大魔王に転生 (akyu)
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プロローグ

 転生というのをご存知だろうか。所詮二次小説である神様転生なんかだが、俺はその転生者だ。

 神様に会っていないが死んだのは覚えている。そうして目が覚めたら気づいたら知らない場所にいた。そこは、夜とは違う空が広がっており、また森も通常の木などが生えておらず変わった形の木ばかりであり、一言で言うなら悪魔などが住んでいそうな場所だった。

 

 いきなりの展開に呆然とし、自分の身体に違和感を覚えた。確認してみると、頭に大きく左右に伸びた角があり、服も自分の来ていた服ではなかった。

 自分の容姿が気になり、森の中を彷徨いながら湖を見つけ顔を確認する。

 

 そこに映っていたのは慣れ親しんだ自分の顔でなく頭から角を生やした金髪の男性の姿だった。

 その顔と姿は前世で読んだ漫画、ハーメルンのバイオリン弾きのラスボス・大魔王ケストラーそのままだった。

 大魔王ケストラーは冷酷無比にして絶大な力を持ち、自分の息子でさえ生贄としか見ず、配下の魔族に無尽蔵に魔力を供給する事が出来るために配下の魔族からも恐れられる存在だ。

 何故、ケストラーに転生したかは分からないが、ケストラーがいるということは、この世界はハーメルンのバイオリン弾きの世界、しかも原作より大昔と推測する。だからといって原作のケストラーと同じことをする気も、世界が欲しいわけでもないので図らずも原作は崩壊してるだろう。

 

 しかし、俺以外にも魔族が存在する可能性もある以上、自衛できなければ危険なため、力の確認をすることにした。取り敢えず原作のケストラーがやっていたようなことを試すことにする。

 

 まず、身体の中に感じる力・魔力を腕に込め振るうと直線上に地面が抉れた。

 次は足に魔力を込めて震脚をすると地震が起き、大きな地割れが発生した。

 最後に魔力を直接放つと、巨大な半球状の穴がいくつも開いた。

 

 それからいくつか試したが能力はケストラーそのままだった。その結果、周囲一帯を更地にしてしまったが、まぁ大丈夫だろ。

 

 能力の確認を終えて一息つきこれからどうするかを考える。俺は原作のように動く気もないし、これといった目的もない。

 それならばと思い、俺は魔界を探索することにする。原作には魔界についての描写がなかったので、実際どんな場所なのかと気になる。それと他の魔族や魔獣なんかに襲われても大丈夫なように、能力や力を使いこなせるようにしておく。

 

 一先ず、俺は更地にしたこの場所から離れ、魔界巡りをするため歩き始める。 

 

 後に、俺がケストラーとして転生したことがこの世界に大きな影響を与えていたとはこの時は思いもしなかった。



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食事

一気に時間が飛びます。


 この世界に転生して百年程経った。

 

 あの後魔界を放浪している。初めて魔獣に遭遇した時、急に現れたのと初めて見ることから驚き、咄嗟に魔力を放ち魔獣を消し飛ばしてしまった。さらには射線上にあったものまで巻き込んでいた。

 このことから俺は経験を積むために、いろいろな魔獣に喧嘩を売った。お陰で度胸もついた。

 

 放浪している中で自身について気づいたことは、俺の食事は普通の物も食べられるが、今の俺の好物になっているのは強い力を持った存在の魔力や血だった。最初は原作で血ないし魔力を食らっていたのを思い出し、好奇心から倒した魔獣も血を飲んだら美味しかった。そのことに対して罪悪感はなく、もっと美味いものを食らいたいという思いが強かった。そして改めて俺は、自分がケストラーになってしまったと実感した。

 それから俺は色々な物を見るためと、美味い食事を目的にフラフラしていた。格の高い魔獣の味に慣れてしまうと、それより下の存在を不味く感じてしまうのが欠点だな。

 

 

 そして現在俺は何をしているかというと------

 

 

 「貴様だな。ここ百年程、辺境の魔獣を殺しているのは」

 

 自分と同じ人型の魔族・悪魔達に囲まれていた。彼らは最近、辺境の魔獣が減少していることに気づき調べた結果百年程前から魔獣が分かり、原因を探ったところ俺の存在に気づいたらしい。

 そして魔王から指令を受け俺の元に来たらしい。

 

 「どうした、答えろ!」

 

 取りあえずは答えるか。

 

 「ああ、魔獣が減っているのは俺が原因だな」

 

 「! なぜ魔獣を無作為に殺している」

 

 何故?こいつらは俺と違って血や魔力を食わないのか・・・・・・一応答えておくか。

 

 「魔獣を喰らうためだ」

 

 「喰らう、だと?」

 

 「正確には強い存在の血と魔力だがな」

 

 「「「「!?」」」」

 

 どうやら俺の食事は彼らにとっても異様らしい。彼らから強い警戒心と怖れを感じるな。

 そう言えば彼らも魔力を持っているな。どんな味がするか興味がある。

 俺は彼ら全員に視線を向けるとさらに警戒心を強めた。まぁ、無駄だがな。

 

 「さて、君たちの魔力はどんな味がするのか------楽しみだ」

 

 「!? 全員、奴に攻撃を仕掛けろ!」

 

 司令官の悪魔が攻撃命令を出すが、もう遅い。

 俺は魔力で杯を創り出し、それを彼らに向ける。

 

 「ガッ!?」 「な、何だ!?」 「ち、力が、抜けていく!?」

 

 素手でもできるが、杯でやったほうが趣がある為、杯を使っている。因みに俺は人型の存在を血の雫に変えて喰らうのにはまだ抵抗があるため、今回は魔力を直接喰らうことにする。

 

 そうして魔力を吸い尽くされた彼らは全員地に倒れ伏し、意識のある者は俺を見上げている。

 

 「き、貴様。何を、した・・・・・・」

 

 「先ほど言ったとうり、単なる食事だ」

 

 「魔力を、喰らう悪魔なぞ、聞いた、こともない」

 

 「それはそうだろう。これは俺自身の能力のようなものだ」

 

 それだけ答えると、俺は杯に満たされた魔力を飲み干す。

 

 「ふむ。魔獣よりは魔力は多いが、質が少しイマイチだな」

 

  杯を消し、その場を立ち去ろうとするが、背後から誰かが立ち上がる音がし、そちらに視線を向ける。

 

 「ま、待て・・・・・・」

 

 「何か用でも?」

 

 「貴様を、野放しには、できん。刺し違えてでも、この場で貴様を殺す!!」

 

 彼らの指令らしき悪魔が向かってくる。槍を持って俺を貫かんと突貫してくるが、俺は面倒なので少し眼に魔力を込め放つ。

 

 「「「「!?」」」」

 

 そして司令官の悪魔は、足首から下を残し消滅した。

 

 「そ、そんな・・・・・・」「瞬きだけで、消し飛ばした?」「ば、化物・・・・・・」

 

 残りの奴らが何か言っているが、振り向くことなく、俺はその場を立ち去る。

 そう言えば彼らは、魔王から指令を受けてきたと言っていたな。魔王か、こちらから敵対する気はないが、あちらから敵対してきたら遠慮なく喰らうとするか。

 

 まぁ、今は人型の存在の血にも慣れとかなくてはな。

 

 

 

 



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人間界へ

最初、前話と同じ感じですがご容赦を。


 あの悪魔達を撃退してからというもの、次々と悪魔の部隊が俺に襲撃を仕掛けてくるようになった。あの時の悪魔達が俺のことを魔王に報告したらしい。その結果、魔王は俺を危険と判断し、本格的な討伐命令を出したらしい。魔力だけ喰らい、生かしてたのがアダとなった。

 

 

 「ケストラー!今度こそ貴様を滅ぼしてくれる!!」

 

 そして今回も悪魔達は俺の討伐に来ているが、いい加減目障りになってきた。いい機会だしこいつらで血の味見をしてみるか。ま、一応忠告はしてやるか。

 

 「貴様らこそ、いい加減諦めたらどうだ?俺に敵わないのは理解できるだろう」

 

 「黙れ!近々天使と堕天使との戦争が始まろうとしているのだ。それまでに不確定要素を排除する必要がある。危険の芽は早めに紡いでおく必要があるからな」

 

 天使と堕天使との戦争?

 

 「戦争とは初耳だな?」

 

 「貴様はそれも知らないのか。堕天使とは冥界の覇権をかけて争っていたが、そこに神の命を受けた天使が介入し始め、天使どもは我々悪魔と堕天使を滅ぼそうと進行してきた。争いは拡大し、もはや冥界だけでなく世界の覇権をかけた戦争が始まろうとしているのだ」

 

 「そこで悪魔だが従わない俺を始末しようというわけか」

 

 「その通りだ。さて、お喋りはお仕舞だ。死ね、ケストラー!」

 

 悪魔達は魔力による攻撃を開始した。俺はそれは魔力防壁を張り防ぎながら思考する。

 原作では天使や堕天使と悪魔の戦争はなかったと思うが・・・・・・。この世界はハーメルンの世界じゃないのか?このあと人間界に行き確認する必要がありそうだな・・・・・・まぁ、まずは食事を済ませるか。

 

 手に杯を出す。

 

 「奴が杯を出したぞ!魔力結界を発動しろ!!」

 

 どうやら、奴らは対応策を講じてきたらしいが無駄だ。今回は貴様らそのものを喰らう。

 手に魔力を込め、悪魔達を結界ごと一纏めにしていく。

 

 「なっ、魔力を喰う、だけじゃ、ないのか」

 

 「まだ人型の存在を喰らうのに抵抗があっただけだ。今回は貴様らの命も喰らう!」

 

 「「「!?」」」

 

 奴らは慌てて抵抗しようとしているが、もう遅い。杯を持っている手とは逆の手を掲げ、拡げている手を閉じる。

 

 「「「「ギ、ギャアアアァァァァァ!!」」」」

 

 断末魔を上げながら悪魔達は圧縮されていき、血と魔力そして命の雫になり杯を満たす。

 そして杯に満たされた雫に口を付ける。

 

 「!?・・・・・・クッ、ハハハハハハハ! 美味い!想像していたよりも美味いじゃないか!」

 

 奴らはそれほど格は高くなかったが、それでもこれだけの味なら、さらに格の高い悪魔はどんな味がするんだ?それに天使や堕天使にも興味あるな。

 俺は上機嫌になりながらその場を去る。

 

 残されたのは悪魔達が持っていた武器が、歪な形で放置されているだけだった。 

 

 

 

 

 

 冥界・悪魔領の首都ルシファードの王城。その一室の円卓に四人の男女が座っていた。

 

