個性『英雄』 (ゆっくりシン)
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ヒーロー 編
1話 『転生、そして英雄』


リメイクしました。
少し内容が変わっているだけで流れは同じです。


 気が付くと、一面真っ白な空間に居た。

 何が起きたのか分からず、辺りを見渡すが何もない。

 しばらく思案していると違和感を覚え、より深く周りを観察したところ俺の体がなかった。

 こんなすぐにでも気付きそうな事にも気付けなかった辺り、どうやら冷静に思えてかなりテンパっているらしい。

 

 少し前の事を思い出す。

 俺はいつも通り学校にいて、教室へ戻るところだった。

 だけど、それ以降の事が思い出せない。

 仮定しよう。

 もしも俺が今死んでいる状態なのだろうとしたらいったい何が原因なのだろうか。

 

 第一に教室へ戻る時に階段を上っていた。

 第二に周りには同じく各々の教室へ戻ろうとしている生徒がちらほらと。

 第三にその生徒の中に俺に殺意を持っていた者の気配はなかった。

 

 つまり、他殺の線はなくなる。

 正確に言えば俺の気付かれる事無く俺を殺せるのだとしたら『アイツ』ただ一人だ。

 だが、『アイツ』は“仕事”で街を離れているので容疑者から外れる。

 もしもそうだとしても『アイツ』が俺を殺すなら確実に正面から来るだろう。

 

 俺が思考に耽っていると目の前に白い衣に身を包んだ白髪の青年がスッと現れた。

 肉体がないので攻撃できるかは分からないが俺は素早く身構え、臨戦態勢に入ると相手がどんな攻撃をしてこようと反撃できるようにする。

 だが、男の言った言葉は俺の予想を大幅に外した。

 

「初めに言わせてください。申し訳ございません」

 

 なんじゃそりゃ。

 訳が分からずに困惑していると男はさらに言葉を続けた。

 

「私は第18563395671番目の主神。今回はこちらの不手際でこのような事になってしまいました。謝罪しても謝罪しきれません。それで、特例措置と言うと上から目線なように思われてしまいそうですが、今回のこの件についてはこちらが全面的に悪いので、貴方の言う通りにさせていただきます」

 

 意味不明である。

 突然神だの何だのと言われても理解できる者はいないだろう。

 それに、生憎様だが俺は神を信じた事は無い。

 神なんていうよく分からない存在に祈る事なんてとっくに諦めている。

 なのでこんなことを言われようと「あ~そうなんだ。なるほど~」っと納得してやる気なんてさらさらない。

 ほれ、バ~カバ~カ。

 俺を納得させたきゃそれ相応のなんかとんでもない事を起こしてみろ。

 

「なんか、とても失礼な事を考えてませんか?」

 

 気のせいだろう。

 ってか変な事を気にしてねぇで状況説明でもしろよ。

 オラ、説明責任果たせ。

 

「はい。では、まずこちらの事から説明させていただきますが、それでもよろしいでしょうか?」

 

 あ~、ハイハイ(鼻ホジ)。

 

「はい。では、まず。この世界は一人の神によって作られました。その神は一つの世界を作り観察することにしました。そうでもしないと暇で暇でしょうがなかったそうです。その世界には様々な知的生命体が生まれ、それぞれの文明を築いていきました。そんなある日、新しい世界がいきなり生まれました。それを皮切り世界は一気に増え続けていきました」

 

 並行世界ってやつか。

 少し関わったことあるけどやっぱりアレは本当だったんだな。

 うん(一人で納得)、続けてくれ。

 

「その並行世界が増えた理由は知的生命体が語ったからです。貴方たちの世界で言えば、アニメや漫画、小説から絵本。それすべては貴方たちの言葉で言うところのパラレルワールドとして存在しているのです。ちなみにですが、主人公と呼ばれる人物が亡くなったとしてもその世界は続きますし、打ち切りと言われ、続かなかった作品の世界も勝手に先へと進んでいきます」

 

 へ~、そうなんだ。

 だけどそれがどうしたんだ?

 俺に何の関係がある?

 

「資料によれば、アナタはヒーローに憧れているようだ。それに、今までに幾つもの命を救うという功績を残している」

 

 主神とやらがそこまで言った瞬間、俺は主神を強く睨む。

 それはもうポケモンのファイヤーも驚くぐらい強く。

 

「っと、お気に障ったですか?」

 

 当たり前だ。

 俺は救えなかった者だ。

 何を間違ってもそこだけは事実であり、俺に功績なんてない。

 

「・・・・・・『救いの英雄』『生きる守り神』『混沌の器』etc.・・・様々な通り名を持つ者にしては自身への評価はあまり高くないのですね」

 

 最初のはともかく後の二つは初耳なんだが・・・・・・。

 まぁ、良いか。

 

「貴方にはいくつか選べる道があります。今の記憶を保持したまま異世界に転生するか、記憶を封じ込めて新たに生を受けるか、もしくは、神になるか」

 

 最後のだけは遠慮しておく。

 

「おや、そうですか・・・・・・」

 

 主神がそう言うと同時に、俺の視界の端で何かが動いた。

 そちらに視線を向けると白い髪の少女が立っていた。

 

「おっと、紹介が遅れました。コレが今回の事態を招いた死神です」

 

 骸骨じゃないんだ。

 ああいったおどろおどろしい見た目だとばかり思っていたわ。

 で、今回の事態って?

 

「そういえば、話していませんでしたね。・・・実は、今回貴方が死んだのはこちらの不手際なのです」

 

 ふむふむ。

 

「真に死ぬ予定だったのは貴方の知り合いでもある『海野』さんでして、彼は階段から足を滑らせて死ぬ予定だったのですが貴方がその事故に巻き込まれてしまい、この死神が彼の魂と間違えて貴方の魂を持ってきてしまったのです」

 

 はっ?

 

「ちなみに、海野さんは別の死神の手でしっかりと死んでいます」

 

 しっかりと死ぬって何だそのパワーワード。

 心臓撃ち抜いた挙句頭蓋骨でも潰したのかよ。

 

「肉体と魂を繋いでいる糸を切り裂きました」

 

 あ、そういった詳細は求めてないから。

 う~ん、まぁ良いか

 

「良いのですか・・・? 人生が途切れてしまってたのに」

 

 いいよ、別にいつ死んでもおかしくねぇ生き方してたからな。

 覚悟はしていた。

 それでも『あの女』による被害者が今後どうなっていくのかが心配ではあるが・・・。

 死んじまった以上は手出しできないからな。

 

「そのように自身の死を簡単に納得できる人は珍しいですね・・・。とりあえず、アナタはこの後どうしますか? 先にも言いましたが、日本という国では流行っている異世界転生をするか、普通に生まれ変わるか・・・」

 

 まぁ、出来る事なら異世界転生をしてみたいな。

 

「それでは、どうしますか? 全く新しい異世界へ行くのか、アニメや漫画などの世界へ行くのか・・・」

 

 そのアニメや漫画の世界に行って原作改変しちまった場合ってどうなる?

 それによっても選択肢が変わるんだが。

 

「並行世界が増えるもう要因の一つに『違う選択』があります。・・・まぁ、いわゆる『IF』というヤツですね。なので原作に影響はありませんよ」

 

 なるほど・・・。

 となるとどの世界が良いだろうか。

『ドラゴンボール』はフリーザ編以降のインフレに付いて行ける気がしない。例えサイヤ人転生だとしても確実に本編スタートよりも前に惑星ベジータと共に汚い花火になる自信がある。

『ワンピース』だと覇気を使えるようになってついでに悪魔の実を食べないとキツイだろう。ただ、悪魔の実は当たり外れが大きいし、泳げなくなるだけじゃなくて風呂に入る事すらも難しくなるからちょっと遠慮したい。

『NARUTO』に関しては忙しくて途中で読むの止めたからちょっと分からないし。

『トリコ』はインフレのさせ方が常時フリーザ編並みだし、グルメ細胞持ち前提の戦いだからちょっと嫌だ。

 そうなると、“今連載していて”尚且つ“インフレ具合がそこまででもない”作品に絞りたい。

 

 俺は少し思案してから主神に提案する。

 

 なぁ、『僕のヒーローアカデミア』の世界は良いか?

 

「ええ、問題ありませんよ。・・・確か、あの世界は“個性”と言うモノで成り立っていますね」

 

 よく知ってるな。

 

「今人気ナンバーワンの転生先なので」

 

 そうか。

 人気なんだな・・・。

 

「では、こちらの紙にどのような設定で生まれたいかを書いてください」

 

 はいはい。

 

 目の前に突然現れたか紙とペンを使って俺はどのように転生したいかを書く。

 体はないのにペンを握れたし、思った通りに書き込める。

 

「それでは、この死神を処分してきます」

 

 は? 処分?

 それってどういう事だ?

 

「魂ごと消滅になります」

 

 まてまてまてまて。

 そこまでやらなくていいだろう。

 たかだが人間一人を間違えて殺しただけだろう。

 誰しも失敗はあるんだからさ・・・。

 

「ですが、これが決まりですので」

 

 何とかならないのか?

 

「例外措置としては、貴方の魂と契約を結ばせ貴方の下僕とし、神としての資格を失わせるという方法がございますが」

 

 それでお願い。

 ただ一回のミスで消滅なんてあまりにも残酷だ。

 ・・・・・・下僕って単語に不穏な空気を感じるけど。

 

「・・・・・・よろしいのですか? 後から変えることは出来ないのですよ」

 

 いいよ、目の前で失われそうになっている一つの命を救えるなら何でもいいさ。

 それに新しい世界へ旅立つためのパートナーが欲しいと思っていたんだ。

 

 俺はそう答えると設定を書いた紙を主神へと渡す。

 

「はい、確かに受け取りました。では、貴方の希望に沿った形で転生させていただきます」

 

 ほいほい、頼んだ。

 

 瞬間、俺の意識が闇の中へと落ちて行く。

 そこに恐怖はなく、ただ、新しい新天地への好奇心が俺を包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 時は飛んで、生まれ変わってから約15年の月日が経過した。

 ここに至るまでに色々と波乱万丈な道を歩んできたが、そこに関してはオールカットだ。

 今の俺は雄英高校の前にいる。

 この世界で誰かを救う為に行動するには免許が必要であり、昔みたいに好き勝手出来ない。

 だからこそここのヒーロー科に入学することで『雄英高校』の肩書を使えるようにしつつ今まで通りに動けるようにしたいのだ。

 有名な学校の名前は使うだけで信頼されることが多いからね。

 使えるモンは何でも使うのが俺のやり方だ。

 俺がそんなことを考えていると突然隣から抱き着かれた。

 

「龍兎~、なにボーっとしてるの?」

 

「何でもねぇよ、神姫。ってか公衆の面前で抱き着くな。こっぱずかしい」

 

 俺はそう答えながら雄英高校の門を潜り抜ける。

 っと、説明が遅くなった。

 俺の名前は『機鰐(きがく) 龍兎(りゅうと)』。

 これからプロヒーローを目指す“ごくごく普通”(←ここ大事)の中学生だ。

 そして腕に抱き着いてきているコイツは『白神(しらがみ) 神姫(みき)』。

 あの時の死神少女である。

 身長は140cm程で腰まである白く長い髪に空のように透き通った目、どこか幼さを残した見た目をしている。

 ちなみに俺は中肉中背の眼鏡。

 目が悪いわけではなくこの眼鏡には色々とトンデモない機能が内蔵されているのだが今は説明面倒なのでしない。

 俺の“個性”は『英雄』。内容は・・・・・・まぁ、説明しなくていいか。

 神姫の“個性”は『神格』で、気象現象を操れる強個性だ。

 普通に俺の“個性”よりも強いのはスルー。

 

「ってか、実戦テストはともかく、筆記の方は大丈夫か?」

 

「えっ・・・、う、うん」

 

「いや、その反応は止めてくれ。普通に心配になる」

 

 俺は少し不安を覚えながらも歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 会場に受験生全員が座った所で説明会が始まった。

 だが、

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!!』

 

 普通にうるさい。

 ってか誰も返事してないし。

 俺は机に肘をつき、腕を枕代わりにしながらヌボーっと説明を聞く。

 

『こいつぁシヴィーーー!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! Are you ready!?』

 

 ダメです!!

 

『YEAHH!!!』

 

 結局誰も答えてない。

 無論、ここで目立つの何なので俺も答えていない。

 少し可愛そうにも思えるがそんな仏心なんて持ち合わせていない。

 

『入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の「模擬市街地演習」行っを行ってもらうぜ! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!! O.K.!?』

 

 誰もプレゼント・マイクの言葉に答える者はいなかった。

 だが、まだ説明は続く。

 

『演習場には“仮想敵(かそうヴィラン)”を三種・多数配置してあり、それぞれの「攻略難易度」に応じてポイントを設けてある!! 各々なりの“個性”で“仮想敵(かそうヴィラン)”を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが君達(リスナー)の目的だ!! もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?』

 

 そんな事する奴いる訳ないじゃないですかー(棒読み)。

 などと心の中でふざけていると、後方から声が聞こえて来た。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

 振り返ると、まんま優等生の見た目をした少年―――飯田天哉が手を挙げながら立ち上がった所であった。

 

「プリントには四種(・・)(ヴィラン)が記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英に置いて恥ずべき痴態!! 我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」

 

 真面目君だねぇ。

 そんな小さなことすらここまで気にするなんて。

 飯田天哉の質問にプレゼント・マイクはしっかりと答えている。

 そうして、説明をすべて終えたプレゼント・マイクは最後にこの場にいる全ての受験者に向けて言う。

 

『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校の“校訓”をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは自身の不幸を乗り越えていく者」と!! “Plus(常に) Ultra(向こうへ)”!! それでは皆良い受難を!!』

 

 

 

 

 

 

 各々が動きやすい服装へと着替え、会場へと向かってゆく。

 無論、俺も指定された会場へ足を進める。

 途中で神姫とは分かれ、別々の方向へと行くことになった。

 実戦会場前のゲートには続々と人が集まっており、各々がやる気に満ち溢れていた。

 だけど、ここにいるのは実戦とそこにある恐怖を知らないガキ共だ。

 見下すわけではないが、こんなガヤガヤ騒がれているとさすがにうるさい。

 俺は人ごみに混じらず端の方へと寄るといつでも駆け出せるように準備運動をしておく。

 そして、

 

『ハイスタートー!』

 

 という突然の合図と共に駆け出した。

 後ろからは出遅れた受験生たちが走り出す足音が聞こえてきているが、この僅かな差が実戦では大きく響く。

 俺はベルトを腰に装着し、ボトルを数回振ると素早く装填する。

 

《ラビット! タンク! ベストマッチ! Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 そんな音声と共に俺は『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』への変身を完了させると、ドリルクラッシャーを取り出して“仮想敵(かそうヴィラン)”を破壊する。

 最初に大通りに到着したのが俺だったために“仮想敵(かそうヴィラン)”は俺目掛けて突撃してくる。

 つまり、絶好のカモだ。

 俺はドリルクラッシャーをガンモードにするとハリネズミフルボトルを装填する。

 

《Ready Go! ボルテックブレイク!》

 

 銃口から発射された棘上の銃弾が“仮想敵(かそうヴィラン)”を破壊してゆく。

 ある程度一掃したところでボトルを変えた。

 

《ゴリラ! ダイヤモンド! ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《輝きのデストロイヤー ゴリラモンド イェーイ!》

 

 ビルドアップ完了と共に俺は右手(サドンデストロイヤー)を使って戦闘に戻る。

 基本的に一撃で破壊可能なので特に苦もなくポイントを稼ぐ事が出来た。

 いいねいいね。

 どんどんと体になじんでいく。

 今までの人生で変身できたことは数えるほどしかない為今が仮面ライダーの戦い方に慣れるいい機会なのだ。

 俺が練習の意味も込めて軽く戦っていると大きな地響きが鳴り響いた。

 来た、と思うと同時にボトルを入れ替える。

 

《タカ! ガトリング! ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《天空の暴れん坊 ホークガトリング イェーイ!》

 

 俺は背中のソレスタルウィングで高く飛び上がりながらホークガトリンガーを使って逃げ惑う受験生たちに降りかかる瓦礫を壊していく。

 そして、上空から高みの見物を始める。

 受験生たちの方へと向かって行く0P(ヴィラン)

 強大で圧倒的な脅威。

 戦ったところでメリットなどない。

 だが、それに向かって跳んでいく一つの影。

 もじゃもじゃ頭の少年―――緑谷出久である。

 彼は右手を力一杯振りながら叫ぶ。

 

「SMASH!!」

 

 緑谷出久の攻撃が直撃し、ブチ壊れ倒れ行く0P(ヴィラン)

 俺はそれを見て少し笑みを浮かべていた。

 

 さぁ、始めようか。

 これが新しい時代の幕開けの合図だ。




2話以降もどんどんとリメイクしていきます。


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2話 『個性把握テスト』

ようやく2話をリメイク出来ました。
前回、1話のリメイクから4ヶ月も経過してしまいましたHAHAHAHA。


 春。

 桜が咲いて散り、道路に花弁と言う名のゴミがまき散らされる時期でもあり学生からすれば新たな出会いと別れの時期でもある。

 簡単に言えば卒業と入学の時期という訳だ。

 俺と神姫は新しい制服に身を包み最寄り駅へと歩いて行く。

 上でも少し皮肉ったが、道は散った桜の花弁があちこちで踏まれている。

 何故花見をしたり桜の木の枝を折るのはアホみたいに騒ぐのに散った花には見向きもしないのだろうか。

 不思議でならない。

 

 駅構内は混雑しており、先に進むのにも一苦労だった。

 だが、そんな人ごみの中でも雄英高校の制服は目立つらしく何度かジロジロと見られた。

 その度に嫌な気分になる。

 俺は別段目立ちたくもない性分なのだ。

 過去に初詣へ行ったらおっちゃんたちに捕まって流れるように豪華な服に着替えさせられた挙句に神輿に乗せられて全国中継された事がある意味トラウマになっている。

 ホント、あの時“あの温泉街”へ行くんじゃなかった。

 

 俺は昔の事を思い出深くため息を吐いた。

 転生してから随分と時間が経ち、あの頃の事は体感で言えば15年以上前の事になるのに未だ鮮明に思い出せる。

 あ~、嫌なもんだ。

 そんな事を考えていると、神姫が俺の服の裾を軽く引っ張ってきた。

 

「? どうした?」

 

「暗い顔してたから気になって。何かあった?」

 

「いや、何もないよ。ちょっと昔の事を思い出してただけさ。・・・・・・昔の嫌な記憶をな」

 

「・・・・・・そっか。それじゃさ、そういう嫌なものを思い出せなくなるぐらい最高の思い出を学校で作ろうね」

 

「フッ、そうだな。いい思い出をたくさん作ろう」

 

 神姫と雑談をしている内に雄英高校近くの駅に到着していた。

 後は遅刻しない様に気を付けつつものんびりと学校へ向けて歩く。

 道すがら辺りを観察していると様々な情報が入ってくる。

 

 友人と会話をしながら新学期に向けて少し大きな目標を掲げて笑いあう者たち。

 新しい学生服に身を包み学校へ向かう者。

 ぼさぼさの髪をそのままに大きなあくびをしながら駅へ向かう者。

 4月という新しく変化する生活に慌ただしくしている人たちを横目に俺は今後の生活を少しでも楽にするために思考を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 雄英高校1年A組の教室に入り自身の席に座りバッグ内の教科書を引き出しにしまう。

 俺は置き勉派である。

 大分大昔の話になるのだが、普通に家でも予習復習の為に持ち歩いていた際に事件に巻き込まれて教科書がボロボロになってしまった経験があるのだ。

 一つだけ言い訳するとしたらアレに関して俺は悪くない。

 あの『ヒーロー』を自称していた馬鹿どもの起こした事件が悪いんだ。

 少し昔の事を思い出してなんだかやるせない気持ちになりつつ俺は神姫と適当に雑談をする。

 すると、前方で騒ぎが起こる。

 

 机に足をのせている爆豪に飯田くんが注意を入れたのだ。

 その騒ぎが起こるとほぼ同時に前方扉が開き緑谷くんと麗日さんの二人が教室に入る前にその空気に一瞬動揺して固まっていた。

 しかも流れるように相澤先生が場を支配し、そのままのペースで着替えさせられて校庭へと移動し個性把握テストが開始されることになった。

 無論、驚きの声だって上がる。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間はないよ。雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り」

 

 だるそうにそう答える先生。

 答えになっていないようでしっかりと答えになっているのだから恐ろしい。

 いやまあ、納得は出来ないけど。

 

「ソフトボール投げ。立ち幅とび。50m走。持久走。握力。反復横とび。上体起こし。長座体前屈。中学の頃からやっているだろ? “個性”禁止の体力テスト。国は未だに画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まあ、文部科学省の怠慢だよ」

 

 怠慢なのは同意できる。

 権力を持った人間は基本的に不変を望む傾向がある。

 まあ、変わらないという事は自分の持つ権力もそのままという事だからな。

 等々変な事を考えていると先生は軽くため息交じりに呟く。

 

「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何m(メートル)だった?」

 

「67m」

 

 爆豪勝己のぶっきらぼうな返事に、

 

「じゃあ“個性”を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ。思いっきりな」

 

 相澤先生はそう言って爆豪にボールを投げ渡す。

 爆豪は右手でボールを持ち大きく振りかぶり、

 

「死ねえ!!!」

 

 と言いながら投げた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・死ね??

 生で見ると訳わからない叫びだな。うん。

 

「まず、自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 相澤先生はそう言って記録器(スマホ?)をこちらに見せてきた。

 そこには、

 

[705.2m]

 

 と表示されていた。

 

「なんだこれ!! すげー面白そう(・・・・)!」

 

「705(メートル)ってマジかよ」

 

「“個性”思いっきり使えるんだ!! さすがヒーロー科!!」

 

 各々が楽しそうな反応を見せる。

 だが、俺は違う。この後、相澤先生が何を言うか知っているからだ。

 

「・・・・・・・・・面白そう・・・か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 やっぱり原作通りだ。

 そして、この後の全員の反応も知っている。

 まあ、乗らなくてもいいのだが、物語に溶け込むために乗っておこう。

 

「「「「「「はあああああ!?」」」」」」

 

「生徒の如何(いかん)先生(おれたち)の“自由”。ようこそ。これが、雄英高校ヒーロー科だ」

 

 俺はラビットフルボトルを取り出し、ポケットの中でギュッと握る。

 ニヤリと笑って楽しそうにしているのは俺と神姫だけで他の連中は不満たらたらだった。

 

「最下位除籍って・・・・・・! 入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくても・・・・・・理不尽すぎる!!」

 

 そんな文句に対しても相澤先生は揺るがない。

 ただ、淡々と、それでいて力強く言う。

 

「自然災害・・・。大事故・・・。身勝手な(ヴィラン)たち・・・。いつどこから来るか分からない厄災。日本が理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。“Plus(更に) Ultra(向こうへ)”さ。全力で乗り越えて来い。さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 相澤先生の言葉にそれぞれが何かを決めた(決意した?)顔になる。

 不安そうなのは緑谷出久だけ。

 楽しそうなのは俺と神姫だけだ。

 

 

 

 

 

 

 第一種目:50m走。

 各々がそれぞれの個性を使い記録を出していく。

 俺と神姫も個性を使って記録を出す。

 神姫は気候を操り、小型の竜巻を生み出し、それを使って超加速。

 俺はラビットフルボトルを振る事でその成分を活性化させ、その効果を使用する。

 結果は、

 

 神姫:[1秒43]

 龍兎:[2秒11]

 

 俺たちの記録にクラスメイト驚きを隠せていない。

 まあ、そうだろう。

 一番早いと思われた飯田天哉だって3秒台なのだ。

 それを軽々と超えた俺たちは注目の的だ。

 まあ、気にしないけど。

 

 

 

 第二種目:握力

 俺はゴリラフルボトルを振って筋力を底上げし、計測する。

 神姫の個性は肉体的に何かできるわけではないので、ふにゅ~っと頑張って握っているが中学の時と一切変わっていない。

 とても可愛い。

 

 神姫:[24kgw(キロ)

 龍兎:[340kgw(キロ)

 

 さすがにゴリラフルボトルを使っても障子目蔵には届かなかった。

 いや、540kgw(キロ)はどう頑張っても無理だ。

 

 

 

 第三種目:立ち幅跳び

 俺はそっとベルトを腰に装着する。

 

《スクラッシュドライバー》

 

 そして、ラビットフルボトルをセットし、レバーを下ろす。

 

《チャージボトル 潰れな~い チャージクラッシュ》

 

 ラビットの成分が変身しなくても体に反映され、全力で跳ぶと同時に60(メートル)も跳んでしまった。

 神姫は50(メートル)走の時と同じように竜巻を起こし150(メートル)以上跳んだ。いや、飛んだ。

 まあ、アレでも本気出していないってのが怖い。

 本気出したら最悪の場合日本海から太平洋まで飛ぶのも朝飯前らしいからな。

 

 

 

 第四種目:反復横跳び

 再度ラビットボトルを使って連続で跳び続ける。

 何か地面にヒビが入って割れているが特に気にしない。

 神姫も竜巻を使用して飛びまくる。

 クラスメイトはポカーンとした表情で俺たちを見ていたが気にしない。

 

 

 

 第五種目:ボール投げ

 原作通り麗日お茶子が[∞]を出す。

 この競技に関しては麗日お茶子の個性は最強だな。

 俺はそんなことを思いながら円の方へと向かって行くと、

 

「おい、機鰐」

 

 と相澤先生に呼び止まられた。

 

「なんですか?」

 

「お前やる気あるのか? 一切本気出さないでやっているようだが」

 

「そんなの、俺の自由じゃないですか」

 

「そうだが・・・・・・。他の奴らが本気でやっているのにそれでいいのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・つまり、これだけでもいいから本気でやれと?」

 

「まあ、そういうことだ」

 

「わかりましたよ」

 

 相澤先生からしたら見込みの有る無しを判断したい場面だ。

 こういった要望は仕方が無いと言えるだろう。

 俺は円の中心に行ってからビルドドライバーを腰に装着し、ボトルを振る。

 クラスメイト達は俺が何をしているのか分からすザワザワとしている。

 ザワザワしていないものはあの日、俺が変身する姿を見た数人(余裕のない緑谷出久を除く)だけだ。

 

《ラビット タンク ベストマッチ》

 

 流れる待機音。

 レバーを回すことで展開されるスナップビルダー。

 

《Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 そんな音声と共に変身を完了させる。

 より一層ざわつき出すクラスメイトたち。

 俺はベルトからドリルクラッシャー(ガンモード)を取り出し、その先にボールをギュッと詰める。

 そして、タカフルボトルを装填。そして、トリガーを引く。

 

《ready go! ボルテックブレイク!》

 

 タカのような見た目になったエネルギー弾がボールを掴むような形で大空へと跳んでいった。

 クラスメイトたちは何が起きているのか分からない様子だったが気にしない。

 

 龍兎:[1570.3m]

 

 俺は変身を解除せずクラスメイト達の元へとゆっくり戻る。と、

 

「お前すげえじゃん! なあ、それ何なんだ!?」

 

 視線を向けると目を輝かせた切島鋭児郎がいた。

 ああ、少年の目をしていらっしゃる。

 答えるのは面倒くさかったが、答えないとずっと付きまとわれそうなので答えておく。

 

「俺の個性」

 

「え? じゃあ何だ? 変身型なのか?」

 

 ある意味そうだがちょっと違う。

 でも、否定するのも面倒くさいので、

 

「そうだ」

 

 とだけ答えておく。

 じっくり答えている暇なんか無いからな。

 俺はジッと緑谷出久を見る。

 顔を真っ青にしている緑谷出久。

 周りの反応はまちまちだ。

 その中でも飯田と爆豪の会話がメインだろう。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ・・・・・・?」

 

「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」

 

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

「は?」

 

 二人のそんな会話を楽しく思いながらも緑谷出久の様子を観る。

 緑谷出久が投げたボールの飛距離は46m(メートル)。

 やっぱり原作通りに行くな。うん。

 相澤先生はゆったりと何かを話しながら(距離があって聞こえない)緑谷出久に近づき、何か数言呟いてから離れる。

 この後だ。アレが見れるのは。

 緑谷出久はボールをギュッと握り、小さな声でブツブツと呟いている。

 そして、投げる瞬間、指先にみに力を集中させてボールを飛ばした。

 

「SAMASH!」

 

 遠く吹き飛ぶボール。

 緑谷出久は涙を堪えながら拳を握り、言う。

 

「先生・・・・・・! まだ・・・・・・動けます」

 

 と。

 

「やっとヒーローらしい記録だしたよー」

 

「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい・・・おかしな個性だ・・・・・・」

 

「スマートじゃないよね」

 

 緑谷出久の結果を見てそんな会話がされる中、爆豪勝己だけがショックを受けた表情になっている。

 そして、

 

「どーいうことだコラ! ワケを言えデク、てめぇ!!」

 

 と叫びながら緑谷出久に襲い掛かる。

 俺は左足のバネを使って超跳し、爆豪勝己を押さえつける。

 

「ンだテメェ!!」

 

「うるさい騒ぐな折るぞ」

 

 俺が押さえると同時に爆豪勝己の手から出ていた爆発は止まり、俺の変身も解除された。

 そんなことができるのは相澤先生だけだ。

 

「ったく。何度も“個性”を使わすなよ・・・。俺はドライアイなんだ」

 

 う~ん。

 やっぱり個性凄いのにもったいないな~。

 どうにもできないけど。

 

「時間がもったいない。次、準備しろ」

 

 その後、緑谷出久は歯を食いしばりながら全種目を終わらせたが、結果は酷い物だった。

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 表示される順位。

 

 一位:[機鰐 龍兎]

 二位:[白神 神姫]

 三位:[八百万 百]

 四位:[轟 焦凍]

 五位:[爆豪 勝己]

 六位:[飯田 天哉]

 七位:[常闇 踏陰]

 八位:[障子 目蔵]

 九位:[白尾 猿夫]

 十位:[切島 鋭児郎]

 十一位:[芦戸 三奈]

 十二位:[麗日 お茶子]

 十三位:[口田 甲司]

 十四位:[砂藤 力道]

 十五位:[蛙吹 梅雨]

 十六位:[青山 優雅]

 十七位:[瀬呂 範太]

 十八位:[上鳴 電気]

 十九位:[耳郎 響香]

 二十位:[葉隠 透]

 二十一位:[峰田 実]

 二十二位:[緑谷 出久]

 

 となっていた。

 ・・・・・・後半、仮面ライダーでやりまくったせいだな。

 皆が結果をまじまじと見る中、相澤先生はさらっと一言言った。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

 俺と神姫以外、ほぼ全員の顔かポカーンとしたものになる。

 相澤先生は不敵な笑みを浮かべる。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「「「「はーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」

 

 殆どの者が驚きの声を上げる。

 驚いていないのは八百万百と轟焦凍ぐらいだ。

 

「あんなのウソに決まってるじゃない・・・。ちょっと考えればわかりますわ・・・・・・」

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ぇ通しとけ。あと、緑谷。リカバリーガールばあさんのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練が目白押しだ」

 

 そう言い残し去っていく相澤先生。

 クラスメイト達は安心したような面持ちで会話を始める。

 俺は誰よりも先に教室の方へ歩を向けながら、言う。

 

「八百万百さん。アンタは相澤先生のあの言葉を『嘘に決まってる』『ちょっと考えればわかる』と言ったな? 言っとくと相澤先生の言葉、あれ嘘だぞ」

 

「? 相澤先生が先ほどそう言っていたじゃない・・・・・・?」

 

「勘違いしているようだな。除籍処分が嘘ってのが嘘だ。あの人は見込みが無いと判断すれば速攻切り捨てる。昨年も一クラス全員を除籍処分にしている」

 

 俺がそう言うと、和気あいあいとしていた全員の顔色が悪くなる。

 八百万百もそうだ。

 俺はそれを無視してさっさと教室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 初日終了。

 下校時間になった。

 俺は道の途中で“あの三人”を待つ。

 五分ほど経っただろうか。ようやく見えてきた。

 

「よお、緑谷出久くん、飯田天哉くん、麗日お茶子さん」

 

 俺がそう言うと三人もこちらに気が付いたようだ。

 

「えっと、たしか・・・・・・」

 

「機鰐龍兎だ。で、こっちが白神神姫」

 

「よろしく~」

 

 手を振りながら笑顔でそう言う神姫。

 

「こっちこそよろしく~」

 

 麗日さんが元気にそう言って手を振り返す。

 どうやらすぐにでも仲良くなれたようである。

 

「君たちは先に帰ったんじゃなかったかな?」

 

「いやさ、ちょっとな」

 

 俺はそう答えると緑谷くんの方へと視線を向ける

 

「指、大丈夫か?」

 

「え、あ・・・うん。心配してくれてありがとう」

 

「・・・・・・無茶はするな。ゆっくり体に慣らして行け」

 

 俺の言葉に緑谷の肩がビクリと震えた。

 だが、特に気にせず麗日さんと会話をしている神姫の頭をワシャっと撫でる。

 

「ほれ、そろそろ行くぞ。飯食いに行きたいって言ったのはお前から何だぞ」

 

「は~い。それじゃ、また明日ね。お茶子ちゃん」

 

「ううん、また明日ね。神姫ちゃん」

 

 俺は三人から視線を逸らすと右手を上げてそれをヒラヒラと揺らしその場を後にする。

 そして、ある程度歩いたところで財布の中身を確認してから言った。

 

「予算は3千円だぞ」

 

「0が一個足らないよ☆」

 

「破産するわ」

 



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3話 『対人訓練』

ああ、眠い。


 俺は帰宅してすぐに資料整理に取り掛かる。

 いや、正確に言えば纏めていた資料に再度目を通すだけなのだが。

 資料ファイル名:【仮面ライダー】

 インターネットや図書館で、仮面ライダーについて調べまくった。

 その中には1999年の『渋谷隕石』とそれによる不可解な事件や、『未確認生命体(グロンギ)』が起こした事件、風都で発生した大事件(内容についての真偽は不明)。謎の怪物が現れ、最終的には謎の巨大物体が辺りの物をメダルへと変えていった災害。2014年に世界的に起き、大勢の死傷者を出したグローバルフリーズ。世界的に発生した‘‘謎の奇怪生命体(インベス&オーバーロード)‘‘による大災害(米国政府の発表により、米国が沈静化させた(=解決した)とされる)。新型ウイルスによるパンデミック。

 記録されているだけでもここまで出て来た。

 もう百年以上も前の物でまことしやかに囁かれ、虚偽の物であるとの判断をされていたモノが大半だが、これは本物だろう。

 そう、仮面ライダーたちの関わっているものだ。

 『超常』が起きるずっと前、それこそもう生きている者はいないぐらい昔の情報だ。

 風化し、埋もれていた。

 この情報を漁るのに何年も掛かってしまった。

 いや、それは良いんだ。

 これがあれば、俺の個性について聞かれた時も説明しやすくなるだけだからな。

 

 

 

 

 

 

 午前は必修科目・英語等の普通授業。

 普通じゃない所を上げるとすれば、教師全員がプロヒーローというところだろう。

 ま、内容は普通なんだけど。

 

 昼は大食堂で一流料理を安価で食える。

 シンプルかつ素朴で、それでいて栄養価も合って美味しい。

 

 そして、ようやく午後の授業。

 ヒーロー基礎学だ。

 これは個人的な事なのであまり長く話す気はないため、完結に言うが、ヒーローに基礎学ってあるのか? いや、あっていいのか?

 まあ、そういうモノなら良いけどさ。

 自身の席に座りながらそんなことをポケーっと考えていると、

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

 

 扉が勢いよく開けられ、オールマイトが入って来た。

 その姿を見たクラスメイトの反応はまちまちだ。

 

「オールマイトだ・・・!! すげえや、本当に先生やっているんだな・・・・・・!!」

 

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ・・・・・・!」

 

「画風違いすぎて鳥肌が・・・・・・」

 

 まあ、画風が違うのはそうだが言うな。

 オールマイトは教壇の前に立ち、決めポーズを取りながら言う。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う科目だ!! 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

 

 オールマイトのその言葉にざわつき出すクラス。

 

「そしてそいつに伴って・・・・・・こちら!!」

 

 オールマイトがそう言うと同時に壁が展開される。

 技術の無駄遣いな気が・・・・・・。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた・・・・・・戦闘服!!!」

 

「「「「「おおおお!!!!!」」」」」

 

「着替えたら順次、グラウンド・β(ベータ)に集まるんだ!!」

 

「「「「「はーーーーーい!!!」」」」」

 

 各々がそれぞれの戦闘服(コスチューム)へと着替える。

 俺も着替える。と言っても、入試の時と同じ服装だ。青色のダメージジーンズに白地のパーカー。その上にトレンチコートを羽織った格好。

 違うところと言えば素材を丈夫なモノに変更したぐらいだろう。

 いや~。いいね、この格好。

 イメージとしては『桐生戦兎』の服装そっくりなモノにしている。

 神姫は長い髪を後ろで束ね、服装は黒い衣を纏っている。

 グラウンドに全員が到着してすぐオールマイトが言った。

 

「始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

 その言葉に全員の顔が引き締まる。

 俺の隣では緑谷くんと麗日さん+峰田(ド変態)の会話。

 おお、原作通りだ。

 俺がしみじみとそんなことを考えていると、ガチガチのコスチュームを着た飯田くんが、

 

「先生! ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 と言った。

 それに対し、オールマイトは、

 

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!! (ヴィラン)退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪(ヴィラン)の出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売・・・・・・、このヒーロー飽和社会。真に小賢しい(ヴィラン)屋内(やみ)にひそむ!! 君らにはこれから『(ヴィラン)(ぐみ)』と『ヒーロー(ぐみ)』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

 

 ほう、2対2か・・・・・・。

 ん?

 

「先生、このクラスの人数上、確実に2人余るんですけど・・・・・・」

 

「なぬ!! そうか・・・・・・すっかり失念していた。・・・・・・余った二人は1対1での対人戦にしよう」

 

 ・・・・・・・・・何だろう、嫌な予感がする。

 思い過ごしにならなければいいけど・・・・・・。

 

「ゲフン・・・・・・。これは基礎を知る為の実戦さ! ただし今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

 オールマイトがそう言うと、各々の質問が飛び交う。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか・・・・・・?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

 

「このマントヤバくない?」

 

「んんん~~~~、聖徳太子ィィイ!!!」

 

 質問の中に関係のないモノが混じっていたが、それに誰も気付いた様子はない。

 オールマイトはカンペを取り出し、読み出す。

 

「いいかい!? 状況設定は『(ヴィラン)』がアジトに『核兵器』を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている! 『ヒーロー』は制限時間内に『(ヴィラン)』を捕まえるか『核兵器』を回収する事。『(ヴィラン)』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事」

 

 そこまで言って四角い箱を出す。

 

「コンビ及び対戦相手はくじだ!」

 

「適当なのですか!?」

 

 飯田くんのツッコミに対し、緑谷くんが答える。

 

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな・・・・・・」

 

「そうか・・・! 先を見据えた計らい・・・失礼致しました!」

 

「いいよ!! 早くやろ!!!」

 

 くじ引きにより決まったチームは、

 

 A:[緑谷 出久&麗日 お茶子]

 B:[轟 焦凍&障子 目蔵]

 C:[八百万 百&峰田 実]

 D:[爆豪 勝己&飯田 天哉]

 E:[芦戸 三奈&青山 優雅]

 F:[砂藤 力道&口田 甲司]

 G:[上鳴 電気&耳郎 響香]

 H:[常闇 踏陰&蛙吹 梅雨]

 I:[白尾 猿夫&葉隠 透]

 J:[切島 鋭児郎&瀬呂 範太]

 あまり:[機鰐 龍兎&白神 神姫]

 

 ・・・・・・予感的中だよ。

 こんなことだろうと思ったよ。

 やりたくない。

 神姫の個性はチート過ぎるんだ。

 俺はガクッと肩を落とすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 結局、原作通りに事が進んだ。

 そして、残った俺たちの戦いだ。

 じゃんけんで俺がヒーロー側に決まった。

 俺は今、模擬戦用のビルの前にいる。

 

《Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 俺はビルドへと変身し、訓練開始を待つ。

 チートとしか思えない個性。それと戦えるのか。ンな事分かるはずがない。だが、やるしかないんだ。

 俺が自分の頬をパチンと叩くと同時にスタートの合図が出された。

 中に入ったが、これと言って変化を感じない。

 アイツが個性を使う時は当りの気圧が著しく下がる場合がある。

 それを一早く感じ取って行動すれば良いのだが、こうも静かだと逆に不気味なのだ。

 俺は警戒を怠らず先へ、先へと進んで行く。

 

「で、何でここまで何もないかな~」

 

 何事も無く核兵器まで辿り着いてしまった。

 あとは手を数センチ上げるだけで触れる。つまりクリアだ。

 だが、何か嫌な気配は感じる。

 俺はため息をつき、何かされても大丈夫なように警戒しながら触れようとすると・・・・・・、

 

「ッ!?」

 

 バチッと電撃が走り、数メートルだが飛ばされ尻餅をついてしまった。

 ・・・・・・・・・なるほど。

 

「そういうことか」

 

「正解。本気でやるにはこうするしかないもん」

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、振り向く。

 そこには楽しそうに笑顔を浮かべる神姫がいた。

 

「これってアレか?」

 

「そうだよ」

 

「・・・・・・・・・・・・チッ」

 

 コイツの個性で攻防一体に出来るモノは多いが、その中でも明るいところではぱっと見分からないものがコレだ。

 [プラズマバリア]

 プラズマ現象をフルに使ったモノで、何もないときは静電気並みの小さな電流で体や物を包む。それに何か電気の流れる物が触れると、そこへ一気に集中して電流を流し込む凶悪な使い方。

 自然現象を操れるからってこの使い方はヤバイ。

 自身はダメージを受けず、逆に相手はダメージを受けてしまうモノだから・・・・・・。

 俺は重心を落として構える。

 神姫は小竜巻を体に纏わせて戦闘態勢に入る。

 お互いの集中が高まる中、一羽の鳥が羽ばたく音がした。

 そして、それが戦闘の合図へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 モニタールームで状況を見ていた全員は言葉が出せなかった。

 目の前に映し出されている光景は想像をはるかに超えたモノだった。

 

「あんなの・・・アリかよ・・・・・・」

 

 誰かがそう呟いた。

 その場にいる誰もが同じ気持ちだろう。

 モニターに映し出された光景、それは、自分たちの“個性”をはるかに超えた“個性”のぶつかり合いだからだ。

 だが、そんな中でもボソリと誰かが言う。

 

「あれって、機鰐が押されてねえか?」

 

「・・・・・・そうだな、白神さんが一方的に攻撃しているように見える」

 

 それはそうだろう。

 彼が戦っているのは自然現象そのものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まってすぐ、暴風に飛ばされビルから放り出された。

 俺はホークガトリングフォームになり、屋上へ着地する。

 神姫もそれが狙いだったようで、竜巻に乗りながら屋上へと降り立った。

 俺はホークガトリンガーで神姫を撃つが、その弾は全て暴風に弾かれてしまう。

 俺は舌打ちをし、ボトルを入れ替える

 

《ゴリラ ダイヤモンド ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《輝きのデストロイヤー ゴリラモンド イエーイ!》

 

 神姫は急接近し、(いかづち)を纏った右手で殴りかかってくる。

 俺は近くにあった木片をダイヤモンドへと変え、それごとサドンデストロイヤーで殴り返す。

 二つの拳がぶつかると同時にエネルギーの波が発生し、俺も神姫も後方へと飛ばされる。

 だが、こんな事で終わるはずがない。

 俺は素早くボトルを入れ替える。

 

《フェニックス ロボット ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《不死身の兵器 フェニックスロボ イェーイ!》

 

 フォームチェンジを完了させると同時に後部のエンパイリアルウィングから炎の翼を展開し、飛行する。

 神姫も自身を中心に暴風を吹き出し俺同様飛行する。そして、自身の体全てを雷で纏い、突撃してくる。

 傍から見れば二つのエネルギーがぶつかり合っているように見えるだろう。いや、ぶつかり合っているんだけど。

 俺はディストラクティブアームにフェニックスの炎を纏わせて殴り続ける。ぶつかるたびに辺りに衝撃波が吹き荒れる。

 互角にやりあっているように見えるだろうがどちらかと言えば防戦一方だ。

 フェニックスフルボトルの能力である程度のダメージは回復しているが、それでも追い付いていないのが現状だ。

 

「さて、そろそろ行くよ! アイスレイン!!」

 

 神姫がそう言うと同時に槍の様に尖って凍った雨が降り注いで来た。

 マズイと思った時にはもう遅い。

 フェニックスの炎で氷を解かすがそれゆえに隙が出来てしまった。

 

「脇が甘いよ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 神姫の攻撃が俺の腹にヒットし、そのままビルへと叩きつけられてしまった。

 神姫はソッと俺の前に降り立つ。

 

「クッソ・・・・・・」

 

「フフッ、やっぱりまだ完全に使いこなせないんだね」

 

「ああ。特に使うような場面も無かったからな。おかげでまだハザードレベルは3.5だしな・・・・・・」

 

「でも、それは言い訳にはならないよ」

 

「知ってる」

 

 俺はゆっくりと立ち上がり、ラビットタンクフォームへと戻る。

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 俺は肩で息をし、呼吸を整える。

 

「少し本気出すぞ」

 

「良いよ、来て」

 

 俺はスパークリングボトルを取り出し、何度も振る。

 シュワシュワと炭酸の弾ける音がボトルから降るたびに鳴る。

 スパークリングボトルのプルタブ型のスイッチを入れ、起動させ、ドライバーにセットする。

 

《ラビットタンクスパークリング! 》

 

 ベルトにセットしたボトルからもシュワシュワと炭酸の音が鳴り続ける。

 

《Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイ! イェーイ!》

 

 そんな音声と共にラビットタンクスパークリングフォームへとフォームチェンジを完了させる。

 

「さあ、行くぞ」

 

「うん、来て。私を楽しませて」

 

 俺と神姫は同時に跳び、激突する。

 身体能力をフルに使って、神姫の攻撃をかわしながら反撃を続ける。

 だが、プラズマバリアのせいで決定打にならないどころか、着実にこちらが削られて行っている状態だ。

 だが、これは耐久戦だ。

 神姫の個性は確かに強い。それに応用性も効く。だが、欠点として燃費が悪い。

 さっきからグルグルという音が聞こえてくるが、それは神姫の腹の音だ。

 コイツは今、超が付くほどハラペコなんだ。

 つまり、あと少しでコイツは個性が使えなくなる。

 ・・・・・・・・・それまで持つのかが心配だが。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・・・・」

 

 お互い、もうギリギリだ。

 次で最後になるだろう。

 俺はレバーを回し、神姫は足に電流を集中させる。

 

《Ready Go!》

 

「行くぞぉ!」

 

《スパークリングフィニッシュ!》

 

「行くよ! 天雷脚(てんらいきゃく)!!」

 

 俺のキックと神姫のキックがぶつかる。

 辺りに今まで以上の衝撃波が吹き荒れ、周りのビルのガラスを破壊しつくす。

 

「ハァァァアアアアアアアアア!!!」

 

「ヤァァァアアアアアアアアア!!!」

 

 負けられない。

 転生してからずっと一緒だった神姫。

 ずっと申し訳なさそうにして、負い目を感じているようだった。

 それでも、次第に打ち解け、個性が発現し、互いに高めあうライバルになっていた。

 今までほとんど本気を出せず、喧嘩はいつも引き分けだった。

 だからこそ、今度こそは勝つ。

 勝って、・・・・・・・・・・・・をするんだ。

 

「俺の・・・・・・勝ちだぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

 俺がそう叫ぶと同時に二つのエネルギーのぶつかり合いによって生じたエネルギーが大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 決着を見届けたオールマイトはその体に似つかわしくない小さな――― 一般的な大きさだが、オールマイトが大きすぎる ―――マイクで勝敗の宣言をした。

 

Draw(ドロー)!!』

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 龍兎と神姫はハンソーロボに保健室へと搬送されていった。

 授業が終わり、オールマイトが去った後、1-A組の生徒たちはゆっくりと教室まで歩を進める。

 誰も彼も無言のままだ。

 モニター越しとはいえ、クラスメイトの戦いは彼らのレベルをとうに越しているモノだったのだ。

 強すぎる。

 誰もがそう思った。

 だが、彼らの耳に残っていたのは、龍兎の言った、

 

「少し本気出すぞ」

 

 という言葉だ。

 あの二人にとってあの戦いは本気を出すほどのモノではなかったのだ。

 それだけじゃない、前日の個性把握テストの時も全力を出さず、上位をかっさらったのだ。

 少年少女の持つ自信はズタボロだった。

 そんな中、誰かが呟いた。

 

「あいつらより、強くなりたい」

 

 と。

 その言葉を切っ掛けに誰に言う訳でもなく彼らは言葉を発していた。

 

「強かった。だが、越えられない壁ではない」「すごい戦いだった。だが、俺はもっと先を目指す」「私がもし正面から戦う事になったらまけていました。だけど、あのお二人の戦いを見れたからこそ、目標が出来ましたわ」「あの二人、すっごかった。でも、俺はアレを超えていく」「彼らはとても強かった。だけど、それは僕たちの大きなモノサシになる。それを皆が目指していける」

 

 等々。

 各々が自分の超えるべき目標、越えたい存在としてあの二人を目指す事を決めた。

 だが、肝心の二人は気絶し、未だに意識が戻っていないのだった。

 

 

 

 

 

 

 おはよう。

 いや、まあ、朝じゃないんだけどね。

 今、おれはハンソーロボに搬送されている所だ。

 だが、気絶したフリをしている。

 だって、となりにトゥルーフォームのオールマイトがいるのだ。

 ここで起きたら大変な事になる。

 そんなことを考えている内に保健室へ到着した。

 原作通りオールマイトがリカバリーガールに怒られていた。

 その間も、気絶したフリを続けている。

 オールマイトが去り、緑谷くんが起きると同時に、さも「たった今起きましたよ」みたいな態度で起き上がった。

 リカバリーガールには無茶をしすぎだと怒られた。

 その間、神姫は眠ったままだった。起きろ。

 

「お互いさんざんだな」

 

「そうだね・・・・・・」

 

「手、大丈夫か?」

 

「大丈夫・・・とは言い切れないけど何とか・・・・・・」

 

 そんな会話をしながら歩いていると、いつの間にか教室の前まで着いていた。

 ゆっくりと扉を開けると、

 

「おお、緑谷と機鰐来た!! お疲れ!!」

 

「すごかったよー」

 

「あんなレベルの高い戦いを見れて良かったぜ」

 

 原作通り、まくしたててから自己紹介を始めるクラスメイト。

 

「俺ぁ切島鋭児郎。今、皆で訓練の反省会してたんだ!」

 

「私、芦戸三奈! ホントにすごかったよー」

 

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「俺! 砂藤」

 

 そんな俺たちの横では、

 

「騒々しい・・・・・・」

 

「麗日、今度飯行かね? 何好きなん?」

 

「おもち・・・」

 

「机は腰かけじゃないぞ、今すぐやめよう!!」

 

 ブレねぇな、飯田くん・・・・・・。

 その後は、爆豪の事を麗日さんから聞いた緑谷くんは慌てて教室を飛び出していった。

 ああ、あのシーンだな。そんなことを考えながらちゃっちゃと着替える

 

「んじゃ、帰る」

 

「? 反省会に参加はしないのかい?」

 

「ちょっと帰ってやらなきゃいけないことがあるんでな」

 

 俺はそう言い残し、さっさと教室を後にする。

 当たり前だ。あと数日で(ヴィラン)連合(れんごう)が来るんだ。

 少しでも対策できるようにしなくちゃな・・・・・・。

 

 




皆さん、よいお年を。


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4話 『敵連合(ヴィランれんごう)

今回、序盤の方では作者の不満とかを主人公に語らせてしまっています。
不快になられた方はごめんなさい。


 やっぱり。

 俺はそう思いながらガックリと肩を落とす。

 相澤先生もそうだが、俺もメディアは大っ嫌いなんだ。

 報道の自由(笑)を掲げ、他人に迷惑をかけ、被害を受けた人に何と言われようと「報道の自由ガー」「真実を知る権利ガー」と騒いで人道的にも道徳的にも身勝手なバカの集まりとは関わりたくない。

 そんな思いも虚しく、

 

「オールマイトについて・・・・・・」

 

 みたいなことを言われ、マイクを突き付けられた。

 腹立たしい。

 俺は無視していこうとしたが、進路に割り込むように入られ、

 

「一言でも良いから、テレビに出られるんだよ!!」

 

 と詰め寄られた。

 頭蓋骨を叩き割る事も可能だが、そんなことをしたら俺が全面的に悪くなる。だから、

 

「人が登校しようとしているのを妨げるな。お前ら報道陣には何ら公の特権はないんだ。それ以上何かやらかすなら社会的に消すぞ」

 

 とドスの聞いた声で言った。

 すると、顔を青くしてサッとその場から離れてくれた。

 何かひそひそと言われたが気にしない。

 気にすることでもない。

 

 

 

 

 

 

 朝のホームルームが始まる。

 のっさりと入って来た相澤先生は机にプリントを置き、

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。(ブイ)と成績見させてもらった」

 

 と言った。そして、

 

「爆豪。おまえもうガキみてえなマネすんな。能力あるんだから」

 

 相澤先生のその言葉に爆豪は、

 

「・・・・・・・・・わかってる」

 

 と小さく言った。

 その返事を聞いた相澤先生は言葉を続けた。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。“個性”の制御・・・いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通せねえぞ。俺は同じ事を言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

 元気にそう返事する緑谷くん。そして、

 

「機鰐、白神。戦闘訓練を楽しんでやるとはずいぶん余裕があるな。あれは遊びじゃないんだ。次は真面目にやれ」

 

 静かに怒られた。

 

「さて、ホームルームの本題だ・・・。急で悪いが今日は君らに・・・・・・学級委員長を決めてもらう」

 

「「「「「「学校っぽいの来たーーーーーーー!!!!!」」」」」」

 

 相澤先生の言葉に1-Aほぼ全員がそう叫ぶ。

 叫んでいないのは俺と神姫、轟くんと八百万さん含む数名以外だけだ。

 

「委員長! やりたいですソレ俺!!!」

 

「ウチもやりたい」

 

「オイラのマニフィストは女子全員膝上30cm!!!」

 

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

「リーダー!! やるやるー!!」

 

 等々、反応はまちまちだ。

 俺と神姫以外は手を上げている。

 なぜ上げていないかと言えば、俺は人の上に立つのがキライだからだ。

 騒がしいな。

 

「静粛にしたまえ!! “多”をけん引する責任重大な仕事だぞ・・・・・・! 『やりたい者』がやれるモノではないだろう!!」

 

 そう言ったのは誰であろう。飯田くんである。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務・・・! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというなら・・・・・・これは投票で決めるべき議案!!!」

 

 そう言う飯田くんの腕は高くそびえ立っている。

 それはもう真っ直ぐきれいに。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ。飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数表を獲った者こそが真にふさわしい人間という事にならないか!? どうでしょうか先生!!」

 

 飯田のその言葉に寝袋に入りだしていた相澤先生は、面倒くさそうに、

 

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

 と言った。

 投票の結果は、

 

 緑谷出久 5票

 八百万百 2票

 

 残りは一票ずつだった。

 

「僕、五票ーーーーー!!!?」

 

 驚きの声を上げる緑谷くん。

 

「なんで、デクに・・・!! 誰が・・・・・・!!!」

 

「まー、おめぇに入れるよかわかるけどな」

 

「0票・・・わかってはいた! さすがに聖職といったところか・・・・・・!!」

 

「他に入れたのね・・・・・・」

 

「おまえもやりたがってたのに・・・何がしたいんだ飯田・・・・・・」

 

 飯田くんに入れときゃよかったかな・・・・・・?

 ちなみに、俺と神姫も緑谷くんに入れた。

 

 

 

 

 

 

 午前中の授業が終わり、お昼になった。

 ・・・・・・今日は騒がしくなるな。

 ちなみにだが、午前中の授業は簡単すぎてつまらなかった。

 転生する際に桐生戦兎並みの頭脳を手に入れたのがマズかったかな。

 天才物理学者の頭脳舐めてた。

 ゴメン、桐生戦兎。

 普段から、「凄いでしょ! 最高でしょ! 天っっ才でしょ!?」とか言ってたからバカだと勝手に思ってた。

 本当にゴメン。

 そんなことを考えながら飯を食べている隣では、原作通り飯田くんのお兄さんの話になっている。

 俺はスクッと立ち上がり、食器を片付ける。

 と、同時に警報が鳴りだす。

 

『セキュリティ3が突破されました 生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』

 

 その放送に食堂にいた全員がざわつき出す。

 ああ、クソメディアが。

 あとでネットに書き込んでやる。

 周りにいる全員が軽くパニック状態になり、一斉に廊下へとなだれ込む。

 人の波に流されていく緑谷くん。

 俺は神姫が作り出した小竜巻に乗る事で混乱渦巻く廊下を高みの見物している。

 そして、後は原作通り。

 飯田くんが麗日さんに浮かせてもらい、非常口マークの上にまるでピクトグラムのように張り付き、

 

「皆さん・・・・・・大丈ーーー夫!!」

 

 と大きな声を出して注目を集め、正確な情報を話し、混乱を収めた。

 その後、警察が到着し、マスコミは撤退。

 警察にも、

 

「報道の自由!!」「それを阻害するなんてうんたらかんたら」

 

 と叫んでいたが、全てスルーされていた。

 そして、HRで緑谷くんが飯田くんを委員長に指名。

 八百万さんは不満そうだったがしょうがない。

 ・・・・・・まあ、そんな事を気にしている余裕はない。

 『(ヴィラン)連合(れんごう)』への対策を考えなきゃいけないからな。

 

 

 

 

 

 

 マスメディア襲来事件の後日、午後。

 眠たそうな眼で相澤先生が授業内容を話す。

 

「今日のヒーロー基礎学だが・・・・・・、俺とオールマイトそしてもう一人の三人体制で見ることになった。今日やるのは、災害水難なんでもござれ。人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

 相澤先生のその言葉にクラスメイト達の反応はまちまちだ。

 

「レスキュー・・・今回も大変そうだな」

 

「ねー!」

 

「バカおめー。それこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ!! 腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

 そんな声が上がる中、相澤先生が一言、

 

「おい、まだ途中」

 

 と言った。

 その言葉にビクッとなる喋ってた人達。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 相澤先生の言葉にそれぞれが準備を開始する。

 俺の服装は相も変わらず桐生戦兎スタイルだ。

 本当は、赤いズボンに蛍光色の服、その上から白衣を羽織った宝生永夢スタイルにしたかったが、新調が間に合わなかった。

 バスに乗ってすぐ、原作通りお互いの個性についての話になった。

 俺はそれを聞きながら景色を眺めていた。すると、

 

「そうだ、派手さでいえば機鰐もそうだよな」

 

 と話を振られた。

 ウゲェ・・・・・・。面倒くさい。

 だが、話を振られたら返さないといけないだろう。

 

「そうか? そんな派手じゃないと思うんだけど」

 

「だってさ、姿を変えるごとにその姿に応じた事が出来るし、それぞれ特徴もあってカッコイイじゃん。ってか、あれって何なの?」

 

 切島よ、お前は遠慮という事を知れ。

 

「ん? 仮面ライダーだけど?」

 

「? もう少し分かりやすく言ってくんねえか?」

 

「いや、だから、仮面ライダーだよ」

 

「仮面ライダーって?」

 

「え~っと。仮面ライダービルド。作る形成するって意味のビルド」

 

「より訳が分からなくなった」

 

 なんでだよ。

 ちゃんと説明しただろ。

 俺は頭をポリポリと掻き、ため息をついてから説明を始めた。

 

「仮面ライダーってのは超常が起きる前に活躍していたヒーローだよ。ってか仮面ライダーがすべてのヒーローの原点、オリジンって言っても過言じゃないんだぞ。俺の個性はその仮面ライダー(ヒーロー)の力を使うっていう個性でね」

 

 俺がそこまで言うと、

 

「じゃあ何だ!? オールマイトの力も使えるのか!?」

 

 と言われた。

 ・・・・・・人の話を遮るな。

 

「いや、使えない。俺が使えるのは仮面ライダーの力だけだよ」

 

「何か、色々と面倒くさそうな個性だな」

 

 正解。

 面倒くさいのは認める。まぁ、なろうと思えば仮面ライダー以外にもなれるけどさ。

 と、そんな事を話していると運転をしていた相澤先生が一言、

 

「もう着くぞ、いい加減にしとけよ・・・・・・」

 

 と言われた。

 

「「「「「「「ハイ!!」」」」」」」

 

 皆元気にそう返事し、話は不消化のまま打ち切りとなった。

 バスから降り、ドーム型の大きな建物へと入る。

 中を見た皆の感想はというと、

 

「すげーーーーー!! USJかよ!!?」

 

 である。

 まあ、生で見た感想は確かにそうだな。

 テーマパークです、とか言われたら疑いようはないな。

 そんなことを思ていると、のっそりと大きめの影、いやスペースヒーロー『13号』が登場した。

 

「水難事故。土砂災害。火事・・・・・・etc.(エトセトラ) あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も・・・・・・U(ウソの)S(災害や)J(事故)ルーム!!」

 

 無理矢理感ハンパないけどUSJである。

 13号先生に相澤先生がゆったりと近づき、何か話し始めた。

 いや、何を話しているかは知っているんだけどね。

 話が終わり、こちらに向き直る13号先生。

 

「えー、始める前にお小言を一つ、二つ・・・、三つ・・・、四つ・・・」

 

 おお、増える増える。

 

「皆さんご存知だと思いますが僕の“個性”は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 13号先生のその言葉に緑谷くんが、

 

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 と言った。

 その隣では麗日さんが首を大きく上下させている。

 13号先生はその様子を見ながら静かに言う。

 

「ええ・・・・・・、しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう“個性”がいるでしょう。超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます」

 

 しかし、と13号先生は続ける。

 

「一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では・・・心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するのかを学んでいきましょう。君たちの力は人を気付つける為にあるのではない、助ける為にあるのだと心得て帰って下さい」

 

 何だコイツ、イケメンかよ。

 顔知らないけど。

 13号先生はぺこりと頭を下げながら、話を終わらせた。

 

「以上! ご清聴ありがとございました」

 

「ステキー!」

 

「ブラボー! ブラーボー!」

 

 皆が13号先生の話を聞き終わると同時に、辺りに不穏な空気が漂い出す。

 来たか。

 そう思い、USJの真ん中あたりにを見ると、そこには黒い靄が発生していた。

 そして、靄の中から大量の(ヴィラン)が現れる。

 クラスメイト達は何が起きたかわかっていないようで、

 

「何だアリャ!? また入試の時みたいにもう始まってんぞパターン?」

 

 と呑気な声が上がる始末だ。

 臨戦態勢に入る相澤先生。

 俺もビルドドライバーを腰に装着し、構える。

 目の前には途方もない悪意。

 (ヴィラン)の中心にいる人物、死柄木弔は面倒くさそうに言う。

 

「どこだよ・・・・・・。せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ・・・・・・。オールマイト・・・・・・。平和の象徴・・・・・・。いないなんてさ・・・・・・。子供を殺せば来るかな?」

 

 俺はすぐに対応できるように速攻で変身する。

 準備はしていたが、こりゃダメだ。

 ここまでの敵意・害意・殺意の中じゃちょっとやそっとの準備何かなんら役に立たない。

 もう、「変身」と言うほどの余裕なんか無かった。

 

《Are you ready? 鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 変身完了と同時にドリルクラッシャーを取り出して構える。

 クラスメイトは半パニックになる者もいれば、ただただ唖然とする者、八百万さんや轟くんは冷静に状況を判断している。

 相澤先生は13号先生に俺たちを任して、飛び出して行く。

 だが、俺はこの後どうなるか分かっている。だから、

 

「行くぞ! 神姫!!」

 

「はいよ!!」

 

 俺たちも飛び出した。

 

「ッ! お前たち、何やってる!」

 

「援護は任せてください、先生」

 

「ぜーんぶ吹き飛ばしちゃうよー!」

 

 俺たちの反応を見た相澤先生は軽く舌打ちをし、指示を出す。

 

「危なくなったらどんな状況であろうと下がれ。良いな」

 

「「了解!!」」

 

 こうして『(ヴィラン)連合(れんごう)』と俺たちの戦いが幕を開けた。

 

 

 




次回:個性『英雄』


強力な力を持つ(ヴィラン)たち。
少年は”最悪のトリガー”を起動させる。


『ハザードオン』


5話 『ハザードは止まらない』


更に向こうへ。‘‘Plus Ultra‘‘!! 


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5話 『ハザードは止まらない』

ここ数日で一気に作って投稿してきましたが、次回からはかなり不定期になりそうです。
色々と多忙なんです。
ごめんなさい。



 突撃した俺たちはチンピラ(ヴィラン)を一気に叩き潰していく。

 相澤先生は相手の個性を消し、一人ひとり丁寧に倒す。

 神姫は手を開きそこから雷を放出したり、雨を凝縮した[レインレーザー]等を放ち、少ないながら集団で襲い掛かってくる(ヴィラン)を一度に倒していく。

 俺は、ドリルクラッシャーを使って攻撃を弾き、ラビットの脚力やタンクのキャタピラで蹴り飛ばしていく。

 後ろでは黒霧が原作通りの展開を進めている。

 だが、そんな些細な事を気にしている暇なんかない。

 

《Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイ! イェーイ!》

 

 俺はラビットタンクスパークリングフォームになると同時にある一方向へとジャンプし、ドリルクラッシャーと4コマ忍法刀で“脳無”へと斬りかかる。

 脳無は腕をクロスさせ、その攻撃を防ぐ。そして、腕を大きく振るい、俺を吹き飛ばそうとしてきた。

 俺は即座にその場から離れ、その攻撃を避ける。

 だが、脳無はその場から跳び、襲い掛かってきた。

 俺は脳無の攻撃を避け・弾いて受け流す事しかできない。

 

「ハッ。ハハハハハハ。脳無を狙う勇気は褒めるけど、対オールマイト用改人にその程度の攻撃じゃダメージは与えられないし、その行動に何ら意味はない・・・・・・」

 

 丁重な説明ありがとう死柄木さん。

 後で一発殴ってやるから覚悟しとけ。

 確かに、攻撃が効いている様子はないし、どちらかと言えば守るだけで精いっぱいだ。

 だが、いつ、“俺が本命”だと言った?

 

「神姫ィ!!」

 

「了解! フルパワー・レインレーザーァァァァアアアアアア!!!」

 

 俺が脳無に突撃してからすぐザコ(ヴィラン)を相澤先生に任せ、神姫はずっと指鉄砲の体勢で、人差し指の先に雨を集中させ続けていた。

 圧力が加えられる事により、物質は”どこかへ逃げようと”する。そこに小さな、針で開けたような小さな穴をあけると、そこにエネルギーは集中し、飛び出ようとする。それだけでもある程度の鉄板なら貫けるが、そこに神姫の個性の力を再追加し、威力を底上げした必殺技。

 [フルパワー・レインレーザー]

 まず、貫けないものはないと言えるほどの威力を誇る。

 欠点としてはチャージが必要という事だろう。

 神姫の放った[フルパワー・レインレーザー]は脳無の腹を貫く。

 人間ならこの時点で助かる可能性はほぼ無いが、この脳無は超再生がある。こんなの問題ではないだろう。

 だが、それでも隙はできる。一瞬。たった一瞬だが、それでも出来るんだ。

 そこが狙いだ。

 俺はドリルクラッシャーを振り下ろし、脳無の体をえぐる。

 さらに、ドリルクラッシャーを突き刺し、ドリルを回転させてえぐり続ける。

 傍から見れば俺が優勢に見えるだろう。全く優勢じゃないけど。

 俺は危険を感じ取り、瞬時にその場から離れた。

 瞬間、ドゴッという音がした。

 見ると、俺が先程までいた場所に脳無の拳が突き刺さっていた。

 あんなの喰らったら強制変身解除させられるな。

 ってか、打ちどころ悪かったら死ぬ。

 普通に死ねる。

 ・・・・・・・・・原作では、相澤先生アレにボコボコにされていたんだよな。良く生きていたなあの人。

 そうこうしている間にクラスメイト達は各ゾーンへと飛ばされていた。

 が、そんなことを考えている余裕はない。

 脳無の攻撃が激しすぎる。

 早いし、重い。

 

「クッソ・・・・・・。神姫! ココは俺一人で何とかする! だから、お前はみんなの援護に回ってくれ!!」

 

「はいよ!」

 

 俺は左足で超跳し、空中でハザードトリガーを取り出し、起動する。

 

《ハザードオン!》

 

 そして、ハザードトリガーをベルトにセットしボトルを数回振る。

 ハザードフォームで意識を保っていられるのは約2分半ほどしかない(変身者によって個体差あり)。

 つまり、短期決戦必須だ。

 

《ラビット タンク スーパーベストマッチ! ドンテンカン! ドンテンカン! ドンテンカン!》

 

 音声が大幅に変化し、うるさくなった。

 俺は着地と同時にレバーを回し、ハザードライドビルダーを展開する。

 脳無が殴りかかってきたが、ハザードライドビルダーがそれを完全に防ぐ。

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《アンコントロールスイッチ! ブラックハザード! ヤベーイ!》

 

 そんな音声と共にハザードライドビルダーにプレスさせられるように挟まれ、俺の姿が闇の様に黒い『仮面ライダービルド ラビットタンクハザードフォーム』へと変わる。

 脳無がハザードライドビルダーが無くなると同時に再度、殴りかかってくる。

 俺は右腕を振りかぶり、全力で迎え撃つ。

 脳無の右手と俺の右手がぶつかり合う。

 そして、押し合いに勝ったのは俺だ。

 勢いよく吹き飛ぶ脳無。

 その光景を見て死柄木は声を出せずにいた。

 ・・・・・・当たり前か。

 対オールマイト用なのだ。こんなガキに押し負けるなんてあってはいけない事なのだ。

 まあ、そんなことをいちいち気にしている暇はない。

 俺は素早く脳無に飛び掛かり、連続で殴り続ける。

 脳無が腕を動かして何かをしようとすればそこ目掛けて殴り、ロクな抵抗すらさせない。

 そう。原作でオールマイトがやっていた方法だ。

 ショック吸収の限界が来るまで殴り続ける。

 

「ハァァァァアアアアアアア!!!」

 

 ひたすら殴り続ける。だが、意識が無くなっていく感覚があった。

 まずい。そう思った時にはもう遅かった。

 俺の腕が勝手にハザードトリガーへと伸びる。

 

《マックスハザードオン!》

 

 それを聞いたのを最後に、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久たちが(ヴィラン)を撃破してすぐ見たモノ。それは、機鰐龍兎が脳無と対等にやり合っている所だった。

 それだけじゃない。機鰐龍兎が飛び上がったかと思うと、赤いアイテムを取り出し、それをベルトにセットした。

 着地と同時にベルトのレバーが回されるとそこから鋳型のようなものが展開され、機鰐龍兎がそれに挟まれた。

 そして、鋳型が無くなるとそこには、今まで緑谷出久たちが見た姿とは似ても似つかない黒く、体の各部が鋭角化している姿の機鰐龍兎が突っ立っていた。

 その姿は、決してヒーローとは思えないものだった。

 だが、緑谷出久たちを驚かせたのは、その姿になると同時に脳無を圧倒しだところだろう。

 それはもう、一方的に殴り続けている。

 緑谷出久たちは動けず、ただ、見る事しかできなかった。

 そして、

 

《マックスハザードオン!》

 

 そんな音声が聞こえてきた。

 そして、機鰐龍兎は再度、ベルトのレバーを回していた。

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Ready Go! オーバーフロー! ヤベーイ!》

 

 ベルトからした不穏な空気を感じさせる音声が鳴り終わると共に、機鰐龍兎の体から黒いオーラのようなものが出始める。

 それと同時に脳無への攻撃がより凄まじいものへ変わる。

 

「緑谷!! 何だよあれ!! 何かヤベエ、ヤベエよぉ!!」

 

 緑谷出久と共に行動していた峰田実が情けない声色で泣きそうになりながらそう言う。

 その反応は正しいだろう。

 緑谷出久は何か引っかかったように呟く。

 

「オーバーフロー・・・。つまり、限界突破・・・・・・」

 

 緑谷出久のその考えは正しいだろう。

 暴走状態。ハザードフォームの限界を突破し、最高スペックを叩き出し続けるのがオーバーフローモードなのだ。

 だが、緑谷出久たちはオーバーフロー状態の本当の恐ろしさをまだ知らない。

 今、目の前で戦っている同級生の意識は既にない事を知らない。

 機鰐龍兎はベルトのレバーを回転させる。

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン!》

 

 そんな音声と共に機鰐龍兎の足に体から発せられていた黒いオーラが集中する。

 

《Ready Go! ハザードフィニッシュ!!》

 

 殴られ続け、回復すら追い付かなくなっていた脳無へオーラを纏った足を使った強力な蹴りが叩き込んだ。

 その攻撃を受け、脳無は大きく吹き飛ばされ、USJの天井を突き破り、大空へと消えていった。

 それを見た死柄木弔は首をボリボリと掻きながらブツブツと呟く。

 

「違う。おかしい。オールマイト用に作られた脳無だぞ・・・。子供なんかにやられるなんて・・・・・・。こんなの聞いてない」

 

 そう呟き続ける死柄木弔の元に黒霧が近づき、

 

「死柄木弔。13号を行動不能には出来たモノの散らし損ねた生徒がおりまして・・・・・・。一名、逃げられました」

 

「ああ、クソ・・・・・・。ゲームオーバーだ。帰って出直そう」

 

 死柄木弔がそう言うと同時に黒い影が残像を残しながら現れる。

 とっさにかわせた死柄木弔は幸運と言えるだろう。

 なぜなら、体に小さな風穴を開けるだけで助かったのだから。

 

「ぐっ!!!」

 

 機鰐龍兎の攻撃の余波で飛んだ小石が死柄木弔の体を貫く。

 だが、それだけでは止まらない。

 再度振るわれる右腕。

 その攻撃は黒霧が機鰐龍兎をUSJの天井ギリギリの辺りまでワープさせることで無力化する。

 着地した機鰐龍兎は近くにいたイレイザー・ヘッドに目をやる。

 そして、イレイザー・ヘッドが機鰐龍兎へ目を向ける一瞬前には、その顔を蹴り飛ばしていた。

 抵抗すら許さず、瞬殺されるプロヒーロー。

 それは、緑谷出久たちにとって信じられない光景だった。

 だが、それでも止まらない。

 機鰐龍兎は後方にいた緑谷出久たちへと目を向ける。

 瞬間、緑谷出久の目いっぱいに黒い影が映りこんでいた。

 

「なっ!!?」

 

 緑谷出久はとっさにその攻撃をかわす。

 そして、死柄木弔は機鰐龍兎のその行動を見て笑う。

 

「ハッ、ハハハハハ! なるほど、その姿は脳無にも勝てるぐらい強くなる代わりに暴走しちゃうんだ・・・。意識があるかどうかは分からないけど、友達を襲うのはどういう気分なんだろうなぁ・・・・・・」

 

 死柄木弔のその分析は奇跡的に合っていた。

 だが、それを正解と言えるような意思も機鰐龍兎には残っていない。

 緑谷出久は機鰐龍兎の攻撃を避ける・防ぐ事しかできない。

 そこへ、クラスメイトたちの援護へと向かっていた白神神姫が戻ってきた。そして、

 

「緑谷くん! 戦って! 大きなダメージを与えられれば変身を強制解除できる! そうすれば暴走も止まる!」

 

 白神神姫のその言葉に緑谷出久の目つきが変わる。

 プロヒーローたちが来るまでの時間を稼ごうとしていたのだが、万が一やられた際、機鰐龍兎が蛙吹梅雨や峰田実に襲い掛かるかもしれない。

 だが、ここで止められたらその危険性は消える。

 緑谷出久は拳をギュッと握り、身構える。

 大振りながら的確に急所を狙って殴りかかる機鰐龍兎。

 緑谷出久は身をかがめ、その攻撃をかわし、

 

SMASSH(スマッシュ)!!」

 

 と言いながら全力で殴った。

 その攻撃は奇麗に胸部へと叩き込まれる。

 

(―――――――!? 折れていない!!? “力の調整”がこんな時に!! 出来た!? うまくスマッシュ決まった!!!)

 

 機鰐龍兎の胸部への攻撃で緑谷出久の腕は折れていなかった。

 それは、力の加減ができた何よりの証拠であった。だが、“その程度の攻撃”でハザードは止まらない。

 緑谷出久の腹に膝蹴りが入れられる。

 その衝撃で一瞬だが、息が止まり、大きな隙を見せてしまった。

 目の前のモノ全てを破壊しつくすハザードを前に、それは致命的なものになる。

 機鰐龍兎の攻撃が来る。

 緑谷出久は体をひねってかわそうとするが、無理な体勢でやろうとしたため、完全に避けることは出来なかった。

 バギィッという鈍い音とともに緑谷出久の右足に機鰐龍兎の拳が刺さる。それは、少年の足を完全にへし折っていた。

 

「・・・・・・ッ!!」

 

 その場に倒れるようにうずくまる緑谷出久。反射的なもので意識した行動ではなかった。

 だが、今回はそれが幸いした。

 緑谷出久の頭上、先ほどまで後頭部があった空間を機鰐龍兎の右拳が空を裂くように振るわれた。

 もしも、直撃していたなら、緑谷出久の頭は風船のように破裂していただろう。

 そして、その数舜が彼の命を救った。

 殴り破られるUSJの入り口。

 そこには・・・・・・、

 

「嫌な予感がしてね・・・、校長のお話を振り切ってやって来たよ。来る途中で飯田少年とすれ違って・・・・・・。何が起きているかあらましを聞いた」

 

(まったく。己に腹が立つ・・・!! 子どもらがどれだけ怖かったか・・・。後輩らがどれだけ頑張ったか・・・。しかし・・・・・・!! だからこそ胸を張って言わねばならんのだ!!)

 

「もう大丈夫。私が来た!」

 

 この状況を打開できる“英雄(ヒーロー)”がいた。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「オールマイトォォオオ!!」」」」」」」」

 

 その姿を確認した1-Aの生徒たちが歓喜の声を上げる。

 オールマイトは素早く階段を降り、下にいた(ヴィラン)を一瞬で倒し尽くす。

 そして、倒れ、動かないイレイザー・ヘッドを抱きかかえる。

 その視線が死柄木弔に向いた時には、その右拳は死柄木弔の顔をとらえ、その左腕は蛙吹梅雨と峰田実を抱きかかえ、(ヴィラン)から遠ざけていた。

 それだけではない。

 蛙吹梅雨と峰田実を遠ざけた(のち)、緑谷出久へと向けられた攻撃を受け止めていた。

 

「クッ・・・。どうしたんだ、機鰐少年・・・・・・!」

 

「オールマイト・・・。機鰐くんは、今、暴走状態らしいです。大きなダメージを与えれば止まるとか・・・・・・」

 

「なるほど」

 

 緑谷出久の言葉を聞いたオールマイトは“軽く”機鰐龍兎へ攻撃を仕掛けた。攻撃と言っても、腕を振るい、爆風を浴びせただけだが。

 それでも、その爆風が直撃すれば、人間の意識なんて軽く吹き飛ばせるモノだった。

 機鰐龍兎は爆風が直撃したにも関わらず、何事も無かったかのように立っていた。

 

(なっ・・・・・・。加減したとはいえ、それでも・・・・・・)

 

「何やってんのバカ(オールマイト)!! 死なない程度に全力殴って!! ハザードは半端な攻撃じゃ止められない!!」

 

 神姫に怒鳴られるオールマイト。

 だが、軽めの攻撃だったのは仕方がないと言えるだろう。

 大切な生徒なのだ。

 傷つけることは抵抗があるだろう。

 

「言っとくけどね! ハザードフォームは目に映るもの全てを破壊しつくす!! 下手をすれば、皆が殺されてしまう!!」

 

「シット!!!」

 

 そんな会話をしている間も、機鰐龍兎の攻撃は止んでいない。

 制限時間ギリギリのオールマイトからしたら短期決着が望ましいのが本音だろう。

 だが、そんなオールマイトの心境など関係無しに機鰐龍兎の拳がオールマイトの腹、それも“あの傷”の場所へと。

 鋭い痛み・衝撃により、オールマイトは一瞬、固まってしまった。

 機鰐龍兎はその隙を見逃さない。

 オールマイトに連続で拳が叩き込まれる。

 危険。

 危機。

 常人なら自身を守るために全力で攻撃してしまうだろう。

 だが、“英雄(ヒーロー)”はそれを選択できるにも関わらず、選択しなかった。

 大切な生徒だから。これから先のある少年だから。オールマイトは、彼に大きなケガを負ってほしくなかった。

 だからこそ、オールマイトは大切な生徒をなるべく傷つけない方法が無いのかを神姫へ問いかけた。

 

「彼に大きなダメージを与えることなく止める方法は無いのかね、白神少女」

 

「ベルトの赤いトリガー、“ハザードトリガー”を引っこ抜けば暴走止まるよ」

 

「それを早く言わんかね!!」

 

 攻撃を防ぎながらもオールマイトは白神神姫の言葉にしっかりとツッコミを入れるのを忘れない。

 だが、それでも突破口は見えた。

 オールマイトが突撃すると同時に機鰐龍兎はベルトのレバーを回す。

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Ready Go!》

 

 機鰐龍兎の腕に黒いオーラが纏われる。

 オールマイトも足に、腕に力を入れる。

 

MISSOURI(ミズーリー)

 

《ハザードフィニッシュ!!》

 

SMASSH(スマッシュ)!!」

 

 オールマイトと機鰐龍兎の攻撃がぶつかる。

 機鰐龍兎の拳がオールマイトの頬を掠め、抉る。

 だが、オールマイトの手はハザードトリガーをベルトから弾き、外していた。

 数瞬の静寂。

 そして、機鰐龍兎の体から黒い粒子が散り始め、その姿が、ラビットタンクフォームへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 気が付いたら目の前にボロボロのオールマイトがいた。

 辺りを見回すと、天井には大きな穴が開き、中距離辺りでは死柄木弔が首辺りをボリボリと掻きながら何かブツブツと言っていた。

 

「衰えた? 嘘だろ? 完全に気圧されたよ。脳無すら簡単に撃破するようなヤツを簡単に止めやがって・・・、チートがぁ・・・・・・。全っ然弱ってないじゃないか!! あいつ(・・・)・・・・・・、俺に嘘を教えたのか!?」

 

 どうやら、俺は脳無を撃破する前にオーバーフローモードになっていたようだ。

 ああ、危ない危ない。

 誰かを傷つけて無ければいいけど・・・・・・。

 ん? あれ?

 そういえば、なんでオールマイトボロボロ?

 なんで緑谷くん足抑えて蹲ってるの?

 なんで相澤先生が顔にケガして倒れているの?

 まさか、やらかした? やっちまったのか?

 俺が事態を把握し、軽くパニックになっている内にも展開は先に進んでいた。

 オールマイトは死柄木弔と黒霧の方へと目を向けながら言う。

 

「・・・・・・・・・どうした? 来ないのかな!?」

 

 そう言って死柄木弔と黒霧を強く睨むオールマイト。

 もしも、これが原作通りなら、オールマイトはもう限界だ。

 マズイ。

 何か手はないかと辺りを再度見渡すが、轟くん&切島くん&爆豪も原作通り居るが、峰田(ド変態)や梅雨ちゃんが背負っていた相澤先生の方へ向かっているため、何ともいえない。

 死柄木弔と黒霧は数言会議をし、オールマイトへと襲い掛かった。

 俺はとっさに飛び出していた。

 それは、緑谷くんも同じだった。

 

「オールマイトから離れろ」

 

 と緑谷くん。

 俺は何も言わず、死柄木弔に殴りかかった。

 だが、気が付いた時には俺はUSJの天井付近にいた。

 

(ッ! しまった。黒霧のワープか・・・・・・)

 

 俺がそう判断し、下を見た時は、応援に駆け付けたプロヒーローに死柄木弔は撃たれ、黒霧のワープで逃げた後だった。

 ・・・・・・活躍できなかったどころか、辺りに被害をまき散らしただけだな。俺。

 などと、下らない―――大問題―――事を考えていたら、着地の事をすっかり忘れていた。

 地面に勢いよく激突する俺。

 その衝撃で変身が解除された。

 The・踏んだり蹴ったり。

 その後は、大体原作通りだった。

 トゥルーフォーム戻るオールマイト。

 緑谷くん+α()を心配し、駆け寄ってくる切島くん。

 セメントス先生に促され、ゲート前に戻る切島くん。

 それを見届け、俺はのっそりと起き上がった。

 俺が起きたのを見てあたふたするオールマイト&緑谷くん。

 

「大丈夫。知ってる。誰にも言わないから心配するな」

 

 俺がそう言うと、二人は「本当に?」と言いたげな顔を向けてきた。

 まあ、知られちゃいけない秘密だからな。

 その後、俺はセメントス先生含む数人の先生たちと協力し、オールマイトを隠しながら保健室へと運んだ。

 

 

 

 

 

 

 俺は、保健室のベッドに寝ているオールマイトと緑谷くんに土下座して謝る。

 そして、リカバリーガールに説教された。

 どうして暴走したのか、とオールマイトに聞かれたため、ビルドドライバーとハザードトリガーについての説明をした。

 有機物と無機物の成分の入ったボトルを合わせて変身している事。

 ハザードトリガーを使うとベルトのリミッターを外し、より強くなれる事。

 ただし、一定時間経過により、脳が刺激に耐えられなくなり、理性を失う事。

 事細かに話した。

 オールマイトの正体を知っている事については、何かそれっぽい事を言って『偶然見てしまった』『それで正体について知っていた』『誰にも言ってはいない』と事実と虚偽を混ぜて誤魔化した。

 

 

 

 

 

 

 翌日は臨時休校となったため、俺は『個性』を使わずに何とかなる方法を考え、思い付き、実行している。

 それは、ファイズドライバーとライダーベルト(仮面ライダーカブトのヤツ)を作るというバカみたいな行為だ。

『桐生戦兎』と同じ頭脳を持っているため、何かしらのアイテムを作るのは思いのほかサクサクと進んだ。

 これが完成すれば、『個性』を使わなくても仮面ライダーへの変身が可能になる。

 そう、『個性の無断使用』に当たらなくなるのだ。

 ムッフフ、ムッフフ。

 (ビルドす)るのは楽しいなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「皆ーーーーーーー!! 朝のHRが始まる前に席につけーーーー!!」

 

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだよ」

 

 飯田くんの言葉に的確なツッコミが入れられた。

 全員が席に着くとほぼ同時に、相澤先生がミイラ男状態で教室へ入ってくる。

 話を聞いた感じでは、オーバーフロー状態の俺は相澤先生の顔面を一発蹴り飛ばしたらしい。

 そして、蹴り飛ばされた相澤先生は地面に叩きつけられ、両手骨折、顔面骨折という大ケガを負ってしまった。

 相澤先生にも事情を説明し、土下座したところ、「その力、自分のモノにできるようになっとけよ」とだけ言われた。

 

「先生、無事だったのですね!」

 

「無事言うのかなぁ、アレ・・・・・・」

 

 相澤先生はヨロヨロ、フラフラと教壇まで歩く。

 教壇に立った相澤先生は、

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 と言った

 その言葉にザワザワしだすクラス。

 俺はこの後どんな展開になるかを知っているため、机に顔を伏せて半分夢の中へと入っている。

 そして、あの言葉が紡がれた。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「「「「「「「クソ学校っぽいの来たああああ!!!」」」」」」」」

 

 うるさい。

 昨日、色々(ベルト作成)あって寝不足なんだよ。

 

「待って待って! (ヴィラン)に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す・・・って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ。何より、雄英(ウチ)の体育祭は・・・・・・最大のチャンス(・・・・・・・)(ヴィラン)ごときで中止していい催しじゃねえ。ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ、全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し、形骸化した・・・・・・」

 

 それは何だか悲しいな。

 レオニダス一世は色々と頑張ったのになぁ。

 ま、特に関係はないか。うん。

 

「そして日本に於いて今『かつてのオリンピック』に代わるのが雄英体育祭だ」

 

 相澤先生のその言葉に俺は寝ている体勢で言う。

 

「当然、全国のプロヒーローも観る。そう、スカウト目的でな」

 

「そうだ。当然だが、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が開けるわけだ。年に一回・・・計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

 相澤先生のその言葉に全員の顔つきが変わる。

 俺もそうだ。

 絶対優勝する。

 優勝して、神姫に・・・・・・・・・するんだ。

 

 

 昼休み、皆、ノリノリで楽しそうに話し合っていた。

 

 

 放課後。

 クラスも前には別クラスの生徒たちが集っていた。

 そして、展開は原作通りだった。

 

 

 

 

 

 

 現在。

 俺はトレーニングルームにいる。

 雄英入学前は家、しかも自室でしか変身することが出来ず、仮面ライダーの全スペックを引き出したことは無い。

 そう、あと二週間以内にほぼすべてのライダーでの戦い方を覚えることが目的だ。

 と、言ってもまずは生身で動けるように筋トレを開始する。

 すると、後ろから声を掛けられた。

 

「ねえ、機鰐くん。ちょっといいかな・・・・・・?」

 

 と。

 

 




ハザードフォーム大好きな作者ですが何か?


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ヴィラン 編
6話 『転生者』


予想以上に早く完成し、驚きを隠せません。どうも作者です。

今回から、急展開。ヴィラン編が始まります。
機鰐龍兎はどんな方へと歩んでいくのか、それは、作者にも、分かりません。



「ねえ、機鰐くん。ちょっといいかな・・・・・・?」

 そう声を掛けてきたのは誰であろう。緑谷出久である。

 俺はゆっくりと振り向く。

 

「なんだ?」

 

「頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

「その内容が分からないと良いか悪いかなんて言えねぇよ」

 

 俺が後頭部を掻きながらそう言うと、

 

「特訓、手伝ってほしいんだ」

 

 とこっちを真っ直ぐ見ながら言ってきた。

 その言葉を聞いて少し笑ってしまった。

 馬鹿かコイツは。

 雄英体育祭では皆が皆ライバルなんだぞ。それなのに手伝ってほしいと来たか。

 ・・・・・・面白い。

 

「良いぞ」

 

 俺がそうぶっきらぼうに答えると、驚いたような顔色を見せてきた。

 自分で言い出したんだろう。

 

「本当に・・・良いの・・・・・・?」

 

「良いよ。俺も自分の個性を全て把握している訳じゃないからな。一緒にやっていこうぜ」

 

 こうして、俺は緑谷くんと一緒に特訓をすることになった。

 この日はまだ初日を言う事もあってお互い、個性を使わない時の身体能力を確認しあい、帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 帰宅中、何者かが付けてくる気配がした。

 敵連合(ヴィランれんごう)かもしれないと思ったが、それにしては殺気をほとんど出していない。

 これは・・・、アレだ。

 人気のないところへ行け、というメッセージだな。

 俺はそう判断し、大通りからそれ、一切の人気のない裏路地へと向かった。

 すると後ろから、

 

「良く気付いたな」

 

 という声がした。

 振り返るとそこには、見たことない少年がいた。

 いや、少年という表現はおかしいか。俺と同年代であろう変人がいた。

 黒い髪を後ろに―――多分ワックスで―――立て、真っ黒く禍々しい和服を着、こっちを見下すかのように睨んでいる。

 ああ、興味本位で近づかず、さっさと振り切るべきだったか。

 

「誰だ?」

 

(ヴィラン)

 

 俺はその言葉を聞いてとっさにファイズフォンの銃口を向けた。

 

「おお、怖いねぇ」

 

「何の用だ? まさか、敵連合(ヴィランれんごう)の差し金か?」

 

「ンな訳ないだろ。あんな奴らと一緒にするな。機鰐龍兎」

 

「・・・・・・・・・まず名前を名乗れ」

 

「お? どうして名前を知っているかとか聞かないの?」

 

「知ろうと思えば誰だって名前を知るぐらい簡単な事だろう。で、何者だ?」

 

「オレは“賢王(けんおう) (ゆう)”。敵同盟(ヴィランどうめい)の幹部だ」

 

 何だその『敵連合(ヴィランれんごう)』のパクリみたいな組織。

 いや、パクリみたいじゃない。絶対パクってるな。

 

「その賢王殿は一体何の用事があるのでございましょうか」

 

「声に嫌々感を丸出しにしながら言うな。オレもお前と同じ“転生者”だよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

「さて、ここでいきなり問題だ。『95%』。コレが何を意味する数字だと思う?」

 

「知らん」

 

「こっちに転生して(ヴィラン)になった転生者の総数だ。ちなみに残りの4.9%が一般人。0.1%がヒーローだ」

 

 ヒーロー少っ。

 皆どれだけ(ヴィラン)をやりたいんだよ。

 ヒーロー格好いいだろうが。

 

「で、それがなんだ? それを伝えて何がしたい?」

 

「・・・・・・オレたちの仲間にならないか? お前の力があればオレたちの思うがままの未来が待っている。良いだろう? そうゆうの」

 

「断る。俺はヒーローが好きだか目指しているんだ。それと・・・・・・」

 

 俺は自分の後ろ斜め左を指さしながら言う。

 

「そこにいるヤツに銃口を向けるなと言え」

 

「だったらお前もオレに銃口を向けるな。オレが向けられているからそうなっているだけで向けなければ大丈夫だ」

 

 信用できなかった。

 当たりまえだ。(ヴィラン)の言葉を軽々と信じるほど俺は優しくない。

 だが、撃たれる“程度”ならどうにでもなるので素直にファイズフォンをしまう。

 すると、本当に俺に向けられていた銃口も下ろされる気配があった。

 

「・・・・・・・・・何で俺なんだ?」

 

「強い。そして、俺に近いモノを持っている」

 

 何が言いたいんだ?

 

「オレも転生特典でオレが望んだ“個性”を手に入れた。個性名は『英雄王』」

 

 賢王雄がそう言うと同時に空間に穴が開き、そこから一振りの剣が現れた。

 ・・・・・・Fateシリーズの“ギルガメッシュ”かよ。オイ。

 それっぽくねえから髪と服装を金色に変えて来い。

 

「この力を使ってこの世界を取りたいんだ。良いだろう」

 

「知るか」

 

「そう突き放そうとするな。・・・・・・そうだ、この近くにいいカフェがあるんだ。そこで話をしよう」

 

 勝手に決めるな。

 

「そうそう。この話はお前は知っておいた方が良いと思うぞ。これから先はオレも展開が読めない状態になっていくからな」

 

 ガチで嫌な予感しかしない。

 だが、クソみたいな連中だったら“消せば”良い。

 俺はそう判断し、賢王雄の後に続く。

 

「ああ、オレの事は『ユウ』とでも呼んでくれ」

 

 ハイハイ。

 

 

 

 

 

 

 カフェについてすぐ、ユウは注文をしていた。

 まあ、当たり前かカフェなんだから。

 

「さて、ようこそ。ここがオレたち『敵同盟(ヴィランどうめい)』の支部として作られたカフェ・・・・・・ゲファ」

 

 殴った。

 思いのほか全力で。

 

「いきなり支部に連れ込むとか、どんな神経してるんだよ。壊すぞ」

 

「まぁまぁ。落ち着け。手ェ出したりはしねェからよ」

 

 信用できるかボケ。

 

「さて、龍兎。お前に良い提案がある」

 

「・・・・・・なんだ?」

 

「オレたちの同盟に入らないか? お前なら幹部なんて一発でなれるぞ」

 

「メリットがない」

 

「好きなように生きられるぞ?」

 

「だったらヒーローになっての生活の方が好きだ」

 

 俺がそう言うと、後頭部に何か固いものが押し付けられる感覚があった。

 それは何であろう? 銃口である。

 

「賢王様に口答えをするな。脳天ブチ飛ばされたいか」

 

「おお。怖い怖い。・・・・・・だけど、そんなオモチャじゃ俺は殺せねえよ」

 

 俺が舐め腐ったような口調でそう言った瞬間、大きな発砲音が鳴り響いた。

 だが、発射された鉛玉は俺の頭を貫くことは無かった。

 俺の後頭部で止められている。

 

「培養」

 

《インフェクション! レッツゲーム! バッドゲーム! デッドゲーム! ワッチャネーム!? ザ・バグスター!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『グラファイト』へと変わる。

 俺の右手には『ガシャコンバグヴァイザー』が握られている。

 フハハハハハ。

 俺は個性で出したものを使えば、その気になれば怪人態になる事も可能なのだよ。

 

「どうした? お前の弾丸は俺を貫けなかったようだが」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(さつ)っ!!」

 

「止めろ。客人だ。多少の無礼ぐらい見逃せ」

 

「・・・・・・・・・・・・ハイ」

 

 俺の後ろに立っていた人物はユウの命令によりその場から離れる。

 振り向くと、ミニスカを履いたメイドだった。

 

「この姿のままで話をさせてもらうぞ」

 

「ああ。すまなかった」

 

「大丈夫だ。もし、直撃したとしてもあの程度なら死なないから」

 

 転生特典舐めるな。

 仮面ライダーの中には特別な者以外変身できないライダーだっているんだ(例:電王。ウィザード。エグゼイド系ライダー全種)。

 それに変身するために、俺の体は人間とそうじゃない部分が多く混じっている(例:オルフェノク。ファントム。バグスター)。

 そのおかげでそう簡単な事じゃ死ぬことは無い。

 

「さて、質問だ。なぜ俺をスカウトしようとした」

 

「お前ならオレたちの上に立てる存在になると直感したモンでな」

 

「だからって俺以外にも適性者はいるだろう」

 

「ああ。だが、お前が一番いいと思った。・・・・・・まあ、嫌なら断ってくれても構わない。オレたちは自由意志を尊重する」

 

「だったら仲間にならない。俺は俺の道を行く」

 

 俺はそう言ってのっそりと立ち上がった。

 

「もし、ヒーローになったら真っ先に叩き潰す。首を洗って待っておけ」

 

「・・・・・・・・・せめて、同盟関係だけは繋げてほしいんだが」

 

「はぁ?」

 

 意味が分からない。

 

「この組織は、全員転生者の(ヴィラン)によって構成されている。俺含め、幹部6人がトップ。何か大きなことをしたければ、6人で会議を開き、4人以上の賛成を得られなければいけないというルールがある」

 

「それで?」

 

「“魔我(まが) 覇仁(はじん)”。幹部の1人なのだが、ここ最近勝手な行動が目立つ。ルールを守らず、同盟に悪い影響を及ぼしている。コイツの不正を暴き、消してほしい」

 

 何だそのヒーローとはかけ離れた依頼は。

 

「・・・・・・・・・断る」

 

「いや、殺さなくていいんだ。組織から追い出してほしい」

 

「報酬は?」

 

「お前が望み、オレたちにできる事なら何でも」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったら。組織の名前が気にくわない。変えろ」

 

 俺がそう言うと、別の席に座っていた者たちから―――カフェのマスターからも―――俺に向かって殺気が向けられた。

 だが、そんな些細な事を気にするような俺じゃあない。

 俺の要望に対し、ユウは、

 

「会議をさせてほしい。2日以内には終わらせる」

 

「おう、早くしろよ」

 

「じゃあ、新しい名前を言ってくれ」

 

「・・・・・・・・・・・・『ファウスト』。これで頼む」

 

「分かった」

 

「じゃあ、帰るぞ」

 

 俺は人間体に戻り、カフェから出る。

 イヤなヤツと関わってしまった。

 だが、どことなく懐かしいと感じていた。

 もしかしたら、ユウと俺は前世で何かしら関りがあったのかもしれないな。

 そんな事を考えながら俺は帰路へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 家に帰り、最初に見たモノ。

 それは血を流し、床に倒れ伏している母さんの姿だった。

 何が起きたか、何があったのか分からなかった。

 駆け寄り確認すると、まだ息はあった。

 俺は急いで警察と救急に電話をし、その間、傷口を抑え、止血をし続けた。

 警察から連絡のあった父さんも急いで帰ってきた。

 何とかしたいが、俺の個性は完全に戦闘型。

 父さんも母さんも無個性だ。

 ただ、救急車が到着するまで応急処置をし続けるしかない。

 父さんが到着して数分後、警察や救急も到着した。・・・・・・遅い。

 その後、救急車に乗せられた母さんに父さんが付き添いで病院まで向かい、俺は警察に事情を聞かれた。

 俺が雄英生、しかもあの1-Aの生徒だと警察が知ると、強盗による犯行だと思われていたのが『敵連合(ヴィランれんごう)』による事件の可能性が高いと判断された。

 俺はとりあえず警察の車に乗り、病院まで向かった。

 結果だけ言うと母さんは助かった。

 犯人の姿は見ておらず、いきなり何者かに斬りつけられたらしい。

 気付くと、もう朝日が空を照らし始める時間だった。

 

「・・・・・・・・・・・・どういう事だよ」

 

 俺はボソリと呟いていた。

 すると、

 

「これもすべて魔我覇仁のせいだ」

 

 という声が聞こえてきた。

 顔を上げると、そこに昨日と同じ服装のユウがいた。

 ユウのセリフに普段の俺なら「おのれディケイド!」みたいな反応をしていただろうが、今はそんな余裕はない。

 

「・・・・・・何があった」

 

「魔我のヤツの暴走だ。アイツは幹部の中でもはっきりと言えば弱個性だ。一般的には強い(ヴィラン)だろうが、それでもオレたちには敵わない。そんな時に幹部6人よりも強いお前の情報だ。大方、自分の座が奪われるとでも思ったんだろう。だから、お前の家族を襲った。『何かしたら次は殺す』という意味合いでな。事実、アイツの部下、しかも右腕扱いの人物に、誰にも気づかれることなく人に近づくことのできる個性の持ち主がいる」

 

「・・・・・・・・・・・・ソイツがやったって事か」

 

「ああ、そうだろう」

 

 その言葉を聞いて俺は歯ぎしりをしていた。

 文句があるなら、俺に直接言えばいいだろう。何で、母さんに手を出すんだよ。

 不甲斐なかった。

 俺のせいで母さんが傷つけられたことが。

 何もできなかった事が。

 腹立たしかった。

 弱い自分が。

 何もできない自分が。

 

「どうやれば、その魔我とかいうヤツと戦える?」

 

「今日中に何とかするお前はとりあえず学校に行くか休んで母親のそばにいるかでもしておけ。準備が終わり次第こちらから接触する」

 

「分かった・・・・・・・・・」

 

 俺の返事を聞いたユウは、身をひるがえし、その場を去って行った。

 ユウと話をしている間に、もう登校時間が近づいていた。

 俺は、制服のままだったことを思い出し、父さんに学校へ行くことを伝え、学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 学校に着いてすぐ、クラスの皆から心配された。

 俺はただ、「大丈夫」「ヒーローと警察が何とかしてくれる」とだけ答えていた。

 神姫は一日中、俺の後を付いてきていた。

 多分、何か察していたのだろう。

 だが、俺は何も言わなかった。

 そして、放課後。

 俺は緑谷くんとトレーニングルームにいた。

 

「大丈夫・・・なの・・・・・・?」

 

「何がだ?」

 

「お母さん、(ヴィラン)に襲われたんでしょ? それなのに、僕に付き合ってていいの?」

 

「ああ、無問題だ。警察は優秀だからな」

 

 俺はそう言って誤魔化した。

 この日のトレーニングは、簡単な体の使い方を教えた。

 殴る時に腕の力だけでなく、腰を回すように殴る事で体全体の力を使って殴る事が出来る、等のレクチャーだ。

 緑谷くんはできる度に顎を抑えて何かブツブツと呟いていた。

 もはや芸だな。これ。

 そして、この日は解散になった。

 とりあえず俺はあのカフェに向かう事にした。

 あそこのコーヒーは普通に美味しかった。

 カフェ自体が支部なら、そこにいれば向こうも接触しやすいだろう。

 そう考えて歩を進めた。

 途中、俺の行く道を阻むように知らないヤツが突っ立っていた。

 誰だ? と思いよく観察するとほぼ同時に、俺は後方へと吹き飛んだ。

 

「ん~。何だ。やっぱりそうじゃないか。コイツがボクよりも強いなんてある訳ないじゃないか。こんなの、変身させなければただの無個性と変わらないじゃないか。まったく、賢王も紅も何バカみたいなこと言ってるんだか。ああ、襲って損だったな。こりゃ。恐れるようなヤツじゃなかった」

 

 倒れ伏す俺の耳にそんな声が聞こえてきた。

 ああ、なるほど、コイツが魔我覇仁ってヤツか。

 ・・・・・・・・・・・・殺す。

 俺は一瞬で魔我覇仁の目の前へワープする。

 そして、全力でその顔面に拳をプレゼントした。

 

「なっ・・・・・・・・・」

 

「バグスターの体をなめるな。ワープ程度なら人間体でも可能なんだよ」

 

「クッソ!」

 

 魔我覇仁の腕にいつの間にか小さなナイフが握られていた。

 俺はとっさにその場から退避する。

 そして、

 

「培養!」

 

《インフェクション! レッツゲーム! バッドゲーム! デッドゲーム! ワッチャネーム!? ザ・バグスター!》

 

 俺はとっさにグラファイトへと培養する。

 

「・・・・・・なんだよ。その姿」

 

「さあな。ンな事より、さっさとやろうぜ」

 

 俺のその言葉に魔我覇仁は舌打ちをしてその場から去って行った。

 ・・・・・・何だったんだよ。

 俺はそう思いながら人間体へと戻る。

 クッソ。

 個性が何なのか分からなかった。

 そんなことを考えながら歩を進めていると、いきなりスマホに着信があった。

 父さんからかと思ったが、知らない番号からだった。

 出ると、

 

「よう。機鰐。お前の要望が半分は通ったぞ」

 

 ユウからだった。

 

「半分?」

 

「ああ、『敵同盟』と書いて『ファウスト』という読み方で決定した。ほかの幹部も『敵同盟(ヴィランどうめい)』って名前にはしっくり来ていなかったらしい」

 

「そうか。・・・・・・・・・さっき、魔我覇仁に襲われた」

 

「ッ! マジか! オイ、大丈夫か!?」

 

「ああ、無傷だ。だが、どんな攻撃をされたのか。個性の検討が全くつかない。アイツの個性は何なんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・電話越しで話すのは止めよう。昨日のカフェまで来てくれるか?」

 

「わかった」

 

 俺は止めていた歩を再度進めた。

 カフェに入ってすぐ、ユウがどこにいるかは見えた。

 昨日と同じ席だ。

 俺はゆっくりとユウの前の席へ座る。

 

「魔我覇仁について話せるだけ話せ」

 

「ああ。聞いて驚くな、アイツの個性は『オール・フォー・ワン』だ」

 

 俺はその言葉に寒気を感じた。

 オール・フォー・ワンだと・・・・・・

 

「魔我のヤツは『僕のヒーローアカデミア』について、ほとんど知らない珍しいタイプだ。ほとんどの転生者が『僕のヒーローアカデミア』が好きだから選んだのに対し、魔我は“有名だから選んだ”とか舐め腐った事を言ってのけるようなヤツだ。しかも、転生特典個性を“アニメで一度だけ見た『オール・フォー・ワン』と同じやつ”とかいう下らない理由で選んだようなバカだ」

 

 だが、とユウは続ける。

 

「オレもお前もそうだが、アイツは調子に乗りまくっている。だけど、他の転生者の個性やそこら辺にいた(ヴィラン)から個性を奪いまくってはいるが、使いこなせてはいない」

 

「・・・・・・・・・・・・一つ、質問何だが良いか?」

 

「何だ?」

 

「魔我覇仁のヤツが『オール・フォー・ワン』と同じ個性なら、お前含む幹部の個性も奪われちまうんじゃないのか?」

 

「そこはお前も対策してあるだろう?」

 

 ある。

 『お前も』という事はユウやその他幹部たちも同じ特典を注文したという事か。

 そう、『絶対個性を奪われたりしない』という特典を。

 ああ、なるほど。だからさっき会った時舌打ちしていたのか。

 俺の個性を奪えなかったから。

 

「それで、何をすれば良い?」

 

「殺さないように追い詰めてほしい」

 

「いつ決行だ?」

 

「明後日。それまでに何でも良いから準備だけしておいて」

 

「おう」

 

 俺はそう言って席を立つ。

 やることは決まった。

 あとは“アレ”を完成させるだけだ。

 今、俺の内心は憎悪と歓喜が渦巻いている。

 母さんを傷つけた魔我(ゴミ)をこの手で叩き潰す。

 

 




複数現れた転生者。
これが、どういう意味を持つのか。
これが、どういった事なのか。
それはまだ誰にもわかりません。無論、作者も。


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7話 『不死鳥(フェニックス)

どうも、こんにちは。
高校生活最後の三学期が始まり、小説を作る時間が取られまくっている作者です。
ここ数日でずっと作り続けてましたが、学校へ行くとその時間も大幅に減るので投稿ペースがガタ落ちしそうです。
ごめんなさい。

あと、今回はビルド以外の仮面ライダーが登場します。



 俺は帰宅してすぐ“アレ”を完成させるべく自室に向かった。

 部屋の扉を開けると窓が全開に開けられ、室内にはラフな格好をした紅い髪の女がいた。

 (ヴィラン)かと思い身構えたが、向こうからこちらに対しての敵意は一切感じられない。

 女は俺の方を向いて言った。

 

「君が機鰐龍兎ちゃんか。私は“(くれない) 華火(かほ)”。『敵同盟(ヴィランどうめい)』・・・・・・じゃなかったね。名前変わったんだった。『敵同盟(ファウスト)』の幹部の一人さ。よろしく。ああ、好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

 紅はそう言って俺のベッドに腰掛けた。

 俺は荷物を下ろしながらため息交じりに言う。

 

「何の用だ」

 

「ん? ちょっと・・・・・・ね!」

 

 いきなり紅に殴られた。

 俺は体を大きく揺らし、攻撃の衝撃を受け流し、お返しに蹴りを叩き込む。だが、それは紅に当たらなかった。

 

「熱っ!!」

 

「ふふ、ざーんねーん。私にそんな攻撃は効かないよ」

 

「そうかよ」

 

 俺は身構え、臨戦態勢を取る。

 紅はその細い腕に(あか)い炎を纏わせ、構える。

 瞬間、俺の視界が真っ赤に染まった。

 それは、血ではなかった。炎だ。紅が纏っていた炎に包まれたのだ。

 そして、視界が開けると森の中にいた。

 

「あそこで暴れると家が壊れちゃうからね」

 

「そうかよ。・・・・・・で、ここは?」

 

「私の親が所有している山。ここだったら思う存分暴れられるよ」

 

 紅がそう言うと同時に彼女の全身が(あか)い炎に包まれた。

 

「私の個性は『不死鳥(フェニックス)』。この名前だけでどんなモノかは分かったよね」

 

「ああ。だいたいわかった」

 

「じゃあ、龍兎ちゃんも個性を使ってよ。戦いたくってウズウズしてるんだ」

 

「おうよ」

 

 俺はディケイドライバーを腰に装着する。

 そして、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。

 

「変身」

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・DECADE(ディケイド)

 

 ベルトからライドプレートが展開され、俺の顔に突き刺さる。

 そう、突き刺さるのだ。そうとしか表現できない。

 そうして、俺は『仮面ライダーディケイド』への変身を完了させる。

 

「あれ? データで見た姿とベルトがまるっきり違うんだけど?」

 

「当たり前だろ。俺が変身できるのはビルドだけじゃない。クウガ。アギト。龍騎。ファイズ。(ブレイド)。響鬼。カブト。電王。キバ。ディケイド。W(ダブル)OOO(オーズ)。フォーゼ。ウィザード。鎧武。ドライブ。ゴースト。エグゼイド。ビルド。ジオウ。20年分のメインライダーとサブライダー。すべてに変身が可能だ。ビルドだけに変身していたのだって、相手がビルド対策をしてきた所に別のライダーを使う事で裏をかくのが目的なもんでな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 紅は「あちゃー」といった表情で顔を抑える。

 だって、俺の目的そのものにあっさり引っかかったのだ。「あちゃー」とも思いたくなるだろう。

 まあ、だからって掛けてやる言葉なんか一切ないがな。

 

「さあ、やろうか」

 

「・・・・・・うん。やろう。私の力ってものを見せてあげる」

 

 瞬間、俺と紅はぶつかり合う。

 俺はライドブッカーをソードモードに変形し、斬りつける。

 紅は体を炎へと変化させ、俺の攻撃をかわ・・・・・・せない。

 死なないようにはしたが、紅の胸元に薄い切り傷ができ、そこから鮮血がジワリと溢れ出す。

 驚き、傷を何度もペタペタと触る紅。

 不死身が絶対に死なないと思ったら大間違いだっての。

 ディケイドは、特殊条件下でしか殺せない、もしくは不死身の相手すら殺せるような仮面ライダーだ。

 炎に変化する程度で無効化できるような攻撃ではない。

 紅は体全体を完全に炎で包み不死鳥(フェニックス)へと姿を変え、大空へと飛び上がり、何発もの火炎弾を放射してきた。

 俺はライドブッカーでそのすべてを斬り落としていく。

 そして、ライドブッカーをガンモードに変形させ、紅に銃口を向け、

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・BLAST(ブラスト)

 

 カードが読み込まれると同時に銃口がいくつにも分身し、連続で銃弾を発射する。

 紅はなんとか避けようとするが、完全に避けることはできず、羽に風穴を開け、墜落した。

 

「お~イテテテ。痛っ!」

 

「・・・・・・どうする? まだやるか?」

 

「いいや。こりゃ勝てそうにない。私は『仮面ライダー』の事を子供が見る絵空言の虚像だと思ってたけど、リアルで見ると違うねぇ。すっごく格好いい」

 

「だろう。だから個性に選んだんだよ」

 

 俺がそう言うと紅はむくりと起き上がる。

 そして、ぐぐーっとまるであくびをするかのように背筋を伸ばす。

 

「さて、帰る?」

 

「ん? 送ってくれるのか? (ヴィラン)のくせして」

 

「さすがに(ヴィラン)だといってもある程度の常識はあるよ」

 

 常識のあるヤツは(ヴィラン)になんぞならねえよ。

 非常識で身勝手だから(ヴィラン)になるんだろうが。

 紅は再度身体を炎で包んだ後、俺の体も炎で包んだ。

 そして、視界が開けると家の自室に戻っていた。

 ・・・・・・フェニックスフルボトルを使ったローグみたいだな。これ。

 

「さて、ありがとうね。君の実力は十分にわかったよ」

 

「そうかよ」

 

 俺は一切本気を出していないのだが。

 

「作戦決行にまた会おうね」

 

 紅はそう言い残し、窓から飛び出していった。

 その姿は完全にフェニックスフルボトルを使って飛行しているローグと類似していた。

 俺は後頭部をポリポリと掻き、大きなため息をついていた。

 自由すぎるだろ。

 なんで『敵同盟(ファウスト)』の幹部はほぼ単身でこっちに来るのかな・・・・・・。

 まあ、気にしている暇はないか。

 俺はそう判断し、ファイズドライバーを完成させるべく作成に取り掛かる。

 事実を言えば、こんなもの作らなくてもファイズに変身は可能だ。だが、それではダメなのだ。

 面倒くさい話なのだが、普通に変身すれば『個性を使用した』事になる。

 だが、現在作成しているファイズドライバーで変身すれば、それはパワードスーツを着ているだけなので、『個性を使用した』事にはならない。

 ヴェッハッハッハッハッハ(檀黎斗風爆笑)。

 法律の抜け穴とはこういうことだぁーーーーーー。

 ヴェーーーーーッハッハッハッハッハ!!

 と、ふざけるのはここまでにしておこう。

 こうして夜は更けて行った。

 

 

 

 

 

 

 朝、不眠不休でファイズドライバーと、ついでに“ある物”を完成させた。

 眠い。

 完成して、安心したと同時にドッと眠気と疲れが襲ってきた。

 それでも、登校しなければ。

 休みたいのは山々だが、緑谷くんとの特訓の約束があるからな・・・・・・。

 ああ、ベッドの海に沈みたい。

 

 

 

 

 

 

 学校についてすぐ、机に突っ伏して眠ってしまった。

 それでも、授業中だけはなんとか目を開けてノートだけは取っていた。

 だが、授業で何が話されていたのかは一切覚えていない。

 そして放課後。

 緑谷くんに、

 

「辛そうだらか、今日はやめておこうよ」

 

 と言われ、解散になった。

 ・・・・・・何だったんだよ。今日一日。

 俺はフラフラと辛いながらも歩を進めていると、

 

「大丈夫? 龍兎」

 

 と先に帰ったはずの神姫が近寄ってきた。

 

「ああ、大丈夫だ。ちょっと疲れているだけだ」

 

「本当に? 何か大きなものを抱えているようなんだけど・・・・・・」

 

「平気だよ」

 

 俺がそう言うと、神姫は俺の腕にギュッと抱き着いてきた。

 その行動に驚いて固まっていると、

 

「・・・・・・・・・しよ」

 

「?」

 

「デート・・・しよ・・・・・・」

 

 予想外の言葉に俺はより固まってしまった。

 いや、これは誰だって固まってしまうだろう。

 だってそうだろう?

 自分好みで昔っから好きだった少女からのデートのお誘いだぞ。

 驚いて固まらない人物がいるのかを聞いてみたいものだ。

 

「拒否権はないよ。私がそう決めたから」

 

 神姫はそう言って俺を引っ張っていく。

 マジで、拒否することはできなかった。いや、拒否どころか言葉を発そうとすると睨まれた。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・どうしてこうなった。

 そうとしか言えない。

 神姫に連れてこられたのは『敵同盟(ファウスト)』の支部であるあのカフェだ。

 なんでここに、と思ったが、どうやら出されるコーヒーとケーキの組み合わせがベストマッチらしい。

 客層は女子高生グループやアツアツカップル、そしてやはり(ヴィラン)だろう。

 ってか、マスターもウエイトレスも(ヴィラン)だし。

 神姫は注文したケーキを頬張っている。

 五個も。

 食べすぎじゃないかと思ったが、本人は幸せそうなので何も言わない。

 俺は頼んだコーヒーを飲み、その風味をじっくりと味わう。

 こう見ると、ごく普通のカフェだ。

 (ヴィラン)が拠点としていると知らなければリラックスできるであろう雰囲気だ。

 ま、知っている以上リラックスする気はないが。

 しばらくのんびりしていると、トイレに行きたくなり、席を立った。

 神姫はケーキに夢中だ。

 トイレに入ると、ユウがいた。

 

「・・・・・・何してるんだよ」

 

「いや、なんだ、その・・・・・・ごめんな。紅のヤツが・・・・・・」

 

「いいよ。気にするな。楽しかったから」

 

 そんな会話を交わす。

 すると、ユウが壁の一部を上にスライドさせ、現れたパネルに何かしらキーを打ち込んでいく。

 ユウがしばらくポチポチしていると、機械音と共にトイレの壁が開き、地下へと続く階段が現れた。

 あまりの事に呆然としていると、ユウが、

 

「来いよ。見せてやる」

 

 と言って階段を下りて行った。

 俺はユウの姿が見えなくなると、さっさと用を足し、トイレから出て席に戻った。

 神姫は相も変わらずケーキを食べていた。

 漫画とからな主人公は言われるがまま下りるのだろうが、面倒くさいことに巻き込まれるのは確実だ。

 ただでさえ課題は山盛りなのに、やってられねぇっての。

 俺はそんなことを考えながら俺が注文したケーキを頬張る。・・・・・・美味。

 甘未は大好物なんだ。

 う~ん。しばらく通いつめようかなぁ。

 そんな事を思っていると、携帯の着信音が鳴る。

 出るとユウだった。

 

『何、ナチュラルに逃げてるの?』

 

「面倒くさいことになりそうだったから」

 

 俺はハッキリと断言する。

 寝不足で機嫌が悪いんだよ。

 

『明日の作戦についての話があるんだけど』

 

 その言葉を聞いた俺は素早く席を立ち、トイレへと向かった。

 入ると、あの扉は開きっぱなしだった。

 ・・・・・・他の客が入ったらどうするつもりだったんだ。

 俺は深いため息をついてから、階段を下りた。

 下はカフェ以上に広い空間が広がっていた。

 そして、そこには大勢の(ヴィラン)がこっちを向いていた。

 白髪(しらが)の爺さんから小学生以下と思われる少女まで、(ヴィラン)の量に軽くだが引いてしまった。

 この空間だけでも30~40人ほど。

 『敵同盟(ファウスト)』は6人の幹部を中心に造られている組織であることを考えると、他の幹部にもこれぐらいの数の部下がいる事を考えると頭が痛くなってくる。

 壊滅させるのは一筋縄では行きそうにないな。うん。

 俺がそう思いながら(ヴィラン)たちを観察していると、あの時のメイドがこちらに近づいてきた。

 

「どうも。機鰐龍兎様。賢王様がお待ちです」

 

 メイドはそう言ってから、身をひるがえし、真っ直ぐ歩いていく。

 俺は、その後に続く。

 

「ってか、上にツレが居るんだけどココで時間食う事になって大丈夫かな?」

 

「お連れの方なら“スイーツマスター”のケーキの虜になって時間を忘れているので大丈夫ですよ」

 

「おいおい。まさか、あの“スイーツマスター”も転生者なのかよ・・・・・・」

 

「そうですよ」

 

 “スイーツマスター”とは、五年ほど前から有名になった(ヴィラン)で、個性は未だに不明。

 ネットに上がっている動画で見た事があるが、コック帽がトレードマークで、その手から様々なクリームを放出することを得意技としている(例:粘度の有るクリームで足止め。水気の有るクリームで滑らす。クリームで目くらまし等々)。

 ケーキのスポンジも出せるらしい。逃走の際にスポンジを出し、クッションにして逃げている所で映像は終わっているため、個性の全容は知らない。

 だが、転生者だという事を考えると、かなり融通の利く個性なのだろう。

 ・・・・・・ん? 神姫が食べているのが“スイーツマスター”のケーキなんだよな。つまり、俺が食ったあのケーキもそう。

 後で「美味しかった」とお礼が言いたいな。

 そんな気分にさせてくれるほど美味だったよ。うん。

 俺、ファンになっちゃったよ。

 ンなくだらない事を考えていると、

 

「オイオイ、そんなガキが本当に強いのかよ!」

 

 とどこからかいきなりヤジが飛んだ。

 うるせえよ。精神年齢だったらもう30代だっての。

 軽くイラっとしながらもその言葉を無視して先へと進むと、ユウがケーキを食べながら待っていた。

 

「おう、さっさと用件を言え」

 

「明日、魔我が拠点としているカフェにオレと紅とお前含む少人数で乗り込んで占拠する」

 

「少人数で良いのかよ」

 

「ああ、全員『個性を奪われない』特典の持ち主だから大丈夫だ」

 

 なるほど。

 奪われたら大変だろうからな。

 と、俺はある事を思い出し、ユウの前に“それ”を差し出す。

 

「・・・・・・これは?」

 

「“トランスチームガン”。組織名が『ファウスト』なら外せないアイテムだよ」

 

 俺はそう言うと同時にスチームブレードを取り出し、バルブを回転させる。

 そして、

 

《デビルスチーム》

 

 そんな音声と共にユウにネビュラガスを打ち込む。

 俺のいきなりの行動に反応できなかったユウの体はあっさりとネビュラガスに包まれる。

 だが、その姿はスマッシュへと変わる事はなかった。

 つまり、ハザードレベル2以上ということだ。

 

「・・・・・・何したんだ?」

 

「その“トランスチームガン”を最大限に生かすための下準備」

 

 俺が飄々とそう言うとユウは、

 

「だったら先に言ってくれよ」

 

 と呆れたように呟く。

 言えるはずないだろう。

 もしもユウのハザードレベルが1以下ならスマッシュ化して死んじまうんだから。

 でも、スマッシュ化しなかったからよしとしよう。

 俺はユウの前の椅子へと座り、トランスチームガンの使い方とスチームブレードの使い方を教えた。

 ちなみにだが、このトランスチームガンとスチームブレードは俺が作ったもので、個性によって生み出したものではない。

 つまり、これを使っても『個性の無断使用』にはならない。『危険物所持』にはなるけど・・・・・・。

 俺は使い方の説明を終わらせると、ユウにバットロストフルボトルとフルボトルをいくつか手渡した。

 このボトルも作ったもので、個性は―――あまりだが―――使っていない。

 作り方をざっくり説明すると、個性でパンドラボックスを生み出し、家の倉庫内で小さめな―――ガチで俺の身長以下―――スカイウォールを出し、そこからガスを抽出して作り出したモノだ。

 ガスが安定しなかったりして作るのには苦労した。

 完全に個性を使わなかった訳ではないが、個性によって生み出された余波みたいなものなので特に問題はないだろう。

 

「じゃあ、明日な」

 

 俺はそう言ってその場から去る。

 周りにいた(ヴィラン)から睨むような視線が向けられているが、一切気にせず、元来た道を戻る。

 階段を上がり、トイレを出て神姫のいる席に戻った。

 

「で、あれからいくつ食べたんだ?」

 

「ん~、ひー、ふー、みー、よー・・・・・・・・・30個ぐらい」

 

「糖分の過剰摂取のレベルを超えてるぞ」

 

「だって美味しいんだもん」

 

「だからって食べすぎだ。夕食食えなくなっておばさんに怒られても知らないぞ」

 

「うっ・・・・・・」

 

 神姫は怒られる自分の姿を想像したらしく肩をガクッと落としていたが気にしない。

 ・・・・・・・・・これでも元々は神様なんだよな~。威厳もクソもないよ。

 俺と神姫は席を立ち、レジへと向かう。

 と、レジにいた店員―――もちろんこの人も(ヴィラン)―――が、

 

「店長からお代はもらわなくても良いと言われています。当店のご利用ありがとうございました」

 

 と言われた。

 店長って、ユウの事だよな? まあ、いいや。サイフ的に一切痛くないし。

 俺はそう判断し、カフェを後にした。

 

 

 

 余談だが、自室でベルトの開発をしていた時にユウから、

 

『お前のツレはどんな胃袋しているんだ。食べすぎ』

 

 と言われた。

 だよな。食べすぎだよな。

 

 




今さらながら主人公&ヒロイン設定。


機鰐(きがく) 龍兎(りゅうと)
身長:170cm
体重:65kg

短く整えられた黒髪に四角縁のメガネ。眼が悪いわけではないが、頭がよさそうに見えそうだからと掛けている。授業中―――座学―――以外では外している。
転生チートによって調子に乗ってはいるが、戦闘になると物事を客観的に見る傾向があり、勝てないと判断すれば即座に撤退する。
仮面ライダーが大好きで前世では何十万円もつぎ込むほどのオタク。
神姫の事が好きなのだが、告白する勇気のないヘタレ。
なお、前世も今世も彼女いない歴(イコール)年齢。



白神(しらがみ) 神姫(みき)
身長:142cm
体重:【見せねぇよ】

元・死神。
初仕事で大失敗をし、神から人へと転落した少女。
腰辺りまである長い銀髪に童顔。中学生の時からそうだが、よく小学生に間違われる。
仕事の失敗で殺してしまった龍兎に責められるものだと思っていたが、龍兎は一切気にする様子はなく、拍子抜けしたという。
今では龍兎の理解者であり相棒。
恋愛感情の有無は不明。
嫌いな人は峰田実。



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8話 『ファウスト』

どうも、最近、ブリザードナックルを改造しようとして途中であきらめ、元に戻したダサ男です。
今回、作者的には納得のいかない話になっています。ご了承ください。
え? 納得いかないなら書き直せ、ですか?
何度も書き直して、それでも納得がいかないんですよ・・・・・・。



 あのカフェで神姫がケーキを大食いしてから早一日。

 緑谷くんとの特訓を終えて、帰宅途中、スマホに着信があった。

 誰であろう? もちろんユウである。

 

『今夜だからウチに来てね~』

 

 と言われた。

 何、友達を家に呼ぶみたいな口調で自分たちの拠点に呼んでるんだよ。

 俺は大きなため息をつき、カフェへと歩を進めた。

 カフェの扉には『close』の看板が掛かっていたが、特に気にすることなく入る。と、

 

「龍兎ちゃん、しばらくぶり~」

 

 といきなり紅に抱き着かれた。

 俺は驚き、とっさにボディーブローを叩き込んだ。

 そうくるとは思っていなかったらしく、腹を抑えて悶絶する紅。

 それを気にする様子の無い(ヴィラン)の方々。

 どうやら慣れっこのようだ。

 ユウはというと、コーヒーを飲んで静かに座っていた。

 俺はユウよりもその隣にいた人物に目をやる

 誰であろう。“スイーツマスター”だ。

 俺は素早く、それはもうバグスターの性質を使って“スイーツマスター”へと駆け寄った。

 

「あの“スイーツマスター”ですよね!?」

 

「あ、ああ。そうだが?」

 

「ここで出しているケーキって貴方が作っているんですよね!?」

 

「うむ」

 

「とても美味しかったです!!」

 

 俺がそう言うと、堅物そうな顔がふにゃっとにやけた。

 

「そうかそうか。そう言ってもらえるとやりがいをより感じられつってモンだ。ありがとうな」

 

 と本当に嬉しそうに言う姿は、普通のパティシエそのままだった。

 やっぱり、自分の作ったものを褒められるのは(ヴィラン)でも嬉しいのだろう。

 

「決戦前だってのにずいぶんと余裕だな。オイ」

 

「良いだろう。美味しかったんだから」

 

 俺はそう言いながらユウの前に座り、詳しい作戦内容を聞いた。

 そして、俺たちは魔我のいる拠点へと向かう事になった。

 ちなみにだが、さすがに制服からは着替えている。身バレ怖いもん。

 

 

 

 

 

 

 魔我の拠点はまさかのヒーロー事務所―――小さめ―――があるビルの一階に設けられているカフェだった。

 ・・・・・・度胸あるな、魔我よ。

 まあ、木を隠すなら森の中とも言うしな。

 ヒーローたちもまさかヒーロー事務所のすぐ近くにヴィランの拠点があるとは思わないだろうしな。

 盲点と言えば盲点だ。

 そんなことを思いながら俺たちは作戦を決行する。

 まずは正面と裏口から数人が突入する。そして、そっちに相手が集中している間に、ユウの部下の“通理(とおり) 葉真(ようま)”の個性:『通り抜け』で地価の本拠点まで一気に下る(穴をあけるというよりトンネル効果みたいな感じですり抜けた)。

 そして、魔我の部下たちを一人一人戦闘不能にしていく。

 あのメイドさん、“仕原(つかはら) (ゆみ)”は個性:『狙撃』により、的確に相手の急所を撃ち抜いていく。

 ユウは個性:『英雄王』で出した剣とトランスチームガンでザコを無力化し、紅に関しては炎をジェットのように噴出させ、高威力の物理技を喰らわしていく。

 ちなみにだが、ユウや紅とその部下たちは個性をフル使用しているが、俺は身体能力だけで殲滅していく。

 どれだけザコを無力化しただろうか。奥から短い刀を持った細身の男がゆったりと現れ、瞬間、男の姿がまるで空気に溶けるように消えた。

 マズイと判断し、俺はトランスチームガンから黒い霧を放出する。

 そして、

 

「そこだぁ!!」

 

 霧の乱れが不自然にあった場所を思い切り蹴飛ばした。

 

「なっ・・・なぜ居場所が・・・・・・」

 

「ンな事自分で考えな」

 

 俺は男の疑問を解消させる暇を与えず、その足にトランスチームガンで風穴を開けた。

 痛みに顔を歪ませ、床へと倒れこむ男。

 

「がっ・・・クソが・・・・・・」

 

「お前が、母さんを傷つけた“大醍羅(おおだいら) 斬刃(ざんば)”か」

 

「・・・母さん・・・・・・? ああ、魔我さまの(めい)で斬り捨てたあの女か。ということは、お前が機鰐龍兎か」

 

「やっぱりお前だったか」

 

 俺は大醍羅の顔面を全力で蹴り飛ばす。

 

「下らねえことしやがって。そっちが何もしなきゃこんなことしてねぇってのによぉ」

 

 そう言って大醍羅の上に馬乗りになり、何度も顔面を殴打する。

 見た目通りパワーはないらしく、何ら抵抗もなくそのまま動かなくなった。

 弱い。

 これはアレだ。個性に頼りっきりで生きてきたヤツだ。

 俺は頭を抑え、ため息を吐く。

 まさか、ここにいる(ヴィラン)はこんなやつが多いのか? だとしたら変身しなくても何とかなりそうなんだが・・・・・・。

 まあ、それは後々考えよう。

 俺はそう思いながら奥へと進む。

 ユウと紅はザコ(ヴィラン)と遊んでいた。

 ・・・・・・ユウよ。トランスチームガンは銃であって鈍器ではないぞ。

 気にしないでおくか。壊したら修理代をもらおう。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

「よう、魔我。遊びに来てやったぞ」

 

「・・・・・・君の方から来るとは思っていなかったよ。それで、何のようかな? ボクはこれでも多忙なんだよ」

 

「多忙だぁ? どうせロクでもない事やろうとしてるんだろうが」

 

「ロクでもない事? 何を言っているんだ? ボクはこの世界最強の帝王になろうとしているだけだよ」

 

 何だこのヤベエやつ。

 最上(もがみ)魁星(かいせい)かよ。スパークリングするぞオラ。

 

「ほら、忙しいんだ。用事がないなら帰ってくれないかな?」

 

「あるに決まっているだろう」

 

 俺はそう言いながらトランスチームガンを取り出す。

 

「ん? 個性の無断使用かな? いいねぇ君も(ヴィラン)になるんだ」

 

「違えよ。それにこれは個性を使ったわけではない」

 

 俺はロストボトルを取り出し、数回振る。

 そして、ロストボトルのキャップを正面へ合わし、トランスチームガンへ装填する

 

《コブラ》

 

 そんな音声と共に待機音が流れる。

 俺はトランスチームガンの銃口を下へと向けながら、

 

「蒸血」

 

 そう言うと同時にトランスチームガンのトリガーを引く。

 

《ミストマッチ!》

 

 トランスチームガンの銃口から黒い霧が噴き出し、俺の体を包む。

 

《コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『ブラッドスターク』へと変わる。

 おお。何だこれ。

 いつもと感覚が違うな。ライダーシステムとの違いがやっぱりあるのか?

