダネルさん、お母さんの水着を見ても大丈夫でしたよね? あと温泉も一緒に入りましたよね?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「・・・・・・・裸や水着はよくて素足はダメなんですか?」

 

 

もっともな疑問だろう。M4としては露出が多いほど興奮するだろうというある意味真っ当な予想で話しているのだが、当のダネルは首を傾げて、まるで『何いってるんだ前は?』みたいな顔で見ている。

 

 

「何いってるんだお前は?」

 

 

・・・・・口でも言った。流石に軽くイラっとするM4だが、そこは堪えて話を聞いてみる。

 

 

「まず大前提として・・・・・海とは水着を着る場所だし、ニホンの温泉は裸で入るのがルールだな」

 

「えぇ、そうですね」

 

「うむ、つまりそこで水着や裸を見るのは当たり前のことなのだ。 言い方を変えれば、特別なことではないということだ!」

 

 

何やら話し方に熱が入ってきたが、代理人もM4もそれを止めることはない。というか多分止めても止まらないだろう。

 

 

「だが、ここではどうだ? 代理人といえば手袋にブーツとあまり露出の多い格好ではない、それが突然肌を晒せばどうなるか・・・・・興奮するだろう?」

 

「「いえ、まったく」」

 

 

冷ややかな目で同時に否定する代理人とM4。だがそれすらも耳に入らないのか、ダネルはまだまだ話し続ける。

 

 

「普段見えないからこそ、見えたときの特別感がある! それも普段とほとんど同じ服だからこそ、より際立つのだ。 なによりふわりと揺れるスカートからチラッと見える太ももが眩しくて・・・・」

 

「そんな目で見ていたんですか」

 

 

多分これ以上ないくらい冷たい視線を送るが、本人はまったく気にしていないようだ。初めはただ代理人ラブなだけだったのに、どこで道を踏み外したのか。

 

 

「そういうことだM4」

 

「なるほどなるほど・・・・・ってなるとでも思いましたか!?」

 

「いいや嬢ちゃん、そいつのいう通りだ!」

 

「チラリズムはいいぞ!」

 

「ナイスおっぱい!」

 

 

気がつけば周りの男性客も聞き入っていたようで、皆頷きながら会話、というより議論に混ざり出す。しかもいつぞやのおっぱい指揮官までいる。

議論は白熱したが、収集がつかなくなったので代理人が『出禁』をチラつかせて終息させたとさ。

 

 

end

 

 

 

番外26-3:真面目ちゃんとナンパさん

 

 

現在、代理人には少し気にしなければならないことがある。それが今目の前で真面目に(といっても半分口説きながら)接客しているゲッコーと、それを尊敬か敬愛の眼差しで見つめるG17だ。先日G17の職業体験の際になんか仲良くなっていた二人だが、相手があのゲッコーならばいつ間違いがあってもおかしくはない。別に他人の友人関係や恋愛関係に口を出す気はないが、最終的に泣かれるのだけは避けたいのだ。

 

 

「やぁグロック、また来てくれたのか?」

 

「ええ、ここにいればいろんな人を観察できますからね」

 

「なるほど、どうやら基地ではうまくやっていけているようだな・・・・・・やっぱり美人は笑っている方がいい」

 

「・・・・・それを素で言えるあなたも大概ですね」

 

 

ナチュラルに口説くゲッコーの言葉を流すと、G17はフッと表情を和らげて話し出す。

 

 

「でも、不思議です。 ナンパでふわふわしてて規律や風紀にゆるそうで、私とは真逆なのに話していて苦にならない」

 

 

そう言われると今度はゲッコーが目をパチクリさせる。なかなかひどい言われようだが事実なのでそこは無視、意外と好意的な言葉が何よりもびっくりだった。というよりゲッコーからしてみても、自分やマヌスクリプトは性格的なところから苦手に思われるだろうと思っていたのだ。

 

 

「そういってもらえると嬉しいな、ありがとう」

 

「いえ・・・・・もしかしたら、ちょっと羨ましかったのかもしれません、規律なんか気にしなくていいあなたが」

 

「ふふっ、なるほど」

 

 

もっとも、彼女が乱しているのは規律ではなく風紀なのだが、残念ながら付き合いの短いG17にはわからなかったようだ。

さてそんなことを言われたゲッコーだが、一度トレーやら食器やらを置くとG17の前に座り、その手を優しく握り込む。

 

 

「あの時も言ったが、規律や規則を守るというのは立派なことだ、決して卑下するものではない。 それが自分らしさなら、無理に変わる必要なんてないさ」

 

「ゲッコー・・・・・クスッ、そうですね」

 

「あぁ・・・・・・・・・・・ところでよかったら、この後出かけないか?」

 

「デートのお誘いですか? 代理人に怒られますよ」

 

 

肩の荷が降りたように笑いながら、自分なりに精一杯の冗談で返すG17。

だが、この手のジョークはゲッコーの方が上手だったようだ。

 

 

「おや、デートのつもりだったのか? ならそのつもりで臨もう、君のような美人とデートなら大歓迎だ」

 

「え? ちょっ!」

 

「ふふっ、安心しろ。 優しくリードしてやるさ」

 

「はいそこまでです」ゴンッ

 

 

ゲッコーの目が怪しく光り始めたところで代理人が止めに入る。やっぱり微妙に合わないな、と評価を改めるG17だった。

 

 

end

 

 

 

番外26-4:奥手な隊長とヘタレな副官・・・・・と、苦労人な妹

 

 

皆さんこんにちは、グリフィンS09地区司令部所属、MG部隊隊長のGr MG5です。

さて私は今隣町の駅の改札前で人を待っているのですが、緊張がピークに達して吐きそうです助けてください(泣

 

そんな新兵以下のようなことを思いながら駅前で立っているのは、つい先日同僚と付き合い始めたMG5。今日はその初デートの日である。

告白されたあの日も相手にしてみればデートのつもりだったのだが彼女自身が全くそういうつもりではなく、そのため改めてデートをしたいと告げたのだ。もちろん即OKである。

 

 

「お、お待たせしました隊ty・・・・・MG5、さん・・・・」

 

 

そんな緊張でガッチガチに固まったMG5の後ろから現れたのは、いつぞやと同じようにワンピース姿のPKだった。ただし、雪のように白い肌は緊張で真っ赤になっていたが。

 

 

「そ、その服・・・・・」

 

「あ、あぁ、前はいつもの服だったからな」

 

 

今回PKをデートに誘うにあたって、MG5も数少ない私服をかき集めた。といってももともとおしゃれには頓着がないので、とりあえずシンプルなジーンズとシャツ、あとはネックレス等の小物くらいだが。

 

 

「に、似合ってます・・・・・」

 

「そ、そうか・・・・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 

沈黙。

ちなみにここまで互いに気まずいのは、彼女らが既に恋人同士であるからだ。ようするに意識しすぎてどうすればいいのかわからないのである。MG5も誘うことだけを考えて勇気を出したはいいが、肝心の『どこに』『何をしにいくか』が一切未定なのだ。PKもPKで誘われたことに舞い上がりすぎて、結局前回と同じ街に来ていることになんの疑問も感じていないし、そんな余裕はない。

 

 

「そ、そろそろ行くか?」

 

「は、はい」

 

 

どこに、とかも決めずに並んで歩き始める。そして最初に目に入った雑貨屋に入るまでの数十分、手を繋ごうとして伸ばしたけど結局引っ込めた回数は、数えるのも面倒なほどだった。

そしてそんな彼女たちの姿を、遠目から追いかける小柄な少女。その名もPKPである。

 

 

「姉さん、センスは間違っちゃいない。 だからそこで『あなたならきっと似合う』とかなんとか言ってプレゼントするんだ!」

 

 

電柱の影からひょっこり顔を出して一人ヤキモキする。だがそんな彼女の願いなど届くはずもなく、上手く言い出せない隊長とここぞでヘタれる姉にガクリと項垂れるのだった。

 

そんな感じで一日を終えて、大した進展もないのにホクホク顔で帰ってきた姉に説教とお節介なアドバイスを叩き込むことになる。

PKPの気苦労は、どうやら当分続きそうだ。

 

 

end




モンスターを狩りながら時々天使とダンスしたり変装ハゲで大暴れしたり・・・・・・やっぱPS4は面白いなぁ!(現実逃避)

といういつもの冗談はおいといて各話の紹介!

番外26-1
百一話のその後。
ぶっちゃけクリスタルVの設定を考えている時が一番楽しかった。
需要があれば活動報告にでも載せようと思う。
バレる展開にしようかとも思ったけど、後に取っておこう。

番外26-2
ダネル大暴走回。
もちろん水着とかでも興奮するが、それはそれこれはこれである。

番外26-3
どうあっても綺麗に終わらない、それがゲッコークオリティ。
この二人をくっつけるのも面白そうだが、それは追々考えるとしよう。

番外26-4
某基地のマスターと元ハッカー並みに進展しない二人。
あっちのIDWとこっちのPKPとはきっと仲良くなれるだろう。



いつも通り、置いときます。
一日一話が理想ですが、現実こんなもんなので生温かく見守ってください。
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第百六話:救護者リターン!

救護者とサクヤの絡みが見たい、そんな声が聞こえました。

話は変わりますが、ヴァルハライベントはドロップ周回も終わったのでデイリー欠片集めだけにしようと思います。
1-3EXやばすぎる
あと、この小説を読んでドルフロを始められた方からフレンド申請が来てチョー嬉しかったです!


「へぇ、治療専門のハイエンドに会えるなんて、嬉しいことがあるんだね」

 

「こちらこそ、世界が違うとはいえ我々ハイエンドの生みの親に出会えて光栄です」

 

「・・・・・とりあえず、なぜここにいるか聞いてもいいですか『救護者』?」

 

 

ここは鉄血工造本社、定期メンテナンスのために訪れた代理人がメンテナンスを終え、サクヤの研究室にやってくるとそこには見覚えのある人形。

()()()()()()()()()()()はずのハイエンド、救護者だった。そんな彼女はサクヤと向かい合う形でテーブルを囲み、なんとも彼女たちらしい話に華を咲かせている。

 

 

「お久しぶりです代理人。 お元気そうで何より」

 

「特に異常はなかったよ」

 

「ありがとうございます・・・・・それで、なぜここに?」

 

「そうですね、どこから話しましょうか」

 

 

長くなりそうなので追加の椅子と茶菓子を持ってきて、準備ができたところで救護者は語り始める。

 

いつも通り鉄血工造でカオスな日常を過ごしていた救護者だったが、その日はたまたまフラッと外出、一人で街を歩いているときにちょっとだけ近道をと思い路地に入って行ったら、また喫茶 鉄血の前にいたらしい。

ところが今回はそこに入らず、以前来た時から気になっていた()()()の鉄血工造を見てみようと思い、人に道を聞きながらこうしてやってきたという。随分とフットワークの軽い人形だ。

当然入り口で止められたが、代理人経由で彼女のことを知っていたサクヤに見つかり、彼女の研究室に案内されて今に至る。

 

 

「帰られる、という確証もないのにそんな無茶を・・・」

 

「ですが、来てしまったものは仕方ありません。 ならば少しでも有意義な時間にすべきです」

 

「そゆこと。 まぁいざとなったら例の装置があるから」

 

「本当にいざという時ですよ、それ」

 

 

例の装置、というのはあの転送装置(片道切符)である。これでちゃんと帰れるという保証もないが、一応手段として置いている。そして何より『人形を大切にする』というスタンスが合うのか、サクヤと救護者は妙に仲がいいようだ。

 

 

「あ、そうそう。 例の快眠プログラムだっけ? あれのおかげでゲーガーちゃんがよく眠れるようになったって言ってたよ、ありがとう」

 

「いえ、お役に立てていたようで何よりです。 鉄血人形に合わせて作ってはいますが、こちらの人形にも合うのかはまだ不確定でしたから」

 

 

そう、サクヤが救護者を好意的に見ている理由の一つに、彼女の作ったという快眠プログラムがある。幾分かマシになったとはいえストレスを溜め込みやすいゲーガーが使用し、文字通り快眠を手に入れたことによる恋人の体調改善が、サクヤは嬉しくて仕方ないのだ。

そのゲーガーが現在仕事で外に出ているため直接お礼を言えないことが心残りではあるが、救護者もお礼を言われるためにやったわけではないので特に気にしない。

 

 

「さて、では早速」

 

「うん、じゃあ行こうか」

 

「? お二人ともどこへ?」

 

 

話が落ち着いたところで、サクヤと救護者が席を立つ。首をかしげる代理人の疑問に、救護者が答えた。

 

 

「帰ることができるという前提で、では帰るまでの時間を彼女の研究を手伝うということになりまして」

 

「あれだけのプログラムを組めるんだから、きっといい意見がもらえるんじゃないかなって」

 

「お二人とも楽観のしすぎでは?」

 

 

迷い込む理由も帰ることができる理由も不明なのによくもまぁそれだけ余裕でいられるものだ。もっとも、慌てたところでどうしようもないというのもあるだろうが。

それに救護者はこれで二度目、サクヤも無事帰って行った事例を知っているので、楽観するのも無いはない気がする。今のところ、”帰れない=あっちでは死んでいる“ということなのだから。

 

 

「それに、彼女からは興味深い話を聞くことができまししたから、そのお礼でもあります」

 

「興味深い話?」

 

「ええ・・・・・・貴重な『コーラップス感染者の体験談』です」

 

「まぁ『元』だけどね。 それに今は普通の体だから体組織とかも普通のものだしね」

 

 

そう、こっちの世界では起こらなかった、というより存在すらしない『崩壊液』とそれによる『コーラップス汚染』、『E.L.I.D』という存在。救護者を含めここに迷い込んだ彼ら彼女らの世界でもっとも脅威とされるもの。そしてサクヤはその感染者といて命を落とした一人だ、だからこそ貴重な話なのだろう・・・・・・本人にとっても辛いものではあるだろうが。

 

 

「ううん、大丈夫。 むしろ私の話で救われる命があるなら、安いものだよ」

 

「E.L.I.Dの細胞に関しては自力で採集する必要がありますが、感染者の症状や実体験はほとんど入手できませんから」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「まぁ私が大丈夫だから大丈夫だよ! だからこの話はこれで終わり、次は私の研究を手伝ってもらう番だね!」

 

 

やや重くなってしまた空気を無理やり吹き飛ばすように笑うサクヤ。そういえば肝心のその研究内容を、代理人はまだ知らない。まぁきっとアーキテクトらのような突拍子もないようなものではないはずだが。

そうして研究棟を歩くこと数分、たどり着いた研究室に入るとそこには目が痛くなるほどのコンピューターと大量の配線、そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁサクヤ主任、今日は客人が多いな?」(CV.中田譲◯)

 

 

くっそいい声のダイナゲートが鎮座していた。

その小柄な体躯に似合わない存在感と、なぜか座っているだけでやたらと偉そうに見えるそれに、代理人も救護者も一瞬固まってしまう。

 

 

「・・・サクヤさん、これは?」

 

「今私が研究してる『人間社会でより高度なコミュニケーションを取れるAI』の研究室。 あのダイナゲートはその協力者だよ」

 

「よろしく頼む」

 

 

そう、これが彼女が今一番熱を入れているものである。IoPと鉄血、その人形のあり方はかなり異なり、IoPがもともと民生用としても開発したのに対し、鉄血は戦闘用としての面が強い。ハイエンドこそ高度なコミュニケーションAIを持っているが、下級モデルは未だに『ロボット感』が否めないのだ。

そこで彼女は前の世界で培った育成能力とこちらの世界のハイエンドたちが蓄積してきた幾万もの会話や思考を分析、IoPに負けないくらいの民生人形を作ろうと考えたのだ。その過程でたまたま近くを通りがかったダイナゲートに色々と突っ込んだ結果がこれである。

 

 

「見ての通りかなり流暢に話してはくれるんだけど、なんか足りないなぁって」

 

「足りないものか、それは私に見合うパワフルなボディだろう。 そういえばガルムという機体があったはずだ、あれを要求する」

 

「こんな感じ」

 

「コミュニケーション・・・というよりも要求だけのようですが?」

 

「交渉する、ということ自体が高度なものですので一応は成功かと。 ただこの尊大さだけは受けが悪そうですね」

 

 

太々しいダイナゲートは放っておき、とりあえずこの思考に至るまでのロジックを追っていく。サクヤ曰く、ロボット感が出てしまう理由は相手の言葉や仕草に対して反応するからであり、自我や自意識と呼べるものが薄いからなのではと考えたとのこと。それはある意味正しく、やたらと自我を強くしたこのダイナゲートは良くも悪くも自然な会話が可能になった。

ではここからどうするか、というところで救護者がスッと手をあげる。

 

 

「それならば、AIを一から『教育』するのはどうでしょうか?」

 

「・・・・教育?」

 

「ええ。 人間は幼少期より、親や様々な大人から教育を受けることで社会に適応していきます。 このAIの場合、その過程を全て飛ばして大人になってしまったようなもの、だから会話というよりも要求になるのではないでしょうか」

 

「な、なるほど」

 

 

やっぱり救護者に聞いてよかった、と喜ぶサクヤ。ただ問題は、どう考えてもこのダイナゲートのそのつもりがないこと。おまけにこんな自我まで芽生えてしまえば通常のダイナゲートと同じ部隊には入れられない。かと言ってある程度自立できるのならば遊ばせておくのももったいない・・・・・・・・あ。

 

 

「でしたら、私に預けてはもらえませんか? ふさわしい活躍の場がありいますので」

 

「ほぉ、ならばそうさせてもらおう」

 

 

元とはいえ鉄血最高権力者相手にも全く態度を崩さないスタンスはさすがと言えよう。

ともかく救護者の協力のもとAIの調整と教育案をまとめていき、近々別の人形に搭載することに決まる。そんなこんなで気がつけばもう日が暮れかけるところであった。

 

 

「ふむ、時間的にはそろそろでしょうか。 では私はこれで」

 

「うん、今日はありがとうね!」

 

「これで本当に帰れる・・・・のでしょうね、ではお気をつけて」

 

「ええ、お二人も。 ではまたどこかで」

 

 

そう言って鉄血工造の正門を抜け、しばらくしたところで強い風と砂塵が舞い、治ると忽然と消えていた。帰れたようなのでよかったが、なんとも図太いというか、アグレッシブな人形だと改めて思う。

 

 

「・・・・・行ってしまいましたね」

 

「でもまた会えるよ、きっと」

 

「そうだな・・・・・・ところで代理人よ、さっそくだが」

 

「そうですね、ではこの箱に入ってもらいましょう」つ宅急便の箱

 

「・・・・・・・・・んんん????」

 

 

end




もう喫茶 鉄血要素ない気がするんだけどもういいよね?
というわけで今回はいつぞやぶりに救護者さんが登場、別の世界のもの同士らしい会話にしたけれどどうだっただろうか。

ではではキャラ紹介

救護者
『村雨 晶』様のところのオリキャラ。
治療(物理)をやったり前線に救急車両で突っ込んだりするアグレッシブヒーラー。
あっちでも鉄血とグリフィンは仲良しなので、必然的に敵は人権団体かE.L.I.D。

サクヤ
完全に馴染んでるけどもとは『犬もどき』様のとこのオリキャラ。
感染者、という悲惨な過去を未来のためにつなぐ、そんな話を書いてみたかった。
公私を分けるタイプ、と自称してはいるが全くそんなことはない。

代理人
この人が出ないと喫茶 鉄血じゃなくなるので。
何気に話し方というか雰囲気が文面だと救護者とそこまで違わないので、書き分けには苦労した。

ダイナゲート(CV.中田◯治)
夜中にぱっと浮かんだ。
こんなちっこさで「ハリー!ハリー!!ハリー!!!」とか「言葉は不要か?」とか言うんだから完全にギャグキャラ。
戦闘能力自体はただのダイナゲートだが、人を煽ったり焚きつけたり鼓舞したりすることに関してはやたらとうまいので見た目以上に危険。
フリー素材(重要)



こんなところか。
というわけで今回もリクエスト、感想お待ちしております。
「この人形が好きだから出してほしい!」でも構いませんので笑
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第百七話:IoP研究員「夢とロマンを詰め込んだ」

リクエストをいただいたので。
ところでちょいちょい服のサイズがあってない人形がいるんですが、IoPはもしかしなくても変態でしょうか?


「こんにちは、マシンガンタイプの人形、Ameliです」

 

「MG部隊隊長のMG5だ、よろしく」

 

 

よく晴れた日のこと。グリフィン本部からの人事通達とともにやってきたのは新たな戦術人形、Ameliだった。緑色の髪を揺らし、どことなくG11にも似た丸っこい顔と眠そうな目が特徴的だが、そんな特徴はどこよりも目を引く()()()()のせいで完全に霞んでしまっていた。

 

 

(デケェ・・・・)

 

(この体でこれって、IoPは何考えてるのかしら?)

 

(うわ、上も下もはみ出てんじゃん)

 

(これ、うつ伏せになれるの?)

 

 

挨拶を交わすMG5の後ろで、MG部隊の面々はそんなAmeliの胸部装甲に釘付けだった。小柄な、それこそG11くらいの体にまるでメロンのような双丘、そしてそれを着ているというよりも巻きつけてるというようなデザインの服装。開発陣の欲望が丸見えな気がする。だが当の本人はそんなことは気にしていないらしく、眠そうな外見とは裏腹に割と真面目な性格のようだ。

 

 

「部屋に関しては、彼女らと同じ部屋だ。 すでに先に届いていたものは運び終えているから、後で整理してくれ」

 

「了解しました・・・・・それまでは何をすれば?」

 

「ん? 今日は特に何もないが。 長旅で疲れているだろうしな」

 

「今すぐにでも出撃可能ですが・・・・わかりました、では出撃の際はお声がけください」

 

 

最後にピシッと敬礼し(同時に大きく揺れた)、あてがわれた部屋へと向かう。他部隊に比べればマシだがなにかと癖の強いMG部隊の中ではかなりまともな方なようで、MG5もホッと一安心だった。

そこへ副長であるPKが近寄り、抱いていた疑問をぶつけてみる。

 

 

「でも、珍しいですね隊長。 最新鋭というわけでもないのに本部からヘリを飛ばして送られてくるなんて」

 

「訳あり、ということか? だが彼女の性能も素行も、それに今の態度もどこにも問題は見られなかったが」

 

「ですよね・・・・ならなぜわざわざヘリで?」

 

「確かに普通であれば鉄道や車だろう。 すこし様子を見ておくか」

 

 

一抹の不安が残ってしまったが、何はともあれ人員が増えたのはいいことだ。隊長として一応の疑念は抱きつつ、彼女の運用方法について考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、基地裏手の広い演習場にてそれは起こった。あの新米MGであるAmeliの欠点が、意外と早く露見したのだ。

 

 

「・・・・・・/////」

 

「マジでか・・・・」

 

「もうこれで五度目、偶然とか服の不備とかではなさそうですね」

 

「後で問い合わせてやるが・・・・・一体誰だこの採寸で設計したアホは!?」

 

 

射撃訓練場での成績は、やはりというか優秀なものだったAmeli。昨日の心配は杞憂に終わりそうだなと思い部隊を再編して訓練を始めたその数分後、塹壕から塹壕へと走ったAmeliが突然塹壕から出てこなくなったのだ。不審に思ったMG5が訓練を中止して駆け寄ると、そこのは飛び散ったボタン、そして留め具を失い落ちそうになっている服と、それをなんとか抑えながら真っ赤になって蹲るAmeliの姿・・・・・俗に言う『ポロリ』というやつである。

その時はきっとボタンがほつれていたんだろうと結論を出し、急いで補修して再度訓練を開始。ところが再び数分後にAmeliが動かなくなり、それを計5回繰り返してようやく理解したのだ。

 

この服、採寸が全然あっていない、と。

 

 

「ヘリで運んだのは、このせいか」

 

「走るだけで取れるのなら、陸路で移動なんて危険すぎるわね」

 

「待て、じゃああいつらはわかっていて送り出したのか!?」

 

「うぅ・・・・・・」

 

「あぁ大丈夫だ! 別にお前を責めているわけじゃない」

 

 

へたり込んだまま泣き出すAmeliをMG5が慰める。どうやら本人もこの欠点を知らなかったらしく、いよいよIoPに抗議文を送りつけてやろうと言う話になる。だがそれはいいとして、問題はこのAmeliの服をどうするかだ。流石にこのままでは作戦への参加など絶望的で、むしろ変な男に狙われでもしたら大変である。

しかし彼女自身はこの服を含めて自分だと思っており、どうにか採寸だけを変えられないものか・・・・・・と言うところまで考えてMG5、PK、PKPの三人の脳裏に同時に同じ顔が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「で、私のところに来たと・・・・・・何? IoPって変態しかいないの?」

 

「お前に言われるとは相当だな、きっと泣くぞ・・・・・ペルシカさんあたりが」

 

「あれも十分変態だよ」

 

「本人を横に置いて変態とは随分だねマヌスクリプト君?」ピキピキ

 

 

MG5たちが訪れたのは、この街でも指折りの服飾技術を誇る人形、マヌスクリプト。もちろん他にも服屋はあるが、コスプレを含めちょっと変わった服を作ることに関しては彼女の右に出る者はいない。そんな彼女ならば、きっとAmeliの服をなんとかしてくれるだろう。

 

 

「と言うわけだマヌスクリプト、協力してくれないか?」

 

「う〜〜〜ん、協力すること自体はいいんだけど・・・・・・ペルシカ、パス」

 

「はいはい。 で、人形の服に関してなんだけど、それ自体が装備になっているのは知ってるよね? だからこそ採寸し直すなんて結構お金かかっちゃうんだけど・・・・・つまり、普通の服ではないわけ」

 

 

ようするに、服そのものが防弾やら機動性を高める機能を持っているため、採寸しなおした『服』を作ったところで性能が落ちるだけだという。MG5は残念そうに納得するあたり知っていたようだが、もともと最前線で戦うことがあまりないMG部隊の面々からすれば初耳らしい。そのせいでAmeliは深く項垂れてしまう。

だが、マヌスクリプトがそんな程度で諦めるはずがなかった。

 

 

「まぁまぁ安心して。 『服』としてはさっき言った通りだけど、ようは『装備』として作ってしまえばいいだけだよ」

 

「・・・・・装備として、とは?」

 

「そのままの意味、と言ってもわかりづらいかな。 今考えてるのは、その服はそのままにして採寸が際どい部分だけ防弾チョッキと外骨格で補強する方法だね」

 

「え? そんなのできるの?」

 

「さぁ? やったことないし」

 

 

不安すぎる。とはいえまぁ防弾チョッキも外骨格も身に纏うタイプの装備だし、防弾チョッキは多少切っても防弾チョッキであるはずだ。それにAmeliの直すべき部分は胸部の布だけ、そこまで手間はかからないだろう。

というわけで・・・・・・

 

 

「じゃあAmeliちゃ〜ん、採寸するから奥行こうねグヘヘへ〜」

 

「ひぃっ!?」

 

「マヌスクリプトっ!!!」

 

 

代理人に拳骨を喰らったのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間後、三階から降りてきた妙にホクホク顔のマヌスクリプトと、それをジト目で睨むペルシカ、その後ろから妙に顔を赤らめているAmeli。

 

 

「うちの部下に何をしたんだマヌスクリプト?」

 

「採寸して服を直しただけだよ!? 採寸の時にちょっと当たっちゃったけど事故だよ!?」

 

「・・・・・・ペルシカさん?」

 

「ええ、一応は彼女の言う通りよ・・・・・一応は」

 

「ちょっと二人ともひどくないかな!?」

 

 

自業自得である。しかしどうやら成功したようで、パッツンパッツンだった胸元は多少ゆとりができたようにも見える。あと上下のはみ出し具合もちょっとマシになったようだ。試しにその場で飛び跳ねてみても、ボタンが飛び兆候は見られなかった・・・・・・めちゃくちゃ揺れてたけど。

 

 

「・・・・・まぁ言いたいことは山ほどあるが、とりあえず感謝する」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

「いまいちお礼が伝わってる気がしないんだけど・・・・・」

 

「だ、だって・・・・・・/////」

 

「お前本当に何をした!?」

 

「ご、誤解だぁああああああああ!!!!!!」

 

 

end




Ameli好きの指揮官らに殺されないだろうか・・・・
でもあの服で激しい戦闘なんてしたら絶対ポロリするよね、むしろそれをねらっt(文字が掠れて読めない)

Ameli「じゃあ、キャラ紹介です」


Ameli
服、とはいえなさそうな服を着るマシンガン娘。これでどうやってうつ伏せるんだよと思っていたがどうやらBARちゃんと同じく立って撃つタイプ。
いくら貧乳好きであろうとも二度見してしまう魅惑ボディである。

MG部隊
隊長にMG5、副長にPK、部下の全てがMGタイプの部隊。この部隊だけで作戦を行うのではなく、SGやHGと部隊を再編することで任務にあたる。

マヌスクリプト
ここ最近大人しいから、と言う理由で任せたがやはり根っこはそのままらしい。具体的には、バストを測る時にテープを巻く際、やたらと怪しい笑みを浮かべていた模様。

ペルシカ
自分はまともだ、と思っているIoPきっての天才。IoPの研究員という時点で変態であることは疑いようのない事実である。


ここ最近のリクエスト話の多さから、実はこの小説は多数の読者によって成り立っているのだと改めて実感。これからも末長くお願いいたしますね。
ということでいつもの置いときます笑
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第百八話:元鉄血の傭兵

ハイエンドの中でも珍しい、片腕だけでかい処刑人・・・あれって元々そんなパーツなのか、それとも普段は左腕と同じ大きさなのか。もしずっとあれなら、日常生活大変そうですね(他人事)

今回はちょっと暗めな感じですのでご注意を


「ただいま〜。 いやぁはら減ったなぁ!」

 

「お帰りなさい処刑人。 奥に昼食を用意してますよ」

 

「お、マジか代理人! ありがとな!」

 

 

秋らしく涼しい風が吹き始めたS09地区。喫茶 鉄血の玄関を開けて入ってきたのは、久しぶりに帰ってきた処刑人だった。今の仕事がひと段落したので帰ると連絡が入り、あらかじめ食事を用意しておいたが無駄にはならずにすみそうだ。

 

 

「・・・・・・ん? 処刑人、その指輪は?」

 

「へ? ああ、これか。 仕事先でもらったやつさ」

 

 

代理人が見つけたもの、それは処刑人の右手の薬指につけられた指輪だった。よくよく見るとどうやら丸く曲げた針金の上に紙でできた花がついたもののようで、処刑人の戦闘用義手である大きめの指にぴったりとはまっている。

 

 

「なるほど・・・・・そういえば、最近あなたの話を聞いていませんでしたね」

 

「あ、それ私も気になる!」

 

「新刊のネタの匂い!」

 

「仕事しなさい二人とも」

 

 

処刑人の話、と聞いてひょこっと現れたDとマヌスクリプト。処刑人はケラケラと笑いながら、じゃあ夜話してやるよと言って店の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さてその日の夜。

片付けも終え、処刑人を交えて夕食も摂り終わった後、せっかくだからと店の一階を使って話を聞くことになった。それぞれコーヒーや紅茶を用意し、代理人もケーキを配ってちょっとしたお茶会のような雰囲気だ。

 

 

「悪いな代理人、ここまでしてもらって」

 

「家で遠慮する人ですかあなたは? 気を使わなくて結構ですよ」

 

「じゃあ早速お願いね処刑人!」

 

「わかったわかった・・・・・さて、じゃあ話すぞ。 あれはアフリカのある国の国境近くの仕事だった」

 

 

そして処刑人は語り出す。その雰囲気はいつもの明るいものではなく、少し影がさした薄暗いものだった。

 

 

「知っての通り、私は傭兵だ。 と言っても、金のために殺すのとは違う。あ、いや、それが悪いかっていうとそうじゃねぇんだが、まぁ私の意地みたいなものだ。 請け負う仕事も、護衛や防衛がメインだしな。

さて、その仕事も同じで、アフリカで活動する医師団の護衛、その最終目的地である古びた孤児院を訪れたんだ」

 

 

孤児院への医療支援、というだけならさほど不思議ではないが、それが国境にあるとなると話は別だ。

 

 

「それが国境付近にあるの? それってどっちが管理してるの?」

 

「・・・・・どっちも管理しちゃいないさ。 建前は両国の孤児を引き取ることができるってんだが、実際はどっちも背金やら維持費やらをおいたくないんだと。おまけにこの辺りは面倒な連中の活動地でもあった」

 

「テロ、ですね。ここ最近は国境付近で活動する組織が増えたと聞きます。戦争や紛争が減ったとはいえ、国境はいまだにデリケートな部分ですから」

 

 

歴史的に言えば第二次大戦、その後冷戦期前後の数度の戦争の後に世界から戦争や紛争はみるみる減っていった。国家が軍を持ち、睨み合うという構図自体は変わらないところもあるものの、中立である民間軍事会社の存在と、なにより人の移動範囲が広がっていったことが主な原因だろう。

人々は戦争を忌避した。だからこそ、国境での問題に慎重にならざるをえなかったのだ。

 

 

「あぁ、そうだ。 おまけにこの組織には俗に言う少年兵ってのがわんさかいるって噂だった・・・・・・それがどこから湧いてるのか、大体のところは察してたさ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「だから、今回の医師団の目的も、その孤児院での治療に加えてその所在をはっきりさせることにあった。そうすりゃ少なくともこれ以上はガキが戦わなくていいだろうってな。だが・・・・・」

 

「・・・・・何があったの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月×日、アフリカ某国国境地帯

 

 

「くそっ! こんなの聞いてねぇぞ!」

 

「だめだ! 囲まれちまう!」

 

「もう撃つしかねえ!」

 

「ま、待ってください! 相手はまだ子供なんですよ!?」

 

「じゃあ黙って死ねってか!?」

 

 

医師団とその護衛、計二十数名の一団は目的地である孤児院へと辿り着いた。この辺りはそれなりの規模を持つテロ組織の支配地域だということもあって慎重に進んできたが、ここまで何もなくホッと一息をついた。

その時だ、銃声とともに外に出ていた医師のすぐそばの車体に火花が散った。後ほんの数センチずれていれば、その額に風穴が空いていただろう。そしてその銃声は、孤児院の方から聞こえてきた。

そこからはもうあっという間だった。正面玄関、裏口、窓、屋根・・・・・あらゆるところから年齢もバラバラの子供たちが現れ、手に持った武器を撃ちまくる。急いで護衛車両の中に医師団を収容し、傭兵たちは応戦すべく外に出る。

たかが子供、と呼べる相手ではなかった。妙に手慣れた動作で武器を扱い、子供にしては異様な精度で狙いをつけてくる。

 

 

「ちっ、被害は!?」

 

「今んとこナシだが・・・・アイツら撃ってこねぇと思って近づいてきやがる!」

 

「あぁくそ! ガキを殺せってのかよ!」

 

 

処刑人はぎりっと歯がみしながら、右手で握るブレードに目を落とす。銃と違い、これでならある程度加減が効くし、人形である自分ならある程度は耐えられる。だがそれでもこの数は難しく、現状どうしようもなかった。

 

 

(マジで手がねぇ・・・・・ガキが人殺しなんて・・・・・・・ん?)

 

 

即席の防護壁の隙間から覗く処刑人は、一瞬見えた子供の表情に違和感を感じる。そして今度は注意深く、拡大してその表情を覗き込む。

 

 

(なんだ・・・? あんだけ殺しにかかってきといて、なんであんなに()()()()なんだ?)

 

 

目で捉えた、十を超えたくらいの少女は、目に涙を浮かべてながら銃を構えていた。他の子供達を見ても、どれも皆同じように泣きそうな、なにかに怯えるような表情だった。

 

 

「・・・・・・クソが・・・裏に誰かいるな・・・!」

 

 

頭に血が上っていくのを感じながら、しかし冷静な部分では事態の突破口を見出していた。矯正されているのなら、その大元を潰せば止まる。そして彼らがここまで怯えると言うことは、その大元はすぐ近く・・・・・もっと言えば、あの孤児院の中にいると予想がつく。

 

 

(だがどこだ・・・・どこにいる・・・・・)

 

 

索敵に集中し、あらゆる機能を使ってあたりを探る。時折近づいてくる子供に牽制弾を撃ちつつ、粘り強く探し続け・・・・・・ついにその時が来た。

 

 

(・・・・・! あれかっ!)

 

 

孤児院の二階、開け放たれた窓から顔を出して怒鳴りつける男。その声や挙動を拾い集め、敵の数や位置を割り出す。結果、幸いなことにそいつがここのボスのようで、男以外はいないらしい。

・・・・それだけわかれば十分だ。

 

 

「おい! 合図を出したらありったけの発煙筒をばら撒いてくれ!」

 

「はぁ!? なにする気だお前!」

 

「このバカみたいな茶番を終わらせてやる。 いいから言うこと聞け!」

 

「ああくそ、失敗したらテメェの死亡保険全部もらうからな!」

 

「全財産くれてやるよ! やれっ!!!」

 

「どうなってもしらねぇぞ! アーメン!!」

 

 

ありったけの発煙筒がばら撒かれ、あたり一面を煙で覆い隠す。もちろんあの男からもこちらの姿は見えず、子供らも同士討ちを恐れて撃てないでいた。

その白い煙の中を、黒い風が駆け抜けた。

 

 

「見つけたぁ!!!」

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

男は面食らった。孤児院、それも一階部分が大きな食堂になっていて屋根の高いそれの二階に窓から入るなど、普通ではありえないことだ。だが戦術人形のハイエンドモデル、それも機動性に長けた処刑人には造作もないことだった。

ろくに対抗できない男を組み敷き、その場で縛り上げると窓から身を乗り出して叫ぶ。

 

 

「おい! お前らのボスは取り押さえたぞ! 今すぐ銃を捨てて大人しくしろ!」

 

 

やや乱暴に言い放ち、ふと後ろで男が騒ぎ出したので何事かと振り向く。舌を噛み切られないように布を噛ませていたのだが、今回はそれが仇となった。

まだ十にもならないような少女が、男が持っていた銃を拾い上げて構えていた。

 

 

「っ!? 待て! やめ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

処刑人が止めるより早く、少女が引き金を引いた。きっと一度も撃ったことなどなかったのだろう、銃の反動に顔を歪め、恐らく脱臼している肩で再び銃を構える。

 

 

バンッ! バンッ! バンッ!バンッ!  バンッ!

 

 

子供とは思えない形相で立て続けに引き金を引き、男が事切れて弾が尽きてもなおカチカチと引き続ける。やがて限界がきたのか銃を落とし、膝から崩れ落ちる。それを処刑人は慌てて受け止めると、何も言わずに優しく抱きしめた。

少年たちが投降し、仲間の傭兵が駆け込んでくるまでの間ずっと、少女は静かに泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、相変わらず無茶をするなお前は」

 

「言うな、ああでもしなけりゃどうしようもなかったんだよ」

 

「代理人が聞いたら泣くぞ?」

 

「安心しろ、ちゃんと話すよ」

 

 

数時間後、国連軍と国際警察が到着し、孤児院の子供達の身柄が引き渡される。ただ行き先はバラバラで、特に()()()()()()()()()()()子供達は相応の場所に送られて更正プログラムを受けることになる。良くも悪くもまだ子供だ、道を正すことはいくらでもできる。

そして残りの、まだ人を殺していない子供達をハンターたちに預ける。この子たちは他の孤児院へ送られるはずだ。

その中には、あの少女の姿もある。

 

 

「・・・あいつもどっか別のところに行くのか?」

 

「あぁそうだ。 幸い()()()()()()()しな」

 

「そうか・・・今ちょっといいか?」

 

「ん? 構わんが手短に頼むぞ」

 

 

わかってる、とだけ答えると処刑人はその少女のもとに向かった。車の前にちょこんと座り、片腕を三角布で吊るされた少女は、暗く淀んだ目だけを処刑人の方に向けた。

 

 

「どうだ? ちょっとは落ち着いたか?」

 

「・・・・・・・」

 

 

何も言わずに、再び目線を地面に落とす少女。処刑人は苦笑しながらその横に腰を下ろし、やや乱暴に頭を撫でる。

 

 

「忘れろ、ってのは難しいだろうからさ、これからどうするかってのを考えたほうがいいぜ」

 

「・・・・・」

 

「まぁ安心しな、今度のとこはきっとまともだろうし、それにもし困ったことがありゃまた助けてやるよ」

 

「・・・・・・」

 

 

終始無口だが、最後に一度だけ頷いたので伝わったようだ。そして出発の時間が近づき、処刑人も立ち上がろうとするとクイっと服を引っ張られる。見れば少女が、無言のまま何かを差し出してきた。針金と紙という質素なもので形も若干歪だが、どうやら指輪らしい。

 

 

「ん? なんだ、くれるのか?」

 

「・・・・・」コクッ

 

「そうか・・・ありがとな」

 

 

少女から受け取った指輪を、針金を緩めて右手にはめる。そしてもう一度少女の頭を撫でると、そろそろ時間なのかハンターが迎えにきた。

 

 

「挨拶は終わったか? 悪いがもう時間だ」

 

「ああ・・・・・じゃあ元気でな」

 

「・・・・・・・」

 

 

それを最後に、処刑人は車へと戻る。少女もハンターに連れられ、護送車両に乗せられてその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・随分と無茶なことをしましたね?」

 

「それについては謝る。 だがあれでよかったとも思ってるさ」

 

 

最後まで話すと同時に、代理人の大きなため息が溢れる。処刑人が仕事柄危険な目に遭いやすいのも知っているし、結果的には大した怪我もなく終われたが、やはり身内が命を危険に晒すと言うのは聞いていて落ち着いてはいられないのだ。

処刑人も無茶をやった自覚はあるようなのでそれ以上は言わないでおくが、彼女然りハンター然り、ちょっと目を離せばすぐに突っ込んでいくという意味では鉄血時代から変わらない。

 

 

「でもかっこいいなぁ、子供たちのヒーローだよ処刑人!」

 

「よせよ、そんなガラじゃねぇって」

 

「いっそ全年齢版でそういう本を・・・・・」

 

「それはやめろ」

 

 

ワイワイと騒ぐ処刑人たち。気がつけば夜更まで続くそれを呆れ顔で見ながらも、どこか嬉しそうに笑う代理人だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

翌朝。

開店前に荷物をまとめた処刑人が玄関に現れ、その後ろから代理人が苦笑しながら見守る。

 

 

「もう少しゆっくりしていてもいいのでは?」

 

「悪いな、ちょっと急ぎの用事があるんだ。 また落ち着いたら顔を出すよ」

 

「ええ、その時はもう少しまともな土産話を期待してますよ」

 

「善処するよ。 さてと・・・・・・ん?」

 

「? あら・・・」

 

 

出発しようとした矢先、喫茶 鉄血の前にタクシーが止まる。そこから降りてきたのは昨日の話にも出てきたハンターと、これまた話に出てきたと思しき少女だった。

 

 

「間に合ったか、入れ違いにならなくてよかった」

 

「え? おいハンター、どうしたんだよ?」

 

「ん? ああ、実はこいつのことでな」

 

 

こいつ、と呼ばれた少女はトコトコと処刑人に歩み寄ると、無言のままギュッと抱きついた。一瞬ギョッとする処刑人だったが、ハンターが笑いながら説明する。

 

 

「はははっ! こいつがお前のところに行きたいと言って聞かなくてな、まぁ一人くらいならなんとかなるだろう」

 

「いや、ちょっと待て、おかしいだろそれ!」

 

「確かに例外もいいところだが、孤児院に行く以外にも可能な限り要望を通すようにした結果だ。 お前の家にでも置いといてやれ」

 

「嘘だろ・・・・・お前本気か?」

 

「・・・・・・・・」コクッ

 

「ま、マジか・・・・」

 

「いいじゃないですか処刑人、別に戦場に連れ出すわけではないんですから・・・・・もしくはこれを機に傭兵稼業を引退されては?」

 

 

狼狽る処刑人にクスクスと笑いながらそう告げる代理人。処刑人も嫌がるというよりも心配の方が強いようだが、どうやら少女の決意は相当固いらしく全く離れる気配がない。

観念した処刑人ははぁ〜っと大きくため息をつき、苦笑いしながら少女の頭を撫でる。

 

 

「わかった、連れてってやるよ。 嫌になったら言えよ? ちゃんとしたとこに連れてってやるから、な?」

 

「・・・・・・・・」フルフル

 

「その気もないみたいですね」

 

「そういうことだ、頼んだぞ処刑人」

 

 

了解、とだけ伝え、処刑人は荷物と少女を連れて歩き出す。手を繋ぐその背中を、代理人は静かに見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あ、そうだ処刑人、これを忘れていた」

 

「あん? まだ何かあんのか?」

 

「ほら、そいつの分の 電車賃と航空券だ。 ちゃんとお前と同じ便と行先だぞ」

 

「お前これ・・・・・入れ違ったり断ったりしたらどうする気だったんだよ」

 

「その時はなんとかするさ・・・・・・・私の権限でな」

 

「職権濫用だろおい・・・・・・」

 

 

 

end




この世界でも、それなりに闇はあるんですよ。まっさらで綺麗な世界なんてのは、無いのです。
書き始めた当初はアホなテロリストをボコボコにするギャグ調になるはずだったのに、なんでこうなった・・・・・

さてでは気を取り直してキャラ紹介!

処刑人
元鉄血工造、現傭兵。
荒っぽい口調だが根は優しく、割と好かれる。基本装備はハンドガンとブレードだが、状況に応じて他も使う。
専用装備『手作りの指輪』:火力と回避を大きく上げる

傭兵=サン
処刑人の同僚。といっても常に行動を共にしているわけではなく、その都度現地でバッタリ出会す。クリスチャン。

テロリストの男
今回のやられ役。

少女
名前もないし細かい設定もほとんどない。強いて言うなら相当無口。今後も出すかどうかは不明だが、出すとすれば処刑人がらみ。


最近投稿ペース下がりまくってますのでリクエスト消化も延び延びになってますが、いずれ必ず書きますのでご安心を。
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第百九話:風評被害

きっと人形にだって個性がある、我々が知るのはそのごく一部だ。
というわけで今回もリクエストから、あのお色気担当人形さんのお話。


20XX年現在、自立人形は世界中の至る所で活躍してる。民生用として企業や個人の元で過ごす人形、戦術人形として戦場に身を置くもの、あるいは自由気ままに暮らすもの。

そんな多種多様な人形たちには、やはり同型といえどいくつか違いが見られることがある。当初は調整ミスとされたこれらだが、人間社会に溶け込むにあたり『個性』として活かせるということで、そのまま残っているのだ。

 

まぁもっとも、世間一般の認識は通常モデルのそれなので、思わぬところで勘違いされることもしばしばあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン

「いらっしゃいませ」

 

 

この日も、いつも通り営業する喫茶 鉄血。いつも通りに店をあけ、いつも通り客を迎え、いつも通り食事を提供する。そんないつも通りの中に、彼女は現れた。

 

 

「あら? DSRさん?」

 

「え? あ、はい、そうですが」

 

「? もしやこの地区の方とは別の?」

 

「え、ここにも私がいるんですか?」

 

 

やってきたのは以前この店にもやってきたDSR-50。 だがその見た目はいつものなんか際どい服装ではなく、むしろ真逆の清楚さ溢れる装いだった。スプリングフィールドに近い雰囲気だろう、といってもここのスプリングは清楚の皮をかぶった獣であるが。

そして先の会話通り、やはり彼女はこの地区の彼女とは別個体のようである。

 

 

「いつまでも入り口でというのもなんですから、どうぞこちらへ」

 

 

こういう客の場合、とりあえず何か訳があることが多いのを、代理人は経験から知っていた。特に今回の場合、一つの地区に同じタイプの人形が二人もいるのは極めて稀ということもあり、聞ける範囲で話を聞こうと思うのだ。

カウンター席に案内されたDSRは、なんとも落ち着かない様子だった。

 

 

「ではご注文を・・・・・それとも、ここにいらした理由を聞いた方がよろしいでしょうか?」

 

「えっと・・・・・・では、両方で」

 

「畏まりました。 ご注文は何になさいますか?」

 

「このブレンドを」

 

 

注文を聞く傍ら、目の前の彼女をつぶさに観察する。服装が違うのもそうだが、やはり雰囲気もまるで違うようだ。正直、DSRによく似た別人と言われた方がまだ納得できそうだ。だが代理人の視覚情報にはちゃんと人形、それも『DSR-50』として表示されている。

そんな彼女が持つ悩みとは、いったいどういうものなのだろうか。

 

 

「お待たせしました、ブレンドです」

 

「ありがとう・・・・・・・あ、美味しい」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

見れば見るほど、目の前のDSRらしくないDSRが不思議でならない。立ち居振る舞いも淑女と呼ぶに相応しく、男と目が合えば悪魔的な笑みを浮かべてちょっかいをかけるアレと同じ人形だとは到底思えない。店内の客もその姿に唖然としているらしく、仕切りに目を擦っては夢ではないのかと凝視している。

 

 

「先程、『ここにも』と言いましたよね? もしやあなたは別の地区から?」

 

「え? あ、はい。 この度S09地区司令部に配属となりました、DSR-50です。 どうぞよろしくお願いします」

 

「あら、ご丁寧にどうも・・・・といっても私に挨拶をされても何もありませんが」

 

「あ! そ、そうでしたね・・・ごめんなさい・・・・・」

 

 

顔を赤くして俯く。もう何から何まで真逆な彼女は、やはりDSRで間違いなかったようだ。それも民生用ではなくちゃんとした戦術人形である。となればなおさら、この服装や性格の違いが気になるところだ。

 

 

「あの・・・大変失礼ではありますがその、どうも私の知るDSRさんとはちょっと違うようなのですが」

 

「そ、そうですよね。 では説明いたしますね」

 

 

そうして彼女は静かに語り始める。彼女が生まれ、そして今日に至るまでの苦労を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

IoP、17labにて。

 

 

「所長、製造中の『DSR-50』にバグが発見されました」

 

「何? どの部分だ?」

 

「メンタルモデルの一部です。 性能に影響はありませんが・・・・」

 

「ふむ、では後からでも調整がきくな、このまま完成させよう」

 

 

数時間後、研究室にて。

 

 

「お願いです! もう少しマシな服を用意してください!」

 

「何を言うんだ、それが君の装備だろ?」

 

「でもこんなスケスケの・・・・・ち、痴女みたいな格好なんて・・・・」

 

「所長、これはもしや」ヒソヒソ

 

「あぁ、『初心で純粋なDSR-50』だ」ヒソヒソ

 

「どうしましょうか? 今なら調整すれば」ヒソヒソ

 

「いや、これはこれで需要がある、このままいこう」ヒソヒソ

 

「聞こえてますよ!」

 

 

さらに数時間後

 

 

「・・・・・ということでして」

 

「なるほど。 ならS09地区がいいだろう、そこならきっとやっていける」

 

「もし難しければ?」

 

「喫茶 鉄血を知っているな? そこのマスターに相談させればいい」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・というわけです」

 

「なるほど(後でお話しますわよクルーガーさん)」

 

 

結局、また17labがやらかしたのだった。ちなみに人形の製造過程は全自動と言っても複雑なもので、ごく稀にこのようなバグが生じる。多くの場合は再調整を行なって世に出るのだが、今回はそのままにされたらしい。

だが性能的にはなんら問題なく、しかしそこらの司令部に配属してしまうと何かしらのトラブルが起こりそうだということで、個性的な面々の揃うS09地区に白羽の矢が立ったのだ・・・・・・ついでに代理人もいるし。

 

 

「どうしましょう・・・・・ここの『私』と会うようなことがあれば「私がどうかしたのかしら『私』?」きゃああああああ!!!!!?」

 

「こんにちはDSRさん。 今日は何になさいますか?」

 

「彼女と同じものを」

 

「畏まりました」

 

 

過去話に没頭していて気がつかなかったようだが、この地区に所属するDSRが店を訪れていた。素っ頓狂な声を上げて飛び上がったDSR(純)だが、目の前の()()()()()()()()()のDSRを見るや否や顔を赤らめながら食いかかる。

 

 

「な、なんて格好をしてるんですか!? 公衆の場なんですよ!?」

 

「あら? これくらいいつものことよ、むしろ大人しい方・・・・・ね?」

 

 

DSRの言葉に、黙って頷く男性客一同。さりげなく組んだ足を組み替えたり流し目で見たり胸元に手を持っていったりと、こいつ人形じゃなくてサキュバスか何かじゃないかと思うような仕草で男性客を翻弄する。完全に手慣れたそれにDSR(純)はさらに赤面し、わなわなと震える。

 

 

「は、ハレンチですよ『私』! いたずらに人の心を弄ぶなんて・・・」

 

「ふふふっ、途中から聞いてはいたけど本当に初心なのね。 でも、あなたの格好も十分誘ってるわよ?」

 

「なっ!? こ、これのどこが・・・・」

 

 

ちなみに清楚な服とは言ったが、その見た目は暗めのハイウエストスカートに白のブラウス、髪を白いリボンでまとめるという、まぁ例の『特定層を殺す服』である。本人は至って真面目だがボディはDSRなので、結果としてやたらとエロく見えるのだ。言うなれば近所のお姉さんである。

 

 

「あら、特に狙ってもいないのにその服を選ぶなんて、やっぱりあなたも『私』なのね」

 

「ど、どういう意味ですか!?」

 

「DSRさん、落ち着いてください」

 

 

しかしこう見ると、 普段のイメージというものがどれほど大切かわかる気がする。なにせ世間一般のDSRのイメージは、『エロいし誘ってるように見えるが手が出せない』である。ところがDSR(純)は、『告ればワンチャンありそう』感がなくもない、むしろ目一杯甘えられる感じがする・・・・・・・という男性を魅了するという意味ではDSRはどこまで行ってもDSRなのである。

 

 

「うぅ・・・・私は誠実に生きていきたいのに・・・・」

 

「私が誠実でないみたいに言わないでちょうだい。 これでも身持ちは固いのよ」

 

「つまり処jy「な・に・か?」いえっ! 何も!」

 

 

いらんことを呟く男性客に釘をさしつつ、フッとため息を吐きながらDSRは手を差し出す。

 

 

「まぁいいわ。 どのみちこれからはこの基地の同僚よ、よろしくね『私』」

 

「そ、そうですね・・・・よろしくお願いします『私』」

 

 

ぎこちない手つきで握手を交わし、とりあえずこの場は一件落着する。これからまた騒がしくなりそうだと思いつつ、また一人常連客が増えるかもしれないことに少し喜ぶ代理人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ところで、服はそんな感じだけど『下』はどうなのかしら?」

 

「ひぇ!? い、いきなり何を言い出すんですか!?」

 

「何って、私は普段からずっと『黒』だから、それ以外ってどんな感じなのかと思ってね」ピラッ

 

「きゃあああああああ!!!!!!!」

 

「あら、やっぱり『白』なのね」

 

「DSRさんっ!!!」

 

「もうやだお嫁に行けない・・・・・」

 

 

end




人形にも個性があるはず、ということを気付かされたリクエストでした。機会があれば今度は『清楚な春田さん』とか書いてみたいですね・・・・・え?春田さんはもともと清楚だって?ハハハ、ご冗談を


というわけでキャラ紹介

DSR-50(純)
製造段階でメンタルモデルがちょっとバグったDSR。通常のものとは違いかなり初心で、服装も露出を避ける傾向にある。が、それが逆にエロいことに本人は気付いていない、狼さんホイホイである。
フリー素材

DSR-50
いつぞやに着任した、男心を弄ぶプロ。男心に限らず指揮官ラヴァーズも手玉に取る強キャラ。下着は基本黒。

代理人
グリフィンのおいて『人形の相談事=代理人』になっていることに若干呆れている。でも相談されればとりあえず乗る。
クルーガーは後日必ず〆る。


リクエストの注意点ですが、基本的にリクエストされた順番で書くようにしていますがパッと話が出来上がったらそっちを書ききるようにしていますので若干の前後はあります。
・・・・・という保険を書いておきますので許して☆
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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番外編27

増税後の初週末ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私の場合普段から遠出も買い物もあまりしないので増税の実感があんまり湧かないですね。
そういえば友人が某西側のテーマパークの年パスが値上がりしたと嘆いておりました・・・・・まぁ買ったそうですが。

さてそんなどうでもいいことは置いといて、今回は番外編!
・ノインの旅路2nd
・MG部隊の一幕(夜)
・新生活
・春田さんの衝撃


番外27-1:ノインの旅路2nd

 

 

ピンポーン

「? はーい」

 

 

なんだろう、と首を傾げながら玄関へと向かうノイン。絶賛旅中の彼女は今、現在でも世界の中心である巨大国家・アメリカ合衆国を訪れていた。東西南北、同じ国とは思えないほど多種多様な文化があり、世界を見て回ると決めたノインであっても流石に移動しっぱなしは骨なので、安宿を借りてそこを拠点にこの国を見て回っていた。

ようするにちょっとの間定住しており、今日はそのノインの元に宅配便が届いたのだ。

 

 

「ではこれで」

 

「はい、ありがとうございます・・・・・なんだろ、これ」

 

 

ひと抱えほどの箱はそこそこ重量があり、とてもじゃないが持って旅ができるほどではなさそうだ。間違いかとも思ったが、送り先の名前はちゃんとノインであり、ついでに送ってきたのは代理人だった・・・・・どこでこの住所を知ったんだろうか?

 

 

「まぁいっか。 代理人だったら食べ物かな?」

 

 

これがそこらの人形とかIoPの研究員とかだったら開けることなくポイなのだが、代理人が送ってきたものなら少なくとも害はないはずだ。その絶対の信頼の元、ノインが箱を開けると・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Open sesame」(CV.中ry)

バタンッ!!!

 

 

目にも止まらぬ速度で箱を閉じ、ついでにテープやらロープやらでぐるぐる巻きにする。そしてもう一度送り主の名前を確認し・・・・・『代理人』の文字の右下にめちゃくちゃちっさい字で『サクヤ』と書かれているのを発見する。比較的マシな部類の研究者だと思っていたが、どうやら認識を改める必要がありそうだ。

 

 

「ひどいではないか、わざわざ遠路遥々箱に詰められてやってきたというのに」

 

「って勝手に出てこないでよ!? というかなんなの!?」

 

「見て分からんか? ダイナゲートだ」

 

 

ノインの知るダイナゲートとはえらい違いである。少なくともこんな無駄にいい声で喋らないし、勝手に箱から出てくることもない。あとその場に座ってるだけなのに妙に太々しいのは気のせいだろうか?

 

 

「まぁ落ち着け、送り主を見ただろう? 代理人はお前のことを心配して、私を送りつけたのだよ」

 

「・・・・・ダイナゲート一匹で何ができるの?」

 

「索敵や閉所の捜索、それとライブカメラ機能でいつでも代理人たちに会えるぞ。 それと多少のものなら運んでやろう」

 

 

無駄に偉そうだなこいつ。とはいえまぁまぁ役に立つ機能ではある。それにダイナゲートは(たとえこんなAIであっても)休眠の必要がほとんどなく、人間であるノインの無防備な睡眠時の防犯に役立つだろう。それに、旅先でいつでも連絡できるというのもありがたい。

 

 

「ああそれと、たった今所有者登録を行った。 これからよろしく頼むぞ『我が主(マイマスター)』」

 

「それやる前に一言言ってよ!?」

 

 

こうして、ノインの旅に一匹のダイナゲートが加わった。愉快な一人と一匹の旅は、まだまだ続く。

 

 

end

 

 

 

番外27-2:MG部隊の一幕(夜)

 

 

司令部には風呂がある。結構大きめで複数の部隊が入っても問題ないくらいには広い。一応男湯もあるのだが、指揮官含め男性が少ないこともあり、基本的に両方とも人形が使っている。

そして今、その片方に訓練を終えたMG部隊が入っていた。

 

 

「あぁ〜〜〜生き返る〜〜〜〜」

 

「おっさんみたいよ、そんなんだからBarちゃんって「な・ん・で・す・っ・て?」・・・・イエナニモ」

 

「ほら姉さん、いつまで恥ずかしがってんだ背中くらい流してやれって」

 

「む、無理よ! それはもっと深い関係になってから・・・」

 

「もう十分そんな関係だろ!?」

 

「相変わらずね副長」

 

「逃げるように身体洗いに行った隊長もだけどね」

 

 

そんないつも通りの光景を眺めていると、ガラッとドアが開き一人の人形が入ってくる。新入りのAmeliだ。

 

 

「あ、Ameli! こっちこっ・・・・・ち・・・・・?」

 

「・・・・あの、どうしましたか?」

 

「へっ!? い、いや、なんでもないよ・・・うん」

 

「? では、失礼します」

 

 

そう言って湯船に入り、はぅ〜っと息を吐くAmeli。だがそれを隣で見るM1918の心中は穏やかではない。Ameliは小柄な人形であり、PKPと同じかやや低いくらい。一方M1918はMG5やPKと同様に背の高い方で、ある意味それ相応のものが付いている。

だが、Ameliのアレはなんだ?サイズ的にはもしかしたら自分や隊長と同じなのかもしれない。だが先の通り小柄な身体である。そのせいで明らかにおかしいくらいデカく見えるのだ。

 

 

「・・・・いつまでガン見してるのよBar」

 

「Barって言わないでよ! でもあれは見ちゃうでしょ」

 

「まぁ、確かにすごいわよね彼女・・・・浮いてるわよアレ」

 

 

M1918の隣でそう呟くSAW。無論彼女とて十分なものを持っているのだが、Ameliと比べると貧相に見えるから不思議なものだ。

と同時に・・・・・

 

 

「・・・・・アレ、柔らかそうよね」

 

「え? もしかしてSAW・・・」

 

「違うわよ。 ただなんとなく気になっただけ、深い意味はないわ」

 

 

SAWの言葉に一応引いてはみたものの、M1918とて気になる。だってみるからにマシュマロなのだ、なんかこう・・・グワシッとつかんでみたくなる。

 

 

「「・・・・・・・」」

 

 

風呂の熱気に当てられたのか、二人の目に怪しい光が灯りだす。そして二人はゆっくりとリラックスするAmeliに近づき・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日以来、Ameliから避けられるようになった二人だった。

 

 

end

 

 

 

番外27-3:新生活

 

 

「ほら、入ってこいよ」

 

「・・・・・・・」

 

 

処刑人は住んでいるマンションの鍵を開け、少女を手招きする。しかし少女は玄関先で固まったまま入ってこない。といっても警戒しているとかそんなわけではなく、ただ単純に部屋の内装に圧倒されているだけである。別段贅沢しているわけではないが、そこそこ金を使った普通の部屋は、孤児院暮らしだった少女には遠い雲の上の存在に思えたのだろう。

というわけで恐る恐る入っていき・・・・・・部屋の扉をくぐった先で処刑人に捕まった。

 

 

「よっと・・・とりあえずシャワー浴びてこい。 上がったら飯にすっぞ」

 

「・・・・・・・」

 

 

なされるがままに脱がされ、風呂場に連れて行かれる。一通り説明を受けると処刑人は部屋に戻っていき、残された少女はキョロキョロと周りを見渡しながらこれも恐る恐るシャワーを使い始める。

といっても、出てすぐのはお湯ではなく水であり、勢いよくかぶった少女は驚いて尻餅をつく。

 

 

「っ!? ・・・・・・!!!!」

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 

物音がして飛んできた処刑人だが、何が起きたかを察して笑いだす。そして今度はシャワーを適温にすると、自身も服を脱いで少女の体や髪を洗い始めた。

 

 

「うわっ、すげーボサボサだな・・・・・シャンプーするから目ぇ閉じてろよ」

 

「・・・・・・」コクッ

 

 

キュッと目を瞑ったことを確認すると、処刑人はワシャワシャと髪を洗う。最初は強張っていた少女だが、次第に力を緩めていき処刑人に体を預けるようになる。頭からシャワーをかけてシャンプーを洗い流すと、なおも目を瞑りっぱなしの少女にニヤリと笑ってくすぐり始める。

 

 

「〜〜〜〜〜っ!!!!」

 

「あははっ! ほら、洗い終わったから開けていいぞ」

 

「っ! 〜〜〜!!!」

 

「あ〜悪かった悪かった、そんなに怒るなって」

 

 

ポカポカと殴る少女を抱き上げると、脱衣所に向かって体を拭いてやる。さっきくすぐったのがそんなに嫌だったのか、いまだにむすっとした少女の頬を突きながら処刑人は言った。

 

 

「ほら、いつまで膨れてんだ。 着替えて飯にしようぜ」

 

「・・・・・・・・・・」コクン

 

 

処刑人はラフな部屋着に着替え、少女に途中で買ってきた服を着せるとキッチンに戻って料理を仕上げていく。いつものザラザラな服に慣れていたせいかどうにも落ち着かないようだが、次第に香り始めた匂いにつられてキッチンの方に向かう。

 

 

「お? なんだ、我慢できなくなったか? もうできるから座って待ってな」

 

「・・・・・・」コクッ

 

 

少女は言われた通りにテーブルの前にちょこんと座る。ちなみにちゃんとしたテーブルと椅子もあるのだが、椅子が一個しかないので座って食べられる低い折り畳みのテーブルを買ってきたのだ。

やがてトレーを持った処刑人が現れ、テーブルに料理を並べていく。冷蔵庫にあるものと、少女のこれまでの環境を考えて消化しやすいものということで、処刑人が作ったのはシチューだった。ついでに残っていたパンも並べておく。

 

 

「さ、熱いうちに食おうぜ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

本人も腹が減っていたのかがっつく処刑人。それに釣られるように少女もスプーンを握って一口食べた。

 

 

「・・・・・・・・」ポロポロ

 

「ん? うぉっ!? ど、どうした、不味かったか!?」

 

「! ・・・・・・!!」フルフル

 

 

突然泣き出した少女にうろたえる処刑人だったが、少女は首を振ってまた食べ始める。どうやら美味しいからだと理解してホッとする一方、こんな料理でも泣くほどの彼女の境遇に改めて処刑人は

 

 

(・・・・・私がなんとかしねぇとな)

 

「・・・・ほら、おかわりはあるからゆっくり食え」

 

「・・・・・・」コクコク

 

 

夢中でシチューとパンを頬張る少女に、処刑人は微笑みながらそう言い、次は食器の持ち方を教えるかと一人呟いたのだった。

 

 

end

 

 

 

番外27-4:春田さんの衝撃

 

 

その日、S09地区の司令部でカフェを営むスプリングに衝撃が走る。それはカフェに入ってきた三人の男女。一人は彼女の愛する指揮官であり、もう一人は彼女の(一方的な)恋敵であるDSR-50。

だが、もう一人は・・・・・・

 

 

(誰!? 誰なのあの清楚ぶった悪魔は!?)

 

 

やたらと誘ったようなDSRとは真逆の、露出の限りなく少ない服装に身を包んだ女性。その顔立ちはDSRとよく似ており、しかし見るからに全然違うので姉妹銃か何かだろうと結論を下す。

そんなDSR2号(仮)が、愛しの指揮官と仲良く話しながらやってきたのだ。春田さんの心中やまるで大荒れの海原である。

 

 

(何!? 何なの!? そもそも清楚キャラって、私と被ってるじゃない!!!)

 

 

被ってねーよ、というツッコミが聞こえてきそうだがそんなこと春田さんにとっては関係ない。一応仕事モードなので笑顔のままだが、その手に持った皿は怒りに任せて磨いているせいでもう結構すり減っている。

 

 

「そんなことが・・・・・・だが君は君だ。 『DSR-50』らしさではなく『自分らしさ』でいいと思う」

 

「そういうこと。 だから私は私なのよ『私』♪」

 

「だ、だからといって! 過激な服装で街に行くのは遠慮してもらいたいんです!」

 

 

何言ってんだ清楚ぶりやがって、などとは口に出さず目の笑っていない笑顔で視線を送り続ける春田さん。しかも聞いたところによればアレもDSR-50らしい。おそらく何らかの理由があってああなっているのだろうが、彼女の中では『DSR-50=敵』である。何だったら今すぐ銃剣突撃でも構わない、いやむしろ滅多刺しだと強い念を送る。いつのまにか磨いているのが包丁になっている。

 

 

「ところで指揮官様、この後お時間はありますか?」

 

「む? 構わないがどうした?」

 

「少し、ご相談したいことが・・・・・お部屋に伺っても?」

 

「なるほど、わかった」

 

 

パキィ!

ミルに入れようとしていたコーヒー豆を握り潰し、額に青筋を浮かべる春田さん。

指揮官の部屋に行く?一人で?相談したいこと?・・・・・・・・・・ギルティ。

 

 

 

 

 

 

その夜、指揮官の部屋に突撃をかましたはいいもののめちゃくちゃ真面目な戦術相談だったため恥ずかしくなって逃げ出すことになるのだが、この時の春田さんは知る由もない。

 

 

end




ダイナゲートメインの短編が思い浮かんだのでもしかしたら書くかも。
というわけで早速各話の解説!

番外27-1
コラボ回で登場したダイナゲート、その送り先。戦闘能力はないに等しいが役に立つ。以後、ノインと行動を共にする。
マスターと従僕の関係だが、何となくセラスとアーカードっぽくもある。

番外27-2
あの体型を活かせるのは風呂回だと思った(真顔)
ちなみにSAWは『FF M249SAW』のこと。ドロップ限定人形であり、何気にスキンもある。
描写がない部分は妄想力で補うのだ!

番外27-3
処刑人と暮らし始めた少女。名前はないがいっそこのまま『少女』でもいい気がする・・・・・案があれば採用するかも。
処刑人ってパパもママもこなせる万能キャラだと思う。

番外27-4
全ての春田さん好き指揮官から命を狙われてもおかしくないくらい酷い話。でも悪いな、うちの春田さんはコレなんだ。
ぶっちゃけ暴走させて一番楽しいのはこの人。



リクエスト受付がメインになってますが、質問があれば答えます。あとオススメのドルフロ小説とかあれば教えてくれると嬉しい・・・・・最近新規開拓できてない気がするし笑
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第百十話:お酒の力を借りましょう

いただいたリクエストをメモに書き出しているんですが、まだまだ未消化のものが多いですね。というわけでこれもその一つ。
WAちゃんってなんでこう弄りやすいんだろうか。


人形にはアルコール分解機能がある。人間でいう肝臓のようなものではなく、文字通りアルコール分を強制中和、一気に酔いを覚ますという人形らしい荒技である。これはもちろんスクランブルがかかった時などに酔っていては問題だからであり、じゃあ酔わなければいいんじゃねというとそれはそれで違うのだ。古来より酒の席はコミュニケーションの場であり、そこに溶け込もうとすれば必然的に酔う機能が必要なのだ。

 

さて、そんな人形たちにも酒の強い弱いがある。ロシア・ソ連組やM16あたりは強い人形の代名詞で、彼女らに聞けばオススメの酒屋に案内してくれるくらいだ。

その一方、決して強いと言えない人形もおり、精神年齢の低めなHGやSMGがそれである。といってもこの辺りは予想がつくのでなんら問題なかったりする。問題は、一見いけそうなのに極端に弱い人形である。

 

 

「9〜大好き〜〜!」

 

「よ、416・・・みんなが見てるかrんむっ!?」

 

 

酒に弱く、酔うと収拾がつかなくなる人形筆頭のHK416。彼女に飲ませてはならないというのは誰もが知っているはずなのだが、いったいどこの誰が飲ませてしまったのか完全に酔っ払い、止めようとした9に熱いディープキスをかましている。

 

 

「あっはっはっは!!! なんだ416、相変わらず酒に関しちゃクソ雑魚だな!」

 

 

そんな光景を眺めながら酒を飲むM16。お前が犯人か。

 

 

「うるひゃいわねぇ・・・ひゃんとのんれるれしょぉ!」

 

 

呂律の回っていない舌でそう言ってからの酒瓶を掲げて抗議する416。一応言っておくが彼女はその瓶は彼女が飲んだものではなく、たまたまテーブルに置いてあっただけものだ。彼女自身はコップ半分しか飲んでいない。

 

 

「はぁ・・・相変わらずうるさいわねアイツ」

 

「すみません、姉さんには後でしっかりと言っておきますから」

 

 

そんな喧騒からちょっと離れたカウンター席にいるのは、ほんのり顔を赤らめながらチビチビとワインを飲むWA2000。その向かいにはこの『喫茶 鉄血』の制服に身を包んだM4。

毎週金曜日の夜のみバーとして営業する喫茶 鉄血だが、今日はS09地区司令部の面々で貸し切りのようだ。M4がしれっと従業員側に混ざっているのはいつものことだ。

 

 

「いいではないですか、こういう時くらいは羽目を外してみても」

 

「代理人・・・・・」

 

 

配属当時よりは交流が増えたとは言え、未だに司令部内ではやや浮いているWAの数少ない友人である代理人がなだめる。もっとも、代理人は彼女がこの飲み会自体に乗り気ではないことは知っている。やや丸くなったとはいえ彼女はプライドの塊であり、夜間警備を疎かにしてまで飲み会をやる理由も、それを許可する指揮官の考えも今ひとつ理解できないでいるのだ。そして当の指揮官は指揮官同士の交流会に呼ばれてしまい、ここにはいない。

 

 

「そうは言うけど、私はこの雰囲気が好きじゃないの。 見なさいよあっちを、指揮官不在のせいで大荒れよ」

 

 

そう言って指差す先は、スプリングをはじめとした指揮官ラヴァーズの飲みエリア。初めのうちはどんよりムードで飲んでいたのに、酒が入りはじめとたんヤケ酒モードに切り替わってしまった。そこにM16やG11、そしてDSRがチャチャを入れるもんだからもう止まらない。

・・・・・スプリングが脱ぎ出したあたりでガーランドが止めに入った。

 

 

「なんであそこまでさらけ出せるんだか・・・・」

 

「お酒の力ですよ・・・・・いい機会です、あなたもお酒の力を借りてみては?」

 

「お酒の力、ねぇ・・・・・いいわ、乗ってあげるわよ」

 

 

そう言ってWAは、ワインの注がれたグラスを持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だかりゃ! わらしはこりょしにょためにうまれたろよ、わかってりゅの!?」

 

「お母さん、これ・・・・」

 

「416さんと同じタイプだとは思ってもみませんでした」

 

 

代理人とM4が茫然とする目の前で、WAは空になったグラスを振り回しながら熱弁する。といっても内容と呼べる内容はなく、ただひたすら『自分は戦うために生まれてきた』とか『戦わずしてなにが戦術人形か』みたいなことを言い続けてるくらいだが。しかしその原因となったのはたった一杯のワイン。度数がある方だとはいえたった一杯でこうなるとは思ってもみなかったのだ。

 

 

「でも、以前の基地に比べればマシですよね?」

 

「そう、そうにゃにょよ! アイツと違って真面目でちゃんとみててくりぇて・・・・・うぅ・・・」

 

 

怒って泣いて怒ってまた泣く。416のような絡み酒(9限定)やキス魔(9限定)ではなく、情緒不安定になるようだ。そして起こる時は普段の不満を、そして泣く時は言い過ぎたことへの後悔などが主である。

曰く、素直に感謝できない、なんか一言多い、口癖のように『バカ』、挙げ句の果てにはつい避けてしまうなどなど・・・・・まぁ誰もがWA=ツンデレだと知っているので全く問題ないのだが、本人は相当悩んでいるようだった。

 

 

「大丈夫ですよWAちゃん、きっと皆さんもわかってくれてますから」

 

「嘘よ、絶対嫌われてるに決まってる・・・・あとWAちゃん言うなぁ・・・・・・」

 

 

グスグスと泣き出すWAに、代理人もM4も苦笑する。だがここで一つ疑問がある。それ自体は大したことではないのだが、答え次第によっては彼女の今後に大きく関わる。

 

 

「・・・WAさんは、もしかして指揮官のことが好きなんですか?」

 

 

極力周りに聞こえないように、特にラブ勢には絶対聞こえないような声量で尋ねる。さっきから聞いている限り、だいたい指揮官のことばかりだったからだ。

 

 

「好き・・・・は好きだけど・・・・・・多分そうじゃないの・・・・・・」

 

「と、言いますと?」

 

「指揮官は優しいのよ。 戦うために生まれた私にも・・・・だから怖いの、『私』が『私』じゃなくなりそうで・・・・・」

 

 

少し落ち着いたのか、ポツポツと話し始めるWA。代理人とM4は、それをじっと聞いていた。

 

 

「ちゃんと任務にも出してくれるし、積極的に使ってくれる・・・・・でも扱いは人と同じ・・・・・私は、兵器なのに・・・・・」

 

「WAさん・・・・・・」

 

「私は・・・・私はどうしたらいいのよぉ・・・・・・」

 

 

泣き崩れるWAに、ひとまずM4を他の客の相手に向かわせる。幸いこのカウンター席にいるのは彼女一人なので、代理人一人残っておけば問題無い。

代理人はWAの頭にふわりと手を乗せると、優しく撫ではじめる。

 

 

「・・・・・・なによ?」

 

「いえ、こうすれば落ち着くでしょうから・・・・・・好きなだけ吐き出しても大丈夫ですよ」

 

「・・・・・・・・・代理人は、なんでこの仕事を?」

 

 

唐突に投げかけられた質問に、代理人は一瞬キョトンとする。が、すぐにフッと微笑むと話し始めた。

 

 

「理由はいろいろありますが・・・・・人の暮らしというものに興味があったから、ですね。 もともと閉鎖的だった鉄血工造ですから、こうして外に出ることに憧れていたのかもしれません」

 

「戦術人形なのに?」

 

「ええ。 戦術人形が必ずしも戦わなければならないわけではありません。 それは人も同じ、軍人だからと言って死ぬまで軍人だとは限りませんしね」

 

「・・・・・・・・・」

 

「結局は、自分のやりたいことをすればいいのではないでしょうか? その結果グリフィンを抜けることになったとしても、ね」

 

 

グリフィンを抜ける、そんなことを今まで一度も考えたことのなかったWAは目を大きく見開いた。IoPで作られ、取引相手であるグリフィンで働く、それが当たり前だと疑いもしなかった。

だがもしかしたら、そこに自分の求めるものがあるのかもしれない、そう思えた。

 

 

「・・・・・ありがとう代理人。 なんだかちょっと楽になった気がするわ」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

互いに笑顔でそう言い合う。そしてWAは言った通り気が楽になったのか、それとも良いが限界に来たのか、目を半分閉じながらコクリコクリと首が揺れ始める。それと同時にまた顔が一段と赤くなり始め、代理人は毛布を持ち出してそっと肩にかけた。

 

 

「ありがと・・・・・なにか・・・お礼しないと・・・・」

 

「結構ですよWAさん。 今はゆっくり休んでください」

 

「うん・・・・・じゃあ、最後に、ちょっとしゃがんで?」

 

「? こうですか?」

 

 

 WAに言われるがまま、少しかがむ代理人。

ところで先にも言った通り、WAも結構酔いやすい。そして気が緩んでアルコールが回り、結果目には怪しい光が灯り始めていた。そして代理人の顔がちょうど真横にきたあたりで・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・チュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・え?」

 

「んふふ・・・・・ありがと、代理・・・人・・・・・(パタン)・・・・zzz」

 

 

一瞬重なった唇に思考が停止する代理人。そしてそこで限界に達したのか、WAは机に突っ伏すと静かに寝息を立て始める。そしてあまりの衝撃に代理人は気づけなかった。

・・・・・遠目にその光景を見ていた人物がいることに。

 

 

「・・・・・・・・・・」バタン

 

「ええええ!? ダネル、どうしたのよ!?」

 

「おい! こいつそんなに弱かったか!?」

 

「で、でも今日はあんまり飲んで無いよ!?」

 

「おいダネル! ダネルっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・とりあえず、運びましょうか」

 

 

代理人は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜〜〜〜ん・・・頭痛い・・・・」

 

「だ、大丈夫416?」

 

「ありがとう9・・・・ごめんなさいね、一人で勝手に寝ちゃって・・・・今度埋め合わせするわ」

 

「う、うん・・・・・・」

 

 

翌朝、上の階から降りてきたのは頭を抱えた416とそれを支える9。基地に戻れるものは昨晩のうちに戻り、どう頑張っても帰れそうに無い人形は部屋を借りて過ごしたのだが、9はその付き添いだ。ちなみに帰れなかったのは416と、WAのみである。

 

 

「でもよかったわ・・・・寝てなかったらきっと酔った勢いで襲ってたかもしれないわね」

 

「え!? そ、そうだね!」

 

 

酔うと記憶がなくなる、大変都合の良いメモリーを持った人形416。その姿をこっそりカメラに収めるマヌスクリプトに気付くものはいなかった。

さてそんな酔っ払いのもう一人、WAは未だに部屋でじっとしていた。酔いは覚めているし気分も悪くは無い。だがそんなものが原因ではなかった。

 

 

(わ、私・・・・・昨日・・・代理人に・・・・え、これって夢? 現実??? でも記録は残ってるからこれは・・・・・・)

 

「あの・・・・WAさん?」

 

「ひゃいっ!? な、なにか用かしりゃ!?」

 

 

動転してなんでも無いところで噛んでしまうくらいテンパっていた。416と違い、どうやら都合よく忘れてはくれなかったらしい。目覚めると同時に頭から布団を被り、『う〜』とか『あ〜』とか呻き続けていたのだった。

 

 

(そ、そうよ! 代理人に聞けば・・・・そして『知らない』と言ってくれれば大丈夫!)

 

「あ、あの・・・代理人、昨日は・・・・・」

 

「大丈夫ですよWAさん・・・・・・・その、誰にも言いませんから」

 

「 」チーン

 

 

この日、WAが布団から出てきたのは、陽が真上に登り切った頃だったという。

 

 

 

end




殺しのために生まれてきた女(笑)
そして酒回となれば出さないわけにはいかない416。
できれば出したかったけど詳しく知らないから諦めたヴァルハラ勢!


というわけで今回のキャラ紹介!

WA2000
WAちゃんって呼ぶと怒る、可愛い。
素直になれないけどそれに悩んでてでも結局素直になれない、可愛い。
目をグルグルさせながら狼狽る、可愛い。

M4
ごく自然に従業員側にいる人形。もうここの店員でいい気がしてきた。
まだ先の話だろうけど、原作のMOD化をどうしようか・・・

416
酒といえばこいつ。実はリクエストがない段階では416が暴れてF45を巻き込み45姉が襲われるというストーリーがあった。9との絡みはその名残。
ドイツ銃のくせにやたらと酒に弱いのはどうかと思うんですが・・・・

代理人
お悩み相談なら彼女にお任せ。
その結果ファーストキスを奪われたが特に気にしていない。
同性でしかも酒によっていたのでノーカン。



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第百十一話:FALのお悩み相談室

一昨日のアップデートでついにペットの種類が増えましたね、溜めに溜めまくったバッテリー(9999)をふんだんに使おうではないか!

トカレフちゃんのスキンめっちゃ可愛い(このコメントは本編の内容とは一切関わりはございません)


喫茶 鉄血には特にこれといったルールはない。全席禁煙でもなければペットの持ち込みも可能、 子連れからお年寄り、学生に至るまで誰もが使える喫茶店なのだ。とはいえ他の客とのトラブルを避けるべく、喫煙者とペット同伴者は外の席に行くことが多いが。

そんな喫茶 鉄血のカウンター席に座る人形に、今ちょっとした注目が集まっていた。一人は新顔なので当然といえば当然なのだが、もう一人はまるっきり雰囲気が変わっていたのだから。

 

 

「うふふふふふふふ・・・・・」

 

「あの、FALさん?」

 

「大人しくて可愛いわねぇ・・・鳥を飼ってみるのもありかも。 ね、ピーちゃん?」

 

「目が怖いですって!? あと勝手に私の相棒に変な名前つけないでください!」

 

 

目が若干イってしまっているFALにやや引き気味の人形は『ファルコン』。本部から送られてきた精鋭であり、製造数もごくわずかという人形である彼女がFALと共にいるのには訳がある。というのも二人の共通点として、動物を相棒としていることが挙げられる体。FALの場合はフェレットを、そしてファルコンは猛禽類だ。ただ本人もこれが鷹なのか鷲なのか隼なのかはわかっていないらしい。そんなわけで動物と戦場を駆け抜けてきた先輩ということで話を聞きにきたのだが・・・・・やたらとご機嫌なのは何故だろうか。

 

 

「うふ、うふふふふふふ・・・・・♪」

 

「あら、珍しく機嫌がいいですねFALさん・・・・・それとお隣の方は?」

 

「あら代理人、紹介するわね。 本部から今日付で配属されたファルコンよ」

 

「あなたが代理人さんですね。 本部でも噂は聞いていました、よろしくお願いします」

 

「う、噂、ですか?」

 

 

絶対ろくなものじゃないと思う代理人。そしてその予想は当たっており、元鉄血で美味しい喫茶店のマスターというまともな情報が4割、人形の悩みを解決してくれるありがたい人というのが6割である。何故か社内報に話を聞いてもらった人の体験談などが載ることがあり、本部では知らぬものなどいない有名人である。

特に人形は最初必ず本部で研修を受けるため、一度は噂を聞いたことがあったりする。

 

さてそんなことは置いておき、代理人が気になるのはやはりこのFALの機嫌の良さ。彼女とて四六時中憂鬱な表情というわけではないが、少なくとも喫茶 鉄血に来る=目が死んでいるイメージしかないのだ。

 

 

「何かいいことでもありましたか?」

 

「あら、いいこともなにもここ最近は平和よ。 いえ、もうこれ以上にないってくらい幸せなの! その証拠に最近は胃薬のお世話になることがほとんどないわ!」

 

「い、胃薬?」

 

 

新米のファルコンはまだ知らない、極度のストレスを受けると人形とて胃薬が必要なことを。そしてこのFALの装備品には必ず胃薬が一瓶用意されていることを。

とはいえそれも過去の話で、今は彼女を悩ませるある集団がかなり大人しくなったからだ。まずシスコンMGことMG34は本部へと移動となり、それに伴い妹の配属も本部となったためもう暴走を止める必要がなくなったこと。そしてシスコン会会長であるUMP45はUMP40やF45に追いかけ回されていてそれどころではない。あとはM16だがこいつ一人だとそこまで暴走しないので、結果的のようやく平穏が訪れたのだった。

 

 

「そう、これで今までの地獄のような生活からはおさらば・・・これから輝かしい日々が待っているのよ・・・・」

 

 

確かに血の気は良くなったがなんとなく危うい儚さを宿した目でそう呟くFALに、ファルコンはもしかしなくてもブラック司令部に来てしまったんじゃないだろうかと心配する。もちろん司令部自体はホワイトなのだが、ホワイト過ぎるが故の一部暴走である。

 

 

「例の会から解放されたのはわかりましたから戻ってきてください、ファルコンさんが怯えてますよ」

 

「はっ! ごめんなさいねファルコン。 用があるから呼んでくれたのに」

 

「い、いえ、大丈夫ですよ」

 

「じゃあ早速話を聞こうかしら。 ついでに何か食べる? 奢るわよ?」

 

「本当に機嫌がいいんですねFALさん」

 

 

代理人も苦笑するほどのいきいきとした表情である。というわけで軽食にサンドウィッチとパンケーキ、コーヒーを注文してからFALのお悩み相談開始だ。

シスコン会でなんとかやっていけていたことから、もともと彼女は人の話を聞くのがうまい。そしてそれなりに経験と実績があるので、こうして相談を受けるのはわりと得意なのだ。

 

 

「相談、というよりもアドバイスをいただきたいんです。 FALさんは相棒のフェレットさんと一緒に行動していた後聞きましたので、私たちも何か参考にしたいなと」

 

「参考、ねぇ・・・・といってもあなたと私じゃまるっきり運用方法が違うからね」

 

 

ファルコンの相談事、それは彼女とその相棒でどのように活躍すれば良いかだ。人形がなんらかの補助装備を使うこと自体は珍しくなく、妖精もそれに含まれる。しかし動物と、となるとFALくらいしか前例がないのだ。

しかしFALの言うとおり、二人は銃種も違えば相棒の動物も違う。FALはARとして前衛での戦闘がメインであり、場所も閉所から荒野まで幅広い。相棒のフェレットはそんな彼女の補助的な『目』であり、しかも小さいのでどんな隙間からでも侵入し偵察できる。

 

 

「でもあなたはライフルで、しかもピーちゃんって鳥でしょ? となると私と同じようには難しいわね」

 

「うっ・・・・それはそうですが・・・・あとピーちゃんじゃないです」

 

 

ファルコンの相棒を撫でながら呟くFAL。今更だがピーちゃん(仮)はかなり大人しく、撫でられようが触られようが全く動じていない。

そんなピーちゃん(仮)を撫でつつ、面倒見の良さからなにかしらアドバイスは言おうと思うのだった。

 

 

「まぁ思いつく限りじゃ、ピーちゃんに敵を探してもらってそれを狙い撃つっていうのが妥当なんじゃない?」

 

「それが訓練じゃ通じなかったんですよ」

 

「当たり前よそんなの。 互いにどんな人形がいるのかわかってるんだし、なにより演習場に鳥が飛んでたら違和感しかないでしょ?」

 

「え?」

 

 

ポカンとするファルコンに、FALはため息混じりに説明する。まず訓練では互いの戦力が開示された状態だし、ファルコンが相棒と連携を取るというのも丸わかりだ。真上に飛んできたら、黙っていてもあっちから近づいてきてくれるとわかるだろう。

逆に実戦ならどうかというと、当然ながら互いの情報はスパイでもいなければわかりようがない。舞台も演習場のようななにもない場所は少なく、頭上を鳥が飛んでいたところでそれが敵の策であるなどとは思いにくいのだ。

 

 

「ってわけだから、そこまで重く受け止めなくていいのよ、私だって訓練の時はボコボコにやられたんだから。 大切なのは、状況に合わせた戦い方ができるかどうか、よ」

 

「な、なるほど・・・・」

 

「まったく、この子の相棒を名乗るんだったらもっとシャンとしなさい。 グリフィンの訓練課程を終えたんだからね」

 

 

ちょっと厳しめに、でも感情的にはならずにそう論する。本人としてはアドバイスともいえないようなアドバイスだが、ファルコンにはどうやら響いてくれたようで一安心する。

 

 

「じゃ、私はもう戻るわ・・・・ご馳走さま代理人」

 

「はい、またのお越しを」

 

「あ、あの! 今日はありがとうございました」

 

 

ペコリと頭を下げるファルコンに、片手だけを上げて背中を向けるFAL。ファルコンはその頼りになる背中を、黙って見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で終われればよかったのだが、残念ながらFALの受難は続く。

 

 

バンッ

「あっ! FALさん!」

 

「見つけました!」

 

「な、なに!? なんなの!?」

 

 

突然現れたのはUMP40とF45。思わず一歩後ずさるFALに詰め寄ると、二人はFALの両腕をガシッと掴んだ。

 

 

「「FALさん! 45(お姉ちゃん)のこと詳しいよね!? ちょっと話を聞かせて!!」」

 

「は!? ちょっ、待っ、離してっ! 助けて代理人!!!」

 

 

悲痛な叫びを残し、無情にもドアは閉まる。ファルコンにとっての頼りになるFALのイメージは、瞬く間に苦労人へと変貌したのだった。

 

 

end




もう呪われてんじゃないかなってくらい苦労が舞い込む女、それがFAL。
ファルコンちゃんのボイス実装はよ

ということでキャラ紹介

FAL
本作屈指の苦労人。シスコン会自体には呼ばれることは減ったが、シスコンの呪縛からは逃れられそうにない。
彼女の求める素敵な出会いは訪れるのだろうか・・・(他人事)

ファルコン
本部から送られてきた新造人形。成績は優秀・・・なのだが訓練の結果のせいでやや自信がない。グリフィン的にはいつものように代理人に相談させる予定だったらしい。




気がつけばあと二ヶ月ちょっとで一周年になるんですね、なんかあっという間。
というわけで今回もリクエストや感想、受け付けてます!
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第百十二話:破天荒天才科学者と超特急同人作家

まず始めに・・・・・遅くなってすみません!!原作知らないキャラを書くってめちゃくちゃむずいっス!!!

というわけで『ホワイトアクア』様の作品『味方からも敵からもヤベー奴扱いされた指揮官達のいるドルフロ』とのコラボ!
ぜってー会わしちゃいけねぇ奴らを会わせるという蛮行

(あちらのコラボ回二話目の続きです。あちらを先に読んでおくことをオススメします→https://syosetu.org/novel/202504/)


わかりやすいあらすじ・・・チートな指揮官が来てついでに天災科学者のプルアが来て、やたらと同人誌に興味を持っていました(白目)

 

 

 

 

「あの・・・プルアさん? 悪いことは言いませんから引き返しませんか?」

 

「んん? なんで?」

 

 

代理人の制止の声に、プルアは首を傾げる。プルア的には単純に興味の矛先が向いただけであり、まぁいろいろ突っ走っちゃってる感はあるがなんら問題ないと思っている。が、代理人としては『同人誌=変態』のイメージが定着しているためどうしても良からぬ方に考えてしまう。身内のマヌスクリプトに女性として何か失っているヘリアン、同人活動こそないが全面協力も惜しまない17labにアーキテクト・・・ここに彼女が加わったらと思うとゾッとする。

 

 

「代理人は何か誤解してるね? 同人誌というものはエロに限ったものではないんだよ! 自分の想像を形にする、研究者たちとなんら変わらない創作・・・いや、創造活動だヨ!」

 

 

やたら目を輝かせながら早口で語るプルア。見た目こそ幼女だが齢100歳を超える彼女の世界には、どうやらその手のものはなかったようで、それが余計にのめり込む理由になってしまったらしい。

ついでに代理人も『同人活動』というものがどういうものかは知っているし別にR指定が全てでないこともわかっている。だがこの見た目幼女の目的は『ソッチ』だ。

 

 

「言いたいことはわかりますし無理に止めるつもりはありません。 ですが時と場所を考えて・・・・・」

 

 

ちょっと言い澱みながら説得する代理人。基本的に他人の趣味に口を出さない彼女がここまで言っているのは、単純に()()に聞かれるとまずいからだった。

そして、現実は残酷であることを思い知る。

 

 

「なにやら楽しそうな話をしているね、代理人」

 

「うおっ!? どっから湧いた!?」

 

「・・・・・・あなたには関係ありませんよマヌスクリプト」

 

 

ヌッと生えてきたかのように現れたのは当店の問題児の片割れ、最近評判が良くなりつつあるが根っこは変わらない変態ハイエンド、マヌスクリプトだ。グレイも驚いているが、本人や友人の方がもっとアレなのではと思うが口には出さないでおく。

 

 

「話はちょっと聞かせもらったよ! ならばこの同人界隈の新星、『写本先生』ことマヌスクリプトが手取り足取り教えてあげよう!」

 

「おおっ! アタシの名前はプルア、よろしくね! チェッキー!!」

 

(あぁ、終わった・・・・・)

 

(コーヒー美味いなぁ・・・・)

 

 

バッチリ自己紹介したマヌスクリプトに、完全にノリノリのプルア。代理人は若干光の消えた目で遠くを眺め、グレイはすでに現実逃避気味だ。

鉄血工造の(変態)ハイエンドモデル、マヌスクリプト。その界隈では知る人ぞ知る有名人で、代理人が今一番この場に関わらせたくなかった人物。普段はちゃんと指示を聞いてくれるし頼み事だって聞いてくれるのだが、こんな感じで熱が入るとたとえ代理人であっても止めることは難しい・・・・・今回も同様だ。

 

 

「聞くところによれば、君の世界にはこの手の娯楽がないそうだね? 実にもったいない、そうは思わないかな?」

 

「まったくの同感だよ。 だからこそ君の力を借りたいんだよ!」

 

「よろしい! ならばこの写本先生が一肌脱ごうではないか!」

 

「・・・・・・・・・部屋でやってください」

 

「ちょっ!? 代理人!?」

 

 

盛り上がりすぎて周りが見えなくなり始めたあたりで代理人が部屋へと誘導する。もう止める気もまったくないようで、遠い目をしたまま食器を洗っている。

代理人が諦める貴重なシーンである。

 

 

「じゃあ代理人、私は一旦抜けるね!」

 

「グレイ君、ここに呼んでくれた恩は忘れないよ!」

 

 

嵐のように上の階に駆け上がる二人を止めるものはおらず、後に残ったのはなんとも言えない沈黙だけだった。代理人の姿は一見すれば普通だが、なんとも言えない哀愁が漂っている。

 

 

「あー・・・悪かった」

 

「いえ、お客様に非はございません。 うちのスタッフの暴走ですので」

 

 

苦笑しながらそう言うと、代理人はフッと表情を緩める。確かに手のかかる部下ばかりだが、もともと代理人は上位モデルなのでそこまで苦ではない。それにマヌスクリプトは出会った当初の方がずっとアレだったし、今のもそれに比べれば幾分かマシなのだ。

 

 

「なんか今の代理人、ちょっとお母さんっぽいですよ」

 

「あら、顔に出ていましたか・・・・・でも、悪い気はしませんね」

 

 

そう言ってフフッと笑うと、代理人は二人が上がって行った階段の先を眺めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「できた! できたよ代理人!!」

 

「これぞ会心の出来! やっぱり持つべきものは同好の士だね!」

 

 

数時間後、キラッキラな笑顔で降りてきた二人が持ってきたのは一冊の冊子。薄い本・・・・・というのはまぁまぁに分厚いそれが、二人の熱意を如実に表している。

しかも見間違いでなければ、右下に小さく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が書いてあった。

 

 

「・・・・・一応聞きますが、まともな内容のものですか?」

 

「もちろん! (私たちにとっては)まともな内容だよ!」

 

「純粋な妄想の産物だね!」

 

 

人はそれを純粋とは言わないだろう。しかもこの二人(プルアに関しては詳しくは知らないが)の言うまともなんて絶対まともなものではないと想像がつく。

これには流石のグレイも唖然としている・・・・・なにせ見た目だけはJSなプルアがそんな本を抱えているだけで謎の犯罪臭がするのだ。しかも見た目は100歳超えのBBAなのだから余計に面倒である。

 

 

「グレイ君、今失礼なこと考えてないかな〜?」

 

「HAHAHA、まさかそんな」

 

「・・・・・で、それをどうするおつもりですか二人とも? 言っておきますがこちらでは流通させませんよ」

 

 

それもそうだろう。別に薄い本がダメとは言わないが表紙の絵は明らかにアルケミストが飛んでくるようなものだ。流石にマヌスクリプトが◯されるものを見逃すことはできない。

 

 

「そこは問題ないよ代理人!」

 

「これは私とプルア氏の友情の結晶だからね! 彼女の世界・・・・もといそこのグレイ君の世界で広めるつもりだそうだよ!」

 

「おいやめろ」

 

 

グレイの真顔のツッコミが入るが一切気にしない。やいのやいのと揉める三人だが、ふと外の夕日が沈みかけているのを見てプルアが言う。

 

 

「おや、もう日が暮れるね。 そろそろ帰ったほうがいいかもしれないよグレイ君」

 

「ん? あぁ、そうだな・・・・とりあえずそれは置いていけ」

 

「断る! 君をあっちに戻すのと等価交換だよ!」

 

 

それを言われては何も返せないグレイ。そんなわけでプルアはこっちにきたときの要領でワープを起動させ、帰る準備を整える。

その間に、代理人はいつものアレを用意しておいた。

 

 

「ではグレイさん、これを」

 

「これは・・・・・コーヒーか?」

 

「えぇ、挽いたばかりのものを密閉していますので、香りや味は落ちていないはずです。 あちらに帰って皆さんと飲んでください」

 

「すまないな、あらがとう」

 

「じゃあね同志プルア、いつか君の作品を見てみたいよ」

 

「もちろんだよ同志マヌスクリプト、いつかきっと」

 

 

やがて装置が起動し、二人の姿が光に包まれる。光が収まると二人の姿は影も形もなく、ついでにあの分厚い本も残っていなかった。

いつもとはちょっと違う来訪者を見送った代理人とマヌスクリプトは、安堵とちょっとした寂しさにため息をつき、仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてマヌスクリプト、規定の休憩時間を超えていますので今日は休憩なしですね」

 

「げっ!? 鬼!悪魔!!パンチラメイド!!!」

 

「ほぉ? 明日も不休で働きたいとは殊勝な心がけですね、シフトを変更しておきます」

 

「いやああああああああああああ!!!!!!」

 

 

end




なんだこれ?(自問自答)

ブレスオブザワイルドどころかゼルダシリーズやったことないんですよね、私。それどころかドラクエもFFも皆無!・・・・・エスコンは6以外全部やったけど。

さてそんなわけでキャラ紹介!

グレイ
ホワイトアクア様のところの指揮官の一人。他の指揮官の例に漏れずこいつも十分変人の部類。
お前のような指揮官がいるか!

プルア
ホワイトアクア様のとこから。といってもオリキャラではなく、ブレスオブザワイルドの登場キャラ。ロリババア。
おい誰だこいつとマヌスクリプトを合わせようとしたアホは!?

マヌスクリプト
ご存知トラブルメーカー。今回は久しぶりにそれを遺憾無く発揮した。
混ぜるな危険。

代理人
異世界って大変だなぁ、と思うようになった。同時に他の世界にマヌスクリプトがいないことにちょっとホッとしている。


ではではいつも通りリクエスト置き場、置いとくよ!
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第百十三話:二人のハロウィン

いつぞやに書くと言っていたハロウィン回!

というわけで、いつもとは少し違う雰囲気の喫茶 鉄血をお楽しみください。


カレンダーも10月に入り、時折肌寒い風が吹き始めた頃のS09地区。その街は今、全体的に黄色っぽいカラーリングに包まれていた。カボチャをくり抜いて作られたランタンがあちこちに飾られ、いつもより少々騒がしくなった大通りを子供達が駆け抜けてゆく。

そんなこの時期最大のイベント、『ハロウィン』一色に染まった街の一角にある代理人が営む喫茶 鉄血も、例外ではなかった・・・・・いや、むしろ大いに盛り上がっていた。

 

 

「いらっしゃいま・・・あらハンター、それにAR-15さんも」

 

「やぁ代理人、今日はやけに繁盛してるな」

 

「へぇ、服も内装もそれっぽのね」

 

 

やってきたのはこの店の常連にしてペア客第一号のハンターとAR-15。イベントごとのたびにハンターはこの街に帰ってきて、二人でデートするというのが鉄板になりつつある。当然ながらそのうちの一つでこの店にも訪れたりするのだが、今日は非常に珍しいことになっていた。

 

 

「ただ今カウンターのお席しか空いておりませんが、よろしいですか?」

 

「それは構わないが・・・・列ができるのなんて初めてじゃないか?」

 

 

そう、客の多い少ないはあれど収容人数を上回ることのなかった喫茶 鉄血で、初めて列ができてるのだ。流石に長蛇の列というわけではないが、こういうことは初めてなのでやや慌ただしい。

そして客の装いだが・・・・・なぜか仮装している客が多い気がする。

 

 

「えぇ、店の雰囲気を変えるのは決まっていたのですが・・・・・マヌスクリプトの思いつきで人が集まりまして」

 

「「思いつき?」」

 

 

代理人が困ったような顔で奥を指差すと、壁に貼られた矢印の下に『衣装貸し出しはコチラ!』とカラフルな文字で書かれていた。どうやら奥の従業員用休憩室につながっているらしく、そこに人が入ってはいかにもハロウィンですといった黒っぽいドレスで出てくる。なるほど、仮装が多いのはそんな理由か。

 

 

「てことは、ここにいる人はみんな?」

 

「全員ではありませんが、ほとんどはそうですね。 子供用のものもありますよ」

 

「アイツすごいな・・・」

 

 

そのマヌスクリプトだが、今朝まで不眠不休で衣装を作り続けた結果オーバーヒートを起こし、現在鉄血工造にて緊急メンテナンス中である。本人は泣きながら修復ポッドに入ったらしい。

それはさておきカウンター席に座った二人はそれぞれケーキとコーヒーを注文し、料理が出てくるまで店内を見渡す。

まず目につくのは当然ながら従業員の服装。いつもの喫茶店っぽいものではなくウェイターのようなもので、そして全員目元をマスクで覆っている。ゲッコーなんかは胸にバラを一本添えており、心なしかいつもより落ち着いた雰囲気のようだ。次に店の内装だが、流石に大きくは変えられなかったもののジャック・オ・ランタンや蝋燭、多分手芸で作った蜘蛛の巣とかが飾られており、ハロウィンっぽさが出ていると思う。

 

そんな感じでぼぉっと過ごしてると、ハンターは隣のAR-15が妙にソワソワしているのに気がつく。彼女も店内を見渡していたのだが、見ているのはほとんど仮装客か奥の衣装貸出室のようだ。相変わらず可愛いなぁと思いながら、ハンターは声をかけた。

 

 

「まだ少し時間がかかるかもしれんな。 ちょうど空いたようだし、奥に行ってみるか?」

 

「え? い、いいけど・・・」

 

「いかなくていいのか? 奥ばかり見ているからてっきり仮装したいのかと思ったが」

 

「うっ!? そ、それは・・・・・」

 

「私は見てみたいな、お前の仮装」

 

「う、うぅ〜〜〜〜・・・・・わかった、行く」

 

 

ハロウィンのお菓子のように甘ったるい空気を放ちながら、二人は近くにいたイェーガーに一言言って仮装室に入っていった。

仮装室のラインナップは、一言で言えば「流石マヌスクリプト」といったものだった。スタンダードともいえる黒いドレスやマント、吸血鬼をモチーフにした紳士服などからちょっと攻めた黒猫やゾンビ服やキョンシー、さらにどう考えても表には出れそうにないアダルティな服まで、とりあえず片っ端から作ったといった感じだ。といっても流石に着れるものと着れないものの区別はあるらしく、シンプルな服は結構な数を用意してある一方でダメな方はそれぞれ一着ずつぐらいだ。

 

 

「ふむ、なかなか悩むな・・・・・そっちはどうだ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おーい、AR-1・・・5?」

 

「ひぇ!? な、なんでもないわよ!?」

 

 

慌てて服を戻すAR-15だが、そもそもそこはダメな方の服が集まる一角、隠したところでである。しかもチラッとみた感じでは、猫っぽい耳とか尻尾が見えた気がする。あたふたするAR-15を微笑ましく眺めつつ、二人とも黒いドレスに猫耳カチューシャで合わせることにした。

 

 

「あら、お帰りなさい二人とも。 お揃いの子猫さんですか?」

 

「ああ、何にするか決められなくてな・・・・・似合うか?」

 

「それはお互いに聞いてみれば良いのでは?」

 

「似合う以外に言うと思うか?」

 

 

こうサラッと惚気られるのはハンターらしいのだが、その隣で彼女が顔を真っ赤にしながら俯いてしまっている。付き合い始めて長いはずだが未だに初々しい二人に、代理人もつい頬が緩んでしまう。

 

 

「ふふっ、では冷めないうちにお召し上がりくださいね」

 

「ありがとう、いただきます」

 

「い、いただきます」

 

 

二人は注文したケーキを一口食べる。ハンターの方はカボチャのモンブラン、AR-15の方はベリーのタルトで、どちらもこの秋限定のケーキだそうだ。わざわざ二人とも別々のケーキにしたのは、どっちも食べてみたかったから。

そしてこの二人の場合どうするかというと、まぁいつものアレである。

 

 

「はい、あーん」

 

「あーん・・・・ん、美味しい」

 

「じゃあ私にも一口くれ、あーん」

 

「言われなくてもあげるわよ・・・はい」

 

(褒められると照れるのに『あーん』は平気なんですね)

 

 

代理人の感想はほとんどの客の感想でもある。この二人は何故か照れる時と照れない時の差が不明瞭で、なんだったらこの場でキスするのは後者に含まれるらしい。というわけで終始甘〜い空気を漂わせ続けた二人は、気がつけば周りも気にせずイチャつき続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、やりすぎた」

 

「ご、ごめんなさい/////」

 

「まぁイチャつくなとは言いませんが・・・・・もう少し節度をもっていただければ」

 

 

一時間近くもイチャつき続ければそうなる。客の一人が鼻血を出して倒れたところで流石に代理人も止めに入り、軽く説教となった。彼女たちといい9と416のカップルといい、どこでもラブラブなのはいいことだが周りに気を配って欲しい面も多々あるのだ。

幸い客足も落ち着いてきたので大きな混乱は起こらなかったが、続けるなら他所でということで二人とも帰り支度を始める。AR-15に荷物を持たせて外で待ってもらい、ハンターは会計のためにレジに行くとお金を出しながら代理人に小声で言った。

 

 

「・・・・代理人、わがままついでに一つだけいいか?」

 

「? なんでしょうか?」

 

「実はさっきな・・・・・・・・」

 

 

ハンターの要望にちょっと驚いた代理人だったが、まぁ多分マヌスクリプトなら喜んで応じるだろうということで了承する。

 

 

「ただし、いつものことですが羽目を外しすぎないようにですよ」

 

「し、信用ないな・・・」

 

「普段はともかく、彼女のことになれば尚更です」

 

 

言っても無駄なんだろうな、とか思いつつ厳重に釘を刺しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇハンター、なんか長かったけどなんだったの?」

 

「ああ、実はこれを借りてきたんだ」

 

「これ? ・・・・・・って、嘘でしょ!?」

 

「気になってたんだろ?」

 

「そ、それはそうだけど・・・こんなの着る場所なんて」

 

「なくはない・・・・・ほら、あの建物とか」

 

「っ!? ば、バカ////」

 

 

end




ハロウィンの話を書こうといたら何故かハンターとAR-15の話を書いていた、何を言っているかry

続きはWEBで!
・・・・なんてのは置いといて、各々の脳内補完でお願いします(丸投げ)
じゃあいつものキャラ紹介!


代理人
前に一〇〇式の案で喫茶 鉄血をハロウィン仕様に。内装と制服をそれっぽくし、雰囲気を楽しむお店として1日限りのオープンとなった。
普段のメイド服に血のりをつけるだけでもよかったのだが、飲食店で血のりはちょっと・・・ということでボツに。

マヌスクリプト
多分誰よりもこの日を待ち望んだ人形・・・なのだがテンション上がりすぎて運動会当日に風邪をひく小学生のようなことになってしまった。
衣装の腕前は間違い無いので今後も需要はあるかも・・・・・クリスマスとか。

ハンター&AR-15
お馴染みのカップル。今更だが貧乳をいじられないAR-15が見れるのがこの作品の特徴だと思う。
なんか毎回『そういう所』に行ってる気がするけど仕方ないよね!



。すまきとい置LRU用トスエクリ
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番外編28

気がつけばもう十月の半ば、今年が終わるのもあと二ヶ月もない・・・・・来年には社会人になるのでなんとか今年度は目一杯書いておきたいところですね!

というわけで今回は番外編!
・酒に飲まれる者たち
・ピーちゃんと私
・にゃんにゃん装備、再び
・ノインの旅路2ndG


番外28-1:酒に飲まれる者たち

 

 

「いい加減にしてください!」

 

 

離れた席でWAちゃんが代理人と話しながら静かに飲んでいた頃。飲み会の席でそんな声が響き、ほとんどの人形が何事かと振り向く。そして声の発信源が誰であるかを確認すると、皆興味を失ったかあるいは関わらないように目を逸らした。

そんな周りの目など一切気にせず、顔を真っ赤にしたスプリングフィールドは熱く語る。

 

 

「私ほど女性としての魅力の溢れた人形はいません! 私こそが指揮官に最もふさわしいんです!」

 

「いいえ、それは断じてあり得ませんわ! だいたいただ胸が大きいだけで勝ち誇るその浅ましさ、気品のかけらもありませんわね!」

 

「まったくです! むしろあなたの場合はただ下品に大きいだけでしょう!」

 

「あら? 持たざる者の僻みですか? みっともありませんよ」

 

「どっちもどっちやろ、二人揃って仲良くいがみ合っとき。 節操のない人形は嫌われんで」

 

「そうそう、だからあなたもあっちに行ってていいわよガリル。 指揮官の隣は私がもらうから」

 

 

この場で最も混沌とした席、指揮官ラブ勢のテーブルでは、お馴染みの春田さん、Karちゃん、ウェルロッド、ガリル、モシン・ナガンの五人が火花を散らしていた。

司令部の飲み会なのに指揮官不在という事態に打ちのめされた五人は慰め合うために固まり、しかし気がつけばどれだけ指揮官が好きか、どれだけ自分がふさわしいかを語り合いはじめ、最終的にライバルを蹴落とし合うに至っている。誰も止めないのは、止めるともっとややこしくなるからだろう。

 

 

「もう我慢なりません! そこまでいうなら見せてあげます!」

 

「ちょっ!? 姉さんストップ!!!」

 

 

酒が入るともともとゆるい貞操観念がさらに低くなる春田さんが、上着に手をかけて脱ぎ始める。それを必死にガーランドが止めに入り、そのまま姉妹による取っ組み合いが始まる。

ここまではまぁいつも通り、だが今回は持たざる者(貧乳)と言われたKarの堪忍袋の尾がブチっと千切れる。さらに酒の勢いもあって、気がつけばコートと帽子を放り投げて脱ぎ始める。いくら貸切で男がいないとはいえ、自分の同型が肌を晒すという事態にこちらもカラビーナ(保護者)が止めに入る。

 

 

「ストップ! ストップですKar!」

 

「離してください! そこの◯◯(ピー)に思い知らせてあげますわ!」

 

「女の子が◯◯(ピー)とか言ってはいけません!」

 

 

暴れるKarを全力で押さえ込むカラビーナ、その光景眺めていた人形たちは『馴染んだなぁ』とちょっぴり嬉しく思うのだった。

結局収まりがつかなそうだと思ったカラビーナが無理やり酒を飲ませて潰すまで、ライフル二人の暴走は続くのだった。

 

 

end

 

 

 

番外28-2:ピーちゃんと私

 

 

司令部には医務室があり、それに併設される形で動物保護施設もある。保護施設といっても飼い主の居なくなったペットなどを引き取るか人形たちが個人的に飼っているペットを飼育しているだけで、おまけにこの街にも動物保護施設があるためそんなに数はいない。

そんなペットたちの箱庭だが、基本的に誰が管理しているとかも決まっておらず、ここを訪れる人形たちが交代で見て回っている。が、ここ最近は常連とも言えるある人形が主にここの管理を行なっている・・・・・FALだ。

 

 

「えへへ〜、みんなおはよう〜」

 

 

だらけきった顔で飼育小屋を掃除していくFAL。彼女の相棒であるフェレットもここの一員なので、他の動物たちを邪魔にならないところに誘導している。慣れた手つきで掃除を済ませ、綺麗になった部屋でふぅーっと一息つくと、再びにへっと表情を緩ませてある区画に行く。いくつもの籠と止まり木が並ぶ、鳥類用の飼育スペースだ。そしてそこに、FALの最近お気に入りの子がいるのだ。

 

 

「おはよ〜ピーちゃん〜!」

 

 

止まり木に止まったまま首をかしげる猛禽類、戦術人形ファルコンの相棒であるピーちゃん(命名:FAL)だ。ファルコンはこの名前をあまり気に入っていないようだが、FALが勝手にこう呼んでいる。

相変わらずだらけた表情のまま腕をスッと出すと、ピーちゃんがピョンと飛び乗る。

 

 

「うふふ〜、ピーちゃんは本当にいい子ねぇ〜」

 

 

他の人形が見たらドン引きするくらいの猫なで声で語りかけるFAL。もちろん言葉が通じているというわけでもなく、要するに独り言だ。だがここまでキャラが崩れきるほど、FALのストレスは大きいのだ。

 

 

「・・・またですか、FALさん」

 

「ん? あらファルコン、ピーちゃん借りてるわよ」

 

「だからピーちゃんでは・・・いえ、もういいです」

 

 

はぁ、とため息をつくのは本来の相棒であるファルコン。もちろん彼女とて自分の相棒が他人とベタベタしているのはあまり嬉しいことではない。しかしペルシカから聞いた「ピーちゃんと触れ合うおかげで胃薬の処方が減った」という話で色々察して諦めた。

そんなわけで、今日も先輩の憩いの時間を提供しているのだった。

 

 

「ピーちゃ〜ん♪」

 

(・・・・・これ、私が別の地区に行ったらどうなるんでしょうか?)

 

 

FALの将来をちょっとだけ心配するファルコンはそっと、自分がここにいる間だけでも彼女のストレスを和らげようと誓うのだった。

 

 

end

 

 

 

番外28-3:にゃんにゃん装備、再び

 

 

「さくやはおたのしみでしたね」

 

「いきなり何を言い出すんだ貴様は」

 

「・・・・・・/////」

 

 

喫茶 鉄血で衣装を借りてから一夜明け、というか体が動かなくなるまで××したので昼過ぎくらいにお礼を言いにマヌスクリプトのもとを訪れたハンターとAR-15。そんな二人にかけた第一声が、さっきの一言である。

 

 

「え? だってヤったんでしょ?」

 

「おまっ!? ち、ちょっとはオブラートに包め!」

 

「そ、そうよ!」

 

「あ、否定はしないんだ」

 

「「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」」

 

 

しれっと言い放つマヌスクリプトに顔を真っ赤にして黙り込む二人。決して初心なわけではないが、残念ながら相手が悪すぎた。さらにそんなマヌスクリプトはメモを片手にさらなる追撃に入る。

 

 

「で? どうだったの?」

 

「な、何がだ!?」

 

「何って・・・つけたんでしょ? にゃんにゃん装備」

 

 

にゃんにゃん装備、それはいつぞやにアーキテクトが開発した、装備するだけで語尾が「にゃん」になる謎装備。ご丁寧に本体とリンクして耳や尻尾が動くという徹底ぶりで、本人も自信作と言っている。そのうちの一つが代理人に送られ、それを取り入れたのが今回の仮装だった。

 

 

「さしずめ、子猫ちゃんを襲う狼ってとこかな?」

 

「わかった、正直に話すからAR-15に席を外させてくれ、今にもオーバーヒートしそうだ」

 

 

ハンターの隣、顔をこれでもかと真っ赤にさせて両手で覆い、それでも頭から湯気を立ち昇らせるAR-15は確かにもうダメそうだ。とりあえずAR-15を離れた先に移動させ、準備万端とばかりにマヌスクリプトの聴取が始まる。

 

 

 

「で、どうだった? 可愛かった?」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

「へぇ〜、どの辺が?」

 

「その、感情に合わせて耳や尻尾が動くところが・・・」

 

「そして安易に触っちゃってビクッと」

 

「し、仕方ないだろ、まさか感覚まであるとは思わなかったんだ」

 

「でも反応が可愛かったから触り続けたと・・・・二人とも可愛いなぁ〜」

 

「うぅ・・・もう勘弁してくれ・・・」

 

 

この後マヌスクリプトが代理人に捕まってこってり絞られるまでの約一時間、ハンターの恥ずかしい話は続くのだった。

 

 

end

 

 

 

番外28-4:ノインの旅路2ndG

 

 

前回のあらすじ

ダイナゲート(CV.中田ry)が なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしてあげますか?

・はい◀︎

・はい

 

 

 

「と、いうわけだ」

 

「いや、どういうことよ」

 

 

ここはとある国の小さなホテル。その一室にお邪魔させてもらった(追加料金払済み)ノインとダイナゲートは、そこでしばらく過ごしている人形たちのお世話になっていた。例の鉄血工造傘下の軍事会社所属のカスール、ジャッカル、サムライエッジである。

もっとも、カスールとジャッカルは微妙な表情のままダイナゲートを睨んでいるが。

 

 

「ん? どうかしたか?」

 

「いや、なんというかな・・・」

 

「貴様のようなチンチクリンでその声を出されるとイラッとくる」

 

 

この二人がここまで不機嫌になることも珍しく、また迷惑をかけるのかと頭を悩ませるサムライエッジ。一方のノインも早速トラブルメーカーになりつつあるダイナゲートにため息をつく。

 

 

「本当にすみません、騒がしくしてしまって」

 

「いえ、こちらこそ・・・泊めていただいている側なのに御迷惑を」

 

「・・・・お互い大変ですね」

 

「えぇ・・・」

 

「ええいもう我慢ならん!」スチャッ

 

「クククッ、私を殺すか?」

 

「「はぁ・・・・・・」」

 

 

とりあえず、ホテルに迷惑をかけないためにもこの三人(?)を止めることにした二人は、同じ苦労人としてか仲良くなれそうな気がするのだった。

 

 

 

end




なぜか間が空いてしまった。おかしいな、書く時間はあったはずなのに・・・・・
また私事ですが、先日企業様の内定式に出席しました。なんというか、いよいよ社会人が近づいてきた実感が湧きますね。

というわけで各話の解説!

番外28-1
WAちゃんと代理人が話している間に何があったのか、という話。相変わらず残念な春田さんですが、多分もう手遅れかと・・・

番外28-2
ようやく訪れたFALの癒し。でもどうしてもFALの笑顔が儚いものになってしまうのはなんででしょうかね?

番外28-3
ハロウィンの後日談。マヌスクリプトが完全復活を遂げて帰ってきた!
AR-15のつつましやかな胸が猫ランジェリーとか似合いそうだと思いm(銃声)

番外28-4
せっかくだしHELLSINGな二人もいるし、ということで前回に続いて今回の番外編も登場。
ちなみにこのダイナゲートは驚異的な回避力を誇るので二人がかりでも捉えられない。



はいではいつもの。
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第百十四話:裏方の彼女

スキル訓練で訓練用ドローンに混じって現れる彼女の苦労は言い表せるものでは無いと思う。


冷たい風が吹き始めた今日この頃。ハロウィンも終わりお祭り気分でいた街も落ち着き、どことなく冬の前の寂しさを感じさせるこの街で、今日も変わらず店を営む代理人がいる。

ハロウィンの後は何かと忙しくなり、特に そのハロウィンをメンテナンスで過ごしてしまったマヌスクリプトの悲しみは深く、しばらく部屋の隅でいじけていたほどだ。が、ハンターとAR-15のことを話すとすぐさま復活し、予想通りというべきかクリスマスの仮装計画まで立て始める。

 

そんな感じで今日も平和な一日を謳歌していた喫茶 鉄血。常連と学生と仕事合間の社会人で賑わうこの空間が、今日はずっと続くのだろう。

 

 

(ほんと、こんなに静かなのは久しぶりですね・・・)

 

 

しんみりと思う代理人。だが人はそれを『フラグ』という。

店の中からでも聞こえるほどのドタドタという足音と、直後にバァンと開け放たれたドアが、その平穏の終わりを告げた。

 

 

「うぅ〜〜〜・・・・・代理人〜〜〜〜〜〜!」

 

(・・・・・・・・・・・はぁ)

「・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 

口でも心でもため息を吐きながら、代理人は目の前の人形・・・SKSを迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

SKS、彼女は最初期と言っても良いほどに長くいるベテラン人形である。戦術人形による戦術が確立される前から戦場に立ち、今でこそ珍しいが当時は正規軍の部隊に混じることもあった。性能は飛び抜けていいというわけでは無いが、経験からくるアドバイスや指導は多くのライフル人形たちのお手本であり、MG部隊でいうところのMG34のような立ち位置だろう。

だが彼女の突筆すべき点として、人形たちのスキル強化訓練のアグレッサーを務めていることが挙げられる。普段は訓練用ドローンがその相手なのだが、ただの的相手では伸び悩むということで時々様子を見がてら相手をしているのだ。

 

 

「へぇ〜、じゃあすごい人形なんだね!」

 

「ありがとうDちゃん〜〜〜!」

 

「それで? そのあなたが何故私に泣きついてくるのですか?」

 

 

そう、代理人が解せないのはその一点。何かと相談を受けることの多い代理人だが相談役を公言しているわけでも無いし、そもそもそういうのは指揮官やIoP研究員の仕事だ。だがこのSKSは、真っ直ぐこっちにやってきたらしい。

 

 

「だってぇ〜〜〜、基地のみんながあなたに相談して良かった゛って゛い゛う゛か゛ら゛ぁぁぁぁ・・・・」

 

「あーはいはい、わかりましたから涙を拭いて、あと鼻水もです」

 

「もう女の子の顔が台無しだよ」

 

 

喋りながら泣き、泣きながら喋り、そして感極まってまた泣く。面倒臭い悪循環に陥ったSKSを放っておくこともできず、渋々代理人は話を聞いてやることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなして私をなんだと思ってるのよ! そりゃ確かに仮想敵なんだから狙われるのはわかってるわよ、けどいくらなんでもMG五人で囲んで『スタッカート』だの『火力集中』だのはあんまりよ!!」

 

「そ、そうだね・・・・Oちゃん助けて

 

「しかもその後はライフル部隊だよ!? とくにあのポンコツじゃ無い方のカラビーナ! あいつ絶対訓練いらないレベルでしょ!!!」

 

「耐えてくださいD、お給料増やしますから」

 

「ARに至っては榴弾何発飛ばす気よ! 訓練だからってありゃ無いでしょ!?」

 

 

とりあえず話を聞いてみれば、どうやら普段担当しているスキル訓練に不満があるらしい。というのも、この時期は比較的正規軍や他のPMCが自由に動けるらしく、一度の訓練に時間のかかるスキル訓練をまとめてやるにいいらしい。が、それはイコールSKSの負担が増えるということだ。

そんなわけで連日訓練の嵐であるSKSの我慢はついに限界に達し、なんと外出許可も取らずに飛び出してきたらしい・・・・・よっぽどキツかったんだろう。

 

 

「でも流石にあんまりだよね、それだけしんどいのに一人でなんて」

 

「でしょ!? もう少し労りの心ぐらい持ってくれてもいいのに!」

 

「そうですね、指揮官もこれを知っていながら見逃しているのであれば、相応の処分を受けてもらう必要があります」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「え? SKSさん・・・・まさか・・・・・・」

 

 

さっきまでの勢いは何処へやら、冷や汗だらだらで黙りこくるSKS。流石に不審に思ったのか、代理人とDは顔を見合わせる。そしてある結論たどり着いた代理人は、やや強めの口調で問いただした。

 

 

「・・・・・SKSさん、このことを誰かに相談は?」

 

「・・・・・してません」

 

「訓練中、顔や態度には?」

 

「・・・・出してません」

 

「当然指揮官には?」

 

「・・・・知られておりません」

 

「・・・・・・・・・・自業自得では?」

 

「カハッ!?」

 

 

あまりにも無慈悲な一言に机に突っ伏すSKS。まぁ実際言わなかったどころか誰にも悟られないようにし続け、今日に至るまで隠し通してきたせいでどんどん負担が大きくなってきたのだから自己責任ではある。多分一言でも相談していればこうはならなかったんじゃ無いかなぁ、とはDの談だ。

ついでに言えばそれぞれスキル訓練の時間が分かれてはいるが、自分の前後に誰が訓練しているかは把握していなかったようで、SKSも気を使われるのを避けるために言わなかったという・・・・・そりゃ全力で来られるって。

 

 

「とりあえず指揮官に相談しましょう、というかしてください」

 

「ごめんねSKSさん、今回は擁護できないかな」

 

「いえ、話私の方こそごめんなさい。 急に泣きついちゃったりして」

 

「・・・・ふぅ。 ですが、今回は意外とすぐに解決するかもしれませんよ?」

 

 

え?というSKSに、代理人はドアの方に目線をやって微笑む。するとドアが開き、ゾロゾロと人形たちが現れた。

 

 

「あの、ごめんなさいSKSさん、そんなに大変だったとは知らずに」

 

「部下の訓練のことで頭がいっぱいだったようだ、すまなかった」

 

「申し訳ありませんでしたSKSさん」

 

「み、皆、どうして・・・・」

 

 

M4、MG5、カラビーナ、それぞれが代表して頭を下げる。その後ろにいる人形たちも頭を下げ、謝罪する。唖然とするSKSに、顔を上げたM4が申し訳なさそうに言った。

 

 

「その・・・変な叫び声を上げながら門を出ていくSKSさんが見えまして・・・」

 

「指揮官に確認したら、外出許可の提出もなかったと」

 

「門番の人も止める間も無く出て行ったと言っておりまして・・・」

 

「「「問題になる前に連れ帰ろうと・・・」」」

 

「 」チーン

 

「あらあら」

 

 

どうやらよっぽど参っていたようで、コソコソ抜け出すこともなければ後のことを考えてもいなかったらしい。自分でも間抜けなことをしたと思ったのか、SKSはもう何も言えないようだ。

ですが、とM4は口を開く。

 

 

「御迷惑を、というよりも負担をかけすぎてしまったことは私たちの責任です。 基地に戻って、指揮官に相談しましょう」

 

「それと、私たちからもお詫びをさせてほしい」

 

「ですから、どうか帰ってきてもらえませんか?」

 

「・・・・・うぅ・・・皆ぁ〜・・・・」

 

 

ついにボロボロと泣き始めるSKS。完全に蚊帳の外になってしまった代理人たちだが、どうやら一件落着したようだと一安心する。

やがてひとしきり泣いた後、他の人形たちを外で待たせて、SKSは涙を拭いながら言った。

 

 

「ありがとう代理人、Dちゃん」

 

「ふふっ、私たちは何もしていませんよ?」

 

「それでも、です。 ・・・・・また相談に乗ってもらってもいいですか?」

 

「うん! いつでも相談に来てくれていいよ!」

 

「さぁ、皆さんが待ってますよ・・・・またのお越しをお待ちしておりますね」

 

「・・・・うん、ありがとう!」

 

 

パァッと笑顔を浮かべ、店を出るSKS。終わってみればあっけないような気もするが、それがこの店らしい気もするのでよしとしよう。

安心と疲れの混じったため息を吐いて、二人はまた仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

 

「聞いてくださいよ!? 最近のハンドガンの娘ってなんであんなに物を投げたがるんですか!? 手榴弾に火炎瓶に斧まで!!」

 

「「・・・・・はぁ・・・・」」

 

 

SKSの愚痴と二人のため息は続く。

 

 

 

end




はい、というわけで星2のライフル人形のSKSちゃんでした!
スキル訓練でたまに現れてはドローンと同じく倒される彼女はきっと面倒見の良い娘なんだと思います()

では早速キャラ紹介

SKS
S09地区のベテラン人形。前線はもちろん、後方支援やスキル訓練にと大活躍。一人で抱え込む癖があり、今回はそれが爆発した。
以来、代理人とDに口をこぼしにくるようになったという。

代理人
この店に平穏が訪れるのは、ロシア勢が禁酒するくらいありえないことだ、と語ったらしい。

D
代理人に比べて話しやすい、それでいて代理人くらい親身に聞いてほしい、という人に人気の相談役。
マシンガントークに弱い。

M4・MG5・カラビーナ
AR・MG・RFを代表して謝りに来た。ちなみにこのカラビーナはいつぞやのコラボ人形。当然スキル訓練が要らないくらい強い。


季節の変わり目、体調を崩さないように気をつけましょうね!
あとリクエストボックス置いときます。
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第百十五話:義妹ちゃん

公式のハロウィンが予想の斜め上をいってた件
もう少し早ければハロウィン回で使えたのに・・・・!

今回のメインは常設イベントとなった低体温症で掘りを続け、ようやくやってきてくれたG28!
416よりもマイルドだけど言葉の端々に現れる完璧主義感が姉妹らしいですね。


ちょっと冷たい風が吹き始めた頃、今日も変わらず営業を続ける喫茶 鉄血のカウンター席ではS09司令部が誇るカップルが並んでコーヒーをすすっていた。UMP9とHK416である。

 

 

「はぁ・・・・・」

 

「どうしたの416、元気ないよ?」

 

「え? あ、あぁ、ごめんなさい・・・ちょっとね・・・・・」

 

 

9が心配そうに顔を覗き込むと、無理やり作ったような笑顔を浮かべる416。だがそんな顔は9はもちろん代理人にすら隠せるはずもなく、特に416のことが大好きな9がそれを放っておくことなどなかった。

 

 

「何かあるなら相談してよ416・・・こ、恋人でしょ?」

 

「あら、そこは断言してくれないのね9、悲しいわ・・・」

 

「もう! 心配してるんだから答えてよ!」

 

 

プンプンと頬を膨らませる9に416は苦笑し、やがて諦めたように話し始める。

 

 

「実はね、もうすぐこっちに妹が来るのよ」

 

「え? 416って妹いたの!?」

 

(417さん・・・・ではなさそうですね)

 

 

別の世界線から来たことのある416の妹分を思い浮かべるも、こちらの世界にはいないことは確認済みのため候補から外す。しかしなんというか、こんなやりとりをかなり前に一度見た気がするのだが。

 

 

(いつでしょうか・・・・・・確かあれは、45さんが・・・・・・・・あ)

 

 

そこまで思い浮かべ、そして同時にやっちまったみたいな顔(といってもほとんど分からないが)をする代理人。そう、以前に45と40が再会した時もこんな会話だったため、次に訪れる騒がしさが想像できてしまった。

そして現実というものは上手いことできているらしく、素晴らしいタイミングでドアが開け放たれた。

 

 

「いたっ! 会いたかったよ416!」

 

「げっ、もう来たのね『G28』」

 

 

満面の笑みで416の胸に飛び込んだのは、彼女とどこか似た服を纏った人形、その名も『Gr G28』である。先ほどの416の発言と彼女がぶら下げている銃から分かる通り、HK416とは姉妹銃にあたるのだ。ついでにボディも似せているのか、二人分の胸が潰れた饅頭のようになっている。

 

 

「G28・・・苦しい・・・・・」

 

「わっ、ごめん416!」

 

「よ、416、この人が?」

 

「えぇ・・・私の妹のGr G28よ」

 

「よろしくね!」

 

 

姉妹、というがその性格はかなり違うようで、フレンドリーで明るい雰囲気の人形だ。彼女といい9といいSOPといい、末女というのはテンションが高いものなのだろうか。

さてG28の自己紹介が終わったところで、今度は逆にG28の質問タイムだ。というか彼女からしてみれば、姉と妙に距離感の近い人形がいればいやでも気になるところだろう。

 

 

「で、あなたは?」

 

「あ、404小隊のUMP9だよ!」

 

「そして私の恋人よ」

 

「ちょっ、416!?」

 

「えっ、恋人!?」

 

 

その時の彼女の目は、まさに「キラーン」という音が聞こえそうなくらい輝いていた。製造以来離れ離れになっていた姉と再会してみれば、なんとも可愛い彼女がいるのだから当然である。しかもサラッと恋人と言える416と違い、アワアワと赤くなる9の初々しさがG28的にどストライクである。

 

 

「9ちゃん可愛いぃ〜! あ、9義姉ちゃんって呼んでいい?」

 

「え、ちょ、た、助けて416!」

 

「ちょっとG28、私の彼女に気安く抱きつかないで頂戴」

 

 

そう言って9を引き寄せ、ギュッと抱きしめる416。目の前で繰り広げられるラブコメに代理人はなんとも言えない顔をするも、とりあえず客として対応すべくいつもの調子に戻す。

 

 

「はじめましてG28さん、何かご注文は?」

 

「あ、そうだった。 じゃあホットコーヒーで」

 

「畏まりました。 では用意できるまで皆さんでご歓談ください」

 

「それじゃあ早速! 二人はどこまでいったの? C?」

 

 

代理人が下がって早々いきなりぶっ込んできたG28に、二人とも吹きかける。周りの状況よりも好奇心が勝ってしまったようだ。

他の客も聞こえないふりをしながら微妙に耳をこちらに傾けている。

 

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何を言い出すのよ・・・・・というかなんでいきなりCなのよ」

 

「え? してないの?」

 

「したわよ!」

 

「416!?」

 

 

G28が若干煽るように聞いたせいでムキになって答えてしまう416。9もまさか公衆の面前で暴露されるとは思っておらず、顔を真っ赤にして俯く。もっとも大体の客がもうそこまでいっているのを察しており、なんだったらたまに路地裏に隠れてイチャついているのを目撃することだってある。

ようするに、今更だ。

 

 

「へぇ〜、ラブラブだね二人とも。 でもまさかお堅い416に彼女ができるなんてねぇ・・・・・・で、9ちゃんは416のどこが好きになったの?」

 

「うぇ!? そ、それはその・・・・・厳しいけど、優しいとこ、とか・・・」

 

「ほ〜〜〜〜〜・・・・他には?」

 

「ほ、他? えっと、えぇっと・・・・・うぅ〜〜〜〜」

 

「なるほど、つまり長くいるうちに好きになっちゃったんだね!」

 

「 」ボンッ

 

「9!?」

 

 

G28のトドメの一言で頭から煙を吹いて倒れる9。それをやんわり支えると、416はキッとG28を睨む。

 

 

「あんまり調子に乗ってると、あんたでも容赦しないわよ」

 

「おー怖っ、まぁ程々にするから大丈夫だよ!」

 

「まったく、どの口がいうのかしら」

 

 

とりあえずオーバーヒートした9を抱くように膝の上に乗せ、落ちないように支える。そんなタイミングで戻ってきた代理人は、フフッと笑って声をかけた。

 

 

「待たせしました、コーヒーです。 相変わらずの仲良しですね二人とも」

 

「へぇ〜、いつもこんな感じなの代理人?」

 

「ええ、羨ましいくらいに仲がいいんですよ」

 

 

代理人にそう言われるのが少し恥ずかしいのか、支える9に顔を隠すように俯く416。だが赤くなった耳までは隠せていないので、照れているのが丸わかりだが。

そんな416が可愛いのか、G28は二人まとめてギュッと抱きつく。抱きつかれた416は若干鬱陶しそうにするも、意外なことにそれを払い除けることはしなかった。なんだかんだ言って大事な妹なのだろう。

 

 

「いいなぁ、私も416みたいに素敵な恋がしたいよ」

 

「でしたら、ここの指揮官さんはどうですか? まだフリーですよ?」

 

「あんた涼しい顔してエグいこと言うわね・・・・」

 

 

少しは楽しみませんと、とさらりと言う代理人に416は苦笑いを浮かべる。ちなみに指揮官がフリーなのは事実だが、指揮官ラブ勢の席は空いていないところまでは言っていない。もしG28が本気で指揮官を狙うなら、姉として止めるつもりの416だ。

 

 

「けどまぁ、気長に探せばいいわ。 私たちに時間はたくさんあるもの」

 

「それ、416が言っても嫌味にしか聞こえないよ」

 

「ふふっ、そうね、だって嫌味だもの」

 

「その性格の悪さは416のままだnイダダダダダダダダダっ!!!!!」

 

「ほんと、生意気なのは昔からよねG28?」

 

 

キリキリと頬をつねりあげる416、だがその顔はどことなく嬉しそうな感じで、やられているG28も同じだった。結局、姉妹の再会は喜ばしいものなのだろう。

一通りジャレあうと、二人は顔を見合わせて416はニコッと、G28はニカっと笑った。

 

 

「お帰り、G28」

 

「うん! ただいま416!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところでお酒は相変わらずダメなの?」

 

「えっ!? ちょ、ちょっとは飲めるようになったわよ」

 

「嘘っ!? じゃあ今度2人で飲も!」

 

「ええいいわ、私が完璧になったことを見せてあげる!」

 

「お願いですからおやめください」

 

 

 

end




書けば書くほど9と416が好きになる・・・これはもう麻薬だな。
ところで公式のハロウィンですが、絶対デストロイヤーちゃんは仮装してくれるだろうと期待したのにいつも通りなのには遺憾の意を示したいと思います!

では冗談はここまでにしてキャラ紹介!

Gr G28
416の妹(公式)
性格はまるっきり違うがカラーリング違いの416みたいな感じでもある。胸のデカさも含めて。
416と同時期に製造されたものの、特殊部隊ではなく通常の部隊としてグリフィンに納入された、という設定があるけど多分使わない。

416
おっぱいのついたイケメン。
こいつに酒を飲ませるとろくなことにならない、が公式の方がもっと酷いのでマシに見える。

9ちゃん
嫁、可愛い。

代理人
今まで黙ってたけどこの人も嫁、可愛い。


ではではいつものリクエスト置き場。
あと、文章の中で「ここはこうした方がいいよ」みたいなのもあれば教えてくれると嬉しいです!
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第百十六話:姉妹機

前回に続き今回も姉妹回。
リクエスト、キャラ案を頂きましたので書いてみました!

オリキャラ注意!


「・・・・はい・・・えぇ、分かりました。 こちらでも気を付けておきます・・・はい、では」

 

「Oちゃん、何かあったの?」

 

 

真剣な表情で受話器を握っていた代理人を心配するD。ちょうどお昼に差し掛かろうかという頃にかかってきた一本の電話が、その一件の発端とも言えた。

かけてきたのは鉄血工造においていつの間にか最も偉い地位についてしまっているサクヤからだった。その内容は・・・・・

 

 

「先程、鉄血工造でトラブルがあったようです。 心配は要らないそうですが」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

代理人は心配いらないというが、それが半分嘘であることをDは見抜いていた。というよりも本体のダミーなのだから、本体の微妙な違いくらい気がついて当然だ。だがそこはあえて触れないでおいた。

そんななんとも言えない雰囲気が漂い始める喫茶 鉄血だったが、少し強めに開いた扉に意識を向ける。

 

 

「よお代理人、席空いてるか?」

 

「あら処刑人、来ていたのですね。 空いていますよ」

 

「あ、その子も一緒に来たんだ。 こんにちは」

 

「・・・・・・・・」

 

 

現れたのはいつも通りラフな格好をした処刑人と、その後ろに隠れるようにしてひっついている少女の二人。ある一件で処刑人が引き取って育てているこの少女も連れてきたようだ。

前回きたときからそう時間は経っていないが、どうやらしばらく休暇になっているらしい。傭兵である処刑人としても、自分たちの出番が少ないならそれでいいいと思っているようで、気兼ねなく休みを楽しむつもりらしい。

 

 

「それで? 今日はなにをしに?」

 

「ん〜、挨拶かな? ほら、代理人やハンターは知ってるけどこいつと暮らすことになったからな。 付き合いが長い奴には一言言っておこうかって」

 

「なるほど・・・ではこの後は鉄血工造に?」

 

「ああ、他の奴はいずれ会うだろうし、とりあえずな」

 

「そうですか・・・・・では、ご注文を伺いましょう」

 

「ホットコーヒーを。 それとこいつにはジュースとパンケーキ」

 

 

そう言ってポンっと少女の頭に手を乗せる。カウンター席に座って足をブラブラさせる少女ににこりと微笑むと、代理人は奥へと下がる。そしてDが入れ替わるように二人の前に立つと、少し目線を合わせて少女に語りかける。

 

 

「こんにちは! お名前は?」

 

「っ! ・・・・・・」

 

「はははっ! ビビんなくていいぜ、こいつは私の仲間だ」

 

「・・・・・・」コクッ

 

 

頷き、一応警戒は解いてもらえたもののまだ一言も喋らない少女。ちなみに引き取って以来処刑人ですらまだ一度も声を聞いたことがないらしく、当然名前も不明・・・・というかあるのかすら怪しい。一度医師に診せたことはあるが、声帯等に異常があるわけでもないらしく、ただ本人が話さないだけらしい。

まぁそれなら仕方ないか、と納得してDはまた話しかけようとしたそのとき、突然ドアが勢いよく開き、店内に怒号が響き渡る。

 

 

「見つけたぞ! 処刑人!!!」

 

「っ!? 誰だてめぇ!」

 

 

名前を呼ばれた処刑人が振り向く。そこにいたのは、どことなく雰囲気が処刑人と似た一人の人形。黒を基調とした服装に、両腰にぶら下げた二本のブレードとソードオフショットガンが一丁、ショートの髪を揺らし、処刑人によくに高い目には憎悪の炎が宿っている。

鉄血人形らしきそれは腰のブレードを引き抜くと、処刑人に突き付けた。

 

 

「忘れたとは言わせねぇぞ処刑人、あの時の屈辱を倍にして返してやる!!」

 

「あの時? つかどこかで会ったか?」

 

「しらばっくれてんじゃねえぞてめぇ!!!」

 

 

いまにも斬りかかってきそうな雰囲気に、Dは少女を守るべく前に出る。だが現在武装を外しているため、本当に襲いかかってきたら身を挺する他ない。

一触即発、という時に、鋭い声が突き抜ける。

 

 

「そこまでです! 他のお客様に危害が及ぶようなことは、当店としては見過ごせません」

 

「っ! てめぇは!」

 

 

奥から帰ってきた代理人が一喝し、謎の人形に向き合う。彼女も代理人を知っているらしく、処刑人と同じく鋭い目つきで睨む。

トレーを置き、ゆっくりと武装を展開しつつ口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね・・・・・執行人(エンフォーサー)。 鉄血工造に見知らぬハイエンドが訪れたと聞いてもしやと思いましたが、やはりあなたでしたか」

 

 

『執行人』

それがこの人形の名前だ。この独特な名前から分かる通りに鉄血工造で製造されたハイエンドモデルである。

だが、処刑人は彼女のことを知らない。いや、正確には()()()()()()のだ。彼女は処刑人の姉妹機として製造され、処刑人同様に近接戦闘メインに立ち回ることを想定されている。だが当時の幹部たちは開発の中止を決定、代理人や処刑人の説得もあって廃棄処分は免れたが、ショックから逃亡してしまう。処刑人に記憶がないのは、この時メンタルに多大な負担がかかってしまったため記憶を消したからだ。

 

 

「てめぇは覚えてるってわけか・・・なら大人しくそこをどきな!」

 

「お断りします、そして武器を治めなさい」

 

 

代理人が語尾を強めつつ警告する。だが執行人も決して下がろうとはせず、睨み合いを続けている。

すると、その間に割って入る人影が。処刑人だ。

 

 

「! 処刑人、なにを!?」

 

「・・・お前の狙いは私だろ? 相手になってやる、表に出ろ」

 

「はっ、いいぜ、決着をつけてやる」

 

 

処刑人に促され、外へと出る執行人。それに続こうとする処刑人を、代理人が呼び止める。

 

 

「処刑人・・・」

 

「悪いな代理人、勝手に進めちまって・・・・けどあいつは、私の妹みたいなもんなんだろ? なら、ちょっとだけ姉貴面させてくれよ」

 

「・・・・・・・・」ギュッ

 

「ん? そんな心配そうな顔すんなって。 ちゃんと戻ってくるからよ」

 

 

そう言って処刑人はやや乱暴に少女の頭を撫でると、店の外へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・来たな」

 

「ああ・・・・じゃ、始めるか」

 

 

喫茶 鉄血の目の前にある小さな公園、その中央に立った二人は、向かい合ったままそれぞれの得物を抜く。処刑人はいつものブレードを、執行人は処刑人のそれよりかは小ぶりのブレードを二本、互いに銃は抜かなかった。それは周りへの配慮というよりも、刀だけで相手を超えるという意志の現れのようだ。

ゆっくりと構え・・・・・同時に地を蹴った。

 

 

「オラオラオラオラァ!!!」

 

「ちっ! 無茶苦茶だなおい!」

 

 

執行人の剣技は、お世辞にも綺麗なものではなかった。ただ力任せに振り回すだけの荒々しいものだが、しかし決して楽に捌けるものというわけでもなかった。おそらく我流でここまで来たのだろう、二振りの刀を交互に、時には同時に振り抜き、一切の反撃も許さずに追い詰めていく。加えて処刑人の戦い方は大振りの一撃離脱で、一対一の切り合い自体不得手であった。

 

 

「いける・・・これで、お前を超えられる!」

 

「超えて・・・それでどうすんだよ!」

 

「んなもん知るかぁ!!!」

 

 

叫び、斬りかかる。それを辛うじて受け止めた処刑人は、それまで抱いていた考えを全て消し去った。

代理人と少女には悪いが、処刑人自身は負けてもいいと思ってこの戦いに臨んだ。むしろ処刑人が負けることで彼女が前に進めるのなら、後悔はないとさえ思っていた。しかしどうやら彼女は『勝った後』のことをまるで考えていないらしく、それはつまりなにも残らないということになる。

 

 

(ふざけんな・・・・んなもん絶対ぇ認めるか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、話は変わるが鉄血工造を抜けた後のハイエンドたちは、それぞれの能力を生かせる道へと進んでいる。その中で処刑人は傭兵、それも防衛や護衛を主とする傭兵だ。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

・・・・・・当然、そこから攻めに転ずることなど朝飯前である。

 

 

「おりゃあああああ!!!!」

 

「なっ!?」

 

 

思いっきり足を振り上げ、()()()()()()()()()相手の武器を蹴り上げる。しかもその際にブレードは手放し、空いた右腕を勢いよく突き出した。

 

 

「いつまでもダダこねてんじゃねぇぞクソガキがあああ!!!」

 

「ごはっ!!」

 

 

意表を突かれ、顔面を殴り抜かれた執行人が吹き飛ぶ。あまりのことに両手の武器を手放してしまい、これで完全に丸腰となった。

 

 

「て、てめぇ! 武器を捨てるなんて卑怯だぞ!」

 

「卑怯だぁ? 戦場に卑怯もクソもあるか!」

 

 

そう言って処刑人はブレードを拾い上げ、ゆっくりとした足取りで執行人のもとに向かう。手をついて起き上がろうとする執行人だが、いい具合に入ってしまったのかバランサーが狂い、うまく起き上がれない。やがて目の前に処刑人がくると、忌々しげに見上げて吐き捨てるように言った。

 

 

「・・・・・殺せよ」

 

「アホか、誰が仲間を殺すかよ」

 

「仲間? 俺を捨てたお前らが、それを言うのかよ!」

 

 

今にも噛みつきそうな勢いでそう言うが、処刑人は冷たい表情で見下ろすだけだ。それがさらに執行人の神経を逆撫し、怒りを募らせる。それが暴力として具現化しようとしたその時・・・・・

 

 

タタタタタタッ・・・・・バッ!

「・・・・・・!」

 

「なっ!?」

 

「お、おい・・・・」

 

 

いきなり二人の間に割り込んできたのは、後ろで見守っているはずの少女だった。それが執行人の前まで来ると、両手を広げて処刑人に立ちはだかる。唖然とする処刑人の後ろからは、その少女を追ってきた代理人が駆け寄ってくる。

 

 

「すみません処刑人、いきなり走り出して行って」

 

「あ、いや、びっくりしたけど・・・・・・はぁ」

 

「・・・・・」ブンブンッ

 

「あー分かった分かった、殺さねぇから大丈夫だって」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・頑固ですね」

 

「だな」

 

 

突然の乱入者によってうやむやになってしまった空気に当てられたのか、執行人もポカンとしたまま少女の背中を見ている。やがて処刑人はため息をつきながらブレードをしまうと、少女を抱き上げてから執行人に手を伸ばした。

 

 

「あ〜・・・ほら、立てよ」

 

「え? あ、あぁ・・・・っておい! まだ勝負はついてねぇぞ!」

 

「つってもなぁ・・・こいつ抱えたままじゃどうしようもないしなぁ」

 

「だいたいなんなんだそいつは! ま、まさかお前の子供か!? 相手は誰だ!? まともな男なんだろうな!?」

 

「違ーよ。 つかなんでお前がんなこと気にすんだよ?」

 

 

二人でギャーギャーと揉め始めるのをちょっとホッとしたような表情で見守ると、周りに集まったギャラリーを追い返しつつ、代理人は店へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「あら、お帰りなさ・・・・・・い?」

 

「あー・・・・言いたいことはわかるよ代理人」

 

 

数分後、処刑人と少女と執行人が帰ってきたのだが、その光景はちょっと奇妙なものだった。まるで親子のように、処刑人と執行人の両手を少女がつないでいたのだ。慣れていないのか、執行人はガチガチに固まっている。

 

 

「一応話はしたよ。 まだ納得してなさそうだけどな」

 

「そうですか・・・・・改めて執行人、私たちはあなたを迎え入れます」

 

「よろしくね、執行人!」

 

「あ、あぁ・・・その・・・こ、こいつをどうにかしてくれないか?」

 

「・・・・・・・」フルフル

 

「嫌だそうです」

 

「そんなぁ〜」

 

 

項垂れる執行人を、不思議そうな顔で見上げる少女。処刑人はケラケラと笑うと、少女の頭に手を乗せて言った。

 

 

「さて、じゃあ食うか・・・・腹減ったろ?」

 

「・・・・・・」コクッ

 

「ふふっ、ではすぐに用意しますね」

 

 

三人を席に座らせ、代理人は奥へ下がる。

なんだかんだ、今日も平和だ。

 

 

 

end




本作における貴重な戦闘シーン笑

というわけで今回はとある方より頂いたオリキャラ『執行人』が登場しました。書いてみると結構原作の処刑人に近い雰囲気になった気がする(ここの処刑人がおかしいだけ)

てなわけでキャラ紹介!


執行人(エンフォーサー)
処刑人の姉妹機。処刑人と同じく前衛での切り込み役だが、その処刑人よりもさらに前に出ることを想定されている。このため武装も取り回しのしやすいソードオフSGにやや短めのブレードという構成。
中止が決定した頃はまだハイエンドたちも製造途中だった者が多く、彼女を知るのは代理人のみである。
他にもいろいろ設定はあるが、後の話で詳しく語るだろうが・・・・・とりあえずこれは言っておく、アホの子。

処刑人
休暇中。ちなみにだが鉄血ハイエンド内での認識は、代理人やアルケミストが姉、デストロイヤーが妹、他は家族だが姉とか妹とかの括りはない。特にハンターとは言葉では表せない仲。

少女
いまだに名前も台詞もない少女。いい名前が全く思い浮かばず、いっそこれを個性にしてもいいかなとか思っている。
ちなみに処刑人のことを母親のような感じで見ており、よって執行人はおばsゲフンゲフン

代理人
当店2度目の殺傷未遂。それでも冷静でいられる彼女こそがここのマスターなのだ。

D
ダミーだが本体と違い普段は非武装。だが武器を掲げて解決するのはよろしくないので今後も非武装。



今回のようなオリキャラも募集しております!
設定はあるけど自分とこでは出しづらい、考えたけど小説を書くのはちょっと・・・・・という方でも大歓迎です!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百十七話:たまには仕事も休みましょう

待・た・せ・た・な!(スライディング度下座)

たまには代理人を休ませてという声が多いので。
ついでにこの世界が原作とどれだけかけ離れているかの再確認もしておきましょう。


「「「改装工事?」」」

 

「えぇ、週明けから三日ほどで行います」

 

 

もうすっかり秋の空気になった頃の喫茶 鉄血。暗くなり始めて店じまいを終えた代理人から通達されたのは、そんな一言だった。

喫茶 鉄血自体はまだ開業から一年が経ったくらいなのだが、この建物自体は結構古い。しかもただの民家だったそれの一階部分を強引に店に改装し、さらに今では二階部分の改装と三階の増築という素の面影すらないくらいだ。もちろん業者は信頼できる相手だし別に違法建築の類でもない、だがそもそも建物としての作りがちょっと古いので、一度補強工事をしておかなければいけないらしい。

 

 

「ということで、月曜日から三日ほどお休みにします。 グリフィンが司令部の予備宿舎を貸してくれることになっていますが、旅行に行かれる方は行っていただいても構いません」

 

「イャッフゥウウウウウウウ!!!!」

 

「ふむ・・・・なら久しぶりに遠出でもするか」

 

「折角だからスプリングさんのカフェで勉強してこようかな」

 

 

突然降って湧いた3連休、それも平日という人も少ない期間でだ。マヌスクリプトは早速ニッポン行きの航空券の手配を始め、ゲッコーも店に置いてある旅行のチラシを広げ始める。Dは遠出こそしないものの、いつか店をオープンする時のために勉強するらしい。

さて、そうなると逆に困るのは開業からのメンバーである代理人・リッパー・イェーガー・ダイナゲートである。喫茶 鉄血オープン以来、誘われない限りはずっと働き続けていた彼女らは、『自由にしていい』と言われると何をすればいいのかわからないのだ。まだダイナゲートは司令部のペットたちと戯れていればそれでいいが、他三人に関しては本当に何もない。

 

 

「なぁリッパー、こういうときはどうすればいいんだ?」

 

「私に聞くな・・・・・そうだ、久しぶりに皆のところに行くか?」

 

「お、それもそうだな」

 

 

そんな中、頑張って目的を捻り出したリッパーとイェーガーは、鉄血工造で働く同期や後輩たちに会いに行くようだ。忘れている者も多いと思うが彼女たちはそれぞれの一号機であり、下級モデルの中では最長クラスの稼働時間を誇る。そんな彼女たちにとって、鉄血工造に残って働く人形は皆可愛い後輩なのだ。ちなみに製造年月という意味では、そんじょそこらのハイエンドやグリフィン人形よりもベテランである。

 

 

(なるほど、あまり会わない人に会いに行くのもありですね・・・・・よし、これでいきましょう)

 

 

二人の会話を参考に、ハイエンドらしい高速演算で予定を組み上げていった代理人は、早速連絡を取るために端末を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週明け、月曜日。

集合時間の少し前に到着した代理人は、時計を見ながらパンフレットを開く。広い敷地には見所となるものが多くあり、どこを誰と回ろうかと考えているところだった。

 

 

「あ、代理人〜!」

 

「お久しぶりです」

 

「おっはよー!」

 

「すまない、待たせてしまったか?」

 

「皆さんおはようございます。 先ほど着いたところですよ」

 

 

次に現れたのはおそろいのパーカーを羽織ったサクヤとゲーガー、その後ろでハイテンションのアーキテクトに振り回されるように連れられるユウトの、鉄血工造四人組だ。どうやらリッパーとイェーガーの帰りに合わせてあっちでも歓迎会をやるらしく、臨時で休業にしたらしい。誘ったのはサクヤとユウトなのだが、ゲーガーはともかくアーキテクトが来るとは思っていなかった。

 

 

「考えてもみてくれ代理人、こいつを一人残せば間違いなくいらんものを作りだす」

 

「ひっどいなぁゲーガーちゃん、私がそんなことするように見える?」

 

「「「見える」」」

 

「うぅ〜代理人〜みんながいじめる〜!」

 

 

ただ集まっただけだというのに早くも騒がしくなる一同。するとそこへ最後の二人が合流する。ちょっと出遅れたと思ったのか片や元気いっぱいに、片や運動不足気味に息を切らせて走ってきた。

 

 

「代理人さん! おはようございます!」

 

「はい、おはようございますミーシャちゃん。 ヴァニラさんもおはようございます」

 

「お、おはよう・・・代理人・・・・・」

 

 

ヴァニラ親子が合流したところで、改めて全員揃ったことを確認する代理人。これが今回代理人が誘ったメンツであり、目的地も彼女たちがみたことのないものを取り扱う場所だ。

 

 

「では行きましょうか。 途中からは自由行動になりますが、それまでは逸れないように気をつけてくださいね」

 

 

引率役としてそう言うと、代理人たちはゲートを潜り、大きな『水族館』へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ! 見て見てお母さん! おっきいお魚さん!」

 

「あれはえっと・・・・・・・・・・なんて魚だっけ?」

 

「絵は見たことあったけど・・・・・本物って大きいね」

 

「姉さん、興奮するのはわかるけどガラスから離れなよ」

 

「そう言うユウト君もソワソワしてるのは気のせいかな〜?」

 

「おいこらアーキテクト、冷やかすんじゃない」

 

「ふふふっ」

 

 

入って早々、正面に見えた大きな水槽に釘付けにいなる一同。特に水族館はおろか生きた魚すら見たことのなかった異世界組は興味津々であり、サクヤもまるで子供のように水槽にへばりついている。平日というだけあって客もまばらなので、好きなところで見ていられるのだ。

これが代理人の考えた休日の潰し方、彼女たちの世界では見ることの叶わない世界を見せることである。欲を言えばもっと自然として生きている場所に連れて行きたかったが、さすがに予約が取れなかった。

 

 

「さて、では次はあちらに行きましょうか」

 

「次はどういうところなの?」

 

「小さな魚に触れ合えるんだって!」

 

「「え!? ほんと!?」」

 

「姉さん、ミーシャちゃんと同じくらいはしゃいでるな」

 

 

というわけで早速移動し次のエリアへ。『触れ合いスペース』の文字が見えた途端バッと走り出したサクヤとミーシャを慌てて追いかけ、やれやれと言いつつもそれに混ざるユウト。あくまで見守るつもりでいた代理人とゲーガーだったが、アーキテクトも混ざり始めたので苦笑しつつ二人もそれに続いた。

 

 

「お、お母さん・・・・取ってぇ・・・・!」

 

「ん? どうしたのミーシャ・・・・ってあははははは!!!」

 

「笑ってないで取ってよおぉおおおおおお!!!」

 

「ヴァニラ、泣いちゃうから取ってあげなって」

 

 

興味本位で何かもわからずに掴み、ものの見事に両手に絡み付いたタコに翻弄されるミーシャと、それを笑いながらカメラに収めるヴァニラ。持ち上げてはいるが怖くてその場から動けず、しかも触腕がウネウネと動くたびに「ひっ!」と小さな悲鳴を上げる姿がよっぽど面白いのか、全く手を貸すつもりはないらしい。仕方なくユウトが取ってやった。

 

 

「うぅ・・・お母さん大っ嫌い!!」

 

「あはは、ごめんってミーシャ」

 

「ゲ、ゲーガー! 助けて!」

 

「ってサクヤさんも!?」

 

「うわっ、しかも二匹いるじゃん」

 

「姉さんが一番子供っぽい・・・・・」

 

 

とりあえず引き剥がし、その後もウナギやらカブトガニやらと触れ合いご満悦になる一同。そして集団行動の最後に、代理人はある場所へと連れて行く。

 

 

「代理人、ここは?」

 

「じきに分かりますよ。 では折角ですので前にいきましょう」

 

 

水の上に浮かぶステージを中心に、扇型のようになった観客席。何かのショーでもやるのだろうかと思い最前列に座ると、ちょうどショーが始まる時間になった。

 

 

『皆さま! 本日はお集まりいただきありがとうございます! ただ今より、イルカたちによるドルフィンショーを開演します!』

 

「お母さん、イルカって何?」

 

「大きくて賢い魚だよ・・・・・・・魚?」

 

「いや、あれは哺乳類・・・・って言ってもわからないか」

 

「あれ? 意外と説明が難しいぞ」

 

 

そんなちょっとずれたことで悩んでいると、ステージの両端から水飛沫をあげながら主役(イルカ)たちが現れる。そしてステージの真ん中あたりで潜ると、

 

 

『はい、ジャ〜〜ンプ!!』

 

「わっ!!! お母さん、飛んだっ、飛んだよ!!」

 

「ゲーガー! ユウト! 見た見た!?」

 

 

その後も水面に飛び出したり背面で泳いだりするたびに歓声を上げる子供二人(ミーシャとサクヤ)に、代理人も満足げに微笑む。するとそこへ一頭のイルカが近づき、そのタイミングで係の人がミーシャに手を差し出す。

 

 

『では! 皆さんを代表して君に! イルカさんたちと一緒にショーを盛り上げてもらいたいと思います!』

 

「ほらミーシャ、いってらっしゃい」

 

「え? な、何?」

 

「お姉さんについていけば大丈夫ですよ」

 

「い〜なぁ〜」

 

「姉さんステイ」

 

 

ちょっぴり不安な表情でステージの方に近づき、水辺に立つ。そしてちょっと小さめのリボンを渡され、イルカと向き合った。

 

 

『じゃあ、お姉さんの真似をしてね! まずは大きくグルグル〜!』

 

「えっと・・・グルグル〜」

 

『そうそう! じゃあもう少し早くグルグル〜!』

 

「グルグル〜!」

 

『OK! そして最後にゆっくりしゃがんで〜・・・・・ジャーーーンプ!』

 

「ジャーーーーンプ!!」

 

 

ザッバーンッ!!!

ミーシャがリボンを振り上げたタイミングでイルカが高く飛び上がり、勢い良く水面に飛び込む。そばにいたミーシャはもちろん最前列にいた代理人たちも頭から水をかぶるが、ギャーとかワーとか悲鳴をあげつつ楽しげに笑った。びしょ濡れで帰ってきたミーシャなど、濡れていることなど一切気にせずヴァニラに抱きつくほどだ。

 

 

『みんな〜! 今日はありがとう! まったね〜!!!』

 

「バイバ〜イ!」

 

「ふふ、着替え持参ってこういうことだったのね代理人?」

 

「ええ、といってもミーシャちゃんが呼ばれるとは思っても見ませんでしたが」

 

「・・・・・・今日はありがとう。 きっとこの子にとって最高の思い出になるわ」

 

「どういたしまして。 ですがまだまだ時間はあります、自由行動はお二人でゆっくり回っていってください」

 

 

キャッキャっとはしゃぐミーシャを見守りつつ、代理人とヴァニラは微笑む。

結局、この後ご飯を食べたせいで眠くなりほとんど回れなかったミーシャだったが、ヴァニラ(母親)の腕に抱かれて眠るその表情は、とても幸せそうなものだった。

 

 

 

end




はい、遅れた言い訳はしません。決してアイスボーンで導きの地を延々回っていたとか言うつもりはありません(すっとぼけ)
やっぱり子供ってこれぐらいはしゃいでる方がいいんですよ、ちょっとぐらいうるさい方がいいんですよ。

というわけでキャラ紹介

ミーシャ
コラボ回より。あっちのヴァニラの実の子。
あんな世界なのできっと魚なんて見たことないだろうなと思ったのがこの話のきっかけ。
ロリコンホイホイ。

ヴァニラ
こっちの住人。世界は違えどミーシャの母親として奮闘中。
親バカ。

サクヤ
コラボ回より。本作最初の流れ組である。
あんな世界なのできっと魚なんてry
ちょっと子供っぽくしすぎたかとも思ったけどあんまり違和感ないしいいよね?

ユウト
リクエストより、ここのサクヤとは別の世界から来た。
今回あまり目立っていないが、やはり初めての水族館ということもあって終始ソワソワしていた。

ゲーガー
サクヤの嫁(予定)
この後ちゃんと水族館デートした。

アーキテクト
この後サクヤとゲーガーの邪魔にならないようにユウトと水族館を回った。


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番外編29

前書きで書くことが特に思い浮かびませんでした。
というわけで今回の番外編はこちら!

・SKSの訓練風景
・私の姉は甘々
・凸凹姉妹
・デートin水族館


番外29-1:SKSの訓練風景

 

 

S09地区司令部、屋内訓練施設。屋外程ではないがそこそこの広さがあるそこでは、主に新入りの戦術人形たちが様々な方法で訓練を重ねている。ライフルタイプであれば場の端に陣取り迫りくる目標を狙い撃ち、マシンガンはより数の多いそれをなぎ払う。

そしてSMGやハンドガン、ARたちは、普段の射撃訓練ではできない訓練を行うのだ。

 

 

「榴弾、撃てぇー!」

 

「45姉、行くよ!」<閃光弾

 

「えぇ、合わせて」<発煙弾

 

 

ライフルやマシンガンと違い、状況に応じて様々な武装を使う彼女らは、こうした場でその使い勝手や感触を確かめる。とはいえこれらのほとんどは高い火力を持つか非殺傷武器である。そのため訓練用ドローンではいまいちその効果の高さがわかりにくく、どうしてもより実践的な相手が必要となる。

というわけで・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああ!!!!!!」

 

「そっちに逃げたわ、追って!」

 

「ふふふ、逃がさないわよ」<火炎瓶

 

「うわっ!? 熱っ、熱いって!」

 

「そこっ!」<断罪の魔弾

 

「ひぃいいいいい!!!?」

 

 

そんな『実践的な訓練』を担当するSKSの苦労は計り知れない。なにせ飛んでくるものが多すぎるのだ。MGやRFのような単純に銃弾の数や威力が変わるだけならさほど苦労はしない。だがグレネードが放物線を描き、合間を縫って特殊弾が飛んでき、煙幕やら閃光やらがそこかしこで焚かれるのだ。

ダミーをいくら増やしたってキリがない。

 

 

「も、もういやあああああああああああ!!!!」

 

 

そしてこの数十分後、SKSは大泣きしながら正面玄関を走る抜けるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外29-2:私の姉は甘々

 

 

「んぅ・・・ふあぁ・・・・・」

 

 

とある日の朝。大きなあくびをしながら目を覚ます9。最近一段と朝が寒くなり、温もりを求めるために隣に手を伸ばすが、残念ながら隣で寝ていた()()はすでに起きてしまっていたようで、わずかに暖かさが残るだけである。

とはいえこれはまぁいつものこと。というよりもいつもは起こされるまで起きない9が珍しく起きただけである。なら早めに食堂に行こうかと思い、のそのそとベッドを出る。

 

 

「あれ? G28?」

 

「ん? あ、義姉ちゃん!」

 

 

寝ぼけたままの目を擦りながら廊下を歩いていると、何やらコソコソしているG28を発見する9。どうやら食堂の、厨房側の扉の前にいるらしく、まるで覗きのような姿勢でへばりついている。

 

 

「義姉ちゃんって・・・・・それで、何してるの?」

 

「んふふ・・・・珍しいのを見つけたから覗いてたの」

 

「? 珍しいの?」

 

「こっちこっち」

 

 

G28に言われるがままに、ちょっとだけ開いた扉の向こう側を覗き込む。そこにいたのは・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

『〜♪〜〜〜〜♪』

 

「よ、416?」

 

「めちゃくちゃご機嫌だよね、あれ」

 

 

上機嫌に鼻歌を歌いながら包丁を握る416。長い髪を後ろで結い、部屋着の上からエプロンを纏って料理を作るその姿のなんと違和感のないことか。しかしそれなりに付き合いの長い9はもちろん、妹のG28ですらそんな彼女が鼻歌を歌うくらい上機嫌なところを見たことがない。というか鼻歌自体初めて聞いた。

 

 

「ね? 珍しいでしょ?」

 

「う、うん・・・・でもなんでだろ?」

 

「そりゃ・・・・昨夜はお楽しみだったから?」

 

「え? でも今まで何度かあったけどこんなのは初めてだよ?」

 

「え、本当にお楽しみだったの?」

 

「・・・・・・・・/////」

 

 

余計なところで自爆する9に襲いかかりたくなる衝動を、G28は必死に押さえ込む。基本的に416が攻めになるのは知っていたが、こんなのを見せられたらそりゃ襲いたくもなる。

とはいえこれが原因でないとすると、ますますわからなくなる。しかも真面目が服を着て歩いていると言われたことがあるくらいな416が、部屋着のままでいること自体驚きだった。

 

 

「あれ? 9とG28じゃん」

 

「おはよう二人とも」

 

「あ、45姉とG11、おはよう!」

 

「二人はこれから任務?」

 

「ええ、泊まりでね。 だから今日は帰らないわ」

 

 

ガッチガチに装備を固めた45とG11が通りかかる。この二人で任務というのも珍しい・・・・・というわけでもなく、9と416がくっついてからは割とよくあることだった。そんな二人はこれから出発らしい。

 

 

「ゲパードも本部で訓練、40は鉄血工造の方に用事があるそうよ」

 

「へぇ、じゃあ残るのは私と416だけだね」

 

「そうね・・・・・・・ハメを外さないようにね」

 

「もう! 何言ってるの45姉!」

 

 

ぷんぷんと怒る9を見て、どことなくやり切った(9成分を補給した)45は眠たげなG11を引っ張って出て行く。その直後、9たちの背後で扉が開き、416が顔を出した。

 

 

「あら、もう出発なのね。 言ってくれれば朝食くらい出したのに」

 

「わっ!? 416!」

 

「そこまで驚かなくても・・・・・で、何してたのよこんなところで」

 

 

扉の前でじっとしていたことを指摘され、顔を見合わせる9とG28。そして観念したのか、G28が恐る恐ると言った感じで尋ねる。

 

 

「いやぁ〜・・・416が妙に上機嫌だったから珍しくて・・・」

 

「は、鼻歌まで歌ってたもんね」

 

「えっ!? あんたたち聞いてたの!?」

 

 

途端に顔を真っ赤にして狼狽る416だが、聞かれてしまったものは仕方がないと二人を招き入れ、出来上がった朝食を出してから話しい始めた。

416は起きてから早速指揮官に今日の予定を聞きに行き、なんと自分と9以外宿舎(404用)に残らないことを知る。そして今日は二人とも非番で、午後から雲行きが怪しくなるので出かけるのは控えたい。そこまで考えた416は、今日一日を()()()()()()()にしようと考え、テンションが振り切った結果ああなったらしい。

 

話を聞いたG28は、今日一日外でどう過ごそうかと考えるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外29-3:凸凹姉妹

 

 

「お前はいちいちガサツなんだ!」

 

「細々したのは面倒なんだよ!」

 

 

喫茶 鉄血での騒動から少し経った後、なんやかんやあって結局処刑人の部屋にお邪魔することになった執行人は、その処刑人と絶賛口論中だった。

あの一見で和解し、行くあても金もないので引き取る形で処刑人が連れてきたわけだが、一緒に過ごしてその日のうちに彼女の問題点が浮上した。

 

 

「別に釣り銭ぐらい良いじゃねえか!」

 

「そうやって金が無くなった奴が何言ってんだ、ちっとは反省しろって」

 

「煩えよ、つかいちいち姉貴面すんじゃねえ!」

 

 

この通り、執行人はその行動も思考もかなり大雑把なのだった。基本的に支払いは札ですませ、しかも細かいのが気に入らないという理由で釣り銭も受け取らない。そのくせあっちこっちで金を使いたがるので、小遣いとして渡していたお金が早くも底をつく形となった。

ちなみに釣り銭はちゃんと少女が受け取っている。

 

 

「はぁ・・・・とにかくだ、お前には生活する上での最低限だけは教えてやる。 それができなきゃここを追い出すからな」

 

「ゔっ! わ、わかったよ・・・・」

 

「よし、そうと決まりゃ早速晩飯でも作るか。 今日は特製シチューだ!」

 

「・・・・!」

 

 

シチュー、と聞いて顔を輝かせる少女と執行人を引き連れ、若干狭いキッチンに向かう。

この後、まだ練習中な少女の危なっかいさと大雑把な執行人に翻弄されることになるのだが、処刑人はまだ知る由もない。

 

 

end

 

 

 

番外29-4:デートin水族館

 

 

「ゲーガーちゃん! ペンギンと触れ合えるんだって!」

 

「わかった、わかったから落ち着いてくれサクヤさん! 館内は走るなと書いてある!」

 

 

そう言いつつ子供のようにテンションの上がったサクヤを追いかけるゲーガー。普段の運動不足はどこへ行ったのかというほど元気に走るサクヤに呆れつつも、ゲーガーは少し安心していた。なにせもともとサクヤがいた世界にはない場所である。それでふとした拍子に昔のことを思いだし、悲しんでしまわないかと心配していたのだが、どうやら今のところは杞憂で済んでいるらしい。

 

 

「わぁ! ゲーガーちゃん、こっちは爬虫類コーナーだって!」

 

「はぁ・・・ペンギンのところに行くんじゃなかったのか?」

 

「時間見てなくて・・・次は三時間後だって」

 

 

テヘッと笑うサクヤに、再び大きなため息をつく。時々見せる子供っぽさが可愛くもあるのだが、普段のしっかりした彼女が完全に鳴りを潜めてしまうので大変なのだ。

とはいえサクヤ一人で楽しんでいても意味がないし、サクヤに気を使わせてしまうかもしれない。ということでゲーガーも手近にあった展示を見る。そこにいたのはかなり細身の蛇で、緑の体色が周りに紛れていて探すのも一苦労だ。が、人形のセンサーを使えば擬態など無いに等しい。

 

 

「お、これか」

 

「え!? どれどれ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

いつのまにか近くまで来ていたサクヤが、同じものを見ようとして顔を寄せる。すぐそばまで迫った思い他人の顔にたじたじなゲーガーだが、そのその気も知らないサクヤはさらに寄る。

 

 

(さ、サクヤさん! 近いって!)

 

「む〜〜・・・・全然見つからない・・・・・」

 

 

隅々まで探そうと目を細め、徐々にゲーガーの方に寄って行くサクヤ。それにドキドキしつつも離れられないゲーガーの内心はもう嵐のようである。

そしてついに、両者の距離が0になった。

 

 

フニュ

「ん? ひゃっ!?」

 

「わわっ!」

 

 

互いの頬がくっついたことで慌てて飛び退く二人。二人ともすっかり赤くなってしまっているが、幸か不幸か互いの顔を見れていないので気付かれていない。

だが、これまでにも似たようなことは何度かあったし告白までしているのだ。ここでいかなくてはハイエンドの名が廃る(?)と思い込み、意を決してゲーガーはサクヤに抱きついた。

 

 

「きゃっ! げ、ゲーガー・・・ちゃん?」

 

「せ、せっかく二人なんだ・・・・・い、いいだろ?」

 

「・・・・・・うん」

 

 

今日は客が少なくて本当によかった、そう思うゲーガーだった。

 

 

end




番外29-1
百十四話の前日談。ごめんよSKS、でもスキルMAXにするためには9回もスキル訓練がいるんだよ。

番外29-2
百十五話の後。G28の一日的な感じにするつもりだったが、気がついたらいつもの二人の話になっていた。9はハメを外すなと言われたが、416は言われていないのでセーフ(暴論)

番外29-3
百十六話の後日談。ちなみに執行人も傭兵として活動しており、そこそこの稼ぎがあるはずなのに金欠。
少女にとって、処刑人のシチューは特別なものなのだ。

番外29-4
百十七話の後。ちなみにこの後ちゃんとペンギンを見に行き、ペンギンを持ち上げたサクヤに「赤ちゃんを抱いてるみたいだな」と言って二人とも盛大に照れてしまう。
もし蛇に人並みの感情があれば、今頃砂糖を吐きまくっていうことだろう。


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第百十八話:要塞系ロリ巨乳

新キャラのリクエストと設定をいただいたので。

しかしあれだな、こんな変態(天才)的な発想に至るなんてもしかして君たちが鉄血工造の創設者なのかな?


「さて、これはどういうことですか?」

 

「待って代理人! 誤解なんだよ!?」

 

 

平日、人もまばらな喫茶 鉄血。そのテーブルの一つを囲むようにして座る三人のうち、代理人はいい笑顔でアーキテクトに問いかける。身振り手振りで無罪を主張するアーキテクトの隣では、デストロイヤーと同じくらいの大きさの人形がシクシクと泣きながら俯いている。

アーキテクトが疑われるのは、ある意味当然のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端は今日の昼前。いつもよりは客の少ない店で暇を持て余していた代理人は、外のテラス席の掃除でもしようかと表に出る。するとそこから少し離れた先の薄暗い路地で、なにやら男三人が壁際に集まっているのが見える。並び的にどうやら何かを囲んでいるらしく、なにやら良からぬ雰囲気を察した代理人はその路地へと向かった。

 

 

「なにをしているんですか?」

 

「げっ!? 喫茶店のマスター!」

 

「いや、俺らはですね・・・・」

 

「言い訳を聞く気はありません、今すぐここから立ち去りなさい」

 

「「「し、失礼しました〜!」」」

 

 

スタコラと走り去るチンピラ(?)三人。それを見送ると、その三人に囲まれていたであろう目の前の少女に手を伸ば・・・・・・しかけて止まる。冷静になっていつも通り観察し、なんとその少女が()()()()()()ことがわかったからだ。腰までありそうな黒い髪に、モノクロの服装、そして何よりIoP製ではあり得ないくらい白い肌。

間違いなく、鉄血工造製の戦術人形だった。

 

 

「あの・・・・大丈夫ですか?」

 

「うぅ〜・・・・怖かったよ〜」

 

「・・・・・とりあえず、ここではなんですのでうちに来ますか?」

 

 

そういうわけで、喫茶 鉄血に迎え入れたのが一時間ほど前。血相を変えたアーキテクトが駆け込んできたのが、ほんのついさっきである。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「では、なにが誤解なのか聞かせてもらいましょうか?」

 

「落ち着いて代理人・・・この娘も怯えちゃうから」

 

 

アーキテクトが宥めようとするが、代理人が切れるのもわからなくはない。なにせマヌスクリプトやゲッコーの時とは違い、まるで放り出されたかのようになにも持たないまま蹲っていたのだ。もしアーキテクトが捨てたというのなら、ただでは済まないだろう。

 

 

「まずこの子の名前は『フォートレス』・・・・聞き覚えない?」

 

「? そんな人形・・・・・いえ、確か・・・最初期の設計段階の?」

 

「そ。 とりあえずまずこの娘の説明だけ済ませておくね」

 

 

そういうと、どこからか取り出した端末を開く。

フォートレス、という人形は代理人が言った通り最初期段階で設計されていた人形の一体である。それもこの前の執行人とかその辺よりもさらに前、下手をすればハイエンドモデルの中でも一番初めかもしれないくらい初期の頃である。

そのコンセプトは、現在世界中を飛びまっわっている『クリエイター』に似ている。がしかしそれ以上に前線補給特化と呼べるほどの能力を有するのが特徴だ。今目の前にいる彼女はその『コア』に過ぎず、本来はその何倍もの大きさの外装(というかほぼロボット)を身に纏う。その内部で人形の修理や武器弾薬の補給、そして即席の防御壁などを造り出すことによって、大多数の下級モデルによる無制限の進撃を可能とするのである。

だが、当時の技術ではあまりにもコストがかかりすぎるため中止、様々な失敗作とともに埋もれていった。

 

・・・・・・が、それをたまたまアーキテクトが発見したことでついに日の目を見ることができたのだ。ただ誤算があったとすれば、その時のアーキテクトが徹夜テンションだったこと、その結果色々と()()()()しまったこと、そして彼女の周りにいた人形がことごとく変態だったこと。

その結果、彼女はなにも持たずに逃げ出してしまったのだった。

 

 

「・・・・・・結局あなたのせいでは?」

 

「た、確かに勢いに任せてやっちゃった感はあるよ!? けどこれも理にかなったやつなんだよ!?」

 

「ですが、その見た目のせいで絡まれたようなものですよね?」

 

 

チラッとフォートレスを見ると、相変わらず彼女はいつに座ったまま俯いている・・・・・・のだが、ただそれだけで自身の胸に顔を埋めているようにしか見えない。それくらいデカいのである。

わかりやすく言えば体のサイズはデストロイヤー、胸部はガイアやアルケミスト、もしくはそれ以上もあってかなりアンバランスだ。これになんの意図があるのかをしっかり問いただしたい。

 

 

「さ、さっき説明した通り、彼女は工廠型の装備を纏う・・・というよりも操縦する必要があるの。 でも設備を詰め込んだら緩衝剤とかが入らなくなって・・・・・」

 

「コアである彼女に緩衝剤(おっぱい)を積んだ、と?」

 

 

やっぱり一発殴ろう、そう誓う代理人だった。

それはそうとして、アーキテクトにはもう一つ聞いておきたいことがある。

 

 

「彼女の脱走した原因ですが・・・・あなた以外には誰がいるんですか?」

 

「へ? あぁ、それはね・・・・・・」

 

 

珍しくゲンナリとした表情で話そうとするアーキテクトだったが、 その直後に開け放たれた扉の音に遮られる。

何事かと見てみれば、そこにいたのは重厚な装甲を身に纏った、あの人形たちだった。

 

 

「探しましたぞフォートレス様!」

 

「怖くないよー怖くないよー」

 

「さぁお兄さん達と楽しいこと(スプラトゥーン)しようねグヘヘへ〜」

 

「ひぃいい!?」

 

「・・・・・・・・・・」ブチっ

 

「「「あ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・正座」

 

「「「はい」」」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、Aigis(変態)たちを正座させたまま延々と説教し、当分の間ここで預かることを宣言して引き上げさせた代理人は、三階の自室の片付けを進めていた。先日補強工事をしたとは言え間取りは変わっておらず、つまりはフォートレスを泊めておく部屋がない。そのためここにいる間は、代理人の部屋に住まわせることにしたのだった。

 

 

「さて、こんなところでしょうか」

 

「あ、ありがとうございます、代理人・・・・・様?」

 

「ふふっ、『様』はいりませんよフォートレス。 これからよろしくお願いしますね」

 

「は、はい! お世話になります!」

 

 

そんなわけでこの日から、喫茶 鉄血に新しいメンバーが加わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ〜て脱ぎ脱ぎしましょうね〜」

 

「ひぃ!?」

 

「・・・・採寸だけですよマヌスクリプト」

 

「わかってるわかってる・・・・・にしてもデカいなぁ」ジュルリ

 

「・・・・・」チャキッ

 

「ゴメンナサイ」

 

 

 

end




はい、というわけで喫茶 鉄血に新メンバーです!といってもまともに接客できるのかすら怪しい体型ですが笑

ではではキャラ紹介を。

フォートレス
本文で説明した通り。補足するとすれば本人は至ってまともな性格だが、周り(アーキテクトやAigisたち)がアレなのでかなり怯えてしまった。
たいそうな紹介したけど、きっと『フォートレス』としての出番は無いと思う。体型のイメージは、Ameliと同じかそれ以上。

代理人
今回は珍しくキレた。

アーキテクト
徹夜テンション、ダメゼッタイ

男三人
困ってそうなので喫茶 鉄血に連れて行こうとしていた男たち。そのついでにちょ〜っとタッチできたらいいなぁくらいの下心はあった。

Aigis
ゲーガー率いる護衛部隊の連中。言動や行動はアレだが(自称)紳士な人形。


アップデートで404のハロウィン画面になりましたね!
9ちゃん可愛いやったー!


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第百十九話:週末前の飲み会

悲報・代理人以外全員人間


毎週金曜日、通常営業時間を終えた喫茶 鉄血がBar 鉄血に切り替わるのは周知の事実である。切り替わると言っても内装はほとんどそのままで、酒類を含めメニューがそれっぽくなるだけだが、路地裏のひっそりとした飲み屋ということで密かに人気があったりする。S09地区全体では表の通り沿いに飲み屋やバーが並んでいてこっちにくる人もそこまで多くないため、しばしば貸し切りにすることができるのも魅力の一つだ。

 

そして今回も、そんな貸し切りの状態で夜を迎えるのだった。

 

 

「む、もう入れるか?」

 

「あら、いらっしゃいませクルーガーさん、もう大丈夫ですよ」

 

「すまないな、なら中で待たせてもらおう」

 

 

本来のBar 鉄血の営業時間には少し早いが、貸し切りということで中に招き入れる代理人。そして今夜の客であるクルーガーはいつもの赤いコートを壁にかけると、早速葉巻を取り出して火をつける。

 

 

「ふぅ・・・・・」

 

「ふふっ、集まる前から一服ですか?」

 

「あぁ、別に堅苦しい集まりじゃないんだ、誰も気にせんよ」

 

 

そう言ってまた口に運ぶ。別に吸わなければ死んでしまうというほどの重喫煙者ではないが、普段あまり吸えていない反動だろうか。

そんなことをぼんやり考えていると、店の扉が開き新たな一団が現れる。全員が緑の軍服を纏った、正規軍の軍人たちだ。

 

 

「ん? 早いなクルーガー、わたしにも一本もらえるかな?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「・・・・・・奥さんに怒られますよ将軍」

 

「堅いことは言うな大尉、消臭剤も持ってきておる・・・・バレなければいいのだ」

 

 

きっとバレると思います、とは言わないでおく代理人と大尉。ちなみにパッと見た感じではこの二人を含めて十人ほどいそうな軍人たちだが、ということは今日は半分近くは軍人たちということになる。

 

 

「やれやれ、どこもかしこも分煙とはな」

 

「仕方ありませんよ将軍、むしろまだ分煙ブースがあるだけマシでしょう」

 

「そっちも苦労しているようだな」

 

「ええ・・・・・ですが将軍の権限で作れるのでは?」

 

「・・・・・・・喫煙所に関してはアイツ(大尉)が全権を握っておる」

 

 

チラッと見る先では、なんとも真面目そうな内容の話しで代理人と会話する堅物軍人の姿が。もちろん軍人としては非常に優秀でカーターも信頼しているのだが、流石にちょっとくらいは許してくれてもいいんじゃないかとも思い、深いため息を吐くのだった。

さて、今のところ(従業員を除き)男しかいないなんともむさ苦しい店内だが、再び店の扉が開くと同時にその空気も一変する。

 

 

「こんばんは代理人!」

 

「ふふっ、いらっしゃいませカリーナさん」

 

「おぉ、来たかカリーナ」

 

『うぉおおおおおおカリーナちゃぁあああああああん!!!!』

 

 

現れたのはグリフィンS09地区の後方幕僚、そして近隣の軍基地にとってのマドンナであるカリーナ。男が多くしかも当然露出の少ない軍服着用に軍人連中からすれば、眩しい存在だ。

 

 

「こんばんわ〜、おや相変わらずの人気だねカリーナは」

 

「うむ、まるで孫を見ている気分だよ」

 

「あまり甘やかさないでくださいよハーヴェル社長」

 

「なんだったら君のことも娘のように思っておるよヘリアン君・・・・・早く相手が見付かるといいがね」

 

「グハッ!?」

 

 

そんなカリーナの後に続いて現れたのは白衣の集団にやや高齢の男性、そしてグリフィンの制服を身にまとった女性だ。もちろん彼女はヘリアン氏であり、今まさに無慈悲な口撃で沈んだところだが。

 

 

「あまりいじめないでよ社長、わたしの大事な友人なんだから」

 

「わかっているよペルシカ・・・・・ところで君とSOPちゃんのことだが・・・」

 

「おおそうだ、今から挨拶回りしてこないと! というわけで社長、また後で!」

 

「うむ、また『後で』な」

 

「楽しそうですねぇ社長」

 

「君もだろう?」

 

 

ワタワタと逃げるように離れるペルシカを微笑ましく見つめる高齢の男性、彼こそがかのIoP社の社長であるハーヴェル氏だ。おそらく今世界で最も安泰な社長と言ってもいいであろうその男は、隣にいる17lab主任と実に悪い笑みを浮かべている。どうやらこの会でペルシカをいじるのは決定したようだ。

 

 

「ふむ、あとは・・・・・指揮官たちがまだか」

 

「執務が終わってからだろうな、先に始めるか?」

 

「ではそのように・・・・代理人、早速だが」

 

「えぇ、もうご用意してますよ」

 

 

そう言って事前にヒアリングしていた飲み物を各々の席に運ぶ。運ばれるものもビールからカクテル、ヴォッカに高そうなワインまで様々で、この用意の良さも代理人のなせる技である。

全員にグラスが行き渡ったところで、代表してクルーガーが立ち上がり、乾杯の音頭をとる。

 

 

「えー、今日はお集まりいただきありがとうございます。 とはいえこの会自体にたいした目的はなく、我々グリフィンとIoP、そして軍との円滑なコミュニケーションの場になればと思っております。 それでは、リラックスして楽しみましょう、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 

そんなこんなで、いつもとはちょっと違った夜が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ではペルシカ、早速聞かせてもらおうか」

 

「クルーガーさん、これセクハラでは?」

 

「そうなのかハーヴェイ氏?」

 

「問題ないだろうクルーガー氏」

 

「おいこら社長」

 

 

開始からしばらくした頃、いい感じにお酒が周り雰囲気も崩れてきたところで約束通りペルシカが捕まった。というよりも何故か暴露大会みたいなノリになってしまい、ペルシカを一人カウンター席に座らせている状況だ。カーターも混ざっているこの状況に大尉も呆れており、代理人も苦笑してはいるが止めるつもりはないらしい。

 

 

「うぅ・・・何を話せって言うんですか・・・・」

 

「え? 先週の土曜に遊びに行きましたよね?」

 

「そして日曜日の昼過ぎに帰ってきたな」

 

「待って、なんで知ってるの?」

 

「SOPちゃんにカマかけたら自爆してくれた」

 

「SOP!?」

 

 

どうやらSOPに隠し事の類は向いていないようだ。というか17labとヘリアンに捕まった時点で結果は見えていたといえよう。ちなみにその時はSOPの希望でケーキを食べに行き、お互いテンションが上がってアーンしあったり間接キスしまくったりした結果、勢いでホテルにinしてしまったのである。

ちなみにペルシカは部下たちに「日帰り」と伝えていたが、部下は誰も帰ってくるとは思っていなかったらしい。

 

 

「たしかにここ最近のお前は妙に顔色がいいというか艶々しているというか」

 

「健全で結構」

 

「まだヤったなんて言ってないんだけど」

 

「ん? そういう意図ではないのだが・・・・・ヤったのか?」

 

「くそぅ・・・・」

 

 

腹芸が得意なペルシカとはいえ、ある意味それで勝ち上がってきたであろうそれぞれのトップには勝ち目などあるはずもなく、言葉巧みに誘導されてしまう。

 

 

 

「ふむ、やはり若いというのはいいものだな」

 

「なかなか可愛いところもあるものだ」

 

「式を挙げるなら呼んでくれよ?」

 

「うぅ・・・・ごめんSOP・・・・」

 

 

数十分後、ようやくおっさん三人から解放され、真っ赤な顔を覆って俯くペルシカ。だがあくまで()()()()()()が終わったにすぎず、というかSOPと付き合っていることすら知らなかった他多数からの質問責めがまだまだ続く。

いよいよ逃げ出そうかと本気で考え始めたペルシカだが、そんなタイミングで店のドアが開き、グリフィンの制服を纏った男三人が入ってきた。

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

「あ、指揮官様! それにベルリッジ指揮官も!」

 

「待ってくれカリーナ(ナイスおっぱい)ちゃん、俺もいるんだぜ?」

 

「あ、いたんですかおっぱいさん」

 

「辛辣!? 代理人〜慰めてくれ〜・・・・具体的にはそのおっp「シメますよ?」ごめんなさい」

 

 

S09地区の指揮官、F小隊のベルリッジ指揮官、そして本部のおっぱい指揮官、三人の指揮官が到着したことでようやく全員が揃う。そして今なお囲まれてるペルシカは、彼らに最後の望みを託した。

 

 

「そ、そうだ! きっとあっちも面白い話があるはず!」

 

「え? なんのことですか?」

 

「いや、残念ながら彼らに浮いた話はない」

 

「そ、そんなぁ〜・・・・・」

 

 

現実は非常である。しかもさっきからさらに酒が進んでいるせいでより話がディープな方向に進もうとしている。いよいよ困り果てたペルシカは最後の要である代理人に救いを求める視線を向けた。

 

 

「ふふっ、これ以上はかわいそうですからね、この辺りで勘弁してあげてはいかがでしょうか?」

 

「むぅ、まだ聞き足りないのだがな」

 

「仕方ない。 では最後に代理人に聞くとしよう」

 

「そうだな。 何か彼女に関してエピソードはあるかね?」

 

「あら、どうしましょうか」

 

「ちょ、ちょっと!? お願いだからもうやめて!!」

 

 

必死で止めにかかるペルシカに、その姿が面白いのか、あの話でしょうかそれともこの話にしましょうかと独り言のように呟き周りを盛り上げる代理人。

結局「またの機会に」ということでその場を収めることにし、回が終わるまでの間ペルシカを慰めることに注力するのだった。

 

 

 

end




人形がほとんどでないドルフロ二次を書く作者がいるらしい(すっとぼけ)
原作だと陰謀とか思惑だらけになりそうなメンツですが、この世界ではただの会社員の集まりみたいなものです・・・・・喫煙者に厳しいところも含めて。
ただこの会に関しては、メンツが悪かった(ペルシカ以外相手がいない)


ということでキャラ紹介

クルーガー
我らがG&K社の社長。強面ダンディなおじさま。
なんとなく葉巻が似合うので吸わせて見たらやっぱり似合ってた。
ヴォッカが似合いそう。

カーター将軍
正規軍の将軍。軍時代のクルーガーの友人。
本作独自で既婚者にしており、家では奥さんに頭が上がらない。
ブランデーが似合いそう。

大尉
(作者が知る限り)名前のない人物。
いかにもな軍人で、規則や規律に厳しい。軍基地内の分煙スペースの実権を握る人物。
意外とおしゃれなカクテルとか飲みそう。

ハーヴェル
IoP社の社長。
こいつの指示の元で戦術人形たちが作られていると考えると、きっと生粋のHENTAIなんだと思います。
高級ワイン一択。

ペルシカ
16lab主任。
SOPと付き合いだしてからちょっと身の回りに気を使い始め、あらゆる方面から「あれ?あの人実は超美人じゃね?」と言われるようになった。
今回の酒の肴。

ヘリアン
独身街道まっしぐらなグリフィンの上級代行官。
仕事柄きつい表情が多いため避けられがちだが、ちゃんと女性らしい面もある。
だが最大の障壁は、趣味である薄い本。

カリーナ
S09地区の後方幕僚ちゃん。
実は大尉とは結構話が合い、特に適正な経費や支払額と言って実務的なことで互いに相談しあったりする。側から見れば凸凹もいいとこのコンビだが、何故か気があう。


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第百二十話:写本先生の服飾教室

ないのなら 作ってしまえ 勝負服
マヌスクリプト心の一句


「代理人、ちょっと相談があるんだけど」

 

「相談?」

 

 

朝晩の寒さが厳しくなってきた頃のS09地区、客達もジャケットやコート姿が増え始めた喫茶 鉄血で、マヌスクリプトが真面目な顔でそう言った。喫茶 鉄血二大トラブルメーカーの片割れである彼女だが、何かをやらかすときはこんな真面目な顔で言ってくることなどなく、というかそもそも相談なんてものはない。

つまり今回は、少なくとも迷惑になるようなことではないのだろうと推測できる。

 

 

「うん、実はこんな企画を考えててね」

 

 

そう言ってポケットから折り畳まれた紙を取り出して広げる。どうやら手書きで書かれたチラシのようなもので、代理人はそれを受け取ると一通り流し読みする。

 

 

「・・・・・・『裁縫教室』ですか?」

 

「そ。 時期が時期だからきっと需要はあると思うんだ! あ、もちろん受講料の一部は店に還元するからさ」

 

「時期・・・・・あぁ、来月のですね」

 

 

そう呟いてもう一度チラシに目を落とす。まだ文字しか並んでいないが余白のところには『サンタ』とか『クリスマスツリー』とかの文字が丸く囲まれており、そのイラストを描く予定なのだろう。

そう、来月のクリスマスを見据えた企画である。まだ一ヶ月先とは言え、素人が数日でマフラーや服なんかを手作りするのは至難の技だ。そういう意味ではこの時期から練習するというのは理にかなっていると言える。

 

 

「わかりました。 要するにこの企画のために一日暇をもらいたい、ということですね?」

 

「うん、ついでに三階の広間を借りたいなって」

 

「確かに場所は必要ですからね・・・・・いいでしょう、ただし条件があります。 まず何を教えるのかを申告すること、お金は取りすぎないこと、決してお客様に迷惑をかけないこと、この三つです」

 

「了解!」

 

 

いい笑顔でピシッと敬礼し、接客へと戻っていくマヌスクリプト。やや不安が残るものの、彼女の場合適度にガス抜きをしてやらないと何をしでかすか分からないので、とりあえず許可を出すことにした。

 

 

(クリスマス・・・・そういえば、まだクリスマスケーキのデザインも考えていませんでしたね)

 

 

ひとまずマヌスクリプトのことは頭から追いやり、代理人も年末の一大イベントに向けて準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「できたよ代理人!」

 

 

その日の晩、自室でレシピのメモを取っていた代理人のもとに、やたらとテンションの高いマヌスクリプトが駆け込んできた。というかもう直ぐ日も変わる時間にもかかわらず大声を出して走るのはどうかと思うのだが。

 

 

「こんな時間まで考えていたのですか? あまり感心しませんよ」

 

「それ、代理人が言っても説得力ないよ」

 

 

ニシシッと笑いながらそう言うと、マヌスクリプトは改めてチラシを手渡す。昼間見た時よりもカラフルになったそれを眺めつつ、マヌスクリプトに質問しながらすり合わせを行う。

 

 

「日時は・・・・・今月の22日ですか?」

 

「うん、その日はバーもやってるでしょ? だから遅くまで開けていられるしね」

 

「なるほど、だから3部もあるんですね。 午前と午後、それと夜ですか」

 

「書いてる通り、午前はマフラーとかニット帽みたいな編み物や小物、午後は大きめの服とかだね。 サンタ服もこの時間だよ!」

 

「ほぉ・・・・で、夜の部は?」

 

「聖夜といえば性夜でしょ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「待って! とりあえず話を聞いて!」

 

 

思わず握ってしまった拳をほどきつつ、視線は冷たいままマヌスクリプトの言い訳を聞いてみる。

実は今回の発端は、彼女が作っては売っているアダルティな下着(代理人は初耳だった)を購入した客から「ぜひ教えてほしい」と言われたのが始まりだったらしい。それのついでにサンタのコスプレでも作ろうかと考え、じゃあせっかくだし定番のマフラーなんかも教えようとなった結果がこれだ。客のニーズに応えてはいるため、別に暴走しているというわけではない、というのがマヌスクリプトの主張だ。

 

 

「・・・・・・・まぁいいでしょう、ただし絶対に子供は参加させないでくださいね」

 

「もちろん! それに人数も抽選で五人限定だよ!」

 

 

ちなみに午前と午後の部はそれぞれ先着十人まで。それ以上は流石に彼女一人では見きれないらしい。その後は張り出す場所やら道具の用意、ついでに簡単なお菓子の用意もするという方向で話がまとまり、無事代理人を説得できたマヌスクリプトは飛び上がる勢いで部屋に戻っていった。

その翌日、街全域と司令部内掲示板に掲載されたチラシは、多くの人の目に止まった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進んで11月22日、マヌスクリプト主催の服飾教室・午前の部が始まった。掲載初日からマヌスクリプトと代理人の予想を遥かに超えた応募者数があり、先着の二つはともかく抽選となった夜の部はその抽選だけで一晩かかってしまったほどだ。

そんなわけで思いの外期待が大きいことにプレッシャーと喜びを感じつつ、受講者の集まった部屋へと足を踏み入れると・・・・・

 

 

「・・・・・・何このメンツ」

 

「開口一番ひどくない?」

 

「ちゃんと先着で予約したわよ。 貼り出されたその場でね」

 

「AR-15、警備中に何やってんのよ」

 

 

そこにいたメンツの十人、そのうちなんと三人が知り合いというなんとも言えないことになってしまった。しかもそれぞれの魂胆が見える連中だ。

恐らくAR-15はハンターに、416は9に、そしてF45は45に、

といったところだろう。そして他の七人は一般人だが、この街では知らぬ者などいないカップルと恋する乙女である彼女たちに苦笑を浮かべるだけだった。

 

 

「はぁ・・・まぁいいわ、じゃあ早速始めようか! まずそれぞれ何が作りたいかを言ってくれる?」

 

「わ、私はハートの柄が入ったマフラーを・・・」

 

「お揃いの手袋・・・・」

 

 

恐らく彼氏と迎える初めてのクリスマスだと思しき女性二人が、恐る恐るという感じで手をあげる。ちなみに二つともそこまで難易度の高いものではないが、多分作ったこともないので自信がないだけだろう・・・・教えがいがある。

その一方で・・・・・・

 

 

「「「長めのマフラー」」」

 

「あんたらの考えてることがよ〜くわかるよ」

 

 

人形三人組は全く同じものを作るようだ。流石に色とか模様は変えるだろうが、それをどう使うかなどあえて聞かずとも十分わかる、というか・・・・

 

 

「F45、あんたそれ二人分?」

 

「も、もちろん! 40なんて入れてあげないよ!」

 

「いや、聞いてないけど・・・・意外とそこは積極的なのね」

 

 

マヌスクリプトの脳裏に、両サイドからマフラーを引っ張られて窒息する45の姿が浮かび上がる。が、面白そうなのであえて言わないでやろう。他二人に関してはきっといつか目にするだろうから聞くだけ無駄だ。

他の参加者の作りたいものも聞き終え、早速人数分の材料と道具を渡して教え始める。といっても手がかかったのはその女性二人とF45くらいで、あとはちょっとアドバイスする程度で済んでしまったが。

 

 

「もうちょっと肩の力を抜いてみて、ゆるく編んでいく感じでね」

 

「は、はい」

 

「こっちは・・・・そうそういい感じ。 あ、何か飾りもつける?」

 

「あ、お願いします!」

 

「F45は・・・・・もうちょっと長い方がいいと思うけど?」

 

「で、でもそしたら40が・・・・」

 

「いや、もう一人分は入れないしそのままだとほとんど余らないよ?」

 

「そ、それぐらいくっつけたらなって・・・・・」

 

「あーうん、そうだね」(もうこのままでもいいかも)

 

 

さてそんなこんなで完成すると、ちょうどそのタイミングで代理人がケーキと紅茶を持ってくる。よく見ると見たことのない新作のケーキのようだ。

 

 

「お疲れ様です皆さん。 クリスマス用に試作してみたんですが、よろしければご賞味ください」

 

「お! ありがとう代理人!」

 

「あなたのためではないんですよマヌスクリプト」

 

 

食べ終えて、最後にプレゼント用の箱に入れてリボンをかけたら完成だ。帰り際に一人ずつお礼と激励の言葉を送り、午前の部は無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに時間は経って午後の部。

作るものが大きくなるため時間を多めに取っているこの部の参加者は、またもや知った顔が紛れていた。

 

 

「・・・・・・・へぇ〜」

 

「な、なによ!」

 

「いやぁ〜君たちが参加するなんてねぇ〜」

 

「だ、だって416に何か送りたいけど作ったことなんてないし・・・・・」

 

「そういうことだ・・・・・・あ、すまないがAR-15には黙っておいてくれないか?」

 

「私も、アルケミストには黙っておいてね」

 

 

参加者十名、うち四人が知り合い、そのうち二人が鉄血とくれば苦笑いの一つも浮かべてしまう。ちなみにチラシの連絡先は鉄血工造から借りた下級モデル人形に繋がっており、当日までマヌスクリプトも代理人も誰がくるかは知らない。

それにしても、午前と午後でカップルの片割れ同士がくるとは中々面白い展開だ・・・・・ついでにドリーマーがこういうことに興味を持っているのも意外だった。

 

 

「まさかあのドリーマーがねぇ・・・・へ〜ほ〜ふぅ〜ん」

 

「わ、悪い!? だって強引に付いてきちゃったわりにアルケミストにはまだ

お礼らしいお礼もしてないし、でも料理も何もできないし、そしたらたまたまこのチラシを見て・・・・な、何よその目は!?」

 

 

可愛いなこいつ、という目でマヌスクリプトを含めた全員から見られるドリーマー。ちなみにアルケミストには黙ってはいるがそもそもバレているのであまり意味はない。

 

 

「それじゃ、早速何を作りたいか聞いてみようか?」

 

「えっと、416用にサンタ服を・・・」

 

「45に着せるサンタさんのやつ!」

 

「サンタの帽子を二つ」

 

「お、同じく・・・・・」

 

 

後ろ二人はともかく、前二人はもう欲望丸出しである。しかもそれぞれの要望に加えて「ノースリーブ」「超ミニスカ」という注文付き・・・・・45はノースリーブ超ミニスカのサンタ服を着せられてマフラーで首を絞められるのか。

 

 

「他の人は・・・・・・ふむふむ、なるほど・・・・え?いや別に面白味を求めなくても大丈夫だよ!?」

 

 

そんなわけで、なんか暴走気味な人形たちを交えた服飾教室が始まった。流石に服を一から作るのは時間的にも腕前的にも難しいので、ベースとなる服を元に仕上げていく感じだ。逆に帽子の方は拍子抜けするくらい簡単に終わったが。

あとは子供たち用にサンタのブーツ、もしくは子供用のサンタ服などなど・・・・・人形たち以外は母親が多い感じだ。

 

 

「そんな中の唯一の男性ですが、今回の目的は?」

 

「あぁ、うちは父子家庭なので」

 

「・・・・・すみません」

 

「いえ、お気になさらず。 きっと娘も喜んでくれますよ」

 

「マヌスクリプト!? ちょっとサイズ合わなくなっちゃった!?」

 

「どこが・・・・って、なるほど・・・・・・416に着せたらボタンが飛びそうだね」

 

「このままでいい!」

 

 

午前の部とは違い若干トラブルこそあれど、なんとか時間内に間に合わせることができたマヌスクリプトたち。完成品を眺めて鼻息を荒くする9と40は放っておき、ハンターとドリーマーにはお節介とばかりにいい店を紹介してやる。

そして解散直後、さっきの父親のもとに向かったマヌスクリプトは、小さな包みを渡しながら声をかける。

 

 

「これ、娘さんに。 服だけじゃあれでしょうから、帽子も作っておきましたよ」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

「いえいえ・・・・・では、素敵な夜を。 メリークリスマス!」

 

「ふふっ、あなたも気が効くんですね」

 

 

見送ったタイミングで代理人が現れ、マヌスクリプトの隣に並ぶ。初めは不安だったようだが、結果的にマヌスクリプトに任せて良かったと思ってもらえたようだ。

 

 

「さて、そろそろ一度閉めましょうか。 手伝いをお願いしますよ、マヌスクリプト」

 

「了解!」

 

 

マヌスクリプトは二カッと笑い、店に戻るのだった。

 

 

 

 

end




ハロウィンが終わるともうすぐクリスマスシーズン、そして年越しとイベント尽くしですね、捗るわぁ〜。
え?夜の部?番外編に決まっておろう(はっちゃける予定)

というわけでキャラ紹介。


マヌスクリプト
喫茶 鉄血が誇る同人作家にしてコスプレメインの服屋。こいつ一人でもそこそこ稼げる。
今回の企画で株を上げることができただろうか・・・・・まぁ夜の部がまだなんだけどな!