 四大魔王ルシファー、レヴィアタン、ベルゼブブ、アスモデウス。いずれも魔王たる実力を兼ね備えた者たちである。

 彼らは、天使と堕天使との戦争に向けて軍備を整え、また魔に属する所属への協力要請などを行っていた。

 しかし、彼らを悩ませる存在がいた。

 

 「ケストラー討伐の部隊はどうなった?」

 

 「監視役の者の使い魔の映像によると、ケストラーに喰われたらしい」

 

 「喰われた?奴は魔力のみしか喰らわんのではないのか!?」

 

 「それが魔力だけでなく、その身までも喰らったそうです・・・・・・」

 

 その報告を聞き、一同は沈黙する。大事の前の小事として、不確定要素であるケストラーを排除しようとしていたが、自分達の想像をはるかに超えた化け物であったからだ。

 

 ‘ゴゴゴゴッ’

 

 突如空気を震わせるほどの振動が冥界に響いた。振動はすぐに止んだが、通常ではありえない現象が起きたため、魔王達は同様が隠せないでいた。

 そこへ魔王達がいる部屋に悪魔が一人慌てて入ってきた。

 

 「どうした、何があった!?」

 

 魔王の一人ルシファーは、いきなり入ってきた悪魔に報告するよう告げる。

 

 「さ、先ほど、抹殺対象の悪魔・ケストラーが次元の壁を破り、人間界へと向かいました」

 

 「「「「!?」」」」

 

 魔王達はその報告を聞き戦慄した。人間界への移動は通常、専用の転移用魔法陣を使うか、または専用の移動機関を使うのが普通である。

 しかし、ケストラーはそのどちらの方法も用いることはなく、力ずくで次元の壁を破り人間界へと向かった。次元の壁を破ることはひと握りの存在しかできない。代表例として、真龍と龍神。そして彼ら悪魔と敵対する天使の主・聖書の神である。

 その事実は、ケストラーの異常性を再確認させた。しかし同時に冥界に戻ってくるかもしれないという懸念はあるが、ケストラーが冥界を去ったという事実は魔王達にとっては吉報である。

 

 「ならばケストラーのことは今は捨て置け。今の内に天使と堕天使どもとの戦争の準備を進める。異論はないな?」

 

 ルシファーの言に反論はなく、戦争の準備を進めるべく動き始める。戦争開始は近い。 



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ドラゴン

 悪魔達を喰らった後、魔力で人間界への出入口を造り人間界へと渡った。俺は最初に上空から人間界を見たが、大陸の形が前世と同じだった。そこから俺はこの世界がハーメルンの世界でないと悟った。だからといって、前世の世界の過去かと言われるとそれも違うと思う。

 力を隠し、人の中に紛れて話を聞いていると、今は俺がいた前世の年代から千年以上も前で、人間はドラゴンや魔獣といった存在が実在することを知っており、教会の戦士や国の軍隊が討伐に行ったという話が聞き取れる。

 そのほかには、別の神話の存在も実在することがわかったが、こんなごった煮状態の世界よく破綻しないなと思う。

 取り敢えずは、俺はせっかく人間界に来たので、百数十年ぶりに血や魔力以外の物を食べたいと思い、街を探索することにした。

 

 

 

 

 数十分後、俺は街から離れたドラゴンがいると噂の森へ来ていた。あの後、普通の食事を摂ったが、現代の料理の味を舌がまだ覚えていたようで、ほとんどの料理が口に合わなかった。ワインは物によっては美味しかった。

 

 そして俺は口直しとして、まだ喰らったことのないドラゴンを目当てに、街の住人が噂をしていた森へとやってきた。噂の信憑性としては、森に入った人が行方不明になり、そのことを知った教会が、教会所属の戦士を派遣したらしい。

 俺も森へ入り、奥の方から血の匂いと、魔獣以上の力を持った存在を感じた。

 

 これは当たりだな。しかし、人間も入ってきてるとはな。先を越されるのは癪だ、少し急ぐか。

 俺は足に力を込め、強い気配のある方へ急いで向かった。

 

 

 

 数分ほど走った後、目的のものが見えた。そこには、焦げ茶色のウロコに覆われた翼がない、十五m程の地竜が馬を食べていた。恐らくは森に入った人間の乗っていた馬だろう。

 初めて見るが、この個体はドラゴンとしては小さいほうだ。しかしそれでも、その身に宿す力は今まで喰らった魔獣よりも上質だとわかる。

 そんな風に観察していると、地竜もこちらに気づいた。

 

 「ギャオオオオオォォォォ!!」

 

 咆吼し、俺を喰らわんと突進してくるが、俺はそれを避けずに右手を前に突き出すことで受け止めた。口を塞ぐように掴んでいるので、口を開けることのできない地竜は首を振り、俺の拘束を振り払おうとしているが、俺の見た目以上に込められっている力により、それも叶わない。

 ならばと、地竜は鋭い爪で切り裂こうとしてくるが、それを空いている方の手で捉え、腕ごと引きちぎった。

 

 「ッ!!!!!???」

 

 地竜は腕を引きちぎられた激痛で悲鳴を上げようとするが、俺が口を抑えているため口を開けることすらできない。そのまま俺は地竜を持ち上げ、死なない程度に力を込めて地面に叩きつける。

 叩きつけた衝撃で、木は吹き飛び、地面には地竜を中心に小さなクレーターができた。

 

 「ギ、ァァ・・ァ、ァ」

 

 地竜は悲鳴もあげる力も残っておらず、ちぎれた腕と全身から血を流している。

 

 「このまま血を流されてはもったいないな。すぐにその命ごと喰らってやろう」

 

 杯を取り出し、それを地竜にむけ、地竜の全てを杯に注いでゆく。

 

 「ッッッッ!!!」

 

 杯に全てを吸われていく激痛に悶え苦しむが、逃れる力もなく、地竜は数分も経たずに全身が崩れ、塵となった。

 俺はそれに目もくれず、杯に満たされた命の水を飲み干す。

 

 「クッ、ハハハハハハハ!予想以上に美味い!魔獣や下級悪魔と比べるまでもない!しかもこれで弱い個体とは・・・・。これより強いドラゴンにはさらに期待できる!!」

 

 ドラゴンは力の塊と言われているが、この味を知れば納得だ。俺は上機嫌となち、暫くはドラゴン狩りでもするかと考えているところに、人の気配があった。

 

 「邪悪な悪魔め!ここで何をしている!」

 

 全員が十字架を下げ、剣や槍を等を武装した人間達がいた。おそらくは教会が派遣した戦士達だろう。

 俺は気分が良くなっていた時に水を差すように現れた人間達に対し、不快感を顕にする。

 

 「もう一度聞く。この森の惨状は何だ、貴様はここで何をしていた!?」

 

 いちいちうるさい奴らだ。ドラゴンを喰らったばかりで、それよりも不味そうな人間を喰らう気にならない。どうするか思考していると、俺を観察しているような存在の気配を感じた。正確な場所は分からないが、確かに俺を観察している。

 だが、問題はそこではなく、そいつは先ほど喰らったドラゴンよりも上物だということ。俺は口に笑を浮かべ、知らず知らずのうちに魔力を放出していた。頭の中にあるのはそいつを喰らうこと。人間など眼中になかった。しかし、しばらくするとその気配の持ち主はいなくなっていた。

 

 「チッ!逃したか。まぁいい。気配からしてドラゴンだろうが、あんな上物がいるとわかっただけでも収穫か」

 

 気を落ち着かせ、先程までうるさかった人間どもを見ると、全員気絶し倒れていた。俺は殺す気も起きなかったので、そのまま放置して人間の街に戻っていった。

 

 

 

 

 

 俺、クロウ・クルワッハは、キリスト教の介入が煩わしくなり、修行と見聞を兼ねて人間界を回っていた。 今回俺は、感じたことのない悪魔の気配を察知し、そいつの気配がする森へ来ていた。この森には下級の地竜の気配もあったが俺の敵ではないだろう。

 そうして件の悪魔を観察していると、奴は瞬く間に地竜を殺し喰らっていた。今までいろんな悪魔を見てきたが、ドラゴンを喰らう悪魔は見たことがなかった。驚いている間に、悪魔を囲むように武装した人間達がいた。

 敵うはずがないので、すぐに殺されるだろうと思っていたところ----奴に気づかれた。

 正確に俺のいるところを察知したわけではないだろうが、奴は観察していた俺に気づいた。それと同時に放出された魔力にゾッとし、俺はすぐさま奴から逃走した。

 戦いと死を司ると言われた俺が心から恐れた。戦いにすらならずに殺され、命を喰われることを想像すると身体が震えた。あの化物とは戦いたくない。そう、思わずにはいられなかった。  



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出会い

 ドラゴン狩りをする為、人間界のいろんな場所に赴いたがなかなか見つからない。見つけたとしても下級、良くて中級クラスのドラゴンばかりで、あの時のクラスのドラゴンは見つけられないでいた。

 そこで俺は息抜きも兼ねて人間の街に来ていた。最近分かったことだが、人間の中にはドラゴンに匹敵する力を有する人間もいるらしい。そいつらは時には聖人や聖女。または魔女なんかと言われている。たまたま喰らうことができたが、質としては確かにドラゴンに匹敵する。だが、ドラゴン以上に数が少ないのが残念だ。

 

 それと俺には関係ないが、悪魔、天使、堕天使の陣営が小競り合いから、大規模な戦闘を行い始めたそうだ。昔悪魔が言っていた戦争が始まったらしい。その戦争に他種族の者も参加しているという話を聞いた。そんな風に思考していたためか、前から歩いてきていた人間にぶつかってしまった。

 今は悪魔として活動しているわけではないので、取り敢えずは転倒させてしまった人間へ謝罪の言葉を言おうと視線を向け、俺は停止した。

 

 「イタタタ・・・・・・すいません、考え事をしていたもので。貴方は大丈夫ですか?」

 

 その人物は長い金髪に黄金の瞳をし、法衣の上からでも分かる女性らしいスタイル、その顔は大人でありながら幼い少女などが持つ純粋さを持っていた。俺はそんな彼女に見蕩れてしまっていた。前世も含めてこのような女性に会ったことも見たこともなかった。

 

 「あの、大丈夫ですか?」

 

 女性は、今だに見蕩れていた俺に心配そうに声をかけてきた。

 

 「あ、ああ、すまない。大丈夫だ。それとこちらこそ考え事をしていたもので前を見ていなかったよ」

 

 「よかった、怪我がなくて」

 

 彼女は安堵したように笑を浮かべる。しかし彼女の格好から察するに教会上層部の関係者だろう。そんな彼女が考え事をしながら一人で歩くものだろうか?

