Fate/Table Talk 偽史夢幻奇島ニライカナイ ~虚光のタウミエル~ (珈琲菓子)
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01 ゆりかごの終わり

物語のプロローグ

オリキャラとSCP要素を申し訳程度に含む
肝心のセッションはまだ始まらない

プロローグだからね、しょうがないね


「♪~」

 

薄暗い部屋の中、奇妙な音程で響く鼻歌

天窓から差す月の光が、その発生源を照らしていた

 

「♪~」

 

まだ年端もいかない様な子供が一人、床に這いつくばって手を動かし続けている

 

その小さな手に握られているのは”オイルパステル”

精製された塩を聖油で練り上げた特殊なチョークだ

キラキラと輝く白い軌跡は、床に複雑な紋様を作りだす

 

大小の円と多角形を組み合わせ、その周囲にいくつもの文字を書き連ねる

かなり複雑な造り、大掛かりな術式である事は間違いない

 

「―――うっし、完ッ成!」

 

陣を書き上げ、服に着いた汚れを掃いながら、”その少女”は立ち上がる

丁度パステルを使いきったのか、その掌には何も無かった

掃われた塩の粒は、微かな光を受けて銀色に煌めきながら床に散らばってゆく

 

「あー腰、痛ってぇ…」

 

長時間の作業と姿勢が堪えたのか、疲労の表情を浮かべている

腰と首をゴキゴキ鳴らし、伸びと深呼吸をした後、突然真顔になる

 

「特定の地域の英霊が召喚不能…、エクストラクラス、抑止力、根源…」

そこで一旦言葉を区切り、肩を竦め、馬鹿にするように嗤う

 

「Blödsinn!!!」

 

溜めていた物を全て吐き出すが如く、叫んだ

 

「下らないし、つまんない…古い、要するに旧いんだ…」

 

誰ともなくブツブツと呟く

傍から見れば完全に危ない人物だが、その少女はどこまでも本気だった

 

「だからこそ、我々が変えていかなければならない…ッ!!」

 

何処かの館の、広い一室の中

彼女は、暗闇に向かって宣言する

月光のスポットライトも相まって、何かの舞台を演じている風にも見える

 

「―――諸君、知っているか? 我々一族の名は、この国の言葉に変換すると”革新”を意味するとッ!!」

 

暗闇に向かって問いかける

一人しか居ない部屋の中、―――否、何かが居た

 

月光の当たらない、完全に影となっている場所

壁にもたれかかって何者かが、眼を閉じて静かに立っている

 

背の高い男だ

暗闇とは対照的な白衣を纏い、お世辞にも似合うとは言えない、首に下げた真紅の宝石の首飾りをぶら下げている

気配どころか存在感が全くなかった

 

そして、男の足元に並ぶ、無数の影

 

果たしてソレ等は、人間では無い

鼠、蝙蝠、鴉といった小動物達が、少女の演説に耳を傾けていた

 

その場で身動き一つ立てず静かにしている様子は微塵も生物らしさを感じさせない

それもその筈、男の足元に居るのは皆、屍

動物の死骸を利用して作られた、操り人形に過ぎない

 

特に珍しくも無い使い魔

そして、眼を閉じて静かに立つ、白衣の男

一人舞台の観客として、+離れた場所から少女の言葉を聞いているのだろう

 

「永い時を経て、ようやく準備は整った! 色々苦労してきたが、今こそ長年の成果を出す時だ!!」

 

大きく手を広げ、背後にある書き上げたばかりの召喚陣を示す

 

「―――聖杯戦争… 我々が造り上げた、我々だけの、…な」

 

”聖杯戦争”

根源を求め集う魔術師、至上の使い魔となる英霊

あらゆる願いを叶える万能の願望器・聖杯を求めて行われる、7人7騎の大規模戦争

 

血の河の流れる先は、破滅と栄光

敗者には無惨な死を、勝者には輝ける未来を齎す、ハイリスク・ハイリターンのギャンブル

 

規模を問わず、幾度となく世界各地でその戦争は執り行われてきた

しかし、参加者の全滅、聖杯が顕現しない事態が発生するなど、いずれも芳しくない成果に終わるモノばかりであった

 

「勿論、”財団”にも感謝しているよ? アンタ達の協力が無ければ、各所に気取られていただろうし」

 

壁際の男に向かって話しかける

”財団”というのは、白衣の男に関わる事だろうか

 

「―――…当初の予定通り、完成したオブジェクトは我々で回収させてもらう…その事を忘れるなよ?、アーデルハイト…」

 

死んだように静寂を貫いていた白衣の男が口を開く

”アーデルハイト”と呼ばれた少女と、財団の男は協力関係にあるようだ

 

「うん、このアーデルハイト・フォン・フラウアルペン・フリューゲリンクの名に懸けて誓おう

 成果はアンタ等に渡す、必だ」

「…ならば良い」

「こっちとしてはこの”病気”を何とか出来れば良いだけだし、後は世界を救うなり何なり、好きににしていいよ」

「だろうな…貴様等の役割はあくまで”観る”だけ…現状は、極めて分不相応と言わざるを得ない」

「良くも悪くも、”起源”だね 役目以外に手を出した私は、差し詰め一族の突然変異種って所か」

「難儀な一族だ…」

 

その一族は、とある”起源”の虜囚だった

 

存在の原点となる事柄、”起源”

全てにおいての法則性、指向性を齎す、混沌衝動

 

その少女の、アーデルハイトの衝動は、”傍観”

新たな子の誕生と共に、必ず”見る”事に感する起源が発現する

代々当主が受け継ぐ、祝福にして呪い

 

ありとあらゆる物を見た

繰り返される争いを観た

人間の抱える悪性を看た

 

その目的は一切不明

或いは何も無かったのかもしれない

 

聖杯戦争

万能の願望器を巡る争いの中にあっても、その本質は変わることは無かった

参加することなく、ただただ”見”に徹するだけの存在だった

 

幾たびの戦いを見た

 

システムを生み出した一族達が争い合い、失敗した時も、

その失敗から教訓を得、明確なルールが適用された時も、

”器”が破壊され、勝者が存在しない結末となった時も、

大きな爪跡を残す大災害が引き起こされてしまった時も、

 

一部始終を、全て見て、観て、看た

 

造りを知り、欠点を知り、その改良の方法まで、全てをその一族は知ることが出来た

 

「でも、その難儀な一族のおかげで良い思い出来るんだし、いいじゃない」

 

明確な目的など無かった

初代から脈々と受け継がれてきた家系

 

本家から分家に渡り、子々孫々へ与えられた役割は、ただ”観る”こと

決して手を出さず、主観的な客観視

ずっとそうしてきた

 

―――少なくとも、当代に至るまでは

 

「英霊の召喚から、顕現する聖杯に至るまで、その全てを一から組み上げ、その全てに手を加え尽くした最高のパチモンのおかげで、ね」

 

手を加えた、と言う

再現のみならず、一から造り上げた、と言う

 

傍観者から当事者へ

読者から作者へ

客席から舞台へと、遂に足を踏み入れんとしている

 

「真贋などこの際気にしていられん…、”終焉”に対抗しうるオブジェクトであれば問題ない」

「大丈夫、安心していいよ 後は、時が満ちるのを待つのみだ…」

 

大掛かりな術式は、基本的に土地の魔力を利用して行われる

使用者の魔力だけでなど、到底不可能だからだ

 

「月と土地の親和性、最も夜の深くなる時間…この国では”ウシミツドキ”っていったっけ」

 

現在時刻は午前2時に差し掛かる

あと10分もしない内に条件は満たされる

土地に魔力が満ちる瞬間、同時に詠唱と追加の式を記入すればいい

 

たったそれだけ

詠唱は少し長めだが、追加の式は簡単な物だ

失敗など、有り得ない

 

「では…、そろそろ儀式を次の段階へ進める! 各自、準備はいいか?」

 

ここまで来たらほぼ勝ったも同然

湧き上がる達成感と、この計画が齎すであろう成果に胸を躍らせ、足元に広がる巨大な陣へ目を落とす

 

”傍観者”が、舞台の上で何かを成し遂げた、たったそれだけで起源の法則は討ち破られる

事が成就した暁には、完成した聖杯で起源を取っ払ってしまっても良いだろう

 

今宵、歴史は大きく動く

 

後は詠唱と、式を追加するだけ

式を―――

 

「ん?」

 

アーデルハイトはキョロキョロと辺りを見渡す

探し物でもするように

 

「…あ、れ?」

「…どうした?」

 

パステルが無い

それもその筈、先程の準備段階で残り全てを使いきってしまったのだから

 

「………………」

「…おい」

 

思考と行動が停止した

数秒前まで余裕に満ち溢れていた顔は、瞬く間に焦燥の色を濃くしてゆく

 

「ぱ、パステル、いやチョーク持って来て、チョーク!! 誰か!! 早く!!」

 

焦りに焦って周囲に指示を出す

使い魔である小動物達は蜘蛛の子を散らすように動き出した

 

この日のために準備をした

教会や協会に悟られないよう、儀式の材料は秘密裏に収集した

真偽を使い分けながら、時間をかけて入念に準備した

 

この国の財団支部と協力し、此処に至る全ての要素を、丹念に、ゆっくりと揃えた

危ない橋なんて幾つも幾つも渡った

そもそも行動を直接起こすなど、遺伝子レベルで専門外だったというのに…

 

「(今更こんな所で躓いていられるか…!)」

 

しかもこの陣は”今日”、”この日”のために用意した物

土地から魔力を得やすいよう、時間と場所を調整しながら造り上げたのだ

再び書き上げるとなると、材料集めから全てやり直しだ

 

「(それに、一からまたやるなんてクソ面倒だ…!)」

 

本音を滲ませながら館の中を移動する

アーデルハイトがチョークの代わりになる物を探していると、使い魔の内の1匹が歩み寄ってくる

 

鼠が喋る

『報告します! こんな時間に商店が開いている訳がありませんでした!!』

「うるせー!! 知ってるわボケェ!!」

 

やってきた蝙蝠が喋る

『報告します! キッチンの棚に埃塗れの袋が有りました! 多分塩です!!』

「あーこの際もうソレでいい! 持って来い直ぐに!!!」

 

そして鴉が喋る

『報告します! ついでに見つけたオリーブオイルもセットで付けます!』

「聖油も無いのか!? つーかお中元かよ!! まぁそれでも良いや、持って来い!!!」

 

数分前までの静寂は何処へやら

屍の人形達は慌ただしく走り回る

 

「…おい、大丈夫なのか?…」

白衣の男も異常事態に動揺しているようで、首飾りを揺らしながら少女に問いかける

対し、アーデルハイトは

 

「………」

微妙な笑顔で無言を貫いている

冷や汗ダラダラに、この上なく引き攣った笑顔だったが

 

約1分後、使い魔の動物達がドタバタと、魔法陣の部屋に入ってくる

 

赤と青の文字が特徴的な、塩の入った埃塗れの袋

エキストラバージンと銘打たれたオリーブオイル

そして、小鉢や擂粉木などの道具を運んできた

 

パスソルトの材料として、本質的には間違ってはいない

間違ってはいない、…のだが、何もかも間違いである

 

「―――あ、これ最初にオリーブで陣書いて、上から塩かけた方が早くね?」

少女が突然の思い付きを言葉にする

 

『時間も無いですし、ソレで行きましょう!』と、鼠

『原材料は大体同じですから、イケますよ、コレ』と、蝙蝠

『各員はもう配置につけ、もうすぐ来るぞ!』と、鴉

「ソレで良いのか、貴様等…」と、白衣の男

 

アーデルハイトは使い魔から塩の袋とオリーブオイルの瓶を受け取り、急いで陣の前に移動する

「(時間は…かなりキツイな…だがホンの一節程度、詠唱も、…まぁ間に合う…かな)」

 

頭の中でシュミレートを済ませる

イレギュラーは重なったが、十分修正可能なレベルだ

 

「…一応、もう一度聞くが、大丈夫なのか…?」

「…もう一度言うよ?、Dr.ブライト、―――大丈夫、安心していいよ…」

 

笑みどころか、感情を窺わせない顔に変わる

冷や汗ダラダラの焦りまくりだった先程とは、まるで別人の表情だ

 

その様子に少しだけ面食らったが、

「…ならば、その名を示してみろ」

言葉を信じ、任せることにした

 

深く一回だけ深呼吸を行った後、傍らの瓶に手を伸ばす

蓋を開け、豪快に小鉢にオリーブオイルをぶちまける

半透明の薄黄色の液体を手で掬い、勢いのまま陣に手を伸ばす

 

「―――――――――」

詠唱と式の追加を同時併走で進める

歌うように、踊るように、儀式は完成に近づいていく

 

問題無く追加式の記述を終え、問題の塩袋を手繰り寄せる

「―――――――――」

表面の埃を掃い落とし、袋を開ける

 

「―――、―――、―――」

袋を開ける

いや、開けようとする

 

「―――ッ、―――ッ!、―――ッッ!!」

しかし、開かない

少女が一生懸命力を込めているが、ビニールが歪むだけで中身が外気に触れることは無い

顔を真っ赤にさせて力みながらも、詠唱を止めないあたりは流石と言える

 

「…」

その姿を、白衣の男が疑念だらけの無言で見つめる

取り戻しかけていた信用が、早くも崩れ始めているのだろう

 

そして、

「―――――――――ッ!!」

 

ぱんっ!、

と音がして盛大に塩がぶちまけられた

限界を超えた負荷に、袋が弾けたのだ

更に、

 

「ぶえっくしょぃ!!」

追撃として放たれたくしゃみが、僅かに残った塩を陣の至る所に拡散させた

手元には空の破れた袋、付着していた埃と、ハウスダストのみ

 

「「「「「…………」」」」」

 

少女、男、鼠、蝙蝠、鴉、

皆一様に口を閉ざし、互いに目を合わせることは無い

 

詠唱は完全に途切れ、陣は無残な姿になっていた

この場に居る者、居ない者、誰もが思った

 

―――”あ、終わった”、と

 

土地に魔力が満ちる時間は過ぎた

加えて、儀式はこの有様

 

100人中100人が失敗と答えるような惨状

実際完膚なきまでにこの儀式は失敗に終わった

 

あくまで”この”儀式においては、の話だが

 

『―――報告します!、各地で魔力反応増大!!』

「…え?」

 

静寂を討ち破り、切羽詰まった声が使い魔の1匹から発せられる

予想外の事態

ソレは連鎖して取り返しのつかないレベルになる

 

『英霊召喚予定地Aに――――ッ?!』

『同じくB地点!、何、コレはッ!?―――』

『C地点、触媒が、ッ―――』

『体が―――助け―――』

『あ、あ、うあ、あ、ああ、あぁァぁ―――』

 

一斉に使い魔達が喚きだし、英霊召喚を予定していた、各地での異常を伝える

しかし、報告の途中で皆、黙り込む

 

「おい、何が…、一体何が起こっている?!」

 

使い魔に疑問をぶつけるも、問いに答える者は居ない

既に命の無い使い魔は、本物の死体のように倒れ伏し、動かない

 

「おい、何がどうなっている…儀式は失敗ではないのか…?」

「分からない…不本意の極みだが、確かに、…アレで、失敗した、筈…」

 

分からない

何が起きているのかが理解できないのは事実だ

 

目に映るのは塩塗れの召喚陣

陣、詠唱、各地に配置した式

一角でも崩れれば失敗だというのに、2/3を台無しにしたのだから、寧ろ失敗でないのがおかしい

 

「兎に角、島の状況確認を―――」

 

使い魔達が沈黙している以上、自分の眼で確認するしかない

外へ出ようと出口へ体を向けた、その瞬間

 

ドサッ

と、鈍い音がした

 

視界の端で倒れている男

先程まで会話していた、言葉を発していた男だ

 

「…Dr.…?

 何、…してんの? 寝てる場合じゃないよ…?」

 

白衣の男はうつ伏せに倒れたまま、動かない

呼吸もしていないのか、微動だにすらしない

 

どういう事だ

理解が追いつかない

何が一体どうなっている

 

Dr.ブライトも同じだったのか、そんな表情で固まっていた

脈拍無し、心臓不動、完全に生命活動を停止している

ただ胸の首飾りだけが紅く輝いていた

 

「…死んで、…殺された…? いや、でも”本体”は無事か…」

 

博士の死体から手を放す

既に焦燥は冷めていた

自らの起源が全てを把握しようと働く

 

停止した使い魔を見る、死亡した博士を看る

そして、辺りを観る

 

「陣が、…胎動している…?」

 

塩塗れの召喚陣が、薄く輝き始めている

ホンの数分前まで期待していた光景だが、ここに至っては何が起こるか分からない

 

少女には知り得ない事であったが、彼女の部下が配置された各所では、

既に同じ現象が起こっていた

 

少女の居る、陣の中心を除き、

輪の外に居た、儀式に関わる人間は全て生命を終えている

 

例外なく陣に魂を奪われ、肉体も徐々に分解され、儀式の供物と化していた

式の反応はゆっくりと、中心に向かって起動し始めていた

 

1つの島を利用した大規模な降霊術

失敗したように見えた儀式は、似て非なる術式へと変質した

 

正規の大聖杯を元に作られた、紛い物

とある一族が手を加え尽くし、原型を見事に粉砕した最高の粗悪品

 

精密機械を模した、手作りの精密機械(塩塗れ)

そのまま再現するだけの知識を持ちながら、敢えて道を外して別物として制作した

我流での制作に加え、独自の改造を施してあるが故に、本来の用途以外では何が起こるかは分からない

 

何が起ころうとも、不思議ではない

 

「―――ぁ、私も、ヤバい…パターン、か コレ、は…」

 

いきなりグラっときた

極限まで疲れた時、脳が休息を得ようと意識をシャットダウンする、アレに似ている

 

「意識が…駄目、だ…眠みがヤバ…」

 

自分も、部下やブライト博士のように魂を儀式に持って行かれるのか、と何処か他人事のように思う

気が付けば目の前に地面が現れていた

倒れた、と理解したが、不思議と痛みは無かった

 

「…」

 

色々思う所はあったが、直ぐに消えた

失敗も、後悔も、ソレに伴う感情も、全て俯瞰した

 

観るだけで何もしないのが”傍観”、そして一族を蝕んできた呪いだからだ

自分の事も他人のように見る事ができる

視点を平等に、あらゆる要素を様々な側面から把握できる

だから儀式を組み立てることが出来たし、だから失敗した

 

所詮、この程度 

 

”コレ、こうした方がいいんじゃね?”と抱いた感想に対し、”じゃあやってやるか”、と挑戦した結果だ

 

Dr.ブライトも言っていたが、要するに分不相応

専門外の事になど、手を出すべきではなかったのだ

 

「……」

 

分かりきった自己分析

傍観に諦観を織り交ぜ、眼を閉じる

 

「………」

 

途切れ途切れになる意識の中、静寂を破る、静かな声

 

 

 

―――…問いに答えてもらおう

 

 

 

「…な、に…?」

 

―――君が、私を呼び出した者か?

 

「…誰…?」

霞む目を開いても、誰も居ない

声は、何処から…響いている…?

 

―――…君が私を呼び出したのだと思ったが、違ったか?…

    

「…呼び、出した…だと…?」

 

―――そうだな…サーヴァント、…”セイヴァー”とでも……最も、自称でしかないが…   

 

「…自、…称…?」

 

―――…そして、次は君が私の問いに答える番だ…

   

聞き捨てならない答えを、応えなければならない問いを、

耳にしたような気がしたが、意識は闇の中に落ちた

 

 

 

 

 

アーデルハイトは勘違いをしていた

 

儀式は完全に失敗した訳では無い

結果から言えば、聖杯戦争は”それなりに”形にはなっていた

 

予算不足により、適当に集められた触媒によって英霊は召喚された

同時では無く、それぞれ少し時間をおいて各地に召喚された

しかし、実際召喚されたのは、合計8騎

 

この時点で聖杯戦争としての前提は狂っていたが、実際何もかもが狂いまくっていた

 

最初に召喚されたのが、通常の7騎のどれにも当てはまらない”エクストラクラス”だったこと

本来の聖杯戦争にて英霊を従えるべきマスターが不在である事

この二つが大きいだろう

 

マスターが居ない、という事はサーヴァントへの魔力供給、及び令呪によるバックアップが不可能である事を意味している

 

ソレだけならば大事になどならない

魔力切れした者から退場してゆくだけで、戦争にまで発展することは無い

 

だが結果として、その聖杯戦争もどきはつまらない幕引きで終わる事は無かった

 

何の奇跡か、召喚された彼らは自然消滅することなく、現世に留まり続けた

ハッキリとしたサーヴァントの反応がある以上、受肉した訳でも無く

彼らは其処にそう在り続けている

 

何らかの方法で魔力のバックアップがパスされているのか、或いは他の要因があるのか

訳も分からず召喚された彼らには、まだ知る由も無い

 

そして、令呪

マスターがサーヴァントに対して用いる、3回しか使えない拘束具にして武器

 

本来宿るべきマスターが存在しない今回の聖杯戦争に限っては、何故かサーヴァントに宿っていた

 

願望器とするには、不安要素が大きすぎる不完全な聖杯

亜種と呼ぶには烏滸がましく、偽りと呼ぶのも憚られる、出来損ないの聖杯戦争

 

争いの果てに何が待ち受けているのか

願いが叶うかさえも不確定な、博打にもならない大博打

 

集う数々の英雄たち

己が賽を振るは何のためか

 

くしゃみ一つで世界を揺るがした一族

塩塗れの聖杯によって呼び出された英霊達

予想もしない事実に、ただ踊らされる人理機関

 

あらゆる思いが交錯する中、

今ここに不毛極まりない戦いが幕を開ける

 




根っからの事務系が、いきなり現場に立ってもそりゃあ上手くはいかないさ
傍観者はどこまでいっても傍観者

仮称セイヴァーとアーデルハイトは物語の本筋には最後まで絡まないよ
そういうキャラ付けだからね



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02 Search Light

序章のその2 プレイヤー(カルデア)側のお話

時系列は4章以降6章前くらい
原作組は最後まで出番は無いので、この設定ほぼ飾りだけど

ここからセッション開始

プレイヤーは7クラスから1つ選択し、自分のオリ鯖を作成
(今回はランサーとライダーを選択)

ステータスから補正値を定め、スキル効果はGMと調整

オリジナルルールだからバランス調整めっちゃ難しかったよ…


―――人理継続保障機関・カルデア

 

「―――つまりは、亜種特異点…人類史に影響を与えうる事象だと判断した…」

そう言って、Dr.ロマンは説明を終えた

 

複雑な面持ちで受け止めるマスター

その傍らで静かに反芻するシールダー、マシュ・キリエライト

待ち受けるであろう戦いに思いを馳せるサーヴァント達

レイシフト室に集う面々の反応はそれぞれだ

 

突然の召集、新たな特異点の発見

加えて、人理を揺るがす事態であると判断された

 

場所は東洋の島国・日本

時代としては西暦2000年前後と、かなり近代である

そして、何より特異点として観測された理由が物議を醸し出している

 

「”聖杯戦争”…、それは確かなんですね、ドクター?」

シールダーの少女が問いかける

 

「あぁ、年代が年代だからね…シバによる観測精度も信頼できるよ」

 

”シバ”とは、近未来観測レンズの事である

地球を観測する専用望遠鏡のようなモノであり、西暦での歴史を遡り、読み取ることが出来る

 

紀元前に近付くほど精度は不安定となり、必要となる魔力・電力も膨大となるため、取扱いには精密さが要求される

だが、裏を返せば近代ならば消費は軽微で、精度の高い結果を得られるという事だ

 

「…私達が最初にレイシフトした特異点…あの時も、聖杯戦争が舞台でした…」

「”特異点F”のことだね

 確か、現地のサーヴァントと協力して切り抜けたとか…

 でも、今回は座標が異なるし、近いとはいえ、年代もまるっきり一緒と言う訳でも無い」

 

魔術王の刺客、レフ・ライノールによって危機に陥ったカルデア

その際に負傷したマシュと共にレイシフトした先が、”特異点F”

 

そこで目撃したのは、奇しくも同じ日本の、とある地方都市が壊滅・炎上している光景

人間が、というよりはあらゆる生命が否定された場所

 

黒く汚染されたシャドウサーヴァント

聖杯を守護していたと思しき、アーチャー、そしてセイバーの2騎

その目的、理由は今以て一切不明

 

”特異点F”については情報が少なく、未だにハッキリとした事実は判明していない

ただ、確かな事は、彼の地で行われたという聖杯戦争が原因で、あの恐ろしい状況に陥ったという事実

 

悪夢のようなあの時と重なる状況が幾つも提示される中、嫌でも思い出される

鉄の匂い、人が焼ける臭い

炎の赤色、人が灼ける紅色

 

数々の戦いを潜り抜けてきたとは言え、再びあの地獄が待ち受けていると思うと、気分も滅入るだろう

マスターの表情は優れない

 

「”特異点F”は流石に異質すぎるから、きっと参考にはならないよ

 何より、アレは既に事が起きた”後”の出来事だ」

 

時は可逆、歴史は不可逆

レイシフトで過去に飛ぼうとも、そこで起こってしまった出来事を変える事は出来ない

 

「今までのローマやオルレアンといった特異点のように、問題である聖杯をどうにかした後、ある程度なら、歴史による修正が成されると見て問題ないだろう」

 

数々の特異点を修復してきた結果から見えてくる事実

原因である聖杯を確保した後、その時代の異変は徐々に改善されてゆく

 

特異点Fのように、既に成されてしまった事実を覆すことは出来ないが、

事前、或いは事中ならば、ある程度の立て直しが可能となる

オケアノスの死海、ロンドンの魔霧で実証済みだ

 

「何にせよ、古今東西”戦争”なんて単語が付いていて、碌な物は無いだろう

 しかも、聖杯が絡んでくるとなれば尚更だ

 君達には早急にレイシフトしてもらい、問題の解決を頼みたい」

 

「そういう事ならば、…準備は出来ています」

マシュの言葉に、マスターは黙って頷いた

 

「よし、じゃあ最終確認だ

 今回連れていくサーヴァントは、此処に居る皆でいいんだね?」

レイシフト室に集うサーヴァント達を見渡す

 

その数は決して多くは無い

カルデアに召喚された英霊全てを連れていく事は流石に不可能であり、尚且つ、その時のコンディションで同行するかしないかを決めるからだ

今回のように、急な呼び出しで出撃出来るものは限られてくる

 

「そうだ、君達は最近カルデアに召喚されたばかりだったね、正式な任務はコレが初めてだけど、状態に不備は無いかな?」

 

問いに対し、新参の一人であるライダーは、ビシッとサムズアップしつつ答えた

 

「ほっほっほ、大丈夫じゃよ レイシフト?とやらも問題無しじゃ!」

 

赤い帽子に、赤い服

見るからに好々爺と言う印象を覚える老人、座に登録された真名は”聖ニコラウス”

外見は誰もが想像するサンタクロースの姿をしていた

 

「強いて言うならば…儂みたいな老ぼれで良かったのかのう? もっと若くて強いサーヴァントもおったじゃろうに」

「あぁ、それに関しては大丈夫だ 何てったって、時期が時期だからね」

「ふうむ? そりゃまたどういう事じゃ?」

「今回予定しているレイシフト先は、サンタさんが一番活躍する時節…、つまりはクリスマスの時期なんだ」

「成る程のう…それなら確かに儂が適任じゃな

 しかしまぁ、あのお方の誕生日に物騒な事件が起きてしまったモンじゃなあ」

「誰が何の為に、ってのは行ってみないと分からないからね…特異点ってのはいつも唐突で理不尽なものだ」

「全くじゃのう…ふむ、ならば儂も一つ頑張るとしようかの」

「うん、サンタさんは大丈夫なようだね」

 

老人から若者へ向き直る

 

「それで、ドゥフタハ君はどうかな? モニターした限りでは、君の霊器も良い感じだったけど」

 

もう一人の新参、ランサーのドゥフタハ・ダイルテンガはというと

「ん?あぁ、調子はいいぜ。この通りなッ!」

軽く槍を振りつつ、溌溂とした様子で答えてみせた

 

「ぬお!」

「うわっ!!」

 

身体の傍を掠める槍に驚くライダーとDr.ロマン

 

「驚いたなぁ…元気もやる気も有り余っているようだね…」

「ほっほっほ元気があるのは良いことじゃな

 ただ、マスターもいるからほどほどにの」

「おっと、済まねえな」

 

軽い調子で謝るランサー

マスターはマシュと共に、苦笑交じりにに2騎を見ている

そこに先程までの不安な表情は浮かんではいなかった

 

「(ちょっとはマスターの緊張をほぐせたかの)」

 

「そういやドクターさんよぉ、今回行く特異点には強い奴らはいるんだろうなぁ?」

「うーん、そうだねぇ…

 舞台は聖杯戦争、少なくとも現地の参加者は、強力なサーヴァントで勝ちを狙いに行くだろう

 そういう意味では、強敵揃いではあるだろうね」

「ほぉ…、そいつぁ楽しみだ…」

 

獰猛な笑みを浮かべるランサー

まだ見ぬ強敵に思いを馳せているのか、落ち着かない様子で槍の石突をコツコツ床に打ち鳴らしている

 

「幾らサンタさんに補正が乗っかろうとも、彼は戦闘を主体としたサーヴァントじゃあない…君のような根っからのバトルマニアは、今回みたいな事象においてかなりの戦力になると思う」

「頼りにしとるぞい、移動に関してはこっちで補えるからの」

「おう、そこらへんは任せるぜ、爺さんよ」

 

 

「よし、合意を得た所だし、早速レイシフトに移ろうか」

一旦言葉を区切り、イヤホンマイクのスイッチを入れた

 

「レオナルドかい? そっちの準備は…え?

 あぁ、…こっちでは特に、そんな異常は見られないけど…」

 

管制室と連絡を取り合っているのか、技術顧問であるレオナルド・ダ・ヴィンチの名前が挙がる

少しだけ困った様な表情を浮かべながら、何かを話している

 

「…あぁ分かった、僕も今すぐ向かう」

眉を顰めながらイヤホンマイクのスイッチを切る

 

「あー…、

 後は、こっちの準備だけだから、少しだけここで待っていてくれ」

 

そう言ってDr.ロマンは部屋をあとにした

それ程焦ってはいない様子だったので、重篤な事態ではないのか

何にせよ、あと数分もしない内にレイシフトが開始されるのだろう

 

「何か、あったのでしょうか…」

「ふうむ…まぁ心配あるまい

 ちいと気弱ではあるが、優秀であるには間違いないだろうからの」

「何かあった所で、俺達にはわからねぇしな」

 

レイシフト室に集う者は皆、怪訝な表情を浮かべている

思う所はそれぞれだ

 

「(何にもなければよいのう

  ふむ、しかしクリスマス…マシュ嬢とマスターにも何か用意するべきかのう…)」

 

 

Dr.ロマンがレイシフト室を出て数分後、近くのモニターの電源が入った

 

『―――すまない、皆、聞こえるかい?

 えっと、申し訳ないが、一つ確認したい事があってね』

不穏な空気を破り、Dr.ロマンの姿が映し出される

 

「どうしたんじゃ?」

「ドクター、如何しましたか?」

『あー、うん…さっきも確認したばっかりだし、多分大丈夫だと思うんだけど…』

「何だよ?」

『皆、…本当に、体調に問題は無いんだよね?』

 

数分前の問いを、再び口にした

思わず皆、互いの顔を見合わせる

 

「ロマン殿、要点をはっきりと伝えるべきじゃ

 体調が悪いと何か問題が?」

 

目立って不調そうな者は居ない、マスターもサーヴァントも同様だ

改めて確認した後、結果を告げる

 

「皆さんも、特に異常は無いようですが…」

「うーん…体調の悪さ云々とかじゃなく

 悪い所が無いというのが問題なんだけど…」

 

ブツブツと呟くDr.ロマン

モニターの向こうとしても、状況は把握しきれていないらしい

 

「異常がないのが異常事態…? 何が起きておるんじゃ?」

『…あっと、ごめん

 一応、こっちでもモニターしているから、こっちからもある程度の状態は把握できるんだ…その上で確認したくてね』

『特に、サンタさんとドゥフタハ君、自分自身の霊器に違和感とかは有るかい?』

「特に無いのう」

「いや、特に変わったところはねぇぞ?」

 

名指しで挙げられ、混乱は加速する

確かに異常は無い、モニタリングで向こうでも理解している筈だ

 

『実は…モニターしているこちら側での話なんだが、君達2人の霊器反応が、他のサーヴァントに比べて不安定でね』

「俺と、爺さんだけが…?」

『具体的に言うと、此処に居るのに、居ない様な…しかも、その振れ幅が段々と大きくなってきているんだ』

「ほほう、そりゃあ珍妙な話じゃな」

「ドクター、原因は分からないのですか?」

『う~ん…目下、調査中だ

 申し訳ないが、レイシフトは原因が判明するまで待って…ってアレ?』

 

加速する状況は、更に悪化する

 

『…誰か、レイシフト起動した?え? あれ? どうしてだ?

 レオナルド、君かい?』

『いや、私ではないよ? ロマニが間違って何かしたんじゃないの?』

『というか、誤操作防止のセーフティがあるじゃないか!

 そういう事は万一にでも有り得ない…』

 

「あの…ドクター? 今度は何が…?」

画面越しの素っ頓狂な声に向かってマシュが問いかける

 

『わ、分からない…そっちの方で、勝手に転移が始まっているんだ…!!』

 

画面向こうの管制室は騒然としている

レイシフトを実行していないにも関わらず、開始された転移の反応に戸惑っているのだ

 

『兎に角、そっちでレイシフトというか、転移が起きている!!取り敢えず緊急停止を―――!』

『君達、そこから急いで離れ―――』

 

「皆さん、外へ!!」

「なんと! マスター!マシュ嬢!」

「ッ!マスター、さっさとしろ!」

 

マスターを始めとした、他のサーヴァント達が部屋から出ようと急ぐ

同じく、レイシフト室から外へ出ようと足を動かそうと、力を入れ―――

 

ここでようやく、異変に気付いた

 

ランサー、ドゥフタハ

ライダー、聖ニコラウス

霊器が不安定と評された2騎

 

彼らの体は、動かない

張り付いたように、縫い付けられたように

 

「ぬぅッ!?」

「ぐッ…マスター!儂らの事は案ずるな!」

 

それもその筈

その足から先は、既に薄れ始めているからだ

消滅…では無い、何処かに存在が移されようとしている

自分の意志とは無関係に、転送が開始された

 

何故?と

考える暇もなく、眩い光が辺りに広がり、

 

「――――!!」

 

2騎に向かって手を伸ばすマスターの姿を最後に、目の前が真っ白になった

 

記念すべき初陣が見事に飾られる事無く

永いようで短い、旅の始まりとなった

 

 

 

 

特異点???

偽史夢幻奇島 ニライカナイ ―――虚光のタウミエル―――

人理定礎 ???

 

 

 

 




選択されたクラスは2つ

ランサー、ドゥフタハ・ダイルテンガ
戦闘狂の若者的な男

ライダー、聖ニコラウス
言わずと知れたサンタクロース

本来、この2騎はアーデルハイトが作成した聖杯戦争で呼ぶ予定だったが儀式の暴走により、カルデアから直接ご招待
(元々レイシフト予定で特異点への経路は繋がっていたため、そのまま持って行かれた)

折角引いたのにマスター君可哀想


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マテリアル(プレイヤー側)

プレイヤー側であるランサーとライダーの設定
スキルは戦闘以外でも使用可(GMとの協議+判定有り)

ステータスのパラメータはE~Dの5段階で補正が付与
ランクは大体言ったもん勝ち

取り敢えず設定盛って補正足せ、それで良いんだよシンイチ

戦闘システムについてはもっと調整すべきだった
今は反省している


≪ランサー≫

真名:ドゥフタハ・ダイルデンガ

性別:男

身長/体重:㎝/㎏

属性:秩序・中庸

 

HP69

筋力:B[攻撃+4]  魔力:B[NP+4]

耐久:B[防御+4]  幸運:D[回避+2]

敏捷:C[命中+3]  宝具:D[宝具+2]

 

《クラス別能力》

・対魔力:C

 

《保有スキル》

・戦闘続行: ≪CT6≫

…自身にガッツ状態(3d6蘇生)を付与(3T)

 

・啜る黒水(ダイルクー): ≪CT7≫

…対象のチャージを確率で減少、対象に毒状態(3ダメ)を付与(3T)

 

・ルーン魔術:       ≪CT6≫

…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

 

《宝具》

・『貪る呪炎(ルーン)』 B宝具

ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:3~10 最大捕捉:15人

⇒全体『B』宝具5d6 

 相手・自身に火傷状態(3ダメ)付与(3T)

 

光神ルーの槍とも同一視される、”意志持つ槍”

戦い予兆や、敵意、悪意を察知すると言われている

反面、常に穂先を毒液(獣やドルイドの血液)に浸しておかないと勝手に震えだしたり、発火するなど、取扱いに注意を要する

所有者自身にも危険を及ぼす性質が強く、伝承ではこの槍が原因で、持ち主となった者が悉く死に誘われている

宝具開放の際には、毒液による封印をパージし、呪炎により周囲を焼き尽くす

死因となった要因でもあるせいか、自身も巻き込まれてしまうのはご愛嬌

 

《人物》

アルスター神話の戦士。「流浪組」の一人。

「デアドラの悲劇」のエピソードに置いて、アルスター王コンホヴァル・マック・ネサの 卑劣な裏切り行為に憤り、王子コルマク・コン・ロンガスと 戦士フェルグス・マック・ロイの二人共にアルスターの宿敵国コナハトに亡命した。

このエピソードからは義侠心の強い一面が伺えるが、一方で毒舌家であり、 かの大英雄クー・フーリンについて乱暴なことを述べて、 仲間であるフェルグスから非難された上に 放り投げられてしまうというエピソードも残っている。

 

戦闘狂であり、強者との戦いを望む

老成せず死んだため、内面は生前と変わらず若いまま

よく言えば成長性がある、悪く言えばまだ青い若造

毒舌は控えているがたまに出る

 

 

≪ライダー≫

真名:聖ニコラウス

性別:男

身長/体重:180㎝/85㎏

属性:秩序・善

 

HP67

筋力:D[攻撃+2] 魔力:B[NP+4]

耐久:C[防御+3]  幸運:A[回避+5]

敏捷:D[命中+2] 宝具:A+[宝具+5]

 

《クラス別能力》

・騎乗A

・対魔力C

 

《保有スキル》

・聖者の贈り物 :A+  ≪CT7≫

…対象のHPを3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

 

・善悪判断(子供):EX  ≪CT7≫

…自身に”悪しき子供”特攻付与、NP+10、攻撃↑2d6(1T)

 

・無辜なる守護者:B  ≪CT5≫

…NP↓1d6、防御↑3d6(3T)

 

《宝具》

・『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

ランク:A+ 種別:対軍宝具

レンジ:1〜500 最大捕捉:1000人

⇒全体『A』宝具4d6

 味方全体に攻撃↑2d6(2T)&HP回復3d6

 

サンタクロースとして操る、トナカイ及びソリの具現化

通常はそれなりに速いだけの乗り物であるが、クリスマスにこそ真価を発揮する

世界中の子供にプレゼントを配るという逸話に基づき、”必要とされる速度”が実現する

この際、慣性力等の負荷は無視され、あらゆる法則の適用外となる

サンタクロースの知名度の高さ、信仰度の成せる業である

 

 

《人物》

言わずと知れたサンタクロース、のオリジナル

基本的には好々爺だが、老獪な一面も見せる

 

元々は貧しい人々の煙突に銅貨を投げ入れたり、己をもてなす為に犠牲になった子供を蘇生させる奇蹟を起こす等、子を守る聖人であったが、サンタクロースを願う子供たちの祈りにより、スキル無辜の守護者が付与

サンタクロースの力(外見もサンタクロース寄りに)が扱えるようになった

その為、クリスマスに全パラメータが向上し、宝具の全開放が可能となる

 

庇護対象であるマスターの力になるべくカルデアに召喚された人理側の英雄

マスターを支える事が目的なので、本特異点では帰還を最優先に行動する

 

 




ほう、ランサーとライダーですか…
大したモノですね

有名所のチョイスは、後で公式で出してくる可能性も高いらしく、
かと言ってマイナーな鯖を選択すると、キャラ付けに困る人も居るらしいです

そして、知名度が高いとは言えないドゥフタハに、言わずと知れたサンタ
血気盛んな若者に、落ち着いた老人も添えてバランスも良い

補正も沢山あるし、死ぬって事は無いっしょ(楽観)


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03 Forgotten Paradise

突如として起こった謎の転移により、何処かへ飛ばされた2騎のサーヴァント
ランサー:ドゥフタハ・ダイルテンガ
ライダー:聖ニコラウス

見知らぬ土地で調査を続けていく末に、彼らは様々な思惑渦巻く戦いに身を投じることとなる

一方、アストラギウス銀河を二分するギルガメスとバララントの陣営は互いに軍を形成し、もはや開戦の理由など誰もわからなくなった銀河規模の戦争を100年間継続していた。
その“百年戦争”の末期、ギルガメス軍の一兵士だった主人公「キリコ・キュービィー」は、
味方の基地を強襲するという不可解な作戦に参加させられる。
作戦中、キリコは「素体」と呼ばれるギルガメス軍最高機密を目にしたため軍から追われる身となり、町から町へ、星から星へと幾多の「戦場」を放浪する。
その逃走と戦いの中で、陰謀の闇を突きとめ、やがては自身の出生に関わる更なる謎の核心に迫っていく―――




特異点???

偽史夢幻奇島 ニライカナイ ―――虚光のタウミエル―――

人理定礎 ???

 

 

再び開かれた両眼には、カルデアの風景は映ってはいなかった

 

そこに人工の光は無く

高度に設計された機械の類もなく

 

目の前と、背面に、圧迫感漂う壁がただ有った

 

見上げた空は切り取られたように四角い

薄暗く、光が限られているのはその影響だ

 

そこで、ようやく理解が追いつく

建物の外壁同士が作りだす空間

2騎のサーヴァントが存在しているのは、”路地裏”だった

 

「むぅ……? ここはどこじゃ?

 狭いし暗いしでまるで煙突の中じゃなぁ…どこぞの街並み…じゃろうか?」

「…確かに見たこともねぇ場所だな」

 

改めて周囲を見渡す

高く伸びる空、そびえ立つビル

現代の街並みが其処に広がっていた

 

「お、無事じゃったかランサー」

「おうよ! そっちも大丈夫みてぇだな爺さん」

「ほっほっほ、見ての通りじゃよ…ふむ、こっちも何も問題無しじゃな」

何処からともなく取りだした袋の中身を確かめる

 

「爺さん、その袋の中身ってなんだ?」

「プレゼントがはいっておるんじゃよ まぁ、子供向けの諸々ってところじゃの」

「へぇ、無事でよかったな

 まぁここにそのプレゼントをもらうような子供がいるのかはわかんねぇけど」

 

コンクリートの壁に囲まれた周囲を見渡す

限られた陽射しの照らす視界には、子供どころか人の一人も見当たらない

 

「それにしても爺さん、これからどうするよ?」

「周囲の探索をせねばならんじゃろうな…何れにせよ、情報は欲しい所じゃ」

「うっし、まずはこの路地裏を抜けるか」

「帰還の為の手掛かりも探さんといかん…サーヴァントを思わず助けようとするお人好しなマスターの事じゃ…、気を病ませっぱなしも忍びないからのう」

「それは違いねぇな」

「そうと決まれば急がねばなるまい…さぁて、となれば急ぐが宜し、早速の出番じゃな」

 

ライダーの合図とともに、上空からベルの音が鳴り始める

直後、上空からトナカイに引かれたソリが姿を現した

 

「お? あれが爺さんの宝具か?」

「条件付きじゃが、世界最速の移動手段じゃな、舌噛まんように気をつけるんじゃぞ?」

 

しかし、ライダーの呼び出したトナカイは困ったように上空で待機している

狭い路地裏ではソリもトナカイも侵入することはできないようだ

 

「…爺さん、どうすんだあれ?」

「ふむ、ここじゃ無理じゃったようじゃな」

「致し方あるまいな 一旦休んでて良いぞ」

ぱんぱんと手を鳴らし帰還を命ずると、ソリとトナカイは名残惜しそうに消えた

 

「仕方あるまいな、歩くとしようかの」

「少なくとも明るい方に向かえば、何か見えるじゃろうて」

「まっ、それもそうだな」

 

路地裏は一直線に伸びている

前方は少しだけ陽の光が差し込み、反対に後方は暗闇が濃く伸びている

 

 

≪選択≫

→前方の明るい方

後方の暗い方

 

 

徒歩で明るい方向に進む

ライダーは霊体化し、ランサーは霊体化せずに、徐々に明るくなる路地裏を歩く

 

ビルの外壁で埋めつくされている以上、文明レベルはそれなりの筈であり、人理が崩壊したカルデアの外界では決して見る事は出来ない景色である

 

時代・歴史についての知識は、ある程度”座”から与えられている

しかし、あくまで2騎達は旧時代の存在だ

ある種、新鮮であり、貴重な体験と言えるだろう

 

此処に至るまでの経緯が無ければ、の話だが

 

『こんな状況でさえなければもっとのんびり見て回りたいところなんじゃがなぁ…」

「近代探索かぁ…悪くはねぇかもな」

 

日本での聖杯戦争を原因とする、特異点修復の任務

レイシフト直前に発生した、原因不明の異常

多くのサーヴァントの中、自分達だけが勝手に発動した転移に巻き込まれた

 

気がかりなのは、此処に飛ばされる直前、Dr.ロマンが言っていた事

”霊器反応が他のサーヴァントに比べて不安定”

”居るのに、居ない様な”

”振れ幅が大きい”

”ブレがどんどん大きくなっている”、など

 

現在地が、直前まで設定されていた、目的のレイシフト地点かどうかも定かではない

カルデアに通信が取れない以上、現状の報告も、事実の確認もしようが無い

通常のレイシフトならば、調整はシールダーの少女が担当だが、現状では仕方が無い

 

薄暗く、あまり光の届かない路地裏

人の姿は確認出来ないが、状況としては幸運だったのだろう

 

転移の際、一般人からすれば、いきなり虚空から人が現れたように見えるのは確実

人数が多ければ多いほど、騒ぎになってしまう

面倒事を避けられただけでも良しとするべきか

 

『まぁ、それも全てが片付いてからじゃがなぁ…儂としてはかの王が敵なのは複雑じゃわい』

「王っていうと魔術王のことか?」

『うむ…、かの偉大な王が…何故…』

「…それはあのマスターといればいずれわかるんじゃねぇの?」

『じゃろうがな…まぁ、今出す話題ではないかの』

 

様々な思いの交錯する中、それでも歩みは止まらない

やがてビルの織り成す影が薄くなり、遂に路地裏を抜ける

 

『結構長かったのう』

「やっとか」

 

眩い陽の光に顔を顰めながら、辺りの景色を見渡す

 

高層ビル群れが立ち並んでいる

予想通り、其処には現代的な街並みが広がっていた

 

『ふうむ、ここは…』

「ほぉ~、これはすげぇな! 木でも石でもねぇ、それでいてこんだけ高く組み上げて作ったのか!」

『現代技術じゃのう…、魔術とは正反対じゃが、儂等が呼ばれた理由も何処かにあるじゃろう』

 

馴染みの無い景色に圧倒され、数秒間立止まっていたが、

突如、視界に動く人影が映ったことで時間の動きを取り戻す

 

『!』

「…人? 住民か?」

 

人影は2騎に気付いていない様子で、悠々と少し離れた場所を歩いている

 

『ふむ… こちらには気づいておらんようじゃの』

 

現状、歩く人影から魔力は感じない

特殊なスキルを用いていない限り、サーヴァントでは無いだろう

 

「どうする?接触するか?」

『ううむ…』

「…爺さんが話しかけたほうがいいんじゃないか? 俺だと多分警戒されちまうぜ」

 

少し思案し、ライダーは霊体化を解除し、

「儂が行ってこよう 老いぼれの方がまだ警戒させんじゃろうからな』

「おう、頼むわ」

対し、ランサーは霊体化し、ライダーに託した

 

「あー、すまんがそこのお人」

「!」

 

対象が振り向く

若い女だ

 

「…驚いた…

 …何だ、いきなり?」

驚いたと言いつつも、浮かべるのは無表情の女性

 

肩まである適当に切り揃えられたような頭髪、細身の体に纏う白衣

カラーコンタクトでも入れているのか、ライダーを見据える双眸は紅く輝いている

 

医者、若しくは研究者か

どちらにせよ、若干派手な様相だ

 

「いやぁ、すまんのう

 ちょっと迷ってしまって、ここいらの住所を教えて貰いたくてのう」

「住所か 難しい質問だ…広義に捉えれば、”日本”になるだろうが」

「日本、と」

「流石に住所の詳細までは知らん 離島であるは言え、法的には日本の国土と記憶している…」

 

日本領、離島

そう語る姿に嘘は感じられない

とは言え、向こうに嘘をつく理由は無いのだが

 

「ふうむ? なんかよく分からんが…日本なんじゃなここ?」

「あぁ、間違いない」

「教えてくれて感謝するぞい

 ああ、ついでに聞きたいんじゃが…

 何やら午前中だと言うにあまり人を見かけないのはどうしてか知ってたりするかの?」

「人を見かけないのは、単に人が居ないからだろう…、何処へ消えたのかは分からんがな」

「どこへ消えたとは穏やかじゃないのう…、いやぁ、教えてくれて助かったわい」

「あぁ、私もこの島に来たばかりでな…そこまで把握しきれていないのが現状だ」

女性は肩を竦めながら続ける

 

「それにしても随分と珍妙な格好をしているな、土地勘も無いとは…仮装か漂流者か何かか?」

 

ライダーの様相は、誰もが思い浮かべるような”サンタクロース”

一般人とかけ離れた格好である事は明白である

 

「ほっほ、まぁそんなところじゃよ」

「…あぁ、そう言えば、今日は”そう”だったなこのような離島には似合わない催し物だが…」

 

離島

 

目に映る風景

ビルが取り囲む、文明的な景色

かなり近代だと窺えるが、果たして離島がここまでの発展を遂げるだろうか

 

「(ふむ、この反応、儂の内から湧き出るような力…となれば、今日この日は…)」

「なぁに、そこに善き人々と祭りを楽しむ人々がいれば大丈夫じゃ、主の聖誕祭とはそういうものじゃよ

 ま、ちとばかりそんな余裕がある風でないのが残念ではあるがの」

「…そうか、私には関係の無い事だ…悪いが、自分で何とかしてくれ」

 

女性は如何にも面倒くさそうに顔を顰めながら、明後日の方を向いている

警戒されているのか、心底興味が無いのか

いずれにせよ、良い感情は窺えない

 

「悪いが、これから仕事だ、ここで失礼させてもらおうか」

 

格好から、ただの旅行者では無い事は想像できていた

恐らく、何かしらの研究をしているのだろう

 

そう言ってビルの樹海に足を踏み入れる女性

そのまま何処かに消えていくと思いきや、少し進んだ所でこちらに引き返してきた

 

「ふむ?」

 

「ちょっとした忠告だ」

白衣を揺らしながら、先程と同じ位置に戻ってくる

 

「貴様が何処から来て、何が目的かは知らん… ただ、これだけは言っておく」

「…何じゃ?」

 

「―――命が惜しければ、この島から直ぐに立ち去る事だ…」

 

忠告というよりは、警告に近い言葉だった

冗談を言っているようには見えない

 

真剣な眼差し

ライダーを見定めるような眼

妖しい紅色が輝いている

 

時間にして数秒

交差した視線は直ぐに外された

 

それだけ言うと、白衣の女性はまたビルの群れへ向かって歩き出した

今度は戻ってくる様子は無い

 

「物騒な物言いじゃなぁ、忠告には感謝しておこうかのう」

 

感謝の言葉を尻目に、彼女の反応は無く

遠ざかる白い背中は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった

 

「……いよいよもって胡散臭くなってきたのう…、”命が惜しくば逃げるがよし”と」

「…命が、ねぇ…」

 

霊体化を解いたランサーが近づいてきた

情報共有を図るべきと判断したのだろう

 

「あの第一島人から得た情報をまとめると、

 ・儂等が居る場所は、日本の何処かの離島である

 ・日付は12月25日、クリスマス

 ・生命の脅威となる、何かが起こる(若しくは既に起こっている)

 ・彼女は”仕事”でこの島に来た

 と言ったところかの」

「クリスマス、か …通りで爺さんの魔力が強まっているわけだぜ」

 

白衣の女性の言う事を素直に聞くのならば、一刻も早く島から脱出すべきなのだろう

だが、現実は甘くは無い

 

島から脱出する、と言ってもどうやって実行するか

路地裏から出て、見通しが良くなったが、周囲に海は見当たらない

仮に海辺に辿り着いたとしても、問題は山積みだ

 

「ふむ、さてはてどうしたもんかの…」

「へっ、危険だってんなら任せとけ 元はその為に居るんだしよ」

 

 

≪察知判定≫

ランサー:宝具の効果を使用

⇒察知判定失敗(自動)

 

 

ランサーは虚空から己が愛槍を取り出す

彼の宝具、『貪る呪炎(ルーン)』は使い手を死に導く呪槍として有名であるが、戦の予兆を感じ取った時、振動や火花を発する、”予兆の槍”としての一面も有している

 

だが、この場で殺気や敵意の類は全く感じられない

気配も無い事から、戦闘の兆しは無いのだろう

 

「(…こっちを狙っているようなやつはいねぇか)」

周りを見渡しながら思考する

この場での戦闘は発生し得ないようだ

 

「となれば、”仕事”で来た御仁が向かった先に何かしらの手がかりがあるやもしれぬ」

「んじゃあ、さっきの女が向かった先に行くか」

「じゃな 時にランサーよ、お主追跡スキルの類とかあるかの?」

「いーや、追跡の類はねぇがこの槍が戦闘が起きそうなときに教えてくれるぜ」

愛槍に目を移す

 

「ふむ…

 となれば…その槍が反応しそうなところまで行ってみるべきじゃな」

「それじゃあ行くか」

「うむ」

 

いつの時代、名前も分からない島

理由もハッキリせず、降り立った二人

 

最大の目的は、カルデアへの帰還となる

 

手っ取り早いのは、レイシフトしてカルデアに戻る事だが、期待は出来ない

理解できないまま飛ばされてから、暫らくの時間が過ぎた

連絡が取れるのであれば、とっくに向こうから来る筈だ

 

カルデアにはマスターを始めとした面々がそのまま残っている

座標の起点となるマスターか、アンテナを整備するシールダーの少女は、此処には居ない

 

助けも、連絡を取る手段も無い

文字通り、孤島に流れた”漂流者”となった

 

この島から脱出しようと思えば出来るだろう

だが、脱出してどうとなる訳では無い

本土に渡れたとして、何か解決するという保障も無い

 

するべき事は他に有る

出来ることは他に有る

謎めいた島にあって、現状を理解する事

何もしないよりは遥かにマシだろう

 

まずは、思考する

やるべき事を把握し、初めて行動に移す

行き当たりバッタリなど論外だ

 

ならば、今出来ることは何か

島からの脱出が意味を成さないのならば、島の中で出来ることをやるしかない

 

引っかかる事もある

白衣の女性の言葉

”命が惜しければ、島から立ち去れ”

本人は忠告と言っていたが、実質的に警告と捉える方が正確だろう

 

忠告とは、善意からのアドバイスであり、

警告とは、不都合を避けるための強い戒めの事だ

 

あの時、女性の眼はライダーを試しているように感じた

探るような、見透かすような

無表情の裏に、何かしらの思惑を抱えていた

 

仮に、”裏”があるとすれば何か

忠告の裏に隠された警告

誰かが島に居る事で起こる不都合

白衣の女性の真意

 

正体はまだ分からない

あくまで仮の話であり、考え過ぎなのかもしれない

現状と島の詳細を含め、これから探っていくしかないだろう

 

「(しかし、ここまで人が居らんことなど有り得るのかのう…?)」

 

町並みを探索しながら思考する

 

白衣の女性が消えていった後を探る

コンクリートの巨木が並ぶ中、手がかりを求めて歩く

 

都会的な風景にありがちな喧噪は聞こえず、

相も変わらず、人の姿は全く確認出来ない

 

「(命が惜しい以前に、脅かす脅威も見当たらんなど…)」

 

彼女の忠告が、一般人に対しての物ならば恐れるには値しないのだが、

もし、”命を脅かす危機”が、サーヴァントに対しても有効であるならば話は変わってくる

 

サーヴァントに対抗しうる存在とは、

即ち、サーヴァントである事に他ならないのだ

 

現世に英霊が召喚されるケースは極稀だ

カルデアにおいては今や珍しくない事だが、英霊の召喚など、本来は大掛かりな術式を伴う

 

「(何よりも、そんな所に仕事でくる御仁が只者であるわけがなし…

  儂らの正体を知っている可能性… まぁ、こんな状況下、あり得ぬ話でもないか)」

 

故に、極稀なケースは本当に限られてくる

一つは、カルデアのように、英霊の能力を限定的なモノに落とし、降霊させるシステムがある場合

そして一つは、―――聖杯戦争

 

万能の願望器、聖杯

根源到達への足掛かりとして、魔術師が求める伝説上の杯

聖杯は土地の魔力を吸い上げ、走狗であるサーヴァント召喚の足掛かりとなる

基本的な事は、知識として頭に入っている

 

同時に思い出す

孤島に飛ばされる以前、Dr.ロマンの説明

本来成されるべきだった、レイシフトの対象

 

特異点・日本

人理崩壊の要因

聖杯戦争

 

どこの地域までかの詳しい説明は無かったが、

偶然にも、現在地は離島であるとは言え、日本である

 

偶然の一致か、まさかの必然か

関連付けるならまだしも、断定するには証拠が足りなすぎる

 

そもそも、白衣の女性が、2騎をサーヴァントだと認識していたかも分からないのだ

相対して分かったが、魔力は微弱にしか感じ取れず、魔術師では無い事は確かだろう

不自然な様子ではあったが、スペック的には一般人と対して変わらないように見えた

 

「(ふむ、確かマスターはサーヴァントの情報が分かる…んじゃったっけな?

  まぁ、儂らを探るように見たということはそういう線も有りうる…じゃが、あれはどう見ても一般人じゃったからのう)」

 

意味深な忠告

探るような眼

 

疑心は膨らむばかり

疑い出せばキリがない

何もかもが怪しく見えてしまう

激しく移り変わる現実は、精神の余裕を阻む

 

「(他の類例云々は知らぬし、そもそも儂ら尋常の聖杯戦争に呼ばれたわけでもないからのう)」

 

歩き続けた末、遂にビルの森を抜ける

景色を留めていた無数の防波堤は消え、急激に見晴らしが良くなった

 

「お、ようやっと抜けたか」

 

整備され、展望台のようになっている場所から見える風景

人の手が加えつくされた街とは対照的に、そこにはありのままの自然があった

 

近くに広がる草原平野、深い森林

山地から流れていると思しき、綺麗な河

美しい流れの行きつく先は、紺碧の海

 

「…なんというか雰囲気が変わったな」

 

第一印象は”循環性”

 

海は空に昇り、やがて雨となり、地へ降り注ぐ

木々を潤し、河へ下り、始まりの海へと戻る

 

発達した文明から切り離されたように手つかずの景色

原初の大地も、目の前に広がる物と大差はないのではないか

 

「こりゃまたアレじゃな……、ガラリと雰囲気が変わったのう」

 

だからこそ、急成長したようなビル群が目立ってしまう

人間の発達は、文明の発達とイコールだ

人類は自らの発展と共に、自然と共存してきた

 

手つかずの自然と、手垢に塗れた文明

現代でも、規模を無視して考えれば、珍しくも無い風景だろう

 

「(あのビル群の方が異常、とでもみるべきなのかのう)

 

それでも、雄大な自然を目の当たりにすると同時に、違和感を感じてしまう

 

調和が全く無い

 

道路の端を境界線としているかのような、急激な変化、或いは落差

まるで、隔絶しているように、隔離されているかのように

コンセプトが”別世界”と言われたら納得してしまうレベルだ

 

だからだろうか、ありのままの手つかずの自然が、何故か恐ろしい物に感じるのは

 

人間が潜むのが不自然なコンクリートのジャングルであるとすれば、

獣が潜むのは、自然のジャングルなのだから

 

「(………まぁ、大凡尋常ならざる理由でもあるんじゃろうなあ)」

 

把握できない状況を、把握するために動く

 

「ランサーよ、槍はどんな具合じゃ?」

「…あぁ、結構良い感じな奴がいるんじゃねぇか?」

手元で発生しする火花を見る

 

現在、予兆の槍はバチバチと火花を発し続けている

戦闘を起こす要因、敵意・戦意ある者が付近に存在する証明だ

 

「ほう…そこんところどうなんじゃそこの御仁?」

 

ライダーの発する問いに答えは無い

敢えて無視を決め込んでいるのか、それとも、単にこちらの声が届かない場所にいるのか

 

いずれにせよ、戦闘の意志のある何者かが付近に居るのは間違いない

 

「ふむ、まぁ素直に出てくるはずが無いのう、一方的に攻撃出来る有利を手放すわけが無いはずじゃからな」

「とりあえずどうするよ、爺さん? 俺は遠距離の攻撃手段はねぇぞ」

「…ならば致し方あるまいな 儂の”宝具”でここら一帯ごと薙ぎはらうのが是じゃろうて」

「なら下がってたほうがいいか?」

「じゃの まぁ、そこまで時間はかからんはずじゃ

 相手は戦術的に立ち回れて且つ、2対1に不利を感じて隠れることができる程度には頭が回るようじゃからな」

 

”敵”は未だ姿を現さない

何の反応も見せないのは、それ程2騎を警戒しているからなのか

 

「まぁ、儂の宝具は少々ばかり残虐じゃからな…この衣の色が赤である理由を一つ教授してやろうかの」

「…爺さんなかなかに過激だな、それじゃあ頼んだぜ」

「本当はこの名前を使うのは嫌なんじゃがの…、致し方あるまい…!」

 

魔力が渦巻く

不吉が形を成そうとしている

 

「さぁ、我こそは戦争を呼び覚ます者!地上の1/4を統べし者!我が袂に争いあり!流血あり!今こそ黙示録の―――」

 

ライダーの宣言

今、まさに彼の宝具が起動されようとした瞬間

 

「…いや、気が変わった」

「ん? どうした爺さん」

「戻るぞランサー、ここにいるだけ無用じゃわい」

「…そうか? それなら反対方向の道を探るってことか?」

「付き合わせてもらってなんじゃが、すまんな」

「…まぁ今はチームで行動してるもんだしな、了解だ」

 

戦の予兆が感じられる場所から遠ざかりながら、2騎は小声で会話を行う

 

「察してもらってすまんのう」

「…気にすんな、俺としても無策に突っ走るのは趣味じゃねぇ」

「まぁ、釣れるか否かは5分5分ってところかの ちと、無防備そうにしてくれると助かるわい」

「あぁ、いいぜ」

 

敵が陰から狙ってきているのならば、迎え撃たなければならない

故にライダーは餌を撒いた

 

偽りの宝具の宣言に反応してくれるならば良し

警戒して敵が隠れたまま出てこないならば、無理に見つけだす必要も無い

 

「まぁ、幾らか知恵があるならばこのレッドライダーに恐れを為すのは当然じゃからな」

「あぁ、とっとと行こうぜ」

「しっかし無駄足じゃったなぁ…儂にはいささか骨じゃったなぁ」

 

露骨な挑発

それでも敵は姿を見せることなく、2騎は敵のテリトリーから撤退した

 

 

 

 

 

「……結局無駄打ちじゃったか…、となると、やはりこっちしかないかの…」

「…そうだな」

 

2騎のサーヴァントは撤退後、街中を探索したが、結局何の情報も得ることは出来なかった

 

手掛かりはランサーの槍のみ

敵意が指し示す方向は、文明と自然を隔てる境界線の先にある

 

「戦意を持つ相手が近くにいる以上、隙を晒す事なるだろうからやりたくはなかったんじゃが…こっちを地道に探す他あるまい」

「まぁ、戦闘になったら俺に任せてくれや」

「うむ、任せたぞい」

 

調和の無い風景

黙したまま、何も駆らぬ獣は

手つかずの自然、広大な草原に潜んでいるのだろう

 

道路の端は、よく見てみると途切れていた

中央線は真横に分断され、歪に草原と同化している

 

そして、アスファルトの道路から、草木の生い茂る”自然領域”へ足を踏み入れた

 

「果てさて、何が飛んでくるやら」

「獣とかにも気を付けねぇとな、特に猪とかな…」

 

境界を越えた瞬間、嫌な感覚が体を通り抜ける

直感が警鐘を鳴らす

 

ゾワッ、と

 

一瞬だが、確かに感じた

普通では無い、強力な魔力反応

 

一瞬の出来事

体を通り抜けた不可思議な感覚

 

街中に居た時は何事もなかったが、展望台から外へ出た矢先、突如として示された脅威

 

「………獣に注意向けてる場合じゃないようじゃの」

「……どうやらそのようだな…!」

槍を構える

 

ホンの一瞬だけの事だったが、並ではない魔力量を感知した

何より脅威なのが、1つだけでなく、”複数の”反応だったことだ

 

今ではすっかり鳴りを潜めてしまい、先程の反応を探る事はできない

最大限に集中してようやく感じ取れるレベルになってしまっている

 

「儂等、えらいところに踏み込んだようじゃな」

「俺としては強い奴と戦えるのは万々歳なんだがな…」

 

広大な景色の中、幾つか魔力の集中する場所

脈動する心臓のような、生物らしさ

地に根差す、霊脈・龍脈の類では決して無い

 

2騎の侵入を受け、膨大な魔力反応の主達が警戒したとしたら

確実に潜んでいるのだ

複数の”獣”達が

 

この場所は本当の境界だったのだ

”獣”を隔離するための柵であり、檻

 

「そんなに警戒せんでもいいんじゃよ?」

 

街中ではまるで感じられなかった脅威

脈動する魔力は、どれもその場に留まるばかりで、動くことは無い

人間の住む領域に、積極的に侵入してこないのは喜ばしい事だとしても、だ

 

明確な危機

予兆にして予感

 

自然に取られる臨戦態勢

改めて意識を切り替えようとしたその瞬間、2騎の体に異変が起こる

 

右手が熱い

突然焼けるような痛みが走り抜けた

 

「むうッ!?」

「グッ!?」

 

何者かの攻撃か、と警戒したが、直ぐに手の痛みは消え去った

そして、原因である自らの手を確認する

 

痛みの代わりに、手の甲に残ったモノ

紅い、傷痕のような何か

触れても、痛みは全く無いが、張り付いて取れない

 

紅黒いタトゥーのような、奇妙な紋様

その正体を、自分達は知っていた

 

「これは…」

当然ながら見覚えはある

 

「令呪、じゃと?」

「…いつの間に俺たちはマスターになったんだろうな」

自らの手を見て唖然とする

 

マスターに宿る物とは形状が異なるようだが、間違いなく本物である事は理解できた

だが、問題はそこだけでは無い

 

令呪とは、聖杯戦争において、選ばれたマスターにのみ発現する特権

サーヴァントに対する絶対命令権

 

ならば、何故

今、この場で

サ ー ヴ ァ ン ト で あ る 自 分 達 に 発 現 し た の か ?

 

「なるほど… これで儂らは本格的に参加者って事になったんじゃの…、縁なき誰か(ストレンジャー)でなく…」

「ってことは、セオリー通りなら相手は5騎か…」

 

点と点が繋がり始める

理解したくない事が、現実となって、嫌でも理解を促す

 

日本、特異点、聖杯戦争

隔絶された自然、潜む獣達

 

白衣の女性の言葉が現実味を帯びてくる

離れた場所からでも察知できるレベルの魔力

命を脅かす危険

一般人だろうが、サーヴァントだろうが、この暴威の前では等しく脅威

 

当たって欲しくない予感の裏付け

この世界、この島に召喚された異物

潜む獣達の正体は、間違いなく、―――サーヴァント

 

薄々は分かっていた

強大な魔力の反応

同じサーヴァント同士、気配を感じ取るのは困難ではない

 

大きく感じ取れた魔力反応は、5つ

自分達を含め、計7つ

クラスまで把握する事は流石に無理だが、令呪まで発現している以上、ほぼ確定だろう

 

「で、ここまでピースが揃えば流石に分かろうもんじゃな

 まぁ、儂らがわざわざ飛ばされてきたとなればそういう事じゃろうしな」

「しかし、マスターがいないのは何があったんだろうな」

 

本来レイシフトする予定だった特異点に、何らかの原因で、2騎だけが招かれた

特異点・日本、聖杯戦争を原因とする人理崩壊の起点だろう

この場は既に、渦中にあるのだ

イレギュラーの塊と言えるが、状況が物語っている

 

自然の中に潜む、未だ見ぬ5騎の獣

本来、聖杯を求めるマスターによって召喚される者達

だが、今この場において、手綱を取る存在は居ない

 

解き放たれた超常の存在

禁断の地に足を踏み入れた

それでも、引き返す事は出来ない

 

こちらから気配を察知できるという事は、逆もまた然り

明確に、向こう側に補足された可能性は高い

 

もしここで逃亡でもしたのならば、追撃は必ず来る

曲がりなりにも、聖杯戦争だ

万能の願望器を求めるのは、何もマスターだけでは無い

 

自らの欲のため、聖杯を欲する者が有れば、この機会を逃す筈がない

枷となるマスターは居らず、離島という限られた戦場

強力な力を持ったサーヴァントにとって、これ程の好条件は無いからだ

 

通常、敗北を決定付ける筈のマスターの不在

魔力供給を担う存在が居なければ、消滅は時間の問題となる

事態が勝手に収束してくれるならば、それに越したことは無いが、期待できそうもない

 

だが、2騎は魔力の消費を気にせず存在できている

供給元が明らかでないこの状況にあって、何処から魔力が送られてくるのかは分からない

 

他の面々に至っても同じなのだろう

バックアップがどこまで許されるかは不明だが、事態の自然解決は有り得ない

 

「あの女人が儂らの事を見抜いた上で言っていたのか、それとも見抜かずに言ったのか

 なんにせよ、警戒は必須じゃの」

「そうだな、とりあえずは他のサーヴァントを見つけて撃破ってところか」

 

此処に、すべき事は決まった

 

島からの脱出は意味を失っている

事態の解決には至らないからだ

 

戦場からの逃亡は無意味だ

敵は必ず追い縋る

 

戦うしかない

生き延びるしかない

右も左も分からない、全てが不明な不条理の中で

 

目的はある

希望もある

 

この場が聖杯戦争であるならば、戦いの果てには必ず願望器が顕現する筈だ

聖杯があれば、カルデアへの帰還も視野に入る

今までマスター達が立ち会ってきた特異点は、ほぼ聖杯が原因だったという

 

特異点を修復し、聖杯の回収した後、時代によって歴史は修正される

戦いに勝利し、聖杯を入手出来れば、事態は解決に向かうだろう

そもそもの目的が特異点の修復なのだから、任務の範疇だ

 

人理修復

グランドオーダー

 

歴史、時代に名を残し、語り続けられてきた英達霊

決して楽な道では無い

どこまで行っても、結局は戦争だ

 

「なんにせよ、じゃな」

「分かりやすく目的が定まったのは良い事じゃの」

「聖杯戦争をどうにかする、んで、帰る シンプルでいいじゃねぇか」

 

正体不明の5騎を相手にし、その全てに勝利しなければならない

殺しもすれば、殺されもする

 

決して避けては通れない道

記念すべき初陣は、苛烈な戦争によって彩られる

華やかさなど一切無く、泥に塗れた、血生臭い道のり

 

いずれ訪れると理解していた、戦いの幕開け

偶然、今がそのタイミングだっただけ

昨日を幸福に生きていたとしても、今日もそうであるとは限らない

 

全ては偶然に過ぎない

初陣が聖杯戦争の舞台だったのも、舞台の踊り手に選ばれたのも偶然でしかない

 

これは戦いだ

今を勝ち取るための、明日を勝ち取るための戦い

 

失われた未来を取り戻すための物語

グランドオーダーが、今、幕を開ける

 




聖杯戦争開幕

鯖全てにはいつでも使える補正(2d6分)として令呪を3画ずつ付与するよ
戦闘でもシナリオでも色々できるよ
敵も使うけどね

RPは原文を尊重
しようかと思ったけど加筆修正は必要だわ

直せる所は直していく
見落としは許し亭許して


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≪舞台裏①≫ to LABYRINTH

本編が進むと思ったか? ここでセイヴァー達の話だよ

裏方では舞台設定などの事情をそれとなく明かしていく予定
(プレイヤー側のRPとしては、カルデアへの帰還が優先であり、特異点の真実は二の次というスタンスのため 正しいが困る)

物語の進行としては
プレイヤー側→セイヴァー側→プレイヤー側、と交互に出していく感じ

セイヴァー側は戦闘は無し
プレイヤー側と直接関わることも無い
傍観者は飽くまで傍観者であり、キャラ付けは崩してはならない(戒め)

TRPGとしては死んでる?
そうだよ(自覚)


体の内から声が響く

 

『―――んあ?……生きて…る…?』

「目覚めたか、君の寝ている間にサーヴァントは全て出揃ってしまったぞ」

 

彼女の声を聞くのは召喚時以来か

静けさから既に自我は消え失せたかと思っていたが…、それも些細な事だ

 

『え、マジ? 普通に召喚出来たの…? アレで? …ってか、何だコレ、体が動かねぇ…』

「説明は後回しにさせてもらおう、私も現状の把握に追われている」

 

『え、何コレ、え? もしかして、私の体…乗っ取られてる? ちょ、人の体でアンタ何してんの!?』

 

「観測、及び記録だ…邪魔だけはしてくれるなよ

 …尤も、この状態では、何も出来ないと思うが」

『いや、これね、私の躰 邪魔はアンタだ馬鹿野郎』

 

観測を続行

意識も覚醒したことだ、この肉体の…彼女の記憶を読み取る

 

「(…やはり、不可能か)」

 

…何故か不明瞭、意識の有無は関係無いようだ

記憶のリーディング性能に不備が無い以上、これ以上は望めない

深追いした所で時間の無駄にしかなるまい

 

「…まずはこの時代についての情報が優先されるか」

『無視か』

 

自分の置かれている状況に戸惑っているのだろう

状況が気になるのはこちらも同じだが、優先すべきは、まず自らが成せる事

観測と記録は当初から私の仕事だ

 

『はぁ…、まぁ、いいや

 …んで、ここは何処?』

「『星霜書廻廊(ディアドス・ヴィヴリオスィキ)』…セイヴァーである私のみがアクセスできる、絶対不可侵の領域だ」

 

永遠に続く、書架で構成された廻廊

その中の一点に用意された椅子に腰掛け、宙に浮かぶの複数のモニターを見る

 

『ふぅん…何か凄そう 本?とかスゲー量だし』

「凄そう、ではなく、事実凄いのだ」

『へー、どんな風に?』

「あらゆる障害の侵入を阻む鉄壁のシェルターにして、この世界の全てをリアルタイムで見通すことが出来る観測室だ

 安心安全な仕事場と言えよう」

 

理が現世のソレとは少々異なるため、常人は勿論、サーヴァントですら知覚出来ない

何らかの方法で知覚できたとしても、今度は侵入する術が無い

 

私が許可を出したならば話は別だが、態々敵を招くような真似はしない

よって、廻廊内の安全は確約されている

 

『ふぅん、アレだね…何か、…グレードアップした…、ネカフェみたい』

「…塩塗れの部屋よりは良いだろう…」

 

どこまでも続く書架で構成された無限廻廊

全人類の一生から、路傍の小石の出自に至るまで、ありとあらゆる史実が此処に有る

 

…のだが、サーヴァントとして現界したためか、使用にある程度の制限が設けられているようだ

時代干渉のパラドックス防止策と言った所か

本格的な使用には、座に申請を通さなければならないだろう

 

”宝具”の使用も視野に入れるべきかと思案していると、

 

『お、サーヴァント同士が接触してんじゃん コレはド派手な戦いが見れるかな』

 

モニターの一つには、召喚が確認されたサーヴァントの姿

それも3騎か

 

「セイバーに対し…、ライダーとランサーの連合か? 記念すべき初戦闘のようだな」

 

聖杯戦争、か

私には、この戦いの行く末がどうなるかは、全く読めない

 

誰が生き残り、何を願うのか

どうであれ、禄でもない結果に収束するであろう事は、この時点で既に予想は出来ていた

 

 




アーデルハイトinセイヴァー

セイヴァーとは言うても世界なんて救いません
そういう役割ではないので戦いません
寧ろ、戦闘能力ありません
当然のようにオリ設定だらけ

じゃあ何で来たの?
居る意味ある?
と聞かれたら、理由はあるさそれなりに

いずれ分かるさ、いずれな…

次からやっとバトル突入
システムについても乗っけます(参考にならない)



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04 DesireriseD 前

今回からメインの戦闘に突入

システムは以下の通り
①敏捷で行動順決定
②自分の行動番で3色カードから1つ選択し1d6
 ・B→出目をダメージに追加
 ・A→出目分NP追加+与えたダメージをNP追加
 ・Q→出目まで命中判定を変動可、与えたダメージをNPに追加
③命中判定1d20
 ・クリティカルは1、ファンブルは20
④ダメージ判定(宝具はNP40以上で使用可、使用後は40差し引いて繰り越し)
 ・通常攻撃2d6
 ・全体宝具4d6(単体は5d6)
⑤戦闘解決まで繰り返し

・敵側は原作FGOと同じくチャージ制
・敵宝具に対抗してプレイヤー側も宝具を撃てる
 (判定勝利で命中自動成功+ダメージボーナス、敗北側は行動キャンセル)
・被ダメージの半分をNPに加算

正直もっと調整を重ねるべきだった
こんなんじゃ参考になんないよ




広い草原

平坦な地形の、見渡す限りに草花が生い茂る光景

 

街から少し歩いたとはいえ、、文明的な景色とはかけ離れ過ぎている

 

「ある意味では見慣れた風景じゃのう」

「よくある自然の風景ってか?」

「少なくともさっきの建物群よりかは、の」

「あんな天を衝くような建物でも、儂らが出張れば一瞬で消えるからの」

「あぁ、違いねぇ」

 

潜んでいるであろう敵にブラフを聞かせる

相変わらず、不気味にも反応は無い

 

 

微かな流水のせせらぎが聞こえる河川

その行く先は遠目に確認できる広大な海だろう

 

別の方向に目を向けると、青々とした森林が広がっている

全てをひっくるめ、”自然”を縮図にしたかのような光景だ

 

しかし、

 

眼前に映し出される自然の中、その中にただ一つだけの不自然

 

丈の低い雑草

起伏の少ない大地に、”何者か”が存在している

 

その人物は少し離れた場所で仰向けで寝転がっていた

倒れているのか、単に寝ているだけなのか

生きているのか、それとも死んでいるのか

 

遠目では判断しにくい

近づいて見れば分かるのだろうが、明らかに何かありそうな雰囲気だ

 

「…あちらさんから来てくれるんなら大歓迎だがな俺は」

「ないじゃろうなァ アレはそういう類の勝ち筋じゃろうて 

 ランサーや、お前さん未知の相手と相対する時、誘いを除いて隙なんぞ晒すか?」

「いや無いな、俺は強い奴とは戦いたいが、そんな馬鹿な真似はしねぇさ」

 

 

≪察知判定≫

ライダー&ランサー

判定失敗

 

 

如何にも怪しげな人物に対し、試しにと周囲を探っては見たが、何も感じ取ることは出来なかった

 

「ふむ、ちいともわからんなぁ…」

「…勘でも鈍ったのかねぇこれは」

 

虎穴に入らざれば虎子を得ず

リスクを承知で虎穴に足を踏み入れる事を決意する

 

「爺さん、ちょっとばかし奴を小突くから戦闘の準備をしてくれ」

「うむ、では今度こそ出番じゃな」

空より鐘の音が響き、トナカイが現れ、騎乗した

 

「準備はいいか?」

「うむ」

 

「それじゃあ行くぜ、『イヴァル』!」

横たわる何者かに向かって槍を思いっきり投げる

 

ランサーの槍は吸い込まれるように人影に向かって走り抜ける

放物線が対象と結ばれる、その直前

 

「何ッ!?」

 

空を裂く音

細身の剣が複数本、上空から大地に突き刺さり、放たれた槍を食い止めた

 

「!」

ライダーは剣が放たれたであろう上方を見やり、

「ッ!? 『アスィヴァル』!!」

ランサーは回収の呪により、急ぎ槍を手元に戻した

 

「あァ…?」

仰向けに寝ていた人物、―――男が起き上がる

 

丈の長い着物

衿の先を腰に巻き付けた、俗に言う”深衣”と呼ばれる衣服を身に纏っている

 

後頭部に向かって撫で付けられた、少し黒髪の混じった白髪

加え、額には深いしわが刻まれていることから、老けた印象を受ける

 

「…如何な雑魚が掛かったかと思えば、2匹も釣れおったか…」

 

そう呟きながら、ゆったりと立ち上がる男

ゴキゴキと首を鳴らし、2騎をねめつける

 

「ほっほ、大物に釣りあげられたわい」

「釣られたのは一体どっちだろうなぁ…」

 

「んん? 貴様等は先程の…何だ結局来よったか…一度気配が遠ざかった故、逃げたかと思うたわ」

 

「ウンともスンとも何も引っかからなかったからのう

 まぁ、お主はどうやら武技を誇る手合いでもバトルジャンキーでもなさげじゃからな、少々確認したいこともあったからの」

「…確認? ワシにだと? 何を?」

「お主、なにゆえこちらに呼ばれたかを理解しておるか?」

「知らぬ 特に興味も無い」

 

即答

ライダーの質問を一刀に斬り伏せる

 

「…そしてもう一つ。お主は令呪をもっておるのか?」

「…腕の妙な紋様の事か?」

「それじゃ」

「ほう…では貴様等も…」

「で、ここで一つ提案と行きたいんじゃが」

「…良かろう、申してみよ…」

 

「儂らをここで見なかった、そういう事にできんかの? 

 お主はこの曖昧模糊な状況はどうだって良かろうが…何の意味も無く呼ばれて何の説明もなしに殺しあえ、ってのはどうかと思わんか?」

 

一縷の希望を託した提案

戦わずとも、状況を探る手段は存在する

 

「…」

「……」

「………」

長い無言

思案しているのか、その果てに男は無表情で片手を振る

 

すると、ランサーの槍を受け止めた剣の群れが一瞬で姿を消した

 

「(ああ、これは…)」

 

「…”セイバー”、剣士の意か…王たるワシが、一兵卒も同じとはな…」

「やはりの… その口調、民の声を聞く立場のソレじゃからな」

「聖杯とやらから知識は得ておる…

 聖杯戦争が如何な物かも、そのためにワシが世に下ろされた事もな」

腕を組み、続ける

 

「下らぬ用のためワシを呼び出したのなら、すぐさま刻む心算であったが、そのような者は、探した所で何処にも居らんかったわ…」

「(やっぱコイツも俺達と同じか…)」

 

「ば大方、貴様等も同じであろう?