 まあ、それは後で考えることにしよう。

 俺はスチームブレードを取り出し、魔我へと飛び掛かった。

 魔我が手をかざすと当時に、薄い赤色の円形のバリアーが展開された。

 スチームブレードとバリアーがぶつかり、火花が散る。

 俺は一度後ろに跳ね退く。

 すると、俺がさっきまでいた場所がいきなり爆発した。

 だが、それだけでは終わらない。

 俺は部屋の中を移動し続ける。すると、俺の後を追うかのように爆発が起き続ける。

 どんな個性だよ。

 

「オイオイオイ。ボクに一撃も与えられていないけど、そんなんで勝つ気でいいたのかい? ・・・・・・ちゃっぱり、ボクよりも弱いね。そんな君を幹部の誰よりも強い、と言った賢王と紅は本当に弱っちいんだね。ま、いつかボクの奴隷にして可愛がってあげるんだけど。う~ん、賢王は道具なしに裸でトイレ掃除でもさせ続けよう。そして、紅は良い体をしているから、それでスッキリしちゃうのもありかなぁ」

 

「・・・・・・だまっとけ峰田以上の変態。俺は幹部全員と会ったことは無いが、少なくともお前よりユウや紅の方が何倍も強いよ」

 

 ちなみにだが、この姿になるとボイスチェンジャーによって俺の声色も大幅に変わっている(CV :金尾哲夫)。

 

「なっ・・・・・・・・・!」

 

「この戦い方がその証拠だ。身を守って安全圏から一方的に、それでいて苦労することなく戦闘を終わらせようとしている。それは暗に『私は打たれ弱い泣き虫です』と公言しているようなもんだぞ」

 

「ふざけたことを言うな!! ボクの力はあの『オール・フォー・ワン』なんだぞ!! 最強の“個性”何だぞ!! すべてが手に入る、ありとあらゆることができる“個性”だぞ!! お前みたいな、転生チートで調子に乗っているだけの弱個性でしかないザコなんかが越えられる壁じゃない!!!」

 

 弱個性・・・だと・・・・・・。

 ふざけんな。たしかに魔我の個性よりは弱いかもしれない。

 転生チートで調子に乗っているのも認めよう。

 だけどな、何ら努力をしてこなかった訳ではないんだよ。

 俺の力は偽物でまがい物だけど、それでも本当の仮面ライダーになりたくて。それを目指して必死に走って来たんだ。

 

「・・・・・・・・・お前さ、『僕のヒーローアカデミア』に詳しいわけじゃないんだろ? だったらさ、『オール・フォー・ワン』がどうなるかも知らないよなぁ」

 

「・・・・・・いきなりなんだよ。時間稼ぎのつもりか? 最強の“個性”の前じゃガキの見る絵空事も簡単に潰されるものだからってそんな行為には意味無いよ」

 

「俺が死んだときは原作20巻が発売されたばっかりでさ、かなり続きが気になっているところなんだよ」

 

「それで? そんな時間稼ぎ意味無いよ」

 

「・・・・・・『オール・フォー・ワン』は負けるよ。それは最強の“個性”なんかじゃない。ただ単に使い勝手のいい便利な“個性”ってだけだ。でも、使いこなせなければ全く意味はない」

 

「負、ける・・・・・・? そんな、ありえない。最強の“個性”だぞ!!」

 

「だから、それは最強の“個性”なんかじゃない。ほら、現にお前は負ける」

 

 俺がそう言った瞬間、魔我を背後から高温の炎が襲い、その右手を炭へと変える。

 

「あ、ギャァァァアアアアアアアアア!!!」

 

 大きな悲鳴を上げ、倒れこむ魔我。

 無様だな。

 

「こっちがただ逃げ続けているだけとでも思ったか? 残念。どんな“個性”にも欠点や弱点がある。転生特典個性以外はだがな。お前の使っている個性は転生者やそこら辺の(ヴィラン)から奪ったモノだろ? 何かしら欠点があると踏んだが当たりだったようだなぁ」

 

 そう、コイツがバリアーを使う時は確実に右手を突き出してから使っていた。

 そこで俺が立てた仮説は『右手のひらから強力なバリアーを張る個性』であろうという事だ。

 だったら、その右手を潰してしまえば問題ないだろう。

 そして、予想敵中だったようだ。

 

「ナイスアシスト、紅」

 

「う~ん。その声なんかゾワゾワして嫌だな。かわいい感じしないし」

 

 可愛さなんて求めてねえよ。

 

「クソ。ボクが・・・こんな・・・・・・痛い痛いっ・・・・・・・・・」

 

「うるせえよボンクラ。お前が望んだ道だろう」

 

「ボクはここで終わる玉じゃないんだ・・・。だって、最強の“個性”の持ち主だぞ・・・・・・。あの『オール・フォー・ワン』だぞ。負けるはずが、あっていいはずが、それならボクのこの個性(チカラ)は・・・・・・」

 

 遠い目をしてそう呟く魔我。

 ああ、痛みと恐怖とショックで現実逃避し始めているな。こりゃ。

 やっぱり打たれ弱い泣き虫だったか。

 

「もういいや。これじゃ話にならない。やっちゃってよ、ユウ」

 

 俺がそう言うと同時に大きな発砲音が当たりに響いた。

 そして、魔我の頭に風穴があき、そのまま動かなくなった。

 部屋の入口の方を向くと、そこには『ナイトローグ』がいた。勿論、ユウである。

 

「なんか、上でも騒ぎになっているみたいだぞ」

 

「プロヒーローもどんどんと来てる。早く逃げないとまずい」

 

「わかった」

 

「了解~」

 

 紅よ。返事が軽すぎないか?

 まあいいか。

 俺たちはどうするかを話し合い、ビルの屋上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 朝、ニュースでは昨日の事で持ちきりになっていた。

 新聞もそうだ。

敵連合(ヴィランれんごう)』に続く新しい(ヴィラン)の組織、『ファウスト』が大きく一面を飾っているのを見た時は笑いが止まらなかった。

 

『“敵連合(ヴィランれんごう)”に続く新たな組織が出現!?』

 

『“ファウスト”とは? “敵連合(ヴィランれんごう)”との繋がりはあるのか!?』

 

 等々、新聞は大きく綴っていた。

 ブラッドスターク()ナイトローグ(ユウ)がビルの上に立ち、その後ろでは紅い火柱が上がっている。

 下から照らされているのも相まって、悪役感がもうハンパない事になっている(語彙力ゼロ)。

 だが、『ナイトローグ』と『ブラッドスターク』をコウモリ男とコブラ野郎と書くのは腹立たしい。

 もう少し何とかならなかったのかよ。

 まあ、諦めるか。

 正式名称は後々広めていこう。

 俺はそう考え、学校へと向かった。

 

 

 

 ちなみに、ユウからは、

 

「このコウモリのヤツかっこいいな!」

 

 と言われた。

 だよな。かっこいいよな。

 

 

 




龍兎が着々と(ヴィラン)への道を進んでいる気がする。


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体育祭 編
9話 『バレた?』


多分、校長(ネズミ)は気づいた上で泳がせていると思う。



「さて、僕の質問に答えてもらうよ」

 

 学校について早々、校長含む教師数名に個別懇談室まで連行された。

 まさか、ブラッドスタークの正体バレた?

 もしそうならこの状況は多いにマズイ。

 周りにはプロヒーロー数人。しかも背後にいるのは相澤先生だ。

 俺の作ったトランスチームガンは家に置いて来てある。つまり、個性を消されたらただのちょっと力の強い無個性になってしまう。

 

「答えるって、何をですか?」

 

「このコウモリとヘビの(ヴィラン)について。君の力の元になっている仮面ライダーについて僕は知らないけど、どこか似ている気がするんだ。知っていたらでいい、答えてくれるかい?」

 

 あ、そういう事。

 ・・・・・・バレてはいなさそうだな。

 まあ、今後気を付けて行こう。そうしよう。

 

「校長、コレを仮面ライダーと一緒にしないでください。そもそも元のシステム自体が違う。ライダーシステムなら戦って行けばハザードレベルが上がっていくけど、こいつらは上がらないからな」

 

「? ハザードレベルとは何かな?」

 

「仮面ライダービルドに変身する際に必要な適性みたいなものですよ。普通の人は無個性だろうが有個性だろうがハザードレベルは0、というかハザードレベルという概念自体が無い。“ネビュラガス”というガスを注入されることでやっとハザードレベルが生まれる。1だと死亡。2だと怪人(スマッシュ)化。3以上でやっと仮面ライダーに変身できる。ハザードレベルが上がれば上がるほど強くなれる。ちなみに、人間じゃ5以上にはなれないけど面倒くさいから割愛」

 

「ふむふむ。それで、この二人は?」

 

 長々とそれっぽく語った言葉―――大体事実―――にそう返してくる校長(ネズミ)

 ここで正式名称を言っておけばメディア発表の時も何とかなりそうだな。

 

「・・・・・・・・・もし、本当に『ファウスト』なら、こっちの黒いヤツが“ナイトローグ”。もう片方の赤いヤツが“ブラッドスターク”。かなり凶悪なヤツらですよ」

 

 俺はそう前置きしてから仮面ライダーについて纏めたファイルを取り出し、話を始める。

 と、言ってもメインに語るのはビルドだが。

 もっとも、日本を分断したスカイウォールの世界とこの世界は次元が違う―――正確に言えばビルドたちが作った新世界と地続きと思われる―――ため、『とある国』と言葉を濁した。

 そして、ファウストがその国にあった裏組織である事。

 分断したその国を争わせ、最終的に国を乗っ取った事。

 最終的に、ビルド含む仮面ライダーたちによって壊滅させられた事(ファウストは途中でほぼ壊滅したも同義だが、そこは濁しに濁して話した)。

 

「まさか・・・残党・・・・・・? いや、それにしては復活が遅すぎる。だけど・・・、そんな・・・・・・」

 

 とわざとらしいとは思ったがまるで有り得ないものを見て混乱している様子を演じた。

 周りにいた先生も俺の反応を見て「本当に知らないのか」といった反応を見せる。

 ソウデスヨ。ワタシハナンニモシリマセンヨ。

 

「相澤先生、昨日この現場にいましたよね。だったらこれが俺の個性によるものではないと分かっているのでは?」

 

「・・・・・・・・・何でいたことを知っている?」

 

「俺の家、あそこの近くですからね。コンビニでアイスを買った帰りに野次馬していたんですよ」

 

「・・・・・・・・・夜遅いだろう」

 

「ゲームが忙しくて」

 

 そう言うと、相澤先生は「高校生としての自覚を持て」と言ってため息をついた。

 しょうがないではないか。

 殲滅作戦(ゲーム)があったんだからさ。

 

「ああ、そうそう。この二人の姿は個性によるものではなくパワードスーツを着ているようなモノなので個性は使用していないみたいですよ。まあ、もし何かありましたらまた聞いてください。“過去の英雄(仮面ライダー)”についてだったらいくらでもお話ししますから」

 

 俺のこの言葉でこの話し合いは終了となった。

 最後に、

 

「君は関わっていないよね」

 

 と聞かれた。

 それに対し俺は、

 

「関わってはいませんよ。ただ、ちょっと嫌な予感はしますがね・・・・・・」

 

 とだけ言った。

 そうだな、問い詰められた時のストーリー構成としては、『サポート科にスーツにできないか依頼しようと思ってデータ化していたモノを盗まれた』という感じで行こう。

 そんなことを思いながら俺は教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「どう思う?」

 

「嘘は付いていないようには見えましたが、演技の可能性もあると思います」

 

「そうか。僕の方でも彼の言った“仮面ライダー”について調べてみる。もし出来たら彼が先ほど見せてくれた資料を借りてきたりしてくれ。それがあればさらに深くまで調べられると思う」

 

「分かりました。今度、授業の時にでも少し理由を付けて借りてみます」

 

「頼んだよ。相澤先生」

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 え? 朝から一気にとんだ?

 そりゃそうだよ。授業内容とか聞いてもつまらないだろう?

 

「さて、緑谷くん。君に聞きたいことがある」

 

「な、何・・・かな・・・・・・?」

 

「なぜこいつらがいる?」

 

 俺はそう言って緑谷くんの背後を指さす。

 そこにいる方々は誰であろう。そう、クラスのメンバーだ。

 切島鋭児郎。芦戸三奈。飯田天哉。白尾猿夫。上鳴電気。蛙吹梅雨。葉隠透。耳郎響香。麗日お茶子。常闇踏陰。

 多いよ。

 緑谷くん合わせて総勢11人。

 何の用だ、とドストレートに聞くと、どうやら特訓を手伝ってほしいらしい。

 だとしても多いよ。

 俺は教えるの下手なんだ。前世の時から感覚で大抵の事は出来たらからさ。

 理論的に語れるものなんかほとんどないんだよ。

 ギュインギュインのズドドドドドドみたいに説明してやろうか? あ゙ぁ?

 俺は頭を押さえて蹲る。

 ただでさえ教え下手の俺が知恵を絞って緑谷くん(ワン・フォー・オール)に合わせた特訓方法でやってるから他の人だと確実に合わない。

 ・・・・・・・・・しょうがない。ゲームスタートと行きますか。

 俺は即興で作った特訓方法を全員に説明した。

 まあ、簡単に言えば鬼ごっこだ。

 最初は緑谷くんと切島くんの二人で俺一人を捕まえられたら勝ちという簡単なゲームだ。

 

「オイオイ。大丈夫か? 俺、そういうの得意だぜ」

 

「簡単な鬼ごっこじゃ無いに決まっているだろう」

 

 切島よ。お前は俺を何だと思っているんだ?

 俺はそんな事を思いながら、腰にゲーマドライバーを装着する。

 そして、ガシャットを右手に持ち、起動する。

 

《マイティアクションX!》

 

 そんな音声と共に俺を中心にゲームエリアが広がる。

 俺は右手を左に伸ばし、大きく右へ振り、それに左手を添える。

 

「変身!!」

 

 そう言うと同時にガシャットを半回転させ、左手に持ち替え、上に大きく上げてからベルトに差し込む。

 

《ガシャット!》

 

 俺を中心に展開されるキャラ選択パネル。

 目の前のエグゼイドのパネルを俺は右手でタッチ選択する。

 

《レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッツネーム? I`m a 仮面ライダー》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル1』へと変わる。

 う~ん。やっぱり見た目完全にゆるキャラだな。

 ハッキリ言うと最初の頃は仮面ライダーとは思えなかったな。最後の方は滅茶苦茶格好良かったけど。

 クラスメイトたちはと言うと、かなり驚いたらしくザワザワとうるさい。

 

「さて、俺はこの姿で逃げるからな。制限時間以内にさっさとタッチしろよ」

 

「その姿だったらすぐに捕まえられるぜ」

 

 切島よ。油断大敵というレベルを超えた油断をしているな。

 俺はそう思いながら後ろへと跳ぶ。

 緑谷くんと切島くんが数秒後に追いかけてくる。

 全力で向かって来る切島くんの進路をふさぐようにチョコ型ブロックを出現させ、壮大に転ばす。

 そんな俺の左側から突撃してくる緑谷くん。

 空中で身動き取れないのに下手にジャンプするのは落第点だな~。

 俺は近くにあったチョコ型ブロックを破壊し、エナジーアイテムを取る。

 

《高速化!》

 

 エナジーアイテムが適応されたことにより俺のスピードのが底上げされる。

 空気中に残像が残るレベルで素早く動き、難なくかわす。

 勢いあまって床に顔をぶつける緑谷くん。

 動きは良かったんだが、いかんせん粗削りだな。

 まあ、そこは今後の課題としておこう。

 二人は全力で俺を捕まえに来たが、ひょいひょいと避けている内にあっさりと終了してしまった。

 結局、二人は一切俺に追いつけることは無く、息切れで大の字に寝転がっている。

 最初から飛ばしすぎなんだよ。

 スタミナ管理を重要視しなさい。まったく・・・・・・。

 

「さて、残りの皆もこんな感じで行くよ」

 

 マスクで隠れて皆には見えないだろうが俺は邪悪な笑みを浮かべていた。

 そう。悪いことを考えている人間の笑みだ。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、俺は予定あるから帰るな~」

 

 俺はそう言い残してトレーニングルームを後にする。

 鬼ごっこが終わり、全員ヘトヘトになって寝転がっている。

 え? 皆の事を放置してどこに行きたいか、だって?

 ユウの経営するカフェに行ってケーキ食べるのとお見上げに買っていくんだよ。

 だって、今日、母さんが退院するんだから。

 

 

 

 

 

 

 機鰐龍兎が鼻歌交じりに歩を進める後ろをとある人物が付けて行く。

 その人物の名前は相澤消太。プロヒーローであり少年の担任教師である。

 相澤消太は“とある疑惑”の調査の為に少年を監視している。

 少年に掛けられている疑惑。

 それは“ファウストと関りを持っているのではないのか”というモノだ。

 もし、それが事実なのだとしたら雄英としては大きな処罰を与え、少年を(ヴィラン)と断定しなければいけなくなる。

 その証拠を得るためのモノであり、仕事であるため、決してストーカー行為ではない。

 相澤からしたら少年が(ヴィラン)と関わっているなど信じられなかった。

敵連合(ヴィランれんごう)』が襲撃してきた際も、誰よりも先に臨戦態勢へと入り、クラスメイトを守るべく突撃したヤツなのだ。

 (ヴィラン)と関りがあるなどと信じる事は出来なかった。

 しばらく様子を窺っていると、少年はとあるカフェに入って行った。

 最近できたばかりなのだが、もう知る人ぞ知る隠れカフェ。

 相澤は自然体で、普通の客のようにカフェに入る。そこには・・・・・・、

 

「見ろよ、ユウ。これ凄くねぇか?」

 

「スゲェけど止めろよ。・・・・・・ブファッ」

 

「止めろと言いながら笑ってんじゃねぇかよ。オイ」

 

「しょうがねぇだろうが・・・・・・フッハハハハハハハハハ」

 

 件の少年がヨガのようなポーズを取り、その頭に熱々のコーヒーの入ったカップを乗せて椅子の上でバランスを取って騒がしく遊んでいるではないか。

 さすがの相澤もあまりの光景にめまいを起こしそうになった。

 遊び方を考えろ、と言いたくなったが我慢し、少し離れた席に座って様子を窺う。

 少年と楽しそうに笑っていたのは黒い和服を着た少年だった。

 和服の少年は機鰐龍兎と仲が良いらしく、子供そのままにふざけ合っていた。

 相澤はコーヒーとケーキを注文し、それをマスターが持ってきた所で、

 

「あそこの子供たちがうるさくありませんかね? 注意とかは?」

 

 と聞いたところ、

 

「あちらにいる和服の方がこの店の店長です」

 

 とマスターはさも当然のように言う。

 じゃあマスターは一体どういう立場なのか聞くと、

 

「借金背負って夜逃げ後に拾われたダメ人間ですよ・・・・・・」

 

 と帰ってきた。

 相澤は注文したコーヒーを飲みながら「地雷だったか」と警戒したが、マスターは特に気にしていないようだ。

 少年たちはゲームの話からチョコケーキとチーズケーキのどちらが美味しいか、巨乳と貧乳のどちらが好みかというゲスい話まで笑いながら駄弁っていた。

 それを見て愛澤は「こんなヤツが本当に(ヴィラン)と関わっているのか?」という疑問がより膨らんでいくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 やっぱり付けられていたか。

 バカの振りをして正解だったな。

 決して楽しんだりはしていないぞ。演技だ。演技。

 ガキに戻った気分そのままにはしゃいでいた訳ではない。

 そんな事を思いながら帰路へ歩を進めている俺の後ろにはもちろん相澤先生がいる。

 まあ、しばらくは馬鹿な学生のフリをして生活することにしよう。

 雄英体育祭後は色々と大変になっていくからこんなことに時間を割こうとはあの校長(ネズミ)も思わないだろう。・・・・・・・・・多分。

 っと、いつの間にか家についていた。

 俺は自然体そのままに家の扉を開け、

 

「ただいま」

 

 と静かに、いつものように言う。

 すると、奥から本当に元気そうな母さんと、早めに退社して帰っていた父さんの声がした。

 ああ、やっと俺の日常が戻って来たんだな。そう実感した。

 

 

 

 

 

 

 それから、俺は雄英体育祭まで放課後はみんなに合わせた特訓をし、下校中にカフェに寄ってユウとバカみたいな会話をしながらケーキを食べる生活をしていた。

 個性の関係で一人ひとりに合った特訓方法を考えるのが大変だったが何とかした。

 これは俺の持論なのだが、まずは体を鍛えてからが始まりである、というモノがある。

 個性に頼りきりになっていると逆に弱くなる。

 あの時戦った“大醍羅(おおだいら) 斬刃(ざんば)”がその例だろう。

 姿を消す個性に頼りきりだったせいで正面戦闘に全く対応できず、一方的にボコボコにできた。

 ハッキリ言うと、ああなったらおしまいだ。

 だがら、俺は遊びながらできる特訓として鬼ごっこを選んだのだ。

 ムッフフ、ムッフフ。

 などと不気味な笑みを浮かべている俺が今どこにいるかと言うと、1-A組の控室だ。

 そう、今日は雄英体育祭本番当日だ。

 俺の目の前では轟くんと緑谷が原作通りの会話をしている。

 そして、スタジアムへと向かう時間になった。

 

 

 

 

 

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!? (ヴィラン)襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科!! 一年A組だろぉぉ!!?』

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 うるさい。

 司会役も観客も滅茶苦茶うるさい。

 しっかし。人多いな。

 A組に次々と入ってくる別クラスの方々。

 俺たちは壇上前で一列に並ぶ。壇上にいるのは、18禁ヒーロー『ミッドナイト』だ。

 そして、選手宣誓で代表選手の名前が呼ばれるところまで行った。

 爆豪が呼ばれるのだろう。

 そして全生徒に喧嘩を売るのだろう。

 そこが見たいがためにワクテカしていると、代表生徒の名前が大声で呼ばれた。

 

「選手代表!! 1-A 機鰐龍兎!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・は?

 何も聞かされていないんだけど?

 ま、まあ。ここで焦っても始まらない。

 俺は自然体で焦っている素振りを一切見せず、壇上へと向かう。

 そして、

 

「宣誓の前に少し。観客席にいるプロヒーロー共、しっかり見ろよ。テメェらは娯楽で来ているんじゃなくてスカウト目的で来ていることを忘れるな。こっちはプロになりたいために全力でやるんだ。しっかり本質を見れないようならさっさと帰れよ」

 

 俺がそう言うと、プロヒーローたちからのブーイング。

 ああ、うるさい。

 俺は頭をポリポリと掻いてから、ビルドドライバーを装着し、ボトルを差し込む。

 

《ラビット タンク ベストマッチ!》

 

 俺が何をしようとしているのか分からないらしいプロヒーローは、

 

「ふざけてるのか!」「何遊んでいるんだ!」

 

 等々騒がしくしている。

 ああ、コイツらは見込み無し。

 俺は深いため息をつきながらレバーを回し、スナップビルダーを展開する。

 

《Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 俺が仮面ライダービルドに変身すると、客席のざわつきがより大きくなる。

 だが、それはブーイングではなく俺の姿が何なのかを話し合ったりする声だった。

 

「テメェらプロヒーローの中には名声が欲しいが為に、目立ちたいが為にそうなったアホが一定数いる。俺はそういうアホが大っ嫌いなんだ。そんなヤツにヒーローを語る資格はないと思え!! 根底からヒーローを間違えているヤツはヒーローじゃねぇ!! 見返りを求めてるヒーローはヒーローではない事を思い知れ!! 今日、俺が・・・いや、俺たちが見せてやる!! ヒーローってのをなぁ!! 以上!!」

 

 俺は叫ぶようにそう言い、壇上を下りる。

 ああ、なんでこんな事叫んでしまったんだろう・・・・・・。つい勢いそのままに叫んでしまった。

 観客席のヒーローがあまりにもヒーローじゃないからって。ハァ・・・・・・。

 ちなみにだが、変身は解除していない。

 え? なんで解除しないか、だって? 分かれよ。

 俺が下り、列に戻ると、困惑していたミッドナイト先生は慌てて第一種目の発表へと移った。

 

「さ、さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! さて、運命の第一種目!! 今年は・・・・・・これ!!」

 

 ミッドナイトがそう言うと同時にスクリーンにでかでかと、

 

[障害物競争]

 

 と表示された。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km(キロ)! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフ・・・・・・。コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ、位置につきまくりなさい・・・・・・」

 

 ミッドナイトに促され、全クラスの生徒たちがスタート位置へと集う。

 俺もボトルを振りながら様子を見る。

 そして、

 

「スターーーーーーート!!」

 

 その声と共に一年生全員が一斉に走り出した。

 

 

 

 




オリキャラ設定


賢王(けんおう) (ゆう)
身長:174cm
体重:73kg

龍兎の前に現れた転生者。
黒い服を好み、特に和服が好きで毎日黒い和服を着ている変人。
裏組織、『敵同盟(ファウスト)』の幹部。
個性:『英雄王』により、Fateシリーズの”ギルガメッシュ”に近い力を持っているが、本人はそれ中心の戦い方はせず、自身を高める事を楽しんでいる。
(ヴィラン)ではあるが、真面目かつ気さくな性格でプロヒーローですら彼が(ヴィラン)であることを見抜けるものはまずいない。
龍兎と馬が合い、良い信頼関係を築いている。
前世で関りがあった可能性もあるが、お互い前世の名前を名乗っていない為、関係性は不明。
趣味、筋トレ。
苦手な人物、仕原(つかはら)(ゆみ)



仕原(つかはら) (ゆみ)
身長:162cm
体重:【見せません。見たら殺しますよ】

転生者。
賢王雄に仕えるメイド。
元々はフリーの殺し屋として(ヴィラン)をやっていたが、”ある事”が切っ掛けで賢王雄と出会い、彼に心から仕えるメイドとなった。
賢王雄の命令を絶対とし、賢王雄の命令なら自殺すらためらわないほど。
普段から賢王雄の後に続いて行動したりすることが多く、彼自身がそれを嫌がっているのには(なぜか)気が付いていない。
個性:『狙撃』によって彼女が放った投てき武器(石、槍等)・発射系武器(銃、ボウガン、大砲等)は彼女の狙った場所に必ずヒットする。
だが、彼女の恋のキューピットは想い人の心を撃ち抜いた例はない。
好きな人、賢王雄。
嫌いな人、賢王雄に無礼な態度を取った人物全て。


通理(とおり) 葉真(ようま)
身長:155cm
体重:49kg

転生者。
気さくな性格で礼儀知らずだが、なぜか憎めないヤツ。
個性:『通り抜け』は壁や地面を通り抜け、自由自在に移動し、目的の場所まですぐに移動できる個性で、本人曰く「女湯を除きたかったから」らしい。
その性格とは裏腹に日常生活、プライベートは一切不明で、賢王雄も内心何を考えているのか分からず不気味に思っている。
なお、普段は部屋に引きこもってエロ本を読んでいる。
ちなみにだが、これでも中学生だ。


(くれない) 華火(かほ)
身長:180cm
体重:【個性の使い方によって変わるよ☆】

転生者。
自分勝手でわがままで思い立ったらすぐ行動というかなり困った人。
こんなんでも裏組織、『敵同盟(ファウスト)』の幹部。
普段から周りに迷惑を掛まくりだが、戦闘時に関しては幹部トップの実力者。
年下相手にお姉ちゃん面する傾向があり、龍兎の事を弟のように思っている。
個性:『不死鳥(フェニックス)』はその名の通りの個性なのだが、紅華火本人もその全てを把握している訳ではなく、その力は未だ未知数。
普段からラフな格好をしていて、時折発生するチラリズムは健全な高校生の目に毒である。発育も良く、何がとは言わないが、八百万(やおよろず)(もも)よりも大きい。
なお、ブラジャーは付けていない模様。
性知識は豊富(自称)で、賢王雄の経営するカフェに来ている龍兎にアピールをかますがことごとく無視されている。
好きな人、機鰐龍兎。
嫌いな人、おっさん(正確には年上全般)。



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10話 『雄英体育祭① 予選通過』

ああ、どんな展開にしようか思いつかない・・・・・・orz



 一斉に走り出す1年生。

 だが、スタートゲートが狭く、思いっ切り詰まっていた。

 あ~あ。大変そうだな。

 俺はそう他人事のように思いながらボトルを入れ替える。

 

《パンダ ロケット ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《ぶっ飛びモノトーン ロケットパンダ イェーイ!》

 

 俺はロケットパンダフォームへとビルドアップ(フォームチェンジ)し、左手のロケットを使って一気に飛翔する。

 前の方では轟くんに凍らされて動けなくなる者多数。

 そこをうまく切り抜けているのは1-A組の生徒が大半だ。

 少し進んですぐ、障害物が見えてきた。それは、

 

『さぁ、いきなり障害物だ!! まずは手始め・・・・・・第一関門! ロボ・インフェルノ!!』

 

 俺のセリフを取るな、プレゼント・マイク。

 と、司会に言うセリフじゃないか。

 俺はとりあえずどうなるかの様子見をする。

 いや、どうなるかは知っているんだよ。ただ、ナマで見てみたいじゃん。

 などと考えている内に、轟くんが0P(ヴィラン)を凍らせて先へと進んで行った。

 俺はみんなが突破するところを見てから先に進む。

 

『オイオイ。第一関門チョロイってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォーーーーール!!!』

 

 う~ん。マンガ読んでた時からそうなんだが、こんな大きな穴をどうやって掘ったんだろう?

 そして、どこまで深いんだろう?

 まあ、飛んでいるから関係ないけど・・・・・・あれ?

 

「必殺!! 私が勝つキーーーーーーック!!!」

 

「ゴファアア!!」

 

 少し疑問が頭に浮かんだとほぼ同時に後ろから思いっきり蹴られ、穴へと真っ逆さまに落ちそうになった。

 落下途中で体をひねり一気に急上昇して、途中の島に着地する。

 ああ、蹴られた場所が痛い。

 俺を蹴った犯人はもちろん神姫だ。

 

「痛ってぇ。何だよ」

 

「最近私の影が薄い気がするんだけど」

 

「・・・・・・で? なんで俺の背中を蹴飛ばした?」

 

「お祭りのため」

 

「ハァ・・・・・・。だったら勝ち上がって午後のトーナメントで戦えばいいだろうが」

 

「あ、そっか」

 

 そっか、じゃねえよ。

 俺は大きなため息をついてから障害物競争へと戻った。

 前方では地雷の爆発によって生じた煙が見えた。

 ・・・・・・出遅れた。

 俺は大慌てで地雷原の上を飛行したが、結局5位だった。

 ちなみにだが、飛んでいるときに何人か吹き飛ばしてしまった。その中には原作で第二種目まで勝ち残った人もいたが気にしない。気にしたら負けだ。

 

 

 

 

 

 

 騎馬戦。

 2~4人で1チームを作り、相手のポイントを奪い合うゲーム。

 俺は神姫と組むことにした。

 

《爆走バイク!》

 

「二速変身」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ! 爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク!》

 

 そんな音声と共に俺は『仮面ライダーレーザー バイクゲーマー レベル2』への変身を完了させる。

 そう。俺が馬役だ。

 バイクだけど。馬役だ。

 ヘルメットをかぶり、俺にまたがる神姫。

 準備万端だ。さあ、ショータイムだ。

 え? セリフが違うって? 気にすんな。

 

『さァ上げてけ(とき)の声!! 血で血を洗う英雄の合戦が今!! 狼煙を上げる!!! よォーし。組み終わったな!!? 準備は良いかなんて聞かねえぞ!! いくぜ!! 残虐バトルロイヤル!!』

 

 うるせえ。

 

『カウントダウン!! 3!! 2!! 1・・・!! スタァーーーート!!!』

 

 プレゼント・マイクによって騎馬戦がスタートした。

 みんな一斉に緑谷に襲い掛かっている。

 

「行くぞ! 神姫!!」

 

「はいよ!!」

 

 神姫は俺のエンジンを吹かし、緑谷に集中しているヤツらへと一気に走り出す。

 やはり有個性と言ってもバイクの早さにとっさに対応できるようなヤツはそうそういないだろう。

 一気に駆け抜け、ハチマキを取るついでに物間寧人の騎馬を轢き倒しておく。

 

「すまない!! 勢いを出しすぎて止まれなかった!!」

 

 もちろん嘘である。

 俺は物間寧人の性格がかなり嫌いなんだ。

 ほら、今も後ろからは、「これだからA組は~うんぬんかんぬん」だの「一人で騎馬戦はルール違反で~あれこれそれやれ」等々聞こえてきているがまるっと無視する。

 ルールでは悪質な騎馬崩し目的の攻撃をした場合、一発で退場になるが、今ノハ止マレナカッタダケダカラショウガナイヨネ。

 そんな俺の横では緑谷と爆豪と轟くんがポイントを廻って戦っているがそれをまじまじと見ている暇はない。

 騎手が地面に足を付けたらその時点でアウトだ。

 だからこそ走り続けるしかない。

 

「ねぇねぇ。これやっていい?」

 

「は? 何を?」

 

「だから~、これだよ」

 

 そう言った神姫の手にはキメワザスロットホルダーにあったガシャットが握られていた。

 俺が言葉を発する前にそのガシャットを起動させる神姫。

 

《ギリギリチャンバラ》

 

「お、おい・・・・・・。まさか・・・・・・」

 

《ガッシャット! ガッチャーン!》

 

 こいつ・・・やる気だ・・・・・・。

 あぁー!! もう!!

 

「三速!!」

 

《ガッチャーン! レベルアップ! 爆走! 独走! 激走! 暴走! 爆走バイク! アガッチャ! ギリ・ギリ・ギリ・ギリ! チャンバラ〜!》

 

 そんな音声が鳴り、チャンバラゲーマーがバラバラになり、俺と合体する。そして、俺の姿が『仮面ライダーレーザー チャンバラバイクゲーマー レベル3』へと変わる。

 さっきまでバイクそのままにまたがってもらっていたが、人型になった事で背負う羽目になった。

 この姿は見た目に反して身軽で速さに関しても特に影響はないのだが、バイクに比べるとバランスが悪い。

 

「そこだぁ!」

 

「うわっと・・・・・・!!」

 

 っと、ヤバイヤバイ。

 考え事だけじゃなくて周りの事も見ないとな。

 

「障子くん! 梅雨ちゃん! 峰田!! 恨みはないが、一気にやらせてもらう!!」

 

《ガシャコンスパロー! ス・パーン!》

 

 俺はキメワザスロットホルダーにギリギリチャンバラガシャットを差し込む。

 

《ガシャット! キメワザ!》

 

 ガシャコンスパローの刃にエネルギーが収束する。

 

《GIRIGIRI CRITICAL STRIKE!》

 

 そんな音声と共に俺は地面に向かってガシャコンスパローを振る。

 バゴドォ! という大きな音と共に砂煙が巻き上がり、峰田チームの視界を妨げる。

 だが、それだけじゃ止まらない。

 

「三人ともごめんね! レインレーザー(弱)&アイスキャプチャー!!」

 

 神姫がレインレーザーで障子くんたちを濡らし(威力的に水鉄砲)、辺りの外気を操り、三人を凍らせて動けなくした。

 フハハハハハ。

 相手が悪かったな三人とも。

 俺は動けない三人からタスキを奪おうと思ったが、よく見ると一つもタスキを持っていなかった。

 チッ・・・・・・。無駄骨か。そう思うと同時に、

 

『そろそろ時間だ。カウントいくぜエヴィバディセイヘイ!』

 

 マジか。

 もう時間かよ。早すぎるだろう。

 

『10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! TIME(タイム) UP(アップ)!!』

 

 ああ、終わった。

 ポイント的に俺と神姫の勝ち上がりは決定だが、それだと数が合わなくなる。

 原作では4人チームが4組勝ち上がって、その中から2名が辞退。2名繰り上がりで16名が揃ったが、これだとそれが合わなくなる。

 などと考えている内に上位チームが発表された。

 

『1位、轟チーム!! 2位、爆轟チーム!! 三位、鉄て・・・アレェ!? オイ!! 心躁チーム!!? いつの間に逆転してたんだよ、オイオイ!!!』

 

 ここまでは原作通り。

 問題は、この後だ。

 

『4位、まさかの同点!! 緑谷チーム&機鰐チーム!!! 以上5組が最終種目へ進出だああーーーーーーーーー!!』

 

 ・・・・・・あっぶねぇ。

 原作じゃ何ポイント獲得していたかは表示されなかったからな。

 一応覚えておいて良かった。

 

『一時間ほど昼休憩を挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!! オイ、イレイザーヘッド、飯行こうぜ・・・!』

 

『寝る』

 

『ヒュー』

 

 私語を話すならマイクの電源をオフにしてからにしろよ・・・・・・。

 俺はそう思いながら一旦会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 会場内にも食事所はあったが、俺はあえて外の売店を練り歩く事にした。

 たこ焼き、焼きそば、唐揚げからブロック肉まで色々な売店があった。いくつの売店を回っただろうか。

 ある売店が視界に入った瞬間、驚きのあまり咳き込んでしまった。

 売店の店名、それは[美味しいケーキ]だった。

 そして、そこにいたのは“スイーツマスター”とユウ、仕原の三人がいた。

 何で(ヴィラン)が堂々とヒーロー校最高峰のイベントに屋台出してるんだよ。

 しかもかなり長蛇の列が出来てるし。

 俺は関わりたくなかったので、その場から回れ右をして立ち去ろうとしたのだが、

 

「龍兎ちゃ~ん」

 

 という声と共にいきなり抱き着かれた。

 誰であろう。勿論、紅である。

 

「すっごかったよ~。いいね~若いって。私、興奮しちゃったよ」

 

「そうか、だが、まず離せ」

 

「え~、良いじゃん。お姉さんの言う事は聞いた方が良いよ~」

 

「お姉さんって。紅、お前何歳なんだ?」

 

「20歳」

 

「違う、前世の年齢もプラスしてだ」

 

「ん~、26歳」

 

「ずいぶんと若かったんだな。まだまだ未来があっただろうに・・・・・・」

 

「いや、こっちの世界の方が楽しいからまったく気にしてないよ。で、龍兎ちゃんは何歳なの?」

 

「えっと・・・・・・、33歳」

 

「え!?」

 

 驚くような事か?

 前世が18歳、今世が15歳。足して33歳だろう。

 この体は15歳そのものだが、前世分を引き継いだとしたらもう魔法使いだよ。

 

「年上だったんだね・・・・・・」

 

「前世ではな。今世ではお前の方が年上だろ」

 

「じゃあ! お姉ちゃんって呼んで!!」

 

「断る」

 

「即断言!!」

 

 当たり前だろう。

 紅の事を「お姉ちゃん」と素直に呼ぶほど俺は優しくない。

 ひねくれ者だからな。

 

「俺はそろそろ行くから」

 

 そう言って離れようとしたが、ギュッと掴まれて縋られた。

 

「ねぇ~~。デートしようよ~~」

 

「断固拒否だ!! それにこの後試合なんだ!! 紅の気まぐれに付き合っているほど暇じゃないんだ!!」

 

 俺は紅の手を外し、全速力で走りだす。

 後ろから何か泣き言が聞こえて来たけど気にしない。

 気にしている余裕なんかない。

 

 

 

 

 

 

「がっつり食べてるな」

 

「うん!!」

 

 俺の隣では神姫がカツ丼にラーメン、大盛りカレーから唐揚げ(大)を美味しそうに頬張っている。

 コイツの個性は燃費が悪く、大技を使えば使うほどお腹がすく。

 だから、今の内に満腹になっておこうという算段なのだろう。

 ああ、いい喰いっぷりだな。

 俺はそう思いながら炭酸抜きコーラを飲む。

 コーラの味は好きなのだが、昔っから炭酸は苦手なんだ。

 

「・・・・・・もしかしたらさ、“アレ”使うかもしれない」

 

「“アレ”って、転生するときに特典としてもらった“アレ”の事?」

 

「そうだよ」

 

「・・・・・・死なない?」

 

「3分だけで終わらせるから大丈夫だよ」

 

「無理はしないでね」

 

「おう」

 

 俺の当たり障りのない返事を聞いた神姫は食事を再開した。

 コイツも一位を狙っているんだろう。

 いや、コイツだけじゃない。勝ち上がった全員が一位になる事を狙っている。

 

「・・・・・・そろそろ昼休憩終わるぞ」

 

「分かった、すぐ行くね」

 

 神姫はそう言うと同時に猛スピードで目の前の料理をかっ込み、ぺろりと平らげた。

 ・・・・・・お腹は膨らむことなくすっきりしたまま。

 質量保存の法則とは?

 

 

 

 

 

 

 その後の展開は概ね原作通りだった。

 違うところと言えば俺と神姫が同点で勝ち上がった事により、B組の二人が上がれなかったところだろう。

 ああ、悪いことしたなぁ。

 だからといって何かするとかはないけどな。

 その後、くじ引きが行われ、組み合わせが決まった。

 結果としては、

 

 第一試合:[緑谷]VS[心操]

 第二試合:[轟]VS[瀬呂]

 第三試合:[芦戸]VS[上鳴]

 第四試合:[飯田]VS[発目]

 第五試合:[白神]VS[機鰐]

 第六試合:[常闇]VS[八百万]

 第七試合:[青山]VS[切島]

 第八試合:[麗日]VS[爆豪]

 

 となった。

 わ~お、初っ端から神姫とかよ。

 死ぬぞ。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて。イッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクレーション!』

 

 レクリエーションが始まり、俺はとりあえず緊張をほぐすために借り物競争を元気にこなそうとした。

 だが、ゴールはおろか、借りる事すらできなかった。

 誰だ、[海賊の麦わら帽子]とか書いたアホは。借りられるわけ無いだろう。

 

 

 




龍兎を勝たせるか、神姫を勝たせるか・・・・・・。


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11話 『雄英体育祭② トーナメント』

とりあえず新展開が思いつかない。
ネタの雨よ降って来い。







最初の頃は色々なご指摘があり、色々と勉強になったり、改善に繋がっていたのに、最近はそれがなくて何だか寂しさを覚える作者(バカ)です。



 スタジアム中央に設けられたリング。

 それが完成すると同時にプレゼント・マイクが大きな声でナレーションを入れる。

 

『ヘイガイズアァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! 心・技・体に知恵知識! 総動員して駆けあがれ!!』

 

 うるさい。

 興奮しすぎてAre you readyすらマトモに言えてねぇじゃん。

 もう少ししっかりしろよ。

 

 

 

 

 

 

 試合はほとんど原作通り進んだ。

 発目さんに騙される飯田くんはなんか哀れに思えた。

 そして、ついに来た。

 俺はゆっくりとステージに上がる。

 

『五回戦!! その力未だ未知数。白き童女、白神神姫!! (バーサス)。過去のヒーローの力を受け継ぎし男、機鰐龍兎!!』

 

 受け継いだわけではない。

 勝手に使っているだけだよ。

 

『レディィィイイイイイイ!!』

 

 長いよ。

 

START(スタート)!!』

 

 試合が始まると同時に神姫の周りに水の玉が浮遊しだす。

 ああ、いきなりか。

 

「連弾! レインレーザー!!」

 

 ズバババババ! と水が出すとは思えない音が会場いっぱいに響き渡る。

 

『これは開始早々決着かーーーーーーー!!!』

 

『違う。上だ』

 

 その実況により、会場にいる全員の視線がステージの上、つまり全力で飛び上がった俺に集中する。

 相澤先生、バラさないで・・・・・・。

 俺はそう思いながらロックシードを取り出し、解錠する。

 

「変身!」

 

《オレンジ! ロックオン!》

 

 流れ出す待機音。

 個人的にこのほら貝風の待機音好きなんだよな。

 まあ、長々と聞いている暇はないけど。

 

「空中じゃ避けられないよ! アイスレイン!!」

 

 俺の頭上から凍って尖った雨が降り注ぐ。

 たしかに、空中じゃ避けるのはムリだろう。

 避けるのがムリなら避けなければいいだけの話なんだがな。

 俺はニヤリと笑いながらカッティングブレードを下ろし、ロックシードを斬る。

 

《ソイヤッ! オレンジアームズ 花道 オンステージ》

 

 そんな音声と共に開いたクラックから現れたオレンジ型の鎧が神姫のアイスレインを全て砕き、俺にカポッとはまり、着地と同時に展開される。

 そして、俺は『仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ』への変身を完了させる。

 俺の姿を見た客席から歓声が湧き上がる。

 神姫は仕留められなかったことが気にくわなかったらしく頬を膨らませて怒っていますアピールてをしている。

 可愛い。

 

『おー!! 機鰐龍兎の姿が鎧武者に変わったぁーーーー!!』

 

 俺は無双セイバーと大橙丸を握り、構えながら神姫に突撃する。

 

「龍兎が剣を使うなら私だって! 即興技! ライジングアイスソード!!」

 

 神姫の手にワン〇ースの青雉が使う“アイスサーベル”そっくりの氷の剣が造られる。違うところは、それが雷を纏っている所だろう。

 無双セイバーとライジングアイスソードがぶつかり合う。

 ライジングアイスソードの雷がバチバチバチ、と音を立ててステージの一部を砕いていく。

 氷なのに堅い・・・・・・。

 俺と神姫は何度も刀と剣を打ち合う。

 身体能力を使った攻防戦なら神姫は圧倒的に弱い。

 俺は変身しなくても戦えるように日頃から鍛えているが、神姫は個性に頼りっきりで身体能力は平均以下だ。

 つまり、このまま行けば勝てる。このまま行けば、だが・・・・・・。

 

「うぅ~~! もう嫌だ! 必殺、フルサンダーインパクト!!」

 

 神姫がそう言うと同時に空が黒い雲で覆われ、そこから一筋の雷が俺目掛けて落ちてきた。

 俺は慌ててその場から離れる。

 大きな爆音と共に、俺が先ほどまでいたところが大きく砕けている。

 それを見て、つい舌打ちをしてしまった。

 こんなの喰らったらひとたまりもない。

 俺はロックシードを取り出し、解錠する。

 

《イチゴ!》

 

 オレンジアームズが空気に溶けるように消え、俺の頭上に開いたクラックからイチゴ型の鎧が現れる。

 

《ロックオン! ソイヤァ! イチゴアームズ シュシュッとスパーク》

 

 そんな音声と共にイチゴアームズが展開される。

 俺の手にはイチゴクナイが握られている。

 

『イチゴォォオオオ!! なあ、イレイザーヘッド。アレはなんなんだ!?』

 

『知らん』

 

 俺は素早く神姫に突撃しながらイチゴクナイを投げつける。

 神姫は暴風を吹かせ、その攻撃を吹き飛ばす。俺の頬を投げたクナイがカスって行ったのはビビった。

 クッソ。攻防一体の個性のにも程があるだろう。

 俺はそう思いながら無双セイバーを振るう。だが、その攻撃は何もないところで堅いものにぶつかり、止まる。

 ああ、マズい。

 神姫の使う技で強いが被害が大きくなるヤツだ。

 名前は[エアバリヤー]。

 かなり強引かつ、無理矢理なモノで、説明は難しいのだが、B組に『空気凝固』という個性を持っているヤツがいるが、それとは違う。

 空気が固形化するまで圧縮して、それをバリヤーに使うという、もう無茶苦茶にも程がある技だ。

 しかも、この技には最悪の副作用がある。

 考えてみてほしい。空気を無理矢理圧縮して固形化させているんだ、それを一気に解放したらどうなると思う? ワン〇ースの“バーソロ〇ュー・くま”の技を思い出してほしい。似たようなのがあっただろう。そう、アレが来るんだ。

 俺は慌ててロックシードを解錠する。

 

《スイカ!》

 

 巨大なクラックが開き、巨大なスイカ型の鎧が現れる。

 俺は待機音を聞かず、カッティングブレードを下ろし、ロックシードを斬る。

 

《ロックオン! ソイヤァ! スイカアームズ 大玉 ビッグバン ヨロイモード》

 

 俺はスイカアームズが展開されると同時にヨロイモードにし、スイカ双刃刀を地面に突き立てる。

 

「おしまい。エア・ボム」

 

 神姫が静かにそう呟くと同時に彼女を中心に爆風が吹き荒れ、ステージが砕けた。

 

 

 

 

 

 

 危なかった。

 スイカアームズがボロボロに砕け、吹き吹き飛ばされたが、何とかステージには残れた。

 それでも、ギリギリだ。

 神姫はまだ余裕があるらしくどっしりと立ってこちらを見ている。

 クッソ。もっと大技使わせないと終わらないな。

 俺はゲネシスコアを取り出して戦極ドライバーにセットし、二つのロックシードを解錠する。

 

《オレンジ! レモンエナジー!》

 

 二つのクラックが開き、二つの鎧が現れる。

 

《ロックオン! ソイヤァ! ミックス! オレンジアームズ! 花道 オンステージ! ジンバーレモン! ハハーッ!》

 

 そんな音声と共に二つの鎧が合体し、陣羽織になって展開される。

 俺はソニックアローを構え、エネルギーの矢を放つ。

 神姫は右手をかざし、暴風を吹かせることによって弾き飛ばされる。

 だが、俺は神姫が矢に集中している間に彼女に接近し、ソニックアローの刃で斬りつける。

 神姫は転がる様に回避し、砕けたステージの破片を飛ばしてきた。

 振り向きざまにステージの破片が顔面にぶつかる。

 痛い。想像以上に痛い。

 俺は戦極ドライバーのレモンロックシードをソニックアローにセットする。

 ソニックアローに集中するエナジーエネルギー。

 

《レモンエナジー》

 

 ソニックアローから束ねられたエネルギーの矢が神姫に襲い掛かる。

 

「うぅ~~~!! 合体必殺! ライジング・レインレーザー!!!」

 

 電気を纏ったレインレーザーとエネルギーの矢がぶつかり合い、そのエネルギーが相殺された。

 ぶつかった時、エネルギーの波が辺りに吹き荒れ、ただでさえボロボロだったステージがほぼ完全に瓦解した。

 エネルギーの波でステージ外に押し流されそうになったが、何とか踏みとどまれた。

 俺は肩で息をしながら神姫を見る。

 今の攻撃で神姫もかなり疲労したらしく辛そうな顔をしている。

 そう、エネルギーが切れ掛けている。つまり、あと少しで勝てるという事だ。

 俺は勝ちを確信し、ロックシードを解錠する。

 

《カチドキ!!》

 

 クラックが開き、そこからフルーツ型ではない鎧が現れる。

 

《ロックオン! ソイヤァ! カチドキアームズ いざ出陣 エイエイオー!》

 

 そんな音声と共に鎧が展開される。

 俺は背中の旗を掴み、構えながら強く宣言する。

 

「ここからは、俺のステージだ!!」

 

 そう叫ぶと同時に神姫に向かって突撃する。

 

『おーーーと!! 今まで以上に侍っぽい見た目になったぁーーーーー!!!!』

 

『勝ち鬨・・・か・・・・・・』

 

 神姫は風を吹かせてくるが、そこに強大な威力はなく、そよ風でしかない。

 俺は旗を全力で振るう。

 神姫は屈んで避けたが、それで攻撃を止めるほど俺は優しくない。

 足元の神姫を掴み、ステージ外へとぽーんと投げる。

 普段なら風を起こして浮くことができただろうが、今の神姫にそこまでのエネルギーは残っていない。

 

『場外!! 機鰐龍兎、二回戦進出ぅーーーーー!! 圧倒的な個性を前に、臨機応変に立ち回っての勝利だーーーーーーー!!!!』

 

 うるさい。

 俺と神姫はステージ中心でお辞儀をし、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 変身を解除してみると、意外とケガを負っていた。

 特に鼻血が酷い。

 俺はティッシュを取り出し、鼻に詰める。

 少し歩いたところで神姫と合流した。

 

「よぉ、惜しかったな」

 

「・・・・・・・・・うん」

 

 あ、ヤベ。泣きそうな顔に似合ってる。

 

「やっと一勝一敗だな。ずっと引き分けだったし」

 

「うん」

 

「ったく。何泣きそうになってるんだよ。俺の運が良かっただけだ。次やったら俺が負けるよ」

 

 俺がそう言うと神姫は俺に抱き着いてきた。

 突然の事に思考停止していると、神姫のすすり泣く声が聞こえてきた。

 頑張って泣かないようにしようとしているみたいだが我慢できてねぇよ・・・・・・。

 俺はそう思いながら静かに彼女の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 その後の展開は原作通りだった。

 常闇くん、切島くん、爆豪が勝ち残った。

 原作と少し違うところと言えば切島くんの相手が違った所と他に、爆豪を批判したヒーローが、

 

『競技が始まる前。選手宣誓の時に言われたことを忘れたのか』

 

 と言われ、何か気まずそうに俯いていたところだろう。

 だから言ったのに。

 人の忠告を忘れるなんて、バカだねぇ。

 




[次回予告]

ぶつかり合う闇の力。
機鰐龍兎は”キバの鎧”を纏って黒影(ダークシャドウ)と戦う。
そして、機鰐龍兎は”自身の信念”の為に変身する。

第12話 『雄英体育祭③ トーナメント第二回目』

更に向こうへ、”Plus Ultra”!!


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12話 『雄英体育祭③ トーナメント第二回目』

想像以上に早く完成し驚きを隠せない作者です。

今回、龍兎はかなりの舐めプをしているので、不快になられた方はごめんなさい。
それと、龍兎がよりクソチートキャラになりました、ごめんなさい。


そして、常闇くん。
活躍させてあげられなくてゴメン・・・・・・。



 ああ、良かった。

 緑谷と轟くんの戦いはまんま原作通りで本当に良かった。

 

「君の! 力じゃないか!!」

 

 をナマで聞けて本当に良かった。

 滅茶苦茶鳥肌立ったし。

 眼福眼福。

 

 

 

 

 

 

 俺の出番になった。

 相手はあの常闇くんだ。

 スタート合図と共に俺と常闇くんは構える。

 

「俺とダークシャドウが“過去の英雄(仮面ライダー)”に勝てるか。試させてもらう。行くぞ!!」

 

「アイヨッ!」

 

 俺はキバットバットⅢ世を取り出し、左手を噛ませる。

 

《ガブッ!》

 

「俺もお前の闇に勝てるかどうか試させてもらうよ。変身」

 

 ベルトにキバットバットⅢ世を装着し、『仮面ライダーキバ』へと変身する。

 襲い掛かってくるダークシャドウ。

 その攻撃を防ぎながら蹴りを叩き込む。

 振るわれる爪、俺はジャンプしてその攻撃をかわしながら常闇くんに接近し、殴りかかる。

 防げないだろう、と思ったが瞬時にはダークシャドウによってその攻撃は防がれていた。

 攻防一体にも程があるだろう・・・・・・。

 神姫もそうだが普通に強個性過ぎるな。

 俺はダークシャドウと打ち合いながら常闇くんに語り掛ける。

 

「なあ、常闇くん。俺の右足さ、厳重に鎖で縛られてるだろ? 何でだと思う?」

 

「さあな」

 

「これは封印されたヘルズゲートなんだよ」

 

「ヘルズゲート・・・つまり、地獄の扉か・・・・・・」

 

「正解」

 

 ちなみに、こんな話をしながらもダークシャドウとの攻防戦は続いている。

 ダメージがあるようには見えないし、キバの攻撃に辺りを光らせるようなモノはない。

 ああ、ジリ貧だな。こりゃ。

 それでも、俺は無駄口を止めない。

 

「そして、この仮面ライダーのこの姿の名前は“キバフォーム”って言うんだけど、実はこの姿も拘束具によって封印された姿なんだぜ。しかもな、コレは“キバの鎧”って言ってな、簡単に言えば闇の王の鎧なんだ」

 

 俺のその言葉に常闇くんの眉がピクリと動く。

 

「だから言っただろ? “お前の闇に勝てるかどうか試めさせてもらう”って。そっちが闇の力ならこっちだって同じだ」

 

「なるほど、相手の土俵で戦っても勝つ自信があるという事か」

 

「そう言う事」

 

 俺はそう言いながらダークシャドウを踏み台にして一度、常闇くんと距離を取る。

 そして、体を屈めて一気に突撃する。

 

「迎え撃て! ダークシャドウ!!」

 

「アイヨッ!」

 

 俺のパンチとダークシャドウの薙ぎ払い攻撃がぶつかる。

 押し切られてしまったが、後ろに跳んで回避する。そして、

 

「常闇くん、始まって早々だが終わらせてもらうよ」

 

 俺はそう宣言し、フエッスルをキバットバットに吹かせる。

 

《ウェイクアップ!》

 

 吹かれるフエッスル。

 キバットバットはベルトから飛び、俺の周りを飛び回る。

 それと同時に紅い霧が辺りを包み、一瞬にして夜へと変わった。

 右足を高く上げると、キバットバットが封印を解きヘルズゲートが開かれる。

 辺りが暗闇になった事により狂暴化&暴走して襲い掛かってくるダークシャドウ。

 突然の事に常闇くんが反応できず、彼が押さえる前に暴走したダークシャドウをナマで正面から見るのは少し恐怖を感じた。

 俺は飛び上がり巨大になったダークシャドウごと常闇くんを蹴り潰した。

 辺りの闇が晴れ、火の光が戻ってきた。

 常闇くんの方をチラリと見ると、倒れている彼を中心にキバのマークがステージに刻まれていた。

 

「しょ、勝者! 機鰐龍兎!!」

 

 唖然としていたミッドナイト先生がそう宣言した。

 それと同時に会場が歓声で湧き上がる。

 俺は変身を解除しながら常闇くんに視線を向けて言う。

 

「残念だったな、常闇くん。この仮面ライダーの本気を見せてあげられなくて」

 

「クッ・・・・・・。これでもまだ本気ではないのか。・・・・・・・・・次は本気を出させられるぐらい強くなっているぞ」

 

「ああ、楽しみだ」

 

 俺はそう言ってその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 飯田くんと轟くんの戦いは原作通りだった。

 良い感じだった様に見えたけどやっぱりか・・・・・・。

 まあ、そうそう上手くいくような相手じゃないもんな、轟くんは。

 俺はそんなことを考えながらステージに上がる。

 爆豪との戦いだ。

 

「よう、変身野郎。一番強いヤツで来い。俺がその上からブッ潰すからよお」

 

「ん~、ヤダね。そんな強気なキミには本気を出さずに戦ってあげるよ。もし本気を出させることが出来たら後でキャンディーあげる」

 

 俺がバカにするような口調でそう言うと、「ブッ殺す!!」と飛び掛かってきた。

 爆豪の初手は大抵右の大振りだ。

 だから、俺は“あるアイテム”を取り出し、“あの転生特典”を発動させ、爆豪を殴る。

 

「ガッ・・・・・・!」

 

「爆豪、お前は俺を倒して轟くんも倒して一番になりたいんだよな。だったら、根本的なところは違うし、疑似的だが彼に近い力で戦ってあげるよ」

 

 俺はそう言いながら右手に“ブリザードナックル”を、左手に“マグマナックル”を持って構える。

 爆豪は小さく舌打ちをした後、突撃してきた。

 だが残念。俺はもうその行動を“見たばかり”だ。

 彼の攻撃をかわしながらカウンターで顔面をブリザードナックルで殴る。

 爆豪は一瞬バランスを崩したが、個性を使って無理矢理戻り、再度右の大振りをかましてくれた。

 まあ、それも“見たばかり”なんだけど。

 俺はバグスターの性質を使って一瞬で後ろに回り、マグマナックルで背中を殴る。

 爆豪は裏拳をするかのように腕を振るってきたが、そんなのとっくに“見ていた”のでその攻撃の隙間にサッと入って難なく避ける。

 そして、攻撃が不発に終わって一瞬固まってしまった彼の顎をマグマナックルでアッパーしておく。

 そして、マグマナックルとブリザードナックルにドラゴンマグマフルボトルとノースブリザードフルボトルを差し込み、二つのナックルそれぞれのドラゴニックイグナイターとロボティックイグナイターを合わせ、エネルギーを溜める。

 そして、

 

《ボルケニックナックル! アチャー!!》

 

《グレイシャルナックル! カチカチカチカチカッチーン!》

 

 溜めたエネルギーを纏った二つのナックルで爆豪を全力で殴る。

 吹き飛ばされ、場外ギリギリのところで止まる爆豪。

 ・・・・・・ヤッベエ。

 想像以上に威力があった。死んでないよな?

 俺がそう思いながら遠目で確認すると、どうやら死んでいないようだ。

 ほら、今まさにムクリと起き上がった。

 

「テメェ・・・クソが・・・・・・。調子に乗ってんじゃねえ・・・・・・」

 

 ああ、怒らせちゃった。

 失敗失敗。

 う~ん。舐めプもそろそろやめた方が良いかな?

 俺はそう思いながら“転生特典”を発動する。

 っと、言い忘れていた。

 俺の使っているこの“転生特典”は、使い方によってはかなりチートなため使うのを控えていたモノで、簡単に言えば『十秒先の世界を見通す』という力だ。

 しかも個性じゃない。

 俺が集中力を極限まで高めることによって未来を予想するという力だ。

 だからこそ、読み間違えもあるし何パターンも想定する分脳に負担が掛かる。

 特典とか言ってるけどそんな使えるかどうかで言えばNOと言いたくなるようなモノだ。

 まあ、強いんだけどね。

 

「さあ、どうする? 諦めてギブアップする? 爆・豪・くん☆」

 

「うっがああああああ!!!」

 

 あ、より怒った(わざと)。

 冷静をかけばその分攻撃が大雑把になる。

 今まで以上に大振りの攻撃を屈んでかわし、その腹にナックルを叩き込む。

 さっき以上に派手に転がる爆豪。

 絶対痛いだろうなと思いながらも手加減する気の一切ない攻撃だ。

 ・・・・・・生きてるかな?

 あ、立ち上がった。

 おお、怖いなあの目。確実に命を狩りに来てる目だぞ。

 ヒーロー志望だと思えないなぞ、その表情。

 

「もうやめとけ。ボロボロだろ? ここで休んでおいた方が良いぞ」

 

「うるせえ変身野郎!! 俺が一番になる!! 本気出してねえくせに心配とか、舐めたマネばかりしてんじゃねえ!! 殺すぞ!!!」

 

 あ、ここでも言うのね。“殺す”って。

 ん~、どうしようか。

 俺はそう思案しながら“特典”を発動する。

 しかも、今回のは爆豪だけじゃない。この会場にいる全員の予想だ。

 本気を出すとしたら周りへの影響も考えなければいけないからな。

 

「・・・・・・・・・・・・ッ! 変身!!」

 

 俺は慌ててカブトゼクターを取り出し、ベルトにセットする。

 

《ヘンシン》

 

 そんな音声と共に『仮面ライダーカブト マスクドフォーム』へと変身し、一瞬の間もなくキャストオフをする。

 

《キャストオフ チェンジ ビートル》

 

 ライダーフォームになると同時に爆豪の方へと駆け出す。

 俺のその行動を見て爆豪は、

 

「やっとやる気になったかよ・・・・・・」

 

 と言いながら身構える。

 スマンな、お前と戦うためじゃないんだ。

 

「クロックアップ」

 

《クロックアップ》

 

 俺の体にタキオン粒子が駆けめぐり、俺の早さは常人には捕らえられないほど高速になる。

 そして、そのスピードのまま俺は“ステージの外”へ飛び出す。

 そのまま観客席まで跳び、今まさに階段から足を滑らせて落ちそうになっている親子―――母親が足を滑らせて手をつないでいた子供が巻き込まれている―――をキャッチする。

 それと同時にクロックアップが解け、俺の時間と周りの時間が元に戻る。

 

『おーーーーーーっと!! 機鰐!! 変身して消えたと思った時には観客席にいたぁーーーー!! コイツァどういう事だぁーーーーー!!』

 

 相も変わらずうるさいな。

 

「え、あ・・・・・・。じょ、場外! 爆豪くんの勝利!!」

 

 ミッドナイト先生からの勝敗宣言があったにも関わらず、会場は静まり返ったままだ。

 まあ、そうだろう。

 一方的にやっていた方が勝手に場外に出たんだ。

 その“原因”を脳が理解すると同時に罵声が飛び交い出す。

 罵倒の嵐が吹き荒れる中、俺は普段から持ち歩いているボイスチェンジャーを取り出す。

 このボイスチェンジャーにはマイク機能も付いている。

 俺はそのマイクに向かって大きく叫ぶ。

 

ラブ オブ ザ グリーン(誰にも罪はない)!!』

 

 と。

 俺の言葉に会場が再度静まり返る。

 この言葉の意味を理解したヤツは多分いないだろう。ただ、大きな声が聞こえてきたから驚いて黙っただけだ。

 でも、その静寂が良い。

 

『オイ、プロヒーロー。俺は最初に行ったはずだろう。“本質を見れないようなら帰れ”と。お前らは何を見た? この親子が階段から落ちそうになっていたのに気が付いたか? それにも気が付けず試合の勝敗しか目に無いのか!! ヒーローとして、勝ち負けとかよりも大切なモノがあるだろうが!! お前らは娯楽を求めて来たのか!? 違うだろ!! 未来のヒーローをスカウトするために来ているんだろうが!!』

 

 俺のその言葉に勝敗について騒いでいたヒーローたちが俯く。

 

『まったく。相澤先生に言われたばかりだろう。“帰って転職サイトでも見てろ”って。その言葉についてもう一度よく考えてろ』

 

 俺はそう言い捨ててマイクの接着面をマスクにぺたりと張り付ける。持っていると片手がふさがっちまうからな。

 そんなことを考えながら親子に視線を向ける。

 そして、

 

「大丈夫か?」

 

「え・・・は、ハイ・・・・・・」

 

「お嬢ちゃんは?」

 

「お兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫だよ」

 

「そうか、大きなケガが無くて良かった。・・・・・・お母さん、足を挫いているようですね。リカバリーガールの元まで連れて行きます」

 

「・・・い、良いの? 私のせいで負けたのに・・・・・・」

 

 オイオイ、この人は何を言い出すんだ。

 

「良いんですよ。勝ちを掴むよりも誰かの手を掴む方が何倍も嬉しい事なんですから」

 

 それに、と俺は仮面ライダーカブトのあのポーズ―――右手を天に突き上げる―――を取りながら言葉を続ける。

 

「おばあちゃんが言っていた。たとえ世界を敵にまわしても守るべきものがある、と。例え非難されようとも、叩かれようとも、誰かを守れればそれだけで最高なんですよ」

 

 俺はそう言い、母親を背負ってその場を後にする。

 廊下を歩いているとき、後ろ―――つまり会場―――から大量の拍手の音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・扉の上に[リカバリーガール 出張保健室]という看板が掛けられていた。

 何か色々と凄かった。

 俺はリカバリーガールに親子を任せて部屋を後にした。

 会場で観戦しようと歩を進めていると、途中のベンチに見覚えのある人物がいた。

 

「よお、お疲れ様」

 

「・・・・・・・・・・・・お前は?」

 

「ヒーロー科1-A組の機鰐龍兎だよ。心操人使くん」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「一回戦惜しかったな。緑谷は指を弾く以外では個性を使っていなかったから言ってしまえば身体能力がモノを言ったな」

 

 俺はそう言いながら自動販売機のスポーツドリンクを二つ買い、心繰くんに手渡す。

 戸惑っていたが受け取ってくれた。

 心繰くんの隣に腰掛ける。

 

「何が言いたい?」

 

「特に何も? 言うならばただの戯言。聞き流して良いよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「お前さ。個性あるだけ恵まれてるよ。知ってるか? 何億人に一人の割合で個性の発現が大幅に遅れる人がいるんだよ。個性のあるなしって足の小指の関節で分かったりするけど、そこも無個性の人と同じのパターンが多い。と言ってもサンプルが少なすぎてまだ何とも言えないらしいけどさ」

 

「それがなんだよ・・・・・・」

 

「心繰くんと戦った緑谷もそうだったんだよ。確か14~15歳の頃にいきなり個性が発現してまったく慣れていないんだよ。しかも彼さ、無個性だからって理由でいじめられていたんだよ。それでも彼は諦めず、体を鍛えて自分を高めようとし続けて、偶然個性が発現して、自分の夢を叶える為にここに来てるんだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「だからさ、お前も頑張れよ。センスはあるんだから」

 

 俺はそう言って立つ。

 心繰くんはただただ俺の渡したスポーツドリンクを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 とある建物の中。

 大きな液晶テレビを前に数人の人物が集まっていた。

 

「どう思う?」

 

「確かに強かったと思います。個性を使わなくてもあれほどの身体能力があるということはそれを個性に反映させればその実力は何倍にも膨れ上がるでしょう」

 

「私もそう思う。賢王や紅がこだわるのもわかる気がする」

 

「俺的には仮面ライダーの力に頼りっきりな時点で弱い気がするけど」

 

「確かに頼りっきりだけど、それを使いこなしているということはそれはニセモノでありながら本物の仮面ライダーと言ってもいいんじゃない?」

 

「しかも基本フォームで勝ち上がってたからね。その力は未知数だよ」

 

「最初の戦いはどんどんパワーアップしていたけどね」

 

 そんな会話がされる中、“ある帽子”を被った少年は言う。

 

「俺と戦って仮面ライダーは勝てると思うか?」

 

「ボスに勝つのは無理でしょう。ある意味でチートですし」

 

「そうそう。殴る蹴る以外に脳の無い仮面ライダーが勝てるワケありませんよ」

 

「ただ、仮面ライダーと『ファウスト』は同盟関係中。手を出したらこっちが大打撃を食らいますよ」

 

「たしかに同盟関係中だ。だが、俺が『ファウスト』ならばな」

 

「「「「!?」」」」

 

 帽子をかぶった少年の言葉にその場にいた全員が、少年が何をしようとしているのか理解する。

 それは、『敵同盟(ヴィランどうめい)』時代に近い存在になるという宣言だったからだ。

 

「ボス、マジでやるの?」

 

「ああ。わかっているだろう」

 

 そう言って笑う帽子の少年。

 少年の周りにいる人物もそれにつられるように笑う。

 

「グループ名はそうだな・・・・・・『パンドラ』にしよう。意味は分かるだろ?」

 

「ええ、災厄の詰められたモノ。これからの我々にピッタリですね」

 

 その答えに帽子の少年はニヤリと笑う。

 

「さあさあ、これからの時代は俺たちのモノだ。次の事件の場所はわかっているよな? ・・・・・・そう、保須市だ。まずは暴れるのではなく俺たちの存在をアピールしよう。『敵連合(アイツら)』の“脳無”を倒して俺たち『パンドラ』の存在を世に知ら示すぞ」

 

 帽子の少年の言葉に、その場にいた全員が賛成し、声を上げる。

 だが、それと同時に部屋の扉が勢いよく開かれた。

 そこにいたのは山吹色の道着に身を包んだ黒髪の少年だった。

 

「何の用だ? “龍玉(りゅうぎょく) 悟雲(ごうん)”」

 

「お前の計画を止めにだよ。“猿伸(さるのび) 賊王(ぞくおう)”」

 

 猿伸賊王と呼ばれた帽子の少年は座っていた椅子からゆっくり立ち上がる。

 龍玉悟雲は腰を落として構える。

 瞬間、二人はぶつかり合う。

 赤いオーラを纏った悟雲のパンチを賊王は避けようとしなかった。

 結果は言わずもがな。

 “界王拳”によって増幅された攻撃が王賊を襲った。

 だが、王賊には一切のダメージはなかった。

 個性の関係上、彼に物理攻撃は一切の意味をなさない。

 

「知っているだろう。お前じゃ俺には勝てないよ」

 

「知っているさ。知っていてやっているんだよ。オラだって一応『ファウスト』の幹部だからな」

 

「そうか。・・・・・・でも、計画は止めさせない。俺は『ファウスト』を抜ける」

 

 賊王はそう言い、ニヤリと笑った。

 それが、機鰐龍兎を巻き込む新たな戦いの幕を開ける狼煙となった。

 

 

 




怒涛の急展開。
どうして行こうかはまだ未定!!


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13話 『雄英体育祭④ 終了、そして始まり』

しばらくは校長(ネズミ)の独壇場。



 あの後の展開は原作通りだった。

 違うところと言えば、二回連続で手を抜かれた爆豪の怒りはすさまじいもので、本当にヒーローを目指しているとは思えない所だろう。

 表彰式が始まるが、一位の表彰台にいる爆豪の拘束は、原作の倍以上になっていた。

 原作では多少の抵抗は可能だったが、もはや動く事すらままならないようだ。

 

「メダル授与よ! 今年のメダルを贈呈するのはこの人!!」

 

 ミッドナイト先生がそう言うと同時に会場の屋根からオールマイトがジャンプする。

 そして、原作通りになった。

 

「私がメダルを「我らがヒーロー、オールマイトォ!!!」持って来た」

 

 ブハッ(吹き出す)。

 ヤベェ・・・・・・爆笑するところだった・・・・・・・・・。

 オールマイトは一度咳をし、気を取り直して表彰台に向かってきた。

 

「機鰐少年、おめでとう! 強いな君は!」

 

「いいえ、強くありませんよ」

 

 俺がそう言うと、オールマイトはソッとハグしてきた。

 

「強いよ。爆豪少年との戦いのときはずいぶんと酷い戦い方だと思ったが、最後、勝敗を気にすることなく親子を助けに行って、その時に言った言葉はとても良かった。その心、忘れたらいけないよ」

 

 オールマイトはそう言って轟くんの方へと向かって行った。

 轟くんの方は原作通り。

 問題は・・・・・・、

 

「さて、爆豪少年!! っとこりゃあんまりだ・・・・・・。一位、おめでとう」

 

「オールマイトォ。こんな一番・・・何の価値もねぇんだよ。世間が認めても(じぶん)が認めてなきゃゴミなんだよ!!」

 

 そう言った爆豪の目は原作以上に吊り上がり、もうヒーローとは思えない・・・・・・いや、思いたくないような顔だった。

 そりゃ、敵連合(ヴィランれんごう)も狙いたくなるよ。

 この顔だもん。

 オールマイトは爆豪の口に引っ掛けるようにメダルを授与し、声高らかに言う。

 

「さァ! 今回は彼らだった!! しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧いただいた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと上っていくその姿! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! てな感じで最後に一言!!」

 

 よし、やっとここまで来た。

 

「皆さんご唱和ください!! せーの・・・・・・」

 

 ハイハイ。

 ヒロアカのファンならこの後の展開はご存じだろう。

 まあ、俺はクラスメイト達に合わせるよ。

 だって、変に不自然に思われたくないからな。

 ゴッホン。

 では、せーの・・・・・・、

 

「プルス「おつかれさまでした!!!」ウルトラ」

 

 はい。

 予想通り。

 

 

 

 

 

 

 二日間の休みを得た。

 朝の新聞を見ると、雄英体育祭について大きく書かれていた。

 その中の見出しに『ラブ オブ ザ グリーン』というのがあり、俺について書かれていた。なんでや。

 この休みの間はずっと新しいアイテムを作ることに使おうと思っていたのだが、ユウから呼ばれて渋々カフェまで行くことになった。

 いつも通りの口調だったが、どこか緊迫した様子を感じたためバグスターの特性を使ってワープする。

 う~ん。何度やってみても便利だな。

 カフェに入ると、ユウと紅の隣に何処かで見たことあるような山吹色の道着に身を包んだ青年がいた。

 

「なんの用だ?」

 

「魔我の時みたいなコトになった」

 

 ふざけんな。

 

「『ファウスト』の幹部に“猿伸賊王”ってヤツがいてね。私たち幹部の中でも異質と言えば異質な子でね。可愛いと思えないのよ。だって、魔我くん何か以上に不吉なオーラを放ってたの」

 

「そうか。で、そこのヤツは誰だ?」

 

 俺がそう言って山吹色の道着に身を包んだヤツを指さすと、そいつは椅子から立ちあがって言う。

 

「オッス、オラ“龍玉悟雲”。ファアストの幹部だ。よろしくな」

 

「お前がどういった人間かだけはよく分かった」

 

 なるほど、その道着は“あのキャラ”をイメージしていると。

 つまり、コイツの個性は『気を使う個性』とかそんなところだろう。

 

「ちなみにオラの個性名は『孫悟空』だ」

 

「そのままじゃねえか!!」

 

 もう少し捻れ。個性名。

 ってかガチで本人を意識しているのか?

 服装以外全く似てないぞ。

 

「ツッコミを入れたいのは山々だけど、それは後にする。その、猿伸ってヤツがどうしたんだ?」

 

「実は、『ファウスト』から離反して『パンドラ』という新しい組織を作って敵対してきた。龍玉はそれを止めに行ったんだが、返り討ちに会った」

 

「それで? 猿伸の個性は?」

 

「個性名は『ゴム人間』。これだけでわかっただろう?」

 

 ああ、あの麦わらの海賊ね。

 もうツッコミしないよ。色々と疲れてきたから。

 

「ったく、面倒くさい問題起こしやがって。それで、何をすればいい?」

 

「今夜、特攻を仕掛ける。そこで潰せなかったら面倒くさいことになりそうだ」

 

 クソが。

 体育祭終わったばかりだってのに。

 

「わかった、19時ぐらいにまた来る。それまでに作戦を考えておいてくれ」

 

 俺はそう言い残してバグスターのワープで家まで戻る。

 夜までに新しいアイテムを作っておかないといけなくなった。

 

 

 

 

 

 

 目まぐるしいほどの急展開に

 スケジュールが追い付かず、休む暇なんてなかった。

 クソほど眠い。

 俺は目を擦りながらカフェにワープする。

 そこには、魔我の時とは比べ物にならないほどの(ヴィラン)たち。

 それだけコイツらが本気であるという証拠だろう。

 作戦としては魔我の時と同じだが、今回はそれ以上の戦いになりそうだ。

 ユウの話を聞くと、俺がリーダーらしい。

 なんでか、と聞くと幹部同士の話し合いで決めたらしい。

 何を勝手に・・・・・・、と思ったが決まってしまったのはどうしようもない。

 俺はブラッドスタークへ蒸血し、(ヴィラン)たちの前に歩み出る。

 

「この戦いが、これからを左右するだろう。勝つか負けるかじゃない。勝たなければこの世界の秩序に大きな影響が出る。・・・・・・行くぞ!!」

 

「「「「「「おお!!」」」」」」

 

 俺の言葉に今日あったばかりで名前も知らない(ヴィラン)が答える。

 ああ。どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 機鰐龍兎たちがいるカフェの扉に耳を付けて中の様子を窺う人物がいた。

 その人物は情報を得た後、すぐにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 俺たちは猿伸のアジトまで移動する。

 そこは、予想通りと言っては何だが、港に停泊している大型の船だった。

 船に詳しいわけではないので何という名前かまでは分からないが、数百人単位で乗っても大丈夫そうなほど大きい。

 俺たちは見張りがいないかと様子を窺うが、見張りはいないようだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしい。

 一人や二人見張りがいていいはずなのに、それがいない。

 つまり、感付かれて逃げられた可能性がある。

 だが、それでも確認のため、俺たちは船に乗り込む。

 すると、何人かが倒れたり目を抑えたり、いきなり混乱に陥った。

 

「ナイトローグ、これは?」

 

「多分、“暗視(あんし) 波奉(はほう)”のヤツだと思う。個性は『感覚使い』。人の五感等を操る個性だ。それを使って昏睡させたり、目を見えなくしたんだろう。暗視のヤツを探している暇はない。奥に進もう」

 

「おう。・・・・・・目の見えなくなった者はその場を動くな!! 目の見える者も何人か残って動けない者を守る様に」

 

 俺はそう言って奥に進む。

 部屋を一つひとつ確認していくが、人っ子一人見当たらない。

 しばらく奥に進むと、広いパーティーホールに出た。

 そこには、麦わら帽子を被った同い年ぐらいだと思われる少年がいた。

 

「やあやあ、ようこそ。『ファウスト』諸君」

 

「何気取ってやがる」

 

「気取っているように見えたかな? まあ、いいや。用件は? と言ってもわかっているけどね」

 

「・・・・・・何が目的だ?」

 

「目的? 決まっているだろう? 自分の望んだ世界を作りたい。それだけだよ」

 

 なぜ暴走するヤツはこうも計画がデカいんだよ。

 現実味はないのに。

 

「俺たち転生者がいる時点で原作とは違うのは理解しているが、それでも世界を好き勝手はさせない」

 

「君自身1-Aの生徒として物語に大きく干渉しておいてよく言えるね」

 

 ウグ・・・・・・。

 痛いところを突いてきやがる・・・・・・。

 

「まあ、俺の計画の障害になる『ファウスト』は壊滅させるよ。・・・・・・これを決別の合図としてね」

 

 猿伸がそう言って持っていたボタンを押すと、爆発音と共に船が大きく揺れた。

 まさか、この船を始末する気か・・・・・・。

 一瞬の爆発音に気を取られている間に猿伸は何処かに行ってしまった。

 マズイ、ここは船の真ん中ら辺。

 急いで上に上がらないと溺れてしまう。

 

「フレイムツリー!!」

 

 紅はそう言って天井に向かって炎を上げる。

 ・・・・・・・・・地上への道を無理矢理作っただとぉ!

 まあ、文句を言っている暇はない。

 俺たちは紅の開けた穴から船外に飛び出す。

 眠ったりしていたヤツらは残らせたヤツらが連れ出したらしく無事のようだ。それに眠っていたヤツも目も覚め、目が見えなくなっていたヤツもその効果が切れたようだ。

 状況を確認し、その場から離れようとすると、後頭部に石がコツンと当たった。

 それに視線を向けると、石に紙が付いていた。

 俺は紙を拾ってからその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 俺は雄英まで来ていた。

 休みなのに。もう一度言おう、休みなのに。

 向かう先は校長室。

 廊下に生徒が誰もいないのは新鮮なモンだな。うん。

 俺はそんな感情に浸りながら校長室の扉をノックし、返事を聞いてから中に入る。

 

「やあ、ようこそ。機鰐くん。・・・・・・いや、ブラッドスタークくん」

 

「・・・・・・バレました?」

 

「うん。ブラッドスタークの映像で見た動きと体育祭での君の動きに類似点があってね。そこから博打に出て見たのさ」

 

「なんスか。その適当さ」

 

「ある程度適当でやっていくのも社会を生きていくコツだよ」

 

 そんなアドバイスいらない。

 俺は今、雄英(ココ)で今後学べるか、(ヴィラン)としてとっ捕まえられるかの所にいるんだ。

 

「それで、校長。遠まわしだとイライラするので直球に聞いてくださいね」

 

「わかったよ。じゃあ、早速・・・・・・君は何者かな?」

 

「機鰐龍兎ですよ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの人間です」

 

「ファウストとの繋がりは?」

 

「向こうから攻撃してきたために反撃したことがあったり、同盟関係結んだりした間柄ですよ」

 

「ファウストと『敵連合(ヴィランれんごう)』の関係は?」

 

「一切ありませんよ。どちらかと言えば敵対関係ですね」

 

「どうして(ヴィラン)と関わっているの?」

 

「裏の情報を得るためです。こうなったら無理でしょうが、プロヒーローになったら真っ先に潰す気でした」

 

 俺がそう言うと、校長(ネズミ)は手元のリモコンのボタンを押してTVを点けた。

 

「体育祭の時の防犯カメラ映像だ。しっかり音声もとらえている」

 

 TVに映し出されたのは紅と俺だった。

 

『え~、良いじゃん。お姉さんの言う事は聞いた方が良いよ~』

 

『お姉さんって。紅、お前何歳なんだ?』

 

『20歳』

 

『違う、前世の年齢もプラスしてだ』

 

『ん~、26歳』

 

『ずいぶんと若かったんだな。まだまだ未来があっただろうに・・・・・・』

 

『いや、こっちの世界の方が楽しいからまったく気にしてないよ。で、龍兎ちゃんは何歳なの?』

 

『えっと・・・・・・、33歳』

 

 あの時の会話だよ。

 クッソ。油断してた。

 

「さて、もう一度聞くよ。君は何者だ?」

 

「・・・・・・・・・信じられないと思いますけど、前世の記憶を持った転生者です」

 

「ふむ。それは面白いね。じゃあ、君の事情を教えてくれ」

 

 軽い口調だったが、そこには有無を言わせない迫力が確かにあった。

 俺はガックリと肩を落とし、なぜ転生したか、何があったのかを全て話した。

 ただ、ちゃんと嘘を入れて。

 作品名を“緑谷出久”が主人公の『僕のヒーローアカデミア』ではなく、“八木俊典”が主人公の『オールマイト』という架空の作品をでっち上げた。

 さらに、俺が死んだのはオールマイトがオール・フォー・ワンを次回で倒すというところでその先は知らない。

 等々、虚偽を混ぜに混ぜまくった。

 

「つまり、ファウストの(ヴィラン)もこの世界が漫画とされている世界から転生してきた人たちって事だね」

 

「はい。この前なんか百人単位に『オールマイトのサインをもらってきて』と色紙を押し付けられそうになりましたよ・・・・・・」

 

「ふむ。つまり、君は前世の友人がいないかどうかを探しているんだね」

 

「それもあります。一番は好きな事で話し合える友人に囲まれたい。それがメインです」

 

「ファウストは『敵連合(ヴィランれんごう)』のような組織じゃないんだね」

 

「まあ、そうですけど? (ヴィラン)やってますけど基本的に良い人たちですよ。この前なんか個性使って荷物持ちの手伝いして警察に怒られたヤツもいましたし」

 

 もちろん、ユウの事だ。

 宝具はそうやって使うモノじゃあないだろう。

 

「うん。・・・・・・わかったよ。ありがとう。個性の無断使用などはヒーローとして見逃せないけど君は個性を使った訳ではないしね」

 

(ヴィラン)と仲が良い時点でアウトな気がしますけど」

 

「そこら辺は僕が何とかするよ。・・・・・・それで、その作品で僕どんな感じに描かれてる?」

 

「校長よりもグラントリノの印象が強くて忘れました」

 

 俺がそう言うと校長は肩をガクリと落として項垂れた。

 ああ、かっこよかったか知りたかったんだな。

 

「一応、ファウストのヤツらに校長のファンがいないか聞いてみますね」

 

「よろしく頼むよ・・・・・・」

 

 こうして、この日は終わった。

 この時に予想しておけば良かったんだろう。

 あの校長(ネズミ)が何もしないなんてはずなかったんだから。

 俺がの策略に気が付いたのはその翌日だった。

 そして、それが俺の胃に負担を掛けるストレス源になるのもその日からだった。

 

 

 




校長(ネズミ)的には惜しい人財は手放したくない。


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ヒーロー殺し 編
14話 『ヒーロー名決め、そして・・・・・・』


校長(ネズミ)の暴走。



 校長(ネズミ)との会話から一夜明けて登校日。

 学校に向かう途中で滅茶苦茶話しかけられた。

 うざかったのもあって、途中で路地に入ってワープした。

 バグスターの性質マジ便利。

 クラスでは皆楽しそうに会話をしていたが、相澤先生が入ってくると同時に綺麗に着席して静かになった。

 もう、色々と凄いな。

 前世の頃なんか先生来ても騒いでて、ついでに先生も会話に入って行ったりしてたからな。

 ある意味で自由な学校だったよ。うん。

 そして、原作通りの会話が拡げられ、相澤先生が言った言葉に一気に騒がしくなった。

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「「「「夢膨らむヤツきたああああ!!!!!!」」」」」」」

 

 興奮する皆をよそに相澤先生は冷静に言葉を続ける。

 

「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2~3年から・・・つまり今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

「大人は勝手だ!」

 

 と峰田。

 それには同意するけどしょうがないだろう。

 大人の世界は理不尽なモノだよ。

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 黒板に結果が表示される。

 

[轟]:4123

[爆豪]:3457

[機鰐]:2918

[白神]:1869

[常闇]:355

[飯田]:300

[上鳴]:272

[八百万]:108

[切島]:68

[麗日]:20

[瀬呂]:14

 

 一部原作と指名数が違う・・・・・・。

 

「例年はもっとバラけるんだが、四人に注目が偏った」

 

 相澤先生のその言葉に、

 

「だーーーー。白黒ついた!」

 

 と推薦入学者である八百万さんを超えた上鳴くん。

 

「見る目ないよね、プロ」

 

 と一つも貰えなかった青山くん。

 

「1位2位逆転してんじゃん」

 

「表彰台で拘束されてた奴とかビビるもんな・・・」

 

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

 いや、プロもビビるだろ。

 あんな顔。俺でも怖かったし。

 

「これを踏まえ・・・指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験してしまったがプロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

 ガチで楽しそうだな。

 これからある意味地獄だってのに。

 

「まァ仮ではあるが適応なもんは・・・・・・」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 相澤先生の言葉を遮って入ってくるミッドナイト先生。

 

「この時の名が! 世に認知されそのままプロ名になっている人多いからね!!」

 

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」

 

 色紙が配られる。

 それぞれが各々のヒーロー名を考える。

 俺はとっくの昔に決まっているから暇で暇でしょうがない。

 15分ほどしてミッドナイト先生が言った。

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね」

 

 その言葉に凍り付くクラス。

 まさか発表するなんて思ってもいなかったのだろう。

 皆がザワザワしだす中、青山くんが静かに前に出て行く。

 そして、色紙を掲げながら言った。

 

「輝きヒーロー“I can not stop twinkling(キラキラが止められないよ☆).”」

 

「「「「「短文!!」」」」」

 

 ホント凄いな。

 ヒーロー名を短文にするなんて。

 

「そこはIを取ってcan`tに省略した方が呼びやすい」

 

「それね、マドモアゼル☆」

 

 Iを取ってcan notをcan`tにしたとしても、『Can`t(キャント) stop(ストップ) twinkling(トゥインクリング)』だから結局短文である事には変わりないな。

 っと、そんなことを考えている内に話が進み、どうやら神姫の番のようだ。

 

「見届けヒーロー“死神”」

 

「「「「「圧倒的不穏さ!!!」」」」」

 

 だなあ。

 決してヒーローとは思えない名前だよな。

 前世が“死神”だったからそうしたいんだろうけど普通に却下案件だろう。

 

「白神さん、さすがに不吉じゃないかしら?」

 

「一般的に見れば不吉かもしれませんが、そもそも“死神”は人を殺す神様ではありません。たまに自己快楽の為に殺すバカもいるけど。死んだ人をお迎えして、導くのが仕事です。この名前にしたのは、困っている人を導けるようになりたいからなんです」

 

「そう・・・、理解されるのに時間かかるだろうけど良いの?」

 

「はい」

 

 神姫よ。

 それっぽい理由並べ立ててるけど、結局は前世が“死神”だからだろ。しかも小声で何かサラッと言ってるし。

 そうこうしている内に皆のヒーロー名が発表されていく。

 爆豪の『爆殺王』は当たり前だが却下された。

 飯田くんの発表が終わり、俺の番。

 

「“仮面ライダー”。俺的にはこれしかないよ」

 

 俺は静かにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺は会議室に呼び出された。

 ああ、うん。会議室に多数の気配あり。

 ・・・・・・入ったら出れない気がしてきた。

 コンコンとノックすると中から、

 

「どうぞ~」

 

 と呑気な校長校長(ネズミ)の声がした。

 俺は深呼吸をし、扉を開けた。と、同時に中にいたヤツの顔面を殴り飛ばす。

 

「おお、最近の子供は元気だね」

 

「校長、なぜコイツ・・・・・・だけじゃないな。コイツらがいるんですか?」

 

 俺はそう言いながらファウストのメンバーたちを指さす。

 殴り飛ばしたのはもちろんユウだ。

 

「君の話を聞いて昨日の内に話を付けてきたのさ」

 

「意味が分かりません。何を言っているんですか。ってかヒーローの最高峰に何で(ヴィラン)を招いてるんですか」

 

「君自身が(ヴィラン)のようなモノだから大丈夫だよ」

 

 まあ、確かに。

 

「それで、どういう事なんですか?」

 

「君の考え、“(ヴィラン)側から情報を得る”という発想が僕たちにはなかった。当り前だが(ヴィラン)は無法者。ヒーローとは相いれない存在さ。でも、君の話を聞いてからファウストの(ヴィラン)たちに興味を持ってね。相澤先生とカフェに行ってみたんだ」

 

 思い立ったが即日過ぎるだろう。

 もう少し危機感を持って行動してくれ。

 

「話をしてみたけど(ヴィラン)なのかと疑問に思ってしまったよ」

 

「ハイハイ、それで?」

 

「投げやりになってないかな? まあ、それで警察と話をした結果、ヒーローと警察と(ヴィラン)の三連携から『敵連合(ヴィランれんごう)』を追い詰める形が取られることになった」

 

「自由奔放すぎるぞこの校長!!」

 

 俺が言えたこっちゃないがそれでももっとなんかやり方があるだろう。

 頭を抱えて蹲ってしまった。

 ココまで行くと取り返しがつけねぇ・・・・・・。

 そんな悩みを持ってどうしようかと思案していると、ずっと黙っていたファウストメンバーが、

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 と言った。

 何か名案が!! と顔を上げると、

 

「プロヒーローにサイン貰っていいですか!!」

 

 ズッコケてしまった。

 さっきから何かモジモジしていると思ったらそういう事か・・・・・・。

 そこからは話どころではなくなってしまった。

 色紙をもってプロヒーローの前に並び、サイン会が始まってしまった。

 余談だが、校長の所にも少ないとはいえ一応並んでいた。

 

 

 

 

 

「ありがとうな、ユウ」

 

「変な連絡来たときは少し面倒くさいと思ったけど、この状況ならしょうがねえよ」

 

「話合わせてくれてありがとうな」

 

「いーよ。本当のこと話したら緑谷出久がどうなるか分からないからな。オールマイトは良い隠れ蓑だよ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

「で、何で二日連続で呼び出されているんですか」

 

「昨日は話が出来なかったからね」

 

 それはアイツらのせいでもあるが、校長(アンタ)も原因だろう。

 サイン会始まった時は誰もサイン貰いに来ないからって落ち込んで、しばらくして何人かサイン貰いに行ったら調子に乗って・・・・・・。

 まあ、過ぎた事だ。しょうがない。

 

「『ファウスト』についてだけど、警察の上層部とプロヒーローの中でも一握りしか正体を知らない。表向きは(ヴィラン)の組織だけど、裏では“非公認ヒーロー”という扱いになった」

 

「つまり、どういうことですか?」

 

「『ファウスト』はヒーローの宣伝のための組織になった」

 

「はぁ!?」

 

「『敵連合(ヴィランれんごう)』のせいで世間ではヒーローへの不信感が高まっている。そのため、ヒーローへの信頼を向上させるべく活動して欲しいんだ」

 

「八百長じゃないですか・・・・・・」

 

「うん、そうだよ」

 

 さらっと認めやがった。

 

「それでも、君にとっては悪い話では無いよ。これが決まった事で君は(ヴィラン)じゃなくなったんだから」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか、そのために?」

 

「どうだろうね。とりあえずこの話はこれでお終い。今度、細かい条約を書いた資料を渡すからね」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 何がしたいんだあの校長(ネズミ)は。

 裏があるのは確実だろうが、それが読めない。

 こちとら、猿伸の問題だけでも手一杯だって言うのに、これ以上問題を増やさないで欲しい。

 それに、今日中に職場体験の場所を決めなければいけないんだ。

 どうするかと悩んでいると・・・・・・、

 

「わーたーしーがー・・・・・・来たぁ!!」

 

「相変わらず元気ですね。・・・・・・それで、かなりガタガタ震えていますが何かありました?」

 

「機鰐少年よ。職場体験場所は決まったかい?」

 

「決まってませんけど。・・・・・・・・・何で震えているんですか?」

 

「君に指名が来た・・・・・・」

 

 そう言いながらガタガタと震えるオールマイトを見て、俺は誰から指名が来たのかを察した。

 

「まさか・・・グラントリノですか・・・・・・?」

 

「そうだ・・・・・・」

 

 オールマイトのその言葉に俺もガタガタと震える。

 No.1ヒーローと体育祭主席生徒が震えている姿は異様だろうが、そんなことを気にしている余裕なんかない。

 

「何で・・・俺なんかに・・・・・・(ガタガタ)」

 

「グラントリノの元にも機鰐少年とファウストの関係性は知らさせれている。そこがグラントリノの気を引いたのかもしれない・・・・・・(ガタガタ)」

 

 俺たちは恐怖でただただ震え続けるしかなかった。

 

「・・・・・・確か、緑谷もグラントリノの元ですよね(ガタガタ)」

 

「そ、そうだが・・・・・・(ガタガタ)」

 

「俺、行きます。もしかしたら何か切っ掛けを掴めるかもしれませんから」

 

 俺は震え声でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 この日の夜は大忙しだった。

 校長(ネズミ)から仕事を頼まれ、『ファウスト』は一仕事することになった。

 仕事と言ってもヒーローの敵であるというアピールと、ファウストが侮れない存在であるという事を世に知らしめすのが目的だ。

 翌日のTVではファウスト幹部VSオールマイトは各メディアの注目を呼んだ。

 討論家(爆笑)が仕留められなかったオールマイトをグダグダと批判していたが、しっかりとした観察眼を持つ者は、「アレはパワーではなく技術で相手していた。受け流されたらどんな強力な攻撃も通ることは無い」「目くらましをした瞬間に逃げていることから『テレポート』系統の個性を持っている者がいたと考えるのが妥当。これは仕方のない事である」と発言してからは批判発言は一気に減った。

 まあ、自分が無知であるという事を晒したいと思うヤツそうそういないだろうからな。

 そんな事件から一日開けて日曜日になった。

 雄英は土曜日も授業があるからな。日曜日以外に自由な時間はない。

 俺は休みを利用してユウたちとのバカ話に花を咲かせる。

 ちなみにだが、俺はファウストの基地にいるときはブラッドスタークの姿の場合が多い。今もブラッドスタークだ。

 

「個性と特典、それって違うのか?」

 

「個性は個性。特典は個性とは違うモノだよ。ちなみに俺の特典は気分の好調によって髪の色が変わる」

 

「超サ〇ヤ人かよ」

 

 もっと良い特典にしとけよ。

 

「私は秘密♪」

 

「紅、お前には誰も聞いてないぞ」

 

 俺がため息交じりにそう言い終わると同時に基地内に黒い靄が現れる。

 

「『敵連合(ヴィランれんごう)』が一体何の用だ」

 

「同類として『ファウスト』にお話を持ち掛けに来ました」

 

「よし、帰れ」

 

 俺はそう言いながら黒霧を睨む。

 

「協力などはなし、と受け取っても?」

 

「ああ。お前らと俺らの目的は似ているようで根本的なところが違う。協力関係になったとしてもすぐに破綻するのがオチだ。俺はこれでも国1つを乗っ取る為に暗躍したこともあるんだ。それぐらいの見通しはできる」

 

「そうですか・・・・・・。我々も仲間が必要ですので、何か問題が発生した際はいつでも受け入れる準備がありますよ」

 

「そうか。こっちは受け入れ準備は無いぞ」

 

 俺のそんな言葉を聞き終わると、黒霧はスッと消えて行った。

 やっぱりあの個性は強力すぎるな・・・・・・。

 

「龍t・・・・・・スターク。これからどうする?」

 

「決まってるだろ。『敵連合(ヴィランれんごう)』の目的は保須市のヒーロー殺し、何をやるかは知らないが『パンドラ』の目的も保須市。つまり、俺たちが何をするかはもう決まっているだろう」

 

 不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、周りにいたファウストメンバーが歓喜の声を上げる。

 ここからは完全に原作通りには進まなくなるだろう。

 だが、それでも良いと考えている。

 ここからは俺たちが作る『僕のヒーローアカデミア』の世界だ。

 

 




超絶怒涛の急展開。
何故なら作者のスケジュール的にこうでもしないと話が進まないから☆


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15話 『グラントリノ』

職場体験。
スーパーでの品出し・・・・・・。
うっ・・・頭が・・・・・・。


 職場体験当日。

 俺たちは駅に集合した。

 

「いや~、緑谷も同じ場所だとはね~」

 

「う、うん。奇遇だね・・・・・・」

 

 そう言う緑谷の顔は汗が伝っていた。

 まったく。お前はこれからだってのにさぁ。

 

「大丈夫だよ、緑谷。ワン・フォー・オールについては知っている。俺もその関係で呼ばれたんだから」

 

 俺のその言葉に緑谷の顔が柔らかくなった。

 集まった俺らに相澤先生から言葉がかけられる。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ落としたりするなよ」

 

「はーーい!!」

 

「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」

 

 相澤先生がそう言い終わると俺たちはそれぞれがホームに向かい出す。

 俺は緑谷と麗日さんと共に飯田くんの元へと向かう。

 

「・・・・・・本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

 

「そうだぞ、飯田くん。俺らのできる事ならしてやるからよ」

 

 そう言った俺たちの隣でコクコクと頷いている麗日さん。

 なんて帰ってくるかは知っている。

 これからどうなるかも知っている。

 ただ俺は、

 

「ああ」

 

 そう答えて去っていく飯田くんの背中を見続ける事しかできない。

 だって、ここが物語のターニングポイントだから。

 

 

 

 

 

 

 新幹線で移動している間、俺たちはこれからどうなるのかと雑談をしていた。

 知っているんだけどね。

 グラントリノについて知っているか、と聞かれたが知らないと答えた。

 楽しく話していると45分なんてあっという間で、駅にすぐついてしまった。

 学校側から渡された地図を元に歩いていくと、ある建物が見えてきた。

 おお、ホント原作通りボロボロだな。

 

「よし、入ろうか」

 

「ええ!?」

 

 驚いてる緑谷を置いてさっさと扉まで向かう。

 中がどうなっているかは知っているからな。怖いものなんてない。

 数回ノックしてから扉を開ける。

 

「雄英高校から来ました。機鰐龍兎です、よろしくお願いしま・・・・・・」

 

「ぁぁあああ死んでる!!」

 

 中を見てそんな声を上げる緑谷。

 大丈夫だ、よく見ろ。

 

「生きとる!!」

 

 そう言って顔を上げるグラントリノ。

 

「生きてる!!」

 

 ゆっくりと立ち上がるグラントリノ。

 ああ、原作通りだ。

 俺は一歩下がって様子を窺う。

 

「いやぁあ、切ってないソーセージにケチャップをぶっかけたやつを運んでたらコケたァ~~~~~~! 誰だ君は!?」

 

「雄英から来た緑谷出久です!」

 

「何て!?」

 

「緑谷出久です!!」

 

「誰だ君は!!」

 

 や・・・やべェ。

 演技だとはしているけどナマで見るとヤバイ・・・・・・。

 

「飯が食いたい」

 

 そう言って座り込むグラントリノ。

 落ちていたソーセージがその尻に潰されたのを俺は見逃さなかった。

 

「俊典!!」

 

「違います!!」

 

 こんな状況でもしっかりとツッコミを入れる緑谷。

 俺だったらツッコミを入れられなかっただろうな・・・・・・。

 

「す・・・すみません。ちょっと電話してきますね」

 

 そう言ってその場を去ろうとする緑谷。

 ここからだ。

 ここからグラントリノが見えてくる。

 

「撃ってきなさいよ! ワン・フォー・オール! どの程度扱えるのか(・・・・・・・・・)知っておきたい! 変身する君はしばらく見ていなさい」

 

 グラントリノは緑谷のコスチュームを出しながら、

 

「良いコスじゃんホレ着て、撃て!」

 

 そう言って顔を上げてから、また言った。

 

「誰だ君は!?」

 

「うわああ!!」

 

 ハハハハハハハ(爆笑)。

 ヤッベェ。

 アニメや漫画でも爆笑したけどナマで見るとより面白い。

 ブフェァ・・・・・・ハッハッハ。

 

「僕・・・早く・・・・・・早く力を使えるようにならなきゃいけないんです・・・・・・! オールマイトには・・・もう時間が残されてないから・・・・・・。だからこん・・・・・・おじいさんに付き合ってられる時間はないんです! ・・・・・・行こう、機鰐くん」

 

 そう言って行こうとする緑谷。

 俺はとりあえず壁に寄りかかって様子を窺う。

 その後は原作通り。

 緑谷は手も足も出ずに取り押さえられた。

 

「さあ、次は君の番だ。俺の個性を知っているんだろ、だったら最善の“仮面ライダー(ヒーロー)”を選んできなさい」

 

「了解です」

 

 俺はそう言ってベルトを装着し、シグナルマッハを取り出す。

 そして、レバーを上げ、シグナルマッハをベルトに装填し、レバーを下ろす。

 

《シグナルバイク! ライダー!》

 

「レッツ、変身!!」

 

《マッハ!》

 

 変身音が流れ、俺の体に強化スーツが纏われ『仮面ライダーマッハ』への変身を完了させる。

 俺の変身が完了するのを確認すると同時に壁を踏み台に飛ぶグラントリノ。

 慌ててベルトのボタンを何度も押して加速する。

 

《ズーーット、マッハ!!》

 

 グラントリノの素早さに追いつけるようになった。

 だが、俺の加速にもあっさりと対応してくるグラントリノ。

 こりゃ選択ミスったな。

 マッハは確かに素早いけど、狭い室内での戦闘に適しているわけではない。

 どんどんと不利になっていき、じりじりと追い詰められていく。

 俺はこうなったらやけだ、とベルトを操作する。

 

《ヒッサツ! フルスロットル! マッハ!》

 

 全力でくり出す蹴り。

 当たればどんな人間の意識でも簡単に刈り取るほどの威力だった。

 だが、あっさりと避けられ、そのまま抑え蹴られてしまった。

 

「イッテェ・・・・・・」

 

「強い。それにその力の使い方も十分に分かっている、だが、それを過信しすぎている。それじゃあ決定的な隙を生み出すことになる。過去の英雄(ヒーロー)だか何だか知らないが、それになろうとしすぎて“自分”を持っていない。だからこうなる」

 

 グラントリノはそう言って立ち上がった。

 そして、杖を拾い、扉の方へと歩いて行く。

 

「二人とも、俺の言った答えは自分で考えろ。俺ぁ飯を買ってくる。・・・・・・掃除よろしく」

 

「「ええ・・・・・・!?」」

 

 俺たちの答えを聞かずさっさと行ってしまうグラントリノ。

 緑谷はどこから手を付けようかとあたふたしていたが、俺はまず壊れた電子レンジの片付けに取り掛かった。

 あーあ、もったいない。

 まだまだ使えただろうに。

 ・・・・・・あれ、これぐらいなら治せないか?

 そうと思い立ったが吉日。

 どうせ捨てるんだったら何しちゃってもいいよね・・・・・・。

 俺はバッグから工具を取り出し―――普段から色々なモノを持ち歩いている―――修理に取り掛かる。

 お? こりゃぁ、すぐに直せそうだ。

 

 

 

 

 

 

 機鰐龍兎が電子レンジの修理に取り組んでいる頃、白神神姫は麗日お茶子と共にバトルヒーロー“ガンヘッド”の元で厳しい修行に励んでいた。

 ある程度身体能力のある麗日お茶子は特訓に付いて行けたが、個性に頼りっきりの生活をしていた白神神姫は地獄を見ることになったらしいが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 職場体験一日目、夜。

 買い物から帰ってきたグラントリノは電子レンジが修理されているのに驚いていた。

 フハハハハハ。

 自称・天っっ才物理学者と同じ頭脳の俺を舐めるでない。

 これぐらい朝飯前よ。・・・・・・もう夕方だけど。

 グラントリノはさっさと寝てしまったため、俺も就寝に取り掛かる。

 緑谷は「少し自主練してくる」と言って出て行った。

 俺的にはこのまま寝ても何ら問題はないのだが、緑谷が頑張っているのに自分だけぬくぬくと布団の中で寝るのは気分が悪い。

 布団から出るのはかなり嫌だったが、頑張ってのっそりと起き上がる。

 何かやろうと言ってもハッキリ言うとやる事が無い。

 しばらく腕をくんで思案したが、思いつかなかったため、とりあえず筋トレをすることにした。

 さらに、細かくワープしたりフルボトルを振っての特訓によりハザードレベルを上げた。

 が、途中で眠くなったため、さっさと寝ることにした。

 だって、マジでやる事ねぇもん。

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 職場体験二日目。

 緑谷はあっちこっちボロボロだった。

 

「大丈夫か、オイ」

 

「う、うん。痛みはもう引いているから・・・・・・」

 

 そう言う問題じゃないだろう。

 ケガやアザが痛々しいんだっての。

 俺は母さんが襲われたあの日から仮面ライダーの治癒系アイテムについて再度調べ続けていた。

 すっかり忘れていたよ。

 アストロスイッチの『メディカル』とシフトカーの『マッドドクター』の事を。

 俺はフォーゼドライバーを取り出し、ベルトのスイッチを押してガシッとポーズを取る。

 

《3・2・1》

 

「変身!!」

 

 そう言うと同時にレバーを引く。

 変身音が流れ、俺の姿が『仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ』に変わる。

 そして俺は『レーダー』のスイッチを抜き、『メディカル』のスイッチを差し込み、押す。

 

《メディカル メディカルオン》

 

 俺はメディカルモジュールの中にある薬瓶を緑谷に投げ渡す。

 落とさないよな? と思ったが何とかキャッチしてくれた。

 若干落としそうになっていたのは見なかったことにしておこう。

 

「飲みな、怪我の治りが促進されるから」

 

 そう言って変身を解除する。

 緑谷はビンの蓋を開けて中の薬をグビッと飲む。

 若干顔をしかめていたがしょうがないだろう。

 だって良く言うだろう? 『良薬は口に苦し』ってな。

 その後はほとんど原作通りに進んだ。

 違うところとすれば、俺が電子レンジを治したせいで、グラントリノがお急ぎ便で注文した電子レンジと合わせて二つになってしまった事だろう。

 グラントリノは、

 

「ま、まあ。修理しちまうなんて予想できたもんじゃないからな。こっちは予備としてしまっておくとしよう」

 

 と言っていた。

 そして、緑谷がたい焼きのレンチンを頼まれ、俺は肩揉みを言い渡された。

 前世で良く祖父の肩揉みをしていたのが懐かしい。

 緑谷は温められているたい焼きを見ながら顎を抑えて思案していた。

 うんうん。悩め悩め。

 それが成長するいい切っ掛けになるんだ。

 俺がそんなことを思いながら少し微笑を浮かべていると『チン』と温めが終わった音がした。

 

「うっひょー、これよこれ! 時代はアツアツ!!」

 

 たい焼きを目の前にそう言うグラントリノ。

 その間もブツブツと呟いている緑谷。

 

「浮かない顔してるな。今はとりあえずアツアツたいを食って・・・・・・冷たい!!」

 

 フハハハハ。

 ヤベエ。笑いそう・・・・・・。

 

「ウソ!? ちゃんと解凍モードでチンしたんですけど・・・・・・!」

 

「バッカおまえ!! でかい皿でそのまま突っ込んだな!? 無理に入れると中で回転しねえから、一部しか熱くならんのだ!! チンしたことないのか!!」

 

「あっ・・・ウチの回転しないタイプだったんで・・・。ごめんなさ・・・・・・」

 

 そこまで言って何かに気が付いたような顔になる緑谷。

 そうそう。その“気付き”が大切なんだ。

 この後のセリフも知っているが、グラントリノに合わせるとしよう。

 

「あああ、わかった!! グっ、グラントリノさん!! このたい焼きが僕っ・・・です!!」

 

「「違うぞ、大丈夫か!?」」

 

「あ・・・機鰐くんも・・・・・・。いや、違くて・・・っ! そのっ・・・わかったんです!」

 

 緑谷はそう言って体全体に力を溜めだす。

 

「今まで『使う』ってことに固執していた。必要なときに・・・必要な個所に! スイッチを切りかえて・・・。それだと二手目、三手目で反応に遅れが出てくる・・・・・・!! なら初めからスイッチを全て付けておけばよかったんだ!! 一部にしか伝わってなかった熱が・・・・・・万遍なく伝わるイメージ・・・・・・!! 全身・・・・・・常時5%(身体許容上限)――――!!」

 

「イメージが電子レンジのたい焼きて、えらい地味だがいいのかソレ」

 

「そこはオールマイトの・・・っ。お墨付きですっ・・・・・・!」

 

 フルカウル来たぁーーー!!

 ヤベエ、滅茶苦茶格好いい!!

 

「その状態で動けるか?」

 

「わかっ・・・りません・・・・・・!」

 

「試してみるか?」

 

「お願いします!」

 

 二人の訓練が始まり、俺は取り合えず部屋の端っこに避難した。

 結果は原作通り。

 それでも、結果を知っていた戦いだとしても格好いいと思えるもんだな。

 それからはずっと実践訓練あるのみだった。

 俺は様々な仮面ライダーの力を使い、グラントリノと、時には緑谷と戦った。

 ただ、ひたすら戦い続けた。

 いよいよだ。明日が決戦の日だ。

 

 

 

 

 

 

 海の上。

 そこを航海している大きなフェリーがあった。

 フェリーの甲板で優雅に食事をしている猿伸賊王の元に一人の女性が現れた。

 女性の名前は“志井(しい) 逢奈(あいな)”。

 猿伸賊王の部下にして右腕。

 個性:『忍ぶ者』を使い、情報集めから暗殺までをこなすエキスパートだ。

 

「機鰐龍兎がどこへ職場体験に行ったかは分かったか?」

 

「はい。グラントリノの元です」

 

「チッ・・・という事は保須市に機鰐龍兎も行くことになるか」

 

「ええ、ですが。彼は“ヒーロー殺し”の方に行くでしょう。こちらの計画には一切の問題はないかと」

 

「フン。もし敵対してきたとしても俺に勝てるはずが無いがな」

 

 猿伸賊王はそう言って笑った。

 自身の勝ちを確信し、ただひたすら笑った・・・・・・。

 

 

 




龍兎「そういやさ、転生個性と転生特典ってどんな違いがあるんだっけ?」

ユウ「ん~。個性って身体能力でさ、個性因子とかよく分からんものがあるから発動してるじゃん。特典はそう言ったモノの関係がない何でもありな力って感じかな。だから、イレイザーヘッドに見られても特典は消えないよ。個性は消えるけど」

龍兎「そっか。似ているようだけど明確な違いがあるんだな」

ユウ「そうだよ。まあ、特典は自身に付与する物だけでしかないっていうのが難点だけどな」

龍兎「ふ~ん。そういやさ、紅はどんな得点にしたんだろうな」

ユウ「知らねぇ」

龍兎「そっか」



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16話 『Turn Up』

現れるは英雄(ヒーロー)

立ち向かうは脳無(バケモノ)

現れるのは伝説(仮面ライダー)



 職場体験三日目、夕方。

 緑谷はグラントリノにボコボコにされ、引っ繰り返っていた。

 俺はとっくのとんにボコボコにされてソファーに寝っ転がっている。

 

「これ以上オレ(同じ戦い方のヤツ)と戦うと変なクセがつくかもな・・・・・・」

 

「クセとか以前にまだまだ慣れが足りないです、もっとお願いします!」

 

「いや・・・・・・充分だ。フェーズ2へ行く。職場体験だ」

 

 キメ顔でそう言うグラントリノ。

 いや、フェーズ2から職場体験ならこの三日間は何だったんだ。

 俺はその疑問を面に出すことなくグラントリノの指示に従い、コスチュームに着替える。

 緑谷のコスチュームはβ(ベータ)ヴァージョン。

 俺のコスチュームは“火野映司”ヴァージョン。

 何だよ。何か文句でもあるかよ。

 クウガからジオウまでの20人分の服装を真似たコスチュームを作ってもらって、さらにサブライダーの服装を真似たコスチュームを注文したばかりだよ。

 着替えた後、俺たちは渋谷に向かう。

 途中、保須市を横切るルートでだ。

 

 

 

 

 

 

 新幹線に乗って数分が経った。

 そろそろ来る。

 俺はベルトをいつでも装着できるように準備をしておく。

 すると、

 

『お客様。座席におつかまり下さい。緊急停止しま―――』

 

 そんなアナウンスが鳴り終わる前に新幹線の壁をぶち破ってヒーローが突っ込んできた。

 いや、突っ込んできたという表現は不適切か。

 吹き飛ばされてきた。

 壁に開いた大きな穴からは脳無。

 

「小僧ども、座ってろ!!」

 

 グラントリノはそう言って脳無に突っ込んでいった。

 緊急停止する新幹線。

 

「落ち着いて下さい! ひとまず席にお戻りください! 落ち着いてヒーローを待って・・・・・・」

 

 そう言って乗客を促す鉄道職員。

 

「すみません。僕、出ます!!」

 

「俺も行く!!」

 

「君たち!! ちょっと!! 危ないって!!」

 

 後ろからそんな声が聞こえてくるが、いちいち反応していられない。

 俺は走りながらベルトを装着し、メダルをセット、オースキャナーでスキャンする。

 

「変身!!」

 

《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バッ・タトバ・タ・ト・バッ!!》

 

 そんな音声と共に俺の体に強化外骨格が纏われ『仮面ライダーオーズ タトバコンボ』への変身を完了させる。

 俺はメダジャリバーを取り出し、全力で駆ける。

 人波を掻き分けた先、騒ぎの中心には何体もの脳無。

 ヤバイ。

 USJを襲った脳無よりは弱いだろうが、それでも普通に強いのは確実だろう。

 だが、こいつらはエンデヴァーが何とかしてくれる。

 俺がやるべきことは緑谷の後に続いてヒーロー殺しの元に行くことだ。

 そう判断し、踵を返そうとした瞬間だった。

 目が無くUSJを襲った脳無と見た目が一部類似している脳無が襲い掛かってきた。

 大振りのパンチ。

 俺は身を屈め、その攻撃を避けつつメダジャリバーでその腕を斬る。

 だが・・・・・・、

 

「っ!!」

 

 刃が通らなかった。

 堅い。

 俺はバッタレッグの脚力を利用して後ろに飛んで距離を取る。

 そして、メダルを入れ替える。

 

《タカ! ゴリラ! バッタ!》

 

 タカゴリバへの変身を完了させると同時に再度、バッタレッグで跳び、ゴリラアームで全力で殴りつける。

 バッタの脚力とゴリラの腕力によって勢いよく吹き飛ぶ脳無。

 だが、それで倒せるような相手ではない。

 勢いよく突撃してくる脳無。

 脳無の腕とゴリラアームがぶつかり合う。

 グッッエ。

 マジか、予想以上にパワーがある。

 俺は再度、バッタレッグで跳び、メダルを入れ替え、スキャンする。

 

《サイ! ゴリラ! ゾウ! サ・ゴーゾ・・・・・・サ・ゴーゾォッ!》

 

 素早さは低下するがパワーは向上する。

 それを利用して脳無をとことんタコ殴りにする。

 だが、これは・・・・・・。

 俺の脳裏に『アニメ 僕のヒーローアカデミア』のワンシーンがよぎる。

 この脳無の個性の一つに確か・・・・・・。

 俺は瞬時にその場から離れる。

 それと同時に脳無のケガが再生されていく。

 やっぱり。コイツも『超再生』持ちか・・・・・・!!