 

 「そう言えば、貴女のような女性が何を考え込んでいたんですか?」

 

 俺がそう聞くと、彼女は顔を伏せ、少し思案したあと顔を上げた。

 

 「このことはあまり話さない方が良いのですが・・・・少しあちらのお店で話しませんか?」

 

 「ああ、構わないよ」

 

 そうして俺と彼女は、彼女が指し示した酒場へと入っていった。

 

 

 

 

 適当な席へ向かい合うように座る。

 

 「自己紹介がまだでしたね。私の名はエルといいます。エルとお呼びください。格好からわかるとうり教会の者です」

 

 「俺はケストラー。一応旅人かな。俺もケストラーで構わない」

 

 俺達は軽く自己紹介をしたあと話に入った。

 

 「それではケストラーとお呼びします。それでケストラーはこの街より離れた森にドラゴンがいたという話を聞いたことはありませんか?」

 

 この街から離れた森のドラゴンといえば、俺が喰らった地竜のことか。

 

 「知っている。確か教会のが戦士を派遣して討伐に行ったという話のことですか?」

 

 「はい・・・・・ですが、派遣された戦士達が見たのはドラゴンではなく、そのドラゴンを喰らっていた悪魔だったのです」

 

 間違いなく俺だな。

 

 「悪魔・・・・・・」

 

 「ええ。そこで戦士達は急遽討伐の対象をドラゴンからその悪魔にしました」

 

 彼女はそこで一拍置き再び口を開く。

 

 「しかし、悪魔から放たれた凶悪なまでの魔力に戦士達は気絶してしまいました。幸い、戦士達は悪魔に殺されることはありませんでしたが、その悪魔のことを思い出すだけで恐怖し、ひどく怯えていました・・・・・・」

 

 あの時は極上の獲物が見つけて気分が高揚していたからな。まぁ、すぐに逃げられたが。

 

 「それは大変だったな。しかしそれがエルと何の関係があるんだ?」

 

 「その話を聞いた教会上層部は私も含めて、その悪魔を調査することにしたのです。私は微弱ながら悪魔の気配があったこの街の調査に来たのですが、なかなか手掛かりが見当たらず考えことをしていたらケストラーにぶつかったというわけです」

 

 それで今に至ると。

 

 「だが、エル一人でその悪魔をなんとかできるのか?」

 

 「フフッ、こう見えても私は強いですよ」

 

 そう言われ、少し探ってみると莫大な聖なる力を感じ取れた。凄まじいな・・・・・・・

 

 「強くても、さっきみたいに考え事してたらやられてしまうぞ」

 

 少しからかってやると、エルはムッとした顔になった。

 

 「もう!それを言わないでください」

 

 「ハハッ、悪かったよ」

 

 その後、俺達は他愛のない会話をする。

 

 「っと、もう行かないと・・・・」

 

 暫くするとエルはそう言い、席から立ち上がる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「もう、教会に戻る時間で・・・・今日は少しでしたけどケストラーと話せて楽しかったわ」

 

 「俺もだ。こんな気持ちになったのは、すごい久しぶりだ」

 

 「また機会があったら話しましょう」

 

 「ああ、そうだな」

 

 エルはそう言い残して店を出ていき、俺は座ったままそれを見送る。彼女が去ったあとも俺はそこに座ったままだった。

 本当に久しぶりだった。悪魔として生まれ変わり、気の向くままに魔獣や悪魔を喰らうばかりで、エルと会話したようなことは転生してからは一度もなかった。

 何か満たされるような感じがした。それと同時にエルを、彼女を俺のものにしたい。そんな思いが心を占めた。このように思ってしまうのは、自分が完全にケストラーになっていることなのだろう。だが、そんなことは些細なことだ。俺は何としてもエルを手に入れる。俺は知らず知らずのうちに、笑を浮かべていた。

 

 取り敢えずそれは置いておこう。後ろの奴と話すのが先か-----

 

 「それで俺に何のようだ」

 

 俺はエルがいなくなってから背後に立っていた悪魔に座ったまま問いかける。

 

 「お初にお目にかかりますケストラー様。私は代々四大魔王ルシファー家に使えるルキフグス家の者、グレイフィア・ルキフグストと申します」

 

 彼女、グレイフィアは丁寧に挨拶をしてくるが、そんなことより四大魔王が俺に何の用かが気になる。

 

 「今更魔王が俺に何のようだ?」

 

 「この度、ルシファー様を含めた四大魔王様全員が貴方と会談したいと申しました。そこでご足労ですがルシファードにある王城まで着ていただけますか?」

 

 会談?今まで俺を殺そうとしてきた奴らが今更話し合いか。

 

 「普段なら断るとこだが、今は気分がいい。いいだろう。四大魔王に会ってやる」

 

 俺が答えると、店の路地へ移動し、グレイフィアは転移魔法陣を展開し、俺とグレイフィアは冥界悪魔領の首都・ルシファードへ転移した。

 

 

 

 

 

 教会本部の最奥に一人の女性、エルが歩いていた。  

 華美な装飾はなく、いっそ質素と言ってもいいものだが、この場所には普通では感じられない神聖さがあった。

 そんな場所を歩いている彼女の前に光が照らし出された。金色の光に照らされながら一人の美青年が降りてきた。彼は金色の長髪に優しさを感じさせる顔立ちに装飾の施された衣服を纏い、背中から十二枚の金色の翼を生やしていた。

 熾天使(セラフ)の一人にして天使を統括する天使長・ミカエルである。

 

 「ミカエル。どうかしましたか?」

 

 「主よ、どうしたのではありません。悪魔や堕天使との戦争がある時に、急にいなくなられては困ります」

 

 主と呼ばれた彼女、全ての天使の主である聖書の神・エル=シャダイは苦笑と共に返した。

 

 「すいません、ミカエル。どうしても気になることがあったもので・・・・・・」

 

 「気になることとは・・・・・・一体?」

 

 エルは一拍おき、答える。

 

 「今回、悪魔と堕天使と戦争をする理由はわかりますね?」

 

 「はい。近年、人間界で活動が活発になってきた悪魔と堕天使に対する抑止のためですね」

 

 その答えに満足するようにエルは頷く。 

 

 「ええ、その通りです。しかし、それだけではありません」

 

 「それ以外にも理由が?」

 

 「百数十年ほど前、冥界にとてつもない邪悪な気配を感じたのです」

 

 「邪悪な気配?」

 

 「冥界でしたので詳しくは知ることはできなかったのですが、その邪悪な気配は一人の悪魔だったのです」

 

 そのことにミカエルは驚きつつも疑問を覚えた。

 

 「主よ、それは貴女が気にするほどの悪魔なのですか?」

 

 「最初は気のせいだと思っていました。ですが最近人間界で同じ気配を感じたのです」

 

 「!?」

 

 ミカエルは驚愕するがエルは構わず続ける。

 

 「そこで今回、私が直接近くにあった人間の街に調査に行ったのですが、手がかりは掴めませんでた」

 

 そこまで聞き、ミカエルは目を見開き主であるエルを見た。

 

 「もしや、今回の戦争のもう一つの目的とは・・・・・・」

 

 「そうです。その悪魔を滅ぼす、もしくは封印が目的です」

 

 エルはまだ見ぬ悪魔に対して言うように断言した。 



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会談

 

 

 冥界悪魔領の首都・ルシファードの王城の一室に四大魔王とその従者であるグレイフィア・ルキフグス。そしてケストラーの六人がいた。

 ここで行われる四大魔王とケストラーの会談は正式なものでなく秘密裏に行われるため、この場にいる六人以外は部屋はおろか、周辺に一人もいない。

 六人、正確には四大魔王とケストラーの五人の会談はルシファーが口を開いたところで始まった。

 

 「初めまして、といったところか。私が今回君と会談したいと言った、ルシファーだ」

 

 「能書きはいい。俺を呼んだわけを話せ」

 

 俺の態度が気に入らないのか、室内にピリピリとした雰囲気になってくるが気にすることもないので、俺はいつもと変わらぬ態度のままだ。

 

 「報告にあった通りの奴だな。まぁいい。今回君を呼んだのは我々悪魔の陣営に正式に入ってもらうために来てもらった」

 

 「何?」

 

 どういう事だ?今まで俺を始末しようとしていた連中が仲間になれだと。

 

 「今まで俺を目障りに思っていた奴らが、どんな心変わりだ?」

 

 「その事についてだが。ケストラー、君は今我々悪魔、天使、堕天使の戦争があるのは知っているな」

 

 「ああ。俺がその戦争に影響を及ぼすのではと思い、お前らが始末しようとしていたこともな」

 

 少々、皮肉を入れてみたがルシファーは、その通りだと頷くだけだった。

 

 「そうだ。しかし、そこで私は一度考えを改め、君に我らの陣営に入ってもらおうと考えた。もしくは敵対しないと確約してくれればいいとな」

 

 「成るほど。俺を始末できないのであれば、内に入れてしまおうというわけか」

 

 「そうだ。返答はこの場で言ってもらいたい」

 

 ふむ。こいつらとしては戦争における戦力とも考えているのだろうが、俺が大人しく命令に従う気がないと考えて敵対しない約束をさせたいわけか・・・・・・・。

 デメリットは今のところないか・・・・・・・。丁度いい。ケストラーの名称だけでは寂しいと思っていたところだ。

 

 「いいだろう。お前たちの提案を受けよう」

 

 「そうか!よかっ「ただし」?」

 

 ルシファーが言いきる前に中断させる。

 

 「お前達が俺の下になれ」

 

 俺がそう言うと、室内は暫し沈黙に包まれ、次の瞬間、四大魔王全員から怒号が飛ぶ。

 

 「ふざけるな!!!」

 

 「貴様!我々を愚弄するのもいい加減にしろ!」

 

 「このような提案を受けるだけでなく、今までの貴様が我らの陣営に与えた損害を許そうというのに!」

 

 その他にもまだ罵詈雑言が飛んでくるが、俺はいい加減五月蝿くなったので黙らせることにした。

 

 そして、突如室内に凶悪なまでの魔力が襲いかかった。

 

 「「「「「!!??」」」」」

 

 俺から発せられる魔力の圧力に四大魔王はテーブルに突っ伏している。椅子に座っていなかったグレイフィアは床に倒れている。

 

 「少し黙れ。俺は自分より弱い奴らの下につく気はない」

 

 魔王達は突っ伏したまま聞くことしかできないでいるが、構わずに続ける。

 

 「それに話は最後まで聞け。俺がお前達のトップにたったとしても、それは便宜上の話だ。お前達のやり方に口を出す気はない。ただお前達のような称号が欲しいんだ。大魔王という称号がなぁ」

 

 「「「「「!?」」」」」

 

 「それと、お前達が頼み事をしてきたら、俺の気分次第では手を貸してやろう。どうだ?」

 

 そして、返答を聞くために魔力の放出を止める。

 

 「っ、ハァッ、ハァッ!・・・・・・・・・いいだろう。ケストラー、君の要望を受け入れよう」

 

