最終的には結婚して子供ができる話 (厚い雲の中)
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プロローグ
神が与えたこの世界には一定の法則があり、私達はその中で生きている。
音楽の和音のように、一つ一つの要素が重なり、それが何十、何万、何億と重なり、完璧な調和が起こっている。
普段は目に見えず、生き物に認識されないような、そんな真理は神のみが知り得るものであり、人間がそれを知り得ようものなら、その完璧な美しさに心を惑わせるだろう。
芸術家であった斎藤 聖(さいとう ひじり)は、この度、二度目の人生を与えられた。
聖(ひじり)は芸術家であったが、多くの芸術家のように自分を表現するということをしなかった。
聖は敬虔なクリスチャンであり、科学技術の発達した世の中でも、科学の、いや、世界の根底には、唯一の神の真理があると確信していた。
ゆえに聖は、芸術の中に神の真理を求めた。
神のつくりあげたであろう法則を自分なりに探求し続け、最終的にはたどり着いた.....いや、たどり着いてしまった。
聖が作品を完成させ疲労で倒れてしまった後、そこにきた自分の母親が、聖の作品を見た瞬間発狂し、作品をバラバラに壊し、近くにあったナイフで、聖を滅多刺しにした。
その後、原型の残らないほど細切れの肉片のなかで、母親もナイフで自分を刺した。
数日経って、不審に思った聖の知り合いが、家のなかに入ると、血だらけのはずのアトリエは、自分の胸を刺した聖の母親の身体があるだけだった。
慈悲深い神は、神に近づきすぎたゆえの聖の不幸に心を痛め、第二の人生を聖に送った。
僕、斎藤 聖(さいとう ひじり)は、前世で母に殺された後、同姓同名で違う肉体を受けた。
いわゆる、あの世、と呼ばれるところで神に会い、転生させられたのは良いが、『幸せに生きなさい』と神に言われたために、幸せに生きるという天命を全うしなければならない。
幸せ、と言われても思い浮かばない。
前世から、僕にとって母の言うことは、僕の拠りどころだった。
母は、素晴らしい存在だった。美しく、知的で、優しかった。
そんな母が、僕に教えてくれたのは二つ。芸術と愛情だった。『美しい芸術は金になるから頑張りなさい。』そう言って、ただひたすらに美しい芸術を僕につくらせてくれた。また、『お金をたくさん儲ける貴方を愛しているわ。』と、いとおしそうに僕を抱き締めてくれた。
僕は、幸せを教わっていない。
だが、母が僕と同じくらい大切に想っていた神は、僕に幸せになれと言う。
母のいない世界で、母との唯一の繋がりである神の言葉を無下にはできない。
僕は、この世界で、まず幸せを探すことを決めた。
短いですが、プロローグ的な感じでした。
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Section1 18歳【名探偵コナン】 1話
よろしくお願いします。
神に、幸せになれ、と言われた僕は、今“幸せ”を探している。
灰色の空が僕を押し潰し、無機質なビルが僕を眺めている。どんよりとした大気を、右側を通る車の排気ガスがさらに汚す。
「死んだら幸せな気がするなぁ。」
いや、神は幸せに“生きろ”と言ったのだから、それではダメだろう。
前世で、“幸せ”を感じたのはどんな時だっただろうか。
やはり、母と一緒にいた時のことしか思い浮かばない...。
「お兄さん!」
背の低い、眼鏡をかけた少年が僕に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「い、いや、お兄さんが死にたいって言ってたから...。」
無意識のうちに、考えを口にしていたらしい。
少年はとても不安そうに、僕を見ている。
「心配させちゃったかな。君は────」
「コナンくーん!」
少年の後ろから、走ってきた子ども達に気づいて言葉を止めた。
「コナンくん、誰と話しているんですか?」
僕を心配してくれた少年は、コナン君というらしい。
「この子には、少し道を聞いていたんだよ。」
あの、えっと、と言葉に詰まっているコナン君の代わりに、適当な返事を子ども達に返す。
じゃあ、と言って踵を返そうとすると、子ども達の中の一人に目が止まった。
「...お兄さん?」
子ども達が不思議そうに首を傾げていたが、少しの間、彼女から目を離すことができなかった。
赤みがかった茶色のウェーブの髪に、少し海外の血が混ざったような綺麗な顔立ち。
─────美しく、知的で、優しかった母にそっくりだった。
「君は.....。」
...母さんの生まれ変わりですか。と聞こうとして、踏み止まった。思考がぼやけていたことが幸いして、自分を客観的に見れた。
いきなり、君は母さんですか、と十代後半の男が、十才に満たない少女に言えば、少年が心配した以上に危ない人になってしまう。
「君たちは、この男の子の友達かな?」
咄嗟に言葉を繕う。
「うん!私達五人で少年探偵団なの!」
赤いカチューシャをした少女は嬉しそうに、満面の笑みだ。
「そっか。みんなで探偵さんをしているんだね。」
「うん!あのね、今から博士の家に行くの。お兄さんも行く?」
「うん?」
全く脈略の無い話で困る。探偵ごっこを博士という人の家でやるから来てほしいということか?