 何度も、何度も、何度も何度も脳無と俺の拳がぶつかり合う。

 向こうは何があろうと勝手に回復していくが、こっちは一切の回復はない。

 ブラカワニにすれば『超再生能力』を使えるがパワーではなくガード寄り。

 それでも戦えるだろうが、対応できそうにはない。

 パワー勝負だとジリ貧なのは確実だ。

 俺はゴリバゴーンを発射し、脳無を吹き飛ばす。

 そして、メダルを入れ替えてスキャンする。

 

《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バッ・タトバ・タ・ト・バッ!!》

 

 タトバコンボになると同時にメダジャリバーで再度、脳無に斬りかかる。

 この姿だとパワーはボロ負けだが、機動力・適応力等は圧倒的に上だ。

 俺は細かい動きで脳無の攻撃を避けながらメダジャリバーで何度も斬り裂いていく。

 頼む。

 倒れてくれ。

 早く行かないといけないんだ・・・・・・。

 俺のそんな思いと裏腹に脳無の攻撃はより一層強くなる。

 そして、ついに防ぎきれずメダジャリバーが弾かれてしまった。

 無防備になってしまった俺に脳無の攻撃が来る。

 あっ・・・・・・、と思った時にはもう遅かった。

 ガードなんてできなかった。

 

 

 

 

 

 

 そこはまるで地獄のようになっていた。

 いきなり現れた脳みそ丸出しの怪物に人々が襲われている。

 何十年も前から職業として存在している“ヒーロー”たちが死闘を繰り広げているがそれでも怪物の方が何倍も強い。

 その光景を見た“ある青年”はその渦中に飛び込んでいった。

 青年は長く生きた。いや、長く生き過ぎた。時代の移り変わりを見、超常が起きた時も生き続けていた。

 死なないのではなく死ねない青年。

 長い時を生き、様々な伝説をその眼で見続けた。

 人々に『個性』というモノが生まれ出した時も、それによって世が混乱に陥った時も、“オールマイト”という伝説級のヒーローが現れた時も。

 青年はひたすら生き続けた。

 ある戦いを勝ち抜き、その代償として“死”を失った。

 そんな青年は怪物と戦う一人の戦士を見つけた。

 青年はその戦士を見て呟いていた。

 

「仮面・・・ライダー・・・・・・」

 

 と。

 超常が起きてからこの世界に現れることのなくなった戦士。

 他の為に戦い。その身を懸けても人々を救った英雄(ヒーロー)

 青年はその戦士の加勢をするために飛び出していた。

 ベルトを装着し、駆ける。

 青年は思った。

 こうして戦うのはいつぶりだろうか、と。

 だが、そんな思考は次の瞬間には振り払われた。

 そんな事はどうでも良い、今は、目の前の事に集中しよう。

 そう思ったからだ。

 だから、右手を左側に伸ばし、青年は言う。

 

「変身!」

 

《Turn Up》

 

 

 

 

 

 

 脳無の攻撃が俺に当たることは無かった。

 俺目掛けて放たれた攻撃を飛び出してきた影が防いだからだ。

 その人物を見て、俺は言葉が出せなかった。

 だって、そうだろう。飛び出してきたその人物は・・・・・・、

 

「仮面ライダー・・・ブレイド・・・・・・」

 

 そう。

 そこにいたのは『仮面ライダーブレイド』だった。

 

「大丈夫か?」

 

「は・・・はい・・・・・・。け、剣崎一真さん・・・ですよね・・・・・・?」

 

 俺のその問いにブレイドは答えなかった。

 ただ一言。

 

「・・・・・・行きたい場所があるんじゃないのか?」

 

 そう、静かに聞いてきた。

 

「はい・・・・・・。友達がピンチなんです」

 

「だったらここは俺に任せて、行け」

 

 ブレイドはそう言ってラウザーホルスターに提げられている醒剣ブレイラウザーを抜き、構えた。

 その背中はとても頼もしいものだった。

 

「あっ・・・。お、お願いします・・・・・・!!」

 

 俺はそう言ってその場を去る。

 言葉なんていらない。

 それに、あのセリフを忘れるな。

 

”ライダーは助け合いでしょ”

 

 そう、助け合いだ。

 俺は脳無をブレイドに任せてただひたすら走る。

 スマホには位置情報が送られてきている。

 それを頼りに俺は街を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 巨大な筋肉を持つ怪物と剣を持った戦士はお互いを探る。

 隙を見せればそれが敗北につながる可能性すらある。

 だが、脳無にそんな事を考えるほどの知能はない。

 探っていた訳ではなくどう殴るのかを考えていただけなのだ。

 拳を大きく振りかぶってブレイドに襲い掛かる脳無。

 ブレイドは体を少しひねって避けた。

 プロヒーローを含め、周りの人間にはそう見えただろう。

 だがそんな認識は甘いという事をすぐに思い知られることになった。

 脳無とブレイドがすれ違った瞬間には、脳無の右腕が輪切り状にバラバラと切り落とされていた。

 超再生ですぐに回復する、回復した先から切り落とされていく。

 ブレイドはラウズカードを醒剣ブレイラウザーに素早く読み込ませる。

 

《スラッシュ サンダー ライトニングスラッシュ》

 

 醒剣ブレイラウザーに電撃が纏われる。

 ブレイドは横に一線薙ぎ払うように醒剣ブレイラウザーを振るう。

 強大な攻撃が脳無を襲う。

 その光景を見て、プロヒーローは唖然とするしかなかった。

 自分たちがどう頑張っても防戦一方。

 それもロクな抵抗もできず一方的にやられていたような相手を仮面の戦士はまるで敵じゃないとでも言わんばかりの戦闘力でねじ伏せている。

 だが、ヒーローたちはその姿を頼もしいと思った。

 プロヒーローだって何でもできるわけではない。

 適材適所、各々の個性に合ったやり方でしか行動できないのが現実だ。

 だからこそ連携して助け合っている。

 そんな時に現れた怪物のような(ヴィラン)

 どう連携しようと、どうぶつかって行こうとまるで羽虫を潰すかのように一方的にやられていた。

 そこに現れた二人の戦士。

 一人はどこかに向かって走って行ってしまったが、もう一人はその場に残って怪物を圧倒していた。

 ヒーローたちは思った。

 どこかに行った戦士は、その戦士に合った現場に向かったのだろう、と。

 絶望の色が浮かんでいたヒーローの目に生気が戻る。

 

「どこのだれか分からないヒーローも戦っているんだ!! 俺たちがただ見ているだけでどうする!!」

 

「そうよ!! わたしらにだってできることはある!! 戦いに適した者はあの戦士の援護に!! 残りは逃げ遅れている人がいないかの捜索および避難誘導を!!」

 

「「「「「「おお!!!」」」」」」

 

 殴られ、怪我をしていた者。

 攻撃に巻き込まれ、体を痛めていた者。

 勝てないと分かっていながらも抵抗をしていた者。

 絶望によって動けなかった者。

 それらすべてのヒーローの意思が一つに纏まる。

 

『目の前で戦っている戦士がもっと楽に戦えるようにするんだ』

 

 と。

 ヒーローたちは自分たちが出来ることをやる為に動き出す。

 

 

 

 

 

 

 ビルの上で猿伸賊王が保須市の光景を見て大きな声を上げる。

 

「何でだ!! 何で“仮面ライダー”が二人もいるんだ!! おかしいだろう!! あんなガキの戯言・絵空事が何で現実に居るんだ!! しかも俺たちのアピール用に考えていた脳無を圧倒しているんだ!! 有り得ない!! どっちだ! どっちが機鰐龍兎なんだ!!!」

 

『パンドラ』の宣伝をするために考えていた保須市襲撃事件。

 それを“仮面ライダー”に奪われた。

 その現実を猿伸賊王は認められなかった。

 それを認めてしまえば自分たちの計画のすべてが破綻する気がしたから。

 だが、それを認めなければもっと最悪な状況に陥るのは見えていた。

 だから猿伸賊王は言う。

 

「今回は止めだ。しばらく様子を見るぞ。ファウストの動きに合わせて行動し、ファウストや敵連合(ヴィランれんごう)以上に大きな存在になるぞ」

 

 猿伸賊王は隣にいた部下の肩を掴む。

 それと同時にその場から『パンドラ』のメンバーは全て煙のように消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 俺はひたすら走る。

 目的の場所は知っている。

 あとはひたすら走るだけなんだ。

 間に合え。間に合ってくれ。

 そう思いながら走っていると見えた。

 氷を使って防御と攻撃をしながら炎で権勢攻撃をしている轟くんの姿が。

 轟くんの出した巨大な氷を斬り裂き、上から刺そうと飛び上がっているヒーロー殺しの姿が。

 俺はオースキャナーでメダルを読み込む。

 

《スキャニングチャージ!》

 

 俺の脚にエネルギーが集中し、昆虫型に変形する。

 そこからくり出される必殺技。

『タトバキック』の威力はすさまじい。

 劇中では不遇な扱いだったが、威力だけだったら劇中トップクラスだ。

 俺の攻撃に気が付き、ガードするヒーロー殺し。

 だが、その程度で防げるほど『タトバキック』は優しくない。

 

「セイヤーッ!!」

 

「グッ・・・・・・!」

 

 キックの威力に負けて後方へと飛ばされるヒーロー殺し。

 俺は着地し、全員の無事を確認してから言う。

 

「大丈夫。後は俺に任せて。全員の手は必ず俺が掴むから」

 

「機鰐くん・・・か。何で君まで・・・・・・」

 

「オイオイ、飯田。『何で』じゃねえだろ。ヒーローなら誰かを助ける為に走るのは当たり前だろ。・・・・・・それぐらい分かっているだろう。しっかりしてくれ、委員長なんだからよ」

 

 俺はそう答えて身構える。

 緑谷はヒーロー殺しの個性の効果切れで立ち上がる。

 

「ヒーロー殺し。お前の個性は血をなめる事で相手の体の自由を奪う個性だよな。そして、効果時間は血液型で変わる。・・・・・・どうする? この状況、不利なんじゃねえのか?」

 

 俺がそう言うと、ヒーロー殺しの顔がマジになる。

 ああ、ヤッベェ。やらかしたか。

 

「3体1か・・・・・・。甘くはないな」

 

 俺と緑谷が飛び出し、接近戦を仕掛ける。

 轟くんは遠距離でサポートしつつ動けない二人の護衛。

 鬼気迫るような顔で攻撃してくるヒーロー殺し。

 オーズの体は鈍ら刀程度で傷つけられるようなものではないが、緑谷は違う。

 ヒーローコスチュームと言っても防刃機能がついているわけではない。

 単純に動きやすいというだけのモノだ。

 だからこそ、俺が最前線のさらに前線に立って戦うんだ。

 そんなことを考えているとき、後ろからあの声が聞こえてきた。

 

「やめて欲しけりゃ立て!! なりてえもんちゃんと見ろ!!」

 

 そうここが飯田の人生におけるターニングポイントだ。

 これを邪魔しないようにできただけ上出来だろう。

 さて、ここからが本番だ。覚悟は良いな、ヒーロー殺し!!

 

 

 




サゴーゾをもっと活躍させたかった・・・・・・。


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17話 『英雄(ヒーロー)とは』

 遠い世界にいる青年が自分の故郷が気になり見てみることにした。
 ずっと前に超常が起き、世界は大きく変わっていることは知っている。
 だが、青年からしたらそれでも故郷なのだ。
 青年の目に留まったのはオリンピックに代わるビッグイベント、『雄英体育祭』だった。
 トーナメント戦が行われており、青年は昔を思い出してそれを観戦する。
 だが、ある試合が始まった瞬間、青年の目つきが変わった。

「俺が・・・いる・・・・・・」

 いや、違う。
 そこにいるのは全くの別人が変身した姿だ。
 だが、だからこそ青年は興味を引かれた。
 戦いを見終わったところで青年はある事を決めた。
 あの戦いを繰り広げた少年に会おう。
 そう決めたのだ。

 こうして、機鰐龍兎の知らないところでレジェンドライダーが動き出していた。





 燃え盛る街の中心で異形の怪物と仮面の戦士がぶつかり合う。

 怪物がどれだけ殴ろうと、どれだけ蹴ろうと戦士はその攻撃を全て受け流し、時には弾きその体を斬り刻む。

 何度再生しようと、何度攻撃しようと、その全てをまるで意に介していないかのような動きにプロヒーローたちも圧倒された。

 細かで繊細、それでいて大胆な攻撃。

 それは、このような戦いになれている証拠だろう。

 プロヒーローですら尻込みしそうになるようなこの戦場以上のモノを知っているのだろう。

 怪物と戦士の周りには斬り捨てられた怪物の肉片が散らばり、辺りの火事のせいもあり、斬られた肉が焼かれ、異臭を放っている。

 だが、周りにいる者にそんな些細な事を気にしている余裕はない。

 (ヴィラン)はまだいる。

 目の前の戦いにだけ集中はできない。

 崩れている建物内に取り残されている人はいないか、瓦礫の下敷きになっている人はいないか、それを探さなければならない。

 そんな時、ヒーローたちの耳にある音声が聞こえてきた。

 

《キック サンダー マッハ ライトニングソニック》

 

 振り向くと、仮面の戦士がその手に持っていた剣を地面に突き刺し、怪物に向かって駆け出していた。

 仮面の戦士の足に稲妻が纏われる。

 飛び上がってくり出された跳び蹴り。

 知る人が見たら「ライダーキック」と判断しただろう。

 

「ウェーイ!!」

 

「ガァァアアアア!!」

 

 仮面の戦士の攻撃を喰らい動かなくなる怪物。

 その体は稲妻で痺れ、動けなくなっていた。

 それを見て歓喜の声を上げるプロヒーロー。

 中には負けていられないと言わんばかりに他の脳無に向かって突撃していく者も現れる始末だ。

 仮面の戦士・・・・・・いいや、仮面ライダーの存在はこの日の事件を切っ掛けに大きく取り上げられることになった。

 

 

 

 

 

 

 エンデヴァーは目の前の光景に言葉を出せなかった。

 職場体験に来ていた息子(ショート)は住所だけを言ってそのまま走り去り、相手をしていた脳無は見知らぬ老人に仕留められた。

 だからこそ事件の中心部に向かって走ったのだ。

 なのに、そこにあったのは怪力の脳無が一人の戦士によって圧倒されている所であった。

 ヒーローとして見た事のない戦士。

 エンデヴァーはその姿から何かしらのサポートアイテムを使っているのではないのかと考えた。

 その時、仮面の戦士がカードを持っていた剣に読み込ませる。

 瞬間、仮面の戦士はNo.2ヒーローの目を持ってやっと何とか見えるほどの速さで脳無に攻撃を仕掛けた。

 それを見たエンデヴァーの頭に浮かんだのは雄英体育祭の準決勝戦。

 機鰐龍兎という生徒が見せた動きだ。

 あの時の早さはエンデヴァーですら捉えることはできなかった。

 その速さは、あのオールマイトをも超えていた。

 だからこそ息子と一緒に指名したのに別のヒーロー事務所に行ったという。

 本人の自由意志のため仕方が無いと切り捨てたが、惜しいと思ったのは事実だ。

 その後、来た知らせ。それは対敵連合(ヴィランれんごう)用の組織が出来ている事だった。

 その組織があの『ファウスト』だと聞いた時は耳を疑った。

 世を騒がせた『敵連合(ヴィランれんごう)』と『ファウスト』。この二つの組織すらエンデヴァーは踏み台にしようとしていた。

 それなのに、『ファウスト』は“(ヴィラン)側”ではなく“ヒーロー側”だと言われれば驚かない人間はまずいないだろう。

 しかも、『ファウスト』のトップが機鰐龍兎だと知った時には驚きよりも先に怒りが湧き上がった。

『ファウスト』のトップ、それはあのオールマイトを翻弄し、闇夜に姿を消したあの“ブラッドスターク”だということだ。

 その人材を呼ぶことのできなかったエンデヴァーの心情は計り知れないだろう。

 そして、資料で読んだ機鰐龍兎の個性(チカラ)、“仮面ライダー”。

 目の前で戦っている戦士はその資料に載っていたモノだった。

 

「仮面ライダーブレイド・・・・・・か」

 

 エンデヴァーは戦っている仮面ライダーを機鰐龍兎であると思った。

 だが、そう思った瞬間、違和感を覚えた。

 違和感の切っ掛けは、戦いの近くで救助活動を行っていたヒーローの言葉だ。

 

「あの剣の戦士も、あのメダルの戦士も頑張っているんだ! 俺たちも全力でやるぞ!!」

 

 その言葉を聞いてエンデヴァーの頭の中に浮かんだのは、欲望のメダルを使って戦った“仮面ライダーオーズ”の存在だ。

 もし、救助活動をしているヒーローの言葉の意味をそのまま受け取るなら、この戦場に“仮面ライダー”は二人いるという事だ。

 それに気づいたエンデヴァーはそのどっちが機鰐龍兎なのか判断が出来なかった。

 だが、エンデヴァーはそれを余計な思考だと切り捨てる。

 そして、戦っている仮面ライダーの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「セイヤーッ!!」

 

 俺はそんな声を上げながら飛んでくるナイフをメダジャリバーで斬り落としていく。

 コイツ、マジで人間かよ。

 仮面ライダーの動きに、攻撃にあっさりと対応してくる。

 その強さについ舌打ちをしてしまった。

 いや、舌打ちをしたくなるのは当然だろう。

 いくら何でも強すぎる。

 俺はベルトのメダルを入れ替え、スキャンする。

 

《ライオン! トラ! チーター! ラタ・ラタ・ラトラァータァー!》

 

 ラトラーターコンボになると同時に全力で走り、ヒーロー殺しに襲い掛かる。

 チータレッグの早さはマッハを超える。

 ・・・・・・仮面ライダーマッハじゃないぞ。速度の方のマッハだからな。

 接近し、トラクローで切り裂こうとしたが直撃する寸前で防がれてしまった。

 マッハを超えるスピードを防ぐとかマジで人間かよ・・・・・・。

 それでもあきらめずに何度も何度もトラクローで攻撃するが、全て防がれてしまった。

 

「速い、強い。だが、攻撃が単調すぎる。・・・・・・それでは足元をすくわれる」

 

 ヒーロー殺しの振るった刃が俺の脚を的確に斬りに来た。

 だが、その刃が通ることは無かった。

 当たり前だろう。

 その程度の攻撃で傷付くような強化外骨格じゃあない。

 

「ヒーロー殺し・・・・・・お前の言う本物の英雄(ヒーロー)って何だよ」

 

「誰かがやらなくてはいけない。貴様も知っているだろう“機鰐龍兎”」

 

「顔見えないのによくわかったな」

 

「さっき、名前呼ばれていただろう・・・。ハァ・・・お前は体育祭の時に言った『本物の英雄(ヒーロー)』とは何かを。そして見せた。誰かを助けようとするその信念を、意思を!」

 

「それがどうした」

 

「お前のように行動できるヒーローは少ない。今のような贋物が蔓延る世界ではいつか必ず“ヒーロー”は失われる。だから、誰かが取り戻さなければならないんだ、“英雄(ヒーロー)”を・・・・・・」

 

 俺は、コイツがどういった信念をもってこんな事をしているのかを知っている。

 そして、理解もできる。

 でも、だからこそ許せないんだ。

 

「確かに、この社会には贋物のヒーローが大勢いる。見返りを求め自身の為にヒーローをしている者もいるさ。・・・・・・ヒーロー殺し。お前に聞いてほしい話がある」

 

 俺のその言葉にヒーロー殺しは答えない。

 それに、こんな話をしているときも攻防戦は続いている。

 俺はラトラーターでは不利だと判断―――普通にコンボによる負担がきつくなってきたのもある―――し、メダルを入れ替え、スキャンする。

 

《コブラ! カメ! ワニ! ブラカ~ッ・ワニ!》

 

 ブラカワニコンボになり、ゴウラガードナーでヒーロー殺しの攻撃を受け止める。

 

「これは超常が起きる前の話だ。一人の青年がいた。その青年は誰かを助ける為にただひたすら手を伸ばす、そのためには自分がどうなろうと気にしないような人間だった。さて、問題。この青年はどうして手を伸ばそうとしているでしょうか」

 

 俺の問いにヒーロー殺しは答えない。

 まあ、クイズを出すのは『あのライダー』だけでいいんだけどさ。

 

「答えは単純明快。手を伸ばせなかったからだ」

 

 俺の言葉にヒーロー殺しは目を細める。

 

「青年は学生時代から困った人を助け、世界中の子供達を救う事・世界を変える事を目標とし、多額の寄付・紛争地帯への旅を行っていたんだ。だけど、その寄付金を内戦の資金に利用されて情勢がさらに悪化し、その結果当時滞在していた小さな村が空襲に巻き込まれた。それだけじゃない。その村で最初に仲良くなった少女を目の前で失ってしまった。あと少し手を伸ばせば届いたかもしれないのに。その後、青年も人質として捕まるが、自分にだけ身代金が支払われ帰国。親の人気取りにその話題が美談として使われたという過去を持っている。“世界の実態”という現実を知らず自分の勝手で無思慮な善意で誰も助けられずに自分だけ助かったことが原因で、それがトラウマで誰かに手を伸ばし続けようとするようになった。欲望も無く、誰かを助けても見返りを求めなかった。お前は、この青年を贋物と思うか? それとも本物だと思うか?」

 

「ハァ・・・・・・。ソイツは・・・本物だろう。・・・・・・見返りを一切求めなかったその精神は尊敬に値するモノだ・・・・・・」

 

 そう言いながらもナイフを投げてくるヒーロー殺し。

 抜け目ねえな。オイ。

 

「そうか。俺もその青年は本物だと思う。だけどな、お前がこの前襲った“インゲニウム”だって本物だと俺は思うぞ。優秀な弟がいて、彼を慕っている相棒がいて、家族に応援されて、誰かの為に戦えるヒーローだった。特に弟にはカッコイイ兄であることを見せようと努力し、努力し続けていた。・・・そうだろう、飯田!!」

 

「贋物を容認するか・・・・・・。見込み違いだったか・・・・・・」

 

 ヒーロー殺しの攻撃の勢いが増す。

 ブラカワニの防御をもってしても防ぎきる事が出来ない。

 俺は両手のゴウラガードナーを合わせ、ゴーラシールデュオにして防ごうとした。

 だが、弾かれてしまった。

 ガードを上から力で潰したんじゃない。

 攻撃を受け流すのは聞いたことあるが、ガードを受け流すなんて聞いたことが無い。

 大きな隙ができ、俺の首元目掛けてヒーロー殺しの持つ日本刀の刃がまるで曲線を描くかのように迫ってくる

 マズイ。

 そう思ったと同時に後ろからエンジンを吹かす音が聞こえてきた。

 ああ、やっとか。

 さすがに遅えよ、飯田。

 

「レシプロ・・・・・・バースト!!」

 

 飯田の蹴りが俺に向かってきていたヒーロー殺しの日本刀を真っ二つにへし折った。

 それだけじゃ終わらない。

 飯田は着地と同時にヒーロー殺しに蹴りを喰らわせた。

 

「飯田くん!!」

 

「ナイスタイミング、飯田!!」

 

「解けたか。意外と大したこよねぇ“個性”だな」

 

 一対一ならともかく多対一なら弱くなるのは当然だろう。

 だが、それでもこれだけの人数を相手に戦っていられる当たりさすがだと思う。

 

「轟くんも緑谷くんも機鰐くんも関係ない事で・・・申し訳ない・・・・・・。だからもう、三人にこれ以上血を流させるわけにはいかない」

 

「飯田~、俺一切ケガしてねぇぞ」

 

 俺のその言葉に誰も返事はしなかった。

 

「感化され、とりつくろうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない! “英雄(ヒーロー)”を歪ませる社会のガンだ。誰かが、正さねばならないんだ」

 

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」

 

「いや、言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など・・・ない。それでも・・・折れるわけにはいかない・・・。俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう」

 

 覚悟を決めた飯田の言葉をヒーロー殺しはたった一言で切り捨てた。

 

「論外」

 

 と。

 瞬間、俺はメダルを入れ替え、スキャンする。

 

《タカ! クジャク! コンドル! タ~ジャ~ドルゥ~~!》

 

 タジャドルコンボになると同時にタジャスピナーを向け、ヒーロー殺し目掛けて火炎弾を発射する。

 俺の攻撃と轟くんの攻撃が合わさり、炎の威力が何倍にも膨れ上がった。

 だが、ヒーロー殺しはこれすら避けた。

 どんな身体能力だよ・・・・・・。

 俺はそう思ってげんなりしながらもヒーロー殺しに向かって突撃する。

 だって、轟くんが飯田の足を凍らせる時間が必要だろう?

 タジャスピナーで攻撃を防ぎつつ近接攻撃で時間を稼ぐ。

 跳び上がり、飯田と轟くん目掛けて突撃するヒーロー殺し。

 俺は一気に上空へと飛び上がる。

 下ではヒーロー殺しが緑谷と飯田の攻撃をモロに喰らった所だった。

 

「お前を倒そう! 今度は・・・! 犯罪者として―――・・・ヒーローとして!!」

 

 飯田がもう一発蹴りを入れ、轟くんが顔面に炎を浴びせ、俺も火炎弾をおまけと言わんばかりにぶつけておく。

 轟くんが氷で足場を作り、飯田と緑谷をキャッチしつつ追撃に備えていた。

 だが、ヒーロー殺しが動くことは無かった。

 俺は三人の近くにゆっくりと着地する。

 

「・・・・・・・・・さすがに気絶している・・・ぽい・・・・・・?」

 

「じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは・・・・・・」

 

「あったぞ。打ち捨てられたロープ」

 

「ありがとう、機鰐くん。あ、念の為武器はぜんぶ外しておこう」

 

 

 

 

 

 

 裏路地から縛り上げたヒーロー殺しを引きずりながら大通りに出ると、丁度グラントリノが到着した。

 そして、俺と緑谷の顔面を蹴飛ばす。

 それと同時ぐらいにプロヒーローたちも駆けつけてきた。

 

「エンデヴァーさんから応援要請承った・・・んだが・・・・・・」

 

「子ども・・・・・・!?」

 

「ひどい怪我だ、救急車呼べ!!」

 

「あんた、さっきのメダルの戦士なのか・・・・・・!?」

 

「おい、コイツ・・・ヒーロー殺し!!?」

 

 なんかメダルの戦士とか呼ばれたよ。

 仮面ライダーだ、って言いたいけど分からないだろうし。

 言わないでおくか・・・・・・。

 

「あいつ・・・・・・エンデヴァーがいないのは、まだ向こうで交戦中ということですか?」

 

「ああ、そうだ脳無の兄弟が・・・・・・!」

 

「ああ! あの(ヴィラン)に有効でない“個性(やつ)”らがこっちの応援に来たんだ」

 

「スイマセン。俺と変わる様にして戦った剣崎さん・・・・・・いや、仮面ライダーブレイドは?」

 

「仮面ライダーブレイド・・・ああ、あの剣の戦士か。彼なら(ヴィラン)を倒した後に何処かに行ってしまったよ」

 

 マジか!!

 クッソ。サイン欲しかったのに。

 あと、握手してもらって写真撮らせてもらって・・・・・・あ゙ーーーーー!!!

 俺がそんなことを思いながら頭を抱えて悶絶していると飯田が、

 

「三人とも・・・僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった・・・。何も・・・見えなく・・・なってしまっていた・・・・・・」

 

 と頭を下げてきた。

 俺、無傷なんだけど・・・・・・。

 ブラカワニの固有能力で一切のケガを負ってないんだけど・・・・・・。

 

「・・・・・・僕もごめんね。君があそこまで思いつめていたのに、全然見えてなかったんだ。友達なのに・・・・・・」

 

「しかたがない、って切り捨てるつもりはないけど。大切な人を傷付けられれば誰だってそうなるさ。気にすんな。これを戒めに進んで行こうぜ」

 

「しっかりしてくれよ。委員長だろ」

 

「・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・」

 

 そう言って涙を拭う飯田。

 ったく。しっかりしているとはいえまだまだ子供だな。

 最年長の俺が何とかしないと。

 え? お前はまだ15歳だろ、だって? 前世分も合わせてだよ。

 っと、こんなくだらない事を考えている場合じゃない。

 突如、大きな羽ばたく音が聞こえてきた。

 俺とグラントリノは同時に叫ぶ。

 

「「伏せろ!!」」

 

 こちらに向かって飛んでくる脳無。

 そして、脳無は緑谷を掴み飛び去って行く。

 タジャドルなら簡単に追いつけるが、それはしない。

 血を流しながらも飛ぶ脳無。

 それに向かって跳ぶ一つの影。

 そう、ヒーロー殺しだ。

 血をなめられたことにより羽ばたけなくなって落ちてくる脳無。

 ヒーロー殺しは脳無のむき出し脳みそにナイフを刺しつつ落下する緑谷をキャッチし、静かに着地する。

 そして、

 

「贋物が蔓延るこの社会も、(いたずら)に“力”を振りまく犯罪者も、粛清対象だ・・・ハァ・・・ハァ・・・。すべては、正しき、社会の為に・・・・・・」

 

 あそこまでジャンプできるとか凄いな。

 個性的に身体能力は無個性と同じなのにこの身体能力って・・・・・・。

 どんな鍛え方だよ。

 

「助けた・・・・・・!?」

 

「バカ、人質とったんだ」

 

「躊躇なく人殺しやがったぜ」

 

「いいから戦闘態勢をとれ! とりあえず!」

 

 ザワザワしだすプロヒーローたち。

 俺も一応戦闘体勢だけは取っておく。

 だって、何もしないと怪しまれるかもしれないだろ。

 っと、おお。来た来た。

 

「何故一カタマリでつっ立ている!!? そっちに逃げたハズだが!!?」

 

「「「「「「エンデヴァー」」さん!!」」」」

 

「多少手荒になってしまったがな! して・・・あの男はまさかの・・・・・・」

 

 エンデヴァーはそこまで言って視線をソッと動かす。

 

「ヒーロー殺し―――――!!!」

 

 獲物を見つけた獣のような目でヒーロー殺しに襲い掛かろうとするエンデヴァー。

 それをグラントリノが止める。

 

「待て、轟!!」

 

 グラントリノがそう言うと同時に俺たち―――主にエンデヴァーに―――向かって、ヒーロー殺しから殺気が向けられた。

 うっおおおお!!

 ヤバイヤバイバイヤバイ。

 滅茶苦茶だ・・・・・・。

 USJの時に感じた悪意・害意・殺気なんて比較にならないほどだった。

 

「贋物・・・。正さねば――――。誰かが・・・血に染まらねば・・・・・・。“英雄(ヒーロー)”を取り戻さねば!! 来い。来てみろ、贋物ども。俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」

 

 そこまで言って動かなくなるヒーロー殺し。

 俺の隣ではあまりの迫力に腰を抜かしているプロヒーロー。

 あのエンデヴァーですら後ずさったのだ。

 だが、それ以上ヒーロー殺しが動くことは無かった。

 

「気を、失っている・・・・・・」

 

 そう、立ったまま気を失っていたんだ。

 原作通りなら、ヒーロー殺しは肋骨が折れて、肺に突き刺さっている。

 そんな状態でこんな迫力を出せたんだ。

 もしもさっきの戦いでこんな迫力を出されていたら、その恐怖のあまり負けていたのはこちらだろう。

 それを思うと背筋に寒気が走った。

 

 

 

 

 

 

 一夜明け、俺は病院にいた。

 前にいるのは保須警察署署長“面構(つらがまえ) 犬嗣(けんじ)”さんがいる。

 この人も『ファウスト』について知っている人物の一人だ。

 

「やあ、ブラッドスタークくん。こうして直接会うのは初めてだねワン」

 

「そうですね、署長。あと、この姿の時は機鰐龍兎と呼んでください」

 

「ハッハッハ、立場としては君と私は対等。敬語はいいワン」

 

「・・・・・・それで、緑谷たちの様子はどうでした?」

 

「怪我は有れど全員無事だワン」

 

「情報ありがとう。・・・・・・んじゃ、行くよ」

 

「友達のお見舞いはしないのかワン?」

 

「ああ、これから予定があるんだ。・・・・・・これからの事に重要な話し合いの予定がな」

 

 俺はそう言って病院を去る。

 これからの予定、それは『ファウスト』での会議だ。

 報告によると、俺たちの予想通り『パンドラ』のメンバーが保須市にいた事がわかった。

 ほとんどが固まっていたが、数名が単騎で行動していた事も。

 そして、『ファウスト』メンバーと『パンドラ』メンバーで小さいが交戦があった事も。

 ・・・・・・何を勝手に戦っているんだ。

 いや、確かにあの時は指示する余裕なんて一切なかったし、電話に出れる状況でもなかったよ。

 でもさ、何があるか分からないのに勝手に行動起こされると後処理が面倒くさいってのに・・・・・・。

 俺は大きなため息をつきながらアジトへと歩を進めた。

 

 

 余談だが、この日の会議は滅茶苦茶なモノになり、何人かが病院へ運ばれたりもしたが、平和的な会議で終わった。

 え? 怪我人出ている時点で平和じゃないって?

 俺が無傷なら良いんだよ。

 

 

 




紅 「そういえばさ、私たち『ファウスト』と『ヴィジランテ』ってどういった違いがあるの?」

龍兎「あれは、法律的には(ヴィラン)だけど、やってることは正しいから扱いは非合法(イリーガル)ヒーロー。つまり、無免許のヒーローだと考えてくれればいい。逆に俺たちは完全に(ヴィラン)。ただ違うところと言えば裏では公認されているところだろうな」

紅 「ふ~ん。何か面倒くさいね」

龍兎「知ってる」


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期末テスト 編
18話 『新たな計画』


次回から少しオリジナル展開にしようとしています。
その為、ストーリー構成をするので次回の投稿は遅くなると思います。
ごめんなさい。


 会議が終わり、俺は肩を落としながらグラントリノの事務所までトボトボと歩く。

 龍玉悟雲の部下たちはなんであんなに血の気が多いんだ。

 色々と下準備をしている所だってのに勝手に飛び出したり、正面突破しようとしたり。

 最終的には興奮して会議室で大暴れするし。

 まあ、ブラッドスタークの毒(薄いヤツ)を打ち込んで黙らせたけどさ。

 あれ以上やるようだったら本気の毒を打ち込んでたっての。

 あ゙ーーーーーーーー!!!

 面倒くさいったらありゃしない。

 そんなことを考えていると、大きな爆発音と悲鳴が聞こえてきた。

 ・・・・・・嫌な予感しかしない。

 それでも向かっているのはきっと野次馬根性というヤツだろう。

 現場に到着すると一人の(ヴィラン)がヒーロー数人に取り囲まれていた。

 そのまま抑えに行けばいいものを、ヒーローたちは動かない。

 人波を掻き分けて現場を見ると(ヴィラン)は人質を取っていた。

 (ヴィラン)は異形型で身長は2メートルぐらい、牛のような顔に腕はオールマイトの腕以上の太さで筋肉質。あの腕なら人間の首程度は簡単に砕くことができるだろう。

 そんなことを思いながら人質を見た瞬間、俺はすぐさまその場を離れて人気のない路地へと駆け込む。

 そして、ロストボトルとトランスチームガンを取り出す。

 

《コブラ》

 

「蒸血」

 

《ミストマッチ! コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

 俺はブラッドスタークになると同時に現場の中心へとジャンプする。

 いきなり現れた俺に現場はザワつく。

 だが、さすがプロヒーロー動揺は一瞬だけですぐに対応を始める。

 

「ブモー、なんだ貴様」

 

「ブラッドスターク。そう呼ばれている」

 

「・・・・・・『ファウスト』とかいう組織の(ヴィラン)か。何のようだブモー」

 

「なぁ~に。ちょっと俺にも事情があってな」

 

 俺はそう言ってスチームブレードも取り出す。

 この行動を見て身構えるヒーローたち。

 お前らには危害を加えねえよ。

 俺の事を味方だと思い大きな隙を見せる(ヴィラン)の腕を斬りつける。

 痛みによって人質を落とす(ヴィラン)

 地面に落ちる前に抱え上げ、すぐさま距離を取る。

 

「何をするんだブモー!!」

 

「言っただろう。俺にも事情があると」

 

 俺はそう言いながら人質となっていた人を下ろす。

 その人物は、神姫の母親だ。

 この人も俺の親同様無個性で抵抗しようがなかったのだろう。

 何か俺に怯えているけど気にしないでおこう。

 

「ほら、さっさと行きな。ここにいられると邪魔なんだよ」

 

 そういっておばさんを逃がす。

 プロヒーローたちはそんな俺と腕を抑えて喚いている(ヴィラン)に襲い掛かってきた。

 俺はプロヒーローたちの攻撃を全て避け・受け流し、スマホで動画を取っていた一般人の近くまで行く。

 そしてカメラに向かって言う。

 

「良い余興だっただろう? それじゃ、チャオ」

 

 トランスチームガンから黒い霧を出してその場から退避する。

 カメラを向けていた男性は、

 

「ネットにupすれば再生数稼げる!!!」

 

 と喜んでいた。

 ふむ。良い事をした気分だよ。

 俺はさっきまでの不機嫌はどこへ行ったのやら、上機嫌で歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の新聞はとんでもないことになっていた。

 

『“ヒーロー殺し”ついに逮捕』

 

『謎のヒーロー! 仮面ライダーとは!!』

 

『ブラッドスターク出現! 人質を助けてそのまま去る!!』

 

 もう色々と凄いな。

 ってか、ヒーロー殺しが捕まったのは二日も前だろう。

 それなのに昨日の俺の記事が一番小さいって・・・・・・。

 まあ、目立ちたいわけじゃないからいいんだけど。

 ハァ。

 一応、人助けしたのにグラントリノには滅茶苦茶怒られた。

 それに、保須市での事件のせいもあってグラントリノの元での職場体験は中止。

 相澤先生にそのことを報告したら、

 

「しばらく休んでおけ」

 

 と言われたが、はっきり言って暇。

 緑谷と飯田と轟くんのお見舞いにはもう行った。

 お土産として缶ジュースを持って行ったら、ちょうど三人ともそろっていたため、軽く話に花を咲かせた。

 お昼辺りに『パンドラ』についての情報が入ったが、どうやらしばらく潜伏して様子を窺うようだ。

 つまり、向こうも下準備を始めているという事だ。

 ここからは激闘の時代になりそうだな。

 俺はそんなことをもいながらコーラを一気飲みし、むせた。

 

 

 

 

 

 

 登校日。

 爆豪の髪型を見てつい笑ってしまった。

 そして、一番驚いたのは、神姫が麗日さん同様仕上がっていた所だろう。

 なんか麗日さんと同じようなオーラ纏って正拳突きしてるし。

 峰田はトラウマを植え付けられ、暗い顔で爪をガジガジと噛んでいた。

 そして、原作通りヒーロー殺しについての会話になったが、話すのが面倒だったのでさっさとトイレに逃げた。

 そこから紆余曲折あり午後。

 みんなコスチュームに着替えて移動する。

 

「ハイ、私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね! 久し振りだ少年少女! 元気か!?」

 

「ヌルっと入ったな」

 

「久々なのに」

 

「まあ、ある意味インパクトがあったよ」

 

「パターンが尽きたのかしら」

 

 俺たちの言葉に若干の動揺を見せるオールマイト。

 だが、さすがはプロヒーロー。

 何事もなかったかのように説明に入る。

 

「職場体験直後ってことで今回は遊び要素を含めた救助訓練レースだ!!」

 

「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」

 

 とコスチューム修繕中でジャージ姿の飯田。

 その前にはオールマイトの黄金時代(ゴールデンエイジ)のコスチュームに大興奮の緑谷。

 

「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな? そうレース!! ここは運動場γ(ガンマ)! 複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯! 6人2組と5人2組に分かれて1組ずつ訓練を行う! 私がどこかで救難信号を出したら街外から一斉スタート! 誰が一番に私を助けに来てくれるかの競争だ!!」

 

 オールマイトはそこまで言ってから爆豪の方を指さす。

 

「もちろん、建物の被害は最小限にな!」

 

「指さすなよ」

 

 そう言って顔をそらす爆豪。

 まあ、しょうがないよな。

 ちなみに、組は前みたいにくじ引きで決まった。

 

 

 

 

 

 

 結局こうなったか。

 救助組は。

 

[緑谷]

[尾白]

[飯田]

[芦戸]

[瀬呂]

[機鰐]

 

 となった。

 緑谷が足を滑らす所を間近で見れるぜ。

 っとそんなことを思っている間にスタートの合図が出た。

 俺は慌てて変身する。

 

《タカ ガトリング ベストマッチ Are you ready?》

 

「変身!」

 

《天空の暴れん坊 ホークガトリング イェーイ!》

 

 変身すると同時に飛び上がる。

 フハハハハハ。

 瀬呂よ! いくら機動力があれど飛べる方が圧倒的に機動力が良いんだよ!!

 そんなことを思いながら緑谷の動きも見ておく。

 俺と緑谷がトップだったが、途中、緑谷は足を滑らせ、そのまま落ちて行った。

 あーあ。

 と思いながらも俺はオールマイトの元へと飛んだ。

 結果、俺が最初に到着した。

 

 

 

 

 

 

 更衣室では原作通りの展開があった。

 峰田よ。もう少し節度と言うモノを持て。

 ホント、失明すればよかったのに。

 まあ、それはさておいてだ。

 期末テストをどうするかが問題だ。

 一応、俺の頭脳は “天っっっ才・物理学者”と同じなため、勉学に関しては平気なのだが、模擬戦闘がどうなるかが心配だ。

 カブトに変身すればゲートから出ることも可能だが、それでも上手く行く保証はない。

 まあ、大丈夫だとは思うけどさ。

 念には念と言うからな

 っとそんなことを考えながら歩いている内に校長室へとついていた。

 言い忘れていたが今は放課後。

 皆はとっくに下校している時間だ。

 俺は校長室のドアをガラッと無造作に開け放つ。

 

「やあ、ちゃんと来てくれたんだね」

 

「相澤先生通じてアンタが呼び出したんだろう。・・・・・・それで、用件は?」

 

 俺はそう言いながら校長室の扉を閉める。

 そして、校長室に備え付けられているソファーにどっかりと座り込む。

 

「君に・・・いや、ファウストに頼みがあるんだ」

 

「ハイハイ。また面倒くさい仕事でしょう? それで? 何をやればいいんですか?」

 

 

 

 

 

 

 また面倒くさいことになった。

 俺はため息をつきながらカフェに向かう。

 カフェ内は客でにぎわっていたが、俺はそこを無視してトイレ内の隠し通路から地下に入る。

 階段を下りる途中でバッグを開け、中に潜んでいた校長(ネズミ)を出す。

 

「この下なのかい?」

 

「そうですよ。・・・・・・ってか、何でアンタ直々に来るんですか?」

 

「演習試験前のテストのため。その打ち合わせのためには僕が直接話した方が良いと思ってね」

 

「ハァ・・・・・・。アンタのその図太さに呆れもあるけど、ある意味凄いとも思うよ」

 

 そんな会話をしている内に地下室についていた。

 そこにはユウと紅を含む『ファウスト』メンバー(幹部とその右腕)数人だけだ。

 

「ようこそ、ファウスト支部へ」

 

「この規模で支部なんだね。つまり、本部はもっと大きいって事かな?」

 

「そうですよ~」

 

 紅が笑顔でそう答える。

 ・・・・・・俺、本部の場所聞かされてないんだけど。

 後でユウから聞き出すか。

 

「ん? 龍玉のヤツは?」

 

「幹部の一人を捕まえに海外まで向かってる」

 

「幹部・・・。ああ、そういえば最後の一人とは未だに会えてなかったな」

 

「まあ、しょうがないと思ってくれ。自由人過ぎてどこにいるか分からないヤツなんだよ・・・・・・」

 

 オイオイ。自由人のユウが自由人と言うってどれだけ自由人なんだよ。

 それって『ファウスト』に所属している意味あるのか?

 

「ソイツってどれだけ自由人なんだよ」

 

「ニューヨークに行くと言って出発したはずなのに、『今、アフリカにいるよ』って言う手紙がインドから届いて、中にはエッフェル塔の近くでピースしている写真が入ってた」

 

「どういうことだよ・・・・・・」

 

 自由人のレベルを超えているだろう。

 

「ちなみに最近、中国にいるって手紙がチリから届いた」

 

「地球の反対側だぁ~~」

 

 どんなチート個性の持ち主なのか知りたいよ。

 俺は深いため息を吐いた後、椅子に座り計画の話をする。

 ただ、聞いてて思ったのだが、大根役者のオールマイトにしっかりと演じきれるかどうかが気になった。

 




オリキャラ設定


猿伸(さるのび) 賊王(ぞくおう)
身長:178cm
体重:65kg

何が目的か不明な(ヴィラン)
元・ファウスト幹部。
楽しい事が好きで、『ファウスト』が窮屈だと感じ、脱退後、敵対。
個性:『ゴム人間』はその名の通りの個性で、某麦わらの海賊を意識しているらしく、いつも麦わら帽子を被っている。
冷静なたちだが、興奮すると血の気が多くなり交戦的になる。
機鰐龍兎を自身最大の敵だと考えており、”仮面ライダー“に勝つために現在は作戦を練っている。


龍玉(りゅうぎょく) 悟雲(ごうん)
身長:182cm
体重:89kg

自由奔放な性格。
身勝手でわがままなところがあるが、根は素直で真っ直ぐなヤツ。
ファウスト幹部の一人。
個性:『孫悟空』は説明をする必要はもうないだろう。
いつも山吹色の道着を着ており、一人称は『オラ』。
頑張って孫悟空のマネをしようとしているが、服装以外全く似ていない。


『??? ???』
身長:【NO DATA】
体重:【NO DATA】

自由奔放すぎるヤツ。
ファウスト幹部ではあるが、会議にはロクに参加していない。
個性:『魔王』
未だに機鰐龍兎の前には現れず、性別から性格、口調、一人称まで不明。
その力は強大で、賢王雄ですら本気で戦っても勝てない、と言うほどの実力を持っている。



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19話 『USJ再襲撃事件① 動き出す者』

予想以上に早く完成して驚きを隠せません。
ですが、これからの投稿は超絶不安定になりそうです。
理由を言いますと、自動車学校に時間を取られているんです(´・ω・`)←18歳
本当にごめんなさい。

それと、誤字報告本当にありがとうございますm(_ _)m




 6月中旬。

 期末テストまであと約2週間。

 この日、俺たちはまたUSJまで向かっている。

 運転手はオールマイトだ。

 相澤先生は先に向かっている。

 

敵連合(ヴィランれんごう)のせいもあって災害救助訓練できなかったから少し楽しみなんだ~」

 

「私も楽しみだわケロ」

 

「あの後は雄英体育祭もあって訓練どころじゃなかったからな」

 

 等々と楽しそうに話すクラスメイト達。

 これから地獄になるってのに呑気なモンだな。

 俺は外の風景を楽しみながら台本の中身を思い出す。

 アドリブはOKだが、なるべく筋書き通りにしたいからな。

 

「さあ、少年少女たち。楽しい会話をしている所悪いがそろそろ到着するぞ」

 

「「「「「「「はーーーーい!!!」」」」」」」

 

 こんな元気な返事がいつまで続くかな?

 俺はそんな疑問を胸にさわやかな笑顔で皆を見回した。

 

 

 

 

 

 

 USJに全員が入った瞬間、扉がいきなり閉まり開かなくなる。

 ザワつき出すクラスメイト達。

 俺は自然な流れで、

 

「お、オイ! あそこ!!」

 

 とUSJの中心を指さす。

 そこには・・・・・・、

 

「オイ! あれって!!」

 

「そんな・・・・・・」

 

「先生が!!」

 

 血を流して倒れる相澤先生と13号先生の姿。

 そして、その周りには大量の人影。

 その中心にいるのは・・・・・・。

 

「ちょ、あそこにいるのって・・・・・・!」

 

「ナイト・・・ローグ・・・・・・!」

 

 そう。

 広場の中心にいるのはナイトローグだ。

 

「また襲撃かよ!」

 

 クラスの全員が臨戦態勢に入る。

 だが、

 

「君たちは動かないように!!」

 

 オールマイトがそう言って飛び出していく。

 それを見て安どの表情を浮かべるクラスメイトたち。

 だが、あるヤツ・・・・・・“猫澤(ねこざわ) 美寝(みね)”がオールマイトの顔に手をかざすと同時に何かボソッと呟いた。

 瞬間、オールマイトが倒れ、動かなくなる。

 おお、演技上手かったな。

 オールマイトがやられたのを見て半パニックに陥るクラスメイトたち。

 その時、放送が流れる。

 

『ようこそ。雄英高校1年A組諸君。俺の名前は“ナイトローグ”。ここは今、ファウストによって占拠されている。ああ、オールマイトの事を心配しているようだね。大丈夫。死んではいない。仲間の個性によって眠ってもらっただけだ』

 

 その言葉を聞いたとしてもパニックが収まるはずがない。

 ったく。しょうがない。

 

「皆、一旦落ち着け。眠っているという事は、他者を眠らせる個性の持ち主がいるという事だ。・・・・・・多分、オールマイトの顔を触ったあの(ヴィラン)がそうなんだと思う。他にも色々な(ヴィラン)がいるかもしれないけど、閉じ込められている以上は交戦するしかない」

 

『そうだ。オマエ、良いことを言ったな。俺たちはゲームがしたいんだ。ルールは簡単。君たちが俺の元まで辿り着き、俺を倒せたら終了。ただし、制限時間は一時間。それまでにたどり着けなかったら平和の象徴(オールマイト)の命はない。では、作戦会議時間は10分以内。それでは、また会おう』

 

 そう言って放送は止まった。

 

「うーーーーーー!! 私、行く!!」

 

 そう言って飛び出していく神姫。

 ・・・・・・忘れてた。

 ああ、どうしよう。最悪の場合アイツ一人でファウスト壊滅する。

 俺が皆に見られないように頭を抱えていると、神姫に紅い影がぶつかる。

 誰であろう。紅である。

 神姫の攻撃を全て打ち払い、突撃する紅。

 そのままUSJ天井付近で戦い出す二人。

 うわ~、神話級の戦いになってるよ。

 神VS不死鳥。

 あ~~~~~。天井が壊れだしてる・・・・・・。

 俺は倒れている13号先生の方に視線を向ける。

 プルプル震えて・・・・・・あーあ、泣いてるな、ありゃ。

 ナイトローグが慰めてるよ。

 

「・・・・・・神姫が時間稼いでいる内にグループで別れよう」

 

「そうだな。この状況では固まっての行動よりも四手に分かれた方が良いだろう」

 

「でも、少人数だと危険じゃないかしら、ケロ」

 

「こういった状況だと固まって行動していると襲われた時に全滅しやすい。だったら分かれた方が良いんだと思う」

 

 こうして話し合いは進み、最終的に、

 

 第一チーム。

[飯田 天哉]

[機鰐 龍兎]

[緑谷 出久]

[八百万 百]

[葉隠 透]

 

 第二チーム

[轟 焦凍]

[障子 目蔵]

[砂藤 力道]

[瀬呂 範太]

[青山 優雅]

 

 第三チーム

[爆豪 勝己]

[切島 鋭児郎]

[白尾 猿夫]

[芦戸 三奈]

[耳郎 響香]

 

 第四チーム

[常闇 踏陰]

[麗日 お茶子]

[口田 甲司]

[蛙吹 梅雨]

[上鳴 電気]

[峰田 実]

 

 (ヴィラン)と交戦中なため除外。

[白神 神姫]

 

 となった。

 チーム分けが決まったタイミングで、

 

『時間だ。さあ、私の元にたどり着いてみろ』

 

 と放送が流れた。

 俺は仮面ライダービルドへの変身を完了させてから行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ハァ。

 自作自演って案外疲れるものだな。

 ったく。あの校長(ネズミ)も無茶な注文をする。

 何が、

 

「演習試験前に実戦訓練をして欲しいんだ」

 

 だよ。

 俺が生徒である事を忘れないで欲しい。

 ファウストとして行動のしようが無いだろう。

 そんな事を思いながら進んでいると、前に人影が現れる。

 あれは・・・・・・、通理葉真だな。

 あとその部下数名。

 

「前方に敵影!!」

 

 飯田の言葉を合図に俺たちは(ヴィラン)に向かって駆け出す。

 俺の相手をするのは“剣山(つるぎやま) 騎士(きし)”。

 個性:『聖騎士』

 鎧と剣を無限に生み出し、騎士としての技術を使えるという個性だ。

 騎士の剣と俺のドリルクラッシャーがぶつかり合う。

 ドリルクラッシャーのドリルが回転することにより、騎士の剣を弾く。

 だが、弾いた時にはもう、新しい剣が握られている。

 まあ、この戦いも台本通りなんだけどな。

 多少のアドリブはあれど、練習した通りに派手な戦いを繰り広げる。

 ハァ。

 ホント、面倒くさい。

 俺はそう思いながら皆の方を見やる。

 緑谷は増強型個性の“道力(どうりき) (つよし)”と戦っている。

 道力の個性名は『一発増強』というモノで、攻撃をすればするほどパワーが上がっていくという個性だ。

 飯田は俊敏型の“速川(はやかわ) (しょう)”と戦っている。

 速川の個性名は『瞬足』というモノで、簡単に言えば高速で走れる個性だ。ただ単にく走れるだけの個性だが、その速さを攻撃に乗せる戦術なため、飯田と被っている所があるが、まあ、気にしないでおこう。

 八百万さんの相手は“投影(とうえい) 華武器(かぶき)”と戦っている。

 投影の個性名は『武器創造』というモノで、はっきり言うと八百万さんの個性である『創造』の下位互換となっている。だってそうだろう? 武器しか作れないんだから。まあ、それでも転生個性の利点として、ノータイム・ノーモーションで武器を作れるところは強みだろう。

 葉隠さんは・・・・・・アレ? どこに居るんだ? 全く見当たらない。

 手袋やブーツも見当たらないし・・・・・・。

 ま、まあ。

 葉隠さんの事は後回しにしておこう。

 しばらく戦い、作戦を決行する。

 

「危ない! 八百万さん!!」

 

 俺はそう叫びながら八百万さんを押し飛ばす。

 瞬間、地面から飛び出してきた通理葉真が俺の体を掴み、地面に引きずり込む。

 

「機鰐くん!」

 

「そんな! 機鰐さん!!」

 

 おお。どんどん沈んでいくな。

 うーん。一応これで作戦第一段階終了だけど味気なかったかな?

 そんなことを考えていると、

 

「機鰐くん!!」

 

 俺の名前を呼びながら、向かって来る緑谷。

 緑谷の手が俺の手を掴もうとしたが、あと一歩のところで届かず、俺は地面の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

「そ・・・んな・・・・・・」

 

 緑谷出久は(ヴィラン)の個性によって地面へと沈んでいった友達の手を掴めず、ただ、呆然とそう呟いた。

 八百万百は自身を庇った機鰐龍兎の姿が衝撃的過ぎて言葉を発することが出来なかった。

 第一チーム全員が唖然としている中、地面から機鰐龍兎を引きずり込んだ(ヴィラン)がにゅっと出てきた。

 

「機鰐くんを・・・どうしたんだ・・・・・・?」

 

「機鰐・・・・・・。ああ、仮面ライダーの事か。アイツなら今、地面奥深くで生き埋めになっている所だよ」

 

 (ヴィラン)のその言葉に緑谷出久たちは言葉を失った。

 クラスメイトが・・・・・・、友人が生き埋めになっていると言われて冷静でいられる人間はいないだろう。

 ・・・・・・委員長を置いて。

 

「皆、彼なら大丈夫だ。過去の英雄の力を使う機鰐くんなら脱出の手段を持っている可能性が高い。あの(ヴィラン)の個性はまだ完璧に分かっていないが、多分、“自分と、自分に触れている相手を地面に沈める個性”である可能性が高いと思う。彼に触れられないように気を付けるんだ!!」

 

 飯田天哉の言葉に全員が再度臨戦態勢に入る。

 その姿を見て通理葉真はチッと舌打ちをし、懐からナイフを取り出す。

 瞬間、向かい合っている緑谷出久たちと(ヴィラン)たちの間に銃弾が撃ち落される。

 銃弾が飛んできた方には・・・・・・、

 

「よお。“スィング”とヒーローの卵たち。随分と面白そうじゃないか」

 

 そう言ってゆっくりと歩いてきた不穏な人物。

 それは・・・・・・、

 

「ブラッド・・・スターク・・・・・・」

 

「おお。知っているのか。そうだ、俺がブラッドスタークだ」

 

 ブラッドスタークの姿を確認した通理葉真・・・・・・(ヴィラン)ネーム“スィング”は取り出していたナイフをしまって言う。

 

「スタークさん・・・何の用ですか・・・・・・?」

 

「面白そうだからな。・・・・・・さて、ヒーロー諸君。俺と一つゲームをしようじゃないか。内容は単純なモノさ。ここに一人残って俺と戦う。残りは先に進んでいい。・・・・・・どうかな? 悪い内容じゃないだろう」

 

 ブラッドスタークのその提案は罠を匂わせるモノだった。

 だからこそ、緑谷出久たちは警戒心をより強める。

 

「オイオイ。そこまで警戒されると傷付くなぁ。俺はゲームをしたいだけさ。・・・・・・ナイトローグの計画には何となく付き合ってやったが、お前たちと戦う方が面白そうだ」

 

 ブラッドスタークはそう言ってトランスチームガンとスチームブレードを取り出し、構える。

 

「スィング。お前は引け。ここは俺がやる」

 

「・・・・・・ハイ」

 

 通理葉真(スィング)たちはその場から離れる。

 それでも緑谷出久たちは警戒を緩めない。

 その行動自体が罠だという考えは捨てきれるはずがない。

 

「さあ。どうする? 早くしないとナイトローグ(アイツ)が決めた制限時間が過ぎてしまうぞ」

 

 ブラッドスタークのその言葉を聞いて八百万百がスッと手を上げ、言う。

 

(わたくし)が残りますわ」

 

「そんな、八百万さん!」

 

「駄目だ、八百万くん。君の個性は正面戦闘に向いている訳じゃない! それだったら僕が・・・・・・」

 

「いいえ、誰がなんと言おうと(わたくし)が残ります。・・・・・・(わたくし)の不注意のせいで機鰐さんが早期脱落をしてしまいました。・・・・・・これから先、似たようなことが無いとは言い切れませんわ。だから、残ります。それに、(わたくし)の個性でしたらブラッドスタークを拘束できるやもしれませんから」

 

 そう言った八百万百の目は真剣なものであった。

 だから、緑谷出久たちは、

 

「頼んだよ、八百万さん」

 

「危ないと思ったらすぐに引くんだぞ」

 

 そう言って先へと進んで行った。

 その間、ブラッドスタークは一切動かなかった。

 

「お待たせしましたわね。さあ、いつでもどうぞ」

 

「八百万百。お前の個性は知っている。さあ、早く武器を創造するがいい。それまでは待ってやろう」

 

「随分とお優しいのですね。・・・・・・では!」

 

 八百万百はテーザー銃と盾を造り、構える。

 ブラッドスタークも腰を落とすように構える。

 その構えを見た八百万百はある違和感を覚えた。

 

(あの構え・・・どこかで・・・・・・)

 

 だが、その思考がそれ以上続くことは無かった。

 なぜなら、ブラッドスタークがスチームブレードを振るってきたからだ。

 だから、八百万百はその考えを捨て、目の前の戦いに集中することにした。

 

 

 




 しばらくぶりの地球を青年は楽しんで歩く。
 街並みは昔と大幅に変わっているわけではないが、街を歩く人々は大きく変化している。
 角のある者。
 尻尾が生えている者。
 体から炎が上がっている者。
 そして、丸くぷにぷにとした見た目の者。
 人間の姿を保っていない者もいた気がしたが、青年は見なかったことにする。
 黄金の果実を手に入れてからこの星に危機が訪れるたびに戻ってきてはいたが、超常が起きてからは初めてだったため、当初の目的を忘れて青年は街を歩く。
 どれだけ観光を楽しんだだろうか。
 青年の耳に大きな破壊音が聞こえた。
 破壊音がした瞬間、青年は音がした方へと駆け出していた。
 そこには異形型であろう大型の(ヴィラン)が人質を取ってヒーローたちを脅していた。
 人質になっているのは青い髪に金色の眼、ラフな格好をした少女。
 ヒーローたちは人質の少女がいる為に、動こうにも動けない。
 青年はそれを見た瞬間、考えるより先に体が動いてしまっていた。
 そして、

「変身!!」

《オレンジ!》

 ロックシードを解錠し、ベルトにセット後、施錠する。

《ロックオン》

 流れるほら貝の音。
 (ヴィラン)は青年がいきなり飛び出してきた事に驚き、固まっていた。
 青年はその隙にカッティングブレードでロックシードを斬る。

《ソイヤッ! オレンジアームズ 花道 オンステージ》

 変身を完了させると同時に無双セイバーで(ヴィラン)の腕を斬りつけ、人質を救出する。
 少女をお姫様抱っこし、青年・・・・・・『仮面ライダー鎧武』は少女に問いかける。

「大丈夫か!?」

「ああ。大丈夫」

 少女はそう言って鎧武の腕からスルリと抜け出す。
 瞬間、腕を抑えていた(ヴィラン)が鎧武へと襲い掛かる。
 鎧武は大橙丸と無双セイバーでその攻撃を防ぎ、隙だらけの胴体に蹴りを叩き込む。
 それだけで(ヴィラン)は動かなくなる。
 鎧武はあまりにも簡単に動かなくなった(ヴィラン)を不思議そうに眺めるが、しょうがないと言えるだろう。
 仮面ライダー鎧武のキック力は10.2(トン)である。
 それをモロに喰らって意識を保っているだけでも運が良かったと言えるだろう。
 そう、死ななかっただけ儲けものだ。
 鎧武は(ヴィラン)が動かなくなったのを確認してから人質となった少女の方に視線を向けたが、少女はいつの間にかいなくなっていた。
 そのことを不思議に思っている所、プロヒーローたちに押さえつけられ、鎧武は連行されるのであった。



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20話 『USJ再襲撃事件② 暴れる者』

ブラッドスターク無双。



 攻撃が来る。

 八百万百は身を屈めることでそれを避ける。

 

「よくよけたなぁ。良いぞ。そうじゃなくては面白くない」

 

 不気味な怖い色でそう言うブラッドスターク(CV :金尾哲夫)。

 八百万百はその言葉に答えず、テーザー銃のトリガーを引いて電極を飛ばしたが、ブラッドスタークは何気ない様子で避ける。

 

「相手を拘束するのにテーザー銃を使うのは吉手だが、避けられたり、相手が電気系統の個性の持ち主だった場合は一発しか使えない所が悪手となる。それだったら棒状タイプを使う方が良い。それと、盾も防弾防刃耐電耐熱耐性は最低限付けておいた方が良い」

 

 そう言いながらスチームブレードのバルブを操作するブラッドスターク。

 

《エレキスチーム》

 

 そんな音声と共にスチームブレードに電撃が纏われる。

 ブラッドスタークはバチバチと音を立てるスチームブレードを無慈悲に振るう。

 八百万百は創造した盾で攻撃を防いだが、ただの盾だった為に電撃は防げず、痺れてしまった。

 

「あっ・・・ああ・・・・・・」

 

 倒れ伏す八百万百。

 ブラッドスタークは突っ伏する八百万百に近付き蹲踞(そんきょ)――― 一般的に言えばヤンキー座り ―――で体制を低くする。

 それだけ接近していても、八百万百は指一本動かせない。

 

「確かにオマエは強い。だけど、その個性を把握しているのに使いこなせてはいない。オマエは言ってなかったか? 『常に下学上達! 一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!』と。“下学上達”の意味は“身近で容易なことから学んで、だんだんに高度で深い道理に通じること。また、手近なところから学び始めて、次第に進歩向上してゆくこと”だ。そして“一意専心”の意味は“ほかのことを考えずその事だけに心を集中すること”だ。お前は何を見てきた? 何を学んできた?」

 

 八百万百はブラッドスタークのその言葉に眉を顰める。

 その言葉は戦闘訓練の時、緑谷出久&麗日お茶子VS爆豪勝己&飯田天哉の訓練評価をした後に八百万百自身が言った言葉だからだ。

 だからこそ、戦闘前に覚えた違和感が確信へと変わっていく感覚があった。

 そう。

 ブラッドスタークの構え方がどこかで見たことある、と感じたソレだ。

 

「あり・・・えま、せん・・・・・・わ。そうだと・・・した・・・ら・・・・・・」

 

「ったく。しょうがない。この戦い方では減点されるから点数はあんまり高くないぞ」

 

 ブラッドスタークはそう言うと同時に、スチームブレードのバルブを操作する。

 

《エレキスチーム》

 

 そして、自身の後ろへ電撃を放つ。

 

「みぎゃあ!!」

 

 そんな悲鳴と同時にドサッと倒れる音。

 ブラッドスタークはクルリと振り向くが、そこには誰もいない。

 ・・・・・・いや、いないように見えるだけだ。

 

「葉隠透だな? 見えないのをいい事に潜伏し、後ろから襲撃しようという作戦は上出来だが、殺気と足音が隠せていない。減点だな」

 

 ため息を吐いてからブラッドスタークは痺れて動けなくなった二人を担ぎ、安全ゾーンまで連れて行く。

 安全ゾーンに着く頃には、二人の痺れはある程度回復していた。

 

 制限時間残り:45分。

 

 

 

 

 

 

 う~ん。

 手加減して戦うのも大変なモノだな。

 俺はそう思いながら二人を担いで運ぶ。

 上では未だに神話級の戦いが繰り広げられ、天井が形を保っているのが不思議に思えるほどだ。

 

「よっこらせと」

 

 俺が安全ゾーンに二人を下ろす。

 

「二人とも。授業が終わるまでここから動かないでくれよ」

 

「授業・・・? 何を、言って・・・・・・」

 

 失言だったな。

 俺は後頭部をポリポリと掻き、

 

「何でもない」

 

 と言った。

 だが、

 

「機、鰐さんです・・・よね・・・・・・? 何で・・・こんな、事を・・・・・・」

 

 と八百万さんが言った。

 お~っと。これは不味い。

 どれだけまずいかと言うと、隠していたエロ本が好きな子に見つかってしまった時ぐらい不味い。

 

「何のことだ? 仮面ライダーはとっくに脱落しただろう」

 

「戦う・・・時の、構え方・・・ですわ・・・・・・。それと・・・、クラスメ、イトしか知らないハズの・・・(わたくし)の・・・セリフを、知っていた事・・・ですわ・・・・・・」

 

「あ゙ーーーー。クッソ。大根役者なのは俺だったか」

 

「どういう・・・事なの、ですか・・・・・・?」

 

「校長主催の実戦訓練だよ。相澤先生も13号先生もオールマイト先生も無傷で無事だ。今頃モニタールームでお茶でも飲んでるだろうよ。・・・・・・っと、これから他のチームもかく乱しないといけないんだ。もう行くぞ。・・・・・・大丈夫だ。授業終了したら回収に来るから」

 

 俺はそう言ってその場を去る。

 次からは発言に気を付けつつ、戦う時の構えも変えないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 第二チーム。

 轟焦凍たちはUSJ内を大きく回るルートで進む。

 作戦としてはナイトローグを後ろから襲い、オールマイトたちを救出するというモノだ。

 ここまで歩くのに何度か(ヴィラン)と交戦したが、ほとんどの(ヴィラン)は轟焦凍の氷によって無力化された。

 炎系個性の持ち主もいたが、障子目蔵と砂藤力道が殴り、瀬呂範太が拘束して無力化した。

 青山優雅はロクな活躍をしていないようにも思われそうだが、轟焦凍が彼の個性の弱点の事を考え、戦わないように言明したためである。彼は悪くない。

 轟焦凍たちは隠密を貫き、なるべく戦闘を避けて行動していた。

 だったのに・・・・・・・・・。

 

 ドサッ

 

 と後方で何かが倒れる音がした。

 轟焦凍たちが振り向くと、最後尾を歩いていた青山優雅が倒れ、動かなくなっていた。

 いや、それだけじゃない。

 倒れている青山優雅の隣にブラッドスタークがいるのだ。

 轟焦凍はとっさに氷を出してブラッドスタークを拘束しようとしたが、途中で氷を出すのを止める。

 

「お? どうした? 凍らせるんじゃないのか?」

 

「・・・・・・青山を盾にしといて何言ってるんだ」

 

「おっと。それはすまなかった。ほら、返すぞ」

 

 ブラッドスタークは青山優雅を轟焦凍たちの方へと投げる。

 障子目蔵と砂藤力道がキャッチした瞬間、ブラッドスタークは二人に毒を打ち込み、無力化する。

 

「オイオイ。敵から意識を逸らすのは最悪の結果を招くぞ。痺れるだけの神経毒だったからまだ良いが、その気になれば人間程度即死させられる毒を打ち込むことも可能なんだぞ」

 

 ブラッドスタークはため息交じりにそう言う。

 その言葉に轟焦凍は疑問を覚えた。

 

「殺せるなら、何でその毒を使わなかった・・・・・・?」

 

「それじゃあつまらないだろう。・・・・・・さて、別チームにもしたゲームと行こうじゃないか。ここに一人残って俺と戦う。残ったヤツは先に進んでいい。さあ、どうずる? どっちが残るんだ?」

 

 あざ笑うかのようにそう言うブラッドスターク。

 その言葉を聞いて身構える轟焦凍。

 だが・・・・・・。

 

「轟。お前は先に行け。俺が残る」

 

 そう言って轟焦凍の前に瀬呂範太が飛び出す。

 

「なんっ・・・・・・」

 

「オールマイトを助けるのにはお前の個性が重要になると思う。だから、先に行ってくれ」

 

「そうか、体育祭ドンマイコールで有名な瀬呂範太が残るか」

 

「まさか(ヴィラン)からいじられるなんて!!」

 

 地味な瀬呂範太の顔がショックで酷いことになった。

 轟焦凍は瀬呂範太の言葉を聞き、回れ右をしながら言う。

 

「・・・・・・無茶すんなよ」

 

「お前もな」

 

 走って先に進む轟焦凍。

 瀬呂範太とブラッドスタークが向かい合う。

 そして、

 

「先手必勝!!」

 

「甘い!!」

 

 瀬呂範太がテープを出してブラッドスタークを拘束しようとしたが、ブラッドスタークは身を屈める事でその攻撃を避け、瀬呂範太の腹に肘打ちを叩き込む。

 

「グッ・・・・・・」

 

 痛みで怯む瀬呂範太。

 その怯みによって出来た隙が実戦では命取りとなる。

 瞬間、瀬呂範太の頭部にブラッドスタークの踵落としがヒットした。

 

「オイオイ、時間稼ぎにすらなっていないぞぉ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながら瀬呂範太の首元を掴み、持ち上げる。

 打ちどころが悪かったらしく瀬呂範太は気を失っていた。

 それを見て、ブラッドスタークはただ一言、誰かが見ている訳でも、聞いている訳でもないのに言葉を発していた。

 

「どーんまい」

 

 

 

 

 

 

 第四チームは第二チームの正反対側をコソコソと進んでいた。

 常闇踏陰と蛙吹梅雨が前線に立ち、(ヴィラン)を無力化。

 峰田実が自身のもぎもぎを使って拘束。

 口田甲司は個性の関係上、鳥を使って辺りの情報探索。

 上鳴電気と麗日お茶子は常闇踏陰と蛙吹梅雨が捌ききれなかった(ヴィラン)の無力化と、バランスよく進んでいた。

 口田甲司のおかげもあり、(ヴィラン)との戦いは全て先手必勝で終わっていた。

 だからこそ、油断をしてしまった。

 いきなり現れた巨大なコブラに上鳴電気と峰田実が噛みつかれた。

 二人は、あまりの痛みに悲鳴を出す事すら出来ず、倒れ伏した。

 口田甲司は慌てて個性を発動させる。

 

『静まりなさい、大きな獣よ。止まるのです』

 

 だが、コブラは止まらなかった。

 口田甲司も何ら抵抗できず、コブラに噛まれ地に倒れ伏した。

 そして、そこに現れたのは・・・・・・、

 

「よう。随分と手酷くやられたなぁあ」

 

 そう。ブラッドスタークだ。

 

「さて、長くは語らないぞ。ここでゲームと行こうじゃないか。ルールは、ここに一人残って俺と戦い、残りは先に進む。さあ、誰が残る?」

 

 さすがに三回目ともなり説明が雑になるブラッドスターク。

 

「・・・・・・私が残るわ、ケロ」

 

「梅雨ちゃん! そんなのだめやよ」

 

「そうだ、蛙吹。ここは俺が・・・・・・」

 

「駄目よ。お茶子ちゃんの個性は正面戦闘に向いていないし、常闇ちゃんの個性は先生たちを救出するのに必要だわ。・・・・・・ここは私が時間を稼ぐから、先に行って」

 

「・・・・・・すまない」

 

 常闇踏陰はそう言って先へと進んで行く。

 麗日お茶子は何か言いたげではあったが、結局、何も言えずに先へと進んで行った。

 

「どうやら決まったようだな。・・・・・・さあ、やろうじゃないか」

 

「ケロ!」

 

 決着は一瞬だった。

 距離を置こうとした蛙吹梅雨の行動を予期していたかのように、スチームブレードの“エレキスチーム”で移動先を狙い撃ちされ、そのまま痺れてしまった。

 

「ふむ。相性も悪かったな。俺は“(コブラ)”で、お前は“蛙”。・・・・・・まあ、あまり関係なさそうだが。っと聞こえてないか」

 

 

 

 

 

 

 第三チーム。

 白尾猿夫と芦戸三奈と耳郎響の三人はいきなり現れたブラッドスタークによってそれはもうあっさりと、逆にほれぼれするぐらいあっさりとやられてしまった。

 

「だから警戒しろと言ったのによ。クソどもが!」

 

「いや、さすがにあれはしょうがないだろ」

 

 そう言いながらも警戒し、身構える爆豪勝己と切島鋭児郎。

 それを尻目に、ブラッドスタークは無力化した三人を鼻歌交じりにロープで縛る。

 

「さて、ここでゲームと行こうじゃないか」

 

 ブラッドスタークはそう前置きしてからゲームのルールを言う。

 ルールを聞いて、ブラッドスタークの方へと一歩踏み出したのは切島鋭児郎だった。

 

「爆豪、お前は行け。コイツは俺が何とかする」

 

「何勝手なこと言ってんだ、クソが! そいつは俺が・・・・・・」

 

「任せてくれ。・・・・・・俺とお前なら、お前が先に進んだ方が何倍も良い。だから・・・・・・、行け」

 

「・・・・・・チッ。さっさとソイツをブッ飛ばして来いよ」

 

「ああ」

 

 切島鋭児郎のその言葉を聞いて、爆豪勝己は先へと走って行った。

 

「良い友情だなぁ。・・・・・・さて、やろうか」

 

「ああ。いつでもいいぞ」

 

 瞬間、二つの影がぶつかり合う。

 振るわれるスチームブレード。

 切島鋭児郎はその攻撃を無視してブラッドスタークを殴る。

 

「グッ・・・・・・。さすがは切島鋭児郎。硬化がまさかスチームブレードの刃も通らないぐらいだとは予想外だったな」

 

 ブラッドスタークはそう言いながらも、その声色にはまだ余裕がにじみ出ていた。

 切島鋭児郎はそんな態度のブラッドスタークを見て、不気味に思った。

 そして、反射的に殴りかかっていた。

 だが、ブラッドスタークは切島鋭児郎の攻撃を受け止め、その腹を蹴り飛ばす。

 

「まあいい。お前には特別だ。少し本気を出してやろう。・・・・・・まあ、全力の2%だけだがな」

 

 切島鋭児郎はブラッドスタークのその言葉を聞いて寒気を覚えた。

 少しぶつかり合っただけでも、パワー・スピード・テクニック等々、すべてのステータスが切島鋭児郎を越しているという事を少年は直感していた。

 なのに、それが一切本気を出していない。

 それだけでなく、ブラッドスタークは“2%”と言ったのだ。

 つまり、たったそれだけで今でも圧倒している切島鋭児郎を相手するというのだ。

 恐れない者はいないだろう。

 だが、それが事実だとしても切島鋭児郎は折れない。

 

「良いぜ。2%だかなんだか知らねえが。どんなのだって相手してやるよ!!」

 

「・・・・・・後悔はするなよ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながらベルトを取り出し、腰に装着する。

 

「さあて、お前は運が良い。この力はナイトローグの元へ向かっているヤツらにも使う気はない。つまり、お前だけが体験できるんだ」

 

 切島鋭児郎は自身の頬を汗が伝うのを感じた。

 緊張が高まる。

 そして・・・・・・、切島鋭児郎は一瞬で戦闘不能まで追い込まれた。

 

 

 




 葛葉紘汰は取調室で何度も同じ質問をされ、さすがに飽き飽きしていた。
 超常が起きてからの一般常識など、地球を離れていた葛葉紘汰は知るはずもなく、何かやらかしたのかなー、ぐらいの感覚でしかない。
 警察からは、

『個性名は』

『名前は』

『生年月日は』

『住所は』

『職業は』

 等々普通の質問をされる。
 それに対し葛葉紘汰は、真実しか答えていないのだが、なぜか同じことをずっと聞かれるため、面倒くさいという気持ちすら湧き上がっている。
 質問の受け答えとしては、

『個性名は』→「無個性だけど」→『じゃあなんだよあの姿』→「アーマードライダー」→『訳わからん』endless

『名前は』→「葛葉紘汰」→『調べても出て来ないよ。偽名じゃないの?』→「本名だよ」endless

『生年月日は』→「1993年1月30日」→『そんな昔な訳ないだろ。もしそうならとっくに死んでいるじゃないか』→「いや、本当のことだし・・・・・・」endless

『住所は』→「う~ん。宇宙」→『ふざけてんの?』→「いや、本当のことだし・・・・・・」endless

『職業は』→「あえて言うなら・・・宇宙の神様、みたいな?」→『ふざけてんの?』→「いや、本当のことだし・・・・・・」endless

 これがずっと続いている。
 しばらくして、取り調べをしていた警察官が取調室を出て行き、話し相手もいなくなったため、葛葉紘汰は暇を持て余していた。
 暇すぎてボーッとしている葛葉紘汰を隣の部屋からマジックミラー越しに見ている人物がいた。
 その男の名前はエンデヴァー。
 No.2ヒーローだ。
 葛葉紘汰が確保された所は、エンデヴァーの事務所からは多少に離れており、エンデヴァー自身がこのように自ら出向くことは珍しいとも言えた。
 なぜ、そんなエンデヴァーが出向いたかと言うと、インターネット上に上げられたとある動画を見たことが切っ掛けだ。
 動画タイトルは、『雄英生徒の機鰐龍兎!?』というタイトルの動画だった。
 人質を取り、暴れている異形型の(ヴィラン)
 そこに飛び出していく一つの影。
 その人物はどこからどう見ても機鰐龍兎ではなかった。
 だが、その人物が変身した姿は雄英体育祭で機鰐龍兎が変身した『仮面ライダー鎧武』であった。
 それを見たエンデヴァーはすぐさまHNで共有されている仮面ライダーのデータを確認した。
 そして、そこに乗っているデータを読んだエンデヴァー青年の物語を見た。
 戦い、勝ち上がり、神になった青年に、エンデヴァーは何か惹かれるものを感じた。
 だから会いに来たのだ。
 そして合って真っ先に思った事、それは。

(こんなアホ丸出しのヤツが本当に神の位にまで至ったヒーローなのか・・・・・・)

 だ。
 さすがのエンデヴァーも頭を抱えてしまった。
 だが、歴戦の英雄の話を聞けば、何か掴めるかもしれない。
 そう考えたエンデヴァーは、自分が保護観察することを条件に葛葉紘汰を釈放させた。
 そして、少し目を離したすきに葛葉紘汰がどこかに行ってしまい、エンデヴァーが苦労することになったのはまた別のお話。


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21話 『USJ再襲撃事件③ 割レ喰ラウ者』

誤字報告等いつもありがとうございます。
これからもそういったお見苦しい点を見せてしまうと思いますがご理解していただけるとありがたいです。



「残り30分だ。到着したのは・・・・・・随分と少なくなったな」

 

 ナイトローグは到着した雄英生を見ながらそう言う。

 ブラッドスタークのせいで到着できたのは、

 

 緑谷出久

 飯田天哉

 轟焦凍

 爆豪勝己

 常闇踏陰

 麗日お茶子

 

 の6人だ。

 到着した時点で6人とも戦闘態勢に入っている。

 緊張が高まり、辺りの空気がピリピリとしだした時、ナイトローグの隣に現れる一つの影。

 そう、ブラッドスタークだ。

 

「よう、お前ら。元気そうだなァ。・・・・・・ああ、お前らの為に残ったヤツらは全員倒れているぞ。ああ、心配しなくていい。生きてはいる」

 

 ブラッドスタークは不気味な声色でそう言う(CV :金尾哲夫)。

 その言葉だけでも緑谷出久たちの緊張感を高めるには十分だった。

 ブラッドスタークと戦うためにその場に残ったクラスメイト全員、それなりの実力者なのだ。

 それを、全員戦闘不能に貶めた、と聞いて緊張しない者はいないだろう。

 

「オイオイ。何勝手な事をしているんだ、スターク。こいつらは全員俺一人でやると言っただろう」

 

「釣れないこと言うなよ。俺だって楽しみたいんだ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながらナイトローグに“ベルト”を渡す。

 

「ほら。使いな」

 

「・・・・・・良いのか? ココにいる全員の命の保証はできないぞ」

 

「ああ。そうなったら俺の見込み違いだったって事だ」

 

 ブラッドスタークのその言葉を聞いたナイトローグは渡されたベルトをまじまじと見る。

 そして、腰に装着する。

 

《スクラッシュドライバー》

 

 ベルトを装着すると同時に、ナイトローグはあるボトルを取り出した。

 瞬間、緑谷出久が飛び出して、ナイトローグの持つボトルを奪おうとした。

 だが、ブラッドスタークの手によって緑谷出久の攻撃は抑えられてしまった。

 

「邪魔をするな、緑谷出久」

 

「ぐっ!!!」

 

 ブラッドスタークは緑谷出久の腹を蹴飛ばし、後方へと飛ばす。

 そして、そんな事をしている間に、ナイトローグは取り出していたボトル・・・・・・“クロコダイルクラックフルボトル”のキャップを正面に合わせる。

 ピシッパキパキパキという何かが割れる音と共に、

 

《デンジャー!》

 

 という音声が鳴る。

 そして、辺りに不穏なBGMが鳴り響き出す。

 緑谷出久たちの背筋がヒヤリとなる。

 ナイトローグはクロコダイルクラックフルボトルをスクラッシュドライバーにセットする。

 

《クロコダイル》

 

 そして、レンチ型のレバーを下ろす。

 それと同時に、ナイトローグを中心に巨大なビーカーが現れる。

 

《割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オラァ! キャー!》

 

 そんな音声と共に、ナイトローグ・・・・・・賢王雄は『仮面ライダーローグ』への変身を完了させた。

 その姿を見た緑谷出久たちはローグから発せられるオーラへの恐怖で硬直してしまっていた。

 ・・・・・・・・・この二人を除いて。

 

「どんな姿になろうがザコはザコなんだよ!!」

 

「やられる前に・・・・・・やる」

 

 轟焦凍の炎と爆豪勝己の爆破がローグを襲った。

 二人は、やったか、と思った。

 だが、黒煙の先から出てきた紫の手によって弾き飛ばされる。

 それでも、二人はローグへの攻撃を続ける。

 それがどれだけ不利な戦いかも知らずに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 爆豪勝己と轟焦凍はローグへ攻撃を仕掛けるが、その全てが意味をなしていなかった。

 それもそのはず。

 仮面ライダーローグの全身はクロコダイラタンアーマーと言う名の装甲に覆われているのだ。

 この装甲は内部がヴァリアブルゼリーで満たされており、普段は柔らかく動きやすいが、攻撃を受けた瞬間に硬化し防御力が大幅に高まる。

 この性質により格闘攻撃はほとんど通用しない。

 それによって、爆豪勝己の爆破は意味をなさない。

 轟焦凍の氷はパンチ(32.7t)やキック(37.5t)によってことごとく粉砕され、炎はすべて避けられている。

 どれだけ攻撃しようと、どれだけ策を練ろうと、その全てが結果を残さず終わっていた。

 爆豪勝己も轟焦凍も全力を出せば勝てる自信があったが、それだと辺りへ被害が出すぎてしまう。

 だから、二人は本気を出そうにも出せないのだ。

 近接戦闘でも歯が立たず、遠距離ではトランスチームガンとネビュラスチームガンの二丁を巧みに使っている。

 ハッキリ言うと二人は分が悪かった。

 そう、ただでさえ分が悪かったのに、それはまるで二人の戦闘の土台が割れ、砕けていくかのように悪化していく。

 ローグはピンク色のボトル・・・・・・エグゼイドフルボトルを取り出し、ベルトにセットする。

 

《ディスチャージボトル!》

 

 そして、レンチ型のレバーを下ろす。

 

《潰れな~い! ディスチャージクラッシュ!》

 

 そんな音声と共に、ローグの体にゲーマーライダーの成分が反映される。

 瞬間、今まで以上の俊敏さでローグは動き出す。

 

「クッソ、どうなってんだよ!!」

 

「動きが・・・・・・変わった!?」

 

 そう。

 その動きはエグゼイドそのモノであった。

 だが、その事を知らない二人は対応することが出来なかった。

 いや、もしも知っていたとしても対応する事なんて不可能だっただろう。

 それでも、二人は全力で対応していった。

 全力でその動きに適応していった。

 しかし、それでも足りなかった。

 

「終わりだ」

 

 下げられるレバー。

 

《クラックアップフィニッシュ! キャー!》

 

 凶悪な攻撃が二人を襲う。

 その圧倒的な威力により二人の意識は一瞬にして刈り取られた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「さてと、こっちも準備は完了した。いつでも相手になるぞぉ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながら緑谷出久たちの方へと足を進める。

 瞬間、ブラッドスタークの眼前に飯田天哉の蹴りが迫る。

 だが、何事も無いかのようにその攻撃を受け止め、逆に飯田天哉に蹴りを叩き込む。

 

「先手必勝は良い心がけだが、遅い。それじゃ避けてくださいと言っているようなモノだぞ」

 

 ブラッドスタークが飯田天哉に視線を向けてそう言っている所を、麗日お茶子が背後から襲った。

 だが、麗日お茶子の手がブラッドスタークに触れる前に、少女の腹に膝が叩き込まれた。

 

「浮かして無力化しようとするのは良いが、殺気が隠せていない。それじゃあバレバレだぞ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながら、殴りかかってきた緑谷出久の攻撃を受け止め、投げ飛ばしていた。

 だが、緑谷出久を投げ飛ばした瞬間、ダークシャドウの攻撃がモロに直撃した。

 

「グッ・・・・・・!」

 

「そのまま畳みかけろ! 黒影(ダークシャドウ)!!」

 

「アイヨッ!」

 

 振るわれるダークシャドウの腕。

 ブラッドスタークはその攻撃をいなしてはいるが、攻撃を行う事が出来ていない。

 常闇踏陰はこのまま攻めれば勝てると思った、だが、ブラッドスタークはそこまで甘い相手ではない。

 ブラッドスタークはライトフルボトルをトランスチームガンに装填し、トリガーを引く。

 

《フルボトル! スチームアタック》

 

 トランスチームガンから発射された銃弾が眩く輝き、ダークシャドウの闇を削り取る。

 それにより、常闇踏陰の攻撃手段・防御手段が一瞬で失われた。

 瞬間、ブラッドスタークの前蹴りが常闇踏陰の胸部へと叩き込まれた。

 

「個性に頼りすぎだ。それじゃ・・・・・・グアッ」

 

 ブラッドスタークが常闇踏陰へアドバイスをしようとした瞬間、ブラッドスタークの顔を緑谷出久が殴り飛ばす。

 バランスを崩した瞬間、緑谷出久は再度、ブラッドスタークを殴る。

 殴って殴って殴り続ける。

 だが・・・・・・、

 

「あ゙っ・・・・・・」

 

「緑谷出久、お前には小細工を見せていなかったからなぁ。俺が毒を使うなんて知らなかっただろう? こういった奥の手は後々にとっておくモンだぞ」

 

 ブラッドスタークがそう言い終わる前に地に倒れ伏す緑谷出久。

 その体はピクピクと痙攣している。

 

「緑谷くん!!」

 

「デクくん!!」

 

「緑谷!!」

 

 緑谷出久を心配して駆けつけようとする三人。

 だが、ブラッドスタークはそれを許さない。

 三人の足下に向かってトランスチームガンをぶっ放す。

 

「オイオイオイ。ここは戦場だぞ? 他人を気にしている余裕があるのか? ・・・・・・大丈夫だ。多少強力な毒を使ったが、命にかかわるようなモノじゃぁない」

 

 ブラッドスタークはそう言いながら緑谷出久を蹴飛ばす。

 緑谷出久は無抵抗のまま地面を転がる。

 そして、ブラッドスタークが腕を振ると同時に、緑谷出久の痙攣が収まる。

 

「解毒した。・・・・・・さあ、かかって来い」

 

「なんで・・・わざわざ・・・・・・」

 

「さあな。単なる気まぐれかもしれないぞ」

 

 ブラッドスタークはそう言いながら構える。

 緑谷出久も立ち上がり構える。

 高まる緊張。

 ジリジリとお互いが距離を取る。

 そして、お互いが同時に動き出した。

 

SMASH(スマッシュ)!!!」

 

《スチームブレイク コブラ》

 

「ハァァァアアアア!!」

 

 トランスチームガンからエネルギー弾が放出される。

 そして、緑谷出久の攻撃がエネルギー弾に接触した瞬間、エネルギー弾がはじけ飛んだ。

 だが、緑谷出久の腕は紫色に変色し、折れているのは確実だった。

 それでも、緑谷出久は止まらない。

 ブラッドスタークはそれを見て笑った。

 

「そうだ! そうじゃなくては面白くない!!」

 

 二人が再度ぶつかり合う瞬間、一時間経過を知らせるアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

『ファウストの勝利!!』

 

 オールマイトの声でそんなアナウンスが流れる。

 俺と緑谷は突然の事にお互いズッコケ、勢いそのままに頭と頭が激突した。

 グォァアアアアアア!!

 痛ェ!! 半端ないくらい痛ェ!!

 俺同様、緑谷も悶絶していたが、どうやら腕が折れたいた事により、ドーパミンがアホみたいに出ていたため、大丈夫―――痛みが感じれなくなっているだけ―――のようだ。

 

「オール・・・マイト・・・・・・? 何で・・・・・・?」

 

「どうやら時間のようだなぁ」

 

 俺はそう言いながらトランスチームガンからコブラフルボトルを外し、人間体へと戻る。

 

「なっ・・・・・・機鰐くん!!」

 

「残念。俺たちの勝ちのようだな」

 

 俺が緑谷にそう言うと同時にズタドタズタと大きな足音が聞こえてきた。

 音のした方を振り向くと飯田がすごい勢いで接近してきていた。

 

「機鰐くん、これは一体どういうことなんだい!? あの(ヴィラン)によって地面に引きずり込まれた君が無事だったのは喜ばしい事なのだが、君がブラッドスタークであったことが何故か分からないんだ。納得できる説明をくれないかい?」

 

「落ち着け。もうちょっとで先生たちが来るから。そこで説明される」

 

 俺が両手を上げて無抵抗であるというポーズを取りながらそう言うと、飯田は何か言いたげだったが止まってくれた。

 そして、俺は戦闘不能にしたクラスメイト達の回収をするために走ることになったのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 マッドドクターを使って緑谷のケガを治したが、あまりの痛みに気絶してしまった為、ソッとして置いている。

 さあ、無傷でみんなの前に現れた相澤先生の言った言葉にみんなは面白い反応をしてくれた。

 

「「「「「「「「「テスト前実戦訓練ーーーーーー!!!!!??」」」」」」」」」

 

 と。

 

「そうだ。ここ最近、『敵連合(ヴィランれんごう)』や『パンドラ』など(ヴィラン)が活発化しつつある。もしも襲われた時にお前たちがしっかり行動できるか、という訓練だ」

 

「そういうことだ、少年少女! 驚かせてしまってすまなかったね!」

 

 教師陣の説明を聞いて、みんな唖然としている。

 まあ、そりゃそうか。

 いきなり戦場に投げ込まれて、それが訓練だったとか言われたら唖然とならない人間はまずいないだろう。

 

「そして・・・・・・、言っておくがこれは絶対口外するなよ。『ファウスト』は表向きは(ヴィラン)だとしているが、実際は対敵連合(ヴィランれんごう)用の組織だ」

 

「「「「「「「「「「はぁぁああああああああああ!!!!??」」」」」」」」」」

 

「今回、この授業の為にわざわざ時間を割いてもらっている。そこを忘れないように」

 

 みんなが驚きの声を出したのに、それをまるっと無視して言葉を続ける相澤先生。

 

「ああ、言い忘れていた。機鰐は一応『ファウスト』のリーダーだ。聞きたいことがあるなら各自聞いておくように」

 

「「「「「「「「「「はぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!????」」」」」」」」」」

 

 さらっとバラされた。

 そして、この日は放課後まで質問攻め&ボコった方々からの恨み言が酷かったのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 俺は資料を見ながら考え事をする。

 ちなみに、現在放課後&帰路についている所だ。

 そして、疲れて寝てしまった神姫を背負っている。

 ・・・・・・大きくはないがささやかなおっぱいが当たっている。

 ちなみに、神姫には恐っっっっろしいほど怒られた。というか殺されかけた。

 まあ、それは良いとして。

 俺は1-B組“22人”のデータを見る。

 ・・・・・・そう。

 原作ではA組B組両方1クラスで20人、つまり1年生は計40人のハズなんだ。

 なのに、B組も22人。

 どういう事かと悩んでいた。

 そんな時、ユウから知らされた事。

『ファウスト』と『パンドラ』を合わても、実は転生者(ヴィラン)全体の約57%でしかなく、残りは小さな別組織、もしくはフリーでやっているという事実。

 そして、そこから得た情報、それは、俺みたいに複数の転生特典を持っている人間はいないとの事だ。

 ユウの特典だって、『絶対個性を奪われず、気分によって髪の色が変わる』という特典らしい。

 それで一つの特典だっていうんだから何かズルい気がするけど、まあ、気にしないでおこう。

 俺は再度、“ある人物”の資料に目を通す。

 その人物は二人。

 

 “龍牙(りゅうが) 幻夢(げんむ)

 “鈴科(すずしな) 百合子(ゆりこ)

 

 の二人だ。

 幻夢の個性名は『ヒーロー』

 鈴科の個性名は『アクセラレータ』

 この個性名だけでもハッキリと分かる。

 この二人は紛れもなく転生者だ。

 雄英体育祭では表に出ることなく、勝てる戦いを勝つことなく、その力を温存していた人物だ。

 俺はB組と関りが無いため、そう簡単には会えそうにない―――大食堂で見かけた事が無いため、多分弁当組―――が、いつかは関わる時が来るかもしれない。

 その時、俺はこいつらと戦う事になるのだろうか・・・・・・?

 

 

 




 エンデヴァーは見失った葛葉紘汰を何とか探し出し、自身の事務所まで案内した。
 案内した理由は他でもない、目の前にいる青年―――実際は年上なため、青年と表していいのかは判断付かない―――に聞きたいことがあったのだ。
 エンデヴァーは力を求めている。
 そして、目の前にいる葛葉紘汰も力を求めた者だ。
 だからこそ聞きたかったのだ。
 どうやって神に至るまでの力を手に入れたのかを。
 どうして、そこまで力を手に入れることに固執したかを。
 葛葉紘汰はエンデヴァーの質問に、

「よく分からない」

 と答えた。
 そこでエンデヴァーは大切な事を失念していたことに気付いた。
 葛葉紘汰は誰かを助ける為にただ無我夢中に走り続けていただけなのだ、と。
 HNの資料にも書いてあったのに、“力を求めた”という所だけに引かれてしまい、一番大切な事を忘れていたのだ。
 エンデヴァーは自身のそのミスに気づき、軽く頭を抑える。
 確かに、目の前にいる青年は力を求めた。
 エンデヴァーも力を求めた。
 でも、それは根本的なところで力を求める理由が違うのだ。
 頭を押さえているエンデヴァーを見て、葛葉紘汰は、

「また来るよ」

 と言い残して去って行った。
 それからしばらくして、エンデヴァーの事務所に葛葉紘汰が入りびたる様になり、エンデヴァーの苦労が増えたのはまた別のお話。


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22話 『演習試験』

今回、白神神姫の本領が発揮されます。


 時は流れ、筆記試験が終わった。

 皆は勉強会のおかげもあってか、筆が進む・・・・・・いや、今風に言えばペンが進んでいた。

 何度も言うが、俺は天っっっ才物理学者の頭脳を持っているため、筆記何ぞちょちょいのちょいだ。

 ただ、神姫が真っ白になり、放心状態だったのは見逃さなかった。

 終わったな、アイツ。

 まあ、そんなことはどうでもいいんだ。

 問題は演習試験。

 相澤先生から直々に、

 

「特別メニューだ」

 

 と言われた為、緊張している。

 あの人の言う特別メニューって、確実に嫌な予感しかしない。

 まあ、まだ慌てるような時間じゃないだろう。

 

 

 

 

 

 

 そして、演習当日。

 俺たちはコスチュームに着替え、並ぶ。

 

「それじゃあ、演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたけりゃみっともないヘマはするなよ。諸君なら、事前に情報を仕入れて、何をするか薄々分かっているとは思うが・・・・・・」

 

 相澤先生の言葉に上鳴と芦戸さんが、

 

「入試みてぇなロボ無双だろ!!」

 

「花火! カレー! 肝試しーーー!!」

 

 と楽しそうに言う。

 だが、この余裕は一瞬で掻き消える事になる。

 

「残念!! 諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

 一瞬で凍り付く二人。

 この後の展開はほとんど原作通り。

 ただ、違う事と言えば、

 

「機鰐と白神にかぎり、後日、特別な演習試験をする。今日はモニタールームで待機しておけ」

 

 と言われた事だろう。

 ・・・・・・・・・嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 

 

 結局、演習は原作通りで終わった。

 やっぱりたった一回、しかもほぼボコボコにされただけの訓練じゃ意味はなかったみたいだな。

 俺はそう思いながら相澤先生が運転するバスに揺られる。

 バスを降り、演習場前で説明が行われる。

 

「お前たち二人の個性(チカラ)を考えると、プロヒーローひとりでは相手にならないという判断が出た。体重の約半分の重量を装着するのは変わらないが、相手をするのは俺とマイクとオールマイトさんとミッドナイトさんとセメントスさんとエクトプラズムさんが相手になる事になった。最初から全力で行うように」

 

 ふざけんなやぁぁぁああああ!!!

 多すぎる!!

 多すぎるぞ!!

 2対6って、ハンデあったとしても、人数差で相殺されているよ!!

 まあ、まだ慌てるような時間・・・・・・だわ!!

 うわぁぁああああああああああああ(錯乱)!!

 そんな俺の心境をよそに、話は進んで行った。

 そして、俺たちトボトボとステージの真ん中ら辺まで移動する。

 演習場は市街地ステージだ。

 俺は自分の手を少し咬み千切り、血を出す。

 そして、手を差し出し、その血を神姫に舐めさせる。

 

ご主人様(マスター)との繋がりを確認しました。これより、奴隷(スレイヴ)モードに入ります」

 

 神姫の目の色が血のような赤色に変わる。

 ・・・・・・・・・これを使うのは二回目だ。

 まだ、未知の特典。

 この戦いでこの特典の全容を掴もう。

 俺と神姫の準備が整うとほぼ同時に放送が流れた。

 

『レディー・・・・・・ゴー!!』

 

 瞬間、俺たちの周りにエクトプラズム先生×5が現れた。

 だけど、その戦術は昨日見た。

 俺はバグスターのワープを使ってその包囲網から脱出する。

 そして、神姫は暴風を吹かせ、エクトプラズム先生を吹き飛ばす。

 俺たちはその勢いそのままに、脱出ゲートに向かって駆ける。

 まあ、簡単には脱出させてはくれ無さそうなため、一応保険として変身はしておく。

 

「グレードX。・・・・・・変身」

 

《ガシャット! バグルアップ! デンジャー! デンジャー! ジェノサイド! デス・ザ・クライシス! デンジャラスゾンビ! Woooo!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『仮面ライダーゲンム ゾンビゲーマーレベルX』へと変わる。と、同時に目の前のパネルを蹴り破る。

 ・・・・・・変身時にパネルを自ら破壊するシステムは何とかならないのか?

 ちなみに、これは個性による変身ではない。

 本当は猿伸のアジトを襲撃するまでに完成させたかったアイテムだ。

 この前、ユウに渡したスクラッシュドライバーもそうだ。

 つまり、相澤先生の個性対策はばっちりだ。

 っと、いきなり地面が盛り上がった。

 セメントス先生か。

 

「神姫!」

 

「命令を確認しました。発射します。フルパワー・レインレーザー」

 

 ズバババババッ! という破壊音と共に俺たちを包もうとして来ていたコンクリートの壁が全て砕け散る。

 神姫はコンクリートを破壊するのと同時に俺を掴んで暴風を起こし、ビルの上まで飛ぶ。

 

「俺は相澤先生とオールマイトと戦う。お前は残りの相手を頼む」

 

「命令を確認しました。これより、援護(アシスタンス)モードから殲滅(アナイアレイション)モードへと移行します」

 

 神姫はそれだけ言って、下へと降りて行った。

 俺は軽く準備運動をしてからゲート前にいる相澤先生とオールマイトの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ゔっ・・・・・・!」

 

「セメントスの殲滅完了。これよりエクトプラズムの殲滅に移行します」

 

 白神神姫はロクな手加減をせず、それでも殺さないようにだけはして、セメントスを撃破した。

 だが、セメントスはレインレーザーにより、手足は貫かれ、動けなくなっていた。

 あまりにも機械的で慈悲も情けも躊躇いもない。

 普段から感情豊かでお調子者で、誰にでも優しい少女とは思えないほどであった。

 そう、これが白神神姫と機鰐龍兎の特典:『奴隷(スレイヴ)モード』だ。

 機鰐龍兎の血液を白神神姫が摂取することによって発動する特典。

 主神が白神神姫の神としての資格を失わせるために機鰐龍兎と魂の契約を結ばせた。

 それによって、白神神姫は機鰐龍兎の奴隷となっているのだ。

 普段はただの少女であるが、機鰐龍兎の血液を取り込むことによって魂のつながりができ、それによって普段は隠れている主従関係が表に出るのだ。

 そうなると、白神神姫は機鰐龍兎の命令を聞く奴隷となる。

 そして、白神神姫の個性はそれによって真価を発揮する。

 普段は燃費が悪く、大技を連発すればすぐに動けなくなるが、奴隷(スレイヴ)モードになると、エネルギーがほぼ無限になり、どれだけ暴れようと、どれだけ大技を連発しようと倒れることは無い。

 白神神姫は暴風を吹かし自身を浮かす。

 そして、辺りを見渡し、エクトプラズムの姿を確認すると同時に急接近し、稲妻を纏わせた拳を叩き込んだ。

 死なないギリギリ―――場合によっては死ぬほど―――の電流がエクトプラズムの体に流れた。

 だが、攻撃と同時にエクトプラズムの体が煙となり、消えた。

 

「我ヲ探シ当テ、先制出来タノハ上出来ダ。ダガ、ソレガ分身デアル可能性ハ考エナカッタノカ?」

 

 そんな声と共に、白神神姫を囲むようにエクトプラズムが10人現れた。

 

「・・・・・・その可能性は考えました。ですから、このような行動をしたのです。雷鳴神速」

 

 白神神姫はそう言うと同時に自身の体全身に稲妻を纏わせる。

 瞬間、エクトプラズム(分身)の視界から白神神姫が消えた。

 そして、遠くで隠れて様子を見ていたエクトプラズム本人の目の前に白神神姫が現れた。

 その時にはもう、決着はついていた。

 

「エクトプラズムの殲滅完了を確認。これより、プレゼント・マイクの殲滅に移行します」

 

 白神神姫がそう言った瞬間、遠くから爆音が鳴り響く。

 

『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!』

 

 モロに喰らえば人間の鼓膜なんか一発で破けてしまうほどの爆音。

 だが、その爆音が白神神姫に届いた時、彼女は自身の前に真空の膜を作り、音を防ぐ。

 そして、音のした方に超音波を発し、プレゼント・マイクの位置を特定、プレゼント・マイクを中心に竜巻を発生させ、上空まで吹き飛ばす。

 

「プレゼント・マイクの完全殲滅完了を確認。最後のミッドナイト殲滅に移行します」

 

 白神神姫はそう言って次の戦場へと飛んでいった。

 なお、プレゼント・マイクは落下した場所にあった街路樹がクッションとなり、なんとか助かった。

 

 

 

 

 

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

 オールマイトのパンチを喰らう。

 これで5回目だ。

 だが、その程度なら一切の問題はない。

 

「ヴェッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!! 神である私にその程度の攻撃が効くと思ったかぁーー!!」

 

 と。

 ふざける余裕すらある。

 まあ、余裕があると言っても2対1はキツイ。

 俺はバグルドライバーのABのボタンを同時に押し、待機状態にしてからBボタンを押す。

 

《クリティカルデッド!》

 

 そんな音声と共に俺の足下から黒い靄が現れる。

 そして、その靄の姿が『仮面ライダーゲンム ゾンビゲーマーレベルX』へと変わる。

 

「なっ・・・・・・!」

 

「ゾンビと言えば増殖がつきものだろう?」

 

 俺がそう言うと同時に増殖体が相澤先生に襲い掛かる。

 まさか増殖するとは思っていなかったらしく、一瞬驚いた表情を見せたが、さすがはプロヒーロー。

 すぐに対応し、増殖体との戦闘を始めた。

 俺はオールマイトの方へと視線を向け、語り掛ける。

 

「ねえ。そこをどいてくれないかな、オールマイト」

 

「いいや、駄目だよ。そうしたら授業にならないからね」

 

「それじゃ、戦うしかないか」

 

 俺はそう言いながらガシャコンスパローを召喚し、掴む。

 そして、オールマイトと睨み合う。

 緊張が高まると同時に後方から大きな爆発音が聞こえた。

 それを合図に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫は苦戦していた。

 そのままブッ飛ばしても何ら問題はないのだが、“室内”ではそれが難しい。

 殺す事を前提にすれば簡単だが、生かして戦闘不能にする場合はそれが使えない。

 電撃を放ったりもしたが、対策で避雷針を立てられていたため、電撃は意味をなさない。

 ヘンに狭い室内で天候を変えようモンなら、急激な気圧変化に人体が耐えきれない。

 それに、室内はミッドナイトの“眠り香”が充満しており、白神神姫はそれを吸い込んでしまっていた。

 奴隷(スレイヴ)モードになる事によって、集中力が急激に上昇するために、何とか意識を保っている状態なのだ。

 普通なら一吸いするだけで意識を刈り取るモノだが、それを無理矢理耐えているために意識は途切れ途切れとなり、目の焦点は定まっていない。

 ミッドナイトからの攻撃を避けつつ、攻撃のあった方へと反撃するが、狙いが定まっていないため、簡単に避けられてしまう。

 

「警告。意識レベルが20%以下まで低下しました。これより、自動戦闘(オートバトル)モードへ移行します」

 

 白神神姫はそう言うと同時に柱を破壊しだす。

 ミッドナイトは建物を破壊するつもりなのではないか、と焦ったがすぐに柱破壊は止まった。

 

「告。大気中の粉塵と酸素が一定になりました。これより、火花を散らせます」

 

 その言葉を聞いて、ようやくミッドナイトは白神神姫が何をしようとしているかを理解した。

 そして、慌てて部屋を出ようとしたが、やはり行動が遅かった。

 白神神姫が火花を散らした瞬間、そこを中心に爆発が発生し、ミッドナイトは一瞬にして吹き飛ぶことになった。

 

「ミッドナイトの、殲滅完了を・・・確認。・・・・・・これより、脱出(エスケイプ)モードへ、移行し・・・・・・」

 

 それ以上、言葉は発せられなかった。

 ドサッと白神神姫は重力への抵抗なく倒れ、動かなくなった。

 ただでさえ、ミッドナイトの“眠り香”によって意識が朦朧としていたのに、自身を中心に爆発を起こしたのだ。

 爆風をガードしたとしても、辺りの酸素濃度は一気に低下する。

 それによって、完全に意識を失ったのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う。

 ただひたすらぶつかり合う。

 いや、この表現は誤解を生んでしまう。

 突撃しては殴られ、突撃しては殴り飛ばされている。

 だが、これが俺の作戦だ。

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

 ハイ。

 これで合計74回目のスマッシュですね。

 俺はそのスマッシュを耐えようとすることなく、その勢いそのままに後方へ吹き飛び、壁に激突した。

 壁が砕け、粉塵が舞う。

 オールマイトが「あっ、力入れすぎた?」みたいな顔で一瞬固まったのと同時に俺は粉塵の中から飛び出す。

 そして、バグルドライバーのABのボタンを同時に押し、待機状態にしてからAボタンを押す。

 

《クリティカルエンド!》

 

 俺の脚に黒いオーラが纏われ、そのエネルギーそのままにライダーキックを放つ。

 オールマイトもそれに向かい打つように殴ってきた。

 

TEXAS(テキサス) SMASH(スマッシュ)!!」

 

 ライダーキックとオールマイトのパンチがぶつかると同時に放送が鳴る。

 

『機鰐・白神チーム、条件達成!!』

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 ふう。

 危なかった。

 俺はゲートの外でそんなことを思いながら変身を解除する。

 作戦成功。

 オールマイトに殴り飛ばされ、壁にぶち当たった時に発生した粉塵を目隠し、増殖して、増殖体とオールマイトを戦わせて、本体である俺がコソッと脱出する作戦が上手く行ったぜ。

 まあ、こうして俺と神姫の実技試験は終了した。

 神姫には無茶させてしまったな。

 たった一人で4人ものプロヒーローを相手したんだ。

 ホント、良く頑張ってくれたよ。

 今度、ケーキでも奢って、今回の戦いを褒めよう。

 




 賢王雄の朝は早い。
 一応、カフェのオーナーな為、朝の準備ぐらいはして、仕事をしているという事にしないと面倒くさいのだ。
 主に『労基』が。
 賢王雄はカフェの看板を外に出す。

The()Sweets(スイーツ) Cafe(カフェ)

 この名前を見るたびに賢王雄は憂鬱になる。
 初期案は、

【英雄王カフェ】

 という名前を出したのに、部下からの猛反対になり、“スイーツマスター”がケーキを出すためにこの名前が採用された。
 賢王雄はそのことを嫌に思っている。
 だが、多数決で決まった事を独断でひっくり返すことはしない。
 (ヴィラン)ではあるが、一応、一般常識は守っているのだ。
 賢王雄は箒と塵取りを取り出してカフェの前を掃除する。
 すると、陰になっている場所にボトルが落ちている事に気付いた。
 それは、フルボトルのように見えたが、どこか違った。
 賢王雄は、

(多分、龍兎の落し物だろう)

 と判断し、そのボトルをポケットにしまった。
 そのボトルが凶悪なモノであると知らずに・・・・・・。



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23話 『ショッピングモール』

今回、特にストーリー進展はありません。


 俺は保健室でベットの隣の椅子に腰かける。

 ベッドに横たわっているのは神姫だ。

 結局、この特典の全容を完全に掴むことはできなかった。

 それどころか、神姫に無茶をさせすぎてしまった。

 やっぱり、この特典はそう易々と使ってはいけないモノだ、と改めて実感できた。

 俺は、寝ている神姫の頭をソッと撫でる。

 神姫はスースーと寝息を立てて、起きる気配は無い。

 

「まったく。その子も無茶をするね。人体の限界を理解してないような動き、個性の使い方。あれは機械(マシーン)と表した方が適切になっているよ」

 

「やっといてなんですが、俺もそう思います。リカバリーガール」

 

「それで、アレは一体何なんだい?」

 

「詳しくは分からないんです。だから、今回の演習を使って全容を掴もうとしたんですけど・・・・・・」

 

「そうかい。・・・・・・それじゃ、今後は多用しないように。こんな無茶させたら、この子は死んでしまうよ」

 

「今回の事で、重々承知しています」

 

「ただ。それを使う事によってこの子の個性の弱点が減るのだとしたら、作戦としては良かったよ。でも、褒められたモノじゃないからね」

 

「・・・・・・・・・・・・はい」

 

 俺はそう言ってまた、神姫の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 後日。

 砂藤、切島、芦戸、上鳴の表情を例えるならお通夜帰り。

 暗い。ガチで暗い。

 

「皆・・・土産話っひぐ、楽しみに・・・うう、してるっ・・・がら!」

 

 泣きながらそう言う芦戸。

 

「まっ、まだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ・・・・・・!」

 

「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ・・・・・・」

 

 緑谷の慰めにそうツッコミを入れる瀬呂。

 瞬間、上鳴が奇声を上げながら叫ぶ。

 

「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄! そして俺らは実技クリアならず! これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」

 

「落ち着けよ。長え」

 

 瀬呂はそうツッコミを入れてから難しそうな顔になる。

 

「わかんねえのは俺もさ。峰田のおかげでクリアはしたけど寝てただけだ。とにかく、採点基準が明かされない以上は・・・・・・」

 

「同情するならなんかもう色々くれ!!」

 

 上鳴たちがそう叫ぶと同時に扉が勢いよく開けられる。

 入って来たのはもちろん相澤先生だ。

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 その言葉を相澤先生が言い終わる前にみんな席に付いていた。

 

「おはよう。今回の期末テストだが・・・残念ながら赤点が出た。したがって・・・・・・」

 

 まあ、赤点組は原作通りだし、この先のセリフはもう知っている。

 さて、神姫はどうかな・・・・・・?

 なんだその余裕そうな表情は・・・・・・?

 お前は筆記試験、めちゃくちゃ悪かっただろう。

 5教科合計154点って、悪いにも程があるだろう。

 1教科だいたい30.8点って・・・・・・。

 っと、ンな事を考えているうちに相澤先生が言葉の間を終わらせて言った。

 

「林間合宿は全員行きます」

 

「「「「どんでんがえしだあ!」」」」

 

「筆記の方は白神。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ」

 

 やっぱり。

 隣にチラリと視線を向けると、神姫は真っ白に燃え尽きていた。

 ・・・・・・当たり前だろう。

 ああ、俺は5教科合計499点だ。

 英語のスペルを一文字ミスってしまったよ・・・・・・。

 

「今回の試験、我々(ヴィラン)側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題と向き合うかを見るように動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだっただろうからな」

 

「本気で叩き潰すと仰っていたのは・・・・・・」

 

「追い込むためさ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」

 

「「「「ゴーリテキキョギィイーー!!」」」」

 

 滅茶苦茶喜んでる。

 席から立ち上がって全身を使って喜びを表現しているよ。

 だが、飯田だけは何か悔しそうにしている。

 

「またしてもやられた・・・・・・! さすが雄英だ! しかし! 二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」

 

「わあ、水差す飯田くん」

 

 と麗日さん。

 相澤先生は飯田の言葉にさらっと返す。

 

「確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。おまえらには別途に補習時間を設けている。ぶっちゃけ、学校に残っての補習よりキツイからな。じゃあ、合宿のしおりを配るから後ろに回していけ」

 

 相澤先生の言葉に赤点補習組の顔色が悪くなった。

 まあ、しょうがない。

 そして、放課後、皆で話し合った結果、皆で買い物に行くことが決定した。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 俺たちはショッピングモールに来ている。

 メンバーは、

 

[緑谷 出久]

[麗日 お茶子]

[芦戸 三奈]

[常闇 踏陰]

[飯田 天哉]

[切島 鋭児郎]

[峰田 実]

[機鰐 龍兎]

[白神 神姫]

[耳郎 響香]

[八百万 百]

[障子 目蔵]

[上鳴 電気]

[白尾 猿夫]

[口田 甲司]

[砂藤 力道]

[蛙吹 梅雨]

[青山 優雅]

[瀬呂 範太]

[葉隠 透]

 

 来なかった人。

 

[轟 焦凍]

[爆豪 勝己]

 

 ほとんどが来たな。

 と言っても自由行動だけどな。

 神姫は仲の良い八百万さんと耳郎さんと芦戸さんと葉隠さんと梅雨ちゃんと共にショッピングを歩いて行っている。

 俺もショッピング内を歩く。

 さてと・・・・・・、

 

「いるんだろ? 猿伸」

 

 俺がそう言うと、後ろから声がする。

 

「よく分かったな。気配は消していたハズなんだが」

 

「気配は確かに消えてた。でもさ、麦わら帽子は目立つぞ」

 

「・・・・・・俺のチャームポイントだ。そこをどうこう言うな。いや、言わないでくれ」

 

 俺が振り向くと猿伸が何かを投げてきた。キャッチするとそれはおしるこだった。

 ・・・・・・この季節にかよ。

 

「好きか? おしるこ」

 

「スマン。嫌いだ」

 

 そう言っておしるこを投げ返す。

 前世から苦手なんだよな。ガチで。

 

「ちょっと座れる場所まで行こうか」

 

「・・・・・・あのさ、お前は『パンドラ』のリーダーで、俺は『ファウスト』のリーダー。敵対組織のリーダー同士が護衛なしに会っていいのかよ」

 

「バレたら部下に怒られるだろけど、バレなきゃ問題ないよ」

 

「ホント、転生者(ヴィラン)は適当なヤツが多いな・・・・・・。ってか、なんでいるんだよ」

 

「おしるこの買いだめに」

 

「そうか」

 

 俺たちは座れる場所まで移動する。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・おい。一時的に共闘といこうぜ」

 

「ああ。すっかり忘れてたな。行こう」

 

 俺がそう言うと同時に猿伸が銃を取りだし、銃口を俺の腹に付ける。

 そして、そのままベンチまで移動する。

 

「よお、緑谷。お前もピンチみたいだな」

 

「えっちょ・・・機鰐くん・・・・・・!」

 

 そう。

 ベンチには死柄木に首を掴まれた緑谷がいる。

 

「なんだよ・・・・・・。あの時のガキか」

 

「よお、・・・・・・死柄木弔だな。俺は『パンドラ』のリーダー。(ヴィラン)ネーム“麦わらのルフィ”だ」

 

「『ファウスト』とは違う組織かよ・・・・・・」

 

 死柄木はそう言って目を顰める。

 さて、ここからが問題だ。

 

「機鰐くん、どういう状況なの?」

 

「パンドラのリーダーに人質にされた」

 

「そんな軽く言っていい事なの!?」

 

「大丈夫じゃない。問題だ」

 

「だよね!?」

 

 俺と緑谷がそんな会話をしていると、それを聞いていた死柄木が怪訝そうな顔になる。

 

「何だよ。その余裕・・・・・・」

 

「慣れてるモンでな」

 

 俺はそう言いながら緑谷の隣に座る。

 

「ああ、こっちの話はこっちで進めるから。お気になさらずお話を続けてどうぞ」

 

 俺がそう言うと、死柄木はしばらくの沈黙の後、話を始めた。

 それを盗み聞きしながらテキトーな話をする。

 しばらくしたら、死柄木の雰囲気が大幅に変化した。

 悪意・害意・敵意・殺意。それらすべてが凝縮されたような気配に、俺も猿伸も少しビクッとしてしまった。

 そして、死柄木が緑谷の首を締め出す。

 そこに現れたのは・・・・・・、

 

「デクくん・・・と機鰐くん?」

 

 そう、麗日さんだ。

 

「お友達・・・じゃない・・・よね・・・・・・?」

 

 麗日さんはそこまで言って緑谷の置かれている状況を視覚する。

 

「手、放して?」

 

 麗日さんの言葉を聞いた死柄木はポケットに入れていた左手を出す。

 その行動に緑谷は今まで以上に焦りを浮かべる。

 

「なっ、何でもないよ! 大丈夫! だから! 来ちゃ駄目・・・・・・」

 

「連れがいたのか。ごめん、ごめん。じゃ行くわ。追ったりすればわかるよな?」

 

 そう言って離れていく死柄木。

 緑谷は思いっきり咳き込んでいる。

 だが、それでも折れない。

 

「待て・・・死柄木・・・・・・! 『オール・フォー・ワン』は何が目的なんだ」

 

「え? 死柄木・・・って・・・・・・」

 

 麗日さんはようやく緑谷の首を絞めていた人物の正体に気付く。

 俺がソッと隣を見ると、猿伸はいなくなっていた。

 ある手紙を残して・・・・・・。

 俺が手紙に気を取られている内に死柄木は人混みの中に消えて行った。

 ・・・・・・・・・殴るの忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 あの後はほぼ原作通り。

 麗日さんの通報によりショッピングモールは一時的に閉鎖。

 区内のプロヒーローと警察が緊急捜査に当たったが、結局、見つからなかった。

 俺と緑谷はそのまますぐに警察署まで連れていかれ、事情聴取を受けた。

 と言っても、俺は立場が立場なので、事情聴取と言う名の情報共有だけどな。

 そして、俺は速攻で帰れることになった。

 帰り道を歩きながら猿伸の手紙を見る。

 これは警察にも話していない。

 この世界のイレギュラー。それが俺たち転生者だ。

 かなり巻き込んでしまったが、転生者の問題は同じ転生者が解決しないといけないと思う。

 だから、これは俺たちの問題だ。

 手紙の内容は普通なモノであった。

 

『一応これを残していく。機鰐龍兎。俺はおまえを倒す。お前を倒して俺の計画を完遂させる。ただ、俺はおまえに近しいものを感じているのも確かなんだ。もしも、邪魔をしないと言うならこちらからも何もしない。この手紙を読んでも、おまえが俺たちと敵対するのだとしたらこちらは全力で戦う。だから、お前も全力で来い。追記、俺たちはおまえが戦わなければならない状況を作って戦う。覚悟しておけ』

 

 とだけ書いてあった。

 全力・・・か・・・・・・。

 猿伸と戦うのがいつになるかなんて分からないけど、その時は俺の出せる最大限で行こう。

 俺はそう思いながらゆったりと夜の道を歩いて行った。

 




次回、林間合宿編スタート。


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林間合宿 編
24話 『CROSS-Z』


しばらく『パンドラ』の方々は休暇を取り、出番はありません。


 夏休み。

 林間合宿当日。

 物間の嫌味が炸裂したが、原作通り速攻で黙らせられた。

 バス移動中はみんなでワイワイ騒いだりして楽しんだ。

 まあ、この後の展開を知っているからこそこんな余裕な事を言っていられるんだけど。

 今回、俺は個性を使わずに森を抜けようと思っている。

 だから、“コイツ”がいるんだ。

 

「なあ、機鰐。ずっと気になっていたんだけど、その小さなドラゴンってなんだ?」

 

「ああ。こいつはクローズドラゴン。まあ、後々わかるさ」

 

「なんだよ。教えてくれよ」

 

「補習組の切島くんには言っても分からないと思うぞ」

 

 俺がそう言うと、切島はムッとした表情になった。

 そして、

 

「なんだよそれ。言ってくれないと分かんないだろ」

 

「このドラゴンは俺の大脳辺縁系と連動していて、俺の強い思いの閾値が一定以上にならないとシンクロへの移行が出来ないようになっているんだよ」

 

「何ってんのか全然分かんねぇ・・・・・・」

 

「だから言っただろう」

 

 俺はそう言って席を少し倒し、寝に入る。

 この後の事を考えると、今の内に体力を温存しておいた方がいいからな。

 ちなみに、俺が横になっている―――正確に言えば斜めになってる―――間に、切島がクローズドラゴンにちょっかいを出したらしい。

 なんでも、火を吹かれたあげく、思いっきり噛まれたらしい。

 反射的に硬化したらしいが、クローズドラゴンの牙はその程度で止められるものではないため、軽い怪我を負ったとか。

 

 

 

 

 

 

 バスが出発してから一時間ほど経って、休憩と称して全員下ろされた。

 俺は降りるときにはもうビルドドライバーを腰に装着して、右手にはドラゴンフルボトルを持っている。

 ちなみに、このビルドドライバーもクローズドラゴンも、個性によるものではなく、俺が“天っっっっ才・物理学者”の頭脳を使って開発したヤツだ。

 峰田がトイレを探してオロオロしている所に近付いてきた人物。

 それは・・・・・・、

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 すごいノリだな。

 ポーズも頑張って取っているけど、何かグラっとバランス崩しているし。

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

 相澤先生のその言葉に大興奮したのはもちろん緑谷だ。

 誰も聞いていない説明を始める。

 

「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団! 山岳救助などを得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年でもう12年にもなる・・・・・・」

 

 緑谷がそこまで言ったところで、ピクシーボブが緑谷の顔を抑えながら言う。

 

「心は18!!」

 

 とは本人談。

 彼氏のいない実年齢31歳であった・・・・・・。

 緑谷とピクシーボブの茶番が行われている内にマンダレイが山の方を見ながら言う。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

 

「「「「「「「遠っ!!」」」」」」」

 

 マンダレイの言葉を聞いてザワザワしだす一同。

 

「え・・・? じゃあ何でこんな半端なとこに・・・・・・・・・」

 

「いやいや・・・・・・」

 

「バス・・・戻ろうか・・・・・・。な? 早く・・・」

 

 諦めなさい。

 これが運命ってやつだ。

 

「今はAM9:30。早ければぁ・・・12時前後かしらん」

 

「ダメだ・・・おい・・・」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ!! 早く!!」

 

 皆が慌ててバスへ戻ろうとしている中、俺は携帯食のフウを開け、頬張る。

 うん。食べやすいけどあまり美味しくはないな。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

 皆がバスへもう一歩と言う時、相澤先生の無慈悲な言葉か掛けられた。

 

「わるいね諸君。合宿はもう始まっている」

 

 ピクシーボブの個性によって地面が盛り上がり、皆は土の波によって押し出された。

 俺はと言うと、クローズドラゴンに掴んでもらい、波に流されることなくとっくに下りていた。

 

「私有地につき“個性”の使用は自由だよ! 今から三時間! 自分の足で施設までおいでませ! この・・・“魔獣の森”を抜けて!!」

 

 はぁ・・・・・・面倒くさい。

 俺はボトルをカタカタと数回振り、クローズドラゴンの背中に差し込む。

 

《ウェイクアップ!》

 

 そして、ベルトに装填する。

 

《クローズドラゴン!》

 

 レバーを回すことによって展開されるスナップビルダー。

 そして、俺はベルトからの問いかけに答える

 

《Are you ready?》

 

「変身!」

 

《Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!》

 

 そんな音声と共に、スナップビルダーに挟まれ、俺は『仮面ライダークローズ』への変身を完了させる。

 峰田は慌てて用を済まそうと走る。

 だが、その先に居るのは・・・・・・、

 

「「「「「「マジュウだーーーーー!!!」」」」」」

 

 ビビッて漏らす峰田。

 あーあ。可哀想に。

 口田くんの個性は意味をなさず、戦闘型である俺たちが飛び出す。

 俺はクローズマグマナックルを取り出し、ドラゴンマグマフルボトルを差し込む

 

《ボトルバーン!》

 

 そして、ドラゴニックイグナイターを長押しし、エネルギーを溜め、殴る。

 

《ボルケニックナックル! アチャー!》

 

 一撃で崩れ去る土くれ魔獣。

 

「みんな! それぞれが役割をもって進んで行くぞ!!」

 

 俺はそう言いながら突っ込んできた魔獣を殴り壊す。

 

「行くぞ!! 連携すれば勝てない相手じゃない!! 今の俺たちは負ける気がしねぇ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 口田くんが鳥を使って、障子くんが耳を複製して、耳郎さんがイヤホンジャックを使って、魔獣の探知。

 俺と轟くんと爆豪と緑谷と飯田と常闇くんと切島くんと砂藤が前線に立って戦う。

 そして、空を飛んでいる魔獣を神姫が吹き飛ばす。

 だが、俺は神姫の弱点を重々承知している。

 だから・・・・・・、

 

「神姫! 飲め!!」

 

「っ・・・・・・! 分かった!!」

 

 俺が投げ渡したモノ。

 それは俺の血が入った瓶だ。

 夕方になってやっとこの森を抜けられるんだ。

 神姫の個性じゃそもそもお昼まで持ちそうにない。

 だから、特典の発動だ。

 俺の血を飲んだ神姫は目を瞑り、呟く。

 

ご主人様(マスター)との繋がりを確認しました。これより、奴隷(スレイヴ)モードに入ります」

 

 そう言ってカッと目を開け、飛び掛かって来ていた魔獣を全て吹き飛ばす。

 だが、それでもまだ飛行型魔獣はいる。

 

「複数の敵性体を確認。排除します。雷鳴暴風」

 

 神姫を中心に稲妻と暴風が吹き荒れる。

 それによって、飛行型魔獣は全て撃ち落された。

 俺たちも負けじと魔獣を撃破していく。

 しばらくして、後ろから叫び声が聞こえてきた。

 

「うぉおえあおおお!!!」

 

「危ねえ! 峰田!!」

 

 俺は峰田を突き飛ばし、峰田を襲おうとしていた攻撃の射線に入った。

 ここまで言えばどうなったかなんて分かったものだろう

 峰田を突き飛ばした瞬間、俺を襲う衝撃・痛み。

 抵抗もできず俺は思いっきり殴り飛ばされた。

 まずい・・・・・・。

 着地しないと・・・・・・。

 だが、きりもみ回転しているため、バランスが取れない。

 ウェエ。

 気持ち悪い・・・・・・。

 めちゃくちゃ吐きそうなんだけど。

 気分の悪さに苛まれながらどうしたモンかと考えていると、ガシッと抱きかかえられるように掴まれた。

 

「大丈夫ですか? 我が(マイ)ご主人様(マスター)

 

「すまん。助かった・・・・・・」

 

「気を使わなくて結構です。私はご主人様(マスター)の奴隷ですので」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

 この特典を発動中の神姫はマジで雰囲気変わるから接し方が分からなくなるんだよな・・・・・・。

 神姫はゆっくりと俺を下ろした。

 

「大丈夫だった? 機鰐くん」

 

「おう。吹っ飛ばされたがダメージはねえよ。心配すんな、緑谷」

 

「それにしても、数が多いね・・・・・・」

 

「まあ、そうだな。ちょっと休んだ方が良いと思う」

 

 俺はそう言ってから大きく息を吸い込んで叫ぶ。

 

「前方約150メートルほどの所に開けた場所がある。そこでいったん休憩しよう!!」

 

 俺の言葉に、疲れを覚えていた皆は全力で魔獣の群れの中を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「ひや~~。疲れたぁ~~~」

 

 そう言って芝生に寝っ転がる上鳴。

 芦戸もそれに続いて寝っ転がる。

 俺と緑谷と飯田、爆豪、轟くんで丸まり、作戦会議をする。

 

「なあ、今何時くらいか分かるヤツいるか?」

 

「すまない。時計はバスの中に置いて来てしまった」

 

「俺持ってるよ」

 

「本当か! 機鰐くん!!」

 

「ああ。現在1時半ぐらいだ。このペースで行けば到着するのは4~5時ぐらいになるだろうな」

 

「3時間で到着じゃねえのかよ! クソが!!」

 

 そう言って手のひらで小爆発を起こす爆豪。

 やめろ。

 隣にいる俺からしたら熱くてしょうがないんだよ。

 俺は頭をポリポリ掻いた後、スクッと立ち上がって携帯食を全員分出す。

 

「一応、全員分あるから一人一個持って行きな。すこしでもいいから食べておいた方が良い」

 

 そう言った瞬間、皆飛びついてきた。

 がっつくな、がっつくな。

 むせるぞ。

 

「ゲホッ、ガフォッ」

 

 ほら、むせた。

 まあ、それは良いとして・・・・・・。

 

「どうする?」

 

「全部ぶっ殺して進む!!」

 

「それしかないな」

 

「んじゃ、ここから先も似たようなやり方で進むか」

 

 俺がそう言って携帯食を頬張ると、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと誰もいない・・・・・・いや、葉隠さんか。

 顔が見えなかったから一瞬、誰もいないと思ってしまったよ。

 

「どうしたの?」

 

「白神ちゃんが何か変なの。眼の色も何か違うし・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・忘れてた。

 俺は葉隠さんに引っ張られるように女子グループの元まで行く。

 なんか峰田が言ってた気がするが気のせいという事にしておいてやろう。

 

「何かございましたか。ご主人様(マスター)

 

「ほら! なんかおかしい!」

 

「あ、機鰐さん。先ほどから白神さんがずっとこのような様子なのです。何か原因を知りませんか?」

 

「あー、これな。何て言えばいいのか分からないんだけどさ。う~ん」

 

 悩んでしまった。

『ファウスト』については色々話したけど、転生者である事は話していないんだ。

 それに、説明が面倒くさい。

 う~ん。

 よし。

 

「個性のドーピングをしているんだよ」

 

「それって・・・、危険はないのですか?」

 

「ほとんどない。ただ・・・・・・・・・」

 

「「「「「ただ?」」」」」

 

 ズイッと近寄ってくるな。

 

「これが切れるとドッと疲れる。一応夕方までは持つとは思うけど、もしも倒れたら拾って上げて」

 

 俺がそう言うと、みんな一斉に神姫を労わりだした。

 ふう。これで気が反れただろう。

 俺がそう思ってその場を去ろうとすると、八百万さんが、

 

「すみません。ちょっとお話良いですか?」

 

 と聞いてきた。

 何を畏まっているんだか。

 

「どうしたの?」

 

「その・・・・・・あの時は聞けなかったのですが、(わたくし)は本気を出すような相手ではなかったんのですか?」

 

「それって、実戦訓練の話?」

 

「・・・・・・・・・はい」

 

「当ったり前だろ。本気出してたら八百万さんを殺しちゃうかもしれないんだから。・・・・・・あの時の戦いはあまり気にしなくて良いよ。訓練なんだから」

 

 俺はそう言って緑谷たちの元へ戻っていく。

 それから10分ほど休憩して出発した。

 ちなみに、休憩中はクローズドラゴンが魔獣の相手をしていた。

 

 




 ある旅人がとある戦いを見る。
 その戦いは一般的には『保須市襲撃事件』と呼ばれるモノだ。
 旅人は首から下げているトイカメラでパシャリとその戦いの写真を撮った。

「仮面ライダーブレイドか」

 そう呟きながら持っていたデジタル媒体で“この世界”の情報を漁る。
 そして、この世界が超常が発生したことによって、仮面ライダーの歴史が終わった世界であることを掴んだ。
 なら、事件の中心で戦っているあの仮面ライダーは何なのか。
 それが気になり、再度調べると、『雄英体育祭』がヒットした。
 見ると、そこには複数の仮面ライダーに変身する少年についてのまとめが書かれていた。
 旅人はその少年の名前を呟く。

「機鰐龍兎・・・・・・か。ふむ、だいたいわかった」

 旅人はそう言ってこの世界に溶け込んでいく。
 混乱し、逃げ惑う人混みを歩き、その姿は夜の街の中へ消えて行った・・・・・・。


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25話 『CROSS-Z CHARGE』

新展開☆


 休憩が終わり、俺たちはまた先へ進む。

 と言ってもクローズドラゴンはかなり無茶をさせてしまった為、後半は休みである。

 だから、

 

《スクラッシュドライバー! ドラゴンゼリー!》

 

「変身!!」

 

《潰れる! 流れる! 溢れ出る! ドラゴンインクローズチャージ! ブラァァァアアアア!》

 

 そんな音声と共に、『仮面ライダークローズチャージ』への変身を完了させる。

 そして、ツインブレイカーをアタックモードにして魔獣を殴る。

 殴り続ける。

 時折、ビームモードにして、空を飛んでいる魔獣を打ち落とす。

 ハァ。

 さすがに多すぎるだろう。

 皆一応携帯食を食べたとはいえ、それでも少量だ。

 そんな沢山は持てないからな。

 砂藤に関しては、自ら砂糖を持ち込んでいるから、まあ、大丈夫だろう。

 峰田は・・・・・・ああ、出血していらっしゃる。

 もぎもぎしすぎたようだな。

 俺はそんなことを思いながらタンクフルボトルとドラゴンフルボトルをツインブレイカーに装填する。

 

《ツイン!! ツインフィニッシュ!!》

 

 レイジングビーマーから、まるで戦車から発射されたかのような勢いでドラゴン型のエネルギーが発射され、襲い掛かって来ていた魔獣を一体残らず破壊しつくす。

 うわっ。

 思ったより強かった。

 破壊力で言えばこの組み合わせはベストマッチなのか・・・・・・?