代理人
マヌスクリプトに任せていいものだろうかと不安だったが、杞憂に終わった。
ただし、まだ夜の部があることを忘れてはならない。

416・AR-15・F45
午前の部参加。なお、午後の部に9・ハンター・40がいることは知らない。

9・ハンター・40・ドリーマー
午後の部参加。なお、午前の部にry
ドリーマーはかなり久しぶりだが、気がついたらツンデレになっていた。


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第百二十一話:月の香りを漂わせ

今回は『無名の狩人』様とのコラボ!
ブラボ好きにはオススメしたい作品です!(ブラボ好きでなくてもオススメしたい作品です!) https://syosetu.org/novel/196745/1.html

なお、あちらとセリフが若干異なる部分がありますが内容的には変わりありませんのでご安心ください。


世界には科学的に説明できない事象や現象が多々起こる場所というものが存在する。有名なところでいえばバミューダ・トライアングルなんかがそんな感じであり、それは今でもまだ未解明であった。20世紀に人類が初めて月面に到達してから早数十年、宇宙への扉が開かれつつあるが深海は未だに未知の領域だった。

 

さてそんな未解明で摩訶不思議な場所は、何も偏狭の土地だけではない。S09地区にひっそりと店を構える喫茶 鉄血もまた、ある意味それ以上の現象が頻発する場所である。

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

そんな喫茶 鉄血の従業員、鉄血下位モデルのリッパーは、掃除中にふと見覚えのないものを見つけた。小さな鐘のようなそれは見た目通りちょっと重く、ちゃんとしたものであることがわかる。客の誰かの忘れ物かとも思ったが、見つけた場所はカウンターの内側であるため違うと判断する。しかし一人では判断しかねるものなので、リッパーはこの店の主である代理人に届けに行った。

 

 

「代理人。店の隅でこれが見つかったのですが」

 

「?。それは、鐘・・・ですか?」

 

 

代理人は手渡されたそれをじっくり見つめる。掌サイズのものだがしっかりと彫刻が施され、少なくとも安物ではなさそうな感じがする。しかし残念な事に錆び付いてしまっており、その音色は聞こえそうにない。

 

 

「お客様の落とし物でしょうか?」

 

 

そう呟いてリッパーを見るも、首を振られる。なにせカウンターのすぐ裏だ、もし落としていればすぐに気がつくし、いかにもアンティークなものをお客様がそのままにするはずがないと思う。

それにしても、なかなかいい作りの鐘だ。鳴らせないのが惜しいなと思いながら代理人が軽く振るうと、予想に反し透きとおるような音色を奏でる。まるでこの街全体に、いやむしろ()()()()()()()()()にまで聞こえそうな、そんな音色だった。

 

 

「不思議な鐘ですね・・・こんなに錆びているのに音がちゃんと出るなんて・・・」

 

 

代理人がそう呟く。

と、同時に代理人の頭に直接響くような声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【狩人ローウェンがやって来ました】

 

 

すると突然、店の真ん中で青白い光がポォっと浮かび上がり、それがみるみる大きくなる。そして光は人の形を作り出し、一人の男が現れた。

全体的に暗めな色合いのコートに枯れた羽飾りの帽子、鼻の辺りまで覆い隠した黒いマスクのせいで目元しか見えず、不気味な印象を与える。時期が時期なので遅めのハロウィンかと言われてもおかしくはない格好だ。

 

 

「お前が私を呼んだのか?」

 

 

男が低い声でそう尋ねる。その口ぶりから、おそらくあの鐘の音が関係しているようだが、それを聞けるような雰囲気ではない。

 

 

「貴方は?」

 

「私は狩人のローウェン。ローウェン=アイン=シュヴァイツだ。その異世界渡りの鐘が鳴らされたので参上した。さて・・・何を狩るんだ?」

 

 

代理人が尋ねると、男はそう答えた。その言葉から分かったことは二つ、この鐘が『異世界渡りの鐘』と呼ばれるものだということ、そしてこの男がとてつもない力のある人物であるということだ。

狩人、そして『狩る』という言葉と同時ににやりと歪んだ表情に、代理人の背を冷たいものが流れた。だが相手がどうであれこんなことを何度も経験している代理人は、意を決して再び質問する。

 

 

「狩るとは、何を?」

 

「何を、とは獣だ。獣に苦戦を強いられているから呼んだのではないのか?」

 

「獣?」

 

「いないのか?」

 

「そもそも獣とは何の事ですか?」

 

 

質問を重ねるうちにどうも話が噛み合わないことに気がつく。というわけでここからはいつも通り、紅茶を出して話を聞く事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・此処には獣がいない、そんな平和な世界なのか」

 

「はい。 テロや過激な組織こそいますが、人の手に負えないモノはここには・・・・・」

 

「私にとっては・・・退屈な世界だな。 色々な世界がある事は知っているが、此処まで違う世界があるとはな」

 

 

代理人の語る世界に、ローウェンはそう呟いて出された紅茶を一口飲む。なぜかマスクを外さずに飲むことができているが、あえて気にしないでおく事にした。

 

 

「貴方は結局、何者なのですか? 他の世界がある事を知り、世界の枠を超えられる人なんて・・・迷い込んで来た人達なら知っていますが、制限はあっても自ら来れる術を持つ人はいませんでしたから」

 

 

代理人はローウェンと机の上に置かれた小さな鐘を見比べながら、そう尋ねる。彼女の言う通り、この鐘とセットという条件こそあれど自由に世界を渡ることができるなど、ありえない話だったからだ。

だがローウェンの答えは、代理人が思っていたほどたいそうなものでもなんでもなく、なんともあやふやなものだった。

 

 

「なに、たいした者ではないさ。 単なる狩人・・・それだけだ。 さて、少し長居しすぎたようだな。 獣がいないのならそろそろ戻るとしよう」

 

 

ローウェンはそう言うと何処からか取り出した懐中時計を見やりながらそう告げる。しかしその直後にピタッと動きが止まり、代理人達が首を傾げる。少し悩んだそぶりを見せたローウェンは懐から数枚の硬貨を取り出すと、そっとカウンターに置いた。

 

 

「すまない、この世界の金は持ち合わせていなくてな。 代金の足しになるかは分からんが・・・この硬貨の材質は一応、金銀の筈だ。 質屋に持っていけば紅茶一杯分にはなるだろうからこれで勘弁してくれないか?」

 

 

見ればこれまたアンティーク感のある硬貨が数枚並ぶ。しかしこの男、見た目や雰囲気はアレだが意外に律儀な性格らしい。

 

 

「いえ、私達が急に呼び出してしまったのですから構いませんが・・・」

 

「受け取ってくれ。 良い味だったからな・・・・・本当に、久し振りにな・・・また機会があれば来るとしよう」

 

 

ローウェンはそう言うと、懷からフレアガンのような銃(これも随分と古ぼけたものだ)を取り出すと、真上に向けて引き金を引いた。

パァンという銃声に代理人達が驚くが、どうやら空砲のようなものだったらしい。そして同時に、ローウェンの姿も薄れ始める。が、消え去る直前に代理人の方に向くと、少し強めの口調で言い放った。

 

 

「あぁ、良い忘れていたが代理人。 異界から来る者が必ずしも友好な存在だとは限らんぞ。 異界から来る者の中には血を求める輩が大勢いるのだからな・・・血に飢えた者達には気を付けるようにすることだ」

 

 

ローウェンはそれだけを言うと霞のように消え去り、まるで初めからいなかったかのように静寂だけが残る。

帰っていったようだ、とホッと息をつくと、同じく緊張の糸が切れたイェーガーとリッパーが寄ってくる。

 

 

「・・・まるで夢を見ていたみたいですね、代理人」

 

「私達人形は夢を見ませんよイェーガー。 ですが、確かにまるで夢を見させられていたみたいですね」

 

 

代理人はそう呟き、テーブルの上のコインを一枚拾い上げる。去り際にローウェンが残した警告を思い返しつつ、それをポケットに仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、あれに似た服を何処かで見た気がするのですが・・・・?」

 

「あ、代理人もですか? でも何処で見たかが・・・・」

 

バァンッ!

「・・・・・・っ!」

 

「ちょ、ちょっとどうしたのよヤーナム!?」

 

「「「・・・・・・あ」」」

 

 

 

end




はい、というわけでコラボしていただいたのでそのお返し。
もう誰が来ようともあんまり驚かなくなった気がする。

というわけでキャラ紹介+他


ローウェン
『無名の狩人』様の『ブラッド・ドール』の主人公。一体何週目か知らんがやたらと強い。
でも面倒見がいいキャラだと思う。

代理人
拾ったからって勝手に鳴らしたらダメだよ。

ヤーナム&チェーン
いつぞやにやってきた『銃』たち。
鐘の音と慣れ親しんだ雰囲気を感じ取り、スタミナ無視でやってきた。





輝く硬貨

狩りの中では不要なものだが、足元に置けば目印にもなる小さな硬貨。
あるいは翌朝のためにまでとっておくのもいいかもしれない。朝を迎えられるのならば、だが。


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番外編30

指揮官のアバターの性別で悩むこと約一時間、とりあえず男にしたけどそのうち変えるかも笑

というわけで今回は番外編!
・ちっちゃくないよ!(一部)
・喧騒の外側で
・服飾教室 夜の部
・ノインの旅路3rd


番外30-1:ちっちゃくないよ!(一部)

 

 

マヌスクリプトは言葉を失った。目の前にあるそれが一体なんなのかという疑問が常に頭に浮かび、消えることなく累積されていく。メモリ付きのテープを持った両手は止まり、目は瞬きすることを忘れたかのように見開かれている。まるでこの世のものとは思えない光景に、マヌスクリプトはのちにこう語った。

 

『脱いだらもっと凄かった』

 

そんな思いがこもった目で凝視されている彼女・・・フォートレスはこっちはこっちでマヌスクリプトから目を離せないでいた。何せ「採寸するから脱いで欲しい」と言われて脱げば突然固まったのだ。しかも視線は自分に、もっと言えば両手でも隠しきれないほどのボリュームを誇る胸部装甲に突き刺さったままだ。もはや貞操の危機すら覚える空気である。

 

 

「・・・・・・・あ、あのぉ」

 

「ハッ!? な、何かな?」

 

「さ、採寸しないんですか?」

 

 

上目遣い、やや怯えた声色、ちょっとだけ潤んだ瞳、そして小柄なのに出るとこは出過ぎているシルエット・・・・・・マヌスクリプトは自身の理性がゴリゴリと削られていくのを感じ取った。が、そこは代理人に釘を刺されているマヌスクリプト、流石に地雷原に突っ込むようなことはしない。

 

 

「んんっ! じゃあ早速測っていくから手を横にして、まっすぐ立ってね」

 

「は、はい・・・」

 

 

恐る恐るといった感じで両手を横に伸ばし(ここでも理性が削られる)、背中からロープを通してサイズを測っていく・・・・・目の前の緩衝材を鷲掴みにしたくなる衝動を必至に堪えながら。

 

 

「じゃ、ちょっと締めるよ・・・・・痛かったら言ってね」

 

「はい・・・・・・・んっ」

 

 

プツンッ

フォートレスの漏らした声に、限界まで張り詰めていた理性の糸が音を立てて切れる。マヌスクリプト自身がやばいと思ったときには、すでに体は動いていた。

 

 

「やっぱもう限界! 頂きまぁあああああす!!!」

 

「えっ? きゃああああああああああ!!!!???」

 

 

突然のことに反応し切れなかったフォートレスの背中に腕を回し、その柔らかな双丘に顔を埋める。まるで最高級の枕のような心地よさに捕らえられたが最後、マヌスクリプトは自力ではもう抜け出すことはできなかった。

 

 

「や、やめ・・・離して・・・・・」

 

「えへへ〜、もうちょっt「何をしているのですか?」・・・・・あ」

 

 

自力では抜け出せない、そしてフォートレスでは引き剥がせない。そんな状況をいち早く打開できるとすればそれは・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヌスクリプト・・・・・・正座」

 

「ハイ」

 

 

この後、完全に陽が落ちるまでみっちり説教が続いたという。

 

 

end

 

 

 

番外30-2:喧騒の外側で

 

 

おっさんたちによるペルシカへの質問責めが続く頃、そこからちょっと離れた席で嗜む程度に酒を飲む大尉の元に、ふわりと髪を揺らした少女が近寄る。

 

 

「お隣、よろしいですか?」

 

「ん? えぇ、構いませんよ」

 

「ありがとうございます! 代理人、これをもう一杯」

 

「かしこまりました」

 

 

そう言って大尉の横に座ったカリーナを、大尉は不思議そうな目で見ていた。自他共に認める堅物でこういった騒がしい空気はやや苦手な大尉と、明るく快活で場のムードメーカー的な存在であるカリーナ。ほとんど真逆と言っていいほどの違いがあるにもかかわらず、なぜこちらに来たのだろうか?

 

 

「あれ、止めないんですか?」

 

「・・・・お酒が入ると止められませんので。 博士には悪いですが」

 

「ふふっ、確かに止まりそうにありませんわね」

 

「・・・・・・カリーナさんは、なぜこちらに?」

 

 

気になったので、素直に聞いてみることにした。寡黙ではあるが腹芸が得意というわけでもないし気の利いたジョークの一つも言えない以上、大人しく聞く方がいいだろう。

 

 

「そうですね・・・・たまにはゆっくりと話してみたかったから、ではダメですか?」

 

 

クスッと笑いながらそう言った。勘違いされそうなことを言っているがカリーナにはその気などなく、また大尉の方も理解している。というよりもこの二人で話すこと自体は初めてでもなんでもなく、グリフィンと軍の集まりがあるたびに出席しては、上司が話している間に二人でお茶をするくらいよくあることだ。

 

 

「? いつも割と話してはいるとは思いますが?」

 

「それはお取引のお話ですわ。 それも楽しいですが、今日はただお話がしたかっただけです」

 

 

取引、とはいうが実際に取引しているわけではない。互いの情報や交渉材料などを元に相手から情報を買い取り合う、その駆け引きだけを行うゲームのようなものである。片や守銭奴とも言われてしまうほどお金に厳しく、片や適正価格やら予算やらにうるさい軍人、その駆け引きはなかなかのものだ。

そんなわけで意外にも互いのことを話したことのない二人なので、これを機に少し話してみようと考えたのだった。

 

 

「そうですか・・・・・では、まず何から話しましょうか?」

 

「そう言われると少し困りますね・・・・・ではまず互いの自己紹介にしましょう」

 

「改めて、ですか。 少し気恥ずかしくありますが・・・・いいでしょう、まず私からですね」

 

 

そんなこんなで、会の終わりまでゆったりと話した二人。そこにあるのはなんの邪念もない友情なのだが、無粋なおっさんたちが二人をくっつけようとする未来が訪れるのは、ある意味当然の流れであった。

 

 

end

 

 

 

番外30-3:服飾教室 夜の部

 

 

「・・・・・・・・」

 

「どうかされましたか?」

 

「あーいや、うん・・・・ある意味予想通りのメンツだからね」

 

 

喫茶 鉄血の営業時間を終えて、Bar 鉄血へとシフトした頃。日中に行われた服飾教室を満足のいく形で終わらせたマヌスクリプトは勢いそのままに『夜の部』へと進んだ。こちらは前二つとは違い先着順ではなく抽選式、そして例によってマヌスクリプトは応募者も当選者も知らされていなかった。

抽選式だから知った顔に会う確率もそんなに高くない、そう思っていた過去の自分を殴りたい気分だ。

 

 

「ていうかスプリング、あんた裁縫とかできるでしょ?」

 

「ええ、一通りは・・・・・なので今日は、あなたのアイデアをいただきたいなと」

 

「アイデア、ねぇ・・・・・で、そっちは?」

 

「右に同じだ」

 

「わ、私はこの時間しか空いてなくて・・・・ていうかこれってそういう回なの!?」

 

「た、隊長にアピールできるものが作れれば、と・・・・・」

 

「一人で抜け駆けなど許しませんわよ」

 

 

集まったメンツは以下の通り。

・明らかにソッチ系のもの(下着等)を作る気満々の春田

・まだましだが代理人を魅了したいと考えるダネル

・夜の部の意味を全く理解していなかったWAちゃん

・なけなしの勇気を絞り出してやってきたPK

・春田を出し抜こうとしたら鉢合わせたKar

 

・・・・・いろんな意味でひどいメンツである。

 

 

(おかしいなぁ、一般からの応募も結構あったはずなのに)

 

 

一応言っておくと、彼女たちは至極真っ当な抽選で選ばれたものであって、決して裏工作とかそんなものはなかった。これが執念というものなのだろう。

 

 

「まぁいっか。 じゃあ気を取り直して早速始めよう! 何が作りたいとかの要望はあるかな?」

 

 

ぶっちゃけ夜の部にふさわしい代物を教える気満々だったマヌスクリプトだが、少なくともWAとPKはまともなものを御所望の様子、ここは大して問題にはならないだろう。

残るは暴走確定の春田、便乗して暴走するKar、そして代理人がらみになると歯止めが効かなくなるダネルの三名・・・・・面白さ半分、不安半分といったところか。

 

 

「今日のためにいくつかお店を回ってみたのですが、やはりこうピンとくるものがなく・・・・・何かオススメのものとかはありますか?」

 

「(正直あんたは服以前の問題だろうけど・・・)まぁなくはないわよ。 けどあんたなら裸にリボン巻いて『私がプレゼントです♡』くらい言うと思ったんだけど」

 

「はだっ!? そ、そんなのハレンチすぎるわよ!」

 

「そ、そうです! 女性としての慎みを持たないと・・・」

 

 

春田への疑問のつもりが何故か他二名に直撃するしかもそれを自分がやるところまで想像してしまったのか、シュ〜っと頭から湯気までで始めるくらいだ。

逆に三人は特に慌てる様子もなく、しかも春田に至っては笑顔のまま・・・・こいつやる気だ。

 

 

「ま、こっちはほっといて・・・・・Karは?」

 

「私も彼女と同じ理由ですわ」

 

「あら? その貧相な身体に合う下着がはたしていくつあるでしょうか?」

 

「あ゛ぁ゛!?」

 

 

喧嘩勃発。しかしそれもいつものことなので、最後に一番読めないダネルの要望を聞いておく。

 

 

「そういえばダネルはスキンあったよね、サンタの」

 

「あぁ、だから私が着るものは間に合っている・・・・・実はこういうものを作りたいのだが、私でもできそうか?」

 

「どれどれ・・・・・・・・へぇ、これはまた凝ったものを・・・・・いいよ、私も手伝ってあげる」

 

「ほ、本当か!? 助かる!」

 

「いえいえ。 じゃ、さっそくスタート!」

 

 

そんなわけで始まった夜の部。比較的安全かつまともなWA(手袋)とPK(自分用の露出多めなサンタ服)、そしてダネルのものを手伝いつつ、残る二人には資料として大量の薄い本を渡しておいた。二人の望む一着が見つかるといいのだが、まぁきっと何を着てもヘタれるのだろう。

 

 

「こ、これをセーターというのですか? 背中なんてお尻の方まで見えちゃってて・・・・」

 

「ほ、本当に下着をつけないのが正しいんですか?」

 

「まぁ、文献にはそう書いてるよ」

 

「「文献!?」」

 

「二人とも何を読んで・・・・・・ひゃああああああ!!!!???」

 

「あ、WAちゃんは見ない方がいいよ」

 

「遅いわよ!!」

 

 

純情ツンデレ娘にはなかなか刺激の強い世界だったようだ。だが興味自体はあるらしく、PKと共にチラチラと中身を読んでは顔を真っ赤にして目を背けるというのを繰り返す。ダネルはダネルで自分のことに精一杯で、周りのことなど眼中にもなさそうだった。

 

結局蓋を開けてみれば、意外と手間も時間もかからずに作り終え、もっとドロドロの展開になるかと思った夜の部はあっさりと終わりを迎えた。PKは当日にそれを着る勇気があるかどうかで、WAは今日作り方を覚えた手袋を司令部の全員に作るらしい。春田とKarはもはや下着ともいえない一着に辿り着き、クリスマス当日にはさぞ面白いことをしでかしてくれるのだろうと期待が持てる。

そしてなんとか完成に漕ぎ着けたダネルは・・・・・

 

 

「・・・・・・・・」

 

「あれ? どしたの?」

 

「い、いや・・・・気に入ってくれるかと心配でな」

 

「代理人が絡むとホント不安定よねあんた・・・・・大丈夫よ、頑張って作ったんだから」

 

「そ、そうだな!」

 

 

コロコロと表情の変わるダネルを微笑ましく眺めつつ、全員を見送るマヌスクリプト。大きく背伸びをすると、清々しい笑顔で店へと戻るのだった。

 

 

end

 

 

 

番外30-4:ノインの旅路3rd

 

 

「海だーーー!!!」

 

「楽しそうだな、我が主」

 

 

世界を旅する一人と一匹、ノインとダイナゲートは今、大陸から遥々海を渡って南半球を訪れていた。今頃冬の寒さが近づいてきているであろうS09地区の光景を思い浮かべつつ、季節の逆転したこの国で最初にすべきことは、とりあえず海に入ることだった。

 

 

「海ならば飛行機からでも見ただろう?」

 

「でもでも、海だよ!? しかもめちゃくちゃ綺麗で泳げるんだよ!? まさか生きてる間にこんな日が来るなんて!」

 

 

テンションが上がりきったノインは猛ダッシュで海の家に突っ込み、レンタルの水着を借りて更衣室に駆け込む。ダイナゲートはノインの過去を話だけだが知っており、それ故に海を含めた自然の全てに感動する気持ちも理解できる。だからこそ、水着に着替えて駆け寄ってきたノインが嬉しそうにしている姿を、きっちりカメラに収めることにした。

 

 

「お待たせー! どう、似合う?」

 

「うむ、よく似合っている。 流石は我が主だ」

 

 

ちなみにだがノインはあちらの世界での『UMP9』である。正確にはあっちにUMP9という人形は存在しないのだが、何故か世界が違ってもUMP9と言えばこの見た目である。

まぁ要するに、デカいのだ。加えて彼女は片腕こそ義手だが人間であり、絶賛成長中でもある。ダイナゲートの隠し機能を使って測定したところ初めて会った時よりもわずかに数値が上がっており、今後の成長に期待がもてよう。

 

 

「じゃ、行こうか!」

 

「・・・・・・ん? まさか私もか?」

 

「当然でしょ! そのためにこれもあるんだから!」

 

 

そう言うとノインはダイナゲートを抱え、海へと走り出した。波打ち際まで来るとどこで拾ってきたのかタライに重石をくくりつけ、そこにダイナゲートを乗っけるとどんどん海の方へと進んでいく。暑い日差しと冷たい海水にキャッキャと騒ぐノインだが、海の上まで連れてこられたダイナゲートは正直気が気でない。ある程度防水機能があるとは言え、水没すれば一貫の終わりである。メインブースターがあろうとなかろうと、そこは変わりない。

そんなダイナゲートの心情など全く気にせず、ノインはその横で仰向けにって浮かんでいる。

 

 

「あ〜気持ちいい〜・・・・・」

 

「・・・・今更だが泳げたのだな主よ。 というよりもその義手は大丈夫なのか?」

 

「へ? 大丈夫らしいよこれ。 理屈は知らないけど」

 

 

そう言うと目を閉じ、ひたすら海を漂うノイン。重石付きのタライに自身もくくりつけているので流される心配はないが、にしても油断しすぎではないだろうかとダイナゲートは心配する。片腕義手とは言えスタイル抜群の美少女が一人でいるのだ、襲われる可能性だってあるだろうに。

 

 

(・・・・・・まぁ、本人が楽しければそれでいいか)

 

 

いざとなれば自分が叩き起こせばいいだけのことだ。そう思考し、ダイナゲートは不安定なタライの上でノインを見守り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜・・・ヒリヒリするぅ〜・・・・・」

 

「日焼け止めを塗らないからだぞ我が主、それにしてもこんがりだな」

 

「み、見ないでよ! エッチ!!!」

 

 

その日、ダイナゲートは宿の外で一晩過ごしたという。

 

 

 

end




ここまでひどい番外編もそうないだろう。だが後悔はない!
ということで各話の補足とか。

番外30-1
採寸してるだけダヨー、いかがわしくないヨー
きっと人のS心をくすぐるフォートレスちゃんが悪いんだね!

番外30-2
最初期の案ではカリーナと大尉はくっつく予定だった。
この二人は恋人とかよりも親しい友人くらいがちょうどいいと思う。

番外30-3
春田さんが大人しい?まだ助走期間だからね。
Karも大人しい?暴れたらカラビーナが怖いからね。
ダネルも大人しい?代理人が目の前にいなかったら普通だよ。
PKが初々しい?初恋で最初のクリスマスの準備だからね。
WAちゃんが可愛い?WAちゃんだからね!

番外30-4
ノインちゃんに水着を着せたかった、ただそれだけ。
ちなみに番外編で唯一シリーズ化しているこのコーナー、理由は作者が9好きなのと、ノインちゃんには特に幸せになってもらいたいから。
あとダイナゲート(CV.中田ry)を書くのが楽しいから。


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第百二十二話:ポッキーの日

11/11なので。
しかし11月ってこれくらいしかイベントないよね・・・・・まぁ毎月イベントがあるのも日本らしいけど。

さぁ、糖分補給の時間だ!


『ポッキーの日』というものをご存知だろうか?極東のとある国の国民的お菓子にちなんだ記念日であり、なんとちゃんと記念日として登録されているのである。その国・・・・・日本の当時の年号である平成11年(1999年)11月11日にある製菓メーカーが言い出したものなのだが、それから数十年たった今もそれは続いている。

 

さてそんなイベント満載国家の行事など関係なさそうなS09地区だが、意外な事にこの手のイベントが数多く存在する。理由は単純、一〇〇式(日本出身銃)が広めているからである。

 

 

「というわけで! 今日は絶好のネタ日和なのだよ!」

 

「素晴らしい! では早速ネタを集めようか!」

 

「・・・・・・何をしているんですかマヌスクリプト? それとヘリアンさんも」

 

 

11月11日当日、喫茶 鉄血のテーブル一つを占領したマヌスクリプトとヘリアンに呆れた声を上げる代理人。ちなみにマヌスクリプトはこの日に有給を使っており、堂々と休みを取っているのだ。

そんな二人の目の前には大量のメモ用紙とスケッチブック、そしてわざわざ取り寄せた極東のお菓子『ポッキー』と、『チャレンジャー求む!』の張り紙。

 

 

「おや代理人、約束通りテーブル一つで収めたよ!」

 

「いえ、それはいいのですがこれは一体・・・? あとチャレンジとはなんですか?」

 

「お、よくぞ聞いてくれたね! 今日この日のイベントといえばズバリ!」

 

 

そう言ってポッキーを一本取り上げ、高く掲げて二人仲良く宣言する。

 

 

「「ポッキーゲームだ(よ)!!!」」

 

「ぽ、ポッキーゲーム?」

 

 

ポッキーゲーム、それは親しい友人同士や恋人同士が行う周知と度胸のチキンレースである。ちなみに男同士でやると悲惨な結末を迎えるのでオススメはしない。

 

 

「そう、ポッキーゲーム! お客さんはタダでお菓子を食べられて私たちはネタを得る、WIN-WINなゲームだよ!」

 

「おっと止めてくれるなよ代理人、けしてやましいことを強制しているわけではないのだからな」

 

 

そうは言うがこの二人のことだ、確実に下心があるのがわかり切っている。とはいえ一応許可は出したし、客から苦情が来たらすぐ止めるとも言ってあるのでしばらく見守る事にする。

と、言うところで早速気になったのか客がやってくる。AR小隊の五人組にペルシカという、ある意味いつものメンツだった。

 

 

「やっほーSOP!」

 

「やっほーマヌスクリプト! ねぇねぇこれ何やってるの?」

 

「お、早速食いついたね! では説明しよう!」

 

 

そう言ってフリップまで持ち出して説明し始める。ルールは簡単で、ポッキーの両サイドから二人でかじり始め、折ってしまったら失敗というもの。向かい合うように座り、椅子から立ち上がっても失格となる。無事二人で食べ切ったペアには、喫茶 鉄血の超割引券(50%オフ)がもらえるのだ。

 

 

「って言ってもわかりづらいから・・・・・代理人とM4、見本でやってみてよ」

 

「え? 私ですか?」

 

「・・・・まぁ、構いませんが」

 

 

机の下でアホ二人がガッツポーズしたのは言うまでもない。

そんなわけで乗せられたとも知らずに向かい合ってポッキーを咥える二人。代理人は相変わらずの無表情だが・・・・・・

 

 

(ち、近い〜〜〜〜〜!)

 

 

対面のM4の顔はみるみる赤くなっていく。ポッキー一本の長さは約14センチ、まさに目と鼻の先に相手の顔がある事になる。しかもこれから近づくのだから・・・・・・

 

 

「はい、スタート!」

 

 

マヌスクリプトの合図で代理人が黙々と食べ始める。咥え続けなければならない都合上口もとだけもぐもぐと動かしているのだが、その唇が段々近づいてくるにつれてM4の心拍数も跳ね上がっていく。

そしてついに、

 

 

ポキッ

「あっ」

 

「終了〜! いやぁ惜しかったね代理人」

 

「・・・・・・・あなた方の魂胆はしっかり伝わりましたけどね」

 

 

ジト目で睨む代理人の視線を鼻歌で受け流しつつ、その横でヘリアンが血走った目でスケッチを描いている。ペルシカの冷ややかな視線が突き刺さろうが意にも介さない。

するとM16はポッキーを一本手に取り・・・・・そのままペルシカに差し出した。

 

 

「・・・・・え?」

 

「いや、やるだろ?」

 

「なんでよ!?」

 

「お二人のためにあるようなゲームじゃないですか。 ほら、SOPはこっち」

 

「えぇ〜・・・」

 

 

M16とROがノリノリで二人を座らせると、ニマニマと笑みを浮かべながら見守る。それが無性に腹立たしいので、もう一度抗議の声を上げる事にした。

 

 

「まだやるなんて言ってないんだけど?」

 

「え? やらないんですか?」

 

「もしかして失敗すると思ってるのか? SOP可愛そう〜」

 

「やってやるわよ!」

 

 

呆気なく乗せられた。しかしペルシカとSOPは付き合い始めてそこそこ経つ。キスも一度や二度ではないのでこの程度なんら問題にならないはず、と思い込んでポッキーを咥えた。

 

 

「それじゃあ早速・・・・スタート!」

 

 

合図と同時に二人とも勢いよく食べ進め・・・・・・止まった。

テーブル一つ分空いており、椅子に座っている都合上互いに顔を近づけなければならない、しかも咥え続けるためには口を前に出す必要があり、必然的にキスに近い形になる。そして二人は、あとちょっとのところでチキンになったのだ。

 

 

「「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」」

 

 

顔を合わせたまま、真っ赤な表情で動けなくなる二人。ここまできたら引くに引けず、とはいえ進む度胸もない。自分から折るのは拒否したようで嫌だし、かと言って折られるのもちょっと・・・・・・というジレンマに突入してしまった。

横で興奮しながらスケッチをとる二人のことなど一切目に入っていない。

 

 

(ど、どうする? 一気に行く? それともあっちから来てくれるのを待つ???)

 

(ぺ、ペルシカ動くのかな? 動かないなら、こっちから行った方が・・・・)

 

(い、いや、ここは恋人として、そして育ての親として度胸を見せる場面よ!)

 

(ま、待ってる間に折れちゃうくらいなら、こっちから!)

 

 

と互いの間で『相手が動かない前提』の話を組み立てた結果、ほぼ同時に前進する事になった。

そしてそれは相手のもとに向かう途中で止まることとなる・・・・・・迫ってきた相手の唇で。

 

 

「「んむぅっ!?!?!?!」」

 

「「いぇええええええええええええすっ!!!!!」」

 

 

企画者二人、大歓喜である。そして忘れてはならないのが、ここが喫茶 鉄血のテーブル席だという事。

周りからの拍手と歓声に、ペルシカとSOPは真っ赤になりながら俯いた。

 

 

「・・・・・その・・・お二人ともお疲れ様でした。 こちらが賞品の割引券、お二人分です」

 

「あ、ありがと・・・・・・///」

 

「〜〜〜〜〜///」

 

 

そんなこんなで、騒がしくも熱い1日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヌスクリプトさんっ!」

 

「あたいたちもやるよっ!」

 

「ふ、二人ともどうしたのよ!?」

 

「あ、いらっしゃい40、F45・・・・と45」

 

 

AR小隊が去ってから数分後、両腕を姉妹に挟まれた45が連行されてきた。当の45には何も知らされていないのか、困惑したまま辺りを見渡している。

 

 

「でも意外だね、二人同時に来るなんて」

 

「「45(お姉ちゃん)を連れてこようとしたらついてきたの!」」

 

「お、落ち着いて二人とも、喧嘩はダメよ・・・・」

 

 

45も軽く怯えている。このままでは精神衛生上よろしくないので早速ルールを説明し、呆れる45にポッキーを二本渡す。

 

 

「じゃ、最初はあたいから! 頑張ろうね45!」

 

「え、あ、うん」

 

「準備はいいかな〜? じゃあスタート!」

 

 

いうや否や、もの凄い勢いで食べ進める40。その鬼気迫る迫力に45が圧倒されている間にもみるみる減っていき、あと数口で終わるというところで・・・・・・

 

 

「おっとぉ!!!」

 

「んぐっ!?」

 

ポキッ

「んっ! ・・・・折れちゃったわね」

 

「ど、どういうつもりなのF45!?」

 

 

わざとらしく背中を押したF45のせいでバランスが崩れ、勢い余って折れてしまった。はぐらかしてはいるが、それが嫉妬によるものだということは誰の目にも明らかだった。

 

 

(姉妹間の三角関係・・・・・いいっ!)

 

(これは滾るな!)

 

 

二人は溢れ出る妄想を脳内にだけとどめ、F45を座らせる。後ろで40が不服そうな顔をしているが、始まると同時に何か思いついたのかニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ、両手をワキワキさせながらF45に忍び寄る。

そして・・・・・・

 

 

「・・・・えいっ!」

 

「んむぅ!?」

 

 

両脇腹に指を立てた。その衝撃でビクンとはねるF45だがなんとかそこは持ち堪え、必死に我慢しながら咥え続ける。が、40の攻勢はなおも続く。

 

 

「ほぉ〜ら、まだまだ残ってるよ〜?」

 

「〜〜っ!!」

 

 

咥えたままプルプルと触れつつ、なんとか我慢しようとするF45。が、その我慢も長くは続かず、

 

 

ポキッ

「んふっ、あははははは!!!」

 

「はい残念〜〜!」

 

「よ、40! もうやめ・・・いひひひひひ!!!!」

 

(・・・・・もう帰っていいかな?)

 

 

目の前でじゃれ合う妹二人を眺めながら、残ったポッキーを食べ終えた45はぼんやりとそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さま、これです!」

 

「おぉ、本当に50%オフ券だ・・・・」

 

 

続いて現れたのは、見た目とか雰囲気がよく似ている二人組、G11とゲパードだった。着任の際の一件からG11のことを『お姉さま』と呼び慕い、初期の頃なんかは襲い掛かろうとしたくらい溺愛していたゲパードがG11を連れてきた、それだけでマヌスクリプトとヘリアンは色々と察した。

 

 

「いらっしゃいませ二人とも」

 

「やぁ代理人、悪いけど賞品は頂くよ」

 

「お姉さまへの愛があれば余裕です」

 

 

勝ち誇った表情のG11の後ろで、ゲパードが怪しい笑みを浮かべながら舌舐めずりをする。それを見て代理人も察するが、あえて見て見ぬ振りをする事にした。

なんだかんだ、代理人も楽しんでいるのだ。

 

 

「じゃあルールの説明は大丈夫そうだね。 はい、チャンスは一回だよ」

 

「健闘を祈るぞ、G11」

 

「? まぁ任せなよ」

 

 

そう言ってポッキーを咥え、椅子に座る。そして対面にゲパードが座り、片方を咥えたところでようやくG11も違和感を覚える。

ゲパードの様子がちょっとおかしい。具体的には目がいつもより開いていて鼻息が荒いくらいだが。

 

 

「では、スタート!」

 

「っ!!!」グヮシッ!

 

「んんんっ!?!?!?!?」

 

 

開始早々、なんとゲパードが両手でG11の頭を押さえ込んだ。そしてそのままバクバクと食べ進め、それに連れてG11も今更ながら状況と、ゲパードが誘った魂胆に気がついた。

 

 

(そ、それが狙いかぁああああああ!!!!)

 

(お姉さまとチューお姉さまとチューお姉さまとチューオネエサマトチュー・・・・・・)

 

 

距離に比例して鼻息が荒くなり、もはや恐怖しか感じないゲパードの表情。普段なら速攻逃げ出すところだが今回は賞品がかかっているためにG11を思いとどまらせる。が、このままではたとえ食べきっても解放されるかは怪しいところ。最悪の場合そのまま公衆の面前で()()()()()()()可能性すらある。

半額券か、それとも貞操(?)か・・・・・・天秤にかけた結果、G11は思いっきり顔を逸らした。

 

 

パキッ

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!」

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・あ、危ないところだった」

 

((・・・・・・・ちっ))

 

 

まるでこの世の終わりのような顔で固まるゲパードと、命がけの作戦から帰還した兵士のような安堵の表情を浮かべるG11。ついでに審判兼モニターの二人は密かに舌打ちした。

 

 

「・・・・・ま、残念だったねG11、よかったの?」

 

「大事なものを失うよりは、ね」

 

「そうか・・・・・残念だったなゲパー・・・・・・ド?」

 

「・・・・うふ・・・・うふふふふ・・・」

 

 

意気消沈していたかと思われていたゲパードから発せられた低い笑い声。そしてその直後、ガバッと顔を上げると同時に再び両手がG11を捕らえた。

 

 

「ぬわっ!?」

 

「もうゲームなんて関係ありません、チューしましょうお姉さま!」

 

「はぁ!? む、無理に決まってんでしょ!」

 

「嫌よ嫌よも好きのうちですねわかります!」

 

「全然違・・・・ちょ、近、近い近い!」

 

「・・・・まぁ、これはこれで」

 

「積極的な後輩に迫られる先輩、そこから始まる恋愛ストーリーか」

 

「書くなら健全なものにしてくださいね二人とも?」

 

「冗談言ってないで止めてよぉおおおお!?」

 

 

 

 

end




やりました(某空母並感)
ちなみにポッキーの日の正式名称は『ポッキー&プリッツの日』だそうです。

では早速キャラ紹介


マヌスクリプト
今回の主犯1。
ちなみに割引券はマヌスクリプトの実費である。

ヘリアン
主犯2。
自分とこで管理している人形たちで絵を描くという暴挙に出ている女。

代理人&M4
非公式親子。
まぁいきなりやれと言われたら恥ずかしいよね。

ペルシカ&SOP
親子で恋人。
ちなみに先に理性が切れるのは大体ペルシカ。

45&40&F45
賑やか姉妹。
45の被害担当っぷりが板についてきた。
いかに相手を出し抜くかが40とF45の争点。

G11&ゲパード
「話を聞いたときにティンときた」とはゲパードの談。
愉悦部で人を陥れるのが得意なG11が唯一苦手とする相手、それがゲパードである。


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第百二十三話:この働きすぎな青年に休暇を!

仙台なう

こっちに来て以来実は休みなしだったユウトくん。
それに気づいたサクヤは・・・


「はい、これ」

 

 

そう言われてユウトが手渡されたそれは、『有給休暇申請書』と書かれた一枚と紙切れだった。それと渡した張本人であるサクヤを交互に見やり、改めて書面に目を落とす。そこそこ記入しなければならないであろうその書面にはすでに必要事項が書かれており、おまけに受領印まで全て押されている。

似せる気すらなかったのか、筆跡からサクヤが全て書いたものであることがわかる。

 

 

「えっと・・・・これは?」

 

「ユウト、あなたがこっちに来てから結構経つよね?」

 

「うん」

 

「で、その日からずっとここで働いてくれてるよね?」

 

「うん」

 

「・・・・・・最後に丸一日休んだのって、いつ?」

 

 

そこまで言われて、ユウトはようやくサクヤの意図が読めた。要するに、働き詰めで全く休んでいないユウトに休暇を取らせたいのだろう。基本的に勢いでなんとかすることの多い姉の狙いに苦笑しつつ、ユウトは答えた。

 

 

「気持ちは嬉しいよ姉さん、でも僕は姉さんの力になりたくて働いてるんだ。 それに休めるときには休んでるしね」

 

 

だからこれはいらないよ、と続けようとして手を伸ばしたそのとき、ユウトの後ろの扉がバタンッと開いて下位モデルたちが入ってくる。何事かと身構えるユウトに、サクヤは不適に笑って申請書をヒラヒラさせる。

 

 

「あなたがそう言うのは予想できてるの、だからもう全部記入もしてある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この意味がわかるわね?」

 

「ではユウト様、これを」

 

 

サクヤが言い終えると同時に下位モデルたちがユウトに財布やら連絡用の端末やらを渡し始める。渡すだけ渡すとそそくさと出て行くあたり、これのためだけに呼ばれたのだろう。いまだ唖然とするユウトに、サクヤはとどめの一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあユウト、とりあえず今日一日を楽しんできてね! あ、それと晩ご飯も食べてくること。 夜8時以降じゃないと門はくぐらせないからね!」

 

 

じゃあ、いってらっしゃ〜い!というサクヤの声に、ユウトは頭の中が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それでとりあえずここへ」

 

「いくらなんでも酷すぎやしないかな、代理人姉さん」

 

「ふふっ、彼女なりの気遣いでしょう。 今日はそれに甘えてみては?」

 

 

そう言ってコーヒーを出す代理人。

追い出される形で休暇をもらった(しかも門の警備人形にも出社拒否された)ユウトは、やはりと言うべきかこの世界で数少ない友人を頼ることにした。すなわち、ここへ流れ着いたときにお世話になった代理人である。鉄血工造本社から路線バスでS09地区の街までやってきて、喫茶 鉄血に入ると同時にコーヒーだけ注文して愚痴り始めたのがついさっきのことだ。

 

 

「それはわかるんだけど・・・・・別に休暇なんていらないのに」

 

「そう言うわけにもいきませんよ、何せそれで怒られるのは彼女なんですから」

 

「え? なんでだ?」

 

「え? それはもちろん・・・・・・あ、なるほど」

 

 

代理人が当然のように言ったことに疑問を浮かべるユウト。それにまた首を傾げた代理人だが、彼の境遇・・・もっと言えば()()()()()を思い浮かべてもしやと思う。

荒廃した世界、機能しない国家、人口の減少・・・・・つまり

 

 

「ユウトさん、この世界では定期的に休まないと怒られるんですよ」

 

「・・・・・は?」

 

「あぁ、やっぱり・・・・」

 

 

こっちとあっちの最大の違い、それはあらゆる法律の有無である。あっちでは法なんてあってないようなものだろうがこっちはそうはいかない。全世界共通のものから地区単位の細かいものまで、ありとあらゆる法律や規則が生きているのだ。そして企業で働く社員にとっての生命線、『労働時間』と『年間休日』もまた、この世界では当然のように存在する。

これをユウトが知らなかったのはある意味仕方のないことだ。他の組織ならいざ知らず鉄血工造はその社員の半数以上が人形である。そして開発部に至ってはサクヤ以外全員人形、しかもサクヤ自身が元あっち側の人間だ。結果、そんな当たり前の規則すらも知らずに働いてきたのだろう・・・・・で、それを思い出したサクヤが慌てて休暇を出したところか。

 

 

「まぁ彼女も、自分が休んでいる時はあなたも休んでいるものだと思っていたようですが」

 

「働きすぎると怒られる・・・・・改めて世界が違うんだな、ここは」

 

「逆にあなたたちの世界で働く方々の根性がすごいと思いますが」

 

 

代理人が呆れたように呟く。だがあの世界では大小問わず企業はそんなものだ。あのグリフィンに勤める多くの指揮官らも、毎日休まず出社して(ログインボーナスを貰って)いるのだから。

 

 

「あはは・・・・まぁそれが普通だったから」

 

「そうですね、ですがこちらにきてしまった以上はこちらのルールに従う必要がありますよ」

 

「だよなぁ・・・・はぁ、どうしよう」

 

「お、珍しい顔がいるな」

 

「こんにちは代理人」

 

 

ユウトがため息を吐いたところで現れたのはM16とROの、AR小隊の暇人二人組。他の隊員がそれぞれの付き合いがあったりするせいで必然的にこの二人で動くことが多いが、二人ともラフな格好なので休日らしい。

 

 

「はじめましてか? 私はM16A1だ」

 

「私はRO653です」

 

「はじめまして、鉄血工造でエンジニアをやってるユウトです」

 

「お二人は今日はお休みですか?」

 

「あぁ、つっても他に暇そうなのがいなくてな」

 

「二人だと行く場所も限られますから」

 

 

で、こちらもとりあえずでここにきたらしい。そんなノリで来てくれることに喜ぶべきか、はたまた溜まり場のようになっている現状に嘆くべきか。

と言うところまで考えた代理人はふと閃く。行くあてもないこの三人を一緒にしてしまえばいい、ついでにM16なら遊び場の一つや二つは簡単に出てくるだろう。

 

 

「ならちょうどいいところです。 ユウトさんも今日一日空いているそうなので、皆さんで遊びに行かれては?」

 

「え?」

 

「お、それはいい考えだな! よし、じゃあとりあえず飲みにいk

 

「ダメですよM16、まだ陽が高いうちから飲むと私が連れて帰らなくてはならなくなります」

 

「え〜堅いこと言うなよRO〜、お前もそう思うだろ?」

 

「え、えぇ・・・・」

 

「流されないでくださいユウトさん、M16はそれこそ浴びるように飲むんですから!」

 

「ええぇ・・・・・・」

 

「わかったわかった、とりあえず日中は我慢するよ。 じゃ、とりあえず行くか! 道すがら考えりゃいいだろ」

 

「え、ちょっ、まだ行くとは・・・・」

 

「でも夜まで帰れないんですよね? でしたら彼女たちについて行くほうがいいと思いますよ?」

 

「止めてくれないのか代理人姉さん!?」

 

 

引っ張られるユウトにニッコリと笑みを浮かべて手を振る代理人。ROもため息こそつけど止める気はなさそうで、ユウトはそもままずるずると連れて行かれてしまう。無情にもバタンッと扉が閉まったところで、代理人もフッと表情を和らげた。

 

 

(ときには荒治療がいいこともあるんですよユウトさん・・・・早くこの世界に慣れてくださいね)

 

 

 

end




休みの日に友人に連れて行かれて休んだ気がしないという経験、あると思います。
というわけで今回はいただいたリクエストから、ユウトの休暇の一幕を書いてみました。おらっ、お前も幸せになるんだよ!

てなわけでキャラ紹介


ユウト
鉄血工造所属の男性エンジニア。よその世界から流れ着いた。
働くことが当然というワーカーホリックにどっぷり浸かっており、休むという発想がそもそも存在しない。

M16
ARの副長にして飲兵衛。
出会いが欲しいとは思っていなかったが周りのムードに当てられてちょっと羨ましいとか思ってたり・・・・

RO
このままではM16ともどもいき遅れになるのでは、心配している。

サクヤ
自分で書類を作り、自分で書き、自分で判を押すことのできる人物。
有給だろうが臨時休業だろうが自由自在・・・・なのだがこちらも仕事を休むという発想があまりない。


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第百二十四話:人形ホイホイ

寒くなってきたので、そろそろね。


いよいよ冬の寒さが近づいてきた頃。

人間よりはマシとはいえやはり体の底から冷える寒さは耐え難いという人形たちも一定数おり、そんな人形たちのためにグリフィンや指揮官は新たな暖房設備や防寒具を用意することになる。とはいえヒーターやストーブは場所を取るし、何より離れてしまえばさして暖かくもないということで不評。そんな中、人形たちからも厚い支持を受けている暖房器具がある。

 

 

「はい、というわけで『炬燵』買っちゃいました!」

 

「また変わったものを・・・・・」

 

「なにこれ? 机?」

 

「む、裏に何かあるな。 ここから熱が出るのか?」

 

 

若干悴む手で閉店作業を終えた喫茶 鉄血一同、その直後に裏口の呼び鈴が鳴り、宅配業者が大きな荷物を届けにきたのだ。マヌスクリプトが受け取ると三階の共有スペースに持っていき、あっという間に組み立てたのがこの炬燵である。コードを接続して上から一緒に買った布団を乗せ、その上に天板を乗せれば完成となる。

 

 

「で? これも何かの資料?」

 

「いや、最近寒くなってきたからね。 机に向かってても足元が冷えて困ってたんだよ」

 

「つまり、ズボラがしたかっただけということだな?」

 

「ズボラじゃない、効率的な手段なだけだよ」

 

 

そう言ってマヌスクリプトが炬燵の中に下半身を埋める。喋っている間に充分暖かくなっていたようで、足を入れた瞬間マヌスクリプトの表情が蕩けた。

 

 

「んぁあああぁぁぁぁ・・・・・これ最高ぉ〜〜〜〜」

 

「二割増しでだらしないなマヌスクリプト。 しかし、そんなにいいものなのか?」

 

「入ってみればわかるよ〜、そのためにここ(共有スペース)に置いたんだしね」

 

「む、では失礼するぞ・・・・」

 

 

マヌスクリプトにつられる形で、恐る恐る足を踏み入れるゲッコー。そして大した間もおかずにその虜になってしまった。

 

 

「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・」

 

「どう? いいっしょ!?」

 

「こ、これはダメだ・・・・ダメになるに決まってる・・・・・」

 

 

あっという間にハイエンド二体を陥落させた炬燵、恐るべし。しかもいつの間にかしれっとダイナゲートも中に潜り込んでおり、さながら炬燵の猫と化している。

 

 

「まったく・・・・・まぁ今日はもう終わりましたからあまり煩くは言いませんが、程々にしてくださいね?」

 

「「はぁ〜〜〜い」」

 

「はぁ・・・・・ではD、夕食の支度をしますので手伝ってもらえませんか?」

 

「了解!」

 

 

元気よく返事するDを連れて、代理人は一階へと降りていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

一時間後。

一通りの支度を終え、後は出来上がるのを待つだけとなったところで再び戻ってきた代理人は一瞬言葉を失った。

まずマヌスクリプト、もう完全にそこから動く気がないと言わんばかりにPCやら液タブやらを持ち込んで居座っている。次にゲッコー、炬燵に突っ伏すようにしてぐでぇっと座り、これまたどこから持ってきたのかスナック菓子をポリポリと食べている。

二人揃ってもう手遅れな感じがするが、それに加えてなんとリッパーとイェーガー、それとフォートレスも混ざっていた。腰から下を炬燵の中に埋めたまま、フォートレスを真ん中に二人で抱き合うようにしてすやすやと眠っており、彼女たちのお腹の上でダイナゲートもスリープモードに入っている。

搬入、そして組み立てからわずか一時間ちょっとで、喫茶 鉄血の戦力の3/4が炬燵によって陥落してしまった。

 

 

「あらら、みんな仲良しだね!」

 

「これから夕食だというのに・・・・・・ゲッコー、夕食前のお菓子は控えてください」

 

「ん゛っ!? す、すまない・・・・」

 

「マヌスクリプトはそれを片付けてもらいます。 どのみちここから動く気もないようですから夕食はここで食べましょう」

 

「え、マジで? やったぁ!」

 

「それとD、ブランケットを持ってきてください。 夕食までは眠らせてあげましょう」

 

「はぁ〜い。 あ、それ持ってきたら私も入ってていい?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「「私らと対応違いすぎない?」」

 

「日頃の行いですよ」

 

 

ぶぅ〜っと膨れる二人に冷たい視線を向けていると、ブランケットを持ってきたDが戻ってくる。そして寝ている三人にふわりと掛けると、自身もブーツを脱いでそろっと足を入れる。

 

「わ、わわっ・・・・・Oちゃん、これすごいよ!」

 

「でしょでしょ!? ほら、代理人も入りなって!」

 

「分かりましたからじっとしていてください。 もうすぐ夕飯もできますからね」

 

 

まるで子供のようにはしゃぐDの様子に、ちょっとだけ興味をそそられる代理人。もはや別人格と言ってもいいDと代理人だが、根っこの部分はやはりオリジナルとそのダミーであり、要するに感性やら好みやらが似通った部分も多くあるのだ。そのDが絶賛するのだから、きっと悪いものではないのだろう。

そんなことを思いながら、代理人はそろそろ出来上がるであろう夕食の様子を見に行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、起きたのですね三人とも」

 

「だ、代理人。 すみません、手伝いもせずに寝てしまっていて」

 

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

 

蓋の閉じた鍋と人数分の食器をサブアームも使って器用に運ぶ代理人。上に戻ると寝ていた三人も起きたようで、申し訳なさそうにして座っていた。これがゲッコーとマヌスクリプトならともかく、普段から真面目に働いてくれている(フォートレスは研修中だが)彼女たちが寝ていたくらいではなにも言ったりしない。が、ちょっとだけ嗜虐心をそそる三人に、代理人も乗っかってみた。

 

 

「そうですか・・・・・その割には起きても手伝いにはこなかったですね?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「あぅあぅ・・・・・」

 

「・・・・・・ふふ、冗談ですよ三人とも。 さ、ご飯にしましょうか」

 

 

悪戯っぽくクスクス笑うと、鍋と食器を並べていく代理人。蓋を開けると、中からいい香りが広がりとろりとよく煮込まれたシチューが姿を現す。おぉっ!と歓声が上がる中で代理人が人数分の器によそい、それぞれに配るとその場に座り込む。

 

 

「全員行き渡りましたね? では、いただきます」

 

『いただきます!』

 

 

全員で合唱し、熱々のシチューを頬張っていく。その様子に満足した代理人は、そこでようやく目の前の炬燵に意識を向けた。邪魔なブーツを脱ぎ去り、少々はしたないがスカートをめくって足だけを中にゆっくり入れていく。

 

 

「はふぅ〜〜〜・・・・・・・・・・ん?」

 

 

思わず、それこそ代理人が意識すらしていないため息が溢れ、ふと顔を上げると全員が食事の手を止めてこちらを見ていた。主に微笑ましいものを見たという表情とニヤニヤという笑みの二種類に分かれ、後者筆頭のマヌスクリプトなんかはそれはそれはいい笑みだった。

 

 

「・・・・・・・なんですか?」

 

「いやぁ〜〜〜別にぃ〜〜〜〜〜?」

 

 

食事の席でなければとっくにぶん殴っているがそうもいかない、そしてマヌスクリプトもそれが分かっているようでニヤけたままシチューを頬張る。

なんとも言えない敗北感と羞恥心に苛まれながら、代理人はそれを紛らわせるように食事に手をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ゲッコー」ボソボソ

 

「なんだ?」ボソボソ

 

 

そんな代理人の正面で、マヌスクリプトは隣に座るゲッコーに耳打ちする。先ほどからずっと悪い笑みを浮かべているが、どうやらゲッコーも巻き込んで何かやらかすつもりらしい。

 

 

「ちょ〜っと手伝って欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「それは代理人に何かやるということか? 悪いがリスクに見合わない事はやらんぞ」

 

「前に君が欲しがってた服を作ってあげるから・・・・・ね?」

 

「乗った。 で、何をすればいい?」

 

 

リスクに見合ったリターン、そう判断したゲッコーは呆気なくマヌスクリプトの提案に乗ってしまった。

 

ところで炬燵というものはその構造上、足を伸ばしていなければならない状態になる。世に言う『女の子座り』でも一応入れはするが、炬燵の暖かさは半減するだろう。加えて素足で入ることが望ましく、さらに言えばこの炬燵の下で何が起きているかは誰にも見えないのだ。

例えば・・・・・・無防備な足の裏をくすぐられる、とか。

 

 

「・・・・・・・ひゃんっ!?」

 

 

そんな素っ頓狂な声をあげて身を硬らせる代理人に、喫茶 鉄血の面々の視線が突き刺さる。声をあげた当人は顔を真っ赤にしながらコホンと液払いし、一応犯人の目星はついているが後できっちり怒ろうと思い炬燵から足を引き抜く・・・・・・事はできなかった。

 

 

「え、ちょっ・・・・待っ!?」

 

 

突然足に何かが巻きつき、グイッと炬燵の中に連れ戻す。この形状とこんなことができる人物は、この中に一人しかいない。

 

 

(ぐ、グルというわけですか・・・・ゲッコー!)

 

(すまんな代理人、だがちょっと楽しいぞコレ)

 

 

顔だけは周りと同じく心配したような、しかしよく見れば口元がヒクヒクと笑いを堪えているゲッコーとマヌスクリプトに恨めしげな視線を向ける代理人。

だが、調子に乗ったマヌスクリプトがこの程度で終わらせることなどあり得なかった。

 

 

「んっ! く・・・・ふっ、ふふっ・・・くふっ・・・・・・」

 

「だ、代理人、大丈夫!?」

 

((あ〜・・・・これはあの二人の仕業かなぁ))

 

 

フォートレスが割と本気で心配する横で、リッパーとイェーガーは何が起きているのかを察していた。二人の想像通り、炬燵の下では代理人の生足をゲッコーの尻尾型ユニットが拘束し、その足裏をマヌスクリプトと二人がかりでくすぐっているのだ。代理人もなんとか自前のサブアームで応戦するも、中の様子が見えないことに加えてやたらと高性能な尻尾にそれも阻まれてしまい、一向に脱出の糸口が見えないまま悶えるしかないのだ。

 

 

(いいっ、いいよこれ! 妄想が捗るよ!)

 

(あぁ、あの代理人がこんなにアッサリと・・・・・いかん、何かイケナイ気分になってきた)

 

 

圧倒的有利な状況で徐々に気分が高まっていく二人。もう二人の頭からはこの後遅かれ早かれ訪れるお説教のことなど一切抜け落ちており、ただただ今を楽しむばかりであった。

 

・・・・・が、それもそんなに長く続かないのが世の常である。

 

 

「ひゃひっ!?」ビクンッ

 

 

ちょっと調子に乗ったゲッコーが、尻尾の先で代理人の太腿を撫でた。それが今の代理人には少々刺激が強すぎたようで、思わず足が持ち上がってしまう。

そしてその真上・・・・・炬燵の炬燵たりえる部分である発熱機に、巻きついていた尻尾が直撃した。

 

 

「あっっっっっっっっっつ!?」

 

「へ? フゴッ!?」

 

 

ジュッという音と共に飛び上がったゲッコーの肘が、運悪くマヌスクリプトの脇腹を直撃する。そのまま二人揃って転げ回っているうちに代理人は炬燵から抜け出し、荒い息を整えると二人の首根っこをガシッと掴んだ。

 

 

「二人とも少しのぼせてしまったようですね・・・・・ちょっっっっと涼みに行きましょうか?」

 

「「ごめんなさいぃいいいいいいいいい!!!!」」

 

 

ずるずると引きずられていく二人を、残った人形たちは可哀想なものを見る目で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃぃぃぃ!!! 冷たいぃいいいいいい!!!」

 

「代理人! やりすぎたのは謝るからせめて靴だけでも返してくれ!!!」

 

 

その晩、気温と共に一気に冷えた石畳の上で、裸足のまま二時間ほど放置された二人だったとさ。

 

 

 

end




どこからどう見てもKENZENな話でしたね!
ちなみにこれをリアルでやると嫌われるか喧嘩になるので覚悟と責任を持ってやりましょう。

それでは今回のキャラ紹介!


代理人
普段ブーツで外気にも触れてないんだからきっと敏感なんだろうという思いつきでこんな話になりましたごめんなs待って許してなんでもしまs(銃声)

マヌスクリプト
諸悪の根源。だが炬燵の導入自体は喜ばれた模様。
半纏を羽織り、みかんを摘みながら同人活動に勤しむ光景の違和感のなさにビックリ。

ゲッコー
かっこいい感じの服欲しさに加担した共犯者。ちょっとSが芽生えた。
ちなみに彼女の尻尾は自身の体重を楽々支えられるくらいに強いので、たとえ代理人であろうとも勝負にならない。

D
オリジナルがやられているのに助けてくれない。
ちなみに感覚共有はオフにしてあるが、オンにしていなくて本当に良かったと語っている。

フォートレス
二人に制裁を加える代理人の姿はいつものことなのだが、新参である彼女には恐怖映像として映ったようだ。
乳オンザ炬燵。

リッパー&イェーガー
上司かつ店長がやられていても助けない。
ちなみにこの喫茶 鉄血でのヒエラルキーでいえばマヌスクリプトやゲッコーよりも高い。


最近リクエストが大人しいなと思ってたらリンクを張っていなかったというチョンボ。そりゃそうだよね。
ということで久しぶりに載っけました!質問とか気軽にしてくれても構わないよ!(周りに見られたくないという方はメッセージでも可能です)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百二十五話:武闘派MG

溢れ出るS感はMの裏返しなんだと思います!(魂の叫び)
*本文とは一切関係がございません。

消化しきれていないリクエストは時間をかけてでも書くつもりですのでもうちょっと待ってね!


その知らせはあっという間に喫茶 鉄血にも流れてきた。あのAR小隊と404小隊が負けたという知らせだ。

それぞれが裏と表で他の追随を許さないほどの作戦遂行能力を誇るAR小隊と404小隊。ここの能力で言えばそれを超える人形たちは割といるものの、一部隊として見た場合やはり彼女たちの方が上になる。そんな歴戦の猛者とも呼べるあの二部隊が負けたという知らせを、代理人は素直に信じることができなかった。

 

 

「ほ、本当なのよ代理人!?」

 

「いえ、ですがそれならなぜ無傷でここにいるのですか45?」

 

 

信じられない理由、というのが目の前にいる404の隊長であるUMP45のせいである。なにせそんな強敵相手に全滅し、しかしけろっとした様子でコーヒーを飲みにきたのだから信じろという方が難しい。

 

 

「嘘じゃないんだよ代理人。 私たちは本当に手も足も出なかったんだ」

 

「えぇ、まさかあんな人形がいたなんて・・・・・」

 

「ギブアップすらさせてくれなかったよね、あの人」

 

「・・・・・・・・・うん?」

 

 

さらっと聞き流すところだったが聞き捨てならない内容が聞こえてきた。彼女たちが負けたというのだからてっきり数で負けたとか不利な状況だったとかだと思ったが、そもそもの前提が違っていたらしい。

 

 

「あの・・・・・確認ですがお相手は何人だったのでしょうか?」

 

「え? 一人よ、言ってなかったけ?」

 

「ついでに言えば近接戦闘訓練、ようするに格闘戦よ」

 

「四対一だけどね」

 

「あんな戦闘狂、見たことないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

話をまとめると、それが行われたのは一昨日のこと。その日着任した彼女の言った言葉に火をつけられた一部の人形たちが発端だったらしい。

 

 

「私、格闘戦では負けたことないんですよ」

 

 

その余裕一色の表情にカチンときたKarが真っ先に挑み、呆気なく返り討ちに遭う。泣く泣く敗北を認めると今度は敵討ちとしてカラビーナを召集、訳もわからぬまま戦わせたらしい。カラビーナは知っての通り別世界の人形であり、格闘戦も含めてそれなりの場数を踏んだ戦士だ。ところがそのカラビーナも惜しいところで負けてしまい、彼女の強さを知る人形から戦慄された。

 

 

「で、その時にKarが言い出したのよ。 『格闘戦No.1を決める!』ってね」

 

「まぁ、子どもっぽいところがありますからね彼女」

 

「で、何がどうなったか指揮官の耳のも入って、指揮官権限でなんでも一つ願いを叶えるって言われたもんだから・・・・・」

 

「想像できます、その光景」

 

 

当時、任務に出ていた404とAR小隊が帰ってきた頃には死屍累々だったという。いの一番にフェアプレー無視で集団戦に持ち込んだ指揮官ラブ勢が片っ端から沈み、半年の有給という願望をかけて挑んだゲパード(非番)も絞め落とされ、何故か参加させられたカリーナなどまるで拷問のような仕打ちを受けていた。

 

 

「いやぁ、戦う前からやばいとは思ってたんだよねアレ」

 

「M4たちも災難だったわね」

 

「あら、そう言えば彼女たちは?」

 

「修復と臨時メンテナンスでペルシカのとこよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

しかしそこはAR小隊、個々の能力では敵わないと分かると連携をとって攻めに転じる。このまま押し切るかと思った矢先、「久しぶりに本気出すわね♪」と言ったその人形に次々と捕まり、再起不能になるまでコテンパンにされてしまった。

そこでようやく404の出番なのだが・・・・・

 

 

「考えても見てよ、AR小隊は六人(D-15含む)で私らは四人よ?」

 

「それにあっちは最初っから本気」

 

「おまけに完全に出来上がってたわね」

 

「例えるならアレだね、最初っから激昂ラーj「9、それ以上はダメよ」

 

 

簡単に言えば、やりすぎなくらいやられてしまったのだろう。表情から察するのは、地獄だったという感想だけである。

そんな時、店の扉がゆ〜〜〜〜っくりと開いていくのを代理人が見つける。そして緑の髪を揺らした人形が静かに入ってきて、口元に人差し指を当てながら45たちの後ろに近づく。

 

 

「まったく、グリフィンもいよいよ末期ね、あんなぶっ壊れ人形を買うなんて「ぶっ壊れ人形って、誰のことかしら〜?」・・・・そんなのあんたに決まってぎゃあああああああああ!!!!????」

 

 

縮地かと思うほどの勢いで椅子を飛び上がり、カウンターの内側に避難する45。その様子をニンマリと見つめその目は、どう見ても捕食者のそれだった。

最大限にまで警戒しつつ、416が尋ねる。

 

 

「・・・・何しにきたのよ、『Mk48』」

 

「あら、この地区に着任したらここに挨拶に来るのではないのかしら?」

 

「そんなルールはございませんが、お客様なら歓迎いたします」

 

 

Mk48、それが彼女の名前だ。マシンガンタイプの人形であり、その性能はまぁまぁ優秀・・・・なのだが何をとち狂ったのか、近接戦闘というMGには最も不要な要素に全力を注いだ結果できたのが、あらゆる格闘技を網羅したトンデモ人形である。ボクシングから空手、CQCにシステマとなんでもありだ。

 

 

「ふふっ、あんたがマスターの代理人ね? はじめまして、Mk48よ」

 

「喫茶 鉄血のマスターをしております、代理人です。 ご注文は何になさいますか?」

 

「じゃああんたを・・・・・と言いたいところだけど、ホットコーヒーを頂くわ」

 

 

クスクスと面白そうに笑うMk48、その姿や仕草はちょっと毛色は違うもののDSRと似た感じ・・・・・ようするにトラブル増長役であることがわかる。

そして案の定、早速トラブルを持ち込んできた。

 

 

「いたっ! こいつだよF45!」

 

「よ、45お姉ちゃんをいじめたのはあなたね!?」

 

「40、F45・・・・・」

 

 

現れたのは45を溺愛してやまない二人の人形、UMP40とF45である。どうやら敵討ちのつもりらしく、不慣れ感漂うファイティングポーズを構えている。スッと目を細めたMk48は、唇をペロリとひと舐めした。

 

 

「あなたに勝って、あたいは45と添い遂げる!」

 

「ちょっと何言ってんの40!?」

 

「私が勝ったら、45お姉ちゃんをF小隊に入れてもらうから!」

 

「「「ドーゾドーゾ」」」

 

「止めなさいよあんたたち!?」

 

「いいわぁ、かかってらっしゃい」

 

 

こうして40とF45による、私欲に塗れた敵討ちの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ひぎゃぁああああああああ!!!!!」」

 

「ほぉら、早くしないと腕がもげちゃうわよぉ♪」

 

「ぎ、ギブアp「あら何聞こえないわ」痛だだだだだだだだだ!!!!!!!」

 

 

一分ももたずに二人揃って捕まり、腕を捻りあげられて地に伏せる。二人が特別強くもなかったのもそうだが、Mk48の一切無駄のない動きは代理人ですら一瞬見失うほどだった。

代理人は思う・・・・・・マシンガンいらないんじゃないかな、と。

 

 

「うぅ・・・・ごめんよ45ぉ・・・・」

 

「仇を討てなかったよ・・・・・」

 

「え、えぇ、そうね・・・・お疲れ様」(あんたらが勝ってもヤバかったんだけどね)

 

 

とはいえ彼女の強さと45たちが負けたのは分かったので、ひとまず代理人の心配事は無くなったといえよう。さっきから妙に熱っぽい視線を向けられていること以外は無害なので、これからも客として迎え入れても良さそうだ。

 

 

「何か凄い悲鳴が聞こえたが、何かあったのか?」

 

「特に気にしなくても大丈夫ですよゲッコー」

 

「そうか・・・・・ところでそちらは見ない顔だが・・・・・」

 

「あら、変わった姿の店員・・・・・さん・・・・・」

 

 

階段から降りてきたゲッコーと、カウンターに座るMk48の視線がぶつかり、動かなくなる。なにやらロマンチックな音楽でも流れてきそうな雰囲気に、代理人は大きくため息をついた・・・・・・またトラブルか、と。

そして未だに負けを認めきれない40が、特大の爆弾をぶっ込んできた。

 

 

「ゲッコー! この人に勝ったらなんでもいうこと聞いてくれるよ!」

 

「・・・・・・ほぉ」

 

「ちょっと40! これ以上ややこしくしてどうすんのよ!?」

 

 

言っておくが願いが叶うのは司令部の人形だけで、しかも指揮官ができる範囲でのことである。当然ながらゲッコーは対象外だが、止める間も無くその気になってしまった。

 

 

「ふむ、美しい女性だ。 こんな形ではあるが、勝ったら私がもらってもいいのかな?」

 

「うふふ・・・・強気な人は好きよ。 でも、言葉だけならどうとでも言えるわね?」

 

「お眼鏡に叶うかはわからんが・・・・・お相手しましょうか、レディ?」

 

(・・・・・・・・あ、そろそろ新作のケーキでも考えておきましょうか)

 

 

久しぶりにゲッコーの女たらしが発揮され、もはや開戦は避けられなくなったところで代理人は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「場所はここで構わないか?」

 

「えぇ、十分よ・・・・・早速はじめましょ」

 

 

代理人が匙を投げて数分後、喫茶 鉄血前の公園に出た二人は、ギャラリーが見守る中でばちばちと火花を散らせていた。

Mk48からすれば一目でティンときた感じであり、純粋に楽しめると思ったから。そしてゲッコーは、代理人が止めないということは公認であるという曲解にたどり着いたからだ。

すなわち、勝てば相手が手に入るのだ。

 

 

「では、こちらから行きます・・・・・よっ!」

 

「速っ!?」

 

 

鈍足なMGのイメージをぶち壊すほどの勢いを持って、一気に間合いを詰めてきたMk48。そのまま畳み掛けるように放たれる連撃を受け止めようと腕を出し・・・・・一瞬の判断で引いたその後を、掴みかかった腕が空振る。最初の突進も攻撃もこのためにあったのかと考えると、ただ格闘戦に秀でているわけではなく頭も回るのだと気づく。

 

 

「うふっ、今のを避けられるなんて・・・・・いい目をお持ちね?」

 

「今でこそただの喫茶店員だが、これでも近接戦闘用に作られているもんでね」

 

 

言うと今度はゲッコーの方から仕掛ける。地を蹴って飛びかかるゲッコーを迎え撃とうと掴みかかり・・・・・突然目の前からゲッコーが消えた。

 

 

「えっ?」

 

「横がお留守だぞ?」

 

「なっ!? ぐっ!!」

 

 

横あいから蹴り飛ばされ、地面に転がるMk48。なにが起きたのかもわからず、またゲッコーもそれを理解させる時間を与えずに畳み掛ける。Mk48から見れば両足が地面から離れていたゲッコーが消えて見えたが、実際は単純で尻尾型のユニットによって強引に体を横に飛ばしたのである。そしてちょうど真横にあった木の幹を蹴り、不意打ちの如く蹴りを入れたのだ。自重を支えられるパワーを持つゲッコーの尻尾だからできることだった。

 

 

「おっと私とした事が、レディに蹴りを入れてしまうとは・・・・大丈夫かなお嬢さん?」

 

「ええ、ご心配なく・・・・・ちょ〜っと頭に来ただけよっ!」

 

 

攻撃的な笑みを浮かべるMk48は今度こそなりふり構わずに攻撃を繰り出す。殴る蹴るはもちろん隙あらば掴みにいき、ゲッコーを追い詰めていく。対するゲッコーも両手両足、さらに尻尾まで全て使って攻撃を躱し続ける。何度か掴まれかけたが既の所で尻尾を掴ませ、振り払う。格闘戦を極めようとも流石に尻尾はどうしようもないらしく、掴んでも攻めに転じれないためすぐに手を離す。

そんなこんなで数十分、互いに息が切れてきた所でついにMk48の腕がゲッコーを捉えた。

 

 

「っ!」

 

「ウフッ・・・・捕まえた♪」

 

「あぁ・・・・・こっちがな!!!」

 

 

腕を捻りあげていたMk48はその言葉にバッとその場を飛び退く・・・・・も一歩遅く、ゲッコーの尻尾が首に巻きつきMk48を持ち上げた。初めは爪先がついていたが段々それが離れていき、比例して息苦しさも増す。

 

 

「くっ・・・・うぅっ・・・・・・」

 

「はぁ、はぁ、、、これで終わりだMk48、負けを認めろ・・・・」

 

「ぐぅ・・・ま、まだ・・・よ・・・・・」

 

 

しぶとくもがき、なんとか抜け出そうとするMk48だが既に打つ手はない。電脳に響くアラートと徐々に暗くなり始める視界に最後までライバル(ゲッコー)の姿を捉え、やがて真っ暗に・・・・・・

 

 

「よっと」

 

「かはっ! げほっ、ごほっごほっ!」

 

 

なる手前で突然息苦しさから解放されて、体が何かに包まれるのを感じる。焦点がずれた目を動かし、やがてそのぼやけた風景が鮮明になると、目と鼻の先にゲッコーの顔があった。

 

 

「っ!?」

 

「すまない、少しやり過ぎてしまった・・・・大丈夫か?」

 

「ひぇ!? え、えぇ・・・・」

 

 

思わず変な声が出てしまうが、それがなんなのかはわからない。とりあえず体を起こそうと身動ぎし、なぜか全く動かないことに気がつく。見てみればゲッコーに支えてもらっている体には、その尻尾がぐるりと巻き付けられていた。

 

 

「起きたらまた暴れるかもしれないと思ってこうさせてもらったが・・・・・お前の負けでいいな?」

 

「・・・・・・えぇ、私の負けよ・・・」

 

「ふふっ、そうかそうか・・・・・・では約束通りお前は私ののものだな」

 

「えっ!?」

 

 

そういえばそんな約束(?)をした気がしなくもない。そもそも負けるとは思っていなかったので話を全く聞いていなかったと言うのもあるが・・・・・

 

 

「さて、では戻るとしようか」

 

 

そう言ってゲッコーは尻尾を離すと、未だ呆然とするMk48の体を()()()()()()で持ち上げて歩き出した。

 

 

「にゃっ!? ちょ、ちょっと待って!?」

 

「む、もしかして恥ずかしいのか? 可愛いお嬢さんだな」

 

「う、うぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

(((((・・・・・・なんだこれ?)))))

 

 

妙な空気を撒き散らしながら店へと戻る二人を、ギャラリーはそんな思いで見送った。

 

 

 

end




ゲッコーの女たらし設定、消えかかってたので再燃させました!
Mk48は日和ったら可愛いと思う。

ではではキャラ紹介!

Mk48
完全武闘派の淑女。ちなみに格闘技ができるのは公式らしい。
初めて見た時からこの娘は、いかにもサディストだけど優しくされたりしたら尻込みするような純情ヤンキーっぽい娘だと思ってました。

ゲッコー
接近戦に限れば作中最強格。
ちなみにこいつのセリフのどこまでが本気でどこからが冗談かは作者にも不明である。

代理人
考えるのやーめた

45
隊長=強いと言う方程式の元、Mk48に一番ボコられた人形。それでも修復ポッド送りにならないのは、普段から似たような目にあってるから。

404&AR
彼女たちの『強い』は作戦能力のことであり、決してここが無茶苦茶強いわけではない。早い話がLv70×5人とLv100×1人みたいなものである。


季節の変わり目、特に朝晩は冷えますので皆さん体調には充分気をつけましょ(但し、代理人に看病されたいという人は別)
ではいつものリクエスト置き場です!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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番外編31

積んでいたプラモを作り始めたら止まらなくなりました笑
そして塗装の合間に書き出すとこっちが止まらなくなるんですよねぇ・・・・

ということで今回は以下のラインナップ
・ポッキーゲーム延長戦!
・独り身は辛いよ
・ペットの温かみ
・昨日の強敵は今日の恋人?


番外31-1:ポッキーゲーム延長戦!

 

 

11月11日、ポッキーの日。発祥の地である極東の島国から遠く離れたこの欧州の街ではさほど普及してはいないものの、一部の人間や人形が広めたことによってそのゲームが行われている場所もある。喫茶 鉄血などはその代表例だが、今回はそことは別の場所のカップルたちを見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

case1・416と9

 

彼女たちの隊長が連れ回され、同僚が貞操の危機に陥っている頃、珍しく自室で慎ましく過ごしている二人の目の前には、案の定例の細長いお菓子が広げられている。

 

 

「・・・・・・9、これは?」

 

「えへへ〜・・・・今日はなんとポッk「ポッキーの日、それとこれからやるのがポッキーゲームでしょ?」・・・・・うん」

 

 

セリフをとられてへこむ9に、416ははぁっとため息をつく。

 

 

「別にこんなゲームに託けなくたってキスくらいいくらでもできるじゃない」

 

「わかってない、わかってないよ416! ポッキーゲームは普通にキスとは違うんだから!」

 

 

そう熱く語る9。ちなみに本来でいえばキスができるかどうかというゲームでもあるのだが、キスを前提に考えるあたりバカップル感が溢れ出ているといえよう。

 

 

「ふぅ〜ん・・・・じゃあ、ふぁいどうふぉ(はいどうぞ)

 

「えっ!? う、うん・・・・いただきます」

 

 

416がポッキーを咥えてズイッと差し出すとなぜか赤面して日和る9。それでも慎重に端を咥え、ポリポリと齧っていく対する416はただ咥えたままその様子をジッと見ているだけだ。

しかしポッキーがちょうど半分を超え、9のペースが遅くなり始めたところで416は仕掛けた。ちょっとだけ悪い笑とともにポッキーが折れない程度の速度で後ろに下がったのだ。となると9は身を乗り出してでもついていかねばならず、戸惑いと広義の眼差しを送る。

それが届いた・・・・・というわけでもなく、9が椅子から腰を浮かせたところで、416が残りの距離を一気に詰めて口を塞ぐ。

 

 

「んむっ!? 〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 

 

あまりのことに為されるがままの9。口の中に残ったポッキーごと相手の舌をからめ取り、ポッキーがただのプリッツになってしまうほど熱いキスを交わす。

そしてたっぷり数十秒後、熱のこもった吐息と糸を引く唾液とともに唇を離し、一瞬呆けた9が真っ赤になって抗議する。

 

 

「も、もう! いきなりなんてひどいよ416!」

 

「あらごめんなさい、あなたが可愛いからつい、ね」

 

「うぅ・・・・・思ってたのと違うぅ・・・」

 

「ふふっ、大丈夫よ9・・・・・・まだたくさんあるから」

 

 

そう言ってまだまだあるポッキーの中から一本取り出し、再び口に咥えると艶かしい笑みを浮かべる416。ここに来てポッキーの数を間違えたと悟る9だったがもう遅い。

解放されたのは陽が傾く頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

case2・ハンターとAR-15とD-15

 

AR-15とD-15はメインフレームとダミーの関係である。諸事情により自我を持ってしまい、諸事情により戦闘能力が失われてしまってはいるがダミーはダミーである。

それはつまり、本体と感覚を共有することが可能であるということだった。

 

 

「んっ・・・んぅ・・・・・・・」

 

 

そんなわけでさも当然のようにキスに至ったポッキーゲーム。これの難点である一対一という点を、感覚共有によって美味しい体験へと変えているのだ。

 

 

「まったく、妙なことを言い出したかと思えばこれが狙いだったのか」

 

「ふふっ、まぁね。 でもハンターって私とオリジナルとでキスの仕方も違うのね?」

 

「ん? だってあいつ(AR-15)はあいつで、お前(D-15)はお前だろ?」

 

「・・・・・そういうのをさらっと言うのはずるいわよ」

 

 

ポッと赤くなるD-15の頭を撫で、それでまた顔を赤くする姿に可愛いいと思うハンター。が、流石にそんな甘々な空気を見せつけられてAR-15(オリジナル)が黙っているはずがなかった。

 

 

「はいはい、もう交代よ!」

 

「もうっ! 今いいところだったのに・・・・・」

 

「ははっ! 嫉妬は随分と可愛いことをするじゃないかAR-15」

 

「う、うるさい・・・・ほら、次は私の番よ」

 

 

そう言って紙の上に広げたポッキーを一本手に取り・・・・・小指くらいの長さで折れていたそれを見てため息をつきながらちゃんとしたのを選ぼうとする。

だがその手をハンターに止められ、折れたポッキーを無理やり咥えさせられると文句を言う前に唇を塞がれた。・・・・・ポッキーゲームとはなんだったのか。

 

 

「ふぁ・・・・ちょ、ちょっと・・・・・」

 

「なんだ? ちゃんとポッキーを使っただろ?」

 

「ば、ばかぁ・・・・・!」

 

「ず、ずるい! 私もする!」

 

 

途中からポッキーなんていらなくなった。

 

end

 

 

 

番外31-2:独り身は辛いよ

 

 

「らから〜、わらひらってであいがほしいんらぞ〜・・・・」

 

「ユウトさ〜ん、お仕事ばっかりじゃダメですよ〜?」ナデナデ

 

(ど、どうしてこうなった・・・・・・)

 

 

M16(酔っ払い)に抱きつかれ、RO(酔っ払い)に膝枕されながら、ユウトはこの混乱極まる状況になった過程を思い返してみた。

 

ことの発端は姉から言い渡された『休め』という命令。いまいち納得いかないがそうしなければかえって迷惑をかけてしまうということで仕方なく喫茶 鉄血を訪れ、代理人にアドバイスを求めたところまではいい。

しかしその後現れたM16とROのコンビに連れ出され、隣町でショッピングやらカラオケやらに付き合わされた挙句入った飲み屋で二人が酔っ払ってしまい、そして現状に至る。

 

 

(ROさんはともかく、M16さんはお酒に強いはずじゃ・・・・・)

 

 

そう認識していたのだが、蓋を開けてみれば完全に泥酔だ。とはいえこれはまぁ仕方ないことだった。

M16はAR小隊の長女ともいえる存在である。常に妹たちの身を案じ、妹たちの幸せを祝福してきた。少々行き過ぎたこともあったがそれも愛のなせることであり、それだけ妹たちを溺愛していたのだ。それが最近はそれぞれに付き合いが増え、姉妹で過ごす時間が以前よりも減ってしまった。

加えて周りの朗報が入る中で行き遅れている間が出てきてしまい、その反動からユウトを連れての行動が楽しかったのだ。

 

まぁ要するに、「ちょっといいかな〜」くらいには意識しているということだ。

 

 

「ろ、ROさん、重いでしょうからもう退きますよ・・・・」

 

「ふふっ、別に気にしませんよ。 それよりも、もっと甘えてもいいんですよ?」

 

(あ〜こういうタイプか〜・・・・・)

 

 

M16が甘えたいタイプなら、ROは『甘やかせたい』タイプだ。自身がしっかりしなければという責任感からそういうのが来ていると考えられるが、いかんせんAR小隊は甘やかせるには真面目すぎた。

隊長のM4は言わずもがな、AR-15もしっかりしているし、自由奔放なイメージのSOPも公私はしっかり分けている。結果として対象がM16、それもプライベートで飲んでグダグダになった時に甘やかせるくらいしかなく、言うなれば飢えていたのだ、甘やかせることに。

 

 

「あーもう、M16さんもROさんも飲み過ぎです! もうお会計して今日は帰りましょう」

 

「やらやら〜! もっろゆーととのむぅ〜!」

 

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよユウトさん〜」

 

 

だめだこりゃ、と匙を投げたくなるユウト。ここまで冷めきっているのは男としてどうかと言われそうだがそうでもしなければならない理由が彼にはある。なにせM16に後ろから抱きつかれ、ROに膝枕されているのである。

 

・・・・・・背中と側頭部に柔らかなものが押し当てられている状況で、冷静にならざるを得ないのだ。

 

 

(ていうか二人ともガードが緩すぎる! もし僕が我慢の聞かない男だったらどうするんだ・・・・・・いや襲わないけど)

 

 

気がつけばいつのまにか二人は静かに寝息を立てており、やれやれといった調子でユウトは二人を担ぎ上げる。もう結構ガッツリ当たっているがそれらを一切無視し、とりあえず理性が切れる前に戻ろうと店を出る。

 

・・・・・が、ユウトはともかく二人はもう限界だったようだ。足元がおぼつかず今にも倒れてしまいそうである。しかしながら近くには都合の良い普通の宿などなく、あるのは()()()()()()ホテルくらい。

 

 

(・・・・・・二人を寝かせるだけ、それだけだ)

 

 

誰に対してでもない言い訳を呟きながら、煩悩を全て振り払って近くの建物へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、M4が鉄血工造へと土下座しに行ったのは言うまでもない。

 

end

 

 

 

番外31-3:ペットの温かみ

 

 

喫茶 鉄血に炬燵が導入されて以降、それまであまり有効活用されていなかった供用スペースがようやく機能し始めた。大体は炬燵が目当てだが、集まれば何かしら会話がうまれてコミュニケーションの場になる。内向的なフォートレスが馴染むのにも一役買っており、今では喫茶 鉄血の仲間であれば緊張せずに話せるようになった。

 

さてそんな喫茶 鉄血の中で、ほかと直接コミュニケーションをとることができないものがいる。ダイナゲートだ。

普段は店内を歩き回りながらゴミを回収したり、必要であれば客のもとに行って癒しを与えたりしているのだが、業務時間が終わると決まって一番初めにコタツに突っ込む。

 

 

『ーーーーーーー』

 

 

炬燵の中で四本の足をだらんと伸ばし、これ以上にないくらいダラけるダイナゲート。鉄血の中でも最下級モデルである彼は本来暑さ寒さを感じることはなく、それゆえ炬燵の必要性も皆無なのだが、何故かこの時期は暖かいところに行きたがる。そしてそのまま誰かが来るまでの間、この真冬のオアシスを独占するのだ。

 

 

『ーーーーーーー!』

 

「うぅ、今日も冷えるなぁ・・・・炬燵炬燵」

 

 

しばらくすると、真っ先に上に上がってきたマヌスクリプトが炬燵へと近づいてくる。ダイナゲートは誰かの声が聞こえてくるとのっそりと立ち上がり、反対側からそろっと出ていくのがお決まりとなっている。

 

だがその日不幸だったのは、外が予想以上に冷えたこと。それによってマヌスクリプトが、いつもよりも素早く駆け込んできたこと。

 

 

 

 

 

 

炬燵の中に突っ込んだマヌスクリプトの足が、熱源から一番近い鉄の塊(ダイナゲート)にぶつかった。

 

 

「あっっっっっっっっつ!!!!????」

 

 

ジュッという音とともに飛び上がるマヌスクリプトと、その声にびっくりするダイナゲート。慌ててコタツから飛び出てマヌスクリプトの元に駆け寄り、異常を感知してすぐさま誰かを呼びにいく。そして近くにいたDを見つけると、救難信号を発しながら飛びついた。

 

 

「ん? ダイナゲート、どうしたn『ジュッ』うぉあっっっっっつ!!!」

 

「何事ですかD!?」

 

「あっ、代理人そっちにダイナゲートが!?」

 

「え? ダイナゲート、どうしましt『ジュッ』

 

 

直後、喫茶 鉄血を甲高い悲鳴が響き渡る。

それ以降、ダイナゲートが長時間コタツを使用するのは禁じられた。

 

end

 

 

 

番外31-4:昨日の強敵は今日の恋人?

 

 

カランカラン

「いらっしゃ・・・・・あら、()()()ですかMk48さん?」

 

「えぇ、今日もよ♪」

 

 

喫茶 鉄血前の公園での騒ぎから数日、ある意味図太いのか特にこれといった混乱もなくいつも通りの日常に戻った店と客。ただ違う点があるとすれば、その当事者であるMk48が毎日訪れるようになったという点だ。

そう、『毎日』だ。S09地区司令部に所属しパトロールを含めた任務をこなす傍ら、たとえそれが一時間の休憩であってもここを訪れるようになった。

 

その理由が・・・・・・

 

 

「ところで・・・・・今日はか、彼女はいないのかしら?」

 

「ゲッコーは今買い物に出てもらっていますので・・・もう少しすれば戻るでしょう」

 

 

いないと言われた瞬間どんよりと落ち込み、もう直ぐ帰ってくると言われた途端パァッと笑顔になるMk48。これが出会ったら片っ端から技をかけにいくというあのMk48と同一人物だと言われても信じる者は少ないだろう。それくらい今の彼女は、恋する乙女なのだ。

 

 

「〜〜♪ 〜〜〜♪」

 

「・・・・・それで、いつ告白されるんですか?」

 

「ふぇっ!? い、いきなりななななんの話よ!?」

 

 

見ての通り彼女はゲッコーに惚れている。それ自体は割と知られているし本人も隠す気はない。だがSっ気な性格に反して純情というかちゃんと段階を踏みたいのか、それをすっ飛ばしたことを聞くと途端に狼狽る。本人としてはまだお友達としてお近づきになりたい段階らしい。

 

 

「まぁ彼女は見ての通りかなりフレンドリィと言いますか、悪く言えば見境のない性格です。 早めに伝えておかないとライバルが増えないとも限りませんよ?」

 

「そ、そんなこと言ったって、恥ずかしいのよゴニョゴニョ

 

 

だんだん声が小さくなり小さく縮こまってしまうMk48に、ちょっと揶揄いすぎたかと反省する代理人。そのタイミングで店の裏口が開く音がし、買い物袋を持ったゲッコーが帰ってくる。

 

 

「戻ったぞ代理人・・・・お、今日も来てくれたのかMk48」

 

「あら、おかえr「お帰りなさいゲッコー!」・・・・・ふふっ」

 

 

ゲッコーを見つけると同時に一際元気になるMk48。それを満足げに見ると、代理人はゲッコーから袋を受け取る。

 

 

「あとは私が直しておきますので、ゲッコーはカウンターでの対応をお願いします・・・・・彼女も待っていたようですからね」

 

「わかった・・・・・待たせたかなMk48?」

 

「い、いえ! さっき来たばかりよ」

 

「そうかそうか、では注文は決まったかなレディ?」

 

 

いつもの、ここ数日では見慣れた光景になった二人を見守りつつ、代理人は奥へと戻っていった。

 

end




やりきったった・・・・
調子に乗るとR18の壁を越えたくなるのはR18作品を別で書いているからなんでしょうかね?

さてそんなことは置いといて各話の紹介!

番外31-1
ポッキーの日に書ききれなかったやつ。なんとこれだけでも1800文字あり、ボツで書いたR18展開はその数倍になってしまった(破棄済み)
まぁあと1ヶ月もすればまたイチャつくんでしょうけどね!泣

番外31-2
ユウトがエロゲの主人公みたいになってしまった・・・・・まぁ環境的にもともとそんな感じだけど笑
M16はきっと甘えん坊で、ROは艦◯れの雷っぽい感じだと思います!
どっちを嫁にしたいかは・・・・・・悩むところですね〜笑
ちなみに私は9ちゃん一択です。

番外31-3
感想から生まれた話。
本体は全く影響を及ぼさないが周りには莫大な影響を及ぼす。
色的にも熱吸収良さそうだしね笑

番外31-4
乙女なMk48。
彼女はヤンデレが似合いそうだったけど、あえてそれを避けてみようという試み。
なお、普段のSっぽさはそのままである。
こうやって際限なくカップルを増やしたがる作者ですけどどうぞよろしく。


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第百二十六話:あ、面白そうなデータ発見! とりあえず造っちゃえ!

新キャラの案を頂いたので。
鉄血キャラが賑やかになる一方、それぞれを活かしきれるか不安になったりもしますがとりあえず何も考えずに書いてます笑

ということで今回はそんな新キャラが二人も登場!


人形に必要なものは何か、と言われると一概にこれという答えはない。それは用途や装備、もしくは活動範囲にもより、そのためこれが最も優れた人形であるという基準もない。

例えば、代理人は指揮タイプとしての性能を持つ一方で武装はやや貧弱、逆にデストロイヤーなんかはこの火力を突き詰めた形である。IoP製にしてもM4のように高レベルでまとまった者もいれば、スプリングフィールドのようにカフェをも経営できるほどの腕を持つ者もいる。

 

そしてそれは、似たようなコンセプトであっても創る者によって全く違う形となることを意味している。

 

 

「むむむ・・・・・」

 

「なんだアーキテクト、また何か企んでるのか?」

 

「いきなり酷くないかなゲーガーちゃん??」

 

 

ここは鉄血工造のアーキテクトのラボ。そこで悩む様子のアーキテクトを怪しむように見るゲーガーだが、それも無理のないことだった。なにせここは現在の鉄血工造の前、人間の上層部がいた頃からある研究室であり、代理人をはじめとしたハイエンドたちが創られた場所だ。そして昨今ではマヌスクリプトやゲッコーなどの、()()()()()()()()()()のハイエンドが生み出された、まさにアーキテクトの玩具箱のような部屋である。

 

そんなところで頭を捻っているのだから、もう不信感しか湧いてこない。

 

 

「で、今度は何を作ろうとしてるんだ?」

 

「いや、実はもう作っちゃっt痛っ!? ちょっといきなり殴らないでよって待って待ってゲーガーちゃんちょっと落ち着こう」

 

「私の聞き間違いか? 貴様の口から『もう作った』と聞こえた気がしたんだが?」

 

 

やはり、というべきか既にやらかしていたアーキテクト。ゲーガーは知らなかったどころかそれっぽい報告書すら見かけたことがない。というよりアーキテクトから何か渡された記憶もない。

つまり・・・・・・

 

 

「また無断で作ったな貴様っ!!!」

 

「だ、だって言っても許可してくれないでしょ!?」

 

「だから無断で敢行したとでもいうつもりか!? また勝手に出ていったらどうするつもりだ!!!」

 

「今度は、今度こそは大丈夫! このGPSで施設のどこにいてもわかるから!」

 

 

そう言ってGPSを起動し、モニターに映し出す。ところがそれらしき反応は周辺からは感知されず、追ってみれば()()()()別々のルートでS09地区の街に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・アーキテクト」

 

「な、なにかなゲーガーちゃん?」

 

「造ったのは何体だ?」

 

「・・・・・二体」

 

「そいつらがなぜ街の方に向かっているんだ?」

 

「・・・・・・・・・・テヘッ♪」

 

「そこに直れアーキテクトォオオオオオオオ!!!!!」

 

「ごめんなさいいいいいい!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・はい、わかりました。 では彼女にはしっっかりと言いつけておいてください。 では失礼します」

 

 

受話器を置き、深くため息をつく代理人。先ほどかかってきたのは鉄血工造からの電話で、相手はサクヤだった。なんでもまたアーキテクトがやらかしたらしく、無断で製造された新型ハイエンドがこの街に来ているといい、見かけたら保護してほしいそうだ。

だがその必要はもうない。なぜなら・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヌスクリプトさん! この本とっても絵が綺麗ですね!」(薄い本)

 

「えっ!? あ、ありがとう・・・・」

 

「だが少し線が細すぎる気がするな、せめてこれくらいは・・・・」

 

「いや、あんたの求めるのって筋肉でしょ!?」

 

 

件のハイエンドたちが既にここにいるからだ。

鉄血工造を出てきた(本人たちは脱走しているという認識はない)二人は一度別れ、それぞれの進みたいようにして街までやってきた。夜になれば戻る予定だったそうで、ふらふらと歩いているうちに何故かここにやってきたという。

 

 

「『ネイキッド』さん、その本は資格がなければ読むことができないものですので返してあげてください。 『アマゾネス』さん、ご注文のコーヒーですよ」

 

 

そう言って若干困った様子のマヌスクリプトから二人を引き剥がす。

ネイキッドとアマゾネス、この二人が新たに造られたハイエンドたちだった。ハイエンドということである程度の指揮能力と戦闘力を持っているが、この二人に必要とされたものはほぼ同じ、『馬力』だ。

 

ネイキッドは、その名とは正反対に全身を服やら帽子やら手袋やらで覆い隠した長身の人形。なんとAPFSDSとそれを発射する身の丈を超える大型ライフルを使うことを想定されており、遠距離タイプでありながらパワータイプという変わった人形だ。

アマゾネスはその名前通り、筋肉が特徴的な人形。人形に筋肉がいるのどうかという話になるが、こいつはなんと前開発陣営の置き土産。そのうちの一人の「筋肉娘っていいよね」が発端であり、見ての通りのパワータイプ。

 

・・・・・平和なご時世に反した存在であることは否めない。

 

 

「まったくアーキテクトは・・・・・ですがお二人とも気をつけてくださいね。 認可されていない人形は権利もなにもない状態なんですから、何かに巻き込まれてしまっては助けるのも難しくなりますから」

 

「大丈夫さ、その時は自分で対処するよ」

 

「それが危険だから言っているんですよ」

 

 

さてこんな感じで迎え入れては話している代理人だが、問題はこの二人をどうするかだ。とりあえず認可してもらうのは絶対として、正直これ以上喫茶 鉄血においておけるほど余裕はない。というかマヌスクリプトとゲッコーがいる時点でそこそこ出費が嵩んでいるのだ。

となると二人には外に出てもらうしかない、だが生まれたばかりで世間をそこまで知らない二人を世に送り出すのは流石に危険だ。

 

 

バンッ

「そんな時は私にお任せ!」

 

「おやいいところに来ましたねアーキテクト、少しお話があるのでこちらに来てください」

 

「アッハイ」

 

 

とりあえずやるべきことは決まった。一向に反省してなさそうな後輩の説教である。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜・・・・・足が痺れてる〜・・・・」

 

「それで済んだんですからいいじゃないアーちゃん」

 

「でも助けてくれないんだねDちゃん」

 

「だって私はOちゃんのダミーだし」

 

 

一時間後、ようやく解放されたアーキテクトがふらふらと戻ってきたことで改めて話に戻る。

 

 

「さて、じゃあ説明しよう! ずばり、知り合いがいるところに送ってしまえばいいんだよ!」

 

「要するに全部丸投げですか? お説教が足りないのかもしれませんね」

 

「ステイステイ代理人、とりあえず話を聞いてよ!」

 

 

笑顔で青筋を浮かべる代理人をなんとか抑えつつ、アーキテクトは身の危険を感じながら早口に説明する。まずこの二人を受け入れてくれそうなところは意外と多く、鉄血工造傘下の組織からグリフィン、IoPなどなど選ばなければいくらかある。その中から彼女たちのやりたいことや向いていることに絞って探せば、二人を安心して預けることができるはずというのだ。

ちなみにその交渉なんかは全て責任を持ってやるとアーキテクトは言うが、いまいち信用できなかったりする。

 

 

「・・・・・まぁ、そうする他にありませんよね」

 

「二人とも、それでいい?」

 

「えぇ、そもそも勝手に出てきた私たちにも責任がありますし」

 

「ま、チマチマしたことでなけりゃなんでもいいさ」

 

「ではそうしましょう。 ですが困ったことがあればすぐに頼ってくださいね」

 

 

最後にそれだけ伝えて、代理人は二人を見送る。

後日、ネイキッドはヤーナムらの所属する救難部隊に、アマゾネスはグリフィン傘下のボディガード組織に加わることになるのだった。

 

 

end




せっかくリクエストをいただいたのになかなか書けず、しかも急ぎ足で書いてしまった感はありますが・・・・・・今回は顔見せということで。
またいずれ二人のそれぞれの様子を書くつもりです。

ちなみに今回のキャラはそれぞれ別の読者様からいただいたものですが、パワー型というちょっとした共通点みたいなとこがあったので一緒に出しました。


では、キャラ紹介に進みましょう!


ネイキッド
素肌をほとんど見せないくらい着込んだ人形。だがその上からでもわかるスタイルの良さが特徴。
設定は本文中の通りだがきっとそんな場面はなく、単純にパワーだけ。
実は脱げば脱ぐほど人見知りがひどくなり、全裸の場合は人型のものを見るだけで卒倒する・・・・・・よいではないかよいではないか〜

アマゾネス
美筋肉の人形。きっと提案者は健康的な女性が好みだったのだろう。
イメージはポケモン剣盾のサイトウをひと回り大きくして髪を伸ばした感じ。
見た目や口調は男勝りだが、可愛い物好きという一面がある。

代理人
ハイエンドの駆け込み寺みたいになっている現状をいいと見るか悪いと見るか・・・・・まぁどちらでもいいでしょう。

マヌスクリプト
自身の作品を純粋な眼差しで見られるとキョドるのは仕方がないと思う。

アーキテクト
久しぶりにやらかした。反省は(一応)しているが後悔はしていない。

ゲーガー
今夜はサクヤに泣きつこう。


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第百二十七話:再会

『命』を『運ぶ』と書いて『運命』と読む。
散った命がこの世界に流れ着くのもまた、運命なのかもしれない。

*救済依頼によるコラボ回です。苦手な方はご注意ください。
*今回は特に長いので、時間のない方は後でご覧になられることをオススメします。


「———————-っ!!! はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・」

 

 

とある日の夜、田舎の小さな街の自警団程度の小さな司令部の寝室で、指揮官のアウストは息を荒げながら飛び起きた。顔に手を当ててゆっくりと息を整えようとするが、しかし先ほど見た夢が脳裏をよぎり、心臓を締め付けるような感覚に陥る。

 

 

「ア、アウスト、大丈夫か!?」

 

「あ、あぁ・・・・ありがとうリベンジャー」

 

 

隣で寝ていたリベンジャーも彼のただならぬ雰囲気に目を覚まし、心配そうに声をかける。

夢は所詮、夢。だがアウストにはそれがどうしてもただの夢だとは割り切れなかった。かつて長く自身の副官を務め、そして自身を殺しにきたあの人形の夢を・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・Kar98k」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ここは、どこだろうか。ゆっくりと目を開けた()()は、まだはっきりしない意識で周りを見渡す。さっきまでSO10地区の町にいたはずだが、気がつけば草が生い茂った草原に横たわっていた。

 

 

「私は・・・・確か・・・・・」

 

 

はっきりし始める意識とともに、直前の記憶を思い返す。人気のない通りを歩き、目の前にコートを羽織った女が現れ・・・・・・

そこまで思い出して、自身の腹部を見る。()()にあった傷も人工血液もそこにはなく、また負傷した痕跡すらない。記録と齟齬があるこの状況に訝しむも、いつまでも寝転んでいるわけにもいかずに立ち上がる。トレードマークともいえる軍帽と自身の丈ほどあるライフル銃を手に取り、彼女はただ当てもなく歩き出した。

 

 

まるでなにかに引き寄せられるように・・・・・S09地区へと、まっすぐと。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、ご注文のホットコーヒーです」

 

「ありがとう代理人」

 

「ありがとうございます!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・アウストさん?」

 

 

どこかぼぉっとしているアウストに、代理人が声をかける。するとようやく目の前にコーヒーがあることに気がついたのか、慌ててお礼を言って口に含み、しかし熱さで舌を火傷する。どこか彼らしくないと思いつつ隣のリベンジャーやリーを見るが、どうやら彼女たちもそう思っているようだ。

 

 

「・・・・・アウストさん、なにかお悩みなら話していただけませんか? 直接解決にはならないかもしれませんが、お力にはなれるはずです」

 

「そうだぞアウスト、いつまでも『大丈夫だ』では済まないんだ」

 

「それにどう見ても大丈夫だとは思えません。 しかも日に日に悪くなっていますよ」

 

 

言うのを渋っていたアウストだったが、そこまで言われてようやくポツリポツリと溢し始める。

発端は数日前、ここ最近では見ることがなかった()()()()()()の夢を見たのだ。ここに流れ着いた当初は毎日のように夢を見て、その度にうなされていた。ところが今回見た夢はそれまでとは全く違うもの、とある人形の夢ばかり見るのだ。しかも・・・・・・

 

 

「彼女・・・・・Kar98kと一対一で部屋にいるんだ。 薄暗い部屋であいつの表情はわからないが・・・・・手には銃剣が握られてた。 それが夢を見るたびに、ゆっくり近づいてくるんだ」

 

 

初めてその夢を見たときは、互いの距離は10メートルくらいは離れていたように思う。ところが直近の夢では2メートルもなく、いつ刺されてもおかしくはない距離になっている。

まるで、本当に彼女がもう一度殺しに来ているかのように。

 

 

「アウスト・・・・・・」

 

「ただの夢さ・・・俺の心が弱いだけだ」

 

「・・・・いえ、そうとも限りません。 それが予知夢と呼ばれるものである可能性もあります」

 

「・・・・・人形なのに随分と非科学的なことを言うんだな」

 

「ここでは日常茶飯事ですよ」

 

 

そう言うと彼女は電話に元に向かい、何処かにかけてはまた別のところにもかけていく。

残される形となった三人だが、アウストの手をリベンジャーがそっと包み込むと、静かに、しかし力強く言った。

 

 

「大丈夫だ、もしものことがあれば私が守るさ」

 

「そうですよ、あなたは私たちの指揮官なのですから!」

 

「・・・・・すまない、ありがとう二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ということなのです。 サクヤさん、なにか思い当たることはありませんか?」

 

 

受話器の先、代理人の友人にしてかつて別の世界で命を落とした人間であるサクヤが悩むような声を出す。代理人の記憶では、彼女は時々向こうの世界の状況を見る、ないしは向こうから何かが流れてくるということがあり、近しい夢を見ている可能性もあったのだ。

 

 

「予知夢・・・・ではないけど、そういうのは案外間違ってないかも。 私も変な夢を見たことがあるし、用心するに越したことはないよ。 ただ・・・・・」

 

 

代理人の予想通り、やはり彼女も夢という形で何かを感じ取ることがあったようだ。もちろんこれが直接的な解決にはならないが、何かが訪れるのであれば網を張っておくこともできる。

だが、彼女は少し声色を落として続けた。

 

 

「ただ?」

 

「・・・・・その、Kar98kだっけ? その子の顔は見えなかったんだよね?」

 

「えぇ、そう聞いています」

 

「そう・・・・ならまだ彼女が彼の命を狙っているとは限らないと思う。 むしろそれが、彼女の何らかのメッセージとも考えられるし、あるいは・・・・・」

 

「・・・・・彼女も、こちらに来ている」

 

 

そう、これが代理人が考える中で最も可能性の高い現象だった。これまでサクヤを含め、ノインやS08地区のダズ・プティ夫婦、カラビーナなどなどあらゆる世界、場所から流れてきた者たちがいる。この世界がそういう世界だからなのかはわからないが、もうこれ以上ないと考える方が無理があるだろう。

 

 

「そうなると、彼と鉢合わせたときに本当に殺傷沙汰になる可能性もある。 まして聞いた話ではリベンジャーとKar98kは互いに殺意を抱いていた者同士、可能性は十分あるよ」

 

「えぇ、私たちも気をつけてはみます。 少なくともこの街に滞在する数日間だけでも」

 

「こっちも、動かせる娘は出しておくよ。 また何かあったら連絡してね」

 

 

通話を終え、受話器を置く。チラッと三人を見るとどうやら先ほどよりはマシにはなったようだが、まだその表情は優れないようだ。

せっかく得た幸せを失わせたくない。そう強い覚悟を持ち、代理人はまた受話器を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、思わぬ形で結果が現れる。なんと鉄血工造の輸送部隊が襲撃されたのだ。

場所はS09地区近郊の草原地帯、ちょうど鉄血工造からはS09地区を挟んで反対側に位置するところで、すでに司令部から一部隊が出動している。編成はKarにカラビーナ、そしてこういう事態に即応可能な404小隊の初期メンバー、オペレーターにUMP40。

だがそれとは別に・・・・・何かを感じ取ったのかアウストたちがそこに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「増援はまだか!?」

 

「グリフィンの部隊がもうすぐで到着する!」

 

「じゃあそれまで耐え凌げばいいな!」

 

 

そう怒鳴りあいつつ、鉄血工造輸送部隊のAigisたちは盾を構えて守りを固める。襲撃された際に輸送トラックの車輪をやられはしたが、幸いなことに相手はたった一人。流石に足の遅いAigisでは捕まえることは難しいが、増援が来るまで耐えること自体は難しくない。

 

 

「レーダーに感! 来たか!?」

 

「だが反応が少ない・・・・まさか民間人か!?」

 

「嘘だろオイ!? 流石にそっちまでは手が回らんぞ!」

 

 

せわしなくセンサーカメラを動かし、襲撃者と新たに現れた反応を探す。反応があるのは鉄血の信号が二つに人間の反応が一つ、それがすぐそばまで来ると、襲撃者である人形の動きも止まった。

 

 

「な、なんだ・・・・?」

 

「おい、あれって前に聞いたリベンジャー(人妻ちゃん)ってやつじゃね?」

 

「マジで!? ・・・・・・すまん、ちょっとトイレに「抜け駆けは許さん!」は、離せっ! もっと間近でみたいんだ!」

 

 

ごちゃごちゃと揉めるAigisたちを他所に、襲撃者・・・・・Kar98kは信じられないものを見たかのような顔で立ち尽くし、フラフラと歩き出した。

グリフィンの制服ではないため一瞬判断が遅れたが、その顔を忘れたことなど一度もない。彼のもとで戦い、彼に裏切られ、彼を殺し、しかし彼への未練を立ちきれなかった彼女が待ち望んだ相手。

 

彼女の指揮官、アウストがそこにいた。

 

 

「あぁ・・・・アウスト・・・・・」

 

 

まるで夢を見ているような、そんな気分だった。一刻もはやく彼と触れ合いたい、彼を抱きしめたい、そんな思いで進めた歩みは、しかし彼の前に立ち塞がる存在にかき消された。

 

 

「っ!? リベンジャー・・・・・」

 

「Kar98k・・・・・アウスト、知っていたのか?」

 

「いや・・・・ただ、なんとなく呼ばれたような気がしただけだ」

 

 

行手を阻む存在・・・SO10地区での血みどろの地獄の元凶、アベンジャー。かつて殺したはずのソレが、再び目の前に現れた瞬間、彼女の視界は真っ赤に染まった。

 

なぜ、あなたがそこにいる?彼の隣は私のはずだ、私のアウストを返せ、返せ返せ返せかえせかえせカエセカエセカエセカエセ!!!!!

 

 

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

「っ!? 待てKar98k! こちらはお前と戦う意思はない!!」

 

「ダメですリベンジャー様! 聞こえてません!」

 

「チッ・・・・仕方ない、手足をつぶしてでも止める!」

 

 

リベンジャーが地を蹴り、Kar98kとぶつかる。長らく戦場から離れてはいたがそこはハイエンド、ブランクを感じさせずにKar98kと渡り合う。

だがかつての冷静さを欠いたKar98kの猛攻は常識を逸脱していた。自身の半身とも言える銃をまるで鈍器のように振り回し、隙あらば銃剣を突き出し、僅かでも距離が開けば狙いもそこそこに引き金を引く。全く先の読めない戦い方に、リベンジャーは徐々に追い詰められていった。

 

 

「リベンジャー・・・・リベンジャーっ!!!!」

 

「ぐっ!? この・・・・」

 

「リベンジャー様、ダメです!」

 

 

振り下ろされる銃を受け止めると同時にリーが叫び、直後に右肩に鋭い痛みが走る。よく見れば彼女が受け止めた銃からは銃剣がなく、それが右肩に深々と突き立てられていた。

 

 

「捕まえましたわよ」

 

「ぎっ!? があああああああ!!!!!????」

 

 

銃剣を握る手に力を込め、グリグリと回して傷口を抉る。さらに愛銃までも手放し、右手でアベンジャーの首を掴むとフルパワーで絞め始めた。

 

 

「死ね・・・・・死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネェ!!!!!!」

 

「離せ! 離せぇ!!!」

 

 

リーが引き剥がそうと体を引っ張るも、どこからそんな力が出ているのかというほど微動だにせず首を絞め続ける。ただただ一心不乱に、目の前に女を殺そうとする。

だが、突如横合から何かが思いっきりぶつかり、耐えきれず転がる。ガバッと体を起こし邪魔者を見据え、それがアウストであると分かると戸惑いと憎悪を瞳に宿す。

 

 

「あなたは・・・・・そうやってまた「Kar98k!!!」っ!?」

 

「もう止めてくれ・・・・・頼む」

 

 

苦しげにそう言うと、アウストは彼女のもとに歩み寄る。そしてその両手をとり、ゆっくりと自身の首に持っていった。

 

 

「お前が本当に許せないのは、俺だ。 殺すなら俺を殺せ・・・・・その代わり、もう戦わないでくれ」

 

「アウ・・・スト・・・・・」

 

 

首に当てられた手に、ゆっくりと力が入る。初めはやや息苦しいだけだったそれが、やがて殺意を持って絞めあげる。リベンジャーたちの声が遠く聞こえ、目が霞み始め・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはさせませんわっ!!!!」

 

「ゴハッ!?」

 

「フギュッ!?」

 

 

妙に甲高い声と同時に、二人がなんとも情けない声を上げて転がる。絶賛人生の清算中だった二人に飛び蹴りをかましたのは、S09地区のおてんばライフルであるKarだった。しかもさっきの会話が聞こえていたようで、加害者側であるKa98kを放ってアウストの元に行くと、胸ぐらを掴んで激しい往復ビンタをし始める。

 

 

「まったく誰も彼も・・・・・なんでっ! そんなにっ!! 死にたがるんですかっ!!!」

 

「ブッ!? ちょ、ちょっとmヘブっ! 話をkフゴッ!!」

 

「言い訳無用ですわ!!!」

 

 

そんな目の前で繰り広げられる制裁行為に唖然とするKar98k。その情け容赦のかけらもない姿に痛みすら忘れてビビるリベンジャー。それをご褒美だと思い羨ましがるAigis・・・・・取り残されたリーは何もできずに突っ立った。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・」

 

「やりすぎですよKar」

 

「ふんっ、命を粗末に扱う輩には軽すぎるくらいですわ!」

 

「・・・・・まぁいいでしょう。 さて、ではあとはわたくしの番ですわね」

 

 

呆れた様子でカラビーナは転がっている彼女の銃を取り、Kar98kへ渡す。戸惑いながら受け取るのを確認すると、カラビーナは手を差し出して言った。

 

 

「Kar98kさん、でよろしいですね? 我々はあなたを()()します・・・・一緒に来てもらえますか?」

 

 

自身と同じ顔の女がそう言い、Kar98kは黙ってその手をとった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「いいですかアウストさん、お気持ちは分かりますが勝手に出ていくからこういうことになるんですよ?」

 

「わ、わかった、わかったからそろそろ・・・・・」

 

「それに、グリフィンの部隊と共に行っていればリベンジャーが深傷を負うこともなかったかもしれません。 最悪の場合犠牲者が出てしまっていたかもしれないことを自覚してください」

 

「はい・・・・・・」

 

「あー、代理人、私は大丈夫だからもうそのくらいで」

 

「何を言っているんですか? あなたも彼を止めなかったという意味ではお説教ですよ」

 

「 」

 

 

場所を変えて喫茶 鉄血、の三階従業員用フロア。急遽コタツを撤去して置かれた四角いテーブルを囲むようにして代理人とサクヤ、アウスト、リベンジャー、リー、Kar、カラビーナ、そしてKar98kが座っていた。

リベンジャーは応急処置を済ませ、右腕を吊ってはいるが他は異常はない。だがアウストと並んで長々と説教中であり、だんだん顔から生気が抜けてきている。

 

 

「・・・・・ふぅ。 さて、()()()()()このくらいでいいでしょう」

 

「Kar98kちゃん・・・・さっき話した通り、ここはあなたがいた世界とは別の世界よ」

 

「えぇ・・・・いまだに信じられませんが、そうなのでしょう」

 

 

先ほどまでの鬼気迫る雰囲気はどこへやら、今にも消えそうなほど儚い空気を醸しだすKar98k。一度冷静になり、またあの戦場とは程遠いここの空気に当てられて、会いたいと願っていたアウストを殺しかけたことに対する自責の念が襲ってきたようだ。

一方のアウストは・・・・・もともと彼が逃亡したのが発端であるため気まずいようで、リベンジャーも出来るだけ水に流そうとはしていうがやはりそうもいかないようだ。

 

 

「そちらの世界のこと、そしてあなた方のことは聞いています。 それぞれに蟠りがあることも・・・・・事情が事情ですので、部外者である我々がどうこう言うことはできません」

 

「でも、せっかくこうして話せる場になったんだし、ゆっくりでいいから話してみよう、ね?」

 

 

代理人とサクヤがそう勧めるも、四人は互いに気まずそうに顔を見るだけ。

そのまま数分が経った頃、リベンジャーが意を決してこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・Kar98k、お前と・・・二人で話がしたい」

 

「リベンジャー!?」

 

「そんな、危険すぎます!!」

 

「・・・・・・・わかりました。 では、隣の部屋をお使いください」

 

 

代理人に案内され、リベンジャーとKar98kは二人でマヌスクリプトの部屋に入る。防音なのでそれっきり何も聞こえなくなるが、代理人とサクヤはただジッと待つことにした。

 

 

「二人とも不安なのはわかるよ、でも今は信じてあげよう」

 

「それに、彼女が自ら提案したことです。 任せましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の、マヌスクリプトの部屋に案内された二人は互いに気まずいままの空気・・・・・・にはなっていなかった。

いや、気まずいことには気まずいのだがそれ以上にこの部屋の方が気になって仕方がない。

 

 

「お、落ち着きませんわね・・・・・」

 

「そ、そうだな・・・・・」

 

 

防音なのでゆっくりと話ができる、そういう配慮なのだろうが代理人も色々毒されているようで、もうこの部屋を見てもどうとも思わなくたっていた。だが今日初めて見た彼女らには少々刺激が強すぎたようだ。

 

 

(まずい・・・何か話さないと頭がおかしくなりそうだ・・・)

 

(この部屋にずっといるくらいなら話していたほうがマシですわ・・・・)

 

 

「「・・・・・あの!」」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「・・・そちらからどうぞ」

「・・・そっちからいいぞ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

沈黙。

互いに戦場ではあれだけ雑言罵倒をぶつけ合ったというのに、面と向かうとこうも話せなくなるものかと頭を抱えたくなる。

が、流石にそうも言っていられないので、Ka98kはとりあえず聞きやすい内容から聞くことにした。

 

 

「あなたは・・・いつからこちらに?」

 

「・・・もう何ヶ月も前だ。 メンテナンスに向かう途中で襲われてな」

 

「・・・・・・・え? メンテナンス?」

 

「ん? あぁ、そうだ。 というか聞いていないのか?」

 

「え、だって、あなたはあの時私が殺したはずでは?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

再び沈黙。

しかしそれは気まずいというよりも、互いの話が噛み合わないというところが大きかった。それもそのはずで、リベンジャーとKar98kがいた世界もまた微妙にズレた並行世界の一つであるからだ。なので厳密には、この二人が殺し合っていたわけではないということになる。

 

 

「・・・・・そうか、そっちではそういうことになっているのか」

 

「私もですよ・・・・はぁ、全く何がなんだか・・・・・」

 

「まぁ、なってしまったものは仕方ないんじゃないか?」

 

 

すでにこの世界にいて長いリベンジャーの余裕のある態度が気に触るが、実際来てしまったものはどうしようも無い。聞けば自分や彼女を含めてここに流れ着いてきた者は割といるそうだが、元の世界に帰ることができたという話は聞かなかったらしい。

ではこれからどうするべきか・・・・・そう思い悩むKar98kに、リベンジャーはそっと手を差し出した。

 

 

「その・・・・よかったら、うちに来るっていうのはどうだ?」

 

「え?」

 

「こう言っちゃなんだが、もう私たちは戦う必要がない。 なら、私たちはもう敵同士じゃない。 和解、とまではいかないかもしれないが・・・・どうだ?」

 

 

キッパリと言うリベンジャーだが、差し出したその手はわずかに震えていた。それがなんとなく可笑しく思い、Kar98kはプッと吹き出してしまう。

 

 

「な、なんだいきなり?」

 

「ふふふっ・・・・いえ、戦場では鬼神の如きだったあなたとは似ても似つかない雰囲気なので、つい・・・・ふふっ」

 

「そう言うお前だって、そんなふうに笑う人形じゃなかっただろ」

 

「えぇ、そうですね・・・ここまで笑ったのはいつ以来でしょうか」

 

 

気がつけば、互いの警戒心はほとんどなくなっていた。それを皮切りに出るのは、やれ尋問が趣味の性悪女だの、やれ真正面から突っ込む突撃脳だの、かねてより言いたかったことを遠慮なしにぶつけ合う。しかもそれはどんどん遡り始め、最終的には根本の原因であろうアウストの話になり・・・・・

 

 

「・・・・思い出したらちょっと腹が立ってきましたわ、あとでしっかり言いませんと」

 

「いいんじゃないか。 どのみち今度は逃げられんだろうし・・・・一日くらいなら貸すぞ?」

 

「あら、では遠慮無くそうさせていただきましょう」

 

 

二人でニヤニヤと笑いながら、気がつけば時計の長針が一周ちょっとも回っていることに気がつく。流石にこれ以上心配かけさせるのも良くないので、二人はどちらからとは言わずに立ち上がった。

そして部屋を出る直前、リベンジャーは振り返ってもう一度尋ねる。

 

 

「・・・・・さっきの、うちに来ないかって話だが」

 

「そうね・・・・・考えておくわ。 それよりも先にやることがあるから」

 

「・・・・・そっか。 まぁ決まったら教えてくれ」

 

「ええ」

 

 

最後にそう言って、二人は部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ

「お待たせ〜ってうわっ!?」

 

「リベンジャー様、大丈夫ですか!? あの女に何かせれてませんか!?」

 

 

扉が開くと同時に、涙と鼻水で顔をクシャクシャにしたリーが抱きつく。その後ろでほっとしたような表情のアウストとサクヤ、相変わらずの表情の代理人が座っており、テーブルには何か美味しそうなケーキが乗っかっていた。

 

 

「・・・・・リー? 私たちが話している間にお前はあんな美味しそうなケーキを食べてたのかぁ?」

 

「ふぇ〜ごひぇんなひゃい〜!」

 

「その様子ですと、問題なかったようですね」

 

 

代理人の言葉に、リベンジャーとKar98kは顔を見合わせてクスッと笑う。その様子に代理人も安心したようで、二人分のケーキを切り分けて皿に乗せた。

 

 

「お二人もどうぞ。 お二人には私からサービスさせていただきます」

 

「え? 俺たちは?」

 

「後でお代をいただきます」

 

「「えぇ〜〜・・・・・」」

 

「ありがとうございます代理人・・・・ですが、それは後で食べることになりそうですわ」

 

 

Kar98kは困ったように笑うと、自腹と言われて落ち込むアウストの首根っこをガッと掴んだ。

 

 

「・・・・・・・え?」

 

「アウスト、この機会に少し()()()()しましょう」

 

「え、ちょ、リベンジャー?」

 

「アウスト、お前もいつまでも過去を引きずってはいられないだろ? 邪魔はしないから()()()()話してくるといい」

 

「リベンジャー!?」

 

「ではリベンジャー、また後ほど」

 

 

オホホホという変な笑い声とアウストの悲痛な声は、再びマヌスクリプトの部屋へと消えていった。

その時の彼女の顔は、余計な重荷を捨てたように晴れやかなものに感じた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは田舎の小さな町。そこに自警団程度の役割で置かれている司令部がある。

そんな司令部の正面玄関で、ちょっと慌ただしく支度する人形たちがいた。

 

 

「全く、お前は何回寝坊すれば気が済むんだ!?」

 

「し、仕方ありませんわ! あんな上質なベッドで寝たことなんて、あっちではなかったんですのよ!?」

 

「お二人とも、急がないと電車が出ちゃいますよ!」

 

「おーい三人とも! 弁当忘れてるぞ!」

 

 

そんな三人の後ろから、グリフィンの制服を纏った男が駆け寄る。三人は慌てて受け取り、急いで玄関の扉を開いた。

 

 

「じゃ、くれぐれも怪我のないように。 第一部隊、行ってこい!」

 

「あぁ、行ってくる!」

 

「行ってきますわ、アウスト!」

 

「行ってきます、指揮官!」

 

 

辺境の司令部の、そんな日常。

 

 

 

end




シリアスが続かない病、そして戦闘描写がうまく書けない病・・・・・書けるようになりたいなぁ泣
というわけで今回はムリーヌ様の作品『黒鷲の黙示録』よりKar98kちゃんです!同作者様の別作品『とある復讐者の追憶』の鉄血エンドの後になります。
ちなみにすでにここにいるリベンジャー、リーとは辿った世界が少し違うので、両者の認識に違いがあります。


ではではキャラ紹介

Kar98k
今回流れてきた娘。リベンジャーらと同じ(厳密にはちょっと違う)世界からやってきた。
詳しい事はあちらの作品を参照。
リベンジャーと互角に戦えるため、戦闘力はかなり高い。

リベンジャー&リー
以前こちらに流れてきたハイエンドとリッパー。
現在は辺境の司令部に所属している。

アウスト
時期的にはリベンジャーたちよりちょっと前に流れ着いた。
現在は辺境の司令部で指揮官を務める。

Kar&カラビーナ
せっかくだから出そうかなと思って。
その結果名前がやたらとややこしいことになってしまった。

代理人&サクヤ
片やこんな事態に慣れきった人形、片やこういう事態に陥った人間。
流れ着いてきた者たちにアドバイスしたりする際にはよく呼ばれる。

404
カラビーナたちと共に出撃したけど一切出番がなかった。
正直ここは誰でもよかった


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第百二十八話:新たなスキンを求めて

M4とアイマスのしぶりん、似てる気がする。


「諸君、今日集まってもらったのは他でもない・・・新たなスキンについてだ」

 

 

グリフィン本社の社長室・・・・から扉一つで繋がっている完全防音の会議室。そこに集まった技術者たちを前に、グリフィン社社長のクルーガーはそう言った。

今日集められたのはグリフィンの取引先であるIoPからペルシカと17labの主任、そして鉄血工造からはゲーガーとユウトである。前者はともかく後者がこのメンツなのは、アーキテクトは言うまでもなくサクヤもこの手の話題では暴走しがちだからだ。結果、まとも枠でこの二人が出向いたと言うわけだ。

 

 

「この時期、ということはまたクリスマススキンか新年スキンか?」

 

 

開始早々、ゲーガーがそう言う。もうハロウィンも終わってクリスマスを待つばかりとなったこの時期、考えられるのはそれくらいだった。まさかこの時期にもう水着とは言い出さないだろう。

だが、返ってきたのは別の答えだった。

 

 

「うむ、そう考えるのが妥当ではあるが、今回は違う」

 

「と、言うと?」

 

「君たち、『スキン』のイメージとはなんだ?」

 

 

スキン、それは基本的に同じ服装で任務に就く人形たちにさらなる彩りを加えるものである。見た目と実用を兼ね備えた、いわば普段とは違う煌びやかな鎧、とも言える。

また、そんな特別感をより出すために季節やイベントにちなんだスキンが用意されることが多い。別にその時期だけしか使えないというわけではないが、真冬に水着を着せる指揮官はそんなにいない・・・・・・多分。

 

 

「そう、スキンにはそれぞれに合う時期があり、つまり合わない時期もある・・・・・それはもったいなくはないだろうか?」

 

 

クルーガーが大真面目にそう言う。

ちなみにスキンと普通の服の一番の違いは、修復ポッドで治るか否かである。どれだけ丈夫で重厚な素材で作ったとしても服は作り直さなければならず、逆にスキンであればどれだけ豪華であろうともたとえ布切れ一枚であろうとも、修復ポッドに行けば直るのだ。

後方支援がメインの部隊はともかく、前線で体を張る部隊はお洒落をしたければスキンに頼るしかない。

 

 

「そこで、君たちにはシーズンを問わないスキンを開発してもらいたい」

 

「ほぉ・・・・・」

 

「面白そうじゃない・・・」

 

「いやいやちょっと待て」

 

 

なんの疑いもなく乗っかろうとする16、17labの主任二人に、まとも枠のゲーガーがストップをかける。これがアーキテクトだったらもう誰も止まらないのだろうがそうはいかない、また変なスキンが出回って巡り巡って自分たちに迷惑を被るなら止めるしかない。

 

 

「なんだ同志ゲーガー、不満でもあるのか?」

 

「誰が同志だ。 そもそもIoP製の人形のスキンだろう? 我々のメリットが薄いぞ」

 

「ん? 別に鉄血のスキンでも構わんぞ?」

 

「むしろ彼女らの服をグリフィンの娘たちが着る・・・・なかなか良いではありませんか」

 

 

どうやらスキンを作れればなんでもいいらしい。ちなみにここまで社長が気合を入れている理由は、単純に目の保養のためである。

尚も納得しないゲーガーだが、その隣のユウトがなんと賛成側に回った。

 

 

「では、『鉄血工造スキン』というのはどうでしょうか」

 

「おいユウト!?」

 

「大丈夫ですよゲーガー姉さん、それにここでグリフィンやIoPとより強いパイプを持つ方が重要です」

 

「いや、それはそうだが・・・・・・」

 

 

ユウトもまとも枠だ。まとも枠なのだが真面目に物事を見すぎて、目の前にいるのが変態どもであることを一切考えていない。ゲーガーの心配は、どうやら伝わらなさそうだ。

 

 

「それにゲーガー姉さんもスキンを作って貰えばいいんじゃないですか? いつまでもその格好のままっていうのも」

 

「出かける時はちゃんとした服を着ているぞ」

 

「でも普段はそれですよね? ちゃんと服もあるのに」

 

「汚れてしまってはもったいないだろ?」

 

「スキンなら気にしなくていいですよ」

 

「・・・・・・・・」

 

 

ちょっと揺らぎ始めるゲーガー。まぁ確かにサクヤからプレゼントしてもらった服も出かける時にしか着ず、正直ちょっと申し訳ない気持ちはあったのだ。

 

 

「まぁ実はもうサクヤからはスキンの案をもらってるんだけどね」

 

「えっ!?」

 

「そしてもう作ってるんだよね・・・・・アーキテクト協力のもとで」

 

「なら断る」

 

 

絶対ろくなものじゃない、サクヤの案であれば少しは安心できるが作ったのがあのバカ(アーキテクト)マッド科学者(ペルシカ)である時点でもう信用ならない。

しかしそんなゲーガーの意思などはなから聞くつもりもなく、部屋の扉を空けて給仕用の人形がハンガーを持ってくる。

 

 

「ってなんで三着もあるんだ!」

 

「なんでって・・・・サクヤが三枚送ってきたからだよ。 これがそれ」

 

「『見た目重視』に『機能性重視』・・・・・・もう一枚が「おぉっとそれは君が見ちゃいけないやつだよ!」

 

 

ハンガーにかかっているスキンは三つ、うち一つは何故か真っ黒な布をかぶせられており、今の反応を見るにソッチ用なのだろう・・・・・遠回しなお誘いだろうか?

それはともかく、二人は残り二つを手に取ってみる。一つはラフなインナーにタイトスカート、そして鉄血工造のマークが描かれた白衣だ。見た目重視というのは対外的なものなのだろう。

一方の機能性の方は、メンテナンスなどを担当するゲーガーに合わせた作業着。ポケットなどがいくつもついており、なるほどこれは便利そうだ。

 

 

「よかったら着てみなよ、隣の部屋にスキン適合用の装置もあるから」

 

「・・・・・無駄に準備がいいな。 ならとりあえずこれを」

 

「うむ、ではユウト君だったかな? 君と話したいことがあるからその間に話そうか」

 

「わかりました」

 

 

そう言ってゲーガーは作業着の方を手に取り隣の部屋へ、その間にクルーガーはユウトを交え、スキンの話を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バンッ

「おいっ! なんだこれはっ!!!」

 

 

数分後、そこそこ重い扉を物凄い勢いで開けたゲーガーの額には青筋がくっきり浮かんでいた。今の彼女はスキンを適用した姿なのだが、何故か胸元のファスナーが上まで上がっていなかった。そのためそれなりのでかい二つの実りが上半分くらい見えている。

 

 

「ゲ、ゲーガー姉さんなんて格好してるんですか!?」

 

「そんなの私が聞きたい! おいペルシカっ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「え? そういう注文だったからだよ?」

 

 

そう言われて、バッとサクヤの指示書を見る。そこにはポケットのサイズやら配置やらが事細かに書かれており、その一つとしてファスナーのストッパーの位置と、なんか言い訳みたいに長い説明書きが添えられていた。要約すれば通気性重視らしいが、たぶん描いてる途中で魔が刺したのだろう。

 

 

「まぁ使い勝手良さそうだからいいんじゃない?」

 

「んなわけあるか!」

 

「あまり暴ればいほうがいいぞ、今にも溢れそうだ」

 

「ぐぬぬぬぬ・・・・・・!」

 

 

あと一言二言ぐらい文句を言ってやろうとゲーガーは席に戻り、そこでさっきよりも書類が増えていることに気がつく。というか手元に置かれていた案を書くための白紙が減っている。

しかも増えた書類にはどれも、鉄血工造のハイエンドとそのスキンが描かれていた。

 

 

「ってユウト! なんだこれは!?」

 

「ち、違うんですゲーガー姉さん! その、日頃の感謝に何かを送れないかなと思って相談して・・・・・」

 

「そう、これは彼の純粋な好意だぞゲーガー君」

 

「それを無碍にするとは、彼も報われませんねぇ」

 

「・・・・・・何が目的だ?」

 

 

ここまで来れば、彼らが何かを企んでいるのは目に見えている。というよりもすでに手元に書類の束ができているのでバレバレである。

そして17labの主任は、その束をゲーガーの前に差し出した。

 

 

「せっかくですので、彼の案である鉄血工造スキンを採用することにしました。 ですのでここにサインをいただければと」

 

「まぁ書いてるのは『データの一部を使います』とか『情報は公開しません』とかのありきたりなやつだよ」

 

「ちなみに断ることもできるが・・・・・そのスキンは無かったことにしてもらうしかないな」

 

 

脅迫じゃねぇか。

というツッコミを入れつつ、隣のユウトを見る。まぁ彼の気持ちもわかるし、今回のこれも別に怪しいものはなかった。強いていうならばこれがどの人形のスキンになるのかぐらいだが・・・・・まぁ誰でも結果は変わらないだろう。

そんなわけで、若干納得はいかないもののサインだけ書いて渡す。

 

 

「これでめでたく同志だね、ゲーガー」

 

「喜びよりも悲しみが大きいのはなんでだろうな?」

 

「大丈夫だゲーガー君、じきに染まる」

 

「全然大丈夫じゃない!」

 

 

後日、鉄血工造スキンの予約が始まった際にはサーバーがパンクするほど予約が殺到したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それがこのスキンですか」

 

「えへへ〜、お母さんとお揃いですね」

 

「ふふ、似合ってますよM4」

 

 

喫茶 鉄血は今日も平和です。

 

 

 

end




鉄血スキン、出してくれませんかねぇ(チラッ)
まぁいつものスキンガチャ風に考えるなら5、6体分くらいでしょう。ちなみに私が考えるスキンはこんな感じ

代理人:M4
スケアクロウ:AUG
処刑人:トンプソン
ハンター:IWS2000
イントゥルーダー:DSR-50もしくはMk48
デストロイヤー:P7

下級モデルなら↓
リッパー:Vector
イェーガー:スプリングフィールド
ガード:SPAS-12
ヴェスピド:AK-47
アイギス:45姉

では今回のキャラ紹介!

クルーガー
部下である指揮官たちのモチベーションのためにスキンを考案する有能な社長。

ペルシカ
彼女の手にかかれば大概のスキンは作れる。
ちなみに持ち込んだ案はナーススキン。

17lab主任
世の男の希望。
持ち込んだ案はスポーツスキン。

ゲーガー
抑止力には力不足だった。
完全に忘れているがスキンはもう一着ある。

ユウト
ユウト君、大人の世界とはこういうものなのだよ。


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第百二十九話:お節介な蛇

もう今月でで2019年も終わり・・・早いものですね。
クリスマスやって大掃除やって年越しして正月を迎えて・・・・あ、お年玉も重要イベントですね(渡す側)

何故か途中から全く筆が進まなくなってしまいまして・・・・・イベントとイベントの間の日常回って難しいなぁ。


「代理人、お主年越しはどうするつもりじゃ?」

 

「なんですか藪から棒に」

 

 

日中の気温も大きく下がり始めたとある日の喫茶 鉄血、久しぶりに訪れたウロボロスは唐突にそんなことを言い出した。なんでも彼女の所属する建築会社はもう今年の仕事を終えてしまったらしく、なんだかんだ働きづめだったウロボロスは丸一ヶ月以上もの休暇をもらっているのだ。

が、別にやりたいこともなければ遊ぶ相手もいない彼女が向かったのは、いつも通りの喫茶 鉄血だったのである。そこ、ボッチとか言わない!

 

 

「いや、お主の事だから年末年始も店を開けようとするんじゃないかと思ってな」

 

「・・・・まぁ、開ける予定でしたが」

 

 

それが何か?というふうに首を傾げる代理人に、ウロボロスは頭を抱えて嘆く。憎まれ口は叩くが信頼している上司は、どうやら重度のワーカーホリックらしい。

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」

 

「・・・・・・なんですか?」

 

 

あのウロボロスに呆れられて若干ムッとする代理人。

 

 

「・・・・・代理人よ、せめて年末年始くらいは仲間で集まらんか? というか集まるべきだろう」

 

「そうは言いますが、別にここ数年会っていないというわけでもありませんから。 というよりも結構会ってますよね?」

 

「あぁ・・・・代理人は私らと会うのが嫌なのか・・・・シクシク」

 

「似合わないことはしない方がいいですよ」

 

「チッ」

 

 

代理人曰く、普段から会えるのであればわざわざ集まらなくてもいい。むしろ普段付き合いがある人たちで集まったほうが有意義なんじゃないか、というものらしい。

仲間のことを思ってのことだというのは知っているので無碍にするというのもあれだが、鉄血を抜けて以降全員が揃う機会があまりなかったため意地でも揃わせたいウロボロスは、深くため息を吐く。

 

 

「それもそうだが・・・・それはそれ、これはこれだろうに・・・」

 

「皆さんの予定が合うのであれば問題ありませんが・・・・スケアクロウなどは年末年始こそお仕事では?」

 

 

代理人の言う通り、スケアクロウは年末年始も仕事が入る予定である。が、まだそれは予定に過ぎず本人ももし集まると決まればキャンセルしてでもこっちに来るつもりだ。後のメンツは普通に休みか、そもそもの予定自体が不定期な連中なので、つまるところ代理人次第ということになる。

その代理人がここまで頑固だとは思わなかったウロボロスだが、それも一応想定済みである。もとよりドリーマーと並んで企み事が得意な彼女は、どこをどう揺さぶればいいかも大体わかっている・・・・・というわけで。

 

 

「まったく・・・・・そんなのだからM4あたりから心配されるのだ」

 

「うっ・・・・」

 

「それにお主、誰かから誘われんと休暇も取らんだろ? そりゃみんなしてお節介も焼きたくなる」

 

「そ、それはそうですが・・・・・」

 

「しかも年末年始も働く? 休んでいるやつらに気を遣わせるだけだろう」

 

「うぅ・・・・・・・」

 

 

最終手段、『休まないと迷惑かかるぞ』作戦である。

もともと人の迷惑になることを嫌い、人の役に立つことを好む代理人にはなかなか効果的な手段だ。

珍しく、特に今まで説教する側だったウロボロスに説き伏せられる代理人だが、どうしようもないほど正論なので何も言い返すことができなくなる。それでもまだ傾ききっていないようで、やや勢いを衰えさせながらもまだ反抗する。

 

 

「ですが、他に一緒にいたい人もいるのではないですか? 例えば、ハンターとAR-15のように」

 

「正月くらい実家に帰ってくれば良いではないか。 というかAR小隊らは16labに行くつもりらしいぞ(嘘)」

 

「処刑人には預かっている子どもが・・・・」

 

「一緒に連れてくれば良い。 処刑人の家族なら我らの家族だ」

 

「ジャッジは正規軍の所属ですよ?」

 

「何か適当な脅しでもつけて呼び戻せばいいではないか。 もしくは『胸部装甲のアップデート』とかでもいいぞ、きっと食いつく」

 

「それはやめてあげてください」

 

 

真面目な顔で止める代理人にケラケラ笑うと、ウロボロスはコーヒーを啜ってフゥッと息を吐く。ひとしきり笑い終えると、店内をチラッと見ながら再び話し出した。

 

 

「まぁ年にそう何度も無いことだ、たまには良いでは無いか。 それにアーキテクトのやつが何体か作ったのだろ? 私も会ってみたいのだよ」

 

「えぇ、皆さん個性的な方ばかりです」

 

「うむ、それは見てわかる。 特にあの犯罪誘発ボディなんか特に・・・・・」

 

「・・・・・・いじめないでくださいよ」

 

 

一所懸命に働くフォートレスを、カエルを喰らう蛇の目つきで見つめるウロボロス。そうとも知らずに目が合うとニコッと笑い返すフォートレスの身を案じる代理人は、やれやれと軽く頭を振ってこう言った。

 

 

「わかりました、そこまで言うのなら参加しましょう。 31日に鉄血工造でよろしいですね?」

 

「うむ、問題無い。 他の連中には私から声をかけておこう」

 

「あとは連絡のつきにくい方をどうするか・・・・・アルケミストとドリーマーですね」

 

「あの二人は・・・・・まぁ勝手に現れるだろう」

 

「呼んだか?」

 

「ほらな」

 

 

実にタイミングよく入り口から現れるアルケミストとドリーマーに、ウロボロスと代理人は顔を見合わせて苦笑する。

こうして二人にもこのことを話し、年越しを皆で祝う準備に入るのだった。

 

 

end




イベント限定キャラのくせにスタート画面に出てくるあたりウロボロスの愛され具合がよくわかりますね。
それと、整理がてらこの作品の世界と鉄血工造の説明を軽くですが纏めました。フリーですので自由にお使いください↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=228029&uid=92543

それでは今回のキャラ紹介!

代理人
ワーカーホリックでやや頑固な面もある。
苦手なものとかは無いが悲しむ顔は見たくない。

ウロボロス
ボッチでは無いぞ!断じて違うからな!!
そろそろ自身の服装(黒セーラー)に疑問を持ち始めるが、まぁ不便はないので気にしない。

アルケミスト&ドリーマー
神出鬼没さが増した二人。なんの脈略もなく登場させられるこの二人は大変便利なのだ。


以下、リクエスト&質問箱です。
(キャラクターの整理のため、しばらくオリキャラのリクエストを休止します。ご了承ください)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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番外編32

クリスマスイベント最高かよ!
プレゼントし合うゲーガーとアーキテクトにプレゼント欲しがるデストロイヤーに・・・・・あ、カリーナ、基地の修理費は君の給料から引いておくよ。

というわけで今回は番外編
・レスキュー隊、出動!
・鋼のボディ(ガチ)
・45姉! 新しいボディだよ!
・ノインの旅路Christmas!
の四本です。


番外32-1:レスキュー隊、出動!

 

 

年の暮れが近づく頃、冬の厳しい寒さは容赦なく人命を脅かす。特に山岳部の集落などは顕著であり、急な天候の変化は死に直結しかねないのだ。

そんな一刻を争う事態への即応部隊、それが人形達を中心としたレスキュー隊である。

 

 

『HQから人形部隊へ、再度状況を説明する。

要請があったのは〇〇山麓の集落。近くに飢えて凶暴化した熊が出現猟師数名が討伐に向かったがその後天候が急変し吹雪が発生、猟師達は集落へと戻った。 ところがこれの数刻前、心配した猟師の娘二人が探しに山へ入り、まだ帰ってきていないらしい。

吹雪に加えて先の熊もまだ徘徊しているかも知れん。 急いでくれ』

 

D(ドールズ)1、了解・・・・・・時間がないわ、パイロットさん! このまま捜索ポイントまで飛んで!」

 

「無茶だ! この吹雪じゃ機体を安定させられない!」

 

「飛ばすだけでいい! あとは私たちが勝手に降りるわ!」

 

「なっ!? この高さだぞ!?」

 

「心配無用・・・・・」

 

「はい、問題ありません。 そのための人形部隊です」

 

「・・・わかった。 頼むぞ!」

 

 

レスキュー隊、その中でもいくつか部隊が分かれており、最も早く動ける部隊こそがこの人形部隊。

D1のチェーン、D2にヤーナム、そして先日新たに加わったD3のネイキッドがそのメンバーである。

 

 

「ポイント到達。 D1、出ます!」

 

「D2、出る」

 

「D3、降下します」

 

 

人間であれば自殺行為とも呼べるほど不釣り合いな服装の三人が、すべてを白く包み込んだ山へと飛び降りる。地面に降り立つと同時にチェーンは専用の通信機を起動させ、二人に手渡した。

 

 

「じゃ、ここからは手分けして捜索。 何かこの娘たちに繋がりそうな物が見つかったら、これで連絡して集合ね」

 

「了解」

 

「わかりました」

 

 

三人は別れ、この広い雪山を捜索する。とはいえ彼女達にとって物や人を探すというのは決して難しいことではない。特に最新鋭ハイエンドであるネイキッドは素のスペックが高くレーダーやセンサー類も優秀、ほかの二人はそもそもあちこち探し回るような世界から来たので、それが雪山だろうとなんだろうと障害にはならない。

ただ今回の場合、要救助者が子供ということでタイムリミットが短く、決して楽観できるものではない。

 

 

『D1からD3へ、今どこにいる?』

 

「D3からD1、ポイントβから北へ向かってます」

 

『資料ではその先に洞窟があるみたい、データを送るから見てくれない?』

 

「わかりました」

 

 

ネイキッドは送られてきたデータを元に、その場所に急ぐ。ところが洞窟があると思しき場所にたどり着くもそこは周りと変わらず一面真っ白の雪景色で、洞窟があるようには見えない。

ネイキッドは目の前の地形に地図を重ね合わせる。すると一見なだらかなその一帯が厚さ数メートルの雪に覆われており、その下に空洞があることに気がつく。どうやらここで小規模の雪崩が発生し、洞窟を覆い隠してしまったらしい。

さらにスキャンすると、その空洞に小さな反応を見つけた。サイズからして人間の子供くらいのが二つだ。

 

 

「まさか・・・・・・」

 

 

ネイキッドはすぐさまチェーンらに位置を知らせると、シャベルで掘れるだけ掘り進める。やがてボコっという音とともにシャベルの先が何もない空間に行き着いた。

 

 

「っ! 居た・・・・生きてる!」

 

「だ、誰? 助けにきたの?」

 

「グスッ・・・寒いよぉ・・・・」

 

「もう大丈夫よ。 D3からD1・D2へ、救助対象を保護しました。 応援をお願いします」

 

『こちらD1、もう着いてるわよ。 出口を作るから離れてて!』

 

 

その通信を聞くと同時に二人を抱え、洞窟の奥へ避難するネイキッド。その直後、洞窟の入り口を覆っていた雪が吹き飛び、重厚な銃を構えたチェーンとヤーナムが姿を現した。

 

 

「よくやったわネイキッド! 急いで降りるわよ!」

 

「隊長! 了解で・・・す・・・・・」

 

「ひっ!?」

 

「ん? どうしたのみんな?」

 

 

安心したのも束の間、驚きと警戒の表情を浮かべるネイキッドと怯え始める少女達。首を傾げながらチェーンとヤーナムが後ろを振り向くと・・・・・

 

 

「グルルルル・・・・・・」

 

「・・・・・・わぁお」

 

「熊・・・・気が立ってる」

 

 

体長2メートル以上はある熊が、そこにいた。この時期にしては少々痩せているように見えるのは、冬眠前に十分な食料を得られなかったからだろう。そのため冬眠に入ることもできず、大変機嫌が悪いようだ。

野生の熊はたとえ人形であっても脅威である。パワーもさることながら耐久力もあり、真正面から一対一で戦うべき相手ではない。

 

 

「・・・・・どうしよ」

 

「・・・・・狩る?」

 

「状況が悪すぎるけど・・・・それしかないかな」

 

 

チェーンが弾丸を切り替え、ヤーナムが銃と手刀を構える。互いに睨み合ったまま呼吸を読み合い・・・・・しかし突如として熊がどこかへ走り去り、吹雪の中へと消えていった。

肩透かしを喰らった気分の二人はポカンとしたままその場に立ちぼうけ、少女達を抱えたネイキッドも恐る恐る外へ出る。

 

 

「助かっ・・・・た?」

 

「でも、なんで逃げたんだろう?」

 

「・・・? ・・・・・・何の音?」

 

「「え?」」

 

 

ヤーナムが怪訝な表情で耳を澄ませ、二人もそれに倣って耳を澄ませる。風や木々の音がほとんどを占める中、それとは毛色がはっきりと違う低い音が聞こえて来る。それも、段々と大きくなってきているようだ。

 

 

「どこからだろう?」

 

「風の音、とかでもなさそうですね」

 

「・・・・・・・上?」

 

 

耳を澄ませなくとも聞こえるくらいの音量になったところで、三人は同時に上を・・・山頂の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い壁が・・・・雪崩が迫っていた。

 

 

「「うわぁあああああああああ!!!!!!!???」」

 

「「きゃあああああああああ!!!!!!」」

 

「て、撤退!!!」

 

 

三人同時に駆け出し、一目散に山を降りる。いつもはほとんど表情の変わらないヤーナムも流石に動揺し、人形のパワー全開で走り続ける。

 

 

「なんで雪崩が!?」

 

「地震があったわけでもないのに!!!」

 

「謎・・・・・・あっ」

 

「何!? 何か心当たりとかある!?」

 

「・・・・・起爆榴弾」

 

「・・・・・・隊長!?」

 

「ごめんなさい〜〜〜〜〜!!!!!」

 

 

 

その後、なんとか雪崩から逃げ切った三人は無事少女達を親元へと連れ帰ることができた。幸い雪崩の先に人の生活圏はなく、これといった被害も出なかった。

だがこの一件で起爆榴弾の使用を規制されたのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外32-2:鋼のボディ(ガチ)

 

 

「・・・・なぁ、本当にこれ着なきゃダメなのか?」

 

「VIPの隣で半裸になるわけにもいかないだろ。 動くには不便しない設計のはずだから安心しろ」

 

「だからってなぁ・・・・・なんか落ち着かないんだよ」

 

 

とある日のとある国、古ぼけたアパートの一室で渋々着替える一人の女性、その名もアマゾネスである。なんか色々あって要人護衛を請け負うところに所属しているのだが、今回はその初仕事である。そして渡されたボディガード用のスーツに袖を通し、文句を延々と垂れ流しているところだった。

 

 

「こういうのはお前の方が似合うんじゃないのか、ハンターさんよ」

 

「そうしたいのは山々だが、我々(警察)は我々でやるべきことがあるんだ。 ほら、もう時間だぞ」

 

「はぁ、しゃあないか・・・・・」

 

 

渋々、といった様子でアマゾネスはネクタイをしめ、集合場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

(目立つと思ったが・・・・・意外とそうでもねぇな)

 

 

場所はとあるホテルの前。彼女の仕事はここにやって来るVIPを、ホテルに入るまでの短い間護衛するというもの。距離にすれば数十メートル、だがそれだけあれば襲うには十分すぎる。だからこそ、彼女を含めて十人という過剰なほどの警戒態勢を敷いているのだ。

そんな彼女の同僚達は皆、屈強な男達だ。全員お揃いのスーツにサングラスで、唯一女性ということでアマゾネスは注意を引くが、まぁそれだけだ。

 

 

(それでも、襲撃しようって考える輩はいるんだよな)

 

 

配置についてから一時間、ハンター経由で傍受した警察の通信ではすでに三人も逮捕者が出ている。しかもうち一人はここからすぐ近くの路地裏に潜んでおり、ケースからは狙撃銃が見つかったというのだ。

 

 

(そんだけ恨まれるってことは、きっと根っからの善人ってわけじゃねぇな)

 

『対象がまもなくそちらに到着する、警戒を厳としろ』

 

 

そんなことを考えていると通信が入り、アマゾネスは余計な思考を振り払って集中力を高める。センサー類に反応はないが、それがイコール安全が確保されているというわけではない。

そのセンサーに、やや大きめの反応が現れる。護衛対象の車と、その護衛車だ。

 

 

「・・・・・・来たか」

 

『各自、事前の打ち合わせ通り行動しろ。 新入り、任せるぞ』

 

「了解、任せな」

 

 

短く返答し、意識を護衛する者の方に向ける。車から出てきたのは70過ぎくらいの男で、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。一見命を狙われるような人物には見えないが、外見だけで善悪を判別できれば苦労しない。

アマゾネスは老人の前を歩き、襲撃に備える。たった数十メートルが、やけに遠く感じた。

 

 

「ようこそおいでくださいました」

 

「うむ、出迎えご苦労」

 

 

玄関口に着き、ホテルの支配人が出迎える。その後ろのメイドはおそらく荷物持ちだろう。幸い襲撃者も現れなかったのは、きっと警察が仕事をしてくれたおかげだろう。

 

 

(にしても随分落ち着いてんなぁ・・・・やっぱ慣れてんのかな?)

 

 

護衛をこれでもかとつけたVIPにも動じない支配人らに、感心したアマゾネスは、ちょっとだけ働いた好奇心で対人センサーを起動させる。

そこに写っていたのは見た目とは裏腹にやたらと心拍数の高い数値、服の下の汗の量も凄まじく、スーツの裾で見えないが足も軽く震えていた。

 

 

(まぁ緊張するよな普通、むしろよく隠してられるよ・・・・さて、じゃあ後ろのやつは・・・・・・)

 

 

努めて無表情のまま、今度は後ろの荷物持ちに目を向け・・・・・すぐに違和感を覚えた。

 

 

(・・・・なんだこれ?)

 

 

表示される数値はごく普通の反応。心拍数も体温も、呼吸も一定だ。これだけならベテランだなぁと思えたかもしれないが、観察すること数十秒でその違和感に気がつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表示される呼吸のペースト、実際の胸の上下が一致していなかった。

 

そこからは一瞬の出来事だ。荷物持ちがVIPの方に一歩踏み出すと同時に片手が腰のベルトに触れる。と同時にベルトの影から細身のナイフを取り出して突き出す。誰も反応できない中、先の違和感を感じ取っていたアマゾネスが体を割り込ませる。

そして、その体に真っ直ぐナイフが突き立てられ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カキンッ

「なっ!?」

 

「はい残念でし・・・・・た!」

 

 

ることなく、まるで鉄にでもぶつかったかのようにはじき返される。驚く荷物持ち、もとい襲撃者の腕と胸ぐらを掴むと、背負い投げの要領で叩きつけた。

 

 

「要人を避難させろ!」

 

「陣形をくめ! 新入り、そのまま押さえてろ!」

 

 

その後、この女性から得た情報で潜伏する襲撃者達は芋づる式に捉えられることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていうのが私の初仕事だったのさ」

 

「まったく・・・・いくら人形で、あなたが頑丈だからといって刺されるなんて話を聞きたくありませんよ」

 

「おや、心配してくれるのか代理人?」

 

「当たり前です。 まぁ、ちゃんと帰ってきたのでよしとしましょう。 今日はサービスしますよ」

 

「へへっ、ありがとよ」

 

 

end

 

 

 

番外32-3:45姉! 新しいボディだよ!

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・ぷっ・・くく・・・」

 

「に、似合ってるよ・・・45姉・・・・ぷっ」

 

 

研究所らしい白い部屋の中、押し殺し切れていない笑い声と感情の全てを失った無言が包み込む。

 

 

新型スキン『鉄血工造』が各司令部に配属されて数日後のこと。

暇を持て余した特殊部隊こと404小隊の隊長、UMP45は突然17labへと呼ばれた。正直行きたくなかったし、行ったところでロクな事にならないだろうと思い一度断ったのだが、「協力してくれればこの『兄弟姉妹限定 高級ホテルペアチケット』をプレゼントしよう(9とイチャイチャできるよ)」という甘い言葉にまんまと乗せられてしまったのだ。

 

そして当日、新しいスキンの試験だということで装置に乗せられる。そして目が覚めると・・・・・・笑いを堪え切れていない仲間たち、装置の上に横たわる首のない自分(UMP45)、そして妙にゴツい感触のボディ。

 

 

「何・・・・これ・・・・・・?」

 

「鉄血工造全面協力のもとで製作された鉄血スキン、その中でも最大レア度に設定している『Aigisスキン』です!」

 

「45姉が・・・・45姉がAigisの格好してる〜〜〜!!!」

 

「あははは! も、もうダメ! 我慢できないwwwww」

 

 

ゲラゲラと笑い転げる9とG11、その隣で必死に笑いを堪える416とゲパード、そして45大好きな40は・・・・・・

 

 

「45! すっごく可愛いよ! マスコットみたいだよ!!!」

 

「マス・・・コット・・・・・」

 

「それにほら、これなら胸の大きさなんてわからないよ!」

 

「 」

 

「「wwwwwwwwwwwww」」

 

「ふ、二人とも・・・いい加減、笑うのやめないと・・・・プフッ」

 

 

ちなみに見た目だが、ボディはもちろんAigisのもの。ただしそのカラーリングは45の制服に似せている。そして頭だけ45のままで、Aigisの頭部バイザーがちょこんと乗っかっているような感じだ。

アーキテクトの着ぐるみとどっちがマシかと言われれば、いい勝負だとしか言えないだろう。

 

 

「ちなみに、これはもちろん『スキン』ですのでUMP45さんのSMGとしての性能は損なわれません。 今まで通り動けるはずです」

 

「何が『今まで通り動けるはずです』よ! こんなの私じゃなくてG11あたりに着せればいいでしょ!? っていうか他にもスキンがあるのになんで私のコレなのよ!!!」

 

「それが、世界の意思(読者の反応)だからです」

 

「ざっけんじゃないわよ!!!」

 

 

Aigisの格好のまま地団駄を踏む45。もう9とG11の笑いは止まりそうになく、416とゲパードも直視しないように下を向いている。40だけが笑いもせずに抱きついて来るが、先の一言で45の心をえぐったのはコイツだ。

 

 

「まぁまぁ45さん、これで元気を出してください」っチケット

 

 

「・・・・・・・チッ。 今回だけよ」

 

「ありがとうございます・・・・・あ、そのスキンはそのまま差し上げます。 元のボディは16labに送って検査した後に送り届けますので、ご安心ください」

 

「このまま帰れっていうの!?」

 

 

そんな45の叫びも虚しく、スキンそのままに帰路に着く45たち。

なお、ペアチケットは9が(変な気を利かせて)40に渡したため、45の目論見は見事に外れる事になったのだった。

 

 

end

 

 

 

番外32-4:ノインの旅路Christmas!

 

 

クリスマスムードが日に日に強まる。それはこの時期、世界中どこでもそんな感じだ。強いていうならば一番フライングしてるのが日本なのだが、それも12月に入ってしまえば誰も気にしない。

そんなとある日、豪華なホテルの一室ではささやかなパーティーが行われていた。

 

 

「では、今日のショーの成功を祝って・・・・・」

 

「「「かんぱーい!!!」」」

 

 

グラスを鳴らし、ちょっといいお酒を・・・・・と行きたいが、一応未成年がいるのでノンアルコールを飲む。

 

 

「改めて、今日はありがとうございましたノインさん」

 

「ううん、こっちこそ。 こんないいホテルに泊まれるなんて思ってもみなかったから!」

 

 

ことの発端は今朝のこと。たまたま訪れた街でスケアクロウのショーを知り、挨拶ついでに観に行こうとしたノイン。しかし行ってみると何やらトラブルがあり、話を聞くとショーに出るはずだったダイナゲートが一匹不調になったらしい。内容の変更も検討していたところをノインがダイナゲートを貸すと言い、その結果ショーは成功を収めたのだった。

 

 

「ですが、今日一番の功績者はあなたですね」

 

「ふふっ、お褒めに預かり光栄だレディ」

 

「・・・・・その格好でその声はやっぱり慣れないよな」

 

「でもサンタさんの格好なだけマシだよね」

 

 

床・・・・・ではなく何故かベッドの上で偉そうに踏ん反り返っているのは、サンタっぽい帽子や顎髭をつけられたダイナゲート(CV.ジョージ・ナカタ)である。その周りでスケアクロウのショー仲間のダイナゲートたちがひれ伏すようにしているところを見ると、偉そうなのではなく実際偉いのかもしれない。

 

 

「もう、私たちはこの二人に泊めてもらってる立場なんだよ?」

 

「だが助けを求められ、それに応じた。 労働に対する対価を貰っているにすぎんよ」

 

「構いませんよノインさん、彼の言う通りですから」

 

「太々しいのも事実だけどな」

 

 

クスクスと笑うスケアクロウに対し、彼女の専属ボディガードであるレイはやや鬱陶しそうな感じだ。

 

 

(苦労してるんだな、あんたも)

 

(いてくれて助かるんですけども・・・・・はぁ)

 

「ん? 浮かない顔だな我が主、何かプレゼントでもやろうか?」

 

「いつも思うけど、主って呼ぶけど偉そうだよね」

 

「ククッ、なら甲斐甲斐しく世話をしようか?」

 

「なんか怖いからパス」

 

「ふふふ、仲がいいんですね」

 

 

ちょっと騒がしい打ち上げは、まだ始まったばかりだ。

 

 

end




難産、あとなんかモチベーションがぶれまくったせいで間が空いちゃいました。そろそろエアコンの出番かな・・・・

はい、そんなわけで早速各話の紹介!

番外32-1
百二十六話では書き切れなかった二人を分けて書いた、そのネイキッドの方。ちなみに起爆榴弾からの雪崩コンボは実際に私が食らったやつ。

番外32-2
アマゾネスの方。これ刺されたら人工血液とか出るよなぁと思いつつ書いてるうちに、文字通り鋼の筋肉にしてしまえばいいんじゃね?と天啓が舞い降りたのでこうなった。
参考は、MGRのアームストロング上院議員。

番外32-3
読者の反応が一番良かったので。ちなみにスキンで性能が変わらないのは同じで、見た目に反して装甲はペラい。
どこぞのヒンヌー教装甲人形の理想の姿かもしれない。

番外32-4
クリスマスイベントでダイナゲートが大活躍だったので。
もしもあのイベントのダイナゲートがこいつだったらと考えると、笑いが止まらなくなった。



いよいよ今年も終わりに近づいてきましたね。そういうわけでクリスマスや年越しの話も募集します(書けるかどうかはわからん)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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CO-5:潜友

リクエストから。

潜友と書いてトモと読む!
そんなメンツと敵施設内でステルス要素皆無なくらいドンパチしたのはいい思い出。


S09地区司令部。

普段の主な任務が街の警備と周辺のパトロールという平和な場所ではあるのだが、世の中の軍隊がそうであるようにグリフィンもまたちゃんとした警備態勢を敷いていた。

だが、誰が気づくことができるだろうか・・・・・施設内の、倉庫に突然侵入者が現れるなどと。

 

 

「う・・・うぅん・・・・・ここは一体・・・?」

 

 

倉庫の隅、ちょうど監視カメラからも死角になった場所で彼女はのそりと()()()()()

 

 

「・・・・・・・ん? んんん????」

 

 

ごく自然に行った起き上がるという行動に疑問と驚きを覚える。それは戦術人形としてはあり得ない感情だが、そうでないのならば当然の反応といえた。そして混乱を極め、パニックになるのが普通なのだが、この人形は元になった銃の持ち主からして普通ではなかった。

まず身を低くするとともに状況の確認、そして装備のチェックを行う。身に纏ったスニーキングスーツに破損はなく、装備されているナイフにも問題は無い。最後にホルスターに収められた自分自身とも言える銃・・・M1911もチェックし、改めて周囲を確認する。

 

 

(どこかの施設の倉庫、いや物置か?・・・・監視カメラが一箇所、出入り口があそこか・・・・・・)

 

 

監視カメラはゆっくりと首を振るようにして倉庫全体を映している。ちょうど積み上げられた箱の影に隠れている彼女の姿は見えないが、一つしかない出口へ向かうにはタイミングが重要になる。

・・・・・とそこへ。

 

 

「はぁ〜・・・・売れ残りがこんなに。 もう年末特価として売ってしまいましょうか」

 

 

ドアが開き、明るい髪色の女性がタブレット片手に現れる。随分とラフな格好に見えるが、この倉庫に堂々と入ってくることや身に付けたインカムなどから、この施設の人間であることがわかる。

 

 

「あれとこれとそれと・・・・・非常用装備は・・・・・あ、あと非常食も・・・・・」

 

(装備・・・・するとここはどこかの軍の施設か?)

 

 

直接確認することができないため女性の独り言から推測するしか無いが、概ね間違いでは無いであろうことは確信できた。

だが悠長に過ごしている時間はない。倉庫のチェックを始めた女性は徐々に奥へと、彼女のいる場所へと近づいてきた。

 

 

(カメラの向き・・・・よし、ならここで仕掛ける)

 

 

 

 

 

 

 

コンコンっ

「ん? なんでしょうか?」

 

 

女性・・・カリーナは作業の手を止め、物音のした方へと向かう。そっと覗き込むように見るがそこには何もなく、気のせいだと思い作業に戻る。

その後ろを、音もなく通り過ぎた者がいるとも気が付かず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

(むむっ・・・・これは困ったぞ・・・・・)

 

 

なんとか倉庫を抜け出た少女・・・・・戦術人形M1911によく似た彼女は、通路の壁に身を隠しながら先を伺う。どうやらどこかの軍、もしくは武装組織の施設であることは間違いないようだが、何故か目にする兵士全てが女性なのだ。別に女性兵自体は珍しいとはいえないがここまで女しかいないというのは聞いたこともない。それに、

 

 

(そのほとんどが若い女性、中には子供と呼べるくらいの歳の子までいるとは・・・・・)

 

 

そう、これが地味に厄介な点だった。子供というのは大人が思う以上に感が鋭く、しかも直感的で容赦がない。それに敵兵であれば殺すことも厭わないが、少年兵だけはダメだ。

 

 

(巡回ルートは分かったが・・・・駆け回る子供には気をつけないと)

 

 

彼女は慎重に進み、途中何度かひやっとする場面こそあったがなんとか別の倉庫まで来て身を隠すことができた。

フゥッと一息つく彼女だが、これから進むルートをどう乗り切るか頭を悩ませる。出口と思しき場所に近づくにつれて兵の数も増え、脱出をより困難なものにしているからだ。

 

 

(というか、ここは本当になんの施設なんだ? 兵士は女ばかり、しかも皆別々の武器を持っている・・・・・あんな小さい子がライフルを軽々と担いでいるのも謎だ・・・・・まさかサイファーか!?)

 

 

そんなことを考えつつ、最悪の場合強行突破しかないなと案を巡らせる。そうして部屋の中を見渡し・・・・・隅の方に置いてあるものに目を止める。

 

 

「おっ、おぉ! これは・・・・・・!」

 

 

彼女は迷うことなくソレを手に取り、先ほどまでとは別人のように自信に満ちた顔で部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふ、ぐふふふふ・・・・・明日の秘書官は私、わ・た・し♪」

 

「姉さん、せめて部屋に戻ってからにしませんか? ハンドガンの子たちが怖がってますよ?」

 

「うふっ! んふふふふ・・・・・♪」

 

「はぁ、こんなのだから『頭が春田さん』とか影で言われ・・・・ん? ねぇ姉さん」

 

「じゅるっ・・・・はっ! 何かしらガーランド?」

 

「(じゅるって・・・)あの、あそこのダンボール・・・・・」

 

「? それがなにか?」

 

「ちょっと揺れてませんか?」

 

「ダンボールが動くはずありませんよ、一度メンテを受けられては?」

 

「姉さんには言われたくありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・え?(ダンボールから脚が生えてる)」

 

「見つけたよ45!」

 

「45お姉ちゃん!」

 

「ねぇ二人とも、あのダンボール怪しくn「「確保ぉおおお!!!」」ぎゃああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「門の警備ほど暇なのって無い思うんですよカラビーナ」

 

「でも必要なことですよKar」

 

「ですが・・・・・っ! 足音がしましたわ!」

 

「あ、ちょっとKar!・・・・・まったくもう。 で、誰かいましたの?」

 

「あわわわわ・・・・・」っエロ本

 

「Kar・・・・・・」

 

「ち、違いますの!? これはそこに落ちていたから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、無事脱出できた」

 

 

やっぱりダンボールは偉大だ、そうご満悦の表情で路地裏を進む彼女は、しかし市街地に入ったことで油断してしまっていた。というかもうダンボールを脱げばいいのにそのままで来たことが失敗だった。

意気揚々と進んでいき、角からばったり出てきたメイドっぽい人物とぶつかってしまう。

 

 

「うわっ!」

 

「きゃっ!」

 

 

驚くメイド服・・・・D。そして一瞬でダンボールが脱げ、怪しさ満点の状態で固まる彼女。

潜入がバレた、というかもう潜入でもなんでもないのだが、焦った彼女は条件反射的に動いてしまい・・・・・

 

 

「ふんっ!」

 

「へ? ふげっ!?」

 

 

勢い余って全力CQCを決めてしまう。叩きつけられたDはそれだけで伸びてしまい、ここまできてようやく落ち着きを取り戻した彼女は途方に暮れる。

とそこへ・・・・・・

 

 

「・・・・・あの、少しよろしいですか?」

 

「っ!?」

 

 

足元で気絶(STN)しているのと同じ姿の人物、代理人が現れる。とっさに構える少女に、代理人はちょっと戸惑いつつ、とりあえず敵意がないことを示す。

 

 

「見ての通り、こちらは丸腰です。 あなたをどうこうしようとは思っていませんのでご安心ください」

 

「・・・・・・わかった」

 

「では場所を変えて話しましょう。 それと、すみませんが彼女を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

 

 

その後、二人がかりでDを担いで喫茶 鉄血へと足を運ぶ。とりあえず落ち着いたところで代理人が話を聞きこの世界のことを話すのだがそこは割愛する。

 

 

「なるほど・・・・・では私がこうなったのも」

 

「おそらく、こちらに流れてきた影響かと・・・・それで、今後はどうするおつもりですか?」

 

「うぅん・・・・まだ未定だが、もし可能ならばそのグリフィンに雇ってもらおうと思う」

 

 

彼女自身、常に戦場に身を置いていた影響かどうにも平和に馴染めないらしく、やはりというか軍事会社を志願するようだ。きっと彼女の主であったという人もそうするのだろう。

深く聞かずとも、そんな人形たちを見てきた代理人はよく理解していた。

 

 

「わかりました、では私からもお願いしておきます。 ところで、お名前はどうするおつもりですか?」

 

「ん? あぁ、そういえばそうだった・・・・・・ジョン・ドゥとかか?」

 

「それ、身元不明の遺体のことですよね?」

 

 

一発で偽名と分かるようなのはなしで、と言われ今度こそ真剣に悩む。流石に一銃が主の称号を名乗るわけにもいかず、コードネームをもじってみようかと思えばどうやらその名前は使われているらしい。悩みに悩んだ結果、やはり主の名をもらうことにした。

 

 

「スネーク・マッチ・・・・・スネーク・マッチ1911、それが私の名前だ」

 

「ふふっ、良い名前です。 ではこれからもよろしくお願いしますね、スネーク・マッチさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それと葉巻はあるか?」

 

「葉巻、ですか? ほとんど見かけませんが・・・・・電子タバコなら少しありますが」

 

「(´・ω・`)」

 

 

end




はい、というわけで今回はMGSシリーズより、Big Bossことネイキッド・スネークの愛銃であるM1911ちゃんでした!デカパイムチムチスニーキングスーツ
スネーク・イーター作戦やピースウォーカー事件などを戦い抜いた名銃にして伝説の傭兵の相棒!
ちなみに作者はPWはやりましたが3は動画(儀式の人)でしか知りません。

では早速キャラ紹介

スネーク・マッチ1911
名前は、原作の銃をモデルにしたエアガンから。
性能的にはそこまで大層なものではないが、圧倒的ステルス能力と潜入能力を誇る。
見た目はM1911にスニーキングスーツを着せ、眼帯とバンダナを着せた感じ。つまり、弾数無限。ザ・ボスみたくスーツの上を少し開けている。主人に似て少しぶっきらぼうな喋り方だが、根は優しい。
吸血鬼が苦手で、サンタクロースを信じている。

カリーナ
無能兵1。
ゲーム風にいえば戦闘力皆無で見つかった瞬間全エリアを強制戦闘状態にする。

春田さん&ガーランド
無能兵2、3。
春田さんは戦闘力こそ高いが、視野が驚くほど狭い。

UMP45&40&F45
無能兵4、5、6。
45はそこまで無能でもないが、それが発揮されることはあんまりない。

Kar&カラビーナ
ポンコツ兵とちょっと有能兵。
伝統のエロ本に引っかかるが、クレイモアがないだけマシ。

D
一般人。
彼女にしてみれば、訳も分からずに叩きつけられただけ。

代理人
もし彼女が先に出ていれば、地面で伸びていたのは彼女だった。



もうすぐクリスマス、皆さんは何をお願いしますか?
私はお金と時間と発想力と文章力をお願いします。


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第百三十話:自給自足

どんな高カロリー食でも潰せば0カロリーというあの理論が大好きです。


カランカラン

「「「こんにちはー!」」」

 

「いらっしゃい・・・・・・ませ」

 

 

元気の良い挨拶とともにやってきた客を見て、代理人は一瞬固まった。にこやかな笑みを浮かべてやってきたのは銃種もバラバラな、それでいて共通の特徴を持つ三人の戦術人形・・・・・腹ペコ人形FF FNC・アストラ・SPAS-12だった。

言うまでもなく彼女たちはよく食べる。肉も魚も甘味も、それはもう清々しい勢いで食べていくことで有名であり、給料の多くもそれに消えているという。一人一人ならまぁたくさん食べるなぁで済むが、これがまとめて来られると話は変わる。注文分の料金は払ってもらえるので問題ないが、数日分の在庫がなくなるのは覚悟せねばならないからだ。

 

 

「今日はなんとも・・・珍しいですね、三人で来られるなんて」

 

「はい! 代理人さんにお願いがあって来ました」

 

 

来るまでに何か買って食べ歩いて来たのか、口をモグモグさせながら喋るFNC。

 

 

「実は私たち、気づいたんです!」

 

 

と意気込みつつもショーケースをガン見しよだれを垂らすアストラ。

 

 

「お店で食べすぎるとご迷惑がかかる、なら自分たちで作ってしまえば問題ないと!」グゥ〜〜〜

 

 

言いながらお腹を鳴らすSPAS。

 

 

「「「というわけで! ケーキの作り方を教えてください!!!」」」

 

「は、はぁ・・・・・なるほ、ど?」

 

 

とりあえず入り口で突っ立っているのもなんなので、店の奥へと案内する。さもないと、気が変わった彼女らがショーケースのケーキを食べ尽くしてしまうかもしれないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、皆さんが作りたいのはケーキということでよろしいですか?」

 

「「「・・・・・・・・・ジュルッ」」」

 

「み・な・さ・ん?」

 

「「「だ、大丈夫です!!!」」」

 

 

店の厨房へとやってきた代理人と食いしん坊三人組。さて早速臨時お料理教室(ケーキ編)を始めようかという矢先、厨房に保存してあるケーキに釘付けになる。すでに表に並んでいるものから、これから並ぶであろう新作、ホールやロールケーキなどなど・・・・・そんなのが並んでいれば目移りするのも無理はない。

このまま放っておけば目を離した隙に片っ端から食われてしまうかもしれないので、早速始めることにした。

 

 

「では始めたいと思いますが、皆さんはどんなケーキを作りたいんですか?」

 

「フルーツ盛り盛り!」

 

「濃厚なチョコ!」

 

「シンプルなロールケーキ!」

 

「お願いですから方向性くらいは合わせてください」

 

 

それぞれの好み全開な三人に頭を抱える代理人。とはいえせっかく頼ってくれたのに無下にするわけにもいかず、とりあえず簡単な基礎を中心に教えることにした。

少なくともこの三人なら、ムチャな素人アレンジはしないだろうからだ。

 

 

「それでは、まずホールのケーキを作っていきましょう。 基本的にはこれの応用と派生ですからね」

 

「「「はぁ〜い!」」」

 

 

こうして代理人と腹ペコ三人娘によるケーキ教室が幕を開けたのだが、いざ始まってみると三人とも結構まともに料理できるようだった。少なくとも代理人がつきっきりで見ていないといけないような場面はほとんどなく、()()()()()終始順調に進んでいった。

 

問題はそれとは全く別のこと。この三人にとってある意味苦行ともいえる環境だからこそのことだった。

 

 

「Oちゃん、新しいケーキ出していい?」

 

「えっ!? ケーキ!?」

 

「集中してください」

 

「代理人、パフェに使う苺はこれでよかったか?」

 

「わぁ! 美味しそ〜!!!」

 

「よそ見しない!」

 

「アップルパイ焼けたよ〜」

 

「全部くださーい!!!」ガタッ

 

「座ってなさい!!!」

 

 

厨房にあるのは何も試作ケーキとかだけではない。冷蔵庫から出てくる食材やオーブンで焼かれたデザートが横切るたびに作業の手が止まり、目を見開いて匂いに釣られていこうとする。代理人もなんとか留めているが、もし三人が本気でそっちに向かえば止められる自信はない。

 

 

「皆さん、終わったら食べられますから頑張ってください」

 

「そ、そうよね!」チラッ

 

「うぅ〜・・・焼き立て〜・・・」チラッ

 

「ひ、一口くらい・・・・」チラッ

 

「 」(無言で銃を構える音)

 

「「「ごめんなさい!」」」

 

 

そんなこんなで予定の時間を大幅に超えながらもなんとか一通り教えることができた代理人。あとはレシピ本なんかを見ながら作ればできるはずなので、一応はこれで終わりにしておいた。

完成したケーキをご満悦で眺める三人の横で、代理人はグッタリと机に突っ伏している。

 

 

「代理人ありがとう!」

 

「これで今年のクリスマスケーキには困らないわ!」

 

「夢のケーキバイキング(一名様)ができます!」

 

「よ、喜んでもらえて何よりです・・・・・」

 

 

そう言って三人のケーキをそれぞれ箱に詰め、保冷剤を入れて手渡す。渡された三人は厨房を出て出口へと向か・・・・・わずにそのまま空いている席に座った。

 

 

「いやぁガンバったらお腹すいちゃった!」

 

「焼き立て♪ 焼き立て♪」

 

「とりあえず全種類ください!」

 

 

あれだけ甘ったるい空間にいたのにまだ食べられるのか。

もはや尊敬の域にまでいきそうな三人にそう思いながら、代理人は注文の品と、食べ過ぎ厳禁のカードを取りに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後。

喫茶 鉄血宛に何やら厳重に梱包されたものが届く。『揺らすな』とか『傾けるな』とか『要冷蔵』とかやたらと書かれており、これを運んできた宅配の苦労が窺える。

 

 

「差出人は・・・あら、この前の三人ですね」

 

「あぁ・・・在庫がガッツリ減ったあの三人か」

 

「ね、開けてみたら?」

 

「それもそうですね・・・・・・・あら、これは」

 

 

箱に入っていたのはちょっと小ぶりのケーキが一つ。そのケーキに乗っかっていた板チョコには、『いつもありがとう!』というメッセージが書かれていたのだった。

 

 

end




百貨店やケーキ屋に並ぶケーキを見て思いついた話。この三人を足してもきっと幽々子とかペコリーヌには及ばないんだと思う。

というわけで今回のキャラ紹介!

FF FNC
腹ペコもぐもぐ娘。立ち絵からして伝わる腹ペコキャラで甘党。ハロウィンで書けなかった分ここで食べてもらおう。

アストラ
腹ペコ2号。ご飯十杯はきっと丼なんだと思う。食べた分は腹や二の腕ではなく胸に行く。

SPAS-12
腹ペコV3。ショットガン実装前からロード画面に出てきてた。こんなのが編成拡大でこられたら在庫がなくなってしまう。

代理人
S09地区の頼れるお姉さん。なんだかんだ人形たちの胃袋を掴んでいる。日頃の業務の傍らで新作を作り、時々試供品として出している。

食べ過ぎ厳禁カード
一部の人形用に作ったもので、これをテーブルに置いておくとある一定ラインを超えての注文ができなくなる。何気にGPSやらセンサーやらが盛り込まれており、隠してもバレてしまう。


投稿ペース不安定・・・・なのはいつものことなのでご容赦ください。今年はできればあと四話くらいは上げたいところですね。


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第百三十一話:メンテと家族と恋愛脳

最近ドルフロのログイン画面で

G11「このモフモフ、さすがトナカイだよね〜」
RFB「だよね〜」
嬉野D「トナカイなら僕の地元にもいますよ」
G11・RFB「それシカじゃん」
嬉野D「シカでした」

という掛け合いの夢を見ました


「処刑人のメンテナンス、ですか?」

 

「はい。 それと、執行人の方もお願いしたいんですが」

 

 

鉄血工造ラボ、メンテナンスが終わり帰ろうとした代理人にユウトがそう声をかけた。

鉄血工造を抜けたと言ってもボディは鉄血製であるため、定期的なメンテナンスは必要だ。特にハイエンドは高性能機器の集合体と言えるほどなので、疎かにすればどこでボロが出るかわからない。そんなわけでハイエンドたちはそれぞれの予定とすり合わせながら、空いている時間にメンテナンスを受けにきているのだった。

だが、ハイエンドたちの中でも一際予定を立てづらい処刑人はここ最近メンテナンスに来れていなかった。戦争や紛争がなくとも傭兵の需要は無くならず、民族部族間での緊張が高まっているため駆り出されているらしい。

 

 

「なんとか代理人姉さんの方から言ってくれませんか?」

 

「それは構いませんが、おそらくそれでも難しいかと」

 

「でも、これじゃあいつになるかわからないんです」

 

 

処刑人が離れられないのはユウトも解っている。が、それでもいつ不調が現れるかわからない不安が大きかった。それに処刑人の仕事が仕事であるため、銃弾飛び交う戦場でそんなことになれば最悪の事態になりかねない。

なんとかしないと。そう思ったユウトは、思い切った行動に出る。

 

 

「じゃあ場所を教えてください、僕が行きます!」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、とある国の小さな町にて。

 

 

「あの、もうここまで来れば大丈夫ですよ?」

 

「何を言っているんですかユウトさん、私たちはあなたの護衛を任されているんですよ?」

 

「途中で放っていくわけないだろ」

 

 

機材を背負ったユウトの隣でそう言ったのは、代理人から護衛を任されたM16とROだった。

ユウトが自ら出向いてメンテナンスを行うと言い出した時、代理人は必死で止めた。話を聞きつけたサクヤも一緒になって止めたが曲げることはなく、結局二人が折れてしまったのだ。それでも心配な代理人たちは頼れる護衛をつけようと考え、エリート人形たちの親であるペルシカに連絡を取った。

その結果、ちょうど手の空いていたAR小隊・・・・ではなくそのうちの二人のM16とROを寄越してきたのだ。理由を聞けば一人に対し護衛が多いとかえって危険だということ、M4たちも別件があり、404も出払っているとのこと。

 

 

『まぁ二人だけでも十分だと思うよ。 それより二人のうちのどっちが結ばれるか賭けn』

 

 

電話を切る直前にこんなことを言っていたと思う。ともかくそんな理由で連れてこられた二人だが、こんなのでもエリート部隊の一員であるため任務はしっかりこなす。

 

 

「じゃ、早速探すか」

 

「聞いた限りでは、あの病院にいるんだとか」

 

「・・・・・あれ、病院ですか?」

 

 

処刑人と執行人がいると聞いていたのは町唯一の病院。元はちゃんとした病院だったのだが街の不穏な空気に飲まれるように寂れ、修繕も行われていないらしく所々コンクリが削れている。

病院・・・・というよりも廃病院といった方が相応しいくらいの様相だった。

 

 

「ん? 止まれ!」

 

「怪しいもんじゃない、グリフィンのM16A1だ。 処刑人に話を通してあるんだが、いるか?」

 

「あいつにか? わかった、確認しよう」

 

「あぁ、『メンテの時間だ』と伝えてくれ」

 

 

入り口を守る強面の傭兵にも物怖じせず、要件をしっかり伝えるM16。こういうところでも今回の人選は間違いではなかったのだろうと思う。

そして待つこと数十秒、扉の奥から現れたのはいつもの格好に迷彩柄の上着を羽織った処刑人と、彼女によく似た姉妹機の執行人だった。

 

 

「よぉユウト、わざわざすまねぇな」

 

「いえ、処刑人姉さんこそ元気そうでよかったです」

 

「ははっ! そりゃ元気が私の取り柄だからな。 お前たちも遠くからご苦労だったな、とりあえず入りな」

 

 

処刑人と執行人に連れられて、中に入るユウトたち。三階建ての病院だが一階部分は器具も全て撤去され、侵入者を撃退する防衛ラインとなっていた。物々しい武器と武装した傭兵の間を通り抜け、階段を上がるとそこは外観からは想像できないほど綺麗なフロアだった。医療器具も見る限りでは全て稼働していて、病院としての体裁はしっかりしている。

 

 

「ここの警護を任された時に、全員で掃除したんだよ。 もともとここに残ってるやつは動こうにも動けない連中ばっかりだからさ、汚れてりゃ心も荒むだろう」

 

「なるほど・・・・・」

 

「じゃあ動けるやつらはどこに行ったんだ?」

 

「町の北側にある役所さ。 そこに住民を集めて市兵が守りを固めてる。 病院の守りもやるとなると手が足りねぇから、私ら傭兵が呼ばれたってわけさ」

 

 

処刑人たちにとってはいつものことなのだが、傭兵のイメージが変わった三人だった。

それはそれとして、こういう状況なので早速メンテナンスを始めたいとユウトは言い、場所を探す。今回行うのは簡単なチェックが主であり、小さな部屋でもあればそれで十分だ。流石に病室の隣でそんな機械を動かすわけにはいかないので、そこから離れた部屋が望ましい。

 

 

「う〜ん、ならあいつの部屋か?」

 

「「「あいつ?」」」

 

 

ユウトたちが首を傾げると、処刑人は三階の奥の部屋へと案内する。三階にも病室はあるが主にスタッフらの使う部屋がほとんどで、そのうちの空き部屋をあてがわれているのが・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、一回だけでいいから『おじさま』って呼んでくれないか?」

 

「・・・・・・・」フルフル

 

「ダメかぁ〜」

 

「何してやがるさっさと離れろロリコン」

 

「ろ、ロリコンじゃねーし!」

 

「「「うわぁ・・・・・」」」

 

 

部屋にいたのは処刑人が引き取った少女と、休憩中だと思しき処刑人の同僚がいた。ほとんど無表情、若干鬱陶しそうな顔の少女に対しこの男の顔のなんとだらけきったことか・・・・・必死の弁解が痛々しい。

 

 

「大丈夫だったか? この変態に何かされてないか?」

 

「おい、誰が変態だ」

 

「鏡見てからもっぺん言ってみやがれペド野郎」

 

 

ちなみに処刑人が仕事に出かける際は必ずついてくるらしく、そのたびにこの同僚と揉めているのだとか。そのため処刑人は、この少女が喋れないのは実はこの男のせいなんじゃないかと疑い始めていたりする。

 

 

「まぁいい。 で、この部屋でも大丈夫か?」

 

「えぇ、問題ありません」

 

「どんくらいかかる?」

 

「大体・・・・・三十分ほどかと」

 

 

それを聞いて悩み出す処刑人。たかが三十分だがされど三十分だ、その間に襲撃でもあればたまったものではない。だがユウトの懸念通りのことになればそれこそ一大事だ。

 

 

「・・・・・それ、こいつら二人同時でもいけるのか?」

 

「え? はい、同時に始めても三十分ほどで終わりますよ」

 

「そうか・・・・・じゃあお前らはメンテ受けてな。 その間は私らが手伝ってやるさ」

 

「えぇ、ですので安心してメンテナンスを受けてください」

 

 

M16とROはそう言うと、自身の銃を持ち上げてニヤッと笑う。処刑人と執行人はポカンとしたが、やがて諦めたように笑うと武器を置き始めた。

ユウトもそれを見届けると、急いで機材の準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間後。

結局襲撃どころか不審者一人現れず、それどころかメンテが終わってみれば事態が収拾したと告げるラジオが聞こえてきた。なんでも正規軍が介入したらしく、しばらくは平穏が戻ってくるとのこと。

処刑人も執行人にも異常は見られず、目を覚ました処刑人に少女が抱きつく。

 

 

「ふふっ、本当に親娘みたいですね」

 

「そうだな・・・・・ちょっと羨ましいよ」

 

 

微笑ましげに見ながらそう呟き、二人同時にその隣で機材を片付けるユウトに視線を向け、二人同時にちょっと赤くなって顔を逸らす。

 

 

「あ、そうだ三人とも。 今日は泊まってけよ」

 

「え? それは悪いですよ」

 

「メンテの礼だ。 それに今から移動つったらもう日が変わるぞ?」

 

 

基本いい子ちゃんなユウトはそれでもなお渋る。が、ここまでは()()()の想定通り、なのでまず外堀から埋めることにした。

 

 

「それにほら、私らは三人で寝るから部屋も空いてるし・・・・・護衛なら寝室も護衛しないとな?」

 

「そ、そうだな! そう言うわけだからユウト、今日は好意に甘えよう!」

 

「そうですよユウトさん! それに今から戻っても宿が取れるかどうかわかりませんし!」

 

「え? え??」

 

「「じゃあ止まります!!!」」

 

「はいよ、じゃあベッドも用意しとくぜ」

 

 

なんのことかさっぱりわからないユウトを置いてけぼりに話が進む。これで今晩の酒の肴は決まりだと呟く処刑人の声は、ユウトたち三人に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・はいもしもし、16labよ』

 

『よぉペルシカ、依頼通り空き部屋に入れといたぜ』

 

『ナイスだよ処刑人・・・・・で、カメラは?』

 

『抜かりない』

 

『でかした、報酬は指定の口座に振り込んでおくよ』

 

『はいよ・・・・・で、あんたはどっちに賭ける? 私は両方ヘタれると思うよ』

 

『部屋に酒も置いてるんでしょ? 勢いでって方に賭けるわ』

 

『ククッ、あんたも大概だな』

 

『それほどでも』

 

『『ふふふふふふ・・・・・・・・』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後きっちりM4に怒られた。

 

 

end




自分の娘の恋愛事情で賭ける親がいるらしい。
さぁ、答えはどっちでしょうk(銃声)

M4「それでは、キャラ紹介です」ニッコリ


ユウト
鉄血工造の技術者。人形を、特にハイエンドたちを家族同然に考えており、そのためなら戦地にも赴く。
唐変木でも枯れているわけでもないので、きっとドキドキの一夜を過ごしたことだろう。
ちなみに宿が取れなかった時は車中泊・・・・・あれ?そっちの方が良かったかも

処刑人
多分一番予定が合いづらいハイエンド。一児のママにして凄腕の傭兵。
こう言った悪ふざけには割と乗っかるタイプ。

執行人
アホの子。処刑人とM16とROの会話の意味を理解していないウブッ娘。きっと心は純粋なんだろう。

M16
前回は泥酔して気がついたらホテルだったが、今回は自らの意思で一夜を共にする。
結果?それは当人のみぞ知ることよ・・・

RO
ここぞではM16よりも行動力がありそう。低身長の割に出るとこは出てるので、その分は有利かも。
壁ドンされたらきっとショートする。

代理人
ペルシカに頼んだのがそもそもの間違いだと気付くのは、ユウトたちが出発してから数時間後だった。

ペルシカ
幸せを勝ち取った勝者の余裕。


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第百三十二話:メリークリスマス!

靴下は飾ったか?
寝る前のお祈りは?
ベッドの上でワクワクしながらサンタさんを待つ心の準備はOK?

では、メリークリスマス!
*24日に投稿できそうにないのでフライング投稿です。


12月24日、ここ一ヶ月ほどで大いに盛り上がりを見せてきたイベントがついにピークを迎える。クリスマス・イヴである。

町の至る所にイルミネーションや出店が並び、夕方以降は仕事や学校終わりの人波がドッと押し寄せる。賑わいを見せる中でも特に繁盛しているのが、クリスマスケーキを扱う店たちだった。

 

 

「お待たせしました、こちらがご注文頂いていたケーキです」

 

「メリークリスマス! ご予約されていた方ですね? すぐお持ちしますね!」

 

「蝋燭は何本お付けしますか?」

 

「ん? 誕生日も兼ねているのか? ではメッセージカードも付けておこう」

 

 

喫茶店ということで普段からケーキを振る舞っている喫茶 鉄血もまた、クリスマスケーキの列ができた店の一つだ。といっても路地裏という点と事前予約分のみということで長蛇の列と言うほどではないが、それでもかつてないほどの列ができていた。以前に腹ペコ娘たちの料理教室を開いたときにあったケーキの一部は、この時のための試作品だったというわけだ。

 

 

「ありがとうございました! ・・・・・ふぅ、やっと少し落ち着いたね」

 

「えぇ、覚悟はしていましたがここまでとは思っていませんでした」

 

 

軽く息を吐き、少々疲れ気味に笑う代理人。初期からいるイェーガーやリッパー、代理人のダミーであるDはまだ軽く疲れたなくらいで済んでいるが、これほどの列を体験したことのなかったマヌスクリプトとゲッコーはもうヘトヘトだった。

それでも客の手前、笑顔を絶やさないようにはしているがちょっと無理している感は否めない。

 

 

「二人とも、店も落ち着きましたし少し休んでは?」

 

「大丈b・・・・いやすまない、少し休ませてもらおう」

 

「私もちょっと休憩〜・・・・・」

 

 

ちょっとぐったりしながら奥へ消える二人。予定ではあと二時間くらいは予約の人もおらず、また店内の客もあまりいない。二人が抜けても問題ないだろう。

そしてそんなタイミングを見計らっていたかのように、この店の常連が現れはじめる。

 

 

「おやペルシカさん、ラボかどこかでゆっくり過ごされると思っていたのですが?」

 

「いや、なんか準備があるからって追い出されちゃって・・・・」

 

「代理人! ケーキとココア!」

 

「ふふっ、わかりました。 すぐお持ちしますのでかけてお待ちください」

 

 

やってきたペルシカとSOPを案内し、代理人は注文の品を用意しはじめる。今日はなんだか知った顔が来る気がして、少し楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というのがさっきまでのお話。気がつけば店内のほとんどがそんな顔ぶれになっていれば、喜ぶとかよりも別の方に意識が働く。

 

 

「あの、皆さん他に行くところはないんでしょうか?」

 

「いや、折角だからどこかに行こうかと思ったんだが・・・・・」

 

「どこも人が多くて、疲れてしまって・・・・」

 

「結局ここが落ち着くもん。 ね、416!」

 

「そうね、美味しいケーキもあるし」

 

 

店内の多くを占める人形カップルたちの返答にため息をつく代理人。別に来て欲しくないわけでもないしむしろ喜ばしいことなのだが、もっとこう・・・・・クリスマスにふさわしい過ごし方とかがあるんじゃないだろうか?

 

 

「代理人、それは人それぞれよ」

 

「まぁ、私たちはハンターといれればそれで幸せだからね」

 

「くくっ、可愛いことを言うんだなお前たち」

 

 

惚気で返されてしまった。とはいえ彼女らの言い分はもっともだし、そもそも他人の過ごし方に口を出す筋合いもない。本人らが幸せならそれでいいだろう。そんな彼女らだが、カップルで来ていてケーキがあるのだからやるべきことは大体同じだった。

 

 

「いやぁ、ラブコメの波動に満ち溢れてるねぇ!」

 

「休憩は終わりですかマヌスクリプト?」

 

「十分! むしろこの光景だけで無限に働けるよ!」

 

 

ノリとしてはコミケに近いね!と鼻息を荒くしながら持ち場に戻るマヌスクリプト。流石に今日ばかりは何もしないとは思うが、一応警戒はしておいた方が良さそうだ。・・・・・まぁ最悪縛り上げて部屋に閉じ込めておけば問題ない。

とそんな中、新しい客が扉を開けて現れる。そこにいたのは間違いなく来ないと思っていた彼だった。

 

 

「あらユウトさん、珍しいですねお一人でなんて」

 

「こんにちは代理人姉さん、まぁ色々あって」

 

 

そんなユウト曰く、二人で過ごしたいというサクヤとゲーガーたっての希望でラボを追い出されたらしい。アーキテクトも同様なのだが、先に出て行ってしまいどこにいるのかさっぱりわからないという。

で、困ったからとりあえず来たらしい。

 

 

「なるほど・・・・とりあえずお掛けください」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「あ、こっちの席が空いてるから座りなよ!」

 

 

そう言われてユウトはマヌスクリプトに連れられて奥の席に座らされる・・・・・と今度はそこにさらに椅子を二つ追加し、ユウトを挟むように配置した。

突然のことにユウトも代理人も、というかマヌスクリプト以外全員固まる中、止めようとした代理人よりも先にマヌスクリプトが動いた。

 

 

「準備完了! OKだよアーキテクト!」

 

「この瞬間を待っていたよマヌスクリプト!」

 

『うわぁ・・・・・』

 

「・・・・・またあなたたちですか・・・・」

 

 

いつのまに・・・・というかおそらくマヌスクリプトの手引きだろうが、店の奥から元気よく現れたのは行方知れずだったアーキテクト。こめかみを抑えて深くため息を吐く代理人の額には若干青筋が浮かんでいるようにも見えるが、そんなのはお構いなしにアーキテクトは喋りだす。

 

 

「ユウト君! 今日は君にプレゼントがあるのだ!」

 

「嫌な予感がするので拒h「おっと君に拒否権はないよ!」・・・・えぇ」

 

「さぁ準備ができたようだから・・・・二人ともカモン!」

 

 

アーキテクトが指を一回だけパチンと鳴らすと、店の奥に続く通路からプシャーっとCO2ガスがとびだし(アーキテクトが勝手に設置)、それが晴れるとなんとM16とROが現れた。

しかもいつもの格好ではなく腋や足などの露出の多い、所謂ミニスカサンタというやつである。

 

 

「ゆ、ユウト!」

 

「ユウトさん!」

 

「「メリークリスマス!」」

 

( °д°)

 

 

唖然とするユウトに、今更恥ずかしくなってきたのか顔を真っ赤にする二人。だがマヌスクリプトに手招きされて覚悟を決めたのか、二人はユウトの両隣に置かれた椅子に座るとその腕を掴み、

 

 

「ユウト・・・・い、一回しか言わないからな」

 

「き、聞き逃さないでくださいよ」

 

「え? えっ?」

 

「付き合ってくれ!」

「付き合ってください!」

 

 

チュッ

言うと同時に二人は顔を近づけ、ユウトの両頬に口付けした。ギャラリー、特に身内であるAR-15・D-15・ペルシカ・SOPは口を開けたまま固まっている。当然だろう、あんなに乙女なM16も積極的なROも見たことないのだから。

だがその静寂も束の間、ワッと歓声が起こり祝福する。さっきので全てを使い果たしたのか、二人ともこれ以上にないくらい真っ赤になって俯いてしまっているが。

 

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待って下さい! 僕は二人のうち一人を選ぶなんて・・・・」

 

「いや、選ばなくていい」

 

「私たち二人と、です!」

 

「えええええ!? で、でも二股なんて・・・・」

 

「安心して下さい」

 

「それは人間のルールであって・・・・・・私たち人形には当てはまらない!」

 

 

暴論、しかも都合の良い時だけ自分たちをモノ扱いである。が、かなり異例とはいえハンターとAR-15、D-15のカップルも存在しており、決して非現実的なことではない。というか性能向上を理由に複数の人形に指輪を渡す指揮官だっているのだ・・・・・・と言われてしまえば何も言い返せなくなる。

 

 

「で、でも・・・・・」

 

「ユウトさんは、私たちのことが嫌いですか?」

 

「い、いや、そういうわけでなく・・・・・」

 

「強制するつもりはないが、私たちの気持ちに嘘偽りはない」

 

 

正直かなり卑怯な手ではあるが、それくらい彼のことを想っているからこそだ。チラッと代理人に救援の目を向けるが、困ったように微笑むだけで干渉するつもりはないらしい。

悩みに悩んだ結果、ユウトが出した答えは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・よ、よろしくお願いします」

 

「ぃやったぁああああ!!!!」

 

「ユウトさん大好きです!!!」

 

 

感極まって泣きながら抱きつく二人に、ギャラリーから拍手が飛び出す。特に保護者でもあるペルシカは感動のあまり泣き出しており、Dももらい泣きである。資料のためにと構えていたスケッチブックを、マヌスクリプトは放り投げた。

その様子を見ながら、代理人は涙を拭うDを手招きで呼び、厨房へと急ぐ。

 

 

「しかし、随分大胆な手に出たな二人とも」

 

「それ、ハンターが言えること?」

 

「416! 新しい家族の誕生だよ!」

 

「まだそういうわけではないけど・・・・でも、おめでとう」

 

「良゛か゛った゛・・・・ヘリアンみたいになったらどうしようかと・・・・・」

 

「そ、それは言い過ぎじゃないかなペルシカ」

 

「・・・・・あれ? そういえば代理人は?」

 

 

 

 

 

「三人とも、おまたせしました」

 

 

カウンターから聞こえてきたその声に、皆一斉に振り返る。そこには頬に少しクリームをつけた代理人と、何やら大きめの箱の乗ったトレーを持ったDが立っていた。代理人とDはユウトたちの席まで行くと箱を置き、せーので開ける。

 

 

「「「わぁ!!!」」」

 

「「おめでとうございます!」」

 

 

中から現れたのは色とりどりのフルーツケーキ。そしてその上に三本の蝋燭が立ち、てっぺんがちょうど真ん中で重なるように斜めになっている。その根本には簡単にではあるが、三人の顔を模した砂糖菓子が添えられている。

 

 

「ど、どうしよ・・・・」

 

「ゆ、ユウトさんが吹き消して下さい・・・・」

 

「じゃ、じゃあ三人で一緒にやろう・・・・せーのっ」

 

 

フゥーっと同時に息を吹きかけ、蝋燭の火を消す。再び歓声と拍手が巻き起こる中、Dにこの場を任せて代理人はアーキテクトとマヌスクリプトを捕まえた。

 

 

「さて、二人とも?」

 

「私たちはやり切った、後悔はない」

 

「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「いや、なんでそんなにドヤ顔なんですか・・・・・・はぁ」

 

 

息を吸い、ゆっくり両手をあげる。それに合わせて二人はキュッと目を閉じるが、訪れたのはポンと手を乗せられる感覚だった。

 

 

「「・・・・・・へ?」」

 

「無断で部外者を裏口から通したこと、お客様を無断で巻き込んだこと、その他にも色々と言いたいことはありますが・・・・・・・今回は不問とします」

 

「「だ、代理人・・・・・・」」

 

「・・・・・・二人とも、お疲れ様でした。 喫茶 鉄血を代表して、お礼申し上げます」

 

 

二人は顔を見合わせるとニコッと微笑み、代理人を連れて皆のもとに戻る。

たまには大はしゃぎするのも悪くない、そんなクリスマスだった。

 

 

end




やりました(一航戦並感)
ユウトとM16、ROに関しては実は前からクリスマスでくっつけようと想っていまして、でもどっちかとくっつくとどっちかがフラれる、そんなムードはこの作品のクリスマスには相応しくないと想った結果








『どっちもくっつけちゃえば良いんじゃね?』

という神のお告げを聞きまして、こうなりました。
多分これでいいはず!

というわけでキャラ紹介!


416&9
ナチュラルにいちゃつくカップル。夜はもちろん・・・・・

ハンター&AR-15&D-15
この前例がなければ違った結果だったかも

MG5&PK
セリフのみで名前は出なかったがいた。あれから亀の歩みで進んでいるらしい。

ペルシカ&SOP
保護者にして娘と恋人関係という作中屈指の無茶苦茶カップル。そんな論理感を無視するのが科学者という意味不明な言い分がある。

ゲッコー
今回は大人しくしてもらった。

マヌスクリプト&ゲッコー
今回はいい方向でのトラブルメーカー。サクヤとゲーガーにそれとなく二人でいるように勧め、同時期にM16とROを焚きつける。ユウトは多分喫茶 鉄血に行くので、先回りして諸々の準備、そして全責任を負う。

代理人&D
最後のケーキは、スポンジ部分だけできていたケーキにクリームとフルーツを大急ぎで盛り付け、全アームフル稼働で作った砂糖菓子を添えた。
本来使う予定ではなかった分を使ったが、特に気にしていない。

ユウト&M16&RO
結果的にこうなった。ちなみに前回は結局ヘタれた。
これから長い時間をかけてどちらかを選ぶのか、それとも最後までこのまま行くのか・・・・・それはまだ誰にもわからない。
祝え(命令)


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第ーーー話:戦場のメリークリスマス!

なんかぱっと思いついたので。
せっかく彼の銃を迎えたんだから、やるっきゃないでしょ!