 召喚者の不在に、腕の令呪といい、此の戦、奇なる事この上なし…」

「うむ、いわゆる、はぐれ状態じゃ」

 

傲岸に組んだままの腕に令呪を確認しながら考えるように目を閉じ、呟く

 

「ワシには願いなど無い…」

 

「死する前、宿敵というべき存在も討ち果たし、我が悲願は成就した…

 願おうにも望みが無いのよ」

「既にやるべき事を終えた御仁じゃったか」

 

「そもそもの話、斯様な出来損ないの戦で、到底願いが叶うなどとは思えぬ…」

 

 

「思えぬが…」

静かに瞳を開く

 

瞬間

 

「―――鼠、壁忘るるとも、壁、鼠忘れず―――」

 

「っ」

「(そう簡単にはいかねぇよな…!)」

 

殺気

射抜くどころか、射殺す程の視線

 

「鼠風情がワシの周りをウロチョロ嗅ぎまわり、あわよくばこの首でも奪いに来たかァ…?」

 

空気が変わる

気温が一気に冷え込んだ気がした

 

「―――ワシを見た時、それ即ち手遅れよ」

 

「…ふむ、お主相手には無粋じゃったか のう、越王 勾践殿」

「…彼奴の真名かそれは?」

「あの物言いに、剣の数から…多分、じゃがの」

 

「爺さん…、伊達に歳を食っておる訳では無さそうだな…」

「お主の剣は未だに現存しておると聞くならばその剣、越王勾践剣と見たがいかに?」

「阿呆が…愚物如きに我が真価は尚早に過ぎるわ…」

そう呟くと

 

 

「―――『揜日』、『断水』、『転魄』、『懸剪』、『驚鯨』、『滅魂』、『却邪』、『真剛』…」

 

 

 

キィン、と金属同士が擦れ合う様な音と共に、セイバーを中心として、半径約10m程の領域を隔てるの薄壁が構築される

 

再び降り注ぐ8振りの剣

セイバーの周囲を取り囲むように突き刺さっている

一定の間隔を置いて存在するソレ等は、薄壁を含め、まるで結界のようだ

 

「ワシの剣は特別製でな…如何程吼えようが、檻に収めてしまえば獅子も鼠も同じよ…」

「…なるほど、便利じゃのう」

 

周囲を取り巻く障壁

出ようと思えば出れる程度の、障子紙の如く薄い壁

結界に近いもののようだが、何処か決定的に違っていた

 

加え、先程行く槍を阻んだ剣の群れ

計8本の剣は大地に突き刺さりながら”結界”を取り囲んでいた

 

剣が”結界”を作りだしているのか

八方に等間隔に配置されており、隙を感じさせない

 

この状況を作りだしたセイバーは、未だ腕組みを解かないまま、不敵に嗤う

 

「我が馬の歩みに耐えられるのならば、じゃがな」

「誰であれ、何であれ構わぬ…此度の開戦の号砲は、其処な小僧が挙げた物…報復の理由などソレで十分よ…」

 

長い深衣の裾を風にはためかせながら佇むその姿には、どこか気高さ、高貴さのような雰囲気を感じさせる

獅子と言うよりは狼、孤高の獣の様だ

 

「……尻尾踏んじまったか?」

自らの持つ槍を見ながらランサーが独り言ちる

「なに、儂もそれに同意したゆえな気にするでない」

「あぁ、逃げようと思えば出られるぞ…? もっとも、逃がしはせんがな…」

「さて、ならば戦端はもはや免れまい…、此度もラッパが鳴るのは避けられぬなぁ」

 

細身の剣

それぞれが違った細工と、特別な力を秘めているであろう8本の宝剣

 

1本1本から強力な魔力を感じる

全てが宝具、或いは宝具に相当する武器である事は確かだ

 

「ワシを打倒できぬならば、此処で朽ち果てるがよい…」

 

「それとも我の権能が戦を呼ぶのか、やれはて、難儀じゃのう」

「…タイマンじゃねぇのが気に食わねぇが、状況が状況だ、このままやらせて貰うぜ!!」

 

 

2騎の英霊と向かい合うも、微塵も臆さないセイバー

杭の如く地を穿つ8本の宝剣は、セイバーの意志と連動し、いつでも牙を剥くだろう

 

「―――阿呆共、鈍な牙ではワシに傷を与えることすら出来んと知れ…」

「やれ、戦に囚われた段階で既に我の権能の上よ…どちらが阿呆か、これで示して見せようかの」

 

 

≪戦闘開始≫

~行動順~

槍⇒騎⇒剣

 

 

≪1巡目≫

【槍】

カード選択:B(1)

命中判定:失敗

 

 

「そいじゃあ行くぜ!」

いち早く動いたのはランサーだった

小手調べとばかりに、セイバーに向かって槍を振りぬく

 

「―――『揜日(エンジツ)』…」

 

セイバーの呟きと共に、地に刺さっていた剣の一本が抜き放たれ、切っ先が天を向く

瞬間、ブレーカーが落ちたかのように、周囲の光が消滅した

 

「なっ!」

「!?」

 

眩く周囲を照らしていた陽の光は、一転して暗闇に変化する

光度の落差に追いつけない眼球から一瞬だけ視界が奪われた

 

「…言ったであろう? ワシの剣は特別だとな…」

 

言葉と共に、再び眩い陽光が辺りを照らす

虚を突かれたランサー

そのすぐ横には腕を組んだままのセイバーが悠然と立っていた

 

「うおッ!!」

攻撃をやめてセイバーから距離をとる

 

「(ふむ、正に檻というわけか…あらゆる方向でこちらを阻害することができるようじゃな)」

 

「クカカ…青いな、小僧よ…」

 

「…正面からやりあわない奴は面倒だな」

「戦いなんぞえてしてそういうものじゃろうてのう、特にこの御仁は、の」

 

セイバーが最初に放った剣は、確認できる限りで8本

暗闇を齎したのはその内の一本であり、恐らくは残りの宝剣にも秘められたチカラがあるのだろう

未だ、その全ては見えない

 

 

【騎】

カード選択:A(1)

命中判定:成功

ダメージ:4(NP+5)

 

 

「さぁて、なーにが来るかのう」

背負った袋に手を入れ、まさぐる

取りだしたのは、ぬいぐるみとおもちゃのロボット

 

「小手調べといこうか、のっ!」

プレゼントがセイバーに向かって飛んでいく

 

「…『懸剪(ケンセン)』、『真剛(シンゴウ)』…」

 

セイバーの号令が、2つの宝剣を動かす

宝剣は2本とも、ロボットの方には目もくれずに、一目散にぬいぐるみをズタズタに引き裂いた

 

「投げたの儂じゃけど酷いことするのう」

無傷のロボットは、ポコンと間抜けな音を立て、セイバーに命中した

 

「…下らん…」

腕組みを解かないまま、少し怒りを滲ませ、短く呟く

 

「儂は戦闘向きじゃないからのう、出来る事と言ったらこんなもんじゃし」

「児戯は稚児を相手にするべきモノだ、…此処は戦場、甘い道理など通用せぬわ…」

「そりゃ儂をここに呼び寄せたやつに言って欲しいのう」

 

 

【剣】

攻撃対象:騎

命中判定:成功

ダメージ:9

スキル使用:『越王八剣』

→”太陽”、”水”、”月”に類する相手の加護を無効化、生物・非生物、魔性特攻付与(1d6-3ターン)→特攻値1(3ターン)

 

 

「―――爺さん…、戦というモノを教えてやろう…『驚鯨(キョウゲイ)』!、『滅魂(メッコン)』!」

 

ライダーに向かって走る2本の宝剣

反応を越えた速度、セイバーの爪牙は容赦なく迫り来る

 

「おうっと!」

トナカイを繰るも、二振りを寸出のところで躱しきれない

致命的な斬られ方はなんとか避けるも、紅い服から違う赤が滲み出す

 

「…なんじゃい狙いは儂の方か」

「斬られたか…爺さん、大丈夫か?」

「ほっほ、なんのなんの、致命そうなのはなんとかズレてくれたからのう」

「クカカ…なぁに、撫ぜただけよ…王自ら手本を示したのだ、本腰を入れて来るが良い…」

 

「言われとるぞランサー」

「…爺さん達に言われちゃあ仕方がねぇな」

「我が宿敵も槍を扱っておってわ…、あの腰抜けを嫌でも思い出す…代替として、その首にて我が心内の暗雲を晴らしてくれよう…」

 

 

≪1巡目収支≫

【槍】HP69

   NP0

 

【騎】HP67→58

   NP0→10

 

【剣】HP70→66

   チャージ1/4

   特攻+1(あと2T)

 

 

 

≪2巡目≫

【槍】

カード選択:B(4)

スキル使用:『ルーン魔術』…必中(1T)+ダメージ+2d6(1T)⇒6

ダメージ:16

 

 

「…年寄りにそこまで言われたらどうしようもねぇよなぁ…、思いっきりブチかましてやるぜぇ!!」

槍を片手に持ち投擲の構えをとる

 

「喰らいやがれッ『イヴァル』!!」

見え見えのモーション

全力を込めて愛槍をセイバーに向けて投げつけた

 

「(投擲だと…? 先に我が剣で受け止めたのを忘れたか…?)」

 

セイバーが剣を操り、空中で固定する

出会い頭の時と同様、投擲された槍を受け止める心算だ

 

展開された宝剣の壁に、槍は吸い込まれるようにつき進み―――

 

「ガッ!?」

 

その勢いのまま宝剣ごと押し進み、セイバーに突き刺さった

 

「…チッ…妙な、術を使うようだな…小賢しい小僧よ…」

「…へっ、精々しっかり味わってくれよな…『アスィヴァル』」

槍を自分の手元に戻す

 

必中の理を受けた槍は、セイバーの肩口に大きな傷を与えた

血を吹き出しながらも、多少後ずさるのみで、尚も男は腕を組んだまま解かない

 

「…あァ、疼くぞ思い出す…呉の王槍、辛酸の味を…」

「そいつはご愁傷様だ、もっと味わわせてやってもいいぜ」

 

脳裏に何者かの姿を重ねているのか、その眼に暗い色を灯す

ランサーの一撃は、セイバーに火を着けたようだ

 

「諸に食らってもまだ余裕ありそうじゃのう」

「結構力込めたんだがな…あんま動じてねぇし、上に立つ人間ってのはこういうものなのかねぇ」

「セイバークラスは伊達じゃないって事なのかのう」

 

 

【騎】

カード選択:A(2)

命中判定:敗北(敵クリティカル)

 

 

再びライダーがプレゼントを取り出し、セイバーを目標に放とうとしたその瞬間、

 

「『転魄(テンパク)』、『却邪(キャクジャ)』、『断水(ダンスイ)』…」

 

間髪入れず放たれた宝剣により、手元から離れたプレゼントは秒も待たずに細切れと化した

 

「やっぱ儂って場違いな気がするんじゃが」

「貴様にも何かしらあるのであろう? 出し惜しんでいては、機を失うぞ…?」

「そうは言われてものう…」

 

「まだ足りぬ…敵意、悪意…、十全たる報復へ至るには程遠い…」

「お前さんに本格的に敵意を向けたらどうなるか分かったもんじゃないのでなぁ」

 

セイバーという男の本質を、ライダーは未だ図りかねていた

 

 

【剣】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「『滅魂(メッコン)』、『却邪(キャクジャ)』、『真剛(シンゴウ)』…」

 

ライダーに向かって、今度は3本の宝剣が放たれる

先の言葉通りならば、ライダーを追い詰め、奥の手を引き出すつもりだろう

 

「そもからして儂はお前さんのような手合いと真っ向勝負できるほどの存在じゃあないからのう」

「ならば、この場で果て逝け」

 

風切り音が無数に響き、多角的に攻撃が襲い掛かる

 

「…ま、迫り来る嵐に比べれば、些か直情的である事じゃな?」

 

宝剣を全て紙一重で躱す

剣速にトナカイが慣れつつあるのだろう

 

「死ぬ事自体を恐れはせんが…生憎、世界中に儂の事待っとる子供達がおるでな…死ぬにゃあまだまだ早い早い」

「クカカッ…まだそこまで動けるとは…刻んだ傷が足らんようだな…」

 

戦場に渦巻く殺気は勢いを増し、セイバーの闘争心を更に昂らせる

 

「やれやれ、ここがいつ頃の年代かは知らぬが… 折角の機会なんじゃし楽しんだ方がいいぞ? 儂の同胞も適度に満喫しておるんじゃし」

「確かに満喫してたな」

竜をも下す聖人が2人程脳裏を過る

 

「聖者であろうが、兵士であろうが、所詮は本質を同じくする人間…、戦場においては皆等しく、相対すれば”敵”に過ぎん…」

「頑固じゃのう…こんなもんに呼ばれた以上致し方ない話じゃが、の」

「いつの時代も変わらぬ…悪意は有る、戦は有る…

 どれほど安寧を貪ろうとも、世から無くなる事など有りはせぬ…」

「それを否定はせんよ

 ロクでもない奴はおるし、人の積荷売っぱらおうとする奴もいるし、権力目当てに他人を蹴落とす奴もおる これはきっといつの時代でも変わりはせんのじゃろう」

 

飽くなき闘争を繰り返す世界

聖人ですらなくすことの出来ないソレは、きっと真理なのだろう

 

「が、それ以外に目を向けず、戦にしか焦点を合わせぬのは視野が狭くはありゃせんか?」

「其れがどうした? 今の我が眼には貴様等しか映らぬ…、ならば敵として処断するより他はあるまい」

 

会話をしているようでいて、まるで成立していない

実際の所、セイバーとは何一つ嚙み合っていないのだろう

 

人間性、行動指針、積み上げた経験、史実

その全てを理解できるとは到底思えない

 

底なしの敵意を、終わりなき闘争を求め続ける男に、言葉が届くことはあるのだろうか

 

 

 

≪2巡目収支≫

【槍】HP69

   NP0

スキル:『ルーン魔術』CT残り6T

 

【騎】HP58

   NP12

 

【剣】HP50

   チャージ2/4

  特攻+1(あと1T)

 

 

≪3巡目≫

【槍】

カード選択:A(2)

命中判定:成功

ダメージ:12

 

 

「(話通じねぇ奴にゃ、”コレ”が一番ってんだ!!)」

切っ先を真っ直ぐに構え、セイバーに向かって突撃

 

「ほう、馬鹿正直に特攻とはな……妙な術は使わんのか?」

「術に頼りっぱなしってのも詰まんねぇだろう!」

槍の柄の端を持ち、長くなったリーチで宝剣を薙ぎ払う

 

「むっ…」

セイバーが引き寄せようとした宝剣は、振るわれた槍によってあらぬ方向へ弾き飛ばされる

守りよりも迎撃を優先しようとした代償に、セイバーの防御はがら空きとなった

 

「オラァ!」

薙ぎ払った勢いを利用してその場で回転、槍による片手一本突きをセイバーに放つ

 

「―――ぐッ!?」

 

身を捩り、何とか避けようとしたセイバーを、突き出された槍は正確に捉えた

 

「いい感じに入ったみたいだな」

ニヤリと笑い、離脱する

 

脇腹に食い込んだ刃先は、勢いのまま抉りぬき、血を撒き散らしながらセイバーを2,3m転げ飛ばした

腕組みをしたままだけに、禄に受け身も取れずに草の上を転がり、やがて止まる

 

「…やりおるわ…」

「若いからって舐めてかかるからそうなったんだろよ」

「…あぁ、確かに侮っておったな…お陰で手痛い一撃を貰ってしまった…」

 

宝剣を器用に操り、体を起こす

言葉とは裏腹に、深い笑みを浮かべる

 

「…まぁ、こっからが本番ってとこかねぇ」

「ククク…さて、どれ程侮ればその真価を見せてくれるのであろうなァ?」

 

こちらの手の内を、見定めているのか

全力を引き出そうとしているようだ

 

 

【騎】

カード選択:A(3)

スキル使用:『聖者の贈り物』

      ⇒HP3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

      ⇒HP+9、攻撃ヒット時NP+3(3T)

命中判定:失敗

 

 

「本職は動きが違うのう…」

プレゼントの箱やらなんやらが、それはもう避けられるの前提でぶん投げられる

 

「………」

最早名すらも呼ばず、顎を軽く振るのみで宝剣を走らせる

投げられたプレゼントは、無残にも串刺しにされ、地面に打ち捨てられた

 

「……爺さん、もうちょっと頑張ろうぜ」

「カッカッカ 儂なんぞができるのはこれぐらいのもんじゃからのう」

「ふぅ…」

 

「本気を出せというのなら、本気なぞ出さんぞい? 儂の本領はこう言うのじゃ無いのでのう」

「…」

「ん? どうした? 儂を殺すんじゃろ? そんなに面倒臭いなら止めてしまってもいいんじゃよ? ん?」

 

情動を煽る

隙を出させるため道化を演じる

しかし、

 

「―――愚か…」

「む」

 

通じない

 

「目に映る限りは殺すのみ…吼えようと、喚こうと、乞うた所で何も変わらん

 聖人であろうが、戦士であろうが、奴隷であろうが、…女子供であろうと、だ…」

 

会話も、意思の疎通も

同じ人間である筈のなのに、通じない

 

「怖いのう…その果てに待っているのは孤独の國じゃろう…、そこまで徹底的にやってどうする気じゃ?」

「我が真名を、生を知るならば、分かるであろう? ”敵”とは、完膚なきまでに叩き潰さねば、再び牙を剥くという事を…」

「じゃろうな で、お主の言う敵とはなんじゃ

 目に映る全てか? …ソレはなんとも臆病な生き方じゃなあ」

 

その精神性に軽く畏怖を覚えながらも、挑発は止まらない

否、止める事が出来ない

 

「…全てをすり潰さねば安堵できんか?」

「あァ…、そうよ 確かに臆病であった、徹底に殺さねば平穏は無かった…」

 

目の前の男も同様、湧き上がる殺意が止まらないからだ

 

「―――かつて王座に在った時は、な…」

「では、なぜ今は剣を振るう? こうなっては玉座もへったくれも無いじゃろ」

「クカカカカ…それはなァ…己が内を理解したからよ…」

「…ほう?」

 

ペースを掴めない、主導権を握れない

その為の挑発が機能しない

寧ろ、逆になりつつある

 

「若き日のワシは呉の虜囚へと墜ちた…、永き屈辱を味わいながらもひたすらに牙を研ぎ、耐えた…

 その果てに、殺した、我が国を侵した呉を喰った…!!」

怒りに歪んでいた顔が、すぐさま狂気的な笑みに変わる

 

「クカカカカカカカカカカカッ!!

 壮観であったわ!! 周王朝の没落家共が、無様に絶え逝く様はなァ!!!

 苦境を忍んだかいがあったというモノ…!」

「…成る程のう それはさぞや壮観だったじゃろうて…そして、悟った…と」

 

当初は、自国の敵を討つという目的だったのだろう

民を守るため、国を守るため、結果、通過点である男は復讐を成し遂げた

 

憎き相手を殺し、自身の本懐を果たした

果たしてしまった

ただ、味わった屈辱を晴らすという己自身の本懐を、成し遂げてしまった

 

「あァ、足りぬタリヌ足りヌぞ…この程度ではまだ足りぬ…苦き肝の味が、屈辱の味が足りん…」

「…復讐は冷めてからが甘美なご馳走である…さぞや美味だったんじゃろう、それっきり虜ときたか」

「貴様等を平らげれば、果たして如何な味となるであろうなァ…?」

 

同じ人間とは思えない程、歪んだ表情

セイバーという男の本質が垣間見えるようだ

だが、

 

「断言しよう、大して美味でも無い上に直ぐに餓えて仕舞いじゃ」

 

臆せず見返す

呑まれれば終わり

戦闘能力以前に、心で負ければその時点でアウトだ

 

 

【剣】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「よく喋る餌よなァ…すぐさま喰ろうて終いにしてやろう」

 

3度、宝剣を放つ

しかし、その動きには、先程までの統率が見られない

 

ライダーに向かって乱れるように飛ぶ剣の群れ

勢いも、精細さもまるで感じられなかった

 

「ホッホ、どうしたんじゃ? キレが無いぞい?」

またしても見切ったような紙一重の回避に掠めることすらない

 

「…チッ、当たらぬか…」

「目に見えて弱っておるようじゃ 大丈夫かの?」

 

腕を組んだまま、余裕そうに見えるセイバー

気丈に振舞ってはいるが、手ひどい傷を与えられているのも事実

 

その実、余り余裕はないのかもしれない

 

 

 

≪3巡目収支≫

【槍】HP69

   NP14

   スキル:『ルーン魔術』残りCT5

 

【騎】HP67

   NP15

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT6

 

【剣】HP38

   チャージ3/4

   スキル:越王八剣効果終了

 

 

≪4巡目≫

【槍】

カード選択:A(5)

命中判定:失敗

 

 

「剣振るう元気もねぇなら寝てろ、永遠になぁ!!」

素早くセイバーに向かって槍を突き刺す

 

夥しい量の血を流し、虚ろな目で突き出される槍を眺めるセイバー

先の攻防をなぞる様に、再び槍が突き立てられ―—―

 

「『揜日(エンジツ)』、『断水(ダンスイ)』…」

 

―――ることは無かった

切っ先が届く僅か数㎝程手前、宝剣によって全ての勢いを受け止められた

 

「クッ!」

チカラを込めるも押し切れず、刃の格子から獲物を引き抜いた

 

精細を欠いた攻撃の直後に、正確な防御

薄気味悪いモノを感じ、直ぐに後方へ跳び距離をとる

 

「甘いな小僧……そこまでワシが弱っているように見えたかァ?」

「…手負いの獣のほうが手ごわいのはわかってんだけどなぁ」

 

血を流しつつも、口を歪め嗤うセイバー

弱っているように見えるのは演技なのか、本気なのか

いずれにせよ、中途半端に追い詰めるのは危険

捨て身で何をしてくるか分からない

 

「(…多分、アレも宝具なんだろうが…)」

 

手足のように動く8本の宝剣

真価を見せるには尚早と言っていた事から、まだ奥の手が控えているのだろう

 

「気味が悪ぃな…」

 

正に、手負いの獣

人間を相手にしている気がしなかった

 

 

【騎】

カード選択:Q(2)

命中判定:失敗

 

 

「さぁてさて、行っといで皆の衆」

 

懐から5cm程の人形を取り出しばら撒く

クッキー人形、”ジンジャーブレッドマン”だ

地面にたどり着いたそれらは、なかなかの速度でセイバーに四方八方から飛びかかろうとする

 

「むッ!?」

今まで攻防からは予想できない光景に驚愕するセイバー

顔を顰めながら、8振りの全て宝剣を操る

 

「―――刻め…!」

自身を取り囲んだ人形のような菓子を洩れなく切り刻んだ

 

「済まぬな皆の衆…」

微塵に刻まれ、粉状になったジンジャーブレッドマンが宙に舞う

 

「…何だ、今のは?…、呪具…?、いや魔の類か?…」

「いいや、こやつ等は菓子の人形…無病息災の祈りの為に産み出された者達じゃ」

「…あの珍妙な人形が息災の祈り、だと…?」

「それを粉微塵とは、…殺生じゃのう」

 

 

【剣】

カード選択:槍

命中判定:失敗

 

 

「チッ」

 

必要以上に焦りを感じた事に憤るセイバー

攻撃対象をランサーへ切り替え、宝剣を放つ

 

「おっと」

槍で回転させ、迫る宝剣達を軽々と弾く

 

速度はかなりのものだったが、対処できないスピードでは無い

襲いかかる牙を、ランサーは苦も無く撥ね退けた

 

「おいおい、そんなもんなのか?」

「…やはり先刻は呪具の類であったか…」

「仮にも聖人の祈りが込められたもんを呪具呼ばわりとは失礼じゃな」

 

苦々しく歪む表情

調子の悪さには、傷の影響もあるのだろうが、どうやら本気で呪いの道具と信じているようだ

 

 

≪4巡目収支≫

【槍】HP69

   NP19

   スキル:『ルーン魔術』残りCT4

 

【騎】HP67

   NP15

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT5

 

【剣】HP38

   チャージ4/4

 

 

≪5巡目≫

【槍】

カード選択:B(3)

命中判定:失敗

 

 

「(調子悪ぃなら、今の内だろ…!)」

踏み込む足に力を込め、一息にセイバーの元へ近づく

 

「オっ、ラァアアアアアアアッ!!」

一呼吸で様々な角度から乱れ突きを繰り出す

 

「威勢だけは良いな、小僧ッ!!」

手数ならば負けていない

餓狼の牙は8本あるのだ

 

金属同士がぶつかり合うこと、20合

幾度も火花が舞い、耳を劈くような音が響く中、骨肉を傷つける音は終ぞ混ざる事は無かった

 

「―――クソッ!!」

「良く動く肉だ…」

 

一瞬に込めた多角的攻撃、その全てを防がれた

苛立ちは舌打ちとなり、無意識の内に口腔から飛び出る

 

「(落ち着け、奴のペースには乗るな、呑まれれば思うつぼだ…!)」

これ以上近づくことは出来ない、仕方なく距離を取る

セイバーも無理に追ってくることは無かった

 

 

【騎】

カード選択:Q(1)

命中判定:成功(敵ファンブル)

ダメージ10

 

 

「ほうれ、もう一度じゃ皆の衆!!」

再びジンジャーブレッドマンが四方八方からセイバーに嗾ける

 

「またしてもかっ、悍ましき人形めがッ!!」

 

防御に使用していた宝剣で迎撃を試みるも、何体かは漏らしてしまう

接近された時点でミス

宝剣が自身に近すぎるため、クッキー人形を殲滅しきるには”距離が足りない”のだ

 

「ぐ、うッ…!! 触れるでないわッ!!!」

 

ブレッドマン達の襲撃を受けるセイバー

下手に剣を操れば自身を傷つけかねないだけに、自分の力で何とかするしかない

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

「全く、ジタバタするない…そやつ等は完全に無害なただのクッキーなんじゃから」

 

「ガアアアアアッ!!!」

組んでいた腕を解き、両の手で纏わりつくクッキー人形の群れを粉砕

顔面によじ登ってきた者を片っ端から握り潰した

 

「…食いもん相手にここまでジタバタするやつ初めて見たわい」

「(…正直、身体をよじ登ってくる奴等を食いたくはねぇけどな)」

 

「ハァっ、ハァ…」

挑発を意に介さず、槍による攻撃を受けても殆ど響くことの無かったセイバーが息を切らしている

今までの攻防で、彼が最も焦りを見せた瞬間であった

 

 

【槍】

スキル使用

『啜る黒水(ダイルクー)』: ≪CT7≫

…対象のチャージを確率で減少、対象に毒状態(3ダメ)を付与(3T)

⇒判定成功 剣チャージ4→3&毒付与

 

【剣】

対抗スキル使用

『猜疑心』:A    ≪CT6≫

…敵単体にスキル封印状態付与(1T)+自身に精神異常耐性を付与(2⃣d6-3T)

⇒判定失敗

 

 

「…たまには搦め手もやるか」

おもむろに懐からガラス製の小瓶を取りだす

中にはあからさまに有害そうな、ドス黒いドロドロした液体が入っていた

 

「うわっ、なんじゃいそれ…」

「見てればわかるぜッ!」

 

そのまま小瓶をセイバーに向かって投げつける

 

「………『断、水(ダンスイ)』……」

繰る宝剣の一本は、小瓶をを捉え、その中身ごと綺麗に切断した

すると、、

 

「ッ…!? これ、は…!!」

「やると思ったぜ… 迎撃するよなぁ?、当然」

 

槍、プレゼント、クッキー人形

せいばに向かって放たれた物は、宝剣の洗礼を受けている

条件反射、もしくは自動防御に近いのだろう

迎撃される事によって発揮される”爆弾”を仕掛けたというわけだ

 

「この期に及び、毒とは…小癪な…」

「(…おいおい、結構強い毒だぞ?…ソレ)」

あまり効いていなさそうな様子のセイバーのことを驚愕して見ている

 

槍による傷

クッキー人形による襲撃

そして、獣とドルイド僧の血液による毒液

 

全てを受けて尚、セイバーは膝を突くことは無い

 

「(何だこの耐久力は…、明らかに普通じゃねぇぞ…)」

 

 

【剣】

攻撃対象:騎

命中判定:成功

 

 

「…この、程度の苦境ならばッ、既に踏破したァ!!!」

「タフじゃなあ…」

 

血の泡を飛ばしながら、再度吼える

8本の牙が向かう先は、ライダーだった

 

「その流れで対象儂ィ!?」

「(なんか地雷でも踏んだんじゃねぇのか…?)」

 

何の脈絡もない攻撃に、ライダーの対応が少し遅れた

 

「ええい、なんのどっこい…あ痛ァ!」

 

急な回避運動により致命打を何とか避けはするが、宝剣は容赦なくライダーの身体を切り裂いていく 

 

「…む、爺さんに当たりよったか…」

まともに対象を認識出来ないまま攻撃を放ったようだ

毒の影響か、傷の深さか

今回に限ってはだが、セイバーのプラスに働いたと言える

 

「…痛たた…、…どうやら弱ってきてはいるようじゃの」

「長引くのは避けてぇな…」

 

 

 

≪5巡目収支≫

【槍】HP69

   NP19

   スキル:『ルーン魔術』残りCT3

       『啜る黒水』残りCT6

 

【騎】HP61

   NP31

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT4 効果終了

 

【剣】HP25

   チャージ4/4

毒状態(あと2T)

精神異常耐性(あと2T) 

 

 

 

 

≪6巡目≫

【槍】

カード選択:B(1)

命中判定:失敗

 

 

「振りじゃねぇだろうな、オイ!!」

飛び上がって上段から槍を思いっきり振り下ろす

ただの力押しとも言えるが、弱っているならば押し切れる筈と判断しての行動だ

 

「…受け止めよ…」

 

宝剣を全て動員し組み上げ、盾とする

ギチギチと攻防が繰り広げるも、セイバーの守りを砕くには至らない

 

「チッ!」

反動を利用し、距離をとって様子を確認する

 

「(…効いてんだか効いてねぇんだか分かんねぇな、本当に…)」

呆れたようにセイバーを見ながら思う

 

対象を認識できない程に感覚が鈍っているかと思えば、今のように正確に防御して見せる

見る限りでは、その一連の行動に狡猾な裏は感じない

 

「………」

先程までとは打って変わり、不気味に沈黙している

単純に張り合うだけの元気が無いのか、それとも別の理由があるのか

 

「さて… これはどうなるやら…」

身構える

 

理解できない敵が一番怖い

対処法が明確でないからだ

 

「(修羅場は何度も潜ってきた筈なんだがな…)」

 

目の前の獣は、ランサーの理解の範疇を超えていた

人間の、戦士の道理が、己の知る常識が覆されてゆく事に、冷や汗と共にただ戦慄する

 

その延長線にある感情が”恐怖”である事を、若きランサーは知る由も無い

 

 

【騎】

カード選択:A(2)

命中判定:成功

ダメージ:11

 

 

「(んー、黙りこくったのが不気味じゃなあ…)」

袋からおもちゃやらプレゼントの箱やらをポイポイとセイバーに向かって投げる

 

槍による傷、クッキー人形の群れ

決して軽くは無いダメージに完全に動きを止めたセイバー

回避行動をとる様子もなく、ただ肩で息をし、立っている

 

「(避け、…ないじゃと…)」

 

ライダーのプレゼントは、何の抵抗も無くセイバーの体中へ命中した

 

直接的な威力は無くとも、ランサーに穿たれた傷痕には響くだろう

深衣を染める赤が、更に濃さを増した

 

「………これは、何か来ると見た方がいいんじゃろうなあ…」

冷や汗たらりと流す

 

感じる殺気の膨張

手負いの獣を中途半端に追い詰めてしまったがための、報い

 

「………」

ゆらりと首を動かし、自らの傷を一瞥する

苦悶の声も上げず、また倒れ伏す事も無い

静かな反応が、やはり不気味だった

 

「………」

再びゆらりと顔を動かし、ランサーとライダーを見据える

 

「………と…は……」

 

「…何じゃって…?」

 

擦れた声が段々と明確になる

虚ろな眼に狂気が宿る

 

「―――王座とは…頂けるモノであり、奪うモノ…古来よりその法は変わらず、…大祖たる夏王朝ですらも例外ではなかった…」

 

誰に向かうともなく、ブツブツと呟く

血を吐きながらも、その舌は止まらない

 

「奪いし物は奪われ、斯くして世は廻る…我が越は呉を奪い、後に楚へと奪われた…」

 

「―――確かに、”俺”は我欲へと堕ちた…国の衰退を招いたのだろう」

 

「…然れど、俺が呉の虜囚となっていた間、越の民は楚や斉の侵略をも撥ね退けた…」

 

「王が居らずとも、国は高く在る…偉大なりし五帝が系譜として、この俺が越を研ぎ澄まし、この俺が鍛えたのだ…」

 

王を失おうとも、国は健在

事実、越国は彼の王から8代先、楚の侵略までのおよそ150年以上に渡り、その栄華を保った

 

幾度の攻防を経て尚、セイバーは立ち続ける

恐れず、揺るがず、気高く其処に在り続ける

 

”王”

 

血に塗れ、傷を負いながらも、

その意志は決して、あらゆる困難に屈することは無い

 

「あァ、そうだ…鍛えよう、耐えよう、…殺そう…」

 

「子を縊らば親が、親を屠らば子が…親しき者が、契りを交わせし者が、いずれ我が首を獲りに来よう…」

 

その剣を揮ったのは、王としての責を果たすためだったのだろう

―――姿勢、方向性が絶望的に捻じ曲がってしまうまでは

 

「是こそ、我が戦…王たるワシの在るべき場所…!!」

 

 

 

 

―――かつて、その人生を復讐に捧げた男が居た

中華最古とされる夏王朝・五帝を源流に持つ、凡人ならざる宿命を背負った男だ

 

男の背負った国は”越”

春秋戦国期の中国、その五覇にも数えられる事のある大国だった

 

父の死後、即位して間も無く、宿敵である”呉”からの襲撃を受けるが、これを見事に撃退

時の呉王を討つなどの功績を挙げ、華々しい王道を歩んでゆく

 

 

 

かのように思われた

 

 

 

この時の戦いが、男の運命を大きく変える事となる

 

王を喪った”呉”は、新たに嫡子を王として立てた

後に男の生涯の敵となる、名を”夫差”といった

 

夫差も大人しくしている訳ではなく、先代の遺言に従い、着々と国力を蓄え始めた

この事態を重く見た男は、呉の殲滅を決意

部下の反対を押し切り、夫差の待つ呉に攻め入った

 

結果は、男の、”越”の敗北

男は捕えられ、夫差の前に引きずり出された

 

絶望的な状況の中、男がとった行動は

―――命乞いだった

 

地に額を擦りつけ、みっともなく、恥も外聞も捨て媚び諂い

ただ、命を得る為の選択をした

 

耐え難い屈辱

抗い難い恥辱

 

一国を背負った男はひたすらに感情を飲み込み、抑えながら命乞いをした

行動は功を奏し、辛うじて命を繋ぎとめる事が出来た

 

だが、その果てに待っていたのは、夫差の召使いも同然の身分

自国である越には戻れず、敵国である呉での労働を強いられたのだ

 

臓腑が煮えたぎる程の怒り

呉への、夫差への消えることの無い溢れんばかりの殺意殺意殺意

 

男は嘗める

自室に吊るした、獣の苦い肝

毎晩毎晩、来る日も来る日も、苦汁を自ら味わった

 

この屈辱を、この殺意を、終生忘れるべからず、と

胸に硬く、そう誓った

 

―――男の名は”勾践”

後に因縁の相手である夫差、そして呉を滅ぼした、春秋戦国の大国・越の”報復王”

 

「この傷、この痛み、この屈辱、久方ぶりよ、堪らぬわ…なぁ夫差よ」

 

報復者たる王の目に何が映っているかは当人にしか分からない

そして、

 

「―――万死」

短く呟かれた言葉に込められた、溢れんばかりの殺意

常人ならば、相対しただけで”死”を実感させられる程だろう

 

遠い眼にかつての何かを重ねている

2騎を見ているようでいて、決して見てはいない

 

飢えに飢えた獣の双眸

孤狼の如き男は、今や餓狼へと変貌して見せた

 

「…此処に会稽の恥を雪ぐ」

セイバー・勾践の言葉に呼応するかのように、全ての宝剣が動きを止める

 

時間が止まったと錯覚する程、統率のとれた動作

8本の宝剣は空間に縫い付けられたかのように静止している

 

渦巻く魔力と殺意は明確な危険の予兆だ

対し、

 

「(…憐れ、じゃな)」

 

思う

ただ一度の復讐を遂げてしまった事によって、男は燃え尽きてしまった

燃え尽きてしまったというのに、再び燃え盛ろうと必死で火種を追い求めている

それはなんとも

 

「我儘な話じゃな…

 さあて… 出さんと言ってしまったが、ここは流石に本気が入り用かのう…」

 

 

ライダーはもまた、宝具の解放を決断する

 

 

 




初戦は中華が産んだアヴェンジャー(セイバー)
外見的なイメージは嘘喰いの百龍さん

1話分に収まらなかったので前後編で処理
次は剣と騎による宝具対抗勝負から

それにしてもこのサンタはよく煽るなぁ


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05 DesireriseD 後

引き続きセイバー戦
宝具対抗勝負からスタート


≪宝具対抗≫

 

【騎】

・スキル使用:『善悪判断(子供)』:EX  ≪CT7≫

 …自身に”悪しき子供”特攻付与、NP+10、攻撃↑2d6(1T)

・宝具使用:『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

 ⇒全体『A』宝具4d6

  味方全体に攻撃↑2d6(共通2T)&HP回復3d6(共通)

 

【剣】

・宝具使用:『刻ヲ越エ王は此処に在リテ』

 …『A』宝具(非攻撃) 

  敵全体にターン毎に減少する攻&防↓状態を付与(初期値1から1/1Tで増加)3T

  自身にターン毎に増加する攻↑状態を付与(初期値1から1/1Tで増加)3T

・令呪使用:3→0

 

 

 

 

・宝具対抗:【剣】勝利

 

 

 

 

「令呪を以て、我が肉体へ命ずる…王剣よ、―――在れ」

傲岸に組んでいた腕を解く

 

セイバーの右手が輝き、浮かんでいた紋様が消失した

3画の令呪、その全てを使用したことを示している

 

吹き荒ぶ魔力の奔流が、ライダーの予想したタイミングを乱した

 

「(………あ、マズっ、…い…!?)」

 

勝ち取った不意の一瞬は、セイバーにとって多大な利を齎す

 

 

 

パリィィィィィィィイン、と

何の前触れも無く、宙に浮かんでいた全ての宝剣が一斉に砕けた

 

ガラス細工のように容易く、あっけなく、刀身のみならず美麗な細工の施された柄までも、粉となって宙に舞う

 

「自らの得物を、粉々にしたじゃと…?」

「…でなけりゃ、奴の獲物は”別に”有るってことか…」

 

「やはり、我が王剣で直々に誅さねばならぬ」

狂える瞳にギラギラとした光を湛え、餓狼は更なる力を魅せる

 

「―――『刻ヲ越エ王ハ此処ニ在リテ』―――」

 

粉々に砕けた筈の宝剣が、セイバーの手元に収束し、別の形を成してゆく

魔力の欠片から新たに生み出された物は、

 

「―――是こそ、我が真なる宝具にして、ワシその物よ…」

 

8本の宝剣は、1振りの剣へと生まれ変わった

 

しかし、形成前と比べ出来上がった剣は地味な印象を受ける

宝石で装飾されてはいるが、1本となった事で派手さはかなり抑えられていた

 

「わざわざ数を減らしてくれるたぁな…」

「…油断は出来んぞ、ランサーよ」

「あぁ、…分かってる」

 

刃渡りは約60㎝、刃幅は5㎝程の両刃剣

刀身には文字が刻まれているようだが、特殊な字体であるため解読はできない

遠目に見ても、切れ味は余程の物だろうと予想できるが、それでも見た目は何の変哲もない銅剣だ

 

「訝しんでおるな? 何故剣を1本にしたか、我が宝具は如何な物か…」

切っ先が2騎を向く

正体不明の脅威が牙を剥く

 

「…直きに分かる、そして理解した後、―――死ね」

 

 

 

”越王八剣”

かつてその国の王は八振りの宝剣を所持していたという

王がとある刀鍛冶に命じ、造らせたのは

 

太陽を指すことで日光を消滅させる陰の剣 

―――『揜日(エンジツ)』

 

水面を断ち割る剣

―――『断水(ダンスイ)』

 

月の生物を転倒させる剣

―――『転魄(テンパク)』

 

触れた鳥が、二つに斬り裂かれる程の切れ味を誇る

―――『懸剪(ケンセン)』

 

水面に浮かべただけで鯨が逃げ出す

―――『驚鯨(キョウゲイ)』

 

魑魅魍魎を遠ざける退魔調伏の剣

―――『滅魂(メッコン)』

 

悪霊に憑かれた者を平伏させる破邪顕正の剣

―――『却邪(キャクジャ)』

 

宝玉や金属を、木を削るように容易く斬る

―――『真剛(シンゴウ)』

の計8本

 

伝承には、王の命を受けた鍛冶師が、冶金の神を祀り特殊な力を持った剣を造ったと記録されている

先程まで宙を舞っていた数々の宝剣は恐らく、歴史に刻まれた『越王八剣』で間違いないだろう

 

歴史における伝承、伝説に刻まれた宝具は強力な力を有する

神秘の度合いにもよるが、古い物ほど信仰によって元の性質より強化される場合もある

実在が怪しい物であろうが、様々な尾ひれが付いて回ることもある

 

 

では”現存する宝具”はどうか?

 

 

世界各国には、現代まで保存された神器が存在する

確かに宝具として強力な力を有し、学術的・魔術的にも価値は計り知れないだろう

 

しかし、現代人にはその宝具持つ力を十全に活かすことが出来ない

担い手が居なければ観賞用のアンティーク、文字通りの宝の持ち腐れでしかないからだ

 

英霊あっての宝具、宝具あっての英霊

現存する程の神秘を、その担い手自身が扱えば、一体どうなるのか

 

 

 

≪6巡目収支≫

【槍】HP69

   NP19

   スキル:『ルーン魔術』残りCT2

       『啜る黒水』残りCT5

   攻&防-2(ターン毎に増加、あと2T)

【騎】HP61

   NP4

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT3 

       『善悪判断(子供)』残りCT6

   攻&防-2(ターン毎に増加、あと2T)

 

【剣】HP11

   チャージ0/4

   毒状態(あと1T)

   精神異常耐性(あと1T) 

   攻+2(ターン毎に増加、あと2T)

 

 

 

≪7巡目≫

【槍】

カード選択:Q(1)

命中判定:失敗

 

 

「大層な代物だろうが、ただの骨董品にしか見えねぇぜぇッ!!」

警戒半分、牽制半分

臆することなく槍を突き出す

 

「遅いわ小僧ッ!!」

ランサーの動きを読んでいたかのような迎撃

遂に現出させた宝具である王剣を巧みに使い、突き出された槍の威力を殺すと共に弾き返した

 

「うッ!!」

「クカカカ…どうした小僧? 槍捌きに冴えが感じられぬぞ?」

「…アンタは、逆に動きが良くなってねぇか…?」

「勘が良いな小僧…、褒美にその首を斬り落としてやろう…」

「チッ!!」

弾かれた槍の反動を利用し距離を取る

 

全身を血に染め、到底反撃など出来そうもない状況にあったセイバー

しかし、宝具の使用と共に、明確に”何か”が変わりつつあった

 

「(…あの剣になってからか…? ”何か”がおかしい…)」

自らの手応えに違和感を隠せないランサー

槍に込めた筈の力が普段よりも劣っているように感じる

 

「(俺の速度はこんなもんだったか…? 俺の一撃はあんなもんだったか…?)」

 

動きを読まれていたかのように対応された

手負いに見切られる程度のスピードだったからだ

 

殺す気で放った一撃が、いとも容易く弾かれた

死にぞこないに負ける程度のパワーだったからだ

 

「(―――…普段より、ヤり始めた時より…いや、”数秒”前よりもだ…!! チカラが、…上手く出せねぇ…!!)」

 

全力の上限そのものが低く設定されたかのように

…まるで、衰えたかのように

 

 

―――『越王勾践剣』

セイバーの持つ剣こそ、まさに現存する宝具

 

近代に中国で発掘されたその剣は、勾践の生きた紀元前から2000年の時を経て再び日の光を浴びた

ターコイズ、青水晶といった宝石で装飾された銅剣

その刀身には鳥蟲書体によって文字が刻まれていたという

 

恐るべきは、2000年以上の時を土に埋もれながら、全く劣化が見られない点

錆の一つも無く、切れ味はほぼ当時のまま落ちることも無い

現代の技術を以てしても解明できない製法、完全なるロストテクノロジー

 

加えて、刀身に刻まれた文字―――『越王勾践 自作用剣』

その剣を、勾践が自らの手で焼きしめ、鍛え、造り上げたという証

 

時を経て尚、決して錆びつかぬ意志

宿敵の召使いにまで身を墜としながらも、遂に折れることの無かった不撓不屈の復讐心

 

越王八剣という、特異な力を宿した宝剣を数多く所持しながら、その力を完全に信じず、自らの為の剣を自分自身で造り上げるという、他人への疑心

 

夫差に敗れてから呉を滅ぼすまでの20余年

いずれ来たるべき時のため、復讐心を研ぎ澄ませながら、日々募る憎悪を一滴も零すことなく内に抱え続けた

 

セイバーが、剣を自分自身と言ったのも頷ける

20年間身を焼き続けた憎悪、その果てに研ぎ澄まされた強靱なる意志

 

時を越え、劣化しない剣

その宝具は、勾践と言う男を十全に体現していた

 

「王とは不滅にして至高の存在!! 天に、人に、時にすら侵されぬ、あらゆる力の及ばぬ遠き頂き!!!」

 

餓狼が吼える

自らの現身である剣、爪であり、牙

磨き抜かれた切れ味は魔剣にも聖剣にも届きうるだろう

 

「貴様等はその頂を、このワシを越えると申すか?! よき思い上がり! よき蛮勇!! 見上げた意志よ!!」

 

「この傷! この痛み!! この屈辱!! 故に、ワシは貴様等に―――報復する!!!」

 

剣が脈動する

勾践その物と言える宝具『刻ヲ越エ王ハ此処ニ在リテ』、その真価は―――

 

「―――時、万象蝕ム病トナラン…」

ランサー、そしてライダーの両名

全身に降りかかる謎の倦怠感

 

「ふうむ…この怠さ…!」

「酷くなってきていやがる…!」

 

「―――人、互イ蝕ム毒トナラン…」

サーヴァント2騎の猛攻を受けて尚、セイバーは健在

先程までクッキー人形に醜態を晒していたとは思えない程だ

 

一方で2騎の状態は芳しくない、むしろ悪化している

まるで進行性の病に侵されているような感覚

 

反応速度が鈍っている、体が動かしづらくなってきている

そして、その事実を差し引いてもセイバーの様子は今までを逸脱している

 

「理解したかァ?、ワシの剣を」

ギラギラと輝く双眸が2騎を捉える

 

「絶えず流るる時は、貴様等のみを蝕み、傷を受けたワシは屈辱に身を焦がす…」

 

時間が経つ毎に不利となる殺し合い

セイバーは勝手気ままに煮えたぎり、相対する者は弱体化を余儀なくされる

 

20年以上に渡り己が内に飼い続け、肥え太らせた復讐心

晩年、自らを支え続けた忠臣をも死に追いやった猜疑心

他人への、敵への異常な執着

人生を復讐に捧げた報復王の成せる業だ

 

「理解したであろう? では死に晒すがいい…」

「…いやじゃよ そんな、自分をいじめるのが趣味みたいな奴に負けてなどおられんわい…!」

 

 

【騎】

カード選択:A(3)

命中判定:強制敗北(ファンブル)

 

 

「(…くぅ、しかし堪えるわい…怠いわ腰は痛いわじゃし…)」

軋む体、痛む節々

寄る歳には勝てず、満足に動くことも出来ない

 

「ククカカカ!! 道理だな!! 爺さんには余程、この呪いは堪えるらしい!!」

「…爺がいい歳こいてはしゃぐと、暫し後の筋肉痛が怖いからのう…」

怠そうにセイバーを見る

 

 

【剣】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:13

 

 

「死にぞこないは後回しで良かろう、―――なァ!!」

不動のまま剣を顎で使うだけだった男が、遂に動いた

自らの足で地を踏みしめ、一息にランサーまでの距離を詰める

 

「なっ!!」

あまりの速さに驚き咄嗟に槍を横薙ぎに振るう

 

「クカカカカカカカカカカカッ!!」

 

重傷である筈の体からは想像も出来ない程の動き

迎撃に振るわれた槍をモノともせずに躱し、自らの分身である剣を一閃させる

 

「グ、…ッ!!」

 

槍の隙間を縫って与えられた一撃

ランサーの体に紅い線が刻まれる

 

「(確かに俺の動きは鈍っていやがる…! だが、それだけじゃねぇッ…!!)」

痛みに耐えながら、追撃を避けるべく槍をセイバーに振り回す

 

「ほう…、やはり若いだけに活きは良い…」

苦し紛れの反撃をゆらりと躱す

時の呪いは、両者の間に多大な差を齎している

 

「……俺達が弱っている分、テメェは強くなってる…そうだろ、…爺さん?」

「ククク…理解した所で手遅れ…

 手負いだからと気は抜かぬ…昔、痛い目を見ただけになァ…」

「…あぁ、正直こっちは気ぃ抜いていたぜ…今の状況で油断とか自分が情けねぇわ、ホント…」

 

 

 

時の呪い

膨れあがる復讐心

広がる両者の差

 

「(…如何に強力な宝具でも、限界はある筈じゃ…)」

 

復讐心による強化を受けているとは言え、勾践の傷が癒える訳では無い

 

令呪による宝具のブースト使用

復讐心によるトリップ状態

2つの要因が男を手負いの餓狼に変えている

 

与えたダメージは蓄積しており、その躰を無理に動かしているに過ぎない以上、限界は必ず訪れる

 

時が呪うのは、果たしてどちらなのか

 

 

 

≪7巡目収支≫

【槍】HP56

   NP26

   スキル:『ルーン魔術』残りCT1

       『啜る黒水』残りCT4

   攻&防-3

【騎】HP61

   NP7

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT2 

       『善悪判断(子供)』残りCT5

   攻&防-3

 

【剣】HP8

   チャージ1/4

   攻+3

 

 

 

 

≪8巡目≫

【槍】

カード選択:Q(6)

命中判定:失敗

 

 

「(…やられる前にやるしかねぇッ!)」

一直線の突き

槍での利点、防ぎづらい”点”での攻撃を仕掛ける

 

「ぬるい、あまりにも軽いぞ? 小僧…」

満足に力を発揮できないランサーの攻撃を難なく外へいなす

そのままバランスを崩したランサーに、何をするでも無く無警戒にズイ、と体を寄せる

 

「ククク…頃合いか? そろそろ首を刎ね楽にしてやろう…」

「…そいつはお断りだッ…!!」

 

追撃で深手を負わせることも出来ただろうに、ただ嘲け嗤うのみ

完全に舐められ、遊ばれていた

 

「(クソッ!!)」

苛立ちをを抑えながらバックステップで距離をとる

 

「幾ら逃げようとも、必ずや追い縋ろう…倶に天を戴ずとも、地の果てまでなァ…!」

「…やべぇな、色々と…」

 

不吉な伏線を敷きながらも、それ以上追撃しようとはしなかった

結局は、どこまでもこの状況を楽しんでいるのだろう

 

セイバーの方が遥かに重傷を負っているにも関わらず、隙も弱さもまるで見えない

歪んでいようと、一国を背負った王

呉国を喰らい、中原の覇者として立った孤高の餓狼なのだ

 

 

 

【騎】

カード選択:A(6)

命中判定:強制敗北(敵側クリティカル)

 

 

「むぅ、やっぱりどーにも気だるいのう…」

軋む体に鞭を打つ

それでも見る分には投げやりなおもちゃ投擲でしかない

 

「…成る程、小賢しい演技も出来ん程に衰えたか…」

迫り来る玩具を切り捨てる

ライダーの状態を疑っていたのか、一挙一動を抜け目無く見張っていた

油断しないと言ったのも真実だ

 

「誰のせいじゃ誰の…いっそ剣からビームが出るぐらいの方が楽じゃったなあこれは」

疲労感滲み出る答えを返す

元々の肉体年齢に加え、時の呪いによる劣化が重なっている

その実、今までの挑発も出来ない程に余裕は薄いらしい

 

 

【剣】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:9

 

 

「ではその首、貰うぞ―――!!」

宣言通り、ランサーの頸部へと剣を走らせる

態々宣言しつつ、挙動も正直過ぎる程真っ直ぐだ

 

「(舐めやがって…!!)」

 

空を滑るように迫る自然な死の直線

槍を縦構え、宣言された首の手前で王剣を受け止める

 

「―――ん、オっ!?」

そのまま防ごうとするも、衰えた足に上手く力が入らず、体勢を崩してしまう

 

「ムっ…」

剣は目標からズレ、ランサーの腕を浅く裂いた

致命的な一撃には至らなかった分、ある意味幸運だった

 

「阿呆が…もう少しで楽になれた物を…」

「チッ、うるせぇんだよ、化け物爺が!!」

直ぐに体制を立て直し、槍で牽制する

 

”死”を、実感した

 

心臓が早鐘を打つ

浅く裂かれた筈の傷痕から血がどんどん湧いてくる

一歩間違えば、体勢の崩し方を誤れば、今ので勝負が決まっていてもおかしくは無かった

 

「ほう…まだ立てるか…良いぞ、来るがいい…永遠に殺してやろう…」

 

嗤い、バックステップで距離をとるセイバー

追い詰める寸前であろうとも、警戒は怠らない

いき過ぎとも言える疑心が必要以上に機能している

 

「(…畜生…ビビってんのか、まさか…)」

抱いている感情は間違いなく、畏怖

死の実感に対してでは無く、目の前の存在の理解不能さに対してだ

 

価値観が、在り方が、自分や身近な者とはかけ離れ過ぎているが故の解離感

戦闘技能の面では勝っていても、精神面では気圧されつつあった

 

「(…この、…俺が…?…)」

 

後ろ向きな臆する心は戦場で足を引くのみ

心の折れた者に肉体は付いてこない

 

「―――ざけんなよ…」

「あァ?」

 

ただし、それは常人か、精神が脆弱な者に限っての話だ

 

「…ざけんなよ…俺のチカラはこんなもんじゃねぇってのに…」

「…レオニダスの御仁に曰く、不調との付き合いこそ学んでおくべき…、じゃからあまり気にせんでも良いのじゃぞ」

「不調との付き合い、ねぇ…、まぁ今後の課題ってところか…」

「それに、名に聞くケルトの戦士はこの程度でへし折れる枝っきれじゃあるまい?」

「当然だ、このままだとフェルグスの奴にまたブン投げられそうだしな…」

 

ケルトの戦士にとって、逆境など日常茶飯事

常人の理屈など通じず、この程度で折れる脆弱な精神など持ち合わせない

やられたままで終わる事は、何より己自身の矜持が許さない

 

「ならば、愚痴って後ろ向きになっとる暇なんぞない事は分かるじゃろ?

 何れにせよ、こいつをどうにかせにゃカルデアに帰るもへったくれもないんじゃし」

「そうだな、こいつ以外にもあと4騎いるわけだしな」

「…ってかここまで愚痴れるとか、実はお前さん余裕綽々じゃろ」

「へっ、この程度…、俺がビビるなんて有り得ねぇだろ…!!」

 

まだ初戦、5騎の内の最初の1人なのだ

躓きはしても、ここで倒れるなど本末転倒

 

「…って言うとるが? こやつ、お主の宝具の影響受けて実は余裕らしいぞい」

「…活きを取り戻したか…青きだけに威勢だけは余っておるか…」

「言うて儂もなんか怠くなくなったしのう お、これはもしや慣れたって事かの?」

「或いは、死が近くあるやも知れぬなァ…」

「いいや、お主の、な さぁて、反撃の時間じゃ…!!」

「おうさ…!」

 

怒りで畏怖をねじ伏せる

恐怖に打ち克つ意志は、あらゆる壁を超えるチカラとなる

 

戦場に交錯する意志

決着は、近い

 

 

 

≪8巡目収支≫

【槍】HP56

   NP26

   スキル:『啜る黒水』残りCT3

【騎】HP61

   NP7

   スキル:『聖者の贈り物』残りCT1 

       『善悪判断(子供)』残りCT4

 

【剣】HP8

   チャージ2/4

   

 

 

 

≪9巡目≫

【槍】

カード選択:B(2)

スキル使用:『ルーン魔術』

命中判定:スキルにより必中

ダメージ計20

 

【剣】

スキル使用:臥薪嘗胆 A+++ ≪CT7≫

⇒ガッツ付与(2d6復活・1回)+復活後に攻撃↑1d6(3T)

 ガッツHP9、攻撃↑1(3T)

 

「調子も戻ったことだし、デカいの一発行くぜ…!」

槍を片手で大振りに構える

 

「喰らえや、”イヴァル”ッ!!」

筋肉と関節をフル稼働、勢いを槍に乗せての全力投擲

空間を裂く勢いで、セイバーに向かって突き進んでいく

 

「―――先刻の術か…!!」

 

槍の挙動が不自然、やけに進路が真っ直ぐ過ぎる

直感で回避は不可能だと理解する

 

「(避けられぬ、ならば…)」

 

防がない

両手を広げ、回避すら放棄

迫り来る槍を、そのまま受け入れた

 

「はぁ!?」

「グッ、ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

必中の槍は腹のド真ん中に深々と突きささる

勢いのままにその場では止まらず、セイバーを数m後ずさりさせた

 

傍目から見れば、完全に致命傷

どれ程の耐久を誇ろうとも、死は避けられない

しかし、

 

「―――是で、ワシを殺したと思うたかッ!! 夫差ァァァあァアアァあッ!!!」

 

倒れない

膝を折る事すらない

毒に侵され血を吐こうと、内臓を潰されようと、餓狼は未だ立ち続ける

 

「何だよ、アレは…」

回収の咒によって槍を手元に戻し、理解の外の存在に顔を顰める

 

ランサーの知るクランの猛犬も、”生き汚い”と形容される程の生命力を有していたが、これ程狂気に満ち溢れた生命ではなかった

 

「(…コイツ…本当に人間か…?)」

 

神の血を引く訳で無く、天性の肉体を授かった訳でも無く

ただ、意志の強さのみで肉体を世に留めているのだ

 

 

【騎】

カード選択:Q(2)

命中判定:失敗

 

 

「…こういう手合いが一番恐ろしいのう…そら行っといで」

再三ジンジャーブレッドマンを放つ

しかし、当の菓子人形達はセイバーの様子を目の当たりにしたのか、少々嫌々そうな様子を見せながら特攻を仕掛けていった

 

「オオオォォォオオオオオッッ!!!!!」

迂闊に接近を許す筈も無く、裂帛の声と共に、自らの宝具を地に叩きつける

巻き起こる衝撃にジンジャーブレッドマンは無惨にも粉々になって宙を舞った

 

「勿体ないのう…」

 

毒に侵され、腹を穿たれ、全身を血に染めた男

致命傷、と誰もが評するだろう

 

事実、損傷は霊核にまで届いていた

次の瞬間にも、その場に崩れ落ち、消滅したとしてもおかしくは無い

 

おかしくは無い、のだが

 

「愚かな夫差よ…俺は…、貴様のようには、…ならぬ…」

 

寧ろ、消滅していなければおかしい

それでも、

 

彼の王はその足で、大地に立ち、更なる殺気をぶつけてくる

 

夥しい量の血を流しながらも、未だ倒れない

朽ちず、錆びず、決して折れない

まるで、

一振りの剣の如く

 

「(…これでバーサーカーじゃないから恐ろしいわい…)」

 

セイバーを支える要素は、大きく2つ

 

1つは、宝具使用に消費した3画全ての令呪

 

絶対命令権は、全て自らの肉体に対し宝具の使用を課した

結果、令呪の魔力は宝具発動のために肉体を動かす燃料となっているのだ

 

 

そして、もう一つは、セイバー固有スキル―――『臥薪嘗胆』

 

春秋戦国・中華における復讐譚

歴史が物語る、2人の王の争い

 

十八史略、”臥薪嘗胆”に曰く

『呉王夫差、朝夕薪ノ中ニ臥シ、讎ヲ復セント志ス

 越王勾践、胆ヲ坐臥ニ懸ケ、即チ仰ギテ、之ヲ嘗メン』

 

己が目的がため、朝晩薪に身を臥せ、復讐を誓う男

己が目的がため、肝を嘗め、苦汁を味わい続ける男

 

敢えて苦境にその身を浸し、内なる憎悪を肥え太らせる

敗北を知った男のその後の20余年は、憎き敵の全てを喰らい尽くした

 

王は立ち続ける

報復を果たすため

屈辱を晴らすため

 

時を越えて尚、錆びる事も、折れる事も無い意志

”耐える”という一点において、越王勾践という男は他の追随を許さない

 

「(…確かに、お主の精神はワシ等では折れぬ程強固じゃろうて…じゃが…)」

 

宝具による時の呪いが弱まっているのも事実だ

身体の衰えも、徐々に回復してきている

令呪を犠牲にした強制力も、そう長くは持たないのだろう

 

寧ろ、精神面が強靱すぎるあまり、肉体が耐え切れないのだ

負った傷を無視して動けるとは言え、定められた限界を超える事は出来ない

 

流れは、2騎へ傾き始めていた

 

 

【剣】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ4

 

 

「死に晒せェ、夫差ァ!!!!」

 

血を撒き散らしながら、変わらぬ速度で迫るセイバー

扱う武器に過去を重ねているのか、ランサーを執拗に狙う

 

「人違いだって言ってんだろ、ボケてんのかクソ爺ィよォ!!」

セイバーの気迫に負けず、剣劇を捌く

 

「自ら死を選んだ愚物が…!!! 俺に敵わぬと逃げた弱者がァッ!!!!」

 

狂気を目に宿しながらも、剣のキレは冴えわたるようだ

斬り結ぶ度に、ランサーに小さいながらも、傷が刻まれてゆく

 

「ッ、うおオオオッ!?」

「―――万死」

とどめと言わんばかりに首元へ剣が飛ぶ

 

「ッ!」

軌道は見えていた

斬首への拘泥から、最終的にはそこへ王剣が迫る事も予測は可能だった

結果、読みは勝り、一瞬の間を縫って距離をとるも、浅く切られてしまう

 

「躱したか…、どこまでも俺の温情を撥ねつけようとは…」

「んな温情要らねェんだよ…!」

「あァ、良かろう…勝手に自死せぬよう、どこまでも追い詰め屈辱の内に殺してやるわ…」

 

 

 

二人の王の争いの結末

呉王夫差と、越王勾践の血で血を洗う復讐譚の決着

 

悲願の内に呉を滅ぼした越

自らに屈辱を強いた夫差に対し、勾銭は敢えて赦しを与えた

 

国を亡くし、全てを失った呉王へ、”自分と同じように這い上がり、復讐を果たしに来い”とでも言うように

 

しかし、宿敵である夫差が選んだのは、―――自決

薪に臥せ、痛みを糧にした王は、絶望による死を選んだ

 

宿敵は死んだ

復讐心よりも、全てを失った絶望が勝ったのだ

国を滅ぼした憎き敵よりも、楽となれる死を選んだ

 

”何だ其れは?”、と

 

 

”己が焦がれ続けた敵は、この程度のものだったのか?”

”俺とお前は、同じ類のモノでは無かったのか?”

 

 

報復者の王は、その熱を燻らせる

自らの求める敵を、際限の無い欲望を満たす事の出来る相手を、いつまでもどこまでも探し続けるのだろう

 

「(…お前さんの求める敵なんぞどこにも居らぬよ…復讐に魂を染める者なんぞ稀じゃからなあ)」

 

 

≪9巡目収支≫

【槍】HP52

   NP28

   スキル:『啜る黒水』残りCT2

【騎】HP61

   NP7

   スキル:『善悪判断(子供)』残りCT3

 

【剣】HP9

   チャージ3/4

 

 

 

 

【槍】

カード選択:Q(3)

命中判定:成功

ダメージ4

 

 

「いい加減にくたばれオラァッ!」

意趣返しとばかりに、勢いに乗り果敢に攻め続ける

 

「クカカカ!!! 漸く様になってきたではないか!!」

死の淵に在る身で、それでもランサーの攻めに応じて見せる

剣と槍のぶつかり合いに火花が幾度も散っては轟音に消える

 

「そこだァッ!!」

さらに猛攻を繰り返した末の、腹に一刺し

完全に対応しきるには、負った傷が大きすぎた

 

「ぬゥッ!!!」

槍を突きさされた影響で距離が開き、強引に攻防を中断させられる

痛覚は既に吹き飛んでいるようだが、物理的に肉体の稼働に支障が出るのは無視できない

 

「まだだ、足りぬ…向かって来い…俺を再び追い詰めてみせろ…」

「望み通りにしてやるよ…、ただし、ソレで終いだ、次は無ェ」

 

獣の、餓狼の欲に底など無い

有るとすれば、人間としての限界のみ

越王勾践を打倒するならば、報復者の王として引導を渡すより他は無い

 

 

【騎】

カード選択:Q(6)

命中判定:成功

ダメージ6

 

【勝利】

 

 

「…もはや言葉は通じぬか…ならば、せめて安らかにと祈るかの…」

十字を切りつつ放たれたジンジャーブレッドマンが四方から飛びかかる

 

「また小賢しい呪具か…!!」

度重なる襲撃に険しく顔を歪める

 

「其奴らは害を加えはせんよ 只々、幸福と無病息災を祈る為のモノ…、お主の眼にはもう、敵としか映らんのだとしても、じゃ」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

斬る、砕く、踏み潰す

その悉くを拒絶する

 

「もしそやつ等でおぬしが傷つくというのならば…」

己を取り囲む”敵”に応戦し続ける

切っ先が人形を砕く度、セイバーの体もまた軋む

 

「それはもう”自傷”じゃ 遍く物を敵としか見なさぬ己が、自らを傷つけているに等しい」

斬り、砕き、踏み潰し、数多の残骸が王の足元に転がる

悪意とも、憎悪とも無縁な屍が、其処には在った

 

「ほれ、よく見ろ そやつ等は本当に、お主を害そうとしておるのか? 傷つけたくて飛びかかったのか?」

 

見ればジンジャーブレッドマンは飛びかかりはするものの、殴りも襲いもしない

寧ろ自分の体をちぎって差し出そうとしたり、食べやすいようにと小さくなる者達がいた

 

「ハッ、ハァッ…!! ―――オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

細くなった破片が、暴れる勾踐に刺さったり、剣を振る体にしがみ付いたせいで負荷になったりはしているが

決して、決して傷付けようとしての行いではない

 

それは純粋な献身

 

誰であろうとも、どんな人であろうとも

病と無縁でいてほしいという祈りが宿った物

 

「目をそらすな、現実を受け入れよ

 お主が望んだ復讐はここにあるのか? 誰かを思っての行いを敵として暴れるお主は…―――本当に復讐者たり得ておるのか?」

 

やがて、残骸が足元を埋め尽くす頃

 

「―――ククッ、ク…カカカッ」

 

静寂に響き渡る不気味な声

其れは、新たな獲物を見つけた獣の嗤う声

 

「ワシが、望んだ…復讐だと…? 何を言うか…此処に、在るではないか…」

王剣の切っ先が2騎を向く

「ククッ、クカカカッ、クカカカカカカカカカカカッ!!!」

 

「………」

 

致命的な傷、霊核も破損している

もとより、限界はとっくに訪れていた

如何な宝具、スキルであっても修復は不可能

消滅は免れない

 

「哀れ、とは言うまい…さらばじゃ復讐の亡霊、次の機会がないことを願うぞい」

「…あァ? 終わりと、思うているのか? この場で…ワシを打倒した程度で、終わりなどと…?」

 

二度目の”死”の経験だというのに、悲壮など全く感じられない

きっと男にとって死は嘆く物ではないのだろう

それどころか―――

 

「その面、その技…覚えたぞ… 忘れぬ許さぬ逃さぬ、確実になァ…」

 

英霊と化したことで、死は終わりでは無くなった

 

復讐を自身のアイデンティティとする男には願っても無い事だろう

永い時の中で再び遭いまみえる可能性は決してゼロでは無い

呪いや怨念のような不確実な物と違い、”ソレ”はいつか確実に訪れる

 

「是こそ我が痛み…他の何物でもない、無二の証…!! 忘れようとも、決して消えはせぬ…」

 

執着は、終わりなき復讐の連鎖

男が真に求めた物、欲望であり、深層に抱いた願い

 

宿敵を屠った時の達成感

本懐を成し遂げた充足感

苦境と困難からの解放感

全てが報復王の脳を焦いた

 

男は求める

―――自らに刃向う新たな敵を

 

王は求める

―――自らを蝕ばまんとする敵意を

 

呉を滅ぼし、諸侯を纏め上げ、中原の覇者となった後の在位およそ30年

没するまでの間、終ぞ現れることの無かった新たな敵

 

晩年の猜疑心は欲求不満の表れか

居もしない内の敵を探しつづけたまま人生の絶頂を向かえてしまった反動は、”王”を”獣”へと堕とした

 

「………はぁ」

ため息を一つ

 

「仕方あるまい、か… これがお主の救いならば…他所に持ち込んで迷惑になってもあれじゃからなあ」

 

何を言おうとも、男には響かない

聖人の言葉すら、ただの詭弁となる

ライダーは、報復者の王の本質と向かい合うことを決めた

 

「良かろう お主が覚えている限り、儂等が敵対してやるわい」

 

「…クク、カカカッ、いずれ…いずれ、来たる…その時まで、」

笑っている

楽しくて楽しくて仕方が無いと言う風な表情だ

 

獲物を得た獣

永い間待ち侘びた敵、求めていたモノがやっと自分の前に現れたのだ

 

戦場で敗北を糧に、男は執念の刃を研ぎ澄ます

”あの時”と同じ快感を味わうため、諦めなど欠片も無く

 

「…出来れば二度と来ないで欲しいんじゃがなあ まぁ、致し方あるまい」

 

そして、復讐を成し遂げた後、男は更なる敵を求め彷徨うだろう

獣の飢えは、渇きは、永遠に満たされることはないとしても

 

「その時は、かかってくるが良いわ」

 

”犭(けだもの)”の王

果たしてその正体は獣か、化け物か

 

「―――あァ…貴様等の、薄汚い首…預けておくぞ…」

 

不吉の塊のような言葉を吐き出し、剣士の英霊は消滅した

完全にその姿が無くなるまで、終ぞ男の眼球は1㎜も動くことは無かった

 

怨敵の顔を、その眼に焼き付けるかのように

宿敵の顔を、その魂に刻み付けるかのように

呪いの種を残し、消えた

 

通常、聖杯戦争において、サーヴァントは消滅後に座へ帰還する

次なる召喚の際には、以前の記憶はリセットされるのが常だ

 

過去や未来に至るまで、あらゆる時間の中で召喚される存在

”記憶”という矛盾を解決するための、座の苦肉の策である

 

故に、次にいつ会おうと、この島における殺し合いは”無かった”事になる

 

それなのに、何故か

拭いきれない不安

有り得ない、と断定しきれない何かが、あの男にはあった

 

セイバー、越王・勾践

紀元前中国、波乱の時代、春秋戦国の世を生き抜いた末、復讐に憑かれた男、報復者の王

 

一筋縄ではいかない相手だった

事実、2人掛りでの成果だ

 

「…何か、気持ちの良い勝ちじゃあねぇなぁ…」

 

戦闘の余韻

受けた傷が鈍い痛みを湛える頃

 

 

 

【察知判定】

両者成功

 

 

 

「ッ、ランサー!」

「!、おうッ」

 

戦場に起こる変化

その微かな違和感を、ライダーはいち早く察知した

 

「何かあるとは思っておったわ…あれだけドンパチやればのう…!」

 

 

 

足元が、微かに揺れている

小規模な地震が発生していてるようだ

 

それは少しずつ規模を増しながら、やがて視界ごと大地がグラグラと揺れ始める

まるで、孤島その物が鳴動しているかのようだ

 

「乗れ、ランサー! 一旦中空へ行くぞい!」

宝具を呼び出す

大きなソリが舞い降り、即座にトナカイを前へつけ乗り換える

 

「応ッ!」

跳躍し、現れたソリに素早く乗り込む

 

曲がりなりにも、セイバーと戦闘後のタイミング

何かしらの攻撃かと疑いを持つ

 

「さあて、竜が出るか悪魔が出るか…」

地を俯瞰し、辺りの様子を窺う

 

警戒に反し、地震以外に何かが訪れる気配は無い

 

 

やがて、揺れ自体も小さくなっていき、結果的に数分で地震は終息した

上空から目に見える限りでの被害も無いようだ

 

「………なんじゃ、何もなしか」

「…てっきり馬鹿みたいにでかい化け物でも出てくんのかと思ったぜ」

 

警戒を削ぐ肩透かし

単なる自然現象か、何か他の要因があるのか

疑わしくはあるが、判別は付かない

セイバーの遺した言葉が後を引いている今、必要以上に過敏になってしまったのかもしれない

 

「……やれ、まぁ何もなくてよかったと思いたいところじゃが」

「あぁ、警戒しておくに越したことはないからな」

 

勝利の余韻は消えてしまったが、事実として一勝を収めた

 

残るサーヴァントは自分達を除き、4騎

イレギュラーだらけの聖杯戦争を生き残り、果てに待つものの正体を、彼等は予測すら出来ていなかった

 

 

 




誰も信用しない男は、他人の善意で自ら命を落とす
結末の発案はライダーの中の人 RPGJ


サイコロ運のせいでのっけから大分苦戦したけど、これはこれで強者感出て結果オーライ
…だといいよね
セイバーのマテリアルについては後ほど



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≪舞台裏②≫ ハウリング

セイヴァー側の話とセイバーのマテリアル
字面が似ててちょっとややこしい

セイバーの設定はもうちょっと盛っても良かった感あるけど、二次創作の小規模卓だし、公式でも出すかもしれないし、多少はね?




≪セイバー≫

HP:70

真名:勾践

性別:男

身長/体重:186㎝/77㎏

属性:混沌・悪

 

筋力:C 魔力:C 耐久:B

幸運:B 敏捷:D 宝具:B+

 

《クラス別能力》

・対魔力:D~A+

…一工程による魔術行使を無効化する 魔力除けのアミュレット程度の対魔力

 宝具:越王八剣『却邪』の特性により、時間の経過と共にランクが上昇する

 

・騎乗:C

…騎乗の才能 大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない

      

《保有スキル》

『臥薪嘗胆』:A+++ ≪CT7≫

…自身に降りかかる精神面、及び肉体面への負荷耐性、仕切り直しの効果も含む

”耐え忍ぶ”強さにおいては、他の追随を許さない

⇒ガッツ付与(2d6復活)+復活後に攻撃↑1d6(3T)

 

『猜疑心』:A    ≪CT6≫

…他人を信用しようとしない在り方

 あらゆる欺瞞、虚言等に振り回されず、高確率で精神干渉を防ぐ

 というか真実でも信用されないので、ほぼ会話は無意味 意思疎通以前の問題

⇒敵単体にスキル封印状態付与(1T)+自身に精神異常耐性を付与(3T)

 

『越王八剣』:B~B+ ≪CT6≫

…越王勾践が所持していたとされる、それぞれが特殊な力を備えた、8振りの宝剣

⇒太陽、水、月に類する加護を無効化

 生物・非生物、魔性特性の相手に追加ダメージ1d6(3T)

 

 

《宝具》

『越王八剣』

ランク:B~B+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:8人

…越王勾践が所持していたとされる8振りの宝剣

 冶金の神の加護を受けており、それぞれが特殊な力を有したBランク相当の宝具である

 これらは乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の八卦に応じて作られたものであり、対応した方角へ配置することで真価を発揮する

 剣によって囲われた領域を越王八剣の気で塗りつぶす事で、外界と領域内を隔てる境界を作りだすことが出来る

 あくまで独立した気の空間を作りだしているだけであり、結界のように世界を隔てる程の力は無い

⇒太陽、水、月に類する加護を無効化

 生物・非生物、魔性特性の相手に追加ダメージを与える 

 

『揜日(エンジツ)』

:陰の気を帯びた金属で造られた剣 『揜日』で太陽を指すと一定範囲の日光を消滅させる効果がある

 ただし、日光を消すだけであり、夜になる訳では無い

 太陽に縁を持つ相手の加護を打消す

 

『断水(ダンスイ)』

:水を断ち切る剣 伝承では水面を斬り裂き、2つに分けたという

 断ち割られた水面は勾践の意志、または『断水』を破壊しない限り戻る事は無い

 

『転魄(テンパク)』

:月に縁のある相手に向けた場合、対象の足部を強制的に霊体化・転倒させる

 霊体化の時間は、対象の対魔力の高さに比例して短くなる

 『転魄』で月を指すと、月に棲む蟾蜍と兎はひっくりかえったという

 

『懸剪(ケンセン)』

:生物であれば問答無用で両断する剣

 伝承に曰く、飛ぶ鳥が『懸剪』に触れた瞬間に真っ二つになったと言われる

 

『驚鯨(キョウゲイ)』

:水棲生物、水に縁を持つ者に対し、無意識の恐れを抱かせる

 『驚鯨』を海に浮かべると、鯨の類が驚いて海中深く潜ったという

 

『滅魂(メッコン)』

:退魔調伏の剣 

 妖、亡霊等に対して高い退魔性能を誇り、とりわけ夜に近いほどその性質は高まる

 自らの対魔力を夜間に近付くにつれ上昇させる効果を持つ

(最大値は午前3時でA+、以降はランクダウンしていき、正午には元のDランクへ戻る)

 夜間に『滅魂』をもって歩くと、魑魅魍魎は怖れて姿を消したという

 

『却邪(キャクジャ)』

:破邪顕正の剣 精神干渉、呪いの類をシャットアウトすると同時に、

 精神の汚染された者、魔性・悪性を持つ者に対し、特攻状態を得る

 怪に憑かれた者は『却邪』を見るだけで怖れて平伏したという

 

『真剛(シンゴウ)』

:武器、防具等の非生物を両断する剣

 刃に触れた武器、防具、或いは呪的防御を施された宝具であっても斬り裂く

 伝承に曰く、『真剛』は玉や金属を土や木を削るようにたやすく切る事ができたという

 

『刻ヲ越エ王は此処に在リテ』

ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人

…現存する宝具 

 勾践が自らの手で作り上げ、紀元前から現在に至るまで決して錆びることの無かった不退転の剣

 この宝具を解放するにあたり、他人の作った武器である『越王八剣』は封印される

 自分が報復対象と認識した相手に対し、時の呪いを付与

 『越王勾践剣』が地の底で眠りについていた2000年余りの全て外的負荷を相手に押し付ける

 対し、現身である勾践は負荷を受けず、本人の性質によって時間と共にパラメータを上昇させる(『越王八剣』を使用する場合には本宝具を解除する必要があり、その際上昇したステータスは全て元通りとなる)

 戦闘が長引けば長引く程、勾践の復讐心は膨れあがり、際限なく強化され、相手にとって難攻不落・不滅の王となる

 耐え難い屈辱に塗れながらも、決して折れることの無かった勾践の意志を体現する、まさに勾銭そのものと言える宝具

⇒『A』宝具(非攻撃) 

 敵全体にターン毎に減少する攻撃&防御↓状態を付与(初期値1から1/1Tで増加)3T

 自身にターン毎に増加する攻撃↑状態を付与(初期値1から1/1Tで増加)3T

 

 

《人物》

中国史・春秋戦国時代において五覇に名を連ねる大国、越の”報復王”

 

父の死と同時に即位し、その際、宿敵である呉からの奇襲を受ける

軍師、范蠡の奇策により撃退に成功するが、この戦いが後に勾践の運命を大きく左右することとなる

 

戦いで重傷を負った呉王は、息子・夫差に後を託して没した

新たな呉の王に即位した夫差は、毎晩薪の上に寝る事で、軋む体の痛みと共に、勾践への復讐を誓った

 

着々と国力を蓄える夫差に危機感を覚えた勾践は、范蠡の反対を押し切って呉に攻め入る事を決意

しかし、呉の予想以上の反撃に勾践は追い詰められ、囚われの身となる

必死の命乞いにより助かったものの、夫差の召使も同然の立場に落とされてしまう

 

耐え難い屈辱の中、勾践は自室に苦い胆を吊るし、毎晩舐め続けることで、夫差への報復を誓った

范蠡の手助けもあり、程無くして自国に帰った勾践は富国強兵に励み、20年の時を経て、宿敵呉を討ち破った

 

本懐を遂げた勾銭は次第に讒言を信じるようになり、膨れあがる猜疑心は忠臣すらも疑う程に成長した

勾践の本性を見通した范蠡は国を去り、大国であった越は衰退の一途を辿ることになる

彼の波乱の生涯は、宿敵である夫差とも合わせ『臥薪嘗胆』、『呉越同舟』等の言葉を生み出し、後世に影響を与えた

 

 

 

 

―――本聖杯戦争における初戦

セイバーに対し、ライダー及びランサー連合軍の戦闘

 

結果は、セイバー:勾践の敗北

 

残りのサーヴァントは私を除外し、6騎

退場したセイバーのデータを余さず記録する

 

「…初戦の記録終了…―――それで、話とは何だ?」

 

『ん?、あぁ…、終わった…? 半分寝てたよ、ゴメンゴメン』

 

”寝る”、とは妙な表現をしたものだ

 

自らの肉体に有りながら、現状、彼女は指の一本すら動かすことはできない

現状、この肉体をコントロールしているのは私だ

 

『んーとね、私なりに色々考えてみたのよ どうしてこうなったのか、何でこうならざるを得なかったのか…』

「君の肉体の事か」

 

傍から見れば、独り言を呟いているようにしか見えないだろう

1の内に、2つの存在が居る

歴史を参照すれば、二重人格等、幾らでも例はある

 

有り得ないのは、”人間”の器に”サーヴァント”が憑依している事実

 

単純に考えて、容量の問題でアウト

低スペックのハードで、大容量のソフトを扱うのは到底不可能だ

 

交霊術の応用で、霊体であるサーヴァントを降ろすことは可能だろう

だが、その瞬間、器である人間は破裂する

英霊の自我に、元の自我が塗りつぶされてしまう

 

専用に調整された肉体、若しくは英霊側が肉体を考慮した場合などは異なるだろうが

今回、突然の召喚に、こちらの対応が追いつかなかったが故に、彼女の肉体に気を使う暇もなかった

 

少女の人格が消えていないのか不思議でならない

 

記録のかたわら、似たようなケースを星の記憶で規約に抵触しない範囲で検索したが、この歴史上においては見つからなかった

出来れば、他の世界の記録も漁りたいのだが、現状では制限が施されているため、閲覧は不可になっている

 

『そうそう、サーヴァントでも人間でも無い、中途半端な存在

 ”デミ・ヒューマン”ってか、 ”デミ・サーヴァント”って所?』

「”デミ・サーヴァント”、か… 成る程、仮称としては、それでいいだろう」

『セイヴァーだか何だか知らないけど、人の体乗っ取ってまで来るとかさぁ…』

「本来、私は聖杯戦争に召喚される筈などないのだが…召喚者である君の不手際ではないのか?」

 

私は座に有って、他の英霊とは区別される

星の守護者ともまた違う役割を、この星から与えられているからだ

 

私が7騎のクラスに当て嵌まらない事もあり、本来ならば聖杯戦争に召喚されることなど有り得ない

 

『えっ!? あ、あぁ…、まぁ…不手際?はしたのかなー

 んー、でもなー、ちょっと記憶が曖昧かなー』

 

明らかに動揺している

実体があれば、目を逸らしつつ口笛でも吹いているのだろう

…これは確実に何かやらかしたな…

 

「…言っておくが、私に隠し事は無意味だ

 これより私の宝具で君のプライバシーを侵害させてもらう」

 

この地の全てを読み取るより、元凶一人の記憶を観た方が早い

 

『…え、何ソレ…そんな事できんの?』

「無論、嘘は一切発言していない、君にも分かると思うが」

 

憑依している状態ならば、肉体は共有している

バイオリズムや言動から、情動の揺れなどは互いに伝わる

要するに、虚言やそれに連なる動揺は筒抜けなのだ

 

『………』

数秒の沈黙の後、

 

『…まっ、取り敢えず最初から話してやろう…仕方ないヤレヤレ』

「要点を絞って簡潔に話せ」

自白するのであれば話は早い

 

真実を隠蔽するなど言語道断

歴史とは、明るみに出てこそだ

 

それにしても、自白に持って行けたのは御の字だ

 

理由は不明だが、彼女の記憶が深く読み取ることが困難だ

英霊を憑依させて尚、自我を保っている事といい、この少女には謎が多い

分析の能否が不明であるのに、無理に宝具を使用し、余計に魔力を消耗するのも避けるべきだろう

 

全て暴く

此処(げんせ)に来たからには、秘匿された全てを明るみにする事が私の使命なのだろう

 

『あー、うん……まぁ、ぶっちゃけるけど…』

 

『私ね、聖杯戦争、創ろうとしたんだ』

 

例え、真実を明るみにする事で、更なる闇を引きずり出すことになろうとも、だ

 

 

 




裏側の話も地味に伏線
ただ無意味にオリキャラを用意した訳じゃないぞ
島が何なのか、街と自然の境界線とか、謎の女性とかちゃんと解決するから…

なお、プレイヤー両名は考察には興味無い様子
折角シナリオ作ったのに悲しいなぁ

デミ鯖も擬似鯖も今じゃ増えすぎて設定よく分かんねーよ
公式だったか脳内設定だったかふたばで見たか思い出せねーし、この話の設定はこの話の中だけのモノという扱いで行こう


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06 童遊 Lies in Reality 前

今度はアサシンとキャスターの2騎
GMのお仕事も増える増える

アサシンの真名を初見で見破れる人は多分いないと思う
逆にキャスターの方はガバガバだと思う
パクr参考元がいるからな


地震の脅威は既に無く、2騎はトナカイの引くソリに騎乗し、上空で大地を見下ろしていた

 

後方には数刻前に召喚されたばかりの無人の街

下方にはセイバーと交戦し、荒れた草原

視線を前方に向ける

 

草原を越えた先に見えるのは、幾つも並ぶ小さな屋根

小規模な集落のようだ

 

「…ありゃあ民家か? あそこには人間が居るのかねぇ?」

「…うーむ…」

 

仮に人がいるならば、何かしらの情報を得ることは出来るだろう

 

「ともなれば、次はあの村に進むべきじゃな

 派手にドンパチをやった以上、ここにおってはアーチャーやアサシンの的じゃろうて」

「だな、それに何かしら情報が手に入れられるかもしれねぇ」

「ま、そうと決まれば…ランサー、目を閉じて口を塞ぎ体をできるだけ低い姿勢にするんじゃ」

「応」

ライダーの言う通りにする

 

「さあて、行こうか」

トナカイに合図を入れる

 

次の瞬間、移動した音が遥か後方から響いた

 

この時上空を眺めているものがいれば、凄まじい突風と衝撃波が飛ぶ光景が見えただろう

 

「良し、ついたぞい」

「そ、そうか…」

慣れない乗り物と、実体験に驚くランサー

 

「…ソリって、こんなに速いもんだったか?」

「一晩で世界一周するにはこれでも遅いほうなんじゃろうがの セイバー相手には披露することはなかった、これが儂の宝具の力じゃ」

「なるほどなぁ…」

「さて、降りる前に観察しとくぐらいはしとこうかの」

 

草原を通り抜けた先に辿り着いた、小規模な農村

小ぢんまりとした家々が身を寄せ合っているかのように、和かな風景がそこに在った

 

他には、田畑や家畜小屋が目に付くが、出歩く者は誰一人見当たらない

小さい村ではあるが、ここまで人気が無いというのもおかしいだろう

 

「……ここにも人はおらぬ、か… 今の所あの女人ぐらいしか人を見かけぬし」

「とりあえず降りてみようぜ」

「………ふむ、ここから見るぶんには分からんからのう…一旦降りるぞい」

「頼んだ」

 

ゆっくりと下降を行う

「しかし、人がいないのはなんなんじゃろなあ…ここが本当に特異点かどうかも不明じゃし」

「この令呪もだけどよぉ、聖杯戦争を始める過程で何かがあったんじゃねーのか?」

「あるいは…そもそも逆なのかもしれぬな」

「逆、つーと?」

「人がいなくなったのではなく、そもそも人がいない場所であったとか」

「んー…この辺りだったらまだ分かるぜ、召喚された街とじゃ発展具合が天地だしよ」

「自分達に都合のいいように手を加えているのやもしれぬ」

「…聖杯戦争のために作らせた場所ってことか? それは……ずいぶんと面倒なことだな」

「儂はよく知らぬが…この手の魔術師とやらは金持ちらしいからの」

「…幾ら金持ちでも無理がねぇか?」

「どのみち、今の段階では仮説以外の何物でもないがの…っと」

ソリを地面に軟着陸 同時に宝具を解除した

トナカイとソリの姿が消える

 

大地に降り立つ2騎

微かに風が通り抜け、木枯らしが舞う

静寂に満ちた空間

 

探索を開始しようと辺りに目を向けた時、

突如

 

ポンッ!