 「ルシファー!貴様それでいいのか!?」

 

 「ベルゼブブ。例え我ら四大魔王が束になろうとケストラーにはかなわん。それに形式上は奴が大魔王となろうと、今までと変わらず、ケストラーの気分次第だが、我らの協力要請を受けると言っているのだ。これ以上の結果はあるまい」

 

 「クッ!」

 

 ルシファーは他の魔王達を見回し、反論がないか確認する。

 

 「反対の者はいないようだな。では俺はこれより大魔王ケストラーと名乗る!それとルシファー。これを貴様に渡しておこう」

 

 そう言って俺は一枚の術式の書かれた栞を渡す。

 

 「これは?」

 

 「俺との通信手段だ。魔力を込めるだけで発動する」

 

 「・・・・・・いただこう」

 

 「では、会談は終わりだな。俺は帰るぞ」

 

 俺は四大魔王達に背を向け扉へと歩いてゆく。背後から怒りと憎しみをぶつけられるが俺にとっては心地よいだけだ。そして今だに恐怖に震えて立てずにいるグレイフィアを一瞥し退出する。

 

 「クッ、ハハハハハハハハハッ!」

 

 ケストラー、いや大魔王ケストラーは笑い声とともに冥界を後にした。

  




ついにケストラーから名称が大魔王ケストラーになりました。


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三陣営と二天龍

 人間界、冥界、天界の間に存在する次元の狭間。

 そこには大昔の文明の遺産、または兵器が漂流している。そして、そこを支配する真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)グレート・レッドがいた。

 

 そんな空間に一つの天を貫かんばかりに尖ったような形状の城が存在していた。その城の玉座に足を組み、目の前に映し出されている三陣営の戦争の映像を見ている人物がいた。この城の主、大魔王ケストラーであった。

 

 映像には悪魔、天使、堕天使の戦争が映し出されている。俺はあの会談のあと、とりあえずの住居として昔冥界から人間界に渡った時に通った次元の狭間に自分の城を建てた。それからは、偶に人間界に赴き未開の土地に罠を仕掛けて、そこに入った者の命を、俺の杯に注がれるようにした。だが人間は俺からしたら質も低く、量も少ないので微妙だ。

 暇つぶしとして三陣営の戦争を眺めているが、拮抗したままこれといった進展はなく退屈だった。ただ、その戦争で俺がモノにしたいと思ったあの時の女、エルが聖書の神だったのには驚いた。手に入れるのは難しいが、諦める気は毛頭ない。

 

 そんな風に思考していると映像に変化があった。突如、戦場に赤と白のドラゴンが争いながら現れた。二体のドラゴンは三陣営の戦争などお構いなしに争い合う。二体の攻撃はどれもが強力な一撃であり、三陣営はなすすべなく巻き込まれる。

 これでは戦争どころではないと判断したのか、三陣営は兵を引かせ始める。そして各トップ陣は二体のドラゴンに抗議していた。

 それに対しドラゴンの返答は『ドラゴンの決闘に神ごときが、魔王ごときが口出しするな』と言った、子どもじみたものであった。

 

 「クッ、ハハハハハハッ!」

 

 それを聞いていた俺はあまりの返答に笑ってしまった。真面目に世界の覇権をかけて戦っている三陣営に対しての返答がそんなのは関係ない、自分達の決闘の方が重要だと言ってのけたのだ。トップ陣はその返答に怒り心頭といった様子だが、一先ずはそこでことを起こさずに引いていった。

 

 その後もドラゴンは争い合っているが、三陣営は離れたところでトップ陣が会談を開いていた。内容は要約するとあの二天龍をどうにかしないと戦争どころではない。ここは一先ず手を組み、協力して二天龍を倒そう、と言ったものだった。

 まさか、戦争していた者同士が二天龍を倒すために停戦し、協力しあうとはな。

 

 「----ん?」

 

 そんな風に思考しているところ、ルシファーに渡した連絡用の術式が込められた栞から連絡が入った。

 

 『ケストラー、聞こえるか?ルシファーだ』

 

 「聞こえてる。それで何のようだ?」

 

 『貴方に頼みたいことがある』

 

 ほぉ、頼み事か。まだ先だと思ったが、まぁいい。

 

 「要件を言え」

 

 『二天龍討伐に協力を願いたい』

 

 

 

 

 

 二天龍討伐のため、この場に三陣営のトップ陣が揃っていた。

 悪魔からは四大魔王、天使は聖書の神と天使長のミカエル。そして俺達神の子を見張る者(グリゴリ)からは堕天使総督である俺・アザゼルと副総督のシェムハザがいる。

 

 「それじゃぁ、あの二天龍を始末するとしますか」

 

 「ええ、ですがあの二天龍の魂は私に預けてくれませんか」

 

 「どういう事だ、神よ?」

 

 「あの二体の魂を神器(セイクリッド・ギア)に組み込みます」

 

 神器----聖書の神が人間に超常の力を与えるために作り出したシステム。

 それに二天龍を組み込むのか。俺も自分で作ってみたいもんだぜ。

 

 神は一同を見回すが反対の奴はいないようだ。それじゃ早速始めますかね。

 

 「ちょっと待ってくれ」

 

 これから二天龍討伐に動こうとしたら、ルシファーから制止の声がかけられた。

 

 「何だぁ、急に」

 

 「もう少しで助っ人が来る。それまで待ってくれ」

 

 「助っ人?おいおい、切り札でもあるのかよ?」

 

 そう聞くと、ルシファーは黙ってしまう。大丈夫か?

 

 そんなやり取りをしていると、件の助っ人が来たようだ。

 そいつは左右に頭から長い角を生やした男だった。だが、問題はそこじゃない。自然体でいるはずのそいつからは凶悪なまでの魔力が感じられた。

 

 「来てくれたか、ケストラー」

 

 ルシファーがそいつに声をかける。さっきとは別の意味で大丈夫なのか心配になってきた。他の奴らを見ても同じようだが、ただ一人違う反応をしてる奴がいた。聖書の神だ。ケストラーだったか?奴を知っているのか。

 

 「久しいな、エル。いや、聖書の神よ」

 

 「! ケストラー。貴方は悪魔だったのですか・・・・・・」

 

 ケストラーは皆が神と呼ぶ存在の名を気軽に呼んでいる。ホントに何者だ?

 

 「他の者は初めてだったな。俺の名は大魔王ケストラーだ。大魔王といっても形式上だがな」

 

 大魔王って。いくら形式上でも普通だったらルシファー達四大魔王がその名を許可するはずはないが、奴らからはそれに対する反論がない。嫌々だが認めてるってことか。周りの奴らも大魔王と名乗ったケストラーに対して驚きを隠せないようだな。

 

 「それで、あの赤と白を始末すればいいのだな」

 

 「ああ。これから三陣営共同で討伐に当たるのでケストラーにもそれに協「必要ない」!?」

 

 今なんて言ったこいつ。

 

 「ケストラーよ。それはどういう事だ?」

 

 「そのままの意味だ。いるだけ邪魔だ」

 

 随分な自信だな。

 

 「じゃぁ、お前一人でやってみろ」

 

 「アザゼル!何を言う!?」

 

 「本人が一人でやるつってんだ。お手並み拝見と行こうぜ」

 

 俺の言葉に奴は大した反応を示さない。相当自信があるってことか。

 そのままケストラーは二天龍の方に行こうとするが、聖書の神が静止した。

 

 「待ちなさいケストラー。本当に一人でやるつもりですか?」

 

 「ああ。そのつもりだ」

 

 「! ならば、もし貴方が二天龍を倒したならば、その魂を私に譲ってください」

 

 「?本来なら断るが、まぁいいだろう。エルに譲ってやる」

 

 また聖書の神の名を呼んだ。その事にミカエルが突っかかる。

 

 「貴様!主の名を軽々しく呼ぶな!」

 

 「本人が何も言わないのならば構わんだろう?」

 

 「クッ!」

 

 ケストラーは話すことはないと、二天龍の元へ向かって行った。

 

 

 

 程なくして二体の元まで行き、話し始める。

 

 「何のようだ、悪魔よ」

 

 「貴様の我とドライグの決闘の邪魔をするか!」

 

 「何、お前達が邪魔なので始末しに来ただけだ」

 

 おいおい、いきなりそれか・・・・・・。

 

 「貴様!悪魔風情が大きく出たものだな!!」

 

 「決闘の決着をつける前に貴様から殺してくれる!」

 

 案の定二天龍は激昂し、ケストラーに攻撃を仕掛ける。だが奴は、避けるでもましてや防ぐでもなく、二天龍の攻撃をそのまま受けた。

 奴が立っていた場所は大きなクレーターができており、ケストラーは死んだと思った。煙が晴れるとケストラーは爆心地の中心で倒れていた。あれで消し飛んでないのかアイツは。

 

 「クッ、ハハハハハハハハハ」

 

 ケストラーは倒れたまま笑い出した。どうした?気でも触れたのか。

 

 「これほどの存在は初めてだ!これはかなり期待できそうだ」

 

 そしてケストラーは魔力を開放しだした。

 !?何だこの魔力は!ミカエルや魔王達を見ても驚いている。確かに魔力は桁違いだ。だがそれだけじゃない。ケストラーは二天龍の攻撃を受けて無傷だった。

 

 「今度はこちらからいくぞ」

 

 ケストラーは魔力による砲撃を放ち、二天龍をまとめて吹き飛ばした。

 もはや、言葉も出ない。

 

 「自己紹介がまだだったな。我が名は大魔王ケストラー!さっさと掛かってこい、トカゲども」

 

 「「!!」」

 

 2体はその言葉に先ほどより激昂し、ケストラーを全力で殺すため攻撃し始める。攻撃の余波はこちらまで来るが、それに気にしている暇はなかった。

 攻撃を受けていても、そのままケストラーは二天龍の懐に入りすり抜けざま、奴は赤龍帝の片腕を、白龍皇の片翼を引きちぎった。

 

 「「ギ、アアアアアアァァァァァ」」

 

 その激痛から二天龍は悲鳴を上げるが、ケストラーはそれを見て笑っていた。

 

 「ク、ハハハハハハハハハハッ!どうした!二天龍と呼ばれた存在がこの程度で悲鳴とは!情けないぞ!!」

 

 そこからは地獄絵図だった。ケストラーから放たれる魔力放は二天龍をたやすく貫き、それを刃物のように使い、切り刻んでいく。神や魔王より強いと言われた二天龍がケストラーに抵抗する事もできずに殺されてゆく。

 そしてケストラーは二天龍の魂を抜き取ると、その骸に手を向ける。すると、二天龍の骸はみるみる内に塵となっていった。生命力を喰らうのか奴は!!