それに、いきなり会った初対面の人間を誘うなんて、警戒心が足りなさすぎるんじゃないだろうか。
「何で、僕を誘ってくれるんだい?」
僕が尋ねると、可笑しそうに手を口に当てて近づいてきて、耳を貸して、と言うと、
「お兄さん、哀ちゃんに見惚れてたでしょう?それに.....お兄さん寂しそうだったから。」
...なるほど。子供というのは随分と他人の心に敏感らしい。
「ははっ、そうか.....ありがとう。でも、その博士さんという人に迷惑だろう?僕は帰ることにするよ。」
いくら誘われたからといって、こんな急に他人の家に上がる気にはなれない。この子には悪いが、帰らせてもらおう。
「いや、来なよ、お兄さん。博士にはもうメールしといたからさ。」
...なるほど。携帯を弄っているな、とは横目で見て分かっていたが、コナン君は博士さんの所にメールをしていたのか。
そんなに、僕のことが心配なのだろうか。
どちらにしても、さすがにもう断れる雰囲気ではない。
「...わかったよ。じゃあ、よろしくお願いします。」
ありがとうございました。
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2話
よろしくお願いします。
芸術が宗教に影響されたように、科学技術も神を信じる宗教によって発展してきた“術”である。
この世界において、科学ないし真理を探究し続ければ説明できないことは起こらない。ごく一部を除いて。
これが、僕が前世で芸術を通して確信したことである。
そのごく一部が僕で、真理に近づきすぎたために死んだのだと、神に教えてもらった。
...同じ“術”を探究した者として、また、“術”を授かった者として、この博士という人間は単純に凄いと思う。現代の科学技術で再現できるラインを遥かに越えている。
他の作品に埋もれてはいるが、この中には、後2、300年待たなければ出て来ないような技術がたくさんある。
「博士さん!この機械は─────!」
「おお!この機械の凄さを分かってくれるのかね!?」
「ええ、ええ!実に先進的な作品ですね!」
「そうじゃろう!学会では理解されなかったのだが、これは─────」
始めは、仕方なくこの人の家に来たが、予想に反して、ここに来れたのは幸運なことだった。
科学技術は、真理の追求である。
ここまで話の分かってくれる人間は少ないので、この縁は本当に大切にしたい。
道を歩いている途中、スタイルの良い、ハットを被った銀髪の男の背が目に入った。銀髪という所から、俺の追っている“黒の組織”のジンを連想したが、明らかにジンより髪は短いし、体も細身だ。それに、何処と無く背中から悲しげな雰囲気が伝わってくる。
「死んだら幸せな気がするな。」
小さな声だが、聞こえたその言葉に焦って、その人に声をかけた。
「お兄さん!」
声をかけたその人が振り向くと、少し動揺した。
後ろから見た骨格から男性とは分かっていたのだが、見た顔は男性とは判断しにくく、カッコいいというよりは綺麗という言葉が似合う。
「どうしたの?」
「い、いや、お兄さんが死にたいって言ってたから...。」
その後、少し申し訳なさそうにしていたその人が口を開こうとして、少年探偵団がきた。
適当に理由をつけて、帰ろうとしていたその人を何とか連れて、阿笠博士の家に向かった。
少し強引だとは思ったのだが、死にたい、と言っていた人を放っておくこともできず、また、歩美が彼を連れていくのに乗り気だったため仕方なくだ。
それに、灰原を見た時の彼の表情が気になった。
「そういえば、お兄さん。僕、江戸川コナンって言うんだ。お兄さんの名前は?」
「そう。珍しい名前だね。僕の名前は─────工藤 聖(くどう ひじり)だよ。」
ありがとうございました。
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3話