と、何かが破裂したような音、そして短い悲鳴が、辺りに響いた

 

「!」

「何だ!?」

 

銃の発砲音や、爆発にしてはいまいち迫力が無い

まるで、風船が破裂したような、気の抜けた音だった

 

2騎の身体には何の影響も無い

周囲にも、見渡す限り何かが起きた様子は無い

 

しかし、確かに聞こえた破裂音と悲鳴

何処かで何かが起こったのは確実だ

 

 

≪察知判定≫

【槍】→成功

【騎】→成功

 

 

立ち並ぶ民家の端に建つ、木造の倉庫のような建物

どうやらそこが発信源のようだ

 

「さて、音のしたほうはこっちじゃが…」

「…何が出てくるやら」

 

外観を見る

破裂音は確かに目の前の建物から響いた

 

建物自体が爆発した訳ではないようであり、破損等は見られない

入り口であるドアにしても、側面に配置される小窓にしても、同じく、傷は一つも無い

 

破裂音と悲鳴の聞こえた倉庫

2騎は、こっそりと小窓から覗き込んだ

 

「よっこいしょ」

「どれどれ」

 

その内部では―――

 

 

 

「―――このように、小規模な粉塵爆発では段ボールすら燃やせません」

 

薄汚れたガラスの向こう

老若男女問わず、大勢の人が集まっているのが見える

―――村の住人だろうか

 

そして、その中の子供が手を上げ、発言する

 

「せんせーい、もっとドッカーン!!ってするにはどうすればいいんですかー?」

 

対し、”先生”と呼ばれた、人々と向かい合うように立つスーツ姿の男は、

 

「良い質問だ、ソレについてはまず、”二乗三乗の法則”の事から―――」

 

人々は皆、男の話に耳を傾けており、窓から覗く2騎には気付かない

 

「(先生…? どういうことじゃ…?)」

 

倉庫小屋の奥には、少し大きめのテーブル

その周囲を取り囲むようにして椅子が配置されており、老人や子供は腰かけ、若い者は立って見物している

 

話の中心となっている男は、テーブルの上に載っている段ボール箱を弄り回しながら教鞭を取る

身に纏う黒いスーツ、状況と合わせ、まるで講義でも行っているかのようだ

 

「―――つまりは、密閉したまま空間を増やせば良い、ということになる」

 

「みっぺーすっげぇー!!」

「やべぇ!!」

「空間を増やすことで、単位面積あたりに掛かる圧力を増やし、爆発の威力を高めるという事ね! 凄いわ!!」

男の回答を受け、子供達が歓声を上げる

その様子を微笑ましそうに見る大人達

 

「(勉強会かの? いやはや、どうやら楽しそうじゃな)」

「(…なんでこんなことしてんだ?)」

 

「はい、静かに」

男がパンパンと手を鳴らす

大きな声で騒いでいた子供達も、たちまち大人しくなった

 

「では、反復の時間だ

 密閉空間で有機物の粉末には気を付けなければならない、…何故なら?」

「ふんじんばくはつしちゃうからー」

「そう 先程の、この段ボール箱のように、だ」

傍らの箱をポン、と叩き

 

「これが、特にサイロなんかで起こしてしまうと空一面のポップコーンも有りうる」

 

「ポップコーンすっげぇー!!!」

「くいてー!!!」

「サーモバリック効果によって、フライパンで炒ったのと同じ状態になっているのね! なんて凄いの?!」

 

再び子供達の歓声が沸き上がった所で、男が再び手を打ち鳴らし、

 

「はい、静かに

 今回の実験では大したことの無い規模だったが、知識として得ておかないと、取り返しのつかない状況に陥る場合もあります」

 

「みっぺーしない!」

「せーでんきダメ!」

「威力よりも、燃焼によって発生する有毒ガスや窒息の方が危ないのね! やはりヤバいわ!!!」

 

「その通り

 屋外で粉物ぶちまけても粉塵爆発は発生し得ない 屋内ならば、セーターなどは着用を控えることです」

 

「…あと、さっきから妙に詳しい子は、そのまま勤勉でいて下さい」

若干苦笑いになるスーツ姿の男

段ボール箱を軽く小突きながら続ける

 

「(このレベルの学問を分かりやすく教えておるのう… 

  それでいて妙に詳しい御仁がいるのは自ずから学習している証拠…、見事なものじゃな)」

 

「最後にまとめの時間です…」

「1つ、密閉空間

 2つ、静電気を筆頭とする着火源

 3つ、有機体の粉末、粒子…

 これ等の条件が揃わないよう、日常生活で十分注意しましょう」

 

「せんせー、せんせー しつもーん」

子供の内、1人が勢いよく手を挙げる

 

「はい、どうぞ」

「けっきょく、ゆーきたいのふんまつってなにがあるのー?」

「良い質問だ 具体的には、コーンスターチ、小麦粉、後は…」

[

「(うむうむ、子供が積極的に問うておる…周りに委縮せず……)」

 

スーツ姿の男はそこで一旦言葉を切り、目線を子供から別の対象へ切り替える

 

「(流石に…いや、最初から気づいてたみたいだな)」

「(…さて、そのようじゃの)」

 

窓ガラス越しに、目と目が合うそして、薄く笑みを浮かべながら、

 

「粉砂糖… コレは特に危ない…―――決して甘くは無い爆弾と成りえる…」

そう呟いた

 

「どうやら、私に来客のようです 皆さん、続きの”授業”はまたの機会にしましょう」

 

「えーっ!!、もうおわりー?」

「もっともっとー」

「そ、んな…そん…」

 

「次は、そうだな…”爆鳴気”についてでも…」

 

「ばくめーきすげぇ!!!!」

「やべぇ!!!!!」

「水素爆鳴気…水の電気分解なんかで発生する、可燃性の混合ガスの事ね!! 一体どれだけ芸術的な化学なのかしら…」

 

楽しみを中断された事に対する不満と、次の”授業”への期待の声

そんな子供達を宥めるように、大人達が諭す

 

「我儘言わないの ほら、先生に挨拶なさい?」

「えー」

「ぬー」

「チッ」

 

子供達はかなり不満そうな表情を浮かべていたが、やがて

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 

 

「「「―――ハンセンせんせい!!」」」

元気な声で男に礼を言った

 

男は笑っていたが、その眼は決して笑っておらず、覗き見る2騎の英霊に意識を向けたままだった

 

「(まあ、当然じゃな… やれはて、どうしたものやらのう)」

「(…隠れても意味ねぇし、正面からご挨拶といこうじゃねぇか)」

「(じゃなぁ…、その前に、向こうから飛びかかって来なければの話じゃが)」

 

挨拶を済ませた人々は、ゾロゾロと倉庫小屋を後にしてゆく

 

「何だこの爺さん!?(驚愕)」

「誰だよ」

「チッ」

 

去り際に子供達から冷たい視線を貰う

楽しい時間に水を差す”お客さん”に対し、あまり良い印象は無いようだ

 

「……とんだ邪魔をしてしまったのう…、これはあいすまなんだ」

「なんか爆発音が聞こえたから見に来ただけだ、邪魔しちまって悪ぃな」

 

暫くして村人も全て居なくなり、”教室”は広めの小屋へその在り様を取り戻す

住民はそれぞれの家へ帰ったようだ

 

それを確認し、2騎は小屋の扉を開け、内部の男に接触を試みた

 

「…来客とは言ったが、まさかクリスマスパーティとは思いませんでしたよ」

ライダーの格好を見るなり、”ハンセン”と呼ばれたスーツ姿の男はそう言った

 

「いやあ、すまなんだな…、まあ色々立て込んでおっての」

「立て込んだ事情、ですか…」

「ともあれ、何かしら害意を与えるつもりはないんじゃ、この通り」

「俺もあんたを襲いに来たわけじゃねぇからよ、ほら」

 

ライダーは荷物置いてホールドアップのジェスチャーを、

ランサーは自らの武器である槍を壁に立てかけ、それぞ敵意が無い事を示す

 

「……ご老人、そして、物騒な雰囲気の貴方…何やら思う所はあるようですが、先ずは、話を整理しましょうか」

 

「ふむ…お互い積もる話もあるじゃろうしな」

「はい…人払いも済んだ所ですし、もういいでしょう…」

 

”一般人”はこの場に居らず、無関係の人々を巻き込む恐れは無い

 

「単刀直入に窺おう…貴方達は、聖杯戦争の関係者で間違いありませんね?」

 

黒いスーツに、短く刈った金髪

ハンセンが口火を切る

 

「通じるならば話が早いわい、如何にも」

「そこの物騒な雰囲気の貴方も、でしょうね…」

「まぁな、この爺さんと同類だ」

 

「…という事は、遂に始まってしまったか…」

ハンセンが額に手を当て、嘆くように呟いた

 

「困りました…此処の人達には、まだまだ教えるべきことが沢山あるというのに…」

 

「て、事はお主もかの?」

「関係者と言う点においては間違い無いでしょう 私はこの戦争の…そうですね…”立会人”と言った所ですか…」

 

自らを”立会人”と称する男

その言葉から真偽は図れない

発する魔力についても、並の魔術師程度のものであり、サーヴァントにしては微弱過ぎる

 

「ふうむ? 戦争の立会人とは…聞きなれぬ言葉じゃな、ソレはどういった役目なんじゃ?」

「戦いの終始を見届けると共に、一般人への被害を抑えるべくコントロールする…私の所属する”組織”が、私に下した指令です

 今は、拠点としてこの村に身を置きつつ、村人へ教鞭を取っていたのですよ」

「ふむふむ… 随分と馴染んでおったのはそういう理由じゃったか」

 

”何かを教える”という立場は、人間関係におけるイニシアチブを得やすい

先程の”授業”は、いざという時にコントロールし易くする為、人々の信用を得る”パフォーマンス”だったのだろう

 

「…此処に潜入し、改めて思いましたが、この聖杯戦争にはおかしい事だらけなのです」

「ふむ」

「確かにそうだな」

「マスターの不在、特殊な令呪の発現、何故、消滅せずに現界出来ているのか…」

「そこの所は儂も気になっておってな…、つい先ほど一騎倒してきた所じゃが、其奴宝具を使って戦闘しおったわい」

「…宝具を…?

 魔力の供給元が分からない以上、宝具の使用など自殺行為でしかないというのに…」

「自分での令呪も使っていたしな、そいつで補填してたんだろ」

「うむ、少なくとも其奴は魔力切れで消滅するような事は無かったし、なんなら最後の最後まで戦って死んでいったぞい」

「自分の令呪を、自分に…どうやら、かなり無茶苦茶な存在と戦闘していたようだ…」

 

目を閉じて何やら思考するハンセン

自分の中で情報を整理しているのだろう

 

「ところで、その組織ってのは何なんじゃ?」

「…本国、”ドイツ帝国”絡みとだけ……裏の事情については、口外を避けたい所なので…」

「なるほどのう……あと、もう一ついいかの?」

「何でしょう?」

 

 

「―――何でお主は聖杯戦争が始まった事に気づいておらんかったのに、マスターの不在も、特殊な令呪の事も知っておったんじゃ?」

 

 

「簡単なことです 直接、この目で”サンプル”を見ましたから」

「サンプルとな」

「どういう事だ?」

「サーヴァントですよ 傍にマスターも居らず、何故か令呪をその身に宿した…不思議な存在…

 偶然かと、その時は目を疑いましたがね…、貴方達を見て、話を聞いて、間違いないと確信出来ました」

 

この地に召喚された、他のサーヴァントを目撃したのだという

やはり、そのサーヴァントも同じ条件にあったようだ

 

「…そこまで確認できる程近くに居ておいて、よく無事だったな」

「職業柄、隠れて行動するのはは得意なもので…」

肩を竦める

隠密行動によって状況を探るのも”指令”の範疇なのだろう

 

「ふうむ…、で、そのサーヴァントは何処で見かけたんじゃ?」

「この付近の森です しかも、何やら”仕掛け”を施している様子でした

 私に気付かなかったのも、おそらくソレに集中していたからではないでしょうか?」

「森か」

「ふうむ……となれば、儂としては確認に赴くところじゃが…」

「相手がどんな奴か知りたいし、行くしかねぇか」

「そう言ってくれるのであれば、助かります…実の所、脅威が近くにあるというだけで、肝が冷えるもので…」

 

確かに、人々の住まう近くに強大な力を持った存在が野放しになっているのは恐ろしい事実だ

 

「然らば向かうとするかの…いやはや、突然に押しかけてしまった上に情報まで、助かるわい」

「いえいえ…貴方達は敵を打倒できる、私は、人々の危険を未然に防ぐことが出来る…

 これは、双方にとって有益となる取引なのですよ」

「ま、情報を貰っちまったしな」

 

情報と安全の契約取引

即ち、信頼と合意のプロセスを経た”ビジネス”である

不確実な口約束とは違い、情報という”報酬”を既に得ている以上、断ることは許されない

 

「私も後片付けの後、直ぐに向かいますので…」

直ぐに済みますのでご安心を、と付け加え

少し憂いた表情で、テーブルの上の段ボール箱に触れた

 

”講義”に使用した道具

はしゃぐ子供達の様子を思い出したのだろう

 

「ゆこうか…」

「そうだな」

 

片付けに取り掛かる男を尻目に 扉に手を掛け、外へ出る

後ろではガサガサと、男が物を扱う音が聞こえる

 

出口へと歩を進め、扉を開く

木の床から、土へ

足を付けようとしたその瞬間

 

ふと、僅かな絹擦れの音に混じる、違和感

 

少し、ほんの少しの魔力の揺らぎ

普通ならば気にしないであろう不協和音

聖杯戦争に関わる者ならば、特に不思議でも無いと、流してしまう程度の物

 

なのに何故、違和感を持ってしまったのか

微細な魔力の揺らぎなどに、疑問を持ったのか

 

数秒前の記憶

 

テーブルの上には段ボール箱しか無く、他に荷物は存在しなかった

片付けなど秒で終わる事だ

 

魔力の揺らぎは何故発生した?

何処から発生した?

 

そもそもの話

サーヴァントという、一刻を争う事態を前に、”片付け”など優先している場合なのか?

 

そんな考えが頭を過り、

 

「あぁ…そうだ、忘れていました―――」

呼び止める声

 

「あん?」

 

反応し、振り返る

いや、振り返ろうとしたその前に、

 

「9割程、嘘です」

と、男の小さな呟きが、鼓膜から脳へ届く

 

嘘?、何故?

9割?、何処から何処まで?

 

他人を信じたい気持ちの生んだ、一瞬の隙

間髪入れず、銃声が思考を吹き飛ばした

 

 

 

≪不意打ち判定≫

ランサー:成功

ライダー:失敗

ダメージ:2

 

 

 

「…むぅ…英霊に通常兵器は効かぬが…どういうわけか老骨に響くわい」

 

飛来する弾丸が、ライダーへと傷を与えた

致命傷には程遠いが、傷付けられたのは事実だ

 

「…爺さん、大丈夫か?」

「…セイバー相手に比べればかすり傷じゃわい」

 

疑いを持った、そこまでは良かった

直後に思考を”与えられた”事が問題だった

 

「(…あまり、考えたくない可能性だったんじゃがな…)」

「…しかし、一本取られたぜ…」

 

全て嘘では無く、9割の嘘

残る1割の真実について”考えさせられた”事から発生した隙

取引を結び、関係を築いたが故に”抱かされた”無意識の信頼が招いた被害

 

「…この距離の銃撃でも、仕留められないか…」

ハンセンが銃を持ったまま呟く

その手元からは硝煙が立ち昇っている

 

Luger PO8

属に”尺取虫”と呼ばれる拳銃

 

第一次世界大戦時、ドイツ帝国で開発、同軍で好んで使用された代物だ

耐久性と整備の難しさを犠牲にした反面、機構の完成度、弾道の正確性がウリの一品である

 

「…して、隠し事はもう不要じゃろ もう一人か、二人かの?さっさと出てきてもらった方がいいんではないかの?」

「………」

 

「ああ、それともこの小屋ごと吹っ飛ばす、とか? どうせお主は無事な手段を確保済みじゃろうし」

 

「………」

2騎を見定めるように押し黙るハンセン

次の手を考えているのか、それとも何かを待っているのか

 

不意打ち、そして騙し討ち

自らを偽り、更に別の敵を用意し、そちらへ意識を向けさせる心理的誘導

 

狡猾なのは、嘘言の自白

尚且つ、9割という言葉

敢えて思考の余地を与え、後に控える不意打ちにすら保険を掛ける徹底ぶり

 

そして当然、湧き上がる疑問

 

「テメェが何者かは分かんねぇが、敵って事でいいんだよなぁ…?」

 

男の有する魔力は、どう見積もっても並の魔術師程度のレベルだったはずだ

サーヴァント特有の気配も感じられず、人間以外と判断するのが難しい程だった

 

仮に男が気配遮断のようなスキルを有していたとしても、サーヴァントの性質まで隠し通すのは難しいだろう

 

だが、一瞬

銃撃の際のホンの一瞬だけ、”人間”としての側面は崩れた

 

男はサーヴァントなのか

だとすればクラスは?

どのような宝具、スキルを持っているのか

 

果たして、如何なる方法により2騎を欺いたのか

考えうる材料は幾らでもある

否、用意されてしまった

 

不意打ち騙し討ち嘘偽り虚言妄言空言ハッタリ

思考を疑念が過る

 

”虚”

一発の銃弾を撃つ

ただ、その一瞬のためだけに、目の前の男は村一つを舞台に変えてみせた

 

そこまでする男が他に手を打っていないのか?

不意打ちが失敗する可能性も考慮していないとは考えづらい

 

動くべきか、動かざるべきか

罠か、否か

 

 

≪行動選択≫

【槍】→攻撃

【騎】→撤退

 

 

「(ひとまずは、この膠着状態をどうにかせねばな…!)」

ライダーは霊体化して小屋からの脱出を試みる

 

「馬脚を現しやがったな………喰らえッ!」

槍を手繰り寄せ、ハンセンに接近するランサー

 

しかし、攻撃がその身に届くよりも、男の口が開く方が速い

 

「キャスター!! まだ、手を出すのは早いですよッ!!」

唐突に、叫んだ

 

「ッ?!」

攻撃を中断して横に避けるようにして跳ぶ

 

「(…やはり、協力者がおったか…!)」

霊体化解除し、再び小屋に足を踏み入れる

 

「全く…きちんと村人が帰宅したか確認しないと、”切り札”にならないでしょう…」

呟くハンセン

キャスターの名を出せど、応えも無く、姿を現すことも無い

 

「……キャスター、のう」

「……次から次に…、一体何なんだアイツは…?」

これ以上の不意打ちが控えていないとは限らない

2騎は互いに背を合わせながらハンセンを見据える

 

「あぁ、そうそう、そのまま動かないで下さい…出来れば、使いたくない手なので…」

「…ほう、どうする気なんじゃ? まさか、村人たちの家に仕込んだ爆薬が起動するとでも言いだすつもりかの?」

 

「さぁ? その辺について、私は関わっていないので」

肩を竦める

”キャスター”、”村人”、”切り札”という意味深なワードを並べておきながら、白を切る

 

「…やれさて、ここまでやって儂らを引き止めた目的はなんじゃ…?」

 

 

 

 

嘘と、虚、そして罠

一つの村を舞台装置に利用した男

 

ライダーの問いには応えず、内では思考を張り巡らせていた

 

「(銃では手傷のみ…、単なる肉体強度の問題では無いな…成る程…これが、”神秘”という奴か…)」

 

傷は浅い

ショットガンや機関銃でも用いなければ決定打にはならないだろう

 

「(見たままを信じるならば、真名は”サンタクロース”…もとい、”聖ニコラウス”…)」

「(それでいて、大衆のイメージ・信仰の影響も、確かに含まれているようだ…)」

 

「(消去法から、クラスは恐らくライダー…)」

「(直接的な戦闘力は無さそうだが…)」

 

「(もう片方は…ランサー、…か?)」

「(こちらの警戒を解くためとは言え、対話の際、あっさりと槍から手を放したのは引っかかる…)」

 

「(単なる”慢心”、…いや、”自信”の方か…)」

「(肉弾戦への自負…? 或いは別の要素…)」

 

「(武器の方か? 確か…アイルランド…ケルト神話…)」

「(自動的に迎撃する槍の伝承があった筈…)」

 

「(だが、まだ早い…)」

「(―――見立てのみで探るには、ここが限界か…)」

 

「(現時点での敵宝具は不明、戦闘能力も不明、何一つ推測の域を出ない…が)」

 

「(確かな事が一つ…)」

「(2騎は、一瞬でこの村に移動して来た…)」

「(魔力の反応から、いずれかの宝具であるのは間違いない)」

 

「(宝具使用に伴う魔力の消費量不明)」

「(とは言え、移動が一瞬で済むだけ、燃費もそこまで悪くないのだろう)」

 

「(私が、この場を上手く逃げおおせたとして、機動力の面から、追いつかれるのは明白…)」

「(ならば…―――)」

 

右手の銃はそのままに、男が左手を懐に入れる

おもむろに取りだしたのは、―――何かしらの呪術に使う様な、”木製の符”

 

スーツ姿には似合わない小道具

視線を2騎から逸らすことなく、まるで無線機のように木符に話しかけた

 

「聞こえていますね? 他サーヴァントを発見、不意打ちは失敗しました」

『――そのようだな、…だが、先の”村人”やら”切り札”とは何の事だ? やにわに呼ぶので驚いたではないか』

 

割れたような音声が響く

木製の符は、通信機の如く何者かの声を届けているようだ

向こう側の声の主は、かろうじて女である事が判断できた

 

「いえ、こちらの話です それよりも、そちらの守備は?」

『―――相も変わらず、木々に囲まれ建築三昧よ……”創建”には時間が足りぬが、如何する?』

「…そうですね…一旦、合流しましょうか…」

『―――うむ、了解した帰還せよ、”あさしん殿”』

 

「…はぁ……」

溜め息をつくと、男は木符を口元から離した

 

「話し合いは終わったかの?」

「えぇ、おかげさまで… 動かないでいてくれて、助かります」

「で、これからどうすんだよ?」

「まぁ個人的には、このままずっと動かないでいてくれると助かるのですが」

 

口振りから、キャスターと手を組んでいると思しきハンセン

合流するとは言ったが、このままでは双方動けない

 

「せめて理由の一つでも言ってくれれば、共闘の目があるんじゃがのう…儂はさておき、此奴は強いんじゃし」

ランサーを指差す

「アンタもそこそこいける方だろうが…」

ライダーの方を見つつも、意識はハンセンに向いたままだ

 

それとなく共闘の意志を匂わせる

とは言え、互いに武器を向け合っている状況では何の説得力も無い

 

「―――”グループ・ダイナミクス”…」

「ほう?」

「集団において、その力関係の偏りが齎すモノ…、…何だか分かりますか?」

「この歳になると勉強が億劫でのう…無学な爺に教えてはくれんか?」

「―――”集団の崩壊”、ですよ」

再び、”先生”らしく問いに答える

 

「貴方達の仰った、”強さ”…ソレが一番の問題となる」

「弱き者は強き者に付き、強き者は強き者と対立する…どちらにせよ、その集団はロクなことにはならぬのう…

 で、その問題に対してお主はどういう解を導いたんじゃ?」

「簡単に言えば、信用に至らない…ですかね」

「強き者は信用ならぬ、と」

「勝手な話ですがね…いずれにせよ、最終的には判断するのは私自身なので…」

「…可哀想な奴じゃのうお主」

 

「(…これは…)」

哀れむ視線を受け、ハンセンは心中でほくそ笑んだ

 

―――”侮られている”

何より、強さについての問題を”理解していない”

敵は無意識に自分を低く見ている

その傲りを、”使える”と判断した

 

「この世界で生きていくには、常人には厳しいのです…よもや聖人が知らぬわけはないでしょう?」

「じゃろうなあ…が、弱き人間なぞ此の世に居らぬぞ? 他人を推し量る前に眼の曇りを晴らすことをお勧めするぞい」

 

「おや、では私も強者の仲間入りだ…聖人の言葉ともなれば、お墨付きでしょう」

「(聖人については否定せず、か…)」

当たりを付けていた真名にカマを掛けた

会話の趣旨をズラされた事に2騎は気付かない

 

「その基準で他人を見る限り、お主は敵に囲まれて生きねばならぬ…

 お主がサーヴァントか人間かは知らぬが… それは流石に哀れよのう」

「そうですねぇ、どうやら聖人でも私は救えないらしい」

「まぁ、儂を聖人と信じるのは自由じゃし、儂の言葉を真に受けるかどうかも自由じゃ

 どの道、今は口先だけじゃしなあ」

「…爺さん、お喋りするだけ無駄だ…、届いちゃいねぇよソイツには」

 

会話の進展の無さに痺れを切らしたのだろう

ランサーは今にも飛び掛かってきそうだ

 

「(…話題の軸を回しすぎたか…、これ以上は無謀…)」

 

話題の移り変わりを意識させず、会話から性格や人となりと言った情報を掠めとるつもりだった

”乗ってくる”相手には嵌まるが、手が早いタイプには逆効果となりうる

 

「(収穫はあった、…潮時だな…)」

 

「では、」

一呼吸置き

 

「―――”令呪を以て我が肉体に命ずる、”」

 

男の右手から紅い光が輝き始める

 

奇妙な紋様

令呪

本来ならば、召喚者であるマスターに宿る筈のモノ

先程まで何も無かった男の手の甲に、突如として現れる

 

膨大な魔力の塊

サーヴァントへの命令権

時には奇跡に近い現象すら引き起こす

 

この戦争に限り、サーヴァントへ与えられた、三度限りの切り札

そんなイレギュラーを、男は自らに行使すべく、言葉を紡ぐ

 

「”キャスターの下へ転移せよ”」

 

「逃げる気かよッ!!」

 

淡々と告げると同時に、持っていた木符を頭上に放り投げ、―――すかさず尺取虫の弾丸が木符を撃ち抜いた

 

破片が勢いよく飛び、2騎の視界を少しだけ掻き乱す

無惨にもその身を散らせながら、最期に陽動の役目を果たした

 

「む…」

「チッ!!」

 

「―――機会があれば、また会いましょう…森の中に居ますので、来たければ何時でも」

去り際に挑発の一言を残し、男の姿が一瞬で消失した

 

「…逃げられたか」

「令呪の事を喋ってしまったのはマズかったのう…」

 

令呪による、”移動”を超えた”転移”

消える間際の言葉を信じれば、キャスターと合流を果たしたのだろう

 

そして、木符を通し、通信していた相手

”あさしん殿”、とその声は確かに言った

令呪を行使したことから男はサーヴァント・アサシンである可能性が高い

 

加え、キャスターと手を組んでいるのは明白

ここに来て、新たな脅威の存在が浮き彫りとなる

 

「やられたのぅ…彼のローマ皇帝ような、口で戦うタイプと来たか…こりゃ厄介じゃて」

「あのデブか…アレはアレで中々動けるからな…、さっきの奴は、そうでも無さそうに見えたぜ」

「とは言え、今すぐどうこうするつもりは無いみたいじゃし、憂いを晴らしておこうかの」

「…あぁ、物騒な事言ってたしな」

「儂の考えが正しければ、杞憂で終わるんじゃがな…」

 

 

≪行動選択≫

【槍】→霊体化し、周囲を探索

【騎】→同上

 

 

《小屋内部》

・椅子と机がちらほら

・机の上には段ボール箱が一つ

・床には最後の目くらましに使った木符の残骸

・他には目立った物は無し

 

《段ボール箱内部》

・小麦粉が入っている

・内部は地味に焦げ臭い

 

《砕けた木符》

・漢字で呪文っぽい何かが書いてあったっぽい

・オール漢字(かなり古い字体、解読不能)

 

《民家》

・危害を加えるような仕掛けは一切無かった

 

 

 

「ふむ、完璧にしてやられた、といったところかのう…やはり、向こうも余計な被害を出したくはないようじゃの」

「ただ、相手がどんな奴かわかんねぇのはきついな」

「じゃなぁ…まあ、最悪の最悪、逃げ果せる事ぐらいはできそうじゃからな」

「敵の居所は分かっても、当然、罠だらけだろうしな…」

 

態々、自分の行き先を教えるくらいだ

何者が訪れても対処できるような仕掛けはあるだろう

 

「キャスターの陣地に迂闊に飛び込むのはのう…時にランサーや」

「ん? どうした?」

「お主、アンサズ(炎)のルーンって刻めるかの」

「…知ってはいるが使ったことはないな」

「森ごと焼き払えたら便利じゃなあ、とか…まあ、流石に外道の発想じゃの」

「…燻り出すってところか」

「向こうの掌の上で踊らされる盤面は避けたいからの…森を拠点にしておるようなら尚更、じゃな」

 

罠の中に飛び込むぐらいならば、罠ごと敵を焼く

戦略としては有効である

少なくとも、聖人の発想では無いが

 

「……最終手段としてこれもあるがな」

自ら槍に目を落とす

 

「火を起こせるんじゃったか?」

「焼野原にはできるな…まぁ反動はあるけどな」

「ふむ、割とすぐに出番があるかもしれぬからの…幾らか無理してもらう事になりそうじゃわい」

「あぁ、その時は任せろや」

「すまぬな」

 

 

―――2騎は、警戒しつつ、森へ足を踏み入れた

 

樹の群れが立ち並ぶ、緑の中

一本一本の背は高く、まるで樹海のようになっている

 

薄暗く、陽の光でさえも満足に届かない

影が悪意をも覆い隠す

身を潜めるには絶好の場所といえる

 

「やれさて…」

 

じめじめとした空気に、何か嫌なモノを感じていると、

 

「―――お早いご到着のようだ」

 

最初から潜んでいたのか、少し離れた木陰から男が姿を現す

気配は殆ど感じられなかった

 

視界に入れているのに、気を抜くと見失ってしまいそうな、独特の”薄さ”がある

やはり、サーヴァント特有の気配は感じられず、発する魔力も極めて微弱だ

 

「足が速いのがウリじゃからのう」

「此処へ踏み込んでくるのに、少しは躊躇すると予想していたのですがね…当てが外れたか…」

「急ぐからのう儂等も”仕事”があるでな」

 

「それはそれは…この森は既に私の手中にあるも同然ですが…そうと分かっても、尚?」

「その程度のメリットでいいんじゃな?」

「えぇ、十分ですとも」

 

挑発に継ぐ挑発、見えない火花が散る

緊張感が場を支配する

「……一応、聞いておくんじゃが儂らを先に行かせて会わなかった事にして流すってのは?」

「………」

ハンセンは一瞬、呆気に取られたような表情を浮かべ、

 

「…ハハハっ! 良いですねぇ…こちらとしても、魅力的な提案だ!」

笑いながら、賛同するような発言をした

 

「ほう? 儂を不意打ちした割には争う気はないと?」

「流石に2対1では、準備があっても厳しいでしょう? そもそも、不意打ちに関しては事故のようなモノですよ」

 

「事故で撃たれたらたまったもんじゃないのじゃがなあ…」

会話しつつ、ランサーに合図を送る

「(おう、準備は出来てるぜ…)」

 

「考えてみて下さい

 いきなりサーヴァントが2騎も、しかも一瞬で近傍まで移動してきたんです…

 それは驚きました、恐ろしすぎます、動揺しましたとも」

「故にやむを得ない、と…分からんでもないがのう」

「何とかして場を切り抜けたい…出来れば、1騎でも倒す事が出来ればそれはそれで儲けものです」

「…賢いやり方じゃねぇか」

「機会は逃すべきではない…経営戦略論の基本です」

「……」

 

いまいち掴みどころの無い様子に訝しむライダー

なまじ、不意打ちされた経験上、警戒心は高まる

 

「…で? 結局どうするんじゃ?」

「お通ししますよ? 私と貴方達は出会わなかった、それでこの場は終わりです」

「間違えとるぞ

 私”達”じゃろ?」

「さて…”私”は、”私”ですが?」

「………」

 

 

≪行動選択≫

【槍】→警戒しつつ素通り

【騎】→同上

 

 

数秒、それぞれの思惑が交差する

 

「ま…致し方あるまいな、浪費は避けたいしの」

周辺を警戒しつつ立ち去ろうとする

 

「そうだな…何してくるかわかったもんじゃねぇし」

同じくすぐに対応できるよう周辺を警戒する

 

「ご安心を、何もしませんので」

両手を挙げ、無抵抗を示すハンセン

「(これで、当分の時間稼ぎにはなるか…)」

と、表情には出さずに安堵を浮かべた、その時

 

 

「―――待てぇい!!」

と、ハンセンの遥か頭上から声が振りかかり

 

「我を抜きに勝手に話を進めるとは何事か!!」

突然の割り込みが、漂う緊張感を消し去った

 

 

 

「………じゃあ、儂等はそういう事で、がんばるんじゃぞい」

トナカイに乗って距離を取ろうとする

 

「え、待って、ちと、待て待て」

 

「…なんじゃ? プレゼントでも欲しいんかの?」

「ぷれ、”ぷれぜんと”? 良く分からんが、我を無視して行かんでくれ…」

 

気の抜けた声

聞こえた方を見ると、男のすぐ傍の木の枝に、仁王立ちする存在

小柄な少女が、2騎を見下ろしている

 

「Hmm… What your name?」

「????、????ふはははは??」

 

何となく、笑って誤魔化した

そんな態度だ

 

「(………なんかすげぇ残念な奴が来たな)」

少女に生暖かい視線を向ける

「………お前さん、英語って分かるかの?」

「んん? 外つ国の言葉であろう? 何となく分かるが、結局分からん

 此の大地はヤマトの領域だ、大和の言葉で話せ」

 

突然現れた、謎の少女

目を引くのが、その出で立ち

 

巫女装束のような紅袴、上には漢服を身に付けている

まるで和と中華のを両方を、節操なく良い所取りしたようで、統一性がまるで無い

 

或いは、巫女装束をベースに、中華の意匠を汲んでいるのか、どうにも奇妙な服装をしている

気配からサーヴァントだと分かるが、その格好からでは出自は絞ることは難しい

 

 

 

「…………………は?」

 

「む?」

 

その出現はハンセンにとっても予想外だったようで、数秒間、面食らったような表情でいたが、

 

「何、故…、いや、何時から……というか着いて来る気配など…」

「何時からと問われれば、最初からだな…、”禹歩”を用いてこっそりと」

「…………………いやいやいやいや」

不意打ちで仕留め損なった時よりも動揺している

 

「…あのですねぇ…我々に白兵戦は向かないという事は、散々説いたでしょう…? そもそも貴女、”創建”の作業は―――」

「分かっとる、分かっとる そちらも進めておる

 単騎では大変であろうと、汝の手助けに馳せ参じたのではないか」

 

「ほう? なるほど、お前さんがこやつの相方か…確か、キャスターだったかの?」

「ふはははっ!!―――如何にも」

「(あっさり認めるのか…)」

 

枝から飛び降り、軽やかに着地して見せる

そもそも木に登る必要があったのかは謎だ

 

「ところで一つ聞きたいんじゃが」

「うん? 何だ?」

「儂等、別段戦うつもりなかったんじゃが…無用な争いは避けて先へ急ぐつもりだったんじゃが」

「うむ」

「最初から全部見てた上でこうやって何やかんや割り込んできたという事は……お前さんは戦う気満々って事かの?」

 

「………ふっ……」

鼻で笑う

 

「(何だよその反応は…)」

 

「…汝等その格好、実に面妖よな…我の時代にも異人は居ったが、汝らのような者達は初めて見る…」

少し黙った後、語り出す

 

「(あ、誤魔化しおったな)」

「(単に蚊帳の外だったから出てきただけでしょう…)」

 

「案ずるな、我も積極的に争いたい訳では無い…」

「じゃあ、儂等を呼び止めたのはどういう理由じゃ」

「興味があったのよ 戦に臨む者達の、心内にな」

「興味、のう…その為だけにわざわざ前線に来るか」

「応よ それに、あさしん殿に任せきりなのも、悪いと思うてな」

 

「……………」

額にしわを寄せるアサシン(仮)

「(そのアサシン殿が一番ダメージ受けてるのってどう見てもお前さんの登場なんじゃが… まあ、ええか)」

 

「ん? どうした、あさしん殿? 頭を抱えて、体調でも悪いのか?」

「…いいえ、特に…もう、いいです…」

「……アンタ、大変だな」

同情の視線をアサシン(仮)に向ける

同じ憐みでも、小屋での問答のソレとは異なる

 

「…自分の考えてた策略が粉微塵に吹き飛んだって顔じゃな」

「………ふう…」

あさしん殿と呼ばれた男は、何か言いたげにしていたが、結局諦めたようだ

ため息をついて、疲れたような表情を浮かべる

 

「…では、改めて名乗るとしよう 我は、”きゃすたあ”…とか言う器らしい

 本職は斎宮だ、あとは道術を少々嗜んでいる」

 

「察するにそこなアサシン殿は、どうやらキャスターの能力で時間を稼いでどうにかするつもりだったようじゃな

 何じゃ、儂等が怯えておっただけ……………は……?」

 

「いやいやいや待て待て待てどういうつもりじゃお前さん!?」

 

道士、若しくは巫女でキャスターならば納得できる

文化の異なる二つを、両方兼ねるなると、かなり複雑だ

 

格好から見ても、道士の纏うような漢服を、巫女の袴と共に身に付けていることから、ほぼ間違いなく東洋の人物と思われる

…が、その事実を抜きにしても、真名がバレかねない、丁寧すぎる自己紹介だった

 

「おおう…あさしん殿と似たような反応をするな、爺様よ…」

「(あ、これ定石で判断したらダメなやつじゃな)」

 

「私は黙秘させていただきます」

「うむ、分かっておるぞ…”すぱい”とは自らを秘匿する生き物なのであろう? なれば、あさしん殿はそれで良いのだ」

黙秘の意味を速攻で消滅させた

 

「………なあ、アサシンよお前さんなんでまたこんな……」

こんな、で切って皆までは言わない大人の会話術だった

 

「…小屋での会話、覚えていますか? 私の見た”サンプル”は、彼女しか居なかったのです…」

「……そこは嘘ついてなかったんじゃな…あの村人たちの為か?」

「私が、というよりは彼女の依頼です…”我が国の民は、我が守護らねば”、とか…」

 

何となく光景が目に浮かぶ辺り、真実味があった

 

「彼女が先走りそうになったので、止めました

 役割分担の結果、ああなって…………こうなった訳です」

「だが、それだけならお前さんが引き受ける理由がないじゃろ

 なるほど、キャスターは確かな実力を持っているのかもしれぬが…お前さんは人質でも取れば一方的な交渉もできたろうに」

 

「……他にも理由があるんじゃろ?」

「別に? 要は、やり方の問題ですよ

 私は人を使いますが、人の命までは勘定に換算しない…”死ぬな、殺すな、囚われるな”…そんな所です

 ただ、ここまでの状況は、全く想定していませんでしたがね…」

 

「……そういう事にしといてやるわい」

「(それだけで動く人間が、ああまで誰かに慕われるものかのう…)」

 

「で、じゃ」

「はい」

「お前さんらはどうするつもりなんじゃ?

 儂等は平和に生きている村人を争いに巻き込むつもりもないし、お前さんらと積極的に争うつもりもない」

ランサーに視線を送り、武器を収めさせる

 

「じゃから、これはあくまで提案の一つ…これを蹴るか蹴らないかはそっち次第じゃ」

「良かろう、申すてみよ」

「同盟、とまではいかなくとも消極的な友好関係ぐらいは結べないかの? 積極的に交流するまでは行かずともお互いを見逃すぐらいの関係性で」

 

「……」

「何はともあれ、”戦争を片付ける”…其に関しては、全く同意だ」

真剣な面持ちで語り出すキャスター

アサシンはその様子を静かに見守っている

 

「”ヤマト”、…今は日ノ本、ニホンと呼ぶか…召喚に応じ、座より来たれば、懐かしき我が故国」

「(日本出身…マスターと同じか)」

「かつて我ら一族の支えた国の現状を、この眼でしかと見定めたいのだが…状況が許してはくれぬでな…」

 

自らの手に浮かんだ令呪を見るキャスター

聖杯戦争への参加経験は兎も角、この状況が通常とは異なる事は理解しているようだ

 

「何故、我等にこの紋様が有るのか…? 本来ならば、我を召喚せし主が居て、その者に現出するのではないのか…?」

 

抱いて当然の疑問を投げかけてくる

どうやら、キャスターにも心当たりはないようだ

 

「その通りじゃよ だからこそ、この聖杯戦争は異常なのじゃ」

「ぬぅ…やはりか…」

 

例外なく、全てが例外

令呪も、マスターも、抱える事情は皆同じだ

 

「主が何処に居るか確かめるべく、試しに紋より霊力の流れを辿ると、土地の龍脈に繋がっておってなぁ

 我等が消滅せず、この地に留まり続けているのはその為だ」

「そんな仕掛けだったのか」

「あさしん殿もそうであった

 恐らく、この地自体が、我ら共通の主と言う訳だ…誰が、何のために、この方式にしたのやら…」

「龍脈……あー、確かマナの大元の事じゃったか?

 幾分けったいな真似をするのう……ただ、目論みの推論はつかない事もないかの」

「ほう? 汝はどう考える?」

「…この聖杯戦争を開催し、願いを叶えたい輩がたった一人のみであったならという前提の上でじゃ…」

 

結論ありきの飛躍

即ち仮説

 

「マスターたり得る存在がたった一人であったならば…わざわざ英霊同士の争いに首をつっこむなんて真似をするより、英霊達にマスターを兼任させて争わせ、最後に残った英霊を潰した方が効率的に願いを叶えれるのでは…と

 …まあ根拠の薄い妄想に過ぎぬがな」

 

「余計な消費は抑え、尚且つ利益は一人占め…

 …状況証拠だけならば納得できなくもないが、証明もまた不可能だ」

証拠の無い推論は妄想でしかないと切り捨てるアサシン

 

「…うーむ、仮説の真偽は兎も角、戦を御するような仕組みにはなっておるのは確かではある…」

「どういうことだ?」

「霊力の話になるが7、土地は常に一定量しか供給せぬ故、準備無くして大規模な術はそう仕えぬのだ…」

 

仕える魔力量が定められている以上、全力を出そうとすれば魔力切れを起こす

セイバーのように令呪を行使するならば話は別だが、その場合は3回のみの切り札を消費してしまう

 

「必然、連戦を重ねた者から、霊力の不足も顕著となる…」

「宝具もポンポン使えねぇってことか」

 

戦う者ほど消費を余儀なくされ、弱っている者ほど狙われやすくなる

仕組みに気付いた者は、無駄な戦いを控えるようになるだろう

 

「まあ、或いは主催側にも想定外のトラブルかなんかが発生した…、なんて可能性もあるかもじゃが、わざわざこんな場所用意しといてそれは流石に無いじゃろうなあ」

 

「ならば、準備を疎かにし、飛び出してきたのは間違いであったか…?

 いや、しかし情報を得るのもまた…創建も7割方出来ておるし…」

 

「(…やはり役割を放棄してきたか……)」

生暖かい目をキャスターに向ける

 

「おっと…、うむ、異常な戦である事には違いないな!!」

アサシンの視線に気づき、微妙な誤魔化しを入れた

 

 

 

キャスターによれば、サーヴァントの魔力供給は土地から行われているらしい

通常、弱点となりうるマスターが居ない反面、大規模な魔力消費は制限される

 

準備があれば別、との事だが

キャスターがその準備を完了していないのは、本人が今し方白状してくれた

 

「そ、それはそうとして、聞いておきたい事がある!」

「……なんじゃ?」

「汝等は、生前からの知り合いなのか? 皆が警戒し動かん中で同盟を組むとは、それなりの背景があろう?」

 

自らも同盟を組んでいる事を棚に上げ、興味津々といった様子で聞いてくる

アサシンはというと、変わらずに生暖かい眼でキャスターを見ていた

 

「ほれほれ、遠慮なく話すがよい」

 

2騎の抱える事情は少々特殊だ

カルデアによって先に召喚された立場としては、他のサーヴァント達とは戦う理由がそもそも異なる

 

人理焼却、歴史を救う戦い

壮大に過ぎる事情を、話した所で信用されるかどうか

 

「そうじゃな…

 生前からの知り合い、というわけでは無いが…縁が無いわけでも無い、それ故に同盟を組んで動いておる

 …生憎じゃが、具体的にどういう縁なのかは我が真名に関わる事じゃしなぁ…」

キャスターの目を見つつ、数秒考え

 

「………否、煙に巻くのはやめておくかの…、せっかく遠慮せずと言っておるのじゃからな」

「…爺さん、どうするんだ?」

「正直に言うわい ランサー、万一の時には備えておくんじゃぞ」

「おう」

 

抱える事情を話す事に決める

ライダーとしても、一縷の望みを託した賭けだ

 

「儂は今からお主らにとって恐ろしく突飛かつ奇妙な事を口走る

 正直言って、儂がお主らと同じ立場じゃったら信じぬであろうような事をの」

「うむ」

「……お好きにどうぞ」

キャスターは期待を、アサシンは諦観を浮かべ、続きを促す

 

「まず大前提から話すぞい

 儂等はこの時代とは別の時代からやって来た

 ここの聖杯によって座から召喚されたというわけではなく、既に座から召喚されて英霊として存在していた状態で、この時代に呼び寄せられたんじゃ」

 

「………」

「…」

 

「まず、これが大前提

 1つ、儂等は別の所で召喚された英霊で、どういうわけかこの時代に呼び寄せられた

 2つ、その主目的は人類史の崩壊を防ぎ、人類が滅びる未来を防ぐため

 ……この段階で大分トチ狂った事を言ってると思ったじゃろ」

 

「…あー、何だ、その…、途方も無いだのう…人類史を救う?…とは、恐れいった」

「…………」

キャスターは吃驚を、アサシンは疑念の表情を、それぞれ浮かべている

 

「…無理を承知で頼むが、汝等の令呪を、確認しても良いか?

 あぁ、直接触れなくとも、遠間から、ただ我に見せるだけで良いのだが…」

「ほれ」

表情も真剣に、躊躇いなく右腕の令呪を見せる

 

「………………………」

まじまじと令呪を観察するように眺めた後

「…………………うむ」

「…どうです?」

 

「分からん、という事が分かった」

「それはどういう…」

「あぁ、令呪は我等と同質…だが力の流れが良く分からん

 この地だけでない、別の妙な所にも繋がっているようだ」

「別の供給元が有る、と?」

「(となれば、儂等の魔力はどこから来ている物なんじゃ?)」

 

「…あさしん殿はどう見る?」

「…判断しかねますね…オカルトの事情など、私にはサッパリなので」

「うーむ…」

 

2騎が嘘をつく理由は無いが、キャスター達も信用する理由が無い

結局の所、信頼も何も無い現状では、関係の発展は難しいのだろう

 

「…一応聞いておくが、”人類史の崩壊”とやらは、世の…、この国の終わりと同義で相違ないのだな?」

「無論」

「…そうか、そうよな…」

 

嘆息し、目を閉じる

数秒の沈黙の後、口を開いた

 

「―――カムヤマトイワレビコが東征より、我ら一族が支え、育んだ国…

 政と祭祀が共にあった時代… 我は斎宮として、幼き頃より国の中枢に居った」

「……」

「…動乱の時代であった……争いの果てに全てを喪おうとも、一族の仇に下ろうとも、ただ国が為、尽くしてきた」

 

「我も、厩戸皇子も、…あの忌々しき蘇我の一門も…内に抱える物は有れど、ヤマトを支えるという点は同じであった…」

 

「汝等も、あの村人達を見たであろう?

 平穏無事に暮らし、こうして訳の分からぬ戦に巻き込まれながらも、この国の者は、この国の者なりに立派に生きているのだ」

 

アサシンが潜り込んでいた村

住人は、聖杯戦争の事情など全く知らないのだろう

 

「…中々、勤勉な人達でしたよ…、私が教えた事を次々吸収していました」

「だろう、の」

「うむ あさしん殿に、村の者達の庇保を頼んで正解であったわ

 …我等の戦などに、民を巻き込みたくはないからな」

「…彼らには適当な事情を話しておきました…爆発の授業に関連付け、外には出ないようにと、ね」 

 

村の”教室”で行った授業

爆発に関する話をメインに、その危険性・対応を教育していた

 

予め、爆発に関する知識を与えることで、戦闘による爆音と関連付ける、思考の種を植え付けた

村人の心理に介入し、行動をコントロールする事が目的だったらしい

 

「子供達は興味深々でしたが、親としては危険は避けたい所…

 この辺りから爆発音の一つでも聞かせてやれば、彼らが家外へ出る可能性も減るでしょう」

「うむ、流石は”すぱい”と言った所よな…実に捉えどころの無い、不思議な者よ!」

「本当に不思議ですね

 こちらの情報を次々と流す貴女の存在が……かつての同僚を思い出します」

 

「(なんというか…のう…)」

「(また強烈な奴だよなぁ…)」

 

聞いてもいないのに、どんどん横流しされる情報

最早キャスターが、逆にスパイ染みてきている

 

「仮初めではあるが、家の中ならば、幾らか安全であろう…

 何があろうと、我等の築いたこの国を、何処の馬の骨とも分からぬ輩に侵させはせぬ…」

 

静かな闘志、怒り

彼女の、国を愛する気持ちは、確かに本物だ

 

「―――そろそろ、いいでしょう…」

アサシンが話を断ち切る

彼の中では結論は出たようだ

 

「キャスター、貴女の意見を聞かせて下さい これからどうするか、…貴女が、どうしたいかを…」

 

相方の意志を確認するアサシン

質問に対し、数秒考えるように目を閉じるキャスター

 

「―――うむ、…」

ぱん、と

思いついたように手を鳴らし

 

「戦だ」

思い付きをそのまま口にした

 

「…やるってか、俺達と…」

「言ったであろう? まずは、戦争を片付けねばならん、と

 この国の問題は、この国の者が解決するのが筋である」

 

「集う英霊総てを討ち果たし、戦を終結させる

 我らを呼び出した輩も、顕現した杯に釣られ、現れよう」

 

「”人類史の崩壊”とやらにしても、優先すべきは目先よ

 ならば、この戦から何とかせねばならん

 …汝等も、元の居場所とやらへ帰還したいならば、杯は必要であろう?」

「それはそうじゃが…」

 

「それにな…、―――此処で果てる程度の力ならば、汝等の大望、果たす事など到底叶うまいて…」

静かに語る

本気で戦いを始めるつもりだ

 

どれ程激しい戦いになったとしても、

双方の内の誰かが命を落とすことになったとしても

彼女は彼女の意志を貫くだろう

 

「…………」

苦虫を噛み潰したような顔になるライダー

 

「是が我が”答え”よ…、あさしん殿は如何する?」 

「愚問ですね…一体何の為に、我々が同盟を組んだというのです?」

「…そうであったな、…済まぬ」

 

「………やはり、戦争など起きぬに限るわい」

やりきれないといった風に言葉を吐き出す

 

「とは言え、こちら側の準備は不十分ですよ…?

 頼みの綱である”祭祀殿”とやらは、どうなんですか?」

「安心するがよい

 既に基礎は完成し、必要な霊力は、基礎自ら汲み取るようにしてある」

「そうですか(そう言うのは最初に言ってくれ…)」

 

「ただな、陣はこの辺りにも敷いておかねばならぬ…どの道、まだ完成には至らんのよ…」

「そうですか(そう言うのは最初に済ませてくれ…)」

 

「…そこでな、察していると思うが、頼みが有る」

「時間を稼げ、でしょう?」

「うむ、その通り―――やれるか?」

「依頼はこなしますよ、キッチリと」

 

「うむ、頼もしいな

 では、共に征こうぞ、あさしん殿」

「―――了解、我が同胞」

 

アサシンとキャスターが臨戦態勢に移る

戦闘は避けられないだろう

 

「戦わないんだったらそれでもよかったんだけどな…

 まぁ、そっちがやる気ならそれはそれで構わねぇさ」

獰猛な笑みを浮かべて武器をかまえるランサー

 

「せめて発言と表情を合わせる努力ぐらいはしたらどうなんじゃ」

「楽しみなんだからしょうがねぇだろ」

「……そっちに合わせるんじゃな」

溜め息をついて袋を担ぎ直す

 

「相分かったわい…、やらねばならぬのなら決着をきちっと付けねばあるまいよ」

戦う覚悟は決まったようだ

 

「……加減はせんからの」

「応とも…いざ、尋常ならざる勝負を」

 

虚ろなる島に、2度目の戦が訪れる

 

 




そりゃあいきなりサーヴァントが2騎も一瞬で接近してきて、力になるよーとか信用もクソも無いわな
その上、自分達強いですよアピールはマズいっすよサンタさん
(交渉として対等にならないので下策)

そして、移動手段をデフォルトで持ってる奴はGMとして扱いに困っちゃうよ
宝具なのにバンバン使うから余計にね(愚痴)

そうだね、理由付けて封じればよかったね(今更)
フリーダム過ぎるのも破綻を招くから、制限はどうであれ必要だわ


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07 童遊 Lies in Reality 中

長くなるんで3つに分割
相手が増えると手番もRPも増えるからね、しょうがないね

でも、倒すだけがゲームじゃねぇんだよなぁ
セイバーは極端だったけど、今回は話が通じる相手だからね

その辺の匙加減はプレイヤーさん次第

あと、戦闘中の判定について、カード選択とか重要でない数値は省いていきます
ぶっちゃけ命中判定とか、スキル使用時のRPだけ分かればいいよね、コレ
(文字数稼ぎでは決してないのよ)


≪行動順≫

殺→槍→術→騎

 

 

≪1巡目≫

 

 

対峙するサーヴァント達

一番先に動き出したのは、アサシンだった

 

「―――先ずは、盛大な開戦の合図を…」

アサシンが指を鳴らす

すると、図った様なタイミングで2騎の足元が爆ぜた

 

 

【殺】

スキル使用:『破壊工作』:A    ≪CT7≫

⇒敵全体の攻撃↓(1d6-3T)+火傷付与(3ダメ/3T)

 攻撃-4(3T)、火傷付与

 

 

轟音、同時に走り抜ける熱

肉体を炎が焼き、衝撃が叩く

 

「ッ、抜け目、ないのう…!」

「やってくれるじゃねぇか…!」

2騎共直撃は避けるも、爆発の余波は容赦なく肉体を責めたてる

 

「神秘がモノを言うのであれば、同じ土台に登るか、蹴落とすしかないでしょう…」

 

”破壊工作”

軍団の力を、戦闘前に削ぎ落す才能

Aランク相当ともなれば、およそ6割の兵力を戦闘不能に追い込む、恐るべきスキルである

 

 

【殺】

攻撃対象:槍

命中判定:失敗

 

 

「(武器は通用しにくい…ならば、―――打撃…!)」

回復の暇など与えず、間髪入れずアサシンが行動に出る

 

土埃舞う空間を駆け、音も無く接近

衝撃で三半規管が狂い、よろけるランサーへ上段蹴りを叩きこむ

 

「その程度、喰らうかよっ!」

よろめいた方向へ更に体勢を傾け、攻撃を回避

「むっ」

こめかみを狙った蹴りはランサーの頭上を掠める程度に留まった

 

「(タイミング的には十分だった、が………向こうの技量の方が上手か)」

攻撃を躱されたとみるとすぐさま身を引き、キャスターの近くへ退避する

 

「いつの間に仕掛けておったのやら…抜け目ないのう、あさしん殿」

「こんな事もあろうかと、ですよ…こうして、実際あった訳ですが…」

 

口振りからすれば、森一帯に罠を仕掛けてあるのだろう

ランサーの槍が反応しなかったのは、当初、アサシンに戦闘の意志が無かった為か

或いは、己の意思すら完璧に隠匿する何かがあるのか

 

戦闘に発展した今、容易く猛威を振るう兵器達

迂闊に動けば、再び起爆する

されど、動かなければただの的だ

 

行動の制限、狡猾な策

蜘蛛糸の如く張り巡らされた仕掛け

セイバーとはまた違った、一筋縄ではいかない相手である

 

 

【槍】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

 

「お返しだ、オラァ!」

やられたままで黙っている筈も無く、反撃に転じる

不安定ながらも一直線に突っ込み、鋭く槍を突き出す

 

「クッ…」

胴体に向けて放たれた一撃を危なげに躱す

白兵戦には慣れていないのか、軽快な動きでは無かった

 

「(ギリギリ、か… だが、先の爆破でアドバンテージはこちらにある…!)」

 

有無を言わせずの先制攻撃は、自らが劣ると理解しているからこその一手

実力差を埋めるためならば、罠を仕掛け、騙しもする

 

弱いからこそ、頭を使う

劣っているからこそ、どこまでも追いつき、追い越そうとする

弱者を追い詰める事が、必ずしも正解とは限らない

 

「…さっきのがまだ響いてんな…」

衝撃波で脳内は揺れたまま、軽い吐き気は治まらない

熱風で炙られた手も、槍捌きに響く程でないにしろ、鈍い痛みは継続している

 

「出来れば、ずっと響いていて欲しいものですが…」

「ソイツは無理だな…こんなもん、すぐ慣れるからよ」

 

ふらつく頭でも軽口は忘れない

退避し、槍を構える

 

 

「(時間稼ぎも楽ではないな…だが、だからこそ…だ)」

冷や汗を浮かべながらも、内では熱く沸き立つ

表に出さないだけで、アサシンは状況に”期待”をしていた

 

「(だからこそ、どこまでイケるか…)」

その”期待”は、周囲にか、或いは自身にか

隠す人(スパイ)は、その本心を黙したままに戦う

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』:B+

 ⇒3T目に”創建”する状態を付与(1/3)

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「どれ、下準備からゆくか…」

空中から札を数枚取りだす

 

「そいっ、と」

無造作にバラ撒く

しかし、札は風にも煽られる事無く、規則的な動きで辺りに散らばった

 

「む…」

「何だぁ…?」

 

「後は…」

再び、数枚の札を取り出し

「牽制を…―――」

 

キャスターの双眸がライダーを捉える

「―――征けい、”鬼弾符”」

 

魔力の込められた札が、放たれた

先程とは違い、真っ直ぐにライダー目がけ、飛来する

 

「元気じゃのう じゃがまあ…」

飛来した札を意図的な紙一重で回避する

「セイバーの攻撃に比べれば、まだ分かりやすいのう…!」

 

「ほう…、良き身のこなしをしおる…かなりの武芸者と見たぞ!」

「なんのなんの たまさかじゃよたまさか」

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗(ファンブル)

 

 

「…と、うわった!?」

攻撃を避けた先にあった木の根に足を引っ掛けてすっ転ぶ

 

「(転倒……?、いや、まさか…)」

 

「あいたたた…」

「ふははっ、どうやら我が呪は届いていたようだな?」

「みたいじゃのう…あ痛たた」

 

「(いや、普通に外れただろう…)」

「…何やってんだ、爺さん…」

 

勿論、キャスターの放った呪符は回避され、一枚たりとも命中はしていない

ライダーの転倒は全くの偶然である

 

 

≪1巡目収支≫

【殺】 HP:65

    チャージ:1/3

    スキル:『破壊工作』(残りCT7)

 

【槍】 HP:66

    NP:34

    スキル:

   ・火傷-3(2T)

   ・攻撃-4(2T)

 

【術】 HP:65

    チャージ:1/5

    スキル:『陣地作成』(1/3)

 

【騎】 HP:58

    NP:18

    スキル:

   ・火傷-3(2T)

   ・攻撃-4(2T)

 

 

≪2巡目≫

【殺】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

「(偶然であれ、演技であれ、関係は無い…)」

 

転倒したままのライダー

その隙を見逃さず、容赦無く銃撃を放つ

 

タイミングを同じくして、折れた枝が落下

”偶然”ライダーの前に落ち、弾丸をあらぬ方向へ弾いた

 

「…何だ、今のは?」

「さあてのう ついておるわい」

訝しむアサシンを尻目にゆらりと復帰する

 

起きた現象を懐疑的に観るアサシン

それ以上の追撃をすることは無かった

 

「(偶然、か?)」

「(偶然、私が銃を撃つタイミングで? 頭上の枝が折れて? 尚且つ銃弾に当たるように落ちてきた?

  …確率的に有り得ない、出来過ぎだ…)」

「その天運、…成る程なぁ、聖(ひじり)なる者か…」

懐かしげに呟くキャスター

聖人に対し思う事でもあるのか、複雑な表情を浮かべている

 

「聖(ひじり)、ですか…? …どう見てもブッディストではありませんが…」

「その”ぶっですと”は知らんが、恐らくな …我の知る通りの性質あれば、厄介な相手ぞ、あの爺様は」

「買い被られておるのう」

「安い相手ではありませんからね」

 

未だ場に血は流れない

ただ、緊張感だけが渦巻く

 

 

【槍】

攻撃対象:殺

命中判定:成功

ダメージ:4

 

 

「俺も安くはねぇぞッ!!」

ライダーに注目が集まる中、空気を吹き飛ばすように吼える

槍を下段に構え、前傾姿勢のまま突撃

 

「(来るか…!)」

「オラァッ!!」

槍の間合いに入る直前、勢いよく飛び出し、タイミングをズラす

腕を狙い、下段から救い上げるように薙ぐ

 

「くッ!」

相手の目線から狙いを読み、回避を試みる

しかし、その速度の緩急から完全に躱す事は出来なかった

 

「…流石、お速いですね…」

「そいつぁどうも」

足取りは安定している

三半規管の揺れは回復したようだ

 

「(あぁ、痛いな…これだから正面切っての戦いは苦手だ…)」

黒いスーツは浅く裂け、紅い血の滲みを創る

致命傷には遠いとは言え、確かに傷を負った

僅かでも、その命を脅かされた

 

「(―――効率が悪い、と言わざるを得ない…)」

流れる血に肝を冷やしつつ、冷静に事実を受け止める

命の駆け引きの渦中、アサシンの思考は合理性に有った

 

「(いたずらに消耗してどうする…

  地力に差がある以上、裏からコツコツ削り取っていかなければ、先に倒れるのはこちらの方…)」

白兵戦を得手としない以上、奇襲と罠による搦め手がメイン戦法になる

自身のクラスが暗殺者である事も踏まえて、そう考えていた

事実、あの小さな農村をコントロールし、ライダーに銃弾を撃ちこんで見せた

 

仕留めるには至らなかったが、様々な情報を得た

令呪を一つ消費するに値する成果だった

あとは、得た情報を武器にどう立ち回るかを決める予定だったのだが…

 

「(過ぎた事は仕方ない…、現状における頼みの綱はこの少女…取り敢えずは、小さな戦友を信じてみるか…)」

 

明らかな不合理の中であろうとも、逆境で活路を見出すように、アサシンは諦めとも覚悟ともいえる決意を抱いた

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』

 ⇒”創建”のカウントを更新(1/3→2/3)

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「―――繰り返す都度、二度(ふたたび)…」

 

再度、大量の符がバラ蒔かれる

何かしらの図を描くように、規則的に配置された

 

「基礎土台は、これぐらいでよいか…いずれ神の社は顕現しよう」

 

魔力渦巻く中心に、不動の立姿

予てよりの仕込み、”創建”は間も無く成される

 

「神の社…のう」

 

「さて、”鬼弾”では些か不足であったな…ならば―――」

 

何処からともなく新たな符を取り出し、ぺたり、と傍らの樹木に貼りつけた

 

「”動山”にて…」

すると、符が貼られた木が、大地を離れ、宙へ浮かび上がる

符の作用に因るものか、キャスターの指揮に連動して浮遊している

 

「……無茶苦茶じゃなあ!」

 

完全にキャスターのコントロール下にあるようだ

それはまるで、符で繰られた死体、―――僵尸を想像させる

 

「整地も兼ねて、征けい」

言葉と共に、凄まじい速度で樹木が撃ちだされた

 

「…ちぃーっとこれはやばいかもじゃ…! …うおっと!?」

足元の根にまたしても引っかかって盛大にずっこける

”それがたまたま”一直線に飛んできた樹木を紙一重で避けさせた

 

「ほうほう、是も躱すか」

「いやどう見ても躱して無いじゃろこれ!?」

掠めた樹木でズレた帽子を被り直し、慌てて立ち上がる

「ん、そうさな…爺様自身が躱しておるのは、身に降りかかる”不運”、”穢れ”の類であろう」

 

「……バレておったか」

ライダーの幸運パラメータは、最上級のAランク

聖人という背景も合わさり、小規模な不運であれば自動的に回避される

 

「”聖(ひじり)なる者”…爺様は仏の徒では無かろうが、その独特さは理解るぞ」

「…そんな大した者じゃ無いわい、精々が皆の幸福を祈る程度の年寄りじゃよ」

「その類であるならば、そうであろうよ…あの若造も、そんな性質であったわ…」

 

憎々しげに顔を歪めるキャスター

彼女は”聖人”に類する者を知っているという

 

「さてな、其奴が誰かはとんと知らんが、儂は儂なのでな」

「おうよ、同じであれば困る…仏の徒は悉く、灼かねばならぬからな」

「…ふうむ、なんとも妙な話じゃ…国は守る、さりとて仏教徒は許さぬ、ときたか」

「逆だ爺様、国を守る為灼くのだ…」

滲み出るキャスターの背景

隠しきれない仏教への怒り、憎しみが露わになる

 

「致し方あるまい?…其が国を腐敗に導くのであれば、尚更よ」

「廃仏派、日本…ふむ、蘇我氏がさぞ難儀だったと見えるよ」

「如何にも 彼の者共は増長し過ぎた、故にあのような最期を迎えた」

「天地の定めばかりは如何とも仕方が無かろう」

「そうだ、天地の定めが故に馬子も、入鹿も、毛人も、皆死んだ

 人に身で天に立った気でおらねば、我等一族を廃した時点で満足しておれば、…まだ長生き出来たものを…」

「…その後の事…いや、これは儂がいうまでも無いか 何とも間が悪い話じゃわい…」

「そのような愚か者共に、使われるだけ使われ死んだ、あの”聖なる者”も、また愚かしく、…まこと哀れなものよ」

 

吐き捨てるように呟く

その言葉に込められた感情は、如何なるものか

 

「……本当に間の悪い話じゃわい」

「…故に、願うぞ…爺様が同じでない事をな」

愚かであってくれるなよ、と本気の眼だった

この戦いは、それを見定める為でもあるのだろう

 

「仏の徒は愚か者ばかりであった…灼かねばならぬ、灼かねば治らぬのだ」

「(…本当にそうだったのかね? とはまだ問いかけんでおくわい…)」

 

キャスターの内にある思い

意志、動機、原動力、指針

 

少しずつ明らかになっていく要素は、キャスターの真名へ繋がる道標となる

しかし、同時に彼女の闇にもまた、繋がる

 

「(キナ臭くなってきたな…、感情で動くな、ともっと釘を刺しておくべきだった…)」

未だ、秘したまま、内を見せないアサシンも同様と言える

誰であれ、その背景、その歴史は確かに存在するのだ

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:成功

ダメージ:2

 

 

「あんまり大したことはできぬが…そら、行っといでお前さんら」

ジンジャーブレッドマンを放つ

 

「(アレは…人形? 菓子? …プレッツヒエンの類、か?)」

「(脅威は無さそうだが、迎撃を―――)」

 

迫り来る菓子人形達に銃口を向けたその瞬間

 

「こ、是はッ!?」

「ッ!?」ビクッ

「”巫蟲人形”ではないかッ!! 避けろあさしん殿ッ!!!」

 

「いやいや、そんなに物騒なものじゃあ無いわい」

 

「え?、は?…え?」

突然のキャスターの発言に驚き、対応が一歩遅れる

その隙に、アサシンの口内へ大量のクッキー人形の群れがなだれ込んだ

 

「―――しまっtガボへッ!!!!?」

「お、おおおお落ち着くのだ!! ははは吐き出せば、まだ影響は出ぬ!!」

「…ゲホッ、ゲホッ はぁ、…はぁ…」

 

ひたすら噎せるアサシン

あたふたと焦るキャスター

 

「(成る程、大量の食物による窒息死…こんな殺害方法も狙っていたか…)」

アサシンの中でのライダーへの警戒度は上がり、

 

「(我の知らぬ術…あの爺様…もしや、泰山派の道士であったか…!!)」

キャスターの中でのライダーへの畏怖は強まった

 

祝福の菓子は、図らずとも疑心を高めた

セイバーに続き2度目である

 

「……いやはや、ただのクッキーじゃってそれ」

 

 

 

≪2巡目収支≫

【殺】 HP:44

    チャージ:2/3

    スキル:『破壊工作』(残りCT6)

 

【槍】 HP:63

    NP:38

    スキル:

   ・火傷-3(1T)

   ・攻撃-4(1T)

 

【術】 HP:65

    チャージ:2/5

    スキル:『陣地作成』(2/3)

 

【騎】 HP:55

    NP:28

    スキル:

   ・火傷-3(1T)

   ・攻撃-4(1T)

 

 

 

≪3巡目≫

【殺】→槍

命中判定:失敗(ファンブル)

 

 

「ぐっ…、がハッ…!!」

 

まだクッキーが口内に残っていたのか、頻りに噎せるアサシン

攻撃どころでは無いようだ

 

「おうおう、大丈夫か…? ゆっくり呼吸をするのだぞ」

アサシンの背中を叩くキャスター

戦闘中ではあるが、微笑ましい光景ではある

 

「………なんだこれ」

 

「…けほっ…、あり、がとう、…ございます……何とか、…落ち着いて…きました…」

「うむ、ならば良し!!」

 

 

【槍】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

 

「チッ…それじゃあ、行くぞ!」

アサシンに向かって槍を突き出す

いまいち力が入っていない、気の抜けた突きだ

 

「甘く、見てくれますねぇッ…!」

迫る槍を銃身で受け流す

表面の鉄がガリガリと削れ、火花を散らすが、アサシンに傷は与えられない

 

「…どうも調子が狂うぜ、真面目にやれなくてすまねぇな…」

後退し、アサシンに対して申し訳なさそうな顔を浮かべて答える

「お気になさらず…、私的には助かりますよ」

「次からは、手抜きはしねぇがな」

「それは大いに困りますねぇ…」

肩を竦め、お道化た様子でそう言った

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』:

 ⇒”創建”のカウントを更新(2/3→3/3)

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:8

 

 

「―――時は満ちた…」

膨大な魔力が渦巻く

戦闘開始から仕掛けていた符が呼応しているのだ

 

「我等、まほろばの国にて、いと神の傍に在りし者、諸所八百万への、祈請の宮を創建せしめん…」

言葉と共に、場の変化はすぐさま表れた

これまで、キャスターが配置した数々の符から、魔力を伴った眩い光の線が幾つも発生する

 

「さっきの札か…!」

「うむ、どうやらこれが”創建”とやらじゃろうな…!」

 

「霊力は十分…ならば、これ以上の符は要らぬ」

 

やがて、符同士が、それぞれの発する魔力線によって繋がってゆく

同機し、共鳴し合い、線は次々と増殖する

規模を増した魔力線は、より規則的に形を成す

 

「古より、我等が築き、支えし万世の血… 是、正に天壌と窮り無けん…!」

 

天は永し、血は久し

一条の幻に過ぎない人の夢が、虚無の彼方を超えて出ずる

 

「懐かしきまほろばの大地よ、今一度、その姿を想起せよ…―――『祭祀殿・石上布留神宮』―――!」

 

爆光に目を細める

一際大きな光に包まれながら現れたのは、美麗な楼門と、荘厳な拝殿から成る巨大な社

 

神道を源流とし、祭祀の場として組み上げられた、神の宮

陣地作成スキルによって創建された、キャスターの為の舞台

 

「……さて」

「随分な仕事じゃねぇか、オイ…」

 

「壮観であろう? ここまで再現できるとは我も思わなんだ…」

生前を懐かしんでいるのか、気分良さげに、掌を握ったり開いたりしている

何よりも、斎宮にとっての祭祀の場

敵のホームグラウンドを通り越して、胃の中まである

 

「こういう時で無かったならばさぞ見応えがあったんじゃろうがなあ」

 

「是で漸く、存分に力を奮えるというものだな、あさしん殿?」

「…存分に力を奮えば、この建造物ごと爆破してしまいますが…?」

「構わぬ 一族所縁の社格を複合してある故、余程の戦火でも響かぬ …存分に己が力を奮うが良い」

「―――了解」

 

神宮の展開、空間の掌握

それは、境界による環境の隔絶を意味している

 

今や森林は、巨大な社宮という、別の様相を見せつけている

キャスターの言葉によれば、神宮は要塞の如き強度を誇るという

 

最悪なのは、敵陣のど真ん中に”入れられた”事

計算してやったことでは無いのだろう、故にこそ恐ろしい

 

「ここからが本番、といったところかの」

 

「さて…」

一拍おいて、

「―――来たれ、『七支刀(ななつさやのたち)』…」

静かな呟きに呼応するように、キャスターの掌に奇妙な形の剣が現れる

1m程の刀身から、左右3本ずつ枝分かれするように、更に刃が伸びている

 

「ありゃあ、剣、か…?」

「名こそ勇ましくはあるが、あくまで儀礼用の祭具でな…」

 

”七支刀”

日本最古とされる神宮、石上神宮に奉納される国宝である

3世紀頃、百済国から古代日本・ヤマトへ友好の証として送られ、主に豊穣祈願の祭具として使用されたという

 

「故に、…当たると、とても痛い」

 

鉄製の剣を軽々振り回し、7つの切っ先を2騎へ向ける

斬れない剣など鉄の塊、最早ただの鈍器だ

 

「じゃろうなあ…というか、どうみても鈍器の類じゃろそれ!」

「気張れや気張れ、歴史の護り手達よ」

ライダーの言葉を聞いているのか、いないのか

そのまま凶器を振りかぶる

 

「いざ…―――征くぞッ!!」

 

不動だったキャスターが遂に動く

小柄な体格からは想像も出来ない、低い姿勢からの鋭い踏み込み

一呼吸の内に、ランサーの足元まで滑り込む

 

「なっ!?」

予想以上の速さに驚愕する

体格差及び足元というほぼ死角からの急襲によって、防御が間に合わない

 

「演舞、―――”陽炎”!!」

 

舞う様な剣閃の群れ

斬れ味のない刃物による”打撃”がランサーを襲う

 

「グ、ハッ!!」

避けることも防ぐこともできずキャスターの攻撃をもろに喰らってしまう

 

「天照大御神へと仕えし、斎宮たる我が身…剣舞にて此処に奉ずる…」

 

高く在る太陽へ祈るように手を合わせる

鋭い痛みに歪む視界、ランサーにはその動作が図らずも残心のように見えた

 

 

 

「(泰山派の符術、恒山派の禹術、そして崋山派の剣術…)」

「(”道術五岳”…、どの派閥にも属さない我流と言っていましたが…本当に無茶苦茶ですね、貴女は…)」

 

中国伝来の道術、そして日本古来の神道

その2つを併せ持つキャスター

 

ホームグラウンドである祭祀の場・石上神宮によって隔絶された空間にて、戦いは更に激化する

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

スキル使用:『聖者の贈り物』

 …対象のHPを3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

  対象→槍(HP+10、NP+1状態〉

 

 

「(近寄るのはまずいのう…)」

遠ざかれば符術が、近寄れば剣撃が待っている

悩んだ末、再びジンジャーブレッドマンをばら撒く

 

「―――残念ながら、ソレは食べ飽きました…」

アサシンが指を鳴らすと同時に、地面が爆ぜた

 

衝撃と熱により、ジンジャーブレッドマンは粉々に砕け散り、その役目を終える

「勿体無いのう」

「バラ蒔く方もどうかと思いますが…」

「そうは言うても此奴らの望みなのでのう」

「………窒息死させる事が、ですか…?」

「いいや、美味しく食べられることじゃ… 食した者の無病息災を祈るのが、此奴らの仕事ゆえに」

「職務に対するひたむきさは評価しましょう ただ、それだけです…」

「じゃろうな」

軽く肩をすくめた

 