 俺は恐怖に震えながらルシファーに問う。

 

 「おい、ルシファー。アイツは本当にお前達の味方なのか?」

 

 「ッ!・・・・・・実は私からお前たちに提案がある」

 

 俺達はそれを聞き、驚愕するが反対する奴はいなかった。

 

 

 

 

 「ほら、お望みのものだ」

 

 ケストラーは二天龍の魂を神に渡した。

 

 「確かに受け取りました」

 

 そこへ、ルシファーがケストラーに声をかける。

 

 「ケストラーよ。このあと、戦争を再開するがお前も参加しないか?何なら報酬の出そう」

 

 「?報酬か・・・・・・」

 

 ケストラーは訝しながらも報酬を考える。そうして神を見ると口を開く。

 

 「ならば、戦争に勝ったならば、エルを、聖書の神をいただく」

 

 「「「「!?」」」」

 

 ケストラーはこともあろうに、聖書の神を望んできた。

 

 「・・・・・・どうして神を望む?」

 

 「何。あの時合った時から俺のモノにしたいと思っていたのでな」

 

 まぁ、当然のごとくミカエルがケストラーにくってかかる。

 

 「悪魔が神を欲するだと・・・・・・そんなこと許されると思っているのか!!」

 

 「許す許さないは俺が決める」

 

 「!?貴方はッ「そこまでですミカエル」」

 

 熱くなってきたミカエルを神が静止する。

 

 「勝てば良いのです。それと大魔王ケストラー。私は貴方のモノになる気はありません」

 

 「簡単にモノにできるとは思ってはいない。だが、次の戦いが楽しみだ!」

 

 それだけを言うと、ケストラーは帰っていった。次の戦い、俺たちにとって死を覚悟することになりそうだ。



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決戦

うまく書けたかな?


 二天龍の騒動から暫く経ち、三陣営は再び戦争を開始せんと、戦場に集う。

 前回と違うところを上げるなら、悪魔の陣営の先頭に大魔王ケストラーがいるところだけである。

 三つの陣営は互いに睨み合いを続けるが、一人が動いたところで戦端が開かれた。

 

 三陣営は同時にケストラー(・・・・)に対して一斉に攻撃を仕掛けた。

 

 光の光弾、光の槍や炎、氷、雷といった様々な攻撃が放たれていく。ケストラーは突然の出来事に少し驚くが、すぐに何時も通りになり、攻撃を受けたままルシファーに問う。

 

 「ルシファー。これはどういう事だ?」

 

 それに対してルシファーは、鼻で笑い答える。

 

 「貴様が二天龍を始末したあと、神と堕天使に貴様を殺す為に手を組まないかと提案したのだ。奴らも貴様を危険と判断し、承諾してくれたよ」

 

 ルシファーはそう言うが、俺を殺す理由はそれだけじゃないだろう。

 

 「俺を殺すのはそれだけが理由ではないだろう?」

 

 「ああ、そうさ!大魔王を名乗るなど、我々四大魔王のプライドが許さん!何れ始末しようと思っていたが、こうも早くチャンスが訪れるとは思わなかったがな」

 

 それを聞き、俺は納得する。こいつを含めた魔王を含めた悪魔は利益を優先するが、それ以上にプライドが高い。いつか裏切るだろうと思ったが------

 

 

 俺にとってこんなに都合のいい状況で裏切ってくれるとは嬉しい誤算だ!

 

 「では、ルシファー。これで遠慮はいらないな」

 

 俺は手に魔力を込め、それを地面に押し付けるように魔力を地面に流す。

 

 「ッ!?」

 

 エルが何か気づき、こちらに向かってくるがもう遅い。地面に魔力を流した瞬間、戦場全てを覆うように巨大な魔法陣が展開される。

 

 「皆さん!ケストラーが何かしました、気をつけてください!」

 

 エルが注意を呼びかけるが関係ないな。そして魔法陣が発動し、戦場にいる全員から生命力を吸い始める。

 

 「ガッ!?」

 

 「くっ・・・苦しい!」

 

 「ち、力が、魔力が吸われる!?」

 

 「ァ、ァァ、ァァ!」

 

 戦場にいる三陣営は立つこともできずに膝をつき、苦しみ出す。例外は神であるエル位か。

 

 「ケストラー!何をしたのです!!」

 

 「何、この戦場にいる全員を喰らおうと思ってな」

 

 「!?」

 

 「これの名前は決めてないが・・・・・・・魔王の食卓(サタン・テーブル)と言ったところか」

 

 俺はエルから、倒れ苦しんでいる四大魔王に体を向ける。

 

 「さて。裏切りの代償はいつの時代でも死だったな」

 

 魔王達に口を開く間も与えず、手の爪を伸ばし貫き、直接命を喰らう。

 

 「「「「ギッ、ガッ、ァァ、ァァ、ァ・・・・・・・」」」」

 

 四大魔王は瞬く間に命を吸われ、体が崩れ塵となっていった。周りの者達は、魔王が成すすべもなく殺されたことに言葉が出なかった。

 

 「クックックッ!やはり魔王なだけ美味いな。一気に喰らったのはもったいなかったか。まぁいい、他の奴らを味わいなが喰らうとするか」

 

 

 

 

 

 

 俺はルシファーからケストラー討伐を提案された時は驚いたが、納得もした。ルシファー達からすれば、自分たちが認めたとはいえ、大魔王を名乗るケストラーは目障りで仕方ないだろう。

 俺達神の子を見張る者(グリゴリ)や神は二天龍を容易く殺したケストラー危険性は計り知れない為、始末するのに反対はなかった。だが、ケストラーを甘く見ていた。二天龍を殺すほどの力を持っているのだから、誰一人やつを甘く見る者はいなかったが、それでもまだ甘いと言えた。

 ケストラーは戦場全てを覆うほどの魔法陣を展開し、俺達を一斉に喰らい始めた。俺達は全員地に倒れ伏し、四大魔王達はケストラーに直接喰われた。

 唯一立っているのは神だけだった。神は聖なる力を周囲に開放した。すると、体が軽くなった。

 

 「私の力で魔法陣の力を弱めました!今の内にケストラーを!!」

 

 「よしっ!これなら何とか。お前ら!迂闊に近づくな、距離を取りながら戦え!!」

 

 俺は体が動くのを確認し、部下に指示を出していく。 

 天使達はミカエルが指示を出しているが、悪魔達の方はトップが殺せれて動きに統率がない。だが、気にしている余裕はない。

 動ける奴らは皆空から攻撃を仕掛けるが、ケストラーは自らが作った椅子に足を組みながら障壁を張り、余裕で全て防いでいる。

 

 クソッ!!これぐらいじゃ効きゃしないか!

 

 「おいおい、お前達。頭が高いぞ」

 

 ケストラーがそう言った瞬間、魔法陣の力が強まり、再び地面に倒れてしまう。見れば、神も苦しそうな表情で聖なる結界を張っている。

 

 神が目一杯やっても、まだケストラーの方が強いのか!?

 

 そして力の弱い奴から次々に命を吸い尽くされ死んでいく。この儘では全滅と思われたその時、悪魔陣営の方から声が聞こえた。

 

 「解析が終わったぞ!サーゼクス、私が構築した術式にお前の魔力を注いでくれ!」

 

 「わかった、アジュカ!」

 

 あれは、グレモリー家のサーゼクス・グレモリーにアスタロト家のアジュカ・アスタロトか!

 

 アジュカが構築した術式にサーゼクスが滅びの魔力を注ぐと、ケストラーが展開していた魔法陣が消滅した。

 

 「今だ!皆一斉に攻撃しろ!!」

 

 俺は声を張り上げ、陣営に関係なく聞こえるように叫ぶ。そして一斉に攻撃を仕掛けるが、ケストラーも黙ってるわけではなく、手に魔力を込め、こちらに向けてくる。

 しかし、神がケストラーの動きを封じるため、奴の四方に十字架を出現させ、そこから伸びる鎖で奴を椅子ごと拘束する。

 

 「ケストラー。これで貴方は攻撃できません!」

 

 「ふむ、なかなかやるなエル」

 

 ケストラーは焦ったそぶりも見せなかった。様々な攻撃がケストラーに着弾する寸前、その手前に展開された障壁に阻まれる。

 

 障壁は意思一つで展開できるってか!

 

 「なら、これならどうだ!!」

 

 俺は光の槍を造り、それを構えてケストラーに突っ込む。部下も俺に続き突撃する。だが、槍は障壁に阻まれ、ケストラーを貫くことはなかった。

 

 「クッソ!硬すぎるだろ!!」

 

 いくら押しても槍は障壁を破ることができなかった。そこにケストラーは、障壁を操作し、俺達の槍が当たっている位置の障壁を多重展開し、俺達を吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。他の奴らも見ると、俺と同じように吹き飛ばされていた。

 

 「アザゼル!!」

 

 俺の元へ、先ほどの赤髪の青年・サーゼクスが近寄ってきた。

 

 「何だ?ない打開策でも思いついたのか?」

 

 俺が冗談交じりに聞くと、サーゼクスは頷いた。

 

 「ああ。ファルビウムが思いついてね。まず、攻撃を威力よりも貫通に特化したものにしてくれ」

 

 「だが、それじゃあいつにダメージはいかないぞ。それに防御障壁を貫通するかもわからんぞ?」

 

 「障壁を弱らせればいい。弱ったところに私が攻撃をして障壁を消し飛ばす!」

 

 「!成るほど。だったら任せろ。 おいお前たち!威力は捨てて、貫通させることに集中しろ!」

 

 俺は部下達に指示を出したあと、俺も障壁を削るため攻撃を仕掛ける。ダメージはいかないが、徐々に障壁が削れていく。そこへ突如膨大な魔力が発生したのを感じ取りそちらを見ると、そこには滅びの魔力を纏った、いや、滅びの魔力そのものとなったサーゼクスがいた。その魔力は四大魔王の十倍はあろうものだった。

 

 サーゼクスは周囲を消滅させながらケストラーへと突っ込んでいく。ケストラーもそれに気づき、多重障壁を展開するが、サーゼクスはそれすらも消滅させ、けっして動きを緩めることはしなかった。

 サーゼクスはケストラーを拘束している神の術式ごと貫いた。

 

 「やったか!?」

 

 だが、すぐにおかしいことに気づいた。滅びの魔力を直接受けているにもかかわらず、ケストラーは胸を貫かれている以外変化がなかった。

 

 「・・・・・素晴らしい! 先ほど喰らった魔王たち以上の魔力だ!」

 

 「!!サーゼクス!ケストラーから離れろ!!!」

 

 俺の声で、すぐさま腕を抜き後退するが、ケストラーは爪を伸ばし、サーゼクスを貫いた。

 

 「ガッ!・・・ハッ!」

 