よろしくお願いします。
「...なあ、灰原。あの人のことどう思う?」
博士と話が進んでいる聖(ひじり)さんを横目に、俺は灰原 哀(はいばら あい)に尋ねた。
こいつは俺を小さくした組織の科学者で、組織の人間に敏感だ。聖さんに怯えていないところを見ると、組織の関係者ではないのだろうが、彼が灰原に反応を示したことが気になる。
「どうって?」
「いや、組織の人間じゃねーだろうけど、お前から見て何か感じるところはねーのかよ。」
「さぁ...?銀色の髪をしているから、ジンと関係があるのかと疑ったけれど、顔も雰囲気も似ても似つかないわ。貴方が心配するようなことはないんじゃない?」
...確かにそうかもしれない。
だが、疑いの気持ちだけで彼を連れてきたわけじゃない。
「あの人、死にたい、っていってたんだよ。」
「え?」
「今は博士と楽しそうに話してるけど、俺が最初に会ったときは.....以前のお前みたいだった。」
灰原の姉、宮野 明美(みやの あけみ)が組織に殺され、また、組織に追われる恐怖から、生きる意味を見出だせていなかった時にそっくりだった。
「そう.....。なら、貴方が助けてあげればいいんじゃない?」
「は?」
「貴方が私を助けてくれたように、彼を助けてあげなさい。」
「お前なー、助けるって言ったって.....。」
灰原の場合は、敵がはっきりしていた。
けれど、彼については何故死にたいと言ったのかも、何故あんなにも暗い顔をしていたのかも分からない。
「らしくないんじゃない?分からないなら、推理するのが貴方の特技でしょう。小さな探偵さん?」
...確かに、そうだ。
今まで何故及び腰になっていたのか...。
分からないのなら調べて推理すれば良い。
「お前にそんなこと言われるなんてな...分かったよ。」
彼を死なせたりなんかしない。
「今日はありがとうございました。」
今日は運の良い日だった。
色々話を聞いていたが、博士さんは今度、仮想体感ゲーム機をつくるらしい。それに、僕の発想が面白いからと、一緒にアメリカへ行こうと言ってきてくれた。基本的に暇な僕としては、たくさん経験のできる場をくれることは有難い。まだ、少し先のことらしいので、今世の両親に相談して行かせてもらおうと思う。
「ああ、君との話は面白かったよ。また、よろしく頼むのぅ。」
「はい。」
頭を下げて、お礼を言うとちょうど、眼鏡の少年と僕の母親に似た少女が目に入った。
「せっかく連れてきてもらったのに、博士さんとばかり話していてごめんね。」
「気にしてないわ。」
「お兄さん、とても博士と話が弾んでいたね。お兄さんも研究者を目指しているの?」
難しい質問だな。研究者は真理を“きわめる”人のことを言うから、あながち間違ってはいないが、彼のいう研究者と僕の考えは違うだろう。
「...違うよ。僕はそんなに頭が良くないしね。普段は、芸術系統のこと全般を仕事にしているよ。」
「仕事に?」
「これでも、それなりにその道では成功できていてね...えっと君は女の子だから知っているかも。ちょっと耳を貸して?」
そう言って、彼女に僕の仕事用の名前を教えた。
ありがとうございました。
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4話
明けましておめでとうございます。
工藤くん───私が作った薬で幼児化し、江戸川コナンと名乗っている───彼が気にする聖(ひじり)という人の第一印象は、綺麗、この一言につきた。
ジンの銀色の髪は死を彷彿させるが、人が違うだけでこんなにも変わるとは思わなかった。
だが、驚いたのは博士の家に着いてからで、博士の机の作品を見るや否や、
『これは貴方が作ったんですか!』
と、博士に駆け寄り、満面の、庇護欲をそそられる可愛い顔で笑っていた。