元ネタがわからない人は『儀式の人』『戦場のメリークリスマス』で検索


カランカラン

「あら、こんにちはスネークマッチさん」

 

「こんにちは代理人、マヌスクリプトはいるか?」

 

「マヌスクリプトですか? えぇ、呼んできましょう」

 

 

今日は12月25日、いわゆるクリスマスである。街は赤や緑といったクリスマスカラーに溢れ、あらゆるカップルたちが大手を振っていちゃついている。

そんなクリスマスに、このスネークマッチ1911が黙っているはずがなかった。

 

これは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見たスネークマッチの、熱い1日の記録である。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、待たせたねスネークマッチちゃん」

 

「すまない。 それで、例のものは?」

 

 

奥から現れたのは喫茶 鉄血が誇るトラブルメーカー、アーキテクトと並ぶ要注意人物、マヌスクリプトだ。そんな彼女が何やら大きな包みを持ち出し、テーブルに乗せる。

隣で代理人が警戒しながら見ているが、二人とも全く気にしていない。

 

 

「ふふん、そう焦らなくても大丈夫だよ。 さぁとくとご覧あれ!」

 

 

そう言ってバッと包みをとる。と、そこにあったのはなんともミスマッチ感の拭えないアイテムたち。

まずサンタ服。これはまぁ季節的に問題ないが昨今よく見るミニスカなやつではない、ガチなサンタ服だ。ある意味正解なのだがこのご時世ではちょっとずれていると言われてもおかしくはない。

次にワニを模した被り物。ちょうど喉のところから顔が出るようになっていて、何故か口が動く。宴会芸でもない限りかぶることはないような一品だ。

その次は一本の松明。といっても実際に火をつけるタイプではなく、電飾とホログラムで擬似的に炎を映し出すタイプだ。無駄に凝ってはいるが、これも使う機会はまずない。

主だったものはこれで全部で、後はジャンルもまばらな雑誌にグレネードっぽいもの、折り畳まれた段ボールともう訳の分からない組み合わせだった。

 

 

「ほぉ、なかなかやるじゃないか」

 

「要望通り、チャフグレネードはアルミ箔増し増しの特別仕様、ダンボールも丈夫なものを用意したよ」

 

「いいセンスだ」

 

 

ここで代理人は致命的なミスを犯した。たとえ面倒な予感がしてもここで首を突っ込んでおくべきだったのだ。

もっとも、それに気づくのは翌日になるのだが、代理人は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、わざわざクリスマスに特別訓練だなんて、指揮官は何を考えてるのかしら?」

 

「まぁまぁWAちゃん、こういう日こそ気を緩めずに頑張るものですよ」

 

「そうは言うけど、あんたは不満じゃないのスプリング? あとWAちゃんはやめて」

 

 

クリスマス特別警戒訓練。これは何もいきなり言い始めたことではなく、ついこの前の人形潜入事件(CO-5参照)を受けて意外とちょろいことが判明した警備を厳重とするのが目的である。人形たちは侵入者に警戒しながら、被害を出さずに18時まで警備を続けるように言われている。

また、彼女たちは知らないが今回の訓練には例の騒動の張本人であるスネークマッチが参加する。が、詳細は指揮官も知らない。

 

 

「それに人形フル動員でしょ? 訓練にもなりゃしないわ」

 

「愚痴を言っても終わりませんよ、私たちは与えられた任務を・・・・・あら?」

 

「? どうしたの?」

 

「今、人影が・・・・・ちょっと見てきます」

 

「あ、、ちょっと・・・・・」

 

 

一人でスタスタと通路の角へ向かうスプリング。そして角を曲がった瞬間、彼女の目にあるものが飛び込んできた。

一冊の薄い雑誌、一見なんの変哲もないそれだが、スプリングは全速力で駆け寄った。

 

 

「こ、これは! 指揮官の(盗撮)写真集!」

 

 

愛銃を放り投げ、目を見開いて食いつく春田。この光景を見れば誰もが失望しそうだが残念な事にそれに気づく者はいなかった。

そしてその横を、足音も立てずにワニ頭のサンタ服が通り過ぎたのを、春田が気付くことはなかった。

 

 

「ちょっとスプリング、誰かいたの?」

 

 

そしてちょうど、痺れを切らしたWAが曲がり角にやってくる。訓練にもかかわらず一切警戒していない彼女だが、そのツケが今まさに襲い掛かろうとしていた。

全くの無警戒のまま曲がり角を曲がり・・・・・気がついた頃には宙を舞っていた。

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

自分の身に何が起きたかもわからないまま、鈍い衝撃とともWAは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「特別訓練、なぁ・・・・・」

 

「あの日何があったかは知りませんが、不甲斐ない仲間のために私たちまで巻き添えとは」

 

 

ところ変わって訓練室。そこでは先程の二人同様モチベーション0なガリルとウェルロッド。彼女たちはあの日の惨劇を知らず、それ故に完全に舐め切っていた。

そんな悪い娘には当然、サンタからの制裁があるのだ。

 

 

プスプスッ

「ん? なんや?」

 

「どうしました?」

 

「いや、なんか膝の辺りにチクッと・・・・・」

 

 

ガリルが感じたむず痒い痛み、その大元は、角からちょっとだけ体を出したスネークマッチの持つ麻酔銃だ。といっても二発打ち込んでもすぐに眠ることはなく、本人も気づいていない。

そしてタイミングを見計って、スネークマッチは角から隠れるそぶりも見せずに現れた。

 

 

❗️<ファンッ

 

 

突然の、いかにも侵入者なそれを発見したガリルは驚きながら声を上げるために口を開き

 

 

 

 

 

 

 

そのまま倒れ込んで眠ってしまった。

 

 

「え? ガリル!? どうしたんですか!?」

 

 

突然のことに慌てるウェルロッド。そして異常を知らせるために通信機へと手を伸ばし・・・・・真後ろから聞こえた足音にバッと振り返る。

 

 

「足音! ・・・・・あれ?」

 

 

振り向いた先にあるのは何もない空間。人どころか動物一匹もいない通路である。

首を傾げるウェルロッドは、銃をしまいながらぼやいた。

 

 

「なにもない・・・・・(コトッ)誰っ!?」

 

 

またしても足音が聞こえ、振り向きざまに銃を構える。が、さっきと同じでそこには誰もおらず、足元でガリルが眠っているだけだった。

いよいよ恐怖を感じてきたウェルロッドは縋るように通信機へと手を伸ばし・・・・・・今度は何かに背中からぶつかられた。

 

 

「うわっ!? だ、だれ!? どこにいるの!?」

 

 

確実に誰かぶつかった、にもかかわらず誰もいない。振り返っても誰もおらず、応援を呼ぼうとするとまたぶつかられる。

ウェルロッドは恐怖のあまり泣き出した。

 

 

「だ、誰ですかぁ! で、出てきなさい!」

 

 

涙声のそれに答える声はいない。代わりにふくらはぎへとチクッとした痛みが2度続き、ウェルロッドは恐る恐る振り返る。

 

 

❗️ <ファンッ

 

 

そして凍りついた・・・・・ワニ頭のサンタが松明を構えていれば当然と言えるが。

そして恐怖の余り叫び出そうとし、ガリルと同じくそのまま眠りについた。きっと壮絶な悪夢を見ていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さらに場所は変わってデータルーム。世間はクリスマスであろうと仕事がやってくるというこの職場に軽いブラック感を感じながらPCを打つ彼女は、そういえば今日は特別訓練としてスネークマッチという人形がやってくるということを思い出す。

指揮官同様に今回の話を知っている彼女は、以前倉庫での物音がこの人形の仕業であり、まんまと出し抜かれてしまったことを思い出した。非戦闘要員とはいえ軍事会社に勤める広報幕僚、それがああもあっさりとしてやられたと思うとちょっと悔しい。

 

 

(そうですね・・・・ここで一度逆に驚かせて見せましょう)

 

 

そう思った彼女はこっそりとデータルームを抜け出し、ルートである救護室で待ち構える。休憩しているそぶりを見せつつそろそろかなと構えてみると、隣の部屋から足音らしき音が聞こえてきた。

 

 

(ふふっ、来ましたね)

「ん? 誰かいるんですか?」

 

 

特に警戒していない風で自動ドアを開き・・・・・・そして驚愕した。

ドアを開ければ目の前に大きめのダンボール、それも人一人が入れそうなサイズのがあればもう確実にこれだろう。

 

 

(くっくっくっ・・・・・潜入のプロだと聞いていましたが、この程度ですね!)

「なんでしょうこのダンボール・・・・・えいっ!」

 

 

めちゃくちゃわざとらしいセリフでダンボールを掴み、ヒョイっと持ち上げる。そしてその下にいるであろう人形を笑ってやろうと思っていたのだが、ものの見事にその目論見は外れた。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

蓋を・・・というかダンボールを開けてみればそこには何もなく、ただ本当にダンボールが置いていただけ。ネタバラシをすればダンボールを開けた瞬間に足元の死角を通り抜けて背後にまわっただけなのだが、気配もなく行われたその動きは目の前のカリーナにも気づかれなかった。

そうとも知らず、ただの段ボール相手にニヤニヤと笑っていたと勘違いして真っ赤になったカリーナはダンボールを捨てて振り返り、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足元にあるダンボールに固まった。

 

 

「・・・・・・・え?」

 

 

ダンボールである。一見なんの変哲もない。

だが確実に、さっきまでなかったダンボールである。誰がどう見ても不自然で、逆に恐怖すら湧き起こる。

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

今度こそ、そう思いつつさっきのことが頭をよぎり、慎重にダンボールを持ち上げる。この時も真上ではなくちょっと横に持ち上げるせいでまた足元をすり抜けられているのだが、そうと知らないカリーナはまた驚愕する。

今度は空っぽではなかった。その下にあったのは・・・

 

 

 

 

 

 

かつてカリーナが新人時代に撮った水着グラビア写真(黒歴史)である。

 

 

「!?!?!?!?!?」

 

 

慌てて拾い上げ、辺りを警戒する。裏面を見て、それが自室の引き出しに閉じ込められた最後の一枚であると確認すると恐怖のあまり半泣きになる。

そんなパニック状態のカリーナを残し、スネークマッチは救護室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

(雑誌で釘付けにする・・・姿を見られた瞬間に無力化する・・・カリーナの秘蔵写真を本人に見せる・・・・・よし、タスクはこれでいいな)

 

 

あまりにもひどいタスクの完了を確認するスネークマッチ。彼女にこんなタスクを用意したのは、なんとクルーガーであった。もちろんこのタスク自体は任意であるが、潜入のプロを自称する彼女に興味を持ったクルーガーが無理難題として渡したものである。

・・・・・そのおかげで阿鼻叫喚なことになっているのだが、知らぬ存じぬらしい。

 

 

(あとは火災警報器・・・・・あれか)

 

 

そしてスネークマッチは目的の場所にたどり着く。そこは司令部の最北端にある火災警報機・・・・ボタンをポチッと押すと音が鳴るアレである。今回はこの警報機のみ消防への発信機能を切っており、警報はなるが消防の迷惑にはならないのだ。

すでに周りの安全を確認したスネークマッチは右手に松明、左手にチャフグレネードを構え、余裕の足取りで警報機の前に立つ。

 

 

(よし、では始めよう)

 

 

ピンを抜き、グレネードを転がす。破裂したグレネードから巻き上がるチャフがまるで降り積もる雪のように舞い、その下で松明を掲げながら3、4週ほどくるくる回る。

そして満足したスネークマッチは、なんの躊躇いもなく警報機を押した。

 

 

「ショータイムだ!」

ジリリリリリリリリリリリリ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことは言わずともわかるだろう。突如なり出した火災警報器に警戒態勢に移るも、ここまで侵入者の影すら見かけなかった人形たちは大パニックに陥る。

一斉に捜索すれば雑誌に夢中の春田が見つかり、仰向けで気絶したWAが見つかり、悪夢にうなされるガリルとウェルロッドが見つかり、さめざめと泣き続けるカリーナが見つかり・・・・・・とにかくまぁ悲惨な光景だった。

そして混乱極まる司令部を、スネークマッチは正面玄関から堂々と出て行ったのだった。

 

 

 

Rank S




儀式の人リスペクト!
壮絶なストーリーのMGSを笑いに変えてくれるぞ!

では早速キャラ紹介

春田さん
クレイモア付きでなくて命拾いした人。こんなんだがちゃんとした任務の時は優秀なんですよ・・・・・本当だよ!?

WAちゃん
WAちゃんは悪くない、ただ角に奴が居ただけだ。

ガリル
至ってシンプルな方法でダウン。
まだマシな方。

ウェルロッド
見えない足音とぶつかる存在、恐怖でしかない。
無能ではないが相手が悪すぎた。

カリーナ
社長のタスクのせいで精神的ダメージを被った人。
スタッフ能力は諜報と開発がSだと思う。

スネークマッチ
「待たせたな!」
潜入のプロにして非殺傷のプロ。その結果生まれたのがこの訳のわからない潜入スキル。



*怒られたら消します。


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番外編33

12月27日、本日でこの『喫茶鉄血』も一周年を迎えました(作中ではとっくに開業一周年を迎えてますが笑)。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。
年内はこれを含めて後三話投稿予定でやんす!

というわけで今回は、
・お礼の裏側
・私と娘と妹と
・ご挨拶
・一人前の関門
の四本立て・・・・・+α


番外33-1:お礼の裏側

 

 

「それでは! 代理人へのお返しケーキを作りたいと思います!」

 

「「おー!」」

 

 

グリフィンS09地区司令部、その食堂の厨房を借りて行われたのは、先日代理人にケーキの作り方を教わった三人組によるお礼のケーキ作りであった。

喫茶 鉄血で作ったケーキはその日のうちに食べてしまい、その後も小さめのケーキを作っては食べ作っては食べ・・・・・気がつけばそれなりの出費と引き換えにそこそこのスキルを得ることができたのだった。そこで、先日のお礼という意味を込めてケーキを作ろうと考えたのである。

 

 

「で、どうする?」

 

「ショートケーキはちょっとシンプルすぎるし・・・・あと代理人が作る方が美味しいし」

 

「ロールケーキはちょっと自信ないしね〜」

 

 

さて何を作ろうか、というところで早速つまずく三人。なにせこれまで自分のために何かを作ってきた彼女らは、他人の好みなどあまり関心がなかったのだ。加えて作ったはいいが食べるのも自分だけなので、他人の評価というものも一切ない。

それが本当に美味しいかどうかすらわからないという有様だった。

 

 

「ど、どうしよう・・・・」

 

「だ、大丈夫です! 食べられるならきっと不味くはない・・・・はず・・・・」

 

「で、でももし口に合わなかったら・・・・・・」

 

 

どんよりとした雰囲気で項垂れる三人、この際誰かに監修してもらった方がいいかとも考えたが、それでは成果の報告とお礼にならないと考えボツ。

結局一時間ほど悩んだ末、なるようになれということでケーキを作り始めるのだった。とりあえず多少はオリジナル感が出るようにフルーツケーキということにはなったのだが、ここでもまた問題が発生する。

 

 

「あ! ちょっとFNC! また苺食べたでしょ!」

 

「そ、そう言うアストラだって生クリームごっそり食べてたじゃん!」

 

「まぁまぁ二人とも落ち着いて」

 

「「まずその手に持ってるフォークとナイフを下ろせ!」」

 

 

人一倍の食欲と胃袋を持つ三人が、それらを押さえつけて料理を作ると言うこと自体が割と至難の技である。以前は代理人の監視の目があったので辛うじて耐えていたが、今回はそれが無い分手を出しやすい。

おかげでたった今、フルーツケーキようの苺がなくなった。

 

 

「だ、大丈夫だよ! まだ他のフルーツがあるから!」

 

「そ、そうだねってそのリンゴも下ろしなさい!」

 

「うぅ〜お腹すいたぁ〜!」

 

 

紆余曲折、四苦八苦しながらケーキが完成した頃には、その倍以上の材料が消えていたという。

 

 

end

 

 

 

番外33-2:私と娘と妹と

 

 

とある病院兼傭兵の仮拠点、隣の部屋でユウトとM16とROが微妙に気まずい雰囲気で夜を過ごしている頃。

 

 

「・・・・で? なんで私らはこんな狭いベッドに三人で寝てるんだよ」

 

「そりゃあいつらに一つ貸してるからだろ?」

 

「だからって三人で寝る必要があるのか? 俺か処刑人が床で寝りゃいいだろ」

 

「お前、こいつを泣かせる気か?」

 

 

狭くは無いがお世辞にも広いとは言えない簡易ベッド、そこに『川の字』でギリギリ収まる処刑人、執行人、少女の三人はそんなことを言い合いながら夜を過ごしていた。別に少女以外は床で寝てもよかったのだが少女からの無言の拒否が伝わり、結果としてこうなっている。

処刑人は満足そうだが、執行人はちょっと鬱陶しそうだ。

 

 

「この子煩悩」

 

「なんだとこの生活力0女」

 

「あ? 言ったな突撃脳が」

 

「そっくりそのまま返してやるよ」

 

 

別段仲が悪いとかそう言うわけでは無いのだが、事あるごとに揉める二人。間に挟まれた少女からすれば見慣れた光景なのだが、さすがに頭の上でこうも言い争われると煩いらしく、両手で二人の口を塞ぐ。

 

 

「むぐっ・・・あぁ、悪かったよ」

 

「ちっ、今回だけだぞ」

 

 

むくれる少女に苦笑いしながら処刑人は手を乗せ、執行人も舌打ちしながらも引き下がる。

なんだかんだ子供には甘いあたり、よく似た姉妹のようだった。

 

 

end

 

 

 

番外33-3:ご挨拶

 

 

クリスマスでの大告白と大騒ぎから一夜明け、ユウトとM16、ROの三人はユウトの実家(?)である鉄血工造本社へと足を運んだ。

言うまでもなく彼女の姉であるサクヤへの挨拶であり、簡単な報告とかそんな感じの予定だ。

 

・・・・・・いや、正確には『その予定だった』。

 

 

「「・・・・・・・」」

 

「あの・・・アルケミスト姉さん?」

 

「すまないユウト、少し黙っていてもらえるか?」

 

 

本社の正門をくぐり、案内役の下級人形に従って廊下を歩いていた。ところがその人形は途中で進路を変更、連れてこられた部屋には、いつになく真顔なアルケミストが待ち構えていた。

本来、彼女ら脱鉄血組には下級人形たちへの命令権は無い。よほどの事情でも無い限りそれが与えられることはなく、しかも命令権の使用には軍やグリフィン上役の審査がいる。

 

そんな諸々の事情を全て無視し、バレたら大問題なリスクを背負ってアルケミストは使用したのである。

 

 

「さてM16A1、そしてRO635。 ここに案内された理由はわかっているな?」

 

「「は、はい!」」

 

「うむ、いい返事だ。 では私の可愛い弟分にめでたく彼女ができたわけだが・・・・・」

 

 

そこで一度言葉を区切り、ギロッと二人を見下ろす。ROはともかく身長だけならほぼ同じM16も完全に萎縮しており、さながら「お母様に挨拶に来たら強面のお父様が出てきた」みたいな空気である。

対するアルケミスト自身、別にこの二人のことを疑っているわけでは無い。これがどこぞの馬の骨ともわからん小娘だったら、合法非合法問わず身辺を洗い出した上で真っ当な手段で諦めてもらうところだ。

そんな彼女がそれでもここまで高圧的になる理由、それはもちろんユウトに激甘だからである。

 

 

「その心に、偽りはないな?」

 

「も、もちろんだ!」

 

「わ、私たちは本当にユウトさんのことが好きなんです!」

 

「/////」

 

 

切羽詰ってはいるがそれでもはっきりと口にした好意に、隣で顔を真っ赤にしながら伏せるユウト。もうこの時点で完全に両想いなのは自明の理だが、諦めきれないアルケミストはとんでもないことを言い出した。

 

 

「よろしい、ならばそれが本物かどうか試してやろう・・・・私が相手になってやる」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

「本気でかかってこい、全力でねじ伏せt「はいストップ」グハッ!?」

 

 

かかってこいとか言いながら自分から飛びかかろうとしたアルケミストの後頭部を衝撃が襲う。倒れ伏した彼女の後ろから現れたのは、得物である大型レーザー銃をまるで鈍器のように構えたドリーマーだった。

 

 

「まったく、素直におめでとうも言えないのあんた?」

 

「ぐっ・・・・だって、ユウトが彼女を連れてきたんだぞ!? 心配にならないのか!?」

 

「親父かあんたは。 ていうかユウトがそんなのにホイホイ引っかかるとは思えないし、何より相手がこの二人なら大丈夫じゃない・・・・・ま、いきなり二股なんて思い切ったことするとは思わなかったけど」

 

 

それでもなお起き上がろうとするアルケミストにもう一発入れて沈黙させ、三人に苦笑しながら謝りサクヤの元へと案内する。

 

 

「それにしても、まさかあんたらとはねぇ・・・・・で? ユウトのどこが気に入ったの?」

 

「ちょっ、ドリーマー姉さん!?」

 

「いいじゃないそれくらい・・・・・で、どうなのよ?」

 

「・・・・・・や、優しいところ・・・とか」

 

「たまに見せる男らしいところ・・・・・です

 

「甘すぎて糖尿病になっちゃいそうね・・・・大事にするのよユウト?」

 

「わ、わかってますよ・・・・・」

 

「よろしい。 さて、着いたわね・・・・・じゃ、私はここで失礼するわ」

 

 

聞きたいことだけ聞いて満足したドリーマーを見送り、ユウトたちはサクヤのラボの扉を開ける。

と同時に破裂音が鳴り響き、紙吹雪と紙テープが飛んできた。

 

 

「いらっしゃい! そしておめでとうユウト!」

 

「M16とROもだ、おめでとう」

 

「ね、姉さんとゲーガー姉さん???」

 

「いや、ちょっと前にアルケミストから連絡があって、急いで準備したんだよ!」

 

 

突然のことにポカンとしていた三人だが、ちょっとずつ状況を飲み込んでいく。それと同時に多少は落ち着きを取り戻したユウトは、一度深呼吸すると一歩前に出て、

 

 

「ただいま姉さん。 この人たちはM16A1さんとRO635さん、僕の恋人です」

 

「へっ!? あ、こ、こんにちは!」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「あはは! 二人とも緊張しすぎだよ・・・・・うん、じゃあ改めて、ユウトの姉のサクヤです。 二人とも、ユウトをよろしくね!」

 

「「は、はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で? 昨日の夜はお楽しみだったのかな?」

 

「なっ!? そ、そういう姉さんこそ」

 

「私たちはもちろんお楽しみだったよ。 ね、ゲーガー!」

 

「なんでバラすんだサクヤさん!」

 

「あ、私もそれ聞きたいかも」

 

「帰ったんじゃなかったのかドリーマー(姉さん)!」

 

 

end

 

 

 

番外33-4:一人前の関門

 

 

それはクリスマスケーキを買い求める客が集まる喫茶 鉄血でのこと。これまでのシーズンでは見ることなかった人の数に従業員は四苦八苦しながら接客していく。

だがベテランやコミュ能力に溢れた人形でさえこうなのだ、まして引っ込み思案な人形など、表に出るだけでも一苦労なのである。

 

 

「お、お会計はっ、せ、1890円です!・・・・か、カードですね! お預かりしましゅ!」

 

 

喫茶 鉄血、予約ケーキの受け取りピーク時にレジを任されてしまったフォートレスは、今にもオーバーヒートして倒れてしまいそうになりながら必死にレジを打っていた。これまで接客も最小限、基本は裏からケーキを運んでショーケースに並べるくらいだった彼女がレジに立つには、あまりにも繁盛しすぎている日だったのだ。

とはいえ、これで倒れるわけにはいかない理由が彼女にある。もともとレジの研修は終わっていていつでもたてる状態だったが、一念発起し今日この日にレジデビューしようと代理人に提案したのだ。

代理人も彼女のやる気と覚悟を買ってレジをまかせ、そして今に至る。

 

 

「すぅー・・・・はぁー・・・・・お、おまたせしました! お次お待ちのお客様(おきゃくしゃみゃ)!」

 

 

カップル、会社員、学生、主婦、男性、女性、大人、子供、老人、柔和、強面、上機嫌、不機嫌・・・・・とにかくたくさんの客が訪れ、フォートレスは目が回りそうになりながらとにかく頑張った。

正直レジの打ち間違えなんか結構やってしまい、呂律が回っている方が少ないくらいではあったが、幸いなことに客の多くはこの店の利用者ということもあって、微笑ましいものを見るような目で見守ってはくれていた。

 

 

「あ、ありがとうございました!・・・・・ふぅ・・・・」

 

「ふふっ、お疲れ様ですフォートレス」

 

「あ、だ、代理人・・・・・ひゃっ!?」

 

「いい調子ですが、もう少し肩の力を抜くことを意識しましょう。 軽く構える方がミスも減りますよ」

 

「はい・・・・・」

 

「とはいえ、予約されていた方のピークは過ぎましたから、少し休憩にしましょう。 休憩室の冷蔵庫にケーキを入れてありますので、食べて構いませんよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

そう言うと、若干ふらつきながら休憩室に向かうフォートレス。部屋に入り、扉を閉めてソファに座り、机に突っ伏すと同時に一気に疲労と眠気がやってきた。

 

 

(動けない・・・・一眠りだけ・・・・・・仮眠・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ハッ!? な、何時!?」

 

 

ガバッと身を起こし、慌てて部屋を見回す。そして壁にかかっている時計を見て、サァっと血の気が引いた。

現在20時過ぎ、とっくに閉店時間を過ぎている。それだけ確認してビックリするほど急いで休憩室を出た。

 

 

「あら? おはようございますフォートレス、よく眠れましたか?」

 

「だ、だいり・・・ご、ごめんなさ・・・・・」

 

 

息も絶え絶えに、目に涙を浮かべてなんとか言葉を絞り出す。レジでみっともない姿を晒し、あまつさえ閉店まで寝過ごすという失態に、穴があったらセルフ土葬したいくらいまで追い詰められているフォートレスの頭に代理人は手を乗せ、優しく撫でた。

 

 

「今日はお疲れ様でした。 ゆっくり休んでください・・・・・あ、それとケーキもまだ置いてますよ」

 

「え? でも、私、サボって・・・・」

 

「ふふふ、しっかり休むことも大切ですよ。 それに今日はよく働いてくれました。 誰も責めるようなことはできませんよ」

 

 

それだけ言うと、代理人は厨房に向かい夕食の支度を続ける。その後ろで一人静かにポロポロと涙を流すフォートレスだったが、涙を拭うと代理人を手伝うために後を追った。

その日以来、表に出る回数がちょっとだけ増えたフォートレスであった。

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

番外ーーー:味と効能

 

 

食べることは生きることである、という言葉があったような無かったような。ともかく生き物が生きていく上で食事とは必要不可欠なものである。

では人形はどうかというと、本来ではまず必要ない。特に第一世代の人形などはまさしく『人形』であり、食べるという行動そのものがあり得ないとされていた。しかしそれも昔のこと。第二世代以降の人形たちは普通に食事をするがそこでもまた疑問が生まれる。

一つは食べたものの行方。人間のように栄養を摂取するわけではないのだが、ではどこに消えているのか。実は中で貯蔵されているとか、実は高濃度の酸が詰まったタンクがあって全部溶かしているとか噂が流れているが、その答えは特に考えていない未だ不明である。

そしてもう一つ、それは食べ物以外を食べさせるとどうなるのか、である。

 

 

『スネークマッチさん・・・・スネークマッチさん!』

 

「何? カリーナ」

 

『なに?じゃありません! 今どこにいるんですか!?』

 

「S09地区北の森、サバイバルの腕が鈍っていないかのチェックだ」

 

『森って・・・・・それよりもスネークマッチさんに聞きたいことがあります!』

 

「ちょうどよかった、こっちも聞きたいことがあったんだ・・・・・このキノコなんだが」

 

『おや? それはオロシャヒカリダケですね。 この地域ではあまり生えていないキノコで、光を発するんですよ』

 

「光を? すごいな・・・・・電気もないのに」

 

『えぇ、光る原理は蛍などと同じで、詳細は省きますが特定の物質間で起こる発光現象です』

 

「なるほど・・・・・で、味は?」

 

『あ、味??? 毒があるわけではありませんが・・・・・食べるんですか?』

 

「あぁ、食べればバッテリーが回復するかもしれないだろ」

 

『・・・・・・・・は?』

 

「で、毒はないんだったな。 じゃあ食えるんだな?」

 

『食べれないことはないとは思いますが・・・・・で、でも! 食べてもバッテリーが回復するわけでは』

 

「よし、とりあえず食ってみる。 また後でな」

 

『あ、ちょっとスネーk』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリーナ!」

 

『うわっ!? な、なんですかいきなり!』

 

「回復した!」

 

『・・・・・・・はい?』

 

「オロシャヒカリダケだ! 食ったらバッテリーが回復したんだ!」

 

『え? うそ・・・・・ちょ、ちょっと待っててください!』

 

『ぺ、ペルシカさん! 聞きましたか今の!?』

 

『えぇ、聞いていたわ。 きっと何かの間違いでしょう』

 

『どういうことでしょうか・・・・』

 

『思い込みじゃない? あの娘単純そうだし』

 

『プラシーボ効果・・・・・じゃあ、彼女には黙っていた方がいいでしょうか?』

 

『そうね、そうしましょう』

 

『わかりました』

 

『おまたせしましたスネークマッチさん! オロシャヒカリダケは食べるとバッテリーが回復しますよ!』

 

「お、おぉそうか!」

 

『えぇ、では失礼しまs・・・・・・あ、それとスネークマッチさん』

 

「なんだ?」

 

『例の私の雑誌・・・・・・見てませんよね』

 

「・・・・・・・切るぞ」

 

『ちょっ!? 見ましたね! 絶対見ましたn』

 

 

end




これが今年最後の番外編。一日一話換算だと一月分以上も番外編書いたんだなって思うと、なんだか笑えてきますね。

ということで各話の解説!

番外33-1
百三十話のお返しケーキの話。自分の舌に合う味はわかるけど他人の味覚はわからないって話。
まぁ不味いはずがないけど。

番外33-2
百三十一話の隣の部屋。
特に面白味があるわけでもないけど、これが彼女たちの日常。

番外33-3
百三十二話の翌日。ぶっちゃけ祝福しないやつなんてこの鉄血にはいないが、とりあえず試すためにアルケミスト出動。
ゲーガーとサクヤの話?書くまでもなく甘々だよ。

番外33-4
百三十二話のちょっと前。もともと番外編で描く予定だったけどリクエストもいただいたので。
これでより表に出しやすくなったよ、やったねフォートレスちゃん!

番外ーーー
なんか勢いで書いてしまった。
ボツ案は、戦場で拾った弾薬を食べると自身の弾薬が回復するという話。一般的な9mm弾は少しだけ、高価なケースレス弾は大きく回復する・・・・・面倒なのでボツにした。


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第百三十三話:今年も色々ありました

大掃除にあたって最大の敵、それは長く読んでいなかったコミックたち!
たまに読むと面白くて一気見して・・・・・気がついたら日が暮れ始めてるんだ。


年の瀬が迫る頃のS09地区。多くの商店は既に店を閉め、年明けに向けて大掃除を始めている。年末決算や在庫確認なんかの業務的なものから、文字通りホコリひとつ見逃さない掃除まで、一年でこの日だけ店をひっくり返すようにしてくまなく掃除する。

 

それは当然、飲食業である喫茶 鉄血も同じである。

 

 

「三階のワックス掛け終わったよー!」

 

「お疲れ様です。 皆さん、しばらくは三階には上がらないようにしてくださいね」

 

「二階の掃除もあらかた終わったぞ。 ここもワックスをかけるのか?」

 

「えぇ、一気にやってしまいましょう。 それが終わったら一度休憩にします」

 

「ダイナゲート(ワックスブラシ)、GO!」

 

 

椅子も机もその他雑貨類も全て撤去した二階スペースを、後ろにワックスを浸したブラシをくっつけたダイナゲートが走り回る。

これでしばらくは一階以外が使えず、しかも二階と三階から撤去いてきた家具類が置かれているため掃除も進められず、ということで喫茶 鉄血一同は休憩となった。

前日で年内の営業は全て終了し、今日一日で大掃除を終わらせるために朝から動き始めた代理人たち。普通、三階建ての飲食店をたった一日で終わらせるなど至難の技なのだが、そこはハイスペック揃いの喫茶 鉄血なので問題ない。

狭苦しい店内からテーブルと椅子を外に出し、ケーキとコーヒーや紅茶を並べておやつタイムに入った。

 

 

「いやぁ〜疲れたぁ〜」

 

「まだまだだぞマヌスクリプト、終わったのは上二階の床や壁だけなんだからな」

 

「えぇ、これからまず上に運ぶテーブルなどを磨き上げ、それが終わってから一階の掃除です」

 

「・・・・・・聞くんじゃなかった」

 

 

グッタリと机に突っ伏すマヌスクリプトに苦笑する代理人たち。とはいえ、今年に限っていえばそこまで念入りに掃除しなくてもそこまで汚れてはいないのだ。というのも、一度改築リフォームがあったおかげでボロい部分や汚れた箇所が全てきれいになっており、あとは精々半年程度で積もった分くらいだ。

テーブルや椅子にしてもそこまで凝ったデザインのものではないので、たいして苦労もしないだろう・・・・・単純作業にはなるだろうが。

 

 

「おや代理人さん、今日は大掃除かい?」

 

「あら、こんにちは。 えぇ、見ての通りです」

 

「ふふふ、こういう時は人形さんが羨ましく思うね。 この歳になると一部屋掃除するのも一苦労さ」

 

「よく言うよ、おばあちゃんまだまだ元気じゃんか」

 

「嬉しいことを言ってくれるね。 じゃ、また年が明けたらお邪魔するよ」

 

「あぁ、いつでも歓迎だ」

 

「では、良いお年を」

 

 

通りすがった老人を見送り、ふと大掃除中の喫茶 鉄血を見上げる代理人。

思い返せば、今年も色々なことが起きたものだ。トラブルもあれば騒がしい事件もあり・・・・・というかなにもない日の方が少ない気がする。

 

 

「Bar鉄血がオープンしたのも今年だよね」

 

「前からあったように思うが・・・・・まだそんなものなのか」

 

「えぇ、それにいろんなお客様が訪れました」

 

 

そう言って視線を移した先には、これまで訪れた()()()()()()()()()()()が置いていった品の数々。コインにルビーに小さな鐘に写真に・・・・・・

 

 

「あの薬莢は・・・・・あぁ、あの発砲事件の時か」

 

「というか転送装置ってのが一番存在感あるよね」

 

「ほんと、この店って魔境か何かなのかな?」

 

「あの鐘、鳴らしてみない?」

 

「やめた方がいいですよ、せっかく警告してもらいましたしね」

 

 

さらに視線を移せば、喫茶店にはあまりにも不似合いな衣装の数々が眠る大型クローゼット。そしてそれを見ながら、代理人がポツリと呟いた。

 

 

「・・・・・そういえば、あなた達が来たのも年内でしたよね」

 

「ん? そういえばそうだな」

 

「あ〜、最初は私たちと代理人だけでしたね」

 

「倍以上にまで増えるとは・・・って痛っ!」

 

「ふふっ、ダイナゲートも最初からいましたよ」

 

 

ある時の実験でDが生まれ、サクヤがこっちに来てから始めて作ったマヌスクリプトが現れ、アーキテクトが無断で作ったゲッコーが現れ、アーキテクトが徹夜テンションで作り上げたフォートレスが現れ・・・・・・

 

 

「ほとんどアーキテクトのせいですね」

 

「ま、まぁまぁ代理人、おかげで賑やかになったんだしさ」

 

「ですが、結局他所に行ったものの他にも色々来ましたよね、違法ハイエンドたちが」

 

「・・・・・お年玉は彼女だけ無しにしましょう」

 

「あはは・・・・・そう言えば、サクヤさんもこの世界の人じゃないんだよね」

 

 

Dがそう呟くと、話題は異世界から来た人間や人形に移る。今でこそ鉄血工造のトップ3にいるサクヤ、世界を旅しているノイン、S08地区でカフェを営む夫婦に、辺境の町の司令部でのんびり過ごす指揮官と人形二人。

化物を主に持つ二人の人形、人が化け物へと変わる町から流れ着いた少女、怪物を狩るために生まれた銃、覚めない悪夢の中で夜明けを目指した女性、異教徒と聞くと撃ちたくなる衝動を抱えたトンプソンにの女性などなど。

 

 

「・・・・・ほんと、なんなんだろうねここは」

 

「もしかしなくてもこの店、呪われてる?」

 

「幽霊騒ぎもあったし、あながち間違いでは・・・・・」

 

「ふふっ、いいではありませんか。 人も人形も、それ以外の誰であっても訪れる店というのは」

 

「代理人も肝が座ってるよ・・・・・」

 

 

呆れつつも代理人らしいと納得する彼女らに微笑みながら、代理人もコーヒーを一口飲む。そして思うのだ、誰が来ても「美味しかった」と言ってもらえる一杯を淹れようと。

少し冷たい風が吹き、代理人は軽く体を伸ばしてから言った。

 

 

「さて、そろそろ再開しましょうか」

 

「そうだね、じゃないと日が暮れちゃうし」

 

「ところで、これ日が沈むまでに終わらなかったらどうなるの?」

 

「皆さんで野宿ですよ、そこの公園で」

 

「こんな文明の進んだ街で野宿・・・・だと・・・・?」

 

「は、早く掃除してしまいましょう!」

 

 

代理人の冗談っぽくない冗談に脅されて急いで取り掛かる。それを見ながらクスリと笑い、ふと自分もよく笑うようになったと気づく。

 

 

(人形も変わるもの・・・・・ふふっ、私も例外ではなかったようですね)

 

「Oちゃん、上のワックス乾いてたよ!」

 

「わかりました。 上に運ぶものだけ綺麗にして運びましょう」

 

 

 

end




本当に色々あったよ・・・・見返してみて色々、ね。
ということで今回は、そんな喫茶 鉄血メンバーの初期と今の違いを書いてみようかなと思います。

代理人
全体的にはあまり変わっていないが、見返してみるとちょっと硬いというか、まだ冷たい印象があった気がする。
ちっちゃくされたり着せ替えさせられたりとそれなりに弄られている。

イェーガー
ハイエンドが増えたせいで出番が減った。こちらもあまり変わりはなく、昔も今も代理人の忠実な部下といった感じ。

リッパー
イェーガーとほぼ同じ。
ちなみにこの二人はそれぞれの一号機であり、稼働時間もずば抜けて長い。

ダイナゲート
実は最初からいる。
喋らないし登場回数も少ないのでキャラの変化もほぼないが、たまに出てきては役に立つ。

D
ハイスペックダミーちゃん。
他の通常盤ダミーの出番はなくなったが、この娘は気がつけば人気者になった。
ほぼほぼ代理人とは別人格に育ったが、ダミーなのでオリジナルの好みなんかが結構残っている。

マヌスクリプト
トラブルメーカーだが、これを作ったのはあのサクヤさん。登場初期よりもテンションがやや上がった気がする。

ゲッコー
登場初期から随分変わった。見境なく口説くのが無くなった・・・・わけではなく描写がないだけ。それでも結構減ったけど。
男っぽい口調なのは変わらないが、なんとなく柔らかくなった気がする。

フォートレス
喫茶 鉄血ではもっとも最近来た娘。
ロリ巨乳、人見知りというキャラだが、喫茶 鉄血のメンバーとは打ち解けた。
マヌスクリプト、ゲッコー、フォートレスはリクエストから頂いたキャラで、中にはめちゃくちゃ細かい設定が盛り込まれている娘もいるのだが・・・・・・基本的に戦闘描写のないこの作品では表に出ない設定も多い。


・・・・・・うん、キャラも書く側も、一年で結構変わったんだなと思います。
今年はもう一話あげる予定ですが、来年もどうぞよろしくお願いします。


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第百三十四話:陽だまり一家

間に合うかどうかじゃない、間に合わせるんだ。

というわけで今回は焔薙 様の『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』より、ヴァルター一家のご案内です!
ここにくるまでの経緯↓
https://syosetu.org/novel/166885/498.html

ちなみにこの話は大掃除(第百三十三話)の前になります。


年の瀬も近づいたとある日、年内の営業日も残すところあとわずかになった喫茶 鉄血は今日も変わらず営業中だ。とはいえ年末ということもあって客足はまばらで、久しぶりにゆ〜ったりとした時間が流れていた。

というか、暇を持て余していた。

 

 

「暇だねーD氏」

 

「そうだねーマヌ氏」

 

「暇なのはわかりますがだらけすぎですよ二人とも。 そんなに暇なら外へ出てみては?」

 

「代理人、この寒さの中外に出ろなんて悪魔の所業だよ」

 

 

そんなことを言いながらカウンターの中や外をうろちょろするマヌスクリプト。皿洗いも片付けも注文も終わっていて本当に暇なのだ。

こういう時くらい、暇な時間を吹き飛ばすような出来事でも起きてくれないものかと思いながら待ってみるが、当然そんな都合よく起こるはずがない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・と、いうのはあくまで普通の喫茶店のお話で、ここはイベントの絶えない『喫茶 鉄血』である。

 

 

「あの、代理人・・・・・・」

 

「ん? なんですかリッパー?」

 

「その、外で見覚えのあるようなないような人がクルクルと回っているんですが・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・うん?」

 

 

リッパーの困ったような報告に、首を傾げる代理人。まるっきり知らない顔なら不審者とかでいいのだが、知っている顔となるとリッパーが覚えていないはずもないし・・・・・と見てもいない相手にうんうんと悩んでいると、店の扉が開き誰かが入ってきた。

 

 

「こんにちは、マスターさん!」

 

「・・・・・もしかして、ユノちゃんですか? 大きくなりましたね」

 

「えへへ、やっぱりびっくりしますよね」

 

 

至って冷静にユノだと判断した代理人だが、見れば見るほどずいぶんと変わったなという感想を抱く。最後に見たのは彼女の隣に寄り添うPPKとの結婚式だが、まだ子供っぽかったあの頃よりも大人っぽくなっていた。後ろの人形たちは娘たちなのだろうが・・・・・店内の雰囲気に落ち着かない様子だ。まぁあっちでは敵対関係の鉄血ハイエンドがいればそうなるだろうが。

 

 

「そちらははじめましてですね。 喫茶 鉄血のマスターをしております代理人です」

 

「あ、はじめまして。 クリミナ・ヴァルターです。 こちらが娘のルピナスとステアー、シャフトです」

 

「「「こ、こんにちは」」」

 

「ふふっ、こんにちは。 さて、立ち話もなんですから席へご案内しましょうか」

 

 

久しぶりに、というか夢でしかきたことのない喫茶 鉄血に再びやってきたユノは、それはもう分かりやすくテンションが上がっていた。そして指揮官として日夜頑張り気がつけば親にまでなっていた彼女も、まだまだ子供なのである。

 

 

「ほら、ここのケーキがすごく美味しいんだよ! 好きなもの頼んでいいよ!」

 

 

メニューを広げ、娘たちに勧めるユノ。一度来たことがあるからということなのか上機嫌に勧めてくるその様子にクリミナも思わず苦笑し、それでも優しく付き合う姿は正しく夫婦と呼べるものだった。

そうして頼んだケーキと飲み物が運ばれてくると、美味しそうにしかしあっという間に平らげてしまう。娘たちも夢中で食べすすめる中で、クリミナはふと代理人に聞いてみたいことを思いついた。

 

 

「そういえば、ユノが前に来たのはいつのことなのですか?」

 

「いつ・・・・ご結婚される前でしたから、そのくらい前かと。 ふふっ、あの時は一人で泣いていたので心配したんですよ」

 

「ちょっ、マスターさん!?」

 

 

何やら暴露話が始まりそうな予感にユノが慌てて止めようとするがもう遅い。娘三人も興味津々で食いつき、さらにクリミナも普段のユノの様子を暴露しはじめたため、ユノは顔を真っ赤にしたまま耐えるほかなくなった。

そしてついでに、今の彼女たちの環境も聞くことができた。いくつか大きな作戦があったり、襲撃されたこともあったり。命の危機に瀕したことも一度や二度ではなく、そのたびに指揮官として悩んでいたことも話してくれた。

 

 

「そう・・・・そんなことが・・・・・」

 

「うん、きっと一人じゃ今頃壊れちゃってたかも・・・・・でも、クリミナやみんなが居てくれたからね」

 

 

彼女のことは、時々『陽だまり』と形容されることがある。それは見ている方が和んだり、ホッとできたりするその笑顔に由来するものなのだろう。

喜怒哀楽のはっきりした彼女だが、やはり笑っている顔が一番よく似合っていると思う代理人だった。

 

そんなこんなで時間は過ぎ、またいつものように鈴の音のような音がきこえて別れの時間を告げる。初めてのクリミナたちはまたまた戸惑っているようだったが、ユノと代理人の案内で帰り支度となる。代理人もいつも通りお土産用の紙袋を持ち出し、遠慮するユノたちにほとんど押し付けるようにして渡す。

そして帰り際、ユノは一人代理人のもとに駆け寄ると、彼女にだけ聞こえる声でこんな報告をしてきた。

 

 

「実はですね・・・まだ確定じゃないし、診断を受けたってわけじゃないんだけど。家族がまた増えそうなんです、多分だけど、でも間違いないって気がして」

 

 

優しくお腹をさすりながら言うユノに、代理人は驚きつつもニコッと微笑む。代理人は彼女の境遇を妹であるノアからも聞いており、だからこそ一人の女性としての道も進んでいるユノに心からお祝いするのだった。

 

 

「では、次はその新しい家族ともいらして下さいね」

 

「うん、でもその場合また長い間会えないから、少し大きくなってから来るかも?」

 

 

そう、次はいつ来られるかわからない。もしかしたらこれが最後かもしれない。そんな彼女たちだが、それでも『次』の約束を交わすのだ。

 

 

「ご無理はなさらずに、でもお待ちしております。 ・・・・・・あっ、ユノちゃん、あの端末は!?」

 

 

店を出るユノたちを見送りつつ、ふと思い出した代理人はノアが置いて帰ってしまった端末をもって飛び出す。だがユノは手を振りながら、

 

 

「もしかしたら、繋がるかもしれないし写真が送れるかもしれないから置いておく!!大丈夫、中に重要なものは入ってないから!!!」

 

 

というちょっと的外れなことを言ってそのまま去ってしまう。そういうことではないんですが・・・と思いつつも仕方なしに預かり、また戸棚に戻しておく。

 

 

(お気遣いは感謝しますが・・・・・次は必ず持って帰ってもらいますよ、ユノちゃん)

 

 

持っていれば次もまた会える、そんな人形らしからぬ淡い期待を抱きながら、代理人は静かに微笑むのだった。

 

 

end




今年はあと一話だと言ったな、あれは嘘だ。
ということで、せっかく来ていただいたのでお返しの話を書かせていただきました!短くなってしまったけど許してちょ!

ではでは今回のキャラ紹介

ユノ・ヴァルター
S09P基地の若き指揮官。クリミナことPPKの嫁。
この世界における日帰り異世界組の第1号、すべては彼女から始まった。結構来ているイメージはあるけど実はこれが2回目、前に来たときよりも色々と成長した。
毎回通貨が違うので無銭飲食だが、近況報告とかが代金の代わりになっている。

クリミナ・ヴァルター
ユノの旦那。ワルサーPPK。
かつての恋愛クソ雑魚感はとうになくなり、二人して糖分を撒き散らす甘々夫婦。
ユノちゃんが子供っぽい分、彼女は大人びている気がする。

ルピナス、ステアー、シャフト
ユノ、クリミナ夫婦の娘たち。それぞれもちろん戦術人形だが、何も知らなければ本当に親子に見える。

代理人
無銭飲食の見逃しは個人経営だからできることである。
彼女の中でユノはすでに常連客扱いである。


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第百三十五話:クリスマス最後のお客様

まだやれる、まだ間に合うぞ俺!
というわけで年末怒濤のコラボ回、その二!

今回はchaosraven様の「裏稼業とカカシさん」とのコラボです!
あちら側の視点はこれ↓
https://syosetu.org/novel/194706/4.html

ちなみにこの話は第百三十二話(クリスマス回)の後になります。


ユウトたち三人による聖夜の大告白を終え、誰も居なくなった店内で店じまいをすすめる代理人たち。入り口にも『CLOSED』の掛け札を吊るしていたのだが、その扉が割と勢いよく開け放たれた。

入ってきたのは両脇に見覚えのある人物を二人ほど抱えたアーキテクトで、思わず拭いていたグラスを落としそうになったがそこは冷静に対処した。

 

 

「アーキテクト??? 何の連絡もなしにいきなり・・・あら? その頬骨にある傷、もしかして”異世界”のレイさん達ですか?」

 

「あ、ああ。それよか、グラスは平気か?」

 

「ええまぁ。・・・どこかの誰かのせいで、危うく割ってしまいそうでしたが」

 

 

ギロリとアーキテクトを睨み、とりあえず何かしらの罰を与えようと決める代理人。アーキテクトもそれを察して逃げ出そうとしたのだが、それよりも先に()()()()()()()()()()が操作するビットに躓いて派手に転んだ。

 

 

「ぎゃっ!?」

 

「とりあえず、逃がさない様に協力させて頂きますわ」

 

 

想定外のところからの妨害にアーキテクトはあえなく御用となり、イェーガーらに連行される。ようやく落ち着いたところで、代理人は改めて二人に声をかけた。

 

 

「・・・とりあえず、帰るタイミングが来るまでここで何か飲んでいかれますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

レイとスケアクロウ、この二人は以前もこの店にやってきた『異世界』の人物である。裏稼業の何でも屋とその相棒とも呼べる間柄で、この店の大切な客である。

初来店時にはちょっとした騒ぎこそあったが、どうやら今回は心配しなくてもよさそうだ。

ちなみにこの世界にもレイとスケアクロウがいて、なおかつ二人であるという点も同じではあるが、レイの場合は頬骨に傷があるかないか、スケアクロウの場合は単純に口数で判別できる。

・・・・・二人の中が良いのは両世界での共通のようだ。

 

 

「・・・・では、今回もまた?」

 

「あぁ、寝て起きたらまただ」

 

「デジャヴかと思いましたわ」

 

 

そんな彼らが迷い込んだ理由は、ただ単純に「目が覚めたら違う世界でした」というやつだ。迷い込んでくる理由は人それぞれだがよもや寝るだけで世界線を変えることになろうとは夢にも思うまい。

とりあえず前回と同じものを出し、お代は皿洗い(店じまいの手伝い)ということになる。

 

 

「ふぅ・・・やっぱり美味いなここのは」

 

「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です」

 

「・・・あのバホ姉にも爪の垢を飲ませたいくらいですわ」

 

 

スケアクロウがボソッと言った。その「バホ姉」とやらが誰かは知らないが、鉄血のハイエンドたる彼女が姉と呼ぶ存在はそう多くはない・・・・・というかほとんどいない。

もしや、別の世界の私はかなり迷惑なことをしでかしているのでは?

そんなそこそこ当たっていることをぼんやりと考えていると、ふと今日が何の日かを思い出し、ついでに二人に聞いてみることにした。

 

 

「そういえばお二人とも、今日はどのようにお探しの予定でしたか?」

 

「今日? あぁ、クリスマスか」

 

「特に何も考えてはいませんでしたわ」

 

 

というクリスマスにはあまりにも寂しい言葉が出てきたがそれは予想の範囲内、というかあっちの世界の情勢を聞きかじっている限りではそんな余裕もなさそうだ。

なのでここは気を利かせて少しでも楽しんでもらおう・・・・・と思っていた代理人だったが、それよりも早く動いた奴がいた。

 

 

「クリスマスに、男女揃って何もしない!? そりゃないよ二人とも!」

 

「そうそう! むしろナニがあってもいい日なんだよ!」

 

「「うわ、出た」」

 

「二人とも、プレゼントはお説教がお望みですか?」

 

 

突然現れたマヌスクリプトとアーキテクトというダブルトラブルメーカーが鼻息を荒げながら熱弁し、代理人の額に青痣を浮かべさせる。レイたちも以前訪れた際にマヌスクリプトの手によってコスプレ喫茶をやらされたため、総じて面倒な人形という認識に落ち着いている。

 

 

「まぁまぁ代理人、落ち着かなよ」

 

「どうせ代理人も何かしてあげようとか思ってたんでしょ? なら一人でやるよりも三人の方がいいって!」

 

「すげーな、半ギレのエージェントに物怖じしてねぇぞ」

 

「鋼のメンタルですわね」

 

 

レイとスケアクロウが変なところで感心する中、今すぐ店の奥に連行したい気持ちを抑えて二人の話を聞く代理人。まぁ言っていること自体は間違いでもないし、なんだかんだこの二人は道を外れない程度に暴れるだけ。レイたちも次また来られるとは限らないのなら、何か二人に残せるものをあげたいとは思っていた。

 

 

「・・・・・いいでしょう。それで、何か案でもあるのですか?」

 

「外のモンスターマシンあるじゃん? あれをちょちょっと改造してプレゼント!」

 

「「「却下で」」」

 

「えぇ〜〜〜!?」

 

 

論外である。というかアーキテクトがただ弄りたいだけの話なので切り伏せる。

 

 

「普段着ないような服でクリスマスを過ごす!」

 

「お前が着せたいだけだろ?」

 

「そんなこと言ってぇ・・・前にこっちの君が着た時は興味あったんじゃない?」

 

「またいかがわしい服でも用意しているんでしょう?」

 

「ん〜? いかがわしい服ってのはどんな服のことなのかな〜スケアクロウちゃん?」

 

「そ、それはその・・・・・い、いかがわしい服はいかがわしい服ですわ!」

 

 

初心い反応に心底楽しそうに笑うマヌスクリプト。その脳天に代理人の拳骨が落ちる・・・・・直前にふと何かを思いついた代理人はマヌスクリプトにそっと耳打ちする。

 

 

「マヌスクリプト、ーーーーーーーー」

 

「え? まぁあるけど、それでいいの?」

 

「えぇ、構いません。 ではレイさん、スケアクロウ、少々お待ち下さい」

 

 

ニコリと笑って何やら店員たちに指示を出し始める代理人に二人は首を傾げ、それでも代理人なら大丈夫だろうと思い大人しく待つ。

だが二人は知らない。他の面々が派手にやるせいで知られにくいが、代理人もやる時は結構大胆にやる方なのである。

 

 

「では、よろしくお願いしますね・・・・・始め!」

 

『確保ーー!!!』

 

「なっ!? おわぁあああああああ!!??」

 

「ちょっ!? いきなりなんですのおおおおお!!??」

 

 

代理人の合図で店員たちが一斉に散る。パワーに秀でたマヌスクリプトとゲッコーが二人を店の奥へと連行し、マヌスクリプトお手製の衣装に着替えさせる。

その間に代理人らは店のテーブルを一つと椅子を二つ残し、他は端に寄せて空間を広くする。テーブルクロスを敷き、蝋燭を立て、ついでに店内にも蝋燭を設置して店の照明を落とす。

二人が着替え終わるまでの間に全てを終わらせた店員たちは、代理人を残して従業員用の部屋に引っ込む。そのタイミングで、着替え終えた(無理矢理着替えさせられた)二人が戻ってきた。

 

 

「まったく、なんなんだ一体・・・・ん?」

 

「エージェントがまさかこんなことをするなんて・・・・あら?」

 

 

それぞれ別口から出てきた二人は、互いの格好にピタリと止まる。レイの服はタキシードに蝶ネクタイというパーティースタイル、スケアクロウも黒のパーティードレスで、胸上や肩の露出に少々落ち着かない様子だ。

だが二人の感想は大体同じで、端的にいえば一瞬見惚れてしまったのだ。

 

 

「ふふふ、お二人ともよくお似合いですよ」

 

「おいこらエージェント、なんのつもりだこれは?」

 

「まさかあなたもバホ姉の同類だとは思いませんでしたわ」

 

 

面白そうな代理人とは反対に面白くなさそうな二人にちょっと、ほんのちょっとだけ申し訳なさそうにすると、代理人は二人をテーブルへと案内した。

 

 

「突然このようなことをしてしまったことは謝罪します。 ですがせっかくこういう日に来ていただいたので、私たちからのおもてなしです。 今日はお二人の貸し切りですよ」

 

 

それが合図だったのか、今度はDが二人分の皿を持ってきてテーブルに並べる。上に乗った蓋を取ると、小さなクリスマスツリーの砂糖菓子が乗ったケーキが現れた。

驚く二人の前にカップを置くと、代理人は紅茶を注いで一礼する。

 

 

「ではお帰りの時間まで、ごゆっくりお過ごし下さい。 メリークリスマス」

 

 

ニコリと笑う代理人につられてレイとスケアクロウも笑う。

そんなクリスマスの、不思議な一夜。

 

 

end




あと一話詐欺みたいになってるけど、これで本当にあと一話だよ!

chaosravenさん、あとは任せた!(丸投げ)
時間的に厳しいかなとか思ったけど色々時間を削ったら書けるんじゃね?とか思ってたら間に合いました笑
こういうリレー形式のコラボも、書いていて面白いです。


では、今回のキャラ紹介!

レイ
何かと幸薄な裏稼業の人。毎回寝てるだけで異世界に来るのはある意味強運かも?

スケアクロウ
喫茶 鉄血に入る前になんかいい雰囲気だったみたいだけどアーキテクトに邪魔された。
まぁその、頑張れ!

代理人
閉店後でも店を開けてくれる。


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第百三十六話:鉄血工造の年末

今度こそ、これが今年最後の投稿!これ自体はわりと前に書いていたんですが、コラボもあったしね(汗
今年も色々ありましたが、無事年を越せそうです笑

コミケ行きたかったよぉおおおおおお!!!!!!


「戸締りよし・・・・・皆さん、そろそろ行きましょうか」

 

『はーい』

 

 

12月31日、大晦日。今年も残るところ十数時間といったところで、喫茶 鉄血の面々は店を後にし街の駅まで向かう。今日はこれから全員で鉄血工造に向かい、鉄血一同で新年を迎えるのだ。

駅のロータリー着くと、そこには鉄血工造のロゴがデカデカと描かれた輸送車が停まっており、その傍らには輸送部隊を取り仕切る人形の姿があった。

 

 

「お、待っていたよ代理人」

 

「お待たせしました、ゲーガー。 わざわざ来てもらってありがとうございます」

 

「いや、大勢で移動は大変だろうからこれでいいんだ。 さ、乗ってくれ」

 

 

促され、荷台を改造したスペースに乗り込んでいく。全員が乗ったのを確認すると、ゲーガーはハンドルを握り車を出した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい代理人ちゃん、待ってたよ」

 

「喫茶 鉄血の皆さんも、お疲れ様です」

 

 

鉄血工造のロビーで皆を出迎えたのは、彼女らも何度かお世話になっているサクヤとユウトだった。といっても服装はいつもの白衣ではなくラフな部屋着で、ある意味新鮮な光景ではある。

 

 

「これで全員揃ったね」

 

「あら、私たちが最後でしたか」

 

「みんな意外と早かったぞ。 というか昨日には着いてたやつもいたからな」

 

「今みんなで自己紹介してるところですよ」

 

 

思いの外、というかおかしいくらい早くに揃ってしまったようだ。代理人たちは夕食の準備があるので早めに着いたつもりだったのだが・・・・・それだけ楽しみだったということか。

 

 

「せっかくみんな揃う日だからね。 ささ、立ち話もなんだし早く行こ」

 

 

サクヤとユウトに連れられて奥の会議室・・・をちょっとばかり改造した団欒ルームへとやってくる。入るや否や何故かちょっと酒臭い匂いが流れ、部屋の真ん中のテーブルでアマゾネスとネイキッドが向かい合って腕相撲していた。

その足元にはすでに空になった缶が数個転がっており、早くも始めてしまっているようだ。

 

 

「ぐぬぬぬぬ・・・・・」

 

「くっ・・・ふぅううううううん!」

 

「こらー! まだ飲んじゃダメって言ったでしょ!」

 

「お! きたか代理人、どっちに賭ける?」

 

「トラブルになるのでやめてください執行人・・・・というか処刑人は?」

 

「キッチンにいるよ。 ガキは・・・・・あっちでスケアクロウと遊んでる」

 

「うぉおおおおおらああああああ!!!!」

 

「うがっ!? 痛たたたたたたた!!!!!!!」

 

 

若干顔が赤いアマゾネスがガッツポーズし、一瞬腕が変な方向に曲がったネイキッドが転げ回る。隅の方でスケアクロウがお得意のパフォーマンスで少女の興味をひいている。子供相手に教育上よろしくないと判断されたようだ。

他の人形たちもそれぞれ交流を深めているようで、ジャッジがデストロイヤーとドリーマーを誘って『無い者同盟』を組もうとしていたり、ウロボロスとイントゥルーダーがハンターを捕まえて根掘り葉掘り吐かせようとしたり・・・・・まぁまぁにカオスだった。

 

 

「はぁ・・・・ごめんね代理人ちゃん、きて早々こんな有様で」

 

「構いませんよ。 それに皆さん仲良くされているようで安心しました」

 

「それもそうだね。 じゃあみんな揃ったことだし、準備も始めよっか」

 

「えぇ、私とDはキッチンに行きます。 処刑人もいるようですから」

 

「あ、では私たちはノーマル用の宿舎に向かいますね」

 

「久しぶりに顔を出しておきたいですから」

 

 

そう言うと代理人とDは食材やら何やらを持ってキッチンへ、イェーガーとリッパーは同期や妹たちに会うために席を外した。残ったマヌスクリプトとゲッコーも他のハイエンドたちに挨拶に行き、ちょっと出遅れたフォートレスはジャッジに目をつけられて追いかけられる。

 

 

「ひぃ!? 何? 何!?」

 

「背が私とほとんど変わらないくせになんだその実りは!? 半分よこせ!!!」

 

「あひゃひゃひゃひゃ!!! ジャッジが、泣きながら追いかけてる!」

 

「笑ってないで止めてあげようよドリーマー・・・・・」

 

「確保ぉ!!!!!」

 

「ひにゃあああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、いまあのデカパイちゃんの悲鳴が聞こえたぞ」

 

「サクヤもいるでしょうし大丈夫かと・・・・それよりも手伝って頂いてありがとうございます処刑人、アルケミスト、ユウト」

 

「よせよ、他人行儀なんていらないぜ?」

 

「『手伝え』の一言があれば十分だよ」

 

「代理人姉さんはみんなの長女ですから」

 

「ふふっ、Oちゃん愛されてるね!」

 

 

手際良く調理しながらそんな会話を始める五人。時計を見えばまだ昼の二時を少し回ったところで、今から始めても早すぎる・・・・・わけでもなく、今日はちょっと早めに夕食にするつもりだ。

 

 

「一〇〇式さんたちがたくさん下さいましたから・・・・年越し蕎麦を」

 

「どれだけ普及させたいんだあいつ・・・・・いや、こりゃもう布教か?」

 

「でもいいんじゃない? 美味しそうだし」

 

「えぇ、なので早めに夕食にしましょう」

 

 

用意した食材を切っては鍋に入れ、あるいは炒める。ノーマル人形たちは彼女らで楽しむらしいのでハイエンドと人間組だけだが、それでもそこそこの人数とそれなりの大飯食らいがいるので結構な量である。

 

 

「パスタやドリアなら分けやすいでしょうし・・・処刑人のそれは、シチューですか?」

 

「あぁ、流石にこの人数分をってなるとこれくらいしか作れねぇし・・・なによりあいつが喜ぶんだよ」

 

「ははっ! 処刑人も随分と子煩悩になったな、この親バカめ」

 

「親バカで結構、あいつが笑えるならなんだっていいさ」

 

「子供、かぁ・・・・・」

 

「あ、ユウトもうそんなとこまで考えてるの〜?」

 

「えっ!? 違っ、Dさん!」

 

「その時は教えてくださいね、お祝いしますから」

 

「代理人姉さんまで!?」

 

 

からかい、からかわれながら手を動かし続ける。結局ユウトが拗ねてしまうまで弄ってしまい、ちょっとだけ反省するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ〜!」

 

「皆さん、テーブルを空けてくださいね」

 

「お、待ってました!」

 

「お腹すいた〜!」

 

「あれ? アーキテクトいつ来たんだ?」

 

「失敬な!? 最初からいたよ!」

 

「正確には、隣の部屋でマヌちゃんと密談だったけどね〜」

 

「ちょっとサクヤさん!?」

 

「貴様ら、また身内をネタにするつもりか?」

 

「「めっそうもございません!!!」」

 

 

そんなこんなで時刻は五時過ぎ、代理人らが運んできた料理の匂いにつられてアリのようにテーブルに集まる。

大皿のパスタとドリア、ボウルごと持ってきたサラダに鍋まるごとのシチュー、それ以外にも酒のつまみをいくつか並べて準備が整う。それに合わせてグラスに飲み物が注がれ、飲み過ぎない程度という警告の上でアルコール類も用意する。

 

 

「揃ったね? じゃあ代理人ちゃん、乾杯の音頭を」

 

「え? 私ですか?」

 

「他に誰がいるんだよ」

 

「じゃあ私が!」

 

「なら私が!」

 

「座ってろ変態ども」

 

「「ノリ悪〜い」」

 

「うるさい!」

 

「ふふっ、わかりました。 では・・・・・」

 

 

スッとその場に立ち、注目する仲間たちを見渡す。皆気持ちがはやるのかすでにグラスを持ち、いつでも掲げられるようにスタンバイしている。

ちょっと苦笑しつつ、代理人は喋る始めた。

 

 

「皆さん、今日はお忙しいなか集まっていただき、ありがとうございます。

・・・・・少し堅苦し過ぎましたね。 ですが、本当に皆さんと無事に年を越せそうで嬉しく思います。そして、この一年でこれほど仲間が増えるとは思っても見ませんでした」

 

「お? 私ら感謝されてる?」

 

「結果的に、だ。 調子に乗るなよアホ」

 

「アホ!? 今アホって言ったね!?」

 

「・・・・・ふふ、まぁ出会った経緯は少々問題有りでしたが、今ではいい思い出です。

さて、今日はこのメンバーで新たな年を迎え、祝いましょう。 また来年も、良い一年となるように・・・・・乾杯」

 

『乾杯!!!』

 

 

雑にグラスを鳴らし、中身を一気にあおって料理に手をつけ始める。やはりというべきかアマゾネスは結構な勢いで食べ始め、たくさん食べればよく育つという()()()理屈を信じるジャッジもやけ食いのように食べ進める。

 

 

「というかやけ食いだよね、なんかあったの?」

 

「何かも何も・・・軍の連中、揃いも揃って私をチビ扱いしやがって!」

 

「いや、実際そのt「はいドリーマー、あーん!」モゴッ!?」

 

「お前も遠慮せずに食べろよ?」

 

「・・・・・・・」コクッ

 

「姉さん、食べないのか?」

 

「いや、最近体重が・・・・・」

 

「私はいっぱい食べるサクヤさんが好きだぞ」

 

「いただきます!」

 

「新手の惚気かよ・・・・」

 

 

そんなこんなであっという間に皿も鍋も空っぽになり、飲める者は飲みながら、それ以外は皿を片付けながら話に花を咲かせる。

すでに代理人は奥へ引っ込んでおり、今頃年越し蕎麦の準備でもしていることだろう。

 

 

「代理人も相変わらずだな、こういう時くらい私らに任せればいいのに」

 

「ま、それが代理人らしいといえばらしいが」

 

「うん、そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・♪」

 

「あ、やっぱりいた」

 

「年末になってもやることは変わりませんね代理人」

 

「リッパーにイェーガー・・・・あちらにいなくてもいいんですか?」

 

「年が変わる前くらいに戻りますよ。 今は代理人のお手伝いです」

 

 

それだけ言うとリッパーとイェーガーは代理人の隣に立って食器を洗い始める。半分諦めたような感じの代理人はそれ以上特に何も言わなかったが、片付けもあらかた終わった頃にポツリと喋りだす。

 

 

「・・・・・いつもありがとうございます、二人とも」

 

「? どうしたんですか急に」

 

「いえ、店を開いてからずっとついてきてもらって・・・・・今までお礼をいう機会もあまりありませんでしたから」

 

 

蛇口をひねり、水を止める。濡れた手を乾いたタオルで拭い、二人に向き直って手を伸ばした。

 

 

「本当にありがとうございます。 来年も、よろしくお願いしますね」

 

「・・・・・・こちらこそ」

 

「よろしくお願いします、代理人」

 

 

握手を交わし、次いでなんとも言えない気恥ずかしさに苦笑する。年が変わっても何か変わるわけではないが、それでもきっと、必要なことなのだろう。

 

良いお年を。

そう言い合って、それぞれの場所へと戻るのだった。

 

 

end




はい、これにて今年の『喫茶 鉄血』の更新は最後となりました!
いやぁ一年はあっという間に過ぎますね笑

では、今回はあえてキャラ紹介とか無しで、簡単な後書きにしたいと思います。

それでは皆さま、良いお年を!


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お正月編・A面

皆さま、明けましておめでとうございます!
本年も喫茶 鉄血をよろしくお願いします!


1月1日、新年の門出となるこの日は世界中でお祭り騒ぎとなっていた。年末のカウントダウンにはもちろん花火が上がり、小さな村から大きな街まで場所、人間も人形も問わず人々は歓喜に沸いた。

そんな一大イベントから数時間、初日の出も終えた朝に代理人はキッチンに立っていた。

 

 

「ふぁ〜・・・・おはようOちゃん」

 

「おはようございます、D。 よく眠れましたか?」

 

「うん、まだちょっと残ってるかもだけど・・・・・それ、朝食?」

 

「えぇ、皆さん結構遅くまで飲んでいたようですから軽めのものを」

 

 

年が明ける前から飲み始め、昔話や近況報告をネタに結構な勢いで飲んでいた人形たちは、年が変わったあたりから一人また一人と潰れていった。

まず眠くなった少女を連れて処刑人がリタイアし、ついで飛ばしまくっていた執行人とアマゾネスがダウン、このタイミングで代理人も先に休んだため後のことは知らないが、D曰く日の出くらいまで飲んでいた者もいるようだ。あとサクヤとゲッコーは途中から見ていない。

 

 

「あ、あとハンターとユウトも早めに寝たかな。 このあとはあっちに行くみたいだし」

 

「なるほど・・・では私もそうしましょうか。 Dはどうしますか?」

 

「う〜ん、もう少しこっちにいるかな。 マヌちゃんとゲッコーと一緒にいるつもり」

 

「わかりました。 ではそろそろ皆さんを起こしましょう」

 

 

代理人の指示のもと、ぐっすり眠っている仲間たちを起こしにいくD。部屋でちゃんと寝ていたのもいるが、大体は大部屋で雑魚寝・・・というか寝落ち状態だった。一通り起こして顔を洗いに行かせると、合流したリッパーとイェーガーと共に部屋を片付け、朝食の準備に取り掛かる。

まだ眠そうに目を擦りながらノソノソとやってきたのを椅子に座らせ、代理人が料理を運んで朝食を摂る。

 

 

「ゔ〜・・・頭痛ぇ・・・・」

 

「少し、飲みすぎたわね・・・・・」

 

「そういえばハンターとユウトは何時ごろ出られる予定で?」

 

「時間は決まっていないが、食べたらもう出ようかと思っている」

 

「あら? じゃあ二人は明日の朝帰りかな?」

 

「なんでそうなるかな・・・・というより姉さんこそ、するならちゃんと扉を閉め切ってからしなよ」

 

「その・・・・結構聞こえてたから・・・・・」

 

「「えっ!?」」

 

「・・・・・なぁ、朝から糖分過多じゃないか?」

 

「もう一年分の糖分を摂取した気分だね」

 

 

そんなこんなで朝食も終わり、ハンターとユウトは街へと向かう。処刑人たちも少し落ち着いてから街に遊びに行くようで、残りはダラダラと過ごすつもりだったようだがマヌスクリプトとアーキテクトが持ってきたボードゲームで時間を潰すことになった。

罰ゲームがどうこうで揉めていたようだが、正月くらいは見逃してやることにした。

 

 

「ふぅ・・・・さて、私もそろそろ行きますね」

 

「うん、片付けは任せていいよ!」

 

「会いたい人たちもいるだろうしね・・・・・特にM4とか」

 

「ふふっ、そうですね・・・・・では、行ってきます。 ゲーガー、少し車を借りますよ」

 

「あぁ、出て右に止めてあるやつだ」

 

 

ゲーガーから鍵を受け取り、車に乗り込んだ代理人はS09地区の司令部を目指して出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あけましておめでとうございます、M4」

 

「あけましておめでとうございます!」

 

 

特に何事も起こることなく司令部へと着いた代理人は、これまたトラブルもなく敷地内へと招かれ(なぜか顔パス)、通りすがった人形に道を聞いてM4の元へとやってきた。

彼女以外の小隊員が皆それぞれの想い人たちと過ごしているので、必然的に彼女は一人ということになる。

 

 

「こういうのはお節介かもしれませんが・・M4はいい相手とかはいないのですか?」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますね」

 

「「・・・・ぷっ、ふふふ、あははは!」」

 

「・・・・・今年もよろしくお願いしますね」

 

「はい、今年もよろしくお願いします」

 

 

その後、道行く人形たちに挨拶しながら指揮所を目指す。とりあえず初めにM4の元へと向かったが、普通に考えれば指揮官が最初・・・なのだがそこは誰も気にしない。

そうして指揮所まで来ると、案の定というか入り口でいがみ合う指揮官ラブな人形たちに遭遇する。おそらく一〇〇式あたりが布教しているであろう晴れ着を身につけているが、残念なことにお淑やかさのかけらもない。

 

 

「皆さん、あけましておめでとうございます。 年明けから相変わらずですね」

 

「おけましておめでとうございます。 一年の刑は元旦にあり、ですよ」

 

「つまり、この日を制するものが一年を制す!」

 

「で、いざ行こうとして尻込みと?」

 

『うぐっ!?』

 

 

彼女らも平常運転なようで安心したところで、代理人がスタスタと入っていく。というか彼女らを待っていると日が暮れても入れそうになかった。

 

 

「あけましておめでとうございます。 突然押しかけてしまい申し訳ございません」

 

「ん、代理人か。 あけましておめでとう」

 

「元旦からお仕事ですか、グリフィンも大変ですね」

 

「部下が休むためには必要なことだ、異論はない」

 

「ふふっ、部下思いの指揮官さんですね。 では・・・・・」

 

 

そう言って代理人はポケットから小さな紙をとりだし、そっと机の上に差し出した。

 

 

「お店は三日から開ける予定です。 これはその時に使用できるコーヒー一杯無料券ですので、またいつでもお越し下さい」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「いえいえ、それでは私はこのあたりで」

 

 

簡単だが挨拶を済ませると、代理人はくるりと踵を返して扉を開く。

が、入り口にまだ例の人形たちがいるのを確認すると、振り返って少し大きめの声でこうも言った。

 

 

「そうそう、その券ですが・・・・・ペアチケットとなっていますので、必ず『ペアで』お越し下さい」

 

『代理人・・・・・・』

 

「ん? そうか、わかった」

 

 

そんなある意味爆弾発言だけを残して部屋を去ると、次に向かったのは代理人が個人的にでもお世話になっている人形たちの部屋。

すなわち、404小隊の部屋である。

 

 

「失礼します・・・・・おや、やはりいましたね45さん」

 

「あら、代理人じゃない。 珍しいわね」

 

「新年のご挨拶にということです。 ところで、お一人ですか?」

 

「え? えぇ、何故かね・・・・・嫌な予感しかしないけど」

 

 

そう言うと途端にあたりを警戒し始める45。言わずもがな9と416は揃って出かけており、G11は面白いことを求めて彷徨っているか炬燵のある日本銃の部屋にいるだろう。ゲパードはそれを探し回っている頃だろうし、残る一名は朝から見ていない。

 

 

「ふむ、では何かが起こる前に用件だけ済ませておきましょうか。 あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとう、今年もよろしくね」

 

「はい。 それと、この無料券も差し上げますね」

 

「・・・・三枚?ってあぁ、ペア券なのねこれ」

 

「ちょうど六人なので、これで大丈夫のはずです」

 

「いや、人数だけならそうなんだけd「ペア券なら私と行こうよ45!」・・・・ほらやっぱり」

 

 

まるでずっと聞いていたかのようなタイミングで現れる40に抱きつかれ、途端にゲンナリとした表情になる45。というか誰だって鼻息を荒げた奴に抱きつかれれば鬱陶しくなる。

 

 

「あ、代理人あけましておめでとう! 今度あたいと45で遊びに行くよ!」

 

「えぇ、お待ちしてますよ」

 

「とりあえず離れなさいよ40、私は今日はここから出ない予定なんだから」

 

「正月から不健康だよ45・・・・・あ、もしかしてあたいと一緒にいたいってこと? きょうはお邪魔虫(F45)もいないから遠慮はなしだよ!」

 

「ええぃとりあえず離れろこのシスコン!」ブーメラン

 

 

姉妹仲良くじゃれ合う様子に微笑む代理人。どさくさに紛れて40が脱がしにかかっているが、止める様子はないようだ。

 

 

「ちょっ!? 40どこ触って・・・」

 

「45、胸って揉まれれば大きくなるらしいよ」

 

「それ迷信でしょ! つか年明け早々くらい自重しなさいよ!」

 

「45、一〇〇式からこんな言葉を教えてもらったんだ・・・・・・姫はj「ストッッッッップ!!!」

 

「ふふふ、では私はお邪魔のようなのでこのくらいで」

 

 

45が助けを求める声を都合よく聞き逃し、代理人は部屋を後にする。

そろそろ帰ろうかと思い玄関まできたところで、突然後ろから呼び止めれた。

 

 

「代理人!」

 

「ん? あら、ダネルさん」

 

 

そこにいたのは代理人一筋ガールのNTW−20、ダネルだ。そういえば久しく会ってなかったなぁと思っていると、そのダネルが代理人の目の前までやってきて、

 

 

「あけましておめでとう代理人、私と付き合ってくれ」

 

「あけましておめでとうございます、それとごめんなさい」

 

 

速攻でフラれた。という流れも久しぶりだがいつものことなので、互いに気まずくなることもない。

 

 

「ふふっ、あなたを振り向かせるにはまだ早かったようだ・・・・だが、この一年で必ず振り向かせて見せるぞ!」

 

「その抱負は叶いそうにありませんが・・・またいつでもお待ちしてますよ、お客様として」

 

「あぁ、またお邪魔させてもらうさ」

 

 

そうして最後はダネルに見送られて、代理人は司令部を去るのだった。

 

 

end




はい皆さん、あけましておめでとうございます(もう夜)
今年も喫茶 鉄血を、よろしくお願いします!

今回は代理人のお話で、次回はハンターとかユウトとかの話を予定してます。
書きたい話が結構あるので、もしかしたら今月ずっと正月回かも笑

では今回のキャラ紹介!

代理人
ゆっくりするとは言いながらじっとしていられない主人公。
基本真面目だが、楽しむときはちゃっかり楽しむタイプ。

M4
AR小隊が彼女を除いて彼氏彼女持ちになっているが、本人はあまり気にしていない。誰にでも優しいが恋愛に発展しにくい、男泣かせなタイプ。

指揮官ラブ勢
いつものメンツ。年末は怖気付いて年始も怖気づくあたりあまり成長していない。いがみ合っているが仲が悪いわけではなく、この後みんなで初詣に行った・・・・・神社は日系人と一〇〇式らが建てたもの。

指揮官
部下を休ませるために働くという上司。そのため指揮官と楽しみたい人形は何とかして仕事させないようにする。
シンプルに休み方が下手なタイプ。

45&40
正月をグータラで過ごそうとする人形たち。部屋で寝転びながらテレビを見て、時々起きてご飯を食べてまた寝転ぶ。
基本暇な部隊なので休み方は心得ている。

ダネル
代理人に明確な好意を抱く唯一の人形。
脈はないが……まぁ頑張れ


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お正月編・B面

新年早々に更新が遅れるという失態。いや、年末年始の特番が悪いんだ。
というわけで今回は糖分増し増しでお送りします。

あ、G11の正月スキン買いました笑


代理人がS09地区の司令部で挨拶回りする少し前、一足早くS09地区についていたハンターとユウトは、閉店中の喫茶 鉄血の前に車を止めて歩いていた。

それぞれの集合場所はバラバラだが、路地を抜けるまでは同じなので並んで歩いていく。

 

 

「・・・そういえばユウト、お前はこれが初デートか?」

 

「うっ・・・意識しないようにしてたのに・・・・・」

 

「ははっ! まぁあいつらはお前に惚れたんだ。 どこに行っても楽しいだろうさ」

 

「簡単に言って・・・・・そういうハンター姉さんの初デートはどうだったんですか?」

 

「私か? もちろん緊張したさ、お互いほとんど目を合わせられないくらいにな」

 

 

今でこそ公衆の面前でも平然といちゃつくハンターたちだが、最初は誰でも同じようなものらしい。むしろここまでこれるくらいに長い付き合いだからこその余裕だろう。

ということで、今回はこの二人の元旦デートの様子を見てみることにしよう。

 

 

 

 

 

ハンターの場合

 

元鉄血工造ハイエンドモデル、ハンターとその彼女であるAR-15及びD-15。彼女たちの馴れ初めは以前に知っていただいたとは思うが、それはまぁ糖分に満ち溢れたものであった。

何気にこの地区におけるカップルで、かつ鉄血製人形の中で最も古参なカップルである彼女らの元旦デートもまた、のっけから糖分全開である。

 

 

「あ、ハンター」

 

「やぁ二人とも、待たせたか?」

 

「ううん、全然」

 

 

と言いながらも待ってましたとばかりにハンターに抱きつき、両側から頬にキスをする。ハンターもハンターでそれをしっかり抱きしめると、それぞれにキスを返す。見ているこっちが胸焼けを起こしそうだが、これはまだ序の口。

まず三人が向かったのは、地区の大通りで開かれている出店。比較的大きな街であるS09地区では、新年を迎えたこの日に街のあちこちで出店が開かれる。大通りのものは食べ歩くものから衣服や雑貨などの露店もあって一番大きな規模となる。

 

 

「やっぱりすごい数ね・・・」

 

「街の端から端まで連なっているからな。 あ、D-15は初めてか?」

 

オリジナル(AR-15)の記憶は受け継いでるけど、実際に見るのは初めてよ」

 

「そうか・・・ならまずはあっちだな」

 

 

そう言ってハンターが連れて行ったのは、アクセサリー類の店が多く集まる一角。その中でもなぜか大きな店ではなく、少しこじんまりとした店の前で立ち止まった。

 

 

「あぁ、ここね・・・・懐かしい」

 

「ここって確か・・・」

 

「あぁ、AR-15と二人で来たときに初めて立ち寄った店だ。 その時にネックレスをプレゼントしたんだが、お前にはまだだったな」

 

「おや、今年も来てくれたのかい?」

 

 

そんな三人に、店の主人が声をかける。去年も来たから覚えていた・・・というより、決して訪れる客の数が多くなく、しかもそれが人形同士のカップルとなれば忘れようがない。

すると何も言っていないのに突然店の品物をいくつか入れ替え始め、見るからに高そうなアクセサリーが表に出てくる。

 

 

「おい主人、値札が変わってないぞ?」

 

「あぁ、変えとらん。 その値段で売ってやろう」

 

「・・・去年も思ったけど、なんで初めから売らないの?」

 

「これはワシが現地で仕入れた逸品だ、ワシが売りたい相手にしか売らんよ」

 

「そんなのだから店の規模も変わらないのだぞ主人、まぁ助かるから構わないが」

 

 

さてオリジナルの記憶では知っているというD-15も、さすがに現物を見ると軽く目が回り始める。別に彼女が貧乏というわけでもなく、むしろあのAR小隊の専属オペレーターであるためそこそこの給料はもらっている。

が、それでも目が眩むほどの価値があると認識している。

 

 

「私が選んでも構わないが・・・・気に入ったのがあれば言ってくれ」

 

「ふぇっ!? え、いや、でも、その・・・・」

 

「ほぉ、そこの娘さんの時と同じリアクションだな」

 

「まぁ、一応『私』だから・・・・・気持ちはわかるわよD-15」

 

 

わたわたと狼狽るD-15だが、残念なことにどれがどのくらいの価値かは正確にはわからない。なのでとりあえず小さめのものを手に取ってみると、

 

 

「おぉ、なかなかいいチョイスだ。 ちなみにそれの元値は・・・・これだな」

 

「はうっ!?」

 

「主人、あまりからかわないでやってくれ」

 

「性格悪いって言われるわよ」

 

「安心せい、もう言われとる」

 

「は、ハンター・・・お家が買えるわよ・・・」

 

「(可愛いなぁ)大丈夫だD-15、そこまで高くない・・・・実際はそれの三分の二くらいだろう」

 

「・・・・・・チッ」

 

 

店主の舌打ちが聞こえた気がしたが務めて無視する。AR-15もからかってやろうかと思ったが、昨年の自分がそうだったので流石にやめておいた。

結局選びきれないということでハンターに任せ、小ぶりのアメジストが埋め込まれた指輪に決める。プレゼントなのでハンターが買ったのだが、そこでも慌てて自分の財布を取り出すD-15を止めるという場面があったりした。

 

 

「さて、じゃあ次に行こうか」

 

「も、もう高い買い物はなしでいいよハンター!」

 

「あら? まだまだあるのにもういいの?」

 

「こらこら、あまりいじめてやるな」

 

「AR-15のいじわる!」

 

 

やいやいと騒ぎながらも、三人は屋台を回り始める。食べ歩いたりあーんしあったりD-15をいじったり逆にいじられたら店の人にちゃかされたり・・・・・とまぁ甘々カップル感を漂わせながら年明けお祭りムードを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウトの場合

 

ハンターと別れたユウトは、恋人二人との待ち合わせ場所に着くと同時に頭を抱えたくなった。先ほどハンターが言った通り、ユウトは今回が初デートとなる。ただでさえこの世界の土地勘やら流行に疎い上、さらにこれまた右も左も分からない年始の出店。

男なら女性をリードするものという若干前時代的なことで頭を悩ませるユウトだったが、大した解決策も出ないうちに待ち人がやってきてしまう。

 

 

「あ、あけましておめでとう、ユウト」

 

「今年も、よ、よろしくお願いします!」

 

「あけましておめでとうございますM16さん、ROさん」

 

 

ユウトの彼女たち、M16とROはそれぞれ私服にマフラーとちょっとしたアクセサリーというシンプルながらオシャレな服装だった。基本的に会う時は普段の仕事着だったのでドキッとするユウトだが、それはあっちも同じようで互いに固まってしまう。

 

 

「えっと・・・・・とりあえず、行きますか?」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

「ではっ、まずどこに行きましょうか?」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

 

再び沈黙。

ユウトとしてはここで気の利いた場所に連れて行きたいところなのだがそもそも場所も知らず、ROもこういうことには疎いのでオロオロしている。そうして必然的に、残ったM16に決めてもらうことにした。

 

 

「え、いいのか?」

 

「えぇ、お任せしてもいいですか?」

 

「まぁそういうことなら・・・・じゃ、ちょっと付き合ってもらうぞ」

 

 

そう言うとやや上機嫌に歩き始めるM16。その足の向かう先は大通りから少し外れた路地のようで、ユウトとROはどこへ向かうのだろうと首を傾げながらついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ぷはぁ〜! やっぱり寒い日はこれ()に限るぜ!」

 

「ってここ酒屋しかないじゃない!?」

 

「あ、代金は僕が出しますから好きなだけ飲んべください」

 

「ユウトさん!?」

 

 

S09地区の年明け屋台は何も大通りだけではない。街にいくつかある公園でもいくつか店が出ており、大小様々な路地の中にも出店が並んでいる。もともとある店自体はまだ閉まっているのだが、それぞれが出店として商売を始めるため品揃えも豊富なのだ。

そして三人が向かったのは、酒関係の屋台だけが集まった小さな通りである。

 

 

「ごめんなさいユウトさん、せっかく誘っていただいたのに姉が御迷惑を」

 

「いえ、楽しんでくれたのならそれで十分ですよ。 ほら、ROさんも一杯」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

 

チラッとM16を見ると、もうすでに何軒か先の屋台まで行っている。もともと物流の規制が少ない欧州の街ということもあって世界中から酒が集まりやすく、それがこの狭い路地に密集しているのだから酒好きのM16にはたまらないだろう。

だが、ROはあえてM16を自由にさせていた。

 

 

(M16には悪いですが、ユウトさんと二人きりになるチャンスですから)

 

 

意中の人と二人きり、そしてそこそこお酒が入っているということで、ROはちょっとだけ積極的になってみることにした。何かあればお酒のせいにできるという言い訳もあったのだろう。

いかにもちょっと酔ってますという雰囲気で、ユウトの腕に抱きついた。

 

 

「ろ、ROさん?」

 

「ごめんなさい、少し酔ってしまったみたいで・・・・」

 

 

さらに思い切って体を預けるようにしてみる。

一見落ち着いているように見えるゆうとも、内面では大いに焦ることになった。初デートで緊張しているというのに突然彼女が腕に抱きつき、それなりにあるモノを押し付けてきているのだ。

決して自分が欲に塗れた獣だとは思っていないが、理性が削られているのは確かである。

 

 

「と、とりあえずそこのベンチで休みましょうっ!」

 

 

ややテンパりながらROをベンチに座らせると、ユウトは屋台で水をもらってこようと立ち上が・・・・・ろうとして、腕を引かれて止められた。

酔っているという割にはしっかりと掴んだ腕を離さないROの顔は真っ赤だったが、それが酒のせいかどうかはわからない。ただ、いつもなら気恥ずかしさが勝つようなことも、今ならできた。

 

 

「い・・・・一緒に、いてくれなきゃ、いやです」

 

「っ!?!?」

 

 

そんなことを言われて、なんとも思わない男などいるだろうか。まして経験0なユウトからすれば破壊力抜群の一言である。

ユウトはそのままベンチに座ると、改めてROを見る。抱きつかれた腕に彼女の鼓動と熱が伝わり、それが一層彼女を扇情的に映す。互いに視線を交わすと、無言のまま顔を近づけ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいストップ」

 

「え?」

 

「な!? M16!」

 

 

なんともいいタイミングで帰ってきたM16が、二人の間に手を伸ばして遮った。その顔はしてやったりといった感じで、いい雰囲気を邪魔されたROからすれば憎たらしいことこの上なかった。

 

 

「一人だけお楽しみとは感心しないなぁ、RO?」

 

「一人で飲み歩いているM16が悪いんですよ・・・!」

 

「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて」

 

「ほら、ユウトさんもこう言っていますよ」

 

「それもそうだな・・・・それじゃあ」

 

 

そう言うとM16はユウトを挟んでROの反対側に座り、ROと同じくユウトに抱きつく。さらにその方にコテンと頭を乗せ、上目遣いでユウトの顔を見上げた。

 

 

「わ、私もこうしてても・・・いいか?」

 

「わ、私だって!」

 

「わわっ!? ふ、二人ともくっつきすぎですって!?」

 

 

二人の美少女に挟まれ、理性と衝動の板挟みになるユウト。

そんな三人に、酒屋のオヤジたちの微笑ましい視線が向けられるのだった。

 

 

end




いよいよ正月休みも終わりですね。皆さん、そろそろ現実に引き戻される覚悟を決める時ですよ?

では、今回のキャラ紹介!

ハンター・AR-15・D-15
この作品でもっとも長いカップル。D-15が加わった経緯もAR-15の惚気から。
もう細かいことでは照れなくなったが、変なところで恥ずかしがったりする。なんとかハンターをおちょくろうとするも、大体カウンターを喰らう。多分原作からかなり遠いAR-15。

ユウト・M16・RO
屋台といえば酒、というイメージがあったのでこんな感じに。
イメージ的にはユウトとM16が大体同じ背丈、ROがやや小さめという感じ・・・・・ROに見上げてもらえてM16が方に頭を乗せてくるとか羨まけしからん!


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第百三十七話:シスコン担当員FALさん

シスコン会が有耶無耶になった今、FALの心労は消え去った・・・・・とでも思っていたのか?

FAL「っ!?」


兄弟姉妹、というのは特別な存在である。家族という単位の中でもさらに親密な関係で、自分と似ていながら全く似ていない、不思議な相手である。

血のつながりがない、もしくは親が違うこともあるが、それでも似るところは似てくるというのは面白い関係に思う。

姉妹銃という区分を持つ戦術人形たちにも、これが当てはまることが多い。性格が全く似ていないカルカノ姉妹、容姿の共通点がほとんどないPKとPKP、逆に見た目が結構似ているUMP姉妹などなど・・・・・そんな彼女たちも、姉妹という特別なつながりを大切にするのだ。

 

そして、その姉妹愛が時には行きすぎたものになるなどしょっちゅうのことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、コーヒーをもらえるかしら?」

 

「あらFALさん、あけましておめでとうございます」

 

 

年明け開業から数日、ふらっと現れたのはこの喫茶 鉄血常連客の一人であるFAL。相棒のフェレットを肩に乗せ、相変わらずのセンスで着崩した服を身にまとう。

そんな彼女だが、この店で常連と呼ばれる原因の大半には他の人形たちの存在がある。が、見渡す限りそんな集まりがあるようには見えない。

 

 

「あ、今回は普通に客としてきたのよ。 ここ最近大人しくなってくれたしね」

 

「それもそうですね・・・・・あとは、MG34さんくらいですか?」

 

「本部に(MG42)と一緒に送られたわ。 これでもう一安心ね」

 

「あらまぁ、それはおめでとございます」

 

「ふふっ、ありがとう。 あぁ、ついに胃薬のいらない日がやってきたのね!」

 

 

まさに感無量、といった感じで喜びをあらわにするFAL。決して彼女は例のシスコン会を嫌っているわけではないが、不毛な議論に巻き込まれては収拾をつけなければならなくなる心労というものは如何ともし難いのだ。

相棒のフェレットは主にそんな彼女の癒しとして機能してはいるのだが、FALの悩み自体をどうにかすることはできないので、これで本当に解放されたと喜んでいる。

 

 

「これなら今年一年は安泰ね。 そのまま45がゴールインしてくれれば言うことないわ」

 

「・・・・若干フラグみたいなことになってますよFALさん」

 

代理人が苦笑しながらそう言うが、上機嫌なFALにはもう聞こえていなかった。まぁ一時の彼女は本当に疲れ切っていたので、今の様子は代理人としても喜ばしいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、どうやら天はFALには優しくないようである。

 

 

「こんにちは代理n・・・・・あっ、いた!」

 

「? どうしました40さん?」

 

 

妙にそろ〜っと入ってきたのは、404小隊の新戦力にして新たなシスコンのUMP40。そんな彼女は店内を見渡し、ある人物を見つけるとササっと駆け寄った。

 

 

「あなたがFALだね?」

 

「・・・・・・え? 私?」

 

「うん。 実は相談したいことがあって」

 

 

相談、その一言で見る見る目が死んでいくFAL。しかも現れたのがあの45絡みでシスコンの40。今年は良い年を迎えられたという喜びから一転して、FALは新年の到来を呪いたくなった。

流石に不憫なので、代理人も助け舟を出す。

 

 

「あの、40さん。 何かお困りごとなのでしたら私も相談に乗りますが?」

 

「本当!? でも、こういうことはFALに相談した方がいいって聞いたから」

 

「「・・・・・それ、どなた(誰)に?」」

 

「え? G11だけど」

 

「あんの愉悦人形がぁああああああ!!!!!」

 

 

ついにFALがブチ切れた。目の前の40はまだ付き合いがそこまで古くもないので詳しくは知らないが、G11といえば面白いことには首を突っ込み、さらに炎上させるという一部の間では要注意人形である。早い話が、起爆剤と燃焼剤がマッチを持って彷徨いているようなものなのだ。

 

 

「アイツゼッタイユルサナイ」

 

「心中お察しします・・・・・ですが、別に彼女でなくてもいいのでは?」

 

「う〜ん、でも誰に相談すればいいかわかんなくて・・・FALなら親身になって聞いてくれるって、G11が」

 

「うぅ・・・・私の、平穏な一年はどこに・・・・・」

 

 

泣く泣くコーヒーを啜るFALだが、流石に40をそのままにしておくのもアレなので隣に座らせる。なんだかんだ面倒見のいい彼女は放っておけないのだ。

コーヒーを飲み干し、おかわりと追加で40の分も注文したFALは、気持ちを切り替えて40の話を聞き始めた。

 

 

「・・・で? どういった悩みなのかしら?」

 

「えっと、実は今度45とデートに行く約束をしたんだけど、正直どこに行けばいいかわかんなくて・・・・」

 

「意外とまともな相談・・・・じゃなくて、それはあなたと45の二人だけなのよね?」

 

「うん。 今度はF45に邪魔させないよ!」

 

 

そう、と呟くとFALは真剣に考え始める。シスコン相手なので少々不安ではあったが相談自体は至ってまとも、ならば真面目に答えてやらねば失礼だ。

これでもそれなりにセンスがあることを自負しており、さらに傷心旅行みたいな感じであちこちに遊びに行っているので割と詳しい。

 

 

「ふふっ、真面目に相談には乗ってあげるんですね」

 

「まぁね。 さて、まず単刀直入に言うけど、あなたに対する45のイメージは決して良いものではないわ」

 

「うっ・・・・や、やっぱり?」

 

「自覚はあるのね、じゃあ結構。 というわけで今回のデートでは、あまりがっつかないようにするのを心がけましょう」

 

「がっつかない・・・・・それってどこまでがセーフ?」

 

「手を握るとか・・・・・アーンくらいかしら?」

 

「え、チューは?」

 

「まだ早いわよ」

 

「そんなぁ〜・・・」

 

 

アーンも早いと思います、と言おうとした代理人だがとりあえず黙っておいた。確かに現状45と40の関係は姉妹愛であり、恋愛ではない。とりあえずしばらくは45の警戒を解くのを優先するべきだろう。

 

 

「でしたら、映画やショッピングはいかがでしょうか? それだけでも十分楽しめるものなら、関係改善もうまくいくのでは?」

 

「そうね。 ただ映画なら恋愛モノは避けて、ショッピングは相手の選びたいものに任せるのが条件だけど」

 

「なんでその条件?」

 

「あなたが暴走するからよ」

 

「しないよ!? ・・・・・・・多分」

 

「「多分って・・・・」」

 

 

この辺りの積極性はさすがシスコンだと思うFALと代理人。とは言え、幸いなのはまだ比較的まともな部類(比較対象:去年始めの方の45)なので治そうと思えばなんとでもなる。このまま上手いこと更生できれば、将来的に降りかかる火の粉を抑えることができるはずだ。

もっとも、相談に乗った時点で「困ったら相談=FAL」という図式になってしまっていることには気付けていないのだが。

 

 

「まぁいいわ。 とにかく、今回は変な気を起こさなければ大丈夫よ、できる?」

 

「うん!」

 

「よろしい。 ならこれ以上言うことはないわ、頑張ってきなさい」

 

 

そう言って40を追い返し、再びコーヒーを啜る。

 

 

「慣れてますね」

 

「嫌でも慣れるわよ・・・やってみる?」

 

「あら、その場合はうちのマヌスクリプトとアーキテクトの二人と交換ですね」

 

「遠慮しておくわ」

 

「代理人それ酷くない?」

 

 

奥からひょこっと顔を出したマヌスクリプトがそう文句を垂れる。

何はともあれ、今回は比較的穏便に済んだようでFALの胃が痛むこともなかったようだ。代理人もホッと一息つき、またコーヒーのおかわりを注ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャッ

「ふぁ、FALさん! 今度45お姉ちゃんとデートするんだけどどうすれば!?」

 

「ちょ、ちょっと今度は何よ!? つかなんで私なのよ!」

 

「だって相談するならFALさんだってG11が!」

 

「ぬがぁあああああああああ!!!」

 

 

end




すまんなFAL、今年も君の扱いは変わらんよ。
そろそろG11にお灸を据えねばならないかもしれませんね笑

では今回のキャラ紹介!

FAL
シスコン絡みで苦労を背負い込む胃薬愛用人形。
他にも、とある事情により指揮官ラブ勢からも目をつけられている。

代理人
代理人ができるのは、コーヒーを出すことくらいである。

UMP40
初めはシスコンではなかったようだが、長年会えなかった間に想いが募りこじれてこうなった。
本人曰く、気がついたら手を出していたらしい。

F45
初めは40への対抗意識だけだったが、気がつけばかなり積極的になってしまった。
酒の勢いがかなり強いのが特徴。


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第百三十八話:この愉悦部に鉄槌を!

以前からちょくちょく要望があったので、ここらへんで一度痛い目にあってもらおうかと笑

ついにMODが実装されましたね!そしてFNCの意外な性格にびっくりしました。


Gr G11、という戦術人形がいる。グリフィンの特殊部隊である404小隊に属し、様々な任務をこなしてきた歴戦の猛者である。

戦術人形としても非常に優秀で、ARタイプの中でも最高クラスの射速と命中率、さらにはある程度の電子戦まで可能と実に高性能だ。

 

が、彼女がその能力を発揮するのはあくまで戦闘でのお話。平常時にはその性能を遺憾なく発揮して周囲を焚きつけては巻き込むトラブルメーカーと化す。

そんな彼女を表す言葉の一つが、『愉悦部』である。

 

 

「はい、というわけで『第一回、クソ生意気な愉悦部に制裁を下そう会議』を始めるわよ」

 

 

そんな何ともアホらしい会議を堂々と開くのは、つい最近彼女の被害に遭ったばかりのFAL。何度も何度も会議を企画しては実行してきたこともあり、この喫茶 鉄血での貸切予約も手慣れたものだ。

 

 

「はぁ・・・・・で? なんで私が呼ばれたのかしら?」

 

「え、だって保護者みたいなものでしょ?」

 

「誰が保護者よ」

 

 

集まった面々は、それぞれG11の被害者だったり関わりがる人物たち。保護者枠で呼ばれたHK416や同僚のゲパードM1、ちょいちょい情報に踊らされている指揮官ラブ勢・・・の妹や同僚(M1ガーランド・Gr G36C・カラビーナ)、あとはアドバイザーとしてF小隊からF11が呼ばれている。

そしてみんな考えていることは大体同じ・・・・・「そろそろあいつどうにかしないと」である。

 

 

「で、どうするの? お灸を据えるだけなら、コイツ(ゲパード)ぶつけりゃいいんじゃないの?」

 

「それが一番手っ取り早いのは事実よ。 でも・・・・・その程度で治る怒りじゃないわ!」

 

「ええそうです! 姉の純情をまるでおもちゃのように扱うなど許せません!」

 

「純・・・情・・・?」

 

「はいはいストップ」

 

 

話が脱線しそうになったところで416が一旦止める。そして未だ喋らない・・・というより訳もわからず呼ばれただけのF11に視線を向ける。

 

 

「ねぇF11、あんたってG11のフィードバックモデルよね? なんか苦手なものとかないの?」

 

「え、苦手なもの?」

 

「そうよ。 例えば、虫が嫌いとかロリコンが嫌いとか」

 

「それ、私でなくても嫌じゃないかな?」

 

 

ちなみに虫が嫌い、というよりも『G』が嫌いなのだ。まぁこれには大体の人形が当てはまるので有効と言えば有効だが。

あとロリコンはそこまで苦手でもない。というのも彼らはある意味紳士であると知っているからだ。YESロリータNOタッチ、である。

ついでに言うと、G11自体は貧乳の部類だが巨乳への憧れも薄いためその他の罠は使えない。45あたりには効くかもしれないが。

 

 

「・・・・・ん? てことはその前提条件から外れれば使えるのよね?」

 

「え? いや、そうかもしれないけど」

 

「ふふふ、なら話は早いわ・・・・・私に考えがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

目が覚めると同時にG11は困惑した。あたりを見渡せばそこはいつもの自室ではなくほとんど何もない真っ白な部屋。窓はなく、壁と同じ真っ白の扉が正面と左右の壁に一枚ずつ。家具も自身が寝転がっている愛用ベッド以外なく、部屋というよりも牢獄と言った方が合っていそうな感じだ。

おまけに・・・・・

 

 

「なんでコイツが・・・・・」

 

 

G11の背丈に比して大きめのベッド、そこに寝転がっていたのはG11だけではない。ちょっと身を丸めながらスヤスヤと眠っているのは、G11の数少ない苦手要素であるゲパードである。

 

 

「・・・・・とりあえず、寝ている間に脱出を・・・」

 

 

若干の貞操の危機を覚えたG11はゲパードを起こさないようにそ〜っとベッドを降りると、部屋から出るべく扉の方へと向かう。

が、その前まで行ってピタリと足を止めた。なんとこの扉、取っ手がないくせに手前に引くタイプなのである。おまけにドアと壁の隙間もほとんどないため、指先でこじ開けることもできない。

 

 

「チッ・・・・じゃあ他は・・・」

 

 

そう呟くと、今度は別の扉の方へと向かう。どうやらこっちは引き戸のようで、取手と思しき小さな窪みがある。

これで無事脱出、と安心しきって扉を開いたG11は一歩踏み出し・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カサカサカサカサカサカサカサ………

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

バタンッ!

 

 

もの凄い勢いで扉を閉めた。扉の先はちょっとした段差となっており、そこから一歩降りた床に這いまわっていたのはあの忌々しきGを模した無人機たち。兵器としての開発はすでに終了したと聞いていたが、どうやら民間向けに製造が続けられたらしい。主に害虫駆除訓練やバラエティ用である。

まぁそんなことはG11にはどうでもよく、すぐさま最後に扉へと走った。

 

 

バンッ!

「こ、今度こそ!」

 

『うぉおおおおおおおG11ちゃぁああああああんんんんん!!!!』

 

「ひぃい!?」

 

 

先ほどと同じように開けた扉の先はなんと二階分を吹き抜けにしたような部屋であり、出口はそこを降りた一階部分にしかなかった。しかも梯子や階段の類はなく、そこそこの高さを飛び降りるしかない。

だが、G11が遅れたのはそれではなかった。

 

 

「G11ちゃん! 早く降りておいで!」

 

「大丈夫! おじさんたちは紳士だからね!」

 

「ボクワルイオジサンジャナイヨ」

 

「さぁ降りてきたまえ! この私が受け止めてあげよう!」

 

 

一階部分、そこにまるで祭りか何かのように集まったパンツ一丁の男たち。口先だけなら紳士だが息を荒げて目を血走らせている時点で信用もへったくれもない。

FAL立案、マイスターの会全面協力のもと集められた、『G11ちゃんと××し隊』の面々である。

 

 

バタンッ!

「はぁ・・・はぁ・・・・ど、どうしよう・・・・」

 

 

実はこの部屋が一番安全なんじゃないか、とまで思い始めるG11。ここまで来るとあの開かずの扉にかけるしかないのだが、もし本当に開かないのであればあのどちらかの部屋を通りことになる。

・・・・・というところでG11は思いついた。

 

 

「・・・・・アレ(ゲパード)を囮にすればいけるんじゃない?」

 

 

なんともひどい話だが、それくらい今のG11には余裕がない。もちろん貞操の危機という点はあるが、まぁ最悪口約束だけで済ませて逃げ続ければ済む話だ。

 

 

「お〜い、ゲパード」

 

「・・・う・・・うぅん・・・・あ、お姉さま! おはようございます!」

 

「あ〜うん、おはよう」

 

 

のっそり起き上がったゲパードだが、G11を見つけると眠そうな顔からパァッと笑顔を溢れさせる。これだけなら従順な後輩なのだが、超肉食系なのが玉に瑕だ。

それはさておき、G11はゲパードに軽く現状を説明し、一緒に脱出しようと持ちかける。

 

 

「なるほど・・・・お姉さまの頼みとあっては、断る理由はありません

!」

 

「うん、ありがとう」

 

「えぇ、それでは早速(ガチャッ)・・・・・ん?」

 

「え?」

 

 

ベッドから降りようとしたゲパードだが、直後になにやら鎖がぶつかるような音と共に動きが止まる。

嫌な予感ともにG11は掛け布団を剥ぎ取ると、なんとゲパードの足首に枷が付き、そこからベッドの足に鎖が伸びていたのだった。

 

おまけに、足枷になにやらメッセージカードまで付随している。

 

 

「なになに・・・・・『一つだけ開かない扉がありますが、動作不良ではありません。 この枷の持ち主とチョメチョメしないと開けることができません。 お急ぎの場合は、他の二つをご利用ください』・・・・・ってアホかぁあああああ!!!!!!」

 

 

その場でメッセージカードをビリビリに破り、床に叩きつける。誰だか知らないが、こんな手の込んだ悪戯を仕掛ける輩には制裁を下さねばならない。

それが身から出た錆だと気付かぬまま怒り狂うG11だったが、次の瞬間いきなり腕を引かれてベッドに寝かされる。

誰が、など考えなくともわかる・・・・・・このいかにも我慢の限界ですといった目つきの、ゲパードだ。

 

 

「つ、つまり・・・・お姉さまと・・・・!」

 

「ま、まってゲパード、他にもきっと方法が・・・・・」

 

「? ではなぜ他の扉を使わないんですか?」

 

「え゛っ!? そ、それはその・・・・・」

 

「やっぱりお姉さまも・・・・・・これはつまり同意と見てよろしいんですね!?」

 

「んなわけあるか! ちょっ、どこ触って!」

 

「これはこの部屋から出るためですよ、そう、仕方のないことなんですだからなにをやったって全部仕方のないことなんですではさっそくいただきまーす!」

 

「ちょっ、まっ、やめっ、アーーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇFAL」

 

「何かしらF11?」

 

「これ、あとで仕返し食らうんじゃない? 大丈夫なの?」

 

「そんなの覚悟の上よ。 あのG11の慌てふためいた顔が見れただけで十分よ」

 

「ならいいけど・・・・・で、これで本当にあの扉が開くの?」

 

「えぇそうよ。 といってもトイレしかないけど」

 

「・・・・・・・え、じゃあまさか」

 

「ただの無駄足ね」

 

「・・・・・・本当にどうなっても知らないよ」

 

「・・・・・他人事みたいに言ってるけどあなたも同罪だからね?」

 

「 」チーン

 

 

end




さくやは おたのしみでしたね
ちなみにこの後ゲパードを囮にG部屋を駆け抜けたようです。

では、今回のキャラ紹介!

G11
そろそろ痛い目見てもらおう・・・というわけで例の『〇〇しないと出れない部屋』のアレンジバージョンの餌食になってもらいました。
普段余裕かましてるキャラが余裕なくなるのとか大好物です!

ゲパード
いい加減一度はいい経験させてあげたいなぁ・・・と思ったのでやっちゃった♪
互いに無手の場合、体格差でゲパードの方が有利になる。

FAL
モニタールームでご満悦。

F11
ただのアドバイザーだったのにとバッチリに。

部屋Cの男たち
世界各地から招集されたG11スキーたち。
むさい男だけで二時間も待たされた挙句特に美味しい体験もなかったが、ローアングルでG11を見れただけで満足らしい。
時給1200円。


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番外編34

頭で思い浮かんだことがそのまま入力されればいいのに、と思う今日この頃。

というわけで今回は、
・サクヤのお年玉作戦!
・シスコン相談、延長戦
・G11の逆襲
の三本です!


番外34-1:サクヤさんのお年玉作戦!

 

 

「お年玉をあげたい!」

 

「お、おう・・・・・」

 

 

正月もガッツリ過ぎたある日のこと、一人うんうん唸っていたサクヤが突然立ち上がるとそんなことを言い出した。同じ部屋で作業していたゲーガーも突然のことに生返事を返すしかなく、とりあえず十分に言葉の意味を噛み砕いた上で聞いてみた。

 

 

「えっと・・・サクヤさん、それは一体どういう意味だ?」

 

「え? そのままの意味だよ?」

 

 

そこから順を追って説明し始めるサクヤ。まず彼女は言うなればハイエンドたちの親のようなものであり、実際に彼女たちを娘のように可愛がっている。そして前の世界では果たせなかった親という役割、その中でもいかにも親っぽいイベントとして思い浮かんだのが、お年玉だということらしいのだ。

最後まで黙って聞いていたゲーガーだが、さすがに頭を抱えてため息をついた。

 

 

「・・・・・サクヤさん、気持ちは嬉しいがまず()()()はあなたが作った()()()()とは違うんだ。 それにみんなそれぞれ稼ぎ口もあるし、もう自立しているからお年玉もいらないだろう」

 

「え〜、でもどれだけ歳を重ねても私の大切な娘たちには変わりないよ!」

 

「それそうだが・・・・・・」

 

「ヤダヤダお年玉あげたーい!」

 

 

ついに駄々をこね始めた。表向きは理知的やら優しいお姉さんで通っているサクヤだが、根っこは若干我慢の効かない子供っぽい面もある。

 

 

「わかったわかった・・・・で、誰にどれくらいとかは決めているのか?」

 

「え? 欲しいだけあげれば良くない?」

 

「それは過保護と言うんだ」

 

 

まぁ彼女らに限って膨大な額を要求することはないとは思うが。

ともかく、このまま見過ごせばダメ人形製造機になりかねないが、かと言って無理やり止めるとそれはそれでサクヤが悲しむ。なんとかしてあげたいと思うゲーガーだったが、あれこれ考えているうちに事態はさらに悪化した。

 

 

「話は聞かせてもらったよサクヤさん! 私もお年玉が欲しいな!」

 

「フンッ!!!」

 

「アベシッ!!!」

 

 

最悪のタイミングで転がり込んできたアーキテクトを殴り飛ばし、これ以上余計なことを口走る前に追い出そうとする。

が、結局それも間に合わなかった。

 

 

「いいじゃんゲーガー! お年玉は子供だけって言うのはもう時代遅れだよ!」

 

「そうだよね! やっぱりそうだよね!? ほら、アーキテクトも言ってるよゲーガー!」

 

「というわけでサクヤさん、ギブミーお年玉!」

 

「はいはい、もちろんあるよ・・・・・いくら欲しい?」

 

「コラーーーーー!!!」

 

 

結局、上限を設けた上で次に訪れたときに渡すことにした。

 

 

end

 

 

 

番外34-2:シスコン相談、延長戦

 

 

「ねぇFAL、相談があるんだけど」

 

「・・・・・はぁ〜〜〜〜〜〜」

 

「なによそのため息は」

 

「いや、別に」

 

 

素敵な休日の午後を満喫していたFALは、そんな彼女の天敵とも呼べる相手によって平穏を失った。

つい先日UMP40とF45の相談に乗ったというのに、今度はその原因であるUMP45からの相談である。そりゃため息もつきたくなる。

 

 

「で、今度もまた妹絡み? あなたの場合は溺愛し過ぎてるだけだし適切な距離を保てば解決するわよ」

 

「なるほどなるほど・・・・って今回は違うわよ!」

 

「・・・・・じゃあなによ?」

 

 

なら珍しくまともな相談か、とFALは改めて椅子に座り直し、45の言葉に耳を傾けるべく注意する。

45は初めはなかなか話始めなかったが、やがて意を決したか深呼吸して話し始めた。

 

 

「・・・・・実は、40とF45のことなんだけど」

 

「OK、あの二人なら心配ないわ。 というわけで帰りなさい」

 

「ちょっ、待っ、いいから聞きなさい!」

 

 

席を立ってどこかに行こうとするFALにしがみつく45。結局妹絡みじゃないかと呆れるFALだが、一度乗ってしまった相談なので渋々椅子に腰を下ろした。

 

 

「・・・・で? 二人がどうしたのよ」

 

「いや、そのね、この前二人とデートにいたんだけど・・・・」

 

 

その時のことを事細かに話し始める45。要約すれば、二人ともこれまでとは別人のように大人しくなっており、久しぶりに純粋に楽しかったのだという。これに関してはFALのアドバイスが実を結んだのでよしとしよう。

が、問題はこの先だった。

 

 

「その・・・・二人とも本気で思ってくれてるから、どうすればいいかなって」

 

「どうって・・・・・どっちとも選べばいいんじゃないの? AR-15とかみたいに」

 

「で、でも私たちは姉妹よ? それに、選ぶなら最愛の一人にするべきじゃない!?」

 

「あんた、意外とまともな感性してたのね・・・若干前時代的だけど」

 

 

そう言いつつ、相談自体はまともな部類なので一応真面目には考える。というかさっさとくっついてもらった方が今後の平穏のためにはいいのでもう答えも決まっているが。

 

 

「まぁあんたの考えはわかるけど、別に姉妹での恋愛がダメなわけじゃないわ。 というかペルシカ博士とSOPだって、言ってしまえば親子よ?」

 

「そ、それはそうだけど・・・・・」

 

「それに、あくまでモデルとなった銃が姉妹銃ってだけで、人形に血縁関係もないのだから気にする必要もないわ」

 

「た、確かに・・・・」

 

「あと一人を選ぶって話だけど・・・・・選んだ後の関係とか気まずくない?」

 

「うぐっ」

 

 

まぁちょっと卑怯な聞き方だけど、と胸の内で謝りながらもFALは続ける。

 

 

「それが嫌なら、もう道は二つに一つよ・・・・・両方選ぶか、どっちも選ばないか」

 

「そ、それしかないかな?」

 

「そうね、ちゃんとはっきり言わないと後でもっと面倒なことになるわね」

 

 

それを聞いた45は、黙って俯いてしまう。まぁ今まで妹一筋でやってきて、その妹が姉離れして、今度は別の妹たちから好意を向けられてとそれなりに忙しい時間を過ごしてきた。

自身の恋愛観について考えることなど皆無だったため、こうして悩んでいるのだ。そういう意味では、FALに相談したのは正解だったのだろう。

 

 

「・・・・・わかったわ。 今すぐ、は無理だけど、ちゃんと答えを出す」

 

「そう、お互い後悔のないようにね」

 

「えぇ、ありがとね、相談に乗ってもらっちゃって」

 

「これくらいならお安い御用よ」

 

 

満足のいく結果となったのか、45は来た時よりも軽い足取りで戻っていく。

それを目で追ったFALは、45の姿が見えなくなるとふぅ〜っと息を吐き、天を仰いで呟いた。

 

 

「恋、かぁ・・・・・いいなぁ・・・・」

 

 

end

 

 

 

番外34-3:G11の逆襲

 

 

あの惨劇から数日後、被害者であるG11は復讐の念に燃えていた。すでに主犯格のメンツは判明しており、一部へは簡単な嫌がらせも実行済みだ。

そんなG11がメインディッシュに据えたのは二人・・・・・発案者のFALと、アドバイザーのF11である。

 

 

「ふっふっふ・・・・・私を陥れたことを、後悔させてあげる!」

 

 

そんな自分の罪丸ごと棚上げ少女による復讐劇が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「・・・・・・・やぁFAL」

 

「・・・・・・・久しぶりねF11」

 

「そうだね・・・・・お互い面倒なことになってるようだけど」

 

 

とある日、S09地区の小さなカフェで落ち合った二人は、互いの格好で色々と察した。ここ数日続く大小様々な嫌がらせと、チラつく影・・・・誰の仕業かなど分かり切っていたので、再び手を合わせようと立ち上がったのだ。

 

 

「あぁ、その、ジャージも似合ってるよFAL」

 

「センスのかけらもないけどね」

 

 

FALに対しての嫌がらせ、中でも一番大きかったのがこの服だ。なぜかいつもの服から私服に至るまで何もかもが没収され、代わりに入っていたのはコスプレとしか思えない服の数々。下着も全て子供っぽいものに変わっており、それなりに身嗜みに気を使うFALにとっては悪夢のような事態だ。

 

 

「そっちはまだいいじゃない。 まぁ晴れ着はもうシーズン過ぎてる感あるけど」

 

「服はまだいいよ・・・・服はね」

 

「ていうか他の服はなかったの?」

 

「浴衣とか振袖とか・・・・・そんなのばっかり」

 

「それがなんで晴れ着なのよ、動きやすいのなら浴衣の方が・・・・・・あ、まさか・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・下着?」

 

「・・・・・//////」

 

 

F11への報復はさらに面倒だった。同じく普段着やらなにやらは没収され、代わりに入っていたのはいわゆる着物の類。一人でも着られる簡易版だったのはいいが・・・・・着物は下着をつけないという話に則ってか下着類が全てなくなっていた。

ちなみに着物には着物の下着のようなものがあるそうだが、そんなことくらいG11は知っている。そして当然のように無視した。

 

 

「うぅ〜〜・・・こんなの痴女一歩手前だよぉ」

 

「それは災難ね・・・・とりあえず、私の部屋に来る?」

 

「・・・・・うん」

 

 

そうして周囲からの視線に晒されながら、なんとか宿舎のFALの部屋へと戻ってくる二人。意識すればするほど羞恥心に苛まれたF11を座らせ、FALは自分の下着を渡すためにタンスを開き・・・・・・中身が空っぽなのを見てブチ切れながら閉めた。

 

 

「あんの性悪人形!!! どっかで覗いてんじゃないの!?」

 

「うぅ・・・もうやだよぉ・・・・・・」

 

「あぁほら、泣かないでよ。 とにかく、もう他の人形に頼るしかないわね、行きましょう」

 

「グスッ・・・・・」

 

 

F11の手を引き、部屋を出るFAL。とりあえずこういう時に頼れるAR小隊か、もしくはG11への抑止力である404小隊の部屋にでも行けばなんとかしてくれるかもしれない。

が、G11にとってはそれすらも折り込み済みだったようだ。

 

 

「ぅぉおねえさまぁああああああああ!!!!!!!」

 

「へ? ぎゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

横あいから何かが飛びつき、二人を押し倒す。それはつい先日に協力してもらった、ゲパードである。

 

 

「・・・・・あれ? お姉さまじゃない」

 

「いてて・・・・どうしたのよいきなり」

 

「いえ、こちらからお姉さまの香りがしたので」

 

「香りって・・・・・」

 

 

あんたは犬か何かなの?という疑問を思い浮かべる二人。とりあえずゲパードには退いてもらい、FALはF11を起こそうとした・・・・・ところでさらなる闖入者が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした? なにか大きな音が聞こえたが?」

 

「あ、指揮官」

 

「む、ゲパードか。 それにそこにいるのはFALと・・・・・!」

 

 

ゲパードを見やり、ついで二人に視線を向けた指揮官は、首が折れそうな勢いで視線を逸らした。ここの指揮官は決して人形を差別するような人物ではない。まして顔を合わせようとしないことなど皆無だ。

となると、視線を逸らした理由は他にあり・・・・・・

 

 

「・・・・っ!? きゃぁあああああああ!!!!!」

 

「あっ! 見るなこの変態指揮官!」

 

「ま、待てFAL、誤解dグホッ!?」

 

「義姉さまにそんな趣味が・・・・・」

 

「ないよっ!? 断じてないよっ!」

 

 

その後、あまりにも度が過ぎるということでAR小隊・404小隊総出でG11の捕縛作戦が決行され、丸一日以上の説教コースが下された。

ちなみに、F11はショックのあまりしばらく引きこもってしまったと、F45から連絡があったという。

 

 

end




いかん、このままではFALがヘリアン化してしまう!(他人事)
決して残念美女とかではなのでそのうち相手を決める予定ですが・・・・・誰がいいだろう。 あえての鉄血組かな?

さて、では早速各話の紹介!

番外34-1
お年玉って響き、いいですよね。お金をもらっても罪悪感を感じないところが。
ちなみにハイエンド組で明確な職を持たないのはイントゥルーダーだけ。

番外34-2
亀の歩みよりも遅い45たちの関係がちょっとだけ進展しました。
FALが胃薬から解放されるのも近い・・・・・かも?

番外34-3
↑でそんなことを言ったのにこの様だよ!
ところで人形の中に明らかに履いてないこ娘がいるんですが、IoPの幹部はなにを考えているんでしょうかね?(歓喜)


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特異点:もう一つの喫茶 鉄血

まず初めに、年明け早々にモチベーション低下に苛まれて更新が遅れてしまいました。
本当に申し訳ございません( ^ U ^ )

はい、という言い訳は置いといて今回はイベントにちなんだ特異点バージョンでお送りします。
*本編とは一切関係ないのでご了承ください。


これは、とある世界のとある地区、とある街の小さな喫茶店のお話。

 

 

「・・・・様、・・・人様」

 

「ん・・・・うんん・・・・・」

 

「ご主人様、朝ですよ・・・・・・エ・リ・ザ・様?

 

「ひゃいっ!?」

 

「おはようございますご主人様。 朝食の準備ができました」

 

 

眠そうな目を擦りながらベッドから起き上がる小柄な人形。それはかつて鉄血工造の全てを掌握していた統括AI搭載機、エルダーブレインである。

とある事情により鉄血工造を抜け、同じく鉄血工造を抜けた代理人とともにひっそりと喫茶店を営んで生活しているのだ。

 

 

「では、私は()()()()()()()を起こして参りますので・・・・・くれぐれも、二度寝などなさらないように」

 

「わ、わかってる・・・」

 

「では、失礼いたします」

 

 

代理人はペコリと一礼し、エリザの部屋から出ていく。直後に隣の部屋から代理人の怒鳴り声と、眠そうな居候の声が聞こえてきたところでエリザは服を着替えて部屋を出る。

代理人の機嫌が悪そうな時は、大人しくしておくほうがいいのだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あなたは自身が居候という身分であることを理解しているのですか?」

 

「あぁもう悪かったって。 ちょっとばかし飲みすぎただけだよ」

 

「・・・・改善の余地が見られなければ、容赦なく追い出しますからね」

 

「代理人、もうその辺で」

 

 

エリザが止めに入ったことで、長くなりそうな説教タイムが終わる。チラッとその説教をくらっていた相手・・・・・M16A1を見ると、ウインクしながら『ありがとよ』と小声で呟いていた。

彼女がこの店に転がり込んできたのは、この店ができてちょうど一週間が経った頃。どうやら所属していた小隊内で何かあったらしく『帰るに帰れないから匿ってほしい』などと言ってきたのが始まりだ。

以来、ここに住み着いてはたまに店の手伝いをしている。

 

 

「さて、慌ただしくはなりましたが予定通りお店を開けますよ」

 

「開けるったって・・・どうせ誰もこねぇだろ」

 

「え? でもいつもの人たちが来るはず」

 

「あれは客じゃない、ただの冷やかしだ」

 

 

ぐちぐち言いながら朝食の食器を片付け、店の扉を開ける。

と、そのすぐ横にはすでに客らしき人影があった。

 

 

「やぁM16、開くのを待っていたよ」

 

「・・・・・毎日毎日飽きないなAK-12、というか暇なのかお前ら」

 

「あらひどい。 代理人、従業員の指導がなってないわよ」

 

「それは認めますが、彼女の疑問も当然のものですよ・・・・・とりあえず、いらっしゃいませ」

 

 

開店前から待っていたのはAK-12とAN-94。以前は軍に所属していたというが、訳あって辞めてしまったフリーの人形たちである。

何故かこの喫茶店の常連であり、開店から閉店までひたすらだべっているのが彼女らの日常である。

 

 

「相変わらず閑古鳥が鳴いてるわね。 お店も狭いし立地も最悪、コーヒーは美味しいけど、ただそれだけ」

 

「別にいいのですよ。 あくまでお店を装うことが目的ですから」

 

「そう。 でもいつまで逃げられるかしらね、軍はしつこいわよ?」

 

「その時は、ぜひあなた方に頼りたいものですね」

 

「ふふふ、まぁ考えておいてあげる」

 

「・・・・・それで、ご注文は? といっても、いつものコーヒーでしょうけど」

 

 

そう言って代理人はカップを二つ取り、コーヒーを注ごうとする。が、今日はどうやら違うようだ。

 

 

「そうね、とりあえずは二人分・・・・・でもあと三杯淹れてもらえるかしら?」

 

「あら、待ち合わせですか?」

 

「そんなところよ・・・・・ふふっ」

 

 

AKー12の意味深な笑みに何故か背筋が冷たくなるM16。が、そんなことなど放っておいてAKー12はカウンターからコーヒーを運んでくるエリザを抱き上げると、膝に乗せて抱きしめる。

 

 

「こんにちはエリザちゃん。 相変わらず可愛いわね」

 

「まだ仕事中、離してほしい」

 

「うふふ、だ〜め・・・エリザちゃんが可愛いのがいけないのよ」

 

 

そのまままるで抱き枕のように離さないAKー12。と言ってもこれはいつものことで、エリザももう慣れきった。ついでに、隣のANー94が物凄い形相でエリザを睨んでいるのもいつものことだ。

敬愛してやまないAKー12が盗られたと思い込む彼女の心中は穏やかではないのだ。

 

 

「で、誰が来るんだよ。 まさか軍の連中じゃないだろうな?」

 

「そうです。 そしてもし軍関係者であるというのなら、今すぐお引き取りねがいます」

 

「あら怖い。 でも安心して、軍の関係者ではないから」

 

 

そう言うと、相変わらず目を閉じたままで再び微笑む。

すると外に一台のバンが止まり、片腕が義手の女性が降りて店へと入ってきた。

 

 

「あらアンジェ、早かったのね」

 

「ええ、少し早すぎたかと思ってたけど、いいタイミングだったようね」

 

 

入ってきた女性・・・アンジェリカは代理人に軽く会釈してAKー12の隣に座ると、いまだに抱きつかれたままのエリザの頭を撫で始める。

一瞬びくりとしたエリザだったが、特に害もなさそうなのでそのまま撫でられ続けることにした。

そんな感じで一通りエリザを撫で終えると、アンジェはM16に視線を向けてにこりと微笑む。

 

 

「な、なんだよ・・・・・」

 

「ふふふ・・・・・いや、今日ここにきた目的の一つがあなた絡みだから、どんな人形なのか気になってね」

 

「は? 私?」

 

「そう、あなたに会いたくて仕方がないって娘がいるのよ・・・・・二人とも、入ってらっしゃい」

 

 

アンジェが少し大きめの声でそう言うと、バンの後部座席側のドアが開き、二人の少女が降りてくる。一人は緑のメッシュの入った黒髪を揺らし、もう一人は薄ピンクの髪を靡かせる。

その二人を見た瞬間にM16は逃げ出し・・・・・・代理人に捕まった。

 

 

「見つけましたよ、M16姉さん!!!」

 

「もう逃げ場はないわよ、覚悟しなさい!」

 

「た、頼む代理人! 離してくれ!」

 

「そうは言いますが、どうやらあなたにも原因がありそうなので拒否します・・・・・あ、お三方ともコーヒーでよろしいでしょうか?」

 

「あ、いただきます」

 

「じゃあ私も」

 

 

注文を受けると代理人はM16を椅子に縛りつけ、追加のコーヒーを淹れていく。その間に現れた二人・・・・M4A1とST AR-15から話を聞いた。というか二人とも、以前に会った時よりも随分と様変わりしているようだが。

 

 

「これですか? これは逃げ出した姉さんを捕まえるために強化してもらったんです」

 

「ついでに、ボコボコにするためにね」

 

「ま、待て待て! あれは事故だったんだ!」

 

「「うるさい酔っ払い!」」

 

 

そして語られる、『AR小隊解散事件』の真相。

それは数ヶ月前、長期任務でM4とAR-15が出かけていた時のこと。あまりにも暇な空気がピークに達したM16が、ありったけの酒を用意して飲み会を開いたらしい。しかし突然の召集に集まるはずもなく、結果的に集ったのは身内であるSOPとROのみ。

 

そして事件は起きる。飲みすぎてベロンベロンに酔っ払ったM16は大暴走し、あろうことか妹分二人を『()()()()()()()』というのだ。

このショックで二人はメンタルに多大な負担がかかり緊急長期メンテナンス行き。とんでもないことをしでかしてしまったと気がついたM16は逃亡した。

その途中で偽装のために鉄血工造製のスキンまで使用し、ここに転がり込んで現在に至る、という訳だ。

 

 

「・・・・・M16?」

 

「し、知らなかったんだ! まさかあの酒の中にスピリタスが入ってるなんて!」

 

「百歩、いえ一万歩譲ったとして! どうして逃げ出したのか説明してください!」

 

「今でもあの子たちのトラウマとして残ってるわ。 見た目が似てるって理由だけで416にもビビリ倒しよ」

 

 

ちなみにそのあまりの怖がられようにショックを受けた416が寝込むという二次被害まで発生しており、二人としては到底見過ごせる問題ではない。

というか彼女らの保護者でもあるペルシカが怒り心頭で、なだめに行ったクルーガーやハーヴェルもビビって帰ってしまったほどだ。

 

 

「とにかく、姉さんの身柄を拘束させてもらいます。 異論は認めません」

 

「うっ・・・・そ、そういえばM4、その装備かっこいいな! よく似合ってるぞ!」

 

「え、そ、そうですか? ・・・・・えへへ」

 

「流されてるわよM4。 ・・・・・・ん? ちょっと待って」

 

「どうしたのAKー12?」

 

「軍の車両が近づいてくる・・・・・すぐそこよ」

 

 

言うと同時に、重厚感のあるエンジン音が店の前まで来て、止まる。それは軍が所有する主力戦車で、ただでさえそんなに広くもない道を完全に塞いでしまっていた。

そのハッチから一人の男性が降り立ち、大股で店に入ってくる。

 

 

「っ!? 貴様・・・・!」

 

 

普段温厚な代理人が敵意剥き出しになるだけでも、要注意人物であることが窺える。

その男の名はエゴール、正規軍に所属する優秀な軍人である・・・・・というのが表向きの評価であった。

 

 

「やはりここにおられましたか、エリザ様」

 

「っ! ま、またお前か!」

 

「はい、私です。 お迎えにあがりました」

 

「い、嫌だ! あんな変態どもの巣窟になど誰が行くか!」

 

「それはごく一部の者だけです。 私が目を光らせていれば安全でしょう」

 

「変態筆頭が何を言う!」

 

 

そう、このエゴール大尉はいわゆる『ロリコン』。しかも容姿やら性格やらがドンピシャなエリザに愛を抱くガチなやつである。

 

彼女こそが自分の上に立つ者だと(勝手に)決めた彼の行動力は凄まじかった。まず鉄血工造から追い出すために執拗で面倒な嫌がらせをかけ続け、無事成功すると自身の権限をフル動員して追いかけ回した。

行方をくらませると今度はグリフィンに依頼を(自費で)出して捜索させ、その間に軍上層部の弱みを探し始める。見つけた暁にはいつでも上層部に据えられるように、とのことである。

 

 

「何故ですかエリザ様、これほどまでにあなたのことを思っているのに!」

 

「それが気持ち悪いと言っている!」

 

「ありがとうございます! ・・・・ではなく! あなたに不自由はさせませんし、望むものがあれば必ずや叶えて差し上げます!」

 

 

言っておくがロリコンなだけでかなり優秀な部類の人間である。それにエリザのためならなんだってすると言うその忠義も本物だ。

だが、ロリコン。その欠点が強烈すぎた。

 

 

「エゴールさん、とおっしゃいましたか。 嫌がっている子を無理やり連れて行こうとするなんて、ただの誘拐ですよ!」

 

「ん? それはお前が関知することではないのだよメンタルクソ雑魚エリート(笑)隊長」

 

「本人の意見を尊重する、それが本人を思うなら当たり前のことでしょう」

 

「黙っていろ自意識過剰まな板娘」

 

 

エゴール大尉、その表での評価は大きく二分される。部下や仲間思いで忠義に厚い人物であり、敵や無関心な相手にはどこまでも冷たい男である。

そしてこうまで言われて、彼女たちが黙っているはずなどなかった。

 

 

「「「死ねぇえええええ!!!!!」」」

 

「ぬおっ!? な、何をする!」

 

「うるせえ! この正規軍のクズめ!!!」

 

「私の胸を笑ったわね? 笑ったわね!?」

 

「妹たちを愚弄したな!? 死んで償え!!!」

 

「代理人、おかわりを貰えるか?」

 

「あら、じゃあ私も」

 

「私も貰おう」

 

「止めていただけると嬉しいのですが」

 

「「「面倒だからパスで」」」

 

 

こうして、今日も一日が過ぎていく。

小さな店の、小さな話。

 

 

 

end




なんだこれ?
・・・・・と、思ってるんだろ?わかるぜ。

はい、ということで遅くなりましたが更新です。
今回は新イベントにちなんだ特別版!キャラ崩壊著しい話となりました。原作のダークな感じが少しでも吹き飛べばいいなと思っております笑


では、今回のキャラ紹介

代理人
エリザの直属の部下。エゴールの嫌がらせで鉄血を追い出されたエリザとともに鉄血を抜ける。
この世界でも店を開くが、カウンター六席の小さなカフェで看板もない。

エリザ
エルダーブレイン。エゴールの目に留まったのが運の尽き。
全体的に子供っぽいが、鉄血の最高AIだけあって馬鹿ではない。

M16A1
鉄血仕様。その理由は本文の通り。
原作と違いただのスキンなので、性能は一切変わっていない。
スピリタスには勝てなかったよ。

AKー12
元正規軍の人形その1。
目を閉じているがちゃんと見えている、お陰で水の中でも目を刺激せずに泳げる。目を見ると呪われるという噂があったりなかったり。

ANー94
元正規軍その2。
基本はなんでもこなすいい子だが、AKー12に対し異様に執着している。ヤンデレ一歩手前。

アンジェ
AKー12、ANー94、そしてM4とAR-15の現在の上司。
元正規軍で、その頃からエゴールの(いろんな意味での)危険性は知っている。楽しければなんだっていい。

M4A1(MOD)
ガチギレした結果強くなった。そして時々言葉も汚くなる。
おしとやかでおっとりした彼女は、もういないのだ。

AR-15(MOD)
ブチギレた結果やたらと強くなった。
ちなみにそれまではちゃんとAR小隊にいたので、ROとも普通に面識がある。

エゴール
今回一番のぶっ壊れ。
原作でAR小隊を襲ったやらエリザを狙う正規軍やらを融合させた結果生まれた、救いようのないロリコン。
実力はガチな部類で、兵器全般も扱える普通に優秀な軍人。だが、上官が可愛い少女ではなくカーター将軍(おっさん)なのが気に入らない様子。


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第百三十九話:狂気の世界のヤンデレ修道女

お返ししていないコラボ話が溜まってしまっている現状、マジですみませんでした!

ということで、時間をかけてでもきっちりお返しさせていただきたいと思います。
まず今回は『無名の狩人』様の『ブラッド・ドール』とのコラボです!
https://syosetu.org/novel/196745/2.html



ところで今回のイベント、代理人の本気が見れて嬉しく思います(血涙)


異界渡りの鐘、というものがある。これは以前、とある人物がやって来るきっかけとなった小さな鐘であり、当然この世界の物ではない。

それを鳴らすことで世界の壁を超えて人を呼ぶことができるというなんとも摩訶不思議な代物だが、以前に訪れた人物の警告に従って以降一度も鳴らしていない。

 

が、まさか落っことしただけで鳴ってしまうとは思っていなかった。

というわけで今日の喫茶 鉄血にいるのは、異世界の狩人ローウェンと、彼のパートナーらしき鉄血工造のアルチゼンだ。ローウェンの方は二度目ということもあって落ち着いており、パニックになったアルチゼンをなんとか宥めて今はゆっくりとお茶を飲んでいる。

 

 

「やはり旨いな。此処の紅茶は」

 

 

相変わらず防塵マスクをつけたまま紅茶を啜るローウェンに代理人は苦笑しつつ、隣で美味しそうにケーキを頬張るアルチゼンのカップに紅茶を注ぐ。

見た目だけなら親子に見えなくもない(といってもローウェンの場合ほとんど顔も隠れているので背格好だけの判別だが)。そんな二人はケーキと紅茶を完食し、古びた懐中時計を見ながら呟く。

 

 

「そろそろ帰ろうと思ったが・・・まだもう少し時間が————-」

 

「すみません」

 

 

カランカランと店の呼び鈴が鳴り、一人の修道服の女性が現れる。彼女はこの街にある教会にいるシスターで、ある時ふらっと現れて以来教会に住み着いている。穏やかな雰囲気で老若男女問わず人気があり、代理人も何度か顔を見たことはある。

そんな彼女だが、なぜか店内をキョロキョロとしながら何かを探しているようだ。

 

 

「はい。何でしょうか?」

 

「いえ、用もなく店に入るのは失礼ですが・・・此処に古い知り合いに似た人がいると聞いて・・・もしかしたらと」

 

「古い知り合い?」

 

 

そう言われても、正直心当たりがない。それに今の時間は代理人とリッパーとイェーガー、客も異世界の二人しかいない。その古い知り合いとやらは人違いだろうと言おうとした矢先、カウンターに座っていたローウェンがガタガタと震えだした。

 

 

「あいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃないあいつじゃない」

 

「ろ、ローウェンさん・・・!?」

 

 

ぶつぶつと念仏のように呟きながら、胸元から怪しげな瓶を取り出して飲む。それでも震えは治らないようで、隣のアルチゼンが心配したように声をかける。

が、それで落ち着きを取り戻すよりも先に、修道女がローウェンのもとに歩み寄る。そして両肩に手を置き、耳元でそっと囁くように言った。

 

 

「あぁ・・・やっと見つけました・・・愛しい狩人様・・・」

 

「何故だ・・・何故、此処にいる・・・アデーラ!」

 

 

バッと飛び退くローウェン。だが飛び退かれた方の修道女・・・アデーラは一切気にすることなく話し続ける。

 

 

「気が付いたら此処にいて、今はこの世界の修道女として暮らしてます。ですが・・・狩人様が私と一緒に居てくれるのなら私は」

 

 

そう言った彼女の様子は、普段の温厚なそれとはかけ離れた物だった。瞳は光を失い、なぜか恍惚の笑みを浮かべて頬に手を当てる。今の彼女に相応しい道具は聖書や蝋燭ではなく、なぜか血塗れの包丁が似合いそうだった。

本格的に身の危険を感じたのか、ローウェンはついに逃げ出した。

 

 

「すまない代理人!今回はツケで頼む!」

 

「うふふ・・・逃がしませんよ」

 

 

全速力で逃亡を図るローウェン、だがその後ろをアデーラが追う。明らかに走るのには向いていないであろう修道服でありながらローウェンに迫る速度を出す彼女からは、ただならぬ執着心が見えるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・・くそっ・・・」

 

「うふふふふ・・・地の利はこちらにあるんですよ愛しの狩人様」

 

 

数十分後、疲労困憊のローウェンを引きずってアデーラが帰ってきた。

慣れない街並みをただひたすら逃げ回るローウェンに対し、この街の住人であるアデーラはあらゆる手を使って追い詰めたのだ。必要であれば塀を登り屋根を走り、ショートカットに次ぐショートカットであっという間に距離を詰めた。

もちろんローウェンも抵抗したが、無手での戦闘に加えて逃げ回った結果体力を使い果たし、捕縛されてしまったのだ。

律儀にここに戻って来るあたり、アデーラもそこまで狂っていると言うわけでもなさそうだが。

 

 

「さて、では行きましょうか愛しの狩人様」

 

「待て、どこへ行くつもりだ?」

 

「あら、言わせるのですか愛しの狩人様・・・・・私たちの教会(愛の巣)ですよ」

 

「断る! というか教会を愛の巣とか貴様本当に修道女か!?」

 

「私と愛しの狩人様の前には、そんなこと些細な問題ですわ」

 

 

話が通じない、とはこういうことを言うのだろう。しかもどこから取り出したのか、空いている手にはロープが握られている。ローウェンが逃げ出すそぶりを見せたら捕縛するつもりだろう。

流石にそうなると問題なので、代理人は助け舟を出すことにした。

 

 

「あの、アデーラさん」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「その、大変言いにくいことなんですが、ローウェンさんはこの世界の住人ではありません」

 

「・・・・・・・・は?」

 

 

先ほどまでの聖母のような微笑み(あくまで『ような』である)から一転、絶対零度の真顔になるアデーラ。その顔には『下らないことを言ったら××する』と書かれているようだった。

が、代理人も正直この程度の揉め事で動じるようなメンタルではない。なので事実を淡々と告げるのだった。

 

 

「ローウェンさんは一時的にこの世界に訪れているだけであり、時期に帰らねばならないのです。 元の世界でやることもありますので」

 

「・・・・・・狩人様?」

 

「すまないアデーラ、代理人の言う通りだ」

 

 

そう言ってローウェンはアルチゼンに目配せすると、懐から例の小さな銃を取り出す。アルチゼンもそっと側により、いつでも帰れるように構える。

正直、発狂したアデーラが襲いかかって来ると思っていたローウェンだったが・・・・・なんとアデーラは自らローウェンを解放したのだ。

 

 

「ア、アデーラ?」

 

「・・・・・・残念です。 残念ですが、狩人様には為さねばならない使命があるのでしょう」

 

 

心底残念そうに呟くと、アデーラはローウェンの前に跪き、祈りを捧げる。

 

 

「どうか、狩人様の行く道に幸あらんことを」

 

「アデーラ・・・・・・・」

 

「・・・・・あと、全てが終わったらこの世界に来れますように」

 

「それは断る」

 

「チッ」

 

 

加護も何もあったもんじゃない、そう思うローウェンにアデーラは懐から一本のナイフを取り出し、差し出す。

それはあの日に見たナイフだが血で汚れていることもなく、透き通った輝きを放っていた。

 

 

「狩人様の武器としては心許ないでしょうが・・・・どうか、お受け取りください」

 

「・・・・・あぁ」

 

「それでは、どうか御無事で」

 

 

最後にニコリと微笑む。おそらくそれが本来の彼女の笑みなのだろう。

それを見届けたローウェンは銃の引き金を引き、アルチゼンとともにこの世界を去った。

後に残される形となったアデーラはしばらく俯いたままだったが、やがて立ち上がると代理人に一礼する。

 

 

「ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」

 

「いえ、お気になさらず。 ですが、よろしかったのですか? 止めた私が言うのもなんですが」

 

「えぇ、大丈夫です。 もう二度と会うことは叶わないと思っていた狩人様とお会いできた、それだけで十分です。それに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のナイフを肌身離さず持っていてくださる、そう思うだけで・・・・・あぁ!」

 

 

またしても恍惚の表情を浮かべて身をくねらせるアデーラ。

そんな彼女に、絶対例の鐘のことは話さないと誓う代理人だった。

 

 

 

end




なんというガバガバ世界線(予防線)

はい、というわけで今回は無名の狩人氏とのコラボ・・・・・の割にはアデーラが全部持っていきましたが、まぁ公式からしてアレだから大丈夫でしょ。

それではキャラ解説とか


ローウェン
『ブラッド・ドール』の主人公。またしてもこの世界に呼ばれてしまった。
E.L.I.Dだろうがハイエンドだろうがブタだろうが臆することなく戦う彼だが、アデーラだけはどうも別格らしい。

アルチゼン
ローウェンが見つけた鉄血のハイエンド。アーキテクトの妹分。
オドオドした性格だが、職人の名に相応しい腕前を持つ。

アデーラ
いつのまにかこの世界に紛れ込んでいたブラボ界のヤンデレ。
ドルフロ以上に殺伐としたあの世界の出身だけあって狂気の塊のような人物・・・・なのだがこの世界でだいぶ丸くなった。
戦闘力もないただの一般人だが、ヤンデレ特有の威圧感はボスクラス。




アデーラのナイフ
異世界で出会った修道女のナイフ。護身用でそれ以上でも以下でもない。

効果:使用すると体力を大きく失う(約8割)が、かなりの長時間『発狂』を受け付けなくなる。


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第百四十話:期待の最新鋭エリート()

AK-12ちゃんをお迎えするのにやたらと資源を消費してしまった…
というか今回のイベント弾薬とか食料の消費エグくないかな?

ところでAKー12って目を閉じてても見えるそうですが、顔面パイ投げの刑をやっても見えるんでしょうか?
教えて、AKー12ちゃん!


「や、やめなさい! こんなことをしても何にもならないわよ!?」

 

「何にもならないことはないさ、お前の祖国への忠誠心が試されるんだ!」

 

「これも祖国のためよ? というわけで覚悟!!!」

 

「ちょ、待っ、やだやだやだやだいやぁあああああ!!!!!」

 

 

その日、喫茶 鉄血を発信源とした悲鳴はS09地区全域へと広がり、夜の街を騒がせたのだった。

そんな大迷惑な騒ぎを前に、代理人は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

事件の発生はその日の夕方まで遡る。今日は金曜日ということで、通常営業を早めに切り上げた喫茶 鉄血は夜間営業の『Bar 鉄血』の準備を進めていた。

と言っても、いつもなら昼の営業時間を縮めたりはしない。それにBarのほうももう少し遅くても問題ない。だが今日訪れる貸し切り客の面々を相手にするには、これくらい早くなければいけないのだと理解していた。

 

 

「お、もう準備できてるじゃん」

 

「うぅ、寒い・・・・はやくウォッカで暖まりたいわ」

 

「あーダメだ、禁断症状で幻覚まで見えてきた・・・・」

 

「皆さんお早いですね。 開店までは早いですが、中でお待ちになっていただいて構いませんよ」

 

 

現れたのは司令部に所属する人形たち。それだけならばいいのだが、彼女たちの共通点はそのモデルとなった銃の製造国にある。

ロシア・ソ連銃をモデルとする戦術人形一同が、今日のお客さんである。

 

 

「すまない代理人、どうにも待ちきれなかったようでな」

 

「構いませんよPKPさん。 ところで、お姉さんは?」

 

「察してくれ」

 

「ふふっ、どうやら順調のようですね」

 

 

はやくも空気だけで酔っていそうな面々に監視の目を向けつつ、幹事に任命されたPKPは代理人に挨拶を済ませて他の人形を誘導する。

ちなみに彼女が幹事を任された理由だが、酔っても他の人形よりは冷静でいられるからだ。それくらい、他の乱れようは半端じゃないのだ。

そんな中、彼女たちの列の一番後ろに一風変わった人形の姿が見える。綺麗な銀髪を揺らす姿は思わず目を奪われそうになるが、さらに興味を引くのは常に瞑った目だった。

 

 

「PKPさん、彼女は?」

 

「ん? あぁ、あいつか。 彼女はAKー12、正規軍からこっちに鞍替えしてきた新入りだよ」

 

「ふふ、あなたが代理人ね? 噂はこの店のことともども聞いていたわ、今日はよろしくね」

 

 

そう言うと手を差し出して握手を求める。目を瞑っている以外はいたって普通の人形なのだが、元正規軍ということはそれなりに高性能機なのだろう。

そう思っていたのを見透かしたのか、AKー12はクスッと笑いながら言う。

 

 

「あなたが疑問に思っていることは大体わかるわ。 まぁこれでも問題ないから安心してちょうだい、ただ余計な情報を入れたくないだけなのよ」

 

「そうですか。 でしたら、私も気にしません」

 

「ありがとう。 さて、今夜は楽しませてもらおうかしら」

 

 

そう言って楽しそうに仲間たちの輪に入るAKー12。だが彼女は侮っていたのだ。軍にいた頃も飲む機会はそれなりにあったし、酒豪とも呼べる者だっていた。が、それでも所詮は人間であり、どこかしらでリミッターがかかるようになっているのだ。

リミッターを完全無視した飲んだくれ人形たちの恐ろしさを見誤った、それがAKー12の敗因である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かんぱーい!!!』

 

 

グラスやジョッキをぶつけ合い、さも当然のように一気飲みする人形たち。いざとなればアルコール強制分解機能が使えるとはいえ、このスタートダッシュの速さも彼女たち東欧勢の特徴の一つだ。

 

 

「ほ〜ら新入り〜、あんたも飲みなさよ〜」

 

「そうですよAKー12さん。 というか『AK』を名乗るのならば彼女くらい飲めなくてどうするんですか!」

 

「ちょっと待って、アレと一緒にされるのは遺憾だわ」

 

 

グローザと9A91が指差す先、両手にウォッカのジョッキを持ったAKー47がゲラゲラと笑いながら浴びるように飲んでいる。というか彼女に限らず酒癖の悪いのばかりで、なんだったらもう半数近くの人形が肌をあらわにするほど脱いでしまっている。

これを見越して代理人はカーテンを締め切っているが、止めるつもりはなさそうだ。

 

 

「ってもう乱痴気騒ぎじゃないの! 止めなさいよアレ!?」

 

「諦めろAKー12、これがグリフィンだ」

 

 

肩にポンっと手を置き首を振るPKP。というか一応幹事であるためそこそこの量に抑えているが、なんの責任もなければ今頃アレに混じっていることだろう。

そんな光景に呆然とするAKー12に魔の手が迫る。

 

 

モニュン

「ひゃあ!?」

 

「あら、意外とあるのね。 厚着だから気がつかなかったわ」

 

「というか、全然飲んでないじゃない。 もっとはっちゃけて楽しみましょ」

 

 

背後から鷲掴みにしてきたのはPTRDとDP28の二人。平時からすでに胸半分露出しているような服の二人だが、今はもう完全にオープンになってしまっている。なんだったら下がなくなるのも時間の問題とさえ思えるくらいだ。

そんな二人は渋るAKー12の腕を抑え、ほぼ無理やりウォッカを流し込んだ。

 

 

「んぶっ!? モゴモゴモゴ!」

 

「あらいい飲みっぷり。 じゃあもう一杯」

 

「ぷはっ!? こ、殺す気!?」

*お酒は無理やり飲ませてはいけません

 

 

AKー12は持ち前のハイパワーで脱出し、さっとその場を離れる。

が、悪酔と悪ノリしかいないようなこの場に逃げ場などない。

 

 

「お? いらっしゃ〜い!」

 

「来たわね、盲目の新人さん」

 

「盲目でもないし来るつもりもなかったわよ!」

 

 

転がり込んだ先は完全に出来上がったAKー47とモシン・ナガンの場所。その二人は迷い込んできたAKー12を両脇からがっしり押さえ込むと、ずいっと顔を近づけてこう言った。

 

 

「ねぇ、その目って開かないの?」

 

「ちゃんと開くわよ。 ただ瞑ってても見えるし、余計な情報を入れたくないってだけよ」

 

「ふ〜ん、そっか・・・・・じゃあ開けてみてよ」

 

「話聞いてた?」

 

「うん、じゃ、開けよっか!」

 

「『じゃ』、じゃないわよ!」

 

 

AKー12は軍用に製造されたかなり特殊な部類の人形である。そのためグリフィンなどの戦術人形よりもやや機械的な要素も多く、その一例が彼女の瞳だ。通常の眼よりもカメラの意味合いが強く、涙を流すこともなければ乾燥を気にすることもない。

が、そんなことを知らない二人はちょっとした好奇心を芽生えさせた。

 

 

「・・・・・ねぇ、あなたの目って痛覚とかあるの?」

 

「・・・・・・・・へ?」

 

「いやだから、ゴミが入ったりとかしても痛くないのかってことよ」

 

 

その疑問に、AKー12は答えることができなかった。なにせ彼女でさえ考えたこともなかったし、なんだったらロールアウト直後の起動テスト以来この目を開いてすらいないのだ。一応メンテの際は開いているらしいが、本人に意識がないのであれば意味がない。

そしてその沈黙を、二人は『知らない』と捉えるのだった。

 

 

「よし、やってみよう!」

 

「い、嫌よ! 誰が好き好んで自分の目に物を入れなきゃいけないのよ!?」

 

「大丈夫、固形物はやめておくから」

 

「それにな、とある国にはこんな言葉だってあるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「嫌よ嫌よも好きのうち」」

 

「何それ意味わからないわ!?」

 

 

軍時代ですらここまで慌てた彼女を見ることはなかっただろう。そんなガチな反応のAKー12を見逃す二人ではない。

モシン・ナガンが器用に両腕を片腕で抑え、もう片方の手で片目のまぶたをこじ開ける。ヴァイオレットに輝く瞳があらわになると周りから歓声が沸き起こり、AKー12は最後の救援として代理人を頼る。

が、肝心の代理人は彼女の後ろ側にいるので気付いてもらえなかった。

 

 

「それじゃ、とりあえずこれにしてみるか」

 

「あ、それ私のレモン!!」

 

「後で別のあげるから我慢してくれAS Val」

 

 

AKー47が用意したのはチューハイに添えてあったレモン。その両端を指で摘んでにじり寄ってくる。

バタバタと暴れるAKー12だったが、他の人形にまで抑えられてはどうしようもなかった。

 

 

「というわけで、レッツ実験!」

 

「これも偉大な祖国のために!」

 

「それ絶対関係ない!」

 

「む、祖国を否定したな!? やれ、AK-47!」

 

「何このメンドクサイ連中は!?」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

そして冒頭に戻る。

情け容赦のかけらもなく吹き出したレモン汁はAKー12の瞳に降り注いだ。

結論から言えば、どうやら痛覚はあったようだ。とはいえ基本的に閉じている上に戦闘モードでは優先的に切られる部分であったため、そもそも目に何か入るということ自体想定されていなかったようだ。

まぁその開発陣の油断のせいで、AKー12は床をゴロゴロと転げ回っている。

 

 

「・・・・・・やっべ、やりすぎたか?」

 

「と、とりあえず眼を洗うか? おい、水持ってきてくれ!」

 

「は、はい!」

 

「だ、大丈夫か? 水持ってきたから、な?」

 

「お待たせ! 水持ってきたよ!」

 

「え? じゃあこれって・・・・・・」

 

「・・・・・・酒じゃね?」

 

「ぬわぁああああああああああああ!!!!!!」

 

 

もはや乙女の出していい声ではない声で叫ぶAKー12。軍に残してきた彼女を敬愛するANー94が見れば何と言うか。

流石に度がすぎているということで、この後代理人が店の奥で簡単に治療し、主犯格を当面の間出禁にするということで落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・・・もうやだグリフィン怖い」

 

「と、いうわけで代理人。 とてもじゃないがあの宿舎で過ごさせるのは気が引けるからここに泊めてやってくれないか?」

 

「・・・・・はぁ。 止めなかったこちらにも非はありますから構いませんが・・・・くれぐれも再発のないようにしてくださいねPKPさん?」

 

「わかっている。 ほら、もう大丈夫だから」

 

 

こうして、AKー12は喫茶 鉄血に住みながらグリフィンへと通う日々を送るのだった。

 

 

 

end




ごめんよAKー12ちゃん、余裕なお姉さんキャラは壊したくなっちゃうんだ(テヘッ)
ということで喫茶 鉄血から通勤することになったAKー12ちゃんです。なので非番の時は店の手伝いもしてくれるよ。


では、今回のキャラ紹介

AKー12
今回の被害者。人形としては最新モデルで、性能もかなり高い。電子戦が得意だが、そんな機会はこの世界ではそうそう訪れることはない。

PKP
このカオスなロシア勢を一応まとめる苦労人。
明確に誰がリーダーとか決まっているわけではないが、あの恋愛クソ雑魚な姉を見守り続けた面倒見の良さを買われて幹事になってしまった。

ソ連・ロシア勢
ウォッカを愛し、愛国心にあふれた人形たち。たとえ入隊時にそこまでの愛国心を持っていなくとも、入念な教育によって素晴らしい愛国心を手に入れることができる。
しばしば『赤色集会』なるものを開いているが害はなく、むしろ普段は気さくで話しやすい集団。

代理人
この店では客に不必要に干渉しないようにしている・・・・・が、そうせざるをえない厄介ごとの方からやってくる。


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第百四十一話:第二次冬戦争()

皆さん、イベントの進捗どうですか?
自分は減りゆく資材と代理人の容赦のなさに泣きそうです。
あ、でもIDカードの背景が素晴らしいので十分ですね!代理人に踏まれるとかご褒美以外のなんでもないのです!

今回はそんなイベントの報酬に因んだお話です。
そしてまさかの二話連続ロシア登場!


*ドルフロ狂乱編5の代理人とM4可愛いやったぁあああああ!!!!
https://youtu.be/lPijGWynir0


「・・・・・・」

 

「む〜〜〜〜・・・・ここ!」

 

「あら、いいところに・・・・はい、チェック」

 

「うぐっ・・・・ま、まだここからだよ!」

 

「・・・・・何してるの二人とも?」

 

 

とある日の夜、営業時間を終えて片付けも済んだ喫茶 鉄血で、マヌスクリプトは珍しい光景を見た。それは代理人とD、側から見れば区別のつかないその二人が一つのテーブルを挟んで真剣な表情を浮かべていたのだ。よほど集中しているのか、マヌスクリプトがかけた声にも気付いていないようだ。

そんな二人がそれほどまでに真剣になっている理由、それはテーブルの上に置かれたあるものだった。

 

 

(・・・・おや、あれは『チェス』かな?)

 

 

テーブルの上に載っているのは、いかにもな白黒の盤面と同じく白黒の駒が並ぶボードゲーム、チェス。形も動きも様々なそれを駆使し、相手のキングを取るかキング以外を全滅させれば勝ちというルールだ。

戦略や先読みが勝敗を分けるそれを、ほぼ同程度の高性能AIを持つ二人がやっているのだ。きっと盤面の状況だけでは伝わらない駆け引きがあったのだろう。

そしてついに、決着の時が来た。

 

 

「ここ・・・・・かな・・・・」

 

「残念ですが、それは悪手ですよ・・・・・・チェックメイト」

 

「あぁ〜〜負けたぁ〜〜〜〜」

 

 

そういう割にはさほど悔しくもなさそうな顔で手をあげるD。まぁ二人もそこまで本気でやっているわけでもないので軽い遊び感覚だろう。

感心しながら見ていたマヌスクリプトだが、そこでふと思いつく。客の入れ替わりが少なくまったりした雰囲気のこの店に合った、新しいサービスだ。

 

 

「ねえ代理人、一つ提案があるんだけどいいかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

あの日の翌日から早速導入したそれは一部の客に大いに受け、それ目当てで訪れる客が現れるようになっていた。

そのサービスというのが・・・・・

 

 

「あ、コーヒー二人分とチェスお願い」

 

「畏まりました。 用意しますので少々お待ちくださいね」

 

 

そう、チェスの貸し出しだった。もとよりこの店に来る客の半分くらいは人形、もっといえば戦術人形である。そんな彼女らがここ最近滅多に使わない戦術AIを駆使できるということで人気になり、今ではS09の指揮官から推奨までされているくらいだ。

ちなみにレンタルは一回500円、時間制限はないが良識の範囲内でとなっている。

 

 

「はい、どうぞ。 それではごゆるりとお楽しみください」

 

 

出されたチェス盤を持ち早速席へと向かう人形たち。これの面白いところは、たとえ見た目や言動の幼い人形であってもそれなりに手強く、M4などの一部指揮能力に長けた人形だとほとんど人間では太刀打ちできなくなるところだ。が、それを承知で彼女たちに挑む強者も一定数おり、人間人形問わず盛り上がっている。

まぁ中には、合法的に人形たちとお近づきになれると考えたり、勝ったら付き合ってほしいと言って挑む者もいるが、結果はお察しの通りだ。

 

 

「いやぁ〜、言っておいてなんだけどすごい人気だね」

 

「えぇ、このアイデアは悪くないとは思いますよ」

 

 

とはいえ代理人たちも注意しておかなければならない。一応幅広い世代が訪れる喫茶店なので当然賭け事は禁止、皆が使う物なので汚したり壊したりにも注意する(飲食店なのである程度の汚れは黙認している)。さらにあくまでも勝負事なので、喧嘩になってもうまいこと抑えなければならない。

その点、ハイエンド揃いの喫茶 鉄血のセキュリティは万全と言えた。

 

 

カランカラン

「いらっs・・・・・・あら、今日もですか?」

 

「はい、今日こそ白黒つけてあげようと思いまして!」

 

「というわけで、チェス盤を貸してください!」

 

 

そんな中やってきたのは、チェスのサービスを始めた当初からほぼ毎日通っている二人の戦術人形、9A91とスオミだ。

この二人、普段は仲がいいのだが事あるごとにぶつかり合う、いわばライバルのような関係である。理由は単純、スオミが常識を逸したアンチ赤色だからである。加えて9A91(に限らず多くのロシア銃)が祖国復興というのを口癖のように唱えており、スオミとはなにかと衝突することが多い。

そんな二人は最近、チェスという表面上平和な戦争で日々戦っているのである。

 

 

「はいどうぞ。 それといつも言っていることですが、熱くなりすぎないように気を付けてくださいね」

 

「「はーい」」

 

 

そう返事をして、二人は()()()()()()を持っていく。見慣れた者からすればいつものことだが、そうではない者は首を傾げる。

が、席につきそれぞれのポーチから取り出したものを見てギョッとする。

 

 

「さぁ! 今日こそこの盤面(戦場)を赤く染めてあげましょう! そして我が祖国復興の礎となりなさい!」

 

「ふん! ただ物量で押すことしかできないウォッカ漬けどもの酔いを覚ましてあげますよ!」

 

 

二人が取り出したのは、自作かどこかで買ってきたのかは知らないがそれぞれが用意した自前の駒。

いつからこうなのかは誰も覚えていないが、時々こうして自前の駒を持ってくる客もいたりする。特に駒とセットで貸し出さなければならない理由もないので、その場合はチェス盤だけ貸している。

 

そんな二人が持ち込んだ駒は、明らかに普通の駒とはかけ離れたものだった。

通常、馬や砦を模したもののマイナーチェンジが当たり前だが、二人のは歩兵やら戦車やらという軍隊感丸出しの見た目で、ご丁寧にもキングの駒にはそれぞれの国旗が飾られている。そしてなんと言ってもそのカラーリングが、片や雪のように真っ白で片や血のように真っ赤なのだ。

 

 

「おや、いい感じに熱が入ってますね!」

 

「あらカリーナさん」

 

「ひょっとして、あの駒ってカリーナさんが?」

 

「ええ! 腕のいい職人さんに作っていただきました。 あの二人なら買うだろうと思ってましたからね!」

 

 

そう言って目を『$』にするカリーナ。その商売根性は見上げたものだが、側から見れば武器を売りつけて煽る武器商人以外の何者でもない。

そんな感じで見守っていると、両者ともなかなかの接戦を繰り広げていた。共にポーンをいくつか失い、後列のコマも前線に出てきている。

 

 

「・・・・あれ? お二人ともあまりキングを狙っていませんね?」

 

「あぁ、カリーナさんは見るの初めてでしたね」

 

「あの二人はね、キングを取る気がないんだよ」

 

「え? ですがそれでは・・・・・・あっ」

 

「そう、あの二人がやってるのは・・・・・『殲滅戦』だよ」

 

 

チェスのルールにおいて、キングを取ることが勝敗を決する要因となる。たとえ相手がキング一人であろうとも、そのキングを取る手段がなければ引き分けになる。

が、この二人にそんなことなど関係ない。敵の戦力を根絶やしにし、降伏を迫るのがこの二人のルールである。そのあまりにも特殊すぎるルールのせいで、今まで一度も勝負かつくことがなかった。

 

 

「チッ、ちょこまかと・・・・・大人しく我らの同志になりなさい!」

 

「冗談はウォッカの度数だけにしてなさい、このファッ◯◯レッド!」

 

「この野郎! 粛清してやる!」

 

 

何度も言うが、スオミはロシアとかソ連とかが大嫌いである。湖の畔でお花を愛でている姿が似合いそうな彼女だが、その口から飛び出す暴言罵倒には一切の容赦がない。

そしてそれに感化される形で9A91も口調が荒くなる。それまで温存気味だった戦車部隊(ルークとかビショップとか)を全面に出し、時には一個のルークを囲んでボコボコにする。

 

 

「この人でなし!」

 

「我らの正義を受け取りなさい! Ураааааааа!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、こんな感じのことがここ毎日のように行われているが、ちょっとでもチェスをしたことがある人ならば殲滅戦がいかに難しいか分かってもらえると思う。それを毎回懲りずに狙うので、当然引き分けに終わるのだ。

今回も、互いに()()()()()()()()()()()()()ところで引き分けとなる。

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

 

見目麗しい女性がしてはいけない顔で盤面を見つめる二人。そうして何となしに互いに視線を合わせると

 

 

(次こそ・・・必ず・・・・・)

 

(勝って・・・みせます・・・・)

 

 

熱いアイコンタクトを取り、そのままテーブルに突っ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜いつもごめんね代理人」

 

「いえ、お二人とも楽しんでいらっしゃったので」

 

 

それから数分後、二人を迎えにきたモシン・ナガンは満身創痍の二人を見てため息をつき、二人を両脇に抱えて引きずって帰る。その際に代理人にこうして軽く謝罪して入るのだが、これももう何回目かになるので互いに慣れてしまった。

 

 

「そろそろ自重するようにって言っとくわ」

 

「まぁ流石に毎日は・・・・ですが、いつでもお待ちしておりますので」

 

「ふふっ、ありがと。 じゃ、お世話になりました〜」

 

 

ズルズルと引きずる音を立てながら店を離れ、近くに止めてあった車に乱暴に投げ込むモシン・ナガン。

そんな光景を、代理人は呆れながら見守るのだった。

 

 

 

end




はい、というわけで今回はイベント報酬のチェス!
小さいころ、レゴでオリジナルの駒を作って弟と遊んだのはいい思い出。

それでは今回のキャラ紹介


9A91
祖国復興を掲げるソ連ロシア銃、その中でも人一倍熱意のある人形。
真っ赤に染めたTー34やらKVー2を模った駒を使い、ルール無視の殲滅戦を仕掛ける。
祖国が絡むか絡まないかで性格がかなり違う。

スオミ
ヘビメタ好きのアンチ赤色。
自身はSMGだが、かつての英雄である某白い悪魔を崇拝し、その関係でモシン・ナガンを引き入れようと画策する。
真っ白の駒だが当時の戦力のほとんどはソ連と似たり寄ったりなので駒もそんな感じ。

モシン・ナガン
自身はソ連銃だが、某白い悪魔の関係でスオミに懐かれている。そのためこのチェス戦争のたびに回収に向かわされる。
そこまで祖国復興に熱を入れていないが、周りのノリやテンションに合わせるタイプ。

代理人
Dと嗜む程度に始めたチェスがここまで大きくなるとは思っていなかった。

D
♪オリジナルが倒せない

マヌスクリプト
今回はいい仕事したと思う。ちなみにチェスはからっきし。


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番外編35

7月発売予定の45姉のfigma、買うべきか否か・・・・・
9ちゃんかM4か代理人なら即買いなんだけどなぁ

そんな話は置いといて、今回は番外編!
・修道女の常備品
・グータラエリート
・残されし者
・チェス王決定戦 in 司令部
の四本立てでお送りします!


番外35-1:修道女の常備品

 

 

S09地区の教会に住まう修道女、アデーラ。先日喫茶 鉄血を訪れたローウェンの古い友人(自称)である彼女には謎が多い。それもそのはずで、彼女もこことは違う世界から流れてきた人物だからだ。にもかかわらずあっという間にこの世界に順応し、信仰しているのか怪しい神に向かって祈りを捧げる毎日を送っている。

 

 

「・・・・・と、いうのが貴女のイメージだそうですよアデーラさん」

 

「あら、それは嬉しいことですが・・・・私が祈っているのは神などという頼りのないものではありませんわ」

 

 

全世界の様々な教徒を根本から否定し始めたアデーラだが、先日の一件で彼女がそういう人間であることはなんとなく知っていたので、代理人も特にツッコミはいれない。

 

 

「ではどなたに・・・というのは野暮ですね」

 

「えぇ、もちろん愛しの狩人様ですわ」

 

 

恍惚の表情、と言った感じで語るアデーラ。見ての通り少々危なっかしいが一応話の通じる人間なのでこういうタイプなのだと納得しておく。

ただし、それはあくまで『アデーラ自身』の話である。問題は彼女の持ち物・・・・・服の下に隠してある()()()()()()()()()()()()()()()があまりにも異質だったからだ。

代理人とて直接見ているわけではない。だが防犯の観点からある程度のセンサー類を起動させて客をスキャンしているので、彼女の持ち物にも気がついたのだ。

 

 

「アデーラさん、以前にお会いした時から気にはなっていましたがその・・・・なぜ『注射器』を持ち歩いているんですか?」

 

「あら、お話ししましたっけ?」

 

「いえ、服の上からですが、形状からそう判断しました」

 

 

そこまで代理人が言うと、アデーラは苦笑して服の下から注射器と小さな箱を取り出す。注射器は本物の医療用ではなく、むしろアンティークな感じの丈夫そうな金属のやつ、それがなんと五本も出てきた。そして箱の方は腰に固定するポーチのような感じで、しかも保冷保温ができる割とイイお値段のやつである。

 

 

「これ、開けてみても?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「では、失礼いたしまs・・・・・お返しします」

 

「うふふふふ」

 

 

箱をちょっとだけ開け、すぐに閉めてアデーラへと返す代理人。中に入っていたのは、なんか赤い液体が満載された透明のパック・・・・・輸血パックだった。

 

 

「狩人様は、血を必要とされるのです。 いつまた出会っても大丈夫なように、常に持ち歩いているんですよ」

 

「血を、ですか・・・・・もしかして」

 

「えぇ、私のです。 狩人様が私の血を受け入れてくださると思うと、それだけで私・・・・・あはぁ!」

 

 

そう言ってまた一人でトリップし始めるアデーラ。

悪い人ではない、が大丈夫な人でもない、と認識を改めるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外35-2:グータラエリート

 

 

戦術人形AKー12が喫茶 鉄血に住みついて早数日。着任初日にトラウマものの事件に巻き込まれた彼女だが、あれからなんとかやっていけているらしい。なにせ高い戦闘能力に加えて高度なハッキング技術も持ち、指揮官からの評価も高いそうだ。

そんな彼女だが、元は軍に所属していた人形である。いくら平和だからと言えど軍は軍、当然規律や規則にも厳しい世界だ。おまけに人形があらゆる場面で活躍するこのご時世であっても軍は男所帯で、人間人形含めても女性はまだまだ少数派だ。

 

気の休まらない、そんな世界から一転し、従業員全てが人形であるこの喫茶 鉄血に住みつくようになるとAKー12は変わった。

軍時代の反動か、しぼんだ風船のように腑抜けてしまったのだ。

 

 

「D、そろそろAKー12を呼んできてもらえませんか?」

 

「了〜解!」

 

 

夕食に支度を終え、ゾロゾロと喫茶 鉄血の面々が揃い始めた頃になって、DがAK-12を呼びに行く。物置だった部屋を片付け、ベッドと机だけを置いたその部屋の主は、制服を脱ぎ散らかし下着のままでベッドに寝転がっていた。

 

 

「あらD、もうご飯かしら?」

 

「また散らかしてる・・・・脱いだらちゃんと畳むかハンガーにかけないと。 あと下着だけなのははしたないよ!」

 

「いいじゃない、見られて困るものでもないし。 せめて家でくらいのんびりしていたいの」

 

 

そう言ってベッドの上であぐらをかき、大きくあくびをするAK-12。Dは盛大にため息をつくと、とりあえず脱ぎっぱなしになった服を集めながら言った。

 

 

「とにかく、もうご飯できてるから降りてきて。 あと部屋着でいいから何か着てきてね」

 

「むぅ〜、面倒ね・・・・・これでいいでしょ?」

 

「・・・・・・まぁないよりマシかな」

 

 

AK-12が着たのは、ベッドの隅に丸められていたちょっと大きめのパーカー。それを頭からズボッと被ると、そのまま何事もなかったかのようにリビングへと降りていった。

もし仕事がなくなったらニートにでもなってしまうのではないか、そう不安に思うDは、とりあえず彼女の服を畳むのだった。

 

この後、あまりのズボラっぷりに代理人の説教が始まるのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外35-3:残されし者

 

 

それは、AK-12がグリフィンに配属となってすぐのこと。彼女が所属していた基地の司令室で書類に目を通りていたカーター将軍は、突然開け放たれた扉に思わず拳銃を引き抜きそうになった。

 

 

「将軍! 私もグリフィンに行ってきます!」

 

「え、ANー94か・・・・なんだいきなり」

 

「だって、AKー12がグリフィンに行っちゃったから・・・・・」

 

 

やってきたのは軍に所属する戦術人形のANー94。あのAKー12の姉妹機であり、彼女が大好きで仕方がないという人形である。

そんな彼女がなぜ今になってやってきたかというと、それは単純に知らされていなかったからだ。

そのANー94を追いかけてきたジャッジが背後から羽交い締めにして連れ出そうとする。

 

 

「こらANー94! お前将軍に向かって何言ってるんだ! ・・・・し、失礼しました将軍、こいつ止めても止まらなくて」

 

「やだやだ私もグリフィンに行くんだ!」

 

「えぇい諦めろANー94! 貴様それでも軍人か!」

 

「煩い貧乳!まな板!!ペッタン娘!!!」

 

「くたばれ!!!」

 

 

ジタバタ暴れる上に禁句まで吐き出したANー94を、ジャッジが華麗なジャーマン・スープレックスで黙らせる。そしてカーターに謝罪すると、完全に伸びたANー94を引きずって出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・会いたいよぉ、AKー12ぃ・・・・・」

 

「あぁもう鬱陶しい。 別にもう会えないわけでもないだろうに」

 

「グスッ・・・でも・・・・・でもぉ・・・・」

 

 

落ち着きを取り戻したかと思えば、今度は泣きっぱなしになるANー94。製造から今日まで常にAKー12とともに過ごし、もはや依存とも呼べる状態になっていた彼女からすれば、この状況は受け入れがたいものだろう。

が、仮にも軍に所属している身でいつまでもウジウジされていては堪らない。というわけで今日何度目かの叱責に入ろうとしたジャッジだが、思わぬ人物に止められた。

 

 

「あら、やっぱりこうなってたのねANー94」

 

「あ、アンジェリカ隊長!?」

 

「うぅ・・・アンジェぇ・・・・・」

 

 

現れたのは彼女たちの上官で、彼女たちが所属する部隊の隊長であるアンジェリカ。堅実無骨な人形が主流の軍の中で、彼女が率いる感情豊かな人形部隊は大変人気がある。

それはさておき、凹みまくるANー94にアンジェリカはこんなことを言い出した。

 

 

「ねぇANー94、やっぱりAKー12と居たい?」

 

「いたいですぅうううう!!!!」

 

「わかった。 この件は私がなんとかするから、それまで普段通り過ごしなさい。 約束できる?」

 

 

涙やら鼻水やらで顔をくしゃくしゃにさせながら頷くANー94。それを見たアンジェは、満足そうに頷いて立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

それからまた数日後。あれから大人しくなっているANー94だったが、その日は朝からやたらとテンションが高かった。

あまりにも不自然なので、食堂で昼食をとっている間に聞いてみた。

 

 

「どうしたんだお前、ちょっと気持ち悪いぞ」

 

「え? 聞いてくれるジャッジちゃん!?」

 

「ジャッジちゃん言うな! それで、何があったんだ?」

 

「えへへへ・・・・私、明日からグリフィンに行くんだ!」

 

 

二ヘッと笑うANー94。だがそれと同時に、ジャッジの視界の隅に映る妙にやつれたカーター将軍の姿が気になっていた。そしてそんなタイミングでやってきたアンジェに詰め寄る。

 

 

「隊長、いったいどんな手を使ったんですか!?」

 

「あ、もう聞いたんだ。 いやぁ、『上に相談しよっかなぁ』って呟きながら司令室の前を行ったり来たりしただけだけどね」

 

「十分すぎる嫌がらせじゃないか!?」

 

 

ジャッジは、せめて自分だけは将軍に優しくあろうと心に決めるのだった。

そして約束通り、翌日にはANー94はグリフィンへと旅立っていったのだった。

 

 

end

 

 

 

番外35-4:チェス王決定戦 in 司令部

 

 

「さぁさぁ皆さん! 『第一回 S09地区司令部チェス王決定戦』まで後少しです! 練習はしていますか? 自分の駒は買いましたか? もしまだならぜひお声がけください! 今ならお安くして差し上げますわ!!!」

 

 

S09地区司令部、その購買を取り仕切るカリーナの声が響く。それはつい数日前に、チェスが喫茶 鉄血でちょっとしたブームになっていると聞いた指揮官の思いつきから始まったものだった。

 

 

『ふむ、ではこの司令部でもやってみてはどうだろうか』

 

 

それを聞いたカリーナは当然こう思う。これは商売の匂いが、金の匂いがする、と。

とはいえ、ただそれだけなら参加する人形は増えないだろう。というわけで指揮官を上手いこと誘導し、いくつかの景品を用意した。

 

・参加賞は地元のおいしいシュークリーム

・トーナメント形式で、ベスト8に入れば賞状とカフェの割引券

・ベスト4でさらにS09地区のお店で使える商品券

・準優勝以上で特別報酬(現金)

・そして1位には、指揮官がなんでもいうことを一つ聞いてくれる

 

用意された景品はこんな感じだが、これ以外にもそれなりに意味を持って挑む人形たちもいる。チェスとは頭脳戦であり戦術、戦略が求められるゲームである。各部隊の隊長格の中には、己のプライドをかけて挑む者もいるのだ。

が、やはり魅力的なのは優勝者の景品だろう。

 

 

(指揮官が、なんでも一つ・・・・・()()()()!)

 

(うふ、うふふふふ・・・・・)

 

(あ、あんなことや、こんなことも・・・・・あはぁ!)

 

 

指揮官ラブ勢など、言うまでもなく勝ったつもりでトリップし始める。それ以外でも、例えば新しい服を買ってもらいたかったり(FAL)、隊員に休暇を与えたかったり(MG5)、喫茶 鉄血に引っ越したかったり(ダネル)と、結構色々な思惑が混じっていた。

また当初の目論見通り、カリーナの元へ買い物に来る人形も増えるのだ。

 

 

「あぁ、お金がいっぱ〜い! 指揮官様、私は今幸せですわ〜!」

 

 

 

end




今回のイベントのいいところは、何度も同じステージを回らなくてもいいところですね。その分ステージ数が増えましたが、ストーリーに厚みがあっていいと思います。
ところで代理人のあのダミー、いつぞやに大量生産したヤツとかDとかじゃないですよね(震え)


ではでは各話の解説!

番外35-1
アデーラさんの日常。
ちなみにここにはあの憎きアデラインもいないので幸せなようです。信ずるべきは神ではなく狩人。

番外35-2
エリートの成れの果て。
でも意外と下着でうろついてる姿も似合うと思うのよ・・・生活力とか女子力とかは落ちるけど。

番外35-3
ANー94を本編に出さなかった理由、それはリアルでまだお迎えできていないから!
いつか訪れるその日のために、合流フラグだけ立てておきした。

番外35-4
チェス王とか言っておきながらほとんどカリーナの話。
でもチェスセットって、高いやつはマジで高いからね。


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第百四十二話:傭兵、異世界に来るってよ

コラボ、返さねば!
というわけで今回はコラボのお返し。『サマシュ』様の『傭兵日記』からです!(https://syosetu.org/novel/185223/118.html)


それはある日のこと。

今日も変わらず客を迎え、いつもと変わらぬコーヒーを出す喫茶 鉄血で、代理人はカウンターに立ち皿を拭いていた。

が、そのいつも通りの平穏は唐突に終わりを迎えるのだった。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶鉄血へ。お好きな席にお掛けください」

 

 

店の扉が開き、なんとも珍妙な一行が現れる。それなりに体格のがっしりとした男性が二名、そしてその足元を一匹のダイナゲートが付き従っている。見たところ男性の方は両方とも人間のようで、それが尚のこと不思議だった。

そんな違和感を感じていると、男の一人がサッと血相を変える。何事かと声をかけようとした瞬間、男は懐から拳銃を取り出し、銃口をこちらえと向けてきた。

 

 

「―――ッ!!!!」

 

「ジャベリン!?」

 

 

男・・・・ジャベリンと呼ばれたその人物は険しい表情のまま銃を構える。先ほどの動きといい、やはりそっち側に人間であるようだ。

銃を突きつけられているとはいえ、ここは下手に刺激しないほうが得策と考えた代理人は、人形であることを最大限に生かして平常を保ったまま言った。

 

 

「・・・お客様、店内での暴力行為はお控えくださいませ」

 

「代理人・・・()()()()()()()()()()()()。 答えろ」

 

「お、おい、ジャベリン落ち着けって」

 

「スピア、隊長命令だ。 黙れ」

 

「そんな横暴な・・・・・」

 

 

もう一人の男性はスピアというらしい。そしてジャベリンと呼ばれた男が隊長のようだ・・・・・『ジャベリン』に『スピア』、どちらも『槍』という意味のある言葉なのは、コードネームか何かなのだろう。

だが、これで一つはっきりとした。どうやらこの三人(というよりも二人と一匹)も、()()()()()らしい。

 

 

「あぁ、成る程。そういう事でしたか」

 

「・・・・・何だと?」

 

「お客様、詳しいことはあちらのテーブル席でお話致しましょう。 先ずはその拳銃をお下げくださいませ」

 

 

とりあえず話から、ということでこちらに敵意がないことを伝えてテーブルへと誘導しようとする。が、どうやら『あっちの代理人』とは相当因縁深いようで、逆に炎上させてしまった。

代理人の高性能カメラが、トリガーにかかった指に力が入るのを捉える。

 

 

「ふざけっ・・・・!」

 

≪ご主人!!!!≫

 

「っ・・・・・・ポチ」

 

≪貴方が冷静にならなくてどうするんですか?≫

 

「・・・あぁ分かったよ」

 

 

そのトリガーが引き絞られる前に、足元のダイナゲートが止めに入る。どうやらポチという名前のようで、しかも喋った。

喋るダイナゲートといえば、今頃ノインはどうしているだろうかとちょっとどうでもいいことを考えつつ、なんとか最悪の事態は避けられたようなので今のうちに席へと案内する。

ジャベリンは机に肘をついて項垂れているが、スピアは案外図太い神経なのか周囲を物珍しそうにキョロキョロ見ている。

 

 

「何かご注文は?」

 

「私は紅茶のホットで。ジャベリン、君は?」

 

「・・・・・ホットコーヒーを頼む」

 

「承りました」

 

 

メニューを聞き終え、一度カウンターへと戻る代理人。さっきまで銃を向けられたりしていたにも関わらず落ち着いたその行動は、相変わらず慣れているとしかいえない。というよりも他の客も結構慣れてしまっているようでもある・・・・・危機管理意識が下がってきているのではと心配するレベルだ。

 

 

「失礼します。ご注文のホットティーとホットコーヒーです」

 

「いたた・・・あぁ有り難うマスター」

 

「・・・・・なぁ代理人」

 

「言いたい事は理解しております。少々お待ちくださいませ」

 

 

言葉を遮る形で代理人はそう言い、注文されたものを並べると再び店の奥へと引っ込む。そして店の奥に保管してある、()()()()()()()を束ごと抱えると、それを彼らのテーブルへと運んだ。

 

 

「お待たせしました。少し、こちらの新聞をお読みください」

 

 

そう言ってテーブルの上に乗せた新聞は、どれも同じ年のもの。代理人にとってはただの新聞でしかないが、彼らのような者たちにとってはそれこそ、『世界を一変させた事件の起こった年』である。

そのため、これまでの来訪者たちから得た教訓として代理人が少しずつ集めていたのだ。

 

 

「・・・・・・・何だこりゃあ」

 

「凄いな、蝶事件の記事が一つも見つからないぞ。ついでにE.L.I.D関連も」

 

≪ご主人!ここ私達の住んでる世界じゃ無さそうです!!≫

 

 

案の定というべきか、やはり彼らが探した言葉は見つからなかったようだ。そして足元にいたポチも、この店のダイナゲートと会話(?)して情報を得たようで、表情は見えないが「信じられない!」といった感じの身振り手振りをとっている。

 

 

「は、ははは・・・・・マジかよ」

 

 

一通り流し読みしたジャベリンは乾いた笑い声をあげると、背もたれに倒れ込むように茫然とする。残念ながらその気持ちを全て知ることは代理人にはできないが、もはや笑うしかできない・・・いや、笑ってないとやってられないのだろう。

 

 

「代理人・・・・・」

 

「はい」

 

「エスプレッソ・・・物凄く濃いめのやつ・・・・・追加注文で」

 

「承りました」

 

 

慰めの言葉をかけることもできないので、代理人はとりあえず注文通り、とびきり濃いのを淹れにいこうと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして。

ひとまず現実を受け止められるようになったところで、改めて簡単な自己紹介をし合う。といってもあちらはコードネームでしか答えられず、こちらも紹介といっても特に話す内容もないので、本当に簡単なものだけだ。

 

 

「・・・ジャベリンさん、どうかしましたか?」

 

 

代理人がカウンターでコーヒーを淹れていると、ふと視線を感じて顔を上げる。そこでなんともいえない表情で代理人を見るジャベリンと目が合った。

 

 

「ん、あぁいや。ちょっとさっきのことを謝りたくて・・・・・」

 

「その事についてはお気になさらず。まぁ、変わりと言っては何ですが・・・あなた方の世界のお話をしてくれませんか?」

 

「それでいいなら喜んで」

 

 

それでは、と代理人は淹れたコーヒーを客の元に届け、ジャベリンたちのテーブルに向かう。

代理人が席についたところでジャベリンが話し始め、スピアとポチもその補足をしていく。蝶事件と呼ばれる異世界での事件から始まり、武器庫と呼ばれる組織のことや、向こうでの代理人たちハイエンドのこと。

そして、あっちの世界での代理人とジャベリンの関係・・・・・。

 

 

「何といいますか・・・・ジャベリンさん、貴方は随分と鉄血関係で苦労をしていますね」

 

「何せ現場に居たし現場に連れてかれたからな」

 

「そちらの私が随分と迷惑を掛けてしまい申し訳ありません。まさかそこまでバイオレンスな事を仕出かしてるとは」

 

「代理人が謝ることじゃない。これはうちの問題だし・・・」

 

 

ジャベリンが気を遣ってそう言う。実際、ここの代理人とあちらの代理人とでは全くの別人だし、ジャベリンの言う通り代理人が気に病むこともない。だがたとえ別人だとしても、やはり自分の同型のしでかしたことを無関係とは切り捨てられなかった。

そんなちょっと暗めの空気になってしまったところで、店の扉が開いて買い出しに行かせていたDが帰ってきた。

 

 

「ただいまOちゃん。頼まれたもの買ってきたよ~」

 

「おや、おかえりなさいD」

 

「・・・・・・・は?」

≪あれっ・・・・・代理人が二人?≫

 

 

Dを見た途端、ジャベリンとポチが固まった。なにせ代理人と・・・・・鉄血の最上級ハイエンドと瓜二つの人形が出てくればそんな反応にもなる。スピアに関してはそこまで代理人と関わっているというわけでもないからか、「あ、もう一人いるんだ」くらいに思っているのかもしれない。

 

 

「あぁ、ジャベリンさんにポチさん。彼女は私のダミーですよ」

 

「えっ」

≪えっ≫

 

「あなた方の知っている“代理人”と比べてしまえば違和感を感じてしまうのも無理はないでしょう。 D、この方達に自己紹介をお願いします」

 

「ん、いいよー」

 

 

Dはそう返事を返すと、三人の前まで行って軽くお辞儀をする。

 

 

「初めまして、私はOちゃん・・・じゃなくて、隣の彼女のダミーフレームです。Dって呼ばれてるので、どうぞよろしくお願いします」

 

「・・・ジャベリンだ。このダイナゲートはポチ、もう一人の野郎はスピアだ」

 

「よろしくお願いしますね、ジャベリンさん、スピアさん、ポチちゃん」

 

「ありがとうございます、D。休憩してていいですよ」

 

「はーい」

 

 

相変わらずのいい返事で店の奥へと戻っていくD。代理人自身も彼女は随分と明るい性格だと思っており、おそらくどの世界の代理人とも違うタイプなのだと推測する。そのせいか、ポチはまるでバグを起こしたかのように犬の鳴き声しか喋らなくなった。

 

 

「あー、O・・・さん?」

 

「今は代理人で問題ありませんよ。どうかしましたか?」

 

「もしかしなくとも・・・さっきのDみたいな鉄血ハイエンドモデルも居るのか?」

 

「いえ、彼女のような事例は私のみです。ですが・・・・・貴方の知らない鉄血ハイエンドモデルは沢山居ますね」

 

 

代理人はさらっと言うが、受け止める側のジャベリンは思わず頭を抱えてしまった。恐らく、改めて世界が違うと言うことを認識したのだろう。

 

 

「・・・嘘じゃないな?」

 

「嘘ではありません。因みに・・・今日はお休みなので出勤をしていませんが、この喫茶店でも何人か居ますね」

 

「マジかぁ・・・・・」

≪わん・・・・・≫

 

 

今日ばかりは他のハイエンド組を休みにしておいてよかったと思う代理人だった。ただでさえ混乱しているところへ彼女たちまでいたらどうなることやら。特に、いまだに男性に対して警戒気味なフォートレスなんかと鉢合わせれば、それこそ収集がつかなくなりそうだ。

 

その後、代理人はカウンターへと戻りジャベリンたちは何やら気になったことがあったのか、端末を覗き込んでいた。時折聞こえてくる会話から察するに、この世界の自分たちのことを調べているのだろう。

過去で言えば、とある男とハイエンドの組み合わせがそれで一悶着起こしているので、できることなら出会わないでもらいたいのだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さて、そんなこんなで時間が経ちコーヒーも飲み終えたジャベリン一行は、荷物をまとめて帰り支度となった。

 

 

「スピア、そろそろ出よう」

 

「ん、あぁ了解・・・・・お金はどうする?」

 

「俺が払うよ。代理人、お会計頼めないか?」

 

「あぁその件ならお構い無く」

 

 

そろそろだろう、と思って待機していた代理人がそう声をかける。これから財布を開こうかと言う時に止めるとちょっと申し訳ないが、どのみち通貨が違うはずなので先に言っておく。

 

 

「?」

 

「うちの慣例でして、異世界からのお客様は基本的にそちらの世界のお話をお代替わりとしております」

 

「そうか・・・・随分と洒落てる事をしてくれるな、代理人。ありがとう」

 

「お気遣いなく」

 

 

出しかけた財布をしまい、ちょっと申し訳なさそうに言うジャベリンに、代理人は微笑む。

すると、ふと何かを思い出したようにジャベリンは懐に手を入れ、一枚の名刺を差し出した。

 

 

「これは?」

 

「うちの会社の名刺。何か困ったら槍部隊って所を頼ってくれ、幸いにも電話番号も何もかも同じさ」

 

「なるほど・・・そうですね、また機会があれば頼らせて頂きます」

 

「まぁここでやれるのは食品や備品の運送、後はお客としてくるしか出来なさそうだが・・・・・我が武器庫の誇る槍部隊をどうぞご贔屓に」

 

 

そう言ってペコリとお辞儀をするジャベリンたち。流石はPMCとも言うべきか、こういうときはちゃっかりしている。

そんな彼らに、代理人もまた礼を言った。

 

 

「ええ。ご来店ありがとうございました・・・・・それとジャベリンさん、これを」

 

「ん、コーヒー豆?」

 

「当店のオリジナルブレンドです。元の世界でも是非」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 

もはやこれも慣例になったなぁ、と思いつつ紙袋を手渡す。またのご来店を、と気軽に言える相手ではないが、それでもまた彼らが訪れる日を楽しみにする。

そんな不思議な三人が店を出て少しした頃、さっきまで見ていた顔にそっくりの三人組がやってきた。違う点があるとすれば雰囲気と、彼の目の傷がないことだろう。

代理人はフッと小さく微笑み、すぐに元の表情に戻って出迎えた。

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶 鉄血へ」

 

 

 

end




私に足りないものは、それは!
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!

(タイピングの)速さが足りない!!


はい、そんな自虐は置いといて、今回はなんとも代理人に縁のあるお客様でしたね。ただし、あちらの代理人に、ですが。
彼らの行末に、幸あらんことを。

では今回もキャラ紹介!

ジャベリン
あっちの主人公的な人。槍部隊所属で、代理人含めて女難の相がある。
片目を失っているが、あっちの世界で五体満足な人間の方が少ない気がするので問題ないはず(飛躍)

スピア
槍部隊所属、女難の相もち。ここにくる前にもM200に追いかけられていた(帰っても追いかけられた)
ヤンデレホイホイ的な人。

ポチ
とある事情で喋れるようになったダイナゲート。『ご主人』と呼んだりと忠犬感が溢れる(どこぞのイケボダイナゲートとは全然違う)
電気ショックといった武装もあり、小回りが効くので大変便利だと思う。

代理人
もう銃を向けられても察するようになった。本人が気にするのは、それによって仲間が過剰に応戦してしまわないかという点だけ。

D
ジャベリンに『眩しい代理人』と思われた人。
運営さん、この娘実装してくれませんかね?


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第百四十三話:『人間』と『人形』

人形に限らず、人間と人外との恋愛ものって、いろんな問題がつきものですよね。
まぁそれを極力考えないようにして書いてますが、たまにはね?

今回はそんな感じで独自解釈を含んでおります(今更)


まだまだ寒さが続くこの季節。日によっては雪が降り軽く積もるくらいにはなるのだが、ここ数日は特に冷え込んでいた。

そんな寒さが極まったある日、代理人の端末に連絡が入った。

・・・・・そう、喫茶 鉄血ではなく代理人の、である。基本的に店に用事があるときは身内であろうとも店に電話をかけるため、代理人個人に連絡が行くことはほとんどない。あるとすれば、よほどの緊急の用事くらいだ。

 

 

「はい、もしもし」

 

『あ、代理人ちゃん? サクヤだけど』

 

 

電話の相手は鉄血工造のサクヤ。いつも通り明るい声色のようだが、何かあったのだろうか?

 

 

「珍しいですね、端末(これ)にかけてくるなんて」

 

『あー、うん、実はね・・・・・ユウトが風邪ひいちゃって』

 

「あら、それは大変ですね」

 

『うん。 で、医者が言うにはどうもインフルエンザらしくて』

 

 

話を聞いてみると、どうやら看病してあげたいが極力他の人との接触は避けるように言われたらしい。ならば人形に対処させては、とも考えたが・・・誰も肝心の看病の仕方がわからないとのこと。

さらにこの時期、年明けムードから完全に抜けきったということもあって発注やら何やらが増え始め、付きっきりでいられないのだ。

ついでに体に良いものを食べさせたいという思いもあり、ダメ元で代理人に頼むことになったらしい。

 

 

「そういうことでしたら・・・ですが私も、大したことはできませんよ?」

 

『ありがとう! それとごめんね、そっちも忙しいのに』

 

「お気になさらず。 それにDもいますから」

 

 

代理人は通話を切り、Dに店を空けることを伝えて必要なものを集める。人形しか働いていないとは言え、客の中に急患がいてもある程度対処できるようにいくつか救急備品を置いてある。その中からいくつか必要と思しきものを取り出し、小さめの鞄に詰める。

 

 

「では、行ってきます。 店は任せましたよ、D」

 

「うん、任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「だ、代理人! ユウトがインフルエンザって本当か!?」

 

「教えてください代理人!」

 

 

店を出てから数分後、鉄血工造からの迎えが来る場所で待っていると、どこから聞きつけたのか血相を変えたM16とROが代理人の元に走り寄ってきた。人形が血相を変えるというのも変な話だが、それくらいの慌てようだった。

 

 

「二人とも、とりあえず落ち着いてください」

 

「これが落ち着いていられるか!?」

 

「だって・・・・だってアレですよ!? インフルエンザですよ!?」

 

「いえ、そうですが・・・・・・あぁ」

 

 

そこまで慌てるのかと思う代理人だったが、それを言いかけたところでようやく思い至る。

というのも、彼女たちがここまで慌てる一番の理由は、彼女たちが『人形だから』である。通常、人形はほとんど病気にかかることはない。虫歯などにかかったとしても、あくまで歯が痛むだけでそれ以上の悪化はないなど、根本的に人間とは全く症状の度合いが違う。

そんな彼女たちが『病気』というものを知るのは、主にニュースや新聞などがほとんど。自身も体感したことのないそれを、ましてや毎年結構騒がれるインフルエンザともなると、不安に感じるのも無理はない。

 

 

「・・・・・わかりました。 ところでお二人は今日お仕事は?」

 

「え゛っ!? いや、その・・・・・」

 

「慌てて出てきてしまって・・・・・」

 

 

まぁ恋人が、(最悪)死に至る病に侵されているとなれば気が気でないのはわかるが・・・・と呆れながら、代理人はM4に電話する。案の定あっちでも二人を探していたのだが、事情を説明すると有給申請を出してくれることになった。

そしてタイミング良く、鉄血工造からの迎えが現れる。

 

 

「では、お二人も付いてきますか?」

 

「「もちろん!」」

 

「ふふっ、それでは行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あのね代理人ちゃん、確かに心配なのはわかるけどそうホイホイと部外ショアを連れてきちゃダメだよ? ここ一応グリフィンとは別の組織だし」

 

「それを言うなら、今の私も部外者という形になりますが? それにグリフィンとは別ですが、16labとは提携を結んでいますね。 緊急メンテナンス先として話が通っていますので、決して部外者というわけでもないでしょう」

 

「ぐぬぬぬ・・・・・はぁ、わかった。 まぁその二人なら大丈夫だろうけどね」

 

 

到着後にそんな一悶着があったが、とりあえず問題なく入れてもらえた。併設された予備宿舎の一区画を隔離して病室扱いにしており、そこに行くまでの間に容体や医者の診断を聞いておく。

 

 

「まぁ言った通りインフルエンザって診断、ちゃんと薬ももらってるから、寝てれば治るって言ってたよ」

 

「そうですか。 でも珍しいですね、特に体が弱そうにも見えなかったので」

 

「それは多分、私も含めてだけどこっちの人間じゃないからだと思うの。 ほら、あっちだと予防接種なんてものは打てないし、そもそも人口密度も違うからそれほど流行するってものでもなかったんだと思う。 当然、抗体なんてものもあんまりないんだよ」

 

 

というのがサクヤの見解だ。代理人もM16もROもユウトたちのいた世界のことはほとんど知らないが、当事者の一人であるサクヤが言うのだからそうなのだろうと納得する。

そもそもインフルエンザというものがよくわかっていない二人はなおも心配しているようだが、サクヤが親切丁寧に教えたことで落ち着いてはくれた。

そんなこんなで病室区画の前まで来ると、そこでサクヤとは一度別れる。ユウトに続いてサクヤまで感染すると大変だからだ。

 

 

「ここですね・・・・・失礼します」

 

「こ、こんにちは・・・・・」

 

「お邪魔します・・・・・」

 

「あ、代理nケホッケホッ・・・すみません」

 

「いえ、こちらこそ押しかける形になってしまって」

 

「大丈夫かユウト?」

 

「す、すごい熱です・・・・」

 

 

部屋の中は簡素なベッドに小さな机、暇つぶし用の本棚が置かれている以外は何もない。

そのベッドの上で、ユウトは時折咳をしながらも笑顔で迎えてくれた。

 

 

「早速ですが、食欲はありますか? 要望があれば、可能な限りそれに沿うようにはしますが」

 

「そうですね・・・できれば、喉に通りやすいものがいいかな」

 

「わかりました。 ではM16さん、そのバケツに水を汲んできてもらえますか?」

 

「これか? わかった」

 

「それとROさんは、替えの服をもらってきてください」

 

「は、はい」

 

「では私は食事を作ってきますので、お二人はユウトさんの体を拭いてくださいね」

 

「「「・・・・・・・・・・え?」」」

 

 

代理人は悪戯っぽく笑ってそう言うと、ポカンとする三人を置いてキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして

 

 

「お待たせしました・・・・・あら、皆さんどうしましたか?」

 

「べ、別に!?」

 

「なななんでもないですよ!?」

 

「そ、それよりもお腹が空いたなぁアハハ……」

 

 

大丈夫だと言ってはいるが挙動不審な三人に、思わず笑いそうになるのを堪える代理人。まぁ見たところユウトもM16とROが来てくれたおかげで少し元気になったようなので、それはそれで良しとする。

なんだったらその先まで行ってしまってもいいかも、と思いもしたが、一応病人なので流石にそれは言わないでおく。

 

・・・・・が、ちょっと楽しくなった代理人はここぞとばかりに手を打つことにした。

 

 

「ふふ、ではそういうことにしておきましょう。 それと、夕食はパンとシチューです、ゆっくりでいいので食べてくださいね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえいえ・・・・・あぁそれと、私はこの後サクヤさんに用事がありますので

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M16さんとROさん、後はお願いしますね」

 

「「・・・・・・はい?」」

 

 

またもやそんなことを言い出した代理人に一瞬思考が止まる二人。しかも部屋の扉を開けてから振り返ってわざとらしい口調で、

 

 

「実は、柔らかくしようと煮込みすぎて熱々になってしまいましたので・・・・・()()()()()()食べさせてあげてくださいね」

 

 

とだけ言って出ていった。

 

 

 

「・・・・・ふふっ」

 

「おや、代理人ちゃんもそんな顔するんだね」

 

「誰の指示ですかね、わざわざ『必要以上に温めてから運んでくれ』なんて言うのは」

 

「くっくっく・・・・誰だろうねぇ?」

 

 

病室から出たところで、悪い顔をしながらそう言うサクヤにジト目を向けつつ、それでも口元は少し笑う代理人。

サクヤとしてもあの二人が見舞いに来るのは少し想定外だったのだが、わかった段階ですでにこの流れにしようと決めていたのだ。

 

 

「あまり身内を、それも病人を揶揄うものではありませんよ」

 

「まぁまぁ、これでユウトも元気になってくれるんだから、ね?」

 

「まったく・・・・・()()()()『部外者』とまで言って特別感を出さなくても、お見舞いといえば誰でも通しますよね?」

 

「まぁね」

 

 

そう言ってクスクスと笑うサクヤに釣られ、代理人も小さく笑う。

もちろんこの後、食器を取りに戻った代理人が、顔を真っ赤にして微妙な空気に浸る三人を目撃するのは言うまでもない。

 

 

 

end




恋人のイベントといえば、看病イベント!!!
甲斐甲斐しく看病してくれる彼女が欲しい人生であった・・・・


それでは今回のキャラ紹介!

M16
普段はやや男勝りだが、ユウトのことになると途端に弱々しくなる。不慣れながらも頑張って看病してくれそう。
因みに今回の情報元はゲーガー→輸送部隊のAigisたち→G11→9&416→M16&RO

RO
委員長タイプ。手際良く看病してくれそうで、甘えたくなったら甘えさせてくれそう。
子守唄がちょっと音痴だったらなお良し。

ユウト
あっちの人たちって風邪ひいたらどうするんだろう?薬なんて多分相当高価だろうし。そんなわけで多分予防接種なんて打ってないだろうから罹ったよ。
三人だけの時の出来事?番外編まで待って欲しい。

代理人
鉄血工造の炊事担当は主にユウト・・・なので今回呼ばれた。実際のところ代理人も看病の経験はないが、一通りの知識はある。
最近ノリが良くなってきた。

サクヤ
身内は心配だが、心配ないと言われると通常運転に戻る。
弟分の恋愛が気になってしょうがない・・・というわけで病室には容体急変時の早期発見用としてカメラを設置してある。もちろんリアルタイムで見ている。


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第百四十四話:姉をたずねて三千里

この作品に登場するキャラは、コラボを除いて実際に入手した人形のみを出しています。

その制限、今回ばかりは破らせてもらおう!(意訳:書きたいけど出ないので書きました)


「はい・・・・・・はい、わかりました。 ではそのように伝えておきます。 はい、失礼します」

 

 

それはとある日のこと。今日も営業を終えた喫茶 鉄血の片付けを済ませ、これから夕食の準備に取り掛かろうとしていた代理人だったが、突然店の電話が鳴り始めた。営業時間外でかかってくることなどほとんど無く、そのほとんどは間違い電話か店の営業時間を知らない人からである。

今回もその手合いかと構えていたのだが、どうやら少し違ったようだ。

 

 

「代理人、電話か?」

 

「えぇ、グリフィンの指揮官から」

 

 

ゲッコーが不思議そうに訊ねると、代理人はそう返す。そして夕食の準備もそこそこに、代理人は上の階へと向かった。

向かった先は三階の従業員スペース。いつぞやに導入された炬燵が置かれた、通称『セーブポイント』である。そこで腑抜けたように動かない人形に、代理人は声をかけた。

 

 

「・・・・・・AKー12、そろそろ離してあげなさい」

 

「あら、私の癒しアイテムを奪う気? 酷いわ代理人」

 

「あ、あの・・・・もうすぐ夕食ですし・・・・・」

 

 

マヌスクリプトが持ち込んだ、人も人形も虜にする炬燵。それにどっぷりと、もはや一体となってしまっている人形は居候のAKー12である。ここに来て早々に炬燵に魅了され、さらに自費で様々なだらけグッズを揃えたAKー12は、かつてのキリッとした人形の面影が薄れつつある。

伸ばした足を炬燵に埋め、自費で買った一人用のクッション(人をダメにするソファー)に座り、マヌスクリプトに用意してもらった広袖を羽織り、まるでぬいぐるみのようにフォートレスを膝に乗せて抱えている・・・・・堕ちるところまで堕ちた人形がそこにいた。

 

 

「それで、何か用かしら?」

 

「は、離してください・・・・」

 

「嫌よ、できるならず〜〜〜〜〜〜っとこうしていたいわ」

 

「はぁ・・・・・・AKー12、あなたに伝える事があります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ANー94が、ここに来ます」

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 

代理人が、AKー12の目が開くところを見たのは、それが初めてだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端は数時間前にまで遡る。当初予定されていた軍の退役申請、そしてグリフィンへの入社申請などなど、通常なら後数日はかかるであろうそれらの手続きを、ANー94とその(一応の)指揮官であるアンジェは徹夜と脅迫であっという間に通してしまった。

そうしてようやくグリフィンS09地区司令部へとやってきたANー94だったが、ここでもまたやらかした。

 

 

「遥々ご苦労だった、ANー94。 ようこそS09地区へ」

 

「指揮官、どうも。 今からこのAN94はあなたの命令に従います。 ところで指揮官、ここにAKー12はいますか?」

 

「うん? あぁいるよ、ただ「ありがとう指揮官、では失礼する」・・・・あ、あぁ」

 

 

着任早々、指揮官の話を途中で切り上げてAKー12を探しに行ってしまうANー94。何処にいるとか、そもそも今この基地にいるのかすら聞かずに飛び出したANー94は、このそこそこに広い司令部を片っ端から探し始める。

訓練室に救護室、春田のカフェにはたまたカリーナのデータルームまで、ありとあらゆる施設を探すも当然見つからない。仕方なく通りがかったカリーナに聞いてみれば、AKー12は今日は非番とのこと。

非番=宿舎、そう思い立ったANー94は部屋の場所も聞くことなく宿舎に突撃をかける。目につく扉全てを片っ端から開け、鍵がかかっていれば軍用由来の高い電子戦能力でハッキングする。

そんな迷惑行為を繰り返すこと数時間、どこにも見当たらないと泣きながら指揮官の元へ帰ってきて告げられたのが、

 

 

「AKー12はここの所属だが、ここにいるわけではない。 喫茶 鉄血という店に住まわせてもらっている」

 

 

という答え。当然ANー94は自分もそこに行くと言い張り、しまいには初めのクールなイメージとはかけ離れて子供のように駄々をこね始める。

そして、ここの指揮官は良くも悪くも人形のことを考える人物である。何ら叱りつけることもなく、代理人に電話した、というわけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・というわけです」

 

「そ、そう・・・・・」

 

 

妹の奇行に思わずたじろぐAKー12。それに加え、彼女はあることを危惧していた。

ANー94がグリフィンの所属になる、それはまだいいしウェルカムだ。だがここで一つ問題が起きる・・・・・どこに住むかだ。喫茶 鉄血は本来なら従業員でもないのに住むことはできない。特例でAKー12はその限りではないが、ANー94が来るとなるとそれはできない。

そしてあのANー94が、普段バラバラに過ごす事ができるか・・・・・無理だろう。となると移動するのはANー94ではない、AKー12(自分)だ。

 

 

(冗談じゃないわ、こんな居心地のいい場所を手放すなんて・・・・・今更無理よ!)