 「さっきはすぐに喰らってしまったが、お前はゆっくりと喰らってやろう」

 

 「ギ、ガアアアアアアァァァァ!!」

 

 ケストラーはサーゼクスを貫いたまま魔力を喰らい始めた。

 

 まずい!この儘ではサーゼクスも殺されちまう! 俺は咄嗟に助けに入ろうとしたが、それよりも速く聖なる力で形成された光の刃がケストラーの伸びた爪を切断した。見れば、神が光の刃の槍を持っていた。

 

 「あれは、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)か!!」

 

 神器(セイクリッド・ギア)。神が人間に超常の力を授けるために作ったシステム。本来は人か人の血を持つ者に宿るものだ。それを製作者本人が使用している事実に驚く。だが、それだけ神が本気だというのが伝わってくる。

 

 「先ほどの術といい、今の槍といい。エルは色々と楽しませてくれるな」

 

 「あなたを生かしていては、人に大いなる災いを招きます。そうなる前に私自らの手で貴方を滅ぼします!」

 

 槍から聖なる力を迸らせながら、神はケストラーに斬りかかる。ケストラーはそれを魔力で強化している手で防ぐか逸している。

 ケストラーに対抗できるのはもはや神だけか。

 

 

 

 

 私が今持てる力でケストラーに斬りかかるが、全て防がれるか逸らされてしまう。何度も斬り込むがまともに当てることは出来ずにいた。

 

 「やはり、エルは俺が見込んだ通り、素晴らしい女性だ。だが・・・・・・・」

 

 「!?」

 

 ケストラーに槍の柄を掴まれ、引き寄せられてしまう。

 

 「あの時あった時よりも力が落ちている、いや、疲労していると言ったほうがいいのか?」

 

 「!」

 

 気づかれてしまいましたか・・・・。

 

 私はこの戦争が始まる前に、忘れ去られた世界の果てで黙示録に記された獣を発見し、危険と判断して封印した。しかしその影響で私は極度に疲労し、四大魔王より上程度まで力が落ちていた。

 この状態でケストラーを相手にするのは荷が重すぎるが引くわけにはいかない!

 

 「クックックッ・・・・・・こんなに気分がいいのは初めてかもしれないな!」

 

 そういい、ケストラーは槍の柄は掴んだまま、椅子から立ち上がった。大地にたった瞬間-------

 

 

 大地震が起きた。

 

 

 

 突如起きた地震に全陣営が狼狽する。

 今まで本気を出していなかったの!?

 

 「何をするつもりですか、ケストラー!?」

 

 「何、そろそろ幕引きと行こうと思ってね」

 

 おもむろに手を開き天へ向けた。そしてそこから高純度の魔力弾を打ち上げた。

 

 拙い!!

 

 「皆、急いで逃げなさい!!」

 

 大声で逃げるように言うが、無慈悲にも先ほど打ち上げられた魔力弾が戦場全域に降り注いだ。着弾と同時に爆発を起こし、多くの命を奪ってゆく。

 

 キッ!とケストラーを睨みつけ、言葉を発しようと口を開こうとした瞬間、

 

 

 ケストラーに唇を奪われた。

 

 

 

 

 突然のことに呆然とするが、急いでケストラーから離れようとしたができなかった。唇から直接力を吸われていた。

 

 (!?・・・あ、ああ・・・・力、が・・・抜けて・・・・・・・・・)

 

 私は槍を発現させておく力も失い、槍が消えていく。唇が離れて私が崩れ落ちる前に、私はケストラーに抱きとめられていた。

 

 「クックックッ、キスも力も美味かったぞエル」

 

 私は抵抗しようにも力が入らず、皆がケストラーに殺されていくのを見ているしかできなかった。だが、諦めるわけにはいかなかった。最後の力を振り絞りミカエルへ念話をする。

 

 〈ミカエル、聞こえますか? ミカエル!〉

 

 暫くするとミカエルから念話が返ってきた。

 

 〈主よ!助けに行けず申し訳ありません!〉

 

 ミカエルは現在、味方を守るために奮闘し、私の援護に回ることができずにいた。

 

 〈構いません。ですが、ケストラーの注意を、僅かでいいので私から逸してください〉

 

 〈何を為さるおつもりですか主よ!?〉

 

 〈ケストラーを封印します〉

 

 〈!?・・・・・・・分かりました。ですが出来て一瞬が限界です〉

 

 〈大丈夫。それだけあれば・・・・・・・〉

 

 ミカエルは意を決し」、堕天使達に、避難指示を出しているアザゼルへと声をかける。

 

 「アザゼル!少しでいい、協力してください!」

 

 「!?何する気かわからんが、この状況じゃ仕方ないか!」

 

 ミカエルとアザゼルはすぐさまケストラーへ向け、今持てる力の全てを放つ。ケストラーは表情を変えず、片手で防いでしまう。

 

 この隙に!

 

 私は、対ケストラー用の神器を取り出す。それは小さな箱の形をした封印用の神器であり、一度限り等、様々な条件を付けることでケストラーを封印できるようにしたものだった。

 それをケストラーに向け開く。

 

 「!?グッ! エル、それはまさか!」

 

 これが何か気づいたようで、私を離し初めて焦ったような表情になる。

 

 「そうです。あなた用に私が造った神器、名称を禍封じし箱(パンドラ・ボックス)です!!」

 

 そうして話している間にもケストラーは徐々に吸い込まれていく。

 

 「クッ、ハハハハハハ!!まさか俺が封じられるとはな!してやられたよ。だが・・・・・・タダではヤられん! エル、君は頂いていく」

 

 「!?」

 

 ケストラーは封印されながら、私に向けて巨大な魔力を放ってきた。

 

 (しまった!!)

 

 封印していたことに加え、力も吸われた直後でもあったため避けることができずに飲み込まれた。最後に見たのはケストラーが箱に吸い込まれていくところだった。

 

 

 

 

 

 

 三陣営の世界の覇権を賭けた戦争は、ケストラーから受けた損害が大きく、もはや戦争が出来る状態ではなかった。

 

 悪魔は、四大魔王全てと多くの上級悪魔を失い、天使は神と多くの天使を、堕天使も同じように幹部と部下の多くを失った。そしてケストラーが封印された神器は次元の狭間に飲み込まれていった。

 

 そして戦争は決着のつかぬまま終結した。多くの者が大魔王ケストラーに対する恐怖を心に刻まれたまま。

 

 

 

 



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封印の綻び

 大戦から数百年が経過した。悪魔、天使、堕天使の各陣営はケストラーに与えられた被害は甚大であり、その立て直しに奔走していた。

 天使は、神を失い人間に与えられていた加護がなくなってしまった。ミカエルが代理で天界の加護システムを動かしているが、それでも加護のいきわたる人数は少なくなってしまっている。また、神がいなくなったことで天使が生まれることがなくなってしまい、種族的にも危機に陥っている。

 

 堕天使は、神器の研究に着手し始め、神器所有者の勧誘、または拉致か抹殺を行っており、自陣営の強化を図っている。

 

 悪魔は、ある程度立て直しを終えたが、魔王の血縁者を筆頭とした戦争続行を唱える政府と戦争反対を唱え、自陣営の改革を行うことを目的とする改革派とで内紛が起こっていた。

 

 

 

 そんな世界の情勢とは関係のない次元の狭間にて、一つの小さな箱が漂っていた。聖書の神・エル=シャダイが、対ケストラーに作り上げた神器(セイクリッド・ギア)禍封じし箱(パンドラ・ボックス)

 ケストラー封印の後に次元の狭間に落ち、人間に宿ることなく漂い続けていた。

 

 そんな箱に近づく存在がいた。奇抜な黒のゴスロリ服を着た少女だった。しかし、少女の姿をしてはいるが、少女は人間ではなかった。

 次元の狭間を支配するドラゴンを除き、世界最強といわれるドラゴン。

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスである。

 

 オーフィスは箱に興味を持ったのか、箱を開けようと力を込める。見た目は少女だが、箱を開けるために込められる力は尋常ではない。並の存在では軽く裂けてしまうほどの力が加えられていた。

 箱からミシミシという音がしてくるが、なかなか開くことはない。

 

 「?・・・・・・開かない」

 

 オーフィスは開かないとわかると、箱そのものを破壊する為叩き始める。パッと見、ペチペチと叩いているように見えるが、実際はドゴォ!という音を立てながら箱を叩いている。箱も流石にそれだけの力を加えられてボロボロになっていく。

 しかし、オーフィスは中々開かない箱に興味を失ったのか、箱をその場に放置して何処かへと飛び去っていった。

 

 だが、箱は過度の力を加えられ綻び、一部が欠けていた。そこから禍々しい力が溢れ出してきた。僅かに漏れでた力は一つになっていき、人の形になっていく。

 ケストラーであった。だが・・・・・・・・・。

 

 「・・・・・・力が落ちているな」

 

 その姿は、本来なら頭に左右へと生えている角がなくなっていた。そしてその身に宿っていた凶悪な魔力も落ちていた。ケストラーは自分の状態を確認すると、自らを封印していた箱を手に取る。

 

 「残りの力は箱の中か・・・・・・」

 

 ケストラーは自らの力をその身に戻そうと、箱の綻びから力を吸おうとするが、力をつかむような感覚はあるが、自らへ引き寄せることができなかった。

 

 「やはりダメか。・・・・・・まぁいい、一先ずは居城に戻るとするか。それに、久しぶりに会いたいしな」

 

 ケストラーは転移魔法陣を展開し、自らの城へと転移する。

 

 

 

 転移をし、自らの玉座の間へと来たケストラーは玉座の上の方へと視線を向け笑を浮かべる。

 

 「久しぶりだな------エル」

 

 そこには、結晶に閉じ込められた一人の女性・聖書の神エル=シャダイの姿があった。

 




ケストラー復活しましたが、完全に復活するのはまだ先です。


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刻印

 ケストラーは玉座に足を組みながら思考する。

 

 不完全ながら復活したのはいいが、自身自らが力を取り戻すために動くのは、三陣営だけでなく他の神話体系の連中にも気づかれて色々と面倒なことになる。まずは情報収集をし、各陣営の状況を確認していた。

 

 天使は神が不在となったことで、人間に加護を与えるシステムは著しく力を落とし、信仰に関わる事件一つでシステムに不具合が起きてしまう。その為、システムの不具合につながる神器所有者を異端として追放し、または処刑する場合もある。

 だが、一部の教会の人間が権力を振りかざし、多くの異能の力を持つ者、特に女性を魔女として処刑している。所詮、魔女狩りと言われるものだ。中には処刑したと見せかけて奴隷にしている者もいる。

 

 堕天使は、神器の研究に没頭している。神器所有者を勧誘、または拉致をして確保している。それによって自陣営の強化を行っている。だが、敵対陣営と小規模な小競り合いはあるが、大規模な戦闘を率先して行っていることはない。