 俺がそんなことを考えていると、スドンッと大きな音と共に地面が揺れた。

 そして、現れたのは。

 

「で、で、で・・・・・・・・・」

 

「「「「「「「デカすぎるだろぉーーーーー!!!!!!」」」」」」」

 

 そう。

 超巨大な魔獣だ。

 大きさは・・・・・・峰田×15人ぐらいか。

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

 大型魔獣へ最初に攻撃を仕掛けたのは緑谷だった。

 緑谷のパンチが魔獣の手に当たり、バラバラと崩れた。

 だが、砕けたところから再生しだす。

 今までにないタイプだ。

 

「排除します。レインレーザー×アイスレイン。新技、アイススピア」

 

 なんじゃありゃ。

 神姫を中心に6本の先が尖った細長い氷が生成される。

 そして、それが高速で魔獣を貫く。

 だが、

 

「敵性対の回復を確認。アイススピアは有効ではないと判明しました。・・・・・・レインレーザー(弱)を使用します」

 

 神姫はそう言って、魔獣を全体的に濡らした。

 ・・・・・・・・・まさか。

 

「フルパワー・アイスキャプチャ。使用します」

 

 やっぱり!

 

「轟くん!! 皆を炎で温めて!!」

 

 俺がそう言い、轟くんが炎を出すと同時に、辺りの気温が氷点下まで一気に下がった。

 うっわ、寒っ!

 だが、これで魔獣は凍り付いて・・・・・・・・・。

 

「告。気温の低下により生命維持に支障が出ました。これより、寒冷睡眠(コールドスリープ)モードに入りま・・・・・・グゥ」

 

 自分への被害を考えてなかったのかよ!!

 神姫は重力への抵抗を一切することなく真っ逆さまに落下する。

 慌ててキャッチしに行こうとしたら、麗日さんが先に飛び出してキャッチしてくれていた。

 ナイス。

 俺は回れ右をし、レンチ型のレバーを下ろす。

 

《スクラップブレイク》

 

 俺の脚に蒼いエネルギーが纏われる。

 そして、そのエネルギーを相手に叩き込むライダーキック。

 魔獣は凍っていることもあり、いとも簡単にバラバラと砕け壊れた。

 

「オイ! 変身野郎!! ソイツは俺の獲物だぞ!!」

 

「だったらもっと早く飛び出すんだったな!!」

 

「クソが!!」

 

 俺たちはこのままの勢いで突き進む。

 神姫は轟くんが炎で温めようと最後の最後まで寝たままだった。

 

 

 

 

 

 

 PM 5:25。

 俺たちはようやく森を抜けられた。

 

「やーーーーーっと来たにゃん。とりあえず、お昼は抜くまでもなかったねぇ」

 

 何をいけしゃあしゃあと・・・・・・。

 

「ホント、何が『三時間』ですか・・・・・・」

 

「腹へった・・・。死ぬ」

 

「悪いね。私たちならって意味、アレ」

 

 クソが。

 おかげで携帯食料全部持ってかれたよ。

 俺のおやつなのに・・・・・・。

 

「ねこねこねこ・・・・・・」

 

 ピクシーボブさん。

 何だその気味の悪い笑い方は・・・・・・。

 恥ずかしくないのか31歳・・・・・・。

 

「でも、正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ。君ら・・・・・・特にそこの5人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん?」

 

 あれ?

 5人だと・・・・・・?

 まさか、俺も含まれてるのか・・・・・・。

 ちょっと待て、この後の展開を考えると・・・・・・、

 

「三年後が楽しみ! ツバつけとこーーーー!!!」

 

 やっぱりか!!

 後輩ヒーローにツバをつけるんじゃなくて、頑張って婚活しろよ31歳!

 

「マンダレイ・・・・・・。あの人あんなんでしたっけ?」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

 その後の展開は原作通り。

 緑谷が洸太くんに股間を殴られたのは知っていても笑ってしまった。

 そして夕食。

 俺たちはひたすら飯を掻っ込む。

 神姫も起きてきて同じように飯を掻っ込んでいる。

 

「ねえ、ねえ。白神ちゃん、目の色戻ったんだね」

 

 という葉隠さん声が聞こえてきた。

 まあ、奴隷(スレイブ)モードは解除されているからな。

 ・・・・・・・・・そういやアレってどういう条件で解除されるんだ?

 う~ん。

 これも手繰り探りで調べていくしかないか・・・・・・。

 ああ、言い忘れていたが、神姫の目の色は普段は透き通る空のような青い色で、奴隷(スレイブ)モードになると、血のような赤色になる。

 普段はその青色が人を優しく迎え入れているかのように錯覚するぐらい柔らかい雰囲気なのだが、赤色は人を拒絶して機械的に全てを処理しようとしている雰囲気がある。

 神姫曰く、奴隷(スレイブ)モードの時の記憶はハッキリしているが、それが本当に自分なのかどうかが分からないという。

 ただ、俺の命令を忠実に遂行する事を一番と考えて行動してしまうらしい。

 主神さんに連絡付けば詳しく聞けるんだけどな・・・・・・。

 俺はそう思いながら飯を再度掻っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 風呂。

 その温かさにほっこりしていると、峰田が真剣な表情で何か言い出す。

 

「まァまァ・・・。飯とかはね・・・ぶっちゃけどうでもいいんスよ。求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってるんスよ。オイラぁ・・・・・・」

 

 気持ち悪い口調だな。

 

「求められてるのはこの壁の向こうなんスよ・・・。ホラ・・・、いるんスよ・・・。今日日、男女の入浴時間ズラさないなんて、事故・・・そう、もうこれは事故なんスよ・・・」

 

 アホかコイツ。

 まったく。

 やるとしたらバレない様にだろう。

 ああ、俺は壁に寄りかかりながらカメラ搭載の超小型ドローンを操作しているぞ。

 女子風呂が写ってしまっているのは実験中の事故だからしょうがないよな。

 っと、峰田の言葉に飯田がマジメにツッコミを入れる。

 

「峰田くんやめたまえ! 君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

 

 だが、飯田の言葉は受け入れられなかった。

 

「やかましいんスよ・・・・・・」

 

 そう言った峰田の顔はとても爽やかなモノだった。

 そして、その爽やかな顔が一瞬にして欲望そのモノを出しているような顔になる。

 

「壁とは超える為にある!! “Plus(プルス) Ultra(ウルトラ)”!!!」

 

 そう叫ぶと同時にもぎもぎを使って上っていく峰田。

 

「速っ!!」

 

「校訓を穢すんじゃないよ!!」

 

 だが、峰田が壁のてっぺんまであと一歩と言う時、洸太くんがスッと現れた。

 そして、

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

 

 そう言って峰田をトッと押した。

 

「くそガキィィィィイイイイイイ!!?」

 

 さらば峰田。

 お前の事は忘れない。

 まあ、この後の展開は原作通り。

 洸太くんが女性陣の裸を見て、鼻血を出しながら落下し、緑谷がキャッチした。

 そして、慌ててマンダレイの元へと連れて行った。

 まあ、それは良いとして、そろそろ小型ドローンを回収しないと・・・・・・。

 ん? アレ?

 なんかリモコンが反応しないな・・・・・・。

 しばらくカチャカチャしていると、壁の向こうから恐ろしい声が聞こえてきた。

 

「龍兎。後で、ちょっと二人っきりで話そうね♪」

 

 何かドス黒いものが混じった神姫の声だった。

 俺の頬を冷汗が流れる・・・・・・。

 

「神姫・・・・・・?」

 

「私が何を言いたいかわかるよ、ね?」

 

「・・・・・・・・・ハイ」

 

 有無を言わせないような口調と雰囲気だった。

 

 

 

 

 

 

 皆が寝静まった夜。

 俺と神姫はコッソリ部屋を抜け出して二人っきりで会う。

 

「ふざけてゴメンナサイ!!」

 

 俺はスライディング土下座で謝る。

 シャァァァァァアアアっという音が鳴った。

 

「もう、こういう事しないって約束できる?」

 

「ハイ。この命に掛けても約束させていただきます」

 

「なら・・・・・・よし。二度とやらないでね」

 

「ハイ!」

 

 この間、ずっと土下座をしている。

 

「頭・・・上げて・・・・・・」

 

 神姫にそう言われてゆっくりと顔を上げると、いきなり視界がふさがれた。

 これは・・・・・・そう、踏まれてる。

 それでも、完全に視界がふさがれている訳でもない為、神姫の顔を確認することはできた。

 赤かった。

 もちろん、眼が、だ。

 

「まったく。駄目なご主人様(マスター)ですね。私がしっかりしなければいけないんですから」

 

「お前・・・・・・何言ってるんだ?」

 

「私の名前は“神鬼(みき)”。・・・・・・まあ、カタカナで“ミキ”とお呼びください」

 

「いや、漢字かカタカナかなんて特に関係ないだろう」

 

 神姫、神鬼、ミキ。

 全部読み方一緒だしさ。

 

「そうですね。まあ、お好きなようにお呼びください。私は貴方の奴隷(スレイブ)ですので」

 

 そう言いながら風で椅子を作り、そこに腰掛けるミキ。

 個性を活用してるな、オイ。

 

「お前は何なんだ? 神姫なのか? それとも別人か?」

 

「私は白神神姫であって、白神神姫は私ではありません。私は彼女が切り捨てたモノであり、彼女は私の事を知りません」

 

「回りくどい言葉は嫌いなんだ。直球に言ってくれ」

 

「それは今の貴方には早い事です。知らなくて結構。知ろうとするなゴミご主人様(マスター)

 

 何だコイツ。

 ぶん殴ろうかとも思っちまったぞ。

 

「まあ、バカな貴方にヒントを与えるとしたら・・・・・・そうですね。神が死んだとき、それは人に生まれ変わる事もありますし、人が死んだら神に生まれ変わる事もあります。まあ、神が人になる場合は神としての記憶が無くなり、人が神になる時は生前の記憶は保持しています。この子(わたし)みたいな例は本当に例外なのです。そして、神になる前、この子(わたし)は人間でした。ですが、この子は人間であった自分を捨てました。それが、神鬼(わたし)です。・・・・・・まあ、ここから先は教えません。これは貴方とこの子(わたし)の課題ですので」

 

 ミキはそう言いながら俺の頭を小突いて来た。

 このヤロウ・・・・・・。

 

「ああ。今、この子(わたし)は眠っています。先ほども言った通り、この子(わたし)神鬼(わたし)の事を知りませんし、気づいていませんから。・・・・・・では、またお会いしましょう。お馬鹿で優しく身勝手で他人思いな我が(マイ)ご主人様(マスター)

 

 ミキはそう言って去って行った。

 ・・・・・・何なんだ?

 今のミキって奴は・・・・・・。

 奴隷(スレイブ)モードの神姫とは確実に雰囲気が違った。

 そもそも、俺の血を摂取しない限り神姫は奴隷(スレイブ)モードになるはずがないんだ。

 つまり、アレは奴隷(スレイブ)モードとはまた違う何かという事だ。

 何なんだ・・・・・・?

 複数の転生者、転生個性と転生特典、神姫と神鬼。

 また、新しい問題が出てきた。

 俺は頭をポリポリと掻きながら部屋へと戻った。

 

 

 




 ある人物は新聞を開き、そこに載っている記事を読む。
 隅々まで読んでから面倒くさそうに新聞紙を丸め、近くのゴミ箱に捨てる。

「『敵連合(ヴィランれんごう)』に『ファウスト』に『パンドラ』ねぇ・・・・・・。どれもこれもいい響きの組織名だねぇ。なあ、お前はどう思う?」

 青年はそう言って近くにいた部下に話を振る。
 部下の男は腕を組んで少し悩んでからボソリと言う。

「私にはセンスがないのでどうと言えませんね。まあ、この組織の名前もいいのではないですか? よく分かりませんが」

「・・・・・・『ベアーズ』のどこが良いのかを説明して欲しいな。この組織に熊みたいなヤツもいなければ、異形型で熊みたいな見た目のヤツもいないだろ。俺の個性だってどちらかと言えば“メドゥーサ”に近いしよぉ」

「目で見て石にする個性でないので、メドゥーサとはまた別物だと思いますよ」

 部下にツッコミを入れられ、青年は何も言えなかった。
 青年の個性は確かに他者を石にする個性ではあるが、条件が厳しく、面倒くさいモノなのだ。
 青年がリーダーを務める『ベアーズ』も『ファウスト』や『パンドラ』同様、転生者が集まって出来た(ヴィラン)の組織だ。
 と言っても、小さな雑誌に小さく書かれたぐらい小さな組織で、メンバーもそんなにいない。
 だからこそ、青年は不満を持っていた。
 転生者として一般人より強いと思っていたのに、自分より強い転生者がゴロゴロ存在しており、結果、大きく出る事はできなかったのだ。
 しかも、ある時戦った“プニプニプルプルした異形型の転生者”に関しては戦いにすらならなかった。
 一瞬で終わった戦いの中で、その“プニプニプルプルした異形型の転生者”が言った一言、

「なんだ。暇つぶしにすらならないじゃないか」

 そう。
 その転生者にとって青年との戦い何て暇つぶしでしかなかったのだ。
 重い事実。
 青年はそれ以来何をするにもやる気が出ない。
 でも、そんな時に知った人物。
 機鰐龍兎。
 青年はその少年を見た時、『戦いたい』と思った。
 だからこそ、青年は部下の男に言う。

「計画の準備をしろ。雄英にいる“仮面ライダー”を潰すぞ」

 と。



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26話 『敵連合(ヴィランれんごう)襲撃① 紅』

ライダーの平和利用。


 翌日。

 合宿二日目AM5:30。

 まだみんな眠そうだ。

 無論、俺も。

 俺たちは運動着に着替え、外に出る。

 目の前にはいつも通りボケーッとした顔の相澤先生。

 

「お早う、諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる“仮免”の習得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。・・・・・・というわけで爆豪。こいつを投げてみろ」

 

 相澤先生がそう言って投げ渡したのは、

 

「これ、体力テストの・・・・・・」

 

「前回の・・・入学直後の記録は705.2m・・・。どんだけ伸びてるかな」

 

 知ってる。

 皆なんか沸き立ってるけど、結果知っているから何とも言えねえ。

 爆豪は振りかぶり、叫びながら投げる。

 

「くたばれ!!!」

 

 ・・・・・・・・・くたばれ?

 う~ん。

 何故それをチョイスしたのかさっぱり分からないな。

 相澤先生はスマホみたいなヤツに表示された記録を見せてきた。

 そこには、

 

[709.6m]

 

 と表示されていた。

 うん、知ってた。

 

「約三か月間。様々な経験を経て、確かに君らは成長している。だが、それはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで、“個性”そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だから―――今日から君らの“個性”を伸ばす」

 

 ・・・・・・あれ?

 俺の個性はどう伸ばすんだ?

 そんな俺の疑問は誰にも伝わることはなく、相澤先生はあの言葉を言った。

 

「死ぬほどキツイがくれぐれも・・・・・・死なないように――――」

 

 

 

 

 

 

 B組が登場し、それからあのセリフが来る。

 

「そうなのあちきら四位一体!」

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手、手助けやってくる!!」

 

「どこからともなくやって来る・・・」

 

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

 はい、フルバージョンお疲れ様です。

 

「あちきの“個性”『サーチ』! この目で見た人の情報、100人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」

 

 とラグドールさん。

 

「私の『土流』で各々の鍛錬に見合う場を形成!」

 

 とピクシーボブさん。

 

「そして私の『テレパス』で一度に複数の人間へアドバイス」

 

 とマンダレイさん。

 

「そこを我が殴る蹴るの暴行よ・・・・・・!」

 

 と虎さん。

 やっぱり見た目怖いな。

 

「単純な増強型の者、我の元へ来い! 我ーズブートキャンプはもう始まっている」

 

 ネタが古いな~。

 ああ、なぜか俺も我ーズブートキャンプをやらされている。

 俺、増強型じゃないんだけどさ。

 何でなんだろう・・・・・・?

 ちなみに、この後はただひたすら筋トレをさせられた。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫は大技を連発し、空腹になったとしてもそれを続けることによって、燃費の悪さを解消する特訓をしていた。

 そして、途中で倒れ、動かなくなったが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 PM4:00。

 滅茶苦茶筋トレした。

 なんだろう?

 吐きたいのに、胃の中空っぽだから吐けないこのムカムカした気持ち・・・・・・。

 

「さァ、昨日言ったね。『世話焼くのは今日だけ』って!!」

 

「己で食う飯くらい己でつくれ!! カレー!!」

 

 元気そうだな。

 まあ、俺たちも元気に答えよう。

 

「「「「「「「イエッサァ・・・・・・」」」」」」」

 

「アハハハハ。全員全身ブッチブチ!! だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」

 

 ラグドールさん・・・・・・。

 呑気そうに笑わないで・・・・・・。

 マジで今、色々とヤバいからさ。

 だが、一人だけ反応が違った。

 それは誰であろう? もちろん、飯田だ。

 

「確かに・・・。災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環・・・・・・。さすが雄英無駄がない!! 世界一旨いカレーを作ろう皆!!」

 

「「「「「「「オ・・・オォ~・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

 飯田、元気過ぎ・・・・・・。

 まあ、それでもカレーは大好物だし、頑張ろう。

 俺はまず八百万さんに頼んで、鏡を作り出してもらった。

 そして・・・・・・、

 

「変身!!」

 

 カードデッキをVバックルにセットし、『仮面ライダー龍騎』への変身を完了させる。

 そして、一枚のカードをドラグバイザーに装填する。

 

STRIKE VENT(ストライクベント)

 

 そんな音声と共に右手にドラグクローが装備される。

 そして、炎を放射し、薪に火を点けた。

 火を点け終わるのを確認してから変身を解除。

 だが、それだけじゃ終わらないぜ。

 

「術式レベル2。変身」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ! タドルメグル、タドルメグル、タドルクエスト!》

 

 そんな音声と共に『仮面ライダーブレイブ クエストゲーマー レベル2』への変身を完了させる。

 ガシャコンソードの召喚はしない。

 今日の俺のメスは、まな板の上に置かれている包丁だ。

 

「これより、カレー素材適度切り手術を開始する」

 

 そう言うと同時に適当な大きさに切る。

 すると・・・・・・、

 

「爆豪もそうだけどお前も切るの巧いな」

 

「フッ・・・。俺に切れないモノはない」

 

「お・・・そ、そうか・・・・・・」

 

 変なヤツを見る目で見られたが、まあ、気にしないでおこう。

 切り終わり、変身を解除する。

 

《ガッチャーン! ガッシューン!》

 

 ふう・・・・・・疲れた。

 まあ、この後は特に何もなく、皆でカレー食べて終わった。

 風呂では峰田がまた覗こうとしていたけど、今回は俺が殴って止めた。

 寝る前には、峰田が変な事をしないようグルグル巻きにしてテキトーなところに転がしておいた。

 

 

 

 

 

 

 三日目、昼。

 とにかく筋トレをしておく・・・・・・というのは他の人だけ!

 俺は免除さぁ!!

 なぜかって?

 フッフッフッフ。

 俺を誰だと思っているんだ。

 

「ホラホラ。そんなんじゃ届かないぞぉ」

 

 そう。

 増強型の皆と戦闘訓練だ。

 まあ、訓練と言っても、俺は攻撃せず逃げ、増強型の皆がそれを追いかけて攻撃するっていう訓練。

 一般的に言えば鬼ごっこだね。

 

「5%デトロイトスマッシュ!!」

 

「甘い!」

 

 殴ってきた勢いそのままに投げる。

 ・・・・・・・・・さて、今夜か。

 ここが問題だ。

 緑谷にこれ以上無茶をさせるのは駄目だろう。

 そもそも、この戦いでの無茶でただでさえグチャグチャだった腕が、これ以上ない爆弾を抱えることになるんだ。

 それを少しでも防ぎたい。

 高望みかもしれないけどな・・・・・・。

 でも、爆豪も何とかしないといけないだろうし。

 ・・・・・・こればっかりは発生してからじゃないと判断できないな。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 今日もカレーだったが、美味しいので気にしない。

 

「ミキ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・お前、やったな。何を考えているんだご主人様(マスター)

 

「この後、事件が起きる。お前のできる限りで周りを助けてやってくれ」

 

「わかった、わかった。わかりましたよ。・・・・・・まあ、期待はしないでね」

 

「お前なら大丈夫だよ」

 

 俺のやった事。

 それは神姫の食べているカレーに、スパイスと偽って俺の血液を混ぜたモノを入れるという方法だ。

 ・・・・・・もう少し怪しむかと思ったんだけどな。

 まあ、良いか。

 片付けも終わり、いよいよだ。

 

「・・・・・・さて! 腹もふくれた、皿も洗った! お次は・・・・・・」

 

「「「肝を試す時間だーーー!!」」」

 

 楽しそうな補習組。

 だが、お前たちに遊ぶ時間何ぞない。

 相澤先生がいつも通りの口調でさらっと言う。

 

「その前に大変心苦しいが補習連中は・・・・・・これから俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ!!!」

 

 とんでもない顔になる芦戸。

 今回ばっかりは嘘じゃないんだな。

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたのでこっちを削る」

 

「うわああ! 堪忍してくれえ。試させてくれぇ!!」

 

 芦戸の願いは聞き受けられることなく、そのまま引きずられていった。

 瀬呂、砂藤、上鳴、切島、芦戸、ミキがズルズルと引っ張られて行った。

 さよなら、補習組。

 君たちの事は忘れない・・・・・・。

 っと、まあ、茶番はこれぐらいにして始めよう。

 肝試しが始まり、すぐに事件が発生する。

 森が燃え、黒煙が上がる。

 その場にいた人物が火事の発生した方に意識が移ってしまった。

 俺も、ついそっちに意識を移した。

 結果は言わずもがな。

 マグ姉によって倒されるピクシーボブ。

 そして。マグ姉と共に現れる・・・えっと、確かスピナーとかいうヤツ。

 マズイ。

 俺は腰を落として構える。

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!! 我ら敵連合(ヴィランれんごう)開闢行動隊!!」

 

 説明どうも。

 あとで必ずぶん殴ってやるから覚悟しておけよ。

 

「この子の頭潰しちゃおうかしらどうかしら? ねえ、どう思う?」

 

「させぬわ。このっ・・・」

 

 一触即発。

 それを止めたのはスピナーだった。

 

「待て待て早まるなマグ姉! 虎もだ落ち着け。生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否か!! そして、アァそう! 俺は、そうおまえ、君だよメガネ君! 保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

 

 スピナーはそう言いながら無数の刃物をベルトや鎖で束ねたような巨大な剣を構える。

 あの武器の名前って何ていうんだろう?

 

「何でもいいが貴様ら・・・・・・! その倒れている女・・・・・・、ピクシーボブは最近、婚期を気にし始めててなぁ。おんなの幸せを掴もうって・・・・・・いい歳して頑張ってたんだよ。そんな女の顔、キズモノにして男がヘラヘラ語ってんじゃないよ」

 

 声に怒気を込めてそう言う虎さん。

 だが、その言葉はスピナーには届かない。

 

「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」

 

 あ゙ぁ? 今何言ったコイツ。

 ったく。腹立たしい。

 洸太くんには悪いけどちょっとやらせてもらう。

 

《ラビットタンクスパークリング! Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイ! イェーイ!》

 

 俺は『仮面ライダービルド ラビットタンクスパークリングフォーム』になると同時に、左足のバネを使って跳ぶ。

 そして、スピナーに蹴りを叩き込む。

 

「見たっていいだろう。ヒーローだって人間なんだからよ」

 

「っ! “仮面ライダー”!!」

 

「存じてくれてありがとう! テメェは一発殴ってやるから覚悟しておきな!!」

 

 振るわれる剣。

 だが、そんなの当たらない。

 俺は素早くその攻撃を避け、スピナーに膝蹴りをプレゼントする。

 

「グッ・・・・・・!」

 

「オラァ!!」

 

 膝蹴りによって生じた隙を使い、その顔面に拳を叩き込む。

 地面を派手に転がるスピナー。

 パンチ力14.9t(初期値)をなめるなよオラァ。

 

「マンダレイ! 後は頼んだ! 俺は緑谷の方に向かう!!」

 

 俺はそれだけ言って走る。

 だが、ある事を失念していた。

 ・・・・・・洸太くんの『ひみつきち』ってどこにあるの?

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久は出水洸汰に迫る危機に間に合った。

 だが、マスキュラーは強かった。

 いや、強すぎた。

 右手を犠牲にワン・フォー・オールフルパワーで殴ったにもかかわらず、マスキュラーに大きなダメージを与えることはできなかった。

 それだけじゃない、今までの戦闘ではマスキュラーは一切本気を出していなかったのだ。

 ただの、遊び感覚で殺そうとしてきたのだ。

 それでも、緑谷出久は諦めなかった。

 出水洸太を助ける為に、逃がすためにマスキュラーの攻撃を全力で迎え撃った。

 緑谷出久の腕が、体が、脳が危険信号を出し続ける。

 意識が飛んでしまいそうな痛み。

 激しい力のぶつかり合い。

 ただ、緑谷出久は後ろの少年を逃がすために、命を懸けようとしたのだ。

 だが、そんな時、緑谷出久は確かに聞いた。

 “あの少年”の声を。

 

「スマン、遅くなった。よくやったな、緑谷。後は俺に任せろ」

 

《Ready Go! スパークリングフィニッシュ!! イェーイ!!》

 

 緑谷出久の隣を赤と青の人影が通り過ぎた。

 そして、その人影はマスキュラーを蹴り飛ばした。

 それは、希望であった。

 

 

 

 

 

 

 危ねえ・・・・・・。

 もう少し遅かったらガチでヤバかった。

 

「なんだ・・・ガキ。俺の攻撃を相殺するなんてよぉ」

 

 マスキュラーはそう言いながらムクリと起き上がる。

 俺は何も答えずマスキュラーに殴りかかる。

 マスキュラーも殴ってきたが、それを避け、義眼の方をぶん殴る。

 だけど・・・・・・、

 

「弱ェ!!」

 

「グアッ!」

 

 マスキュラーの攻撃をモロに喰らってしまった。

 ダメージによって変身が解除され、地面を転がる。

 

「痛ってぇ・・・・・・」

 

 想像以上に攻撃力があった。

 まさか一撃で変身解除されるとは思わなかった。

 

「弱ェ! 弱ェぞ、ガキ! その程度で何をしようってんだ、あ゙ぁ!!」

 

「確かに、お前は強い。だから、お前を倒すには、これしかないようだな」

 

 俺はハザードトリガーを取り出す。

 

「オイオイ! ガキィ! 知ってるぞ、ソレ! 使うと強くなる代わりに暴走するんだったよなぁ! まあ、それでも俺の方が強いけどな!!」

 

 やっぱり、敵連合(ヴィランれんごう)はこれについて話していたか。

 まあ、いいか。

 

《マックスハザードオン!》

 

 俺はベルトにハザードトリガーを差し込む。

 後ろでは、両腕がバッキバキに折れた緑谷が心配そうに見ている。

 

「大丈夫だ、緑谷。これは暴走するトリガーじゃない。希望の(トリガー)だ」

 

 俺はそう言って黒く長いボトル、“フルフルラビットタンクボトル”を取り出す。

 振ると、こんな状況なのになんか気が抜けるような音が鳴る。

 そして、上のキャップを回し、成分を選択する。

 

《ラビット!》

 

 選択してすぐ、ボトルを折り、ベルトに差し込む。

 

《ラビット&ラビット! ビルドアップ! ドンテンカン! ドンテンカン! ドンテンカン!》

 

 やっぱり待機音がうるさくなる。

 俺はそう思いながらレバーを回し、ハザードライドビルダーを展開する。

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Are you ready?》

 

「変身」

 

《オーバーフロー!》

 

 俺がベルトからの問いかけに答えると同時に、ハザードライドビルダーにプレスされる。

 その姿はハザードフォームそのままだ。

 

「なんだ! こけおどしかよ、オイ!!」

 

 そう言うマスキュラーを後ろから攻撃する赤い物体。

 

「何だァ!!」

 

 俺の前に着地するラビットラビットアーマー。

 それが、分裂し、浮遊する。

 俺は飛び上がり、分裂したラビットアーマーを装着する。

 

《紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベーイ! ハエーイ!》

 

 そんな音声と共にアーマーの装着を終え、俺は『仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム』への変身を完了させる。

 そして、それと同時にフルボトルバスターを取り出す。

 

《フルボトルバスター》

 

 モードをブレードにし、構え、宣言する。

 

「さあ、実験を始めようか。俺とお前、どっちが勝つかの・・・・・・」

 

 




 賢王雄は数日前に拾ったボトルの事をすっかり忘れ、いつも通り自由気ままに生活していた。
 拾ったボトルはテキトーな所にほっぽり出したせいでどこにあるかすら分からない状態であった。
 物の山に埋まっていたボトル、コブラエボルボトルの口が自然に動く。

「どういう事なんだ。これは」

 そう、確かに言葉を発した。
 コブラエボルボトルに宿っている意思、その人物の名は“エボルト”。
 数々の星を破壊し、吸収してきた地球外生命体だ。
 そんなエボルトが何をしているのか、それは本人にも分からないのだ。
 桐生戦兎に、人間に敗れたところまでの記憶はあるのだが、その先、どうなったかがない。
 気が付いたらボトルになっていてよく分からないヤツに拾われ、放置されているのだ。
 それでも、エボルトは悪だくみを止めない。
 いつか、ここから出て前みたいに完全体になる事を計画する・・・・・・。


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27話 『敵連合(ヴィランれんごう)襲撃② 鋼鉄』

ちょっと短めです。


 攻撃が来る。

 フルボトルバスターを使って受け流しつつカウンターを入れる。

 マスキュラーは俺の動きについて来ようとしているが、そんな動きじゃ遅い。

 俺の動きがどんどん俊敏になって行っているのではない。

 マスキュラーの動きがどんどん鈍足になって行っているのだ。

 攻撃をブチ当てればブチ当てるほど、マスキュラーは消耗していく。

 確かにコイツは、個性:『筋肉増強』によって、筋肉の壁を、筋肉の盾を持っているが、そんなのこのフォームには関係ない。

 “ラビットラビットフォーム”及び“タンクタンクフォーム”共通の機能。

 攻撃を装甲内の特定部位に集中させる機能が働いているのだ。

 どれだけ筋肉を増やし防ごうと、その程度だったら簡単に貫ける。

 マスキュラーはこの機能を知るはずもない。

 そのため、俺の攻撃がヒットするたびに顔を歪ませる。

 それでも攻撃してくるあたり、ある意味で尊敬できるよ。

 無論、悪い意味で。

 どれだけこの攻防を繰り返しただろうか。

 マスキュラーの動きに目に見えて隙が出来てきた。

 俺は、フルボトルバスターにフルボトルを装填する。

 

《ロケット! ジェット! タンク! ガトリング! アルティメットマッチでーす》

 

 ロケットにジェットの加速力を点け、戦車の主砲からガトリングのように打ち出す。

 この凶悪な組み合わせを耐えられるかな・・・・・・。

 俺はフルボトルバスターの銃口をマスキュラーに向け、トリガーを引く。

 

《アルティメットマッチブレイク!!》

 

 銃口から勢いよく発射される強大なエネルギー弾。

 あまりの威力に転びそうになったのは秘密だ。

 エネルギー弾が消え、それをモロに喰らったマスキュラーは倒れ、ピクリとも動かなかった。

 ふう~。

 思ったよりも強かった。

 振り向くと、緑谷は未だにつっ立っていた。

 

「オイ、逃げなかったのか? かなり時間経っちまっただろ?」

 

「ううん。ま、まだ2~3分ぐらいしか経ってないよ・・・・・・」

 

 マジか。

 体感的に長時間の激戦だったんだけどな・・・・・・。

 

「まあ、とりあえず洸太くんを安全な場所まで連れて行こう。ほら、乗りな」

 

 俺はそう言って身を屈め、洸太くんが背中に乗りやすいようにする。

 洸太くんは少し躊躇ったが、素直に乗ってくれた。

 そして、俺たちは『ひみつきち』から離れる。

 

 

 

 

 

 

 移動中に緑谷が色々と教えてくれた。

 けど、知ってるんだよな・・・・・・。

 まあ、知らない体で相槌を打ったけどさ。

 しばらく走ると、相澤先生と合流した。

 緑谷は洸太くんの事とかをまくしたて、行こうとしたが、そりゃ相澤先生に止められた。

 そして、マンダレイさんに“ある事”を伝えるように言われた。

 だから、俺たちはまた全力で走る。

 到着した時は、丁度、スピナーがマンダレイさんに襲い掛かっている場面だった。

 緑谷がキックでスピナーの武器を破壊し、俺はスピナーの顔面に一発パンチをプレゼントする。

 先ほどみたいに地面を派手に転がるスピナー。

 パンチ力39.9t(初期値)を舐めるなよ。

 緑谷はマンダレイさんに言う。

 

「マンダレイ! 洸太くん! 無事です!」

 

 そう言って着地の事を考えていない緑谷。

 俺は慌ててキャッチし、その先の伝言を伝える。

 

「相澤先生から伝言! テレパスで皆に伝えてくれ!! A組B組総員―――プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する、と!!」

 

 俺たちがそれを伝えると、マンダレイさんは、

 

「伝言ありがとう! でも、すぐに戻りな! その怪我は尋常じゃない!!」

 

 と、緑谷を心配してくれた。

 だが、止まる訳にはいかない。

 戻るわけにはいかない。

 

「いやっ・・・すいません! まだ! もう一つ・・・伝えて下さい! (ヴィラン)の狙いは少なくとも一つ―――かっちゃんが狙われてる! テレパスお願いします!!」

 

 そう言って走る。

 だが、俺は緑谷とはぐれてしまった。

 ただ、これはしょうがないと思う。

 予想外だった。

 予想なんてできなかった。

 まさか、“二体目の脳無”が来ているなんて。

 

 

 

 

 

 

 ウグッ・・・・・・。

 なんだよ、この脳無・・・・・・。

 この事件に来ている脳無は腕が複数あるヤツだけのはずだろう。

 なんで・・・・・・。

 こんな個体知らないぞ・・・・・・。

 俺は脳無に殴られた腹を抑えながら状況を分析する。

 緑谷は俺が促した通り、先へ進んで行った。

 この脳無は原作でも見た事のない個体な為、個性は全て不明。

 つまり、手繰り探りで相手しないといけないという事だ。

 脳無の身長は2メートル過ぎほど、USJを襲った脳無に比べると細身、全身は赤く、三つの目が特徴的だ。

 ・・・・・・・・・ん? 三つの目?

 なんか嫌な予感がするぞ・・・・・・。

 俺がそんなことを思っていると、脳無が手を広げ、額にかざした。

 ちょっとまて! そのポーズどこかで見たことあるぞ!!

 俺が警戒すると同時に脳無がボソリと呟いた。

 

「太陽・・・拳・・・・・・」

 

 瞬間、脳部が激しい輝きを発した。

 とっさに目を瞑っておいて良かった。

 モロに見てたら普通に目がつぶれてたと思う。

 まあ、これで分かった。

 この脳無は元転生者だったモノだ。

 オール・フォー・ワンは転生者でも脳無を作り出していたのか・・・・・・。

 となるとマズイな。

 コイツの個性は予想外なモノの可能性すらある。

 さて・・・・・・どうなることやら・・・・・・。

 俺が距離を取ろうとすると、脳無が指をさしてきた。

 ・・・・・・滅茶苦茶嫌な予感がするぞ、オラァ。

 

「どどん・・・・・・波」

 

 うおう!

 あっぶねえ。

 何だコイツの個性。

 鶴仙流の技ばかり使いやがって。

 亀仙流の技は使えないのかよ、オイ。

 俺が心の中でそんな悪態をついていると、脳無が滅茶苦茶見覚えのあるポーズをする。

 

「か・・・め・・・」

 

 オーマイガー。

 フラグだったか・・・・・・。

 

「は・・・め・・・・・・」

 

 ギュイイイイイイイイっと脳無の手に青いエネルギーの玉ができ始める。

 マズイ。

 俺はそう判断し、フルボトルバスターにボトルを装填する。

 

《ドラゴン! ライオン! ハリネズミ! フェニックス! アルティメットマッチでーす》

 

 俺が脳無に銃口を向けると同時に脳無が攻撃を放った。

 それに迎え撃つようにトリガー―を引く。

 

「波ぁぁぁあああああああ!!」

 

《アルティメットマッチブレイク!!》

 

 二つのエネルギーがぶつかり合う。

 行けると思った、だが、さすがにそこまで甘い相手ではなかった。

 俺の攻撃が押し切られ、俺の体を脳無の放った『かめはめ波』がブチ飛ばす。

 何とか強制変身解除はしなかったが、体中が痛い。

 それでも、戦わないといけないんだ。

 俺はベルトのフルフルラビットタンクボトルを抜き、振る。

 そして、上のキャップを回し、成分を選択する。

 

《タンク!》

 

 選択してすぐ、ボトルを折り、ベルトに差し込む。

 

《タンク&タンク! ビルドアップ! ドンテンカン! ドンテンカン! ドンテンカン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《オーバーフロー!》

 

 そんな音声と共に、小型の戦車が現れ、脳無に砲弾を撃ちまくる。

 そして、小型の戦車は飛び上がり、浮遊する。

 俺も同じように飛び上がり、タンクアーマーを装着する。

 

《鋼鉄のブルーウォーリア! タンクタンク! ヤベーイ! ツエーイ!》

 

 そんな音声と共にアーマーの装着を終え、俺は『仮面ライダービルド タンクタンクフォーム』への変身を完了させる。

 そして、再度、フルボトルバスターを取り出す

 それと同時に殴りかかってくる脳無。

 俺はフルボトルバスター(ブレード)でその攻撃を弾き、大きな隙が出来た腹を斬り裂く。

 深くえぐるように斬れた。

 だが、その傷はズブズブと回復しだした。

 コイツも再生系の個性持ちかよ!

 どんだけだ!!

 何で脳無との戦闘三回で三体とも再生系の個性を持ってるんだよ。

 嫌がらせか何かなのか・・・・・・。

 だが、再生が遅い事に気が付いた。

 つまり、これは『超再生』じゃない可能性が出てきた。

 再生速度が追い付かないほどの一撃を与えれば倒せるかもしれない。

 俺はフルフルラビットタンクボトルをフルボトルバスターに装填する。

 

《フルフルマッチでーす》

 

 フルボトルバスターの銃口にタンクボトルのエネルギーが収束する。

 そして、トリガーを引く。

 

《フルフルマッチブレイク!!》

 

 発射されたエネルギー弾はとてつもない威力で脳無の胴体を貫いて行った。

 そして、倒れ、ピクリとも動かなくなる脳無。

 倒した。・・・・・・ってか殺した。

 俺は一応の為に脳無のむき出しになっている脳みそを潰してから先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 俺が駆け付けた時はとてつもなくピンチだった。

 黒霧が現れて爆豪を連れ去ろうとしている所だった。

 俺は全力で跳び、黒霧のワープゲート内へと飛び込んだ。

 そこで、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 事件が起きてから、一切動じることなく目を閉じていた白神神姫・・・・・・いや、神鬼はソッと目を開けて言う。

 

「まったく。あのご主人様(マスター)には愛想が付きそうだ。こんな無茶をするなんて・・・・・・。死なれたら困るってのに」

 

 その言葉を聞いた切島鋭児郎が神鬼に近付く。

 あまりに接近されたため、冷静沈着な神鬼も軽く引いた。

 

「何かわかるのか・・・・・・」

 

ご主人様(マスター)・・・・・・龍兎と爆豪勝己が(ヴィラン)に連れ去られました。・・・・・・正確に言えば連れ去られそうになった爆豪勝己を助けようとして龍兎が巻き込まれました」

 

 神鬼の言葉にその場にいた全員が絶句した。

 機鰐龍兎も爆豪勝己もクラス屈指の実力者なのだ。

 それが連れ去られたと聞いて言葉を失わない人間はいないだろう。

 プロヒーローであるブラドキングですらそうなのだ。

 冷たい空気が張り詰める中、神鬼だけが平然としていた。

 

 

 

 

 

 

 完全敗北。

 その言葉がピタリと当てはまっただろう。

 ブラドキングが通報していたため、(ヴィラン)が去った15分後には救急や消防が到着した。

 生徒44名の内、(ヴィラン)のガスによって意識不明の重体15名。

 重・軽症者11名

 無傷だったのは16名。

 そして、行方不明者2名

 プロヒーロー6名のうち1名が頭を強く打たれ重体。

 1名が大量の血痕を残し、行方不明。

 一方、(ヴィラン)側は3名が現行犯逮捕。

 1名(脳無)の死体が発見された。

 この結果は緑谷出久たちの重しとして圧し掛かった。

 だが、それだけじゃない。

 駆けつけたクラスメイトの機鰐龍兎が、ワープゲートに飛び込んで行った時に、右足だけがワープゲート内に入らなかったのだ。

 結果は言わずもがな。

 ブチンッという音と共に、緑谷出久たちの目の前に千切れた友人の足が落ちた。

 それはドクドクと血を流し、ただ、地を転がっていた・・・・・・。

 




次回、過去編スタート。


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過去 編
28話 『ハザードレベル2.9』


オリジナルストーリー。


 この世界に転生してから10回目の夏を迎えた。

 小学校は楽しいし、一ヶ月の夏休みをどう過ごそうかと考えている所だ。

 まあ、クラスメイトと海に行くのもいいし、ゲーセン行くのもいいし、オンライン対戦で遊ぶのもいいし・・・・・・・・・。

 ・・・・・・そういえば緑谷出久が14歳ぐらいの時にオールマイトと出会って真実を知らされるんだよな。

 つまり、オール・フォー・ワン一時撃破は大体今から1年ほど前か。

 調べたけど結局そんな情報は出てこなかったしなぁ。

 まあ、それは追々考えていきますか。

 今日は神姫とショッピングに行く約束がある。

 なんでも、新しい水着を買いたいから付いて来て欲しい、とのことだ。

 一人でも行けるだろうに。

 何で俺も一緒に行かないといけないんだ?

 母さんもおばさんも「行ってきなさい。お金は好きなだけ渡すから」って言ってたけど、なんだろう、あの目は。

 なんか巣立っていく小鳥を見る親鳥の目だったような・・・・・・。

 変な目的でもあるのか?

 ・・・・・・・・・多分だが、あるはずないか。

 俺はそう思いながら母さんの言葉に甘えてむしり取った5万円を手にショッピングモールへと向かった。

 時計を見ると、AM9:30だった。

 

 

 

 

 

 

 ショッピングモールについてすぐ、神姫と合流し、テキトーな店に入って水着を見る。

 といっても俺はもう持っているので、神姫が新しいのを買うかどうかを見るというモノで、はっきり言うと暇。

 

「ねえねえ、龍兎。これどうかな? 似合うと思う?」

 

「ん? 良いんじゃね? 白色の水着とお前の銀髪がベストマッチな気がするぞ」

 

 ちなみに、何となく言っている。

 水着とか以前にそもそもファッションには興味がない。

 どんな服を着ようが良いんじゃない? と言うのが正直な感想だ。

 それでも、俺の言葉に神姫は笑顔になって色々な水着を見て回っている。

 俺も一応新しい水着を買っておこうかと思って、男物の水着に手を伸ばすと、別の手と当たってしまった。

 ラブコメで書店だったら、イケメンと美少女の手が当たってそこから恋愛に発展するパターンだと思うが、生憎ここは書店じゃないし、俺が手を伸ばしたのは男物の水着にだ。

 つまり、手が当たってしまった人は男なため、恋愛に発展することは確実に無い。

 俺は一応、隣にいる人に謝っておく。

 

「あ、ごめんなさい」

 

 そう言いながら隣に視線をやると、そこにいたのは長い髪をした少女だった。

 は? まさかのラブコメスタートか?

 そんなバカげたことが頭に浮かんだ。

 だが、そんな考えは一瞬にして消え去る。

 

「いや~、俺こそごめんな。気付かなくって」

 

 どうやら、性別は男だったようだ。

 子供って、髪長い子は男子でも意外と女の子に間違われたりするんだよな。

 う~ん。

 見た感じ、同い年か一歳二歳年上だろうか。

 背中の真ん中までありそうな青い髪に金色の目、身長は俺より数センチ上ぐらい。

 女子と言われたら疑う事はまずしないほど可愛い。

 俺がそんなことを考えていると、

 

「この柄が好きなんですか?」

 

 と聞かれた。

 

「いや、特にそういうわけでは無くて。何かいいな~って思ったから・・・・・・」

 

「ああ、俺もなんだよ。気が合うね」

 

 俺と少年は数秒間見つめ合った後、ガッシリと握手をして友情を確かめ合った。

 コイツとは気が合いそうだ。

 

「俺は機鰐龍兎っていうんだ。好きなように呼んでくれ」

 

「俺は魔物悟。まあ、あだ名でリムルと呼ばれてるから。そう呼んでもらえると嬉しい」

 

 俺は悟・・・・・・いや、リムルとどの水着が良いのかを話し合う。

 男の心を引くと言えば迷彩柄!!

 夏を楽しむならアロハ柄!!

 遊び心でオールマイトがプリントされたヤツ!!

 様々な話をしていると後頭部に凄い勢いで堅いものがゴツンと当たった。

 びっくりして振り向くと、恨めしそうな表情の神姫がこちらを睨んできていた。

 

「ん? お連れさん?」

 

「龍兎・・・私との出かけ先でなに他の女子とイチャイチャしてるの?」

 

「いや・・・・・・誤解だ!」

 

「何が誤解なのかな? 言い分によっては“天罰”・・・・・・だよ♪」

 

 ガチギレしていらっしゃる。

 “天罰”はコイツ必殺技の一つで、簡単に言えば雷を相手の脳天に叩き落す凶悪技だ。

 俺じゃ無かったら普通に死ねる威力を持つ。

 死なないにしても痛いのは嫌なので、しっかりと言い訳・・・・・・いや、状況説明をする。

 

「コイツは悟っていう名前で、男だよ。ちょっと気が合ったから話してただけだ」

 

 俺がそう言うと、リムルは、

 

「彼女さん? ごめんね、せっかくのデートだったのに」

 

 と言った。

 リムルの言葉を聞いて神姫は顔を真っ赤にした。

 

「か、かかか、彼女とかじゃないよ!! 友達、そう、友達だから!!」

 

 首をぶんぶんと振りながらリムルの言葉を否定する神姫。

 あんな反応、漫画とか以外で初めて見たよ。

 

「っと、俺はそろそろ行くよ。またどこかで会おうね~」

 

 リムルはそう言って去って行った。

 神姫の怒りは収まったらしく、いつも通りの表情になっている。

 この後、俺も神姫も水着を買って店を出た。

 俺の買った水着は迷彩柄のサーフパンツに白い水着パーカー。

 神姫は白いワンピースみたいな水着だった。

 

 

 

 

 

 

 俺は店を出た後、神姫にどこに行くか聞いた所、どうやら、このショッピングモールには室内温水プールもあるらしい。

 知らなかった。

 プールにはいくけど、市民プールにしか行かなかったからな。

 こっち方が近いし、温水って事は冬にも来れるだろうし。

 特訓にはよさそうだな。

 そんなこと思いながら、神姫に連れられてプールに向かう。

 何円ぐらいかと思って見てみると、日曜日に限り小学生以下は無料なのだという。

 ・・・・・・・・・つまり、タダ!

 こりゃ儲けた。

 そんな事を思いながら俺たちは中に入る。

 男女で別れ、更衣室に入る。

 更衣室で先ほど買ったばかりの水着に着替える。

 俺は更衣室を出ようと扉を開けると、大男がいてぶつかってしまった。

 

「あっ、ごめんなさい・・・・・・」

 

 一応、誤ってはおく。

 男は面倒くさそうな顔になった後、

 

「どけ。邪魔だ、ガキ」

 

 そう言って更衣室に入って行った。

 感じの悪い奴だな。

 そう思いながらも、関わるのが面倒くさかったのでさっさとその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 準備運動を終わらせ、俺たちはとりあえずどこで泳ごうかと案内板を見る。

 このプールは、いくつものレジャープールがあり、一旦、流れるプールに行くことにした。

 レンタル浮き輪を使ってぷかぷかと流れに身を任せてゆったりする。

 平和っていいもんだな。

 まあ、後五年ぐらいすれば激闘の時代になるんだけどさ。

 どうしよう。

 今の内に大ケガしているオール・フォー・ワンを叩き潰しておくのもありかもな。

 もしくは死柄木と黒霧を暗殺・・・・・・。

 いや、止めておこう。

 さすがに物語への影響が出すぎる。

 そんなことを思いながらグダ~っとしていると、神姫が、

 

「ねえねえ、ウォータースライダーに行こうよ」

 

 と言ってきた。

 ゆらゆらと流れている内にウォータースライダーの近くまで来ていたらしい。

 

「行ってみるか」

 

 俺がそう答えると、神姫は笑顔を浮かべ、流れるプールから出る。

 トテトテと歩いて行く神姫。

 俺もその後に続く。

 階段を上がっていくと下の方からカツンカツンと上ってくる足音が聞こえてきた。

 やっぱりウォータースライダーは人気なのかな?

 っとそんなことを考えている内に上まで着いた。

 

「浮き輪あっても大丈夫ですか?」

 

 と上にいた監視員の方に聞いた所、大丈夫であるという。

 それじゃあ滑ろう、と列に並んだ、後ろから監視員の短い悲鳴が聞こえた。

 振り返った時には遅かったと言えるだろう。

 さっき、更衣室の前で会った大男。

 どうやら、(ヴィラン)だったようだ。

 大男の腕が振るわれ、俺の体が殴り飛ばされる。

 大人だった監視員の人は、落下防止の柵にぶつかるだけで終わっているが、子供の俺はそうはいかない。

 俺の体を襲う浮遊感。

 ここが何メートルの高さがあるかは分からないが、これは普通にマズイ。

 そう、俺の体は策を飛び越え、空中にある。

 重力に任せて落下する俺。

 あ・・・・・・これはガチ目にヤバイ。

 俺の体は無抵抗のまま地面に激突した。

 強い衝撃と共に体を走る鋭く激しい痛み。

 だが、死んではいない。

 まだ、動けるし、何とかなる。

 そう思ったが、右足が動かない。

 何だろうと思ってみると、骨が折れ、皮膚を突き破って飛び出していた。

 大丈夫。

 これぐらいなら大丈夫。

 俺の脚が銀色のメダルに変わり、ジャラジャラジャラという音と共に元の足に戻った。

 かすり傷一つない綺麗な足に。

 それに続くように俺の全身がメダルになり、傷一つない体に戻る。

 グリードの体、便利すぎる。

 怪我をしてもすぐに戻ってくれる。

 まあ、体がジャラジャラとメダルになる感覚はあまり好きには慣れないけど。

 俺はムクリと立ち上がり、上を見上げる。

 そして、一気に上までテレポートする。

 

「なんだぁ! ガキィ!!」

 

 俺を殴った(ヴィラン)は女性の監視員の首を持って下へ落そうとしていたのだ。

 だから、俺は(ヴィラン)を蹴り、女性を助ける。

 うぇ。重い。

 やっぱり鍛えとかないといけないな。

 俺はそう思いながら女性監視員を下ろし、ドラゴンフルボトルを取り出し、数回振ってからキャップを正面に合わし、握る。

 俺のハザードレベルは、ここ10年の特訓により、何と驚愕の2.9。

 そう、あと少しで変身できるようになる。

 俺が腰を落とし、身構えると同時に、(ヴィラン)が殴りかかってきた。

 大振りのパンチ。

 小柄な俺からしたらそんなの当たる訳がない。

 身を屈めその攻撃を避け、(ヴィラン)の腹を殴る。

 

「グウッ・・・・・・!」

 

「ガキだからって、舐めてんじゃねえぞ!!」

 

 俺は再度、拳を叩き込む。

 だが、(ヴィラン)は殴るのではなく、体で押しつぶすかのように体当たりしてきた。

 俺の体がどれだけ小さくても、これだけ接近していて、こんなデカい体で体当たりされたら避けられるハズがない。

 俺は落下防止柵と(ヴィラン)にサンドされる。

 メキメキメキッと体が悲鳴を上げる。

 それと同時に体をデジタル化させて脱出する。

 (ヴィラン)は俺がいなくなったことに驚き、辺りをキョロキョロと見渡す。

 それは、かなり隙だらけだった。

 俺は(ヴィラン)の背後に現れ、首後ろを蹴り飛ばす。

 (ヴィラン)はバランスを崩した。

 だが、腕を俺の方に回し、俺の体を鷲掴みにし、そのまま床に叩きつける。

 衝撃により、肺から酸素がすべて出て行ってしまうような感覚が俺の体を襲う。

 あまりの痛みにより悶絶してしまったが、(ヴィラン)からしたらそんな事関係ない。

 倒れ伏す俺の体を何度も踏みつける。

 次の瞬間、(ヴィラン)が大きく吹き飛ばされる。

 攻撃のあった方を見ると、神姫がいた。

 いや、一緒に上ったんだからいない方がおかしいんだけどさ。

 バランスを崩し、落下防止柵を越え、落下していく(ヴィラン)

 

「龍兎! 大丈夫!?」

 

「なんとか・・・・・・」

 

 俺がそう答えて立ち上がると同時に、大きな揺れが俺たちを襲った。

 

「神姫! 此処に居る人たちを逃がせ!!」

 

「っ! 分かった!」

 

 神姫は小さな竜巻を発生させ、気を失っている者、ケガをして動けない者を下へと降ろす。

 竜巻に乗って、負傷者がその場から離れるとほぼ同時にウォータースライダーの待機所(正式な名前があるのかは知らん)がメキメキバキバキと音を立てて崩れていく。

 再度、俺を襲う浮遊感。

 下にはさっき転落したあの(ヴィラン)

 壊すなよ。

 修理費用にどれだけ掛かると思っているんだ。

 俺は瓦礫を足場にして跳び、バランスを取って着地する。

 着地してすぐに、重要な事を見落としていたことに気付いた。

 

 人質を取っていた。

 

 クッソ。

 俺は心の中でそう悪態をつく。

 だが、周りを見ると、プロヒーローが駆け付けて来ていた。

 これなら人質も助かると思った。

 でも、その考えは甘かった。

 現れる複数の影。

 それに一蹴されるプロヒーロー。

 何が起きたか分からなかった。

 現れた者たちは人質を取っている(ヴィラン)に近付いていく。

 

「オイオイ、人質を取るなんて。『超パワー』が聞いてあきれるぜ」

 

「うるせえ。『衝撃反転』で自分を守る事しかできないヤツが文句を言うな」

 

「まあまあ、喧嘩は良くないよ」

 

「「黙れ! 『空気を押し出す』事しかできないヘボ野郎!!」」

 

 人質を取っているヤツと合わせて三人。

 今の会話でどんな個性なのかは把握できたが、俺はどうしようもない。

 

「ああ、そうだ。そこにいるガキに気を付けろ。多分、個性婚で生まれた複合系個性だから。再生、超パワー、転移。俺が分かった限りでもこの三つだ」

 

「うお! 何だその生まれながらにしての勝ち組は・・・・・・」

 

 違うんだよな~。

 さっきまで使ってた力って、個性の応用に近いからな。

 

「オイ、ヒーロー気取りのガキ。コイツの首をへし折られたくなければ大人しく人質になりな」

 

 大男の(ヴィラン)はそう言って少女の首を締め出した。

 そこに、タイミング悪く戻ってきた神姫。

 あのまま逃げてくれよ・・・・・・。

 

「おっ! ちょうどいい。その白髪のガキも人質にしちまおう」

 

 白髪、と言われ目に見えて怒りを露わにする神姫。

 ・・・・・・人質がいるこの状況では(ヴィラン)を刺激する可能性のある行動は控えた方が良い。

 俺はそう判断し、小さい声で、

 

「神姫、一旦要求を呑んで様子を見よう」

 

 と言うと、神姫は静かに頷いてくれた。

 こうして、転生してから10回目の夏、俺は初めて(ヴィラン)と出会い、初めて人質となった。

 




説明

『機鰐 龍兎』
身長:145cm
体重:35kg

10歳。
この時から転生チートにより調子に乗っており、よくケンカをして相手を泣かせることが多かった。
一応、転生前の年齢と合わしたら、約28歳であるから、二十歳過ぎた大の大人が小学生を泣かしているのと何ら変わりはないと言えるだろう。
こんなヤツでも、元は高校生であり、小学校の授業は退屈だという。


『白神 神姫』
身長:129cm
体重:【教えない☆】

9歳。
機鰐龍兎の方が誕生日が早いため、同学年であるが、この年齢。
この頃から人としての楽しみを満喫している。
なお、個性の燃費は高校生の白神神姫以上に悪い。


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29話 『ハザードレベル3.0』

ここまで書いているのに、未だに出ていない主役ライダー。

仮面ライダークウガ
仮面ライダーアギト
仮面ライダーファイズ
仮面ライダー響鬼
仮面ライダー電王
仮面ライダーダブル
仮面ライダーウィザード
仮面ライダードライブ
仮面ライダーゴースト
仮面ライダージオウ

次は誰を出そう・・・・・・。
ジオウはいつかは決まっているから・・・・・・。



 ったく。

 人質はもっと丁重に扱えよ。

 首をいつでも折れるような持ち方って、成長途中の子供の体には負担だぞ。

 あ゙ぁ~。

 揺れる揺れる。

 さっきからプロヒーローが何人か来ているが、人質がいるせいで手出しができない。

 一応、一般人の避難誘導は完了して、ショッピングモール内は、ヒーローと(ヴィラン)と人質の俺たちだけなんだけどさ。

 もうさ、何でも良いから早よしてくれないかな。

 俺はとりあえず無駄な抵抗とばかりに(ヴィラン)をポコポコと殴っているが、

 

「ハハハ。子供は元気で良いねぇ」

 

 でスルーされた。

 ウゼェ。

 何、子どもの元気さを見守る大人みたいなこと言っているんだ。

 お前は(ヴィラン)だろうが。

 心の中でそんな悪態をつきながら無駄な抵抗をしておく。

 プロヒーローがどれだけ集まろうと、人質がいる為に、中々行動できない。

 結局、膠着状態が続き、夜になってしまった。

 俺と神姫と人質の少女は縛られ、(ヴィラン)が立て籠った部屋の真ん中に放置されている。

 やる事なんてなく、喉が渇いたと文句を言えば、(ヴィラン)はわざわざ警察やヒーローに要求して、水やジュースを持って来た。

 何だコノ面倒見のいい(ヴィラン)は。

 俺は逃げる隙を見るのをやめ、(ヴィラン)たちの会話に耳を澄ます。

 

「なあ、どうする? この状況」

 

「“あのお方”に俺たちの力を見せるにしても、もっと、ハデに暴れねえとなぁ」

 

「子ども三人を人質にして立てこもるのはハデにならないだろうからなぁ・・・・・・」

 

「「「ハァ~」」」

 

「・・・・・・・・・そういえば、“アイツ”はどうしたんだ?」

 

「ん? “あのお方”が“アイツ”に用があるって」

 

「“アイツ”にか? 自分にしか付与できない『超再生』で何をしたいんだろうな」

 

 (ヴィラン)たちは腕を組みながらそんな事を言い合っている。

 ・・・・・・・・・シンプルに嫌な単語があったなぁ。

 ウゲェ。

 面倒くさいことにでも巻き込まれたかな。

 俺はとりあえず、人質同士での会話をすることにした。

 

「ヒーロー助けに来るかな・・・・・・」

 

「来るわけねェじゃン。自分の事しか考えてねェヘタレが人質がいるのに来るとでも思ってンのかァ? だとしたらそンな甘い考えは止めときな」

 

 最初に人質にされてた少女が面倒くさそうにそんなことを言った。

 口調悪いし

 短く整えられた白い髪に白い肌、血のように紅い瞳が特徴的だった。

 

「・・・・・・・・・その見た目、アルビノってやつ?」

 

「まァ、そンなところだ」

 

 子供のクセして大人びたヤツだな・・・・・・。

 なんか特徴的な口調だし。

 そう思いながら神姫の方をチラリと見ると、グーグーと眠っていた。

 神経が図太いのか単なる馬鹿なのか・・・・・・。

 

「お前、個性は?」

 

「説明が難しい個性だからよォ、単純に言うとあの(ヴィラン)の一人の個性に近い。衝撃反転、そう思ってくれればいい。・・・・・・そう言うお前はどンな個性だ」

 

「肉体変化。バケモノに変身できる」

 

「バケモノ・・・・・・か」

 

 白い少女はそう言って目を細める。

 そこで、俺たちの会話は途切れてしまった。

 いや、俺たちだけじゃない。

 (ヴィラン)の会話も途切れた。

 

 大きい音と共に窓を突き破ってヒーローが突入してきたのだ。

 

 人質と(ヴィラン)との距離があいており、尚且つ、(ヴィラン)が外の状況を確認するために窓際に近付いていたのもあり、突入するのは今しかないと考えたのだろう。

 でも、(ヴィラン)の個性が分からない状況で、その行動は悪手だ。

 突入してきたヒーローを『超パワー(ヴィラン)』が殴り、それより一瞬早く『衝撃反転(ヴィラン)』が突入した時に生じた衝撃を反転させ、ヒーローを吹き飛ばした。

 さらに、吹き飛んだヒーローを『空気を押し出す(ヴィラン)』がより吹き飛ばした。

 あーあ。

 もう少し考えてやればいいものを。

 (ヴィラン)は慌てて俺たちを抱え、場所を移動する。

 うぇえ。

 この揺れ方には慣れそうにないな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 ホントさあ。

 何で学んでくれないかな。

 俺は三度目の運ばれに慣れてしまった。

 何度突撃して何度吹き飛ばされれば学ぶんだ。

 (ヴィラン)も呆れてるし。

 

「ねえねえ、(ヴィラン)さん。さすがにここに来ているヒーロー無能過ぎじゃないかな」

 

「多分、俺たちが(ヴィラン)ネームを持っていないから軽く見られてるんだろうな」

 

『衝撃反転(ヴィラン)』は俺の言葉にそんなことをぼやいた。

 ・・・・・・しっかり働けよヒーロー。

 俺はユラユラと揺られながらそんな事を思った。

 まあ、(ヴィラン)の言い分には確かに納得できるものがあった。

 最近の超人社会はヒーロー飽和社会でもある。

 有名なヒーローからマイナーヒーロー、はたまた『ヴィジランテ』みたいな非公認ヒーローまで、本当にたくさんのヒーローがいる。

 その中にはやはり有名になろうとする者や、(ヴィラン)を軽視して行動する者も少数ながら存在する。

 そして、そう言ったヒーローはノーネーム(ヴィラン)を軽く見て、ネームド(ヴィラン)ばかりを優先する傾向がある。

敵連合(ヴィランれんごう)』に所属している(ヴィラン)を例に挙げるとしたら、

 

 死柄木弔

 黒霧

 マスキュラー

 荼毘

 トガヒミコ

 Mr.コンプレス

 トゥワイス

 マグネ

 ムーンフィッシュ

 

 ・・・・・・・・・多いからここまでにしておこう。

 まあ、こういったネームド(ヴィラン)はその危険度が世に大きく認知されているため、そっちを優先させた方が、捉えるor撃破することによって有名になりやすいのだ。

 そのため、コイツらのようなノーネーム(ヴィラン)は軽視され、ヒーローがあまり駆けつけないパターンが多い。

 そもそも、それが初犯の(ヴィラン)だったらネームドのはずないし、個性がどんなのか判明していない分、より警戒をしないといけないって事を忘れているヒーローは免許を剥奪されろ、とすら思う。

 そうこうしている内に、(ヴィラン)は四度目の立て籠りに入る。

 立て籠る→ヒーローが突撃してくる→ヒーローが吹き飛ばされる→逃げる→立て籠もるendless

 このサイクルを繰り返し、さすがの(ヴィラン)にも疲れの色が見えてきている。

 俺は白い少女に目配せをし、それを合図に二回目の立て籠もり時に計画した作戦を決行する。

 バグスターの特性を使ってワープし、『衝撃反転(ヴィラン)』に殴りかかる。

 今までの行動から見て、コイツの衝撃反転発動条件は手のひらだと想定。

 だから、衝撃を反転されない方法。

 手に捕まれないように攻撃する、それだけだ。

 取り出したドラゴンフルボトルを数回振り、キャップを正面に合わす。

 俺は『衝撃反転(ヴィラン)』の腹を殴り、下がってきた頭に拳を叩き込む。

『超パワー(ヴィラン)』が殴りかかってきたが、それを避け、カウンターを入れる。

 そして、

 

「神姫!」

 

「わかった! 即興必殺! レインレーザー!」

 

 神姫の周りに水の玉が現れると同時に、そこから凝縮された雨が恐ろしい水圧で一直線に『空気を押し出す(ヴィラン)』を襲う。

 それと同時に白い少女が扉を破り退路を確保する。

 だが、さすがに攻撃力が低かったらしく、起き上がった(ヴィラン)に俺と神姫は取っ掴まってしまった。

 このままではまずい事は十分理解できている。

 だから、俺は白い少女に向かって言う。

 

「俺たちの事は良いからお前だけでも逃げろ!!」

 

 白い少女は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに走って行った。

 

「このガキィ!!」

 

 それを見て『超パワー(ヴィラン)』は怒り、俺を殴り飛ばしてきた。

 やはり子供の体。

 ロクな抵抗もできず、壁に激突してしまった。

 神姫は大技を出したことでエネルギー切れを起こしている。

 俺は再度、ドラゴンフルボトルを振り、ギュッと強く握って構える。

 また殴りかかってくる『超パワー(ヴィラン)』。

 大振りの攻撃を裂け、その腹にパンチを叩き込む。

 

「うぐぉお!」

 

 後方へ大きく吹き飛ぶ『超パワー(ヴィラン)』。

 先ほどまでと威力が確実に違う。

 つまり、これは・・・・・・。

 俺がそんなことを思うと同時に『空気を押し出す(ヴィラン)』が押し出した空気により吹き飛ばされ、壁に激突してしまった。

 今度のは、打ちどころが悪かったらしく、体に力が入らない。

 動けない俺を見て、(ヴィラン)は舌打ちをした後、神姫を無造作に投げてきた。

 その後、次はどこに立て籠もるかの話し合いを始めていた。

 これは・・・・・・チャンスだ。

 

「神・・・姫・・・・・・。俺の血を、飲め」

 

「わ、かった・・・・・・」

 

 神姫はそう言って俺の腕にかみつく。

 エネルギー切れのせいで皮膚を食い破るのに少し時間はかかったが、何とか血を出すことが出来た。

 神姫はそれをコクッと少しだけ飲む。

 

「・・・・・・ご主人様(マスター)との繋がりを確認しました。これより、奴隷(スレイヴ)モードに入ります」

 

 神姫はそう言うと同時にスクッと立ち上がり、(ヴィラン)たちを睨む。

 

ご主人様(マスター)からの命令を確認。ご主人様(マスター)に迫る危機を確認。これより、殲滅(アナイアレイション)モードに入ります」

 

 神姫がそう言うと同時にその姿がブレた。

 そして、『空気を押し出す(ヴィラン)』を吹き飛ばした。

 それを見て反射的に神姫に殴りかかる『超パワー(ヴィラン)』。

 だが、

 

「プラズマバリア、発動」

 

 神姫の体に『超パワー(ヴィラン)』の拳が当たると同時にバチィッと電撃が走り、『超パワー(ヴィラン)』は弾き飛ばされた。

『衝撃反転(ヴィラン)』は攻撃をされなければ何もできないためあたふたしていた。

 そして、神姫の攻撃に抵抗らしい抵抗がないまま『衝撃反転(ヴィラン)』は倒された。

 

「敵性対の沈黙を確認。奴隷(スレイヴ)モードを終了します」

 

 神姫はそう言ってバタリと倒れた。

 それから数十秒後、(ヴィラン)に吹き飛ばされていたヒーローたちが駆け付けてきたことにより事件は終息した。

 ように見えた。

 

 

 

 

 

 

 警察から色々と聞かれ、無茶をしないようにとお説教を受け、釈放された。

 母さんに怒られ、神姫もおばさんに怒られていた。

 ただ、最後に

 

「無事でよかった」

 

 と言われた時は、本当に申し訳なく思った。

 そして、警察から知らされた事実。

 どうやら、(ヴィラン)が逃げたらしい。

 なんでも、ヒーローがマスメディアに「自分が捕らえました」というアピールの為に移動牢(メイデン)に入れるのを少し止めたらしい。

 結果として、(ヴィラン)はヒーローがカメラ目線になり、大きな隙が出来たところを脱出、逃走したという。

 ・・・・・・・・・こんなんだからヒーロー殺しみたいなのが現れるんだよ。

 俺は帰宅後、

 

「疲れたから寝る」

 

 と言って自室に入った。

 母さんは、「分かったわ。お疲れ様」と優しい言葉をかけてくれた。

 さてと。

 俺はバグスターのワープを使ってショッピング付近へと飛んだ。

 そして、辺りをしらみつぶしに散策した。

 

 

 

 

 

 

「おっと、やっと見つけたよ」

 

 俺はそう言いながらベルトを取り出し、腰に装着する。

 目の前には白目むいて倒れている(ヴィラン)と黒い仮面をつけた男。

 ・・・・・・・・・まさかのオール・フォー・ワンかよ。

 

「おや、君は・・・・・・」

 

 オール・フォー・ワンが何かを言おうとした瞬間、俺は蹴りを繰り出していた。

 だが、オール・フォー・ワンは何気ない様子で俺の蹴りを弾いた。

 壁に叩きつけられる。

 今日で、何回目だろう。

 あっちこっちが痛む、きしむ、悲鳴を上げる。

 

「おっと、ごめんごめん。この男から手に入れた超パワーがどれだけ使いやすいかを見て見たくてね」

 

 何ら悪びれるような口調ではない。

 俺は激しく咳き込みながらゆっくりと立ち上がる。

 そして、

 

《ラビット タンク ベストマッチ!》

 

 レバーを回すと同時にベルトから展開されるスナップビルダー。

 

《Are you ready?》

 

 ベルトからの問いかけに俺は答える。

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 そんな音声と共に、俺の体はスナップビルダーに挟まれ、『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』への変身を完了させる。

 変身完了と同時にドリルクラッシャーを取り出し、構える。

 

「姿が変わった・・・・・・。面白い個性だねぇ。欲しくなっちゃったよ」

 

 そんなことを抜かすオール・フォー・ワン。

 俺は、左足のバネを使って跳ぶ。

 

「ぬおっ・・・・・・!」

 

 俺の早さが予想外だったらしく、オール・フォー・ワンは一瞬遅れて右手を大きく振るってきた。

 だが、遅い。

 俺はドリルクラッシャーでオール・フォー・ワンの腕を上に弾き、その腹に蹴りを叩き込む。

 

「ぐぅっ・・・・・・!」

 

 想像以上に簡単に吹っ飛ぶオール・フォー・ワン。

 あれ?

 こんなに弱かったっけ?

 神野ではおっそろしいほど暴れてくれてたような・・・・・・。

 

「ぐふっ。さすがに、術後は本調子ではないか」

 

「術後・・・・・・? っ! まさか!」

 

「君とはいつか会えそうだ。その時は・・・・・・」

 

 オール・フォー・ワンはそれだけ言って去って行った。

 追いかけたが、見失ってしまった。

 ・・・・・・俺、かなり危ない橋を渡っちまったみたいだな。

 取り逃がしちまったが、そこら辺は後々考えよう。

 今日はようやく変身できるようになった事を良しとして考えて行こう。

 

 

 

 

 

 

 不穏なオーラを放つ黒い少年と白い少女は夜の街を歩く。

 その見た目、身長から警察に声を掛けられ補導されても不思議ではなのだが、街に居る人間は誰もその二人に話しかけようとしない。

 それは、警察もプロヒーローもだ。

 

「人質、お疲れ様。・・・・・・・・・よく殺さなかったな。お前なら簡単に殺せただろ」

 

「あン? 簡単な事だろォがよ。殺して警察に目ェ点けられたら面倒くせェだろォが。(ヴィラン)予備軍に見られたらたまったもンじゃねェっての」

 

「そうか。我慢したんだな」

 

「当たり前だろォが。最初に捕まれた時点で殺そうと思えば殺せたンだぞ」

 

 そう悪態をつく白い少女を見て黒い少年はクスリと笑う。

 そして、

 

「“俺以外のライダー”を見てどう思った?」

 

「一切変身しなかったから分かンねェよ。知りたかったらテメェでやれ」

 

「口悪いなぁ。鈴科」

 

「テメェも口悪りィよ。幻夢」

 

 そんな会話をしながら二人は夜の闇に消えて行った。

 




過去編終了。
次回、オール・フォー・ワン編スタート。


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オール・フォー・ワン 編
30話 『突入』


オール・フォー・ワン編スタート。



 気が付くと、爆豪同用拘束椅子に縛られ、動けない状態になっていた。

 気絶している間、昔の夢を見たような気もしたが、多分、気のせいだろう。

 俺の拘束具は爆豪よりは軽度なもので、それは、『敵連合(ヴィランれんごう)』が爆豪を危険視しているという事もあるのかと思ったが、爆豪の拘束よりも安くちゃちい荒縄を使っている所を見る限り、単に拘束具が無いようだ。

 薄目を開け、そんなことを分析していると、ズボンの右ひざから下と靴が無くなっていた。

 そこでようやく思い出した。

 足が千切られる感覚を。

 なんだ、またグリードの力で再生したか。

 俺はそんなことを思いながらスッと目を開ける。

 

「ようやく目を覚ましたか」

 

 うわっ。

 目の前に死柄木がいた。

 周りを見渡すと・・・・・・、大集結しているじゃないですかや~だ~。

 マジでどうしよう。

 俺がそう思いながら隣見ると、爆豪はとっくに起きていたらしく、俺の方をギラリと睨んできた。

 

「やっと起きたか。変身野郎」

 

「おう。足の再生に体力をかなり持ってかれたみたいでな」

 

「どんだけ良個性なんだよ、クソが」

 

 良個性だったのを特訓して、より使いやすくしただけだよ。

 俺がそんなことを思って微笑を浮かべると、ずっと黙っていた死柄木が口を開いた。

 

「青春ごっこなら後にしてくれ。・・・・・・もう一度言おう。ヒーロー志望の爆豪勝己くん。俺の仲間にならないか?」

 

「さっきも言っただろ。寝言は寝て死ね」

 

 寝言は寝て言え、だろ。

 寝て死ぬのは普通の死亡例だ。

 

「俺はどうすればいいの?」

 

「勝手についてきただけだろう。・・・・・・・・・黙ってないと殺すぞ」

 

「殺すはこっちの台詞だよ」

 

 俺と死柄木が睨み合う。

 ・・・・・・ホント不気味な目をしてるな。

 数秒後、死柄木はスッと目を逸らし、テレビのリモコンを無造作に掴み、スイッチを押す。

 テレビに映ったのはあの謝罪会見だった。

 ああ、これだから現場を知らないマスメディアは・・・・・・。

 今度、ユウにでも頼んで抹殺しておいてもらおうかな・・・・・・。

 そこら辺は追々考えていくか。

 

「なあ、どう思う。何故奴ら(ヒーロー)が責められてる!? 奴らは少ーし対応がズレてただけだ! 守るのが仕事だから? 誰にだってミスの一つや二つある! 『お前らは完璧でいろ』って!? 現代ヒーローってのは堅っ苦しいなァ、爆豪くんよ!」

 

 あ、俺は無視なのね。

 まあ、招かれざる客だからしょうがないと言えばそうなんだけどさ。

 

「守るという行為に対価が発生した時点でヒーローはヒーローでなくなった。これがステインのご教示!!」

 

 とスピナー。

 確かにな。

 対価が発生した時点でヒーローではないという考えもあるかもしれない。

 でもな、現実問題、ボランティアでやれるほどヒーローってのは甘くないんだよ。

 

「人の命を金や自己顕示に変換する異様。それをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責めたてる国民。俺たちの戦いは『問い』。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらう! 俺たちは勝つつもりだ」

 

 負けてしまえ。

 俺は心の中でそう悪態をつく。

 無視されるのって意外とキツイんだぜ。

 そんな俺の心境は誰にも伝わる事は無く、死柄木は―――手のせいで良く見えないが―――不気味な笑みを浮かべながら言う。

 

「君も勝つのは好きだろ。・・・・・・・・・荼毘。拘束を外せ」

 

「は?」

 

 そう返す荼毘。

 そりゃそうか、多分、心境的には、「何で俺が」って感じだろうな。

 

「暴れるぞ、こいつ」

 

「いいんだよ。対等に扱わなきゃな。スカウトだもの。・・・・・・それに、この状況で暴れて勝てるかどうかわからないような男じゃないだろ? 雄英生」

 

 不気味な口調でそう言う死柄木。

 いや、暴れるぞ。

 コイツはそういうヤツだ。

 荼毘は軽くため息を吐いてから、

 

「トゥワイス。外せ」

 

 と丸投げした。

 

「はァ俺!? 嫌だし!」

 

 と文句を言いながらも素直に外し始めるトゥワイス。

 良い奴かよ。

 

「強引な手段だったのは謝るよ・・・けどな、我々は悪事と呼ばれる行為にいそしむただの暴徒じゃねえのをわかってくれ。君を攫ったのは偶々じゃねえ。ここにいる者は事情は違えど人に、ルールに、ヒーローに縛られ・・・苦しんだ。君ならそれを―――・・・・・・」

 

 Mr.コンプレスがそんな事を言っている間に爆豪の拘束が解かれた。

 爆豪にゆっくりと近づいていく死柄木。

 自身の腕の調子を確かめる爆豪。

 瞬間、爆豪は死柄木に爆破を喰らわせた。

 俺もテレポートをして死柄木の横っ腹に拳を叩き込む。

 

「や~っと、良い隙を見せてくれたぁ」

 

「黙って聞いてりゃダラッダラよォ・・・・・・! 馬鹿は要約出来ねーから話が長ぇ! 要は『嫌がらせしてえから仲間になって下さい』だろ!? 無駄だよ」

 

「そうだ、無駄さ。コイツは、」

 

「俺は、」

 

「「オールマイトが勝つ姿に憧れた」」

 

 そうだ、コイツは口が悪く根っから悪人のように見えるが、実際は違う。

 コイツは・・・・・・、

 

「誰が何言ってこようがそこァもう曲がらねえ」

 

 それと同時にテレビから校長(ネズミ)の声がする。

 

『我が校の生徒は必ず取り戻します』

 

 いいねぇ。

 格好いいじゃん、校長。

 

「ハッ、言ってくれるな雄英も先生も・・・・・・そういうこったクソカス連合! 言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ」

 

「そうだぞ。俺も戦闘許可解けてねえし。そもそも、俺は特殊な許可があるんでな」

 

《Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 爆豪と俺は同時に戦闘体勢を整え、構える。

 俺たちの行動に一瞬だが戸惑う連合員。

 

「自分の立場・・・よくわかっているわね・・・・・・! 小賢し子たち!」

 

 とマグ姉。

 

「刺しましょう!」

 

 とトガヒミコ。

 

「いや・・・馬鹿だろ」

 

 と荼毘。

 

「その気がねえなら懐柔されたフリでもしときゃいいものを・・・やっちまったな」

 

 とMr.コンプレス。

 知るかよ。

 

「したくねーモンは嘘でもしねんだよ、俺ァ。こんな辛気くせーとこ長居する気もねえ」

 

「って、ことだ。さっさと開放しやがれ」

 

 そう言って俺たちは死柄木たちを睨む。

 顔から“手”が取れ、それを見て慌てる黒霧。

 死柄木は鋭い目で俺たちをギロリと睨み、黒霧を制止する。

 

「手を出すなよ・・・・・・おまえら、こいつは・・・大切なコマだ」

 

 死柄木はそう言いながら手を顔につける。

 ・・・・・・あれ、どうやってつけているんだろう?

 不思議だなぁ。

 

「出来れば、少し耳を傾けて欲しかったな・・・。君とはわかり合えると思ってた・・・」

 

「ねぇわ」

 

「ないな」

 

「仕方がない。ヒーロー達も調査を進めていると言っていた・・・悠長に説得してられない」

 

 ・・・・・・ヤツが、動くか。

 

「先生、力を貸せ」

 

『・・・・・・・・・・・・良い、判断だよ。死柄木弔』

 

 数年前に聞いた、あの不気味な声が、テレビから聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 とある写真家が神野へと歩を進めた。

 とある不死身の青年が神野へと歩を進めた。

 とある宇宙の神が神野へと降り立った。

 赤と白の特徴的な電車から、赤い鬼が神野へと降り立った。

 とある二人組が神野に降り立った。

 各々はそれぞれとある意思を持って“そこ”へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「先生ぇ・・・? てめェがボスじゃねえのかよ・・・! 白けんな」

 

「黒霧。コンプレックス。また眠らせておけ」

 

 死柄木の命令にMr.コンプレスが答える。

 

「ここまで人の話を聞かねーとは・・・逆に感心するぜ」

 

「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」

 

「とんでもねぇ死に方だな、オイ」

 

 俺と爆豪はそう悪態をつきながらいつでも攻撃できるように腰を落とす。

 すると、俺たちの後方にある扉がノックされた。

 

「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」

 

 そんな声が聞こえてくると同時に、オールマイトが壁をブチ破って突撃してきた。

 俺は飛んできた瓦礫を破壊し、ドリルクラッシャーを取り出す。

 それと同時にシンリンカムイのウルシ鎖牢によって、連合員が捕縛された。

 

「もう逃げられんぞ、敵連合(ヴィランれんごう)・・・何故って!? 我々が来た!」

 

 そう宣言するオールマイト。

 ・・・・・・やっぱり画風が違うな。

 

「攻勢時ほど守りが疎かになるものだ・・・。ピザーラ神野店は俺たちだけじゃない」

 

 そう言いながら入ってくるエッジショット。

 

「外はあのエンデヴァーをはじめ、手練れのヒーローと警察が包囲している」

 

 突入してくる特殊部隊。

 

「怖かったろうに・・・よく耐えた! ごめんな・・・・・・。もう大丈夫だ、少年たち!」

 

「こっ・・・怖くねえよ。ヨユーだクソッ!」

 

「泣いてたくせに~」

 

「泣いてねえよ! 嘘ついてんじゃねえ、カス!」

 

 俺が爆豪をからかい、少し楽しんでいると、死柄木が憎らしそうな声で言う。

 

「せっかく色々こねくり回してたのに・・・・・・。何そっちから来てくれてんだよ、ラスボス・・・・・・。仕方がない・・・。俺たちだけじゃない・・・・・・そりゃあこっちもだ。黒霧。持ってこれるだけ持ってこい!!!」

 

 だが、何も起きない。

 フッ・・・(微笑)。

 ヒーローと警察を舐めすぎだぜ。

 

「すみません。死柄木弔・・・。指定の位置にあるハズの脳無が・・・ない・・・・・・!!」

 

「やはり君はまだまだ青二才だ。死柄木! 敵連合(ヴィランれんごう)よ。君たちは舐めすぎだ、少年の魂を、警察のたゆまぬ捜査を。そして、我々の怒りを!! ここで終わりだ、死柄木弔!!」

 

 そう、強く宣言するオールマイト。

 

「正義だの・・・。平和だの・・・。あやふやなもんでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す・・・。そのためにフタ(オールマイト)を取り除く。仲間も集まり始めた。ふざけるな・・・ここからなんだよ・・・・・・。黒ぎっ・・・・・・」

 

 死柄木が黒霧に命令しようとした瞬間、黒霧は無力化された。

 さすがはエッジショット。

 仕事が早い。

 グラントリノはため息を吐いてから言う。

 

「さっき言っただろ。おとなしくしといた方が身の為だって。引石健磁。迫圧紘。伊口秀一。渡我被身子。分倍河原仁。少ない情報と時間の中、おまわりさんが夜なべして素性をつきとめたそうだ。わかるね? もう逃げ場ァねえってことよ。なァ、死柄木。聞きてえんだが・・・おまえさんのボスはどこにいる?」

 

 グラントリノの言葉に死柄木は何も答えない。

 そして、ブツブツと呟くように言う。

 

「ふざけるな。こんな・・・こんなァ・・・。こんなあっけなく・・・。ふざけるな・・・。失せろ・・・消えろ・・・・・・」

 

 そんな死柄木にオールマイトは声を荒げて言う。

 

()は今どこにいる、死柄木!!」

 

「おまえが!! 嫌いだ!!」

 

 オールマイトの問いに声を荒げてそう返す死柄木。

 それと同時に黒い液体と共に脳無が複数体現れた。

 来たか。

 そうこうしている間に連合員と爆豪が黒い液体に飲まれ、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 脳無が街に放たれた。

 プロヒーローたちが対応しているが、数が多すぎる。

 その光景を見ている複数の影。

 

「なあ、原作じゃあんなにいなかったよな。多すぎないか」

 

「やっぱり、私たち転生者がいる時点でこういった所が変わっていっちゃうよね~。・・・・・・それで、ミキちゃん・・・だっけ? 本当に大丈夫?」

 

「はい、ご主人様(マスター)の手助けのためにはこれが最善手ですから」

 

「そうか。じゃあ、行こう」

 

 賢王雄はそう言うと同時にボトルのキャップを正面に合わせる。

 ピシッパキパキパキという何かが割れる音と共に、

 

《デンジャー!》

 

 という音声が鳴る。

 そして、ベルトに差し込む。

 

《クロコダイル!》

 

「変身」

 

《割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オラァ! キャー!》

 

 そんな音声と共に賢王雄は『仮面ライダーローグ』への変身を完了させる。

 

「行くぞ!」

 

 こうして、神野での戦いに『ファウスト』が参加した。

 




 とある二人が夜の街を歩く。
 この二人はこの時代の人間ではない。
 片方が、“エニグマ”という装置を改造して作った“試作品・タイムマシン”を使ってこの時代に実験で飛んできたのだ。

「なあ、とんでもない姿のヤツがたくさんいるけど、ココってまた別世界とかなのか?」

「いや、調べてみたところ俺の予想通り未来だ。“超常”っていうのが発生して、人間が進化したみたいだ」

「シンカって、カズミンがよく言ってたアレか?」

「アレは『心火』。ちゃんと覚えとけよバカ」

「バカって何だよ! せめて“筋肉”つけろよ!」

 二人はそんな会話をしながら歩いていると、電気店のテレビにあるニュースが映った。
 脳みそがむき出しのバケモノが現れ、人々を襲っているという。
 二人がテレビ画面に視線を向けていると、後ろからドスンッという音がした。
 ゆっくりと振り向くと、そこには脳みそがむき出しのバケモノがいた。
 拳を振りかぶるバケモノ。
 二人はその場から飛びのき、ベルトを装着する。

《ラビット! タンク! ベストマッチ!》

《ウェイクアップ! クローズドラゴン!》

 二人はベルトのレバーを回し、スナップビルダーを展開する。

《Are you ready?》

「「変身!」」

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

《Wake up burning! Get CROSS-Z DRAGON! Yeah!》

 二人は変身を完了させると同時に脳無を殴り飛ばす。
 そして、武器を取り出し、宣言する。

「勝利の法則は決まった!」

「今の俺は、負ける気がしねえ!」


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31話 『それぞれの戦い』

伝説(レジェンド)大集結。


 ファウストメンバーは脳無殲滅の為に走る。

 途中、バラバラに分かれ、一人で一体の脳無との戦闘に入る。

 ローグは広い通りに出た際、目についた大型脳無との戦闘に入る。

 脳無はローグを視覚すると同時に垂直に飛び上がる。

 瞬間、脳無の周りにエネルギーの弾が現れる。

 ローグがそれを確認した数瞬後、エネルギー弾が発射された。

 

「クッソ。ミキが言っていた転生者脳無か・・・・・・」

 

 ローグはその攻撃を全て避け、近くの建物を足場に飛び上がる。

 拳を大きく振りかぶる脳無。

 ローグも拳を振りかぶる。

 両者の拳がぶつかり、辺りに衝撃波が吹き荒れた。

 ローグは着地と同時にネビュラスチームガンとスチームブレードを取り出す。

 数秒遅れて着地してきた脳無は右手を上に掲げエネルギー弾を細く、薄く変形させていた。

 

「気円・・・斬・・・・・・」

 

 脳無はそう言うと同時にエネルギー弾・・・・・・いや、気円斬を飛ばしてきた。

 ローグは転がる様に回避し、ネビュラスチームガンの引き金を引く。

 だが、脳無は銃弾を全て片手で弾いてしまった。

 ローグは舌打ちをした後、機鰐龍兎が林間合宿前に渡して行ったビルドドライバーを取り出す。

 スクラッシュドライバーを外し、ビルドドライバーを腰に装着する。

 そして、プライムローグフルボトルを取り出し、折り、何度かガブガブと噛み合わせてからベルトに装填する。

 

《プライムローグ! Are you ready?》

 

「変身」

 

《大義晩成! プライムローグ! ドリャドリャドリャドリャ! ドリャー!》

 

 そんな音声と共にローグ体のヒビが輝き、エングレービングへと変わる。そして、胸にはローグを象徴するライダーズクレスト、その背には純白のマントが現れ、『仮面ライダープライムローグ』への変身を完了させる。

 プライムローグは脳無に視線を向けながら言う。

 

「大義のための犠牲となれ」

 

 瞬間、戦闘が始まり、時間経過と共に過熱していった。

 

 

 

 

 

 

 紅華火は炎の羽を使い飛行しながら、同じように飛んでいる脳無との戦闘に入る。

 脳無の背中からは鳥の羽が生えており、それでバサバサと飛んでいる。

 いや、それだけではない。

 腕が分裂し、襲い掛かってきているのだ。

 そこで紅華火はそれが転生者脳無であることに気が付いた。

 だが、若くして死んで転生した紅華火は前世での記憶はほとんどない。

 一番覚えていることは、近所に住んでいる“お兄ちゃん”が楽しそうにしてくれた“仮面ライダー”の話だ。

 その為、目の前の脳無がどんな特典を持っていた転生者なのかの判断がつかなかったのだ。

 それでも、紅華火は目の前の脳無を睨み、炎の剣を生成し、構える。

 それと同時に襲い掛かってくる脳無。

 紅華火と脳無が空中ですれ違うと同時に脳無の体が真っ二つに斬られた。

 それだけじゃない。

 傷口が紅い炎によって燃え続けている。

 だが、脳無にそれを気にした様子はなく、真っ二つに割かれたまま紅華火に襲い掛かった。

 紅華火は上空へと飛ぶ。

 飛びすぎると酸素が少なくなり、炎が維持できなくなる為、紅華火は飛べる限界ギリギリで停止し、追いかけて来ている脳無に開いた右手を向ける。

 そして、

 

「不死『火の鳥—鳳翼天翔—』」

 

 瞬間、紅華火の手から勢いよく炎が噴き出す。

 紅い炎が脳無を包み、その姿を炭に変えた。

 だが、まだ飛行系脳無はいる。

 紅華火はゆっくりと他の脳無を確認しながら次の戦場へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 とある青年はバケモノが暴れている方へと走る。

 そして、バケモノに襲われていた人を助け、逃がす。

 

「コイツ・・・エンデヴァーが言っていた脳無ってヤツか」

 

 青年はそう言いながらベルトを装着する。

 殴りかかってくる脳無。

 青年はその攻撃を避けながらロックシードを解錠する。

 

「変身!」

 

《オレンジ! ロックオン!》

 

 流れるほら貝の音。

 青年はカッティングブレードでロックシードを斬る。

 

《ソイヤッ! オレンジアームズ 花道 オンステージ》

 

 そんな音声と共に青年は『仮面ライダー鎧武』への変身を完了させる。

 鎧武に襲い掛かる脳無。

 大振りのパンチ。

 鎧武は無双セイバーを引き抜き、その攻撃を防ぐ。

 そして、脳無の腹を蹴り飛ばして、宣言する。

 

「ここからは俺のステージだ!」

 

 大きな奇声を上げながら鎧武に向かって突撃する脳無。

 直線的な攻撃。

 避けようと思えば避けれたが、鎧武はあえてその攻撃を防いだ。

 なぜなら、後ろにはまだ人がいる。

 避ければ、その人たちに被害が及んでしまう。

 鎧武は大橙丸と無双セイバーを使い、脳無の腕を切り落とす。

 だが、切り落とした先から腕は再生していく。

 それだけじゃない。

 脳無が後ろに飛びのき、人差し指と中指を額に当ててそこにエネルギーを集中させる。

 そして、

 

「魔貫光殺砲」

 

 脳無の指からビームが発射される。

 鎧武はそれを防ごうとしたが、魔貫光殺砲が当たった大橙丸が貫かれてしまった。

 何とか避けたものの、武器を失う。

 だが、その程度の事、一々気にはしない。

 鎧武はゲネシスコアを戦極ドライバーにセットし、ロックシードを解錠する。

 

《レモンエナジー! ロックオン! ソイヤァ! ミックス! オレンジアームズ! 花道 オンステージ! ジンバーレモン! ハハーッ!》

 

 オレンジアームズとレモンエナジーアームズが合体し、陣羽織になって鎧武の体に纏われる。

 鎧武の手にはソニックアローが握られている。

 手を伸ばして鎧武に殴りかかる脳無。

 鎧武はソニックアローでその攻撃を弾きながらエネルギーの矢を発射する。

 そして、戦いは激しくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 龍玉悟雲は一度に三体の脳無と戦う。

 脳無Aは盛り上がった筋肉に巨大な牙が特徴。

 脳無Bは4本の腕に巨大な足、一つ目が特徴。

 脳無Cは黒い角に炎を纏った腕、四つ足が特徴。

 三体とも強く、龍玉悟雲は苦戦していた。

 だが、『孫悟空』に憧れ、『孫悟空』を目指しているからこそ、龍玉悟雲はその程度でへこたれたりしない。

 龍玉悟雲は体中の気を操り、言う。

 

「界王拳!」

 

 瞬間、龍玉悟雲の体に赤いオーラが纏われる。

 龍玉悟雲は脳無Aを殴り飛ばす。

 さらに、脳無Cを掴み、脳無Bに向かって投げ飛ばし、ブチ当てる。

 その筋肉をフルに使って殴りかかる脳無A。

 龍玉悟雲はその攻撃を左手で防ぎ、その腹に全力で右手を叩き込む。

 後ろから襲い掛かる脳無B、龍玉悟雲は後ろ回し蹴りで脳無Bを蹴飛ばし、さらに気光弾を脳無Cにブッ放す。

 そして、全速力で脳無A・B・Cを上空へと投げ飛ばす。

 垂直に飛んでいく脳無。

 龍玉悟雲は両手を腰辺りに持って行く。

 

「か・・・め・・・は・・・め・・・・・・」

 

 両手を脳無の方に突き出し凝縮した気を放出する。

 

「波ぁぁあああああああああああああ!!!!」

 

 辺りにエネルギーの渦が吹き荒れる。

 そして、脳無A・B・Cは塵一つ残さず消滅した。

 だが、それで終わりではない。

 龍玉悟雲は次なる相手を探し、飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫は全身全霊をもって脳無を叩き潰していく。

 レインレーザー。

 アイスレイン。

 アイススピア。

 雷鳴神速。

 天雷脚。

 ライジングアイスソード。

 フルサンダーインパクト。

 等々、必殺技を連発し、脳無を無力化・殺害していく。

 白神神姫は楽な仕事だと思った。

 少女の個性からしたら転生者脳無程度、敵ではないのだ。

 だから、少女は自分のご主人様(マスター)の元へと向かう。

 その間に、何体もの脳無を倒しながら。

 

 

 

 

 

 

 脳無大暴れ5分前。

 とある赤い鬼が神野の街を歩く。

 先ほどから何故かジロジロ見られているが特に気にすることは無かった。

 しばらくすると一人の若い警察官に呼び止められた。

 

「君! ちょっと角を持つ赤い君だよ。服はどうしたの?」

 

「は? 服ぅ? ンなもん持ってねえよ」

 

「ちょっとねぇ。裸で街を歩くのは駄目でしょ。・・・・・・異形型のようだけど」

 

「異常型ァ? 何言ってんだオマエ。俺はずっとこの姿だぞ」

 

「まぁまぁまぁ。話はあっちで聞くから」

 

 赤い鬼は引きずられるように交番まで連れていかれた。

 若い警察官は交番内の椅子に赤い鬼を座らせ、インスタントコーヒーを淹れる。

 そして、赤い鬼に質問をする。

 

「名前は?」

 

「俺はモモタロスって言うんだ。カッケエ名前だろ」

 

「不思議な名前だね」

 

 若い警察官はそう言いながら笑う。

 警察官は職務を忘れ、モモタロスとの会話を楽しむ。

 まるで古い友人と出会ったかのように。

 しばらく話していると、

 

「そういや、お前はどういう名前なんだよ」

 

 とモモタロスが言った。

 若い警察官が名前を言おうとした瞬間、外から悲鳴が聞こえてきた。

 甲高い悲鳴。それと共に聞こえる破壊音。

 若い警察官とモモタロスは慌てて外に出る。

 そこにいたのは・・・・・・。

 

「なんだ・・・あのバケモノ・・・・・・」

 

 脳みそが丸出しのバケモノが市民を襲っていた。

 若い警察官はとっさに走り出していた。

 逃げるためではない。

 市民を助ける為に。

 バケモノの攻撃からその体を使って市民を守った。

 だが、強い攻撃に若い警察官は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 その若い警察官は無個性だった。

 それでも、誰かを助けたいと思って警察官になったのだ。

 でも、無力だった。

 目の前で傷つけられている人がいるのに、体中が痛み、動くことが出来なかった。

 若い警察官に向かって攻撃くり出すバケモノ。

 だが、その攻撃が若い警察官に当たる事は無かった。

 

「な・・・んで・・・・・・」

 

「あん? 知らねえよ。・・・・・・ただ、お前の姿が“アイツ”と重なったせいかもな」

 

 モモタロスはそう言いながら腰にベルトを装着する。

 そして、

 

「変身!」

 

《ソードフォーム》

 

 そんな音声と共にモモタロスの姿が『仮面ライダー電王 ソードフォーム』へと変わる。

 そして、モモタロスは力強く言う。

 

「俺、参上!!」

 

 そう宣言すると同時に、デンガッシャーを組み立てる。

 電王に襲い掛かるバケモノ。

 だが、様々な戦いを勝ち続けてきた電王にとって、目の前のバケモノは脅威ではなかった。

 叩き付けるように振るわれるデンガッシャー。

 それを喰らったバケモノはその威力にのけ反った。

 そこに、電王は何度も攻撃をぶつける。

 そして、

 

「言っとくが、俺は最初から最後までクライマックスだぜ!」

 

 そう言って大量に現れた脳無に向かって走っていく。

 若い警察官はフラフラと立ち上がり、逃げ遅れた市民を逃がす。

 二人はそれぞれが人々を守る為に出来ることをする。

 

 若い警察官の名前は『野上真太郎』。

 心優しき不幸体質の青年だ。

 

 

 

 

 

 

 一人の青年が腰にベルトを装着し、走る。

 保須市に現れたバケモノと類似したバケモノが市民を襲っていた。

 だから、青年は誰かを救うために戦う。

 

「変身!」

 

《Turn Up》

 

 ブレイドは変身を完了させると同時にラウズアブゾーバーを左手に取り付け、ラウズカードを読み込ませる。

 

《アブゾーブクイーン フュージョンジャック》

 

 そんな音声と共にブレイドはジャックフォームになる。

 そして、ジャックフォームの飛行能力を使って跳んでいる脳無を斬りつけつつ、逃げ遅れた人々を救出する。

 脳無は多いが、それでもブレイドは戦いの中へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 一人の写真家が人々を襲っている脳無の元へと歩いて行く。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 そして、マゼンタカラーのベルトを装着し、カードを取り出して言う。

 

「変身」

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・DECADE(ディケイド)

 

 そんな音声と共に写真家を中心に何人もの仮面ライダーの影が現れ、写真家に重なる。

 そして、その姿が『仮面ライダーディケイド』へと変わる。

 ディケイドはライドブッカーをソードモードにし、脳無を斬り倒していく。

 5体脳無を倒したところで、とある建物の壁が崩れ、逃げていた市民へと振りかかった。

 ディケイドはライドブッカーをガンモードにし、ベルトにカードを読み込ませる。

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・BLAST(ブラスト)

 

 ライドブッカーの銃口から強化された銃弾が発射され、瓦礫を破壊する。

 逃げていた市民は何が起こっていたのか分かって追わず、ただ、呟くように言った。

 

「アンタは・・・・・・?」

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

 

 ディケイドはそう言ってまた、戦場へと向かって行った。

 




次回、個性:『英雄』


ビルド&ビルド。

二人の天才が共に戦う。

《紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベーイ! ハエーイ!》

《鋼鉄のブルーウォーリア! タンクタンク! ヤベーイ! ツエーイ!》

第32話 『二人の天才』

更に向こうへ。‘‘Plus Ultra‘‘!! 


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32話 『二人の天才』

伝説(レジェンド)大集結。



「ア・ホ・かぁぁぁああああああああ!!!!!」

 

 つい、そう叫んでしまった。

 脳無の数がさすがに多すぎる。

 どれだけ倒そうとゴキブリみたいにワラワラと湧いて出てくる。

 しかも、半分近くが転生者脳無。

 爆豪みたいにこの状況を言ってみるとしたら『死ね』、だ。

 クッソ。

 いくら何でも多すぎるし強すぎる。

 俺はベルトのボトルを素早く入れ替える。

 

《Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイ! イェーイ!》

 

 フォームチェンジ完了と同時に特殊部隊を襲っている脳無を叩き潰す。

 ・・・・・・しっかし。

 これは不味い。

 数が多すぎてエンデヴァーもシンリンカムイもエッジジェットも足止めされている。グラントリノはとっくに行ってしまった。

 これじゃ、オールマイトの元に援軍が向かう事が出来ない。

 だから、

 

「エンデヴァー! シンリンカムイ! エッジジェット! ここは俺が何とかするからオールマイトの元に向かってくれ!!」

 

「なぜお前に任せて行かなくてはならない! 向こうにもプロが・・・・・・」

 

「良いから黙って行きやがれ!! あっちで問題が発生したみたいだってことは分かってるだろ! こっち以上に問題が発生しているかもしれないんだぞ! ここは“仮面ライダー(オレ)”に任せてさっさと行け!!」

 

 俺がそう叫ぶように言うと、エンデヴァーは近くにいた脳無の炎を浴びせながら大きく舌打ちをした。

 そして、

 

「シンリンカムイ! エッジジェット! 行くぞ!!」

 

 そう言って走って行った。

 二人も相手をしていた脳無を無力化してからその後に続いて行った。

 さて。

 ここからが正念場だ。

 俺が脳無どもを睨みながら腰を落とし、構えた瞬間、建物の影から見た事のある人物が現れた。

 その人物は・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

《ロックオン! ソイヤァ! カチドキアームズ いざ出陣 エイエイオー!》

 

 鎧武はカチドキアームズを纏うと同時に背中の旗を抜き、脳無をその旗で殴り飛ばす。

 何体も、複数で鎧武に襲い掛かる脳無。

 だが、そこに連携というモノは感じられなかった。

 そう、脳無は単体で、連携も無く、ただ、本能のままに襲い掛かっているのだ。

 鎧武はそれを見て軽く舌打ちをした。

 脳無は元々は人間であるという事はエンデヴァーから聞いていた。

 だから、鎧武はやるせない気持ちがあった。

 鎧武の頭に浮かぶのは“あの二人”の事。

 ヘルヘイムの果実を食べ、バケモノとなり、死んでいった者の事。

 一人は助けようとして目の前で殺された。

 一人は知らなかったとはいえ自身の手で殺した。

 だからこそ、目の前の人間だったモノと戦うのを一瞬だが躊躇ってしまった。

 でも、その躊躇いはすぐに打ち消された。

 いや、打ち消した。

 そんなところで止まっていたら誰かが傷付くだけだから。

 鎧武は脳無を火縄大橙DJ銃で切り飛ばし、“とあるロックシード”を解錠する。

 いや、そのロックシード自体がロックシードを解錠するためのカギだ。

 

《フルーツバスケット!》

 

 鎧武を中心にクラックが開き、複数のアーマーが現れる。

 そして、そのアーマーが鎧武に襲い掛かる脳無を弾き飛ばしていく。

 鎧武は極ロックシードを戦極ドライバーに出現した鍵穴に差し込み、回して解錠する。

 

《ロックオープン!》

 

 複数のアーマーが鎧武の周りをゆっくりと旋回する。

 

《極アームズ! 大・大・大・大・大将軍!!》

 

 複数のアーマーが融合し、カチドキアームズの鎧が弾き飛ばされる。

 鎧武の鎧が白銀色になり、その背にはマント、すべてを極めた姿、『仮面ライダー鎧武 極アームズ』へと変わった。

 そして、鎧武は脳無の群れの中に突撃していった。

 

 

 

 

 

 

「なあ、戦兎。結局、このバケモノって何なんだ?」

 

「いや。俺にもよく分からない。そもそも、脳みそを丸出しで大丈夫なハズが無いんだがブツブツブツ」

 

 俺の前に現れた人物。

 それを見た時、俺は言葉を発することが出来なかった。

 だって、そこにいたのは伝説(レジェンド)だったから。

 俺は保須市襲撃事件からずっと持ち歩いていた色紙を取り出し、走る。

 そして、

 

「サインください!!」

 

 と頭を下げる。

 二人は何を言われたか分からずポカーンとしていたが、真っ先に動いたのは万丈だった。

 

「何? 俺のファンなの? しょ~がないな。ほら、貸してみ」

 

 万丈は滅茶苦茶上機嫌でサインを書いてくれた。

 俺の姿にツッコミを入れない時点でかなりのバカだと思う。

 

「な、なあ。その姿は何なんだ?」

 

 そう聞いてきたのはもちろん戦兎だ。

 

「俺の個性です! 仮面ライダーに変身する個性(チカラ)です!!」

 

「そ、そうなのか・・・・・・」

 

 なんか引かれた。

 なんでや。

 俺は引かれたことに落ち込みながらこの世界、俺の存在、この状況について話した。

 戦兎はふむふむと相槌を打って聞いてくれていたが、万丈は首をかしげていた。

 

「つまり、ラブ&ピースの為に戦ってるんだな」

 

「まあ、そんなところです」

 

 俺がそう答えると、戦兎は俺の肩をポンポンと叩き、言った。

 

「それじゃ、サクッと世界を救っちまおう」

 

「はい!」

 

 俺と戦兎は示し合わせたかのように同じアイテムを取り出す。

 そして、

 

《マックスハザードオン!》

 

 ハザードトリガーをベルトに差し込み、フルフルラビットタンクボトルを振る。

 そして、成分を選択する。

 

《ラビット!》

 

《タンク!》

 

 俺はラビットを、戦兎はタンクを選択した。

 そして、

 

《ラビット&ラビット!》

 

《タンク&タンク!》

 

《ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Are you ready?》

 

「「ビルドアップ!」」

 

《オーバーフロー!》

 

 そんな音声と共にラビットアーマーとタンクアーマーがどこからともなく現れ、分裂し、空中を浮遊する。

 

《紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベーイ! ハエーイ!》

 

《鋼鉄のブルーウォーリア! タンクタンク! ヤベーイ! ツエーイ!》

 

 そんな音声と共に俺たちはアーマーを纏い、『ラビットラビットフォーム』と『タンクタンクフォーム』にフォームチェンジする。

 そして、二人で宣言する。

 

「「勝利の法則は決まった!」」

 

「そういや戦兎。何で二人に増えてんだ?」

 

 

 

 

 

 

 紅華火は目の前の脳無と睨み合う。

 脳無の身長は3メートルほどで、ネコミミに猫の尻尾、巨大な人型猫系脳無だった。

 先ほどまでは、大体2メートルほどの大きさの脳無だったのに、戦闘になると同時に巨大化し、ネコミミと尻尾が生えたのだ。

 紅華火はそれがどういった転生個性なのか判断がつかなかった。

 だが、そんな事、気にするような性格ではない。

 紅華火は体を炎で包み、脳無目掛けて突撃する。

 脳無の攻撃を避け、アッパーパンチで脳無を真上に吹き飛ばす。

 そこからくり出される必殺技。

 

「フェニックス・インパクト!!」

 

 紅華火は拳に炎を纏わせ、飛び上がり、脳無を殴り飛ばした。

 脳無の体が紅い炎で包まれ、燃え尽きて行った。

 

 

 

 

 

 

 俺と戦兎は共に脳無どもを叩き潰していく。

 フルボトルバスターの機能をフルに使って一体一体確実に倒す。

 何体倒しただろうか。

 後方から滅茶苦茶うるさい音が聞こえてきた。

 

《極熱筋肉! クローズマグマ! アーチャチャチャチャチャ チャチャチャチャアチャー!》

 

 滅茶苦茶うるさい。

 少し後方を確認すると、万丈がマグマをほとばしらせながら脳無を殴り飛ばしていた。

 さすが筋肉バカ。

 そのパワーを使って脳無がどんどん無力化されていく。

 まあ、とりあえず万丈の事は放っておこう。

 俺はフルボトルバスターにボトルを装填する。

 

《ラビット! ゴリラ! タカ! ドラゴン! アルティメットマッチでーす》

 

 フルボトルバスターのブレードにフルボトルのエネルギーが集中する。

 そして、トリガーを引く。

 

《アルティメットマッチブレイク!》

 

 強力なエネルギーを脳無どもに叩き込んでいく。

 一体目。

 二体目。

 三体目。

 四体目。

 五体目、六体目、七体目・・・・・・・・・。

 何体も、何体も斬り伏せていく。

 戦兎はビルドドライバーからフルフルラビットタンクボトルをフルボトルバスターに装填した。

 

《フルフルマッチでーす! フルフルマッチブレイク!》

 

 戦兎の持つフルボトルバスターの銃口にエネルギーが収束し、それが一気に放たれる。

 それによって射線にいた脳無は全て吹き飛んでいく。

 やっべぇ。

 滅茶苦茶格好いい。

 当たり前だが、俺以上に戦い慣れているし、劇中そのままの戦いがナマで、しかも間近で見れるなんて幸せすぎるだろ。

 あ゙ぁ~~。

 色々な転生者と会ってきたけど未だに仮面ライダー好きのヤツと出会えてないからなぁ。

 こういった気持ちを共有できる友が欲しいぜ・・・・・・。

 俺はそう思いながらもはや作業ゲーとでも言わんばかりの勢いで脳無を蹴散らし、もっとも脳無が暴れている方面へと走って行った。

 

 

 

 

 

 

FINAL FORMRIDE(ファイナルフォームライド)・・・・・・BLADE(ブ・ブ・ブ・ブレイド)

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「は? ちょ、何を勝手n・・・・・・」

 

 ディケイドはブレイドの意見を、反論を一切聞くことなくカード効果を発揮させる。

 ブレイドは一切の抵抗が出来ずにブレイドブレードへとその姿を変えた。

 そして、

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・BLADE(ブ・ブ・ブ・ブレイド)

 

 ブレイドブレードの刃にエネルギーが収束する。

 ディケイドに襲い掛かる十数体もの脳無。

 数では圧倒的に脳無の方が上だった。

 だが、その程度の数では“世界の破壊者”には到底かなわない。

 勢いよく振るわれるブレイドブレード。

 その威力はすさまじく、脳無はチリ一つ残すことはできなかった。

 ディケイドはブレイドブレードをまるで用済みを言わんばかりに投げ捨てる。

 そんなディケイドの目にあるモノが止まった。

 それはテレビの画面だった。

 複数現れた仮面ライダー。

 (ヴィラン)と交戦しているオールマイト。

 そして、二人の仮面ライダービルド。

 ディケイドは少し微笑を浮かべながらカードを取り出す。

 何をするかなんて明白だった。

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・BUILD(ビルド)! 鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

「ビルドが3人、なかなか粋な計らいだろ」

 

 ディケイドは誰に言う訳でもなくそう言い、少し笑った。

 そして、加熱する戦場へと突き進んでいく。

 

 なお、ブレイドは適当に放り投げられたところに運悪く脳無が居たため、元の姿に戻って間もないのに、全力で戦う事となったのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 黒い少年と白い少女がテレビ画面に釘付けになっていた。

 画面内ではオール・フォー・ワンと戦っているオールマイトの映像と、大量の脳無と戦っている仮面ライダーの映像が流れていた。

 

「なァ、この中にどンだけ本物がいると思う?」

 

「・・・・・・ビルドが二人になったと思ったら三人に・・・・・・。いや、これは・・・ラビットラビットかタンクタンクのどっちかが本物だと思う」

 

「そォか。・・・・・・どうすンだ? ここにカチコミにでも行くか?」

 

「いや、止めておこう。ココで行ったとしても現場がより混乱するだけだ」

 

「そォかよ」

 

 白い少女はそうつまらなそうにそう言う。

 黒い少年は慰めるように、

 

「大丈夫。仮免取ったら戦えるから」

 

 そう言って“ガシャット”を起動させる。

 

《ゴッドマキシマムマイティX》

 

「コイツを使ってな」

 

 その言葉を聞いて白い少女はニヤリと笑った。

 美しく、それでいて不気味に。

 




伝説(レジェンド)大暴れ。
そして、ラスボス登場。


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33話 『ゲームスタート』

賢王雄、ついに本気を出す。


 脳無が最もいる中心地を一言で表すなら地獄絵図だった。

 生存者の姿はなく、辺りには“肉塊”が転がっていた。

 それは元が人間であったとは到底思えないほどグチャグチャにされていた。

 人の形を保っておらず、四肢がもげて頭蓋が潰されている者。

 腹が裂け、臓器が引き千切られている者。

 腕や足、腰や首が有り得ない方へ曲がってしまっている者。

 もはやただの肉片になってしまっている者。

 吐き気を催すほどの地獄。

 脳無は複数対いたが、俺の視線は“ステージ”の真ん中にいるモノに集中してしまった。

 そこにいたのは脳無ではなかった。

 

「何でだよ・・・・・・」

 

 そこにいたのは・・・・・・、

 

「なあ、龍兎。アイツが何なのか知っているのか?」

 

「知ってる。知りすぎている。だって、アイツは・・・・・・」

 

 そいつは・・・・・・、

 

「“ゲムデウス”だ」

 

 

 

 

 

 

 プライムローグは苦戦を強いられていた。

 現れた脳無が余りにも強すぎた。

 3メートルはありそうな身長に盛り上がった筋肉。

 体の大きさだけで言えばUSJを襲った脳無に近しいモノを持っているが、その体から放たれるオーラが圧倒的に違う

 さらに、素早く動き、目にも止まらない速さで攻撃をしてきてた。

 防戦一方。

 ただ、防ぎ、避ける事しかできなかった。

 それでも、プライムローグはレバーを回す。

 

《Ready Go! プライムスクラップブレイク!!》

 

 プライムローグの足にワニの顎の形のエネルギーが纏われる。

 そして、噛み砕くかのように蹴り上げる。

 だが、

 

「〇×※◇△□%#\〇〇~~~!!!!」

 

「グアァア!!」

 

 弾かれてしまった。

 ありえない。

 プライムローグはそう思った。

 今の攻撃はそう簡単に弾かれていいような攻撃ではない。

 つまり、目の前にいる脳無はその攻撃を簡単に弾けるほどの力を持っているという事だ。

 だが、それだけでは終わらなかった。

 脳無の体に今まで以上のエネルギーが溜まりだす。

 そして、エネルギーが一定値を超えた瞬間、脳無の体に黄緑色のオーラが纏われた。

 プライムローグがそれを視覚した時にはもう遅かった。

 体を襲う衝撃。

 吹き飛ばされたと認識した時にはその体はビルに叩きつけられていた。

 倒壊するビル。

 重力のままに地面に叩きつけられ変身が解除される。

 倒れ伏す賢王雄の視界には壊れたビルドドライバーの破片。

 それを見た瞬間、賢王雄はブチ切れていた。

 友達からのプレゼントを破壊された。

 その怒りはすさまじいものだった。

 倒れ伏す賢王雄に攻撃を仕掛ける脳無。

 だが、その左腕は弾け、千切れ飛んでいた。

 

「×〇※\※▽□×※~~~~~!!!!」

 

 悲鳴を上げる脳無。

 賢王雄はゆっくりと立ち上がり、その“金色の髪”を掻き上げながら言った。

 

「いい加減、調子に乗るなよ雑種!!」

 

 瞬間、賢王雄の周りに複数の剣が現れる。

 脳無がそれを視覚した時には、その剣は射出された後だった。

 幾つもの、幾百もの、幾千もの剣が脳無の体を貫き続ける。

 だが、それでも脳無は倒れない。

 それどころかその右手のひらに黄緑色のエネルギーが収束しだす。

 そして、それが一直線に放たれた。

 街一つぐらいなら簡単に破壊しつくせるほどのエネルギー弾。

 それを目の前に、賢王雄は冷静だった。

 そして、ある“剣”を振りかぶり、宣言する。

 

「裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣! 受けよ! 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

 振るわれる“乖離剣エア”。

 空間をも引き裂くほどのエネルギーの嵐。

 それは、脳無の放ったエネルギー弾ごと、脳無を引き裂いた。

 

「ふん。塵すら残さなかったか」

 

 

 

 

 

 

 その頃、ミキはと言うと・・・・・・、

 

「ここ・・・・・・どこ?」

 

 道に迷っていた。

 

 

 

 

 

 

 俺は戦兎に“ゲムデウス”について知っているだけ話した。

 話し終わる頃には、周りに伝説(レジェンド)ライダーが集まって来ていた、嬉しさと興奮のあまり発作を起こしそうになった。

 まさか、こんな豪華なメンバーと一緒に戦う事になるとは・・・・・・。

 ただ、何でディケイドは“ディケイドビルド”なんだろう?