好意の押し付けなど、受け入れられる筈も無い

結局の所、ありがた迷惑から感謝できる要素を差し引けば迷惑だけが残るのだ

 

 

≪3巡目収支≫

【殺】 HP:44

    チャージ:3/3

    スキル:『破壊工作』(残りCT6)

 

【槍】 HP:48

    NP:44

    スキル:

    ・攻撃命中時にNP+1(3T)

 

【術】 HP:65

    チャージ:3/5

    スキル:『陣地作成』【創建状態】

 

【騎】 HP:52

    NP:38

    スキル:『聖者の贈り物』(残りCT7)

   

 

 

≪4巡目≫

【槍】

スキル使用:『啜る黒水』…対象のチャージを確率で減少、対象に毒状態(3ダメ)を付与(3T)

対象:殺

判定:失敗(毒有効3ダメ3T)

 

【殺】

スキル使用:『ダブルクロス』…単体にスキル封印(1T)+防御↓1d6(3T)

対象:槍

判定:失敗(防御↓3有効)

 

【騎】

スキル使用:『無辜なる守護者』…自身のNP↓1d6、防御↑3d6(3T)

       →自身のNP-3、防御↑4(3T)

 

 

 

「(”誘導”は済んだ…、―――頃合いだ…)」

 

アサシンが銃を構える

その方向にはランサー、そしてライダー

 

準備は出来ている

この場に獲物を誘き寄せた瞬間から、狙いは既に決まっていた

後は、そのスイッチを押すだけ―――

 

「何か企んでいやがるな…、させるかよっ!!」

不穏な気配を感じ取ったのか、黒い液体の入った小瓶を投げつける

 

迫り来る謎の小瓶

「―――ッ!!」

すかさず銃口を瓶に向け、撃ち放つ

「(…しまった、罠か…!!)」

 

銃弾により、禍々しい漆黒の液体はガラス片と共に四散した

外気に触れた瞬間に液体は揮発、風下に居たアサシンは被害を受ける

 

「(―――毒、ガス…!、神経?か溶血?か……それがどうした…! …このまま…!!)」

多少吸い込んだだけだ

今すぐに行動不能になる程では無い

 

「(今、この場所、このタイミングは逃さない…!!)」

銃口は全くぶれずに標的をを捉える

銃が効かないのならば、もっと大きなチカラをぶつけるまで

 

予てよりの仕込みを、今解放する

 

 

「直接当たればよかったが、外れるよりかはマシだなァ…!」

恐らくは最高のタイミングを外してやった

反応から見て、大技を繰り出す心算なのだろう

 

「(とは言え、奴も止まんねぇな…、上等だぜ…!!)」

ランサーもまた、大博打にベットする

 

 

≪宝具対抗≫

【殺】

宝具使用:『甘い爆弾(ズューズ・アッシェ)』

 ・敵全体に攻撃4d6

 ・”誘爆状態”を付与(スキル使用・攻撃の度に判定を行い、失敗した場合”3”ダメージ)3T

 

【槍】

対抗宝具使用:『貪る呪炎(ルーン)』

 ・全体『B』宝具5d6 

 ・相手・自身に火傷状態(3ダメ)付与(3T)

 

 

判定:ランサー勝利(ダメージ30)

 

 

発砲音

放たれた尺取虫の弾丸は、2騎では無く、その真下の地面へ着弾する

 

「(…外した? …いや、まさか…)」

狙いから逸れたのか、或いはソレが、

外れた”その先”こそが狙いだったとしたら―――

 

轟音

地面が盛り上がったかと思うと、一瞬で光と熱が放出される

 

爆発の規模はそこまで大きくは無い

しかし、至近距離での爆発ならば話は変わってくる

 

基本的に爆風と熱は上方向に放出される

2騎は爆弾の真上に居た故に、その被害を最も受けることになるからだ

 

燃焼反応によって、急激に加熱された空気はボイル・シャルルの法則に従い、爆発的に膨れあがる

 

衝撃波と爆風

轟音、熱、光といった、あらゆるエネルギーが渦を巻き襲い掛かる

 

銃撃による起爆

弾丸を外したと見せかけ、本来の狙いは足元の爆弾にあった

 

通常、サーヴァントには銃などの兵器は通用しない

存在自体が神秘の領域である英霊には、現代兵器では傷付ける事自体が困難となる

 

しかし、現代兵器であろうとも、魔力を伴った物であれば効果はある

それが、宝具ともなれば最早言うまでもないだろう

 

「(―――”ANFO爆薬”…手頃な材料の割に、威力は申し分ない代物だ…)」

余波で舞う土埃の中、銃を構えたまま思考する

 

「(用途に合わせて爆弾の種類を揃えたい所だが…この辺境の地では、贅沢は言えない…

  いずれにせよ、これでかなりのダメージは期待できる筈…)」

 

虎の子である宝具の発動により、楽観が芽生える

 

敵を欺いた 

その結果、自らの思い描いた通りに全てが動いた、全てが上手く運んでいた

自分が世界を回しているかのような全能感が思考を埋める

 

大威力、大火力の隠し玉

自信に裏打ちされた成果を期待した

 

砂埃が晴れる、その瞬間までは―――

 

 

 

「な、っ…」

 

砂埃が晴れたその先は、轟々と燃え盛っていた

しかし、その炎は爆発に起因するものでは無い

 

寧ろ、発生した炎がドーム状になり、被害を抑えているように見える

その中心には爆発の影響を受けていない、全くの無傷の2騎が立っていた

 

「無、傷…? 馬鹿な…」

「…こういう事にゃ初めて使ってみたが…、上手くいったようだな…」

文字通り身を焦がしながら、炎のドームを制御している

爆発による火傷では無く、自らの槍の生み出す炎に焼かれているのだ

 

「咄嗟ながらお見事じゃのう…で、これは?」

「俺の呪炎を奴の爆発にぶつけて相殺した …んで、こうして炎の壁を作って爆風も散らした…」

「そんな器用な事が出来るのか、その槍は」

「こいつの本来の性能って所だな…

 ただ本当の持ち主じゃねぇから、俺もやれたことに驚いているがな!!」

「ふうむ まあ、何にせよ助かったわい」

 

担い手をも蝕む、呪炎槍

その真価は、狂犬の如き呪炎を制御することにこそあるのだろう

 

「この際だ、ついでにブチかましてやるよ!!」

炎のドームに回していた分の呪炎を槍に集中させる

どす黒い色をした炎は、槍を取り巻き、更に禍々しく変貌する

 

「焼き滅ぼせ‼ ―――『貪る呪炎(ルーン)』‼」

槍が突き出され、切っ先からすべてを飲み込むほどの炎が解き放たれる

 

呪炎の劫火は、まるで蛇のようにうねり、アサシンとキャスターに迫る

 

「呆けるなッ!! 来るぞ!!」

「ッ!!」

 

劫火の咢が一際大きく口を開ける

報いと言わんばかりに、二体のサーヴァントを飲み込みながら焼き尽くしていった

 

「久々にやってやったな…」

槍の炎を止めるため、毒液を塗布する

放っておけばランサー自身も消し炭となりかねないからだ

 

改めて自身の宝具が作りだした惨状を見る

辺りを埋め尽くす程の木々、その大半が焼失し、焼野原が生まれていた

「うわお…」

「いやぁ……さっきの制御の反動か…?」

アサシンの目論見を潰したは良いが、色々と被害を出してしまった

ライダーには負傷は無いが、ランサーは宝具の副作用として体中に火傷の跡ができている

 

「(これで終わればいいんだが、んな楽な事は無ぇだろうしな…)」

焼野原に佇む人影に目を向ける

 

呪炎燃える跡

必殺の宝具は、されど相手を消滅させるには至らなかった

 

「…正直、死んだと思いました…」

「…そう、滅入るな…向こうが少々上手だっただけの事だ…」

 

ランサーが宝具によって爆撃を受け流したように、アサシンもまた、別の爆弾によって呪炎の威力の相殺を試みていたのだ

 

しかし、結果は無惨

創建された神宮は所々焼け跡が残り、キャスター・アサシン両名はその身に決して軽くない火傷を負っている

 

「(タイミング…もだが、結局は出力の問題か…急ごしらえでは出来も甘い…)」

 

アサシンの宝具、『甘い爆弾(ズューズ・アッシェ)』

その本質は、爆弾の作成にある

 

一口に爆弾と言っても様々な種類が存在する

 

時限式、センサー式などの、小回りの利く物から、”デイジーカッター”、”バンカーバスター”といった戦術兵器にまで及ぶ

 

彼は、魔力を帯びた爆弾を産み出すことができ、尚且つ手を加えれば加える程、その分、威力・性能は増してゆく

 

更に、爆弾自体を”壊れた幻想”として炸裂させることで、威力の更なる向上を図った

神秘の薄く、魔力に乏しい近代人ならではの戦法と言える

 

「(分かっていたが、正面切ってのぶつかり合いは絶望的…、ならば…)」

「やり方を、変えるか…」

 

 

【殺】

スキル使用:『闇の侵略者』:B   ≪CT6≫

・自身の回避補正↑1d4(3T)→4

・敵全体の命中↓1d4(3T)→2

 

 

未だ燃え盛る、辺りの炎

その揺らめきに合わせ、アサシンの姿も揺らぐ

 

「むう…?」

「へぇ…そんな真似が出来る程には元気みてぇだな…」

 

アサシンの気配が薄くなる

発する魔力すら、一般人と同量程度にまで落ちた

目の前に確かに存在する筈が、気を抜けば見失ってしまいそうになる程だ

 

気配遮断、印象操作、身分偽称

彼が生前、身に付けたスキルの一端なのだろう

 

出会った当初、アサシンを人間と錯覚させられたのも、スパイとしての技術を最大限に発揮した結果だった

 

「―――原初に、”炎”はプロメテウスが人間へ齎した恩恵だったと言う…」

 

「紀元前、アリストテレスは”空気”の存在を示唆した…」

 

「16世紀、ヘルモントは、”空気”から”ガス”を大別して捉え、ラボアジェは、”酸素”を、キャベンディッシュは、”水素”を発見した…」

 

「”炎”という”未知”は、”化学反応”のメカニズムによって暴かれ、”魔術”は”錬金術”へ…、”錬金術”は”化学”へと名を変えた…」

 

「”化学”と”科学”によって生み出された、”人類の英知”こそ…魔術に縁の無い、私の唯一の武器だ…」

 

ドイツ帝国産の銃、大戦時に暗躍したスパイ、そして爆弾の作成者

断片的な情報から、導き出される真名

 

 

 

―――フランツ・フォン・リンテレン

第一次大戦時に実在した、ドイツ帝国の軍人である

 

世界初の時限爆弾の作成者であり、当時から既に大国であった米国に単身で潜入、

蠢く敵の中で、正体を隠し、連合国側への経済介入を始めとした、物資供給妨害を行った

 

経済学を修め、人心を欺く術を学び、世界の裏で暗躍した”闇の侵略者”

魔力を抑え、人間のように振舞うことが出来ていたのも、スパイとしての技術、生前の経験故か

 

彼の業務において最大の戦果とされるのは、1916年の”ブラック・トム大爆発”

合衆国から連合国への、海上ルートによる軍需物資の輸送妨害任務

 

”鉛筆爆弾”と呼ばれる、世界初の時限爆弾

小さな火種は、貨物船団の弾薬を喰らい尽くし、物資を全て灰に変えた

損失総額は、当時のレートで200億円相当

 

この時、米国海上産業の重要拠点であった、ブラック・トム港は、TNT換算で約480tに及ぶ爆発により破壊しつくされ、マグニチュード5.0相当の衝撃波は40㎞離れた地点の窓ガラスを粉砕し、果てには合集国を象徴する”自由の女神”にまでも、現在も消えることの無い傷を与えた

(単純計算でアンチマテリアルライフルの1億倍、核爆発相当のエネルギー)

 

経済状況、社会運営に多大な損害を与えた大爆発は、当然、合衆国の世情にも大きな影響を与えた

第一次大戦時、連合国への資金援助のみで、ほぼ中立だった合衆国を、大戦の舞台に引きずり出した

内部に潜む、敵国のスパイに対する警戒心は、FBIの創設に繋がった

 

彼の産みだした爆弾は、一国の安寧をも破壊して見せた

 

「時代と共に、戦争は変化した…この科学世紀の空の下、ノアの方舟は既に亡い…」

 

其れは、人類の英知、積み上げてきた歴史の一端

魔術世界に縁を持たない男の武器は、自らが培った知識である、”科学”と”化学”

 

対し、傍らに立つ、小さな斎宮兼道士の武器は―――

 

 

 

「知らぬ方舟よりも、我は馴染みある磐船の社に頼ろうか」

 

 

【術】

スキル使用:『道術(持禁)』:C ≪CT6≫

・味方全体の防御↑2d6(3T)5

・自身のHP回復(1d6) 5

 

 

「吹呴、吐故納新…我が内なる太極よ…」

 

キャスターは深呼吸をするように、空気を取り込む

 

”吹呴呼吸”、または”食気法”と呼ばれる、道術の一環だ

特殊な呼吸法により、周囲の気を体内に循環させる、”行気”の術である

 

古い気を排出し、新たな気を取り入れる事で、肉体の活性を促す

簡単に言えば、呼吸による健康法の事だ

 

「熊経鳥申…我が内巡りて、快気せん…」

 

周囲に満ちる複合社宮の気を取り入れる、独特な呼吸のリズム

やがて慣れた風に、気の循環を終わらせた

 

「良し …では、石上の神気よ…我等を厄災より遠ざけ給え…」

 

七支刀を地に突き立て、パン、と手を合わせる

すると、燃え盛っていた呪炎が、たちどころに消えた

 

「(俺の呪炎が、…消えた!?)」

 

”持禁”、或いは”呪禁”と呼ばれる道術である

武器を以て厄災を祓う、病気治療・安全祈願の一種とされている

 

神宮を脅かす厄災である呪炎を、七支刀を以て祓ったのだろう

 

 

 

「(―――”太乙金華宗旨”…)」

「(…我が国のリヒャルト・ヴィルヘルムが訳したタオイズム教本は、心理学者、カール・ユングを引き付けたと言うが…)」

 

持禁道術による祓いを受けたとは言え、傷が全て癒える訳では無い

 

ランサーによる攻撃を受けていた分、アサシンの傷はキャスターよりも深い

呪炎の威力は爆弾で抑えていても、ほぼ満身創痍と言っていい状況にあった

 

「(…成る程、確かに魅力的ではある…)」

 

祓われた厄、呪炎の残滓

焼けた掌は風を切り、両の足は体を支える

 

「痛むであろう…大丈夫か?」

「当然です 職務を果たすまでは、休む事など出来ませんよ」

 

アサシンが”化学”を操るならば、キャスターが司るは”魔術”

本来ならば相容れない筈の、相反する2つの性質

 

現実と幻想が入り混じる戦闘スタイルは、ちぐはぐであるが故に、簡単には突破できない

 

 




道術の知識に関しては電動伝奇堂様のキョンシー×タオシーというゲームからおもっくそパクッてます、というか他にも色々な作品からパクr引用しています

この作品がこうなったのは私の責任だ、だが私はごめんなさい


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08 童遊 Lies in Reality 後

以外と早く堕ちたな~(5巡)
実は片方潰せば戦闘終了という仕掛けだったのだが、あさしん殿が集中砲火を受けてしまってな…

生き残った方は味方になってくれるよ、その内
死んでしまった彼の事は残念だったよ
スパイ設定はこの作品じゃ使いにくいからね、しょうがないね

ジョーカー・ゲームもプリンセス・プリンシパルもすこすこなんだよ


【槍】

攻撃対象:殺

スキル使用:『ルーン魔術』…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

ダメージ:13

 

 

「(中途半端に追い詰めちゃあ危険だ、コイツで一気に決めてやる…!」

心中呟きながら、大遠投の姿勢をとる

目線はアサシンに合わせながら、ずっと遠くにでも投げるような恰好だった

 

「(何を狙っている…?)」

「イくぜェ!!」

アサシンに思考する時間を与えない

腕を振りかぶり、全身の関節を一気にフル稼働

 

足首から膝、膝から腰、腰から肩へ、下半身の先から上半身の先へ”渡す”

発生した加速エネルギーを終点である右手に伝え、そこで思いっ切り振り抜く

 

「―――イヴァルッ‼」

槍投げ 中距離間遠投

槍が弾道ミサイルの如く発射される

 

遥か遠方へと飛ばすための投法であり、比較的近距離にいるアサシンには不向きだ

いずれは重力に敗北し、遠い地面に突き刺さる軌道に終わる

 

 

 

筈だった

 

「!?」

 

途中まで描かれていた緩い放物曲線が、空中で突然”折れた”

ほぼ直角に等しい角度で急降下する槍が、アサシンの元へ猛然と迫る

 

「(私の位置を、正確に…!? ”探査”?、”追尾”?、…いや、コレはッ―――)」

 

『闇の侵略者』による認識阻害をモノともせず、その槍はまるで見えているかのようにアサシンへと迫りそして…

 

ルーンによる必中の楔

呪炎の槍は、容赦なくアサシンを突き抜けた

 

「ガ、あッ…!?」

 

激痛

火傷、毒、槍傷が全て一度に牙を剥く

膝に入れていたチカラが勝手に抜け、血だまりに倒れ伏すアサシン

 

「あさしん殿ッ!!」

「…ッ!!!」

駆け寄ろうとするキャスターを手で制する

 

 

【殺】

令呪使用:回復×2(HP+14)

 

 

「―――令、呪を…以て、…我が肉体に、命ずる…」

正に死力を振り絞る声

残った令呪を全てつぎ込む、最期の意地

「ッ!、アスィヴァル‼」

アサシンの様子に気づき、咄嗟に槍を手元に戻す

仕留め損なった上に、切り札の使用まで許してしまった

警戒心は最高まで高まる

 

 

「―――最、期まで…己が責務を…全うしろ…!」

2画の令呪が消費される

余剰魔力が渦巻く

 

具体性を欠いた命令は、アサシンの意志によってその強度を補助される

流れ出る血液は一時的に止まり、令呪の魔力が代わりの燃料となる

 

「…無茶を…するでない…」

「…これが合理、…最適解です…ここで張らなければ、…何も成せない…」

 

折れていた膝に力を込め、立ち上がらせる

瀕死の体で尚も戦う姿は、数刻前に刃を交えた相手を彷彿させる

目の前のそこには獣のような荒々しさは無く、ただ、人間としての強靱な覚悟が有った

 

「…さぁ、前を、…向いて下さい…未だ…やるべき事は、終わっていないでしょう…」

「……………あぁ、…分かった…」

 

いずれ消えゆく命の燈火

そのヒカリが絶えるとしても、彼は自らのルールに従い、足掻き続けるのだろう

 

 

【術】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:14

 

 

「(あさしん殿は手負い…なれば、早期に決着を付けるより他には無い…!)」

今にも倒れそうなアサシンを見やり、七支刀を構える

そして、

 

「汝の力、借りるぞ」

「…どうぞ」

 

返答を聞いたキャスターが一歩踏み出す

着地までの僅かコンマ数秒の間に、アサシンの支援は完成していた

 

「ぬ、ォッ!!」

極小の爆音

キャスターの足元で、小型の爆弾が炸裂した

 

それは、地雷とも呼ぶべきものであったが、踏みつけた筈のキャスターには傷一つ与えることは無かった

 

味方への爆破 被害を齎さない兵器

その真の目的は、

 

「―――演、舞っ…!」

爆風による加速

踏み出しとの速度合成の結果、急速に距離が殺される

 

「んなのアリかよッ!?」

反応できたのは、槍の間合いの内側に侵入された後だった

 

「―――”落陽”ッ!!」

切断を伴わない斬撃

陽の神に捧げる為の演舞が、ランサーの身を焦がす

 

「ぐっ!!」

一瞬、痛みに怯むも、すぐさまキャスターから距離をとる

 

「(奇策を以てしても、決定打には至らぬか…)」

神楽舞が終わり、静かに構えを降ろす

そのまま後ろ跳びに、アサシンを庇うように立った

 

「よく我が意を読み取ってくれたな、感謝するぞ」

「…貴女の無茶振りは、もう慣れましたよ…」

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

 

「…んでは、そろそろもって終わらせようかの」

指をパチンと鳴らす

超高高度からトナカイがアサシン目がけて飛来する

 

「…随分と、乱暴な―――」

言葉は最後の方まで聞こえなかった

 

巻き起こる土煙

4足で立つ聖人の使い

 

結果として、トナカイは誰も足蹴にする事は無く

当のアサシン本人は、少し離れた場所に立っていた

 

避けた様子は無い

そもそも、避けられるだけの体力が残っているのか怪しい所である

 

「その格好に、トナカイ、と…やはり貴方は聖ニコラウス…もとい、サンタクロースでしたか…」

「いやあ、バレてしまっては仕方がないわい」

「”さんたくろうす”…成る程、景教の者か、道理でな…」

「(実際、分かった所で如何にもならないのが現実だが…)」

 

真名が分かった所で必ずしも突破口になるとは限らない

原典の時点で明確な弱点が存在しない英霊ならば尚更である

 

「それにしても…お前さんよく避けられたのう」

「えぇ、特殊な体術を少々…」

「嘘じゃな」

 

会話を交わしていても、”其処に居る”と認識していても、男の姿は詳細には掴めない

正体の割れたスパイ、その姿を追う事が出来ないのは、如何にも矛盾している

 

「さて? 黒蜥蜴星人直伝の体術なのですが…」

「わしの知っておるどこぞの王は不調との付き合い方を学べ、とは言っておったがのう

 その有様、いくらサーヴァントであろうとも十全に動くには難しかろう…」

 

 

「…じゃから、お主避けとらんな?」

 

「…えぇ、はい、私は一歩たりとも動いてはいない…だが事実、貴方は攻撃を外した」

「じゃなあ、…それで?」

「人の認識とは、総じて曖昧なモノ…ですから、勘違いも見間違いも、仕方ありません」

「…ふうん?」

「それは例えば”色”であったり、独特の”気配”であったり…私で無いモノを、私と思ってしまうのも、仕方が無いのです…」

「なるほど、なるほど」

 

いまいちピンと来ない様子のライダーに対し、親切に解説するアサシン

自分の能力をバラしたのは、知られても構わないからだろう

(ランサーの必中の槍には対応できないので、情報の隠匿が無意味 ライダーについては、今の攻防から認識阻害への対応方法を持ち合わせない事が分かっている)

 

「(出会いの瞬間から、儂等は術中にあったというわけか…)」

 

飛び散った血の色

神宮の燃え跡の赤

 

周囲に満ちる、サーヴァントの魔力

それに埋もれてしまうような、一般人に程近いアサシンの気配

 

印象の操作と、気配遮断スキルの兼ね合い

欺き、隠し、迫る”闇の侵略者”

 

本業が暗殺者でないとしても、彼は十分にアサシンに相応しい働きをしていた

 

 

 

≪4巡目収支≫

【殺】 HP:14

    チャージ:1/3

    スキル:『破壊工作』(残りCT3)

        『ダブルクロス』(残りCT6)

        『闇の侵略者』(残りCT5)

    ・毒ダメ3(2T)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・回避補正+4(2T)

    ・防御+5(2T)

 

【槍】 HP:45

    NP:11

    スキル:『滴る黒水』(残りCT7)

        『ルーン魔術』(残りCT6)

    ・攻撃命中時にNP+1(1T)

    ・防御ダウン3(2T)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・命中-2(2T)

 

【術】 HP:22

    チャージ:4/5

    スキル:『陣地作成』【創建状態】

        『道術(持禁)』(残りCT5)

    ・火傷ダメ3(2T)

    ・防御+5(2T)

 

【騎】 HP:52

    NP:35

    スキル:『聖者の贈り物』(残りCT7)

        『無辜なる守護者』(残りCT5)

    ・防御+4(2T)

    ・命中-2(2T)

 

 

 

≪5巡目≫

【殺】

攻撃対象:槍

命中判定:成功

ダメージ:3

 

 

「(…馬鹿正直にあの老人を狙っても、謎の幸運で避けられる恐れがある7…)」

「(ならば―――)」

 

両の手に銃を構え、右の射線にランサーを、左の射線でその足元を捉える

 

「そこ、立っていると危ないですよ…」

「は?」

 

不穏な言葉に対し、抱いた疑念

そして、間髪入れずに凶弾がランサーを襲った

 

「うオッ!!」

額と心臓に一発ずつヒットする

貫通はせずとも、銃弾の衝撃は十二分に伝わった

 

「(ハッタリを見破り動かなかったか、単に理解できなかったか…

  恐らくは後者…、ただの人間であれば片が付いているというのに…)」

 

地雷の起爆を警戒し、不用意に飛び上がったならば、無防備な空中を狙い撃ち

その場で動かないならばソレはソレで良し

 

言葉の真偽は関係無い

思いがけない唐突な忠告に、思考は一瞬ストップしてしまう

事実、ランサーは対応が遅れ、攻撃を喰らってしまった

 

「…痛ぇな、やってくれるじゃねぇか」

「まだ、倒れる訳にはいかないので…やれるだけ、やらせて貰います…」

「まぁ、こんな豆粒じゃあ簡単にはやられねぇがな」

「…銃で撃った当たったんだから、大人しく死んでください…」

 

生前の常識が覆されてゆく事に辟易するアサシン

彼にとって人は、銃で撃てば死に、爆弾を使えば簡単に殺せる存在であるのだ

 

「(銃では浅い…火力重視の爆弾で行くべきだったか…?)」

 

銃と比べ、爆弾は派手だ

威力もそうだが、音の問題が大きい

 

音は視覚より隠蔽し辛い

攻撃方法から、大体の居場所、更には対処方法に至るまで、思考を重ねれば分かる事を、他のサーヴァントに知られてしまう

 

戦闘を強制的に終結させるような場合を除いて、なるべく濫用は避けたい方針だった

 

「(…いや、大振りな攻撃では、避けられる可能性もあった…確実に、堅実に狙うべきだ…)」

 

死の淵に立ちながらも、男は勝機を探り続ける

かつての大戦の中でそうであったように、再び現世で争いに身を投じていた

 

例え、それが部の悪い賭けであったとしても

仕事であるならば、役割であるならば

完璧に果たすため、挑むのだろう

 

 

【槍】

攻撃対象:→殺

命中判定:成功

ダメージ:7

 

 

「(面倒になる前に仕留めねぇとな…)」

ランサーは静かに槍を構え、大きく息を吸い呼吸を整えた

 

感覚を研ぎ澄ます

認識阻害を緩和するため、目を閉じる 視覚は要らない

使える感覚(リソース)だけ回す

 

奴の音を探れ、と

違いを嗅ぎ分けろ、と

肌で、全身の産毛で捉えろ、と

眼球を使わずに、見極める

 

「(…来る…!)」

全身が総毛立つ

目を閉じている筈なのに、認識を狂わせている筈なのに、”知られた”

 

「―――シッ!!」

一瞬でアサシンの前へと移動し、その霊核に向けて槍を突き刺した

 

「ぐ、ぅ…!!」

切っ先が皮膚を貫き、胸筋を断ち、胸骨を突き破る

肺に穴が空いた

呼吸が止まり、意識が飛びかけるも、痛みで覚醒を余儀なくされる

 

「(………ミスったか…)」

無言で槍を抜きアサシンから離れる

 

ランサーの突進は、その速度でアサシンに避ける隙を与えなかった

しかし、不完全な索敵によって、狙いが霊核から僅かに逸れてしまっていた

 

「…や、…はり、…速い、ですね…どうも…」

「…それほどでもねぇよ」

 

狙いがズレたとは言え、元より瀕死であった事に変わりは無い

誰がどう見ても、アサシンは既に限界を迎えていた

 

「…ハ…ッ…、…ハァ…」

不規則な呼吸

片肺だけでは満足に活動できない

 

「爺さん、あとは任せていいか?」

「相分かった、…任せよ」

 

 

【術】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「(”前を向け”…、”やるべき事は終わっていない”…か…)」

虫の息で肩を上下させる相方の言葉を思う

 

「(あぁ、分かったぞ…我のすべき事、果たさなければならぬ事…)」

 

傍らに立つ男

数刻も待たない内に消えるだろう、と

 

無論、その事はキャスターも気が付いていた

だからこそ彼女は、言葉を掛けない

 

だからこそ、彼女は前だけを向き

「はぁぁぁぁぁああああッ!!」

 

ランサーに披露した神楽舞も、幾度も見せた道術も、一切使う事無く、ライダーへ接近する

 

「………」

「せぃッ!!」

 

馬鹿正直な、ただのまっすぐな振り下ろし

武の経験が少しでもあれば、欠伸が出る程度の一撃が迫る

 

「…もう、いいじゃろ」

 

振り下ろしは当たらない

避けたわけではない

プレゼント袋から出て来たジンジャーブレッドマン達が大勢で受け止めたのだ

 

「………」

 

幾ら大勢で受け止めようが所詮クッキーはクッキー

受けて、砕け、受けて、砕け…

ライダーの肩に当たる頃には、最早振り下ろしとすら呼べなかった

 

「これで、納得いったかの?」

「そうさな…納得は言っても、まだ腑には落ち切らん、と言った所か…」

「じゃろうな、戦なんぞいつだってそんなもんじゃわい」

悟ったように語るライダー

 

「でかく始まったと思ったら色んな物をめいめい好き勝手巻き込んで、気がついたら終わっとる

 まったく、勘弁願いたいもんじゃ」

 

「(…耳に痛いな…)」

世界大戦の中心にあった国の人間が此処に居た

 

「おまけに一度初めてしまえば、どっちかは大抵精魂尽き果てとる

 祭りを楽しむ余裕もないと来た…夢がなかろうよ、全く」

溜息を吐く

幾度もそういうものを見た、と言わんばかりだ

 

 

【騎】

攻撃対象:殺

命中判定:失敗

 

5巡目終了時に毒ダメによりアサシンHP:0

決着

 

 

「で、その結果がこれじゃ…のう、アサシン、…いやさリンテレン殿よ

 悔いがあるならば、今のうちに吐いておくべきじゃぞ」

 

「ふっ、…まぁ確かに…彼女へ、…言っておきたい事は…山ほどあれど、…悔いなど無いのですよ…」

息も絶え絶えにアサシンは語る

 

「限られた環境でも、やれる事は、…やってきた…どれ程の障害があろうと、私は常に全力を注いできた…」

手を抜かず、決して油断せず

状況に対して心血を注いで戦う

 

「その…結果から逃げるなど…自らの責務に対し、悔いを抱くなど…決して、有ってはならないのです…」

生前からその心情は一切変わることは無い

 

「…そんな”有ってはならん”なぞ捨てちまえ

 英雄だろうと人なんだろうと、悔いも後悔も残さずに逝けなどせんわ」

だからこそ、ライダーは痛ましく思う

 

「…例えそうで有ったとしてもじゃな

 最後の瞬間に弱音の一つも残してはならん…というのは、あまりに無情にすぎるじゃろう…」

「…やれやれ…、嘘吐きに対して…本音を出せとは……中々酷な事を仰る…」

 

キャスターを一瞥し、溜め息を吐く

そして、観念したかのように口を開いた

 

「悔いが無いというのは、本当の事だ…

 私は、出来る限りの最善を尽くし、判断に…も誤りは無かったと、自負している…」

「………」

 

「この結果があったのは、単に、…私の全力が及ばなかった…ただそれだけの事…」

「……なんというかのう、…どうして英霊にまで上り詰めるような奴というのはこう…」

帽子越しに頭を掻きながら顔を顰める

 

「…ま、ええわい …最後に一つ聞いておくがの」

「…なんでしょう…?」

 

「お主に教えを受けていた村人達へ、なんて言葉を残すつもりじゃ?

 できる限りの最善を尽くしたというのならば、無論考えておるのじゃろう?」

「…有りませんよ、そんなもの…スパイが…痕跡を残して、どうするんです…」

「じゃが、あの村人にとっては教師であった」

「そうであるように振舞ったのだから、当然の事でしょう…」

「…本当にそれだけかの? そうであるように振る舞い、ただ利用するだけだったと?」

「被害を抑える為に統制し、油断を誘うために演じた…彼女と違い、私はこの国にそれ程愛着は無いのですよ…」

 

「……やれやれ、お前さんがそう思っておるならそうなんじゃろうな」

肩を竦めるライダー

「その言葉…そっくりお返ししますよ…」

対し、少しの苛立ちを滲ませるアサシン

 

「先程から、貴方は私を…いや、…”スパイ”という人種を勘違いしている…」

「勘違い…?」

「闇の中に潜み、忠実に使命を果たす侵略者…我々は、そういう生き物だ…」

 

ソレは信条であり、哲学であり、指針

フランツ・フォン・リンテレンと言う男を現す全てだった

 

「私は、己の背負う責務に従って行動した…其処に余分な感傷は一切無い…」

 

「私は、他人に嘘はついても、自分は偽らない…

 たかが聖人”如き”が、私の全てを見透かした心算でいるのなら、それは単なる思い上がりだ……」

 

死の寸前であるというのに、かつてない気迫の双眸

影に立ち、己が責務を全うする、闇の侵略者

結局の所、彼はどこまでも、誇り高い”スパイ”だった

 

「……そうか」

嘘吐きの偽らざる言葉を聞く

その目を逸らさずに見る

スパイである事こそ、この男の矜持であったのなら

 

「儂の目も曇りおったわ…あい済まなんだの」

「…いえ、所詮は消えゆく者の言葉…気にしないで下さい…」

「…いいや、気にするわい…これでお前さんの、本音という”痕跡”が残ったわけじゃからな…」

 

「…あぁ、…それはマズい、な……悔いが…残ってしまう…」

感情を出してしまった

余分な本音を語ってしまった

最後の最後に、己が使命を汚してしまった

 

自らに課した完璧を、自分の手で傷を付けてしまう

これでは、悔いが無いと言った自分に嘘をついてしまう事になる

 

 

「(それは……嫌、だな…)」

 

 

永遠とも思える、問答の果て

遂に、終局は訪れる

 

「―――っ…」

男、アサシンが血を吐きながら遂に膝を折る

霊核の破損、完全な致命傷

令呪で遠ざけていたソレが、今になって降りかかる

 

「(…限界も限界、か…)」

 

黒いスーツを赤に染めながら、その場に崩れ落ちる

スキルで薄化していた気配が更に薄くなる

消滅は秒読みだ

 

「…キャスター……申し訳ありませんが、私は、ここまでのようです……」

「…あさしん殿…」

 

「…貴女は、…まだ戦う、…のでしょうね……国の…、民の為に…」

「あぁ」

「…今や貴女を、…誰も…、覚えていないというのに?…」

 

「無論だ」

即答だった

死に際の問いに、何一つ迷い無く言い放つ

 

「…守った先に、…何も無かったとしても…?」

「当然だ」

再び、間を置かずに吐き出された答え

やはりか、というような表情を浮かべていたアサシンは、呆れたように笑う

 

「…結局…」

 

「…結局、…貴女の事は、よく分からなかった…人間の心理を幾ら学んだところで、こればかりはどうしようもないのでしょう…」

「…それはお互い様よ、斯様な短い間では、互いに何も分かるまい…」

「…」 

「だがな…分からぬが、これだけは言える…」

「…?」

 

 

 

「実に、美事な働き振りであった、―――暫し休め」

 

 

 

「…………」

数秒、呆気にとられた表情を浮かべていたが、

 

「…まさか貴女から、そんな言葉を聞けるとは……」

心底以外、とでも言いたげな声を発した

 

「…”休め”、か……全く、散々…、振り回しておきながら…―――

 …程度が、違うとは言え……私の、仕事仲間というモノは、…どうして…こうも…」

力を抜き、座り込む

既に、その足元から消滅は始まっていた

 

 

「(…残してしまった後悔は仕方が無い…であれば、せめて…)」

印象という痕跡は残る

残ってしまうのならば、せめて、役立つように意義のある形で

 

「…まだ、…戦うと、国を…守ると言いましたね?…」

「おうとも」

 

「…だったら…」

自分が出来なかった事を、相方に託す

 

「…だったら、…目的を履き違えない事です…ここで…、こんな所で倒れる事が…、貴女の望みでは無いでしょう?」

「あぁ、…だが…」

「…私の事は、気にしないで下さい……消えゆく者を思った所で、如何にもなりはしない…」

余分な感傷は要らない

合理性を追求する

相方が目的を果たせるように、指針となる意志だけを置いて逝く

 

「…分かる…筈だ……経験済み、でしょう?…お互いに…」

「………」

正論に風穴を開けるのは、感情論

だが、感情論もまた、正論によって両断される

 

「…やれやれ…貴女の暴走に、付き合った結果がこれだ……私の、…プランを、…悉く台無しにしてくれましたね…」

「…申し訳も無い……我の決断が、汝を…」

「…自分のせいと思っているのなら、…その通りです……反省し…、そして…改めて下さい…」

全てはお前の責任だ、と 

故に行動基準を改めろ、と

言葉の内容とは裏腹に、その口調は優しく諭すようだった

 

「…改めろ、と…」

「…特に、どうしろとは言いません………言っても、聞かないでしょうし…」

頭は悪くないのだから、考えて行動しろ、と

悪態を吐く割には、表情は穏やかだった

 

「…だから、せめて…合理的に、…効率的に動いて下さい……負けて死ねば…何にも成らない…、…知っているでしょう?…」

「…………あぁ……そう、だな…」

 

「言いたい事は、それだけです…」

「…私は、…また、…最期まで…職務を果たせませんでしたが……貴女が、国を守れるよう…祈っています…」

「…世話を掛けたな…黄泉にて、我が行く末を見ていてくれ…」

 

「…期待、しています……Auf Wiedersehen、――― Kamerad…」

最期まで、合理的に、余分な感傷は無く、言いたいことを言いきった

自分の遺す痕跡を、残してしまう痕跡を、自らの為に相方へと託した

 

安堵から眼を閉じ、戦友への別れを小さく呟いて男は消滅した

僅かに残留した粒子が風に舞い、何処かへ去ってゆく

 

フランツ・フォン・リンテレン

第一次世界大戦時に暗躍した、ドイツ帝国のスパイ

 

単身で合衆国に乗り込み、物資供給、経済、労働情勢等、あらゆる面で妨害工作を仕掛けた、貌無き闇の侵略者

 

連合国側である合衆国に大打撃を与えるも、その活躍を妬んだ同僚が原因となり、拘束されてしまう

 

後に解放され、祖国へ帰郷するも、彼の存在を覚えている人間は殆どいなかった

 

一度素性の割れたスパイがそのまま復帰出来る訳もなく、彼は祖国ドイツでは無く、移住先のイングランドにて、その人生を終えた

 

自ら何を成す訳でも無く、ただ粛々と、息を殺して余生を過ごした

闇を顔に塗りたくり、光を目に宿し、まるで、最期までスパイとしての役目に殉じるように

 

国の為に戦い、国に忘れられた男が何を思い、何を求めてこの聖杯戦争に挑んだのか

ソレは彼にしか分からない

 

「安心せい…、汝は、十分に役目を果たした…」

共に戦った戦友は、その死を悼む

 

「―――だから、休め……同じ、歴史の闇に沈みし友よ…」

 

荒れ果てた森の中で、英霊達は佇む

7騎の一角は、此処に崩れた

 

 

 

一人のスパイが場を去り、間も無く

戦火の余韻が後を引く、かと思われた

 

「むっ…」

キャスターが何かを察知したかのように、地面に目を向けた

 

そして、間を置かずに、両足を支える大地が、グラグラと揺れる

セイバーを打倒した時にも似る地震が、再び訪れた

 

「むぅ…あの時と同じ揺れ…」

「またか…」

 

「…地が、啼いておる…」

七支刀を地に突き立て、自らの支えとする

 

地震大国である日本の領域であるならば、この島においても珍しい現象ではないのかもしれない

 

だが、2回、短いスパンで連続して起きている

ただの偶然か、作為的な要因があるのか

疑問の影が差すが、答えは得られない

 

やがて、数秒後

地震は止まり、時は動き出す

 

「…啼き止んだか」

「そのようじゃな…」

 

アサシンの消滅、2度目の地震が通り過ぎた現在

突き立てた剣を杖に変え、キャスターは立ち続ける

地震は終息したというのに、その両足は微かに揺れていた

 

心は揺れずとも、肉体は別

 

斎宮とは、神託を受け、天と国を繋ぐ者

しかし、如何な神の加護があろうとも、結局の所、人の身である事に変わりは無い

 

「(先の揺れは曖昧だったが、少しは掴めたぞ……やはり、良くないモノが蠢いておる…)」

 

感覚が告げる

英霊が消滅する際の、魔力の流れ

吸い込まれるように、何処かへ向かうのを感じた

 

そして、その先に待つモノは、どうしようもなく不吉である、と

 

「さて…と」

「これで力量の証明は済んだかの」

 

「そうだな…どうやら、汝等の力は、我等を破る程に強固なる物らしい…」

 

「だがな、それだけでは足りぬ」

「ほう?」

「…何が足りねぇってんだよ?」

 

「―――まだ、”力のみ”ではな」

キャスターは七支刀を地に突き立てたまま、手を合わせ、祝詞を唱える

 

「―――ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、 …布瑠部 由良由良止 布瑠部―――」

 

”布瑠の言”

十種神宝と共に祭祀に用いる祓詞である

奉納殿である石上神宮が陣地として有る以上、効力は十分に発揮される

 

「清き水の龍神に願い奉る…

 焔滴る十束の剣より出でし2柱よ、我が血を以て叢雲を成し、其の罪業を問い給え―――」

 

突き立てられた七支刀が次第に輝きを増す

魔力の奔流がキャスターを中心に発生している

 

「糾いし禍福の厄神に願い奉る…

 黄泉が死穢より出でし災禍よ、我らが虚実、其の真偽を糾し給え―――」

 

大地を振るわせる程の大規模な物となると、宝具の発動以外有り得ない

 

 

「―――『神明裁判・盟神探湯(しんめいさいばん・くがたち)』―――」

 

 

戦闘で流れたキャスターの血液は体から離れ、天に吸い込まれるように宙を舞う

一定の高さまで登ってゆくと、まるで燃え尽きるかのように最後の光を放ち、消えた

 

「安心せい、不当な裁きは一切無い…その正当性を此処に保障する」

キャスターが腕を振るうと、変化は直ぐに起こった

 

点々と降り注ぐは、雨

時に恵みとして、時に罰として降り注ぐ、天の表情(かお)

 

数秒もしない内に、雨粒は周囲の全てを覆い尽くしていた

当然、2騎も、キャスターもずぶ濡れとなっている

 

そも、”盟神探湯(くがたち)”とは、古代日本の裁判方式の一つであり、

予め、罪人に身の正当性を神に誓わせ、熱湯に手を潜らせる、という物である

 

勿論、正しかろうが間違っていようが火傷は避けられず、基本的に自白を促すための、謂わばインチキ裁判も良い所の代物である

 

しかし、現在降り注いでいるのは、雨

熱湯どころか、体温を奪う水である

 

「裁きを下すは、我に非ず…己が意思のみが罪状を決定付ける」

 

「後ろ暗き感情は、謂わば燃料よ 

 降りしきる雨はすぐさま、煮えたぎる湯となり、その身を焼く…」

 

「条件は我も同じ…裁きは公正な物でなければならぬ故」

確かに、この場のサーヴァントは全て、雨でずぶ濡れだ

判事であれ、被告であれ、その発言に偽りが欠片でもあれば、全身が焼かれる事だろう

 

「なるほどのう…」

「まだ戦うって訳じゃあ無さそうだな」

 

正当な裁き、対等な条件

神職に仕え、罪人を正しく糾すための宝具

其処に冤罪は無く、ただ人の罪のみがある

 

「此よりは裁き…我が問いに、その一切を答えるべし…」

 

詰まる所、彼女はこう言いたいのだ

―――”意志を示せ”と

 

強き力は理解した

ならば、其れを振るうに値する胸の内を曝け出せ、と

 

厳粛な言葉と共に、最後の裁定が始まる

 

裁きの雨は絶間なく、あらゆる者を覆い尽くす

この場において武力は無意味、真意の言論こそが力となる

 

「汝等の言葉、汝等の信じる者に誓え…

 解部の長たる、我等一族が名において、その真偽を問う!!」

 

 

「―――”汝等の、戦う理由を答えよ”―――」

 

 

「世界を救うため 滅びゆく人理の焼却を防ぐためじゃ」

子供達の守護聖人として、人の世を救うマスターを支えるため、と

 

「世界を救う手伝いと、強い奴と戦う為だな」

猛きケルトの戦士として、立ちはだかる魔術王の先兵を相手取るため、と

 

「…そうか」

 

問い

そして、答え

結果など、分かりきっていた

 

裁きの雨は、誰の身を焼くこともない

嘘偽りなく、その言葉は何よりも真実を指し示す

 

それこそ、大仰な宝具など必要は無かった

キャスターですら、そのような事は分かっていただろう

 

 

 

「―――”言葉”とは…」

 

「発声を以て、真の力を宿す

 力を持った真実は、いずれ現実となる…」

 

「―――其を我等は、”言霊”というのだ…」

 

笑みを浮かべ、腕を軽く振るう

そして、

 

「―――ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、 …布瑠部 由良由良止 布瑠部―――」

 

「叢雲、明奪い…道に障りのあらん時、級長戸辺の神現れば…」

 

先程まで降りしきっていた雨が止み、一陣の風が、体を覆う霊水を一瞬で大気に還した

 

神風により、暗雲は去る

身を覆う災禍を、彼方へと追いやった

 

「答えは得た…とんだ茶番に付き合わせてしまったな、許せ…

 償いにもならぬが、せめてもの、だ…」

 

恵雨と神風は、勇者を言祝ぐ

戦闘など無かったかのように、負った傷が、徐々に癒えてゆく

 

「構わんわい 元よりこれで済むなら願ったりじゃ」

「そっちが納得したんなら問題ねぇよ」

 

祭祀の場である神宮はその姿を薄れさせてゆく

七支刀も、既にキャスターの手から消え失せていた

 

彼女に、これ以上戦う気は無いようだ

 

「降伏だ…敗北を受け入れ、

 此れより我は、汝等の軍門に下ろう…」

 

「ふう……これでようやく一件落着、かの」

「そして…、だな…厚かましいようだが…… 我も、歴史の護り手達の同胞として戦わせてはくれぬか…?」

改めての共闘の提案

キャスターも意志を決めたのだろう

 

「戦力が足りん以上願ったり叶ったりじゃ、…とはいえ…」

ランサーを一瞥する

 

「俺は構わねぇさ ……相棒を殺った俺が言うのもアレだけどよ」

「立ち位置的には、儂らの方が助力を乞うている側じゃな

 …ともあれ、一旦ここを離れて情報を整理すべきかと思うが…」

仲間が増えたのは喜ばしい事だ

しかし、状況にはまだ問題がある

 

「ここまで激しくやり合った跡地でのんびりしておれば、他のサーヴァントが襲いくるやもしれぬからの」

「あぁ…そうだな…、追手の事も、考えねば…、っ…」

 

突然

キャスターがその場に崩れ落ちた

 

「む、どうしたんじゃ?」

「…少々、無茶をし過ぎた…霊力が、足りぬでな…、暫し動けん…」

 

道術、神宮、裁雨

陣地によるバックアップがあったとは言え、魔力消費は無視できない

 

「最後の宝具が止めじゃったか…やれはて、どうすれば良いキャスターよ」

「済まぬが、暫し此処で休ませてくれ… 然らば、土地の龍脈から直に回復しよう」

「了解じゃ」

 

キャスターは動けない

移動するよりも、神宮創建に使った龍脈の真上である現在地に留まる方が回復しやすいのだ

2騎としても、このままキャスターを放っておく訳にはいかない

 

他のサーヴァントの奇襲に備えつつ、絶え間なく周囲を警戒する

襲ってくるのならば話は早い

 

詳細不明の敵を攻める事と、勝手に攻めてくる敵への対処では、心構えが大分違うからだ

 

「…なぁ、アンタはあの地震について何かわかることはねぇか?」

何の気なしにキャスターに尋ねる

一戦を終えたという油断を装う、ソレで敵が餌に掛かれば万々歳だ

 

「あの”地啼き”、か… ”なゐの神”については専門が別だが…我から見た限りを話そう」

「頼む」

「まず、先のアレは、少なくとも自然のものでは無い」

プレートの移動衝突によるモノでは無い

 

「我はかつて、大いなる地啼きを見たことがある…だが、明らかに勝手が違うのだ

 この手の地啼きは、前兆として龍脈に乱れが生ずる… しかし、先の2度の揺れには、其れが無かった」

 

キャスターの言う事は、言い得て妙だ

大陸プレート同士の衝突を言うならば、土地に連動して、龍脈も乱れるだろう

 

龍脈の乱れが無いならば、自然現象でいう所の地震では無いという事だ

 

「だがまぁ、何と言うか…乱れ…どころか、”研ぎ澄まされる”ような…妙な感じではあったが」

「つまりは自然現象ではなく…その上、収斂していっている…?」

「うむ、…まるで刀剣を叩き、鍛えるような…」

「んで、そのトリガーはどうやらサーヴァントの脱落……やっぱ聖杯か?」

「願いを叶える杯…本来ならば、我等を糧に顕現するのであろうが、この戦はまるで分からぬからなぁ…」

 

脱落した英霊の魂をくべる事で聖杯は成る

果たして、戦争の末に研ぎ澄まされてゆく物は真なる聖杯なのか

 

「(まあ片隅にとどめておく程度はしておこうかの)」

 

 

 

「…とは言え、懸念は消えんな…」

 

地震に伴って発生する、最も代表的な二次災害

―――それは、津波

 

「災禍を齎すは、地の揺れだけでは無い

 大海でさえも、容赦なく牙を剥く…あの光景は、今でも忘れられん…」

 

古代日本、飛鳥時代

日本書紀に残る、最古の大地震の記録

 

111当時、大規模な揺れにより、多くの人的・物的被害が生じた

事態を重く見た時の天皇は、国中に”なゐの神”(地震の神)を祀らせたという

 

「杞憂であれば良いのだが…」

「さっきの奴時は何ともなかったみたいだが」

「心配ならば見てこようか

 幸いにして儂はライダーゆえ、その手の確認ぐらいはどうとでもなるぞい」

「済まぬが、頼む…

 我は暫し、この場で傷を癒す……村人達も、敵に見つからぬよう手を打っておこう」

 

 

「然る後、汝等の後を追う

 だから―――」

 

 

「共に、戦うと約束する

 必ずや、汝等の力になると、誓おう」

 

嘘偽りなく、曇りなき瞳で

その力を、人の歴史の為に振るうと宣言する

 

 

仰向けで大の字になりながらでなければ、多少は格好が付いたのだろうが

 

 

「うむ、心得た」

目を合わせ、頷く

 

「…では、行こうかのランサー」

「応」

 

「さて、目的地も決まったとなれば急ごうかの」

しゃんしゃんしゃんとベルが鳴りながらトナカイとソリが降りてくる

「じゃあ爺さん任せた」

ライダーに言いながらソリに乗る

 

ソリに乗りキャスターを気遣ってゆっくりと上昇

「じゃあ、行くぞい!」そのまま上空で目的地に向けて加速した

 

 

 

 

 

 

「歯痒いな…何も出来んというのは…」

 

戦いを繰り広げた跡地

鉾を交えた誰もが立ち去った場所

 

大の字で寝転び、空を見上げる

傷を癒す都合もあるが、龍脈との接触面を広げ、霊力の供給を受けやすくするためでもあった

 

「波乱、であったな…」

 

現世に降り立ち、たった数刻

あさしん殿と出会い、”人類史の救い手”達と出会い、言葉を交わし、争い、そして、―――敗れた

 

僅かな時間、圧縮された体験

走り抜けるように記憶が想起される

 

『…大胆な、自己紹介、ですね……随分と、………随分なヤパーナリンだ…』

 

『ですが、その豪胆さは頼もしい

 提案があります、―――同盟を組みませんか?』

 

『えぇ、私の情報も、全て提供しましょう…信用を得る対価であれば、安い物です』

 

”すぱい”…、”隠す人”…か

 

謀は苦手ゆえ、小細工など出来ぬ我だが、あの者は、全て内に抱えたまま、裏の裏までを推量る性質であった

 

『―――…私は、私の為に戦います』

 

『…生前の心残り、代替と言えるかも分からないが…果たせなかった職務の続きを、この戦争に求めた…』

 

『あの時…』

『生前、同僚の回線が傍受されなければ、私が拘束を振り切る事が出来れば…』

 

『或いは、国の為に何か出来たのでは…?

 大戦の勝敗を変える事は出来ずとも、流れに棹差すことぐらいは出来たのでは…?』

『…傲慢だが、そう、思わずにはいられない…』

 

歴史は勝者が創る

 

厩戸皇子が創りし、正しき記録は全て蘇我に灼かれた

後に蘇我が遺した記録は、我等一族を全て否定する偽りであった

 

我は、偽りの事実として描かれ

あさしん殿は、描かれる事すら無かった

…歴史の、敗北者

 

『同僚を恨んでいないと言えば嘘になる…

 エニグマの開発も後年の話だ…だが、それはあくまで原因の一端に過ぎない…』

『最終的にジョーカーを引いたのは、…私だ…』

 

『人生に引き直しは無い…失態を、敗北を、…大人しく受け入れよう』

 

『責任や、名誉の問題では無い…これは、私自身のプライドの問題だ』

 

『戦う理由など、それだけです…招かれたこの戦争(ゲーム)、挑む価値は十分にある…』

 

全く分からぬ言葉の羅列

正直、内容の半分も理解できなかったが、感情は十二分に伝わった

 

かつての仲間を恨んでいよう

理不尽への憤りもあるのだろう

それでも、己が職務への完璧性が故に、其を受け入れたのであろう

 

 

ならば、我は?

 

 

蘇我への怒り、仏への怒り

未だ晴れぬ、一族を奪った事に対する、憎悪の念

忘れる事など、ましてや、消える事などは決して無い

 

『…は? 

 村人を守る? 本気で? 

 他のサーヴァントから? 庇いながら? 戦うと?』

『…………正k…本気ですか?』

 

偽りの歴史に名を刻まれた我を、今の時代の者はどう思うのであろうか

 

奸計を用いて、権力争いを引き起こした外道か

寧ろ、記憶から薄れ、我が存在など歴史から薄れようか

 

どのような結果にせよ

予てより、気にはなる処であった

 

『…人には、向き・不向きがあります… ”コレ”は、貴女には不向きです』

『理由?  良いでしょう、教えて差し上げます』

 

『貴女の心理傾向を見るに、嘘は吐けないタイプ、馬鹿正直も良い所の性格だ

 美徳と言えなくもないが、この場合は機能しません

 そんな貴女が村人にどう説明するのです? まさか1から10まで正直に話すと?

 有り得ませんね、論外です

 十中八九疑われます、警戒されます

 そんな状態で、敵が攻めて来たらどうします? 

 避難させますか?無理ですね

 信用されてない貴女の言う事を、誰が聞くというのです?

 しかも、庇いながら戦える程、貴女に技量があるのですか?

 そもそも――――』

 

言いくるめられてしまった

…まぁ、事実なのだから仕方が無い

 

『…どうしても、彼らを放っておけない、と?』

『……分かりました、ではこうしましょう』

『貴女の代わりに、私が彼らを守ります

 ”業務分担”です 私は私の、貴女は貴女に出来ることをやりましょう』

 

『もし、私が失敗した場合は…その時は―――』

 

もしや、気を遣わせたか?

我が境遇、一切包み隠さず話したせいか?

 

民が我に対し、抱く思い

我が民に対し、抱く想い

必ずしも、双方が同じである事は無かろう

 

「…頭が回り過ぎるのも、困りものよな…」

 

思いの方向がどうであれ、良い

民が我をどう思うが関係無いのだ

当初より、指針はただ一つ

 

神の声を聞き、国と天を繋ぐ

斎宮として、在るべき姿を体現する

 

「…汝と、同じよ…」

 

共に、国を護る立場にあった者よ

共に、歴史の闇に消え去りし者よ

 

”業務分担”、と言ったな

汝が己の意志に殉じた様に、我は我の道を、どこまでも愚直に征こうではないか

 

「―――”神の運び”有らば、また会おうぞ…」

 

再び動くに足るまで、成すべき事に至るまで

黄泉の国に旅立った、彼の者の安寧を祈ろう

 

休息に専念するため、眼を閉じようとした、その時

 

 

 

「―――サーヴァント・キャスターだな?」

 

 

 

声が、聞こえた

 

「何者だ…?」

 

…敵?

いや、英霊にしては、反応が弱い…?

…では、人か?

 

「…姿を見せよ、貴様は何者だ?」

「これは、失敬した…」

 

木陰から姿を現したのは、女

宝石の如く紅い眼に、白き衣

 

…人、…か?

人にしては、何処か妙な…

 

何か、宿っているような…

それでいて、常人のような…

 

「私の名は、ジャック…―――ジャック・ブライトだ」

口を開く、名を語る

 

「あぁ、そのままの体勢でいい… 情報が欲しいのでな、時間を貰えるか?」

 

 

 

―――物語は、別の側面からも動き出す

 

 

 




≪捕捉≫
ジャック・ブライト
SCP財団の博士
禁止事項が多い人
変な首飾りで変になった変な人

死んでも良い奴だから便利
例の首飾りでブライト博士になっている奴は眼が紅くなるという自己設定(分かりやすさ重視)

物語冒頭のブライト博士とは別の個体
記憶の共有とか無いので、こっちはこっちでで調査しに来た


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≪裏側③≫ スプートニクの世界

アサシンのマテリアル更新
ジョーカー・ゲーム観た後、スパイかっけーなと思って作った
もうちょっと本編で有能さを出したかったけどなぁ俺もなぁ



≪アサシン≫

真名:フランツ・フォン・リンテレン

性別:男

身長/体重:172㎝/68㎏

属性:秩序・善

筋力:C 魔力:E 耐久:D

幸運:C 敏捷:C 宝具:C+

 

《クラス別能力》

・気配遮断:C

…サーヴァントとしての気配を断つ

 自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる

 

・道具作成(爆弾):A

…魔力を帯びた器具を作成できる

 リンテレンは爆弾・爆薬に特化しており、それ以外の道具を作成することが出来ない

 作成した爆弾はC~B+ランク相当の宝具となる 

 

《保有スキル》

『破壊工作』:A    ≪CT7≫

…戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力を削ぎ落す才能 トラップの達人

 ランクAならば相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能にさせる

 集団戦闘において六割の損害は大壊滅と言える

⇒敵全体の攻撃↓(1d6-3T)+火傷付与(3ダメ-3T)

   

『闇の侵略者』:B   ≪CT6≫

…生前に習得した、スパイとしての技術の集大成

 化学、心理学、経済学、隠密諜報、宗教等に関する知識・技能に補正が掛かる

 通常においては、自らの情報を詐称・隠匿する方面に使用されている

 魔力の低い近代人である事に加え、気配遮断との兼ね合いによってはサーヴァントとしての特性すら欺く事が可能

⇒自身の回避補正↑1d3(3T)、敵全体の命中↓1d3(3T)

『ダブルクロス』:B  ≪CT7≫

…裏切り者、欺く者

 信頼関係の築き易さ、瓦解し難さに補正が掛かる

 相対する者に敵愾心、害意、悪意等の感情を悟らせにくくなる

⇒単体にスキル封印(1T)+防御↓1d6(3T)

 

 

《宝具》

・『甘い爆弾(ズューズ・アッシェ)』

ランク:C~B+ 種別:対軍宝具 レンジ:15 最大捕捉:50人

…世界初の時限式爆弾

 神秘度の薄い現代兵器だが、道具作成スキルにより、魔力を伴った幅広い用途の宝具となる

 リンテレンが手を加えれば、その分威力・性能は増していく

 作成できる爆弾に限りは無く、時限式の物以外も宝具として作成できる

第1次世界大戦時、合衆国の自由の象徴に傷を与えた、悪夢の象徴である

⇒・敵全体に攻撃5d6

 ・”誘爆状態”を付与(スキル使用・攻撃の度に判定を行い、失敗した場合”3”ダメージ)3T

 

 

《人物》

第1次世界大戦中に活躍したドイツ帝国のスパイ

銀行家であった家族の縁で、合衆国にコネクションを持っていたリンテレンは、連合国への物資供給を妨害するため、ビジネスマンの仮面を被り、合衆国へ渡る

 

ニューヨークへ到着したリンテレンは早速ダミーの会社を立ち上げる

そこで彼は、表向きは信託会社、裏では時限発火装置の開発に勤しんだ

 

そして来たる1915年、リンテレンの作り出した”鉛筆爆弾”は合衆国の貨物商船36隻を壊滅に追込み、実に1000万ドル(当時のレートで約200億円)相当の被害を叩きだした

直接的だけでなく、時のメキシコの独裁者を裏から支援し、合衆国内の情勢を乱す、ストライキを推進する団体を設立し、連合国から合衆国への支援を遅らせるなど、間接的な妨害工作も行った

 

しかし、この活躍を快く思わなかった同僚の不満をイギリス海軍に傍受され、リンテレンは3年間敵国であるアメリカに拘束されてしまう

後に解放され、故郷であるドイツに帰郷するも、最早忘れ去られた存在となったいた彼は、イングランドへ移住し、そこで生涯を閉じた

 

 

 

 

―――アサシンの情報を更新

キャスターについては、まだ生存により後ほど追記しよう

 

「…大体は把握した」

抜かりなく戦闘とステータスのデータを記録しつつ、彼女の言葉に耳を傾ける

 

アーデルハイト・フォン・フラウアルペン・フリューゲリンク

現在、私がデミ・サーヴァントとして、借り受けている肉体の持ち主

 

有する起源は”傍観”

ありとあらゆる事柄の観覧を許された代わり、一切の介入を許されない少女

 

祖先の残した大量の資料を元に、大規模儀礼式である聖杯戦争を短期間で組み上げた

そして、実行当日、些細なミスで失敗し現在に至る、と……

 

事態は概ね理解できた

…いや、正直理解できない事が大半なのだが

強引に納得せざるを得ないのが現状だ

 

「…」

 

此処に私が居る時点で、まともな状況では無い事は分かっていた

それにしても限度があるではないか

 

聖杯戦争を創ろうとした

支援してくれる組織と協力しつつ、儀式の舞台をも組み上げた

 

そして来たるべき実行日

些細な失敗により、集大成である儀式は暴走

本人もよく分からないまま、このザマと

 

『とまぁ、そんな感じなんだけど』

「尚更、我々がこのような状況に陥っている原因が掴めないではないか…」

『そりゃあ、呼ぼうと思って呼んだわけじゃないし…』

 

私には当て嵌まるクラスが無い

 

生前、将軍として戦の指揮を執った事もあるが、ただの一度きりであり、結果は無残なものだった

聖杯戦争においても、7つのクラスに当てはまる戦闘スタイルすら無い

仮令、呼べるとしても、誰も呼ぼうなどとは思わないだろう

 

『…』

 

しかし、

結果、7騎とは別の枠で召喚された

故に、現状は極めて異質と言える

 

戦争のシステムからして、オリジナルをアレンジした個人製作の紛い物である事に加え、制作した本人でさえ、何が起きているか把握できていない始末

 

この事態を全て偶然とするならば、否定は出来ない

仮定を幾ら並べた所で過程に過ぎず、真実には至らない

 

「ふぅ…」

 

溜め息をつく

複雑な心境に、静粛な書架の回廊は何一つ応えない

 

イレギュラーがどれほど重なろうが、私のやる事は変わらない

歴史を記す事こそ役割であり、どれ程の障害が立ち塞がろうと揺らぐことは無いのだ

 

起りを、衰退を、滅亡を

星の司書は、歴史の始まりと終わりに立会い、全てを書き連ねる

それが、出来損ないの聖杯戦争であってもだ

 

『…一つ、聞きたいんだけどさ、随分と”記録”とか”歴史”に拘るよね? ソレも、セイヴァーって奴の役割?』

「役割も何も、最初から私は”Saver(記録者)”として此処に居る」

『…うん?』

「単なる記録である”record”よりも、保存の意味合いも兼ねる”save”の方が、当て嵌まるだろう」

 

ただ結果を記すだけでは、歴史とは言えない

公正な視点で誰かの立場に寄る事無く、後世に継がれる事により、初めて意味を持つ

 

本来の意図から外れた記録など、偽史に過ぎない

 

『あー…成る程、それで”Saver”か… てっきり、救世主的なアレかと勘違いしてたよ』

「残念だが、私は世界を救わない そのような大層なことは、力ある者が行うべきだ」

 

…ある意味、この立場は何よりも残酷といえる

死にかけの人間が居ようと、助けもせず、息絶えるまでの一部始終を傍観するだけに等しいのだから

 

『ふぅん、成る程成る程…そうかそうか』

 

一人で何を納得しているのか

 

『だからだよ、…だからこそなんだよ、セイヴァーさん』

「何がだ」

『アンタが呼び出された理由、分かった気がする …多分だけどね』

「そうか」

『何だ、興味ねぇのか』

「無くは無い、が ―――動きがあった、また一悶着有りそうだ」

『しょうがないなぁ… じゃあ答えはCMの後で』

「そんな物は無い」

 

 




繋ぎでしかないので一際短い
需要無くとも設定説明には必要なのだ


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09 導き & ≪裏側④≫ Faith

プレイヤーさんが探索判定に成功したので寄り道です
と言っても、アーデルハイトについての情報を得る程度
キャラクターのRP補助に使う話

短いんで裏側の話と抱き合わせ


「さて、と…こっちには何もないっぽいのう」

四方八方、周囲をくまなく見回す

 

「なんか有ったかの? ランサー」

「…いや、特になんもねぇな」

振り向いてライダーに向かって首を横に振る

 

宝具により、数秒も掛からず海岸へ到着した2騎

キャスターの懸念に反し、津波どころか異常の類は見当たらない

 

「(被害は無し…、予兆も無さそうじゃな…)」

 

津波までののタイムラグもあるかもしれないが、今の所、水平線のも至って穏やかである

 

「こっちは外れのようじゃなあ… となると、今度は向こう側の方にいってみようかの」

「それじゃあさっさと確認しに行こうぜ」

 

 

≪探索判定≫

・【騎】→成功

・【槍】→失敗

 

 

目に映る遠くの海岸を目指し、再び宝具で飛び立とうとした時のことだった

ライダーは眼下の光景に違和感を覚えた

 

「む」

「どうした?」

 

長い海岸を隔てるように流れる河川

その岸辺に、僅かな魔力の残滓を感じた

 

「いや、何というか…微かに魔力…の反応が…」

「魔力…?」

 

サーヴァントのような強大なモノとは正反対の、今にも消え果てそうな微弱な流れ

集中しなければ見逃してしまうレベルだ

 

「…どっかの魔術師当たりがなんかやったのか?」

「うーむ、分からん」

 

感覚からして、脅威となる可能性は低い

しかし、

 

「(どうにも弱っちいのう… しかし気付いた以上、調べてみるべきじゃろうなあ)」

 

異常は異常である

2騎は僅かな魔力反応の正体を確認すべく、河川へと移動した

 

 

 

 

穏やかな流水が絶え間なく流れている

 

遠い山岳地帯から広大な海原へと続くその様は、自然のサイクルならではの美しさを感じさせる

 

最も、河岸に、巨大な消えかけの”陣”が描かれていなければの話だが

 

何らかの魔術に用いたと思われる、怪しげな模様文字の羅列

見る分には、微かな魔力の痕跡を感じるのみで、何かが起こるといった事は無さそうだ

既に使用済みの物であることは確かだろう

 

一体、何の用途の陣なのか、想像に難しくは無い

 

「これは…アレじゃな?カルデアに有った奴と似ておる…

 英霊を召喚するためのサークルって奴じゃな」

「あぁ、もう使い終わってカスみたいなもんだが」

 

「(…召喚された奴が、この近辺に潜んでなければ良いのじゃが)」

 

 

≪探索判定≫

【騎】→成功

【槍】→成功

 

 

周囲に何者かの気配は無い

気配遮断を持つアサシンが脱落した今、不意打ちの可能性は低い

 

そうして辺りの探索を続けていると

目立つ魔法陣の周囲に、ゴミのように散乱する紙片に目が止まる

 

ボロボロの紙切れは、本か何かの切れ端か

まるでワザと散らかしたかのような荒れ様だった

 

「む?」

紙切れを拾い集める

何かの図の破片や、文章の断片だ

 

「まるっきりゴミ…、ってわけでもねぇみたいだな…」

「繋ぎ合わせとる暇は無いのう、見れるものだけ集めるかいの」

「そうだな」

 

集めた紙片の中で、正確に内容が読み取れる物は少なく、後は汚れたり破れたりと、酷い有様だった

 

 

 

≪紙切れ①≫

 

『――――触媒については添付資料を参照、陣の配置ポイントの詳細を示す

 ≪場所≫    ≪詳細座標≫

 ・東海岸   838a 8393 8365 838c 8393

 ・西海岸   8354 8393 835e

 ・森林部   957a 9373 9550

 ・草原部   8cf9 9148

 ・河川部   89d4 8968 

 ・裏山道   8368 8344 8374 835e 836e   

 ・本館    8368 8393 8145 834c 837a 815b 8365 』 

 

薄汚れた紙の上に、謎の数字とアルファベットによるコードが乱立している

 

「…これは…、ずいぶん細かく座標を設定して配置していたようじゃな」

「ここ以外にも、陣はあるって事か」

 

目を引くのは”7つの場所”

思い起こされる、今まで通過した戦いの軌跡

 

草原のセイバー

森林のアサシン、そしてキャスター

今までサーヴァントと戦った場所と重なっている

 

河川部が現在地なのだろうが、周辺にはサーヴァントの気配は無い

しかし、陣がある以上、この場所で召喚された者がいるのだろう

 

7つの場所に、7騎のサーヴァント

出会った者達を除くと、残るはバーサーカーと、アーチャーの2騎

既に敗北していなければ、必ずこの島のどこかに存在する

 

「ふむ、東の海岸がさっき見た場所として…反対側の方角にもあるらしい海岸にもう一騎と」

「セイバーが落ち、アサシンが落ち、キャスターと同盟を組んで……残り二騎か」

「アーチャーとバーサーカーじゃな」

「まぁ、必ずしも座標に居るとは限らねぇが」

「うむ、少なくとも移動はするじゃろうしのう」

「7か所の召喚陣で7騎を呼ぶ…

 こんな紙切れ作って丁寧にお知らせまでするたぁ……殺し合うにしちゃあ、随分と協力的だな」

「作為的なモノを感じるわい…儂等が来たのも、やはりそういう事かもしれんのう」

「俺達も、この召喚陣で呼ばれたってか… だが、ソレだと座標が合わねぇ…どういう事だ?」

「まあ、それについては一旦後回しで良いかの」

 

 

≪紙切れ②≫

 

『 ≪参加のしおり≫

  日時:2003年12月24日 AM 2:00

 

  場所:A班→東海岸 D班→草原部 G班→本館

     B班→西海岸 E班→河川部

     C班→森林部 F班→裏山道

 

 持ち物:触媒、陣設計図

    ※触媒は前日に班長が受け取りに来てください

 

 注意事項

  ・時間も時間ですので、寝坊等、遅刻しないよう気を付けて下さい

  ・召喚成功時、連絡を怠らないこと

  ・サーヴァントへの無礼な態度が無いよう、敬意を持って接する事

  ・正々堂々戦いましょう

  

  以上                              』

 

 

「………ガキの遠足みたいなもんだったのか? 今回の聖杯戦争は…」

「主催者はそのつもりだったのやもしれぬなあ… 見通しが甘いと言わざるを得んのう」

 

紙切れは、学校の遠足でよくあるような”参加のしおり”だった

そして、本来レイシフト予定だった年代

古い時代の物では無い事も、重要な手掛かりである事も理解できる

 

”召喚”、”サーヴァント”と、不穏な単語が記述されている以上、事前の情報と照らし合わせるに、本来マスターと共にレイシフトする筈だった時代に2騎達だけ招かれたのだ

 

「して、この年代は…まあわかりやすくて助かるわい」

「…確か俺らが行く予定だった時代だっけか?」

「うむ、来る前のミーティングで聞いていた通りじゃ

 しかしこうなってくるとマスターやマシュ嬢が来なかったのは良かったやら悪かったやら…」

「まぁ、下手に巻き込まれてヤバいことになんなかったのは、不幸中の幸いってか」

「カルデアの方には何も無いといいんじゃが…」

 

文明社会と手つかずの自然が入り混じった謎の孤島に訪れてから数時間

2騎のサーヴァントを失ったカルデアの状況は気になる所だった

 

「しかしまあ、わざわざ何を狙っておったんじゃろうな…? 聖杯戦争の準備をしておきながら、指揮はせずに令呪を儂等に与えて…」

「…実はこれをやろうとした奴らが、すげぇ大事な部分でミスって偶々起きたとかだったりしてな」

「そうだったら間抜けな話じゃのう」

「だよなぁ…」

 

特異点発生の切っ掛けとなった、聖杯戦争

英霊を呼び出す”触媒”を管理する存在

召喚者と思しき、班長と呼ばれる者達

 

複数の存在が、徒党を組んでいるのは明白

これでは、本当に聖杯”戦争”なのかも怪しい所だ

 

マスターがサーヴァントと契約を交わし、争い合うのが聖杯戦争

だが、今回召喚されたどのサーヴァントにもマスターは存在していない

 

しおりの文面を読めば、召喚者が居る前提の話で書いてある

人間自体は村人達が居たが、関わりは無いだろう

そもそも、魔力の流れを辿れるキャスターが気付かない筈がない

 

そして同時に、彼女は契約についても言及していた

魔力供給のパスは土地に繋がっている、と

 

何故か?

 

魔力量の問題などで、供給先をマスターとは別にするケースもある

そういった都合で、最初から土地に繋ぐつもりだったのか?

 

それでは、令呪まで明け渡す意味は無い

令呪とは安全装置であり、制御装置だ

幾ら孤島の中とは言え、7騎のサーヴァントが好き勝手に暴れるとなれば被害は甚大

 

召喚者である7人の班長は、一体何を行ったのか?

目的は? 何処へ消えたのか?

この場の手掛かりだけでは何も掴めない

 

「ここだけで分かるのはこんなところかのう…」

「正直わけわからんってことが分かったな」

「じゃなあ まあ…情報が入っただけよしとするべきじゃの」

「こっち側にはもう何もなさそうじゃな、向こうの海岸に向かうとしようかの」

「応、頼んだぜ」

 

聖杯戦争の裏側

召喚者達の本当の目的

孤島に潜む、残りのサーヴァント

 

隠された全てを暴くため、再び動き出した

 

 

 

 

 

 

≪裏側④≫ Faith

 

 

『あーアレ、私が作った奴じゃん、しおりとか座標の一覧

 んだよ大した動きでもなんでも無いじゃん CM明けたよ、ホラ』

「そんな物は無い」

 

書の廻廊でモニタリングと自問自答は続く

 

『で、話の続きだけど』

「私が呼ばれた理由についての予想、だったか」

『そうそう』

 

まぁ、聞いてくれたまえ、と謎の尊大さが続き

静寂に数秒の間が訪れ

 

『ヘロドトス、って居るじゃん? 紀元前…、まぁ昔の人』

「あぁ、古代ギリシャの人物だな 歴史学の父とも言われている」

 

 

 

『アンタの真名だろ』

 

 

 

『―――って、最初は思った』

「残念ながら外れだ、私はヘロドトスでは無い」

『だろうね』

残念でも無いと言った風に語る

 

『そう、だからこそ…―――アンタの真名は、”トゥキディデス”だ

 …そうだろう? 自称セイヴァー』

「あぁ、その通りだ」

『いまいち盛り上がらねーなぁ…』

 

肉体を共有しているのだ

真名の一つや二つ、見破られる事もある

彼女の起源が”観る”ことなのであれば、尚更の事だ

 

「で、それだけか? まさか、真名を当てただけで終わりではないだろう」

『うん、全てを解明する程じゃないけど、アンタの真名は、ちょっとしたヒントになった』

「ヒント、か」

何か掴めると良いのだが

 

『アンタを観ていて気付いたんだが、私とアンタは似てるんだよ』

「心外だな」

『うるせぇ …根拠としては、役割だ』

「”観測”か」

『うん、アンタはこの世界で起きた事を観測し、星の歴史として記す記録者だ

 聖杯戦争に呼ばれるような英霊や、掃除屋の守護者ともまた違う、裏方の存在…』

 

『私もね、物心ついた時から観てきたよ 世の中の色んな事、人、物、歴史…』

「…」

『でさ、私ね、覚えてるんだ…私の先祖の記憶、爺さんの爺さんとか、名前しか知らない様な奴等の記憶がね…

 朧げだけど、頭ん中にあるんだよ』

「特異な一族だ…起源だけでなく、記憶の引き継ぎも行われるとは」

 

その体質は読めなかった

読み取れない記憶の裏に、彼女にはまだ、何かを抱えているのか

 

『薄気味悪いけどねぇ、悪い事ばっかじゃないよ

 経験の積み重ねみたいなもんだし、役立つ事だってあった』

「君個人で、一族の記憶を内包している、と…?」

『そう 私を含め、一族が見てきた時間が、私と言う歴史書ってわけ』

「君の言いたい事は理解できた、根拠としては有りうる」

『うん、つまり、アンタの触媒は”私自身”…

 冬木の聖杯を参考にしたとは言え、散々システムは弄ってきたからね

 意図しない不具合が色々起きちゃうのも否めないよ』

 

具体的な触媒が無くとも、サーヴァントの召喚は可能だ

その場合、召喚者に所縁のある者や、性格・趣味嗜好が似通った者が聖杯によって自動的に選ばれる

現時間軸における、冬木第4次聖杯戦争のキャスターが良い例だろう

 

観測を起源とする一族

観測を業務とする私

 

観るだけで何も出来ない一族

観るだけで何も介入しない私

 

同類か、縁か

陳腐な言葉だが、召喚された理由としては納得するしかない

彼女の特異な性質と、この状況こそが、私を引き寄せたのだ

 

『てかさぁ… この聖杯戦争が終わって、アンタが座に帰るとなると、私ってどうなるのかな?

 自我はこうして、きちんと有るけど、肉体はアンタが使ってるわけじゃん』

「さてな…元に戻るかもしれないし、戻らないかもしれない

 仮に戻れたとしても、肉体の機能に支障が出る可能性もある」

過去に事例が無い以上、どうなるか見当もつかない

 

『おいおい、勘弁してよ…何のためにここまでやってきたと思ってんだ

 このままじゃ、何も成せずに無駄死にじゃねーか』

「…そう言えば、自らの起源を修正するのが目的だったな」

『うん、聖杯なら出来んじゃねーかなって』

「伝承にある、万能の願望器ならば可能だろう

 …紛い物の儀式で作り上げた聖杯が役立つかは判断しかねる」

『まぁ、基本的には同じなんだし、ご先祖様の遺した資料を信用したまでよ』

「起源による精度の高い物とは言え、よく一から創ろうと思ったな」

『確信が有ったからね…一族の名も革新を現しているだけにね!』

「フリューゲリンク…ドイツ語でFlügel(翼)と、link(左)…つまりは日本語で左翼か」

…何故日本語なんだ

名前から出身はドイツだろう

 

『この国の事は、Dr.ブライトが教えてくれたんだ

 色々面倒も見てもらったけど、今回は悪い事しちゃったなぁ…』

「Dr.ブライト……君が言っていた協力者の事だな…、死亡したのではなかったのか?」

『肉体的にはね…まぁ基本的に死なないから、大丈夫かな、多分』

「…良く分からん」

 

死んだのに、死んでいないとはどういう事なのか

説明を待たなければ、理解できないというのがもどかしい

通常ならば、記憶を読み取れば済む物を

 

憑依による弊害なのか、彼女自身の事情が有るのか、いまいち彼女の記憶、というか情報が辿りにくい

何かに妨害されているような感覚が有る気がするが、それもよく分からない

 

この状況を理解するため、必要な事

自らの役目を果たすため、すべき事は…?

 

らしくない思考に逆らい、観測と記録を続ける

何があろうとも、不偏の歴史を紡ぐ

 

ソレこそが、ただ一つ

私に許された使命なのだ

 

 

 

 

 

 

その崇高な使命が”とある存在”によって、完膚なきまでに妨害されたのは、それから暫くしての事だった

 

 

 




救世主(Saver)かと思ったか、ただの記録者(Saver)だよ
という一発ネタ

こっから広げて考え付いたのがこのシナリオ
ネタを活かせているかは微妙

居る意味? あるよ勿論


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10 Bad Apple!! 前

多分一番やべー話になります(ゲーム的に)


”何処か”

出来損ないの聖杯戦争を観測する存在

 

一番先に呼び出されておきながら、どこまでも仲間外れの存在

人でも魔術師でもない、しかし、英霊と呼ばれる格を備えた男

 

聖杯戦争に召喚されるサーヴァントは原則として七騎

セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー

 

だがその男は七つのクラスのどれにも当てはまらない

 

剣や弓、槍といった武器を持たず、戦車や獣を駆る事無く、魔術や殺戮の技に長ける訳でもなく、内なる狂気に身を委ねる事も無い

 

ただ、ひたすらに起きた出来事を書き止める記録者

―――”Saver”

 

戦力外にして規格外

戦うチカラを一切持たない男に与えられた役割

 

今まさに、”何処か”で果たそうとしているのだが―――

 

「何―――、この意―――不明―――宝…は―――――…録―特権…が―――、視点…―――乗っ取…―――れ―――!」

 

これ以上ない程テンパりながら、記録者はその視点を失った

 

 

 

 

 

 

心地よい潮風が頬を撫で、走り抜ける

細やかな砂を乗せ、後方にそびえ立つ風車によって送り出されてゆく

 

傍らに建つ小さな祠は僅かに軋み、揺れる木々の影は、本のページに姿を現してはフェードアウトする

 

本を舞台に繰り広げられる影の反復横跳びを数える事を止めた頃

おもむろに顔を上げ、虚構から現実に目を向ける

 

頭上の蒼穹

眼前の蒼海

 

けれども、眩い陽光は満足に届かない

広大な自然、圧倒的スケールとは対照的に、俺の心には小さな憂いがあった

 

”どこにでも居そうな男”

俺が、俺自身を客観的に評価した結果だ

 

”どこにでも居る、という事はどこにも居ないのと同じじゃないか?”