 

 悪魔は現在、他勢力への徹底抗戦を主張する政府と改革を掲げる派閥に分かれて内紛が起こっている。政府側は俺が殺した四大魔王の血縁を筆頭にし、改革派は最も強い力を持つ四人の悪魔を筆頭として争っているが、現在は改革派が有利となっている。改革派の四人は一人一人が魔王を超える力を有しており、四大魔王の血縁者は魔王に及ばないため劣勢となっている。

 

 そのほかには俺が殺し、エルが神器に封じ込めた赤い竜と白い龍の神器保有者が争い合い、周りに被害を及ぼしていたというくらいか。

 

 

 そこまで調べ終わると俺はこれからどうするべきかと思考する。エルは今だに結晶に閉じ込めている。力がある程度戻らないと封印を解いた瞬間エルに反抗される可能性がある。

 だが、力を戻すためには質の良い存在を喰らう必要がある。しかし、今は表立って行動すると再び封印される恐れがある。

 

 「・・・・・・・・・やはり下僕の一人二人は必要か」

 

 俺は自分の代わりに動く下僕が必要と判断する。だが、今更俺に素直に従うやからはいないだろう。もし素直に従う奴らは弱い奴だろうしな。俺の下僕なのだから魔王クラスの力は欲しい。

 俺はそこまで考えると一人の悪魔の女性を思い出す。

 すぐにそいつを調べると、現在は政府側の主力として改革派と戦っていることがわかった。

 

 俺は口に笑を浮かべ、そいつの元へと転移する。

 

 

 

 

 

 私は自室にて現在の悪魔の現状にどうすればいいか悩んでいた。私の家はルシファー家に使える家柄であり、その為に政府側に付いているが、政府側の主張では悪魔に未来がないことが理解できる。だが、家のこともあり私は動くことができず、改革派と戦っている。

 

 そこへ、私の背後に誰かが転移してくるのを察知する。敵意がないことから味方の誰かだろうと判断し、振り返ろうとしたところ相手から声がかけられ・・・・・・・・・

 

 「久しぶりだな、グレイフィア・ルキフグス」

 

 私は動きを止めた。

 

 (ありえない!何故彼が、ケストラーが封印から出ているのいるの!?)

 

 私は大戦時の彼の振るった力を思い出し体が震えだす。それを抑えようと両腕で体を抱きしめるが、一向に収まらない。

 

 「どうした、グレイフィア?---震えているぞ。」

 

 「!?」

 

 そんな風に声をかけてくるケストラーに対し、振り返らずに問いかける。

 

 「・・・・・・・何故、貴方が復活しているのですか?」

 

 「やっと口を開いたと思ったら、そのことか・・・・・・・・」

 

 ケストラーは封印されたことに対して、気にしている様子はなく、いつものように語りだす。

 

 「何、誰だかわからんが箱を開けようと過度の力を加えていたらしくてな。それによって箱が綻んで、中途半端だが復活することができたんだ」

 

 (!?いったい誰がそんなことを!天使や堕天使はありえない。ケストラーの恐ろしさは知っている。・・・・・・・ん?中途半端に復活?)

 

 私はケストラーが言ったセリフに疑問を覚えた。いつの間にか体の震えも収まり、いつもの調子に戻っていた。私はケストラーへと向き、先ほどの疑問を口に出す。

 

 「先ほど貴方は中途半端に復活したと言っていましたが、それはどういう事ですか?」

 

 「ああ、それはだな、長いこと封印されていたのと、箱の綻びから出たために力の大半がまだ箱に封じられたままでな。それを戻すために質の良い存在を喰らうか、箱を開けるのが早いのだが俺自らが動くと周りが騒ぐからな」

 

 確かにそうだろう。だが、力の大半を箱の中に封じられたまま?

 

 「そこで俺の代わりに動く下僕を必要としてな。お前に目を付けたというわけだ」

 

 私は話を聞きつつ、ここから離れたところへとケストラーと転移するため、彼に気づかれないように転移魔法陣の準備をする。

 

 「私が素直に従うとでも?」

 

 ケストラーは気づいていない。これなら・・・・・・・

 

 「従うさ」

 

 その瞬間、私はケストラーを巻き込み冥界の奥地にある岩石地帯へと転移する。

 

 「どういうつもりだ、グレイフィア?」

 

 (今のケストラーはあの時よりも弱くなっている。今ならば殺すことが出来る!)

 

 私はケストラーの問には答えず、ありったけの魔力で攻撃を仕掛ける。その衝撃に地面は抉れ、あたり一帯にある岩なども吹き飛んでいく。私はそれに気にすることもなく攻撃を続ける。

 ケストラーが立っていた場所はクレーターとなっており、ケストラーはその中心で倒れていた。

 

 (今なら!!)

 

 私は魔力を手に集中し、ケストラーの首を切るため接近する。私が接近しているのにも関わらずケストラーは倒れたままだった。そして私の手刀がケストラーの首に触れた瞬間-------

 

「ッ!!?」

 

 崖に叩きつけられていた。

 

 何が起きたのか分からなかった。気づいたら崖に叩きつけられており、崖に体が崖へとめり込んでいた。視線を前に向けると、ケストラーが無傷で立っていた。

 

 (そんな・・・・・・・あれだけやっても無傷だなんて)

 

 ケストラーはゆっくりと私の方へ歩いてきた。

 

 「流石だな、グレイフィア。弱っているとはいえ、少し痛かったぞ」

 

 そうして私の元まで来るとケストラーは私の首を掴み地面へ叩きつけた。

 

 「ッ!!」

 

 それから逃れようと体を動かすが、ケストラーは私の頭を押さえつけており動くことができなかった。

 

 「だがお前は、俺が大魔王だということを忘れていたようだな!」

 

 殺せると思った。だが、ケストラーの力は私の想像以上だった。弱っていてもこれだけ強ければ本気の彼に勝てる存在はいるのだろうか・・・・・・・・・

 

 「しかしグレイフィア。お前が俺の下僕になるのなら今のは忘れてやろう」

 

 (!?・・・・・・下僕になれば、助かる?)

 

 それを聞き私は迷う。自分の命惜しさにケストラーの下僕になっていいのかと。だが、この身に刻まれたケストラーのへの恐怖は従うべきだと訴えてくる。

 

 「返事は?」

 

 だが、ケストラーに声をかけられ、私の心はケストラーに屈した。

 

 「な、なります!貴方の下僕に・・・・・・なります!」

 

 しかし、突如持ち上げられ、壁に叩きつけられる。

 

 「ッ!!!」

 

 息が詰まる。何で・・・・・・。

 

 「違うだろグレイフィア。----下僕にしてくださいだろ」

 

 ケストラーはそう言うと手を離し、私は地面に倒れる。立ち上がろうとする私の顎に手を添え、私は顔をケストラーの方へと向けさせられる。

 

 「あ・・・・・・わ、私を・・・・ケストラー様の、下僕に・・・・してください」

 

 言ってしまった。私はそのセリフを口にした瞬間、私の中の何かが崩れていく感じがした。目尻から涙が流れている。

 

 「クッ、ハハハ。いいだろう、グレイフィア。お前は俺の下僕だ。----そしてこれは褒美だ」

 

 (い、一体、何を!?)

 

 いきなり口づけをされ慌てるが、突如ケストラーから濃厚な魔力が流れてきた。あまりにも強力な魔力が流れてきたため、体が熱くなってきた。

 

 (あ、熱い!・・・・・・・か、体が!?)

 

 暫く身悶えたあと私は気を失った。

 

 ケストラーは気絶したグレイフィアの服を破り捨て肌を露出させる。そして胸元へと手を添え、魔力を集中する。すると、グレイフィアの胸元にケストラーの刻印が刻まれた。それは下僕ではなく奴隷を思わせるものだった。

 ケストラーはグレイフィアを抱き上げ、自らの居城へと転移する。

 

 

 悪魔の内紛は、政府側の主力のグレイフィアが行方不明となり、その隙を付いた四人の悪魔を筆頭とする改革側は勝利した。

 敗北した悪魔達は冥界の片隅へと追いやられ、勝利した改革側の筆頭となっていた四人の悪魔は新たな魔王となった。 

 

 

 

 




少しずつエロをいれていきたいなと思います。


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下僕

 グレイフィア・ルキフグスを下僕にし居城へと帰還した。

 玉座の間へと来た俺は、取り敢えずグレイフィアを起こすべく魔力を流し込む。

 

 「!?・・・・・・・ッ、アアアアアアァァァァ!」

 

 流された魔力に反応してグレイフィアは目覚めるが、いきなり流されたためか体を痙攣させ身悶える。頬は赤く染まり、恥じらいもなく声を上げる。

 暫くしてそれも収まり、息を荒げながらも俺を見上げる。

 

 「おはよう、グレイフィア」

 

 「・・・・・・ッ!? これはっ!?」

 

 グレイフィアは俺の声に反応し立ち上がり、自分の服が破かれ素肌を晒しているのに気づき、手で隠そうとしたところ、胸元にある刻印に気づく。

 

 「ああ、それは俺の下僕の証だ。本調子じゃないが配下になった者に俺の魔力を下僕にとって最適な力として無限に供給できる」

 

 「そんなことが・・・・・・・・」

 

 俺の言葉が信じられないのかグレイフィアは呆然となり、胸を隠すのを忘れており俺に胸を晒したままとなっていた。

 

 「信じられないのならもう一度やってやろう!」

 

 俺は再び魔力をグレイフィアに流し込む。

 

 「!!?ッンンンンンンンン!」

 

 今度は声を上げることはなく体を震わせ頬を赤くする。しかし、俺は今ままで性欲といったものを感じなかったがエルに会ったことでそれらに対する欲も出てきており、グレイフィアの今の姿は非常にそそられる。

 だが、今は話を優先させるため、魔力供給をやめて話を続ける。

 

 「今のでわかったか?」

 

 「ハァッ、ハァッ・・・・・・・・は、い」

 

 息を荒げ、足を震わせながらもグレイフィアは返事をする。

 

 「そう言えば、まだ彼女がいたな・・・・・・・・・」

 

 「彼女?」

 

 「上を見てみろ」

 

 グレイフィアは俺に促され、俺が座っている玉座の頭上に視線を向ける。

 

 「!?・・・・・・・・・・聖書の、神。 神はケストラー様が殺したのではないのですか!?」

 

 グレイフィアは神が生きていたことに驚愕する。あの場面だけしか見ていないなら殺したと見られても仕方ないだろう。

 

 「いいや。あの時俺が封印される直前にはなったのは、俺の封印魔法だ。手に入れたいと思った者を殺すはずがないだろう」

 