 ま、まあ。それは後で考えよう。

 集まったメンバーは、

 

 仮面ライダーブレイド(キングフォーム)

 仮面ライダー電王(ソードフォーム)

 仮面ライダーディケイド(ディケイドビルド)

 仮面ライダー鎧武(極アームズ)

 仮面ライダービルド(タンクタンクフォーム)

 仮面ライダークローズマグマ

 俺(ラビットラビットフォーム)

 

 の7人。

 なんか最終フォームの人もいるけど、それだけ本気なのだろう。

 作戦としてはまず、周りにいる脳無を全部ブチ飛ばしてからゲムデウスをブチノメスというシンプルなモノで決定した。

 理由はモモタロス&万丈(バカ二人)がどれだけ作戦の説明をしようと一切理解してくれなかった為だ。

 正面から殴る作戦じゃないとマジで何やらかすか分かったモンじゃないからな。

 俺は戦兎たちと離れ、行動を開始する。

 脳無の数は大体10体程いるため、一人平均1.4体を倒せば終了する。

 さてと。

 俺はフルフルラビットタンクボトルを抜き、ハザードトリガーも外し、白いボトルとピンクのボトルをセットする。

 

《ドクター ゲーム ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《エグゼイド! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『仮面ライダービルド エグゼイドフォーム』へと変わる。

 この姿になるとベルト以外にビルド感は全くと言っていいほどに無くなる。

 右手にはドリルクラッシャー。

 左手にはガシャコンブレイカー。

 劇中では詳しく使い方を知らなかった戦兎は変形をしていなかったが、俺は使い方を知っている。

 俺はガシャコンブレイカーのAボタンを押す。

 

《ジャ・キーン!》

 

 ガシャコンブレイカーをブレードモードにすると同時に脳無に向かって走る。

 さすがエグゼイド。

 機動力がハンパない。

 俺は瓦礫を足場に跳んで、跳んで、跳びまくり、まるでグラントリノのように辺りを跳びまくって脳無を翻弄する。

 脳無には俺の行動パターンを読むほどの知能はない。

 決着は一瞬だった。

 脳無は俺の攻撃に反応できず、上半身と下半身の二つに分かれた。

 だが、これで終わりではない。

 脳無を倒すと同時にゲムデウスに向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 人々を襲う脳無。

 ヒーローたちは、“仮面ライダー”たちは近くにいない。

 あまりにの脳無が多すぎたのだ。

 だが、襲われている市民を守る為に駆けつけた人物は確かにいた。

 

「ったく。こりゃ、逢奈に怒られるな。・・・・・・でも、やるしかないか」

 

 駆けつけた少年、猿伸賊王はそう言って笑った。

 自由奔放で、我が侭で、自分勝手で、自己中心的で、それでも、優しさを持った少年は目の前の脳無(バケモノ)を睨みながら言った。

 

「俺にもポリシーはあるんだ。お前には悪いが、俺のポリシーの為に・・・・・・死ね」

 

 猿伸賊王に襲い掛かる脳無。

 だが、物理攻撃は猿伸賊王に意味をなさない。

 攻撃を防いだ猿伸賊王は腕をポンプのように動かし、全身の血液を高速で循環させ、運動能力を上昇させる。

 瞬間、猿伸賊王は目にも止まらぬ速さで脳無を殴り飛ばしていた。

 

「・・・・・・ゴムゴムのJET銃(ジェットピストル)

 

 倒れ動かなくなった脳無を確認した猿伸賊王は一番過熱している戦場の方を向きながら、

 

「勝てよ、“仮面ライダー”機鰐龍兎。お前を倒すのは俺なんだから」

 

 と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 龍玉悟雲はとある脳無との戦いに手を焼いていた。

 白い見た目に体の3分の2はある尻尾が特徴な脳無。

 紫色のエネルギー弾を放ったり、人差し指から貫通性のあるビームを出したり・・・・・・。

 攻撃パターンから完全にフリーザであった。

 龍玉悟雲はフリーザ脳無の攻撃を避けながらエネルギーを溜める。

 そして、

 

「波ぁぁぁああああああああ!!!!!」

 

 放たれるかめはめ波。

 だが、

 

「っ! ガハッ・・・・・・!!」

 

 フリーザ脳無はそれを弾き龍玉悟雲の腹に拳を叩き込んだ。

 さらに、尻尾で龍玉悟雲の首を絞め、地面に叩きつける。

 龍玉悟雲の体を襲う衝撃、痛み。

 だが、追撃は止まない。

 何発も、何十発も、何百発も放たれるエネルギー弾。

 どれもこれもが必殺の威力を誇り、龍玉悟雲はそれを防ぐだけで大幅に気を消費してしまった。

 それでも、戦闘は止まらない。

 龍玉悟雲とフリーザ脳無は超高速でぶつかり合う。

 ぶつかるたびに辺りには衝撃波が吹き荒れる。

 いつからだろうか。

 ぶつかっていた赤い影と紫の影に変化が出てきた。

 炎のように真っ赤だった影が輝くような金色になっていた。

 そして、戦いは激熱していく。

 ただのパンチだけでも必殺能力まで高まっていく。

 空間をも揺らす衝撃。

 両者共々体中から血を出し、限界が近づいて来た。

 龍玉悟雲は自分の気を極限まで高める。

 瞬間、最後の、命を懸けたぶつかり合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

「この姿の方がよさそうだな。変身」

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・EX-AID(エグゼイド)! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!!》

 

 ディケイドはそんなことを言いながらディケイドエグゼイドに変身する。

 クッソ。

 俺とモロ被りじゃないか。

 そんな悪態を表に出すことは無いが、ただ一言言いたい。

 おのれディケイドぉぉぉぉぉ!!

 そんな事を思いながら、俺はボトルを入れ替える。

 

《ドラゴン ロック ベストマッチ! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《封印のファンタジスタ キードラゴン! イエーイ!》

 

 ビルドアップ(フォームチェンジ)完了と同時にビートクローザーを取り出し、ゲムデウスを斬りつける。

 だが、その傷は一瞬にして回復した。

 アホみたいにスペック高いなぁ、オイ。

 俺はそう思いながらビートクローザーで何度も斬りつけるが、一切決定打にならない。

 さすがに強すぎるだろう。

 ほら、見ろ。

 ディケイドも、ディケイドエグゼイドで戦うの諦めて普通のディケイドに戻っているじゃないか。

 俺がそう思いながら攻撃をしていると、

 

「どけ」

 

 という声と共に嫌な音声が聞こえてきた。

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

 そんな音声と共に繰り出される破壊者の一撃、『ディメンションキック』。

 圧倒的攻撃力を持つ一撃がゲムデウスに叩き込まれた。

 だが、さらに追撃。

 

《スペード10・スペードJ・スペードQ・スペードK・スペードA・・・・・・ロイヤルストレートフラッシュ》

 

《ソイヤッ! キワミスカッシュ!!》

 

FULL CHARGE(フルチャージ)

 

 ブレイドの重醒剣キングラウザーに、鎧武の火縄大橙DJ銃(大剣モード)に、電王のデンガッシャーに強大なエネルギーが収束する。

 

「俺の必殺技ァ!!」

 

 そして、勢いよくゲムデウスを斬りつける。

 それだけでもかなりのダメージがあるのは確実だが、さらにプラスで追撃。

 

「行くぞ、万丈!」

 

「おう、戦兎!」

 

《Ready Go!》

 

 俺もあわててレバーを回す。

 

《ボルテックフィニッシュ!!》

 

《ラビットラビットフィニッシュ!!》

 

《ボルケニックフィニッシュ!!》

 

 三人で放つ強力なライダーキック。

 それを喰らったゲムデウスは大声を上げながら爆散した。

 勝った。

 そう思い、ゲムデウスがいた場所を見るとそこには脳無が倒れていた。

 なぜ脳無が?

 そんな疑問が浮かんだと同時に嫌な事を思い出した。

 バグスターウイルスはある時から進化して、患者からいきなり分離するタイプと患者の体を乗っ取るタイプに分かれた。

 そして、ココはエグゼイドが戦った時代から見たら遥か未来に当たる。

 バグスターウイルス感染症、通称『ゲーム病』のワクチンは開発されただけでなく、感染も収まって、まず発症することは無い。

 でも、発症確率は0%という訳ではない。

 もしも、脳無がゲーム病に感染していたら?

 それがゲムデウスバグスターウイルスだったら?

 それだけでも不穏なのに、確か、ゲムデウスにはパワーアップ形態があったはず。

 俺がそう思案していた時、倒れ伏していた脳無の体が膨張しだした。

 ・・・・・・やっぱりか。

 ゲムデウス第二形態。

 正式名称:『超ゲムデウス』。

 その体の全長は約18m、体重は約80tほどにもなる巨体。

 両腕は龍の頭の様にも見えるデウスファーブニル。下半身は巨大な大剣、デウスカリバーへと変化している。

 元々クソ高かった攻撃力・再生力がより高くなった姿。

 ・・・・・・・・・どうやら、ここからが最終決戦のようだ。

 




次回、個性:『英雄』


伝説(レジェンド)たちの目の前に現れるラスボス(ゲムデウス)

仮面ライダー(ヒーロー)たちは、全身全霊で戦う。

「戦兎! 使え!!」

「っ! 分かった!」

《グレート! オールイェイ!》


第34話 『ジーニアスは止まらない』

更に向こうへ。‘‘Plus Ultra‘‘!! 


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34話 『ジーニアスは止まらない』

ゲムデウス強すぎ笑えない( ;´Д`)


 神野に二つの脅威が現れた。

 一つはオールマイトと激戦を繰り広げている(ヴィラン)

 一つは仮面ライダーと戦っている超巨大なバケモノ。

 あまりにも強大で、あまりにも強すぎる圧倒的な脅威。

 オール・フォー・ワンの周りは壊れ、崩れ、破壊された建物の瓦礫が散乱している。

 ゲムデウスの周りは建物が倒壊し、炎が燃え上がり、生存者の姿は一切確認できない。

 たった一夜にして現れた絶望、恐怖。

 だが、それでもヒーローたちは誰かの為に戦う。

 その先には・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

「うぉぉおおおおおおおお!!!」

 

 俺はラビットラビットフォームになると同時にフルボトルバスターでゲムデウスに叩き斬る様な攻撃を与えた。

 だが、俺の与えた傷は一瞬にして回復した。

 クソみたいに高いな、回復力。

 俺はゲムデウスの攻撃を避けながら状況の整理をする。

 今、この場にいる仮面ライダー全員で先ほどのように一斉攻撃を仕掛けようと、多分・・・・・・いや、確実に倒しきれない。

 超ゲムデウスは通常体以上のHPを誇っている。

 通常体ゲムデウスのHPが確かライダーゲージ50本分。

 それに対し、超ゲムデウスはライダーゲージ999本分という鬼畜さ。

 いや、確実に削り切れないだろう。

 仮面ライダーのラスボスあるあるだが、まず、基本スペックがおかしい。

 ゴーストに登場した“グレートアイザー”もそうだったが、平成二期の中でも飛び抜けているラスボスは“ゲムデウス”と“エボルト”だろう。

 アレはそもそのもスペックが勝てるようになっていない。

 ガチのバケモノだ。

 そして、それが目の前にいる。

 何? この極端な死刑宣告。

 勝てる気が一切しないよ・・・・・・。

 俺がそう思いながらも攻撃を仕掛けていると、

 

「てんこ盛りだぜ!!」

 

《クライマックスフォーム》

 

 そんな声と音声が聞こえてきた。

 てんこ盛り来たぁぁぁ!!

 うわっ、ヤッベエ。

 滅茶苦茶懐かしいんだけど。

 俺はそう思いながらフルボトルバスターにボトルを装填する。

 

《ロケット! ジェット! ガトリング! タンク! アルティメットマッチでーす!》

 

 フルボトルバスターの銃口にエネルギーが収束する。

 そして、

 

《アルティメットマッチブレイク!!》

 

 フルボトルバスターから強大なエネルギーがゲムデウス目掛けて発射された。

 それはゲムデウスの顔面に直撃し、大きな爆発を起こした。

 だが、それでもゲムデウスには決定打にはならなかった。

 それだけじゃない、ゲムデウスの全身にある目から強力な破壊光線が全体に放たれた。

 その破壊光線が俺たちを襲う。

 エネルギーの余波によって、辺りの火災が全て掻き消えた。

 ウグェエ。

 体中に鋭い痛みが走ってる・・・・・・。

 吹き飛ばされた俺たちはフラフラと立ち上がる。

 

「戦兎、大丈夫か・・・・・・?」

 

「なんとか。・・・それより、万丈が・・・・・・」

 

 戦兎が指差した方を見ると、万丈がいた。

 ・・・・・・瓦礫に頭から突っ込んで上半身埋まった状態で。

 さらに、その隣では電王も同じ状態になっていた。

 何でだよ・・・・・・。

 俺はそう思いながら二人を引っこ抜くために走った。

 

 

 

 

 

 

 ミキはあっちに行ったりこっちに行ったり走り続けているが、未だに迷子である。

 空を飛ぶことも考えたが、今、この状況で飛んだら確実にプロヒーローに目をつけられるため、走るしかない。

 

(まったく。面倒くさいことになったもんだ。・・・・・・しっかし、この子(わたし)はもう少し運動をした方が良い。少し走っただけでもバテてしまったよ)

 

 心の中でそんな悪態をつきながらも色々なところを見て回っていると、いきなりミキの視界がぼやけだした。

 体にも力が入らなくなり、壁に寄りかかってしまった。

 

(これは・・・・・・奴隷(スレイヴ)モードが解けかかってる。このタイミングで・・・・・・。まだ、ご主人様(マスター)の元に辿り着いていないってのに・・・・・・)

 

 ミキの思考がどんどんと鈍っていく。

 

(次、いつ会えるか・・・わからないけど・・・・・・。また、会おうね。■■くん)

 

 ミキは意識が途切れる最後、少年の名前を呼んだ。

 機鰐龍兎の“前世の名前”を。

 

 

 

 

 

 

 超ゲムデウス登場15分前。

 何百体もの脳無が街を埋め尽くしていた

 脳無は人を襲い、嬲り、殺し、好き勝手暴れていた。

 そこに、腰まである青く長い髪を靡かせながら一人の“転生者”が現れた。

 その転生者は『ファウスト』の幹部であった。

 転生者の姿を確認した脳無たちは一斉に攻撃を仕掛けた。

 だが、その攻撃は転生者に当たる寸前で掻き消え、何も起こさなかった。

 そして、

 

「喰らい尽くせ! 暴食之王(ベルゼビュート)!!」

 

 転生者がそう言うと同時に何百体もいた脳無が全て、まるで煙だったかのように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経過しただろうか。

 何度全力で攻撃をぶつけようと、一斉攻撃をしようと、一切のダメージを与えられていない。

 俺たちに目に見えて疲労が出てくると、ゲムデウスがいきなり口を開いた。

 

「無駄な抵抗よ。生きとし生けるものよ。あらゆる命を破壊しよう!!」

 

 と。

 喋れたのかよ・・・・・・。

 いや、確かに劇中でも言葉を発しているシーンはあったけど、あまりにもそのシーンが少なすぎる。

 ゲムデウス(マキナ)は滅茶苦茶喋ってたけど・・・・・・。

 そんなことを思っていると、

 

「命を破壊? 出来るモノならやってみろよ。・・・・・・だが、その前に、俺がオマエを破壊するがな」

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

「ハァアア!!」

 

 ゲムデウスに直撃する『ディメンションキック』。

 だが、ゲムデウスは右手(龍の顎)でディケイドを掴み、大回転して勢いをつけ、思い切り地面に叩きつけた。

 ズドォォオオオオンという大きな音と共に土煙が舞い上がり、地面が揺れた。

 ・・・・・・あれ? 生きてるよね?

 死なれたら洒落にならんぞ。

 そう思っていると、土煙の中から、

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・BLAST(ブラスト)

 

 瞬間、土煙の中から強力な光弾が放たれる。

 それがゲムデウスの目に当たった。

 だが、それでも一時の目くらましにしからならなかった。

 俺は小さく舌打ちをして“あのボトル”を取り出し、戦兎に投げ渡す。

 

「戦兎! 使え!!」

 

「っ! これは・・・・・・分かった!」

 

 戦兎は俺の渡したボトルを起動させた。

 

《グレート! オールイエイ!》

 

「さぁ、実験を始めようか」

 

 戦兎はそう言うと同時にジーニアスボトルをベルトに差し込む。

 

《ジーニアス! イエイ! イエイ! イエイ! イエイ!》

 

 レバーが回されると同時に“プラントライドビルダーGN”が現れる。

 そして、

 

《Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《完全無欠のボトルヤロー! ビルドジーニアス! スゲーイ! モノスゲーイ!》

 

 黄金のビルドマークが戦兎に重なると同時に白いスーツが出現し、コンベア上を流れる無数のフルボトルがスーツに刺さり戦兎は、『仮面ライダービルド ジーニアスフォーム』への変身を完了させる。

 うぉお。

 滅茶苦茶格好いいんだけど。

 戦兎はレバーを一回だけ回す。

 

《ワンサイド! Ready Go!》

 

 戦兎の右腕にボトルのエネルギーが収束する。

 

《ジーニアスアタック!!》

 

 瞬間、戦兎は飛び上がり、ゲムデウスを殴り飛ばした。

 だが、それでも大きなダメージには、なっていないようだ。

 俺と万丈もベルトのレバーを回す。

 

《Ready Go!》

 

 俺と万丈は同時に飛び上がる。

 そして、

 

《ラビットラビットフィニッシュ!!》

 

《ボルケニックフィニッシュ!!》

 

 全力でライダーキックを叩き込んだ。

 なのに・・・・・・、

 

「ヌゥン!!」

 

「グアァッ!!」

 

 ゲムデウスには届かない。

 俺たちが全力で与えた攻撃によるダメージもみるみる回復していく。

 アホじゃねえの?

 さすがに強すぎると思うよ。

 あのクロノスだってもう少し簡単に攻略できると思うぞ。

 そう思いながらゲムデウスをを観察していると、回復スピードが遅くなっている事に気付いた。

 そうか。

 アレは仮面ライダークロニクル産のバグスターであって、仮面ライダークロニクルに登場する“ゲムデウス”とは違うのかもしれない。

 そうだ、何で気が付かなかった。

 ゲムデウスは確かに他人に感染するウイルスだが、実体化するために生物の体を使う事はしないはずだ。

 それをするのは、完全体になろうとしているバグスターだけではないか。

 つまり、目の前にいるゲムデウスは完全な、完璧な訳ではない。

 そうだとしたら、もし、今現在も無理をしているだけだとしたら。

 そこに、その一瞬の隙間に、

 

 勝機はある。

 

 俺はフルボトルバスターを取り出し、ゲムデウスに向かって超跳する。

 このゲムデウスが感染した脳無がどういったストレスをもって、どうして発症したかは知らない。

 どんな人間で、どんな人生を歩んで、どうして脳無なんかになったかも知らない。

 だから、同情もしないし、どうなろうが知ったこっちゃない。

 だけど、礼は言っておこう。

 お前のおかげでゲムデウスに普通、存在しない筈の弱点が出来た。

 

「皆!! 一斉攻撃後に今できる最高威力の必殺技を!!」

 

「っ! わかった。何か手があるんだな!」

 

「よく分かんねえけど、わかった!」

 

「最高威力・・・・・・。わかった」

 

「なるほど、そういう事か!」

 

「俺の攻撃が必要って事だな!」

 

「なるほど。・・・・・・だいたいわかった」

 

 何名かよく分かっていない方がいるぅ。

 俺はそう思いながらフルボトルバスターにボトルを装填する。

 

《ラビット! ドラゴン! ウルフ! フェニックス! アルティメットマッチでーす! アルティメットマッチブレイク!!》

 

《ワンサイド! 逆サイド! Ready Go! ジーニアスブレイク!》

 

《ボルケニックナックル! アチャー!》

 

《スペード2・スペード3・スペード4・スペード5・スペード6・・・・・・ストレートフラッシュ》

 

《ソイヤァ! キワミオーレ!!》

 

FULL CHARGE(フルチャージ)

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・SLASH(スラッシュ)

 

 俺たちはゲムデウスに全力の一撃を与えた。

 戦兎はジーニアスブレイクによる蹴りを、万丈はクローズマグマナックルによるパンチを、ブレイドは重醒銃キングラウザーで斬りつけ、鎧武はバナスピアーと影松による刺し攻撃、電王はデンガッシャーの刃先にエネルギーを溜めた一撃、ディケイドはライドブッカー(ソードモード)での斬撃攻撃。

 そして、俺はフルボトルバスターを一気に振り下ろす一撃。

 一度にぶつけられた高破壊力の攻撃。

 それを喰らったゲムデウスは大きな叫び声を上げた。

 そして、その体は目に見えてその形を保てなくなっていた。

 つまり、あと一歩だ。

 俺たちは全身全霊で必殺技を放つ。

 

《Ready Go! ラビットラビットフィニッシュ!!》

 

《ワンサイド! 逆サイド! オールサイド! Ready Go! ジーニアスフィニッシュ!!》

 

《Ready Go! ボルケニックフィニッシュ!!》

 

《スペード10・スペードJ・スペードQ・スペードK・スペードA・・・・・・ロイヤルストレートフラッシュ》

 

《ソイヤァ! キワミスパーキング!》

 

Charge And Up(チャージアンドアップ)

 

FINAL KAMEN ATTACK FORM RIDE(ファイナルカメンアタックフォームライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

 俺たちは一斉に飛び上がり、全力全身全霊のライダーキックを繰り出す。

 この一斉攻撃の威力はあまりにも凄まじく、辺りにエネルギーの嵐が吹き荒れた。

 そして、ゲムデウスはその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ゲムデウスを撃破してすぐ、仮面ライダーたちは俺の目の前から去って行った。

 戦兎と万丈とは多少の会話をしたが、夜が明ける前に二人も去って行った。

 そして、壊れ、崩れ去った瓦礫の山を歩いていると、偶然形を保っていたTVからあのセリフが聞こえてきた。

 

『次は・・・君だ』

 

 ・・・・・・ここから、時代は動いていく。

 俺はそう思いながら朝焼けの下を歩いて行った。




ディケイドの必殺技を“ファイナルカメンアタックフォームライド”にしたのは、私の個人的好みと気分で決めました。
もしも、不快になられた方がいたらごめんなさい。


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35話 『時代は移り変わる』

今回、いつもより短めになっています。

そして、遅くなりましたがお気に入り230件ありがとうございますm(_ _)m


 一夜明け、世間は騒然としていた。

 神野区が8割方が崩壊。

 知らされたオールマイトの正体。

 凶悪(ヴィラン)、“オール・フォー・ワン”についてのよく分からない考察。

 謎の異形型(ヴィラン)

 そして、謎の戦士“仮面ライダー”。

 ・・・・・・ゲムデウスは異形型(ヴィラン)じゃなくて、ウイルスだよ。

 後で馬鹿なメディアに情報提供してやろう。

 そんなことを思いながらトボトボと歩いていると、見知った顔に会った。

 

「よう」

 

「よお」

 

「ボロボロだな、ユウ」

 

「お前もだろ、龍兎。・・・・・・基地でみんな待ってるぞ。家に帰る前にちょっと寄ってけよ」

 

「・・・・・・わかった」

 

 俺がそう言うと、ユウは表情を和らげ、カフェの方に足を向ける。

 その後にゆっくりと付いて行く。

 俺は死なない限り、怪我程度ならすぐに回復できるが、ユウは違う。

 その歩き方を見て分かる事、それは、ユウは骨が何本か折れてしまっているという事だ。

 それだけ、無茶したのだろう。

 ホント、悪いことをした。

 俺が襲撃の際に戦った転生者脳無に手こずったせいで爆豪誘拐に間に合わず、それどころか巻き込まれた。

 そのせいで友達にケガをさせてしまった。

 こりゃ、反省しねえとな。

 

「ごめんな、無茶させて」

 

「良いんだよ。久しぶりに本気出せたしな」

 

 

 

 

 

 

 カフェに向かう途中、ユウに謝られた。

 なんでも、渡したビルドドライバーが壊されてしまったらしい。

 そんな事かと笑い飛ばしてやった。

 ビルドドライバーならまた作ってやるのに。

 ユウの話を聞くと、紅や龍玉、その部下たちも頑張ってくれたらしい。

 しかも、部下たちの目撃情報によると猿伸のヤツも戦闘に参加していたらしく、脳無を何体か倒していたらしい。

 ・・・・・・アイツ、何でそんなことしてるんだ?

 まあ、それは後々考えるとしよう。

 カフェには[close]の看板が掛かっていた。

 ・・・・・・当たり前か。

 まだ夜が明けたばかりなのだ。

 それに、みんな、一晩中戦ってくれていたんだ。

 それを考えたら、もっとゆっくりしていて欲しいものだ。

 カフェの扉を開けると、中は静まり返っていた。

 俺とユウはトイレに向かい、隠し扉から地下の基地へと降りていく。

 基地につくと、皆横になってぐで~っとしていた。

 だが、紅と、龍玉だけはピンピンとしていた。

 

「お疲れ~、龍兎ちゃん。色々と大変だったらしいね~。ゲロなんとかとの戦い」

 

「ゲムデウスな。ゲロじゃねえよ」

 

『ゲロ』と付くなら、“ゲムデウスクロノス”の略である“ゲロノス”(ファンでも少数な呼び方)だろう。

 ってか、“ゲムデウス”の名前の中に“ロ”は存在しないだろう。

 どこから出てきたんだ、“ロ”。

 

「龍玉は・・・・・・髪、ボサボサじゃねえか」

 

(スーパー)サイヤ人、滅茶苦茶髪に負担掛かる・・・・・・」

 

「そ、そうか」

 

「サイヤ人は良いよな。生まれつき髪型が固定で。手入れの必要なさそうだし」

 

「・・・・・・そうだな」

 

 何か色々あったようだ。

 ってか、コイツの個性は『孫悟空』だろう。

 髪とかには反映されてないのかよ。

 っと、そんなくだらない事を考えている暇はない。

 

「“治実(ちみ) 癒香(ゆか)”はいるか? ユウのケガを治してほしいんだが」

 

 俺がそう言うと奥から三つ編みメガネの少女がトテトテとこちらに歩いて来た。

 少女の名前は呼んだばかりだが一応、“治実(ちみ) 癒香(ゆか)”。

 個性:『祈りの治癒』。

 他人のケガを治すことのできる個性だ。

 ただ、条件として、

 

 1.相手に触れている事

 2.回復する人物に十分な体力がある事

 3.ケガをしてから48時間以内である事

 

 他にも細かい条件がいくつかあるが、大体こんなところだろう。

 治実と仕原がユウを担架に乗せて奥へと運んでいった。

 ユウ自身は担架はさすがに大げさだ、と言っていたが女性二人はその言葉に耳を貸さず、さっさと行ってしまった。

 俺がそれを見送ったと同時に後ろから声を掛けられた。

 聞いたことのある声。

 振り向くとそこには神姫がいた。

 

「よお、お前も頑張ったんだってな」

 

奴隷(スレイヴ)モードだったのもあってよく覚えて無いんだけどね・・・・・・」

 

 つまり、ミキの奴が頑張ってくれたって事か。

 今度、アイツに会えたらお礼でも言っておこう。

 

「これからどうするんだ?」

 

「ん? 龍兎と一緒に帰ろうと思って待ってたから、龍兎がどうするかによって変わるよ」

 

「・・・・・・・・・そうか」

 

 俺は少し目を瞑ってからその場にいる全員に聞こえるように大きな声で言う。

 

「全員、本当にご苦労だった!! これからも戦いは激化していく、そのため、なるべく無茶はしないように休みを取ってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 暗い路地を一人の少年がトボトボと歩く。

 その体はまるでバグが生じたゲームキャラのようにノイズが発生していた。

 専門的な知識を持つ者が見たら、『ゲーム病を発症している』と判断できただろう。

 だが、超常が発生してから“バグスターウイルス感染症”を発症した人間はおらず、大きな病院に勤めている医者でも、知識として持っていない者すらいる始末だ。

 その少年は黒い負のオーラを体中から放ちながらひたすら歩く。

 少年の左頬には大きな火傷跡が痛々しく残っており、その火傷跡はまるで“人の手の形”に見える。

 路地には人通りはない。

 いや、ある方がおかしいのだ。

 ここ、神野区は凶悪な(ヴィラン)のせいでほぼ崩壊し、立ち入り禁止になっているのだ。

 そこの路地を歩いている人間が普通なはずがないだろう。

 少年は電子媒体の電源を入れ、“ある少年”の写真を画面に映す。

 そして、

 

「君は今回、人を救った。・・・・・・世間は、君たちを、ヒーローだと、言っているけど、・・・・・・救えなかった人間だっているんだ。・・・・・・特に、」

 

 少年は不気味な笑みを浮かべながら言う。

 

「機鰐龍兎。君は誰も、救えないんだよ」

 

 黒い路地に狂った笑いが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 豪華客船。

 一般市民なら「こんな船に乗って世界一周旅行に行きたい」と呑気な事を考えるだろう。

 だが、その船内の一室で、猿伸賊王は土下座をしていた。

 目の前にいる人物は志井逢奈。

 猿伸賊王の部下なのだが、頭が上がらない人物でもある。

 土下座をさせられている理由は、『パンドラ』のリーダーでありながら神野区での戦いに勝手に参加し、前線で戦っていた為である。

 そもそも、猿伸賊王本人が「しばらく様子を見る」と指示を出し、『パンドラ』はなるべく表舞台になるべく出ないように行動をしていたのに、言った本人がそれを最初に破ったのだ。

 怒られるのもしょうがないと言えるだろう。

 それに、部下に何も言わず勝手に神野区に行っていたのだ。

 部下だろうがさすがにキレる時はキレる。

 だから、猿伸賊王はその怒りを鎮める為にただひたすら土下座をしていたのだ。

 その後、丸一日、実に24時間、一切の休みなく、部下全員に土下座した状態でネチネチと責められたのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 “血化(けつか) 石蛇(せきじゃ)”という少年は新聞紙を広げ、そこに書かれている記事を見て顔を歪ませる。

 少年は『ベアーズ』のリーダーである。

 オール・フォー・ワンが暴れすぎたせいで、ただでさえ影の薄かった組織なのに、もはや見向き去れなくなった悲しい組織のリーダーである。

 新聞にはオールマイトの引退と、謎のバケモノと戦った“仮面ライダー(ヒーロー)”についてが取り上げられていた。

 それが強く、濃いせいで『ベアーズ』なんて忘れ去られてしまっていた。

 だから、血化石竜は部下に命じる。

 

「あの計画を実行するぞ。準備をしておけ」

 

 と。

 命令を受けた秘書、“黒猫(くろねこ) 暗矢(あんや)”は計画開始の下準備を始めだした。

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると、泣き眼の母さんに抱き着かれた。

 部屋の奥からは目の下にクマを作った父さんがのっそりと這い出てきた。

 ・・・・・・・・・やっぱり、かなり心配させてしまったみたいだ。

 俺はそう思いながら父さんと母さんに、ただひたすら「ごめん」と言い続けた。

 そして、落ち着いた二人に転生者であることは隠して俺の立ち位置―――『ファウスト』について等―――を話した。

 二人は驚いていた。

 当たり前か。

 息子が世間を騒がしている組織のリーダーで、その組織が(ヴィラン)用のスパイ組織だと言われ、驚かない人間はいないだろう。

 でも、二人は理解してくれた。

 だから、俺は今回の件で生徒を守る為に寮生活になる事も話した。

 二人は、納得してくれた。

 そして、俺が無事に帰れたことによる生還パーティーと、しばらく分かれることになる一時の別れパーティーをすることになった。

 父さんと母さんは涙を流しながらも俺の成長を喜んでくれた。

 そして、数日後、家庭訪問が行われた。

 その家庭訪問によって、俺は正式に雄英の寮に入ることが決まった。

 




オール・フォー・ワン 編、これにて終了。


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仮免 編
36話 『部屋』


仮免 編スタート。


 八月中旬。

 俺は、家を出た。

 雄英敷地内、校舎から徒歩五分にある築三日の寮。

 “ハイツアライアンス”

 ここが、俺たちの新しい家になる。

 全員がそこの前に集まる前に相澤先生が待っていた。

 

「とりあえず1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」

 

 相澤先生の言葉に各々が言葉を発する。

 

「皆、許可降りたんだな」

 

「私は苦戦したよ・・・」

 

「フツーそうだよね・・・」

 

「二人はガスで直接被害遭ったもんね」

 

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

 

「うん」

 

 原作通りの会話だな。

 まあ、ここから一波乱あるんだけどな。

 

「・・・・・・・・・俺もびっくりさ。まァ・・・色々あんだろうよ。さて・・・! これから寮について説明をするが、その前に一つ。当面は合宿で取る予定だった“仮免”取得に向けて動いていく」

 

「そういやあったな、そんな話!!」

 

「色々起きすぎて頭から抜けてたわ・・・」

 

「俺含む『ファウスト』面々は“準仮免”っていう特別な免許持ってるから皆よりは自由度あるぜ」

 

「「「「は!? ズルい!!!」」」」

 

「ズルくて結構コケコッコー」

 

 俺がふざけながらそんな事を言っていると、冷静な口調で相澤先生が、

 

「大事な話だ。いいか。轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この五人はあの晩あの場所(・・・・・・・)へ爆豪救出に出向いた」

 

 瞬間、皆の表情が険しくなる。

 神姫だけがぽけ~っと飛んでいるチョウチョを眺めている。

 

「その様子だと行く素振りは皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせて貰うよ。オールマイトの引退が無けりゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠・機鰐・白神以外全員除籍処分にしてる」

 

 あ、滅茶苦茶戦ってた俺や神姫は除籍処分対象じゃないんだ。

 なんか逆に申し訳ないな、皆に。

 

「彼の引退によってしばらくは混乱が続く・・・。敵連合(ヴィランれんごう)の出方が読めない以上、今、雄英から人を追い出すわけにはいかないんだ。行った5人はもちろん、把握しながら止められなかった12人も理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切った事には変わらない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上! さっ! 中に入るぞ。元気に行こう」

 

 回れ右をして話を切り上げる相澤先生。

 皆は、暗くなっていた・・・・・・。

 その後の展開は原作通りだった。

 ただ、皆から神野区に現れた数人の“仮面ライダー”について聞かれたのは予想外だった。

 まあ、後で話すと言って強引に質問を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 中に入ってすぐ、相澤先生の説明が始まった。

 

「1棟1クラス。右が女子、棟左が男子棟と分かれている。ただし、一階は共有スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」

 

 中を見た瞬間、皆の興奮度が一気にマックスまで高まった。

 

「豪邸やないかい」

 

 麗日さんに関してはあまりの広さに倒れてしまった。

 しっかし、どんな高予算で造ったんだろう?

 

「聞き間違いかな・・・? 風呂・洗濯が共有スペース? 夢か?」

 

「男女別だ。おまえいい加減にしとけよ?」

 

「はい」

 

 さすが峰田。

 変態過ぎて何も言えねぇ。

 女子の安全の為にこの天っっ才・物理学者の頭脳を使って何か発明しておくか。

 まあ、それは後々やっていくか。

 俺たちはエレベーターで移動する。

 

「部屋は二階から。1フロアに男女各4部屋の5階建て。一人一部屋。エアコン、トイレ、冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

「ベランダもある、すごい」

 

「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね・・・」

 

「豪邸やないかい」

 

 また倒れる麗日さん。

 

「部屋割りはこちらで決めた通り。各自、事前に送ってもらった荷物が部屋に入っているからとりあえず今日は部屋を作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!」

 

「「「「「「「「「ハイ先生!!!」」」」」」」」」

 

 こうして俺たちは自室の模様替えに入った。

 

 

 

 

 

 

 部屋割りとしては、

 

 男子棟2階

[峰田]

[緑谷]

[青山]

[常闇]

 男子棟3階

[口田]

[上鳴]

[飯田]

[尾白]

 男子棟4階

[障子]

[切島]

[爆豪]

[砂藤]

 男子棟5階

[機鰐]

[  ]

[轟]

[瀬呂]

 

 女子棟2階(全室空室)

 女子棟3階

[耳郎]

[  ]

[  ]

[葉隠]

女子棟4階

[麗日]

[  ]

[  ]

[芦戸]

 女子棟5階

[八百万]

[白神]

[  ]

[蛙吹]

 

 となっている。

 

 

 

 

 

 

 さて、と。

 俺はまず送っておいた本棚の組み立てに入る。

 家にある本棚はそのまま置いて来て、この際だと新しいものを買っておいた。

 本棚の組み立てが終わったら、本用と資料用に分けて、整理を始める。

 それが終わると、備え付けの勉強机の“改造”に入る。

 フッヘヘヘヘヘヘヘヘヘ(不気味な笑み)。

 

 

 

 

 

 

 ATTOIUMANI(アットイウマニ) YORU(ヨル)―――――・・・・・・

 

 俺たちは一階の共有スペースにあるソファーに腰掛ける。

 峰田は座るというより寝っ転が我っているに近いが・・・・・・まあ、気にしないでおこう。

 

「いやぁ、経緯はアレだが・・・共同生活ってワクワクすんな」

 

「共同生活・・・これも協調性や規律を育む為の訓練・・・!」

 

「キバるなあ、委員長」

 

 気張るっているか、堅っ苦しい気がする。

 まあ、飯田らしくていいんだけど。

 そんなことを思いながらジュースを一飲みすると緑谷が、

 

「そういえば、機鰐くん。右足・・・・・・どうしたの?」

 

 とオドオドしながら聞いてきた。

 

「そういえば、右足千切れたって聞いたぞ」

 

「俺たちは目の前で千切れるところを生で見たから大丈夫かと心配だったんだぞ。・・・・・・それで、なんで千切れたはずの足がしっかりあるんだ?」

 

「あん? 千切れたとかどうでもよくね? ホラ、今ちゃんとあるんだし」

 

「「「「「「「どうでも良くはないと思うよ!!」」」」」」」

 

 一斉にツッコまれた。

 いや、どうでもいいだろう。

 あるんだから。

 まあ、一応仕掛けぐらいは話しておくか。

 

「んじゃあ、タネも仕掛けも無いマジックと行こう」

 

 俺はそう言ってからナイフで左腕に切り傷をつける。

 痛ェ。

 力加減ミスった。

 俺はそんな心境を表情に出すことなく、傷口に意識を集中させる。

 すると、傷口がジャラジャラとセルメダルに変わり、メダルの波が収まった時には、腕の傷はすっかりと無くなっていた。

 

「こういうことだ」

 

「「「「「「「「「どういうことなの!!!!??」」」」」」」」」

 

 なんか滅茶苦茶驚かれた。

 俺はしょうがないとため息を吐いて俺の体についての説明をした。

 仮面ライダーの中には人間だと変身できないヤツがいる事もついでに話した。

 結果、

 

「テレポートできるって事は、女子部屋に侵入し放題だよな・・・・・・」

 

「峰田、変な事に使おうと考えてんなら殺すぞ」

 

 俺は変な顔をしてよだれを垂らしている峰田に呆れながらそう言う。

 コイツの脳みそをマトモなモノに改造する装置でも作ろうかな・・・・・・。

 俺がそんなことを思っていると、模様替えを終わらせた女子たちが来た。

 

「男子、部屋出来たー?」

 

「うん。今、くつろぎ中」

 

「あのね! 今、話しててね! 提案なんだけど! お部屋披露会、しませんか!?」

 

 瞬間、男子数名の顔色が曇った。

 そして、制止する緑谷を無視して女子たちは緑谷の部屋に乗り込んだ。

 勿論、原作通りオールマイトだらけのオタク部屋だ。

 その後向かったのは常闇くんの部屋だ。

 黒いし暗いし中二病感ハンパないし・・・・・・、どこで買ってるんだろう、こういったアイテム。

 青山くんの部屋は、常闇くんと正反対でキラキラギラギラしていて目に悪かった。

 峰田は総スルー。

 尾白くんの部屋は普通、圧倒的普通、特徴なんてもの無く、シンプルイズベストと言えるだろう。

 飯田の部屋は本棚に入りきらないほど本が積みあがっていた。本棚の反対はメガネ棚。

 ・・・・・・何と言えばいいのだろう、うん。

 

「飯田、本棚には耐震対策をしているか?」

 

「ん? いや、していないが。何故だ?」

 

「ベッドの位置。寝ているときに地震でも起きたら本棚が倒れてくる、もしくは積みあがった本が崩れて生き埋めになる可能性がある。ハッキリ言って危険だ」

 

「はっ!! しまった、俺としたことが天災の事を失念していた! ありがとう、機鰐くん!!」

 

「いや、地震大国日本何だから耐震対策を考えるのは普通だろう・・・・・・」

 

 気付いてよかった。

 もしもマジで地震が起きたらドえらい事になってたよ。

 後で本棚用の耐震装置でも開発してプレゼントしてやるか。

 っと、部屋のお披露目会の続きと行こう。

 上鳴くんの部屋はごちゃごちゃしていて落ち着きがない部屋だった。統一感があるようでない、落ち着きのない部屋だった。

 口田くんの部屋は可愛かった。スッキリとしたシンプルな部屋に動物の人形とペットのウサギ。イイネ。

 っと、ここまで見てきて男子数名に不満が出始めた。

 

「釈然としねえ」

 

「ああ・・・、奇遇だね。俺もしないんだ、釈然・・・」

 

「そうだな」

 

「僕も☆」

 

 青山くん、お前の部屋に対する評価は当然のモノだと思うぞ。

 っと、峰田が真剣な表情で何か言い出した。

 

「男子だけが言われっぱなしってのはぁ変だよなァ? 『大会』っつったよな? なら当然! 女子の部屋も見て決めるべきじゃねぇのか? 誰がクラス一のインテリアセンスか全員で決めるべきじゃねえのか!!?」

 

「いいじゃん」

 

「えっ」

 

 ・・・・・・今さら気付いたけど、この流れに乗ってるって事は俺の部屋も見せなきゃいけないって事だよな。

 あ~~~。

 面倒くさい。

 俺はそう思いながらもその流れに逆らうことなく流されて行った。

 切島くんの部屋は見た感じから暑苦しかった。

 障子くんの部屋は何もなかった。ただ、気になるところがあるんだよね。備え付けの机とベッド、どこにやったの?

 瀬呂くんの部屋は・・・・・・何処かの民族かな?

 そして、ついに俺の番になった。

 

「「「「「普通!!!」」」」」

 

 そうだよ。

 飾りっ気のないごく普通の部屋だよ。

 俺がそれでさっさと切り上げようとすると・・・・・・。

 

「ねえこのスイッチなに?」

 

 と葉隠さん。

 俺が制止する前にスイッチは押されてしまった。

 瞬間、机の形が大きく変化しだす。

 そして、メカメカしい造形へと変化した。

 

「こ、これ・・・どうなってるの?」

 

「発明机だ。これでも一応発明家としての面も持っているんでね」

 

「へぇ~。何かゴテゴテしてるけど凄い」

 

 ハイハイ、そうですか。

 俺はボタンを押して机を元通りにし、皆を部屋から押し出した。

 そして、言葉巧みに轟くんの部屋へと皆の意識を向けさせた。

 轟くんの部屋は和室へとリフォームされていた。頑張ったってレベルを超えてるよな、コレ。

 砂藤くんの部屋はパッと見は普通だった。だが、原作通り皆、ケーキの虜になっていた。ただ、女子がサラッと言ったセリフ。

 

Sweets(スイーツ) Café(カフェ)のケーキといい勝負だね」

 

 というモノは聞き逃さなかった。

 ・・・・・・そういえば、女子たちって“あの実戦訓練”の後から、紅と仲良いんだよな。

 その関係でユウのカフェにでも行ったのかな?

 よくわからんけど。

 っと、次は女子部屋か。

 耳郎さんの部屋は楽器が大量にあった。普通に格好いいな。だが、上鳴くんと青山くんはここぞとばかりに貶していたが、しっかりお仕置きされていた。

 葉隠さんの部屋は普通の女子っぽい部屋だった。

 芦戸さんと麗日さんも普通の女子っぽい部屋。

 そして、神姫の番。

 神姫の部屋は動物の人形で埋め尽くされていた。

 ・・・・・・・・・昔っからこうなんだよな。

 前なんか、お小遣い全部使ってUFOキャッチャー内の人形を全部掻っ攫ったからな。

 最後は八百万さんの部屋だ。・・・・・・お嬢様すぎないかな?

 そして、投票の結果、原作通り砂藤が優勝した。

 ケーキはズルい気がする。

 まあ、いいけど。

 

 

 

 

 

 

 こうして、夜が明け、翌日。

 難しそうな顔で相澤先生が話を始める。

 

「昨日話した通り、まずは“仮免”取得が当面の目標だ。ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然、取得の為の試験はとても厳しい。仮免といえどその合格率は例年5割を切る。・・・・・・そこで今日から君らには一人最低一つ・・・・・・」

 

 相澤先生がそこまで言ったところで扉が開かれ、ミッドナイト、エクトプラズム、セメントスが入って来た。

 

「必殺技を作ってもらう!!!」

 

「「「「「「「「学校ぽくってそれでいて、ヒーローっぽいのキタァア!!!!!」」」」」」」」

 

 さて、困った事になったぞ。

 俺はそう思いながらも流れを見ることにした。

 




次回、機鰐龍兎は必殺技を作れるのか!?


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37話 『必殺技(ライダーキック)

今回、ただただ必殺技を出し続けるだけの話となっています。
面白みはありません。
ごめんなさいm(_ _)m


「「「「「「「「学校ぽくってそれでいて、ヒーローっぽいのキタァア!!!!!」」」」」」」」

 

 うるさい。

 盛り上がるのはいいけどもう少し静かにしてくれ。

 

「必殺! コレ、スナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

 

「その身に沁みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押しつけるか!」

 

「技は己を象徴する! 今日日(きょうび)、必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γ(ガンマ)へ集合だ」

 

 ・・・・・・・・・さて、困ったことになった。

 俺はそう思いながら着替える。

 

 

 

 

 

 

 体育館γ(ガンマ)。通称――――・・・・・・

 

トレーニングの()台所()ランド()。略してTDL!!!」

 

 マジで無理矢理感ハンパないな。

 もう少しいい名前なかったのかな?

 そんなことを思いながら辺りを見回しているとセメントスが、

 

「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」

 

 そんな説明が終わると同時に飯田がビシッと手を上げ、

 

「質問をお許しください! 何故、仮免許の取得に必殺技が必要なのか意図をお聞かせ願います!!」

 

「順を追って話すよ。落ち着け」

 

 相澤先生は少し間を開けてから話し始めた。

 

「ヒーローとは事件・事故・天災・人災・・・あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」

 

「情報力、判断力、機動力、戦闘力。他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など多くの敵性を毎年違う試験内容で試される。その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし! 技の有無は合否に大きく影響する」

 

「状況に左右されることなく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」

 

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハ無イ。例エバ・・・飯田クンノ“レシプロバースト”。一時的ナ超速移動。ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」

 

「アレ必殺技で良いのか・・・・・・!!」

 

 エクトプラズムの言葉に嬉しそうにジーンとなっている飯田。

 ・・・・・・自覚なかったのかよ。

 その隣にいた砂藤くんが、

 

「なる程・・・自分の中に『これさえやれば有利・勝てる』って型をつくろうって話か」

 

 いや、だから必殺技って言うんだろう。

 俺はそう思いながらも済ました表情で成り行きを見守る。

 

「そ! 先日大活躍したシンリンカムイの『ウルシ鎖牢』なんか模範的な必殺技よ。わかりやすいよね」

 

「中断されてしまった合宿での『“個性”伸ばし』は・・・・・・この必殺技を作り上げるプロセスだった。つまりこれから後期終了まで・・・残り十日余りの夏休みは“個性”を伸ばしつつ必殺技を生み出す――――・・・・・・圧縮訓練となる!!」

 

 そんな説明が終わると同時に訓練ステージが出来上がった。

 

「尚、“個性”の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラ精神で乗り越えろ。準備はいいか?」

 

「「「「「「「「―――ワクワクしてきたぁ!!!」」」」」」」」

 

 さてさてさ~て。

 マジで困ったなァ。

 

 

 

 

 

 

 皆が特訓をしている中、俺は腕を組んでひたすら考える。

 と、

 

「何ヌボーットシテイル?」

 

 緑谷と同時に蹴られた。

 痛ェ。

 

「あっと・・・。その必殺技なんですけど・・・僕、腕に爆弾が出来てしまってあまり無理が出来なくて・・・・・・。正直、必殺技のビジョンが全然見えないんです・・・・・・」

 

「・・・フム。確カニ君ノ“個性”ハアル意味安定行動トハ最モ遠イ。スタイルガマダ定マランノデアレバ今日ハ“個性”伸バシニ専念シヨウ。・・・・・・デ、機鰐ノ方ハ?」

 

「必殺技ってのが難しいんですよ」

 

「・・・・・・? ト言ウト?」

 

「仮面ライダーには元々“必殺技”があります。そして、俺は変身した仮面ライダーに依存する“個性”なので、新しい必殺技を作るという事が難しいんです」

 

「ソウカ。・・・・・・トリアエズ、我ノ分身ニ“仮面ライダー”ノ必殺技ヲ使ッテミロ。ソレカラドウスルノカ考エテイコウ」

 

「了解。・・・・・・ああ、そうだ。緑谷、お前もちょっと見とけ。何かヒントがあるかもよ」

 

 俺はそう言って腰辺りに手をやる。

 すると、腰にアークルが現れる。

 ・・・・・・・・・転生してからはコレが初変身になるな。

 俺はそう思いながら宣言する。

 

「変身!!」

 

 瞬間、俺の体が異形の戦士へと変わる。

 そう、『仮面ライダークウガ マイティフォーム』だ。

 俺の目の前には分身エクトプラズム。

 

「サァ、来イ!」

 

「はい!!」

 

 俺は両手を開き、腰を落とした構えを取る。

 そして、足にエネルギーを集中させ、分身エクトプラズムに向かって走る。

 そこからくり出される必殺技『マイティキック』。

 

「うぉりゃああああああ!!」

 

 俺のキックを喰らった分身エクトプラズムは見事に消滅した。

 うっしゃ。

 威力は上々ってところか。

 

「次」

 

「はい!!」

 

 俺は変身を解除すると同時にオルタリングを腰に出現させる。

 そして、

 

「変身!!」

 

 俺は腰の左右にあるボタンを押す。

 瞬間、俺の体中に神々のエネルギーが張り巡らされ『仮面ライダーアギト グランドフォーム』へと変わる。

 変身完了と同時に俺は全身に力を入れる。

 するとクロスホーンが展開し、足元にアギトの紋章が出現した。

 それが右足に収束されると同時に跳びあがりくり出す必殺技『ライダーキック』。

 先ほど同様、キックを喰らった分身エクトプラズムは消滅した。

 

「次」

 

「うぉっしゃ」

 

 俺は手鏡を取り出し、カードデッキをかざす。

 そして、

 

「変身!!」

 

 カードデッキをVバックルにセットし、『仮面ライダー龍騎』への変身を完了させる。

 そして、一枚のカードをドラグバイザーに装填する。

 

FINAL VENT(ファイナルベント)

 

 どこからともなく現れたドラグレッダーが俺の周りを飛行する。

 ドラグレッダーと共に空中に飛び上がり、炎に包まれながらくり出す必殺技『ドラゴンライダーキック』。

 それを喰らった分身エクトプラズムは言わずもがな。

 消えた。

 

「・・・・・・次」

 

「ウッス!!」

 

 俺はファイズフォンを取り出し、[555]とキー入力。

 そして、Enterキーを押す。

 

《STAND BY》

 

「変身!!」

 

 俺はそう言ってファイズドライバーのバックルにファイズフォンをセットし、倒す。

 

《COMPLETE》

 

 そんな音声と共に俺の体を赤い光が包み、俺の姿が『仮面ライダーファイズ』へと変わる。

 俺は速攻でファイズポインターにミッションメモリーをセットし、右足のホルスターに付け、Enterキーを押す。

 

《EXCEED CHARGE》

 

 エネルギーがチャージされる。

 俺は飛び上がり、ファイズポインターから円錐状の赤い光を放って目標をポイントしてくり出す必殺技『クリムゾンスマッシュ』。

 分身エクトプラズムは一瞬で消え去った。

 

「次」

 

「はい! 変身!!」

 

《Turn Up》

 

 俺は変身完了と同時に醒剣ブレイラウザーにラウズカードを読み込ませる。

 

《キック サンダー マッハ ライトニングソニック》

 

 速攻でくり出す必殺技『ライトニングソニック』。

 あっさりと分身エクトプラズムは消えた。

 

「・・・・・・ツg」

 

「ハイ! 変身!!」

 

「マダ言イ終ワッテナイゾ」

 

 俺はエクトプラズムの言葉を無視して音叉を取り出し、鳴らす。

 そして、額に近付けると、俺の体が紫色の炎に包まれる。

 炎が収まると同時に俺の姿が『仮面ライダー響鬼』へと変わる。

 俺は素早く音撃鼓を分身エクトプラズムにつけ、音撃棒を使って音楽を奏でる必殺技『音撃打・火炎連打』。

 ああ、太鼓の達人をやりたくなってきた。

 そんなことを思っている間に分身エクトプラズムは消えていた。

 

「次」

 

「来い! 変身!!」

 

 俺はカブトゼクターをライダーベルトにセットする。

 

《ヘンシン》

 

「キャストオフ」

 

《キャストオフ チェンジ ビートル》

 

 俺の姿が『仮面ライダーカブト ライダーフォーム』に変わる。

 俺はカブトゼクターのボタンを押し、ゼクターホーンをマスクドフォーム状態に戻す。

 そして、

 

「ライダー・・・キック」

 

《ライダーキック》

 

 エネルギーが角を経由して右足に収束する。

 そこからくり出される必殺技『ライダーキック』。

 喰らった相手は原子崩壊して消滅する威力を誇る蹴り。

 当たり前だが分身エクトプラズムは消えた。

 

「変身!!」

 

「モハヤ指示スラ聞カナイカ」

 

《ソードフォーム》

 

 俺の体に鎧が纏われ、『仮面ライダー電王 ソードフォーム』に変わる。

 そして、

 

FULL(フル) CHARGE(チャージ)

 

「俺の必殺技ァ!!」

 

 デンガッシャーに収束するエネルギー。

 それによって繰り出される必殺技『エクストリームスラッシュ』。

 俺は叩き斬る様にデンガッシャーを振るい、分身エクトプラズムをブッ飛ばした。

 

「・・・・・・次」

 

「行くぞキバット!」

 

《ガブッ!》

 

「変身!!」

 

 俺はキバットバットⅢ世をベルトに装着し、『仮面ライダーキバ キバフォーム』への変身を完了させる。

 そして、速攻でキバットバットⅢ世にフエッスルを吹かせる。

 

《ウェイクアップ!》

 

 瞬間、赤い霧が当たりに満ち、霧が晴れると同時に辺りは静まり返った深夜へと変わる。

 キバットバットⅢ世が右足の鎖を断ち切り、封じられていたヘルズゲートを解放。

 そのエネルギーを叩き込む必殺技『ダークネスムーンブレイク』。

 これを喰らった分身エクトプラズムの背後にキバのエンブレムが刻まれ、分身エクトプラズムはそのまま消えて行った。

 

「フム・・・。次」

 

「変身」

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・DECADE(ディケイド)

 

 ベルトからライドプレートが展開され、俺の顔に突き刺さる。

 そして、俺は『仮面ライダーディケイド』への変身を完了させる。

 俺はライドブッカーからカードを取り出し、ベルトに読み込ませる。

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

 俺と分身エクトプラズムとの間にカードがずらりと並ぶ。

 飛び上がり、カードの中を通るように放つ必殺技『ディメンションキック』。

 さすが“世界の破壊者”の必殺技。

 威力が凄まじいってレベルを超えている。

 分身エクトプラズムが消えたのにまだ止まらない。

 俺はそのまま開きっぱになっていた扉から飛び出し、電柱に激突してしまった。

 お~、痛ェ。

 ・・・・・・あっ、やっちまった。

 

「先生~。電柱が倒れました~」

 

「ナンテコトヲ・・・・・・」

 

 あっ、頭抱えちゃった。

 う~ん。

 やっぱりこの威力は考慮しておいた方がよかったかな?

 そんなことを思いながら変身を解除する。

 ・・・・・・っと、困ったな。

 仮面ライダーダブルには変身したくてもできないんだよな。

 相棒いないし。

 ・・・・・・しょうがないか。

 今回は諦めることにしよう。

 俺はそう思いながらロストドライバーを装着する。

 そして、

 

《ジョーカー》

 

 ロストドライバーにジョーカーメモリを装填。

 流れる待機音。

 

「変身」

 

 そう言うと同時にメモリを倒す。

 

《ジョーカー》

 

 瞬間、俺の体にチップ上の装甲が纏われ、『仮面ライダージョーカー』への変身を完了させる。

 そして、ベルトからメモリを抜き、マキシマムスロットに差し込む。

 

《ジョーカー マキシマムドライブ》

 

「ライダーキック」

 

 俺の右足に紫色のエネルギーが収束する。

 そこからくり出される必殺技『ライダーキック』。

 派手さのないシンプルな蹴りを喰らい分身エクトプラズムは消えた。

 よっし。

 威力は上々。

 仮面ライダーとしてのスペックはあの“ライドプレイヤー”よりも低いけど、その差を埋めるほどの特性ってのが強いよな、うん。

 

「後イクツアルンダ?」

 

「う~んと。・・・・・・・・・あと9ぐらいですかね」

 

「ワカッタ。次」

 

「はい!」

 

 俺はオーズドライバーを装着し、メダルを装填、スキャンする。

 

「変身!」

 

《タカ! トラ! バッタ! タ・ト・バッ・タトバ・タ・ト・バッ!!》

 

 そんな音声と共に俺の体に強化外骨格が纏われ、『仮面ライダーオーズ タトバコンボ』への変身を完了させる。

 そして、変身完了と同時に再度、オースキャナーでメダルを読み込ませる。

 

《スキャニングチャージ!》

 

「セイヤーッ!!」

 

 逆関節形態になったバッタレッグの跳躍力で空高く跳びあがり、そこからくり出される必殺技『タトバキック』。

 コンクリートを粉砕するだけではなく、岩ですらぶち抜くほどの威力を誇る攻撃により、分身エクトプラズムは消えた。

 

「派手ダナ」

 

「そうですね」

 

「次」

 

「はい!」

 

 俺はフォーゼドライバーを腰に装着し、トランスイッチを押し、構える。

 

《3・2・1》

 

「変身!!」

 

 そう言うと同時にエンターレバーを引く。

 そして、俺の姿が『仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ』へと変わる。

 変身完了と同時にアストロスイッチを押す。

 

《ロケットオン ドリルオン》

 

 俺の右手にロケットモジュールが、左足にドリルモジュールが装備される。

 そして、俺はエンターレバーを引く。

 

《ロケット ドリル リミットブレイク》

 

「ライダーロケットドリルキック!」

 

 俺はロケットの推進力をそのままにドリルでのキックを叩き込む。

 ・・・・・・普通にエグイよな、コレ。

 

「次」

 

「ウッス」

 

《ドライバーオン プリーズ シャバドゥビ タッチ ヘンシン シャバドゥビ タッチ ヘンシン》

 

 俺は左手に指輪をはめ、宣言する。

 

「変身」

 

《フレイム》

 

 俺は左手を横にかざす。

 

《プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒーヒィー!!》

 

 変身完了と同時に右手の指輪を入れ替える。

 そして、

 

《ルパッチマジック タッチ ゴー! ルパッチマジック タッチ ゴー! ルパッチマジック タッチ ゴー! チョウイイネ キックストライク》

 

 俺の足下に魔方陣が浮かび上がる。

 バク宙をし、回転力を掛けてからくりだす必殺技『ストライクウィザード』。

 

《サイコー!》

 

 俺の攻撃を喰らった分身エクトプラズムは爆散し消えた。

 

「・・・・・・ナンダ、ソノ音ハ」

 

「・・・・・・・・・呪文です」

 

「ソウカ。・・・・・・次」

 

「はい」

 

 俺は戦極ドライバーを装着し、ロックシードを解錠する。

 

「変身」

 

《オレンジ! ロックオン! ソイヤッ! オレンジアームズ 花道 オンステージ》

 

 俺の体にフルーツ型の鎧が纏わることで『仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ』への変身が完了する。

 そして、変身完了してすぐにカッティングブレードでロックシードを斬る。

 

《ソイヤァ! オレンジスカッシュ》

 

 オレンジ型のエネルギーを通過しながらくり出す跳び蹴り、『無頼キック』。

 果汁たっぷりな演出があるけど気にしたら負けだ。

 当たり前だが分身エクトプラズムは消えた。

 

《ロックオフ》

 

「・・・・・・次」

 

「・・・・・・ハイ」

 

 さすがに疲れてきたがラストスパートで頑張ろう。

 俺はドライブドライバーを装着し、エンジンキーを回す。

 そして、シフトカーの後ろ部分を半回転させ、シフトブレスにセットし、倒す。

 

《ドライブ タイプスピード》

 

 俺の体に強化スーツが纏われ、『仮面ライダードライブ タイプスピード』への変身を完了させる。

 変身完了と同時にエンジンキーを回し、シフトブレスのボタンを押す。

 

《ヒッサツ》

 

 そんな音声が鳴ると同時にシフトカーを倒す。

 

《フルスロットル! スピード!》

 

 瞬間、シフトカーたちが体育館の扉を全開に開けた。

 そして、そこからトライドロンが飛び込んできた。

 分身エクトプラズムの周りをグルグルと回りだすトライドロン。

 トライドロンの壁面を蹴って回転の中点にいる分身エクトプラズムに何十発もの蹴りを浴びせまくる必殺技『スピードロップ』。

 分身エクトプラズムは何か言いたげに消えて行った。

 

《ナイスドライブ》

 

「蹴リスギジャナイカ?」

 

「こういう技です」

 

「ソウカ。・・・・・・次」

 

「はい」

 

 俺が腰に手をかざすと現れるゴーストドライバー。

 ゴーストドライバーが現れると同時にアイコンのボタンを押し、ベルトに装填。

 

《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー! バッチリミナー!》

 

「変身!」

 

《カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》

 

 そんな音声と共にベルトから飛び出したパーカーゴーストが俺にかぶさり、『仮面ライダーゴースト オレ魂』への変身を完了させる。

 そして、ハンドルを押し込み必殺技を発動。

 

《ダイカイガン! オメガドライブ!》

 

 俺の脚に収束したエネルギーを叩き込む蹴り技『オメガドライブ オレ』。

 エクトプラズムの個性の内容を簡単に言えば“霊エネルギーを口から吐き出して自身の複製を実体化させる『分身』を持つ”というモノだ。

 そこに、霊体関連の攻撃、当たり前だが分身エクトプラズムは消え去った。

 

《オヤスミー》

 

「我ノ分身ニ今マデ以上ノダメージガ入ッタンダガ・・・・・・」

 

「相性の問題でしょう」

 

「・・・・・・ソウカ。次」

 

「はい!」

 

 俺はゲーマドライバーを腰に装着し、ガシャットを起動ずる。

 

《マイティアクションX!》

 

 広がるゲームエリア。

 

「大変身!」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティ マイティ アクションX!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル2』への変身を完了させる。

 そして、ガシャットをキメワザスロットホルダーに差し込む。

 

《ガシャット! キメワザ!》

 

 俺の脚にエネルギーが収束する。

 さすがゲーム。

 グラフィックが滅茶苦茶派手だ。

 

《MIGHTY CRITICAL STRIKE》

 

 くり出されるアクロバティックな連続キック。

 オーバーキル並みの蹴りを叩き込みまくられ、分身エクトプラズムは消え去った。

 

《ガッチャーン! ガッシューン!》

 

「サッキモ言ッタガ、蹴リスギジャナイカ?」

 

「こういう技です」

 

「ソウカ・・・・・・。次」

 

「ハイ」

 

 俺はビルドドライバーを腰に装着し、フルボトルを取り出す。

 何度かカタカタと振り、ドライバーに装填する。

 

《ラビット タンク ベストマッチ!》

 

 流れる待機音。

 レバーを回すと同時にベルトから展開されるスナップビルダー。

 

《Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《鋼のムーンサルト ラビットタンク イェーイ!》

 

 そんな音声と共にスナップビルダーに挟まれ、『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』への変身を完了させる。

 ふむ。

 入学時からずっと変身し続けたのもあって、この姿の方が慣れてるな。

 俺はそう思いながらレバーを回す。

 

《Ready Go! ボルテックフィニッシュ!!》

 

 x軸で分身エクトプラズムを拘束し放物線の上を滑るように加速し途中の点mでさらに加速し、キャタピラの回転で追加ダメージを与える。

 理論的に計算されつくした合理的なキックを喰らい、分身エクトプラズムは消えた。

 

「さて、次でラストですね」

 

「ソウダナ」

 

《ジクウドライバー》

 

 ジクウドライバーを腰に装着すると同時にライドウォッチを取り出し、ボタンを押して起動させる。

 

ZI-O(ジオウ)

 

 ライドウォッチをベルトに装填すると同時にベルトの上のボタンを押してロックを解除。

 そして、

 

「変身!」

 

 そう言うと同時にベルトを360度回転させる。

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)!》

 

 そんな音声と共に俺は『仮面ライダージオウ』への変身を完了させる。

 ん~。

 なんか変な感覚だなぁ。

 まあ、いいか。

 俺はベルトに装填されているライドウォッチのボタンを押す。

 

FINISH TIME(フィニッシィタイム)!》

 

 ベルトの上にあるボタンを押し、ロックを解除。

 再度、ベルトを360度回転させる。

 瞬間、分身エクトプラズムの周りに現れる大量の『キック』の文字。

 飛び上がり、喰らわせる必殺技『タイムブレーク』。

 

TIME BREAK(タイムブレーク)!》

 

 圧倒的“ライダーキック”。

 誰が何と言おうと“ライダーキック”。

 これを喰らった分身エクトプラズムは消え去った。

 

「コレデ終ワリカ?」

 

「そうですね。・・・・・・他にも必殺技はありますけど、その中でも代表的なモノにしました」

 

「ソウカ。ココマデ多種多様ナモノガアルト、確カニ新シイ必殺技ヲ作ルノハ難シイカ」

 

 多種多様って、だいたいキックしかしてませんけど・・・・・・。

 

「シバラクハコスチュームノ改良ニ(チカラ)ヲ入レルトイイ」

 

「・・・・・・はい」

 

 こうして今日の特訓は終わった。

 ただ、自分のコスチュームを見ると、ところどころ焼け落ちていた。

 大切な部分は隠れているし、動きに干渉はしないけど、こりゃあダメだな。

 一応、注文の時に強い耐火性能を頼んだんだけど、さすが響鬼の炎といった所か。

 俺はそう思いながら“開発工房”へと歩を進めた。

 




 賢王雄は目の前にある“モノ”を見て、どうしようかと頭を悩ませていた。

「なあ、仕原。コイツ何だと思う?」

「分かりませんが、害意がある事だけは確かです」

 仕原弓がそう言うと、目の前にある“モノ”・・・・・・コブラエボルボトルの口が勝手に動く。

「害意があるだって? 酷いなァ。今の俺は何もできないよ」

「今の俺、と言っている時点で怪しさ満載だ。・・・・・・で、名前は?」

 賢王雄がそう問いかけると、コブラエボルボトルは少し黙り、間を開けてから言った。

「“エボルト”だ。今の俺には肉体も無ければ、遺伝子を一部切り離すなんてこともできなくなってるよ」

 エボルトはそう言ってケラケラと笑った。
 無害そうな雰囲気を醸し出しているが、そこから発せられるオーラがエボルトのヤバさを語っているため、賢王雄は一切の油断をしない。
 数秒の静寂。
 そして、

「・・・・・・ところで、何でお前が“トランスチームガン”を持っているんだ?」

 と、エボルトは何気ない様子で言った。

「これ? オレの友達が作ってくれたんだ」

「ほう、それを作ったのか。いいねぇ。凄いヤツじゃないか。なあ、会わせてくれないか?」

「ん~。・・・・・・良いぞ。オレの友達はスゲェからな。絶対に驚くと思うぞ」

「そうか。実に楽しみだ」

 エボルトは飄々とした口調でそう言った。
 賢王雄は友達が褒められて嬉しく油断しまくりであった。
 そんな姿を見て、エボルトは「こんなアホの友達なら騙すのも容易いだろう」とタカを括った。
 それからしばらくして、機鰐龍兎の悩みの種が増える事となった。


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38話 『コスチュームとコブラ』

仮免許取得試験まで行けなかった・・・・・・orz


 俺は開発工房へと歩を進める。

 注文内容は、「より強い耐火性能を」だ。

 これ以上の耐火性能がねえと、おちおち響鬼に変身できないよ。

 そんなことを思いながらトボトボと歩いていると、後ろから聞いたことのある声がした。

 

「機鰐くん、白神くん。君たちもコスチュームの改良かい?」

 

「ん? ああ、そうだよ。・・・・・・『君も』って事はお前もなのか、飯田。と、麗日さん」

 

「ああ、麗日くんにも話したところなんだが。レシプロのデメリットを軽減したくてな。ラジエーターの改良をお願いしに行くんだ。・・・・・・そういう機鰐くんは?」

 

「スーツに耐火性能をより付けて欲しくてね」

 

「私は仕込みの改良」

 

 神姫、お前、まさか・・・・・・。

 

「耐火性能? 何かあったのかい?」

 

「仮面ライダーの中に、変身時に服が燃え尽きてなくなるヤツがいるんだよ。変身解除したら素っ裸だぞ。通報されるっての」

 

 もしもしポリスメン? なんてされたらたまったじゃないっての。

 そんなことを話しながら向かっていると、開発工房の前に誰かがいるのが見えた。

 ・・・・・・もちろん、緑谷だ。

 

「あれ! デクくんだ! いないと思ったら! デクくんもコス改良!?」

 

 そう言ってトテトテと小走りで緑谷の方へ向かって行く麗日さん。

 さて、と。

 俺はそっと耳を塞いだ。

 瞬間、開発工房内で爆発が起き、扉ごと緑谷を吹き飛ばした。

 ふぃ~~。

 まったく。何をどうしたらこんな爆発が起きるんだっての。

 

「フフフフ。いててて・・・・・・」

 

「ゲホッゲホッ。おまえなァア・・・。思いついたもの何でもかんでも組みこむんじゃないよ・・・!」

 

「フフフフフフフ。失敗は発明の母ですよ、かのトーマス・エジソンが仰ってます。“作ったものが計画通りに機能しないからといってそれが無駄だとは限らな・・・・・・「そういう話じゃないんだよォオ・・・! 一度でいいから話を聞きなさい・・・・・・発目!!!」

 

 さてと、あの天才的で天災的な技術者に頼むか、安定な普通の技術者に頼むか・・・・・・。

 ふむ・・・・・・どうしたもんか。

 まず緑谷を何とかしないとな。

 発目さんの良い感じの大きさを誇るおっぱいに負けている。

 

 

 

 

 

 

 さてと、現場が落ち着いた所でと。

 

「突然の爆発失礼しました!! お久しぶりですね! ヒーロー科の・・・えーーーーー・・・全員のお名前忘れました」

 

 やっぱり、バッサリしてるなこの人。

 

「み・・・みどりりや・・・いずいずく・・・・・・」

 

 ヤバイ。

 緑谷が発目さんのおっぱいの破壊力に負けて語彙力が大幅に低下してしまっている。

 まあ、だからといって何もしないんだけど。

 

「俺は初めましてだ。機鰐龍兎ってんだ。よろしく」

 

「私は白神神姫。よろしく~」

 

「飯田天哉だ! 体育祭のトーナメントにて君が広告塔に利用した男だ!!!」

 

「なる程!! では私、ベイビーの開発で忙しいので!」

 

 そう言って回れ右をする発目さん。

 ・・・・・・切りかえ早っ。

 

「あっちょ・・・。あの・・・コスチュームの改良の件でパワーローダー先生に相談があるんだけど・・・・・・」

 

 緑谷がそう言った瞬間、

 

「コスチューム改良!? 興味あります!」

 

 発目さんの目の色が変わった。

 う~ん。

 こんなんだが、俺も一応技術者だからなぁ。

 気持ちは分かる。

 

「発目・・・寮制になって工房に入り浸るのはいいけど・・・・・・これ以上荒らしっ放しのままだと出禁にするぞ・・・くけけ・・・・・・」

 

 何その笑い方。

 怖っ。

 

「イレイザーヘッドから聞いている。必殺技に伴うコス変の件だろ。入りな」

 

 俺たちはパワーローダーに案内され、工房内へと入った。

 工房内は様々な機械類で溢れ、発明中であろうスールも見られる。

 

「じゃあ、コスチュームの説明書みせて。ケースに同封されてたのがあるでしょ。俺、ライセンス持ってるから。それ見ていじれるところはいじるよ。小さな改良・修繕なら『こう変更しました』ってデザイン事務所に報告すれば手続きしといてくれるが、大きな改良となると、こちらで申請書作成してデザイン事務所に依頼する形になる。で、改良したコスチュームを国に審査してもらって許可が出たらこちらに戻ってくる。まァ―――・・・ウチと提携してる事務所は超一流だからだいたい3日後ぐらいには戻ってくるよ」

 

 ほー。

 やっぱり色々とあるんだなぁ。

 知ってたけど。

 

「あの・・・僕は腕の靭帯への負担を軽減出来ないかと思って。そういうのって可能ですか?」

 

「ああ、緑谷君は拳や指で戦うスタイルだったな。そういう事ならちょっといじれば・・・すぐにでも可能だよ」

 

 俺も何かそういったアイテムでも作るか。

 そんなことを思いながらパワーローダーに注文をする。

 

「もっと強い耐火性能が欲しい」

 

「ん? 君のコスチュームにはかなりの耐火性能があったはずだけど?」

 

「これじゃまだまだです。少なくともコレの倍は欲しいです」

 

「倍、か。分かった。やってみよう。デザインは?」

 

「できるならこのままでお願いします」

 

「うん。で、白神さんは?」

 

 パワーローダーにはそう言いながら発目さんに振り回されていた神姫に話を振った。

 白神は「ほへっ」という顔をした後、

 

「ご飯を入れられるようにしてほしい」

 

 と言った。

 ・・・・・・やっぱりか。

 コイツは個性の関係上、燃費問題はどうしようもないため、衣の下にたくさんの携帯食料を隠しているのだが、その量を増やしたいらしい。

 まあ、奴隷(スレイブ)モードになったら燃費問題は解決するんだけどさ。

 でも、それは根本的な解決じゃないから、今回のコスチューム改良は後々良い方に行くだろう。・・・・・・多分。

 さて、と。

 

「なあ、発目さん。ちょっといいか?」

 

「なんですか? 私は今、私のベイビーちゃんの宣伝をしていた所なんですよ」

 

「これ、どう使う?」

 

 俺はそう言いながらバースドライバーとセルメダル数枚を投げ渡す。

 もちろん、俺が複製した物だ。

 

「? これは?」

 

「バースドライバー。そのメダルを使えば強化スーツが身に纏われ、無個性でも戦える戦士『仮面ライダーバース』への変身が出来る。・・・・・・で、その中にある“CLAWsユニット”をサポートアイテムとして使えないかと思ってさ」

 

「ほうほうほうほう。その、“CLAWsユニット”とはどういった物なんですかねぇ」

 

 おっ、目の色が変わった。

 俺は発目さんに渡したバースドライバーを一旦返してもらい、腰に装着。

 そして、

 

「変身」

 

 そう言うと同時にセルメダルを装填し、レバーを回す。

 それによって、俺の体に強化スーツが纏われ、『仮面ライダーバース』への変身を完了させる。

 そして、セルメダルを投入しまくり、“CLAWsユニット”を全部装着する。

 

《ドリルアーム クレーンアーム カッターウィング ショベルアーム キャタピラレッグ ブレストキャノン》

 

 そう。

 仮面ライダーバース強化形態『バース・デイ』だ。

 バース・デイを見た発目さんの目の輝き用に軽く引いてしまった。

 その後、滅茶苦茶ベタベタ触られた。

 そして、話し合った所、サポートアイテムとして作れそうなものはあるらしいが、時間が掛かりそうだという。

 こうして、『バース、サポートアイテム化計画』が進んで行った。

 俺も発目も開発者として意気投合してしまい、様々なアイテムのアイデアを出しては(勝手に)開発に取り掛かったりした。

 なんか、パワーローダーが泣き言言っていたけど気にしない気にしない。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 皆、満身創痍でヘロヘロになっていた。

 無論、俺もだ。

 だが、休憩をしているほど俺は暇じゃあない。

 皆が共有スペースでだらけている中、俺はハイツアライアンスの扉を開ける。

 

「む! 機鰐くん! もう門限は過ぎているぞ。外に出るのはいけないぞ」

 

「ハァ~。堅いねぇ。委員長。俺の立場忘れたのかよ。これでも一応裏組織のトップだぞ。皆がつかれてダラダラしていようと、俺には仕事が残っているんだ」

 

「す、すまない! 俺としたことが、君の使命をすっかり忘れていた」

 

「使命じゃねえよ。仕事だよ」

 

 俺はそう言ってハイツアライアンスを出る。

 夏だってのに風が冷たかった。

 ・・・・・・前も夏にこんな風に当たったな。

 俺は道を一人でトボトボと歩きながら昔の事を思いだす。

 そう、アレは転生前にあった出来事だ。

 前世の俺の名前はよくありがちな名前で、キラキラネームのヤツは周りにいなかった・・・・・・と思う。

 ごく普通の生活をしていた。

 普通じゃなかったところを上げるとすれば、“あの事件”ぐらいだろう。

 アレはマジで死ぬかと思ったし。

 “アイツ”のせいで大きな傷も残ったし・・・・・・。

 ってか、未だに不思議なのが、“アイツ”がどうして俺に固執したかが疑問なんだよな。

 まぁ、今じゃ知ろうにも知れないけどな。

 俺も“アイツ”も死んだから・・・・・・。

 そんな事を考えている内に俺は雄英の外に出ていた。

 さて、さっさとカフェに向かいますか。

 

 

 

 

 

 

 カフェの地下、ファウスト基地にはユウと紅がいた。

 二人はソファーに寝っ転がり、ポテチを食べながら漫画を読んでいた。

 ・・・・・・だらけ過ぎじゃあないか?

 ってか、ユウ。

 宝具は指にポテチの油がつかないようにするための道具じゃないぞ。

 

「オイオイオイ。人を呼び出しといて何だそりゃ」

 

「いやあ。今日は仕事も無いからのんびりしていたんだよ」

 

「・・・・・・いや、あるだろ仕事。働けよ。書類さっさと纏めろよ、審査しろよ、予算計算しとけよ」

 

「明日やる」

 

 あっ、これ絶対にやらないな・・・・・・。

 明日もまた「明日やる」とか言ってズブズブと延びていくパターンだな。

 まあ、いいか。

 それで地獄を見るのはユウだし。

 

「それで? 重要な用事ってのは?」

 

 俺が呆れながらそう言うと、

 

「俺が頼んだのさぁ」

 

 という不気味な声が聞こえてきた。

 これは・・・・・・この声は、CV :金尾哲夫!!

 俺は声のした方に視線を向ける。

 そこには・・・・・・、

 

「なんで、コブラエボルボトルが・・・・・・」

 

「よお。俺の名前は“エボルト”。お前に頼みがあr・・・・・・」

 

「断る」

 

 俺は速攻で拒否した。

 

「何でブラッド族の・・・しかもお前の頼みごとを聞かなくちゃならないんだ」

 

「ほう。俺の事を知っているのか」

 

「ああ、知っているよ。お前が戦兎たちに何をしたのかもしっかりな・・・・・・」

 

「チィッ。この体じゃ何もできないから新しい肉体でも作ってもらおうと思ったのによぉ」

 

「お前、そんな奴だったか? もっとヤバイイメージがあるんだけど」

 

 ってか、コブラエボルボトルの口が勝手に動いているのは何か不気味だな。

 

「・・・・・・エボルト、お前の目的は何だ」

 

「目的? さあな。この姿で“俺”という意識が覚醒した時からかなりの時間が経過したが、どうやら“俺”は“俺”であって“俺”じゃあないようだ。だから、何をしようとかはないんだよ。この地球も俺の知っている地球とは違うみたいだからな。まあ、自由な体を手に入れたら旅行にでも行こうかなぁ。俺も改心したってヤツだよ」

 

「不気味すぎるわ。ってか、お前が改心するわけないだろ」

 

「フッハッハッハッハッハッハ! バレたか。まあ、今の俺は何もできないボトルなんだけどな」

 

 さて、・・・・・・コイツは使えそうだな。

 なんかネットの書き込みに『ブラッドスタークは雄英生』とかいう書き込みあったし。

 調べてみたら炎上目的の馬鹿だったけど。

 でも、それを信じてあーだこーだ言っている馬鹿も多いしな。

 ついでだ。

 利用しよう。

 

「内海みたいな感じだったら出来るけど、その代わりに条件がある」

 

「条件? なんだ?」

 

「ちょっと働いて欲しい。俺たちにも計画があるんでな」

 

 俺がそう言うと、エボルトは「ムムッ」と考える素振りをする。

 いや、これは確実に演技だな。

 そんな気がする。

 そして、

 

「わかった。話を飲もうじゃないか」

 

 こうして、エボルトが(仮の)仲間になった。

 多分、コイツは俺たちを使ってフェーズ4に、できたらその先に行く気なのだろう。

 もしそうなったら、俺たちが相手になってやる。

 俺はとりあえずエボルトと行動を共にすることになった。

 




 機鰐龍兎はエボルトと会話をしながら帰路に付く。
 その姿を二人の影が別々の場所から見ていた。
 一人は黒い負のオーラをその体から放っている顔に火傷のある少年。
 その少年は機鰐龍兎を睨むように見ながら言った。

「楽し、そうだね。機鰐龍兎・・・・・・。まるで、“あの事”を、“あの罪”を、忘れたように。・・・・・・でもね、君は、思い出すよ。“救えなかった人間の事”を」

 少年は狂気の笑みを浮かべ、狂ったように笑い続けた。
 そして、あまりのうるささに警察に、

『誰か滅茶苦茶笑っててうるさい。何とかしてくれ』

 と通報があったという。



 少年が馬鹿笑いをしている場所から100mほど離れたところにあるビルの屋上。
 そこに、茶色い髪を短く整えた少女がいた。
 その少女は機鰐龍兎を見つめながらうっとりした様子で言う。

「やっと、やっと見つけたよ。私の、私だけの■■■ちゃん。・・・・・・あの時は失敗しちゃったけど、今度こそしっかりと殺してあげるから

 機鰐龍兎には様々な危機が近づいていた。
 だが、彼はその事に一切気付くことなく日常を歩いて行くのだった。


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39話 『仮免試験① 始まり』

今回、最初の方で機鰐VS轟がありますが、これは仮免関係では特にないですごめんなさい。


そして、今日、私は高校を卒業しました。
就職も決まり、新しい生活がスタートします。
色々な思い出を胸に進んで行くと思います。
ですが、4月から投稿頻度が極端に少なくなると思います。
なので、首を長くして待っていただけるとありがたいです。


 今日も楽しく必殺技作り訓練。

 昨日は夜遅くまでエボルトと楽しい話―――腹の探り合い―――をしたり、新しい対峰田用兵器(アイテム)を作ったりなど、していたがそれでも高校入学してからは一番長く寝れた。

 何と驚きの4時間。

 普段は平均2時間ぐらいしか寝てないからね。

 4時間はホントに一番長い眠りだったよ。

 まあ、前世では一日平均10時間以上寝てたからそれに比べたら短いけどさ。

 っと、さてさて。

 そんな現実逃避はいいとしてな。今、目の前で言われたことをもう一度聞いてみるとしよう。

 

「スマン、もう一度言ってくれ」

 

「俺と戦ってくれ。・・・・・・俺は、ずっとお前と戦ってみたかったんだ」

 

 そう言って俺をジッと見てくる轟くん。

 俺はエクトプラズムに視線を向け、[SOS]の合図を送る。

 だが、

 

「ソレデ必殺技ノイメージガ出ルノナラヤッテミロ」

 

 ぎゃー。

 助けてもらえなかった・・・・・・。

 周りをグルリ見ると、

 

「クラストップクラスの実力者の戦いだってー!」

 

「なんや、面白そう!」

 

「ふむ。実はずっと気になっていたんだ。二人が戦ったらどうなるのか」

 

 等々。

 止める人は誰もいなかった。

 ふざけんな。

 

「・・・・・・・・・本当にやるのか?」

 

「ああ。・・・・・・お前とやったら、何か掴めそうな気がするんだ」

 

 ・・・・・・チクショウ。

 こうなったらヤケクソだ。

 やってやらぁ。

 俺が腰に手をかざすと、ゴーストドライバーが現れる。

 そして、アイコンを装填する。

 

《アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー! バッチリミナー!》

 

「変身!」

 

《カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》

 

 そんな音声と共にベルトから飛び出したパーカーゴーストが俺にかぶさり、『仮面ライダーゴースト オレ魂』への変身を完了させる。

 さてと、ゴーストと言えばやっぱりこのセリフだよな。

 

「命! 燃やすぜ!」

 

 轟くんは腰を落とし、構える。

 そして・・・・・・、

 

「始メ」

 

 瞬間、俺と轟くんはぶつかり合う。

 俺はガンガンセイバーを取り出し、轟くんの氷を砕き、突撃する。

 轟くんは予想通りだったらしく、炎を放って来た。

 だが、そんなのは当たらない。

 

「っ!」

 

「ゴースト・・・・・・幽霊にそんな攻撃が当たると思うなよ」

 

 俺はそう言いながら蹴りを喰らわせる。

 轟くんは後ろに跳んで衝撃を受け流しつつ、氷を足場に突撃してきた。

 だが、そんな攻撃は当たらない。

 

「っ! 浮いた!」

 

「だから言っただろう。幽霊だって」

 

 飛べるわ、すり抜けるわ・・・・・・ある意味最強なんだよな、ゴースト。

 その気になれば物理攻撃全て無効かだもん。

 そう、これを使えば凍らされようと簡単に抜け出せるのだ。

 フヘヘヘヘヘヘヘ(不気味な笑み)。

 そう、一方的な無双ゲーが可能なのだよ。

 俺は轟くんの攻撃を全て避け、俺の攻撃は全て当てる。

 さてと、どうするかな~。

 そんなことを思うほどの余裕を出していると・・・・・・、

 

「痛ェ!!」

 

「・・・・・・やっと当たった」

 

「へあ!?」

 

「攻撃するときは実体化してるみたいだったからよ、そのタイミングで攻撃してみたんだ」

 

 何だこの天才。

 この短期間で適応してやがった。

 アホじゃねえの?

 俺は一度距離を取り、アイコンを入れ替える。

 

《一発闘魂! アーイ! バッチリミナー! バッチリミナー! バッチリミナー! 闘魂カイガン! ブースト! 俺がブースト! 奮い立つゴースト! ゴー! ファイ! ゴー! ファイ! ゴー! ファイ!》

 

 そんな音声と共に俺の体が燃え上がる様な赤に染まり、『仮面ライダーゴースト 闘魂ブースト魂』へのゴーストチェンジを完了させる。

 そして、腰を落とし構えながら言う。

 

「これで、炎も氷もきかねえぞ」

 

 俺はそう言いながら突撃する。

 轟くんは氷を出して足止めをしようとしてきたが、そんなので止められるほど俺の熱は低くない。

 ただ突き進むだけで氷は解けていく。

 轟くんは横に跳ぶことで俺の攻撃を避けたが、彼にはもう決め手はない。

 俺はゴーストドライバーのハンドルを押し込み必殺技を発動させる。

 

《闘魂! ダイカイガン! ブースト! オメガドライブ!》

 

 俺の脚に炎が纏われる。

 そして、蹴りの体勢に入ったと同時に、

 

「ソコマデ」

 

 と声が掛けられた。

 俺は慌ててエネルギーを拡散させ、必殺技体勢を止める。

 

「コレ以上ヤッタラ確実ニ怪我人ガ出ル」

 

「はい」

 

「うっす」

 

 俺はアイコンを取り、変身を解除する。

 

《オヤスミー!》

 

 ふう。

 思いのほか戦えるモンだな。

 今までメインはずっとビルドだったからなぁ。

 他のライダーも使えるように訓練した方が良いな、こりゃ。

 知識として戦い方や性能はほぼ完璧に覚えているが(さすがに一部忘れているモノはある)、それでも知っているだけで使えるかどうかは違うのだ。

 さて、と。

 明日から色々と試してみますか。

 

 

 

 

 

 

 そこからの訓練は厳しいモノだった。

 ビルドとしての戦い方になれていたため、他のライダーとしての動きを思い出すのが大変だった。

 昼はエクトプラズムをサンドバックにし、夕方は発目と一緒にサポートアイテムのアイデアを出し合う。

 夜は緑谷の特訓を手伝い、夜中はアイテム開発に取り組む。

 こうして日は過ぎ、ついにヒーロー仮免許取得試験当日を迎えた。

 

「降りろ。到着だ。試験会場、国立多古場競技場」

 

 うっわ。

 デカいなぁ、オイ。

 

「緊張してきたァ」

 

「多古場でやるんだ・・・」

 

「試験て何をやるんだろう。ハー、仮免取れっかなァ」

 

 そう弱音を吐く峰田に相澤先生は、

 

「峰田、取って来れるかじゃない。取って来い」

 

「おっもっ、モチロンだぜ!」

 

「この試験に合格し仮免許を習得できればおまえら志望者(タマゴ)は晴れてヒヨッ子・・・。セミプロへと孵化できる。頑張って来い」

 

 相澤先生の言葉に俺たちはやんややんやと盛り上がる。

 そして、

 

「っしゃあ、なってやろうぜヒヨッ子によォ!!」

 

「いつもの一発決めて行こーぜ!」

 

 さてと。

 俺はスッと耳を塞ぐ。

 

「せーのっ。“Plus(プルス)・・・・・・Ultra(ウルトラ)!!」

 

 うるせぇ。

 軽くとはいえ耳塞いでいたのにこりゃないだろう。

 どんだけ声デカイんだ。

 

「勝手に他所様の円陣に加わるのは良くないよ、イナサ」

 

「ああ、しまった! どうも大変、失礼いたしましたァ!!!

 

 ガァンと大きな音をたて、頭を地面にぶつけながら謝罪する夜嵐イナサ。

 いや、絶対痛いだろ。

 ほら、頭から流血してるじゃん。

 その後の展開は原作通り。

 うるさいわ、やかましいわ、散々なモノだった。

 まあ、そこから紆余曲折あって、俺たちはコスチュームに着替え、会場へと集まった。

 ちなみに、今回の俺のコスチュームは黒い短ランとボンタン。

 そう、あの青春ライダーの姿だ。

 さてと、やりますか。

 

 

 

 

 

 

 会場内は人で埋め尽くされていた。

 多いよ。

 多すぎるよ。

 っと、説明が始まった。

 

「えー・・・ではアレ、仮免のヤツをやります。あー・・・僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく。仕事が忙しくてろくに眠れない・・・! 人手が足りてない・・・! 眠たい! そんな信条の下ご説明させていただきます」

 

 ・・・・・・大丈夫かな?

 疲労死しなきゃいいけど・・・・・・。

 

「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に勝ち抜け演習を行ってもらいます」

 

 この後、長い説明が行われたが、ルールを説明するなら、

 

 1.体の常に晒されている所にターゲットを三つ取り付ける

 2.ボールを六つ携帯して、ボール当てを行う

 3.三つ目のターゲットを当てた人が“倒した”事になる

 4.二人倒した人が勝ち抜ける

 

 こんなところだ。

 説明が終わると同時に会場の壁が、屋根が展開される。

 そして、周りにはクソほど大きなステージが用意されている。

 この後の展開を知ってはいるが、俺はあえてその事を言わない。

 さらに、緑谷たちと行動を共にする。

 俺はベルトを装着しない。

 周りの受験者は俺がどんな個性なのかを完全に把握してはいない(と思う)。

 変身型だと思われている節もある。

 だが、爆豪との戦いで発動型であるという警戒もされている。

 だったらほとんど個性を使わずにこれを勝ち抜いてやる。

『START!!』というアナウンスが流れると同時に俺たちの周りに沢山の受験生(ライバル)たちが飛び出してきた。

 そう、“雄英潰し”だ。

 フッ(微笑)。

 その程度では俺たちは倒せないぜ。

 飛んでくるボールを全員が弾き、防ぎ、身を護る。

 ボールを防ぎきると同時に緑谷が言った。

 

「締まって行こう!!」

 

 ああ、そうだな。

 ・・・・・・さあ、始めよう。

 




 国立多古場競技場。
 そこで、ヒーロー仮免試験が始まった。
 会場近くにゾロゾロと人が集まっていた。
 それも、バラバラに、不自然ではないように。
 会場付近には警備員もいたが、プロである警備員すら不自然とは感じなかった。
 だが、集まっている人たちの中にかなり目立つ人物がいた。
 被っている帽子が特徴的過ぎるのだ。
 それでも、警備員たちはそれを不自然には思わなかった。
 なぜなら、夏にピッタリの“麦わら帽子”だったのが原因だろう。
 麦わら帽子の人物は通信機にそっと命令を下す。

「さあ、始めよう。“仮面ライダー”との決戦だ」

 その人物の名は猿伸賊王。
 機鰐龍兎との戦いを望む人物だ。


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40話 『仮免試験② ゲーム』

オリキャラ名が思い浮かばずリア友に泣きつきました、どうも作者です。


 さぁてと。俺は周りを見ながら倒せそうなヤツにあたりをつける。

 っと、滅茶苦茶ボール飛んでくるなぁ。

 俺はボールを弾いたりすることなく、キャッチしてはしまう。

 そう。弾数確保だ。

 っと、そろそろ来るな。

 集団の後方にいる人物、“真堂(しんどう) (よう)”が地面に手を付く同時に地面が揺れ、割れ、俺たちは分断されてしまった。

 個性名は確か・・・『揺らす』だったか。

 確かそんな感じだった気がする。

 ただ、分断されたのは個人的にはラッキーだ。

 このような複雑な地形になると襲う側も分断され、単騎になっている事が容易に予想できる。

 そんなことを考えている内に襲ってきた。

 

「・・・・・・過去の英雄の力を使う個性・・・ね。だが、それを越えてこそプロを目指せるってモンだ」

 

 そう言ってきたのは全身真っ黒で目しか認識できない人物・・・・・・。

 ふぅ。

 色々と言いたいことがあるんだけど、まあ、一言で言うとしようか。

 

「名探偵コナンの『犯人』そのままじゃねぇか!!」

 

「何言ってんの? オマエ」

 

「いや、昔の漫画で見た目がそっくりなヤツがいたんだ」

 

 俺はそう言いながら腰を落として構える。

 相手の個性が分からない以上、今、出来ることをやるだけだ。

 先に向こうから突撃してきた。

 名前を知らないからとりあえず“犯人”と呼んでおこう。

 突撃してきた犯人はいきなり4人に増えた。

 ああ、“トゥワイス”みたいな感じの個性か。

 ったく。

 つまらないなぁ。

 俺は発目と共同開発したサポートアイテムを使用する。

 コスチュームの下に隠してあるボタンを押した瞬間、ガシャンガシャンという音を立てて俺の腕にドリルアームが装備される。

 そう。

 これが俺と発目の発明品、“非変身型CLAWsユニット(仮名)”だ。

 このアイテムを使えば『仮面ライダーバース』に変身しなくてもCLAWsユニットを使え、素の状態でも戦えるのだ。

 俺はドリルアームで犯人をぶん殴る。

 無論、ドリルを回転させてだ。

 

「ちょっ! 危なっ! 危険だぞ!!」

 

「骨の一本や二本は大丈夫だ!!」

 

「大丈夫じゃないよ!!?」

 

 おお、良いツッコミだ。

 だからといって何にも無いんだけど。

 犯人の個性はマジで『分身』だけのようだ。

 身体能力は高いし、一人一人が役割を持って襲い掛かってくるところは強みだと思う。

 だけど、ハッキリいって脅威ではない。

 不完全体のゲムデウスの方が何兆倍も恐ろしかった。

 いや、あんなバケモノと比べるのが間違っているのは分かっているんだが、やっぱりアレを体験するとこの程度では何も感じない。

 俺はワープをして背後に回り込み、分身体ごと後頭部をぶん殴って黙らせる。

 

「はい、一人目」

 

 ん~、次の相手はどこだろうな。

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー仮免試験会場でボール当てによる試験が行われていた。

 とある少年は周りの人間がどんどん獲物を狙っている中、巧くボールを当てることが出来ていなかった。

 少年の個性は対人戦に向いている訳でもなく、派手で目立つ訳でもない。

 得意戦法も、このルールでは何ら意味をなさず、使えないモノであった。

 さらに運の悪いことに数日前から倦怠感と頭痛に襲われ、本調子でもなく、強い焦りが少年を襲っていた。

 ここでもしも落ちれば次の機会はずっと先になってしまう。

 そうすると少年は“両親を安心させられない”。

 そう考え、ずっと努力をしてきたつもりだった。

 両親は優しい人だが、ハッキリ言えば小心な所があり、少年がヒーローになるのをあまり良くは思っていなかった。

 それでも少年はヒーローを目指していた。

 後悔があったから。

 

 もしも、“アレ”を止められていたら。

 もしも、“あの時”動けていたら。

 もしも、もしも、もしも、もしも、もしも。

 

 少年の思考が後悔と焦りの波に飲まれ出す。

 それは恐ろしいほどのストレスになっていた。

 そして・・・・・・、

 

「え・・・?」

 

 いきなり少年の体が“ゲームのバグ”のように乱れた。

 その乱れは全身に広がっていき、少年を呑み込んでいく。

 何が起きたのか一切判断できなかった。

 それが何なのか判断する時間もなかった。

 少年のルームメイト、友人たちが心配して駆け寄ってきた。

 だが、次の瞬間、友人たちは“巨大な茶色の腕”に殴り飛ばされた。

 それは、ほかの受験者からの攻撃ではなかった。

 “少年の腕が肥大化し、勝手に友人たちに攻撃をしていた”のだ。

 そして、少年の体は“ソレ”に、“バグスターウイルス”に呑み込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 おっと。

 俺は瓦礫を足場に跳んで攻撃を避ける。

 え~っと、攻撃してきたヤツは・・・・・・マジか。

 何で“バグスターユニオン”がいるんだよ。

 感染者は誰だ?

 まあ、受験者の誰かだろう。

 ったく。ストレスの溜めすぎだ。

 俺以外の受験者は戦う訳でもなく、逃げ惑っている。

 当たり前か。

 いきなりこんなバケモノが現れたら誰だって逃げるか。

 ってか、このコスチュームにこれは合わないんだけどなぁ。

 ・・・・・・文句言ってる場合じゃないか。

 さっさと手術(オペ)を始めないと手遅れになってしまう。

 俺はゲーマドライバーを腰に装着し、ガシャットを起動させる。

 

《マイティアクションX!》

 

「変身!」

 

《ガシャット! レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッツネーム? I`m a 仮面ライダー》

 

 目の前のキャラパネルをタッチし、『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル1』への変身を完了させる。

 そして、ガシャコンブレイカーを取り出すと同時に突撃する。

 ちなみに、変身前にターゲットは一度取り外し、変身完了と同時に付け直している。

 変身して隠れたらルール違反だからな。

 ああ、ターゲットは専用の磁気キーを使わないと外せない仕組みだが、マスターキーは複製した。

 これぞ“天っっっっ才物理学者”の頭脳だ。

 もう、ホント、何でもありだよ。

 俺はガシャコンブレイカーでバグスターユニオンを殴りまくる。

 まずは患者とウイルスの分離。

 俺はずんぐりむっくりな見た目とは裏腹に俊敏に動き、ダメージを与えていく。

 時折、チョコ型ブロックを壊してエナジーアイテムを取って強化した攻撃をブチ当てたりしていく。

 ゲーム医療って意外と難しいんだな。

 ただ倒せばいいんじゃなくて、患者の事を考えながらやらなくちゃいけない所が難しい。

 だからといって手加減らしい手加減をしてやるつもりはないが。

 

《マッスル化》《マッスル化》《マッスル化》

 

 俺は攻撃力を超上昇させ、全力で一撃を叩き込む。

 それにより、患者とバグスターが分離される。

 落下する患者をキャッチし、安全なところに降ろす。

 分離して実体化したバグスターウイルスは“ソルティ”だった。

 うっわ。面倒くさい。

 

「フフ。随分としょっぱい事をしてくれたなぁ」

 

「そうかよ」

 

 俺がそう答えると同時にバグスター戦闘員がズラズラゾロゾロと現れる。

 数が多すぎる。

 ってか、周りにはまだバグスターユニオンにブッ飛ばされて動けない受験者たちがゴロゴロといる。

 クッソ。

 俺は心の中で悪態をつきながらレバーを開く。

 

「大変身!!」

 

《ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティ マイティ アクションX!》

 

 そんな音声と共に『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル2』へとレベルアップする。

 レベルアップ完了と同時に再度ガシャコンブレイカーを取り出し、構える。

 ああ、何度も言うようだが、ターゲットは一度取り外し、再度付け直している。

 さぁ~て。やりますか。

 俺は一度、大きく息を吸い込み、宣言する。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

 瞬間、襲い掛かってくるバグスター戦闘員。

 その攻撃を俊敏に避けながらガシャコンブレイカーで殴っていく。

 一体。

 二体。

 三体。

 四体。五体。六体。七体。八体・・・・・・。

 どんどんと戦闘員を倒していく。

 だが、ガチで数が多すぎる。

 倒しても、倒しても、倒しても倒しても倒してもワラワラと襲い掛かってくる。

 そして、数の暴力と言ったところか。

 本当に少しずつだが押され出してしまった。

 まずい、と思った時、バグスター戦闘員が吹き飛ばされた。

 

「・・・・・・アンタは?」

 

「“天ノ川学園高校”ヒーロー科、1年B組の“風山(かざやま) (とき)”だ。そう言うアンタは雄英の機鰐龍兎だろ? 英雄の力を使うって個性の」

 

「ああ。そうだ」

 

「この(ヴィラン)が何なのか分かるのか?」

 

「ああ。これは病気、“バグスターウイルス感染症”だ。ワクチンがあれば楽なんだが、丁度持ち合わせが無くてね。今は手術(オペ)の最中だ」

 

 ちなみに、この会話中もしっかり戦闘している。

 

「病気か。名前的にウイルス性だな」

 

「そう。・・・・・・ああ、心配はするな。感染してもすぐ発症する訳じゃないし、強いストレスを受けない限りそもそも発症しないから」

 

「ストレス性の感染症・・・致死率は?」

 

手術(オペ)をしなければ100%」

 

「なっ・・・・・・! だったら早く手術(オペ)をしてくれ!!」

 

「今やってる最中だ。“ゲーム医療”。バグスターウイルス感染症にはこれが有効だ」

 

 俺がそう答えると同時にソルティの電撃パンチが飛んできたが避け、蹴り飛ばした。

 そして、ガシャットを取り出し、起動させる。

 

《ギリギリチャンバラ! ガシャコンスパロー!》

 

 ガシャコンスパローを鬨に投げ渡す。

 そして、ソルティの攻撃を避けながら使い方を説明する。

 

「普通の“個性”じゃバグスターにダメージは与えられないからな」

 

「わかった。使わせてもらう!」

 

 鬨はそう言いながらエネルギーの矢をバグスター戦闘員に放っていく。

 俺は鬨にその場を任せ、ソルティに攻撃を仕掛ける。

 さすが、マイティアクションXのボスキャラクターだな。

 想像以上に強い。

 俺はガシャコンブレイカーのAボタンを押してブレードモードに変形させる。

 

《ジャ・キーン!》

 

 そして、思い切りガシャコンブレイカーを振るう。

 だが、それも防がれてしまった。

 強すぎないかな?

 原作では滅茶苦茶ボコボコにされて不遇な扱いだったけど、普通に強いんだな、コイツ。

 でも、弱音を言っている場合じゃないし、負けるわけにはいかない。

 俺はガシャットを抜き、キメワザスロットホルダーに差し込む。

 

《ガッシューン! ガシャット! キメワザ!》

 

「フィニッシュは必殺技で決まりだ」

 

 俺の脚にエネルギーが集中する。

 そして、

 

《MIGHTY CRITICAL STRIKE》

 

 ソルティに連続キックを叩き込む。

 飛び蹴り、空中回し蹴り、空中後ろ回し蹴り、サマーソルト、前蹴り・・・・・・etc.何度も、何度も蹴り続ける。

 

「これで、最後だぁぁあああああ!!」

 

「グァアアアアアアア!!!」

 

《会心の一発!》

 

 俺のキメワザを喰らったソルティは吹き飛び、爆散した。

 そして、空中に[GAME CLEAR]の文字が浮かび、クリア音が流れた。

 ふぅ、手術(オペ)成功だ。

 俺は変身を解除し、患者の下へと走る。

 そして、ゲームスコープで症状を見ると、しっかりと完治していた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 俺はそう言いながら患者の頬をペチペチと叩く。

 すると、ソッと目を開けた。

 

「おお、起きたか。体の具合は?」

 

「え? あ・・・・・・」

 

 何が起きたか分からずに混乱しているみたいだな。

 さて、名前知らないしどうしたもんか・・・・・・。

 と頭を悩ませていると、

 

「速雄!」

 

 そんな声が後ろから聞こえてきた。

 誰であろう? 鬨である。

 

「コイツの名前?」

 

「そう、“再生(さいせい) 速雄(はやお)”。天ノ川学園高校1年B組のルームメイトだ」

 

「なるほど。・・・・・・おーい、速雄く~ん。元気ですか~」

 

 そう声をかけると、

 

「あっ・・・久しぶりだね、機鰐くん。助けてくれたんだね」

 

 と速雄が言った。

 はて? 俺の友人関係に“再生 速雄”という人物はいないはずだが?

 どういう事だ?

 

「やっぱ。僕にはヒーローはムリだったのかな? ・・・・・・ねえ、機鰐くん。僕のターゲットにボールと当てて君が勝ちあがってくれよ」

 

「は? 何言ってんだ、お前。ってかそもそも久しぶりってどういう事だ?」

 

「分かってる。僕が一方的に君の事を知っていただけだから。それに、“廊下ですれ違うだけの”僕の事を覚えているハズが無いもんね」

 

 ・・・・・・・・・は?

 廊下で?

 マジ誰なんだ?

 

「なあ、機鰐龍兎。速雄の気持ちを汲んでやってくれないか? コイツ、言い出したら聞かないヤツだからさ」

 

「・・・・・・・・・いいのか?」

 

「いいよ。ヒーローになるのは機鰐くんの方が向いている」

 

「わかった」

 

 俺は速雄のターゲットにボールを当てて、クリア条件を満たす。

 

『通過者は控室へ移動して下さい』

 

 さて、と。

 俺は速雄を背負い、戦場を離れる。

 その際、速雄が鬨に、

 

「勤くんに謝っておいて」

 

 と言っていたので、移動中に誰なのか聞くと、

 

「“強力(きょうりき) (つとむ)”。ルームメイトでさ、鬨くんと勤くんと僕の三人で仮免試験に受かろう、って約束したんだよ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 勝ち上がったのに、何かやりきれない感じがする。

 でも、俺も仮免を取らなきゃいけないから・・・。

 控室についた時には、速雄は疲れていたのか眠ってしまっていた。

 だが、速雄が眠る少し前に行っていた言葉、

 

「やっぱり、機鰐くんは中学生の時から変わってないや」

 

 というモノ。

 ・・・・・・中学の時の同学年か。

 “あの事件”の事も知っているんだろうな。

 だったら、俺の事を『ヒーローに向いている』なんて言わないでほしい。

 アレは、一生俺に圧し掛かる“罪”なんだから。

 




 白神神姫は機鰐龍兎とはぐれてしまい、とりあえず辺りをトコトコと歩いて行く。
 気が付くと、市街地ステージをテクテクと歩いていた。
 辺りは混戦状態で、あっちこっちで受験者が戦っていた。
 もちろん、白神神姫に襲い掛かってくるものもいたが、相手が悪かったと言えるだろう。
 瞬殺で、襲い掛かった受験者たちは負けてしまった。

『通過者は控室へ移動して下さい』

 と、通信が入った。
 白神神姫は指示通りに控室に向かおうとする、と。

(? 風? ・・・・・・不自然な流れ、コレって!)

 白神神姫が建物の上・・・・・・、屋上に人影があった。
 その人物が風を起こしているのは確実で、白神神姫は少し眉を顰めた。
 大胆かつ繊細な風使い。
 それは、白神神姫の興味を引くところがあった。
 そして、興味津々でその人物を見ていると、その人物は大きな声で、

「よろしくお願いしまっス!!!!」

 と言って風を使って集めたボールを暴風に乗せて一気に受験者たちに向かって飛ばしてきた。
 もちろん、その場には興味津々で残っていた白神神姫の下にも飛んでくるボール。

「っ! ストームウォール!!」

 白神神姫は慌てて暴風を吹かし、暴風の壁でボールを防ぐ。
 だが、ガードできなかった周りの受験者たちは死屍累々・・・・・・、みんなボロボロになっていた。

(強力な風使い、ね。プロになったら色々なところで活躍しそう)

 だけど、と白神神姫は思考を続ける。

(あの心の中の“闇”が晴れない限り、確実に何かやらかすだろうな)


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41話 『仮免試験③ 宇宙キター』

サブタイトルからどのライダーが出るかモロバレな件


 おはよう。

 え? 試験はどうしたのか、だって?

 控室で寝てたんだよ。

 さすがにゲーム医療に精神すり減らした。

 勝ち上がった100人が控室に集まり、やんややんやと喜んでいると、

 

『えー、100人の皆さん。これをご覧ください』

 

 モニターにフィールドが映し出された。

 受験者たちの視線がモニターに集中する。

 瞬間、フィールドが爆破された。

 お~お、盛大にぶち壊すねぇ。

 ずいぶんと景気が良いじゃないか。

 

『次の試験でラストになります! 皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます。ここでは一般市民としてではなく、仮免許を取得した者としてどれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

 救助・・・か。

 適した仮面ライダーはやっぱり“アイツ”だよな。

 そんなことを考えながらのんびりとモニターを眺めていると、

 

「人がいる・・・」

 

「え・・・あァ!? あァア!! 老人に子ども!?」

 

「危ねえ! 何やってんだ!?」

 

 知ってるからどうでもいいや。

 

『彼らはあらゆる訓練において今、引っ張りダコの要救助者のプロ!! 「HELP(ヘルプ)US(アス)COMPANY(カカンパニー)」略して「HUC(フック)」の皆さんです』

 

「色んなお仕事あるんだな・・・」

 

「ヒーロー人気のこの時代に則した仕事だ」

 

 なんか感心しているヤツらいるけどさ、知っとけよ。

 教科書に書いてあるぞ(※注・書いてありません)。

 

『傷病者に扮した「HUC(フック)」がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます。尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を越えていれば合格とします。10分後に始めとしますのでトイレなど済ましといて下さいね』

 

 さてと、10分間も暇が出来てしまった。

 どうしたもんかな。

 

「なあ、神姫。10分の間どうする?」

 

「ん? とりあえず・・・・・・」

 

 神姫はゴソゴソと携帯食料を出し、

 

「食べる」

 

 と言ってカロリーメイトをモグモグと食べだした。

 ああ、エネルギー補給か。

 だったら・・・・・・これもかな。

 俺は注射器と空のビンを取り出し、ビンの中に俺の血を入れる。

 

「ほら、念のためにこれも持っていけ」

 

「うん。わかった」

 

 神姫はそう言って血液ビンをポケットにしまい込んだ。

 使う機会が無ければ一番なんだけどな。

 そんな事を考えながら神姫からカロリーメイトを分けてもらっていると、

 

「機鰐龍兎」

 

 と声が掛けられた。

 

「おっ! 鬨じゃねえか。お前も合格していたのか」

 

「ああ、ギリギリだったけどな」

 

「で、隣にいるのは・・・・・・」

 

「オレは“強力(きょうりき) (つとむ)”。速雄が世話になったらしいな。ありがとう」

 

「いいよ。気にするな。・・・・・・それに、俺たちはライバルだぞ? 慣れ合っていいのか」

 

 俺が自分でも分かるぐらい嫌な笑みを浮かべてそう言うと、二人は少し笑ってから言った。

 

「速雄から色々聞いているからな。性格はあまりよくないけど根っからのヒーローだって」

 

「そうそう。そう言ってたな」

 

 俺の評価変じゃないかな?

 根っからヒーロー、だって?

 何、馬鹿げた事をさらりと言っているんだ。

 

「俺はやりたいことをやっているだけだよ。身勝手で我儘な社会のゴミだ」

 

「そんなことないと思うよ。そうじゃなきゃ、君をヒーローと呼ぶ人がいるわけがない」

 

「だと良いけどな」

 

 俺がそう答えると同時に警報が鳴り響いた。

 うるさっ!

 俺は立ち上がると同時にフォーゼドライバーを装着する。

 

(ヴィラン)による大規模破壊(テロ)が発生! 〇〇市全域建物倒壊により傷病者多数! 道路の損壊が激しく、救急先着隊に著しい遅れ! 到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!』

 

 そんな放送が流れると同時に控室が展開された。

 そして、

 

START(スタート)!!』

 

 瞬間、全員が走り出す。

 早すぎる!

 俺は急いでトランスイッチを押す。

 

《3・2・1》

 

「変身!」

 

 そう言うと同時にエンターレバーを引く。

 そして、俺の姿が『仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ』へと変わる。

 変身完了と同時にアストロスイッチを押す。

 

《ロケットオン》

 

 右腕にロケットモジュールが装備され、そのジェット噴射で飛びながら宣言する。

 

「宇宙キター!!」

 

 俺は瓦礫が散乱する都市部ゾーンへ静かに着地し、スイッチを入れ替え、押す。

 

《マジックハンドオン メディカルオン》

 

 マジックハンドモジュールを使って瓦礫の除去をしつつ、ケガ人をメディカルモジュールで治療する。

 個人的には『フォーゼ』はこう言った現場で最も活躍できる仮面ライダーだと思う。

 

「ケガ人を俺の方へ! 俺ならこの場で治療できる!!」

 

 俺が周りにいた受験者にそう言うと、

 

「わかった!」

 

「まかせて!!」

 

 周りの受験者たちは瓦礫の下にいるケガ人を救助しては俺の方へと連れて来たり、救助が難しいところにいる人は、俺自身が向かって、治療しながら瓦礫の除去をした。

 ヤバイ。

 予想以上に使いやすいぞ、コレ。

 五人ほど治療したところで声を掛けられた。

 

「なあ、仮面ライダー。倒壊した建物の奥に人がいるみたいなんだが、大きな瓦礫が道を塞いでいるんだ。ここら辺に瓦礫を破壊できる“個性”のヤツがいないんだ。何とかならないか!?」

 

「わかった。すぐに行く。案内してくれ」

 

 俺は治療の手伝いをしてくれていた受験者に薬瓶をいくつか渡し、声をかけてくれた受験者の後ろに付いて行く。

 その受験者の言った通り、倒壊した建物の奥から声がする。

 しかし・・・・・・、

 

「これ壊したらマズイぞ」

 

「? なんでだ?」

 

「確かに、この瓦礫が道を塞いでいるけど、この瓦礫が建物をギリギリで支えてもいる。これを壊したら一気に倒壊するよ」

 

「なっ! じゃあ、どうしたら!?」

 

「まず倒壊した時に巻き込まれる人がいないようにこの建物の周りにケガ人がいないかの確認。それから人手をいくらか連れて来てくれ」

 

 俺がそう命令すると、

 

「わかった」

 

 そう言って走って行った。

 さてと、俺もできることをやりますか。

 俺は建物の周りを走り回り、ケガ人を救助しつつ、他の受験者に作戦を説明し、協力をしてもらえることになった。

 そして、協力者たちを連れて戻ると、声をかけてくれた受験者が丁度戻ってきた所だった。

 

「それで、どうするんだ? 仮面ライダー」

 

「・・・・・・まず、お前の個性は?」

 

「俺の個性は『爆速』。滅茶苦茶早く走れる。大体、三人ぐらいなら抱えてな」

 

「速さは?」

 

「俺単身だったら、100m3秒。限界マックスまで抱えているときは、100m7秒」

 

「十分だ。奥にいるのは二人ほどだから」

 

 俺はそう言いながらスイッチを押す。

 

《ランチャーオン ガトリングオン》

 

「これで瓦礫をぶっ壊すから。壊すと同時にお願い」

 

「わかった」

 

 俺は集まってくれた受験者たちに、

 

「壊した瓦礫が飛んで来たら防いで被害の拡大を抑えてくれ」

 

 と言ってエンターレバーを引く。

 

《ガトリング ランチャー リミットブレイク》

 

「ライダー全弾打ち尽くし!!」

 

 ロケットモジュールとランチャーモジュールから、強力なエネルギー弾が発射され、瓦礫が吹き飛ばされて行く。

 それと同時に受験者が走ってケガ人を救出する。

 だが、想定外の事が起きた。

 そう、(ヴィラン)役の“ギャングオルカ”が突入してきた時の衝撃で、建物の崩壊がより早まったのだ。

 俺はコズミックエナジーを使い切る覚悟でエンターレバーを何度も引く。

 

《リミットブレイク!!!》

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 俺は連続でエンターレバーを引いて威力を増大させたリミットブレイクをこう呼んでいる。

 

[オーバー・リミットブレイク]

 

 と。

 コズミックエナジーを全て使い果たしてモジュールが消えた時には、瓦礫は全て吹き飛び、消え去っていた。

 まっずかった・・・・・・。

 何とかうまく行ったけど、これでランチャーとガトリングはしばらく使えなくなってしまった。

 周りを確認すると、受験者たちは何が起きたか分からず半パニックになっていた。

 

「みんな、この演習内容を思い出せ! (ヴィラン)によるテロだ!! つまり・・・・・・」

 

(ヴィラン)が襲ってきたって事か」

 

 受験者がそう言うと同時に放送が流れる。

 

(ヴィラン)が姿を現し追撃を開始! 現場のヒーロー候補生は(ヴィラン)を制圧しつつ救助を続行してください』

 

「正解のようだな。俺は救助より戦闘の方が得意だからそっちに向かう。だから・・・・・・」

 

《メディカルオン》

 

「この薬瓶をケガ人に使ってやってくれ」

 

 俺はそう言って薬瓶を受験者たちに渡して行く。

 一人につき薬瓶を四本渡し、俺はロケットモジュールでギャングオルカの元へと飛ぶ。

 マッズイ。

 数が多すぎる。

 

《ロケット リミットブレイク》

 

「ライダー! ロケットパンチ!!」

 

 俺はギャングオルカの周りにいる戦闘員を殴り飛ばす。

 辺りを確認すると、真堂さんが倒れていた。

 ああ、ギャングオルカにやられたな。

 他にいるのは・・・・・・夜嵐さんと轟くんか。

 あ~あ。喧嘩しちゃってるよ。

 まったく、喧嘩は良いとして、それをするなら状況を見てやってくれよ。

 ほら見ろ。

 セメントガンで動きを封じられ始めているじゃないか。

 クソが。

 俺が心の中で悪態をつくと同時に夜嵐さんの風が轟くんの炎を吹き、その炎が真堂さんの方へと飛んでいく。

 真堂くんを助けたのはもちろん緑谷だ。

 

「何をしてんだよ!!!」

 

「そうだ! 緑谷の言う通りだ! 何やってんだオマエら!! 特に轟ィ!! 現場知ってるくせに何やってんだ!!」

 

 俺と緑谷がそう叫ぶように言うと、轟の顔色が変わった。

 そうだよ。

 焦ってるのは分かるし、喧嘩売られてイライラしているのも分かるさ。

 でもよ、状況を見てくれ。

 目の前に(ヴィラン)がいる状況でそんなことしてたら勝てる戦いも勝てるわけがない。

 だから、いつも通り行こう。

 

《エレキ エレキオン》

 

 俺の周りに電撃が走り出す。

 そして、俺の姿が『仮面ライダーフォーゼ エレキステイツ』に変わる。

 右手にはエレキステイ専用武器ビリーザロッドが握られている。

 ふっふふ(不気味な笑み)。

 さて、と。

 

《ウインチオン》

 

 喰らっとけ!!

 俺はウインチのワイヤーで周りにいた戦闘員を縛り付ける。

 そして、

 

「ライダー電気ショック!!」

 

 ワイヤーに電気を通して攻撃する。

 フッハハハハハハハハハ(悪役の笑い)。

 まだまだまだァ!!

 

《チェーンソーオン スパイクオン》

 

 右足にチェーンソーモジュール。

 左足にスパイクモジュール。

 この凶悪なモジュールの攻撃に耐えられるかな?

 

「オラァ!」

 

「あっぶなっ!!」

 

 チッ。

 避けられたか。

 当たっていたら軽く致命傷だったのによぉ。

 そんなことを思いながらも平然と蹴りを連発する。

 頑張って避けろよ~。

 じゃないと軽く死ねるぜ~。

 っと、蹴りだけに集中するな~。

 今の俺がエレキステイツであることを忘れるなよ~。

 ほら、痺れた。

 内心、そんなことを考えながら攻撃していると、ギャングオルカが炎の檻に閉じ込められた。

 それを見て焦る戦闘員。

 その焦りが隙だ。

 俺と緑谷は一気に畳みかける。

 さらに、大勢の加勢も来ることでドンドンとこちらが有利になっていく。

 

「・・・・・・よお、お前も来たのか」

 

「当たり前だ。バカご主人様(マスター)この子(わたし)的にも、ミキ(わたし)的にも救助なんかよりこっちの方が得意だからね」

 

「そうか。じゃあ、行くぞ」

 

「Yes Master」

 

 俺と神姫は同時に戦闘員たちに向かって突撃する。

 神姫は体中に電撃を纏わせている。

 そして、ビリーザロッドにエレキスイッチをセットし、くり出す必殺技。

 

《リミットブレイク》

 

「ライダー100億ボルトブレイク!」

 

「神格技『エレキブレイク』!!」

 

 ドンドン、ドンドンと戦闘員は追い詰められていく。

 ラストスパートだ、というところで、轟と夜嵐さんの“炎の檻”が破られた。

 ・・・・・・・・・確実にエレキが使えなくなるけど、やるしかねえか。

 俺と緑谷は同時に飛び出していた。

 

「二人から離れてください!!」

 

《リミットブレイク》

 

「いや、さっさとブチ倒れろ!!」

 

 二人の攻撃を同時に受け止めるギャングオルカ。

 それと同時に終了の合図が鳴り響く。

 

『えー、只今をもちまして配置されたすべてのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますがこれにて仮免全工程終了となります』

 

 終わった。

 俺はそう思いながら自分の姿を見ると、エレキステイツからベースステイツに戻っていた。

 ああ、コズミックエナジーを使い果たしたか。

 ふぅ。

 息を整えて撤収してきている受験生の方を見ると・・・・・・。

 

「まずい!!」

 

 俺は全力で飛び出していた。

 市街地ステージを歩いている受験生の近くにある反倒壊したビルの外壁が大きく崩れ、落下してきていたのだ。

 人間なんか簡単に押しつぶされてしまいそうなほど巨大な瓦礫。

 アレを防げるのは・・・・・・。

 

《シールドオン》

 

 俺の左手にシールドモジュールが装備される。

 そして、

 

《シールド リミットブレイク》

 

 瞬間、シールドモジュールにコズミックエナジーが集中し、エネルギーの盾が展開される。

 そして、それを使って瓦礫を受け止める。

 だが、その先が無かった。

 受け止めるだけしかできなかったのだ。

 瓦礫は壊れることなく、シールドの上に圧し掛かっている。

 この重量を一人で受け止めるのは、さすがに仮面ライダーでもキツイ。

 だけど・・・・・・、

 

「早く! 逃げろ!!」

 

「でも・・・お前は!?」

 

「良いからさっさと逃げやがれ!! 死ぬぞ!!」

 

 俺がそう叫ぶと、受験者たちは慌ててその場から離れる。

 さて、どうしますか・・・・・・。

 ランチャーとガトリングはもう使えないし、ロケットもさっきのリミットブレイクでパワー不足。

 どうしたら・・・・・・。

 焦りで、どのスイッチを選択すればいいのかという思考が纏まらなかった。

 その時、

 

「ゴムゴムの・・・・・・銃乱打(ガトリング)!!」

 

 そんな声と共に瓦礫が砕かれた。

 そしてそこにいたのは。

 

「猿伸・・・・・・」

 

「よう。決着つけに来たぞ。仮面ライダー」

 

 そう言いながら俺の目の前に着地する猿伸。

 俺は目の前の猿伸に意識を向けながらも、周りにいる人物へ視線を向ける。

 ・・・・・・・・・クソッ。

 

「“暗視(あんし) 波奉(はほう)”か?」

 

「正解。プロに邪魔されたくないからね」

 

 暗視(あんし)波奉(はほう)の個性は確か、『感覚使い』。

 人の五感を操る個性だったはずだ。

 

「プロヒーローの視覚を奪ったのか」

 

「ああ、一時的なモノだけど、それでも決着をつける時間なら十分あるからな」

 

 俺は軽く舌打ちをしてからスイッチを押す。

 

《レーダーオン》

 

 そして、レーダーモジュールを操作して、会場全体にあるマイクを接続させ、言う。

 

『緊急! 緊急! (ヴィラン)の襲撃発生! (ヴィラン)の襲撃発生! 人数は不明! しかも、(ヴィラン)によってプロヒーローたちは無力化されてしまった! 今、この場でプロによる助けは無いものと思え! これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない!!』

 

 そう言い終わると同時に、会場全体に動揺が走った。

 だが、プロは自身に起きた状況を判断し、この状況に適した命令を下す。

 

「「この場にいる、全ての仮免受験生に命じる!!」」

 

「「プロヒーロー」」

 

「イレイザーヘッドの名に於いて、」

 

「ギャングオルカの名に於いて、」

 

「「個性使用による戦闘を許可する!!」」

 

 そう、これからが俺たちの戦いになる。

 さあ、決着をつけようか、『パンドラ』!!