という捻くれた考えは、この際置いておくとしよう

 

運動能力はそこそこ

背はそれ程高くない

頭もそれ程良い訳では無い

並外れた特技がある訳でもない

容姿が飛び切り整っている訳でもない

 

至って普通の存在であると言わざるを得ない

全世界の4分の1くらいは俺と似たようなので出来ているのではないだろうか

…まぁだからこそ、どこにでも居そうという結論なのだが

 

嘆息しつつ、読み終わったばかりの本を閉じた

そしてまた一冊、読破した成果を横に積み上げる

 

森と砂浜の境界に築かれた、小さな祠

薄暗い地面に、本の影が上書きされた

 

偶然通りがかった際、特別そうな場所に見えたので、何かしらの良い事が有るかと期待したが、結局は何も得られなかった

 

一体、どれくらいの時間こうしていただろうか

山のようになった本が時計の代わりだが、かなりの時間が過ぎた事が窺える

成る程、昨今の書物には時間を消し飛ばす不思議な力があるようだ

 

本の山に手を伸ばし、軽く表紙に触れる

多少気分は和いだが、同時に憂いの影が差す

 

表紙に触れた右手、その甲にある異様な紋様

鎖を思わせる形に、鈍く紅い光を宿している

 

これこそが憂鬱の種

いつの間にか浮かび上がっていた紅い紋様

 

タトゥーなどした覚えも無いし、そんな趣味だって勿論無い

いつ、どこで、こんな不気味なモノを手に入れたのか

或いは最初から有ったのか…?

疑い出せばキリがない

 

何故自分が此処に居るのか

自分は一体何者なのか

 

分からないし、思い出せない

記憶の闇は俺を解放してくれないようだ

 

暫く答えの無い疑問に思いを馳せていたが、視界に捉えた”何か”によって禅問答は打ち切られた

 

…人、か?

それも二人

 

コスプレみたいな珍妙な格好をした、おかしな連中が…

うわっ、空から突然降りてきやがった…!!

 

赤い服を着た爺さんと、鎧を見に纏った若い男

―――何だ、アイツ等は…?

 

「……うん?」

「……一般人か?」

 

向こうも俺に気付いたようだ

こっちに視線を向けてくる

 

例えようも無い、妙な感覚

俺の方も、意図せず彼らを凝視してしまう

 

いや、格好からして気になってしまうは当然なのだが、ソレを抜きにしたって変だろう

 

「…いや、どうやらそうでもなさそうじゃの」

爺さんは俺の右手の紋様を見ている

 

妙な感じだ

向こうは俺に興味を抱いている

 

どうする? 話を聞いてみるか?

こんな場所で、空から振ってくるような連中だ

得体の知れない奴等と関わって、どうなるかなんて分からないぞ?

 

…だが、コレはチャンスでもある

ただでさえ、記憶もなく、不安な状況だ

現状を把握するためにも、情報を得なければ何も始まらない

 

 

 

≪人物分析≫

【騎】

スキル使用:『善悪判断』…対象の属性を判別する

判定:成功…”混沌・善”

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手にスキル『パラノイア』を付与

判定:成功…【騎】に『パラノイアE』付与

 

 

【槍】

挙動、肉体に関する観察

判定:成功…戦闘慣れしている様には見えない

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手にスキル『パラノイア』を付与

判定:成功…【槍】に『パラノイアE』付与

 

 

 

「……いかんのう、儂らも戦い続きでいささか疑り深くなっておるな」

「まぁ、状況が状況だし仕方ねぇんじゃねぇの」

 

”戦い続き”

今、この爺さんは確かにそう言った

そして、もう一人の男も否定はしていない

 

「いきなり空から来るし、格好もまともじゃない……なぁ、お前達は、一体何なんだ…?」

「その説明をするのは構わないんじゃが…お前さんの事も、聞かせて貰うぞい」

 

頻りに辺りを見回し、何か警戒しているのか…?

同時に俺の右手を注視しながら、探りを入れてくる

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【騎】の『パラノイア』E→D

 

 

 

「…まあ、ええか ざっくり言うとじゃな、儂らみたいな変なのが数人で命がけの殺し合いをしとるところでな」

 

一瞬、思考が停止した

 

「…殺し、合い……だと…?」

 

馬鹿を言え、悪い冗談だ

見るからに荒事向きな若い方は兎も角、目の前の爺さんが…?

 

しかし、よくよく見ると、二人とも服や鎧に傷がある

俄かには信じ難いが、あながち嘘じゃないのかもしれない

 

優しそうに見えて、実は…ってタイプか

……まさか俺も標的に…?

 

一気に膨らむ疑心

直視しないようにしていた現実

疑問を、口に出す

 

「…なぁ、…………お前達、その手のタトゥー活かしてるよな…ペアルックって奴か…?」

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【騎】の『パラノイア』D→C

 

 

 

「お前さんにも付いとるじゃろ(まあ、見た感じ知識無いっぽいがの)」

 

殺し合いをしている奴等

共通する右手のタトゥー

 

そして、俺の憂いの元

右手に存在する、悪夢

 

「…ホント奇遇、だよな…俺にも、似たようなのがあるんだ…」

 

言った

触れてしまった

 

情報を得る為とは言え、暴力を司る存在に

俺と、奴等の、紅いタトゥーによるその関係性

 

仮に、殺し合いによって結ばれていた場合

その”理由”が適用されてしまえば…終わる

 

「いやあ、正直言って奇遇じゃあないはずじゃぞ? なんの意味もなく浮き出るもんじゃあ無いしのう」

「爺さん…アンタは、これが何か知ってるのか?」

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【騎】の『パラノイア』C→B

 

 

 

「令呪… まあそうじゃのう… 儂らみたいなのに言う事利かす為のお守りのようなモノ…」

「それと、この戦争の参加資格みたいなもんか」

捕捉するように若い方が付け加える

 

「じゃったんじゃが…どうも、今回は色々歪んでいるようでの

 本来マスターに浮き出るはずのソレが、どういうわけかサーヴァントに浮き出てきおってな」

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【騎】の『パラノイア』B→A

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【槍】の『パラノイア』E→D

 

 

 

「戦争…か…」

 

戦争、マスター、サーヴァント…

ここまで来ると笑えてくる

 

突飛すぎて現実を受け入れられない

さっきまで読んでいた本の方が、まだマシなくらいだろう

 

「俺も、その参加者、って事かよ…」

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【騎】の『パラノイア』A→A+(最大値)

 

 

 

「そう言う事になるのう…おまけに令呪が出てる以上、戦闘する側で呼ばれておる」

「勘弁してくれ…大体俺は、その戦争の事はおろか、自分の事さえ良く分からないんだ…」

「間が悪かったのう まあ、それに…」

爺さんは一旦言葉を切り、再び周囲を見回す

 

「儂らはさておき、他の者が見逃すとは思えんがの」

「”他の奴”、か…まぁ、戦争ってぐらいだもんな、居るんだよな、…他にも沢山…」

 

命を奪う奴が、命を奪うことができる奴が

俺を、…狙ってくる

 

目の前のコイツ等は、直ぐに俺をどうこうする気は無いようだが…

 

戦いを終えてきた後で消耗してるからなのか

それとも、殺す対象に優劣でもあるのか

 

「うむ、まだ残っておるのう…まあ正直言ってこの現状だと一番厄介な手合いやもしれぬなあ」

「…知ってるのか? 他の参加者の事…」

「下手すりゃ、もう狙われているかもしれねぇな…、アーチャーだって残ってる」

「拓けた場所にいるのは正直まずいのう」

「とりあえず移動でもするか?」

「じゃなあ」

 

 

 

【”俺”】

スキル使用:『パラノイア』…被アクション時、相手『パラノイア』のランクを上昇

判定:成功…【槍】の『パラノイア』D→C

 

 

 

「というわけで儂らは移動するがの、お主はどうする?」

 

…どうする…?

正直、道は無い、八方ふさがりだ

 

一人でこそこそ隠れるか?

顔も割れてる上に、爺さんたちは空を飛べる

いずれは見つかり、今でなくとも、成す術もなく殺されるだろう

 

じゃあ爺さん達に着いていくか?

ソレこそ”針の筵”…無茶な話だ

 

戦争、殺し合い

未だ実感は無く、状況も掴めない

 

これから先、―――俺はどうするべきか

 

「俺は―――」

答えを、選択しようとした

その時、

 

「ッ?!」

 

突如、太陽を遮って現れる巨大な影

何かが、上空から俺達を見下ろしていた

 

「…ほー、こりゃまた立派なモンが出てきたのう」

 

穏やかな風景に、突如として現れた異物

何故?、いつの間に?

疑問は尽きる事無く湧くが、それでは何の解決にもなりはしない

 

”竜”

お伽噺に出てくるような、暴威の化身が現れた

 

完全に俺達を捕捉したのか、竜は上空で動きを止める

徐々に高度を下げ、やがて巨体が降り立つ

 

大地が揺れ、風圧が顔面を叩く

驚異的な存在感と威圧感

 

長い首を傾け、鋭い双眸が俺達を捉える

その眼には明らかな敵意が浮かんでいた

 

数秒もしない内に、その暴威を振りまくだろう

まともに抗う術の無い俺は、間違いなく…死ぬ!!

 

嫌だ、そんなのは嫌だ

冗談じゃない、こんな所で死んでたまるか!!

どうして俺が、何故、こんな目に合わなきゃいけない!?

 

「いやあ立派なモンじゃのう。タラスクだかいうドラゴンみたいじゃわい」

「…オイ、もしかして、アレが”アーチャー”って奴か? ヤバそうだし、完全に殺す気でいるぞ!?」

「アレは違うじゃろうなあ…いやあ、殺す気なのは当然、目についた邪魔者をどかしにきたんじゃろ」

「丁度よく飯でも見つけたと思ってるかもな…」

「…ふうむ、しかしここは大体現代じゃって話だったからのう 何かしらの宝具で出てきたのか、それとも怪しい研究でもしてたのか…」

 

何で、そんなに余裕そうなんだ!?

ピンチだろ!? 命の危機だろ!?

恐怖ってモノを知らないのか!?

 

「冷静じゃなさそうじゃから言っておくがの、儂等は竜ぐらいなら戦う機会が嫌って程あったからのう…ワイバーンの群れに突っ込んだりしょっちゅうじゃったわい」

「まあ、群れでもなく一体だけなら全然問題ないな」

 

「何を、言っているんだ…お前ら…」

 

竜ぐらい?

ワイバーンの群れ?

一体だけなら問題無い?

 

何だソレは?

理解が追いつかない

俺の知らない現実を知っているコイツ等は、一体何なんだ?

 

「怯え竦む気持ちは分からんでもないがの…それで事態が解決した試しは無いのでなあ

 どうにもならぬ事態が襲いかかってきたのならば、どうにか凌ぐしか無いわけじゃし…」

 

怯えている 竦んでいる 

…確かにそうだ、これ以上無い程分かりやすい命の危機なんだ

 

「幸いにして儂らにはその力があるからのう …さあて、オルレアン以来の大物退治といこうかの」

「あぁ、このぐらいのデカブツなら手応えは十分だろうな」

 

白紙の記憶に、混沌とした状況

不安と恐怖は、確かに胸の内に渦巻いている

 

如何にもならない事態が、現在(いま)であるとするならば、

どうにか凌ぐしかないのも、また現在(いま)

そうだ、重要なのは、…今この瞬間

「…あぁ、やってやるさ …これでも、俺だって”戦争”の参加者だ…」

 

ふざけるなよ

―――突然敷かれた理不尽に対する憤りもある

 

「じゃからお前さんは儂の後ろで………うん?…戦うつもりなのかの?」

「とても戦えるような感じはしねぇけどな」

「…逃げたって、”他の奴”に殺される……何もしなくとも、ただ此処で死ぬだけだ…!」

 

コスプレ爺さん達が何者だろうが知らない

相手が竜だろうが関係ない

―――抗ってやる!!

 

「正直言って、お前さん守りながら戦うことになるかなあと思ってたんじゃが」

「俺だって男なんだよ…守られるだけのお荷物なんて真っ平御免だ…」

「意気込みは結構なんじゃがな…、実際お前さん戦えるのかの?」

「…正直、分からねぇさ…今だって怖いし、膝もガクガクしてる…だけどな…」

 

死ぬのは怖い

痛いのは嫌だ

肉体への負荷と恐怖は自己保存を叫んでいる

 

「上手く言い表せないが…此処で逃げたら、俺はただ死んでしまうより、…何か、もっと別のどこかが”死ぬ”気がするんだ」

「そう言うなら止めはしまい…が、一時の蛮勇で死ぬのは阿保のする事じゃからの」

 

「…危なくなったら、命を優先せいよ」

「…随分と優しいじゃな…まぁ、俺だって死ぬのは嫌だ、程々に頑張るとするよ」

「善し、じゃあ竜退治と洒落込むかのう」

「庇うとかは期待すんなよ、俺ぁそこまで器用じゃねぇからな」

 

…”竜退治”、か

平凡な俺が、まるで、どこかの英雄のようだ

 

そう思った時、ホンの少しだけ、恐怖に勇気が勝った

そんな気がした

 

 




暫く”俺”君の一人称視点で進みます
文体がラノベっぽいとか思ってくれたら幸い

”俺”君に対しアクションを行う際には、彼のパッシブスキルである『パラノイア』の判定が発生
この判定に失敗すると、初回のみスキル『パラノイア』を付与されます(以降は判定失敗の度にランクを上昇)

≪パラノイアについて≫
※”俺”の問いに対する回答も判定の対象
※ランクの高さに応じて戦闘時に有利となる補正を付与
※このスキルには感染源への共感性を高める効果が有ります


何だこのウイルスは、たまげたなぁ


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11 Bad Apple!! 中

決闘開始の宣言をしろ、磯野!!

今回は大型エネミーとの戦闘
3対1の変則戦闘となる事から、以下の補正を設定

・竜側の攻撃回数は全体と単体の2回(全体攻撃はダメージ1d6)
・プレイヤー側に獲得した『パラノイア』のランクに応じた補正を与える



正直もっと厳しくしても良かったかもしれん




≪1巡目≫

 

【”俺”】

パッシブスキル:『空想の果て』…『パラノイア』のランクに応じて以下の補正を与える

 ・E~D …与ダメージ+1d4

 ・C~A …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減

 ・A+  …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減、ガッツ1回付与

 

 

【槍】

命中判定:失敗

 

 

「それじゃあやりますかぁ!!」

”ランサー”と呼ばれた男は、槍を構えたまま竜の元へ走り抜ける

 

「―――オオオオオッ!!!」

真っ直ぐに竜へと向かう一番槍

しかし、切っ先が届く直前、奴は咆哮を上げながらその巨大な翼を羽ばたかせた

 

奴にしてみれば、バックステップの要領で躱して見せただけだろう

それでも、あの翼による風圧は、前進を妨げるに十分だった

 

「うお、っと!」

風圧により体が僅かに浮き上がる

突進の体勢は崩れ、命中する筈だった軌道から逸れてしまった

 

「…チッ、久しぶりにこのタイプとの戦闘でミスったな」

「ドンマイじゃな」

「…まぁ、次は外さねぇけどな」

爺さんにそう答えながら、竜に向けて獰猛な笑みを浮かべている

 

…戦闘狂、って奴か

敵に回すなら恐ろしいが、共闘している今は頼りにしても良いのかもしれない

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:7

 

 

「さあて、それじゃあかましてやろうか」

 

爺さんはというと、いつの間に用意したのか、トナカイの牽引するソリに乗っていた

まさか、それであの化け物と戦うつもり―――

 

「の」

 

―――か?

 

……あれ?

竜と相対していたはずのソリがその反対方向を向いていた

その事に気付くと同時に、何かがぶつかったような音が3回程鳴り響く

 

「―――ッ!??!!!」

驚愕の表情と、仰け反り姿で分かった

音の発生源は、あの竜だ

 

何が起きたのか

考えるまでもなく、単純な話なのだろう

目で追えない速度で3回程、ソリで突撃しただけ

その事に気付くまでに数秒掛かっただけだ

 

「見え、なかった…何だ…今のは…」

「さすが爺さん、やるじゃねぇか」

「お前さんは運がいい 今の儂は、何よりも疾いライダーじゃからの」

 

攻撃を受けた当人ですら認識できない速度

披露したのは、最速を謳う”騎乗の戦士(ライダー)”

 

「今日、この時ばかりは、かのアキレウスが相手でも儂は勝ってみせるとも」

「…お前達が味方で良かったよ…本当に」

「とはいえ、流石竜種と言った処じゃあいつ硬いのう」

 

「グウウウゥゥウウウ……」

見えない攻撃に対する混乱も一瞬

燃えるようなに怒りを帯びながらも、奴は徐々に冷静さを取り戻していた

 

「流石に簡単には倒れてくれないか…」

 

 

【”俺”】

命中判定:失敗

 

 

勝つとか、逃げるかとか、考えている暇は無い

見ているだけじゃ駄目だ、俺も戦うんだ!

―――生きてやる

俺は死ぬまで死なない…!!

 

そして、自身が何者なのかを確かめる

失った記憶を、此処に居る意味を、取り戻すんだ

 

その為にも、

この場を、何としてでも戦い抜く!!

 

「う、おおオオおおおおおおおおおおおおッ!!」

疾走る

奴との距離を全力で駆け抜け、精一杯のスピードを乗せた拳を、思いっきり叩きつけ―――

 

「―――」

再度の羽ばたき

ランサーの時とは違い、奴は避けなかった

 

「く…、うおっ!!」

吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直す

俺の攻撃は、奴には届かなかった

 

「…完っ全に舐められてるな…」

 

侮られている

風圧だけで十分だと、俺の攻撃は避けるに値しない、と

…実際の所そうなのだろうが、ムカつくものはムカつく

 

だが、いいだろう

お前が恐れないのであれば、俺もまた、お前を恐れない

既に恐怖は膝を揺らす事は無い

―――大丈夫だ、俺は、…戦える

 

 

【竜】

スキル使用

 『見定める』…敵単体にターゲット集中状態付与(3T) → 対象:”俺”

 『咆哮』…自身の攻撃+1d6(3T) → +1(3T)

 『風圧』…敵全体の回避判定を-1d6(3T) →-4(3T)

 

全体攻撃:失敗

単体攻撃:失敗(対象”俺”)

 

 

「グオオオオアアアアアッ!!」

雄叫びと共に、奴は両の前足を高く掲げた

傍から見れば万歳のような格好にも見える

 

が、実際の行動はそんな可愛げのあるものじゃあ無かった

 

そのまま、強靱な前足は地面に勢いよく振り下ろされ、衝撃は大地を揺るがした

 

「うっ、おおおおおおおッ!?」

 

ズドンッ!!!

と、脳を揺さぶるような音、風圧と衝撃

にも拘らず、俺が無事だったのは、偏に爺さんのおかげだった

 

「まだまだ遅いのう」

 

空を駆るトナカイの牽くソリから地を見渡す

気が付けば、俺達は竜の背後に居た

 

「いつの間に…ってか速…………いや、助かったよ…」

「言ったじゃろう、今の儂は最速じゃと

 あんな程度はあくびしながらでも避けれるわい」

「ははっ、やっぱ頼もしいな…!」

 

だが、いつまでも当てには出来ない

俺のカバーをする分、爺さん達も負担がかかってしまう

 

協力して戦う、という字面は良く見えるが

そもそもの話、俺が戦闘の舞台に立てなければ意味が無い

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「うっ」

 

今、目が合った

そう、認識した

 

それだけで、奴は暴風を撒き散らしながら突っ込んでくる

 

「じゃからのう…」

やはり、竜の後ろにいつの間にか存在していた

 

「目で見える程度の速度なら遅いんじゃよ… じゃから、慌てなさんな、若いの」

 

確かに、竜種は災害だ

意志持つ暴風だ

だが

 

「暴風、何するものぞ」

どれ程の脅威であろうと、当たらなければ意味は無い

今回は爺さんのおかげで躱す事が出来た

 

「ビビッちまった…そう簡単には、慣れねぇか…」

「誰だって最初はそんなもんだろ、気にすんなよ」

ソリの脚に掴まっているランサーがぶっきらぼうに言った

一応は気にしてくれているのだろうか

 

「あぁ、…そうかもな…」

”最初は”…、か

……果たして本当にそうなのか?

 

この恐怖は、畏怖は、悪寒は

本当に、初めての物か?

 

俺は、何時か、何処かで

―――この感覚を、味わった事があるんじゃないのか?

 

…いや、今そんな事を考えている余裕はない

気にするなと、そう言われたじゃないか

 

要はこれから慣れていけばいい…

やってやるさ、あぁ、やってやるとも

 

 

 

≪1巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP15

   回避補正-4(2T)

 

 

【騎】HP67/67

   NP43

   回避補正-4(2T)

 

【”俺”】HP20/20

    NP1

    回避補正-4(2T)

    タゲ集中状態(2T)   

 

【竜】HP:93/100

   チャージ:1/5

   攻撃↑1(2T)

 

 

≪2巡目≫

【槍】

スキル使用:『啜る黒水』…確率でチャージ減+毒3(3T) ⇒ 成功 

命中判定:成功

ダメージ:10

 

 

「それじゃあ今度はこっちの番だな…」

ランサーは懐から何かを取り出す

 

得体の知れない、ドス黒い液体が入っている小さなガラス瓶だ

左手でソリからぶら下がったまま、右腕で器用に振りかぶり

 

「オラァッ!!!」

竜の顔に向かって投げつけた

 

「ガァアアッ!!、ギィッ!?」

割れる小瓶、溢れる中身

禍々しい黒い液体は、竜の顔面を盛大に汚した

 

「苦しんでいる…アレは…?」

「平たく言うと、毒だな …本来の用途は別だが」

 

突撃後の隙を突いて投げ込まれた毒

あんな巨体がもがくほど程の猛毒を、他に何に使うというのか

 

浮かんだ疑問へ想像を巡らせる暇もなく、ランサーはソリから飛び降りる

猛毒に怯んだ事を確認し、すかさず攻撃を叩きこむつもりだ

 

「ウラァアアアアアアアッッ!!」

重力落下の勢いを込め、槍を袈裟切りに振るう

 

槍の穂先が描く一閃

間を置かずに、空中で紅い血による二度書きが成される

「……ちっと、入りが浅かったか」

竜が暴れない内に後方に飛び、攻撃圏内から脱出した

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:8

 

 

「さすがにタフじゃのう」

手綱を握るトナカイに指示を出す

 

「……やれやれ、全速力でぶつけてやってもめげぬか」

一瞬遅れて、一際大きな衝撃音が響き渡る

 

「―――ッ!!!」

長い首を反らせながら大きく仰け反る

巨大な咢から折れた牙が数本零れ落ちた

 

「あやつめのブレスを止めてやろうと思ったんじゃが、この程度じゃまだ応えんらしいわい」

「流石に、やられっぱなしじゃないんだろ…このタフさ…、その内こっちの攻撃にも順応してきそうだ…」

「戦いにおいて悲観を口に出すのはよろしく無いぞい、後ろ向きな考えは動きが鈍るでな」

「あぁ、済まない…気を付けるよ」

「よし さてと、やっこさんがそろそろ来るかの」

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:11

 

 

「グオオオオオオオッ!!!!」

竜が吼える

爺さんが与えたダメージに対し、怒りを露わにしている

 

そうだ、それでいい

今のお前に、弱者である俺はまるで目に映らないだろう

 

「い、ま、だァ!!」

宙に浮くソリに向かって飛んでくる竜

タイミングはここしかない

文字通り、目にモノを見せてやる―――!!

 

「うおるぁあああああああッ!!!」

ソリから飛び、頭から突っ込んでくる奴の顔面に、思いっきり拳を喰らわせてやる

「ッッッ!!!!」

 

当たったのは、眼球付近

分厚い皮膚や鱗に守られていない、急所

眼を潰せた訳では無いが、怯ませるには十分だ

 

不意打ち、尚且つ急所狙い

これは予想できなかっただろう、トカゲ野郎

 

「ッ、…手が、いてぇ…」

滅茶苦茶硬い

まるで硬質ゴムのようだ

思いっきり殴れば、まぁそうなるか

 

 

と、絶賛落下中に考えていた

 

 

「いやまあ、後ろ向きになるなとは言ったがの!」

地面にダイブしつつある俺をサクッとソリで拾い上げる

 

「弾丸みたいに飛んでいくやつがあるか!」

再び空中に舞い戻るも、軽く説教を受けた

 

「良いじゃねぇか、中々に根性有りやがる」

地上で構えるランサーは俺達の方を向いて笑っていた

 

「(もう後ろ向きは無しだイケる所まで、進み続けてやる!)」

 

覚悟はある、既に出来た

奴を倒し、イかれた戦争を乗り越える

そして、その先にあるモノを確かめる

 

俺が、何者であるかを―――

 

 

【竜】

全体攻撃:”俺”のみへ成功

単体攻撃:成功(対象:”俺”)

ダメージ:14(”俺”のみ)

 

 

気合を入れたのも束の間、奴の反撃が訪れた

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

巨大な翼による暴風

其れは歴戦の勇士にとっては、ただの強風に過ぎないのだろう

 

しかし、力の無い俺にとっては―――

「う、おォっ!?」

荒れ狂う風にバランスを崩し、ソリから滑り落ちる

 

「ぬっ!」

「クソッ!」

爺さんとランサーがそれぞれ俺に意識を向ける

 

「―――来るなッ、俺は大丈夫だ!!」

俺を助けようと気を割けば、すかさずその隙を奴は狙ってくる

思わず伸ばしかけた手を寸での所で止め、重力に身を委ねた

 

「ぐッ!!」

転がりながら着地する

無事、という訳でも無いが、まだ動けるレベルだ

 

「こんなもんじゃあ、俺は倒せねぇなぁ…!!」

「グルルルルルルル…」

 

幸い、追撃は無い

奴も他の2人を警戒しているのか、無闇に突っ込んでは来ないようだ

 

 

 

≪2巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP25

   スキル:滴る黒水≪残りCT7≫

  ・回避補正-4(1T)

 

【騎】HP67/67

   NP53

   回避補正-4(1T)

 

【”俺”】HP13/20

     NP18

     回避補正-4(1T)

     タゲ集中状態(1T)

 

【竜】HP71

   チャージ:1/5

   攻撃↑1(1T)

   毒3ダメ(2T)

 

 

 

≪3巡目≫

【槍】

スキル使用:『ルーン魔術』…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

ダメージ:22

 

 

「一丁ブチかましてやるか…!!」

己の獲物を大振りに構え竜を見据える

投擲、か?、そんな見え見えの動作だと躱されるのオチじゃ―――

 

「イヴァル!」

全身全霊を込めた投擲

槍は空気の壁を突き抜け、矢のように一直線に飛ぶ

 

「―――!!!」

ランサーがどんな攻撃を仕掛けるか、ソレは予備動作で奴にも分かっただろう

だからこそ、投げる直前に地を蹴り、翼をはためかせ、飛翔した

 

回避のタイミングには十分である、筈だった

 

「グオオオオオオオアアアアアアアッッッッ!!!!?」

 

進行方向からターゲットが消え、投擲が無駄撃ちに終わろうとした瞬間

槍は突如軌道を変え、竜の腹に勢いよく突き刺さった

 

「アスィヴァル」

そう唱えると槍はランサーの手元へ戻って来た

投げる瞬間にも何か言っていたが、恐らくは何かの呪文の類か

 

「おーおー、結構効いてるみたいだな」

「…!!!…ッ!!…」

何らか魔術効果を受けた槍が余程堪えたか、竜は飛び続けることも出来ずに地に堕ちた

 

「まだ動いている…まだ生きていやがる…」

数秒程、地面でもがいていた竜が体勢を取り戻す

幾ら図体がデカくても、腹に穴が空いてまだ平気なのか…

 

「あれでも幻想種の仲間だからな 化け物は化け物、伊達じゃねぇさ」

「簡単には倒れてくれないって事か…」

「それでも虫の息ってところだ」

「あぁ、…だが、追い詰められた奴が何をしでかすか分からない…油断は出来ない」

 

風に飛ばされただけで、尋常じゃないダメージを負った

正直、かなりキツイが、弱みを見せると奴につけ込まれる

 

動ける間に、出来ることをしなければ―――

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:22

 

 

「ランサーが良いのを決めて見せたんじゃ、儂もキツイ奴をお見舞いしてやろうかの」

 

その瞬間、宙に有ったはずのライダーの姿が消える

それほど早い、ではない

消えた

 

そして、気づけばランサーと俺はソリに乗っていた

”乗った瞬間”というものが欠落していた

 

「…さぁ、どうじゃ? コイツは効いたじゃろう」

 

パァン!!、と

風船が弾けたような音と共に、竜の翼に風穴が空いていた

 

単純な話であり、理屈なのだが

単に早いだけでは全世界の子供にプレゼントを届けるというのは不可能である

 

認識が遅れたのは、俺も竜も同じらしかった

気が付いたら俺はソリに乗っていて、気が付いたら奴は自慢の機動力を奪われていた

 

子供一人一人にそれぞれ準備し運び、枕元に置き、去る

この一工程を行うのにどれだけの時間がかかるだろうか

 

それを全世界に実行する

一晩で行うのは不可能である

否、サンタクロースを夢想する子達は不可能だと思った

 

故の現象、故の方法

”時間が足りないのなら、時間を戻せば幾らでもある”

無論、矛盾はある

無理はある

だが…

 

子供の希望を叶えるのがサンタクロースである

子供の夢を叶えるのがサンタクロースである

 

無辜なる守護者はその矛盾を超越する

 

「これでちょこまかと動けまいて」

 

一拍置いて、咆哮が木霊する

 

「――――――――ッッッッッッ!!!!!!」

声にならない声

痛み、そして理解の及ばない現象に対する怒り

あらゆる感情が其処に含まれていた

 

「これで、奴はもう飛べない…! もうひと押しだ!!」

「さて、お前さんの番じゃぞい」

「あぁ、このチャンス、逃しはしない!!」

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:6

 

 

翼を失い、碌に回避行動も取れない今

この好機を、絶対に活かす!!

 

狙うは、槍が突き抜けた傷痕

其処ならば、俺でもまともにダメージを与えられる

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

軋む体を動かし、ソリから奴に向かって飛び降りる

拳はこれ以上やるとイかれてしまう

ならば、足だ!!

 

「―――おっ、ルァ!!」

重力を利用し、そのまま奴の傷口を抉る

 

「ギィイイイイッ!!!!」

身を捩り、暴れる竜

その余波を何とか躱し、距離を取った

 

「危ねぇ…」

 

最低限のダメージは与えられた筈だ

俺に出来るのはこんなもんか

 

ここまで渡り合えたのも、爺さん達のおかげだ

せめて、美味しい所は譲るさ

 

 

【竜】

全体攻撃:”俺”のみへ成功

単体攻撃:失敗

ダメージ:3(”俺”のみ)

 

 

気を抜いた訳じゃあ無かった

ただ、偶々”ソレ”が”そのタイミング”で訪れただけだった

 

「―――ガアアアアアッッッ!!」

 

傷を抉られた奴が暴れるのは必然

俺の体が疲労に揺れるのも必然

ただ、偶然、そのタイミングが重なってしまった

それだけだった

 

「―――あっ?」

 

気付いた時には暴れた余波である風圧に巻き込まれていた

「ぐ…、くうっ…!!」

 

力無く転がる

そこまでのダメージじゃない

立てる、傷は無い、…いや、危なかった

 

「!」

「おい、大丈夫か?」

 

一気に全身の毛穴から汗が噴き出る

死ぬ、所だった

思考が上手く纏まらない

まともに当たっていたらヤバかった

 

「あ、あぁ…一応、大丈夫だ、と思う…」

 

落ち着け、冷静になれ

運が良かった、だったらそれで良い

死んでいないなら、それで良いんだ

 

心臓が早鐘を打つ

うるさいぐらいに耳に響いている

体に悪そうな脈動が、体中に血流を送り込んでいるのが分かる

 

俺は

さっき

死ぬ寸前だった

 

そんな客観的事実が、頭の中を渦巻いている

高揚を齎すアドレナリンは一瞬で消え去っていた

 

 

 

≪3巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP25

   スキル:滴る黒水≪残りCT6≫

       ルーン魔術≪残りCT6≫

 

【騎】HP67/67

   NP53

 

【”俺”】HP3/20

     NP36

 

【竜】HP:18

・チャージ:2/5

・毒3ダメ(1T)

 

 

 

≪4巡目≫

 

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:計13

 

 

「そろそろ仕留めるか…」

槍を突き出すような形で構え、脚に力を込め

 

「ウオオオォォッラァアアアアアアアッ!!」

叫び、爆発するようなスタートダッシュ

 

痛みにもがき暴れる竜の手足を掻い潜り、その顔面まで肉薄する

鋭く俺達を睨む眼球に狙いを定め、呪槍を突き刺した

 

「―――ッ!!!!?」

 

「いよっ、とォ!!」

素早く槍を抜き、距離をとる

 

ワンテンポ遅れて、引き抜いた痕から血飛沫が噴水のように飛び出した

 

絶叫じみた咆哮が響き渡る

鮮血を撒き散らし、首を振って暴れまくる

 

「グゥウウウウウウウウウウウッ…!!」

 

やがて痛覚より怒りが勝ったのか、潰れた右目に憎しみを宿し、俺達を見る

幾度の攻防を経て、確実に弱っている筈なのに、尚も奴は倒れない

 

「ええ加減しぶとい奴じゃのう」

「…思った以上にタフな奴だな」

 

 

【騎】

スキル使用:『聖者の贈り物』…対象のHPを3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

  ⇒”俺”のHP⇒10回復、攻撃ヒット時NP+5

 

宝具使用:『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

     ⇒ 味方全体に攻撃↑2d6(共通2T)&HP回復3d6(共通)

命中判定:失敗

 

 

「そら、無理するもんではないぞい」

爺さんは何処からともなくキャンディを取り出し、俺に渡してきた

 

「コレは…?」

「舐めてれば段々傷が癒えるぞい、無いよかマシじゃろうて」

そう言いながら、ソリの手綱を握りなおした

 

渡されたのは、ステッキの形をした飴

治る…、って本当か? こんなモノで?

 

「あ、あぁ」

促されるまま、取り敢えず舐めてみる

味は普通

何の変哲もない飴だ

しかし、不思議と力が湧いてくる

 

「さあて、征くかの …せめて、苦しまずに終わらせてやるとしよう」

トナカイが嘶く

同時、牽引するソリとライダーが消えた

 

事実上の因果改変

光速を突破しての未来から過去に向けての攻撃

本来ならば、物理的に不可能なソレを聖夜の奇跡が可能にする

 

故に回避も防御も不可な一撃

…のはずである

 

「ッ!?……まさかの…」

驚きを隠せないといった表情で爺さんが再び現れる

 

「あの瀕死の体で避けおるか…ここに来て儂の速度に慣れおったのか」

 

「グルルルルルルル……」

先程までとは打って変わり、奴は静かだ

爺さんの様子もおかしい

 

躱したのか?

あの速さを?

あの傷で?

…嘘だろ!?

 

簡単に倒せる相手では無いとは踏んでいたが、ここまでとは誰が思うだろうか

 

 

【”俺”】

命中判定:成功

ダメージ:6

 

 

爺さんの速さで躱されるのであれば、打倒は不可能の域だ

心の内、不安の芽が再び姿を現すとも、振り払う

 

「それでも、…足掻ける内は、足掻くしかねぇんだよッ!!」

 

足元に転がっていた石を掴み、握りしめる

相手は竜

こんなものでもないよりはマシだろう

 

「―――オッ、ラァ!!」

全身全霊を込めて投げる

ただの石ころはまっすぐに奴へと向かい、そして

 

「……………」

 

当たった

が、奴は身動ぎすらしない

 

ソレは、避ける必要も無かったという事か

眼中にすら無いという事か

 

「避ける価値も無いって事かよ…?」

 

崩れ落ちそうだった膝に、足に、自然と力が入る

原始的な、怒りの感情が俺の中に渦巻いている

 

「ふざけやがって…」

 

侮っているのか、俺を

非力な俺を

無力な今の俺を

 

違う

俺はまだやれる

こんなものじゃあない

まだイケるんだ

 

―――まだ、終わっちゃいないんだ

こんな処じゃ、まだ

 

「―――――」

そんな様子の俺を、奴は黙って見ていた

 

 

【竜】

スキル使用

 『見定める』…敵単体にターゲット集中状態付与(3T) → 対象:”俺”

 『咆哮』…自身の攻撃+1d6(3T) → +4(3T)

 『風圧』…敵全体の回避判定を-1d6(3T) →-4(3T)

 

全体攻撃:成功(”俺”のみ)

単体攻撃:成功(”俺”)

ダメージ:22(”俺”のみ)

 

【”俺”】HP-11/20 (オーバーキル)

 

 

ソレは、偶然だったのだろう

 

偶然俺が、奴の近くに居て

偶然俺が、奴に攻撃したばかりで

偶然俺が、真っ先に目についた

ただ、それだけの事だったのだ

 

派手に吼えることも無く、巨躯が無音で動き

俺はその動きを見ているだけで、まともに反応することも出来ない

 

時間がゆっくり流れていくのを感じる

 

「(あ、マズい―――)」

コマ送りの時間軸の中、辛うじて眼球だけが動く

 

視界の端に圧を感じる

ゆっくりだが、確実に近づいてくる

俺を、死へと導く恐怖が

 

「(避、け―――…)」

 

時間の流れが元に戻る

……強靱な前足が、ゴミでも払うように、鮮やかに俺を吹き飛ばした

 

「ッ、グアあああああぁぁっ!!!!」

 

「っ!」

「オイッ!」

 

地を転がりに転がり、全身の皮膚を椛おろしにした頃、漸く止まる

激しい痛みがつま先から頭のてっぺんまでを駆け抜ける

ありとあらゆる関節や筋肉が軋み、立つどころか力を入れる事すらままならない

 

「…っぐ、…ぁ…」

 

痛い、目の前が赤い

クソッ、もう…駄目、なのか…?

俺は、こんな所で死ぬのか…?

 

まだ、自分が何者なのかも分かっていないのに、

まだ、自分が此処に居る意味も分からないのに…

 

 

…こんな所で、―――終わり…?

 

 

―――嫌だ

まだ俺は何も無し遂げていない

まだ終わりたくなんかない

こんな所で何も出来ずに?

 

―――有り得ない

そう、有り得ないんだ

 

ある種の予感めいた、確信

―――こんな所で、終わる筈がない

 

「っ、…ぐうううぅ!!」

 

確信を抱いた瞬間、体に湧き上がる力

軋む体を凌駕し、奮い立たせる

 

「むぅッ!?」

「オイ、…コイツは、まさか…!」

 

まだだ、まだ終わりじゃない

俺の人生は、こんなものでは終われない

ふざけた怪物なんかに、汚させはしない!!

 

なんせ、これが、

これこそが―――

 

 

 

「『己が為の物語(グラヴィー・マル・デ・アモーレス)』!!」

 

 

俺の思い描く物語(じんせい)なのだから

 

 




―――24歳、覚醒です
宝具名は思いついた時、俺天才かよって思った(自画自賛)


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12 Bad Apple!! 後

バーサーカー編決着
プレイヤーさんそっちのけで一人ずっと喋る”俺”君

仕様です(絶望)


【”俺”】

スキル使用:『覚醒』EX   ≪CT5≫

…攻撃&防御↑(2d6/3T)+ガッツ付与(1回-3d6)

⇒攻撃&防御+5(3T)、ガッツHP+7

 

 

「『己が為の物語(グラヴィー・マル・デ・アモーレス)』!!」

 

 

 

ありったけの空気を吐き出し、叫ぶ

無意識に浮かんだ言葉を、思い切りぶちまけていた

 

聞いたことも無い、勿論、誰かに教わった訳でもない

しかし、その願いの形を、俺は最初から知っていた

 

だからこそ、俺は自身の宝具(キリフダ)を行使する

 

俺の世界

俺だけの世界

俺の思考は世界を凌駕する

俺の意志が、俺の世界を革命する

 

「やっと…、やっと理解った…俺を、―――俺自身を」

 

俺に許された役割

俺に与えられた力

 

「俺は…、―――サーヴァント・”バーサーカー”…」

 

連鎖的に過る記憶

 

始まりは、顕現した月の光差す館

大量の塩と、妙な魔法陣が、其処に在った

 

館の中には人も居らず、手掛かりらしい手掛かりすら無い

 

自分の中にある疑問の答えを探すべく、俺は各地を歩き回った

館を出て、山を降り、森へ、村へ、平原へ

次々と足を伸ばしたが、終ぞ答えを見つけ出すことは叶わなかった

 

唯一の発見と言えば、俺が最初に降り立った洋館に山ほど置いてあった”本の山”

何かしらの参考になるかと拝借したが、どうやら正解だったようだ

 

生前に熱中していた騎士道物語に勝るとも劣らない面白さ

この時代における我が聖書と言っても過言では無い

やはり本は、物語は良いモノだ

活字は人生に活力を与えてくれる

素晴らしきはライトノベル、感謝の言葉しかない

 

 

閑話休題

 

 

「随分…、キツイ目覚ましだった…そうでもなければ、目を醒ます事は出来なかっただろうが……」

 

ここまで追い詰められて漸く、だ

我ながら、随分お寝坊だぜ

 

「―――俺は、ようやく”俺”になれた」

 

頭の中の靄は消え、記憶がハッキリと蘇る

身体にチカラが満ち、痛みもとっくに消え失せた

 

「そして思い出したぞ、…”聖杯戦争”……己の願いを求め、殺し合う、イかれた祭りだ」

 

聖杯戦争

時代に名を刻んだ英霊7騎による、人知を超えた死闘

 

「…一体、どうしたんだコイツぁ…」

「令呪から大体察してはいたがのぅ…こやつも、本当に戦争の参加者というわけじゃ」

 

俺と、そして共に戦う2騎のサーヴァント

本来ならば、敵同士な訳だ

だが、俺を始末しなかったばかりか、あまつさえ共闘している始末

状況が状況だけに、妥当というべきなのか

 

「(…勿論、全員が全員、コイツ等みたいなのじゃあないだろう……中には恐ろしく、身勝手な事を願う奴もいるのかもしれない…)」

 

だからこそ

 

「こんな状況だ……誰が何をしたって、何が起こったって、不思議じゃあない」

 

右手の令呪、そしてマスターが居ない事

この状況が異常である事は、流石に俺でも理解できる

 

何一つ分からない状況から、一歩は前進することが出来たのだ

 

無力な”一般人”だった俺は、”英霊”となった

対等な、聖杯戦争の、役者の一人となった

 

「今の今まで、立ち止まっていた俺だが…、このまま大人しく、誰かの踏み台になるつもりは無い」

 

言い放つ

これは戦いだ

 

聖杯だかなんだか知らないが、そんな胡散臭いモノ信用できるか

よりによって、異質すぎるこの状況で

 

「例え、どんな結末が待っていようと、俺は、英雄として、この力を使う…!!」

 

マスターは居ない、令呪も何故かサーヴァントに宿っている

魔力供給は何処から来ている?

令呪は正常に機能するのか?

 

戦争に勝ち残ったとして、聖杯は出てくるのか?

願いが叶う保証なんて、本当にあるのか?

 

爺さん達が何を望んで戦いに挑むのか、それは奴等にしか分からない

 

何にも代えがたいような、重苦しい願いかもしれない

度し難い程自分勝手な、腐りきった祈りかもしれない

 

他人が何を考え、何を成し遂げるか

そんな事、俺には知った事じゃない

 

俺がこれからするのは、”戦争(やつあたり)”

俺を痛めつけてくれた、竜に対する憂さ晴らしだ

 

これは”戦い”なんだ

俺と、目の前のデカブツ

俺個人と、セカイとの、―――戦争だ

 

「まずは、目の前のアイツをブッ倒す…!!」

「…うむ」

 

聖杯戦争

願いと願いのぶつかり合い

言ってみれば、死人達の殺し合い

 

「そしてこんな戦い、とっとと終わらせて、全員座に突っ返す!!」

「…うむ?」

 

俺もその死人の内の一人

死は生前に受け入れた

だから今、ここで高らかに宣言しよう

 

「色々世話になっておいて悪いとは思う…だけどな、死人は大人しく、死んでいるべきだ」

「…そこに関しては同意するわい、死人は眠っているべきじゃ」

 

「じゃがな」

一拍置き

 

「盛り上がってるところ悪いんじゃが…一つだけ聞くぞい」

「あぁ」

こんな時に、何を…?

 

「どこかの誰かの大層な理屈で、文字通り日常の何もかもを奪われた子供が一人いるとするぞい」

「…あぁ」

「その子は善良じゃ…少なくとも、そんな目に遭う謂れは一切ない、人付き合いの良い子供じゃ」

「…」

「そんな子がじゃ

 出来うる限りの必死を尽くして、あり得るはずだった日常の全てを投げ打ってそんな現状に抗っておるとして」

「…」

「そんな現状を打破する為に、死人が手を差し伸べることが出来るとして」

真っ直ぐに俺を見据え、

 

「お主は、…ソレを否定するかの?」

問いかけてくる

 

爺さんの意図は読めない

この状況で何を言っているのか、何を言いたいのか

 

「(答え次第じゃあ……って感じだな)」

別に偽る心算も無いが、誤魔化しなんて効かないだろう

 

ランサーは問答の邪魔をさせんと、竜を牽制してくれている

 

今俺がすべきは、―――正直な心情を告げる事

 

「もし」

爺さんの言葉が真実であるとして、

 

「もし、仮にだが…そんな最高にツイてない奴が居るとするなら…」

その無情な境遇にある者が、

 

「そのツイていない奴が、ソイツ自身で如何にも出来ないのならば、」

自らの運命を前に膝を屈しながらも決して諦めず、

 

「俺に助けを求めてくれるのならば、―――俺は、ソイツを助けよう」

「…そうかの」

安心したように息を吐く

 

既に舞台を降りた者が、今を生きる人々の邪魔をするべきじゃない

俺の好きなこのセカイを、俺の愛するセカイを

死人が汚す事は決して許されない

 

それでも、助けを求める者を助けることは

導いてやることは、決して悪い事では無い

 

「…爺さん達は、そんな奴を知っているのか?」

「うむ、じゃから今、無駄な争いをしている暇はないのじゃよ」

横目で竜を見つつ

 

「聖杯がどうとか正直どうでもええわい、儂の今1番の苦痛はの、そんな子の力になってやれんことじゃ」

 

サンタクロースは善き子の願いを叶え

希望を与える存在である

故に現状は苦痛でしかないのだ

 

「子の夢を守り、願いを叶え、明日への希望に繋げてこそのサンタクロースじゃからの」

 

「故に、儂らを座に送り返そうって言うならば…」

ソリの手綱を握りしめる

トナカイが嘶く

 

「決して、容赦はせんぞ」

言葉に凄みが篭る

 

「…詳しい事情は知らないが、お前達の事は少し理解できた」

爺さんの尋常じゃない様子から、本気である事は察した

ならば、先程の言葉も必然と、”そうなる”

 

「お前達に優先すべき事情があるならば、俺はその邪魔をしない

 このセカイに仇名す願いでは無いのならば、俺は否定する権利を持たない」

 

無言のまま笑うランサーも、志は同じなのだろう

必死に生きている奴の味方ならば、俺もまた、その味方だ

 

「そこでだ、提案がある」

「ふむ?」

「一緒にこの茶番(たたかい)を、終わらせよう」

 

「現状が苦痛なんだろう? だったら、一刻も早く打破すべきだ」

 

助けを求める者

救いを与える者

歯車が嚙み合わないのでは、セカイは回らない

 

「ソレで済むならば是非もなしじゃわい、儂とて好き好んで争いたいわけじゃないからのう」

「よし、決まりだな……先ずは、あのタフなデカブツから片付けようか」

 

方針は決まった

あとは実現させるだけだ

 

 

 

≪4巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP31

   スキル:『滴る黒水』(残りCT5)

       『ルーン魔術』(残りCT5)

・回避判定-4(2T)

 

【騎】HP67/67

   NP13

   スキル:『聖者の贈り物』…攻撃命中時NP+5(3T)(残りCT7)

・回避判定-4(2T)

 

【”俺”】HP7/20

    NP56

    スキル:『覚醒』…攻撃&防御+5(3T)

 

【竜】HP:-1(”特殊生存”状態)

   チャージ:3/5

・『特殊生存』…”主人公”以外の攻撃を受けない(永続)

 

 

 

≪5巡目≫

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:14

 

 

「そっちの話はまとまったみてぇだな」

言いながら槍を構える

 

「そんじゃあ、とっととブッ倒すぜぇ!!」

迷い無く駆け出す

蹴り脚に舞い上がった草土が地に着く頃、肉薄

 

「ガアアアアアッッッ!!!」

「ウラァッ!」

 

ランサーを噛み砕こうと迫る咢

微塵も臆さず、それどころか笑みを浮かべながら、棒高跳びの要領で跳躍

竜の反撃を掠る程度にとどめ、躱しざまに背中を横一文字に薙ぎ払った

 

「ッッッ!!」

 

強固な鱗、分厚い皮膚を斬り裂き、血液が跳ねる

傷だらけの奴の体に、再び傷が刻まれた

 

「(…浅い…!)」

巨大(デカ)さに対して傷が小さすぎる

 

「…まだ足りねぇみたいだな」

槍を構えたまま竜に向き直る

 

強すぎる生命力を突き崩すには、強力な一手が、それこそ”とどめ”が必要となる

 

複数の英霊を以てしても、未だ倒しきれない

流石は幻想種と言った所か

 

「(だからこそ、…俺が、この手で…!!)」

 

過去に、現在(いま)に

決着を、付けなければ

 

 

【騎】

命中判定:失敗(ファンブル)

 

 

「…何か考えが有りそうじゃのう、お主」

「あぁ、秘策って程でもないけどな」

「であれば仲間として信用するわい、思いっきりブチかますがよいわ」

「おう…もし、しくじった時は…」

「儂等を信じて、背中を預けるとよい」

「へっ、分かったよ!!」

 

 

【”俺”】

スキル使用:『主人公』:EX  ≪CT5≫

 …自身の全ての判定ダイスを1d99に変更(1T)&”敵”特攻状態を付与 ダメージ2倍(1T)

宝具使用:『共に駆ける遠き栄光(ロシナンテ)』…自信に無敵貫通状態を付与&敵攻撃&防御↓(1d6-3T)

ダメージ:164

 

 

「(此処が正念場だ…)」

 

そのまま自己に語りかける

何をしたいか、何をするべきか

記憶を無くして彷徨っていた時とは違う、今はもう明瞭明白

 

「―――己の魂以外、己の物と成す事なかれ…現在(いま)の自分を愛さず、将来(みらい)の自分を愛せ…」

 

分かるか? 俺の見ている世界が…!

溢れんばかりの希望に満ち溢れた、いつまでも輝き続ける、この素晴らしきセカイを…!!

俺の見ているモノを、これからお前達にも魅せてやる

 

その為の宝具は既に、いや、最初から起動していた

 

「儘ならねぇ人生も、だからこそ楽しかったんだ…!!」

 

死んで初めて分かった事がある

産まれ堕ちようが、枯れ果てようが、寝ても覚めても結局は同じ

俺達は存在する限り、夢を見続ける

 

”事実こそ真実の敵”

夢想も逃避も、決して悪い事ばかりじゃない

 

限られた現実の中に見出す夢

ソレこそが、セカイに変革を齎す鍵

 

「この世に、幾ばくかの優雅さを…!!」

色褪せたセカイに、たった一つだけで良い

 

塗りたくらなくとも、ただ一つの点でいい

小さくとも、主張は要らず

極彩でなくても、綺麗じゃなくても

 

俺という”色”が有れば、ただそれだけで十分

認識という水は、簡単に染まる

 

戦いを、決着を

勝ち負けは問題では無い

これは必要な闘争だ

 

足は動く、手も動く

先程の痛めつけられた傷は無い、消えた、消した

痛みも無い、―――消した

恐れも無い、―――消した

 

消えて無くなる物なら、最初からその程度のものだ

自分自身をコントロールする

無意識を、意識下に置く

 

「”俺”を思い知らせてやる…―――だから、”俺”を刻み付けろ」

 

「…………」

降り立つだけで、凄まじい重圧を齎す怪物

迎え撃つは、3騎の英霊

 

俺が英霊として覚醒し、戦況が変化したとは言え、脅威は脅威

 

その恐ろしさは、生前相手にしたあの時と、何一つ変わらない

騎士として、英雄として挑み、そして敗れたあの時と

 

俺の生を彩る物語の数々にあって、拭えない忌まわしき記憶

渾身の突撃も虚しく、地に転がされた屈辱を、俺は忘れはしない

 

今こそ、屈辱を晴らす時

過去を超え、未来を勝ち取るため、戦うんだ

忘れがたい仇敵を、打倒しなければばならない…!!

 

「グルルルルルルル…」

 

爛々と輝く双眸が俺を捉える

俺達と奴の距離は約20m、巨体にとっては何の苦も無いだろう

翼を失えど、瞬く間に接近してくるのは目に見えて分かる

 

生前は無残にも破れてしまったが、今度はそうはいかない

死して俺は”英霊”となった

 

人の身から人ならざる者へ

幻想が幻想に勝てない道理など無い

 

「―――其の名、失墜の意を背負いながらも、かつての栄誉は常に我と共に在り…!!」

 

イメージを形作る

生前の旅の折、既に老いていた我が友

英霊となった今においては、全盛期の姿で此処に顕現させることができる

 

「今再び、征くぞ!!、―――『共に駆ける遠き栄光(ロシナンテ)』!!」

 

淡い魔力の光と共に現れる

白銀の毛並、真っ直ぐな眼

若き日の姿が、在りし日の姿が、俺の傍に有る

 

”元駄馬”を意味する名

全盛期の姿で限界した今ならば、文字通りという奴だ

 

生前が駄馬であれば、全盛期で現界した今は名馬

俺にとっては最高の駿馬となり、天さえも駆けるだろう

 

「久しぶりだな、相棒…」

 

ロシナンテは現界の感覚に戸惑っているのか、頻りにあちこちを見ている

首元を軽く撫ぜ、安心させてやったあと、雄々しい背に飛び乗った

 

懐かしい感覚だ

目線の高さ、広がる景色、あの時と全く変わらない

慣らしがてら、地の感触を確かめるように、その場でピアッフェをする

 

その後、自信満々に鼻を鳴らして、俺の方をチラリと後ろ眼で見る

まるで、”いつでもイケるぞ”とでも言う風に

 

「よし、流石は俺の相棒だ」

そして、右手に武器を現す

 

形は、槍

綺麗な細工は無い

傍から見れば一般兵が使う様な、平凡な物だ

 

生前、旅に出る際、物置にあったのを引っ張り出してきただけの物

逸話も、伝説も、何も無い

正真正銘、ただの槍

 

それでも、俺が振るえば最強の矛になる

俺が信じれば、ソレは何よりも強い現実(チカラ)になる

 

「これで、あの時の再現は出来たか…」

 

こんな、出来損ないの聖杯戦争…

それでも、久しぶりに世界を見る事が出来て楽しいだろう、なぁ?

心の内で相棒に語りかける

 

現世を久しぶりに観れた事

その点だけは感謝している

コレは本当の事だ

 

セカイは相変わらず綺麗で、残酷だ

せっかく人々が組み立てた歴史を否定する奴と、肯定する奴…

 

皆が皆、好き勝手やっているんだ

俺だって好きにやるさ

 

今回も我儘に付き合わせちまうが、お前も満更じゃあないだろう、相棒?

さっきのピアッフェの足取りから、僅かに浮かれたような感情が読み取れた

やっぱり、久しぶりの大地は嬉しいよな

 

奴をブッ倒したら、もっと好きに走らせてやる

爺さん達も悪い奴等じゃないみたいだし、暫くは大丈夫だろう

 

急ぎの用事もあるみたいだ

何か大変な事情を抱えている風だが、どんなのだろうな?

 

まぁ、乗り掛かった舟だ

抱えてる事情、俺に出来ることなら、少しは手伝ってやるよ

安心してくれ、嘘じゃあない

 

あぁ、本当だ

きっと力になって見せるさ

だから、先ずはやることやんなくちゃな

 

軽く首元をポン、と叩いたの合図に、この地に降り立った駿馬は、その一歩を踏み出した

 

「覚えてるか? あの時と同じ、…アイツが敵だ」

 

徐々に脚の動きは速まり、本格的に走り出す

竜を敵と認識し、一層スピードを上げる

 

走る、奔る、疾走る

仇敵目がけ、神速で駆け抜ける

 

大地を蹴り、舞い上がった土を、草を、果てには音すら置き去りにし、無限の加速を続ける

竜までの距離を一気に駆け、風を斬り裂きながら奴のテリトリーに侵入

 

「グオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

奴も負けてはいない

爺さんの速度にも対応した反射能力で俺達を捕捉

即座に俺達を踏み潰そうと、前脚を振り上げる

 

そのぐらいは想定済みだ

指示を出さなくとも、回避は容易い

振り下ろされる、鉄槌を思わせる一撃

轟音と共に大地が震え、足跡が深く刻まれる

 

風圧が全身を叩くとも、速度は微塵も衰えない

 

「喰らいッ、やがれェェェェェエええ!!」

 

渾身の突撃

乗りに乗った速度はそのまま威力に変換され、仇敵にそのまま叩きこまれる

 

「―――ッ!!!」

 

轟音が響き、グラリ、と巨体が揺らぐ

 

如何に竜種と言えど、幻獣種にも等しいロシナンテの突撃を受けては無事では済まされない

宝具(きりふだ)と呼ぶに相応しい働き、俺の相棒の真の力だ

 

一撃を決めたのも束の間

大きくぶれた首が再び俺の方を向く

 

―――だろうな…!!

 

反撃する気か

良いだろう、待ってたぜ、ソレを!!

 

狙いは最初から、この時の為

こっちを向いてくれるのなら、丁度良い

 

最初から、狙いは頭

胴体をチクチクやるのも有りだが、結局はジリ貧

一撃で、潰すしかない

 

俺と奴の目が合う

ここまでの近距離で相対するのは初めてだ

 

ただならぬ威圧感、迫力

臆することなく、片方となった眼を睨み返す

 

ここが正念場の正念場

敗北の記憶を塗り替える為の、戦い

見事に勝って、乗り越えて見せる

 

馬上で思いっきり槍を振りかぶる

突っ込んで下さいとでも言わんばかりの、開口っぷり

その間抜けな面に、キツイ一撃をブチ込んで―――

 

「―――…あっ」

 

いや、違う

気付く

誘われた、コレは…罠か!?

 

奈落の口腔に灯る、光

徐々に、溢れんばかりの炎となって、今にも吐き出されようとしている

 

コイツ、さっきの一撃の時、既に―――!?

 

奴の眼は嗤っている

やられた

誘われた

このタイミング、回避は間に合わない…!!

 

まともに火炎を受けてしまえば、ただじゃあ済まない

焼かれ、灼かれ、骨肉の一切を蒸発させられるのだろう

 

本気で敵と認識され、本気で俺達を焼き殺そうとしている

歯牙にも掛けられなかったあの時とは訳が違う

 

ヤバい

 

マズいヤバいコレは

ヤバいマズい熱ヤバい熱い避け空中無理ヤバい喰らったら終わり死どうする死熱どうすれば炎口開いヤバい炎デカい死敗けまた――――

 

 

―――ふ、ざ、ッけんな!!

 

 

「ロっシ、ナンッテェェえッ!!!」

 

今にも放出されようとしている、炎熱の塊

解放寸前の煉獄の咢を、ロシナンテが前足で思いっきり蹴り上げる

 

アッパーカットの要領で叩きこまれた一撃

半開きだった巨大な口は、強制的に閉口を余儀なくされる

 

「ッ!?」

 

空中での不安定な攻撃だったが、打開策としては十分なようだ

中途半端に燻っていた炎は、上下の牙で分断され、軽い爆発を起こす

 

「うおッ、オオおおッ!?」

 

爆風の煽りでそのまま地面へと叩きつけられる

急な事態に受け身もまともに取れなかった

 

「ガっ、ぐぅ…」

 

マズい、直ぐに立てない

蓄積されたダメージが一気に響き、体が上手く言う事を聞かない

 

少し離れた所では、ロシナンテがうずくまっている

蹴りを入れたことによって、余計無理な体勢で落ちたのか、ダメージで言えば俺よりも酷いだろう

なかなか立ち上がれずもがいている

 

「っ、クソ、が…」

 

最強の矛は俺の手に無い

ロシナンテの傍に落ちているが、拾いに行っている暇は無いだろう

というより、数メートル歩くのも辛い程だ

 

視界がグラグラと揺れる

頭どころか、全身を強打した影響だ

軋む体に力を入れ、何とか膝を立て、顔を上げる

 

「………」

 

奴が地に堕ちた俺達を嘲笑うように、見下ろしている

爬虫類によく似た眼球に、悦の感情が見て取れる

そのくせ油断は一切無く、既に第二波を放とうと、業火を溢れんばかりにため込んでいる

 

やけに時間の流れが遅く感じる

俺も奴も、水の中に居るかのようにスロウリィだ

 

肋骨が何本か逝っているようだ、呼吸が満足に出来ない

あれだけ熱かった体から血が抜け、どんどん冷えてゆく

益々、水中にいると錯覚してしまう

 

奴は焔を湛えたまま、長い首を仰け反らせた

冷えた体を温めるにしては、少々度が過ぎている

 

「(ま、だ…終わってねぇ…)」

 

停滞する時間の中、揺れる視界と、妙にクリアな頭

昇った血が抜けて冷静になっているのかもしれない

 

しかし、このままでは死ぬ

数秒もしない内に、骨まで焼かれて、この世界から消失するだろう

 

敗けて死ねばゴミになる

世界の真理

 

相手が竜であれ、人間であれ、サーヴァントだって結局は同じだ

 

「まだ、敗けてねぇ…!!」

 

その時、

聞こえた鋭い風切り音

反射的に音の方向へ手を伸ばす

 

何かが掌に収まる

硬い、棒のような何か

その正体は…

 

俺の、槍…?

 

覚えのある感触

幾度となく握りしめた、獲物の感覚

…何故?

 

一瞬、横目に見えた相棒の姿

力を振り絞って挙げられた脚

 

―――あぁ、そうか

 

ありがとう 

済まないな、いつも

 

納得と同時に放たれる、煉獄の焔

熱と光が揺れる視界を遮る中、奴の表情を拝むことは出来ないが、何となく分かる

勝った、殺した、…そんな顔をしているな

 

確実に訪れるであろう、死

そう、何もしなければ、俺は死ぬ

いや、俺だけじゃあない

 

力を振り絞ってくれた相棒も、恐らくやられる

竜種と戦うってのはそういう事だ

 

伝承、逸話なんかにおいて、どれをとっても竜は強大な敵だ

かのジークフリート、ベオウルフなどを筆頭に、歴戦の勇者であろうとも、戦いは困窮を極める程だ

 

だが、彼らは勝利した

 

片や、竜の血を鎧にし

片や、竜を拳で制した

生前、そんな勇者に憧れ、俺は旅に出たのだ

 

遍歴の旅、世直しの旅

愛するドゥルシネーアを世に示す旅

そんな中、俺は”奴”に出会った

 

荒れ狂う風、回り続ける風車

丁度、今と同じような姿で、”奴”は其処に居た

 

付き人は無謀だと、俺を止めた

俺は構わず相棒と共に、奴に挑んだ

 

結果は、惨敗

成す術もなく、地に倒れた

 

奴は俺を殺さなかった

まるで、とどめを刺すのも煩わしいと言う風に

 

敗けたのだ

死にはしなかったが、何処か、別のナニカが死んだ

ゴミにはならなかったが、何かを失ってしまった気がした

 

だから、思ったんだ

―――あぁ、これは、”あの時”の焼き直しなのだ、と

 

やり直せ、と

取り戻せ、と

”奴”に勝てた時、初めて俺の誇れる俺になれるんだ

 

勝つ

いや、勝たなければならない

 

邪悪を打倒し、ハッピーエンドを迎える

主人公とはそういうものだから

 

 

―――巨大な焔の塊が打ち出される

 

 

死後の今でも、後悔は悪夢となり続く

ならばまだ、俺の物語は続いている

 

 

―――死への距離が焼かれてゆく

 

 

ドン・キホーテ・デ・ラマンチャ(おれ)の旅は、まだ終わっちゃいない!!!―――

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオらあああああああッ!!!!!!」

 

肺の空気を全て吐き尽くし、全力を全身に込める

あらゆる間接は軋み、至る箇所の筋肉はブチブチと音を立てながら、悪夢へ幕を引くための槍を、焔の壁にぶつける

 

放たれた一撃は、面の攻撃に対し、小さな穴を穿つ

極小の点は、状況を切り開く突破口となる

 

獲物(おれたち)を逃さない為、広範囲に仕掛けられた焔

その分密度は薄く、一点に集中させた一撃ならば通る

 

計算してやった事では無い

ただ、思いっきりブン投げただけの悪あがき

 

視界は変わらずユラユラと揺れている

それでも、見える

旅の終点にして始点、悪夢の終わりが

 

突き抜けた槍が切り開いた、焔の裂け目

僅かな隙間から、奴の姿が確認できる

 

「―――ッ!!!!!」

 

網膜に映った映像

奴の頸に深々と突き刺さった槍

驚愕を隠せない、その表情が

 

一瞬だったが、確かに見た

悪夢を越えた瞬間を、生死を超えて続く因縁を断ち切った瞬間を

 

「ハハッ―――ざまぁ、…みろ…」

 

水風船が破裂するように、穴の開いた火炎から焔が噴き出す

晴れやかな心情は、轟音と共に訪れた爆風に飲み込まれた

 

避ける術の無い俺は、そのまま吹き飛ばされ、

ボロ雑巾の如く地面を転がり続ける

 

「うッ…ぐぁ…」

ようやく止まった時には、体中が酷い有様になっていた

空中から叩きつけられた時点でかなりのダメージがあったが、流石にキツイな、コレは…

 

「…、ぃてぇ…」

 

呆然と呟く

周囲から何か聞こえる気がするが、良く分からない

目の前が暗くなって、音も、光もだんだんと消えていくようだ

 

ただ漠然と、理解した

”俺”の物語は、ここで一段落したのだ、と

 

後は、託そう

アイツ等に、一時とはいえ、共に戦った者達に

 

「…とんだ、邪魔が入っちまったが、戦いは…、まだ続く、だろう…」

 

届いているかは分からない、だが、伝えなければならない

記憶を失い、この地を彷徨っていた俺が見たことを

戦い続ける者達に、残さなければ

 

「――山だ」

 

「山へ、行け…そこの館に、…始まりはきっと、其処だ…」

 

意識が、飛びそうだ

耐えろ、まだ…

 

「…誰も、居なかったが…”居た痕跡”はあった…」

 

「気が付いたら、そこに居た…暗い、館に召喚陣があって…いつの間にか俺は…」

 

現世に降ろされた俺は、大量の塩に埋もれた召喚陣の上に立ち尽くしていた

 

「記憶を無くし、何も分からず、ただひたすら各地を歩いた…が」

 

「その時、サーヴァントはどこにも居なかった……恐らく、俺は最初の方、…に召喚されたんだろう…」

 

山の頂にある館

 

河を下り、草原を歩き、森をゆき、人の村を経て、この海岸に辿り着いた

召喚された時からずっと感じていた

いや、今もまだ続く、この感覚は―――

 

「ただ…常に誰かに見られているような…”視線”を、感じた…」

 

「人では無い…何かが、きっと俺達を、この戦争を…監視している…」

 

「気を、付けろ…別の意志で、裏で誰か存在している…」

 

ソイツは、未だ”見ている”だけだ

特にアクションを起こすわけでも無く、見に徹している

 

状況を探っているのか、何か目的があるのか

動けないのか、動かないのか

俺には結局分からない

 

「システムが、おかしくなってるのは周知の事実、だが…おかしくした奴は、…確実に存在する…!」

 

視線の正体がソイツかどうかも分からない

しかし、無関係では無いだろう

 

「まだ、…生き残っている、サーヴァントは居るだろう…当然…必要以上に警戒している筈だ…」

 

きっと、戦闘は避けられない

英霊になった連中は、物分かりのいい奴を探す方が難しい

 

「辛い…戦いになるだろう…一筋縄じゃいかない相手ばかりだろう…」

 

それでも、

 

「それでも、…きっと、…きっと、大丈夫だ…」

 

漠然としか言えないが、俺は確信を持っているんだ

何故なら―――

 

「―――お前達は、…きっと正しいから」

 

正義は、必ず勝つんだ

真実へ向かうならば、其処に敗北は有り得ない

 

「誰かを…何かを…救う…その行動を…俺は、とても尊いものだと感じる…」

 

「世界の誰もが否定しようと、俺だけはお前達を肯定しよう…」

 

正義とは、主人公に許された特権

物語を征く主人公に与えられた、最強の武器

そして、何より

 

「主人公は、―――絶対敗けねぇ…!!」

 

これ以上ないぐらいの、絶対不変の真理

とは言っても、大体が俺の持論だ

 

面食らっているか、これは?

周囲の状況は殆ど分からないが、気配で大体察することができる

それもそうか、いきなり根拠のない自信満々の自説を説かれたんだ

 

「大量の塩、山の館、視線、監視………どのみち、他のアテはないからのう」

「次の目的地が決まったのは悪くねぇな」

 

「心配するな…俺も、力に成る…」

 

嘘じゃない

俺が過去を乗り越えた意味も、きっとある筈だ

 

ただ、今は、少し休ませてくれ…

ちょっとばかし、…疲れちまった…

 

「安心して進め……お前達は、お前達の…地平線、を―――」

 

まだ見ぬ、仲間と共に

どこまでも進んで行け―――

 

そこで彼の意識は途絶えた

深く、深く、底へと墜ち、”彼”の物語は停止する

 

 

 

 

「情報感謝するぞい、…立派な活躍だったわい」

「まさか、締めを譲る羽目になるたぁ思いもしなかったぜ」

 

暴威を振りまいていた竜の脅威は既に無く、残されたのは、動かぬバーサーカーと、カルデアのサーヴァント2騎のみ

 

サーヴァント・バーサーカー

真名、アロンソ・キハーノ

通称、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ

 

『憂い顔の騎士』(自称)、『獅子の騎士』(自称)の異名を持つ(自称)、世界に名立たる不朽の名作喜劇、『ドン・キホーテ』の主人公

 

騎士道物語の読み過ぎにより、現実と虚構の区別を失った男、アロンソ・キハーノ

彼は自分を偉大な騎士と思い込み、世の不正を正すべく、遍歴の旅へ出た

 

従者(という設定の農夫)と名馬(という設定のロバ)を付き従え、

各地で勘違いから成るトラブルを次々と巻き起こす長編コメディ

 

作家、ミゲル・デ・セルバンテスの描いたその物語は、当時”沈まぬ太陽”として最盛期を誇ったスペインにあって、多くの人物に多大な影響を齎した

 

老いて尚、夢とロマンを追い続ける姿勢

旧体制に対する皮肉、脱却に関するメタファー

受け取る側によって、解釈のメッセージは多岐に渡る

 

題材として狂気を取り扱ってはいたが、その本質は喜劇的な物語である

 

主人公であるドン・キホーテの破天荒さ、理不尽さ

結果、周囲は彼に振り回され、被害を被る場合が殆どだが、ドン・キホーテ自身も痛い目を見る事が多い

 

恐らく最も有名であろう、風車を竜だと思い込んで突進するシーンがその代表だろう

存在しない世界を創り出し、自身を物語の主人公に投影する

生前は騎士道物語に熱中していたようだが、召喚の際、何か別の物に影響された可能性が高い

 

浜辺の祠でバーサーカーが読んでいた本の山

2騎は知る由も無かったが、その全てが”ライトノベル”と呼ばれる、日本の文学作品であった

 

だが、これらは文明から離れた環境の中で、簡単に入手できるような物では無い

 

彼が意識を失う前に発した言葉

『山へ、行け…そこの館に、答えは有る…』

 

『気が付いたら、俺はあそこに居た…暗い、館に召喚陣があって…いつの間にか俺は…』

 

サーヴァントが持ち主とは考えにくい、ならば人間しか有り得ない

人が居ない館であろうと、少なくとも、”ライトノベル”の持ち主が存在することはハッキリしている

 

山にあるという館

ドン・キホーテが召喚されたらしき場所

 

マスターか、少なくとも魔術に関する知識を持つ者である事は間違いない

聖杯戦争の裏を探るヒントになりうる

 

狂気の人物として描かれながらも

手掛かりを出してくれたあたり、世界に名立たる喜劇の主人公というべきか

 

聖書の次に発行されている上に、史上最高の文学作品の堂々一位を飾った作品

知名度ならば、世界規模の男

直接的な攻撃こそ向けられることはなかったが、素の状態でもある意味恐ろしい存在ではあった

 

『主人公は、―――決して敗けない』

 

『心配するな…俺も、力に成る…』

 

『安心して進め……お前達は、お前達の…地平線、を―――』

 

世界に名を刻んだ主人公の言葉を反芻する

根拠も説得力も、全くない物ではあったが、何故か自然と勇気が湧いてくる

 

海風が祠を抜け、微かな音を生む

竜などもう存在しない

”主人公”が勇敢に立ち向かい、見事に打倒したからだ

 

誇大妄想狂の似非騎士が、恐怖を踏破して見せたのだ

生前の虚飾の敗北を、死後の今になって真実の勝利に変えて見せたのだ

 

斯くして、彼らは再び歩き出すだろう

彼らが信じる道を、主人公のように、強い足取りで

 

 

 




流石にやり過ぎた
キャラクター思いついた時はイケると思ったんだよ
プレイヤーさんも呆れとったわ

でも、楽しかっただろ?(エンタメ糞親父)


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≪裏側⑤≫ ポラリス

軌道修正をしよう(提案)
前回まで大暴れしていた、例のアレのマテリアルはまた別の機会に




「―――なんっ、」

 

「ッだあの意味不明な宝具は!?

 どうして、記録者特権を無視して私の視点を乗っ取る事ができる?!

 何故!、この!、領域において影響を受ける!?」

 

『…まぁ気持ちは分かるけどさ、落ち着きなよ…』

「…………」

 

心身の乱れ

他ならぬバーサーカーの宝具によって、観測が妨害されたのが原因だ

物語が主人公の視点で進むように、あの戦闘における視点は、彼の物だった

 

「(視点を失おうとも、観測が出来なかった訳では無い…)」

平等性が消失しただけで、肉眼での観測は可能だった

 

だが、座の本体の記録はどうなっているか、確認する術は今の所存在しない

綻びがあった場合、少なくとも”補填”は必要となる

 

この場の私が直接観ていたが故に、自身の記憶からバックアップすることは可能、…であればいいのだが…

 

原因がどうであれ、結果は結果

使命を全う出来ない不快感はそのままに、ただ時は過ぎてゆく

 

「……………ふぅ……」

『(おっ、どうにか飲み込んだか)』

 

このままにしておく訳にはいかない

救済措置を取らなければ、記録の不備を修正しなければ

 

「…納得は、していないがな…」

 

道が無い訳では無い

問題の解決には多少の障害が―――

 

『じゃあさ、宝具使えばいいんじゃない?、宝具』

「…何がじゃあ、だ……藪から棒に」

『だって、アンタ記録者ってぐらいだし? 世界記憶の俯瞰とか、そう言う系の宝具持ってんじゃないの?』

「…それは…」

『この廻廊だってそうじゃん、全部記録されてんでしょ? そっからバックアップとか出来んじゃね?』

「……」

 

違わない

 

勿論出来る

道が無い訳では無いのだ

 

『あとね、出来るんだったら 序でに、確認したい事もあってさ』

「何だ」

 

『Dr.ブライトの事もそうだけど、一番は島の事

 初戦の時もそうだったけど、何か、この島に違和感を感じるんだ』

「違和感だと?」

『うん、私の記憶だと、この島ってもっと小さかったような気がするんだよね

 あと、雰囲気的な…何か?』

「…儀式の前後で島に変化が起きた、と?」

『多分…、いや間違いない』

「…」

 

適当な事を言っている訳では無さそうだ

今まで見えなかった真剣さが見える

 

確かに、宝具を使用すれば、この島の真実を知ることは雑作も無い

しかし、

 

「宝具の使用は構わないが、…その結果、君の肉体がどうなるかは保証できない」

『…え、どういうことよ…』

 

「私の宝具の使用には超々密度の情報処理を伴う

 スキルと適正により、私のみならば問題は無いが、この肉体はあくまで君のソレだ」

『肉体…とりわけ、脳ミソに負担が掛かるって事?』

「仮定の話だ、飽く迄な」

『分の悪い賭けだね』

「…重篤なリスクを負って尚、宝具の起動を選択するか?」

『…』

 

「君の肉体だ、選択は君に任せよう」

 

 

 

…とは言ったものの、恐らく危惧しているような弊害は無いだろう

記録者の特権に例外は無い

 

彼女の起源と同様、記録者個人の魂に付いて回る物だからだ

こうして座から離れた状態であっても、肉体を違えた現在でも関係無い

スキルも宝具も、一切の劣化無く保持されている事で実証済みだ

 

唯一懸念すべきは、宝具使用の際に魔力が足りうるかどうかだったが、どうやら土地から直接供給ラインが繋がっているため、問題ないようだ

他のサーヴァントも、マスター不在で活動できているのは同じ理由からだろう

 

『…あのさぁ…』

「何だ」

『別に、気ぃ遣わなくていいんだよ?』

「…何の話だ?」

『あんまし舐めないでもらいたいんだけどさ、アンタが私の事分かるように、私もアンタの事、少しは分かるんだよ』

「…」

『私の体に影響が無いって予想していても、他の色んな可能性を考えてくれたでしょ?