そんな彼が、死にたい、と言っていたと工藤くんに聞かされたのは驚いたが、この私を救ってくれたぐらいだ。工藤くんなら、どうせ全て救ってしまうだろう。
他の子ども達が帰り、もう聖さんも帰ろうとしている。
「お兄さん、とても博士と話が弾んでいたね。お兄さんも研究者を目指しているの?」
「...違うよ。僕はそんなに頭が良くないしね。普段は、芸術系統のこと全般を仕事にしているよ。」
「仕事に?」
工藤くんが彼のことを知ろうと話を聞き出している。
私もあれだけ博士の話についていけるのだから、同じ研究者を目指しているのかと思っていた。
...それにしても、まだ学校に通っている年齢に見えるのに、働いているとは思わなかった。
「これでも、それなりにその道では成功できていてね...えっと君は女の子だから知っているかも。ちょっと耳を貸して?─────僕の名前はね、“カヌレ”だよ。」
「え...。」
「その反応は知っているのかな?」
私は首を縦に振ることしか出来なかった。
彼は、それなりに成功できていると言ったが、それなりどころではない。
“カヌレ”
その名前自体は世間にはあまり知られていないが、作品自体は誰もが知っている、世界的にも有名なデザイナーである。この前もカヌレがデザインした建物が東都に建っていた。
カヌレの凄い所は、そのデザイン力は云わずもがな、幅広い年代に幅広い作品で浸透しているところにある。
デザイナーというのは専門性が高い。ファッションやインテリア、建築関係等それぞれがほぼ独立してある。
カヌレはその点を越え、広くデザインを扱い、またそれを越えてデザイナーの仕事を越えた仕事にも手を出している。
そこまでいくと、一つでも失敗を起こしていそうなものだが、それもない。
“カヌレ”は視覚的に、ひいては聴覚的にも私達の近くにある。
何故、私がここまでカヌレを調べたかというと...
「...じゃあ、この前の“フサエブランド”のバッグも貴方が?」
「うん、そうだよ。」
「ほ、ほんとうに?」
私が好きなファッションブランドと共同で作ったバッグがとても好きになったからだ。
「んー、あのバッグを僕が作ったという証拠は示せないからな.....そうだ!今度出す次回作があるから、それを貰ってくれるかい?」
「っ!あ、ありがとう!」
今日はとても良い日だ。
本年もよろしくお願いします。
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5話
昨日、おみくじを引いたら大吉でした。
よろしくお願いします。
僕の家は、仕事場のある米花町から、電車で20分ほどの所にある。
数年前今の両親に引き取られてから住んでいるこの家は、とても広く小説や色々な資料があって、仕事の時には役立っている。
阿笠さんの家から帰宅した僕は、リビングへと向かった。
「おかえりなさい!」
「今日は随分と遅かったね。」
僕の今世の義理の親、工藤 優作(くどう ゆうさく)さんと工藤 有希子(くどう ゆきこ)さん。
数年前、今世の実の両親が死んで、身寄りの無かった僕を引き取ってくれた人達だ。
「ただいま帰りました。」
今世の両親は覚えていない。僕自身が両親に対して関心が無かったことに加えて、もともと一年に一度会うか会わないかの関係だった。両親が事故で無くなったと病院に呼ばれた時、両親本人かを確認してくれ、と医者に言われても出来なかったほどだ。家にあった写真なんかを見つけて確認はしたが、今世の両親などその程度の存在だった。
しかし、工藤夫妻にはとても感謝...どちらかと言えば申し訳ない気持ちが強い。年頃の息子さんがいるにも関わらず、快く僕を迎えてくれた。
両親の葬式で、
『今日から私が君の父親だ。』
と言われ、優作さんがあっという間に僕の保護者になり、葬式が終わった後手を引かれて、優作が泊まっていたホテルに行くと、