 「・・・・・・でしたら、何故神は封印されたままなのですか?復活したのなら封印を解いてすぐにでも神を好きにするのでは?」

 

 グレイフィアの疑問は最もだな。

 

 「話した通り、俺は力の大半をまだ箱の中に封じられた状態でな。この状態でエルを封印から開放したら手痛い抵抗を受ける可能性があるからな」

 

 エルの力は落ちていたとしても全知全能の神と言われる存在だ。せめて半分ほどの力を取り戻しておかなければ何とかなるのだがな。

 

 「そこで優秀な下僕を集め、俺の力を取り戻すために動いてもらおうと思ってな」

 

 「・・・・・・・具体的に私は何をすればよろしいのですか?」

 

 「特殊な力、または強い力を持つ存在の命を集めろ」

 

 俺は手に杯を創り出し、それをグレイフィアに投げ渡す。

 

 「それを対象に向け命と力を吸え」

 

 「この杯で・・・・・」

 

 「上物を持って来たら褒美もくれてやるぞ・・・・・・」

 

 グレイフィアへと近づき彼女の顎に手を添え、耳元で囁く。

 

 「ッ!?」

 

 一瞬体を強ばらせ、離れようとするがそれを手で抑える。

 

 「俺に魔力を流された時、気持ちよかったろう?」

 

 「そ、そんなことは・・・・・・・」

 

 顔を赤面させ否定するが、すぐに嘘だとわかる。

 

 「最近は食欲以外に性欲も出てきたからな。まだ、やったことはないがな」

 

 「!?・・・・・・・た、戯れはよしてください。それにケストラー様は聖書の神に好意を抱いているのでしょう?」

 

 「ああそうだ。だからと言ってお前にそういう感情を向けないとは限らないだろう?」

 

 グレイフィアは緊張から体を震わせ始める。

 

 (だが、今日はここまでだな。)

 

 俺はグレイフィアから手を離して離れると、彼女はその場でへたり込んでしまう。彼女の反応からまだ経験したことがないのがわかる。あんなふうに強引に迫られた経験もないのだろう。

 そんな彼女を見ていると、神と一緒に自分好みに染めてみたいとゆう欲求が出てくる。

 

 「まぁ、それは後にして、お前が俺の下僕になった祝いだ。受け取れ」

 

 指を鳴らし、グレイフィアに魔力を放ち服装を変化させていく。グレイフィアの破れた服はその形を変化させ黒を基とし、少し金の刺繍のついたドレスの様なものへと変化する。それは彼女に刻まれた刻印が見えるように胸元は大きく開き、スカートは足が露出するように前側が開いており足にはガーターベルトのついたストッキングを履いており、後ろの方も背中からお尻にかけてのラインを強調するようになっている。

 

 「では、俺も動くとするか」

 

 「ッ! どちらへ行かれるのですか?」

 

 服装の変化に戸惑っていたグレイフィアは、俺の声に反応し問いかけてくる。

 

 「下僕は多いい方がいいからな。グレイフィア以外にも下僕を集める」

 

 「そうですか・・・・・・・・」

 

 「では、グレイフィア。お前も杯を満たしに行け」

 

 「かしこまりました」

 

 そう言ってお辞儀をし、何処かへと転移してゆく。俺もエルに視線を向け転移する。

 

 どの様な下僕にするか思考しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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首輪

 グレイフィアに俺の食事集めを命じたあと、俺はどの種を下僕にするか選別していた。妖怪、吸血鬼等の理性を持つ魔に属する種族に目をつけていた。吸血姫は今だに所在を詳しく把握できておらず、所在のわかる妖怪の方をあたってみることにする。

 

 妖怪は日本にある別空間に住んでおり、九尾の狐を統領とする京都の妖怪達が名を連ねている。多種多様な妖怪がおり、個々の能力も大きく変わるが妖怪は妖気か氣の力をもちどの個体もどちらかの力を持つ。

 

 俺は早速行動を開始し、京都へと転移した。

 

 

 

 

 京都へと転移した俺は違和感をもたれないように認識阻害の術をかけ街を練り歩く。この都独特の雰囲気を楽しんでいるところに無粋な輩が現れた。服に五芒星の印を付けた集団で全員が栞サイズの紙を手に持って構えていた。

 

 「闇の住人よ、何故都へ現れた?」

 

 それらの集団を率いている初老の男性が先頭に立ち俺へと問いかけてくる。

 

 (ふむ、警戒はしているが事を荒立てる気はあまりないようだな)

 

 「何、この国にいる妖怪に興味があってな。この都にいるのはそれまでの観光といったところだ」

 

 「ならば事が済めば都から立ち去れ。ここはお前のような闇の住人がいていい場所ではない」

 

 そう言い終わると後ろに控えている者達を連れ立ち去っていった。何人か若いものが俺を見ているが、何もせずに去っていく。

 人外は滅すべしという考えはあるが、上役の言いつけは守るよう教育されているのか。まぁいい、目的を果たすとするか。

 俺は都を後にし、妖怪の気配がする方へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 先ほどケストラーと対峙していた退魔師の初老の男性・姫島玄冬は内心冷や汗をかいていた。都に張ってある探知用の結界に邪悪な気配を感じてその気配の元へと駆けつけた。

 

 そこにいた存在を目にした時震えが来た。九尾の狐等の大妖怪と退治したことはあるがあれほどの存在は見たことがなかった。あちらに敵対の意思がなかったのは幸いであった。

 

 玄冬はケストラーから逃げるようにその場から離れていった。そしてあれに目をつけられた九尾の狐を不憫に思った。

 

 

 

 

 

 

 

妖怪達の気配をたどり、都より離れた場所へと赴くと、多数の妖怪に囲まれていた。見ると結界が張ってあり人間には知覚できないようになっていた。

 妖怪たちのほうへ視線を向けると、それらの妖怪を率いるように立っている巫女装束の狐の耳と九本の尾を生やした女性がいた。

 

 「冥界の者よ。我らに何の用だ」

 

 彼女達は皆ピリピリとした空気を発しており、何かあればすぐにでも戦闘ができるようになっている。俺には意味はないがな。

 

 「お前たちを俺の配下にしようと思ってね」

 

 俺の言葉に反応し敵意を顕にしていくが九尾の狐が手でそれを制する。

 

 「それを素直に聞き入れると思いますか?それにあなたは何者ですか?」

 

 統領と言われるだけあり、九尾の狐は冷静に俺が何者か問うてくる。

 

 「大魔王ケストラー。それが俺の名だ」

 

 「大魔王? 悪魔たちの王は四大魔王と聞いています。大魔王などという名は知りません」

 

 「それもそうだろう。俺のことは一部の者しか知らんからな。それで俺の配下になるか聞かせてもらおう?」

 

 「断る。貴方のような得体の知れない存在に組みすることはありません。何かするのであればこちらは武力も辞さない!」

 

 「クッ、ハハハハハハハハハ!」

 

 強く言い切る彼女に対して笑いが出てくる。

 

 「何が可笑しい!!」

 

 「いや、貴様ら程度が俺に敵うと思っているのか?」

 

 「貴様!言わせておけば!!」

 

 俺の言葉に反応して一部の妖怪が武器を構えて襲ってくるが、手で払うように吹き飛ばす。俺に触れることもできずに妖怪達は吹き飛ばされていく。

 さらに、九尾の狐以外の妖怪を圧縮していく。

 

 「「「「「ギ、ギャアアアアァァァ」」」」」

 

 杯を出し、そこに命の水を満たしていき飲み干す。

 

 「ふむ、悪魔と違った味がするな」

 

 「・・・・・・貴様、よくも!!」

 

 妖怪どもの味を楽しんでいると九尾の狐は怒りを顕にし、その姿を変えていく。その姿は巨大な九尾の狐となっていた。おそらくはこれが彼女の本来の姿なのだろう。

 

 巨大になったその身から繰り出される爪と牙、そして炎による攻撃が俺に襲い掛かる。攻撃を受けて分かるが単純な力ならグレイフィアを超え、天龍ほどじゃないが並のドラゴンを超える力を有している。

 

 九尾の攻撃を防いだり、逸らしたりしているが力が完全でないのと巨体であるため攻撃の何個かは強い痛みを感じる。流石にやられていてばかりでは癪なのでこちらも魔力弾で応戦する。九尾は俺の魔力弾を尻尾により弾いていく。無理なものは避けている。

 

 俺と九尾の戦いは周りの地形を大きく変えるほどの被害を出していく。俺はそろそろ本気をだし、魔力を解放する。点の攻撃は避けられるため頭上からの面の攻撃を仕掛ける。

 九尾はそれに気づきその場から離れようとするが、それに合わせて俺は範囲を広げそのまま九尾を潰す。

 

 「ク、アアアアアアァァァァ!!」

 

 土煙を上げ、九尾は地面に押し付けられるように潰される。ダメージが大きかったためかその身を人間の姿へと変えていた。

 

 「さて、これから俺のペットになるにあたって少し調教せんとな!」

 

 魔力により鞭を作り出しそれを九尾に振るう。

 

 「ッアア!!」

 

 鞭が体に打たれるたびに九尾は悲鳴を上げ、打たれた箇所はアザとなり体に刻まれていく。

 暫くそうしていると悲鳴を上げる力もなくし、グッタリと九尾が動かなくなると鞭を消して近づく。

 

 「獣には服はいらんだろう」

 

 俺は魔力により彼女の服を焼き払う。鞭で打たれ所々赤く腫れている彼女の裸体が俺の前に晒される。九尾は手で隠そうとするが俺は彼女に首輪を付けそれから伸びる鎖をひき、無理矢理持ち上げる。

 

 「・・・・・!!」

 

 首が絞まり何とか逃れようと体をよじるがそれを手で抑え耳元で囁く。

 

 「さて、このまま畜生として俺に飼われるか、それとも配下となりそれなりの扱いを受けるのとどちらがいい?」

 

 そう言うと鎖を離す。九尾は再び地面に倒れふす。彼女はなんとか顔を上げ俺に視線を向ける。

 

 「な、なります。配下にしてください・・・・・・・・お願いします」

 

 それを聞き俺は笑を浮かべ頷く

 

 「クックッ、いいだろう。配下になった記念だ。受け取れ!」

 

 グレイフィアにしたように彼女の胸元へと魔力を送り刻印を刻んでいく。

 

 「アアアアアァァァァ!?」

 

 刻印が刻み終わると九尾は体をぐったりと横たえ息を荒くしていた。

 

 「そういえばお前の名を聞いてなかったな。九尾、お前の名は何という?」

 

 「・・・や、八坂です。ご主人様」

 

 「八坂か」

 

 それを聞き、八坂を抱き上げて居城へと転移する。

 

 

 結界が解かれたその場所は災害が起きたような傷跡だけが残っていた。

 

   



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