 脳ミソ以外の負担とか、魔力の消費とかさ』

「…万が一、肉体の不備によって、業務遂行に支障が出る事を恐れたまでだ」

『まぁ何であれ、私の事を案じてくれたのは嬉しいよ…それで、業務に支障とやらは出そうなの?』

「100%の保障は無い、…精々80%だ」

『重畳

 じゃあやっちゃって、見せてよ宝具 モニター越しじゃ無くてさ、目の前で実際に見たいんだよ』

 

ホラホラと急かされる

姿は見えずとも、声音で理解できる

 

期待、されているのだろう

とは言え、勝手に期待されても困るのだが

 

煌びやかな剣も、豪奢な弓も、鮮やかな槍の腕も無く

魔術は使えず、戦場を駆らず、影に潜む事も、狂気に身を委ねる事も無い

 

所詮、その程度の存在

 

「…有り得ないとは思うが、肉体に少しでも負荷が生じた時点で、宝具の使用は中止する」

『もう死んでるようなもんだ 今更、負荷だの何だの気にしないさ』

「…加えて、あまり期待しても無駄だぞ? そもそも”観る”だけの地味な宝具だ」

『いいねぇいいねぇ、その根っからの観客根性… 私と一緒じゃん、相性抜群だ』

「…あまり一緒にしないで欲しいのだが…」

 

『飽き飽きしてたけど、傍観って割と良かったよ 当事者じゃねーし、外野だから気楽だ』

「…言っておくが、私と君は似ているが、違う

 ”観る”事は共通すれど、全てを記録し、歴史として編纂する…これは自ら選択した役割だ」

『…ふーん、まぁアレでしょ? 似て非なるって奴…この際どうでもいいけどさ』

「…ただ、…一つ」

『あん?』

「一つだけ、君だけが期待しても良い事柄が有る」

『……ほぅ?』

 

 

「”此処”が特等席であるという事だ」

 

 

「地上では、決して味わうことなどできない……記録者の視点とは、天上を越え、更に上にある」

『…へぇ、素敵じゃん』

 

癪だが

…本当に癪だが、認めよう

 

確かに、彼女と私は似た者同士

”観測”という一点において、我々はどこまでも同類なのだ

 

宝具の使用の際に感じる高揚感

神の如き視点より齎される万能感

観客席からひたすら演者を眺める、ただそれだけで満たされる

 

私はソレを肯定し、星と契約して記録者となった

彼女はソレを否定し、自らの起源脱却を目論んだ

 

舞台への介入を求めるか、関せず全てを見届けるか

異なる点など、そのぐらいだ

 

「―――記録者権限―――」

 

右の手に出現させるのは、”鍵”

私が現世に居ようとも、座にある私の本体は絶間なく記録を続け、星の書庫へ記録を蓄え続けている

全てを知りたいならば、星の書庫から引き出すのが一番だ

 

星の書庫へ繋がる”星霜書回廊”ならば、アクセスは可能

しかし、全ての情報を得る為には、あらゆる制約を取り払う必要がある

 

「宝具起動、”法”による制約の限定解除を申請…」

 

その為の”鍵”

何も無い空間に鍵を差し込み、回す

 

「…承認受諾…」

 

ロック解除、セーフティ一時バイパス、インターロック機能一時凍結

サーバーへのアクセス権取得を申請

…………―――承認

 

星の書庫へアクセス

記録を手繰り寄せる

 

「…領域固定、限定複写…」

 

―――”人類史”の書庫から、此の地平線に”意識と呼ばれるモノ”を接続…

 

星の全ての情報を洗っている暇は無い

この島に起きた出来事のみを辿る

 

記憶の劣化、記録の消失

”時”を始めとした、この世に存在する、あらゆる法の檻

 

全ての制約を超えて、ありとあらゆる記憶を書き降ろす

是が万象の司書たる記録者・トゥキディデスの宝具

 

「―――自動書記による記録を開始…」

 

どれ程嫌おうと、自らの生き方という物は、中々変える事は出来ない

 

生前、彼女と同様、私は自らの起源に苦悩していた

 

祖国の敗北に終わったペロポネソス戦争

運命に、”記録”の起源に抗うため、将として、兵と共に戦うことを選んだ

 

だが結果はどうだ

 

私が指揮を執った戦いは、無残にも敗走という歴史に埋もれ、

逆に、淡々と戦争の結果のみを記録した書物は、後世に”戦史”として残った

 

あの戦を経て、私は思い知った

いや、漸く自らの衝動を受け入れることが出来たのだ

 

舞台を踊る役者でも、役者を操る脚本家でもない

神の視点から全てを俯瞰し、事実のみを編纂し、永遠に保存する観客

 

観て、記録を遺す

ただ、ソレが何よりも面白い

完璧な記録を作り上げるのが何よりも楽しい

 

平等不偏

誰か個人の視点ではない

誰の都合にも左右されず、神の如き遥か高みより、全てを暴き観る

 

細かいスタンスは違えど、この快楽は同類である彼女にも理解できるだろう

何者も及ばない、如何なる隠蔽も、偽りも通さない、ただ一つの真実

 

歴史とは、過去から現在へ至る変遷

歴史とは、事象の流れそのもの

樹木の根の如く、水流の如く、其は幾重にも分岐する

 

因果律の法則によって呪縛された、絶間なく連なる事象素子

水が高きより流れるように、あらゆる繁栄と衰退が其処に在る

 

灼け落ちる天、その知られざる世の死を

崩れ落ちる地、その語らざる戦禍の詩を

零れ落ちる人、その偽らざる争いの史を

 

世に偏在する、あらゆる”流れ”を書き止め、暴き出す

剪定された”枝”であろうと、此処に復元して見せよう

 

「不偏の法下、惑わぬ星に在りて、歴史の紐を今、法解(ほど)く…

 ―――『不可逆史の檻にて斯く示せ、時の羅針(プラネテス・アリースィア・カタグラフィ)』…」

 

騒動の中心となる島の何処かで、星の記憶を廻る宝具が起動された頃、別の場所では更なる戦いが行われようとしていた

 




~今明かされる衝撃の真実ゥ~
2017年5月に始めたこのセッション、まだ終わっていない(2019年1月現在)

社畜の休暇が交差する時、物語は始まる


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13 艶や雲海花嵐 前

だからマップ移動は困るって言ってんじゃねぇかよ(棒読み)
折角道中に罠を仕掛けてあったのに、あーもう滅茶苦茶だよ


「さあて、バーサーカーのお陰で向かうべき場所も判ったとなれば…ここからは拙速を尊ぶべきじゃな」

「だな、それじゃあ爺さん移動は任せたぜ」

 

ライダーの合図でトナカイは高度を落とし、ランサーはソリに飛び乗る

 

「―――まぁ一息すら必要無いわけじゃが」

 

秒も待たず、目的の場所へと辿り着いた

後方には鬱蒼と生い茂る山森、前方には謎の建造物

 

2階建ての建物

装飾から”洋館”と表現されるべきだろう

山の頂上にある館、バーサーカーの言っていた通りである

 

「此処がアイツの言ってた館か…」

「ふむ、間違い無さそうじゃな……どれ、早速お邪魔させていただこうかの…」

 

2騎が目標を認識した時

 

『―――疾いな、随分と』

深い森の中でもよく通るであろう、凛とした低い声が響く

 

「…それを識る事が出来るお前さんも、の」

『おかげで、仕掛けた罠が無駄になってしまった』

「おっかないのう…、そういうのは熊なり猪に向けて使うもんじゃろうて」

『獣の類であれば可愛いものだ…奴等は空を飛ばぬし、千里を一息に駆けることも無い』

 

意図的にやっているのか、声は木々で反響し、正確な位置を割り出すのは難しい

対して、相手は2騎の動きを逐一把握しているのだろう

 

「それだけが取り柄故にのう」

かっかっかと笑う

笑いつつも、手綱をしっかりと握る

必要とあらば全てを吹き飛ばしてでも終わらせる心算だ

『成る程、騎兵には斯様な移動の術を持つ者も居るか 己の識のみで図るには、どうも狭かったようだな』

 

自重するような言葉

向こうからしても、単純な力技による正面突破は予想外だっただろう

 

戦においての重要な要素は多数存在する

 

”地の利”、”兵の質”、”優れた指揮”

勝利という条件にはどれも欠かすことが出来ないものだ

そして、どれよりも、何よりも必要な要素

 

 

ソレが”足の速さ”

 

 

足が速ければ、有利な土地を先におさえることが出来る

足が速ければ、不利な状況下においても円滑に撤退を行える

移動は軍事における最大の武器である

 

現時点で敵は、自らにとって有利となる陣地を手に入れている

2騎からでは敵の姿を確認出来ず、逆に狙い放題の的である

もしこのまま成果を得られず、撤退を許してしまえば、その時点で情報アドバンテージを奪われてしまう

 

敵が狩人だとすれば、2騎は獲物

已然、不利な状況には変わりない

 

しかし、

 

「自信があるのだろうな…その速度があれば、敗けぬ、と」

 

2騎の頭上からハッキリと聞こえる声

その方向へ顔を向けると、樹の枝に立つ一人の男の姿

 

長身痩躯

2mに届くかと思わせる長身に甲冑を身に付けている

 

左の手には弓を持ち、背に槍を掛けている

中華風の甲冑は、男が武人である事の証明だ

 

草原でセイバーを打倒し、

森林でアサシンとキャスターの連携を破り、

海岸でバーサーカーと共に竜を屠り、

 

最後に現れた、サーヴァント・アーチャー

 

「―――確かに、相手取るは難しいが、かと言って不可能という訳では無い…」

 

そう言って樹の上から飛び降り、館の前に陣取るように立つ

元の体重に、更に甲冑の重量が上乗せされている筈が、男は軽やかに着地して見せた

 

そこから予想される身体能力の高さは間違いなく、驚異的

そして、何よりも―――

 

遠方からの狙撃を繰り返すだけで、手の内を得られるというのに、敢えて姿を晒した

多くのアドバンテージを、男は自ら捨て去ったという事実

 

「ほう、其方こそ凄まじい自信じゃの…その弓さえあれば、こちらには敗けぬと?」

「あぁ、何せ弓と槍だけが取り柄でな 此れを用いた勝負で敗けたことなど、生涯に一度も無い」

 

不敵に笑う

真偽は兎も角、自信の表れである事は間違い無い

 

「挑発されておるぞランサー」

 

「へっ!! 何だかんだ言うがよぉ、俺がいたところにゃもっと強い奴はいたしなぁ、”アレ”の師匠とかな…」

顰め面で頭をボリボリと掻き毟る

あからさまな挑発を受けて黙っていられる性質では無い

 

「だから、今まで強い槍使いとは戦ってないからそんなこと言えんだろ、…なぁ?」

「ほう…、お前は己(オレ)よりも強き槍手か…?」

 

互いの間に熱が生じる

戦争の本質、問答無用の殺し合い

プライドとプライドのぶつかり合い

 

「(こやつは罠を張っていたと言っておった…つまりは、この館を拠点にしておると言う事…)」

 

館の内部を探るためには、目の前のアーチャーをどうにかしなければならない

理想的なのは、平和的に話し合いで解決できること

 

「(まぁ、無理じゃろうなぁ、この空気では…全く、若い奴等は血の気が多いのう…)」

 

勿論、1対1の戦いにはならない

戦士では無いライダーには、そういった矜持は存在しない

 

「(我々の本分を忘れるでないぞ、ランサーよ)」

 

当初の目的は、カルデアへの帰還

イレギュラーな聖杯戦争を制し、聖杯を確保する事

 

「この銀の槍よりも、猛き使い手であると、期待して良いのだな?」

「殺りあったわけでもないのに知るかよ…ただなぁ…弓兵なんぞの槍に負けるほど弱くはねぇぜ…」

 

瞬間、ランサーがアイコンタクトを送る

 

「(メインは俺がやる…爺さんは先に館に…)」

 

何も考えず、ただ挑発に乗ったわけではない

自分が引きつけている間に内部を探れ、と

しかし、

 

「では、チカラ比べといこうか…己と、お前”達”のな…」

 

「(チッ、簡単にはいかねぇか)」

「(…こやつ…!)」

 

弓兵の眼は誤魔化せない

意識の網が周囲を覆うのを感じる

逃げることも、不用意に動くことも許されない

 

「そちらにも事情があろうが、こちらも思う所が有る…

 疾く、戦を終結させ、疾く、杯を破壊させてもらう…」

 

思考を遮るように、左手の弓を2騎に向ける

その右手には、いつの間にか矢が握られていた

「我こそは”花栄”、字は”小李広”……梁山泊が一の弓手なり!!」 

 

男が名乗る

弱点を抱える英霊ならば、致命的になり得る行い

いとも容易く、やってのける

 

「へっ、馬鹿正直なのは嫌いじゃあねぇな…!! 2対1っつーのがアレだが、遠慮なくやらせてもらおうかねぇ」

「…うむ、油断できない相手みたいじゃしのう、かえって丁度良かったかもしれん」

 

拠点である山への侵入を許した時点で不利である事はアーチャーも理解している筈だ

態々姿を晒し、真名まで名乗ったその真意は兎も角、2騎の英霊を相手取る自信があるということに他ならない

 

 

「いざ、―――推して参る」

 

 

静かな呟きは、風に流されて尚、緊張感を齎す

虚ろなる島に、4度目の嵐が訪れようとしていた

 

 

 

≪1巡目≫

 

【槍】

命中判定:成功

ダメージ;10

 

 

「そんじゃあこっちから行くぜぇ!!」

槍を構えアーチャーへと狙いを定める

 

「(腕は如何程か、見せて貰おう…!)」

迎撃のため、足を踏み出そうとした瞬間、

 

「オラァ!!」

アーチャーの踏み出しのタイミングに合わせ、一瞬で肉薄

そのまま胴体めがけて槍を突き出した

 

「ッ!!」

対し、迫る槍を弓で受け流そうと試みるも、完全には躱しきれず血が宙に舞った

 

「(出だしはまずます、って所か…)」

槍を引き戻し、距離をとりながら呟く

 

「(矢を番えるまでの僅かな一瞬を狙われたか…中々に目聡い…)」

槍撃は甲冑を裂き、わき腹を軽く抉っていた

僅かに痛むとも、戦闘に支障は無い

 

「良き腕だ…だが、まだ真価を見せていまい」

「そりゃあ最初っから本気じゃあ詰まらねぇだろ?」

「違いないな しかし、”戦”においては、その油断が命取りとなる」

「あん?」

「”勝負事”と”戦”では天地の差がある 努々忘れるな、お前にはチカラが有るのだ…」

「…それはとりあえずは認められたってことか?」

「あぁ、認めよう、お前は強き者だ、…己より強いかは、此れより決める事だがな」

「なら、失望させねえように頑張らねえとな」

「ククク…”豹子頭”は兎も角、己は”金槍手”より数段手厳しいぞ…」

 

 

【弓】

攻撃対象:槍

命中判定:失敗(ファンブル)

 

 

「(さて…)」

弓に矢を番え、真っ直ぐにランサーに向ける

 

「来るかよ」

 

「(杞憂かどうか、…試すか)」

狙いはそのままに弦を引き絞り、手を離す

 

「…?」

しかし、矢は発射される事無く、ビィィィィンと、ただ弦の音だけが辺りに響いた

 

「…」

数秒の静寂

矢を撃とうとした者も、撃たれようとした者も、その様子を離れて見ていた者も

皆が無言だった

 

「…ウム、傷の痛みが予想以上に響いたようだ、許せ」

やがて、アーチャーが白々しく肩を竦め言い訳をする

 

「何言ってやがる…」

 

つい先程に油断するな、と宣言しておきながらの肩透かしに苛立つ

真っ向からのぶつかり合いかと思えば、この手応えの無さ

捉え処がまるで無く、その分行動の予測も難しい

 

「(侵入者は目の前の2騎のみ…環境の変化も無し、…陽動の類では無い、か)」

 

勿論、ただ失敗した訳では無い

 

”鳴弦”

アーチャーは弓弦の振動とその反響音により、周囲環境の把握を行っていた

 

 

そもそもの話

アーチャーが姿を晒した理由は、大きく分けて2つある

 

 

第一に、”機動力の差”

 

有利地点の優先的占拠、安全且つ円滑な撤退

兵法において”足の速さ”の重要性は言うまでもない

 

ライダーの宝具による移動を己の千里眼で捉えた瞬間、アーチャーはその場での迎撃を即決した

2対1で不利となる事を理解した上で、更には自分の姿を晒してまでだ

 

姿を隠しながら戦えよor逃げればいいじゃん

とか考える者もいるだろう

 

一理有る

 

 

 

上手く出来ればの話であるが

 

 

一気に山頂までショートカットされた以上、罠だらけの要塞は価値を失う

(戦力、機動力を削ぐ為のトラップがまず当たらない)

機動力で負けている以上、”逃走”も意味を失う

(休息や作戦を考える為の時間的アドバンテージが得られない)

 

仮に、上手い具合に隠れながらヒット&アウェイで戦えたとしよう

この場合における敵側の視点で考えると、

 

Q.姿を隠した敵をどうにかするには

A.炙り出す(文字通り)

 

ジャングルで一人の兵を仕留めるのに必要な弾丸はおよそ100万発

わざわざそんなに弾薬を用意せずとも、火種一つ有れば事足りる

 

木々を燃やして山を丸裸にするも良し

そんな中、ワザと抜け穴を用意してやって誘き出すも良し

 

見つけた所を、ひとっ飛び

周りは火の海、弓兵の武器である眼も煙で殺される

用意した罠を無力化された上での、逃げを許されない撤退戦に早変わり

 

敵の方針が読めない以上、アーチャーにとって最悪な展開をどうにか避けたかった

 

これが第二の理由である

 

どうせ逃げられないのならば、自ら姿を現す

中途半端に敵を追い詰めず、かといって自分が一方的に有利になり過ぎず、真っ向から叩く

 

即決

千里眼によって2騎の動向を確認した瞬間、アーチャーはすぐさま立案・実行してのけた

 

「(暫くは他への警戒を緩めても良かろう…)」

 

更には、目の前の英霊達が陽動である可能性も視野に入れた

鳴弦によって杞憂に終わったが

 

「いや、スマンな…最初から本気では面白味も無かろう、許せ」

 

お道化て見せるが、眼には怪しい輝きを湛えている

冷静にして、几帳面

時折、えげつない程の徹底ぶりを見せる

ソレこそが、花栄 小李広という男の性である

 

「…余裕じゃのう」

「然り、未だ此れからよ」

 

 

【騎】

命中判定:成功(敵ファンブル)

ダメージ:4

 

 

「(しかし、参ったのう…館に突入するつもりじゃったから、いささか地形が悪いわい)」

 

周囲は木々に囲まれ、遮蔽物が多い

ソリによる移動が単純な直線軌道であることを考えると、見通しの悪さはどうしても不利に繋がる

 

「そらそら、皆の衆行っといで」

抱える袋からジンジャーブレッドマンを複数対取り出し、アーチャーに向かって投げる

 

「(…さあてのう、どう対応するか

  これで足止めして本命へ…否、相手はアーチャー…距離を置く方が危険か)」

 

「呪具の類か…!!」

迫るクッキー人形の群れ

対し、疑念を抱くアーチャー

 

 

「(仮に…、仮にだが、彼奴が”入雲竜”の如き”使い手”ならば、…アレは非常に危うい…)」

 

「(なんというかのう…人形が動くって概念に恐れを抱く手合いがそこそこおるのう今回)」

 

そこそこどころか使用した相手全員である

 

「(危ういのだろうが、此処は…!!)」

疑念を呑みほし、クッキー人形の群れをそのまま受け入れた

 

口の中目指して甲冑をよじ登るジンジャーブレッドマン

その光景は、戦いの場とは思えぬシュールさであった

 

「ヌオオオオッ!! 是、は…ッ!!」

甲冑の山脈を踏破し、遂に最初のクッキー人形がアーチャーの口内に侵入する

 

「―――美味いッ!?」

「そらぁ、クッキーじゃからな」

 

「美味い! 美味い! 美味い! ぐぉッ!! 美味い! 美味い!」

 

モリモリと平らげるアーチャー

傷口の上を登られた時は、流石に痛かったのか、其処だけはきちんと抗議していた

 

「…馳走になったな、感謝する」

向かいくる菓子の群れを全てたいらげ、素直に礼を述べる

 

「………ここでお点前様でした、ではって言ったら見逃してくれんかの」

「悪いが、戦では手を抜かん主義だ

 情に絆される程度では、逆に礼に反する……己の志は変わらん、諦めてくれ」

「……ふうむ、致し方なしじゃのう」

諦めるようにため息を吐く

 

一回りの攻防を経て、弓兵は状況を分析する

 

「(毒を喰らわば…の心算でいたが、…よもや”薬”だったとはな…)」

かつての仲間を思い出す

 

仙人に師事し、規格外の道術を行使する、第4位の天間星

在りし日に見た、呪術の一端、ヒトガタの呪い

 

「(彼奴は道士に非ず、…呪い師の類でも無かろう…どう崩すかには、未だ推量が足らぬときた)」

 

力量を量るため、リスクを承知で攻撃を受けた

2騎の本領は未だ見せず、アーチャーに関しては言うまでもない

 

「(此方も、少しばかり”餌”を見せるか…)」

 

冷静で几帳面、そして大胆さ

ソレこそが花栄 小李広という男の性であった

 

 

 

≪1巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP51

   スキル:

 

【騎】HP67/67

   NP13⇒14

   スキル:

 

【弓】HP100⇒86

   チャージ0⇒1

 

 

 

≪2巡目≫

【槍】

スキル使用:『ルーン魔術』…自身に必中状態付与+攻撃↑2d6(1T)

ダメージ:21

 

 

「菓子のついで、にコイツも喰らいなぁ!」

ランサーは槍を片手に持ち大きく振りかぶり

そして、

 

「イヴァル!!」

アーチャーに向けて全力の投擲

 

「(ただのまっすぐな投擲…? ―――否!! コレはッ?!)」

 

迫る槍に不穏なものを感じ、回避行動に移ろうと体を逸らすアーチャー

しかし、体を曲げた方向に槍の切っ先もまた向かう

 

「(―――やはり追尾!! 避けられん…!! いた仕方無しッ!!)」

 

回避の無駄を悟ったアーチャーは、体を逸らす勢いを利用し、そのまま右足を軸にして回転

同時に槍が着弾する

 

「ぬうおおぉオオオオオオオッ!!」

回転したことで槍が突き刺さる事はなかったが、慣性力でアーチャーに喰らいつく

中華風の甲冑はガリガリと削れ、その下にある肉をも裂いた

 

「ぐ、ぉオオッ!!」

加工旋盤の如く甲冑もろとも人体を削るも、勢いを殺された槍は、そのままアーチャーの手に収まった

 

一瞬の判断で、必中の呪いによる致命傷を避けた

必ず当たるとは、裏を返せば当たった時点で終わりなのだ

 

「…ク、随分と骨が折れる…」

貫通は避けられたものの、それでも傷の面積は大きい

 

「(耐えやがったか…)…アスィヴァル」

回収の咒を唱えると、槍はまるで意思があるかのようにひとりでに動き出し、ランサーの元まで戻ってくる

 

鹵獲した武器を取り返されたアーチャーは、

「…妖術でも用いたか…? 槍が己を追って来たように見えたが」

「まぁな、ちょっとした手品みたいなもんだ」

「槍兵ながら術も修めるか…面倒な手合いの多いことだ」

僅かに息を荒げながら、敵の脅威を再確認した

 

 

【弓】

攻撃対象:騎

スキル使用:『千里眼』…命中補正+1d6(3T)⇒命中+4(3T)

      『弓矢作成』…チャージ+1、HP+2d6⇒チャージ+1、HP+6

命中判定:成功

ダメージ:6

 

 

【槍】

スキル使用:『啜る黒水』…対象のチャージを確率で減少、対象に毒状態(3ダメ)を付与(3T)

⇒チャージ減失敗、毒付与

 

 

 

「まだまだおかわりもあるぜぇ…!」

今度は槍でなく黒い液体の入った瓶を取り出すと、アーチャーに向けて投げつけた

 

「(隠し玉か…!)」

確認するや否や、判断は早かった

 

一瞬で弓を霊体化、間を置かずに武器を換装

槍の”抜き打ち”を行う

 

「オオオォォッ!!」

迫る毒瓶を槍の一撃で粉砕する

しかし、

 

「無駄だっ!!」

「っ!!」

 

「(この臭気…!、毒! …クッ、少し吸い込んでしまったか…)」

鋭い槍の一撃は毒液を霧状に変えてしまった

通常であれば、プラスになる技能だが、今の状況ではマイナスとなってしまう

 

「(やってくれるとは思ったが…それでも、被害を最小に留めやがったか…)」

ランサーの内で、アーチャーの強気な発言が尾を引いていた

 

相対する距離の関係で、毒瓶の迎撃には弓よりも槍を用いると予測していた

得体の知れない投擲物を槍で弾き、結果毒が撒き散らされるのは目に見えていた

 

「(こいつぁ益々、2対1ってのが惜しいわな…)」

 

毒と認識した瞬間、抜き放った槍をそのまま回転させ、風圧によって撒かれた毒霧を弾き飛ばした

 

毒液を即座に揮発させる槍撃

被害を最小限に抑える判断処置

 

「多芸だな、…実に厄介だ」

「アンタもな…言うだけの事はあるみてぇだ」

「応とも…我が銀槍、落胆はさせんぞ」

 

 

”銀槍手”

―――生前の花栄 小李広に与えられた、優れた槍手としての称号

その男は、ランサーとして召喚されてもおかしくない存在だった

 

”神箭”と謳われた弓術のアウトレンジ

”銀槍手”と称された槍術のインファイト

 

遥か高み、至高の武芸、生涯の無敗

その身その物が、宝具とも呼ぶに値する

 

「(此方も手を抜ける程、余裕では無い…そろそろ、此方も真なる手を見せねばなるまい…)」

槍を霊体化、代わりに弓を持つ

 

「より確実に、堅実なる”射”を刻む…」

 

アーチャーは2騎に悟られぬよう、2つのスキルを同時に使用した

 

1つは”千里眼”

その機能は、”動体視力の向上”、及び”遠方の敵の補足”

 

「(狙いは…儂か!)」

暗闇であろうと敵の居場所を捕捉する鷹の目で、ライダーを捉える

 

「(弓の強度及び、弦の延性を強化…飛距離は不要、…速度を上げる…!!)」

 

そしてもう一つのスキル

―――”弓矢作成”

 

ペルシャの大英雄も保有するスキル

彼においては、神より”弓矢を作る技術を授かった”ことに由来するが、花栄に至っては事情が異なる

 

 

「―――疾ッッッ!!」

 

 

腕の揺らめきも一瞬

一息に放たれた6本の矢が、様々な方向からライダーを襲う

 

「ぬぅッ!」

 

中空における回避とは立体的なものである

単純な直線軌道攻撃であれば、どの方向から来ても避けやすい

それ故にライダーは上空で待機していた

 

「(此奴… 巧い!)」

 

ライダーのクラスは機動力に長ける

クリスマスという、己の力が最大限に発揮できる今、大抵の攻撃は後手に回っていても避けられる自信はある

 

対し、アーチャーの矢は機動力を殺す軌道

即ち、避けられる事を織り込み済みとして放たれた物だった

 

「(置くように打つ…やれやれ、嫌な手合いじゃわい)」

一の矢を避ければその左の矢が顳顬を穿つ軌道で迫り、かといって下方に避ければ脳を抜く

 

弓の英霊ともなれば、一矢の軌道など自在に操れて当然

瞬間六射にそれだけの技を込めるその腕前は、生前無敗を冠するだけはある

 

「(ままよ!)」

ソリを駆る

機先を制されはしたがライダーも英霊、今日この日に最速を謳う者

 

正面より迫る壱の矢を潜り、左より迫る弐の矢をギリギリ掠めるように抜ける

参と肆の矢をバレルロールで回避、真下からの弐の矢を縦に落下するように擦れ違う

正面から迫る伍の矢を上に抜け…

 

「むぅ…!」

最後の一矢が後ろからライダーの肩を薄く裂く

掠めた程度な筈なのに、殴られたかのような衝撃が走り抜けた

 

「…恐ろしい腕前じゃな…アーチャー…」

「―――”六面六方六矢”…疾風の騎兵であろうと、楽には逃れ得まいと思ったが…一本しか当たらんとは、魂消た」

「かくも自在に矢が飛ばすお主の業前にこそ魂消るわい…」

 

 

 

「(調整不足、…弓材を改めるか)」

全力で殺しに掛かった矢を躱されたという現実を冷静に分析しつつ、水面下で武器を”創り直す”

 

弓矢は古来より、狩りや戦争、神事に至るまでの幅広い用途で用いられてきた

一口に弓矢と言っても、その幅広い用途によって様々な種類が存在する

 

アーチャーが使用しているのは、”複合弓(コンポジット・ボウ)”

日本の和弓とは違い、単一の素材ではなく、複数の素材を張り合わせた特殊な弓である

 

和弓は巨大さと威力が特徴であり、

速度×重量が破壊エネルギーとなるので、単純に強力、威力については折紙付きである

 

そして、この複合弓が特化しているのは、”対人戦闘の合理性”である

 

小型にして軽量、丈夫で威力もある

訓練すれば老若男女誰でも扱える

現代における自動拳銃に近い

 

出来るだけ手間をかけず、出来るだけ費用を掛けず、出来るだけ負担を抑える

扱いやすく、丈夫且つ、何より、”どれだけ効率よく人を殺せるか”

 

時代は合理性を求め、武器が産まれ、創り出された

複合弓は改良を重ね、個人の手により絶えず進化し続けた

 

まさしく弓は、旧戦場における銃

ただし、その威力は拳銃など比では無い

 

”複合弓”

――――コンポジット・ボウ

 

単一の素材で造るスタンダードな弓とは違い、繋ぎの木材や、果ては動物の皮といった素材までを継ぎ合せて作る弓

 

その独特な製法から、完全に同じ物など存在しない、謂わばオーダーメイド

弓兵においては自らの技量に合わせ、弓を自作することも珍しくは無い

 

複数の素材から成る柔軟性、剛性、速射性、飛距離、威力

どれをとっても申し分ない物であり、銃が広まりを見せた15世紀からでも戦場で重宝されたのも窺える

 

何よりの注目すべき点は、”改良が可能である事”

 

用途に合わせ進化し、強力な武器へ研ぎ澄まされてゆく

アーチャーが作りだした弓は、アーチャーにしか使えず、実力相応に高められた宝具の域に達している

 

故に、彼が保有するは”弓矢作成”のスキル

 

彼の弓に銘は無く、逸話も無い

だが、同時に実力のみで幾多の戦場を、無敗で駆け抜けた来た証明でもある

 

彼の時代・宋より遡り、春秋戦国

時代を象徴する弓の双璧

秦の大将軍、―――”李広”

楚の大将軍、―――”養由基”

 

2人を由来とした字、そして称号

彼こそが、花栄 小李広

 

大将軍の名を背負うのは、自らの腕への絶大な自信を誇る証だろう

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:10

 

 

「(さて、どうしたものか…… ありゃあ、真剣になった目だわい)」

 

相手に合わせて武器を調整するのであれば、長期的な戦いはドンドン不利になってゆく

 

「(一度ああなってしまえば、もう止まらんぞああいう手合いは……止むなし、じゃな)」

 

ライダーのソリが一瞬消え、元の位置に戻る

続き、叩きつけるような音と突風がアーチャーの全身を、次いで周囲の木々を撃ち抜いた

 

「―――ッ! ヌ、ウ、オ、オ、オオオオオぉッ!!!!?」

段重ねの衝撃に、鍛え抜かれた肉体が跳ねる

 

「(是か…! 是が機動力の正体…ッ!! やはり疾い…!! 追える…見える、が、…肉体が追いつかんッ!!)」

 

スキル”千里眼”によってアーチャーの動体視力は大幅に強化されている

それ故、ライダーの神速をギリギリ捉えることは出来た

 

それでも、知覚から反応まではどうしてもタイムラグが生じる

認識してから行動するまでの僅かな間に、攻撃が訪れる

 

”捉える”ことが出来ても、”捕える”事が出来ないのだ

 

「(だが、いずれその尾を攫む…仕掛けさえ…理解れば良い…今暫しの辛抱よ…)」

 

喰らった攻撃の勢いに任せ転がり、衝撃を流しつつ、立つ

闘志は消えず、未だ其処に在った

 

「大人しく折れて欲しいんじゃがな…」

「…何度も言うがな、己の意は変わらぬ……杯は破壊する、その為には集う英霊全てを破る…!」

 

既に己の内で決めたことだ、と

決して揺るがぬ正道である、と

 

「是は、己の矜持が為の戦…我等を愚弄せし輩に、北斗星主が下す罰である」

「…やれやれ(つける薬なし、じゃな)」

 

 

≪2巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP51

   スキル:ルーン魔術(残りCT6)

       啜る黒水 (残りCT7)

 

【騎】HP67/61

   NP32

   スキル:

 

【弓】HP58

   チャージ1⇒2

   毒状態(3ダメ/3T)

   スキル:千里眼 ≪残りCT6≫ 命中補正+4(3T)

弓矢作成≪残りCT7≫

 

 

 




サイコロ運ってどうしようもないよね(ファンブル2連)


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14 艶や雲海花嵐 後

連投してきた所で、そろそろ話のストックが無くなってきたなぁ
本セッションはやっとこさ最終章(アーチャー編の次)に入った所なんだよなぁ
そろそろ開始から丸2年経っちまうんだよなぁ



≪3巡目≫

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:20

 

 

「あんたにも譲れないものがあるみたいだが、こっちも負けるわけにはいかねぇんだ」

 

何を成すため、カルデアに来たのか

片時も戦う理由を忘れた事は無い

 

「何があっても勝たせてもらうぜ!」

まるで大刀でも扱う様に、槍の石突付近を両手で持つ

 

「(構えを、変えた…)」

射程距離が伸び、対応できる間合いも広がる

反面、槍の強みである”点”での攻撃(突き)は封じられる

 

「(守りにしても粗末な構え…如何すると言うのだ…)」

 

訝しむアーチャーを他所に、奇妙な構えのまま突進するランサー

 

「ウオオォォオラァッ!!」

互いの間合いが交差する瞬間

回転を加えながら横薙ぎに、槍を力任せに振りぬいた

 

「(躱…否!!、止める…!!)」

2騎の攻撃は想像以上に響いていた

軋む肉体では伸びた射程の攻撃を回避しきれないと悟ると、即座に弓で受け止めに掛かる

 

「(剛性、靭性を最大に…―――ッ!!)」

その選択は正解であり、大いに間違いだった

 

「グ、おおおォアッッッ!!」 

スキルにより弓を強化したことで、衝撃の大部分は殺すことが出来た

それでも、全てを受け止めきる事は出来ず、ホームランボールの如くふっ飛ばされる

 

「…良いのが入ったみたいだな」

槍を持ち直し、吹き飛ばしたアーチャーを見据えて構えを元に戻す

 

「…応よ、効いたわ、効いた…」

飛ばされた先で受け身を取りながら、着地する

直ぐに立ち上がるとも、流石にその足はふらついていた

 

「…まだ立てるとはすげぇな」

「―――子、曰く…”未ダ生ヲ知ラズ、焉クンゾ死ヲ知ラン”…」

四書五経を修める男が、孔子の言葉を語る

 

「死した後だからこそ、分かる事がある」

「へぇ、何だよ…?」

「―――生憎、敗けは大の嫌いなようだ…意地は通させて貰う」

「へっ、ますます火ぃ着けちまったか…」

 

生涯無敗と謳われる男が、死して初めて悟った事

詰まる所、彼は究極の”負けず嫌い”だった

 

 

 

「(出し惜しみをしている場合では無い…片方だけでも先に仕留める…!!)」

 

12世紀・中華北宋

 

中華国内が戦乱に明け暮れ、幾つもの国に分かたれていた時代

たった108人という小人数で国へ反旗を翻した者達が居た

 

万魔殿に封じられし魔星の生まれ変わり

北斗星の元に集う悪漢・梁山泊

 

国への反乱から、国を守る戦いへの変遷

後に”水滸伝”として昇華され、世に広がりを見せた無法者達の戦いの軌跡

 

男は、その豪傑の一人であり、

頭領・宋江の補佐として、幾多の戦場を無敗で駆け抜けた強者である

 

「―――天地、移りゆけど… 極北の星、絶えず朽ちず我等の頭上に輝けり…」

 

空気が一変する

 

絶対零度の殺気

宝具の開帳、その前触れ

 

今までの比では無い集中力

千里眼の全てを使用した追跡

アーチャーの次の行動は、

 

左の手に弓を持つ

その弓は次第に形を変えてゆく

巨きく、強靱く

得物を仕留める為、より最適な形へと進化してゆく

 

「(むぅ、あやつの得物が…)」

 

弓矢作成スキル

武器である小型の複合弓は、和弓を思わせる巨大な弓へと変貌を遂げた

 

「離宮、九柴、天蓬の英…、星主帝車が傍らに咲き輔する事、是天道也…」

 

右の手に槍を現出

有ろうことか、複合弓に槍を番え、そのままギチギチと引き絞る

 

矢の代わりに、槍を放つ心算だ

 

「―――『天英星、不知朽(はなぶさのほし、くちることしらず)…』

これこそアーチャー・花栄 小李広の誇る宝具

梁山泊で唯一無敗を誇った、彼の武の象徴

 

”神箭”そして、”銀槍”

 

銘のある武器では無く、己の腕のみで勝ち取った数々の称号

その全てを合一させ放つ、彼の生涯が込められた一撃

 

限界ギリギリまで張り詰めた状況

無敗の弓から、無敗の槍が打ち出される

 

 

≪宝具対抗判定≫

【弓】

攻撃対象:騎

宝具使用:『天英星、不知朽(はなぶさのほし、くちることしらず)』

  ⇒自身の弱体解除+敵防御↓1d6(3T) 宝具の打ち合いの場合、+2d6の補正を獲得

ダメージ:13

 

【騎】

スキル使用:『善悪判断』…自身に”悪しき子供”特攻付与、NP+10、攻撃↑2d6(1T)

令呪使用:3⇒2

 

対抗宝具使用⇒ライダー判定失敗

 

 

 

「……ふむ」

槍が、放たれる

同時にライダーは考える

 

「(アーチャーが放つ渾身の一射…

  アレは儂が幾ら早かろうと関係あるまい…”当てる”のではなく”当たる”じゃろうて…)」

 

宝具が迫る中、思考だけは妙に冷静だった

 

「(かのペルシアの英霊の一射程でこそ無かろうが…最初から無傷で済ませられるなどとは思っておらんわい…!!)」

 

トナカイに活を入れる

ソリを加速させ、槍へと正面からぶつかるように…

 

「―――爺さんッ?!」

 

瞬く間も無く激突

大質量がぶつかり合い、空気が爆ぜる

爆発でもしたように轟音が鳴り響き、止んだ

 

突風が吹き荒れ、砂埃が舞う

衝撃波で木々は震え、四方八方を落葉が嵐のように飛ぶ

 

「…成る程、これは確かに渾身の一射にして必殺の一射…これを真正面から受けたならば決して…タダでは済むまいよ…」

 

ライダーは無傷でこそないが、健在であった

彼が操るソリも、また同じ

 

「無事だったか」

「あぁ、なんとかのう…間に合ったわい」

 

「(確実に殺った、と思ったが…事もあろうに仕損じたか!!)」

抑えきれない驚愕

絶対に殺すため技を撃った、それでも相手は死ななかった

確実に殺せる自信があった、それでも相手を殺せなかった

 

これが驚かずいられるか

これが屈辱では無く何だ

 

「(…この己の技を、…越えるとは…!!)」

思いがけぬ結果を目に、冷静さを欠く

対し、

 

 

「(痛ぅ…流石は音に聞こえし108英傑、じゃな…)」

額から脂汗と血が流れる

ライダーとしても、今の攻防はギリギリの綱渡りだった

 

「避けられぬならば、一番痛くない箇所に当たる…それでも危うなんだとはのう…」

ライダーの手に輝いていた令呪が一角消費されていた

必殺の一射が着弾する瞬間に使い、自身の宝具威力を増幅・被ダメージを抑えた

 

速度で勝っていなければ、判断が少しでも遅ければ

今頃、トナカイごとライダーに風穴が空いていた事だろう

 

 

「(”豹子頭”に迫る槍手…、”神行太保”よりも疾き者…)」

槍の名手に、神速に迫る者

かつての同胞にも、目の前の敵に近しい者は居た

 

「(大陸の彼方に、これ程の剛の者が居ようとは…我ら梁山泊も、井の蛙だったという事か…)」

 

世間から爪弾きにされた集団・梁山泊

宿星の導きに従い、集まった個性的な荒くれ者達

 

死後も目の前で豪勇を振るうその姿は、雄々しくも美しい

事実2対のサーヴァントを相手に渡り合う

 

「―――だが、良い…これ程の胸躍る戦いは久しい」

 

戦い、争い

梁山泊は、頭領である宋江の理念の元、正しき朝廷に忠義を尽くすことを何よりとした

 

しかし、元は様々な罪を犯した者達の集団

討伐軍を派遣され、初期には朝廷を相手取る事もあった

 

それでも彼らは戦い続けた

朝廷に仇名す者達と、朝廷に巣食う悪と

 

やがて、功績が認められ、正式に恩赦が施される

首領・宋江を始めとした梁山泊の面々は大いに沸き立ち、国のため、本懐のため、従来よりも激化する戦へと赴いた

 

「我らの戦いは、未だ終わらぬ…」

 

梁山泊最後の戦、”方臘の乱”

かつてない強敵との戦いに、宿星の元に集った男達は犠牲を払いながらも進み続けた

 

血で血を洗うような戦の果て

―――彼らは、時代に敗れ去った

 

「聖杯、願望器…破壊すべき、悪なる杯…」

 

武を愛し、武に愛された、無敗の弓手

数々の戦場を無敗で駆け抜けた男の生涯は、やり切れない結末で幕を閉じる

 

”方臘の乱”鎮圧後、訪れたかのように思えた安寧

そんな中、梁山泊頭領にして、花栄の親友であり、梁山泊頭領・宋江は朝廷にて謀殺される

 

凱旋後、軍に復帰した花栄は、その事実を夢の中で知る

荒唐無稽な内容、それでも夢の中の友に導かれ、示す場所へ旅立った

 

「この地に集う我等を、英霊の誇りを嘲る愚者共…今すぐにでも引きずり出し、糾してやりたい所だが…」

仕方ないと言った風に表情を歪める

 

「こればかりは、感謝すべきだろうな…己は、まだ戦う、―――まだ戦える…」

 

 

 

果たして其処に在ったのは、宋江の墓

親友の死に、無情な最後に涙した

何のために戦ってきたのか、自分たちは何を理念としていたのか

 

罪を犯し、背を向けたとは言え、戦いの根底にあったのは、―――”替天行道・忠義双全”

王に代わり賊を討ち、変わらぬ忠義を尽くす

 

命を賭けた忠道は、つまらぬ権力争いによる謀略によって無為に終わった

 

理由は失われた

忠道は途絶えた

 

親友を助ける為、立場を擲ってまで義に走った

そこに後悔は無く、宿星の縁を越えた絆があった

 

誇り高き無敗の弓手は、親友の墓前で首を吊って死んだ

義に生きた男の最期も、また、義に殉ずるものであった

 

敗北を知らない男の、唯一にして最後の敗北

 

―――”まだ、戦える”―――

それは、惨めであると理解しながらも、敗北を受け入れることが出来なかった男の叫びでもあった

 

 

 

≪3巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP51

   スキル:ルーン魔術(残りCT5)

       啜る黒水 (残りCT6)

 

【騎】HP67/48

   NP2

   スキル:善悪判断(残りCT7)

       防御-5(3T)

      

【弓】HP38

   チャージ3⇒0

   スキル:千里眼 ≪残りCT5≫ 命中補正+4(2T)

弓矢作成≪残りCT6≫

 

 

≪4巡目≫

【槍】

命中判定:失敗

 

「(弓で槍を飛ばすたぁ、随分な野郎だ…ソレも、今の爺さんが躱せない程の腕ときた…)」

 

弓で矢以外の武器を放つ英霊は、カルデアにも存在している

赤い外套が印象的なその男は、クー・フーリンやフェルグスとも因縁があるようで、ドゥフタハとしても知らない仲でも無かった

 

「(”アイツ”の場合は剣だったな…、しかも、魔改造して矢の形にしてはいたが…)」

 

流石に槍を、そのまま弓で撃ちだす輩はいなかった

弓使いとしても、槍使いとしても、未知の戦法だ

 

「…そっちもだいぶ乗ってきてるみてぇだが、そろそろ終わらせるぜ」

ライダーすら回避できない宝具を連発されるのは脅威

そう判断し、槍を前傾に構えたまま、アーチャーへと突撃していく

 

「喰らえッ!」

突撃の勢いをそのままに槍をアーチャーの胸元目掛けて突き出す

 

「この程度では終わらんなぁッ!!」

弓を霊体化、続いて槍を実体化

返す刀で、迫る槍を鮮やかに裁き躱す

 

「うおっと!」

「先刻と比べ、随分雑だ…、相方を傷つけられ動揺でもしたか?」

「…チッ、些か気が抜けてたみてぇだ…、思ったより攻撃が入ってたからかもな」

 

槍をすぐさま引き戻し、後ろ跳びに距離をとる

行動、表情から、少なからず焦りの感情が読み取れた

 

「こりゃあ、気合を入れ直さなきゃな…」

 

僅かな情動をも見逃さないアーチャー

ランサーを冷静に分析する

 

「(…若い、…いや青いな… 恐らくは老成する間もなく、死して英霊となったか)」

「(学ばず朽ちるか、学び成長するか…

  後者ならば恐ろしい手合いとなりうる、始末は付けねばなるまい…)」

 

 

【弓】

攻撃対象:騎

スキル使用:『銀槍手』⇒攻撃↑(2d6-1T)+必中状態を付与(1T)

ダメージ総量:1

 

【騎】

スキル使用:

・『聖者の贈り物 』…対象のHPを3d6回復+攻撃命中時にNP+1d6状態付与(3T)

 ⇒HP+7、命中時NP+2

・『無辜なる守護者』…自身のNP↓1d6、防御↑3d6(3T)

 ⇒NP-6、防御+13(1T)

 

 

 

「なれば、此方も気合を入れ直してみるかッ!!」

ランサーの攻撃を裁いたのも束の間

アーチャーは持った槍をそのまま勢いよく振りかぶり、

 

「―――疾ィッッッ!!」

負った傷口から血が噴き出すのも気にせず、全力で槍を投げ放つ

再び、ライダーに向けて

 

「定石じゃの、弱ってる方を落として数的有利を覆すのは! …じゃが、ここでやられる訳にも行かんのじゃ!!」

袋の中より取り出すは、一本のキャンディケイン

それを噛み砕くようにして咀嚼する

 

老体に喝を入れる

キャンディケインにより、活力を引き出した肉体に加えて、更に気合を込めて…

 

「ぬううああああああ!!!」

投じられた槍を、白羽取りの如く受け止める

いかな神秘を用いたか、胴を抜く勢いの槍が致命打となる前に停滞する

 

「……今度は止められたわい…、お主も動揺しとるようじゃな?」

無論、無傷とは行かないが、致命の一撃には程遠い

博打には打ち勝ったようである

 

「違いあるまい…己の全力を賭しても殺しきれぬ相手が現れたのだ、揺れずにはおれん!!」

「ならば是非もなし…まあ揺れている自覚があるならば油断はできぬがの」

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ:12

 

 

「さあて、折角じゃから使わせてもらおうかの…」

受け止めた槍を持ち、前方へ構える

 

「こういった武器は専門外じゃが―――」

加速

 

「……これなら関係あるまいよ!!」

消えるような勢いで花栄めがけて突撃する

加速の勢いを利用してのランスチャージ

あわよくば突撃の衝撃で槍が砕け散る事すら目論んでの一撃だった

 

「…態々返してくれるとは、有り難いッ!!」

真正面から受け止める

聖人の肉体を持つ訳でも無く、肉眼で捉えることすら不可能な光速の移動を、まるで先程の攻防の意趣返しとばかりに

 

「…無茶を貼るのう、お主」

「己は、其処な槍兵の如き術は持ち合わせておらんのでな…確かに、返してもらったぞ…!!」

止めどなく溢れるエンドルフィンとドーパミンが、痛みをしかき消しているのだろう

体を貫く槍を難なく引き抜き、構えて見せた

 

 

 

≪4巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP51

   スキル:ルーン魔術(残りCT4)

       啜る黒水 (残りCT5)

 

【騎】HP67/48→弓40→聖者47

   NP8→2→4

   スキル:善悪判断(残りCT6)

       防御-5(2T)

       防御+13(1T)

       聖者の贈り物 命中時NP+2 ≪残りCT7≫

       無辜なる守護者:B  ≪CT5≫

 

【弓】HP38→騎26

   チャージ3⇒0

   スキル:千里眼 ≪残りCT4≫ 命中補正+4(1T)

弓矢作成≪残りCT5≫

 

 

 

≪5巡目≫

【槍】

命中判定:失敗

 

 

「今度こそいくぜぇ!!」

高らかに声を上げ、アーチャーに素早く接近、

 

「オラオラオラァ!」

手数で活路を開くべく、繰り出すは三段突き

 

「(疾く、鋭い、…が!!)」

高速で走る槍の切っ先を千里眼は見逃さない

 

「我が銀槍が、応えられぬ程では無い!!」

槍同士が閃き、火花を散らす

目には目を、三段突きには三段突きを、ランサーに合わせて繰り出した

 

「チィッ!」

3連撃同士が互いを殺し合い、攻防は終わりを告げる

的確な突きによって凌がれたことに複雑な表情を浮かべながら、距離をとる

 

「三段程度では足りんな」

「……そーかい」

手負いにも関わらず、精妙な技によって的確な対応をして見せるアーチャー

その姿に感じるモノが無いと言えば嘘になるだろう

 

攻撃を悉く捌かれる苛立ち

されど、2対1で渡り合う、強さへの賞賛

 

「(ズタボロのアイツは、放っておいてもくたばる……だが、そんなんじゃあ、こっちのムシが収まらねぇ)」

 

チカラを示せないまま終わるのは癪である、と

ただ勝利するだけでは、己が矜持に反する、と

 

「(勝つ事が目的だけどなぁ…それでもよぉ、…勝ち方は選んでもいいよな?)」

 

気に入る勝ち方、気に入らない勝ち方

果たすべき使命がある身の上の為、ソレが合理的判断でない事は理解している

しかし、どうしようもなく心は動かされる

 

 

【弓】

攻撃対象:槍

命中判定:失敗(ファンブル)

 

 

「さて、今度はこちらの番―――」

攻め込もうと力を込めた足が揺らぐ

勢いを失った体はバランスを崩し2、3歩踏鞴を踏んだ

 

「…体は正直みてぇだな」

 

果敢に戦おうとも、結局は2対1

幾度となく槍で、ソリでの攻撃を受け続けた事に変わりは無い

 

脳内麻薬で痛みは麻痺しているのだろうが、いずれ肉体は限界を迎える

その兆候が、既に表れ始めてるのだ

 

「(現界…? …否!!)」

 

精神は肉体を凌駕する

ココロが折れない限り、敗北は訪れない

 

「(動ける内は槍を持ち、戦える内は弓を放つ…なれば、未だ現界には程遠い…!)」

 

動き、戦えるまでが其れ即ち”限界”

倒れ逝くその時こそが、男にとっての限界である

 

 

 

【騎】

命中判定:成功

ダメージ総量:8

 

 

「…流石に向こうも無理が響いてきたようじゃのう」

 

騎兵は隙を逃さず、ソリを駆る

消えるほどの速度で突撃を仕掛ける

 

「…意地が悪いようじゃが、搦め手でイカせて貰ったわい」

 

再び姿を現し、ソリが元の位置に戻る

今回は直接ぶつかった訳ではない

 

ならば、何をしたのか

 

「―――ぐっ、ヌうううううぅぅううッッッ!?」

 

数秒後、アーチャーの耳元で派手な爆音が鳴り響く

 

「あまり使いたい手では無いがの…これで儂のソリを捉え辛くなるじゃろうて」

「(えげつねぇ手を使いやがるな、爺さん…)」

内心、ランサーもドン引く

 

「もっとも、儂が何を言っておるか聞こえんじゃろうが」

 

「(―――この脳髄に響く衝撃、…音か!! 顔に似合わず、やってくれる…)」

 

消える程の速度で加速後、アーチャーの耳元で数瞬だけ停止、再び最大速

速度の緩急が生み出す、聴覚破壊の搦め手である

 

戦場において感覚を失うは致命的

視覚と皮膚の感覚、そして直感のみで2対のサーヴァントを相手取らなければならない

 

「このまま仕留めるぞい、ランサー」

「…応、了解したぜ」

 

詰みに入る

情けも容赦もなく勝ちにいく事こそが、ライダーなりの敬意なのだ

 

「(やってくれる…!!―――だが甘い、愚か也…)」

 

聴覚は暫く使い物にならない

だが、まだ感覚は残っている

 

「(後悔するがいい…潰すならば、この千里眼(め)を潰すべきであった、と…)」

 

なにより、己の眼がある

瞳に映る光明は、未だ消えない

 

 

 

≪5巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP51

   スキル:ルーン魔術(残りCT3)

       啜る黒水 (残りCT4)

 

【騎】HP67/47

   NP4→15

   スキル:善悪判断(残りCT5)

       聖者の贈り物 命中時NP+2(3T) ≪残りCT6≫

       無辜なる守護者:B  ≪残りCT4≫

       防御-5(1T)

    

【弓】HP18

   チャージ1

   スキル:千里眼 ≪残りCT3≫

弓矢作成≪残りCT4≫

       銀槍手 ≪残りCT5≫

 

 

 

≪6巡目≫

【槍】

命中判定:成功(敵ファンブル)

ダメージ総量:13

 

 

「…………はぁ」

槍を地面に突き差し、ランサーは手で顔を覆い息を吐く

 

「(今までの攻撃じゃあ当たらねぇ…、奴も俺の手は見切り始めていやがる…)」

精神を落ち着かせ、槍に手に取り前傾姿勢になり構える

 

「(…駄目ならさらに速くなるしかねぇ!)」

求められるのは、限界を超えた速度、究極の瞬発力

踏み込みの瞬間、筋肉の隆起により、」まるで脚が一回り大きくなったように見え、

 

「フッ!!」

一瞬でアーチャーの元に辿り着き、空を勢いよく裂きながら槍を突きだす

 

「(ッ、馬鹿正直にまっすぐ来たか…!!)」

 

ランサーの足捌き、槍の軌道を正確に捉える

聴覚が奪われようとも、そのぐらいの芸当は容易い

 

「(疾いだけではこの眼は誤魔化せぬ!! 対応など―――)」

 

突き出される槍を止め、いなすべく構えるアーチャー

しかし、彼は1つ失念していた

 

「(剛、槍ッ!! 流し、きれん―――ッ!?)」

 

千里眼はランサーの足さばきを捉えていた

踏み込みのタイミングから、繰り出される槍の挙動も見えていた

 

しかし、

 

「だっ、ラアアアアアアアあああぁぁぁッ!!!」

 

踏み込みでの蹴り出し、筋肉の収縮音、槍による風切り

聴覚をライダーによって無効化された現在では、完璧な予測など不可能である

 

「ぐ、うっ!!」

突き出しの威力を見誤ったアーチャーは、槍を受け止めきれずに弾き飛ばされる

 

「どうだ」

追撃はせず、その場で槍を構えなおす

 

「(響く…!!)」

突き抜ける衝撃に全身が揺れる

直撃は避けたとは言え、肉体の傷に影響が及ぶ

 

「(油断はしていなかったつもりだが、少々心構えが足りんかったな…)」

攻撃の勢いに体を任せ、衝撃を軽減する

地を転がりながらも思考は止めない

 

 

【弓】

攻撃対象:騎

命中判定:失敗

 

 

「(ただでは起きん…!!)」

ランサーの攻撃に態勢を崩されながらも、アーチャーはしっかりと弓を構えていた

その射線上には―――

 

「そこまで、儂を落としたいか…」

 

「(狙い目は―――!!)」

ライダーを捉え、不安定な体勢から3連射を放つ

 

「……じゃが、それまでかのう」

 

不安定な体勢からの3連

加えていかにかの弓兵が絶技を誇ろうが、こうまで競り合えば良い加減に慣れる

 

結果として、その矢は難なく躱された

 

「(…決定打に欠けるか)」

仕留められるとは思っていなかったのだろう

追加の矢は放たず、そのまま体勢と息を整えた

 

 

【騎】

命中判定:失敗

 

 

「良い加減、沈んで欲しいんじゃが…な!」

再三の加速突撃

だが、ライダーも気付くべきであった

 

如何に高速であろうとも、軌道が単調であれば避けるぐらいは出来るのだと

 

「生憎、このような所では未だ沈めないのだッ!!」

横っ飛びに転がり、危なげなく躱す

土に塗れながら、アーチャーはすぐさま立ち上がった

 

「…流石に簡単にはいかんのう」

「己が誇り、己が矜持…簡単に折れては、悪漢の名が泣くわ」

「…だから死んだんじゃろうが」

 

 

 

≪6巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP57

   スキル:ルーン魔術(残りCT2)

       啜る黒水 (残りCT3)

 

【騎】HP67/47

   NP15

   スキル:善悪判断(残りCT4)

       聖者の贈り物 命中時NP+2(2T) ≪残りCT5≫

       無辜なる守護者:B  ≪残りCT3≫

          

【弓】HP13

   チャージ2

   スキル:千里眼 ≪残りCT2≫

弓矢作成≪残りCT3≫

       銀槍手 ≪残りCT4≫

 

 

≪7巡目≫

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:10

 

 

「そろそろぶっ倒れやがれよなぁ!」

吼えながら槍を片手で短く持ち、素早く走り出す

 

ふらつきながらも立ち上がるアーチャーへと、槍を振りかぶる

 

「オラァッ!!」

「くぅッ!!」

大振りの槍をスウェーバックで回避

安堵も束の間、ランサーの攻撃は終わらない

 

「まだまだァ!!」

空振った勢いをそのままに、アーチャーの胴体へ回し蹴りをキメる

 

「ぐ、ぬぅッ!!」

槍の間合いよりも更に深い位置

仰け反った姿勢ではまともな回避も出来ず、腹部に蹴りが突き刺さる

 

「…戦い方を変えてきたか」

後ずさる体を、槍を地に突き差すことで強制的に止める

鳩尾に入って苦しいのか、顔を顰め呟いた

 

「ずっと同じ槍なんざ退屈だろ? …槍を使う弓兵さんよ」

返答しながら体勢を整える

 

「…道理だな…子曰く、”學ベバ則チ不固”……頭を使えば、視野は広がる…」

見切り対策の行動に、素直に納得を見せた

 

「だが、視野を幾ら広げようと、千里を見渡す眼を持とうとも、己は、…己達はただ一つの道を生きてきた…」

 

「…此処で己は果てるだろう、…己が成すべき事を、成せないのだろう…」

「あん? …何だよ降参か?」

 

アーチャーは無言で首を横に振り

 

「だからと言って、己が選択を取り消す事は無い、顧みることは無い…己が正しく在る所を成し、真の義を貫くのみ…!!」

 

―――”替天行道・忠義双全”

天(おう)に変わり道を成し、不変の義を全うする

死して尚、滅ぶことの無い梁山泊(かれら)の流儀

 

 

【弓】

宝具使用:『天英星、不知朽(はなぶさのほし、くちることしらず)』…自身の弱体解除+敵防御↓1d6(3T)

攻撃対象:槍

命中判定:失敗

 

 

「我が魔星は”英(はなぶさ)”…星主帝車が傍らに咲き輔する事こそ、天道也…」

 

右手の銀槍を複合弓に番え、ギチギチと引き絞る

 

2度目の宝具

力尽き果てる前の最期の輝き

 

視界はグラグラと揺れている

体中に巡る筈の血液は殆ど流れ出し、思考もまともでは無い

それでも、

 

「―――『天英星、不知朽(はなぶさのほし、くちることしらず)』…」

 

全身全霊を、全肉全骨を、魂を意地を、己が全てを込めて

―――撃ち放つ

 

「(癪だが、認めるしかねぇな…、アンタは確かに強い…この宝具だって、まともに喰らったら終わりだろうよ)」

 

流星の如く突き進む槍の勢いに怯まず見据える

 

「(…こういう状況じゃ無けりゃ、はっきり白黒付けたかったさ…)」

 

ライダーに向けて撃った時と比べ、僅かに速度が落ちている

きっと、今のコンディションで出せる全力なのだろう

 

「―――此処、だッ!!」

襲いくる切っ先を、思いっきり打ち払う

轟音と火花が散り、軌道を逸らされた槍はあらぬ方向へと吹き飛んでいった

 

「ッ!!」

「…こんなもんか…」

 

本来ならば、この程度のアクションで対処できる宝具では無い

全力を発揮するには、蓄積されたダメージが大き過ぎた

 

「…一度ならず二度も、奥儀を捌かれるとは…お前達のチカラは、己が想像していたよりも遥か高みに有るのだな…」

男の槍は折れなかった

ただ、更なるチカラに敗れた

 

「…まぁ、アンタがズタボロの状態でなかったら、厳しかったかもな」

「状況など良い訳に過ぎん…己の最善は、お前達の最善に敗れた、…それだけなのだ」

男の意思は折れない

ただ、2騎のチカラがアーチャーを凌駕しただけだ

 

チカラとチカラ

意思と意志

双方、別の目的があった

 

ただしソレは、共存できるものでは無かった

だから、敵対した

 

「…己にこれ以上の手は無い…だからと言って、手を抜くなどとは考えるなよ…」

「んなことは言われなくても分かっているさ」

 

その言葉を聞き、アーチャーは安心したように頷き

 

「仕組まれた茶番とは言え、戦は戦…武に生き、武に死ぬ……其が悪漢(われら)の生き様よ…!」

星の光を目に宿し、弓を構えて見せた

 

 

【騎】

命中判定:成功(クリティカル)

ダメージ:10

 

≪決着≫

 

 

「それが誇り、それが意地…」

ライダーからすれば虚しいと、感じながら言葉を紡ぐ

 

「奪い、殺し、死んでその果てに何を見る?」

ソリが消え、

 

「何を成したいが故に武を修めた!?」

再び現れる

そして、アーチャーに何かがぶつかった音が三度、遅れて鳴り響いた

 

「―――無、論ッ、己達が掲げた正道が為ッ!!!!」

避けられる筈も無く、攻撃を全て受け止めた

衝撃で途切れ途切れになりながらも、問いに答える

 

攻撃を喰らった勢いで地を転がり、爪跡を刻みながら止まる

芋虫のように這いずるも、腕に力が入らず倒れる

…今度こそ、立ち上がる事は無いだろう

 

「その正道は、誰の為の、何の為の正道か」

「…愚問、だな…、世の、国の為にこそ、他ならん…」

「……良き国のためか」

問う その口調は重々しく威厳が満ちる聖人の物だ

 

「それは、真実だな?」

「この期に及び、嘘など言うモノか…」

「……ならば、佳し 聞きたいことは聞いた」

それで問いは終わり、と告げ

 

「武に行き、武に死ぬ… 次の機会があるかなぞ知らぬが、せめてもう少し他のものに目を向ける余裕を持っておくがいい」

聖人としての言葉を送った

 

「縁さえあれば、その正道にて堂々と救えるモノとてあるだろうからな」

「…”救える”か …あぁ、願わくば、そう在りたいものだ…」

 

 

時代は語る

―――”方臘の乱”

中華・北宋という国において、時代と時代の狭間で起きたこの戦は、大きな転換点であった、と

 

数多くの内乱を抱えていた北宋において、最も大規模な例だった”方臘の乱”

その大元の原因は,、腐敗した政治・新法による汚職増税経への不満

 

梁山泊が掲げた理想、正しき朝廷への忠義

頭領・宋江が最初に起こした乱も、悪しき世を糾す為の物だった

 

歴史は物語る

中華・北宋という国において、”方臘の乱”が国の生命を断つ、大いなる切っ掛けであった、と

 

乱鎮圧後、疲弊した梁山泊は元の勢いを失いつつあった

108居た悪漢達も、度重なる戦によって、その数を減らしていたからである

そこにとどめを刺したのが、宋江の死であった

 

各地での活躍によって厚く取り立てられた梁山泊は、腐敗した朝廷にとって目障りでしか無く、

褒美と称し贈られた毒酒によって、宋江は命を落とすことになる

 

死の間際、宋江は部下に、自分の死後に妙な行動は起こすなと伝えた

 

此処で朝廷に謀反でも起こせば、自分たちのやってきたことは無駄になる

皆の為、梁山泊の名は何があっても汚さないでくれ、と

自らの死を悟った男は、そう言って息絶えた

 

”方臘の乱”からたったの2年、勝利の余韻はあまりに短く、

更に、この宋江の死から7年後、豪傑達が守りたかった国は、腐敗した内政が原因で滅亡した

 

もし、宋江が生きていれば

もし、梁山泊の指揮が完全な物であれば、国は救えていたのか

 

”もしも”、”仮に”の話などは空想でしか無く

黙したまま、歴史が語ることは無い

 

「…己の、敗けだ…」

 

「…侮っていた訳でも、無い、過信していた訳でもない…未だ…死してなお、未熟…」

 

悔恨、無念

”死してなお”という表現の裏に見える心の底

それこそ生前、その死に際にこそあるのだろう

 

遥か遠い記憶

男が親友の墓前に抱いた思い

 

追われる友を救った

国を救おうとした

義を、世に知らしめようと戦った

 

 

けれど、全ては夢となった

 

 

友は死んだ

大勢の戦友が死んだ

 

国は滅んだ

見るも無残に、内から腐り堕ちた

 

最初から詰んでいたのだろう

そもそも、国を救う戦いは、国を滅ぼす戦いでもあったから

 

朝廷への不満から起こる”内乱”

つまりは国の内で、民同士が争う事を意味している

乱は乱を呼び、血は腐敗を加速させた

 

聡明なアーチャーが気付いていなかったとは考えられない

命を賭して戦った、宿星の戦士達

その戦いの軌跡に、果たして意味は―――

 

「この様では、兄弟達に笑われてしまうな…」

 

眼を閉じたまま、仰向けで倒れたまま口元を歪めた

満たされたようでいて、少し悔しそうな、そんな表情だった

 

きっと、意味の有無では測れないのだろう

行きつく先を理解しようがしまいが、彼らは戦いの道を選んだ

 

自分達が描く未来を信じた

互いの行く末を最後まで信じた

 

悔いはある、無念も残る

それでも、自分が行った行動に過ちは無いと、それだけは間違いなく断言できる

 

共に理想のため、義に殉じた

結果がどんなに悲惨な、救いのない物であったとしても、決して変わることは無い

だからこそ、その事実を誇りとして胸に抱くのだろう

 

生前、そして死した後も、全力で戦い抜いた

結末は敗北に終わってしまったが、込められた意味合いは全く異なる

 

友が為、国が為の生前の戦

己がの為の孤独な聖杯戦争

 

納得のいく敗北か、否か

本人が一番よく分かっている事だろう

 

 

自戒の言葉を呟いた後のこと、晴れやかな表情から一転

 

「―――このような、不出来な演目で踊らされてなどいなければ…」

 

静かな怒り、明確な不快感が表情に現れる

”不出来な演目”、”踊らされていた”、と

 

「戦のみならば、肴にもなろうが、これでは笑い話にもならん…」

「それは、どういう…」

 

「この館を探るが良い…色々と教示したい所だが、生憎この通りだ…」

 

既に足先から消滅を始めている

ゆっくりと詳細を語る暇は残されていない

 

「我々が正規の召喚を経ていないのは理解しているだろう…問題は、誰が・何のために行ったか、だ…」

 

「此処には断片的な情報しか残されておらん…結局全てを知ることは叶わなかった…」

 

此処に至るまで、表に出てくる事なく、館で息を潜めていたアーチャー

山に罠を仕掛けるだけでなく、館で情報を探っていたのだろう

 

「お前達が杯を欲するならば止めはせん…

 だが、肝に銘じておけ…如何な物であろうと、”願いが叶う道具”など、あってはならないのだと…」

 

「欲とは、人の業だ…成長を促す事もあるが、堕落を加速させる元でもある…」

 

何か思う所があるのか、複雑な表情を浮かべる

その体は半分程まで消滅仕掛けていた

 

「…子曰く、”君子道ヲ謀リテ、食ヲ謀ラズ”…

 …目先の利益に惑わされる者に、大局など見えはしない…」

 

「戦に集う英霊達も、この館の主も、どれ程の深慮があるのかは知らん…散り逝く者の、せめてもの忠告だ…」

 

「願望に…、近道は無い、仮に有ったとしても…そう見えるだけの幻に過ぎん…」

 

「…情報、感謝するわい 後はこちらでなんとかするからのう

 …だから、大人しく逝くがよい」

「爺さんが先に言ったが、このおかしな聖杯戦争は俺たちが終わらせてやるよ」

 

「あぁ、頼んだ…」

静かに眼を閉じたまま

「杯が顕現したのならば、必ず…黒幕は現れる…悪しき手段を以て、我々を利用した者が…」

 

「…彼奴らは我々を、…集う英霊を侮辱した…必ずや…報いを…――――」

 

そう言い残し、弓兵は消滅した

光の残滓は風に流され、陽の光と区別がつかなくなる

不朽の華は、此処に散った

 

強敵との戦い

達成感はある筈だが、釈然としない気分だ

 

原因はハッキリしている

”聖杯の破壊”

戦争の目的を根本的に否定する言葉

 

戦いは、謎は、未だ残る

 

”不出来な演目”と、アーチャーは表現した

誰が、何のために、仕組んだのか、今回の特異点には不明な点が多すぎる

 

召喚された理由

前例の無いシステム

 

聖杯戦争の裏に隠された謎

人理定礎に罅を入れる程の事態を引き起こした者の正体

 

知るには手がかりが必要だ

そしてソレは、目の前の屋敷にある

アーチャーの発言の真意、憤りの原因も分かる筈だ

 

全ては其処に在る

 

 




後は伏線回収して、ラスボス倒して終わり、閉廷!
でもセッションが進まねーと此処にも乗せらんねーンだわ
従って投稿ペースも落ちンだわ
人生上手くいかねーもンだわ全く


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≪裏側⑥≫ 嵐の中で当人しか知りえないもの

本筋のセッションがやっと進んだので初登校です
伏線回収、って程でも無いネタバラシフェイズ



「…この状況はどういう事だ」

 

実証された真実は、どこまでも残酷な事実だった

 

「日本国の消滅、住まう人間およそ1億2千万の消失…何をどうすればこのような事が出来る…」

『…』

 

国が一つ、地図から消えた

暮らしていた生命の記録も途絶えている

 

消滅の時刻は、聖杯戦争の儀式の失敗したタイミングと一致している

切っ掛けなど、逆にそれ以外有り得ない

 

「儀式の中心であるこの島は無事…いや、寧ろこの島を中心として日本を取り込んだのか…」

『……』

 

消滅した日本と住民を糧として、この島自体が聖杯として機能している

召喚当初から、辺り一面の濃密度の魔力に慣れてしまい、紛れて分からなくなっていた

 

「これは、儀式の暴走…? いや…聖杯が実際に”有る”以上、成功と言えなくもないのか…」

『………』

 

一人一人の魔力は微弱であろうと、億単位で、しかも列島の龍脈ごと贄となれば十分過ぎる材料だろう

零れる寸前まで水を張ったバケツのような、綱渡り状態

寧ろ、今まで完全に起動しなかったのが不思議なくらいだ

 

「…君は、この事態をどう観る?」

『…………』

 

先程から黙ったままで、目立った反応が無い

呆けているのか

 

「どうした」

『ん? あぁ…分かったんだよ、うん 色々と、ね』

「何を一人で納得している」

『私の事情』

「事情だと?」

 

…何だ、この感覚は、何が起こっている…?

 

『分かった、…ってか思い出した…何でこうなったのか、こうならざるを得なかったのか』

「…説明しろ」

『薄々感づいていたけど、私の記憶は読み取れないみたいだねぇ…嘘か本当かの区別はつくみたいだけど』

「…何を言って―――」

 

分かっただと? 思い出しただと?

確かに彼女の記憶は読み取れなかった

彼女の背景と何らかの関係があるというのか?

 

『そりゃあそうだ…プロテクトぐらいは掛けるさ、2000年以上の時間を要する大事業だ…

 ―――記録者だろうが何だろうが、簡単に読まれて堪るかよ』

「…君は、何だ?、…一体何者だ…?」

 

この豹変ぶりは何だ

彼女の人となりを、短い付き合いで理解した気にはならない

…それでも、明らかに”違う”

 

『代替わりで起源を受け継いで、記憶も引き継いで…、そりゃあそうだよなぁ、変わってないんだもの…

 私と言う存在は、最初から何一つ、変わってなどいない…』

 

彼女の内には、彼女の先祖の記憶があると自分で言っていた

観測に縛られた起源

数奇な一族の背景にある物の正体とは―――

 

「…質問に答えてもらおう、君は、…何者だ?」

『…いいだろう、記録者……我が名を、星の記録に刻むがいい』

 

そう言って、その存在は、内から自らの名を語った

 

 

 

 

『ソロモン72柱が番外、73番目の座、―――”ミシャンドラ”

 …私の名前であり、役割だよ』

 

 

 

明かされた正体に、動揺が走り抜ける

「魔神…ミシャンドラ、だと…?」

 

魔神ミシャンドラ

他の72柱の魔神を圧倒する力を持つと言われる、ソロモン72柱の番外位

存在の記述自体が不吉とされ、レメゲトンからその名を抹消された悪魔である

 

『あ、そうそう、アンタの宝具を利用させてもらったよ

 体を共有して無きゃ出来ない芸当だった、ありがとう』

 

どさくさで自分自身の歴史を観たというのか

いや、そんな事よりも

 

「…有り得るのか」

『あん?』

「このような事が…」

 

72柱の73番目など”無い”

理由は明白

 

「ミシャンドラは作りだされた、…謂わば、二次創作によって生み出された名ではないか」

『ほう…?』

 

高度発達した情報社会の中で作られた虚構、架空の存在に過ぎない

故に、魔神ミシャンドラが現実に居るなど、有り得ない

 

『ふぅん…そう言うモノなんだ、私…

 ”魔神ミシャンドラ”は確かに、此処に存在するというのにね…』

 

嘘では無いようだ

しかし、この体の魔力量は、決して大きくは無い

他の魔神を凌駕するどころか、並の魔術師程度でしかない

 

『あぁ、私にそんな大それた力は残ってないよ

 72柱という式で固定されていない以上、劣化してくばっかだし』

 

何せ、2000年以上自分の魔力だけでやり繰りしてきたからね、と語る

 

「無限に連なる並行世界の内、此処はミシャンドラという73番目の魔神が実在する世界だというのか…」

『然り…我らが目的は、人間の歴史・人理をあれこれする事…

 …そこら辺は…カルデア?から来たサーヴァント共の情報から分かってるでしょ?』

「…あぁ、スケールで言えば、この場と比べ物にならない程の大規模な事象だが…

 今一、此処に居る私では視点が狭く、見えづらい」

『まぁ、見えようが見えまいが関係無い

 こうしている間にも各時代に出張してる72柱が、人理焼却のサポートしてるんだけどね』

 

「では、君の役割は…」

『…人理焼却に必要なエネルギーは2016年いっぱいで収取完了する

 そして、今は2003年…10年以上早いけど、私はこうして覚醒を果たした』

 

「…実行する、というのか…? 人理焼却を…」

『神が創世にかかった1週間も及ばず、

 焼却は実行され、我らの悲願は成就される…』

 

この日に人理を焼却せしめると、

この日で2000年の計画を実行に移すと―――

 

 

 

『―――って話らしいんだけど、私はやる事も、成す事も、特に無いんだ』

「………は?」

『いや、言ったじゃん、力はもうあんま無いってさ

 しかもこの体だよ? 手も足も出せねーよ』

 

確かに、肉体の主導権が私にある限り、魔神ミシャンドラは動けない

 

『それにね、総体…、ゲーティアっていう魔神のボスが居るんだけど、魔神ミシャンドラこと私は、ソイツから弾かれたんだ』

「弾かれた…? 72柱の括りから除外されたという事か?」

『そうそう、”72の魔神”という魔術王が創り上げた、正しい道理を効率的に進めるシステム…

 其処に生まれたイレギュラー、ソレが私、らしいよ?』

「…曖昧だな」

 

システムに生まれたイレギュラー、言うなればソレは…

 

『謂わばバグかな…だからデバッグで弾かれて、こうして落ちぶれたってオチ』

「…落ちぶれても魔神か…通りで君の記憶が読めない訳だ」

『腐っても魔神だからね ……ほぼ人間になった今じゃあ、微妙だけど…』

 

彼の魔術王の時代から凡そ3千年、王の加護を失いながらも、今まで生きてきたというのか

本来の役割も、果たすべき使命も無く、歴史の影でただただ生き続けてきたというのか

一体、何のために?

 

「それで、今更歴史の表舞台に出てきた理由は何だ?」

『んまぁ……正直、偶然? 先代が死んで、家の整理してたら聖杯戦争についてのまとめが有ったから、そっからはさっき話した通り、成り行き』

 

彼女の背景については、大体掴めてきた

 

完全なるシステムに発生したバグとして誕生し、破棄された

それ故に、人理焼却という大業に関わることを許されなかった

同じ魔神として産まれながらも、共に舞台に立つ事すら出来ない

 

王の加護も無く、自己現界せざるを得ず、悪戯に魔力を消費する中

生き延びる為、人間の一族に寄生、もしくは霊格を人間近くまで落とし、社会に溶け込んだのだろう

 

観測の起源は、人理焼却を見届けるという意思の表れか?

2000年もの時間を、代々に渡り起源として受け継がせるなど、正気の沙汰では無い

何の因果か、その擬似的な起源が牙を剥いたようだが

 

「君は総体…72柱とは完全に繋がりを断たれたのか? 全てを思い出した今ならば、他の魔神達とは…」

『あーそれ無理 思い出したのついさっきだし、アクセスしようにも、この状態じゃあね…

 …それにアイツ等も、何だかんだで上手くやるだろうし…』

 

随分と適当なものだ

 

魔神達、そして人理焼却については、カルデアのサーヴァントから情報を得ている

単に人間を滅ぼすのではなく、人の存在した歴史その物を葬るという大規模な計画

その為に、歴史のターニングポイントに聖杯を送り込み、特異点を発生させ、連鎖的に人類史を破壊する

 

今回に限っては、彼女が暴走した儀式によって聖杯を生み出し、日本列島を住民ごと消し去るという、特異点を発生させたわけだが

 

『でも、カルデアの連中が来てるって事は、他の特異点は何個か解決されたのかもね

 …マスターが来てないのが引っかかるけど』

「マスター不在の件に関しては、想像はつく」

『マジ?』

「君が本来、この聖杯戦争に召喚しようと思っていたサーヴァントが、カルデア側に既に存在していたのだ」

 

通常の聖杯戦争であれば、座よりサーヴァントが召喚される

では何故、カルデア側から呼び出されたのか?

 

「儀式の暴走により、特異点と化したこの島にレイシフトしようとした際、こちら側の召喚に、彼らが引っ張られたのではないかと思われる」

『ほうほう、グッドタイミングだったのか

 んじゃあ暫くすればマスターさんも来るかもしれないね 楽しみだなぁ』

「期待しているのか? 何も出来ないというのに」

『いいさ、別に 観てるだけなんて慣れてるし

 アレだよ、単なる興味 知らない物は知りたくなる、好奇心は止められない』

「人間らしい理由だ、…本当に魔神か君は?」

『能力スペック的にほぼ人間だよ どーせただのバグですよ、魔神の屑ですよ』

 

…本当に魔神か?