 

 

当初こそロシア勢に苦手意識を持っていたAKー12だが、交流を続けるうちにそれもほとんどなくなった。なので司令部に移ること自体は問題無い。が、人も人形も一度得た幸福は簡単には手放せないのだ。

 

 

(なんとか・・・・・なんとかしないと。 ANー94を説得? 無理ね、それができるならグリフィンに来ること自体ないはず。 ANー94もここに住む? これも無理、というか代理人が許すとは思えないわ)

 

 

軍用人形、その中でも最高クラスの電子戦機としての演算能力が、現状維持のためにフル稼働する。全てはここの美味しいご飯と炬燵とダラけられる自室とフォートレス(最高の癒し)のためである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・とか悩んでいるんでしょうね)

 

 

顔はいつも通りだが雰囲気が固くなったAKー12を見下ろしつつ、代理人は苦笑する。ANー94という人形のことはよく知らないが、AKー12が時々話す軍時代の中で度々出てきていた。互いに中の良い姉妹であることは想像に難くなく、できることなら一緒に住みたいのだろう。

そもそもの話、代理人はもうすでにANー94もここに迎えるつもりでいる。今更AKー12にグリフィンに戻れとは言わないし、少々部屋が狭くなるが相部屋でも問題無いと考えている。

 

 

(まぁ、一応直接会ってから決めましょうか)

 

 

そう考えをまとめ、代理人はその場を後にした。

抱きつかれたままのフォートレスが助けを求めようとしていたが、救出できそうになかったので諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、喫茶 鉄血・・・・・ここにAKー12が・・・」

 

 

荷物を全部抱えて(と言っても大した量では無い)ようやくたどり着いたANー94。気づけば日もどっぷり暮れ、肌寒い風が吹いている。

ANー94は意を決し、喫茶 鉄血の扉をノックし・・・・・ようとしたところで扉が開いた。

 

 

「こんばんは・・・・・あなたが、ANー94さんですね?」

 

「こ、こんばんは・・・・あ、あの!」

 

「ご安心を、指揮官からお話は伺っております。 寒いでしょうから、どうぞ中へ」

 

 

ANー94を迎え入れ、荷物を預かる代理人。ANー94は思っていた対応と違うことに戸惑うが、ハッと我に帰ると代理人に問いただす。

 

 

「だ、代理人! ここにAKー12がいるって聞いて、それで・・・・・」

 

「えぇ、彼女に会いにきたのでしょう? 今呼んできますね」

 

 

突然押し掛けたにもかかわらず代理人は表情一つ変えず、落ち着いた様子でAK-12を呼びに行く。とその前に一度振り返ると、まだソワソワしているANー94に声をかけた。

 

 

「ところで、夕食はとられましたか? もしまだなら、一緒にいかがでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、AK-12・・・・・」

 

「久しぶりね、ANー94・・・・元気にしてた?」

 

 

夕食の時間となり、続々と集まる人形たち。そこで無事再会を果たしたANー94は、おもわずAK-12に抱きついた。

 

 

「AK-12〜〜〜〜〜!」

 

「ふふ、相変わらずね」

 

 

頭を撫でながら、嬉しいような困ったような笑みを浮かべるAK-12。いつまでも見ていたくなるような微笑ましい光景だが、さすがに料理が冷めるとまずいのでそれぞれ席につく。ANー94は安心したのかそれともお腹が空いていたのか、勢い良く食べ進める。

それも少し落ち着いたところで、代理人は二人に向かって話し始めた。

 

 

「さて、今後のことですが・・・・」

 

「私はAK-12と一緒がいいです」

 

(うっ・・・ついに来たか・・・・・!)

 

 

無邪気に抱きつくANー94とは対照に、石のように固まった無表情でいるAK-12。まるで判決を待つ罪人のような気分でいるというのが手に取るようにわかるが、代理人もあまりいじめるつもりはないのでサクッと発表する。

 

 

「AK-12、少々狭くなりますがANー94と相部屋でも構いませんか?」

 

「・・・・・・え?」

 

「一応地下室を改装するということもできますが、それでも少し時間がかかってしまいますので、暫定処置ということになりますが」

 

「お、追い出されるんじゃないの???」

 

「え? いえ、そんなつもりはありませんが」

 

 

AK-12の考えていることはよくわかるが、あえて知らない風に首を傾げる。が、狙いが分かっているのかDは隣でクスクスと笑い、マヌスクリプトもニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。

余計な悩みだった、と知ったAK-12は背もたれにダランともたれかかると、盛大にため息を吐いた。

 

 

「よ、よかったぁ〜・・・・・」

 

「ふふっ、では改めて・・・・ようこそ喫茶 鉄血へ。 歓迎しますよ、ANー94」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

この日、喫茶 鉄血にまた一人仲間が加わった。

 

 

 

end




イベントの掘りがようやく終わり、あとは隠しステージ攻略のみ!
あ、ランキングは参加だけしときます。炊事妖精は惜しいけど、まぁいっか。


ということで今回のキャラ紹介!


ANー94
依存度の高いシスコン。高度なハッキングやらができるが本来は戦闘特化型。
シスコン・・・45 姉・・・・うっ、頭が・・・・

AK-12
だらけきったエリート(笑)
夏場は下着姿になって扇風機の前であぐらをかいてる姿が似合いそう。
楽園の死守に全力を注ぐ。

フォートレス
そのダイナマイトボディの抱き心地は至高のもの。よってAK-12に目をつけたれた。
まだまだ得体のしれないAK-12に抱きつかれて戦々恐々としている。

代理人
住み込みのバイトとかを想定してある程度の受け入れ態勢がある。
そろそろ従業員用の家を建てようかと思う頃。


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第百四十五話:ゲッコー、再び

今イベントの物資箱報酬ちゃん、雰囲気57とかFALに似てますよね。隠しステージでの内容から、FN小隊とも無関係ではなさそうですが・・・・・

ところで、重症絵を見る限りでは履いてないように見えるんですがどうなんですかねBallistaさn(銃殺)


喫茶 鉄血で働くハイエンドたちは、皆個性の塊であると言っていい。服装からして人目を引く代理人に、そのダミーにして雰囲気の全く異なるD、サブカルをこよなく愛するトラブルメーカーのマヌスクリプト、男を魅了するダイナマイトボディのフォートレス。

そして忘れてはいけないのが、最近大人しいが口説き癖のあるナンパ人形のゲッコーである。

 

 

「おや・・・いらっしゃいませ、素敵なお嬢さん」

 

 

金曜日の夜、Bar 鉄血として営業している店内で、ゲッコーはグラスを磨きながらいつも通りの、流れるような口説き文句を言いながら出迎える。誰にでも似たようなことを言っているのだが、今回はまさに『お嬢さん』という言葉が似合う人物だった。

ショートカットの髪はクセのないストレートで、端正な顔立ちに細身の体、そこからすらっと伸びた手足はシミひとつなく、黒っぽい服も相まってより幻想的な白さを生み出している。言うなれば、女神像に命を吹き込んだような美しさだ。

・・・・・というのがさっきのわずかな時間でゲッコーが抱いた印象である。要するに、ちょっと本気で口説きたくなったのだ。

 

 

「こんにちは。 この子も一緒なんだけど、いいかしら?」

 

「構わないよ。 とても大人しそうだし、飼い主がいいからかな?」

 

 

そんな彼女の肩に乗っているのは、一羽の鷹。飼い主に似た白と黒のコントラストが映える。

ゲッコーは自然な流れでカウンターへと案内し、その対面に立つとフッと微笑んだ。

 

 

「さて、ご注文・・・・・の前に、名前を教えてくれないかな、麗しい人形のお嬢さん?」

 

「あら、やっぱり気付いてたのね。 私は『Ballista』、この子は相棒の『リン』よ」

 

 

そう言うと彼女・・・・・戦術人形のBallistaは肩に乗った鷹のリンを優しく撫でる。それだけでも絵になるその光景に店の男客は思わず目を奪われ、女性と一緒に来ている者は手痛い制裁を受けた。

 

 

「Ballistaか・・・素敵な名前だ。 私はゲッコー、よろしく」

 

「えぇ、よろしく」

 

 

軽く握手を交わし、ゲッコーは注文のカクテルを作りにいく。誰とでもすぐに距離を縮められるのはゲッコーの特技であり、女たらしだとか女性関係トラブルメーカーだとか言われる所以はそこにある。見た目も貴公子のような雰囲気なので、人によってはコロッといってしまいそうになるのだ。

それに加え、積極的だがガツガツ行かない話術というのもゲッコーの強みの一つである。

 

 

「ほぉ、製造されたばかりでここに配属か。 優秀なんだな」

 

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいわね。 でも、実戦でうまくできるかどうか・・・」

 

「君ならできるさ。 ところで、所属先は決まっているのか?」

 

「えぇ、FN小隊よ」

 

「FN・・・FALのところか。 彼女も君と同じで相棒のフェレットがいるんだ、相談があれば乗ってくれるだろう」

 

「そうなの? それは少し安心ね」

 

「困ったことがあれば、人を頼ればいい。 ここの連中は皆親切だからな・・・・・もちろん、私に頼ってくれてもいいぞ?」

 

「ありがと。 もしもの時は頼らせてもらうわ」

 

 

ゲッコーがそっと手を握ってそう言うと、Ballistaは少し照れた様子でそう返した。少しアルコールが入っているのもあって気分がいいのか、酒を飲みつつ話に花を咲かせる。

製造されたばかりで不安のあるBallistaは、酔いが回るにつれて少しずつ吐き出すように話し、ゲッコーがそれを受け止めるという流れができつつあった。

 

 

「すごいな・・・・最終試験で過去最高得点なんて、誰でもできるものじゃないぞ」

 

「えぇ、それに関しては自信を持ってるわ。 でもそのせいで開発陣の期待が大きくなっちゃって・・・・・」

 

「その期待に応えないと・・・ってことか」

 

「・・・・・・・うん」

 

「ふむ、なら少し厳しく言わせてもらうが、それは君の自惚れだ」

 

「え?」

 

「だってそうだろう? 君は出来ると思い込んでいるからプレッシャーを感じるんだ。 でもそもそも経験も足りないし、実戦でどこまで出来るかも未知数だ・・・・・そうだろ?」

 

「そ、それはそうよ。 でも」

 

「訓練や、試験ではできた・・・・・でも実戦でできるとは限らないさ。 それはこれから確かめればいいだけだ」

 

 

な?と言ってリンの喉をくすぐるように撫でる。酔いが回っているのか、それともそんなことを言われるとは思っていなかったのかポカンとしているBallistaの隣にゲッコーは座ると、その手に自分の手を重ねて続ける。

 

 

「不安なら、頼ればいい。 それは小隊の仲間でも、指揮官でもいい。 新入りが人を頼って何が悪いんだ?」

 

「・・・・・・・」

 

「それに言ったろ? 私を頼ってくれてもいい、と」

 

 

スッと距離を詰める。

 

 

「私にできることは多くはないが、少しでも力になりたいんだ」

 

 

さらに距離を詰め、尻尾でBallistaの体を優しく包む。

 

 

「ど、どうして、そこまで・・・・・」

 

 

初対面なのに、と続けようとした口に人差し指を当てられる。そしてその手をそのまま頬へと運び、そっと添える。

 

 

「君は笑顔の方が似合う、それが理由じゃダメかな?」

 

 

そっと体を引き寄せられるBallista。

それを優しく迎えにいくゲッコー。

二つの影がゆっくりと近づき、そして・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バサバサッ…………ゴツンッ

「痛っ!? イダダダダダ!!!!」

 

「え? ちょ、ちょっとリン!?」

 

 

いい雰囲気(?)になったところで、突然Ballistaの肩から飛び立ったリン。するとゲッコーの頭の降り立ち、まるで啄木鳥のように嘴をぶつけ始めた。突然のことにゲッコーも堪らず尻尾と両手で追い払おうとするが、それを巧みに避けてはまた突くを繰り返す。

Ballistaが慌てて止めに入ると、今度はサッと離れてゲッコーの後ろに飛び立つ。

 

そしてそこにいた人物・・・・・とってもいい笑顔の代理人の肩に止まると、まっすぐにゲッコーを睨みつけた。

 

 

「だ、代理人・・・・」

 

「ゲッコー、言いましたよね・・・・・お客様を、業務中に口説くなと」

 

 

さっきまで自信満々だったゲッコーがみるみる小さくなっていく。

Ballista自身は口説かれているとも誑かされているとも思っていなかったが、どうやらリンから見れば十分『悪い虫』だったようだ。主人を守るために攻撃し、そして今最も効果的な味方を見つけたと言うわけだ。

 

 

「ふふっ、リンさんでしたか? とてもお利口で主人想いですね」

 

「あの、代理人・・・さん?」

 

「初めましてBallistaさん、喫茶 鉄血及びBar 鉄血のマスターをしております、代理人と申します。 この度は部下が大変ご迷惑をおかけしました」

 

「いえ、その、迷惑とは・・・・・」

 

「ですがBallistaさん、あのままでは貴女はその、()()()()()されていたかもしれませんよ?」

 

「待ってくれ代理人、そんなつもりは」

 

「無かったんですか? 本当に?」

 

「・・・・・・・・・・そうだ」(目逸らし)

 

「ギルティ」

 

 

代理人はBallistaに改めて頭を下げると、ゲッコーの首根っこを掴んで引きずっていく。リンももう大丈夫だろうと判断し、Ballistaの肩へと戻ってきた。

 

 

「え、えっと・・・・・」

 

「あ〜、いつものことよ、あれ」

 

「え? わっ!?」

 

「初めましてねBallista。 夜には着くって聞いてたけど遅いから、探しにきたわよ」

 

「え、あ、ごめんなさい・・・・・えっと」

 

「ん? あぁ、自己紹介がまだだったわね。 FN小隊のFALよ

よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それと、アイツは誰でも口説くから気をつけなさい。 あんた意外とチョロそうだし」

 

「そ、そんなことないわよ!? ・・・・・多分」

 

 

 

 

end




S09地区に配属になる→ちょっと早めに着いたので街を散策→喫茶 鉄血(Bar 鉄血)を見つける→結局時間を過ぎる。
・・・・・あれ?うちのBallistaさんポンコツっぽいぞ。


というわけで今回のキャラ紹介。


Ballista
FN小隊に配属となった新型機。雰囲気的にはFALや57に似ており、凛としたお姉さん感がある。
やや酔いやすく、酔うとyややネガティブになる。

リン
Ballistaの相棒にして護衛のような感じ。
原作のキャラ設定だとロボットらしい・・・・・どこからどう見ても鳥なのだが。
非常に大人しく人懐っこいが、危険だと判断した相手には容赦がない。

ゲッコー
最近大人しかったのに久しぶりにやらかした。
リンがいなければ間違いなくお城のような宿泊施設に連れ込んでいたところ。
ちなみにちゃんと話を聞いてくれるので相談相手としては申し分ない。

代理人
ちなみにゲッコーを捕まえる前にFALに連絡している。

FAL
呼ばれて来た。


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番外編36

気づけば2020年も2か月が過ぎましたね、時間が流れるのは早いなぁ
コロナウイルスのニュースが連日流れていますが、個人的に思うのは『過剰に反応しないこと』ですね。うがいと手洗い、あとはそこまで『気にしない』こと。病は気からですよ!

それはともかく、今回のラインナップは
・これは看病です、下心なんてありません!
・ダメ人形製造機(AK-12限定)
・相棒たちの日常
・ノインの旅路XX
の四本です!


番外36-1:これは看病です、下心なんてありません!

 

 

代理人が食事を用意しに行き、ユウトの体を拭くようにと言われたM16とRO。

二人の理性と欲と願望と恋心の試練が、今始まる!<カーン

 

 

「・・・・・ど、どうする?」

 

「どうするって・・・い、言われた通りにした方が・・・」

 

「そ、そうだな! じゃあとりあえず・・・・脱がせる?」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「ね、ねえ二人とも、体を拭くぐらいは自分でもできるから」

 

 

わかりやすくテンパった二人に、ユウトは助け舟(?)を出す。自分でパジャマのボタンを外し、上半身を裸にして濡れタオルを手に取るが見るからに気怠そうで、正直むやみやたらと動かさない方が良さそうに思える。

こうなると流石に気恥ずかしいだのなんだのとは言ってられないので、二人とも恐る恐る体を拭き始めた。

 

 

「ち、力加減とか、大丈夫ですか?」

 

「い、痛かったら言ってくれよ?」

 

「だ、大丈夫です・・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

 

黙々と拭き続ける二人と、黙って拭かれるユウト。互いに一言も話さないのは、なんとなく何を話しても会話が続きそうになかったからだ。

そんなこんなで十数分、あらかた拭き終えたというところで、ROが突然手を止め俯いた。

 

 

「え、M16・・・・・」

 

「ど、どうした?」

 

「その・・・・・『下』はどうしますか?」

 

「「・・・・・・え?」」

 

 

上半身を綺麗にした、となれば当然もう片方もというのは道理だ。が、ここにいる三人は初心なカップルである。

M16とROの視線がユウトの()()()()に向いてしまうのも、無理はないのだ。

 

 

「ふ、二人とも、こっちは自分でしますから」

 

「い、いやユウト、これは看病だ!」

 

「そ、そうです! そして一度始めたからには、途中で投げ出すわけには!」

 

「ちょっ、待っ、わぁああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけ、いけっ! 押し倒せっ!・・・・・あ〜ヘタレたかぁ〜」

 

「覗きはいい趣味とは言えないぞサクヤさん」

 

「見守ってると言って欲しいなゲーガーちゃん♪」

 

 

end

 

 

 

番外36-2:ダメ人形製造機(AK-12限定)

 

 

戦術人形、ANー94の朝は早い。この時期だとまだ日が昇るかどうかぐらいの時間に目を覚まし、スヤスヤと眠るAKー12の寝顔をたっぷり十数分鑑賞する。そして彼女を起こさぬようにそっとベッドから出ると、身支度を整えAKー12の服を畳んでおく。

 

 

「おはようございます、代理人」

 

「おはようございます、ANー94さん」

 

 

AKー12を起こす時間は大体決まっている。それまでの時間は喫茶 鉄血の開店準備を手伝うのが日課だ。といっても正式な従業員ではないANー94が手伝えることは少なく、せいぜいがテーブルを拭いたり表の掛け札をひっくり返したりする程度だ。

別に手伝わなくてもいいと代理人からは言われたのだが、居候という身分なので少しでも何かしたいらしい。

 

 

「さて、それでは朝食にしましょうか。 すみませんが、起こしてきてもらえますか?」

 

「はい、了解です」

 

 

店の準備もあらかた終えると、全員揃って朝食を取る。以前はほとんど不規則な時間だったようだが、AK-12が来て以降は出勤時間に合わせて時間を決めるようになった。

AK-12の部屋へと向かい、彼女を起こす・・・・・の前に、ここでもその寝顔をたっぷり鑑賞しておく。見飽きるものでもないし、なんだったら一生見てられるとANー94は語る。

 

 

「ふぅ・・・・・・AK-12、朝ですよ、起きてください」

 

「うぅん・・・・・あと十分・・・・」

 

「ダメです、朝食が冷めると代理人が怒りますよ」

 

「・・・・・・ぅ〜〜〜〜〜」

 

 

そう言うとようやくのそりと起き上がる。寝ても覚めてもまぶたは閉じたままだが、雰囲気で眠そうだというのは伝わるのだ。

AK-12がベッドに腰掛けると、ここからはANー94の仕事。まず用意しておいた濡れタオルを渡して顔を拭いてもらい、その間に櫛を手に取って髪をとく。寝癖になりにくい髪質ではあるが、それでもボサボサでは格好がつかないので、念入りに整える。それが終わると、今度は畳んであったAK-12の服を広げて順番に着せていく。これもここ数日で慣れたもので、AK-12がほとんど動くこともなく着替えが終わる。

 

 

「ほら、行きますよ」

 

「はいはい・・・・ふぁ〜〜〜」

 

 

大きなあくびをかますAK-12の手をとって階段を降りていく。まだ眠たげな様子なので慎重に誘導し、椅子を引いて座らせる。

 

 

「揃いましたね。 では、いただきます」

 

『いただきます』

 

 

こうしてようやく朝食が始まる。AK-12も食べると目が覚めるので、あとはもう時間になれば出勤するだけだ。

 

 

「・・・・・ANー94」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「親切にするのは構いませんが、甘やかせるのは違いますよ?」

 

「え? いつしてますそんなこと?」

 

「・・・・・・・いえ、なんでもありません」

 

「???」

 

 

end

 

 

 

番外36-3:相棒たちの日常

 

 

グリフィンの各司令部は、その需要やら要望やらに応じて施設や設備に差異がある。もちろん基本的な作戦室やデータルーム、食堂や宿舎はどこも完備してはいるが、一方で人形個人が使用もしくは申請しているスペースは基地によって異なる。スプリングフィールドのカフェはその部類であり、他にも農場やカラオケ、カジノにトレーニングルームにはたまた温泉などなど・・・・・言い出せばキリがないほど自由なのだ。

そんなある程度の裁量が認められている各司令部において、作戦とは全く関係ないにもかかわらず全ての司令部に設置されているものがある。それが、『救護室』と呼ばれるものだ。

 

 

「みんなおはよ〜・・・おや?」

 

「あら、ファルコンじゃない。 ピーちゃんの様子でも見に来たの?」

 

「えぇ、まぁ。 あとピーちゃんじゃないです」

 

 

妙に間延びした声で入ってきたのは、ライフル型戦術人形のファルコン。その彼女を出迎えたのは、日頃の心的ストレスの癒しを求めて救護室に入り浸るFALだ。二人とも相棒の動物をここに預けており、その様子を見がてらここで預かっている動物たちの世話をしている。

ここに集められたのはなんらかの理由で保護された動物たちだ。捨てられたり飼えなくなったり、はたまた飼い主に不幸が起きたりなど理由は様々だが、処分するのも可哀想だということでグリフィンは積極的に受け入れている・・・・・まぁ一応アニマルセラピーのように機能しているので善意だけというわけではない。

 

 

「まぁいいわ。 じゃああっちの鳥類エリアの掃除をお願いしていいかしら?」

 

「わかりました」

 

 

ファルコンはそう返事を返し、掃除用具を持って隣の区画に移動する。動物、と一口に言ってもその種類は様々で、生態系の捕食者被捕食者が混ざらないように細かく区切られている。

 

 

「さて、まずはみんなを外に出して・・・・・・あれ?」

 

 

鳥類エリアでも最も広い『猛禽類』コーナーへとやってくると、ふと違和感を感じた。いつもなら真っ先にやってくるはずの相棒が来ないのだ。不思議に思って視線をあげてみると・・・・・

 

 

「あらら・・・・・・・」

 

 

ファルコンの視線の先、この広い鳥籠のほぼ天井付近の止まり木に止まっている相棒は、ほかのことなど一切見向きもせずに一点だけを見つめていた。

その一点、つい先日新たに加わった大型の猛禽類、戦術人形Ballistaの相棒のリンである。

 

 

「おーい二人とも、降りておいでー」

 

 

ファルコンが呼んでみるが反応なし。それもそのはず、彼らは今まさにここのボスを争っているのだ。

鷲や鷹などの猛禽類は、言うなれば空の王である。よって誰よりも高く飛び、そん背中が狙われることなどない。あってはならない。というわけで分かりやすく相手の上を取り続けるうちに、もう上までいけないところまで来てしまっているのだった。

 

 

『オメェ、新入りがでかいツラしてんじゃねえぞ、あぁ?』

 

『ハッ、でかいツラなんてしてないさ。 俺の方が偉いのは事実だからな?』

 

「変なアテレコやめてくださいFALさん」

 

「あとリンはそんな不良みたいなことは言いません」

 

 

FALのどうでもいいアテレコに、後から来たBallistaも一緒にツっこむ。そして短く一度口笛を吹くと、それまで睨み合った(?)ままだったリンはBallistaの肩に降り立つ。そこでようやくファルコンの相棒も下に降り、それに続いてほかの鳥たちも降りてきた。

 

 

「あら、やっぱりそっちの方がボスなのね」

 

「そんなマフィアみたいな風に言わないでくださいよ」

 

「それを言ったらFALさんのフェレットだってそうでしょ?」

 

「え? そうよ?」

 

 

それが何か、と首を傾げるFAL。それにファルコンとBallistaは二人揃ってため息をつくのだった。

 

 

end

 

 

 

番外36-4:ノインの旅路XX

 

 

季節は冬、冬といえば雪。

そして雪と聞いて、諸君らは何を思い浮かべるだろうか?私ならそう・・・・・全てを凍てつかせる極寒の世界だ。

 

 

「そんなこと言ってないでちゃんと道案内してよ!!!」

 

「む? お気に召さなかったか我が主。 少しでも寒さを紛らわせようとしたのだがな」

 

「それで紛れるような生易しいものじゃないよ!?」

 

 

世界中を旅すること、もうすぐ一年になろうかというノイン。いつも通り太々しいダイナゲートを引き連れた彼女は今、真冬のロシアにいた。といっても流石に冬のロシアを突っ切ろうとは考えておらず、動ける程度に温かくなってから移動しようと考え、途中の町に腰を落ち着けたのだ。

今日は少し遠出して観光していたのだが、運の悪いことに帰り際に天候が急変、吹雪を通り越してホワイトアウトになってしまった。

 

 

「ひぃいいいい寒いいいいいいい!!!」

 

「ふむ、どうしたものか」

 

「ってまさか迷ったの!?」

 

「いや、それは問題ない。 だがこの吹雪で移動は危険すぎるだろう」

 

「それはそうだけどこのままここにいても凍死するだけだよ!?」

 

 

とる世界において戦術人形UMP9として活動していたノイン。だが義手にした片腕以外はちょっと丈夫な程度の人間であり、このままでは冗談抜きで凍死してしまう。

せめてどこかに避難を、と考えていたその時

 

 

「ん? 前方に反応、人形が二体だ」

 

「え? ほんと!? 誰でもいいから助けて!!!」

 

 

藁にもすがる思いで声をかけるノイン。相手が誰かもわからず声をかけるのは危険極まりないが、凍死とどっちか選べと言われたら迷わずこっちだろう。

そして幸いにも、全く見知らぬ人物というほどでもなかった。

 

 

「なんだ? っていうかお前UMP9か?」

 

「え、でも反応は人間だったわよアルケミスト」

 

「まぁそうだが・・・・・とりあえず玄関の前で死なれたら困るから入れ」

 

 

そう言って二人組、アルケミストとドリーマーはノインたちを招き入れた。立っていたのがちょうど二人の住むアパートだったのが幸運だったのだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「へぇ、世界中をねぇ」

 

「はい、そろそろ一度戻ろうかと考えていますが」

 

「そっか、そりゃいい。 代理人も喜ぶだろう」

 

 

部屋に入ると、アルケミストは早速温めたミルクを渡す。毛布を何重にも包んで蓑虫のように固まったノインは、ようやく生きた心地がした。

 

 

「はふぅ〜〜〜・・・・・」

 

「くくっ、歳の割にしっかりしてるなとは思ったが、こうしてみると年相応だな」

 

「へ? そんなに子供っぽいですか・・・・?」

 

 

一瞬ムッとするノインに、アルケミストはケラケラ笑いながら違うと言い、ついでにちょっと膨らんだ頬に両手を当てた。

 

 

「子供っぽいんじゃない、お前はまだ子供だ。 どういう世界で生きてきたとかは生憎と私にはわからない。 だがこの世界は、子供は子供らしくしてりゃいいのさ」

 

 

少なくともここではな、と付け加えるとアルケミストもコーヒーを一杯飲む。言われた言葉をうまく飲み込めていないのかぼぉっとするノインだが、ふと我に帰ると一瞬ブルッと震える。流石にあの吹雪の寒さをミルク一杯程度では抑えられなかったようだ。

 

 

「ははっ! とりあえず風呂に入ってこい。 そのままじゃ風邪引くだろ」

 

「は、はい、お言葉に甘えて」

 

「固いって。 もっとフランクな感じでいいよ、ノイン」

 

「え、あ、はい・・・・いや、うん・・・・かな?」

 

「ま、それもゆっくり慣れりゃいいさ。 とりあえずさっさと入っちまえ。 ついでに背中も流してやるよ」

 

 

戸惑いながらも慣れようとするノインに、アルケミストはそう言って微笑む。そしてノインの手を引いて、一緒に風呂場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お? 脱ぐと結構あるな』

 

『へ? ちょ、ちょっとアルケミストさん!?』

 

『呼び捨てでいい、それかお姉ちゃんだ。 というわけで他人行儀の罰だ』

 

『ひゃぁあああああああ!!!!???』

 

「あんたのご主人がピンチのようだけど、止めなくていいの?」

 

「ふっ、主とて守られるだけの存在ではないさ。 あれぐらい自力でどうにかしてもらわねばな」

 

「ほんと、いい趣味してるわよあんた」

 

 

end




もうすぐバレンタインですね、楽しみです!だって書くネタがあるんですから!
・・・・・え?リアルな方?ちょっといいチョコ買って自分で食べますよ。


では今回の各話解説!

番外36-1
ユウトの看病の一幕。流石に病人相手だとちょっとだけ自重しないとね。まぁどうせバレンタインとホワイトデーでイチャつくし。

番外36-2
要介護人形。でもこれくらいだらしないお姉さんと暮らしてみたい、そしてこれくらいいっかりした妹にお世話されたい。
できれば下のお世話m(銃殺)

番外36-3
猫や犬はまだいい、鳩も問題ない。だがフェレットやらアザラシやらはおかしいだろ・・・・とずっと思っておりました。
Ballistaさんとゲッコー、いい感じのペアになりそうだと思うけどどうだろうか?

番外36-4
ノインちゃんは人間、だから成長する(どことは言わない)
アルケミストはなんか親戚のねーちゃんっぽいポジションが似合うと思うんだ。もしくは弟を揶揄う歳の離れた姉。


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第百四十六話:バレンタイン商戦

義理でもいい、なんだったらコンビニで売ってるチョコでもいい、バレンタインチョコください。
できれば9ちゃんか代理人から貰いたいです(血涙


知ってるかな?チョコを貰えるやつは三種類いる。

リア充のヤツ

幼馴染みがいるヤツ

テキトーに配られるヤツ

・・・この三つだ。

 

 

「変なこと言ってないで、あなたもちゃんと作りなさいマヌスクリプト」

 

「へ〜い」

 

 

2月13日、バレンタイン前日。喫茶 鉄血の従業員は閉店後にもかかわらず厨房を慌ただしく行ったり来たりしていた。店の厨房はもともと全従業員が同時に入ることを想定しておらず、たとえ七人だけとはいえかなり手狭になる。

 

 

 

 

 

ことの発端は昨日の夜、他でもないマヌスクリプトの一言だった。

 

 

『バレンタインのチョコって、チョコじゃなくて誰から貰うかの方が重要だよね・・・・・〈代理人の手作りチョコ〉って名前で売ったら即完売じゃない?』

 

 

いつもなら代理人も(何言ってんだこいつ)みたいになるはずだったのだが、そこで代理人はふと考える。

ーーー意外と需要はあるんじゃないのだろうかーーー

決して自意識過剰とかではなく客観的な考えなのだが、ともかく実行する前提での採算を考え始める。そして程なくして、利益が出るという結果が算出された。

だが代理人の高速演算は、マヌスクリプトの結論よりも更に先を行ってしまっていた。なんと代理人は、じゃあ従業員全員がそれぞれ作ればいいのではないか、と言い出したのだ。

 

 

 

 

そして現在に至る。しかも話し合ううちにそれぞれのオリジナル感をということで、少々凝ったものまで作られるようになってしまった。

言い出しっぺのマヌスクリプトなど、いったいどんなチョコを作ればいいか悩み続けて一向に進んでいない。

 

 

「手が止まってるぞマヌスクリプト」

 

「マヌちゃん、ファイト!」

 

「チクショー!」

 

 

その後、大急ぎで間に合わせたチョコを冷蔵庫に放り込み、マヌスクリプトは逃げるように自室に飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

翌日、2月14日。

今年もやってきたバレンタインデーということで、町中は大いに活気付いている。特にチョコレートをはじめとした製菓店はここぞとばかりに出店を出し、道ゆく人々に売り捌いている。

 

そして喫茶 鉄血でも、昨晩で間に合わせたチョコをショーケースに並べ、店頭販売のみの数量限定商品として売り出していた。

ラインナップは、

・大人のほろ苦ビターチョコ(代理人)

・初恋トリュフチョコ(D)

・ちょっと甘めのハートチョコ(イェーガー)

・ちょっと苦めの失恋チョコ(リッパー)

・愛のウイスキーボンボン(ゲッコー)

・ホワイト生チョコ(フォートレス)

・お前らどうせ独り身だろ?チョコ(マヌスクリプト)

である。これがそれぞれ50袋限定で売られているのだ。

 

 

「マヌスクリプト、あんたのこれってチョコ砕いてるだけよね?」

 

「いきなり失礼だね45、ちゃんと手作りのチョコをわざわざ砕いてるんだよ」

 

 

そう、マヌスクリプトが考えた末にたどり着いた回答は、『あえて独り身をターゲットにする』というものだった。見た目はそれこそ訳ありチョコのバラ売りだが、正真正銘マヌスクリプト手作りの数量限定モノということでそこそこ売れている。

 

 

「っていうか45こそ、てっきりいつもの二人に追いかけられてると思ったんだけどね」

 

「・・・・・今のところ静かだから余計に怖いのよ」

 

「あー・・・・・ご愁傷様」

 

「はぁ・・・・私はこんななのにどうして周りはカップルだらけなのかしら」

 

 

45がため息をつきながら店内を見渡す。今年の14日は金曜日、そういうこともあってか早めに仕事を切り上げたであろうカップルの多いこと多いこと。彼女の周りでも、例えば9と416などは1日非番を申請していたり、MG5とPKは仲間に気を遣われて二人で行動していたりなどなど。

 

 

「いつか君にも素敵な出会いがあるよ」

 

「それはそれで大惨事になりそうね、あの二人のせいで」

 

「血のバレンタインってヤツだね。 というわけで絶賛独り身の45、これ買ってくかい?」

 

「セールストークとしては最悪だけど、まぁせっかくだし買うわよ」

 

「まいど〜!」

 

 

こんな感じでマヌスクリプトのチョコは売れている。といってもやはりこの地区では人気の店となった喫茶 鉄血の手作りチョコ、それが限定50個だと特に何もしなくても売れていくのだ。

 

 

「どうもこんにちは、代理人さん」

 

「あら、お久しぶりですね会長さん。 今日はお仕事で?」

 

「いえ、用事などはなかったのですが、風の噂であなたの手作りチョコが買えると聞いて飛んできまして」

 

「・・・・・失礼ですが、どこから?」

 

「ニュージーランドからです! プライベートジェットを使って!!」

 

 

 

「フォートレスちゃ〜ん、いるかな〜?」

 

「え? わ、アーキテクトさん!」

 

「久しぶりだね! またおっきくなった?」

 

「ふぇ!? な、なってません!」

 

「あはは、ごめんごめん。 でも上手くやってるようで安心したよ! じゃ、これ一つもらえるかな?」

 

 

 

「ゲッコー様! 私のチョコを受け取ってください!」

 

「わ、私のも!」

 

「ははっ、そう慌てなくても拒否なんてしないさ。 君たちのようなレディならとくに、ね?」

 

『キャーーー♡』

 

「さて、早速お返しと行きたいところだが、生憎と商品をタダで出すと怒られてしまうのでね」

 

「いえ! ゲッコー様の作ったチョコを食べられるだけで幸せです!」

 

「言い値でも買います!」

 

 

 

「・・・・こっちは平和だな」

 

「・・・・そうだな」

 

「まぁ下級モデルだしな」

 

「買いに来るのがミリオタばっかりなんだけどな」

 

「何がいいんだ?」

 

「なんか『量産機という響きがいい!』らしいぞ」

 

「そんなものか」

 

「そんなものらしい」

 

 

 

「Dさん、僕と付き合ってください!」

 

「ごめんなさい」

 

「———————-」

 

「あ、でも! 今日はバレンタインですし、友チョコならご用意してますよ! まぁ売り物ですけど」

 

「い、いえ、それで十分です」

 

「ふふっ、あなたに素敵な出会いがありますように♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜〜〜〜疲れた〜〜〜〜〜」

 

「お疲れ様です。 無事完売できましたね」

 

「正直私たちは売れ残ると思ってたんですけどね」

 

「ところでゲッコー、あなたまた口説きましたね? 明らかに見ない顔が増えてましたよ」

 

「待ってくれ代理人、ちゃんと営業時間外での話だ」

 

「口説いてるのは否定しないんだ」

 

 

バレンタインの営業を終え、店の片付けもあらかた済ませた一同。すると代理人は店の奥から少し大きめの箱を運び、テーブルの上に置いた。

 

 

「? Oちゃん、それは?」

 

「昼間に、M4が持ってきてくれました。 司令部からの差し入れだそうです」

 

「どれどれ・・・・おぉ! 美味しそう!」

 

 

箱を開けると、中に入っていたのはホールのチョコレートケーキ。フルーツや砂糖菓子も盛り付けられたその一番上には、『HAPPY VALENTINE』と書かれたチョコプレートが乗っていた。

 

 

「ふふ、せっかくいただいたものですし、皆さんで食べましょうか」

 

『はーい!』

 

 

こうして、喫茶 鉄血の長いような短いようなバレンタインが終わるのだった。

 

 

end




貰えない 今年もチョコが 貰えない

はい、そんなことは置いといて今回のキャラ紹介


マヌスクリプト
今回の発端。高みの見物を決め込むつもりが巻き込まれてしまった。
チョコは固めたものを砕いただけだが、何種類かのチョコを混ぜているので普通に美味しい。

代理人
売れると思ったら挑戦する。売れなければタダで配るつもりだった。
カカオ分の多いビターをベースにしたほろ苦チョコ、美味しくないはずがない。

D
結構ノリノリ。ついでに告られるが、全て丁重にお断りした。
見た目まん丸なトリュフチョコ、作り方自体は意外と簡単だが、綺麗に丸くしようとすると意外と難しい。

イェーガー&リッパー
もともとは二人で一つ作る予定だった。ハートと失恋というのはその名残。
シンプルな、いかにもバレンタインらしいチョコ。そもそも店に買いに来る時点で相手がいない以上、恋も失恋もない。

ゲッコー
代理人に怒られないよう、あの手この手で抜け道を探して口説く人形。
商品唯一のアルコール使用。チョコとはいえちゃんと酒も残っているので、未成年には売れない。これを食べさせて酔わせてお持ち帰りするつもりなのでは、と噂になった。

フォートレス
最近表に出てこれるようになったロリ巨乳。ア◯レンのフォーミ◯ブルをさらにちっさくするとこうなる感じ。
ラインナップ中唯一白色のチョコ。子供にも人気の甘めなチョコ。

45
何も起きないとかえって不安を感じるようになった。

会長
飛んできた(直喩)

アーキテクト
もちろんサボり


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通算200話記念:『あなた』と私の喫茶 鉄血

ハーメルンの感想欄って、感想をいただいた方の隣に話数が出ますよね?
そしてそこに『199話』って書いてますよね?


・・・・・・・あれ?もうそんなに書いてたっけ?
てなわけで今回は『喫茶 鉄血』200話記念回、そんな感謝を込めて書きました!
登場人物は、代理人と『あなた』です!


朝、目を覚ますと決まって彼女の顔が見える。

 

 

「おはようございます、〇〇さん」

 

 

枕もとで両手に顎を乗せる彼女は、優しく微笑みそう言った。人形である彼女は常に規則正しく生活しており、今日もいつものメイド服を着こなしている。開いたドアの先から漂う香りは、すでに朝食の準備ができている証拠だ。

 

 

「ふふっ、〇〇さんの寝顔が可愛かったのでつい見惚れてしまいました。 さぁ起きてください、せっかく作ったのに冷めてしまいますよ?」

 

 

少し悪戯っぽく笑うと、彼女はそっと手を差し伸べてくる。

これが彼女・・・・・代理人との1日の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

あの人との出会いは数年前。

当時すでにDや他の娘たちも自立し、この喫茶 鉄血1号店も少し縮小していた頃のこと。最初はただのお客様でしたが、この店を気に入ってくださったのかすぐに常連になりました。

転勤でやってきたというあの人の話はとても面白く、旅行などでなければこの地区をほとんど出ない私にとって新鮮なものでした。そして、どこか不思議な雰囲気のあの人に、私は惹かれていったのです。

家族と呼べる彼女たちが外に出ていって、少し寂しさを感じていたのもあるかも知れません。気がつけば、あの人が来る日を待ち望むようになりました。

 

 

ーーー好きです、付き合ってくださいーーー

 

 

あの人と知り合って数ヶ月、その言葉を聞いてすぐにお受けしました。私の周りでも人と人形が結ばれるケースはよくありましたが、私がそうなるとは思っても見ませんでした。

 

あの人との最初のデートは、それはもう酷いものでした。お互い意識しすぎて、最初の一時間くらいは会話が全く続かなかったほどです。それどころか手を繋ぐことさえ躊躇してしまい、やっとの思いで繋いだと思ったら思いっきり握ってしまい・・・・・今思い出しても恥ずかしく思います。

ですが、手を繋いだ時の安心感は、今でも忘れることはありません。あの人と肩を並べ、あの人と歩幅を合わせて歩いたあの日は、私の何よりの思い「〇〇さん、ご注文のコーヒーを・・・・・ってななな何を読んでいるのですか!? ちょっ、見ないでください!」

 

 

部屋で見つけた代理人の日記を読んでいるのが見つかった。ちなみに今日は休日で、私の仕事はない。以前店を手伝おうと言ったら、彼女に『休む時は休んでいてほしい』と言われたので、こうして客として座っている。

その彼女は顔を真っ赤にして日記を隠しているが、普段大人びている彼女のその仕草は普段とのギャップもあって破壊力抜群だ。

 

 

「まったく・・・・・ちなみに、読んでいたのはこれだけですよね?」

 

 

そう彼女がいう通り、あれは彼女の日記のうちの一つでしかない。記念すべき一冊目には何が書いてあるのかと読んでみたが、なるほどやっぱり彼女は可愛い。

 

 

「可愛っ!? そ、そういうのはこんなところでいうものではありません!」

 

 

小声で叱りつけるように言ってはいるが、彼女の頬が少し緩んでいるのは満更でもないと思っているからだろうか。ともかく、客の前ではいつもの凛とした表情の彼女が、私の前でだけコロコロと表情を変えてくれるのがたまらなく愛おしい。

 

 

「もう、そんな意地悪なお客様は、このコーヒーは没収ですね」

 

 

・・・・・・・ちょっとやりすぎたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「もう、手伝わなくてもいいと言っていますのに」

 

 

閉店後、私と彼女で店の片付けを終わらせると、彼女がそう言ってきた。この店は代理人を除く従業員全てがアルバイトやパートで、閉店作業自体はその人たちにもやってもらっているがその後の片付けは代理人だけになる。私が休みの時くらいは、彼女に楽させてあげたのだ。

 

 

「ふふふ、本当に私のいうことを聞いてくれませんね」

 

 

言葉だけなら呆れているようにも聞こえるが、言った彼女は嬉しそうに笑っている。最後の片付けを終え、二人揃って伸びをすると、私は彼女よりも一足先に部屋に戻る。

扉を閉め、部屋の明かりをつけ、そして扉の前で彼女を待つ。そして遅れてやってきた彼女が扉を開く。

 

 

ーーーおかえりーーー

 

「ただいま、〇〇さん・・・・・んっ」

 

 

二人で距離を詰め、そっと唇を重ねる。そしてスッと離すと、顔を赤らめた彼女がはにかむ。

 

 

「やっぱり、まだ慣れませんね」

 

 

そんな彼女が可愛くて、私は再び彼女の唇を奪う。

私が帰る時は、決まって彼女がこうして出迎えてくれる。だが今日みたいに私がいる時は、反対に私が彼女を出迎えるのだ。週に2回だけ、私が彼女を甘やかせられる日なのだ。

そして、彼女が私に甘えてくれる日でもある。

 

 

「・・・・・〇〇さん、その・・・・・」

 

 

彼女が体をより一層密着させてくる。私と彼女の暗黙の了解、そして私は彼女の望み通り、彼女をベッドに押し倒した。

口付けを交わし、今度はより深くまで互いを求め合う。絡んだ舌を解き、顔を離すと、彼女の潤んだ瞳と視線が合う。

 

 

「〇〇さん・・・・・きて・・・・・・」

 

 

彼女のその言葉を合図に、私は部屋の照明を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、〇〇さん」

 

 

目を覚ますと、枕もとにいつもの彼女がいる。昨晩のことなどなかったかのようにしゃんとしている彼女は、私の頬をツンツンと突きながら微笑んだ。

 

 

「朝食の準備ができています。 冷めないうちに起きてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

end




はい、というわけで今回は外伝的な感じ。時系列ではDたちが自立した後というタイミングです。そして私の願望を詰め込んだ一話であります!

書くにあたり、『あなた』の一人称は性別のはっきりしない『私』に、代理人の日記でも「彼」や「彼女」ではなく『あの人』としました。もしかしたら女性読者の方もいるかも知れないからね!

1日遅れですが、これが作者から皆さんへのバレンタインデーです。お返しは、今後ともこの作品を読んでいただけると嬉しいです!


それでは、皆さん良いドルフロライフを!


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第百四十七話:出張販売

指揮能力に長けてるとはいえ結局自分で直接潰しにくる代理人は真面目可愛いと思います(本編とは一切関係ありません)


『突然すまない代理人、G&K社を代表して依頼したい』

 

 

とある日の昼下がり、珍しく喫茶 鉄血の電話が鳴り、マヌスクリプトが電話に出る。そしてすぐに血相を変えて代理人を呼び、今に至る。

電話の相手はあのグリフィン&クルーガー社の社長、クルーガーであった。

 

 

「珍しいですね、個人的にならともかく企業としての依頼など」

 

『うむ、実は一週間後に我が社の新入社員たちの研修が一斉に始まるのだ。 そこで各司令部に2、30名ずつ送り、実地研修を行う予定なのだが・・・・・』

 

「あぁ・・・・・なるほど」

 

 

そこまで言われて、代理人もなんとなく察した。通常、司令部に所属する人員の7割くらいは人形である。規模によって前後はするが、人間の数は少数派と言ってもいいだろう。

そして各司令部にも食堂と呼ばれる場所はあるにはあるが、もともとそんなに多くない人間の分と最悪食べなくてもなんとかなる人形の分しか作ることはない。そんなところにまとめて数十人も向かうとどうなるか。

 

 

『そう、確実に不平不満が出るし、我が社の評判も落ちかねん。 というわけで、研修の期間、司令部への出張営業を依頼したい』

 

「なるほど・・・ですがなぜ我々が? 他の店もあるはずですが」

 

『それについては、その地区の指揮官からの推薦だ。 信頼できるし、味も確かだと言ってな。 それと、今後グリフィンで働く彼らにも周知しておきたいのだ・・・・鉄血工造への不信感もないわけではないからな』

 

 

すでにこの地区に馴染みまくっている代理人以下喫茶 鉄血の面々だが、開店当初に比べれば減りはしたものの世間での鉄血工造、そして離反したハイエンドたちへの懐疑心や差別がなくなったわけではない。

グリフィンという組織に属する以上、鉄血工造とは無縁ではいられないこともあって、そういうアンチ鉄血的な思想の人間が指揮官になられるとクルーガーとしても困るのだ。

 

 

『もちろん報酬は払う、なんだったら言い値でも構わん。 それと、必要な器具やら食材の費用も請求してくれて構わない』

 

「あら、随分と気前がいいですね」

 

『これでも大手だからな! それにここで渋るようならそれこそ評判が地に落ちる』

 

「ふふっ、それもそうですね・・・・わかりました、その話をお受けします」

 

『礼を言おう。 では、よろしく頼む』

 

「はい、では失礼します」

 

 

受話器を置き、すぅーっと息を吸い込んだ代理人。そして気持ちを落ち着かせると、一週間後に店を任せるためにDのところに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

一週間後、研修当日

 

 

「では、今日からよろしくお願いします」

 

「こちらこそ! ようこそS09司令部へ!」

 

 

S09地区の司令部前で代理人たちを出迎えたカリーナは、心底嬉しそうにそう言った。彼女も人間である以上食堂を利用するので、代理人が来てくれた方が嬉しいのだ。

ちなみに今回のメンバーは代理人、リッパー、イェーガーの初期メンバー三人組。グリフィンにとっての一大イベントである以上、まじめに仕事をしてくれるメンバーでないといけないと考えたからだ。逆に喫茶 鉄血の方には店長代理にとしてD、そして居残り組のハイエンドたちがいるのだが・・・・・メンバーがメンバーだけにDには苦労をかけそうだ。

 

 

「それでは、ご案内しますね」

 

 

カリーナが先導し、代理人たちは司令部へと入る。すでに研修生たちは到着しているらしく、廊下を歩いていると窓からチラホラと姿を見ることができた。

 

 

「あら、意外と少ないようですが」

 

「あぁ、あちらは指揮官候補の皆さんですね。 訓練場で銃種ごとの特徴を直に見てもらっているところです」

 

「ということは、他にも?」

 

「はい。 整備士の方は修復施設などを見てますし、メンテナンス担当の方はデータルームで作業を習っています。 あ、それと後方幕僚の方もいるんですよ!」

 

「つまり、カリーナさんの後輩ということですね」

 

 

その通りです!と胸を張って嬉しそうに答える。ちなみに司令部配属の中で最も責任が重いのが指揮官だというのは周知の事実だが、最も業務が多いのが後方幕僚であるということは意外と知られていない。

 

 

「私もこの後で彼らに合流します。 基礎から応用まで全て教えてあげますわ!」

 

 

さらに余談だが、カリーナはグリフィンがこの形に落ち着いて以来最も優秀な後方幕僚と言われている。指揮官のサポートから作戦報告書の作成、人形の簡単なメンテに救護室の掃除に購買部の運営、そして呼ばれれば副官もこなす・・・・・カリーナ様様である。

 

 

「さぁ着きました、ここが食堂です!」

 

「意外と広いですね」

 

「カフェもあるのに?」

 

「カフェができるまでは、人も人形もここで休憩していましたからね。 今は広すぎるくらいです」

 

 

カリーナの説明を聞きつつ、代理人たちはキッチンを見にいく。今でこそスプリングフィールドのカフェがあるが、それまでここで全てを賄っていたというだけあって設備は十分だ。やや古い型ではあるが、料理だけなら困ることもない。

 

 

「・・・・・これだけの設備があれば十分でしょう。 カリーナさん、アレルギーのある方はいらっしゃいますか?」

 

「こちらがリストになりますね。 といっても、甲殻類が一人いるだけですけど」

 

「わかりました。 他に気をつける点は?」

 

「特にはありませんが・・・・・少し少なめにしていただけるとありがたいかな、と」

 

「それはどういう・・・・・あぁなるほど、購買で小腹を買わせるつもりですね」

 

 

ジトっと代理人が睨むと、カリーナも「バレましたか」といって笑う。こういう抜け目ないところが彼女らしいのだが、実際それで潤っているのだから大したものだ。

 

 

「まったく、ちゃんとした量を用意しますよ。 他はないですか?」

 

「あ、デザートが欲s「それもあなたの願望ですよね?」・・・・グゥ」

 

 

本当に抜け目ない。もっとも、もともと出すつもりだったと言ってやると飛んで喜んでいたが。

そんなわけで、カリーナは研修に戻り、代理人たちは早速準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れたぁ〜・・・・・」

 

「本部の研修とは、全然違うね・・・・」

 

「これ、後何日あるんだ?」

 

「に、二週間・・・・・・」

 

『はぁ〜〜〜〜〜〜・・・・・・』

 

 

数時間後、研修初日を無事(?)終えた研修生たちがゾロゾロと食堂にやってくる。初日だけあって座学多めだったようだが、それでも実技となると疲労困憊になるまで叩き込まれたらしい。

特に指揮官候補と後方幕僚候補は、全員ぐったりとしている。

 

 

「こ、ここの指揮官、口数少ないけどめちゃくちゃ優秀な人じゃない?」

 

「私、あの人の半分のスコアも出せなかったわよ・・・・」

 

「カリーナさん、なんで笑いながら仕事できるんだろ・・・」

 

「あ〜ダメ、しばらくお金見たくないわ」

 

 

正直、疲労で食欲も何もあったものではないのだが、食わねば倒れるのは自分である。とりあえず何か腹の中に入れようと食堂の扉を開けると、とたんに食欲をそそる匂いが押し寄せてきた。

 

 

「あら、ちょうどいいタイミングですね。 用意はできていますよ」

 

『・・・・・・・・え?』

 

 

そんな食堂の中央、ビュッフェスタイルの料理が並んだテーブルのそばに佇むメイド服の女性を見ると同時に、研修生たちは食堂のドアを閉めた。

 

 

「い、今のって」

 

「鉄血の人?」

 

「あれ、テレビで見たことあるんだけど・・・」

 

「ここってグリフィンよね? 私たち騙されてないわよね!?」

 

「む? そんなところでどうしたんだ?」

 

『ビクゥ!?』

 

 

不意に声をかけられ、文字通り飛び上がる。声をかけた主・・・指揮官は首を傾げているが、その後ろについてきたカリーナはなんとなく察して苦笑する。

とにかく、このままここにいるわけにもいかないので、カリーナは率先して中に入っていった。

 

 

「わぁ! 美味しそうですね!」

 

「カリーナさん、涎出てますよ」

 

「突然の依頼に応えてくれてありがとう代理人」

 

「いえ、いつも利用していただいているお礼です」

 

 

カリーナと指揮官が仲良く話しかけたことで、ようやく大丈夫だと判断した研修生一同。初めは恐る恐るだったが、そのうち空腹に耐えられなくなってササッと席につく。

 

 

「さて、皆席についたな。 まずは紹介しよう、この地区で喫茶店を営んでいる代理人だ。 今回の研修の間、この司令部で食事を作ってくれる」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「では皆、今日はご苦労だった。 まだまだ分からないことが多いとは思うが、それはこれから覚えていけばいい。 そして仕事の基本は、働いた後はしっかり休むことだ」

 

「指揮官様、その辺りにしないと冷めちゃいますよ?」

 

「む、そうだな。 食事の後は自由時間だ、好きに過ごしてくれて構わない、以上だ」

 

「では、いただきまーす!」

 

 

指揮官の挨拶が終わるや否や、いの一番にカリーナが飛び出す。呆気に取られていたものがほとんどだったが、やがて釣られるようにゾロゾロと料理を取り始めた。

 

 

「ふふっ、元気な方達ですね・・・・指揮官さんは食べないのですか?」

 

「そうだな、私もいただこう」

 

「えぇ、どれも自信作ですからね」

 

 

そう言って代理人はフッと笑う。

後のアンケートで、今回の研修は大変好評だったそうだ。

 

 

 

end




え?まだ4月じゃないのになんで研修だって?
こまけーことはいいんだよ。

私事ですが、4月から社会人になります。そんでもって関西から東京の方に引っ越します。
これでドルフロのイベントに行き放題だな!(違う


では今回のキャラ紹介!


代理人
特に断る理由もないので受けた。
喫茶店だが、結構いろんな料理を作れる。

カリーナ
デフォルト副官にしてデータルームの主。儲け話にはブラックバスの如く食いつく。
教え方も上手いが、そもそも素のスペックが違うので研修生に引かれる。

指揮官
口数が少なく、感情の起伏も薄そうな指揮官。
だがやたらと濃いメンツが集うS09地区を任されるだけあってその手腕は本物。

研修生たち
後でわかることだが、この地区の研修が一番過酷だったらしい。


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第百四十八話:英国淑女

先日、映画1917を見に行ってきたので。
最近映画館なんて行ってなかったけど、いい映画に出会えました!

話は変わりますが、昔こち亀の漫画で両さんがサンパチ式(レプリカ)に銃剣(レプリカ)を付けて長刀部とバトるという話を見た気がするんですが、その頃から銃剣突撃が大好きでした。


厳しい寒さが少し和らぎ、なんとなく春の訪れを感じられるようなられないような気候になり始めた頃。今日も変わらず店を開き、訪れる客をもてなす喫茶 鉄血に、ライフル銃を担いだいかにも戦術人形ですという風貌の女性たちが入ってきた。

 

 

「ほぉ、確かに雰囲気は良さそうだ」

 

「はい、私のお気に入りのお店ですから」

 

「いらっしゃいませ。 今日はお友達とご一緒ですか、スプリングフィールドさん?」

 

 

そう言いながら出迎える代理人。やってきたうちの一人は代理人もよく知る女性で、この店に度々訪れるスプリングフィールドだ。スプリングフィールドといえば、指揮官が絡むと十中八九暴走することで有名だが、司令部でカフェを開くなど普段は面倒見の良いお姉さんである。

そんな彼女が一歩引いた位置にいるということは、もう一人の女性はその上司なのだろうか?

その女性は代理人の前まで来ると、固い雰囲気のまま挨拶した。

 

 

「あなたがここのマスターだな。 昨日付でS09地区に配属となったリー・エンフィールドだ」

 

「はじめまして、喫茶 鉄血のマスターをしています代理人です」

 

 

リー・エンフィールドと名乗った女性は鋭い目つきのまま代理人を睨んでいる。いや、どちらかというと見定めていると言った方がいいだろうか。

互いになにも言わないが、さすがにこの空気に耐えきれなくなったスプリングフィールドが助け舟を出す。

 

 

「あの、リーさん。 代理人さんも困ってますからそろそろ・・・」

 

「む、あぁすまない、こういう性分なのでな」

 

「いえ、お気遣いなく。 どうぞ空いている席へ・・・ご注文はどうされますか?」

 

「そうだな・・・では紅茶を」

 

「私はコーヒーをお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

そう言って代理人は下がり、リー・エンフィールドとスプリングフィールドはカウンターに座り、傍に銃を置いて待つ。注文した品を待つ間、二人は軽く世間話をし始める。

 

 

「でも驚きました。 まさか先輩がこっちに来るなんて」

 

「その呼び方は研修で最後にしたはずだぞ?」

 

「たまにはいいじゃないですか」

 

 

そう言ってクスクスと笑うスプリングフィールドに、リー・エンフィールドは特にリアクションも見せずに返す。

 

 

「そういえば、お前のほうはどうだ? 最後にあった時よりも雰囲気が軽くなったようだが」

 

「え? そ、それはその・・・・・」

 

「ふふ、それは恋のおかげかもしれませんね」

 

 

突然そう言われてビクッと飛び跳ねるスプリングフィールド。その様子を面白そうに眺めながらコーヒーと紅茶を並べる代理人に、リー・エンフィールドは少し驚いた様子で声をかけた。

 

 

「恋、だと?」

 

「えぇ、あの人の話をする時はとっても楽しそうに話すんですよ」

 

「だ、代理人さんっ!」

 

 

スプリングフィールドは顔を真っ赤にして止めようとするがもう遅い。隣のリー・エンフィールドは目をスッと細め、彼女の方を向くと詰問の態勢に入る。

 

 

「で、相手は誰だ?」

 

「な、なんでそんなことを気にするんですか?」

 

「いいから言え」

 

 

意見反論は認めない、とばかりに詰め寄るリー・エンフィールドに、スプリングフィールドもついに折れて話し始める。

相手は指揮官であること、ほぼ一目惚れであったこと、そして未だに告白できていないことなどなど洗いざらい吐かされてしまった。最後に残ったのは、真っ白に燃え尽きた春田さんだけである。

 

「そうかそうか・・・随分と楽しそうにしているようだな」

 

「あの、リー・エンフィールドさん。 彼女は決して業務をおざなりにしているわけではありませんので、あまり責めないであげてください」

 

「ん? いや、別に責めているわけではない。 言葉通りの感想を抱いただけだ」

 

 

そう言って紅茶を一口飲むと、その表情をふっと和らげる。それまでのキリッとした、言い方を変えればキツイ表情ではなく、柔和な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「私は、見ての通りとっつきにくい人形だ。 喜怒哀楽も薄く、雰囲気も固いと自覚している。 彼女にはそうなって欲しくはないと思っていたが、余計な心配だったようだ」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「うん? どうした、そんな顔をして」

 

「いえ、リーさんならもっとこう・・・『色恋沙汰にうつつを抜かすなど許さん!』とか言いそうだったので」

 

「お前は私を何だと思っているんだ?」

 

 

少々呆れたように言いながらも、再び紅茶に口をつけるとまた薄く笑い、瞳を閉じてリラックスした表情を浮かべた。

 

 

「ここはいい店だな。 雰囲気もいいし、味も申し分ない。 スプリングが気に入るのも頷ける」

 

「ありがとうございます」

 

「それと、これは個人的な頼みだが・・・これからも彼女の友人でいてほしい」

 

「リーさん・・・・・」

 

 

スプリングフィールドも知らない彼女の側面、それは先輩として後輩を心配する姿だった。自他共に厳しいと理解しているからこそ、誰よりも彼女のことを気にかけているのがわかる。

代理人の中で、リー・エンフィールドという女性のイメージが大きく変わったのだった。

 

 

「ふっ・・・この様子だと、私が教えるようなことはもうなさそうだな。 少し安心したよ」

 

「そんな・・・私なんてまだまだですよ」

 

 

照れたように笑うスプリングフィールドに、代理人もつられて笑う。指揮官が絡むとアレな彼女だが、やはり本質は見た目相応の可愛らしい一面を持っているのだと感じたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ではそろそろ戻るとしよう」

 

「そうですね。 代理人さん、お会計をお願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

それぞれ頼んだものを飲み干し、会計のために席を立つ。少々揉めたが結局リー・エンフィールドが払うことになり、スプリングフィールドは二人分の荷物を持って外へと出た。

 

 

「ありがとう、美味しかったよ」

 

「こちらこそ。 またいつでもお越しください」

 

「あぁ、また近いうちに・・・・・ん?」

 

「あら、なにやら騒がしい様子ですね」

 

 

会計を終えた時、二人は外から聞こえて来る声に気がついた。なにやら怒鳴り声のようにも聞こえるが、そのうち一人はスプリングフィールドのものらしい。

何かトラブルにでも巻き込まれたのかと少し急いで外へ出てみると・・・・・

 

 

「ただでかい脂肪の塊をぶら下げているだけの人形には負けませんわ!」

 

「残念ですが、貧乳に需要などないのですよKarさん!」

 

「「ぐぬぬぬぬ・・・・・!」」

 

 

玄関先で、二人のライフル人形が額を突き合わせてガンを飛ばしあっていた。片方は店から出たばかりのスプリングフィールド、もう片方は同僚のKar98kである。

普段は仲の良い二人がいがみ合う理由はもちろん指揮官絡みだが、その論点は二人にとって死活問題だ。

 

 

「指揮官がお返しをくれるのは、私を置いて他にいませんわ!」

 

「あんな溶かして固めただけの貧相なチョコを渡すような方に、指揮官が応えてくれることなど億に一つもあり得ません!」

 

 

そんなホワイトデーのことで言い争う二人の後ろで、Karと一緒に来ていたカラビーナは困ったような表情を浮かべている。Karと行動を共にすることが多い以上、こんな場面に出会すこともよくあるが、その都度どうすることもできずに困ってしまうのだ。

 

 

「あら、またあの二人ですか」

 

「・・・・なに? 『また』だと?」

 

「えぇ、指揮官のこととなるとよくぶつかるんですよ」

 

 

慣れている代理人は苦笑するだけだったが、しかしもう一人は違う。戦術人形としての心構えやらを叩き込んだと思っていた後輩が、まるで小さな子供のように人目も憚らずいがみ合う。しかも今にも取っ組み合いっそうな状況で・・・・・・・あ、始まった。

 

 

「・・・・・・そうか、あれがいつものことか」

 

 

気がつけば代理人は店の中へと戻り、残されたリー・エンフィールドは笑みを貼り付けたまま一歩ずつ足を踏み出した。何かを察したカラビーナは二人の足元に転がった銃を拾い集めると、ササっとリー・エンフィールドの後ろに下がる。

互いの胸ぐらを掴んで睨み合う二人は、リー・エンフィールドがそばにきてようやく気がついた。

 

 

「・・・・・・貴様ら」

 

「「え?・・・・・・ヒィッ!?」」

 

 

燃え滾る怒気で髪や服が逆立っているかのような錯覚に陥るほど、リー・エンフィールドは怒っていた。そして二人は確信する、この後に待ち受ける運命を。

 

 

「今日の予報は終日晴れだそうだ。 明日まで屋外演習場も使える・・・・・覚悟はいいな?」

 

「え、その・・・・・」

 

「返事は?」

 

「「Yes.ma'am!!!」」

 

 

その後、彼女たちが宿舎に戻ったのは、翌日の昼頃だったという。

 

 

 

end




公 式 メ シ マ ズ 女 王
ロード画面の四コマの衝撃ったらないね笑

では今回のキャラ紹介!


リー・エンフィールド
本部から転属してきたライフル人形。本部時代に春田さんとは先輩後輩の関係だった。堅物だが融通が効かないというわけではない。怒ると怖い。
ちなみに第十五話で登場したロリー・エンフィールドとは別人である。

スプリングフィールド
黙っていれば素敵なお姉さん。指揮官が絡むと途端にポンコツと化す。
スキンに恵まれ、ドルフロの知名度アップにも(多分)一番貢献している・・・・・のだがこの作品ではその面影はない。

代理人
春田さんが大人しい方が珍しいと思っている。
店内のことはどうにかしようとするが、店の外は管轄外。

Kar
ちょっとお茶でも、と思って来たのが運の尽き。

カラビーナ
巻き込まれた形だが、もとより訓練を嫌ってはいないので気にしてない。


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番外編37

コロナ「来いよ作者、マスクなんて捨ててかかってこい」
作者「野郎オブクラッシャー!」


本編とは一切関係ないので聞き流しといてください。
では今回のラインナップ紹介
・軍人たちのバレンタインデー
・出張販売、その裏で
・Photo of wedding
・訓練終わるまで帰れま10


番外37-1:軍人たちのバレンタインデー

 

 

2月14日、世間はバレンタインムード一色である。しかしそんな世間の波にも乗れず、例年をただの1日として過ごして来た者たちがいる・・・・・正規軍の面々である。

もちろん軍人といえど相手がいれば当然もらえるし渡せる。というか相手がいようがいまいが、女性であれば義理と称して渡すことでバレンタイン感を得ることができる。

がしかし、どれだけ女性軍人の数が増えようとも圧倒的男率!結果として貰えない男が大多数を占めるのだった。

 

 

『というわけでジャッジ少尉! 俺たちにチョコをください!』

 

「ふざけるな!」

 

 

ものの見事に一蹴されてしまった。がそれでも男たちは諦めない。というのも、彼らがジャッジに詰め寄るのには訳があった。

 

 

「なぜ私なんだ!?」

 

「もう少尉しかいないんですよ!」

 

「AK-12もANー94もいなくなっちゃったからですよ!」

 

「アンジェがいるだろ!」

 

「嫌ですよ! あの人にせびったらホワイトデーに結婚指輪とか要求されそうですし!」

 

「どう見ても売れ残りコースじゃないですか!」

 

「ほぉ、なかなか面白そうな話をしているじゃないか」

 

『ヒィ⁉︎』

 

 

モーゼの十戒の如く、軍人たちの群れが割れて青みがかった髪の女性が現れる。正規軍人形部隊の隊長であるアンジェリカ大尉である。もっとも、二人もグリフィンに移ってしまったため戦力縮小は否めないが。

それはともかく、失言をした男を一撃で沈めるジャッジの隣に立ってこう言った。

 

 

「お前たち! バレンタインなどと浮かれている余裕があるなら訓練に励んではどうだ?」

 

「ですが大尉、大尉も先週まで浮かれてまいたよね?」

 

「そして一昨日まで彼氏の一人もできないことに焦ってましたよね?」

 

「昨日にはもう全てを諦めましたよね?」

 

「・・・・・・グスン」

 

 

泣いてしまった。しかも可愛い泣き方でもなくどちらかというと男泣きに近い泣き方である。ジャッジも正直擁護できないので黙っている。

が、その矛先はあろうことかそのジャッジに飛んできた。

 

 

「なら貴様らは! こっちのツルペタロリ人形の方がいいと言うのか!?」

 

「オイコラ今なんつった!?」

 

『当然であります!』

 

「よーしお前らそこに並べ、まとめて蜂の巣にしてやる!」

 

 

いよいよ我慢ならなくなってきたジャッジだったが、それより先に爆発したのはアンジェの方だった。蹲って泣いていた状態からスッと立ち上がり、覚悟を決めた表情で高らかにこう言った。

 

 

「いいだろう、ならどちらが(女性として)優れてるか決着をつけてやる!」

 

「ちょっ、アンジェ!?」

 

「私とコイツがお前たちにチョコを作ってやる!」

 

『うぉおおおおおおおおお!!!!!』

 

 

ジャッジが何かを言おうとするも、男どもの歓声にかき消される。隣のアンジェなどまだ始まってもいないのにやり切った顔で佇んでおり、もう後に引けないのだと確信した。

結局その日にチョコを渡すことはできないが、翌日に食堂で配る方向で話が進む。お偉い方もなぜか乗っかり、その日のアンジェとジャッジの仕事は無くなった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

それから一夜明け、2月15日。

普段は満席になることなどない食堂だが、この日は隙間なくびっしりと満席になっていた。決して広いわけではないのだが、これだけ集まれば壮観である。あとなぜか女性も数名混ざっていた。

そんな熱狂した雰囲気の中、徹夜で作ったチョコを配る二人の様子は対照的だった。

 

 

「ジャッジちゃん! おじさんにもチョコをくれ!」

 

「あんた上官だろ、プライドはねぇのか!?」

 

「プライドでチョコがもらえるか! そんなもの捨ててやる!」

 

「ジャッジちゃん、俺にも!」

 

「俺もだ!」

 

「ああもぉ!!!」

 

 

「あの、大尉」

 

「今だけは許可してやる、『アンジェちゃん』と呼べ」

 

「いえ、流石にそれはキt」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ! なんでもありません!」

 

 

正直、ジャッジはチョコを作りはしたものの後はどうでもよかった。だがアンジェの方はあわよくば彼氏を見つけようという魂胆が透けてみえ、そのためかかなり露骨なアピールが入っている。が、義手になるまでどっぷり軍生活に浸かっていたせいかズレまくったアピールしかできていないが。

 

 

「おいジャッジ、もしかしなくてもこれ手作りか?」

 

「ん? まぁ、一応な・・・・もちろん義理だぞ」

 

「うひょぉおおおおお!!!」

 

「ジャッジちゃんのツンデレチョコ!」

 

「違ぇよ!!!」

 

「くっ、ギャップ萌えとは・・・・やるな、ジャッジ」

 

「アンジェも何言ってんだよ!?」

 

 

その後、一通り配り終えたことでお開きとなったわけだが、結局アンジェの彼氏もできなければどちらが(女として)優れているかもあやふやなままだったという。

 

 

end

 

 

 

番外37-2:出張販売、その裏で

 

 

代理人以下、精鋭メンバーが司令部へ出張販売に行っている頃。長期の店長不在であっても営業できるようにDが店長代理を務められるように訓練してきたのだが、それはあくまで業務と指示が中心である。

要するに、『いかに問題児たちを好き勝手させないか』という点については、純粋にDの技量次第であるのだ。

 

 

「やぁお嬢さん、今日は一人かい?」

 

「おやそこの君、なかなか絵になってるじゃないか。 よかったらモデルになってくれないかな?」

 

「あ、ありがとうごじゃいましゅ! お、お会計、はっ、に、二千円でしゅ!」

 

 

個性があまりにも強すぎるということで出張組から外れた三人を束ねるのは、それはそれは難儀だ。

フォートレスはまだいい。コミュニケーションが苦手だがこれでもマシになった方だからだ。むしろこうして積極的に表に出る機会があった方がいい。だが残り二人に関しては、ちょっと目を離すとすぐ勝手な行動に出てしまう。

 

 

「ゲッコーちゃん! 仕事中に口説かないで!」

 

「おや、見つかってしまったか。 では、また会おう子猫ちゃん」

 

「マヌちゃんも、仕事中はそれ持ち歩かないでね」

 

「ちぇ〜・・・」

 

 

一応言っておくと、彼女らは決してDをなめているわけではない。店長代理としてちゃんと敬意を払っているし、指示にも従ってくれている。ではなぜ今日はこれほどまでに仕事をしないかというと・・・・・

 

 

(はぁ・・・やっぱりOちゃんはすごいなぁ。 二人がサボる前に注意しに行くんだもん)

 

 

そう、普段は代理人が主にこの二人に目を光らせているのである。少しでも何かしようとすれば、それらが全て未遂で止められてしまう。無論、自身の仕事もこなしながらであるので、それがどれだけ大変かは十分理解できた。

 

 

「ふぅ・・・フォートレスちゃん、大丈夫?」

 

「は、はい、なんとか・・・・・」

 

 

大丈夫そうに振る舞うフォートレスだが、その顔には疲労の色がしっかりと出ている。

 

 

(・・・・・ちょっと早いけど、お客さんもいなくなったし閉めちゃおっかな)

 

 

代理人から店を任されているDはそう決めると、手早く指示を出していく。三人に片付けを任せている間、Dは明日以降の予定を見直すことにした。

 

 

(この四人だけで回すのに慣れるために、すこし営業時間を短くして・・・二、三日したら元に戻そうかな。 フォートレスちゃんにもいろいろ経験してもらいたいし・・・・あとあの二人にもちゃんとしてもらおうっと)

 

 

今はまだ未熟だが、着々と店長としての腕を磨いていくD。とりあえず彼女は、二人に真面目にやってもらうために少々強引な手段を使うことにした。

 

 

(マヌちゃんは・・・・ペンタブ没収かな? ゲッコーちゃんはしばらく厨房担当っと・・・・)

 

 

翌日、新たな指示を聞いた二人から悲鳴が上がったのは、語るまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外37-3:Photo of wedding

 

 

喫茶 鉄血という場所は、しばしば不思議なことが起こることで一部からは有名である・・・というよりもそのマスターである代理人の周りでよく起こるのだ。

もっとも、当の本人は少々驚くことはあっても取り乱すようなことはなく、しかも最近は『あぁ、またか』みたいに慣れてきつつある。そんなわけで、今回の反応もそんな軽いものだった。

 

 

「・・・・・・あら?」

 

「どうしたの代理人・・・・おぉ?」

 

「代理人さん、マヌスクリプトさん、Dさんが呼んで・・・・え?」

 

 

開店前の準備をあらかた終わらせ、店の掛札を『オープン』にひっくり返しにきた代理人はあるものを見つけ、手を止める。それを中から見ていたマヌスクリプトも表に出てくると同じく固まる。そのタイミングで二人を呼びにきたフォートレスも、思わず止まってしまった。

それは、店の軒先に引っ掛かった風船だった。

 

 

「珍しいですね、こんなところに引っかかるなんて」

 

「何処かから飛ばされてきた・・・・・って割には低いよね」

 

「近所の子どもたちの忘れ物、とかですか?」

 

「・・・・・・・いえ、どうやらそうではないようです」

 

 

二人が首を傾げていると、代理人は風船・・・の下に括られた写真を手に取り、嬉しそうに微笑んだ。

そこに映るのは、三人の男女が結婚装束に身を包み、その周りを大勢の人が囲んでいる集合写真だ。マヌスクリプトとフォートレスにとっては見覚えのない者がほとんどだが、代理人とは面識の人物たちもいる。もちろん、真ん中の三人の男性もだ。

 

 

「へぇ、結婚式の写真じゃん」

 

「ど、どこから流れてきたんでしょうか? 早く持ち主に返してあげないと・・・」

 

「ふふっ、大丈夫ですよフォートレス。 これは私宛ですから」

 

 

風船から丁寧に写真を外すと、大切にポケットにしまう。そうしてゆっくり一度深呼吸をして、今度こそ掛札をひっくり返した。

 

 

「さて、それでは今日も張り切っていきましょう。 また彼らがきてくれたときに、最高の一杯が出せるように」

 

 

end

 

 

 

番外37-4:訓練終わるまで帰れま10

 

 

18:30

一日の訓練やら警備やらの業務を終え、夕食を取り終えたリー・エンフィールドとスプリングフィールド、Kar98kの三名は、日が沈む直前の屋外演習場へとやってきた。屋外演習場はより実戦を想定した訓練ができるようにと作られ、そのため夜間照明などと言ったものは基本的にない。

ほぼ真っ暗な演習場に、リー・エンフィールドの声が響いた。

 

 

「さて、では約束通り始めようか」

 

「あ、あの、本当に一晩中やるんですか?」

 

「ま、真っ暗ですわ!」

 

「・・・・装備はこれだけですか?」

 

 

スプリングフィールドとKar98kは未だに冗談であって欲しいという願望で、そしてついでにと参加したカラビーナは与えられた装備の少なさに少々驚いている。

弾倉が三つにサイドアームの拳銃が一丁、そして銃剣が一本だけである。

 

 

「あぁそうだ。 それと、この訓練自体の時間は定められていない、規定の成績を出せば日が変わる前に終えることもできる」

 

「! じゃあ!」

 

「つまり、結果を出せなければ日が昇っても終わらないということだ」

 

「「 」」

 

「それで、訓練の内容はなんでしょうか?」

 

 

二人が絶望のあまり真っ白になる中、唯一こういった状況に適応できているカラビーナが質問する。

 

 

「指揮官に許可をもらって、廃棄予定の古い訓練ドローンの使用許可をもらっている。 それをこの訓練で全て使う」

 

「く、クリア条件は?」

 

 

スプリングフィールドが恐る恐る尋ねる。それに対し、全く表情を変えずにリー・エンフィールドは言った。

 

 

「規定ラインまで前進し、そこに置いてある通信設備で救援を要請。 その後一定時間ラインを死守することが条件だ」

 

「・・・・・・・」

 

「それと、貴様らの装備は訓練中()()()()だ。 失敗しようが武器弾薬の補給はない」

 

 

要するに、最初の一回で成功できなければ消耗した状態で再戦である。地獄以外の何物でもない。

そしてここにきて、スプリングフィールドは彼女が敬愛するリー・エンフィールドが一種のバトルジャンキーであることを思い出す。それも、重度の銃剣突撃主義者であるのだ。

 

 

「開始は19:00、それまでに覚悟は決めておけよ」

 

「「・・・・・」」

 

「了解です」

 

「・・・他、返事は!?」

 

「「は、はいぃ!!!」」

 

 

ちなみに、この訓練に投入されるドローンは廃棄予定のものであるため数に限りがある。リトライを重ねるうちに数が減っていくのだが、そのことを三人は知る由もない。

逃げ回ったり突撃したり隠れたりとあの手この手で戦いながら、結局終わったのは日が昇る直前だったという。

 

 

end




今年ももう2ヶ月が終わろうとしている、いやぁ時間が経つのは早いなぁ。
さて、これ以上書くこともないので各話の紹介です。

番外37-1
暇を持て余した軍人たちの遊び(ガチ)
ログイン画面でヘリアンさんと並んでる時点でもう救いは・・・え?カリーナ?貢げばいいんじゃないかな
ちなみにアンジェの階級は適当に決めたもの。特に深い意味はない。

番外37-2
やべぇ問題児しかいねぇ。
Dって怒らせると怖いと思う。普段ニコニコしてるだけに思ったら無表情になるとか、もしくは目が笑ってない笑顔とか。

番外37-3
NTK様の『人形達を守るモノ』でのコラボ(https://syosetu.org/novel/190134/61.html)のお返し。
摩訶不思議な現象には定評のある喫茶 鉄血です。

番外37-4
リー・エンフィールドさんによるライフルのみの夜間演習。ちなみに廃棄ドローンは廃材なんかをくっつけた即席装甲兵。それに銃剣突撃しろと暗に言うリーさんは鬼だと思う。
ぶっちゃけカラビーナは問題なく達成できるはず。


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第百四十九話:SFSの仲良し三姉妹!

最近のイベント自粛の波がすごいですね。
その勢いでホワイトデーとかも無くなってくれたらいいのに(妬み)

さて、今回は『ガイア・ティアマート』様の作品『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』とのコラボです!
https://syosetu.org/novel/205743/17.html
ISとのクロスオーバーだったりUMP40が無事だったりとなかなか個性的な作品なのでおすすめです!


相変わらず寒い日が続く今日この頃。特に今日は寒気の影響からか空は灰色の雲が覆い、雨ではなく雪がちらほらと降っている。そんな日でも喫茶 鉄血は変わらず店を開けていた。

 

 

チリンチリン

「ひゃ〜、寒い〜!」

 

「お帰りなさい、マヌスクリプト。 今日は随分と冷えますね?」

 

「予報は曇りだったから降らないとは思ってたけど、雪は想定外だよ〜! 風も吹いてるし」

 

 

お使いから帰ってきたマヌスクリプトはそう言うと、風と雪でぼさぼさになった髪を手櫛で整える。言われて見てみれば、時折強めの風が吹いては公園の木の枝を揺らしている。降雪量自体は大したことはなさそうだが、横あいから吹き付けられては堪ったものではないだろう。

 

 

「お疲れ様、今日はもう上がってもいいですよ」

 

「え? いいの!? やったぁー!」

 

 

さっきまで小さくなっていたのに、すっかり元気になって上の階へと駆け上がっていく。おそらく、炬燵にでも潜り込むつもりだろう。まぁ寒い中お使いに行ってくれたのだから、これくらいは許してやるとしよう。

 

 

(となると、今日は暖かいメニューを多めに用意しておいた方がいいかもしれませんね)

 

 

窓の外を眺めながらそう思った代理人は、ひとまずコーヒーを多めに出せるようにしておこうと厨房に向かう・・・・・直前で店の扉が勢いよく開いた。

 

 

バタンッ‼︎

「「「ひぃいいいい!!!!」」」

 

「あら、これはまた・・・・・」

 

 

震える声で悲鳴を上げながら転がり込むように入ってきた三人組を見て、代理人はポツリと呟きながら苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですね、説明する前にまずは温かい飲み物でもお出ししましょう」

 

 

UMP姉妹似の三人を招き入れた代理人は、ひとまず店の隅のテーブル席に座らせる。もともとあまり人が座らない席だし、なにより込み入った話や人に聞かれたくない話にはいい場所だ。

三人に事前に聞いていた飲み物を出し、一緒に持ってきた新聞の束を渡す。読み進めるうちに彼女たちの表情に驚きの色が浮かび、そのうちの一人である40似の少女が壁のカレンダーを見て目を見開いた。

 

 

「その様子だと薄々お気づきになったと思われますので端的に説明しましょう。ここは、貴方達の居た世界とは別の世界です」

 

「べ、別の世界?」

 

「はい。 文字通り、あなた方が住んでいる世界とは異なる世界です」

 

 

言い澱むこともなく、はっきりとそう言い切った代理人に三人は顔色が青ざめ始める。45似の少女に至っては今にも泣きそうだ。

とはいえ、代理人も人をいじめる趣味があるわけでもないので早々と伝えるべきことは伝えておく。

 

 

「大丈夫ですよ三人とも。 きっと帰ることができますから」

 

「「「・・・・・え?」」」

 

 

代理人の言葉に三人はポカンと口を開ける。その仕草も口の開き方も全く同じなので、思わず代理人も頬を緩ませる。それから代理人は店の戸棚に飾ってある品々を持ってきて、かつてこの店に訪れた者たちの話を聞かせた。最初は半信半疑だった彼女たちもなんとか信じてもらえたようで、最後の方は楽しそうに話を聞いてくれていた。

 

 

「・・・・と、こんなところでしょうか」

 

「つまり、その時が来たら帰れるんだよね?」

 

「えぇ。 ですのでそれまではここでゆっくりしていってください・・・その格好では風邪をひいてしまいますので」

 

 

目の前に座る三人の服装は、この季節ではありえないほど薄着だった。というより夏服である。それが、この世界の人物ではないという可能性に気づいた要因の一つではあるのだが。

話を聞いて見たところ、どうやら彼女たちの世界は今真夏らしく、そこから一転して真冬の世界に放り込まれてしまったらしいのだ。

 

 

「・・・そういえば、貴方達はUMP型の戦術人形のようですが、名前はあるのですか?」

 

 

話のついでに、代理人は少し気になっていたことを聞いて見た。見た目や彼女たち同士の呼び方でUMP姉妹であることは察しがついていたが、名前がないと呼びづらい。

まず初めに答えてくれたのは、45似の少女。

 

 

「私は『シゴ』、SFSのミドルレンジモデル戦術人形で、そっちの名前は『SFSチェイサー』っていうの!」

 

 

次に、40に似た明るい少女

 

 

「アタイは『フィアーチェ』。もうひとつの名前は『SFSコンダクター』だよ」

 

 

最後は9似の快活な少女。

 

 

「私は『ナイン』。もう一つの名前は『SFSピアサー』なの」

 

 

45がシゴ、40がフィアーチェ、9がナイン・・・それぞれがやはりUMPタイプではあったが、それよりもさらに気になる単語が出てきた。

 

 

「『SFS』とは何でしょうか?」

 

「私達の世界の鉄血工業の再編後の名前。『Sangvis Ferri Striders(鉄血の闊歩者達)』、頭文字を取って『SFS』ね」

 

 

鉄血工業の再編・・・おそらくは代理人たちが起こしたクーデターと同じようなことが起きた結果、今の体制になったのかもしれない。これまで色々な世界の話を聞いてきたが、そのほとんどが鉄血の暴走という事件を経た世界であるところを見ると、どの世界でも傍迷惑なことをしているなと代理人は苦笑するのだった。

 

その後も、互いのことを話しては聞き、質問しては答えを繰り返した。あちらの世界にもサクヤがいたり、IS(インフィニット・ストラトス)という兵器があったり、彼女達『404特務小隊』ができるまでの話だったり。

逆にこっちのUMP姉妹のこと、とりわけ災難に見舞われがちな45のことを話すと、三人とも面白そうに笑っていた。そうして話してみると、こっちの45とシゴの過去は結構似ているようで、そう代理人が指摘するとシゴは顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、楽しい時間というのは存外早く経つもので、日も向き始めた頃に彼女達の持っていた時計が『カチリッ』と妙に大きな音を立てて時を刻む。

 

 

「おや、どうやら時間のようですね」

 

 

名残惜しそうにそう言うと、三人も少し残念そうに頷いた。まだいたいと思ってくれるのは代理人としては嬉しいが、いつまでもこの世界にとどまるわけにもいかないこともわかっている。

 

 

「えっと、お勘定・・・って、あれ?値札の単位が・・・」

 

「本当だ、コインじゃない・・・」

 

「私達コインしか通貨持ってないよぉ・・・」

 

 

そしてお会計になってのこの会話も、まぁ代理人にとっては慣れ親しんだものだ。むしろこの世界だけ通過が違うのかと思うと、かえって不思議な世界にいるんだなぁと思ったりもする。

 

 

「いえ、お代は結構です。どのみち通貨が違う以上お会計できませんので。強いてお代というなら、貴方達の世界のお話がお代替わりです。それと・・・」

 

 

お代を断り、そしてこれまたいつも通りの紙袋を手渡す。中身はもちろん、この店自慢のブレンドだ。

 

 

「うちのオリジナルブレンドです。貴方達の世界の鉄血・・・SFSの皆さんとどうぞ」

 

「うん、ありがとう!」

 

 

シゴはそう言うと嬉しそうに受け取り、大切に抱える。さてこれでお別れか・・・というところで、

 

 

「あ、そうだ!」

 

 

フィアーチェが鞄から何かを取り出すと、カウンターの上に広げる。それはどうやら折り紙のようで、慣れた手つきで数枚の折り紙を折っては組み合わせていく。

ものの数十秒で完成すると、それを代理人に差し出した。

 

 

「せっかくだからこれあげる!」

 

 

手渡されたそれは、一見するだけだと何かわからないもの。だがそれは、彼女達『404特務小隊』の隊章だった。これでお揃いだね、とでも言うように笑うフィアーチェからそれを受け取ると、代理人も大事にポケットに入れた。

 

 

「ふふふ、ありがとうございます。では、お気をつけておかえりください。」

 

「「「はーい!」」」

 

 

三人は元気よく返事をし、代理人に手を振りながら店を出る。そして扉が閉まると同時に一際強い風が吹き、その風に運ばれるように三人の姿は消えていた。

それを見届けた代理人は少し微笑み、誰もいなくなった店先へとお辞儀をしながらこう言った。

 

 

「またのご来店、お待ちしております」

 

 

 

end




これまで我慢し続けてコインが1300枚も貯まったぞ・・・さぁ運営、早く9のスキンを出すんだ・・・ハリー、ハリーハリーハリー!!!


・・・・・おっと、ロリ9を書いてたせいで理性が危ういところまで行ってしまった。我慢我慢
それでは、今回のキャラ紹介!

シゴ
404特務小隊の隊長、ロリスキンの45姉。
この呼び方は45の並びを「1、2、3、4、5(いちにさん()())」と読んだとこからきたらしい。
公式過去と同様、驚異の成績と豆腐メンタル。

フィアーチェ
UMP40・・・のロリ。呼び方はドイツ語で40を意味する「フィアツィヒ(Vierzig)」から。
どうでもいいことだが、UMP40をドイツ語読みにすると「ウーエムペー フィアツィヒ」となる。

ナイン
UMP9のロリスキン。可愛い。
よく笑い、よく遊ぶ子供らしい子供。
これまたどうでもいいことだが、9はドイツ語で「ノイン」、45は「フュンフ ウント フィアツィヒ」

代理人
マニュアルもないのに異世界組の対応が完璧になりつつある、自称普通のハイエンドモデル。
自分もたまには異世界に行ってみたい・・・とか考えてるかもしれない。





ところで「SFS」って聞くとドダイとかゲターが思い浮かぶのは私だけでしょうか?


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第百五十話:路地裏の猫

初期からお世話になってる上にMODまで実装されたのに今まで書いてなくてビックリ!

ところで猫耳とかケモミミってどう考えてもペルシカさんの趣味ですよね?


その日、S09地区はなんとなく騒がしい雰囲気だった。何か祭りがあるわけでもなく、大事件が起きたというほどの騒ぎでもなく、ただ何かはあったという程度のもの。

そんないつもとは違う日であっても、代理人も喫茶 鉄血も変わらず一日を送っていた。

 

 

「代理人、今日は何かイベントでもあったか?」

 

「いえ、特には聞いていませんが・・・・非常事態というわけでもなさそうですけど」

 

「妙にグリフィンの部隊が多いと思ってな。 まるで何かを探しているようだが」

 

 

ゲッコーの言う通り、路地裏の店である喫茶 鉄血の前にもグリフィンの部隊が行ったり来たりしている。それも、一つではなく幾つもの部隊が時間やルートを変えてである。

決して殺気立っているというわけでもないが、ただの警備にしてはいつもの気楽さがないのも事実だった。

 

 

カランカラン

「失礼します」

 

「こんにちは〜!」

 

「あら、M4に皆さんも・・・」

 

 

そんな中、目の前を通りすがったM4率いるAR小隊が店に入ってくる。全員がしっかりと装備を固め、とても寄り道という雰囲気ではない。

 

 

()()()()()、突然ですみませんがご協力いただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

M4がそう言い、代理人も何かあったのだろうと察してうなずく。M4はプライベートならば代理人のことを『お母さん』と呼ぶが、こういった仕事の際は『代理人』と呼んでいる。真面目な彼女らしい、公私混同を避けた結果だ。

 

 

「それで、何かあったのですか?」

 

「はい、と言ってもなんらかの被害が出たわけではありませんが」

 

「グリフィンやIoPにとって放っておけない案件ってことよ」

 

 

M4の言葉に、AR-15が続く。そしてポシェットから大きめの紙を手渡した。大きめの写真に、『見つけたら連絡を』という文字と番号・・・典型的な人探しの貼り紙だ。

もっとも、そこに載っているのは人間ではなく人形なのだが。

 

 

「IoP製戦術人形『IDW』、この騒ぎは彼女の捜索活動によるものです」

 

「? この方はグリフィンの所属ではないのですか?」

 

「あぁ、そうだ。 手短に話すと・・・・・」

 

 

M16がことの経緯を説明し始める。

まずIoP製の人形=グリフィンというイメージが大きいが、実際は最も大きな取引相手というだけで小さいものを含めれば多岐に渡る。民生用から自警団、個人所有のボディガードにPMC、そして傭兵組織などなどである。IoPとて素性のわからない相手に売ることはないが、逆に言えば素性がはっきりしていれば取引可能ということだ。

そしてこのIDWは、そんな取引の結果某国トップの私兵として購入され、つい最近までこことは全く違う地域にいると思われていたのだ。

 

 

「ところが数日前、その国で長く続いていた内戦が終結してな。 トップは行方をくらませたらしい」

 

「そしてグリフィンは、その人物の身柄確保を請け負いました」

 

「つまり、行方を知っている可能性があるので追っている、と?」

 

「はい」

 

 

そんなわけで各地の部隊が探していたのだが、なんと今日になってこの街での目撃情報が上がってきたのだった。当然グリフィンはこれを好機と捉え、グリフィン有数の規模を持つS09地区の司令部に捕縛命令が下された。

その戦力はAR小隊や404小隊を筆頭に、銃種を問わず様々な部隊が投入されている・・・・・過剰戦力にも程があるが。

 

 

「そういうことですので、もし見かけたらご連絡を、と」

 

「わかりました。 では、皆さんもお気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AR小隊を見送り、店の中と外に貼り紙を貼ってしばらくした頃。相変わらずグリフィンの部隊が探し回っているが、依然として確保には至っていないようだ。

一応発見することはできたようだが結局逃げられたようで、先ほど店の前を怒り心頭のWA2000が通り過ぎていった。よく聞こえなかったが、かなり物騒なことを言っていた気がする。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいまs・・・・・」

 

「はぁ〜まったく、連中もしつこいにゃ〜・・・・・あ、マスター、アイスコーヒーを一杯頼むにゃ」

 

 

思わず作業の手を止めてしまった代理人。だがそれも無理はない、先ほどからグリフィンが血眼になって探し回っている件の人形IDWが、特に変装することもなければコソコソするわけでもなく堂々と入ってきたのだから。

写真同様、見間違えようのない猫耳を揺らしてカウンターにちょこんと座ると、心底疲れましたというようにベチャッとテーブルにに突っ伏す。

 

 

「あの・・・IDWさん、ですよね?」

 

「うん? そうにゃ」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・あ、お腹も空いたからサンドウィッチも欲しいにゃ」

 

 

能天気、という感じである。危機感どころか逃げている身とは思えない神経の図太さだ。よほど強靭なメンタルを持っているのだろう。

見かけたら報告と言われているが、ここまで堂々とされると逆に困る。

 

 

「失礼ですがその・・・こんなところでゆっくりされていても良いのですか?」

 

「ふっふっふ・・・・・人も人形も意外と足元は見えないものにゃ。 貼り紙を配った店なら見回りも来ないにゃ!」

 

 

ごもっともだ。どうやらこの人形、そこそこ頭が回るようである。グリフィンが手を焼くのもわからなくもない。

とりあえず客であることには変わらないので、言われた通りコーヒーとサンドウィッチを用意した。

 

 

「うぅ〜ん、美味いにゃ! やっぱり運動した後の食事は別格にゃ!」

 

「運動って・・・・・しかしよく捕まりませんでしたね、グリフィンもそれなりの部隊を投入しているはずですが」

 

「んぐんぐ・・・ゴクンッ、そりゃそうにゃ。 連中は確かに実力も経験もあるのは見てわかるけど、それはあくまで戦闘での話にゃ」

 

 

追いかけっこなら話は別、と語る彼女に代理人も合点がいく。確かに戦術人形は人間と比べて高い身体能力と戦闘力を持っている。その中でも単体での戦力では下の方に入るSMGタイプのIDWが他の人形と戦闘になれば、ほぼ間違いなく負けるだろう。

だが、ただ走り回ったり壁をよじ登ったりとなると、実は人形間の個体差はそう大きいものではない。むしろこの場合、体躯が小柄かどうかが大きな要因となる。

 

 

「狭い路地に挟まって出られなくなったWAは見ものだったにゃ」

 

「あぁ、それであんなに怒っていたんですね」

 

「修練が足りんにゃ」

 

 

WAが聞けば助走をつけて殴るであろうことをしれっと言い放つ。が、本人は悪びれた様子もなくコーヒーを飲み干すと、代金をテーブルに置いて席を立った。

 

 

「さて、お腹も満たされたことだしそろそろ出頭するかにゃ」

 

「あら、自分から捕まりに行くのですか?」

 

「まぁこれ以上鬼ごっこを続けるのも飽きたからにゃ。 それに・・・」

 

 

そう言いつつIDWは代理人の方に振り返ると、悪戯っぽく笑って言った。

 

 

「グリフィンが欲しい情報は、私は何も持ってないからにゃ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で、結局分からずじまいと」

 

「はい・・・・・IDWさんはその当時、国外にいたそうで」

 

「国のトップが変わったって分かった途端に放浪を始めたそうよ」

 

 

昨日の騒動から一夜明け、喫茶 鉄血にやってきたAR小隊の面々は疲れ切った顔でそう言った。

特にコケにされた(と思い込んでいる)WAは全てが無駄であったことを知るとその場に崩れ落ち、現在は自室に引きこもっているらしい。

 

 

「まぁ、悪い人ではないようですけど」

 

「そうだね」

 

「まぁ気を落とす事はないにゃ。 人生失敗はつきものにゃ」

 

「「「「「「・・・・・・・・ん?」」」」」」

 

 

突然聞き馴染みのある声が聞こえ、一同はバッと顔を向ける。

そこにいたのは優雅に足を組み、これ以上にないくらいリラックスしたIDWだった。しかも、なぜかグリフィンの社章をつけている。

 

 

「おっと、挨拶がまだだったにゃ・・・・・・・今日からグリフィンでお世話になるにゃ・・・スゥ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IDWだにゃあああああああ!!!!!」

 

『うるさいっ!!!』

 

「・・・・・ふふっ」

 

 

end




うちのIDWの強キャラ感よ・・・
ドルフロのいいところって、『ランク=強さ』じゃないところですよね。

それでは、今回のキャラ紹介


IDW
元私兵の放浪者。知りもしない情報のために追いかけ回されているが、どこかそれを楽しんでいる節がある。
SMGとしての高い機動力とそこそこの火力、小柄な体躯で場所を選ばないオールラウンダー。

AR小隊
全員揃っての登場は意外と久しぶり。
SMG1にAR4、うち一人はARバフ持ちで、もう一人は防弾チョッキの前衛というバランスの良い部隊。パーツの互換性も問題無い・・・はず。

代理人
手配中の者であっても迎え入れるのは油断ではなく、何かあっても対処できる実力があるから。
ぶっちゃけハイエンド数体で構成されたこの店で騒ぎを起こす命知らずはこの地区にはいない。


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第百五十一話:口説き口説かれ

確率アップの際に大量の資材を投入し、ついにお迎えできましたPAー15ちゃん!
でも意外と失う資材が少なかったのはHGレシピだからですよね、AK-12の時はエグかったのに・・・・・あと副産物で大量のコアも手に入りました笑

ところで、君の服装ってどっちかっていうと対◯忍だよね?


「やぁゲッコー・・・なかなか会いに来てくれないから会いに来たわよ」

 

「ゲッコー、またですか?」

 

「待て待て代理人、今回は知らないぞ!?」

 

「えっ・・・私との関係は遊びだったの・・・・?」

 

「・・・・・ゲッコー、覚悟はよろしいですか?」

 

「ちょっ、待っ、誤解だぁああああああ!!!!」

 

 

その日、喫茶 鉄血を中心にそんな叫び声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端は当然ゲッコー・・・ただし、ゲッコーが口説いたわけではないという意味では本当に身に覚えがないことなのだ。

ゲッコーが彼女、戦術人形『PAー15』と出会ったのは数日前。たまたま訪れた雑貨屋で、たまたま同じアクセサリーに手を伸ばしてぶつかったのがきっかけだ。まるでラブコメのワンシーンのようだが、互いに戦術人形とわかるや否や恋愛とは程遠い話題に発展する。

 

ただ話をした、本当にそれだけなのだが・・・

 

 

「で、なんでそんな嘘をついたんですか?」

 

「まったくだ。 あまり人を揶揄うものじゃないぞ」

 

「ふふっ、単純に気を引きたかっただけよ。 それに惚れてるのは事実だし」

 

「あら、そうですか」

 

 

当人は一目惚れだというが、ドッキリまがいなことをされたゲッコーからすれば堪ったものではない。まぁ普段の行いがアレなので代理人に誤解されてしまったわけだが。

 

 

「まぁ一目惚れってやつよ。 それで、お返事は頂けるかしら?」

 

「いや、そんな急に言われてもだな・・・・・」

 

 

こういう話題では珍しくたじろぐゲッコー。考えてみればこれまでの場合はあくまで彼女が口説く側であり、ペースを握っていたのも彼女である。それが一転して口説かれる側になると弱いのかもしれない。

そんな彼女の反応をわかっていたかのように、PAー15はニヤッと笑いながら言った。

 

 

「じゃあ返事はまだいいわ。 そのかわり・・・・・今度の休日、私とでかけましょ?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

本命はこっちだったか、ポカンとするゲッコーをよそに代理人はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから数日後。

待ち合わせ場所をなぜか喫茶 鉄血の前に決められたゲッコーは、妙に落ち着かない気分で待っていた。無論、後ろにはマヌスクリプトをはじめとした野次馬や保護者がいるせいでもあるが、受け身側になることなどほとんど考えたことがなかったからだ。

もちろん、自身の容姿が優れていることも自覚しているし、服のセンスだって問題無い。この街にはそこそこ詳しく、デートコースやおすすめの店などその場でパッと思いつくことだってできる。

 

それでもなお、相手の出方を待つというのは慣れないものだった。

 

 

「お待たせ」

 

「うわっ!?」

 

「あはは! ビックリしすぎよ」

 

「ならいきなり出てくるな・・・・・というかその格好で回るつもりか?」

 

 

呼吸を整えつつ、ゲッコーが指摘したのはPAー15の服装だ。彼女は特段おしゃれをするわけでもなく、製造当初のもの・・・つまり、レオタード一歩手前のアレである。一応上は羽織るものがあるし、下もミニスカートにソックスは着用しているのだが、中途半端にしか隠せないせいで逆に肌が目立つ。

正直、めちゃくちゃ目を引くと思う。

 

 

「私、まだこっちに来て日が浅いから私服なんて持ってないのよ」

 

「嘘つけ、初めて会ってからすでに一週間は経っているぞ」

 

 

ジト目でそう言われてもどこ吹く風、それどころかいきなり腕に絡みつくように体を寄せてきた。

 

 

「細かい事はいいじゃない、それじゃあいきましょ」

 

「むぅ・・・・・仕方ない。 それじゃあ代理人、行ってくる」

 

「いってらっしゃい。 遅くなりそうなら連絡をくださいね」

 

「ありがとうマスターさん、きっと朝帰りになるわ」

 

「ならないぞ」

 

 

PAー15の冗談とも本気ともつかない言葉をきっちり否定し、二人のデート(?)は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 最初はどこに行くの?」

 

「道を歩きながら面白そうな店に寄る・・・・と思っていたが予定変更だ、まず服を買う」

 

「あら、早速プレゼント?」

 

「そんな格好で隣を歩かれるのは要らん誤解を招きそうだ」

 

 

ちなみにその代金はゲッコーが出す。別にPAー15持ちでも良かったのだろうが、そこはゲッコーのプライドというか意地だ。

それはもうプレゼントよね?と嬉しそうに言うPAー15を極力無視し、二人は店へと入っていった。

 

 

「さてと、お前に合いそうなのは・・・・・」

 

「へぇ、てっきり任せっきりにするのかと思ったけど」

 

「性格はどうであれ、見目麗しい女性にテキトーな服を着せるわけにはいかないからだ」

 

 

嫌ってはいないが好きでもない相手にもそう言えるあたりがゲッコーのゲッコーたる所以であるようだ。ブツブツと文句を言いながらも真剣に服を選び、一通り揃ったところでPAー15に渡して着替えさせる。

 

 

「ふふ・・・どう? 似合う?」

 

「うん、いいんじゃないか」

 

 

褒められて嬉しい反面、少々落ち着かない様子のPAー15。普段の薄手のものとは正反対で、下はパンツスタイルに上はタートルネック、その上から少し薄めの羽織りものと、春先にはちょうどいい感じに仕上がっている。

嬉しいことには嬉しいのだが、PAー15もこのデートの主導権を握っておきたいのでやや悔しそうにする。会計を済ませると、今度はPAー15がゲッコーの手を引いていった。

 

 

「次はここよ、一度行ってみたかったの」

 

「ほぉ、ここか」

 

「ゲッコーは来たことがあるの?」

 

「できてすぐに何度か、な。 おすすめはフルーツパフェだ」

 

 

やってきたのは街の真ん中あたりに最近できたフルーツ専門店。果物の販売がメインだが、そこで食べられるメニューもあり大変人気だ。

これが休日ならば長蛇の列だが、今日は平日でしかも昼前。比較的あっさりと入ることができ、御目当てのパフェを堪能する。

 

 

「んん〜〜〜! 美味しい!」

 

「だろ?」

 

「来てよかったわ・・・・・あ、そうだ。 はい、アーン」

 

「は? いや、同じやつだろ?」

 

 

互いに別のものにすればよかったものを、それぞれが好きなものを注文したせいで被ってしまった。まぁこれで『アーン』は無くなるかと思っていたゲッコーだが、PAー15にいてみれば『それはそれ、これはこれ』らしい。

渋々差し出されたそれを食べ、お返しに一口やる。

 

 

「う〜ん、やっぱり美味しい!」

 

「だから同じ味だろう」

 

「違うわよ、なんかこう・・・うまく言えないけど違うの!」

 

 

わからなくもない・・・と思いつつそれを胸の内にしまうゲッコー。しかし改めて考えてみると、最初のインパクトこそ大きかったが美少女と呼んで差し支えないPAー15と二人っきりでこうしていられるのはわりと役得なのではないだろうか。

これがあっちからのアプローチでなければ尚よかったのだが・・・・・と思ったゲッコーは、ならば最終的に主導権を握ればいいのだと考え、呑気に食べるPAー15に微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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「ふふふ、今日は楽しかったわ」

 

「あぁ、思ったよりも楽しめたよ」

 

 

あれから街中を歩き回り、デートを楽しんだ二人は喫茶 鉄血への帰路についていた。終始PAー15が連れ回す形でデートは進んでいたのだが、ゲッコーは悟られぬようにあえて乗っかっていた。

全ては、最後の最後で倍返しにするためだ。

 

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたの?」

 

「一つ寄りたいところがあるんだが・・・・・この後時間は大丈夫か?」

 

「え? えぇ」

 

 

不思議そうにくびをかし首を傾げるPAー15の手を引き、大通りから路地に入っていく。こじんまりとした店が並ぶ路地を抜け、さらに人が少なくなった場所まで出ると、ゲッコーはある建物の前で止まった。

 

 

「さて、着いたぞ」

 

「着いたぞって・・・・・・ひぇ!?」

 

 

思わず素っ頓狂な声が出てしまうPAー15。それもそのはず、彼女たちの目の前に立つ建物は、一見すれば地味な建物である・・・・・『休憩』と書かれた看板を除けば。

 

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと待って!?」

 

「お前も言ってただろ? 朝帰りになるって」

 

「い、言ったけど・・・・・で、でもまだ早いっていうか」

 

「聞けばお前は、スリルな経験をしてみたいらしいじゃないか・・・・・今日という日の最後に、とびきりの時間を過ごさないか?」

 

 

肩を抱き、さりげなく体を寄せてくるゲッコー。そして彼女の感じた通り、攻められると弱いPAー15はなす術なく固まっている。要するに同族というやつだ。

そのままじっと見つめ合うこと数十秒、突然ゲッコーがニヤッと笑うとPAー15を解放した。

 

 

「ふぇ?」

 

「ははっ! ちょっと驚かせすぎたか? これに懲りたら、あまり人をからかうんじゃないぞ」

 

 

じゃあ帰るか、と言うとゲッコーはもと来た道を戻り始める。しばらく唖然としていたPAー15だが、ハッと我に帰ると顔を真っ赤にして蹲ってしまった。

 

 

「や、やられたぁ〜・・・・」

 

「何してるんだ? 置いていくぞ」

 

「い、今行くわよ!」

 

 

悔しさと恥ずかしさ、それと微妙に混じった嬉しさに顔をにやけさせながら、PAー15は後を追った。

いつか借りは返す、そう心に誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ゲッコー様! 昨日の女は誰なんですか!?」

 

「も、もしかして彼女ですか!?」

 

「教えてください!」

 

「ま、待て待て、まずは落ち着いて話を」

 

『落ち着いてます!!!』

 

 

翌日、盛大に勘違いされたゲッコーが彼女を好いている女性に囲まれてしまい、結局解放されたのは閉店してからだったとさ。

 

 

 

end




これまでカップル不成立だった喫茶 鉄血組に新しい風を!・・・ということで喫茶 鉄血という名のほぼゲッコー回でした。
そして先に言っておきます、ゲッコーは修羅場ルート確定です・・・・・誰が増えるとか何人増えるとかは決めてないけど。

てなわけで今回のキャラ紹介!


PAー15
なんちゅう格好してるんだ!(歓喜)
ちなみに大陸版で実装されているチャイナ服(?)はさらに際どい。
ゲッコーに一目惚れした一人ではあるが、誰よりも行動が早かった。リードしている間は余裕があるがそれを失うとされるがままである。

ゲッコー
人間関係トラブルメーカー。最近は節操を持っていたが、一目惚れまではどうしようも無い。
PAー15と同じくリードする側だが、ちょっとのきっかけで主導権を取り戻せるので大体なんとかなる。

代理人
ゲッコーの口説き癖に文句があるわけでは無い、客に手を出すことに文句があるのだ。
ということでそれ以外であれば基本的に任せている。そしてやばくなったら収拾をつけに行く保護者。
身内の恋愛は応援したい。


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第百五十二話:その銃声、雷鳴の如し

絵師さんの設定が非常に重いことで知られるThunderちゃん・・・・なのですが、この世界では特にそう言った事情もないので純粋な戦術人形です。
原作との違いは主に
・身体中の傷がない
・言葉数や表情の変化が少ないのは元から
・元民生用ではなく純粋な戦術人形
という点をご理解いただき、ダメならブラウザバックを推奨します。


・・・・・・まぁ原作無視なんて今更ですけどねぇ


IoP社は、戦術人形という分野で現在最もシェアのある企業である。以前であれば『安価で整備性も良い信頼性の高い鉄血製』か『やや高価だが性能が高く優秀なIoP製』と言われていたのだが、とある事情によって鉄血工造のシェアが低下、今では戦術人形に限ればほぼ独占といえる状態である。

もちろん民生人形であれば他の企業もいるし、最近は鉄血工造も信頼を取り戻しつつあってシェアも回復傾向にあるのだが、それはまた別のお話。

 

そんなIoPだが、当然製品の完成に至るまでには多大な試行錯誤と失敗がある。銃自体はかつての製造データを元にすればいいが、それを扱う人形となるとほぼ一からとなる。

そしてこの人形を作る上で重要なことが三つ。1、『銃の性能をフルで発揮できること』。2、『人間社会に適応できるAIを積むこと』。そして3、『可愛いこと』である。

 

この条件を満たすためにIoP職員は寝食を忘れて作業に没頭するのだが、それゆえ暴走することも、よくあることなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日、喫茶 鉄血は妙に静かで、妙にざわついていた。いつもなら客同士の会話が弾んでいるはずなのだが、今日は弾んでいるというよりもヒソヒソと小声で話しているという感じだ。

そしてそんな客の視線の先には、見慣れない一人の少女がチビチビとホットミルクを飲みながら座っていた。

水色の髪を揺らし、白のシャツと黒いスカート、ジャケットとコントラストが映え、物静かな雰囲気と時折見せるあどけない微笑が美しい。

・・・・・が、それ以上に目を引くのが彼女の腰にぶら下がっている()()だった。

 

 

「お待たせしました、ご注文のオムライスです」

 

「ん・・・ありがとうございます」

 

 

コップを置き、心なしか目を輝かせながらオムライスを頬張る。見た目相応の少女らしい姿だが、やはり腰の()()の存在感がありすぎるのだ。

そして代理人もまた、その銃に気を引かれている一人だった。

 

 

「一つ伺ってもよろしいですか?」

 

「ングング・・・はい、いいですよ」

 

「見たところ、あなたは戦術人形のようですが・・・・・そちらの銃は? 私も初めて見るものでして」

 

 

付け加えると、代理人とて世界中の銃を実際に見たことなどない。知っているというのは、資料としてインプットされているということである。これは鉄血工造が、ライバル企業であるIoPの人形のデータを得ようとした過程で集めたもので、特に高位のハイエンドであればその全てを識っているといえる。

そんな代理人が初めて見る銃、それをこの少女は持っているのだ。

 

 

「これですか? これは『Thunder.50』、私の愛銃です」

 

 

そう言って少女・・・・・Thunderがそれをテーブルの上に乗せる。ゴトッという音とともにその重厚感と異形に、客も代理人も圧倒された。

単純に言えば、トリガーのついた筒。それがThunder.50である。大口径の単発式で、使用するのは対物ライフルクラスの銃弾、その重量は5キロを超え、とてもではないが人が撃つことを想定されていない。

 

2004年に米国の銃器類見本市でお披露目されただけのデモ銃なので代理人も知らなくて当然だが、IoPは何を考えてこれを採用したのだろうか?

 

 

「さぁ、それは私にもわかりません。 ですが、そのせいでどうやら私はワンオフ機のようです」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 

彼女には申し訳ないが、こんな化け物銃を量産されては堪ったものではない。対物ライフルと違い、このサイズなら屋内や閉所でも使用可能だからだ・・・・・人や人形に撃つにはあまりにも過剰火力だが。

 

 

「でも、できれば使われない方がいいと思います」

 

「あら、珍しいことを言いますね」

 

「戦術人形として作られて言うのもなんですが、戦いは好きではありませんから」

 

 

それだけ言うと、もう話は終わりだとばかりにオムライスに意識を戻すThunder。なるほど、そういうことならこの地区にやってきたのもわかる気がすると代理人は思う。この地区は良くも悪くも変わった人形が多くやってくることで有名で、それを束ねる指揮官もまた有能なのだ。

それに、これは代理人の考えではあるのだが・・・・・

 

 

(この店を気に入ってくれる人に、悪い人はいないでしょうから)

 

「? どうかしましたか?」

 

「いえ、何も。 よろしければおかわりはいかがですか?」

 

「あ、ではいただきます」

 

 

それでは、と代理人はコップを受け取り、温かいミルクを注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーいいっ! いいよこの銃!!!」

 

「あの、マスターさん・・・・・」

 

「代理人でいいですよThunderさん。 それと・・・・・今日もサボりですかアーキテクト?」

 

「失礼な、今日はちゃんとした休日だよ!」

 

 

その数十分後、ゆったりと寛いでいたThunderのもとに一人の人形が訪れたことで場の空気は一変する。正確にはたまたま店を訪れ、Thunderの持つ銃に惹かれたアーキテクトのせいである。

本人に許可をとってはいるが、愛銃を舐めるように見続けられるとThunderも正直困る。そして代理人に助けを求めるが、サボりでもなんでもない以上は代理人でも止めづらい。

 

 

「大口径の小銃っていう矛盾したコンセプト! 単発装填! そして超火力のロマンッ!!! ・・・・・君、よかったらうち(鉄血)に来ない!?」

 

「ひぇっ!? い、いえ、それはちょっと・・・・・」

 

「待遇は約束するよ! なんだったら私の権限全部使っても・・・」

 

「そこまでにしなさいアーキテクト、お客様に迷惑をかけるようならこちらにも考えがありますよ」

 

 

言外に「出禁」という文字をチラつかせて黙らせる。それでもなお気になるようで、今もチラチラとThunderを・・・・・というよりもその愛銃を見ている。

 

 

「ちぇ〜・・・じゃあせめて撃ってるとこくらいは見たいなぁ」

 

「その機会があればですよ。 そこまで気になるのなら、グリフィンの指揮官に頼んで射撃訓練を見せて貰えばよろしいのでは?」

 

「おぉ! その手があったね!」

 

 

ガッツポーズを決めるアーキテクトに、代理人もThunderも呆れた視線を向ける。正直、IoPとズブズブなグリフィンの施設に鉄血工造の関係者が入れるとは思えないのだがそれはあえて言わないでやった。

機嫌が良くなったアーキテクトは、代金だけ置いていってそのまま帰ってしまった・・・・・何しに来たのだろうか?

 

 

「はぁ・・・・・すみませんね、彼女はああいうタイプなので」

 

「いえ、少しびっくりしましたけど」

 

「もし彼女が何か迷惑をかけたら、迷わずこちらに連絡をください。 これがこの店と私の番号です」

 

 

そう言って店と個人宛の電話番号をメモした紙を渡す。それと、と付け加えると

 

 

「個人的な相談事でも構いません。 その時は気軽に声をかけてくださいね」

 

「・・・・・はい、ありがとうございます」

 

 

ニコッと笑ってThunderはそう返すと、代金を置いて店を出る・・・・・が、肝心の愛銃を置いていったことに気付いて戻ってきた。

案外、ドジっ娘なのかもしれない。

 

 

「た、たまたまです。 別にドジなんかじゃありません」

 

「ふふ、わかってますよ」

 

 

顔を真っ赤にしてそういう彼女に、代理人は優しくそう言って送り出すのだった。

ちなみにその後、アーキテクトの見学の申し入れにまさかのOKが出てしまい、そのことでThunderが相談に来るのだが、それはまた別のお話。

 

 

end




ハンドガン+狙撃スキル+必中ではない=ロマン!
どこぞの社長砲に近いものを感じますね。

では今回のキャラ紹介!


Thunder
ぱっと見SFっぽい銃を持ち少女。架空の銃でもなんでもなく実銃である。
正直使いどころがない気がするが、可愛いので問題ない(ここ重要)

代理人
この店に来てくれる人に悪い人はいない・・・という一見お花畑みたいな考えを持つが、それはこんな人形の店に足を運んでくれる人はいい人だという感謝の意を込めたもの。
アーキテクトの出禁まで、あまり猶予はない。

アーキテクト
今回はサボりじゃない!
彼女をフロム脳溢れるAC世界に飛ばすと愉快なことになるに違いない・・・・やらんけど。
こんなんでもやる時は真面目にやる。





そういえば他作者様のところで大コラボ会やってますね。自分も参加できたらいいけど、いかんせんただの飲食店だからなぁ笑


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番外編38

新イベントきたー!
そしてキャリコ×Thunderだと!?許せる!

そんなことは置いといて、今回のラインナップ
・代理人と折り紙
・WAちゃんの災難
・恋する乙女たち
・アーキテクト、見学中!
の四本です!


番外38-1:代理人と折り紙

 

 

(ここをこうして・・・・・こっちはこう・・・・)

 

「Oちゃ〜ん、まだ起きてるの・・・って起きてた」

 

「ん? Dですか」

 

「へぇ、折り紙かぁ」

 

 

そろそろ日も変わるかという頃、代理人の自室から溢れる明かりに気づいたDが入ってきた。そこには机に向かって何やら真剣な表情で作業する代理人の姿があり、その机の上には色とりどりの折り紙が散らばっている。

その傍らには、昼間にもらった少し変わった折り紙が並んでいる。

 

 

「それ、あの娘たちにもらったやつだよね?」

 

「えぇ、随分と手際よく折っていましたが、やってみると案外難しくて」

 

「それで没頭してたってわけかぁ。 でも上手く折れてるんじゃない?」

 

「ようやく、といったところですよ」

 

 

苦笑する代理人は追っていたそれを置くと、机の上に置いてある箱を手に取って開ける。中には彼女たちの部隊章を真似たであろう折り紙たちが入っていたが、どれもクシャクシャだったり崩れてたりと、一眼で失敗だとわかる出来だった。

 

 

「何度もやり直しているうちに、時間を忘れてしまったようです」

 

「ふふふ、何だかわかる気がする。 でも今日はも遅いから、続きは明日だよ」

 

「そうですね。 では、これで最後にしましょうか」

 

 

それからしばらくして、あかりの消えた部屋の机の上には、もらったものと瓜二つの折り紙が並んでいたのだった。

 

 

end

 

 

 

番外38-2:WAちゃんの災難

 

 

WA2000、彼女は非常に優秀なライフル人形で知られている。冷静に物事を分析でき、狙撃だけでなく中距離での戦闘も可能と場面を選ばない万能さがある。

そんな彼女は今、怒りで顔を真っ赤にしながらS09地区の街を疾走していた。

 

 

「待ちなさいこのバカ猫っ!!!」

 

「にゃはは! 待てと言われて待つバカはいないにゃ!」

 

 

そんな彼女の目の前で、まるで猫のように壁をよじ登り狭い路地を爆走する人形。重要参考人として絶賛追われ身のIDWである。もともと身軽なSMG、さらにいえば見た目通り猫のような敏捷性を見せる彼女に一人また一人と脱落していき、気がつけばWAただ一人で追いかけている状況だった。

 

 

「くっ!」

 

「おぉっと、まるで般若みたいな顔になってるにゃ。 あらよっと!」

 

「このぉ・・・・大人しく捕まrうわっ!?・・・・ヘブッ‼︎」

 

 

木箱を軽々と飛び越えるIDWを追ってWAも続き、しかしわずかに足先を引っ掛けてしまい顔面から落下する。鼻を押さえながら顔を上げると、なぜか逃げずにその場で笑っているIDWの姿。

・・・・・こいつ、舐めている。

 

 

「今のは痛そうにゃ〜」

 

 

ブチッ

何かが切れる音を自分で聞きながら、WAは立ち上がり走り始める。もう捕まえるだけでは気が済まない、とりあえずアイアンクローと梅干しのコンボくらいは食らわせてやる。

そんな私怨一色になったWAに、IDWはニヤリと笑うと再び路地を走る。いくつもの角を曲がり、より狭い路地を走り抜け・・・・・袋小路に入り込んだ。

 

 

「こ、ここまでよ・・・・さぁ覚悟なさい!」

 

「うぅん、ここまでか・・・・・なんてにゃ!」

 

「んな!? 諦めの悪い猫ね!」

 

 

一瞬だけ諦めたような表情になったIDWは、あろうことかその傍にあるさらに狭い路地・・・・・というかただの家と家の隙間に入り込んだ。細身のIDWでさえ体を横にして入らなければならないが、その先ももちろん行き止まり。

勝利を確信したWAは、待てばいいの自身もそれに続いた。

 

 

「にゃにゃ!? 追ってきたのにゃ!?」

 

「当然、よ! あんたをこの手で捕まえて・・・そして一発殴る!」

 

「やばいにゃやばいにゃ、捕まったら一巻の終わりにゃ・・・・・捕まったらだけど」

 

 

そう言ってニヤリと表情を歪める。

ところでWA2000という人形は、細身な体にしては立派なものを持っている。どんな服を着ようとも隠しきれないその起伏は大変魅力的ではあるが、時にはむしろ邪魔になることもあるのだ。

 

 

(くっ・・・・む、胸が・・・・)

 

 

IDWでさえ横這いで入るような路地、そんなところに強引に入り込んだせいで、WAは途中でつっかえてしまった。後一歩で届くというのに、進めないのだ。

 

 

「おやおや、どうしたのかにゃ〜?」

 

「くぅ・・・ぬぅ〜〜〜っ!!!」

 

「おぉ、執念って怖いにゃ・・・・・というわけで撤退!」

 

「は?」

 

 

突然IDWは飛び上がると、なんと狭い路地に両手両足をついて登り始めた。そのままあれよあれよと屋根まで行くと、呆然とするWAを置いて走り去る。

してやられた、と悔しがるWAはとりあえずここから出るべく元来た道に戻ろうとして・・・・・動けなかった。

 

 

「え? ちょっ・・・嘘でしょ!?」

 

 

ぐいぐいと体を捻ってみるが、抜ける気配は一向にない。救援を呼べば済む話だが、中途半端にプライドの高いWAにそんな選択肢などない。

一か八か、勢いで抜け出そうと力をいれ、グイッと出口へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビリッ

「・・・・・へ?」

 

 

嫌な音がした。具体的には自分の胸元から。

恐る恐るWAは視線を下げると・・・・・・

 

 

 

 

 

この後、泣く泣く救援を呼んで替えの服を持ってきてもらうと、怒りのあまり銃のセーフティまで外してIDWを探すのだった。

 

 

end

 

 

 

番外38-3:恋する乙女たち

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

「ご機嫌ですね、PAー15さん」

 

「んふふ〜、まぁね」

 

 

ゲッコーとの熱いデートの翌日、S09地区司令部のカフェでPAー15は終始にやけっぱなしだった。

彼女は自分でもわかっているほどの、いわゆる小悪魔系である。そんな彼女は主導権を握ろうとするも失敗し、最後は見事に手玉にとられてしまったのが悔しかったり嬉しかったり・・・・・そんなごちゃ混ぜの感情によって頭の中はゲッコーでいっぱいなのだ。

 

 

(次に会ったときはこっちから誘ってみようかな? そもそも、あれもハッタリだったのかもしれないし・・・・・うん、きっとそうね!)

 

 

基本的に自分に都合の良い方向へ考えがちなPAー15は、まだ決まってもいない次のこともその先のことも勝手に決めつけて優越感に浸る。途中で計画が狂うことなど微塵も考えておらず、そうなった時が見ものである。

と、そんな感じで自世界にトリップしているところに、緑髪を揺らした女性が近づいてきた。

 

 

「あ、あら・・・Mk48さん」

 

「うふふ・・・コーヒーを一杯もらえるかしら?」

 

 

現れたMk48に警戒しつつもコーヒーを淹れにいくスプリングフィールド。とある事件で彼女に苦手意識がついてしまったのだが、未だに怖いらしい。

そんなMk48が来た理由、それはそこで相変わらずのほほんと表情を緩ませるPAー15だった。

 

 

「ちょっといいかしら、泥棒猫」

 

「ん? おや、売れ残りが何か用?」

 

 

開幕からぶっ放す二人。それもそのはず、昨日の経緯を周囲に知られているPAー15は、当然その日のうちにMk48に絡まれた。

その日はもう遅いということでうやむやになったが、日が変わって時間に余裕ができると早速ぶつかったのだ。

 

 

「小娘が・・・・後から出てきて偉そうに」

 

「ふふん、会うだけで満足しちゃうような純情BBAがいつまでもいつまでも足踏みしてるだけじゃないの?」

 

「うふ、うふふふふふ・・・・・・・」

 

 

互いに表情は笑顔だが目が笑っておらず、Mk48に至っては額に青筋を浮かべながら両手をボキボキと鳴らしている。その姿にトラウマを思い出したスプリングフィールドは早々と奥へと避難した。

 

 

「じゃあこういうのはどう? 今度非番の時に、二人でデートに誘うの」

 

「・・・・・・は?」

 

「最後にどっちかを選んでもらう。 わかりやすくていいんじゃない?」

 

「ふん・・・・・いいわ、乗ってあげる」

 

 

両者とも火花を散らしながら睨み合う。

こうしてゲッコーのあずかり知らぬところで、戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

end

 

 

 

番外38-4:アーキテクト、見学中!

 

 

「・・・・・・はい、確認しました。 ではアーキテクトさん、()()()()()変な気は起こさないようにお願いしますね」

 

「はいはーい!」

 

 

はぁ、っと疲れたため息を吐く守衛の人形の横を、まるで浮いているような軽やかな足取りで通り過ぎるアーキテクト。

今日は待ちに待った、グリフィンの施設見学である。

 

 

「やぁやぁ指揮官! 今日は招いてくれてありがとね!」

 

「うむ、見ても良い場所は限られるが、存分に楽しんでくれて構わない」

 

 

一応招かれた側ではあるので指揮官に一言挨拶をし、そのまま猛ダッシュで訓練室に直行する。事前に聞いていた感じだと、そろそろ彼女の射撃訓練の時間だ。

訓練室へと入れてもらい、中を見渡す。銃種ごとに細かく距離が違う射撃訓練場では、人形たちが黙々と銃を構え引き金を引いている。その中にお目当ての彼女はいなかったが、少し待つと準備室から現れた。

 

 

「あ、Thunderちゃん!」

 

「え? あ、アーキテクトさん?」

 

 

一瞬ビクッと固まり、なぜここに?と疑問符を浮かべるThunder。だがすぐに思いだすと、あぁ本当に来たんだと嘆息した。

 

 

「来たんですね、アーキテクトさん」

 

「もちろんだよ! じゃ、早速いってみよー!」

 

 

テンション高いなぁとか、なんであなたが仕切るんですかとか、言い始めればきりがないと思ったので諦めて的の前に立つ。すると立っていた的が下げられ、新しい的が降りてくる・・・・・的というよりも鉄板だが。

 

 

「じゃあ、いきます」

 

 

銃を構え、スゥッと息を吐いたThunderが引き金を引いた。

瞬間、ハンドガンとは思えないほどの爆音が鳴り響き、直後に的が爆散した。

 

 

「おぉ・・・おぉおおお!!!!」

 

「・・・・・指揮官、また的を壊してしまいました

 

『命中箇所は?』

 

「やや左上にそれました」

 

『わかった。 あとでまたレポートを提出してくれ』

 

「了解です・・・・・アーキテクトさん、終わりましたよ」

 

 

これでThunderの射撃訓練は終了である。基本的に一発で的が壊れ、ついでにその周りも破壊してしまうため連続して訓練を行うことができないのだ。そのため近々徹甲ライフル部隊用の射撃場を使えるようにすると決まったらしい。

そんなThunderが銃をホルスターにしまいながら言うと、目をキラキラさせたアーキテクトが鼻息を荒げながら興奮気味に言った。

 

 

「ありがとうThunderちゃん! おかげで新しいアイデアが浮かんだよ!」

 

「え、あ、どうも・・・・」

 

「こうしちゃいられない、早速戻って取りかからないと・・・・よぉし今夜は徹夜だ!!!」

 

 

それだけ言うと、アーキテクトは慌ただしく司令部を出て行った。これは余計なものを見せてしまったのかもしれないと今更ながら後悔するThunderだったが、諦めて片付けに戻った。

 

後日、『低火力機の火力アップ計画』と称しプラウラーやらダイナゲートを改造していくアーキテクトであったが、もちろんゲーガーらに止められた。

 

 

end




そういえば大変今更なんですが、本作に赤色の評価がついておりました。読んでいただけて感想を書いていただけるだけでなく評価までしていただいて・・・・・ぼかぁ幸せものだぁ!


さて、元気をもらったところで各話の解説!

番外38-1
コラボ回の後日談。
折り紙って、一度始めると止まらなくなるよね。しかも解体すればまた折れるという大変エコな遊び道具!

番外38-2
IDW回でちょこっとだけ出てきたWAちゃんを掘り下げる話。
やっぱりポンコツ可愛い。

番外38-3
修羅場不可避。
Sっ気のあるお姉さんか小悪魔系少女・・・・・あなたの好みは?

番外38-4
アーキテクトの創作意欲に火をつけてしまう話。
でも気持ちはわかる。使い所のなさそうなロマン武器ほど使いたくなるし、可能ならそれでクリアしてみる。
ACfAなら社長砲+とっつき、異論は認める。


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第百五十三話:“D” has comeback

探索であっさりと撃退されるデストロイヤーちゃんはポンコツ可愛い


()()()()、代理人」

 

「あら、おかえりなさいデストロイヤー」

 

「久しぶり〜!」

 

 

とある日のこと、喫茶 鉄血にふらっと現れたのは別の地区で働いているはずのデストロイヤーだった。大きなリュックを背負いキャリーバッグを引いて入ると、Dが出迎えて荷物を受け取る。

 

 

「珍しいですね、こんな時期に来るなんて」

 

「そうそう、何かあったの?」

 

 

代理人もDも不思議そうに首をかしげる。別にデストロイヤーが滅多に帰ってこないというわけではないが、基本的に帰ってくるのは年末年始や長期休暇、もしくは何かの記念日くらいなので、何もない時に来るのが少し珍しいのだ。

それを問われると、デストロイヤーは少しだけ苦笑いを浮かべてこう言った。

 

 

「いや、そのぉ・・・・・・実は職がなくなっちゃって・・・」

 

「「・・・・・・・・は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず立ち話もアレなので、二階の個室へと案内する。デストロイヤーに飲み物を差し出し、落ち着いたところで話してもらう・・・・・もっとも、動揺しているのは代理人とDの方だったが。

 

 

「それで、どういうことなのですか?」

 

「どういうって・・・さっき言った通りなんだけど」

 

「それがびっくりしてるから聞いてるんだよ!」

 

「えっと、じゃあ順番に話すとね・・・」

 

 

職を失ったという割のは随分と冷静なデストロイヤーは、ことの顛末を話し始める。

発端は昨年の暮れのこと。デストロイヤーのいた地区は最近急速に成長を遂げており、その煽りを受けて企業の進出と倒産、統廃合が相次いでいた。デストロイヤーを雇っていた会社も、それに飲まれて合併されることになったのだ。といっても、この時はただ合併するだけでやることはそのままだと思っていたという。

ところが年が明け、しばらくした頃。どうもまるっきり別の仕事になりそうな感じがし始めると、職場の同僚も上司も次々と去ることを決めたのだ。

 

 

「というわけで、まるっきり変わるなら私も別のところで仕事しようかなって」

 

「なにが『というわけで』ですか」

 

「そういうことはまず相談して欲しかったよデストロイヤーちゃん!」

 

「いひゃいいひゃい!」

 

 

けろっとそう話したデストロイヤーに代理人は呆れ、Dは割と本気で怒りながらデストロイヤーの両頬を捻りあげる。

 

 

「まったく、あなたとスケアクロウとハンターだけはまともだと思っていたのに」

 

「あれ? 処刑人は?」

 

「傭兵、とだけ言って何をしてるかは話してくれませんから。 気がつけば娘がいましたし」

 

「アルケミストちゃんとドリーマーちゃんに至っては神出鬼没だしね」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

 

そう言われると、職と居場所がはっきりしている自分はかなりまともだと思われていたのだろう、とデストロイヤーは引きつった笑みで思う。代理人だってすました顔でいるが、バラバラになった皆のことが心配なのだ。

そういう意味では、要らぬ心配をかけてしまったと反省する。

 

 

「ごめんなさい」

 

「いえ、もう過ぎたことです」

 

「ん? じゃあ今は無職なの?」

 

「え? あぁそうそう、もう次の仕事は見つかってるの」

 

 

そう言って一枚のチラシを取り出すと、二人の前に差し出す。それを見た二人の顔は、わかりやすいくらいに引きつった。

『歯』をモチーフにした看板に、『人形の治療も可』という文字、極め付けは見覚えのある腹黒そうな顔・・・・・このS09地区ではいろんな意味で評判の歯医者である。

 

 

「仕事を探してる時にたまたま会って、話したら助手として雇ってくれるって!」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「よ、よかったね・・・」

 

 

目をキラキラさせて、本当に感謝しているのだと感じる顔に何も言えない二人。きっとデストロイヤーは知らないのだろう、あの歯医者が治療という大義名分で人を泣かせることが好きなサディストだと。そしてその被害者の一人に代理人がいることを。

とはいえ、妹分の新たな旅立ちを明るく迎えてやるためにも言わないでおく。とりあえず大丈夫だと判断し、Dを下がらせた代理人は静かに尋ねた。

 

 

「さて、これで私たち二人だけですね。 まだ話していない理由もあるのでしょ?」

 

「・・・・・・はぁ、やっぱり代理人にはわかっちゃうんだ」

 

「ふふっ、これでも皆の姉ですからね」

 

 

代理人がそう言って笑うと、デストロイヤーも少し恥ずかしげに笑う。

職を失ったのは事実だし、歯医者に声をかけられたのも事実・・・・・だがそもそもの話、元いた地区で探せばもっと楽だったはずなのだ。わざわざ引っ越す必要もない。

 

 

「うぅ・・・恥かしいから言いたくなかったんだけど・・・・」

 

「話すまで帰しませんよ?」

 

「さらっと怖いこと言うよね代理人」

 

「ふふふ」

 

 

はぁ、っと大きくため息をつくと、デストロイヤーは諦めたように口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・さ、寂しかったから・・・」

 

「・・・・・・ふふふ♪」

 

「あぁもう! だから言いたくなかったのに!」

 

 

思ってたよりも可愛らしい理由だった。とはいえ、これはある意味仕方のないことなのかもしれない。当時では製造時期も遅く、見た目もメンタルも幼めに作られていたデストロイヤーは皆から可愛がられた。それがある日突然バラバラになり、自分の力で生きてゆくことになったのだ。

もちろん、ハイエンドモデルの戦術人形であるのだから普通の人間の独り立ちとはまったく違う。見た目は幼くとも中身は高性能なので仕事だってできるし、実際できていた。

だが、それがイコール『大丈夫』であったというわけではないということだ。

 

 

「無理せずとも、寂しいのならそう言っていただければよかったのに」

 

「そう言ったら本当に助けようとするでしょ? 自分のことをほったらかして」

 

「えぇ、もちろん」

 

「・・・・・あの時、一番大変だったのって代理人よ。 それ以上に迷惑なんてかけられないわよ」

 

 

要するに、妹は妹なりに気を使っていたということだった。それも、代理人の周りが落ち着くまで一年以上・・・・・それがわかると、代理人はデストロイヤーをギュッと抱きしめた。

 

 

「ちょ、ちょっと代理人!?」

 

「ごめんなさい、今まで苦労をかけましたね」

 

「・・・・・うん、でも気にしてないわ」

 

「・・・・・おかえりなさい」

 

「・・・・・グスッ・・・・ただいま」

 

 

この後、個室から出てきた二人の目元は少し赤かったが、二人とも憑物が落ちたような笑顔だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、私の扱いが末っ子みたいなんだけど?」

 

「まぁみんなの妹みたいな感じですから」

 

「・・・・・私末っ子じゃないんだけど。 というか今いるのも合わせたら割と姉の方よ?」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「言いながら頭撫でるなぁ!」

 

 

 

end




歯医者「ようこそ〜、私の城へ〜!」
破壊者「よ、よろしくお願いします」
歯医者「それじゃ〜早速〜、そこに縛ってる娘を抑えといてね〜」
アストラ「イヤダーシニタクナーイ‼︎」
破壊者「・・・・・治療よね?」
歯医者「もちろん〜、治療(破壊と再生)だよ〜」
キュイイイイイイイイイン


・・・・・はい、では今回のキャラ紹介


デストロイヤー
自主退社。S09地区に来たのでこれでようやく好きなタイミングで出すことができる。
誰だよよその地区で働くとかいう設定つけたアホは。

代理人
みんなの姉。そしてなんでも抱え込もうとする人。
基本的に泣くことはないが、きっかけがあると途端に決壊する。

歯医者
後書きのみ。
みんなのトラウマ製造機。

アストラ
後書きry
虫歯は再発するもの。


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第百五十四話:エリート人形の暴走

排出率アップの時にどれだけ注ぎ込んでもきてくれなかったANー94ちゃんキタァァアアアアアア!!!!

もう話としては出ちゃってるけど改めて。


ANー94、という人形がいる。元正規軍の人形部隊に所属し、とある理由によりグリフィンへとやってきた彼女は今、姉妹機であるAKー12とともにこの喫茶 鉄血に住まわせてもらっている。

彼女への評価は、一言で言えば『優秀』。戦闘特化型というだけあって高い戦闘力を持ち、さらにある程度の電子戦もこなせる。真面目で決して強さをひけらかさない態度に、皆からの信頼も厚い。

 

そんな彼女ではあるが、唯一にして最大の欠点が存在する・・・・・AK-12のことが好きすぎるあまり時々、いや結構な頻度で暴走するのだ。

 

 

「〜〜〜♪」

 

「・・・・・・・・」

 

「うぅ・・・・」

 

 

喫茶 鉄血の三階、従業員用の共用スペースに設置された炬燵に居座り、この上なく満足そうにくつろぐAKー12、そんな彼女の癒しアイテムとして今日も抱きつかれるフォートレス、そしてそんなフォートレスをまるで親の仇のように睨むANー94。

ANー94が来た当初からフォートレスはこんな感じなのだが、当初はANー94もそれほど気にしてはいなかった。AK-12が求めた癒しがそれであるという認識だったからだ。ところが、これをほぼ毎日見ているうちにANー94の心の内に黒いものが浮かび上がるようになる。

 

 

(・・・・・・・・ずるい)

 

 

AK-12と二人っきりではないというのはまだいい。むしろ相部屋にしてくれた代理人の好意には感謝しても仕切れないくらいだ。だが理想を言えば、四六時中べったりしていたい。二十四時間三百六十五日ずっとAK-12のそばにいたいのだ。

それを我慢しているというのに、この人形(フォートレス)は何もせずとも求められる・・・・・納得がいかない。

 

 

「んん〜、フワフワモチモチ〜♪」

 

「も、もういいんじゃないですかぁ?」

 

「え〜〜〜もうちょっと〜〜〜」

 

「ふぇ〜〜〜〜・・・・」

 

 

何が「ふぇ〜」だ、あざといアピールか!?

などと言いたくなるのをグッと堪えてANー94はじっと見守る。もっとも、その目は口ほどにものを言っているのだが。

 

 

「皆さん、そろそろご飯ですよ」

 

「了解です」

 

「は、はい・・・・AK-12さん、そろそろ・・・」

 

「むぅ、仕方ないわね」

 

 

渋々といった感じで解放するAK-12・・・かと思いきや、まるでぬいぐるみのように抱き上げるとそのまま歩き始めた。これには流石のANー94も黙っていられない。

 

 

「え、AK-12!?」

 

「お、降ろしてくださいぃ〜!」

 

「大丈夫大丈夫、下に降りたらちゃんと降ろしてあげるわよ」

 

 

それまで絶対に離さない、という意思表示のようだ。このままではまずい、非常にまずい。何がまずいかというと・・・・・

 

 

(こ、このままAK-12がフォートレスとくっつきすぎると・・・)

 

ーーーーー以下、ANー94の妄想ーーーーー

 

『あぁ〜フォートレスちゃん可愛い〜!』

 

『AK-12、そろそろ任務ですよ』

 

『・・・・・・・・』

 

『・・・・・AK-12?』

 

チッ・・・今いくわ』

 

ーーーーー妄想終了ーーーーー

 

(い、嫌だぁああああああああ!!!!)

 

 

思わず頭を抱えるANー94。まだ邪険に扱われるとかならともかく、『フォートレスがいるからANー94(あなた)はいらない』とか言われたら立ち直れる気がしない。

これはもはやAK-12の癒し云々ではない、ANー94の死活問題である。

 

 

(なんとか・・・・なんとかしないと・・・!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの・・・ANー94さんが・・・・」

 

「大丈夫よ。 多分、私に捨てられるとか誤解してるんでしょ」

 

「は、はぁ・・・・」

 

 

そんな感じで楽観するAK-12だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

翌日、特に任務もなく非番のAK-12が昼過ぎに目を覚ますと、枕もとに身に覚えのない大きな包みが置いてあった。寝ぼけた目を擦りながらゴソゴソと包みを剥がすと、出てきたのは一抱えもある大きな熊のぬいぐるみ。

誰が置いていったものかわからないが、とりあえず抱いてみる。ふわふわな触り心地にちょうどいい感じの反発力、ついでに何かいい匂いがする。

チラッと時計を見たAK-12は、今日が非番なのをいいことにそのままベッドに転がり、やがて静かに寝息をたて始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

「そういえばマヌスクリプト、私の部屋に置いてあったぬいぐるみってあなた?」

 

「え? 知らないよ?」

 

「そう・・・・まぁいいわ」

 

 

日が暮れる頃になってようやく起きてきたAK-12は代理人から見事に説教をくらい、休みの日でも不健康な生活は避けるようにと言われてしまった。そんな彼女は今日も炬燵に足を突っ込み、フォートレスを抱えてくつろいでいる。

そんなAK-12を、ぬいぐるみを置いた張本人であるANー94は悔しそうに眺めている。

 

 

「ぐぬぬぬ・・・・・」

 

「どうしたんですかANー94、そんな怖い顔をして」

 

 

代理人が心配するも、ANー94の耳には届かない。

作戦の失敗を悟ったANー94は、新たな手を打つことに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・え? フォートレスのボディを?」

 

「はい、標準的な体型のものにできないでしょうか?」

 

 

さらに翌日、ANー94は休暇をとって鉄血工造へとやってきた。アポも取っていなかったが、アーキテクトに依頼があるというと通してくれた。そして話したのが、フォートレスのボディの変更である。

 

 

「できるできないで言うならできるけど・・・・なんで?」

 

「彼女も店員として表に出る機会が増えましたが、やはりあのボディは動きづらそうに見えますので」

 

 

フォートレスの身を案じ手の提案、に聞こえるがその本音は全く別。AK-12が虜になっているのはあのモチフワボディのせいだと感じたANー94は、ではモチフワボディでなければいいのだと考えたのだ。

AK-12を引き離せる上に代理人らにも納得してもらえる言い訳である。

 

 

「う〜ん、それはそうだけどねぇ・・・・」

 

 

とはいえ、彼女の開発者であるアーキテクトは納得していないようだ。といってもこれは想定内のこと。ここでANー94は断られない一手を打った。

 

 

「これ、私のカタログスペック表です。 ()()()()()()()()()()()()スキンを作っていただいて構いません」

 

「OK、乗った」

 

 

研究職の者に、「何を作ってもいい」と言う。これに乗らないアーキテクトではなく、ノリノリでフォートレスのボディを作ることを約束する。ちなみに『マヌスクリプトと』と言ったのは、こうすればより確実に受けてもらえると考えたからだ。

これで少なくともAK-12はマヌスクリプトから離れてくれる、そう信じて疑わないANー94だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

さらに数日後。

 

 

「ど、どうでしょうか・・・?」

 

「わぁ・・・」

 

「前よりはバランスが良くなりましたね」

 

『・・・・・・・・』

 

 

突然鉄血工造に呼ばれたフォートレスが帰ってくると、店員一同も客も皆目を疑った。

まず目を引くのはその身長。もとのフォートレスよりも大きく伸び、以前が小◯校高学年くらいなら、今はJKだ。元々デカかった胸は変化なしだが、身長に対しての違和感が減った分、シンプルにデカイ。

 

 

「しかし意外ですね、あのアーキテクトがボディを新造するなんて」

 

「それがその・・・ANー94さんがそうして欲しいと頼んでくれたみたいで」

 

「へぇ、ANー94ちゃんが?」

 

 

すると今度は客の視線が一気にANー94に集まる。その目が語っていることは様々だが、大きく分ければ『よくやった』と『なんてことを』の二つである。

 

 

「いえ、その・・・・・」

 

「あ、ありがとうございます! こ、これで少しまともになれたかもしれません!」

 

「そ、そう・・・・・」

 

 

フォートレスからお礼を言われると、完全に個人的な理由と打算でこうしてもらったANー94はなんとも言えない罪悪感に苛まれる。

とはいえ、これでAK-12が彼女に抱きつくことはないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていたのだが・・・。

 

 

「あぁ〜〜〜〜これダメになる〜〜〜」

 

「いや、元からダメだろ」

 

「いいなぁ〜、後で変わってよねAK-12」

 

 

その晩、本日も炬燵に足を伸ばしたAK-12がフォートレスに抱きつくことはなかった。なかったのだが、その代わり別の手段で癒しを得てしまった・・・・・膝枕である。

ペタンと女の子座りの膝・・・というより太ももに頭を乗せたAK-12は、それはそれはだらしのない表情でくつろいでいる。

 

 

「ふへへ・・・・」

 

「あの、枕持ってきましょうか?」

 

「このままでいいよぉ〜〜〜」

 

(こ、こんなはずでは・・・・・)

 

 

一向に離れようとしないAK-12に、ANー94は内心頭を抱える。これはもうフォートレスのボディとかそういうものではなく、フォートレス自身からなんらかの癒し物質が出ているとしか考えられなかった。

もはや打つ手なし、そう落ち込むANー94に、AK-12はちょいちょいと手招きする。

 

 

「ANー94もきてみなさいよ〜、すごいわよこれ〜」

 

「AK-12、口調まで変わっていますが・・・」

 

「きたらわかるってぇ〜」

 

 

語尾ものんびりとしたものになり、心なしか顔全体がモチっとした感じに見えなくもないくらいダラけたAK-12。

いくらなんでも言い過ぎだ、そう呆れながらもANー94は誘われるがままに座り、フォートレスに倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・ふぁ〜・・・」

 

「あら、おはようANー94」

 

「おはようございます、AK-12・・・・・え?」

 

「代理人がそろそろご飯だって言ってたわよ」

 

 

覗きこんでそう言うAK-12に、ANー94は慌てて飛び起き時計を見る。気がつけば短針が一時間ちょっと進んでおり、周りにいたマヌスクリプトやゲッコーもいなくなっている。なにより、フォートレスの膝に頭を乗せて以降の記憶がない。

 

 

「ふふふ、お堅いANー94でもフォートレスちゃんの癒しには勝てなかったようね」

 

「そ、そんなはずは・・・・」

 

「あの・・・そろそろいいですか・・・・?」

 

「え? あ、ごめんなさい!」

 

 

おそらくずっとその位置から動いていないのだろう、フォートレスが困ったようにそう言ってきたので飛び退く。ようやく解放されたフォートレスは、また誰かに捕まらないうちにササっと下へ降りていった。

 

 

「・・・・・で、どうだった?」

 

「ふぇ!? えっと、その・・・・」

 

 

気持ちよかったです。

そう言って項垂れたANー94は、フォートレスの癒しパワーに負けを認めたのだった。

 

 

end




アーキテクト「やぁやぁANー94、スキンができたからそろそろ来てね!」
ANー94「あっ・・・・・・」

彼女が着ることになるスキンを応募しよう!
詳細は一番最後に!


では今回のキャラ紹介!

ANー94
AK-12がらみに限り超絶ポンコツと化すエリート(笑)
AK-12からフォートレスを離す事しか考えなかった結果、悪魔(A氏とM氏)に魂を売ってしまった。
癒しには勝てなかったよ・・・・・

AK-12
堕ちるところまで堕ちたエリート(笑)
外ではバリバリのOLさんみたく、オフは魂が抜けるまでダラけきる。抱きつけるものというよりもフォートレスという可愛い生き物に魅了されている。

フォートレス
はっきりNOとは言えない娘(ココ重要)
もともとは外骨格型の装備を使用する前提のボディなので、普段生活する分にはこのボディである必要がない・・・というか背がちっこくてレジも一苦労。
今回用意したボディは戦闘能力など一切ない。ロリ巨乳からオドオド巨乳JKへと進化した・・・・ハイエース不可避。

代理人
どうにかしてAK-12の生活習慣を改善させたい。
「直さなければ追い出す」と言えば済むのはわかっているが、流石に可哀想なのでギリギリまで待っている。

アーキテクト
「巨乳は外せない、絶対にだ」


さて、後書きの最初に述べたようにANー94に着せたいスキンを募集します。ただ、募集する活動報告は喫茶 鉄血全体のやつですので、見分けがつきやすいよう以下の条件を確認していただいてからコメントしてください。
・「ANー94の件」や「第百五十四話の件」など一言
・背丈の変更はなし
・番外編で発表

皆様のご応募、お待ちしております!
byいろいろ・アーキテクト・マヌスクリプト

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百五十五話:お返し何倍返し?

少々早いですが、これから先ドタバタしそうなので上げときます。
・・・・・ホワイトデーとは別件ですよ(血涙)


3月14日。それは世の男女を駆り立てたあの日からちょうど一ヶ月経った日である。特に記念日であるというわけでもないのだが、一ヶ月前の・・・・・つまりはバレンタインデーのお返しの日ということで、極東の島国ではホワイトデーと呼ばれている。

とはいえ、バレンタインはともかくこちらは世界的にはかなりマイナーなイベントであり、良いのか悪いのかそこまで盛り上がっていないというのが現状だ。

もっとも、知ってる人は知っているので問題なさそうだが。

 

そんなイベントを翌日に控えた3月13日には、悩める男たちが少なからず存在するのだ。

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」

 

「ふふっ、随分とお困りのようですねユウトさん」

 

「知ってて言ってますよね代理人姉さん」

 

 

カウンターのテーブルに額をくっつけながら長い長いため息を吐いているのは、鉄血工造の刺繍が入った白衣を纏ったユウトである。彼の悩み、それはもちろんあの二人の件である。

 

 

「ねぇ代理人姉さん、女の人がもらって嬉しいものってなんだと思う?」

 

「そうですね・・・・まぁあの二人なら、ユウトさんから貰えるのならなんでも喜ぶと思いますよ」

 

「それじゃ困るんですよ・・・・・」

 

 

なんでも良い、とか気持ちだけで十分、と言われて本当にその通りにするほどアホではない。というかそもそも、自分だけもらっておいてお返しなしというのは彼氏としてどうかとも思っている。

が、いざ渡そうとするとまず何を渡すかでつまずくのだ。

 

 

「じゃあさ、いっそのこと二人に選んでもらうのってどうかな?」

 

「あ、Dさん」

 

「なるほど、それも一つの手ですね」

 

 

奥からひょこっと現れたDがそんな提案をする。確かにこれなら確実に本人たちが望むものを渡すことができるだろう。

ただ難点として、サプライズ性が失われることだった。

 

 

「話は聞かせてもらったよユウト君! それなら私に良い考えがある」

 

「うわ、マヌスクリプトさん・・・・」

 

「『うわっ』てひどくないかな!?」

 

 

 

同じく顔を出したマヌスクリプトに、ユウトが珍しく顔をしかめる。正直なところ、任せて良い方向になった記憶がない。

そんな非歓迎ムードにもめげず、マヌスクリプトは自信満々に言い放った。

 

 

「ずばり! プレゼントするものはアクセサリー!」

 

「あら、珍しくまともな」

 

「けど、ありきたりじゃありませんか?」

 

「ちっちっちっ、まぁ聞きたまえユウト君」

 

 

妙に腹立つ仕草で説明を始めるマヌスクリプト。確かにアクセサリーのプレゼントはよくある話だが、マヌスクリプトの狙いはそこではない。

ユウトの彼女、M16とROは戦術人形である。そのため普段からお洒落しようとするのは難しく、またユウトと会う時も必ずお洒落ができるとは限らない。そこでネックレスなどのアクセサリーをあげることで、普段着にちょっとしたワンポイントになるのではという考えだ。ついでにお守りにもなるんじゃないかな、と思ったりもする。

 

 

「本当にまともな理由ですね・・・・本当にマヌスクリプトですか?」

 

「代理人もひどくない? 私のイメージってなんなのさ」

 

『トラブルメーカー』

 

「おいこら泣くぞちくしょう」

 

 

それはさておき、確かにマヌスクリプトの案もいいとは思う。ペアルック(三人だけど)にすればさらに喜んでくれそうだ。

が、ここでもまた待ったがかかった。

 

 

「甘いなマヌスクリプト、悪くない案だが所詮それまでだ」

 

「・・・・・まぁ出てくるとは思っていましたよゲッコー」

 

 

柱にもたれかかり、無駄に優雅な仕草で話しかけるゲッコー。正直マヌスクリプトと同じくらいのトラブルメーカーだが、この手の話題となるとそこそこいいアイデアを出してくれるので黙って聞いておく。

 

 

「プレゼントというものは確かにもらって嬉しいものだ。 だがそれも初めの頃くらいで、時が経つにつれて特別なものではなくなってくる」

 

「いやにリアルだけど・・・何かあったの?」

 

「いや、ご近所のマダムたちに聞いた話だ。 で、それならば逆にたった一度きりのものの方がいいだろう。 私のオススメは、夜景が綺麗なレストランでのディナーだ」

 

 

自信満々にそう言い放つゲッコー。やはりこういう時は頼りにはなるのだが・・・・・言外に他の思惑が透けて見える。

 

 

「・・・・・それで、その後は?」

 

「ふっ、愚問だな・・・・・まぁ先に連絡入れておいたほうがいいだろう」

 

「あなたの頭にはそれしかないのですか?」

 

 

結局それかとユウトは呆れつつも、確かにいい案だとも思う。贈り物はなにも『物』である必要はないのだから、これらな二人とも平等にお返しできる。

ユウトは端末を開き、いい感じのレストランを探し始め・・・ようとしたところでゲッコーに止められた。

 

 

「まぁ待て、今回は私が手配してやろう」

 

「え? でもそれは・・・・」

 

「遠慮するか? だがどれがいい店かもわからないだろ?」

 

「うっ・・・」

 

 

図星である。というかいい感じとかいい雰囲気とは何かを問われると答えられない以上、自分で探すのは至難の技だ。あの二人ならきっとユウトが選んでくれた店ならなんでも喜んでくれるだろうが・・・気を遣わせるのは本望ではない。

 

 

「・・・では、お任せしてもいいですか?」

 

「任せろ。 それと、予算の上限や要望はあるかな?」

 

「いえ、特には」

 

「了解した。 さて、では早速・・・」

 

「それは構いませんが、とりあえず仕事に戻ってください」

 

 

仕事そっちのけで探そうとし始めるゲッコーを代理人が止め、奥へと引きずっていく。大丈夫かなぁ、と少々不安に思いつつもユウトは明日を心待ちにするのだった。

 

 

end




今回はちょい短めになりました。
ホワイトデーは我々には関係ないとか言いましたが、お菓子が安くなったり変わったものが出回ったりするのは嬉しいですね。

では今回のキャラ紹介。


ユウト
彼女二人持ちのリア充。
じょじょにこの世界の常識に慣れてきたが、流行とかには疎い。

マヌスクリプト
新たなネタの匂いに敏感な人形。

ゲッコー
PAー15が現れて以降遊びの回数が減った。
それでもそこそこ経験豊富なので、アドバイスもバッチリである。

代理人
今日も今日とてトラブルメーカーたちの手綱を握っている。


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第百五十六話:人形(ヒトカタ)の夢

DJMAXコラボ、今回はさすがにEXステージは諦めました。まぁ攻略するメリットが薄いのと、前半だけでも十分楽しめるので。
さぁあとは音ゲーを達成するだけだ!


D-15、と言う人形がいる。AR小隊のST AR-15と瓜二つの彼女は、名前の通りAR-15のダミー機である。もともとはAR-15のちょっとした悪戯心から生まれた本機ではあるが、今ではAR-15ともどもハンターに恋する乙女である。

 

そんな彼女は、エリート部隊のAR小隊でありながら前線に出ることはほぼない。彼女自身に戦闘能力はなく、銃もまともに扱えないと言うのが理由だ。では彼女の役割は何か・・・それは、後方からAR小隊をサポートするオペレーターである。

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・どうかしら」

 

「うんうん・・・・まぁ悪くはないかな。 ヘリアンはどう思う?」

 

「能力的には問題ないだろう。 なんらかの試験をする必要はあるが」

 

 

昼過ぎの喫茶 鉄血、そのテーブル席を囲むようにしてD-15はペルシカとヘリアンに向かい合っていた。その二人の手には、D-15が提出したレポート・・・これまでの成績と戦術論、そして指揮権付与の要請書だ。

 

 

「前線指揮にM4、その補佐にRO、そして戦術指揮にD-15か・・・悪くはないだろうな」

 

「むしろ、どこに配属されても上官の能力に左右されないのが利点だよね」

 

 

D-15がこれを提出したのには理由がある。もともとは前述の通り戦闘能力を持たないダミー、悪く言えば欠陥品である。それでも彼女なりに手伝えることとして物資の運搬や資料の作成など、AR小隊の雑務をこなしてきた。その根底にあったのは、戦えない自分へのコンプレックスからでもあるのだ。

転機となったのは数日前のこと。司令部で何度か行われている各部隊間による模擬戦でのことだった。

 

 

「指揮官からその時の話を聞いたときは驚いたものだ。 まさか人形が指揮官の代わりを行うなんてな」

 

「けど、ルール違反ではないわね」

 

 

模擬戦では、各部隊の能力のみを競うため指揮官は干渉しない。いつもであれば受けられる作戦指揮や戦況報告もなく、戦場での自己判断の積み重ねとなる。

そんな中、D-15は指揮官の元を訪れ、こう言ったのだ。

 

 

『私を、作戦指揮所に置いていただけませんか?』

 

 

指揮官も彼女のことはよく知っている。オリジナルと同様に真面目で勤勉だ。戦場に出ることは少ないが、その分頭脳労働担当として隊を支え、時にはM4の戦術の相談に乗ることもある。

だからだろうか、指揮官もその場の勢いで任せて見ることにしたのだ。指揮官が直接指揮をとるわけではないので、不公平でもない。

 

その結果、AR小隊は過去最高の成績で全部隊を圧倒した。これには指揮官もAR小隊も、そしてD-15自身も相当驚いていたらしい。

 

 

「私も見たかったものだ。 あの指揮官がかなりの熱意を持って書いたであろう推薦書を読めば、認めようとも思うさ」

 

「で、では・・・・!」

 

「だが、そう簡単な話でもない」

 

 

パァッと明るくなるD-15に、ヘリアンは厳しい声でそう言った。D-15はキョトンとするが、隣のペルシカも少し困った表情でうなずいている。

 

 

「人権団体・・・ですね」

 

「あ、代理人・・・・・」

 

「ずいぶん話し込んでいましたが、そろそろ休憩なさってはいかがでしょうか。 コーヒーのお代わりをお持ちしましたよ」

 

「あぁ、すまない」

 

 

からになったカップにコーヒーを注ぎ、芳醇な香りがふわっと広がる。真剣な表情で書類を眺めていたせいで少し凝った体をほぐすと、ヘリアンはコーヒーを一口飲みフゥッと息をつく。

 

 

「あぁそっか、代理人はそういうことには鋭いもんね」

 

「そうせざるを得なかった、と言った方が正しいですが」

 

「あの、どういうことでしょうか」

 

「ふむ、では私から説明しよう」

 

 

カップを置くと、ヘリアンは静かに語り出した。

 

 

 

 

 

人権団体・・・正しくは人類人権団体、という組織は知っているな?

 

はい、人形の台頭に合わせて規模を大きくした組織ですね。人間と人形の完全分業を目指していると。

 

そうだ。といってもその理念もここ最近のものだがな。

 

もともとはね、ロボット排斥活動で有名だったんだよ。そのせいでロボット保護協会としょっちゅう衝突して、ひどい時は軍が出動したこともあるくらい。

 

そうだ。そして彼らの一部はまだ、人形がいずれ人間の職を奪うと思い込んでいる。所謂過激派だ。またそうでない連中も、人形たちの動向には目を光らせている。

 

代理人も、ずいぶんしつこく狙われたよね。

 

そうですね。あの時は多くの方に助けていただきました。

 

・・・話を戻そう。そこで我々グリフィンを含む人形を扱う組織は、人間と人形の線引きをより明確にしてきた。それが、『指揮官』という存在だ。指揮官自体は発足当時からあるが、ここ数年で彼らに関する規則が倍以上に増えている。

 

そういうこと・・・まぁだから、実はM4とかUMP45って結構グレーなところにいるんだよ。

 

な、なるほど・・・・・あっ!じゃあつまり・・・

 

そうですね・・・仮にD-15さんがオペレーターとして任命されたとしましょう。現時点ではAR小隊に限ったものになるでしょうが、有用性が示されると将来的には他の部隊に・・・・・つまり、人形の指揮官が誕生することになるかもしれません。

 

代理人のいう通りだ。そしてこれは人権団体にとっての『人間の職を奪う』ことに当たるだろう。

 

最近大人しくなったけど、過激派はとことんやるからね。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・そう、ですか・・・・」

 

 

ヘリアンたちが一通り話すと、D-15はひどく落ち込んだ様子だった。彼女にとっては、きっと残酷なことなんだと思う。能力もあってそれが有用であると上司にも認められた。それが、「()()()()()()()()()()」で叶わないものになるのだから。

その悔しさに涙さえ浮かべるD-15に、三人は申し訳なさそうに顔を伏せるしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・が、世の中そこまで理不尽ではないらしい。

 

 

「話は聞かせてもらった」

 

「これは私も一肌脱ぐとしようか」

 

「「シャチョー⁉︎ ナゼココニッ⁉︎」」

 

 

突然降りかかる声にはっと顔を上げると、そこにいたのは妙にガタイのいい男とつかみどころのない雰囲気の老人・・・・・変装してはいるが、クルーガーとハーヴェイだった。グリフィンとIoPの社長が揃って変装してるのもかなりおかしいが、それ以前になぜここにいるのか。

 

 

「フフッ、彼らも君のところの指揮官君に呼ばれたようだな」

 

「か、カーター将軍!?」

 

「いやぁ、あの指揮官の行動力は侮れないね」

 

「あら、サクヤさんまで」

 

 

今度は別の方から、私服のコートに身を包んだカーター将軍に、同じく私服のサクヤまで。あらゆる組織のトップというトップが続々と集まってきた。

 

 

「私もおりますぞ」

 

「ゲッ、代理人のストーカー!」

 

「失礼な、私はファンクラブの会長ですぞ」

 

「お久しぶりです、会長さん」

 

 

またもやヌッと現れたのは代理人のファンクラブ、そして人権団体穏健派の会長だった。サクヤが警戒を強めているが、本人はどこ吹く風だ。

 

 

「え、えっと・・・・皆さんどういう集まりで?」

 

「カーター将軍が言った通りだ。 彼女の指揮官から連絡があってな」

 

「恐らくは人権団体の話が出るだろうから、力を貸してほしいとな」

 

「軍としても、これを機に過激派を炙り出したいと思っていたのだ」

 

「それに、私の彼女の夢は応援したいしね!」

 

「元はと言えば私どもの不始末、喜んで協力しましょう」

 

 

状況の整理が追いつかず、なんとも間の抜けた表情で固まるD-15。その肩に、代理人はポンっと手を置いた。

 

 

「よかったですね、D-15さん」

 

「え? あの、これって・・・・」

 

 

うまく状況を飲み込めないD-15だったが、だんだん落ち着きを取り戻すと同時に意味を理解し、ポロポロと泣き始めた。

 

 

「ほ、本当、に・・・・?」

 

「えぇ、彼らはこんな時に嘘をつくような人たちではありませんから」

 

「うっ・・うぅぅ・・・・・・」

 

 

涙を止めようにも止まらず、しまいには顔を覆ってしまうD-15を、代理人は優しく抱きしめる。

 

この後、D-15は無事試験を合格しAR小隊の専属オペレーターに任命される。

さらに数年後、それまでの功績が認められたことでグリフィンが指揮権を認可、史上初となる人形の指揮官となるのだが、それはまだずっと先のお話。

 

 

end




人間の皆さんが頑張る回。いつもはギャグとかトラブルしか持ち込まない彼らも、やるときゃやる人らなんです。

では、今回のキャラ紹介。


D-15
AR小隊の・・・バックアップとか後方幕僚とかサポートとか色々やってる娘。AR-15ともどもハンターの恋人。
彼女にグリフィンの制服を着せたら似合いそうだなぁ・・・特にまな板なとこr(首が折れる音)

ヘリアン
仕事ができる・・・というか仕事しかできない人。
誰かもらってあげて。

ペルシカ
人形の夢は私の夢!みたいな人。
サクヤと話が合いそう。

クルーガー
強面ムキムキの社長。意外と部下に甘い。

ハーヴェイ
IoP社の社長。ペルシカですら頭が上がらない。

カーター
軍のトップというわけではないが、この辺り一帯の指揮権を握っている。別に原作のような腹黒さがあるわけではない。

サクヤ
人間人形平等・・・よりもやや人形に偏っている人。対外的な鉄血工造トップ。

会長
穏健派の実質的なリーダー。指揮官と連絡先を交換していたという驚きの事実。

代理人
多くの人に支えられて、今ここにいる。故にたくさんの人の支えになるよう、日々店を営んでいる。


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番外編39

引っ越すって、大変ですね。

まぁそんなことは置いといて今回のお話!
・天国と地獄
・3月14日
・S09地区指揮官見習い
・ANー94着せ替えショー


*「ANー94着せ替えショー」だけで約半分あります


番外39-1:天国と地獄

 

 

S09地区の大通りに店を構える、この街きっての腕を持つ歯医者。その評判は大きく分けて二つであり・・・・・『確実に治る』と『死よりも恐ろしい目に遭う』というものだ。

そこへ雇用されたデストロイヤーは、初日からその悪魔のような所業を手伝わされていたのである。

 

 

「・・・・ねぇ院長」

 

「ん〜? 何かな〜?」

 

「歯の治療だけで、あれだけ脅す必要ってあるの?」

 

 

デストロイヤーの意見はもっともで、相手がよほど小さい子供でなければたとえ老人であっても容赦のかけらもなく脅す。もちろん不必要に歯を削っているわけでもないし、歯医者としての責務は十分に果たされている。が、言わなくてもいいのに「これが歯にしみるんだよぉ〜」とか「痛かったら手をあげてね〜・・・あげても止めないけどね〜」とか言うもんだから悪魔とか言われてしまうのだ。

 

 

「デスちゃん〜、これは必要なことなんだよ〜。 直ったからって油断すると、また再発するからね〜」

 

「それはわかるけど・・・・」

 

 

いくらなんでも可哀想すぎやしないだろうか。もちろん虫歯になったのは本人の責任だが、だからと言って追い討ちをかけるのはいかがなものかと思うのだ。

 

 

「ん〜・・・それじゃ〜、君が癒しになってあげればいいんじゃないかな〜?」

 

「え? 私が?」

 

 

思ってもみない言葉に目をパチクリするデストロイヤー。言われた意味を頭の中で反芻していたせいで、歯医者の目に怪しい光が点っているのに気がつかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、それまで敬遠されがちだった歯医者を訪れる客は倍増した。もちろん歯医者の評判自体は変わっていないし、中から聞こえる悲鳴もいつも通りだ。

が、それでも通うには当然訳がある。

 

 

「デスちゃ〜ん、受付よろしく〜」

 

「は、はーい!ポヨンポヨン

 

『おぉ〜・・・・』

 

 

待合室の客の視線が、デストロイヤーを追いかけ続ける。より具体的には、通常の二倍くらいの高さになった『ガイア』の方である。

単純に背丈が大きくなっただけではない。その昔に本人が望んだボディラインは出るとこがはっきり出たもので、当然動けば揺れる(ここ重要)。

さらに、そんな彼女の魅力を最大限に引き出すべく院長が用意したのが・・・・ナース服である。

 

 

「あぁ、眼福眼福」

 

「それはよかったね〜。 じゃ、始めようか〜」

キュィィイイイイイイイイン

 

「ア゛ァァァアアアアアア!!!!!」

 

 

end

 

 

 

番外39-2:3月14日

 

 

「そ、それじゃあ・・・乾杯」

 

「「か、乾杯」」

 

 

ゲッコーの提案を受けてから丸一日が経ち、ユウトはM16とRO(恋人たち)を連れてとある地区の高級レストランへとやってきた。

この辺りでは最高ランクのホテルの最上階、スーツやドレスの着用を義務付けられるという、庶民には雲の上の存在のようなレストランはもちろんゲッコーが手配したもの。その窓際の席で綺麗な夜景を眺めながらグラスを鳴らす三人は、それはもう緊張しまくっていた。

 

 

「す、すごいところですね・・・・」

 

「そ、そうだn・・・ですね」

 

「M16さん、口調変わってますよ」

 

 

誘ったユウトはまだ余裕がある・・・ように振る舞っているが、本人もこんな場所になど来たことがない。だがその強がりは、彼氏という立場からの精一杯の強がりだ。

 

 

「そ、そのドレス、似合ってますね」

 

「ふぇ!? あ、ありがとう・・・///」

 

「な、慣れてないからな・・・おかしくないか?」

 

「いえ、全然。 お二人とも綺麗ですよ」

 

「「はうっ!?」」

 

 

言われた方は真っ赤になってモジモジし始める。そして言った方も言ってから恥ずかしくなったのか、誤魔化すようにお酒を飲む。

結局その後、出てきた料理に感動しつつも極度の緊張で味がわからず、酒のせいか照れのせいか顔を真っ赤にしたまま店を出る。そしてそのままそのホテルに泊まり、ベッドに転がると同時に大きく息を吐くのだった。

 

 

「な、なんか緊張した〜!」

 

「ぼ、僕もです・・・・」

 

「「「・・・・・ぷっ、ふふふ、あはははは!」」」

 

ピロンッ

「ん? ゲッコーさんからだ」

 

「こっちは・・・ペルシカさんからですね」

 

「なになに・・・・『そろそろ部屋に入ったかな? そこは全室防音だよ。 じゃ、良い夜を』・・・・・え?」

 

「「「えぇ〜〜〜〜!!!!!」」」

 

 

end

 

 

 

番外39-3:S09地区指揮官見習い

 

 

無事試験に合格し、晴れてAR小隊の専属オペレーターとなったD-15。正式な辞令とともに司令部へと帰った翌日、D-15は司令室へと呼び出された。

 

 

「D-15、ただいま参りました」

 

「うむ、楽にしてくれ。 ・・・・・まずは、おめでとう」

 

「あ、ありがとうござます。 指揮官のおかげです」

 

「その地位を手に入れたのは君自身だ、私の功績ではない。 さてと・・・」

 

 

相変わらず部下には優しく自分に厳しいを貫く指揮官は、机の下から書類を取り出し手渡す。

 

 

「これは・・・・」

 

「本日より、君はAR小隊のオペレーターだ。 それにあたって、君にはグリフィンの指揮官研修と同等のものを受けてもらう・・・・入れ」

 

「失礼します!」

 

 

指揮官の合図で扉が開き、この基地の後方幕僚であるカリーナが入室する。D-15がAR小隊のサポート要員となった時からお世話になっているのだ。

 

 

「これから約一週間、私とカリーナが君の研修を担当する」

 

「よろしくお願いしますね!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

 

バタンッ

「あぁ〜疲れたぁ〜・・・・」

 

「お疲れ様、やっぱりキツイ?」

 

 

同室のAR-15が心配そうに声をかけるが、本当に疲れ切っているD-15は返事もできない。

普段は温厚で物静かな指揮官だが、研修となると情け容赦のかけらもなかった。とある噂によると、彼がその功績に対し未だに指揮官という立場にいるのは、教官としてはあまりにも厳しいからだとか。

またカリーナも、以前の業務伝達と違って今回はちゃんとした研修、やんわりとだがはっきりとミスを指摘し徹底的に叩き込んでいく。

人間よりも演算能力とかでは優れている彼女だが、わりと心が折れそうになった。

 

 

……ポンッ

「!」

 

「あんまり無茶しちゃダメよ? みんな心配するから・・・私もM4たちも、ハンターもね」

 

「・・・・・・・・・うん」

 

 

枕に顔を埋めたまま、小さくそう返事をする。その声が若干震えていたことも、目から何かがこぼれ落ちたことも、嬉しさで少しニヤけた顔も、なんとか隠し通すことができたD-15だった。

 

 

end

 

 

 

番外39-4:ANー94着せ替えショー

 

 

「諸君、待たせたな!」

 

「誰に話しかけているんですかアーキテクトさん?」

 

 

とある日の鉄血工造研究室。そこで高らかに笑いながら誰もいない方に向かって何か言い始めるアーキテクトに、ANー94は軽く引いていた。

ここは研究室とは言っているが、実際は研究に関わる名目であればなんでも使える多目的室。実際そこに並んでいるのは大きな姿見に更衣室、そして撮影スタジオ顔負けの撮影セットだった。

 

 

「こんなものまで用意して・・・・」

 

「大丈夫! 扱うのはありとあらゆる撮影技術をインプットした我が社の広報担当(ガード)だよ!」

 

「いえ、そういうことではなく」

 

 

ANー94はゲンナリしながら呟く。そしてその視線を更衣室の隣にかけられたハンガーへと向け、さらに大きなため息を吐くのだった。

そこに集められたのは、喫茶 鉄血の従業員であるマヌスクリプトがどこからか仕入れた意見をもとに作り上げた、『ANー94に着てもらうためだけの衣装』である。

 

 

「それじゃあ、早速いってみよう!」

 

「ちょっ!? じ、自分で着替えますから!」

 

 

 

 

<セーラー服>

 

「まぁ王道だね! でもなんでこれが最初なの?」

 

「だ、だってまだまともな方ですし・・・」

 

 

まず初めに選んだのは、落ち着いた色合いのいかにもなセーラー服。ご丁寧に学生鞄まで用意され、このまま街に出ても問題なさそうな完成度である。

 

 

「で、感想は?」

 

「す、スカートが落ち着かない・・・」

 

「いや、あんた普段から短いじゃん」

 

 

 

<執事服>

 

「おぉ、なんか様になるね」

 

「そ、そうですか?」

 

 

先ほどとは対照に上下ともビシッと決めた執事服を身に纏うANー94。もともとキリッとした顔立ちの彼女は、自分でも意外なほどに男装が似合っていた。

 

 

「でもよく似合ってるよ。 きっと起伏が少ないかr「ナニカイイマシタカ?」・・・いえ、何も」

 

 

 

<陸上ユニフォーム>

 

「ちょっとだけ露出を増やしてみたよ!」

 

「全然ちょっとじゃないです!」

 

 

初めの方にまともな服を選んでしまったことで、後々際どいものしか残らなくなることに気がついたANー94が選んだのは、陸上競技(短距離など)で着用するユニフォームだ。併せて髪を後ろで一括りにしており、スラッとした手足とうなじが美しい。

 

 

「でも機能性の塊みたいな服だからねソレ」

 

「まぁ、そうですね。 意外と着心地もいいですし」

 

「彼女の服飾技術は本物だからね。 じゃあ次!」

 

 

 

<チア>

 

「短い! 短いです!!」

 

「内股で赤面するチアって需要あるよね」

 

 

露出では先ほどとさほど変わらないから、という理由で選んだチアの服。ところがどっこい、陸上の短パンとチアのミニスカとでは全く違うというのを思い知ることになる。

ちなみに胸元に描かれているのはグリフィンの公式エンブレム・・・いかにして権利を勝ち取ったのかはマヌスクリプトのみぞ知る。

 

 

「ちょっと踊ってみてよ」

 

「い、嫌ですよ!? ちょっとでも足あげたら見えちゃうじゃないですか!」

 

「スパッツだから大丈夫だよ。 それに、AK-12も喜んでくれるよ(知らんけど)」

 

「え、AK-12が・・・?」

 

「はい、ワンツーワンツー!」

 

「うぅ・・・・えいっ、えいっ!」

 

 

<特攻服>

 

「いやぁ、いいものが撮れたよ」

 

「うぅ、もうお嫁に行けない」

 

「はいはい・・・で、なんでそれ?」

 

 

羞恥一色に染まってしまった彼女が次に選んだのは、やたらと裾の長い学ラン・・・・・いわゆる特攻服というやつである。

あまりにも恥ずかしがったANー94がとりあえず露出を少なくするという理由で選んだこれだが、上のインナーがサラシのみなのがかえって恥ずかしいようだ。

 

 

「ほら、総長ならもっと堂々としないと!」

 

「こ、こんな下着丸出しで無理ですよ!」

 

「さっきあんなに見せつけてたのに?」

 

「あれはスパッツだから大丈夫だって言ったでしょ!?」

 

「でもスパッツも下着の一種だよね?」

 

「う、うわぁああああああ!!!!」

 

 

 

<犬耳カチューシャ&尻尾型アタッチメント>

 

「おや、それを付けてくれるとは」

 

「・・・・・・・」

 

「あれ、どうしたのかな?」

 

 

ANー94が選んだのは服ではなく犬耳型のカチューシャと尻尾のアタッチメント。人形用に調整されたそれは感情によって動き、今はよほど恥ずかしいのか耳もしっぽもへたっている。

加えて、アーキテクト製であるこれがただの装飾品のはずがなかった。

 

 

「あ、もしかして嬉しくて声も出ない?」

 

「わんっ! ・・・・・・クゥン」

(そんなわけ! ・・・・・うぅ)

 

「おお、いい感じに犬っぽいね」

 

 

言葉が全て犬っぽくなるのがこれの特徴。しかもいつぞやの猫耳アタッチメントと違い、人の言葉は話せないのだ。

あまりにも情けないのか、ANー94はちょっと泣いた。

 

 

「ご、ごめんよ・・・そこまでだとは思わなくて」

 

「クゥン……」

 

「あ、お詫びにANー94が喜びそうな服を置いといたから、ね!」

 

 

 

<AK-12のお揃い服>

 

「アーキテクトさん、ありがとうございます!」

 

「お、おう・・・」

 

 

さっきまでのお通やムードから一転、目をキラキラさせながらはしゃぐANー94。彼女が来ているのは、愛してやまない彼女の姉のAK-12の服・・・のレプリカだった。

レプリカとはいえマヌスクリプト製、細部にまでこだわったそれはANー94の機嫌をあっという間に取り戻させた。

 

 

「あ、言い忘れてたけど今日着てもらったのは全部あげるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「う、うん・・・・・(まぁ機嫌も良くなったしいっか)」

 

「うふふ・・・・さぁ次にいきましょう!」

 

 

 

<メイド服(ミニスカ)>

 

「ねぇ、ご主人様って言ってみてよ」

 

「嫌ですよ」

 

「ありゃ、現実に戻ってきちゃったか」

 

 

浮かれたテンションで手をつけたのはスカート短めなメイド服、要するにメイドカフェのアレである。着替えた時はノリノリだったが、冷静になるうちにスカートの裾を掴んでモジモジし始めた。

 

 

「あ、じゃあアレでもいいよ・・・・・萌え萌えキュン」

 

「む、無理無理無理!!!!」

 

「・・・・・AK-12も喜ぶのになぁ」チラッ

 

「う、うぅぅ・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

も、萌え萌え〜・・・キュンッ♡」

 

「・・・・・・・・」カシャッ

 

「わぁああああああ!!!!???」

 

 

 

<フリフリドレス>

 

「メイド服に続いてそれか・・・・もしかして、好きなのこういうの?」

 

「ち、違います! まだマシだったからですよ!」

 

 

人生に残る一枚を撮られたANー94は、さっそとこの馬鹿げた企画を終わらせるべく次の服を選ぶ。その結果が、このフリフリ満載のゴスロリドレスだった。

くすんだ金髪がいい感じにそれっぽさを演出している。いい意味でお人形さんのようだ。

 

 

「じゃあこの椅子に座って、このぬいぐるみを抱えてくれる?」

 

「・・・・・こ、こうですか?」

 

「・・・・・誘拐不可避」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 

<巫女服+???>

 

「・・・・・・・・」

 

「あれ、顔真っ赤だけど大丈夫?」

 

「だ、誰のせいですか!」

 

 

残すところあと二着、その中で彼女が選んだのは紅白がよく映える巫女服だ。別に短いとか腋が出てるというものではないが、ANー94が顔を真っ赤にする理由は全く別である。

 

 

「こ、これ・・・・・・本当に履かないんですか?」

 

「うん、和服は全部そうだよ」(大嘘)

 

「に、日本という国はおかしいです!!」

 

「まぁまぁ見えなきゃいいんだし・・・・あ、それとこれもつけてね」

 

 

一〇〇式あたりが聞いたら激怒しそうなことを叫ぶANー94を宥めつつ、アーキテクトはスッとあるものを渡す。

それはさっきの犬耳と尻尾によく似たアタッチメントだった。

 

 

「あ、これは本当に飾りだから」

 

「こ、こんなのつけてなんになるんですか?」

 

「まぁまぁそう言わずに」

 

「もぅ・・・・こ、こうですか?」(狐巫女)

 

「・・・・・・触手とか似合いそう」

 

「???」

 

 

 

<バニー>

 

「バニーって、意外と露出少ないよね」

 

「どこがですか!?」

 

 

最後の最後、どうしても着たくなかったバニーに着替えてヤケクソ気味に出てきたANー94。胸元ギリギリまでのサイズに扇情的な網タイツ、ハイヒールも合わせてすらっと伸びた足・・・・・もちろんカチューシャとしっぽも忘れない。

 

 

「こ、これで最後ですからね!」

 

「うんうん、わかってるって・・・・・じゃ、写真撮ろっか!」

 

「うぅ・・・・」

 

 

両手で胸元を隠すようにして椅子に座るANー94。もともとキッチリ服を着るタイプの彼女は、特に肩や胸回りの露出に慣れていない。それが突然、胸から上に何もない状態では落ち着かないのだ。

・・・・・その恥じらいがいいのだが、あえて黙っておくアーキテクトだった。

 

 

「はい、じゃあ椅子の上に片足を乗せて・・・・あ、体はちょっと剃る感じでね」

 

「は、早く撮ってください〜〜〜〜!!!」

 

「それじゃあ撮りまーす。 3、2、1・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ふふっ」

 

「? 何を読んでいるんですかAK-12」

 

「今朝あなた宛に届いてたやつよ・・・・綺麗に撮れてるじゃない」

 

「撮れてるって何が・・・・・っ!? み、見ないでくださいAK-12ぃいいい!!!!!」

 

 

end




ふっ・・・やりきってやったぜ。
ところで、AK-12にコスプレさせるとしたら何が似合うのかな?意外と着ぐるみとかノリノリで着そうだけど

それでは各話の解説!

番外39-1
デストロイヤーの仕事風景&ガイア登場。
もちろんアーキテクト協力で、しかも今回はちゃんとサクヤを説得している。
しゃがんだ時の破壊力がやばい(語彙力)

番外39-2
緊張しすぎて味が分からないってあると思います。とくにM16とかこういう店って慣れてないだろうなぁ・・・・って思うとちょっと可愛い。
男女三人、同じ部屋で何も起きないはずもなく

番外39-3
口数が少ない指揮官だけど、厳しい時は厳しく。カリーナもきっとしっかりするところはしっかりすると思うんですよ。
その上で隙あらば何かを買わせようとする・・・・何この完璧な娘。

番外39-4
本当は3、4つに絞る予定だったものを、何をトチ狂ったかほぼ全部書いてしまった。
ANー94の名誉のために言っておくと、彼女は決してまな板ではない・・・ただちょっと、起伏に乏しいというだk(銃声)


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第百五十七話:17lab(変態共)の発明品

うちの作品が原作無視のキャラ崩壊著しいのはご存知かと思いますが、著しすぎて誰が原作通りなのかすら分からなくなってきました(今更)


人形製造会社『IoP』

民生用から戦術人形まで幅広く製造、販売、レンタルを行う人形業界の大手である。かつては鉄血工造とシェアを二分していたが、とある一件で鉄血工造のシェアが落ちて以来、もはや独占と見えるシェアを誇る。

そのラインナップの最大の特徴は、なんといっても個性豊かな人形たちである。量産性を落とし個々の性能向上を目指した結果、限りなく人間に近いとすら言われる出来栄えを獲得したのだった。

 

さて、そんなIoPであるが、その中でもいくつかの部署や研究所に分かれている。特に研究所はそれぞれが独立して人形の設計開発を行っており、その中でも特に優れたものが社の製品として世に送り出される。

現在は安心と信頼と確かな実績その他諸々の理由でペルシカリア率いる16labがリードしているが、ほかの部署も日々(おかしな方向で)研究を進めているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、17labへ・・・・歓迎するよスプリングフィールド君」

 

「あの・・・歓迎も何も拉致されただけなのですが?」

 

 

IoPの一研究所、17labに拉致さr・・・・呼び出されたスプリングフィールドは、いかにも警戒していますといった表情で周囲を見渡す。17labは技術力や発想、そしてその規模で16labと並ぶ研究所である。その頭脳をちゃんと使えば、16labをも凌ぐ成果を生み出せるとさえ言われるこの研究所がなぜ結果を出せないのか・・・・・理由は単純、努力の方向がずれまくっているからである。

 

 

「さて、今日君に来てもらったのはほかでもない。 実は我々は新たなダミー計画を立てているのだが、それに協力してほしい」

 

「勝手に拉致しておいて協力するとでも?」

 

「では早速説明しよう」

 

 

聞く耳持たない、というか都合の悪いことだけ右から左な研究員たちにうんざりするスプリングフィールド。本来であればさっさと見回りを終えて司令部に戻り、カフェでコーヒーを淹れて指揮官の微笑みを独占するつもりだったのだから、当然の反応である。

 

 

「戦術人形のダミーといえば、メインフレームに付随し戦闘を行ういわば子機だ」

 

「しかし昨今ではダミーを使用するほどの戦闘はおろか、そもそも戦う機会自体がなくなりつつある」

 

「これはダミーシステムの売り上げが低迷する自体であり、さらにいえば戦術人形という存在の根底にも影響しかねないのだ」

 

 

研究員たちが口々にそう言うのを、スプリングフィールドは時折頷きながら聴いている。地域によっては前線に出ることもあるという話だが、大部分の司令部はその主な任務がパトロールである。相手にするのは軽犯罪者などであり、彼女自身最後に現場で引き金を引いたのはいつなのかというくらいだ。

 

 

「そこで、我々は新たなダミーの形を模索していました」

 

「戦闘ではなく、日常での使用を前提としたダミーシステムの構築だ」

 

「そしてその試作システムがいくつか完成し、ちょうど散歩していた我々の前に現れたあなたに白羽の矢が立った、というわけです」

 

 

要するに、ただそこにいたからという理由で拉致られたらしい。スプリングフィールドはおのれの不幸を呪った。

 

 

「はぁ・・・・わかりました」

 

「おぉ、流石スプリングフィールド君!」

 

「グリフィン人気ランキング不動の上位は伊達ではないな!」

 

 

ちなみに、グリフィンの人気人形たちのランキングは主に司令部周辺の地区や各地の指揮官たちへのアンケートで決まる。スプリングフィールドの人気は製造当初から高いが、それはあくまで『ごく一般的な』スプリングフィールドの話である。

 

 

「では、さっそく調整しようじゃないか」

 

「こちらへ来てくれたまえ」

 

 

研究員たちに連れられて、スプリングフィールドは研究所の奥へと向かう。道中、怪しげな実験を行なっていたり何かよく分からない発光物を見かけたり目が血走った研究員とすれ違ったりしたが、つとめて気にしないことにした。

そうして歩くこと数分、複雑な機械が立ち並ぶ一室へと入った一行は、プロジェクターを起動して話し合いを始める。

 

 

「さて、今回君に試してもらいたいダミーシステムは5つある・・・・のだが、我々にも君にも全て試す時間はない」

 

「そこで今回は、どれか一つのダミーを使いたいと思うのだが・・・何か希望はあるか?」

 

「希望と言われても・・・・・あら、これは?」

 

 

ざっくりなカタログに目を通しながら、ふとスプリングフィールドは目を止める。より具体的には、その運用目的や開発に至った人形たちからの要望である。

 

 

「おや、それですか? ・・・そういえば、君はあの指揮官に想いを抱いていましたね」

 

「なるほどなるほど、確かにこれがあればライバルたちに差をつけられるな」

 

 

周りが何か言っているが、スプリングフィールドにはもう何も聞こえていない。ただただ脳内でその後の光景と、そのずっと先の未来を思い描いてだらしない笑みを浮かべるだけだ。

 

 

「こ、これでお願いします!」

 

「わかりました、ではこちらへ」

 

 

こうして、S09地区にまた新たな火種が持ち込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

翌日、そんな昨日のことなど知る由もないまま平和なひと時を過ごす喫茶 鉄血の面々。

だがそんな何もない日常は、案外あっさり崩れ去るものだった。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・」

 

「あ、スプリングフィール・・・・ド、さん?」

 

「ママぁ、おんなじ人が二人いるよ?」

 

「大丈夫よ()()、この人たちは()()のお友達だから」

 

 

店のベルに顔をあげた代理人が固まり、ひょこっと顔を出したDも思わず二度見する。

そこにいたのは、指揮官が絡まなければ温厚で理知的な戦術人形のスプリングフィールド・・・・・と、その彼女と手を繋いでいるかなり小さいスプリングフィールド似の少女だった。髪型や目の色はもちろん、ダウンサイジングされた服も本人そっくりであり、背中にはきっと玩具であろう小さめのスプリングフィールド銃を背負っている。そしてそのチビ・スプリングフィールドは大きい方を『ママ』と呼んだ。

 

 

「あ、コーヒーとオレンジジュースをいただけますか?」

 

「あ、はい・・・・D」

 

「へ? あ、りょ、了解!」

 

 

声をかけられてようやく動き出したものの、未だに整理がつかないのか微妙にぎこちない二人。異世界から来ようが銃を突きつけられようが動じなかった代理人がここまで動揺するというのも珍しい話である。

 

 

「ママ! あれ食べたい!」

 

「どれ? あぁこれね。 すみません、このケーキも追加で」

 

「かしこまりました・・・・あの、そちらの方は?」

 

 

流石にもう無視できないようで、代理人は恐る恐る尋ねる。するとスプリングフィールドは、待ってましたとばかりにチビの方を抱きかかえて言った。

 

 

「ふふっ、この娘は『ハル』・・・私の娘ですよ」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

 

聴き間違えだろうか、今彼女は『娘』と言った気がする。誰のか、もちろん彼女のだ。人形が子を生むのか、というか父親は誰なのか・・・・・ハイエンドの中でもさらに高度な演算能力を駆使してグルグルと考え始める代理人。ちなみにDはすでに混乱の極みのようで、片付ける食器の場所がしっちゃかめっちゃかになっている。

流石にやりすぎたと思ったのか、スプリングフィールドはネタバラシにすることにした。

 

 

「ふふふ、代理人さんでもそんな反応するんですね。 安心してください、この娘は私のダミーですよ」

 

「・・・・・ダミー、ですか? この娘が?」

 

「はい、昨日17labの方から協力してほしいと言われまして」

 

 

その名前を聞いて、あぁと納得するとともに冷静さを取り戻す。こんな馬鹿げたことをしそうなのは、かつ実現できてしまうのは間違いなくあの変態集団だけだろう。冷静に考えれば、人形が子を生むというのは通常ありえない(専用の装備に切り替えればその限りではない)のだから。

ちなみに、こことは違う世界では割とあり得る話なのだが、代理人はまだ知らない。

 

 

「・・・・一体どういう実験なんですか・・・」

 

「そこは話すと少々長くなりますが・・・・まぁただのダミーですから」

 

「そうなんだぁ・・・・はいハルちゃん、ケーキだよ」

 

「わぁい!」

 

 

しかしこうしてみると、スプリングフィールドの母親姿は意外とよく似合う。心なしか普段見られない母性的な笑みが現れ、愛おしそうにダミーを撫でる姿は本当にあのスプリングフィールドかと疑ってしまう。

 

 

「ハルちゃん、美味しい?」

 

「うん!」

 

「ありがと!」

 

 

Dはもうすっかり馴染んだようで、ハルと楽しげに話している。何が目的のダミーなのかは不明だが・・・・・まぁ悪いことにはならないだろう。

そんな時、また新たな客がやってきた。

 

 

カランカラン

「やっほー代理人」

 

「IDWだにゃー!」

 

「突然ですまないな代理人、コーヒーを三つ頼む」

 

「随分珍しい顔ぶれですね」

 

 

やってきたのは相変わらず眠たげな目のG11、対称に有り余る元気を感じるIDW、そして苦笑する指揮官の三人だ。何があってこの三人なのかは不明だが、客の詮索は不要である。

 

 

「あれ? スプリングフィールドじゃん」

 

「にゃ? その娘は誰にゃ?」

 

「え、あぁこの娘は・・・・・」

 

「あ、()()!」

 

 

瞬間、世界が止まった。それまで楽しそうに談笑していた客も、楽しげに笑っていたDも、ついでに言えば相変わらず口説こうとしていたゲッコーでさえも・・・・・全員動きを止めてハルの方を向いていた。

そのハルはスプリングフィールドの膝から飛び降りると、指揮官の足に抱きつき満面の笑みを浮かべる。

 

 

「えへへ〜!」

 

「す、スプリングフィールド?」

 

「えっと・・・これはその・・・・」

 

 

スプリングフィールドは困ったような照れたようなよくわからない表情でチラチラと指揮官を見つめ、指揮官は指揮官で何がどうなっているのか分からないようだ。

そしてその横で、G11とIDWが徐々にニヤッと笑い始める。

 

 

「そ、その娘は私のダミーでして・・・・」

 

「そ、そうか・・・だが何故「パパ、抱っこ!」・・・・私を父と呼ぶのだ?」

 

「さ、さぁ・・・・・」

 

 

知らないというつもりらしいが、目が泳いでいるあたりどうやら仕込んでいたらしい・・・・・要するに、既成事実というわけだ。

指揮官もこの状況がよくわかっていないが、何度もせびられるうちにハルを抱き抱える。その瞬間、スプリングフィールドが嬉しそうに微笑んだのを代理人は見逃さない。

 

 

「えへへ〜、パパ、ママ!」

 

「・・・・・・ふっ」

 

「・・・・・ふふっ」

 

 

仕方なし、という感じで指揮官はスプリングフィールドの隣に座る。

結果的とは言え、その姿はある意味理想的な家族のようだった。

 

 

 

end




爆弾投下!
この場にG11とIDWがいるのがミソ。

というわけで今回のキャラ紹介!


スプリングフィールド
指揮官と結ばれることを夢見る乙女(笑)
17labの提案に乗り気ではなかったが、既成事実と言われて乗らないはずがなかった。

ハル
ちっちゃいスプリングフィールド。可愛い。
小さい銃を構える。可愛い。
太陽のような笑顔で抱っこをせびる。可愛い。

17lab
発想も努力の方向も変態だが、人間と人形のために働くいい人たち。そのため、トータルで見ればプラマイ0なことが多い。

指揮官
身に覚えのない娘がいる父親ってこんな気分だと思う。見て分かる通り、子供に弱い。

G11&IDW
愉悦部。IDWとは着任時に顔合わせでピンときたらしい。
もう未来は読めてるよね?

代理人&D
流石に予想外すぎる、とは本人談。


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第百五十八話:ぶっきらぼうと世話焼きと

ライセンス生産とかも姉妹扱いにすると一体どんだけ大家族になるというのか(特にAK47とか)

これかぞ!


毎週金曜日の夜、週末を目の前に控え浮かれた客たちが飲み屋を回り始める頃。賑わいを見せる大通りからは少し外れた路地でひっそりと明かりを灯す喫茶 鉄血・・・もとい、Bar 鉄血ではこの日の酒を目当てに来る客も少なくはない。

そんなBar 鉄血では、メニューもさることながら従業員たちの装いも少し変わるのだ。

 

 

「お待たせしましたお嬢様、『夜の囁き』でございます」

 

「あぁ・・・ゲッコー様・・・・」

 

「・・・・・ほどほどにしてくださいねゲッコー」

 

 

バーテンダーのような服装に着替えたゲッコーが歯の浮くようなセリフを言いながらお手製カクテルを差し出す。その無駄に優雅な仕草と無駄に雰囲気に合ったセリフが、今宵もまた疲れた女性の心を虜にする。

趣味の延長で覚えたカクテルは大変好評なのだが、いちいち名前がむず痒いものなのはご愛嬌である。

 

 

「しかしまぁ・・・・よくもあんだけ自然に口説けるもんだな」

 

「えぇまったく、どんなAIになっているのやら・・・CZ75さんには効かなさそうですけどね」

 

「ははっ、違いない」

 

 

そんなゲッコーを傍目に見ながら、カウンター席でひっそりと酒を口にするのはツインテールに赤色系統の服が特徴の「CZ75」、グリフィンS09地区司令部に所属する戦術人形である。見た目のインパクトもさることながら、彼女が腰に背負っている戦斧は彼女のトレードマークのようなもので、普段はカバーをつけて持ち歩いている。

戦術人形が銃を携行するのは当然なので誰も気にしないが、それ以外で物騒極まりないものを持ち歩くCZ75は、下手に注目されるをの嫌って大通りの店を避けるのだった。

 

 

「ぷはぁ・・・・はぁ〜、ここは静かでいい・・・うるさい蠍もいないしな」

 

「蠍・・・というとスコーピオンさんですか?」

 

「あぁ、別に嫌な奴じゃないんだが・・・・・あのテンションは疲れるんだよ」

 

 

ちなみに、同司令部に所属するスコーピオンが彼女に絡む理由は主に四つ。同郷の銃(チェコスロバキア)であることと髪型が似ていること、そして戦斧がかっこいいという理由と、とある一点がツルペタであること。さらに余談だが、そのせいでスコーピオンはMicro Uziに一方的な対抗心を抱いている。

そんな元気の塊のようなスコーピオンに絡まれ続けるため、気がつけば一人の時は静かな店に来ることが多い。

 

 

「ふふっ、嫌ってはいないが少しうんざり、といったところですね」

 

「そんな感じだ・・・・マスター、おかわり」

 

「そうはいきませんよ、75姉さん!」

 

 

グラスを差し出し、まだまだ飲むという意思表示のCZ75だが、それに待ったをかける者がいた。姉と呼ばれて振り返ると、そこにはCZ75とは対照的にお洒落な服と大きなハット帽、サラッとした髪をなびかせた少女が腰に手を当てて立っていた。

 

 

「げっ・・・『Spitfire』・・・」

 

「75姉さん、また夕食をそんな簡単に済ませようとして!」

 

「な、なんだよ、ちゃんと食ってるだろ」

 

「お酒のあてを夕食とは認めません!」

 

 

彼女の名前は『Spitfire』、彼女が呼ぶ通りCZ75の妹・・・と呼ぶこともできるかもしれない人形である。元となった銃は直接の姉妹銃ではなく、いわゆるオリジナルと複製改造品という位置づけだ。まぁ本人が姉妹だと思っているのならそれでいいだろう。

そんなSpitfireにとって、姉は少々ガサツやいい加減に見えるらしい。

 

 

「いいじゃねえか、ちゃんと朝も昼も食ってるんだ」

 

「いいえダメです! 夕食もしっかり栄養バランスを考えたものにしないと!」

 

「夜は酒を飲みたいんだよ」

 

「ダメです!」

 

「んな無茶苦茶な・・・・」

 

 

うんざり気味なCZ75だが、それでも引こうとするつもりはないらしい。一方のSpitfireも折れる様子はなく、これは所謂平行線というやつだろう。

ちなみに彼女の言う栄養の取れた一品とは、かの有名なスターゲイジーパイである。魚肉に野菜にと必要なものは全て詰め込まれている・・・と言っているが、残念ながら英国銃ではない姉にはその見た目を受け入れてもらえていない。

 

 

「あ〜わかったわかった、じゃあ今度から気をつけるよ」

 

「本当ですか?」

 

「あぁ、約束だ」

 

「・・・・・仕方ありませんね」

 

 

やれやれといった表情でSpitfireは席につくと、大きな帽子を脱いでフゥッと息をつく。見た目も仕草も性格も全く真逆の姉妹だが、不思議と仲が悪そうには見えないのだ。

 

 

「せっかくだから何か飲んだらどうだ? 私が持つからよ」

 

「え? じゃあ・・・・・どれがいいんでしょうか?」

 

「え? お前まさか飲んだことねぇのか!?」

 

「お、お酒なんて百害あって一利なしですよ!」

 

 

この場にロシア組がいれば猛抗議必至な一言。だが彼女にとって国民的飲料は紅茶であり、言ってしまえば朝から晩まで紅茶の日々である。加えて見た目がこんな感じなので、今の今まで酒の席に呼ばれたこともない。

 

 

「じゃあこの・・・・カルーアミルク?というものを」

 

「かしこまりました」

 

「大丈夫なのか?」

 

「75姉さんの妹なら、お酒も飲めるはずです!」

 

 

なんだその理屈、とCZ75は苦笑する。人形に遺伝なんてものは存在せず、酒が飲めるか否かに姉妹関係はほぼ関係ない。416とG28の姉妹がいい例だ。

 

 

「お待たせしました、こちらがカルーアミルクです」

 

「へぇ〜、お酒っていうよりもデザートっぽいわね・・・・あ、甘い」

 

「如何ですか、初めてのお酒は?」

 

「お酒って言っても色々あるのね・・・・これは気に入ったわ!」

 

 

そう言ってSpitfireはグイッとグラスを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「んへへへ〜・・・・75おね〜ちゃ〜〜ん・・・」

 

「おい代理人、やっぱり止めときゃよかったんじゃねえのか?」

 

「いえ、ここまで飲めないとは思っていなかったので」

 

 

数分後、そこでは少々鬱陶しそうにするCZ75に、彼女の服と同じくらい真っ赤になったSpitfireがべったりとくっついていた。アルコール検査などするまでもなく酔っ払っているようだ。

その手元のグラスには、半分ほどに減ったカルーアミルク・・・まだ一杯目ですでにこの有様だった。

 

 

「おねえちゃ〜んだ〜いしゅき〜〜〜」

 

「はいはい、とりあえず水飲め水」

 

「や〜〜〜〜!」

 

「わかりやすい幼児退行ですね」

 

 

もはや口調すら変わって甘え続けるSpitfireに、代理人も思わず苦笑する。それでも見ているだけなのは、微笑ましい光景だからだろう。

 

 

「・・・・・75おねえちゃん」

 

「ん? なんだ?」

 

「・・・・・んーん、なんでもな〜い」

 

「ははっ、なんだよそれ」

 

 

呆れながら髪を撫でるCZ75。撫でられたSpitfireは少しくすぐったそうにしながらもやがて気持ちよさそうに目を細め、気がつけば静かに寝息を立て始めた。

 

 

「・・・寝ちゃいましたね」

 

「そうだな・・・・じゃあ私らは帰るよ」

 

「お一人で大丈夫ですか? もし良ければ人を貸しますが」

 

「大丈夫大丈夫。 それに・・・・・今日は二人で帰りたい気分なんだ」

 

 

そう言ってニカっと笑うと、CZ75はSpitfireを背負って店を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

 

 

「75姉さん、今週もあのお店ですか?」

 

「あぁ、お前も来るか? 酒はダメだけど」

 

「む・・・何故ですか? 飲んだことがないだけで飲めます!」

 

「いや、だからお前は一回飲んで・・・・ダメだ、聞いちゃいねぇ」

 

 

その日、再び訪れたSpitfireが再び酔っ払うのは当然の結果だった。

 

 

 

end




初見で「75姉さん」がまさか本当にCZ75だとは思わなかったくらい似てないなこの二人。でもその似てない感じがより微笑ましさを増すと思います(断言)

それでは、今回のキャラ紹介

CZ75
口調が荒っぽく見た目も行動もワイルドな人形。専用の戦斧には何故かスコープが、これを使っているところを見たことがない。
なんだかんだ言ってSpitfireのことを大切に思っている。

Spitfire
いかにも英国っぽい格好だなぁと思いました(小並感)
普段は「75姉さん」だが酔うと「75おねえちゃん」になる。姉を心配しすぎるあまり過保護でややストーカー気味になってしまっている。


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第百五十九話:自覚のない娘の背を押そう

気がつけば一週間が経ってしまった。
必要なものを買い足したり周辺地理覚えたり路線覚えたり・・・あとやっぱり東京の地下鉄は魔境だな!