次回、『パンドラ』との決着。


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42話 『仮免試験④ パンドラ』

ゴム人間強すぎ笑えない・・・・・・。


 緑谷出久たちは、いきなり襲い掛かってきた(ヴィラン)との戦闘に入る。

 受験者たちは一人で少なくとも一人の(ヴィラン)を無力化しないといけない。

 爆豪勝己は一人で何人も何人も、(ヴィラン)を無力化していっている。

 それに遅れまいと緑谷出久もフルカウルを使って、(ヴィラン)と戦闘を繰り広げていく。

 その時、機鰐龍兎から渡されていた通信機に連絡が入った。

 

『緑谷、頼みがある』

 

「っ! 機鰐くん!! どうしたの!?」

 

『この会場のどこかに暗視(あんし)波奉(はほう)っていう名前の(ヴィラン)がいるはずだ! そいつを倒せばプロも動けるようになる。・・・・・・頼めるか?』

 

「わかった。任せて」

 

 そこで通信が途切れた。

 緑谷出久は飛び掛かってきた(ヴィラン)を無力化してから機鰐龍兎に言われた(ヴィラン)を探すために一時離脱し・・・・・・、

 

「どこ行こうとしてんだ! デク!!」

 

「わっ! か、かっちゃん! 実は・・・・・・」

 

 緑谷出久は驚きながらも爆豪勝己に状況を説明する。

 爆豪勝己はその説明を静かに聞いてから言った。

 

「で、ソイツはどんな見た目なんだ?」

 

「・・・・・・・・・あっ」

 

「ちゃんと聞いとけよ、クソデク」

 

「・・・・・・・・・ごめん」

 

 緑谷出久は少し下を向いて謝る。

 それをみて、爆豪勝己は少し舌打ちをしてから言った。

 

「分からねえなら全員まとめてぶっ殺せばいいだけだ!!」

 

「ちょっ、待ってよかっちゃん!!」

 

 爆豪勝己は爆速ターボで(ヴィラン)たちの方へと全速力で飛んでいく。

 緑谷出久も数瞬遅れてその後に続いた。

 ちなみに、轟焦凍と夜嵐イナサはギャングオルカの攻撃の痺れが未だ取れず、地に伏していた。

 

 

 

 

 

 

 うおっと。

 あー、クッソ。

 想像以上に厄介だな、オイ。

 俺は背中のジェットを使いながら猿伸の攻撃を避ける。

 物理攻撃を無効化されるのは痛い。

 

《チェーンソーオン スパイクオン》

 

 だが、この二つのモジュールならダメージを与えられる(ハズ)。

 俺は猿伸に蹴りを繰り出した。

 だが、スルッと避けられた。

 クソが。

 心の中で悪態をつきながらも攻撃の手(キックだけど)は止めない。

 戦いは平行線だった。

 だが、それはすぐに引っ繰り返った。

 

「ギア(セカンド)

 

 そんな声が聞こえると同時に猿伸の全身から蒸気が噴き出しだした。

 その瞬間、猿伸が俺の視界から消えた。

 そして、俺の体を強い衝撃が襲った。

 マッズイ。

 目で追いきれない。

 

「どk・・・・・・ガァッ!!」

 

「ゴムゴムのJET銃(ジェットピストル)

 

「痛ェ、どこn・・・・・・グァァアアアアア!!!」

 

「ゴムゴムのJET銃乱打(ジェットガトリング)

 

 早っ・・・・・・。

 見え、ないって、オイ。

 いくら何でも早すぎるだろう。

 俺がどれだけ周りを見ようと、どれだけ反応しようと、サンドバックのように殴られるしかなかった。

 ヤバい。

 タンスの角に足の小指を連続で10回ぶつけた時ぐらいヤバイ。

 だけど、フォーゼの通常攻撃じゃ確実にダメージを与えることはできない。

 でも、“通常攻撃なら”の話だ。

 だったら、普通の攻撃をしなければいい。

 普通じゃない攻撃と言えば、これだ!

 俺がコズミックスイッチを取り出すと同時にそれが奪われた。

 

「なっ!!」

 

「最終フォームに変身させるかよ!!」

 

「マジか! ・・・・・・ガッ!!」

 

 鼻痛ェ!

 ってか人のアイテムを奪うなよ。

 ん? 待てよ。

 これって、まさかだけど、勝利の法則が崩れた?

 普通にピンチじゃねk・・・・・・、

 

「ゲフェッ!!」

 

「余計な事を考えている暇あるのか?」

 

「あるよ」

 

 無論、やせ我慢である。

 本当に雲行きが怪しくなっていた。

 スイッチのいくつかはリミットブレイクの連発でコズミックエナジー切れだし、頼みの綱であるコズミックスイッチはパクられたし、コレ、マジでヤバいぞ。

 どうする?

 どうすればいい?

 考えろ、考えるんだ、俺。

 仮面ライダーなら・・・・・・、如月弦太朗なら、一体どうするかを。

 

「ゴムゴムのJET暴風雨(ジェットストーム)

 

 俺の目の前いっぱいに強力な拳が向かって来る。

 その時、俺は“オレンジ色のスイッチ”を取り出していた。

 そして、

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久と爆豪勝己は目の前にいる(ヴィラン)に苦戦していた。

 その(ヴィラン)の名前は“志井(しい) 逢奈(あいな)”。

 猿伸賊王の秘書にして、『パンドラ』幹部で一番の実力者である。

 個性、『忍ぶ者』は暗殺や情報収集に適したモノで、正面戦闘に適している訳では無い。

 それなのに、志井逢奈は緑谷出久と爆豪勝己を相手に正面から戦い、二人を圧倒していたのだ。

 

「消えたり現れたりしやがって、クソ野郎。デクもデクだ! 何あっさり攻撃喰らってんだ!!」

 

「ごっ、ごめん・・・・・・」

 

 緑谷出久は立ち上がりながら志井逢奈の個性の分析に入る。

 

(煙と共に消えたと思ったら、煙と共に現れた。つまり、消える個性の可能性が高い。それに、使って来る武器から見て忍者をリスペクトした戦い方をしていると思う。だとしたら・・・・・・)

 

「呑気に考えている暇を与えるとでも?」

 

「なっ・・・・・・!」

 

 緑谷出久の目の前、目と鼻の先ほどの距離に志井逢奈が現れていた。

 そして、その手には透明な液体が滴るクナイが握られていた。

 慌てて身を屈めるようにしてその攻撃を避ける緑谷出久。

 紙一重で避ける事が出来た。

 もしも、後一瞬避けるのが遅ければ、クナイに斬られ、塗られている毒が全身を回っていただろう。

 緑谷出久は転がりながらも体勢を整え、

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

 5%の力で殴った。

 だが・・・・・・、

 

「そ、んな・・・・・・」

 

「ふぅ。危ない危ない。私でなければやられていたでしょう」

 

 志井逢奈は緑谷出久の拳を正面から受け止め、一切のダメージを受けていなかった。

 いったい何が起きたのか、何をしたのか、個性なのか、緑谷出久は一切判断が出来なかった。

 それでも、個性の応用であると判断した。

 だが、それは間違えである。

 志井逢奈は個性を使わずに緑谷出久の攻撃を防いだのだ。

 確かに、緑谷出久の攻撃は、個性は5%でも強力なモノである。

 でも、強力なだけなのだ。

 攻撃を受け止め、全身の力を抜くことで、攻撃の衝撃を受け流したのだ。

 そう、それは個性ではなく、鍛え抜いた“技術”なのだ。

 そこの判断をミスする事は、実戦における最悪の選択となる。

 

「さあ、倒れてください」

 

 緑谷出久に襲い掛かる大量のクナイ。

 だが、それが少年に当たる事は無かった。

 爆豪勝己が必殺技[徹甲弾(A・P・ショット)]を使って緑谷出久を襲っていたクナイを全て吹き飛ばしたからだ。

 

「なんっ・・・・・・!」

 

 クナイを全て吹き飛ばされたのを見て志井逢奈は驚きで怯んでしまった。

 爆豪勝己が緑谷出久を助けるはずが無いとタカを括っていた為、まさかの行動に脳の処理が一瞬だが止まったのだ。

 その一瞬を、緑谷出久は見逃さなかった。

 

SMASH(スマッシュ)!!」

 

 再度叩き込まれる拳。

 今度は、受け流されることは無かった。

 

「ハァ、ハァ・・・・・・」

 

「休んでる暇はねぇぞ、デク。こんなヤツが守りを固めていたんだ。多分、この先にコイツらの大切な“何か”があるって事だ。行くぞ」

 

「う、うん」

 

 緑谷出久の返事を聞く前にさっさと歩きだす爆豪勝己。

 それを見て、慌てて志井逢奈を拘束し、その後を追いかける緑谷出久。

 その時、緑谷出久はある違和感を覚えた。

 目の前の爆豪勝己はいつも通りに見えるのに、そこか、焦っているように感じたのだ。

 だが、それについてを考える余裕などなく、緑谷出久は爆豪勝己の後に続くのであった。

 

 

 

 

 

 

《ロケットスーパー ロケットオン》

 

 そんな音声と共に俺を中心にコズミックエナジーが吹き荒れた。

 そのエネルギーはすさまじく、猿伸の技の推進力を完全に打ち消した。

 

「なんだ・・・そりゃ・・・・・・」

 

「ずっと気になっていたんだ。お前は仮面ライダーについて知っているようだが、本当に中身までしっかり知っているのか、ってな。そこで俺の建てた仮説が、CMとかでやっているヤツでしか知らないんじゃないかと思った。だったら、そこを隙間と考えて、突けばいいんだ」

 

 俺がそう言うと同時にベースステイツの色がオレンジ色に変化しだす。

 そして、“両手に”ロケットモジュールが装備され、俺の姿が『仮面ライダーフォーゼ ロケットステイツ』への変身を完了させる。

 本当はコズミックステイツの方が、コズミックエナジーを使うのに適しているけど、ロケットステイツも大量のコズミックエナジーを持っている姿だ。

 ・・・・・・これで、この姿で終わらせる。

 俺は腰を落とし、ロケットモジュールのエンジンを起動させる。

 猿伸も空気を吸い込み、体をねじらせる。

 

「ライダーきりもみクラッシャー!!」

 

「ゴムゴムのJET暴風雨(ジェットストーム)!!」

 

 俺たちの回転攻撃がぶつかり合う。

 お互い、全力で、全身全霊を懸けてぶつかる。

 そして、

 

「ウグァッ・・・・・・!」

 

「アガァッ・・・・・・!」

 

 相打ち。

 ・・・・・・・・・もう一回!!

 

「ライダーダブルロケットパンチ!!」

 

「ゴムゴムのJET銃乱打(ジェットガトリング)!!」

 

 再度ぶつかり合う。

 そして、また相打ち。

 それでもあきらめずにまたぶつかり合う。

 また相打ち。

 だが、先ほどまでと確実に違う。

 

「なっ、なん・・・・・・」

 

「予想通りだ」

 

「・・・・・・何をしたんだ」

 

「裏技だよ。ウ・ラ・ワ・ザ(天才ゲーマーM風に)」

 

 例え、物理攻撃無効のゴム人間であっても、弱点は確実に存在する。

 刺突斬撃や熱、そして“衝撃波”。

 俺がやり続けていたのはただの攻撃ではない。

 コズミックエナジーをフルに使った衝撃波付きの攻撃だ。

 宇宙のエネルギーそのものを喰らったら流石のゴム人間でも耐えられないだろうという俺の予想はどうやら当たりらしい。

 

「さて、これでほぼ同じステージに立てたぞ」

 

「フッ、ハハハハハ。いいね。やっぱりお前は面白い!」

 

 猿伸はそう言うと同時に自分の親指を噛む。

 そして、

 

「ギア(サード)。ホネ風船!」

 

 あっ・・・・・・それ使うの?

 マズイなぁ、オイ。

 それは周りへの被害が出すぎるんだよ。

 俺は慌ててロケットで飛ぶ。

 上に攻撃を向けさせることで少しでも被害を減らそうとしたのだ。

 

「喰らえ!! ゴムゴムの巨人の銃(ギガントピストル)!!!」

 

 目の前いっぱいに広がる巨大な拳。

 圧倒的破壊力を持つ攻撃。

 だが、こっちだって。

 

《ドリルスーパー ドリルオン》

 

 俺の両足にドリルモジュールが装備される。

 そして、俺はエンターレバーを引く。

 

《ロケット ドリル リミットブレイク》

 

「ライダーダブルロケットダブルドリルキック!!!」

 

 俺の攻撃と猿伸の攻撃がぶつかり合う。

 ロケットの噴射力を底上げし、猿伸の攻撃を押していく。

 だが、猿伸も負けているわけでは無い。

 押して、押し返されてのイタチごっこが続く。

 ・・・・・・・・・・・・フッ。

 猿伸よ、俺が正面からやりあってやるとでも思ったのか?

 もしもそう思っているのなら、俺を聖人だと勘違いしているなら、その認識を改めた方が良い。

 俺はロケット噴射を逆向きにし、猿伸の攻撃射線から一瞬で離脱する。

 そして、横から突撃する。

 

「なあっ!!」

 

「ギア3の弱点は、攻撃時に体が隙だらけになる所だ! 喰らっとけ!!」

 

「ちょっ、ズル・・・・・・」

 

 俺は猿伸の言葉を最後まで聞くことなく全力で蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「これで終了ってところか」

 

「多分だけど、そうだと思う・・・・・・」

 

 緑谷出久と爆豪勝己はそんな会話をしながら倒れて目を回している人物に視線を向ける。

 二人は、プロを無力化していた(ヴィラン)を発見し、撃破したところだった。

 その(ヴィラン)・・・・・・、暗視(あんし)波奉(はほう)はコソコソと隠れていただけで、発見された瞬間、泣き、近くにある物を取り合えず投げまくり、最後は部屋の隅で丸くなってガタガタ震えていた為、心配した緑谷出久がソッと肩を叩いた所、悲鳴を上げて気を失ってしまったのだ。

 これを撃破と言っていいのかは少し怪しいだろう。

 暗視波奉は小心者の人見知りで人前に出たり、人に顔を見られるのが嫌なため、転生する際にこのような個性にしたのだ。

 見られたくない、その一心だった。

 だが、転生個性の中でも珍しく、一定数以上に個性の効果を付与させられないという弱点が存在する。

 これは暗視波奉の心の問題であり、あがり症で小心な所を克服すれば個性の幅は大きく広がっていくだろう。

 それでも暗視波奉はそこを克服しようとせずに、この個性を使ってコソコソしていた所、猿伸賊王と偶然出会い、彼に付いて行っているのだ。

 余談だが、『パンドラ』メンバーの中でも暗視波奉の存在を知っている者は少ない。

 ちなみに、暗視波奉は名前だけ聞く限り男のように思われることがあるが、れっきとした女子である。

 短く整えられた赤茶色の髪にクマさんがプリントされたダボダボのシャツにホットパンツ、黒いニーソを履いていて、オシャレというのか何というか、微妙な服装をしている。

 だが、隠れていた部屋には小さな窓しかなく、明かりも点かなかった為、緑谷出久と爆豪勝己は暗視波奉が女子であることに気が付かないまま、軽い拘束をして、背負い、連れて行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 俺は大の字に寝っ転がっている猿伸の方へと向かって行く。

 変身は解除している。

 

「俺の勝ちだな」

 

「ゲホッ・・・・・・、そりゃズルいだろう」

 

「ヘッ。知ってるか? 戦闘ってのは、いかに自分の得意を押し付けるか、だよ」

 

「・・・・・・セメントスの言葉か」

 

 猿伸はそう言って笑った。

 楽しそうに、それでいてどこか悔しそうに。

 

「そうだよな。実戦にルールはねぇモンな。ハハハッ」

 

「さて、と。逮捕と行くか」

 

 俺がそう言いながら猿伸の手を持とうとした瞬間、

 

「っ! 煙幕!!」

 

「残念。捕まる気はない! またな!!」

 

 そんな声と共に猿伸の姿は消えた。

 ・・・・・・忍者かよ。

 他の受験者たちの方を見ると、彼らと戦っていた『パンドラ』メンバーもいなくなっていた。

 ・・・・・・逃げたか。

 まっ、次戦う時は確実に倒してやる。

 俺はそう思いながら皆の方へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 その後、警察が来たりプロヒーローが来たりして色々と面倒くさいことになった。

 俺も一応、『ファウスト』のリーダーとして状況説明をした。

 同じような事を聞かれまくって滅茶苦茶イライラしたけど、しっかりと大人の対応をした。

そして―――――、

 

『えー、色々とトラブルに見舞われましたが、皆さんお疲れ様でした。これから合格者の発表を行います』

 

「「「「「「「「「「「「「あんな事あったばかりなのに普通に進行するのかよ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」

 

 会場にいる全員の気持ちが一つになった事だろう。

 俺だって驚いてるもん。

 普通に中断案件だろうが。

 

『まあ、発表前にいくつか。まずは、皆さん無事で本当に良かった。このようなトラブルに見舞われながらも、全員大きなケガなく乗り越えられたのは君たちの実力でしょう。・・・・・・ですが、この事故による活躍は仮免に一切関係ないため、合否には関係ありません。どれだけ活躍していようと、落ちている人は落ちています』

 

 ズバッと言ったな。

 少しは大目に手やって欲しいよ、ホント。

 

『では、仮免の話に戻ります。採点方法と言いますと、我々“ヒーロー公安委員会”とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させていただきました。つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査をしています。とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい・・・・・・』

 

 名前が表示される。

 え~っと、機鰐龍兎だから、『かきくけこ』の『き』だな。

 き~・・・・・・、き~・・・・・・あったわ。

 落ちてても裏から手を回したけどその必要はなくなったな、うん。

 周りを確認すると、爆豪・轟・夜嵐さんは原作通りに落ちたようだ。

 でも、大丈夫だ。

 

『えー、全員ご確認いただけたでしょうか? 続きましてはプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されていますのでしっかり目を通しておいて下さい。ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたか等下記にズラーっと並んでいます』

 

 確認すると、95点だった。

 減点は内容は、ランチャーとガトリングでのリミットブレイク時が危険だったからだという。

 ただ、(ヴィラン)役のジャングオルカの突撃は予期できないもので、その後はしっかりと巻き返したため、減点5点で済んだという。

 あっぶなかった。

 あの時、意地半分で全弾撃ち尽くしていおいて良かった。

 

『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、先ほどのように(ヴィラン)との戦闘、事件・事故からの救助など・・・ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります。しかしそれは君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるという事でもあります』

 

 表向きは反社会的勢力に属している俺には耳が痛くなる言葉だな。

 だって、一応だけど事件起こす側だもん。

 

『皆さんご存知の通りオールマイトという偉大な(グレイトフル)ヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制になる程大きなモノでした。心のブレーキが消え去り増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心となっていきます。次は皆さんがヒーローとして規範となり抑制できるような存在とならねばなりません。今回はあくまで仮の(・・)ヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎でさらなる精進に励んでいただきたい』

 

 精進に励むどころか暴れまわってますが何か?

 

『そして、えー、不合格となってしまった方々。点数が満たなかったからとしょげている暇はありません。君たちにもまだチャンスは残っています。三ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば君たちにも仮免許を発行するつもりです。今、私が述べた“これから”に対応するにはより“質の高い”ヒーローがなるべく“多く”欲しい。一次はいわゆる“おとす試験”でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そういうわけで全員を最後まで見ました。結果、決して見込みがないわけではなく、むしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になるものばかりです。学業と並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦しても構いませんが―――』

 

「当然」

 

「お願いします!!」

 

 あ、言葉遮られた。

 まあ、やる気が出たようで何よりだ。

 その後、合格者全員に仮免許が配られた。

 仮免許のヒーローネーム欄にはしっかり[KAMEN RIDER]と書かれていた。

 ムッフフ。ムッフフ。

 俺は上機嫌になりながら『ファウスト』の基地まで歩を進めた。

 

 




次回、エボルトが・・・・・・


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43話 『エボルトォォオオオ』

ラスボスの登場。


 特殊拘置所。

 ここは、凶悪な・・・・・・いや、凶悪過ぎる(ヴィラン)が収容されている鉄壁の檻だ。

 そこで、光と闇が向かい合っていた。

 

「ここは窮屈だよ、オールマイト。例えば・・・背中が痒くなり背もたれに体をこする。すると途端にそこかしこの銃口がこちらを向く。バイタルサインに加え、脳波まで常にチェックされているんだ。“個性”を発動しようと考えた時点で既に命を握られている。地下深くに収監され、幾層ものセキュリティに覆われ・・・徹底的にイレギュラーを排除する。世間はギリシャ神話になぞらえ・・・・・・ここを“タルタロス”と呼ぶ。“奈落”を表す神の名だよ。さすがの僕も神への反逆となると一苦労するだろう」

 

 長々と、それでいて楽しそうに話すオール・フォー・ワン。

 そんな宿敵に対し、オールマイトは静かに答える。

 

「いいや、出られないんだよ」

 

「そういうことにしておこう。それで? 何を求めてる? グラントリノは? 独断か? その未練がましいコスチュームは何だ? 君まさかまだヒーローやってるワケじゃないだろうな?」

 

「よく喋るな」

 

「察してくれよ! 久々に会話が成り立つんだぜ?」

 

 そう、お道化た様に言うオール・フォー・ワンにオールマイトは力の籠った鋭い目を向けながら問いかける。

 

「死柄木は今どこにいる?」

 

「知らない。君の(・・)と違い彼はもう僕の手を離れている」

 

 しばらくの沈黙。

 何か少しでも情報を得られるのではないかと期待をしていたのだが、マトが外れてしまう。

 

「・・・・・・・・・貴様は何がしたい。何がしたかった。人の理を超え、その身を保ち、生き永らえながら・・・・・・その全てを搾取・支配・人を弄ぶことに費やして・・・何を為そうとした」

 

「生産性のない話題だな。聞いても納得できやしないくせに。わかりあえない人間ってのは必ずいるんだから。・・・・・・同じさ。君と同じだよ。君がヒーローに憧れたように僕は悪の魔王に憧れた。シンプルだろう? 理想を抱き、体現出来る力を持っていた。永遠に理想の中を生きられるならその為の努力は惜しまない」

 

 冷静に、淡々とそう答えるオール・フォー・ワン。

 オールマイトはその言葉に疑問を覚えた。

 だから・・・・・・、

 

「ならば、なぜ後継など・・・・・・」

 

 その言葉を聞いたオール・フォー・ワンの声色に楽しみが含まれる。

 

「君がそれを聞くかあ! ハッハッハ。面白い! 君がすべて奪ったからだろう!? 僕の体を見ろ。この管で僕はようやく生命を維持できている。無限に思えた僕の理想は君の登場によって有限となったんだ。終わりがある事を知れば、人は託す。何だってそうさ。そこかしこに建つ家やビル、何気なく口にする食品、全て人から人へと託され、発展してきた。皆がやっている事を僕もしようとしているだけさ」

 

 オール・フォー・ワンはそこまで言って深く息を吸い、吐いた。

 まるで、何か重要なことを話す前振りかのように。

 

「機鰐龍兎。彼は本当に不思議な少年だね。見ただけで分かったよ。ヒーローに憧れている存在だって。調べてみると根っからヒーロー気質のようだし。ただ、何かしら深い“闇”を抱えているようだけど、その辺、教師としてはどう思う?」

 

「なぜ、お前が彼の事を・・・・・・」

 

「君に敗北して何とか手術が完了した術後に一度だけ出会っているんだ。あの時の僕は、弔の為にヒーローや警察の動きのパターンをいくつかデータとして収集しようと思っていてね。そこら辺のチンピラをそそのかして事件を起こさせたんだ。その事件の人質として機鰐龍兎が捕まったんだ。まあ、その時は少し強い個性を持った少年である、くらいの認識だったんだ。・・・・・・なのに、彼は事件後に逃げたチンピラを追いかけて来たんだ。そして、僕と出会った。彼は怖気付くことなく僕に向かって突撃してきたよ。術後で本調子ではなかったとはいえ、彼は僕に一撃を与えた。骨がいくつかやられていたよ」

 

 長々と語るオール・フォー・ワン。

 だが、オールマイトはそこに何を言いたいのかという疑問を覚えた。

 今まではずっと確信的に話していたのに急に遠回しで着地点の見えない話になったのだ。

 逆に、そこへ疑問を覚えない者はまず存在しないだろう。

 

「何が言いたいんだ・・・?」

 

「“詩崎(しざき) 鋭矢(としや)”。・・・・・・機鰐龍兎に恨みを持つ少年さ。彼は警察ですら見つけられなかった僕の下へ自力で辿り着いた。本当に素晴らしい執念だよ。そして、彼は復讐のための力を求めた。だから僕は与えた【心の闇をエネルギーに変えて使う】個性をね。本当は弔にあげる予定だったんだけど、彼にあげることにしたんだ。僕の勘がそうした方が良いと言っていたもんでね。・・・・・・結果は凄いものだったよ。彼は生み出したエネルギーを無駄に消費することなく、まるで電池のように溜め続けていたんだ。しかも、僕では思いつかないような方法でそれを使っていてね。きっと近いうちに機鰐龍兎の前に現れると思うよ」

 

 オール・フォー・ワンがそこまで言った所で、

 

『オールマイト。あと3分程で・・・』

 

「待ってくれ! そりゃあないだろう。話をしたいんだ。もっと・・・そうだな。世間は君の引退にかなり動揺したと思うんだが、様子はどうだ?」

 

『外の情報は遮断しています。軽率な発言はお控えお願いします』

 

「・・・・・・・・・だそうだ」

 

「残念だな・・・・・・」

 

 そう言って項垂れるオール・フォー・ワン。

 そして・・・・・・、

 

「きっと・・・こうかなァ・・・・・・。今頃メディアは君のいなくなった不安、そして新たなリーダー・エンデヴァーへの懸念が重なりヒーロー社会全体の団結を訴えている。一方で不安定になりつつある空気を察知してヒーローを支持しない、いわゆる日陰者が行動を起こし始める。自分たちも社会を動かせるんじゃないかと組織だって動き始める。最近有名なところで言えば『ファウスト』や『パンドラ』あたりかな? 弔たちはしばらく潜伏を続けるんじゃないかなァ・・・。台頭する組織を見極める為にね。どこも勢力を広げたいだろうから(ヴィラン)同士での争いも頻発するだろうね。僕の描いたシナリオが正しく機能していれば、だいたいそんな流れになってるんじゃいかな? 仮にそうなっているとして・・・原因は全て君の引退なワケだ。今後、君は人を救う事叶わず、自身が原因で増加する(ヴィラン)どもを指を咥え、眺める事しかできず、無力に打ち拉がれながら余生を過ごすと思うんだが、教えてくれないか? どんな気分なんだ?」

 

 辺りの空気が一気に変わった。

 冷たく、重いものに。

 

『オールマイト、離れてください』

 

「心を言い当てられると人ってのはよく怒る! 残念だなァ。ここじゃ僕を殴れない」

 

 オール・フォー・ワンによる挑発。

 だが、オールマイトは軽く息を吐き、言った。

 

「貴様だけが・・・全てわかっていると思うな。貴様の考えはよくわかっている・・・。お師匠の血縁である死柄木に私・・・・・・あるいは少年を殺させる。それが筋書きだな」

 

「で?」

 

「私は死なないぞ。死柄木に私は殺させない。私は殺されないぞ! 貴様の思い描く未来にはならない!」

 

 オールマイトは、そう、力強く宣言した。

 

「“ケジメをつけに来た”って・・・それを言いに来たのか?」

 

『オールマイト。時間です。退出を』

 

「貴様の未来は・・・私が砕く・・・! 何度でもな。貴様こそ、ここで指を咥え・・・余生を過ごせ」

 

 オールマイトはそう言って面会室を退出した。

 

 

 

 

 

 

 ファウスト基地についてすぐに俺はズッコケてしまった。

 いや、誰だってズッコケたくなる。

 だって・・・・・・、

 

「何でお前が居るんだ! 猿伸!!」

 

「ん? 同盟を結びに来たんだよ、仮面ライダー・・・・・・いや、スターク」

 

「スタークは引退したよ」

 

 俺はそういながら猿伸と一緒にポテチを食べていたユウを引っ張って話を聞いた所、マジで同盟を結びに来たという。

 身勝手すぎないか?

『ファウスト』と決別して『パンドラ』を作って敵対していたのに何なんだよ。

 ってか、さっき戦ったばかりだろう。

 俺がそう呆れていると、

 

「そう、悪い話でもないかもしれないぜ」

 

 と言いながらコーヒーを持ってくる影。

 俺はすぐさま距離を取る。

 

「“石動惣一”。何があろうとお前のコーヒーだけは飲まないぞ」

 

「釣れないねぇ。いいじゃん、飲んでくれたって」

 

 石動はそう言いながらコーヒーカップをテーブルに並べだす。

 俺はそのコーヒーには手を出さない。

 だが、何も知らないユウが飲んでしまった。

 

「ブフェッ、マッズ!!」

 

「あ~、やっぱりマズイ?」

 

 いけしゃあしゃあとそう言う石動に俺はため息を吐いてしまった。

 

「・・・・・・そういえば、体の方はどうだ?」

 

「ああ、かなり調子はいいぞ。見た目もしっかり注文通りにしてくれたしな」

 

 そう。

 この石動はエボルトだ。

 ボトルのままでは何にもできない為、自由に動かせるボディを作ったのだ。

 コアに、しっかりとエボルトを使い、今のところ、『仮面ライダーエボル フェーズ1』への変身もできるぐらいは力が戻っている。

 だが、それでも何かするわけでもなく、のんびりとしている。

 

「で、猿伸。お前の目的は何だ?」

 

「『ベアーズ』って名前に聞き覚えがあるか?」

 

「・・・・・・いや、ないけど。それがどうしたんだ?」

 

「『ベアーズ』も転生者(ヴィラン)の組織なんだが、最近、変に動き出しているんだ。狙いは『ファウスト』と『パンドラ』。ここまで言えばわかるだろ?」

 

「その組織と戦うために手を結ぼうって事か」

 

「正解」

 

 猿伸はそう言いながらポテチを摘まむ。

 怪しさはあるが、声色から見るに、どうやら裏はないようだ。

 

「・・・・・・わかった」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 猿伸はそう言いながら石動の持って来たコーヒーに口をつけ、あまりのマズさに吹き出していた。

 俺はそれを見て少し頭をポリポリと掻いてから近くの椅子に座った。

 そして、今夜の計画について話し合った。

 

 

 

 

 

 

 ハイツアライアンス一階。

 俺たちはそこに備え付けられているTVを見ながらのんびりする。

 TVに映し出されているのは、プロヒーローとファウストメンバーが戦っている映像だ。

 

「ねえ、機鰐くん。ファウストとしての仕事はいいの?」

 

「ああ、影武者が見つかったんでな」

 

 俺はそう言いながらコーラを飲む。

 TVでは、シンリンカムイとナイトローグが、Mt.レディとブラッドスタークが戦っている。

 さあ、みんな頑張ってくれよ。

 

 

 

 

 

 

 シンリンカムイは苦戦していた。

 ナイトローグの攻撃力は創造していたよりも高く、だんだんと押されているのだ。

 そして、一瞬の隙を突かれて蹴りが直撃した。

 地面を壮大に転がるシンリンカムイ。

 

「ふん。その程度か?」

 

「・・・・・・いや、まだだ。我はまだ本気を出してはいない!」

 

 無論、方便である。

 拘束する事を得意とするシンリンカムイは正面戦闘ではそんなに強くはない。

 そのため、どう隙をついて拘束するかと作戦を練る。

 その時、ナイトローグが青色のアイテムを取り出した。

 

「さあ、こっちも本気で行くとしよう」

 

《スクラッシュドライバー》

 

 腰にベルトを装着するナイトローグ。

 そして、取り出したボトルのキャップを正面に合わせる。

 

《デンジャー! クロコダイル!》

 

「変身」

 

《割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オラァ! キャー!》

 

 そんな音声と共にローグを中心にビーカーが展開され、その中が紫色の液体で満たされ、割れ、その姿が『仮面ライダーローグ』への変身を完了させた。

 邪悪で、凶悪な姿。

 その体からは圧倒的なプレッシャーが放たれている。

 

「なんだ・・・その姿は・・・・・・!?」

 

「さあな、もしかしたら近いうちに雄英から何かしら発表があるだろう」

 

 ローグはそう言いながらシンリンカムイに向かって突撃する。

 シンリンカムイは慌てながら[ウルシ鎖牢]でローグを捕縛しようとしたが、ローグはそれを全て避け、突撃する。

 そして、

 

《クラックアップフィニッシュ! キャー!》

 

 シンリンカムイを凶悪で強力な攻撃が襲った。

 そして、その意識は闇の中へと沈んでいった・・・・・・。

 

 

 

 Mt.レディは狭いところでの戦闘に適していない。

 巨大化という個性だが、大きさを自由に変えられるわけでは無い。

 そのため、街中での戦闘に適しているわけでは無いのが現実だ。

 だが、今回は運がよく、大きな公共公園の近くで『ファウスト』が事を起こしたため、巨大化して戦っている。

 それでも、近くの建物を大きく破壊しないようにやらねばいけない為、強く攻撃をできないのが現状だ。

 

「オイオイ、その程度かぁ?」

 

「うっさいわね! チョロチョロしてぇ!!」

 

「おっと。危ない危ない」

 

 余裕そうな声色でそう言うブラッドスターク。

 公園近くのビルの屋上を走り、跳びまわり、Mt.レディを翻弄している。

 直撃しそうな攻撃であってもヒラリヒラリと簡単に避ける。

 いや、避けるだけではない。

 避けると同時にスチームブレードでその手を斬りつけていたのだ。

 それだけではない。

 トランスチームガンにフルボトルを装填し、フルボトルの効果を使って攻撃をしているのだ。

 

「そんな大振りの攻撃じゃぁ当たるモノも当たらないぞぉ」

 

「だからうるっさいわよ!!」

 

 Mt.レディは個性上、大きくならないと意味がない。

 巨大化することによって強力なパワーを持つことができるため、元の大きさになれば、少し身体能力が高くてパワーのある普通の女性でしかない。

 だが、巨大化すればその力は強大なモノである。

 そのため、意地でも元の大きさになろうとしていないのだ。

 

「ふう。そんな単調な攻撃じゃあつまらない」

 

 そう、ため息を吐くブラッドスターク。

 そして、ブラッドスタークはトランスチームガンからコブラロストボトルを抜いて人間体に戻る。

 その顔には、エボルト(怪人態)を模したマスクが被らされていた。

 

「まあ、少しだけ本気を出してやろう」

 

 エボルトはそう言って腰にベルトを装着する。

 

《エボルドライバー》

 

 それを見た瞬間、Mt.レディはこれ以上何か行動をさせてはいけないと直感した。

 そして、突っ立っているエボルトに殴りかかった。

 だが、エボルトが手をかざすと同時にそこから謎の力が発せられ、Mt.レディの攻撃は弾かれてしまった。

 

「お前は、準備運動には良さそうだ」

 

《コブラ! ライダーシステム! エボリューション!》

 

 レバーが回されると同時に展開されるエボルライドビルダー。

 

《Are you ready?》

 

 そして、エボルトは目の前で手をクロスさせ、ベルトからの問いに答える。

 

「変身」

 

《コブラ! コブラ! エボルコブラ! フッハッハッハッハッハッハ!》

 

 そんな音声と共にエボルトは『仮面ライダーエボル コブラフォーム』への変身を完了させる。

 その体からは凶悪で強大なオーラが発せられている。

 それを見たMt.レディはあまりのプレッシャーに少しだが後退ってしまった。

 だが、それでも彼女はプロヒーローである。

 諦めることなく、逃げることなく、立ち向かって行く。

 振るわれる巨大な拳。

 エボルはそれを目の前にニヤリと笑った。

 そして、ベルトのレバーを回す。

 

《Ready Go!》

 

 エボルの足に強大なエネルギーが収束しだす。

 

《エボルテックフィニッシュ! チャオ!》

 

 Mt.レディのパンチに合わせるおようにエボルはキックを繰り出す。

 その威力はすさまじく、余波だけで近くの建物の窓ガラス(強化ガラス含む)が全て割れ、Mt.レディは吹き飛ばされた。

 それは、TV中継をしていた者も、野次馬をしていた者も、そして、それをTVで見ていた者にも大きな衝撃を与えた。

 いや、それだけではない。

 ビルから降り立ったエボル。

 そして、地上にいたTV関係者の方へと近づいていき、カメラに向かって言う。

 

「改めて自己紹介をさせてもらおう。俺の名前は“エボルト”。地球外生命体さ。・・・・・・フッ。それじゃ、チャオ♪」

 

 そう言い残し、その場から姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 やりすぎだ、あのアホ(エボルト)

 俺は頭御抱えて項垂れてしまった。

 皆の視線が俺に集中しているのが感覚的に分かる。

 

「ね、ねえ。機鰐くん・・・・・・」

 

「聞くな」

 

 アイツ・・・・・・明日説教してやる。

 俺はそう思いながら項垂れ、その場を離れ自室に戻った。

 ・・・・・・ああ、クッソ。

 自室のベッドに横になり、俺は眠りについた。




キャラ設定

石動惣一(エボルト)
身長:186 cm
体重:【知りたいかぁ?】

仮面ライダービルドに出てきたラスボス・・・・・・らしいのだが、本人曰く、

「俺は戦兎にやられた時に“俺”から抜け出た意識が姿を持ったモノ」

だという。
完全体になる事を諦めているわけでは無いが、エボルボトルの姿のままだと、一切の力を使いことが出来ず、ただ口うるさい置物になってしまう。
現在の体は、石動惣一の見た目を模したロボット(アンドロイド?)の体で、機鰐龍兎作のアイテム。
この体でいる限りは、多少の力を使えるだけでなく、『仮面ライダーエボル コブラフォーム』に変身することも可能。
だが、機械製の体はエボルトの力に完全に耐える事が出来ず、『仮面ライダーエボル』の姿で入れる時間は、約10分ほど。
ブラックホールフォームになろうものなら、その体は自壊してしまう。
普段は、【The()Sweets(スイーツ) Cafe(カフェ)】で働いている。
本人は自信作のコーヒーを出したがっているが、『ファウスト』メンバーが命懸けで止めている。
『ファウスト』としての活動時にはエボルト(怪人態)を模したマスクを被っているが、本人の意思ではなく、身バレ防止のモノで、あまり良くは思っていないのだという。


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44話 『決意』

進展。


 おはよう。

 いや、今は朝じゃないんだけどね。

 月を見る限り夜中であることだけは確実だな。

 布団の中に入ったのが何時なのか見るのを忘れていたため、どれぐらい寝たのかは判断できないが、このスッキリ具合いから考えて、3時間ほどだろう。

 俺はカーテンを開け、外を見る。

 室内灯をつけていないため、月明かりが室内を明るく照らしている。

 遠くから聞こえてくるのは爆発音。

 距離があるせいで、近くの虫の羽音並みにしか聞こえてない。

 でも、“この程度の音”なら聞き取れる。

 転生特典『地獄耳』。

 たとえどれだけ小さな音でも、たとえどれほど重なった複数の声でも聞き分けられる特典。

 ・・・・・・やっぱり、これは変なんだ。

 どんな転生者でも持っている特典は一つだけ。

 多少、言葉を複縦させて、一つの特典に二つ三つ効果を付与しているヤツもいるけど、そういう例外を除いて、特典は一つだけ。

 なのに、俺は複数持っている。

 持ちすぎている。

 しかも、転生するまでの過程が全員と違う。

 事故死が一番多いが、餓死、孤独死、病死、そして他殺。

 俺みたいに事故に巻き込まれ、間違えられたパターンは『ファウスト』メンバーでは一人もいなかった。

 いや、事故に巻き込まれて死んだヤツはいたが、事故に巻き込まれて、魂を間違えられたヤツがいないんだ。

 全員、主神さんに会っているのは変わらないが、それでも俺みたいなパターンはゼロ。

 そこで嫌だと思いながらも思い浮かんでくるのは、想像もしたくないイメージだ。

 だが、俺はそのイメージを全力で拭い去る。

 それを俺の中で完全に具体化させてしまったら、全てが終わる気がしたからだ。

 だから、俺は何も考え値いように鼻歌で自分を誤魔化しながら、動きやすい格好に着替える。

 着替え終わる時に丁サビに入り、ノリノリでエレベーターに乗っていたのは、まあ、ご愛敬って事で。

 

 

 

 

 

 

 機鰐龍兎起床十数分前。

 緑谷出久は爆豪勝己に呼び出され、ハイツアライアンスの外へと出ていた。

 それがマズイ事だと分かっているからこそ、前を歩いている爆豪勝己に言葉をかけ続けていたが、彼は一切答えようとしない。

 ただ、静かに前を歩いている。

 どれほどの時間歩いただろうか。

 緑谷出久たちは“とある場所”に着いていた。

 

「ここって、グラウンド・β(ベータ)・・・・・・」

 

「初めての戦闘訓練でてめェと戦って負けた場所だ。ずっと気色悪かったんだよ・・・・・・」

 

 爆豪勝己は緑谷出久に何かを言わせることなく、言葉を続ける。

 

「無個性で出来損ないのハズのてめェが、どういうわけだか雄英合格して、どういうわけだか個性発現しててよォ。わけわかんねえ奴が、わけわかんねェ事吐き捨てて、自分一人で納得した面してどんどんどんどん登って来やがる。ヘドロ(・・・)ん時から・・・。いや・・・オールマイト(・・・・・・)が街にやって来た時から・・・どんどん、どんどん・・・・・・しまいにゃ仮免、てめェは受かって、俺は落ちた。なんだこりゃあ? なあ?」

 

「それは実力ってよりも・・・・・・」

 

「黙って聞いてろクソカスが!!」

 

「ごめん・・・・・・」

 

 有無を言わせないような爆豪勝己の迫力に、緑谷出久は反射的に謝っていた。

 爆豪勝己はそれを聞いて、また静かに話を戻した。

 

「・・・・・・ずっと、気色悪くてムカツイてたぜ。けどなァ、神野の一件で何となく察しがついた。ずっと考えていた」

 

 それは、この話の核心であった。

 緑谷出久が入学したての時に不用意に話してしまった事。

 ずっと、その話では無いのかと身構えていたため、核心へ触れられそうになった瞬間、緑谷出久は緊張で少し固まってしまった。

 そして、爆豪勝己の口から“その言葉”が出た。

 

「オールマイトから貰ったんだろう、その“個性(ちから)”」

 

 緑谷出久は、自身の体から大量の汗が湧き出た感覚を覚えた。

 ジットリとした嫌な汗。

 

(ヴィラン)のボスヤロー、あいつは人の“個性”をパクって使えたり与えたりするそうだ。信じらんねえが。・・・・・・プッシーキャッツ(ねこババア)の一人が“個性”の消失で活動休止したこと、脳無とかいうカス共の“個性”複数持ちから考えて・・・信憑性は高え。それに、オールマイトとボスヤローには面識があった。『“個性”の移動』っつーのが現実で、オールマイトはそいつと関りがあって、てめェの“人から授かった”っつー発言と結びついた。オールマイトと会って、てめェが変わって、オールマイトは力を失った」

 

 そして、と爆豪勝己は言葉を続ける。

 

「神野でのオールマイトの言葉をてめェだけが違う受け取り方をした。・・・・・・オールマイトは答えちゃくれなかった。だからてめェに聞く」

 

 緑谷出久は何も答えられなかった。

 だが、それは答えを言っていると同じだった。

 

「否定しねェってこたァ・・・・・・そういうことだな。クソが・・・」

 

「聞いて・・・どうするの・・・・・・?」

 

 緑谷出久の言葉に爆豪勝己はしばらく黙った。

 そして、

 

「てめェも俺も・・・オールマイトに憧れた。なァ、そうなんだよ。ずっと石コロだと思ってた奴がさァ、知らん間に憧れた人間に認められて・・・。だからよ、」

 

 爆豪勝己は、緑谷出久を睨みながら言った。

 

「戦えや。ここで、今」

 

「何で!!」

 

 爆豪勝己の言葉に驚きの声を上げる緑谷出久。

 それはしょうがないと言えるだろう。

 どうして戦わなければいけないのか、そう感じ、そう思うのは当然の反応だ。

 ここで、「よし、戦うか」なんていう反応をするのは戦闘民族だけだろう。

 

「待ってよ何でそうなるの!? いや・・・マズいって、ここにいる事自体ダメなんだし・・・! せめて・・・戦うっても自主練とかでトッ・・・トレーニング室を借りてやるべきだよ・・・! 今じゃなきゃダメな理由もないでしょ!?」

 

本気(ガチ)でやると止められるだろーが。てめェの何がオールマイトにそこまでさせたのか確かめさせろ。てめェの憧れの方が正しいてンなら、じゃあ俺の憧れは間違っていたのかよ」

 

「・・・かっちゃん・・・・・・」

 

 瞬間、緑谷出久の頭の中に“ある言葉”が流れた。

 ずっと昔に爆豪勝己の言っていた言葉と緑谷出久自身の言った言葉、

 

『どんなピンチでも最後は絶対勝つんだよなあ!!』

 

『どんなに困ってる人でも笑顔で助けちゃうんだよ・・・・・・』

 

 その言葉は、二人のオールマイトに対する印象そのものである。

 二人はオールマイトのどこに憧れたか、どのようなところに憧れたか、そのものである。

 

「怪我したくなきゃ構えろ。・・・・・・蹴りメインに移行したんだってな?」

 

「待ってって!! こんなの駄目だ!!」

 

 緑谷出久はそう言って爆豪勝己を止めようとした

 だが、爆豪勝己はその言葉を無視して緑谷出久に突撃した。

 個性によって強い推進力を持つそれは、緑谷出久に考える時間を与えない。

 より正確に言えば、考える時間はあった。

 だが、考えが纏まるより前に爆豪勝己の攻撃が叩き込まれたのだ。

 それを避けれたのは本当に偶然出会った。

 

「深読みするよな、てめェは・・・来いや!!」

 

「マジでか・・・! かっちゃん・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 相澤消太は夜遅くでも仕事をしていた。

 教師という仕事上、授業のためのアレやコレ、生徒の成績についてのアレやコレを纏めないといけないのだ。

 いや、そもそも、教師としての仕事だけでなく、プロヒーローとしての仕事もあるのだ。

 夜遅くまで起きているのは仕方がないと言えるだろう。

 その時、相澤消太の下に内線が入る。

 

『オイ、イレイザーヘッド! オタクノ生徒ガグラウンド・β(ベータ)ニイルゾ! 監督不届! 責任問題、叱ッテ来イ!』

 

「まじかよ・・・・・・」

 

『マジマジ』

 

 相澤消太はグラウンド・β(ベータ)へ行くために職員用の寮の外に出る。

 だが、そこに・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 グラウンド・β(ベータ)は模擬市街地である。

 様々な建物があり、その多くはビルだ。

 そして、そこの一角に建つビルの屋上にあるはずのない人影があった。

 その影はトランスチームガンを空に掲げながら言った。

 

「蒸血」

 

 瞬間、トランスチームガンのトリガーが引かれ、その銃口から黒い霧が吹き出し、少年の体を包む。

 

《ミストマッチ! コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

「さァて。やりますか」

 

 ブラッドスタークはそう言ってビルから飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

「待ってって! 本当に戦わなきゃいけないの!?」

 

 緑谷出久の頭の中で爆豪勝己の言ったセリフが反響する。

 

『じゃあ俺の憧れは間違っていたのかよ』

 

 その言葉が緑谷出久の思考を裂く。

 だって、そうではないのだから。

 

「間違っているわけないじゃないか! 君の憧れが間違っているなんて誰も―――・・・・・・!!」

 

 緑谷出久はそこまで言って、その場を離れる。

 なぜなら、爆豪勝己が再度、攻撃をしてきたからだ。

 

「逃げんなや!! 戦え!!!」

 

 そう叫ぶ爆豪勝己。

 だが、緑谷出久は戦おうとしなかった。

 どれだけ攻撃しようと、どれだけ突撃しようと、その全てに逃げる・避けるという行動しかしなかった。

 そして、突撃した爆豪勝己の攻撃を緑谷出久が弾いた時、爆豪勝己はバランスを崩し、転んでしまった。

 それを見て起こそうと手を差し伸べる緑谷出久。

 だが・・・・・・、

 

「だ・・・大丈b、

 

「俺の心配すんじゃねえ!! 戦えよ!! 何なんだよ! 何で!! 何で!! ずっと後ろにいたヤツの背中を追うようになっちまった!! クソザコのてめェが力をつけて・・・! オールマイトに認められて強くなってんのに! なのに俺はっ」

 

 爆豪勝己の顔は辛そうなモノになっていた。

 

「俺は・・・・・・オールマイトを終わらせちまってんだ」

 

 それは、悲痛な叫びだった。

 ずっと抱え、ずっと押しつぶそうとしていた思い。

 たった一人の少年には抱えきれないほど大きく、重いモノ。

 

「俺が強くて、(ヴィラン)に攫われなんかしなけりゃあんな事になってなかった! オールマイトが秘密にしようとしていた・・・誰にも言えなかった! 考えねえようにしていても・・・フとした瞬間湧いて来やがる! どうすればいいかわかんねえんだよ!! 俺はあの場で(ヴィラン)共を相手に防戦一方でしかなかった! なのに、あの変身野郎は俺の何十倍何百倍何千倍・・・・・・ボスヤローに匹敵するぐらい強いバケモノを相手に戦って勝った。俺が・・・、俺がそれぐらい強けりゃ・・・・・・!!」

 

 それをずっと考えていたからこそ、少年は苦しんでいた。

 考えないようにしようと、自然に浮かんでくる“それ”は、ドンドンと少年を蝕んでいた。

 苦しんでいるがゆえに、八つ当たりに近い事をしているのだ。

 だからこそ。

 だからこそ緑谷出久はウダウダ言うのを止めた。

 

「・・・・・・・・・丁度いい・・・シュートスタイルが君に通じるかどうか・・・。やるなら・・・全力だ」

 

 瞬間、戦闘は過熱していった。

 

 

 

 

 

 

 ブラッドスタークは模擬市街地を駆けながら、警備ロボットを停止させ、防犯カメラに布をかぶせて機能しないようにする。

 模擬市街地には、死角が無いぐらい大量の防犯カメラが設置されている。

 それがあると困るのだ。

 中にはマイクのあるカメラもある為、マイクは中の回路を切る事で機能を停止させる。

 ただ切っているだけなので、後々、テープや盤陀(はんだ)を使って治せる。

 その為、何ら躊躇なく、時には鼻歌を奏でながらブッチブッチと切って切って切り続ける。

 傍から見れば楽しんでいるという事がまる分かりだろう。

 

 

 

 

 

 

 戦う決意をした緑谷出久は爆豪勝己の予想をはるかに上回った力を持っていた。

 だが、それは覚悟を決めた緑谷出久だけの力という訳ではない。

 少年に力を託した英雄(オールマイト)の思い。

 少年を良き友人、良きライバルとして高め合った友人(飯田天哉)の技術。

 少年に“必殺技”を教えたクラスメイト(機鰐龍兎)の指導。

 それを基盤とした“緑谷出久”という存在が爆豪勝己の予想を打ち破った結果であった。

 さらに、ワン・フォー・オールフルカウルの許容上限のアップ。

 5%から8%という変化が爆豪勝己の予想外だったのもあるだろう。

 緑谷出久は思い出す。

 機鰐龍兎から教わった事を。

 

『いいか、緑谷。仮面ライダーの必殺技は主にキックだ。そのほとんどが飛び蹴りだが、ハッキリ言ってお前が飛び蹴りをしてもそんなに威力は出ない。考えてみろ。飛び上がっている分、踏ん張りが効かないんだ。普通に威力のある攻撃をしたいなら地を踏みしめている方が良いんだ。見ただろう? 仮面ライダーの中にはロケットの推進力を使って攻撃している者もいるんだ。それを体一つで再現しようなんて無理。・・・・・・でも、ワン・フォー・オールによる推進力とパワーをつければ変わると思う。実際、無個性でもしっかりと鍛えた人が走る推進力そのままに飛び蹴りを出せばかなりの威力が出る(作者体験談)。そこにお前の“個性”を上乗せすればとんでもない威力にはなる。だが、慣れていないままでやれば普通に人死ぬから駄目だ。だから・・・・・・、お前に教えるのはコレが良いだろう』

 

 緑谷出久は爆豪勝己に背を向ける。

 そして目を瞑り、全神経を極限まで高める。

 

「舐め腐ってんじゃねえぞクソデク!!」

 

 そう言って突撃する爆豪勝己。

 緑谷出久は心の中で静かにイメージする。

 そして、

 

(ワン)(ツー)(スリー)・・・・・・ライダーキック)

 

 緑谷出久は体を反転させ、突撃してきていた爆豪勝己にカウンターの回し蹴りを喰らわせる。

 その動きは『仮面ライダーカブト』そのモノであった。

 それを喰らい飛ばされる爆豪勝己。

 だが、爆豪勝己は“その程度”では負けない。

 

「ぐああああああああああ!!!!!」

 

 多くな声を上げながら爆発で体勢を整える爆豪勝己。

 緑谷出久はそれも予想していた。

 今の攻撃は教えてもらったばかりで練習中の付け焼刃の攻撃でしかない。

 逆にそれが上手く当たっただけでも良かった方なのだ。

 突撃する爆豪勝己。

 緑谷出久もそれに合わせて突撃する。

 そして、飛び上がった。

 空中では爆豪勝己に分があると分かっていながら。

 だが、緑谷出久にはしっかりと作戦があった。

 

(馬鹿正直な突進→キックでかっちゃんの頭にはシュートスタイルが強く刷り込まれた。君の発散の喧嘩にただ付き合う程僕はお人好しじゃない! シュートスタイルは腕を酷使しない為の戦い方―――――・・・・・・・・・)

 

「使えないとは言っていない!」

 

 緑谷出久の拳が強く、硬く握られていた。

 そして、放たれるワン・フォー・オール5%のパンチ。

 その攻撃が爆豪勝己の右頬に直撃した。

 だが、

 

「敗けるかああああああ!!!!!!!」

 

 爆豪勝己は緑谷出久の服を掴み、空中で体を回転させると同時に爆発の推進力で自らを巻き込むように地面に激突した。

 そして、緑谷出久を押さえつけていた。

 

「ハッ ハァッ」

 

「ガハッ ゲホッ」

 

「・・・・・・・・・俺の勝ちだ。オールマイトの力・・・そんな力ァもっても、自分(てめェ)のモンにしても・・・・・・俺に敗けてんしゃねぇか。なァ、何で敗けとんだ」

 

 爆豪勝己がそこまで言った所で少年の後方から声がする。

 そこにいたのは・・・・・・、

 

「そこまでにしよう二人共。悪いが・・・話は聞かせてもらったよ」

 

「オール・・・」「マイト・・・・・・」

 

 そう。

 そこにいたのはオールマイトだった。

 オールマイトは静かに言う。

 

「気付いてやれなくてごめん」

 

「・・・・・・何でデクだ。ヘドロん時からなんだろ・・・? 何でこいつだった」

 

「非力で・・・誰よりもヒーローだった。君は強い男だと思った。既に土俵に立つ君じゃなく、彼を土俵に立たせるべきだと判断した」

 

 オールマイトが静かに言った言葉に、爆豪勝己は叫ぶように、嘆くように答える。

 

「俺だって弱ェよ・・・。あんたみてぇな強え奴になろうって思ってきたのに! 弱ェから・・・!! あんなをそんな姿に!!」

 

これ(・・)は君のせいじゃない。どのみち限界は近かった・・・。こうなる事は決まっていたよ。君は強い。ただね、その強さに私がかまけた・・・抱え込ませてしまった」

 

 オールマイトは静かに優しく爆豪勝己を抱きしめた。

 傷付いている子供を癒そうとする親のように。

 

「すまない。君も少年なのに」

 

 数秒の後、爆豪勝己はオールマイトの腕をはらう。

 

「長いことヒーローやってきて思うんだよ。爆豪少年のように勝利に拘るのも、緑谷少年のように困っている人間を助けたいと思うのも、どっちが欠けていてもヒーローとして自分の正義を貫くことはできないと。緑谷少年が爆豪少年の力に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を恐れたように・・・気持ちをさらけ出した今ならもう・・・わかってるんじゃないかな。互いに認め合い、まっとうに高め合うことができれば、助けて勝つ・勝って助ける最高のヒーローになれるんだ」

 

 オールマイトの言葉を聞いた爆豪勝己は力なくその場に座り込む。

 そして、

 

「そんなん・・・聞いてえワケじゃねえんだよ。・・・・・・おまえ、一番強え人にレール敷いてもらって・・・敗けてんなよ」

 

「・・・・・・・・・強くなるよ。君に勝てるよう」

 

 緑谷出久の言葉を聞いて爆豪勝己は深くため息を吐いた。

 

「デクとあんたの関係を知ってんのは?」

 

「リカバリーガールと校長・・・。生徒では機鰐少年と君だけだ」

 

「あの変身野郎もかよ。・・・・・・バレたくねえんだろ、オールマイト。」

 

「アンタが隠そうとしていたからどいつにも言わねえよ。クソデクみてえにバラしたりはしねえ。・・・・・・ここだけの秘密だ」

 

「秘密は・・・・・・本来、私が頭を下げてお願いすること。どこまでも気を遣わせてしまって・・・すまない」

 

 爆豪勝己はヨロヨロとしながら立ち上がる。

 

「遣ってねぇよ。言いふらすリスクとデメリットがデケェだけだ」

 

「こうなった以上は爆豪少年にも納得のいく説明が要る。それが筋だ」

 

 オールマイトは爆豪勝己に話した。

 巨悪に立ち向かう為に代々受け継がれて来た“個性(チカラ)”である事。

 その“個性(チカラ)”でNo.1ヒーローになった事。

 傷を負い限界を迎えていた事。

 後継者を選んだ事。

 その、全てを。

 

「暴かれりゃ力の所在とやらで混乱するって・・・ことか。っと・・・・・・何でバラしてんだ、クソデク・・・・・・」

 

「私が力尽きたのは私の選択だ。さっきも言ったが君の責任じゃないよ」

 

「結局・・・俺のやる事は変わんねえや・・・・・・。ただ、今までとは違え、デク。おまえが俺や周りを見て吸収して―――強くなったように、俺も全部俺のモンにして上に行く。“選ばれた”おまえよりもな」

 

「じゃっ・・・じゃあ僕はその上を行く。行かなきゃいけないんだ・・・!」

 

 緑谷出久のその言葉を聞いて爆豪勝己は軽くキレた。

 

「だから、てめェを超えてくっつってんだろうが」

 

「いや、だからその上を行かないといけないって話で・・・・・・」

 

「あ゙あ゙!!」

 

 緑谷出久たちがそんな会話をしているとどこからともなく不気味な声が響く。

 それは、唐突に。

 

「よぉ、久しぶり・・・・・・でもないかァ」

 

 

 

 

 

 

「よぉ、久しぶり・・・・・・でもないかァ」

 

 俺はそう言いながらビルの屋上から飛び降りる。

 着地すると、臨戦態勢に入っていた緑谷と爆豪は気の抜けたような表情になった。

 

「何の用だ、変身野郎」

 

 そう言って俺をキッと睨む爆豪。

 やれやれ。

 俺はトランスチームガンからコブラロストボトルを抜いて人間体に戻る。

 

「やあ、青春していたねぇ」

 

「機鰐くん・・・いつから・・・・・・!?」

 

「割と最初の方から。止めても良かったんだけどさ、二人の心の為には止めない方が得策かと思ってね。観戦させてもらってたよ」

 

 俺はそう言いながら緑谷に近付く。

 そして、その頭を軽くチョップする。

 

「あの場で付け焼刃の必殺技を使うのは駄作だぞ。成功したから良かったが、失敗したらあの時点で敗けていた。今後はもう少し練習してしっかりと形をマスターしてからにしなさい」

 

「・・・・・・ごめん」

 

「まっ、そこら辺はしっかりと教えてくれるさ。オールマイトが」

 

「私に丸投げかね、機鰐少年!!」

 

 オールマイトのツッコミに俺はケラケラと笑った。

 そして、

 

「オールマイト。この二人に俺の秘密を話します。・・・・・・いいですか?」

 

「・・・・・・・・・それが、君の決断なら止めはしない」

 

「そうですか。・・・・・・ああ、今度の事は一切のウソ無く話させてもらいますね。オールマイト含め教師陣に話した中にある嘘を全て取り払ってです」

 

 俺はそう前置きをしてから緑谷と爆豪に向き直る。

 

「さぁて、二人は俺の秘密も黙っていてくれるかな?」

 

「あ゙ぁ゙? んなモン聞いてみねぇとわかんねえだろうが」

 

「例え、それがどんな秘密でも、僕は絶対誰にも言わないよ」

 

「「オールマイトの秘密を洩らしたお前が言うな」」

 

 俺と爆豪は同時にそう言っていた。

 う~ん。

 意外と気が合うところあるんだよな、俺と爆豪。

 

「それじゃ、俺の正体とこの世界について話をしようか」

 

 俺はそう言ってから俺の分かること全てを話した。

 この世界、『僕のヒーローアカデミア』についての事を。

 

 

 

 

 

 

 俺の話を緑谷も爆豪もオールマイトも口を挟まず静かに聞いてくれた。

 ただ、緑谷は顔に出すぎるな。

 そこを治さないと大変だぞ。

 

「さて、俺の話は此処まで。何か質問は?」

 

 俺が笑顔でそう問いかけると、

 

「チッ。お前が強い理由がよくわかったよ」

 

 爆豪かそう言いながら睨んできた

 おお、怖い怖い。

 

「確かに、転生者として強力な個性を持ってはいるけど、俺は他の皆と同様に鍛えてそれを高めてここまで強くなってんだよ。・・・・・・皆より少し初期値が高かっただけさ」

 

「・・・・・・それで、お前はこの先の未来をそこまで知ってんだ?」

 

「ココまでだよ。この後の展開はマジで知らない」

 

 まあ、嘘だけど。

 原作20巻までなら知っているけどさ。

 

「ここからは俺も手繰り探りでの行動になる。だから、ここからは同じ土俵だよ」

 

「クッソ高え土俵だな」

 

「・・・・・・ごめんなさいな、オールマイト。緑谷を助けるためには貴方を隠れ蓑にしないと駄目だと思ってね。勝手だけど使わせてもらったよ」

 

「いや、賢明な判断だ。このことを知られれば緑谷少年の身に何が起こるか分からない。その点、引退する私を隠れ蓑にするのは吉手だろう」

 

「さて、緑谷。俺は偶然選ばれた。お前は運命に選ばれた。・・・・・・これからお前は何を目指す?」

 

「そこは・・・・・・変わらないよ。僕はオールマイトみたいな最高のヒーローになる。何があろうとそこは絶対にブレない」

 

 ・・・・・・良い目をしているじゃないか。

 そうだよ、そうでなくちゃお前らしくない。

 

「お前ら二人は憧れ(オールマイト)を超えるヒーローになる為に。俺も憧れの“仮面ライダー(ヒーロー)”になる為に。一緒に頑張って行こうぜ」

 

 俺がそう言って話を終わらせようとすると、爆豪がスタスタと近づいて来た。

 そして、

 

「オラァ!!」

 

「ギャブフェッ!!」

 

 爆破された。

 

「それで許してやる」

 

「う、ウッス・・・・・・」

 

 俺は地にへたり込みながらそう返事をした。

 

 




ここで言うのも何ですが、今、この時点でこの作品のラストをどうするかが決まっています。
今回は迎える最終回の為のフラグ建てをしました。
一見無意味に、無駄に、駄作に見える展開ですが、これも一応フラグです。
ご了承下さい。


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無個性 編
45話 『現れるのは・・・・・・』


今回短めです。


 おはよう。

 さぁてて、着替えるかぁ。

 俺はベッドから飛び起きるとさっさと着替える。

 今日はいつも以上に寝てしまった。

 あ~あ。寝すぎで逆に頭が痛い。

 昨日、何があったかも知っているし、俺も相澤先生に怒られた。

 だけど、直接喧嘩に関わっていない&俺の立場が立場なだけに反省文の提出だけで済んだ。

 着替えて一階まで降りると、皆の声が聞こえてきた。

 

「喧嘩して」

 

「謹慎~~~~~~~!?」

 

「馬鹿じゃん!!」

 

「ナンセンス!」

 

「馬鹿かよ」

 

「骨頂ーーーー」

 

 等々、言われ放題の謹慎組。

 だが、事実などで仕方がなく、二人は俯きながら掃除機を掛けている。

 ドンマイ。

 皆がさっさとハイツアライアンスを出て行く中、俺は緑谷と少し会話をした。

 

「機鰐くんはここまでの流れを全て知っていたんだよね?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあさ・・・・・・“インゲニウム”がどうなるのかも知っていたんだよね?」

 

「・・・・・・あぁ、お前が何を言いたいのか分かった。確かに知っていたよ。でもな、あれが飯田の道を決めるターニングポイントなんだ。アレがあったらから飯田は最高のヒーローになれるんだ。冷たいようだが、飯田の為だ」

 

「・・・・・・・・・そっか」

 

「まあ、悪いことしたとは思ってる。・・・・・・飯田にとっては最高の兄貴だからな」

 

「機鰐くんも悩んだんだね」

 

「当たり前だろ。友の未来か友の家族か選ばなきゃいけないんだから。・・・・・・キツイ選択だよ」

 

 俺はそう言ってハイツアライアンスから出る。

 さすがにのんびりと話しすぎたようで、皆は見えなくなっていた。

 だから、俺はワープで本校舎まで飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 物間にからまれる等、くだらない出来事があったが、俺たち生徒は校庭に並ぶ。

 ああ、これから休み明けあるあるの校長の長話が始まるのか。

 そう思うと憂鬱になってくる。

 

「やあ! 皆大好き小型ほ乳類の校長さ!」

 

 という前置きから長い話が始まった。

 だが、それは長めの前置きであり、そこから生活習慣(ライフスタイル)について話を持って行った所はさすがだと思う。

 

生活習慣(ライフスタイル)が乱れたのは皆もご存じの通り、この夏休みで起きた“事件”に起因しているのさ。柱の喪失。あの事件の影響は予想を超えた速度で現れ始めている。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。・・・・・・特に、ヒーロー科の諸君にとっては顕著に現れる。2・3年生の多くが取り組んでいる“郊外活動(インターン)”もこれまで以上に危機意識を持って考える必要がある。暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人たちは今、その重い空気をどうにかしようと頑張っているんだ。君たちには是非ともその頑張りを引き継ぎ発展させられる人材になってほしい。経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、皆、社会の後継者であることを忘れないでくれたまえ」

 

 あっ、やっと終わった。

 この後、とくにこれと言った事もなく始業式は終了した。

 ふぅ・・・・・・サボればよかったかな?

 俺はそんなことを思いながらメガネの“スイッチ”を押して機能を起動させる。

 

 

 

 

 

 

 授業はいつも通り進む。

 いつもはよそ見したりするのだが、今日ばかりは真面目に黒板を見る。

 そして、昼。

 俺は雄英の外にいた。

 たった一人でスタスタと。

 さて、と。

 

「何の用だ?」

 

 俺はそう言って振り向く。

 そこには上下黒の服でパーカーのフードを被って顔を隠している男がいた。

 見覚えのある男。

 忘れるはずのない人物。

 

「君だって、分かっているハズ、だろ? そうじゃな、かったら、こんなコトを、わざわざする、ハズがないじゃない、か」

 

「・・・・・・そうだな」

 

 俺は目の前の男を見据える。

 静かに、それでいて力強くハッキリと。

 

「もしも、俺がお前の殺気に気が付かなかったらどうしているつもりだった?」

 

「決まっている、じゃないか。雄英を、爆破していた、よ」

 

 それを聞いてつい舌打ちをしてしまった。

 コイツの目的は何となくわかるし、俺がそれにどうこう言える立場ではないことも理解している。

 この話を聞いた人間は、彼の思いを、目的を「見当違いだ」「ただの八つ当たりだ」とでも評価するのだろう。

 だけど、“当事者”である俺はそうは思わない。

 

「やるなら俺だけを狙えよ。あそこには神姫もいるんだぞ」

 

「・・・・・・フフッ。相変わらずの、ようだ、ね。彼女の事が何よりも大切なんだ。そのせいで救えなかったって言うのに」

 

「ああ、そうだな。言い訳はしねぇよ。俺は救えなかった。救える距離にいたのに、救える可能性があったのに、“あの時”のように“また”救えなかった。“あの子”や“あの子”みたいに、また・・・・・・」

 

「・・・・・・機鰐龍兎。君は覚えてくれていたんだね、僕の事を」

 

 男の気配が、オーラが溢れるように今日だなモノへと変化した。

 肌がビリビリするほどの殺気。

 まるで、ヒーロー殺しと対峙した時みたいだ。

 

「なのに、覚えているのに、あんな楽しそうにして、いたんだね。・・・・・・僕を、こんな姿にしておいて」

 

 男はそう言ってフードを取った。

 その顔には酷い火傷の跡が痛々しく残っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

 俺は何も言わずに彼を・・・・・・、詩崎(しざき)鋭矢(としや)を睨む。

 

「僕の目的は、目的はァァアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

 

 瞬間、強い衝撃と激しい痛みが俺の体を襲った。

 体のバランスが取れない。

 膝を付いて静かに倒れ伏す。

 そこで、ようやく気が付いた。

 俺の体に、胴体に“大きな穴”が開いている事に。

 ああ、クッソ。

 油断した。

 俺は倒れながらも鋭矢の方へ視線を向ける。

 

「ヒヒッ、フヒッ、フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」

 

 彼は、楽しそうに笑っていた。

 とても耳障りな声で。

 その叫ぶような笑い声は、クソ低性能なススピーカーから出る音そのものであった。

 そう、音割れが酷いのだ。

 俺の視界が真っ赤に染まりだす。

 そして、赤い視界が暗く点灯しだした。

 あっ、と思った時には俺の意識は暗い闇の中へと沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫は学食で楽しそうにごはんを頬張る。

 彼女の前には山盛りの料理があり、そのあまりの量にテーブル一つを丸々占領している。

 他の生徒からしたら迷惑この上ないのが本音だろうが、誰もその事について何も言わないし、言うようなバカはいない。

 なぜなら、数分前にいちゃもん付けた物間寧人(バカ)がいたのだが、拳藤一佳(救世主)が止める数瞬前に竜巻で吹き飛ばされたのだ。

 それはもう見事に。

 物間寧人は抵抗すら出来ずに一瞬で姿を消した。

 それを見て文句を言える人間は勇者だろう。

 白神神姫はただひたすら食べ続ける。

 だが、ビタッといきなりその動きが止まった。

 何ら前触れもなく突然に。

 そして、停止と同時に閉じられた目がゆっくりと開かれる。

 その瞳の色は青色から赤色に変わっていた。

 

「・・・・・・まったく。あのご主人様(マスター)はまた問題ごとを持って来たのか」

 

 ミキはそう呟くと今まで以上のスピードで目の前の料理全てを平らげる。

 そして、さっさと後片付けをし、雄英から飛び出す。

 

「待っててね、大宮くん!!」

 

 

 

 

 

 

 ミキが雄英を飛び出す所をジッと見る人物がいた。

 その人物は優しくやわらかな笑顔のまま、ゆっくりと歩く。

 

(やぁ~っと隙が出来たね。・・・・・・とてもピンチみたいだけど、“私を救えた”君ならその状況も打破できるよね。そしたら、そうしたら殺して私の物にしてアゲルネ

 

 その人物の名前は赤口(あかぐち)キリコ。

 転生者である。

 そして、“とある少年”に強い想いを抱く少女だ。

 

(今行くからね。君なら私に気が付いて楽しみに待っていてくれるよね、“さとし”ちゃん)

 

 赤口キリコはその手に持つ鋭利なナイフをソッと撫でながら“とある少年”のいる方へと歩を進める。

 彼女の想い人(ターゲット)の名前は“大宮(おおみや)さとし”。

 現世での名前は“機鰐龍兎”。

 

 




少年に迫る狂人。
少年に迫るヤンデレ。

すべての基となるのは機鰐龍兎の前世!?

機鰐龍兎に明日はあるのか!?


次回へ続く(先延ばし)。


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46話 『始まり』

どうもどうも。
最近、入社式から研修と忙しい日々を送っています。
その為、更新ペースが駄々落ちするかと思いますが首を長くして待っていただけるとありがたいです。


 詩崎(しざき)鋭矢(としや)と俺の関係を話さねば、因縁がどうと言われようと分からないだろう。

 その為には二年ほど前まで時間を戻さねばならないだろう。

 当時の俺は学業を疎かにしていた。

 小学生の時もそうだったが、転生特典『桐生戦兎並みの頭脳』のおかげで勉強しなくても大丈夫だったため、中学に上がってからは授業に参加することなく、テストだけを受けているのが現状であった。

 俺の通っていた中学校はかなり緩いところがあり、テストで高得点を取っておけば、授業に参加しなくても咎められることも無く、それどころか宿題をしなくても良かったぐらい緩かった。いや、緩すぎた。

 だが、それでも俺は学校には行っていた。

 父さんや母さんに心配をさせたくなかったのもあった。

 いや、素行不良な時点で心配を掛まくりなのは認めるが、それでも毎日しっかり学校に行くことでその心配を軽減させようとしていた。

 まあ、学校に行ったとしてもクラス教室にいることなく、校内をブラブラしているか、誰もいない図書館で本を読んでいたぐらいなんだけどな。

 さあ、少し時間を戻そうか。

 俺と詩崎鋭矢の出会いを、因縁を、そして、彼の恨みを。

 

 

 

 

 

 

 暇である。

 図書館内の本は入学からの約1年半で全て読みつくしてしまった。

 ゲームのスタミナを使い果たしてしまった。

 アイドルとシャンシャンするゲームは苦手な為、やっていない。

 そもそも音楽ゲームは大の苦手だ。

 何もやる事が無い。

 そう思い、俺は体育館Aへ向かった。

 この中学は緩すぎてもう頭が痛くなるレベルで色々と裏でやらかしている学校だが、実は、この学校卒業のプロヒーローは多い。

 なぜなら、体育館A~Dの中には個性特訓用のスペースがあり、生徒の中にはそこを使って特訓をし、プロを目指している者もいるのだ。

 そして、成績トップの俺はそこを自由に使える権利があるのだ。

 今の時間だと体育館B~Dは授業で使われている。

 だから、体育館Aに向かった。

 だが、そこには・・・・・・、

 

「あ゙ぁ? 優等生じゃねぇか、ここで何してんだァ?」

 

「「そーだそーだ」」

 

 この学校で―――悪い意味で―――有名な三馬鹿がいた。

 名前を知らないから適当に表すとしよう。

 リーダー格を“A”。

 異形型の取り巻きを“B”。

 大柄の取り巻きを“C”。

 としておこう。

 俺はそいつらをギラリと睨む。

 バカ共はそれだけで後退りをした。

 ・・・・・・ザコの癖して。

 俺は馬鹿どもを無視して体育館A内部へと入った。

 だが、入ってからしばらくしてバカ共の言葉に違和感を覚えた。

 

「“アイツ”からまたもらって、カラオケにでも行こうぜ」

 

 というものであった。

 いや、これは違和感というモノではない。

 確信だ。

 俺は、前世の事を思い出す。

 救えなかった少女の事を、救った結果“あんな事”になった少女の事を。

 

「ああ、クッソ」

 

 俺は無意識的にそう呟いて左手の“無いのにある傷”を抑える。

 その傷が“昔みたいに”ズキンズキンと痛み出す。

 ああ、クッソ。

 俺は傷を抑えながら“あの後悔”を思い出した。

 

(ああ、そう言えば。結局“アイツ”に謝れなあったんだよな)

 

 俺の脳裏に浮かぶのは女子少年院内で自らの首を掻っ切って死んだ少女の姿。

 偶然出会い、必然的に助け、当然のように俺を殺そうとした少女・・・・・・“安藤(あんどう)よしみ”。

 俺は彼女の事を思い出し、気分が悪くなってしまった。

 その為、この日は午前中で学校を早退した。

 

 

 

 

 

 

 翌日、俺は情報収集に取り組んだ。

 神姫にもお願いしてバカ三人組の行動パターンから何をしているか、どんな噂があるのかまで聞きだした。

 ある程度集めたらそれを神姫と一緒に纏める。

 結果、バカ三人はとある生徒をイジメているらしい。

 いじめ理由は、『その生徒が無個性だから』だという。

 くだらない。

 ああ、実にくだらない。

 “あの子”も“アイツ”も、本当にくだらない理由でイジメられていた。

 それを思い出すと昔の怒りなども思い出し、怒りが一瞬で沸点に到達する。

 だが、一番腹立たしいのは教師陣はイジメの事を知りながらそれを無視しているという所だ。

 それも、“あの子”の時と同じだった。

 ああ、クッソ。

 この学校は緩いだけじゃなく中身は腐っているのか。

 いや、違うな。

 生徒の放任自体、中身が腐っているから見逃しているのか。

 今まではそれがいい方向へ行っていただけ。

 だが、そんな機能しているようで機能していないモノなどいつか綻びが出て壊れ行くのは当然と言えるだろう。

 今回、この綻びが表面上に出ただけなのだ。

 逆に今まで気づけなかった俺の馬鹿さに不甲斐なさを感じる。

 “あの子”の時だってそうだったじゃないか。

 事が大きくなって初めて気づけた。

 逆に、“アイツ”の時はすぐに気づけた・・・・・・結果が『アレ』だがな。

 俺はそう思うと少し頭を抱えてしまった。

 

(から)そうな顔しているけど、大丈夫?」

 

「少し昔の事を思い出しただけだ。大丈b・・・・・・待て、お前今とんでもない言い間違いしなかったか?」

 

「してないよ?」

 

「いや、してただろ。確かに『(つら)い』と『(から)い』は文字にすれば全く一緒だが、口にした時点で全く別モノになるからな」

 

 こんな真面目な会話をしているときにふざけないで欲しい。

 張り詰めていた空気が一瞬で腑抜けたじゃないか。

 俺は深くため息を吐く。

 だが、神姫はそんな俺顔を覗き込みながら言った。

 

「ほら、柔らかくなれた。龍兎は思い悩むと怖い顔になって突っ走る癖があるんだから。少しは柔らかくね。・・・・・・前だってそうだったんだから」

 

「そうだな・・・・・・って、待て。前って何のことだ?」

 

「あれ? 私何か言った?」

 

 神姫は小首をかしげてそう言った。

 その様子を見る限り嘘をついているようには見えない。

 なんなんだ?

 ・・・・・・いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。

 

「行こう。教師に話しても無駄なら、生徒である俺たちで何とかするしかない」

 

 

 

 

 

 

 この学校には不思議な空間がある。

 増築による増築でなにもなく、ある程度の広さがあるのに物陰で人も寄り付かない、不良にとってはまさに好条件の場所。

 バカ三人はそこへ生徒を連れ込み、暴行・脅迫・恐喝etc.・・・・・・時には個性を使って脅し取っていたという。

 小金を払って雇った学校の情報屋からの伝達によれば、先ほどバカ三人が一人の生徒を連れ込んだばかりだという。

 その生徒の名前は“詩崎鋭矢”という名前らしい。

 俺と同じ2年生で、おとなしく目立たない生徒だという。

 運動神経から成績も普通で、目立つところも無いのだそう。

 さらに無個性。

 それが故にイジメのターゲットにされたのだろう。

 ああ、下らない。

 本当、イライラするぐらい下らない。

 俺はバカ三人の元まで走り、大きな声で叫ぶ。

 

「ソイツを放せ!!」

 

「あ゙ぁ゙? ・・・・・・なんだ、先公じゃなくて優等生か。お前も金に困ってるのか? コイツはいいぜ。資産家の息子のクセに弱気で泣き虫で、ATMとしてはかなり有能だぜ」

 

「・・・・・・そうか。俺の目的はお前らバカ三人だ」

 

 俺はそう言いながらドラゴンフルボトルを取り出して構える。

 バカ三人は俺の行動を見てケラケラと笑いだす。

 そして、

 

「たった二人で俺たち三人とやろうってのか? バッカだな」

 

 バカ共もそう言いながら構える。

 Aは近くに落ちていた石を拾い上げる。

 Bは手のひらから電気を出す。

 Cは爪を伸ばす。

 俺はボトルを振り、キャップを正面に合わせる。

 

「神姫。お前は手を出さないでくれ」

 

「わかった」

 

「それじゃ、言って来る」

 

 そう言ってバカに視線を向けた瞬間、Aが石を全力投球してきた。

 俺は身を屈める事でその攻撃を避ける。と、

 

「っ!!」

 

 後方で石が爆発した。

 何が起きたかなんて明白である。

 Aの投げた石が爆発したのだ。

 どんな個性だよ。

 そう思いながら俺は身を屈めた状態で突撃する。

 だが、Cが爪を伸ばして俺の行く先を防ぐ。

 へっ、その程度で俺の行く手を阻もうなんて甘い。

 俺はCの爪を殴り折り、Aに突撃する。

 そして、

 

「オラァ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 Aの顔面を思いっきり殴り飛ばした。

 そして、詩崎鋭矢の首根っこをガシッと掴むと後ろに跳んで距離を取る。

 

「えっと、詩崎鋭矢くんだったよね? 大きなケガはない? 大丈夫かな?」

 

「あっ・・・、えっ・・・・・・、う、うん」

 

 詩崎鋭矢はビビりながらそう答える。

 俺はそれを聞いて「よしっ」と言ってからAたちに視線を向ける。

 前もそうだったが、こういった馬鹿は一度痛い目に逢わせてやらないと懲りない。

 もしも、痛い目に逢っても懲りなかったらその時は×すだけだ。

 

「ここで待ってな。守ってやるから」

 

 俺は馬鹿どもを睨みながら歩を進める。

 ここは袋小路になっている。

 だから、ここに連れ込まれた者は逃げることができない。

 でも、それは連れ込んだ側にも言える言葉だ。

 連れ込んだ方も追い詰められやすく逃げ辛い場所になっている。

 俺はドラゴンフルボトルを強く握りバカ共に向かって走る。

 Bが電気を纏わせた掌底を繰り出してきた。

 その攻撃は俺の顔面目掛けて飛んでくる。

 避けられる攻撃だが、そうすればバランスが崩れて時間のロスになる。

 わずかなロスだが、戦闘に置いてそれは大きな痛手となる。

 俺は顔を少し横に逸らす。

 少しカスってしまったが、それもで攻撃を避けることができた。

 そして、握り拳をその顔面に叩き込む。

 Bは地面に後頭部をぶつけながらゴロゴロと転がっていく。

 まず一人。

 俺は一番距離の近かった―――と言っても狭い袋小路なためパッと見そんな変わりはないが―――Cへ襲い掛かる。

 Cは慌てて爪を伸ばして俺を引っ掻こうとしてきた。

 だが、攻撃が直線的過ぎる。

 俺は前のめりになる様に体制を低くすることでCの攻撃をスラリと避けた。

 避けたハズなのに・・・・・・、

 

「っ・・・・・・!!!?」

 

 背中に走る鋭い痛み。

 少し顔を動かして背中を確認すると、

 

「なるほど・・・・・・」

 

 Cの爪がより伸び、俺の制服を突き破って背中に刺さっていた。

 コイツの個性は『超硬化した爪を自由自在に伸ばす』個性なのだろう。

 地味目な個性でプロヒーローになっても目立たないかもしれないが、それでも使い方によってはどこかの相棒(サイドキック)として活躍できるだろう。

 ・・・・・・それなのに、弱者をイジメてこんな事をするなんて。

 そう思うと抑えていた怒りが湧き出してきた。

 そして、その怒りは凶悪なまでの殺気となって外に放たれる。

 例えラノベ主人公並みの鈍感な人でも感感じられるほど凶悪で強大な殺気。

 それをしっかりと感じ取れたらしくCは青い顔をして後退った。

 まるで、バケモノでもを見るような目で。

 ・・・・・・いや、あってるか。

 俺は・・・・・・俺の心はとっくの昔にバケモノになっている。

 “あの子”を救えなかった時から。

 だから、“アイツ”が『あんな事になった』時も特に何も感じなかった。

 だから、俺はこんな人間なんだ。

 だから、Cは自身に迫る危機に本能的に気づけたんだ。

 Cは慌てて爪を伸ばし、校舎屋上―――と言っても閉鎖されているか、校舎によっては屋上そのものがない設計―――に飛び乗り、一目散に逃げた。

 賢明な判断だろう。

 あんなにビビッて逃げるならもう悪さはしないだろう。

 俺はそう判断してAに視線を向ける。

 無論、殺気はそのままにだ。

 

「チッ・・・優等生のクセに戦闘慣れしてんじゃねえか。・・・・・・しっかし、アイツ。さっさと逃げやがって。腰抜けが」

 

 あれ?

 まさかコイツ超鈍感野郎なの?

 吹き荒れるレベルの殺気を感じ取れないとか・・・・・・。

 俺は殺気をそのままに呆れてしまった。

 これは、鈍感とかいうレベルをとうに越している。

 Aのヤバさに頭痛を覚えながらも俺は腰を落として構える。

 今回の件はあと少しで解決する。

 Bは気絶。

 Cは逃亡。

 あと、一人だけ。

 俺が跳ぶように突撃する。

 Aは体勢を低くし、まるで地面を滑るかのように攻撃を避けつつ落ちている意思を拾う。

 そして、態勢を整えると同時にその石を投げてきた。

 俺は飛んでくる石を素早く殴り上げる。

 瞬間、俺たちの頭上で石が花火のように爆発した。

 ・・・・・・殴り上げ過ぎた。

 これじゃ目立ってしまう。

 そう思いながらもまずは目の前の敵を潰すことを優先させる。

 俺とAの戦いは平行線となった。

 攻撃しては避けられ、石を投げられてはそれを弾き・・・・・・。

 ずっと同じような戦況にさすがにイライラしてきた。

 これまでの戦い方からAの個性は『触った石を爆発させる』ものだと推測した。

 爆豪の下位互換の個性だが、まあまあ凶悪だ。

 そんな事を分析した時、Aの顔がグニャリと歪んだ。

 不気味で、不快で、嫌な予感を大いに放ちながら。

 瞬間、Aが今まで以上の勢いで石を全力投球してきた。

 俺ではなく、神姫の方に。

 

「なぁっ!!!!!!」

 

 俺は慌てて神姫の下にワープし、その体を包み込むように抱きしめる。

 それと同時に石が爆発した。

 鋭い痛み、皮膚が焼ける感覚。

 だが、そんな事を気にしていられなかった。

 なぜなら・・・・・・、

 

 パーーーーーーンッ!!!!!

 

 という大きな音が当たりに響いた。

 音のした方を見ると、Aが詩崎鋭矢の頬を右手で引っ叩いていたのだ。

 Aがなぜそんなことをしたのか一瞬判断できなかった。

 だけど、すぐに嫌な想像が俺の頭の中を駆け巡る。

 もしもだ。

 もしも、俺が仮定したAの個性が“石以外にも”効果を及ぼせるのだとしたら?

 俺の頭の中が嫌な想像でいっぱいになる中、Aの嫌な声が耳に届く。

 

「俺の個性は『触れた物を五秒以降任意で爆発させる』ものなんだぜ」

 

 瞬間、詩崎鋭矢の頬が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 俺はムクリと起き上がる。

 そして、面倒くさいという気持ちを一切隠さないまま呟く。

 

「その笑い方はやかましいぞ。おかげでゆっくり眠ることもできないじゃないか」

 

 俺の言葉を聞いて、詩崎鋭矢は顔を歪ませる。

 

「何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でッッッッッ!!!!!!! 何で死んでいないんだ!!! 腹を、臓物を、その体を吹き飛ばしたはずなのに!!! 何で立ち上がっている!! 何で傷が無くなっている!!!!!」

 

 詩崎鋭矢はそう、金切り声で叫ぶ。

 ああ、うるさいな。

 

「まったく。復讐をするなら確かに俺を狙うのが一番だろうな。あの後、バカ三人は痛い目に逢って、未だに少年院にいるからな。警察が守っている中に突撃して復讐したところでさっさと取っ掴まるのがオチだ。なら、まずは比較的狙いやすい俺をターゲットにするのは最適だっただろう。で、どうだ? 復讐は完了か?」

 

「そんなわけないだろう!!!!! お前を、お前を殺して、息の根を止めて、それで初めて僕の復讐が完了するんだ!!!!!!!」

 

「そうかよ」

 

 俺とコイツはあの事件を含めて片手で数えられるほどしか会っていない。

 詩崎鋭矢はあの事件以降、学校に来ることは無かった。

 調べればどこで何をしているかなんて簡単に知ることはできただろうが、俺はそれをしなかった。

 救えなかった人間が現れたところで慰めになるわけなく、逆に辛いことを思い出す原因になったらマズイと考えたからだ。

 まあ、言い訳でしかないだろうけどな。

 俺はゲーマドライバーを装着する。

 そして、ガシャットのスイッチを押して起動する。

 

《マイティアクションX!》

 

「変身!」

 

《ガシャット! レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッツネーム? I`m a 仮面ライダー》

 

 俺は『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル1』への変身を完了させる。

 それと同時に詩崎鋭矢の体から黒いオーラが発せられる。

 ・・・・・・やっべえ。

 あの時の俺以上の殺気だ。

 俺の頬を汗がツッーと伝う感覚があった。

 こりゃ、まあまあガチでやらないとマズいかもな。

 そう思いつつも俺はあのセリフを言った。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

 瞬間、戦闘が始まった。

 




 クスクスクスと静かな笑いが当たりにこだまする。
 その人物・・・・・・、赤口キリコは最愛の思い人と会える楽しみで笑ってしまっていた。
 赤口キリコの笑みは優しく、不気味でそれでいて楽しそうであった。
 そんな彼女へ向かって氷の矢が飛んでくる。

「っ!!」

 赤口キリコは大きく後ろに飛びのく事でその攻撃を回避する。
 氷の槍が地面に突き刺さった瞬間、氷の槍を中心に直径約10メートル以内が凍り付く。

「・・・・・・これは?」

「私の新必殺『ディフュージャン・アイスランス』だよ」

 そんな声と共に赤口キリコの前に降り立ったのは白神神姫であった。
 その目は血のように赤く、その小さな体からは赤口キリコに対して恐ろしいまでの敵意が溢れていた。
 赤口キリコは白神神姫を見て眉を顰める。

「アナタは確か・・・さとしちゃんと一緒にいる泥棒猫」

「泥棒猫、ねぇ。確かに、貴女からしたらそうなのかもしれませんね。・・・・・・ねえ、“安藤よしみ”さん」

 白神神姫の言葉を聞いて赤口キリコは初めて目の前の少女に敵意を向けた。

「何で・・・アナタが・・・・・・」

「私は貴女の事を知っている。貴女は私の事を知らない。私は貴女がご主人様(マスター)に、大宮くんに何をしたかも知ってる。彼がどうして貴女を助けたのかも知っている。そして、貴方が彼に何をしたのかもしっかり。・・・・・・だから、私はココで貴女を止める。もう、大宮くんが“あんな事”にならないために」

「フ、フフッ、フフフフフフフフフフフフ。・・・・・・・・・なる程、アナタも“アレ”の関係者なのね」

「・・・・・・それは違うと否定させてもらうわ。私は、傍観者だった。大宮くんがどれだけ苦しんでいようと、もがいていようと、私には手を伸ばす勇気なんてなかった。だから、私はずっと傍観者。でもね、傍観者だったっからこそ逆に多くの情報を得ているの」

 白神神姫の言葉を聞いた赤口キリコは二つのナイフを取り出す。

「アナタは・・・誰?」

「さあ? 私の口からは言えないわね。これはこの子(わたし)と大宮くんの問題だからね」

 身構える赤口キリコ。
 それを見据えながら白神神姫は自身の手に雷を纏わせる。
 瞬間、二人はぶつかり合った。


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47話 『混ざり合う過去。交差する運命』

機鰐龍兎の前世・過去の因縁が物語をややこしくしていく。
作っといてなんだがクソ面倒くさい・・・・・・。


 俺は周りにチョコ型ブロックを設置し、それを足場にしながら詩崎鋭矢の攻撃を避ける。

 詩崎鋭矢はその手から黒いオーラを攻撃として放ってきている。

 その攻撃の一つ一つが凶悪なモノで、全てが必殺の威力を持っている。

 

「ずいぶんと力を付けたなぁ。どうしたんだ、それ?」

 

「オール・フォー・ワンって人が、くれたんだ。『君にあげれば面白いことになりそうだ』って」

 

 あの野郎。

 なんて面倒くさいことをしてくれたんだ。

 話が拗れに拗れたじゃないか。

 

「・・・・・・それで? 俺を殺した後、お前はどうするんだ?」

 

「決まってい、るさ。あの三人、を殺して、僕の人生を狂わせ、た人間を全員、始末するのさ」

 

「ずいぶんと立派な目標をお持ちで」

 

 俺が嫌味満載にそう言うと同時に、詩崎鋭矢の体がブレ、消えた。

 いきなりの事に脳の処理が追い付かず、一瞬だが隙を作ってしまった。

 瞬間、

 

「ガッ!!!!」

 

 後ろから強い衝撃が襲い掛かって来た。

 地面に叩きつけられると同時に腕で跳ね、追撃を避ける。

 

「・・・・・・なるほど。ゲーム病か」

 

 詩崎鋭矢の体がゲームのバグのようにノイズが走っている。

 そう、完全にゲーム病である。

 しかも、その姿に俺は詩崎鋭矢の怨念に近い執念を見た。

 

「ずいぶんと無茶な事してんな」

 

「そう、なのかな? この力は、まだ何なのかは、分からないんだけどね」

 

 詩崎鋭矢はゲーム病を自力で克服しただけでなく、バグスターの力をも取り込んでいた。

 エグゼイドを選択しといてよかった・・・・・・。

 もしも負けそうになったらムテキゲーマーでやろうという考えだったんだけどな。

 俺はガシャコンブレイカーを取り出し、詩崎鋭矢をぶん殴る。

 

「カハッ・・・・・・オラァ!!!」

 

「ウゲェッ・・・・・・!!」

 

 詩崎鋭矢は俺の攻撃を喰らうと同時に反撃でオーラの弾をブチ当ててきた。

 強い衝撃、激しい痛み。

 俺と詩崎鋭矢は同時に地面に叩きつけられた。

 体中を走る危険信号、それが、脳内をガンガンと叩くような感覚がある。

 だが、それは詩崎鋭矢も同じだろう。

 ゲームライダーの攻撃はバグスターに対して高威力である。

 とても苦しそうに顔を歪ませている。

 

「オイオイ、どうしたぁ? ずいぶんと辛そうじゃないか。こんなくだらない事さっさとやめろよ」

 

「そう言う君だって、辛そうじゃ、ないか。仮面で表情を、隠している、けど、辛そうじゃ、ないか・・・・・・」

 

「さて、何の事やら」

 

 俺はそう言いながらゆっくりと起き上がる。

 詩崎鋭矢もゆっくりと起き上がる。

 たった一撃。

 たった一撃でもこんなダメージを受けたんだ。

 この戦いは思っているより早く終わるかもしれない。

 

「ハァアア!!」

 

「ダァアア!!」

 

 俺と詩崎鋭矢はノーガードでぶつかり合う。

 一発一発が体の芯まで響き、一発一発が俺たちの魂を削っていく。

 だが、それでも、そんな戦いでも俺の方に分がある。

 だってそうだろう?

 この仮面ライダーはバグスターと戦うために作られた仮面ライダーなんだ。・・・・・・表向きは。

 あの自称神の目的は別にあったけど。

 だけど、それでも戦うための力はしっかりとある。

 俺は近くにあったチョコ型ブロックを破壊し、エナジーアイテムを取る。

 

《マッスル化》

 

 俺の体にエネルギーが溢れる。

 だが、これだけじゃ終わらせない。

 

《マッスル化 マッスル化 マッスル化 マッスル化 マッスル化 鋼鉄化 鋼鉄化 鋼鉄化 鋼鉄化 高速化》

 

 攻撃力が倍増する。

 ただ、単純に攻撃力が上がり続ける。

 そして、

 

「喰らっとけやぁぁあああああああ!!!!!!」

 

 ガシャコンブレイカーのBボタンを押して連続攻撃状態にする。

 そして、詩崎鋭矢へ向かって突撃する。

 詩崎鋭矢は全身にオーラを纏って俺を迎え撃つ準備は完璧のようだ。

 だけど、その程度じゃあ駄目だぜ。

 

「ブチ飛びやがれぇぇえええええええええ!!!!!!!」

 

 鋼鉄化によって底上げされた防御力によって大きなダメージを受けることなく黒いオーラの壁を突破する。

 詩崎鋭矢は突破されるとは思っていなかったようで狂気に歪んでいた顔が驚きの色へと変わった。

 それは、大きな隙を晒しているモノであった。

 

「どりゃぁぁあああ!!!」

 

「グァァアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 俺の攻撃が直撃した詩崎鋭矢は大きく後方へと転がっていく。

 だけど、

 

「敗ァァアアアけェェぇぇエエるゥゥゥウウウゥゥかァァァアアアァァァアアアアア!!!!」

 

 詩崎鋭矢は飛ばされながらも態勢を整え、着地し、その体に纏っていたオーラを全て放出してきた。

 隙間なき攻撃。

 当たればライダーゲージは全て削られ、俺は『GAME OVER』になってしまうだろう。

 そんなの分かりきっている。

 当たり前のように理解できている。

 だから、俺は少しだけズルを使った。

 

《ハイパームテキ》

 

 周りに広がるゲームエリア。

 俺は、ハイパームテキガシャットをゲーマドライバーに差し込み、レバーを開く。

 

《ムテキガシャット! ガッチャーン! ムテキレベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティ マイティ アクションX! アガチャ!》

 

 流れるムテキ音。

 俺の体がキラキラと輝き出す。

 それと同時に俺は詩崎鋭矢の攻撃をモロに喰らった。

 だが、今の俺には通じない。

 

「な、なんっ・・・。そんな・・・・・・」

 

「その程度の攻撃じゃ、俺を倒せねえよ。出直してきたらどうだ?」

 

 俺は軽口を叩きながらニヤリと笑う。

 いや、実際ね、ムテキモードにならなかったら敗けてたのは俺だよ。

 これをズルイとか言う人もいるだろうけど、俺は良いと思うんだ。

 使えるものはなんだって使う。

 それが戦闘の極意だろう。

 

「出直すわけ、無いじゃないか。ここは雄英、の、近く。敵連合(ヴィランれんごう)のせいも、あって警戒度は、高いんだ。出直すより、君を、殺して、その足であの三人を、殺した方が、早い」

 

「そうか。だったら、本気で行かないといけないかもな」

 

「・・・・・・僕も、本気、で行くよ」

 

 瞬間、詩崎鋭矢の体から溢れていたオーラが今までの何十倍・・・・・・いや、何百倍にも膨れ上がった。

 あまりにも強大で、凶悪過ぎる力。

 

「・・・・・・なんだよ、それ」

 

「ただ、エネルギーを消費する、んじゃない。・・・・・・消費よりも、前に体に溜め続ける。・・・・・・あの事件、から2年。この力を手に入れて、からは、1年。・・・・・・・・・ずっと、ずっとだ。この1年、ずっと力を、溜め続けていた。無駄に消費する、事なく、ずっと、ずっとずっと溜め続けて、いたんだ。寿命は多少縮むだろう、けど、君を殺す為なら、いいさ」

 

「そうかよ。わざわざ説明ありがとう」

 

 俺はそう言いながらガシャットを起動させる。

 

《マキシマムマイティX》

 

 周りのゲームエリアが書き換えられる。

 もう、レベル1じゃなくても大丈夫。

 詩崎鋭矢は気づいていないようだが、もう、アイツの体からバグスターウイルスは完全になくなっている。

 つまり、もう、バグスターの性質が使われることは無い。

 俺は、左手にガシャットを持ち、目の前で手をクロスさせ言う。

 

「マックス大変身!!」

 

《マキシマムガシャット! ガッチャーン! レベルマーーーークス!!!!!

 

 俺の頭上にマキシマムボディが出現する。

 

《最大級のパワフルボディ! ダリラ ガーン! ダゴ ズバーン! 最大級のパワフルボディ! ダリラ ガーン! ダゴ ズバーン!》

 

 変身音声が滅茶苦茶うるさいが今は気にしない。

 俺は、マキシマムマイティガシャットのAボタンを押す。

 

《マキシマムパワーX!》

 

 俺の体にマキシマムボディが纏われ『仮面ライダーエグゼイド マキシマムゲーマー レベル99』への変身を完了させる。

 そして、ガシャコンキースラッシャーを取り出して構える。

 

「行くよッッッ!!!!!!」

 

「来なッッッ!!!!」

 

 俺と詩崎鋭矢は一瞬で距離を詰めてぶつかり合う。

 大振りながらも黒いオーラを纏い、脅威力でくり出される拳。

 俺はガシャコンキースラッシャーで攻撃を弾きつつ蹴りをくり出す。

 だが、俺の攻撃は避けられてしまった。

 

「チッ!!」

 

 俺は舌打ちをして後方へと跳び、一旦距離を取る。

 そして、

 

《ガシャット! キメワザ! ズッ・キュ・キュ・キューン》

 

 ガシャコンキースラッシャーの銃口にエネルギーが収束する。

 

《ACTION ROBOTS CRITICAL FINISH》

 

 二つのゲームのエネルギーがガシャコンキースラッシャーの銃口から放出される。

 あまりに膨大で強力なエネルギーによって辺りに爆風が吹き荒れた。

 そんな俺の攻撃に合わせるように詩崎鋭矢も高エネルギーを放って来た。

 ぶつかり合う高エネルギー。

 それによるせめぎ合い。

 ・・・・・・なんかドラゴンボールで見たことあるぞコレ!!!

 高エネルギー同時のぶつかり合い、お互いのエネルギーが均等になった瞬間、エネルギーは大きな爆発を起こした。

 うぉっぶぁああああ!!

 びっくりしたぁ。

 俺は内心そう思いながらも幕府によって崩れたバランスを整える。

 

「オイオイオイ、ずいぶんな力だな。・・・・・・でも、それじゃあ俺には届かないぜ」

 

「そう、かい。・・・・・・・・・・・・だったら、今、僕ので、きる最高の一撃、を、使うしか、ないね」

 

「だったら、俺もそうさせてもらう」

 

 俺はゲーマドライバーのレバーを閉じる。

 

《ガッチャーン! キメワザ!》

 

 俺の脚にエネルギーが収束しだす。

 詩崎鋭矢も自身の足に黒いエネルギーを集中させている。

 

「行くぞ!!!!」

 

《ガッチャーン! MAXIMUM CRITICAL BREAK》

 

「『黒魔覇塵脚(こくまはじんきゃく)』!!!」

 

 俺のキックと詩崎鋭矢のキックが空中でぶつかり合う。

 ビキッバチバチバチバチィッッッと辺りに嫌な音が響く。

 そして、分かる。

 俺が押されているとういう事が。

 このまま行けば俺が負けてしまうだろう。

 そう、このままだったらな。

 俺はガシャットを取り出し、起動させる。

 

《マイティアクションX!》

 

 そして、キメワザスロットホルダーに差し込む。

 

《ガシャット! キメワザ! MIGHTY CRITICAL STRIKE》

 

 二つのゲームの力が俺の脚に収束した。

 それによって、俺が詩崎鋭矢を押し始めた。

 

「なっ・・・そんな・・・・・・!!」

 

「これで最後だ!! はぁあああ!!!!」

 

 瞬間、俺の攻撃が詩崎鋭矢の攻撃を弾き、その体にモロにヒットした。

 

《会心の一発!!》

 

 

 

 

 

 

 俺は大の字になって地面に寝転がっている詩崎鋭矢を見下ろすような形で立つ。

 詩崎鋭矢はもう、抵抗するエネルギーすら残っていないようであった。

 

「それで、どうだった? 復讐ってヤツは」

 

「これは・・・・・・駄目、だね。何も果たせ、ていない」

 

 詩崎鋭矢はそう言いながら苦笑する。

 その体からはずっと発せられていた不のオーラが完全に消えていた。

 俺はそれを確認してから詩崎鋭矢に向かって言う。

 

「聞こう。こんな事をしたのは“誰の差し金だ”?」

 

「・・・・・・わからない。ただ、一つ言える、事は、『彼女』に会って、から、まるで、“糸が切れたかのように”タガが、外れ、た」

 

「そうか」

 

「うん。・・・・・・・・・あの時、僕を助けてくれよう、としたのは、君だけだった。それなの、に、僕は君に、恨みを向けて、しまった」

 

「良いんだよ。お前の言い分は理解できるし、その恨みが俺に向けられたのを責める気もない。・・・・・・・・・少し昔話をしていいか? 答えは聞かないけどな」

 

 俺はそう言って詩崎鋭矢の隣にドシッと座る。

 

「俺さ、昔イジメられている子とよく一緒にいたんだよ。その子は年下でさ、俺の話を楽しそうに聞いてくれたんだ。でも、その子がイジメられている事に俺は気づけなかった。・・・・・・結果はどうなったと思う?」

 

「・・・・・・予想はできるけど、それは、最悪なモノだよ」

 

「そう、その最悪なモノだ。その子は俺の目の前で殺された。・・・・・・勿論、イジメの延長線上でね。誕生日を祝うって、約束してたのに、その日は来なかったよ」

 

 俺の言葉を聞いた詩崎鋭矢は空をジッと見ながら静かに呟く。

 

「だから、助けてくれたの?」

 

「まあ、それもあるなぁ。でも、一番はさ、苦しんでいるヤツを見捨てたらヒーローにはなれないと思ったからだよ」

 

 俺がそう言った瞬間、後方に今まで以上に強い殺気が現れた。

 さっきの詩崎鋭矢の殺気が可愛く見えるほど恐ろしいモノ。

 それと同時に左手の“ないのにある傷”が痛みだす。

 

「クスクスクスクスクス。やぁっと会えた。少し邪魔が入ったけど、これでようやく私の物にデキル

 

 声色、口調、存在感、その全てが俺の全身に危険信号として走る。

 だって、だって、そんな・・・・・・。

 俺は危機感を覚えながらも立ち上がり、ゆっくりと振り返る。

 

「やっぱり。顔が変わっても、名前が変わっても、君は君のままなんだね」

 

 足がすくむ。

 だが、その恐怖心は一瞬で掻き消えた。

 

「ソイツを放せ。ソイツは俺の大切な相棒なんだ」

 

 目の前にいるヤツは無造作に神姫の髪を掴んで引きずっていた。

 その体は傷だらけでだいぶ無茶をしたという事が伺えた。

 

「あら、酷い。私が折角会いに来たのに、他の子に現を抜かすなんて」

 

「いいから、さっさと放せ。じゃなきゃテメぇとの会話はなしだ」

 

 俺が睨みながら言うと、素直に放してくれた。

 ・・・・・・今のところ、昔よりは話は通じる。

 

「ねえ、どうかな? 私の格好。変な所はないよね?」

 

「ああ、一切ないよ。昔と全く変わらない」

 

 短く整えられた茶髪に獣のような鋭い目。

 顔立ちはしっかりしていて美人・美女・美少女等々騒がれそうなほど整っている。

 

「それで? 何の用だ? 俺はこれから午後の授業があるんだが」

 

「用事? そんなの分かっているでしょ?」

 

 ああ、そうだ。

 分かっている。分かりきっている。

 だからこそ、嫌なんだ

 

「いいぜ。昔は抵抗らしい抵抗はできなかったが、今は違う」

 

 俺はそう言いながら右手に指輪をはめる。

 そして、腰にかざす。

 

《ドライバーオン プリーズ シャバドゥビ タッチ ヘンシン シャバドゥビ タッチ ヘンシン》

 

 俺は左手に指輪をはめて宣言する。

 

「変身」

 

《フレイム》

 

 左手を横に伸ばして魔方陣を展開する。

 

《プリーズ ヒー! ヒー! ヒーヒーヒィー!!》

 

 俺は変身完了と同時に目の前の“敵”を睨む。

 そういえば、と名前を聞いていなかったことに気が付く。

 

「お前さ、今世ではどんな名前なんだ?」

 

「ん? “赤口キリコ”だよ」

 

「・・・・・・そうか。あまりパッとしねぇな」

 

 俺はそう言いながら指輪を入れ替える。

 

《コネクト プリーズ》

 

 そんな音声と共に出現した魔方陣の中に手を入れてウィザーソードガンを取り出す。

 キリコは小さなナイフを二つ取り出して構える。

 緊張が高まり続ける。

 一時間にも感じられるほど長い刹那。

 瞬間、午後の授業開始のチャイムが鳴り、それを合図に戦闘が始まった。

 




強敵との連戦

因縁は過去

出会いはイジメ

切っ掛けは一人の少女の死

機鰐龍兎は“救った少女”とどう戦うのか!!?