 

「ふと思ったが、人理が焼却されてしまえば、君はどうする? 大元の存在意義すら無くなってしまうのではないか?」

『あー、まぁそこら辺はなってみないと、さ ……なったらなったで残念でしたー、って感じで』

「…」

 

そこには悲壮感も諦観も無い

事実を事実として捉えているのみ

その身に終焉が訪れようとも、形だけの文句を言いつつ受け入れるのだろう

 

『あーあ、こんな体になってなきゃ、こっちから出向いてやるのになぁ…』

「自業自得だろう、…そもそもこの肉体で迷惑を被っているのは君だけではないのだ」

『そんな事言ってもなぁ…事故だよ事故、アレ

 普通さぁ、ハウスダストアレルギーなんて魔神にあると思う…?』

「…興味深い話だとは思う 記録しておいたから安心するといい」

『何をどう安心すればいいんだ…』

 

さてな

”価値”とは自らが生み出し、公が評価するモノだ

世に対し役割を持たない者は、怠惰なのでは無く、単に無能なだけ

 

『本当なら、何もかんも上手くいって、全部やり直すつもりだったのになぁ…』

「起源は覆らず、記憶のみ取り戻し、事態の収拾は着かなくなったな」

 

傍観することしか出来ない、起源の虜囚

ここまで来ると、最早憐れみすら覚える

 

『いーや、まだ聖杯が有るもんね カルデアの連中がこの特異点を解決すれば何とかなるさ…多分』

「果たしてそう上手くいくか…」

 

噂をすれば何とやら

戦闘は終了し、アーチャーは消滅した

 

アーチャーは自らの得た情報を元に、聖杯戦争の裏に潜む闇を伝えたようだ

既に廃墟と化したフリューゲリンク一族の屋敷に乗り込むカルデア一行

 

そして登場する新たな人物

アーチャーが消滅するまで待機していたのか、図った様なタイミングだ

 

「アレは、キャスターの元に現れた…」

『……んーDr.ブライト、何するつもりなんだか…』

「君の協力者か」

『そうそう、変な首飾りで、変な体になった、変な人間』

 

要するに変人か

 

『私が一番知ってたあの肉体じゃないって事は、やっぱりあの時死んでたか

 …事後処理も大変だろうに、島の調査にでも来たのかな』

「会話の様子から、そのようだな」

『今更この島に来たところで、何も出来ないと思うけどねぇ』

 

日本という国は消滅し、1億2千万もの住人も消失した

隠蔽などしようもない、国が丸ごと消えて、どう誤魔化すというのか

 

小国とはいえ、世界情勢は荒れに荒れることだろう

魔術面においても、科学面においても、この上ない最悪の打撃だ

 

ただ一つ、この状況を覆せるとかもしれない手段、―――聖杯

特異点の要である聖杯をどうにかすれば、贄となった住民も元に戻るかもしれない

 

 

現状では叶わぬ夢だが

 

 

「この島自体が聖杯と化している事実の前では、彼らは簡単に聖杯に触れることも出来ない」

『実物の上で踊ってるからねぇ アレだね、眼鏡かけてるのに、探し回ってるみたいな』

「そして、単純明快な”解”だ …入手や破壊以前に、彼らの前には強大な障害がある」

『そうそう、立ち塞がる強固で巨大な壁…、もとい”柱”か

 ここで漸く、私の見せ場になるのかな』

 

舞台を全て見通せる、神の視点だからこそ気付ける事実

列島全土、加え1億2千万の魂という膨大な贄の時点で、聖杯は顕現していた

聖杯に託された願いは、その時既にあったのだ

 

「とは言え、全盛期の再現までは至るまい… 魔力の総量と、組み上がるまでの時間が足りない」

『それでも、ストックとしては十分

 材料は日本列島の霊脈、燃料は1億2千万と3騎分のサーヴァントの魂…トップ・サーヴァントと比べても良い線行くでしょ』

 

事実、そうであるのだから呆れるしかない

 

「…よくもまぁ、くしゃみ一つでここまで出来るものだ…」

 

アーチャーが完全に聖杯へ吸収され、再び島に胎動が起こる

限界まで水の張られたバケツに、致命的な一滴が注がれた

 

聖杯を創り出すための儀式は暴走したが、結果的に聖杯自体は組み上がっていた

吸収された日本列島、1億2千万の魂、そしてサーヴァントの魂を糧として

 

当時、儀式の中心にいた人物、唯一の当事者にして生存者

アーデルハイト・フラウアルペン・フォン・フリューゲリンクこと、魔神ミシャンドラ

深層で抱いていた、彼女の本来の願い

ソレが指し示すモノ

 

『ちょっとズレてるけど、一応叶ったと言えるのかな』

 

島を揺るがす地震

突如として現れる異物

回廊から見える景色には、天を突くような巨大な”塔”が映る

 

…いや、塔などでは無い、アレは…

「柱、か…?」

『御名答』

 

第一印象は、何よりも外見への嫌悪感

モニターに映る、腐肉で出来た醜悪な肉の柱

夥しい量の眼球と思しき器官が、ギョロギョロと忙しなく動く、禍々しい願いの結晶

 

「君の本来の姿が”アレ”か…、想像していたモノと大部違うな…」

『アレが基本形態なだけで、姿形は変えられるよ

 柱の姿だけでもバリエーションは結構あるし、色とか』

 

個性の主張方法はそれでいいのか

 

「あのような物が、あと70以上も存在するというのか…」

『でも、アレは同胞より格段に性能落ちてるし

 私の願いから生まれた、謂わば劣化コピーみたいなモンだし? 第一、あんな形してなかったし、ちょっと再現甘いんじゃない?』

「君もそう思うか」

 

塔、柱と表現したが、訂正する

目に映るアレは、そういった無機質なモノでは無い

 

『そうそう、私ね、―――あんな”蟲”みたいな姿じゃなかったよ』

 

アレは、捕食する側の生物

天に空く巣穴から数多の眼を光らせ、大地を喰らう、まるで巨大な”芋蟲”の様だ

 

「純粋に嫌悪感しか湧かないビジュアルだな、彼らにとっても目の毒にしかならないだろう」

『一難去ってまた一難…倍プッシュどころか、三倍アイスクリームだ

 まぁ、劣化コピーすら倒せないようじゃあ、人理を救うなんて夢のまた夢だよ、まだ見ぬマスターさん?』

 

挑発的な言葉は、どうしようとも届くことは無い

だが、どこまでも偽りなき真実だ

 

番外位とは言え、元は72柱の魔神の一部

一度得た人間としての生を否定し、魔神に立ち返ることを選択した彼女は、完全なる人類の敵だ

 

既に後戻りはできない

彼女にとっても、彼らにとっても

魔神ミシャンドラという存在が産み堕とされた瞬間に、賽は投げられたのだ

 

そういう意味では、この地は特異”点”とは呼べない

ターニングポイントは2000年前より続いている

連続した点は、”帯”となり、未知の世界を築いた

 

『あぁ、そうさ… 覆水は盆に返らない……もう、後戻りなんて出来やしない』

 

既に、この世界は取り返しのつかない所まで進んでしまったのだ

 

『ダイヤモンドは砕けないし、ジムノペディは終わらないし、―――ファイアスターターは止められない』

 

内から、試すような声が、遠くに居る彼らに向けて放たれる

 

『―――人理焼却という偉業の為、この魔神ミシャンドラの礎となれ…』

 

人理保障機関カルデアよ

人類最後のマスターの元に集いし、数多の英霊達よ

此処にグランドオーダーは発令された

 

その全力を以て、この難局を討ち破って見せろ

栄光の勝利であろうと、無残なる敗北であろうと、私は終始全てを見届けよう

 

歴史を巡る物語が途絶えるか、続いてゆくか

未来はその手にかかっている

 

 




魔神柱って芋虫に見える…見えない?
友人に言っても同意は得られなかったが

セスジスズメの幼虫とかメッチャそれっぽい見た目してるんだけどなぁ
虫が苦手な人は画像検索しちゃ駄目ゾ


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15 短夜のトランスブルー 前

セッションが進んだのでタイトル回収回です
SCP要素ありますあります(申し訳程度)


有り体に言って、其処は廃墟だった

 

 

ドアを開け、館に入った瞬間に理解できた

外見は洋風の建物だったが、その内部は見るも無残な状況と化していたからだ

 

辺りには瓦礫が散乱し、家具も家電も原型をとどめていない

現在立っている場所が玄関という事は辛うじて理解できた

 

「こりゃまた、派手にやったもんじゃのう…」

 

1階の天井、2階の床、部屋と部屋の間壁という境界を完膚なきまでに破壊され、本来2階建てだったであろうその建造物は、強制的に平屋にされていた

 

「…アーチャーが暴れでもしたのかねぇ…、さっきまでアイツが居た訳だしよ」

 

個室もあった筈だが、”部屋”が形を成していないので最早意味が無い

立派なのは館の外側だけである

 

建物として存するための最低限の柱を残し、破壊された内部

壁・床といった遮蔽物を切り崩し、”館”は”大広間”に変化している

 

「…誰も居ないようじゃな」

「漁る手間が省けた、って意味じゃあ悪くはねぇな」

 

瓦礫は散らばっていても、粗大ゴミとなった家具製品は一定の間隔で山積みだ

 

「既に漁られた後のようじゃしな」

 

傷だらけの書物や、破れかけの書類は綺麗に一か所にまとめてあった

分別、仕分けといったフレーズを想起させる

 

参考となりそうな物と、そうでない物の仕分け

何も考えずに破壊した物では無い、効率的に全ての部屋を探索できるよう、考えて手を加えたのだろう

無秩序に見えて、ある種の整合性を感じる破壊のされ方だった

 

「………小器用な真似をするわい」

「丁寧なことをするもんだ、置き土産として受け取っておくぜ」

 

この状況を作りだしたのは、間違いなくアーチャーだろう

 

端々に見える几帳面さ

大規模ながら精度の高い破壊

何より、直前まで此処に居たのは、アーチャーであるからだ

 

彼が残した手がかりを、見逃すわけにはいかない

 

 

≪探索判定≫

【槍】⇒失敗

【騎】⇒成功

 

 

瓦礫を越え、奥に進むと、比較的破壊の痕跡が少ない場所に辿り着く

 

これ見よがしに置いてあったのは、薄汚れた手帳のような物と、怪しく輝く、”紅い宝石のネックレス”だった

 

「…む、これは?」

 

手に取ったのは、どうやら日記のようだ

 

表紙には”Adelheid Von Fraualpen Flügelink”と書かれている

日記を記したのは、この”Adelheid(アーデルハイト)”なる人物であるらしい

 

日記には目印の心算か、ページの端々に、所々折り目が付いていた

手掛かりになりそうな、折り目の古い日時から読み進める

 

「どれどれ…」

 

 

『1月10日

 国際連盟が発足された日だ

 財団支部の手引きにより、ようやく本国から日本に至る 寒い

 なんたら地方の孤島、Dr.ブライトに寄ればこれもオブジェクトの一種だとか

 確かに龍脈の質はかなりの物だし、国産みの伝承とかもあるようだ

 島だけに、本国とは隔絶されており、文明レベルは底辺

 財団の手も入っているとは言え、水道も電気も碌に通って無いとかナニソレ

 コンビニもホームセンターも無い、有るのは小さい商店だけ(17時閉店)とか

 数少ない原住民はどうやって生活しているんだ

 この国では季節的にかなりヤバいので、一族総出で開拓するしかないか』

 

 

『3月20日

 ジョン・レノンとオノ・ヨーコが結婚した日だ

 Dr.ブライトが我らが島に来島した

 たまに物資を外部にバレない程度に送ってくるぐらいだったが、本人が来たのは初めてだ

 我々お手製の館を見た時は驚いていた いい気味だ

 頑張って建てたかいがあったモノだ(大部分は財団の人達がやってくれたけど)

 …設計は私が自信を持ってやったんだけどなぁ

 自慢しようと思ったら、奴は物資の注文を聞くだけ聞いて直ぐ帰った

 協会とか列島の魔術師共に気付かれていないか、情報網の監視に来たのだろうか』

 

 

「………」

黙々と日記を読むライダー

 

「ん? 爺さんなんか見つけたのか?」

「………」

「(無視…ってか集中してんのか)」

 

辺りを見回していたランサーが声をかけるも、耳には届いていないようだった

 

 

 

『3月27日

 ユーリィ・ガガーリンの死んだ日だ

 殺しても死なないDr.ブライトが、物資を滅茶苦茶送ってきた

 こっちに来る時、泣く泣く屋敷に置いてきた、大量の私本がヤケクソ気味に来た

 積んでるシリーズもあるし、これで良い暇潰しになるだろう

 この島マジで何もねぇしな

 原住民がやってる、小屋みてーな商店ぐらいしかねーし

 コンビニもホームセンターも本屋も無いし、…って、これ前にも書いたな』

 

 

「おい、爺さんよ」

「うむ?」

日記に目を奪われていたライダーが顔を上げる

 

「あぁ、済まぬな ちょいと、妙なモノを見つけて、の…」

「へぇ、日記か? 此処に住んでいた奴のかもな、手掛かりになると良いが」

「態々アーチャーが遺した品じゃからな、何かあるに違いないわい」

「それもそうだな、んじゃあソイツは任せるぜ 俺は他にも何か無いか探してみるよ」

「応とも、任せられた 

 あ、そこにある宝石の首飾りは触らん方が良いぞい 魔術師の邸宅で見つかった宝石なぞ、どんな仕掛けがしてあるか分からんからの」

「あぁ、気を付けとくぜ」

そう言ってランサーは瓦礫の物色作業に移った

 

 

「さぁて、未開の地に降り立った此奴等はどうなったんじゃ?」

ページを捲る

 

 

『5月23日

 世界カメの日だ

 カメに敬意を払う日らしい、

 我々一族は殻に籠って大人しくしているので、もうカメも同然だから敬意払われてもいいと思う

 ソレとは何の関係も無いが、またDr.ブライトが来た

 話によると、列島の方で聖杯戦争が動くとの事だった

 第4次から10年程たった今、5回目となる戦争をそろそろ始めるらしい

 周期からいって、今回は恐らく年末当たりか

 気の早い連中は触媒探しが終わっている頃だろう

 御三家は当然として、時計塔のアニムスフィアが参戦するらしい

 こっちの『聖杯戦争・改』が先に完成すればどうなってしまうのか楽しみだ

 設計図は第4次の時点で出来てるし、準備が整えば楽勝なのに』

 

 

「(”第4次”…、”御三家”…、この辺は孔明殿が以前…そして、”アニムスフィア”…、”聖杯戦争”…!)」

 

幾つかの単語は、カルデアのレイシフト記録に有ったモノだった

不穏でしかない組み合わせは、現状が特異点である事を際立たせる

 

 

『7月7日

 この国では今日を七夕と言うらしい

 オリヒメとヒコボシが1年に1度会うことができるという、ロマンティックな性の一日だ

 その逸話にあやかってか、今日でやっと必要な材料が届いた

 龍脈の調整、設計準備は既に済ませてあるので、後は聖杯(仮)を基盤としたシステムの組み立てのみ

 施工期間は大体半年近くになるか

 計算上、土地に魔力が満ちるのはクリスマスあたりになる

 ソレまでに済ませることが出来れば我々の勝利だ

 間にあったなら英霊サンタクロースでも呼ぶか』

 

 

「(…成る程、ワシがこの日に召喚されたのは、これが理由か…

  それにしても、こんな遊び半分の気持ち聖杯戦争を起こそうとは…、そりゃあアーチャーもあんな風になるわい…)」

 

 

『10月31日

 ハロウィンの日だ

 ソレとは何の関係も無いが、最近B級グルメとやらが美味い

 この国の食に対する姿勢はかなりの物だ

 一つの料理を題材としながら、地域によって殆ど別物となるのは面白い

 飽食の時代とは良く言ったもので、Dr.ブライトが運んでくる食料は豊富で外れが無い、流石だ

 私の先祖の記憶から知っていたが、この国でも飢饉が頻発したらしい

 なのに今ではこのレベルにまで成長するとは、誠に歴史とは奇異な物だ

 流石は私の先祖、先見性が有りやがる』

 

 

「(エンジョイしとるのう…魔術師なんじゃろうが、また変な手合いのようじゃわい)」

 

 

『11月20日

 杉田玄白誕生の日だ

 重大な事に気付いた

 今まで聖杯戦争のシステムを作ることに躍起になっていて失念していたが、英霊を呼ぶための触媒を完全に忘れていた

 一応触媒が無くても、召喚者によってある程度は決定されるのが通例ではある

 でも折角だし、狙ったのを呼び出して、色々話とか聞いてみたいんだよね

 列島の方ではそろそろマスター達が上陸した頃か

 今から触媒集めは流石に無理だろう

 半年ぐらい前までならば、第5次参加予定マスター共に紛れて収集はワンチャンあった

 けど今このタイミングでは、無理に動くと気取られる恐れがある

 財団の隠蔽工作も万能では無い 定期的にDr.ブライトが来るのもその証拠だ』

 

 

「(度々登場する”Dr.ブライト”とやらも気になるが…、一番は、この日記を記した人物が何処に居るか、じゃな…)」

 

この館の住人が聖杯戦争を裏で操っているのは明白

だが、姿を確認出来ないのは妙である

最初に召喚された、ビルが並ぶ都市群にも、各サーヴァントと戦った場所にも、それらしき者は何処にも居なかった

 

「(呼ぼうと思っていたワシが召喚されている以上、儀式自体は失敗しておらん筈じゃが…)」

 

聖杯戦争のシステムを一から創り上げた我流ならば、令呪がサーヴァントに宿るという異常も不思議では無い

 

 

『11月25日

 三億円事件の日だ

 皆にバラすと怒られそうなので、こっそりシステムを改造した

 調整を施して、ある程度融通を利かせられるようにした

 触媒要求のランクを下げて、召喚のグレードも絞ればイケるかもしれない

 という狙いの元、こっそりとやってやった

 気付かれはしない、とは思う』

 

 

「いや、駄目じゃろ…」

 

 

『12月23日

 東京タワー完成の日だ

 遂でに明日が儀式の日だ ウシミツドキに合わせ、式を紡ぐ予定になっている

 朝も早すぎるレベルなので今日は早目に寝る事にする

 触媒も何とかなったし、イケるだろう

 長年の夢であった起源の打倒を果たせると思うと、楽しみだ

 我々が新たな歴史の始まりとなるのだ』

 

 

日記はそこで最後のようだ

膨大な量の情報をぶつけられ、軽く混乱するライダー

 

「ここまで、か」

日記を閉じる

これ等の記述を全て信じるとするならば、とても許容できる事実では無い

 

Flügelink(フリューゲリンク)なる一族の存在

一族に手を貸す、財団と呼ばれる謎の組織

共通の目的は聖杯戦争を一から創り上げる事だという

 

「見るに、このDr.ブライトとかいうのが様々の根回しをしておったようじゃの」

 

全ての基準となる冬木の聖杯戦争ですら、御三家が膨大な時間をかけて完成させたものだというのに、そのような事が果たして可能なのか

 

2騎を含め、矛を交えたサーヴァントが召喚されている以上、失敗した訳では無いのか

それとも、マスター不在や特殊な令呪の発現も、我流の改造の影響なのか

 

聖杯戦争のために用意されたこの島

文面から見る限り、ほぼ未開拓の状態であると推測できる

 

しかし、実際召喚されたのは開拓どころか発展しつくされた都市の中だった

他のサーヴァントの場合、召喚場所はどうだったかのか、現状、確かめる術は無い

せめて、日記を書いたアーデルハイト本人か、事情を知るDr.ブライトに話を聞ければ早いのだが

 

「(まぁ、心当たりは無くも無い、が…)」

 

しかし、全くの当てが無い訳では無い

召喚された当初、何も状況が把握できず、町並みを彷徨っていた頃

最初に話を聞いた第一島人の女性

 

彼女は、仕事で島に上陸したと言っていた

果たして、その仕事とは何なのだろうか

 

この島の存在が、財団とやらに隠蔽されている以上、外部の人間が簡単に辿り着けるはずが無い

少なくとも、本件に全く関わりが無いとは言えない

 

意味深な忠告、2騎を探るような態度

懸念として抱いていた仮説は、聖杯戦争として現実となった

数少ない手掛かりは、あの紅い眼の女性が握っている

 

「………まさか、の」

 

唯一の手がかりを、再び広大な島の中から探さなくてはならない

自然と人の街を隔てる境界の向こうに居るのだろうか

 

戦争の裏に隠された事実

事態を解決するため、彼女を見つけ出さなくては―――

 

 

 

 

 

「―――何だ、この有様は…、まるで廃墟ではないか」

 

静寂を破って聞こえる声

聞き覚えのある平坦な声は、瓦礫を越えた背後から足音と共に響いた

 

「そうか? 我は趣があっていいと思うが」

 

足音は二つ

声音も二つ

廃墟と化した館に、新たに二人の人物が登場する

 

「アーチャー…、の仕業か? …随分と派手にやってくれたものだ…」

 

肩まで切り揃えられた髪、細身の体に纏った白衣

僅かに顔を顰め、瓦礫を蹴飛ばしながらズンズンと2騎に近づいて来る

 

「あれだけ豪語してこの様か…アーデルハイトめ、何処へ消えた…?」

キョロキョロと辺りを見渡しながら、ブツブツと呟く

 

「…私と、奴の死体も無し、…死んだか、それとも逃げたか…」

 

外見だけの張りぼてと化した館を見渡し、呟く

絶海に孤島で、初めて会った人間、紅い眼の女性

 

「…ほうほう、此処がな…成る程、中心となっているのは、この館か…」

 

女性の後に追いて歩く少女

森での戦闘の後、別れたキャスターだ

 

謎の組み合わせだが、現実として、再び二人は目の前に現れた

 

「………巡り合わせとは恐ろしいもんじゃのう」

「キャスターはともかく、…アンタは何者だ一体…」

 

図った様なタイミングで現れた探し者

疑念を抱くなという方が難しい

 

「久方ぶりだな、サーヴァント共… 忠告を気にせずここまで来るとは、流石というべきか…」

感情を感じさせない、平坦な声で語る

 

「この館に陣取っていたアーチャーを打倒したのは感謝する …奴のおかげで中々侵入できなかったのでな」

 

この様に瓦礫と化してしまっては無意味だが、と相変わらずの顰め面での、アーチャーへの恨み言

以前に侵入を試み、失敗したのか、乏しい表情変化の中に、僅かな感情が窺える

 

「世辞を言いに来たわけじゃあないじゃろう?…本題はなんじゃ?」

「右に同じくだ 約束は果たした…話して貰うぞ、汝の知る真実をな…」

「あぁ、そうだったな、…道中の護衛、感謝するぞキャスター」

 

白衣の女性はキャスターに礼を言い、2騎の方に向き直る

 

「まず私の名は、”ジャック・ブライト”、…SCPを管理する”財団”の研究員だ」

「…日記の所々に書いてあった奴じゃな?」

「…SCP?、財団? 何のこっちゃ?」

 

「…そうだな、そもそもの話から始めなければなるまい…」

「あぁ、こっちもあまり詳しくねぇんだ、頼む」

「じゃな、そうしてくれると助かるわい」

 

日記には様々な情報が書かれていたが、その意味までは読み取ることが出来なかった

解説してくれるのならば、詳細を把握できるいい機会である

 

「”SCP”とは、”Special Containment Procedures”の略称…ザックリ言えば”特異な力を持つ異常存在”の事だ

 生物、非生物、現象…形状は様々であり、どのような力を有するかはそのオブジェクト次第となる」

「ふむふむ、儂等で言えば宝具みたいな感じじゃのう」

「そりゃあ、その辺にゴロゴロ転がってたら困るわな」

 

「あぁ、大概は人類にとって害を成すものが多く、取扱いが非常に困難だ

 故に確保、収容、保護が求められる…、その全てを統括するのが、我々、財団と言う訳だ」

 

”SCP財団”

特異な力を持つ存在(オブジェクト)の回収、無力化を請け負う組織

 

魔術とはまた別の世界を生きる者達

それが、目の前のジャック・ブライトを含む組織なのだろう

日記を読む限り、館の住人と協力して聖杯戦争を執り行おうとしていたようだが…

 

「で、その財団がアーデルハイトとやらに協力したのは何故じゃ?

 聖杯も、お主達の基準で言えば十分危ない代物じゃ そんなモノが発生して困るのは、収容する側であるお主達じゃろうに」

「なんてったって願いが叶うって話だ、悪用し放題だぜ」

 

「…オブジェクトの回収とは別に、我々には”大義”がある」

「大儀…」

「何だよそりゃあ」

 

 

「”終焉のシナリオ”…、世界滅亡の回避だ」

 

 

世界滅亡の回避、それは奇しくもカルデアと似た目的だった

 

「詳細は不明…いつ滅びるのか、誰が滅ぼすのか、その他の要因、目的に至るまでさっぱりだ」

「原因が分かんねぇのに、滅ぶって分かるのか?」

「あぁ、何故なら既に―――」

言いかけてブライト博士は口ごもる

 

「……いや、悪いが機密事項につき話す事は出来ない」

「…そうかよ、なら仕方ねぇな」

「(既に…? どういう事じゃ…)」

 

機密事項というからには秘匿すべき内容なのだろう

気にはなるが、深い追及は止めた

 

「しかし、いずれこの世界は滅亡する…確然確実明確確定的に、これだけは真実だ

 財団(われわれ)はその為に創設され、今日まで歩み続けてきた…」

「妙な力を持つ”オブジェクト”って奴を回収しながら、か」

「成る程、ソレ等を、儂達で言う処の宝具として使うために…」

「…本来ならば、ここで創り出した聖杯は強力な武器になる筈だった…奴がしくじったおかげで、全て水泡に帰してしまったがな…」

「もしや、この日記を書いた人物かの?」

先程まで読んでいた日記を見せる

 

「そうだ、この館の主…アーデルハイト・フリューゲリンク…、奴は聖杯戦争の作成を可能と言った

 事実、一歩手前まで、事は順調に進んでいた…」

「まぁ、そう上手くいく訳ねぇよな」

「…この有様になった訳だ…」

 

両手で顔を覆い、どうしてこうなった、とぼやく

怒りを通り越して、呆れ果てているような、そんな感じだ

 

「そちらにとっても大誤算、というわけじゃな

 …しかし、そうやって異常物を収容する組織がよく協力を通したもんじゃのう」

「時間は有限だ…、奴の言葉に寄れば、今しかないとの事だった」

 

日記には、冬木の聖杯戦争についての記述も存在した

大方、そちらを隠れ蓑にどさくさで執り行うつもりだったのだろう

 

「それにしても、外部の協力者を随分と買っておったんじゃな?」

「買っていたのはあの一族の”眼”だけだがな…、人間性については…今更どうこう言うつもりは無い」

「して、結果がこれと…今頃、財団とやらはてんやわんやじゃろうて」

「目下の所、情報統制に追われている……国が1つ消えたとなれば、どう隠蔽しても足は付くだろう」

「時間の問題じゃろうな」

 

さり気なく不穏なワードが飛び出した

あまりにもあっさりと、平坦な口調だったため、ライダーはスルーしてしまう

 

「(…国が、消えただと…?…)」

黙して話を聞いていたキャスターは引っ掛かりを覚えるが、本題の方は次の話題へと進む

 

「まあ、仮に聖杯が出来たとしても防げはしなかったろうがの」

「何故、そう思う?」

「儂等が知る世界の終焉とは、聖杯を7個用いて起こされる結果じゃからな、1つや2つ程度では、どうあっても対抗しきれんのじゃ」

「…やはり、我々の知らない何かを知っているようだな…、詳細を聞かせて貰おうか」

 

世界終焉のシナリオ回避を悲願とするブライト博士

人理焼却を防ぎ、魔術王の手から世を救うカルデア

最終的な目標が同じならば、今は協力出来ると判断し、ライダーは事情を打ち明けることを決意した

 

「かいつまんで言えば、世界が突如として滅びる事実を知ったのは其方と同じじゃ

 その原因が過去に存在すると知った儂等は、過去へ4度程遡って解決してきたのじゃ」

 

オルレアン、ローマ、オケアノス、そしてロンドン

都合4つ目となる特異点で、カルデアは”彼”と対峙する

 

「そして、4度目で元凶たる存在と邂逅したのじゃよ

 名を語れば呪われる故、ここでは魔術王…と呼称させてもらおうかの」

「過去に遡って滅亡の要因を潰す…? どういう技術だ?」

「さてのう、細かい理屈などは儂も知らんわい」

 

レイシフト、カルデアスと言った専門的な事を説明した所で理解されないだろう

それ以前に、ライダーもランサーも原理を全て理解している訳では無いので、説明しようも無いが

 

「兎に角、その魔術王が堂々と語っておったわ、人理焼却とやらをの」

「人理、焼却…?」

「曰く、大事業じゃと 人類を滅ぼすことで何かを成そうとしている、…人類を滅ぼすのは彼奴にとって過程でしかないんじゃとよ」

 

敵は72の魔神を従える魔術の王

過去の特異点における記録では、数多のサーヴァントが束になっても歯が立たなかったという

 

「…ならば我々は、その魔術王の通り道に転がる石ころでしかないと言うのか…、障害にすら成りえない、と…?」

「と、までは言えぬわい

 知らぬとはいえ駆け抜けた結果じゃろう? 儂等とて成功するかどうかわからぬ博打の最中じゃからの」

 

7つの特異点を越えた先に現れる魔術王

チカラの差が歴然である事を理解しながらも、挑まざるを得ない

分の悪すぎる賭けである

 

「…聖杯はアテにならないというのは分かった…、我々と同じ目的を持つ者が居るというのも、終焉についても…だ」

「まあ、結果がこれなのは…なんとも言えぬがの…」

「同情するべき、なのか…?、コイツぁ…」

 

財団の理想としては、作成した聖杯を人類の為に役立てることだった

ところが、実験は失敗

逆に甚大な被害を齎す結果になってしまった

 

「…」

静寂と沈黙が場を支配しようとしたその時、

 

「―――ぶらいと殿、幾つか質問を良いか?」

やりとりを黙って聞いていたキャスターが口を開いた

 

「あぁ、構わない」

「先刻、汝は国が一つ消えた、と言ったな?」

ライダーがスルーしてしまった話題を、改めて触れるつもりだ

 

「その国とは、何処だ?」

「日本だ 極東の島国が一つ、昨日付けで地図から消えた…、まるで、この孤島に取り込まれるようにな」

「なん、じゃと…?」

「…はぁ?」

 

そう言えば話してなかったな、と

失念していた、とでも言うように、さらりと爆弾を投下した

 

「………………そうか」

質問を投げた当のキャスターは、喜怒哀楽のどれも浮かべる事無く、無表情で受け止める

 

「…参考までに、この島の事を聞いても良いか? 斯様な島、我の記憶には無いのでな」

「この島についてか…、似たような質問をつい最近受けたな」

 

かつてのやり取りが思い出される

 

『ここが何処か? そうだな…広義に捉えれば、”日本”になるだろうな』

 

日本がもう存在しないのであれば、何処の国の領土か判断など出来ない

日本が孤島に取り込まれたのであれば、島の名以前の問題となるが

 

「原住民からの呼称を参考に、我々はこの島を”オノ・ゴロウ”と呼んでいる

 国産みの逸話と、特殊な龍脈の性質から我々の隔離対象だ」

 

勿論、”オノ・ゴロウ”などという島は日本に存在しない

恐らく彼女が言いたいのは、国産みというワードから想像するに、日本神話に登場する”淤能碁呂島(おのごろじま)”だろう

 

「島のアンバランスな風景を見ただろう? アレは元の列島と歪な融合を果たした名残だ」

 

2騎が最初に召喚された、高層ビル群の路地裏

サーヴァント達と戦った、自然の景観溢れる大地

そのギャップは頭の片隅に引っ掛かっていたが、裏には事情が存在したのだ

 

「…確かな情報だろうな? この淤能碁呂島へ、ヤマトが消えたと、…我等の神国が滅びたと?」

「そうか、貴様は日本の英霊だったな…、残念ながら、衛星を通して観測した、れっきとした事実だ」

「マジかよ…」

「…やはり、特異点だった、ということじゃの…」

 

改めて規模に驚かされる

歴史を狂わせる出来事に大小など関係無いとしても、だ

 

「儀式が失敗した直後のことだ

 日本列島は地殻を無視し、この島に向かって移動を始めた…、まるで国産みの逸話を遡るようにな…」

「…龍脈の流れが我の知る時代と比べ、歪であったのも、そういう事か…」

 

苦々しく呟くキャスター

”龍脈の流れが異なる”、”一点を中心に凝縮したような”と評していたのも、的を射ていたのだ

 

「総人口約1億2千万に及ぶ人間は、列島と共に姿を消した…、アトランティスやレムリアを彷彿とさせる、恐るべき出来事だ」

 

この島の住民には一切被害が無かったのが逆に不思議だがな…、と呟く

 

 

「………」

「…そんなことが起きるのかよ…」

突如として明らかになった事実に驚きを隠せない

 

「……変じゃな」

「変、とは?」

「お主の言う処では、儀式の時点で失敗したんじゃろう?

 万象を叶える奇跡は成立しえなかった…だのに、こんな大事になったと言う」

「とは言え、、貴様等サーヴァントが召喚されている以上、完全な失敗とも言い難い」

「そこが妙なんじゃ、失敗とも成功とも言えぬこの現状…何故、日本だけがこうなった?

 無作為と言ってしまえば仕方ないが、何か理由でも有るのかの?」

「確かに、ピンポイントで日本だけ、っつーのも変だよなぁ」

「ふむ…」

 

淤能碁呂島を中心として、周囲の地形を吸収するならば、他のアジアの国々も巻き込んでいる筈だ

 

「…恐らくは、島の性質が関係しているのであろう」

キャスターが口を開く

 

「島の性質?」

「”淤能碁呂島”…我等が語り継ぐ神話にて、全ての始まりとなった神域の名だ」

「うむ、知識としてはしっておるのう」

「天地開闢の始神たる伊弉諾と伊弉冉が、天沼矛にて虚海を掻き回した際の潮から生じた彼の地より、我が国は広がりを見せた…

 淤能碁呂島とは、謂わば”誕生の象徴たる島”なのだ」

「誕生の、象徴…」

「先刻、”神話を遡るように、この島に融合した”と、ぶらいと殿は言った

 要因は分からぬが、この島より生じた物が、この島に還ったのではないか?」

「島から産まれたモノが、島へ還る、か…

 原始への回帰、物理的融合…オブジェクトの性質を考えれば…」

「キナ臭くなってきたのう、…最初からじゃが…」

「情報探ったら、また色んな情報が出てきやがるな…」

小難しい事は苦手なランサーがぼやいた

 

「幾ら不完全とは言え、この被害は生半可なオブジェクトでは起こせまい…オブジェクトクラスを始めとした情報を改訂しなければ…」

ブツブツと呟きながら考え込むブライト博士

 

 

様々な情報が次々と明らかになる中、その全てを飲み込むことは難しい

 

 

自らの起源を利用し、聖杯戦争を創り上げた者達

フリューゲリンク一族、そしてカルデアと同じく世界の終焉に対抗する組織・財団

両者が携わった儀式は、失敗したかに思えた

 

実際は、不完全な状態で儀式は起動し、日本列島をその住人ごと、この”淤能碁呂島(おのごろじま)”に取り込んでしまった

奇しくも、国生みの伝説を持つこの島に回帰するかのように

 

不完全なシステムはサーヴァントの召喚を行い、マスター不在から、サーヴァント自身に令呪を与えた

丁度、カルデアからレイシフトを行う予定だった2騎は、逆に聖杯に招かれる形で召喚された

 

館に居たアーチャーはこの事実を、朧げにも掴んでいたのだろう

”不出来な演目”とは、本来行われる筈だった戦争を指していたのだ

 

仮に、儀式が成功していたとしても、待っているのはフリューゲリンク一族による身内同士の出来レース

戦略も、戦争も無い

武人にとって、これ程面白くない勝負事は無いだろう

 

「…やはり、このままでは事態は解決しない…」

 

方針が決まったのか、俯いていた顔を上げる

その後、そのままズカズカとライダーの方へ足を進める

 

「ふむ?」

「”ソレ”は回収させて貰おう、野放しにしていいモノでは無いのでな」

 

指差したのは、日記と共に落ちていた、紅い宝石の首飾り

 

「なんだったんじゃ、これ?」

「碌でも無いモノを増やす、碌でも無い道具だ 迂闊に触ると貴様も碌で無しになる」

「(…触らなくて正解じゃったのう)」

 

転がっていた首飾り拾い上げると、そのまま身に付けた

首飾りは、持ち主に呼応するように、装飾の宝石が紅く光る

 

「お前は触っても大丈夫なのかよ…」

「あぁ、気にするな 既に手遅れだからな」

「…お、おう? そうかよ」

 

何でもないように言うブライト博士

ランサーは特に突っ込まなかった

 

「収獲はこんな所か…参考にはなるかどうかは兎も角、早々に本部へ帰還し、対策を―――」

 

 

 

「…それだけか?」

黙って話を聞いていたキャスターは、目を閉じたまま問いかける

 

 

 

「…私の知る限りの情報は、これで全てだ」

「そうでは無い…我が言っておるのは”貴様”自身の事だ」

「私が? どうしたという?」

「貴様の…いや、貴様等の企みで国が一つ消え去った事に対し、未だ、何の感情も見えんのでな…」

 

静かに眼を開き、自らの祖国を滅亡させた原因の姿を見据える

感情の無い眼には、何が映っているのか

 

「……ソレはもしや、謝罪の要求か? この国を滅亡させたことに対して?」

「この際、どこの国でも構わん 無辜なる人々を、住まう大地を奪った所業…本当に、何も、感じる所は無いのか?」

「………」

 

「(おい、爺さん…)」

「(うむ、この状況…)」

 

静寂

殺意は無く、敵意も無く

ただ、彼女は問いを投げているだけだ

それだけで、得も知れぬ緊張感が辺りに満ちる

 

「…罪悪感、か…」

対し、物怖じする様子もなく、ブライト博士は口を開いた

 

「…確かに存在するのだろう…存在するとは言え、…事の規模のおかげで、正直な所、まだ実感が湧かないというのが本音だ…」

 

静寂を破って出た答え

意図しない失敗により陥った、取り返しのつかない事態

 

世界を崩壊から救うために起こした行動が、逆に多くの人々の命を奪った

日本という島を、地図から消し去ってしまった

 

「我々が行った事だ、言い訳はしない…償いすらも出来ない」

「………」

「だが、此処で立ち止まっては本末転倒だ 我々に残された時間は有限であり、決して長くはない…」

 

ブライト博士は許容した

自らの起こした過ちを、大量の犠牲を

 

屍の上に立ち、血に濡れながらも、前を見据えることを選択した

死んだ者を嘆くよりも、生きる者の未来を考えた

 

「…」

対し、古代日本を支えた英霊

怒るでも無く、喚くでも無く、静かに主張を聞き入れ、

 

「…そうか」

と、ただ一言呟く

 

「貴様をこの場で如何することも可能だが、…この件に関しては、我個人の感情で裁く訳にはいかぬ…」

「意外だな、てっきり殺されるものかと思っていたが」

「…死を恐れぬ者に、死は罰にならん…痛みや恐怖ですらも、早々に慣れてしまう故、やるだけ無駄なだけよ…」

 

さり気なく物騒な言葉も混じっていた

解答次第では、殺すつもりだったのだろうか

 

「貴様は、精々生き続けるがいい…其の生で肥える罪悪を、其の最期まで抱き続けろ」

解部の審理は終わりを告げる

 

「…元より、そのつもりだ…」

ブライト博士が白衣を翻し、廃墟から立ち去ろうとしたその瞬間、

 

ズンッ、と

一際大きく大地が震えた

 

 

「むぅ!?」

「うおっと!」

 

「また地震か…ここでは危険だな…」

今にも崩れそうな天井を見ながら呟く

揺れは一瞬であろうとも、廃墟同然の建物にとっては十分痛手となる

 

細かい破片が降り注ぎ、壁や柱が軋みを上げる

倒壊したとしても、瓦礫など英霊にとっては何の苦も無いが、ただの人間であるブライト博士にとっては脅威だ

 

「我らも行こうか…とは言っても、当ても無いがな…」

「じゃのう…、何が起こっておるのか確認すべきじゃ」

「あぁ、潰されちゃあかなわねぇ」

 

促されるままに館の外へ向かう

瓦礫を越え、形だけとなった入り口から外へ出る

 

「…」

そこでは、先に退出したブライト博士が、立ち止まったまま彼方を見ていた

 

「オイ、どうしたよ博士?」

ブライト博士が見ている方向を向く

 

「…私は魔術はサッパリだが、アレが碌でもない物である事は理解できる」

 

飛び込んできた景色は、予想外の物だった

 

 

少し離れた地点、座標で言えば、恐らく島の中心辺りだろうか

その上空に”黒い点”がポツンと、浮かんでいた

 

「点…いや、孔か? 先程までは無かったはずだが…」

 

一体何処に繋がっているのか、ポッカリと空いた穴の先は見えない

 

宙に浮かぶ異常

空に穿たれた黒い孔

 

かつて行われた、冬木の聖杯戦争で勝ち残った者ならば、見覚えがあるのかもしれない

そんな者が居れば、の話だが

 

異常な量の魔力反応

アーチャーが消滅して久しいこのタイミング

幾度目かの、地震

 

「…まだ、何か起こるというのか…?」

 

如何に不完全な儀式の不完全なシステムと言えど、聖杯戦争として成立している以上、”ソレ”はいつ限界してもおかしくない状況であった

 

「見るからに不吉な…」

 

やがて、”ソレ”は暗闇の穴から零れ落ちた

ズルり、と滑るように赤黒い肉塊が次々と湧き出でる

 

ボタリボタリと、折り重なってゆく姿は、まるで死体が積み重なってゆくようだ

とてもではないが、見るに堪えない光景である

 

「…我々の起こした行動の結果が、こんなものだと言うのか?」

 

ブライト博士は感情を隠そうともせず、今までの無表情を嫌悪に歪めている

確かに信じられる筈も無い

救いの手段として信じた物が、その実、終焉を齎す鍵であった事実など

 

積み重なった肉塊は形を徐々に成す

地を穿ち、天に聳えるは、―――”柱”

 

其の名を、形容すべき名を知っている

カルデアで過去、数回に渡りまみえた敵、魔術王の繰る72の先兵・魔神柱

 

 

「こりゃあ、黒幕のお出ましかの…」

「本命といやぁ本命だな」

 

サーヴァントを優に凌ぐ魔力量、空を仰ぐ巨体、ギョロギョロと忙しなく辺りを観察する眼球の群れ

醜悪な姿は、カルデアにて保管されている特異点のデータで見たモノによく似ていた

 

警戒すべきだった

特異点が発生するという事は、魔術王が介入した可能性も存在するのだ、と

 

事実、この聖杯戦争の舞台に、魔神柱は出現した

 

「さあて、厄介な事になったのう…」

 

蠢き、際限なく成長を続けるその姿は、蟲の変態を想起させる

放置しておけば、いずれ島を埋め尽くしてしまいそうな勢いだ

 

 

 

「―――似ておるな…」

術符を取り出し、戦闘の準備を始めながら、キャスターは言った

 

「アンタも奴を知っているのか? キャスター」

魔神柱を指しながら訊ねるランサー

 

「羽化寸前の蟲が如き様相…、かつて太秦の頭領が討伐せし、富と再生を象徴する蛮神…」

苦々しい表情を浮かべ、天に聳える肉塊を見上げる

 

 

 

「即ち、―――”常世神”」

 

 

 

”常世神”

6世紀日本・飛鳥時代、とある民間宗教で信仰されていた神の名である

 

信ずれば富を得、若き者は長寿を、老いた者には若返りを

数々の神徳を説かれたその神は、―――”芋蟲”のようなの姿をしていたという

 

「あぁ、得心したわ…

 海辺のあの祠…、祀られしは”少名彦命”であった…

 淤能碁呂島、常世の国…ヤマトの伝承ごと取り込み、自らの神格としたか…」

     

伝承に記される、国産みの島・淤能碁呂島

その場所については、今以て不明な点が多い

 

数多くの説が囁かれる中で、最も有力説とされる、近畿地方のとある島

其処に祀られるは、大国主命と共に国造りを行った、”少名彦命”

 

国造りが終わった後、少名彦命が旅立った地

彼の地こそが、常世の国(ニライカナイ)

 

常世の国、常世の神

自ずと凝り固まって出来た島、其処にこそ現れた魔神柱

神話、オブジェクト、聖杯全てが折り合わせになって起こった化学反応

 

「…再び、この国に仇名すとは…」

「この国の神はよく分からんが、土着の悪魔との集合、という訳かの」

 

その時、増長を続ける魔神”虫”が反応を示した

 

『…人の世の残滓を確認…優先順位を検索…』

 

機械音じみた声が魔神柱から響く

腐肉の柱は膨張を停止し、無数の目玉が一斉に2騎達を捉える

 

「見つかってしまったようじゃのう…」

「あんだけ目ん玉ありゃな」

 

『検索結果、該当無し…』

『番外位”ミシャンドラ”より、総体へ…指示を求む、…繰り返す、指示を求む』

数秒の沈黙の後、

 

『…応答なし……記憶領域における行動基準を参照、最適パターンを適用…』

 

『自己増殖を一時停止、障碍の排除を優先事項に設定…』

 

『人理の残滓を速やかに排除する』

 

 

明確なる敵対宣言

腐肉で出来た巨体を揺るがし、木々をなぎ倒しながら進軍を開始

イレギュラーな聖杯戦争の裏に潜む黒幕が、遂にその姿を現した

 

 

「一応、儂等は初めてになるのかの」

「案ずるな、我も経験は無い」

「へっ、初陣で大物たぁ、良い土産話になるじゃねぇか」

 

一番槍が前に出る

 

「こんな大物とは生前戦ったことはねぇが……、大いに楽しめそうだ」

「私は村人の避難を誘導しよう、化け物の相手は任せるぞ」

「そっちは頼んだぞい、幸い儂等を狙っておるようじゃし、引きつける手間が省けるわい」

 

 

 

『魔神ミシャンドラ、覚醒状態へ移行…起動率50、60、70…95%―――』

 

『―――内部聖杯・励起完了、殲滅を開始』

 

偽りの神と、回帰した歴史

虚実入り混じる夢幻の奇なる島にて、最後の戦いが、幕を開ける

 

 

 




これはな、SCP-1945-JPと言ってな、”オノゴロ協定”でググれば出てくるんだ
かいつまんで説明するとな、複数人で行う”儀式”の事なんだ
コイツを行うとな、何と儀式の参加者同士が超融合(物理)しちまうんだ
更に恐ろしい事にな、周囲の地形ごと素材にして、大型の生物を融合召喚しちまうんだ

あと、この島はな、”オノゴロ島”って言うんだ
曰く、イザナギとイザナミが槍で海を掻き回した時の塩から出来たんだってよ
つまり塩が日本誕生の切っ掛けってこったな
古事記にもそう書かれている(ガチ)


そういや、この島で妙な”儀式”やって、しかも、”塩”ぶちまけて台無しにした奴が居ましたね…


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16 短夜のトランスブルー 中

セッションが進んだので初登校です

ラスボスの魔神柱もとい魔神虫戦
戦闘システムはバーサーカーの時と大体同じ

つまりはヌルゲー
やったね





≪行動順≫

槍⇒術⇒騎⇒魔神虫

 

 

1巡目

【槍】

スキル使用:『ルーン魔術』

ダメージ:21

 

 

「そんじゃぁ、小手調べに一発いっとくかァ…!!」

槍を片手に持ち、魔神柱に狙いを定めた

 

「イヴァルッッッ!!!」

説明不要の一撃

思いっきり振り抜かれた槍は、瞬く間に両者の距離を瞬く間に飛び越える

 

鋭い風切り音、からの鈍い衝突音

放たれた槍が体表の眼球を幾つも抉り潰すと、魔神虫はその巨体を僅かにだが振るわせた

 

「―――損傷;確認…、バックアップより修復作業を実行…」

 

 

【魔神虫ミシャンドラ】

パッシブスキル:『常世の魔力』…受けたダメージを半減し、その分回復する

 

 

「―――術式分析完了…、北欧魔術の一種と判明……引き続き、焼却作業を実行する…」

 

快調と思われたスタートダッシュ

しかし、与えた傷は瞬く間に修復を開始し、既に治癒しかけていた

 

取り込んだ大規模な魔力リソースの影響か、異常なまでの回復力である

 

「…アスィヴァル」

槍を手元に戻し、苛立ちの混じった眼で魔神柱を見据える

 

「もう修復が始まっとるわい、中々骨が折れそうじゃのう」

「一筋縄じゃ行かねぇってこったな」

「龍脈からチカラを吸い上げておるな……まるで巨木よ…、元を断たねば同じことを繰り返すのみだ」

魔力の流れを追えるキャスターが魔神虫を評する

 

「地に根を張り、天へ届かんとす…… 其は支えるが為の柱か、それとも侵す為の魔手か…」

 

現れた強大な敵、キャスターの眼には何が映るのか

国を奪った者、奪われた者

訪れる結末は、彼女にしか見えない

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』B+…3T目に”創建”状態を付与

命中判定:成功(敵ファンブル)

ダメージ:4

 

 

「(いずれにせよ、流出自体は止まっているようだな…、暫しの間、増長することも無かろう…)」

 

既に黒い孔からの流出は止まっていた

魔神虫は醜悪な芋虫のまま、細胞を増殖することも、成長することも無い

現在は敵の殲滅の為、一時的に増殖を停止しているだけなのだろう

 

「(とは言え、相対するは神……常道では敵うまい…)」

 

体躯だけでなく、内包する魔力量に関しても規格外

多少の攻撃ではビクともせず、与えた傍から修復してしまう

真っ向勝負では、決して勝ち目はない

 

「―――飽くまで、常道では、な…」

 

かつてのように、キャスターが大量の呪符をばら蒔く

自らに有利となる陣地を創り上げる為、再び創建を行う心算なのだ

 

「こりゃまた、随分と…」

 

以前と違うのは、放たれた呪符がかなりの広範囲へ向かって配置された事である

 

「我に会心の策有り…… いずれ訪れよう、来たるべき時を待つのだ…」

「うむ、任せるぞい」

「期待してるぜ」

 

どの道このままでは、攻撃も通じずジリ貧だ

キャスターの一手が突破口となる事を信じるしかない

 

「で、あれば、だ…」

手に数枚の”鬼弾符”を握りしめ、

 

「ただひたすらに攻め、ひたすらに耐えよッ!!」

爆発的な勢いで一斉に放つ

 

空を裂く鬼弾は真っ直ぐに魔神虫の元へ向かい、その身を弾けさせた

 

「―――損傷:軽微…、修復作業を実行…」

 

機械的な動作で回復を行う魔神虫

平坦な音声からは、攻撃が効いているのか、効いていないのか判断し辛い所だ

 

「―――分析完了…、道教の呪術的術式と判明……引き続き、焼却作業を実行する…」

 

「…やはり響いておらんな、是は…」

顔を顰め、小手調べに全く動じない巨体を睨む

 

「(今は未だ、そうであろう…時は、勝機は我等にある…、其の為の手は打ってある…)」

 

仕込みの基礎は既に終わっている、ただ休んで傷を癒していた訳では無い

ランサーとライダーが戦いを繰り広げていた時、キャスターもまた、布石となる行動をとっていた

 

「(”合理的且つ、効率的に”…汝の言葉、遺志…、継いだものは決して無駄にはせん…!)」

 

日負いの鶴は、雌伏して時の至るを待つ

相棒の言葉を胸に抱き、その意思を受け継いで戦いに臨んでいた

 

 

【騎】

命中判定:失敗

 

 

「―――むぅ…、この程度の勢いじゃ、痛がるそぶりすらないわい…」

 

キャスターの放った鬼弾符に紛れるようにソリを駆る

瞬間に連撃を叩きこむも、まるで手応えが感じられない

 

「(…よくもまあ、こんなのを幾つもへし折れたものじゃ…)」

 

巨体を僅かに揺らすのみで、変わらず進軍を続ける魔神虫

その足を止めるには小規模な攻撃よりも、やはり、大規模な火力をぶつけるより他は無い

 

「火力不足、か…隙を見て宝具で一気に、…できれば良い方かのう」

「…かと言って俺の宝具じゃ、周りの被害もデカくなっちまうしな…やっぱキャスターの言う通り、もうちっと耐えてみようぜ」

「うむ、その内住民の避難も終わるじゃろうし、そっちの方はブライト博士にも期待じゃ」

 

 

【魔神虫】

単体⇒騎(命中判定:失敗)

全体⇒命中判定:失敗

スキル:『客観視』…命中+4、防御+6(3T)

   :『目の毒』…敵全体に毒(3ダメ3T)

 

 

「―――呪術式展開…」

機械的な音声と共に、魔神虫の体表にある無数の目玉が一斉に発光する

 

「むう…?」

「何だ…?」

 

互いに身体を見るも、痛みや出血の類は確認出来ず、目に見える形での被害は無かった

 

「視認プロセスからのダイレクトハックに成功…、発症までカウントを開始…3、2、1…」

 

「おい、なんか来るぞ…?」

「……”ぷろせす”とは何だ? ”だいれくとはっく”とは何だ? ”かうんと”とは何だ?」

「あー、ソレはじゃな―――」

 

突然のカウント

何かしらのアクションを起こそうにも、時間は3秒しか残っていない

 

「…0」

 

カウントの終了と共に、サーヴァント達は一斉に体内への痛みを認識する

 

「ぬっ…!?」

「グッ!? …こい、…つは…!」

 

口端から赤黒い血液が漏れる

明らかに体内での異常サインだ

物理的攻撃を受けた形跡は無い

 

「…ッ、先の光か…!!」

 

視認プロセスからのダイレクトハック

つまりは、目を合わせることによって効果を発揮する呪術体系

魔神虫のように無数に眼が存在するならば、十全に効果発揮できるだろう

 

「発症確認…、経過観察へ移行…」

 

呪毒を与えたのみで、魔神虫は追撃をしてこない

サーヴァント側の動きを警戒しているのか、それとも、じわじわと呪いによる攻撃を得手としているのか

いずれにせよ、戦闘が長引けば不利となるのは確実だ

 

 

 

≪1巡目収支≫

【槍】HP69/69

   NP62

   『ルーン魔術』 ≪残りCT6≫

   ・毒(3ダメ3T)

 

【術】HP65/65

   NP10

   『創建』1/3

   ・毒(3ダメ3T)

 

【騎】HP67/67

   NP20

   ・毒(3ダメ3T)

 

 

【魔神】HP150⇒135

    チャージ1/5

   【常世の魔力】…受けたダメージの半分を回復する

   ・命中+4、防御+6(3T)

 

 

 

2巡目開始

【槍】

スキル使用:『啜る黒水』…チャージ減成功+毒(3ダメ3T)

命中判定:成功

ダメージ:5

 

 

「…目には目を、毒にゃ毒を、ってな…!」

槍の穂先に黒い液体を振りかける

ドルイドと獣の血を混ぜ合わせた、槍の呪炎を抑える為の毒液である

 

「たっぷり喰らえやオラァ!!」

小瓶程度では足りないと判断したのか、その量は今までの比では無い

毒まみれの槍を、魔神柱の多数の目に当たるよう振り回す

 

「―――術式解析、…魔術による毒物と判明…解毒及び修復作業を開始…」

 

「(…修復が必要ってことは、多少は効いてるみたいだな…)」

効果を確認しつつ、距離を取る

 

やはり痛みの声を上げる事は無く、機械的な音声が実情を告げるのみ

それでも、毒液の掛かった眼球は閉じられている事から、攻撃自体は通用しているようだ

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』B+…”創建”のカウントを更新(1/3 → 2/3)

命中判定:成功

ダメージ:2

 

 

「神と言えど不完全であるらしいな、…なれば、やりようは幾らでもあろう、なッ!!」

 

両手を打ち鳴らし、同時に大量の符をバラ蒔く

まるで質よりも量、とでも言うように

 

「そうら、征けい!!」

 

符の群れは空中で停止した後、キャスターの合図で一斉に動き出す

大量の符は毒液の掛かった眼球に挙って向かい、着弾と同時に炸裂音を響かせ、盛大に爆ぜる

 

「―――損傷:軽微、修復作業を実行…」

 

それでも、反応は微々たるものであり、魔神虫を止めるには至らない

しかし、キャスターの狙いは攻撃だけでは無かった

 

「(機は熟した…、直に創建は果たせよう…)」

 

攻撃に用いた大量の符に紛れ、陣地作成用の符も同時に飛ばしていた

必要となる霊力を集め、有利となる土地を築くための条件が、整いつつある

 

「(蛮神よ…その眼でしかと見るがよい…貴様が奪った、遥けきまほろばの地の姿をな…!)」

 

 

【騎】A

命中判定:成功

ダメージ:2

 

 

「―――あらよっとぉ!、…これならばどうじゃ!!」

勢いを加え、多角的に突進を叩き込む

 

「―――損傷:軽微…、呪術式による弱体を確認…、…経過観察を続行…」

 

攻撃は確実に届いている

巨体であるが故に、外す事はない

効いていないように見えるのは、衝撃を受けると同時に、僅かな傷痕さえも修復されるからだ

 

加え、接触の際にライダーのステータス情報も読み取られたようだ

 

「(…効いてるそぶりが見えんわい…、儂等に掛かっとる呪いもどうにせんとなぁ…)」

ぽりぽりと頭を掻く

ソリを牽引するトナカイの足もいくらか鈍い

 

邪視の呪毒は全てに響いている

戦闘不能になるほどでは無いにしても、万全のチカラを発揮することは難しい

 

「(耐えろ、よく言ったものじゃ…、…まぁやるしかないんじゃが)」

 

 

【魔神虫】

単体⇒術(ダメージ:2)

全体⇒失敗

 

 

「―――呪術式展開…」

魔神虫の体表にある無数の目玉が一斉に開き、輝く

 

「ん、グッ…!!」

キャスターが血を吐き、体勢を崩す

先程の呪毒の時とは違い、今回の呪術式はキャスターに集中していた

 

「キャスター!」

「オイ、大丈夫か!?」

 

「案ずるな…、…符で、防いだ故、…大事は無い…」

視認によって攻撃を受ける事は分かりきっている

防ぐことは難しいが、対応できない訳では無い

 

「(此処で狙いを絞ってくるとは…、我が狙いを看破したか…?)」

 

キャスターの導き出した策

その為の創建は、既に基礎を築き終わっている

 

「当に、遅いわ…」

脂汗を浮かべながらも血を拭い、壮絶に笑う

 

「―――呪術式の効果を確認…、作業を続行する…」

 

キャスターの思惑を知ってか知らずか、魔神虫は進軍を続ける

未だ無い戦況の変化は、間も無く訪れる

 

 

 

≪2巡目収支≫

【槍】HP69/63

   NP62

   『ルーン魔術』 ≪残りCT5≫

   『啜る黒水』  ≪残りCT7≫

   ・毒(3ダメ2T)

 

【術】HP65/57

   NP17

   『創建』2/3

   ・毒(3ダメ2T)

 

【騎】HP67/61

   NP26

   ・毒(3ダメ2T)

 

 

【魔神】HP135⇒125

    チャージ1/5

【常世の魔力】…受けたダメージの半分を回復する

   ・命中+4、防御+6(2T)

   ・毒(3ダメ2T)

 

 

 

3巡目開始

【槍】

命中判定:成功

ダメージ:3

 

 

「目ん玉が攻撃の要ってんなら…―――」

 

疾走し距離を詰めながら、勢いのまま跳躍

巨体の側面まで飛び、中空で大きく槍を振りかぶり、

 

「ぶっ潰さなきゃなァ!!」

一息で十字に斬りつける

水風船の如く魔神虫の眼球が弾け、妙な色をした飛沫が舞う

 

「血…にしちゃ汚ねぇな…!」

 

「―――損傷:軽微…修復作業を実行…」

 

幾度目かの攻防

攻撃を受け、損傷を修復する、その繰り返しだ

 

「(図体の割に意外と脆いんだよな…、それに―――)」

 

最初に投擲で抉り飛ばした眼球が閉じたままになっている

毒による攻撃の修復も完了していない辺り、修復速度にも限りがあるのだろう

小さな傷であろうとも、巨体に届いている事は確かだ

 

「(治る速度も大して速くねぇ…、ただ肝心なのは…、決め手だ…!)」

 

 

【術】

パッシブスキル:『陣地作成』…創建のカウントを更新 2/3→3/3

 

 

「其の閉じた目では、我が術は妨害しきれまい…」

一旦言葉を区切り、ぱん、と手を打ち鳴らす

 

「―――猛き雷の武神よ、閃く剣の斬神よ…遥けき神国に仇なす、祀ろわぬ神討伐が為、我等に神力を授け給え…」

 

祈誓の言葉と共に、島の各地で魔力の光が灯る

 

「…来たか…!」

「…うむ、秘策とやらじゃろう」

 

「―――鎖す境の岐神よ…尊き神国の守護が為、神域侵す彼の蛮神を封じ給え…」

 

其れはかつて見た、神宮創建の時と同じ光

 

「古より、我等が築き、支えし万世の血…是、正に天壌と窮り無けん…

 懐かしきまほろばの大地よ、今一度、その姿を想起せよ…、―――『神郡・東国三社 』―――!」

 

3つの爆光

膨大な魔力が渦巻き、形を成す

 

「『鹿島』、『香取』、『息栖』…、三社三神の加護を以て、荒ぶる蛮神を討ち果たさん!!」

 

陣地作成スキルによって、孤島に2等の三角を描くように配置された社宮

常陸内海より、東を征伐する為の拠点、『息栖神社』

武を司る2柱を対として祀る、『鹿島神宮』、『香取神宮』

 

「コイツぁ、…結界、か?」

「寧ろ、彼奴を閉じ込める檻ってところかのう」 

 

2つの神宮、1つの神社

築かれる神域は、それぞれが呼応し合い、魔神柱を閉じこめる境界を生み出した

 

『…解析開始…、―――判明

 …陣地作成スキルに基づく結界宝具に類する術式と断定……障害認定、対象の殲滅を最優先事項へ設定…』

 

自らを閉じ込める檻に警戒を示している

明確な障害と認識された以上、本気で潰しに掛かってくるだろう

 

「龍脈に根を張り、流れからも霊力を得ておるな…、蛮神は杯を取り込み、一体化したと見える」

「聖杯を核にしてるって事か」

「それならばあの魔力量にも納得がいくのう」

 

再生に使用されている膨大な魔力

大元は龍脈に根差す聖杯であるという

 

「本来ならば厄介極まりないであろうな …だが、今この場においては”悪手”よ…」

「どういう事じゃ?」

「今現在も、我等は杯より龍脈に乗って霊力の供給を受けておる

 つまり、我等の力は蛮神が健在である限り、無尽 ……敵は親切にも、我等に力を与えてくれる訳よ」

ただ、一度に限界を超えようとすれば、以前の我の如く動けなくなるがな、と付け加える

 

「故に、龍脈上に築いた三社が最大限に活きる…

 此の地、此の戦いの条件においてのみ、我等にこそ利が有るのだ!!」

 

その為の神宮

魔神柱が吸収する魔力の流れを妨害すると共に、サーヴァント側が燃料として消費・吸収するシステムを築いた

マスター不在の聖杯という、イレギュラーな状況を逆に利用した奇策

 

「要は奴の魔力を横取りしてるって事か」

「”我田引水”というやつじゃのう、良い手じゃわい」

 

「”合理的且つ、効率的に”…やり過ぎかとも思うたが、汝の言葉を聞いて正解だったな……」

彼女としても、魔神虫の出現を想定していた訳では無いのだろう

ここまでの陣地作成準備は、”もしも”の為であり、合理と効率を意識した結果なのだ

 

 

【魔神虫】

パッシブスキル:『常世の魔力』消滅

 

【サーヴァント側】

永続的な”ターン終了時にNP+10”、”宝具威力2倍”状態付与

 

 

「―――不正な魔力の流路を検知……内部聖杯からサーヴァント側に対するリンクを遮断…」

「我等への流れを切るか? 無駄だ、事の起りを傍観した時点で貴様は詰んでいる」

 

サーヴァントへの魔力の漏えいを止めるには、陣地の要である3つの社宮をどうにかしなければならない

しかし、社宮自体の成す結界によって閉じ込められている以上、魔神虫にはどうしようもない

 

「神郡の破壊も容易くは有るまい…

 息栖の主催神は”久那土の神”……よもや知らぬとは言わせんぞ?」

 

久那土の神(岐神)とは、悪神や厄を拒絶する”塞ノ神”である

その神は、人と魔を隔てる”境界”となる神格の他に、別の側面を持っている

 

其は、―――御石神(ミシャグジ)

日本のとある地方で信仰された土着神を指す

”ミシャグジ”とは”宿神”であり、密教の秘神である”摩多羅神”に習合される関係にある

 

「かつて、太秦の頭領は貴様を討った…ならば、貴様が勝てる道理など有りはせん」

 

かつて、常世神を打倒した男が居た

厩戸皇子・聖徳太子の部下であり、秦始皇帝の末裔ともされるその男は、数々の功績を成し、後に摩多羅神として神格を得た

 

常世神としての性質(つよさ)を得てしまった魔神柱は、皮肉にも、その神格(つよさ)故に弱点も抱えることとなってしまった

 

「始まりへ遡るため、大和を淤能碁呂島へ収めたか?

 新たな姿へ羽化するため、常世神(むし)の神格を取り込んだか?」

 

 

「如何な意図が有るとすれ、愚の極み……生かしておけん、此処で滅する、…確実にな」

 

 

 

【術】A4

スキル使用:『呪術』≪CT6≫…確率でチャージ減、確率でスタン付与

判定:失敗

攻撃命中判定:成功

ダメージ:2

 

 

「来たれ、『七支刀(ななつさやのたち)』…」

 

儀礼用の祭具を現出させ、そのまま地に突き立てる

そして、空いた両手を打ち鳴らす

 

「―――御石神よ、彼の者へ厄災を、……祟り有れ…!」

 

呪詛の言葉と共に、魔神虫に向かって複数の白い縄が伸びる

 

「―――状況…分、析…、独、自…の、神話体系を…由、来とした…神罰術式で、あると…判明…」

 

遠目からでも伝わってくる、正体不明の悪寒

それもその筈、伸びるのは縄などでは無く、その実、白い蛇の群れ

冷たく、縛りつけるように魔神虫の体中を這い回る

 

「―――神…話、体系…解…析完了……たたたた祟り神みみ、…み御、石神…みみみミシャグジジジじ……も、もももも洩矢神…」

 

「何だ、すげぇバグってんぞ」

「やはり見立て通り、効果は覿面だな」

 

”御石神”、又の名を”洩矢神”

ミシャグジ、塞ノ神、境界の神など、伝承によって様々な面を持つ、謎多き土着神である

 

信仰される土地により、神徳は様々だが、その性質は主として―――”祟り神”

久那土の神との繋がりを辿り、神威を祟りとして具現化したのだろう

 

「対、抗…、対対対対対対対対抗抗抗術式式ををををををりりりりり立立立案じじじじ実行…」

 

更には、摩多羅神に習合される関係から、常世神の神格を得た魔神虫には天敵とも言える

 

「白蛇が毒牙、夢幻とは言え神気だ…今の貴様には特に効くあろう」

 

 

【騎】A1

命中判定:成功

ダメージ:1

 

 

「今が攻め時って事かのう?」

祟りによってシステムを狂わせた好機、逃すまいと即座に突撃を仕掛ける

 

「ふふふふ復旧さささ作業けけ継続…ぼぼぼぼ防御障壁ててて展開…」

「ぬぅッ!?」

 

鈍い衝突音、ソリ越しに伝わる軽い手応え

解呪と並走して展開された魔力障壁によって、衝撃の大部分は減衰された

 

「(……易々とは通らぬか…とは言え、チャンスはまだ有るわい…)」

 

 

【魔神虫】

単体⇒槍(ダメージ:1)

全体⇒失敗

 

 

「じゅじゅじゅ呪術つつししししし式かかかかかか解除じょじょ中…ままままま魔ま力くくく一部ぱぱぱぱぱパージじじじじ…」

 

腐りかけの眼球を数個ほど勢いよく噴出する

解呪のため、魔神虫が選択したのは、侵された一部を膿として切り離すことだった

 

「うぉっ!?」

よく分からない液体と固体の入り混じった”膿”がランサーに降りかかる

 

呪毒の指向性は、あくまで魔神虫に対しての物であり、ランサーへミシャグジの祟りはない

しかし、どうやっても気持ち悪いモノは気持ち悪い

 

「クソッ! いらねぇことしやがって!」

粘つく膿を拭うも、完全には落としきれない

 

「ええ影響かかか緩和…かか完全ふふふ復旧うううまままでですす数分…」

 

呪毒に侵されながらも、水面下では複数の処理を同時に行っているのだろう

恐ろしい事に、魔神虫は致命的な相性の悪さにも対応しつつある

 

 

 

≪3巡目収支≫

【槍】HP69/62

   NP62

   『ルーン魔術』 ≪残りCT4≫

   『啜る黒水』  ≪残りCT6≫

   ・毒(3ダメ1T)

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

 

【術】HP65/57

   NP22

   『創建』3/3

   ・毒(3ダメ1T)

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

 

【騎】HP67/61

   NP28

   ・毒(3ダメ1T)

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

 

【魔神】HP120

    チャージ1/5

   ・命中+4、防御+6(1T)

   ・毒(3ダメ2T)

 

 

 

4巡目開始

【槍】

宝具使用:『貪る呪炎(ルーン)』

命中判定:成功

ダメージ:48

 

 

「…こんな気持ち悪ィ虫は、すぐに消し炭にしてやる…」

粘液に汚れた額に青筋を浮かべながら、静かに呟く

 

「キャスター!! 宝具を使うから奴を抑えとけよ!!」

「応よ!! 周囲の被害も気にしなくともよい、存分にやれい!!」

 

「そうこなくっちゃな…」

水平に持った槍、その穂先をコーティングしていた毒液が徐々に霧散してゆく

 

「―――拘束開放…、ブチかます!!」

毒液の封印と共に槍の本質を解き放つ

使用者をも焼き尽くさんと、災厄の炎が迸る

 

「焼き尽くせ…! 喰らい尽くせ…! 『貪る呪炎(ルーン)』…!!」

呪炎はさらに規模を増し、10mはあろう巨大な炎の槍を形作る

自らも灼かれながら、呪炎の槍を振りかぶり―――

 

「うおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオッらアアアアアアああぁぁああ!!!」

 

放たれる一条の光

呪炎の軌跡が、ランサーと魔神虫の直線距離間を蒸発させ、ひた奔る

 

「―――ぼぼ防御障壁ててて展k―――…」

「無駄だゴミ虫野郎!!」

 

衝突と同時に展開された魔力障壁を食い破り、呪炎の槍が腐肉の海を突き抜ける

穿たれた傷穴から溢れる炎は、内側に留まらず魔神虫の体表までも灼いてゆく

 

「(これはまた……凄まじい威力じゃのう…)」

かつての戦闘で披露した時よりも、宝具の効果が格段に上昇している

結界を成す3社、取り分け、武神を主催神とする鹿島と香取の加護が発揮されているからだ

 

通常ならば、これだけで勝負が決まってもおかしくは無い

 

「…アレを喰らって、まだ動きやがるか」

 

イレギュラーしかないこの場においては、”通常”など適用されない

聖杯の魔力というリソースがある以上、魔神ミシャンドラは不滅だ

 

「(なるたけ、一撃で決めたかったが…)」

手元に槍を引き寄せ、再び毒液による拘束を施す

身体を包んでいた炎は消え、痛々しい火傷の痕が残る

 

槍の特性による反動

社宮により増幅されるのは、担い手すら蝕む呪炎も例外では無い

 

「まぁいいさ、消し炭になるまで焼くだけだ…」

ケルトの戦士は己が身を顧みない

闘志は微塵も衰えず、切っ先は魔神虫へ向けられる

 

 

【術】

スキル使用:『剣神の加護:B』…攻撃+1d6(3T)、回避(1T)、(刀剣使用時のみ)NP+2d6

⇒攻撃+4、NP+3

命中判定:失敗

 

 

「―――ふふふ復旧、ど動、作終了……」

「む」

 

バグっていた音声が正常に戻りつつある

それは、ミシャグジの祟りが解毒されたという事を意味する

 

「(解いたのか、我が術を!? 呪炎に意識を裂いた、あの一瞬でか!!)」

 

ランサーの宝具は、敵を周辺一体を焼き尽くす呪いの炎

一度喰らった経験から、キャスターはその威力・被害の大きさを理解している

 

神郡の支援により、威力を更に増幅した場合の被害を考慮しないキャスターでは無い

だからこそ、結界を成す久那土の神の力によって、裏から呪炎の指向性をコントロールしていた

 

結界に被害を与えない為、かつ魔神虫とその周辺にのみに被害を押し留める

その為に、ミシャグジの呪術リソースを、ホンの一瞬だけ打ち切った

 

時間にして、秒にも満たない一瞬

僅かな制御の隙に、魔神虫は解毒に成功していた

 

あからさまに危険な呪炎よりも、相性的に不利であるミシャグジの対応を優先して、だ

 

「相性は、奴が敗れたという歴史は覆らぬ…、奴が常世神である限り、絶対だ… 

 しかし、この術への抵抗力は何だ、…異常に過ぎるぞ…!」

「奴を生み出したのは魔術を総べる王じゃからの…無理も無かろうて」

 

魔術王の産物である脅威を、改めて思い知らされる

番外位とは言え、常世神である以前に、相手は魔神柱なのだ

 

 

【騎】A2

命中判定:成功

ダメージ:7

 

 

「故に、魔術が駄目ならば、物理で行くしかあるまいッ!!」

 

空中で浮かぶライダーの姿が僅かにブレる

有言実行で瞬間的に5連撃を叩きこんだのだ

 

「―――損傷:軽微…、修復作業を優先…」

「まだまだ余裕といった風体か…ならば儂もそろそろ、奥の手を出すしかあるまいて…」

 

立て続けに潰され、全体的なの眼球の修復スピードは相対的に遅くなっている

今では損傷が再生を上回りつつあった

 

「(ランサーの一撃はよほど効いておるようじゃな…)」

 

 

【魔神虫】

単体⇒騎(命中判定:失敗)

全体⇒失敗(補正によりダメージ0)

スキル:『客観視』…命中+1+、防御+5(3T)

   :『目の毒』…敵全体に毒(3ダメ3T)

 

 

「奴の攻撃は大した事ないが…鬱陶しいな…」

「うむ、直接的には仕掛けて来ないのが気になるのう」

 

「―――共振式展開…」

 

機械的な音声が響く

何かしらの術式を発動したようだが、目に見える範囲で場に変化は無い

 

「―――活性数値入力終了…、…再発症まで3、2、1…」

 

「共振…?…、なんじゃ…?」

「またなんかしてくるのか…?」

 

「―――…0」

カウントがゼロになると同時に、全てのサーヴァントの体に、数分前まで味わっていた痛みが再び訪れる

 

「ッ、…莫迦な…眼は合わせておらん、というのに…」

「小細工ばかり…しやがって…」

 

ソレは、魔神虫が最初に繰りだした呪毒の痛み

時間経過と共に静まり、鳴りを潜めた思っていた呪いが再発症したのだ

 

「…共振、…活性とは…、そういう事か…」

 

「効果確認…、経過観察を継続…」

 

有する巨体を全く活かすこともせず、術式主体の攻撃を行ってくる

結界がある以上、自由に身動きが取れないのだろうが、あまりにも消極的だった

 

 

 

≪4巡目収支≫

【槍】HP69/59

   NP32

   『ルーン魔術』 ≪残りCT3≫

   『啜る黒水』  ≪残りCT5≫

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

   ・毒(3ダメ3T)

   ・火傷(3ダメ3T)

 

【術】HP65/54

   NP40

   『創建』3/3

   『剣神の加護』 ≪残りCT6≫

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

   ・攻撃+4(3T)

   ・回避(1T)

   ・毒(3ダメ3T)

 

【騎】HP67/58

   NP47

   ・ターン終了時にNP+10、宝具威力2倍(永続)

   ・毒(3ダメ3T)

 

 

【魔神虫】HP62

    チャージ2/5

   ・毒(3ダメ1T)

   ・命中+1、防御+5(3T)

   ・火傷(3ダメ3T)

 

 

 

≪5巡目開始≫

【槍】B

命中判定:成功

ダメージ:3

 

 

「(やっぱ長期戦はやべぇ、一気に片付けるしかねぇ…!!)」

呪炎と呪毒に侵された体に鞭を打ち、走る

 

「とっとと死ねやァ!!」

「―――魔力障壁展開…」

 

大振りの薙ぎ払いによる攻撃は障壁に阻まれる

再発した呪いと火傷を抱える身体では突破も儘ならない

 

「(チッ、…動きづれぇ…)」

切っ先は巨体を浅く斬り裂くに留まる

 

「―――損傷:軽微…、呪術式及びその他の要素による身体機能の低下を確認…」

ステータス状態を把握されたのか、残った眼球が観察するようにランサー見ていた

 

「(精々見ていやがれ…、こんな状態でも十分やってやるぜ…)」

 

 

【術】

宝具使用:『神代三剣・布都御霊(ふつみたまのつるぎ)』

 ・味方全体のHP回復(3d6)

 ・弱体解除

 ・無敵貫通付与(3T)

 

 

「敵は”東”に有りて、我等は”毒気”に侵されていると来たか…」

血反吐を吐き捨て、呟く

 

「―――まるで誂えた様だな!! ……其れでこそ、我が本領を出せるというモノよ…!!」

 

本領

確かに、この社によって構築された神郡において、彼女の力は十全に発揮される

 

古代ヤマト政権、政と祀が共にあった時代

祭祀と軍事を司る”その一族”は、あらゆる祭具・武具を神宮に奉り、保存し続けたという

 

「―――猛き雷の武神へ願い奉る…遥か東征の折、神武皇命へ賜れた神代三剣が一振りを、再び与え給え―――」

 

右手の七支刀が、徐々にその形を変える

儀礼用の六叉剣から、戦いの為の剣へ

 

「―――猛き剣の斬神へ願い奉る…石上が斎宮たる我が名を以て鞘と成し、その姿を此処に現し給え―――」

 

形状だけでは無い

その有り様、性質すら別物と化しつつある

 

「本領…という事は、宝具を使うつもりじゃな」

「剣、か…? …キャスターがか?」

 

収束する魔力においても、七支刀の状態とは比べ物にならない

神群から吸い上げられた力は、新たなる宝具(チカラ)へと生まれ変わる

 

 

「神域より来たれ、―――『神代三剣・布都御霊(ふつみたまのつるぎ)』―――!!」

 

 

清らかな光と共に現れたのは、1mに満たない素朴な鉄刀

束に近い側から刀身が反り返る、俗に言う”内反り”の形式で作られている

日本刀のような片刃だが、根本的な造りは異なるようだ

 

「是ぞ、我らの奉る神体…建御雷神が半身にして、イワレビコ東征が最大の武器…」

 

立ち昇る神気に、纏う灼けた漢服が翻る

戦闘中では意識することの無かった、千早に刻まれた紋所

 

昇る日輪を背に飛翔する一羽の鶴

其れは”日負い鶴”と呼ばれ、今も尚、とある一族の名を持つ神社に刻まれる神紋だった

 

 

―――軍事豪族・物部氏

 

天照大神の孫にあたる、”饒速日命”を祖神に持ち、

その子である”初代物部・宇摩志麻遅命”は神武天皇の側近として仕えた

 

皇城守護、十種神宝を用いた鎮魂祭の執行など、政治のみならず、祭祀の面でも深く関わりを持った

まさに、神の国にて、最も神の傍に在る一族だった

 

神代から時は流れ、飛鳥時代

対立していた蘇我氏が仏教を信仰する一方、物部氏は古来の神道と、大陸から齎された道教を元に、独自の祭祀方式を生み出した

 

「我は担い手では無い故、神剣の力全てを引き出す事は敵わぬ…

 だが、剣に宿りし神に通ずる事は出来る」

 

伝承において、布都御霊剣の担い手は2人

”武神・建御雷神”、そして”初代天皇・カムヤマトイワレビコ”である

 

片や、国造りの神をも退けし、武の象徴たる神

片や、一国の皇族の祖にして、神の血を継ぐ者

 

布都御霊剣の本来の力は、彼らでなければ引き出す事は愚か、剣の放つ神気にすら耐えられないだろう

 

「我こそは、鞘…

 布都御霊が神体たる布都主神を身に降ろす、物部の鞘…」

 

最初から神剣を降ろす器として存在する者ならば、話は変わる

 

 

 

「天と地を、人と神を繋ぐ者…―――石上が斎宮、物部石上布都姫である…!」

 

 

 

剣の神と同じ名を与えられた鞘の名は、―――布都姫

神々との橋渡しの役を背負って生まれ、石上神宮の斎宮として名を残す、物部の終焉を看取った女である

 

 




そろそろセッション2周年になっちゃう…ヤバいヤバい

そして、ネタを補強してくれた天空璋ありがとう
ところで、日焼けしたチルノからもう2年ってマジ?



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17 短夜のトランスブルー 後

2年に及ぶ戦い、遂に決着…!!



いやホント長ぇよマジで


「―――ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここの、たり、 布瑠部 由良由良止 布瑠部―――」

 

具現化した神剣を水平に構え、唄う

 

「―――古に、国若く、地若かりし時…譬へば浮かべる油の猶くして漂蕩へり…

 時に、国の中に物生れり、…状葦牙の抽け出でたるが如し…」

 

生命の誕生を、国の誕生を、創造を謳う

 

「筑紫日向の橘小戸…、阿波岐原に御禊祓い給いし時、生座る祓戸の大神等よ…

 諸々の枉事、罪穢れを拂ひ賜へ清め賜へと申す事の由を天津神、国津神、八百萬の神等共に聞食せと恐み恐み申す―――」

 

布都御霊剣の一閃

担い手を中心に円を描くようにゆらり、と走り抜けた

 

虚空を滑る刀身は何も傷付ける事は無い

或いは、目に見えないナニカを断ち切ったのだろうか

 

余波である太刀風がふわり、と神威を乗せ、サーヴァント達を包む

瞬間、祝福の神風が、負った傷や呪いを徐々に癒し始める

 

「むう? これは…」

「俺の、火傷が…」

 

「―――此く聞食しては 罪と言う罪は在らじ…」

 

 

伝承において、布都御霊剣に関する逸話は数多く存在する

 

曰く、建御雷神が葦原中国平定の際、まつろわぬ神々の粛清に用いた

曰く、国譲りの際、大国主命とその子達を降し、人の世の礎を築いた

曰く、神武天皇の軍から毒気を祓い、活力を与え、東征を勝利に導いた

 

加え、語られた祝いの唄

死者蘇生の神言である”布留の言”

そして、生命の象徴とされる”宇摩志阿斯訶備比古遅神”にまつわる一節

 

”神より授かった”生命の神言を、”自軍”であるランサーとライダーの2騎に適用させたのも、数ある逸話の内から再現したのだろう

 

其は神剣

対国宝具にして、対神宝具

国への災厄を斬り祓い、担い手に勝利の祝福を与える、神の一振り

 

「さぁ、此よりが真の全力だ!!、出し惜しみはせん!!

 遠からずこの身は朽ちるとも、その前に全てを終わらせる!!」

 

猛る布都姫

決着の為、自身の保有する全ての魔力を、宝具である神剣の制御に集中させている

 

「(予てよりの魔神柱の牽制…今の傷の修復に加え、儂等の強化も同時に行うか…願ってもないが、これでは―――)」

 

明らかに魔力の消費が供給のスピードを上回っている

 

当然だ

東国3社による神郡の形成に加え、神代の神器をも顕現させた

 

前者だけならば、魔神虫から横取りしている魔力で賄える

後者に関しては、使用した時点で完全にアウトだ

 

1つの電源に複数のコンセントを繋いだように、定格使用量に対して消費する魔力量が多過ぎる

 

以前は戦闘後に倒れるだけで済んだものの、現状のまま放っておけば、間違いなくキャスターというサーヴァントは魔力切れで消滅してしまうだろう

 

「(宝具の効果が切れる前に、アレをぶちのめせって事かよ…、上等じゃねぇか…!!)」

 

古代にて神との橋渡しだった斎宮

数多の歴史にて戦う人理の護り手

 

境遇は違えど、共通するのは、人の世の為に尽くす在り方

 

「聞けェい、蛮神よ!! 

 貴様が歴史を回帰させんと目論むのならば、相応の報いが訪れると知れ!!」

 

布津御霊の切っ先が魔神へと向けられ

解部の一族が裁きを告げる

 

「言向けは済んだ、貴様を待つは粛清と平定…

 現世は生者が為の国だ、常世の神は消え失せるがいい!!」

 

かつて、建御雷と経津主神が葦原中国を平定したように

かつて、カムヤマトイワレビコが東征を行ったように

かつて、秦河勝が邪教の神を打ち滅ばしたように

 

「蘇我でも無く、厩戸皇子でも無く、神でも仏でも無い…

 他ならぬ我々が、この国を、ひいては人の世を救うのだ!!」

 

天の加護、地の祝福、人の力

全てを束ねた輪は、あらゆる暴威を彼方へ退けるだろう

 

 

【騎】

宝具使用:『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

⇒敵全体に4d6攻撃&味方全体の攻撃↑2d6(2T)&HP回復3d6

ダメージ:57

 

≪決着≫

 

 

 

「(時間との勝負、か…)」

 

幾度となく繰り返された行為

トナカイが、ソリが、サンタクロースが消える

 

「(生憎、今日この日の儂にとって、時間は最大の味方じゃ…!!)」

 

クリスマスの夜、この一晩だけ許された奇跡

光速を超えて尚、質量や慣性といった、あらゆる法則に囚われない矛盾

 

それは偏に、”きっと、サンタさんならできる”という全世界の佳き子どもの祈りの結晶

 

消えたのは時間にして0.1秒にすらも満たない

たったそれだけ

それだけで良いのだ

 

「メリー、クリスマス…!」

 

刹那であろうとも、魔神の柱を折るには十分過ぎる時間

 

「―――防御障h―――き、展、…開……―――」

 

連続して流れる時間の合間に、おびただしい激突の嵐が叩きこまれる

当然、防御用の魔力障壁が間に合うはずも無く、展開されたのは衝撃が全て通り抜けた後だった

 

「―――……」

 

硬直

魔神の動きが完全に静止し、時が止まったかと錯覚する

 

「―――状、…態:破損…致命…、…修復…、不、可…」

 

後出しの障壁が崩壊してゆく

それだけでは無い

魔神を構成する腐肉も、潰された眼球も、存在自体がぶれ始めていた

 

既にランサーによって風穴を穿たれ、呪炎に灼かれた魔神虫

度重なる猛攻のを受け、膨大な魔力によって支えられた巨体が、今度こそ折れた

 

「(…これで立ち上がられたらどうしたもんかと思ったわい…)」

 

連撃に連撃を重ねた事で、トナカイの息は上がっていた

精密な操作が必要とされる以上、手綱を握るライダーにも、実の所、あまり余裕と呼べるものは無かった

 

「む、気が付けば…、既に決していたか」

「爺さん、やりやがったか…」

「これが、今の儂で出せる全力じゃ…、決めきれて良かったわい」

 

ランサーの呪炎槍が魔神虫の巨体を穿ち、悉く灼いた

キャスターの神剣が呪毒を祓い、万全の体制を作り上げた

 

そして聖なる夜、世界中の子供達の信仰が、此処に奇跡を齎した

 

「……術、…式証明、…不可……存在、限……界……」

 

最早、修復術式が起動することすら無く、活動が停止してゆく

聳えるような巨体が、天を突く魔神の柱が瓦解し始める

 

「さて…」

「色々気になる事はあるが、コイツが特異点の元凶って事でいいんだよな?」

「じゃろうな、聖杯は此奴が握っておったそうじゃし」

「うむ、常世神の中核に感じた一際大きなチカラ…、ともすれば杯とやらで間違い無かろう」

 

サーヴァント召喚の起点であり、マスターの代替としての魔力供給源

肝心のその聖杯は、未だ魔神柱の内部に取り込まれたままである

 

「だが、今見る限りチカラは霧散しつつある…、随分根深く取り込んだようだな」

「壊れかけってか…、んじゃあ回収は無理っぽいな」

「一応、当てにしておったんじゃがのう…」

カルデアへの帰還手段として視野に入れていただけに、目論見から外れ、肩を落とす

 

「残念だが、無理なモンは仕方がねぇ 精々俺達の戦果が届いてる事でも期待するか」

「うむ、カルデアでも特異点の反応は追っているじゃろうし、こうして解決したならば向こうも分かるじゃろう」

「魔神もブッ倒したんだ、魔術の王様の方にも多少は響くんじゃねぇか?」

「だと良いがのう…」

 

魔術王の先兵である、72柱の魔神

この特異点に現れた、魔神”ミシャンドラ”

有するチカラの強大さと、不吉さが理由でレメゲトンからその名を抹消された、番外位の魔神

 

「(…儂の知る限りでは、実在自体が驚きな訳じゃが…)」

 

その実態は、高度な情報社会が生み出した架空の魔神である

20世紀に騙られた逸話は捏造でしか無く、紀元前の伝説に刻まれる事も無い

 

「(最初に言っておった、役割を与え給え…とはどういう意味か…)」

「―――……」

 

身体の端から黒い塵となり消えてゆく中で、黙したまま偽りの魔神は何も語ることは無い

仮に問うた所で、疑問に対して素直に答えるとも到底思えないが

 

「(…此処は”そういう”特異点だった、という事かの…)」

 

詳細は気になるにしても、一旦見切りを付ける

やるべき事を、言っておくべき事を優先しなければならない

 

「お前の行いを、今更問うまでもあるまい」

反応を示さない魔神に語りかける

 

「次のクリスマスに同じ事をしなくても済む事を…儂は、信じるぞ」

伝わっているかは分からない

理解しているかも分からない

それでも、届いている事を期待し、警告を突きつけた

 

「(律儀だな…、聖人としての性ってか…?)」

 

 

”黒いサンタ”という伝承が存在する

 

通常、サンタクロースはクリスマスの日に活動する

その際、”良い子”には一年の褒美としてプレゼントを与える

しかし、”悪い子”には動物の血液や臓物を浴びせ、何処かへ連れ去ってしまうのだという

 

血に塗れた装束は、やがて酸素に触れ変色する

それが”黒いサンタ”と呼ばれる所以

 

クリスマスという裁定の日に、子供達の善悪を問う

悪い事をすれば、黒いサンタクロースが攫いに来るぞ、と

良い事をしていれば、ご褒美にプレゼントをくれるぞ、と

この伝承の本質は、悪事への抑止にある

 

「戒めのつもりか」

「だろうよ、…後は牽制の意味もあんのかもな」

消えゆく魔神を指差す

 

「(…コイツ等に脅しが効くとは思えねぇけどな…)」

人間や動物ならば、見せしめは効果的だ

ただし、それが魔神にも適用されるかは分からない

 

「酷い目に遭いたくねぇなら大人しくしとけ、って言いたいんだろ」

「逆も有ろう」

「逆?」

「何か恐れるあまり、無謀であろうとも、不遜であろうとも手を伸ばす…」

「儂等もそのパターンじゃな、…滅びは怖い、故に為さねばならぬ事を成す…」

「ぶらいと殿も世を救おうという気は有った…その為、我等英霊の力を利用することを考えた」

「そういや、あのねーちゃん…いや、中身的にはオッサンか? んな事言ってたな」

 

財団が忌避する、”世界終焉のシナリオ”

対抗策として考え出したのが、イレギュラーが跋扈する聖杯戦争だった

 

「其の気概を悪とは言わん…、他の者がどう思うかは知らぬが、少なくとも我自身は構わぬ」

 

内輪で築いた陣営同士の出来レース

報復による闘争が出来れば良いセイバーは兎も角、誇り高い武人であるアーチャーは激怒していた

 

「だが、結果は結果…、まほろばの大地は無惨と相成った…」

「…じゃの」

「…我は考えずにはいられぬのだ…現状を罰とするならば、ぶらいと殿の気概すらも罪となるのか…」

「否、志そのものは立派であった…じゃが、罪は結果に付いてくる物じゃ…」

「…走り抜けねば闇の先は見えぬ、と?…」

「ままならぬものじゃよ、いつだって…」

 

正しいと信じた行動が正しい結果を齎すとは限らない

理想と現実は表裏一体、且つ隣り合わせだ

 

「(仮に、世を救うという選択が、その為の闘争が罪であるならば、…下る罰とは如何程なのか…

  幾ら考えた所で答えはあるまい…無謀であろうとも、手を伸ばすしかないとは…)」

 

 

 

罪と罰

正しき解答の存在しない問答が一つの区切りを迎えた頃、

 

「さて…、これは力を消費し過ぎた…、という訳でも無いようだな…」

 

魔神ミシャンドラがその巨体を9割程消失させたタイミングで、場に集う全てのサーヴァントに訪れる変化

 

足元から光の粒子が漂い、消滅を開始している

魔神柱が核として取り込んだ聖杯ごと破壊したため、現世とのリンクが途切れ始めているのだろう

 

「時間切れ、かの」

「これで、一件落着、…なのか?」

 

今回の召喚はレイシフトによる物では無い

 

通常、カルデアでの召喚を経て契約を結び、特異点においてもカルデアの観測による存在証明を行う事で初めて、時代の行き来を可能としている

 

しかし、現状はカルデアから観測されること無く、強制的に特異点へ召喚された

マスターとの契約は解除されていないものの、ここまで物理的に距離が開くとなれば、どこかしらに無理は生じたとしてもおかしくは無い

 

つまり、再びカルデアに戻れる確証は、無い

 

仮に戻る事が出来たとしても、時の流れが異なる以上、状況によっては”間に合わない”かもしれない

 

誰にも知られる事無く、時代の崩壊を食い止めた、孤独な英霊達

帰りを待ってくれる者達と、共に戦うことすら出来なかった人理の護り手

 

それでも、悲嘆に暮れる事はなかった

何故なら、成すべき事は成したのだから

 

魔神柱を相手に勝利を収め、一つの特異点を解決して見せた

かつてカルデアが成し遂げた事と、同じことをやってのけたのだ

 

事の規模など関係なく、マスターの有無なども関係なく

人類の歴史を守るため、成した行動に何の違いもありはしない

 

「我等を留める楔が消えたか…現世での役目も是で終わり、だな…」

 

満足気に呟くキャスター

取り分け魔力の消費が激しい彼女は、その分消滅へのカウントも早い

 

「名残りも惜しくなるな…とは言え、長々と御託を述べるのも、発つ後を汚してしまおう…」

「世話になったのう」

「さっきの戦いでは助かったぜ」

「礼を言いたいのは此方もだ、我だけではどうしようもなく、皆が居たからこその現在(いま)だからな!」

 

肩口まで消えかかる中で、超然と別れの言葉を言い放つ

 

 

「いずれまた、神の導きあらば…汝等の行く末に、八百万の祝福の有らんことを!!」

 

 

言の葉が舞い、神の国の斎宮は消滅した

発した本人は消えど、言葉は確かに届き、事実として残る

 

”言葉”とは、発声を以て、真の力を宿す

力を持った真実は、いずれ現実となる

 

其を、神の国においては”言霊”と呼ぶ

他ならぬ、彼女自身がかつて言った事である

 

思いを受け取った2騎の身体も消滅してゆく中

想起される、戦いの軌跡

 

聖杯戦争を自ら創り出そうとした一族

財団なる組織、世界終焉のシナリオ

2騎の知る世界では架空の存在である筈の魔神が、魔神柱となって現れた事

一癖も二癖もあるサーヴァント達との出会い、戦い、そして別れ

 

人理が続いてゆく限り、望む望まざるに関わらず、再び出会う機会はあるだろう

英霊の座が存在する限り、可能性は0では無い

 

そう、低いとはいえ、決して0ではないのだ

 

カルデアの面々も、キャスターも

一度分かたれたと言えど、二度と会えないとは限らない

 

「儂等も、往くとしようか…」

「そうだな…、まぁ、成るように成ると信じて、今暫くマグ・メルにて待とうかねぇ…」

 

例え、この戦いの全てが偽物の歴史となったとしても、

例え、共にこの島で歩んだ奇跡が、ただの夢幻に過ぎないとしても、

彼らが存在する以上、他ならない真実なのだ

 

ならば、再びカルデアに帰還出来た暁には、その全てを語ろう

 

歴史を巡る戦いの軌跡

国が生まれ、国が還った島

そこで行われた、知られざる真実の物語を

 

思考と共に、現世と座の間で繋がれたリンクは途切れ、

光の粒子は風に舞い、何処へともなく消えていった

 

 

 

 

亜種特異点 偽史夢幻奇島ニライカナイ

人理修復 完了

 

 

 




メインシナリオはこれで終わり
後はエピローグを3つ程やって完全終了





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≪裏側⑦≫ Crying for The Moon.