S09地区は、街の中心を走る大通りを起点に大小様々な路地が、まるで蜘蛛の巣のように伸びているのが特徴である。いくつかの道は自動車や大型車両が通ることができるくらいの広さはあるが、大多数はよくて一方通行、もしくは小型車両以下の狭い道だ。よってこの町での主な交通手段は、街の中心を走るバスか二輪、そして徒歩である。

そんな少々狭い道を抜けた先にある喫茶 鉄血の前に、どこをどうやって通ってきたのか一台のサイドカーが姿を表す。そこそこのサイズのそれから運転手らしき男性が降りると、サイドカーに乗る女性をエスコートするように手を差し出す。

 

 

「着きましたよ、お嬢様」

 

「・・・・・・・・」

 

 

が、何故か女性はその手を取らず、プイっとそっぽを向いて歩き始める。やや大股で歩くその雰囲気は、わかりやすく怒っていた。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいませ・・・・あら、スケアクロウじゃありませんか」

 

「お久しぶりです代理人」

 

「今日はお一人ですか?」

 

「・・・・・いえ、彼も一緒です」

 

「?」

 

 

現れた女性・・・スケアクロウの様子が普段と違うことに首をかしげる代理人。その後ろを見ると、そんな彼女が専属ボディーガードとして雇っている傭兵、レイが困ったような顔で入ってくる。まぁおそらく、雇い主の機嫌を損ねるようなことがあったんだろう。

 

 

「何があったかは聞きませんが、とりあえず一度落ち着いてみては?」

 

「・・・・わかりました、ではコーヒーを」

 

「あ、俺も同じもので」

 

「かしこまりました」

 

 

二人ともコーヒーを注文し、しばらく待つ。こういう時、いつもならばここで仕事やプライベートの話があったりもするのだが、今日はそれがないどころかスケアクロウに関してはレイの方に見向きもしない。

怒っているのは一目瞭然だが、それでも険悪な関係になってしまっているわけではないようで、レイの方を気にするようにチラチラと見ている。

 

 

「お待たせしました・・・・喧嘩も構いませんが、程々にですよ?」

 

「いや、そういうんじゃないんだけどな・・・」

 

「・・・・・いただきます」

 

 

微妙に重い空気の中、二人はそれっきり無言でコーヒーを啜る。いつのまにかレイは店に置いてある新聞を広げ、スケアクロウはその様子をちょっと怒ったふうにして見ている。まぁきっと、聞けばくだらないことが原因なのだろう。

さてそんな様子でしばらくし、二人とも何杯かお代わりもした頃、ふとレイは新聞を置き電話を手に店を出た。直前に聞こえた内容だと、しばらくかかりそうだ。

 

 

「ふぅ・・・・で、何があったんですか?」

 

「・・・・・聞かないんじゃなかったんですか?」

 

「姉としてのお節介ですよ・・・・・素直になれない妹のための、ね」

 

 

そう言ってクスクスと笑う代理人に、スケアクロウは胡散臭そうに顔をしかめる。おそらく姉としてのお節介という言葉に嘘偽りはないのだろうが、それ以外にも少々この状況を楽しんでいるように感じられるのだ。かつてより表情が増え明るくなったことを喜ばしく思うべきか、憎たらしく思うべきか。

 

 

「サービスでケーキをお付けしますから」

 

「・・・・・はぁ、わかりました。 ではお話ししますわ」

 

 

これはおそらく終わらない追求だろう、そう判断したスケアクロウは渋々話すことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・私って、魅力ないんでしょうか」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

数分後・・・体感的には数時間にも及ぶ苦言、もとい惚気話を聞かされた代理人は黙って自分用のコーヒー(超深煎り)を用意し、聞き耳を立てていた客たちも次々とブラックコーヒーを注文し始める。

 

さて、話をまとめてみると・・・・・なんのことはない、ただ乙女がヤキモキしているだけの話だ。

スケアクロウ本人は未だにそうではないと言い切るのだが、彼女がレイに好意を抱いているのは周知の事実である。そんなわけでほぼ毎日のようにレイにべったりでご満悦だったスケアクロウだが、ある時事件が起きる。

それは約一ヶ月前の2月14日・・・そう、バレンタインである。その日さも当たり前かのようにスケアクロウはお高いチョコを用意し、レイに渡した。ところがここで一悶着起きる。

 

 

『それ、いくらだ?』

 

 

デリカシーの欠片もない・・・とはいえこれには理由がある。スケアクロウは事あるごとにレイにプレゼントを渡そうとする節があり、それはまぁイイものをプレゼントするのだ。ところがレイの立場で見れば相手は雇い主、契約報酬をもらっている身でさらに何かを渡されると、嬉しさよりも何か裏があるんじゃないかと不安になったりするらしい。

そんなこんなのショックな出来事があってもとりあえず受け取ってもらい、さらにその一ヶ月後。

 

 

『なぁ、先月のお返しなんだが・・・・・』

 

『え? じ、じゃあ・・・・』

 

『あれと同じ値段のやつならプラマイ0にできるよな?』

 

『・・・・・は?』

 

 

傭兵とはどこまで行っても金勘定なのかと呆れたくらいだ。それ以上にそこそこの勇気を出して渡したものをなんとも思っていない感じが気にくわない。

というわけでそれから一週間ちょっと、事務的な事以外一言も話していないのだった。

 

 

「もちろん彼が傭兵で、金銭のやりくりに苦労していた過去は知ってます・・・・・けど、私がそんな裏を持つような人物に見えるのでしょうか?」

 

「それは・・・・・・」

 

「まったくだ! こんな美人のねーちゃんを悲しませやがって!」

 

「同じ男として嘆かわしいぜ!」

 

「ミセス鉄血、俺たちゃあんたの味方だ!」

 

 

本人がいないのをいいことに、周りで聞き耳を立てていた客たちが騒ぎ始める。

ちなみにミセス鉄血とはスケアクロウの通り名であり、もともとは『人形は誰かの所有物』という当時の風潮からのあだ名だったのだが、ここ最近はレイと合わせて『夫婦』のように見られることからそう呼ばれている。

 

 

「大丈夫ですよスケアクロウ、あなたは十分魅力的ですから」

 

「そ、そうですわね! やっぱりレイが少し鈍いだけ」

 

「ですが、口に出さなければ伝わらないことだってあります。 彼からすれば、あなたが勝手に怒っているだけにも見えるかもしれませんよ」

 

 

重ねて言うが、レイは傭兵だ。契約と報酬の上での人間関係であり、スケアクロウとの関係もそれに当てはまる。スケアクロウは彼を全面的に信用しているが、レイからすれば雇い主と雇われである。

当然、信頼していると言っても雇い主としてだろう。

 

 

「で、ですが・・・なんと言えば・・・・・・」

 

「そこは難しいところですが・・・・一言『好きです』と言ってみるのは?」

 

「なっ!? そ、それではまるで告白みたいではありませんか!?」

 

 

そうだよ、と心の中で一致する客と従業員。というかやっぱり、自分の感情がソレだとは気づいていないようだ。

 

 

「わ、私はただ、普段のお礼に渡したいだけで・・・・」

 

「本当にそれだけ?」

 

「・・・・で、できればこれからも一緒にいて欲しいと・・・」

 

「一緒に、ってのはどこまでのことなんだ?」

 

「ぷ、プライベートでも・・・・とか・・・・・」

 

「「それは間違いなく『恋』だ(よ)」」

 

「しれっと混ざらないでくださいマヌスクリプト、ゲッコー」

 

 

こういう話には目ざとい二人に詰め寄られるも、なおも認めたがらないスケアクロウ。代理人も意外だと思ったのが、スケアクロウはもしかしたら鉄血一純粋な娘なのかもしれない。

あれこれ思い浮かべてはうぅ〜っと唸りながら赤くなるスケアクロウ。そしてタイミングがいいのか悪いのか、長電話を終えたレイが店内に戻る。

 

 

「まったく、どれだけ勧誘されてもグリフィンの指揮官なんて・・・・あれ、どうしたんだスケアクロウ」

 

「ふぇっ!? ななななんでもありませんわ!?」

 

「ちょうどいいとことに来たなレイ、どうやら彼女から話があるらしぞ」

 

「はひっ!?」

 

「え? どうした?」

 

 

もはや逃げ場なし、背水の陣どころか溺れる一歩手前である。先ほどまでとは違う雰囲気のスケアクロウに例も首をかしげるが、まぁ何か不満があるのなら言ってもらおうと思っていた。

 

 

「う、うぅ〜〜〜〜!」

 

「・・・・・スケアクロウ?」

 

「〜〜〜〜はうっ!?」ボフンッ

 

「スケアクロウ!?」

 

 

ハイエンドモデルの電脳を持ってしても整理がつかなかったのか、オーバーヒートを起こしてその場に倒れ込んでしまった。ただならぬ様子に慌てて抱き起こすレイだが、故障ではないという代理人の判断でホッと胸を撫で下ろす。

 

 

「で、結局何が言いたかったんだ?」

 

「ふふ、それはまた本人から聞いてください」

 

「とりあえず、一人の女の子として話を聞いてあげるといいよ」

 

「え? 男の俺に相談していいことなのかそれ?」

 

「鈍いな・・・・まぁいい、とりあえず言う通りにすればいいさ」

 

 

相変わらず頭の上に「?」を浮かべるレイだが、とりあえず気絶したスケアクロウをサイドカーに運ぶ。気を失っている間にお姫様抱っこをされていたと知ったらどんな顔をするのか、と一人面白そうに微笑んでいた代理人は、去り際のレイに一言だけ伝えた。

 

 

「・・・・・その娘のこと、よろしくお願いしますね」

 

「? あぁ、任せとけ」

 

 

おそらく大した意味なんて伝わっていないのだろうが、それでも構わない。代理人はレイたちが去った後を見つめ、ふとウェディングドレスを纏った彼女の姿を想像して、クスッと笑うのだった。

 

 

end




いかんいかん、この調子だと週一投稿も危ういぞ(4作品も連載しておいて今更)
まぁ失踪はしないつもりです。もし続けられなかったら活動報告で書きますので笑


では、今回のキャラ紹介

スケアクロウ
今回で恋する乙女にランクアップ。相手は鈍感朴念仁だけど頑張れ!

レイ
悪気があるわけじゃない、ただ傭兵稼業の癖みたいなもの。
これ以上スケアクロウを悲しませるならタコ女ぶつけるぞコラァ!

代理人
可愛い妹の可愛い悩みにちょっと調子に乗る。

マヌスクリプト
面白そうだったからつい

ゲッコー
同上


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第百六十話:鬼教官

ドルフロの新しいログイン画面きたぁぁぁああああ!!!!
鉄血メインキタァァアアアアア!!!!!!
代理人可愛いヤッタアアアアアアア!!!!


HK416とUMP9は恋仲である。隙あらばイチャつく二人はこの街のいわば名物カップルのようなもので、見かけると思わずほっこりしてしまうことで有名である。彼女たちが特に訪れている喫茶 鉄血では、その光景が頻繁に見られるのだ。

そして今日も、二人は一つのパフェを互いに食べさせ合うという甘ったるいことをしていた。

 

 

「はい、あーん」

 

「あむっ・・・・ん〜〜、美味しい!」

 

 

付き合い始めた当初は公衆の面前でこんなことをする度胸すらなかったというのに、いつの間にか周りの視線など一切気にしなくなった二人は、客のブラックコーヒーですら激甘ドリンクに変えてしまうほどの糖分テロになってしまったのだった。

ちなみにこの二人がパフェを頼むときは、特に何も言わずともスプーンが二つついてくる。代理人含め喫茶 鉄血の従業員にとってはもう慣れたことなのだ。というか、慣れなければやってられない。

 

 

「えへへ〜、416もう一口〜」

 

「はいはい・・・って9、ほっぺにクリームついてるわよ、ちょっとこっちに寄って」

 

「え? うん、わかっt(ペロッ)っ!?!?!?」

 

「ふふふ、ご馳走さま♪」

 

「もうっ、416!」

 

 

甘い、甘すぎる。慣れている代理人たちでも見ていて恥ずかしくなるようなことを平然と行う416に、客たちからは尊敬の眼差しが送られる。

ご存知の通り普段は9が元気よく突っ走り416がそれを冷静に止めるのだが、これがプライベートでいちゃつき始めると一転し事あるごとに416が攻めるのだ。それに翻弄される9とセットで、この甘々空間は加速される。

 

 

「お二人とも、とやかくは言いませんが程々にですよ」

 

「あら、ごめんなさいね代理人」

 

「そ、そうだよ416! 私だって恥ずかしいんだから・・・・」

 

「ふふっ、そうね。 じゃあ続きは宿舎に戻ってから、ね?」

 

「〜〜〜〜〜///」

 

 

まるっきり反省している気配のない416に、代理人は呆れたようにため息をつく。流石に店の中でおっ始めようとするなら出禁にしてでも止めるつもりだが、生憎とそれ以外の場所では干渉しようがない。というかここ最近、416の方の我慢のハードルが著しく下がっているように見えるのだ。

・・・・・まぁ、いつぞやには路地裏で9を襲ったらしいし今更だが。

 

そんな416の背後、店の扉が静かに開き一人の少女が入ってくる。白を基調としたコートに凛とした瞳、背筋はピンと伸ばされ小柄ながら厳かな雰囲気の彼女は、まるで騎士を思わせる。

右腰のホルスターから覗く拳銃と右腕の杖という独特な出で立ちから、どうやら戦術人形のようだ。

 

 

「ほぉ・・・・・・・」

 

 

店内をぐるりと見渡し、最後に416の後ろ姿を捉えると小さく呟く。すると彼女は未だ気付いていない416の元へと静かに歩き始めた。

店の床から靴音と杖の音を鳴らし、相変わらずニンマリと笑ったままの416の背後に立つ。ここでようやく9がただならぬ雰囲気に表情が固まり、それに気付いた416が振り向く。

 

 

「? あら、なにかようかし・・・・ら・・・・・」

 

「久しいな、HK416・・・・随分と楽しそうではないか」

 

 

瞬間、416の表情が凍りついた。そのままサーっと音が聞こえそうなほど血の気がひいていき・・・・・慌てて立ち上がるとビシッと敬礼した。

 

 

「お、お久しぶりです教官!」

 

「うむ、楽にしていいぞ」

 

 

表情を一切変える事なく、教官と呼ばれた少女・・・・戦術人形『ジェリコ』はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、初めましてだな。 私はジェリコ、よろしく頼む」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

 

ガッチガチに固まった416の隣で、9も同じく固まる。非番とはいえ416の上司に会うのだから、当然といえば当然である。代理人が少しでも場を和ませるために持ってきたケーキにも、全く手をつけていない。

 

416が『教官』と言うように、彼女は416の元上司であり416は彼女の教え子の一人だ。404に配属(当時表向きは別部隊への配属、のちに消息不明とされていた)する前の部隊を率いていたのがこのジェリコであり、416にとっては恩師であり尊敬すべき先輩である。

 

 

「そう緊張しなくてもいいぞ、UMP9」

 

「え? なんで私の名前を?」

 

「教え子が所属する部隊のメンバーくらい、把握していて当然だ」

 

 

さらっと言うが、彼女は416が配属された当初から・・・つまり、まだ表向き『存在していない部隊』だった頃から知っているのだ。どうやって調べたのかは本人のみぞ知る。

コーヒーを一口飲み、ふぅっと息を吐く。それに合わせて416と9もぎこちない手つきでカップを取り、コーヒーを飲む。

 

 

「・・・・で、二人は付き合っているんだったな」

 

「「ブッフゥーーーー!!!!」」

 

 

思わずむせる二人。幸いカップの中で吹き出したため周りに飛び散ることはなかったが、鼻と気管に入ったコーヒーにゲホゲホと咳き込む。

 

 

「きょ、教官、なぜそのような・・・・」

 

「ん? いや、外から見てもわかるくらい仲睦まじかったからてっきり・・・・違うのか?」

 

「いえ、その通りですが・・・・」

 

 

416が言いたいのはそこではなく、堅物なイメージのジェリコがそんなことを言ってくるとは思っていなかったからだ。かつて同じ部隊だった頃ならば「色恋沙汰にうつつを抜かすなど」云々を言われたはずだ。

 

 

「十二分に人生を謳歌しているようで結構だ。 私も少し安心したよ」

 

「・・・・・・え?」

 

 

今度こそ、416は目を見開いてぽかんとする。あの鬼教官が、規律と厳格な行動を重んじるあのジェリコがそんなことを言うとは思ってもみなかったのだ。隣の9は未だに落ち着かない様子で416とジェリコを見ている。

 

 

「私がお前の指導を任されていた当時、人形に対する風当たりがまだ厳しかった。 不信感を抱かせれば最悪待つのは解体だった。 故に優秀な兵士であるように、模範的な人形であるようにと教えてきた」

 

「きょ、教官?」

 

「しかし、今はむしろ逆だ。 いかに人間社会になじむことができるか、いかに人間たちとコミュニケーションを取れるかだ。 そういう意味では、私の指導は全て裏目に出てしまった」

 

 

ジェリコはカップを置き、まっすぐ416を見つめる。その表情は教官だった頃には見られなかった、優しいものだった。

 

 

「だから、お前があんな風に笑っているのを見て、嬉しかったのさ」

 

「教官・・・・・」

 

 

人形たちは人間と違い、所謂『親』という存在はいない。無論、設計開発や製造担当がそれにあたるといえばそうだが、特にそういう目で見るということはない。AR小隊は例外的にペルシカが面倒を見ている関係で親という認識もあるが。

そんな彼女たちにとっての『親』・・・・・言うなれば『尊敬し敬愛すべき相手』というのは、配属されるまでの教導を務めてくれる先輩人形たちである。

HK416にとってそういう存在であるジェリコからの言葉は、416は思わず涙を流す。

 

 

「それと、UMP9」

 

「は、はい!」

 

「・・・・・これからも、彼女のことを頼む。 私の大切な教え子の一人だからな」

 

「・・・・・・・はい!」

 

 

元気よく返事を返す9に、ジェリコは満足げに微笑む。それからコーヒーに口をつけると、再び口を開いた。

 

 

「よければ、君たちのことを話してくれないか? この地区のことや、404小隊のこと。 そして、君から見た416のことも」

 

「もちろん! じゃあまずは・・・・」

 

 

すっかり打ち解けたように明るく話し始める9。時々416の補足が入り、二人がよく利用する店ということで代理人も話に入る。

騒がしくも平和な彼女たちの話に、ジェリコも嬉しそうに耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・で、でも、せめて仕事中はやめてほしいかな・・・恥ずかしいし」

 

「なっ!? も、もとはといえばそっちから来たんでしょ!」

 

「ふふっ、巡回中にこっそり・・・・というのは結構目撃されていますからね」

 

「・・・・・・・ほぉ、つまり職務を全うせずに公私混同、と?」

 

「「ギクゥ⁉︎」」

 

「二人とも、詳しく話してもらおう・・・・・・いいな?」

 

「「は、はい・・・・・」」

 

 

 

end




公式で416やネゲヴの教官だという話を聞いて思わず書いてしまった、後悔はしていない。
それはそうとログイン絵の奥でクルーガー社長がエプロン来てますよね?何気にログイン絵によく出るあたり運営もお気に入りだな

では、今回のキャラ紹介!


ジェリコ
自分に厳しく、他人にも厳しく・・・という仕事人間、もとい人形。とはいえ何でもかんでもお堅いというわけではなく、公私を分ければ割と融通が効く。
杖をついてはいるが戦闘その他には一切支障はない。
説教がかなり長い。

416
ジェリコの元部下というのは公式設定らしい。この状況を例えるなら、かつてガリ勉だったけど大学のサークルで弾けて、その姿を当時を知る親の知人に見られた感じ(謎)
このあと滅茶苦茶説教された

9
気分は彼女の父親に挨拶する感じ。
もちろんこのあと滅茶苦茶ry

代理人
爆薬庫に火のついたライターを投げ入れてしまった。
これが偶々なのかわざとなのかは、彼女のみぞ知る。


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番外編40

そういえば6月にドルフロのイベントが予定されてますね。
これまで距離的に難しかったイベントに参加できる機会が訪れようとは・・・・・それまでにコロナが収束してくれることを願うばかりです。

そして今回のラインナップ
・需要過多
・酔いどれドールズ
・変化
・ダラけた部隊に喝を


番外40−1:需要過多

 

 

17labがダミー人形(ロリ)を開発した

そんな情報は驚くべき速さで司令部を駆け巡った。理由は言うまでもなく、口がやたらと軽い人形(G11)デフォルト大音量人形(IDW)のせいである。それ以外にも件のスプリングフィールドは司令部のカフェで働いているため、その(ダミー)であるハルも当然そこにいる。

まぁつまり、そんなものを見れば暴走する人形が一定数いるわけで・・・・・

 

 

『あ、17labですか? 実はお願いしたいことが・・・』

 

『私のダミーも作っていただけませんか?』

 

『言い値で構いませんので』

 

 

こんな感じで、業務開始の朝から電話が鳴りっぱなしなのだ。問い合わせメールも殺到し、17labは一時的に大パニックに陥っていた。

もともと彼らもこういった自体は想定していたのだ。スプリングフィールドを巻き込んだ時点で他の指揮官ラブ勢が目をつけるなど愚問中の愚問である。

だが、事態はそれだけに止まらなかった。なにせダミーであれば多少の書類と手続きだけで申請できる上に、同性だろうが人形同士だろうが一切関係なく子供を作れてしまう。

 

 

『わ、私のダミーもお願いできるかしら・・・できればその、ハンターの要素も入れてくれると嬉しいんだけど』

 

『髪型はあたいで、顔立ちは45・・・あ、服はあたいと45のやつ両方で!』

 

 

こんな感じで、人形同士のカップルやその未遂の発注も多々あり、まだ技術試験中の段階であるにもかかわらず驚異的な需要を生み出していた。

 

 

「主任、どうしますかコレ?」

 

「とりあえず、認可待ちとしておいてくれ。 それと、指揮官や当人らでの合意を解る形で提示してほしいともな」

 

 

こうして、人形たちの暴走は一時的に収束されることとなる。この後このダミーについては『本人の趣味の領域』という区分になってしまい大層膨大な金額が設定されるのだが・・・・・そのせいで人形たちのモチベーションが跳ね上がったのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外40−2:酔いどれドールズ

 

 

「でへへ〜、75おねえちゃ〜ん♪」

 

「ああもう、またかよ」

 

「あらあら、今度はかなり度数を下げてみたんですが」

 

 

週に一度のBar 鉄血、それを楽しみにやってきたCZ75だが、当然のようにSpitfireもついてくる。そして前回酔い潰れたことすら知らずに再び酒を口にし、また酔っ払ってしまっていた。

 

 

「こいつホントに酒ダメだな」

 

「そうですね、そしておそらく・・・」

 

「あぁ、今回のことも忘れるだろうさ」

 

 

ここのSpitfireは驚くほど酒に弱い。度数わずか数パーセントの酒で酔い潰れ、普段のきっちりとした雰囲気が吹き飛んでしまう。おまけに寝て目が覚めると酔っている間のことを綺麗さっぱり忘れてしまうのだ・・・・・記録領域ガバガバすぎやしないだろうか。

 

 

「まぁ帰りはまた背負って帰るよ、とりあえず水をくれ」

 

「はい、どうぞ」

 

 

代理人は水を渡し、別の客の元へと向かう。今日は客の入りが少なく、カウンターに座るのはCZ75とSpitfireの二人だけ。相変わらず壊れたラジオのように「75おねえちゃん」としか言わない妹の頭を、CZ75はそっと撫でた。

 

 

「んふふ〜、くすぐったいですよ〜」

 

「やれやれ、普段もこれだけ大人しかったらいいんだけどなぁ」

 

「・・・・75おねえちゃん」

 

「ん? なんだ?」

 

「・・・んふっ、なんでもないですよ〜♪」

 

「・・・・・まったく」

 

 

そう呟きため息をつくCZ75。

その表情は、紛れもなく姉として見守るものだった。

 

 

end

 

 

 

番外40−3:変化

 

 

最近、雇い主であるスケアクロウの様子がおかしい。

発端といえば今年の2月・・・後で思い出したがバレンタインとやらだったあの日だ。それまで他愛のない話で盛り上がれるくらいに話せていたのが、急にスケアクロウが挙動不審になり始めた。そのちょっと前からそういったそぶりがなかったわけではないが、ここまではっきりしたのはそれが初めてだった。

 

次の転機はその一ヶ月後。世間でいうところのホワイトデーだが、生憎世間一般の感覚に疎い俺は『お返し』の最適解を見つけられないでいた。で、どうやら不必要なことを言ってしまったようでしばらく雇い主はご機嫌斜めだった。

ところがつい先日、喫茶 鉄血で少し席を外した時にまたまた態度が一変していた。しかもそれ以降、何故かまともにこっちを見てくれなくなった。

 

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・なぁスケアクロウ」

 

「な、なんでしょうか」

 

「正直俺の至らぬところがあるのは認めるけどさ、今度は何に怒ってるんだ?」

 

「べ、べつに怒ってなどいませんわ。 ただ・・・・」

 

「ただ?」

 

「〜〜〜〜っ、やっぱりなんでもありませんわ!」

 

 

そう言ってプイっと横を向いてしまう。ここ最近こんなのばっかりで、正直気が滅入ってくる。無理にでも問い詰めたいところだが、生憎今は運転中だ。脇見運転、ダメ絶対。

 

 

「・・・・・・レイさん」

 

「ん?」

 

「・・・次の街に着いたら、先に寄ってほしい場所があるのですが」

 

 

こっちから話しかけることはあっても、あっちから話すことは滅多に無くなってしまったのだが、珍しく向こうから声をかけてきた。というか、寄ってほしいところ?

 

 

「べつに構わないが・・・・またなんで?」

 

「で、できれば、聞かないでいただけたらと・・・・」

 

「? まぁいいさ、雇い主様の依頼だからな」

 

 

そう言うとなんだかまたムスッとしたような気がしたが、多分気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S09地区を出た日、代理人のアドレスでマヌスクリプトさんとゲッコーさんから連絡をいただきました。

連絡、というよりかはアドバイスに近いものでしたが。

 

 

『そういえば次の公演、U02地区の方だよね?』

 

「え? えぇ、そうですが」

 

『ふむ、なら想いを伝えるには最高のタイミングだな』

 

『そうそう、なんたってそういう縁起のいい街だからね!』

 

「そういう・・・・・あ!」

 

『ふふふ、頑張るんだよスケアクロウ』

 

『補足するなら、その中でも東側にある高台の公園に行くといい。 街並みを一望できて雰囲気も申し分ないぞ』

 

 

誰かに背中を押してもらう、というのがこれほど力強いとは思っていませんでした。それにあの街に行くのは決定事項、なら後は覚悟を決めるだけ。

私はレイに気づかれないように、グッと拳を握り締めました。

 

 

end

 

 

 

番外40−4:ダラけた部隊に喝を

 

 

グリフィン特殊部隊「404小隊」。かつては表向き存在しな非合法な部隊(4 0 4 N o t F o u n d)として、そして正式に部隊として登録されて以降はARと並ぶエリート部隊としてその名を馳せている。AR小隊を『表』とするならば彼女らは『裏』、グリフィンが誇る双璧と言っても過言ではない。

・・・・・・というのが世間での認識だが、悲しいかな特殊部隊というものはより難易度の高い任務に投入される。そしてここ最近のグリフィンの主な仕事といえば、管轄地区の警邏や護衛などなど。

はっきり言おう、彼女らの出番はほとんどないのだ。

 

 

「ま、そのおかげで楽できるんだけどね」

 

「楽しすぎてもう眠くもならなくなっちゃったよ」

 

「あたいは45の入れればそれでいいんだけどね〜」

 

「私もお姉さまといれれば〜」

 

 

そんな彼女たちは当然暇を持て余している。簡単な警備任務に駆り出されることもあるが、有事の際に不在では元も子もないので基本的に司令部に待機している・・・・・まぁ実際は街へ買い物に出かけたりしているのだが。

 

 

ピンポンパーン

『えー、404小隊の皆さんは至急指令室へお集まりください』

 

 

放送がなった瞬間、彼女らは即座に動き出す。乱れた服装を直しつつ髪を整え、司令室までのわずかな距離でものの見事に準備を終える。もっとも、これか『404小隊』として培ってきたものであるため、特殊部隊出ではないゲパードや40はやや遅れるが。

 

そして放送がなってからわずか数分、ほぼ移動時間のみで司令部の扉が開かれた。

 

 

「404小隊、二名を除き参上しました」

 

「ってあれ? 二人ともいるじゃん」

 

 

そこにいたのは404小隊の残り二名である416と9、そして45たちは見覚えのない白い人形・・・ジェリコである。

 

 

「ふむ、時間は守れるようだな」

 

「・・・・・ねぇ指揮官、この態度のデカいのはなんなの?」

 

「ちょっ、45姉失礼だよ!」

 

 

やたらと上から目線な人形にカチンときた45は、いつもの癖で辛辣な一言を放つ。知っている者からすればよくあることだが、そうでなければ怒りを買いかねない。

そして珍しく9がフォローに入る。よく見るとチラチラと顔色を伺うようにしてジェリコを見ており、一方の416は一切微動だにしないまま立っている・・・・・その日体から冷や汗が出ているが。

 

 

「? 二人ともどうしたのよ」

 

「45、お願いだから今回だけは静かにしてて」

 

 

416らしからぬほどの固い雰囲気に、45はさらに不信感を強める。場の空気はどんどん悪くなるが、そこでようやく指揮官が口を開いた。

 

 

「突然ですまないな。 彼女は本部の教導隊に所属するジェリコだ」

 

「はじめまして、404小隊の皆さん。 以後お見知り置きを」

 

 

本部の教導隊・・・それは各々の司令部が独自に編成している教導部隊とは訳が違う、人形の指導を専門とする集団だ。グリフィンではIoPから納入された人形はまず本部へと配属され、そこでの訓練ののちに各司令部へと配属される。その間の訓練を請け負うのが、彼女達『教導隊』である。その行動指針は、『配属即最前線』・・・要するに配属されたその日から戦力となるように、というものだ。

そんな教導隊様が一体なんのようなのか、と45は疑念を深める。

 

 

「あら、本部の教導隊様が何の用かしら? 言っとくけど、今更ご指導いただくようなことはないわよ?」

 

「あぁ、その件だが・・・」

 

「はい! それでは説明いたします!」

 

 

一触即発ムードが漂う中、まるでタイミングを見計らっていたかのように扉を開け放ちカリーナが姿を現す。まぁぶっちゃけ口下手というか必要最低限くらいのことしか言わない指揮官に説明させるよりかはまだなだめやすいだろう。

45は鼻をフンっと鳴らして引き下がり、ジェリコはまるで意に介さずに立ったままだ。

 

 

「まずジェリコさんは、本部からこちらに臨時で配属となっているため、特定の部隊への所属ではありません。 各司令部での訓練の質向上を目的としていますので、主に訓練への助言や補助をしていただきます」

 

「・・・・・じゃあ何で私たちが呼ばれたのかしら?」

 

 

今の説明だと、全体集会でも開いて伝えれば事足りる内容だ。あえて404を集合させる意味は無いと、45は言外にそう言った。

しかしそれに対し、カリーナは怪しい笑みを浮かべながらジェリコと指揮官を見る。ジェリコは相変わらず直立不動、指揮官も軽く目を合わせて頷いただけだ。

 

 

「実はですね、ジェリコさんはこちらに来られる前にHK416さん、UMP9さんのお二方と会っていまして」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・二人とも、どうしたの?」

 

 

名前を挙げられた二人は、ジェリコと同じく直立不動のまま話を聞いている。二人とも素行が悪いというわけでは無いが、こういう会議やブリーフィングの際にビシッと姿勢を正して聞くタイプでは無い。というかそんなところを一度も見たことがない。

45の不審感が二人に向きはじめた頃、今度はジェリコが口を開いた。

 

 

「二人から君たちのことは聞いている・・・・・長らく暗部として戦ってきた歴戦の部隊であると。 ここの技量も申し分なく、私が教導を請け負う必要がない、ともな」

 

 

だが、と続けたジェリコの瞳は、先ほどまでよりも一層冷たい色になる。

 

 

「ここ最近、どうも規律が緩んでいるそうじゃないか」

 

「・・・・・・・・」

 

「目を逸らすなUMP45」

 

 

思い当たる節などない・・・と言い切るには些か、いやかなりダラけすぎたと思う。同じようにG11を始め隊員全員が目を逸らしているのが何よりの証拠だ。

 

 

「よって、私が貴様らの生活態度、習慣、その他規律を律してやる」

 

「ちなみにこの提案は私と指揮官様にも通されており、既に了承済みです」

 

「はぁ!?」

 

「そして、隊の規律はまず部隊長が率先して守らねばならない。 よって、私がこの司令部にいる間は貴様らと同室になる」

 

「嘘でしょ!? きょ、拒否! 拒否するわ!」

 

「UMP45、これは命令だ」

 

「指揮官!?」

 

 

その日、司令部からは45の絶望に染まった悲鳴が響き渡ったという。

 

 

 

end




ログイン画面が鉄血になってるから誰かのスキンも鉄血風のが出るんじゃないかなーとか期待してみたけどそんなことはなかったね!
アナイアレイターみたいなのでいいから鉄血スキン出してよ、鉄血部隊組ませてよ!(血涙)

そんなことは置いといて各話の解説!

番外40−1
17labのダミー騒動。
もはやダミーとはなんぞやというレベルでオーダーメイドの発注が殺到することに・・・・・ワイも9ちゃんのダミーが欲しいんや

番外40−2
自分で書いておいて酔ったSpitfireちゃんが可愛すぎたのでまた酔ってもらった。
この子に上目遣いで「おにいちゃん」とか言われた日には昇天すると思う。

番外40−3
U02地区について
U02地区が縁起の良い街とされる理由はその名前からで、「U02」を並び替えると「02 U」・・・つまりは「02(To)U(You)」、ということで想いを伝えるとそれが届くというふうに言われている。
・・・・・という深夜テンションからできた話です。

番外40−4
ここまで長くなるつもりはなかったんや・・・・・
うちの404のだらけっぷりは、休日をジャージで寝ながら過ごすくらいには手遅れです。


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第百六十一話:ハイエンドたちの休日

イヤッフゥゥウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!
鉄血大集合のログイン絵とか最高かよこれだけでコロナにだって勝てるぜヒャッハーーーーーーーーー!!!!!!
(後書きに続く)


「これとこれと・・・これは前に着せたやつで・・・」

 

 

ゴソゴソとクローゼットに頭を突っ込み、ブツブツとぼやきながら服をかき分けるマヌスクリプト。喫茶 鉄血が三階建てに改装されてからしばらく経つが、今でも彼女の部屋だけは頻繁にレイアウトが変わるのだ。その理由は色々あるが、最も多いこととすれば・・・・・

 

 

「う〜ん・・・まだ着てもらってないのがこんなにあるとはね」

 

 

彼女の趣味、そして喫茶 鉄血の収益にも貢献する実益を兼ねたコスプレ製作だ。

 

 

 

さて、マヌスクリプトが自室のクローゼットを自発的に整理し始めることなど万に一つもあらず、もちろん代理人からのお達しからだ。

 

 

「マヌスクリプト、あなた最近自分の部屋に収まり切らなくなった服をフォートレスの部屋に置いているそうですね、今すぐ片付けなさい」

 

 

そんな家主・・・いやお母さん的な人から言われてしまえば渋々でもやるしかない。とはいえせっかく作ったものを捨てるなどという選択肢はなく、既に着てもらったことのある服を一点ものとして販売することにしている。

が、世の中滅多に掃除しない人が掃除を始めればどうなるか、それはあえて言わずとも分かりきったことである。

 

 

「・・・・・ん? おぉ、こんなとこにあったんだ! 見つかんないからもう捨てちゃったと思ってたよ」

 

 

完全密封、虫食い対策の施された特別仕様クローゼットの中は、一言で言えば魔境。服に埋もれる形でずいぶん前に作った作品たちが続々と出てくる。それはまだマヌスクリプトの服飾技術が手探りだった頃の試作品で、未完成ながらも努力の結果が見て取れる。

 

 

「そうそう、この頃は手縫いだったんだよね〜・・・・いやぁ私も成長したな」

 

 

そんな思い出に浸りはじめ、また次の服を見つけては思い出に浸る。そうなると当初の目的などすっかり忘れ、気がつけば床には服と新たな図面が散らばることとなった。

 

 

「そういえば明日の出勤は・・・・あ、休みじゃんってフォートレスちゃんもじゃない! ちょうどいいわ!」

 

 

その日、結局片付けはほとんど進まずに終わった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「ふぁ〜・・・・・ふみゅ〜」

 

 

麗かな日差しが差し込む窓辺で、今日一日非番のフォートレスはのんびり窓の外を眺めていた。気温は決して高くはないが、ポカポカとした日差しと涼しい風が眠気を誘う。

ANー94の好意(だと思っている)で得られたボディにもようやく馴染み、自分の働きぶりに自信を持てるようになった彼女は充実した日々を送っており、順風満帆といえよう。要するにいつになくご機嫌だったのだ。

 

今日一日くらいはのんびりグータラに過ごしてもいいかな、などとぼんやり考える彼女の後ろで、壊れるほどの勢いで開いたドアがその平穏の終わりを告げた。

 

 

「フォートレスちゃん!」

 

「ひぃ!?」

 

 

災厄の権化、トラブルメーカー筆頭、そしてフォートレスに対するセクハラ常習犯のマヌスクリプトがそこにいた。今日はAK-12も一日仕事でおらず平和な一日であったはずなのだが・・・・・マヌスクリプトと非番が重なったのが運の尽きだろう。

さらに、そんな彼女の後ろにはこれでもかと衣装を満載したハンガーラックがスタンばっている。その数と若干血走った目、そしてうっすらとできた隈を見れば、徹夜で作り上げたものであることがわかる。

 

 

「な、なんのようですか?」

 

 

一応、ほんとに一応だが聞いてみる。もしかしたら普通の用事かもしれないし、もしかしたら後ろの衣装は関係ないのかもしれない・・・・そんな淡い希望を抱いて。

 

 

「フォートレスちゃん、そのボディになってから今までの服って合わないじゃない? だから特別に、私が作ってきたわよ!」

 

「ふぇぇえええ〜〜〜〜〜〜〜」

 

 

呆気なく砕け散る希望的観測。実際マヌスクリプトの言う通り服のサイズは合っておらず、代理人らから譲ってもらった服を置いているだけでしかない。一応前のサイズを着ることもできるのだが、サイズの変わらない胸部はともかく、ほぼ確実にヘソ出しスタイルとなる。

これが他の人形なら、百歩譲ってゲッコーであってもまだ信用できるが、マヌスクリプトであれば話は別だ。

 

 

「じゃ、早速着てみようか!」

 

「ま、待ってください! 絶対ダメなやつもあるじゃないですかぁ!」

 

「まぁまぁ細かい事は言わずに」

 

「細かくないです!」

 

 

マヌスクリプトの持ってきた衣装は、一言で言えばカオスだった。ぱっと見まともな服が一着しかなく、他は全て際どいか露出が多いかそもそも面積が少ないかのどれかである。もっとも、唯一まともだと思っている服も所謂『童◯を殺す服』というやつではあるが。

 

 

「ぜ、絶対! 絶対無理ですぅ〜〜〜〜〜!!!!」

 

「へ? あ、ちょっと!?」

 

 

自分でも着た姿を想像してしまったのか、顔を真っ赤にしたフォートレスはついに逃げ出した。と言っても正面突破ではなく、なんと開いた窓から隣の家の屋根に飛び降りた。ボディが大きくなったことで結果的に体のバランスが取れ、機動力が増したらしい。

呆然とするマヌスクリプトを置いて、フォートレスは一目散に街に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

(あ〜くそ、なんでお前もいるんだよ)

 

(あらあら、そんなにアルケミストと二人っきりが良かったのドリーマー?)

 

(あ? 喧嘩売ってんのかテメー)

 

「こら二人とも、いつまで睨み合ってるつもりだ」

 

 

ところ変わってS09地区のメインストリート。賑わいを見せる人通りの中を、まるでそこだけ浮かび上がるように映える銀髪と黒髪の女性たちが通っていく。久方ぶりにこの街へとやってきたアルケミストとドリーマー、そして道中でばったり出くわして勝手についてきたイントゥルーダーだ。

見ての通り、ドリーマーはイントゥルーダーが苦手である。搦手や煽りが専売特許のドリーマーからすれば似たような手合いの彼女とは相性が悪く、しかも短気な分舌戦では苦戦を強いられる。イントゥルーダーもそれをわかっていて弄るあたり、同族のことをよくわかっているようだ。

 

 

「まったく・・・・・ん? あれは・・・」

 

「へ?」

 

「あら」

 

 

三人がピタリと足を止める。その視線の先には少しこじんまりとした服屋と、そのガラスの前で中を覗き込む女性の姿。三人とも見覚えはないのだが、その顔つきと主張の強すぎる凹凸のボディは見間違うはずもない。

 

 

「もしかして・・・・・フォートレスか?」

 

「え? ひゃあ!?」

 

「あ、この反応は間違いないわね」

 

「うふふ、相変わらず小動物みたいね」

 

 

突然声をかけられたことで文字通り飛び跳ねるフォートレス。同時に思いっきり揺れるそれに黒髪二人の目が釘付けになるが、アルケミストは気にせず続けた。

 

 

「見ない間に随分大きくなったな。 ボディを変えたのか?」

 

「は、はい・・・・あの、皆さんはなぜここに?」

 

「ん? いや、少し暇ができたから顔を出しにな。 そういうお前は?」

 

「えっと・・・・・あっ」

 

 

モジモジと言い澱んでいたフォートレスだが、何かを見つけるとササっとアルケミストたちの影に隠れる。何事かと見てみると、その先にはこれまた見覚えのある顔がうろついていた。

 

 

「ん〜、どこ行っちゃったんだろうフォートレス・・・・」

 

 

 

 

 

「あれは・・・・マヌスクリプトね?」

 

「あー、なんとなく察したわ」

 

「懲りないなあいつも・・・・まぁいい、ならこっちに来い」

 

「え? わぁ!」

 

 

見つけた途端に事情を察した三人は、フォートレスの手を引いて店の中に入る。様々な服が並ぶここなら姿を隠すのにはうってつけで、そうそう見つかることもないはずだ。

 

 

「・・・・・撒けたか?」

 

「そうね・・・・・ほら、もう大丈夫よ」

 

「うぅ、ありがとうございます・・・」

 

 

なんとか窮地(?)を脱したフォートレス。しかしまだ外にマヌスクリプトがいる以上は容易に出歩けない。逃げ出したのは彼女の方であるが、おとなしく捕まっていればきっとまた恥ずかしい写真を取られていたのだから仕方がないのだ。

そしておおよその事情を察しているアルケミストたちも、フォートレスをどうにか助けたいとも思っている。マヌスクリプトに制裁を加えればそれで済む話でもあるが、久々に来て早々面倒な事はしたくない。

 

 

「・・・・そうだフォートレス、お前さっき何を見ていたんだ?」

 

「え? えっと、その・・・・・」

 

 

急にそう言われたフォートレスは、やがて店のショーケースの方に目を向ける。それを見た三人はあぁっと納得すると同時に、三人とも同じアイデアを思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜・・・目立つからすぐ見つかると思ったんだけどなぁ。 仕方ない、おとなしく帰りを待と」

 

 

昼を過ぎ、行き交う人々も増えてきた頃、マヌスクリプトはフォートレス捜索を打ち切り店へと戻っていった。その途中、なんとも綺麗な女性四人組とすれ違うが、特に気にすることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・な? 気付かれなかったろ?」

 

「は、はい」

 

「ふふっ、カモフラージュは完璧ね」

 

 

その四人組・・・・服屋で着替えたアルケミストたちは上手くいったと喜ぶ。特にフォートレスは本当にホッとしたようで、その大きすぎる胸に手を当てて息を吐く・・・・・その後ろでドリーマーが自身の胸に手を当てて項垂れていたが。

 

 

「あらドリーマー、無いのもねだり?」

 

「ぶち殺すわよ痴女」

 

「あら怖い、あんまりかっかしてると脂肪が燃えて余計に減っちゃうわよ・・・・どことは言わないけど」

 

「ムキーッ!!!」

 

「あ、あの、お二人が・・・・」

 

「よくある事だ、放っておいていい・・・・それより、似合ってるぞそれ」

 

 

ハイエンド二人が取っ組み合いを始めるも、我関せずにその場を去るアルケミストは隣を歩くフォートレスにそう言った。

フォートレスが着ているものはショーケースにあったものと同じワンピース、その上にカーディガンを羽織り、髪を括ってイメチェンしている。見慣れた髪型と服では無いのでマヌスクリプトも見落としたのだ。

 

 

「で、でもいいんですか・・・・高かったのに」

 

「構わないさ、お前は私たちにとって妹みたいなものだ。 まぁちょっとしたプレゼントだよ」

 

 

ちなみにショーケースで宣伝するだけあって中々いいお値段だったが、ホテルの一室を年間で借りられるくらい稼ぐアルケミストからすれば端金だ。フォートレスも性格上申し訳ないと感じてはいるが、その表情は割とご満悦のようだ。

 

 

「・・・・それに、マヌスクリプトだって別に悪意ばっかりじゃ無いさ。 アイツだって『お姉ちゃん』なんだからな」

 

「で、でも・・・・・」

 

「私はこのまま店に顔を出すから、ついでに送ってやろう・・・・と、その前に迎えがきたかな」

 

 

え?と聞き返すフォートレスが顔を正面に向けると、どこか安心したような表情のマヌスクリプトが走ってくる。隣にいるアルケミストを見て一瞬で表情を変えてしまったけど。

 

 

「げぇ!? アルケミスト!」

 

「相変わらず元気そうじゃないかマヌスクリプト・・・・・()()()()()()()?」

 

「ナ、ナンノコトカナー?」

 

「天珠!」

 

「ぎゃぁああああああ!!!!」

 

 

強烈な一撃をくらい地に伏せるマヌスクリプト。だがすぐに起き上がると、今度はフォートレスの方にやってきて抱きしめた。

 

 

「もー心配したんだよフォートレス、どこ行ってたのよ」

 

「え、えぇ?」

 

「接客もままならないし財布も携帯も持たずに飛び出しちゃて・・・・何かあったらって心配したんだよ」

 

 

思ってもみなかった言葉に固まるフォートレス。その後ろでアルケミストがクスクスと笑うのが聞こえる。

 

 

「あ・・・ご、ごめんなさい」

 

「ん、無事でいてくれたからいいよ。 じゃ、戻ろっか」

 

「・・・・はい!」

 

 

マヌスクリプトが手を差し出し、フォートレスがその手を取る。その姿は仲睦まじい姉妹のようで、微笑ましいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、今度は何をしでかしたんだマヌスクリプト?」

 

「え゛っ!?」

 

「・・・・・・///」

 

「・・・・・懲りないなぁお前も」チャキッ

 

「お、お助け〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

 

end




ハイエンドたちが通う学校だと!?こうしちゃいられないすぐにでも入学手続きをしなければそして席は代理人の隣になって昼休みにお弁当一緒に食べて放課後は校門で待ち合わせて一緒に帰ってヒャッホォオオウウウウウウウウウ!!!!!!






・・・・・はい、お見苦しいところをお見せしました。ちょっとばかしちょっとばかし理性を失いかけましたねこれもきっとアークナイツのせい(オイ)

では今回のキャラ紹介


フォートレス
いつもの被害担当。他のハイエンドに比べて彼女自身の性能は劣るが、あくまで『他のハイエンドに比べて』である。
守ってあげたくなる気持ちと襲いたくなる気持ちを誘発する。

マヌスクリプト
基本的にやらかすことしかしない。
その無駄に器用な手先と人形由来の正確で高速な作業、そして高度なAIによる寸法計算によって一晩あれば数着は作れる。

アルケミスト
ふらっと現れるハイエンドその1。
鉄血のプライバシー保護担当のようなもので、とりわけいかがわしいネタにはかなり厳しい。面倒見の良い姉的ポジションであり、母性すら感じる。

ドリーマー
ふらっとハイエンドその2。
サディストで愉悦、人の神経を逆撫ですることを得意とするが自信がやられるとすぐキレる。そのためイントゥルーダーとの舌戦は基本的に負ける。
非常にスレンダーな体型(オブラート)

イントゥルーダー
ふらっとハイエンドその3。
鉄血の正装もそうだが普段着も結構扇情的なものが多く、いわば鉄血のDSR。ドリーマーをいじるのが楽しくて仕方がない。
こんな格好をしているが『痴女』と呼ばれるのをかなり嫌う。







・・・・・代理人ラブな私ですがハンターの道着姿に心奪われました・・・あぁもう全員可愛いよっ!!!


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第百六十二話:おかえり

アップデートでレイアウトが大幅に変わりましたね。
慣れの問題はありますが、個人的には宿舎と作戦を直接行き来できるのはありがたいですね。

ところでイベントのG36C、乗っ取られて口調が変わってもそれはそれでありだと思いました。


ドタドタドタドタ……バタンッ

「おはよう代理人! そしてビッグニュースだよ!」

 

「・・・・・UMP9、店の扉をそんな勢いで開け放つとはどういうことだ?」

 

「げっ、ジェリコ教官・・・・・」

 

「おはようございます、9さん」

 

 

今日も今日とていつも通り店を開ける喫茶 鉄血。そして開店からまだ一時間も経っていない頃に元気有り余る勢いでやってきたのは、この店常連カップルの片割れであるUMP9。開け放った勢いでくるりと一回転するほどテンションが上がっているようだが、先客のジェリコにバッチリ目撃されてしまう。

 

 

「まぁまぁジェリコさん、そう目くじらを立てなくても大丈夫ですよ」

 

「・・・マスターがそういうのなら構わないが」

 

「ありがと代理人!」

 

「だがこの場では不問にするだけだ。 司令部に戻ってから対応させてもらう」

 

「 」

 

 

笑顔のまま凍りつく9。どうやら404小隊の生活習慣改善担当になって以降、ジェリコは彼女らにとって恐れられる存在となったらしい。

さて、それはともかく

 

 

「それで9さん、そのビッグニュースというのは?」

 

「はっ! そうそう代理人、昨日の夜に電話があってね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノインが帰ってくるんだって!」

 

 

9は再び笑顔に戻り、嬉しそうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

グリフィン特別観察対象『ノイン』

もともとはこことは異なる世界で生まれ、何の因果かこの世界へと流れ着いた人間である。容姿は装備も含めてUMP9タイプであり、もとの世界でも『UMP9』といて活動していた。この世界に流れ着いてからは失った義手をヘリアンが提供し、その特異性からグリフィンが行動を監視している。

・・・・・もっとも、監視していたのはごく初期のみで現在は本人からの定期連絡で済まされている。

 

そんなノインもこの店に縁のある人物であり、同型意識から9とも仲がいい。S06地区の喫茶店の従業員でもあるが、どうやら先にこっちに寄るようだ。

 

 

「・・・なるほど、随分と数奇な運命を辿っているのだな」

 

「そうですね。 ですがまっすぐでいい娘ですよ」

 

「そうそう、なんたって私の妹だもん!」

 

 

そう胸を張る9。まぁこの自称9型長女が一番子供っぽいのだが誰も指摘しない。

さて、その9がここにいるということは、つまり集合場所がここということなのだろう。

 

 

「でしたら、先にお茶とケーキを用意しておきましょうか」

 

「なら私は引き上げようか。 水入らずには邪魔だろう」

 

「そんなことないよジェリコ教官、むしろ教官にも紹介したいし!」

 

 

そう言いつつもソワソワとし始める9は、今か今かと玄関の方を気にしているようだ。そして約束の時間となり、店の扉がゆっくりと開く。

 

 

「あ! おかえりノイn「open sesame」ズコーーーー!!!」

 

 

出迎えに行った9がそのままの勢いで滑っていった。現れたのは人でも人形でもない、無駄に渋い声のダイナゲートだった。

その見た目とのギャップに、思わずジェリコも頬をひくつかせる。

 

 

「ず、随分変わった妹だなUMP9」

 

「ち、違うよこんなのじゃないよ!」

 

「その声は・・・・・あら、お帰りなさいダイナゲート」

 

「あぁ、久しいな代理人よ」

 

 

彼は一匹のダイナゲート、特に名前などないのだがその存在感は一級品である。これは以前ノインの旅先へと送られ、旅のサポートとしてノインに付き添っていたものである。開発者はサクヤだが、発送したのは代理人なので当然知り合いである。

その後から、重そうに荷物を引きずってノインがやってくる。

 

 

「遅かったじゃないか、我が主」

 

「そう言うなら少しは荷物持ってくれてもいいんじゃないの?」

 

「なに、主の健康管理の一環だ」

 

 

ああ言えばこう言う、典型的なタイプだ。旅先での幾多の経験から、舌戦では勝てないと諦めてノインは話を切り上げる。

 

 

「ただいま、代理人」

 

「えぇ、お帰りなさいノイン」

 

「ノインおかえりー!」

 

「わぁ!? ただいま9!」

 

 

抱きしめ合い再開を喜ぶ二人を、代理人は席に案内する。誘われたジェリコも同じ席に座ったが、なんとなく気まずそうだ。

 

 

「あ、紹介するね。 この人はジェリコ教官、私たちの教官だよ」

 

「は、はじめまして、ノインと言います」

 

「はじめまして、紹介にあずかったジェリコだ。 まぁそう固くならなくていい」

 

「ふむ、ではそうさせてもらおう」

 

「君には言ってないよ、あとなんで椅子に座ってるの」

 

 

ノインのジト目も気にせず、床ではなく椅子の上でふんぞり返るダイナゲート。主の友人の上司を前にしても崩さないその尊大な態度に、ノインは笑顔のまま青筋を浮かべる。

が、いざ一発殴ろうかというところで自ら椅子を降り、スタスタと出口へと向かってしまう。

 

 

「では主よ、私は本社でメンテナンスを受けてくるぞ」

 

「あぁはいはい、行ってらっしゃい。 帰りはわかる?」

 

「ふっ、案ずるな。 ではな代理人」

 

「えぇ、サクヤさんには連絡を入れておきました」

 

 

終始勝手に動き回り、勝手に去っていったダイナゲートを睨むように見送って、ノインははぁっとため息をつく。

そんなノインをねぎらうように、代理人がケーキを運んできてくれた。

 

 

「ふふ、余計なお世話でしたか?」

 

「・・・・まぁ、寂しくはないからいいんですけど」

 

「そう言ってもらえて良かったです」

 

「じゃあ早速いただきまーす!」

 

「9は変わらないね。 じゃあいただきます」

 

 

ようやく団欒とした雰囲気が訪れ、ノインの旅先の話や最近の出来事に花を咲かせる。旅先で出会った人やちょっとした依頼、一時的にお世話になったアウスト指揮官たちや、ショーを手伝ったスケアクロウなど、話を聞くだけで充実していたことがよくわかる。それを聞く9は相槌を打ちながら楽しげに、ジェリコもわずかに微笑み黙って聞いていた。

9はもとより、ジェリコもノインが生きていた世界について話程度には知っている。だがそれはあくまで『話だけ』であり、それがいかに過酷な世界であるかなど想像でしかない。そして訳もわからぬままこの世界へと飛ばされてきた彼女がこうして笑えるなど、ある意味奇跡のようなものだ。

 

ふとジェリコは店の時計を見て残りのコーヒーを飲み干す。どうやらここで終わりらしい。

 

 

「さて、私はそろそろ戻るとしよう・・・・面白い話が聞けてよかった」

 

「あ、こちらこそ、ありがとうございます」

 

「ふふっ、それはこちらのセリフだ・・・・代理人、会計を頼む」

 

「はい、ただいま」

 

 

やがてジェリコが立ち去り、9もそろそろ時間のようで荷物をまとめ始める。どうやらノインとはここでお別れのようで、ノインはこの後S06地区に向かうらしい。着く頃にはすっかり日も暮れるだろうに、それでも9に会いにきたのだ。

 

 

「さて、そろそろ行こうかな」

 

「ふふっ、なんだかあっという間でしたね」

 

「今日くらい泊まっていけばいいのに〜」

 

「えへへ、ありがと。 でもあっちにも帰るって言っちゃってるから」

 

 

そう言ってノインは重そうなキャリーバッグを引きずり、店の前まで出る。9も名残惜しそうにしているが、ここでお別れだ。

 

 

「そう落ち込まなくても、またいつでも会いにいけるではないですか」

 

「そうだね・・・じゃあ最後に、えいっ!」

 

「わわっ!? な、9?」

 

 

いきなり飛びつき抱きしめる9にビックリするも、ノインもその手を9の背中に回した。

実の姉妹でもなく、生まれた世界も違う。だが9はノインを家族として受けいれ、この再会を噛みしめたいのだ。人形の中でも屈指の『家族』へのこだわりがあり、そして放っておけない性格の9だからこそだった。

 

 

「えへへ〜、ノイン成分補充完了!」

 

「もぉ、いきなりじゃビックリするよ」

 

「ごめんごめん・・・・じゃあ改めて、お帰りノイン」

 

「・・・・・・うん、ただいま9」

 

 

そう言い合って、再び抱擁を交わす二人。

この後結局なんやかんやで三十分程度話し続け、最後は代理人が締める形でお開きとなったのだった。

 

 

end




外出自粛、在宅勤務のせいでまともに人と会話していない気がする・・・・表情筋死にそう。
話は変わりますが、6月に予定されている少女戦略最前線、願うならぜひ行ってみたいところですね。コミケも含めてこういうイベント行ったことないからよくわからんけど笑

まぁそんな話はほっといて今回のキャラ紹介!

ノイン
世界を旅し続け、ようやく帰ってきた。
S06地区のカフェに住み込みで働いているが、店長夫婦の意向で基本的に自由に動ける。

9
明るく元気でハイテンションなムードメーカー。家族想いで、ノインの帰還を心から喜んでいる。
ややシスコンの気があるのは遺伝なのかもしれない。

ジェリコ
この地区に配属以来、すっかり気に入って常連となった。
朝に余裕があるときは開店直後からコーヒーを飲みに訪れ、その後司令部に戻るというフットワークの軽さ。

代理人
ノインが連れているダイナゲート経由で一応の動向は知っていたが、それでも無事帰ってきてくれてホッとしている。
ケーキはサービス。

ダイナゲート
よくよく考えればこいつも久しぶりに里帰り。
公式四コマでもフォークとナイフを使う個体がいるんだから意外とダイナゲートは高性能なのかもしれない。


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第百六十三話:妖精の歌声

歌声が綺麗なのは公式設定らしい。
ついでに常識を逸したアンチ赤色なのも公式設定・・・・公式どんだけカオスなんだよ。


随分と今更だが、喫茶 鉄血には割と大きな音響が置いてある。もとは毎週金曜日の夜、Bar 鉄血として営業するときに出してくるカラオケセットなのだが、誰かが持ち込んだCDプレーヤーをつなげることで日中でも使用することがある。

もちろん他のカフェと同様に喫茶 鉄血でも有線を引いてはいるが、基本的に常連客がほとんどのこの店では、店員に一言声をかければ自由に曲が流せるようになっていた。もちろん他の客にも配慮してである。

そしてこの音響、割と良いものを使っているらしく超高音から重低音まで妥協することなく流すことができるのだ。

 

 

カランカラン

「こんばんは代理人さん」

 

「あら、こんばんは。 今日はお一人ですかスオミさん?」

 

 

そんな喫茶 鉄血・・・・もといBar 鉄血を訪れたのはここの半常連であるスオミ。相変わらず不定期で9A91とやってきては独自ルールのチェスを白熱させている彼女だが、どうやら今晩は一人らしい。

 

 

「えぇ、たまには一人でというのもいいかなと」

 

「そうですか・・・・お席は自由です。 何か注文されますか?」

 

「では、ウォッカを」

 

 

可愛らしい見た目でえげつないものを頼むものだ。ちなみに彼女が言う『ウォッカ』とは普通のものではなく、ロシア勢が好んで飲む高度数のものである。ロシアと同様厳しい寒さが当たり前のフィンランドでも、当然この「燃える酒」は人気なのだ。

そう、彼女の趣味嗜好はその見た目から大きくかけ離れたものが多く、『グリフィンギャップ萌え選手権(非公式)』で度々一位に選ばれているほどなのだ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

グラスを受け取り、両手で持ち上げて上品に飲むスオミ。こればかりは少しだけ意識しているらしく、以前聞いたところ「品性のない赤色と一緒にされたくないから」とのこと。しかしさも当然のように一気飲みするので、結局のところ無駄な努力でしかないのだ。

さて、スオミは一杯飲み干したところで席を立って店の端に向かう。別に酔って前後不覚になっているとかいうわけではなく、お目当てはその先のカラオケ機器。事前に言ってあれば自由に使うことができるのだ。

 

 

「あら、早速ですね・・・・・くれぐれも、ね?」

 

「はい、もちろんです」

 

 

そう言ってスオミはマイクを握り、なれた手つきで機械を操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューヒュー!」

 

「いいぞお嬢ちゃん!」

 

「アンコール! アンコール!」

 

 

喫茶 鉄血も閉店に近づいてきた頃、店内は程よく酔った客たちで大いに賑わっていた。その歓声の中心にいるのは、先ほどからマイクを離すことなく歌い続けるスオミだ。ほぼ一曲に一杯のペースでウォッカを飲み、飲んではまた歌うを繰り返しているが酔い潰れる気配など全くない。

そして彼女が人気なのは、見た目が麗しいからだというわけではない。

 

 

「〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪」

 

 

透き通るような声が、やや薄暗い照明のBarに漂う。本来人形には必要のない『歌う』という行為だが、それをスオミは完璧と言っていいほど使いこなしており、それが客の心を掴んでいる。

初めて彼女が歌ってからその歌声がちょっとした評判となり、彼女がマイクを持つと誰もが会話をやめてまで注目するほどだった。代理人もそんな彼女の歌声に魅了される一人で、グラスを磨きながら目を閉じて聞き入っている。

 

 

「〜〜〜♪ ・・・・・・ふぅ」

 

「今夜もよかったよスオミちゃん!」

 

「歌手を目指してもいいんじゃない?」

 

「あはは、ありがとうございます!」

 

 

もう何度目かの拍手に包まれ、スオミは照れ臭そうにはにかむ。そして今のが最後の一曲だったようで、それを合図に客たちは帰り支度を始める。ある者はスオミに握手を求め、またある者はチップを渡そうとする。拍手に応え、チップをやんわりと断り続け、やがて客がスオミだけになると彼女も荷物をまとめ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なかった。

 

 

「ふぅ・・・・・代理人さん! これでOKですよね!?」

 

「えぇ・・・・・・ですが、もう閉店の時間ですので一曲だけですよ?」

 

「構いません、全力で歌いますので!」

 

 

言うと同時に最後のウォッカを勢いよく流し込み、そのままの勢いでカラオケセットへ。そしてこれまた慣れた手つきで曲を選択し、『送信』ボタンを押した。

代理人が耳栓をし、それを見た他の従業員もそれに倣う。そして(スオミ)がいるにも関わらず片付け作業に入る。が、別にスオミは気にしないし、もっと言えば彼女が一人で来る金曜の夜はいつもこれだ。

 

 

「・・・・・・・・スゥ」

 

 

そして重低音が爆音で流れ始め、スオミが今日一番大きく息を吸い込む。それに合わせ、代理人は個別通信で部下たちに片付けを命じていく。

 

次の瞬間、ガラスが割れそうなほどのシャウトが響き渡った。その発信源は他でもない最後の客、スオミである。

これが彼女のギャップの一つ、趣味のヘヴィメタルである。優しい美声は何処へやら、ないはずの魂から聞こえてくるようなシャウトを奏でて叫ぶように歌う。流石にこれは他の客がいると歌えないため、閉店ギリギリの一人になった時にだけ歌うのである。

 

 

「ーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

(代理人、テーブルの掃除は終わったぞ)

 

(ご苦労様、今日は終礼を省きますから終わった人から上がっていいですよ)

 

(み、耳栓してても響きそうです・・・・)

 

 

そしてチラッとスオミを見る一同。先ほどまでにこやかな笑顔を浮かべていた少女が、汗を流しながら拳を握り、時には頭を振り回して歌う姿は何度見てもインパクトがある。一度だけその歌を聞いたことがあるが、上手いことには上手いのだが爆音のせいで聴いていられない、といった感想だった。

った感想だった。

 

 

(あれがマヌスクリプトの好きなギャップ萌えというやつだ)

 

(ちょっと、フォートレスに変なこと吹き込まないでよ)

 

(ギャップはあるけど萌えより燃えだと思うよ)

 

(たしかに、前に彼女をくどk・・・・話した時に歌を褒めたことがあるんだが)

 

(詳しい事は後で聞きますが・・・・・それで?)

 

(・・・・・凄まじい熱意でヘビメタを語られたんだ。 多分三時間くらいはあったと思う)

 

 

とかなんとか言っている間にスオミは限界までヒートアップしたようで、もうその場で歌うに飽き足らずまるでライブ会場のようにあちこち動き回ったり飛び跳ねたりしている。動きだけ見れば可愛いのだがその全身全霊とも呼べる叫び顔のせいでイマイチ可愛げがない。

 

 

「っっっっっっ!!!!!!! ・・・・・・・はぁ〜」

 

「(あ、終わったようですね)・・・・・スオミさん?」

 

「あ、代理人さん。 ありがとうございます」

 

 

この上ないほどやり切った顔でそう言うスオミ。あれだけ叫んでも声が枯れることもなければ喉から血が出ることもないのは人形の利点だろう。いつもの可愛らしい声に戻ってお礼を言う。

最後はカラオケ機器の片付けを手伝い、日も変わりかけた頃の店を出る。玄関先まで見送るのも、いつものことだ。

 

 

「では、今日もお気をつけて」

 

「はい、今日もお世話になりました。 今度は代理人さんも一緒に歌いましょう!」

 

「・・・・・まぁ、そのうちに」

 

「あ、言いましたね!」

 

 

言質はとりました、と言わんばかりに目を輝かせるスオミ。まぁこのやり取りもいつものことで、寝て目が覚めるとだいたい忘れている・・・もしくは初めから冗談のつもりなのかもしれないが。

とはいえ、やはり誰かと歌いたいと言うのが本音なのだろう。去っていく背中を眺めながら、一度くらいは付き合っても良いかなと思う代理人だった。

 

 

 

end




アンチ露助でヘヴィメタ好きの尻出し人形・・・・一体どれだけ属性を詰め込めば気が済むんだ(歓喜)
はい、というわけで今回はスオミちゃんのお話。優秀な回避型SMGとして戦線を任せている指揮官も多いのでは?

では今回のキャラ紹介!


スオミ
二度目の登場。フィンランド出身というだけあって酒にも強い。
カラオケ機器の候補は歌われた回数で決まるため、毎回ヘヴィメタを歌うスオミのせいでオススメには常にヘヴィメタが。
ちなみに「スオミ」というのは「フィンランド」という意味らしい。

代理人
流石に代理人でも爆音ヘヴィメタは厳しかった。聴覚だけ切れば良いじゃん、と思っていても言わないであげて欲しい。


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第百六十四話:相談

PAー15のスキン可愛すぎん?溜まりに溜まったコイン(1500枚)を投入しそうになったわ!
でも9ちゃんのスキンが来るまで我慢するのよね

・・・・・え?今日がなんの日かって?
存じ上げませんねぇ


「フンフンフ〜ン♪」

 

 

とある日のS09地区。春のポカポカとした陽気が街全体に漂う中、大きな紙袋を抱えたマヌスクリプトが鼻歌混じりに路地裏を歩く。行きつけの店で買い漁った布やら小道具やらの目的は言わずもがな、趣味県収入源の材料である。

 

 

「さてさて〜今日は何を作ろっかな〜♪」

 

「あら? その声は・・・」

 

 

機嫌の良い鼻歌が、聞き覚えのある声にかき消される。振り向くと、そこには緑の髪を優雅にたなびかせた知り合いが。

 

 

「お、Mk48じゃん。 今日はどうしt」

 

 

機嫌の良さそのままに明るく返事を返すマヌスクリプト・・・・だが、その返事は遮られる。Mk48が突然片手を突き出したのだ。マヌスクリプトは壁際に追い込まれることとなり、その顔の横に突き出された腕が伸びる。

俗に言う『壁ドン』というやつだ。

 

 

「え、な、何事!?」

 

「うふふ、そう身構えなくても良いわよ・・・・・ちょっとツラ貸しなさい」

 

 

その日、マヌスクリプトは知った。フィクションにあるがちな壁ドンは、リアルでやられたら怖いのだと。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな衝撃の再開から数分後のこと。とりあえず話をということで連れていかれた先はまさかの喫茶 鉄血である。ツラを貸せと言うからには廃屋か廃工場にでも連れて行かれると身構えていたが、ついていってみれば結局自宅である。代理人もこの組み合わせに一瞬ギョッとしたが、マヌスクリプトが問題を起こしたわけではないと知ると警戒を解いた。

で、そのMk48はマヌスクリプトを連れて隅の席へ行き、改めて真面目な表情で話を切り出す。

 

 

「早速だけど、あなたに頼みたいことがあるの」

 

「な、なんでございましょうか?」

 

「とって食ったりしないから安心しなさい。 で、まずはこれを見て頂戴」

 

 

そう言ってMk48は一枚の写真を取り出す。恐らく先日グリフィンで発表された新スキンのものだろう、学生をイメージした可愛らしい制服を着た人形たちが並んでいるのだが、Mk48はそのうち一人を力強く指で叩いた。

 

 

「このあざとい人形に勝ちたいのよ」

 

「直球かよ・・・・・」

 

 

彼女が対抗意識を持つ人形・・・・・言うまでもなくPAー15である。今回支給されたスキンの対象者であり、そして本部広報の看板をも務めるほど今回のメインを張っている。ミニスカにヘソだしにケモミミに尻尾、あざとすぎる。

 

 

「しかもこの ◯◯◯◯(ピーーー)、この格好でゲッコーとデートしてるのよ!? 今頃誘うように尻尾を振り回してるに違いないわ!」

 

「あー、そういえばあいつ今日非番だったんだ」

 

 

ちなみにMk48は明日ゲッコーとデートの予定である。これはPAー15と決めたことで、一応公正な手段で決定されているが、やはり後攻ということで焦りがでているのだろう。しかも発表まもないスキンで向かったPAー15を見たゲッコーが、そのままなんてなったら目も当てられない。

 

 

「というわけで、私にも用意しなさい」

 

「えっと・・・拒否権h「あると思う?(ニッコリ)」・・・・頑張らせていただきます」

 

 

断ればどうなるか、笑っていない目が物語っている。渋々だが引き受けたマヌスクリプトは、Mk48を連れて自室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・さて、一応似たようなものは用意してみたけど」

 

「あら、たくさんあるじゃない」

 

 

マヌスクリプトの自室、そしてお隣のフォートレスのクローゼットにも納められている膨大なコスチュームの数々。その中から学生服っぽいものを選び並べていく。それだけでも十着近くもあり、ミニスカにロング、セーラーにブレザー、夏服冬服と一通り揃っている。

 

 

「とりあえず着てみれば?」

 

「そうね・・・・・けど」

 

「けど?」

 

「・・・・・・ちょっと恥ずかしいわね、これ」

 

 

普段の格好も大概なのに何言ってんだこいつ、みたいな目でマヌスクリプトは黙る。というか一人前の羞恥心があったんだなとも思うが、口が裂けても言うまい。マヌスクリプトだって命が惜しいのだ。

とかなんとか言っている間に一着目に着替え終わる。

 

 

「ど、どうかしら・・・」

 

 

最初はPAー15と似たミニスカブレザー。これを最初に選ぶあたり剥き出しの対抗心を感じるが、本人は落ち着かない様子。どうやら普段は見せない生足に抵抗があるようだ・・・・・いまいち恥ずかしがるポイントがわからない。

 

 

「じゃあ次は・・・・これとかは」

 

「に、似合うのかしら?」

 

「まぁ一回着てみればいいよ」

 

 

マヌスクリプトもだんだん乗ってきた。考えてみればここまで積極的にモデルになってくれる人形もそう多くはなく、彼女にとっても貴重な時間なのだ。

そして着替え終わり・・・・・

 

 

「これならあまり恥ずかしくないわね」

 

「そ、そっすね姉御」

 

「姉御?」

 

 

着替えたのは黒のセーラーにロングスカート・・・・・露出は減ったが溢れるスケバン感が否めない。デートというよりもカチコミに近いことになりそうだ。

これはこれでアリだし、特定層への受けが非常に良さそうだが流石にデート用ではないので没。

 

その後も一通り着てみたり、他のものと組み合わせてみたりしたが・・・・どれも今ひとつピンとこないものだった。少女というよりも大人の女性寄りであるMk48だと、制服はちょっと無理があるのかもしれない。

 

 

「・・・・・何か今失礼なこと考えた?」

 

「Hahaha、何をおっしゃいますやら」

 

 

もうスケバンでいい気がしてきた。しかしせっかく相談(というか押しかけ)されたのだから何かしらの成果は出したい。おまけに相手は一応身内の想い人、適当にあしらうわけにはいかない。

 

 

(大人っぽい格好・・・・でもPAー15には対抗したい・・・・・・制服・・・・学校・・・・・・・あっ!)

 

「これだっ!」

 

「わっ!? い、いきなり叫ばないで頂戴!」

 

 

何かを閃いたマヌスクリプトはすぐさまクローゼットを漁り始める。突然のことにMk48が置いてけぼりになるが知ったことではない、マヌスクリプトはガサゴソと探し回り、ようやく奥から引っ張り出してきた。

 

 

「そうそうこれこれ、これならバッチリのはず!」

 

「・・・・・それ?」

 

「はいじゃあ早速着替えてきてね〜。 あ、それとこの眼鏡もかけてきてね!」

 

「え? えぇ・・・・・」

 

 

強引に簡易試着ボックスに押し込められるMk48。いまいち目新しさに欠けるコレだが、果たしてコレでいいのだろうか・・・・という疑問を感じながら着替えてみる。

そして数分後、言われた通り眼鏡もかけて出てきた。

 

 

「おぉ! いいじゃんいいじゃん!」

 

「そ、そう? でもこれ、ただのスーツよ?」

 

「ちっちっち、甘いよMk48・・・・・今の君は『女教師』なんだよ!」

 

 

そう言ってビシッと指を刺すマヌスクリプト。Mk48の指摘通り、彼女が着たのはタイトスカートタイプのスーツ、黒のハイヒール、そしてやや厚めのタイツ・・・・・バッチリ教師である。

マヌスクリプトが考え出した結論は、「学生ではなく教師、大人の余裕というものを見せてやれ!」ということらしい。

 

 

「そ、そうね・・・・これならあの小娘にも勝てるわよね」

 

「うんうん、それに背丈もあるからゲッコーと並んでも絵になるよ!」(テキトー)

 

「えぇもちろんよ・・・・・うふふ、明日が楽しみだわ・・・・!」

 

 

 

冷静に考えて、デートにスーツというのはどうなのかとも思うが、残念ながら彼女は気づかない。

その後結局Mk48はスーツ一式をレンタルしていき、満面の笑顔で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後。

 

 

「マヌスクリプト、明日はMk48と出かけるのだが、何かいい服はないか?」

 

「服? 珍しいねゲッコーがわたしに聞くなんて・・・・・・・あ、そうだ・・・じゃあこれがおすすめだよ」

 

「・・・・・お前、正気か?」

 

「ふっふっふ・・・・・黙って聞いておいた方が楽しめると思うよ?」

 

 

マヌスクリプトがニヤリと笑った。

明日のデートは、なかなか面白いことになりそうだ。

 

 

 

end




家の周りが飲食店のせいか、最近コバエが沸き始めて鬱陶いしい。
コバエも!ゴキブリも!私の邪魔をするものは、皆死ねばいい!!!


はい、そういうの置いといてキャラ紹介です。

Mk48
久しぶりに登場の恋する乙女。普段の笑顔はナチュラルドSなのにゲッコーの前では照れ照れしちゃう系のお姉さん。
制服はやっぱ厳しいと思いますようわなにをするやめ

マヌスクリプト
同人活動、コスプレ制作、喫茶店の従業員となかなかに多忙な生活を送る。相手が相手なので自粛したが、可能であれば女王様っぽいのを着せたかった。


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番外編41

今更ですけど、宿舎の壁一面が人形たちのポスターって普通に考えると色々アウトですよね笑
そんな宿舎を見かけたら、きっと私のとこです。

さぁそんなことは置いといて今回のラインナップはこちら!
・仏の顔もなんとやら
・ダイナゲートの宴
・スオミの宿舎事情
・教師と生徒のイケナイ関係?


番外41-1:仏の顔もなんとやら

 

 

「・・・・・さて、じゃあ言い分を聞こうか?」

 

「一応最後まで聞いてあげるわよ」

 

 

アルケミストとドリーマーがフォートレスとばったり遭遇し、なんやかんやあって服を買ってあげたりしたその翌日。二人は朝一番にことの発端であるマヌスクリプトの部屋へと押しかけ、その額に銃口を突きつけるという最悪クラスの寝起きドッキリを敢行した。

もちろんマヌスクリプトはパニックに陥る、しかし身に覚えがある・・・・・いや、ありすぎるのも事実なので、状況を察してすぐに正座し今に至る。

 

 

「えっと・・・・・ど、どれのことでございましょうか?」

 

「ほぉ? 一つ二つくらいではないことはわかっているのか」

 

「まぁとりあえずは、懲りずにフォートレスちゃんをいじめたことかなぁ?」

 

「い、いじめとは人聞きの悪い!」

 

「違うのか?」

 

「・・・・・・・なきにしもあらず」

 

 

アルケミストとメンチ切って勝てるか、答えはNOだ。ついでに隣のドリーマーが常に笑顔なのも結構怖い。

しかもさっき、気になることを言っていたような・・・

 

 

「と、とりあえずとは?」

 

「そのままの意味よ? 昨日の言及だけじゃ終わらないからねぇ」

 

「貴様、仮にも製造順ならば姉だろうに、困らせてどうする」

 

 

ちなみに、製造順というのであれば代理人が長女、次いで長いのはスケアクロウである。鉄血離反組の末女はウロボロスで、その下にアーキテクトとゲーガーという形だ。

それはさておき、正論に次ぐ正論によってぐうの音も出ないほどに封じ込まれたマヌスクリプトは、大人しく土下座という形でこの場を収める。まぁ結果としてフォートレスに迷惑をかけているのは事実なのだ。

 

 

「ふむ、まぁいい。 さて次だが・・・・・」

 

「ま、まだあるの?」

 

「当たり前だ、というかこれこそが私が看過できない問題だ」

 

 

そう言ってアルケミストはマヌスクリプトの私用PCの電源を入れ、さも当然のようにパスワードの入力を省いて立ち上げる。

 

 

「ちょっ!? ななななんで!?」

 

「そこはほら、私が電子戦でちょちょっと」

 

 

ドリーマーがニヤリと笑いながら言い放つ。ちなみに電子戦能力で言えばイントゥルーダーの方が上だが、電子戦と直接戦闘の両立を目的に造られたドリーマーもそれなりの能力を持つ。

そしてこれまた迷うことなく特定の、巧妙に隠されたファイルたちを開いていき、そしてついにその最深部にまで辿り着いた。

 

 

「・・・・さて、マヌスクリプト」

 

「は、はい・・・・・」

 

「私は身内をネタにされるのがあまり好きではない。 ましてそれが()()()()()()内容であれば、片っ端から壊し尽くしてやりたくなるんだよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・なぁマヌスクリプト、これは一体なんだ?」

 

 

終わった、その時のマヌスクリプトは悟った目をしながらそう思った。

だが考えてみて欲しい。周りにいるのはどれも容姿端麗でナイスボディの持ち主だ。特に代理人なんてクール系美女の路線を突っ切っている。そんな彼女が表情を蕩けさせたりするところとか想像してみて欲しい・・・・・気がつけば描いちゃってても不思議じゃないさ。

 

 

「ちょうどいい、私がネタを提供してやろう・・・・ここから先はRー18『G』だ」

 

「ひっ!?」

 

 

幸いマヌスクリプトの部屋は防音だったため、彼女の悲鳴が外に漏れることはなかった。

 

 

end

 

 

 

番外41-2:ダイナゲートの宴

 

 

対人コミュニケーション試験型ダイナゲート。

サクヤによって開発され、ノインに貸与されているこのダイナゲートは、その見た目に反しやたらといいボイスと尊大な態度、そして圧倒的演算能力を誇る『ダイナゲートのような何か』である。

今日はそのダイナゲートが、製造後初めてメンテナンスを受けに来たのだ。

 

 

「やぁダイナゲート、おかえり」

 

「ふっ、出迎えご苦労だな主任」

 

「・・・・・相変わらず太々しいダイナゲートだな」

 

 

久しぶりに帰省した来た我が子のように(あながち間違ってもいない)迎え入れるサクヤと、呆れたようにため息をつくゲーガー。一応作った本人が許しているからいいものの、言動だけなら生みの親への反逆に近いセリフも平然と言いのけるのだから、規律に厳しいゲーガーには頭の痛い問題だ。

さて、そんなゲーガーの悩みなどつゆ知らず、サクヤはダイナゲートを抱えてメンテナンスルームに向かう。手ごろな台の上に乗せ、システムチェックのための機材を運んでくる。

 

 

「ん? サクヤさん、こっち(自動)のは使わないのか?」

 

「うん、この子は色々いじってるから直接診たいんだよ」

 

「ほぉぅ? そいつがぁ例の先輩ってやつかぁ」

 

「「ん?」」

 

 

聴き慣れない声が聞こえ、ゲーガーとダイナゲートは辺りを見渡す。すると、奥の方からこれまたダイナゲートが現れた・・・・・それも二体だ。

 

 

「あ、そうそう。 この子のデータをフィードバックして作ってみたんだよ」

 

「聞いてないぞサクヤさん!?」

 

 

えへへ、とはにかむサクヤだが、ゲーガーは気が気でない。せめて一言言ってくれなければ、最悪ホイホイ作り続けるアーキテクト2号になってしまいかねないからだ。おまけにこいつらもどうやら無駄にいい声をしているらしい。

 

 

「そうカリカリするなよお嬢ちゃん」(CV.若本◯夫)

 

「初めましてだな、ゲーガー君」(CV.池田◯一)

 

「えぇいこいつらも態度がでかいな!」

 

 

見た目は紛れもなくダイナゲートだ。箱に四本の足が生えているだけのような愛らしい形状に変わりないが、設定ボイスと容姿が全く一致しない。

おまけに揃いも揃って上司を舐め切っている。何が「お嬢ちゃん」と「ゲーガー君」だ!

 

 

「・・・・・はぁ。 で、こいつらを作った理由はなんだ?」

 

「え? 特にないよ? ・・・・・はい、メンテ終わり!」

 

「ふっ、流石は主任だ、手際がいい」

 

 

ピョンっと飛び降りるダイナゲート。そしてAは他二体の前まで来ると、その余裕(?)を崩すことなくその場にペタンと座り込む。

 

 

「そういやぁ、こいつのマスターとやらはどこにいる?」

 

「主なら、ここには来ない。 私も長居をするつもりはないんでね」

 

「ふむ、君の主人か・・・実に興味深い」

 

 

何やらダイナゲート同士で話し合いが始まった。人形と違って口もなければ瞬きもしないので、側から見ればジッとしてただ音声が流れているだけだ。

そして十分ほど経った頃、三体揃って立ち上がり、代表して初号機(仮称)がサクヤに言った。

 

 

「というわけだ主任、()()は主の元に帰るぞ」

 

「うん、ノインちゃんにもよろしく・・・・・・え、我々?」

 

「あぁ、俺たちもそのマスターとやらに会いにいくんでなぁ」

 

「安心したまえ、すでに所有者登録は終えてある」

 

「え・・・・えぇ?」

 

「ではな主任、それとゲーガー・・・・・夜はほどほどに、だぞ?」

 

「やかましい!」

 

 

ゲーガーが叫ぶと、逃げるようにその場を走り去るダイナゲートたち。何やら勝手にノインをマスターだと認証してしまったようだが、サクヤがそれを飲み込むにはもう少しかかりそうだ。

 

 

「・・・・・・サクヤさん」

 

「な、なにかな?」

 

「とりあえず正座」

 

「・・・・・・はい」

 

 

ごめん、ノインちゃん。

サクヤは胸の中で誠心誠意謝罪した。

 

 

end

 

 

 

番外41-3:スオミの宿舎事情

 

 

「スオミー、宅配だってー」

 

「はーい、今行きまーす」

 

 

スオミは元気よく返事をし、嬉しそうに部屋を出る。

グリフィンの司令部は、当然であるが一般人の立ち入りは制限されている。個々人宛の郵便や宅配も基本的に基地の窓口で受け付けられ、そこで保管されるという手順だ。

また危険物への対応として、宅配を希望した人形は届く予定の日時と内容を事前に申告しなければならない・・・・・まぁプライバシーもあるので内容については大雑把でいい。

 

 

「おはようございます、KSGさん」

 

「ん? あぁ、スオミか。 届いたものはそこに置いてある」

 

 

本日の窓口担当、『Am KSG』が指差す。そこには他の人形宛の荷物に混じって、一際大きな箱が立てられている。宛名と注文先を確認すると、スオミは大事に抱えて戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふふ〜、ついに買っちゃいました!」

 

 

宿舎に着くや否や、梱包を丁寧かつ手際良く開けていく。例によって過剰包装気味ではあるが、一切傷付けずという意味ではありがたい仕様のそれを開けると、中から出てきたのは少々変わったタッチパネル、いくつかのツマミがついたレコーダーのようなもの、そして二本のマイクとその充電器・・・・・そう、自前のカラオケセットである。

 

 

「これでもう誰にも止められることも、そして迷惑をかけることもありませんね!」

 

 

スオミは心底嬉しそうにそう言い、これまた手際良く部屋の大型オーディオにつなげていく。

・・・・・そう、スオミの部屋には結構ガチな音響があるのだ。もともと彼女の宿舎は別にあるのだが、大音量で音楽を聴きたいという要望を指揮官に提出し、当時まだ使われていなかった予備宿舎の一室に引っ越したのだ。そして自費で防音改装を発注し、必要な機材も購入し、一時は口座の残高が悲惨なことになるくらいにまで金を注ぎ込んで手に入れた楽園である。

そしてその楽園に、こうして新たな神器が舞い降りたのである。

 

 

「さてと・・・ん゛ん゛っ・・・・・『あーあー、テステス』・・・・・ふふっ」

 

 

音量と音質にご満悦のスオミ。そして早速曲を入力し、すぅっと息を吸い込む。

 

その後、夕食の時間になっても部屋から出てこないスオミを呼びにいった9A91が、扉を開けた瞬間目を回したのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外41-4:教師と生徒のイケナイ関係

 

 

「ちょ、ちょっとゲッコー、こんなところで・・・・・・」

 

「ふふふ、誘ってきたのはそっちだろ?」

 

 

街灯の明かりが入らない路地で、二人の・・・・ゲッコーとMk48の影が重なる。片方は壁に背を当て追い詰められ、もう片方は尻尾と両手を絡めながらにじり寄る。

ゲッコーの細い指が、Mk48の顎をクイッと持ち上げた。

 

 

「あ・・・・・・」

 

「生徒を誘惑するとは・・・・・イケナイなぁ、先・生」

 

 

そしてゲッコーは、震える唇に覆いかぶさった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

時は遡ること数時間前。

待ち合わせ場所である街外れの小さな公園のベンチで座るゲッコーは、マヌスクリプトの用意した服を不思議そうに眺めていた。決して似合っていないというわけではないのは知っているが、なぜコレなのだろうか。

 

 

「・・・・まぁいいか。 彼女が来ればわかるだろう」

 

「・・・・お、お待たせ・・・」

 

 

ひとまず納得したところで、噂をすればというやつである。

 

 

「あぁ、待っていたぞMk4・・・8・・・・・」

 

「あ、あの・・・やっぱり変かしら・・・・?」

 

 

そこにいたのは、いつ見ても綺麗な緑髪を揺らすMk48。しかしその服は女性用スーツをピシッと決め、伊達なのか眼鏡をかけた知的美人といった装いだった。

そしてゲッコーは理解する。彼女の服装も、マヌスクリプトが用意した己の服の意味も。

 

 

「ふふふ・・・・なるほど、それはそれで面白そうだ」

 

「? それよりゲッコー、その服・・・・・」

 

「あぁ、マヌスクリプトのやつに渡されてね・・・・似合っているだろ?」

 

「え、えぇ、とっても」

 

 

ゲッコーが着こなしているのはブレザータイプの学生服・・・の男物だ。すらっとしていて中性的な顔立ちのゲッコーだと特に違和感もない。

そう、マヌスクリプトが画策した今回のシチュエーション、それがこの『生徒と教師の禁断の恋愛』である・・・・・またどこかの本か何かに影響されたに違いない。

 

 

「さて、お互いを褒めることも大切だが時は待ってはくれない。 さっそく行こうか、『先生』」

 

「せっ!? ・・・・・コホン、そうね、行きましょうか」

 

 

そう言って二人は手を繋いで歩き始めた。

 

まず二人が向かったのは、同じく街外れにある小さな通り。街の中心から人がくることはあまりないが、この周辺の人々の生活を支えている通りでもある。ゲッコーの事前リサーチでは隠れた名店や少し変わった店が多く、ゆっくり見て回るにはいい場所なのだ。

PAー15のように新たな刺激を求めるタイプには向かないが、Mk48なら楽しめると考えてのことである。

 

 

「へぇ、こんなところがあったのね・・・・・」

 

「メインストリートに目が行きがちだが、S09地区随一の大きさのこの街は見所がたくさんある。 例えば、あの雑貨屋とかだな」

 

 

ゲッコーが指差す先には、これまたいかにも『雑貨』といった感じの店構え。しかしごちゃついているという感じはあまりせず、なぜか引き寄せられる感覚に陥る不思議な店だ。

 

 

「ここのアクセサリーは、店主の友人が手掛けたオリジナルのものがほとんどらしい。 故に宝石類の形も大きさも不揃いだが、唯一無二のものだ」

 

 

ゲッコーの説明を聞きながら、Mk48は見入るように商品を眺める。確かにメインストリートに並ぶものに比べれば少々歪なものがほとんどだが、不思議とそれらよりも輝いて見える。

思わず手に取ったネックレスを眺めるMk48。するとゲッコーはそれをつまみ上げ、そっとMk48の首にかけた。

 

 

「ふふっ、やはり似合うな。 君の髪と同じ、エメラルドがよく映える」

 

「えっ、あ、ありがと・・・・」

 

「照れる君はいつ見ても可愛いな・・・・・店主、これを買いたい」

 

 

綺麗、可愛い、似合う・・・・そんな言葉を立て続けに言われて早くも顔が真っ赤になるMk48。だが慌てて自分で出すと言うが・・・

 

 

「おや、それでは君へのプレゼントではなくなってしまうじゃないか」

 

 

と言われてまた顔を赤らめながら引き下がった。

これでもまだ始まったばかりのデートである。こんな調子で最後まで持つのかと嬉しい不安を抱きながら、Mk48はふふっと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、すっかり遅くなってしまったな」

 

「そうね、学生くんは早く帰らないと補導されちゃうわよ?」

 

 

それから数時間、二人でアイスを食べさせあったり写真を撮ったりとデートを満喫、途中からMk48もデートを楽しめるくらいに落ち着きはじめ、むしろ『教師と生徒』という設定にノリノリになっていった。

一日の締めとして小さなバーで夕食をとり、心地よくほろ酔いになった二人は、まだ少し冷たさの残る夜風に熱った体を冷ましていく。

 

 

「補導か、それならもう飲酒もしてしまっているな」

 

「あらほんとね、じゃあ先生がオ・シ・オ・キしてあげる♪」

 

「ほぉ、それは楽しみだ・・・・・・っ!」

 

 

そこで突然、ゲッコーがMk48の手を取り路地へと入る。そのまま壁に押さえつけるようにし、口元に指を当てて声を抑える。

 

 

「いやぁ旨かった旨かった!」

 

「給料日の酒は旨いわ〜・・・・ヒック」

 

 

先ほどまで二人がいたところを通るのは、ベロンベロンによって足元もおぼつかないM16とG36のダメ姉コンビ。どうやら二人で飲みすぎてしまったようで、普段のキリッとした態度のかけらもないほどおっさん臭くなっている。

二人が通り過ぎたところで、ゲッコーとMk48ははぁっと息をつく。

 

 

「まさかこんなところで知り合いに出会すとは・・・」

 

「こんな格好見られなくてよかったわ・・・・」

 

 

ホッとしたところで、Mk48はそろそろと路地を出る・・・・よりも前にゲッコーに引き戻された。

 

 

「え? ちょっ、ゲッコー、何を!?」

 

「何をだって? ふふっ、まだオシオキとやらがあるのだろ?」

 

 

ゲッコーの目に怪しい光が灯り始める。そしてそれまでうまいこと収納していたゲッコーの尻尾型ユニットが鎌首をもたげ、まるで蛇のようにMk48に絡みつく。

 

 

「ちょ、ちょっとゲッコー、こんなところで・・・・・・」

 

「ふふふ、誘ってきたのはそっちだろ?」

 

「あ・・・・・・」

 

「生徒を誘惑するとは・・・・・イケナイなぁ、先・生」

 

 

両手と尻尾でMk48を引き寄せる。まるで獲物をじわりじわりと追い込むようにわざと時間をかけ、ゆっくりと唇を近づける。Mk48に抵抗の意思はなく、されるがままだ。

そしてその唇が重なる・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「M16姉さんっ!!!」

 

「見つけましたよ! G36姉さん!」

 

「M4!?」

「 G36C!?」

 

 

直前で聞こえてきた怒号にまたもやビクッと飛び上がる二人。そっと顔を出してみれば全力で逃げるM16をM4が追い、足をもつれさせ転んだG36に笑顔のG36Cが迫る。

もはやムードどころではなくなったその場に、二人分の悲鳴が響き渡る。

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・あー、その・・・・帰るか?」

 

「・・・・そうね」

 

 

結局酔いも覚めて冷静さを取り戻した二人は、なんとも言えない空気のまま帰路に着くのだった。

 

 

end




ストーリーを進めるたびにメンタルがゴリゴリ削られていく・・・・・おいエゴールこのやろう!また貴様をロリコンにしてやろうか!?(特異点回参照)

では今回も各話の解説!
・・・・・しっかし今回は特にやりすぎたかなぁ

番外41-1
久しぶりのマヌスクリプト制裁回。鉄血のコンプライアンス担当は伊達ではない。
ドリーマーの手にかかればHDDの解体から隠しフォルダの拡散までお手の物である。

番外41-2
山ほど候補があったけど増やしすぎると収集つかないので。
ちなみに片方は威嚇音で「ぶるぁぁぁぁああああ!!!!」と叫び、片方は壁を蹴るなどして尋常でないスピードを出す・・・・しかし火力はお察し。

番外41-3
趣味一直線のフィンランド淑女。
作中珍しく給料の使い道がはっきりしている娘。

番外41-4
言うな・・・・・落ちの手前で魔が差したんだ・・・・・
ちなみにPAー15とのデートも最後までは言ってません。だからまだフェアだよMk48!


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第百六十五話:フードの下は

SG実装当時からずっと狙い続けてようやく来てくれたAm KSG!
見た目がドンピシャでもはや運命的なものまで感じましたね・・・・君を引き当てるのに一体どれだけの資源と時間が消えたことやら泣


戦術人形の服装は個性的である。もちろん戦術人形に限ったことではないが、従事する仕事の内容と服装が一致しないという点では民生人形よりも勝る。機能一点張りと言わんばかりの鉄血製(ハイエンド除く)も大概だが、IoP製の場合はもはや制作者の趣味の範疇である。メイド服やミニスカなど当たり前、ひどい時にはほとんど見えてしまっているほど際どい者もいる。

そんなIoP製の人形たちに慣れている街の人間は、やはりどこかずれているのだろう。

 

 

「・・・・・ねぇ『KSG』」

 

「なんだ『ストーム』?」

 

「薄暗い路地を、フードをかぶった二人組が歩く・・・・・これってどう見られると思う?」

 

「不審者、だろうな」

 

 

そんなくだらない会話をする二人組は、会話の通りフードを被り両手をポケットに突っ込んだまま歩いていた。二人とも暗色、片方に至っては真っ黒であるため、夜に出くわせば逃げ出したくなる格好だ。もっとも、銃を担いで歩くだけで戦術人形と認識でき、それはつまりこの町で彼女らを不審に思うものはいないということである。

そのパッと見不審者・・・・・Am KSGとPx4ストームは、そんな他愛のない会話を続けながら、二人は薄暗い路地を抜ける。

 

 

「・・・・うん? この匂いは・・・・・」

 

「コーヒー、ね・・・・あのお店じゃないかしら?」

 

 

路地を進んだ先にある、その立地のわりには広い喫茶店。その香りは目の前の公園を包むようにふわりと広がり、路地裏へと入り込んできた者を誘う。

それが、喫茶 鉄血である。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン

「いらっしゃいませ・・・・二名様ですか?」

 

「えぇ・・・席はここでいいかしら?」

 

「構いませんよ。 ではご注文を」

 

「とりあえずココアと・・・・何か軽食が欲しいな」

 

「私はコーヒーとこのサンドイッチにするわ。 KSGは?」

 

「・・・・では、フレンチトーストを」

 

「かしこまりました」

 

 

注文を受け取り、奥へと向かう喫茶 鉄血のマスター、代理人。その姿を目で追い、次いで店内を見渡す。

いかにも喫茶店・・・いや、どちらかというと気軽に入りやすいカフェの方が近いかもしれない。それでいて決して華美なものでもなく、かといって常連ばかりで入りづらい、というわけでもない。静かに過ごす客もいれば、会話に花を咲かせる者たちもいる。ついでに彼女らのような人形もいれば、当然人間だっているのだ。

 

 

「まぁもっとも、この街でいまだに差別するような命知らずはいないだろうな」

 

「そうね、そんなことををした日には客が来なくなって潰れちゃうわね」

 

 

一応ちょっと前まではいたのだが、その手の連中は他でもない人間様から追放されてしまったのだ。おかげでグリフィンが出動する頃には大体片付いている、といった事例も少なくない。

まぁともかく、ここはあらゆる者たちが集える店だということだ。

 

 

「お待たせしました、サンドイッチとフレンチトーストです」

 

 

香ばしい香りと甘い匂いを漂わせ、二人が注文したものが出てくる。量も小腹を満たすにはちょうど良く、ストームはさっそくサンドイッチにかじりついた。

サクッと音を立てるパンにシャキシャキのレタス、フワフワの卵はほのかに甘く、トマトの甘味と酸味がいい感じだ。

 

 

「ん〜〜・・・・シンプルイズベスト、ってやつよね」

 

 

思わず頬を緩ませ、二口目をかぶりつこうと口を開け・・・・ふと隣に目を向けて手が止まった。

ストームは思う。隣にいるこいつは誰なんだ、と。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

 

パクッ…モッキュモッキュ……ゴクン

そんな擬音が見えそうなほど美味しそうに、それはもうわかりやすい笑顔でフレンチトーストを口へと運ぶ少女・・・・言うまでもなくKSGである。飯食うときくらいはフード脱げよとかサングラスとれよとか思わなくもないが今はそれどころではない。

ストームの知る彼女は、こんな小動物的な仕草をするような人形ではない。

 

 

「け、KSG・・・・?」

 

「ングング……ンクッ・・・・・・んふふ♪」

 

 

凛々しさのかけらもなく、というかストームが隣にいることすら忘れているように自分の世界に入ってしまっている。頬に手を当てて首を少し傾げ、頬も目尻も下がりきるほど堪能しているようだ。

 

 

「ふふっ、お気に召しましたか?」

 

「うん♪」

 

「KSG!?」ガタッ

 

「え?・・・・・・あ゛っ!?」

 

 

キャラ崩壊目前のKSGにいよいよストームは冷静でいられなくなる。そしてここでようやくKSGもストームの存在を思い出し、ものの一瞬でタコのように真っ赤になった。

 

 

「ち、違うんだストーム! これはその・・・・そう! 地域住民との交流を図るための演技で」

 

「嘘おっしゃい! ていうか何さっきの!? あんたそんなキャラだったの!?」

 

「KSGさん、もう一口どうぞ」

 

「あ! あーん♪・・・・・・・ハッ!?」

 

「ほらぁ!!!」

 

 

もはや言い逃れなどできない醜態(?)を晒してしまったKSGは結局その後の弁明も無駄に終わり、大人しく吐かされることとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、なるほどねぇ・・・・・・・」

 

「くっ、殺せ・・・・!」グスッ

 

 

十分少々、根掘り葉掘り話を聞き出されてしまったKSGはシュンと小さくなり、反対にストームは大変ご満悦だった。まぁ無理もない、今までクールで仕事に生きるというイメージの同僚の、意外な一面を知ることができたのだから。

 

 

「にしても意外よねぇ・・・・・まさかKSGが『甘いもの好き』で『可愛いもの好き』な乙女だったなんてね」

 

「くそぅ」

 

「そう言いながらソレは食べるのね」

 

 

だって美味いんだもん・・・そう言って不貞腐れるようにして食べるKSGだが、結局一口食べたところでまた表情を緩ませる・・・・もはや開き直りである。

しかし何度見ても、そのやや厳つい見た目とのギャップが大きいと感じるストームだった。

 

 

(て言っても、真っ黒のフードにオレンジのグラサンじゃぁね・・・・・あ、そうだ)

 

 

何か思いついたストームは、既に意識をフレンチトーストに向けているKSGの後ろに忍び寄る。よほど気に入ったのか、それすらも気づかないKSG・・・・・戦術人形としては致命的な危機管理能力である。

そしてKSGの様子を伺いつつその手を伸ばし・・・・・一気にフードとグラサンを脱がしにかかった。

 

 

「ぬ゛ん゛っっっ!!!!」

 

「へっ!? ひゃぁあああああ!!!!!????」

 

「KSGさん!?」

 

 

フードの縁とグラサンに手をかけえられた時点で抵抗を試みようとしたKSGだが、両手がナイフとフォークで塞がっていたためなす術なく剥ぎ取られる・・・・・フードとグラサンだけだが。

しかしストームですら予想していなかったほど大きな悲鳴を上げ、両手で顔を覆い隠してしまう。唖然とするストームと代理人に、KSGは目尻に涙を浮かべながら言った。

 

 

「み、見るなぁ!」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・す、ストーム?」

 

「見るなと言われれば・・・・・・見たくなるに決まってるでしょ!!!」

 

「ぴゃああああああああ!!!!」

 

 

どうやらストームは少々Sの気があるらしい。覆っていた両腕をガシッと掴むと、なんとしてでも顔を見ようと引き剥がしにかかる。パワーでいえばSGとHGの差は歴然なんだが、どうやら世の中そう単純な話ではないらしく、割とあっさりその素顔を晒すこととなった。

短く切った銀髪に、白い肌、くりっとして潤んだ瞳がなんとも愛らしい・・・・シンプルに可愛い系の美少女だ。

 

 

「み、見ないでくれぇ・・・・!」

 

「嫌よ。 ていうか何がそんなに嫌なのよ、こんなに綺麗な顔なのに」

 

「か、可愛いとか言うなっ! わ、私のイメージはそんなのじゃない!」

 

 

どうやら周囲のイメージや印象のために黙っていたらしい。感情の起伏を減らし、可愛いもの好きを隠し、クールでかっこいい人形というイメージに。

・・・・・もっとも、もはや修復不可能なレベルで崩壊してしまったが。

 

 

「いいじゃない、好みなんて人それぞれなんだから」

 

「私だってクールでいたいんだ!」

 

「それなら最初からコーヒーを注文しなさいよ」

 

「・・・・・・苦いからやだ」

 

「子供か」

 

 

もはや初見の印象からガラリと変わってしまったせいか、頬を膨らませて不貞腐れる・・・というか拗ねるKSG。それでもその手は残ったフレンチトーストへと伸び、一口食べればたちまち笑顔に戻る・・・・子供か。

 

 

「まぁいいわ、このことは黙っといてあげる」

 

「あら、お優しいんですねストームさんは」

 

「優しい? ふふっ、違うわね」

 

 

ストームはそう言ってニヤリと笑うと、スッと端末を取り出してカメラを起動しシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その方が面白いからよ・・・・・色々と、ね」

 

「なっ!? け、消せ!消してくれ!!!」

 

「うふふふ、今度一緒に可愛い服でも買いにいきましょ〜KSGちゃん♪」

 

「うわぁああああああ!!!!!!」

 

 

 

end




通常絵と大破絵の印象が180度違うと感じたのは私だけではないはず。
最初はそのかっこいい系のビジュアルに惹かれて製造したんだけどね・・・・まさか可愛い系もいけるとは思ってもみなかったよ!

では今回のキャラ紹介

KSG
前回の番外編でちょろっと登場済み。
キャラ崩壊著しい当作品ですが彼女もその一人・・・・大破絵でビビッときた。甘いもの、可愛いもの、ちっちゃいものなどが好きで、その逆はやや苦手。そのくせクールになりたいとかいう矛盾っぷり。
でも可愛いからなんだってOK!

ストーム
フード仲間。
そのくせ大胆に素足を見せたりと隠してるのか見せてるのかよくわからないキャラ・・・・・しかもインナーがピッチリなのがエロい。
なんでこうもハンドガンの娘らは際どいのが多いんだ!(歓喜)

代理人
普段のイメージを知らないが、今回の件でおおよそどんな人形なのかはわかった。
ナチュラルに餌付けするタイプ。


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第百六十六話:新部隊発足?

いつのまにか公式で新イベントの告知が来てましたね。
高難易度とかはともかく、せめて限定キャラとかは楽に取らせて欲しいです・・・・・そしてキューブ作戦の常設化はよ

あとこの話を書いてる途中でAR-15とM1911がMODⅢになりました。
ですわ口調のM1911も可愛いけど、AR-15の立ち絵の気合いの入りようがすごい!
ていうか大破絵が超かっこいい!!!メンタル回廊周ってて正解だったぜ!


グリフィンS09地区所属、戦術人形AK-12。

普段はANー94とともに任務や様々な業務をこなし、そして帰宅後やオフは萎んだ風船の如くダメ人形と化す女性である。ひょんなことから喫茶 鉄血に住み着き、休日(たまに)店を手伝うという条件で衣食住を提供してもらっている。

プライベートをいかに怠けられるか・・・・・多少暖かくなってきてもコタツを撤去させようとしないという姿勢からその本気度が窺える、色々と手遅れな人形なのである。

 

 

「え、AK-12さん、そろそろ起きましょうよぉ・・・・」

 

「ん〜もうちょっと〜〜・・・・」

 

「そ、それもう5回目ですよ」

 

「フォートレスちゃん、とある国にはこんな言葉があるのよ」

 

「なんですか?」

 

「『春眠暁を覚えず』・・・・・この時期限定で、二度寝を正当化できる魔法の言葉なのよ」

 

「変な嘘を教えないでくださいAK-12」

 

 

今日も今日とてフォートレスを抱き枕かクッションのように抱きしめ、炬燵に足を突っ込んでで微睡むAK-12に、代理人が呆れたような声でそう言った。

おまけに程よく暖かくなってきたせいか、身につけているのはパーカー一枚。一応下着はつけているのだが、色気とかを通り越してダラシない姿を晒す。

 

 

「まったく・・・・・初めて会った時はもっとまともだったのですが」

 

「ふんっ、その『まとも』だって誰かの基準でしかないわ・・・私は私よ」

 

「正論っぽいことを言っていますがだらしないことには変わりありませんよ」

 

 

住まわせているが店の者ではないため強く言えず、ならば追い出してしまえばいいかというとそれはそれで気が引け、彼女の相棒たるANー94は彼女に激甘・・・・・結果、AK-12の生活態度改善が滞っているのだ。

 

 

「AK-12さん、そのうち誰かの部下になった時に困りますよ?」

 

「ご忠告どうも・・・・けど問題ないわ。 なにせ私たちのスペックはグリフィンと歩調を合わせるのが難しいほどだからね」

 

 

このまま二人だけの部隊よ〜、と寝返りを打ちながらだらけ顔でのたまうAK-12。だが実際その通りなので何も言えず、代理人は諦めてフォートレスの救出に目的を変更する。

・・・・・が、そんな彼女らのもとに新たな知らせが飛び込んできた。

 

 

「AK-12! 大変です!」

 

「ん〜? どうしたのANー94?」

 

「先程、指揮官から架電がありました。 新部隊が設立され、私たちはそこへ配属されるそうです」

 

「・・・・・・・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

「お邪魔します、お母さん」

 

「この姿だと、はじめましてかしら」

 

「あら、M4にAR-15さん・・・・・その姿は」

 

 

陽も傾きはじめた頃、喫茶 鉄血を訪れたのはよく見知った顔の見慣れない格好。それは服装とかいうものではなく、所々本当に形が変わっているのだ。

いつもより一回りほど頼もしく見えるM4とAR-15・・・・・大幅な改装と新装備による『MOD化』を適用した姿だ。

そして「お母さん」呼びということは、どうやらオフで来たらしい。

 

 

「えへへ・・・ご報告が遅れましたが、先日性能アップのために改装したんです」

 

「ま、報告しなかったのはサプライズにしたかったかららしいけど」

 

「もうっ! それは黙っててくださいって言ったでしょ!」

 

「ふふ、お二人ともかっこいいですよ」

 

 

中身は変わってないけど、とは言わない代理人。

しかしどうやら、彼女たちが来たのはこれだけが理由ではないらしい。

 

 

「それで、今日は何をしに?」

 

「あれ? AK-12から聞いていませんか?」

 

「AK-12・・・・・新部隊設立とそれに伴う異動の件ですか?」

 

「・・・・・ってことは、それ以上は聞いてないってことね」

 

 

首をかしげる代理人に、AR-15とM4は顔を見合わせてため息を吐く。そして少し申し訳なさそうにして言った。

 

 

「私たちのMOD化に伴い、AR小隊を一時的に解散して新しい部隊を設立しました。 私とAR-15、そしてAK-12さんとANー94さんの四名で構成されます・・・・・そこでしばらくの間、私たち四人で共同生活を行うことが決定したんです」

 

「・・・・・・まさか、お二人ともここに?」

 

「流石にそれはないわ。 二人も預かってくれてるのにこれ以上負担はかけられないしね」

 

「はい、そういうことで、お二人には司令部の宿舎へと移ってもらうことになりまして・・・・・・今日お迎えに上がる予定だったんです」

 

 

直接お伝えせずに申し訳ありません、と深々と頭を下げるM4とAR-15。だが代理人はそんなことよりもっと根本的なところで気になっていることがある。

AK-12はおろか、ANー94からもそんな話を聞いていない。初耳である。

 

 

「えっと・・・・それはいつごろ決まったのでしょうか?」

 

「数日前に指揮官が伝えていました。 AK-12さんには繋がらなかったそうなので、ANー94さんに」

 

「(おそらく、あの時のことですね・・・・ということは)・・・・・わかりました。 お二人に伝えてきます」

 

「あ、でしたら私も行きます」

 

 

一瞬額に青筋が浮かんだ気がする代理人だが、M4は努めて無視した。代理人に直接連絡しなかったこちらにも落ち度はあるが、あの二人だって元軍人、報告の重要性くらいわかり切っているだろう。

そんなわけでM4は楽観していた。任務中はしっかりしているのだから普段もそんな感じだろうと・・・・・そう思っていたのだ。

 

で、実際のところはというと・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「AK-12さん、ANー94さん・・・M4とAR-15さんが来てますよ」

 

「え゛っ!? き、今日だったっけ!?」

 

「え? えぇ、そうですが・・・・・まさか!」

 

 

自室で待機していたANー94は、同じく待機(?)していたAK-12の挙動に違和感を覚える。そして何かを察すると、急いでAK-12の物と思しき段ボールを開けた。

ガムテープも貼っていないその中身は、ものの見事に空っぽだった。

 

 

「AK-12!?」

 

「ち、違うのよANー94! これから! これから片付けるつもりで」

 

「・・・・・へぇ、これからねぇ」

 

 

妙に低い声にビクッとなるAK-12。振り返るとそこにはいい笑顔のAR-15と、対象に見事な無表情の代理人、そしてその後ろで苦笑いするM4。

ちなみにANー94の荷造りは終わっている。身支度も整え、いつでも出ることができる。

 

 

「・・・・・AK-12さん、そんな大事な話をなぜ黙っていたのでしょうか?」

 

「そしてANー94、あんた同じ部屋のくせになんでこうなるまで放っといたのよ」

 

「え、AK-12が大丈夫だって言っていたので・・・・・」

 

「あんたのその甘さはどこからきてんのよ!?」

 

 

ちなみに、代理人に連絡していなかったのも、AK-12が「自分から伝える」と言っていたためである。

そして当のAK-12は、ガバッと顔を上げるとベッドに潜り込み、頭から布団を被って言い放った。

 

 

「嫌よ! このオアシスを手放すなんて考えられないわ!!!」

 

「AK-12!?!?」

 

「ええそうよ、わざと伝えなかったの! 炬燵とフォートレスに癒されて、非番の日は一日中ゴロゴロしてられるこの楽園、死んでも動かないわよ!」

 

 

他にもおいしいご飯やら気兼ねなく話せる隣人やら、とにかくここに留まりたいという要望・・・・いや、駄々を捏ね続ける。プライドなんてものはとっくに捨て、引きこもり一歩手前のようなことをのたまう。

これにはAR-15はもちろん代理人もこめかみをひくつかせるが、それよりも先に動いた者がいた。

 

 

「・・・・・・A()K()-()1()2()

 

「な、なによ。 言っとくけどテコでもジュピターでもテュポーンでもここを動かないわよ!!!」

 

「わかりました・・・・・・・フンッ!!!!!」

 

「フゲッ!?」

 

「「えええええええええ!!!!!??????」」

 

 

肩に担いだ箱のようなものを掴むと、布団の上から思いっきり殴打するM4。あのおっとりしたM4が武力行使に出たことも意外だが、それ以上に恐ろしいのは、一連の動作を全て笑顔で行っていたことだろう。

潰されたカエルのように四肢を伸ばしたAK-12に対し、M4は表情を変えずに問いかける。

 

 

「片付け、しますよね?」

 

「グググ・・・・ま、まだ終わらんよ・・・・」

 

「そうですか・・・・・ではもう一発」

 

「えっ、ちょっ、待っフグゥ!!!」

 

「(ゴスッ)AK-12(ドゴッ)片付け(ズゴッ)しますよね?」

 

「す、する! するからもう勘弁して!!!」

 

 

流石のAK-12も恐怖を感じたのか、慌てて飛び起きると部屋のものを片付け始める。呆気にとられる三人は、M4が振り返ると一瞬ビクッとなった。

 

 

「ANー94」

 

「は、はいっ!」

 

「ご自分の荷物を持って先に降りていてください・・・・AR-15は手伝ってあげて」

 

「え、えぇ」

 

 

言われると同時に荷物を担ぎ、まるで逃げるように部屋を出る二人。特にまだ隊長が誰とかは決まっていないが、今この瞬間、間違いなくM4になるだろうと確信したのだった。

するとM4はフッと表情を和らげ、代理人にペコリとお辞儀する。

 

 

「お見苦しいところをお見せしました。 慌しくなって申し訳ありませんが、お二人に代わってお詫びとお礼を申し上げます」

 

「・・・・・なんというか、逞しくなりましたね」

 

 

そうでもないですよ、と苦笑するM4に、娘の成長を見届ける母親の気持ちはこんなのなんだろうなと一人感傷に浸る代理人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・さて、そろそろ終わりましたか?」

 

「え? あっ・・・・・・」つ[コミック]

 

「・・・・・・・・」(ニコッ)

 

 

 

追加で二回ほど、鈍い音が響いた。

 

 

end




原作M4「鉄血も!正規軍も!!私の邪魔をする者は、皆死ねばいい!!!」
ここのM4「爆殺魔?ふふふ・・・・・ご冗談を」チャキッ

・・・・・あれ、そんなに変わらなくね?
これにてAK-12とANー94は喫茶 鉄血からさよならです。まぁ出番がなくなるわけじゃないけど。


さて、そんなこんなで今回のキャラ紹介!


AK-12
自分の居場所は自分で守る!(自宅警備員予備軍)
追い出される時点でかなり消耗しているが、このあとはM4らと共同生活があることを忘れてはならない。

ANー94
AK-12を甘やかしすぎた結果がコレ。
今後はM4管理の元、親切と甘やかしの線引きがなされることとなる。

M4(MOD)
大幅にパワーアップし、メンタルもそれに応じて強くなった。
M16が持つものの改良型を装備、遠距離はもちろん殴打による近接戦も可能。
ボコボコに殴り壁まで追い詰め、目の前で笑顔+コンテナ展開という鬼畜コンボを繰り出す。

AR-15(MOD)
M4の影で目立たなかったが、こちらもかなりパワーアップ。
単純に武装が増えてて数も増えた・・・・が、胸部装甲の増設はなされn(銃声)

代理人
ちょっと見ない間に娘(仮)が逞しくなっていた件


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第百六十七話:残念美人

話の内容は決まってるのに筆が進まない・・・・これが、五月病か


「・・・・・代理人さんって、指揮官と仲がいいんですね」

 

「・・・・・はい?」

 

 

来て早々そんなことを言い出すスプリングフィールドに、代理人は思わず聞き返した。しかもそのスプリングフィールドはなにやら頬を膨らませて拗ねており、ますます意味がわからないと代理人を困惑させる。

彼女が指揮官に惚れているというのは周知の事実であり、そして彼女を含め誰一人振り向いてもらえていないというのも事実だが、果たしてなぜその話題に代理人が出てくるのだろうか。

 

 

「だって指揮官、あなたと話すときは随分とリラックスしてるんですよ?」

 

「それはまぁ、そうしていただけるように話していますので」

 

 

客との距離感と会話は、常連客を得る上で重要な項目の一つだと代理人は考える。よって訪れる客の一人一人に丁寧な対応を心がけており、結果として仲良くなることも少なくはない。

指揮官の場合、あまり話上手でもなく口数も少ないので、こちらから話題を振って会話を繋げているだけなのだ。

 

 

「それが羨ましいんです! 指揮官とお喋り、それもあんなに長く話していられるなんて・・・・・一体どんな対人プログラムなんですか!?」

 

「そこまで!?」

 

 

と、このようにスプリングフィールドが熱くなるのには理由がある。前述の通り指揮官は口数が少なく、基本的に聞きに徹している。そのため舞い上がって自分から話しかけてしまう彼女たちの場合、会話というよりも一方的に話しているだけに感じてしまうのだ。

じゃあ相手から話すように仕向けては・・・・・・それができるのならばこんなところで躓いてはいない。

 

 

「なので代理人さん、一つお願い事があります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しの間、私をここで働かせてください!」

 

「・・・・・・・・はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これが春っちの制服ね」

 

「ありがとうございます」

 

「・・・・・・まさか本当に働くとは」

 

 

スプリングフィールドが突拍子もないことを言い出してから一時間後。

いつもの冗談だと思っていたのだが、なんとその場で指揮官からの許可を得てしまった彼女はマヌスクリプトに頼んで予備の制服を自分のサイズに仕立て直してもらっていた。

しかもその時に仲良くなったのか、互いに「春っち」「マヌちゃん」と呼び合っているし、制服のサイズもバッチリだ。

 

 

「珍しく普通の制服ですね」

 

「代理人は私をなんだと思ってるのよ? 仕事着は仕事着なんだから余計なものはつけないよ」

 

 

過去にコスプレ喫茶をやらかしたのはどの口だったのかと問い詰めたいが、それはまたの機会にしておこう。

ちなみにスプリングフィールドが働くのは一日二日ではなく、約一ヶ月というそこそこ長い期間である。一体どんな理由で申請したのかは不明だが、代理人も指揮官と直接話して確認した。

指揮官(保護者)による証明が出たので、晴れて今日から喫茶 鉄血の一員である。

 

 

「・・・・・まぁいいでしょう。 ではスプリングさん、部屋を一つ貸しますので荷物はそこへ運んでください。 ベッドなどの家具はある程度揃っていますが、ご自身で揃えていただいても結構ですよ」

 

「わかりました」

 

 

そう言って案内された部屋は、ついこの前までAK-12とANー94が使っていた部屋である。

もともと住み込みバイト用に空けた部屋なので、特に改装の必要もなく使え、簡易なベッドやクローゼット、机と椅子が揃ったワンルームである。

 

 

「では、一時間後に降りてきてください。 一応、簡単な研修も行いますので」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

そんなこんなで、スプリングフィールドの喫茶 鉄血アルバイト生活が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん」

 

「なんですか、D」

 

「スプリングさん、ずっといてくれないかな?」

 

「気持ちはわかりますが、無理な相談ですよ」

 

 

スプリングフィールドが働き始めて早くも一週間が経ったころ、気がつけば彼女がここで働いているという噂が街全体にまで広まってしまっていた。

もともとスプリングフィールドという人形は軍人民間人問わず絶大な人気を誇り、彼女を副官に任命する指揮官も少なくないと聞く。それは彼女たちの持つ母性というか、聖母のような雰囲気に包まれたいという願望なのだろう。

そんなわけで、(外面だけは)見目麗しい彼女が働いていると聞きつけ、喫茶 鉄血は連日多くの客が訪れていた。

 

 

「はい、コーヒーとトーストをお持ちしました」

 

「ご注文はお決まりですか? 今の時期はこのフルーツケーキがおすすめですよ」

 

「おかわりですか? お気に召していただけて何よりです」

 

 

そんな彼女目当ての客たちを、スプリングフィールドは大層手慣れた様子で接客していく。話しかけられれば丁寧に返し、下心にはやんわりとお断りをいれる。司令部併設のカフェを営むというだけあって、その接客スキルは代理人ですら舌を巻くほどだ。

正直なところ、彼女の方がよっぽど優秀な対人プログラムを積んでいると思いたくなる。

 

 

「ふぅ・・・少し休憩しますね」

 

「えぇ、構いません。 それにしても、やはり慣れている様子ですね」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

決して威張らず、謙遜しすぎることもない。これで指揮官の件がなければ、本当に文句なしなのだから勿体無い。

 

 

「残念美人、てやつだね代理人」

 

「わかっていないなマヌスクリプト、むしろ欠点の一つ二つある方がより魅力的に映るものさ」

 

「それ、本人の前では言わないでくださいよ二人とも」

 

 

言った日にはものすごく落ち込むだろう、と代理人は思うのだった。

しかし、代理人も言葉にはしないが概ね同じ意見である。聞く限りでは部隊の仲間からも信頼され、グリフィン内外問わず人気もある。真面目だがお堅くはない雰囲気で新人たちのお世話もできる・・・・・そんな美点をもってしても抑えられない残念要素なのだ。

 

 

「ふむ・・・・・・では少し、手を打ってみましょうか」

 

 

そんな友人の背を押すために、代理人は少々お節介を焼くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。

今日はなんとなく忙しい、スプリングフィールドはそう思っていた。特別人が多いわけでもないが、なぜか従業員の手が空いていないのだ。

いや、なぜかという理由は知っている。食材その他の入荷や注文に加え、マヌスクリプトは注文を受けている服の納期に追われている・・・らしい。

そんなわけで、なんとなく忙しいと感じているのだった。

 

 

「スプリングフィールドさん、少しカウンターをお願いしますね」

 

「はい、わかりました」

 

 

そう言い残し、代理人はDを連れて奥へと下がる。カウンターの業務は対面での接客が求められる。イェーガーとリッパーは表情の変化に乏しく、フォートレスは上がりやすい。ゲッコーは誰彼問わず口説きそうなので、現場に出ている者の中ではスプリングフィールドが最も適任なのだ。

・・・・・・が、もちろん世の中には例外というものも存在する。

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・・・・・」

 

「む、スプリングフィールドか。 久しぶりだな」

 

 

突然の指揮官(想い人)の登場に、スプリングフィールドは笑顔のまま固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・ハッ⁉︎ こ、こここんにちは指揮官! な、何か飲まれますか!?」

 

「? あぁ、コーヒーを」

 

「かしこまりましたっ!」

 

 

上擦った声で返事を返しながら、スプリングフィールドはバタバタと準備を始める。ただカップを用意してポットからコーヒーを注ぐだけ、それだけの動作なのに、まるでその数倍もの業務をこなしているかというほどに慌ただしい。しかも時々電池が切れたように固まっては、一瞬で顔を真っ赤にしてまた動き始めるという謎の挙動を繰り返している。

そんなこんなで、普段の倍以上の時間をかけて用意したコーヒーを、スプリングフィールドは震える手で差し出した。

 

 

「ど、どうぞ・・・・・」

 

「ありがとう」

 

 

会話終了。

普段ならここで他の仕事を行うのだが、今は両手を胸の前で握りしめてじっと指揮官の様子を伺っている。まるで初めて作った手料理を振る舞ったかのような初々しい反応だが、指揮官と対面の場合ほぼ毎回これである。

 

 

「ど、どうでしょうか・・・・・」

 

「うん、美味しいよ」

 

 

パァッと笑顔になるスプリングフィールド。

ちなみにポットに入っていたコーヒー自体は代理人が淹れたものなのだとゲッコーたちは知っているが、そこはあえて黙っておいた。

 

 

「それで、どうだ? 『実地研修』は」

 

「はい、楽しくさせていただいてます。 まだまだ学ぶことも多いですから」

 

「そうか」

 

「それに、お店の方も皆親切なんです。 例えば・・・・・」

 

 

褒めてもらえて気が楽になったのか、先ほどまでの挙動が嘘のように話し始める。代理人たちのことや、訪れる客のことなどなど・・・・それを指揮官は頷いたり相槌を入れたりして聞いていた。

 

 

「それで・・・・・・あっ、すみません、私ばかり話してしまって」

 

「いや、構わない。 君の話は面白いからな」

 

「指揮官・・・・・・」

 

 

ふと、これはいい雰囲気なんじゃないのだろうかと、スプリングフィールドは思う。正直、かつてないほど緊張もほぐれ、指揮官の目を見て話すことができている。

想いを伝えるなら、今しかない!

 

 

「・・・・・・・指揮官」

 

「ん? どうした?」

 

「私は・・・・スプリングフィールドは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あなたのことがs「そこまでですわっ!!!」

 

 

意を決した言葉が、聞き馴染みのある声にかき消される。先ほどまでの幸せムードから一転、絶対零度の眼差しで入り口を見据えるプリングフィールドに、雰囲気ぶち壊しの主犯・・・・・Karの姿が映る。

 

 

「ここ最近見かけないと思っていれば・・・・・随分と手の込んだ抜け駆けですわね!」

 

「せやなぁ、うちらも気付かんかったとは・・・・」

 

「そぉそぉ、いやぁお姉さんびっくりだよ」

 

「とりあえず、話を聞かせてもらいましょうか?」

 

 

その後もゾロゾロと現れる指揮官ラブ勢たち。大方指揮官の後をつけてきて、いい雰囲気になったところで我慢の限界が訪れたのだろう。

そして一方のスプリングフィールドも、たぶん過去最高にブチ切れていた。

 

 

「ふふ・・・・ふふふ・・・・・今日こそはとせっかく覚悟を決めましたのに・・・・・・・・表に出なさい、一人残らず絞めてあげましょう」

 

「「「「上等!!!」」」」

 

 

荒い足音を立てながら店を出る五人・・・そして続いて聞こえてくる鈍い音の連続。

唖然とする指揮官に、頃合いを見て戻ってきた代理人がコーヒーのおかわりを出す。

 

 

「ふふっ、愛されてますね」

 

「ん? あぁそうだな・・・・『彼女』は皆から慕われているよ」

 

「・・・・・・・・・・はぁぁ」

 

 

想像以上に前途多難であると再認識した代理人は、心の中でひっそりと応援するのだった。

 

 

 

end




ふと思ったけど、うちのKar98kをちっちゃくしたらどこぞの500才児吸血鬼なんじゃないかな・・・・・お嬢様ぶりたいけどポンコツなあたりが。

ところでみんなは新人形を迎えることができたかな?
私は資源半分消しとんだけど誰もきてくれなかったよ!(号泣)


・・・・・・まぁいい、今回のキャラ紹介だ。


スプリングフィールド
指揮官が絡まなければよくできたお姉さんのような人形で、指揮官が絡まなければ頼りになる人形。
一応今回の件は『実地研修』という扱いになっている・・・が、スキルという意味ではこれ以上学ぶことはないと思う。

指揮官
なろう系主人公もびっくりな鈍感野郎。
別にホモとかそういうわけではないし女性に興味を持つことだってある・・・・が、それ以前に上司と部下という関係が来てしまうのでそういう目で見ていない。

代理人
急に雇えと言われても雇ってくれる人。
それができるくらいには余裕があるらしい。


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第百六十八話:イタズラシスターと自称敬虔シスター

一週間以上空いちゃいましたね・・・・いやぁモチベーション上がらないって辛い笑



ところでログイン絵のM4可愛すぎん?
一人くらいお持ち帰りしてもええやr(銃声)


S09地区は、意外となんでも揃う地区の一つである。古い街並みを残しつつも大型のショッピングモールもあり、さらに大通りに面している店では日用品から雑貨や骨董品まで買うこともできる。そこそこ大きな街だが交通の便もよく、その気になれば一年中この街から出ずとも問題なく暮らしていけるだろう。強いて挙げるとすれば映画館などの娯楽施設が少ないが、それも隣の地区に行けば手に入るのだ。

さて、そんな便利な街の片隅に、ややボロくなっている教会がある。後任の神父もおらず、近所の老人たちが日課として掃除をしに来る程度のもの・・・・・・というのはあくまで過去のお話である。

 

 

「本日も、狩人様に幸あらんことを」

 

『幸あらんことを』

 

 

少し前まではホラー映画の舞台とも言われるほど閑散としていた教会だが、今ではほぼ毎日のように祈りを捧げる人々の姿を見ることができる。それも男女年齢人種問わず、非常に幅広い層だ。

こうなったきっかけというのが、今まさに皆の前で祈りを捧げている一人のシスター・・・・・・アデーラの出現である。

どこから現れたのか、いつ現れたのかすら不明であり、戸籍も存在しない彼女はなんやかんやあってこの教会に住み着いている。そして毎日欠かさず祈りを捧げ、気がつけばそれに倣う者たちが現れたのだった。

 

 

「ふぅ・・・・・さて、今日のお祈りはここまでとしましょう」

 

 

柔和な微笑みを浮かべるアデーラは、この寂れかけた教会に似つかわしくないほどの輝きを持っている。それに惹かれるのも無理はないが、彼女を知る者・・・・・とくに彼女への苦手意識100%などこぞの狩人がこの場にいれば、皆騙されていると声高に言ったことだろう。

 

・・・・・と、様子を見に来た代理人は思うのだった。

 

 

「随分と増えましたね、信者の方が」

 

「うふふ・・・・・一見明るく見えても、それだけ暗闇の中を彷徨っているということですよ、代理人さん」

 

「それについては同意します・・・・・が、信仰の対象はいかがなものかと」

 

「あら、決して間違いなどございませんよ」

 

 

そう言って見上げる先、ステンドグラスからの灯りをバックに妙な神々しさを醸し出す石像・・・・・・どこからどう見てもあの狩人(ローウェン)である。

そう、これがこの協会の信仰対象であり、名を『ヤーナム教』という。

 

 

「愛しの狩人様が悪夢を切り開き、終わりなき夜に夜明けをもたらしてくださるのです」

 

「文字通り悪夢のような世界であったことは聞いておりますが・・・・・・よろしいのですか? もともとは別の宗教の教会でしょう」

 

「問題ございません。 ここではあらゆる宗教を信仰していただけますから」

 

 

にっこりと笑うアデーラ。実際、彼女がここで新しい宗教を始める際に、文句を言いに来る人間がそこそこいた。なにせ得体の知れない宗教である、進行だけならともかくカルトのようになってもらっては困るのだ。

そこでアデーラは、この協会の敷地内に別の宗教用の建物まで立ててしまったのだ。具体的には、協会の裏手に簡素ながらもモスクと神社がある。モスクの方はまぁいいとして、神社には一体なにが祀られているのかは不明だが。

 

 

「信ずるものに祈りを捧げたい、しかし場所がない、だからここを提供する・・・・・そういえば伝わりましたわ」

 

「・・・・・珍しくまともな説得ですね」

 

「まるで私がまともではないように聞こえますが」

 

 

常に注射器と輸血パックを持ち歩き、自身の血を満載しているシスターをまともと呼べるはずがない。

とはいえ、今のところとくに問題もなく過ごしているようなので、あまり口を出すこともないだろう。いざとなれば代理人を含め誰かに連絡するようにと言っているし、そもそも彼女だけでもなんとかしてしまいそうである。

 

 

「では、私もそろそろ・・・・・・ん?」

 

 

帰ろうかと出入り口に向かおうとした代理人は、直後に何かを感じ取り立ち止まる。それは言うなれば視線に近いが・・・・・

 

 

(カメラ・・・にしてはやけに揺れて・・・・・・)

 

「・・・・・・あら?」

 

「え?」

 

 

タタタタタタタッ…………バサッ‼︎

 

アデーラの声に反応した一瞬、小さな足音に続いて何かを捲るような音が聞こえる。そして太ももの辺りまで感じる空気・・・・・ロングスカートの代理人であればほぼない感覚だ。

ハイエンド随一の高演算能力の結果導き出されたのは・・・・・・・何者かにスカートをめくられたということだった。

 

 

「っ!? だ、誰ですか!?」

 

「まぁ、初めて見ましたけど・・・・・扇情的ですね」

 

「忘れなさい、可及的速やかに!」

 

 

どうせ武器を使うと見えるのに、とはあえて言わない。きっと本人もその時は見える見えないなど問題ではないのだろう。

もっとも、平常時であればその限りではないようだが。

 

 

「イヒヒッ! 大成功〜!」

 

 

そんな代理人のスカートをめくるというある意味全ての男の夢を実現してしまった張本人は、アデーラの後ろからひょこっと顔を出してしてやったと笑っている。

シスター服とそれに覆われている耳が特徴の小柄な人形・・・・・P7である。

 

 

「・・・・・アデーラ、この子は?」

 

「ここに住んでいるP7ちゃんです。 なんでも、絶賛家出中なのだとか」

 

「ここならイタズラしても怒られないから大好きなの!」

 

 

家出、ということはおそらくグリフィンの所属なのだろう。チラッと見えたホルスターには彼女と同じ名を冠す銃が下げられており、その幼い見た目との不釣り合いさが戦術人形であることを物語っている。

そしてそんなP7最大の特徴にして家出の原因、それが『イタズラ』なのである。

 

 

「アデーラ、あまりとやかく言うつもりはありませんでしたが、彼女の保護者ならばあなたが注意すべきでは?」

 

「そう言われましても、これもまた信ずるものの違いですので」

 

 

前述の通り、この教会での信仰対象は多岐にわたる。一神教から多神教、邪神や悪魔を祀る者すらいる始末だ。アデーラ自身ももはや神とかそんなものではない相手を信仰(?)しているのだから。

そしてP7が崇めているのは・・・・・・

 

 

「北欧神話のロキや、中国の孫悟空ですね」

 

「イタズラ関係ばかりじゃないですか」

 

「ですが真っ当な神様ですよ?」

 

 

何か問題でも?、と首を傾げるアデーラと、論破しましたとでもいうかのように勝ち誇った顔のP7。並大抵のことでは怒りを覚えない代理人だが、さすがにちょっとイラっとしてしまった。

子供相手に大人気ない・・・・・と思っていたのだが、引き返せないほどの悪事に走ってしまう前に阻止すべきと考えを改めた。

 

 

「・・・・・わかりました。 では私もしかるべき措置を取らせていただきます」

 

「へぇ・・・ま、なにをしたって私には叶わないけどね!」

 

「こらこら、あまり挑発するものではありませんよ」

 

 

余裕をかますP7に、代理人は深くため息を吐きながら端末でメッセージを送る。正直、()()()()に貸しをつくるのは大変リスクの大きいことなのだが、これがもっとも確実なのだ。

 

 

「その余裕、いつまで続くか見ものですね」

 

「そっちこそ、恥の上塗りには気をつけるのね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして十分後、代理人の打った一手に、P7はあっけなく翻弄されてしまっていた。

 

 

「ちょ、ちょっと!? 助けを呼ぶなんて卑怯じゃない!!」

 

「『力こそ神だ』という言葉があります。 そしてコネや人脈もまた力・・・・・つまり神なのです」

 

「そんな暴論っ!?」

 

 

一見無表情だがどことなくスッキリした顔の代理人。彼女が用意した手段は援軍を呼ぶという、シンプルにして大体の事案を解決してくれる万能案であった。

そして、彼女の人選こそが、P7が太刀打ちできないものだったのだ。

 

 

「ほらほら〜、よそ見してると捕まるよ〜」

 

「にゃはははっ! その程度の罠なんて目を瞑っても避けられるにゃ!」

 

「う、うるさいっ! 2対1なんて卑怯よ!」

 

「なんだ、2対1で簡単に負けちゃうんだ」

 

「所詮はお子ちゃまだにゃ〜」

 

「キーーーーッ!!!」

 

 

挑発を挑発で返し、教会中に張り巡らされた罠を解除しながら追い詰めるG11とIDWに、P7の沸点は瞬く間に超えてしまった。

目には目を、曲がった根性には曲がりきった根性を、悪戯好きには愉悦部(イタズラガチ勢)を、である。

 

 

「はい確保、じゃあグリフィンに戻ろうか」

 

「あ、サボってた間は有給として処理してあるにゃ。 今日から休みなく働いてもらうにゃ」

 

「嫌あああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一件落着ですね」

 

「ふふっ、少し寂しくなりますね」

 

 

二人がかりで引きずられていくP7を見送りながら、代理人は心底ほっとしたような顔でそう言った。たまたま様子を見いにきただけなのに、随分と疲れる1日になってしまったものだ。

 

 

「それにしても、力こそが神、ですか・・・・・代理人さん」

 

「はい?」

 

「是非ともあなたもヤーナム教に」

 

「お断りします」

 

「あら残念」

 

 

その日以降、顔を合わせるたびに勧誘される代理人であった。

 

 

 

 

end




メスガキちゃんを分からせる回。イタズラは子供の特権だけど、やりすぎは良くないよなぁ?

でもP7ちゃんにイタズラされるのも悪くないと思います!


では今回のキャラ紹介

P7
グリフィン所属、家出中のイタズラ娘。スカートめくりなどの子供らしいイタズラから、トリモチなどを使った厄介なものまで様々なイタズラを行う。
煽りはするが煽られると弱い。口喧嘩も弱い。

アデーラ
教会に棲まう謎多きシスター・・・・コラボ回で登場した、ブラボ界を代表するヤンデレ。
シスターを名乗りながら神々を信仰していないという砕けっぷりであり、その対象はとある狩人のみ。
教会中にP7のトラップが仕掛けられているが、信者のために丁寧に解除して回っている。

代理人
自分から見せるのと不意打ちで見られるのとでは違うらしい。
ちなみに『力こそ神』とはその場ででっち上げた言葉。本人は力による解決をあまり好まない。

G11&IDW
グリフィンS09地区を代表する愉悦部。並大抵の口論では勝つことができず、加えて煽り能力も高い。人形としての性能も抜群であり、一度敵に回すともはや止められなくなる。
頼み事をただで引き受けることはない。


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番外編42

重装部隊実装、SOPと45姉のMOD告知・・・・それだけ難易度が跳ね上がるってことですか?(震え)

さて、今回のラインナップはこちら。
・人形にプライバシーなんてものはない(無慈悲)
・しばらく使っていないカードの番号とかのアレ
・Q.人形について
・シスターの一日


番外42−1:人形にプライバシーなんてものはない(無慈悲)

 

 

人形は機械である。人工皮膚によって外見は人間と遜色ないが、中身が機械である以上はメンテナンスが必要となる。そのためには専用の設備が必要で、最寄りの工場か技師による出張メンテが必要となる。

そしてハード面以上に、ソフト面のメンテナンスも重要なのである。日々の記録整理やアップデートの積み重ねでバグが発生していないか、定期的に見なければならない。そしてこれもまた、専用の設備やら技術者などが必要となる。

 

そんな人形たちのソフト・ハードともに面倒を見ることができる人物、ペルシカリアは今日も濃い目のインスタントコーヒーをすすりながら人形たちのログをチェックする。

 

 

(ふむふむ、やっぱりこの地区(S09)の人形たちは随分と独特のマインドマップになってるわね・・・・趣味も多いし)

 

 

一体一体のログを流し読みし、気になる箇所をメモする。もしメンタルモデルに異常が見つかった場合、その原因となるものがどこにあるかを探しやすくするためだ。

・・・・・・もっとも、それは半ば建前化してしまっているのだが。

 

 

(相変わらず亀の歩みより遅いわねMG5とPKは・・・いっそどっちかのメンタルをいじる? いやいやそれじゃあ彼女たちのためにならないし・・・・スプリングたちも平常運転ね、マインドマップの指揮官の比率がまた6割を超えてるし・・・・ヤンデレ化する前に抑えとこ)

 

 

ペルシカとしては彼女たちを応援してあげたいが、間違ってもR-18Gな展開になってはいけないので手を下す。そのまま他の人形たちの様子も見ながらメモを取り続ける・・・・・その顔は結構悪いことを考えている顔だった。

 

 

(ふふふ・・・Vectorちゃん、君の趣味がバレていないとでも思っているのかな?)

 

(おやM16、そんなところに隠し酒蔵があったんだね・・・・M4には黙っといてあげるよ)

 

(ほほぉ〜・・・・KSGったら可愛らしいパジャマを持ってるじゃないか。 ま、バレるのも時間の問題だろうけどね)

 

 

16labの主任にして、戦術人形の第一人者ペルシカ。その立場と職権を利用したプライベート覗き見によって蓄積されたデータは計り知れない。

純粋に楽しいし、いざとなれば脅h・・・・交渉にも使えるカードになる。

そして、その中で最も多くを占めるのが・・・・・・

 

 

「んふふ〜、やっぱりSOPは可愛いなぁ〜〜」

 

 

そうして今日もペルシカは、だらしなく緩み切った顔でモニターを眺め続けるのだった。

 

 

end

 

 

 

番外42−2:しばらく使っていないカードの番号とかのアレ

 

 

M4たちがAK-12を迎えに行く少し前のこと。

最終調整を終え、装備のチェックと新兵装の動作チェックを行なっているM4とAR-15を、AR小隊のメンバーとペルシカはコーヒーを飲みながら見守っていた。

次々と出てくる的を、AR-15は両手に持った武器で正確に射抜き、M4はコンテナ型の武器を展開し、まとめて吹き飛ばすのを見ながら、M16たちは感嘆の声を上げていた。

 

 

「すげぇなアレ・・・・」

 

「個の火力を上げる最適解ではありますが、まさかこれほどとは」

 

「うぅ〜、私の出番減っちゃうよ〜」

 

「大丈夫よSOP、あなたの榴弾とM4のとは勝手が違うから」

 

 

嘆くSOPにD-15がそう言ってフォローするが、嘆きたくなるほどの性能をM4は獲得してしまった。SOPや416のようなグレネード弾を撃ち出すだけのものではない、まさしく榴弾を跳ばす銃なのだ。弾速も命中精度も比ではなく、SOPが落ち込むのも無理はない。

 

 

「それにしても、M16のコンテナがあんな物騒な武器だったなんてね」

 

「正確にはその改良型よ。 M16のはただのランチャーだけど、M4に装備しているのは電磁加速もつけたものだからね」

 

 

さらっと言うが、手持ちサイズの戦車砲とでも言えばいいだろうか。加えてその射撃に耐えられるように強度をあげた結果、殴打武器としても使えるようになってしまったのだ。

正直、やりすぎと言われてもおかしくはない。

 

 

「っていうかM16って、それ使ったことあるの?」

 

「そういえば見たことないですね」

 

「ん? まぁ結局使わなかったからなぁ・・・・製造後のテスト以来か?」

 

 

もはやただの荷物だったなと自身が背負う箱を手に取るM16。そして改めて言われると全然使っていないことに気づき、ちょっとした興味本位でテンキーを開く。

M4の場合は彼女自身と同期しているため彼女にしか使えないが、プロトタイプともいうべきこれはパスコードさえ打ち込めば誰でも使うことができる(扱い切れるかは別問題)。そのため、結構長めのパスコードが設定されているのだ。

 

 

「・・・・・・・・713、と」

 

「あの、パスを口にしながら入力するのはいかがなものかと」

 

「いや、久しぶりだったからうろ覚えでな・・・・ま、これで大丈夫だろ」ポチッ

 

ピーーーー

『バンゴウガチガイマス』

 

 

おや、と首を傾げるM16。どこか一つ打ち間違えたかなと再度入力し、今度こそ大丈夫だと決定キーを押すが・・・・・

 

 

ピーーーー

『バンゴウガチガイマス』

 

「・・・・・まさかM16、忘れたの?」

 

「い、いやいや! 人形の私がたかがパスひとつ忘れるはずが・・・・」

 

 

とか言いつつ派手に動揺するM16。大急ぎでメモリの海を漁るも、正直どれがどのパスかごちゃごちゃになっていてさっぱりわからない。とりあえずそれっぽいのを片っ端から入力するが、鳴るのはエラーの音ばかり。

そして10回目くらい続けた末に・・・・・・

 

 

ピーーーー

『バンゴウガチガイマス___システムヲロックシマシタ』

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

「・・・・・・・テヘッ♪」

 

 

ペルシカからのお叱りを受けたのは言うまでもない。

 

 

end

 

 

 

番外42−3:Q.人形について

 

 

S09地区を管轄とするグリフィン司令部。いくつもある地区の中でもかつてライバル企業であった鉄血工造の本社に近く、それ故に技術の最先端を投入されたここはグリフィン有数の施設規模を誇る。

また、鉄血クーデターとその前後で活発となった人権団体へ対抗すべく、人形の保有数も多い。

そんなS09地区を任されている指揮官を一言で表すなら、そんな質問を所属する人形たちにすると

 

 

『有能』

 

『信頼できる指揮官』

 

『ちょ〜〜〜〜〜っと鈍いのがアレだけど人形のことを思ってくれる人』

 

 

というのが大体の答えだ。

・・・・・では、当の指揮官は人形たちについてどう思っているのだろうか。

人形とて千差万別である。銃種に性能、性格や見た目などなど、同一の機種であってもメンタルに差異が生まれるほど個性豊かな人形たちについて、指揮官の想いを聞いてみた。

 

 

「・・・・・・いきなり押しかけてきたと思えば、そんなことか」

 

 

そんなこと、じゃあないんだよ指揮官。むしろこの答えを待ち望んでいる娘だっているんだから。

 

 

「そういうものか・・・・・・まぁいい。 だが質問がざっくりとしすぎているようだが」

 

 

お、それもそうだね。じゃあ・・・・・ぶっちゃけ指揮官の好みの娘は?

 

 

「好み、か・・・・・私は前線に立つ機会がないからな。 実際に使ってみた感触なら、M1911だろうか」

 

 

そういう意味じゃないんだけどなぁ・・・・じゃあ人形としての好みは?お気に入りの娘とかいるんじゃない?

 

 

「立場として、誰かを贔屓するつもりはないが・・・・スプリングフィールドの淹れるコーヒーは旨いと思う」

 

 

あとで録音したのを聞かせてあげよう・・・・・ふむふむ、じゃあ指揮官は家庭的な娘がいいんだね。他には?この娘はここがいい、みたいな。

 

 

「他と言われても・・・・・まさか全員分か?」

 

 

いやいや、流石にそんな無茶は言わないよ。パッと思い浮かんだ娘でいいからさ。

 

 

「ふむ・・・・なら、君でいいかなMDR。 ちょうど目の前にいるし」

 

 

・・・・・・・え?

 

 

「まずこの中では比較的新参だが、すでにムードメーカーとして打ち解けられているのは称賛に値すると思う」

 

 

いや・・・ちょっ・・・・・

 

 

「それに、君の情報収集能力は誰よりも優れていると言える」

 

 

ほ、ほとんどガセネタだったりするけどねっ!

 

 

「確かにそうだが、偽の情報にぶつかるほど積極的に動いているということだ。 それは誇っていい」

 

 

あぅ・・・うぅぅ・・・・

 

 

「あと他にも「指揮官ストップ!!!」・・・む?」

 

 

ま、まったく・・・・そりゃスプリングが夢中になるわけだよ。

じゃ、今日の取材はここまで!

 

 

「いいのか? 満足のいく回答だとは思えないが」

 

 

いいの。私が満足だからそれでいいのっ!

その代わり、また取材を受けてもらうんだからねっ!!

 

 

end

 

 

 

番外42−4:シスターの一日

 

 

S09地区唯一の教会、そこに住うシスター・アデーラの朝は早い。朝の5時には目を覚まし、身なりを整えて祈りを捧げる。簡単な朝食をとり、敷地内の掃除を始める。この日は集まっての礼拝はないので、敷地の端から端まで掃除する。

そしてシスターとして神(と呼べるかは疑問だが)を信ずる身として、悩みや懺悔を聞いたりもする。呼ばれれば必ず向かうようにしており、そのため信者からの信頼も厚い。

 

食材や日用品の買い出しのために街へと出るアデーラ。街の中心からやや外れた場所にある教会だが、アデーラは大抵の距離を徒歩で移動する。以前とある人形がバスやタクシーを使わないのかと聞いたところ、

 

『健康な体でなければ、血も濁ってしまうでしょう?』

 

と言われたらしい。なぜ血なのか気にはなったが、聞いてしまえば引き返せなくなりそうだったので聞かなかったのだとか。

そしてこの日用品の中で、アデーラが必ず外せないものがある。向かう先は、パッと見は普通の工具店。そんなシスターには似つかわしくないような場所に修道服のまま訪れたアデーラを、通りすがった客はギョッとしたように見る。

 

 

「いらっしゃ・・・・あぁ、シスターか」

 

「うふふ・・・いつものをお願いしますね」

 

「はいはい・・・・・ほれ」

 

 

カウンターの裏から持ち出してきた紙袋、その中には針付きの注射器と輸血パック・・・・・もちろん違法である。

 

 

「まったく、こんなもん何に使うんだか・・・・・おっと、詮索はなしだったな。 さ、見つからんうちに持っていけ」

 

「いつもありがとうございます」

 

 

信者たちも皆帰り、ただ一人教会に残るアデーラは狩人の僧に祈りを捧げる。

そしてふと周りを窺うと、懐から注射器を取り出し、慣れた手つきで腕に刺して血を抜いていく。健康的な真っ赤な血が注射器を満たすと、満足そうに微笑み仕舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタッ

「あっ・・・・・・ヒィッ⁉︎」

 

「あら、あなたは・・・・・・うふふ、見ちゃいましたね」

 

 

教会の隅にひっそりと隠れていたP7が、小さく悲鳴を上げる。また司令部を抜け出してきたのか、それともアデーラを驚かせようとしたのかは不明だが、アデーラが一人になるのを待ってみれば大変な光景に出くわしてしまったのだ。

なにせ、薄暗い教会で自身の血を嬉しそうに抜いていくシスターの姿だ、冗談抜きでホラーである。

 

 

「怖がらなくても大丈夫ですよ・・・・・ただし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ログイン絵のM4、一人くらいお持ち帰りしてもバレない説。
というのは置いといて今回の各話紹介。


番外42−1
人形のメンテする人って、絶対こういうことしてるよね・・・と思っています。
でも仕事だからね、仕方ないね。

番外42−2
あれ?この番号じゃない?もしかしてこっち?あれ、違う??先頭って大文字だったっけ?好きな食べ物ってなんて書いたっけ?
・・・・・あると思います。

番外42−3
リアル司令部未着任なMDR視点。指揮官・・・・・そういうとこやぞ。
未着任は基本的に書かないけど、この話が思い浮かんだ瞬間そんな決まりは忘れてしまった。
製造国の縁で、スプリングを応援している。

番外42−4
狂気まみれのブラボ界において一般NPCのくせに最恐ヤンデレのアデーラさんは伊達じゃない。
イベント『写真館の謎』の屋敷とか雰囲気的にあってると思うんだ。ランタンと注射器片手に暗がりの中からポォッと現れて・・・・・きっとWAちゃんとかカラビーナ嬢ならいいリアクションしてくれるはず。


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第百六十九話:五月病

重装部隊のシステムが未だによくわかってないマン
でも支援砲撃ってなんかこう・・・・・燃えるよね?


「あ゛〜〜〜〜〜働きたくない〜〜〜〜〜」

 

「お給料が減っても構わないのでしたらいいですよ」

 

「・・・・しゃぁない、働くか」

 

 

肌寒さも薄くなり始め、徐々に陽気が高まってきた今日この頃。ほんわかとした空気に当てられて変な無気力感や脱力感にみまわれるものが多数出る季節である・・・・・そう、俗にいう『五月病』だ。

常に同じコンディション、思考も電子演算の結果であるはずの人形も、なぜかこの人類不滅の病に侵されるのだった。

 

 

「でも不思議だよね、なんでこの季節だけこんなに働きたくないって人が増えるんだろ?」

 

「それは確かにそうですが・・・・・まさかD、あなたも?」

 

「いやいやいや、私は大丈夫だよ!」

 

 

とはいえDの言うとおり、年の変わり目でもなく真夏でもなく真冬でもなく、この季節限定悩みでもある。幸い従業員のほとんどは真面目に働いてくれているので問題ないが、これがもっと大所帯であればどうなっていたのやら。

 

 

「大所帯っていえば、グリフィンも大変そうだよね」

 

「個性の塊だからね〜・・・・うちも他所のことは言えないけど」

 

「個性の塊筆頭だろうマヌスクリプトは」

 

「あなたもですよゲッコー」

 

 

そんな個性的なメンツを束ねてる代理人も大概だよ、とDは密かに思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・あら」

 

「久しぶり!」

 

「ふふっ、久しぶりね代理人、D」

 

 

陽がてっぺんまで昇った頃、店に姿を現したのはこの前まで居候の身だったAK-12。今日は珍しくツレ(ANー94)がおらず、一人で来たようだ。

 

 

「とりあえず、アイスコーヒーをいただけるかしら」

 

「かしこまりました」

 

「それと、フォートレスちゃんに持って来させてね」

 

「当店ではそのようなサービスは行っておりません」

 

「ケチ」

 

 

グリフィンの新部隊発足に合わせてここを出た彼女だが、どうやら癒しを求める姿勢は変わっていないらしい。だが部隊長であるM4が厳しくしているのか、心なしか以前のような腑抜けた雰囲気ではなくなっている。まぁあのM4やAR-15が目を光らせているんだろうが。

 

 

「はい、アイスコーヒーですよ」

 

「ありがとDちゃん」

 

 

冷えたグラスを傾け、同じく冷えたコーヒーが喉を通る。体の芯から冷却されていくような爽快感にフゥッと一息つき・・・・・・ベチャッと机に突っ伏した。

 

 

「もうやだはたらきたくない」

 

「「えぇ・・・・・・」」

 

 

突然の言葉に二人揃って困惑する。マヌスクリプトもそうだったのだから他にもいるだろうと思っていたが、まさかこんな身近に現れるとは思っても見なかった。

さっきまでのしゃんとした態度はなんだったのか、またあの頃に逆戻りしたAK-12は念仏のようにブツブツとボヤき始める。

 

 

「以前は週休二日で残業なし、帰れば温かいご飯と最高の癒し・・・・それが今では毎日毎日訓練に任務に部隊間交流に、そして料理掃除はローテーション・・・・・私の平穏は何処(いずこ)へ・・・・サボったらあの子(M4)に殴られるし」

 

 

サボる方が悪いのでは、とは思うものの急な環境の変化で参っている様子だった。なるほど、五月病とはこういうことなのかと代理人は納得する。それとどうやら最近M4はやや手が出るのが早いらしい・・・・・後日注意しておくことにしよう。

 

 

「もうやだぁ民生になりたいぃ」

 

「元軍用では無理なのでは・・・・」

 

「じゃあここで雇ってよぉぉぉ・・・・・」

 

「大分参ってるね、これ」

 

 

ちなみに、相棒のANー94はすっかり馴染んでしまっており、戦術についてM4らと話している姿が多々見られるという。エリートにふさわしい性能を持ちながらサボりたがるAK-12は、まさに孤立無縁なのだ。

 

 

「相談に乗ってあげたいけど、これはちょっと」

 

「難しいですね」

 

 

代理人自身、自分が人間のような感情豊かではないことは自覚しているし、24時間365日働けと言われたら、メンテさえなんとかできれば可能だとも思っている。よってそもそも『働きたくない』ということ自体が無縁なのだ。

Dにしても、生まれた時から今の状況で、加えて彼女は仕事を楽しむタイプであり、これまた無縁な存在だ。

他の従業員も参考にならず(マヌスクリプトも特殊な例だし)、サクヤやユウトに相談しようにも相手は元軍用、仮にもよその会社の人間が易々と関われるものではない。

 

 

「さて・・・・どうしたものでしょうか」

 

カランカラン

「こんにちは代理人・・・あら、M4んとこのサボり予備軍じゃない」

 

「あ、いらっしゃい45ちゃん」

 

 

フラッと現れた45にそう言われるAK-12・・・・・というかサボり予備軍と言われるのは相当だと思うのだが。

しかしそう言われても、AK-12は一切反応せず、今も変わらずブツブツと泣き言を呟いている。怪訝な様子でそれを見ていた45だが、いつまでも立ちっぱなしというわけにもいかず隣に座った。

 

 

「じゃ、とりあえずアイスコーヒーを」

 

「かしこまりました」

 

 

AK-12と同じものを頼み、出されたそれを一口飲む。空調の聞いた店内からではよくわからないが、どうやら外はそこそこの気温らしい。

冷たいコーヒーの清涼感にフゥッと一息ついた45は、なぜかグラスを自身の正面からずらしたところに置き・・・・・おや?

 

 

ベチャッ

「もうやだはたらきたくない」

 

「あなたもですか!?」

 

 

まるっきりAK-12と同じように机に突っ伏す45に、代理人も思わず声をあげる。グリフィンきってのエリート部隊が軒並みこんな様子だが、グリフィンは大丈夫だろうか?

 

 

「以前は楽だったのよ・・・・たまにしか任務はないし正規の部隊になったおかげで給料も安定してるし・・・・でもアイツよ、ジェリコが来てから変わったのよ」

 

「「あー・・・・・」」

 

「そりゃ私らは戦術人形で、有事の際の戦力よ。 けど何もない日まで6時起きなんてやってられないわよ! 何が『非番であっても規則正しく』よ!」

 

 

それ、正論なのでは?と言いかけてやめておく。AK-12しかり45しかり、普段のだらけっぷりのツケが回ってきただけなのだが、きっと本人たちは非を認めることはないだろう。

と、そこまで考えてからふと思った・・・・・新設部隊の一員であるAK-12がここにいて、なぜ連れのANー94がいないのか。隊が非番の日は大体ここにいるG11がいないのになぜ45がいるのか。

 

 

「それは大変ですが・・・・・お二人とも、つかぬことを聞きますが」

 

「なによ」

 

「お二人ともまさか・・・・・サボり、ではありませんよね?」

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

「こっちを見なさい」

 

 

呆れたことにこの二人、白昼堂々とサボりを敢行したらしい。他人の勤怠についてとやかく言うつもりはないが、ここをサボり場所認定されるのは正直よろしくない。UMP45には何度も世話になったし、AK-12も一時は家族のように過ごしていたが、さすがに甘やかせすぎたのだと今更ながら反省する。

 

 

「いいじゃない別に〜・・・・代理人が怒られるわけじゃないんだから」

 

「ここは私たちを助けると思って、ね?」

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

一向に反省するつもりのない二人に、代理人は呆れながら店の奥へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「zzz……」

 

「ムニャムニャ……」

 

「爆睡してるよOちゃん」

 

「えぇ、それでも警戒は解いていないようですが」

 

 

それから数十分後、コーヒーを飲み干した二人はいい感じにまどろみ始め、やがてそのままスヤスヤと眠ってしまった。しかしやはり警戒しているのか、入口のベルが鳴るたびに身を起こして隠れようとする。幸か不幸か今日の来客数は多くないため、ここ十数分は快眠を続けているが。

 

 

「でも、これだけ気持ちよさそうだと起こすのが億劫だね」

 

「甘やかしてはダメですよD、もうすでに手遅れなのですから」

 

「それもそっか・・・・・じゃあ『二人』を呼んでくるね」

 

 

そう言ってDが店の奥へと戻り、その間代理人が二人を()()する。背後にこそ警戒しているが所詮その程度、目の前で代理人とDが話していても起きないくらいの警戒だ。

そしてその代理人の後ろからDが、見知った顔を連れて戻ってきた。

 

 

「ご協力感謝する、代理人・・・・・では、遠慮なくやってくれ」

 

「えぇ、もちろんです」

 

「では、私たちはここで下がりますね」

 

 

二人を置いて代理人とDが下がる。カウンターの内側の人物が入れ替わっていることにも気づかず寝こけるAK-12と45、その頭に重量鈍器(M4コンテナ)が振り落とされた。

 

 

「「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!????」」

 

「おはようございます、二人とも」

 

「いい夢は見れたか?」

 

 

あまりの衝撃に頭を抱えてのたうちまわるが、やがて視界がはっきりしてくると今度は顔を青ざめさせる。

 

 

「ゲッ・・・M4!?」

 

「ジェリコ!? どうしてここに!?」

 

「それはこちらのセリフだが?」

 

 

これほど強烈な寝起きドッキリはないだろう。起きたら目の前にいたはずの優しい店主が極悪上司に変わっているのだから。

 

 

「バカな・・・・ベルの音なんてしなかったのに!」

 

「それはそうですよ、だって・・・・裏口から入りましたから」

 

「裏口から? ・・・・・は、謀ったわね代理人!?」

 

「そう代理人を責めるな、すべては貴様らが招いたことだろう」

 

 

店内を見渡す…誰も助けてくれない。

自分の手を見る…サボりだから武器なんて持ってきてない。

二人を見上げる…酌量の余地などない。

 

 

「さて・・・・・覚悟はできているな?」

 

「私、結構怒っているんですよ?」

 

「「ご、ごめんなさいぃぃぃいいいいい!!!!」」

 

 

 

 

後日、他の者が非番である中、二人の姿だけは見当たらなかったという。

 

 

end




サボり、ダメゼッタイ
どうしようもなくサボりたいのなら辞める方がいいと思うんだ。


では、今回のキャラ紹介。

AK-12
新設部隊(名称未定)の一員にして、副官ポジション・・・・なのだが機能していない。
一度ぬるま湯に浸ってしまった者の末路その1

UMP45
エリート部隊404小隊の隊長。シスコン会に妹に振り回される苦労人。
かつてのNot Found時代ならともかく、ここ最近はぬるま湯生活だったため堕落した。

M4
新設部隊の隊長。もはやARという区分から外れている火力を持つ。
よくコンテナを近接武器として使用するが、相手はもっぱらAK-12。

ジェリコ
本部から送られてきた教導官で、404小隊の生活習慣改善要員。
416、ネゲヴの教官だっただけあってかなり厳しく、とくにサボりがちな45には目を光らせている。

代理人
「ここはサボる場所じゃありません」

D
「サボりはダメだけど休憩ならいつでも歓迎だよ!」


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第百七十話:重装部隊、前へ!

使える使えないはともかく、重装部隊の支援攻撃ってロマンを感じますよね!

そしてBGM-71を見ると、重力戦線の対MSミサイルを思い出しますね。


*例によって独自設定が含まれますのでご注意ください。


『グリフィン、新たなカテゴリーの人形を導入!』

そんなニュースがここ最近では毎日のように聞くことができる。今や民間軍事会社とは思えないほどの規模にまで発展したグリフィンだが、運用する人形に関しては創設以来ほとんど変わっていなかったのだ。

人間の指揮官のもと、HGやARなどの6種に分類される人形たちで部隊を編成し、紹介から攻撃、救助など幅広い任務を行う。

 

ではなぜこれほどまでにニュースとしてあげられるのか、それは今回の人形があまりにも異質なものだからだった。

 

 

「代理人、例のニュース見たか?」

 

「えぇ、毎日流れていれば嫌でも見ますよ」

 

「あの新型のことよね? そんなにすごいの?」

 

 

店に置かれている週刊誌を眺めながらハンターがそう言い、隣に座るAR-15もその話が気になるようだった。

週刊誌の1ページに大きく掲載されている写真には、ニュースで何度も見たあの人形たちの勇姿が写っている・・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()が。

 

 

「新型戦術人形部隊・・・・グリフィンの正式名称は『重装部隊』、でしたね?」

 

「あぁ、というかAR-15は知らなかったのか?」

 

「噂程度は聞いてたけど・・・今は部隊での訓練が忙しいから」

 

「それもそうか」

 

 

なら、と言ってハンターは雑誌を閉じ、AR-15に向き合って説明する。

 

重装部隊・・・それはIoP、軍、鉄血の既存の人形とはまったく異なる人形たちのことである。個々の人形自体は大きく違う点はないものの、

最大の特徴は『四人で一つの兵装である』という点だ。

 

 

「例えばこの『BGM-71』は、設営から発射までの工程を四人が分担して行なっている。 お前が『AR-15』という銃とスティグマを結んでいるのと同じで、こいつらは四人とも同じスティグマを結んでいるということだ」

 

「それはまた・・・・・変わったシステムね」

 

「経緯についてはよく分からんが「では私が答えよう!」うわぁっ!?」

 

「ぺ、ペルシカ!?」

 

 

どこから現れたのか、というかいつからいたのか、コーヒーカップ片手に誘うと現れるペルシカ。服装は相変わらずラフな格好に白衣だが、最近は多少人目を気にしてかヨレヨレ感がなくなった。

持っているコーヒーカップはこの店のものなのだが、代理人も気づかなかったようだ。

 

 

「やぁ二人とも、デートの邪魔してごめんね」

 

「いや、別に気にしてないけど・・・・」

 

「まぁいい、なら後はペルシカさんの方から説明してもらうか」

 

「はいはい・・・・あと、そんな他人行儀じゃなくて()()()()って言ってもいいんだよ?」

 

「遠慮しておく」

 

「ありゃ残念」

 

 

と言いつつそこまで残念そうでもないあたり、答えが分かっていた上でのことだったらしい。

気を取り直して、ペルシカは説明を始める。

 

 

「まず前提として、グリフィンの主戦力は人形・・・・つまり歩兵だね。 どれだけパワーがあっても頑丈でも、歩兵の範疇を越えることはないんだよ」

 

「そりゃそうよね。 戦車やヘリと正面きって戦うなんて無理だもの」

 

「その通り。 けど最近、一部のテロリストの装備が妙に近代化してるって知ってる?」

 

「・・・・他の部隊から聞いたわ、旧式とはいえ戦車まで持ち出してるんでしょ?」

 

「あぁそうだ、実際にこの目で見たさ」

 

 

ハンターは国際警察という立場だが、エリート戦術人形ということもあってしばしば軍やグリフィンと協力作戦に参加することがある。その中でも、事前情報では人形だけで十分のはずの相手が戦闘車両を投入してくることが何度かあったのだ。

 

 

「ひどい時は列車砲なんてものまで持ち出してきてな・・・・・なんとかなったが、少なくない被害も出ている」

 

「でも、グリフィンの人形の火力はどれだけ高めてもたかが知れているの。 現状では、M4のランチャーぐらいね」

 

「・・・・てことは、もしかして私たちの改造も?」

 

「そ、この事態に対応するためのものよ」

 

 

軍が対処すれば、所詮旧式は旧式。だが軍も軍で対処すべき相手もいる上に、民間企業を動かす方がコストも抑えられる。

そこでグリフィンが提唱した案は二つ。一つは個の戦力を上げること、もう一つが『対装甲・拠点戦力』である。

 

 

「その記念すべき制式採用一号が、その『BGM-71』ってわけ。有線式の対戦車ミサイルを標準に、タンデム弾頭なんかもオプションで付けられる仕様。人形による高い演算能力で命中率も大幅にアップで、人形だからパワーもスタミナも人間とは比べ物にならないさらにそれぞれの作業工程をインストールしてるから一連の流れも超スムーズいやぁここまで張り切ったのはAR小隊以来だね!」

 

「ペルシカさんストップストップ!」

 

 

研究員としてのサガか、途中からかなり早口で喋り始めたペルシカを代理人が止めに入る。途中までは店の客も聞き耳を立てていたのだが、スピードが上がるとついていけなくなったらしい。

そしてハンターとAR-15の二人も少々置いてけぼりになっている。最近はSOP関連で落ち着いているペルシカだが、元はマッド一歩手前な研究員であることを忘れてはいけない。

 

 

「・・・・ま、簡単に言うと対戦車部隊ってことよ」

 

「なるほどねぇ・・・・で、それってあの娘たちのこと?」

 

「うん?」

 

 

AR-15が自身の後ろを指差す。すると何やら写真で見たのと同じ顔ぶれが、店の前のメニューを見ながらやいのやいのと揉めている。

写真のミサイルランチャーこそ持っていないが、その如何にもな格好とグリフィンの社章は、間違いなく彼女らだった。

 

 

「あ、入ってくるみたい」

 

カランカラン

「こ、こんにちは〜」

「けけけケーキをくださいっ!」

「りょ、領収書には『グリフィンS09地区』で!」

「や、やっぱりダメだよぉ・・・・・」

 

 

入ってくるなり、なぜか緊張しながら口々にそう言うBGM-71たち。しかもどうやらこの食費を経費で落とす魂胆らしく、それぞれが微妙に罪悪感を感じながら言っているのがわかる。

が、その表情は一瞬で凍りついた。

 

 

「あ、あれ、ペルシカ博士・・・・?」

「な、なんでここに!?」

「ち、違うんですこれはその・・・・・リ、リーダーが言い出して!」

「ちょっ!? 最初に言い出したのはそっちでしょ!?」

 

「あーうん、とりあえず落ち着こうか君たち」

 

「随分と怖がられてるのねペルシカ」

 

「普段どんな扱いをしているんだ?」

 

「ご、誤解だよ!?」

 

 

冷たい視線にペルシカがたじろぐ。その間もBGM-71たちは誰が責任を取るかで揉め続け、最終的に全員で土下座するに至ったようだ。

が、それをAR-15が制する。

 

 

「代理人、あの子たちの注文は私につけといて」

 

『・・・・ゑ?』

 

「あら、よろしいんですか?」

 

 

と言いつつメニューを差し出す代理人。隣のハンターもやれやれと言いつつそれに乗っかる。

未だにポカンとしたままの彼女たちに、AR-15は手を差し伸べながら言った。

 

 

「え・・・・あの・・・・・・」

 

「いずれ、一緒に戦う仲間なんでしょ? これはその前金みたいなものよ・・・・・・改めてよろしくね」

 

「っ! はいっ!!」

 

 

パァッと笑顔になり、元気よく返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、でも経費の件は別ね」

 

『ゔっ!?』

 

「まず、私たち人形は信用が第一なの。 たかがコーヒー一杯だろうと経費にしてしまえば横領と一緒よ。 お金がないとか仕方ないのもあるけどルールはルール、これから肝に銘じなさい。 あとやって悪いことっていう自覚があるなら最初からやらないように。 それと・・・・・」

 

「・・・・その辺にしといてやれAR-15」

 

「ダメよ、最初が肝心なんだから。 道を踏み外してからじゃ遅いのよ・・・・・聞いてる?」

 

『はいぃ!!』

 

 

その後、顔を見るたびに怯えられるAR-15であった。

 

 

 

end




バッテリーが・・・
資材が・・・・・・・・
記憶の欠片が・・・・・・・・

今回のイベントも色々消し飛びそう・・・・あと平然と部隊全滅エンドをでっち上げる指揮官スゲーって思いました。


では今回のキャラ紹介!

BGM-71
四人で一つの新型戦術人形。四人だけど書類上は一体なので、給料は少し多めでも一人当たりはちょっと少ない。
キャラ絵手前から『Bちゃん』『Gちゃん』『Mちゃん』『71ちゃん』と名乗っている。
自衛用の火器はあるが、お守り程度の効果しかないらしい。

AR-15
MOD化し、新設部隊へと異動になっている元AR小隊員。
ハンターと付き合いだしてから柔らかくなったが、根っこは生真面目なままなので今回の件は見過ごせなかった。
MOD化してもハンターには(いろんな意味で)勝てない。

ハンター
忘れられがちだが、警察組織に所属。犯人を徹底的に追い詰めることから、彼女に目をつけられることを裏社会では『狩場に迷い込む』と呼ぶらしい。
さっさと籍を入れろ by作者

代理人
自身や従業員の立場が立場なので、世間の情報や動向には常に神経を尖らせている。
ちなみにAR-15が止めなくてもちゃんと断るつもりだった。


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第百七十一話:ROちゃん、新しいボディだよ!

どブラックな秩序乱流の中で数少ない癒し・・・・それがROゲートである。


戦術人形の任務は多岐に渡る。

パトロール、施設の警備、治安維持、テロ掃討、人命救助、地域住民との交流などなど・・・・・比較的安全なものから文字通り命の危険に瀕するものまで様々である。もちろん人形は常にメンタルのバックアップをとっており、たとえ機能停止するほどの損傷を受けても容易に復活することができるようになっている。

が、それでも・・・・・どこぞ(原作)の世界に比べて平和だとはいえ、なんらかの形で破壊される人形というものは少なくない。

 

 

「M16、下がって!」

 

「くそっ、どこから湧いて出たんだこの数は!」

 

『RO、状況報告を!』

 

「こちらRO! 敵の奇襲を受けました! 敵は無反動砲を所持しています!」

 

 

久方ぶりの実戦任務。

M4らが抜け、D-15が専属の指揮官として初めてとなる戦闘は、想定外の連続という事態に見舞われた。

人権団体の過激派一派の活動が活発になり、とある廃村を拠点に集結しているとの情報を受けて出動。偵察を主目的として最低限の装備のみだった彼女らを待ち構えていたのは、まるで小国の軍隊並みに武装した集団だった。

 

 

『遊軍のヘリを向かわせました、到着まであと15分!』

 

「15分か・・・・それまで弾薬が持てばいいがな!」

 

「SOP、グレネードは!?」

 

「残り2つ!」

 

 

村を離れ、森に逃げ込んで時間を稼ぐ三人。逃げる間際に見た限りでは、連中の装備は一世代も二世代も前の銃火器ばかりだった。だがそれゆえに信頼性も高いものばかりで、素人でもある程度の訓練で扱うことができると推測される。

いったいどこからこれほどの物量を手に入れたのか、本当にこの過激派だけの仕業なのか・・・・・疑問は尽きることはないが、それを考えるのはまず生きて帰ってからだ。

 

 

「うわっ!? まだ撃ってくるよ!?」

 

「大丈夫だ、この距離なら連中の装備なら当たりゃしない」

 

「えぇ、それにやはり軍務経験者ではないようですね。 このまま振り切ればなんとか・・・・・」

 

 

なんとかなる、そう言いかけたROの通信機に、D-15の切迫した声が響く。

だが叫んだはずのその声ははっきりとは伝わらず、それを打ち消すようにして独特な風を切り裂く音が響き始める。

それは言うなれば、扇風機が風を切る音に近いだろう。ただし、それを何十倍にも大きくしたものではあるが。

 

 

『新た・・・・応・・・・大き・・・・・気をつ・・・・・』

 

「っ!? この音は・・・・・」

 

「ヘリのローター・・・まさかっ!?」

 

 

三人が同時に空を見上げる。

瞬間、突風が木々を揺らし・・・・・重厚な鉄の塊が彼女らの頭上を通り過ぎた。

 

 

「攻撃ヘリ!?」

 

「ハインドか!!」

 

「こ、こんなのまであるの!?」

 

 

旧ソ連製の多目的攻撃ヘリの一つ、通称『ハインド』は機首をくるりと向けると、三人がいるであろう場所に向けて機銃を撃ち放つ。

旧世代とはいえ攻撃ヘリ、歩兵でしかない人形にとって天敵というほかない相手だ。

 

 

「二人とも走って!」

 

「言われなくとも!」

 

「うわぁあああああ!!!」

 

 

足を止めず、森の中をジグザグに走り続ける。幸いなのはヘリのパイロットも銃手もそこまで腕が良くないため、狙いも不正確で躱すこと自体は難しくはない。

だが、ヘリが誇る火力はこんなものではない。焦れたテロリストは、たった三体の人形を仕留めるには過剰すぎる火力・・・・・ロケット弾を使用したのだ。

 

 

「っ!? ROっ!」

 

「え・・・・?」

 

 

直後、ROの体は強烈な熱風に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なるほど、そんなことが」

 

「・・・・・はい」

 

 

喫茶 鉄血の個室で項垂れるD-15に、代理人は静かに目を瞑る。

初の実戦、初の指揮で被った結果にショックを受けたD-15は、一時はメンタルに極度のストレスがかかりまるで抜け殻のようになってしまっていた。

とにかく今は時間が必要だ、ということで指揮官は臨時の休暇を出し、ダメもとで代理人に相談した結果、こうして話を聞いているということだ。

 

 

「ですが、幸いROさんも重傷で済んでいるようです。 反省するのは結構ですが、過度に自分を追い詰める必要はありませんよ」

 

「で、でも・・・わ、私のせいで・・・・私が、もっとちゃんと見ていれば・・・・・」

 

「D-15さん・・・・・・・」

 

 

だが話を聞いてみても、さっきからずっとこれである。元々正義感の強いAR-15のダミー、そして彼女らの力になりたいと指揮官を志した彼女にとって、今回の失敗はあまりにも大きな出来事だったのだろう。

 

 

「やっぱり、人形が指揮官の代わりなんて無理だったんだ・・・・・私じゃ、みんなの力には・・・・・」

 

「D-15! それ以上はいけません!」

 

「代理人は知らないから、見てないからそう言えるのよ! 目の前で仲間が吹き飛ばされても、私は何もできなかったの!!」

 

 

もはや自暴自棄に陥りかけているD-15を宥めようとするも、何を言っても逆効果にしかならないと悟る代理人。しかも、これは時間をかけて治るどころか、むしろ更に悪化しかねないものだと感じたのだ。

M16らはすでに一度話をし、そしてダメだった。ROが直接言えれば話は別なのかもしれないが、ワンオフ機である彼女の修復には最低でもあと十日はかかると言われている。

 

打つ手なし、そう思われていたところに、個室のドアがノックされる。

 

 

「? 失礼します・・・・・・あら、D」

 

「あ、Oちゃん。 今大丈夫?」

 

「・・・・あまり大丈夫とは言えませんが、なにか?」

 

「少し席を外してくれないかって、この子が」

 

「この子?」

 

 

疑問を浮かべる代理人に、Dは抱えていたあるものを差し出す。一見見覚えのあるフォルムのそれを見た瞬間、代理人は驚きながらも了承した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・私、何やってるんだろ)

 

 

代理人が席を外して、D-15はほんの少し落ち着きを取り戻すと同時に深い自己嫌悪に陥り始めた。

自分の不甲斐なさは自分がよく知っている。だがそれをいつまでも引きづり、仲間や指揮官に心配をかけるだけでなく代理人にも当たってしまった。

あまりにも子供で、あまりにも身勝手な自分がより一層惨めに見える。

 

 

(RO・・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ)

 

『・・・・・私に謝る前に、みんなに謝ってくださいよ』

 

 

ついにROの幻聴まで聞こえ始め、いよいよ脳裏に『解体』の二文字がちらつく。

今日はもう帰ろう・・・・・と席を立ったその時、テーブルの上に何かが飛び乗ってきた。

 

 

『幻覚じゃありません! ちゃんと聞こえているはずです!』

 

「うわっ!?」

 

 

飛び乗ってきたのは、なんとも奇抜なカラーリングのダイナゲートだった。黄色という目立ちすぎるメインカラーに、背部の武装がなぜかメガホンに変わっている。しかもそのメガホン、どこか見覚えのあるデザインで・・・・・・

 

 

「・・・って、もしかしてRO!?」

 

『はい、RO635(ダイナゲート仕様)です』

 

「え・・・な、なんで・・・ダイナゲートに・・・?」

 

 

再開の喜びと見た目の困惑とが入り混じった声でそう尋ねる。

曰く、元々はボディの完成まで待つ予定だったらしいのだが、D-15があまりにも落ち込んでいる・・・・・今にも解体を申し出そうなほど危うい状態であると聞かされ、なんでもいいから素体をよこせと言い張った結果らしい。

不幸だったのは、ちょうどその日にアーキテクトが16labに来ていたことだろう。

 

 

「そう・・・・じゃあこれも、私のせいなのね」

 

『ええそうね、四つん這いだいし視界は低いし料理は食べられないしたまに蹴られるしSOPにはペットみたいに扱われるし指揮官には微妙な顔されるしM16は爆笑するし』

 

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

『別に怒ってませんよ・・・えぇ、怒ってませんとも』

 

 

どう見ても怒っているのにあえてそう言うRO。

それを聞いてまた落ち込み始めるD-15に、ROは厳しい口調のまま続けた。

 

 

『・・・・・ですが、それ以上に、今のあなたの態度が気に入りません』

 

「・・・・・え?」

 

『だってそうでしょう? いつまでもウジウジと凹み続けて、謝るだけで行動に移さない。 あとさっきから考えていたことが口から出ていましたが・・・・解体? 冗談も大概にしてください』

 

 

静かな口調で、しかしはっきりと怒りの感情をのせた声色で言い放つ。生真面目なROだが、ここまで感情をあらわにするような話し方は初めて聞いた。

 

 

『D-15、あなたは私たちの指揮官です・・・・が、正規の指揮官ではなくいわば部隊長のような立場です。 命令の強制力もなく、その気になれば逆らうことだってできます。 ですが、私たちはあなたの命令に従いました』

 

「でも・・・・そのせいでROが・・・・」

 

『まだ言いますか? でははっきり言いましょう・・・・それ以上うだうだ落ち込まれると、まるで私の犠牲が無駄だったようで不愉快です。 結果的に援軍によってテロは鎮圧、こちらの損害も私一人で、しかも大破で済んでいます。 あれほどの戦力に奇襲を受けたにもかかわらず、です』

 

 

前半は厳しく、そして後半は諭すように言ったROに、D-15は目を見開く。これではまるで、ROは怒っていないとでも言っているようだと。

D-15がそれに気づいたのを察したのか、ROは机の上に座り込み、口調を和らげて言った。

 

 

『なんでも一人で抱え込もうとするからですよ、D-15。 私もM16もSOPも、そして指揮官もあなたを支えてくれますから』

 

「では、私もその一人ということで」

 

 

ROが言い終わるのに合わせて入ってきた代理人がそう付け加える。その手にはケーキとコーヒーが乗ったお盆を持ち、それを手際よく置いていく。

 

 

「RO・・・代理人さん・・・・」

 

「これはサービスにしておきます。 その代わり、辛いことがあったら遠慮せずに相談すること、これが条件ですよ」

 

『もちろん、私たちにもですよ・・・・・私たちの指揮官』

 

「・・・・・・はいっ!」

 

 

そう元気よく返事をし、目尻に浮かんだ涙を拭うD-15。

これならもう大丈夫だろうと、代理人は個室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・ところでD-15、私がこのボディで過ごさなければならない期間がどのくらいか知っていますか?』

 

「え?」

 

『元のボディが完成するのが、早くても週明け・・・・今日が火曜日ですので、最短でもあと五日はこのままなんですよ』

 

「えっと・・・・RO、やっぱり怒ってる?」

 

『それとD-15、私がこのボディに入れられて気づいたことなんですが、簡単な設定だけでメンタルモデルを移行できるらしいんですよ』

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

『私の修復が終わるまで、AR小隊の任務はないそうです・・・・・もう一人くらい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「・・・・ま、まさか・・・・・・・」

 

『ご安心を、ほんの数分の作業です・・・・・アーキテクトさんには話を通してありますので』

 

「ROっ!?」

 

 

 

end




E.L.I.Dと夜戦が怖くて3ステージ目で足踏みしているチキン野郎です。
ついでに限定キャラもドロップしてくれないし・・・・・日課で10回は○されるスケアクロウがかわいそうになってきました。

まぁ、物資箱のための尊い犠牲ですがね


では、今回のキャラ紹介

D-15
AR小隊専属の指揮官という少々特殊な立場の人形。契約上はまだ『人形』の域を出ないが、権限では指揮官と同等となる。
初任務で受けた精神的ダメージが大きかったが、ROたちのおかげでなんとか立ち直った。
イメージ的には、某ゲームにおいてお気に入りのキャラを轟沈させてしまった提督に近いダメージ。

RO(ダイナゲート)
原作イベントのアレ。一眼見たときからビビッときたので、かなり雑な勢いで犠牲になってもらった。
原作とは違い、そこらで拾ったものではなく専用にチューンしたダイナゲートを使用しているため、戦闘面以外ではROの性能を発揮できる。
武器は背面のメガホン、近くまで行って最大音量で叫ぶという攻撃。

代理人
知り合いがダイナゲートになっても対応は変えない。
面倒見がいいを通り越して過保護気味だが、それに気づかないのは本人だけ。




過激派
やけに装備が整ったテロ集団。
chaosraven氏の『裏稼業とカカシさん』で書いていただいているコラボ話・・・・・それを逆輸入という形で、今回の装備類を与えました。
要するに・・・・・・・・軍だって一枚岩じゃないんですよね。
『裏稼業とカカシさん』での話が見たい方はこちらから↓
https://syosetu.org/novel/194706/6.html


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第百七十二話:親子来店

基本的に迷い込む形でこの世界にやってくるお客様が多い中、なぜか狙ったタイミングで来れてしまうD08地区の方々・・・・カフェD08といい、もしかして世界線が近いのかも?

というわけで、今回はムメイ氏の『カフェD08へようこそ!』とのコラボ!
https://syosetu.org/novel/199919/47.html


異世界に行くにはどうすればいいか。

そもそも異世界があるのかもわからないにも関わらず、一定数の人間が大真面目に考えている問題である。加えて願望やら現実逃避やらで考えるのも含めると、割と大勢の人間が一度は関心を持ったことだろう。一説にはトラックが最も有効な手段であるとも言われているが、真偽は定かではない。

 

もっとも、そんな()()()()()出会いを多く体験している者にとっては、些細な問題ではあるのだが。

 

 

「この店、所謂ミステリースポットなんじゃないかな?」

 

「突然何を言い出すんですかペルシカさん」

 

 

コーヒーを啜りながら突拍子もないことを言い出すペルシカに、代理人も困惑気味に訊ねる。IoPの研究主任の中では比較的常識人であると思っていたのだが、その認識を改める必要があるのかもしれない。

 

 

「いやいや、だってその棚を見てみなさいよ、世界広しといえどもそんなもの(異世界の物)がこれだけあるのはここだけよ」

 

「そうでしょうか? もしかしたら私たちが知らないだけで、もっと多くの方がいろんなところに来ているかもしれませんよ」

 

「ないない・・・・と言い切れないところが悲しいけど、もしそうなら一件くらいは上がってくるはずよ」

 

 

ちなみに、この世界に迷い込んでくる客は大きく二種類に分かれる。一つは、道を歩いているだけで文字通り迷い込んでくるタイプ。この場合は、元の世界へ帰ることができている。

そしてもう一つ、元の世界で死を迎えたか、もしくは死に瀕しているところでこちらの世界にやってくるパターン。サクヤやノインがそうであり、後で聞いてみるとアデーラもこのパターンだったらしい。

 

 

「前者はともかく、後者はあまり増えないでもらいたいんだけどね」

 

「そうですね・・・・・」

 

 

この世界に流れてきた者たちも、それぞれ別の世界の住人であることが多い。そしてそのいずれでも、人類が衰退の一途を辿る世紀末な世界であるらしい。

この世界とは、あまりにも違う世界。今のところは問題ないが、流れ着く者が増えればなんらかのトラブルも起こり得るだろう。

 

 

「一応、サクヤにも協力してもらって、そういう人たち用の応対マニュアルも作ってはいるんだけどね」

 

「結局、私たちでは彼女たちの全てを理解することは難しいですからね」

 

 

これまで多くのそういった事例を見てきた代理人だからこその言葉だった。

様々な理由で訪れた彼らに代理人ができることは、コーヒーや軽食を出すことくらい・・・・・直接助けになれるわけではないのだ。

 

 

「ですから、私は私にできることをするだけです」

 

「・・・・・ま、それが結局一番かな」

 

 

どこか納得したようなため息をつき、ペルシカは代金を置いて店を出る。それを見送り、ふと棚に置いてある品々を眺める。こことは違う世界であるため、その出会いは文字通り一期一会・・・・のはずなのだが、これを置いているとなぜかまた会えそうな気がするのだ。

 

 

(・・・・ふふっ、そんな都合のいいことなんて)

 

カランカラン

「やっほー、代理人!」

 

「邪魔するぞ」

 

「入ってからで悪いんだが、子連れでも大丈夫だよな?」

 

「・・・・・・いらっしゃいませ」

 

 

会えそうな気はした、だがいくらなんでもフラグの回収が早すぎるだろう・・・・・代理人はこの世にいるかどうかわからない神様に向かってそう愚痴りたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ん、ありがと」

 

「すまないな、いきなり押しかけて個室まで用意してもらって」

 

「構いませんよ。 それに、授乳されるのであれば個室の方がいいでしょうから」

 

 

のどかな世界の壁をブチ破って来たのは、こことは違う世界でカフェを営む元指揮官と戦術人形のご一行。ここに来るのは2回目、いや3回目だったか。どうやらある程度目星をつけて来ているらしく、今回も迷い込んだというよりも狙って来たといった感じらしい。

カフェ仲間ということでか、乗ってきたバンに牽引されたコンテナにはコーヒー豆やミルク、砂糖、卵などの材料類、そしてHK417・・・シーナお手製のエッグタルトが納められていた。

 

 

「だがいいのか? このコーヒーもお代はいらないなんて」

 

「等価交換、というものですよヴィオラさん。 もっとも、あれほどもらっておいてコーヒーが等価とは言い難いですが」

 

「いいのいいの、こっちの経営も安定してるし、ね?」

 

 

娘を抱きかかえたシーナがそう言ってにっこり笑う。

そう、いつの間にか彼女たちは母親になっていたのだった。シーナの娘はネーナ、ヴィオラの娘はリンというらしい。人形が子供を産むとか一夫多妻だとかツッコミどころはたくさんあるが、ひとまずお祝いの言葉は贈っておいた。

 

 

「じゃ、私らがもっと頼めば等価になるわよね? というわけでこのメニューにあるケーキ全部!」

 

「ちょっとは遠慮しなさいよロマネシア」

 

「いいの? 愛しのダーリンに『あーん』しなくても」

 

「代理人、私もスペシャルケーキひとつ!」

 

「ふふっ、かしこまりました」

 

 

子供を産んでも夫婦のラブラブっぷりは変わらないようだ。ヴィオラの方もシーナのように目に見えてではないが、やはり夫であるディーノ元指揮官に甘えたいらしい。

二人の子供もそれぞれの親に似て活発なようで、泣いたり笑ったりと元気いっぱいだ。元は気性が荒いらしいロマネシアも、この雰囲気に馴染んでのんびりと過ごしている。

 

 

(人と人形の子供・・・ですか)

 

 

注文分のケーキを、サイドアームまで使って器用に運びながら代理人は思う。

今現在、この世界では人間と人形の入籍という例はごくわずかだが存在する。もっとも、そのうち数件は彼女ら同様に異世界からきた者たちであり、この世界で成立した例は少ない。

人形と指揮官、あるいはそれに類する立場の人間との『誓約』という形でならそれなりにあるが、あくまで所有が企業から個人に移るというだけのものである。

そして当然、人形が子を生むという例など全くない。

 

 

(ですが、彼女たちのようにもしかすれば・・・・・)

 

 

脳裏に浮かぶのは、この世界のカップルたちや別の世界の友人たち。日頃から仲睦まじい彼女らにとって、それはまるで夢のような話なのではないだろうか。

まぁシーナたちの生い立ちがかなり特殊であるらしいのだが、可能性はゼロではないということだろう。

 

 

(その時は、私もお祝いさせてもらいましょうか)

 

 

代理人らしからぬ不確定な未来に想いを馳せつつ、個室の扉をノックして中に入る。

 

 

「お待たせしました、ご注文のケーキを・・・・・」

 

「あんっ、ダーリン、そろそろ代理人が・・・・・」

 

「んんっ、子供たちが寝ている間だけだぞ・・・・」

 

「パパぁ、ママたちばっかりずるいよぉ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・あっ」」」

 

「・・・・・3人とも?」

 

 

仲がいいのは良いことだ、いつまでも互いを愛しているというのは素晴らしい・・・・・・が、とりあえずTPOは弁えてもらうべきだと代理人は思うのだった。

 

 

 

end




それぞれの口調が合ってるか心配・・・・・他作者様のキャラはやっぱり書くのが難しいね。
その分書いてて楽しいんだけどねっ!

そしてD08のメンツといえばオッパイ、乳揉み、搾乳!
R指定ギリギリを攻める感じ、嫌いじゃないわ!


あ、私事ですが、イベントの堀周回が終わりました。
とりあえずの目的は達成したので、後は無理のない程度に進めようと思います笑


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番外編43

梅雨よ、なぜ平日は帰宅時に降り、休日は昼間に降るのか
おかげでカビが生えそうなほどゴロゴロしっぱなしの作者です


では、今回はこの4本で。
・とある隊長の一日
・上には上がいる
・ダイナゲートの可能性
・新素材


番外43-1:とある隊長の一日

 

 

グリフィン特殊部隊 404小隊。

以前まではまるで都市伝説のように語り継がれ、その姿を見た者は死ぬだとか、なかったことにされるだとかいろんな噂があった。中にはかの有名な都市伝説『MIB』と同一視されることもあったという。

そんな404小隊が表舞台へと出て久しく、今ではグリフィンの頼れる特殊部隊として認知されている。

 

だが、認知されてはいるがその実態を知らない人形が圧倒的多数を占めるのが現状だった。

仕事が終われば即帰還、繊細かつ大胆に任務を遂行し、それが当たり前だと言わんばかりに平然としている。

常に不敵な笑みを浮かべる隊長、どんな状況でも笑顔なその妹、反対に一切笑うことのないやつに、眠たそうにしながらも正確無比に撃ち抜く小柄なやつ・・・・・最近では常にハイテンションなやつや、眠たげなやつのでっかい方とか呼ばれるやつも加わっているが、誰もその実態を知らないのだという。

 

今日はそんな部隊の隊長、UMP45の一日を覗いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようUMP45、早速だが仕事が溜まっているぞ」

 

「・・・・・え? 何この量?」

 

「昨日の分が四割、残りが今日の分だ。 サボったツケが回ってきたな」

 

「こ、これを一人でやれっての!?」

 

「当然だ、これも隊長の仕事だからな・・・・・まさか今まで全てカリーナに丸投げしているとは思わなかったが」

 

 

UMP45の一日はデスクワークで始まる。ジェリコの言うとおり以前は

カリーナが代わりに行っていたのだが、特殊部隊ゆえに任務も少ないので返してもらったらしい。

 

 

「せ、せめて応援を・・・・もしくは9がいてくれるだけでも・・・・」

 

「UMP9なら非番だ、そしてHK416と共に出かけている」

 

バタンッ

「じゃああたいが手伝「甘やかせるな!」……ハイ」

 

 

 

 

そして昼。

やっとのことで書類仕事に一区切り(終わりではない)つけた45を待つのは、気分転換という名の射撃訓練である。

 

 

「貴様・・・なんだこの命中率は?」

 

「SMGは弾幕と陽動がメインなんだからしょうがないでしょ!」

 

「だがそれにしても酷すぎるぞ。 まさか新兵時代に逆戻りとは言うまいな?」

 

「ちょっ、それ誰から聞いたのよ!?」

 

「G11だ。 着任初日に話してくれた」

 

「G11ぃぃいいいいいい!!!!!」

 

 

45の怨嗟と絶望の声に、どっかでG11が笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

時間が進み、夜。

これでも優秀な人形である45はなんとか1.5日分の書類作業を終え、自室へと向かう。自室と言ってもG11との相部屋で、そして少し前からジェリコとも相部屋ではあるが。

 

 

「はぁ、疲れた・・・・」

 

 

部屋に入ると同時にドアも閉めずに脱ぎ始める。と言うかベッドに向かいながら脱ぐせいで、入口からベッドまでスカートやらシャツやらストッキングやらが一列に並んでいる。

そして上下とも下着になると、部屋着に着替えることもせずにそのままベッドイン・・・・・・やがて心地よい微睡がまぶたをゆっくりと閉じさせていき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「UMP45っ! なんだこの有り様は!!」

 

「ピィっ!?」

 

「生活習慣の緩みは気の緩みだ、今すぐ片付けろ!!」

 

「も、もうやだ〜〜〜〜!!!!」

 

 

45が再び逃げ出す日は、そう遠くないのかもしれない。

 

 

end

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

番外43-2:上には上がいる

 

 

「は、はじめまして! 重装部隊『BGM-71』です!」

『よろしくお願いします!!』

 

「隊長のM4A1です、ようこそ特殊遊撃部隊へ」

 

 

隊長のM4がそう言って手を伸ばし、握手を求める。それに一瞬ビクッとなったBGM-71たちだが、恐る恐る一番近くにいた子が手を握った。

S09地区へと配属された彼女たちは、今日からM4率いる部隊へと合流したのである。

 

 

「じゃ、こっちも自己紹介しましょうか。 AK-12よ、よろしく」

 

「ANー94です」

 

「改めてだけど、AR-15よ」

 

 

再びビクッとなるBGM-71たち。その様子にM4が怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「・・・・・何をしたのAR-15?」

 

「私は悪くないわよ」

 

 

そう言うと、BGM-71たちも首を縦に振って肯定する。が、それでも怖がられているのに変わりはないようだ。

微妙に悪い幸先にため息をつくと、M4は気を取り直して話を進めた。

 

 

「では、まずは皆さんの能力を見せてもらいたいので、演習場にいきましょう」

 

「あら、じゃあ私たちは用無s「またサボる気ですかAK-12?」・・・・冗談よ」

 

 

知らぬものが見れば優しげな笑顔、知っているものが見れば鬼のツノが生えていると錯覚する笑顔でそう言うM4。

そして幸か不幸か、BGM-71たちは前者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日の訓練はここまでにしましょうか」

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

『お疲れ様でしたー』

 

 

陽も沈みかけてた頃、ようやく今日一日が終わることにBGM-71たちは安堵の表情を浮かべる。

演習場で性能チェックをするまでは良かった。だがこの部隊の隊長はやや優秀すぎたらしく、早速重装部隊を交えた戦術と訓練メニューを考えてしまったらしい。そこにAR-15とANー94も乗っかり、結果として入隊初日からガッツリ訓練漬けになってしまった。

では宿舎に戻ろう、と思っていると後ろから声をかけられる・・・・・AK-12だ。

 

 

「お疲れ様、このあと時間あるかしら?」

 

「え? は、はい」

「大丈夫ですが・・・・」

 

「そう。 じゃあついて来て」

 

 

そう言われて案内されること数分、やって来たのは予備宿舎の一室・・・・・使われていないはずなのに何故か冷蔵庫や机が置いてある奇妙な部屋だった。

部屋に入ると、慣れた様子で冷蔵庫から酒とつまみを取り出して並べるAK-12。さながら、立食パーティーのような形式の出来上がりだ。

 

 

「じゃ、改めて・・・・入隊おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ふふっ、そんなに硬くならなくていいのよ・・・・それじゃぁ乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 

一口飲むと、冷えた酒が疲れた体に染み渡る。塩加減もちょうど良いつまみには自然と手が伸びてしまい、気がつけば結構お酒が進んでしまっていた。

 

 

「ぷはぁ! やっぱり仕事終わりにはこれよね!」

 

「とっても美味しいです!」

「今度は皆さんも誘いましょう!」

「人は多い方が楽しいですから!」

 

「あ、いやぁ、彼女たちはまたの機会に・・・・ね?」

 

「え? どうしてですか?」

 

「それはその・・・・なんと言うか・・・・サプライズ?」

 

「ええ本当に、確かにサプライズですねこれは」

 

 

酔いが覚めるとはこのことを言うのだろう。ちょうどAK-12は部屋の入り口に背を向けている形となっているため、声を発した人物の表情は窺えない。

だが、たとえ顔が見えずともわかる・・・・・・絶対やばい。

 

 

「重装部隊の子が誰も宿舎に戻っていないと聞いて探してみれば・・・・随分と楽しそうですね、AK-12?」

 

「あ、M4隊長!」

「隊長も一杯いかがですか!」

 

「ふふ、ありがとうございます。 ですが今日はこの辺りにしておきましょう。 明日もありますからね」

 

「そ、それじゃあ私はこれで・・・・・・」

 

 

ごく自然に出口へと向かうAK-12。その首根っこを、M4はガッと掴んで言った。

 

 

「AK-12、少し私とお話ししましょう」

 

「え? いや、今日はもう遅いし・・・」

 

「時間なんて気にしなくて大丈夫ですよ、だって・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝までですから」

 

「 」

 

『 』

 

 

その日見た顔を、BGM-71たちは一生、メンタルを初期化されても忘れないだろう。

パッチリ開いた瞳に光はなく、釣り上がった口角はピクピクとひくついている。例えるならば、極東のとあるお面そっくりな顔だったという。

 

 

「じゃあ皆さん、おやすみなさい」

 

『お、おやすみなさい!!』

 

 

翌日、げっそりとやつれたAK-12を見たBGM-71たちは、M4だけは怒らせないようにと肝に命じたのだった。

 

 

end

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

番外43-3:ダイナゲートの可能性

 

 

鉄血工造の量産型機械鉄血兵・ダイナゲート。

低コストで高生産性、小柄で走破性も高く武装も可能、偵察に強襲にと幅広く活躍できるのが売りである。鉄血工造のベストセラーといえばイェーガーだが、機械兵では間違いなくこのダイナゲートだろう。

 

そんなダイナゲートは、その見た目もあって軍用民生用問わず人気が高い。一部ではペットのような扱いになっていたり、街のいたる所で徘徊する監視カメラのようだったりと、その運用は多岐に渡る。

そしてライバル企業であるはずのIoPも、このある意味完成された兵器を愛用しているのだった。

 

 

「えーというわけでD-15、君のボディはメンテしておくよ」

 

『というわけで、じゃないわよペルシカ! その代替機がなんでこれなのよ!?』

 

 

その四肢が健在であれば助走をつけて殴りにかかっていることだろう。しかし今のD-15にあるのは手足ではなく、4つの脚なのだ。

そのD-15を見下ろすペルシカの顔は、それはそれは楽しそうであった。

 

 

「仕方ないでしょ、あんたが塞ぎ込んでる間にメンテ期間に入っちゃったんだから・・・・で、代替のボディの相談もなかったから勝手に決めたってわけ」

 

『だからって・・・・・これはないでしょこれは!!!』

 

 

通常、ボディの中長期メンテナンスの場合は代替のボディを用意することになっている。普通の人形であればダミーを流用するが、AR小隊は少々特殊である。そのため全く違うボディで過ごすことになり、そのボディをどうするかは毎回相談の上で決めているのだ。

 

 

「ま、いいじゃないD-15、隊員の境遇を理解した方が指揮にも役立つでしょう(適当)」

 

『そうですよD-15、それによく似合ってますから・・・・フフッ』

 

『RO・・・・あなたの仕業ね!?』

 

 

振り向き、独特なカラーリングのダイナゲートを見る。とある作戦で損傷を負ったためにこのボディを使うことになっている、RO635だ。

そしてそのレンズには変わり果てた自分・・・・・彼女と同じダイナゲートになってしまったD-15が映っている。

 

ベースはそのままに武装を外し、指揮用のアンテナや外付け通信機を載せた、いうなれば指揮特化型ダイナゲートである。

カラーリングは青みがかった黒に、なぜか玩具銃のようなAR-15がストラップのようにぶら下がっている・・・・・ノリノリでこの機体を用意していたことが窺える。

 

 

『うぅ・・・こんな姿、ハンターに見せられない』

 

「・・・・・その手があったか」

 

『ご安心をペルシカ、すでにアーキテクト経由で伝えています』

 

『いやぁぁぁああああ!!!!』

 

 

そして翌日以降、また自室に引きこもってしまうのだった。

 

 

end

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

番外43-4:新素材

 

 

異世界からのバカップル夫婦が帰った翌日のこと。

彼女らが持ってきてくれたコーヒー豆やら卵やらは、先方の希望通りこの店のメニューを構成する一つとなっている。卵などはともかくとして、面白いことにコーヒー豆はかなり味が違うようだ。育つ環境で味が変わるのはよくあることだが、世界が違えば味も違うらしい。

 

そして、そんな贈り物の中でも一際異彩を放つ品・・・・・それがこのミルクである。

 

 

「・・・・・甘いね」

 

「・・・・・・甘いですね」

 

 

Dと代理人がそれぞれ一口飲み、なんともいえない表情で感想を呟く。D08地区産・特濃ミルク、そんな仮称をつけたこれだが、その実は彼女らの母乳である。

人に限らず、乳というものは栄養価がとんでもなく高い。それだけでカロリー消費の激しい赤子を養うのだから当然といえば当然だが、本来子をなすことにないはずの人形が出す母乳も、同様であるらしい。

そしてその成分は、動物によって大きく異なる。要するに、牛乳や羊乳と同じ感覚では使えないということだ。

 

 

「初めて飲んだけど、独特だよね」

 

「えぇ、これは中々の難題ですね」

 

 

生まれた時からこの姿で、母乳などというものを全く経験したことにない二人は困惑し、しかし同時にこの未知の材料に心躍らせていた。

調べてもこれを使ったレシピなど出てくるはずもなく、文字通りゼロからの出発となる・・・・・探究心が刺激されてやまないのだ。

 

 

「とりあえず、まずはこのまま使ってみましょう。 幸い、量はありますから」

 

「そうだね・・・・どうやってこんな量が用意できるかは知らないけど」

 

「案外、彼女たち以外にもいるのかもしれませんね、母親が」

 

 

二人は知らない、あの二人どころかまだまだいることを。

二人は知らない、こんな話をしているうちにも、さらに一人母親になった者がいることを・・・・・ちなみにその名をドリーマーという。

 

 

「ってよく考えたら、原材料に母乳って色々言われそうじゃない?」

 

「それに関しては伏せておきます」

 

「・・・・・ガッツリ法に触れてる気がするけど?」

 

「ばれなければ良いのです」

 

 

さらっととんでもないことを言ってのける代理人に、Dも苦笑いしながら付き従う。

 

その後、紆余曲折を経て『特性ミルクチーズケーキ』というメニューが誕生する。

数量限定で少々クセのある味だが、概ね好評だったという。

 

 

end




ログイン絵の416が可愛すぎんか?
というか浴衣姿ってだけでもう辛抱たまらん!
やはり浴衣は良い文化である!!