『有希子、この子は今日からうちの子だ。』
優作さんがそう言うと、一瞬驚いた顔をしていた有希子さんだったが、すぐに僕に近づいてくると、
『キャー!貴方何て可愛いの!この銀色の髪も綺麗!今日から私のことを“ママ”って呼ぶのよ!』
と、何の疑問も持たず、僕を迎え入れてくれた。
それから、今まで被っていた黒のかつらを取り上げられ、銀髪を晒してデパートに連れていかれ、服選び、もとい僕のファッションショーが開かれた。不満と言えばその一つくらいである。
いつもは空が暗くなる前に帰宅するのに、連絡することもなく遅くなってしまった。まあ今までも、仕事に熱中しすぎて連絡を怠ることは多々あったが。
「今日は、博士さんという方の家にお邪魔してきました。凄い作品が沢山ありましたよ。」
そう言うと、二人は驚いた後に難しく眉をひそめて、
「...そう.....そういえば来週は聖君、パーティーに呼ばれていたでしょう?明日は、三人でデパートに行きましょうね。」
「それは良いな。聖君、午前中は私が忙しいから、午後になったら、三人で行こう。」
「...はい。」
明日またファッションショーをやるのか、という気持ちと、あからさまに話を反らされたことを不審に思いながら、僕は自室へ戻った。
ありがとうございました。
大吉なのに、書いてある内容は厳しいものが多いです。
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6話
よろしくお願いします。
私と有希子と聖君の三人で、今日はデパートに来ている。
聖君が来週、仕事関係のパーティーだということで、服を買いにきた。
ファッションデザイナーでもある子だから、自分の服にも気を使うのかと思えば、自身の服には頓着しない。だから、もともと服が好きな有希子が選んであげている。
「...有希子さん、だんだんと服が女性ものになっていってますよ。」
「そんなことないわよー。ほら、次はこれね。」
...聖君も自分で服を買えば楽なのに、と思いながら口は挟まない。
しかし、聖君もこうやって私達とコミュニケーションを取ろうとしてくれている。
数年前引き取った日から、この子は敬語を崩さないが、実子の新一とは違った親子関係をつくれていると思う。
だからこそ、私は幸せに生きてほしいと思うから.....この子には新一に近づかないでほしい。
私と聖君の両親────斎藤 道之(さいとう みちゆき)さんと日左子(ひさこ)さんはアメリカで有希子と食事で相席になったときに知り合った。二人が先に座っている机に近づいていくと、会話の中で中学、高校、息子というワードが入っていたので有希子が無理やりその会話に入って行ったのだ。溺愛する新一と同じ年齢の親と会話する機会は少なかったので、有希子は話してみたかったのだろう。
だが二人が重い口を開き、話を聞いてみると、あまり気分の良い話ではなかった。
二人の間に子供が生まれたとき、その子は綺麗な銀髪だった。ただそれだけの理由で、道之さんは妻の日左子さんの浮気を疑った。日左子さん自身は身に覚えがある訳もなく、否定はしたがその時代には証明する方法もなかった。
聖君が成長するにつれて、夫婦間の関係も悪化。
元々、海外出張の多い二人の仕事の関係で、交互に養育費や面倒をみていたが、二人ともそれを重荷に感じ、互いに聖君を押し付けあっている状況だったらしい。
子供を持つ身としては、私と有希子は黙っていられず、二人の仲立ちをした。
道之さんの方は聖君が自分の息子として認められれば解決すると考え、私はアメリカの知り合いにDNA鑑定を依頼した。それで無事、聖君は二人の息子だということが証明された。
日左子さんの方は、よくわからないが、有希子と二人で話して帰ってくるとスッキリした顔をして道之さんの方へ向かっていった。