彼が此処に来た意味を
彼女が彼女で在った意味を

とある観測者と傍観者の結末について



「―――以上がライダーの意見だそうだが、君からは何かあるかね?」

『いや別に? 私に牽制とか脅しとか効かんよ、このザマだし』

「反省や後悔の類は有るか?」

『…そうねぇ…、そういうの期待されても正直困るって言うか…、…まぁ少なくとも生き恥って奴は感じるかな』

「人間らしい感性だな」

『あんだけやってこの有様じゃねぇ……流石に何も思わないなんて無理だ』

 

傍観者が他人事に感情移入するか

希薄だった”自覚”が芽生え始めているのか

 

『笑っちゃうよねぇ、ホント…魔神として中途半端、人間として不完全…成そうとした行動は何もかも裏目に出てしまう…』

「…そのようだな」

『たださ、やろうとした事に後悔はしてないよ、…ソレだけは、絶対にしちゃあいけない…』

 

声のトーンが少し落ちる

 

『…それは、私でも流石に分かるからさ…』

「…」

 

自らの行いに対する後悔とは、要約すれば

”取り返しのつかない失敗をした、今は反省している”である

 

”もう二度としませんので許してください”

赦しを乞う文句によくある言葉だが、これは大分おかしい

 

悪事は前提として”行わない”のが常識

”二度としない”など当たり前の事であり、そもそもの大前提だ

 

全く交換条件になっていない

 

突如として損害を与えられ、しかもその行いを失敗でしたと言われた側はどうなる?

被害者は報われず、ただただ一方的に失うだけだ

 

取り返しのつかない事をしました

貴方には悪い事をしてしまいました

全部ただの失敗でした

でも今は反省しています、二度としませんので許して下さい

 

馬鹿にしているとしか思えない

 

被害者側が評するならば兎も角、加害者側が勝手に失敗だったと判断するのは侮辱でしかない

その犠牲の、死の意味すら否定し、奪った事になるからだ

 

生だけでなく、死までを汚す

これが冒涜でなくて何とする

 

だからこそ被害者は罰を求める

分かりやすい罰則を、見せしめを作り上げる

精神的、物理的に二度と同じ事を出来ないようにする

それが抑止力としての法律が持つ、本来の意味

 

「(此処に法は無く、罰を望む事の出来る被害者も居ない…)」

 

死人に口無し

全てが死に絶えた世界では、罰の要請も罪の清算も出来ない

 

「(其れが明確だからこそ、ライダーは被害者の代弁を行った…)」

 

特異点を解決した以上、時代の修正が始まれば、被害は大方において元に戻る

回帰した歴史は更に回帰し、この島から全てが再誕するだろう

 

「(その事実を、彼女が理解しているかは分からない…罪悪感を覚えているだけ、人間性が進歩しているのか…)」

 

それでも、起こってしまった事実は決して消えない

 

『あー嫌だなコレ、この重くて胸につっかえる感じ…』

 

それが罪悪感、重責と呼ばれる感覚だ

本件は大体において彼女のせいである

動機がどうであれ、行動に付随する責任は当事者が負うしかない

 

「…それにしても、折角の罰を受ける機会すら奪われるとは、流石というべきか」

『…確かに、アレは私であって、私じゃない…』

 

国を滅ぼすという大罪を犯したのはアーデルハイト

しかし、実際に罰を受けたのは魔神ミシャンドラだ

 

彼女は罰を受ける機会を、永久に奪われたに等しい

 

「(…寧ろ、…これが彼女にとっての”罰”か…)」

 

罪に対する一番の罰は、肉体的制裁でも、精神的制裁でも無く、”赦されない”ことだ

 

徹底して物語の本筋に関わる事を許されない

干渉される事は無いが、観賞することしか出来ない

永遠に蚊帳の外に居続けなければならないという、罰

 

存在が始まった時から付随するならば、魔神ミシャンドラはどれ程罪深いというのか

仮に、誰かが下しているのならば、誰が、どのような感情の元に下しているのか

 

「(…哀れ、とは言うまい)」

 

弾劾はしない、擁護もしない

私がすべき事では無いし、行うならば当事者のみがその権利を持つ

罪過の軽重や、審判の行く末は、この場において問題にはならない

 

「(今、問われるべきは…)」

 

 

「この時代における特異点も、じきに修復が始まるだろう

 …これで魔神ミシャンドラの願いも、君の予期せぬ企みも終わりだ」

『…願い…か』

「違ったか?」

『…さぁね』

 

儀式の中心に居た、唯一の生存者

その正体と、願望器の機能

起源を取り払う事の、本当の意味

魔神ミシャンドラとしての、意義

 

『…』

「…」

 

沈黙が場を支配するも数秒

先に言葉を発したのは、彼女だった

 

『…ねぇ…』

「何だ」

『何かをやり直したい、って思うのは…、別に間違いじゃないよね?』

「思うのは勝手だ 望んだことが、必ずしも叶うとは限らない」

『じゃあさ、諦めるのは間違いかな?』

「一概に、私には判断しかねる 世界には諦めが肝心とも、継続は力という言葉も存在する」

『…』

 

 

彼女は何を言おうとしているのか

 

 

『…じゃあ、仮にだけどさ、もしもの話だよ?』

「あぁ」

『この世界の中に、どうしようもない程、可哀想な奴が居たとしよう』

「…あぁ」

『ソイツ等はどうしようもなく不完全でさ

 お互いを憎みあったり、無意味に産まれて、無意味に死んじゃったりする』

「…」

『私はね、…いや、我々は見ていた、…その一部始終をね、…嫌でも、見せつけられたよ』

 

 

彼女は何を示そうとしているのか

 

 

『王様の千里眼は、何もかも見通したからね、常に共に在った我々は、眼を逸らす事すら許されなかった…』

「…」

『我々は、どうしようもない程哀れで、不完全なソレ等を、どうしようもなく許容出来なかった』

「…それで、どうした」

『魔術王の死後、彼の肉体に巣食ったその時に、全部ぶっ壊して、創り直す事に決めた』

「…他に方法は無かったのか」

『正せない、治せない…何故ならソレが、最初から産まれ持った、奴等(にんげん)の悪性だから』

「…」

『魔術王の産みだした、”正しい道理を効率的に進める為のシステム”である72柱の魔神…

 彼の死後、肉体は我々が占有し、大いなる目的のため、行動を始めた』

「君はどうしたのだ」

『私は…、…ハブられたからさ…協力するでも無く、否定するでも無く、人間社会に溶け込んで物見に徹したよ

 …他の魔神共程、あまり、…人間に情無いし』

「そもそも逆ではないか? 

 人間の不完全性が許容できないのであれば、情など発生しようもない」

『愛してるからこそ、だよ

 理想的に思う程、汚点が許せない

 だから可哀想だと思った、だからなんとかしてやりたいって、そう思ったんでしょ』

「…そういうモノか」

 

憐憫、と表現すればいいのか

愛しているからこそ生まれる、悲哀の感情

人ならざる者が、人という種へ抱いた憐れみ

 

『でさ、不完全さを正そうとした思いは、果たして間違いなのかな? 罪かな? 悪かな?』

「先刻と同じだ、思う事自体は間違いではない、問われるべきはその手段と結果だ」

『そうだよね…、思った時点では正しいも間違いも無い』

 

人理焼却

星の原初に至り、死の無い世界を創り出す偉業

 

「3千年分の時間をかけた大事業…それだけの手間を掛けるに値する相手、と見なされているのか」

『それだけの相手だからこそ、3千年も水面下でやってきたのさ

 大半の人類は何も知らずに”その時”を迎えようとしている…財団は薄ら感づいていたみたいだけど』

 

いつか遠くない日、唐突に訪れる破滅

大半の人類は知る由もない

自分達の歩む筈の未来が閉ざされ、歩んできた過去すら無くなることなど

 

『…私が言うのもアレだけどさぁ、

 勝手に憐れまれて、勝手に滅ぼされるとか、人間さんかなり迷惑だよね』

「あt「―――そんなの、当たり前だろう」

 

 

『…あん?』

 

 

遮るように放たれた、誰かの言葉

これは―――

 

”星霜書廻廊”内に侵入者反応

記録者権限への不正アクセスを感知

 

『え、何、コレ …何?』

「…よく、この廻廊に入り込めたものだ…」

 

通常、侵入は愚か、存在の感知すら不可能だというのに

 

「―――やっと、見つけた…ぜぇ…!」

 

 

ここまで常識を破壊できる存在など、一人しか居ない

 

 

「…生きていたか、バーサーカー」

『…何で、まだ居んの? 何か良い感じに、勝手に終わってなかったっけ?』

 

カルデアとの共闘(実質マッチポンプ)の際、どういう訳か観測者の視点は妨害を受けていた

故に、あの戦いの結末の整合性は怪しい所だった

恐らく、座に居る本体側の記録でも同じ害を被っただろう

 

不本意だが、肉眼で事実確認出来ただけ、この場に居た方がまだマシなレベルだ

直接、私が見聞きした情報を持ち帰って初めて、本件は”記録”として処理できる

 

「(此方の決着も付けなければなるまい…)」

 

常に舞台を眺める立場である私を、舞台上に引き摺り下ろすかのような暴威

自分自身を軸に世界を振り回す意味不明な宝具

 

あの時は失態を犯してしまったが、今は違う 

彼は手負い、且つ此処は私の空間だ

如何に意味不明なサーヴァントと言えど、この空間内ではモノローグも乗っ取れまい

 

「へっ、アイツ等だけに良い顔させておけねーからなぁ…、地獄から舞い戻ってきたのさ…」

『…何か、…キャラ変わってね?』

「…キャラクターがぶれるのがキャラクターなのだろう…、それだけ媒体から影響を受けやすいという事だ」

 

原典からして”そう”なのだ

知名度による信仰、現世の知識が彼に与えた影響は計り知れない

 

「…それで、こんな所まで何をしに来た、バーサーカー?

 既に事態は収束しようとしている、そして、君も既に限界の筈だ」

『てか聖杯ぶっ壊れたし、アンタも特異点(ここ)も、そろそろまとめて全部消えちゃうよ』

 

「話は大体聞かせてもらった…お前らの事情も、何となくだが、把握した…」

「何となくで把握されても困るのだが…」

 

解答になっていないどころか、会話にすらなっていない

…かなり傷は深いな

自分の妄想で産みだした竜に、消滅寸前まで追い詰められたのだから、滑稽を通り越して呆れるレベルだ

 

「まぁ、事情を全部知ってる訳でもねぇし、偉そうに上から言える立場でもねぇが…」

『ホントそれだよ、いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねぇぞ』

「これだけは言えるぜ?

 お前のやった事、やろうとした事…正しいかどうかは兎も角な、少なくとも無駄って事はねぇよ、―――絶対な」

『…』

 

一瞬、面を喰らったのだろう

彼女の反応が止まる

 

『…起源脱却がか…?』

「それだ」 

『…あのさぁ、アンタは知らないだろうが、何一つ成果を上げられなかったんだぞ? 1億2千万の人間を虐殺して、国を潰して尚、だ…』

「そうだ」

『それでも、無駄では無い、と?』

「あぁ」

『…絶対だと? 何故、そう言いきれる?』

「何故?、何故、か…」

 

勿体ぶるように間を置く

 

「お前、さっき情が無いとか言ってたけど…―――人間、大好きだろ?」

『………………』

 

再度、面を喰らう

今度は数秒、反応が停止した

 

『………………あん?』

「俺は此処、―――というか、あの館に一番最初に召喚された…

 正確には、お前の中の人が一番で、その後に俺が来たんだろうが…まぁ、ソレはどうでもいい」

 

サーヴァントは、それぞれ異なるタイミングで順次召喚された

第一号はバーサーカーで、最後はカルデアの2騎だった

「こうして二度目の生を受けた俺だが、イレギュラーだらけの聖杯戦争のせいなのか、俺は記憶を失ってしまった…」

『…あぁ、うん…ソレは、どうでもいいや…』

 

そういう設定なのだろう

突っ込んだら負けだ

 

「右も左も理解らなかった俺は、取り敢えず知識を得ようと、館に有った本を、手当たり次第持って外に出たんだ…」

『は? てめぇ、人のコレクション勝手に持ってったのか?』

「それからは島の各地を、本と共に歩き、見聞を広めた…」

 

『聞けよ』

「無駄だ、止めておけ」

 

「何冊かは途中で落としてしまったが、それでも俺は歩き続けた…」

『…あのさぁ、コイツに止め刺してくれない?

 丁度手負いだし、確実にヤれるよ? ね、殺ろう早く』

「当施設では暴力行為は禁じられている」

『畜生… 私の集めたコレクションを、こんな奴が…』

 

これでは埒が明かない

幾らドン・キホーテという英霊の特性とは言え、向こうのペースに流されてしまうと、何も進まなくなってしまう

 

「…で、結論は何だ? 何故、彼女が人間を好いているという事になる?」

 

…既に分かりきっている事だが、当の魔神が認めないのであれば別だ

直球で結論を急がせることにする

 

楔である聖杯が消え、特異点が修復されつつある今、いつ消えてもおかしくない我々が、全ての事情を知る我々が、この場で、絶対に明確にしておかなければならない事だからだ

 

「―――あぁ、そうだなあまり、時間も無い…」

 

ナチュラルに思考を読むな

そんなスキルは持っていないだろう

 

こちらの困惑を理解しているのか、していないのか

バーサーカーは一息おいて、こちらを見つめる

 

「…思ったんだよ、割と良いよな、お前の本のチョイスって」

『あん?』

「絵本、小説、史記、叙事詩、戦争史、民話、寓話、童話……雑食か、ってくらい本当に色んな種類が有った」

『…まぁ、見る事(それ)だけが娯楽だったからな…』

 

 

そう、今回召喚された英霊は、彼女が好んだ物語・逸話から選ばれた者ばかりだ

 

 

その生涯を復讐のために生き、最期まで復讐を求め死んだ

セイバー、勾践

 

理想が為に義侠として立ち上がり、結果、国に裏切られた

アーチャー、花栄

 

仕えた王の裏切りにより義を失い、仕えた国を自ら捨てた

ランサー、ドゥフタハ・ダイルテンガ

 

愚直なまでに自らの夢を追い続け、夢に沈んだ誇大妄想狂

バーサーカー、ドン・キホーテ

 

大戦の中を暗躍し、役目を終え、帰郷した末に忘却された

アサシン、フランツ・フォン・リンテレン

 

一族を滅ぼされ、仇敵に下りながら、ただ国の為に生きた

キャスター、布都姫

 

その誰もが、希望を、絶望を抱えながらも、懸命に生きた人間である

(日付からチョイスされたライダーは少し外れているが)

 

「娯楽か…、娯楽になり得る程度には好ましいんだろ?、そういう人間の、生まれては死んでゆく物語に」

『…』

「人間に対して情が無い? バレバレの嘘をつくのは止めろ」

 

人間への情が無いのならば、何の感情も、興味も発生しえない

隆盛の象徴たる戦史も、足跡を辿る史記も、文化である説話も、全てが此処に無かっただろう

 

「こんだけ集めたんだ、理解したかったんだろ? そんな人間の、残酷でも美しい物語を…」

『…』

「この世に生を受けて、楽しい事もあれば、嫌な事もある…その繰り返しの中、人は華々しく、輝かしく成長する…」

『…死の無い魔神からすれば、生の輝きは一瞬だ…、一瞬でしかない輝きは、何よりも、儚く綺麗なヒカリだった…』 

 

 

『―――でも…』

「…あぁ、いずれは消えるさ…過程がどうであれ、結果は死で幕を閉じる」

『生きている間に、どんな活躍をしようと、死んでしまえば何もない……本当に何も無くなってしまうんだ…』

 

彼女は観測(み)続けてきた

3千年裳の間、ありとあらゆる物語を、感情移入しながら

 

『一生懸命生きて、積み上げてきた物も、何の意味も―――』

「―――勝手に無意味にするんじゃねぇ!!!!」

 

『!!』

 

瀕死の体を、魔力を振り絞るかのように叫ぶ

既に限界を超えているだけに、いつ消滅してもおかしくない

 

というか、既に足元から消えかかっている

 

「同じなんだ!! お前が!! やろうとした事も!! その思いも!!…いいや、お前だけじゃない!!」

 

残り少ない命を振り絞って、彼は叫ぶ

人ならぬ存在に、”人”を説くために

 

「今まで…、―――この瞬間も、億単位で続く歴史の中の、全ての生きてk―――」

 

 

『えっ』

「…」

 

 

説くための言葉を最後まで言う事無く、バーサーカーは消滅した

 

『…』

「…」

 

『こ、このタイミングで? き、消えるのか…? 嘘、だろ…?』

「…」

 

『何だよ、それ…』

 

此方が聞きたい

 

『もっと…、もうちょっと頑張れよ!! 此処まで来たんだろ!! 消えかけの身体で、それでも来たんだろ!! 英霊のくせに!!、人間のくせに!?!!

 そういう空気だっただろ!!

 空気読めよ!!、折角!!、やっと!!

 熱い説教で!、説得して!!、納得して!!!、私に引導を渡す!!、その流れだっただろ!!!?』

「…」

 

確かに、メタ的な視点から見れば、そうなって然るべき展開だっただろう

もう少しで、魔神ミシャンドラの物語に、決着を付ける事が出来たのに

どこまでも量れない、意味不明な男だった

 

「…はぁ…」

 

”見る事が専門”とはいったが、面倒まで見る事になるとは

尻拭いなど分野ではないというのに

 

「…彼が全て言わなくとも、君は既に分かっているだろう」

『…』

 

溜め息、というか深呼吸か

内から呆れのこもった感情を感じる

いまいち、不完全燃焼だった流れに、気持ちの整理をつけているのか

 

『…言われなくても、分かってるさ…、知ってるんだよ、何千年人間として生きてきたと思っている…』

 

答えは既に出ている

後は辿り着くルートを示すだけ

 

『人間に堕ちて―――、いや人間として生きてきたからこそ、魔神でも、憐憫の獣でも分からない事を、理解することが出来た』

「それは何だ」

『”憐憫”ってね、要するに憐れみなんだ 皆さ、上から目線で勝手に同情してただけだったんだ』

「…」

『人間でも、魔神でも無い…同じ目線で、同じ立場じゃなきゃあ駄目なんだ

 その点、アイツ等はソレを放棄していた…、勝手に気持ちを押し付けて、理解を拒んでいた…』

 

”勝手に同情されて、勝手に滅ぼされるって人間さんかなり迷惑だよね―――”

”―――勝手に無意味にするんじゃねぇ!!!!”

先程のやり取りなど、完全に同じだ

 

『死は、恐怖であるが、救いでもある

 生は、祝福であるが、呪いでもある』

「千差万別…全ての者が、同じ思想、感性を持った平等であるとは限らない」

 

魔神としてのミシャンドラが、復活を望み、、人理焼却を実行しようとしたように

人間としてのアーデルハイトが、財団と協力し、世界終焉に対抗しようとしたように

同一の存在であっても、異なる在り方がある

 

 

「『それでこそ、人間…』」

 

 

答えは、得ていたのだろう

 

魔神の中の、”バグ”は

正しい道理を、円滑に進めるシステムの中に発生した”バグ”は

人間を理解しようとした”バグ”は、観測の業を己に課して、人間としての生を得た

 

永い年月を、

嘆くべき死は、悲哀だけではなかった

喜ぶべき生は、祝福だけではなかった

 

同族が人理を滅ぼすための3千年を、観察し続けたその中で

おぼろげながらも、確かな答えを得ていた

 

愚かしさも、産まれ持った悪性も

不完全さこそ、生命としてあるべき姿であると

 

「今度こそ、納得はできたか?」

『…あぁ、もう十分だ

 この3千年の大勝負、”魔神(わたし)”の負けで、”人間(わたし)”の勝ちさ』

「これで騒動は完全決着だ 私も君も、然るべき結末へ進むとしよう」

『そうだね…まぁ、所詮私は仲間外れのハグレ者だし?―――敗けは敗けだ、大人しく罰を受けるよ』

 

『だから、さ…』

「あぁ、消えゆくこの世界にあっても、私は君を記録し、永劫にその記憶を抱き、君を永劫に赦さないと誓う』

 

子供の守護聖人が全ての被害者の代弁をしたように

他の誰も同じ舞台に立てない彼女へ、他でも無い私が代理で罰を下そう 

 

『…うん、それが一番だよ、きっと……あ、それとさぁ』

「何だ」

『記録者(セイヴァー)・トゥキディデス…アンタを信頼し、もう一つだけ頼みがある』

「可能な範囲で善処しよう」

『総体…、ゲーティアの人理焼却は失敗する…星と共に、これからも人類はその歴史を紡ぎ続けるだろう』

「…言いきったな、仮にも元は自分だったのだろう?」

『私の知ってる人間って生き物はさ、こんなんで敗ける程、柔じゃねーんだ

 これから何が起こったって、人生という名の死と喪失の鬱物語は、まだまだ続いてく…だろ?』

「…成る程、そういう事か、承諾した」

 

これが頼みだと? これ程楽な依頼は無い

私のやるべき事に、何の変化も無いではないか

 

『んじゃあ大変だろうけど、頑張ってよ

 ずぅっと続く人類に付き合っていくんだし、どうか、忘れないでね?…』

「君の恐れた忘却など、私にとっては無意味だ」

 

歴史とは、記録とは、その為に有るのだから

 

「君の愛した物語は、終わりなく続いてゆく

 私が記す記録は、記憶となって永遠に残る

 君も、君の同胞も、余さず遺すと此処に誓おう」

『…―――うん、ありがとう』

 

これで全てが終わりだ

辿る未知も、通り過ぎれば足跡となる

遺された足跡は、全て記録となる

 

「では、私もそろそろ帰るとしよう…仕事が山積みなのでな」

『あれ? 座の本体とやらでも、記録はしてるんじゃないの?』

「…君の呼び出したバーサーカーのおかげで、この世界における記録編纂は滅茶苦茶も良い所だ…

 参考の為、直接観測した情報を持ち帰らなければならない」

『あー…、確かにアレの宝具で変になってた時あったしねぇ』

「記録の視点にも偏りが生じている

 肉体の共有が影響を及ぼしたようだ、此方にも早期的な補正を要する」

 

素通り出来れば楽だったのか

たかが剪定事象だと

末端の消えゆく世界だと

記録上に書き記すだけで、意識など裂くことも無かっただろう

 

歴史とは、過去から現在へ至る変遷

歴史とは、事象の流れそのもの

 

因果律の法則によって呪縛された、絶間なく連なる事象素子

水が高きより流れるように、あらゆる繁栄と衰退が其処に在る

 

事象素子の慣性力を、人は”運命”と呼び、

その結び付きを”縁”と、その度合いを”絆”と表現するのだろう

 

この場に集った彼等も、我々も

蚊帳の外である彼女がいなければ、繋がりも生まれなかったのだ

 

「奇異な物だ…」

『あん?』

 

奇異な”運命”が齎す結果

私が現世に限界してまで記録を行った”事実”、観測した事象は、より強固な”歴史”として固定される

 

カルデアのサーヴァントが解決した、出来損ないの聖杯戦争

特異点が修復され、聖杯による弊害が全て元に戻るならば、歴史は再びレールの上に乗る

 

魔神ミシャンドラが居なければ、この特異点は発生しなかった

アーデルハイトが望まなければ、サーヴァント達は来なかった

 

魔神ミシャンドラが望まなければ、日本という国は無くならなかった

アーデルハイトが居なければ、人理焼却を防ぐことなど出来なかった

 

自らが要因でありながら、その全てを自らで潰している

しかも、表舞台に立っていたのは、最後まで”魔神ミシャンドラ”であり、アーデルハイトでは無かった

徹頭徹尾の自己完結、爪弾きであり、蚊帳の外、流石は傍観者と言った所か

 

此の物語は虚構であるかもしれない

然し、その全てが虚偽であるとは限らない

 

剪定を余儀なくされる枝のみに存在する、虚なる島の魔神よ

同じ観測の業を背負う君は

それでも、起源脱却を目論んだ君は

 

全てを受け入れた私とは、似ても似つかなぬ存在だ

 

「私の現世での私の仕事は終わった

 ―――さらばだアーデルハイト・フリューゲリンク…再び出会わない事を願っている」

 

記録者は歴史に介入すべきでは無い

刻まれる足跡(きろく)に、私自身(きろくしゃ)の物は必要無い

 

せいぜい君は、私の記録対象として歴史に刻まれるといい

 

 

 

 

 

『うん、バイバイ…、予想外が沢山あったけど、中々楽しかったよ

 もう会えないだろうけど、元気にやっt―――』

 

そう言い終わる前に、記録者は私の肉体から消失した

薄情な奴だな、と思ったが、彼らしいので気にはしなかった

 

「―――うおッ!?」

 

肉体の主導権が戻ると同時に、あの図書回廊が消え失せる

少し宙に浮いていた状態で解除されたからか、着地のタイミングが掴めずに、その場に倒れてしまった

 

「痛ってぇ…あークソ、鼻血が…」

 

顔面アウト

まだ、体の調子が戻らねーな

ちょっとの間体を乗っ取られていたぐらいでここまで響くとは…

 

「…あー」

 

疲れたな、ってか体がすげー怠い

鼻血止まんねーし

このまま横になってようか

 

仰向けになって見上げる景色は、見覚えのある天井

私の家、…だった廃墟

瓦礫の山になっているくせに、変に片付いている

 

「…几帳面かよ…」

 

二階だった屋敷も、床をぶち抜かれて強制的に平屋にされた

探索しやすいように、家具も部屋もスクラップになっている

 

「―――丁度、この辺りか…」

 

切っ掛けとなった、あの場所

全ての陣の中心に、私はあの時と同じように倒れていた

 

「…ははっ、まだ塩塗れだ…」

 

手の届く距離にある陣は、まだ白い粉で埋もれていた

手を伸ばすと、付着した血で赤く汚れた

 

「…あぁ、クソ止まんねーな、畜生」

 

生命の赤は止まらない

じっとしている分には痛みはあんまり無いし、その点は救いなのだが

 

「ん?」

 

手を伸ばしたついでに見えた、ソレ

私の屋敷を破壊し尽した時にまとめた、資料の一端

その中に有ったのは

 

「日、記…私の…」

 

何かに突き動かされるかのように、ソレを目指す

満足に動かない体を、どうにかこうにか酷使して、不格好な匍匐前進で動く

 

力を入れ過ぎて鼻血が勢いよく噴出したが、今はどうでもいい

筋肉痛のように体中の筋肉が、いや、骨も関節も悲鳴を上げているが、今はどうでもいい

 

「はっ、ハァ、ッはぁ…もう…ッ、ちょい…!」

 

何とか辿り着き、日記を手に取る

その時点で満身創痍だったが、見るだけなので何も労力は要らない

 

「クソっ、幾ら…元の、情報が必、要だからって、

 色んな、要素…取り過ぎだクソ聖杯…!」

 

手近にあった瓦礫を枕に、多少マシな姿勢をとる

鉄筋っぽい何かが刺さった気がするが、この際気にしないでおこう

所々挟まっている他の資料を全てそこらに捨て、中身を読み漁る

 

 

そして―――

 

 

「…ははっ…、…何だ…」

 

きちんと楽しんでるじゃねーか

 

物心ついた頃より記録していた、私の”人生”

苦楽の記憶が、生きた証が、全てが其処にあった

 

「…勝手に憐れんでんじゃねーよ、か」

あの変人サーヴァントの言葉を思い出す

 

「全くだな…」

 

勝手に憐れんで、頼んでもいないのに、とんでもない事やろうとして、身内としてちょっと恥を覚えたり

はた迷惑と言うか、要らぬお節介と言うか

 

「まぁ、…気付けないよりは、良かったか…―――うん、最期の最期に良かったよ…」

 

どうだ、羨ましいか魔神共?、私は、解に至ったぞ

どうせ、どっかから見てんだろ?

 

応援も寄越さず、放置しやがって…

この私を、この”見守る”機能を放逐したお前達の末路も、こんな感じになるぞ、きっと

 

「ざまぁ、…みろ…」

 

あれだけ忌避していた結末が目の前にあるというのに、割と気分は穏やかなままだ

何だか馬鹿らしいな

見下していた筈の人間になって、初めて理解できる事があったなんて

 

「…王様は、どうだったのかな…?」

 

魔術王、叡智の王

同胞が怒りを抱いていた彼の王は、どうだったのだろう

人間としてより、王としての使命に殉じたあの人は

 

「人なんだから…、人間として生きてれば、もっと…」

 

無責任な男だった

少なくとも魔神達にはそう見えた

 

「…いや、何だかんだで上手くやるのが、あの人だ…」

 

偉大な魔術王として死んだ時も、そんな感じだった

王として生き、その責務を全うして、死んだ

 

本人が満足かどうかは分からない

ただ、あの無責任な男は、常に上手く立ち回って生きてきた

 

…ゲーティアが何かをやらかしたとしても、

あの緩い笑い顔で何とかしてくるんじゃないか?

 

「…まさか、ね…」

 

まぁ、頑張れ人間

精々負けんな人間

たった3人で文殊級の知恵になるんだ、70億も居ればゲーティアぐらい、目じゃねーさ

 

だけど、もしも、どうしても、やってみて駄目だったら…

あの無責任な王様に、頼ればいい…

だから、それまでは―――

 

 

「…………精々、幸福に…生きてろ…人間、共…―――」

 

 

安心したら力が抜けてきた

仰向けになっているせいで、止まらない鼻血が喉に流れてきたけど、

ソレが気にならない程眠いし、もういいか…

 

あぁ、何気に同じ場所で意識が飛ぶのか、と

気付いたと同時に、全てが黒に染まり、

始まりの場所で、全ては終わりを告げた

 

 




『コノ島ハ昔ヨリ、神ノ住ム島トシテ畏敬セラル』

『其ノ形”ハベリ”ニ似タルタメ也』
『”ハベリ”ハ神ノ化身也』

『不思議ナ事ニ、コノ島ニ”ハベリ”ハ生息セズ
 恐ラク、他ノ神々ノ嫉妬ニヨッテ絶滅サセラレタト思ワレル』


西村京太郎 著
『幻奇島』より抜粋


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18 Last Day Never Knouws

ブライト博士とプレイヤー側の結末

短めなので抱き合わせ
見せ場はもう終わったし、多少はね


≪SCP財団職員 ジャック・ブライトの結末≫

 

 

「…終わったようだな」

 

戦火から遠ざけるための村人達の先導は終わっていた

合間に遠巻きから英霊共の戦う姿を眺めていたが、結局は再び戦場に戻ってきてしまった

 

「英霊も、魔神の柱も、…築き上げた物ごと全てが消え失せたか…」

 

激闘が繰り広げられたであろう、荒れ果てた地

目に映る光景に浮かんだ感想は、

 

「(さしずめ……バベルの塔といった所か…)」

 

最終目標だった聖杯を取り込み、天に届くと思わせる程に増長した魔神の柱

世界終焉を止めるという、偉業を成そうとした結果が、この有様だ

 

届く筈の無い物に、手を伸ばしたから失敗したのか?

人の手に余る奇跡に縋ろうとした事への報いだったのか?

 

だが、不相応ではあっても、不純では無い筈だ

終焉を拒むのは生物として当然の欲求であり、後ろめたい事など何一つ存在しない

仮に、現状が罰だとしたら、我々はどれ程の業を抱えているのか

 

「(…無意味だな…)」

禅問答に終止符を打つ

 

「…全てが…徒労に終わったな…」

少なからず落胆の色を滲ませた呟きは、風の吹く音に紛れ、消えた

 

落胆

…そう、落胆だ

 

予備の肉体を失った事についてではない

無駄となった投資についてでもない

 

 

ただ、今回の件が”何一つ成果の無い失敗”だったことだ

 

 

世界終焉を回避するための策として、万能の願望器を欲した

その願望器を顕現させるための儀式を執り行う手段があった

 

アーデルハイトは、謂わば”設計図”だった

当然ながら、”設計図”だけでは如何にもならない

 

材料も、人も、金も、場所も、奴にはどれも足りなかった

其処に我々、財団が手を差し伸べた

 

利害関係の一致として、不足する全てを支援提供する代わりに、成果をこちらに引き渡す

提案された期間は、およそ一年

早ければ早い程良いだろう、と奴は笑って言った

 

終焉までの猶予があまり無い事は、双方予想していた

何時、何処で、何が原因で世界が終焉を迎えるかは分からない

 

分からないからこそ、あらゆる手段を先んじて、少しでも多く講じておくことが重要となる

 

現状、終焉に対する最大の切り札となるであろうオブジェクトは修復中だ

あの様子では向こう2、3年は掛かるだろう

修復が完了しない内に終焉が訪れてしまえば、今度こそ我々の敗北だ

 

「制御可能なオブジェクトなど、夢のまた夢だったか…」

 

人類に対し、脅威となる性質を持つscp、

それに対抗するための秘匿オブジェクトクラス・”Thaumiel”

 

抑制手段であり、解決手段

相性による関係で危険を無効化できる物もあれば、単純に物理的手段で危険を排除する物も存在する

切り札と言えど、結局はKeterと同じ、要収容オブジェクトだ

取扱いに細心の注意が必要となるのは変わらない

 

その点、取扱いが容易な願望器という物があるなど、美味すぎる話だった

先の見えない暗闇に、漸く現れたかに思えた、微かな光

 

「(伝説の願望器とやらも、結局は幻に過ぎなかった…)」

 

差し込んだ光は虚光で、欲し求めた物は虚構に終わった

 

事故とは言え国を一つ滅ぼし、住まう人々を根絶やしにし、それでも尚、得られた成果は無かった

 

「(だが、まだだ…)」

 

握りしめた掌に爪が食い込む

まだ、止まる訳にはいかない

 

取り返しがつかないのなら、背負って生きていくしかない

無かった事になど出来ないのだから、抱えていくしかない

 

「まだ、終わってなどいない…」

 

私は、私の罪を清算するまでは、死ぬわけにはいかない

そして、不死の首飾りは、私が死ぬことを絶対に許さない

 

この体になった時から、既に覚悟は出来ている

こんな所で立ち止まってなどいられない

 

やるべき事、成すべき事

今一度、自分を再確認する

 

白衣の内から衛星電話を取り出し、財団本部の番号を入力する

1コールで担当者がすぐさま対応に出た

 

「ジャック・ブライトだ…」

 

「…あぁ、SCP-1945-JPについてだ…詳細は帰還してから報告する」

 

「コンドラキに繋いでくれ…私がしくじったと聞けば、あの性悪は飛び着いて来るだろう」

 

了解の返事と共に、保留音が流れる

 

「(また、禁止事項が増えてしまうな…)」

 

まずは、得た情報の報告からか…こればかりは他の者には出来ない

 

最大の証人であり、容疑者であるアーデルハイトは一族ごと行方不明

当事者は既に全員死亡

今回の騒動の背景を知る者は、今や私一人

 

「ふぅ…」

傍らの木に寄りかかりながら、後始末に思いを馳せ、溜め息をついた

 

「…」

未だ止まない保留音を聞きながら、ふと目を移す

 

再び見た景色には、何も無い

先程まで目に映っていた物も、今はもう映らない

 

空想の果てを象徴する、醜悪なバベルは完全に崩れ去り、跡形も無くなっている

微かな虚光でしかなかった切り札が、完全に世界から失われた事を思い知る

 

「…」

 

感慨に耽る暇もなく、電話の向こうから慌ただしい声が響いた

「―――!!!!―――!!!」

「…コンドラキか? あぁ、そうだ、…貴様の喜びそうな話だ…―――」

 

我々の抱いた無限の空想は、夢幻に終わった

奴の欲した新たな歴史は、築く前に崩壊した

 

全てが孵り、全てが還る場所

常世の国、根の国、そしてニライカナイ

この島に集う、ありとあらゆる生と死の歴史

 

革新の翼、アーデルハイト・フリューゲリンク

貴様の愚行も、いずれは人の世の礎となる

 

我々が終焉に打ち勝つその日まで、空の彼方で見ているがいい

財団が、人間が、いずれ来たる終焉へ打ち克つ様を

 

 

 

 

 

 

≪プレイヤーの再登壇≫

 

 

―――召喚サークルに光が灯る

シールダーの少女は、先輩と慕う主の傍らに立ち、共に英霊召喚の行く末を見守る

 

召喚陣が胎動し、徐々に魔力反応が増大してゆく

やがて、室内の軽い揺れと共に、光の中から複数の人影が現れる

 

「―――先輩…!」

 

驚愕と歓喜の入り混じった表情で、マシュ・キリエライトは主の袖を引く

当のマスターも、同じような表情を浮かべていた

 

それもその筈

彼らにとっては、見覚えのある姿だったから

 

予期しない特異点への強制召喚により失われた、カルデアの精鋭2名

同日に確認された亜種特異点の消滅後、遂に帰還することなく、物理的な繋がりは断たれてしまった

 

特異点で何が起きていたのか、彼らはどうなったのか

サーヴァントが消失し、レイシフトシステムにも不安が見られる状況で特異点へ直行する訳にもいかず、原因は以前不明なまま、時は過ぎた

 

それが、今

いつか別れた2人の英霊は、再びカルデアに現れた

 

元々、居た時間は長くは無かったが、軽く懐かしさを覚える

感慨に耽る暇を与えず、マスターは笑みを浮かべ、2騎に向かって歩を進める

 

ゆっくりと手を差し出し、こう言った

 

「―――おかえり」

 

「…おう、久々だな」

「懐かしいと言えば懐かしいわい…」

 

あの日に取ったマスターの手を、再び握り返した

 

 

「…えと、あの…感動的な再会の中、申し訳ないのですが…」

 

シールダーの少女がおずおずと話しかけてくる

 

「そちらの、方々は…?」

 

光の中から現れた、”複数の”人影

帰還できた歓喜の感情に紛れる中、背後から複数の気配を感じる

恐る恐る振り返ってみると

 

 

「…倶に天を戴こうとは…待ち侘びたぞ、小僧共…」

殺気を隠そうともしない者

 

「む、久しい顔が…まさか再び相見えようとはな…」

無邪気に再会を喜ぶ者

 

「…今度こそまともな職場……ではないなコレは…」

額に手を当て、顔を顰める者

 

「…この気配は燕青…か?…にしては何処か妙な…、いや間違えようも無い…」

他の事に気を取られている者

 

「何だ、此処は…? 俺はあの時トラックに撥ねられ、死んだ筈…」

意味不明な者

 

連鎖的に召喚された、5名の英霊

というか、いつか見た面々だった

 

「えっと、その…歓迎します!! ようこそ、人理保障機関カルデアへ!」

 

流石に、ここまでの事態は想定していなかっただろう

驚愕と共に、歓迎の言葉を掛かる

 

斯くして、大きな戦力と共に、大きな問題を抱えた者がカルデアに訪れた

様々な騒動が有ったのは言うまでもないが、尊い犠牲の元に沈静化させることは出来たようだ

 

紆余曲折を経て、再び物語は動き出す

人理修復に立会うことは叶わなかったが、時を越え、また同じ舞台に立つ事が出来た

果たせなかった使命の続き、とまではいかないが、共に戦うことは出来る

 

歴史の裏方の存在である英霊達が、人理を救った彼らの力となれる

新たに紡がれる、人間の物語の行く末を、すぐ傍で見届けられる

 

知られざる夢幻の島での戦いは、無意味なものでは無かった

偽物の歴史と化した、あの世界での出来事は、巡り巡って実を結んだ

 

多くの人々が、あの島で死に絶えた

だが、此処から、より多くの人々を救う

 

偽の物語は終わりを告げ、真の歴史は此処から始まってゆく

 

 




これにて物語は終了

後は、残っているマテリアルぶちまけて終わり、閉廷


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キャスト

キャラクターのマテリアルとか補足とか
既出は省略

割と思った事(愚痴)そのままぶっちゃけコーナー



【ランサー】

真名:ドゥフタハ・ダイルデンガ

性別:男

身長/体重:183㎝/75㎏

属性:秩序・中庸

 

筋力:B 魔力:B 耐久:B 

幸運:D 敏捷:C 宝具:D

 

《クラス別能力》

・対魔力:C

 

《保有スキル》

・戦闘続行:B…ガッツ

・啜る黒水(ダイルクー):B…時間稼ぎ

・ルーン魔術:C…北欧と言えばコレ(原典で使うとは言って無い)

 

《宝具》

『貪る呪炎(ルーン)』 

 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:3~10 最大捕捉:15人

…めっちゃ燃える槍 バトルセンサー 火傷のデメリット要る?

 

《人物》

友人A制作

バトルジャンキー、と言う設定 攻撃手段は大体”一瞬で近づいてブッ刺す”

RPの引き出しは少なめ 本作品で一番加筆が多い男

 

 

 

【ライダー】

真名:聖ニコラウス

性別:男

身長/体重:180㎝/85㎏

属性:秩序・善

 

筋力:D 魔力:B 耐久:C 

幸運:A 敏捷:D 宝具:A+

 

《クラス別能力》

・騎乗A

・対魔力C

 

《保有スキル》

・聖者の贈り物 :A+…サンタ特有のスキル

・善悪判断(子供):EX…子供は出て来ない模様

・無辜なる守護者:B…そりゃあ無辜だろうさ

 

《宝具》

・『この良き日に幸福を(ホーリーナイト・ジングルベル)』

 ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜500 最大捕捉:1000人

⇒ソリでの突撃 通常攻撃より凄いッぽい 光速も超えるらしい

 アインシュタイン「ファッ!?」

 

・『この聖なる夜に後悔を(ブラックナイト・ブラックバス)』

 ランク:EX 種別:対人宝具 (演出宝具)レンジ:1 最大補足:1

⇒俗に言う黒サンタ 悪い子供は敵として出なかったのでお蔵入り

 

《人物》

友人B制作

サンタ 誰が何と言おうとサンタ 会う奴皆に説教するマン

攻撃方法は豊富そうに見えて後半は”一瞬消えてソリでシバき回す”しかやらなくなった

クッキー人形や、おもちゃ投擲は強敵には効かないからね、しょうがないね

相方が反応に乏しいので、GMに気を使ってメインで話を広げてくれるマン

でも疲れたのか、終盤はやれやれしか言ってなかった

やれやれ、儂は射精した

 

 

 

≪セイバー≫

真名:勾践

性別:男

身長/体重:186㎝/77㎏

属性:混沌・悪

 

筋力:C 魔力:C 耐久:B 

幸運:B 敏捷:D 宝具:B+

 

《クラス別能力》

・対魔力:D~A+

・騎乗:C

・忘却補正:B(第2宝具宝具使用時)

・魔力回復:C(第2宝具宝具使用時)

 

《保有スキル》

・臥薪嘗胆:A+++…使うと真名が一発で分かる

・猜疑心:A…雛見沢症候群

・越王八剣:B~B+…自己紹介

 

《宝具》

・『越王八剣』…水面を両断する←うん 日光を消滅させる←ほう 悪霊を平伏させる←いいじゃん 鯨を驚かせる←え、何ソレは…

・『刻ヲ越エ王ハ此処に在リテ』…使用中は霊器がアヴェンジャー寄りになる、という裏設定

 

《人物》

五帝・禹の末裔(血縁が越の源流)に当たる中華製のアヴェンジャー 通称越ちゃん 嘘だけど

行動基準が全くブレないので、演ってて一番楽しかったキャラ

異聞帯項羽の元名である”会稽零式”の会稽はこの人の地元名(夫差君に負けた場所)

越が大国とかめっちゃ凄い感じだった風に描写したけど、当時から見ればそうでもない

侵略受けなかったのだってアウトオブ眼中だけだったからだし、まだ始皇帝も産まれてなかったしね

剣の他にも屈盧之矛とかいう槍や、屈盧之弓とかいう弓を持っていた(逸話の詳細は不明)

父ちゃんも5本ぐらい剣を持っていた、けど逸話がどれも何か微妙だった

割と材料に溢れた人なんで、型月が出すならどんな風になるか、私気になります

 

 

 

≪アサシン≫

真名:フランツ・フォン・リンテレン

性別:男

身長/体重:172㎝/68㎏

属性:秩序・善

 

筋力:C 魔力:E 耐久:D

幸運:C 敏捷:C 宝具:C+

 

《クラス別能力》

・気配遮断:C

・道具作成(爆弾):A

 

《保有スキル》

・破壊工作:A…メリケンの悪夢

・闇の侵略者:B…✞闇の侵略者✞ どんな心境で自著にこのタイトルを付けたのか

・ダブルクロス:B…そもそも仲間じゃないから裏切りもクソもないよね

 

《宝具》

・『甘い爆弾(ズューズ・アッシェ)』

ランク:C~B+ 種別:対軍宝具 レンジ:15 最大捕捉:50人

⇒爆弾作成技術 ズューズ(Süß)は甘い、アッシェ(Asche)は灰の意

 粉砂糖を入れると燃焼効率が上昇して威力が増す、それが砂糖爆弾

 まぁ、材料さえあれば焼夷弾でも水爆でも作れるけど(未開の孤島にそんな材料は)ないです。 

 そ・こ・で、お客様ぁん❤ 今回はコレ、”ANFO爆薬”のご紹介ですぅ

 創り方はいたって簡単、何処にでもある〇〇系肥料に、〇%の〇油を混ぜるだけ!! 家庭でも簡単に作れちゃうんです!! 

 え、水素と酸素? それは水素爆鳴気なので厳密には爆弾と異なるんですよ

 酸素と水素が有ればどこでも大爆発起こると思うなよ

 ガソリンタンクを銃でぶち抜けば大爆発すると思うなよ

 

《人物》

仕事人間 プロフェッショナル ゲーム性と設定が嚙み合わないおかげでいまいち有能性を伝えられない男

補足しとくと、登場した時の会話とか結構な駆け引きしてるからね

自分の情報を殆ど出さずに、プレイヤーさんから逆に情報引き出してるからね

まぁ、勝手に向こうが喋ってくれたのもあるんだけど

他に功績と言えば、①召喚されて数時間で村人の信用を得る ②キャスターを味方に付けた ③キャスターに行動指針を与えた、ぐらい 

大体キャスターのフォローしてんな

この人が仲間になった場合、最終戦での補正が毎ターン固定ダメージに変わる

キャスターと比べて常世神メタにならないからもっと時間かかってた

そもそも近代人だし裏工作の方が得意タイプだし、エジソンとかテスラが異常なのよ

 

 

 

≪キャスター≫

真名:布都姫

性別:女

身長/体重:148㎝/38㎏

属性:中立・中庸

 

筋力:E 魔力:A 耐久:D

幸運:B 敏捷:D 宝具:A

 

《クラス別能力》

・陣地作成:B+…魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる ”祭祀殿”の作成が可能

 

・道具作成:B…神事に関する道具、道術に関する道具を作成できる

      『祭祀殿・石上布留神宮』の展開中のみ、奉納されていた祭具を擬似的に展開できる

       

《保有スキル》

・道術(持禁):C ≪CT6≫

…道士が修める、太極に至る為の術

 反仏教派だった物部氏は、大陸から伝来した道教に目を付け、神道と複合した独自のスタイルを築き上げた

 本人的には健康法の一環というライトな認識であり、仙人にまでなるつもりは無い

⇒味方全体の防御↑2d6(3T)&自身のHP回復1d6

 

・剣神の加護:B  ≪CT6≫

…石上神宮の祭神・経津主神の加護

 刀剣に類する武器を扱う際、Bランク相当の”心眼(真)”を獲得する

 祭神と同じ”経津(布都)”の名を与えられた、斎宮への祝福

⇒攻撃+1d6(3T)&回避(1T)&(刀剣使用時のみ)NP+2d6

 

・呪術:A+     ≪CT6≫

…御石神(ミシャグジ)の祟り・厄災 神宮の名である”石上”が転じた物

 兄である”守屋”がミシャグジを崇める一族の先祖であるという説に由来する

⇒敵単体のNP-2d6&確率でチャージ減&確率でスタン

 

《宝具》

・『神代三剣・布都御霊(ふつみたまのつるぎ)』

ランク:B+ 種別:対神/対国宝具 レンジ:― 最大捕捉:人

…神代三剣の内の一振り 物の断ち切れる音を表す”ふつ”をその名に冠する、”切断”の概念武装

 神代の日本において、建御雷命が葦原中国平定の際に使用した神剣

 後に初代天皇・神武帝に東征支援として送られ、人に世に降りた

 時は流れ、神体として祀られたのが、物部氏の祖が建立した石上神宮である

 神職に従事し、祭祀を生業としていた物部の巫女として育った布都姫は、本来の担い手でなくともこの神剣を宝具として使用できる

 ただしその場合、100%の性能を発揮できる訳ではなく、1~2ランクダウンしての使用となる

 原典では、剣の霊力により自軍の毒気を除き、活気付かせ、更には荒ぶる神すらも退けたと言われる

⇒・味方全体のHP回復(3d6)&弱体解除&味方全体に無敵貫通付与(3T)

 

・『祭祀殿・石上布留神宮(さいしでん・いそのかみふるじんぐう)』

ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:― 最大補足:人

…日本最古の神宮、物部の総本山にして、ヤマト政権の武器庫

 物部の斎宮が保有する、高ランクの陣地作成スキルによって創建が可能となる

 発動時より、知名度補正と、全ステータスアップを自身に適用する

 この宝具の影響下においてのみ、神宮に奉納されている数多の宝具を自分の物として行使できる

 ただし、本来の担い手では無いため、ランクは1~2ダウンしての使用となる

 ランクダウンしているとは言え、神道における八百万の神を利用することで道具本来の性能を引き出せるため、実質デメリットは無いに等しい

 

・『神明裁判・盟神探湯(しんめいさいばん・くがたち)』

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:人

…物部氏が統括していた組織・”解部”(ときべ)で行われていた裁判方式

 予め罪人(と思しき者)に、身の潔白を神に誓わせたうえで、

 煮えたぎった湯に手を入れさせ、やましい事が無いならば火傷をしない、というインチキ神判

 大体の人間が煮え湯を回避するために自白をするので、一応犯罪の抑制にはなっている(のかもしれない)

 流石にキャスターもどうかと思ったのか、宝具として昇華された際に神判の方式を改めた

 相手の挙動、情動に反応して温度を上昇させる霊水を雨として周囲に降らせる

 キャスターの提示した”問い”に対する”答え”に不純な心があれば、すぐさま霊水は身を焼くこととなる

 

《人物》

…古代日本、飛鳥時代において高い権力を誇った軍事豪族・物部氏に誕生した姫巫女

 幼い頃より、兄である物部守屋によって、斎宮の立場を与えられ、神職に従事すると共に、対立する蘇我氏との権力闘争に足を踏み入れる事となる

 

 蘇我氏の進める仏教には同調せず、表向きは神道を修めながら、大陸から伝来した道教を身に付け、守屋と共に国政での立場を盤石にしていった

 物部氏は守屋の手腕によって栄華を誇ったが、同時に守屋の代で衰退を迎える事となる

 

 権力闘争の果てに起こった丁未の乱によって、守屋は戦死・物部氏は壊滅的な被害を受け、存続すら危うい状況に追い込まれた

 一族への追処分を避ける為、布都姫は守屋の敵である蘇我馬子に嫁ぐこととなり、事実上の敗戦奴隷の身となった

 

 神事や解部の業務は物部氏の領分だったため、最低限の身分は保証されたが、迫害冷遇を受け続けた

 それでも折れず、滅ぼされた守屋の遺産の相続を主張、その半分を取り戻し、蘇我馬子の娘を聖徳太子の妃にするなど、立場は悪くなれど、朝廷での権威は一定を保った

 

 兄の敵である馬子を憎く思っているが、国政を蔑ろにしてまで復讐を果たすつもりは無く、あくまで神職と解部を統括する物部の総代であり続け、蘇我馬子や聖徳太子と共に、時の天皇の政治基盤を築いた 

 ただし、仏教嫌いは磨きが掛かっているため、仏教徒と相対したならばとんでもない事になる

 

 道術を修めているが、道士の最終目的である仙人にはならず、不老不死の内、不老だけ身に付け、人としてその生涯を終えた

 不死となってしまえば、死後に一族の者達と会う事ができないからである

 

《その他》

一発変換できない物部石上布都姫ちゃん 古事記日本書紀問題の犠牲者 

神代三剣にミシャグジで道術と、スキルも宝具もモリモリ 強く在るべくして強く生まれた補正の塊

ぶっちゃけ参考元へのリスペクト 申し訳程度には2人称とかとある人物への印象とか変えてある

ラスボスの規模的にどうやって倒すかを考えた結果、ラスボス絶対メタるウーマンになった

 

石上神宮の神職な兄と結婚した話があるので、神宮との繋がりを強調するための石上 

まぁ、古代は女性が苗字名乗れなかったんだけどね 参考資料によって結婚する相手も違うし

大陸に行って道教とか色々持ち帰ったていうし、結局は石上贄子と結婚説が適当

それにしても”贄子”とか”御狩”とか物部さん家って宗教色強い名前よね

”布都姫”とか”守屋”は分かりやすいじゃん、役割がハッキリしてる

古代人は名前にも意味を持たせているんですね、面白いですね(古事記沼)

 

 

 

≪バーサーカー≫

真名:アロンソ・キハーノ

性別:男

身長/体重:167㎝/54㎏

属性:混沌・善

 

筋力:D  魔力:E  耐久:C

幸運:EX  敏捷:D  宝具:EX

 

《クラス別能力》

・対魔力:D

…一節以下の魔術行使を無効にする 魔力除けのアミュレット程度の効果

 

・騎乗:D

…あらゆる乗り物を乗りこなすことが出来る ただし、野獣ランクの以上の動物には効果がない

 

・パラノイア:A+++

…クラススキルである狂化がドン・キホーテの性質により変質したもの

 元の狂化同様、パラメータを上昇させるが、その時の状態によって上昇幅が変動する

会話は可能であるが、応対によって意思疎通が成立しているとは限らない

 気狂いに関われば気狂いになる、というのを体現するように、本スキルは周囲の人間に感染していく性質がある

⇒ターン終了後毎に発動(同ランク以上の精神耐性スキルでなければ防げない)

 敵味方問わず、”パラノイア”スキルを強制的に付与し、ターン毎にランクを上昇させていく

 最終的には彼と思考パターンを共有する事となる(絶望)

 

《保有スキル》

・覚醒:EX   ≪CT5≫

…自身の危機に反応し、一時的に能力を上昇させる

 中途半端に追い詰めると、際限なく覚醒して手が付けられなくなる(絶望)

⇒攻撃&防御↑(2d6-3T)&ガッツ付与(1回-3d6)

 

・パラダイムシフト:A+++ ≪CT6≫

…無意識の影響による、肉体や精神の変化

  ”こんな人物に成りたい”、”こういう力が欲しい”というような憧憬・願望がトリガーとなり発揮され、 ”自分の成りたい自分”に作り替わる

 生来の思い込みの強さと、自身の宝具と合わせ、強力な効果を発揮する

⇒HP回復(3d6)&弱体解除&自身に無敵状態(1T) 

 

・主人公:EX  ≪CT5≫

…あらゆる法則、規則、常識に囚われない、究極の型破り

 立ち塞がる困難に遭って、活路を切り開くための手段をその身に降ろす

 完全無欠の主人公は、絶対に負けはしない(絶望)

⇒自身の全ての判定ダイスを1d100に変更(3T)&”敵”特攻状態を付与&ダメージ2倍(1T)

 

《パッシブスキル》

・空想の果て…味方のパラノイアのランクに応じて補正を与える

       ・E~D …与ダメージ+1d4

       ・C~A …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減

       ・A+  …与ダメージ+1d4、被ダメージ半減、ガッツ1回付与

 

《宝具》

・『共に駆ける遠き栄光(ロシナンテ)』

ランク:? 種別: 対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

…ドン・キホーテが生前、共に旅をした痩せ細ったロバ

 後述の宝具と思い込みと妄想と勘違いによって本質が歪み、本来のロシナンテには無い性質を勝手に与えられる

 「実はペガサスとか幻獣の類でした」とか言い出したら、角が生えたり空飛んだりする

 名前の意味は”元駄馬”であり、進化していくのならあながち間違いでも無いのかもしれない

⇒『Q』単体宝具5d6&敵攻撃&防御↓(1d6-3T)

 

・『己が為の物語(グラヴィー・マル・デ・アモーレス)』

ランク:C+ 種別: 対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

…重篤な恋煩い 常時展開型の宝具

 ドン・キホーテと関わった者全てにDランク相当の精神汚染を与える

 更にターン毎に判定を行い、成功すれば精神汚染を1ランクずつ上昇させ、行動を制限する

 効果は誇大妄想の共有化 次第にドン・キホーテと認識を同化する

 ドン・キホーテが自らを騎士と言えば相応の実力を伴った騎士に姿を変え、風車を竜と思えば恐ろしいチカラを持った竜となる

 何かしらのコンテンツから影響を受ける事で勝手に適用される

 発動と同時にドン・キホーテのスキルから宝具に至るステータスが世界によって修正を受け、キャラクターメイキングの如く設定がいとも簡単に切り替わる

 影響元に左右されるため、キャラクターが180度変わる場合もある

 魔術では無いため対魔力では防げず、ドン・キホーテの狂化ランクと同ランクかそれ以上の耐精神干渉スキルでなければ防げない(絶望)

 究極の自己満足とは裏腹に、周囲に悪影響を与えまくる、徹頭徹尾最恐最悪の統合失調症

 

《人物》

ドン・キホーテとは、中世スペインの作家、ミゲル・デ・セルバンテスが書き上げた、世界的有名な物語

 

騎士道物語の読み過ぎで妄想に囚われた主人公、アロンソ・キハーノ

昼夜を問わず騎士道物語を読み漁り、本を買うため、遂には田畑を売り払う程であった

 

度を超した熱中具合に、やがて正気は狂気に移り変わり、理想は妄想へと姿を変える

自分を伝説の騎士と思い込んだ彼は、世の不正を正す事を志すようになる

 

自らを騎士ドン・キホーテと名乗り、痩せた馬と近所の農夫を従者に、遍歴の旅に出る

勿論まともな旅になどなる筈なく、風車を巨人と思い込み突撃する、

ドゥルネーシアという空想の貴婦人の美しさを他人に熱く語るなどの数々の奇行を繰り返し、

トラブルを巻き起こしながら各地を巡り歩いた

 

そんな誇大妄想狂の彼の最後は、ロマンを追い求め続けた半生とは裏腹に、悲しいモノだった

珍道中の果てに、故郷で我に帰った彼は、自らの人生その物と言える騎士道物語を処分するよう親族に伝えた

死を目前とした喜劇の騎士が何を思ったのか、ソレは彼にしか分からない

 

《その他》

ヤベー奴 

登場サーヴァントを何かしらの物語の主役で固めるという初期構想の名残り(他にはベオウルフとか宋江とか予定してた 構想当時は未実装だった)

舞台に立つ中で唯一観客席に殴り込みをかけられる幕引き役

常識が通用しないのでGMとしてもやりたい放題できる 結果皆が疲れる羽目になる

これ見よがしに祠で本を読んでいる描写を入れたけどプレイヤー側が全くのノータッチで困ったね、アレは

伏線って程じゃないけど、後の展開に説得力を持たせるための仕掛けだったんだけどね じゃあ別にいいか良くない

 

 

 

≪アーチャー≫

真名:花栄

性別:男

身長/体重:187㎝/68㎏

属性:秩序・善

 

筋力:B 魔力:D 耐久:C

幸運:B 敏捷:C 宝具:B+

 

《クラス別能力》

・対魔力:D…一工程による魔術行使を無効化する 魔力除けのアミュレット程度の対魔力

 

・単独行動:B…マスター不在でも行動できる ただし宝具の仕様などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要

 

《保有スキル》

・弓矢作成:C  ≪CT7≫

…自身の武器である弓矢を作成・改良する能力 多数の材料を複合することで、用途に合わせた性能に仕上げる事が出来る

⇒チャージ+1&HP回復(2d6)

 

・銀槍手:A ≪CT6≫

…優れた槍術を修めた者に与えられる称号 

花栄は梁山泊きっての弓の名手と謳われたが、同時に槍についても造詣が深かったという

 弓による遠距離、槍の接近戦、その技量高さと使い分けで、花栄は梁山泊で唯一無敗を誇った

⇒攻撃↑(2d6-1T)&必中状態を付与(1T) 

 

・千里眼:B ≪CT6≫

…視力の良さ、遠方の敵の補足、動体視力の向上

⇒命中補正↑1d6(3T)

 

《宝具》

・『天英星、不知朽(はなぶさのほし、くちることしらず)』

ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:5~70 最大捕捉:1人

…死後、宝具にまで昇華された弓の腕前

 遠方に飛ぶ鳥達を部位まで宣言した通り撃ち抜く、夜闇の中、敵の目印となっていた提灯を全て打ち消すなど、

 あらゆる敵を弓で征し、手に入れた”神箭”の称号、生涯不敗という偉業を成し遂げた、肉体その物が宝具

 精神と肉体の合一を以て、銀槍と謳われた槍を、神箭で打ち出す

 その真価は、主に勝負事において発揮され、アーチャーが生前に果たした不敗の逸話は、宝具の打ち合いや競い合いにおいて、多大な補正を齎し、威力や命中度が大幅に上昇する

 (この際、相手の行動がキャンセルされる訳では無く、補正が掛かるだけで結局は真っ向勝負となる)

⇒単体『Q』宝具 4d6&自身の弱体解除+敵防御↓1d6(3T) 

 宝具の打ち合いの場合、+2d6の補正を獲得

 

・『天英星、勿堕地(はなぶさのほし、おつることなく)』

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―

…常時発動型の宝具

 自らに打ち出された飛び道具に反応し、神箭の腕を以て、相手まで打ち返す

 偵察中であった花栄に放たれた弓矢を、彼は素手で掴み取るだけでなく、そのまま自らの弓で打ち返し、射手を仕留めたエピソードの具現

 ただし、弓で放つことの出来る物に限り、放たれた全ての物を射返せる訳では無い

⇒本 作 品 で は 基 本 的 に 使 用 さ れ な い

 

《人物》

中国4大奇書の一つ、『水滸伝』 実在した反乱をモデルとした物語の登場人物

 

花栄は天罡星三十六星の天英星の生まれ変わりであり、梁山泊序列第9位にして弓の名手であった

武家の出身で、物語の主人公・宋江とは幼馴染で親友だった

 

罪を犯し、追われていた宋江を助けると、自分の勤める山寨では本格的な討伐には耐え切れないと考え、共に梁山泊入りを果たす

その後、持ち前の知略と武勇で梁山泊頭領となった宋江を補佐し、数々の難敵・苦境を討ち破った

 

弓の腕を疑われ激高するなど、自尊心が高い点が玉に瑕だが、不正を憎み、友のために立ち上がったりと、義に熱い面もある

字である”小李広”は、前漢・中国の将軍に由来する物であり、優れた弓手である事を示す

また、槍の腕前もかなりの物であり、”銀槍手”とまで謳われた

山塞副長官時代は武力のみならず、策謀も用いて周囲の山賊を征していた事もあり、計略について十分な心得もあった

 

後に恩赦を施され、正式に朝廷へ返り咲いた梁山泊は、各地で反乱軍征伐の任に就く事となる

多くの仲間が命を賭して強敵と戦う中、頭領である宋江は朝廷の陰謀により毒殺されてしまう

反乱軍征伐後、梁山泊を離れていた親友の死を夢で悟った彼は、宋江の墓へ向かい、その隣で自害して果てた

 

”小李広”、”銀槍手”、”神箭将軍”など様々な称号を持ち、梁山泊で常勝無敗を誇った”花栄”

義を重んじる男の最後は、また義に殉じるものであった

 

《その他》

梁山泊は好漢の集まりで国の為に戦った義侠集団と言ったな、アレはモノの言い様だ

来歴見ると大体が人間の屑だからね 梁山泊って底辺高校の野球部並の集まりだからね

まず燕青君コイツ等のせいで梁山泊入りする前に酷い目に遭ってるからね

 

代表で屑エピソード抜粋要約すると、

花栄「この辺にぃ、秦明っていう豪傑いるらしいっすよ」

宋江「あっ、そっかぁ…仲間にしてぇなぁ」

花栄「じゃけん秦明騙って偽の山賊として町襲って奴を誘き出しつつ帰る場所も無くして仲間にならざるを得ない状況創りましょうね~」

宋江「おっ、そうだな」

秦明「やめてくれよ…(絶望)」⇒結果:奥さん処刑+指名手配+梁山泊入り

 

他にも屑エピソード沢山あるけど、花栄に関してはこれが一番強いと思う

そんなナチュラルボーン畜生具合が水滸伝の魅力でもある

遊戯王でも炎星好き 早く三十六天罡星だけでも揃えて、どうぞ

幻霊については未だに納得していない

 

 

 

【セイヴァー】

真名:トゥキディデス

性別:男

身長/体重:193㎝/76㎏

属性:中立・中庸

 

筋力:E 魔力:D 耐久:E  

幸運:A 敏捷:E 宝具:EX

 

《クラス別能力》

・自己保存:EX

…マスターが無事である限り、外的要因による危険から確実に逃れることが出来る

 しかし、トゥキディデス本人には全くと言っていい程戦闘能力が無いため、生き残る事ができるだけで、勝利することは出来ない

 

・真名看破:A+

…目にしたサーヴァントの真名及びステータスが自動的に公開される

 記録者のサーヴァントとしての最高特権であり、ステータス隠匿能力を持っていようとも、対峙した時点でサーヴァントの情報を把握することが出来る

 星の記憶である座からも情報を引き出せるため、未来の英霊に対しても有効である

 

《保有スキル》

・グランマテウス:A

…”公に教え諭す者”、元は”市の記録者”の意 星の書士、記録者

 幾星霜の記憶を司る書の廻廊にて、森羅万象を記録する者

 如何なる状況下にあろうと、認識した情報を全て記憶し、絶対の真実として永久に保存する役職

 

・万象の司書:A++

…得た情報を活用する能力 整理し、組み立て、活用する編纂技術

 

・因果論:EX

…自ら認識、記録した情報を”歴史”へと変換する

 本人の意志に関わらず、観測することによって不変の事実として確定する

どれだけ時を遡ろうとも、起きた事実は変わらない

 どれ程世界を違えようとも、起こした事実は揺るがない

”時は可逆、歴史は不可逆”、決して覆らない絶対法則の具現

 

《宝具》

『不可逆史の檻にて斯く示せ、時の羅針(プラネテス・アリースィア・カタグラフィ)』

 ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:― 最大捕捉:―人

…星に刻まれた記憶を観る

 単一次元における歴史は勿論、剪定により消え去った、幾多の分岐した過去ですら、遡る事を可能とする

 誰かの視点では無く、全てを俯瞰して捉えることにより、経年劣化による情報の喪失に惑わされる事無く、公平な情報を最適に得ることが出来る。

 記録者としての特性を備えて初めて出来る芸当と言える

 

『星霜書廻廊(ディアドス・ヴィヴリオスィキ)』

 ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:― 最大捕捉:―人

…”不可侵領域・星霜書回廊”

 星で起きた事象記録の全てが収められた空間

 記録者、又は記録者が許可した者のみがアクセスできる閉鎖領域

 内部での魔力使用、武力行使の一切は封じられ、外部からの感知・干渉を遮断する

 内部から外部の情報を全て引き出せるため、一人で引き篭もって作業するにはうってつけの場所

 

《人物》

紀元前4世紀~3世紀頃に実在した、古代アテナイの人物

ギリシア全土を巻き込んだ、ペロポネソス戦争に将軍として参加・軍団の指揮を執った

結果は敗戦、トゥキディデスは責任を問われ、国を追放されてしまう

国を失った彼は、当ても無く戦地を回り、戦争の全てを観た

ギリシアでもスパルタでも無くなった彼は、敵味方に囚われず、双方を客観的な立場から分析することが出来た

この経験が元で生まれたのが”戦史”である

後の歴史家からも評価が高く、”歴史学の父”とされるヘロドトスには無い、中立性を備えていた

 

救世主であるセイヴァーとは異なる、”記録者”のサーヴァント、グランマテウス

聖杯戦争に留まらず、星の歴史の全容を把握・記録する役割を持つ、システム上のセーブ機能

本来ならば、ただただ冷徹に争いの行く末を見守り、盛衰を記録する事のみを役割としているが、今回の聖杯戦争に限ってはアーデルハイトによって観客席から引きずりおろされてしまった

しかもただ召喚されるだけでなく、デミサーヴァントとして肉体を借り受けているため、身体能力は元よりも更に貧弱となっている

 

《その他》

解説役兼進行役 アバターは嘘食いのお屋形様 このセッションやってる間に完結しちゃったよ やっぱ頭脳戦って書いてみたいよね でもTRPGでやるのってムズイよねって話

最初はSaver(救世主or記録者)のミスリード狙いで思いついたキャラ

傍観者(アーデルハイト)のキャラクターを一貫させる為には、この人が必要不可欠だった

宝具の理論とかは大体YU-NOから拝借 

宝具はギリシャ語 出身地に合わせた言語を使う、安易な英語否定派

因みに記録者は一人だけでなく他にも居る 大体、各地域のそういう役割を果たした人が担当する感じ

トゥキディデスはソレ等全ての始祖にあたるので、統括する立場にある

 

 

 

【アーデルハイト・フラウアルペン・フォン・フリューゲリンク】

フラウは”女”、アルペンは”アルプス”、アーデルハイトの愛称は”ハイジ”

特に深い意味は無い

フリューゲルは”翼”、リンクは”左” 合わせて”左翼”、と言うよりは不完全さを現す”片翼”

魔術王ソロモンが生み出した、”正しい通りを効率的に進めるシステム”に組み込まれた”見守る”機能

ソロモンの死後、バグとして放逐された成れの果て

以降3千年間ずっと役割通りに人類を裏方から見守ってきた

徹頭徹尾の傍観者 それ故に同じ性質をもつ記録者の召喚触媒になった

今回起源を取っ払おうとしたのは、魔神としての自我が極限まで薄れていたから(アーデルハイトという一人の人間としての性質に偏った状態)

舞台に顔出した時点でキャラ設定と矛盾しちゃうので最期まで裏方に居て貰った

エピローグのアレで完全に死亡

儀式失敗の時点で魔神ミシャンドラのクローンを作るために、聖杯から魂の要素とか肉体の構成とかぶん取られたため(3千年で劣化して参考にならない分、本体からの”サンプル”を多量に必要とした)

元々人間と大差無くなる程まで存在が薄れていた所に、そんな追い打ち喰らって生きていられる筈も無い

Saverが憑りついていた時は霊器で補強されたから、まだ何とかなっていた

舞台で踊るプレイヤー側が断罪する訳でなく、裏方で勝手に納得して静かに死ぬ

末路としては結構気に入ってる

 

 

 

【ブライト博士】

申し訳程度のSCP要素 キャラはまぁこんなモノかと

アーデルハイトというオリキャラが原作設定に馴染むための説得力を持たせる役割(動機、立場、財力等)

本作品では各オブジェクトは持ち主の居ない宝具、若しくは正体不明の魔道具的な扱い

財団と魔術世界は相互不干渉

妙なチカラあるけど、んな訳分からんモノ研究するより己自身磨くわー、みたいな感じで魔術師的には興味ないため関わりは薄目 

 

 

 

 

ここから没鯖

 

 

 

【ランサー】

真名:アステロパイオス

性別:男

身長/体重:182㎝/76㎏

属性:秩序・善

 

筋力:B 魔力:B 耐久:C  

幸運:D 敏捷:C 宝具:B

 

《クラス別能力》

対魔力:C…2節以下の詠唱による魔術行使を無効化する

       大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない

 

《保有スキル》

・クロスドミナンス:A…両利きによる技巧の使い分け 片腕が使用不可能な状況となっても、ほぼ変わらない戦闘能力を発揮できる クロスドミナンスかっけー

・河神の加護:B+…河神アクシオスの加護 水辺で戦闘を行う場合、敏捷・幸運・魔力がランクアップする

・神性:C…河神アクシオスの孫 孫ってお前

 

 

《宝具》

・『流転する双星の輝き(ガラクシアース・デュオ・ロンヒ)』

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:2人

…トロイア戦争において、パイオニア最強と称された両利きの戦士、アステロパイオスによる双槍の投擲

 1本1本はC+ランク相当の宝具でしかないが、2本同時に投擲することで真価を発揮する

 対象の防具・回避行動を無視し、最低でも必ず片方の槍は命中する

 更に、戦闘場所が水辺であった場合、投擲前に相手の敏捷を1ランクダウンさせる

 

 

《人物》

ギリシャ神話・トロイア戦争における登場人物

河神アクシオスの血を引く彼は、パイオニア人最強の将としてギリシア軍と戦った

両利きに2本の槍を扱い、八面六臂の活躍をしたが、その行く手を阻む者があった

ギリシア軍最大の英雄・アキレウスである

親友の死を経て戦争に復帰したアキレウスはトロイア軍を次々殺戮してゆく

流れる血が河になる程の蛮勇に対し、河神スカマンドロスは怒り、アステロパイオスへ

勇気を吹き込み、二人の英雄を対峙させた

アキレウスの投擲した槍を躱し、同時に投擲されたアステロパイオスの双槍

一本は防がれたが、もう一本は女神の加護を貫通し、アキレウスの右腕を負傷させた

武器を失ったアステロパイオスは、傍に突き刺さったアキレウスの槍で戦おうと試みた

しかし、槍は抜けず、隙をついたアキレウスの剣によってアステロパイオスは討たれた

後世の伝承おいて、この戦いはアキレウスの、トロイア戦争における大きな戦功の一つとされ、アステロパイオスは、ヘクトール以上にアキレウスを恐れさせた人物とも言われる

 

《その他》

プレイヤーさんがランサーを選択しなかった場合のGMの手駒

ウィキペディアで槍使いを漁ってたら出てきた 

両利きで2本の槍を使う あと、河神の血統だから多分水属性

アキレウスが最も恐れた男らしい …本当?

確かにアキレウスの攻撃躱して、一方的に槍ぶち当てたみたいだし戦闘能力は高いんだろうね

凄いんだろうけど、この拭えないマイナー感は何だろうね

 

 

 

 

【ライダー】

真名:徐福

性別:男

身長/体重:173㎝/70㎏

属性:中立・中庸

 

筋力:D 魔力:B 耐久:A  

幸運:A 敏捷:E 宝具:EX

 

《クラス別能力》

・対魔力:B

・騎乗:EX…宝具である霊亀に加え、神獣・霊獣を乗りこなす事が出来る

 

 

《保有スキル》

・幽境の航海者:A

…不老不死の仙人が住むと言われる”蓬莱”へ辿り着いた実績

 凡そ到達不可能とされる目的地でも、至るまでの道筋を正確に把握できる

 人間羅針盤 大体啓示とか直感に近い 

 

・道術:A++

…道士が修める太極に至る為の術  本職 仙人一歩手前

 

・専科百般:B

…専業スキルの使い分け 実際は徐福自身では無く、一緒に船乗ってた技術者達のスキル

 共に蓬莱へ辿り着いた船員全てを徐福と定義することで、その技術を身に付けた

 

《宝具》

『夢幻の如き不死の幽境』

 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:― 最大捕捉:―人

…中国神話に描かれる仙境・蓬莱山を背に乗せた巨大な霊亀

 霊亀が召喚されている間は、土地のテクスチャーが強制的に”蓬莱”に塗り替わる

 蓬莱とは、(仙人を除けば)徐福のみが辿り着いた地であり、

 この霊亀に騎乗している限り、あらゆる魔術的・物理的干渉は”辿り着くことが出来ない”

 霊亀自身も神獣の一種で不死に近い特性を得ており、単純な力技での突破はほぼ不可能

 切り崩すには、蓬莱という世界自体を否定する対応が必要

 テクスチャーを更に上書きするとか、エヌマで世界ごと潰すとか、大奥並の屁理屈とか

 

 

《人物》

プレイヤーさんがライダーを選択しなかった場合のGMの手駒

中華最大の詐欺師 始皇帝を騙した人

不老不死の薬取って来ると言い、めっちゃ物資要求して旅立った結果、そのまま帰って来なかった そりゃあそうだよね

 

蓬莱には実際に行った、と言う設定

そこで仙人にはならず、不老不死の霊薬も手に入れる事無く、ただ道術の修行だけし、また新天地へ旅立ったという

 

道士なので、一応キャスターもイケる

プレイヤー側でキャスターが選択された場合、布都ちゃんの代わりにこの人が色々やる

(ライダーも選択された場合は、他のアプローチでラスボス突破)

 

宝具名は某引っ張りハンティングからそのまんま

爆絶シリーズは中々センスフルで厨二なカッコいいクエスト名が多いんだ

”遥けき電影の樂天地”とか声に出して読みたい日本語だよね

楽が旧字体なのが最高にポイント高いね

アイ・オブ・ザ・エウリュアレも見習ってホラホラ

 




おしまい

クソみたいなセッションをここまで見て下さった人に感謝


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