次回へ続く


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48話 『一人の少年としてではなく・・・・・・』

今回少し短めです。


 赤口キリコ。

 前世での名前、安藤よしみ。

 彼女との出会いはクソみたいなモノだった。

 本当に、思い出すだけでイライラしてムカムカして気分が悪くなる。

 俺は弱かった。

 いや、今でも弱い。

 弱すぎて、弱すぎて、弱すぎて弱すぎて弱すぎて弱すぎて・・・・・・本当にどうしようもないぐらい弱くてダメな男だった。

 一人で突っ走って、一人で抱え込んで、それで、失敗して。

 今もそうだが、俺は人間的に一切成長していない。

 特に、あの時なんてガキの癖して自分一人で何とかしようとしていた。

 それは、大きな間違いだった。

 間違いだったがゆえにあんな事になった。

 間違いだったがゆえに俺は“魂に傷を負った”。

 

 

 

 

 

 

 俺はキリコの攻撃を全て避けながらどう戦うかを思案する。

 武器は小さなナイフ二つで、俺のウィザーソードガンの長さに比べたら短すぎて話にならないようにも思える・・・・・・のだが。

 

「っ!!」

 

 避けた事により、俺の後ろにあった街路樹へと当たった攻撃は、その街路樹を簡単に切り倒して見せた。

 果物ナイフほどの長さしかないソレで。

 ・・・・・・やぁばい。

 何? コイツの個性。

『直死の魔眼』とでも言うのかよ、オイ。

 俺はそう思いつつもこの疑問を声に出して問う。

 

「何だよ、お前の“個性”」

 

「ん? 『斬り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』だけど?」

 

「何でぇぇえええええええええ!!!!!!!???」

 

 俺はついそう叫んでしまった。

 あんなに周りの物をスパスパと切れるなら『直死の魔眼』が普通だろう。

 なぜあの殺人鬼をチョイスしたんだ・・・・・・。

 

「良いでしょ? 私らしくて」

 

「ああ、お前らしすぎて腹立たしいよ。ホント」

 

 俺はそう言いながら軽やかに攻撃を避け続ける。

 あんな攻撃、一発でも当たったら確実に、完全に死ぬ。

 簡単に死ねる。

 だから、避け続けるしかない。

 

「ねぇねぇねぇねぇねぇ。覚えているかしら、さとしちゃん」

 

「・・・・・・何をだよ」

 

「私の事をさ、私の事をさ、『友達』って呼んでくれた事、私の事を『大切なヤツ』って言ってくれた事、私を『守る』って言った事を。前も行ったと思うけど、とても嬉しかったんだよ? こんな私にそんな言葉を掛けてくれる人なんていなかったからね・・・・・・と言っても知ってるか」

 

「ああ、知っているさ。だから、言いたかったんだ」

 

 俺がそう言うと、キリコはピクリと眉を動かした。

 まるで、俺の考えを探れないかのように。

 

「私はアナタ以上にアナタの事を知ってる。それは自負できる。だから、さとしちゃんがそんな改まって私に言うことなんてないハズよ・・・・・・」

 

「ああ、お前と最後に会った時の俺ならそうだろうな。でも、俺だって成長しているんだ。お前が知っているのは中学2年の・・・14歳ぐらいの俺だ。あれからどれくらい経ったと思っているんだ? しかも、俺が死んだのは18歳・・・・・・つまり、お前が死んでから4年後だ。その間に俺がどれだけ成長したと思う?」

 

「・・・・・・そっか、そうだよね。ずっと離れてたから、私の知らない所もできちゃうよね」

 

 キリコは残念そうにそう呟くと同時に汗を拭き出しそうになる程凶悪な殺気を向けてこちらをジッと見てきた。

 その凶悪さに思わず後退ってしまった。

 

「でもさ、それって私からしたら嫌な事でしかないんだよ? 私の、私だけのさとしちゃんについて知らないところがあるってさ、もしも、さとしちゃんに何かあった時に私は何もできなくなっちゃうじゃん。・・・・・・あの時みたいに」

 

 その言葉を聞くと同時に抑えていた汗がブワッと噴き出した。

 そう、強がってはいるが、目の前にいる少女は俺にとってトラウマでしかない。

 乗り越えたと自分に言い聞かせているだけなのだ。

 そんな危うい天秤なんて、少しのさじ加減でいくらでも崩れる。

 それでも、

 

「あの時? ・・・・・・ああアレか。通りでな。合点が行ったよ」

 

 俺は強がるのを止めない。

 これを止めてしまったら俺はコイツの前に立っていられなくなる。

 

「ねえ。それでさ、言いたいことって何? ちゃんと聞いてあげるよ」

 

「おお、そうだな。話が反れちまった。俺の言いたいことは」

 

 言いたいこと。

 ずっと、心の中にしまっていた言葉。

 それは・・・・・・、

 

「ゴメン」

 

 そう。

 謝罪の言葉だ。

 シンプルで、裏なんかなく、ただ、心の中にあった言葉。

 “あの日”に言おうと思っていた言葉。

 

「何? 何なの? 何でそんなんこと言うの? ねぇ。ねぇ。ねぇ。ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇえぇねぇねぇ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ。何でそんなこと私に言うのカナ?」

 

 キリコは口を歪めながら首をカクリと担げてそう言う。

 怖い。

 心の底から悲鳴が上がりそうになる。

 でも、これを本当に乗り越えなければ俺はヒーローになれない。

 

「何で言うかって? 決まってるだろ。『守る』とか言いときながらお前をしっかり守れなくて、完全に救い出せなくて。ゴメン」

 

 俺は、俺の気持ちを隠すことなく、変に誇張したりもせず、ただ、心の中の言葉を出す。

 それが、俺の転生から15年・・・・・・いや、前世からずっと抱えている思いだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・さとしちゃん。もう一度・・・・・・ううん、何度でも聞くよ。何でそんなこと言うの? 私はしっかり救われたヨ?」

 

「いいや、救われていない。お前が勝手にそう勘違いしているだけだ。俺は・・・俺はお前を救えなかった。それは誰がなんといようと変えられない事実だ」

 

「待ってよ。それは無いよ。救われたもん。しっかり、ちゃんと、確実に救われた。だって、私はそう思ったもん」

 

「表向きは、表面上はな。でも、裏は・・・“心は救われていなかった”」

 

 俺が力を込めてキリコを見据えながら言うと、彼女の肩がビクンと震えた。

 

「ああ、そうさ。確かに俺が奮闘した事でイジメが大問題になり、学校側や教育委員会等が動いたおかげで収まった。俺が奮闘した事でお前の家庭事情が明るみに出てそれがまた大問題になった事でお前は親から離れることができ、虐待は必然的に止まったよ。でもさ、それで本当に解決したとでも思ったのかよ」

 

「ええ、解決したわ。さとしちゃんのおかげでしっかりと・・・・・・」

 

「いいや、全く解決していない」

 

 俺はキリコの言葉を遮り力強く言う。

 一途にそうとは言えないかもしれないが、俺としては“あの出来事”は一切解決していない。

 それどころか俺含む周りの者が勝手に納得して勝手に終わらせようとした結果、取り返しのつかないほど悪化したモノなのだ。

 事件の表面的な解決に納得し、被害者の心の事を失念していたことによる悲劇。

 それによる斬撃。

 世間は、彼女の事を何ら知らないにも関わらず『狂人だ』と切り捨て、またそれで終わらせようとした。

 何も学ばず、同じ過ちを繰り返した。

 

「もしも、解決したのだとしたら何でお前は俺に依存する! 自分で立って進めるにも関わらず、何で俺に執着する!! 俺は言ったはずだ、『これからはお前の人生だ。自分で立って歩いて行く道だ。もう、俺が助けられることは無い』ってな。それなのに、お前は寄りかかった。寄りかかってしまった。・・・・・・それが、心が救われていない証拠だよ」

 

「何デ。何デ。何デ何デ何デ何デナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデッッッッッッッ・・・・・・・・・・・・!!!!! 何でよっ!!!!!!!! わたっ、私は、さとしちゃんと一緒にいたいだけなの!! なのに、なんで拒絶するのよ!! 放さないでよ!! どこにも行かないでよ!!!!!!!」

 

「だから、それが依存だと言っているんだ。人間、何があるか分からない。俺だって、海野の代わりに死んだも同然なんだ。なのに、俺に依存していたお前が急に俺がいなくなって大丈夫であるという確証はあるか? ねえだろ。だったら、多少酷な選択だろうが、俺という依存物質を取り除かないといけなかったんだ。たばこや酒、麻薬と一緒だ。依存から抜け出すにはそれを摂取しなけれないい。こんな簡単な話も理解できないほどお前は依存しちまってんだよ」

 

 そう。

 あの頃の俺はそんなことを考えることなく、何ら考えなしで突っ込んでいった。

 それ故に、俺は意識していなかったが、キリコの選択肢は『大宮さとしという人間に頼り続ける』というモノしかなかった。

 俺もキリコも、そんな単純な事に気付かずに先へと進んでしまった。

 だから、これは俺の罪でもある。

 そして、罪なのだとしたら清算しなければいけない。

 

「そぉいや、あの時もこう言ったんだっけな」

 

 俺はそう呟きながら腰を落として構える。

 

「俺が、お前の希望になってやるよ」

 

 この言葉は“あの時”言った意味とは大きく違いのある言葉だ。

 あの時は、キリコを・・・・・・安藤よしみを助けたいがゆえに言った言葉。

 だけど、今は違う。

 あの時救えなかった、あの時希望を失ったコイツの心を今度こそ救うための言葉だ。

 さあ、始めようか。

 ただの学生であった“大宮さとし”という人間ではなく、仮面ライダー“機鰐龍兎”としての戦いを。

 




 ミキは薄れゆく意識の中、二人の戦いを見る。
 止めたいという気持ちはある。
 今すぐにでも機鰐龍兎を抱えて逃げたい気持ちもある。
 でも、動けないのだ。

(ダ、メ。・・・・・・これは、当事者である大宮くんが、一人で抱えていいものじゃ、ない。これは、知っていて見ないふり、をしていた私、含む周りの傍観者が、背負うべきモノ。それを、彼に抱えさせるわけ・・・に、は)

 ミキの意識はどんどんと闇の中に沈んでいく。
 それでも、彼女は願った。

(大宮くんが、無事でありますように)

 と。


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49話 『大宮さとしの物語①』

これは、機鰐龍兎の前世の物語。
一人の少年の物語。



色々と悩んだのですが、機鰐龍兎の前世はまたこの現実とは違う平行世界であるとさせていただきました。
この現実と類似している部分はありますが、どこかで違う道へと歩み出した普通の世界だと思ってください。


 何もない日々。

 代り映えの無い日常。

 それを退屈だと思う事は無く、それが人生であると齢14歳にして変に悟っている。

 今日はいい天気である。

 雲はちらほらあれどそれが太陽の光を完全に遮断することは無くポカポカ日和とはまさにこのことだろうとすら思えてくる。

 そんなことを思いながら窓の外を見ていると、後ろから声がした。

 

「おはよう、大宮くん」

 

「ああ、おはよう」

 

 俺の挨拶をしてきたのは隣の席の“前田(まえだ)美歌(みか)”だ。

 腰までの長さがある黒い髪に整った顔立ち。

 成績も優秀で、毎度毎度赤点を取っている俺とは正反対の人間だ。

 

「なんか眠そうだね」

 

「土日をいい事に仮面ライダークウガを一話から最終話まで全部見てたからね。寝ずに」

 

「ハハッ、相変わらず仮面ライダー大好きなんだね」

 

 前田はそう言いながら席に座る。

 コイツは俺と正反対であるにも関わらず、なぜか俺に話しかけ、よく一緒にいようとしている変わり者だ。

 小学校の頃から一緒らしいが、ホントのことを言うと一切覚えていない。

 逆に、こんなかわいい子が俺なんかを覚えていて、毎日話しかけているという事自体、現実なのか怪しんでいる。

 

「そんな体調で今日一日頑張れるの?」

 

「まあ、何とかなるだろう」

 

「フフッ。相変わらずだね。まあ、君の立ち回りを楽しみにしているよ」

 

 立ち回り。

 ああ、そうか。

 そうだったな。

 

「まっ、昨年同様一位をゲットしてやるよ」

 

 俺の通っている中学校は“私立拳殴利(こぶしなぐり)中学校”。

 元々、この国は暴走族やDQNグループが警察を煽ったりして滅茶苦茶していた。

 それも、時代が進むにつれていなくなっていった。

 だが、混沌としていた時代の名残というモノは後世にも残されている事が多い。

 この学校もそうで、喧嘩ばかりしているバカを集めてストレス発散させることを目的とし、作られた何とも時代を感じる学校なのだ。

 時代を感じすぎて逆に変な気分にもなってくる。

 そして、この学校では年に二回夏季・冬季で体育祭という名のトーナメント制のガチバトルが行われる。

 DQNがほとんどいなくなってから30年近く経つんだからもうこんなの止めた方が良いとも思っているのだが、そんなの訴えたところで変わらないと分かっている為黙っておく。

 俺は昨年の冬季体育祭で三年生を抑えて一位になっている。

 今週の金曜日に行われる夏季体育祭でも同じように一位を狙っている。

 ここでもっともっと強くなって、もう、“あんな事”にならないようにするために。

 

「そういえばさ、一年の時の夏季体育祭では何の功績も無かったのに、冬季体育祭までの半年間に何があったの?」

 

「・・・・・・・・・聞くな」

 

 俺は前田を睨みながらそれだけ言う。

 だって、ソレは俺にとって絶対忘れてはいけず、他人に漏らしてはいけない戒めだから。

 

「ゴメン、変な事聞いちゃったかな?」

 

「ああ、聞いたよ。変な事」

 

 俺はそう言って机に突っ伏した。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺は廊下に設置されている椅子―――というかベンチ―――に腰掛けて仮面ライダーの最新情報が出ていないかと探る。

 実際、学校にスマホを持ち込むのはアウトなのだが、大体の場合は黙認されている。

 それに、このベンチは廊下の奥まったところにあり、ほとんど死角になっている。

 ここをわざわざ覗こうとする人はいない。

 ちなみにだが、ここは奥まったところにありながらしっかりと窓もあり、この窓からは中庭が一見でき、何でこんなに人目に付かないのかと疑問すら覚える。

 俺は何となく中庭を見下ろす。

 放課後で誰もいなくなっていく校舎。

 それは中庭も例外ではなく、昼休みには多くの生徒がいるにもかかわらず、空が赤くなった今の時間帯だとイチャラブしているリア充ぐらいしかいない。

 ああ、腹立たしい。

 リア充なんて滅んでしまえ。

 そんなことを思いながら中庭をグルリと見回すと端の方、ポツンと設置されている青い自動販売機の前に一人の少女がいた。

 前までの俺ならスルーしていただろうが、今の俺はスルーしない。するわけがない。

 その少女は平静であるようにパッと見は見えるが、その目は赤く先ほどまで泣いていたのがすぐに分かった。

 それに気が付くと俺はすぐさま中庭をしっかりと見回す。

 そして・・・・・・、

 

「やっぱりか」

 

 自動販売機前の少女を嫌な笑みを浮かべながら見ている集団。

 この時点で俺は気づいた。

 あの少女はイジメられている、と。

 “あの子”の時は気づけなかった悪意・害意が他人のある俺にすらヒシヒシと伝わってくる。

 ああ、くだらない。

 本当の本当にくだらない。

 くだらな過ぎて反吐が出そうだ。

 俺は大きな舌打ちをして下駄箱へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 俺は校門の前で帰っていく生徒を観察しながら先ほどの少女を待つ。

 日はどんどん傾いていき、夏とはいえ辺りの温度は少しずつ下がって行っている。

 どれほど時間が経っただろうか。

 見えてきたのは先ほどの集団だった。

 先頭を歩いているヤツは中学生なのか怪しいほど巨体―――多分、2メートルはある―――にワックスで固めているであろう逆立った髪。丸太のように太い腕を見る限り相当の怪力であろう事が伺えた。

 その隣に居るのは背中の真ん中程まである長い髪を金色に染めている頭の悪そうな女。

 この学校では校則で髪を染めるのはアウトなのだが、クラスに一人は染めているバカが何故かいる。

 まあ、誰もツッコミを入れたりしないから俺もスルーしているのだがな。

 他にもいる取り巻きと思われる数人もバカ丸出しの顔であった。

 頬やデコに『私は馬鹿です』と書いても誰も違和感を覚えないと思えるほどだ。

 俺の前をソイツらは馬鹿話をしながら通り過ぎていく。

 その時、少しイヤな匂いが鼻腔を付いたのだが、馬鹿は風呂に入っていないのだろうと考えることにした。

 それが、“タバコの臭い”だったとしても、だ。

 さて、あの少女はいつ来るのだろう。

 そう思いながらずっと待っていたのだが何故か来ない。

 気付けば時計の針は7時を指していた。

 辺りは真っ暗だ。

 ・・・・・・いくら何でも遅すぎる。

 俺は嫌イヤな予感を感じ、校舎の方へと歩を進める。

 こんな時間でも校舎は開いている。

 なぜなら、部活の関係で9時まで残っている生徒もいるからだ。

 この学校の扉に鍵がかかるのは10時を過ぎてからの場合が多い。

 今回はそれが幸いした。

 俺は頭の中にこの学校のマップを広げる。

 そして、人目に付かず、ある程度広い場所で、この時間帯に誰もいない場所・・・・・・中校舎三階の半分を占める多目的ホールの倉庫へと全力で駆ける。

 そこで見たモノ。

 イヤな予感・・・・・・、予想が当たっていた。

 日が沈み切り月明かりが差し込む多目的ホール倉庫で半裸のまま蹲りガタガタと震えている。

 その背には付けられたばかりであろう火傷が痛々しくあった。

 火傷の形状から見て完全にタバコの跡だ。

 ああ、クッソ。

 こんなんだから俺は駄目なんだ。

 

「・・・・・・オイ、大丈夫か?」

 

 俺がそう言うと少女はビクリと全身を震わした。

 そして、ゆっくりと顔を上げて俺の方へと視線を向けてきた。

 

「もう一度聞くぞ。大丈夫か?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ああ、いや。意地悪でも悪意がある訳でもないんだ。こういう状況では定番のセリフだろ?」

 

 俺はそう軽口を叩きながら少女へと近づいていく。

 

「イヤッ!! ヤァ!!! こなっ・・・来ないでぇえ!!!」

 

 少女はそう叫ぶと同時に近くにあった鉄バケツを投げつけてきた。

 至近距離だったこともあり顔面に命中した。

 クリーンヒットだ。

 

「痛ェ・・・・・・」

 

 俺はそう言いながら鼻を触る、と。

 鼻血が出ていた。

 ポタポタボタボタと思ったよりも勢いよく。

 俺はポケットからティッシュを取り出して丸め、鼻に詰める。

 そして、

 

「ワタシ、アナタ、キズツケナイ。オケ?」

 

 と片言で話しかけてみる。

 俺の言葉を聞いた少女はボーっと俺の方を見てくる。

 さて、どうしたもんか。

 腕を組み考え、とりあえずブレザーを脱いで少女に羽織わせる。

 

「ほら、向こう向いてるから服を着ろ。それとも、背中のケガを処置してからの方が良いか?」

 

 俺がそう言うと、少女はスクリと立ち上がり、

 

「余計なお世話」

 

 と言ってブレザーを投げ返してきた。

 オイオイオイ。

 さっきまでビクビクしていたのに強がってるよ。

 こういうパターンが一番厄介だ。

 怖くて、苦しくて、死んでしまいそうなほど辛い癖に強がってそれを周りに隠そうとするタイプ。

 こういったヤツは何かを抱えていたとしても誰かにそれをぶつけることなく抱え続けて最終的に自分で自分を終わらせる。

 俺が呆れている間に少女は着替え終り、その場を後にしようとしていた。

 だから、俺は聞いた。

 

「そういえば、お前の名前なんていうんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ああ、こういう場合は俺から名乗るのが常識だっけ? 俺の名前は大宮さとしだ」

 

 俺がそう自身の名前を言うと、少女は少し黙ってから静かに呟いた。

 

「・・・・・・・・・安藤よしみ」

 

 少女は・・・・・・いや、安藤はそれだけ言って去って行った。

 

 

 これが、俺とアイツの出会いだった。

 そして、この出会いが大きな問題を引き起こすことになって行った・・・・・・。

 

 

 




キャラ紹介

大宮(おおみや)さとし』
身長:159cm
体重:74kg

機鰐龍兎の前世。
“とある事件”から体を鍛え続ている為、かなり強い。
腕立て伏せ100回。
上体起こし100回。
スクワット100回。
そしてランニング10km(キロ)、これを毎日やっている。
成績は普通であるが、この頃から性根が腐っていて、かなり性格が悪い。


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50話 『大宮さとしの物語②』

一人の学生のストーリー。


 朝。

 俺は日課である5km(キロ)マラソンに勤しむ。

 現在時刻は5時半過ぎ。

 河川敷をたった一人で走る・・・・・・ハズだったのだが。

 

「なあ、ずっと聞きたかったんだけど何でお前も走ってるの?」

 

「いいじゃない。運動は健康と美肌に良いんだから」

 

 前田はそう言いながら俺の隣をトコトコと走る。

 本当にいつからだろう。

 俺のこの日課にいつの間にか現れて、いつの間にか一緒に走る様になっていた。

 時間を変えても何故か“偶然”にも“同じ時間”で“同じルート”を走っている。

 前田は俺と違ってクラスの中心であるため、情報通だ。

 成績も優秀で本当に俺とは正反対の人間なのに、ホント、何で俺に関わるのだろうか。

 永遠の謎になりそうだ。

 

「前田。お前さ、“安藤よしみ”っていうヤツ知っているか?」

 

「安藤さん? 2年C組出席番号2番8月21日生まれのAB型の“安藤よしみ”さんの事?」

 

「オイオイオイ、滅茶苦茶知ってるじゃねえか。・・・・・・やっぱり、お前は何でも知っているな」

 

「何でもは知らないよ。知っていることだけ」

 

 前田はそう言って苦笑する。

 俺もそれを見て苦笑する。

 

「読んでくれたのか」

 

「まあね。進められたら読まないワケにはいかないでしょ」

 

「お前はいい奴だな。ホント」

 

「そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 俺は素直にそう答える。

 “あの子”を救えなかった俺に勇気をくれたのはコイツだからだ。

 

「私思うんだけどさ、『じゅげむ』って親のセンスが問われるし、今でいうキラキラネームだよね」

 

「まあ、キラキラネームと言えばそうだな。『寿限無(じゅげむ) 寿限無(じゅげむ) 五劫の擦切(ごこうのすりきれ) 海砂利 水魚(かいじゃりすいぎょの) 水行末(すいぎょうまつ) 雲来末(うんらいまつ) 風来末(ふうらいまつ) 食寝処 住処(くうねるところに すむところ) 藪裏(やぶらこうじの)柑子(ぶらこうじ) パイポ シューリンガン グーリンダイ ポンポコピー ポンポコナー 長久命 長助(ちょうきゅうめいのちょうすけ)』だっけ?」

 

「合ってはいるけど私的には少し違うと思う」

 

「そうなのか?」

 

「うん。どちらかと言えば『寿限無(じゅげむ) 寿限無(じゅげむ) 五劫の擦切(ごこうのすりきれ) 海砂利 水魚(かいじゃりすいぎょ) 水行末(すいぎょうまつ) 雲来末(うんらいまつ) 風来末(ふうらいまつ) 食寝処 住処(くうねるところに すむところ) 藪裏(やぶらこうじの) 柑子(ぶらこうじ) パイポ シューリンガン グーリンダイ ポンポコピー ポンポコナー 長久命 長助(ちょうきゅうめいのちょうすけ)』が正しいと思うんだ」

 

 違いが分からない。

 文章化して読み返したとしても違いを発見できる自信はない。

 そもそも、走りながら話している為、こんな長い名前を言う事は酸素の無駄な消費に繋がり、無駄に体力を消費してしまう。

 

「なあ、どこが違うんだ?」

 

「“海砂利 水魚(かいじゃりすいぎょ)”の部分だけど尻の部分に“の”つけるか付けないかなんだよね。本によって“の”のあるなしがハッキリしているの。年寄りの人なら年寄りの人ほど“の”を付けていないに対して、若い人ほど“の”をつけているの。これって若い世代が言葉を省略するパターンの逆で、“の”を付ける事で読みやすくしていると思うんだよね」

 

 なるほど。

 確かに、俺もそうだが今の若い世代は言葉を省略したと思えば別の文字を足して読みやすく変えて行ったりしているからな。

 逆に年寄りはそれを「日本語が廃れて言っている」とか「日本語じゃない」とか「日本語を壊している」と言ってはいるが、それは時代の流れというモノだろう。

 そもそも、年寄りだって「お前」や「貴様」を普通と捉えているじゃないか。

 その言葉も元々は尊敬や目上の人を呼ぶ際に使う言葉で、時代の流れによって変わって行ったモノの一つだ。

 結局、言葉なんてその場その時代で通じればいいモノなのだろう。

 

「ねえ、大宮くんはどう思う? “光宙(ピカチュウ)”って名前か、“寿限無(じゅげむ) 寿限無(じゅげむ) 五劫の擦切(ごこうのすりきれ) 海砂利 水魚(かいじゃりすいぎょ) 水行末(すいぎょうまつ) 雲来末(うんらいまつ) 風来末(ふうらいまつ) 食寝処 住処(くうねるところに すむところ) 藪裏(やぶらこうじの)柑子(ぶらこうじ) パイポ シューリンガン グーリンダイ ポンポコピー ポンポコナー 長久命 長助(ちょうきゅうめいのちょうすけ)”って名前だったらどっちの方がまだマシ?」

 

「どっちもマシじゃないことだけは確実だが、それでも選ぶとしたら書きやすくて短い“光宙”じゃないか?」

 

「だよね」

 

 前田はそう言って笑う。

 どこに笑いのツボがあったのかが一切分からなかったがな。

 

「どの時代にも変な名前の人はいるんだよね。それが『海外ウケを』とか『世界に一つだけの名前を』とか『個性あふれる名前を』とか様々な理由で問題視されて来ただけで、実際、ずっと昔からキラキラネームなるものはあるんだよね」

 

「まあ、確かにそうだな」

 

 結局何が言いたいんだ、コイツは。

 

「“(かなえ) 虎龍(こりゅう)”って人は知ってる?」

 

「いや、知らない。ってかとんでもない名前だな」

 

「だよね。この名前ってキラキラネームになるのかな?」

 

「キラキラネームじゃなくてDQNネームだと思うぞ。・・・・・・で、ソイツがどうしたんだ?」

 

 とんでもない名前のヤツの話をするために前座としてキラキラネームの話をしたのだろうが、生憎、俺は“神虎龍”なんて人は知らない。

 知っていたのだとしたらそのインパクト故に忘れることなどないだろう。

 

「神虎龍さんって3年生の人でさ、今度の夏季体育祭で優勝を狙っているみたいなんだよ。成績はそこまででもないけどその身体能力御高さから名門校へのスポーツ推薦が決まっているぐらい」

 

「それは凄い事で」

 

 どうでもいいが故に適当に返す。

 

「ただ、私的にはスポーツ推薦だとは言え、神虎龍さんに名門校へ行ってほしくないんだよね」

 

「ほ~う。それはそれは。お前らしくないな。他人にこうしてほしくない、何て言うなんて。何かあるのか?」

 

 俺は何となくそう答える。

 特にその神虎龍とか言うヤツの事が気になったわけでは無く、ただ、何となくで。

 だが、前田の言った言葉に俺は耳を奪われた。

 

「その、ね。・・・・・・安藤さんが神虎龍さんにイジメられているって噂があるの」

 

 

 

 

 

 

 俺は友達が少ない。

 いや、より正確に言うなら中学に入学してからできた友達が少ないんだ。

 ほとんどの友人は市立の中学に行ってしまったのが原因なのだが、その後に友達を作ろうとしなかった俺が完全に悪い。

 っと、自分の行いを悲観するのは後にしておこう。

 俺は数少ない友人に頼み、安藤よしみについてと、神虎龍についてを調べてもらった。

 小さな噂も取り零すことなく二日掛けて集めた。

 結果、報酬としてコカ・コーラ(ペットボトル)を奢る事になった。

 まあ、それでも結果は得た。

 安藤が神虎龍にイジメられているのが事実であるという事も、その理由も分かった。

 何とも下らない理由だ。

 母子家庭なのに成績が良いから、これだけだ。

 神虎龍の彼女が万年成績2位で、安藤がずっと1位を取り続けているのが気に入らないらしい。

 まったく、下らない。

 本当に下らな過ぎて反吐が出そうになる。

 ・・・・・・夏季体育祭は明日。

 俺は纏めた情報を全てファイリングして俺は教室を後にする。

 階段を数段降りたところで踊り場に誰かいる事に気が付く。

 顔を見た事はあるが仲の良いヤツではない。

 クラスメイトなのだが、性格が合わず話したことは数えるぐらいしかない。

 俺が眉を顰めていると、ソイツが先に口を開いた。

 

「よう、大宮。随分と頑張っているみたいだがイジメについての証拠は得れたのか?」

 

「何でそんなこと言わなきゃいけない。ってか、お前の名前なんだっけ?」

 

「ヒッデェな、オマエ。俺は“海野(うみの) 探紗(たんさ)”、クラスメイトなのに覚えていないのかよ」

 

「覚えて無い」

 

 俺は正直にそう答えた。

 すると、海野はガクリと肩を落として項垂れた。

 

「ま、まあ、それは追々でいいか。とりあえず、コレ渡しておく」

 

 海野はそう言って分厚い封筒を渡してきた。

 訝しみながらも中を確認すると、ICレコーダーとSDカードと写真が入っていた。

 そして、その写真は・・・・・・、

 

「コレって・・・・・・」

 

「そう。イジメの圧倒的証拠になる写真だ。ICレコーダーには暴言と自白が、SDカードには映像と写真のバックアップが入っている。好きに使いな」

 

「何で、関係ないお前が?」

 

「“中村実余”は知っているだろ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の肩がビクリと大きく振るえた。

 だって、その名前は、その子の名前は俺の後悔であり罪であり忘れてはいけないモノであったからだ。

 

「何で、お前があの子の名前を・・・・・・!?」

 

「あの子は俺の親戚だよ。・・・・・・あんな事になったけどさ、お前があの子の為に頑張ってくれたことは知っているから。その、お礼さ」

 

 海野はそれだけを言い残し去って行った。

 俺は何も言えずそれを見送るしかなかった。

 だが、すぐに俺も歩き出す。

 噂をまとめたものだけじゃ証拠が少ないと思っていたのだ。

 これは、何よりも大切なピースだ。

 俺はこの証拠を握りしめて“ある場所”へと走る。

 そして、自分で買っておいたICレコーダーを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 夏季体育祭当日。

 俺は朝から精神統一をしている。

 今日が鬼門だ。

 今日を乗り越えれば自体は変わる。

 いや、より正確に言うならば変えるんだ。

 俺の長い一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

 校長の長ったらしい前座を聞き流し、俺含めた選手は控室へと歩を進める。

 俺含めて出場者は16人。

 4回勝てば優勝だ。

 第一試合からいきなり俺の試合だ。

 相手は1年生で優勝したら好きな人に告白する、と息巻いているらしい。

 まあ、だからといって勝たせる気は無いけど。

 リングはプロレス使用になっている。

 

『赤コーナー! 2年生最強! 前回チャンピオン・・・・・・大宮さとしぃいいいいい!! 青コーナー! 1年生! 勝ったら好きな子に告白だってよ! 三塚四郎ぅぅうううう!! レフリー、生徒会長』

 

 この大会の司会もレフリーも生徒がやっている。

 司会役をしているのは新聞部委員長の“香取奈穂”と生徒会副会長の“城田勇樹”の二人。

 レフリーは生徒会長の“原山高志”。

 生徒はワクワクしながらリング周りに設置されたパイプ椅子に座って試合が始まるのが今か今かと待っている。

 俺はゆっくりとリングに上がる。

 軽く体を解して構えると同時に試合開始のコングが鳴った。

 

『ファイト!!』

 

 カーンッという音が多目的ホール内に響いた。

 それと同時に三塚が突撃してきた。

 あまりにも見やすく、直線的な行動にため息が出そうになった。

 だが、そんなことをグダグダ気にせず三塚を迎え撃つ。

 振るわれる大振りのパンチ。

 俺は軽く身を屈めることでそれを避け、タイミングを合わせてクロスカウンターを顔面に叩き込む。

 鼻を殴られて一瞬怯む三塚。

 その隙を俺は見逃さず、突き押すように前蹴りで後方へと飛ばす。

 ボタタタッと三塚の鼻から血が流れる。

 そして、三塚は自身から流れる血に意識を向けてしまった。

 致命的過ぎる隙を2回も連続して作るあたり戦闘に向いていない。

 俺はそう思いながら飛び蹴りを喰らわして三塚をリング外へと飛ばした。

 数メートルとはいえ助走をつけた跳び蹴りの威力はかなりあり、試合終了のコングが鳴ると同時に医務班―――これまた生徒―――が三塚の下へ駆けつけていた。

 

『秒殺!! 圧倒的秒殺!! 大宮さとし、一撃も受けることなく勝利を収めましたぁあああああ!!!!』

 

 瞬間、多目的ホール内が歓声に包まれる。

 だが、一部、悲観の念を持つ者もいた。

 どうやら、三塚の恋路を応援していた友人筋のようであった。

 俺は恨み辛みの視線を総スルーしてさっさと控室へ戻った。

 

(まず一勝。神虎龍と戦えるのは決勝戦。あと2回勝てば戦える。・・・・・・神虎龍が勝ち上がればの話だけどな・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 俺は今後の事を考え、ガクリと肩を落としながらトボトボと歩く姿は異様だっただろう。

 




1話に名前だけ出てそれ以来一切出なかった海野を出せてよかった。
作者の私でもすっかり忘れてたぐらいだから。


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51話 『大宮さとしの物語③』

過去と未来は表裏一体。
過去があるから未来がある。
未来を信じるからこそ過去は進む。

そして、大宮さとしの物語は・・・・・・機鰐龍兎の物語は進んで行く。
過去を背負って、未来を信じて。


 俺は控室から出て多目的ホールの出入り口近くで試合を見る。

 いや、正確に言うなら次の試合を見て神虎龍の戦闘パターンを見る為に試合開始を待っているんだ。

 前の試合が終わって約3分。

 神虎龍の試合が始まる。

 この試合の戦い方で俺の立ち回りが変わる。

 

『赤コーナー! 3年生最強! いや、もしかしたら世界最強かァ!? 前大会では前日食べたカキが当たったあげくアニサキスにやられてダウンしていたぞ!! 神虎龍ぅぅうううう!!!! 青コーナー! 年単位で一回戦敗退! 今回こそ二回戦に行けるかァ!? 時雨万汰ぁぁああああああああ!!!!』

 

 説明文に悪意があるだろう。

 多目的ホール内にいる生徒全員の気持ちが一つになった瞬間である。

 こんなアホみたいな解説をした人物は新聞部委員長の香取奈穂だ。

 趣味がプロレス観戦で、新聞部に入部した理由も『体育祭で司会できるから』というツワモノだ。

 同じ司会の生徒副会長である城田勇樹は一口も発さずにジッと試合を見ている。

 二人の選手がリング内で睨み合う。

 そして、

 

『ファイト!』

 

 カーンッとコングが鳴らされる。

 瞬間、時雨がロープの弾力を利用して神虎龍に向かって突撃する。

 そして、勢いそのままに蹴りをくり出した。

 だが、それだけでは止まらない。

 

『ラッシュ! ラッシュ! ラーーーーーーッシュ! 時雨万汰の連続攻撃!! 戦闘成績は微妙だが、こんなでも野球部のエース! 基礎体力や筋力は学校でもトップクラスだ!! さすがの神虎龍も手も足も出ないかぁああああ!!!!??』

 

 そんな解説の通り、時雨は連続で殴る・蹴る等々、一発一発の威力がどれぐらいかは分からないが、それでもかなりの威力があるのは確実だろう。

 俺だったら攻撃される前に終わらせるな。

 そんなことを思いながら観察していると、神虎龍が大きなあくびをした。

 それを見た瞬間、俺の背筋がヒヤリとした感覚があった。

 時雨の攻撃は決して軽いモノではない。

 それを喰らいながらあくびする・・・・・・それは、時雨の攻撃をへとも思ていないという事だ。

 俺がその現実に唖然としていると、試合が動いた。

 神虎龍が時雨の顔を鷲掴みにし、そのまま持ち上げたのだ。

 宙ぶらりになる時雨。

 ジタバタと暴れてはいるが、なんら抵抗にはなっていない。

 多目的ホール内がザワザワする中、神虎龍は時雨を上にブンッと投げ、落ちてきた所を蹴り飛ばした。

 ・・・・・・・・・キン肉マンでも、もう少しマシな技を使ったぞ、オイ。

 時雨は声にならない悲鳴を上げ、動かなくなった。

 だが、この時点で分かった。

 神虎龍はその巨体とパワーを利用した戦い方が得意なようだ。

 俺はそれを収穫として控室へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 控室まで向かって歩いていると、廊下に設置されているベンチに誰かが座っている影が見えた。

 体育祭は校内で誰もが楽しみにしているイベントなので、多目的ホール外に人がいること自体珍しいのだ。

 だから、俺は自動販売機でスポーツドリンクを買って、ベンチに座っている人物・・・・・・、安藤よしみの隣に座る。

 

「よお。何暗い顔しているんだ。ホラ、これ飲んでリラックスしなよ」

 

「なんで、アンタが・・・・・・」

 

「ん? 何でって、友達だからじゃないかな?」

 

「何が友達よ。アンタと友達になった覚えなんて一切ないし今後そうなりたいとも思わないわ」

 

 安藤はそう言いながら俺の渡したペットボトルでポカポカと殴って来た。

 柔らかいペットボトルなのでダメージは無いが、やられてあまりいい気分にはならない。

 だから、俺は前置きなく本題に切り込む。

 

「お前さ、神虎龍のヤツにイジメられているだろ」

 

 俺の言葉に安藤の肩がビクッと震えた。

 そして、下を見ながら小さな声で言った。

 

「何のことよ・・・・・・」

 

「知ってるしここ数日でその証拠はほぼすべて抑えた。あとは、お前次第なんだが」

 

 俺がそう言いながら自分用に買ったスポーツドリンクを飲むと、

 

「うっさい!!!!」

 

 という声と共に思いっきり引っ叩かれた。

 油断していたせいもあってガードできずにベンチから崩れ落ちる。

 痛い。

 

「何だよ」

 

「何で何ら関係ないアンタが私の事に関わってくるのよ。数日前に初めて会ったばかりの私なんかに。なに? お姫様を守るナイト気取りですかぁ? それとも助ければ感謝されてイチャイチャラブラブできるとでも思ってるんですかぁ?」

 

「違うよ」

 

「・・・・・・じゃあ、何なのよ」

 

「手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ。それだけ」

 

 俺の言葉に安藤はピクリと眉を顰めた。

 

「アンタなんかが何でそんな人生論語れるのよ」

 

「一年前に手を伸ばせなかったから、とだけ言っておく」

 

 俺はそう言ってゆっくりと立ち上がる。

 そして、安藤の目を見ながら言う。

 

「俺にとっては誰だって大切なヤツなんだ。より正確に言うなら、お前みたいに困っているヤツは守りたいんだ、助けたいんだ。断言することはできないけど、お前が助けを求めるなら俺は手を伸ばして必ず守る。・・・・・・だから、言ってくれ。俺は特別な力を持った主人公でもなければ神様なんかでもない。言葉にしてくれないと本当に助けることもできないんだ。だからさ、言ってくれよ。『苦しい』って、『辛い』って、『助けて』って。そうじゃないとダメなんだ。部外者が立ち入って解決したところで本当の解決にはならない。だから、だから・・・・・・」

 

「放っておいてよ。私なんかどうなっても変わらないじゃない。この世の中に希望なんてないし、都合のいい正義の味方がいるわけでもない。アンタなんかが頑張ったって世の中が分かる事なんてないんだから!!!」

 

 安藤はそう言って何度も、何度も俺を引っ叩いて来た。

 癇癪を起こした子供みたいに。

 涙をポロポロと零しながらずっと。

 俺は弱い。

 馬鹿だから、馬鹿の一つ覚えで突撃していくしか能がない。

 だから、俺が言ってやれるのはこの言葉だけだ。

 

「お前は言ったな。この世の中には希望が無い、と。だったら、俺が、お前の希望になってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 俺はキリコの攻撃を避けながら指輪を入れ替える。

 そして、

 

《フレイム ドラゴン ボゥー! ボゥー! ボゥーボゥーボォー!!》

 

 俺の体が炎のように赤くなり、『仮面ライダーウィザード フレイムドラゴンスタイル』に変わる。

 それと同時にウィザーソードカンをコピーして両手に構える。

 そして、キリコのナイフを正面から受け止める。

 

「分かってくれたんだぁ。私の“個性(コト)”」

 

「ああ、分かったよ。お前の個性の発動条件と欠点までな」

 

 普通、転生者たちは自身の個性に欠点を持たないし持たせない。

 だが、中には自身に縛りを付けるという目的で欠点を付けている者もいる。

 俺もそうだ。

 欠点というモノでもないだろうが、一応制限は存在する。

 だから、気づけたのかもしれない。

 

「お前が斬り裂けるモノには制限がある。それは、自身の持っている武器の強度に依存する。つまり、そのナイフよりも堅いウィザーソードガンを斬ることはできない」

 

「正~解~~☆」

 

 キリコは楽しそうに、そして嬉しそうにそう言って笑う。

 ここだけを切り取って見ればかわいい子が微笑んでいるように見えるだろう。

 だが、全体を通してみれば、この状況でそんな笑顔が出来るという事実は恐怖にしかならない。

 

「ねえ、やっぱり君は私の事を理解してくれるんだね。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ。私はさとしちゃんを自分だけのモノにしたいの。でもね、さとしちゃんが私を独占したいって言うならそれでもいいなって思ってるの。君が私を殴りたいって言うなら抵抗せずに何度でも殴られるよ。腕や足を切り落とせって言うなら喜んでやるよ。それとも、健全な男子高校生が好きそうなエロ同人みたいな事もやってみる? それでも良いよ? 私の穴という穴を君の好きにしても良いよ? もしもそれで子供出来たとしても私は大丈夫だよ?」

 

「お前さ、初めて会った時と似ても似つかないぐらい変わったな、オイ。ってか、そんなことに興味はない」

 

 俺は半分呆れながらそう言う。

 だってそうだろう。

 最初は恐ろしいほど嫌われていたのに、今じゃ怖いほど好かれている。

 いや、好かれているというレベルはとうに超えている。

 

「ふ~~ん。興味無いんだ。私のすべてを捧げてあげるって言っているのに。・・・・・・じゃあ、私のモノになる?」

 

「小首をかしげられてもその問いに対する答えは“No”だ」

 

 俺がそう言うとキリコはスッと目を細める。

 

「じゃあさ、殺してでも私のモノにするネ」

 

「俺はそう簡単に殺されねえよ」

 

 瞬間、俺たちはぶつかり合う。

 振るわれるナイフ。

 ウィザーソードガンでそれを防ぎながら回し蹴りをくり出す。

 だが、避けられ、それと同時に再度ナイフが振るわれた。

 その攻撃はウィザードの軽やかさでヒラリと避ける。

 そして、避けると同時にウィザーソードガンを全力で振るう。

 キリコも自身の持つナイフを振るった、

 キーンッッと辺りに金属がぶつかる音が響く。

 

「へっ!!」

 

「っ!!?」

 

 さすがウィザーソードガンと言った所か。

 キリコのナイフは完全に折れて使い物にならなくなった。

 

「さあ、これでフィナーレだ」

 

《ルパッチマジック タッチ ゴー! ルパッチマジック タッチ ゴー! ルパッチマジック タッチ ゴー! チョウイイネ キックストライク》

 

 俺を中心に魔方陣が現れる。

 そして、飛び上がると同時にくり出す技『ストライクウィザード』。

 本当は通常のフレイムスタイルの必殺技なのだが、そこへのツッコミは遠慮してもらいたい。

 キリコはポケットからもう一つのナイフを取り出し、空中を切った。

 俺がそこを通った時、魔方陣から発せられていた炎が掻き消えた。

 ・・・・・・なるほど、空中を切る事でそこを真空状態にしたのか。

 だが、その程度じゃキックを止めることはできない。

 俺は死なないように手加減はしつつもキリコを蹴り飛ばした。

 

「うぅっっ!!」

 

「ほら。もうこんなことは止めろ。もう俺にやってやれる事なんてないんだ。冷たいようだが、これ以上俺に関わらない方がお前のためだ」

 

「い、やだ。いやだいやだいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!! 私はさとしちゃんがいないといないとダメなの!!! いなくならないでよ!! 一緒にいてよ!! また・・・、また私の手を掴んでよっっっ!!!!!!!!」

 

 キリコは地に伏せながら、それでもそう叫ぶように言った。

 瞬間、俺は有り得ないモノをみた。

 

「なっ・・・・・・!!?」

 

 どこからともなく現れたガスがキリコを包んだのだ。

 俺は、そのガスが分かる。

 分かるからこそ有り得ないと理解できる。

 だって、それは・・・・・・、

 

「ネビュラガス!!!!??」

 

 ガスに包まれたキリコは苦しそうな声を上げている。

 

(マズイ。このままじゃスマッシュ化しちまう。何とかしないと・・・・・・)

 

 俺はそう判断して変身を解除すると同時にビルドドライバーを腰に装着してボトルを装填する。

 

《忍者 コミック ベストマッチ! Are you ready?》

 

「変身!!」

 

《忍びのエンターテイナー! ニンニンコミック! イエーイ!》

 

 俺は変身完了と共に4コマ忍法刀を取り出して構える。

 だが、キリコは一向にスマッシュにならない。

 つまり、キリコはハザードレベル2.0以上という事だ。

 俺がそれに気づいたと同時にガスが晴れた。

 そして、キリコの手には見覚えのあるアイテムが握られていた。

 俺がそれに気づくと同時にキリコはゆっくりと立ち上がる。

 

「それはっ・・・・・・・・・!!?」

 

「ふ~ん。“これってこうやって使うんだ”」

 

《スクラッシュドライバー!》

 

 何でキリコの手にそれがあるのか判断できなかった。

 だが、俺が混乱している間にも事態はどんどんと動いて行っている。

 

《ロボットゼリー!》

 

「・・・・・・変身」

 

 降ろされるレンチ型のレバー。

 それと同時にキリコを中心にビーカーが展開される。

 

《潰れる! 流れる! 溢れ出る! ロボットイングリス! ブラァァァアアアア!》

 

 そんな音声と共にキリコは『仮面ライダーグリス』への変身を完了させた。

 

「凄い力だね、コレ。じゃあさ、早速続きやろうよ」

 

 マスクに隠れて見えないが、きっと、彼女の表情は微笑んでいるのだろう。

 優しく、それでいて不気味に。

 

 

 

 

 

 

 試合が始まる。

 俺がリングに上がってすぐ、司会が声を上げる。

 

『赤コーナー! キメワザは大体キック・・・大宮さとぉぉぉおおおおしぃぃぃぃいいいい!! 青コーナー! 厳つい見た目なのに猫が大好き! 宮本吹清ぃぃぃいいいい!! レフリー替わりまして、保健委員会委員長』

 

 あれ? 生徒会長どこいったんだ?

 まあいいか。

 それよりも今はこの試合に全力を注ごう。

 

『ファイト!』

 

 カーーンッとコングが鳴らされた。

 それと同時に飛び上がって顔面に蹴りをお見舞いしておく。

 そして、

 

『おーっと!! 宮本吹清ダウン!! そしてそのまま動かなーーい!! ・・・・・・・・・・・・ノックアウト!! まさかの一発でノックアウトぉぉおおおおおお!!! 勝者!! 大宮さとし』

 

 マジか。

 まさかの開始30秒も経たずに試合が終わり、俺は唖然としてしまった。

 




51話にしてようやくグリス登場。


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52話 『大宮さとしの物語④』

これが平静最後の投稿になりそうです。

次回は令和でお会いしましょう(^_-)-☆


 攻撃が来る。

 俺はキリコの攻撃を避けつつ4コマ忍法刀を操作する。

 

《分身の術》

 

 そんな音声と共に複数の俺がキリコに・・・・・・『仮面ライダーグリス』に襲い掛かる。

 だが、

 

「その程度じゃ、今の私には届かないよ!!」

 

 グリスは俺を分身体諸共一蹴りで一蹴した。

 さすがにニンニンコミックじゃキツイか。

 俺は後方に飛んで距離を取ってからハザードトリガーを起動させる。

 

《マックスハザードオン!》

 

 そして、フルフルラビットタンクボトルをベルトに装填する。

 

《ラビット&ラビット! ビルドアップ! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! ガタガタゴットン! ズッタンズッタン! Are you ready?》

 

「ビルドアップ!」

 

《オーバーフロー! 紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット! ヤベーイ! ハエーイ!》

 

 俺はラビットアーマーを纏うと同時にグリスに殴りかかる。

 だが、俺の攻撃は簡単に防がれてしまった。

 

「オイオイオイ。お前、どんだけハザードレベル高いんだよ」

 

「さあ? まずそのなんとかレベルってのが何なのか分からないもん」

 

「そうかよ」

 

 俺は舌打ちをして距離を取る。

 ラビットラビットフォームの基本スペックはグリスの基本スペックをはるかに上回っている。

 なのに、その攻撃を物ともしていないのだ。

 ハッキリ言って面倒くさい。

 ただでさえ相手をするのに骨が折れそうなのに、さらに強化されたらたまったモノじゃない。

 俺はフルボトルバスターを取り出すと同時に全力で振るう。

 だが、俺の攻撃はツインブレイカーで防がれてしまった。

 クソかよ。

 そう思うと同時に嫌な音声が聞こえてきた。

 

《ボトルキーン!》

 

 いつの間にかグリスの右手に“グリスブリザードナックル”が握られていた。

 避けようとしたが、体重を向けた先に回り込まれてしまった。

 

《グレイシャルナックル! カチカチカチカチカッチーン!》

 

 俺の胴体に攻撃が直撃する。

 

「カハッ・・・・・・!!」

 

 バランスを崩して地面を何度も転がってしまった。

 あっちこっちが痛い。

 だが、それでも寝転がっている暇なんてない。

 俺は跳んで起き上がると同時にベルトのレバーを回す。

 

《Ready Go! ラビットラビットフィニッシュ!!》

 

 くり出すライダーキック。

 だが、

 

「甘いよ。その程度じゃ」

 

 気付いた時にはグリスは俺の背後に回っていた。

 だが、グリスの攻撃が俺の直撃することは無かった。

 なぜなら・・・・・・、

 

「よォ、ずいぶんと楽しそうじゃないかぁ」

 

スターク(エボルト)。何でお前が・・・・・・」

 

「偶然通りかかっただけさ。偶然」

 

 絶対嘘だろう。

 コイツの事だから、俺に近付く不穏な気配に気づいてずっと見張っていたのだろう。

 まあ、今は良いか。

 

「それで、コイツのハザードレベルは? お前の事だ、さっき触った時に計測しているだろ」

 

「ああ。グリスのハザードレベルは6.8だ」

 

 ちょっと待て。

 シンプルに人間の領域を超えているじゃないか。

 俺だってまだ4.3なんだぞ。

 そりゃ押し切られそうにもなるわ。

 俺は深いため息を吐いてから静かに言う。

 

「お前も仮面ライダーになれ。そうじゃないとキツイかもしれない」

 

「ああ、分かってるよ。俺のハザードレベルだって今じゃ5.0なんだからなァ」

 

 スタークはそう言ってエボルドライバーを取り出すと同時に腰に装着する。

 

《エボルドライバー コブラ ライダーシステム エボルーション Are you ready?》

 

「変身」

 

《コブラ! コブラ! エボルコブラ! フッハッハッハッハッハッハ!》

 

 そんな音声と共にエボルトは『仮面ライダーエボル コブラフォーム』への変身を完了させる。

 

「ところで、今のお前でグリスに勝てる自信はあるか?」

 

「さぁな。やってみないと分からない」

 

「そうかよ」

 

 俺とエボルは同時にグリスに向かって突撃する。

 そして・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

『赤コーナー! 先日彼女にフラれて心に傷を負ったぞ! 清村空ぁぁああああああ!! どんな奴でもキックで倒す、最強のエース!! 大宮さとしぃぃぃいいいいい!!!!』

 

 説明の仕方に悪意があるだろう。

 それに、古傷・・・・・・と言う程でもないか。

 まだ新しい傷を抉るなんてなんて酷い奴なんだもっとやれ。

 リア充なんぞに容赦はしない。

 

『ファイト!』

 

 カーンッとコングが鳴らされる。

 瞬間、清村が距離を詰めて殴りかかって来た。

 大振りで。

 隙だらけなんだよ。

 俺は体の軸を逸らして攻撃を避け、鳩尾に膝を入れてやった。

 

「ガッ・・・・・・ハァア!!」

 

「オグレバァ!!」

 

 反撃で肘打ちが胴体にヒットした。

 鳩尾に当たらなかっただけ良かったが、それでも痛い。

 俺は転がる様に距離を取ってから態勢を整える。

 清村も同じように体勢を整えている。

 俺は腰を落としていつでも攻撃・反撃できるようにする。

 それと同時に清村が突撃してきた。

 ・・・・・・攻撃が直線的過ぎる。

 俺は身を屈めて清村の懐に入ると同時に上体を起こして顎に頭突きをぶつける。

 そして、清村の腹に手をソッと当て、足を・腰を・胴を・肩を・腕を回して体全身の力を衝撃にして叩き込んだ。

 疑似“発勁”。

 中国拳法の“発勁”を真似した技で、ぱっと見は発勁のように見えるが根本的な所では違う技。

 どちらかと言えば押し出しに近いと思う、が今はどうでもいいだろう。

 俺の攻撃を喰らって清村は大きく後ろにのけ反った。

 だが・・・・・・、

 

「しゃらくせえぇぇえええええ!!!」

 

「あぶねっ!!」

 

 清村はバランスを崩しながらも前蹴りをしてきた。

 ってか、何んだよその掛け声。

 俺は避けてからすぐに距離を取る。

 俺の戦闘パターンの場合、ずっと接近しているだけでは決め手に欠ける。

 

『戦闘開始からいきなりの大攻防!! どうやら清村空が押されているようだぞぉぉおお!!』

 

 いや。まだ天秤がどっちに傾くか分からない。

 俺の想像以上に清村は強かった。

 バランス感覚も良く、少し軸がぶれた程度じゃ簡単に立て直してくる。

 そう言った事では強敵だ。

 だけど、負けるわけにはいかない。

 神虎龍をブチノメス為にはここで敗けるわけにはいかないんだ。

 イメージしろ。最高の攻撃を。

 イメージしろ。相手の行動を。

 イメージしろ。勝利の瞬間を。

 

『リング上では未だにらみ合いが続いています! この緊張感・・・・・・先に動いた方が負ける事でしょう!!』

 

 ねぇよ、ンな事。

 マンガじゃあるまいし。

 俺はそう思いながら清村を睨む。

 清村は腰を落として前屈みになる。多分タックルだろう。

 

『まだにらみ合いが続きます。早く殺し合いを始めて欲しいところですね』

 

 試合だろ。

 殺し合いはダメなヤツだ。

 俺はそう思いながら一歩前へ足を踏み出す。

 瞬間、清村が突撃してきた。

 腰辺りにタックルをして倒し、馬乗りになって上から殴る気なのだろう。

 だが、その程度読めているっての。

 俺は突撃してくる清村を跳び箱を跳ぶように跳び越え、清村の後ろに着地すると同時に後ろ回し蹴りで清村をリングから落とす。

 

『場外!! 大宮さとしの勝利!! 決勝戦進出が決まったぞぉぉぉおおおおおお!!』

 

 瞬間、会場内に歓声が響く。

 これで、あと少しだ。

 あと少しで目的が達成できる。

 

 

 

 

 

 

 控室までの廊下で後ろから声を掛けられた。

 

「決勝進出オメデトウ」

 

 振り返ると、神虎龍がパチパチと手を叩いていた。

 俺はその姿を見て眉を顰める。

 

「何の用だ?」

 

「なぁに。決勝での対戦相手を見に来ただけさ」

 

「・・・・・・随分の自信だな。次の試合で敗けるなんて考えていないような」

 

「ああ、当り前さ。俺が負けるハズがないだろう。ここで優勝して“俺”という存在をアピールする」

 

「そぉかよ。・・・・・・・・・でもよ、無抵抗の女の子をイジメるのは駄目だろう。それがどれだけ酷いことなのか分かっているのか?」

 

 俺の言葉を聞いた神虎龍の眉がピクリと動いた。

 だが、神虎龍は何も言わずに俺をジッと見ている。

 

「約束しろ。俺が勝ったらアイツをもうイジメないと」

 

「・・・・・・いいぜぇ。まっ、勝てたらの話だがな」

 

 神虎龍はそう言って多目的ホールの方へと向かって行く。

 そういえば、次はアイツの試合だったな。

 

 

 

 

 

 

 圧勝。

 その言葉がしっくりくるような戦いだった。

 相手は攻撃らしい攻撃ができず、ただ、一方的に殴られ・蹴られ・踏みつぶされ、ピクリとも動かなくなっていた。

 あんなの喰らったら死ぬ可能性すらありそうだ。

 神虎龍はその巨体そのモノの力をフルに使ってのゴリ押しが得意なようだ。

 アイツがパワーなら俺の取る戦法は限られてくる。

 パワーにパワーで対抗しようなんて、ハッキリ言って無理。

 ゴリ押しにゴリ押しで対抗しようとしたところで確実に限界が来る。

 だったら、アレしかない。

 俺は決意を固めて控室から出る。

 これから最終試合。

 神虎龍との・・・・・・安藤の運命を懸けた決戦だ。

 

 




次回、バトルスタート


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53話 『大宮さとしの物語⑤』

令和初投稿。


『さぁさぁさぁ!! ようやくここまで来ました!! この体育祭の大目玉ァ!! 決勝戦が始まるぞぉぉおおおおおお!!!!!』

 

 その声と共に多目的ホールが震えるほどの歓声が湧き上がる。

 ハッキリ言ってうるさい。

 俺は期待と興奮の歓声に包まれながらリングに上がる。

 これが神虎龍との決戦であり、最低でも“二人の人間を”助ける為の戦いだ。

 

『赤コーナー!! 最強!! 最強!! その見た目から付けられたあだ名は“ブロリー”!! 神虎龍ぅぅぅうううううううう!!!!! 青コーナー!! 最速の成長!! 思考し戦いの中で成長し続ける挑戦者(チャレンジャー)!! 大宮さとしぃぃぃいいいいい!!!』

 

 俺はリング上で神虎龍と睨み合う。

 

「さあ、やろうか」

 

「ふん。さっさと終わらせるさ。格好つけたがりの大馬鹿野郎」

 

「格好つけたがり、ねぇ。その言葉、ありがたく受け取っておくよ。・・・・・・始めようか。助けるための戦いを」

 

 そう言い、腰を落として構える。

 神虎龍は手を大きく広げ、威嚇しているクマのように構える。

 高まる緊張感、緊迫しだす空気。

 俺と神虎龍はピクリとも動かずに相手を観察し続ける。

 そして、

 

『ファイト!!!!』

 

 カーンッとコングが鳴ると同時に俺たちは駆け出す。

 神虎龍は右腕を振りかぶり、大振りのパンチを繰り出してきた。

 俺は身を屈めることでそれを回避し、神虎龍の後ろへと素早く回り込む。

 そして、体を三回転させて遠心力・推進力を付けて肘打ちを叩き込む・・・・・・。

 

「っ!」

 

「甘い!!」

 

 神虎龍は左手で俺の肘攻撃を受け止めて、握力そのままに握りつぶそうとしてきた。

 ギチギチギチギチギチッッと肘が悲鳴を上げる。

 痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 俺は歯を食いしばって舌を噛まないようにする。

 そして、跳び上がって体を回転させ、神虎龍の掴みから離れると同時に顔に蹴りを叩き込んだ。

 

『いきなりの激しい攻防!! 彼らの身体能力は本当に人間なのかぁあああああ!!!?』

 

 人間だよ。

 ただの弱い人間さ。

 弱いからこそ鍛えて鍛えて鍛え続けてここまで登ったんだ。

 だが、それは神虎龍も同じだ。

 それに、やっと思い出したんだ。

 神虎龍の事を。

 いや、より正確に言うなら改名前の名前を、だ。

 

「さっさとやろうか。“(おおとり) 大翔(おうが)”」

 

 俺がそう言うと、神虎龍は・・・・・・いや、鳳大翔はニヤリと笑った。

 昔のように。

 俺たちの関係を表すように。

 

「来い! さとし!! “あの日”の決着と行こうじゃないか!!」

 

 瞬間、俺たちはまた、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 俺は地面に寝転びながら呟く。

 

「やられてんじゃねぇか、エボルト」

 

「お前もだろう?」

 

 エボルトの小馬鹿にするような声を聞きながら俺はムクリと起き上がる。

 そして、グリスの方に視線を向ける。

 

「ずいぶんと戦い慣れている・・・・・・いや、『仮面ライダーグリス』の戦い方が分かっているな。お前が死んだときって、ビルド放送前だろう。ってか、エグゼイドも、ゴーストも放送してないか。どうやって分かったんだ?」

 

「さぁ? なんか頭の中に浮かんできたって感じ? よく分からない」

 

「そうかよ」

 

 俺はそうぶっきらぼうに答えながらボトルを取り出す。

 そして、

 

《マックスハザードオン! グレート! オールイエイ! ジーニアス! ビルドアップ! ドンテンカン! ドンテンカン! ドンテンカン!》

 

 俺はビルドドライバーのレバーを回す。

 

ガタガタゴットン(イエイ)! ズッタンズッタン(イエイ)! ガタガタゴットン(イエイ)! ズッタンズッタン(イエイ)! Are you ready?》

 

「ビルドアップ」

 

《オーバーフロー! 完全無欠のボトルヤロー! ビルドジーニアス! ヤベーイ! スゲーイ! モノスゲーイ!》

 

 俺は『仮面ライダービルド ジーニアスフォーム(ハザード)』へとフォームチェンジし、構える。

 グリスも構える。

 瞬間、俺たちは“踏み込む事なく”距離を詰めてぶつかり合う。

 

「なるほど」

 

「そう言う事だよ、さとしちゃん」

 

「その名前じゃ呼んで欲しくないんだけどな」

 

 俺はそう言いながらグリスを殴る。

 グリスに避けようという様子はなく、俺の拳が頬に直撃した。

 だが、

 

「良いよ。良いよ。良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ良いよ。そのパンチ良いよ。良い痛み。これが私に向けられているって考えるととても嬉しいよ」

 

「だったら変身解除になるまで攻撃してやるよ」

 

 俺はそう言ってフルボトルバスターを取り出す。

 そして、ブレードモードにすると同時に思い切り振るう。

 それがより激しい戦いの引き金になった。

 

 

 

 

 

 

 攻撃が来る。

 俺はその攻撃を左手で弾く。

 そして右手でアッパーカットをくり出す。

 だが、その攻撃はいとも簡単に受け止められてしまった。

 

「いいね。強くなったな、さとし」

 

「俺のセリフだ。デカクなったな、大翔」

 

 俺がそう言うと、鳳大翔は歯を見せてニヤリと笑う。

 釣られるように俺もニヤリと笑う。

 そして、

 

「「はぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」」

 

 俺たちは小細工無しに正面から殴り続ける。

 殴ってはガードされ、殴っては弾かれ、殴られては避け、殴られては弾き、蹴っては受け止められ、蹴っては弾かれ、蹴られては避け、蹴られては弾く。

 それの繰り返しだ。

 だが、俺たちの表情に苦痛はない。

 あるのは笑みだけだ。

 

「はっ・・・・・・」

 

「ははっ・・・・・・」

 

「「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!!!!!!!」」

 

 笑う。笑う。笑う。

 ただ、ひたすら笑い続ける。

 そして、笑いながら殴り続ける。

 俺と鳳大翔の関係を一言で表すと、喧嘩仲間だ。

 馬が合った。

 共通の趣味があった。

 だからこそお互いが気にくわなかった。

 事あるごとにぶつかった。

 事あるごとに殴り合った。

 言葉を交わした事なんて、拳を合わせた回数より少ない。

 そして、ある日、お互いの友人を巻き込んだ大喧嘩になった。

 アレはもう喧嘩とは言えなかった。

 決闘・・・・・・いや、殺し合いと表した方が適切かもしれない。

 周りのギャラリーの興奮が、そのまま俺たちに反映され、喧嘩は過熱し、その熱によってギャラリーはより興奮し、それがまた俺たちに反映されるという事を繰り返した。

 俺も、鳳大翔も、ただひたすらに殴り続けた。

 お互い痣だらけになったし、お互い体のあちこちから流血していた。

 それでも殴り続けていた。

 結果、今まで我関せずで無視し続けていた教師陣が青ざめて俺たちの戦いを止め、ギャラリーをしていた友人の親も呼ばれる騒ぎにもなった。

 俺たちの戦いは中途半端なところで止められ、気づけば連休に入っていた。

 その連休で世界は一変した。

 鳳大翔の家族が死んだ。

 事故だった。

 不幸で哀しい事故。

 出かけ先で居眠り運転をしていたトラックに突っ込まれ、鳳大翔の両親も、鳳大翔が憧れていた兄も、ちょっと悪戯好きな妹も、全員死んだ。

 たった数センチ。

 その差が鳳大翔と家族を引き裂いた。

 幼い少年の前で家族が消えた、一瞬で壊れた。

 そして、鳳大翔は学校に来なくなった。

 いつの間にか遠い親戚に引き取られていた。

 それ以来、俺は鳳大翔の事を忘れて生きていた。

 だが、何の運命かここで出会えた。

 また、戦えた。

 

「そぉいや、あの時は特に意識してなかったが、お前年上だったな。身長同じぐらいだったから忘れてたよ」

 

「ああ、俺もさ」

 

「・・・・・・随分と背格好も変わったな、オイ」

 

「当たり前だ。夢を掴むためにはこうでもならなくちゃな」

 

「夢を掴む、ねぇ。だからって“着たくない汚名を着る事”はないだろう」

 

 俺がそう言った瞬間、鳳大翔の表情が大きく揺らいだ。

 

「お前さ、まさか俺がお前が主犯だとでも思ってたのか? だったら悲しいぜ」

 

 俺は鳳大翔に密着して傍から見れば押し合いをしているように見える体制になる。

 そして、

 

「任せろ。この大観衆だ。お前の名誉を守りつつ主犯を潰せる。だから、俺に任せろ」

 

「だ、めだ。これは俺の問題だ。俺が、俺が抱える」

 

「させねぇよ。俺が安藤の希望になる。そして、お前の希望にもなる」

 

 俺はそう言うと同時に跳び上がり、鳳大翔を蹴って転がる様に距離を取る。

 この時点で勝敗は決まっている。

 絶対勝とうとする者と、何が何でも勝とうとする者。

 これだけなら違いが無いように思われそうだが、俺たちには大きな違いが出来ている。

 勝ちを完全確信する俺と、自身の信念と心情の中で揺らぐ鳳大翔。

 これは何よりも大きな差になる。

 俺は気合を入れて叫ぶように蹴りをくり出す。

 

「俺の必殺技ァ!!!」

 

 右足での回し蹴りを頬に、着地と同時に跳ぶように後ろ回し蹴りを顎に、顔が攻撃された事で反射的に目を瞑ったところ目掛けて渾身の前蹴り。

 鳳大翔は大きくバランスを崩してそのままリング外へと落ちた。

 

『場外!!! 大宮さとし、大接戦を制し、大局を支配し、最後は得意の蹴り技で完全勝利だぁぁああああああ!!!!!!!!』

 

 瞬間、多目的ホール内が歓声に包まれた。

 大きく、そして、景色を歪ませるほど・・・の・・・・・・。

 あ、れ・・・・・・?

 ンで、景色が歪ん、で・・・・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 気が付くと保健室にいた。

 どうやら、興奮と痛みで“エンドルフィン”が鬼のように出ている状態だったから戦えていたみたいだ。

 今はあちこちが痛いし、体の動きも鈍くなっている。

 右手を見ると、包帯がグルグルに巻かれていた。

 だが、そんな事を気にしている余裕はなく、俺の意識が戻った事に気が付いた医療班の方々に抱えられて表彰ステージまで連れていかれた。

 雑に持たないで欲しい。

 普通に痛いから。

 表彰台についてすぐ、表彰式が行われた。

 校長の長ったらしい話を聞き流しながら俺は頭の中で言う言葉を繰り返す。

 三位の二人が表彰状を受け取った。

 二位の鳳大翔が表彰状を受け取った。

 そして、

 

「一位。おめでとう。大宮さとしくん。素晴らしい戦いだったよ」

 

「ウッス」

 

 俺も表彰状を受け取る。

 

「さぁ、優勝した君の思いを言葉にして言ってくれ」

 

「はい。・・・・・・・・・俺がここに立てたのは、日ごろから積み上げ続けた努力によるものだと思っています。ここに立てなかった人たちにもそれぞれの思いがあり、立ちたい理由があったでしょう。俺はその思いを尊重したいと思っています」

 

 そして、と俺は言葉を続ける。

 

「俺が優勝したかった理由は、今、この学校で実際に起きているイジメを止めたい為です。・・・・・・証拠もそろっています」

 

 俺の言葉に多目的ホール内がざわつき出す。

 当たり前か。

 こんな言葉が出るなんて予想できた人間はいないだろうからな。

 

「だから、そのイジメの主犯の主犯をココで吊るし上げます。ねぇ・・・・・・」

 

 俺は、安藤に対するイジメの主犯を強く睨みながら言う。

 

「校長先生」

 




令和でも頑張って投稿していきます(*'▽')


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54話 『大宮さとしの物語⑥』

どうも、最近つじつま合わせの為にこの作品を読み返しては大宮さとしの物語になってから仮面ライダー要素無いな・・・・・・と思っている作者です。

いや、自分で書いてそう思うあたり、自分の馬鹿さに呆れます(´・ω・`)

しばらくは仮面ライダー要素が少なくなると思いますがお待ちください。


「だから、そのイジメの主犯の主犯をココで吊るし上げます。ねぇ・・・・・・校長先生」

 

 俺の言葉に多目的ホール内が一瞬で静かになった。

 だが、静かになったのは一瞬で、また、多目的ホール内がザワザワと騒がしくなり始める。

 当の校長は何でもないような表情で言う。

 

「冗談にしては酷すぎるんじゃないかな? 大宮さとしくん」

 

「こんなくだらない冗談を言う程、俺は馬鹿じゃありませんよ」

 

 俺がそう言うと同時にステージのスクリーンに映像が映し出される。

 そこに映っていたのは、安藤に暴行を加える鳳大翔・・・・・・いや、神虎龍とその取り巻きの姿だった。

 

「最初これを見た時は神虎龍たちが犯人だと思いましたよ。そう言った噂もありましたしね。でも、この映像に違和感を覚えたんです。・・・・・・イジメている方にしては辛そうな顔してるなって。アンタが隠し続けてたから探すのに苦労したぜ」

 

 俺は右手を上げて合図をする。

 すると、スクリーンに映し出されていた画像が切り替わる。

 

「っ!!!」

 

 スクリーンに映し出された写真を見た校長の顔色が変わった。

 

「どうです? 校長。アンタが不倫をしている証拠写真は!!」

 

 そう。

 スクリーンに映し出されたのは校長が若い女とホテルに入って行く瞬間と、数時間後に出てきた瞬間の写真だ。

 

「アンタは常習的にこの女と浮気をしていた。そして、偶然深夜徘徊をしていた安藤に見つかった。それが動機だろう。・・・・・・しっかしヒドイこともするねぇ。神虎龍たちの推薦を人質にしてまでこんな事させるなんて」

 

 この話は、この問題は何よりも単純なモノだった。

 難しい理由も必要ないほど身勝手なモノ。

『浮気現場を目撃されたから』この言葉だけで事足りる。

 自身の保身のための生徒を脅すなんて、教師どころか大人として駄目だ。

 

「大宮さとしくん。こんな捏造で人を貶めようとするのはいけない事だと思うよ。・・・・・・私はこのような道徳概念に反する様な事はしないさ。君たちの見本になるような大人が教師だからね」

 

 と、校長は汗だくになりながらもそう取り繕う。

 くだらない。

 

「動画から音声データまであるけど? なんなら数日前に校長室で追及した際の音声データでも流しましょうか?」

 

「っ!!!!!?」

 

 校長の顔が目に見えて青ざめ始める。

 俺はその情けない顔を睨みながら音声データを流す。

 

『校長。アンタは学校にイジメが無いと言ってましたけど、なんですかコレ』

 

『・・・・・・君は何が言いたい? 推薦で先の決まっている彼らを貶めて良いのか?』

 

『そこじゃあないでしょう。有るものを無いと言って隠ぺいするのは駄目なのではないですか?』

 

『彼らの将来を考えろ。たかだが母子家庭の子供の一人や二人どうなろうと知った事ではない!!』

 

 校長の顔が青を通り越して白くなる。

 これは、俺が海野から証拠写真などを受け取った日、校長室に乗り込んだ際の音声だ。

 

「まだ別のデータがありますよ」

 

 俺はそう言って別の音声データを流す。

 

『もう、こんなことやりたくないです』

 

『ん? そんなこと言って良いのかな? 私次第なんだよ、君たちの推薦は。未来懸かっているの分からないのかな?』

 

『じゃあ、何で安藤さんをターゲットにしたんですか? いや、それ以前になんでいじめを指示したんですか!?』

 

『君たちが知らなくて良い事だ。・・・・・・そして、その事を大きな声で言うんじゃない。誰かに聞かれたらどうする』

 

 俺はココで音声データを止める。

 

「どうです? アンタの声で、言葉で指示したと公言していますが」

 

 このデータを手に入れるのには苦労した。

 脅されていた推薦組の一人と接触し、悪いようにはしないことを条件に手伝ってもらったのだ。

 思いのほか演技派だったらしく、何ら違和感なく校長から自白を捥ぎ取って来てくれた。

 多目的ホール内のざわめきは最高潮になり、表彰式どころではなくなった。

 そこを見計らって俺は言う。

 

「校長。・・・・・・さぁ、お前の罪を数えろ」

 

 

 

 

 

 

 俺は体中から煙を出しながら地面に倒れ伏す。

 あちこちが痛い。

 ねえ、何なのコレ。

 普通に考えておかしいだろう。

 考えてくれ。

 何で『仮面ライダービルド ジーニアスフォーム(ハザード)』が『仮面ライダーグリス』に追い詰められるんだ。

 いや、ハザードレベルのせいだという事は理解している。

 だけどさ、ここまでやられるとは想像すらしてなかったよ。

 俺は左腕の“ないのにある傷”を抑えながら立ち上がる。

 

「お前どんだけ戦い慣れてるんだよ」

 

「さぁ? よく分からないや。さとしちゃんだってそうでしょ? 自分の実力をあまり計れないのは」

 

「確かにな。予想以上に強かった経験はあるよ」

 

 俺は嫌味を込めてそう言う。

 グリスは腕を組み、小首をかしげてから言う。

 

「それに、私実戦でお金稼いで来たからさ、戦うのは慣れてるの」

 

「実戦で金稼ぎって、お前何の仕事してんだよ」

 

「雇われ用心棒か殺し屋」

 

「ずいぶんと物騒な仕事してんな、オイ」

 

 俺はそう言いながら地面に転がっている(攻撃受けた際に落とした)フルボトルバスターを拾い上げて構える。

 グリスも腰を落として突撃する体制で構える。

 

「ハァア!!」

 

「ヤァア!!」

 

 俺たちは最短距離でぶつかり合う。

 突くように繰り出されるツインブレイカー。

 俺はその攻撃をフルボトルバスターで防ぎつつ体を翻してグリスの背後に回り、その背に肘をブチ当てる。

 グリスは跳ぶ事で衝撃を受け流し、空中で回転することで体勢を整えて着地すると同時にスクラッシュドライバーに装填されていたスクラッシュゼリーを抜き取り、ツインブレイカーに装填し直す。

 そして、

 

《シングル! シングルブレイク!!》

 

 グリスの攻撃が俺の鳩尾にヒットした。

 その衝撃はすさまじく、俺の肺から空気が反射的に吐き出された。

 だが、攻撃はこれだけでは止まらない。

 

《シングル! シングルフィニッシュ!》

 

 いつの間にかビームモードになっていたツインブレイカーの銃口から高エネルギーが放射され、俺を大きく吹き飛ばす。

 俺の手からフルボトルバスターが離れ、俺自身は地面を大きく転がった。

 そして、そのダメージにより、変身が強制解除させられた。

 

「カッ・・・カハッッ・・・・・・!!」

 

「なんだ。まだ死なないんだ」

 

「へっ・・・。この程度で死んでたまるかよ」

 

「う~ん。早く私だけのモノになってくれないかな? そこで寝転がってるヤツのせいで厳戒態勢どころか、いつ、プロヒーローが来てもおかしくないんだよ」

 

「そうだな。さっさと来て欲しいモンだ」

 

 俺はそう言いながらゆっくりと立ち上がる。

 ちなみに、プロヒーローは来ない。

 詩崎鋭矢だけで終わると思っていた為、相澤先生に「こっちの問題なので心配はないです」と伝えているのだ。

 つまり、助けは来ない。

 自分で何とかしなければいけない。

 あ~、クッソ。

 判断ミスったな、こりゃ。

 俺は心の中で悪態をつきながら再度、ジーニアスボトルを起動させる。

 

《グレート! オールイエイ!》

 

「一応聞く。俺を殺す気なんだよな? それを止める気はないのか?」

 

「私だけのモノになってくれたら殺さないヨ」

 

「断るわ、ソレ。俺は自由(フリー)なのが好きだから」

 

「自由という言葉に嫉妬したのは初めてカモ」

 

「そこまで行くかぁ~」

 

 俺は呆れを通り越して投げっぱなし気分でそう答える。

 もう慣れたというか諦めた。

 呆れるだけ無駄だと判断した。

 

「ってかさ、殺してどうすんのよ? 人間死んだらそれで終わりだぜ」

 

「食べる」

 

「は?」

 

「食べる。もぐもぐと。そうすればさとしちゃんは私の中で生き続けるし、私と一つになれる」

 

 この領域まで至ってまだ呆れることがある現実に驚いた。

 食べるってオイ。

 カニバリズムじゃねえかよ。

 美味しくねえっての。

 しかも、それで栄養として吸収したとしても、人間の細胞は全て2~3年ぐらいで入れ替わるから意味ないだろう。

 俺は深いため息を吐いて、呆れていますアピールを全面的にしてからベルトにボトルを装填する。

 

《ジーニアス! イエイ! イエイ! イエイ! イエイ! Are you ready?》

 

「変身」

 

《完全無欠のボトルヤロー! ビルドジーニアス! スゲーイ! モノスゲーイ!》

 

 ハイ、本日二度目のジーニアスフォーム。

 さっき、ボコボコにされたばかりだけど、ようやくジーニアスの戦い方が掴めてきた。

 次は、あんなザマにはならない。

 

「塩コショウで味付けしてミディアムにしてレモンの汁かけて食べる」

 

「具体的な調理内容を言うな、怖いから」

 

 俺はそう言いながらもフルボトルバスターを強く握り、構える。

 グリスも腰を落として構える。

 エボルトは寝っ転がってリラックス状態で様子を窺っている。

 ・・・・・・働いてくれよ。

 まあ、期待するだけ無駄か。

 俺は足にロケットフルボトルの力を反映させ、一瞬で距離を詰める。

 それと同時に左手にライトフルボトルの力を反映させ、光らせる事でグリスの視界を塞ぐ。

 グリスは反射的に手で目を塞いだが、それが大きな隙となる。

 俺は素早くフルボトルバスターを振るって攻撃をする。

 だが、グリスは目を覆っている方とは反対の手でフルボトルバスターを殴り、軌道をずらす。

 重いフルボトルバスターに重心を取られ、少しバランスを崩したと同時にグリスがツインブレイカーで潰そうとしてきた。

 でも、その攻撃は俺には当たらない。

 俺は素早くダイヤモンドフルボトルの力を使ってダイヤモンドを出現させ、それを盾にすることで防ぐ。

 グリスはそれを視覚すると同時に後ろに跳んで距離を取る。

 よっし。

 上手く行った。

 ジーニアスボトルの効力は、全てのフルボトルの特性を使える力だ。

 それを使えばこんな戦い方だって可能だ。

 ・・・・・・すっかりその事を忘れてたなんて口が裂けても言えないがな。

 

「さぁ、実験を始めようか。俺とお前、どっちが勝利を手に入れるかの」

 

 

 

 

 

 

 あれから数日が経った。

 あの後はとんでもない修羅場になってしまった。

 教師の何人かが生徒を鎮めるのに追われ、教師の一人が倒れ(この教師も校長の不倫相手の一人)、熱血体育系脳筋教師が「こんな人道に反することをしただけでなく生徒を傷つけるなんて許せん!!!」と大暴れ。

 多目的ホール内に混沌渦巻く中、俺だけ悠々自適に抜け出した。

 面倒くさいことは苦手だからな。

 まぁ、そこからが大変だった。

 生徒内で様々な憶測や噂が広がって学校中パニックになるし、校長は真っ白になるし、教育委員会からお偉いさんが何人も乗り込んでくるし。

 俺も事情聴取されたが、証拠見せて何も答えなかった。

 答える気にすらならなかった。

 安藤がイジメられている事に気付いていたにもかかわらず無視していた教師がいた事もその証拠の中にはあった。

 その教師の言葉を信じてあーだこーだ言ってくる大人に優しく事実を伝えて上げれるほど俺は善人じゃない。

 神虎龍も色々と取り調べを受けたみたいだが、俺も擁護しまくり、「校長に脅されていた被害者」「将来を人質にされて仕方がなかった」と綺麗ごとを言いまくって説教と反省文で済むまで持って行った。

 そして、今は休校になった。

 なんでかは分からないけどマスメディアがこの騒ぎを嗅ぎ付けて来て授業どころではなくなったのが原因だ。

 いや~、なんでメディアが嗅ぎ付けて来たんだろうねぇ。

 まあ、俺が知り合いの記者に売り込んだとかそんな事は無いよ。うん。

 最近ではイジメ問題がTVで大きく取り上げられていたのに、それを教師(しかも校長)が指示してやらせていたなんて、マスメディアの格好の餌になった。

 学校側からは全生徒が自宅待機を命じられているが、俺含めてそれを素直に聞かない者もちらほらと。

 神虎龍に関しては、外を出歩きたいらしいが、イジメの実行犯としてマスメディアに追いかけられている。

 ただ、俺含め数人が庇ったり、神虎龍の家庭事情をそれとなく言った事で、校長の評価が「イジメを容認した教師」から「幼いころに家族を亡くした少年を脅してイジメさせたクソ野郎」になった。

 それだけでなく、神虎龍は「そのクソ野郎のせいで夢や将来を潰されそうになった被害者」として世間から認識された。

 今ではTVを付ければほぼ確実にこの事件についてのニュースが取り上げられているぐらいには大事になってくれた。

 俺はその事を嬉しく思いながら街を散歩する・・・・・・と。

 

「おっ、お前も待機無視して出歩いてたのか」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そんな目で見てくるなよ。お前も大変だっただろうけどさ、今は解決の方に向かってるぜ」

 

「うっさい。関わんなんで」

 

「辛辣だなぁ」

 

 俺はそう言いながら苦笑する。

 安藤とばったり会ったのは、何の変哲もないただの歩道橋の上でだ。

 普通に道路の向こう側に用があって渡ろうとしたところで出会うなんて予想すらしていなかった。

 

「ってか、お前何してたんだよ」

 

「別に。ただココから街を眺めていただけだよ」

 

「街って・・・・・・」

 

 俺はゆっくりと安藤の向いている方へ視線を向ける。

 そして、安藤が何を見ていたかに気付く。

 学校だ。

 校門は閉められているが、マスメディアがウジャウジャワラワラと集まっていて、道を塞いでいるその様は、砂糖に群がる蟻のように見えた。

 その様子を、安藤は静かにずっと見続ける。

 俺はそんな安藤を見て、フとずっと聞きたかったことを聞いていた。

 

「お前さ、なんで抵抗してなかったんだ?」

 

「・・・・・・何の事よ」

 

「俺はお前がイジメられていた証拠を集めていた。その時に証拠として写真とかもゲットした。無論、映像もな。・・・・・・そこでさ、お前は抵抗してなかった。殴られても、蹴られても、それでも抵抗をしていなかった。やっていた事と言えば腕で顔をガードするぐらい」

 

「抵抗できるような相手じゃなかった。それだけ」

 

 安藤がそう言った瞬間、グゥゥウ~と安藤の腹の虫が鳴った。

 気の抜けるような音。

 自分のお腹が鳴ったと気づいた安藤は顔を赤くして俺の方を睨んできた。

 

「・・・・・・聞いた?」

 

「ああ。ばっちり聞こえた」

 

 俺がそう言った瞬間、安藤はスッと靴を脱いでそれを振りかぶった。

 

「・・・・・・べきでしょ」

 

「は? オイ、ちょっ・・・・・・」

 

「そこは聞かなかったことにしとくべきでしょぉぉおおおおおおお!!!!!」

 

 安藤はそう叫んで靴を全力投球してきた。

 戦闘モードの俺なら避けられただろうが、今の俺は私生活モードだ。

 簡単に言えば油断しまくってた。

 結果として安藤の投げた靴は俺の顔面に綺麗にヒットした。

 




どうでもいいキャラ紹介

安藤(あんどう)よしみ』
身長:159cm
体重:【聞かないで】

【挿絵表示】

赤口キリコの前世。
転生者は前世と今世の姿を大幅に変えている場合が多いのだが、彼女は一切変えることなく転生した。
その為、見た目はほとんど一緒。
別に、キャラデザを考えるのが面倒くさかったとかそんな理由ではない(目を逸らしながら)。
この頃はまだ目にハイライトがある。
人付き合いが苦手で友達が少ない。
イジメられること自体「自分が我慢すればいい」「誰か(ヒーロー)が助けてくれるわけじゃない」と考えふさぎ込んでいた。
さらに、救われようとしていない為、救おうにも救えない。
大宮さとし(機鰐龍兎)は性格上、どんな相手でも救おうとする傾向があり、手を伸ばさない安藤よしみでも救い出そうとして、それを現実のモノにした。
ただ、この頃(54話時点)はまだ大宮さとしの事を好意的に思ってはおらず、どちらかと言えばその自分勝手な性格(誰彼構わず助けようとする所や、困っている人に手を差し伸べる所、他人の事情に土足で入って引っ掻き回す所)を嫌っている。
余談だが、犬が苦手。


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55話 『大宮さとしの物語⑦』

長々と書きすぎてるな、『大宮さとしの物語』・・・・・・。
読者様にここで言い訳をさせて欲しい。
この話は無駄なモノではないのです。
なぜなら、原作に追いつきそうになって焦った作者(わたし)が少しでも時間を稼ぐ為の水増し話なのだから(ぶっちゃけ)

え~、ハイ。
勢いそのままにぶっちゃけましたが、一応長々と書いているのにも理由があるのでご了承ください。
なお、今回、『転生者の物語 暗視編』とも(少し)繋がります。


 やっぱりマクドナルドって偉大だわ。

 サッと食える。

 俺はとりあえずビックマックにかぶりつく。

 そして、目の前に座っている安藤の方へと視線を向ける。

 

「・・・・・・なによ」

 

「チーズバーガー美味いか?」

 

「ええ、美味しいわよ。・・・・・・こんなの冷凍食品のオンパレードだけどね」

 

「そうだな」

 

 マクドナルドの店内で食べているのにこの言い草である。

 もしもこの店内にマクドナルド信者がいた場合、俺たちは一瞬のうちに抹殺されるだろう。

 まあ、負ける気はしないが。

 

「最初に言っておくけど、お礼なんて言わないわよ」

 

「いいよ。ンなモノを期待して行動した訳じゃない。俺がやりたいからやっただけだ」

 

「・・・・・・身勝手ね、アナタ」

 

「ああ、身勝手さ」

 

 俺はそう言ってポテトを口に運ぶ。

 安藤もナゲットを口に運ぶ。

 そして、俺たちはしばらく静かに目の前の食品を口に運ぶ。

 一言も発する事なく、ただひたすらに、黙々と。

 その沈黙を破ったのはもちろん俺だ。

 

「お前さ、何で助けを呼ばないんだ? 今回の件は学校のトップが相手だったとはいえ、助けを呼ぼうと思えば呼べただろ。例えば、あの熱血系筋肉バカ体育教師とかに」

 

「あの人嫌い。根性論ばかりでしか行動しないから」

 

「まあ、確かに。賛否あるよな、あの人」

 

 俺が苦笑すると安藤はジト目で睨みながら言った。

 

「アンタさ、まさかだけど、誰かが助けてくれるなんてそんな甘い事思ってるの? だったら今すぐ現実見なさい。例え泣いても、縋っても、助けを求めても、英雄(ヒーロー)なんてやってこない。世の中ってそんなものよ。アンタがどれだけ英雄(ヒーロー)を気取っても、正義(ヒーロー)を掲げても、そんなちっぽけなモノなんかすぐに潰される。それがこの現実(リアル)よ」

 

「知ってるさ。知ってるからこそなんだ。英雄(ヒーロー)なんていない。正義(ヒーロー)なんてまやかしさ。でもよ、それじゃあダメだろ。手が届くのに伸ばさないでさ、無視して素通りなんて寂しいだろ。コレが綺麗ごとだって理解はしている。それでも、誰かが英雄(ヒーロー)にならないと誰も救われないだろう。だから、俺は俺の思う正義(ヒーロー)を張り続けるんだ」

 

「何よ、その理想論。叶う訳なければ、それが正しい訳ないじゃない」

 

「ああ、そうさ。コレが正しいなんて思ってないよ。でもよ、それを追い求めることは正しいんじゃないか? ただひたすらに、自分の信念を貫くことは良い事なんじゃないか? それに、苦しんでいる奴を見捨てたら後味悪いだろ。それだけだよ」

 

 俺はそう言いながら二つ目のバーガーを頬張る。

 安藤はイライラしているのを隠すことなく上目遣いで俺の方を睨んできていた。

 それを軽くスルーしながら今後の事を考える。

 今の俺と神虎龍と安藤は簡単に言えば宙吊り状態だ

 校長の不正を暴いたことで厄介者扱いで内申が大幅に不安定になっている。

 脅されていたとはいえいじめに加担していた故に推薦や内申が崩れた可能性のある神虎龍。

 いじめ被害者とはいえ、状況や理由が故に今後の学園生活の保障を失った安藤。

 今は校長の糾弾が表面上で問題になっているだけで、それが沈静化すれば待つのは俺たちを取り囲む状況の大きな変化だ。

 いや、今この時間にもそれは着々と変化しているだろう。

 その変化が小さいが故に感じれていないだけで、確実に変化している。

 証拠だってある。

 ただでさえ少なかった友人から、ついにメッセージすら来なくなったのだ。

 こちらから送っても無反応。

 唯一答えてくれているのが前田である。

 ・・・・・・あれ? このまま行くと俺ぼっち確定ルート?

 俺がヤバい現実に気付いて内心焦っていると、安藤がボソッと言った。

 

「・・・・・・もう一度言うけど、お礼は言わないからね」

 

「だから、ンなモンいいっての。・・・・・・あと、俺以外には愛想よくした方が良いぞ。可愛いんだから。他のヤツにもそんな態度だったら嫌われるぜ。まっ、俺は気にしないから何言われようと一緒にいてやるけどな」

 

 俺がそう言うと、安藤は顔を赤くしてキッと睨んできた。

 あれ? 俺変な事言ったかな?

 う~ん。分かんねえヤツだな。

 

 

 

 

 

 

「多分ボコボコにされた所はカットなんだろうな」

 

 俺は頭から地面に突き刺さった状態で何気なくそう呟く。

 漫画とかだったら別キャラのシーンか回想シーンに入ってボコボコにされた戦闘シーンがカットされているであろう。

 ホント、そう思えるほど一方的にボコボコにされた。

 滅茶苦茶格好つけたのに、こりゃないだろう。

 そう思いながらもゆっくりと立ち上がる。

 エボルトに関しては時間制限が来たせいで変身解除してるしさ、マジで何しに来たんだよ、オマエ。

 

「オイオイオイ。さっすがに今のは痛かったぞ。もう少し優しく扱ってくれよ。・・・・・・準備運動もそこそこにそろそろ本気出してやろうか?」

 

「何言ってるの? さとしちゃん。ずっと本気だったくせに♪」

 

 バレてらぁ。

 せっかく強がったのが台無しじゃねぇかよ。

 俺は軽く肩を落として落ち込みながらもフルボトルバスターを拾い上げ、構える。

 その時、視界の端に“何か”が映った。

 戦闘中に敵以外に意識を向けるのはただ隙を見せるだけになってしまうのだが、この時、俺はその事が分かっていながら何故かそちらに意識を向けていた。

 緑色の光。

 俺は、それを見た事があった。

 そう。それは、仮面ライダーダブルでフィリップがエクストリームメモリに吸い込まれる際に出るあの光であった。

 緑色の、数字の羅列。

 その光の中には人影があった。

 ただ、その人物の顔を見ることができなかった。

 確認できたのは、その手に持つメモリと腰に装着されたロストドライバーであった。

 俺がそれを認識したと同時に、その人物はメモリを起動させていた。

 

《エターナル》

 

 ロストドライバーに装填されるメモリ。

 そして・・・・・・、

 

「変身」

 

《エターナル》

 

 瞬間、白い光が緑色の光を消し、その人物は『仮面ライダーエターナル』へと変身していた。

 ・・・・・・いや、誰?

 マジ誰だ?

 おっかしいなぁ。

 俺に仮面ライダーエターナルに変身できる知り合いはいない筈なんだが・・・・・・。

 

「アンタ誰?」

 

「ただの名もなき死人さ」

 

「そう言うの良いから。・・・・・・で、何の用でござんしょう」

 

「聞こえたんだ。助けを呼ぶ声が。必死でもがいている人の声が。・・・・・・なら、駆けつけない訳にはいかないだろう」

 

 エターナルはそう言いながら俺の肩にポンと手を置く。

 ・・・・・・助け呼んだのって、俺の事ですかいな。

 

「・・・・・・で、アンタはアイツに勝てる自信はあるの?」

 

「さぁ? それはやって見ないと分からないよ」

 

 エターナルはそう言いながらエターナルエッジを取り出して構える。

 ・・・・・・戦闘体勢はばっちりなのね。

 よし。やりますか。

 

「行くぜ、今度こそ俺が勝つ」

 

「助っ人来てから強がる辺りさとしちゃんの悪いクセが治ってないの、かもね。・・・・・・でも、そこも好き。その白い人殺してすぐに私のモノにしてアゲルネ」

 

 マスクに隠れてどんな表情をしているかなんて、分からないだろう。

 ・・・・・・俺以外には。

 きっと、彼女は“あの時”と同じように微笑んでいるだろう。

 優しく、美しく、不気味に。

 

 

 

 

 

 

 自宅謹慎が解けてから早三日が経過した。

 俺の予想に反して学校生活が大幅に変わる事は無かった。

 校長がいなくなって、副校長が校長代理になったぐらいである。

 あぁ、後、俺と神虎龍の関係が良くなったことも変わったところに入るだろう。

 昔はあんなにもいがみ合って、顔を合わすたびに喧嘩三昧だったのに、今じゃお互い丸くなったものだ。

 必要な時以外は殴り合わなくなった。

 え? そもそも普通は殴り合ったりしない、だって?

 良いんだよ。細かいことを気にしてたら視野が狭まるぜ。

 今日も一日を終え、帰路につく。

 途中までは前田と一緒である。

 家の方向が偶然一緒で、お互い部活動に所属していない為帰宅時間が一緒なのだ。

 

「外伝とかってさ、長くなりやすいよね」

 

「いきなりどうした。・・・・・・まあ、確かに長くなる傾向があるよな」

 

「あれってさ、そのキャラの過去編とかだった場合、そのキャラを作った重要な話になる分長いよね」

 

「そりゃそうだろう。人一人の生き方を決めた話なんて、簡単に語られて良いようなモノじゃないからな」

 

 そう、人一人の人生である。

 たった数行で纏められるほど簡単なモノでは無いはずだ。

 それが、人生を決めるような大きな事ならよりそうであろう。

 戦国武将で例えるなら、織田信長や豊臣秀吉が良いか。

 織田信長なら日本に名前を轟かせる大きな要因となった桶狭間の戦い。

 豊臣秀吉なら天下人になる一手となった山崎の戦い。

 一つの出来事で人生が変わる、それはとても大きな出来事である。

 それを短くまとめられる人物がいるのなら逆に見てみたいものである。

 

「物語シリーズでも、最初の『化物語』は上巻に“ひたぎクラブ”・“まよいマイマイ”・“するがモンキー”の三つの話。下巻に“なでこスネイク”・“つばさキャット”の二つの話。合計5話で作られているのに、『傷物語』は“こよみヴァンプ”の一話だけ。こういうのもさ、やっぱり物語の基盤になるから仕方ないよね」

 

「だよなぁ。何か、『化物語』では軽くしか語られず、どんなことがあったのかほとんど分からないような書き方だったけど、読んでみると全部繋がって面白かったよな」

 

「だよねぇ。フラグとかもしっかりしてたし」

 

 そんな会話をしていると、帰りによく利用するコンビニの前に誰かいるのが見えた。

 このコンビニの前にはよくヤンチャな方々がたむろしている場合がある為、誰かがいるなんてよくある事なのだが、この時ばかりは意識してしまった。

 なぜなら、そこにいたのは・・・・・・、

 

「何やってんだ、安藤」

 

 俺がそう言うと、ずっと下を向いていた安藤が顔を上げてこちらを見てきた。

 そして、こちらに歩を進めてきた。

 俺は前田に少し待ってもらえるようお願いして安藤の方へ向く。

 

「よぉ、お前ン家もこっちだっけ?」

 

「ううん。違うよ」

 

「? だとしたら何でここに居るんだ? 学校の目の前にもコンビニあるだろ。・・・・・・まさか! この店限定の商品でも出たのか!?」

 

「違う。どんな勘違いしてんのよ、アンタ」

 

 違ったようだ。

 だが、言い訳をさせて欲しい。

 このコンビニの店長はかなりの変わり者で、よく分からない商品をたまに入荷している事があるんだ。

 そして、その何割かは大当たりの良商品だった事がある。

 つまり、このコンビニの商品の入荷情報を制する者は、新しい話題を制する者ということなのだ。

 そりゃ定期的にチェックするし、よく買い物もするよ。

 ・・・・・・思えば、話題性のある商品で客を釣って利益を得ているような仕組みになってるな、コレ。

 まあ、良いか。

 

「じゃあ、なんでここに居るんだ?」

 

「・・・・・・これ」

 

 安藤はそれだけ言って、俺にコンビニの袋を押し付けてきた。

 俺がそれを持つと、下を向いてモゴモゴ言って、そのまま走って行ってしまった。

 ・・・・・・・・・?

 マジで何だったんだ?

 俺は安藤の行動を不審に思いながら、コンビニの袋の中身を見ると、俺の好きなモンスターエナジーが5本も入っていた。

 おお、マジか。スゲェ嬉しいんだけど。

 って、アレ?

 俺、安藤にコレが好きって言ったっけな?

 う~ん。

 ・・・・・・まあ、良いか。

 俺は軽く疑問を持ちながらも、その思考を放棄する。

 そしてまた、前田との馬鹿話に花を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 この時の疑問を無視せず、しっかりと考えていればあんな事にならなかっただろう。

 いや、これは結果論でしかない。

 戦国時代で例えるなら、本能寺の変の際に織田信忠が籠城せずに逃げていれば織田家は衰退しなかった、と唱える事と同じだろう。

 え?

 お前の小さな事情をそんな大きな事で例えるな、だって?

 細けぇ事は気にしなくて良いんだよ。

 ってか思うんだけど、本能寺の変の際の明智光秀は不幸過ぎると思うんだよね。

 謀反の成功を示すために重要な信長の遺骸は何故か見つからないし、息子の信忠の遺骸も見つからないし、混乱した京はどう努力しても鎮まらないし、山岡景隆を勧誘するも断られたあげく移動に必要な橋を焼き落されるし、一応親戚である細川藤高は味方になってくれないし、筒居順慶に関しては「味方するよ」とか言って期待させときながら「やっぱ無理」って味方しなかったし、予想以上に秀吉が早く敵討ちに来ちゃったし・・・・・・。

 あれ?

 明智光秀ってかなり可哀想な人なんじゃ・・・・・・。

 いや、今はそんなのどうでもいいか。

 結果論だけで考えれば、あの時の疑問を放置しなければ悲劇は起きなかっただろう。

 でも、それはもう過ぎてしまった事だ。

 戻れないし、戻せない。

 あの時のガキの俺は違和感を覚えながらもそれを無視して日常を歩んでいた。

 悲劇の火種が見え始めたのが12月。

 “アレ”を神虎龍と共に解決したのが1月初旬。

 そして、悲劇が起きたのは3月も終わるある日であった。

 ただ、その事をこの頃の俺は知らない。

 知らないまま、夏休みを終わらせ、新しい学園生活を歩んでいた。

 




なんか最近疲れが取れない・・・・・・。
取り合えず、明日は執筆から離れてのんびりします(-_-;)


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56話 『大宮さとしの物語⑧』

今回、仮面ライダー要素ゼロです。
ごめんなさい。


 夏季体育祭から早数ヶ月。

 俺はイライラを隠さずに言う。

 

「最近の若者はなっとらん」

 

「お前もその最近の若者だろう」

 

 俺渾身のボケに的確なツッコミを入れたのは神虎龍である。

 あの事件で推薦が流れそうになり、てんやわんやで忙しそうにしていた為、久しぶりの会話になる。

 ちなみに、第一志望の高校の推薦は取り消しになったが、別の高校が「君も汚い大人の被害者なんだ。良かったら来ないか?」と第一志望の高校よりも大きなスポーツ高校から誘いを受けたのだという。

 うらやましい限りだ。

 俺なんて、まだ中二なのに進路は地元の普通の高校って決まってるんだぜ。

 え? 何で決まってるか、だって?

 交通費掛からないし学費が安いからだよ。

 普通の家庭事情じゃ、オラァ。

 

「何が不満なんだよ」

 

「だってよ、考えてみろよ。ハロウィンはキリスト教のカトリック教会における死者の日の前夜祭の諸聖人の日の前夜祭だぞ。日本で例えるなら盂蘭盆会だ。元々は死者の霊が出回る日で、その霊に何かされないようにオバケや魔女に仮装し、自身を守るというのがイベントの主な理由だろ。・・・・・・で、見てみろよ」

 

 俺はそう言って人の溢れる街を指さす。

 

「マリオ、ルイージ、ピーチ姫、ガンダム、ザク、ゲルググ、ズゴック、ルフィ、ゾロ、サンジ、ナミ、フランキー、まどマギの魔法少女(物理)数名、【以下中略】、悟空、ベジータ、フリーザ・・・・・・何故か喧嘩しているベジットとゴジータ。もう滅茶苦茶じゃねえか。こんなのただの仮装イベントだ。ハロウィンじゃねぇ」

 

「まあ、近年はコスプレするだけのイベントになっているからな。でも、楽しければ良いんじゃね?」

 

「いや、絶対だめだ。コレが続いたら確実に大きな問題が起こる。・・・・・・確実に逮捕者出る事件が起きるぞ」

 

 バカは集まると『その場ノリ』や『みんな楽しんでいたから』でとんでもない事をやらかす。

 例え、それが犯罪行為だったとしても何ら罪悪感なくやってしまう。

 それがバカという人種である。

 常識は通じない、論理的な会話もできない、そんな輩が年々増えつつあるハロウィンイベントなんぞ、楽しみたくもない。

 そんな不満を持ちながら神虎龍と話をしていると、後ろから声を掛けられた。

 

「ハロウィン嫌いなの?」

 

 振り返ると、安藤がいた。

 ・・・・・・あれ?

 なんか違和感が・・・・・・まぁ、良いか。

 

「あれ? お前ン家こっちだったか?」

 

「ううん、違うよ。なんか楽しそうな雰囲気だったから来てみたの」

 

 安藤はそう言いながらクルリと一回りした。

 

「あっちこちに笑顔が溢れて、皆が楽しそうにしてる。・・・・・・これってかなり素敵じゃない? たとえどれだけ辛い日常を歩いている人でも、こういう日は幸せになれるもん」

 

「お前そんなキャラだったか? ・・・・・・まあ、確かに楽しくて幸せだろうな。でも、それはイベントに参加している人間だけだろう」

 

 俺は面倒くさいという態度を隠すことなく辺りを指さす。

 安藤は俺の指差した方へと視線を向けてくれた。

 

「あっちこっちに散乱するゴミを見てみろ。これを誰が片付けると思う? ここで騒いでいるバカ共は片付けないぞ」

 

 なんか周りのバカどもから睨まれたけど気にしない。

 

「この雑居ビルに構えられているカフェの店員や店長が片付ける。あそこのコンビニの店員が片付ける。市の職員が片付ける。・・・・・・楽しけりゃいいってモンじゃねえよ。後始末もできない大バカ者たちが集まって騒いでいるのを見て楽しいと思うのは、ただ、それを楽しいと思っているバカの感性に惹かれているだけだ」

 

「お前ここ数年でとんでもないくらい変わったな。かなり捻くれてるぞ、オイ」

 

 神虎龍が呆れたように何か呟いているけど丸ッと無視する。

 安藤は眉を顰め、つまらなそうに反論してきた。

 

「そんな考えじゃ楽しめないよ」

 

「いや、そもそも楽しむ気ない」

 

 俺が一瞬の間もなくそう答えると、安藤がいきなり俺の腕に抱き着いて来た。

 何がどうしてこうなったのか分からず思考停止していると、神虎龍がニヤニヤしながら俺の肩をバシバシと叩いて来た。

 手加減というモノを知らないらしく普通に痛かった。

 

「昔っからそうだが、お前はモテるなぁ」

 

「痛い。ちっとは手加減しろ。・・・・・・ってか、モテるのはお前だろう」

 

 こんな事を言うのも何だが、神虎龍はかなりのイケメンである。

 といってもアイドルのようなスラリとしたイケメンではなく、大柄なスポーツ系のイケメンである。

 確かに顔立ちも整っているが、それを基盤にスポーツ万能で成績も優秀。

 モテない筈がないのだ。

 逆に俺は普通。

 特徴もなく普通に普通を重ねているぐらい普通。

 ゲームで例えるなら・・・・・・“天野ケータ”の方がまだイケメンであるぐらいだ。

 そう。

 それだけ特徴もなく普通なのだ。

 ハッキリ言ってモテた経験なんて一度もない。

 逆に神虎龍はモテまくっていた。

 俺と出会った時にはもう彼女がいたし、その彼女も21人目だったとかなんとか。

 逆に俺は彼女いない歴イコール年齢である。

 自称子分たちは沢山いたが彼女は一人もいな恋愛とは無縁の生活を送って来た。

 クリスマスなんてリア充っぷりを発揮してネットにその事を上げているヤツらの所に嫌がらせメッセージを送ってぶち壊そうと努力しているぐらいだ。

 昨年なんて町内一番と噂されていたカップルの所にDMで浮気の証拠やその他もろもろを送り届けて愛のキューピットならぬ破局のデビルになって遊んでいた。

 俺はとりあえず腕に抱き着いて来ている安藤の顔をもう片方の手でグイグイ押し、なんとか離れさせる。

 

「一つ聞こう。何故いきなり抱き着いて来た?」

 

「いや、その、ね? そのまま手を引っ張ってちょっと面白いところまで連れて行こうかなって・・・・・・」

 

「だったら口で言ってくれ」

 

「・・・・・・ごめん。次からはそうする」

 

 安藤は少ししょんぼりしながらも了承してくれた。

 それを見て神虎龍がガッハッハと大きな笑い声を上げた。

 そして、

 

「そういえば俺はこの後、裕奈・・・・・・彼女との約束があったんだった。という事で行かせてもらうぜ。じゃ」

 

 それだけを言うと俺の言葉も聞かずにさっさと行ってしまった。

 何だよアイツ・・・・・・。

 態度が何かわざとらしくてよそよそしかったし、何かあったのか?

 まあ、いいか。

 月曜日に学校であったと気にでも聞くとしよう。

 

「・・・・・・それで、安藤。どこに連れてこうとしてたんだ?」

 

「すぐそこ」

 

 安藤はそういうと俺の手を掴んでグイグイと引っ張っていく。

 俺は一切抵抗することなくその力に身をまかせ、安藤の後ろに付いて行く。

 そして、安藤が入って行こうとしている店を確認すると同時に俺は素早く身を翻した。

 

「あれ? どうしたの?」

 

「放せ。放してくれ。俺にここはハードコアだ」

 

 安藤の入ろうとした店、それは、最近人気のカップルが滅茶苦茶入り浸っている有名デートスポットのケーキ屋である。

 大通りから店内を見れるほど大きな窓ガラスからは沢山のカップルがイチャラブしている場面が見えている。

 ってか、ちょっと待て。

 店の一番奥にいるのって、昨年のクリスマスに破局させたカップルの彼氏(浮気していた方)じゃねえか。

 しかも、一緒にいる女、修羅場って分かれた彼女とも、浮気相手の女とも違う全く別の女じゃねえかよ。

 すっごい入りたくない・・・・・・。

 一応、チクったのが俺とバレないように捨てアドを使って、さらに海外のサーバーを経由して特定されないようにはしたけどあまり関わりたくない。

 だが、俺がカップルを破局させたのは誰にも話していない為、ここで逃げるのも怪しく思われそうであるというのも確かなのだが・・・・・・まあ、知らんぷりをしておこう。

 でも逃げたいんだよね。

 彼氏彼女の関係じゃないのにこの店に入るのは抵抗がある。

 だってそうだろう?

 恋人同士がイチャコラしている空間に望んで入りたい非リアなんて存在しない。

 

「ね? 個々のケーキ美味しいらしいよ。それに、ハロウィン限定ケーキもあるらしいし」

 

「頼む、放してくれ。この店は俺にとって死の空間でしかないんだぁ」

 

 俺は何とか安藤の魔の手から逃れようともがいたが、謎の馬鹿力により無理矢理“魔の庭園(ケーキ店)”に引きずり込まれてしまった。

 店内は思ったより静かで、カップルたちもそれぞれ勝ったケーキを食べ良り分け合ったりしていた。

 それだけでなく、クラシックも流れていて外のバカ騒ぎとは違い落ち着いた雰囲気であった。

 店のシステムとしては、ショーケースの中に入ったケーキを選びレジで注文。その際に持ち帰りか店内で食すかを選ぶ、という感じであった。

 そして、ショーケースの約半分をハロウィン使用のモンブランケーキが埋め尽くしていた。

 ・・・・・・結局これかよ。

 どこへ行ってもハロウィンが付きまとってきやがるぜ。

 

「ねえねえねえ。大宮くん? どれがいい? 何が食べたい?」

 

「ちょっと待ってな。・・・・・・ん~、今のところ諭吉が11人か」

 

「凄い持ってるね? どうしたの? 確か月々のお小遣いって5万円だったよね?」

 

「さっき、酔っ払いに絡まれてる人たからさ、神虎龍と一緒に助けたついでに酔っ払いの財布からかっぱらってきた」

 

「窃盗じゃん」

 

「殴られたからな。慰謝料を貰っただけだ」

 

 俺はそう答えながらケーキを選ぶ。

 ・・・・・・あれ? 俺、安藤にお小遣いの事話したっけ?

 ん~、駄目だ。思い出せない。

 まあ、良く前田に愚痴ってたしそこから漏れたんだろう。

 俺は自分の中でそう納得し、ケーキ選びを続行した。

 5分ほど悩んだが、俺はチョコケーキとハロウィンモンブランを、安藤はイチゴのショートケーキとシフォンケーキを選んだ。

 俺は持ち帰りを選択してさっさと帰りたかったのだが、安藤がそれ良いも早く店内で食べるを選択してくれやがった。

 このヤロウ・・・・・・。

 まあ、こうなってしまったのは仕方がないと諦めて開いている席に座った。

 二人掛けの席で、一つのテーブルに向かい合うような形で椅子が設置されている。

 

「ごめんね。私の分まで払わせちゃって」

 

「いいんだよ。・・・・・・証拠隠滅にもなるしな」

 

「あはは」

 

 安藤は俺の言葉に苦笑いをした。

 よくある話だろう。

 ヤ〇ザだって、自身の系列の店で黒い金を使う事でクリーンな白い金に換えたりしているだろう?

 それと一緒だよ。

 

「ほら、ちゃっちゃと食って帰るぞ」

 

 俺がそう言うと、安相は少し表情を曇らせて「う、うん・・・」と答えた。

 それを見て、俺はすぐに違和感に気付いた。

 いや、今まで無視していただけでいつだって気付けたような違和感であった。

 

「・・・・・・お前、家で何かあったのか?」

 

「無いよ! 何もないし何でもない・・・・・・から、気にしないで」

 

 安藤はそう言って俯いた。

 ・・・・・・やっぱりな。

 

「なあ、教えてくれ。そうじゃないと何もできない。手を伸ばされないと手を掴めない。助けを求められないと助けに気付けないんだ。・・・・・・人間は完璧じゃない。助けを求められないと動きたくても動けないんだ。だから、頼む。言ってくれ。話してくれ。俺に、大切な“友達”を助ける切っ掛けをくれ」

 

 俺がそう言った瞬間、安藤に頬を引っ叩かれた。

 店内に『パッチーン』という良い音が鳴り響いた。

 そして、その音を聞いた客の視線が俺たちに集中する。

 

「アンタに何が分かるのよ!!」

 

「分かんねえから教えてくれって聞いているんだろう!! 俺は完璧じゃない!! いや、誰だって完璧じゃない!! だから言っているんだろう!!!」

 

 俺たちは人目もはばからず大喧嘩を始めた。

 汚い言葉も使ったし、公共の場には相応しくないような醜態も晒した。

 何度もなぐられた、何度も叩かれた。

 俺はデコピンで反撃をする。

 殴り返すことも可能だったが、女子に手を出すほど俺は落ちぶれていないのだ。

 結局、強面の店長につまみ出されるまで喧嘩は続いた。

 




~安藤よしみと遭遇する前~

大宮さとし「最近始まった仮面ライダーがよく分からない」

神虎龍「俺見てねぇから分かんねえけど、どこが分からないんだ?」

大宮さとし「仮面ライダーがミニカーで変身して車に乗ってる」

神虎龍「”ライダー”とは・・・・・・?」

大宮さとし「ん? 誰か絡まれてるぞ!!」

神虎龍「助けるぞ!!」

酔っ払いボコボコタイムとなった。


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57話 『大宮さとしの物語⑨』

ネタが浮かばないネタが浮かばないネタが浮かばないネタが浮かばないネタが浮かばないネタが浮かばない・・・・・・endless

仮面ライダー要素を入れたいのに入れられずムカムカする今日この頃。
読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私はネタが浮かばず頭を悩ませています。
しばらくは仮面ライダー要素がかなり少なめになりますがご了承ください。




 あれから一週間が経過した。

 結局喧嘩は続いたままで、安藤と話したりはしていない。

 というか、廊下ですれ違っても睨まれるだけである。

 

「ハァア~」

 

 つい、深いため息を吐いてしまった。

 あの時はさすがにやりすぎたと今になって思う。

 誰だって踏み込んでほしくない事情があったりする。

 俺にだってある。

 それを無視してツッコもうとした俺が悪い。

 だから、謝りたい。

 そんな事を思いながら机に突っ伏していると、教室に誰もいなかったはずなのに声を掛けられた。

 顔を上げると、目の前に少し困った顔をした前田がいた。

 

「困ってる事あるんでしょ? 私ならいくらでも聞くよ?」

 

「ないよ。困ってる事なんて」

 

「嘘をつかないの。どうせまた安藤さんの事でしょ?」

 

「バレたか。・・・・・・お前は何でも知ってるな」

 

「何でもは知らないよ。知ってる事だけ。・・・・・・それに、何で二人が喧嘩したかなんて分からないもの。ねえ、相談してくれないかな?」

 

「いや、実はな・・・・・・」

 

 俺は前田の恩情に甘えることにした。

 そして、一週間前に会った事を出来るだけ客観的に説明した。

 話が進むにつれ、前田の表情がより困ったようなモノへと変わっていく。

 俺の話を全部聞き終わった前田は、眉を寄せて本当にも待ったように言った。

 

「まあ、人の事情に無理矢理入り込もうとしたのは駄目だね。でも、大宮くんが心配するのもしょうがないよ。だって、好きなんでしょ? 安藤さんの事」

 

「は? 何の事?」

 

 俺の答えに、前田が笑顔のまま石化した。

 

「ち、違うの?」

 

「いや、そもそも恋愛自体に興味がないし」

 

「はえ、へっ!?」

 

「なんだよ。どう思ってたんだよ」

 

「毎年リア充爆発を掲げてるからてっきり彼女欲しいのかと・・・・・・」

 

「ンな下心もってねえよ。ただ、イチャイチャするのは良いけど、人目をはばからずやられると何か腹立つ」

 

「あらら」

 

 前田はそう言って少し息を吐いた。

 そして、少し小首をかしげ俺の方をスッと見ながら、

 

「じゃあさ、私と付き合ってみる?」

 

 と言ってきた。

 俺は後頭部をポリポリと掻き、深いため息を吐いてから言う。

 

「どうした? 変なモノでも食べたか?」

 

「何よ。もう少しいいツッコミを入れなさいよ。・・・・・・というか、君の事だから本気にすると思ったんだけど」

 

 前田はそう言って笑った。

 俺はまた、深いため息を吐く。

 

「俺とお前の立ち位置考えてみろ。俺は自分勝手な特徴のない平凡な学生。お前はクラス委員長で成績も優秀で教師からも信頼がある優等生。つり合いが取れるわけないだろう。そこから考えられるのは冗談って事だ」

 

「大宮くんには夢がないわね。もう少し前向きに考える事は出来ないの?」

 

「前向きに考える理由が分からない」

 

「そう・・・・・・」

 

 前田は呆れたようにそう呟くと自身の席の引き出しからノートを取り出してバッグにしまった。

 そして、

 

「私そろそろ行くから。何かあったら相談してね。・・・・・・それと、これ使って良いよ」

 

 そう言うとバッグから数枚の紙を取り出してきた。

 何かと見てみると、近くの商店街でガラガラができるチケットであった。

 ガラガラ。

 ガラポンや福引器とも呼ばれる道具。

 正式名称『新井式廻轉抽籤器』。

 六角形や八角形の木製の箱についているハンドルを回すことで出てくる弾の色で商品を決める道具。

 まあ、子供が回したがるアレだ。

 

「いいのか? これって確か商店街で買い物することでもらえるヤツだろ?」

 

「いいの。私はそう言うのに興味無いから」

 

 前田はそう言って教室を出て行った。

 俺はそれを見送ってからチケットをポケットにしまい込み、教室を出る。

 扉から出た際に何気なく後ろを振り向く。

 夕日によって真っ赤に染まった誰もいない静かな教室。

 俺は静かに扉を閉じてそこを後にした。

 

 

 

 

 

 

 俺は商店街に向かって歩を進める。

 帰宅路という意味では商店街方面へ向かうという行為は遠回りでしかないのだが、生憎、俺はあまり家にいたくないのでフラフラできるならそれでいい。

 一応説明しておくと、俺には優れた弟がいる。

 成績優秀でスポーツも得意で、真面目で社交的で知識も豊富で・・・・・・兄としての威厳などゼロである。

 俺の成績は普通で、スポーツは弟よりは出来るモノのどちらかと言えば格闘系が得意で弟と系統が違うし、不真面目である。

 進学先が地元の市立高校の理由だって弟の学費の為だ。

 ちなみに高校卒業後は就職するしかない。

 奨学金が借りられるような学力じゃないからな。

 弟はこのまま順調に行けば東大にも入れるかもしれない。ってか、今現在小学生なのに県内トップ高校に入学できるレベルの学力はある。

 それ故に親からの俺への関心なんて無いも当然である。

 俺は夏休みや春休みなどの長期休みの時には最初の数日で宿題を終わらせて最終日まで放浪しまくっている。

 家に帰る事はほとんどない。

 一週間に数時間帰ればいい方である。

 それでも心配をしない親だからこそのびのび生活出来ているのも事実だがな。

 そんな事を考えている内に商店街についた。

 時間を確認すると6時を過ぎたところであった。

 もう閉じているだろうと思いつつも一応確認してみると、まだ開いていた。

 そして、そこに見知った顔の人物がいた。

 俺は深く息を吐き、なるべくいつも通りのペースで話しかける。

 

「よう。お前もガラガラやりに来てたのか?」

 

「何そのネーミングセンス・・・・・・」

 

 安藤はそう言って呆れたようにため息を吐く。

 あからさまに嫌そうな態度を取られたが昔から会得しているスルースキルで無かったことにする。

 そして、今日の担当である八百屋のおばちゃんにチケットを渡す。

 

「5回分あるんで」

 

「はいはい、ちょっと待ってね~。今数えるから・・・・・・・・・はい、確かに5回分」

 

「ほんじゃ回しますよっと」

 

 俺はそう言ってガラガラを回す。

 一回目、白。ポケットティッシュである。

 2回目、白。またもポケットティッシュである。

 3回目、青。四等の箱ティッシュである。

 4回目、白。もはや恒例と言っていいほど見たポケットティッシュである。クソが。

 5回目、金。一等の旅行券である。

 

「・・・・・・・・・おばちゃん、これ、一等だよね?」

 

「・・・・・・・・・そうね。うん、おめでとう!」

 

 おばちゃんはそう言っていそいそと景品である旅行券等を取り出して渡してくれた。

 狙いは二等の“Wii U”を狙っていたのだが・・・・・・

 まあ、出ちまったのは仕方がないか。

 俺はそう納得して旅券を確認すると、どうやら2人招待の一泊二日旅行のようだ。

 日付は来週の土日。

 俺はガラガラをしている安藤を横目にしばらく考えた後、スマホを取り出しプッシュする。

 数回のコール音の後に前田はすぐ出てくれた。

 

『大宮くん? どうしたの?』

 

「あ~いや、来週の土日ヒマか? ガラガラで旅券当てちまったんだけど誘う相手いなくってさ」

 

『えっ!? ちょ、ちょっと待ってね。・・・・・・・・・・・・・・・ごめん。親戚の家に行く予定入ってた。せっかく誘ってくれたのに本当にゴメンね』

 

「いや、いいよ。予定あるならしょうがないしな」

 

『でも、誘ってくれてありがとうね。嬉しいよ』

 

「お前がくれたチケットで出したんだから誘うのは当たり前だろ。まあ、代わりのお礼は今度するから」

 

『ありがとう。楽しみにしておくね』

 

「おう」

 

 俺は電話を切ってどうしたものかと思案する。

 神虎龍は彼女とデートらしいし・・・・・・。

 チラリと隣を見ると安藤が大量のティッシュを持って項垂れていた。

 俺は後頭部をポリポリと掻いてから言う。

 

「安藤。来週の土日ヒマか?」

 

「いきなり何よ。・・・・・・休日は基本ヒマよ」

 

「一日家に帰らなくても問題ないか?」

 

「親が親なモノだから、2~3日帰らなくても問題ないわよ。それが?」

 

「んじゃ、ちょっと出かけようぜ。旅券を無駄にしたくないんだ」

 

 そう言って安藤に視線を向けると、なぜか顔を真っ赤にして俯いていた。

 何事かと思って覗き込むとギョッとして視線を逸らされた。

 

「? どうしたんだ?」

 

「・・・・・・なんでも、にゃい・・・」

 

「噛んでるじゃねえか。・・・・・・あと、こんな中途半端なタイミングだけどさ、この前はごめんな。お前にも踏み込んでほしくない事情とかもあるだろうに、そこら辺を無視しちまってよ」

 

「私の方もゴメン。引っ叩いちゃって」

 

「ノーダメージノークレームだ」

 

「フフッ。なにそれ? 変なの」

 

 安藤はそう言って体をクルリと翻し、

 

「・・・・・・またね」

 

 スキップしながら行ってしまった。

 俺はそれをポケーっと見送ってからおばちゃんに言う。

 

「父さんと母さんに、この旅券ゲットしたの黙っといて。面倒くさいことになるから」

 

「良いわよ~。デート頑張ってね。・・・・・・あっ、くれぐれも変な事はしないでね」

 

「恋人じゃありません友達です。俺は友達が少ないんです」

 

 そう言うとおばちゃんに同情された。

 解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 家に向かう道すがら、俺は神虎龍にメッセージを送る。

『進展はどうだ』と。

 すると、すぐに返信が来る。

『お前の予想通りだ。もう少し証拠を集める』と。

 俺はそれを見てスッと空を見上げる。

 暗くなり星がきらめき出した闇夜。

 その闇をジッと睨みながら俺は誰にでも言う訳でもなく、呟く。

 

「このクソッタレな世界の闇に少しだけ足を踏み込んでやる。それで、絶対助ける」

 

 俺は決意を胸に暗い道を歩き出す。

 さあ、ショータイムだ。

 




 神虎龍はスマホの画面を眺めながら思い出す。
 数日前の事を。

『安藤よしみの家庭環境について?』

『ああ、お前なら顔が広いから手伝ってくれる人間の一人や二人ぐらいいるだろう』

『・・・・・・・・・何をする気だ?』

『嫌な予感がするんだ。このままじゃ、取り返しがつかなくなりそうな事が起きそうだって気が』

『もしもだ。もしもそれで問題があった場合、お前はどうする気だ?』

『決まってる。俺の全身全霊を懸けてツッコむ』

 その言葉を聞いた神虎龍は、大宮さとしの頭を殴っていた。
 油断していた大宮さとしは避けることも防ぐ事も出来ずモロにヒットした。

『痛ェ・・・・・・』

『俺も手伝うに決まっているだろうが。なんでテメェはテメェの作戦にテメェ以外を深く組み込もうとしねぇんだよ』

『あ? 決まってるだろ。お前には未来がある。お兄さんの夢を叶えるんだろうが。だったらこんな事にもう二度と関わるな』

 そう言う大宮さとしの目は真剣なモノであった。
 本当に、心の底から心配をしているその表情を見て神虎龍は何も言えなくなってしまった。
 昔からそうなのだ。
 大宮さとしは危険に飛び込んで行く際は例えどのような状況であろうと自分一人が傷付く道を選択する。
 まるで、犠牲になるのは自分一人で良いと言っているかのように。
 いや、言っているかのようにではない。遠まわしにそう言っているのだ。
 昔から変わらないその性格、その場違いで間違っている正義感に、神虎龍は口を詰まらせてしまった。
 大宮さとしは神虎龍をジッと見た後、

『情報収集だけでも助かるんだ。・・・・・・任せた』

 それだけを言い残して去ってしまった。
 神虎龍はその後姿をただただ見ている事しかできなかった。


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58話 『大宮さとしの物語⑩』

久し振りに仮面ライダー要素を入れることができました。


「結局安藤さんを誘ったんだ」

 

「ああ。丁度近くにいたからな」

 

「それだけの理由で誘われるって・・・・・・」

 

 ガラガラで旅券ゲット事件から土日を挟んだ月曜日の放課後。

 俺はいつも通り前田と一緒に帰路についている。

 っと言っても俺は途中のファミレスで安藤と待ち合わせをしている為、いつもよりも早い解散になる。

 まあ、普段から下らない雑談しかしていない為、どのタイミングで解散になろうが特に影響は無いのだがな。

 

「そういえば最近、よくミニカー持ってるけど、どうしたの?」

 

「ん? ああ、これか」

 

 俺は赤いミニカー・・・・・・シフトスピードを取り出す。

 そして、中央部から後部を半回転させる。

 

「仮面ライダーの変身アイテムだよ」

 

「・・・・・・バイクじゃないの?」

 

「今回のモチーフは車」

 

「近年の仮面ライダーはバイクに乗らないことをネタにされているのに、ついにバイク捨てちゃったんだ・・・・・・」

 

 前田はそう言って苦笑する。

 いや、まあ、事実だとは思うけどな。

 前作の鎧武に関しても途中からバイク見なくなったし。

 それに最近のサブライダーの中には専用のバイク持っていない方々もいるしなぁ。

 そんなこんな歩いている内にファミレスに到着した。

 俺と前田は軽い挨拶をして別れた。

 財布の中を確認すると、ハロウィンの時に酔っ払いを殴って手に入れた諭吉さんがまだ居たので晩飯もついでに済ませてしまって大丈夫だろう。

 そんな事を思いながら店内に入ると、もう安藤は席に付いていた。

 俺は待ち合わせである事を店員に話して安藤のいる席へと向かった。

 

「・・・・・・遅かったじゃない」

 

「時計を見ろ。待ち合わせの時間は6時で今は5時50分。間に合ってるよ」

 

「女の子と待ち合わせるときは約束した時間よりも30分は早く到着しないとダメよ」

 

「OK。今度からはそうするよ」

 

 俺はそう言って安藤の正面に座る。

 そして、メニューを取り、安藤に渡す。

 

「腹減ってたら好きなの頼んでいいから。・・・・・・・・・予算的に2000円までね」

 

「ありがとう」

 

 安藤はそう言ってメニューに視線を向けた。

 俺はよくこのファミレスに来るので見なくても分かるし、毎回注文する物も一緒なので安藤が決めるのを待つ。

 数分の後、安藤がメニューから視線を上げ、メニューを俺の方に差し出してきた。

 

「大丈夫。覚えてるから」

 

 俺はそう言って呼び出しボタンを押す。

 店内にピンポーンという音が鳴り響き、すぐに店員が走ってきた。

 ・・・・・・ん? 走って?

 俺は少し疑問を覚えたが考えるのが面倒くさかったのでその思考を放棄した。

 

「冷やし中華とカツカレー。あとドリンクバー」

 

「私はハンバーグとコーンサラダ。それとドリンクバー」

 

「畏まりました。しばしお待ちください」

 

 店員はそう言って去っていく。

 そこで、ようやく俺は気が付いた。

 

「おーい。店員さん! まだ水が来てないよ」

 

「はひっ! は、はい! すぐにお持ちします~!!」

 

 店員はあわあわしながら厨房の方へと下がって行った。

 ・・・・・・ああ、なるほど。

 見覚えのない顔だと思ったら、あの店員は新人か。

 通りでおぼつかない訳だ。

 俺はそう思いながら安藤の方へと視線を向ける。

 

「ところで、旅行の細かい事教えてくれない? 誘われただけで何も知らないのよ」

 

「ん? ああ、そうだったな。・・・・・・えーっと、最寄り駅から電車で2時間の所に温泉街あるじゃん、あそこの温泉旅館の宿泊券だね。予約は取ってある。まあ、交通費はこっち持ちだから旅券と言っていいのかは分からないけどな」

 

「それ、宿泊券」

 

「だよな。・・・・・・あと、俺とお前は兄妹って事で予約してある」

 

「何でかしら?」

 

「あーゆー所は男女のペアが行くと色々とうるさいからな。こうした方が楽だ」

 

「そう。・・・・・・じゃあ、呼び方も変えなくちゃね」

 

「呼名? ・・・ああ、そうか。俺達普段から苗字で呼び合ってるもんな。それじゃ、下の名前で呼び合おうぜ、安藤」

 

「早速名字で呼んでるじゃん」

 

 安藤はそう言って頬を膨らます。

 

「スマンスマン。癖でな」

 

「ちゃんとしてよね、さとし」

 

「おう、気を付けるよ、よしみ」

 

 俺がそう言った瞬間、安藤が顔を赤くして俯いた。

 ・・・・・・? 何かあったのか?

 振り向くが店内には客はほとんどいず、俺の後方には誰もいない。

 後ろに変なヤツがいたとかそんなわけではなさそうだ。

 何だったのかと思い安藤の方に視線を戻すと、丁度先ほどの店員が水を持って来ている所であった。

 慌てているようでかなり駆け足で・・・・・・。

 こんな時に感じるイヤな予感とは当たるモノで、とても綺麗に店員が転ぶ。

 そして、すっぽ抜けたコップが安藤の方へと飛んでいく。

 俺はとっさに椅子から立ち上がり安藤に覆いかぶさる。

 瞬間、バシャッと俺に水が掛かった。

 

「へ? あれ?」

 

「大丈夫か? 安藤」

 

「だ、だだ大丈夫です、ひゃい・・・・・・」

 

「そうか」

 

 俺はそう言って体を起こす。

 多少濡れたがこれぐらいなら明日までには渇くから無問題だ。

 安藤の顔がより赤くなっているが何かあったのだろうか?

 う~む、よく分からないな。

 テレビとかでよく男女の考え方は大きく違うとか言ってるけどそれと関係でもあるのか?

 ん~、まあいいか。

 俺はとりあえず学校指定のバッグを開け、普段から持ち歩いている汗拭きタオルで体を軽く拭いておく。

 すると、

 

「申し訳ございませんお客様!」

 

 と店員がめちゃくちゃ頭を下げてきた。

 かなり、とても、すごく申し訳なさそうにしている。

 俺がどうしたものかと頭を悩ませていると、店の奥から店長が慌てて出てきた。

 なぜ店長と分かるかと言うと、俺はこの店の常連である為、面識があるのだ。

 店長の顔は青ざめていた。

 

「大宮くん! 大丈夫かい!?」

 

「最近熱いですからね~、いい水浴びになりましたよ。・・・・・・それより、どうしました? 店員さんが少ない気がするんですけど。バイトリーダーだった眞熊さんは?」

 

「・・・・・・それが、最近ここら辺に引っ越してきた男がかなりのモンスターでね、みんな怖くて辞めちゃったんだよ」

 

「なるほど。・・・・・・何かあったら手伝いますので、また来た時にでもお願いします」

 

「ハハッ。子供にそう言われるなんね。・・・・・・ありがとう。何かあったらそうさせてもらうよ」

 

「あと、その店員さんには注意だけで許してあげてね」

 

 俺がそう言うと店長は店員に奥へ行くように促し、「お詫びにパフェを奢らせてもらうよ」と言って店員の後を追うように奥へ引っ込んで行った。

 パフェか・・・・・・シンプルに嬉しいな。

 俺は店に迷惑を掛けたモンスターがどんな奴なのか、できることは何か考えながら席に座った。

 

 

 

 

 

 

 アタックモードのツインブレイカーによる攻撃が来る。

 俺は走りながら体勢を低くしその攻撃を避け、グリスの懐へと潜り込んで消防車フルボトルの能力を発揮し、高水圧砲を発射してグリスを打ち上げる。

 空中で身動きが取れなくなったグリスにエターナルが蹴りを叩き込む。

 そして、グリスが着地した瞬間に出来た僅かな隙をついて俺とエターナルが同時に後ろ回し蹴りをぶち込む。

 

「うっ。・・・・・・なんか、“あの時”みたいだね。助っ人が来たと同時に圧倒しだすなんて」

 

「そうだな」

 

 俺は短くそれだけ答え、ベルトのレバーを回す。

 

《ワンサイド! Ready Go!》

 

 俺の右腕に有機物系フルボトルのエネルギーが混ざり合い、収束する。

 それを見たグリスはツインブレイカーにロボットスクラッシュゼリーとノースブリザードフルボトルを装填する。

 

《シングル! ツイン! ツインブレイク!》

 

《ジーニアスアタック!》

 

 瞬間、俺の攻撃とグリスの攻撃がぶつかり合う。

 ハザードレベルで言えばグリスの方が圧倒的に上だったが、俺もこの戦いの間にどんどんと強くなっている。

 4.3だったハザードレベルは4.9まで上がっている。

 微妙な変化かもしれないが、この戦闘に置いてこの変化は大きい。

 ジーニアスフォームのスペックもあり、なんとかギリギリ、元々の平均スペックもあって追いついた。

 バジィッという大きな音と共に俺たちは弾かれた。

 ・・・・・・どうやら、攻撃の威力はほぼ同じだったようである。

 いや、ほぼ同じと言っても俺の攻撃力の方が少しだけ強いみたいだ。

 

「どうやら、俺の方が上回ってきたみたいだぜ。それに、二体一だ。どうする? 尻尾撒いて逃げても良いんだぜ」

 

「いやだよ。やっと再会できたんだもん。もう、二度と離れて欲しくないから、だから、絶対にどこにも行かない」

 

「言っただろう。もう、お前に俺は必要ないんだ。俺みたいな人間に関わっちゃいけなかったんだ。・・・・・・だから、こんなことになっちまった。そして、こうなった原因は俺だ。お前ならこの意味わかるな?」

 

「・・・・・・さとしちゃんの事は大大大好きだけど、その考え方だけは好きになれないヨ。全部、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部・・・・・・全部自分一人で抱え込んで自分の事を考えてないその思考は、どうしても好きになれないの。だってそうでしょ? さとしちゃんは誰かを大切にしているのに、誰かに興味を持っていない。自分勝手で自分を大切にしているのに、自分の事を蔑ろにしてる。他人(ヒト)は助けるのに、自分を助けようとしない。関係ない事でも手を伸ばして、自分のせいにする」

 

 自分のせいにする・・・か・・・・・・。

 確かに、そういった傾向が無いと言ったら嘘になるな。

 

「さとしちゃんのやり方は卑怯だよ。自分を悪者にして、恨む相手を作って、被害に遭った子の心の拠り所を作る。『アイツのせいだ』『アイツのせいでこうなった』そう思わせて“恨むことで”進ませようとする。そんなの、駄目じゃん。誰よりも頑張って、誰よりも体を削って戦ってるさとしちゃんが・・・・・・」

 

「いいんだよ」

 

「いいはずないじゃん。どれだけ頑張っても称賛されないなんておかしいよ。それに、称賛されないのに、酷い事を言われているのに、それなのに笑ってられるなんておかしいよ。どうしてさとしちゃんがそうなのかは知ってる。だからさ、もういいんだよ。義弟くんは・・・・・・はやとくんはもういないんだよ」

 

「いや、ちょっとまて。今、字がおかしかったぞ。なぜ『義弟』になっている・・・・・・」

 

「?」

 

「本当に不思議そうに小首をかしげるな。今現在お前の姿は『仮面ライダーグリス』なんだ。違和感しかねえ」

 

 コイツは・・・・・・、昔から全く変わってねぇ。

 俺はガックリと肩を落とし、深いため息を吐いた。

 

「ってかお前さ、今現在めちゃくちゃ不利だって事に気付いてないのか?」

 

「気付いてるよ。でもさ、さとしちゃんなら知っているよね(・・・・・・・)?」

 

「・・・・・・だな、知っているな」

 

 俺はそう言ってクックックと少し笑う。

 それとほぼ同時に神姫・・・・・・いや、ミキと詩崎鋭矢がムクリと立ち上がる。

 それだけじゃない。

 ずっと寝っ転がっていたエボルトも立ち上がる。

 そして、

 

《コブラ》

 

「蒸血」

 

《ミストマッチ! コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

 素早くブラッドスタークへと蒸血(変身)する。

 

「鋭矢。お前、個性使えるのか? 心の闇をエネルギーにするんだろ?」

 

「心の闇、あるに決まってい、るじゃない、か。・・・・・・今、僕は浪人に、すらなれてい、ない、社会の、最底辺にいる。心の闇を、得るにはこれだけあれ、ば十分だ」

 

 いや、それダメなヤツ。

 あの事件以来学校に来なくなっていたのは知っていたけどついには進学もしてなかったのか。

 

「アルバイトとかは?」

 

「全く、やってない、よ」

 

 ho・・・・・・。

 そりゃ心の闇も生み出せるわ。

 

「ミキは? ケガしてるけど大丈夫か?」

 

「この程度なら後で治癒可能ですよ。・・・・・・それより、どうする気? ダメご主人様(マスター)

 

「俺一人でやる」

 

 俺のその言葉に強く反応したのはミキと鋭矢だった。

 エターナルとスタークは腕組みをして一歩後ろに下がってくれた。

 

「ダメ、だ。君一人に背負わせる、訳にはいか、ない! どんな事情が、あるのかなんて、僕は知らない、だけど、君が背負わなくても、良いモノのハズだ」

 

「そうよ! 大宮くんはもう背負わなくていいの! 私たちがやるから!」

 

 必死に俺を止めようとする二人。

 俺はため息を吐いた後、二人の頭を軽くチョップした。

 そして、

 

「いいんだ。ケジメぐらい付けさせてくれ」

 

 そう言って踏み出した。

 今度こそ、俺の・・・・・・『大宮さとし』の過去に決着を付ける為に。

 




またしばらくライダー要素が少なくなりそうです。

ライダー要素を求めている読者様たちに『逝ッテイーヨ!』と言われても文句はありません。
本当にゴメンなさい。


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59話 『大宮さとしの物語⑪』

ジーニアスフォームって弱いって言われがちだけど、エボルが強すぎただけなんだよなぁと思う今日この頃。
『大宮さとしの物語』が想像以上に長くなりそうで冷汗をかいています。

それと、少し前にアンケートを取った『ディケイド出したしディエンド出そうかな』についてですが、ディエンドの登場は『オーバーホール 編』に決定しました。
まだ先になりますがしばしお待ちください。


 旅行当日。

 俺は最寄り駅の前に設置されているよく分からない銅像の前で安藤を待つ。

 どんな経緯で作られた像なのか知らないし、知りたいとも思わない。

 なぜなら、デザインがアレだからである。

 鳥獣戯画のパクリにしか見えないデザインで、カニとエビが相撲を取っているという訳が分からな過ぎて頭が痛くなりそうなデザインなのである。

 それでも、駅前で目立っていて街の人間は知っている場所と言えばここぐらいしかないので、待ち合わせ場所としてはよく使われている。

 去年にはベンチも作られ、自販機も設置されてますます待ち合わせ場所として充実している。

 ベンチに座ってスマホ画面に視線を向けていると、隣に誰かが座る。

 スマホから顔を上げ、そちらに視線を向けると笑顔の安藤がいた。

 

「よぉ、おはよう」

 

「おはよう、さとし」

 

 俺はスマホ画面に映っている時間を確認すると、約束していた待ち合わせ時間の30分前だった。

 

「ちゃんと言った通り30分まえには来てたんだね」

 

「まあな。とくにやる事もなかったし」

 

 俺はそう言って立ち上がり体を伸ばす。

 しばらく座りっぱなしだったので体が少し固まっていた。

 ・・・・・・って、アレ?