...これで全て解決すると思ったのだが、次の日の朝、有希子と二人で斎藤さん夫婦の泊まるホテルへ向かうと、二人は殺されていた。
ありがとうございました。
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7話
二人は一人の若い男に殺された。
しかし、殺した男も自殺に見せかけて殺されていた。私が推理できたのは殺した者がいるということだけ。犯人までは特定できず、今も迷宮入りだ。
数日後、私達は狭川夫妻の遺体と一緒に日本へ帰った。
それからまた数日経って、私は狭川夫妻の葬式へ向かい、有希子はその途中で雑誌の記者に捕まり、やむを得ず出席を見送った。
その日は寒い雨の日で、傘を打つ雨粒が重たく感じた。
葬式の会場へ入ると、真っ先に黒髪の少年に目が行った。変装の上手い妻と一緒に過ごしているから、その髪が上から被せているものだと分かる。
学校の制服だろうか、濃い藍色のブレザーを着た、落ち着いた様子の少年の横顔は随分と大人びている。全く表情を崩さず、視線は真っ直ぐ棺の方に向ける彼から感情は読み取れない。
「あれって、工藤優作さんじゃない?」
彼に目を奪われていると、そんな声が聞こえてきた。作家として、また世界的な大女優を口説きおとした男としても、私はよくも悪くも有名だ。
周りの視線が私に集まる。
こうなることは何となく予想はしていたから、足早に彼らの前を過ぎる。人と目を会わせれば、面倒なことになるので、前を見て室内の奥へ向かった。
二人の遺体に花を添えて、彼らの一人息子である聖君に目を向ける。
彼は一つ頭を下げ、私も頭を下げた。
彼と目が合って
「君が聖君だね。」
「そうですけど。」
...ほんの数秒間であったが、言葉がでなかった。私は沢山の人間に会ってきたからわかる。
彼は、この世の中で一番“完璧”だ。
容姿は言うまでもなく、表情、しぐさ、声のトーンに至るまで、全てが計算されているかのようだった。
言い方は悪いが、こんな子を道端に捨てるようにした彼の両親の気が知れない。
「...聖君、今日から私が君の父親だ。」
自然と私の口から出た言葉だった。
それからは早かった。無理矢理ではあったが、彼の親類に『聖君を両親から託された』と軽い(?)嘘を交えながら、聖君を引き取ることを了承させた。
調べてみると、狭川夫妻は世界を暇なく飛び回るようなワーカーホリックだったために、貯金の多さは馬鹿にならない。
そんな大金に惑わされず、聖君に愛情を注げるような人間はこの部屋には見当たらなかったので、私は正しい判断をしたと思う。私達なら、この子に愛情というものを教えてあげられると思った。
「聖君、君のことはご両親から聞いている。辛かっただろうと思う。でも、これからは私と妻の有希子を家族だと思って、十二分に甘えて欲しい。ご両親は─────」
ここで私は正直に、彼に両親の死因を告げた。あまり良い事だとは思わなかったのだが、聖君の様子を見て、正直に話して踏ん切りをつけて欲しいと思ったからだ。
「.....綺麗ですね。」
ボソッと彼の口から出た言葉に私は困惑した。
「何がだい?」
「工藤さん程の人でなければ、若い男が自殺ではなく殺人だということは分からなかったでしょう?他人に分からないような“もの”を作るなんて凄いですよね。...いや、そんなことを言うなんて不謹慎でしたね。すみません。」
その時から、その後聖君といる中で、私達は彼を新一と生活させるべきではないと思った。
聖君は人や物や事柄を、美しいか美しくないかで見る。
道徳的な感情はある。
しかし、犯罪を紐解く探偵か、謎を創作する犯罪者かを問えば、彼は後者だ。
私達夫婦は、芯の強い実の息子より、不安定な新しい息子、聖君を見守ることを決めた。
ありがとうございました。
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