・・・・・てなことは置いといて各話の紹介

番外43-1
隊長って書類仕事もあるはずだよね、という思いつきから。
原作45なら特に苦もなくやれそう、もしくは適当に言いくるめて416に丸投げしてそう。

番外43-2
BGM-71たちの中でAR-15<M4になったっ瞬間。
そしてまたやらかすAK-12・・・・・どうあがいても私は威厳あるAK-12を書けないらしい。

番外43-3
ROのちょっとした復讐。
誰か各人形をモチーフにしたダイナゲートを描いてくれないかなぁ(チラッ)

番外43-4
コラボ回のその後。
ちなみに母乳を使ったレシピは調べると結構出てくる・・・・・作らんけど。
ドリーマーの出産は、あちらでのお話↓
https://syosetu.org/novel/199919/48.html


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第百七十三話:一大イベント

事後報告というか今更感はあるけどね


喫茶 鉄血は二階建てである。一階部分にはカウンターやテラスがあり、ケーキなどが並んだショーケースが目を引く。

一方の二階はテーブル席のみで、ごちゃごちゃしない程度の調度品が置かれた落ち着いた雰囲気が特徴だ。客層としてはご高齢の方が多めで、長居する人ほど二階を使う傾向にある、らしい。

そしてこの店独特の設備が、その一画に設けられた個室である。

 

通常時は締め切られており、使用する場合は店員に一言声をかける必要がある。その上で予約などが入っていなければ使うことができるのだが、一室しかないので使用されることは少ない。

当日でも貸し切りの申請ができたりするのだが、多くの場合は事前に予約であるためそういったケースも少ない。

例えば今回のような、その場の勢いみたいな場合である。

 

 

「そ、その・・・改めてなんですけれども・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「お、お二人を僕にください! ペルシカさん!」

 

 

テーブルに頭をぶつけるほどの勢いで頭を下げる鉄血工造職員・ユウト。その両サイドで緊張した面持ちで成り行きを見守るM16とROは、ユウトたちの向かい側に座る白衣の女性・・・・ペルシカの顔色を伺った。

そんな光景を、コーヒーを運んできた代理人はこう思うのだった。

・・・・・なぜその話をうちでするのか、と。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端・・・という意味ではかなり前になる。

周知の事実だが、ユウトは現在M16とROの両名とお付き合いをしている。二股だのなんだのと言われそうだが、当のM16たちが「人形だから人間の価値観には当てはまらない」とか言ったので特に問題は起きていない。

そして付き合い始めること数ヶ月。今日も今日とて三人仲良く喫茶 鉄血でお茶でも・・・・といつも通りいちゃつきながらやってきたのだが、先客の姿を見て固まった。

 

 

「ん? 三人ともデート?」

 

「ぺ、ペルシカさん?」

 

 

一人コーヒーを啜ってまったりしているペルシカを見つけ、次の瞬間には三人とも同じことを考え出した。

 

親への挨拶、忘れてたな

 

というわけで急遽店の個室を借り、遅れに遅れた重要イベント「親御さんへのご挨拶」が始まったのだった。

 

 

「・・・・・いや、すごい今更なんだけど」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

 

ちなみにペルシカは全く気にしていない・・・・というわけでもない。言われなければどうということはなかったが、改めて『忘れられていた』と思うとちょっと思うところはあるようだ。

まぁそこまで目くじらを立てるようなことではないので、せめてもの仕返しとして()()()()()()()()()()ことにしたのだった。

 

 

「二人が君のことを好いているのは知ってるから、特に反対するようなことはないんだけどね・・・・ちょっと遅くないかな?」

 

「ぺ、ペルシカ・・・・そんなに責めないでやってくれ」

 

「こ、これは私たちにも責任が・・・・」

 

 

ROとM16が宥めようとするが、それをペルシカが軽く睨んで(もちろんフリ)黙らせる。

科学者連中の中では比較的常識人で、というか17labやアーキテクトが自重しないだけだが、ペルシカも一歩踏み外せばMADの仲間入りなレベルである。

こんな面白い状況、早々に切り上げるはずがないのだ。

 

 

(・・・・ま、彼なら二人を任せても大丈夫だとは思うけど、もうちょっと試させてもらうよ)

「ところで君、ROが大破した時にすぐこっちに来たよね?」

 

「え? は、はい」

 

「サクヤから聞いたよ、珍しく仕事ほっぽりだしたって」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「ROの身を案じてくれたのはわかるし、感謝してる。 でも君は君の会社での仕事があって、しかもそれなりの重役だ。 そこのところは理解してるよね?」

 

 

凄んで言ってみるが、ペルシカとしてはそんなに気にしていない。自分だってSOPがそうなったらすぐに駆けつけるし、恋人の危機になんもしないのはそれはそれで問題だと思っている。

が、一方で試しているのも事実。今回のような場合ならいざ知らず、軽症だとか腕がなくなった(人形にとってはそこまで重症ではない)くらいで仕事を放り出すというのなら、同じ人形に携わる人間として説教の一つでもしてやろうと思う。

 

人間と人形は違う。愛していてもそこは変わらず、そして忘れてはならない一線である。

 

 

「ペルシカ! それはあんまりだろ!?」

 

「M16、彼は人形の素人なんかじゃないの。 それに鉄血の職員とうちの人形が付き合ってるってのは、トラブルの種にもなりかねないのよ・・・・・それを踏まえて、答えてちょうだい」

 

 

再度、ユウトに問いかける。M16は拳を握りしめ、場合によればペルシカに殴りかかるくらいの覚悟が見える。ROもそれを察しているようで、いつでも止められるように身構えている。

そんな中、ユウトは大きく息を吸い込むと、ペルシカをまっすぐ見据えて応えた。

 

 

「確かに、僕の立場を考えれば、軽率だったのかもしれません」

 

「ユウトっ! それは「ですが!」・・・・!」

 

「それでも、僕には『行かない』という選択肢はありません」

 

「・・・・・・・・」

 

 

悩むそぶりもなく、はっきり言ってのけるユウトにM16とROも驚く。

 

 

「そう・・・じゃあこっちもはっきり言うよユウト、今度そうなった、君は鉄血と彼女たち、どちらかを捨てなければならなくなる」

 

「覚悟の上です。 そして僕は、迷わず二人を選びます」

 

「君の立場は、君が思っているよりも危ういんだ・・・・軽率な判断は感心しないよ」

 

「考えなしには言いません・・・・これが僕の選択です」

 

 

一切目を逸らさず、揺るぎもしないユウト。ペルシカもそれを正面から受け止め、M16とROは祈るような気持ちで行く末を見守っていた。

息の詰まりそうな空気が数分、もしくは十数分も続き、ペルシカがふぅっと息を吐いてその糸を切る。

 

 

「あーやめやめ、やっぱりこういう雰囲気は好きじゃないね」

 

「・・・・・え?」

 

「ぺ、ペルシカ?」

 

 

突然態度を軟化させたペルシカに、三人ともポカンとする。それが面白いのか、ペルシカはくつくつと笑いながら言う。

 

 

「ごめんごめん、あんまりにもユウトが真剣な表情で挨拶なんてしてくるから、ちょっとからかっちゃった」

 

「か、からかうって・・・・じゃあまさかさっきまでのは!?」

 

「うん、特に意味はないよ」

 

 

あっけらかんと言ったペルシカに、三人は崩れ落ちるようにテーブルに突っ伏す。圧迫面接どころではない緊張は、正直心臓に悪い。

 

 

「やりすぎですよ、ペルシカさん」

 

「おや代理人、これも保護者の務めだよ」

 

「あなたのことですから、言ってみたいセリフのようなものでしょう・・・・『娘は渡さん』みたいな」

 

「よくわかってるじゃない」

 

 

お替りを持ってきた代理人も、この空気で色々と察したらしい。

実際のところ、人形の自立を支持するペルシカがいまさら反対するはずなどないのだが、そこに気付けなかったユウトたちが勝手に熱くなっただけである。

 

 

「ま、そういうわけだからさ・・・・・二人をよろしくね、ユウト」

 

「は、はい、ペルシカさん・・・・・いえ、『義母さん』」

 

「! ふふ、義母さんか・・・・・ふふふ」

 

 

娘は多いけど、息子は初めてかな・・・と一人呟くペルシカ。

この日以降、16labと鉄血工造とで人の行き交いが増えるのだが、それはまた別のお話。

 

 

end




こんな大イベントをなぜ今まで忘れていたのか。
まぁ挨拶なんてしなくても知られてるんだけどね!


てなわけで今回のキャラ紹介

ユウト
鉄血工造の開発部門所属。
並行世界出身の常識人。
きっと一途で純粋な好青年。

ペルシカ
戦術人形の権威にして常識っぽい皮を被ったMAD予備群。
ちなみにAR-15と付き合っているハンターからは義母さんとは呼ばれない。

M16&RO
認めてくれなかったらグレるか家出する。

代理人
もう大抵のことでは動じなくなった。
察しスキルEx




以下、おまけ(暇な時にやってみよう)












問題
AR小隊及びその関係者の間柄を図示せよ。
但し、友人関係は含まず、家族・恋愛関係は含むものとする。


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第百七十四話:悪魔たちの置き土産

「貴様の作品に、どれだけのコラボが書かれたと思ってるんだ!」

「聞きたいかね?・・・・昨日までの時点でry」







というわけで今回は、『白黒モンブラン』様の作品『Devils front line』とのコラボ回!・・・・と言っても彼らはもう帰っちゃったんですけどね笑
後日談的な感じです。

悪魔たちのスタイリッシュなバトルが見たい方はコチラ↓
https://syosetu.org/novel/191561/130.html


『・・・続いてのニュースです。 先日S09地区で発生したテロについて、グリフィン&クルーガー社が記者会見に応じました』

 

 

喫茶 鉄血の穏やかなBGMのなかで、少々物騒な話題が備え付けのテレビから流れる。内容は少し前に起きたテロ事件・・・・・ということになっている、とある奇妙な出来事だ。

 

 

『先日のテロ事件において、我々グリフィンは敵勢力及び兵器の無力化に成功しております。 また、今回の事件は実行グループのみで画策されたものであると報告を受けています』

 

 

表向きは所属・目的不明のテロ組織となっており、まるで悪魔のような姿で武装した人間とその兵器であると報じられた。幸いにも当時はグリフィンの部隊が速やかに展開され、目撃者はごく少数、それも遠目からという程度で済んでいる。

だが実際は、文字通りこの世のものではないモノの仕業であった。

 

 

『目撃者の中には、不気味な繭のようなものが見えたという声もありますが』

 

『それについても、こちらで既に回収し、調査を進めております』

 

 

不気味な繭、当時現場に赴いていた知り合いたちからも聞いた内容だ。

だが繭は回収されていない。すでに繭は孵化し、生まれ出たモノは処分されたからだ。

 

 

 

「相変わらず、絶妙にぼかしてるわよね」

 

「そうでもしなければ、余計な不安を煽るからでしょう」

 

「ま、うちも警察も鉄血も口の固さは保証するわ」

 

 

そう言ってクイっとカップを傾けるFAL・・・・先の事件の際に出動し、摩訶不思議な連中と出会った人形の一人だ。

 

 

「しっかし惜しいことしたわ・・・あんないい男そうそういないわよ」

 

「もともとこの世界にもいませんが・・・・ちなみにどちらのことですか?」

 

「選べないわねぇ・・・赤い方のワイルドな感じもいいし、青のクールな感じもグッとくるのよ」

 

 

ちなみに、彼らに惹かれたという人形はFALだけではない。美青年で強く気高い彼らは、去ってもなおその存在感を残していった。

 

 

「ま、もういないんじゃどうしようもないけど・・・・・じゃぁ代理人、お会計を」

 

 

FALが帰り、食器を片付けつつ数日前の不思議な出会いを思い返す代理人。その視線の先には、小ぶりな鉢植えに植えられた桜の木・・・・・その花はピンクや白ではなく、群青色というものだった。作り物のようにも見えるが本物、それも『魔力で作られた』枯れることのない桜だ。

 

 

(悪魔・・・・よく聞くおとぎ話のものとは、随分と違うのですね)

 

 

代理人が出会った二人の悪魔、ギルヴァとブレイク。ぱっと見では人間にしか見えず、仲間思いな印象だった。

若き指揮官のシーナ、特殊な義手を扱う処刑人、口数は少ないが優しいノーネイム、そして髪型を変えたもう一人の代理人(自分)・・・・個性豊かな仲間が、彼らの周りに集まっていた。

 

 

「・・・・・ふふっ」

 

「あ、代理人ったらまたそれ見て笑ってる」

 

 

声の方を向くと、ニヤリと笑うアーキテクトの姿・・・・またサボりだろうか。

 

 

「違うよっ!?」

 

「では休憩ですか? その割には物騒なものを持っているようですが」

 

「大丈夫大丈夫、私じゃこれは使えないから」

 

 

アーキテクトが持っているもの、それはあちらの処刑人から譲り受けた義手・ブリッツだ。対悪魔を想定されているらしく威力や頑丈さは目を見張るものがあり、アーキテクトは寝食を忘れかけるほど研究に没頭した(もちろんゲーガーに怒られた)。

 

 

「これ、代理人に持っといてほしいんだよね」

 

「・・・・はい?」

 

「代理人なら、もしかしたらまた会えるかもしれないでしょ? そしたらその時に返しておいてほしいんだ」

 

 

アーキテクトらしからぬ提案に困惑する代理人。あの研究バカな彼女が自ら手放すなど・・・・・明日はジュピターの雨でも降るのだろうか。

 

 

「そ、そこまで言う? ・・・・まぁそれはさておき」

 

「?」

 

「使われてる技術なんかは、興味深かったよ。 でもこれは、私たちには過ぎた代物なんだ」

 

 

悪魔という常識の埒外を打ち倒すためのもの、それがこの義手だ。そんじゃそこらの兵器を、それどころかアーキテクトが実用性度外視で作った実験品の数々すら凌駕する性能を持ち、それがたった一人の人形によって振るわれる。

確かに彼女の言うとおり、この世界では過剰なものだろう。

 

 

「だから、ね?」

 

「アーキテクト・・・・えぇ、わかりまs「それにね!」・・・ん?」

 

「もう作っちゃったんだ!」

 

 

そう言ってどこから取り出したのか、もう一つの義手を取り出す。見た目はブリッツそっくりで、彼女が作るからにはきっとそれなりの出来なのだろう。

・・・・・ところでその材料と製作時間、どこから持ってきたものなのだろうか。

 

 

「アーキテクトっ!!!」

 

「また勝手に資材を使いましたねアーキテクト姉さん!」

 

「今日という今日は私も怒るよ!」

 

「ゲェッ!? 三人とも!!!」

 

 

案の定というか、やはり他をすっぽかしたあげく資材をちょろまかしたらしい。連行されるアーキテクトが助けを求めるが、代理人は気にせずブリッツを戸棚にしまう。元々は食器入れとして、最近では少々特殊な客との思い出を収める場所として機能しているこの戸棚だが、その中では一際大きく物騒な代物なのではないのだろうか。

 

 

(・・・・ふふっ、ここも随分と大所帯になりましたね)

 

 

そろそろ専用のスペースでも作ろうか、と代理人は思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

ところ変わって喫茶 鉄血の三階、従業員用の居住スペース。冬場はこたつが占有していたフリースペースも、暑さが目立ち始めた今はちゃぶ台と扇風機に変わっている。

他の従業員が仕事中の中、たった一人座っているフォートレスは、手に持ったものを眺めながらどこか上の空でため息をついていた。

 

 

「・・・・フォートレス、元気ないね」

 

「それもそうだろう、なにせ相手が悪すぎる」

 

「後輩の恋路は応援してあげたいけど、こればっかりはねぇ」

 

 

それを物陰から見守るのは、当店自慢のトラブルメーカーであるマヌスクリプトとゲッコー。休憩時間に自室へと戻ってきたのだが、開店前と変わらず物憂げな表情のフォートレスを前にして戻るに戻れない。

そう、ここ最近の彼女はずっとこうなのだ。おかげで仕事にも手がつかず、本日は休暇ということになっている。

 

 

「ていうかよく飽きないわね、毎日アレばっかり見て」

 

「飽きるはずがないだろ。 想い人からのプレゼントなんだからな」

 

「想い人、ねぇ・・・・・一生実らない片想いって残酷よね」

 

 

フォートレスの不調の理由、それは彼女が持っている桜のヘアアクセサリーを渡した相手である。マヌスクリプトたちはその場にいなかったが話には聞いていた・・・・・その者の名を、ギルヴァという。

 

 

「ていうかその天然たらしのせいよね? ちょっくら殴りに行ってもいい?」

 

「やめておけ、どうせ返り討ちが関の山だ。 それに」

 

「それに?」

 

「・・・・・フォートレスが悲しむだろ」

 

「あー・・・・・」

 

 

チラッと視線を戻す。相変わらずアクセサリーを眺めては熱のこもったため息を吐いているのだが、どうにも様子がおかしい。先ほどまでとは違い顔が隠れていて、肩が小刻みに震えている。そして耳をすませると、かすかに湿り気を帯びた声が聞こえてくる。

 

 

「よし、奴を○そう」

 

「おいバカやめろ」

 

「だって、あいつフォートレスを泣かせたのよ!?」

 

 

姉を自称するマヌスクリプトにとってはギルティであったようだ。いつ・どうやって○すのかは知らないが、次に会ったときが奴の命日だと豪語するマヌスクリプトと、それを呆れながら止めるゲッコー。

 

そんな二人の無意味な喧騒の外で、静かに失恋を受け止めていたフォートレスは涙を拭き、アクセサリーを髪につけると普段のおっとり感からはかけ離れた俊敏性で店へと戻る。

 

 

「だ、代理人さん! わ、私・・・・・」

 

「・・・・吹っ切れましたか?」

 

「! ・・・・はいっ!!」

 

「ふふっ、では今日はコーヒーの淹れ方を教えましょうか・・・・・今度会うときは、あなたが淹れてあげてくださいね」

 

 

誰に、と言わずとも通じるその言葉に、フォートレスは笑顔でうなずいた。

出会いがあれば別れがある・・・・喫茶 鉄血は、今日も平和であった。

 

 

 

end




まずはコラボ元の作者である白黒モンブラン氏に感謝を。
そしてごめんなさい!おそらく一生叶わない片思いになってしました!
まぁ失恋は女性を強くするって言うし、ね?


では今回のキャラ紹介。

代理人
もう今さら悪魔如きでは驚かなくなってしまった。
思い返せば人形なのに妊娠する娘や治療(物理)なハイエンドや血で回復する系の狩人などなど・・・・悪魔がまともに見えてくるぜ。

FAL
あちらのコラボ回にて悪魔との遭遇戦に参加した人形の一人。
苦労人にして胃薬が手放せないが最近は服用数が減ってきた・・・が、どこか遠い世界の同一人物のような独女感も出てきた。

ゲッコー&マヌスクリプト
珍しくまともな登場。
ちなみにどちらも近接戦型の人形であり、近中距離の鬼であるギルヴァとはかなり相性が悪い・・・・というかダァーイされるのがオチである。

フォートレス
とある悪魔に恋をし、そして失恋した。なお、今作では失恋キャラ第二号である(一号は残念ライフルのダネルさん)。
物静かなギルヴァとは相性が良さそうだが、文字通り世界が違うのでどうしようもない(意訳:誰かIFを書いてくれてもいいのよ<チラッ)



改めまして、コラボありがとうございます!!!


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第百七十五話:傭兵とカカシさん

コラボのお話を書いていただけるのって、とてもモチベーションが上がるんですよね。感想も評価もそうですが、この作品を読んでいただけてるという証ですから。


というわけで今回は、『chaosraven』様の『裏稼業とカカシさん』とのコラボ!
・・・・まぁコラボというよりも、こっちの世界のレイとスケアクロウのお話を書いていただいたというものですが。
また、この話は後書きのような感じのものです。メインのお話を先に読むことをお勧めします。
https://syosetu.org/novel/194706/6.html




注)今回はかなり重い内容となっております。苦手な方、お呼びでないという方はブラウザバックをお願いします。


天気良し、気温良しないたって普通の平日。いつも通り主婦やご老人で賑わう喫茶 鉄血だが、心なしか暗く重たい空気が漂っている。

従業員たちは人形ゆえ表情などは明るく努めているが、見る者が見ればどことなく表情が暗いと気づくだろう。Dの笑顔は空元気のように見えるし、マヌスクリプトとゲッコーもまだなにもやらかしていない。

そして何より、代理人が時々上に上がっては浮かない表情で戻ってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・レイ」

 

 

ベッドの横に持ってきた椅子に座り、スケアクロウはそっと声をかける。もしかしたら、返事が返ってくるかもしれない。微妙に意地悪なレイのことだから、寝たふりなだけかもしれない。

だが、そんな淡い希望も、ものの数分としないうちに霧散する。変わらない呼吸と心電図、そして身動ぎすらせず死んだように目を瞑る想い人・・・・・レイが昏睡状態となって、すでに一週間が経過した。

 

 

コンコン

「スケアクロウ、入りますよ」

 

「あ、はい」

 

 

マグカップを手に持った代理人が様子を見にくる、これもいつものことだ。椅子をもう一つ持ってきて、スケアクロウの隣に座る。

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 

会話はなく、ただ沈黙が流れるだけ。代理人はなにも言わないが、スケアクロウが考えていることはおおよそ把握していた。

一週間前、瀕死の重傷を負ったレイの治療に当たった医師の言葉・・・・人形の人工臓器を移植、植物状態の可能性、そして

 

 

(安楽死・・・・ですか)

 

 

もう二度と目覚めることがないかもしれない。いや、その可能性が高い。医師らはその診断結果をもとに、彼女にそう提案した。

人形にとっては無縁に近い『死』、それを親しい人物を通して突きつけられたスケアクロウは、あれからずっと悩み続けている。もちろん、彼女だってレイを諦めたくはない。だが同時に、二度とその声を聞くことができないのかもしれないという不安を抱え続けるのにも限界はあると感じている。

その心労からか、最近の彼女は人形なのにやつれて見えるくらいだ。

 

 

「・・・また夕方、様子を見にきます。 あなたもたまには外に出てみては?」

 

「・・・・はい」

 

 

返事は返すが、これで実際にそうなったことはない。朝から晩まで、文字どおり付きっきりなのだ。

これ以上かける言葉も見つからないまま、代理人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日も、そのまた明くる日も、スケアクロウはレイのそばに居続けた。そして刻が経つにつれ、彼女のメンタルモデルもすり減ってゆく。

後悔と懺悔、そして言い表せないほどの自己嫌悪。

あの日、自分が不覚を取らなければ・・・もっと状況をよくみていれば・・・・・あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・・

 

 

「レイ、私は・・・・私は・・・・・・」

 

 

震えるその手が、レイの頬に触れる。まだ暖かく、生きていることを実感させてくれる。

だが、それだけだ。もうこの目は開かない。もうその声を聞くことはできない。もう、あの笑顔を見ることは叶わない。

それならいっそ・・・・触れた手がゆっくりと下に降りる。やがて彼の首までたどり着くと、包み込むように添えられた。

 

 

「ごめんなさい・・・・・レイ・・・・・・」

 

 

ゆっくりと、その手に力を込める。フルパワーであれば両手どころか片手で握り潰すことすら可能だ・・・・・が、それは数ミリも進まないうちに動かなくなった。

決して人間を攻撃できないようなプログラムは積んでいない。だがどれだけ力を込めようと思っても、まるで腕だけが制御から外れたようにいうことを聞かなくなってしまう。

 

そしてついにスケアクロウは手を離し、そのまま彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。何度も何度も名前を呼びながら、日が暮れるまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ん、ぅん・・・? ここは・・・?」

 

 

()()()()()と、そこは見知らぬ街だった。見覚えのあるようなないような、そんな街である。

なぜこんなところにいるのか?自分は確か・・・・・

 

 

「スケアクロウを助けに行って・・・ボコボコにされて・・・・・代理人が来てくれて・・・・・・」

 

 

そこから先が思い出せない。だが少なくとも入院が必要なほどの重傷を負っていたはずである。それが何の傷跡もなく街のど真ん中に突っ立っている・・・・・・ということは。

 

 

「あ、夢か」

 

 

そう直感した男・・・・レイは、どうせ夢だからと見て回ることにする。不思議なことに、もしくは夢だからなのか、すれ違う人々は誰もレイには気付いていないようだった。

随分と都合の良い夢があるな、と思いながら歩いていると、急に視界が開ける。どうやら大通りに出たらしい。

 

 

「さて、どっちに行くか・・・・ん? うぉっ!?」

 

 

何の注意もせずに一歩踏み出し、次の瞬間に猛烈な勢いで突っ込んできたサイドカー付きバイクに慌てて飛びのく。

もはやバイクとはいえないほどの巨体だったためかなりビビったが、その直後に別の意味でビビる。その化け物カーに乗っていたのは二人、一人は自分の雇用主そっくりな女性で、もう一人は自分そっくりな男だった・・・・・違いがあるとすれば、左頬の傷だろう。

 

そう、いつぞやに出会った『異世界のレイたち』である。

 

 

「え? ちょ、おい・・・・うわっ!?」

 

 

慌てて呼び止めようとし、急に周りがぼやけ始めたためその場で固まる。グニャリと歪んだ世界は色彩を変えながら形を取り戻し、そこはさっきまでいたはずの街ではなくなっていた。

いや、それどころか()()()()()()()()()()()

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

文字どおり中に浮いたままのレイ。いくら夢だからといってもこれはやりすぎではなかろうか。しかも浮いているのになぜか安定感はあるし、思い通りに動くこともできる。

夢であることをいいことにフラフラと宙を漂っているレイの足元、さっきとは打って変わってなにもない荒野が広がっている。よく見るとなにやらテントのようなものや車両、それに人の姿も見える。小さくて見えないので下まで降りようといたその時、轟音と共に視界の隅で何かが爆ぜた。

 

 

「っ!? な、なんだありゃ・・・・・」

 

 

視線を向けると、断続的に地面が爆ぜて土煙を上げている。これでも傭兵であるレイは、それが地雷であると瞬時に判断する。と同時に、ここが戦場であることも。

だが、この夢はどこまでも突拍子のないものらしい。爆煙と土煙の中から現れたのは、人型の『ナニカ』だった。例えるならゾンビに近いだろうそれは猛烈な勢いで地雷原に突っ込み、そして弾け飛ぶ。それでも数が多く、地雷がなくなった道を踏み抜いていく。

その後も砲撃や狙撃、はてはレーザーのようなものまで使ってゾンビもどきを駆除していくが、今度は不気味な咆哮と共に異形にまで変貌したゾンビもどきが現れる。

 

 

「おいおい、どこのB級映画だよ・・・・ん? あれは」

 

『ちょ、まさかC級に挑むつもりですの?』

 

 

自身のすぐ真下、見慣れない格好の見慣れたやつがそこにいた。フルフェイスシールドを被ってはいるが周囲を舞うビットから、それがスケアクロウだとわかる。

そして彼女の少し前に、化け物を真っ直ぐ見据えた野郎がいた・・・・・()()()だ。

 

 

『無事に生き残れますの?』

 

『一重で生き残れると思う』

 

『かっ、紙一重!? しかも生き残れると”思う”!?』

 

 

暫しやりとりがあり、やがて『俺』は珍妙なブレードのようなものを取り出し、地を蹴った。

スケアクロウに心配させるあたり、結局どこまで行っても俺は俺なんだろうと思った。

 

 

「ん? またか・・・・・」

 

 

再び視界がグニャリと歪み、場面が変わる。そこはどこかの工場のようで、しかし室内の至る所に血痕がついている。探すまでもなく血の持ち主に遭遇し、その白衣に描かれたエンブレムを見て舌打ちする。

『鉄血工造』、もはや見慣れきった社名だ。

 

 

ドゴオオオォォォォォ……

「っ!? 今度はなんd・・・・・・」

 

 

轟音と揺れを感じて振り返り、絶句する。そこにいたのはこの夢では三度目となる例の二人、そして下半身がタコという異形の女。

傷だらけで口から血を流す『俺』を、スケアクロウが抱えながら逃げ回っている。

 

 

『・・・貴方は私が必ず連れて帰る。”私達”を助けてくれた貴方への恩を、今ここで返しますわ!』

 

「っ!」

 

 

その声、表情から、彼女がどれほどの信頼と恩を感じているのかがよくわかる。そしてその姿に、自身のパートナーを重ねる。

 

ぐっと拳を握り、目を閉じる。

夢の音が遠くなり、やがてなにも聞こえなくなる。

 

 

(きっと、心配かけてんだろうな・・・・・さっさと戻ってやらねぇと)

 

 

そう強く思い、目を開ける。あたり一面真っ暗で、今立っているのか浮いているのかもわからない。

まるで、お前は夢から覚めることはない、と言われているような気さえするが、レイに焦りはない・・・・・必ず還る、そう決めたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・レイ・・・・・・レイ!

 

「っ! 聞こえた!」

 

 

微かに聞こえた彼女の声に向かって、レイは走り出す。

起きたらとりあえず謝らないとな・・・・小さく見え始めた光に向かって走りながら、レイは口元を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・ん・・・・ぅん・・・・」

 

 

目をうっすらと開ける。さっきまで暗闇の中だったからか、部屋の照明がやけに眩しい。そしてなにやら腕から・・・・というか身体中から伸びたチューブとそれに繋がれた機器が、自身の重症っぷりを雄弁に語っている。

さて、とりあえず彼女に一言声をかけないと・・・・とレイは目を動かし、部屋の隅で喉元にナイフを突きつけるスケアクロウを発見して跳ね起きた。

 

 

「ちょっ、待っ、YOUなにしちゃってんの!?」

 

「ひゃっ!? レ、レイ・・・・・?」

 

 

なんだその表情は・・・・というか危ないから今すぐ手を下ろせ!

そう言ってベッドから降りて向かおうとして・・・おそらく長いこと寝ていたせいだろう、足元からガクッと力が抜ける。というか全身チューブだらけだったのを完全に忘れていたせいで、それらで雁字搦めになって無様にこけた。痛そうだ。

 

 

「レイっ!? 大丈夫ですか!?」

 

「イテテ・・・・ま、まぁ一応」

 

「スケアクロウ! 今の音は・・・・っ!?」

 

「Oちゃん、どうしt「D! すぐにお医者様を!!」え? う、うん!」

 

 

一気に慌ただしくなる中で、スケアクロウはチューブを丁寧に解いていく。なぜかやたらと丈夫で、あれだけ盛大にこけたのにチューブも機器も無傷だった。

そんなどうでもいいことを考えるレイに、スケアクロウが抱きつく。突然どうしたと声をかけようとして、彼女の啜り泣く声を聞いて黙って頭を撫でた。

 

 

「よかった・・・もう目を開けてくれないと・・・・・本当に、本当に・・・・・・!」

 

「スケアクロウ・・・・すまなかった・・・・・」

 

「レイ・・・・・レイ・・・っ!」

 

 

代理人が医者たちを連れてくるまでの間、二人は抱き合ったまま互いの存在を実感しあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイが目を覚ましてから数週間後。

臓器の一部が人形のもになっていると言われて驚いたり、データのバックアップによって帰ってきたダイナゲート1号たちと再会したり、ほぼ一ヶ月近くも置きっぱなしにしていたオンボロを引き取りに行ったりと慌ただしい日常が戻ってきた。

 

そして今日、あの日以来延期されていたショー再演のため、レイとスケアクロウは再びU02地区を訪れていた。あの時の記憶がフラッシュバックするが、今回は大丈夫だ・・・・・上空をテレビ局のヘリに偽装した運用ヘリが数機も飛んでいるのだから。

 

 

「・・・・・・・・レイ」

 

「ん?」

 

「・・・・改めて、申し訳ありませんでした。 私たち人形の問題に、あなたを巻き込んでしまって」

 

 

U02地区を一望できる高台の公園。そこで夕陽をバックに、スケアクロウは言った。背を向けているので表情はわからないが、彼女がどう言った心境であるかは十分伝わる。

 

 

「おいおい、その話はもう終わったんじゃ・・・・」

 

「い、いえ、その・・・・・まだ、続きがあります」

 

「え?」

 

「・・・・・きっとこれからも、あなたには迷惑をかけるかもしれません。 また危険な目に合わせてしまうかもしれません」

 

 

スケアクロウの声が、微かに震える。だがそれでも、彼女は続ける。

 

 

「それでも、私はあなたと一緒にいたい・・・・・レイ、これからも、私のそばにいてくれますか?」

 

 

声を振り絞るように言う。もし拒絶されたら、そう思うだけで逃げ出したくなるのを、スケアクロウはじっと耐えた。

そして、レイの答えは・・・・・

 

 

「・・・・・なにを言い出すかと思ったら・・・・当然だろ?」

 

「っ! レイ・・・・・!」

 

「第一、俺を雇ってるのはスケアクロウだろ? 勝手にいなくなるなんて契約違反だしな」

 

 

一瞬、言っている意味がわからなくなった。一拍おいて理解し、そして彼女の意味が伝わっていないことに気がつく。

平時であればビンタの一つでもかましてやりたいところだが・・・・そんなところも含めて、なのだ。

 

 

「・・・・レイ、あなたは本当に鈍いですね」

 

「???」

 

 

首を傾げるレイの気配に、スケアクロウは嘆息する。そして仕方ないとばかりに微笑むと、大きく息を吸い込んで振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ、私はあなたのことが・・・・・・

 

 

 

 

end




言いたいことはわかってる・・・・シリアスは苦手なんだ。見るのが、ではなく書くのが、ってとこだけど。
ちなみに没案ではどこぞの狩人によって啓蒙を得て復活したり、デカパイ人妻たちのπビンタで目が覚めたりとか考えたけれど、夢の中でまで踏んだり蹴ったりなのはかわいそうなので・・・・ね?

さて、これでchaosraven氏とのコラボも完結!あちらで六話、こちらで一話というボリュームですがいかがでしたか?
他の方が描く自分のとこのキャラクターって、こう見えてるんだって感じで面白いし参考にもなりますね。
こんな感じで、コラボのお誘いは大歓迎です!長編短編ほのぼのシリアスグリフィン鉄血、なんでもウェルカムですよ!



では、今回のキャラ紹介!


スケアクロウ
精神的に危うくなっていた娘。あなたを殺して私も死ぬ、みたいなことをやろうとしたけれどどっちもダメだった。
彼女は絶対にハッピーエンドにしてやると心に決めていた・・・・イベントのデイリー10キルも詫びも兼ねて。

レイ
全身に傷跡が残り、臓器の一部を民生人形のものに置き換えた、いわば半サイボーグ化した男。
没案では人形化や臓器提供による完全復活、あるいはなんらかの障害が残るといったものがあったが、今回はこれでよかったんじゃないかな?

夢の内容
『裏稼業とカカシさん』より、対E.L.I.D戦と超事件のお話。コラボなのにあっちの二人を出さないのはいかがなものかと思ったので、こんな形で。
何気にこっちから世界を超えるという珍しいパターン。





ところで皆さん、もうすぐ7月ですね、夏ですね!
AK-12とANー94のスキンが出ましたが、皆さんはもう買いましたか?
私はいるの間にか溜まっていた4000ダイヤを使って買いました!・・・・・課金しなくても楽しめる要素が多いのはドルフロの魅力だと思います(信者)


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第百七十六話:雨降る日に

大型アップデート、きましたねぇ・・・・図鑑に敵キャラが追加されたのが何気に嬉しいところ!
ただ不満な点は、もう一度戦わなければならないところかな・・・・ウロボロスとかどうすんだろ?







キューブ作戦の常設化フラグ?


「・・・・りんご」

 

「ゴリラ」

 

「ら、ラッパ・・・・」

 

「ぱ・・・ぱ・・・・パスタ」

 

「タバスコ」

 

「コーn・・・ンフレーク」

 

「ちょっとフォートレス、今のはアウトじゃない?」

 

「何をしているんですかあなた方は」

 

 

厨房から戻った代理人が、呆れながら尋ねる。まぁ尋ねるまでもなくなにをしていたのかはわかっている。それに、三人も仕事をサボっていても問題ないというのが今の現状だった。

 

 

「だって代理人、お客さん0だよ」

 

「気が抜けていたという点では謝るが、こうも暇だとな・・・・」

 

「そ、それにこの天気ですし・・・・」

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

再びため息をつき、窓の外を見やる。

店内のBGMに負けず劣らずな雨音、数メートル先までしか見通せなず、時折吹く突風によって叩きつけられるように降っている。バケツをひっくり返したような、とはこのことを言うのかというほどの豪雨だった。

雨量もさることながら横殴りになる雨のせいで客足は遠のき、一時間前に最後の客が帰ってから誰も来る気配がない。それどころか店の前を通る客すらまばらだった。

 

 

「メインの通りならいざ知らず、路地裏じゃ今日はもう誰も来ないかもね」

 

「D・・・・」

 

 

奥で掃除をしていたDだったが、どうやらそれ終わって手持ち無沙汰になったようだ。同じくリッパーとイェーガーもフラッと現れ、店の中はまるで開店前にような雰囲気になってしまった。

チラッと時計を見ればちょうど昼過ぎ。いつもならそこそこまとめて人が入るはずの時間帯にコレなのだから、そうなるのも無理はないのだろう。

代理人は額に手を当てて暫し考えると、持っていたトレーを置いて言った。

 

 

「仕方ありません・・・・今日はもう閉めましょう」

 

「ほぉ、思い切ったことをするな」

 

「来るかもわからないお客様をただ待つだけででは、有意義な時間とは言えないでしょう」

 

「じゃあOちゃん! 私ちょっと試したいレシピがあるんだけど手伝ってくれない?」

 

「わ、私もコーヒーの入れ方を・・・・」

 

「んー・・・じゃあ私は夏用の制服でも作ろうかな」

 

「変なものは作らないでくださいよ」

 

 

掛札をひっくり返し、カーテンを閉めていく。

喫茶 鉄血、本日は臨時終業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャカチャカチャカチャ

トントントントン

「・・・・こんな感じかな?」

 

「そうですね、これくらいでいいでしょう」

 

「じゃ、あとは冷やして待つだけだね」

 

 

店内の清掃を終え、片付けも済ませた従業員一同。照明を落として暗くなった一階で唯一明るい厨房では、そんな彼女たちが一斉に何かを作っていた。

ある者はレシピと睨めっこしながらパスタを茹で、ある者はジッとオーブンを覗き込み、またある者はボウルを片手にせっせとかき混ぜている。

そしてその中心にいるのは代理人・・・・・せっかく時間があるということで、皆の料理の腕をあげようという狙いだった。

 

 

「といっても、Dはもう教えることはないと思いますが」

 

「そんなことないよOちゃん、私もまだまだ・・・・それにあの二人の方が上だよ」

 

 

Dが振り向いた先、代理人にとって随分と見慣れた背中が二つ並んでいる。最初期・・・・・喫茶 鉄血ではなく鉄血工造の頃からの部下で、ある意味ダミーであるDよりも信頼のおける二人組、イェーガーとリッパーだ。

二人は代理人に何かを聞くまでもなく、あれこれと試しながらノートにペンを走らせる。先ほど代理人もチラリと様子を見に行ったが、どうやら完全新作のメニューを考えているらしく、代理人がそばに行っても気づかないほど没頭していた。

 

 

「確かに、彼女を超えるのはまだまだ先ですね」

 

「むぅ、確かに先だろうけど()()()()は余計だよ!」

 

「そうですか? ではノルマも増やしてみましょうか」

 

「ゔっ・・・・い、いいよ! どんと来い!」

 

 

一瞬怯みもすぐに立ち直ったDに、代理人もふっと微笑む。

そして戸棚からレシピの束を持ち出すと、顔をひくつかせたDに手渡したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ぅぇ・・・苦い・・・」

 

「ふっ、この苦さがいいんじゃないか」

 

「もっとも、人によって好みはありますが・・・・さてフォートレス、これで一通りの淹れ方は教えましたが、他に何かありますか?」

 

 

膨大な量の資料を渡されたDが頭を抱えているころ、今度はフォートレスの元にやってきた代理人は約束通りコーヒーの淹れ方を教えていた。

フォートレス本人の希望だが、なにせその本人はコーヒーが苦手なのだ。砂糖とミルクを大量投入してようやく、といったレベルなので、これには代理人も苦笑しながら教えていった。

で、もちろん淹れたからには味の確認も行う必要がある。挽き具合から温度の加減など、淹れ方だって一通りではないため、何杯も試飲を重ねていく。当然その都度フォートレスが渋面を浮かべるのだが、妙に微笑ましいので黙って見守ることにした。

 

 

「い、淹れ方は、大丈夫です・・・・でも」

 

「どれが『彼』の好みか、ですか?」

 

「そんなもの、お前が淹れたのなら喜んで飲んでくれるだろう」

 

「ふぇ!?」

 

 

代理人とゲッコーに指摘され、まるで茹タコのように顔を真っ赤にする。ちなみにゲッコーは休憩がてら試飲に付き合ってくれている。ブラックよりも微糖派である。

 

 

「ゲッコーの言う通りですよ・・・あなたが頑張って淹れたんですから、ね?」

 

「う、うん・・・・・」

 

「・・・・まぁ、次に会うことがあればだが」

 

「会えますよ、きっと・・・・」

 

「ふっ、経験者は語るというやつか?」

 

「さぁ? どうでしょうか」

 

 

そう呟き、代理人もコーヒーに口をつける。

いくつかあるうちの失敗作だったが、不思議と悪い気はしなかったのだった。

 

 

 

end




どーも、最近頭の働かない作者です。
いやぁ通勤中なんかはいい感じに話が思い浮かぶんですが、いざ書こうとするとモヤがかかったように・・・・書き続けるって難しいですね。
そして今回も、そうして無駄にぐるぐると回り続けた結果のお話です・・・・結構短めなのはそんな理由(笑)

相変わらずマイペースですが、コンゴトモヨロシク



では今回のキャラ紹介!

代理人
喫茶 鉄血において彼女にできないことはない。
ただし彼女がいなくなれば成り立たなくなるというわけではなく、ちゃんと継承するものはされている。
コーヒーはブラック派

D
もはやダミーの域を完全に逸脱しているダミー。
オリジナル同様の高いポテンシャルを誇るが、経験の差がそこにある。
コーヒーはミルクを少々加える派

イェーガー
鉄血工造『イェーガー』タイプの一号機。
度重なるアップグレードと喫茶 鉄血での勤務歴から、通常のイェーガーとは全く異なるメンタルモデルを持つ。
コーヒーはなんでも派

リッパー
イェーガーと同じく一号機。
ちなみに勤務中は髪を後ろで括っている。
コーヒーはカフェオレ(砂糖なし)派

フォートレス
最近積極性が現れ始めたハイエンド。
見た目相応の子供舌だが、好き嫌い自体はほとんどない。
かなり甘めのカフェオレ派(一番好きなのはココア)

ゲッコー
特に描写はないが、店のメニューを一通り作ることができ接客も完璧なハイエンド。
完璧なのはいいが客・・・特に女性客に対してほぼ必ず「お嬢様」と言ってしまう。
コーヒーはブラック派












作者:紅茶派


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番外編44

ANー94のanimatedが可愛い!
AK-12の大破animatedがカッコいい!!
アメリのスキンがエッッッッッッッッッッ!!!

というハイテンションで今回のラインナップ!
・事実認定
・世にも奇妙な拾い物
・つーん!!!
・通気性と機能性を兼ね備えた合理的なファッション


番外44−1:事実認定

 

 

鉄血工造の若手社員ユウトのご両親への挨拶というイベント、その話は特定の人形を中心に広く広まった。大多数は「今更か」とか「ようやくか」といった感想だったのだが、一部の人形たちにとっては目から鱗の大事件であった。

彼女ら曰く、「その手があったか」と。

 

 

「おはようございます、カリーナさん」

 

「ん? あら、スプリングフィールドさん! 珍しいですわね、購買にやってくるなんて」

 

 

噂を聞きつけた翌朝、開店早々の購買部に足を運んだのは『見た目は淑女、頭脳は煩悩』のスプリングフィールドである。彼女自身がカフェを運営していることもあり、購買にやってくることは滅多にない・・・・ましてやこんな時間にやってくるなど。

 

 

「それで、今日はどのようなご用件でしょうか? 本日のお客様第一号ということで、お安くしてあげますわ!」

 

「あら、本当ですか? では・・・・・・」

 

 

スプリングは嬉しそうに微笑むと、軽くしゃがんでからスッと腕を上げ・・・・・いかにも頑丈そうなアタッシュケースを机の上においた。流れるような手つきでカリーナの方に向け、これまたなれた手つきで鍵を開ける。

アタッシュケースに収まっていたのは、許容量目一杯まで入った札束だった。

 

 

「・・・・・あの・・・これは?」

 

「うふふ・・・実はカリーナさんに売っていただきたいモノがありまして」

 

「えっと、その、これほどの金額のものはうちには置いていないというか・・・・・」

 

「ええ、知っています。 ですが私が欲しいものは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮官のご実家です」

 

 

瞬間、カリーナは昨日入った情報と合わせて全てを悟った。この一見人畜無害そうな人形は、どうやら外堀から埋める(親公認になる)つもりらしい。

自分の職場の上司の個人情報、大量の金、明らかに不純な動機・・・・どう考えてもアウトだった。

 

 

「か、考え直しませんか?」

 

「はい」

 

「ぷ、プライバシーを切り売りするようなことは「カリーナさん」・・・っ!」

 

 

笑顔のまま、愛銃を握りしめるスプリング。その目は笑っておらず、暗に「断ったらどうなるか」と語っていた。

だが、一部からは守銭奴と呼ばれるカリーナであっても折れるわけにはいかない。というかこんな大金怖くて受け取れない。

スプリングは普段無駄遣いしないタイプであり、この大金が彼女の全財産とまではいかなくともかなりの額であることがわかる・・・・その本気っぷりがなおさら怖い。

 

 

(ど、どうしましょう・・・・・)

 

 

もう止められない、というか止めても止まりそうにない様子についにカリーナの白旗も上がりかける。

だが、天は彼女に味方したらしい。

 

 

「む、スプリングフィールドか」

 

「あ、指揮官様!」

 

「ふぇっ!? お、おはようございます指揮官!」

 

 

突然現れた指揮官に顔を真っ赤にして慌てるスプリング。普段はこんな時間にここへ来ることのない彼女は知らないが、指揮官は毎朝カリーナの購買部に足を運んでいる。特に何かを買うわけではないが、品物を眺めたりカリーナと話すのが楽しいらしい。

そんな予想外なエンカウントに、カリーナはパァッと表情を明るくさせた。

 

 

「あ、そうですわ指揮官様。 スプリングさんがなにやらお聞きしたいことがあるそうで」

 

「ヒェ!? か、カリーナさん!?」

 

「ん? そうなのか?」

 

「あわ、あわわわわわ・・・・・・・」

 

 

まさかの攻撃(?)にたじろぐスプリング。そしてさっきまでカリーナに問い詰めていた内容が頭の中をグルグルと駆け巡り、気がつけば『指揮官と一緒にご挨拶』という実に都合の良い妄想に変貌する。

両親公認となって二人で式場を選びそして・・・・・・

 

 

「・・・・・・・・・」バタン

 

「す、スプリングフィールド!?」

 

 

突然頭から煙を出して倒れ伏したスプリングに、指揮官が慌てて駆け寄る。そしてそのまま彼女を抱えて修復室へと運んでいった。

 

後日、その時の様子を収めたカメラをいいお値段で売りつけるカリーナの姿があったという。

 

 

end

 

 

 

 

番外44−2:世にも奇妙な拾い物

 

 

S09地区にあるとある橋。

この街の主要道路の一部だけあって交通量も多いこの橋だが、ここでとある事件が起きたのは記憶に新しい。不気味な繭のような爆弾に、まるで化け物のような姿のテロリスト・・・・ということになっているのだが、その正体は異世界から紛れ込んできた『悪魔』の仕業である。

そして、それらを討ち倒したのもまた異世界から来た者たちだった。この事実はごく一部のものしか知らず、しかも厳重な箝口令によって伝わることもない。

 

 

「ま、言ったところで信じてもらえないでしょうけど」

 

「だろうな・・・・で、そんな感傷に浸るためだけにここに来たのか?」

 

「まさか、これはちゃんとした任務よ。 指揮官を通じて、クルーガー社長直々のね」

 

 

そんな会話をしながら橋を渡るのは、当地区の司令部所属の戦術人形、FALとダネルだ。見ようによっては奇妙な組み合わせだが、この二人は共にそれなりの技量を有しており、不測の事態にも対抗できる。

そして何より、あの日『悪魔』と戦った部隊にいたのだ。

 

 

「悪魔が現れたなんて頭がおかしくなったと思われても仕方ないのに、それの調査だなんて普通じゃないな」

 

「理由はいくつかあるみたいだけど・・・ざっくり言えば、常に最悪の事態を想定してのことらしいわ」

 

 

今回彼女たちに与えられた任務は、悪魔たちの痕跡を見つけて回収または処分すること。

悪魔がなんたるか、どのような存在なのかもわからない以上、頼りになるのは伝承や御伽噺のみ。もしかしたら、悪魔の死体に誘われてまた別の悪魔がやって来ないとも限らない・・・そう判断したらしい。

結論から言えば今回はイレギュラー中のイレギュラーであり、この世界が悪魔に侵略されることはないのだが、それが知られることはない。

 

 

「あら、渡りきっちゃったわね」

 

「なにもなかったな・・・・死体や武器はおろか、身に纏った布切れ一枚もないとは」

 

「例のデビルハンター?が言うには、あいつらはもともと実態なんてないらしいわよ。 今回の連中は砂を媒体にしてたらしいわ」

 

「なるほど、どうりでなにも見つからないわけだ」

 

 

その砂も、日々の人々の生活の中で流されていったため、まるであの日のことが夢であったかのようにいつも通りになっている。しかし、実際に体験した以上それは夢でもなんでもなく、だとすれば僅かなりにでも何かが残っているはずだ。

半ばヤケのようになって探し出すこと一時間、橋のしたの浅瀬で何かが光るのを見たFALが一目散に走り出し・・・・・悲鳴を上げて転んだ。

 

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

「え、えぇ・・・・って違うわよダネル!? こっち来て!」

 

 

全身ずぶ濡れになりながらも慌てたように呼ぶFAL。色々と透けているが大丈夫だろうかと呆れながらも向かったダネルに、FALは拾ったものを突き付けた。

 

 

「・・・・なんだ? 水晶か?」

 

 

それは淡く光を放つ赤い水晶のようなものに見える。まるで血を固めたような赤色は見るものを惹きつける輝きを放ち、思わず手に取りたくなる衝動に駆られる。

ダネルが手を伸ばしたところでFALはその水晶の向きを変え、途端にダネルも悲鳴を上げて尻餅をつく。

 

 

「な、ななななんだそれは!!!???」

 

「ほんと、なんなのかしらねこれ・・・・()()()()()()なんて不気味だわ」

 

 

手に持ったそれを怪訝な表情で見る。

苦悶に満ちた表情がありありと浮かび、まるで苦しむ人をそのまま固めたかのようなリアリティある表情はいまにも叫びたしそうだ。

悪魔の血が結晶化したもの、それがこの『レッドオーブ』である。

 

 

「・・・はいダネル、あげるわ」

 

「いやいらん! というか押し付けるな!」

 

「私だっていらないわよ!」

 

 

不毛な押し付け合いが始まり、やがて無意味な取っ組み合いに発展する。それも浅瀬とは言え川の中でやってるもんだから余計に目立つ。

 

後日、上官からのお叱りを受けると同時に市民から『面白い二人組』のレッテルを貼られてしまうのだった。

ちなみに肝心のレッドオーブはいつの間にか無くなっていたらしい。

 

 

end

 

 

 

 

番外44−3:つーん!!!

 

 

スケアクロウが拐われ、レイが死にかけるという事件から数ヶ月。

延期されていたショーやイベントも順調に開催され、スケアクロウは多くの人々を喜ばせる。大破したダイナゲートやスカウトもバックアップを取っていたおかげで復活し、彼女の指揮に合わせてステージを駆け回っている。

 

さてそんなスケアクロウと専属契約を結んでいる男、レイもまた完全復帰していた。

が、ちょっと前に二人の関係にも変化が訪れ、それに伴いレイの肩書きも変化している。

 

 

「お、レイの旦那! 今日もいいステージだったぜ!」

 

「ちゃんと嫁さんをねぎらってやるんだぞ!」

 

「まだ嫁じゃねぇよ!」

 

 

特に言いふらしているわけでもないのに、いつの間にか知れ渡っていることだが、レイとスケアクロウはつまりそういう関係である。あの一件で互いに掛け替えのない存在であると認識してのことだが、改めて人から言われると少々照れ臭くもある。

・・・・・が、同時にレイにとっての悩みの種にもなっていたりする。

 

 

「あの、レイさん!」

 

「これ差し入れです!」

 

 

そう言って紙袋を手渡してきたのは若い女性の二人組、それもそれぞれ人間と人形だ。当然レイの友人とかそういうわけではなく、彼女たちはスケアクロウのファンである。

なのだが同時に、そのボディガードであるレイのファンでもある。

 

 

「あ、あぁ、ありがとう」

 

 

手渡すと同時に猛ダッシュでその場を去る女性たち。なにやら俳優かアイドルにでもなった気分だが、以前はここまであからさまではなかった。

きっかけはやはりスケアクロウとの関係の噂、それに加えてどこから漏れたのか、レイの体の一部に人形のパーツが使われているからだ。そこから尾鰭がつきまくって最終的に・・・・・

 

 

「『人間・人形問わず(性的に)受け入れてくれる男性』、ですね」

 

「あぁ、終わったのかスケアクr・・・・・」

 

 

大切な人の声に振り向けば、そこにいたのは一切の表情を消し去ったスケアクロウが。もうそこそこの付き合いになる上に一歩進んだ関係にあるレイは察した・・・・・『今回も』怒ってらっしゃる。

 

 

「わかってると思うがそういうんじゃないからな?」

 

「えぇ知っています、知っていますとも・・・・ですので別になんとも思っていませんよさあその袋を渡してください」

 

「YOUなに言っちゃってんの!? ていうか絶対怒ってんだろ!?」

 

「つーん!!!」

 

「ま、マジかよ・・・・・」

 

 

今日も二人は仲良しである。

 

 

end

 

 

 

番外44−4:通気性と機能性を兼ね備えた合理的なファッション

 

 

「フハハハッ! 待たせたな諸君!!」

 

「「「うわぁ・・・・・・」」」

 

 

いい感じで料理やコーヒーの指導を行なっていた代理人。だがその頭の片隅で何かを忘れている気がしていた。そのうち思い出すだろうとぼんやり考えていたのだが、無理にでも思い出しておくべきだったと悟る。

扉を開け放ってきたやたらハイテンション(トラブルメーカーモード)のマヌスクリプトを見るや否や、フォートレス・イェーガー・リッパーの三人のため息が響いた。

 

 

「・・・・・それで、その服はなんですかマヌスクリプト?」

 

「お、早速聞いちゃう? 代理人もせっかちだねぇ!」

 

「皆さん、そろそろ片付けましょうか」

 

「うわぁああん! 冗談だから無視しないで〜!」

 

 

正直このまま無視しておきたいところだが、期限を損ねたらそれこそ何をしでかすかわからない以上は放っておくこともできず、仕方なく話だけでも聞いてやることにする。

マヌスクリプトはコホンと咳払いすると、抱えていた服を一気に広げた。

 

 

「どうよ! これが今夏の制服(仮)だよ!」

 

「あら、これは・・・・・・」

 

「い、意外とまとも、か?」

 

 

このテンションだから一体どんなハレンチコスプレかと思いきや、意外と落ち着いた感じのものだった。

パッと見では代理人の標準着に近く、スカートがやや短いものの良識の範囲内だ。半袖と少し開いた胸元が涼しげで、夏服というにはぴったりだと思う。

 

 

「でしょでしょ! せっかくだから着てみてよ!」

 

「あ、私着てみたい!」

 

 

まともな服だとわかり、Dが真っ先に手をあげる。なんだかんだでマヌスクリプトとノリが合う彼女は、マヌスクリプトの服を結構気に入っていたりする。

Dが服を持って奥に引っ込み待つこと十数分、出てきた彼女の顔はなぜか真っ赤だった。

 

 

「ま、マヌちゃん、これ・・・・・」

 

「D、どうしました?」

 

 

不審に思い声をかける代理人。するとDはオドオドしながらもくるりと体を回転させて背中を見せる。

正面からではわからなかったがこの服、背中が大胆に開かれており、色白な背中を惜しげもなく見せつけるものだった。

 

 

「き、聞いてないよぉ・・・・・!」

 

「・・・・・マヌスクリプト?」

 

「涼しげでしょ?」

 

 

何か問題が?とでもいうようなドヤ顔に、代理人は深くため息を吐く。

そしてゆっくりと手を振り上げ、拳を握りしめてからまっすぐ振り下ろすのだった。

 

 

 

end




局地戦区のルールやら仕様がいまだにわかっていないけど元気にやってます。
まぁ新重装人形が手に入ればなんでもいいけどね!


では各話の解説!

番外44−1
久々に登場の暴走春田さん。
いろんな作品での春田さんを見てると、春田さんの可能性はきっと無限大なんだと実感しますね。

番外44−2
コラボ回の後日談的なやつ。DMCといえばコレってアイテムだけど、どう見ても呪いのアイテムにしか見えない。
特に悪魔を呼び寄せるとかはない。

番外44−3
こちらもコラボ・・・・というより書いていただいた話の後日談。
スケアクロウに嫉妬させたいだけのお話。

番外44−4
最近大人しかったので。
背中がみえる服って、背筋をツツッて指でなぞりたくなりますよね?


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第百七十七話:愛しの狩人様

遅ればせながらコラボ返し。
なんとなくシリアスな空気で終わっていたのでそのままシリアスに・・・・・なるわけないよね!

というわけで今回は『無名の狩人』氏の作品『ブラッド・ドール』とのコラボ!
https://syosetu.org/novel/196745/8.html


異世界の狩人ローウェンに似た狩人の襲撃、そしてそれに共鳴する形で再びこの地に足を踏み入れたローウェン。この世界の者たちにも少なからず被害を出したこの騒動は、他ならぬローウェンの手によって収束した。

被害者への説明は後日行うこととし、今は目の前で涙を流すローウェンに尽くすべく、代理人は紅茶を淹れるのだった。

 

 

「・・・・すまない、見苦しいところを見せた」

 

「いえ、こちらこそ・・・・あなたが手を下していなければもっと被害が出ていたかもしれませんのに、私は」

 

「だが、私もやりすぎだった。 恐ろしいものだ・・・・狩りにしろ憎しみにしろ、何かに飲まれるというのは」

 

 

ローウェンが己の拳を見つめる。拭き取りはしたがそこに染み付いた幾多の血と匂いが取れることはなく、数えきれない命を殺めてきたことを物語っている。

それ自体に特に思うことはない。獣を狩らねば狩られるだけだし、ヤーナムでのことや迷い込んだあの世界でのことも、生きる上では必要だったのだ。

だが、その力と行いに溺れてしまったら・・・・・そうなってしまった者を、何度も見てきたはずだ。

 

 

「・・・・だが、それでも俺は、戦わねばならない」

 

「存じております。 私にできることは、こうしてお茶を出すことくらいでしょうけれど」

 

「いや、十分すぎるさ・・・つくづく『人形』には世話になりっぱなしだな」

 

 

自嘲気味に笑い、紅茶を一口飲む。経緯はどうあれ、今はローウェンにとって数少ない心休まる時間なのだ。狩人たる者、休める時に休んでおかねば。

・・・・が、神の意思か上位者の意思か、いずれにせよローウェンに休息を与えるつもりはないらしい。

 

 

ドタドタドタド……バタンッ‼︎

「あぁ狩人様、お会いしとうございました!」(恍惚)

 

「アデーラ!? なぜここに!?」

 

 

窓から土煙が見えるほど全力でやってきたのは、当地区の教会に住まうちょっと変わった修道女アデーラ。走るには適さない格好でしかもそれなりの長距離を走ってきたにもかかわらず、息どころか汗すらかいているように見えない。

そして、ローウェンの中では着実に警戒レベルが上がっていった。具体的には、無意識に獣狩りの銃を握りしめるくらいには。

 

 

「スンスン・・・・これは、血の匂い? もしや狩人様がお怪我を!?」

 

「ええい寄るな! 触るな!」

 

「大丈夫です狩人様、私が全身隅々まで癒して差し上げますわ。 ですがここでは何ですのでどうぞ私の教会へ」

 

「いかん!」

 

 

間違ってついていこうものなら監禁コースまっしぐらだろう。そしてアデーラのことだ、おそらく一度捕まえたら逃すようなことはするまい。

たとえ今後永遠の安息が約束されようとも、その全てを差し引いてなおマイナスになる存在、それがアデーラなのだと思っている。

心底残念そうにするアデーラだが、思わぬところから援護がやってきた。

 

 

「たまにはいいではありませんか、ローウェンさん」

 

「なっ!? 代理人、正気か!?」

 

 

まさかの提案に、ローウェンはたじろぐ。過去になにがあったかなどは知らないが、ローウェンの態度からかなり苦手にしていることは十分伝わる。

しかし『次』がいつなのか、そもそもあるのかもわからないのであれば、一度くらい彼女の望みを叶えてあげた後も思ったのだ。

 

 

「ご安心を、私も同行しますので」

 

「・・・・・わかった。 だが妙なことはするなよアデーラ」

 

「うふふふ、もちろんですよ狩人様」

 

 

ローウェンは不安と不満を隠すこともせず、渋々教会へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいアデーラ、あれは何だ!?」

 

「・・・まぁそうなりますよね」

 

 

教会に入って早速ローウェンは帰りたくなった。もとより『教会』というものにロクな思い出のないローウェンだが、今回のはこれまでとは全くベクトルの違う衝撃だったのだ。なにせ、扉を開けばおそらく自身をモチーフにしたであろう石像が建っていれば、渋い顔をしたくもなる。

ローウェンを愛するが故に、かの街の名がつけられた新たな宗教『ヤーナム教』である。

 

 

「今すぐ撤去しろ!」

 

「あら、それはつまり石像(紛い物)ではなく狩人様(本物)がいらっしゃるから問題ないと」

 

「断じて違う」

 

 

考えてもみて欲しい、案内された家に自身の石像があることを。そしてそれが祀られていることを。

幸いなことに今の時間は信者がいなかったが、それでもローウェンにとって強烈すぎる出来事だ。月の魔物やらゴースの遺児よりたちが悪い。

 

 

「この祭壇で毎日お祈りしているのです。 狩人様の行く道に光あるように、と」

 

「・・・・所詮狩人は狩人だ。 獣を狩る以外に進む道などない」

 

「そうでしょうか? 少なくとも、以前一緒に来ていただいた『アルチゼン』さんは、楽しそうにしていましたよ」

 

「あぁ、あの一緒にいた女の子・・・・狩人様もすみにおけませんね」

 

「頼むから黙ってろアデーラ」

 

 

念を押すがアルチゼンとはもちろんそういう関係ではない。というかローウェンに限らず狩人にとって、そういう話は全くの無縁というものなのだ。ある意味人間性を捧げた結果ともいえるが、これがローウェンにとっての当たり前である。

 

 

「ふふっ・・・それはともかく、せっかく来ていただいたのですからお茶を用意しますね」

 

「・・・・・・何も入れんだろうな?」

 

「さすがに疑いすぎですよローウェンさん」

 

 

疑いの目を向けるローウェンに意味深な笑みを浮かべて教会の奥へと消えるアデーラ。

渋々教会の片隅に置いてあるテーブルに向かうと、椅子に腰掛けて天井を仰ぎ見る。ヤーナムの教会とは違い、上位者を奉るような装飾は見受けられず、あるのは狩人の石像のみ。血の匂いも獣の匂いせず、ただただ静かな教会だ。

あるいは、それが本来の『教会』というものなのだろう。

 

 

「お疲れのようですね、ローウェンさん」

 

「・・・・・・・ずっと、悪夢の中だったからな」

 

 

あるいは、これも悪夢と呼べるものなのかもしれない。

狩りを忘れてしまいそうな程の平穏、それは狩人にとって大変甘美で、危険な罠だ。

それはまるで、あの工房のような・・・・・

 

 

「ローウェンさん?」

『狩人様』

 

「! ・・・・なんでもない」

 

 

一瞬、代理人と重なって見えたあの人形。いまでもあの工房で待ち続けているのだろうか。

じっと見つめる視線に首を傾げる代理人に、ローウェンはフッと表情を崩して座り直す。代理人が何かを聞こうとする前に、アデーラがポットを持って戻ってきた。

 

 

「お待たせいました・・・・あら、狩人様」

 

「ん?」

 

「少し表情が柔らかくなりましたが、何かいいことでも?」

 

「・・・・・さぁな」

 

「ふふふ、そうですか」

 

 

微笑みながら紅茶の注がれたカップを手渡すアデーラ。

今も信用したわけではないが、その評価をほんの少しだけ上方修正することにしたローウェンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・おい貴様、何を入れた?」

 

「うふふふふ・・・・特製紅茶のお味はいかがですか?」

 

「これ、血ですか?」(ドン引き)

 

「魔法瓶に入れたものもあります。 お帰りの際にはぜひ」

 

「いらん!」

 

 

 

end




これ書いてる→ブラボやりたくなる→腕も鈍ってるから最初から→ハマる→書くのが遅れる→気付けば一週間(今ここ)
・・・・・いやぁ人形ちゃんは可愛いですね(現実逃避)

はい、言い訳はここまでにして今回はコラボ回でした!
代理人といい人形ちゃんといい、ローウェンは何かと人形に縁がありますね笑


それでは今回のキャラ紹介。

ローウェン
三度呼ばれた狩人。呼ばれた先でとある狩人と戦った。
ちなみに書き始めた当初はヤーナム(獣狩りの銃)と出会い、『お父さん』と呼ばれてアデーラが暴走するという話だったが・・・・収集つかなかったので没。

アデーラ
狩人への敬愛が行きすぎたヤンデレ。何気に拐われたヤハグルで生き残っていたあたりバイタリティは相当のもの。
ヤンデレ成分は薄れたが、奇妙な宗教を広げつつある。

代理人
人間ってすごいなぁ・・・と思う今日この頃。





『アデーラの紅茶』
保存が効く水筒に入った紅茶。体力を少量回復する。
ごく少量の血が入っているそれは、紅茶の香りに混じって狩人を酔わせることだろう。
狩人よ、血を受け入れたまえ。


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第百七十八話:あゝ夏休み(前編)

figmaの45姉が届いて舞い上がってたりヤドカリに軽く殺意が湧いたり某方舟のアニバーサリーガチャでス◯ジちゃん引き当てて踊ってたりしたので遅れました(自己申告)

それはそれとして、皆さんは真核の仮面で誰を交換しますか?
戦力補強を図るか嫁一択か・・・・・悩みますねぇ


「白い砂浜、大小合わせて三十以上のプール、ウォータースライダーなどのアトラクション完備、温水で年中遊べる完全屋内型レジャー施設・・・・・

 

 

ついに来たぞ、ビッグウェーブ!!!」

 

『いぇぇえええええええええい!!!!』

 

 

見目麗しい少女たちが、土煙を上げて走っていく。飛び込み厳禁と書いていても思わず飛び込んでしまう者や、流れに任せてプカプカと浮くだけの者、あるいは想い人の心を射止めるべく奔走する者。

夏季休暇に突入したグリフィンS09地区司令部の面々は、隣の地区にある大型レジャー施設へとやってきた。

 

 

「ふひひひ・・・・美少女の水着はやっぱり最高の資料よね!」

 

「あぁ、新たな出会いの予感だ」

 

「ちょっと二人とも! Oちゃんが怒ってるよ!」

 

「「すぐ戻ります!!」」

 

 

そんな施設のメインの一つ、人工海岸と波が出るプールの砂浜に簡素な平家が出来上がる。調理場と休憩室に、テーブルと椅子が並んだ広めのスペース、外にもいくつか並び、その横にのぼりが立てられる。

臨時出張に『喫茶 鉄血 海の家』である。

 

ことの経緯は昨年の夏と同じ、指揮官から誘われたからである。自身も部下も共に世話になっているということで全員分の料金を持ってくれる、という話だったのだがいつのまにか店を出すことになっていた。

 

 

「代理人さぁ、休暇の意味って知ってる?」

 

「えぇもちろん、ですからちゃんとお休みをとっているはずですよ。()()()()三日間」

 

「いやいやそうじゃなくて」

 

 

完全に遊ぶつもりでいたマヌスクリプトが不満の声を上げる。この日のために用意した防水タブレットに防水デジカメ、水中カメラなどなど、その本気具合が伺える。

が、蓋を開けてみればまさかの勤務である。ゲッコーはすでに受け入れて働き始めているが、マヌスクリプトは納得いかない。

 

 

「そ、それにほら! 私の格好じゃ厨房に立つのはちょっと危ないんじゃないかなって・・・・・」

 

 

遊ぶつもりなのだから、当然服装は水着である。派手でもないし際どくもないがごく普通の水着だ、厨房で火を使うとなるとさすがに肌の露出が多すぎる。代理人たちはもちろん夏用の服で、半袖半ズボンという如何にもなスタイル。その都合上、サブアームは置いてきている。

ちなみにゲッコーも水着だったが、パーカーを持っていたのでそれを着ている。

 

 

「でしたら、ホールをお任せしますね」

 

「鬼!悪魔!堅物人形!」

 

 

マヌスクリプトの叫びも虚しく、代理人は店へと戻る。

喫茶 鉄血 海の家が開店した。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「青い空、白い雲、照りつける日差しに冷たい海・・・・バカンスといえばこれよね!」

 

「そういうセリフは普段から働いてる人が言うものよ」

 

「んもぅ、相変わらずお堅いわねAR-15は」

 

 

日頃の反省のかけらもないのか、遊ぶ気満々のAK-12にAR-15が苦言を漏らす。厳密にはS09地区の所属ではない彼女たちだが、現在の所在地がS09であるため休暇もそれに合わせている。要するに、今回ばかりは遊び倒しても怒られない日なのだ。

そしてそんな二人の後ろを隊長であるM4A1が、その少し後ろをANー94がついてくる。

 

 

「ほらANー94さん、こういう時くらい楽しんだ方がいいですよ」

 

「・・・・・・」

 

「だ、大丈夫です! それだって広く見れば水着ですから!」

 

「・・・・・・グスッ」

 

 

ライトグリーンのスポーティな水着を身に纏うM4のとなり、蹲るAN-94の格好はコスプレだの着ぐるみだのを群を抜いて際立っていた。

もはや機能性に全振りしたダイバースーツ、水中でも使える応急パックに防弾試用の水中ゴーグル、そして水深何メートルに潜るつもりなのかというガチな酸素ボンベ。間違ってもレジャー施設に、それも屋内プールに来る格好ではない。

 

 

「だ、だって、こんなところに来たことなんてないから・・・」

 

「で、でも、申請すれば水着くらい支給品の水着だってあるはずですし」

 

「えぇ、しましたよ・・・・・プールに行くって聞いたから、『水中装備一式』を」

 

「あぁ・・・・・・」

 

 

自由気ままなAK-12とは対称に、どうにもまじめすぎるというか若干世間知らずなところがあるらしい。足して二で割ればちょうどよくなるのだろうが、なぜこうも極端なのだろうか。

もっとも、出会った当初のAK-12依存症だったころに比べれば幾分かましになったし、こうして普通に受け答えしてくれるようにもなった。相変わらずAR-15とは馬が合わないようだが。

 

 

「ともかく、不要な装備は置いていきましょう。 それに、もしかしたら水着を貸してくれるかもしれませんし」

 

「そんな都合のいい場所なんて・・・・あ」

 

 

諦め不貞腐れモードに入っていたAN-94だったが、M4に連れられて見えてきた小屋にその意図を察する。店構えも雰囲気も看板も異なるが、そこに書かれた店名は見間違えようがない。

店に入ると、開店早々繁盛しているのか慌ただしく動き回る店員の姿が見える。というか、ホールを走り回っているのは見たところマヌスクリプトだけのようだ。

 

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・・あ、M4とANー94じゃん」

 

「お疲れ様です。 代理人は?」

 

「代理人ならほら、あっちに・・・・・」

 

 

マヌスクリプトが指差す方、カウンターでカキ氷を盛り付ける代理人の周りには妙に人だかりができていた。というかその全員、どこかで見たことのあるような色合いで・・・・・

 

 

「ん? おぉM4じゃねーか」

 

「息災のようだな」

 

「しょ、処刑人さん? それにウロボロスさんも」

 

「というか、元鉄血勢揃いですか」

 

 

そこにいたのは処刑人やウロボロスなど、元鉄血工造エリート人形たちだった。S09地区の歯医者でアシスタントをしているデストロイヤーはともかく、年末でもないのに集まることなど滅多にないはずなのだが。

 

 

「そりゃぁ年がら年中仕事ってわけじゃねえしな」

 

「それもそうだが、ここの指揮官殿から誘いがあったというのもある」

 

「あ、ちなみにスケアクロウは彼氏とどっかいったぞ」

 

 

どうやら指揮官が気を利かせたらしい。というかあの人の人脈すごいなと改めて思うM4であった。

そんなハイエンド組であるが、仕事も何もないようで自由気ままに過ごすつもりらしい。少々予想外ではあったが、別に困ることもない。

 

 

「あらM4、どうしましたか?」

 

「えっと、彼女の荷物を置かせてもらえたらなと」

 

「あと、水着も貸していただけるt「そういうことなら!」あなたはお呼びでないですよ」

 

 

マヌスクリプトに任せた日にはどんな水着を着させられるかわかったものじゃない。以前(番外39-4)の教訓から何があってもマヌスクリプトとアーキテクトに頼ってはいけないということを学習したANー94は、終始警戒したまま距離を取っている。

その様子に苦笑しつつ、代理人はANー94の荷物を受け取りながら答える。

 

 

「すみません、生憎と替えの水着もありませんので・・・・」

 

「いえ、こちらこそ無理を言ってしまって」

 

「そうですか・・・・では、せっかくですから何か食べていかれますか?」

 

「はいはーい! 私カキ氷ね!」

 

「AK-12!?」

 

 

横からヌッと現れたAK-12がそう注文し、どかっと椅子に座る。AR-15が目をつけていたはずなのだが、振り切ったのだろうか?

 

 

「AR-15? あっちでハンターと桃色空間に浸ってるわよ」

 

「AR-15・・・・・」

 

 

見れば確かに、店の外でいい感じにいちゃついている副官の姿が見える。まぁ今回は休暇中なので問題ないが。

 

 

「あむっ・・・・ん〜っ美味しい!」

 

「ああああ!!?? それ私のカキ氷!!!!!」

 

「一口くらいで文句言ってちゃ大きくなれないわよデストロイヤーちゃん」

 

「うわぁああああんドリーマーぁぁぁあああああ!!!!」

 

「おいこらなにウチの子泣かしてくれてんのよ」

 

 

ちょっと目を離したすきにトラブル発生、どうやらAK-12がデストロイヤーのカキ氷を食べてしまったらしい。しかもシロップが一番多くかかっている箇所・・・・・デストロイヤーを揶揄いつつも妹のように見守っているドリーマー的には、これは許されざる行為のようだ。

ドリーマーとAK-12のガン飛ばし合いから始まった無言の抗争(?)、そこにアルケミストが加勢し、面白半分で処刑人とウロボロスも参加。こうなると当然のようにANー94もAK-12側につき、店内にいたグリフィン人形も加わり始める。

 

 

「落ち着きなさいドリーマー。 AK-12もまずは謝りなさい」

 

「止めないでよ代理人、こいつの閉じた目ん玉抉り出すまではね!」

 

「それに、先に仕掛けたのはそいつだ」

 

「確かにAK-12の勝手に食べた挙句謝罪の意思も表さないほどの傲慢さが招いた結果ですが、四対一はフェアではありません」

 

「ぶっちゃけ自業自得だけど楽しそうだし!」

 

「こういうのって勝った方に何か景品とかあるんだろ?」

 

「あんたたち本当にコッチ側なの!?」

 

 

初めから味方などいるはずもないのだが、お祭り騒ぎ大好きな人形たちが集まってしまえばもう歯止めは効かない。いきりたってたドリーマーもこれにはやや困惑気味で、しかしそのまま引き下がるというのはないようだ。

見かねた代理人はため息をつきつつ、至極平和的解決策を提案することにしたのだった。

 

 

「では、こういうのはいかがでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くたばれ糸目女ぁぁああああ!!!!」

 

「ちょ、これそういう競技じゃnヘブッ⁉︎」

 

「え、AK-12!?」

 

 

白い砂浜に二本のポール、程よく張られたネット・・・・その上を、砲弾と見紛うほどの勢いでボールが駆け抜け、完全に油断していた糸目女ことAK-12の顔面に直撃した。

レジャー施設のビーチバレーコート、規格も至って普通なその場所で、初手から人形パワー全開を見せるドリーマーは腰に手を当ててドヤ顔をかます。

 

 

「はんっ、正規軍って聞いてたけどその程度なの? 軍も人材確保には苦労するのね」

 

「訂正しろドリーマー・・・・“元”正規軍だ」

 

 

鉄血製ハイエンド屈指の性能を誇り、しかも他者をいたぶり挑発することに関しては随一のドリーマー・アルケミストのコンビの嘲笑が飛び交う。ドリーマーは小柄ながらもそれを感じさせない機動性を持ち、アルケミストは逆のその長身を生かした正攻法と隙のないコンビだ。

が、さすがにここまでされて黙っていられるAK-12ではない。

 

 

「・・・・・深度演算モード、起動」

 

「ほぉ、ようやく本気か?」

 

「私たちを失望させないでよ?」

 

 

閉じていた目を開き、一切の曇りもない双眼が冷静にコートを分析する。広さ、距離、そして相手の性能・・・・・それらを一瞬で測定したAK-12はボールと共に飛び上がり、僅かに空いたスペースにねじ込むように撃ち放つ。

 

 

「甘いっ!!」シュンッ

 

「テレポートっ!?」

 

「使えるものはなんだって使う・・・・戦場の基本よ!」

 

 

アルケミストに止められたボールはドリーマーによってさらに打ち上げられ、助走をつけたアルケミストの強烈なアタックがコート端を狙う。

 

ところで、深度演算中のAK-12の性能は語るまでもないほど高いが、対するANー94にはその機能がない。

正確には『ない』のではなく、『必要ない』のだ。

 

 

「はっ!」

 

「っ! やるな」

 

「これでも、純粋な戦闘用ですから」

 

「さすがよANー94・・・・これで決めて!」

 

「了解っ!」

 

「ふふっ・・・・・来い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AK-12・ANー94とドリーマー・アルケミストの試合が白熱する中、気づけばあちこちでビーチバレーが始まっていた。コートを借りた者から手書きで済ませる者まで十人十色、とにかく元気が有り余る人形たちによるビーチバレー大会に発展してしまっていた。

それだけならまぁいいのだが、問題はその目的。

 

 

「あなたに勝って、私は指揮官と添い遂げる!」

 

「ご冗談はその無駄な脂肪の塊だけにしておきなさい!」

 

「休日を増やしなさいよこの堅物チビ教官!」

 

「・・・・いい度胸だ、売られた喧嘩は買ってやるぞUMP45」

 

「貴様も私と共に行き遅れろスマァアアアアッシュ!!」

 

「残念でした! 私にはもうSOPがいるのよ!」

 

「・・・・指揮官様、あの二人は」

 

「他人のふりだカリーナ」

 

 

勝負事には勝者への褒美があるものである。誰が言い出したか、この大会を制したものは願いが叶う、と。

ごく一部はそんな趣旨すら無視する有様だが、おおむねの人形は己の利益のためにコートを駆け巡るのだった。

そしてここにも、そんな私利私欲煩悩に塗れた人形が一人。

 

 

「代理人! 私が優勝したら付き合ってもらう!」

 

「いえ、断りします」

 

「いやいやOちゃん、話くらい聞いてあげたら?」

 

「な、なんで私がこっち側なんですかぁ!?」

 

 

仁王立ちで諦めの悪いことを言ってのけるダネル、その隣で巻き込まれたフォートレス、せっかくだからと用意された黒いビキニに着替えて無理やり連れてこられた代理人とD。

一人しか得のない一戦が幕を開けた。

 

 

「私の想い、受けとれぇえええええええ!!!!!」

 

「くっ・・・・D!」

 

「了・・・・解っ!」

 

「フッ・・・・・!」

 

 

Dが上げたボールに向かって跳躍する代理人。その姿を、ダネルはのちにこう語る。

ーーーーーコートに天使が舞い降りたーーーーーー

 

 

「ダネルさん、前っ!!」

 

「へ? フゴァ⁉︎」

 

「「「だ、ダネルさんっ!!???」」」

 

 

たった一球で夢潰えたダネルだったが、介抱されるその顔はどことなく幸せそうだったという。

 

 

続くっ!




はい、というわけで今回は夏回!そして久しぶりの前後編!

・・・・・実はね、これを4連休初日に投稿して、後編を最終日に投稿するつもりだったんだ。
でもふとカレンダー見るじゃん?そしたら何故か日曜日なんだよね。












はい、現実逃避は置いといて今回のキャラ紹介!

代理人
今回は海の家に臨時出店。実は午後から休みにするつもりだったが、サプライズのためにあえて言わなかった。
ビキニは昨年のものを持ってきていた。

D
生まれて初めてのプールにテンション上がりつつも冷静に接客。
ビーチバレーはルールブックを読めばできるようになるらしい。

マヌスクリプト
水着で接客という需要の塊のような格好だが、本人はその姿を写真に収めたいだけで自分がしたいわけではない。

フォートレス
巻き込まれた。

M4・AR-15・AK-12・ANー94
せっかくなので一緒に休暇。M4も久しぶりに羽を伸ばしたい。
ちなみにAR-15はハンターが来ることを知らず、軽くパニックになった。

鉄血組
指揮官から誘われたので。
ちなみにハンターはAR-15が来ることを知らず、顔には出ないがテンションバク上がりだった模様。
レイとスケアクロウ?言うまでもない。

グリフィン組
はっちゃけるときははっちゃける、それが良い職場の条件。
積年の恨みなどをぶつけるにはいい機会だが、今後に及ぼす影響を考慮することをお忘れなく。



次回、イベント登場の奴らが襲来!


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第百七十八話:あゝ夏休み(中編)

3400枚ものコインは今日この日のためにあったのだ!
というわけでガチャを回した結果、
EVO3×2
IDW×1
UMP45×2
DSR×2
・・・・・あれ、9ちゃん(俺の嫁)は?(引換券で入手しました)






さて、前回『前後編』と言ったな・・・・あれは嘘だ!


人形たちがプライドと欲をかけた死闘を繰り広げている頃。そんな喧騒から少し離れた砂浜に、一組の男女が寝そべっていた。

男性の方はがっしりとした体つきだがその体にはいくつも傷があり、またよくよく見ればその一部が人工皮膚であることがわかる。女性の方は逆にスラッとした体型で、ボリュームのある黒髪と濃紺の水着が白い体によく映えている。

 

 

「・・・・・レイ」

 

「ん?」

 

「たまには、こういうのもいいですね」

 

「・・・・そうだな」

 

 

その返事を聞いて小さく笑うと、スケアクロウは恋人の腕に絡みつくように寄り添う。砂浜の隅の方ということもあって人も少ないが、きっと人がいても変わらないのだろう。

実際、とある一件以来スケアクロウはよく甘えるようになった。ついでにスキンシップを増え、レイの心中は荒らしの如く荒れている。

 

 

(耐えろ・・・場所を考えるんだ俺ッ!!!)

 

 

海は人を解放的にするというが、海を模したこの施設でも似たようなことは起こるらしい。というかさっきから二の腕の柔らかい感触が気になって仕方がない。

・・・・・・あれ?俺は何を耐えているんだっけ?(理性0)

 

 

「・・・・スケアクロウ」

 

「え・・・・きゃっ!?」

 

 

レイはスケアクロウを押し倒すと、その上に覆いかぶさる。困惑の表情を浮かべるスケアクロウはやがて状況を理解すると、顔を赤らめながら目を瞑る。その顔に、唇に、レイはゆっくりと近づき・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガサッ

「・・・・ん?」

 

「「「・・・・・・あ」」」

 

「え?」

 

 

物音に顔をあげるレイとスケアクロウ。その視線の先、浜辺の木陰から現れたのは二人もよく知る三人組・・・・・ハンターとAR-15、D-15だった。

意図せず遭遇してしまったようで、三人とも何とも言えない様子で固まっている。対するレイも、自身の体温が急上昇するのを感じながらとりあえず言い訳を考える。

が、それよりも先にスケアクロウが限界を迎えた。

 

 

「〜〜〜〜〜〜っっっ!?!?!?!?」

 

「あ、おいスケアクロウ!?」

 

 

誰も反応できないほどの勢いでレイの下から抜け出し、声にならない悲鳴を上げながら猛ダッシュで走り去る。冷静になると同時に自分が何をしていたのかを理解し、さらにそれを身内に見られたという事実に、スケアクロウは耐えられなかったようだ。

 

 

「ごめん、ちょっと行ってくる!」

 

「ハンターは待ってて!」

 

 

その後を、AR-15とD-15が追いかける。置いてけぼりになったハンターとレイだが、まぁ今回の場合あの二人に任せた方がいいだろう。むしろハンターが追いかけた場合、余計に拗れる可能性もある。

 

 

「あー、その・・・・・・すまん」

 

「いや、俺が悪かった・・・・」

 

「・・・・カキ氷、食うか?」

 

「・・・・あぁ、貰おう」

 

 

微妙な空気が流れる中で食べたカキ氷は、やっぱり微妙な味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この辺りも、結構作り込まれていますね)

 

 

時を同じくして、ダネルを一撃で沈めた代理人もまた、人気の少ない場所へとやってきていた。ちょっとした散歩のついでに、施設の中を一通り見て回っているのだ。

波の出る大型プールと砂浜、その後ろにはヤシの木などが立ち並ぶちょっとした森のようになっており、スピーカーから流れる鳥の声もあって落ち着ける雰囲気だと人気なのだ。

そして一見落ち着いて見える代理人も、こういった場所は初めてなので結構楽しんでいたりする。そんな中、代理人は木々や壁に溶け込むように設置された大きめの扉を見つける。

 

 

「あら、これは・・・・・・・ん?」

 

「こ、来ないでください!」

 

「ちょっ、止まりなさいよ!」

 

「あ、代理人! スケアクロウを止めて!!」

 

 

扉に手をかけようとしたその時、後ろから名前を呼ばれて振り返る。入り組んでいるとまではいわなくともそこそこちゃんとした森の中を、見知った顔が三人走ってきていた。どういう状況かは不明だが、放っておく理由もないのでテレポートでスケアクロウの前に移動し、抱きとめる。

 

 

「きゃっ!? だ、代理人!?」

 

「少し落ち着きましょう、スケアクロウ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

「い、意外と速いね、スケアクロウ」

 

 

どうにもスケアクロウはこの二人から逃げていたというわけではないらしい。そもそも彼女はレイとデートに出かけていたはずで、そのレイがいない。

レイが彼女の胸を鷲掴みにでもしたのだろうか(偏見)

 

 

「いや、実は・・・・・って、何その扉?」

 

「搬入口・・・にしては物々しいわよね」

 

「えぇ、それにここを見てください」

 

 

代理人が指差す箇所、そこにはかすれた文字で注意書きと思しきものが書かれている。ほとんど消えかけているため読み取ることは難しいが、どうやら立ち入り禁止という意味らしい。

この施設自体はそう古くはないが、なぜかこの扉だけは注意書きのかすれ具合などからそこそこの年月が経過しているらしい。

 

 

「どうする?」

 

「触らぬ神に祟りなし、ですね」

 

「そうね・・・後日ちゃんと調査に来ようかしら」

 

 

ひとまず放置することに決め、スケアクロウを連れてレイたちのところに戻ろうとする代理人たち。

が、ふと代理人が足を止めた。

 

 

「? どうしたの代理人?」

 

「・・・・・聞こえませんか?」

 

「何が・・・・・いえ、今聞こえたわ」

 

「これは・・・・あの扉から?」

 

 

小さく、しかし徐々に大きくなる音。それが何の音かは分からず、足音のようにも作動音のようにも聞こえるそれは、間違いなく扉の奥から聞こえていた。

代理人たちが身構えるなか、扉の直前と思しき場所で音が消える。代理人たちが警戒しつつ後退りし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、扉が開け放たれた。

厚さ数十センチはあろうかという鉄の扉が、まるで木製のように勢いよく開き、その衝撃が代理人たちを襲う。

 

じっと耐え、閉じていた目を開く代理人。

その眼前に、赤い大きな鋏が迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「民間人の避難を優先しろ!」

 

「皆さん、慌てず落ち着いて行動してください!」

 

「指揮官! ライフル部隊、戻りました!」

 

 

突然の轟音に、夏のレジャー施設は騒然とする。何事かと興味を惹かれる者、軽いパニックになる者、気にせず他人事な者。

しかしその直後、ビーチに出現した『ソレら』によって施設中はパニックになる。

 

 

「くそっ、何なんだこの蟹どもは!?」

 

「ちょこまかと・・・・当たれっ!!」

 

 

ワラワラと出現したのは、人間ほどのサイズもある緑色の蟹。つるりとした甲殻にぴょこんと飛び出た目と、どこか作り物のような造形のソレは、蟹らしい軽快な動きでビーチを走り回り、近くにいる者を襲い始める。

現在、この騒ぎで死者は出ていない。それどころか転けたなどという以外での負傷者もいない。

それもそのはず、この蟹どもは・・・・・・

 

 

「きゃぁぁあああああああ!!!!????」

 

「ちっ、また一人やられた!」

 

「なんで()()()()剥いでいくんだよこの変態蟹がっ!!」

 

 

そう、この蟹どもの狙いが水着なのである。その鋏は人体を一切傷つけず、器用に水着の紐だけを切っていく。紐で結ぶタイプはそもそも切らずに紐だけ引っ張るなど、何故か無駄に高い剥ぎ取りスキルを持っているのだ。

ちなみに蟹が狙うのは『水着』だけ。それも老若男女問わず。

 

 

「あいつら、この施設をヌーディストビーチにでもするつもりか!?」

 

「ここは全年齢施設よ、お帰り願いなさい!」

 

「MG部隊、配置完了、撃てぇ!!!」

 

 

MG5の合図で、MG人形たちの銃が一斉に火を拭く。遮蔽物のない砂浜を埋め尽くすほどの弾幕に片っ端から叩き潰される蟹どもの体から出たものは、体液や肉ではなくオイルと機械パーツだった。

 

 

「やはり・・・・指揮官、こいつらは生体パーツを使った機械だ!」

 

「あら、私たちの同類ね」

 

「こんなのと一緒にされてたまるもんですか、突撃っ!」

 

 

数が減ったことで、SMGとARの部隊が殲滅に向かう。残骸を踏みつけ、先頭を走るUMP45がその射程に獲物を捕らえたその時。

 

 

チュドーンッ

「ぬぁああああ!!!!???」

 

「よ、45姉ぇええええええ!!!???」

 

 

突然の爆発と、宙を舞う45。そのまま柔らかな砂浜に激突し、頭をさすりながら身を起こす。

 

 

「痛てて・・・何なのよいきなり」

 

「45姉、前前!!!」

 

「前・・・・・あっ」

 

 

直後、UMP45は緑色の群れに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「まずい、地雷よ!」

 

「誘い込まれた!」

 

「ちょ、みんな止まって! 走り回ったら余計にわからn(チュドーンッ

 

 

突撃組は散々な目に遭っていた。蟹たちが置き土産とばかりに残していったもの、それはヒトデ型の地雷だったのだ。しかもこれも独自に動くらしく、設置後速やかに砂浜に潜ってしまうため発見が難しい。

そして例によってこの地雷、派手な爆発と音の割にダメージはなく、ただ真上に吹き飛ばされるだけなのだ・・・・・もっとも、その後の無防備なタイミングで襲撃されるのだが。

しかも、悪いのはそれだけではない。

 

 

「まずい、今撃ったら味方に当たる!」

 

「榴弾もダメ! 巻き込んじゃうわ!」

 

「SG隊はシールド展開、友軍の救助に向かいます!」

 

 

吹き飛ばされ、身包みを剥がれる。精神的にはともかく身体的には一切のダメージもないため、彼女たちは未だ戦場のど真ん中で立ち往生し続けているのだ。このため援護射撃もできず、むしろ誤射を恐れて一発も撃てていない。

指揮官の指示でSG人形による強行突破、救出が開始されるが、それが終わるまではMG部隊の出番はないだろう。

 

だがこの時、誰もが忘れてたことがある。

敵は蟹・・・・・水陸両用の生物をモチーフにしていることを。

 

 

「きゃあああああああ!!!!!」

 

「カリーナっ!?」

 

「後ろ・・・・いや、海から!?」

 

 

後方に控えていたはずのカリーナから悲鳴が上がる。見ればすでにトップスを剥ぎ取られ、今まさにボトムスまで失おうかというところ。すぐさまライフル人形による狙撃で撃退できたが、そんな彼女たちにさらなる魔の手が迫る。波のプールから、続々と湧いてきたのだ。

 

 

「くっ、迎撃しろ!!」

 

「来るな、来るな・・・・来るなぁあああああ!!!!」

 

「ちょ、まだ装填が終わって・・・・・あ」

 

 

Mk48にその魔の手が伸びる。

が、その鋏が届くことはなかった。途中で動きを止めた蟹がそのまま浮き上がり、勢いよく地面に叩きつけられる。その背中には、黒い尻尾のようなものがへばりついていた。

 

 

「無事か?」

 

「げ、ゲッコー・・・・」ポッ

 

「はいそこ、変な空気出さない」

 

「オラオラァ! 片っ端から切り身にしてやるぜ!」

 

「爆撃開始!」

 

 

グリフィンのピンチに駆けつけたのは、装備を取りに戻っていた鉄血ハイエンド組。

処刑人が切り込むと同時に人形を救出し、直後にデストロイヤーとウロボロスの広域爆撃が蟹を焼き払う。加えてイントゥルーダーとドリーマーによるジャミングが動きを鈍らせ、テレポートによって音もなく現れたアルケミストが確実に仕留めていく。

単体の性能ならIoP製を大きく上回るハイエンドたちの加勢によって、ビーチの戦局は一気に傾くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、出遅れたか」

 

 

仲間たちが謎の蟹たちと先頭を繰り広げている頃、顔面にアタックを受けて気絶していたダネルもようやく動き始める。とはいえ救護室は戦場のはるか後方、一応武器を持ってきたものの今から行っても大した力になれそうにない。

そこで、逃げ遅れたものや迷い込んだ蟹がいないかを探すべく、一人施設を歩き回っていた。が、すでに従業員も含めての避難が終わっており、蟹どもも戦場の音に引き寄せられているのか、動くものひとつない。

 

 

「しかし、人がいないとこうも物悲しくなるのか・・・・人間がいなくなった世界、といったところかな」

 

 

軽快な音楽だけが流れる無人の施設を、見た目はうら若き少女が身の丈もある狙撃銃を携えて歩く・・・・まるでホラーゲームに迷い込んだかのような光景だった。

そんなこんなで歩き回ること数分。それを発見できたのは、対物ライフルによる超長距離狙撃を専門とする彼女の観察眼のおかげだろうか。遊具の物陰で蹲る数名を発見した。

ダネルは周囲を見渡し、敵がいないことを確認すると急ぎ足で向かう。そしてそこにいたのは、思いもよらない人物たちだった。

 

 

「だ、代理人!?」

 

「だ、ダネルさん、どうしてここに・・・・あと、どうして背中を向けるのですか?」

 

「逃げ遅れた者がいないか探していたのだが・・・・・すまないが今の代理人を直視できない」

 

 

代理人たちを発見後、速やかに背中を向けたダネルの判断は正しかった。その場にいた代理人とスケアクロウ、AR-15にD-15共々その身は一矢纏わぬ姿だったからだ。ちなみに背中を向けてはいるがダネルの鼻からは赤い糸がツーっと垂れ始めている。

 

 

「すみません、突然襲撃されてこのような姿に」

 

「いや、代理人たちが無事で何よりだ・・・・しかし災難だったな、いきなり群れに襲われるとは」

 

 

ダネルの言うことはもっともだった。無手とはいえ人形四人、うち二人は鉄血製ハイエンドが、全員なす術なく身包みを剥がれているのだ。そこから群れで襲われたと判断するのは当然と言える。

だが、今回ばかりは違った。

 

 

「群れ? いえ、私たちが遭ったのは一体だけです」

 

「というか、あっちにはいないの? かなり目立つはずなんだけど」

 

「一体? それに目立つ? なんのことd「っ!? ダネル、隠れて!」うわっ!?」

 

 

D-15に腕を引っ張られ、ダネルはよろめきながら物陰に入る。その際後頭部に柔らかい感触を感じて再び愛が鼻から溢れそうになったが、次の瞬間に視界に映ったものをみて引っ込んだ。

それは、言い表すならば『ヤドカリ』だった。ただしその体躯は大型の戦車ほどもあり、一見可愛らしい外見がより不気味さを増している。

 

 

「あれよ、私たちを襲ったのは」

 

「なんだあれは・・・・というかなんなんだアイツらは?」

 

「そんなの私が聞きたいわよ・・・・うぅ、せっかくの水着が」

 

 

恨めしそうにヤドカリを睨むAR-15。つられてダネルも見てみると、なるほど確かにその鋏には四人分の水着がぶら下がっている。ご丁寧に右にトップス、左にボトムス・・・・意外と几帳面な性格なのかもしれない。

 

 

「くっ、よくも代理人の水着を・・・・・うらやmけしからん!」

 

「本音が漏れてますよダネルさん・・・・・」

 

「どうしましょう・・・・私たちではどうすることもできませんし」

 

 

せめてあの装甲を貫ける武器があれば・・・そう思い至った四人の視線は全く同じものを見つめる。そしてその持ち主、ダネルもまた同じことを考えていたようだ。

 

 

「ふっ、そうだな・・・・・ここで代理人のポイントを上げておくのもいいだろう」

 

「そういうことは思っていても言わないでください」

 

「本当に大丈夫なの?」

 

「任せろ、これでもそれなりの実戦経験はある」

 

 

普段の言動があれだが、実力は確かだ。そしてなにより、代理人への愛も確かなのだ。

 

 

「ダネルさん、どうかご無事で」

 

「あぁ・・・それと代理人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ったら、美味しいコーヒーを淹れてくれ」

 

「「「それ死亡フラグ!!!」」」

 

 

四人の期待と不安を背に、ダネルは飛び出していった。

 

 

 

 

 

続くっ!




ドーモ、ドルフロ2周年とアークナイツ半周年が被って大忙しの作者=デス。
真核でAA-12を手に入れ、建造でMDRをお迎えし、次の給料日にスキン福袋を購入予定・・・・・ドルフロは楽しいなぁ!
コロナのおかげで外出自粛→お金を使わない→課金できる・・・・・喜んでいいのかどうか微妙なところですね笑


では、今回のキャラ紹介


代理人
昨年に続き今年も剥かれてしまった。
ちなみにテレポートで同時に運べる人数に限りがあり、そのため今回は使えない。

スケアクロウ・AR-15・D-15
恋人にこの醜態を見られるのが嫌なのでなんとか水着を取り返そうとする・・・・・まぁ結果はお察し。

45姉
MODも実装されてストーリーのキーパーソンとして人気が上がれば上がるほどこの世界での扱いが雑になっていく。
figmaの再現度は完璧でした(どことは言わないけど)

Mk48
久しぶりのチョイ出。
相変わらずゲッコーに対してはチョロい。

鉄血組
グレネードとミサイルの嵐の中暴れ回る処刑人は勇敢なのかバカなのか。
アルケミストの攻撃は、威力は高くないけど相手の後ろを取れる。背後致命とり放題だよ!

ダネル
代理人への愛が動力・・・と言われてもおかしくない人形。
何度振られてもめげない強靭なメンタルを持ち、さらに人形としての性能も高い・・・・・HENTAIに通じる何かを感じる。



次回、ダネルVSヤドカリ!


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第百七十九話:あゝ夏休み(後編)

9ちゃんが動きながら「いってらっしゃいのちゅ〜してあげよっか?」とか言うもんだからおじさん顔緩みっぱなしだぞ!

とか言ってる間に新たなスキン!?しかもUMP三姉妹セット!?
グヌヌ・・・給料入るまで待ってろよな!(捨て台詞)


『指揮官、ビーチ周辺の敵は掃討しました』

 

「ご苦労、引き続き警戒を緩めるな」

 

『了解』

 

 

売店を使って設置された即席司令部に上がる報告の数々。そのほとんどは状況が好転していることを伝えるもので、指揮官は張り詰めていた気をふっと緩めた。とはいえ、事態が解決したというわけではないので油断はしない。

幸いカリーナとヘリアンが指揮官をサポートしていたので、人形たちの立て直しも早かったのだが・・・・・その後ろで顔色の優れない人物がいることに、まだ誰も気付いていない。

 

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ)

 

 

努めて平常を装いながら壁にもたれかかる女性・・・ペルシカは思わず頭を抱えそうになる。

モニターに映る戦術人形たちの視界、そこに映る蟹やヤドカリに似た機械たち。見覚えがあるなんてものではなかった。

 

 

IoPに来る前(90wish時代)に悪ふざけで作った珍兵器・・・・製造ラインも含めて全部破棄したはずなのに!)

 

 

もしや極秘裏に回収したどこぞの企業なりテロリストどもが新たに生産したものか、とも思ったが武装を見てその期待は潰える。

あのふざけきった外見も、ヒトデ型自走地雷という謎兵器も、そして衣服(というか装備)だけを剥ぎ取るというアホすぎる行動も・・・・深夜テンション四徹目の狂気の産物だった。ただただ敵を()()()()()ことだけを求めたその発想は悪くなかったが、流石にふざけすぎていた。

 

 

(ま、まぁいいわ・・・このまま全部壊してくれれば、私が関わっているという証拠はなくな・・・・・!?)

 

 

完全に他力本願な証拠隠滅を図ろうとするペルシカは、しかしモニター端の一コマを見つけた途端血相を変える。

そこに映るのは一体のヤドカリと対物ライフルを構える女性。なぜ一対一なのかとかライフルの間合いじゃないだとかツッコミどころはあるが、ペルシカが注視したのはそこではない。

 

 

(まずいっ! あいつリミッター外れてる!)

 

 

対峙するヤドカリ、その甲殻にはいくつも傷が付き、文字通り目の色を変えて全力モードに入っている。大量生産向けのカニとは違い、ヤドカリ型は条件付きでのリミッター解除機能を搭載していたのだ。

武装は相変わらず非殺傷だが全体的にパワーが増し、単純に鋏で殴るだけでも驚異的な威力を発揮するようになる。加えて、この状態でのみ使用するようになっている武装が存在し・・・・・・

 

 

「ダネルっ! 避けてっ!!!」

 

 

指揮用のマイクを奪い取り、反射的に叫ぶ。間一髪計画は間に合ったようで、ダネルはヤドカリの新武装の餌食とならずに済んだ。

ホッとするペルシカだが、その後ろに重苦しい気配を感じてビクリと体を強張らせた。

 

 

「・・・・ペルシカ、今のはどういうことか説明してもらおうか?」

 

「何か知っているんですね!?」

 

「応えてもらいますよ、ペルシカさん」

 

「あ、あははは・・・・・・」

 

 

逃げ場などないことを悟り、乾ききった笑い声を上げるしかなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、なんて悪趣味な・・・・・・」

 

 

舌打ちしながらダネルは毒突く。ペルシカからの突然の警告でなんとか躱すことができたが、アレに当たっていればどうなっていたか考えたくもない。

一瞬嫌な想像がよぎり、かぶりを振って切り替える。

 

 

(鋏に格納武装・・・片方が水着で塞がっているのが幸いだな)

 

 

ダネルはヤドカリの鋏を、もっといえばその中から伸びるガトリング砲を睨む。これまでインファイト中心だったヤドカリが突然距離を取り、両鋏で掴んでいた水着を片側に移すと同時に盛大にぶちかましてきたのだ。警告がなければ直撃だっただろう。

そしてその銃弾こそが問題だった。一見白い塊のそれはなんとトリモチ弾、それがえげつない連射能力で吐き出されるのだ。一発だけでも人の頭くらいのサイズはあるのに、それが数発固まると粘着力を飛躍的に高めるらしく、巻き込まれたダネルのパレオは既に白濁の中に沈んでいる。

そして今もなお、その銃口はダネルを狙い続けていた。

 

 

「チッ・・・・!」

 

 

横あいに飛び、遮蔽物に身を隠し、なんとか被弾しないように動き回る。ただでさえ機動力に難のあるライフル人形が弾幕を相手取るなど、無謀にも程がある。

だがダネルは引かない。代理人との約束と己のプライド、そしてご褒美への期待が彼女を突き動かす。

 

 

「喰らえっ!!」

 

「ーーーーーーーー!!!」キンッ‼︎

 

「くっ・・・・まだだ!」

 

 

厚い装甲に阻まれながらも、ダネルは隙を見て反撃していく。対物ライフルというだけあってその装甲を確実に削ってはいるが、ジリ貧であることは否めない。

このままでは遠からず負ける・・・・そう判断したダネルは、博打に打って出ることにした。

 

 

(一気に潜り込んで、腹の下から一発・・・・流石にそこなら装甲は薄いはずだ!)

 

 

そのために必要なのは、白い弾幕を抜けて鋏の迎撃を躱し腹下に滑り込むこと。それをこの大きなライフルを持ちながら行う必要がある。

成功率はお世辞にも高いとはいえないが、勝つためにはこれしかない。

 

 

(三つ数えたら一気に走る・・・・・一・・・二・・・)

 

 

三・・・と呟きかけたその時、突然ヤドカリの足元が爆発し態勢を大きく崩す。

何事かと覗き込んだダネルの前に、二人の男女が躍り出る。

 

 

「小型とはいえ爆発物所持か・・・・ボディガードの範疇を超えてないか?」

 

「なら捕まえてみるか、お巡りさん?」

 

「そうだ、と言いたいが・・・・今回は見逃してやる」

 

 

言い合いながらも二丁の銃で牽制するハンターと、隙を見て手榴弾を投擲するレイ。突然の襲撃者にヤドカリの対応も遅れ、致命的なまでの隙を晒してしまった。

 

 

「今だっ!!」

 

 

一歩目から全力で走る。ハンターとレイの横をすり抜け、一気に距離を詰めてく。

ヤドカリが気づき、鋏をむけた頃にはすでに腹の下に滑り込んで銃口を押し付けていた。

 

 

「これで終わりだぁ!!!」

 

 

発砲、排莢、発砲、排莢、発砲、排莢・・・・・・ここぞとばかりに全てを叩き込み、そのまま腹の下をくぐって飛び出す。内部機関を貫かれたヤドカリは、やがて自重を支えられなくなり崩れ落ちて・・・・・盛大に爆発した。

 

 

「フゥ・・・・協力に感謝する」

 

「いや、お互い様だ」

 

「こっちも人を探してたからな・・・っとそうだ、この辺りでスケアクロウを見なかったか?」

 

「あと、AR-15とD-15もだ」

 

「ん? あぁそれなら・・・・・」

 

「ダネルさん? 何かすごい爆発が見えましたが・・・・・」

 

 

爆発の規模から心配になった代理人たちが様子を見にきたらしく、恐る恐るといった様子で覗き込む。

ちなみにヤドカリが奪い取ったブツの回収はまだ行われておらず、当然ながら彼女たちの服装に変更はない。

 

 

「あ、スケアクロ・・・ウッ!?」

 

「二人とも、ここにいたのか・・・っ!?」

 

 

「「「・・・・・ぃ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いやぁぁああああ!!!!」」」

 

 

爆発音にも勝る悲鳴に続き、乾いた破裂音が3つ続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「指揮官、見つけました」

 

「ペルシカの話は本当だったってわけね」

 

「それにしても、これほどの規模の秘密工場・・・・なぜ今まで気づかれなかったのでしょうか?」

 

 

地上での騒動がひと段落した頃、M4・AK-12・ANー94の三人は所属不明機たちの出現地であるあの扉の奥へとやってきた。

やはりというかレジャー施設には到底不似合いな分厚い扉の向こうには、これまたいかにも生産施設ですといった様相が広がっている。ペルシカを詰問した結果、これはどうやらかつて『世界最高レベルの頭脳が結集した』と言われたほどの組織・・・・・『90wish』の施設の一つらしい。

在りし日のペルシカが90wishに身を置いていたのは周知の事実だが、こんなところにその名残があるなど聞いていない。ペルシカ曰く、「解散騒動の最中に忘れ去られた施設がいくつかある」らしい。

 

 

「全ての工場施設は機能を停止しているはず、とのことですが?」

 

『そうだ。 が、今回の件からその前提で進めるのは危険だと判断した方がいい』

 

「確かに、ただの在庫バーゲンって量じゃなかったものね」

 

 

そう言いつつ、前方に数発撃ち込む。奥から湧いて出てきた数体の蟹が風穴を開けて倒れ伏す。

それを皮切りに、ワラワラと湧いて出てくる蟹、蟹、蟹。それはもはや蟹というよりもGに近い印象だった。

 

 

「AK-12、ANー94は弾幕を。 私がまとめて吹き飛ばします」

 

「今夜は焼きガニパーティーね」

 

「当分、見たくもありませんが」

 

 

普段の様子はアレだが、そこはグリフィンの最高戦力部隊。一本道であることも相まって一体たりとも三人に触れることはおろか、近づくことすらできない。

その間も三人は前進し、道というよりも蟹の残骸の上を歩きながら奥へと進んでいく。ヤドカリ型も数体現れるが、機動性と火力を両立させたM4の敵ではない。

 

 

「敵機殲滅を確認・・・二人とも、弾薬は?」

 

「十分あるわよ」

 

「こちらもです。 それにしても、随分奥まで来ましたね」

 

『元々は地下シェルターを改装したものだったからね。 でも、そろそろ目的地のはずだよ』

 

 

ペルシカの言った通り、ひたすら下り坂をまっすぐ進むと最深部に辿り着く。十数年前の施設のはずなのだが未だに稼働しているようであり、製造ロッドからあの蟹たちが湧いてきている。

一体誰がラインを稼働させているのか・・・その答えは探すまでもなく見つかった。

 

 

「M4、あの蟹です!」

 

「あら、随分と器用なのね」

 

 

見れば、一体の蟹が忙しなく動きながら工場を稼働させている。どうやら忙しすぎてこちらにも気付いていないらしく、まるで社畜の如く走り回る。

意味があるのか不明な『安全第一』のヘルメットを見るに、あの蟹はもともとそういう用途で作られているようだ。

そんな蟹の後ろから近づき、M4は銃を突きつけて言った。

 

 

「止まりなさい、動くと撃ちますよ」

 

「大人しくしておいた方が身のためよ。 彼女、とっても怖いから」

 

 

突然呼び止められ、銃を突きつけられる。そんな事態に蟹は両鋏をあげて降伏の意思を示す。というか何がなんだか分かっていないという感じで、上の大惨事を引き起こした張本人とは思えない様子だ。

 

 

「通信機能は使えますね? こちらの質問に答えていただきます」

 

 

警戒を解くことなく、M4たちによる詰問が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははははははははっっっ!!!!」

 

「ほ、本当にそんな理由なんですか?」

 

「えぇ・・・・・」

 

 

話を聞くこと十数分、今回の騒動が盛大な勘違いであったことが判明する。

 

まずこの施設が旧90wishのものであることは間違い無く、その中でもかなり高度な施設であったらしい。生産ラインを含め全て無人運転で、人間の職員を一切必要としないらしい。この蟹は、ここの責任者にあたる個体だという。

そして遡ること十数年前、とある一件でこの施設は閉鎖される・・・・・なんとこの蟹がストライキを起こし、工場を勝手に閉鎖してしまったのだ。ちなみに動機は、休暇休日がないというものだった。

そしてそこからこの工場は休眠。その間に90wishが解散したり戦術人形の時代になったりと時は流れ、ようやく蟹は目を覚ます。

 

そして焦った。かなりの時間を寝過ごしてしまったことで受注が大量に溜まっている、と思ったらしい。慌てて全ラインをフル稼働、生産完了した個体から順次出荷という荒技に出る。

この段階でどうやら蟹たちの設定が『納品』から『戦闘』に切り替わっていたらしく、後は語られた通りである。

 

 

「つまり・・・この施設の責任者としての責務を果たそうとした、と」

 

「いやいやツッコミが追いつきませんよ!?」

 

「ひー、ひー、もう無理笑い死んじゃうwwwwww」

 

 

蓋を開けてみればそんな理由である。AK-12は笑い転げ、ANー94は唖然とし、M4も額に手を当ててため息をつく。これが『人類に反旗を翻した』とか『AIの暴走』とかならまだ格好がついたはずなのだから。

 

 

「はぁ・・・・指揮官、どうしましょうか?」

 

『・・・・敵対の意思が見られない以上、こちらで保護する。 帰投してくれ』

 

「了解しました、これより帰投します」

 

「AK-12、帰りましょう」

 

「ひっひひっ、も、もうちょっと待っ「帰・り・ま・す・よ?(ニッコリ)」分かったからコンテナはやめて!?」

 

 

こうして、一夏の騒動は収束したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうちっと続く!




三連休とかあったくせに全然書けてないダメ作者ですが私は元気です。
そういえばドルフロ癒し編二期が出るんだとか。願わくばデフォルメ代理人にちょっと罵倒されながら癒されたいんですよね社会人ツライ

さて、今回で夏イベ編は終わり・・・とはなりませんでした!!
ドルフロ本編のイベントは終わったけどこっちは続きます笑


では今回のキャラ紹介


ペルシカ
今の年齢(推測)からさらに遡ると、90wish時代はいわゆる『若き天才』というやつだったのでは?
原作ではとある企業製だった蟹ですが、ここでは90wish製・・・悪ふざけに全振り笑

ダネル
多分もうここまでかっこいい場面は無いと思う。
ちなみに対物ライフルは移動はもちろんスライディングしながら撃つことは想定されてないよ!良い子は真似しないでね!

ハンター&レイ
恋人探して出会した。
ラッキースケベの報酬は紅葉で。

M4・AK-12・ANー94
実は部隊名を全く考えてない(叛逆してるわけでもないしね!)
ちなみにごく当たり前に捜索しているけど全員水着・・・ホラゲのクリア報酬みたいな絵面。

蟹(責任者)
世間がまだまだ人形に対しての認知が進んでいなかった頃、休むという選択肢なく働かされてきた哀れな社畜。
強制スリープ&完全オフライン化によってストライキを起こすが、衛星通信による時刻の同期も切れてしまったため寝過ごした。
きっと休みを与えられても休み方がわからない。


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第百八十話:あゝ夏休み(終)

もはや言い訳は必要ない・・・・これが私の答えだ(ジャンピング土下座)

ちょっとだけ言い訳させてもらうと、久しぶりに大学の同期と会うことができて遊びまくってたせいです。
密なとこには行ってないけどはしゃぎすぎたね!


あ、ちなみに給料も入ったので課金しました笑
結果はこんな感じ↓
二周年福袋…桜吹雪(グローザ)
一周年福袋…淑女の密命(PKP)
ダイヤ…願いを見守る影の魔女(UMP40)

いやぁ満足満足!


平和なレジャー施設に突如として現れた機械兵団、という衝撃的な事件が勃発してから数時間後。

事件の首謀者・・・いや、首謀蟹の身柄を確保し事態は収束する。が、さすがに今回の騒動の原因をありのまま話すのはまずいと判断され、この一件は『流れ着いたテロリストの残党が持ち込んだ珍兵器』ということになる。

 

さてそんなこんなで日も暮れた頃、施設内も夜をイメージした照明となり、聞こえる波の音がまるで本当に海に来たと思わせる。

そんな人口の浜辺の一角、『喫茶 鉄血 海の家』の前に大きな火の手が上がり、その周りを人形たちが取り囲んでいる。

 

 

「もっと、もっと燃やせ〜〜!!!」

 

「ケホケホッ・・・・こらSOP! 薪を放り投げないで!」

 

「「え? 火力が足りない? 」」つ火炎瓶

 

「だれかこの放火コンビを止めてっ!!」

 

「うわぁっ!? 誰だ燃料投げ込んだやつ!!」

 

「わ、私のウォッカがっ!!!」

 

 

普段であれば花火も含め火気厳禁なこの砂浜だが、事態収束のお礼ということで特別に許可してもらったキャンプファイヤーだ。後始末のために他の客は入れていないので、彼女たちの貸切状態というわけだ。

ちなみにこの騒動のせいでほとんど売り上げの出なかった喫茶 鉄血は、割と大きな赤字らしく代理人も少々難しい表情だったとか。

 

 

「ごめんなさいハンター」

 

「痛くなかった?」

 

「いや、こちらも配慮が足りなかったよ」

 

「でも、私たち思いっきりンムッ!?」

 

「んっ・・・・ふふっ、まだ謝ろうとする悪い口は塞いでやらないとな」

 

「あぁ!! AR-15だけずるいっ!!」

 

(あ、あの三人、こんな大勢の前で・・・・・)

 

(わ、私もあれくらい攻めた方がいいのだろうか・・・・でもPKは嫌がるかもしれないし・・・・・)

 

 

そしてこういうムードに弱いのは、人間も人形も変わらない様子。一部の人形たちは周りの目も気にせず触れ合い、それが周囲に伝播していく。愉悦部たちの情報収集と、マヌスクリプトの資料集めも捗るというものだ。

人形たちは踊り、歌い、そしてどんどんハメを外していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぇ〜い! みんな楽しんでる〜?」

 

「今日は踊り明かすわよー!」

 

「おい、誰だあの二人に飲ませた奴は」

 

 

キャンプファイヤーを囲む一角、蟹の残骸などで作られた即席ステージの上では二人の人形が酒瓶片手に踊り狂っていた。

時折ふらつきながら滅茶苦茶に踊る彼女たちに合わせ、その豊かな四つの実りが跳ね回る。仮にこの場に男客がいれば釘付けになること間違いなしなその二人とは、HK416とデストロイヤー(ガイア)であった。

 

 

「つぅかなんであのボディを持ってきたんだよ」

 

「あの歯医者が代理人に預けてたそうだぞ」

 

「あんなの胸じゃない・・・胸のような何かよ・・・・・」

 

「45もおっぱい欲しいんだ? じゃあ大きくなるようにあたいが揉んであげるね!」

 

「ギャー!? 助けて9ー!!!」

 

「おい、お前の彼女と姉が大変なことになってるぞ」

 

「え? 何か言った?」(鼻血ダラー)

 

 

姉の貞操の危機など意にも介さず、目の前で乱れる恋人の姿に鼻の下を伸ばす9。だめだこいつ、早くなんとかしないと。

その間も踊り続ける二人だが、千鳥足で結構激しめに踊っているせいか割と、いやかなり危うい状況に陥っている。二人が身に着けているのはいたって普通のビキニタイプで、お世辞にも広くはない布と細い紐で二つの重量物(脂肪の塊)を支えることになる。

そんな恰好で激しく踊ればどうなるか、背後で燃え上がるキャンプファイヤーを見るよりも明らかである。

 

 

プツンッ

『・・・・・・・・あ』

 

「んぇ? みんなどうしたのぉ?」

 

「あらぁ、9ったらそんなに赤くなっちゃって・・・・うふふ♪」

 

「ちょっ!? 416前っ!前っ!!」

 

「前? ・・・・・おっぱいくらい毎日見てるでしょ?」

 

「ふぇぁ!? そ、それはそうだけど・・・!」

 

「二人だけずるい~! 私もイチャイチャしたいの~!」

 

「さっさと止めるぞドリーマー!」

 

「あの子に大人の階段なんて早すぎるわ!」

 

 

酔っぱらって色々とオープンになった416が9を押し倒し、人目も気にせず事を起こそうとする。それに感化されそうになるデストロイヤーを、ドリーマーとアルケミスト(保護者二名)が止めに入る。

周りも周りで、目を覆う者から凝視する者、むしろ積極的に煽ろうとする者まで、乱痴気騒ぎともいえる雰囲気に染まっていた。

そして当然ながら、この空気に充てられて暴走し始める集団もいる・・・・・その筆頭、スプリングフィールド氏(清楚の皮を被った欲の塊)は手近にあった酒瓶を一気にあおり、カッと開いた眼で指揮官の元へと走り出した。

 

 

「指揮官! 私とひと夏の思い出を作りましょう!」

 

「させませんわよ!」

 

「抜け駆け厳禁です!」

 

「放っといていいの?」

 

「どうせ最後にはヘタレるのよ」

 

 

つぶやく57もFALも、それがわかりきっていながら止めるつもりもない。

そして彼女たちの言葉が現実となるのも、そう遠くない未来のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないな、妙なことに巻き込んでしまって」

 

「あなたが謝ることではありませんよ、指揮官さん」

 

 

キャンプファイヤーとそれを囲む人形たちを遠目に眺めながら、指揮官は代理人が差し出したコーヒーをすする。

臨時の司令部として場所を提供した結果、やむなく廃棄となった食材やら器材は結構な額になるが、それらはグリフィンへの協力報酬として補填される予定だ。しかし、民間人を荒事に巻き込んでしまったという意味では今回の一件はグリフィンの失態だ、と指揮官は考えている。

 

 

「ご心配なさらずとも、我々も自衛手段くらいは持ち合わせています。 それに皆さんのお役に立てたのでしたら、無駄ではなかったということでしょう」

 

「しかし、な」

 

「君はすでに鉄血の所属ではない、ただの一住人だ。 本来我々が護るべき『市民』の一人、ということになる」

 

「そうですよ代理人さん。 ですので、今回の補填額も多めに申請させていただきましたわ」

 

「ヘリアンさん、カリーナさんも・・・・・」

 

 

ようやく後処理から戻ってきたヘリアンとカリーナが、やや疲れた様子で席に座る。貴重な休暇(ヘリアン的には男漁りの機会)が潰れただけでなく余計な仕事まで増やされたわけだが、それもようやくひと段落したようだ。

それでもなお代理人を気遣うのは、普段のお礼だとかそんなところだろう。

 

 

「もっとも、そう言ったところで君がおとなしく引き下がるとは思ってもいないが」

 

「おせっかいというか、そういうところは頑固ですものね代理人さんは」

 

「まったくだ」

 

「少なくとも皆さんには言われたくありませんよ」

 

 

代理人のジト目も、三人にはどこ吹く風のようだ。互いにお礼やら善意やらの応酬がいつものように続いているが、今回もどちらも折れそうにないらしい。

ただ指揮官らの言う通り、市民に被害が出てしまっている以上はその責任を取らねばならない。実際に代理人も、水着を剥かれただけとはいえれきとした被害者ということになる。

 

 

「そういえば、代理人さんは去年も水着を取られてましたよね?」

 

「ほぉ、そんなことがあったのか」

 

「しかもその時もダネルが奮闘したとか」

 

「そのことも今回のことも可及的速やかに忘れてください」

 

 

もはやそういう運命なんじゃないか、と薄っすら考えてしまい赤面する。

ただ一つ言えることは、今年の夏もそこまで悪いとは言えないものだった、ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ蟹くん、ちょっといいかな?」

 

「お前の剥ぎ取りスキルを見込んで頼みがあるんだにゃ」

 

『・・・・・・・?』

 

「そんなに難しいことじゃないにゃ」

 

「あと一人だけ、水着を剥ぎ取ってきてほしいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「そう、指揮官のをね!」」

 

 

 

キャンプファイヤーの火が消える前に、もうひと騒動あるようだ。

 

 

 

 

end




前中後編に続いてこのエピローグ、計四話構成なんて初めてかもしれませんね。
本当は二日目とかも書きたいけど、このペースだと夏が終わりそうなのでこの辺で笑

今後の方針は週一投稿、遅くても二週間に一話を目指そうと思います。
活動報告でのリクエストも(一応)受け付けてるのでよろしく!


では今回のキャラ紹介
・・・・多すぎるので一部わかりづらいキャラを中心に


・放火コンビ
焼夷榴弾でおなじみのVectorとスコーピオン。何気にスコピッピはこれが初登場かな?

・「私のウォッカが!?」
チェス回以来となる9A91。ウォッカは燃料、古事記にもそう書いてある。

・MG5とPK
相変わらず亀の歩み寄りも遅い進展。作戦中は完全に切り替えるタイプなので、ハプニングがあっても一切動じない。

・ガイアボディ
気を利かせた歯医者が持ち込み、ペルシカがメンタルを移行したもの。表向きは、「いやぁ蟹のせいで水着が破れちゃったね笑 あ、でも子供用のサイズはもうないみたい・・・・お、ちょうどここにガイアのボディ(水着付き)が!」というシナリオ。

・アルケミストとドリーマー
デストロイヤーの保護者枠。はっちゃけるのはいいが脱ぐのは流石にNGらしい。

・愉悦部
酒の入った打ち上げ、指揮官の指揮官・・・・何も起こらないはずもなく(何も起こらない)


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番外編45

一番筆が乗ってるときは一日二本分くらい簡単に書けたんですが、今では週に一本書けるかどうか・・・・・これが老いか(違)

今回の番外編は、前回までの夏回で描ききれなかったキャラを中心に書いてます。


case1:Ameli

 

 

「だ、誰かぁ〜・・・・」

 

 

そんな彼女の控えめな救援要請は、当然ながら誰にも届かない。司令部一同で遊びにきたはいいもの、周囲からの視線にビクビクしながら誰かの背中に隠れ続けていたAmeli

しかしせっかく遊びにきておいてそれではもったいないと仲間から浮き輪を渡され、半ば強引に流れるプールへと引っ張られ、有無を言わさずプールに放り込まれてしまった。

そしてそのまま流れること十数分、完全に孤立してしまった彼女は涙目だった。

 

 

「うぅ・・・どうしよう・・・・・」

 

 

普通なら浮き輪から脱出してプールサイドまで行けば済む話だ。しかし彼女はいろんな意味でその普通に当てはまらなかったらしい。

 

Ameliという人形は、MGタイプの人形としてはかなり背が低い。大の大人なら足がつく程度の深さのプールでも、彼女には届かない。

Ameliという人形は、その身長に対して一部がとても大きい。どうやってその重量を支えているのか、しばしば男たちの間で議論が交わされるくらいには立派なものを持っている。

その結果・・・・・・

 

 

「誰か、助けてくださいぃ・・・・・」

 

 

丸い浮き輪にすっぽりと収まったまま、川を流れる桃のようにいつまでも流され続けているAmeli。浮き輪から出ようにも上半身は浮き輪を潜ることができず、上から抜けようにも水の上では不安定すぎる。

そんなわけで、脱出の糸口すら掴めないままただ時だけが過ぎていくのだった。

 

そんなAmeliを狙う、不穏な視線が二つ。

 

 

「ヒュ〜、見ろよアレ」

 

「こりゃなかなかの上玉じゃね?」

 

 

見るからにチャラそうな男が二人、表情をにやつかせながらAmeliを追う。すでに男たちの頭にあるのは、このあとで連れ込む場所と()()()()()の内容だけだ。

だから気づかなかった。そんな彼らの後ろから迫る影の存在に。

 

 

「あら、そこのお二人さん」

 

「「へ?」」

 

「あんな小さい子なんて相手にしてないで・・・・お姉さんと『イケナイコト』しましょ?」

 

 

哀愁漂うAmeliを陰ながら見守っていた保護者・・・・DSRー50の甘美な誘惑に、男たちはまんまと釣られてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、大丈夫Ameliちゃん?」

 

「DSRさん、助けて・・・・・」

 

「ふふっ、えぇもちろん」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・ところで、今までどこに?」

 

「ん〜・・・・ちょっとゴミ掃除に、ね♪」

 

 

 

 

 

 

 

case2:鉄血工造輸送部隊

 

 

「なぁ同志よ」

 

「なんだ?」

 

「我らが隊長殿の姿が見えんのだが」

 

「同感だ。 というか更衣室から出てこないな」

 

 

休暇を取ってやってきているのは、グリフィンや喫茶 鉄血だけではない。常日頃からフル稼働している鉄血工造も、一般企業らしく有給というものがあるのだ。

そんなわけで施設へとやってきたゲーガー率いる輸送部隊の面々・・・・というかAigisたち。明らかに場違いな彼らは今、更衣室の前でずらりと並んだまま待機していた。

 

 

「・・・・・で、どれくらい経った?」

 

「もう30分になるぞ」

 

「何かトラブルでもあったか?」

 

 

彼らが待つのは愛しの隊長、ゲーガーである。「着替えてくる」とだけ言って入ったっきり出てこない彼女を、Aigisたちは心配していた・・・・・ついでに水着姿を拝みたいとも思っていた。

ちなみにアーキテクトは来ていない。流石に本社機能を完全に止めるわけにはいかないことと、サボりすぎてすでに有給を全消化済みであるからだ。

 

 

「・・・・・・なぁ兄弟」

 

「なんだ兄弟」

 

「やむを得ない状況って、あると思わないか?」

 

「・・・・・・例えば?」

 

「安否確認のために、更衣室に入るとか」

 

『・・・・・・・・・・』

 

 

右を見る。誰もいない。

左を見る。小さい子供が遊んでいる。

正面を見る。観察を続けているので、今はゲーガーしか入っていないことは把握済みだ。

 

 

「・・・・・・・ヨシ」<指差し

 

『突撃〜〜〜〜!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわっ!? い、いきなりなんだお前ら!?』

 

『隊長、ご無事ですか!?』

 

『隊長があまりにも遅いので待ちきrゲフンゲフン心配して見にきました!』

 

『それだけのために入ってくるな! しかも女性更衣室だぞ!』

 

『我々には厳密な性別は設定されていません!』

 

『つまり合法!』

 

『んなわけあるかぁぁぁぁあ!!!!』

 

 

 

今日も鉄血工造は平和だった。

 

 

 

 

 

 

 

case3:ユウトとM16とRO

 

 

「はぁ〜・・・・たまにはいいなぁ」

 

 

人工砂浜と林の一角、木に釣られたハンモックに揺られながら微睡むユウトがそう呟く。

生前(?)から運動不足どころか日に当たることも少なかったため、正直海とか苦手だったのだ。その点ではこの施設なら空調も効いているし、日に焼ける心配もない。

泳ぐつもりもないので、このまま日がな一日寝ていよう・・・・まだ若いのにそんな年寄りじみた発想に至るユウトだが、そうは問屋が下さない。

 

 

「おいおいユウト、せっかくプールに来てそれかよ」

 

「もったいないですよ、ユウトさん」

 

 

その声に目を開けると、ハンモックの両サイドからM16とROが覗き込んでいた。二人ともシンプルな色合いの水着に、ROは上から薄手のパーカーを羽織っている。M16のスラッとしたスタイルは大人な女性の魅力があり、逆にROは年相応の可愛らしさがある。

そんな誰もが羨む『両手に華』な状況であっても、残念ながらユウトの中では惰眠が勝りつつあるようだ。そんな状況にM16とROは顔を見合わせると、無言でハンモックに掴みかかり、結構な勢いで横に揺らし始めた。

もともと揺れるようにできているハンモックを、人形二人分の力で揺らすのだ。当然、ユウトはなんとか振り落とされないようにもがき始めるが、何かをつかもうとするその手は空を切るばかり。

 

 

「わわわっ!? ふ、二人とも危ないって!?」

 

「観念しろユウト!」

 

「おとなしく私たちとプールを満喫しましょう!」

 

「ちょっ、やめっ、お、落ちるっ!?」

 

 

まるでブランコのように揺らされ、気が付けば左右90度くらいまで振り回されるユウト。さすがにここまでされてしまえば休む休まない以前の問題なので、渋々ながら起き上がることにする。

・・・・・が、ただでさえ不安定なうえに揺れまくっているハンモックで起き上がると

どうなるか、それは火を見るよりも明らかだった。

 

 

「っ!? うわっ!?」

 

「「ユウト(さん)!?」」

 

 

バランスを崩し、しかも足がハンモックに引っかかって面白いように崩れ落ちる。M16とROが慌ててそれを支えようとするが、あと一歩遅くそのまま落下してしまう。

 

 

「きゃっ!」

 

「痛てて・・・・・あれ? 痛くない?」

 

「ゆ、ユウト・・・・その・・・・・」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

襲い掛かるであろう衝撃に備えてみたが、意外なほど痛くもなんともなかった。まるで上質なクッションに受け止められたかのように、ユウトには痛みなど何もなかったのだ。そして実際、上質なクッションというのはあながち間違いでもないようだった。

ユウトが顔を上げると、驚くほど近い距離にある彼女(M16)の顔・・・・・そして下を向けば、ふんわりとした弾力を感じる二つの山が。

 

 

「わぁっ!? ご、ごめんM16!?」

 

 

事故とはいえ、白昼堂々と人前で胸に顔をうずめていたのだ。その事実に顔を真っ赤にしながら飛びのくと、フリーズしていたM16もゆらりと起き上がる。

うつむいた顔から表情は読めないが、小さく震える肩から、ユウトはとんでもないことをしてしまったと後悔する。

とにもかくにも謝らねば、そう思い声をかけようとするも、それよりもわずかに先にM16ががばっと立ち上がった。

 

 

「・・・・う・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁああああああ!?!?!?!?!?」

 

「「え、M16!?」」

 

 

期待・後悔・羞恥・歓喜・・・・・・そんなものがごちゃ混ぜになったままオーバーヒートした思考のまま、M16は砂浜を走り出す。

唖然とするユウトとROだったが、ハッと我に返ると慌てて追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、青春してるねユウト・・・・お姉ちゃんうれしいよ」

 

「M16姉さんのあんな悲鳴、初めて聞きました・・・・・」

 

「あの様子じゃ、先は長そうだね」

 

 

彼らに進展はあるのだろうか・・・・とりあえず今年中にちょっとは進めばいいかなぁ、と暢気に考える三人だった。

 

 

 

 

 

 

end




気が付けば八月も終わり・・・・時が経つのは早いですね。
あれほど連日報道だったコロナも、いつの間にか受け入れられて・・・・いやぁ人間って強いなぁ。


それはそれとして、今回のキャラ紹介


Ameli
誰もが思ったであろう・・・・ビーチボールが三つある、と。
ハイエース不可避だけどMGを振り回せるくらいには強い、それが戦術人形。

DSR-50
Ameliをはじめとする人見知り人形たちの見守り役を命じられた人形。
一見不真面目な行動や言動だが、仕事はきっちりこなすあたり有能である。

チャラ男
残念ながらこの作品は全年齢向けなので彼らの運命は決まっている。

ゲーガー
鉄血工造輸送部隊隊長で、社を仕切るトップの一人。
常に暴走する同僚と部下でたまった疲れを癒しに来たはずなのだが・・・・・どうにも彼女はそういう星の運命にあるらしい。

Aegis
自称、性別:なし
外見はいたって普通のAegisなので、当然ながらレジャー施設ではいらん注目を浴びる。
安全確認・・・・ヨシッ!

ユウト
引きこもり・・・・というほどではないが慢性的な運動不足。
最近、ハーレム系主人公並みのラッキースケベが多い気がする。

M16
眼帯のお姉さん。作者の中では艦〇れの〇龍と結構被る。
基本は姉御肌なのにいざってときは乙女になるってアリですよね?

RO
生真面目風紀委員長系・・・・なキャラはどこかへ行った。
こっちもこっちであと一歩が踏み出せない。


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第百八十一話:新人二名の珍道中

クッソ暑かったりいきなり雷雨になったりすると鬱陶しく思う人もいると思いますが、セミの鳴き声と一緒でそれが夏っぽいなと感じて僕は好きです(唐突)

ところで昨晩9ちゃんとデートする夢を見たんですがこれって予知夢でしょうか?


 欧州の一角に存在するS09地区の街は、世界各地にある同様の地区の中では比較的小さい部類になる。歴史的な街並みを多く残し、地区外周の一部には城壁の一部と思しき建造物もあるなど、発展都市というよりも観光都市のイメージが強い。実際、欧州の観光局の公式パンフレットにも紹介されており、毎年少なくない数の観光客が訪れる街だ。

 その一方で、この地区に集結する戦力は他を圧倒し、そこらの小国程度なら十分渡り合えるほどの戦力を有する。特にこの地区を管轄とするG&K S09地区司令部はグリフィンの中でも指折りの規模を誇り、また所属する人形たちの練度も高い。これに加えて小規模ながら軍の駐屯地もあるなど、もはや過剰戦力ともいえる有様なのだ。

 

 

「つまり! この地区には何かあるはずなんだよ!」

 

「・・・・・その話、もう五回目だよ『MDR』」

 

 

 正確には()()()()()五回目だけど、と愚痴をこぼして顔をしかめながら、戦術人形『AA-12』はハンドルを握りなおす。舗装された高速道路は平日ということもあって車もまばらで、仕事前のドライブにはちょうど良い感じだったのだ。もっとも、隣で無駄にハイテンションで話しかけてくる同僚さえいなければ、の話だが。

 

 

「いやいや、気にならないはずないじゃんか! 確かにあの鉄血の本社が近いってのはあるかもしれないけど、それだけじゃこの戦力は説明できないでしょ」

 

「はいはいそうですねぇー・・・・・いいからちょっと黙っててよ」

 

「もぅ、暇なんだからいいじゃんか~! それよりまだ着かないn「アー手ガ滑ッター」ぎゃぁあああああ!!!???」

 

 

 車が少ない時の高速道路の平均速度は100キロを超える。そんなスピードで突然車を横に振ればどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。バンの後部座席に積み込んである荷物はしっかりと固定されているが、どうせ大丈夫だろうと高をくくってシートベルトを外していたMDRはたまったものではない。

 こんなやり取りをすでに三回ほど繰り返しているのだが、そんなことをしたところでMDRは黙らないし目的地・・・・S09地区も近くなるわけでもない。強いてあげれば、AA-12の気分が少しだけ晴れるくらいか。

 

 

「痛たたた・・・・死んだらどうするのよ!?」

 

「メンタルモデルのバックアップは取ってあるでしょ? じゃあ大丈夫だよ」

 

「そん時はこの車のドラレコ晒してやるからね!」

 

「あーもう煩いなぁ・・・・・ん?」

 

 

ウ―――――(赤青のランプ)

 

 

「「あ・・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西日が差し込み始めたのを確認し、徐々に日照時間が短くなりつつあることを感慨深く思いながら窓のブラインドを下ろす。外では学校帰りの子供たちが元気よく駆け抜け、入れ違うように主婦たちがタイムセール目当てに通りへと向かう。

 そんな夕方の賑わいの中、喫茶 鉄血にも仕事終わりの癒しを求めて客足が増え始める。反対にPCを広げて仕事をしていた客層が帰り始めるため、平日のこの時間帯は客の入れ替わりが割と激しかったりする。加えてこの仕事終わり組にはこの店の常連でもある戦術人形たちも含まれるため、むしろこれからの方が忙しいこともあるのだ。

 

 

「まったく・・・着任初日から遅刻なんて弛んでるわ!」

 

「まぁまぁWAさん、きっと何か事情があったのでしょう」

 

「仮にそうだとしても、それならそれで一言連絡があってもいいと思わない?」

 

 

 今日は職場で不満なことでもあったのか、カウンターに肘をつきながらWAが愚痴をこぼす。同僚のスプリングフィールドが宥めてはいるが、職務にまじめな彼女からすれば許されざる行いのようだ。そして何より、その出迎えに抜擢されたために今日一日をただ待ちぼうけることになったのが許せないらしい。

 だがそこまで滅茶苦茶に怒っているというわけでもないらしく、その証拠にマグカップに注がれた熱いココアをチビチビと飲んでは、その表情をへにょっと緩める。指揮下曰く、「小動物的な可愛さ」があるのだとか。

 

 

「スプリングフィールドさんの言う通りですよ。 それに、いつまでもむくれた顔は似合いませんよ」

 

「むぅ・・・・代理人が言うならそうするけど」

 

「あら? 私ではダメなんですかWAさん?」

 

「あんたにも言いたいことが山ほどあるんだけどね、主に指揮官絡みのことで」

 

「え? 私と指揮官の絡みについて!?」

 

「「そうじゃないわよ(ありませんよ)」」

 

 

 そんな感じで接客と片づけをテキパキこなす代理人だったが、ふと店の前でに子供たちが集まっているのを見つける。その傍らには小型のバンが止まっており、見切れていてよく見えないがグリフィンの社章が描かれているようにも見える。

 

 何かあったのだろうか、と様子を見に行こうとした代理人の前で扉が開き、やや疲れた様子の二人組が入ってきた。

 

 

「つ、疲れた・・・・・・」

 

「ガキンチョのあのテンションマジ無理」

 

 

 現れた二人・・・・AA-12とMDRは、大きなため息をつきながら床にへたり込む。どうやら普段見慣れない人形ということもあって、子供たちの注目を集めてしまったようだ。

 そして二人は息を整えると互いにキッとにらみ合い、一瞬早く動いたMDRがAA-12に覆いかぶさった。

 

 

「元はと言えば、AA-12が近道しようとか言い出したせいでしょ!」

 

「誰のせいでそうしなくちゃいけないほど遅刻してると思ってんのよ!」

 

「ハイ残念、危険運転は私の責任じゃないよーだ!」

 

「あんたが騒がしいのが原因でしょ!」

 

 

 といきなり始まるキャットファイトに、店内は騒然とする。両手を組み合ったままMDRがマウントを取り続けるも、出力で勝るAA-12を押し切ることができない。一方でAA-12もマウントを取られたせいで思うように反撃できず、互いにできることと言えば()()くらいなものだった。

 

 さて、そんな感じで周りの目も気にせず熱くなる二人だが、それに臆することなく近づく者たちがいた。そのうちの一人はツカツカとわざとらしく足音を立ててMDRの後ろに回ると、スッとその首に両腕を伸ばし・・・・・・

 

 

「・・・・・フンッ!」

 

「っ!?・・・・・キュゥ」

 

「え、MDR!?」

 

 

 ろくな抵抗すらできずに締め落とされた同僚を受け止め、そしてゆっくりと顔を上げる。

 そこにいたのは、まるで聖女のような笑みを浮かべたWAだった・・・・・もっとも、その背後から黒いオーラのようなものが噴き出ているようにも見えるが。

 

 

「あ・・・あぁ・・・・・」

 

「・・・・・代理人」

 

「なんでしょうか」

 

「ちょっと部屋借りるけど、いいわよね?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「ありがとう・・・・・じゃあAA-12、来なさい」

 

「え・・・えっと・・・・・」

 

「来・な・さ・い」

 

「は、はいぃぃいいいいいい!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「大変申し訳ございませんでしたっ!!!」」

 

 

 長針が半周ほどしたころ、スプリングフィールドに呼ばれて三階の空き部屋に入った代理人を迎えたのは、お手本のようにきれいな土下座で謝罪の言葉を述べるAA-12とMDRだった。その後ろではWAが妙にやり切った顔で腕を組み、隣のスプリングフィールドが苦笑している。

 AA-12の方はともかくとして、MDRには大きなたんこぶができていることから、おそらく反抗して返り討ちにでもあったのだろうと推測できる。平和ゆえに実戦は少ないが、WAの練度はそれなりにあるのだ。

 

 

「いったい何をしたんですかWAさん?」

 

「別に、ただちゃんと謝るようにって言っただけよ」

 

「嘘つけ」

 

「MDRはこの後居残りね」

 

 

 冷酷な判決に土下座したまますすり泣くMDRは置いといて、代理人も反省の意思があるのならばと許すことにする。実際のところ、店の中で暴れただけで大した迷惑にはなっていないのだが、WAがせっかく怒ってくれたようなのでそのままにしておいた。

 

 

「二人とも、もう十分ですよ」

 

「え、本当!?」

 

「あんたはもうちょっと反省しなさい!」

 

 

 いい笑顔で顔を上げたMDRに拳骨が下る。そして食らった本人以上にビビりながら顔を上げたAA-12は、ふと代理人が持つトレーから漂う甘い香りに反応した。

 まるで子犬のようなそのしぐさに代理人はくすっと笑うと、トレーの上のものをテーブルに並べ始める。

 

 

「あ、お手伝いしますよ代理人さん」

 

「ありがとうございますスプリングフィールドさん」

 

「え、あの、これはいったい・・・・?」

 

「ふふふ・・・ここはカフェですから、ケーキやココアくらいありますよ」

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

 

 怒られたかと思えばもてなされ、訳も分からないまま椅子に座らされるAA-12の前にケーキとココアが並ぶ。いつの間にか復活していたMDRもしれっと座っており、ものすごい勢いでシャッターを切りまくっている。

 

 

「『【レビュー】巷で噂の名店の味』、っと・・・・さてさてお味の方は」

 

「・・・・ねぇAA-12、こいつっていつもこんななの?」

 

「まぁ、その・・・・はい」

 

「う~ん美味しい! 流石は『戦術人形大アンケート! みんなが選ぶ基地周辺の名店』に選ばれるだけあるね!」

 

「MDRさん、あまりネットの情報を信じすぎるのはどうかと」

 

「あれ? 代理人知らないの?」

 

「グリフィンの社内報に連載されているコーナーなんですよ、それ」

 

 

 ちなみに、件のコーナーで喫茶 鉄血が取り上げられたのは一度きりではなく、そのため本部勤めの人形や若い女性職員を中心にS09地区への転属願いが後を絶たないという。過去には社内イベントの景品の一つに『喫茶 鉄血での優雅なひと時・S09地区二泊三日の旅』というものがあったほどだ。

 そんなわけで、少なくともグリフィンの中ではかなりの有名店として名をはせている喫茶 鉄血だが、いまでもごく平凡な喫茶店だと思っているのは代理人くらいだろう。

 

 

「あ、せっかくだからツーショットとかいいかな代理人?」

 

「え? 別に構いませんが・・・・・変なところには載せないでくださいよ」

 

「大丈夫大丈夫、ちょっと向こう(本部)の同期に自慢するだけだから!」

 

 

 マイペースに周りを巻き込むMDRはひとまず放っておき、AA-12は目の前のケーキをフォークで切り分け、口に運ぶ。砂糖の甘さとイチゴの酸味、スポンジもほんのり甘く、それでいて甘ったるくはないという絶妙なバランス。常にロリポップを持ち歩くほどの甘党だが、これくらい控えめな甘さでも美味しいと思えるのは久しぶりのことだった。

 気づけばもう一口、もう一口と手が伸びる。その様子を、WAとスプリングフィールドが微笑ましく見守っていた。

 

 

「喜んでもらえたようね」

 

「そうですね・・・・WAさんが手配した甲斐がありますね」

 

「ちょっ、それ言わない約束でしょ!?」

 

「え!? じゃあこれってWAさんの・・・・・」

 

「あぁもう絶対気を使うと思ったから言わなかったのに・・・・」

 

 

 ニコニコと笑うスプリングフィールドを恨めし気に睨むと、観念したように溜息を吐いてからAA-12に微笑みかける。

 

 

「・・・・・ま、初日からやらかしてくれたけれど、もうそのことはいいわ。 ようこそ、S09地区へ」

 

「これはささやかな歓迎会ですよ」

 

 

 ポカンとしたまま固まるAA-12に、二人は手を差し出す。それに気づき慌てて握手を交わすAA-12に、WAもスプリングフィールドもクスっと笑ってしまう。

 もちろん正式な手続きや指揮官へのあいさつはまだだが、ひとまずはこれで、この地区の仲間として認めてもらえたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・『【朗報】ワーちゃんはやっぱりツンデレ』、っと」ピコンッ

 

「MDRッ!!!!」

 

「ひぎゃぁあああああああ!!!!!????」

 

 

end




文才とタイピングスピードと発想力とリアルラックが欲しい・・・・・とはいえ今のところ「もうめんどくせぇ」とはなっていないので大丈夫だと思う今日この頃。
でも書きたいときに思い浮かばず、仕事中にふと案が出てくるこの脳みそだけは何とかしていただきたいです。


まぁそれは関係ないとして今回のキャラ紹介。


AA-12
この作品ではごく最近製造された人形。フルオートショットガンというロマン武器。
一見適当そうだが上下関係を含め規律はしっかり守ってくれる。
飴玉を常備している→超甘党という設定。そこから派生して苦いものが大の苦手。チョコやココアもカカオ率が高いとダメ。
MDRに苛立ち免許は減点され着任には遅刻しWAに説教されるという踏んだり蹴ったりな一日。

MDR
AA-12と同時期に製造された新型。ネットサーファー兼荒ら師。
今後出てくるかわからん設定として、個体ごとにお気に入りの端末が異なる。彼女の場合はスマホに外付けのキーパッドを取り付けたなんちゃってガラケー。
中身も相応に適当でお調子者。そして反省後即再犯する厄介なタイプ。
食いつきそうなネタは見逃さない・・・・某重巡や某鴉天狗っぽい。



最近全く応えられていませんが、リクエスト用の活動報告置いてます。
コラボの依頼もあれば是非!(世界線違いすぎて大規模コラボに参加できない泣)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543


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第百八十二話:ライバル?

コラボイベント始まりましたね。
それにしても秩序乱流といい今回といい、指揮官は指揮官やめて役者にでもなればいいと思うの。


 雲ひとつない夏空、石畳に照り返す熱、しかし全体的に湿度が低く風もいい感じに吹き、実に過ごしやすい一日となっている。さすがは春の陽気とは比べるべくもないが、それでもここ最近の中では穏やかな気候であろう。そのためか、喫茶 鉄血も店先に椅子とテーブル、それを覆うほどのパラソルを立てた屋外席を設けている。路地裏ということもあって適度に影が入り、実気温ほど高く感じないようだ。

 そんなテーブル席の一つで、何かの本を読む女性がいる。知らぬものが見ればまるで育ちの良いお嬢様かと思うほど柔和な笑みを浮かべているのは、この店一番の常連と言っても過言ではないライフル人形、ダネルNTW-20である。

 

 

「お待たせしました、アイスティーとティラミスです」

 

「あぁ、ありがとう代理人」

 

「随分と楽しそうに読んでいますが、何の本なのですか?」

 

「ん? これか?」

 

 

 代理人は純粋な興味本位で尋ねた。ダネルの持っていたものはやや大きめのハードカバー本のようで、外には簡素なブックカバーを付けているため表紙が見えない。それに代理人と向き合うような形で座っているため中も見えず、それ故に()()()()()()()のだ。

 ダネルはふぅっと息を吐くと、持っていた本をくるっと回した。

 

 

「私の『代理人コレクション』だ。 少し前に製本の依頼を出していたのだが、それが今朝届いたのでな」

 

「捨ててください、可及的速やかに」

 

 

 ダネルが熱心に読みふけっていたもの、それはダネルが何度も通い詰めることでひそかに撮り続けた代理人の写真を収めたアルバムだった。まともな本と見まごうほどの厚さと無駄に丁寧な仕上がりに、相当値が張ったであろうことは想像に難くない。実際なかなかにいいお値段がしたのだが、ほかに趣味やらお金の使い道のない彼女には大した障害とはならなかったようだ。

 なお、製本の依頼は司令部の万能後方幕僚ことカリーナを通しており、彼女もノリノリで協力していた。

 

 

「本当はカバーを付けるつもりはなかったのだが、流石にな」

 

「その様子ですと、表紙も私なのですね」

 

「もちろんだ。 一冊丸ごと代理人の、この世に二つとない宝物だぞ」

 

 

 ちなみに表紙は入店した客を迎える彼女の写真、裏表紙はいつぞやの旅館で記録した寝顔である。とてもではないがそのまま外で開けるようなものではない・・・・・もっとも、ダネルは躊躇なく持ち運びそうだが。

 

 

「まったく・・・一体いつの間に撮ったんですか?」

 

「撮った、というよりは記録として残していたという方が正しいな。 そういう意味では、私は人形であることに感謝している」

 

 

 要するに、彼女は戦闘記録用レコーダーから代理人の姿だけを選び抜き、それをワンシーンずつ丁寧に並べて製本したのだ。見たものをそのまま記録できる人形ならではのものであり、そして残念ながら『盗撮』には当たらない事例だ。

 代理人は諦めたように溜息をつき、申し訳程度に警告することにした。

 

 

「・・・・作ってしまったものは仕方ありません。 ですが、あくまでも個人での利用にとどめるようにしてくださいね」

 

「もちろんだ」

 

「それと、今後は自粛していただけると助かります」

 

「いや、それはちょっと・・・・・」

 

「そうですか、では大変心苦しいですが強制措置(出禁)をとるしか」

 

「自重シマス」

 

 

 ダネルの扱いを心得るようになってきた代理人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが代理人ね? 写真もいいけど、やっぱり本物の魅力には及ばないわ!」

 

 

 ダネルの代理人愛炸裂(いつもの)から丸一日たった今日、見慣れぬ人形が現れたと思ったらそんなことを言い出した。

 褐色肌に防弾アーマー、肩から下げた散弾銃となかなかに特徴的な彼女の名は『Saiga-12(サイガ)』、グリフィンの最新鋭SG人形だ。どうも先日のAA-12といい、グリフィンはSGタイプの人形開発に力を入れているらしい。

 そしてそんな彼女の右手には、ダネルが持っているものと同じ()()()が収まっていた。

 

 

「・・・・・ダネルさん?」

 

「ま、待て代理人! 誤解だ!」

 

「では、これが彼女の手の中にある理由を伺っても?」

 

 

 割とマジで怒っている代理人に、ダネルは涙目になりながら説得を試みる。しかし事実として二冊目がそこにあり、残念ながら無実を証明する手段もなく、昨日の今日なので疑われても仕方がない立場でもあった。

 このままではいよいよ出禁コース、というところで助け舟が出る。あのサイガだ。

 

 

「大丈夫よ代理人、彼女は一応関係ないわ」

 

「一応、というところが気になりますが・・・・ではそれをどこで?」

 

「ふふふ、それはもちろん・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配達の時によ!」

 

「配達員が中身を見るな!!!」

 

 

 経緯をまとめると、ダネルが注文したものを最初に受け取ったのがサイガだったようだ。人形の多い司令部では直接個人に届けられるのではなく、ひとまず荷受け係によって受け取られるのだが、その日の当番が彼女だったらしい。

 そして無駄に厳重かつ品名不明のそれにちょっとした好奇心が芽生えた彼女は気づかれないように箱を開けて中身を確認、ダネルの盗撮紛いと同様の手口をもってして同じ写真を手に入れたのだった。

 確かによくよく見れば、本のサイズや作りがダネルのものと異なるように見える。が、代理人からすれば中身が同じであるのならば同じものという認識だ。むしろカバーもつけずに持ち歩くあたり、ダネルよりもたちが悪い。

 

 

「あなたの写真を見たとき、私は衝撃を受けたの。 あぁ、なんて美しい女性なのかと!」

 

「は、はぁ・・・・・」

 

「写真だけじゃ満足できなくてこうして会いに来たのだけど、やっぱり本物は一層綺麗でカッコいいわ!」

 

 

 大仰に語るサイガの姿に、代理人はふと妙な既視感を覚える。もちろん彼女とは初対面だが、熱く語るしぐさやその対象が自分であることなど、どこか身近に体験したことのように思え・・・・・・あ。

 

 

「・・・・・・・」

 

「な、なんだ代理人?」

 

「いえ、なにも」

 

 

 たじろぎながら首をかしげるダネルに、代理人は何とも言えない表情で返す。今でこそ大人しく(?)なったが、かつてのダネルは注文よりも先に告白してくるような勢いだった。むしろ注文などついでのような感じではなかっただろうか。

 このサイガからは、そんな在りし日のダネルと同じ匂いがする。

 ということは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、あなたは私の運命の人よっ!」

 

「んなっ!?」

 

「・・・・・・はぁ」

 

 

 外れてほしく、しかし半ば確信に近かった台詞が飛び出す。ある意味宣戦布告ともとれる言葉にダネルが驚愕の色を浮かべ警戒を高めるが、そもそもダネルにチャンスのかけらもないことなど言うまでもない。

 だが事態はそんな当人を無視して進んでいく。

 

 

「お前に代理人は渡さん!」

 

「んん? まだ誰のものでもないでしょ? じゃあいいじゃない」

 

「断る。 パッと出のやつの譲る義理はない!」

 

「あの、お二人とも・・・・・」

 

「今の今まで特に進展もなかったんでしょ? もう脈なしなんじゃない?」

 

「ま、まだわからないだろ!」

 

「いえ、脈なしなのは事実ですが・・・・」

 

「いつまでも足踏みしてるなら、横取りされても文句は言えないわよね」

 

「横取りの自覚があるならやめろ!」

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 

 代理人の静かなため息は、しかし二人に届くことはない。ダネルは今にも掴みかかろうとする勢いで、サイガも徹底抗戦の構えを見せている。だがそれ以外の者には、代理人を中心に室温が2~3度ほど低くなったような錯覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!

「「っ!?」」ビクッ

 

 

 突然の物音に体を縮こませ、音の発信源を探る二人。それは二人のちょうど中間・・・・代理人がいるあたりのテーブルに深々と刺さっているフルーツナイフからだった。恐る恐る視線を上げ、持ち主の顔色を窺うと・・・・・・

 

 

「「ヒッ!?」」

 

「・・・・・お二人とも、まだ続けますか?」

 

 

 いつもの優しい無表彰でもなく、怒ったときの不気味な笑みでもなく、それはまるっきり感情の感じられない無表情だった。人形であるのだから当然だが、例えるのならまさに『人形のような』といえるくらいだ。口角も眉も動かず、その目は冷たく二人を見つめている。

 聞くまでもなく、代理人はキレていた。

 

 

「あ、その、代理人・・・・」

 

「えっと・・・・・」

 

「・・・・まだ、続けますか?」

 

「「いえ! もう大丈夫です!!!」」

 

 

 この日、たまたま店にいたG11はのちに語る・・・・・代理人を怒らせてはいけないのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ではその本(諸悪の根源)は渡していただきましょう」

 

「え、いやそれはちょっと・・・・」

 

「ダネルさん、あなたもですよ?」

 

「な、待ってくれ代理人、私は今回被害者寄りだぞ!?」

 

「・・・・・それが何か?」<ナイフを抜きつつ

 

「「納めさせていただきます!」」

 

 

 

 

end




おかしい・・・秩序乱流よりも簡単だと聞いてたのにそこそこむずいぞこのコラボ
というか雑魚キャラがスキル使用とかやめてください死んでしまいます(SGが)

それはそれとして、ガンスリンガーガールをほとんど知らない作者でも楽しめるイベントでしたね。コラボキャラが最初からボイス付きなのも初めてかも?
さぁあとは堀周回のみ・・・・・任せたぞM16姉さん(無慈悲)


では、今回のキャラ紹介

Saiga-12
新型SGタイプの人形。そして異性だけでなく同性もイケる・・・いや、むしろ同性よりなやべーやつ。
褐色肌に白寄りの服装という一目で目立つ風貌にレズで潔癖症・・・どんだけキャラ設定が濃いんだコイツ。
代理人にガチで恋したというわけではなく、どちらかというとゲッコーのように手当たり次第に愛をささやきたがるタイプ。

ダネル
目で見たものをアウトプットしただけだから盗撮じゃない、という謎理論を盾に合法(?)的に代理人の写真を持ち運ぶ。
別に躊躇しているというわけではないが、代理人にソッチの気がないため望み極薄。

代理人
流石にキレた。


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第百八十三話:私に足りないもの

それは!
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!

そして何よりもぉぉおおおおおおおお!!!!
(以下、後書きに続く)


 真夏を過ぎ、徐々に暑さも和らいできた今日この頃。世間の流れは早いもので、すでに秋ムードに移りつつある大通りを中心に、S09地区の各地で秋の足音を鳴らし始めていた。すでにいくつかの飲食店や雑貨店はハロウィンシーズンに向けた商品を並べ始め、アパレルショップは秋をイメージしファッションを展開する。

 そんな季節が変わりつつあるこの地区で、年がら年中春のような空気を放ち続ける者たちがいる。

 

 

「はい416、あ~ん!」

 

「あら、気が利くじゃない9。 じゃあお返ししないとね」

 

「えへへ、いいよお返しなんt(チュッ)・・・・!?!?!?」

 

「ふふっ、ご馳走様」

 

 

「・・・・・・あの二人、よくもまぁ毎日飽きないわね」

 

 

 周囲の目も気にせず、というかまるでこの世界にはあの二人しかいないとでも思っているほど堂々といちゃつく戦術人形カップル、HK416とUMP9。初めのころこそ周囲も囃し立てたり赤面したりしたが、今では当たり前すぎて誰もが受け入れてしまっている。時々現れるまだこの辺りに慣れていない者がびっくりするのを見るたびに、「あぁまだ染まってないんだな」とどこか達観した感想を抱くほどだった。

 そんな全方位フルオートラブコメ臭放射人形たちの御用達、グリフィンの人形たちに圧倒的人気を誇る喫茶 鉄血では、今日も変わらぬ平和なひと時が過ぎていった。

 

 

「まぁまぁ45さん、二人が幸せそうならいいじゃない」

 

「そうは言うけどねG28、あれをほぼ毎日見せられてる私の身にもなってみなさいよ」

 

「そぉ? 私なら毎日見てても飽きないと思うよ」

 

 

 桃色空間に浸る二人を、離れた席から見守るのはそれぞれの姉妹であるUMP45とGr G28。とくにG28は、昔よりもよく笑うようになった姉の姿を楽しそうに眺め、時折つられて笑ったりもしている。一方の45はすでに糖分過多な様子で、ブラックコーヒーも味覚センサーの故障を疑うほど甘ったるく感じている。

 なお余談だが、以前ジェリコから公私の区別をつけるようにときつく言い渡されて以降、二人は任務中にイチャつくことはなくなった。その反動なのか休みの日はそれまで以上となり、あのジェリコでさえ「これ以上抑圧すればどうなるか分からん」と言って諦めたほどだった。

 

 

「そ、それでね、今度二人でどこか出かけようかなって・・・・」

 

「あら、デートのお誘いかしら? じゃあ外泊許可も取らないとね」

 

「ふぇ!? も、もう!」

 

 

 押し寄せるラブコメの波に抗うべく、45は残りのコーヒーを一息に飲み干す。だがそれでも口の中に直接砂糖をぶち込まれたような甘ったるさから逃れることはできず、もはや胸焼け一歩手前のグロッキーモードに突入する。だが妹一筋、シスコン会会長としてその恋路は祝福しており、現実を受け入れるほかなかった。

 そんな小隊長殿の気苦労など知る由もなく、この日も公共の場でできるぎりぎりのとこまで盛り上がった9と416であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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四日後

 

 

カランカラン

「いらっしゃいm・・・・・・・」

 

「ん? どうした代理n・・・・」

 

 

 呼び鈴を聞きつけ、いつものように出迎えようとした代理人とゲッコーは、しかし入り口に立つ人物に言葉を失った。その人物はフラフラとした足取りで()()()()()()()に座り、ゴンっと鈍い音を立てて項垂れた。

 そのただならぬ様子に店内はざわめき、いち早く復帰した代理人の指示でDたちが落ち着かせる。とはいえ気になるものは気になるようで、静かにはなったもののチラチラと様子を伺う客がほとんどだった。それは代理人も同じで、しかし俯せたまま微動だにしない彼女になんと声をかければ良いか迷っている。

 そんな混沌とした様子の喫茶 鉄血に、また別の客が慌てた様子で現れた。

 

 そんな混沌とした様子の喫茶 鉄血に、また別の客が慌てた様子で現れた。

 

 

「代理人! こっちの416が・・・・」

 

「あ! 見つけた!」

 

 

 軽く息を整え、45とG28は混乱の震源・・・・どう見ても様子のおかしいHK416を起こそうとする。ますます事情の分からない代理人だが、ここでふと違和感を感じた。いつもならこういう時にいるはずの人物がおらず、ましてやその人物が今の416を放っておくはずがないのだが。

 一応周りを見渡し、それでもいないことを確認してから代理人は45に聞いた。

 

 

「あの、45さん・・・・9さんは今日は?」

 

「・・・・あー、それが今回の原因というかなんというか」

 

 

 チラッと移した45の視線に合わせて、代理人も416を見る。どうやらさっきの『9』に反応したらしく、まるで幽鬼のようにゆらりと顔を上げた416はゆっくりと代理人たちの方を向いた。その瞳に光はなく、目の下には深い隈が出来上がり、いつもきれいにたなびいていた髪はぼさぼさのまま・・・・・もはや普段の面影の欠片もないありさまだった。

 重症だ。そして『9』という言葉に反応したということは、ここにいない彼女が原因なのだろうと代理人は推測する。

 

 

「45さん、もしやあの二人が喧嘩を?」

 

「それならまだましだったかもしれないけど、違うのよ。

4日前くらいにここに来てたでしょ? あの後9が本部に行っちゃったのよ」

 

 

 ちなみに9が本部に召集された原因は研修と定期報告。前者はともかく後者は基本的に本社まで行く必要はなくメールで送ることになっているのだが、9はそれをすっかり忘れていたらしい。よって今回、9も含めた連絡忘れ組が本社に出向いているということになる。

 

 

「で、今日9が帰ってくる予定だったんだけどね・・・・・」

 

「・・・あぁ、そういえばニュースになっていましたね、鉄道のトラブルが」

 

 

 S09地区から本社へと向かう際に乗ることになる鉄道、その一角で架線トラブルが発生し、今朝から運転見合わせになっていることが報じられていた。通勤通学その他あらゆる活動に影響が出ているようだが、そこそこ大きなトラブルらしく再開のめどはたっていない。

 すでに本社からの連絡があり、出向中の人形は本社の宿舎に泊まらせ、本日夕方の運転状況に合わせて対応するとのころ。ただし急ぎではないため本社の輸送ヘリによる送迎は行わないため、鉄道が動くのを待つか空路を使うかとなる(もちろん経費)。

 

 

「今朝の416の行動はすごかったわよ。 ニュースを見るや指令室に突撃して、帰れないって知ったらスプリングフィールドのカフェでお酒飲んで、そのままフラフラと街に出るんだから」

 

「誰も止められなかったというか、状況を呑み込めていなかった感じですけどね」

 

「慌てて追いかけてみたけど、こんな状態のくせに結構早く歩いちゃってて、思い当たりそうなとこでここに来たのよ」

 

 

 要するに、9に会えないという現実を受け入れられずに自棄になってしまったのだろう。おそらくは出向期間は仕事と割り切って待っていたのだが、出迎える気で起きてみればそんなニュースだ。さらに一日会えないとは考えてもみなかったらしい。というわけで9レス一日目にしてすでに限界を迎えてしまった416は、最後の思い出にすがるようにここへやってきたということだった。

 代理人以外の店員や客たちも事情を知ると少し同情の念を抱きつつ、一先ず大きな問題ではないとして関心から外した。一方で代理人は店のことをDに任せ、高速修復材すら受け付けなさそうな状態の416の相手をすることにした。

 

 

「あの、416さん?」

 

「・・・・・・」

 

「大丈夫ですよ、9さんも明日には帰ってくるでしょうから」

 

「・・・・・・ふぇえええぇぇぇぇん」

 

 

 どうやら今日は9がいないことを再認識させてしまったらしく、慰めるつもりが余計に泣かせてしまったようだ。完全にメンタルがおぼろ豆腐と化した416はグズグズと泣きながら「私の辞書に『完璧』なんてないのよ」とか「所詮M4の劣化コピー」などと自虐まで始める始末。少量とはいえアルコールが入っていることもあって代理人の説得も聞かず、むしろ悪化していくのだった。

 妹のG28はすでに説得を諦めた。45もそうしたいところだったが、部隊長という肩書故に部下のコンディション改善もしなければならないのも事実。代理人に相談すればもしやとも思ったが、流石にこれは無理だったようだ。

 

 

「なんとかしないと・・・・・最悪ジェリコのやつの制裁が下ってしまうわ、私に」

 

「でも、この状態の416ってジェリコさんでもどうしようもないかもよ?」

 

「ほかに相談できる方はいないんですか?」

 

「いるにはいるけど、解決になりそうなのっていうとあんまり・・・・・・あ」

 

 

 片っ端から交流のある人物を思い浮かべ、ある人形にたどり着く45。彼女自身もなどか相談に乗ってもらい、そして道を示してくれたこともある頼れる人物。

 45が端末で呼び出す間に、代理人は黙って人形用の胃薬を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・で、なんで私が呼ばれたのよ?」

 

「そう言いながらも、ちゃんと来てくれるのね」

 

「帰るわ」

 

「嘘嘘冗談!! お願いだから帰らないで助けて!」

 

 

 数十分後、45からの呼び出しを受けてやってきたのは独特のセンスと確かな実力、そして何かと苦労を背負い込むことに定評のある人形『FAL』であった。45が会長を務める『シスコン会』のアドバイザー的立ち位置であり、最近は平穏に過ごしていただけあって今回の呼び出しは正直行きたくなかったのだが、結局断り切れずに来てしまった。

 代理人と目が合うと苦笑し、代理人は胃薬とコーヒーを掲げる。FALが指さしたのはコーヒーだ。

 

 

「さて、といっても私ができることなんて限られるし、解決できるとも限らないけどいいの?」

 

「考える頭は多いに越したことはないわ。 それに明日には治るって言っても、今日一日これの面倒を見るのは骨なのよ」

 

「私たちも、いつまでも店を開けてはいられませんからね」

 

「ふむ、そうね・・・・・・」

 

 

 FALは顎に手をやり、時折肩に乗っかるフェレットと顔を合わせながら考えを巡らせる。オーダーは416をここから動かし、このグロッキー状態をなんとかすること。前者はこの店から出せば完了だが、後者は司令部に戻った後も45たちの手間にならないことに留意する必要がある。とくに酔った時の416の面倒くささは有名で、彼女がこれ以上酒に溺れるという事態だけは何としても避けたいところだ。

 いくつか案が浮かんでは消え、長針が四分の一ほど進んだころ、FALはゆっくりと顔を上げて45に向き直る。

 

 

「ちょっと確認しておきたいのだけど、いいかしら?」

 

「えぇ、構わないわ」

 

「あれが今日、司令部に帰る必要はあるかしら? 外泊が許可できるのなら案はあるけれど」

 

「外泊? まぁ申請は必要だけどそれも事後でいいし、別にいいわよ」

 

 

 その返答に、FALは勝ったとばかりに口角を上げる。そしてスッと立ち上がると、いまだにふて寝する416の元に向かい、やや強めの口調で話し始めた。

 

 

「ねぇあんた、恋人が一日いないくらいでいつまで凹んでるのよ」

 

「・・・・・・・」

 

「まぁ、それは個人差だとして・・・・で? 帰ってくるまでそうやって腐るつもり?」

 

 

 挑発ともとれる発言に、しかし416が声を上げることはない。だが話は聞いているようで、『一日くらい』のくだりで少し反応した。

 とりあえず声は届いている、それ確認したFALは大きく息を吸い込み、いよいよ必殺の一言を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに会いたいなら、会いに行けばいいじゃない」

 

「・・・・・・え?」

 

 

 その言葉に、ついに416が顔を上げた。45たちもそこは盲点だったと驚きつつ、これはもしやと期待を寄せる。FALはさらに確実なものとするために、話を続けた。

 

 

「止まってるのは列車だけで、9が帰ってこれないだけでしょ? あんたが向かう分には何の問題もないんじゃない?」

 

「・・・・確かに、少し遠回りにはなりますが空路を使えば行けますね」

 

 

 代理人の言う通りで、本社がある地区には空港があり、S09のとなりの地区にも小さいながら空港がある。また、ここからでも高速バスが発着しており、まだ日が昇っているこの時間なら前者は日暮れごろ、後者でも日が変わる前には着くはずだ。

 FALの言葉で416の目に光が戻り始め、突然ガタッと立ち上がって帽子をかぶりなおす。

 

 

「・・・・・ありがとうFAL、おかげで目が覚めたわ」

 

「どういたしまして」

 

「代理人にも迷惑をかけたわ。 本当にごめんなさい」

 

「いえ、元気になったようで何よりです」

 

「じゃあ45、ちょっと行ってくるから外泊許可よろしく」

 

「いや、ほかに言うことがあるでしょってもう行っちゃった」

 

 

 言いたいことだけ言って走り去る416。完全復活を遂げたその姿に呆れつつも、無事立ち直ってくれたことに45とG28はホッとする。

 FALも仕事を終えたと一息つき、代理人の淹れたコーヒーに手を伸ばした。が、そこで45が声をかける。どうやら気になる点があるらしい。

 

 

「ねぇFAL、これって外泊理由は何になると思う?」

 

「少なくとも、仕事じゃないわね」

 

「・・・・・許可、下りる?」

 

「さぁ? もっとも、下りないと無断外泊になるけれどね」

 

 

 そういってにやると笑うFAL。これまでのシスコン会への恨みつらみをすべて乗せたその冷笑に、45はサァッと血の気が引いていく。どう考えても不純な動機しかなく、しかも明日には帰ってくるとはいえそれがいつになるのかも不明である。9はまだ本社から連絡が来ているだろうが、416には何もない。

 そして明日は、朝からジェリコ直々の教導である。

 

 

「ちょっ!? あんたなんてことしてくれてんのよ!?」

 

「あら、ちゃんと確認したでしょ? 外泊できるかって」

 

「だ、だとしても、明日も教導があるのに・・・・・」

 

「そう、それは残念ね。 部下の無断欠勤に頭を下げなくちゃいけないなんて」

 

 

その一言で、ついに45は膝をついた。のしかかる責任の所在と隊長責任の文字、そしてジェリコからの厳しく長い説教・・・・・端的に言えば()()だった。

 

 

「ふぅ・・・・代理人、お替り」

 

「ふふっ、今日はこれ(胃薬)はいらなかったようですね」

 

「えぇ、最高にすっきりしたわ」

 

「この鬼!悪魔!センス(笑)!!!」

 

 

 45の悲痛な嘆きを聞き流し、FALは満足げにコーヒーをすする。この後慌てて416に連絡した45だったが繋がらず、翌日のシゴキが確定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日早朝

 

 

「・・・・さて、416の不在の責任は君にあると聞いているが、どうなのだFAL」

 

「間違いないわ、こいつが416をけしかけたのよ」

 

「よ、45・・・・これは一体・・・・・・」

 

 

 訓練開始時間になるや否や、404小隊が使用する予定だった訓練区画に呼び出されたFALを待っていたのは、鬼の形相のジェリコとしてやった顔の45だった。その瞬間すべてを察したFALだが、もはや手遅れだ。

 

 

「いや、それはその・・・・・」

 

「言い訳はいい、事実だけを話せ」

 

「・・・・・・わ、私の言葉が原因の一端です」

 

 

 あくまで一端であり、責任は45にもある、と言外に主張するも気休め程度にもならず、そして実際気休めどころか何の役にも立たなかった。

 

 

「そうか・・・・ではFAL、本日は404小隊への臨時編成として教導に参加しろ。 416の代わりだ」

 

「 」

 

「ふっ、ざまぁみなさい」

 

「UMP45、貴様は隊長としての責任もある。 本日から個別教導の時間を設ける」

 

「 」

 

 

 後日、へとへとになったFALが喫茶 鉄血を訪れるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

end




9(成分)が足りない!


はい、冗談はともかくとして今回も一週間以上空いちゃいましたね。時間があるときに限って話が思い浮かばない・・・・泣
まぁ今回は最後まで思い浮かばなかったわけではないので、その点はまだ楽な方でしたね。

では、今回のキャラ紹介


416
仕事とプライベートを完全に切り離すタイプ・・・なのだが今回はプライベートの予定が崩れたため色々と崩壊した。
この後無事9の元に到着し、失った一日を取り戻した(意味深)という。

9
夏休みの宿題をぎりぎりまでやらなさそう。そして今回は提出忘れという失態。
特殊部隊にいたころの感覚が抜け出せず、正規部隊の手続きが何かと面倒だと感じている。

G28
姉を心配するも、付き合いの長さは45の方が上なのであまり力になれなかった。
迷惑をかけられた分何かをおごってもらおうと決める。

45
これでも隊長。
悪知恵やら策略やら責任の押し付け合いは得意で、死なばもろともという考えでもある。
ちなみに個別教導とは、ジェリコの設定した目標に到達するまで終われない(最悪日が変わる)、文字通り地獄の教導である。

FAL
なんだかんだ面倒見のいいお姉さん。そして密かにシスコン会への復讐を画策している。
本人の戦闘能力や技量は申し分ないが、元裏の特殊部隊である404の教導についていけるほどではない。

代理人
今回は比較的平和に終わった。










また私事ですが、9/22の少女戦略最前線に行くことに決めました。
人生初のイベントで、特に目当ても決めていませんが、楽しみたいと思います!


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第百八十四話:新生AR小隊

!オリジナル人形注意!


リクエストを受けてからいったいどれほどの時間が経ったのやら・・・・大変遅くなり申し訳ございません!
というわけで今回はオリ人形が登場します。苦手な方はブラウザバックを・・・・まぁ今更なんですけどね。


※今回のキャラは某FPSのイメージが強くありますが、架空銃ではなく実銃なのでクロスオーバー(CO)という表記ではありません。


 戦術人形は、人形とそれに対応する銃とセットで一つである。人形が先だったのか銃が先だったのかは今となってはあやふやだが、両者には特別なつながりがある。そのため、その銃に限れば人間よりもはるかにうまく扱い、そしてその不調をほぼタイムラグなしに察知できたりもする。

 また、彼女たちの持つ銃自体もかなり特殊なものである。元となる銃の製造年・国・生産量にはかなりのばらつきがあり、当然ながらその中にはトラブルの絶えないものもあったはずだ。しかし人形が扱う銃は基本的にそのようなトラブルに見舞われることなく、よっぽど局地的でなければどんな状況でも使える。銃に詳しい者たちからは「旧式の皮を被った化け物銃」とさえ言われるほどだ。

 

 さて、そんなある意味「欠陥を持たない銃」は、当然ながら新造される人形にも適用される必要がある。外観は旧世代を模しつつ要求される性能を満たす、そんなもはや趣味の領域とすら呼べる注文に応えながら設計・開発を担当するIoP職員の心労は計り知れないだろう。

 

 

「おい、今度の新型はどうなっている?」

 

「人形の方はあらかた完成していますが、武器の方が・・・・」

 

「モデルとなる銃がひどい欠陥で、使用中に爆発するんですよ!」

 

「えぇい、とにかくガワだけ似ていれば問題ない! 急ぐんだ!」

 

 

 身もふたもない文句と要求が飛び交う中、ある職員の視界にふと、真新しい人形が映り込む。見たところ人形も銃も完成済みのようだが、それならそれで保管庫か納品待ちの列に並ぶはずだ。

 

 

「主任、あの人形は?」

 

「うん? あぁ、あれか。 あれはまぁ・・・・()()()ってやつだ」

 

「訳アリ?」

 

 

 頭に疑問符を浮かべながら、もう一度その人形たちに目を向ける。並んだ二体の人形はまだ起動前らしく、銃とともに箱に収まったその姿は文字通り人形のようであった。

 二体とも背丈はやや高めで、片や青を基調とした軍服らしい服装と腰のポーチ、同じ箱に納められているリュックからはショベルやピッケルが覗いている。もう一方は暗い緑に鉄製のヘルム、全体的に軽装で機動性に優れているように見える。

 

 そして職員の目には、彼女たちが扱うであろう銃に見覚えがなかった。この仕事について長く、それなりの知識を有している彼であってもだ。

 

 

「あれは近々、ペルシカ博士が直接受け取りに来ることになっている。 いいか、触るんじゃないぞ? 勝手に触ると人体実験の材料にされるからな」

 

「へぇ? ちなみにそれって誰のことかな?」

 

「それはもちろんあの腹黒女の・・・・・ハッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、人のことをなんだと思ってんだろうね」

 

「お前の普段の行いのせいじゃないのか?」

 

 

 余計なことを口走った生ごみを処分し、不満を隠そうともしないペルシカに付き添いのヘリアンは苦言をこぼす。今でこそ丸くなったペルシカだが、16labに引きこもっていたころはあの言われようでも文句は言えなかっただろう。

 

 

「こんなに清く優しい女性に向かって失礼の極みよ」

 

「それはツッコミ待ちか? マッドサイエンティスト予備軍」

 

「部下のナマモノを世に出すような変態には言われたくないね」

 

「娘同然の相手に手を出すお前も大概だ、いいから作業を進めろ」

 

 

 不毛な言い争いを続けながらも、ペルシカは人形につながった端末に必要なプログラムをインストールしていく。ほぼ完成と言ってもいい状態であるため今回導入するのは起動用のプログラム、ペルシカお手製の通称「ラストピース」である。これをインストールすることですべてのプログラムが動き始め、人形として完成する。逆に言えばこれがなければ起動することはなく、まさに最後のピースというわけだ。

 二体同時に進められ、端末上の表記が100%に達し文字の色が緑色に変わる。つながれたケーブルを引き抜いて数秒後、二人の眠り姫は目を覚ました。

 

 

「無事起動したみたいね・・・・二人とも、私のことはわかるかな?」

 

初期設定の適用……完了・・・・おはようございます、ペルシカリア博士」

 

「それとあんたはヘリアントス上級代行官だな?」

 

「む・・・・すでにグリフィンのデータも入力されているのか?」

 

「今回は設計段階からグリフィンに納入することが決まっていたからね、その方が楽でしょ」

 

 

 それもそうか、とつぶやき納得すると、ヘリアンは改めて二人に向き直る。つい数秒前に起動した二人はすでに愛銃を担ぎ直立するあたり、やはり人形なんだなと思ったりする。

 それはそれとして、これから二人を預かる身としてどうしても聞いておきたいことがある。まぁ知ってはいるが、()()()()()()()()()()ことの証明のようなものだ。

 

 

「さて、ではお前たちのことを確認しておきたい。 名乗ってくれ」

 

 

 その言葉に二人は足を揃え背筋を伸ばし、右手を額の上に持ってくる。

 

 

「前線支援型戦術人形『フェドロフM1916』、銃種はアサルトライフルです」

 

「突撃型戦術人形『ヘルリーゲル1915』だ! ・・・・・いや、『です!』つったほうがいいか?」

 

 

 普通とは違う肩書を名乗った二人、フェドロフとヘルリーゲルの所作にヘリアンは思わず目を見張る。通常、IoP製の戦術人形は豊かすぎるほどの個性を持ち、初対面相手にため口なんてよくあることだ。まして敬礼なんてする方がよっぽど変わっているといえる。一見適当な口ぶりのヘルリーゲルも、どうやら時と場合に応じて切り替えれるタイプらしい。

 次いでその肩書、とくにフェドロフの『前線支援型』という区分はヘリアンですら初耳だった。彼女の持つAR自体に特別な何かを感じないので、その秘密は人形の方にあるということか。

 

 

「ふむ・・・・まぁいいか。 では早速だが」

 

「そうだね。 じゃあ二人とも、起きてすぐだけど行こっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「「戦力補強???」」

 

「あ、それって今日でしたっけ?」

 

「いや、正確には明日だけど、先に顔合わせをと思ってね」

 

 

 陽が真上を通り越してしばらくしたころ、喫茶 鉄血の個室に集まったのは二人の人間と七人の人形たち・・・・IoPから直接やってきたペルシカとヘリアン、フェドロフ、ヘルリーゲルと、いつものパトロール中だったAR小隊だ。来て早々に「個室を貸してほしい」と言われるあたり、グリフィン関係者の待ち合わせや打ち合わせ場所として定着しつつあることは喜ばしいことなのだろうか、と代理人は一人考える。

 それはさておき、ペルシカの口から語られたのは『AR小隊の戦力補強計画』だった。グリフィンのエリート部隊として発足から今日に至るまでに高い知名度を誇ってきたAR小隊。隊長のM4A1をはじめとして高い作戦遂行能力を持ち、どんな状況にも対応できる彼女らは、まさしくグリフィンの顔なのだ。

 が、それはあくまで以前のお話。M4A1、AR-15のMOD化とそれに伴う新部隊設立を受け、AR小隊の人員は三名まで減ってしまったのだ。依然として優秀な部隊に変わりはないが、戦力の低下は否めないので人員を補充することになったという。

 そしてその配属を明日に控えたところでの顔合わせに、フェドロフとヘルリーゲルは少なからず緊張していたのだが・・・・・

 

 

「そして、そのための人員が明日配属される・・・・・前にそう言いましたよね姉さん、SOP?」

 

「あ、あぁもちろん覚えてるよ! なぁSOP!?」

 

「えっ!? あ、当たり前じゃん!?」

 

「では当然、お二人の名前も覚えていますよね?」(ニッコリ)

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

 鈍い音が二発続き、テーブルに沈む二人と終始笑顔のM4を見比べ、この人形には絶対逆らうまいと心に誓う新人二人であった。が、微妙に緩い空気に二人の緊張もほぐれ始める。

 そんな空気を察してか、M4がテーブルの呼び鈴を鳴らす。すると間髪入れずに扉が開き、人数分のケーキとコーヒーを運ぶ代理人が現れる・・・・・さし合わせたわけでもないのに息ぴったりだった。

 

 

「では改めて、AR小隊『元』隊長のM4A1です。 で、こっちが・・・」

 

「同じく『元』AR小隊のST AR-15よ」

 

「M4の後を受け継いだAR小隊隊長、RO635です」

 

「で、そこで暢気に寝ている眼帯の方がM16、小さいほうがSOPです」

 

「「紹介雑っ!?」」

 

「あ、それとここのマスターの代理人さんです」

 

「以後、お見知りおきを」

 

「「いや関係ないだろ(でしょ)!?」」

 

 

 グリフィンのエリート部隊とは何だったのか。見ているペルシカもけらけらと笑い、ヘリアンは額に手を当てながらため息をつく。

 が、そこは根っこはまじめなM4とRO、一度だけ咳払いをして本題へと入る。

 

 

「さて、お二人の情報はすでにいただいています。 攻撃型の前衛に補助型のAR、お二人の加入は我々の戦略の幅を広げることができるはずです」

 

「様々な状況に対応とは言っていますが、実際のところは攻撃過多な部隊ですから」

 

 

 M4の苦笑と、隊のメンバーを見比べてあぁと同感するヘルリーゲル。

 AR小隊はROが加入するまではその名の通りARのみで構成され、とにかく前進と攻撃というスタンスだった。ROの加入である程度前衛と後衛に分かれることができたものの、SOPの榴弾も含め攻撃的な部隊であることは間違いない。結果としてROに頑張ってもらいつつ弾幕を張るというMG寄りの戦術も少なくなかったのだ。

 

 

「それに、隊の指揮を執る都合上あまり前に出すぎるわけにもいきません。 ですのでヘルリーゲルさんには積極的に前に出てもらうことになります・・・・・あなたもそれを望んでいるようですからね」

 

「ほぉ? なかなか話の分かりそうな隊長さんじゃねぇか。 いいぜ、任せな」

 

「そして、M16とSOPには機動戦を仕掛けてもらうことが増えるでしょう。 フェドロフさんは支援と援護を中心に行っていただきます」

 

「お任せください、務めを果たして御覧にいれましょう」

 

 

 新人二人の頼もしい言葉に、ROもM4も満足そうに笑う。そしてスッと立ち上がり、右手を差し出した。

 

 

「ではフェドロフM1916、ヘルリーゲル1915・・・・少し早いですが、お二人を歓迎します」

 

「えぇ、よろしくお願いしますね、隊長さん」

 

「あんたの期待には応えてみせるぜ」

 

 

 三人が握手を交わし、ここに新生AR小隊が誕生したのだった。

 

 

 

 

end




主人公(代理人)の出番がほとんどなかった件
さてさてまたもや週一投稿を逃してしまうこの体たらく・・・・だめだこいつなとかしないと。
今回はリクエストいただいた銃を人形化しました!第一次大戦の銃なんてかなりろロートルだな・・・・と思ってたけどナガンおばあちゃんなんかはさらに古いんですよね。

それはそれとして、ドルフロのビンゴイベントは皆さん順調ですか?
ビンゴと言えばチャット任務がありますが、送る相手に迷ったら遠慮なく送ってきてください。都度返信させていただきますので!


ではでは今回のキャラ紹介!

フェドロフM1916
ロシア帝国時代に製造された自動小銃。のちにソ連・ロシア連邦を代表するAKたちの大先輩にあたる。
日英の6.5mm×50SR弾(三八式実包)を使用していたらしい・・・・のでソビエト樹立後にはフェードアウト。
本作では某FPSでの使用兵科にちなんで『前線支援型』としている。負傷した人形の応急処置が可能で、簡易的ではあるが損傷した回路も修復できる・・・が、本作に戦闘描写はほとんどない。
作者の勝手なイメージで、帝政ロシア時代の貴族らしい落ち着いたキャラに。

ヘルリーゲル1915
オーストリア・ハンガリー帝国の『重』短機関銃、参考にした某FPSでの区分はSMG・・・・・トンプソンっぽい感じかな?
資料がほとんど残っていないため謎が多いが、ドラムマガジンというロマンのある見た目が特徴。
性能は普通のSMGだが、地雷等の対装甲武器を所持する・・・が戦闘がないので描写もない。
やや男勝りな性格。

AR小隊
原作ではちゃんとした意図のある名称だが、ここでは単純にアサルトライフルのみで編成されたことに由来する。きっと寝不足気味だったペルシカが適当につけたのだろう。

ペルシカ
自身も娘同然の人形に手を出した人。

ヘリアン
自分の部下をネタにする人。KENZENからウ・ス異本までジャンルは幅広い。


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番外編46

最近一気に肌寒くなりましたね。まぁ10月になっても暑いよりはましですが笑
それはそれとして、以前予約した代理人フィギュア到着まであと1か月ですね、今からすでに待ち遠しいです!


では、今回のラインナップ

・MDR式放火術
・対不審者撃退装備
・教官と教え子
・敵の装甲車を発見!


番外46-1:MDR式放火術

 

 

 戦術人形「MDR」・・・ARタイプの人形として高レベルでまとまった性能を持ちながら、ある意味問題児ばかりが集まったこのS09地区に配属された人形。あまりにも過剰な戦力として有名なS09地区だが、その実態は優秀な指揮官によって運用されている・・・・否、ここの指揮官ぐらいしかまともに運用できないほど一癖もふた癖もある人形たちが配属されているというだけのことである。

 さて、そんな司令部に配属されるからにはMDRにも相応の理由がある。それは戦術や戦闘面での話ではなく、むしろプライベート寄りの内容のせいだった。

 

 

「むむむ・・・・この前のスレの反響悪かったな~、その前のは良かったんだけど」

 

 

 MDRの趣味・ストレス発散・生きがい、それらの大部分を占めるのがネット上での活動だった。しかもごく普通のネットサーフィンなどではなく、書き込みを無意味に荒らしたり炎上させたりそれっぽいスレを立てて釣ったり・・・・お世辞にもいい趣味とは言えないものばかりである。しかもMDRにとって都合がよいことに戦術人形は美形ぞろい、閲覧数を稼ぐネタには困らない。

 

 

「『激写! 戦術人形の夜!』シリーズは受けがいいけどマンネリだしなぁ」

 

 

 そして、大体被害にあうのは同期で同室のAA-12。ちなみにそのスレでははだけたパジャマの寝姿が激写され、世の変態紳士の関心を集めたスレとなった。一応プライバシーを考慮し目元は隠したが、それがかえって受けたようだ。

 そんな調子で何人もの人形の姿を世に晒してきたが、MDRはさらなるスリルと称賛をお望みのようだった。

 

 

(いや、むしろリアルにパニックになるようなネタがあればその方が・・・・・おや?)

 

 

 スマホ片手に通りを歩くMDRの視界が、見覚えのある人物をとらえる。服装こそ普段のものとはまったく違うが、戦術人形として登録された人間の顔や背格好を間違えるはずがない。

 その人物・・・・MDRの上官である指揮官の後ろ姿とその隣を歩く人物を見るや否や、MDRの目がきらりと光るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 戦術人形は、一見すると人間そっくりである。その姿かたちも行動も、時には思考でさえも人間と変わらないほどだ。そして彼女たちはまるで歴戦の兵士のごとき活躍を見せるが、実稼働時間=生まれてからの時間はそれほど長くない。

 要するに、新しいものに敏感なのだ。それが物であっても、情報であっても。

 

 

「姉さん、そろそろ寝る時間ですよ?」

 

 

 とある日のこと、S09地区の数少ない良心であるM1ガーランドはそう言いながら部屋の電気を消そうとする。いつもならここで姉が「もう少し! もう少しだけ!」と駄々をこねながら指揮官の写真を眺めているのだが、今日は珍しく写真ではなく個人用の端末だった。そして珍しいことに、妹の声に一切反応がなかった。

 

 

「・・・・・・姉さん?」

 

 

 姉の・・・・スプリングフィールドの奇行などよくあることだが、今回のようなケースは初めてだ。端末を見つめたまま石のように固まり、しかし不意に立ち上がるとどこからか縄を取り出し天井につるして丸い輪っかを作り・・・・・

 

 

「って姉さんストップストップ!?!?」

 

「離してくださいガーランド! 私はこんな現実認めません!!!」

 

「とりあえず落ち着いて! なにがあったのか教えてください!」

 

 

 今にも本当に首を吊りそうな勢いのスプリングフィールドを押さえ、最終的にはそのロープで縛りつけることでようやく鎮めることができた。

 なお余談だが、人形が首を吊ったところで死ぬことはない。呼吸も疑似的なものだし、何より首と胴体が分離しても問題ないのだ。ガーランドが恐れたのは、宙ぶらりんのままこれ以上何かをやらかす姉を見たくないからである。

 

 

「指揮官が・・・・指揮官がぁああぁぁぁぁ・・・・・」

 

「これは・・・・・!?」

 

 

 スプリングフィールドが差し出してきた端末に映る一枚の写真。『衝撃!? 指揮官に意中の相手現る!?』という見出しとともに、そこには彼女が(一方的に)愛している指揮官と、その腕に抱きつく女性の姿が映っていた。後ろ姿だけだが、その雰囲気から友人以上の何かを感じることができる。

 ・・・・・が、それは()()()()()()()者から見た話である。

 

 

「・・・・・ってこれ、指揮官のお母さまじゃないですか」

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

「姉さんは知らないかもしれませんが、指揮官のお母さまで間違いありませんよ。 それにこの記事を書いたのってMDRですよね。 知らないからしょうがないとはいえ、こんな紛らわしいタイトルまでつけて・・・・・・姉さん?」

 

「ふ・・・・ふふ・・・・うふふふふふふ・・・・・」

 

 

 ゆらりと立ち上がる姉の姿に一抹の不安を覚えるガーランドだが、今までの経験からこれがどういう状況であるかを即座に理解していた。

 

 この姉はもう、止められない。

 

 

「MDRゥゥゥウウウウウウウウ!!!!!!」

 

 

扉を蹴破り淑女さの欠片もない声と形相で走り去る姉を呆然と見送り、ガーランドは部屋の電気を消して眠りにつくのだった。

 

 

end

 

 

 

 

番外46-2:対不審者撃退装備

 

 

 最近、司令部の風紀というか規律が乱れている、と相談を受けることがある。それは本部から出向しているジェリコさんだったり、生真面目なWAさんだったり、はたまた乱れた風紀に振り回されがちなFALさんだったり。

とはいえこれといって大きな事件もない平和なこの地区では、戦術人形である彼女たちが暇を持て余すのも無理はない。加えて指揮官様も人形たちに制限をほとんど設けていないため、自由を通り越して自由すぎる空気が生まれているのです。

 

 

「そして目下の問題は、Saiga-12さんのスキンシップでしょうか」

 

「えぇ、しかも見境ないってくらい守備範囲が広いのよ・・・・・とくに小柄な人形なんかは狙われたら逃げるしかないわ」

 

 

 カリーナのため息交じりのつぶやきに、同じくため息をつく57。ちなみに彼女も両刀だとかアブネーやつだとか言われることがあるがそれは別の地区の彼女のお話で、むしろ彼女は『Five-seven』としては珍しいくらい普通なのだ。

 Saiga-12は自他ともに認める両刀だが、ここの指揮官には手を出そうとはしない。ラブ勢たちの存在もあるが、それ以上に男女比99:1という状況ゆえに、同性を狙う方が手っ取り早いからだとか。

 

 

「・・・・で、頼んでたものは仕入れられたの?」

 

「もちろんです! 物自体は特別珍しいものでもありませんし、生産量も多いですから」

 

「そう、じゃああとは配るだけね。 手伝うわよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふんふんふふ~ん・・・・・お?」

 

 

 宿舎の廊下を上機嫌に歩くSaiga-12、そんな彼女が見つけたのはHGタイプの戦術人形P7。修道服から飛び出す耳が大変可愛らしく、Saiga-12曰く「誘ってる」だそうだ。

 さて、ただ今の時刻は夕方の五時。夕食をとる者もいれば外へ出かける者もおり、逆に宿舎の人影は減る時間帯だ。加えて、一応の規律を守るためにも銃種別の宿舎間を行き来できる時間が決まっており、設定された精神年齢が低めな人形が多いHGの宿舎は、陽が沈み始めるころには他銃種の立ち入りが制限される。

 そしてここは、そんなHG用の宿舎である。

 

 

「はぁ~相変わらず無防備な耳だね・・・・・・つまり合法?」(論理の飛躍)

 

「・・・・・・・ん? ヒィッ!?」

 

 

 邪な気配を感じてP7が振り向き、小さな悲鳴を漏らすのも無理はない。目を見開きよだれを垂らしながら両手の指をわさわさと怪しげに動かすSaiga-12の姿を見れば、誰だってそうなる。加えて彼女がどういう人形かはすでに周知のことであり、あのいたずら好きなP7ですら怯えるほどだ。

 だが、今日ばかりは違った。

 

「さぁお嬢さん、私とイ・イ・コ・トしましょ?」

 

「そ、それ以上来ないで!」<スッ

 

「あら、可愛らしいストラップn『ビーーーーッビーーーーッビーーーーッ』

 

 

 P7がポケットから取り出したのは、小さなクマのキーホルダー。一見何の変哲もないそれだが、背中についた紐を引っ張った途端けたたましい音を立て始める。

 あらゆる不審者を撃退し協力者を呼び寄せる万能アイテム、『防犯ブザー』である。

 

 

「な、なに? 何なのそれ!?」

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

「そこまでよ!」

 

「おとなしくお縄につきなさい!!」

 

 

 こうして、また一つ犯罪が未然に防がれたのである。

 グリフィンは、今日も平和だ。

 

 

end

 

 

 

 

番外46-3:教官と教え子

 

 

「さてHK416、私が何を言いたいかはわかっているな?」

 

「はい」

 

 

 私利私欲のために無断外泊と訓練不参加というとんでもないことをしでかした翌々日。9とともに妙にツヤツヤしながら帰ってきた416だが、司令部の敷居をまたぐと同時に雰囲気を一変させ、ジェリコがいるであろう訓練所に直行した。ジェリコもそれがわかっていたのか、訓練所の真ん中で待ち構えていた。

 

 

「ふむ、聞き分けがいいのはこちらとしても助かるな・・・・・ではHK416、貴様には明日から特別強化訓練を受けてもらい、期間中は通常任務は受けなくていい。 指揮官にはすでに合意を得ている」

 

「了解しました・・・・・で、本日は?」

 

「私とて暇ではない。 今日はもう戻って構わん」

 

「わかりました、では「あ、それと一ついいか?」・・・・?」

 

「今晩、少し付き合ってもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その夜、司令部から少し離れたレストランで食事をとることになった416とジェリコ。ジェリコから誘われることも珍しいが、なによりこのお世辞にもオシャレや小綺麗とは言い難い雰囲気の店を選んだことも、416にとっては意外だった。とはいえ416とジェリコは元教え子と教官という間柄、二人で食事をとっても緊張を感じることはなかった。

 料理を注文し、先に注文していた飲み物(416はノンアルコール)で乾杯する。

 

 

「相変わらず酒には弱いんだな」

 

「人間と違って、強くなることなんかありませんよ」

 

「それもそうか・・・・・しかしまぁ、随分と大胆なことをしたものだ。 以前のお前なら考えられん」

 

 

 以前、というのは教え子時代のことであり、そして表向き存在しない『404小隊』の頃の話である。よく言えば任務に忠実、悪く言えば融通の利かないエリート意識の高い人形で、故に誰からも評価されない・・・いや、()()()()()()()()()()()()()()()というのは、彼女にとって大きなストレスだったはずだ。

 教官という立場であったため特別に彼女に関する記憶が消されずに済んだジェリコだが、陰ながらにそのことをずっと気に病んでいたのだ。

 

 

「そうですね・・・・以前の私なら、考えもしないことでしょう」

 

「それが今や、404小隊一の破天荒になるとはな」

 

 

 人形も変わるとはいえ、変わりすぎだ。そう呟きながらグラスを傾けるジェリコに、416は困ったような笑みを浮かべる。ごく自然なそれに、ジェリコも口元を緩ませた。

 

 

「先に指揮官と話をしたが、指揮官もお前の行動には驚いてはいたものの、とくに罰をという話にはならなかったよ。 まぁ組織である以上何のお咎めもなしというわけにはいかんが」

 

「それについては覚悟の上です。 むしろもっと厳しい罰が下るとばかり思っていましたが」

 

「ふっ、そうだな。 お前の教官だったころならば、この程度では済まなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・私も少しうれしかったのさ。 任務任務だったお前が、こうも変わるものかとな」

 

 

 ジェリコのその言葉に、416は驚いたように目をパチクリさせる。416に対するジェリコの評価同様、彼女にとってもジェリコの言葉はあり得ないものだったからだ。

 

 

「ん? どうかしたか?」

 

「いえ・・・・まさか教官が仕事に私情を挟むなどと思わなくて」

 

「そうか? 私とて殺戮マシンとして作られたわけでもないし、軍用のモデルでもない。 私情の一つや二つくらいあるさ」

 

 

 強いて言うなら、教え子へのお節介だ。ジェリコがそう言ったところで、タイミング良く料理が運ばれてくる。

 尊敬する教官の意外な一面を見た416は、料理と同時に置かれた会計伝票をジェリコよりも先に取り上げた。

 

 

「教官、今日は私に奢らせてください」

 

「む、なんだいきなり」

 

「ただの恩返しですよ・・・・ふふっ」

 

「・・・・・ふっ、そうか。 では言葉に甘えて奢ってもらうとしよう」

 

 

 その後は二人とも、仕事のことなど忘れて食事をし、語り合い、夜は更けていくのだった。

 

 

end

 

 

 

 

番外46-4:敵の装甲車を発見!

 

 

 フェドロフとヘルリーゲルが配属されてから数日後のこと。パトロールや治安維持活動が主なこのS09地区にも、頻度は少ないが出撃命令が下ることがある。一見して栄えている場所というものは、その影もまた深いのだ。

 

 

『こちらM16! 敵の装甲車両だ!』

 

『えぇ!? ここからじゃ届かないよ!!』

 

「SOP落ち着いて、目の前の敵に集中して!」

 

 

 人形擁護筆頭であるグリフィン、その中でも有数の戦力を誇るS09地区司令部のお膝下で暗躍する非合法人形バイヤー、さらにその背後には過激派の人権団体・・・・数こそ順調に減らしているがそれでもなお一定数存在する厄介極まりない連中だ。ここに人形を快く思わない傭兵やら民間軍事会社やらの非公式な支援も加わり、練度に反して十分すぎるほどの戦力を有することとなってしまった。

 当然ながら軍も掃討作戦に参加、戦車などの重戦力を相手取る。とはいえグリフィン側の相手も少なからず戦闘車両を有しており、戦況は五分五分といったところだ。

 

 

『こちらSG部隊、流石に機関砲までは防げないわよ!』

 

『AR小隊! SOPの榴弾で何とかできないの!?』

 

「そのSOPが足止めされているんです! もう少し耐えてください!」

 

『こちらD-15。 RO、ヘルリーゲルを見なかった?』

 

 

 前線指揮を任されたROと、それを補佐するD-15の指揮でなんとか被害らしい被害が出ずに済んでいるなか、そのD-15が気になることを言い出した。さっと顔を出して確認すると、確かにヘルリーゲルの姿だけ見えない。フェドロフの方を見ても、首を振るだけだ。

 まさか、知らぬ間にやられてしまったのか?

 そんな悪い予感は、意外な形で裏切られる。

 

 

『あーあー、こちらヘルリーゲル、二十秒後に仕掛けるからそれまでもってくれ!』

 

「ヘルリーゲルさん!? いったい何を・・・・」

 

『そう心配するなよ隊長さん、派手に決めてやるからよ』

 

 

 それだけ言って通信を切る。とりあえず無事であったことによる安堵と、詳細を語らない不安が入り混じるが、今は彼女を信じることにした。

 そして予告の時間まで五秒を切ったころ、敵装甲車両を囲むように周囲の遮蔽物から五つの影が飛び出した。ヘルリーゲルとそのダミーたちだ。そしてその手には、やや大ぶりの手榴弾が握られている。

 

 

「ROより各員! 火力を集中しヘルリーゲルさんを援護!」

 

『はっ! 今度の新人は思い切りがいいな!』

 

『勇気と無謀は違うと思うが・・・・・・・・時間だ』

 

 

 ダミーも含めた五人のヘルリーゲルから放たれた手榴弾が炸裂、正確無比に敵の戦闘力を奪う。下のもぐりこんだ一つは車輪と駆動系を破壊し、高く上がった一つはぴったり銃口の前で爆破、他にもアンテナやエンジン部などを潰し、装甲車をただの鉄の箱へと変える。

 こうなってしまえば連中になす術はなく、増援も正規軍に追って鎮圧されてしまい、止む無く投降することとなった。

 

 

「いやー、上手くいったな!」

 

「上手くいった、じゃありませんよ! 突っ込むならそうと一言言ってください!」

 

「つーかお前、左腕やられてんじゃん」

 

 

 後処理を軍に任せ、集合地点へと集まる人形たち。各部隊でダミーを失うといった多少の被害こそあったものの、未帰還者ゼロという十分な成果を上げられていた。

 が、敵部隊に最も接近していたヘルリーゲルは左腕を丸ごと持っていかれ、しかも痛覚遮断が不調をきたしたのか痛そうに顔をしかめる。

 そんなヘルリーゲルの前に、いい笑顔で現れる者がいた。前線支援型として製造されたフェドロフは、その手に大ぶりの注射器を構えながらヘルリーゲルへと近寄る。

 

 

「・・・・・おい、それはなんだ」

 

「人形用の応急処置用ですよ。 一種のウイルスで、痛覚機能を一時的にマヒさせることができるんです」

 

「OKわかった、私は大丈夫だから来なくていいぞって来るな寄るなこっちに向けるな!」

 

「大丈夫ですよヘルリーゲル、ちょ~~~っとだけチクってするだけですから」

 

「そういうわけで大人しくしてくださいヘルリーゲルさん」

 

「隊長てめぇ! さてはさっきの仕返しだな!?」

 

 

 その日、安全であるはずの集合地点から悲痛な断末魔が聞こえた、と軍の報告書に挙げられたという。そしてこの日以降、ヘルリーゲルに注射器を見せると大人しくなるようになったとさ。

 

 

 

end




本作と一切関係ない私事ですが、先日『Super Grouples』×『Bloodborne』の腕時計を予約しました。いろんなゲームやアニメとのコラボ商品を扱っているので、気になる方は是非見に行ってみてください!
アズレンとのコラボがあるくらいだからドルフロのコラボとかしてくれんかぁ



では、今回の各話解説。


番外46-1
MDRと言えばこのネタ。事実確認の前にまず報道、が基本。
それにしても春田さんってなんでこんなに使いやすいんだろ笑

番外46-2
防犯ブザー(社会属性範囲攻撃)
ブザーの紐だけなくして延々と鳴り続けていたのはいい思い出。

番外46-3
416への罰、その前日譚てきなやつ。
ジェリコって普段は厳しいけど不意に見せるやさしさとか気遣いとかがあると思うんですよ。
なお、特別強化訓練は手を抜かない模様。

番外46-4
ヘルリーゲルのはBF1の実況とかで見る光景、敵装甲戦力への一斉攻撃。
ドルフロのスキルに当てはめると、手榴弾系のスキル。ただし()()()()()()()ため、編成拡大で火力が大きく上がる。
フェドロフ・・・というより援護兵といえば注射というイメージ。


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第百八十五話:製造秘話

可愛い代理人が見たかった(真顔)


 S09地区にある喫茶 鉄血。気が付けばそこそこ名の知れた店の一つになったおかげか、行列とまではいかなくとも連日多くの客が訪れる。また、不定期の休みこそあるものの年中オープンしていることもあって、基本的に黒字経営に落ち着いている。

 さて、本日はその数少ない休業日。代理人を含めたハイエンドたちの定期メンテナンスの日であった。

 

 

「いらっしゃい、待ってたよ」

 

「お世話になります、サクヤさん」

 

 

 鉄血工造の所属ではなくなったとはいえ、代理人たちは紛れもなく鉄血製のハイエンドモデル。技術流出という点があるのも事実だが、なによりIoP製を大きく突き放す性能を持つ彼女たちを整備できるのは、本社の専用施設のみなのである。

 とりわけハイエンド一号機にして最高性能を誇る代理人は、もはやオーバーテクノロジーの塊であるといってもよく、彼女の性能を個別に振り分けたのが各ハイエンドたちであるとも言われている。アルケミストの短距離テレポートなどがその例だろう。

 そんなわけで、年数回とはいえ代理人はとくに念入りにメンテナンスを受ける必要があり、大体は本社に泊まり込みである。

 

 

「じゃあさっそく行こうか。 ユウト、先に装置を起動しといて」

 

「わかったよ姉さん」

 

「じゃあ他のみんなは私とゲーガーちゃんが担当するね!」

 

「「えぇ~~~・・・・・・」」

 

「まぁ安心してくれ、余計なことはさせんさ」

 

 

 みんなしてひどい!?と一人喚くアーキテクトを放っておき、代理人はサクヤに案内されてメンテナンスルームへと向かう。ところがどうもいつもの場所ではないらしく、そのことをサクヤに尋ねてみた。

 

 

「あの、今日はいつもの部屋ではないのでしょうか?」

 

「あ~言ってなかったっけ? 代理人に合わせてカスタマイズしたものができたから、別の部屋に用意したんだよ」

 

「私に合わせて、ですか?」

 

 

 なぜわざわざそんなことをするのだろうか、と思う代理人にサクヤは丁寧に説明する。

 もともと戦術人形のメンテナンスといえば、義体の修復などのハード面とメンタルバックアップなどのソフト面に分けられる。ソフトは主にその個体が経験した記録を保管し、大破時や新規の人形へのフィードバックに利用される。それと同時に不要な情報の削除や最適化を行い、演算能力の低下を防ぐのが目的だ。

 しかし代理人の場合はバックアップはともかく、フィードバックと最適化処理はむしろ必要ない。経営する店での出来事や料理、その他日常の経験に『不要』なものなどなく、それ故に削除も最適化も行わない。とはいえ、それではいずれメモリに大きな負荷がかかるため、一度きれいに『整理』する必要があるのだ。

 

 

「言ってしまえば今の代理人は、適当に玩具を詰め込んだおもちゃ箱みたいな感じだね。 だから一度全部取り出して、一つずつきれいに並べてしまっていくんだよ」

 

「そのためには、既存の装置じゃ色々と不都合だったんですよ」

 

「あら、ユウトさん」

 

 

 部屋の手前まで来たところで、準備を終わらせたユウトが待ってくれていた。メンテナンスの日程が決まっていたこともあって、準備もほとんど済ませていたらしい。

 ユウトとサクヤに先導されて中に入ると、いかにも真新しそうな機械とメンテナンス用のベッドがあるだけの部屋だった。今まで使っていた部屋はいかにもそういう部屋ですといった感じのごちゃごちゃした部屋だったが、こっちは逆に必要最低限といったところか。

 

 

「びっくりした? やっぱりもっとこう・・・・施設っぽさがあった方がいいかな?」

 

「姉さん、インテリアと障害物は違うんだよ」

 

「もー、アーキテクトはこういう時にノリがいいのに」

 

 

 相変わらず自由にやっているようだ、と少し安心した代理人はベッドに横たわる。代理人ように調整されているというだけあってプラグやその他の器材の位置も完璧で、ほとんど自動で接続されていく。

 やがて一番大きな機械が作動したところで、サクヤがそばにやってきて簡単な説明を始めた。

 

 

「さて、今回のメンテナンスの流れは説明したけど、実際の仕組みについても話しておくね。

まずメンタルモデルを本社のサーバーに移す、次にその中で記憶領域の情報を分類していく。 この時に走馬灯とか夢に近い体験ができるかもしれないけど、それは情報の整理が順調に行われてる証拠だから安心して」

 

「ですが、すべてを移すとなると本社サーバーとはいえ相当の負荷になるのでは?」

 

「そこは気にしなくて大丈夫ですよ代理人姉さん、たまたま使われてない区画を見つけて使ってるだけですから」

 

 

 鉄血工造の歴史は意外と古く、人形需要によってさらに規模を拡大させた企業だ。今は縮小したとはいえ、使っていないサーバーの一つや二つくらいあるのかもしれない。実際、鉄血工造の歴史から見ればごく最近しか知らないアーキテクトたちも、企業全体はおろか本社ですらすべてを把握しているわけではないのだ。

 さて、サクヤとユウトによる説明も終わったところでいよいよメンテナンスが始まる。といっても代理人は寝ているだけで終わるので、体感的にはあっという間なのだが。

 

 

「じゃあそろそろ始めるよ・・・・まぁリラックスしてくれればいいからね」

 

「えぇ、ではお願いします」

 

「システム同期、開始します」

 

 

 機器が稼働し始めると同時に代理人は目をつむり、その意識を深く沈ませていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「みんな、おっはよ~!」

 

『 』

 

「ね、ねぇサクヤさん!? 代理人の様子がおかしいんだけど!?」

 

「わ、私だってわかんないよ!?」

 

 

 専用の装置というだけあって、代理人のメンテナンスは二時間程度で終わった。とくにエラーが検出されることもなく、作業は順調に終了したかに思えた。

 だが代理人が目を覚ますと、もはや別人のようになっていたのである。

 

 

「? みんなどうしたの~?」

 

 

 頬に指をあてながらコテンと首をかしげる代理人に、いまだ現実を受け入れ切れていない彼女たちは信じられないものを見ている気分だった。常にクールで威厳のある口調の代理人が、Dをも超えるほど子供っぽい仕草や表情をすれば無理もない。

 

 

「お、Oちゃん・・・・・?」

 

「も~、お姉ちゃんって呼んでくれなきゃやだよ~!」

 

「ひぇ!? あ、うん・・・・・お姉、ちゃん」

 

「えへへ~! な~にDちゃん?」

 

 

 重傷を通り越して危機レベルの変貌ぶりだ。もはやオリジナルの面影すら見当たらない。人懐っこいキャラになっているにもかかわらず、フォートレスは完全に怯えきってしまっているほどだ。

 一先ず代理人のことはDに任せ、残りのメンバーで原因を考えてみる。

 

 

「やっぱりあのメンテナンス中に何かあったんだよ・・・・・」

 

「で、でもエラーも異常もなかったのに?」

 

「考えられるとすれば、あれを()()()()()として識別していたってことか?」

 

「むむむ・・・そうなると装置の問題というより、メンタルを移したサーバーの問題ってこと?」

 

 

 再び代理人の方を見る。Dを抱きしめ頬擦りしているその姿は見ていてほっこりする光景だが、されるがままのDも困惑と若干の恐怖を覚えているらしい。もはや自分のオリジナルではなく、得体のしれない何かという感じだ。

 いつまでもこのままにしておくわけにもいかないので、一先ず代理人のメンテナンスに使ったサーバーを調べてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『あーあー、みんな聞こえてる?』

 

「ばっちりOK! 感度良好だよ」

 

「はしゃぐなアーキテクト」

 

 

 ここはメンテナンス用サーバー。代理人を眠らせてそこにダイブした人形たちは、サクヤたちのサポートを受けながら進んでいく。もともと空だったためか起伏も何もない殺風景な空間だが、進むにつれてその景色が見覚えのあるものに変わり始める。どうやら代理人のメンタルのバックアップを取っている影響で、所縁のある光景が反映されているようだ。

 ほかにもいつぞやに訪れた旅館や海、プールなどの景色が箱庭のように並んでおり、そのいずれにも自分たちを含めた人形たちが映っていた。

 

 

「どれもこれも、誰かの姿を映した映像ばかりだな」

 

「ここでは本人の記憶の中でも特に気に入っている場面が優先して映し出される・・・・・これが代理人の思い出ということだ」

 

「なんというか、代理人らしいよね」

 

 

 代理人から見た自分たちという奇妙な体験をしつつ、彼女らは進む。代理人の記憶をかき分けて進み、より奥、より深く進んでいく。

 そしてある程度進んだところで、気づく。代理人の記憶に混じって何かが存在すると。例えるなら水に溶けた塩のようだが、それがどこにあるのか、どの程度あるのかまでははっきりしない。

 

 

「だが、これが原因なのは間違いないだろうな」

 

『僕もそう思います。 内部をスキャンした時は何もなかったのに・・・・』

 

『多分だけど、幾重にもロックとセキュリティーをかけた隠しフォルダだったんだよ。 それが代理人のメンタルに触れて開いちゃったってとこかな』

 

「そ、それって大丈夫なですか?」

 

 

 フォートレスの危惧はもっともだ。得体のしれないそれがもしウイルスの類であるならば、最悪の場合も考慮する必要があるからだ。それほど高性能になろうとも、ソフト面ではいまだウイルスは脅威なのである。

 

 

『それについては大丈夫、ウイルスとかじゃなくてただのファイルみたいなものだから』

 

『ただ、これは割と古いデータですね。 作成日時は・・・・・すごい、代理人姉さんが作られるよりも前のものです』

 

「つまり、在りし日の職員が残したものってことかしらね?」

 

 

 危険度は低く、そして今は残っていない貴重なデータ・・・・・そう聞いて黙っていられるマヌスクリプトではなかった。道中に漂う不明なデータを片っ端から回収しつつ、それがより多くなっている方向を目指して進む。初めは呆れていたゲッコーやDも、進むにつれて興味が増していくのがわかる。

 そしてついに、おそらく最下層と思われる場所でコンテナくらいのサイズはある大きな箱を発見する。その一面がわずかに開いており、そこからあのデータが少しづつ流れ出してきていた。

 

 

『どうやらそこみたいだね・・・・・みんな、十分気を付けてね』

 

『仮想空間なので皆さんの性能に制限はありませんが、何が出るかわかりませんから』

 

「任せといてよ二人とも、こっちにはゲッコーがいるんだから!」

 

「おい、お前も戦うんだぞマヌスクリプト」

 

「わ、私も頑張ります!」

 

「私も・・・・・って私は無理だね」

 

 

 各々が装備した武装を展開し(フォートレスのみ待機モードのまま)、箱の内側へと足を踏み入れる。強い光があふれだし、六人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・諸君、今日集まってもらったのはほかでもない」

 

 

 光が収まると同時に現れたのは、物騒な施設でもなければ怪しい現場でもない、いたって普通の会議室だった。十以上あるその椅子はすでに埋まっており、おそらく社長と思しき人物が威厳のある声で話し始めている。ある程度本社のことを知っているアーキテクトとゲーガーには、この場の人物がかつて鉄血工造を仕切っていた役員たちであることが分かった。

 

 

「先日、開発中だったハイエンドモデル一号機『SP47』が完成した」

 

「社長、彼女はすでに『代理人(エージェント)』と名付けられています。 味気ない型番で呼ぶのは彼女に失礼です」

 

「うむ、そうであったな」

 

 

 のっけからすでにいろんな意味で怪しい雲行きが流れるが、一先ず危険はないと判断して武装を解除する。その間も社長の話は続く。

 

 

「ただ、完成したのはハードとシステム的なソフト面・・・・つまり、メンタルモデルはまだ未完成だと聞いている」

 

「いわゆる個性・・・・性格という部分ですね」

 

「そうだ。 そしてここからが君たちを呼んだ理由になる・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の性格は、『ツンデレ』で構わんな?」

 

『異議あり!!!』

 

 

 社長の言葉に、残る全員が立ち上がった。脊髄反射とかそんなレベルではないほどの速さだ。

 

 

「彼女は今後開発されるハイエンドたちのボスになる存在です、威厳のある落ち着いた性格にすべきです!」

 

「なんと面白みのない! そこはあえて気弱な性格の『護ってあげたくなる系』だろうが!」

 

「あなたは髪の毛と一緒に知能まで抜け落ちたのかしら? 落ち着いたメイド服に似合う性格は、深窓の令嬢のような優雅な性格しかありえないわ」

 

「私は女王様を推薦する!」

 

「たわけが、親しみやすさを込めてもっと明るい元気っ娘にすべきだろう!」

 

「おい貴様ら、私は社長だぞ!」

 

『黙れ脂ハゲ!!!』

 

 

 そこからはもう収拾がつかなかった。社長が強引に自分の案に採用印を押そうとするのをほかの役員が止め、代わりに自分の案を通そうとして止められるのを延々と繰り返し続ける。

 フォートレスとDは呆然とし、ゲーガーに至っては無言で武装を再展開させ始める。これはあくまで過去の事象なので撃ったところで何も変わらないが、この光景を黙ってみていられるほど強靭なメンタルではない・・・・・のだが。

 

 

「い~や、代理人にはクールビューティを貫いてもらうよ!!」

 

「付け加えれば『受け』であるべきだ」

 

「は? むしろ『攻め』に決まってんでしょ!?」

 

「何を混ざってるんだ貴様らぁぁあああああああ!!!!!」

 

 

 いつの間にか取っ組み合いに混ざって己の主張を吐き出すバカ三人に、いよいよゲーガーの武器が火を噴いた。映像は途中で中断され、言い争っていた三人に直撃する。仮想世界なので死にはしないが死ぬほど痛いのだ。

 そんな中、Dはさっきまで見ていたデータから派生されているフォルダがあることに気づく。開いてみると、そこにはさっきまで出ていた案の数々が保存されており、そのどれも更新履歴が昔のものである。

 ・・・・・・いや、一つだけ真新しいものが混ざっている。

 

 

「あれ? これってOちゃんのメンタルモデルじゃないの!?」

 

『どれどれ? ・・・・・あーほんとだ、これに間違いないよ!』

 

『じゃあ、ここにあったデータと入れ違いになってしまったということですね』

 

「番号が飛んでるのは・・・・・『④』だな、これで治せそうか?」

 

『うん、ここまでわかったら十分だよ。 みんな戻っておいで』

 

 

 その後、全員が引き上げると同時に入れ違った部分だけを戻すことで、代理人は無事もとの性格を取り戻すことができたのである。ついでに例のフォルダは再度セキュリティを掛けなおし、保管場所を変えて保存されることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに入れ替わってたのは性格の部分だけだから、あれはあれで代理人の本音ってことだね」

 

「・・・・・・Oちゃん?」

 

「D、今は少しだけ時間をください・・・・・」

 

「あ、うん・・・・・、あぁその・・・・大丈夫だよ()()()()()

 

「・・・・・・・うぅ///」

 

 

 

end




鉄血人形たちのデザインがあれだけ魅力的なのは、きっと経営陣が精鋭の変態ぞろいだったからですね!(断言)

今回はこれといってキャラ紹介もないので、私が思いつくハイエンドたちの魅力を紹介したいと思います。



スケアクロウ
指揮官諸君が初めて対峙するハイエンド。そのくせフヨフヨと浮いてたりビット使ったりとなかなかな性能を発揮してくれる。
指揮者を思わせる服装が大変よく似合っている。
イベント『秩序乱流』でSOPを呼ぶときに「君」というのもポイント!

処刑人/エクスキューショナー
一定間隔で剣による衝撃はを放つ準スキル持ち。部隊配置の重要性を教えてくれる。
オラオラ系のおっぱいのついたイケメン。やたらとでかい右腕とブレードがかっこいい。
個人的にはホットパンツとメカ足の間の太ももがチャームポイント。

ハンター
二丁拳銃というあまりパッとしない武器・・・と思ってなめてかかると痛い目に合うことを教えてくれる。
立ち絵から伝わるセクシーさが素晴らしい。谷間!へそ出し!ガーターベルト!

イントゥルーダー
電子戦の重要性を教えてくれる。
ライフル+ガトリングというロマンあふれる武器と、痴女一歩手前な服装が特徴。
どうやら演劇が好きらしい・・・・デートコースは決まりだな!

デストロイヤー
榴弾の恐ろしさを教えてくれるちびっこ。
銀髪ロリなだけでなくそこそこ胸もある。
泣き虫だったり変なボディに入れられたりするけどそこが可愛い!

アルケミスト
連続瞬間移動というでたらめな技術を披露してくれる。そしてこの辺りから道中もかなり難度が上がる。
おっぱいの大きいSなお姉さん・・・・性癖に刺さる指揮官も多いのではないのだろうか。
身内には優しいところが素敵!

ドリーマー
前衛の回避能力と部隊の移動速度の重要性を教えてくれる。
わかりやすいメスガキだがその小生意気さがいい。
とりあえず過剰なまでの戦力でわからせてあげよう!

ウロボロス
イベント限定なので知らない指揮官も多いかもしれない。
戦闘中の移動の重要性を初めて教えてくれる。
自尊心の高さと狙ったかのようなへそ出しセーラー、可愛くないわけがない!

アーキテクト
鉄血にも情緒豊かな人形がいることを教えてくれる。
ネイルまで塗った鉄血JKでアホの子。
左半身の露出が高い・・・・とくに腋と腰のラインが魅力!

ゲーガー
破天荒な上司を持つと苦労することを教えてくれる。
スキルの後にちょっとドヤるのが可愛い。
おしりを突き出し胸を強調する立ち絵がセクシー!

ジャッジ
ショットガンの重要性を教えてくれる。
ある部分が小さいことを気にしている。
ほとんど意味のないショートパンツとムッとした表情が可愛い!

代理人/エージェント
チュートリアルでドルフロの殺伐とした雰囲気を教えてくれる。
メイド服という戦場では違和感バリバリな服装がむしろいい。
攻撃の際に色々見せてくれる。友情ショップのカード背景ではがっつり見せてくれる。
嫁。


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第百八十六話:亀の歩み

ぶっちゃけこの二人のことを忘れてる人も多いんじゃなかろうか。

調子に乗ってカップル増やしすぎたことは反省しているが後悔はしていない!だって書きたかったんだもん!


 MG部隊の良識、小柄ながらもそれをものともしない戦闘力、そして銃はAKシリーズと設計者を同じくする信頼設計、それが戦術人形『PKP』である。同部隊の隊長であるMG5や指揮官からの信頼も厚く、任務のみならず訓練や日頃の振る舞いにおいても模範的で、あのジェリコですら称賛するほどだ。

 しかしながら、仕事場でまじめな人間がプライベートでもまじめ一辺倒かというと、決してそういうわけではないことが多い。むしろ仕事とプライベートを完全に切り離すことで、己を律しているといえる。PKPもその一人だ。

 

 

「くあぁぁ・・・・・」

 

「随分と眠そうですね、PKPさん」

 

 

 カウンターの隅で一人コーヒーを飲むPKPの大きなあくびに、代理人は苦笑しながらカップにお替りを注ぐ。カフェインは眠気覚ましに良いといわれているが、どうやらその程度では効かない眠気らしい。

 PKPは目をクシクシと擦り、淹れたての熱いコーヒーを一口飲む。これで少しだけ目を覚ますことができるが、そのうち再び睡魔が訪れるのだろう。さっきからその繰り返しだ。

 

 

「くそっ、せっかくの散歩日和だってのに・・・・ふぁぁぁ・・・・」

 

 

 ちなみにPKPの趣味は散歩とウィンドウショッピングだ。特に目当てもなくフラフラと街に出ては出店やショップを眺める、あるいは公園をゆっくり回るなど、任務中の彼女のイメージとはずいぶんとかけ離れた趣味と言える。

 加えて割とおしゃれ好きで、支給されているスキンを普段着としても使っている。とくにこんな散歩日和の日には、ジャケットにショートパンツという男装寄りの服(スキン名:淑女の密命)を着ることが多い。

 

 

「ふふっ、すこし仮眠をとられた方がすっきりしますよ」

 

「それもそうか・・・・すまないが代理人、二十分ほどたったら起こしてくれ」

 

「はい、かしこまりました」

 

 

 それを聞くと、PKPはそのまま机に突っ伏し顔を沈める。ものの数秒と経たずに聞こえる寝息から、よっぽど疲れていたのだろうと推測できる。

 一先ず残ってしまったコーヒーを下げ、二十分のタイマーと寝起きの一杯用に新しいカップを用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・PKPさん」

 

「んぁ? 呼んだか代理人?」

 

「えぇ、最近ちゃんと眠っていますか? 一日二日ならともかく毎回となると」

 

 

 代理人の心配にPKPはまたあくびをしながら苦笑する。先日からここを訪れるたび、彼女は眠気と戦っては負け続けている。休暇でなくともパトロールの合間に来店することもあるが、その時も結局休憩時間目一杯寝てしまうのだ。

 流石に仕事中に眠るようなことはないが、その反動か気を抜くと睡魔に襲われるらしい。今日も、ついさっきまでスヤスヤと眠っていたところだ。

 

 

「まぁ、その・・・・ちゃんと寝てるよ」

 

「嘘ですね」

 

「というよりどこをどう信じればいいのかな」

 

 

 代理人だけでなくDにまでツッこまれ、心配されてしまってはしょうがない。それにこの問題は、流石のPKPでも荷が重いと判断して大人しく話すことにした。

 それは、今から一月以上前のことである。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽回想▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 ある日の夜、PKPは机の明かりを付けて溜まっていた本を読んでいた。明日は休日ということもあり、明日に響かない程度に夜更かしするつもりだった。しかしあまり集中できておらず、時折ため息をついては後ろを向く。

 その視線の先、おしゃれと化粧をばっちり決めたPKが、ベッドに腰かけたまま枕を抱きしめ、落ち着かない様子で揺れていた。

 

「・・・・・・なぁ姉さん、落ち着かないのはわかるが何とかならないか?」

 

「だ、だって久しぶりのデートなのよ? 緊張するにきまってるじゃない」

 

「そうかそうか・・・・・先週も先々週もその前も同じことを聞いたんだが?」

 

「う゛っ!?」

 

 

 MG5とPK、MG部隊の隊長と副長という立場であり恋仲でもある二人は、正式に付き合い始めてからそれなりに経つ。しかしその進展はあまりのスローペースで、いまだに二人の限界は『手をつなぐ』というところだ。何度デートを繰り返してもぎこちなさは消えず、しかし終わってみると二人とも大変満足したような表情で帰ってくるのだから、ろくに進展しないのもうなずける。

 PKの妹にして二人の関係を当人ら以上に推し進めたいPKPは、その都度姉にダメ出しやアドバイスをぶつけることになる。真面目に聞いてくれるのはうれしいが、実践できないのでは何の意味もない。

 

 

「何度も言うがな姉さん、もうお互い意識し合ってるんだからもっと踏み込んでもいいんだ。 今の二人の空気はなんというか、両片思いみたいなんだよ」

 

「でも、いきなりがっついちゃったら引かれちゃうかもしれないし・・・・・」

 

「姉さんはがっつかなさすぎなんだ!」

 

 

 待てと命じられる犬ですら、欲望に抗えず命令を無視するほどだというのに、この姉は延々と踏み込めない超チキンなのである。相手がもし一般的な恋愛観と行動力のある人物だったら、今頃愛想つかされていたかもしれないほどだ。

 しかし幸か不幸か、MG5も似たような感じなので、奇跡的にこの二人の関係は崩れていない。むしろこの距離感で満足できてしまうのは相当のレアケースだろう。見守っている方は気が気でないが。

 

 

「と・に・か・く! 明日のデートでもっと距離を縮めるんだ、いいな!?」

 

「わ、わかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また別の日。

 

 

「明日こそは頑張ってくれ・・・・というか進歩を見せてくれ!」

 

「うぅ・・・・でも」

 

「でもじゃない! いいから思いきり抱き着くくらいのことはしてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに別の日。

 

 

「・・・・・・姉さん、三度目の正直だ」

 

「二度あることは三度ある「何か言ったか?」・・・な、なんでもないわ」

 

「本当に、本当に頼むから、初々しいのもいいけどその先を見せてくれ・・・・・」

 

「・・・・・思うんだけど、どうしてPKPがそこまで気にするの?」

 

「見ててヤキモキするんだよ!!!」

 

 

 

△△△△△回想△△△△△

 

 

 

 そんな調子でデート前夜の都度、PKPは姉に対し青筋を浮かべながら自信を与えようとするのだが、結果は見ての通り芳しくない。原因はPKとMG5、双方の『自信のなさ』なので毎回PKPは姉の良いところや魅力的なところを語ることになる。それでも「でも」「だって」とセルフデバフをかけまくるため、大抵話が終わる時間が遅くなる。おかげで毎日が寝不足だ。

 ちなみに睡眠時間はPKも変わらないが、MG5を見るだけでコンディションが全快するためとくに問題にはなっていない。

 

 

「それならもう放っておけばいいんじゃないかな?」

 

「それができれば苦労しない! だが考えてもみろ、大した成果もあげられないのにニヨニヨしながら帰ってきていつまでもデレデレしているんだぞ・・・・・流石に心配になるんだよ!」

 

 

 ないとは思うが、万が一MG5が他の人形や人間・・・ましてや男なんかと付き合うことにでもなればどうなるか、想像に難くない。そしてそのしわ寄せはほぼ全てPKPに降りかかり、全力で宥め続けねばならなくなるだろう。彼女の姉はメンタルが訓練用ドローン(初級)程度に柔いのだ。

 

 

「話は聞かせてもらった!」

 

「引っ込んでいてくださいマヌスクリプト」

「引っ込んでてマヌちゃん」

 

「二人ともひどい!?」

 

 

 そんな面白sゲフンゲフン・・・重大な事態に、この野次馬人形が立ち上がらないわけがなかった。代理人とDが止めに入るが、それより先にPKPが反応する。

 

 

「・・・・・何か案があるのか?」

 

「PKPちゃんダメだよ!」

 

「疲労と睡眠不足で判断能力が落ちています、今日はもう休んでください」

 

「ええいうるさい! 私だって藁にすがりたいときもあるんだ!」

 

 

 二人の制止を振り切り、PKPはマヌスクリプト(トラブルの申し子)に協力を求める。その様子に、マヌスクリプトはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『・・・・こちらゲッコー、準備いいぞ』

 

「OK、ターゲットが席を外したら仕掛けて」

 

 

 一週間後、とあるカフェで仲良く談笑するPKとMG5を、離れた位置から見守る人物がいた。無駄にクオリティの高い変装のマヌスクリプトとPKPである。二人はテーブルの上に置いてある端末から延びるイヤホンを片方ずつ付け、協力者であるゲッコーに指示を送る。傍から見れば仲良く動画を見ているようにしか見えない。

 そしてゲッコーの方も、店の入り口付近で待機中だ。こちらももちろん変装済みで、さらに万が一にもばれないように声帯モジュールも弄ってある。

 

 

「・・・・・なぁ、本当に大丈夫なのかこれ?」

 

「ん~大丈夫とは言い切れないかな・・・・いろんな意味で」

 

 

 マヌスクリプトの提示した作戦はこうだ。

 まずPKPがそれとなくデートのコースを指定しておき、当日は先回りしておく。次に片方が席を外したタイミングで、変装したゲッコーがMG5に言い寄る。あくまで焚き付けることが目的なので、PKが戻ってきたタイミングでちょっとうざい絡み方に変える。絡まれて困るMG5をPKが助け、その勢いで二人の関係を一段階上げようというものである。

 ・・・・・・穴だらけな計画であることは否めないが、こうでもしないと一向に進まなさそうなのだ。

 

 

「あとはどっちか片方になれば・・・・・・ん?」

 

「どうした・・・・って、なんだあいつら?」

 

 

 監視対象であるPKとMG5、その二人を四人の男が囲んでいる。見るからにチャラそうな男たちの距離感は妙に近く、時折無遠慮に触ろうと手を伸ばす。PKもMG5も初めは愛想笑いを浮かべていたようだが、今は鬱陶しさ前回の顔つきだ。

 

 

「あー・・・ゲッコー、ちょっとトラブルよ」

 

『む? すまない、急用ができてしまった。 また今度一緒に茶でも飲もう・・・・・なんだ?』

 

「あんた今普通に口説いてたでしょ・・・・まぁいいわ、ターゲットがチャラ男に絡まれてるの、何とかして」

 

『それは構わんが・・・・私が行くとバレるのでは?』

 

「姉さんのデートを邪魔されるわけにはいかないんだ、頼む」

 

 

 自分たちが邪魔する側であったことは棚に上げつつ、ゲッコーが救出のために店に入ったその時、バキンッと何かが砕ける音がした。どうやら、チャラ男の一人がPKの尻を触ったらしく、MG5が持っていたカップを握りつぶしてしまったのだ。

 店中の視線を集める中、MG5は聞いたこともないほど低い声で話す。

 

 

「・・・・・おい貴様ら」

 

「ヒィ!?」

 

「今すぐここから失せろ、そして二度と彼女に近づくな・・・・・」

 

「わ、悪かったって・・・ほら、そんなに怒っちゃせっかくの美人が台なs」

 

 

 ここまでしぶといとむしろ感心するレベルだが、MG5は握りつぶしたカップをさらに握る。開いた手から零れたのは少量の人工血液と、ほぼ砂のような細かさになった()()()()()()()()だった。

 殺意のこもった目を向けられ、チャラ男たちは尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 

「ふぅ・・・・・・あ、す、すまないPK・・・みっともないところを見せてしまって」

 

「い、いえ、そんな・・・・・あっ、先に怪我の手当てを!」

 

「えっ!? い、いや、これくらいなら大丈夫だ」

 

「だ、だめです! あなたは私の大切な人なんですから・・・・

 

「PK・・・・・・・」

 

「「・・・・・・////」」

 

「いやなんでそこで黙るんだよ!?」

 

「PKP!?」

 

 

 結局こらえきれずに飛び出してしまったPKPにより、マヌスクリプトの計画は二人に知られてしまうことになる。

 ともあれこの日以降、二人のデートが手をつなぐだけから腕に抱きつくくらいの進歩を遂げたのだった。

 

 

 

end




M1917「隊長たちのデートを邪魔したのはあなたたちね~?」
FF M249SAW「どうする?処す?」
AEK999「俺たちの発射レート、その身で味わうかい?」

その後、チャラ男たちを見た者はいない・・・・・





と書くとホラーっぽくなりますかね(唐突)
それはそれとして皆さん、ビンゴイベントお疲れ様でした。イベント期間中にメッセージをいくつかいただき、嬉しさでモチベーション爆上がりでしたよ!(その割に投稿ペースが遅いのは禁句)

では今回のキャラ紹介


PKP
奥手な姉と奥手な隊長を何とかしたいと思う苦労人。なんだったらハプニングでもいいからチューしちゃえばいいと思っている。
二人を倉庫かどこかに閉じ込める案を計画中。

MG5
奥手でビビりな豆腐メンタル隊長。キリッとして見えるのは緊張で表情が動かないだけ。
ズボンなどの男っぽい服装を好み、スカートはあまり履かない・・・・履かせたい。

PK
一見クールビューティーな奥手上がり症。
デートの目的がMG5と出かけることなので、始まった時点で達成してしまっている。
一向に進展していないことにはとくに悩んでいないらしい。

マヌスクリプト
呼ぶと出てくるし呼ばなくても出てくる。
今回はマヌスクリプトの割にはましな案だったが、結局未遂に終わった。

ゲッコー
口説かせれば大体なんとかなるやつ。
忘れられがちだが完全近接戦闘用なので、店などの屋内閉所では敵なし・・・・ただのチャラ男四人程度指先一つで勝てる。

チャラ男
今回のカマセ役。
声をかける相手全てが彼氏(彼女)持ちでその相手が大体やべーやつという呪いにかかっている・・・・という設定。


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第百八十七話:殺戮者

oldsnakeさんの作品『破壊の嵐を巻き起こせ!』とのコラボッ!
そしてoldsnakeさん、大変待たせしました!

いままでヤベーやつも何人かいたけどこいつも色々ヤベーですね笑


導入部分はこちらから!
https://syosetu.org/novel/180532/420.html


 平和も平和、血なまぐさい争いなどほぼ皆無に等しいここS09地区に、ピリピリとした緊張感が走・・・・・っていたのはつい先ほどまで。今ではすっかり平和な日常を取り戻していた。

 時間にして一時間ほど前、街を警備する自警団の人形の一人からの連絡が途絶えた。不審に思った仲間の一人が最後に連絡があった場所を中心に調べること十数分、薄暗い路地裏に全裸で横たわる同僚を発見し即通報した。証言ではボロ布をまとった少女が抱き着いてきたと思ったら倒れていた、という実に不明瞭なもので、加えて職場でのこの人形の評価が『変態』であったことから、この件は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と片付けられた。日頃の行いは大事なのだ。

 

 

 しかしその一方、そこからそう離れていない路地にうっすらと赤黒い染みが残っていることに、誰も気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・容体は?」

 

「間一髪、ってとこかな。 いきなり連絡がきたからびっくりしたよ」

 

「申し訳ございません、急に呼びつけてしまって」

 

「いいよいいよ、こういう時のために私がいるんだから」

 

 

 路地の裏にひっそり・・・・という範疇を超える賑わいを見せる喫茶 鉄血。その三階部分、従業員用の部屋の一つにあるベッドを囲むように座るのは、店長の代理人と鉄血工造エンジニアのサクヤ。ふぅ、と一息ついてコーヒーを飲む姿は大変絵になるが、その周囲もベッドも赤く染まっている中ではむしろホラーにさえ見える。これらはすべて人形の人工血液だ。

 その持ち主、ベッドの上に横たわる一人の人形を見やり、代理人はサクヤに問いかける。

 

 

「・・・サクヤさん、この子は」

 

「言いたいことはわかるけどね代理人ちゃん、残念だけどこの子のことは知らないよ。 さっきアーキテクトちゃんに頼んで調べてもらったけど、一致するデータはなかったみたい・・・・設計段階のものも含めてね」

 

 

 サクヤの言う通り、この人形に関するデータは一切見当たらなかった。外観はイントゥルーダーに似た顔に長い白髪、そこそこの胸と、どことなく鉄血ハイエンドの詰め合わせに見えなくもない。しかしこの人形が持っていた武器も該当する資料はなく、文字通り降って湧いたような感じだった。

 そしてもう一つ、代理人たちにとって無視できないものがある。

 

 

「ではサクヤさん、こちらは・・・・」

 

「うん、こっちは見覚えがあるよ・・・・というか、見覚えしかないんだけどね」

 

「私も同感です・・・・本当に彼女なのでしょうか?」

 

 

 今ではすやすやと眠るこの人形は、発見当時はもはや手遅れレベルの重傷だった。おそらく何らかの戦闘があったようで全身に傷があり、そして何よりその腹に深く突き刺さっていたモノが、手遅れ一歩手前にまで追いつめていたのだ。

 色白の腕と、そこに握られた特徴的な近未来形状の銃・・・・・こんなものを扱う人形はほかにいない。

 

 

「・・・・まぁいいでしょう。 あとは直接聞いてみましょう」

 

「わかった・・・じゃあ私はこれで帰るけど、何かあったらまた連絡してね」

 

「えぇ、その時はお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ・・・・・沈んだ意識が浮かび上がる、というのはこういうことをいうのかもしれない。本来であれば『生』も『死』もない人形がそういうのもおかしいが、例えるならそんな感じだ。

 もう動かないと覚悟した指先がピクリと動き、瞼がゆっくりと開く。そこに映っていたのは荒廃した大地でも吐き気がするほど白い研究室でも、ましてや自分の根城でもない・・・・・このご時世では絶滅危惧種のような小綺麗な天井だった。

 ぼぉっとしながら天井を眺め、ゆっくりと体に意識を向け始める。いくつかのダメージこそ残るがおおむね正常で、同時にそれがとんでもなく異常であることに気づき、少女は跳ね起きた。

 

 

「・・・・あら、目が覚めましたか?」

 

「気分はどうだ?」

 

 

 少女の目に映るのはかつての上司と、記憶の中で最後に殺し合った人形・・・・・代理人とアルケミストだ。その二人が並んでこちらを見つめていることに呆然とし、そして徐々に本来の感情と表情を取り戻す。

 

 

「アルケミスト・・・・・・」

 

「む、その様子だとやはり私が分かるようだな」

 

「というより、相当な恨みを買っているように見えます・・・・・アルケミスト、本当に何もしていないんでしょうね?」

 

「何度質問しても同じだ代理人、私はやっていない」

 

「やってしまった人は皆そう言うんですよ。 あの腕と武器だけならともかく、こうまであからさまに敵意を向けられるのでは信じようもありません」

 

「大人しく自首するべきではないのかなアルケミスト?」

 

「ええい黙れ、何と言われても私はやっていない・・・・というかなぜ貴様がここにいる!?」

 

「我が主が下で怠惰に酔いしれているのでな、私もこうして自由を謳歌しているのだよ」

 

 

 足元にいる無駄に渋い声のダイナゲートに殺意やら敵意やらをごっそり削がれてしまうが、結果として少女は冷静に状況を見直すことができた。どうやらこのアルケミストも代理人も自分を知らない様子で、気を失う直前に見ていた不自然なほど平和な世界と合わせ、少女の混乱は深まるばかりだ。

 そんな少女に、代理人はマグカップを差し出す。ほわっと湯気の立つそこからは、ココアの甘い香りが湧きたっていた。

 

 

「私の見立てが正しければ、あなたは今の境遇に困惑しているはず・・・・一先ずこれを飲んで、ゆっくりでいいので話していただけませんか?」

 

「・・・・・・・・『殺戮者(マーダー)』、それが私の名前よ」

 

 

 マーダーと名乗る少女は、マグカップを受け取りチビチビと飲み始める。人形故、そして自身の性格や戦闘スタイル故にまともなものを口にしてこなかったが、このココアが美味しいものであることはすぐに分かった。熱いのを我慢しながら飲んでいると、少し微笑む代理人と目が合う。

 

 

(ちっ・・・・やりづらいわね)

 

「? どうかしましたか?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

 

 感じたことのない居心地の悪さに舌打ちするも、とにかく今は相手の出方次第だと様子をうかがう。今しがた気づいたがどうやら傷は修復されているらしく、武器こそ没収されているが動く分には問題ないようだ。

 あとはどうやってここを出て、そこから先をどうするか・・・・・そもそもここがどこで、なぜこの二人がこうものんびり過ごしているのか。

 

 一方の代理人も、すでにマーダーが()()()()来たのかのおおよその当たりはついていた。微妙にかみ合わない態度にあからさまな敵意、そして一切面識がないのにこっちのことは知っている。これだけのヒントがそろえば、しかもこんな事態などしょっちゅうな代理人なら、気づいて当然だった。

 

 

「マーダーさん、これから話すことが信じられないかもしれませんが、よく聞いてください」

 

「何よ改まって・・・・・」

 

「その必要があるということです」

 

 

 代理人が口を開き、マーダーの置かれている状況を語る。それを聞いたマーダーの手から滑り落ちたカップが、音を立てて割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うぅ・・・・どうしてこんなことに・・・・・」

 

 

 トレーを持ったままカタカタと震えながら、少女は涙目で扉を見上げる。この奥にいるのは、名は体を表すという言葉通りの危険な人形・・・・その気分一つで少女の命運は決まるといえるだろう。

 

 

「9、F9・・・・帰ってこれなかったらごめんね(泣)」

 

 

 少女・・・・ノインは遺言(?)を呟きながら扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は数時間前、自身の置かれている現状を知ったマーダーが自暴自棄になり始めたことに起因する。突然異世界だの平和な世界だのと言われれば、ましてや理性やタガが外れているマーダーにとっては居心地が悪いなんてものではない。いったんは大人しくしていたマーダーだったが、それがいつ強硬手段に走るかわからなかったのだ。

 そんな一触即発ともいえる状況に、代理人とアルケミストはしばらくそっとしておくということで意見が一致、再度落ち着いた頃合いでまた話をしようと決めたのだ。

 

 ところが、二人が去った後に残った一匹が余計なことをしでかした。

 

 

「というわけで我が主、何か料理をふるまってやれ」

 

「いや意味が分からないよ!?」

 

 

 ノイン専用ダイナゲートによって告げられたのは、ある意味死刑宣告のような言葉だった。どうやらこのダイナゲートはマーダーとある程度の会話ができたようで、出自や趣味、嗜好、何が欲しいかなどを聞き出していた。その過程で、主であるノインのこともばっちり喋っていたのだ。プライバシー保護の欠片もない。

 

 

「マーダーはどうやら腹が減っているようだ。 好みはオーガニックなものらしいぞ」

 

「いや、だからなんでそれが私なの!?」

 

「そうです、それなら私が作った方が」

 

 

 代理人の提案ももっともだ。ノインも料理は人並みくらいにはできるが、腕前なら代理人には遠く及ばない。あえてノインを指名する理由などないはずだ。

 が、それにはマーダーの好みが関わっているらしい。

 

 

「ちなみにマーダーは『カニバリズム』でもある・・・つまりはそういうことだ」

 

「それって私が食われるってこと!?」

 

 

 意味深な方ではなく物理的なものである。要するに、出されたものに満足しなければ運んできた者を食えばいい、ということらしい。マーダーの情報を引き出すためとはいえ、かなり強引な条件だった。

 

 

「な、何とかならないの・・・・?」

 

「ふむ、逃げても構わんだろうがその場合・・・・代理人に迷惑がかかるだろうな」

 

「うぅ・・・・・・」

 

「だ、大丈夫ですよノインさん、私も手伝いますから」

 

 

 こうしてとにかく食べられるもの、ついでに言えばだれが作っても大体安定した出来になるものを作り、ノインは死地へと旅立っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ど、どうぞ」

 

「あら、ありがとう・・・・あなたもあなたで美味しそうね」

 

「ヒィッ!?」

 

 

 生きた心地がしない中、ノインが差し出したトレーに乗っていたのはカレーライス。ちょっと野菜が多めのいたって普通のもので、あるものとノインの腕前で作れるものといえばこれくらいしか思い浮かばなかった。代理人も手伝ったので味に問題はないはずだが。

 

 カチャカチャという食器の音と、マーダーが食べ続ける音しか聞こえない。その間ずっと待つしかないノインはすでに限界近くに達しており、緊張と恐怖とストレスで胃がマッハなのだ。

 やがてマーダーが皿を平らげると、ようやく解放されると思いほっとする・・・・・が、世の中そんなに甘くない。

 

 

「おかわり」

 

「・・・・・・・え?」

 

「聞こえなかった? おかわりって言ったの」

 

 

 ずいっと差し出された皿に、ノインは再び涙目になる。わずかな希望を抱いてマーダーを見るも、嘘や冗談には見えない。

 仕方なく皿を受け取ろうと手を伸ばすが、何を思ったのかマーダーが突然皿を引っ込めた。

 

 

「そうだ、こうしましょう・・・・・さっきのダイナゲート、いるんでしょ?」

 

「クックックッ・・・・どうした? 我が主がなにか粗相でもしても私には関係ないぞ?」

 

「誰のせいでこうなってると思ってんのよ・・・・・」

 

 

 主を主とも思わない発言と行動はいつも通りなのでもう気にしない。それはそれとして、マーダーが呼んだのには一応理由がある。

 するりとノインの横に移動し、ダイナゲートに皿を突き出しつつノインの肩を抱いた。

 

 

「おかわり、急いで持ってきて。 遅かったらこの娘をつまみ食いしちゃうかもね♪」

 

「ヒィィィイイイイイ!!??」

 

「ほぅ、よほど気に入られたようだな我が主、交友を広げるのも重要な「いいから早く行ってよ!!」

 

 

 すでに半泣きの状態で叫ぶノインだが、結局この後マーダーが満足するまで解放されることはなかった。ついでにおかわりを待つ間に何度か耳や首筋を舐められたり甘噛みされたりして、そのたびに命の危機を感じることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅ、満足満足♪」

 

「それは何よりです・・・・・が、あまり彼女をいじめないであげてください」

 

「あら、これでも理性的な対応のつもりよ?」

 

 

 代理人が食後のコーヒーを持ってくると、ノインは逃げるようにして部屋を出て行った。何があったのかは知らないが、代理人の思う『理性的』な対応ではなかったのだろう。

 

 

「ダイナゲートから、あなたのことは聞きました」

 

「ふぅん・・・・・で、どうするつもりかしら?」

 

「別にどうも・・・・死んだわけではないのなら、そのうち帰ることができるでしょうから」

 

 

 そう言い終えた頃合いで、部屋の扉が開く。やってきたのは何やら重そうな箱を持ったイェーガーとリッパーだった。

 いきなりなんだと訝しむマーダーの前に置かれた箱を、代理人が開いていく。外箱の中から出てきた電子ロック式の箱にキーを打ち込み、ふたを開く。

 

 

「これって・・・・・・」

 

「可能な限りですが、修復はしました。 元の性能に比べれば心もとないでしょうが、無いよりかはましでしょう」

 

 

 収められていたのは、ここへ来た時にはボロボロだった光学銃とスタンロッド。それが見た目はキレイに整備されており、電子回路もつながっている。それに加えてサバイバルナイフと小さなポーチも添えられていた。

 

 

「あなたを直した方からです。 あって困ることはないはずですよ」

 

「・・・・・・なんでここまでするのかしら?」

 

「さぁ、なぜでしょうか」

 

 

 マーダーの警戒心も、代理人の前では暖簾に腕押し。純粋な親切心とは皆無なマーダーにとって、一番相性の悪い相手なのだ。

 代理人も、それからこれを直したサクヤも分かっている。これを渡して帰らせれば、きっとまたマーダーは殺しを続けるだろう。あっちの世界がそういう世界なのだから、そうしなければ生き延びれない。だから放っておけなかったのだった。

 

 

「・・・・・礼は言わないわよ」

 

「えぇ、結構ですよ」

 

「ちっ・・・・やっぱ嫌いだわ、あんた」

 

「ふふっ、私はそれほど嫌いではありませんよ・・・・さて、今日はゆっくり休んでください」

 

 

 代理人が部屋を出るまで、その背中を苦々しく思いながら見つめる。言いようのないもやもや感が胸の中に残り続けるが、ベッドに寝転がるとやがて眼を閉じ、小さな寝息を立て始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、彼女を見た者はいない。

 翌朝にはすっかりもぬけの殻になっており、装備も何もかもまるで消えたかのようになくなっていた。眠ったまま元の世界に戻ったのか、はたまた黙って出て行ったのかはわからないが、代理人の経験上きっと無事帰ることができたのだろうと思う。

 ついでにベッドの上には、走り書きに近い手紙が残されていた。

 

 

 

『世話になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS.あの娘に「美味しかった」と伝えてちょうだい』

 

 

 

 なお、この手紙を見たノインがカタカタと震えだしたのは言うまでもない。

 

 

 

end




マーダーの狂気感を出したいけど、戦闘がないんじゃ難しいね。
マーダー×ノイン・・・・これは流行る(*´ω`*)


では今回のキャラ紹介


殺戮者/マーダー
oldsnake氏の『破壊の嵐を巻き起こせ!』の世界からやってきた鉄血人形。詳細はあちらの作品のキャラ紹介を。
狂ってはいるが正気を失っているというわけでもないらしく、今回は比較的おとなしめ。カニバリズムだが美食家。
Dカップ(ここ重要)

代理人
突然血まみれの人形が運ばれても動じない・・・・というか運ぶ先は普通病院だと思う。
がっつり戦闘向きのマーダーと戦っても勝ち目はないので、今回は結構危ない橋を渡った。

サクヤ
人形の危機と聞いて何もしないはずがない。
お節介もお節介だが、結局本人とは面識がないままに終わった。

アルケミスト
結局和解(?)もなかったが、お互い気にしていない。

ノイン
巻きもまれた幸薄少女。人形ではなく人間であるため、マーダーの食人嗜好に引っかかった。
マーダー曰く、「新鮮でおいしそう」

ダイナゲート
おなじみのCV.中〇。
一応これでも主の身を案じてはいるが、それがノインに伝わることはない。
最近の趣味はノインの成長(一部)を記録すること。


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第百八十八話:Trick or ・・・・・?

ハロウィンは10月31日、10月31日は土曜日で休日、休日は土曜日と日曜日で日曜日は11月1日なのでつまり11月1日はハロウィンなので間に合いましたね!(飛躍)


「トリックオアトリート!」

 

「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」

 

「はいはい、慌てなくてもたくさんありますからね」

 

 

 10月31日、世間がハロウィンムード一色に染まる中、このS09地区も例外なく活気づく。街のいたるところにカボチャや蝙蝠の飾りが並び、子供たちの可愛らしい仮装から大人たちのガチなコスプレまで、とにかく街全体がお祭りムードだった。

 このシーズンにとくに活気づくのは飲食業界、中でも製菓業界は年末商戦にも劣らぬ気合の入りようだ。むしろここから年末までノンストップと言ってもいい。子供受けのいいお菓子、大人が楽しめるお菓子、プレゼント用、パーティー用、ドッキリ用などなど・・・・。

 その一方、個人営業などは基本的にマイペースを貫いており、喫茶 鉄血もその一つだ。

 

 

「流石に大人気だねOちゃん」

 

「えぇ、あちらはただでお菓子がもらえて、こちらは売り物にならない商品をさばける・・・・WIN-WINですね」

 

 

 代理人たちもこのハロウィン商戦に一応絡んでおり、いつぞやのバレンタインで好評だった『各々が一種類ずつお菓子を用意する』というシステムを採用、製作過程で出てしまった不良品を子供たちに配っているのだ。

 ちなみに各店員考案のメニューは以下の通り

・栗満載のモンブラン(代理人)

・皮付きスウィートポテト(D)

・メープルたっぷりのフレンチトースト(フォートレス)

・かぼちゃのケーキ(リッパー)

・かぼちゃと芋のジェラート(イェーガー)

・ほろ苦ショコラとブラックソース(ゲッコー)

・アタリかハズレか!?バニラアイスと四種のソース(マヌスクリプト)

 

 

「相変わらずマヌスクリプトの案は読めませんね」

 

「でも一番売れてるみたいだよ・・・・怖いもの見たさで」

 

 

 マヌスクリプトとて喫茶 鉄血の一員、見た目のインパクトはともかくちゃんと食べられるものを作っている。いかにもゲテモノっぽい見た目に反して普通に美味しいということで、若年層を中心に人気を博しているようだ。

 そんな他愛もない話をしていると、どうにも出入口の方が騒がしいことに気が付く。なぜか子供の泣き声まで聞こえてくるが、こんなことは一度や二度ではない代理人はもう諦めたように様子を見に行った。

 

 

「失礼します、何かありました・・・・・か・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 騒動の中心人物と目が合った瞬間、代理人は言葉を失いかけた。これまでも何人か・・・・いや数えきれないほど問題人物がやってきたことはあるが、今回のはずば抜けてやばかった。

 被ったフードの下はジャックオランタンの被り物で目の部分が妖しく光り、上半身をスマートな装甲が覆っている。手に持った銃につけられた銃剣に意味があるのかは知らないが威圧感はあり、きわどいスカートから下は靴すらない素足・・・・・多分人形だろうが、どう見ても不審者だった。

 

 

「えっと・・・・・何か御用でしょうか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 無言。それどころか身動き一つ取らないため、これは誰かが置いた置物ではないかという疑念にかられる。しかし突然降って湧くはずもないのと地面についた足音から、彼女(?)が自力でここまで来たのは事実のようだ。

 それを追ってきたのか警察が路地の方から様子をうかがっているが、代理人が対応し始めたことで静観を決め込むつもりらしい・・・・警察仕事しろ。

 

 

「あの、そこにそのままいられるのもなんですので、中へご案内しますね」

 

「・・・・・・・うん

 

(喋った・・・・・・)

 

 

 ギリギリ聞き取れる程度の声量だが、実は意外と悪い人ではないのかもしれない。すでに手遅れ感はあるが、これ以上騒ぎを大きくしないためにも店の控え室に連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

「うんうん、上が露出ゼロな分素足が映えるね!」

 

「はーいマヌちゃんはちゃんと働こうねー」

 

「は、離してD! 私は彼女と話があるのよ!」

 

 

 ずるずると引きずられていくマヌスクリプトをよそに、代理人は目の前の人物を見やる。あれっきり一言も発さずこれといった仕草もなし、とりあえずコーヒーを出してみたところカボチャ頭の口の部分から器用に飲み、何事もなかったかのようにじっと座る。

 マヌスクリプトのセクハラ紛いのアングルの写真撮影すら反応せず、しかし時折足を組み替えるところからちゃんと動いていることだけはわかる。

 

 

「・・・・・・はぁ。 もうその格好については何も言いませんから、せめて名前だけでも教えていただけませんか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 代理人の懇願にも応じず、頑なに無言を貫き通す謎の人形・・・・・ぶっちゃけ手に持った銃で何となく察しはつくが、そこには触れないでおく。

 さて、このまま待っていても埒が明かないのは明白だ。かれこれもう三十分くらいにはなるが仕方がない、あとのことはグリフィンにでも任せよう・・・・・と代理人が連絡を取ろうとしたその時、いつの間にか件の人物の後ろにいたゲッコーが痺れを切らしたように言った。

 

 

「代理人が招き入れた以上、手荒な真似はしたくなかったが・・・・・いつまでもだんまりというのはな」

 

「ゲッコー? 何を・・・・・」

 

 

 微妙に嫌な予感に代理人が止めようとするが、それより先にゲッコーは人形のフードを引きはがし、その頭にかぶっているカボチャを引っ掴む。ついでに尻尾の先のアームも使い、一気に上に引き上げた。あまりにも一瞬の出来事に、抵抗する間もなくカボチャ頭を抜き取られてしまう。

 

 

「っ!? ~~~~~~!!!」

 

「む、やはり想像通りの美少女だったか」

 

 

 中から現れた(?)のはやはり戦術人形、長い髪と蒼い瞳が特徴の彼女は・・・・・確か『Fr FAMAS』という名前だ。戦術人形としては比較的初期のころからあるタイプだが、この地区ではこれが初らしい。

 そのFAMASは盗られたカボチャ頭を取り返そうと手を伸ばし、どうしようもないことが分かると顔を覆って俯く。FAMASという人形がどのような性格を設定されているかは知らないが、この地区にやってくるということは相応のワケありということか。

 

 

「・・・・・・ゲッコー、とりあえず返してあげなさい」

 

「代理人がそういうのであれば・・・・いいか? これを返す代わりに代理人の質問には答えるんだぞ?」

 

「・・・・・・」コクッ

 

「うん、いい子だ。 それともう一つ・・・・・この後、私と一緒にお茶でもいかがかな?」

 

「D、ゲッコーも手が空いているようですよ」

 

「代理人!?」

 

 

 余計なことまで口走ったゲッコーをDに引き渡し、代理人は改めてFAMASに向き合う。そのころには返却された被り物を被りなおし、また元の様子で座りなおしていた。どうやら極度の人見知りであるらしく、この状態が最も落ち着いているようにも見える。

 気を取り直して事情聴取・・・・というか質問を続けようとしたその時、FAMASが不意に口(?)を開く。

 

 

「・・・・・・FAMAS」

 

「え?」

 

「・・・・FAMAS。 Fr FAMAS、私の名前」

 

「え、はい・・・・あの、なぜ急に?」

 

「・・・・・さっき、聞かれたから」

 

 

 せめて名前だけでも、という質問への答えだろう。ということはやはり言葉は通じていたようで、ついでに先ほどのゲッコーとの約束も覚えているようで、それで律義に答えてくれたのだろう。

 もっとも、よほど新型でなければ顔を一目で見ただけでわかるのだが、あえてそれは黙っておく。

 

 

「そうですか・・・では、なぜそのような格好を?」

 

「・・・・・目立つのは、嫌い・・・ハロウィンなら隠し通せると思った」

 

 

 眠らない街ならともかく、こんな街でそこまでガチな仮装をする奴なんていない。どうやらそれっぽい色とカボチャを被っていれば溶け込めると思っていたようだが、残念ながら逆効果だったようだ。自警団や警察を呼ばれなかっただけ幸運だろう。

 さらに意外なことに、どうやらこのFAMASは全くの無口というわけでもないらしく、ポツリポツリとではあるが話し始めた。

 

 

「生まれつき、人と話すのは苦手・・・・配属が決まって、本社を出るときに、自分で作って被った」

 

「それはまぁ・・・・では、なぜここに? 司令部とは方向が違うはずですが」

 

「このお店、本部でとても人気だから」

 

 

 人見知りでも来たくなるとは、本部でどのような扱いになっているのか少し気になる代理人。

 ネタバラシをすると・・・・配属地区は主に訓練の成績によって希望の通りやすさが決まるのだが、喫茶 鉄血関係でこのS09地区志望の人形はかなり多い。というわけでそれを餌にしてモチベーションを高め、人形たちの完成度を高めようという魂胆だった。発案者はクルーガーだが、その目論見は今のところ成功している。

 

 

(実際は訳あり人形を優先的に配属させているそうですが・・・・・まぁ話すことでもないでしょう)

「・・・・事情は分かりました。 司令部には私から伝えますので、それまでゆっくりしていただいて構いません」

 

「! あ、ありがと「その代わりに」・・・・!」

 

「お礼は相手の目を見ながら、ですよ?」

 

 

 代理人がいたずらっぽく微笑みながらウインクすると、FAMASは一瞬驚いたように固まり、やがて恐る恐るカボチャ頭をとった。緊張か気恥ずかしさかなかなか目を合わせられないが、一度目を閉じて深呼吸し、代理人と目を合わせる。

 

 

「・・・あ・・・・・ありがと、う・・・」

 

「えぇ、どういたしまして」

 

 

 そう言うと代理人は立ち上がり、FAMASの分のケーキと紅茶を用意しにキッチンへと戻っていく。その背中を、FAMASは少し赤らんだ顔で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後日

 

 

「あら、また来てくださったんですねFAMASさん」

 

「・・・・・・・・うん」

 

「・・・・おいゲッコー、FAMASは代理人と知り合いなのか?」

 

「あぁそうだ・・・・いや、()()()()()()()ではないかな、ふふっ」

 

「なっ!? どういうことだFAMAS!?」

 

「っ!?!?」ビクッ

 

「ダネルさん! 怖がらせないでください!」

 

 

 新たなライバルの予感に焦るダネルと、訳も分からずおどおどするFAMASをなだめるだけで、代理人の一日が終わってしまうのだった。

 

 

 

 

end




靴も靴下も履いてない素足って、どうしてこう魅力的なんでしょうかね?教えてエロい人!

というわけで今回はハロウィンイベでスキンが追加されたFAMASちゃん!
元の立ち絵も他とは一線を画すほど躍動感のある一枚で、銃についたハートのアクセサリーが女の子っぽいのが可愛い!
例によってもはや別キャラみたいな性格だけど、そういう個体だということで笑


では今回のキャラ紹介!


Fr FAMAS
IoP製の戦術人形の中では比較的初期からいるタイプ。それゆえ製造数も配備数も多く、相対的に不具合機も多い・・・・某自動車メーカーの車種みたいだね!
S09地区に配属を命じられるだけあってなかなかのくせ者で、極度の人見知りと一般常識の疎さ、感情表現の下手さから通常の部隊では運用に支障をきたすレベル。それでもGoサインを出すIoPやグリフィンの未来に不安が残る。

代理人
まるっきり不審者な格好だが、そもそもここを訪れる客の中の変人率がなかなかに高いのでまだましに見える(比較対象:鐘で呼ばれる狩人・文字通り悪魔の男etc)。
表情が大きく変わることはないが、ふとした笑みとか絶対可愛いと思う。

マヌスクリプト・ゲッコー
いらんことをする、いらんことをしゃべることに定評のある問題児。

D
代理人(オリジナル)の意図を正確に読み取り、的確にカバーする優秀なダミー。


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番外編47

お金欲しいなぁ〜(一人暮らしの嘆き)
・・・・とか言いつつ、今月は以前注文していた1/7代理人フィギュア(とその請求)が届くんですけどね笑


というわけで今回はこのラインナップ

・代理人七変化
・砂糖値+20
・食うものと食われるもの
・ダネルの懸念



・・・・・ところで45姉、今日(11/8)は『いいおっぱいの日』だそうd(銃声)


番外47-1:代理人七変化

 

 

 鉄血工造のサーバーに眠っていた、かつての開発陣が残した代理人のメンタルモデル候補(負の遺産)。今では独立した保管場所に移され、二度と同じことが起こらぬように管理されているのだが、特別厳重なセキュリティがかかっているというわけでもなく、内部のものならば閲覧可能な程度だ。

 そんな美味しいネタを、この人形が放っておくはずがない。

 

 

「・・・・・なぁアーキテクト、本当にやるのか?」

 

「だって、だってだよゲーガーちゃん? あんな可愛い代理人見たらやっぱ気になるじゃん?」

 

「それはそうだが・・・・・」

 

「大丈夫、今回は誰にも迷惑をかけないよ!」

 

 

 アーキテクトが自信満々に作業を進める様子を、ゲーガーは呆れながらも黙って見守る。さらにこの部屋の様子をモニタリングしているサクヤとユウトも、同様に口を挟まずに見ているだけだ。

 そのアーキテクトが弄る機械の隣には、いつぞやの実験で使用した代理人のダミー(第三十六話参照)がずらりと並んでいた。

 

 

「というわけで、このダミーを使って色んなメンタルモデルの代理人を見てみよう!」

 

「はぁ・・・・本当にいいのかサクヤさん?」

 

『たまにはガス抜きも必要じゃないかな?』

 

『世に出すというわけではないので大丈夫だと思いますよ』

 

 

 こうして、アーキテクト主導による決して表に出ない検証が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「まず最初は王道のツンデレ!」

 

「べ、べつにあなたのために淹れたわけではないんですからね!」

 

『・・・・・なるほど、こういうのもアリね』

 

『・・・・姉さん?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は・・・・・護ってあげたくなる系、だったか?」

 

「あ、あの・・・おかわりお持ちしましょうか・・・・

 

「なんかこう・・・甘やかしたくなるよね」

 

『『わかる』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいじゃあ次行こ次』

 

「あらお客様、なにかご注文・・・・え? 踏んでほしい?・・・・ふふっ、でしたら相応の頼み方というものがあるのでは? ほら、跪いて頭を『『ストップストップ!!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これで最後・・・・・」

 

「ではまたのお越しを、次は明日ですね・・・・え? 明日は来れない? なぜでしょうか、明日はただの休日であなたには特に予定もなかったはずでは? それとも私に会うよりも大切な用事があるとでも「強制停止!!!」

 

「だ、誰だよ代理人にヤンデレ属性なんて考えたアホは!?」

 

『こ、怖かった・・・・・』

 

『現実にならないことを切に願うよ・・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん」

 

「言わずともわかりますよD・・・・とりあえず止めに行きましょうか」

 

 

その後、本社に乗り込んできた代理人とDによってメンタルモデルのデータはすべて破棄されたのだった。

 

 

end

 

 

 

番外47-2:砂糖値+20

 

 

 車窓を流れる景色をぼんやりと眺めながら、時折小さく欠伸をして再び頬杖をつく。別にこの時間が退屈というわけでもなくむしろ待ちに待ったほど楽しみな時間なのだが、なぜだか窓の外の景色というものは目を向けたくなる。

 ついでに言えば、とくに喋ることがない・・・いや、喋る相手がいないのも理由の一つだろう。隣の席で自信の方に寄りかかりながら眠るPKを見やり、MG5はその頭をやさしくなでる。

 

 

「ん・・・んぅ・・・・・ぁ」

 

「ん、起こしてしまったか?」

 

「MG5さん・・・・いえ、大丈夫です」

 

「そうか、随分と気持ちよさそうに寝ていたからな」

 

「ひ、人の寝顔をまじまじと見ないでください///」

 

 

 相も変わらずな二人だが、先日の一件から徐々に積極的になりつつあった。あれほど手をつなぐのにすら時間がかかっていた二人が、電車で向かい合わせではなく隣に座って肩を寄せ合うなど、今まででは考えられない光景だった。残念ながらここにはいないが、PKPが見れば歓喜の涙を流すことだろう。

 そんな二人が向かうのは、S09地区から遠く離れた別地区のグリフィン基地。複数の司令部・部隊合同作戦を展開すべく、その打ち合わせに向かっているのだ・・・・・といっても、あるのはただの顔合わせ会くらいだが。

 

 

「その移動がなぜ陸路で、しかも一週間も滞在するとはな」

 

「指揮官も、ほとんど休暇みたいなものだとおっしゃっていましたね」

 

「ほとんどどころか、まるっきり休暇だな」

 

 

 ちなみに作戦の詳細や指揮官同士の顔合わせはすでにテレビ会議で済ませており、MG5たちが出向く理由はほとんどない。PKPらMG部隊の頼みと指揮官の権限フル活用による、一週間のロングデートである。

 そんな思惑が働いているとはつゆ知らず、MG5は寄りかかるPKの肩をそっと引き寄せる。

 

 

「まぁいいさ、向こうに着けば色々と忙しくなるだろうから、今はゆっくりするとしよう」

 

「MG5さん・・・・・はい」

 

 

 うれしそうに笑いながら、PKは想い人の方に身をゆだねる。そしてMG5もまた、彼女の頭をなでながら薄く微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、いつの間にか眠っていた二人の顔がくっつきそうなくらいに近づき、慌てて離れて何とも言えない空気のまま目的地に向かうことになる二人だった。

 

 

end

 

 

 

番外47-3:食うものと食われるもの

 

 

 とある世界でUMP9という()()()()()として活動していたノイン。もっとも、その名前もこの世界に来た際に付けられたもので、本来の名前を知る者は誰もいない。

 そのノインも、当然ながら彼女もいくつもの死線をくぐり抜けできた戦士である。実際に死にかけて・・・・というか九割ほど死んでここにやってきたのだから当然といえば当然である。

 

 

(は、はやく戻ってきてよダイナゲートっ!!!)

 

 

 そんなノインは今、かつてないほどの命の危機に瀕していた。決して広くはない部屋の中、隣に座るのは自身と同じく異世界からやってきたという『マーダー(殺戮者)』という人形。名は体を表すという言葉がある通り、この人形は名前の通り残忍な性格・・・・・らしい。

 つい先ほどまでノインが持ってきたカレーをガツガツと食らっていたが、それがなくなるとお替りを要求、しかもそれをノインではなくダイナゲートに頼み、ノインを隣に座らせた。

 

 

「なによ? そんなに怖がらなくてもいいんじゃない?」

 

「え、あ、はい・・・・・」

 

「アハッ♪ もしかして食べられちゃうと思ってる? まぁ確かに美味しそうだもんね、あなた」

 

「ヒッ!?」

 

 

 そう、マーダーは所謂カニバリズムというやつであり、この発言もノインにとってはただの冗談では流せないのだ。

 実際のところ、マーダーは人肉を好んで食べるとか人肉しか食べないというわけではなく、普通に料理も食べるし野菜だって食べる。ただ単純に、それ以外に食べるものがない場合に食らうだけだ。

 まぁそれがノインを含めこの世界のものに伝わることはないし、唯一話を聞いて事情を把握しているダイナゲートもなぜかすべてを話さない。主のストレスがマッハでも、話さない。

 

 

「まー大丈夫よ、カレーも美味しいしお替りもあるなら、あなたを食べずに済みそうだからね♪」

 

「そ、そうですか・・・・」

 

「・・・・・あ、でも食後のデザートとかにはいいかも♪」

 

「ヒィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、主にまた一人友人ができたな」

 

「バカなこと言っていないで早く入ってあげなさい」

 

 

 扉の前で無意味に待機するダイナゲートに、代理人は深くため息を吐いた。

 

 

end

 

 

 

番外47-4:ダネルの懸念

 

 

 民間軍事会社『グリフィン&クルーガー』の業務は多岐にわたる。保有戦力のほとんどは人形を中心とした歩兵部隊だが、そのフットワークの軽さから様々な任務が依頼される。戦闘任務はもちろんのこと、哨戒やパトロール、施設の警備にボディガード、潜入捜査、果ては路駐の取り締まりまで何でもこなすことで有名である。

 そんなG&K社の雇用体系は、一部の役職や地域を除き基本的にホワイトに分類される。もちろんいざ戦闘となればそうも言っていられないが、平時であればちゃんと休みが取れるのだ。

 

 

「代理人、いつものを頼む」

 

「かしこまりました・・・・・・毎週のように来ますけど、飽きませんか?」

 

「代理人がいれば飽きることはないよ」

 

 

 日頃はパトロールと街の警備で定時上がり、強力な対物ライフルであるがゆえに戦闘任務が回ってきづらいダネルは、当然のように休日は喫茶 鉄血に通っている。注文も大体同じで、気が付けば「いつもの」で通じてしまう常連になってしまっていた。

 彼女がそうまでして通う理由はもちろん永遠の片思いである代理人目当てだが、最近はそれ以外にもあるようだ。

 

 

「こ、こんにちは」

 

「あらFAMASさん、いらっしゃいませ」

 

「FAMAS・・・・・・!」

 

 

 おどおどした様子で入ってきたのは、つい先日配属されたFAMAS。さすがにハロウィン感溢れる服装ではなくなっており、ちゃんと顔も隠さずに来ているようだ。ダネルの目が威嚇感満載なのだが、代理人は無視した。これがダネルの懸念する感情であるかどうかはともかく、FAMASは代理人と距離を続けたがっているらしい。

 そう、代理人はモテるのだ。それも老若男女出身問わずである。美人で仕事ができて気配りもできる代理人がモテないはずなどなく、ダネル同様に彼女目当てに来店する客も少なくはない・・・・とダネルは思っている。実際代理人に告白して玉砕した人間・人形も多くおり、今のところそんな気配はないがいずれ代理人にも春が訪れるのかもしれない。

 

 

(くっ・・・・だが代理人が幸せならそれで・・・いやしかし・・・・・むむむ)

 

 

 やはりもっとインパクトを持たせるべきか、と思案するダネル。ちなみに彼女が代理人に思いを打ち明けた時のインパクト(第九話)が悪い意味で強烈であったのは言うまでもない。加えてこれまで幾度か距離を縮めるチャンスがあったにもかかわらず、変にヘタレたりタイミングが悪かったりしたせいで全く進展していない・・・・・というか進展することはきっとない。

 

 

「はぁ・・・代理人は結婚願望とかはないのか?」

 

「あったとしても、それはおそらくあなたではありませんよ」

 

「おそらく、ということは0ではないのだな」

 

 

 よく言えばポジティブに、悪く言えば自分に都合の良いように受け取るダネルに、代理人も諦めたように溜息をつく。この無駄な積極性をMG5と足して二で割ればちょうどいいんじゃないかとも思う。

 

 

「まぁいいでしょう。 それと結婚願望ですが・・・・・人並みにはありますよ」

 

『え!?』

 

「わ、わたしか!?」

 

「違います」

 

「(´・ω・`)」

 

 

 一気に上がった熱が一気に下がるダネルだが、これもいつも通りのことなのでフッとすぐに切り替わる。が、他の客にとって先ほどの発言の影響は大きく、代理人は彼らのメンタルに妙な火をつけてしまったことに最後まで気づくことはなかったのだった。

 

 

end




年末調整めんどくせー!
そのくせなんで学校ではそんなことを教えてくれなかったのか・・・・ついでに先生方の給与でも見ようと思ってたのに。


という話は置いておいて、今回のキャラ紹介


番外47-1
いつぞやに設定だけ用意したまま使わなかったダミーの使い道。
個人的にはちょっと笑いのツボがおかしい代理人とか見てみたい。


番外47-2
いい加減進めないと・・・・と言ってもこの程度だけどね!
書いてて何度か暴走しそうになるんですよねこの二人。


番外47-3
マーダーとノインのちょっとした一幕。
食べる(意味深)が頭をよぎったけどやりすぎそうだったので没に。
というかコラボキャラしか出てきてない笑


番外47-4
ダネルの恋が実ることはたぶんない。


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第百八十九話:子守日和

おい運営、9たんのロリスキンとか俺の財布を殺す気か!?(キャッシュカードを構えつつ)


そして基地画面の副官(協力者)を二人に設定できるようになりましたね。
9ちゃんと45姉もいいし、45と40の組み合わせもいい・・・・・あ、416とM4を並べるのも悪くn(銃声)


 喫茶 鉄血は、老若男女問わず利用できる雰囲気の喫茶店である。そこかしこで話し合いや談笑の声が聞こえてくるが決してうるさいものでもなく、店のBGMの一つのようなにぎやかさを見せている。

 それ故に、G11の嘆きは見事にかき消されるのだった。

 

 

「うぅ・・・・もう勘弁してよぉ~~・・・・・」

 

「ふふふ、大人気ですねG11さん」

 

「ひ、他人事だと思ってイデッ!? か、髪引っ張んないで!!」

 

 

 いつもののんびり気まま、時々愉悦なG11の姿はなく、あるのは自身にとって未知のものへの困惑と心労、そしてこの元凶への憤りであった。

 

 

「そろそろ代わってよ45ねぇ!」

 

「45ばっかりずるいよ!」

 

「やー! ここは私のトクトウセキなの!」

 

「あーもーうるさい!!」

 

 

 カウンターに座るG11の膝の上に座るちっちゃいUMP45と、それを羨ましそうに見上げるちっちゃいUMP9とUMP40。黄色いを通り越して甲高い声を上げ続ける元気っ子三人組に振り回されるG11であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は、IoPが誇る天才科学者ペルシカリアからの一本の電話。次期スキンの対象にUMP姉妹が選ばれ、早速試してほしいというものだった。時期的にもスキンの発表があっていいころなのと、確かに三姉妹でのスキンというのは話題となるということから、とくに疑いを持たずに三人は16labへと旅立っていった。

 ところが、グリフィン特製護送バスで帰ってきたのは、見事にダウンサイジングしたUMP姉妹たちであった。とくに45は元の面影すらないほどおどおどした性格になり、9も9で416のことをそっちのけで45や40とじゃれ合う。

 これにブチ切れた416が護送バスの運転手と護衛の人形にお願い(脅迫)し、三姉妹をG11に預けて16labへと出撃したのがおよそ一時間前。そして現在、G11は元気が有り余るちびっ子にメンタルをゴリゴリと削られているのだった。

 

 

「うぅ・・・こんなの絶対おかしいよ・・・・なんだって私がお姉さんなのさ・・・」

 

「まぁまぁ、たまにはいいじゃないですか」

 

「代理人は慣れてるだろうからいいけどね、私はお世話されることはあってもすることはないんだよ」

 

 

 この場に416がいれば拳骨の一発くらい落ちそうなことを平然と言ってのけるG11。現在は比較的グータラが減っているが、404小隊が『存在しない部隊』だったころはよく416に世話を焼いてもらっていた身分だ。その都度416に蹴られたりもしたが、G11のグータラが治ることはなかった。

 そのG11にとって、何もしなくても面倒ごとがやってくるというこの状況は悪夢以外の何物でもない。

 

 

「45ねぇかわってよ~!」

 

「やだやだやだー!!」

 

「ぐぇ!? く、首が絞まる・・・・!」

 

「あたいもそこに座りたいの!」

 

「イデデデデデデ!!! ちぎれるっ、髪の毛千切れるからっ!」

 

 

 G11の膝をめぐる攻防はいまだ終わりを見せず、むしろ激化の一途をたどっている。頑なに降りようとしない45の服や足を9が引っ張り、それに抵抗して45がつかむのはG11の首元のスカーフ。40は40で自分も上に這い上がろうとしているのか、G11の髪をつかんで這い上がろうとする。逃げ出そうにも45が座っている以上動くこともできず、これなら416に蹴られる方がましだと悲観するもチビたちは容赦なく動き回り、G11はただされるがままである。

 ただでさえ騒がしいのやちょろちょろと動き回るのが苦手なのに、それが三人も集まっては堪らない。あまり子供に口うるさくするのは気が引けるが、ここは心を鬼に・・・・と思ったところでさらなるアクシデントが降りかかる。

 

 

「わっ、わわっ!?」

 

「ちょっ!? 45危ない!」

 

 

 引っ張られてバランスを崩した45が、G11の膝から滑り落ちる。G11が座っていたのカウンター席は少し高めの椅子であり、子供にとってはそこそこの高さがある。結局G11の手も届かず45は転げ落ちてしまった。

 小さくなっても戦術人形なので大したことはないのだが、メンタル面は見た目相応に幼くなっており、落ちた衝撃とショックで泣き出してしまった。

 

 

「うわぁああああああん!!!!」

 

「だ、大丈夫だよ45! 痛くない痛くない!」

 

 

 呆然となって動かない二人に変わってG11がなんとかあやそうとするが、人を泣かせることはあっても泣き止ませることなどほとんどなかったG11に打つ手はない。

 そして子供というのは、感情が連鎖的に広まっていくものである。

 

 

「ご、ごめんなさい・・・ごめんなさぃぃ・・・・」

 

「うげっ、9も!?」

 

「45が・・・45がぁぁぁぁ・・・・・」

 

「40まで!?」

 

 

 45が落ちたのが自分のせいだと思い込んでしまった9が謝りながら泣き始め、45が大怪我を負ったと勘違いした40もショックのあまり泣き出してしまう。ただでさえ45一人に手を焼いているのにさらに二人も増えては、流石のG11もお手上げだった。

 おまけにどう頑張っても泣き止む気配がなく、G11の声すら届いていない。周りの者も助けるどころかなぜか微笑ましい顔で見ているだけで、早々に頼ることを諦めた。かくなる上は面倒ごとのリーサルウェポン、代理人に頭を下げるしか。

 

 

「だ、代理人っ、ヘルプ!!」

 

「あら、もう少し頑張ってみてはどうですか()()()()()?」

 

「ふざけてないで助けてよ!?」

 

 

 若干青筋を浮かべているG11に、どうやら少々意地悪しすぎたらしいと苦笑する代理人。まずは45の前にしゃがみ込み、そっと抱き寄せる。とくに何か言うわけではないが、軽く頭をなでてやると45は次第に泣き止み始める。ついでに周りで見ていた何人かが悶え死んだ。

 45が落ち着くと40と9も同様に抱き寄せ、あっという間に泣き止ませる。G11があれほど手こずったのが嘘のようだった。

 

 

「・・・・・・やっぱ慣れてるね代理人」

 

「さぁ、どうでしょうか・・・・・皆さん、ちゃんと仲直りできますか?」

 

「「「・・・・うん」」」

 

「それと、『G11お姉ちゃん』にもちゃんとごめんなさいって言いましょうね」

 

 

 ちなみに代理人がG11のことを度々『お姉ちゃん』と呼ぶのには一応理由がある。404小隊の人形が扱う銃は全てドイツ製の銃がモデルとなっており、その製造年を並べると、

・HK416……2000年代

・UMPシリーズ……1990年代

・Gr G11……1980年代

となっている。ケースレス弾やら見た目やら射速やら最新鋭にも劣らない性能を持つG11が、最も製造年の古い銃なのだ。

 今回のちびっ子スキンにG11が含まれていないのも、そういう背景があるのかもしれない(もともとチビなのもあるが)。

 

 

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

 

「「ごめんなさい」」

 

「あー、うん、もういいよ気にしてないし」

 

 

 元の姿に戻ったら思いっきりこき使ってやろう、無理やり作った笑顔の下で静かにそう思った。しかしこの場でそれを態度に出してはまた泣かれるかもしれないので、あくまで見た目は笑顔で落ち着きのある雰囲気を出しておく・・・・・が、代理人にはばれてるらしく小さく笑っていた。

 

 

「はぁ、なんか一気に疲れた・・・・416の気持ちがちょっとわかったよ」

 

「ふふっ、ちゃんとお礼は言った方がいいですよ」

 

「そうする・・・・・それじゃあ3人とも帰るよ・・・って」

 

「んぅ・・・・」

 

「・・・・zzZ」

 

「おねえちゃんだっこ~・・・・」

 

「う、うそでしょ・・・・・」

 

 

 三人そろって電池切れになり、眠そうに目をこすっている。9にいたってはすでに寝息を立てており、自力で帰るのは不可能なようだ。そして不幸なことに周りに他のグリフィンの人形もおらず、この三人を連れて帰らなければならないのは自分なのだ。

 

 

「あぁもう、やっぱり元に戻ったらこき使ってやる!」

 

 

 完全に熟睡モードに入った9を背負い、限界一歩手前の45を片腕で抱っこ、まだかろうじて無事な40の手を引き、会計を済ませて店を出る。

 何だかんだ文句を言いつつも置いていこうとしないG11に、404小隊の仲の良さを垣間見る代理人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むにゃぁ・・・・・」

 

「あっ、ちょっ、40起きて! 寝ないで! あ~もう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

早く帰ってきて416~~~!!!!

 

 

end




404小隊はママ(416)がいないとダメだな笑

実はこれとは全く関係ない話を書いていたんですが、今一筆が進まなかったのとログイン絵を見た瞬間色々と吹っ飛んだので書き直したという経緯があります・・・・諸君、待たせたな!


というわけで今回のキャラ紹介。


G11
404小隊一のダラケ人形・・・・が、今回はそうも言ってられなくなった。
製造年を見て銃の詳細を見て、改めて頭のおかしい(褒め言葉)銃だと確信しました。
なんだかんだ面倒見がよさそう。

UMP45
メンタル面は深層映写モードの泣き虫。
正直末っ子感の方が強いと思う。

UMP9
遊んで泣いて寝る、典型的な元気っ娘。
たぶん一番わがままで、一番我慢の利かないタイプ。

UMP40
一番長女感があると思う・・・・拙作では次女だけど。
微妙に強がって、結局我慢できなくなるタイプ。

416
カチコミ不可避

代理人
母性の塊みたいな人形。
代理人に膝枕されながら子守唄を歌ってほしい。


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第百九十話:軍用エリートの日常

ロリ9ちゃんが可愛すぎて昇天しそう・・・・コイン1200枚は伊達じゃなかった!

45姉と416は来てくれなかったけどそれはそれで年の離れた姉妹感あるからヨシ!


「最近、私のイメージがあまりよろしくない気がするのよ」

 

 

 何でもない日の昼下がり、ふらりと現れて代理人の前に座った彼女は突然そう言った。きれいな銀髪を一つにまとめ、身なりはいつもきちっとしているが中身は残念だと評判の人形、AK-12である。

 めったなことでは開かない瞼はいつも通りだが、眉間に寄ったしわからは不満さがにじみ出ている。

 

 

「それはまぁ・・・・自業自得では?」

 

「代理人まで!?」

 

 

 先述の通り中身が残念、特に私生活においてはほぼほぼ相棒であるAN-94に依存しているといっても過言ではなく、放っておけば数日できれいな部屋から汚部屋へとクラスチェンジするほどだ。

 加えて元軍用というエリートにあるまじきサボり癖で、そのたびに隊長のM4から制裁を喰らっている。最近その制裁もだんだんと威力を増してきた。

 

 

「IoPのカタログは見ましたが、今のあなたとは程遠い評価でしたよ」

 

「待って、何で代理人がそれを知ってるの?」

 

「先日、M4がそれを持って相談に来ましたので・・・・・もはや詐欺だと」

 

「うっ・・・・」

 

 

 冷静沈着、頭脳明晰、電子戦機でありながら戦闘能力も高く、あらゆる局面で活躍できる万能機・・・・というのがそのカタログに記載されている内容である。一応AN-94のフォローでは、『長い軍生活から解放された反動』とのことらしい。が、そのAN-94は戦術人形として模範的な振る舞いで有名である。

 

 

「だって、もう私たちが必要なほど切迫した状況なんてそうそうないでしょ? ぶっちゃけ暇なのよ」

 

「それには同感しますが、有事に備えるのがあなた方では?」

 

「その有事も、大抵ほかの部隊で十分すぎるわよ」

 

 

 なお、それでもどうしようもない場合は軍が出向くことが多いため、どのみち彼女に出番はない。あるとすれば、ごく少数での運用が望まれる場面だが、それこそ滅多にないのだ。

 AK-12はズズズッと空のグラスを啜り、べちゃっと机に突っ伏す。

 

 

「はぁ~・・・いっそ民生人形にでもなろうかしら」

 

「無駄に高スペックな民生人形ですね」

 

「うぅ、代理人が冷たい・・・・・うぇ~ん」

 

 

 わざとらしい泣き声を上げつつ、その指は広げられたメニューの一つを指さす。どうやら今日はショートケーキの気分らしい。

 少し冷たくしすぎただろうか、と若干申し訳なくおもいつつ、代理人はケーキを取りに下がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ代理人、OLなんてどうかしら? 知的美人って感じで」

 

「いやいや、やっぱりナースとかいいと思うんだよ!」

 

「いっそグラビアとか? これでもスタイルには自信があるのよ」

 

「え? でもその胸h「な・に・か?」・・・いえなにも」

 

「・・・・・・何をしているんですかマヌスクリプト」

 

 

 数分もかからず戻ってきた代理人が見たのは、なにやら怪しげなカタログを広げてわいわいはしゃぐAK-12とマヌスクリプトだった。どこか見覚えのあるそれは、マヌスクリプトの副業としてやっている服の製作用カタログだ。個人の体形に合わせた服からコスプレまで、幅広く請け負ってくれるということで割と人気なのだ・・・・具体的には年に二回、極東のとある国から注文が殺到する。

 おそらく小耳にはさんだマヌスクリプトが、己の欲求を満たすために話をしたのだろう。そして目論見通り、AK-12が釣れたというわけだ。

 

 

「だってさ代理人、やっぱり着てみた方がイメージが湧くと思うんだよ」

 

「イメージも何も、本気で民生になるつもりですか?」

 

「おや、代理人は戦術人形のままでいろというのかな?」

 

「いえ、そういうわけでは・・・・・・」

 

 

 じゃあ決まりだね、とマヌスクリプトはAK-12を連れて上の階に上がる。なにやら上手く丸め込められた上に体よくサボっている気がしなくもないが、マヌスクリプトの言う通り止める資格は代理人にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、場所は変わってマヌスクリプトの部屋。依然喫茶 鉄血に居候していた身であるAK-12は知っているが、相変わらず部屋の部屋の壁が見えないほどのクローゼットは圧巻である。一見するとごちゃついているように見えるが、マヌスクリプト曰くどこに何が置いてあるかを把握しているので問題ないらしい。

 さて、ほぼ勢いだけで来てしまった感のあるAK-12だが、ここへきて若干の後悔が芽生え始めた。何せ相手は暴走状態に入れば誰も止められないあのマヌスクリプトだ。そんな彼女の部屋まで来てしまったAK-12は、まさに猛獣の檻に入れられたウサギである。

 

 

「さてさて、まずは何から着てもらおうかなぁ~」

 

「あ、あのねマヌスクリプト、わざわざ仕事を抜け出してもらうほどのことじゃないし、また日を改めて・・・・・」

 

「大丈夫だよ、()()有休が一日減るだけだから!」

 

「えぇ・・・・・」

 

 

 趣味と楽しみに全力を懸ける女、マヌスクリプトに今更有給の一つや二つ変わらないのだ。そのマヌスクリプトがクローゼットを開くと、中には明らかに趣味全開の衣装がずらりと並んでいる。そしてそれを今から自分が着ることを察したAK-12は、思わず頬を引くつかせる。

 明らかに丈のおかしいチャイナ服、もはや紐同然の水着、背中部分が開きすぎて服として機能していないセーター、どう考えても布が垂れてるだけの謎の服*1etc・・・・・残念ながらAK-12がひん剥かれるのは確定したようだ。

 

 

「さぁさぁ早速お着換えしましょうねぇ~!」

 

「そ、その怪しい手つきはなにかしら・・・・・」

 

「大丈夫ですよお客さん、優しくしますからねグヘヘヘ」

 

「ちょっ、わ、わかった! 自分で着替えるからこっち来ないでぎゃぁああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・やはり様子を見にいくべきでしょうか?)

 

 

 上階から時折聞こえるAK-12の悲鳴を聞き流しつつ、しかし一応気になる様子の代理人。あの後念のためM4に確認をとったところ、今日はちゃんと休みを取っているためサボりではないとのこと。なので追い返す必要もないが、イコール助ける必要も正直ない・・・・・自分から余計なことに首を突っ込んだのだから。

 それに、いざというときは代理人が動かずとも何とかなると思うのだ。

 

 

「AK-12、大丈夫でしょうか・・・・・・・」

 

「取って食われるわけではありませんから」

 

 

 チビチビとコーヒーを飲みながら不安げな言葉をこぼすのは、これまた休暇を取ってこっそりAK-12の後を追ってきたAN-94だ。AK-12の身を案じ、落ち着きなくソワソワするAN-94に代理人はクスリと笑う。以前ほど依存しなくなったものの相変わらず生活スタイルがAK-12を中心に回っているらしく、AK-12に合わせて休暇を取るなどよくあることなのだ。

 もう何度目かの悲鳴を聞いていたAN-94だったが、そろそろ辛抱できなくなったらしく椅子から立ち上がる。

 

 

「や、やっぱり何かいかがわしいことをしているに違いありません! 行きましょう!」

 

「・・・・・え、私もですか?」

 

「私ではマヌスクリプトを止められませんから」

 

「あぁなるほど」

 

 

 腐ってもハイエンドモデル、中でもサブアームを用いた重武装を可能とするマヌスクリプトのパワーは馬鹿にできず、戦闘能力特化型のAN-94であっても一対一は分が悪い。そのための代理人(保護者)だ。

 まるで戦場に赴くかのような緊張感で三階に上がり、AK-12とマヌスクリプトの怪しげな声が聞こえる部屋の前に立つ。何故か銃のセーフティを解除しているが、ここで発砲するといろんな意味でマズいということに彼女は気づいているのだろうか。

 

 

「AK-12! 大丈夫ですか!?」

 

『AN-94!? 待って、今は開けないで!!』

 

『そうだよAN-94、AK-12が開けちゃダメって言ったらダメなんだよグヘヘヘ』

 

 

 AK-12の焦る声とマヌスクリプトの煽り文句に、全てを察した代理人は呆れながらも一歩下がる。逆にAN-94は本気でAK-12の危機だと思ったのか、セレクターをフルオートに切り替えて引き金に指をかける。

 

 

「AK-12! 今助けます!!!」

 

『ちょっ!? マヌスクリプト急いで!!』

 

『はいはい、暴れるともっと時間かかるよ~?』

 

「やろうぶっ○してやる!!!!」

 

 

 一気に戦闘モードの出力まで高め、さして丈夫でもないドアにはオーバーキルな蹴りを放つ。粉砕されたドアを跨ぎ、鬼の形相で室内を睨むAN-94の殺意が銃弾となって飛び出すのを待つばかり・・・・・そのトリガーにかけられた指が、ピタリと止まった。

 

 

「え・・・AK-12・・・・・・?」

 

「違っ、これは・・・・」

 

 

 蹴り破った扉の先にいたAK-12を、一瞬本人だと認識できなかった。首から胸元にかけてはもともとの色白の肌をさらけ出し、その下からは純白のドレスが流れるように続く。閉じた瞳も合わせてまるで一枚絵のようなウェディングドレスだ・・・・・ったのだが、見られるのを恥ずかしがったAK-12が慌てて脱ごうとしてうまくいかず、結果半脱ぎという状態でAN-94に見られてしまった。

 

 

「み、みないで・・・・・・」

 

 

 乱れた服をつかみながら、顔をそむけるAK-12。その仕草も表情も、誰もが目を奪われる魅力を持っていた。

 で、ただでさえAK-12ラブなAN-94がそんなものを見ればどうなるか、火を見るよりも明らかであった。

 

 

「・・・・・・カハッ!」

 

「ANー94!?」

 

「あちゃ~、やっぱり刺激が強すぎたかぁ」

 

 

 鼻から人工血液を吹き出し、オーバーヒートを起こして倒れ伏すAN-94に、代理人は小さくため息をついた。

 その後通報を受けたM4らが駆け付けるまでの間、AN-94はやけに幸せそうな表情のまま眠っていたという。

 

 

 

 

end

*1
アズー〇レーンのシ〇アスのあのスキン




新イベントにポイントイベント、そして9ちゃん()のロリスキン・・・・・運営はなんてことをしてくれたんでしょう!(歓喜)
というかロリ9のボイス・・・ありゃ反則だよ。もうロリコンでもなんでもいいよ!






・・・・・・はい、若干取り乱しましたが、今回は久しぶりにAK-12とAN-94のお話でした。相変わらずうちのAK-12は残念過ぎるな笑

では、今回のキャラ紹介。

AK-12
高性能・高コストな怠け者。民生に~などと言っているが、そうなったらニートまっしぐらだと思う。
あるいは、高度な電子戦能力を活かした株トレーダーになるのもいいかもしれない。
マヌスクリプト含め、いわゆる問題児たちとは割と仲がいい。

AN-94
AK-12が好きすぎて全面的に・・・というか妄信的に信頼を置いている。
最近こそやっと依存状態から脱却し始めたが、依然として自主性が薄く趣味等もないため、休日はAK-12と過ごす以外にやることがない。
それを覗けば作中屈指の常識人。

マヌスクリプト
トラブルは起こすのではない、彼女自身がトラブルなのだ。

代理人
ちゃんと仕事して、ダメなラインさえ越えなければ大体何でも許している。


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第百九十一話:私の〇〇が一番可愛い!!

ゲートにサンドイッチされまくるニモゲンとマーキュラス可愛い。

ところでNYTOって人形ではなく機械化されたクローン人間らしいですね。
さてさて、どうやってこの世界に登場させるか・・・・・


そういえば最近影の薄かった鉄血組が大暴れしてくれるイベントでもありますね。
どこぞの処刑人大好き作者様が発狂しているのを見かけました(笑)
代理人の出番が薄いんですがどういうことですか運営=サン?


 季節は冬、まだ雪こそ降らないものの一日を通して冷え込むようになってきたこの時期は、温かい飲み物と暖房完備の喫茶店は重宝される。加えて冬休みも近いこともあって、集まっては先の予定を話し合う学生たちの集会所のような役割もあったりする。

 そしてここにも、秘密の集会を企てている集まりがあった。

 

 

「まずいなぁ」

 

「・・・・・あんた、さっきからそればっかりよ?」

 

「わかってる、わかってるが・・・・はぁ」

 

(・・・・珍しい組み合わせですね)

 

 

 代理人も思わず二度見した今日の組み合わせ、テーブルを挟んで向き合うのは404小隊の良識HK416と、鉄血ハイエンドの中で数少なく所在と職のはっきりしているハンター。

 互いに面識こそあるものの、特別親しいわけでもなければ仕事の付き合いがあるというわけでもない。片やグリフィン虎の子の部隊の一つ、片や国際警察とそれぞれの領分があり、活動範囲も対象もほぼ交わることはないのだが、その二人が・・・・・しかもお互い恋人同伴ではない状態で会うのは初めてではないだろうか。

 

 

「で、わざわざ呼び出した理由は何なのよ? まぁあの二人のことでしょうけど」

 

「察しがいいな・・・・・端的に言おう、クリスマスを三人で過ごしたいんだが何かいい案はないだろうか?」

 

「自分で考えなさい」

 

 

 一刀両断、それ以外にないでしょと言わんばかりに切り捨てる416。ただ実際のところ、恋人としてそれくらい自分で考えて然るべきだという考えに基づいての回答であり、ハンターも半ばその答えが返ってくるのを承知だったようだ。

 ふぅ、と息を吐いて腕を組むと、改めて416に向き合う。

 

 

「実は三人で過ごす計画は立っているんだ。 だが私も、そして彼女たちも二人きりの時間を過ごしたいと考えている。 私にとって二人とも大切な人なんだができれば差を付けたくないし、かと言って全く同じというのも違うんだ・・・・・どうすればいいだろうか?」

 

「あんた・・・・そんなポンコツだったかしら?」

 

 

 至極真面目な顔で言うものだから何事かと思ったが、要するに二人とも平等に愛したいけどどないしよ?ということである。ハンターたちのデート事情は知らないが、9経由で聞く限りあの二人(AR-15とD-15)はとくに不満を抱いているというわけではないようだ。

 ただでさえこの休みを9と過ごせないという不満の中、そんな相談をされる身にもなってほしいものだ、と416は思う。

 

 

「いいじゃありませんか、そのくらい」

 

「代理人・・・・というかそうよ、彼女に聞きなさいよ」

 

「そうは言うがな416、恋愛経験0の代理人に聞くよりはお前に聞いた方が早いだろう」

 

「だそうですよ」

 

 

 この話をダネルあたりにすれば『私が初恋の人になる!』とでも言いだしそうなところだが、実際代理人に恋愛経験はない。それっぽいアドバイスも人から聞いたものや、いろんなカップルや夫婦を見てきた中での意見であるため、あくまで参考程度にということなのだ。

 そんなわけで今回に限ってはあまり役に立たない代理人に期待できないため、416が何とかするしかないようだ。

 ちなみに代理人は自身の恋愛経験について特に気にしていない。

 

 

「あぁもう、わかったわよ・・・・・・相談に乗ったげるからさっさと話しなさい」

 

「すまない・・・・ちなみにそれはツンデレというやつか?」

 

「はったおすわよアンタ」

 

 

 こうして、416によるクリスマスデートプランが話し合われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちの9の方が可愛いに決まってんでしょ」

 

「それは聞き捨てならないな416、あの二人に勝る者などいない」

 

「お二人とも、話の趣旨を忘れてますよ?」

 

「「今いいところだから黙ってて(くれ)!!」」

 

 

 話し始めること1時間後、それまで順調かと思われていたところに暗雲が立ち込め始めた。ハンターがこれまでのデートや旅行先などを話し、それをもとに416がプランを練り、最後は二人で詰めていくという流れで進んでいたのだが・・・・・・

 

 

『ふふっ、その時のAR-15は可愛かったな』

 

 

 という風に、思い出すたびにハンターが惚気だしたのだ。はじめは416もただ鬱陶しそうに聞いているだけだったが、あまりにも続くのでつい、

 

 

『あら、私の時は9が珍しい表情を見せてくれたわ』

 

 

 などと対抗心を見せてしまった。

 それが開戦ののろしとなり、気づけば自分の恋人がいかに『可愛いか』という周囲に砂糖をぶちまけるだけの争いに発展する。二人とも大抵の場合『タチ』なので、相手の可愛いところなど文字通り山のように出てくるわけで、それはつまり相手が折れない限り終わりはないことを意味している。

 

 

「AR-15の普段の凛とした表情が緩む瞬間など言葉では言い表せない魅力がある。 D-15は背伸びをしたがる子供っぽさもあり、そして二人ともちょっと嫉妬しやすいところが愛らしいのだ」

 

「9は元気はつらつな妹キャラだし、甘えるときは素直に甘えてくる子なのよ」

 

「二人とも自分を見てほしいと思いつつ、しかし自分『だけ』というのは望んでいない・・・・そんなやさしさに惚れたのだ」

 

「たまに思い切って攻めてきて、でも結局ヘタレる可愛らしさは何ものにも代えがたいわ」

 

 

 

 もはや会話として成り立っておらず、互いに言いたいことだけ言い合う会話のドッジボール・・・・いや、どちらかというと壁当てである。本人らはいたってまじめだが、その内容はただの暴露話でしかなく、この場にいない三人のプライベートやら恥ずかしい話が惜しげもなく披露されていく。

 

 

「不意に抱きしめた時に耳まで真っ赤になる9の可愛さがあれば、24時間365日でも働けるわ!」

 

「ほろ酔いで甘えてくる二人を見れば仕事の疲れもストレスも一発で吹き飛ぶ!」

 

「あの、お二人ともそのくらいで・・・・・」

 

「それに9は『 』(ピー)するとすぐ蕩けちゃうのよ!」

 

「こっちの二人も『 』(ピー)すれば簡単に『 』(ピー)してくれるのさ!」

 

「店内での猥談はご遠慮ください!!!」

 

 

 暴露話がよりディープなところに向かい、店内の客が耳をそばだて始める。カウンターの内側で愛用のパッドを取り出したマヌスクリプトを捕縛しつつ、どうにかこの無差別大量惚気人形たちを止めようと案を巡らせる。

 というかもはや『そういう話しかしなくなった』二人に、店内は異様な雰囲気に包まれている。今日はたまたまいないが、ここは子供も利用する喫茶店なのだ。教育上よろしくないことは避けたい。

 

 ・・・・・いよいよ物理的に止めるしかないか。そう物騒な考えが頭をよぎったその時、店の扉が勢いよく開き、顔を真っ赤にした人形たちがなだれ込んできた。

 

 

「ハンター! 人前でなんて話をしてるのよ!?」

 

「416もやめてよ!」

 

 

 怒り7割羞恥3割ぐらいの表情で抗議するAR-15、D-15、UMP9の3人。目じりにちょびっと涙を浮かべた表情ではやや迫力に欠けるが、本人らはいたって真面目に止めたいようだ。

 が、その三人を見たハンターと416はフッと表情を緩めると、なぜかドヤ顔で語り始める。

 

 

「ほら、やっぱりうちの9は可愛いのよ」

 

「こっちの二人も負けてないさ」

 

「「「いい加減にしろ(して)!!!」」」

 

 

 三人分の鈍い音が響き、店内に静寂が戻る。

 その日以降、街に出るたびに温かい目で見られることになった三人の機嫌がなかなか直らないのだが、それはまた別のお話し。

 

 

 

 

end




前回の投稿から早二週間・・・・最大の敵は己(のモチベーション)でしたね。
仕事もだんだん任される量が増えてきたので、嬉しい反面忙しくてイベントもろくに進まないというジレンマ。

今後もこんなペースになりそうですが、どうぞよろしくお願いします。



ということで早速キャラ紹介!


ハンター
AR-15とD-15という二人の恋人を持つリア充。
休日が不定期のため、デートのプランは入念に立てるタイプ。
ハンター曰く、AR-15はクーデレでD-15はデレデレらしい。

HK416
9の恋人、リア充。
妹のような子犬のような、そんな愛らしさのある9を溺愛しており、ちょっぴりいじめたくなる時もある。
416曰く、9は割と全身弱いらしい。

AR-15
ハンターの恋人、リア充。
仕事もできて頼りになるハンターだが、常に主導権を握られている状況を何とかしたいらしい・・・・でも結局いいようにやられる。

D-15
ハンターの恋人、リア充。
甘えるときはがっつり甘えるタイプで、わがままを素直に言える娘。
ハンターになら好きにされてもいい。

UMP9
416の恋人、リア充。
恋人ではあるのだが、常に主導権を握られていることに思うところがあり、しょっちゅう仕返ししようと行動する・・・・・で、大抵失敗して喰われる。
9曰く、416の弱点はちk(インクが滲んで読めなくなっている)

代理人
恋人いない歴=年齢だが、特に気にしてはいない。
経験に基づくアドバイスはできないが、背中を押すことはできる。


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第百九十二話:Operation〈X´mas〉

他作者様のとこで何やら大規模なコラボが開催されてますねぇ・・・・う、羨ましくなんかないんだからねっ!(迫真のツンデレ)



さて、今年は今回を含めてあと二話投稿予定です。
周りとはちょっと毛色の違うクリスマス回、どうぞお楽しみください。


 年の終わりも近づいたとある日。通りや玄関先には色とりどりの明かりと飾り物が並び、いよいよクリスマスまで秒読みという空気が漂っている。客も店も、このシーズンは大いに盛り上がりを見せるのだった。

 そして多くの者はこう思うだろう、『意中の相手と素敵なひと時を過ごしたい』と。

 

 

「なんとか・・・・できないものでしょうか」

 

「いえ、それを私に相談されましても」

 

「代理人ならッ、いい案の一つや二つすぐに出てくるでしょう!?」

 

「そんな無茶な」

 

 

 金曜の夜、Barとして営業する喫茶 鉄血のカウンターで涙ながらに懇願するスプリングフィールドに、代理人は困ったように笑った。

 この地区であれば知らぬものなどほとんどいないくらい有名な話だが、このスプリングフィールドという人形は指揮官のことが好きである。普段はまじめで頼りになるが、指揮官が絡むだけでRPGの初期装備よりも役立たずに堕ちる彼女が、この特別な日を利用しない手はなかった。

 しかしこれも周知の事実だが、彼女を含め指揮官love勢は全員が全員、とにかく最後にヘタレるのだ。指揮官の鈍さも相まって、一向に進展もないまままた一年が過ぎようとしている。

 

 

「今年こそ、今年こそは指揮官と結ばれたいんです!!!」

 

「気持ちはわかりますが、それなら思いを直接伝えた方が早いと思いますよ」

 

「それができないから聞いてるんじゃないですか!!」

 

「えぇ・・・・・・」

 

 

 恋愛というものがよくわかっていないし体験してもいない代理人からすれば、ただ言葉を伝えるだけなのではと思うのも無理はない。しかし恋に限らず何らかの意思を伝えるのは案外難しいのも事実なので、それ以上は言わないでおいた。

 ついでに代理人がスプリングフィールドに協力的ではない理由の一つに、彼女一人に肩入れしたくないというのもある。なんだったらこの手の相談で一番早かったのはモシン・ナガン(第一話)であるし、スプリングフィールドの場合は勝手に自爆することの方が多いのである。

 

 

「はぁ・・・・・いっそ一服盛るのも

 

「流石にそれは看過しかねますよ」

 

 

 どのみち一服盛ったところでヘタレるか邪魔が入る未来しか見えないが、普段から割と多忙な業務に追われる指揮官の心労を増やすわけにもいかないので止めておく。そうでなくとも年末というのは何かと忙しいものであり、財務関係をカリーナに一任しているとはいえ指揮官が片付けるべき決済は山のようにあるのだ。

 ・・・・・という理由を付けてみるが、あの指揮官のことだろうから()()()()との予定を蔑ろにするはずはないだろう。ただ単に、まだそんな人がいないだけなのだから。

 

 

「あ、スプリングフィールドお姉ちゃん!」

 

「あら皆さん、こんばんは」

 

「こんばんは・・・・・子供たちだけで来るのは感心しませんよ」

 

 

 店に入ってきたのは、このあたりに住む子供たち。どうやら外からスプリングフィールドを見つけてやってきたようで、それを彼女は温かい笑顔で迎える。子供だけで飲み屋に来ることを代理人も口では咎めるが、とくに追い返すつもりはないようだ。

 前述の通り指揮官絡みではポンコツなスプリングフィールドだが、社交的で街の人からの人気も高い。とくに子供たちからは優しく頼りになるお姉さんという目で見られることが多く、本人も子供好きであるため喜んで世話を焼くのだ。

 

 

(指揮官さんの前でもこれなら、もう少し先に進めていたかもしれませんのに)

 

「ねぇねぇお姉ちゃん」

 

「ん? なんですか?」

 

「お姉ちゃんって、お仕事で遠くに行くこともあるんでしょ?」

 

 

 一番年下に見える少女が、少し困ったようにそう言う。スプリングフィールドが「そうですよ」と返すと、少女は手に持っていた小さな包みを差し出した。どうやら誰かに宛てたものらしく、張られた紙には拙い文字で名前と住所が記されていた。包み自体は簡素なものだが、それを彩るようにして巻いてある赤いリボン、そしてこのシーズンであることから、代理人もスプリングフィールドもそれが誰かへのプレゼントであることは察していた。

 それと同時に、わざわざ彼女に持ってくるという違和感も。

 

 

「これを、お友達に渡してほしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12月24日 22:00

 

 世の良い子たちは眠りにつき、恋人たちは互いに愛し合い、眠らない街はより一層の盛り上がりを見せる・・・・・・スプリングフィールドたちが見下ろす町は、そんな当たり前とはかけ離れた様相を放っていた。

 鳴り響く銃声、燃え上がる家屋、そこかしこから聞こえる悲鳴と怒号。独裁政権を敷く政府軍とそれに反発する反乱軍の内戦が続くこの国では、末端の小さな町でも戦火の波にのまれてしまっている。かつてあった大きな戦争ではクリスマスには一時停戦したと言われているが、残念ながら彼らにその選択肢はなかったようだ。

 

 

「話には聞いていましたが・・・・・・」

 

「今更感傷に浸るつもり? 今からこの中を突っ切るのよ私たち」

 

「せやな・・・・覚悟決めるか」

 

 

 そう言うと彼女たちは各自銃の最終チェックを、そしてスプリングフィールドは小包の入ったポーチをしっかりと固定し、戦場へと駆け下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの発端は、スプリングフィールドが少女から受け取った一つの小包。遠い地へと引っ越してしまった友人に宛てたクリスマスプレゼントなのだが、それを届けてほしいのだという。

 

 

「郵便屋さんが届けてくれないって言うの」

 

 

 少女が悲しそうな目でそう言うのを、スプリングフィールドは放っておけなかった。ほとんど勢いのままに引き受け、笑顔で少女たちを送り返したところで一気に後悔の念が押し寄せる。

 指定の日時は十二月二十四日から二十五日にかけての夜中、それはつまり指揮官との熱い一夜(予定)を過ごせなくなってしまうということ。今年こそはと意気込む彼女にとってこれは大ダメージである。

 だがそれはまだいい。問題は、その間にライバルたちに先を越されてしまうのではないかという懸念だった。既成事実を作られてしまえばもはや手遅れであり、それだけは何としても阻止しなければならない最優先事項だ。

 

 

(なんとか・・・・何とかして彼女たちの予定も潰さなければ・・・!)

 

「ふむ・・・・少し失礼しますね」

 

 

 頭を抱えるスプリングフィールドに断りを入れ、代理人は小包に書かれた宛先を見る。子供らしい丸い文字で書かれた住所は、ここから遠く離れた小さな町。行って帰るだけでもそこそこの時間がかかる距離ではあるが、それだけでは郵便局が断る理由にはならない。

 それが気になった代理人は住所を調べ、そして理解した。

 

 

「なるほど・・・・・スプリングフィールドさん」

 

「カリーナさんに頼んで仕事を割り振ってもらえばあるいは・・・・いくらか渡せばきっと引き受けてくださるはず・・・・」

 

「スプリングフィールドさん?」

 

「はっ!? なんでしょうか?」

 

 

 なんか危ない妄想に浸り始めたスプリングフィールドを呼び戻し、代理人は小包と、そこに書かれた住所を調べた地図を見せる。

 地図にあるのはここから遠く離れた小国。だがその名前を見た瞬間、スプリングフィールドの表情はキッと引き締まったものになる。

 

 

「代理人さん・・・・これは本当に?」

 

「えぇ、間違いないようです。 これは確かに、配送は難しいでしょう」

 

 

 言外に、スプリングフィールドでも厳しいものだと伝える。なにせ日夜激しい内戦状態にある国だ、そんなところにわざわざ郵便を届ける会社など、普通はいない。そもそもの話、その住所が今もあるかどうかすら不明なのだから。

 スプリングフィールドもそれを十分に理解していた。だが同時に、自分が届けなければきっと届かないという責任感も感じていた。

 

 

「・・・・止めることはできそうにありませんね、では私も僅かながら助力いたしましょう」

 

「ありがとうございます、代理人さん」

 

 

 結果から言えば、スプリングフィールドはこの件を指揮官に相談し、指揮官はこれを却下した。理由は何であれ間違いなく武力介入と受け取られかねないからだ。だがその程度は想定済みであり、ことの詳細をライバルたち(指揮官love勢)に伝えたうえで協力を仰いだ。全員事前にそのあたりに有給を使っていたため、渋々ながらも応じてくれた。

 なお、間違ってもグリフィンにバレるわけにはいかないため、会合場所は代理人が喫茶 鉄血を提供した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は戻り、スプリングフィールドたちは焼けこげ燃え盛る町の中を進む。全員が全員、普段の服装ではなくゴツい軍用装備、口元は防塵マスクで隠し、パッと見では戦術人形だとは思われないだろう。銃ばかりはどうしようもないが、幸いなことに反乱軍が使う一部の銃が彼女たちのものとよく似ていたため、案外カモフラージュはできている。

 すでに付近の住民は避難したらしく、街には灯り一つ灯っていない町を五人の戦術人形が行く。

 

 ・・・・・そう、これがスプリングフィールドの出した答え。すなわち、『ライバルもろとも巻き込んでしまえば出し抜かれない』という打算に満ちた協力要請であった。

 

 

「・・・・政府軍が通った後みたいですね、今のうちに行きましょう」

 

「ウェルロッド、目標はこの先?」

 

「はい、この通りを直進すればすぐです」

 

 

 周囲を警戒しつつ慎重に、しかし速やかに町を進む五人。崩れた建物やひっくり返った車両、そこかしこで物言わぬ屍となった者たちを横目に、可能な限り最短ルートで目的地を目指す。

 存在を知られることもそうだが、彼女たちの銃種上、遭遇戦にはあまり向いていない。HGのウェルロッドは即応性こそあるものの火力が足りず、スプリングフィールド、Kar98k、モシン・ナガンは全員連射の利かないライフル。そのしわ寄せが残ったガリルへと集まってしまうからだ。

 

 

「! 前方に人影を確認」

 

「あれは・・・・まずいわ、政府軍よ」

 

「装甲車もおるやん・・・・今のメンツやと厳しいなぁ」

 

 

 スコープをのぞき込むと、確かの装備も装甲車も政府軍のもの。話している内容までは聞こえないが、どうにもそこから動く気配もない。巡回中の休憩なのか、はたまたそこが持ち場なのか、いずれにせよスプリングフィールドたちにとってあまりよくない展開だ。

 さらに面倒なことに、今いる地点からは迂回ルートがほとんどない。戻ればここを抜けられるが、その場合大きなタイムロスとなる。かと言ってこのまま進めば高確率で見つかり、最悪戦闘状態にに突入することになる。騒ぎになれば応援を呼ばれるかもしれない以上、それだけは避けなければならない。

 

 

「車両の前に二人・・・ここからではそれくらいしかわかりませんね」

 

「そうね・・・最低でも装甲車に二人、いや三人はいると思っていいはず」

 

「最低でも戦力は五分五分、装甲車がある分あちらが上でしょうか」

 

 

 戦術人形は、タイマンなら鍛えられた軍人すらも圧倒する性能を持つ。しかしそれはあくまで単純な一対一の場合であり、実際の戦場ではあまり参考にされていない。とくに稼働してから長い彼女たちは、それをよく理解していた。

 だからこそ、スプリングフィールドはある決断を下す。

 

 

「・・・・・奇襲を仕掛け、敵を無力化します。 張り付きさえすれば、装甲車の脅威も格段に低くなるはずです」

 

「お、英国式の銃剣突撃やな?」

 

「あくまで無力化するだけです。 可能な限り殺傷は避けてください」

 

「ハードル高いわねぇ・・・・いいわ、乗った」

 

「物陰を利用して近づきます。 全員、行動開始」

 

 

 五人がそれぞれの最適ルートを割り出し、兵士に近寄る。街灯こそ消えているが燃え盛る炎は意外と明るく、油断すれば簡単に五人の影を映しだしてしまう。それらを考慮し、慎重に距離を詰めていく。

 

 

「――――、――――――」

 

「―――、―――!」

 

 

 どうにか兵士たちの声が聞こえる程度の距離まで近づいたスプリングフィールドは、改めて兵士たちの様子を観察する。どうやら装甲車の外にはあの二人しかいないらしく、警戒心もそこまで高くないように見える。彼らは気づいていないようだが、すでに彼女以外の四つの影が十分な距離を詰めている。

 スプリングフィールドは一度深呼吸をすると、道中で拾った空の薬莢を掴み、大きく放り投げる。絶妙な力加減で投げられたそれは二人の兵士の足元をすり抜け、装甲車の下でカランと小さな音を立てる。その音に反応した兵士たちが振り向いた瞬間、暗がりから四人の影が飛び出した。

 ガリルとモシン・ナガンが兵士を抑え込み、Kar98kが周囲を警戒している間にウェルロッドが装甲車のハッチを開けて潜り込む。声もあげることもできずに無力化された兵士は、応援を呼ぶことも不可能だろう。

 

 

「~~~~~!!!??」

 

「~~!! ~~~~~っ!!!」

 

「なぁ・・・こいつらホンマに軍の連中か?」

 

「ガリルもそう思う? その割には色々となってない気がするわね」

 

「スプリング、この車両は無人です。 火もついていません」

 

「・・・・・・お二人に質問があります、答えてください」

 

 

 ガリルたちの様子とウェルロッドの報告に訝しみながら、スプリングフィールドは兵士たちに問いかける。無論、銃剣を突き付けたうえでの尋問だ。

 口をふさがれていた手をどけられた二人は、スプリングフィールドを睨みながら吐き捨てる。

 

 

「お前ら、()()()()()()じゃねぇな・・・・・何者だ?」

 

「・・・・・政府軍の連中? ではあなた方は反乱軍の?」

 

 

 捕らえた彼らは、政府軍に扮した反乱軍の兵士たちであった。死んだ敵兵の装備を奪い、打ち捨てられた装甲車を外側だけ修理して配置する・・・・それだけでも十分に騙すことができるほど、この内戦は泥沼化していたのだった。

 そうとわかれば話は早い。スプリングフィールドは彼らの拘束を解くと、小包を取り出し住所を見せる。

 

 

「この住所を知りませんか? 知人に頼まれたものなんです」

 

「頼まれたってお前、この状況で・・・・・ん?」

 

「おい、こいつぁあの嬢ちゃんちじゃねぇか」

 

「! それはどこですか!?」

 

「ぐえっ!?」

 

 

 この二人は宛先の人物を知っている、そう思ったスプリングフィールドはさらに二人に詰め寄る。というか勢い余って首を絞めかけており、兵士の方も『美人の顔を拝みながら逝けるなら本望だぜ・・・』などと余計な覚悟を決めながら意識を薄れさせ始める。

 もう片方の兵士とモシン・ナガンたちが止めに入ったことで事なきを得た兵士は、ひび割れた端末を取り出して地図を開いた。

 

 

「この先の森を抜ければ国境だ。 その先に難民キャンプがある・・・・そこに行けば会えるはずだ」

 

「このあたりの民間人は早くに避難した方だ、おそらく無事だろうぜ」

 

「あ、ありがとうございます! 皆さん、行きましょう!」

 

 

 兵士たちに礼を言いつつ、五人は難民キャンプを目指して歩き出す。時刻はちょうど日付の替わるころ・・・・サンタがプレゼントを届けるには、ちょうどいい時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・・で、指揮官さんにバレて特別任務ですか」

 

「えぇ・・・・こうしてクリスマスも年末も一人さみしくパトロールです」

 

「という割には、随分と長居されているようですが?」

 

 

 国際問題スレスレの郵便配達を終えたスプリングフィールドたちに待っていたのは、指揮官による珍しいお説教と一定期間の終日パトロール任務であった。予定されていた休暇はすべて取り消され、ほとんどの人形が思い思いの時間を過ごすのを横目に街を巡回させられている。

 純粋な善意(と打算)によるものとはいえ、やはりしでかしたことの重大さはそれなりのものであるらしく、指揮官も意外と厳しい罰を下すものだ。

 

 

「それで、その特別任務はいつまでなのですか?」

 

「・・・・・・年が変わるまでです」

 

「・・・・・・もう一週間もありませんが?」

 

 

 訂正、ここの指揮官はやっぱり甘いと思う。しかも話を聞くに、給料や有休日数については一切触れていないらしく、この件に対する罰はこれだけらしい。スプリングフィールドも指揮官の配慮に気づいているようで、嬉しいような困ったような表情だ。

 代理人も苦笑しつつ、コーヒーのお替りを注ぎながら労いの言葉をかけた。

 

 

「まぁ何はともあれ・・・・お疲れさまでした」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

「あっ、スプリングフィールドお姉ちゃん!」

 

「お姉ちゃんありがとー!」

 

 

 外からスプリングフィールドの姿を見かけた子供たちが、ドアを開け放って駆け寄ってくる。

 予定とは違ったが、こういうクリスマスも悪くないと思うスプリングフィールドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ、それにまだ年始もチャンスはありますからね・・・・うふふふ」

 

「・・・・・年を越す前に煩悩は払ってくださいね」

 

「えぇ、もちろんです!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

end




春田さんの株を少しでも上げようかと思いましてね・・・・え、上がってない?
それはそれとして、今回は思いのほか文量が増えてしまいましたね。これでも戦闘描写がない分短いんですよ(トホホ)

今年も残すところ約一週間ですね。かなり荒れた一年になりましたが、私自身は無病息災で乗り越えられてよかったと思っています。
皆さんも、自身の健康第一ですよ!



では、今回のキャラ紹介!


スプリングフィールド
拙作が誇る残念系お姉さん。108では済まない煩悩にまみれている。
基本的に思いやりがあって優しく責任感のある人形で、街の人たちから人気がある。
指揮官love勢の中では最古参で最強・・・・・そして一番ポンコツ。

モシン・ナガン
指揮官とウォッカをこよなく愛する一途な乙女。
love勢の中ではまだ常識的な方だが、それゆえに出遅れることも。
銃剣突撃ではなくライフルそのものを使った近接戦闘が得意。

Kar98k
ロリ体型以上スレンダー未満という絶妙な立ち位置。春田さん以上にヘタレやすい。
近接戦闘もある程度こなせる万能型。

ガリル
陽気でノリの良いアサルトライフル。
好意はストレートに伝えるのだが、そのノリやら空気感もあって友人止まりになっている。本人曰く、終始真面目であるのは苦手なのだとか。

ウェルロッド
主戦力にこそならないが、偵察やサポートなどで痒い所に手が届く人材。
こちらも好意は伝えている気がするのだが、言葉足らずであったり照れ隠しで全く別のことを言ったりするせいで伝わらない。

指揮官
あらゆる方面からの好意(特に恋愛系)に対してフォースシールドを発動する朴念仁。
指揮官としては有能だが、対人関係では微妙に頼りない。
なお、以前とある人形がとったアンケートでは、love勢の五人から選ぶなら(文字はここで途切れている)

代理人
恋の戦において特定の誰かを応援することはなく、全員に平等に協力している。
家族(鉄血組)でもそういう話が増えて欲しいと願っているが、その中に自身は入っていない。


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番外編48

おそらく今年最後の投稿になります。
そしてこの「喫茶 鉄血」も2周年を迎えました!
読んでくださった皆様に感謝するとともに、来年もどうぞよろしくお願い致します。

では、今回のラインナップ!
・かちこみ!
・闇取引
・手のひらの上
・Side OPS


番外48-1:かちこみ!

 

 

 HK416は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のマッドサイエンティストに鉄槌を下さなければならぬと決意した。

 激高状態の416は並外れた行動力と、あらゆるものをねじ伏せる力を持つ。そこそこ距離のある16labへ乗り込むための足として、軍の最新鋭戦闘機を拝領(強奪)。屈強な軍人と強固な軍用人形を素手でねじ伏せ、最高責任者であるカーター将軍を締め上げて借りた(奪った)戦闘機で16lab近くの航空基地へと飛び、今度は高性能軍用バイクを「ちょっと借りる(返さない)」とだけ言って持ち出し、道交法すら置き去りにして急行した。

 小さくなった9たちを見てからわずか三十分、16labの正面ゲートをぶち抜いて現れた416は、装弾と安全装置の解除を済ませた愛銃を手に全ての元凶・・・・ペルシカの元へと向かう。

 

 

「やぁ416、まずは落ち着いて話そうじゃないか」

 

「今すぐ9をもとに戻しなさい。 さもないとあんたを解体処分にするわよ」

 

 

 引き金に指をかけながら詰め寄る416。ちなみにグレネードランチャーの方にも指をかけており、その殺意の高さがうかがえる。

 しかしそんな状況を前にしても、ペルシカは不敵に笑う。

 

 

「・・・・何がおかしいのよ」

 

「いやいや416、殴り込みをかけるのはいいけど冷静さを欠いちゃダメだよ」

 

「どういうこt「こういうことさ!」っ!?」

 

 

 ペルシカがこっそりと白衣の下に忍ばせていた装置を起動すると、部屋のいたるところから白いガスが噴き出し始める。いつの間にか入り口は固く閉ざされ、逃げ場を失ったガスが部屋に充満する。どうやらまた研究室を改造したらしい。

 とっさに口を覆う416だが、直後にその腕が何者かに強く引っ張られる。見ればいかにもといったアームががっしりと掴んでおり、しかもガスの中から二本、三本と新たに現れたアームが腕や足に掴みかかる。銃も取り上げられ為す術のなくなった416の前に、ペルシカが得意げな表情で現れた。

 

 

「このっ・・・・離しなさいっ!」

 

「無駄だよ416。 それはアーキテクトやマヌスクリプトと合同で作った人形捕縛専用のアーム、フルパワーのハイエンドや深度演算モードのAK-12ですら脱出不可能な代物さ」

 

「そのメンツを聞くだけでロクでもないものってのは分かるわ」

 

 

 抵抗は無駄だと悟った416はただただペルシカをにらみつける。部屋の排煙装置が起動してガスがなくなると、アームがするすると動き416を運ぶ。

 その先にある怪しげな装置を見て、416は再び暴れ始めた。

 

 

「ちょっ、ペルシカ! あの装置何なの!?」

 

「せっかくだから君も9たちと同じ姿にしてあげようと思ってね・・・・感謝したまえよ」

 

「あんた覚えてなさいよ!!!」

 

 

 恨み言を吐きながら装置に放り込まれ、ペルシカお手製「ロリ変換君」が起動する。ふざけているようでそこは天才のペルシカ製、ものの一分ほどで装置が止まり、中から半分以下にダウンサイジングした416が吐き出される。

 

 

「ふむふむ、416でも問題ないね・・・・次はだれで試そうかなぁ」

 

「うぅ・・・・ふぇぇぇん・・・・」

 

「あぁ416ちゃん、泣かなくて大丈夫だよ~」

 

 

 地面に蹲る416(ロリ)に駆け寄るペルシカ。それだけ見れば純粋な母性を感じられなくもないが、もちろんそんなものはない。

 そんなペルシカに、早くも天罰が下った。

 

 

「416~、大丈夫でちゅか~?」

 

「うぅ・・ペルシカぁ・・・・・」

 

「ん~? どうしたの~?」

 

「あのね・・・・・くたばれッ!!」カチッ

 

「へ? アバババババババッ!!!???」

 

 

 腹部に何かを突き付けられる感触、そして流れる強力な電撃・・・・自前のスタンガンでペルシカを無力化した416は、満面の笑みでペルシカを見下ろす。

 

 

「ば、馬鹿な・・・・メンタルも外見に引っ張られるはず・・・・」

 

「理由は知らないけど、私はそうならなかったようね」

 

「ふふっ、416・・・・さっきの演技は中々のものだったよ」

 

「ありがとう・・・・で、言いたいことは分かるわね?」

 

 

 笑顔のままスタンガンをバチバチと鳴らす416(ロリ)に、ペルシカは黙ってうなずいた。

 後日、例のアームで固定されたペルシカを404小隊総出でくすぐりまくるという制裁が下ったが、それは別のお話し。

 

 

end

 

 

 

番外48-2:闇取引

 

 

「最近、AN-94の様子がおかしいのよ」

 

「あなた以上におかしなことはありませんので大丈夫ですよ」

 

「うぅ、M4が冷たいわ・・・・」

 

「自業自得よ」

 

 

 S09地区司令部の人形宿舎、その一室で毎週行われるミーティングが終わると、AK-12がそんなことを言い出した。なんでも、あれだけべったりだったAN-94がどこかよそよそしくなり、いつの間にかふらっとどこかに行くことがあるのだという。まぁそれ以上の奇行やらサボり癖を発揮するAK-12の方が信用がないが。

 AK-12の不真面目っぷりはさておき、M4も隊長として気になるところではあった。職務にまじめでこれといった趣味がなく、平時は呼べばすぐに来るし休日はAK-12を探せば大体見つかるのがAN-94である。そんな彼女が自発的に動くことなど、正直想像しづらいわけだ。

 

 

「・・・・そう考えると、彼女はもう少し楽しむことを覚えるべきだと思いますね」

 

「確かに・・・・・」

 

「そもそもAN-94が笑ったところって見たことある?」

 

「「ないわ」」

 

 

 もしかして彼女はかなり無理をしているのではないか、その結果よからぬことに手を出してしまっているのではないか。そんなことは無いと思いつつ、しかしもしかしたらという疑念も膨らむ。もしそうなれば期待のエリート部隊はおろか、グリフィンとしても大きな汚点となりうる。

 よって、M4は決意した。

 

 

「次の休みの日、AN-94を尾行しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌週の朝、M4が隊員へ緊急連絡網の確認を通知し解散となった後、やはりというかAN-94は早々と宿舎を出ていった。それを確認したM4らは再び集合し、各々が変装を施して街へと出る。

 司令部の前にはバス停があるが、AN-94はそれを使わないところを見ると街の外に出るわけではないらしい。常に一定の間隔を保ちつつ、周りから見れば三人で買い物という風に尾行を続ける。しばらくすると、AN-94は小さな路地へと入っていった。追いかけると、そこは表の通りとは少し雰囲気の違う、アンティークな店が立ち並ぶエリアだった。

 

 

「わぁ・・・」

 

「こんなところがあったのね」

 

「なんていうか・・・・意外ね」

 

 

 単純に古い店もあれば、閉店していないのが不思議なほど寂れた店もあり、そして本当に合法なのか怪しい店もある。少なくとも明確な目的がなければ近づこうともしない通りだろう。

 その通りの一角、古い写真屋のような店の前で立ち止まると、AN-94は一度辺りを見渡してから店に入っていった。「ような店」というのは、カメラを模した看板こそあるものの文字は掠れ、入り口の掛札は「CLOSED」になっているからだ。しかもまだ開いていないというより、店そのものが閉店している感じだった・・・・・怪しさ満点である。

 

 

「これは・・・もしかして本当に?」

 

「と、とにかく追うわよ」

 

 

 三人は店の前まで移動し、窓から中をのぞき込む。窓もくすんでいてよく見えなかったが、中にはAN-94と『誰か』の二人がいるらしい。声も聞こえないためその相手がだれなのかはわからないが、背格好から女性であることだけは推測できる。

 いくつか言葉を交わした後、相手は封筒を一つ取り出す。決して分厚くはないが、何かが入っているくらいには厚みがある。AN-94がそれを確認すると、彼女もまた封筒を取り出して手渡した。

 場所も内容も限りなくアウトに近い取引に、M4らは持ってきていたサイドアームを構えて突撃する。

 

 

「そこまでです! 二人とも手を上げておとなし・・・く・・・・・」

 

「M4!? それにAK-12も!?」

 

「な、何であんたがここに?」

 

「あ~いや、これはそのぉ・・・・・アハハ」

 

「・・・・とりあえず話を聞かせてもらいますよ、()()()()()()()

 

 

 AN-94と一緒にいたマヌスクリプトは、苦笑しながら手を上げる。親しいどころかAK-12絡みであまりいい印象を持っていないはずの二人が会うだけでも意外なのに、マヌスクリプトという怪しい相手と取引しているという事実が三人をさらに驚かせる。

 そして見つかったAN-94はさらに動揺していたのだろう。封筒を持ったまま両手を上げ、封の閉じていなかった封筒から何かがばら撒かれる。

 

 

「あっ!?」

 

「ん? なにこれ?」

 

「見ないで・・・見ないでください・・・・」

 

「動かないでAN-94・・・AR-15、確認を」

 

「了解」

 

 

 あからさまに顔色の悪くなるAN-94(マヌスクリプトも『やっちゃった』という顔をしているが、それだけだ)を抑え、AR-15がその何か・・・・写真を拾い上げて、固まった。

 映っていたのは全てAK-12ばかり、しかも普段の姿ではなく、いつぞやにマヌスクリプトによって着せ替え人形にされていた時の写真だった。アングルや目線から完全に盗撮である。

 

 

「・・・・・・・・AN-94」

 

「ひゃいっ!?」

 

「あなたはAK-12と違って真面目な方だと思っていましたが・・・訂正の必要がありますね」

 

「あれ? 私の評価ってそんなに低いの?」

 

「今更すぎるわよ」

 

 

 その後、AN-94のバッグから過去数回にわたる取引で得た写真が発見され、M4による長い長いお説教が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、私には何もないんだね」

 

「えぇ・・・・・『私からは』ね」

 

「マヌスクリプト、少し()()()しましょうか?」

 

「ア、ハイ」

 

 

end

 

 

 

番外48-3:手のひらの上

 

 

 衆人環視の中での暴露話(公開処刑)を披露されてから数日、UMP9・AR-15・D-15の三人の機嫌は一向に直らなかった・・・・・というわけでもなく、割と頻繁に機嫌を直してはいた。

 もちろん二人の所業を許しているわけではない。その日一日は口を利かなかったし、次の日だって目を合わせようとさえしなかった。だが忘れてはならない・・・・・彼女たちは周りが砂糖を吐くほどのベタ惚れなのだ。

 

 

< ハンター×AR-15・D-15の場合 >

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・」

 

「ちょ、ちょっとやりすぎじゃないAR-15?」

 

「これでも足りないくらいよ・・・・ちゃんと反省した?」

 

「した・・・したから、もう許してくれ・・・・」

 

 

 喧嘩自体は少なくないものの、相手が目の前にいながら一切会話のない状況というものがこれまでなかった三人。加えて年末の貴重な休みを喧嘩したまま過ごすというのはさすがにもったいないと感じ、二人がかりでハンターを『オシオキ』することで手打ちとなった。

 休暇もかねてコテージを貸し切り、到着と同時にオシオキを敢行してから三時間で仲直り完了である。

 

 

「これに懲りたらもうやらないでよ」

 

「私も本当に恥ずかしかったんだからね」

 

「あぁ、反省してるよ・・・・・」

 

 

 ようやく落ち着いた身体を起こし、ハンターは苦笑する。さすがの彼女でも二人がかりは相当堪えたようだ。

 AR-15とD-15もベッドに座り、冷蔵庫から持ってきた飲み物を開ける。やり切ってすっきりしたのか妙に艶やかな表情と火照った肌、うっすらと流れる汗に、つい先ほど反省したばかりのハンターの悪戯心に再び火がともる。

 

 

「・・・? ハンターもいる?」

 

「そうだな、いただくとしよう」

 

「そ、じゃあ今持ってくるかr「いや、その必要はないさ」んむっ!?」

 

 

 唇を重ね、舌を絡め、勢いのままに押し倒す。ハンターが離れたころには、AR-15は息も絶え絶えで焦点も定まっていなかった。

 

 

「は、反省したって・・・・・」

 

「反省はした。 だがそれとこれとは別だ、無防備なお前が悪い」

 

「お、覚えてなさいよ・・・・・!」

 

 

 とりあえず初日と二日目の朝の予定は埋まった。

 

 

 

< HK416×UMP9の場合 >

 

 

「・・・・・9」

 

「んっ!」

 

「ナーイーンー」

 

「ん~~~~っ!!」

 

「はぁ・・・・・ケーキ買ってきたけど一人で食べるわね」

 

「え、ケーキ!? ・・・・・あ」

 

(可愛い)

 

 

 すでに何度か繰り広げられたやり取りに、HK416は大変ご満悦である。もともと構って欲しがりな9に対し、そのすべてを知り尽くしているといっても過言ではない416は巧みな言葉で9の機嫌をころころ変える。9としてはもう許しているのだが、416の落ち込む姿をちょっと見てみたいがための拗ねである。当然、416にはお見通しだ。

 またしても416の思うつぼだと気づいた9は、再び顔を背けて頬を膨らませる。だがそれでも416のことは気になるようで、部屋の隅にある鏡を通してチラチラと様子をうかがっている・・・・もちろん416にも気づかれている。

 

 

ガチャッ

「どれにしようかしら・・・・イチゴのショート、ザッハトルテ、バゥムクーヘン」

 

「うっ・・・・」

 

「フルーツタルト、モンブラン、チーズケーキ」

 

「うぅ・・・・」

 

「・・・・・ザッハトルテにしましょうか」(9のお気に入り)

 

「だ、だめぇえええええ!!!!」

 

 

 文字通り飛びつく勢いで416のもとに駆け寄る9。それを笑顔で受け止めると、416は撫でながら言った。

 

 

「ごめんなさい9、ちょっとからかいすぎたわ」

 

「ううん、私こそごめんなさい」

 

「じゃあ二人で食べましょ・・・メリークリスマス」

 

「メリークリスマス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ねぇ、私たちはいつになったら入れるのかな?」

 

「それは野暮ってものじゃないでしょうか?」

 

「私の可愛い9をいじめるなんていい度胸ね416・・・・!」

 

「大丈夫だよ45、あたいが慰めてあげる!」

 

「ちょっ、40待ちなさぎゃぁぁあああああ!!!!」

 

 

end

 

 

 

番外48-4:Side OPS

 

 

 十二月某日、とある地区にある高級マンションの一室に一本の電話が入る。その部屋の主は妹と娘を連れて帰省する準備を進めており、仕事の依頼も数日前から断りを入れていた。普段から付き合いのある仲間や情報屋、そして彼女が所属する会社の人間もそれを十分理解しており、だからこそこの仕事用の端末に連絡が入ることは無いと思っていたのだ。

 

 

「あー、誰だか知らねぇが今は依頼を受けられねえんだ。 またの機会にしてくれ」

 

『えぇ、それを承知でお願い・・・いえ、依頼があります』

 

 

 部屋の主・・・処刑人は面倒くさそうな表情から一転、メモ帳まで取り出して真剣に話を聞く姿勢をとる。電話の主である代理人は、彼女の都合を考えないほど無神経ではない。それはつまり、それほど急を要する事態であることを意味する。

 

 

『無理を言っているのは理解していますが、どうか力を貸していただけないでしょうか?』

 

「水臭いな代理人、私が見ないうちに身内にまで余所余所しくなっちまったか?」

 

『ふふっ、あなたも変わらないですね・・・・・では、内容を説明いたします。

場所は○○共和国東部の町、あなたならこのあたりの情勢にも詳しいでしょう。 私が調べた範囲ではまだ戦火は及んでいませんが、それも時間の問題・・・あなたには反政府軍と協力して市民の避難をお願いしたいのです』

 

 

 代理人の依頼を聞きつつ、目的地の情報を整理していく。処刑人が所属する民間軍事会社でもこの国の内乱は注目されており、どちらに付くにせよ近いうちに仕事が来るだろうと睨んでいた。代理人の言う通りこの町はまだ比較的落ち着いているが、クリスマスを無事迎えることはできないだろうと踏んでいる。

 なぜ代理人がわざわざ依頼するのかまではわからないが、お節介な彼女のことだから誰かの手助けの一つだろう。そうでなくても鉄血工造が誇るハイエンドの一人で一番槍、依頼を受けないという選択肢はない。

 

 

『私にできるのは、これだけです』

 

「いや、十分だ・・・・んで、報酬の件だが」

 

『えぇ、こちらで用意できるものであれば何でも構いません』

 

「そんな無茶なことは言わねぇよ。 まぁそうだな・・・・・うちの娘がでっかいケーキを食いたがってたかな」

 

『承知しました、腕に縒りをかけましょう・・・・・ちゃんと帰ってきてくださいね』

 

「任せとけって」

 

 

 通話を切り、まとめていた荷物から仕事道具一式を取り出す。基本的に武器類のほとんどは会社に置いているが、製造時からの装備であるブレードとハンドガンは自身で保管している。

 今年はもう仕事はないといいつつ装備を確認している処刑人を不思議に思ったのか、彼女が引き取っている少女がそっと近寄ってくる。相変わらず無口・・・というか全く喋らないが、心配してくれているらしい。

 

 

「わりぃな、ちょっと頼まれたから行ってくる」

 

「・・・・・・」ギュッ

 

「大丈夫だって、ちゃんと帰ってくる・・・・約束だ、な?」

 

「・・・・・」コクン

 

「よし、じゃあいい子で待っててくれよ・・・・行ってくる」

 

 

 戦場へと旅立つその背中を信じ、少女は見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あ、飯は冷凍したのがいくつかあるからチンして食えよ。 あとお菓子はちょっと高いとこにあるから執行人のやつに取ってもらえ。 洗濯もんは帰ってきてからまとめてやるからかごに入れといてくれ。 あと・・・・」

 

「・・・・っ!!」

 

「いてっ!? わ、わかったわかった、行ってきま~す!」

 

 

end




何とか年内に間に合ったぜ・・・・というか読んでる間に年が変わってるかもしれませんね、あけましておめでとうございます!
とりあえず2021年の一発目は3日までの投稿を目指そうかなと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

・・・・・あ、完全に私事ですが、久しぶりにポケモンがやりたくなったのでアルファサファイア買いました。リメイク前がちょうど世代だったので、懐かしさで涙が出そうです笑


では、各話の解説!

番外48-1
HK416のなぐりこみ。
忘れてはならないがペルシカさんも十分変態技術者の一人なんですよね。
ラストのくすぐりは文字に起こすとR-17.5くらいになりそうだったのでやめました笑

番外48-2
第百九十話の後日談。一見クールで仕事一筋みたいな人形がじつは・・・みたいなシチュって、いいですよね。

番外48-3
お年越しそばとおせちが甘くなるほどの砂糖をぶち込んでみた。
AR-15はなんだかんだハンターに主導権を握られて悔しそうにするのが似合う気がするし、D-15はそもそも受け身な感じが似合いそう。
9はどう頑張っても416に勝てない(確定事項)

番外48-4
PJ並みの死亡フラグ乱立!
春田さんたちの宅配便が来る前の補完ストーリーですが、もともとは本編の方で書く予定でした(長くなりそうなのでカット)
時系列は本編前半→コレ→本編後半って感じです。
・・・・どうでもいいけどマンションの隣の住人がカタナ担いで出てきたら普通にビビると思う笑


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第百九十三話:仕事始め

あけまして、おめでとうございます!!(浜田ボイス)
皆さんは初夢見れましたか?
お年玉はもらえましたか?
新年早々お金使いすぎて頭抱えたりしてませんか?

では、本年もよろしくお願いいたします。


 一月二日、午前八時半。まだまだ正月ムード漂うここS09地区の活気は衰えない。メインストリートに並ぶ店や露店は新年セールを掲げ、お年玉をもらった子供や浮かれた大人たちを虎視眈々と狙い続ける。

 そんな通りから少し入った先、普段は静かで人もまばらな裏路地も、今日は少しだけ人だかりができていた。皆の注目が集まる中、その路地に店を構える店主・・・・代理人が店の掛札を「OPEN」にひっくり返す。

 

 

「皆さん、明けましておめでとうございます。 本年も喫茶 鉄血を、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 

 喫茶 鉄血、営業開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「まったく、代理人の働き癖はどうにかならんのか?」

 

「まぁまぁ、Oちゃんが好きでやってることだから」

 

「おぬしもだぞD」

 

 

 年始早々そこそこの賑わいを見せる喫茶 鉄血。そのカウンター席に座るウロボロスは、相変わらずせっせと働く代理人たちを見てあきれた様子でため息をつく。

 年末と元日こそ店を閉めて鉄血工造の家族たちと過ごしたが、代理人たっての希望で二日から営業を再開しているのだ。さすがにもう少し休めと言いたかったが、割と珍しい代理人のわがままなので結局そのままにすることに決まったのだった。

 

 

「Oちゃん、楽しそうだもん」

 

「パッと見はそうは見えんがな」

 

「ていうか、ウロボロスちゃんもわざわざお店が開くまで待っててくれたんだよね?」

 

「た、たまたま通りがかっただけだ・・・・なんだその顔は!」

 

 

 Dだけでなく周りの客も微笑ましいものを見るような表情を浮かべ、ウロボロスは照れを隠すようにコーヒーを飲み干す。そしてやや乱暴に伝票と代金を置くと、そそくさと席を立った。

 

 

「まぁ、気が向いたらまた来てやる・・・・・ってだからその顔はやめんか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ代理人、明けましておめでとうだな」

 

「あんた労働基準法って言葉知ってる?」

 

「明けましておめでとうアルケミスト、ドリーマー。 それと、労基は人間の法律であって人形の法律ではありませんよ」

 

「ほんと、都合のいい時だけ人形人形ね」

 

 

 次に訪れたこの二人も、口では色々言うが半分あきらめたようにして苦笑する。もちろん年始にも会っているので「明けましておめでとう」はすでに伝えているのだが、今回は客としての言葉だ。

 実際のところ、去年はなんだかんだで休みも取っていたので、それほど労基に引っかかるような労働体系ではなかったりするが、それでもはたから見れば休まず働いているように見えるらしい。

 

 

「今年の抱負にでもすれば? 今年はちゃんと休みますって」

 

「ではドリーマーは自立することですね」

 

「うん、やっぱり働き方は人それぞれね」

 

「おいこら」

 

 

 ちなみに代理人が立てているのは『より多くの人に喜んでもらうこと』、アルケミストは『楽して稼ぐこと』である。あくまで抱負であって目的でも目標でもないので、ざっくりとしたものだ。

 ドリーマーも決してヒモというわけではなくアルケミストの手伝いをしているのだが、世間的に見れば稼ぎをすべてアルケミストが担っている形になるのでそう見えるのだ。かといって主婦かというと、料理や掃除などの家事全般もイマイチなので貢献できていないらしい。

 

 

「ま、私としては倒れず元気でいてくれればそれでいいわよ」

 

「私もだ。 あまり危なっかしいことに首を突っ込むなよ?」

 

「善処はしましょう」

 

「「それしないやつ」」

 

「「「・・・・・・・ふふっ」」」

 

 

 今年も変わらず、ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「去年は本当に世話になった」

 

「お世話になりました」

 

「もう何度も聞きましたよ二人とも」

 

 

 次にやってきたのは鉄血工造の中では割と進んでいる二人、スケアクロウとレイだった。この二人に関してはいまさら言うまでもなく、最初から最後までお世話になりっぱなしだと言っても過言ではないだろう。特に去年は激動の一年だったのだから。

 

 

「それよりもいいのですか? 新春公演が近いはずですが」

 

「あぁ、今日の晩には移動するんだよ」

 

「ここに立ち寄ったのは、いわゆる験担ぎというやつです」

 

 

 世間がいろんな意味で注目するこの二人は、良くも悪くも気の抜けない一年になるだろう。互いが支え合う関係ならきっと乗り越えられるだろうが、それでも羽を休める止まり木は必要なのだ。

 そんな二人に代理人ができるのは、温かいコーヒーを出すことくらいだ。

 

 

「あまり無理はしないでください・・・といっても聞かないでしょうね」

 

「あはは・・・・・まぁその、善処はしてみる」

 

「ではこうしましょう・・・・・・いつでも、誰でも構いませんので、頼ってください。 いいですね?」

 

「えぇ、そうさせていただきます、代理人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ聞いてよ代理人! あの歯医者また新しい機器買ったのよ!? 貯金だってそんなにないのに!!」

 

「新年早々にですか?」

 

 

 開幕愚痴から始まったのは、諸事情で仕事を辞めて諸々の理由で歯医者の助手として働いているデストロイヤーだ。自由奔放で傍若無人な歯医者に振り回される日々を送り、ある意味最も社会の荒波にもまれていると言えるだろう。

 ちなみに助手としての待遇はよく、給料も年次休暇も申し分はない・・・・が、そのせいで財政面のゆとりが少なく、これの改善に日夜頭を悩ませているのだ。

 

 

「収入自体は安定しているのですから、そこまで心配しなくてもよいのでは?」

 

「まぁ、グリフィンの定期健診を請け負ってるのは大きいと思うわよ。 でもあいつ、お金があったらすぐ使おうとするのよ! やれ新型の治療具がとか、診察台がとか」

 

 

 なお、当人の言い分は『社会を回している』の一言であり、反省のはの字もない。さらに院長(彼女とデストロイヤーしかいないが)という立場を利用し、何かデストロイヤーが突っかかればすぐ制裁が下るようになっている。最近のお気に入りは、ガイアボディにしてやたらときわどい服を着せることである。

 

 

「あぁ、まだ持っているんですねあの義体」

 

「朝起きたら体のサイズが違うって軽いホラーよ、もう慣れたけど」

 

 

 本来義体の変更には工場や研究室の設備が必要だが、あの歯医者には(主にアーキテクトの差し金で)その設備が揃っているため、気分次第でロリにもボインにもできてしまうのだ。

 そしてデストロイヤーのボディは当日になってみないとどちらかはわからないため、ガイア目当てに来院する客の心をも弄んでいる。鬼の所業だ。

 

 

「ふふっ、お疲れ様です」ナデナデ

 

「あのね代理人、あんまり子供扱いしてほしくないんだけど」

 

「あら、ではお年玉もなしでいいですか?」

 

「ぐっ・・・・あ、ありがたくいただきます」

 

「はい、どうぞ・・・・うふふ」

 

「あ~~~~~も~~~~~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代理人、あけおめ!」

 

「ことよろ!!」

 

 

 ドアを蹴破り妙に高いテンションで入ってきたアーキテクトとサクヤに、追いかけてきたゲーガーとユウト(保護者)の拳骨が落ちる。新年早々何かやらかしそうな雰囲気だが、果たして今年は無事に一年を終えられるだろうか・・・・・・無理かなぁ。

 

 

「親しき中にも礼儀ありだぞアーキテクト」

 

「姉さんもですよ」

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

「まぁまぁお二人とも、そのくらいにしてあげてください」

 

 

 今年も元気だなと苦笑しつつ、ある意味平和な証拠だと再認識する代理人。ついでにこの世界に来て二年以上経つサクヤがだいぶ染まってきたなと改めて実感するのだ。それを言うとユウトもそうだし、まさか身内同士(片方は別世界だが)がくっつくとは夢にも思わなかっただろう。この一年で大して進展していないことについては思うことはあるが。

 

 

「大丈夫だよ代理人ちゃん、ちゃんとやることやってるから」

 

「「えっ!?」」

 

「昨夜もお楽しみだったしね~」

 

「「ちょっ!?」」

 

「ハイネックで隠してるけど、首から下はキスマークg「姉さんストップ!!」

 

「そこに直れアーキテクトォ!!!!」

 

 

 この日、二回目の拳骨が下った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・なぁイントゥルーダー、そろそろ足を洗ったらどうだ?」

 

「あら人聞きの悪い、私は一般市民に迷惑をかけた覚えはありませんが?」

 

「お前の働きには少なからず感謝しているが、やっていることは犯罪だぞ。 身内を捕まえるようなことはしたくないんだ」

 

 

 先ほどまでとは打って変わって真面目な雰囲気のこの二人。片や警察組織に身を置くハンター、片や違法組織を相手取るハッカーのイントゥルーダー。二人の正体を知っているものからすれば即倒ものの光景だが、イントゥルーダーの正体を知っているのは身内だけなので今のところ問題ない。

 ただこれに関しては代理人もハンター側で、やはり世間的にまっとうな職に就いてもらいたいというのが本音だ。話を通せばサクヤ辺りが鉄血工造に席を空けてくれるだろう。

 

 

「ご忠告どうも。 けど私だって遊びでやっているわけではないわ」

 

「ならなおのことだ、しくじる前にやめておけ」

 

「お断りよ。 そもそも、法の範疇では捕まえられないからこうしてるんだから」

 

「イントゥルーダー・・・・・」

 

 

 現在は鉄血工造の所属ではないハイエンドたち、そんな彼女らを狙う組織は、以前に比べれば減ったがまだまだ多い。直接手を出されれば防ぐことは容易いが、絡め手を使われると所詮は個人の力でしかない。

 イントゥルーダーもまた、家族を守るために手を汚しているのだった。

 

 

「ま、大丈夫よ。 待ってくれる家族がいるうちは下手を踏まないわ」

 

「そうですか・・・・・ならそれを信じましょう」

 

「代理人がそう言うなら、私もこれ以上は言わない」

 

「ありがとう・・・・・代理人、お替わりを頂けるかしら」

 

「えぇ、いくらでも」

 

 

 今年一年の仲間の身を案じ、無事を願いながらコーヒーを注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍の生活には慣れましたか?」

 

「あぁ、変態どもに蹴りを入れる毎日だった・・・・なんであんなにタフなんだ」

 

 

 正規軍の所属となっているジャッジの心労は割と大きい。それは厳しい訓練でもなければ命の危険でもなく、ゆがんだ性癖の大軍を相手にするという終わりのない戦いゆえである。AK-12とAN-94がいなくなった今、ジャッジは軍では貴重な「若い女」なのだ。この手の話題を出すと必ずアンジェも食いつくが、グリフィンでいうヘリアン枠であることは否めない。

 ジャッジは願う、年末の内に隊員の煩悩が消え去ってくれていることを。

 

 

「大体何がいいんだ、こんなまな板・・・まな板・・・・・・うぅ」

 

 

 自爆、自傷、無惨。加えてデストロイヤーと違い大人ボディの開発はおろか設計すらないため、現状に甘んじるほかないのだ。

 こうなると代理人も何も言えなくなる。なにせ代理人も『持つ側』だ。拗ねたジャッジにとって敵でしかなく、できるとすれば味方を呼ぶしかない・・・・・呼ばれた側は十中八九荒れるが。

 

 

「なぁ代理人、一度アーキテクトに言ってくれないか? 私だって夢と希望を持ちたいんだ」

 

「言う分には構いませんが・・・・本当によろしいのですか?」

 

「かまわんっ! なんか変な機能がついていても欲しいものは欲しいんだ!!」

 

 

 新年早々煩悩にまみれているのはジャッジも同じらしい。

 その後、彼女の夢がちょっとだけ叶うことになるのだが、それは後々のお話し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「処刑人もそろそろ道を変えるべきかもしれませんね」

 

「『も』ってなんだよ・・・・まぁこいつらがいるからなぁ」

 

「? なんでそれで傭兵を辞めるんだ?」

 

「お前バカだろ」

 

 

 処刑人と姉妹機の執行人、その間に座る少女にケーキを出しながら、処刑人の今後について考える。

 生活面では今のところ問題なく、安全からは程遠いが処刑人の実力ならそうそうくたばることもない傭兵業。しかし一人の少女を養うという意味では大きな不安要素となる。処刑人と執行人が世話を続けているが年齢的には学校に通っているはずの年頃。じゃあ学校に通わせるとなると話はそこまで簡単ではない。

 まず場所の問題。現在は処刑人の都合に合わせて会社から遠くない位置になっているが、残念ながらこの付近に小学校はない。

 次に処刑人自身の問題。保護者が傭兵ですというのは良くも悪くも目立ちすぎるし、何かあってもすぐに駆けつけられない。

 そして最後に執行人の問題。お世辞にも頭が良いとは言えず直線的で、処刑人の留守の間に少女の行事・・・運動会や授業参観を任せるには多大な不安が残る。しかも家事全般が大の苦手。

 

 

「処刑人なら傭兵でなくとも食べていけるでしょう」

 

「まぁ壊すだけが取り柄じゃないからなぁ・・・・・だが稼ぎがいきなり減るのが不安で」

 

「貯金があるだろ?」

 

「お前が馬鹿みたいに食うからうちのエンゲル係数がやばいんだよ」

 

「・・・・・えんげる?」

 

「もういい」

 

 

 正直、変な贅沢さえしなければ数年くらい問題ないはず。但しあくまで最も金のかからない道に進んだ場合で、少女の選択次第では学費やら何やらが大きく変わる。子供は子供らしく自分の夢を追ってもらいたいので、やはりある程度の稼ぎは必要だった。

 

 

「・・・・・・・zzz」

 

「ん? 寝ちまったか?」

 

「今日は一日中歩き回ったからな」

 

「ふふふ、二人ともすっかりお母さんですね」

 

「気が付きゃそんな感じだな・・・・・じゃ、帰るか」

 

「えぇ、いつでも相談に乗りますよ」

 

「おう。 じゃあな代理人、今年もよい年を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Oちゃん、そろそろお店閉めるよ・・・・って、どうしたの?」

 

「いえ・・・・・今年もいい年になりそうですね」

 

「うん、そうだね!」

 

 

 

 

 

HAPPY NEW YEAR

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ(本編には一切関係ありません)

 

 

「ねぇねぇ代理人、今年は丑年らしいよ!」

 

「そうですね・・・・ところでマヌスクリプト、それは?」

 

「丑年にあやかった牛柄ビキニ! これでご利益と売上大幅アップだよ!」

 

「あぁなるほど・・・・ではそれはあなたに譲りますので」

 

「え? 全員分あるよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・クッ」テレポート

 

「あ!? 逃げた! 探せ―!!!」

 

 

 

end




く~る、きっとくる~、きっとくる~(仕事が)
まぁロクに出歩けなかった分、家でゆっくりできたのでヨシ!

昨年は鉄血工造全員集合をやったので、今年は違う形で書いてみました。
ほぼ原作キャラに絞って書きましたが、それでも意外と多いですね(笑)


では今回のキャラ紹介!

代理人
喫茶 鉄血のマスター、本作の主人公。
普段は武装を外しているが、テレポートは使える。
働きたいというよりも、誰かの笑顔を見ていたいという願望が強い。

ウロボロス
ちょっとツンデレ気味なミサイル娘。
原作とかなり違って仲間思い。
美容やその他おしゃれ全般に興味はないが、特に手入れしなくても美を保てるタイプ。

アルケミスト/ドリーマー
あっちこっちでなんかやってる・・・というくらいしか分からない。
稼ぎは十二分にあり、高級ホテルに泊まっている。
代理人によからぬことをしようとするとどこからともなく現れる。

スケアクロウ
去年は本当にいろいろあった。恋人にレイという男性がいる。
今でも世界中を歩くエンターテイナーで、全滅したダイナゲートも新たに補充した。
プライベートはリードしてもらう方。

デストロイヤー
鉄血工造を離れたハイエンドで唯一好きな時に代理人に会いに来れる。
悪魔のような歯医者にこき使われ、しかし絶妙な飴と鞭でいいように使われている。
ガイアボディにそこまで思い入れがなく、特に胸部装甲は単純に邪魔だと思っている。

アーキテクト/ゲーガー
サクヤ/ユウト
鉄血工造のトップ4。暴走1・加速1・ブレーキ2でバランスを保っている。
サクヤはこの世界の人間ではなく、その弟のユウトはさらに違う世界の人間というややこしい関係だが、いつの間にか慣れていた。
恋人関係にあるユウトとゲーガーの進展を観察するのが楽しみ。

イントゥルーダー/ハンター
準指名手配中の謎のハッカーと国際警察。
動機や対象は何であれ立派な犯罪行為であり、本人も十分自覚している。ハンターも今のところは黙認しているが、足がついたら自分が捕まえると決めている。
一応足を洗った後のことも考えているらしく、IoPに就職して研究職に就きたいらしい・・・・・嫌な予感しかしない。

ジャッジ
コンプレックスと心労の絶えない中間管理職。
強力な蹴りは敵ではなく味方に放つ機会の方が多く、数多の変態を屠ってきた。
脚部ユニットはヒールになっているため、脱ぐとさらに小さくなる。

処刑人/執行人/少女
傭兵・無職・保護中。
子守に加えて見た目のわりに子供っぽい執行人の相手もするため、家事スキルは代理人に次ぐハイエンドNo.2。
なお、執行人があほの子なのは、処刑人を倒すために不要な部分を自身で削ってしまった影響・・・・というか戦術・戦略演算と物理演算以外不要という脳筋。


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第百九十四話:新勢力

ねんがんの 1/7エージェント・フィギュアを てにいれたぞ!
いやぁ、こういうフィギュアを買うのって初めてなんですけど、1/7って意外とでかいですね(置き場所を考えてなかった者の末路)


今回は新キャラの登場!
そしてお馴染みの独自設定!!



「不審者・・・ですか?」

 

「はい、もし見かけたら教えていただきたいんです」

 

 

 寒さの続く一月某日、まとまって来るには割と珍しい面々・・・・AR小隊が店を訪れた。話を聞いてみると、近頃周辺の地区や町で見慣れない人物を目撃することが多いらしく、本社からの通達に従って注意喚起を行っているらしい。

 年明けの変なテンションを振り切った変態の類かとも思ったが、どうにもそんな楽観的なものではない様子。小隊長であるROを筆頭にSOPⅡ、M16、そして非戦闘員であるはずのD-15までもがフル装備で警戒態勢を敷いている。

 

 

「珍しいですね、あなた(D-15)まで出てくるなんて」

 

「一応戦闘関連のシステムがないというだけで、訓練すれば銃を扱うことはできますよ。 まぁ今回は現地での記録が主ですけど」

 

 

 そう言って掲げるのは割と真新しいカメラ、しかもグリフィンのロゴまで入った軍用モデル。いざというときはこれを持ち帰ってさらなる対策を練るという、割と重要な役割のようだ。

 今回は市街地での近接戦闘が予想されることからか、カービンモデルのROはもちろん、火力担当のSOPもアンダーバレルをショットガンに切り替えており、周囲への被害を最小限にしようという意気込みが感じられる。

 

 

「それで、これがその不審者・・・・の似顔絵ですか?」

 

「監視カメラの映像や目撃情報しかなかったので。 ほかにも数名いるようですが、我々が追うのはこの二人です」

 

「髪形以外ほぼ同じ・・・・よっぽどそっくりな双子か、同型の人形だろうな」

 

 

 最先端を行くグリフィンには少々不似合な、まるで西部劇に出てくるような指名手配の紙。そこに写るのは確かに瓜二つな二人の人物で、黒っぽい服とツインテール・サイドテールの髪が特徴的だった。ただ見た目以外は不明らしく、名前欄もただの『不審者A』『不審者B』とだけ。あまりにも質素なその手配状に、代理人も思わず苦笑する。

 

 

「すでにこの地区全域に配布し、街のいたるところに貼っています。 情報が入るのは時間の問題でしょう」

 

「そこを私たちが一網打尽!」

 

「成功報酬で酒盛りだ!」

 

「・・・・・という理由でモチベーションを保っています」

 

 

 微妙に不安要素を残しつつ、代理人も手配書を数枚受け取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 それから数日後のこと。意外にも早く手配書の効果が表れ、街中に警戒態勢の軍とグリフィンの部隊が溢れかえっていた。予想通り不審者二人組はこの地区にやってきて、さらに昨晩にはこの街に入ったようだと伝えられた。

 今のところはただの不審者・・・・しかしあらゆるデータベースを探しても該当する情報がないため、軍とグリフィンは『違法製造人形』として捕獲する方向で進んでいる。先に捕まえた方で解析される予定のため、互いの威信をかけて捜索活動が行われているのだ。

 そんな様子を窓から見下ろし、ふぅっとため息をついてカーテンを閉めた代理人は、()()()()()()()()に向き直る。片やちびちびとコーヒーを飲み続け、片や警戒するように代理人を睨む二人の少女は、店内にも貼ってある手配書のあの二人だった。

 

 

「随分と騒ぎになっていますね・・・・・一応ここにいる限りは安全かと思いますが」

 

「どうかしらねぇ・・・・・」

 

「我が身に安息などなく・・・・ところでこのコーヒー美味しいですわね」

 

「あんたはもうちょっと警戒しなさい!」

 

 

 開店直前に店の近くに現れたこの二人・・・・ツインテールの方が姉の『ニモゲン』、サイドテールの方が妹の『マーキュラス』という名だ。偶然発見した代理人が半ば強引に匿い、現在に至る。

 身を隠す目的で被っていた黒いローブだが、それがむしろ不審者感丸出しだった。結果として彼女たちは身を隠すことができたのだが、ニモゲンの方はまだ代理人のことを信用していない様子で、長い袖から四つ爪のアームを覗かせて警戒する。

 

 

「いきなり信用して頂けるとは、こちらも思っていません。 まずは互いのことを知る必要があると思いますが?」

 

「・・・・・そうね。 ならあなたのことはこう呼んだ方がいいかしら、『鉄血工造衰退の元凶さん』?」

 

「ふむ、実際その通りですね」

 

「ちっ・・・・表情一つ変えないなんてね」

 

 

 忌々し気に毒づくニモゲン。どうやら彼女たちは代理人のことを知っているようで、しかも最近製造された人形では知らない者も多い鉄血工造時代の代理人も知っているようだ。そのことに内心驚きつつ、今度は代理人も二人を観察する。

 髪型以外だと服の装飾の色くらいしか違いがないことから姉妹機だと考えられるが、それ以上のことは所属も含めて不明のまま。ただ昨今の人形にしては珍しい四つ爪のアームは、少なくともIoP製ではないことを表している。

 

 

「ふふっ、そんなに熱心に見つめて何か分かったのかしら?」

 

「残念ながら、見てわかること以外は何も」

 

「うふふ、そうでしょうそうでしょう」

 

「なにせ私たちは『お父様』の最高傑作・・・・つまりは最強なのです」

 

 

 どうやら彼女たちは『お父様』という人物が造った人形であるという。しかも話しぶりから彼女たち以外にも存在するようで、その中でもトップクラスの性能を持つということだろう。

 あと、もしかするとマーキュラスの方はちょっとだけアホの子なのかもしれない。

 

 

「お父様・・・ですか? その方はどういう目的であなた方を?」

 

「あらあら、さっきからそちらからの質問ばかりね」

 

「目には目を、歯には歯を」

 

「マーキュラス、それちょっと違うわよ」

 

 

 冷静にツッコミを入れるニモゲンだったが、二人が一瞬目配せした次の瞬間、二人の袖口から勢いよくアームが伸びる。虚を突かれた代理人が動くよりも早く、二人のアームの先端が代理人の喉元に突き付けられる。俊敏性と正確性、そして二人の一糸乱れぬ連携が、彼女たちが自身を最高傑作と呼ぶに相応しい人形であることを示している。

 

 

「今度はこちらの番よ、代理人(エージェント)

 

「もちろん、協力してくださいますわよね?」

 

 

 先ほどまでとは雰囲気を一変させた二人から放たれる、機械的な殺意。従わなければ一切の慈悲もなく壊す(殺す)、その意思がありありと見える。

 相手の性能が分からない以上、救援を呼ぶなどの迂闊なことはできないし、抵抗して下にいる仲間や客までもが巻き込まれるのは何としても避けたい・・・・・恐らくただの()()では済まないだろうことを覚悟し、代理人は二人から目を話すことなく小さく頷いた。

 

 

「お利口さんね」

 

「こちらの手間も省けるというもの・・・・では早速」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「私たちをここに住まわせt『グゥ~~~~~~・・・・・』

 

 

 無駄に大きなノイズが流れ、二人の表情が固まる。聞き間違いでなければそれは二つの音が重なったような感じで、少なくとも可愛らしさとかそういうものの欠片もないような音だったと思う。

 何かを言おうとした途中で固まったままの二人はゆっくりと再起動し、やや前のめりだった姿勢を正すと・・・・・・ゴンッという鈍い音とともにテーブルに突っ伏した。

 

 

「・・・・・あの・・・大丈夫ですか?」

 

「うぅ・・・・お腹すいたぁ・・・・・」

 

「我が力の根源・・・・すでに虚空の彼方に・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ

 

「お二人とも、そんなに慌てて食べると体に悪いですよ」

 

「|うるひゃいわね、ほっひはほうはんひふぃふぉふぁふぉほひ《うるさいわね、こっちはもう何日もまともに》ゴクンッ・・・・食べてないのよ!」

 

「五臓六腑にしみわたります・・・・・」

 

 

 出した皿がちょっと目を離したすきに空になるのを、代理人は苦笑しながら見守る。喫茶店なので量も決して多くはないのだが、それでもすさまじいペースで平らげている。見た目だけならお嬢様と言ってもよい二人が脇目も振らず食らいつく光景はかなりシュールだろう。

 ニモゲンの言う通り、二人が最後にまともな食事をとったのはずいぶんと前・・・・・まだ『お父様』のもとにいた頃が最後だった。そこから家を出て()()()()()のために旅を始めたまでは良かったが、箱入り娘同然の環境にあった二人がまともな金銭感覚など持っているはずもなく、あっという間に路銀が底をついてしまった。

 

 『お父様』の期待を裏切らないように、そして『お父様』の最高傑作であるという自負から引き返すという選択はなく、ほとんど飲まず食わずでようやくここにたどり着いたのがつい昨日のこと・・・・・いくら人形とはいえ無茶をするものだ。

 

 

「まぁいいでしょう。 で、先ほどおっしゃったことですが」

 

「えぇそうよ、ここに住まわせてちょうだい」

 

「お父様のご指示ですので」

 

「・・・・・・その『お父様』という方は何者なのですか?」

 

「『お父様』は『お父様』よ、それ以外の何者でもないわ」

「『お父様』は『お父様』です、それ以外の何者でもありません」

 

 

 『お父様』と呼ばれる存在の謎は深まるばかりだが、その代わり彼女たちの目的を知ることはできた。いや、そもそも目的らしい目的はなく、その『お父様』の指示で喫茶 鉄血でお世話になるように言われただけなのだという。それ以外の指示も特になく、そこに疑問を抱かなかった二人はこうして遥々やってきたということだった。

 ・・・・・相手の了承も得ずに決めた『お父様』とやらに若干の敵意を抱きつつ、代理人はひとまず追い返す方向で話しを進めようとするが。

 

 

「あぁ、なんということでしょう。ここへ受け入れてもらわねば、私たちは雨風に曝される哀れな人形に」

 

「いえ、その場合グリフィンが保護することになると思いますが」

 

「なんと!あなたはあの極悪非道な組織に身を投げろというのですか!?」

 

「極悪非道って・・・・まぁ私はそれでもかまわないかと」

 

「おお神よ、彼女には人の心がないのでしょうか?」

 

「生憎と、私は人形ですので」

 

 

 マーキュラスの無駄に仰々しい語り口調とそれを止める気もなく笑うニモゲンにイラッとしつつ、しかしふと妙案を思いついた代理人は一度席を立つと、あるものを取りに店に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 二十分後、なにやら分厚い本を持って戻ってきた代理人は、妙にニコニコしながら二人に向かい合う。

 

 

「お待たせしました。 お二人をここに置いておくこと自体は問題ありません」

 

「あら、じゃあ決まr「ですが、一つだけ条件があります」・・・・・なにかしら?」

 

 

 条件、と聞いて再び警戒心をあらわにする二人。それくらいは代理人も想定済みであるため、かまわず一枚の紙を差し出す。

 そこには大きく、『雇用契約書』と書かれていた。

 

 

「働かざる者食うべからず、お二人にもここの従業員として働いていただきます」

 

「お断りよ、誰がそんな面倒なことをするのかしら」

 

「『お父様』の指示にもありません」

 

 

 代理人の要求を一周するニモゲンとマーキュラス。特にニモゲンはあからさまに不機嫌な態度になり、下手なことを言おうものなら武力行使も辞さないという雰囲気すらある。

 だがこれも代理人にとっては想定内のことで、契約書とは別の小さな紙を差し出す。店名と商品名、そしていくつもの数字が並ぶそれは、もちろんこの二人が食べたもののレシートだ。

 ただでさえ路銀の尽きた二人には到底払えないほどの数字がそこにある。

 

 

「お二人ともたくさん食べましたもんね」

 

「あ、あれってタダじゃないの!?」

 

「別にタダと入っていませんよ」

 

「横暴ですわ!? ヤクザですわ!?」

 

 

 二人がどれだけ喚こうと、代理人の笑みは崩れない。食べたことは事実だし、無理やり食べさせられたわけでもなく価格自体も適正のもの。今ここで逃げ出せば無銭飲食で追われる身となり、そうならないようにするためにはここで働くしかない。

 

 

「お二人は今、グリフィンと軍が血眼になって探しているお尋ね者です。 この街から逃げ出すのは不可能といってもよいでしょう」

 

「うぐぐ・・・・・・」

 

「それに、お二人の目的はここを拠点とすること。 そういう意味では、ここで働くこと自体に問題はないはずでは?」

 

「むむむ・・・・・・」

 

「私はどちらでも構いませんが、この店の主である以上は従業員の安全を守る義務があります」

 

「あ~もう、わかったわよ!!!」

 

 

 やけくそ気味にペンを掴み、二人分の名前を記入するニモゲン。印鑑などは持っていないが、さすがにここまで来て偽物ですということは無いはずなので問題ない。

 契約書を受け取った代理人は目の前でレシートを破り捨てると、二人に用意していたマニュアルを手渡しながら言った。

 

 

「ようこそ、喫茶 鉄血へ。 あなた方を歓迎いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、指名手配中の二人が働いているということで騒ぎになるのだが、それはまた別のお話し。

 

 

end




ここまでひどいキャラ崩壊がいまだかつてあっただろうか・・・・・・・わりとあったな。
というわけで、今の今までどうやって出そうか決めかねていたパラデウス勢も無事出場です。知れば知るほどヤベー連中なうえにその根源にあるのがコーラップスだって言うんだから・・・・どうやってうちの世界線に出せっちゅうねん!!

そんなわけで原作設定を大幅に無視した独自設定盛盛でお送りしておりますので、ご了承ください。


それでは今回のキャラ紹介!

ニモゲン
出自不明の人形A、マーキュラスの姉。
丁寧なように見えて相手を微妙に見下してるような口調が特徴だが、根はいい子。
普段は四つ爪のアームを使うが、一般的な人形の手も袖の中に格納されており、任意で換装可能。
原作ではかなりアレな出自だったが、ここでは純粋な高性能人形。

マーキュラス
出自不明の人形B、ニモゲンの妹。
お嬢様のような喋り方かと思えば妙に芝居がかった口調や慣用句などを使って話し始め、しかも時々用法を間違える。
アームは先のとがった触手型で、ニモゲン同様に普通の手と感想可能。
原作のセリフは詩などの引用らしいが、(作者がそこらへん疎いので)ここでは口調が安定しないキャラ。
ニモゲンと合わせ、この世界ではコーラップスのコの字もない。

AR小隊
隊長にRO、副長兼専任指揮官のD-15、突撃担当のSOP、オールラウンダーのM16で構成される。
M4とAR-15が抜けたことで戦力は低下したが、その分使い勝手のいい部隊になったため出撃回数はむしろ増えている。
なお、プライベートでの治安はあまりよろしくない。

代理人
異世界の人間・人形がいるくらいなので、出自不明の人形程度驚くほどでもない。
ちなみに、破り捨てたレシートはコピーしたものなので、原本はまだ手元にある。


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第百九十五話:夢

本当は正月っぽく初夢話にしようと思っていたわけですが、なんか色々力尽きました泣

そしてその結果やりたい放題になったけど勘弁してね☆


 夢、という言葉には複数の意味がある。睡眠中に見る夢から、目標という意味のもの、良いものから悪いものまで。そしてその「夢」というものも、人の数だけ存在するのである。

 今回は、そんな夢にまつわるお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・人はなぜ働くのだろう」

 

「・・・・・さぁな」

 

「「・・・・・・・・・・・はぁ」」

 

 

 普段通りの賑わいを見せる喫茶 鉄血の片隅で、まるでそこだけ証明が落ちているかのような薄暗い雰囲気を漂わせる二人組がいる。片やグリフィンの真っ赤な制服を身にまとい、堅物感漂うメガネが気だるげな女性、片や軍の制服を着崩した、ごつい体格と義手が目を引く女性・・・・・ヘリアントスとアンジェリアだ。

 グリフィンと軍は仲がいいというわけでもなく癒着しているわけでもなく、まして敵対関係でもないが一定の距離感を置いており、それぞれでそれなりの地位にいるこの二人が会うのは珍しくはない。しかしそれがこんな喫茶店の片隅で、二人そろってため息をつきながらというのは滅多にない。

 

 

「・・・・どうされたんですか? あのお二人は」ヒソヒソ

 

「ヘリアンさん、年明けに溜まっていた有休を使って一週間くらい休みを取っていたんですよ」ヒソヒソ

 

「アンジェもね。 ジャッジから聞いたわ」ヒソヒソ

 

 

 パトロールの一環で店に立ち寄ったM4とAK-12に話を聞くと、そう答える。

 どうにもあの二人、一気にとった休みを自堕落な生活で浪費してしまった挙句、その反動で仕事に対するモチベーションが最低値を更新してしまったらしい。しかしどれだけ嘆いたところで失った時間は戻ってこず、その結果があの現実逃避なのだ。

 

 

「いいのですか? あれでは仕事にならないのでは」

 

「それが、あれでも仕事の効率は全く落ちていないんです」

 

「出会いも何もかもを犠牲にして仕事に打ち込んだ結果ね。 もう体が覚えてるのよ」

 

 

 普段の行いだとか、やけに食いつきすぎるところが仇になっているせいなのだが、流石に不憫に思う代理人。だがこればかりは代理人がアドバイスできることもないため、現状は自力で持ち直してもらうほかない。

 

 

「一応、こちらでも気にかけておきましょう」

 

「ありがとうございます、代理人」

 

「何かあったら呼んでくれて構わないわ」

 

 

 一先ずは保留、ということで話を終わらせる三人。

 しかし、その様子を見つめる不穏な影がいることには誰も気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 それから一週間ほど経ったある日のこと。喫茶 鉄血には臨時休業の札が掛けられ、客のいない店内には物々しい雰囲気が漂っていた。

 要請を受けてやってきたM4らが店に入ると、そこには完全武装の404小隊とAR小隊、そして軍の人形を率いたジャッジがずらりと並び、その対面に代理人を始めとした喫茶 鉄血の面々・・・とサクヤ、ゲーガー、ユウトの鉄血工造組が並ぶ。

 そして双方の中間、頭に大きなたんこぶを生やしたアーキテクトとマヌスクリプトが正座したまま俯いている。よほど察しが悪い者でもないかぎりはこう思うだろう・・・・・・あぁ、またか。

 

 

「・・・・・・今度は何をやらかしたんですか?」

 

「開口一番ひどい!? 私たちがやらかした前提なのM4ちゃん!?」

 

「いえ、なんとなく・・・・・で、実際は?」

 

「「私どもがやりました」」

 

「はぁ・・・・・そういうことですので、頼りにさせていただきました」

 

 

 では状況を説明します、という代理人の言葉で事件の全容が語られる。

 

 ことの発端は一週間前、代理人とM4、AK-12の話を盗み聞きしていたマヌスクリプトがアーキテクトに連絡を入れたところから始まる。マヌスクリプトは二人の願望を「休みたい」「出会いが欲しい」という二つであると分析し、そういえばアーキテクトが依然人形用の仮想空間的なものを作っていたことを思い出したからだ。

 連絡と要望を受け取ったアーキテクトの判断は早かった。すなわち、今やろう!すぐやろう!、である。以前開発したシミュレーターを調整し、睡眠中の人間に思い通りの夢を見せるという商品化すればバカ売れ間違いなしな代物をパパッと作り上げ、最終調整を終えて秘密裏に喫茶 鉄血に持ち込んだのが五日前のこと。その後マヌスクリプトの私室に設置され、客として訪れていたアンジェとヘリアンを「開発中のストレス改善装置のモニターになってほしい」と声をかけて部屋に連れ込む。

 

 結果として二人はぐっすり熟睡し、バイタルも安定値を保っていた・・・・・のだが、ここで予期せぬトラブルが発生した。

 

 

「二人がね、目を覚まさなくなったのよ」

 

「正確には、それを拒否してるって感じかしら。 よっぽど居心地がいいんでしょうね」

 

 

 いったいどんな願望が詰まった夢を見ているかは不明だが、二人は夢に浸かったっきり目を覚まさないらしい。この装置は、目を覚まさせるときは外部から信号を送って使用者が受諾する流れだが、これを拒否されると装置を止めることができなくなるという欠点があったのだ。

 また、人形と違いバックアップがあるわけでもないうえに複雑怪奇な人間の脳に繋がっているため、無理やり起こせば何が起きるかも未知数、最悪の場合何らかの障害が残るとされている。

 何とか栄養補給用の点滴でしのいでいるが、いつまでもこのままというわけにもいかない。そこでグリフィンが誇るエリート部隊に白羽の矢が立ったということだ。

 

 

「端的に言えば、二人の夢に乗り込んで中から強引に二人を連れだすって作戦ね」

 

「あの・・・・それ、お二人に影響は?」

 

「強制終了ではなく正規の手順を踏めば問題ないよ」

 

「あくまで本人たちに『そろそろ目を覚まさないと』って思わせるだけだから」

 

 

 まぁ実際、今回の任務は比較的難易度の低い部類にはなるだろう。対象の説得だけで、なんらかの戦闘や妨害があるというわけでもない。説得するうえで知り合いの方が効率がいいからというだけなのだから、そこまで身構えることもないだろう。加えて・・・・・・

 

 

「私も同行します。 身内の責任は取らねばなりませんし、電子戦の心得もありますから」

 

 

 説得という意味ではこの上なく心強い代理人もいるのだ。代理人自身も最上位ハイエンドの一人、単純な戦力としても、そして指揮タイプの人形としての状況判断能力もずば抜けている。

 作戦の成功は堅いだろう・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・と思っていた時期がM4にもあった。

 

 

「あの、ヘリアンさん・・・・何度も言いますがそろそろ帰りましょう」

 

「悪いなM4、だが私も何度でも言おう・・・・・私は帰らん! ここで彼と添い遂げるのだ!!」

 

「だからここはただの仮想空間で、現実ではないんですって!」

 

「うるさい! 現実なんてくそくらえだ!」

 

 

 一先ずアンジェの方はAK-12に任せ、M4と代理人はヘリアン救出のために仮想空間へと飛び込んだ。が、そこで目にしたのはやたらとイケメンで若い男と、見ているだけでイラっとしそうなほどイチャイチャしているヘリアンの姿であった。

 とりあえず声をかけてみるも、やはりというかヘリアンは見向きもしない。これにしびれを切らしたM4のランチャー発射によって強引に気を引いた結果が前述のやり取りである。年齢的にも見苦しい駄々をこねるヘリアンにいよいようんざりするM4だが、ここは現実ではなく仮想空間・・・・銃弾を何発ぶち込もうが大した効果はなく、護身程度の戦闘能力しかないヘリアンを取り押さえることすら一筋縄ではいかない。

 

 

「ふん、お前には分からんだろうなM4・・・・持って生まれたお前には!」

 

「持って生まれたって・・・・・私はあくまで人形ですよ?」

 

「うるさいうるさい! どいつもこいつも美形でスタイル抜群だと? 私への当てつけか!!!」

 

「「うわぁ・・・・・」」

 

 

 ちなみにだが、()姿()()()()()()()()ヘリアンも一定数の人気がある。所謂メガネ美人というやつで、その手の好みの人間からすればどストライクらしい。ただそのがっつきすぎる恋愛願望と、なんだかんだ仕事人間なところが彼女の出会いを遠ざけている要因なのだ。

 もっとも、今のヘリアンにそんなことを伝えたところで事態が解決するはずもなく、むしろ火に油を注ぐだけだろう。

 

 

「それにだ、M4。 ここはあくまで私の理想の世界だということを忘れていないか?」

 

「いったい何を・・・・・」

 

「こういうことだ!!」

 

 

 ヘリアンが手を振り上げると先ほどまでの景色が一変し、一面がなぜか荒野になる。ヘリアンのとなりにいた『理想の彼氏』も消え、代わりとばかりにヘリアンの周りから見たこともない人形たちが姿を現す。全体的に白系の塗装で、歩兵タイプと思しきものからブースターで浮遊しているもの、はては重武装の巨体まで様々。

 そんな正体不明の勢力が、ヘリアンの指示で二人に襲い掛かる。もはや白い波となった謎の軍勢は二人を飲み込まんと進撃し・・・・・・突如としてその一角が爆ぜた。

 

 

「・・・・・・・・は?」

 

 

 ヘリアンが間の抜けた声を上げている間にも、まるで連鎖するように爆発が起き、白い軍勢がノイズとなって消えていく。徒党を組んだ歩兵は紙屑のように消し飛び、ブースター付きはその爆炎から逃げきれず、耐久力のある巨体でさえ数度の爆発で崩れ落ちる。

 ヘリアンは目を疑った。最前線の指揮官でないとはいえそれなりに知識のあるヘリアンだが、目の前の光景が信じられなかった。

 あの爆発はおそらく、M4のランチャーによるものだろう。しかし閲覧した資料では連射性能は決して高くなく、また弾数も限りがあるはず・・・・しかしそのデータを無視するかのように榴弾をばらまき、駆逐していく。

 

 

「な、なぜだ・・・・」

 

『ここが電脳の世界・・・・私たち人形の、いわばホームグラウンドだからだよ!』

 

 

 外部からスピーカーを繋いでいるのか、アーキテクトがおちょくるような声色でそう言った。

 

 

『M4ちゃん、調子はどうかな?』

 

「問題ありません。 それにしても、【無限弾化】なんて機能があったんですね」

 

『まぁデバック用だけどね~』

 

 

 そう、現在M4には『弾数無限化』と『リロードなし』という設定が付与されており、文字通りチートのような戦力を有している。ただでさえ強力な榴弾をポンポン発射されては、どれほど強固な敵であろうとただの的である。

 

 

「貴様まで私の夢を壊そうというのか、アーキテクト!!」

 

『いやいやぁ、ちょっとお手伝いをね☆』

 

「くそっ・・・・お前も、世のリア充たちも! 私をみじめにさせるものは、皆〇ねばいい!!!」

 

 

 もはやただの妬みでしかないが、ヘリアンの執念に呼応して敵はさらに数を増す。電子の集合体であるため、文字通り無限に湧いて出てくるのだ。

 もちろん、M4も代理人もその程度は織り込み済みである。

 

 

「・・・・・M4、お待たせしました」

 

「! ではお任せします、代理人さん」

 

「えぇ・・・・・では、参ります!」

 

 

 それまでM4の後ろに控えていただけの代理人が、一歩前に出る。そして呼吸を整えると、素早く十字を切った。その瞬間、代理人を中心に膨大な量のエネルギーがあふれ出し、代理人が目を振らくと同時に解放される。

 あたり全てを包むほどの光を発し、それがやんだころには白の軍勢は文字通り跡形もなく消し飛んでいた。

 

 

「な・・・な・・・・・・・」

 

「殲滅完了・・・・・ふぅ」

 

「お疲れ様です。 さて・・・・・」

 

 

 M4は唖然とするヘリアンの前まで歩み寄ると、銃を構えながらニコリと微笑んで言った。

 

 

「帰りましょうか、ヘリアンさん?」

 

「・・・・・・・はい」

 

 

 こうして、一人の独身女の夢は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後

 

 

「や、やっと終わったぞ・・・・・」

 

「数日分の仕事が溜まるって・・・・地獄ね」

 

「お二人ともお疲れ様です。 コーヒーのお替わりは?」

 

「「お願いします」」

 

 

 無事現世への生還を果たした二人は、相も変わらず独り身同士で店に立ち寄る。

 現実逃避の恐ろしさを改めて実感した二人は今のところまじめに働き、以前ほど盲目的に出会いを求めなくなったという。現実を受け入れることが良いか悪いかは知らないが。

 

 

「ふふっ、もうあの装置のお世話にはならなさそうですね」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「それに、今の私たちには()()があるからな」

 

「・・・・・コレ?」

 

 

 代理人が二人の手元を見てみると、揃って私用の端末を横にして何かをしている。どうやら最近はやりの、イケメンが多数登場するゲームのようだ。

 

 

「「はぁ・・・・・・〇〇君かっこいい・・・・」」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 代理人は何も言わず、コーヒーを注ぐのだった。

 

 

 

 

end




ま・た・せ・た・な!
毎週投稿すら達成できない自分のモチベ管理が恨めしい日々です。
しかも他作者様のとこではコラボが盛り上がってるし・・・・・べ、別に羨ましくなんてないんだからね!




では今回のキャラ紹介!

ヘリアントス
泥沼にはまった独身A。
相変わらず人形や身内をネタにした本を出しているが、やはり出会いは欲しいらしい。
上級代行官という役職のため給料はよく、課金する元手は十二分にある。

アンジェリア
泥沼の独身B。
容姿端麗ではあるのだが、ガツガツしすぎるところと需要と一致しないアピール(筋肉ゴリゴリの水着)のせいで相手が遠のく。
彼女の話は番外編で。

アーキテクト
常習犯A。
変態+技術=危険であることを体現した存在。

マヌスクリプト
常習犯B。
変態+発想力=危険であることを体現ry
アーキテクトと合わせることで究極にダメな方向にメガ進化する。

AK-12
電子戦のエキスパート。
侵入からハッキング、クラッキングに遠隔操作など、戦闘能力がすべてではないという点ではおそらく最も優秀な人形。
サボり癖が玉に瑕。

M4
電子戦もこなせるエリート。
アーキテクトバックアップのもと、弾数無限というチート性能によって蹂躙する。
物理的な力以上に、威圧感たっぷりの笑顔の威力が高い。

代理人
アーキテクトによって戦闘用モジュールを組み込まれた戦闘用装備。
普段はただのサブアームに銃を装備し、加えて広域殲滅兵装「悪兆の鍵」を装備。莫大なチャージ時間こそ必要だが、最低出力でも辺り一帯を更地にできる。
サクヤ曰く、鉄血工造の切り札。











白の軍勢
別の世界ではパラデウスと呼ばれる組織の人形(?)
ゲーガーが訓練用ダミーとして制作したものを、アーキテクトが魔改造したもの。元の面影などなく、演習で殺しにかかる超火力が特徴。
偏向障壁はないため、通常兵装で撃破が可能。


カレプラス(仮称)
アーキテクトとマヌスクリプトによる狂気の産物。
個人の深層心理から理想の相手像を映し出し、理想の彼氏として表現させる。当人が望む理想そのものであるため抗いがたく、またそれ以外の部分も使用者の意のままになるため、製品化されていれば中毒者が多数出たであろうことは想像に難くない。


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第百九十六話:復活! 鉄血工造

ディビジョンコラボが始まりましたね。
以前に少しだけプレイしたことがあって、ちょっと懐かしく思いました(笑)

・・・・・・もっかい始めようかなぁ


 二月初頭、よく晴れて季節の割にぽかぽかと暖かい日のこと。

 S09地区から少し離れた場所に広大な敷地を持つ鉄血構造本社は、現在は規模を縮小させているが最盛期には大手にふさわしい社員数を誇っていた。社用バスも出ていたがほとんどの者は車での出勤か本社隣の社宅(今なお在籍中の社員のほとんどはここ)であり、それ用の広い駐車場もある。

 ハイエンドがほぼ全員鉄血工造を離脱するという事件以降はほとんど空きだったその駐車場が、この日は満車の状態になっていた。

 

 

「あら社長、あなたも来たのね」

 

「む、ペルシカか・・・・敵情視察かな?」

 

「16labの所長としてはね。 まぁ実際はただの好奇心からよ」

 

「だろうな」

 

 

 ではお先に、そう言うとペルシカは護衛の人形を連れて玄関に向かう。それに続くようにして他の者たちも次々と中に入っていく。ペルシカと同じ研究者、グリフィンの関係者、軍人、人形を扱う業界の者、記者、その他さまざまな業界の人間が入っていき、鉄血の人形たちが出迎える。

 彼らの目当て、それは数日前にまでさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・・ふむ、これなら問題ないだろう」

 

「ほとんどあってないようなものだったがな」

 

「公にできるかどうかは大きいと思うよ?」

 

 

 グリフィン&クルーガー社の最上階、社長室に併設された会議室に座るクルーガー、ペルシカ、カーター将軍が、プリントをめくりながら議論を交わす。そこに書かれているのは鉄血工造の研究資料やかつての騒動、そして今に至るまでに進められた是正策だ。特に世間的に大きな影響を与えたハイエンドたちの騒動に関しては、再発防止を徹底することが盛り込まれている。

 そんな彼らの前で、スーツ姿という珍しい恰好をしたサクヤとアーキテクトが緊張した面持ちで待つ。鉄血工造の未来をかけたといっても過言ではないこの会議に、彼女たちは全力を投じてきた。度々ブレーキが吹き飛ぶことで有名なアーキテクトですら、今回は一切の悪ふざけもサボりもなしに仕事したほどだった。

 もっとも、そんな緊張感Maxな二人とは対照に、クルーガーたちはほぼ承認する意向で固まっていた。別にあの騒動も何らかのトラブルというわけでもなく、人形がやらかすという意味では軍もグリフィンも変わらない・・・・というかグリフィンなんて日常茶飯事だ。もはや形式だけの印鑑を押し、同じく形式だけのサインを書く。この三人のサインだけで相当の効力があるが、当人たちにそんな自覚はない。

 

 

「では決まりだ。 これにて、鉄血工造にかけられていた制限の全てを解除、ならびに人形製造・半場合業界への復帰を認める」

 

「まぁ前者はともかく、製造は割と頻繁にあったみたいだけどね」

 

「だから言っただろう、あってないようなものだと」

 

 

 最後の承認印が押され、サクヤたちの手元に返ってくる。それを受け取った瞬間、サクヤとアーキテクトは飛びあがった。

 

 

「やった! やったよアーキテクトちゃん!!」

 

「夢じゃないよね!? これほんとだよね!?」

 

「・・・・・うん、これでよかったんじゃない?」

 

「終わったような顔でいるがなペルシカ、我々の仕事はこれからだぞ」

 

「当分はマスコミとパパラッチに追われるだろうな」

 

 

 こうして鉄血工造の業界復帰が認められ、その日の午後にはプレスリリースが行われた。この情報は瞬く間に世界に広がったが、それよりも早く鉄血工造から新たな情報が発信された。

 新型のハイエンドモデル製造のお披露目を行う、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・で、実際のところはどうなのですかユウトさん?」

 

「お気持ちは察しますが事実です、アーキテクト姉さんはあの発表をしてから着手してましたよ」

 

「となると、製造期間が一週間ほどということになりますね」

 

「設計と概要だけお披露目するつもりだったんですが、まさか一週間で完成させてしまうとは思ってなくて・・・・」

 

 

 鉄血工造の新型、それだけでも注目の的なのに、復活と同時にお披露目を宣言すればどうなるか。多くの者が「実は黙って作っていたのではないか?」と思うわけだ。フライデーもびっくりな勢いでマスコミが殺到し、その対応にユウトは忙殺されてしまった。結果的にその疑いは晴れたのだが、世間ではまだまだ疑いの目が強いのだ。

 もっとも、アーキテクトを知る者からすれば納得できてしまうことでもある。あくまで製造が禁じられていただけで設計は範疇外、そしてアーキテクトなら設計図さえあれば最短三日程度で完成までこぎつけるだろう。

 

 

「ふふ、幸先がいいのか悪いのかわかりませんね、()()()()様?」

 

「そ、その呼び方はやめてください・・・まだ慣れないんです」

 

 

 もう一つ、会社としての体裁面で変化があった。これまでなんとなく『主任』『責任者』『リーダー』『隊長』などなどの肩書がついていたが、改めて出発となると、これではまずい。というか会社なのに『社長』が空席のままで、人形はもちろん数少ない人間社員もその席に座りたがらなかった。

 ゲーガーとユウトを筆頭にこの問題に取り組み、その結果がユウトの『開発主任』という肩書だった。

 

 

「まぁまだ僕はいい方ですけど・・・・ゲーガーが・・・・・」

 

「あぁ・・・・見事に押し付けられましたね」

 

「姉さんもアーキテクト姉さんも・・・・いや、二人に任せるのは不安かもしれませんが」

 

 

 ユウトの言う通り、鉄血工造の代表取締役・・・・要するに社長の座にいるのは、これまで輸送部隊の指揮と暴走組のストッパーがメインだったはずのゲーガーである。本人もなぜかわからないまま、気が付いたらそこにいたらしい。

 ちなみにサクヤは人形関係部署の総責任者、アーキテクトはなぜかマーケティングと販売の責任者である。本人曰く「世のニーズは理解している」らしい。とはいえ今のところは輸送、人形製造、販売しかないため、サクヤもアーキテクトもこれまで通り設計開発に携わる予定だ。

 

 

「あとで差し入れを持っていきましょう」

 

「ありがとうございます。 最近夜遅くまで勉強しているみたいで・・・・・」

 

「相手にしてもらえなくて寂しいですか?」

 

「それはもちろん・・・・ってそれは関係ないです!」

 

「冗談ですよ。 さて、そろそろですね」

 

 

 代理人とユウトがモニターを見上げると、ピシッとスーツを着こなしたゲーガーが拍手で出迎えられている。二人がいるのは社員用の休憩室で、代理人はお忍びで訪れていることになっている。

 

 

「こうしてみると、ゲーガーが社長というのはあながち間違いでもないかもしれませんね」

 

「公私はしっかり分けるタイプですし、社長の立場ならアーキテクト姉さんも止めやすいはずです」

 

「なるほど、そっちがメインですね」

 

「・・・・・いつかアーキテクト姉さんを止められるハイエンドを造ろうと思っています」

 

 

 二人が話している間にもゲーガーのスピーチが続き、各方面からの質疑応答にこたえていく。こうしてみると確かに、彼女が適任なのだろうと思う。アーキテクトが終始まじめでいられるとは思えないし、元々別世界の住人であったユウトとサクヤではなにかと不都合な部分があるかもしれない。その点ゲーガーなら常識も統率力も技術的なスキルも十分だ。

 実際、踏み込んだ質問にも臆せず答え、言葉尻を取ろうとする相手にも毅然と向き合う姿は、鉄血工造を背負うに相応しく思えると同時に、結果的に色々と背負い込ませていることを申し訳なく思う代理人だった。

 

 

「おや、終わったようですね」

 

「はい・・・・次はいよいよ」

 

「アーキテクトの出番、というわけですか」

 

 

 そしてここからが最も不安な時間、アーキテクトによる新型のお披露目である。何がどう不安かというと全体的に不安なのだが、あのアーキテクトが何もやらかさず事を終えられるかが最も不安なのだ。流石のアーキテクトもこれだけの人の前では自重するだろうという思いと、彼女ならもしやという思いが五分五分・・・・・いや、四対六くらいかもしれない。

 そんな代理人とユウトの不安に反し、ゲーガー同様にスーツ姿のアーキテクトは落ち着いた様子でステージに立つ。同時にスクリーンが切り替わり、いよいよお披露目の時がやってくる。

 

 

『皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます』

 

 

 開口一番、もはや本人の面影もないほど丁寧な口調で話し始めたアーキテクトに一部の者は唖然とする。その後も彼女に似つかわしくないほど丁寧でわかりやすい説明を続け、あの煽るような態度は完全に鳴りを潜めている。おかげで何のトラブルもなく仕様説明が終わり、質疑応答もスムーズに進んだ。

 この調子だと、何とか無事に終わりそうだ。そう思った代理人が彼女たちを労いに行こうとしたその時、休憩室の扉が開き、焦った様子のゲーガーとサクヤが入ってきた。

 

 

「いた、代理人!」

 

「ごめん代理人ちゃん、力を貸して!」

 

「・・・・・・はい?」

 

 

 どうやら、世の中そう上手くはいかないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




よし、これで新キャラを出しやすくなったな!
まったく、誰が「鉄血工造は新規製造禁止」なんていう設定にしたんでしょうかね(すっとぼけ)


そして今回、タイトルでは明記していませんが前後編扱いです。
もともと一話で終わらせる予定が、なんか気が付いたら長くなってしまいましたね笑
拙作は本文三千字台を目安にしているので(今更)


では、今回のキャラ紹介。

代理人
騒動は落ち着いたとはいえ、流石に堂々とは来れないのでお忍びで。
妹たちの出世を喜ばしく思う反面、何もかもを押し付けたようで申し訳なく思っている。

サクヤ
人形関係部署の総責任者・・・・という実質最高責任者。
別の世界ではハイエンドを一から作り上げただけあって、その方面での信頼は厚い。
忘れられがちだが、実はアーキテクトに次いで暴走しやすい。

ユウト
開発主任、要するにサクヤ直属の部下。
堅実かつ安定した設計開発ができるため、いざというときの軌道修正係。
自己評価がやや低いが、この歳で人形のメンテを完璧に行えるというチート。

ゲーガー
押しつけ、というより消去法で社長の座に就いた。
相変わらず暴走を止める役に変わりはないが、立場上『承認印』を押さなければいいため少し楽になった。
なお、離脱したとしてもハイエンドたちは鉄血工造のシステムの傘下にある。つまるところ、現時点でゲーガーは代理人をも超える指揮権を手に入れている。


クルーガー/ペルシカ/カーター
鉄血工造とはそれなりに付き合いやら因縁のある組織の代表として来ている。
とくに反対する理由はなかったが、唯一の懸念はアーキテクトの暴走である。






新型ハイエンドモデル
「鉄血工造」「ハイエンド」「新キャラ」というと大体思い浮かぶアイツ。
性格や口調はともかくあのデザインにしたエルザさんは何を考えているのか・・・・某総統閣下が叫びそうである。


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第百九十七話:新進気鋭の臆病者

やたらと口は悪いけど、言葉の節々に見せるやさしさというか仲間想いなところがビークちゃんの良いところだと思います。


というわけで実質「第百九十六話:後編」、始まるよ~


 代理人が助けを求められたことは、過去にも何度かある。本当に危機的なものから、それって本当に必要なのかというものまで様々だが、代理人は文句も言わずに手を差し伸べてきた。ハイエンドたちの長女だからか、あるいはそういうプログラムだからなのかは本人もよくわかっていないところだが、少なくとも代理人は、自身に向いていることだと認識していた。

 そんな彼女がサクヤとゲーガーに連れられてやってきたのは、本社の敷地内にある広大な演習場・・・に併設されている待機室だ。もともと演習する部隊の休憩にも使われるだけあってそこそこに広いのだが、演習場が使われなくなって以来物置のように使われていた。

 その部屋の隅っこに蹲る人影に、サクヤが声をかける。

 

 

「『ビークちゃん』、大丈夫?」

 

「うぅ・・・・もうやだかえりたい・・・・」

 

 

 ビークと呼ばれて顔を上げた少女、彼女こそが鉄血工造の最新鋭ハイエンドモデルである『ビーク』である。人形らしく整った顔立ちとツインテールに纏めた白い髪、これまで同様にモノトーンを基調とした装備は、紛れもなくハイエンドの系譜だ。

 ただ、そんな彼女は両目尻に涙を浮かべ、元々白い顔色はさらに白くなっている。どう見ても本調子でないのは明らかだった。

 

 

「えっと・・・彼女ですか?」

 

「あぁ紹介するね。 この子は『ビーク』、あなたの新しい妹よ」

 

「コホン・・・初めましてですね、私のことは代理人とお呼びください」

 

 

 代理人が握手を求め手を伸ばすと、ビークは一瞬ビクッとしてからおずおずと手を伸ばす。その仕草に妙な違和感を感じつつ、代理人はサクヤに尋ねた。

 

 

「それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」

 

「あー、そのね・・・・・見ての通りこの子は極度の人見知りとあがり症で」

 

「この後に演習形式でのお披露目なのだが、完全に委縮してしまって・・・・」

 

「なるほど、どうにか自信を持たせるなり奮い立たせるなりしてほしい、と」

 

 

 それを聞いて少し納得のいく代理人。人間人形問わず一度こういう状態になれば、わかっていてもなかなか立ち直れないものだし、実際そういう相談も少なからずあったりする。なので、それ自体は大して難しいことではない。

 が、ふと代理人は思い至る。そもそもの原因は別にあるのではないかと。

 

 

「一つ確認なのですが、彼女は製造されてから間もないのですね?」

 

「あぁそうだ。 というか昨晩の話だな」

 

「では、この性格は後天的なものではないということですね?」

 

「うん、生まれつきだよ」

 

「・・・・・・メンタル部分の責任者は?」

 

「「アーキテクト(ちゃん)」」

 

「はぁ・・・・・・」

 

 

 機械的で無機質なメンタルモデルよりかはよっぽどましだが、なぜよりにもよってその正確にしたのか、代理人は小一時間ほど問い詰めたい。ただの思いつきか、何か思惑があってのことなのかは不明だが、このメンタルでどうやってお披露目を成功させようというのか。

 代理人も思わず頭を抱えそうになったところで、待機室の扉が開く。アーキテクトだ。

 

 

「いやぁ、我ながら完璧なプレゼンだt」

 

「フンッ!!!」

 

「フゴッ!?」

 

 

 突然の腹パンに崩れ落ちるアーキテクト。それを見下ろすゲーガーの眼はどこまでも冷たく、ついでに一切の冗談も言い逃れも許さないという気概が見えている。

 

 

「さて、説明してもらおうかアーキテクト」

 

「私も聞かせてもらうよ・・・・開発段階とは別物のメンタルみたいだけど?」

 

「そ、それはその・・・・・」

 

 

 語られるのは、完成も間近になったある日のこと。

 当初の予定では気が強く攻撃的な性格の持ち主の予定であったが、現在の人形業界の風潮に合わないと思ったところから始まり、いっそ全部見直すかと考え始めた。しかし一から考え直す時間はなく、作り直すにしてもかなりギリギリ、着手するならばすぐでなければならなかった。

 そんな時、アーキテクトの電脳に天啓が舞い降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なに? 作り直すには時間が足りない? 逆に考えるんだ、今あるものをひっくり返せばいいんだと考えるんだ』

 

 

 

 

 妙に渋い声で聞こえたその天啓に従い、アーキテクトは完成間近のメンタルをぐるっと反転させることにした。プラスはマイナスに、裏は表に、白は黒に・・・・・その結果生まれたのが「気が弱く上がり症で人見知り」なビークである。

 

 

「何が『その結果』だ! また直前でいらんことをしてくれたな!!」

 

「で、でもやっぱり意外性というか、そういうポイントは必要だと思うんだ!」

 

「仮にそうでも、せめて一言くらい言え!」

 

 

 結局またアーキテクトがやらかしただけのことだったのだが、ゲーガーの悩みはそんなところではない。今回のお披露目はある意味社運をかけているといっても過言ではなく、新生・鉄血工造の誠実さや潔白さを知らしめる機会でもある。その一歩目で躓くことだけはどうしても避けたいのだ。

 しかしすでにビークは完成してしまっている。もはや藁にも縋る思いで代理人に頼み込んだ。

 

 

「頼む代理人! もう私にはどうすることもできないんだ!」

 

「私からもお願い!」

 

「・・・・・わかりました、できるかどうかはともかくやってみましょう。 では彼女を少しお借りしますが、いつごろまでに戻ればよろしいですか?」

 

「お披露目・・・公開演習は午後からだ」

 

「一時間ちょっと・・・・いえ、準備も含めれば一時間が限界ですね」

 

 

 それだけ確認すると、代理人はビークを連れて部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 鉄血工造製ハイエンドモデル『ビーク』―業界復活を遂げた鉄血工造の威信をかけた最新鋭機であり、代理人無き後の前線指揮型としての運用も期待される上級モデル。

 設計・製造は鉄血工造だがIoPや軍からの技術貸与もあり、鉄血製としては初となる「あらゆる人形への指揮権を保有する」人形となる。これは、昨今の状況から共同戦線を張ることの増えたグリフィンと軍に並ぶ必要から搭載されたものだ。

 加えて、これまでのモデルとは違い本体には固有の武装がなく、鉄血製はもちろんセッティングさえしてしまえば軍用もIoP製も使用可能な汎用性を誇る。代わりに外付けという立ち位置で専用装備が与えられ、ハイエンドモデルにふさわしい火力を得ることができる。

 

 ・・・・・というのがビークの説明であり、これから行われるお披露目で実際に行う内容だ。開始までまだ時間があるにもかかわらず、観覧席には会場にいた人間がほぼ全員そろっていることから、注目度の高さが伺える。

 場所を移し、従業員人形以外誰もいない社員用カフェの窓からその様子を見たビークは、完全に委縮してしまっていた。

 

 

「アーキテクトの嘘つき・・・・何が『知り合いが二、三人来るくらい』よ・・・」

 

「見ただけでも百人くらいはいますね」

 

 

 椅子の上で体育座りという窮屈な体制で縮こまり、見ようによっては部屋から無理矢理連れだされた引きこもりに見えなくもない。

 ちなみにビークは人形の中でも割と大きな方で、しかも全体的に肉付きがいい。本人としては丸くなっているつもりなのだろうが、押しつぶされて形を変えるモノが色々はみ出してしまっている。ジャッジが見れば発狂していただろう。

 

 

「どうぞ」

 

「え? あ、ありがとう・・・・・コーヒー淹れれるんだ」

 

「一応、店を開いている身ですので」

 

 

 設備がないので簡単なものですが、と差し出されたコーヒーを、ビークは恐る恐る口にする。いい例えが浮かばない香りと酸味、そして圧倒的な苦み・・・・・

 

 

「うぇ、苦ぃ・・・・・・」

 

「ふふ、ブラックは少し早かったようですね」

 

「わ、わかってたならもう少し甘くしてよ」

 

「それは申し訳ありません。 ですが、少し緊張もほぐれましたよね」

 

 

 いたずらっぽく笑う代理人に、ビークはハッとする。確かにさっきまであった胃がキリキリするような痛みもなくなり、気持ちも少し楽になっている。それが代理人のおかげなのかコーヒーのせいなのかはわからないが、それが少し恥ずかしくてビークはそっぽを向いた。

 すると代理人はササッと後ろに回り、ビークの頭をやさしくなで始める。

 

 

「大丈夫ですよビーク、あなたならきっとできます」

 

「で、でももし失敗したら・・・・・」

 

「ふふっ、そうですね・・・・その時は一緒に謝りましょうか」

 

 

 なぜ初対面でここまで優しくしてもらえるのか、代理人は全く関係ないはずなのではないか、なぜ誰も今の自分を叱ろうとしないのか・・・・・自身の置かれている状況に疑問符が浮かび続けるビークだが、撫でられると不思議とそれが消えていく。

 何とも言えない居心地の良さに浸っていると、不意に代理人が撫でるのを辞めて両肩に手を乗せた。

 

 

「さて、そろそろ時間ですね」

 

「え・・・・・あっ」

 

「慌てなくても大丈夫ですよ。 それよりも、どうしますか?」

 

「どうって・・・何が?」

 

「まだ心の準備ができていないようであれば、遅れるか延期を伝えますが」

 

 

 それがなにか、と言うかのように平然と聞いてくる代理人。そんなことをしたって代理人に何のメリットもないどころか、余計な責任まで背負わされかねないというのに。

 そんな代理人に、ビークは思わず口元を緩めた。

 

 

「・・・・・大丈夫、もう覚悟はできたわ」

 

「あら、その割には少し震えているようですが?」

 

「いつまでも、逃げてばかりじゃダメだからね・・・・・ありがと、代理人」

 

「えぇ、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 

 来た時とはまるで別人の、堂々とした歩みで会場へと向かうビーク。

 その圧倒的な性能を見せつけ、人形業界に名を馳せることになるのだが、それはまた別のお話し。

 

 

 

 

end




ログイン絵で初めて見た時は割と平凡な体格だと思ってたら、立ち絵ではやたらとムチムチで衝撃的だったビークちゃん。
そしてホットパンツとは・・・・・開発者はよくわかっていらっしゃる。

と言うわけで今回は鉄血の新キャラ、ビークちゃんの登場でした。
例によって原作崩壊もいいところな性格改変ですが、まぁ今に始まったことじゃないのでね汗


では、今回のキャラ紹介!


代理人
今回は母性にちょっと重きを置いてみた。
ナデナデとか膝枕とか子守唄とか色々やってほしい。
ちょっと目を離すと責任を負いたがるのが悪い癖。

ゲーガー
社長就任早々に胃が痛む。
とりあえずアーキテクトの減給処分を課そうと決めた。

サクヤ
ほんのちょっとアーキテクトから目を離してしまった結果。
思うところは多々あるが、ビークの性格自体は本人の庇護欲やら母性やらを掻き立てるのでヨシ!

ユウト
今回は出番なし。

アーキテクト
なまじ腕がいいだけに、ごく短期間で仕様変更ができてしまう。
実は最後の保険として、元々の性格をインストールする準備はしていた模様。
彼女に「普通」「仕様書通り」は存在しない。



ビーク
アーキテクト主導の中では最もまともに作られた機体。
本作では固有の装備はないが、アタッチメント扱いで専用の武装バイクがある。人形のスペックも過去最高クラスで、指揮能力も代理人に次いで高い。
元々は攻撃的で荒い口調(原作寄り)だったが、アーキテクトの思いつきにより今の形に。

ちなみに没案では、ハンドルを握ると原作キャラになるという某葛飾区の白バイ隊員のようなキャラだった(さすがに色々アウトな気がしたので没に)


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番外編49

ブルーアーカイブ楽しいなぁ~




てなわけで今回のラインナップ

・《挟まっちまった》
・軍人
・性能試験(裏)
・Happy Valentine
・その悪夢に安らぎを
 ※この話の続きです
  https://syosetu.org/novel/196745/13.html


番外49-1:《挟まっちまった》

 

 

 所属不明、製造元不明の人形であるニモゲンとマーキュラス。ひょんなことから喫茶 鉄血で働くことになった二人だが、当初の想定よりもまじめに働いてくれていた。口では文句を言いつつもなんだかんだ気配りのできる姉のニモゲン、特に不平不満も言わず黙々と働く妹のマーキュラス、そんな二人が働き始めて以降、彼女たち目当ての客もわずかながら増えた。

 初めのころこそ警戒されていたが、今ではこの店のマスコットである。

 

 

「って誰がマスコットよ!?」

 

「異議申し立て」

 

「まぁ、愛されているということでしょう」

 

 

 そもそもこの店に通う客は、そのほとんどが所謂ツワモノである。どれだけ蔑まれようと、冷たい目を向けられようと、彼らの場合はご褒美でしかない。そんな彼らの需要と、ツンデレ・冷たい目がデフォの二人の供給は見事に一致しているのだった。

 それに加えて・・・・・・

 

 

「痛っ!」

 

「ふぎゅっ!」

 

「い゛っ!?」

 

「ちょっ、姉さま、助けて姉さま!?」

 

 

 この二人に限った話なのだろうが、なぜかよく『挟まる』。小窓や戸棚はもちろん、入り口のドアや自室のドアにもなぜかよく挟まる。挟まる箇所も服の端や髪だけでなく、指や手、顔や体など様々。

 もはや不幸体質と言っても過言ではないほどの不幸っぷりだが、本人たちのリアクションも相まって『ポンコツ枠』に名を連ねることになったのだ。

 

 

「・・・・・いっそ自動ドアにしてみましょうか」

 

「ダメ! それは本当にダメ!!」

 

「もうあんな醜態は曝したくありませんわ!!!」

 

 

 以前買い出しに行かせた際にも、行きつけの店の自動ドアに挟まれたことがあった。その日その時、奇跡的にセンサーと緊急時開閉システムが同時に故障し、まるで狙ったかのように挟まれた二人。救助されるまでの一時間、何とも間抜けな姿をさらし続けたのだった。

 帰りが遅いと不思議に思った代理人が探しに来て、事務所で泣き続ける二人を回収して一件落着となったのだが、二人にはトラウマとして刻み込まれたらしい。

 

 

「そうよ代理人、日本という国には『暖簾』っていうドアじゃないドアがあるそうじゃない!」

 

「それならもう挟まることはありませんわ! 早速導入しましょう!」

 

「景観に合わないので却下です」

 

 

 そんな二人は、今日もドアに振り回されながら働くのだった。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

番外49-2:軍人

 

 

 M4A1と代理人がヘリアン救出(強制ログアウト)作戦を実行していたそのころ、同じく電子の都合の良い夢に囚われたアンジェを救うべく、AK-12は単身で突入していた。表向きは人命救助、及び元上司に対する敬意からであるが、実際のところは貸しを作りたいという打算にまみれたものだった。

 それに、AK-12はもともと高度な電子戦を想定して設計されたハイエンド機であり、今回の任務においてはまさに適任とも呼べる存在・・・・・失敗するなど考えもしなかった。

 

 

「フンッ!!」

 

「ふぎゅっ!?」

 

 

 きれいに投げ飛ばされたAK-12が、地に落ちると同時に間抜けな声を上げる。投げ飛ばした相手・・・・・アンジェは腕を組み仁王立ちで不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「無駄よAK-12、あなたでは私を止められないわ」

 

「くっ・・・・」

 

 

 いくら強化されているとはいえ、相手はただの人間。その人間相手に手も足も出ないというのはいくらなんでもおかしい。AK-12の疑問は深まるばかりだが、解決の糸口すら見えない。

 アンジェもヘリアン同様、この空間のヌシであるため都合の良い世界に作り替えることが可能だ。だが相手は電子戦特化のAK-12、その程度のことではすぐに看破されてしまう。そこで取った方法が、自身の身体能力を向上させつつ相手の能力をやや下げるというもの。一見して分かりづらく、また相手のフィールドだから仕方がないと思わせることで、不自然さをカバーしている。

 加えてアンジェは一切の銃器を使わず、近接格闘戦のみを仕掛けている。どれだけ性能が良くても、姿形は人間と同じ・・・・関節技も投げ技も有効な相手なのだ。

 

 

「あなたは確かに優秀な人形よ、けれど経験という意味では私の足元にも及ばない」

 

「えぇそうね、ならぜひともその技術を伝承してもらいたいものだわ・・・・現実でね!」

 

 

 すかさず銃を構えるAK-12だが、それよりも早くアンジェが詰め寄る。電子空間特有の常識を逸した加速にも素早く反応したが、その後の行動はやはりアンジェの方が一枚上手であった。銃ごと引き寄せられ、とっさに突き出されたナイフを義手ではじき、胸ぐらをつかんで背負い投げる。そのまま腕をひねりあげられ、今度こそ為すすべなく抑え込まれてしまった。

 

 

「チェックメイトよ、AK-12。 もうギブアップしたら?」

 

「勝者の余裕ってやつ? そんなことしてると足元掬われるわよ」

 

「心配してくれるの? でも大丈夫よ、少なくともあなたには負けないから」

 

 

 勝ち誇ったように宣言するアンジェを睨み続けるAK-12だったが、ふと表情を緩めると抵抗せずに身を投げ出した。降参、という意味らしい。

 

 

「はぁ・・・・私の負けよ。 もう好きにしなさい」

 

「あらそう? けどもういいわ、そろそろ帰るから」

 

 

 あれだけ抵抗していたにもかかわらず、さっさと帰る準備を始めるアンジェに、AK-12は首をかしげる。

 

 

「もういいの?」

 

「えぇ、暴れたらちょっとすっきりしたし、やることもできたしね」

 

「・・・・・やること?」

 

 

 何か嫌な予感を感じつつ、AK-12が問う。その問いに振り返ったアンジェの顔は、とてもいい笑顔だった。

 

 

「ハンデがあったとはいえ、人間相手に完敗なんて腕が落ちたなんて騒ぎじゃないわ・・・・・再教育が必要ねAK-12?」

 

「・・・・・・今はあなたの部下じゃないのよアンジェ?」

 

「M4に頼んでおくわ」

 

「ユルシテクダサイオネガイシマス」

 

 

 こうして、一部の者をちょこっとだけ騒がせた事件は幕を閉じ、同時にM4によるAK-12矯正プログラムが開始されることになったとさ。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

番外49-3:性能試験(裏)

 

 

 ゲートが開き、外の光とともに風が格納庫に吹き込む。それに長い髪を揺らしながらその時をじっと待ち、格納庫のランプが青に変わると同時にアクセルを全開にした。巨体にふさわしい重く力強いエンジン音と、見た目に反して軽快に走り出すそれを操り、新型ハイエンドモデル『ビーク』は性能試験の舞台へと踊り出すのだった。

 

 

『敵機出現を確認』

 

「機銃、ミサイル一斉発射!」

 

 

 ビークの合図と同時に大型バイク前方の機銃が火を噴き、格納されていたミサイルが放たれる。それらは模擬戦用の敵機を一瞬で蹴散らし、観客席から感嘆の声が上がる。

 ビーク自身に専用の銃火器はないが、専用機として開発された大型バイクが固有の装備にあたる。自動車にも匹敵する重量と巨大さを誇り、前方に四門の機銃、機体各所に仕込まれた小型誘導ミサイル、極めつけはスケアクロウのビットを大幅に改良した球体型のビットが三機という重武装である。これに加えて巨体を制御できるほどの馬力や、並みの銃では太刀打ちできない装甲、そしてバイクそのものは驚くほど堅実な設計だ。

 

 だがもちろん、あのアーキテクトがこの程度で終わらせるはずがないのも事実だった。

 

 

『敵機さらに出現、包囲された』

 

「数は!?」

 

『37機―――警告、ロックオンされた』

 

「ビット展開と同時に回避運動、コンテナAを展開!」

 

 

 本体下部のビットが解き放たれ、それぞれが独立して目標を攻撃し始める。一拍遅れて敵の攻撃も始まるが、まるで弾が避けているかのように絶妙なコントロールで回避行動をとる。ビークもいくつかある収納スペースから取り出したショットガンで応戦し、わずか一分もかからずに無傷で制圧してしまった。これには観戦していたお偉い方や記者もどよめく。

 これを可能にしているのは、ビークの性能だけではなかった。

 

 

()()()、状況報告!」

 

『ミサイル残弾僅か、ビット残エネルギー50%』

 

「ビットを一時格納、ミサイルはこのまま撃ち尽くして!」

 

『承諾』

 

 

 招待された者たちの誰も、代理人でさえも知らない秘密。それがこのバイクに搭載された人工知能である。表向きはビークの性能披露であり、バイクにはサポートAIが搭載されていると発表されているが、鉄血工造の真の目的はこの超高性能AI『エルダーブレイン』・・・・通称『エリザ』のデータ蓄積である。

 ビークとともに実戦と実生活を経験させ、より人間らしいAIを作り出すというのが目的だった。アーキテクトによるごく短期間での新型開発も、ついでに弄った性格面も、全てはこれを隠すためのものなのである。

 

 

「くっ・・・・!」

 

『個体名ビークへの被弾を確認、行動に支障なし――――やっぱりその胸が邪魔』

 

「それは関係なうわっ!?」

 

『至近弾―――――胸部を削減すれば被弾率が下がる』

 

「わ、私が欲しいって言ったんじゃないもん!」

 

『持つ者の詭弁』

 

「違うよ!?」

 

 

 かくして、ビークの性能試験は成功に終わり、鉄血工造の復活と大々的に報道されることとなる。

 その一方、なぜかビークは再び引きこもるようになってしまったのだとか。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

番外49-4:Happy Valentine

 

 

 2月14日、それは乙女たちにとって命を懸けた一日である。思いを伝えるべく綿密な計画を立て、周到に用意し、覚悟を決めてこの日に臨んでいる。もっとも、この司令部では比較的平和に進むカップルが多いため、いわゆる修羅場による『血のバレンタイン』にはならないケースが多い・・・・ヘタレが多いのも事実だが。

 そんな夢見る乙女()の一人、撃ちだすものは銃弾ではなく煩悩だともいわれてしまうスプリングフィールド氏は、その愛の大きさをそのまま形にしたような抱えるほどのサイズのチョコを持って指揮官室へと足を運んだ。

 

 

「うふふ・・・・この『ちょっぴりHになれる薬入りチョコ』で、今日こそ指揮官と・・・・・うへへへ~」

 

 

 訂正、愛ではなく欲望が詰まっていた。

 そんなスプリングフィールドだが、指揮官室の前で足を止める。そこにいたのは彼女にとっての憎き敵、同じく指揮官を愛する女たちである。しかしその誰もが扉へあと一歩というところで倒れており、スプリングフィールドは首をかしげる。

 

 

「何があったのでしょう・・・・まぁ私には関係ありませんね♪」

 

 

 倒れ伏す同僚などお構いなしに進み、ドアノブに手をかける。ところがなぜか鍵がかかっているようで、押しても引いてもびくともしない。

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 だがそんなことでは引き下がらないのが指揮官love勢筆頭。ポケットから針金を取り出し、慣れた手つきでカギ穴に差し込む。指揮官室は電子ロックと物理的なカギの二重ロックになっているが、見たところ電子ロックの方は開いている(だからこそ指揮官がいるのだと確信している)。

 そしてものの数秒でカギを開けると、呼吸を整えて勢いよく扉を開けた。

 

 

「指揮官~! ハッピーバレンタイn・・・・・あら?」

 

 

 一瞬、入る部屋を間違えたのかとも思ったが、正面にいるのは愛しの指揮官で間違いない。珍しく大量の書類が机に乗っているが、それはまぁ手伝えばいい話だ。

 しかしその隣にM9によく似た人形が座っているのが解せない。加えてソファーや椅子、壁際にも見覚えのない人形たちがずらりと居座り、そのうちの一人・・・・・とある一件でこちらの世界に来た『チェーン』がスプリングフィールドの前までやってくる。

 

 

「あーごめんね、今日はちょっと指揮官さんが忙しいらしくて」

 

「え、あ、はい。 ではそのお手伝いを・・・・」

 

「それなら間に合ってるぞ」

 

 

 そう言い出したのはソファーに座り、手伝いの手の字もないほどくつろいでいるコートの女性『ジャッカル』。そして彼女が言う「手伝い」をやっているのが『サムライエッジ』である。

 敬意としてはこうだ。前日に突然仕事が大量発生した指揮官は、一日で終わらせるべく自ら缶詰状態になった。しかし何かしらの妨害(決して悪い意味ではない)があっては困るので、手伝い兼用心棒を呼んだのだった。それが彼女たちである。

 ちなみに呼んだのは一人だけ・・・・『サムライエッジ』だけのはずだったのだが、なぜか『カスール』と『ジャッカル』が現れ、暇だということで『チェーン』と『ヤーナム』を呼び、何処からか聞きつけた『シカゴタイプライター』と『スネーク・マッチ1911』が大量の酒と葉巻を抱えて乗り込んできた。

 結果、まるでヤクザの事務所のような様相の出来上がりである。

 

 

「ともかく、今日は諦めてもらいたい」

 

「ま、私らを倒すというなら止めはしないがな」

 

「ちょっとタイプライター! 余計な挑発は「・・・・いいでしょう」え?」

 

「あなた方を倒して、私は指揮官と添い遂げます!!」

 

 

 背負っていたスプリングフィールド・ライフルを構え、堂々と宣戦布告するスプリングフィールドと、その言葉にゆらりと立ち上がる「常識外れ」たち。その光景にため息をついたサムライエッジとチェーンは、粛々と指揮官の仕事を手伝い始める。

 この5分後、指揮官室の前に倒れる人形が一人増えたという。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

番外49-5:その悪夢に安らぎを

 

 

 

 その日、なんとなくパトロールのルートを変えて、なんとなく気になった裏道に入っていったUMP9。どこからどう見ても規則違反なのだが、その結果が一人の少女を救うこととなる。全身黒っぽい装束に身を包み、見るからにごつくて危険な武器をぶら下げている血まみれの少女に、9は見覚えがあった。

 慌てて駆け寄り、まだ息があるとわかるや否や、その少女を担いで9は喫茶 鉄血へと向かう。

 そこならば、彼女を『救う』ことができるはずだという直感からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずれお見舞いに来られるはずですので、その時にお礼を言いましょうか」

 

「・・・・・・そうね」

 

 

 代理人の腕の中で泣き続けた少女『ルーナ』は、落ち着きを取り戻してからここに来るまでの経緯を改めて聞いた。

 全身血まみれ、虫の息であったルーナを9が担ぎこんできたときは店内が騒然としたが、代理人がうまく鎮めたことで大騒ぎにはならなかった。その後はいつも通り店をDに任せ、代理人の自室で応急手当てをしたという流れだが、その見た目と9の証言から、以前この店を訪れた狩人『ローウェン』と同様に狩人であると確信していた。

 というわけで早速アデーラに頼み込んで血を分けてもらい(本人はローウェンでないと知ると不満そうだった)、輸血して回復を待っていたという。

 

 

「・・・・・・・・」

 

「回復能力の高い狩人といえど、まだ傷が癒えたわけではありません。 今はゆっくりと休んでください」

 

「えぇ・・・・ありがとう代理人」

 

 

 ルーナをベッドに寝かせ、代理人は救急箱を片付け始める。

 何度見ても、異世界の医療の発展には驚かされる。これがあれば、もしかしたら兄を救うことができたのかもしれない、家族仲良く過ごすことができていたのかもしれない・・・・そんな都合のいい妄想に、ルーナは自嘲気味に笑った。

 認めたくなかったが兄は、ローウェンは獣になってしまった。人から獣になることはあっても、その逆はない。それはつまり、彼女にとって最後の家族を失うことを意味している。ついさっき流しきったと思った涙が、また溢れそうになった。

 

 今はそっとしておこう、そう思い代理人が部屋を出ようとドアノブに手をかけたその時、突然ドアが勢いよく開け放たれた。廊下に面しているため部屋側に開くようになっており、当然目の前にいた代理人に直撃する。

 そうとも知らずに開けた本人、『UMP45』は怒り心頭とった様相で殴りこんできた。

 

 

「ちょ、落ち着いてよ45姉!」

 

「もう済んだことでしょ!? 今更掘り返すものじゃないわよ!」

 

「これが落ち着いていられるもんですか! あんたね、前にうちの可愛い9を襲ったっていう外道は!?」

 

「あぁもう! G11も見てないで止めなさい!」

 

「ラムレーズンアイスで手を打とう」

 

「はったおすわよ!?」

 

 

 視線だけで人を殺しそうなほど怒り狂った45を、9と416が必死に抑えている。それでもじりじりと寄ってくるあたり、並々ならぬ執念を感じる。実際、以前に9が襲撃された際には『見敵必殺(サーチ&デストロイ)』を掲げるほどだった。

 そんな45の肩に、ポンッと手が置かれる。邪魔をするなと言わんばかりに睨みつけ、しかし相手の表情を見てサァッと青ざめ始める。

 

 

「・・・・・45さん、怪我人の前ではお静かに」

 

 

 めちゃくちゃいい笑顔の代理人は、そう言うと45の首根っこをひっ掴む。よく見ると鼻頭が赤くなっており、その目にちょっとだけ涙が浮かんでいる。どこからどう見てもキレていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――――!!!!』

 

「うわぁ、結構怒ってるよ代理人」

 

「まぁ当然ね・・・・あんたもほどほどにするのよ」

 

「怒らせる相手は選んでるから大丈夫だよ」

 

「怒らせるなって言ってるのよ」

 

 

 代理人に連れていかれた45がログアウトし、静けさが戻った部屋。時折廊下から聞こえてくる声に呆れつつ、416とG11は9たちに視線を戻す。

 

 

「その・・・・・あの時はごめんなさい」

 

「ううん、もう気にしてないから大丈夫だよ」

 

 

 無事和解(?)したようで、9に人懐っこい笑顔につられてルーナも笑う。代理人にもそうだが、狩りの中の協力関係ではなく純粋な優しさに触れたのはいつぶりだろうか・・・・・そう思うと、兄とまともに話すことすらできなかった自分がひどくみじめに思えてくる。

 だから、思い切って相談してみた。

 

 

「・・・・・ねぇ9」

 

「ん? なぁに?」

 

「もし・・・もしよ? あなたのお姉さんが突然豹変して、人を殺して回るようになったら」

 

「ちょっと!? 私はそんなことしないわよ!?」

 

「45さん、まだお話の途中ですよ」

 

「離して! せめて一発殴らせて! あぁ~~~~・・・・・」バタン

 

 

 再び連行されていく45に二人は顔を見合わせると、思わず噴き出した。確かにあの姉なら、そんなことにはならないだろう。

 そのうえで、9はルーナの問いに答える。

 

 

「う~ん・・・・とりあえず話してみる、とか?」

 

「・・・・・・もう話も、声すら届かない場合は?」

 

「結構重傷だね・・・・・・・あ、じゃあ耳元で叫んでみるとか!」

 

「・・・・・・うん?」

 

「もしくは話を聞いてもらうまで殴ってみるとかかな」

 

「えっと・・・・9ちゃん?」

 

 

 明らかに危ないことを言い始める9に、ルーナは若干引き気味だ。見るとG11も呆れており、416は頭を抱えている・・・・どこかで教育を間違えたのかもしれない。

 

 

「ルーナだって、お兄さんを殺したいわけじゃないんでしょ? だったら話してみればいいよ」

 

「もう、手遅れよ。 兄さんは悪夢に飲まれてしまったわ・・・・・」

 

「う~~~ん・・・・・わかった、じゃあこれあげるね!」

 

 

 再びネガティブモードになってしまったルーナに、9はあるものを手渡す。円柱状の本体にレバーのようなものが取り付けられたそれは、9が愛用する閃光手榴弾だった。

 

 

「光の量も音も通常の二倍! これならどんなお寝坊さんでも一発で起きるよ!」

 

「いや、悪夢っていうのはそういう意味じゃなくて・・・・・」

 

「でも夢は夢でしょ? なら覚ましてからお話すればいいんじゃないかな?」

 

 

 何の疑いもなくそう言い放つ9に、ルーナは開いた口が塞がらなかった。知らないから当然と言えば当然なのだが、こうも簡単に言われてしまうと少々腹が立つものだ。

 だが同時に、9の言葉もすとんと落ちてくるものがあった―――――『夢なら覚ませばいい』、単純だがわかりやすい方法にルーナは決意を固めると、布団をはねのけて服を着替え始めた。

 

 

「ちょ、ちょっとルーナ!?」

 

「ありがとう9、おかげでどうすればいいか分かった気がする」

 

「え、あ、どうも・・・・・じゃなくて! その傷じゃまだ動いちゃダメだよ!」

 

「大丈夫、狩人は頑丈なのが取り柄だから」

 

 

 9が止める間もなく、身支度を整えて装備を身に付けるルーナ。そして懐から一丁の古ぼけた銃を取り出すと、それを構え・・・・・ふと思い出して今度はまた別のものを取り出す。それはアンティークなコインで、淡く輝くそれを9に手渡す。

 

 

「これは私からのお礼、受け取って」

 

「・・・・ルーナ?」

 

「あなたと会えてよかった・・・・もしまた会えたら、その時はゆっくり話しましょ」

 

「ルーナ、待って!」

 

 

 9が止めに入るよりも先に、ルーナは『共鳴破りの空砲』の引き金を引いた。その体がおぼろげになり、やがて霧のように掻き消える。416とG11も信じられないものを見たような表情で固まる中、説教を終えて戻ってきた代理人がポツリと零した。

 

 

「あら、もう帰ってしまいましたか」

 

「代理人、彼女は・・・・・・」

 

「ご安心を、元の世界に戻っただけです」

 

「え、でも何もないとこで消えて・・・・え? え??」

 

 

 416とG11の混乱が加速する中、9は少し寂しそうに渡されたコインを見つめ、それを握りしめるとパッといつもの笑顔に戻る。

 そして、ここではない世界に生きる友人にエールを送るのだった。

 

 

「・・・・頑張ってね、ルーナ」

 

 

 

end




ドルフロ、アークナイツ、ブルーアーカイブ・・・中国産のゲームってなんでこんなに面白いんでしょうかね(笑)
ちなみに、私が個人的に好きなイベントがビンゴイベントだったりします。チャットミッションでいろんな方からメッセージが来ると、より頑張ろうって気になりますね。



では、話もそこそこに各話の紹介

番外49-1
ニモゲンとマーキュラスといえばドア、ドアといえばニモゲンとマーキュラス。
私は悪くない、彼女たちのステージにドアを仕込んだ運営が悪いのだ(責任逃れ)

番外49-2
いくら残念美人であろうと、あのゴリゴリの正規軍にいる時点でアンジェも相当の強者だと思う。
今回みたいな「性能を技術が上回る」っていう話は他作者様の作品に強く影響されましてね・・・・やっぱりロマンがあるじゃない?

番外49-3
喫茶 鉄血の執筆当初は存在を知らず、その後は出すタイミングを逃しまくっていたエリザことエルダーブレイン初登場。
今はまだただのAI扱いですが、そのうちボディも用意しようかな。
なお、体のある部分が豊かな者に対して辛辣になる傾向がある。

番外49-4
バレンタインという名のチョコ要素皆無なバレンタイン・・・しかも一週間以上の遅刻。
ついでに過去のCO(クロスオーバー)回のキャラを総出演というボスラッシュ。
シカゴタイプライターに始まりジャッカル&カスール、ヤーナム、スネーク・マッチの連戦・・・・・無理ゲーすぎる。

番外49-5
『無名の狩人』様の作品『ブラッド・ドール』とのコラボ!
一話独立にしたいと思っていましたが、早くお返しが書きたかったのでこうしました。
あっちの世界は結構大変な状況だけど、ここでは一切関係ないのでね(笑)
あと45姉はやっぱり使いやすい。

ルーナ「狩人は頑丈なのが取り柄だから」
モンスターなハンター「せやな」


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第百九十八話:ハイスピード・ドールズアクション

久しぶりにオリキャラのリクエストを頂きました!
苦手な方はブラウザバックをお願いします(今更)


 先日発表された鉄血工造の最新鋭ハイエンドモデル、そして鉄血工造の業界復帰を受け、業界は一気に慌ただしくなった。元々鉄血工造の技術の高さは業界随一であり、安価で高性能といえば鉄血工造、軍にも匹敵する高性能機といえば鉄血工造と呼ばれていたほどだ。

 実際、復帰と同時にローエンドの購入依頼が殺到するなど、一度は衰退したと言えど天下の鉄血工造に揺るぎはないのだ。

 

 そんな鉄血工造の復活に、最大のライバルであるIoPが黙っているはずがなかった。特にこの件に深くかかわっているペルシカはむしろこの流れに乗ってやろうと、新たなプロジェクトを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、そのお二人がどこかに行ってしまったと」

 

「ペルシカちゃん、私が言うのもなんだけど管理不足じゃないかな?」

 

「ほぉ、アーキテクトにもその自覚があったとは驚きだ」

 

 

 ところかわって喫茶 鉄血。カウンターに座るペルシカが珍しくへこんでおり、その場に居合わせたアーキテクトとゲーガー、カウンターの内側から代理人が事情を聴く。

 

 アーキテクトと同じくらいの天才(高度な演算能力を備えた人形と同等の時点で十分化け物)であるペルシカは、鉄血工造の発表から僅か一カ月という短期間で試作機を完成させてしまった・・・・・もともとの設計があったとはいえ、驚くべき早さだ。

 そんなわけで正式な発表の前に(なぜか)代理人の元へと連れてくるつもりだったのだが、少し目を離した隙にどこかへ行ってしまったらしい。

 

 

「確かにマイペースな子にしたけど、ここまでとは思わなかったのよ・・・・」

 

「って言う割にはちょっとうれしそうじゃない?」

 

「そりゃ、自分の意思で行動してくれるなら生みの親としては嬉しいのよ」

 

「だよね!」

 

「その思いつきに誰が振り回されると思っているんだ大馬鹿野郎」

 

 

 ゲーガーの拳がアーキテクトに降りかかったところで、代理人はとりあえずの疑問を聞いておくことにする。そもそもなぜ喫茶 鉄血に連れてくることになったのかと、行方をくらませた人形の特徴だ。

 

 

「うん? 連れてくる理由は特にないけど・・・・まぁいざというとき頼りになるし」

 

「最初から部外者を頼りにしないでください。 というより、IoPもグリフィンも私のことをなんだと思っているんですか?」

 

「世話好きで面倒見が良くて放っておけない性格の優しい人形」

 

「言い換えれば『都合の良い人形』とも取れますが?」

 

「物は言いようだよ」

 

 

 しれっと言い放つペルシカに、代理人は軽くため息をつく。もっとも、IoPもグリフィンも代理人に何かを背負わせるつもりは端からなく、現地で見守ることができないので代わりに気にかけてやってほしいという意味合いだ。

 代理人もそれ自体に異論はないし、この店に人が集まる理由でもある。が、流石にこうも頻繁にあると、大元の管理体制を疑わざるを得ない。

 

 

「・・・・まぁいいでしょう。 それで、その方々の特徴は?」

 

「片方は白のショートに蒼い目だからすぐわかるよ、あとすごく無口だし」

 

「部隊のコミュニケーションとしてはどうなんですか、それ」

 

「で、もう片方はたぶんずっと笑ってるよ。 青い髪に赤目で、出るとこが出てる子だね」

 

「ジャッジちゃんが見たら発狂しs「誰が発狂するって?」・・・・や、やぁジャッジちゃん」

 

 

 背中に銃口を突き付けられて冷や汗を流すアーキテクト。何ともタイミングのいいところで入ってきたジャッジは相変わらずむすっとした顔のまま、腰に手を当てて不満をあらわにしている。

 ただどうやら一人ではないらしく、その後ろに二人ほど見慣れない人物が立っていた。見たことがない風貌なのだが、つい最近どこかで聞いたような見た目だが・・・・・・。

 

 

「久しぶりだな代理人、早速だが道中で見慣れない人形を拾って・・・何か知らないだろうか?」

 

 

 ジャッジが後ろを指さすと、二人の人形は無表情と笑顔という真逆の表情で前に歩みでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ紹介するね。 白い髪の方が『W』で、青い髪の方が『H』よ」

 

「・・・・・よろしく」

 

「あなたが代理人? 今後はお世話になるわよ」

 

 

 場所を変え、喫茶 鉄血の前の小さな公園にイスとテーブルを出して話を聞く代理人たち。場所を変えた理由は人数が多いのもあるが、一番の理由がWとHの装備にある。

 IoP製試作戦術人形『W』、高い機動性と火力を有するARタイプとして開発された人形だ。最大の特徴はMODのデータを応用した二丁持ちと、既存の人形を超える火力を誇るマイクロミサイルで、シンプルながらまとまった性能となっている。反面、常に二丁のライフルを持ち歩くことになるため、必要以上に場所をとってしまう。

 そしてもう一人、こちらも同じく試作戦術人形の『H』だが、彼女の場合はWの真逆ともいえる。ARとSGの中間をコンセプトとし、こちらもショットガンとアサルトライフルの二丁持ち。そして一際目を引くのが、背中に背負った身の丈を優に超えるレーザー砲。IoP初となるレーザー兵装だが、まだまだ試作ゆえにかなり大きくかさばってしまう。

 

 というわけで、決して広いとは言えない店内では邪魔になるため、こうして外に出ているというわけだ。と同時に、少々気になることも言われた気がする。

 

 

「・・・・・()()()?」

 

「あれ、博士から聞いてなかったっけ?」

 

「困ったことがあれば代理人に・・・・そう言われた」

 

「・・・ペルシカさん?」

 

 

 そろそろと逃げようとするペルシカをサブアームで捕縛し、問い詰める。先ほどIoPが何かと代理人を頼りにしがちだと話したばかりだが、どうやらその筆頭は目の前にいたらしい。

 

 

「わ、私だって気にかけてるよ!? けどどうしても目の届かないところだってあるじゃない!」

 

「でしたら指揮官さんに頼めばいいではありませんか」

 

「指揮官としては有能だと思うけど無自覚女たらしはちょっと・・・・」

 

 

 別に指揮官は悪くない・・・が、いかんせん人形からモテやすく、しかもその結果があの残念集団とくれば確かに不安にもなるだろう。そこにはアーキテクトやジャッジ、代理人でさえも同感だ。

 だが、そういうことなら他にも頼む相手はいるはずだ。M4なんかは面倒見がいいし、ROに預けて一時的にAR小隊に置いておくのもいいと思う。そうでなくとも、基地の人形は皆優しく面倒見がいいので、そこまで心配することでもない気もするが。

 

 

「忘れてるかもしれないけどね代理人、この地区に集められる人形って訳ありの子も多いんだよ」

 

「それを『個性だ』と言ってそのままにしているのはIoPでは?」

 

「ついでに間違いなく、この二人もそっち側だよね?」

 

コイツ(アーキテクト)の陰で目立っていないが、あなたも大概変人だぞペルシカ博士」

 

「ぐぅ・・・・・」

 

「まぁまぁ、そこらへんにしてあげなって」

 

 

 四面楚歌状態のペルシカに救いの手・・・・Hから仲裁の声が入る。さすがは我が子、早くも親孝行かと目を輝かせるペルシカに、Hが言葉をつづけた。

 

 

「そもそもの話、メンタル部分を徹夜とエナドリとコーヒーのテンションで作り上げてるんだから個性しかないわよね!」

 

「ちょ、ちょっと!? その話はしないでって言ったでしょ!?」

 

「あれ、そうだっけ? ぎゃははは!!」

 

 

 何がそこまで面白いのか、ゲラゲラと笑い続けるHの口をふさぐがもう遅い。ゲーガーや代理人はおろか、あのアーキテクトですら「うわぁ・・・」と言うような顔であきれ果てている。

 

 

「待ってくれ皆、これにはそれなりに訳があるんだ」

 

「良かったなアーキテクト、言い訳の仕方までお前と同類だぞ」

 

「良くはないよ!?」

 

「腕は信用している・・・・・けど、勢いだけでやるのはちょっと・・・・・」

 

「Wちゃんまで!?」

 

 

 そんなこんなで談笑しているが、あくまでここは店の前の公園。店のマスターに全身ほぼモノクロの鉄血ハイエンド、白衣の女性と見た目のわりに物騒な銃を持った少女、極めつけは身の丈を超える何かを背負った女性と来れば、嫌でも目立つ。

 加えてここは住宅地に囲まれた公園であるため、子供たちがわらわらと群がってきた。

 

 

「ねーねーおねえちゃん、それなぁに?」

 

「おっきいね!」

 

「みせてみせて!」

 

「ぎゃははは! いいよいいよ、せっかくだから見せてあげよう!」

 

「ちょ、こらっ!?」

 

 

 子供たちの純粋無垢な要望に応えようと、Hが背中に背負った馬鹿でかい砲を展開し始める。慌ててペルシカが止めに入るがもう時すでに遅く、ところどころから火花やら電流やらを吹き出しながら展開されていく。ついでにエラーメッセージが鳴り続けているが、本人は意に介さない様子だった。

 折りたたまれた銃身が接続され、明らかに人形が扱うサイズを超えた全貌が姿を現す。そしてそのままエネルギーの終息が始まり、充填率がどんどん上がっていく。

 

 

「・・・・・って、ここで撃つんじゃないぞ!?」

 

「ぎゃははは!! だけどこれ止まんないんだよねぇ!」

 

「ちょっ!? ペルシカ何してんの止めてよ!?」

 

「・・・・・これはまだ試作段階で、一度起動したら撃たないと止まらないんだよ」

 

「「「・・・・・・え?」」」

 

「ぎゃははっ! そんじゃ、派手にいこうか・・・・・・」

 

 

 いつ暴発してもおかしくないほどエネルギーの溜まった銃身を、Hは軽々と持ち上げて真上に向ける。そして引き金を引くと同時に溜まりに溜まったエネルギーがあふれ出し、極太のレーザーとなって天を貫く。

 もちろんその反動はすさまじく、Hの足元は陥没し周辺には暴風が吹き荒れる。とっさに代理人たちが庇っていなければ、子供たちは吹き飛んでいたかもしれない・・・・というか自重の軽いペルシカは吹き飛びかけていた。

 あたりに静寂が戻るころには空にあった雲がぽっかりと消し飛び、遅れて遠くからサイレンの音が聞こえ始めた。

 

 

「・・・・・ペルシカさん」

 

「・・・・・・・・・」

 

「本日のお代と周囲の修繕費、16labに請求しておきますね」

 

「・・・・・・・はい」

 

「・・・・自業自得」

 

「はははっ、まぁそうなるよねぇ」

 

「「「はぁ・・・・・・・」」」

 

 

 

end




ブルーアーカイブ楽しいなぁ!
・・・・・はい、そのせいで遅れましたごめんなさい(代理人が)なんでもしますから



それでは今回のキャラ紹介!
※設定等を載せるため長くなります。

W
『次世代型戦術人形開発計画』で設計され、実際に開発されたうちの一人。
これまでMODによってのみ可能だった異なる銃の二丁持ちをデフォルトで実装、さらに試作段階のマイクロミサイルも発射可能。身軽でSMG並みの回避能力を持つが、装甲値はダイナゲートよりましという程度。
ただし、大破状態から一度だけ再起動可能。

無口でマイペース、何を考えているかよくわからないが、敵に対しては容赦しない。
元々高性能ではあるが努力家で、自身の強さに驕らない。


元ネタは『ARMORED CORE For Answer』のホワイト・グリント。
口調や声はフィ〇ナ寄り。


H
同じく『次世代型戦術人形開発計画』で設計され、開発された一人。
IoP製としては初となるレーザー兵装の運用を目的とし、そのために必要な機構を盛り込んだ結果、全体的に豊満なシルエットになってしまった。
肝心のレーザー兵装はかなり大型で、専用装備として換装しなければならないほど。

ほぼ常に笑っており、楽しければそれでいいという性格。加えて何かにつけて試したがるため、大体惨事になる。
家事等の基本スキルはあるのだが、上記の性格もあってまともには終わらない。

元ネタは『ARMORED CORE V』より、ハングドマン(と主任)。
笑い声は特徴的な「ぎゃはは」。
大型レーザーのモデルはヒュージキャノンだが、原作では実弾兵器。


ペルシカ
アーキテクト並みにやらかす天才研究員。
実はこれまで出てきた異常個体(純真なDSR-50など)も、元をたどればペルシカの仕業。
腕は確かだが、それがかえってトラブルを呼ぶ。

アーキテクト・ゲーガー
本当にその場に居合わせただけ。


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第百九十九話:二人の『レイ』/ちょっと一息

『chaosraven』様の『裏稼業とカカシさん』とのコラボ!
https://syosetu.org/novel/194706/13.html


【あらすじ】
こっちのスケアクロウの公演会場の倉庫に飛ばされてしまったあっちの世界のレイ。
なんやかんやあってこっちのレイと無事合流(?)

その一方、あっちのスケアクロウはもう一人の少女と共に喫茶 鉄血に流れ着いていた。


「はい・・・・えぇ、はいそうです・・・はぁ、なるほど」

 

 

 公演を終え、楽屋でのんびりとレイ(相棒)を待っていたスケアクロウの元に、代理人から電話が入る。その内容と言うものが少し奇妙で、開口一番『あぁ、やはり』と勝手に納得したような感じだったからだ。加えてね『まだ会場にいますよね?』だとか『レイさんも一緒ですか?』など、わざわざ聞かなくともわかるようなことばかり聞いてきたのだ。

 一瞬、代理人を騙る迷惑電話かとも思ったが、その線も薄いと判断。こちらからも色々聞き出し、ようやく状況を理解したスケアクロウは楽屋を出てレイのもとに向かった。

 

 

「レイ、先ほど代理人から電話があって・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいですか? いくら公演が終わったからといっても、まだお客さんも近くにいますし後片付けだってあるんです。 ご友人に会えて舞い上がる気持ちはわかりますが、時と場所はわきまえてください・・・・いいですね?」

 

「「はい・・・・・・」」

 

「なんで私まで・・・・・」

 

「とんだ一日だ・・・・」

 

「口答えしない!!」

 

「は、はいっ!!!」

 

 

 通用口から顔を出すと、()()()()()と警備員の男性、その相棒のM870が並んで正座し、スタッフの女性から厳しい口調でお叱りを受けているところだった。ガタイのいい男たちと戦術人形が大人しく怒られている光景はシュールなものがあり、世界は違えど百戦錬磨の男がこうべを垂れ続けている姿はここでしか見られないのかもしれない。

 面白そうなのでこのまま見ていてもよかったが、スケアクロウも彼らに用事があるのでキリの良いところで話しかける。

 

 

「すみません、少しよろしいでしょうか?」

 

「あ、スケアクロウさん」

 

「げっ、スケアクロウ・・・・・」

 

 

 『げっ』ってなんだよ、という言葉がのどまで出かかったのを飲み込み、スケアクロウは二人のレイの()()()()を掴んだ。

 

 

「「え・・・・?」」

 

「このたびはご迷惑をお掛けしました。 二人には私からよ~~~~~く言っておきます」

 

「わ、わかりました」

 

「ではこれで・・・・・二人とも、行きましょうか」ニッコリ

 

 

 その時のスケアクロウの笑顔を見た二人は同時に思った・・・・・これはあかんやつや、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 場所は変わって喫茶 鉄血。休日の午後ということもあって賑わいを見せる一角に、代理人は本日五つ目のケーキを運ぶ。

 

 

「お待たせしました、紅茶のシフォンケーキです」

 

「わはぁ! これも美味しそ~!」

 

「本当に遠慮のない・・・・すみません、代金はどうにかしますから」

 

「いえいえ、構いませんよ」

 

 

 ため息交じりの()()()()()()に、代理人はそう言った。その横で早くも半分になったケーキにフォークを突き立てるのは、この地区ではまだ見たことのない人形・・・・P90だ。

 どこからともなく現れたこの二人、そのうちの一人は代理人の家族によく似ているが、それとは別人であることはすでに知っている。こことは違う世界・・・・いわゆる平行世界の住人だ。となると連れのP90も同様だろうと思い、代理人もそのつもりで接している。

 

 

「サーちゃんサーちゃん! これも美味しいよ!!」

 

「あぁもう口の周りがクリームだらけに・・・・少しは節度を持ってくださいティナ」

 

「ふふ、じっとしてくださいね・・・・・これで大丈夫ですよ」

 

 

 嬉しそうに頬張るP90の口元を拭う、手慣れた様子の代理人に、スケアクロウ(サーリャ)は何度も自身の姉を重ねては引きはがすを繰り返す。同じ代理人(エージェント)ということで性能や序列は変わらないが、あの売れ残りバホ姉とは雲泥の差だな・・・・・と失礼極まりないことを考えながら、カップに注がれた紅茶を飲み干す。

 もっとも、自分たちハイエンドを除く鉄血工造が人類の敵となった今、売れ残りもへったくれもないのだが。

 

 

 

 

 

 

 さて、平行世界のスケアクロウとP90・・・・・『サーリャ』と『ティナ』がこの世界に来たのは、ちょうど昼を回るかどうかという時だった。部屋で寝ていたはずの二人はなぜか公園の遊具の中で眠っており、野良猫に頬をなめられて飛び起きたティナの悲鳴でサーリャも目を覚ました。

 スケアクロウは以前に一度経験しているため比較的冷静でいられたが、製造されてからもまだ日が浅いティナはパニック寸前。たまたま近くを代理人が通りがからなければ、人目もはばからず泣き叫んでいたことだろう。

 そうして喫茶 鉄血へと連れられてきた二人は、サービスとしてケーキと紅茶をふるまわれ、ドハマりしたティナがケーキの追加を注文し始めて今に至る。

 

 

「まさかまたお世話になってしまうとは・・・・」

 

「こういう時は助け合いですよ」

 

「抹茶ケーキうまぁ・・・」

 

「あなたはそろそろ自重しなさい!」カカシチョップ

 

 

 そんなこんなで二人の相手をしていると、代理人の端末にメッセージが届く。どうやらスケアクロウの方で『平行世界のレイ』を見つけることができたようで、チャーター機で連れてきてくれるそうだ・・・・・売れっ子エンターテイナーはやることが違う。

 

 

「スケアクロウ・・・いえ、サーリャさん。 どうやらレイさんも見つかったようですよ」

 

「え、本当ですの!?」

 

「えぇ、あと二時間ほどでこちらに着くとか」

 

「「よ、よかった~~・・・・・・」」

 

 

 主人の安否がわかり、ほっとする二人。代理人はそれを見届けると、空になったカップを下げてお替わりを注ぐ。

 その後ろで、二人の足元がスゥッと透け始めていることに誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「プラベートジェットをチャーターできるなんてな・・・・・」

 

「ふふん、うちの嫁はすごいだろ?」

 

「なんでお前が得意げなんだよ」

 

 

 窓の外を流れる雲海を眺めながら、そんなくだらないやり取りをする瓜二つの男たち。恋人関係ではあるが稼ぎの全てを(給与も含めて)スケアクロウに依存している都合上、こんなところでしか格好つけられないことに内心涙を流しつつ、レイはドヤ顔を決める。

 そんな意味のない見栄をはるレイを軽く小突き、スケアクロウはもう一人のレイに缶コーヒーを差し出した。

 

 

「こういうモノしかありませんが、どうぞ」

 

「ん、あぁありがとう」

 

「まったく・・・・お前のせいでとんだ一日だったな。 連れを見つけたらさっさと帰るんだぞ?」

 

「言われなくてもそうするっての」

 

 

 同一人物なら仲よくすればいいのに、あるいは同一人物だからこそ反りが合わないのか、とスケアクロウは苦笑する。二人ともいい歳した大人なのに、こういうところは子供っぽい。

 スケアクロウも背もたれに体を預けると、窓の外に視線を移す。その視線の先、真っ白な雲の上にきれいな虹がかかっていた。

 

 

「あら、虹が・・・・・」

 

「お、ほんとだ。 おい、あんたも見てみ・・・・・」

 

「え・・・・・」

 

 

 レイとスケアクロウが振り向くと、そこにいたはずのレイの姿が忽然と消えており、閉めたままのシートベルトが転がっているだけだった。まるで、初めから誰もいなかったかのように。

 二人は顔を見合わせると、困ったように微笑んだ。

 

 

「ったく、そんなに早く帰らなくったってよかったろうに」

 

「あなたが帰れと言ったからでは?」

 

「いやいや、まさかそんな・・・・」

 

「ふふふ、まぁともかく、代理人にも伝えませんと」

 

 

 その後、喫茶 鉄血でも二人が突然消えてしまったことを聞き、おそらくは無事に元の世界へと帰っていったのだろうと結論付けられた。

 なお余談だが、この日ティナとサーリャが注文したものの伝票は、スケアクロウが払うと同時にあっちのレイへのツケとなるのだった。

 

 

 

end




お返しは早めに・・・・ということでchaosraven様、コラボありがとうございました!
惜しむらくは、サーリャちゃんの「つーん」が書けなかったことですかね(笑)


では早速キャラ紹介!
今回はコラボキャラ中心に。

レイ
世紀末世界で裏稼業の組織に所属する凄腕の男・・・・ただし、幸薄感は否めない。
飛ばされた先で警備員に追いかけられ、スタッフに起こられ、スケアクロウにも怒られ、さらには喫茶 鉄血にたどり着く前に強制送還されてしまう。
流石にかわいそうなので、そこそこ美味しい缶コーヒーを進呈しよう。

サーリャ
スケアクロウ。カカシちゃん。
ちなみにティナをなだめるのに必死で気づいていなかったが、ビットも何もない丸腰の状態だった。
「遠慮しろ」と言っている自分もお高いケーキを注文している。

ティナ
P90。実はこの地区にはまだいないため、通りすがった人形たちから不審がられていた。
メニューのケーキを全種コンプリートしてしまった。











※没
(そもそも通貨が違うので使えなかったネタ)


代「あらレイさん、いらっしゃいませ・・・・早速ですがお二人の代金を頂きたいと思いまして」

サーリャ&ティナ「「ゴチになります」」

レイ「Youたち何言っちゃってんの!?」



おわり


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第二百話:サン〇ーンの輝き

今更ですが、ドルフロ癒し編2期を見ました。
とりあえずナレーション:若本さんは卑怯すぎる笑

というわけでがっつりアニメに影響された回です。
そういえば頭身が低くない方のアニメ化も決まりましたね・・・シリアスすぎて最後まで見てられるか不安ですが笑


 パラレルワールドというものがある・・・・・と語り始めるには今更な気もするが、この世界とは似て非なる世界のことである。ある世界では人間と人形が争い、またある世界ではさらに違う世界からやってきた者たちが生き延びるために戦う・・・・・その一方で、全く姿かたちの同じ人形や人間がいるなど、考えれば考えるほど不思議な世界である。

 そして今日も、そんな不思議な世界の不思議な住人たちが迷い込む。

 

 

「~~~♪ 良かったね、Oちゃん」

 

「えぇ、安くしてもらえただけでなく、まさか珍しい豆も買うことができましたからね」

 

 

 S09地区の大通りを抜け、少し入り組んだ路地を歩く見た目そっくりな二人組、代理人とDは両手で紙袋を抱えながら自分たちの店である『喫茶 鉄血』への帰路についていた。紙袋の中身は通りにある専門店のコーヒー豆であり、日頃から仕入れているものとは別に時々こうして買いに出ているのである。

 街中を、双子もびっくりな瓜二つの女性がメイド服で歩いているというのはずいぶんと浮いているようにも見えるが、この街でこの二人を知らないものはモグリと言われるほどの有名人なので、誰も特に気にしていない。

 

 

「あらこんにちは、今日は二人でお買い物?」

 

「こんにちは」

 

「こんにちはー、お姉さんもお買い物?」

 

「まぁまぁお姉さんだなんて・・・・Dちゃんはいい子ねぇ」

 

 

 とまぁ、こんな感じで街の人からも受け入れられている。この街がとくに人形に対して好意的なのもあるが、多くの場合は代理人たちの人柄によるものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな二人が喫茶 鉄血の近くまで帰ってくると、なにやら子供たちの声が聞こえてくる。はしゃいでいるようにも言い争っているようにも聞こえ、代理人とDは顔を見合わせて様子を見に行く。

 近寄ってみると、近所の子供たちが五、六人集まり、家と家の隙間をのぞき込んでいた。

 

 

「やっぱり妖精さんだよ!」

 

「えー違うよ、妖精さんはドローンに乗ってるもん!」

 

「でも小っちゃかったよ!」

 

「皆さん、どうされましたか?」

 

 

 わいわい騒ぐ子供たちに代理人が声をかけると、子供たちは一斉にしゃべり始めた。それぞれが言いたいことを言い始めるのでチグハグな内容だが、要約するとこうなる。

 近くの公園で遊んでいた時、子供たちの一人が小さな影を見かけたらしい。後を追ってみると、ずいぶんと小さく丸い頭身の人形(?)が辺りをきょろきょろと見渡しており、お互い目が合うと同時にその人形はこの隙間に逃げ込んでしまったらしいのだ。

 何人かが(お世辞にも上手いとは言えない)似顔絵を描いてくれて、それが代理人たちも知る妖精のような姿であることは分かった。

 

 

「でも妖精って、あのドローンの立体映像のことだよね?」ヒソヒソ

 

「子供たちの前では黙っていましょう。 どうやらこの子は妖精とは少し違うようですね」コソコソ

 

 

 しかしそうなると、代理人たちにとっても正体不明ということになる。またIoPか軍か鉄血工造の新型と考えられなくもないが、いずれにせよ子供たちが不用意に近づいていいものではないと判断、一先ずここは任せてほしいとだけ伝えて子供たちを帰した。

 さて、と気持ちを落ち着けると、代理人は店にいるリッパ―を呼び出して荷物を持って帰らせ、Dと二人で隙間をのぞき込む。どうやら奥は行き止まりになっているようで、暗くてよく見えないが突き当りに何かいるようだ。警戒しているのか、身を縮こめているようにも見える

 

 

「初めまして、この近くでお店を開いている代理人です」

 

「同じくDっていいます。 あなたのお名前は?」

 

 

 まずは警戒心を薄めるところから、と二人で自己紹介をする。それに反応した影はしばらくじっとしていたが、やがておずおずと二人の方へ歩み寄る。徐々にシルエットがはっきりとし始め、やがてその姿が露わになると、代理人もDも目を丸くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エ、エージェント・・・・ですか・・・・?」

 

 

 怯えた様子の()()()M()4()は、豆鉄砲のようなM4A1を構えながらそう尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅん・・・・・確かにM4A1で間違いないわ。 これでも立派な戦術人形よ」

 

「こ、こんなに小さいのにですか?」

 

「原理も製法も不明だけど、正真正銘『M4A1』よ」

 

 

 いったん保護という形で喫茶 鉄血へと連れてこられたチビM4。そこに連絡を受けたペルシカとM4も合流し、机の上に乗っかったチビM4を囲んでいる状況だ。針の筵とはこのことではないだろうか。

 加えて鉄血工造に対して少なからず警戒心と敵対心があることから、どこかで非合法に作られた模造品ではなく、別世界の人形であると考えられる。幸いM4とは打ち解けられたようで、そのおかげでペルシカの検査にもすんなり応じてくれた。

 

 さて、そうなると次に気になるのは、彼女がいつ・どこから・どうやって来たかだ。

 

 

「えっと・・・・散歩に出かけていたら、急に目の前がまぶしくなって・・・・・・気が付いたらあそこにいました」

 

「なるほど・・・・これはアレだね」

 

「そうですね・・・となると、そのうち帰れるはずでしょう」

 

「M4ちゃん、あーん」

 

「え? あ、あーん・・・・お、美味しい!」

 

 

 未だ緊張した面持ちのチビM4に、M4は甲斐甲斐しく世話を焼く。こう見ると、姿形は全く違うが本物の姉妹のように見えてくるから不思議だ。

 一先ず緊急を要する事態ではないようだし、とすればしばらく待てば元の世界に帰るだろう。そんな楽観視ができる程度にはこんな事態になれていることに苦笑した代理人は、この場をM4たちに預けて奥へと下がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「M4! M4!」

 

「こ、これ本当にSOPが作ったの?」

 

「あ、ありえないわ・・・・・・」

 

「ペルシカそれどういう意味?」

 

 

 しばらくして代理人が戻ってくると、M4とペルシカに加えてAR-15・SOP・M16・ROが揃い、さらにテーブルの上にはチビM4、そしてさらに小さいS()O()P()()()()()()が鎮座していた。サイズとしては、小さいM4よりさらに小さい人形サイズで、SOPによく似た声でチビM4を呼んでいる。

 

 

「あの・・・・これはいったい?」

 

「えっと・・・どこから説明すればいいのか・・・・」

 

「あ、代理人! ケーキセット一つ!」

 

「それは後で!」

 

 

 状況をまとめるとこうだ。

 代理人たちがチビM4と話をしていたころ、AR-15とROたちAR小隊が道端で倒れている小さいSOP(SOPMODⅡJrというらしい)を拾った。最初は玩具の人形かと思った四人だが、そうでないと知ると全員で顔を見合わせ、とりあえず代理人に相談しようということで喫茶 鉄血を訪れた。

 その後チビM4とSOPJrが再会し、これが別の世界のSOP製であることにペルシカが衝撃を受けたというわけだ。

 

 

「私だって高度な戦術人形なんだよ! プログラムを組むぐらいできるんだから!」モグモグ

 

「いや、それは分かるけど・・・・・」

 

 

 ちなみにSOPに限らず、見た目や言動の幼い人形であっても中身は高性能であるため似たようなことが可能だ。それを一番よく分かっているのはペルシカのはずだが、どうにもSOPに対しては「幼い娘」という感じが抜けないらしい・・・・・その「幼い娘」と付き合っているという点で犯罪臭がするが。

 

 

「M4! おうちかえろ!」

 

「帰ろうって・・・でもどうやって帰ればいいか」

 

 

 ちらっと時計を見れば、ここに集まってからすでに一時間以上経っている。全く見ず知らずの土地にやってきたチビM4からすれば、元の世界の仲間が気になって仕方ないのだろうが、帰る方法がわからないのではどうすることもできない。

 しかしSOPJrには(表情からはよくわからないが)何か考えがあるようで、これまたどこからか取り出したSOPJrサイズのスマホを掲げる。画面に映ったアプリの一つをタップすると、突然スマホが光り出す。

 

 

「眩しっ!」

 

「な、なに!?」

 

「目が、目が~~~~~!!!」

 

「姉さん今ふざけてるときじゃないです!」

 

「Oちゃん、あれ!!」

 

 

 店内が阿鼻叫喚の様相となている中、Dの声で顔を上げた代理人は見た。突如として中空に現れ、SOPJrのスマホ以上の輝きを放つ『角ばった太陽のような物体』・・・・それがさらに光を強め、辺り一面を真っ白にすると同時に忽然と姿を消した。

 光彩調整機能をフルに使って何とか視界を取り戻した代理人たちが目を開けると、謎の物体はもちろん、チビM4もSOPJrも姿を消していた。

 

 その後、店内を探してみてもチビM4たちは見つからなかったため、どうやら元の世界に戻っていったらしい。

 これまでとは少し違った体験をした代理人であった。

 

 

 

end




私が言うのもなんですが、あの世界もまぁまぁむちゃくちゃですよね(笑)

今回の話のモデルになったのは、癒し編2期でAK-12とAN-94が迷い込んだ回。そういうアニメだからこその頭身なのかと思いきや、まさかのゲーム準拠の等身が現れるとは・・・・・これだから中国ゲーは面白いんだ!


というわけで今回のキャラ紹介!

(チビ)M4A1
ノーマルスキンのほぼ二頭身M4。気が弱く、ほとんど戦闘描写がないほど。

M4SOPMODⅡJr
チビM4の世界のSOPが、鉄血の残骸から作った人形。ちゃんと自立するし、ぞうきん絞りしても壊れない頑丈さを持つ。

謎の物体
サンb・・・・・光り輝く謎の物体。逆らってはいけない。


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第二百一話:驚異的な正面装甲

ドルフロのラインスタンプが出ましたが、鉄血組のスタンプとかないですか運営さん?


 その日、UMP45は大層不機嫌であった。

 

 理由はいくつかある。まず一つは彼女の妹であるUMP9と長らく会えていないこと。HK416とお揃いで実装されたMOD化への改装のため、そして性能試験とメンテナンスのため当分の間16labに出向いているからだ。このため残ったのは不真面目筆頭のG11と彼女をお姉さまと慕うゲパード、隙あらば45といちゃつこうとする40だけであり、日々の癒し(9の笑顔)を失った45のストレスはたまる一方だった。

 そしてもう一つ、それはここ最近行われている臨時編成でのパトロールである。通常、404小隊は彼女たちだけで任務を行うが、二名の欠員が出ているためどうしても手が足りなくなる。そこで臨時ではあるが別の人形部隊と組み、パトロール等の任務を行っているのだ。

 別にそれ自体に不満はない。しかし問題は組んだ相手だった。具体的には直近五日間のバディは

 

初日 :スプリングフィールド

二日目:グリズリー

三日目:モシン・ナガン

四日目:FAL

五日目:WA2000

 

・・・・・まるで狙ったかのように『デカい』人形ばかりだった。この編成を決めたのは指揮官だが特に理由はなく、強いてあげれば『45の場合は誰と組ませても問題ない』という強い信頼感からである。

 結果、五日間も自身のコンプレックスを突き付けられ続けた45は、五日目の任務終了間際にWAの胸を鷲掴みするくらいまで追い込まれていた。

 

 

「あ~くそっ・・・まだ顔がヒリヒリする」

 

 

 昨日よりも薄くなったがまだ痕の残る紅葉が、WAの強烈な一撃を物語る。そんな鈍い痛みとともにトボトボと路地を歩く45の姿に、エリート部隊の隊長という面影は微塵も感じられない。

 特に目的もなく、とりあえずで向かう程度には喫茶 鉄血の常連となった彼女だが、この日もただ何となしに店へと向かい、目前の曲がり角で飛び出てきた誰かとぶつかった。

 

 

「わぶっ!?」

 

 

 『ドンッ』とか『ゴツンッ』とかではなく、表現するなら『ボヨンッ』となるだろうか。弾力のあるクッションに顔をうずめたような、そんな感触が45を襲う。

 

 

「あ、ごめんなさい」

 

 

 声をかけたのは、金髪ショートで背の高い見慣れぬ()()()()。背中に背負ったライフルからRFタイプだと察しが付く。

 だがそんなことは今の45にとってどうでもよい。そう、どうでもよいのだ。

 

 

「私、こういうものなんだけど・・・・って、聞いてます?」

 

 

 女性が何かを取り出すが、相手の言葉など端から耳に入っていない。45が目を向ける先には、主張の強い実りが二つ。しかもそれを強調するかのような白い服にハーネス、その上から羽織る黒いジャケットが色合いでも際立たせる。さらに下も短いタイトスカートとタイツと、世の男の視線を釘付けにするために作られたといっても信じられるような見た目だ。

 そんな彼女の対義語・・・・UMP45の我慢の限界はあっさり訪れた。

 

 

「・・・・さない」

 

「え?」

 

「許さない・・・・どいつもこいつも・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで私より胸がデカいのよ!!!」ガッッ

 

「ひぁああああああ!!!!????」

 

 

 まるで親の仇でも見るような目つきで襲いかかり、溜まりに溜まったストレスを発散させるのかの如く揉みしだく。それなりの体格差がある相手を押し倒し、馬乗りになり、揉みしだく。

 そしてここは、人通りが少ないとはいえゼロではない路地。そのど真ん中でこんなことをしていれば、人が集まってくるのも当然のことだった。

 

 

「こんな・・・こんな脂肪の塊・・・・っ!」

 

「や・・・あっ・・・やめ・・・・・やめなさいっ!!」

 

 

 鋭い声と『ガチャンッ!』という音、そして手首に感じる冷たい圧迫感に、UMP45はふと我に返る。女性は顔を紅潮させて息を荒げ、目尻に涙を浮かべながらこちらを睨み、その少し下には白い山と鷲掴みにした手、そして手首にかかる銀色の手錠。

 女性はプルプルと肩を震わせながら、手に持ったもの・・・・『G&K 警察隊』の手帳を突き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まさか、知人から犯罪者が出るとは思いませんでした」

 

「待って代理人、まずは話を聞いてほしいの」

 

 

 場所は変わって喫茶 鉄血。手錠をかけられた45と女性が向かい合い、さながら取調室のような形となっている。面白がったマヌスクリプトが持ってきたスタンドライトが、よりそれっぽさを醸し出し、周りの客たちも事の成り行きを見守っていた。

 本来なら真っ先に連行されるべきなのだが、たまたま通りがかったゲッコーに45が助けを求めたため、店に連れられてきたというわけだ。ちなみにしれっと口説こうとしたゲッコーだが、相手が手錠をちらつかせたことで諦めた。

 

 

「ですが、被害者の方がいるわけですし・・・・・そうですね、『VSK』さん?」

 

「えぇ、間違いありません」

 

 

 VSK-94、それがこの女性の名前である。

 新型の人形配備や司令部増設など、日に日に規模を拡大させているグリフィンだが、会社が大きくなればなるほど様々な問題も増えてくる。中でも悩みの種となっているのが、一部の指揮官による人形へのセクハラと、これまた一部のフリーダムな人形によるバカ騒ぎである。特に後者はここS09地区が最も発生率が高く、地元民からのクレーム(微笑ましい報告)が後を絶たない。

 これに対し、グリフィンは独自の警察組織を発足させ、社の風紀を保とうと考えた。その一環でIoPに製造を依頼していたのが、このVSK-94である。

 

 

「身内を取り締まれなどと大げさなとは思いましたが、まさか着任初日に出くわすとは思いませんでした」

 

「45さん・・・・・・」

 

「違うのよ代理人、これには深いわけがあるの」

 

 

 などと供述してはいるが、簡潔にまとめれば『カッとなってやった』というだけのもの。実にありきたりな、衝動的なものだ。雨上がりの水たまりよりも浅い理由だろう。

 これが司令部の人形であれば、まだ何とかなったのかもしれない。実際WAにはビンタをもらっただけで済んでいるし、こう言っては何だがこんなことはこの地区では日常茶飯事である。しかし今回の相手は社内組織とはいえ警察で、具体的な罰と最悪の場合はブタ箱行きすらあり得る。

 自身の経歴事態にはさほど興味のない45だが、これがもし9たちに知られでもしたら・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『45姉・・・もしかして私のこともそんな目で見てたの・・・?』

 

『45、もう9には近づかないでちょうだい』

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言われるかもしれないし、言われた日にはもう立ち直れないかもしれない。というかそのまま首を吊りかねないだろう。

 

 

「ともかく、彼女の行動は社の人形として・・・まして隊長格として大いに問題です。 しかるべき処分が必要でしょう」

 

「まぁまぁVSKさん、彼女も反省していることですしそのくらいで」

 

「いえ、そういうわけにもいきません。 社の風紀を守るためにも、徹底的にやらなければダメなんです」

 

 代理人の説得もむなしく、VSKの意思と決意は揺るがない。もともと正義感の強い人形なのかもしれないが、被害者故の感情も多分に含まれているのだろう。

 しかし、45とてあの404小隊の隊長だ。これまでいくつもの死線を潜り抜け、時には銃よりも言葉が威力を発揮することだって知っている。そして何より、かつて『存在しない部隊』と呼ばれ援軍も補給も見込めなかった頃から誰一人欠けることなく生き延びてきたのは、ほかならぬ45の力である。

 電脳回路をフル回転させ、起死回生の一手を打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・社の風紀のため? フッ、笑わせるわね」

 

 

 俯きながら45がポツリと放った一言に、場の空気が凍り付く。この状況でなんてことを言うんだという客たちの視線と、こればかりは唖然とする代理人の視線、そして怒りを通り越して能面のような無表情になるVSKの視線が45に集中する。というかVSKに関しては背負っていたはずの得物を構え、引き金に指をかけてすらいる。

 一触即発の中、それでも45の余裕は崩れない。いや、むしろ注目を集めることが目的であるように、勝利を確信した笑みを浮かべていた。

 

 

「風紀を守りたいのなら、まずはあなた自身の風紀から直してから言ってもらえるかしら?」

 

「私? 私のどこに問題があるのですか、いい加減なことを言わないでください」

 

「異議ありッ!!」

 

 

 高らかと声を上げ、VSKに向かってビシッと指をさす。手錠でつながれているため両手を突き出す形になってしまいいまいち格好がつかないが、それでも構うことなく「ずっと私のターン」とでもいうように追撃する。

 

 

「まず一つ! そのしゃがんだだけで見えそうなミニスカート!」

 

「こ、これは機動戦を意識した結果のもので・・・」

 

「ごちゃごちゃ言わない! 次にその黒タイツとハイヒール!」

 

「それこそ関係なくないですか!?」

 

「関係あるにきまってるわよ! ねぇ!?」

 

 

 近くにいた男性客に鬼気迫る表情で同意を求めるが、男性は思わず顔を背ける。それが45の表情によるものなのか、はたまた思い当たる節があるからなのか、ともかく男性は否定も肯定もしなかった。

 実際、この服装自体はまぁよく見かける組み合わせではあるのだが、それが『風紀』の観点から見るとと言われると、かなりグレー寄りと言われても仕方ない。

 

 

「そして最後にっ!! その無駄にでかい塊をさらに強調するようなハーネス!!! 絶対いらないでしょそれ!?」

 

「いるにきまってるでしょ!」

 

 

 もはや隠す気もないほど私怨100%の言いがかりだが、こういう時は勢いに乗ってしまった方が勝ちなのだ。ちなみにVSKのハーネスは予備弾倉やら手錠やらを吊り下げているので必要なものである・・・・・胸ではなく腰でもいい気がするのは否めないが。

 

 

「ていうか、風紀を守るようなのがそんな風紀を乱すモノをぶら下げてんじゃないわよ!」

 

「そ、そういうあなただって・・・・!?」

 

「そう、そうよ・・・そういう意味では私の身体は理想的だわっ!!」

 

 

 無駄に自信満々に宣言し、自身の起伏に乏しい正面装甲を主張する45。相手へのダメージよりも自身へのダメージの方がはるかに大きいようで、言っていて悲しくなったのか目尻に涙すら浮かべている。

 が、意外にも効果があったらしい。もっとも、その相手はVSKではなく

 

 

「そうだ、嬢ちゃんの言う通りだぜ!」

 

「我々の視線を釘付けにするなんてけしからん人形だ!」

 

「ちっぱいこそ正義!」

 

『ちっぱいこそ正義っ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ・・・・・これどうする、Oちゃん」

 

 

 店内に謎の一体感が生まれ、もはや収集が付けられなくなりつつある様相に、Dは珍しく顔を引きつらせて代理人(オリジナル)に助けを求め、そして固まる。

 こちらも珍しく、貼り付けたような満面の笑みで手に持ったステンレス製のトレーをミシミシとへし折る代理人、間違いなくキレている。Dがまだこの騒動に乗っかっていない客と従業員に素早く避難指示を出すと同時に、代理人がサブアームを完全武装で持ち上げた。

 

 

 結局その日、VSKの着任最初の仕事は謝罪と反省分の提出だったという。

 

 

end




45姉に恨みはないけど、弄りやすさはドルフロ界随一だと思うのよ。
でも胸の話になると高確率で45姉の出番がやってくるんですよね45さんどうしたんですかそんないい笑顔でバットなんて振りかざしt


てなわけで今回のキャラ紹介。
いつも通り独自設定盛り盛りなので気を付けてね!


VSK-94
社の風紀を正すべく新規製造された人形・・・なのだが、そのボディで風紀担当は無理でしょ。
特技は手錠掛けで、ボーラのように投げて捕まえることも可能。
設計担当曰く「風紀委員が風紀を乱す・・・・イイと思います」キリッ

UMP45
いつまでたっても全面装甲が増設されない人形。かれこれ申請書を提出した数はこれまでの出撃回数よりも多いが、一枚たりとも返事が返ってこない。
9に対するシスコン度は以前よりもましになったがそれでも0ではなく、中長期間離れると精神的に不安定になりやすい。
今回の件について「そのままもいでやろうかと思った」と供述している。

代理人
店で突然始まった公開セクハラ論争にブチ切れた。
ちなみに本人はその手のことに興味関心が薄く、どちら側でもない。

男性客たち
欲望に忠実・・・・これだから男は(特大ブーメラン)


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番外編50

前回の投稿から間が空いてしまいましたね・・・初期のころの投稿スピードが夢のよう。

あと今更ですが、『白黒モンブラン』様の作品『Devils front line』でコラボを書いていただきました!
https://syosetu.org/novel/191561/13.html
(※番外50-5はこの後日談となります)
自分以外の人が書く自分の作品って、なんだか新鮮でいいですね!


さて、それでは今回のラインナップ!
・非歩行脚の可能性
・喫茶 鉄血の収支簿
・戦術人形はSOPMODⅡJrの夢を見るか
・社の風紀は私が守る!(鋼の意思)
・最重要機密事項


番外50-1:非歩行脚の可能性

 

 

「むむむ・・・・・」

 

 

 日もどっぷり沈み、もうすぐ日付が変わるといったころ。鉄血工造本社の一画に構えたアーキテクトの自室兼研究所で、部屋の主であるアーキテクトは顎に手を当て眉間にしわを寄せる。真っ暗な部屋にモニターの光だけという、世のお母様方が見れば角を生やして怒鳴り込むような不健康極まりない環境だが、残念ながらこれを止めることができる社員はこの企業にはいないのだ。

 そのアーキテクトが睨む先、モニターに映るのは二人の人形・・・・ペルシカ製新型人形のWとHだ。既存の人形とは一線を画す性能に加え、Wは全体的にバランスよく仕上がっており、ライバル企業として対抗心を刺激される高性能機だ。

 そしてもう一方のH・・・というか彼女の装備に、アーキテクト個人の対抗心が刺激されたのである。

 

 

(折りたたみ機構の大型砲、機動性や防御を一切捨てた攻撃極振り、人形に積むことを根本から間違ってる過剰火力・・・・・いいっ!)

 

 

 機能性とか安定性とか、そんなものよりも面白さととがった性能を求める技術者(変態)のサガ。

 人はそれを、『ロマン』と呼ぶ。

 

 

「それに比べるとやっぱりうちには面白みがないよね、量産性と堅実さが売りなのはわかるけどさ」

 

 

 ため息交じりに社のカタログを開き、パラパラとめくっていく。IoP製と比べると個性が薄いのは否めず、また量産性を重視しているからか装備の追加も難しいほど拡張性がない。重装人形であるAegisならまだ何とかならなくもないが。

 

 

ピー

「失礼します主任・・・・また徹夜ですか?」

 

「んぁ? あーまぁね」

 

 

 悩むアーキテクトのもとを訪れたのは、まさに今頭をよぎっていたAegisと社内警備用のプラウラー。Aegisの所属はゲーガーが率いていた輸送部隊で、今でもゲーガーの手足となって各地を奔走する鉄血工造の古参である。

 そんなアイギスの手にはトレーがあり、その上にはコーヒーの入ったマグカップが乗っている。いったいどこから見ているのかわからないが、アーキテクトが徹夜するときは大体こうしてゲーガーが差し入れをもっていかせるのだ。

 ・・・・・それはさておき、アーキテクトは目の前の二人(?)を見る。Aegisはもちろん、プラウラーも鉄血工造製兵器の中でも特に堅実な設計で、脚や浮遊ではなく車輪による安定した走行が可能な前衛型である。統一規格ということで武装はシンプルな機銃のみだが、単純な機構は多少の重量にも耐えうる設計で・・・・・・あ。

 

 

「・・・・・失礼しまs「逃がさん!」ぎゃあああ!?」

 

 

 アーキテクトの目が妖しく光り始めたあたりで身の危険を感じたAegisだが、逃げ出す前にプラウラーもろとも捕らえられる。一見華奢に見えるがアーキテクトもハイエンド、並みの人形をしのぐパワーを持つ。

 

 

「やめて! 私に乱暴するつもりでしょ!? エ〇同人みたいに!!」

 

「しないよ!? でもまぁちょ~っとだけ痛いかもしれないけど」

 

「いやぁぁあああ汚されるうううううう!!!」

 

「あーもう野太い声で悲鳴を上げるな気持ち悪い!」

 

 

 その翌日、下半身をプラウラーの四輪脚に換装したAegisが目撃され、ゲーガーはペンをへし折り社長室を飛び出したのだった。

 

 

end

 

 

 

番外50-2:喫茶 鉄血の収支簿

 

 

 『商売』というものは、利益と損失の結果である。人によってはシーソーゲームだとか、博打に例えられることもあるが、基本的には収益を上げて損失を減らすことが利益を上げる最短ルートである。そうして膨大な富を得る、あるいは安定した利益を生み出してから、慈善事業とかボランティアとかに手を伸ばすものである。

 そんなある意味当たり前のことを考えながら、マヌスクリプトはショーケースにケーキを並べていく。彼女自身も副業(?)として(コスプレ)の製作と販売を行っているが、ある意味趣味で成り立っている部分が大きいため利益もそこまで大きくない。別にお金儲けのためというわけではないのだが、お金はあって困るものでもないしむしろ無いと困るのだ。

 

 

(はぁ、宝くじでも当たんないかなぁ・・・・・あ、そういえば)

 

 

 そうしてケーキを並べ終え、ふと先日の奇妙な来訪者を思い出す。おそらくここではない世界から来たであろうその二人組の女性、とくにその片割れの少女はここに並んでいるケーキをほぼ全種平らげてしまったのだ。

 初期こそ数種類が並ぶだけだったこのショーケースも、今では季節限定のものも含めて常に十種類以上のケーキや洋菓子が並んでいる。値段も決して安いというわけではないので、全部食べるとなるとそこそこの出費を要求される。

 

 

(・・・・・でもあれ、結局お金もらってないのよね)

 

 

 そう、それだけ食っていながらあの小娘・・・・確か『ティナ』という名前だったはずだが、彼女は一銭も払っていない。正確にはそもそも通貨が違うため支払えないのだが、代理人の好意とはいえ無銭飲食に変わりはない。

 別にそこに関しては特に言うことは無い。マヌスクリプトが気になるのはそこではなく、

 

 

(・・・・・普通、そこそこの損失よね?)

 

 

 我が家の収支である。

 言うまでもなく、喫茶 鉄血も飲食店だ。日々の売り上げと材料費や固定費用や生活費などの支出を経て最終的に黒字にとなっているが、はたしてそこまでの利益があっただろうか。

 これまでもそうだ。ふらっと迷い込んだ人形や人間を招いては、ケーキや茶を出している。無償というわけではないが、その対価は思い出話だったり写真だったりで、金銭でないことがほとんどだ。

 

 

(でも家計が苦しくなったことは一度もない・・・どころか人が増えても変わらないのはなぜ?)

 

 

 文字通りどこからか金が降って湧いてるんじゃないかというくらい、ここでの生活は苦労していない。そして一度気になると突き詰めないと気が済まないのがマヌスクリプト、代理人の眼を盗んで店の奥にある帳簿を見に行く。

 

 

(実は知らないだけで売り上げが上がってる? それとも実はギリギリでお金を借りてるとか? 前者だといいけど後者はやだなぁ・・・・・)

 

「・・・・・何をしているんですかマヌスクリプト」

 

「ぴぃ!?」

 

 

 帳簿をあさっているうちに、代理人の接近に気が付かなかったらしい、普段とは違う狼狽え方をするマヌスクリプトを不審に思いつつ問いただすと、観念してすべて話した。

 

 

「・・・・・そんなことですか?」

 

「いやぁ、やっぱり気になっちゃって」

 

「はぁ・・・別に大した理由はありません、所謂常連(リピーター)の方が多くいらっしゃいますからね」

 

 

 ちなみに、この常連というのはもちろん客のことだが、飲食に限らず個室利用(貸切なら追加料金)やフロアの貸切など、飲食以外でもお金を落としてくれる人たちのことである。特に個室の方は、シスコン会の集会や小隊の打ち合わせなどなど、グリフィン関係者が多数を占める・・・・・後者は明らかに場所を間違えているが、支払っている以上は何も言わないことにしている。

 

 

「そういう人たちにサービスとかしないの?」

 

「たまになら構いませんが、頂けるところからはきっちり頂きますので」

 

「代理人らしいなぁ・・・・じゃ、新しいサービスとしてこのシースルーメイド服を着て接客ってのも」

 

「やりません」

 

 

end

 

 

 

 

番外50-3:戦術人形はSOPMODⅡJrの夢を見るか

 

 

『・・・・4

 

「んん・・・・」

 

 

 誰かが呼んでいる気がする。

 まどろみの中、M4A1はぼんやりとそう考えた。

 

 

『・・・・M4・・・・・起きてM4!』

 

 

 さっきよりもはっきりとした声に、M4はどこか納得したような表情を見せる。この元気いっぱいな声の主を、彼女はよく知っている。

 

 

「ぅん・・・・SOP・・・?」

 

「M4! 朝だよ!!」(SOPMODⅡJr)

 

「わぁぁあああああああ!!!!??」

 

 

 眠い目をこすり、声の主を視界に収めると同時にひっくり返る。そこにいたのは予想していた人物ではなく、それをデフォルメしたような珍妙なデザインの人形・・・・・どこかの世界の小さいM4が連れていた『SOPMODⅡJr』だ。見た目はぬいぐるみっぽいのだが、どんな原理なのかやたらと軽快に動いており、M4の周りを飛んだり跳ねたりしている。

 突然のことに何が何だかわからないM4だが、辺りを見渡してみるとさらに異様な光景が目に入る。一面花畑の中にやたらとファンシーなベッドがぽつんと置かれ、M4はそこで寝ているという状況だ。

 

 

「・・・・・・なにこれ?」

 

「M4M4!」

 

「SOP? どうしたn『ズシンッ!!』今度は何!?」

 

 

 突然の地響きに、M4とSOPは飛びあがる。いつの間にか辺りは花畑ではなく荒野に代わっており、M4もベッドではなく大きな岩に腰かけていた。

 そして地鳴りがした方を見て、M4の表情は凍り付く。

 

 

「な、なにこれ~~~~!!??」

 

 

 そこにいたのは、見上げるほどの大きさのダイナゲート。マンティコアはおろかジュピターさえも凌ぐ、ただただ大きくなっただけのダイナゲート。何とも言えないシュールさがあるが、その巨体でノッソノッソとM4に近づいてくる。

 

 

『―――――――!!』

 

 

 が、なぜかその場でピタリと止まり、警戒を強めるような仕草を見せる。視線(?)も先ほどまでM4に向いていたが、今はそれよりももっと上を見ているようで・・・・・・

 

 

『がおーーーーー!!』

 

「えええええええっ!?」

 

 

 そこにいたのは、いつの間にか巨大化したSOPMODⅡJr。こちらもそのまま大きくなっただけなのに加え、何ともわざとらしい雄たけびを上げてダイナゲートと対峙する。

 両者は睨み合い、そして同時に地を蹴る・・・・・・その真ん中にM4を残したまま。

 

 

「え? ちょ、まっ、きゃぁああああああああ!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁああああぁぁぁ・・・・・あ、あれ?」

 

 

 飛び上がると、そこは小さな公園のベンチ。どうやら一休みするうちに眠ってしまっていたらしく、目をパチパチさせるM4。

 

 

「ゆ、夢・・・・?」

 

「ちょっとどうしたのM4!? なんかすごい悲鳴が聞こえたんだけど?」

 

「あ・・・AR-15・・・・」

 

「え? どうしたのその顔・・・・ってちょっと!?」

 

 

 突然ぽろぽろと泣き出して抱き着いてくるM4に困惑するAR-15だったが、結局そのまま落ち着くまで抱きしめてあげることにした。

 

 

 

end

 

 

 

 

番外50-4:社の風紀は私が守る!(鋼の意思)

 

 

「そこ、パンを咥えたまま走らない! あなたはちゃんと寝癖を直して!」

 

 

 朝、S09地区のグリフィン司令部に鋭い声が響く。キッとした視線でにらみを利かせ、少しでも緩んでいる者がいればビシッと注意する。

 着任早々に反省文を書かされたVSK-94は、リベンジに燃えていた。

 

 

(そうです、あの時はいいように丸め込まれましたが・・・・同じ轍は踏みません!)

 

 

 自身がここに着任された意義を再確認し、役目を果たすべく奔走する。特にこの地区ではこれまでそういった規律を守るような人形が少なく、また指揮官も割と放任主義のようなところもあってか皆好き勝手に過ごしていた。見えているところでこれなのだから、各々の自室がどうなっているかなど考えたくもないだろう。

 流石にVSKといえど、他人の私生活にまでとやかくは言わない。しっかりと身を正すべきところで正せていればいいと考えているからだ。

 

 

(ただしUMP45・・・・・あなただけは絶対に許しませんからねっ!!!)

 

 

 どす黒い私怨を滲ませながら、廊下を進む。今日はこれから指揮官に書類を届け、ついでに部隊の風紀の乱れを改めて報告しようというところだ。

 だが忘れてはいけない。ここは個性的すぎる人形たちが集まるS09地区、まともな人形を探す方が難しいくらいなのだ。

 

 

「・・・・・ん? あれは」

 

 

 指揮官室まであとわずかというところで、なにやら騒がしい集団を見つける。指揮官室を塞ぐようにして口論を続けているようで、しかし誰も中に入ろうとしない。

 集まっているメンツにVSKは見覚えがある・・・というより知らないはずがない。ライフル型である彼女がまずお世話になる相手だったからだ。

 

 

「スプリングフィールドさんにモシン・ナガンさん、Karさんまで・・・・どうかされましたか?」

 

「あら、VSKさん」

 

 

 集まっていたのはその三人に加えてガリル、ウェルロッドの計五名。もうこの地区の者であれば(指揮官以外の)誰もが知っているその集団・・・・そう、指揮官ラヴァーズである。

 司令部きっての問題児集団たが、まだ来て日の浅いVSKはもちろんそのことを知らない。加えて彼女たちは司令部でも指折りの実力者かつ古参メンバー、不幸にもVSKは彼女たちのことを信用しきっていた。

 

 

「皆さんも指揮官に何か御用でしょうか?」

 

「用というほどではないのですが・・・・・こ、今夜の予定を///」

 

「ちょっと、今夜は私が指揮官と過ごすんだから邪魔しないでちょうだい!」

 

「冗談はそのウォッカを一週間禁酒してからにしてくださいな」

 

「どうせ進展がないのですから、大人しく身を引いてはいかがですか?」

 

「ほな、ここはうちに任せてもらおかぺったんこ共」

 

 

 流れるように罵倒し合い、そしてそのまま殴り合いに発展する五人。突然目の前で繰り広げられる大乱闘に呆然とするVSKのそばを、他の人形たちが「あぁ、またか」という目で見ながら通り過ぎる。もはや年中通しての不定期恒例行事となってしまったこれに、今更つっこみを入れる人形も仲裁する人形もいない。

 だが、そんな痴態を目の当たりにして黙っているVSKではなかった。

 

 

「な、ななな・・・・・何をやっているんですか!!!」

 

 

 風紀どころか規律すら乱れた現場に、颯爽とと介入していくその姿は、まさに社の風紀を守る人形の姿であったと通りすがった人形たちは語る。

 その後、たまたま通りがかったジェリコに見つかり六人とも反省室送りとなるのだった。

 

 

 

end

 

 

 

 

番外50-5:最重要機密事項

 

 

「・・・・・さて、全員そろったな」

 

「ま、真面目な話だしね・・・・指揮官君、そっちの方は?」

 

「さきほど私の部下から報告がありました、依然変化なしとのことです」

 

「私とエゴールが動かせる部隊を使って周囲は封鎖してある、だがいつまでもとはいかんぞ」

 

「あそこから動かせないのでは仕方ないだろうな」

 

 

 夜も更けたころ、S09地区にほど近い軍の基地の一画でこの会合は開かれた。集まったのはグリフィンからはクルーガー社長とS09地区の指揮官、IoPのペルシカ所長、正規軍のカーター将軍、そして鉄血工造のゲーガー社長という錚々たる顔ぶれ。

 これが悪ふざけだとかスキンの新作であればさほど珍しくもない会合なのだが、今回はいたって真面目な・・・・そして緊急性の高い内容だった。

 

 

「映像は出せるか?」

 

「ナイトビジョンになりますが」

 

「構わん」

 

 

 会議室の照明が落とされ、スクリーンに映像が映し出される。『現場』に展開中の人形と兵士たちのカメラを通して得たリアルタイムの映像には、暗視特有の緑色の世界と、その空間に不釣り合いな一枚の『鏡』が映っていた。

 例えるなら中世の建築物にあるような、意匠の凝った鏡。それだけでも不自然だが、なんとその鏡は()()()()()()()のだ。この手の不思議体験には事欠かない代理人ならともかく、一般の人形や軍人らは我が目を疑う光景だろう。

 

 

「ダネル、報告を」

 

『こちら調査隊第一小隊、ダネルだ。 ターゲットに変化なし』

 

『第二小隊のFALよ。 浮いてるってとこ以外は普通の鏡みたいね・・・・触ってみる?』

 

「いや、下手に刺激しない方がいいでしょ。 特にこういうオカルト系はね」

 

 

 生粋の科学者であるペルシカからすれば、まさに未知との遭遇だ。しかし同時に、それが及ぼす影響を全く想像できないという点が、調査にストップをかけていた。

 

 

「あの鏡、代理人は知っているのだろう?」

 

「あぁ」

 

「つくづく、彼女は何かを引き寄せる体質らしい」

 

 

 何の情報もない、まさに正体不明の物体。しかし代理人ら喫茶 鉄血の面々の話から、これ自体にはそこまで大きな影響を及ぼす力はないらしい。

 『映されし異界の鏡』・・・・この世界と別の世界を繋ぐゲート、本来交わることのない人々が出会う扉。得られるはずのないものが手に入るという意味では、まさに『魔』の道具だろう。だからこそ、グリフィンと軍が協力してこの鏡を調査しているのだ。

 

 

「『悪魔』・・・・伝承や言い伝え通りなら、欲に溺れた人間をこれに近づけるのは危険すぎるわね」

 

「実際に悪魔と戦闘になった者から、その危険性は報告されています。 破壊、それが困難であれば厳重に隔離すべきです」

 

「だろうな・・・・はぁ、まさか宇宙人よりも先に悪魔と出会う日が来ようとは」

 

 

 その後、鏡のあった路地は完全に隔離された。幸い袋小路だったため周辺への影響も少なく、初めは不思議がっていた住民もいつの間にか慣れてしまった。路地の入口には家を装った監視所が設置され、当番制でグリフィンの人形たちが監視にあたることになるのだった。

 

 

end




ゴールデンウィークはどこにも行けないから一気に書くぞー!

昼まで爆睡

一日中だら~ん

GW後半になって焦る(イマココ)

いやぁ、連休は恐ろしいですね。


というわけで各話の解説

番外50-1
本編がACネタだったので。
なお、AC風に言うならば四脚ではなく四輪型のタンクであり、所謂ガチタンである。
(´神`)

番外50-2
コラボ回最大の謎、毎回サービスされる飲食の代金。
といっても飲食店経験があるわけではないので、割と適当な部分が多いです。
ぼったくるほどではないけどしっかり利益は出していく。

番外50-3
SOPMODⅡJrといえばこのネタ。無意味に大きくなったり変形したり自爆したり・・・・ドルフロってなんだっけ?

番外50-4
指揮官さえ絡まなければまともな人形たちなのだが、まともでないときはとことんダメな人形たち。
ちなみにジェリコはオンとオフがしっかりしていれば文句は言われない。

番外50-5
コラボ返し・・・・的な話。
以後ご来店の際は、監視所の人形にその旨をお伝えください(強行突破可)




最後に、今後のことで一つアンケートを設けています。
よければ回答をお願いします。


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Extra1-0:【緊急ミッション】

前回アンケートを取りまして、複数作者様との大規模コラボをやってみようということになりました。
今回はそのプロローグ的なものです。

コラボに関しては、後書きに載せた活動報告をご確認ください。


 休日の昼下がりといえば、買い物やお出かけで人がごった返す時間だろう。S09地区の大通りは、日によっては人の波になることすらあり、厳しい寒さが落ち着いた春先ならなおのことだ。

 そんな通りから少し離れた喫茶 鉄血も、この時間なら満席になることもある・・・・・のだが、この日はいつもより客の入りが少ないように感じる。パッと見では普通ににぎわっているが、感覚的に一割減といったところか。

 そしてこれまた珍しいことに、今日は開店以来まだ人形の客を見ていない。この地区の司令部がいろんな意味でお世話になっていることを考えると、ありえないことだ。

 

 

「やっぱり今日も来ませんでしたね、グリフィンの皆さん」

 

「まぁ仕方のないことです。 厳戒態勢を布いている以上、彼女たちも常に備えておかなければなりませんから」

 

「だがここまでするものなのか? 旧式とはいえ軍の装甲列車砲だろ?」

 

 

 軍用の列車砲・・・それがこの異常事態の原因だった。

もともとはここから遠く離れた軍の倉庫に格納されていたものだが、旧式であることに加えてそのあまりにも過剰な火力の使いどころがないと判断された結果、解体処分が決まったという経緯がある。だがこの列車砲、バカみたいな巨体と当時の最高技術の結晶ということもあり、解体できる場所が限られてしまう。

結果、そこまでの道中には警戒態勢が布かれ、地区を管轄するグリフィンの部隊も駆り出されることになったのだった。

 

 

「列車砲というよりも、その移動のための線路を守りたいんじゃないのかな?」

 

『その通りだマヌスクリプト、やはりそんななりでもハイエンドということか』

 

 

 突然店内のラジオが消え、代わりの厳つい男性の声が降りかかる。しかもマヌスクリプトを名指ししたところを見ると、何らかの形で中の様子を把握していることになる。

 店内がざわつく中、幸か不幸か代理人はその声の主を知っていた。

 

 

「何か御用でしょうか、エゴールさん」

 

『このような形ですまんな代理人、迎えを遣わせているから表で待っていてもらいたい』

 

「・・・・・・わかりました」

 

 

 一方的ではあるもののただ事ではない雰囲気に、代理人は大人しく従うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大尉、代理人様をお連れしました」

 

「ご苦労、下がっていい」

 

「はっ!」

 

 

 数十分後、S09地区近郊に仮設された軍の作戦本部に連れてこられた代理人は、そのまま奥の作戦指令室に案内される。通常なら必要であるはずの検査などもすっ飛ばしての案内に、代理人の中の懸念は増すばかりだ。

 案内された部屋で、部下に指示を出していたエゴールが振り返る。

 

 

「まずは応じてくれてありがとう、代理人」

 

「断る理由もありませんので・・・それで、どのような理由で?」

 

 

 余計な会話はなく、ただ用件だけを訊ねる。エゴールの方ももともとそういう気質なため、失礼だとかも思わずこちらも用件のみを話す。

 

 

「単刀直入に言おう、戦力として我々に協力してほしい」

 

「軍とグリフィン、それに鉄血工造も加えての大規模な警備であると小耳にはさんでおりますが、それでも足りないと?」

 

「ただの警備であれば問題ない・・・・・あれを出せ」

 

 

 エゴールの指示で部屋の照明が落ち、スクリーンに地図が映し出される。そこには件の列車砲の移動ルートに加え、線路沿いの警備体制や投入戦力などが事細かに記されている。誰が見ても軍事機密だが、ここに来た時点で今更だろう。

 その地図の上の方、輸送ルートからは少し離れた山岳地帯の一部が、赤い丸で囲われていた。

 

 

「不自然な物資の流れを、軍の情報部が察知した。 列車砲との関係は不明だがこのタイミングだ、不確定要素は潰しておきたい」

 

「なるほど・・・・しかしそれに割くことができるほどの戦力はなく、関係性も不明なため造園もすぐには用意できない、ということですか」

 

「そうだ」

 

 

 となると、確かに代理人たちに話が回ってくるのも無理はない。いくら鉄血工造を離脱し民間を謳ったところで代理人たちはハイエンドモデル、そんじゃそこらの部隊とは格が違う。加えて代理人の能力である長距離テレポートを使用すれば、謎の勢力に察知されることもなく近づくことができるだろう。

 『正規』の戦力がなければ『非正規』を使うまで・・・・ということだ。

 

 

「すでに鉄血工造には話を通してある。 反対はされたが、最終的に『代理人に一任する』だそうだ」

 

 

 鉄血工造組の団結力はかなりのものだ。特にその長女ともいえる代理人に関しては、誰もが呼ばれればはせ参じるくらいに。おそらくはゲーガーもアーキテクトも、断腸の思いで話しを受けたに違いない。エゴールの言い方はかなり強めだが、この作戦において代理人が適役なのは事実なのだから。

 

 

「・・・・わかりました、お受けしましょう」

 

「すまんな、作戦開始は明日の夜を予定している。 それまでに装備を整えてもらいたい」

 

 

 それを最後に、二人の会合は終わる。列車砲の通過予定日が近づき慌ただしくなる基地を抜け、人通りの少なくなった道を戻り、臨時閉店した喫茶 鉄血へと帰ってきた代理人は全員に内容を説明する。

 

 

「なるほどねぇ・・・・じゃ、その間はお店はどうするの?」

 

「Dとリッパー、イェーガー、フォートレスには残ってもらいますので、通常営業で構いません。 加えて、万が一の場合は避難誘導をお願いします」

 

「なるほど、戦力は私たちだけか」

 

 

 実働部隊として参加するゲッコーとマヌスクリプトは、軽く鼻を鳴らす。戦闘能力のないDはもちろん、単体ではハイエンドクラスの動きについてこられないリッパーとイェーガーもお留守番、そもそもが戦闘に向いていないフォートレスもだ。

 それに加え、敵の詳細が分からないため隠密行動に向くゲッコーとある程度の事態に即応できる万能さがあるマヌスクリプトがいれば十分だし、そもそも奇襲攻撃となる以上は人数は少ないほうがいい。

 

 

「目的は殲滅ではありません、あくまで列車砲輸送との関係を確認することがメインです。 敵対の意思がなければこちらから仕掛ける必要はありませんので」

 

「逆に列車砲が目当ての連中なら、時間稼ぎができればいいってことだよね」

 

「わかりやすくて結構だ、やってやろう・・・・美女の依頼でないのが癪だがな」

 

 

 いつも通りの気楽な返事、だが二人ともその表情はやる気と獰猛さに満ちている。非公式とはいえ鉄血工造のハイエンド、そしてフォートレスとも違い決して非好戦的というわけでもない。製造されて今日までほとんど力を振るうこともなく過ごしてきたが、根っこは『戦術人形』なのだ。

 そして代理人もまた、『喫茶 鉄血のマスター』から『鉄血最強のハイエンド』へ、自身の中のスイッチを切り替えていく。

 

 

「それでは皆さん、準備に取り掛かりましょう」

リリリリリリリリ…………

 

 

 代理人が言い終えると同時に、店の電話が鳴る。すでに営業時間を過ぎている今、この電話にかけてくる者などほとんどいないはずだが。

 

 

「はい、喫茶 鉄血です」

 

『代理人か!? 私だ、ゲーガーだ!』

 

「ゲーガー? なぜこちらの番号に?」

 

 

 普段なら個人あての番号にかけてくるはずのゲーガー、しかもその口調は何か慌てているようにも聞こえる。それにまず第一声が『代理人』だったことから、相手が代理人でなくても構わなかったということになる・・・・あるいは、相手を選んでいられないほどなのか。

 

 

「・・・・・何がありました?」

 

『察しがよくて助かる・・・先ほど軍から連絡があった、落ち着いて聞いてほしい』

 

 

 ただならぬ雰囲気、そしてこのタイミングで軍からの連絡。代理人の頭をよぎった嫌な予感は、ゲーガーの言葉で現実となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・複数のテロ・武装組織が同時多発的に蜂起、輸送中だった軍の列車砲が強奪された。 しかもその先頭車両が、この地区に向かっている」

 

 

 

 

 

 

 

 それとほぼ同時刻、どこか近くて遠い場所で、小さな鐘の音が響いた。

 

 

続く




他作者様みたいな大規模コラボがしたい

でもただ呼ぶだけじゃ面白くない

なんかこう、それぞれの個性を活かせる機会が欲しい

テロリストの方々(いつもの皆さん)に協力してもらおう

列車砲、強☆奪


というわけで(私が)待ち望んだ大規模コラボ、開幕です!
詳しいことは活動報告にてお知らせしますが、多くの方に参加していただけたらと思っています。


コラボについては以下を参照ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=260446&uid=92543


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Extra1-1:作戦開始!

まず初めに言っておきましょう・・・・この世界はギャグ時空です。
というわけで人がゴミのように吹き飛ばされますが、大体重傷くらいで済むと思います笑

また、基本は代理人たちのパートで進みますが、各地に展開する部隊の視点で皆さんの戦いぶりを伝えていこうと思っています。


タイトル的にもう話が進んでもよさそうですが、今回はまだあまり動きません。


 緊急避難を告げるサイレンが鳴り響く。

 S09地区を経由する鉄道を輸送中だった軍用超大型列車砲が『制御を離れ暴走した』という知らせが届いてから数十分後には、ほとんどの住人が大通りから街の外を目指して移動を始める。

 『暴走』・・・・それが軍の公式発表である。すでに退役したとはいえ軍の最高機密に等しい列車砲が、数だけで装備も練度も不十分なテロリストに奪われたなど、もはや大失態では済まないレベルの事態だからだ。もちろん警備の手を抜いていたわけでもないし、何らかの陰謀が働いていたというわけでもない・・・・・ただ単に、相手が入念な準備を重ねていただけ、それに軍が後れを取っただけだ。

 もっとも、そんな苦し紛れの『公表』は長くはもたなかったが。

 

 

「軍人とて人の子、ミスや失敗はあって然るべきよねぇ」

 

「だが世間はそんなことで納得はせんだろう・・・そうだな、エゴール大尉?」

 

『その通りだ、そして起こってしまった以上は収束させねばならない』

 

 

 S09地区外縁部、今起こっている喧騒が嘘かと思うほど静かな草原に建てられたテントの下で、通信機を囲む三人の姿がある。代理人、ゲッコー、マヌスクリプトだ。

 ここへ来てからすでに三十分は経過しており、しかしそこから動くことは無い・・・というより、動けないでいる。

 

 

「チッ・・・・座標はまだなのか?」

 

「苛立つのはわかりますが落ち着きなさい・・・エゴールさん、状況は?」

 

『まだだ、もうしばらく待ってもらいたい』

 

 

 ゲッコーの言う座標、それは例の武装集団の拠点の情報である。ここから少し離れた山中に潜伏しており、相当数の戦力が集結していることが分かっている。

 だがそこから先が問題だった。ドローンによる偵察で拠点の場所はわかったが、安全にテレポートできる座標の確認に時間がかかってしまっている。いくら代理人たちがハイエンドとはいえ、たった三人で敵地のど真ん中に飛ぶわけにもいかない。

 ならば砲撃でも加えれば、そう考えたがすでに除外済みだった。

 

 

「まさか主力戦車をすべてレーザー砲にした影響がこんなとこで出るなんてね」

 

「自走砲の一つくらい呼べなかったのか?」

 

「本来想定されていなかったことですし、なにより下手ない刺激して散らばっても問題でしょう」

 

 

 今回の発端、列車砲の警護にあたり軍が用意した戦力はそれなりに豪勢なものだった。多数の歩兵戦力に加えて主力戦車に攻撃ヘリと、テロ組織の一つや二つの迎撃程度なら一切問題ないレベル。しかしそれが裏目に出てしまう。

 まず一つ、想定されていたのがあくまで迎撃であったこと。相手から距離を詰めてくるという想定でいたため、超長距離への先制攻撃は端から想定外であった。

 二つ目が、件の列車砲奪取だ。これによって最も機動力にある攻撃ヘリをすべて列車砲のもとに向かわせており、空からの支援には期待できない。

 そして三つ目、件の武装組織に()()()()()()()()()。これが意外にも厄介で、十中八九今回の騒動に関与しているが断言できないという点だ。優先目標ではないが全く無視することもできず、しかし相手にするとなると相当の戦力が必要となる・・・・その結果が、奇襲性と戦闘能力の高い代理人たちに依頼することとなったきっかけである。

 

 

「なんでもいい、だがこうしている間にもあの化け物みたいな列車砲が迫っているんだ、わかっているんだろうな!?」

 

「ちょっとゲッコー、落ち着きなって!?」

 

 

 生まれ・・・は違うが育った街の危機が、ゲッコーの焦燥感を掻き立てる。相方がそんな状態なので比較的冷静でいられるが、マヌスクリプトもそれは同じだ。

 殺気立った空気の中、代理人はしばし目を閉じ、通信機を手に取る。繋げた先はエゴールではなく、偵察ドローンの操縦士だ。

 

 

「突然の連絡失礼いたします。 一つ相談があるのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 同時刻、S09地区から少し離れた線路の上をいくつもの影が通り過ぎる。物々しいローター音を奏でながら飛ぶそれは、グリフィンの兵員輸送ヘリだ。

 

 

「こちらM4、皆さん聞こえますか?」

 

『こちらRO、聞こえています』

 

『こっちも聞こえてるわよ』

 

 

 三機のヘリの側面に描かれた、それぞれの部隊を表すエンブレム。輸送ヘリはグリフィンの共有物であり、通常はこのようなエンブレムが描かれることは無い。それはつまり、彼女たちはそれぞれ専用機を有するエリート部隊であることを意味する。

 

 

「対象を視認しました。 事前情報通り、低速ですがS09地区へ進行中」

 

『この距離でこのでかさか・・・まさに化け物だな』

 

『その通り、そしてそんなデカブツの相手は俺たちの仕事だ』

 

 

 通信に割り込む形で陽気ながらも頼もしい声が聞こえ、直後にすぐ近くを高速で通り過ぎる。正規軍の攻撃ヘリ部隊と、それに追従する輸送ヘリだ。民間軍事会社のグリフィンとはけた違いの性能を誇るその一群は巨大な的へと先制攻撃を加えるべく一気に詰め寄り・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として空中で爆散した。

 

 

『ぬわーーーーーー!!!』

 

「って出オチ過ぎるでしょ!?」

 

『おいおい、いつから軍は面白集団になっちまったんだ?』

 

『それよりも! なんでアイツの主砲が動いてんのよ!?』

 

 

 突然の爆破・・・その原因は誰の目にも明らかだった。列車砲『カライナ』の主砲が動いたかと思うと()()()()()()()()()()()()を発射、それが空中で炸裂し、軍のヘリ部隊を一掃してしまったのだ。なぜか被害の割に気の抜けた悲鳴と、まるでコメディのように吹き飛んでいく屈強な男たちが見えるが、それが訓練の賜物であるかどうかはM4たちの知らぬところだ。

 一先ず無事そうな軍人たちの心配を切り捨て、目の前に突如として現れた驚異に意識を集中させる。

 

 

「・・・・AK-12、AN-94、今のは」

 

「十中八九、『対空炸裂弾』でしょうね。 と言っても軍にいたころに話を聞いただけで、実物は初めてよ」

 

「決して高くないアルゴノーツ・シリーズの対空能力を補う目的で開発された、主砲専用の対空弾ですね」

 

 

 使い道は対空戦闘に限られるけど、と付け加えたAK-12だが、その威力は見ての通りだった。流石に音速で飛び回る航空機には分が悪いだろうが、ヘリ程度であれば容易に捉えることができる。

 その主砲がこちらに向くと同時に、M4含め各隊の隊長は一斉に指示を出す。

 

 

「操縦士さん、急降下!」

 

『地面スレスレまで降りてください!』

 

『高度五メートルでハッチ開いて・・・皆、行けるわね?』

 

 

 吹き荒れる爆風、目を潰すほどの閃光、それらを掻い潜り、M4たちは過去最大級の危機に挑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーに感? 誰だこの空域を飛んでいる奴は!?」

 

「IFFに反応なし・・・・それどころかどの信号にも一致しないぞ!」

 

「とにかく、現地の部隊に通達! 目的を見失うなと伝えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・え?」

 

「ど、どうしたのフォートレスちゃん?」

 

「い、いえ・・・・」

(今の感じ・・・・どこかで・・・・・・)

 

 

 

 

続く




あー、うん、やりすぎたZE☆
なんとなくでカライナに対空能力を持たせ、なんとなくで正規軍の皆様には犠牲になってもらいました笑
これでもロケ〇ト団のように飛んでいくのは喫茶 鉄血クオリティ。


では今回の補足説明。


・正規軍の偵察ドローン
精度など、あらゆる面で最高性能を誇る偵察用ドローン。とはいえ偵察用なので、攻撃手段は一切ない。

・グリフィンの輸送ヘリ
ゲームでおなじみのあれ。
挿絵とか展開部隊ごとに飛ぶ様子から、大体一機につき一部隊までと想定。

・軍の攻撃ヘリ
特に元ネタとかないけど、イメージ的にはハイ〇ドの皮を被ったアパ〇チ。
カ〇コン製並みに墜ちる。

・軍の輸送ヘリ
大体十人くらい乗れるかなぁ、くらいにしか考えてない。
わかりやすい『的』。

・対空炸裂弾
ちゃうねん・・・ふと頭にストーン〇ンジがよぎったねん・・・・。
そこまで射程もなく、弾速も遅め。地上には使えない。
元々が対地攻撃用の砲なので、とりあえずで積んでいたようなもの。




それと最後の部分は、これを投稿する段階で更新を頂いている作品の方にちょっとだけ意識を向けた一場面です。
それぞれ『無名の狩人』様と『白黒モンブラン』様の作品になっております。


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Extra1-2:晴れのち砲弾、時々イレギュラー

ご参加いただいてる作者の皆様も、徐々にエンジンがかかってきましたね・・・・言い出しといてなんだけど容赦の欠片もない笑

そしてこの人数になるとどうしても細かいところで内容のズレが出ちゃうけど、そこも含めてコラボの面白さだと思っているのでよろしく!



「・・・・・デカいな」

 

 

 地平線を真っ直ぐ横切る一本の鉄道。起伏のほとんどない平野とバックにそびえる山がまるで一枚の絵画のような光景に、ジャッジはポツリとそう零す。だが、それを名画とするにはあまりにも大きすぎる異物がそこにはあった。

 一言でいうなればバカでかい『箱』。見るからに寸胴で重厚感のあるそのシルエットこそ、ジャッジたちの攻撃目標である列車砲『アルゴノーツ・パピス』であった。

 アルゴノーツ・シリーズの後部車両であり、カライナ、ヴィーラと比べると特段珍しい武装は積んでいない。攻撃力も見た目相応で、ぱっと見では最も脅威が少ないようにも見えるだろう。しかしその分堅実な性能を誇り、主砲・副砲ともに威力と連射性能を両立させている、兵器といての完成度の高いタイプだ。

 

 

「幸い、主砲は使用不能のままだといいますが・・・・」

 

「副砲は健在・・・いや、むしろ主砲を頭数にいれなくていい分、遠慮なく撃ってくるだろうな」

 

 

 背後に控えるAegisの言葉に、ジャッジはそう付け加える。彼ら鉄血工造の輸送部隊とジャッジが率いる正規軍の混成部隊が、このパピス奪還作戦に投入された前戦力である。

 三両の列車砲の中で最も脅威レベルが低く、加えてゆっくりとではあるがS09地区から離れて行っているという関係上、ここに投じられる戦力が少なくなるのは仕方のないことなのかもしれない。だが低いといっても脅威であることには変わらず、人形とはいえ歩兵戦力中心というのはどうにも不安をぬぐえない。

 

 

「安心しろ、俺達には隊長(ゲーガー)の加護が付いている!」

 

「俺、帰ったら姐さんに告白するんだ」

 

「花束も買ってあったりして(嘘)」

 

「・・・・・最悪こいつらを盾にするか」

 

 

 もしくは強力無比な援軍が送られてくるかしなければ、相応の損害は覚悟しなければならないだろう。それを胸に刻み、ジャッジは作戦開始の合図を告げた。

 その冗談じみた期待が現実のものとなることを、この時の彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『な、なんなのよこれ・・・・・』

 

『ちょっと!? あんなのいるなんて聞いてないだけど!?』

 

「あら、結構イケてる男じゃない」

 

「戦闘に集中してくださいAK-12」

 

 

 砲弾と対空砲火の雨を掻い潜り、どうにかカライナに取りついたM4たちだが、状況は芳しくない。流石に三機まとめて近づけるほどぬるい砲撃ではなかったため、AR小隊とも404小隊ともバラバラの場所に降下することとなった。一先ず制御中枢を目指すべく各個に行動を開始するも、数だけは多いテロたちの抵抗に思うように先に進めない。

 さらに軍用の重装甲に相当な自信があるのか、甲板部分に直接副砲をぶっ放すという無茶苦茶な攻撃もあり、加えて今この瞬間にもS09地区へと近づいているというプレッシャーが焦りに変わる。

 

 そんな彼女たちの前に突如として現れたのは、まさに『常識外れ』に相応しい異世界の精鋭たちだった。

 

 

『警告、直上に所属不明の飛行物体(輸送ヘリ)・・・・へ、ヘリから人が降下!?』

 

 

 司令部でオペレーターを務めるカリーナからの通信の直後、猛威を振るっていたカライナの主砲が爆発、沈黙する。自分たちの最大火力をあっさりつぶされたテロリストたちが慌てふためく中、運悪くソレの下にいた一人が踏み台よろしく押しつぶされる。

 ()()()()は、そんな潰れたGのごとくピクピクと痙攣する男など意に介さず、肩まで伸びた金髪を手で流しながらM4へと視線を向ける。

 

 

「あなたは・・・・」

 

「この世界の時代では初めましてですね。 私はPMCレイヴン所属、実働部隊隊員。 グレイヴキーパーと呼んで下さい、M4さん達」

 

 

 唖然とするも一先ず敵ではないと判断したM4は、やや警戒を強めるAR-15たちを制す。『グレイヴキーパー』を名乗る女性も次々と降下してくる仲間たちの指示を出し、ぞろぞろと内部になだれ込む・・・・・どっちがテロリストかわかったもんじゃない。

 

 しかしテロたちにとっての悪夢はまだまだ続くらしい。M4たちも内部へと乗り込んだ直後、また別の入り口の扉が派手に吹き飛び、これまた運悪く近くにいた男の顔面を直撃する。言葉にならない悲鳴を上げながら転がる男を一瞥することなく、()()()()()は不敵な笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

「よぉ久しぶりだな、こっちの世界のM4。 超豪華特急列車の旅に応募したんだが、乗車券はどうすりゃいい? 乗務員が物騒過ぎて渡す気にもなれねぇんだが」

 

 

 いや、そんなこと聞かれても・・・と根がまじめなM4は返事を返しそうになるが、『ネロ』の傍らに姿を現した()()()()()()()と目が合い、同時にAR-15の苦笑気味の声が聞こえた。

 

 

「これはとんでもない援軍ね・・・、テロリストどころか悪魔も泣き出す連中の登場とはね」

 

 

 それを合図にしたかのように、夏場の羽虫みたくワラワラとテロリストたちが現れ・・・・次の瞬間にはそのことごとくが木の葉のように宙を舞い、鍔と鞘が合わさる音で間抜けな声とともに地に伏せる。

 

 

「ば、バカな・・・・」

 

「ひ、怯むな! 銃は剣よりも強i『キィィン』ウボァー」

 

「フッ、やつは突撃隊の中でも最じゃk『ギュィィィイイン』アベシッ」

 

「・・・・・帰っていいかしら、私たち」

 

 

 戦闘というにはあまりにもあんまりな蹂躙劇を前に、AK-12がそう零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『座標特定、完了・・・・どうか、ご無事で』

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

 

 

 通信士からの言葉に礼を言いつつ、代理人は受け取った座標と自身の座標を繋げていく。テレポートを使える人形がそもそも少ない、というかほとんどいないためイメージするのは難しいが、代理人曰く「点と点を結ぶだけ」らしい。そして一つの直線の距離は限られるが、いくつもの点を経由することで長距離移動も可能なのだとか。

 最終的なルートの確認を終え、代理人が目を開ける。そこへちょうど準備が整ったゲッコーとマヌスクリプトが寄ってきた。

 

 

「Dから連絡があってな、いつぞやにきたユノとノアの姉上も飛ばされてきたらしいぞ」

 

「ほんと、この世界は未知であふれてるね!」

 

「ガンスミスさんのところの皆さんに、DG小隊とバルカンさんたち・・・・初めましての方々もいらっしゃいましたね」

 

 

 特にあの2メートル近くあるアレは本当に何者なのだろうか、という疑問が頭をよぎるも、とりあえず敵ではないなら問題なしとしておく。

 面識のあるなしに関わらず本来無関係な彼女らの手を煩わせてしまうのは心苦しいが、今だけは頼りにさせてもらうのだ。

 

 

「では、終わったら何かご馳走しませんとね」

 

「もう終わったつもりだなんて、代理人は余裕だね〜」

 

「だがもてなすというのなら賛成だ・・・全部終わってから、な」

 

 

 『ジャキッ』という音を立てて、使うことがないだろうと思われていた装備一式のセーフティが解除される。マヌスクリプトはその両腕と背中のサブアーム一杯に担いだ銃火器を、ゲッコーは手持ちのマシンピストルを構え、代理人の近くに集まる。

 そして次の瞬間、幾何学的な模様の光が代理人を中心に発生し、三人を包み込む。いよいよテレポートが始まるのだ。

 

 

「では二人とも、手筈通りに・・・・油断は禁物ですよ」

 

「りょ~かい! 資料集めのついでにパパッと片しちゃうよ」

 

「今度は『18G』か? 万人受けするとは思えんがな」

 

「違うよ!? 健全本の戦闘シーン用だよ!」

 

「そこまでです、時間ですよ」

 

 

 光が三人を完全に包み込むその瞬間、三人の目が()()()()()()()へと変わる。

 再びあの日常を取り戻すという決意を固め、代理人はテレポートを起動した。

 

 

 

 

続く




次回、喫茶 鉄血組の戦闘開始!

また、今回のようにそれぞれの戦場を人形・人間目線で少しずつ描いていこうと思います。このコラボを通じていろんな作品を知っていただければな、と。


一応ここまで書いた目度として、おそらく1-4か5くらいで私の方のパートは終わるかと思います。
また、終演の際の調整も含め、ご参加いただいています作者様方にはいずれ個別にメッセージを送らせていただくかもしれませんの笑


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Extra1-3:強襲、チーム喫茶 鉄血!

仕事でミスって落ち込んだメンタルを立て直すために買ったバイオ8にのめり込んで遅くなりました!
コラボやってなかったら一ヵ月は更新止めてたかもしれませんね(笑)


戦闘区域:アルゴノーツ・ヴィーラ

 

 

 何処までも広く続く空を、雲がなだらかに流れていく。ごちゃごちゃしたものをすべて地上に置き去りにしてきたかのように緩やかな時を刻むそれは、青白いレーザーによって突如として破られた。

 その発生源である列車砲『アルゴノーツ・ヴィーラ』の周辺は、まさに地獄絵図ともいえる様相だった・・・・というか列車砲そのものが地獄絵図だった。

 

 ()()()()()()()()()()()で軍やグリフィンを牽制するだけの簡単な仕事だと思っていたテロリスト諸兄の元に現れた、所属不明の二人組。まるで東洋のサムライのごとく刀を振るい、戦車の砲弾すら切り伏せる『アナ』と、この世界ではオーパーツすぎる特殊兵装によって一方的な蹂躙劇を演出する『キャロル』。戦車と戦闘ヘリを投入するもたった二人の攻撃はおろか動きを止めることすら叶わず、ある者は驚愕の色を浮かべ、またある者はなぜか恍惚の表情を浮かべながら散っていく・・・・まぁ彼らは丈夫なので死にはしないだろう。先ほど空を貫いた大型レーザー砲も、当たらなければ二人を演出する舞台装置に過ぎない。

 

 そしてその数分後、今度は列車砲付近のゴーストタウン(拠点)に別の勢力が出現する。体長は2メートル近くにも及び、それを覆うように装甲と重武装で身を固めた異形・・・・例えるなら『鬼』や『オーク』、『フランケンシュタインの怪物』なんかが浮かぶかもしれない。

 ただでさえ想定外の強敵の襲撃を受けているテロリストたちに、この怪物(万能者)を止める力などなかった。人は砂埃のように吹き飛び、戦車は宙を舞い、ミサイルの雨は迷走する。これでも生きている彼らの生命力には感心するばかりだが、彼らの地獄はまだ終わらない。

 

 戦場を覆う謎の電子妨害・・・『04』による広域支援とハッキングによってヴィーラが味方に対して牙をむき、コンマ1パーセント未満の勝機すら奪い去る。それをどうにか強制停止と再起動で乗り越えようとしたテロリストだが、何が起こったのか突然ヴィーラが暴走、進行上の万能者やら正規軍やらを蹴散らしてS09地区を目指し始める。

 

 暴走するヴィーラ、それを追うアナとキャロルと万能者・・・・そしてまた別の方角から急行する三つの影。

 ヴィーラを巡る攻防は、いよいよクライマックスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・てなことになってるわよ』

 

「もうどこから突っ込めばいいんだ」

 

「それをいったら負けだと思うよゲッコー」

 

 

 04から伝えられる各地の戦況に、ゲッコーとマヌスクリプトは頭を抱える。特にヴィーラに至っては暴走しているというではないか・・・・むしろ悪化してないか、状況。

 

 

「彼女たちなら大丈夫でしょう・・・信じましょう」

 

「はぁ、代理人のその器のデカさはどこからくるんだろうな」

 

「経験によるものが大きいかと・・・・さて、着きますよ」

 

『座標周辺の敵はピックアップ済み、派手にやっていいわよ』

 

「了解だ、先に行ってるぞ代理人、マヌスクリプト!」

 

 

 座標・・・敵勢力圏上空にテレポート完了と同時にゲッコーを投下、再び短距離テレポートを行う。

 代理人たちのとる作戦はこうだ。まず敵地を大雑把に三分割すし、それぞれに座標を設定する。次にそれぞれにゲッコーとマヌスクリプト、代理人が降下し、奇襲と敵戦力の分散を図る。この間、04のジャミングによってテレポートの予兆をかき消し、少数精鋭での制圧を狙う。

 その一番槍、ゲッコーがその名にたがわず音もなく真下の男に襲い掛かった。

 

 

「ふぐぉ!?」

 

「なっ、なんだてmぐぁ!?」

 

「悪いが今日はおふざけなしだ、さっさと終わらせる」

 

 

 手に持ったマシンピストルと背中の尾をゆらりと構え、ゲッコーは地を蹴った。その動きは機敏なヤモリさながらで、まるで地を這うように戦場を駆け回る。威力こそ小さいが取り回しやすいマシンピストルに、近接戦闘用である彼女の徒手格闘、そして移動から攻撃まで幅広くこなせる尻尾が、テロリストたちを一人一人屠っていく。

 

 

「ええい、たった一人相手になにをしていrウボァ!?」

 

「あぁ、隊長がやられた!」

 

「落ち着け下っ端C、お前が指揮を引き継げ!」

 

 

 

 

 

 

「さぁて、そんじゃ派手にやりますかぁ!」

 

 

 マヌスクリプトの両手とサブアームいっぱいに構えた火器が一斉に火を噴く。製造当初のコンセプト通り、あらゆる火器を扱うことができる彼女の能力が、製造されてから初めて活かされたのだ。武器には武器の使い方があり、カテゴリは同じでも種類によってそれも異なる。それらの細かな違いを瞬時に理解し、猿真似ではなく完璧に使いこなして見せる・・・・マヌスクリプト(写本)の名に相応しい能力だ。

 

 

「アバババババババッ!!!」

 

「ちょっ、ばか、オーバーキrブベラッ!?」

 

「・・・っておいこれ、ゴム弾じゃねぇか!」

 

 

 マヌスクリプトから放たれる弾丸全てがゴム弾であると知ると、テロリストたちは怖いものなしと言わんばかりに突撃を開始する。無用な殺しはしないという代理人の方針にのっとって非殺傷のゴム弾にしているが、敵も当然ながら命の危険がなければ遠慮なく立ち向かってくる。

 とはいえその程度は想定済み・・・となれば、対策も万全。不用意に近づいてきた男めがけ、マヌスクリプトは一気に詰め寄る。

 

 

「・・・・・へ?」

 

「ハァイ、サンドバッグって知ってるかい?」

 

 

 瞬時に武器を背部にマウントし、空いたサブアームが握りこぶしを作る。大の大人が両手で抱えるほどの重火器を支えられるサブアームは、当然ながらそれ単体でも十分な威力を持つ。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!・・・・・お前はもう、死んでいる(嘘)」

 

「アベシッ!!」

 

 

 顔面がブドウの房のようになった男を捨て、マヌスクリプトはゴツンとサブアーム同士をかち合わせた。

 

 

 

 

 

「ふむ、あなたがここの総大将ですか」

 

「おやおや、これはこれは代理人さん・・・・今日はどのようなご用件、でっ!」ズドンッ

 

 

 一際大柄な男が、手に持ったこれまた大きなハンドガンを躊躇なくぶっ放す。パッと見た感じでもマグナム弾よりさらに一回りほど大きく、さっと避けた代理人の後ろの木々をめきめきとなぎ倒していった。

 代理人は知らないことだが、彼は元正規軍でその後傭兵として世界中の紛争地域を練り歩き、雇用主に貢献してきた歴戦の戦士である。紆余曲折会ってテロとして加担しているが、それもこれもより強い連中と戦いたいがためである。もっとも、もしほかの場所に配置されていれば『強敵(化け物)たち』に蹂躙されていたかもしれないが。

 

 

「話し合いの余地はなさそうですね・・・では、参ります」

 

 

 一瞬でテレポートし、距離を詰める。片手で持てるハンドキャノンとはいえ至近距離の取り回しは良くなく、下手に距離をとるよりも安全だと判断したからだ。

 そして代理人自身、ボディのスペックの高さを生かした近接格闘戦もそれなりにできるのである。しかし相手も場数を踏んだ猛者、すぐさまナイフに切り替え迎撃する。そして彼の直掩もそれなりにできるようで、わずかなスキをついて援護射撃を始める。

 もちろん素のスペックでは雲泥の差がある代理人とテロリストたち。ボス格の男と拳を交えつつ、サブアームの銃で周囲の敵を一人ずつ潰していく。

 

 

「はははっ! 戦場で見ることは無いと思ってたが、鉄血製のハイエンドはやっぱり格が違うな!!」

 

「お褒めに預かり光栄です、そのまま投降していただければなお良いのですが」

 

「それはあんたが俺に勝ってから言うんだな! その代わり・・・・俺が勝ったら俺の要求を聞いてもらおうか」

 

「・・・・要求?」

 

 

 その言葉に、うすら寒いものを感じる代理人。それは恐怖や嫌悪感とは少し違う、まるで厄介ごとの前兆のような感じだ。

 聞きたくないと思いつつ、しかしもし内容が軽いものであればいっそ要求を呑んでこの場を収めた方がいいかもしれないということで、先を促した。

 

 

「あぁそうだ、俺は強い奴が大好きでなぁ・・・・・あんたのことが気に入った、俺と一緒に来てもらおうか!」

 

「そ、それはどういう」

 

「俺と結婚しろ」(イケボ)

 

「はぁっ!?」

 

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまったが、それくらい衝撃的な内容だった。似たような言葉は比較的よく聞く(ダネルとか会長とか)のだが、今回のはそれまでとは比べ物にならない危機感を感じる。

 ・・・・・この男、本気だ。

 

 

「お、お断りします!」

 

「ふはは! なら俺に勝ってみることだな・・・・・おめぇら、やれ!」

 

 

 男の合図と同時に、周囲に待機していた男の部下たちから一斉に攻撃が・・・・・始まらなかった。それどころか物音ひとつ聞こえず、まるでもう誰もいないかのような静けさだ。いつの間にかゲッコーとマヌスクリプトの方から聞こえていた戦闘音も聞こえてこなくなっている。

 訝しむ男がもう一度呼びかけようとした時、重い銃声と同時に男が吹き飛んだ。

 

 

「うぐぅ・・・な、何なんだ一体・・・・」

 

「・・・代理人を貰うだと? 寝言をほざきたければ大人しく寝ていろ・・・・永遠にな」

 

 

 そんな物騒なセリフとともに現れたのは、自身の丈以上の対物ライフルを構える女性。代理人に近づく男絶対許さないウーマン、ダネルである。

 

 

「だ、ダネルさん?」

 

「安心してくれ、暴徒鎮圧用の非殺傷弾だ。 死ぬほど痛いが、死にはしない」ジャキンッ

 

「いえ、もう鎮圧できているのですから二発目は『ズドンッ』ダネルさん!?」

 

 

 無表情で追い打ちをかけるダネルを、代理人は必死になだめる。結局この男たちを軍が確保しに来るまでの間、ダネルは計十発も撃ち込むことになり、代理人たちの作戦はあっけなく終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

続く




うぅん、相変わらず戦闘描写は苦手どすなぁ・・・まぁこのくらいの軽さがちょうどいいかもしれないけど。

というわけで、このコラボでのうちの担当はこれで終了です。
それぞれの目標も、割と順調に制圧が進んでいるので問題ないでしょう・・・・え、ヴィーラ?何とかなるんちゃう?知らんけど


ついでにお知らせですが、今作戦後の打ち上げという形で一話書こうかなと思っています。
キャラを貸していただける方は、以下の活動報告か直接メッセージを送っていただければなと思います。
また、作戦後すぐに帰られる方(もしくは合流せずにクールに去るぜ、な方)も、コーヒー豆を一袋差し上げます。

では皆さん、引き続きよろしくお願いいたします!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=260715&uid=92543


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Extra1-4:RTB

トラブル続きで心身ともに結構やられていますが私は元気です


他の作者様のところも順調(?)に解決に向かっていますね。
はじめはどうなることやらとも思いましたが、無事に終われそうです。
見たところ(6/12現在)カライナが制圧完了、ヴィーラも暴走停止、パピスも時間の問題でしょうかね。

というわけで今回は、各戦域での彼ら彼女らの活躍を、別視点で描いていこうと思います。


そして最後に・・・・・・・次からはスタートとゴールをはっきりさせておこうと反省しております(土下座)


 『アルゴノーツ・カライナ』・・・S09地区に向かって進んでいたその巨体も、今はただくたびれたように佇んでいる。圧倒的質量と、輸送線の要ともいえる鉄道を人質に取り、遮る者などいないと思われていたそれは、常識はずれのイレギュラーたちの手によって挫かれてしまったのだ。

 

 

『こちらM4、内部の敵勢力の無力化を確認・・・みんなはどう?』

 

「こちらRO、外縁部はすでに全員投降していま・・・ちょっとM16! 押収物を勝手に漁らないでください!」

 

「酒の一本や二本くらい見逃してくれよ」

 

「ダメです!!」

 

 

 当初、最も緊急性の高い目標され、M4らの特務小隊を始めとした精鋭戦力が投入された本作戦、グリフィンも軍も相応の損失を見込んでの戦力投入だった。

 しかしふたを開けてみれば、こちらの損害は想定をはるかに下回る小ささだった。軍のヘリボーン部隊が開幕砲撃で強制退場を喰らったが、それ以外ではほぼ皆無といっていい。

 

 

「いやぁ大漁大漁♪」

 

「もう終わっちゃったの? ちょ~っと物足りないわねぇ」

 

 

 縄で縛られ無様に転がされるテロリストたちを前に、今回の協力者『バルカン』と『マーダー』はそう零す。いずれも既存の人形カテゴリに当てはまらない特殊装備や能力を備え、片っ端から叩き潰していった。

 死人が出なかったのが不思議でならないくらい過激にやり合っていたようだが、まぁ結果オーライなので良しとしよう。

 

 

「ふぅ、何とかなったな・・・お、スミス、()()()は終わったか?」

 

「あぁ、()()()()()()()()()さ」

 

 

 そしてこちらも今回の協力者、DG小隊の『MP5K(レスト)』と『S&W M500(スミス)』だ。極めて珍しい『男性型戦術人形』ということもあって周りからも少々浮いているが、まぁそれくらいだ。

 ちなみにスミスの方は先ほど述べたバルカンと交際中で、その件でテロリストの男たちとなにやらひと悶着あったらしく、男どもの悲痛な叫び声が聞こえていた。

 

 

「あんな奴らまでいるとは、世界は広いな」

 

「えぇ、敵でなくてよかったですね」

 

「ねぇねぇ、それってS&WのM500でしょ!? かっこい~!!」

 

「え、ちょ、近い近い!」

 

「・・・・・スミス?」

 

「待て落ち着け誤解だバルカン!」

 

 

 無意味にパーソナルスペースが近いSOPによって、もう一波乱ありそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、あのウォーモンガーって奴にだけは近づくんじゃないぞ」

 

「あれに捕まったら最後・・・・・」

 

『・・・・・・うん』

 

「いや捕まったらどうなるのよ!?」

 

 

 同時刻、同じくカライナ上で捕らえたテロリストたちを移送する準備を進める404小隊、その隊長であるUMP45を、屈強な装備の傭兵たちが取り囲んでなにやら説得している様子だ。

 発端は作戦中に起きた、ウォーモンガーの襲撃。といってもその矛先は大体テロリストたちに向いており、敵か味方かもわからないままなぎ倒されていったが。

 そして事件は起こる。ウォーモンガーを発見した傭兵部隊とそのリーダー『エミーリア』は、45を囲うようにして布陣し、最大限に警戒を強めたのだ。結果として何事もなく事態は収拾し、ウォーモンガーとエミーリアはあちらの世界の代理人(エージェント)に連れていかれた。

 

 

「その・・・だな・・・・」

 

「何と言ったらいいか・・・・・」

 

「何よ、もったいぶらずに言いなさいよ」

 

『食われる(性的な意味で)』

 

「もっとオブラートに包んでよ!?」

 

 

 

「45姉、人気者だね」

 

「さっきから何の話をしてるのかしら?」

 

「あいさつ回りとかじゃない? 隊長ってそういうのも仕事だし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「M4、回収用のヘリが来たわ」

 

「ありがとう・・・・ふぅ」

 

「ふふ、お疲れさま」

 

 

 捕虜輸送用に軍がよこしたヘリが見え、ようやく一息つくM4。事前情報にはなかった主砲に、作戦開始早々の軍部隊のリタイア、そして・・・・・

 

 

「まさかあんな連中までいるなんてね」

 

「ですが、そのおかげで想定をはるかに下回る損害で済みました」

 

「ほんと、これなら私が出なくてもよかt「物足りないようでしたら特別訓練でも課しましょうかAK-12?」・・・・こういう時に動いてこその特務小隊よね!」

 

 

 AK-12の気の抜けたぼやきをいつもの圧で黙らせつつ、しかしM4も似たようなことは考えていた。

 統制のとれた傭兵部隊、一騎当千の制圧力とそれをカバーする優れた個、銃が主流のこの世界において刀一本でねじ伏せる圧倒的な力・・・・いずれもM4では遠く及ばないものだ。特に後者二つはともかく、前者に関しては『性能』によるものではない。

 

 

「・・・私もまだまだですね」

 

「M4、代理人から連絡があったわ。 あっちも終わったそうよ」

 

「わかりました、事後処理も手早く終わらせて帰りましょう」

 

 

 一息ついてから気を引き締め、最後の仕事に取り掛かるM4だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一方、こちらは『アルゴノーツ・ヴィーラ』の甲板。アルゴノーツ・シリーズ最強を誇るだけあってまるでハリネズミのような武装と、ひょんなことから起動してしまった『裏モード』による暴走というとんでもない事態に陥ったものの、列車の停止とテロリストたちの捕縛、そして直接的な犠牲者ゼロと、結果だけ見れば十分すぎるほどの成果を残すことができた。

 

 

「くっ・・・あんなロリっ子にしてやられるとは・・・・だが悪くないぞ!」

 

「それにどうやらあれは『スキン』と呼ばれるものらしい・・・・要は見せかけだけだな」

 

「つまり合法ロリ?」

 

「天才か!?」

 

「あの女サムライに・・・私は心奪われた・・・・!」

 

「俺っ娘魔法少女を拝めただけでも、わが生涯に一片の悔いなし!」

 

 

 今回の加害者にしてある意味被害者のテロリスト諸君も、とっくに抵抗をやめてお縄についている。そして捕虜に対するうんたらかんたらによりこれ以上危害が加えられないと理解し、軍の改修ヘリが来るまで想定外の邪魔者たちについて話し合っている。今更逃げようとしたところで無意味だろうし、ならば開き直ってしまえば楽なのだ。

 ちなみに万能者について語る強者もいたが、かっこいいとかそういう前にあれが何なのかという疑問と恐怖が先行しているようだ。

 

 

 

 

 そんなテロたちをしり目に、一仕事終えたサラリーマンのようにくたびれた様子で走る列車がある。フィアーチェたちが拾ってきたGE ES64ACi型機関車の『777号』である。

 フィアーチェ、シゴ、ナインに加えて万能者、キャロル、アナを乗せた777号はS09地区向けてゆっくりと進む。さっきまでの戦闘の疲れがどっと出てきたのか、三姉妹は寄り添うようにして眠っている。そんな三人にキャロルが毛布を掛けると、どこか揶揄うような声で04が割り込んできた。

 

 

『あらあら、おチビちゃんたちはお眠かしらね』

 

「無理もない、今はゆっくり休ませておこう・・・・お前も休んだらどうだ、万能者」

 

「そうさせてもらうよ。 まったく、轢かれるは吹き飛ばされるは散々だったな」

 

「むしろそれだけの目に合っていて『散々だった』で済むあたり、あなたの規格外さには驚かされます」

 

『あなたたちが言ってもねぇ・・・・』

 

 

 04の呆れたような声を無視し、キャロルたちも席に座って目を閉じる。

 777号の上をすれ違うようにして飛び去る軍のヘリに、ようやく終わったのだと実感するのだった。

 

 

 

 

 

 

続く




次回は打ち上げ回を予定しています。

目下最大の課題は、この大人数をどうやって書ききるかですね。



私事ですが、前書きでも書いたようにトラブル続きで結構キておりまして、このコラボが終わったら2~3か月くらい更新を止めようかと思っています。
コラボ分だけはしっかり描き切りますのでご安心を。


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Extra1-5:交わる世界にコーヒーを

お ま た せ
コラボやりますと言っておきながらこの体たらく・・・・これが梅雨の影響か(違)

実際書き始めたのは6月中だったんですがね・・・・・
書く→他作者様の方で打ち上げシーンがアップされる→書き直す→またアップされる→これはしばらく様子見かな?→気が付けば7月→アカーン!


 S09地区全域に出されていた避難勧告が解除され、住民たちもちらほらと戻り始めたころ。街の灯りはまだすべて灯らず、それが徐々に増えていく中、路地裏の一角に普段通りの明るさを取り戻している場所がある。

 表の看板は下げられ、ドアにかけられた札も『CLOSE』になったままだが、店の中からは明るい光と笑い声が零れている・・・・・その場所を、『喫茶 鉄血』という。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら代理人、みんな待ってるよ」

 

「しかし、こういうのは店側がやるものではないような・・・」

 

「もぅOちゃん、今日はお店とお客さんじゃなくて仲間として集まってるんだよ!」

 

「そういうことだ、というわけで始めてくれ」

 

 

 喫茶 鉄血のメインフロアとなる一階、広くはないが狭くもないその店内も、これだけ集まると少々手狭な感が否めない。というか、屈強な傭兵集団やら身の丈二メートル越えやらがいるだけでも十分圧迫感がある。もっとも、始まってしまえば二階も使えるので余裕ができるだろう。

 そんな店の中心、集まった仲間たちに囲まれる形で注目を浴びる代理人は、小さくため息をつきながらも一歩前に出た。

 

 

「んんっ・・・皆様、本日はお疲れさまでした。 そして、この地区を・・・いえ、この世界を代表して感謝いたします」

 

「固いぞ代理人! さっさと始めようぜ!」

 

「そうだそうだ、ついでに酒を出せ!」

 

「ちょっとうるさいわよ飲兵衛ども!」

 

 

 週一でバーとしても営業している喫茶 鉄血だが、今回の打ち上げには残念ながら酒はない。代わりにショーケースに並んでいるケーキやらお菓子を全部出し、ついでに代理人たちも軽食をいくつか用意してある。もっとも、持ち込みを禁止していないため自前の酒類を持ち込んでいる人形もいるようだが。

 それはともかく、彼女らの言う通り手短に済ませるに越したことはない。いつまでここにいられるかわからないのだから、時間は大切にしなければ。

 

 

「そうですね・・・・それでは皆さん、本日はごゆっくりお過ごしください」

 

 

 代理人がそう締めくくると同時に、歓声がわっと沸き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「~~~♪」

 

「珍しいわね、フォートレスが鼻歌なんて」

 

「まぁ、理由は察しが付くがな」

 

 

 珍しいと思いつつ、どこか保護者のような目線で語るマヌスクリプトとゲッコー。その視線の先には、いつもより体感三割くらい足取りの軽いフォートレスが、お盆で口元を隠しながら嬉しそうに店の奥に戻る・・・・・と思いきや、カップにコーヒーを注ぎ多めのミルクと砂糖を入れると、またもと来た道を戻っていった。

 その先にいるのは、一見不愛想な半魔の剣士・・・・ギルヴァだ。となるとあのコーヒーは自分用ということになり、大方、せっかくだから一緒にとか言われて誘われたのだろう。

 マヌスクリプトとゲッコー、二人の口がニヤリと綺麗な三日月を描く。

 

 

「ほぉ、これはこれは・・・・」

 

「神は言っている・・・・・ここはお節介をすべきだと」

 

 

 どう見てもいらんことしようとする二人だったが、いざ動こうとした直後に鋭い視線を浴びてピタッと動きを止める。その発生源はギルヴァの隣に座る、処刑人によく似た(というかある意味本人)女性、ネロからだ。

 そして何ともいい笑顔で、口パクで何かを伝えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『余計なことをすれば〇す』

 

『『マジですみませんでした!』』

 

 

 やらかしたときの舎弟のように頭を下げる二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「その身体だと、カップもソーサーもまるで玩具のようですね」

 

「まぁ俺サイズのカップなんてないだろうか気にしねぇよ」

 

「そう言っていただけると幸いです・・・・本当にお疲れさまでした」

 

 

 フロアの片隅・・・では収まりきらない巨体を鎮座させ、「万能者」は笑う。その重装甲の塊のような体はいたるところが傷つき、へしゃげ、文字通り身を挺して戦ったことがうかがえる。又聞きではあるが、ヴィーラ制圧戦は苛烈を極めたらしく、それは彼(?)の体が物語っている。

 

 

「いきなり出てきたときは何事かと思いましたが」

 

「こっちこそ、驚かせちまって悪かったな」

 

 

 互いに苦笑し合い、そのたびに万能者の装甲から異音が鳴る。本人曰く応急処置でどうにかなるらしいが、代理人としては大した恩も返せず、歯がゆいばかりだ。

 とはいえ、元の世界ですら詳しいことは一切わからないオーパーツの塊では、おいそれと弄ることは難しい。結局、代理人にできるのはコーヒーを出すくらいだ。

 

 

「礼なら、俺よりあの三姉妹にでも言いてやれよ・・・・ていうか助けなくていいのか?」

 

「保護者もいますし大丈夫でしょう」

 

 

 こいつ意外とテキトーだな・・・・万能者はまたまた苦笑し、傷ついた装甲をきしませた。

 ちなみのこの後、なぜか腕相撲を挑まれた挙句、救護者に患者認定されて追い回されることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「抑えろ! 抑え込め!!」

 

「TPOを考えろ色情魔め!」

 

「離せゴラァァアアアアアア!!!!」

 

「「ひぃぃいいいいい!!!!」」

 

 

 店のど真ん中で、屈強な男たちがたった一人の女の子を組み敷いている・・・・と聞けば事案の香りがするが、実際はその真逆であった。組み敷かれながらも血走った眼で対象を視界に収め続けるウォーモンガーの姿は、異常を通り越して恐怖でしかない。ましてやその対象・・・UMP45にとってはなおさらである。幸か不幸か、子供スキンであるシゴに矛先は向かなかったが、元の姿で来ていればどうなっていたかを想像し、涙目になる。

 ちなみにすでにUMP40が制圧のために挑んだが、個の戦闘力では最強クラスであるウォーモンガーの前になすすべなく散っていった・・・南無。

 

 

「うへへへ45・・・こんな世界でも会えるなんてもしかしなくても運命よね? そう、私たちは結ばれる運命にあるのよさぁ今すぐ私たちだけの世界に行きましょうウフフフハハハハハハハ!!!!」

 

「おいバカやめろ!」

 

「ここは全年齢向けなんだぞ!」

 

「じゃあここから先はR指定よ!!」

 

「「いい加減にしなさいっ!!!!」」

 

 

 エミーリアとエージェント、保護者にめいの助走をつけて腰の入ったパンチが直撃し派手に吹き飛ぶウォーモンガー。せっかくの打ち上げ、しかも小さな子(子供スキン)もいる中でおっぱじめようなど、二人の目の黒いうちは許されざる行為だろう。

 無事脅威は去り、ようやく45とシゴに安泰が訪れる。

 

 

「ふぇ~怖かったよ~」

 

「よしよし、もう大丈夫だよシゴ」

 

「ほら、ケーキ食べて元気出そシゴ姉」

 

「ほ、本気でヤられるかと思ったわ・・・」

 

「大丈夫! その時はアタイがもらってあげるよ!」

 

「・・・・ていうかあんたいつからいたのよ」

 

 

 元気を取り戻した彼女達を見てホッとしたのも束の間、鬼のような形相でウォーモンガーを見下ろすエミーリアとエージェント。その一角だけはまるで真冬のような冷たさが漂っていた。

 だが、その後ろからさらに巨大なプレッシャーが近づく。エミーリアの父、アウレールである。

 

 

「・・・・ウォーモンガー」

 

「ヒィ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あなたの姉の貞操の危機なのよ? 助けなくてもいいの?」

 

「それをいうなら416の上司でもあるよ?」

 

「ま、結果オーライだからいいんじゃない?・・・食べられた方が面白いけど」

 

「聞こえてるわよ三人とも!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なぁ、スミスの姿が見えないが?」

 

「トイレじゃないか?」

 

「ていうかバルカンの姿もないが」

 

 

 いつの間にかいなくなっている同僚の姿を探すも、店内には見当たらない。もしや二階かとも思ったが、それなら黙って行くはずもないだろう。ついでにバルカンも、さっきまでマーダーと一緒にいたと思っていたがいつの間にかいない。当のマーダーは戦闘時とはまるで別人のように大人しくコーヒーを飲んでいる。

 とか思っているところは、お替りを注ぎにきたDが窓の方を見ながら言った。

 

 

「あ、お二人なら外のテラス席に行きましたよ」

 

「「「・・・・外?」」」

 

 

 見れば確かに、窓から二人の後ろ姿が見える。本来向かい合うように置かれているテーブルと椅子だが、どうやら隣り合わせになるように移動したらしい。

 二人で何か話し、笑い合い、バルカンがスミスの肩に頭を乗せる。店内にまで漂ってきそうな甘い空気に、思わず四人の頬が緩む。やがて二人の影が近づき、重なりかけたところで気をきかせて視線を外した。

 

 

「いいですね、こういうの」

 

「あんたもそういうのに興味はあるんだな」

 

「ふふ、人並みにですよ」

 

「ん? てことはオリジナル(代理人)もそうってことか?」

 

 

 ちなみに二人が店内に戻った時、マーダーがニヤニヤしながら出迎えたため、パニクったバルカンが発砲しかけたとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ジーーーーーーーー」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「ジーーーーーーーー」

 

「ど、どうかしましたかAK-12?」

 

「・・・・あなたたち、本当に同型の人形?」

 

 

 真剣そうな表情で二人の顔を見比べるAK-12に、AN-94とアナは戸惑いを隠しきれていない。いきなり呼ばれたかと思えば並んで座らされ、そこからこうしてジッと見比べ続けられているのだから戸惑いもする。その後ろでM4やキャロルは呆れた表情で事の成り行きを見守っていた。

 実際、元になっている人形こそ同じだが、度重なる改修や改造を受けているアナは、『AN-94』はおろか戦術人形という枠すら飛び越えているといっても過言ではない。いったいどこの世界に空を飛び回る人形がいるというのだろうか。

 

 

「・・・・・ペルシカとアーキテクトに改造させればワンチャン」

 

「嫌ですよ!?」

 

「ほら、いい加減にしなさい!」

 

 

 このままでは深度演算まで使って本気で考えかねないAK-12を、AR-15が強引に引きはがす。あれは後で「オハナシ」が必要だあろう。

 

 

「あははは・・・・すみません」

 

「いや、構わない。 それより・・・・」

 

 

 すると今度はキャロルがM4の顔をじっと見る。別にAK-12に感化されたとかそういうわけでもないのだが、ふと目の前の彼女が自分の知る彼女とは別人であると思い出したのだ。

 しかし並行世界とは面白い。製造目的も背景も、何より世界情勢すら異なっていながら、なぜか彼女たちは姿かたちが全く同じなのだから。

 

 

「? なにか?」

 

「いや、お前はむしろあまり変わらないな、と」

 

「それは・・・良いこと、なのでしょうか?」

 

「そうだな。 仲間想いで諦め嫌いな、優秀な隊長だと記憶している」

 

 

 フッと自嘲気味に笑うキャロル。言い換えれば甘ちゃんとも言えるのだが、他でもない自分がその甘ちゃん筆頭に負けたのだから、笑うしかない。あの()()姉のことだ、今頃暢気に茶でも啜っているのだろう。

 

 

「信念を持て。 それが必ずお前の力になる」

 

「はい、必ず」

 

 

 力強く答えたM4に満足したのか、キャロルはカップを口につけ、ふとそれがブラックであると思い出す。いつもはどこかの兎がいつの間にか砂糖とミルクを入れているのだが、あいにくと今日ここにはいない。そのことで再び苦笑しつつ、砂糖とミルクを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ん~~、これも美味しいですね!」

 

「あーもう、口にクリームついてるって」

 

「・・・・ケーキって一応食い物だよな?」

 

 

 目の前でみるみる減っていくホールのケーキに、ガンスミスは開いた口がふさがらなかった。決して甘味が嫌いなわけではないが、流石にこの量となると少々胸焼けがするというもの。それを目の前の少女はまるで吸い込むかのように平らげていく。

 隣を見ればすべてを諦めて大人しくこの休息を謳歌するナガンと、これまた優雅にコーヒーを啜る、見た目はナガンによく似ているが中身は別物の少女・・・フロストノヴァ。とくにフロストノヴァについては元の世界でも新しい世界でも、これほどの平和を甘受したことなどないのだろう。

 

 

「お気に召しましたか、フロストノヴァさん?」

 

「あぁ、美味いな・・・・私のことは聞かないのか?」

 

「えぇ」

 

 

 見た目、というか戦術人形そのものであるはずなのだが、この『フロストノヴァ』を名乗る彼女からは人形っぽさが微塵も感じられない。それもそのはず、彼女もまた数奇な運命を辿ってきた人物で、人形の体に意識を移すことで生きながらえた者なのだ。

 あくまで代理人はガンスミスやナガンから聞いた程度のことしか知らないが、彼女にとってここに来る客の過去はさほど重要ではない。ただ日々の喧騒を忘れ、このひと時を楽しんでもらえればそれでいいのだ。

 

 

(叶うなら彼らと、『ドクター』と訪れたかったが・・・・ふ、それこそ過ぎた願いか)

 

「? どうかされましたか」

 

「なんでもな・・・・・いや、少し相談したことがある」

 

 

 そっと、ガンスミスやナガンたちに聞かれないように耳打ちするフロストノヴァ。代理人はそれを聞いても驚く素振りも見せず、注文通りのものを取りに奥へ戻る。

 そして帰り際、代理人からフロストノヴァへ手渡された小さな包みは、彼女の()()()()が眠る墓へ供えられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・ふぅ、これで全員でしょうか」

 

「こういう時くらいは休んではいかがですか、救護者さん」

 

「代理人の言う通りよ~、働き詰めってのもよくないわ」

 

 

 二人の声に、救護者は手袋を外しながら振り返る。相変わらず機械的というか、ある意味無慈悲な目だが、その名の通り修理や修復、治療全般専用に開発されたハイエンドである。蝶事件の際に目覚めて以降その活動範囲は広がり続けているが、どうにも治療(物理)に偏っている気がしなくもない。つい先ほども、自身よりもはるかに図体の大きい万能者相手に『治療』を敢行しようとしたほどだ。

 ある意味性分なのだろうが、代理人としてはせっかくの打ち上げくらいはゆっくりしてほしいとも思っている・・・・・04からすれば「お前が言うな」といった感じだが。

 

 

「というかあなたも、変な実況で煽らないでください」

 

「まぁ、ほどほどにしてくださいね」

 

「あ、あら・・・もしかして藪蛇だったかしら?」

 

 

 生真面目な救護者の説教を04が耳を塞ぎながら聞き流している中、奥のテーブルでは一人の少女が膝を抱えながら椅子に座っていた。代理人にとっては見慣れないが、見た目と鉄血工造のエンブレムから、同じ鉄血の仲間であると察する。

 そして代理人は彼女・・・・潜伏者から、塞ぎこむ理由も聞いていた。

 

 

「まだ馴染めませんか?」

 

「ごめん・・・・ごめんなさい、()()()()()()

 

「構いませんよ。 あなたの過去を知れば、むしろ当然のことでしょう」

 

 

 代理人はそう言うと、手に持っていた皿を置く。それは先ほど焼きあがったばかりのクッキーだった。その匂いと代理人の顔に、あの頃のお茶会が脳裏をよぎる。

 必死に涙をこらえる潜伏者だが、代理人はそんな彼女をやさしく抱きしめる。そのまま何も言わずに頭を撫でる彼女に、潜伏者は全てを吐き出すように泣いた。

 

 

「大丈夫、大丈夫ですよ・・・・・もう少しこのままに「あー、代理人が泣かせた―」・・・はい?」

 

「心の傷ですか・・・わかりました、処置を開始します」

 

「いや、その「おやぁ、代理人は救護者の腕を信用できないのかな~?」・・・覚えていなさいよ04」

 

「ぷっ・・・ふふふ・・・・」

 

「「「あ、笑った」」」

 

 

 ようやく笑ってくれた潜伏者に、代理人は安堵の笑みを浮かべる。そして四人でテーブルを囲むと、仕切りなおして打ち上げを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ん~、こんな感じかな?」

 

「D、そろそろ店を開ける時間・・・・あら、それは?」

 

「えへへ、この前の打ち上げの時の写真、アルバムにしてみたんだよ」

 

「なるほど・・・・でしたら、後で私の写真も飾らせてください」

 

「了解っ! じゃ、そろそろ開けよっか!」

 

「えぇ、今日もよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

end




はい、色々遅れましたが、こちらでの大規模コラボはこれにて終演となります。
誰だよ6月中旬くらいをめどになんて言ったやつ・・・・俺だよ!

登場人物が多いと結果的に一人当たりの文量が減ってしまいましたね・・・分けるべきだったか?
そしてギャグっぽくドンチャン騒ぎにさせるつもりだったけど、一部がっつりシリアスになった居ましたね(笑)


てなわけで、今回はコラボして頂いた作者様の登場人物の紹介・・・というよりちょっとした小話。
ノリとしてはメイキングに近いかな?


『Devils front line』白黒モンブラン様

ギルヴァ&ネロ
ギルヴァは元ネタであろうバージルを想像しつつ、しかし寄り過ぎないように気を付けて書いています。ほぼほぼ無表情なギルヴァと、表情がころころ変わるフォートレスの対比が書いていて楽しいですね。
どちらかというとネロの方が書くのが難しく、処刑人よりだったりDMCのネロよりだったりと安定しにくい・・・口調がはっきりしている分は書きやすいけど(笑)


『危険指定存在徘徊中』試作強化型アサルト様

万能者
原作とかがなく、未解明の部分も多く、性能も未知数・・・・お借りしたキャラの中で最も難航した人物。そもそも性別もよくわからんし、一人称もわからん。
作者様のとこのセリフから、距離感近めで馴染みやすそうということは何となくわかるので、見た目は厳ついけどフランクな強面のおじちゃんをイメージしてます(笑)


『サイボーグ傭兵の人形戦線渡り』無名の狩人様

エミーリア&エージェント&実働部隊
組織としての上下関係を持ちつつ、軍ほど堅苦しくないようなイメージ。魔改造キャラが多いこのコラボ中では割とまともな勢力・・・のはず(笑)

ウォーモンガー(&アウレール&エリザ)
当初は予定になかった新規参戦者。ウォーモンガーに関してはその素晴らしい性格もあって割と楽しく書かせてもらいました(なんか色々ゴメン)
とばっちりでシゴちゃんも巻き込まれたけど、いざとなったら食われるのは45姉だけだから大丈夫だよ!


『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』ガイア・ティアマート様

シゴ・フィアーチェ・ナイン
子供スキンの三姉妹。基本的に口調なんかは原作のUMPたちに近いので、割と書きやすいほうだったり。
怖がらせちゃってゴメンよシゴ姉〜


『破壊の嵐を巻き起こせ!』oldsnake様

バルカン&マーダー
何度かコラボをしていただいているわけなんですが、何気にスミスとの絡みを書いたのは初めてかも。普段と二人の時のギャップ、いいよね!
マーダーに関しては、やっぱり戦闘じゃないと特徴をうまく書けないかなぁ・・・自分の文才の無さを嘆くばかり。


『人形たちを守るモノ』NTK様

DG小隊
この世界には11labという残念集団がいてだな。
男口調のキャラはいるけど、実際に男キャラを描く機会が少ないのでいい経験になってますね。


『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』焔薙様

キャロル&アナ
ユノちゃん一家もこれで大体来てくれただろうか。思えば最初は子供らしい指揮官だったのに、いろんな意味でたくましくなって・・・・
そしてどうにもシリアスというか、まじめな話になりやすい気がする笑


『ドールズフロントラジオ 銃器紹介コーナー』通りすがる傭兵様

ガンスミス&ナガン&先輩後輩
ドルフロを始めたばかりのころ、銃に関する知識とかほとんどなかった中で大変世話になった作品ですね。
ちなみに余談ですが、私は去年くらいまで「デザートイーグル」がアメリカ製の銃だと思っていました。

フロストノヴァ
キャラ自体は「アークナイツ」という別ゲーのキャラで、詳しい経緯はあちらの作品で。
個人的にも好きなキャラの一人で、一時は私も救済ifを書こうと思っていたほど。


『鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです!』
『鉄血の潜伏者』村雨 晶様

救護者&潜伏者
救護者は二回目の来店。今コラボで唯一、一作者二作品の出場。
潜伏者は・・・・うん、詳しくは元の作品を読んでもらえるとわかるはず。せめてこの世界では安らかに。
・・・・という暗い話は置いといて、擬態などのユニークな能力を持った面白い機体。それでいてぶっ壊れではないところが原作にいそうな雰囲気もありますね。


『本日も良き鉄血日和』一升生水様

04
一生生水さんのとこのオリジナルキャラ、電子戦特化の支援型。
支援と言いながらハッキングやクラッキング、ジャミングからの攪乱などこいつ一人で戦場を制圧できるくらいに優秀。
今コラボでは特務404との連携が光りましたね。




【最後に】
コラボに参加して頂いた皆様、そして視聴者の皆さま、
お付き合いいただきありがとうございました!


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第二百二話:Ms.ドッペルゲンガー

気が付けば本編(ナンバリング)を最後に投稿したのが三か月前という事実。

それにしてもモンハンストーリーズ2は面白いですねぇ


AR-57・Five-Seven・AR-15・D-15・ハンター

 

 

 夏・・・と言えば、何を思い浮かべるだろうか。海で海水浴やサーフィン、川辺でバーベキュー、山で虫取り、お祭りや夏ならではの食べ物もありだろう。

 その一方、このシーズンの特に極東の一部では、もう一つの『ならでは』がある。暑い夏の夜を一気に涼しくする恒例行事・・・怪談である。

 

 

「そう、あれは珍しく涼しい風が吹いていた夜のこと」

 

「待て待て待て、いきなり何を始める気だ!?」

 

「あれ? M16姉さんは聞いてないんですか?」

 

「『怪談やるから集合ー』って言われてたよね?」

 

「ゴメン、私も聞いてない」

 

 

 アーキテクトの突然の怪談話に、M16とペルシカが待ったをかける。だがどうも他のAR小隊(今回は新旧合わせて)は知っていたらしく、なんだったら場所を提供している喫茶 鉄血の面々も知っている。

 ちなみにアーキテクトが用意した蝋燭はリアリティ重視のホログラムで、何故か三又の蝋燭台に立てられるという和洋折衷なものである。良く言えば軍用技術の民間転用、悪く言えば技術の無駄遣いである。

 

 

「なぁにペルシカ、もしかして怖いの?」

 

「人は未知のものに恐怖を抱く生き物なのよSOP。 それが科学的に証明できて未知ではなくなった時、恐怖は興味に変わるのよ」

 

「要するに科学で解明できない幽霊とかダメなんですね」

 

「見て見て〜、この前撮れた心霊写真〜!」

 

「オーブはただの埃だし、人の顔はシミュラクラ現象と呼ばれるものよ。 だから私には変なものなんて見えないのだからそれ以上近づけないでちょうだいお願いだから」

 

「ねぇ、そろそろしゃべっていい?」

 

 

 ペルシカの思わぬ弱点が露呈したところで、事の経緯を説明しよう。連日の猛暑に加え、新兵装の開発に行き詰まったアーキテクトがたまたま付けたテレビでやっていたホラー特集。物理的な涼しさではどうしようもないくらい考えが煮詰まっていた彼女はその場の勢いで有休を申請し、とりあえず集まってくれそうなメンツに声をかけた結果がこの集会である。

 ちなみにAK-12とAN-94はアーキテクトからの連絡という時点で警戒して辞退、ペルシカは普通に誘っても来ないと考え、SOPから食事として誘ってもらった。ついでにSOPが持っている心霊写真は、この日のために密かに用意した偽物である。

 

 そんなわけで始まってしまった怪談話。科学技術の塊である戦術人形がオカルト一色なことをやるというのも奇妙な話だが、ともかく本人たち(一部除く)はノリノリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは私がつい先日体験したことよ・・・・・前日に珍しく仕事が早く終わった私は、積みっぱなしだったゲームを片っ端からプレイしてたのよ・・・まぁちょうど明日は日曜だしってね。 で、いつの間にか寝落ちしちゃって、電話の着信音で目が覚めたの。 日曜の朝なんてイタ電かセールスくらいだろうって思って出なかったんだけど、あんまりにもしつこいから電源切ってやったのよ。 でもまあ、せっかく起きたから朝食でも食べよっかなぁって思って部屋の時計を見たらね・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・『日』じゃなくて、『月』って書いてあったの」

キャァァアアアアアアアア

 

 

 

「あぁ、この前ゲーガーからかかってきた愚痴の電話はそういうことですか」

 

「アーキテクト・・・さすがに二日酔いの私でも曜日までは間違えんぞ」

 

「二日酔いで勤務したということですか姉さん?」

 

 

 代理人の冷たい視線が刺さり、なぜか自爆したM16にもM4の冷ややかな笑みが刺さる。まぁ伝わる人には伝わるのだろうが、ホラーかと言われれば別問題だろう。

 その後も各々が用意した話を披露するが、ある意味そういった話とは無縁の彼女たちにまともな体験談などあるはずなく、どちらかといえば過去の失態話の暴露大会になってしまった。やがてそれもネタが尽き始めると、なし崩し的に解散ムードが漂う。

 

 

「む~、意外とないもんだね、この手の話」

 

「私としては万々歳だけどね」

 

「お母s・・・・代理人さんは何かありますか?」

 

「仕事中じゃないのですから『お母さん』で構いませんよ・・・・そうですね、一つだけ噂話程度でしたら」

 

「お、聞きたい聞きたい」

 

 

 それほど面白いものではありませんが、と前置きしつつ、代理人はコホンと咳払いしてから話し始めた。

 

 その話を最初に聞いたのは先週の頭、とある人形たちの話でした。その日は別々の場所をパトロールしていた彼女たちですが、話の中で同じ人物と出会っていたことで盛り上がっていました。二人が見たのはWAさんだったようですが、それが全く同じ時間だったというのです。

 ご存知の通り、ハイエンドモデルや特注でもないかぎりは同型の人形も存在します。ですが、少なくともこの地区にWAさんは一人しかいません。その日は結局見間違いだということになりました。

 

 ところがその二日後、今度は別のグループの子たちが似たような体験をしていたようです。しかも見かけたのはアーキテクト・・・・その日は一日研究室から出ていないことは知っていましたし、一応ゲーガーにも確認してもらっています。そしてまた別の日には、今度はAR-15さんの姿。

 

 現在でも真相は分かっていませんが、これは『ドッペルゲンガー』と呼ばれるものなのでしょうか・・・・ところでドッペルゲンガーといえば、本人が出会ってしまうと命を落とすという話が有名です。もし出会ってしまったら、果たしてどうなるのでしょうか・・・・・フフッ

 

 

 

 

「いや普通に怖いって!?」

 

「ていうかあの日のゲーガーちゃんってそんな理由で来たの!?」

 

「え、私のってD-15じゃなくて?」

 

「えっと、その日はD-15も私たちと一緒に訓練中でしたから・・・ってペルシカ博士!? すごい冷や汗ですよ!?」

 

 

 代理人という思わぬ伏兵のおかげでそれっぽい空気になった一行は、一先ず今日のところは解散という流れになる。アーキテクトが一人で帰りたがらなかったり、ペルシカが足早に帰って行ったり・・・・その様子を、面白そうに見つめる目があることには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お化けなんていない、幽霊なんていない、ドッペルゲンガーもいない・・・・うん、大丈夫よペルシカ」

 

 

 少し入り組んだ路地を歩きながら、ペルシカはまるで念仏のようにブツブツと呟く。本音を言えば今日は帰らずに司令部に泊まらせてほしかったのだが、仕事もあるし何より娘たち(特にSOP)の前でくらいちょっと見栄を張りたかった。

 それに代理人の話では、出るのは人形ばかり。逆に言えば人間の例はなかったということになるという安心感もあった。

 

 

「うぅ、こういうときってどうしてただの道ですら怖く感じるのかしら・・・・ん?」

 

 

 今にも物陰から何か飛び出してきそうな恐怖心を抱きつつ進むと、視界の隅に一瞬白い布のようなものが映り、曲がり角に消えた。それがただの布なら何とも思わなかったのだが、ペルシカにはそれが研究員の白衣であるとはっきりわかった。そして今まさに、自分も白衣を着ているのだ。

 冷たい汗が背筋を伝うが、ただの気のせいであると思い込み、確認のために角を覗く。

 

 

 

 今いる路地よりもさらに薄暗くなったその先に、()()()()()()()()()()()()()()()()が佇んでいた。そしてペルシカと目が合うとニヤリと笑い、再び奥の路地へと消える。

 気絶したペルシカが発見されたのは、この十分後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、これより『ドッペルゲンガー捕獲作戦』を開始します!」

 

「おー」パチパチ

 

 

 ペルシカが倒れたと聞いて再び喫茶 鉄血に集まった人形たち。AK-12やAN-94も加えたフルメンバーで、意識を取り戻したペルシカから事情を聴き、これがただの怪談ではないと確信した彼女たちは、ペルシカの敵討ちに燃えるSOPを筆頭に捕獲に乗り出した。

 身内に被害者が出たというのもあるが、相手の姿をそっくりまねる・・・あるいはコピーすることができるというのはそれだけで脅威にもなる。しかもそれだけの技術がありながら自分たちの耳には入っていないということは、正規の手続きを通している可能性は低い。地区の治安維持という点でも、動く必要があるのだ。

 

 

「ただの噂話かと思っていましたが、まさかこんなことになるとは」

 

「それについては同感ですが、逆に言えば真実ならば捕まえることも可能かと」

 

「で、本当にオカルトだった場合は?」

 

「打つ手なしです」

 

 

 AK-12の疑問に対し、事実だが無慈悲な回答を返すM4。その余波で、店の隅で小さくなっているペルシカがまるで処刑台に上がる直前の囚人のような顔になってしまった。とはいえ実際、もし本当に『本物のドッペルゲンガー』だったとしたら、出会った時点で彼女の命運は決まってしまっているのだが。

 

 

「大丈夫です、私にいい考えがあります」

 

 

 M4が自信満々にそう言うと、代理人の方を振り返る。基本的にM4のことは信用しているが、この時ばかりは嫌な予感がするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 S09地区は、街としてはいたって平凡で平和だが何かとトラブルには事欠かない街でもある。近郊に鉄血工造の本社、地区内にはグリフィン屈指の規模を誇る司令部、そして近くを通る鉄道は軍にとって重要な物流網と、昨今の三大武装勢力の重要拠点である。

 そんなわけで常日頃から街にはそれなりの数の人形が出入りしている。民生用から軍用、以下にもなロボットタイプやぱっと見ほとんど人間のようなもの、常に武装している者から隠し持っている者まで様々。故に街の人間にとって、人形はただの隣人と言える関係なのだ。

 

 そんな背景を知ってか知らずか、路地裏や人気の少ない場所をせわしなく動き回る怪しい影が一つ。その程度のことであればまぁいつものことなのだが、それは一度姿を隠すと次の瞬間には別のシルエットに変わっていた。

 何日も前から同様の手口で密かに街を暗躍しているコレは、これまでの成功からさらに大胆な行動に出る。

 

 

「~~~♪」

 

「あらDちゃん、今日はご機嫌ねぇ」

 

「よぉ代理人さん、また店にお邪魔させてもらうぜ!」

 

「おねーちゃんバイバーイ!」

 

 

 時には満面の笑顔で、そして時には薄く微笑むような笑顔で、すれ違う人々に手を振り返す。事前調査通り、この街の住人はこの人形に対して絶大な信頼を寄せている。加えて性格やしぐさが違う二人が存在していることもあり、多少違和感があってもどちらか片方だと勝手に勘違いしてくれている。

 その場の思い付きで驚かせたあの博士とは違い、今回は服装含めて入念に準備をしてきた、そんな自信がうかがえる。

 

 その自信の赴くままに、ソレはついに人形たちの根城『S09地区司令部』を目指す。特別理由はないが、この姿ならもしかしたら怪しまれずに入れるかもしれないし、それが偽物だと知った時の反応も面白そうだ。

 だが、そんなお調子者への天誅は思いのほか早く下る。

 

 

「いたぞ、あいつだ!」

 

「!?」

 

 

 鋭い声とともに数体の人形が人込みをかき分けて現れる。まだ距離はあるが、間違いなく自分を捉えていると確信したソレはすぐさま近くの路地に入り込む。事前にインプットしておいた地図を頼りに路地を曲がり、塀を超え、一見動きにくそうな恰好で軽快に逃げる。

 

 

(なんで!? 今回だって完璧にやれたはずなのに!)

 

 

 想定していなかったわけではないが、思っていたよりも早く訪れた事態に困惑を隠せないまま逃げ回り、追っ手を撒いたのを確認して一息つく。恐らく正体までは知られていないだろうが、この変装はもはや無意味だ・・・そう悟ると同時に少しだけ余裕を取り戻し、入り組んだ路地を迷いなく進む。バレてしまったものは仕方ないが、ならば別の変装に切り替えればいいだけのこと。そう考えたソレは、目的地である人目のつかない場所にぽつんと置いてあるゴミ箱の前に立つ。路地裏にゴミ箱があるのを疑う者はおらず、わざわざゴミ袋の下を探すような不審者もそうそういない。

 ゴミ箱のふたを開け、入っているごみ袋を持ち上げてその下に隠してあるモノを取り出す・・・つもりでいたソレの顔が凍り付く。

 

 

「え・・・なんで!? なんで無いの!?」

 

 

 場所を間違えた、もしくは偶然見つけた誰かが持って行ったのか・・・・ともかく計算が狂ったが、隠し場所はここだけではない。すぐに切り替えると次の隠し場所へと向かった。

 ところが次も、その次の場所も同じく隠していたモノがなくなっており、そのたびにどんどん顔が青ざめていく。人気のない路地だからいいものの、代理人の恰好でゴミ箱を漁る姿は不審者そのものだろう。そして最後の隠し場所・・・ソレの本来の服装や装備を隠していた場所も、やはり空っぽになっていた。

 

 

「うそ・・・ど、どうしよ・・・・・」

 

「探し物はこれですか?」

 

「!?」

 

 

 不意に声をかけられ振り返る。そこにはいつの間にか、代理人を筆頭にM4ら特務小隊にAR小隊、その他グリフィンの人形たちが待ち構えており、そして代理人の手には、自身の半身ともいえる()()()()()()()()が握られていた。

 

 

「大人しくお縄についていただけませんか、P()9()0()さん?」

 

「あ、あはは・・・・・・・はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 戦術人形『P90』―――SMGタイプの人形であり、モデルとなった銃と同様に色々と癖の強い人形。量産タイプにしては総じて性能が高く、生産数も他の人形に比べて圧倒的に少ないため、一部の指揮官からは幻扱いの人形とされているが、どうやらこの地区には配属されたようである。

 さて、このS09地区に配属される人形は大きく分けて三つに分かれる。一つは将来の戦果を期待されて配属を命じられるタイプ、もう一つは司令部解体や編成変更によって一時的に配属されるタイプ。そしてもう一つが、性格や性能など何らかの理由で送り込まれる問題児である。

 

 

「元は後方支援の司令部に所属、しかし度重なるいたずらと度を超えた変装により司令部とその周辺を巻き込んで大混乱を引き起こしたため、矯正目的で異動・・・・・なるほど、全く懲りていないことはよくわかりました」

 

「まぁ見事な変装だとは思うよ、言われなきゃわかんないもん」

 

「えへへ、それほどでも」

 

 

 こいつに限らず、P90タイプはなぜかコスプレ癖がある者が多く、その完成度はかなりのものとして有名だ。しかしどうやらこの個体はそれぞれの人形に対する評価を利用・・・悪用し、利益を貪っていたのだという。なまじ完成度が高いため、何かやらかせばそれはP90ではなくコスプレ元の人形の評価につながってしまうという、ある意味歩く地雷と呼べる存在なのだ。

 P90に限らずなぜIoPはこうも癖の強い人形ばかり作るのか・・・・ペルシカに問い詰めるも残念ながら彼女はP90の設計にはかかわっていないらしく、同時に17labのような変態集団が溢れるほどいるという事実だけが告げられる。

 

 

「それにしても随分と隠していたものですね・・・そしてどれもこれもクオリティの高いものばかり」

 

「WAちゃんにアーキテクトちゃん、HGからMGまで色々あるね」

 

「これ、まさか自作ですか?」

 

「いやいや、流石にここまでの腕はないよ」

 

 

 まさか協力者が、というところまで考えて浮かび上がったのは、同人界隈では知らぬ人のいない迷惑ハイエンド。彼女なら鉄血工造のデータを得ることなど容易いだろうし腕もある。

 

 

「いや、普通の通販サイトだよ・・・・ほら、コレ」

 

「うわ、ほんとにある・・・ていうかもしかして全人形分!?」

 

「ていうか下着までセットなのか・・・・」

 

「え、あの人形ってこんな際どいの穿いてるの!?」

 

 

 異常なまでに高いクオリティと謎のこだわりにドン引きする一行。だがこのサイトを運営する企業を調べてもマヌス・・・・あのハイエンドの名前は出てこず、しかもどれも正規の手続きをとっていることが判明してしまったため、密かにグリフィンとIoPへの不信感が高まるのだった・・・・・ちなみに鉄血工造はアーキテクトがスペック面以外をほぼオープンにしているため、割とどこでも見かける。

 ページを読み進めるほど顔色が悪くなる面々をよそに、ひそひそと会話を続けていた代理人とM4はP90の方へと向き直る。

 

 

「ふむ、衣装は全て正規品ですので、そのコスプレ趣味についてはあまり口出しはしません」

 

「お、話が分かるじゃない!」

 

「えぇ、人形といえどプライベートは大切ですから・・・・・ですが、M4」

 

「はい。 P90さんはまだこの地区の配属処理を行っていないため、厳密には無所属のフリー人形です。 その状況下で、最悪の場合より大ごとになっていたかもしれないというのは見過ごせません」

 

 

 M4が最初は淡々と冷静に、最後の方は妙に迫力のある声色でそう言うと、机の上に折りたたまれていた衣装の数々を段ボールに詰め、厳重に梱包する。

 そしてニコリと笑顔を浮かべ、こう告げた。

 

 

「というわけでP90さん、配属処理とその後の処分が終了するまで、これらは没収とさせていただきますね」

 

「ちょっ!? そ、そんなのあんまr「い い で す ね ?」・・・はい」

 

 

 その日、P90は悟った・・・・この人形の逆鱗にだけは触れてはいけないと。そしてその日の夜、配属とともに渡された大量の反省文が彼女の初仕事となるのであった。

 

 

 

 

 

 なお、例のサイトの発注先が結局マヌスクリプトであることが判明し、ほどほどにするようにとのお叱りを受けたのはまた別のお話。

 

 

 

end




P90ちゃんをお迎え&UMP9()のMOD化完了に歓喜して書いた結果、まさかの7000文字越え・・・うん、やっぱりモチベは大事やな。

P90のあの独特な形状、最初見た時は本気で架空の銃だと思い込んでましてね。
むしろDMCのブルー〇ーズの方がまだ現実みがありそうだと思ってました笑



では、今回のキャラ紹介!

P90
コスプレ・・・を通り越して変装の域に達している人形。基本性能は高くあらゆる場面で活躍できるが、この個体はいかんせん性格に問題が多すぎる・・・・のはこの地区ではよくあること。
なお、実銃が左右どちらでも使えるというのを加味し、両利きに設定されている。

代理人&D
仕草や表情意外全く同じ。何だったら黙っていても特に不審に思われないため、ターゲットに選ばれた・・・が、この地区ではあまりにも有名であったため一人増えるだけで目立つ。

ペルシカ
科学で証明できないものに対してめちゃくちゃビビるタイプ。
この後それをネタにSOPに弄られたので、仕返し(R-18)した。

アーキテクト
実は彼女が怪談話を持ち出さなければ、今でもこの事態は収束していなかった。
なお、彼女の服装は割と複雑であり、コスプレ難易度は高い。

特務小隊&AR小隊
路地裏の怪しい場所を片っ端から調べ、ゴミ箱を漁る姿が多数目撃された。

WA2000
話に出てきただけ・・・・公式でも被害にあってたし、出さないわけにはいかなかった。


コスプレ専門サイト
マヌスクリプトが契約している企業が運営するサイト。すべて受注生産で、発注されてから製作している・・・・ということになっているが、ある程度はストックがあり、『すべて一から製作』ということにして割高で売っている。
一着だけでもブランドの服一式が買えるほどだが、そのクオリティから割と順調に売れている。
IoP、鉄血工造全面協力。














〈個人的な宣伝〉

犬もどき氏が続編を書いたぞ、読め!


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第二百三話:NYTOの日

職場でやらかして残業続きになったり、ワクチン打ってぐったりしてたりしましたが生きてます。
最後に更新してから一月以上経ってしまいましたが、鉄血を仲間にできると聞いて復活しました!

それはそれとして、今回は新イベントにちなんだお話。
相変わらず原作無視の独自設定もりもりですが、生暖かい目でご覧ください。


「・・・・・妹さん、ですか?」

 

「えぇ、いかにも」

 

「正確に言えば、末っ子ね」

 

 

 今日も今日とて客の賑わいを見せる喫茶 鉄血。開店当初に比べて良い意味でより有名になり、気が付けば店が増えたり店員が増えたり、時々グリフィン社の人形が働いていたりと何かと話題の尽きない。

 そんな喫茶 鉄血だが、行く当てがなかったり分け合って飛び出してきた人形を、労働を条件に住まわせていたりする・・・・・ニモゲンとマーキュラスもその手合いだ。情報公開も製造登録も一切ない、九割九分九厘違法な謎多き人形だが、ここに来てさらに謎が増えた。

 

 

「末っ子・・・・というと、他にも姉妹機が?」

 

「姉妹機、ではなく『姉妹』よ代理人」

 

「我らは人間と時を同じくする、新たな可能性の欠片」

 

「・・・・・つまりは?」

 

「「我々は成長する」」

 

 

 とまぁ、こんな感じで自ら秘密を暴露していくため随分と解明されているのだが、ニモゲンとマーキュラス・・・・本人ら曰く「NYTO」と呼ばれる個体群は、既存の人形とは大きく異なる特性を持つことがわかっている。その中でも特に際立つのが、()()()()()()()()()()()という点である。

 IoP製・鉄血工造製の人形も作戦やその他さまざまな行動をとることでマインドマップが更新され、同じ製造ロットであっても異なる『個性』と呼べるものが生まれる。だがNYTOたちの成長とはそんな内面的な話ではなく、文字通り『身体が成長する』のである。製造時は幼い姿で、短期間ではあるがニモゲンやマーキュラスのような姿まで成長し、その後も緩やかながら一定期間成長するのだという。

 

 

「・・・・・本当に人形ですか?」

 

「軍が運用している『機械の人形』とは違うけど、人工筋肉やらを使った人形よ」

 

「グリフィンや貴女方も、そういう意味では同じ穴の狢ですわね」

 

「それはちょっと違う気がしますが」

 

「あれ? てことは、その妹ちゃんって」

 

「えぇ、製造されて間もないチビね」

 

「わぁ、会ってみたいなぁ」

 

 

 Dが目をキラキラさせながら、その妹とやらに思いをはせる。が、今のところNYTOという存在をニモゲンとマーキュラスでしか知らない代理人は、この二人をシンプルにダウンサイジングした存在を思い浮かべる。やや高圧的というか、捻くれているというか、そんな感じだ。

 

 

「話は戻しますが、その妹さんはいつ来られるのですか?」

 

「さぁ?」

 

「我々の行く末は、我々が決めるもの」

 

 

 そんな二人の言葉に、代理人は厄介ごとの予感を感じて項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねっ、次あそこ! あそこに行ってみたい!」

 

「こら、勝手にうろちょろしないでって何度も・・・・ぁぁぁあああもうっ!!!」

 

 

 場所は変わり、ここはS09地区のメインストリート。この地区で最も活気のある場所であり、イベントがなくとも多数の露店が並ぶ、観光客にも人気の場所だ。それゆえ常に人の往来が活発なのだが、その人の波を小さな黒い影がすいすい進む。

 その後ろを六人分の頭が追いかけるが、なかなか追いつけないでいる。

 

 

「この・・・・待ちなさい『アンナ』!!」

 

「こ、これひとつ、ください・・・・・」

 

「はいよ、ちょいと待ってね」

 

「勝手に買ってんじゃないわよ!!」

 

 

 息を切らせて何とか追いついた少女・・・UMP45の奮闘むなしく、目の前で大きなリンゴ飴を受け取るアンナ。その容姿や服装は少し違うが、間違いなくNYTOの一人であるとわかるものだ。

 パトロール中、近所の子供たちから「見慣れない子供がいる」と言われて保護したこのチビNYTO。なぜここにいるのか、何が目的なのかも一切不明のまま、一旦司令部まで連れていくことにしたのだが・・・・・。

 

 

「アンナちゃん、美味しい?」

 

「ん~、おいしい!」

 

「くっ・・・・・なんでコイツの分を私が払わないといけないのよ」

 

「耐えてちょうだい45、子供の笑顔はプライスレスよ」

 

「じゃあアンタが払いなさいよ!」

 

「416っ! 私たちも食べよ!」

 

「私は9の分を出してるから・・・・ね?」

 

「キーーーーー!!!」

 

 

 見た目相応というか、アンナは目につくものすべてに飛びついた。特に食べ物となると迷わず買いたがるくらいで、ちょっと目を離せばもう注文していることもある。そのくせ有り金など一切ないため、頼んだものをキャンセルするわけにもいかず、隊長ということで最も手当の多い45が払っているのだった。

 ちなみに416は見ての通り9にしか財布を開かず、9に払わせるのは45としては選択肢外、G11は驚くほど財布の口が堅く、ゲパードM1は後から加入したこともあって払えと言いづらい。残るはUMP40だが、彼女に借りを作ると後が怖いのでやめておく。

 渋々財布を取り出し、ブルジョアの代名詞たる真っ黒なカードを取り出す。別に45にとって菓子の一つやふたつなど端金に過ぎないのだが、それがよくわからない小生意気なガキンチョに出す金となると、渋い顔にもなる。

 

 

「はぁ・・・・あんたねぇ、ちょっとは自分の立場ってのを弁えなさいよ?」

 

「へんっ! そんなのあちしの勝手でしょ。 それにあちしは連れてってなんて頼んでないもん! バーカアーホオタンコナースビ!」

 

「この・・・言わせておけば・・・・」

 

「お? 殴る気か? なら泣いてやるぞ、人攫いって大声で泣いてやるぞ?」

 

「ぐぅ・・・・・!」

 

 

 この状況でそんなことをすればどうなるか、考えなくとも一目瞭然だ。もちろんちゃんと説明すれば理解ってもらえるだろうが、それでも面倒なことに変わりはない。というか社会的な死というものがどれほど恐ろしいかは、グリフィンの暗部を担っていた45たちが一番よくわかっている。

 勝ち誇ったような笑みを浮かべるアンナに、45は歯軋りするしかなかった。

 

 

「45・・・あんたこんな子供に言い負かされるの?」

 

「う、うるさいわね! ならアンタがなんとかしてみなさいよ!」

 

「相変わらず部下遣いが荒いわね・・・・・」

 

 

 416は軽くため息をつきつつ、何か策があるのかスタスタとアンナの前まで行く。割と大きかったはずのリンゴ飴はもうなくなっており、それでも食べ足りないのか次の店を探している様子だったが、416に気がついて振り返った。

 

 

「アンナちゃん、後でまたたくさん買ってあげるから行きましょう」

 

「やだやだ! まだ遊びたいもん! ね、9()()()()()()?」

 

お姉ちゃん・・・・・そうだよ416、べつに急ぎじゃないんだからいいでしょ?」

 

「しょうがないわね」

 

「何もしょうがなくないわよ!?」

 

 

 瞬殺・撃沈・陥落、あっけないほど簡単に流される416に、45は頭を抱える。いくら可愛い9の頼みだからって、こんなにチョロいものだろうか。というか9に甘すぎやしないだろうか。

 自分のことを盛大に棚に上げつつ、今度はアンナとじゃれつく9に目を向ける。どうにも波長が合うのか9にはなついており、アンナの要求に9も乗っかるため止めづらいというわけだ。おのれ、9を使うとは卑怯なり。

 

 

「いや、45も9に甘いからでしょ」

 

「自分の妹に甘くない姉なんていないのよ」

 

「そうそう、だから45もあたいに甘えてもいいよ!」

 

「それはやめとくわ」

 

「ええ!?」

 

 

 40の提案を無視し、しかし何も解決していない現状に頭を悩ませる。司令部に連れていきさえすれば後はどうにでもなるのだが、この様子だとよっぽど興味を惹かれるものがないと大人しくついてきてくれない気がする。だが、こういうのも失礼だが司令部に子供が喜ぶようなものはあまりない気がする・・・・・スプリングフィールドのカフェがあるといえばあるが、わざわざ司令部に行きたがるのは彼女に会うことが目的の連中だ。

 

 

(ん? カフェ・・・・・・?)

 

 

 瞬間、45に天啓が舞い降りる。そうだ、カフェに連れて行けばいい。そしてこういう事態にめっぽう強く、子供の相手も慣れていて、最悪実力行使すら可能な適任者がいるではないか。

 

 

「アンナ、私のおすすめのお店があるんだけど、どう?」

 

「えー、あんたのおすすめぇ?」

 

イラッ・・・・・す、好きなだけ頼んでいいから、ね?」

 

「ほんと!? じゃあ行こ!」

 

 

 先ほどまでの態度から一転し、ノリノリで付いてくるアンナ。その様子を見ながらG11は、『これ、お店とか言って司令部まで連れてった方が早いんじゃない?』と思ったが、面白そうなので黙っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「・・・・・で、なんで残姉たちがいるの?」

 

「いい加減その呼び方やめないと頭カチ割るわよ」

 

「仏の顔も三度まで、と言いますわよ?」

 

「仏じゃなくておとぼけなんじゃないの?」

 

「「・・・・・・〇す」」

 

「はいそこまで、いったん落ち着いてください」

 

 

 45に連れられ、代理人が経営する喫茶 鉄血へとやってきた一同だが、そこでニモゲンとマーキュラスに出くわしてからずっとこんな感じだ。二人もアンナも互いを相当毛嫌いしているようで、罵詈雑言の応酬を繰り広げている。ちなみに残姉とは、『残念な姉』という意味だ。

 しかし姉を残念と呼び捨てることと末っ子・・・・つまり最新型という点から、諸々のスペックでは二人を上回っているようで、頭の回転も微妙に早い。おかげでニモゲンとマーキュラスは終始言い負かされっぱなしだ。

 

 

「はい、スペシャルケーキのセットを5名様分です!」

 

「あら、ありがとうD」

 

「・・・・って何あんたたちも頼んでるのよ!?」

 

「え? だって45のおごりだって」

 

「それはアンナだけでしょ!?」

 

 

 スペシャルケーキお一つ2000円、そしてセットもつけて計2600円+税、決して安くない出費が45を襲う。その伝票を苦い表情で受け取ると、45は一つ咳払いをして話を切り出した。

 

 

「で、いい加減あんたらの目的を教えてもらえるかしら? ただでさえ出自不明の人形なのに、今度はこんなちっこいのまで連れてこられちゃ流石に無視できないわよ」

 

「ちっこいのって言うな、あんたもちっこいでしょ! やーいまな板~!」

 

「・・・・・・・・とにかく、話してもらえるわよね?」

 

「私からもお願いします」

 

 

 額に青筋を浮かべ、文字通り張り付けた笑顔で何とか耐えている45に、代理人も助け船を出す。実際のところ、ニモゲンとマーキュラスを預かっている身として二人の目的は知っておきたいのだ。もしこの街の住人に危害を加えるつもりなら見過ごせないし、逆に何か手伝えることがあれば手伝ってやりたいとも思っている。

 しばらく沈黙が続いたのち、最初に言葉を発したのはアンナだった。

 

 

「あちしはね、二人の様子を報告するために様子を見に来たの」

 

「「えっ!?」」

 

「だって二人とも、『お父様』への報告をすっぽかしたままなんだもん」

 

 

 要するにただの監視である。それでも最後の情けというかそんなつもりで、そちらに向かうということだけ伝えていたようだ。そして大事な『お父様』への定期報告をすっかり忘れていた二人は、元々白い顔が白を通り越して真っ青になっている。

 

 

「あとはそうね、あんたに興味があったのよ代理人」

 

「私、ですか?」

 

「そ、二人の最後の報告であんたのことを話してて、興味がわいたの!」

 

 

 それで無理言ってこの仕事を引き受けた、と述べるアンナ。それはつまり、45たちを振り回したこの一連の騒動の原因が自分にあるということだった。まぁ偶然見つけてしまった45たちの運もあるが。

 

 

「小難しそうだけど、親切で優しい人だって言ってたけど、どうやら本当みたいね」

 

「あらあらそれは・・・・今までそんな風に思われているとは思いませんでした」

 

「二人とも素直じゃないからね」

 

「「ちょっとアンナ!?」」

 

 

 やいのやいのと再び騒がしくなる三人に、代理人は一件落着だと胸をなでおろした。

 その後は三人まとめてグリフィンで保護することことになり、ニモゲンとマーキュラスも短い間世話になったといって司令部へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ねぇ代理人」

 

「はい?」

 

「私って、隊長よね・・・・・・皆の財布じゃないわよね?」

 

「・・・・・・・・」

 

「何か言ってよ代理人!!」

 

 

 

end




※作中の表記は日本円ですが、支払いは現地通貨です(誰に向かってかわからない言い訳)


はい皆さんお久しぶりです。
失踪したかと思ったか?残念だな、トリックだよ。

今回はこれを書いてるうちに終わってしまったイベント『偏極光』にちなんだアンナちゃんのお話。ぶっちゃけNYTOの設定がすでにいろんな意味でアウトだから原作ガン無視のオリジナル設定ばかりというね汗



というわけで、今回のキャラ紹介!


アンナ
ちっこいNYTO。原作では所謂施術前の()()だが、本作ではNYTOも人形として扱っている。他社製と比べて大きく違うのは、幼い姿で製造されて一定期間成長するという点。
非常に生意気で、そのくせ妙に頭が回る。口げんかになると割と強く、周りを巻き込んで追い詰めることも。
(いろんな意味で)ちっこいくせに偉そうな45を毛嫌いし、逆に見た目相応な雰囲気の9にはなつく。

ニモゲン・マーキュラス
喫茶 鉄血にて居候中のNYTO。エレベーターを含む自動ドアに何故か挟まりやすい欠点を持つため、買い物先は手動ドアの店に限っているらしい。
マーキュラスの口調が安定しない。








運営「鉄血を鹵獲できるようになったぞ」

ダネル「!?」ガタッ

アルケミスト「座ってろ」


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第二百四話:振り回される力

言い訳はあとがきで書きますので……
とりあえず、帰ってきました!

ちなみに、この話は12月ごろに書き始めたため作中の季節はまだ冬です。


 地球の表面の七割は海に覆われている。これに加えて氷の塊である北極や、遥か深くまで続く深海など、人類が永住できる場所は意外と少ない。

 もちろん人工島や海底の施設など、なければ作ってしまえの精神でのし上がってきた人類がその領域に踏み込むのも時間の問題とも言えるが、現時点ではまだ陸上での生活から解放される気配はなさそうだ。

 

 では見方を変え、残り三割を占める陸地。その中でも欧州とアジアを含み、最大の陸地面積を誇るユーラシア大陸というものがある。そのあまりにも広大な大地は多くの民族を受け入れ、多くの国の土台となってきた。結果として地図には複雑怪奇な線が多数引かれ、時には争いの種ともなるのだった。

 

 

「つまりこの大地は、数多の破壊と再生を経て今日まで続く、歴史そのものと言えるのよ」

 

「なるほど、やはりAK-12は博識ですね」

 

「その大地を、こんな重いバイクを押す羽目になったのは、どこの、誰のっ、せいかしらねっ!?」

 

「諦めましょうAR-15、私たちにも非はありますから」

 

 

 厳しい寒さの冬といえど、真っ昼間にバイクを押して歩くには辛いものがある。M4とAR-15は、この苦行の元凶であるAK-12を見つめながらも、そこに乗っかってしまった自身の軽率さを恨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 時は遡り、IoP16labのガレージ。前日の定期メンテナンスの後に指示され、本来なら帰りの列車を待つはずのM4たちは言われるがままに集合した。

 最新の設備と用途不明な機器が集まる16labの中ではかなりまとも……というかごく一般的なガレージで、大型車が数台並べられるくらいのスペースに、カバーをかけられたバイクが四台並んでいる。ただ、呼び出した本人(ペルシカ)の姿はない。

 

 

「ペルシカさーん、言われた通り来ましたよ」

 

「呼び出しといていないなんて、いい身分ね」

 

「まぁ、実際それなりの身分の人ですから」

 

「……ねぇ、あれ開けてみない?」

 

 

 呼びかけにも応じず、ただ時間が過ぎていくのに痺れを切らしたAK-12が指さしたバイク。呼び出された先にちょうど人数分とくれば、要件はおそらくこれだろうと察しはつく。

 どのみち待っていても仕方ないと判断し、M4たちもAK-12の提案に乗ってカバーを取り外した。

 

 カバーの下から現れたのは、見るだけで既製品ではないとわかる大型のバイク。車種は同じようだが、各部に施されたアタッチメントは四台全て異なり、予想通りというかそれぞれにM4たちの名前が彫られていた。

 

 

「これ………軍用の最新モデルじゃない」

 

『その通り、そしてこれが君たちを呼び出した理由だよ』

 

「「うわ、出た」」

 

 

 ハンドルの中央、メーター上部の装置から現れたホログラムに映るペルシカ。どうもカバーを外すことがトリガーになっていたようで、外した順に四台分現れる。

 AK-12とAR-15のリアクションはかなり苦いものだが、気にする様子はない。

 

 

「私たちがそのまま帰ったらどうするつもりだったのかしら」

 

『少なくとも君たちの誰かが手を出すとふんでたからね。 実際こうして触ってるわけだし』

 

「なるほど、ペルシカが四人もいると煩いのはよく分かったわ」

 

 

 映像自体はリアルタイムでどこからか送られているようで、会話もできている。が、四台分のホログラムは連動しているため一度に四人分のペルシカが喋ることになる。

 流石に邪魔なので、M4のバイク以外は映像を切ることにした。

 

 

「それで、これが私たちを呼び出した理由なんですね?」

 

『えぇ、私からのプレゼント……と言いたいところだけど、これは正式に承認が下りている君たちの追加装備よ。 まぁ私も開発に携わってるけどね』

 

「開発陣は? 改造とはいえ、人形がメインのIoPが二輪まで造れるなんて思わないんだけど」

 

『確かにIoPは人形のノウハウはあっても車両のノウハウはない……16lab(うち)17lab(変態)を除いてね』

 

「「「帰る」」」

 

「ま、まぁまぁ………」

 

 

 前者はともかく、後者が絡んでいてロクな結果になったことなどない、そんな経験則から踵を返す三人をなんとか宥めるM4。実際のところは、元となる軍用バイクに機能を付け足した程度なので、三人が危惧するようなトンデモ仕様にはなっていないのだが、その程度では安心など程遠いのが17labだ。

 

 

「ですが、それならわざわざ呼び出さずとも指令部(S09地区)に送っていただければ良かったのではないですか?」

 

『それはそうなんだけど……せっかくだから、慣熟訓練も兼ねて乗って帰ってもらおうかなってね』

 

「乗って帰るって……ここからS09地区まで!?」

 

「高速道路やアウトバーンを使ってもそれなりの距離ですね……ということは、どこかに中継地点が?」

 

『察しがいいねANー94、途中の地区指令部に補給と休憩の許可が出てるよ。 件のエリート小隊が来るって言ったら二つ返事だったね』

 

 

 用意周到とはまさにこのことで、断ることなど一切想定していないほど全てが整った状態であった。断ろうと思えば断れるが、特にM4は見ず知らずの指揮官や人形たちが生みの親(ペルシカ)に振り回されるのは不憫だと感じていた。

 それに、心優しいとはいえ戦術人形である彼女たちだ。追加装備と聞かされて一切無関心というわけにもいかない。

 

 

「はぁ……わかりました、受け取ります」

 

『うんうん、そう言ってくれると思ってたよ。 それじゃ、気をつけて帰るんだよ……大丈夫だと思うけど、羽目を外しすぎないようにね』

 

「そんな免許取りたての子供みたいなことはしないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イィィィイイイヤッフゥゥウウウウウウ!!!!

 

『AK-12! インカムつけてるんだから叫ばないで!!』

 

『すごい……これが軍の最新モデル………!』

 

『み、みんな落ち着いて! もう少し安全運転を……!』

 

 

 だだっ広い舗装道路を、一目でまともな仕様ではないとわかるスピードで駆けていく四台のバイク。ゴツいサイズと装備とは裏腹にそこらの車はおろかスポーツカーすら置き去りにし、奇声と怒号を残して走り去ってゆく。

 

 

『この……ちょっとは速度を落としなさいAK-12!!』

 

『あら、この私と張り合うつもりかしら? ………ま、空気抵抗が少ない分は有利かもしれないわね』

 

『あ゛あ゛っ!?』

 

『フルスロットルでこの安定性、加減速性能も申し分ない。 私たち(人形)用にカスタマイズされているはずなのに驚くほどクセがない……!』

 

『周りの車の迷惑になるから……ダメだ、聞こえてない……』

 

 

 先頭を走るAK-12は出発前の文句はどこへやら。それを追う形で爆走するAR-15は、視線だけで人を殺せそうなほど怒りをあらわにしている。そこから少し下がったところで機体の機能や仕様を一つ一つ試していくAN-94だが、なんでもないところで武装を展開したり、急加速や急制動を繰り返すせいで周りがかなりビビっている。

 M4は本人の性格もあってできれば安全運転を心がけたいところだがそんな三人を放っておけず、追い越し際に周りに謝りつつ、一気に加速して先頭に出ると、ウインカーと手信号で進路の変更を促す。車通りの少ない道へ誘導することで周りに迷惑をかけないためではあるのだが、一番の理由は即座に止める(爆撃する)ことができるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてさらに少しして、冒頭の状況になる。

 

 

「遠回りと寄り道を繰り返した挙句、ガス欠なんて……笑えないわね」

 

「あんたのっ、燃費も考えないっ、爆走の結果でしょっ!」

 

 

 戦車などの戦闘車両の燃費が極端に悪いのは有名な話だが、軍用ということもありこのバイクももちろん燃費が悪い。様々な機能を持たせた結果重量が増し、その重量でも十分な運動性を持たせるためにパワフルなエンジン(超重量)を

 

 

「それを言うならAR-15も似たようなものです。 私も性能試験にかまけて、基本的な燃料配分を怠ってしまいました」

 

「そして、それを止められなかった隊長である私の責任でもあるわ……」

 

 

 本当ならぶつけてでも止めなければならなかったと悔やみつつ、与えられたばかりの装備を壊すことができなかったことと多少なりとも浮かれていた過去の自分に一人恨み言をこぼす。

 

 

「いや、その手段が爆撃なのはどうなのよ」

 

「いくら彼女(AK-12)が頑丈だからって、爆撃はちょっと……」

 

「あんた、MOD化してから爆撃魔みたいになってるわよ」

 

「そんなぁ……」

 

 

 周囲からそんな風に思われていたことに軽くへこむM4。ちなみにここにいる3人の他、AR小隊や404小隊をはじめとしたグリフィンの人形たち、ペルシカらIoPの人間や鉄血工造、そして代理人からも似たようなことを思われているのだが、それをM4が知るのはまだ少し先である。

 

 軽口を叩き合いながらバイクを押し進めること数十分、広大な畑の間に民家がポツポツとあるような場所にガソリンスタンドなどあるはずもなく、マップの最寄りのスタンドはまだまだ先。ヒッチハイクよろしく牽引してくれそうな車が通りがかるのを待つも、そもそも軍用の重量バイクを4台も牽引できるような車両が奇跡的に通ってくれるわけがない。

 これは帰りは日が暮れてからかな、と4人揃って半ば諦めかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 捨てる神あれば拾う神あり、とはこういうことを言うのだろうか。地平線に向かってまっすぐ続く道の対向車線ーーーつまりM4たちに向かって、田舎道にはとても似つかわしくない装甲車とトラックの一群が現れる。そしてM4たちの近くまで来ると、なぜか一斉に停車した。

 先頭の装甲車の上部ハッチから顔を出してのは、彼女たちのよく知る人形だった。

 

 

「ゲーガー、さん?」

 

「あぁ、見間違いかと思ったがやはりお前たちか……こんなド田舎で新しい訓練か?」

 

 

 よく見れば車両の側面には見慣れた鉄血工造の社章が描かれ、後続のトラックからワラワラと輸送部隊の面々……Aigisたちが姿を現す。どうやら大量の人形を納品した帰りらしく、荷台は空っぽだった。

 さて、鉄血工造といえば戦術人形業界においてIoPと二分する存在である。そのため、納品する人形も数体や十数体なんてものではない。そんな物量を支える専用のトラックは、当然ながら十分な積載量を持っている……軍用車を積み込めるくらいには。

 

 状況を理解した4人の行動は素早く、そして驚くほど統率が取れていた。つまり、4人揃って土下座である。

 

 

「「「「乗せていってください!!」」」」

 

「…………うん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、それは災難でしたね」

 

「笑い事じゃないですよ代理人〜」

 

「ごめんなさい、普段のあなたならそんなミスはしなさそうですから、つい」

 

「うぅ………」

 

 

 結局トラックに乗せてもらい、そのままS09地区まで帰ってこられたM4たちであった。が、初運転でガス欠などという初歩的なミスを道中の車内でいじられ続け、戻ってきたら指揮官から危険運転についてお叱りを受け、ペルシカにはまるで他人事のように爆笑され………。

 

 

「一回メンタルをリセットしたい……」

 

「まぁまぁ、失敗は誰にでもありますから」

 

「そうだよM4、ビークなんてニュートラルなのにフルスロットルまで回しちゃって」

 

「それは言わない約束でしょアーキテクト!?」

 

 

 グッタリするM4の隣で勃発するいつものドタバタ劇。店員含め誰も止めないといういつも通りな光景に、疲れもあってM4もクスリと笑う。

 

 

「とりあえず……おかえりなさい、M4」

 

「あ、うん………ただいま」

 

 

 

 

end




はい、というわけで半年ぶりの更新となりました。
あぁ、初期の毎日投稿してた頃が懐かしい……

執筆どころかハーメルンからも離れてたせいで他作者様方の作品も完全に浦島太郎状態だったり、気がつけばアニメ始まってたり、こんな投稿頻度なのに今でもコメントと誤字指摘もらえたり……本当にありがとうございます!!

今後も超スローペースになると思いますが、頑張って書き続けます!


てな訳で今回のキャラ紹介!………これやるのも久しぶりだな笑

・M4A1
規則は遵守、でも融通は利くタイプ。ただし、制裁方法は大体爆撃。
意外とメンタルが弱い。

・AR-15
今作ではMOD前も後もあまり変わっていない。
体形についてはそこまで気にしてないが、なぜかAK-12に言われるとイラっとくるらしい。

・AK-12
調子に乗りやすく、大体勝手に動くタイプ……だが、作戦中などはきっちり働く優秀な人形。ちなみに道中最も危険運転が多かったということで、指揮官主催の二輪講習(鬼モード)の受講が決定している。

・AN-94
生真面目だが流されやすく、特にAK-12に対してはかなり甘い。
性能試験と称して危険運転が多かったが、本人が反省しているのでそれ以上のお咎めはない。
バイクに目覚めたら一日中弄ってそうなタイプ。

・ペルシカ
性能試験とちょっとした息抜き……と称して帰りの交通費をケチろうとする16lab主任。おまけに燃料も半分くらいしか入れてない。
今回の一件の(名ばかりの)監督者ということになっていたため、ガソリン代と鉄血工造への輸送代を支払うことになる。

・ゲーガー&輸送部隊たち
あらゆる意味で無茶苦茶な戦術人形業界において数少ない、堅実かつ確実な仕事をすることで有名。
なお、隊長格が先頭車両に乗っていることについては、本人が最も強いから……というのが表向きの理由で、本当は「ゲーガーLOVEなAegisたちが鬱陶しいから」

・代理人
今回はとくに何もしていない。
常連でなくとも「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と言ってくれる。

・アーキテクト&ビーク
アーキテクトはサボり、ビークはそれに巻き込まれただけ。
この後M4からの通報でゲーガーにつかまった。


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