 何でコイツもこんな早く来てるんだ?

 ん~、まあ、俺がしっかり30分前には来ているかどうか確かめたかったのだろう。

 それに一体何の意味があるのかは分からないが。

 

「ンじゃ、ちっとばっかし早いけど行くか」

 

 俺がそう言うと、安藤もスクッと立ち上がった。

 このまま改札に向かうのもいいけど、途中で小腹がすくかもしれない為、とりあえず、駅の隣にある某7と11のコンビニに入る。

 タイミングが良い事におにぎり100円セール中だったので多少多めに買っておいた。

 買い物を終わらせて改札に向かい、ホームまで降りると、丁度、電車が来た。

 乗り込み、車内の席を確認すると、全部埋まっていた。

 立っているのは俺と安藤だけである。

 まあ、満員じゃなないだけマシだと自分に言い聞かせる。

 俺たちは移動中は特にやる事が無かったため、約二時間を雑談で潰した。

 

 

 

 

 

 

 攻撃が来る。

 ツインブレイカーはビームモードに変形されていて、その二つの銃口から高エネルギー光線が放たれている。

 俺はダイヤモンドフルボトルの力を使い、ダイヤモンドの盾を展開しつつフェニックスフルボトルの効果を右手に反映させ、燃え上がらせる。

 そして、全力で殴る。

 だが、グリスは素早く後ろに跳ぶことでその攻撃を避ける。

 俺はそれを確認すると同時に、ラビットフルボトルの効果を足に反映させて素早く跳び、ベルトのレバーを回転させる。

 

《ワンサイド! Ready Go!》

 

 グリスは肩のゼリーパックからヴァリアブルゼリーを吹き出し、その加速力を付けて突撃してきた。

 そして、ツインブレイカーにロボットスクラッシュゼリーを装填する。

 

《シングル! シングルブレイク!》

 

 振るわれる攻撃。

 俺は体を回転させてその攻撃を受け流し、右手を振りかぶる。

 

《ジーニアスアタック!》

 

 そして、グリスの頭を思い切りぶん殴る。

 手加減なしの攻撃を喰らったグリスは地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がり、地に倒れ伏す。

 俺はフルボトルバスターを取り出し、フルフルラビットタンクボトルを装填する。

 

《フルフルマッチでーす》

 

 そんな音声と共にフルボトルバスターの銃口をグリスに向け、トリガーを引く。

 

《フルフルマッチブレイク!》

 

 瞬間、フルボトルバスターの銃口から高エネルギー弾が放たれる。

 グリスは何とか横に跳んで攻撃を避けたが、攻撃の余波に押され、街路樹に激突した。

 

「カハッ・・・・・・」

 

「ふぅ。・・・・・・確かにお前は強いし、戦闘経験もかなり積んでいた。だけど、俺だってそうだ。それに、俺は前世から鍛錬を積んでいる。・・・・・・今世から鍛錬を積みだしたお前とは経験の差があるんだよ」

 

「そうかもね。・・・・・・でもね、さとしちゃん。私はさとしちゃんと一緒にいたかったの。だから、さとしちゃんの隣にいる為に頑張ったんだヨ」

 

 そう言いながらゆっくりと立ち上がるグリス。

 

「そうか。それならその願いはもう叶わないな」

 

「? なんで?」

 

 そう言って首をかしげるグリス・・・・・・いや、キリコ。

 俺は深いため息を吐いて、キリコの目をジッと見ながら言う。

 

「俺は『大宮さとし』じゃない。『大宮さとし』の記憶を持っている“別人”だ」

 

 そう別人だ。

 だからこそ、俺は言う。

 

「俺はお前の大好きな『大宮さとし』じゃない。『大宮さとし』はとっくに死んでいる」

 

 

 

 

 

 

 電車に揺られる事約2時間。

 何ら問題なく温泉街へと到着した。

 駅はにぎわっていて、ワイワイガヤガヤとうるさかった。

 俺たちはとりあえず、温泉を回る前に手荷物を下ろそうと思い、予約していた旅館へと向かう事にした。

 ガラガラで手に入れたのは、旅館『桜氷(おうひょう)』の宿泊券と、この温泉街にあるすべての温泉に無料で入れるチケット(二日間何度でも使える)の二つである。

 これだけ入れといてなんで移動費だけは実費なのだろうか?

 不思議でならない。

 ちなみに、この旅館の近くに俺の知り合いがいる為、久しぶりに会えるのが楽しみでもある。

 二年ほど前にも日帰り旅行に一人で来たり、『あの事件』を解決するために奮闘したりしていたのだが、その頃よりも人が多く活気にあふれていた。

 あの日々は昨日の事のように思い出せるし、それがまた後悔でもある。

『あの事件』の為に奮闘している間に、事が深刻になりあの子は・・・・・・“中村実余”は殺された。

 事件が一段落して、俺が安心して帰宅している途中で、俺の・・・・・・目の前で。

 

「ねえ、さとし。怖い顔してるけどどうしたの?」

 

「っ!? ・・・・・・いや、なんでもない。ちょっと嫌な事を思い出してただけだ」

 

 安藤に心配されてようやく、俺は自分の顔が強張っていた事に気付いた。

 いけないな。

 あの事は安藤に関係ない。

 変に表に出して聞かれるわけにはいかない。

 駅から五分ほど歩いた所で、『桜氷』に到着した。

 この旅館は到着時間さえ伝えておけば女将さんが出迎えてくれるオプションがある。

 一度そういった体験をしてみたかったので、大体の到着時間を伝えて出迎えてもらえるように言っておいた。

 俺と安藤が旅館の扉を開けると、

 

「いらっしゃいませ」

 

 と女将さんが手をついて迎えてくれた。

 そして、ゆっくりと顔を上げ、俺と女将さん・・・・・・いや、“昼神(ひるがみ) (ほたる)”は互いを同時に指さし、

 

「「あっ!!」」

 

 と言っていた。

 

「お前何でここに居るんだよ!」

 

「アンタもよ! 来るなら来るって連絡ぐらいしなさいよ! 皆、アンタが来るのを楽しみにしてたんだよ!!」

 

「いや、さ。たまの休日ぐらいのんびりさせてくれよ。おっちゃんたち豪快過ぎて休めねえよ」

 

「そこはアタシが抑えるからいいのよ」

 

 昼神はそういってフフンと鼻を鳴らし胸を張る。

 相変わらず堂々とした立ち振る舞いで元気そうな姿に安心した。

 俺は軽く息をついてから安藤に紹介する。

 

「コイツは“昼神蛍”。まあ、戦友だ」

 

 俺がそう紹介すると、昼神に頭を小突かれた。

 

「こら。母上が再婚したってメール送ったでしょ。今は昼神じゃなくて“修善寺(しゅうぜんじ)”だよ」

 

「ああ、そうだったな。スマンスマン」

 

 俺は昼神改め修善寺に向かって手を合わせて謝る。

 

「ところで大宮。この子は? 彼女さん?」

 

「友達だよ、友達。ってか、何でお前が出迎えやってるんだ?」

 

「母上が最近妊娠してね。義父上が安定期に入るまで休んどけって言って働かせようとしないんだよ。それでアタシが手伝いをしてるってワケよ」

 

「なるほど。そいつはおつかれさん。・・・・・・そんで、俺達が泊まる部屋は?」

 

「ああ、ごめんね。すぐに案内するよ。着いて来て」

 

 修善寺はそう言って体をくるりと翻す。

 俺たちは靴を脱いでその後を追う。

 部屋は二階の一番奥にある『松の間』に案内された。

 そして、

 

「夕食後ぐらいに父上と一緒にまたくるから、自由にしててね。出掛けるのもありだよ」

 

 それだけを言い残して修善寺は部屋を出で行く。

 俺と安藤は荷物を下ろして腰を落ち着ける。

 

「面白い喋り方の子ね」

 

「ああ、そうだな。・・・・・・変わってないようで本当に良かった」

 

 俺はそう言って息をつく。

 そして、旅行鞄から小袋を取り出す。

 

「ほんじゃ、近くの温泉にでも行くか」

 

「この旅館の温泉にはいかないの?」

 

「それは夜だ。ここの温泉の風景は夜の方が綺麗だからな」

 

 俺はそう言ってゆっくりと立ち上がる。

 安藤も小袋を持って立ち上がり、俺の後に着いて来た。

 

 

 

 

 

 

「いや~、いい湯だったぁ~」

 

 俺はそう言いながら温泉まんじゅうを頬張る。

 安藤はそんな俺を見ながらため息を吐く。

 

「これから晩御飯でしょ? そんなに食べていいの?」

 

「大丈夫だ。俺は大食いだからな」

 

 温泉から上がった俺たちは街をブラブラと歩く。

 ちなみにだが、俺の服装は黒色の甚平で、安藤は薄い青色の温泉浴衣を着ている。

 

「安藤、お前は食いたいもの無いのか?」

 

「ないわよ。・・・・・・それと、名字で呼ばないんでしょ?」

 

「そうだったな。スマンスマン」

 

 俺が手を合わせて安藤に謝っていると、いきなり背中を叩かれた。

 びっくりして振り向くと、髭を生やした仏教面の大男・・・・・・“重村(しげむら) 修司(しゅうじ)”がいた。

 

「オイオイ、さとし! いつ来たんだよ! ガッハッハッハ。元気そうだな」

 

「痛い。痛いって。痛い痛い痛い痛い痛い。・・・・・・ビシビシ叩くな。力加減を考えてくれ」

 

 俺はそう言いながら重村修司の・・・・・・オッチャンの手を止める。

 オッチャンはそれでも豪快に笑う。

 

「この町の救世主が嫌そうな顔するなって」

 

「せっかくの休みでのんびりしたいのに宴会確定ルートに直行が確定したのに嫌じゃない人間なんていないとでも思ってるのか?」

 

「オイオイ。酷いなぁ」

 

 俺はオッチャンから軽く距離を取る。

 

「さとし。この人は?」

 

「ん? ああ、オッチャンはこの町で一番顔の聞く人で俺の知り合い。『少し前に色々』あってな。その時に共闘した中なんだよ」

 

「お嬢ちゃんは初めましてだな! ま、どうでもいいけど。・・・俺も仕事あるからまたな~! あっ、みんなには伝えとくぞぉ」

 

 オッチャンは不穏な単語を残して人混みの中に消えて行った。

 イヤな予感しかしない。

 俺は今夜起きるであろう宴会を創造し頭を抱えた。

 

「・・・・・・豪快な人ね」

 

「根は良い人だよ。人の話を聞かないところはあるけど」

 

「アナタ信頼されてるみたいね」

 

「まあ、色々あってな。・・・・・・まあ、そんなことよりさっさと旅館に帰ろうぜ」

 

 俺はそう誤魔化して歩を進める。

 その後ろで、

 

「やっぱり、私だけじゃなかったんだ」

 

 と安藤が呟いていたのだが、この頃の俺はその事に気付いていなかった。

 ただ、呑気に夜に来るであろう騒がしい宴会の事を思って落ち込んでいたのだった。

 

 




キャラ紹介


修善寺(しゅうぜんじ) (ほたる)
身長:156cm
体重:【聞くな。聞かないでくれ】

【挿絵表示】

大宮さとしの友人。
『ある事件』で大宮さとしに助けられた少女。
独特の喋り方をする。
実は見た目に反して喧嘩が好きで、近接戦闘だけなら大宮さとしよりも強い。
ドラゴンボールが好きでかめはめ波を出せるように修行をしている。
余談だが、ドラゴンボールで好きなキャラはヤムチャである。
なぜなのだろうか。


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60話 『大宮さとしの物語⑫』

今回、滅茶苦茶長い話があります。
ご注意ください。


「我らが英雄『大宮さとし』を祝って・・・・・・」

 

「「「「「「「「「「「「「乾杯!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」

 

 旅館『桜氷(おうひょう)』の大宴会場で宴会が行われた。

 街のおっちゃんたちが集まり、飲めや歌えやと騒がしくなっている。

 ってか、何が『英雄』だよ。

 俺はただ手伝いをしただけで、ここの皆が頑張った結果だってのに。

 おっちゃんたちが俺に酒を進めてくるが、「未成年に飲酒をさせようとするな」ときっぱり断った。

 進めてきた中には現役の警察官もいたの為、「自分の職業見直せ」とだけ言っておいた。

 やはり、ここにいる人たちは型破りで豪快なヤツが多い。

 そんな事を思いながらコーラを飲むと、おばちゃんたちにもみくちゃにされていた安藤がフラフラと戻ってきた。

 

「お疲れ」

 

「アンタ、一体全体何したのよ・・・。ここにいる皆がアンタの事を信頼してて、家族みたいに思ってて・・・・・・」

 

「別に。ただ、嫌がらせをしてきた大企業から金をむしり取っただけだよ」

 

「その短い文章からとてつもない事件が見えそうなのだけど・・・・・・」

 

 安藤はそう言って項垂れる。

 いや、確かに大変だったけど、皆と協力してやったから意外と楽だったぞ。

 多少法律ギリギリの事もしたけど。

 俺は項垂れている安藤をよそに辺りをグルリと見回す。

 誰も彼もが楽しそうに笑っていて、ふざけ合っていて、俺の苦労が実を結んだようにも“錯覚”できた。

『二兎を追う者は一兎をも得ず』ということわざがあるが、まさにそれだろう。

 後悔しても仕方ない事だと周りの大人たちは言っていたが、それは傍観者だからこそ言える言葉である。

 当事者からしたら、後悔しか湧かないのだ。

 もしも、早く気付けていれば。

 もしも、手を伸ばすことができたら。

 そればかりが頭に浮かんで一切離れない。

 俺が少し前の『あの事』を思い出し歯を食いしばっていると、いきなり頭をスパーンと叩かれた。

 振り向くと、お盆を持った修善寺がいた。

 

「何すんだよ・・・・・・」

 

「こんなお祝いの場でなに暗い顔してんだ。『あの事件』以降、お前に何があったかなんて一切知らないけど、こういった場では隠して、忘れて、楽しみな。・・・・・・あとアタシはちょっとこの子と温泉入ってくるから」

 

 最善寺は俺の返事を聞くことなく安藤の首根っこを掴むと宴会場から出て行ってしまった。

 俺がそれをポカーンと眺めていると、まるで決壊したダムの水かのような勢いでおっちゃんたちが詰め寄ってきた。

 誰か助けて。

 

 

 

 

 

 

 安藤よしみは修善寺蛍に連れられて浴場へと来ていた。

 無理矢理連れてこられたのと、今日初めて会ったばかりである為、安藤よしみは警戒心マックスであった。

 それに修善寺蛍は気づいていないようで、スルスルと服を脱ぐ。

 渋々と安藤よしみも服を脱ぎ、そして、気付く。

 自分の体にあるアザが見られるのではないか、と。

 だが、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。吹き飛ばざるを得なかった。

 修善寺蛍の体には痛々しい傷跡があった。

 抉れたような跡、爛れた跡、縫い跡etc.体のあちこち、首から下全てに傷があったのだ。

 

「それ・・・・・・」

 

「ん? ああ、これ? 驚かせちゃったかな? 少し前に『色々』とあってね」

 

 驚き声を出せない安藤よしみに対し、修善寺蛍はあっけらかんとした態度で軽くそう言った。

 ここの街の人たちはずっと『あの事件』だったり『色々』と言って言葉を濁し『何か』を隠しているのは明白であった。

 それが、より安藤よしみの警戒を強める。

 だが、修善寺蛍は安藤よしみのてを掴むと、引っ張る様に浴場へと連れ込む。

 安藤よしみが何かを言おうとするも全て遮られ、あれよあれよという間に浴槽に浸かっていた。

 天然温泉である為、少し熱かったが、その熱が体の芯を温めていく。

 

「ここの人たち皆豪快だから疲れたでしょ? ウチの湯は疲労回復の効果があるからのんびり入ってってね」

 

「アナタも充分豪快よ」

 

「そうかい? そう言ってもらえっと嬉しいね」

 

 そう言って修善寺蛍は笑う。

 だが、警戒心マックスの安藤よしみからしたらなぜ嬉しいのかなどより警戒を強める切っ掛けにしかならない。

 修善寺蛍と一定の距離を取りずっと睨んでいる安藤よしみに対し、修善寺蛍は優しく問いかける。

 

「アンタ、さとしン事好きなの?」

 

「ふへっ! にゃ、にゃにゃ、にゃにを!!?」

 

「まさかそこまで露骨に驚かれるとは思わなかったよ。・・・・・・アンタもどうせアレでしょ? アタシみたいに助けられて好きになったパターン」

 

「一緒って・・・修善寺さんもさとしに助けられたの?」

 

「うん。まあ、アイツが助けたのはアタシだけじゃなくてこの街の人たち全員なんだけどね」

 

 修善寺蛍はそう言って夜空を見上げた。

 

「言っとくと、その恋が叶うとは思わないよ。アイツ、鈍感だから」

 

「それは、何となく気付いてます」

 

「なら、もっと言うけど、遠回しな言い方だとアイツ気付かないよ」

 

「遠回しな言い方?」

 

 安藤よしみがそう繰り返すと、修善寺蛍がすこし苦笑してから優しい口調で言う。

 

「私ね、アイツに『お前の飯美味い』って褒められたの。だから、『あんたが良いならこれからもずっと・・・・・・毎日でもアタシの飯食わせてやるけど』って言ったのよ。アタシなりに精一杯の気持ちを込めてね。なのにアイツときたら・・・『良いのか!? いや、でもお前の負担になるだろ? だからたまにでいいよ。食いたくなったら連絡するから』って答えたのよ。なんじゃそりゃ! ってね」

 

 修善寺蛍はそう言い豪快に笑った。

 ガッハッハと女性にあるまじき笑い方で。

 その笑い方に安藤よしみは少し引いてしまった。

 そんな安藤よしみを横目に修善寺蛍は話を続ける。

 

「そういえば、アンタはこの街で起きた『あの事件』について知らなかったね。アイツが『英雄』って呼ばれる切っ掛けになったアレを。・・・・・・私の視点になるけど話そうか?」

 

 そして、安藤よしみの返事を聞くことなく話を始めた。

 大宮さとしと出会う事になった『あの事件』についての話を。

 

 

 

 

 

 

「そもそも、この温泉街は過疎化が進んでいて今にもなくなりそうだったの。理由としては古き良きを追求しまくった結果不便な環境になってお客さん一切来なくなったの。

「今はにぎわってる飲食道・・・・・・あそこの飲食店がたくさん並んでるところね。あそこもほとんどのお店が閉まってて、開いていたとしても開店休業状態だったの。

「そんな時、ある企業がここら辺一帯を買い取ろうとしたの。

「天然温泉をふんだんに使ったレジャー施設を作ろうとしてたみたいなの。

「でもね、ここに住んでる皆はプライドだけいっちょ前だったからその企業が提示した金額を『少ない』って跳ねのけたの。それが気に入らなかったみたい。

「それから嫌がらせが始まった。

「ゴミを撒かれるのはデフォで、石を投げ込まれる。無言電話。出かけ先で車にはねられそうになる。他にも色々あったけど多すぎて忘れちゃった。

「アタシもそうでさ・・・・・・ううん。アタシの場合は嫌がらせのレベルを超えてた。

「登下校に山道通らないと駄目でさ、いつも通り歩いてたら後ろから来た車に衝突されたの。

「きっと向こうも当てる気じゃなかったと思うよ。でも、その日は雨が降っててね。距離感が良く掴めてなかったんだと思う。

「その山道ってガードレールないところ多くて、私もそこから落ちちゃったの。

「犯人は逃げちゃって発見されたのは事故から約6時間後。

「あっちこっちダメになっててさ、お医者さんからはもう歩けないかもしれないって言われてね。あの時はこの世に絶望したよ。

「アタシ陸上やっててさ。エースだったから皆に申し訳なくてね。

「でも、アタシの不幸はそれだけじゃなかった。

「潰れちゃってたの。子宮。

「そう。アタシはもう子供を産むことは出来ない。そんな体なの。

「歩けなくて、子供も産めなくなって、生きてる意味を見失ってた。

「母上は『桜氷(ココ)』で働いてたから義父上がよく心配してくれてた。

「ああ、言い忘れてた。アタシの血の繋がった父上はアタシが小さいころに事故で死んでる。だから全く覚えて無いんだよね。

「まあ、そんな不幸な時期にフラリとさとしがこの街に現れたの。

「しかも、まだ小学生だってのに1人で。

「みんな唖然としてたよ。

「親は何してるんだって怒る人もいれば、親はどうしたのかと心配する人まで様々だった。

「でもアイツは飄々としててさ。『一週間ほど泊めてくれ。金はある』って言うのよ。

「そんで話を聞くとどうも弟さんの大切なテストが近々あるからってお金渡されて無理矢理家を追い出されたんだって。

「酷い親だと皆憤怒した。でもアイツは『弟の迷惑になるのは嫌だ』って言って聞かなくてね。一週間だけだしと宿泊させることにしたの。

「アイツは『桜氷(ココ)』の手伝いとか率先してやってくれてさ。皆頼りにしてた。

「まあ、その間も嫌がらせは続いててさ。さとしが巻き込まれないかってヒヤヒヤしてた。

「それで7日目。

「さとしは嫌がらせの証拠を纏めてアタシたちに渡してくれた。

「アイツさ、初日から気づいていたみたい。それで手伝いの合間合間に色々と頑張ってくれてた。

「しかもさ、それから2日に1回のペースで来るようになって嫌がらせ解決の為に頑張ってくれた。

「それに、この街の改善点とかも指摘して改善を促した。

「でも、それをするのにはお金がなかった。

「そこを指摘するとアイツは『慰謝料が入るでしょ?』って当然のように言ってきた。

「それから数日して皆でどうするか話し合っているとアイツがいきなり弁護士を連れてきたの。

「弁護士さん曰く『大宮くんには以前助けてもらってその恩を返したかった』とか言ってた。

「本当に小学生なのかって思ったよ。

「その弁護士さんのお陰で着々と訴える準備をしてたんだよ。それでも一年近く掛かったけどね。

「あと少し決定的な証拠を手に入れれば裁判で勝てるのは確実だった。

「だけど、あの日、悲劇が起こった。

「放火されたの。『桜氷(ココ)』。

「皆が集まってるときでさ出火自体は皆すぐに気が付いて逃げたんだけどさ、アタシだけ取り残されちゃったの。

「その時アタシさ、二階の一番奥の部屋にいて、逃げ遅れてるって事に気付かれてなかったの。

「皆、逃げ終わってようやくアタシが居ないことに気付いた。

「でも、その時にはあっちこっちに燃え移っていて酷い状態になってた。

「アタシさ、諦めてたんだよね。

「歩けなくなった時点で、陸上をできなくなった時点でいつ死んだって変わらないって。

「目の前まで炎が迫って来ていても恐怖とかは一切感じなかった。

「でも、そんな時、炎を掻き分けてアイツが飛び込んできた。

「凄い笑顔で。

「びっくりしたよ。だって、飛び込んでくるとは思ってなかったから。

「アイツさ、髪も焦げて、あっちこっち傷だらけになりながらアタシに言ったの。

「『大丈夫か?』『ケガはないか?』『絶対助けるから』って。

「それでアイツはアタシを担いで脱出しようとしたんだけど、アタシそん時に我がまま言っちゃったんだよね。

「燃え広がった炎によって崩れた瓦礫を指さして、『大切なシューズが瓦礫に埋まっているんだ』『アレはアタシの命も当然なんだ』って。

「あんな状況で言うセリフじゃないのは今じゃわかるんだけど、つい、未練がましく言っちゃったんだよね。

「でもさ、そんなアタシのセリフなんて無視すればいいのに、アイツは『任せろ』とだけ言って瓦礫を退かし始めた。

「ホントさ、今思うとアタシもアイツもどうかしてた。

「ずっと未練ばかり持ってたアタシと、アタシの戯言を叶えようとしたアイツ。

「不思議な時間が流れてた。

「数十秒ううん、ほんの数秒だったと思う。

「アイツは、アタシのシューズを見つけてくれた。

「それで、アイツはアタシを抱えて炎の中を駆け抜けた。

「炎を突き抜け、瓦礫を飛び越え、一度も止まることなく駆け続けた。

「そしてアタシたちは『桜氷(ココ)』から脱出した。

「でも、やっぱりかなり無茶をしていたみたいでね。アタシも、アイツもあっちこっち火傷してた。

「特にアイツは左手でアタシを抱えて、右手で邪魔な瓦礫を殴り飛ばしてたせいでその右手は酷く爛れていた。

「それなににアイツは笑顔でこう言ったんだよ。『助かって良かったな』って。

「実は少し怖かった。

「怪我してるのに、それなのに笑顔で、自分の事を一切無視してるその姿が、本当に怖かった。

「まあ、でもこの一件が大きな引き金になって裁判で圧勝どころか想像していた10倍以上の慰謝料を貰えた。

「それがあったから、この街はこれだけ栄えることができた。

「だから、この街の人たちはアイツに感謝している。

「アタシも、アイツの頑張りがあったからこそ、勇気を貰えた、リハビリの辛さに耐えられた。こうしてまた、歩けるようになれた。

「まっ、大体こんな感じかな」

 

 

 

 

 

 

 修善寺蛍の長い話が終わった。

 長い長い物語。

 一人の少年が一つの街の『英雄』になった出来事。

 安藤よしみは口を挟むことなく静かにその話を聞いた。

 そして、話が終わってすぐに言った。

 

「さとしの、その、火傷ってどうなったの?」

 

「未だに跡が残ってるはずだよ。本人は気にしてないみたいだけどアタシは物凄く申し訳ないんだけどね」

 

 修善寺蛍はそう言ってザバッと立ち上がる。

 

「これ以上入ってると脱水症状起こすかもしれないから出よう」

 

 それだけを言い、安藤よしみの返事を聞くことなくさっさと歩き出してしまった。

 安藤よしみは慌ててその後を追う。

 

 

 その頃、大宮さとしは大宴会場で酒を進めてくる酔っ払い相手に上手く立ち回っていたのだった。

 

 




大宮さとし、マジで何者??


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61話 『大宮さとしの物語⑬』

『劇場版 仮面ライダージオウ Over_Quartzer』見てきました。
感想と言うか一部ネタバレになりそうだったので活動報告にて色々とくっちゃべりたいと思っています。

同じく視聴した人、ネタバレでも良いよと言う人だけ見てください。


 俺は変な声を聞いた気がして布団の中で目を覚ます。

 隣を見ると、安藤が涙目でこちらを見ていた。

 

「どうした?」

 

「なんでも、ない・・・・・・」

 

 安藤はそれだけを言い黙り込んでしまった。

 何かあったのだろうかと頭を悩ませてみるが、特に心当たりはない。

 それでも、一応、昨日の事を思い出してみる。

 昨日、宴会が始まってすぐ頼りにしていた修善寺は安藤を連れてどこかに行ってしまい、酔っ払いどもに酒を勧められまくった。

 普段ならきっぱりと断りその後それを繰り返し続けるだけなのだが、昨日ばかりは違った。

『あの事件』が解決して以来、俺はこの街に来ていなかった。

 約1年ほどだが、皆、俺の事を待っていたらしい。

 実際、俺が―――偽名を使ったとはいえ―――この街に来ると知った時、皆はとても喜んだらしい。

 だが、偽名を使っていたのもあって、事情があるのだろうと大歓迎するのを我慢していたそうだ。

 だけど、我慢の限界が来たらしく、皆とてもはっちゃけている。

 俺もそれを感じ取り、仕方ないとおちょこ一杯分だけ飲んだ。

 結果から言うとそれだけでダウンした。

 どうやら、俺はかなり酒に弱い体質らしい。初めて知った。

 安藤と修善寺が戻ってきた時には、気持ち悪くてしょうがなかった。

 吐き気は酷いし、頭痛はガンガンと響いてるし、散々な事になっていた。

 今思い出しても気分が悪くなる。

 そして、その後、すぐに俺は自室に戻って布団の中にダイブし、寝に入った。

 それだけだ。

 だから、安藤がなぜ涙目なのかが理解できない。

 俺が腕を組み、首をひねり呻っていると、『松の間』の扉の向こうから修善寺の声がした。

 

「ほら! アンタら起きなさい! メシの時間だよ!!」

 

 あ゙ぁ゙っっ!

 頭が、頭がぁぁあああ!!

 痛ェ、クソほど痛ェ!

 俺は頭を押さえて地面をゴロゴロと転がる。

 酒のせいでただでさえ体調悪いってのに、そこに来る大声は兵器だ・・・・・・。

 地に伏せ、悶絶している俺をヨソに安藤はそそくさと『松の間』を出て行ってしまった。

 俺は匍匐前進で何とか部屋から出て、廊下の真ん中で力尽きたのだった。

 

 

 

 

 

 

 安藤よしみはその顔を青くし、廊下を駆ける。

 朝、いつもよりも早く目が覚め、真っ先に大宮さとしの顔が視界に飛び込んできた。

 一瞬だけ驚くも平然を取り戻し、その体をじっくり観察する。

 より正確に言うなら、前日、最善寺蛍の話に出てきた大きな火傷をしたという右手である。

 思えば、大宮さとしは夏だというのにずっと長袖長ズボンで身を固めていた。

 風呂上がりに着ていた甚平も、長袖長ズボンに改造されていて、肌が見えないようになっていた。

 だが、寝相の影響なのか、寝間着としても使われているその甚平がはだけ、その下・・・・・・肌が少しだが見えていた。

 気になってしまった。

 彼の傷がどのようになっているのか、それがどうしても気になった。

 やましい気持ちも厭らしい気持ちも無く、ただ、純粋に気になったのだ。

 それ故に起こさぬよう、ゆっくり袖をまくった、ゆっくり裾をまくった、ゆっくり服をずらした。

 そして見えてきたのは傷だらけの体だった。

 身体(カラダ)のあっちこっちに傷跡が残っていたのだ。

 大きいモノから小さいモノまで。

 それは、大宮さとしが今までにどれだけ危険な橋を渡り続けていたかを表しているようであった。

 まだ中学生だというのにこんなに傷だらけなのだ。

 しかも、大きな傷の中には、もう完治しているハズなのに皮膚が変色してしまっているモノすらあった。

 それを見た瞬間、安藤よしみは小さく悲鳴を上げてしまっていた。

 瞬間、少年が目覚めた。

 大宮さとしは安藤よしみの異変に気付いたらしく、「どうした?」と不思議そうに聞いて来た。

 安藤よしみは自分のしていたことに気付かれたくないと思い、「なんでもない」とだけ返す。

 そして、何か話を逸らそうとしたが、何も言葉が出なかった。

 数瞬の静寂。

 だが、それを壊す大きな声が部屋に響いた。

 

「ほら! アンタら起きなさい! メシの時間だよ!!」

 

 瞬間、大宮さとしが頭を抱え、小さな悲鳴を上げた。

 そして蹲り悶絶している。

 安藤よしみは先ほどまでの空気から逃げるように部屋から出た。

 そして食堂へと行く道すがら思ってしまった。

 彼にとって自分は助けた不特定多数の一人ではないのか、と。

 だが、それは認めたくないモノであった。

 少年があれだけ必死になって、全身全霊を懸けて、ボロボロになってまでも諦めずに戦ったのは、何も特別な理由なんてなかったのだろう。

 ただ、手が届くところに居たから助けた。

 それ以上でもそれ以下でもなく、本当にそれだけなのだ。

 そう。

 あの少年にとって、安藤よしみは特別な存在ではなく、偶然助けただけの人間なのだ。

 その事実が、少女の心に深く突き刺さっていた。

 だが、当の少年は廊下でダウンしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫・・・・・・いや、ミキは目の前で繰り広げられている戦いを見て、何もできないこの状況でただただ歯を食いしばっていた。

 大好きな少年が傷付いている所を近くで見ている事しかできないのだ。

 少年に頼まれたからこそ手出ししないのだが、それが辛い。

 前もそうなのだ。

 いや、前の方が酷かった。

 知っていたのに、それなのに傍観していた。

 ずっと傍観者だった。

『あの事件』の時は自分から異変を知らせたにもかかわらず傍観者のままだった。

 その後に起きた『あの事件』に関しては、異変を感じていたにもかかわらず傍観者のままだったが故に少年は大きなケガをしてしまった。

 それは深い後悔であった。

 悔やんでも悔やみきれぬ心の傷になった。

 それ故に、少年の傍にいようと思った。

 少年が少女の事をただの友達だと思っている事は理解していたし、少年の心に恋愛に目を向けているような余裕がなくなっていることも感じ取っていた。

 そうだとしても、隣にいたかったのだ。

 だが、『あの日』に事件が起きた。いや、それは不幸な事故だった。

 少年が死んだのだ。

 中学校時代からの同級生が階段を踏み外し、その下敷きになって。

 近くにいた目撃者から話を聞くと、やはりと言うか何と言うか、少年は同級生を助けようと走ったのだという。

 昔みたいに、誰かのヒーローになれるように無我夢中で足掻いていたあの頃のように。

 少女は今まで以上に後悔した。

 好きだった少年の事を誰よりも理解しているつもりであった。

 でも、それは傲りであった。

 少年はとっくに乗り越えていたのだ。

 自分の力で、自分の意思で、止まることなく、とっくに。

 彼は、少女に悟られぬように、少女を巻き込まぬように隠れて戦い続けていたのだ。

 ずっと、ずっと一人で。

 それを知った時にはもう遅く、少年はこの世からいなくなってしまった。

 葬式の事はよく覚えていなかった。

 覚えている事とすれば、少年に助けられた人たちが列をなし、大きな騒ぎになった事だけである。

 そして今。

 “個性(チカラ)”を手に入れても、少年に信頼されても、それでも少年は確実に一線を引いていた。

 少女に何かを任せる場合は、少女が手の届く位置にいる時か、少女が大きなケガをしないという確信がある時だけだった。

 だからこそ、この状況が辛く怖かった。

 少女の頭を支配している感情は一つ、

 

 また、少年を救えないのではないか。

 

 それだけだった。

 

 

 

 

 

 

「ゔぇえ~・・・・・・」

 

 俺は吐き気を抑えきれずそんな声を上げた。

 二日酔いとはこんなにもキツイモノなのかと頭を悩ましたいが、頭を稼働させるだけで頭痛がするため考えるのもままならない。

 そんなダウン状態の俺の隣には心配そうにオロオロしている安藤がいる。

 

「ごめんな~。せっかくの旅行なのにこんな事になっちまって」

 

「ううん。さとしが悪いわけではないんだから謝らなくて良いよ」

 

「いんや。俺が酒飲んだせいなんだから俺が悪いよ。ホント、俺は駄目だなぁ」

 

 俺はそう言って苦笑し、ゆっくりと起き上がる。

 

「ちょ、さとし!? ゆっくりしてないと駄目だよ」

 

「大丈夫だよ。これでも体は丈夫なんだ。これだけ休めれば動けるさ。とりあえず、温泉行こうぜ。昨晩寝る前に言ってたろ? 気になる所があるって」

 

 俺がそう言うと安藤はおどおどしながらもコクリと頷いて温泉に行く準備をしだした。

 それを横目に普段から持ち歩いている痛み止めを飲んでおく。

 薬の効果が出るまで約30分ほどなので、それまでは気合で何とかする。

 さぁて、キバって行きますか。

 

 

 

 

 

 

 帰りたい。

 誰だキバって行くとか言ったヤツ。

 ・・・・・・俺か。

 ちなみに帰りたい理由と言うのは、安藤が行きたいと言っていた温泉が混浴だったのだ。

 それだけじゃない。

 俺と安藤が扉の前に着いた瞬間、おっちゃんたちとおばちゃんたちが温泉に清掃中の看板を掛け、スピーカーで『清掃の為一時ご退場お願いします』とかいう放送を流し、完全に貸し切り状態にしてしまったのだ。

 なんか滅茶苦茶いい顔でサムズアップされた。

 解せぬ。

 まあ、逃げようにも出入り口をおっちゃんたちに塞がれている状態だから逃げられないんだけどな。

 まあ、こうなったらヤケだ。と俺は腹を括る。

 今この現状で出来る事と言えば、なるべく安藤の方を見ないようにすることだけだろう。

 俺は念のために腰にタオルを巻いて大事な所を隠しておく。

 

「ンじゃ、行くか」

 

 ようやく痛み止めが効いて来た俺は軽くそう言って歩を踏み出す。

 浴場は広く、二人で使うにはもったいないほどであった。

 俺たちはさっさと体を洗うと、すぐに湯に浸かる。

 温泉は白い濁り湯で、浸かれば必然的にお互いの大事なところは隠されている。

 だが、浸かるまでのわずかな時間に、俺は見落とすことなく“証拠”を視界に捉えていた。

 

「お前さ。俺が気付かないと思ってんの?」

 

 俺がそう言うと、安藤の肩がビクリと震えた。

 

「虐待の跡、もうこうやって見えちゃ俺はジッとしてねえぞ」

 

「そっちね・・・・・・」

 

「そっち? まだ何かあるのか?」

 

「んっ、ううん! なんでもないよ、うん!」

 

 安藤は顔を真っ赤にしながら首を横にブンブンと振るう。

 ・・・・・・何だったのだろうか?

 いや、今は置いておこう。

 

「背中の痣とか、二の腕のと背中のタバコの跡とか、確実に虐待の跡だろ」

 

 まあ、最初、タバコの跡は校長が先導してやらせていたあのイジメによるモノだと思っていたけど、神虎龍に聞いたら知らないって言ってたからずっと疑っていた。

 あのタバコの跡は付けられてまだ新しいと踏んでいたが、日常的に家でそんな事をされていればそりゃ真新しい傷ばかりだよ。

 俺はそう思いながら安藤の目をジッと見る。

 

「今、俺は虎龍たちに頼んで証拠を集めてる。まだ少ないが、これで決定的なモノを掴んだら必ず助ける。だから、言ってくれ。俺を、俺たちを頼ってくれ」

 

「・・・・・・うん」

 

 安藤は小さくそれだけを言い、涙をこぼす。

 俺は、そんな安藤の頭を優しく撫でながら言う。

 

「待ってろ。必ず助けるから。だから苦しくなったら、もう駄目だと思ったらいつでも頼ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 何て残酷なのだろう、と自分でも思う。

 勝手に期待させて、勝手に離れて行こうとした。

 俺は不器用だったし、敵意や悪意以外の人個感情に対しては鈍感だ。

 恋愛感情なんて自分には縁なきモノだとずっと考えていた。

 だから、この旅行の出来事は残酷でしかない。

 結局、ただただ無駄に期待させるだけの出来事なのだから。

 でも、俺はそんな単純な事に気付くことなく先へと進んで行った。

 そうして俺たちの物語最後の平和な日々となる12月へと時間は進んで行くのだった。

 




仮面ライダージオウもこの作品でいつか活躍させたい(*'▽')


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62話 『大宮さとしの物語⑭』

新キャラ&(ある意味)全ての元凶が登場。


「「「「「「「「また来てくれよぉぉおおおお!!!!!」」」」」」」」

 

「良い大人が涙や鼻水流して寂しそうにするな。美少女アニメ作品のヒロインだったら萌え要素大有りかもしれないが、むさくるしく毛深くてムキムキのおっさんにされたら軽く引ける絵面だからな」

 

 俺は深いため息を吐きながらそう言う。

 おっちゃんたちは顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。

 前回、『あの事件』を解決し、帰る時もこんな感じだった気がする。

 

「大丈夫だよ。また時間が出来たら遊びにきてやるから」

 

 俺はそう言って改札を通る。

 その後ろを安藤がテクテクとついて来る。

 チラリと振り向くとおっちゃんたちが横断幕を広げていた。

 そこには、

 

[また来て英雄!!]

 

 と大きく書かれていた。

 恥ずかしいよ。

 ホントさ、感謝される事自体悪い気はしないが、これは違う気がする。

 俺はそう思いながら帰りの電車に乗る。

 車内はあまり人がおらず、来る時は座ることが出来なかったが、どうやら今回は座れそうである。

 安藤と向かい合うように座り、買っておいたアクエリアスに口を付けながら何気なく窓の外を見ると、

 

「ブフェッ!! ・・・・・・ゲホッゲホッ!!」

 

 吹いてしまった。

 一応、咄嗟に安藤にかからないようにタオルで抑えたのだが、それでも喉がやられてしまった。

 簡単に言えば、咽た。

 俺の目に飛び込んできたモノ、それは、

 

[この街の英雄!! 大宮さとし!!]

[それを祀るための神社建設決定]

 

 という特大の横断幕であった。

 俺、まだ生きてるんだけど。

 何で生きたまま神社に祀られなけりゃならないんだ。

 しかも、神社の名前どうするんだよ。

『大宮神社』は実在してるぞ。

『さとし神社』にされようモノなら歯がゆすぎて死にたくなる。

 ああ、しばらくこの街に近付きたくない。

 俺が頭を抱え呻っていると、安藤がポソッと言った。

 

「完成したら初詣に来てみる?」

 

「絶対嫌だ」

 

 確実に祭壇に座らせられる。

 そうなったら完全なる公開処刑だ。

 公衆の面前に生き神として晒されるとか、下手な拷問より残酷だぞ。

 俺はしばらく身の安全を考えてネットでこの街についての情報を集めておこうと決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

《シングル! シングルブレイク!》

 

《ワンサイド! Ready Go! ジーニアスアタック!》

 

 俺の拳とグリスの拳がぶつかり合う。

 ビジッバチバチバチバチバチッッ!! と大きな衝撃音が響く。

 俺とグリスは素早く後ろに跳び、衝撃を受け流し、態勢を整えると同時に武器を取り出す。

 そして、俺はドリルクラッシャーにユニコーンフルボトルを、グリスはブリザードナックルにノースブリザードフルボトルを装填する。

 

《Ready Go!》

 

《ボトルキーン》

 

 ドリルクラッシャーにユニコーンの角のようなエネルギーが纏われる。

 ブリザードナックルにもエネルギーが収束しだす。

 そして、

 

《ボルテックブレイク!》

 

《グレイシャルナックル! カチカチカチカチカッチーン!》

 

 瞬間、また攻撃が正面からぶつかり合った。

 これで何度目だろうか。

 戦いが始まって早一時間。

 もう午後の授業は完全にオワタである。

 そうなると、脳への負担はある程度考えなくても済むからいいやと無理矢理前向きに考えてしまう。

 

「さあ、そろそろ本気出すぜ」

 

「ずっと本気のようにしか見えなかった、けど、その言葉は本当みたいだね。いいよ。いくらでも受け止めるから」

 

 おうふ。

 なんか話が微妙にズレていらしゃる。

 俺は少しため息を吐きながら久しぶりに転生特典である『十秒先の世界を見通す力』を使用する。

 雄英体育祭以来一度も使っていなかった為、中々に久しぶりの使用になる。

 多分、八割方の人が覚えていないだろう。

 それだけの時間使っていなかったのだから仕方がない。

 俺はとりあえず十秒先の世界を予測し、グリスの攻撃を全て避け、俺の攻撃を全て当てる。

 この特典は“サー・ナイトアイ”の個性に似ているが、これは予知ではなく予想なので、“通形ミリオ”先輩の技術に近いと考えてもらえればいい。

 特典発動と同時に俺はグリスに向かって突撃する。

 そして、振るわれる右手を避けると同時に背後へと回り込み、後頭部に肘を叩き込む。

 バランスを崩すのを確認すると同時にグリスの体の下へと潜り込み、倒れる方向へそのまま投げ飛ばす。

 上手く背負い投げが決まり、グリスは地面に背中を強く叩きつける。

 

「カハッ」

 

「どうだ? これが俺の本気だ」

 

「・・・・・・腕、上げたんだね」

 

「当ったり前だろ。俺は変わるし成長していくんだよ」

 

 実際、転生特典のお陰である。

 これなしだったら、先読みは3秒までが限界だ。

 

「さて、と」

 

 俺は長く息を吐いてから息を思いっきり吸い込み、疲れをある程度リセットしてから言う。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

 

 

 

 

 

「ハッピーバースデートゥーユー!!!!」

 

「ハッピーバースデートゥーユー!!!!」

 

「「ハッピーバースデーディア・・・・・・」」

 

 俺と神虎龍は同時に叫ぶ。

 

「「藤子・F・不二雄先生!!!!!!!」」

 

「ハッピーバースデー・・・」

 

「トゥー・・・ユー・・・・・・」

 

 瞬間、パンパンパンとクラッカーが鳴らされる。

 ここは中校舎三階空き教室。

 生徒会長に神虎龍が頼み貸してもらっているのだ。

 現在は2014年12月1日午後17時半。

 外は多少薄暗くなってきているが、まだうすぼんやりと視覚出来ている。

 そんな中、ここに集まったのは俺含む暇人。

 神虎龍・前田美歌・安藤よしみ・羽山(はやま)裕奈(ゆうな)(神虎龍の彼女)・纐纈(こうけつ)真輝(まき)←!?)。

 

「ちょっと待て、纐纈。何でテメェがココにいる!!?」

 

「何だって良いじゃない。・・・・・・ウチだって藤子・F・不二雄先生の作品好きなんだもん」

 

「なら良いか。・・・・・・・・・なんてなる訳ないだろう」

 

 俺はそう言って纐纈の胸ぐらを掴む。

 普段、女性に手を上げる事なんてないのだが、コイツだけは例外だ。

 

「テメェのせいでどれだけの人が傷付き、涙を流し、命を落としたと思ってるんだ」

 

「ウチはただ“話を聞いてアドバイスをした”だけだよ。あんな行動したりするのはウチ関係ないじゃん」

 

「お前は“ああなる様に”言葉巧みに誘導しているだろう」

 

「アナル? いきなり下ネタ言ってどうしたの?」

 

「テメェはその歳で難聴なのかぁ?」

 

 俺は言葉に怒気と敵意と殺意を込めて纐纈を睨む。

 だが、神虎龍がそれを止めてきた。

 

「ま、待てよ。お前とコイツの間に何があったかは知らないけど、今はちょっと止めろ」

 

「ホント、止めれたら良いんだけどな」

 

 俺はそう言い、纐纈の胸ぐらを掴んでいた腕を放す。

 だが、それでも、

 

「妙な真似はするなよ。もしも何か俺が怪しいと感じる行動をすれば即刻・・・・・・」

 

 殺す、とは最後まで言えなかった。

 なぜなら、纐纈がその細く華奢な人差し指で俺の唇を触ってきたからだ。

 纐纈は美しく優しく不敵に笑いながら小さな声で一言言った。

 

「大丈夫。キミが生きているかぎり前田ちゃんには手を出さないよ」

 

 その言葉だけを残し、俺から離れていく纐纈。

 それを確認した神虎龍が腰を曲げ、俺の耳元で囁く。

 

「何か勝手に付いて来てた奴なんだが、知り合いだったのか?」

 

「知り合いと言えばそうだが、あまりこうやって関わりたくないヤツだよ」

 

「? そうなのか?」

 

「ああ」

 

 俺はそれだけ答え先を言わない。

 アイツの起こす事にコイツを関わらせたくないのだ。

 いや、そもそもこのように接近し、顔を知っている程度でも危険なのだ。

 俺は藤子・F・不二雄先生の生誕祭を祝いながらも、常に纐纈への警戒は怠らなかった。

 そのせいでパーティーをあまり楽しめなかったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 南校舎屋上で俺は星を眺める。

 四つある校舎の中では南校舎が一番古く、屋上が残っているのだが、しっかりと鍵が施錠されている。

 のだが、古い種類のカギだったので、簡単にピッキング出来た。

 その為、気が立ったときはよくここに来て風に当たって気持ちを落ち着けているのだ。

 冷たい夜風に当たってどれだけの時間が経っただろうか。

 背後に嫌な気配を感じた。

 俺は立ち上がり、何事も無いように振り向く。

 

「何の用だ?」

 

「ん? 宣戦布告」

 

 屋上に上がってきた人物・・・・・・纐纈はそう言って笑う。

 腰の長さまである黒髪が夜風に吹かれ暗闇に靡いている。

 俺はそれをジッと睨む。

 

「今度は何を企んでいる?」

 

「安藤よしみ」

 

 纐纈がアイツの名前を出した瞬間、俺は風化して壊れていたコンクリートの欠片を蹴り上げ、掴むと同時に投げつけた。

 だが、纐纈はそれを簡単に避け、お返しと言わんばかりにナイフを投げてきた。

 俺はそれを弾き落す。

 

「・・・・・・石で作ったナイフか。これじゃ銃刀法違反で警察に突き出せないな」

 

「そのために作ったからね」

 

 銃刀法では石でできたナイフはグレーゾーンに当たる。

 と言っても持ち歩いていれば普通にアウトになる可能性の方が高い。

 だが、“殺傷性が低い”と判断された時点でソレも難しくなる。

 黒に近いグレーゾーンを責められると俺も行動が制限されてしまう。

 簡単に肉を切れるほどの切れ味があれば銃刀法でブチ飛ばせるのだが、生憎、纐纈は歯を潰して持ち歩いている。

 使う時に素早く研いで使用するのだ。

 そうなると持ち歩いていても『刃物』ではなく『お守り』もしくは『工芸品』としてしか扱われない。

 ああ、面倒くさい。

 俺はコンクリートに叩きつけられて二つに割れた石のナイフを完全に踏み壊す。

 

「次は何を企んでいる?」

 

「ウチがアンタに言うと思う?」

 

 纐纈はそう言いながら俺の方へと歩を進めてくる。

 俺はポケットに両手を突っ込んで纐纈へジッと視線を向け続ける。

 抵抗しない俺に纐纈は手を伸ばし、ソッと抱きしめてきた。

 そして、

 

「ん・・・・・・」

 

 俺の唇に自身の唇を重ねてきた。

 それを拒絶することも突き放す事もなくただただ睨み続ける。

 纐纈はすぐに離れ、微笑む。

 

「じゃあ、ゲームスタートだね。“今度”こそは“完璧に守れる”ように頑張ってね」

 

 そう言って屋上から去ろうとする纐纈に俺は最後の言葉をかける。

 

「そういや、聞きそびれてたけどさ。何で旅館に火を放たせたんだ?」

 

「ん? ただ、『証拠が揃っていてこのままだとマズいよ。この日に証拠も証言者もここに集まるから消すには最適だよ』と言ってあげただけ。それで勝手に放火してくれたの」

 

「それ以外にもあるだろ」

 

「うん。一人や二人が死んでくれれば君が本気を出してくれると思ってね」

 

「・・・・・・そうか」

 

 纐纈は鼻歌を奏でながら去って行った。

 俺はそれをただただ眺めた。

 そして思い出す。

 纐纈と初めて会った日の事を。

 

 

 普通の子供であった俺が、ヒーローになれないと塞ぎ込んでいた俺が戦い続ける切っ掛けとなったあの出来事を。

 




纐纈(こうけつ)真輝(まき)は大宮さとしが戦い続ける切っ掛けとなった人物でっす。
次回は、この二人の関係が書かれます。

なぜって?
水増しですよ。
ヒロアカ原作に少しでも追いつかない為です。

ただ、いつかは語ろうと思っていたヤツが早くなっただけなのでご了承ください。



ちなみに、纐纈真輝と大宮さとしの間に恋愛感情はありません。
あるのは敵意と殺意だけです。


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63話 『大宮さとしの物語⑮』

大宮さとしと纐纈真輝の関係の始まり。

それはまだお互いが幼い頃であった。


これは、大宮さとし8歳(もう少しで9歳)の物語。


 小学四年生の頃の俺は・・・・・・いや、僕は自由になっていた。

 その切っ掛けは一年前。

 弟のはやとが小学校に入学した事で僕の世界は変わった。

 僕の通っている学校には月に一度、望めば全学年で学力テストをすることができる。

 どの学年でも同一の内容で、学年が高ければ高いほど有利な内容である。

 そこで、はやとが一位を取った。

 小学一年生でありながら、全学年の生徒を一瞬で追い越してしまった。

 僕とはやとの点数差は約15点。

 学力的に言えば誤差と見られる点差なのだが、僕の親は違った。

 優秀な弟に力を注いで、僕にほとんど見向きもしなくなった。

 親から見放された。

 しかも、それだけじゃない。

 そんな出来事があってすぐ僕は登校中、事故に遭った。

 信号機のない横断歩道を渡っていた時、わき見運転をしていた車が突っ込んできたのだ。

 そして気付けば病院のベッドに寝かされていた。

 僕の意識が戻った事に気付いていない両親は子供に聞かせるべきではない話をしていた。

 耳に聞こえてきた言葉、それは、

 

「死んでくれればよかったのに」

 

 だった。

 親からしたら、はやとより劣っている僕を抱えている事は嫌だったらしい。

 僕に回す分の金を全部はやとに回したかったようだった。

 絶望とはまさにこの事だろう。

 齢8歳未満にして親から見放されたのだ。

 それに絶望しない存在なんていないだろう。

 治療費は加害者から支払われ、しっかり慰謝料も入った。

 だが、俺に払われたその慰謝料は全て親がはやとの為の金として持って行ってしまった。

 そして、リハビリに数ヶ月を要し、学校に復学した時にはもう四年生になっていた。

 親からは月に食事代として五万円が渡されている。

 これで、朝と夜の飯を賄わなければならない。

 文句を言ったこともある。

 だけど、

 

「学費と給食費も出してやっている(・・・・・・・・)んだからこれ以上文句言うな」

 

 と言われた。

 出してやっている。

 そう言ったのだ。

 生んだのだから、成人するまで育てるのが親の義務だろうに。

 両親は、その半分も果たさないで偉そうにそう言ったのだ。

 絶望の先にまた絶望があるとは知らなかったし知りたくもなかった。

 これがヒーローを目指す切っ掛けの“火薬”だ。

 トリガーを引いたのはまた別の出来事。

 

 

 

 

 

 

 小学四年生の夏休みが終わり、新学期が来た。

 少し前に『ディケイド』が終わり、新作の『ダブル』を待ち遠しにしているこの僕、大宮さとしは昔から好きだった“仮面ライダー”に憧れている。

 誰かを助ける為に戦い、絶望を乗り越え、決して諦めず、突き進み続けるその背中に憧れた。

 だが、それと同時に自分には手の届かない存在であるとも理解している。

 僕は弱い。

 肉体的にも、精神的にも、何もかもが。

 あんな気高い存在になれるイメージなんて湧かなかった。

 それでも、諦めきれなかった。

 だから鍛え続けた。

 鍛錬を積んだ。

 年齢に合わずかなり筋肉のある体になり、それに対して質問された時は、

 

「鍛えてますから」

 

 と答えていた。

 そんな中、一学期にはなかった異変が俺の周りで起こった。

 

 学級崩壊

 

 一般的にそう呼ばれる現象が起きたのだ。

 担任の先生はとても優しい人で、授業中に叫んだり遊んだりしているクラスメイトたちを強く注意できていなかった。

 僕としては授業妨害はやめて欲しかったのだが、本気で殴れば相手がケガしてしまう為に躊躇っていた。

 そうこうしている内に新学期開始から二週間が経過していた。

 僕はいつものように職員室で頭を抱えている先生のもとに向かい、今日やる予定であった授業内容を聞き、分からない所を質問する。

 バカが好き勝手やって破滅するのはどうでもいいが、そのバカのせいで勉強ができないとなると別問題なのだ。

 いつも通りの質問。

 だが、いつとは少し違った。

 

「大宮くん。先生って、駄目なのかな?」

 

「どうしてですか? 僕は全くそう思ってませんよ」

 

「でも、クラスがあんな事になっちゃってさ。先生、自信無くしちゃったんだよね」

 

 そう弱弱しく笑う先生を見るのが辛かった。

 それで、つい、柄にもなく、言ってしまったのだ。

 

「先生。僕が何でこうなったのか調べてみます。だから、もう少し耐えてください」

 

 と。

 子供のくせに、何もできないくせに、まるで、ヒーローのように。

 

 

 

 

 

 

 それから、僕は好き勝手しているクラスメイトたちとさりげなく接触し、なぜこうなっているのかと聞き込みをした。

 話を聞くと、クラスのリーダー的存在である“小島(おじま) 雷鳴(サンダー)”が皆に授業をめちゃくちゃにするよう呼びかけ、仲間内で盛り上がって実行したのだという。

 僕は何気なく小島くんに接触して遠回しながら止めるように言ったのだが、一切聞き入れてくれなかった。

 強引にやめさせようとしたが、

 

「皆楽しんでるんだからいいだろ!」

 

 と突っぱねられてしまった。

 その日も何もできなかったことに項垂れながら家に帰る。

 家には(はやと)しか居らず、僕は「ただいま」と小さく言って二階の自室に向かう。

 勉強の邪魔をしてはいけない。

 僕はなるべく部屋から出てはいけないのだ。

 自室には食費を切り詰めて買った仮面ライダーのベルトがある。

 僕は敷布団の上に置かれている『ディケイドライバー』を手に取る。

 そして、それを眺めて覚悟を決めた。

 話は通じない、だがこのまま行けば先生が追い詰められてしまう。

 だから、僕は決意する。

 先生を助ける為に。

 僕はランドセルにディケイドライバーを入れる。

 これはお守りであり、気合を入れる大切な道具でもある。

 もう、この世界に必要とされていない僕だ。

 何をしようと、どうなろうと関係ないだろう。

 

 

 この間違った決意がトリガーに掛けた指だ。

 そして、それが人生のターニングポイントへの一歩であった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕は朝一番に小島くんの下へ行き、宣戦布告をした。

 

「放課後。体育館に来て。そこで決着をつけよう。・・・・・・キミ、喧嘩好きでしょ? だったら、僕と戦え。もしも、僕が勝ったらもう授業妨害や先生への嫌がらせは止めろ」

 

 そう、強くハッキリと宣言した。

 僕の言葉に小島くんの取り巻きが面白そうだと騒ぎ、リーダーであることに変なプライドを持っている彼が逃げられない状況を作り出した。

 我ながらエグイ戦法だと思う。

 そして、この日はほぼいつも通りに進んで行く。

 いつも通りではない所と言えば、小島くんから睨まれ続けたところだろう。

 そうして気付けば放課後になっていた。

 僕はランドセルからディケイドライバーを腰に装着し、体育館へ向かう。

 体育館には小島くんとその取り巻きがいた。

 小島くんは僕の腰に視線を落とすと、爆笑しだした。

 

「ブファッ。何だオマエ・・・やる気あんのかよ・・・・・・ハハハハハハ」

 

 それにつられて取り巻きたちも笑いだす。

 だが、僕はそれを一切気にしない。

 

「どうでもいいでしょ。さっさとやろうよ」

 

 僕はそう言って腰を落とす。

 ケンカなんて今までの人生では片手で数えるほどしかしたことない。

 でも、やるしかないのだ。

 僕が構えるのに合わせて小島くんも構えた。

 瞬間、僕の一番近くにいた小島くんの取り巻きが殴りかかってきた。

 とっさに体を捻って避けると同時にその回転を利用して裏拳をヒットさせる。

 

「おっ? よく反応で来たな。・・・・・・卑怯だとかは言うなよ。誰もタイマンだとは言ってないからな」

 

 彼がそう言うと同時に他の取り巻きたちも襲い掛かってきた。

 僕はその攻撃を避け、反撃に鳩尾へ肘を叩き込む。

 さらに、中指を尖らせた形の拳を作り、喉に打ち込む。

 

「なっ・・・・・・!」

 

 小島くんは一瞬で二人も倒されたのを見てそんな声を上げる。

 彼にはどうしてそうなっているのか一切理解できていないだろう。

 僕と彼との違い。

 それは、集団と個人だ。

 集団に属しその中でトップに立つ者。

 一人で鍛錬を積みただひたすら上を求めた者。

 集団でしか他に強く出れない彼らとの戦い方なんて簡単だ。

 動き続けて常に一対一の状況に持ち込む。

 そうすれば集団の強み・・・・・・数の暴力は使えない。

 あっという間に取り巻きたちは床に倒れ、呻って動かない。

 

「どうだ・・・ハァ・・・・・・これで、タイマンだ。ハァハァ」

 

 僕は肩で息をしながら小島くんを睨む。

 小島くんは焦りながらも強気に言う。

 

「そんな疲れてたら勝ちは決まったもんだぜ」

 

「なら、やれよ。僕は逃げも隠れもしていないんだから」

 

 僕はそう言ってライドブッカーからカードを取り出し、ベルトのサンドバックルを引いて中央のバックルを回転させ、待機状態にする。

 小島くんは拳を握り殴りかかってきた。

 振りかぶる大振りの攻撃。

 そんな攻撃は隙が大きい為に避けることは簡単である。

 僕は小島くんの振りかぶった腕をくぐる様に避け、ベルトにカードを読み込ませる。

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

 そんな音声と共に僕は身を翻し跳び蹴りを小島くんに叩き込んだ。

 小島くんの顔面に綺麗に叩き込まれた蹴りは彼を数メートル飛ばし、地面に体を叩きつけさせた。

 地に倒れた小島くんは気を失ったみたいで、動かなくなった。

 僕がそれを確認して息を吐くと、さっきまで倒れていた取り巻きが騒ぎ出した。

 

「小島が負けたって事は、大宮が次のリーダーだぁ!」

 

「マジか! 交代早ェ!」

 

 なんかそんな事を言っているが、僕はそれよりも喧嘩が始まる直前からずっとこちらを見ていて、決着がつくと同時にいなくなった人物を探して体育館を出た。

 まだ疲れているし、休みたいが嫌な予感がしたのだ。

 ここで逃がしてしまってはいけないという予感が。

 

 

 

 

 

 

 廊下を走る。

 ずっとこちらを見ていた“誰か”を逃がさないために。

 その“誰か”は走った様子が無いのに、ずっと走って追いかけている僕と一定の距離を保っている。

 そして、僕は誘き出されるように南校舎の使われていない空き教室へと入る。

 入ってすぐに失敗に気付いた。

 空き教室には誰もいなかった。

 あまり使われていない机や椅子が放置されているそこに、人影はなかったのだ。

 焦っていると、背後から声が聞こえてきた。

 

「アンタ、ウチがせっかく楽しんでた事を潰してくれたね」

 

 焦り、振り向くとそこには一人の少女がいた。

 クラスメイトではない。

 確か、2組の生徒だったと思う。

 

「楽しんでた? どういうこと?」

 

「ウチがあの小島を煽って先公を追い詰めてたのに。ずいぶんとあっさり真正面から壊してくれたね。・・・・・・まあ、この程度で壊されるって事はウチもまだまだってワケだね」

 

 僕はソイツを睨みながら言う。

 

「君が、先生を・・・・・・」

 

「そう。しっかし、凄い殺気だね。・・・・・・キミなら良さそう(・・・・)だよ」

 

 ソイツはそう言って笑った。

 今、この場で一番場違いな笑顔を。

 恐怖も無く、怒りも無く、ただ純粋に。

 目の前にいる少女は笑顔のまま僕との距離を詰めてきた。

 接触してしまいそうなほど顔が近づく。

 

「ねえ、名前は?」

 

「ぼ・・・俺は大宮さとしだ」

 

「へぇ。なるほどね。・・・・・・さとし、ウチは君を“天敵”として認める」

 

 少女はいきなりとんでもない事を言い出した。

 俺がそれに戸惑っている間にも少女は言葉を続けていく。

 

「ウチの名前は“纐纈真輝”。・・・・・・これからウチはアンタを追い詰める為に色々な事件を起こす。だから、アンタはウチの起こす事件を止めて見な」

 

「なに、言って・・・・・・」

 

「そのベルト。アンタ、“仮面ライダー(ヒーロー)”に憧れているんだろ? だったら、それぐらいやってくれても良いんじゃないかな? ・・・・・・それとも、アンタのそれはただの飾り?」

 

 そう言って笑う纐纈。

 俺は、その目を強く睨み言う。

 

「ンな訳ないだろ。これは飾りなんかじゃない。俺の覚悟だ」

 

「なら、ウチとの『ゲーム』に参加しな。・・・・・・もう、次のターゲットは決めてあるから、その言葉が嘘にならないように頑張って守ってね」

 

 纐纈はそう言うと、俺の唇に自身の唇を合わせてきた。

 有り体に言ってキスである。

 俺が軽くパニックになり、内心どうすればいいのかとアタフタしている間に纐纈は俺から離れていた。

 そして、

 

「それが『ゲーム』を始める合図。・・・・・・さぁ、頑張ってね」

 

 それだけを言い残して彼女は去って行った。

 俺は、まだ腰に装着したままのディケイドライバーに手を添え、決意する。

 

(・・・・・・やってやる)

 

 と短く。

 この選択が人生を決める決断だという事を知らずに。

 

 

 これが、俺と纐纈との出会い。

 クソッタレで最悪でガキの癖して今後の人生を決めてしまった最低な出会い。

 俺がただひたすらに“ヒーロー”であろうとし続ける原点であり汚点。

 そう、認めたくないがこれは・・・・・・、

 

 

 俺のヒーローの原点(オリジン)の一つだろう。

 





大宮さとしが戦い続ける切っ掛けはただの子供の戯言だった。
だが、それは戯言に留まらず、数々の人の人生を変えていく物語の始まりだった。




原点(オリジン)”の一つ。
つまり、まだ何かがある・・・・・・という訳ではなく『仮面ライダーに憧れた』というのもある意味“原点(オリジン)”という事です。


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64話 『大宮さとしの物語⑯』

平成が終わってしまった。


 俺は帰路をトボトボと歩く。

 纐纈の次の狙いが安藤だという事が気がかりではあるが、今はまだ『何をしてくるのか』が分からない為、警戒しかできない。

 アイツが誰かを『ターゲット』として選ぶ場合その意味は二種類存在する。

 それは、『使われる者』と『追い詰められる者』である。

『使われる者』は言葉巧みに誘導され、悪事に手を染めさせられる。

 以前、あの温泉街で起きた地上げ行為から発展した“旅館『桜氷』放火事件”も纐纈によって誘導されて起きたモノだ。

 他にも色々あったが、最近発生した中で一番新しくて一番大きな事件がアレだ。

 結局、放火した犯人は逮捕され有罪判決が出た。

 だけど、放火を誘導した纐纈はこの事件には関与していないという事になっている。

 アイツはそうやって事件を起こし、時には“人も殺す”。

 出会ってから大体5年ほど経ったが、今現在、俺が分かっているだけでも14人は纐纈の『使われる者』たちに殺されている。

 ・・・・・・14人。

 それは、俺の手が届かなかった人たちだ。

 纐纈が俺に仕掛けた『ゲーム』で、俺が守れなかった、助けられなかった人たちだ。

 中には目の前で殺された人もいる。

 西村・中山・石川・浅野・坂田・・・・・・。

 思い出しただけで心が痛くなる。

 あと少しだった。

 あと一歩だった。

 俺が弱かったが故に助けられなかった。

 そんな俺を見て、纐纈はクスリと笑っていた。

 死体は冷たい。

 死んでいく者の体からはどんどん熱が失われて行く。

 その感覚は全て覚えている。

 その感覚は絶対に忘れることは出来ない。

 その感覚は、未だにこの手の中にある。

 でも、纐纈はその感覚を知らない。

 腕の中で失われて行く“命”の感覚を、その苦しさを、助けられない悔しさを。

 自分の手を汚さないアイツは現場での生の感触を理解していない。

 ただ、安全地帯で・蚊帳の外であざ笑っている。

 そして時折、『使われる者』を俺に嗾けてくる。

 俺と対決させるための駒。

 それが『使われる者』である。

 もう一つの『追い詰められる者』は、『使われる者』同様名前そのままである。

 時には纐纈本人が出向くこともあるが、大半の場合数人の『使われる者』を用意してソイツらを使って『ターゲット』を追い詰めていくのだ。

 安藤と神虎龍が巻き込まれた校長によるイジメ事件も後々ゆっくり調べてみれば纐纈が黒幕であった。

 まさか校長が『使われる者』だとは思わなかった。

 まあ、あの一件がいい例だろう。

 誰かを使って、誘導して他人を追い詰めていく。

 その他人が『追い詰められる者』だ。

 あのイジメ事件では校長が『使われる者』だったのに対し安藤が『追い詰められる者』であった。

 だが、『追い詰められる者』がいる場合は比較的立ち回りやすい。

『使われる者』単体だけの場合、衝動的な殺人か元々あった恨み・妬みによる殺人が多い為、ターゲットを見つけるまでに時間がかかったりする。

 逆に、『使われる者』と『追い詰められる者』がいる場合は構造が露骨に見え隠れする為、駆けつけるのにそう時間がかからない。

 ただ、そのどちらにも問題がある。

 それは纐纈が俺に仕掛ける『ゲーム』としてその出来事を組み込んでいない事が多いという何とも面倒くさい理由だ。

 まあ、何故かその『ゲーム』に組み込まれていない出来事に幸か不幸か巻き込まれるパターンが大半なのだがな。

 ホント、人生って不思議だわ。

 等と今までの事を思い返し次はどのように来るのかを考えていると、いつの間にか家に到着していた。

 気が重い。

 両親は仕事で夜遅くまで帰ってこないが、それでも家の中の空気は苦手だ。

 そう。

 纐纈と出会って5年という事は俺が親から見捨てられてから5年という事でもある。

 

「ただいま」

 

 俺は小さな声でそう言いながら家の扉を開ける。

 すると、リビングの方からこちらに向かって来る足音が聞こえてきた。

 

「お帰り。兄さん」

 

 弟が・・・・・・、はやとがそう言って俺を出迎えてくれた。

 俺は親から見捨てられて以来、はやととはなるべく関わらないようにしているのだが、はやとの方は普通に接してくれている。

 はやとも家の嫌な雰囲気は気付いているだろうし、何かしらの事情も知っているだろう。

 だから、はやとなりにそれを何とかしたいのだろう。

 とっくに何とかできる領域を過ぎているにもかかわらず、それでも改善しようとしている。

 俺にはそれが、その輝きが痛い。

 諦めた俺にとって、諦めずに足掻いているはやとは痛いほど眩しいのだ。

 だが、そんな心境を表に出すことは無い。

 今まで通り一定の距離を保って接するだけだ。

 

「どうした?」

 

「この問題がよく分からないんだけどさ」

 

「それは微分方程式の応用だ。あとは自分で調べろ」

 

 短くそれだけ言って俺は階段を上がる。

 言い忘れていたが、両親には大きな誤算があった。

 それは、はやとは頭がいいのではなく要領がいいだけだったのだ。

 確かにそれでうまくやって行けば勉強はできるだろう。

 だが、親は勉強しかさせなかった。

 勉強以外にも大切な事はあるというのに、それを考慮せず、目に見える数字を重要視した。

 そして、勉強詰めにした事によって生まれるストレスが、はやとの成績に影響しだした。

 今、はやとが親の出すテストで点を取れているのは、俺が対策プリントを作っているからだ。

 そもそも、小学生が微分方程式が登場する問題を解いている事自体が異様なのだ。

 微分方程式は高校で学ぶ内容だ。

 はやとは何とかやれているだけで、内面はボロボロだろう。

 昔は確かに俺よりも勉強が出来ていたが、今では俺の方が成績は良い。

 それなのに両親は自分たちの本心の間違いを認めることができずはやとに期待を押し付け、はやともそれを断れない。

 今の俺なら悪循環を断ち切るのは簡単だ。

 でも、こればかりははやと本人が行動できないと駄目だ。

 だから、俺はいつものように階段を上がっている途中で言う。

 

「あと、世界は広いんだ。あんな(クソ)共に縛られず生きても問題ねぇんだよ」

 

 と。

 はやとが自分から親の呪縛を離れ、世界をその目で見れるように。

 俺の生き方は完全な綱渡りだ。

 いつ死んでもおかしくない、というよりもしかしたら明日には殺されているかもしれない。

 だから、はやとには親の呪縛を抜け出して自由に生きて欲しいのだ。

 ただ、この日はいつもと少し違った。

 俺はバッグ内に入れていた3DSを取り出す。

 カセットも適当に選び、はやとに渡す。

 

「これ・・・・・・?」

 

「息抜きには使えるだろうからな。親父たちが帰ってくる時間は把握しているだろ。それよりも前に少しだけこれで遊んで休め。勉強し続けると逆に身につかないぞ。・・・・・・あと、カセットの他にダウンロードしてあるゲームで学習ゲームもあるから、もし見つかったらそれ見せて誤魔化しな。充電器はリビングにある白い棚の一番下にあるから」

 

 それだけを言うと返事も聞かずに部屋へと向かう。

 これを切っ掛けの一つにして変わって欲しいと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 俺は夜、寝る前に前田に電話をする。

 理由は簡単、予定が合うかどうかを聞く為である。

 

「って、事でクリスマスパーティーしたいんだけどクリスマスの予定は空いてるか?」

 

『ん~。・・・・・・・・・ごめんね。その日は家族で外食に行く予定が入ってた。ほんと、せっかく大宮くんが誘ってくれたのに』

 

「いや、いきなり誘ったのは俺の方なんだから気にすんな。あと、こんな時間にごめんな。おやすみ」

 

 俺はそう言って通話を終わらせてからため息を吐く。

 ほぼ全滅であった。

 神虎龍も、

 

『その日は裕奈とデートするんだ。だから、無理』

 

 だという。

 クソ野郎がマジふざけんな何イチャイチャしてます感出してんだよマジ爆ぜろリア充なんて皆死に絶えろ。

 そんな呪詛を心の中で唱えつつも俺は頭を悩ます。

 結局、誘いに乗ってくれたのは安藤だけだった。

 ま、まあ、纐纈の事もあるしここで安藤に接触しておけば何らかの情報を手に入れることができると思い無理矢理納得する。

 今回俺がする事は、安藤が『使われる者』か『追い詰められる者』かを見極める事である。

 それが分からない限り俺はどう立ち回ればいいか分からなくなる。

『追い詰められる者』だった場合は、守る為に全力を尽くせる。

 だけど、もしも『使われる者』だった場合は話が百八十度違って来る。

 もしも安藤が『使われる者』であるとしたら、俺と安藤は敵対することになる。

 そうなると今までの纐纈のパターンとは変わってくる。

 纐纈は『使われる者』に選ぶのは深い闇と他人への妬み・恨みを持つ者に限定していた。

 俺が思う限り安藤にそう言った面は見えないのだが、聞いておいて損はないだろう。

 そう思い本棚の辞書を一つ手に取り開く。

 その辞書は中を切り抜いて空洞にしていて、そこにへそくりを隠しているのだ。

 数えると、5万ほどしかなかった。

 まあ、『一学期』に『あの為』にかなり使ったから仕方がないか。

 俺はその5万をサイフに入れた。

 

 

 

 

 

 

「待ちやがれクソ野郎がぁぁあああああ!!!!」

 

 俺は全力で街を駆け抜ける。

 まさか登校途中、自動販売機で麦茶を買おうと思い財布を取り出した瞬間にひったくられるとは思わなかった。

 犯人は小学生(ガキ)で、自転車を使って逃げている。

 俺は走ってそれを追いかけている。

 だが、ハッキリ言ってこれはかなり相性が悪い。

 俺は瞬発力と持久力はあるのだが、そこまで足は速くない。

 ほとんど長距離を走らせて相手のスタミナ切れを狙うのが俺のやり方だ。

 ただ、相手は自転車を使っている為、単純にスピードが違う。

 それに体力の消費も自転車の方が少ない。

 このままではせっかくのへそくりが奪われてしまう。

 俺がそれに焦りを覚えると同時に自転車の進行方向に見た事のある顔を見つけた。

 

「安藤!! その自転車の足止めしてくれ!!」

 

 俺が進行方向の先に居た安藤にそう頼むと、安藤は手を横に広げ、進行方向を塞いでくれた。

 進行方向に人が現れた事で減速する自転車。

 その一瞬の隙を狙い、一気に駆け抜ける。

 瞬発力とその余力のスピード+(プラス)体を前に大きく倒すことによって重力を使ってさらに加速する。

 それによって、あっという間に自転車に追いつくとガキの横っ腹に肘を叩き込む。

 ガキがバランスを崩して転び、地面を自身の漕いだ自転車のスピードに乗って地面を転がっていく。

 俺はそれを確認すると同時にガキの自転車を近くにある幅一メートルはあるドブに投げ入れる。

 そして、ガキの背中を踏ん付けて行動を制限する。

 

「さぁ、クソガキィ。今すぐ謝罪して財布を返すか、病院送りになるか。好きな方を選べぇ」

 

「う、うわぁぁあああああああん」

 

「ヒャッヒャッヒャッヒャ!! 泣こうが喚こうがそう簡単に許してもらえると思うなァ」

 

「うぼらびゃびゃぁぁああああああ」

 

 何だその泣き方。

 脅したこっちからしても軽くドン引きモンだぞ。

 俺がクソガキをどう料理してやろうか素案していると安藤がおどおどしながら声をかけてきた。

 

「ね、ねえ。一体全体何があったの?」

 

「このゴミガキに財布をひったくられた」

 

 俺はそう説明しつつガキを踏んでいた方の足により体重をかける。

 そこでようやく気付いた。

 ガキが白目をむいて気を失っている事に。

 このまま放置してもいいのだが、何かあったら面倒臭いので道の恥の方へと寄せて回復体勢にして終わらせる。

 

「ほぼ全財産取り返せたわ」

 

「ほぼ?」

 

「将来の為の隠し財産みたいなのがあるんだよ」

 

 俺はそう言ってポケットに財布を入れる。

 

「ってか、奇遇だな。こんな所で会うなんて」

 

「こんな所って、ここ通学路でしょ」

 

「まあ、そうなんだけどさ。お前が学校に行くための道はココから少しズレてるだろ。だから何か奇遇だなって」

 

「いや、その、ここを通ればさとしに会えるかなと思って・・・ごにょごにょ」

 

「? お前なんか行ったか? 小さくて聞き取れなかったんだけど」

 

「い、いや、何でもにゃい! ただのひとり言だから!!」

 

 安藤はそう言いながら首を横にブンブンと振る。

 俺はそこに生じた僅かな違和感に気付き、安藤の肩を掴みその目をジッと見据えながら言う。

 

「何かあったか? まさか纐纈に何か言われたのか!?」

 

「ヘっ? え? ちょ、何? 何なの!?」

 

「この前の『藤子・F・不二雄先生生誕祭』の時にいたアイツに何か変な事吹き込まれたか!?」

 

「う、ううん。あれ以来廊下ですれ違う以外では会って無いよ」

 

 安藤のその言葉に俺は安心して肩を撫でおろす。

 

「そうか。良かった・・・」

 

「なにか、あったの?」

 

「昔っからアイツのせいで酷い目に遭わされてるんだよ」

 

「そう、なの?」

 

「そうだ。だからお前も気を付けた方が良いぞ。・・・・・・ってか、そろそろ学校行こうぜ。時間やばそうだし」

 

 腕時計を見ると、時刻は7時50分を指していたのだ。

 俺たちの通っている学校は8時までに登校しなければ遅刻扱いとなってしまう為、今はかなり時間ギリギリである。

 

「ってか、ここからじゃ確実に遅刻になっちまうな」

 

「それでも、授業には間に合うし良いんじゃないの?」

 

「い~や。間に合ったとしても校門前には遅刻にうるさい脳筋系体育教師が待ち構えてるだろ。アイツの説教時間を考えると授業に間に合わないぜ。・・・よっと」

 

 俺は単純な時間計算をして、安藤を抱き上げる。

 いわゆるお姫様抱っこと言われる形だ。

 

「は? はへ?」

 

「走るぞ。舌噛まねぇように口は閉じてろよ」

 

 俺は安藤にそう言うと同時にガキの自転車を投げ捨てたドブに沿って作られた落下防止用の柵に足を掛けると、思いっきりドブを飛び越える。

 ドブを飛び越えた先は少し坂になっていて、ここの下の道は学校への近道になっているのだが、そこへ降りる為の階段は安藤と会った場所からかなり離れているので、ここから直接降りる方が早いのだ。

 坂を滑るのではなく、もはや飛び降り、着地すると同時に俺は駆け出す。

 安藤は必死に口を閉じて舌を噛まないようにしながらも上げられない悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 地面に倒れ伏して気を失っている小学生の隣に一人の少女が座る。

 その視線の先には短い茶髪の少女を抱いて走る特徴のない平凡な顔の少年の姿があった。

 少女は小学生の方を見て言う。

 

「キミ、結局失敗しちゃったね。まあ、そうなるとは思ってたけど。・・・・・・サイフが無ければクリスマスの予定も難しくなるだろうし、そうすれば『アレ』も早目にできると思っていたんだけどね。ふむ。しかしキミは派手にやりすぎた。・・・・・・・・・よし、決めた。キミは性格が歪むように“調整”してあげよう。初めての事だから慎重に時間を考えて、2年あればいいかな? 自分のチカラを過剰に考えて自らを神だと思い込む犯罪者特有の性格に、ね。そうだ。あと、厨二感満載な事が好きなようにするのもいいかも」

 

 その顔はニタリと笑顔を浮かべていた。

 美しく妖艶で、それでいて不気味な笑顔を。




仮面ライダークウガより始まった平成ライダーシリーズが終わりを迎えました。
様々な仮面ライダー(ヒーロー)たちの出会いや別れ、そしてそこには多くのドラマがありました。
それは私たちに感動と進む勇気をくれました。
どんなに辛い事があっても、彼らの物語が先へと踏み出す力をくれました。

だからこそ言いたい。

ありがとう。平成ライダー。
アナタたちの物語が今の私を作ってくれています。


そして、ようこそ。
令和ライダーたち。
アナタたちの物語を心から楽しみにしています。



追記:オーマジオウかっこよかった。


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65話 『大宮さとしの物語⑰』

今回少し短めです。


「ふぃ~、ギリギリ到着したぁ」

 

 俺はそう言って校門を抜けると同時に安藤を下ろし、地面に倒れ伏す。

 時刻は7時59分。

 ギリギリのところで校門を潜り抜ける事ができた。

 校門の方に視線を向けると、脳筋系熱血体育教師が門を閉めて遅刻した生徒を炙り出して行く。

 この学校の生徒は『優等生』『普通』『素行不良』『着崩し不良』『不良』の5種類に別けられる。

 ちなみに俺は『素行不良』だ。

 今、校門前で脳筋系熱血体育教師にシメられているのは『不良』に該当するヤツらだ。

 毎日のようにシメられているのによく懲りないなと思う。

 息を整え、ゆっくりと立ち上がると視界の端で動いているモノに気が付いた。

 そちらの方へ視線を向けると、神虎龍がフェンスをよじ登って敷地内に入ろうとしていたのだ。

 俺と神虎龍の視線が合う。

 数秒の静寂。

 

「何やってんだオマエ」

 

「遅刻しちまったから誤魔化そうと思ってな」

 

「・・・・・・そォいえば、テメェも『あの事件』ではある意味では加害者側だったな」

 

 俺の言葉にタラタラと額から汗を流す神虎龍。

 慈悲は与えない。

 そもそも、今まで何もなく過ごしていた方が変だったのだ。

 脅されていたとはいえ、それでもコイツが実行犯だった。

 

「さて、覚悟はいいか?」

 

 俺の言葉に神虎龍は滝のように汗を流す。

 それを見ながら俺は二コリと笑顔を見せてから息を大きく吸い込む。

 

「先生~~!! 遅刻した生徒がフェンス乗り越えようとしてま~~す!!!!」

 

「ぬぁぁああああにぃいいいいいいい? どこだぁぁあああああ!!!」

 

 脳筋系熱血体育教師はとんでもない顔でこちらへと飛んできた。

 その隙に遅刻した不良たちがソッとその場を離れているのが見えたが、気にしないでおく。

 神虎龍はフェンスを飛び降りて逃げようとしたが、脳筋系熱血体育教師にあっさりと捕まってしまっていた。

 俺はそれを確認してから下駄箱の方へと足を進める。

 後ろからはヤツの叫び声が聞こえてきているが、それをまるっと無視してやった。

 

 

 

 

 

 

 今日は一人で帰宅する。

 向かう先は安藤と旅行の打ち合わせをした俺行きつけのファミレスである。

 最近はモンスタークレーマーのせいで店員どころか客すら逃げてしまっていていよいよピンチだという。

 ファミレスに到着して最初に感じたのは雰囲気の暗さであった。

 店内はどんよりと重い空気が立ち込めていて、入っただけで陰鬱になりそうである。

 俺はとりあえずバイトの“渡辺(わたなべ) (とおる)”くんから話を聞く。

 

「あの人は、そのですね、とにかく何でもケチをつけて騒いで暴れて手につかなくなるんです。この前なんか、僕の髪質が気にくわないと言われて殴られました」

 

「もはやケチの付け所にどうツッコミを入れればいいか分からん」

 

「す、すみません。特質な例出しちゃって」

 

「いや、君を攻めている訳じゃない。ただ、そのモンスタークレーマーの頭の中を解剖して覗いてみたくなっただけだ」

 

 俺はそう言いながらメモに視線を落とす。

 クレームの内容を聞き出してから約2時間は経過し、メモ帳に記されているクレームの種類は100を超えた。

 ホント、逆によくここまでのクレームが思いつくものだ。

 感心したくはないが、別の意味で関心出来る案件だ。

 俺は神虎龍たちに集めてもらった資料と、モンスタークレーマーの資料を読み漁る。

 “神谷(かみや) 王仁(おうじん)”。

 経歴は元・プロボクサーで、試合目前のある日、酔っ払い一般人に暴行を加え逮捕、その後プロを引退した。

 現在はDVパチカスサイマーで、『とある家庭』でヒモ生活を送っている。

 その家庭の苗字は『安藤』。

 ・・・・・・そう。

 アイツの家だ。

 どうやら、この店の問題とアイツの抱えるモノ。

 それを同時に解決できるみたいだと考えることができればまだ良いのだが、相手は元とはいえプロボクサーだ。

 もしも殴り合いになれば勝てる見込みはない。

 俺が俯いて悩んでいると、恐る恐ると言った様子で渡辺くんが声をかけてきた。

 

「あの、顔怖いですけど大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。ちょっと考え事をしてたんだ。ごめんね、変に心配かけちゃって」

 

 俺はそう言ってメモ帳を閉じた。

 外を見ると、ポツポツ冷たい雨が降り出していた。

 まるで、この先の道を表しているかのように。

 

 

 

 

 

 

 裏社会で『サクラ』という二つ名で呼ばれる少年がとある戦いをジッと見つめる。

 その視線の先では白い戦士と黄金の戦士が繰り広げる戦場があった。

 少し前までは白い戦士が不利だったが、いきなり黄金の戦士を圧倒しだしたのだ。

 サクラが戦いに介入しようと立ち上がった瞬間、後方にいきなり敵意のある気配が現れた。

 そして、それと同時にある音声が聞こえてきた。

 

《割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オラァ! キャー!》

 

 振り向くとそこには紫色の戦士・・・・・・仮面ライダーローグが立っていた。

 

「確か、“賢王雄”だっけ? 『ファウスト』幹部の。私に何の用かな?」

 

「オマエがオレの友達の決意の邪魔をしようとした。オレはアイツの過去を知らないし、その決意がどれほどのモノかも分からない。だけど、それは部外者が横槍を入れちゃいけねぇって事だけは理解できる。だから、オレはオマエを止める」

 

「ふ~ん。良い考えだね。でも、『私の計画』の為には“機鰐龍兎”が必要なの。だから、ここで死なれちゃ困るのよ」

 

 サクラはそう言ってライトグリーン色の“あるアイテム”を取り出した。

 

「っ!? それは・・・」

 

「見覚えがあったのかな? まあ、何でもいいや。“コレ”はI・アイランドで手に入れた力でね。まだ完全に慣れては無いけど、キミが相手ならこれを使った方が良いよね」

 

 サクラはローグをあざ笑うような笑みを浮かべながらそのアイテム・・・『ガシャコンバグヴァイザーⅡ』を腰に装着した。

 

《ガッチャーン!》

 

「さあ。ゲームスタート」

 

 サクラはそう言ってピンク色のガシャットに軽く口づけをする。

 そして、そのガシャットのスイッチを押して起動させる。

 

《ときめきクライシス♪》

 

 瞬間、サクラを中心にゲームエリアが広がる。

 サクラはガシャコンバグヴァイザーⅡのAボタンを押して待機状態にすると同時に、ガシャットを差し込む。

 

《ガシャット!》

 

「変身」

 

《バグルアップ! ドリーミングガール♪ 恋のシミュレーション♪ 乙女はいつも ときめきクライシス♪》

 

 そんな音声と共にサクラの体が淡い光に包まれる。

 そして、その光が空に消えるように無くなると同時に『仮面ライダーポッピー』への変身を完了させた。

 

「さて、行くよ」

 

 ポッピーはガシャコンバグヴァイザーⅡをビームモードにして構える。

 それを確認したローグはネビュラスチームガンとスチームブレードを取り出し、迎え撃つかのように構える。

 

「ねえ、一つ質問いいかな?」

 

「・・・・・・なんだ?」

 

「キミ、機鰐龍兎よりも強いのになんで彼の下についてるの? キミの力なら彼を一瞬で殺す事くらい簡単でしょ?」

 

「ああ、簡単だろうな。だけど、勝てる気がしないんだよ。どれだけの名刀を使っても、神話級の武器を使用しても、アイツには届かない・・・そんな気がするんだ。龍兎はそう思えるような“何か”を持っているんだよ」

 

「なるほどね。確かに、彼にはそう思える“何か”があるね。だから、彼に託しているんだけど♪」

 

 ポッピーはそう言って腰を落とし、体重を前に傾ける。

 

「行くよ」

 

「来な」

 

 瞬間、二人の仮面ライダーがぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 安藤よしみはポツポツと雨が降る中、折り畳み傘をさして夜の道を歩く。

 朝、少年にお姫様抱っこをされ、時間が経ったにも関わらずまだ心臓はドキドキしていた。

 一緒に旅行に行ったり、そこで一緒に温泉に入ったり、お姫様抱っこされた時なんて彼の顔が至近距離にあり、恥ずかしさを抑えるだけで精一杯であった。

 彼と一緒にいるとドキドキする。

 暇があれば彼の事ばかり考えている。

 家に帰るのは嫌なのだが、彼といれば嫌な事も、辛い事も乗り越えられる気すらしてくる。

 そんな気持ちに包まれながら歩いていると、進行方向に誰か立っていた。

 

「・・・・・・えっと、確か」

 

「ウチは“纐纈真輝”。さとしと運命の糸で繋がった存在」

 

 纐纈真輝はそう言ってニヤリと笑う。

 その言葉を聞いた安藤よしみは眉をピクリと動かす。

 

「運命・・・?」

 

「そう。彼とウチは光と影。互いが互いを必要とし、片方がいなくなれば駄目になってしまう存在」

 

「何が、言いたいの?」

 

「アンタ、さとしの事好きでしょ?」

 

「だから何だって言うの? アナタには関係ない」

 

 そう言って睨む安藤よしみを見ながら、纐纈真輝は表情を崩さない。

 その顔は美しく整っていて、まるで人形のようにすら思えた。

 

「ウチのファーストキスの相手はさとし。さとしのファーストキスの相手はウチ。彼とウチはそういった関係なの」

 

「どういう事!?」

 

「そのままの意味。ウチとさとしは何度もキスをするほどの仲なの。・・・アナタが彼の事をどう想おうと、見てもらえないのはそういう事なの」

 

「ッ・・・・・・!!」

 

 突然の事に言葉を詰まらせる安藤よしみ。

 それを余所に纐纈真輝はゆっくりと距離を詰める。

 そして、安藤よしみの頭にソッと手を置き、その手をゆっくりと頬へと下げていく。

 安藤よしみの頬に手を添えてから、顔を近づけて耳元で囁く。

 

「彼に、離れて欲しくないんだよね。彼に、振り向いて欲しいんだよね。彼を、“自分の物”にしたいんだよね」

 

「えっ・・・あ・・・・・・」

 

 優しく、そして、ねっとりと絡みつくような声。

 それに困惑している間にも言葉は続けられていく。

 

「彼にどこにも行ってほしくないなら方法を考えてみようよ。何があっても自分しか見ないようにするために、ね」

 

「何が、あっても・・・・・・?」

 

「そう。何があっても、だよ。離れずにいてくれるようにするの。そうすれば・・・・・・」

 




ゼロワンはカッコイイ。
異論は認めん。


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66話 『大宮さとしの物語⑱』

大宮さとし、書いていくたびにドンドンとんでもない人間になっていくorz

いいか?
一応言っておくぞ。
『大宮さとし』は普通の中学生です。

なお、今回は(少し)日常回となってます。


 あれから数日が経過した。

 クリスマスも近づき、リア充が盛り上がりだす。

 俺含む非リアはそれを妬みクリスマス撲滅計画に取り組む。

 現在いる場所は使われていない空き教室。

 カーテンを閉じ、光の入る場所にはダンボールを張り付けて暗闇。

 明かりはロウソクランプ四つだけだ。

 

「っと、言う事で。『リア充撲滅専用クリスマス崩壊水爆弾』の開発に成功した」

 

 俺の言葉にメンバーがどよめく。

 そんな中、三塚四郎がスッと手を上げて言う。

 

「それは、本当なのですか?」

 

「ああ、コレが完成品だ」

 

 俺はそう言ってテーブルの上に水風船を置く。

 手のひらサイズでしっかりと掴めそうな手ごろの大きさ。

 中は水で満たされていて、置いた時の振動でタプタプと震えている。

 

「これが、最新型の水爆弾・・・」

 

 メンバーの一人である宮本吹清はそう言って唾をゴクリと飲んだ。

 だが、同じくメンバーの一人である時雨万汰が苦い顔で静かに言った。

 

「確かに。水爆弾は脅威だろう。だけど、天気予報によるとクリスマスの日は乾燥はしているものの気温は高く水爆弾程度では大きな痛手とはならないでしょう。そこはどうする気なのですか?」

 

「フフフッ。良いところに気が付いたね。・・・・・・この水爆弾を見て気が付いた事はないかな?」

 

「気が付いた事?」

 

 メンバーの一人である清村空がそう言って腕を組み呻る。

 俺は水爆弾を皆が手に取れる位置へと移動させる。

 時雨万汰は静かに水爆弾をつつく。

 そして、言った。

 

「これ、水じゃない・・・」

 

 その言葉に驚きを露わにするメンバー。

 俺はニヤリと笑いながら言う。

 

「そう。これの中身は期限切れで廃棄しないといけない牛乳だ。ただでさえ期限切れのせいで悪くなっているのに、これが乾燥したら一体どんなことになると思う?」

 

「な、なるほど。牛乳は乾燥するとかなり強い臭いを出す。しかも、その臭いは落ちづらい」

 

「何て強力な武器なんだ。これで今年のクリスマス破壊の成功率は高まるでしょう」

 

 三塚四郎がそう言って「フフフフフ」と不気味な笑みを浮かべると同時に、俺の後方で扉がけ破られる音がした。

 振り向くと神虎龍が顔を真っ赤にして立っていた。

 恥ずかしがっている方の赤ではない。

 あれは、怒りで真っ赤になっているのだ。

 

「おい、どうした?」

 

「これ、なんだよ・・・・・・」

 

 神虎龍はそう言ってある新聞を取り出す。

 それは、新聞部が発行している校内新聞の裏記事である。

 校内新聞は二種類あり、学校であったことを取り上げて下駄箱近くの掲示板に貼られる物と、生徒の間で配られる裏新聞とよばれる物があるのだ。

 裏新聞にはゴシップや誰かの秘密が多く書かれている。

 ここに書かれようものならしばらくは晒し者にされてしまうのだ。

 そして、神虎龍の持っている裏新聞には彼の小学生時代の恥ずかしい過去の特集である。

 そして、状況提供者の欄にある名前は・・・・・・。

 

「おお。この学校に俺と同姓同名のヤツがいたんだな。偶然ってすごいな」

 

「苗字は同じでも名前が一緒のヤツはいねえよ。しらばっくれるなカス」

 

 どうやらバレてしまったらしい。

 俺は唯一鍵を開けておいた窓を開いて身を乗り出す。

 

「待て!」

 

「待てと言われて待つバカがどこにいる。フハハハハハ。さらばだ!」

 

 俺は窓から飛び降りる。

 ここは三階。

 この程度の高さならギリギリ飛び降りられる高さなのだ。

 

「このヤロウ!!」

 

「へっ。お前の弱点は、その巨体のせいで高いところから飛び降りれない所だ。飛び降りたが最後、膝への負担は想像を絶するモノになっちまうからなぁ。ンじゃ、いい夢見ろよぉ!」

 

 そう言うと同時に駆け出す。

 後方から神虎龍の叫び声が聞こえてくるが、それをまるっと無視していく。

 こう少しふざけて、バカみたいな事をする。

 きっと、これがいわゆる青春というヤツなのだろう。

 この一時(ひととき)の、刹那の楽しさが俺の安らぎである。

 それでも、まだやる事がある。

 この楽しさを心に仕舞い込み、俺は前を向く。

 それがどんな茨の道でも、苦痛を味わう選択だろうと、俺はこの日常を守る為に進む。

 誰一人、欠けて欲しくないから戦う。

 さあ、そろそろ肩を温めておこう。

 今回は、今までの戦いの中でトップクラスにヤバいことになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 クリスマス前日、2014年12月24日水曜日。

 俺は今追われている。

 明日、安藤と出かける予定がある事を非リア部隊に知られた結果、彼らが俺の開発した最新型水爆弾を片手にド怒り顔で俺を追いかけている。

 一応、非リア部隊のメンバーは体育祭の本選に出場するほどの実力者である為、複数人を相手に正面から戦うのは無謀である。

 だから、逃げるのだ。

 まあ、ウォーミングアップにはなれそうだ、と前向きに考えておく。

 

「さてと。明日の予定を整理しないt・・・ッブネェ!」

 

 俺は飛んできた水爆弾を姿勢を低くすることで避ける。

 多少、体に牛乳が付いてしまったが、直撃しなかったのでセーフとしておく。

 

「フッハッハッハッハッハ! 俺の隙を突こうなんて5万光年早いぜぇ!」

 

「光年は距離の単位だろうが!!」

 

 的確なツッコミ。

 良いセンスだ。

 なんてふざけている余裕はあまりなく、俺は投げつけられる水爆弾を避けて逃げていく。

 何か関係ないヤツに被害が広がって行っているが、気にしないでおく。

 廊下を曲がると、その先にまた別のメンバーがいた。

 ヤバいと思って引き返そうとするが、その方向にもまた別のメンバー。

 完全に挟まれてしまった。

 俺は窓を開いて飛び降りる。

 だが、着地した先にも別のメンバー(ハンター)

 

 逃走中~史上最低の非リアから逃げきれ~

 

 きっと、タイトルを付けるならこうなるだろう。

 俺は着地の衝撃で少し痺れている足を無理矢理動かして水爆弾を回避する。

 瞬間、俺が先ほどまでいたところに水爆弾が叩きつけられた。

 っぶねぇ・・・・・・。

 俺は再度全力で駆ける。

 向かう方向にいるのは、まだ怒り状態の神虎龍である。

 こちらには気が付いていないらしく、ズシズシと歩いている。

 それをいいことに、俺は神虎龍の背中を踏みつけてジャンプする。

 

「ウグォッ!」

 

「スマンな、虎龍! 助かったぜ」

 

「なっ! ふざけんなぁぁああああ!!」

 

 俺は二階ベランダ型渡り廊下の柵を掴み上がる。

 神虎龍を踏み台にすれば二階ぐらいの高さなら飛び乗れる。

 

「俺を簡単に捕まえられると思ったら大間違いだz・・・ウグフォ!」

 

 格好つけていた所、後ろから首根っこを掴まれた。

 ゆっくり振り向くとそこには・・・・・・、

 

「何をやっているんだ? 大宮」

 

「や、やあどうも。夏熱(かねつ)先生」

 

 熱血系脳筋体育教師がいた。

 

「ずいぶんと暴れてたみたいだなぁ」

 

「いやぁ、その・・・。アイツらが襲ってきたので逃げてたんですよ」

 

「そうか。詳しい話は職員室で聞くからな」

 

「いやだぁぁあああああああ!!!」

 

 抵抗をするが、流石は元オリンピック柔道銀メダリスト。

 パワーが半端じゃない。

 どれだけ抵抗してもそれは無駄に終わり、俺の体は職員室の扉(ヘルゲート)を潜り抜けてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 結局、アイツら共々こっ酷く叱られたあげく水爆弾は没収された。

 設計に2分開発に1分も掛けたのに・・・・・・。

 まあ、いいか。

 材料さえあればいくらでも生産可能だ。

 ただ、流石の俺も雷を落とされたら落ち込む。

 ガックリと肩を落としてトボトボと帰路につこうとすると、校門のところに見知った顔の人物がいた。

 

「よぉ、虎龍」

 

「よぉ。・・・・・・さっきはよくも踏み台にしてくれたな」

 

「それぐらい気にするなよ。相棒」

 

「誰が相棒だ。・・・で、証拠はこれで十分か?」

 

 神虎龍はそう言ってファイルを手渡してきた。

 俺はそれを受け取り中身を確認する。

 そして、言う。

 

「これだけあれば十分だな。だけど、これが気になる」

 

 俺は資料の一部、漏れ聞こえて来ていた電話での話に指をさす。

 

「この、『いい商売』ってのは何だと思う? 俺は以前、似たような事があるから思いついたぜ」

 

「・・・『いい商売』? いや、分からない」

 

 そう言って首をひねる神虎龍。

 俺は、神虎龍の目をジッと見ながら静かに言う。

 

「これは、コイツは、『不将協会(ふしょうきょうかい)』と繋がっている。こればっかりはちと面倒くさい」

 

「なんだ、その『不将協会』ってヤツ」

 

「東京を中心にこんな片田舎にまで根を広げている裏組織。武器の密輸から販売、及び“奴隷の販売”だ」

 

 俺のその言葉に神虎龍は言葉を詰まらせる。

 だが、俺はそれを気にすることなく言葉を続ける。

 

「ただ、これは不幸中の幸いだ」

 

「不幸中の幸い? どう言う事だ?」

 

「この組織に俺は貸しがある。上手く言えば追い込みに使える」

 

「いやいやいやいやいや! ちょっと待てぇ! 何でそんなヤバそうな組織にツテがあるんだよ!」

 

「あん? しばらく前に別組織である『柵詩(さくし)』って所と『不将協会』が抗争になっていた時、少し介入して『柵詩』を崩壊させたんだよ」

 

「それは、“ちょっと介入”ってレベルを超えてるぞ」

 

 神虎龍は呆れたよう言う。

 だが、それ以上に不思議そうな顔をしている。

 それはそうか。

 こんなただの学生がそんな事をしているなんて誰も思わないだろう。

 

「いやぁ。まさか通りすがりに道に捨てられていた人が幹部だとは思わなかったよ」

 

「スマン。状況が理解できない」

 

「できなくていいよ。とりあえず、そのツテを使ってより情報を聞き出してみる。最悪、この糞男の計画も聞き出してみる。お前の義父はたしか警察官だろ? 俺は裏から、お前は表から、二方向から一気に追い詰めるぞ」

 

 俺はそう言って神虎龍の返事を聞くことなく帰路とは違う道に足を向ける。

 そんな俺に掛けられた言葉は短い一言だった。

 

「お前、寝てるか?」

 

「・・・・・・多少な」

 

 それだけを答えて足を進める。

 実際、ここ数日、ロクに睡眠を取っていない。

 忙しすぎるというのもあるが、やはり、一番は学業と非日常の両立のためには睡眠時間を削るしかないのだ。

 だが、あと1ヶ月もすれば事件を解決できるだろう。

 そうすればいくらでも眠り放題だ。

 だから、それまでは突っ走る。

 ・・・・・・ただ、それだけだ。

 

 

 

 

 

 

「って事で、“神谷 王仁”を叩き潰したいから全面的に協力して欲しい。頼める?」

 

「いきなり来てなんだよ、オイ。『って事で』って、お前まだ何も言ってないだろ」

 

 俺の言葉にそう悪態をついたスキンヘッドにサングラスの男は“積田(つみだ) 真造(しんぞう)”。

 不将協会の幹部兼この街にある支部のリーダーだ。

 以前、俺が助けた一人でもある。

 俺は積田さんに今まで集めた資料を見せる。

 

「・・・・・・これは、」

 

「そう。神谷王仁に関係するモノだ。・・・・・・積田さんも分かるだろ? 纐纈のヤツがこの件に関わってる」

 

「ッ!?」

 

 纐纈の言葉を聞いて積田さんの顔が険しくなる。

 ・・・・・・前の抗争の時、纐纈が現場を引っ掻き回し、同士討ちをさせって“確認できているだけでも8人”が死んだ。

 その中には積田さんが信頼していた友人もいた。

 だが、纐纈がしたのはただの『お話』なのだ。

 その『お話』で現場の人間が勝手に暴走をしただけで、纐纈を攻める手立てが無いのだ。

 それでも、この組織での纐纈の扱いは最重要危険人物なのだ。

 だから、アイツの名前が出るという事はこの組織からしても重い腰を上げないといけない危機になるという訳である。

 

「この神谷王仁が“売ろうとしている”少女が今、纐纈が『ターゲット』としている人物だ。この意味、分かるよな?」

 

 俺の言葉に、前の『ターゲット』でもあった積田さんは顔を強張らせる。

 

「なるほど。だから、俺たちに手を貸してほしい、と」

 

「そう。っと言ってもただコイツとの取引を断って、さらに他の組織と取引できないようにしてもらえるだけで良い。後は俺と警察で何とかする」

 

「ハッ! まだ二十歳にもなってねえ若造がよくそこまで言うな。何、警察と自分を同列かのように言っているんだ?」

 

「俺は、俺自身を駒として最大限利用するんだ。これぐらい強気じゃねえと駄目だろう」

 

「なるほど。・・・・・・まあ、お前には大きな借りがあるからな」

 

 積田さんはそう言って隣にいた部下に命令を下す。

 そして、部下が持って来た杖を使ってゆっくりと立ち上がった。

 前の抗争で積田さんは命は助かったモノの、足に重い障害を負ってしまった。

 今では杖無しでは歩くことも立ち上がることもできない。

 

「それで? お前の事だ。何か用意した方が良いんだろ?」

 

「・・・・・・ああ。小型で片手だけあれば簡単に使える■■■■■が欲しい。まぁ、万が一の為の切り札だ。その程度なら良いだろ」

 

「なんだ。その程度で良いのか? “S&W M&P”程度なら今すぐにでも用意できるぞ」

 

「ンな物を持ってたら銃刀法違反でしょっ引かれるわ」

 

「オイオイ、お前が注文した物も軽犯罪法の1条2号に当たるぞ」

 

「正当な理由があるから問題なし」

 

 俺はそう断言する。

 それを聞いた積田さんは「クックック」と笑う。

 

「分かった。明日中には届けるよ。だから今日はもう帰れ。これから大切な取引があるんだ」

 

「OK。それじゃ、頼んだよ」

 

「おう。大人に任せとけ」

 

 俺は積田さんのその言葉を聞いてからソファーから腰を上げる。

 そして、事務所から出て帰路につく。

 これでヤツは逃げ道を失っていくだろう。

 表も、裏も、全面的にヤツを追い詰めていく。

 後はもう一押し完全に叩き潰せる証拠を掴めれば作戦決行だ。

 




コンセレブレイバックル届いてそれで遊びまくってます。

そのせいで次回の投稿が遅くなるかもしれませんがご了承ください。
私は悪くない。
コンセレが優秀過ぎるのが悪いんだ。


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67話 『大宮さとしの物語⑲』

ドタバタハチャメチャ日常回。


 2014年12月25日。

 ついにクリスマスがやってきた。

 しかも期末テストが来ている為、お昼で学校は終わる。

 だからさっさと帰ろうとしていた時にヤツらに見つかってしまった。

 そして昨日と同様に逃走中である。

 

「著作権違反だぞテメェらぁ!!」

 

「「「「「「「知るかクソリア充野郎!!!!」」」」」」」

 

 いつの間にか水爆弾の設計図を盗まれていたらしく、昨日の今日で大量に作って来やがった。

 本当に著作権違反で訴えてやろうかとも思ったが、別にそれで何か儲けを出しているわけでは無いので訴えることはできない。

 俺は中校舎二階のベランダを駆け抜ける。

 その先は当たり前だが行き止まりで逃げ道なんてない。

 だが、それは普通の考えでは、だ。

 俺にはしっかりと逃走ルートが見えている。

 加速をつけると同時にベランダの端、つまり、行き止まりになっている所から一気に飛び出す。

 

「I Can Fly!!」

 

 跳んだ先にあるのは中庭で一番大きな木で、下にあるベンチではリア充たちがイチャイチャしていたのでこれは好条件であった。

 俺が気に飛び乗った瞬間、下がざわつき、次の瞬間には悲鳴が上がった。

 非リア部隊が下にいるリア充に標的を変えたのだ。

 枝につかまった状態のまま下を確認すると、リア充たちの下へ水爆弾が叩き込まれて行っている。

 俺はそれを確認すると同時に、非リア部隊に気付かれないように木から降りてその場を離れる。

 振り向くとリア充たちの屍が山となっていた。

 そして、二階のベランダにいた非リア部隊は脳筋系熱血体育教師に取り押さえられていた。

 フッ(不敵な笑み)。計画通り(不気味な笑み)。

 非リア共の悲鳴が聞こえてくるが、俺はそれをスルーして、その場を去る。

 俺に勝とうなんぞ5百光年早いわ。

 

 

 

 

 

 

 放課後(先ほどの出来事から十数分後)。

 校門前で学校へ持って行くことを禁止されているスマホをいじる。

 禁止されていると言っても結局表面上だけであり、持って来ている生徒が大多数だ。

 ちなみに、持って来ていない生徒は『優等生』に含まれる者たちだ。

 しばらく暇だろうと思い、ソシャゲのガチャを引いては爆死して落ち込んでいると、ようやく安藤が来た。

 

「体育座りして体中から不のオーラ全開に出してどうしたの?」

 

「100連ガチャしてクソザコナメクジしか出なかった」

 

「運ないわね」

 

「ヤバイ時にはクソみたいに運が回ってくるんだけどな・・・・・・」

 

「そこに運を使い過ぎているのよ。反省しなさい」

 

「辛辣だなぁ」

 

 俺はそう言って苦笑しながらゆっくりと立ち上がる。

 そして、それと同時に不穏な気配を感じた。

 背筋にゾクゾクと冷たいモノが走る。

 これを俺は知っている。

 知っていなければならないし、知りすぎているともいえる。

 そう。

 これは、この気配は。

 

「安藤。纐纈と最近会ったか?」

 

「ううん。廊下ですれ違うぐらいで全く会ってない(・・・・・・・)

 

「そうか。ならいいんだが」

 

 俺は胸をなでおろす。

 最近、色々な事が起こりすぎて気が張っていたのだろう。

 無駄に勘ぐってしまったようだ。

 

「それじゃ、とりあえず駅前のゲーセンで遊ぶか」

 

「お金はあるの?」

 

「ああ。あるよ」

 

 俺はそう言って財布を取り出し、振る。

 安藤は不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「なんで振ったの?」

 

「なんとなくだ」

 

 俺はそう言って財布をポケットにしまう。

 

「そんじゃ、行こうぜ」

 

「えぇ」

 

 安藤はそう返事をして俺の後に続く。

 ただ、この日は何故か体が常時警戒状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず向かったゲーセンで店長の鳴き声が響く。

 なぜかって?

 フッフッフッフッフ(不気味な笑い)。

 それはな、

 

「ほい、また取れたぞ」

 

「なくなっちゃってるじゃん」

 

 安藤が呆れたような表情でそう呟く。

 そう。なくなっているのだ。

 俺はクレーンゲームが得意で、その気になれば筐体内の商品は全て取れる。

 と言ってもしっかりとコツが存在する。

 まず、500円は捨てる。

 それでアームのばねの強さを測り、重点・力量・重力等を計算して取れるか否かを判別する。

 取れると判断できればそこに金をつぎ込むだけ。

 意外とこれが上手くいくのだ。

 何だっけな、確か【作者本名な為割愛】とかいうよくわからんメガネ野郎がよく実践してた。

 使わねぇヘッドホン三つとPCのマウス二つと時計を2000円くらいで取ってたな。

 何の為に金を入れたのだか・・・・・・。

 

「この店はバネをクソ弱くして取れなくすることがないから穴場なんだよ」

 

「そのせいで店長が苦しんでるじゃん」

 

「大丈夫じゃない問題だ」

 

「ダメじゃん」

 

 実際、クレーンゲームの筐体内の商品は原価800~1000円以内の物しか入っていないので、店にそこまで損害はないのだ。

 つまり、大丈夫だ問題ない。

 

「まっ、いい感じに取りつくしたし、次のところ行くか。・・・・・・どこか行きたいところある?」

 

「お昼だしさ、どこか食べに行こ」

 

「そうだな。・・・・・・これはコインロッカーにでも入れておくか」

 

「逆に、どうして持ちきれないほど取ったのカナ?」

 

 安藤はまた呆れたようにそう言う。

 今日だけでどれだけ呆れられたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ここで良かったのかよ」

 

「いいの」

 

 安藤はそう言ってハンバーガーを頬張る。

 駅のロッカーに荷物を預けてから安藤の後に続いて行くと、自然な流れでマクドナルドに入った。

 この付近には普通にファミレスもあるし、ちょっとお高いけど知り合いの寿司屋もある。

 そっちでも良いと言ったが、安藤はここがいいらしい。

 

「なんでここが良いんだ?」

 

「・・・・・・覚えてないの? 初めての」

 

「? 何かあったっけ? 最近忙しくてちょっとした事は覚えてないんだよ」

 

「っ。そ、そうなんだね・・・・・・」

 

 安藤はそう言って俯いた。

 どうしたのかと思い話しかけようとした瞬間、コトッと俺たちが向かい合って挟んでいた机に白い箱が置かれた。

 バッと周りを見るが、置いた人物はもういなくなっていた。

 ・・・・・・あの野郎。

 

「ね、ねえ。この箱って?」

 

「ああ、きっとナナシの野郎のヤツだろうな」

 

「ナナシ?」

 

「この街に住む闇のブローカー。多分、もしもナナシが俺を殺しに来たら気付かないうちに殺されるだろうな」

 

 俺はそう言ってシェイクに口をつける。

『ナナシ』本名年齢共に不明。

 ほとんど姿を見た者はおらず、ただの噂と捉えている者も多い。

 この街の裏で動くのだとしたら関係を持っておいた方がいい人間第一位である。

 気配を完全に消すことが可能で、後ろにいられても気付ける者はまずいないだろう。

 ただ、金さえ払えば確実に仕事をこなしてくれる為に俺もちょいちょい依頼をしている。・・・・・・めちゃくちゃ金取られるけど。

 

「ま、気にするな。それよりちゃっちゃと食って別のところ行こぜ」

 

「・・・・・・うん。そう、だね」

 

 安藤の様子が変なことはすぐに気づいた。

 だが、それが一体何なのかは判断が付かなかった。

 

 もしも、ここで気付く事が出来ていれば。

 もしも、しっかりと話を聞いていれば。

 あんな事にはならなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 マクドナルドを出て俺は先ほどの白い箱を開ける。

 やはりというかなんというか、積田さんに頼んでおいたスタンガンだった。

 しかも、ただのスタンガンじゃない。

 ちゃんとした裏業界の専門家の手で違法に改造された代物である。

 よく見ると持ち手部分に傷があり、俺が以前使った物と同じものであることが分かった。

 俺はそれをポケットにしまい込み、安藤に声をかける。

 

「どこ行きたい?」

 

「ん~。カラオケとかどうかな?」

 

「カラオケ、か。いいな。確かここら辺にジョイサウンドあるからそこ行こうか」

 

 あまりいい思い出はないけど・・・。

 

「なんか顔青いけど」

 

「いや、これは、思い出し恐怖というやつだ」

 

「そんな思い出し笑いみたいな・・・・・・」

 

 しょうがないだろう。あそこの一室で殺されかけたんだから。

 などという言葉は飲み込み、俺はジョイサウンドへと足を向ける。

 安藤も追及してくる事はなく、俺の後に付いて来た。

 ジョイサウンドの受付にいた兄ちゃんは知らない人で、どうやら『あの一件』の後に入った人らしい。

 空いている部屋は一室だけで、そこはお勧めしないと言われたので聞いてみたところ、確かにお勧めできない部屋であった。

 ただ、いつ空くか分からない部屋を待つよりもそこに入った方がいいと判断し、実際嫌だったがその部屋に向かった。

 大人数用の部屋で、二人で使うには広すぎるのだが、まあ、しょうがない。

 

「受付の人顔青かったね。どうしたんだろ?」

 

「まあ、しばらく前にここで人死んでるからな」

 

「・・・・・・何で普通にそんな所に客を案内するのかな?」

 

「知らねぇ」

 

 俺はそう言って椅子に座る。

 部屋は暗くよく見ないと分からないが、まだ血痕が残っているし、壁に掛けてある絵の後ろにはまだ弾痕が残っているだろう。

 ・・・・・・そう。

 ここは『不将協会』と『柵詩』の抗争が起こった場所の一つである。

 死者一名、重軽傷者3名。

 それがこの部屋での犠牲者である。

 偶然ココの隣の小部屋で一人カラオケしていた時に巻き込まれたのは嫌な思い出である。

 もう二度とあんな巻き込まれ方したくない。

 そんなことを思いながら部屋の端をチラリと見ると、盛り塩が置かれていた。

 ・・・・・・あからさま過ぎるわ。

 もう少し隠せよ、と思いながらも気付かないフリをして曲を選択する。

 

「何にしたの?」

 

「カラオケで一発目に歌うとしたら『仮面ライダークウガ!』だと決まっているだろう」

 

「そんなこと聞いたことないヨ」

 

 安藤はそう言って深くため息を吐く。

 ただ、それ以上何も言う事無く俺の歌っている姿を眺めていた。

 やっぱりこの曲最高だわ。

 一度でいいから伝説を塗り変えてェ。

 そんなことを思いながら画面に表示されている点数を見ると、そこには[92.3点]と出ていた。

 ・・・・・・最高点には届かなかったか。

 

「ってか、お前自分の歌い曲選択制てねぇじゃん。どうした?」

 

「実はさ、カラオケに来るの初めてで、ちょっとやり方が分からないの。歌える局はいくつもあるんだけどね」

 

「そうなのか。まあ、簡単だからサラッと教えてやるよ」

 

 俺がそう言うと、安藤はゆっくりと俺の隣に座ってきた。

 ・・・・・・行こうと思ってたのに。

 とりあえず俺は軽く操作方法を説明する。

 その間、安藤は俺の方にピッタリとくっ付いていた。

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~。歌った歌った」

 

「まさか、デュエット曲を一人で完全に歌いきるとは思わなかったわ・・・・・・」

 

「へっへっへ。コツがあるんだよ」

 

 俺がそう言うと安藤はため息をつきながら、

 

「重なる部分では後を優先させるのでしょ? 聞いていれば分かるわよ」

 

 うぐぅう。

 どうやら、気付かれていたらしい。

 まあ、そうでもしないとデュエット曲を歌うのは難しいのだ。

『Time Judged all』で例えるなら、『長い眠り醒め』まで行った所で素早く『考えてる』へと移行する。

 そうすると意外とそれっぽく聞こえるのだ。

 特に『醒め』で止めるのではなく、気持ち『醒めt』をイメージするとより良し。

 

「次、どこ行くの?」

 

「ん~、そうだな・・・・・・」

 

 俺が次の行き先を言おうとすると同時にポケットが震えた。

 スマホ(マナーモード)である。

 

「スマン。ちょっと・・・・・・」

 

 俺は安藤にそう断って通話ボタンを押す。

 

「もしもし、長谷川さん。何かありましたか?」

 

『三丁目にある「あの廃墟」にまた不法侵入があったんだが、お前、何か関わってるか?』

 

 特に前置き無くそう言ってきたのは、色々な事件に巻き込まれていくうちに仲良くなった警察官の『長谷川(はせがわ) 裕也(ゆうや)』さんだ。

 この人もまた纐纈の事件に巻き込まれ酷い目に合った人の一人で、何か問題が発生するたびにこのように情報を提供する・・・・・・という名目で纐纈が関わっているかどうかを聞こうとしてくるのだ。

 もしも関わっていた場合は、速攻で逃げて何もしてくれない。

 はっきり言って警察内部の情報を教えてくれる以外では役に立たない人だ。

 

「残念。それはまったく関わってないよ。今はそれと関係ない別件解決のために今は奮闘中だ」

 

『今お前が追ってる件の詳細を教えろ。なるべく関わらんように立ち回るから』

 

「断る。そっちで勝手にやってろ」

 

 俺はそう言って通話を切る。

 この人は纐纈が関わっていない事件では有能なのに、纐纈が関わっている場合は一転してポンコツになるからあまり情報は渡したくないのだ。

 話したら確実に事件解決するまで逃げられる。

 せっかくの協力者なんだ。

 絶対に逃がす分けねェだろォがよ。

 

「どんな話してたの?」

 

「ん? ほら、三丁目にずっと放置されている廃墟があるじゃん。あそこに人が侵入して何かやってたらしい。あそこ自体チンピラがよく変な取引に使用してる場所でさ、たまに馬鹿が入り込むんだよ。で、俺が関わってんじゃねえだろうなって警察から」

 

「警察とも関りあるんだ」

 

「ああ、県警トップの性癖を知ってるからな。警察は全面的に俺の味方」

 

「性癖?」

 

「これは交渉材料だから秘密」

 

 俺はそう言って人差し指を唇につけて「シー」っとジェスチャーをする。

 いや~、しっかし。

 まさか県警トップが女性用の下着を着て仕事しているなんてなぁ。

 くっけっけくっけっけ(悪役の笑い)。

 今度どんな要求しようかなァ(完全に悪人)。

 

「それで、結局どこ行くの?」

 

「まあ、とりあえず寺まで行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 ウチの街にある寺は一部展望台にもなっていて、夜景を一望できる。

 寺まで向かっている内に日も傾いてきて、到着する頃には月が輝いていた。

 

「やっぱり、ここからの眺めはキレイだな」

 

「あまり来た事なかったけど、こうして見るといいものね」

 

 安藤はそう言って静かに笑う。

 俺は景色を眺めつつチラリチラリと辺りの確認も怠らない。

 これは出かけるときは必ずしている行動だ。

 もしも、万が一の事が起きた場合(例:事故・事件等)にすぐに対応できるようにしている行動でほぼ癖なので決して不審者とかではない、いいね?

 ただ、今飛び込んでくるのは危険の予兆ではなく、夜景を見てイチャイチャしているリア充どもであった。

 死ねばいいのに。

 

「ったく。ここまで来たんだから夜景見ろよ。夜景をムードにイチャイチャすんなっての」

 

「・・・・・・さとしは、ああいうのに憧れてるの?」

 

「いんや。なんか見ててイライラするだけ」

 

「ふ~ん」

 

 安藤はそう言って頷く。

 そして、

 

「ちょっとこっち見て」

 

 と言ってきた。

 何だろう、と疑問を持ちつつ言われたとおりに安藤の方を向く、と。

 

「ちゅっ」

 

「!?」

 

 安藤がキスをしてきた。

 予想外を通り越して脳みそがその情報を正しく認識するのに数秒もかかってしまった。

 

「な、なな、なななななっっっ!!?」

 

「色々と奢ってもらったからね。これが私からのクリスマスプレゼント」

 

 安藤はイタズラをした小悪魔のような笑みを浮かべる。

 邪悪さや害意のない笑顔。

 俺はそれを見て後頭部を掻き、ため息を吐きながら言う。

 

「好きでもないヤツにそう言ったことするのはあまりお勧めしないぞ」

 

「そこまで鈍感なの!!!?」

 

 とても驚いたような顔で安藤はそう叫んだ。

 あれ?

 変なこと言ったかな?

 

 俺が腕を組み首を傾げている中、安藤はずっと俺の体をポカポカと殴っていた。

 




大宮(おおみや)さとし』
身長:159cm
体重:74kg

機鰐龍兎の前世。
“とある事件”から体を鍛え続けている為、かなり強い。
また、纐纈真輝の起こす事件を解決するために奮闘していたこともあって交友関係は無駄に広い。

幼少期に親から見捨てられた事が自覚していないモノのトラウマになっており、自分に愛情等が向けられることはないという考えを持っている。
その為、自分に向けられた告白の言葉は、事件解決の際のつり橋効果による勘違いだと思い込んでいる。

なので、泣かせた女子は意外と多く、未だに隣にいてくれている前田のメンタルはかなり強いと言えるだろう。


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68話 『大宮さとしの物語⑳』

ハイ、ついに『大宮さとしの物語』が20話目となりました。
ここで私、作者より一言。

はよ終われ。

いや~、そもそも『大宮さとしの物語』自体、10話ほどで終わらせる予定だったんですけどね・・・・・・。
倍行ってしまいましたごめんなさい。

なお、今回はいつもより短めです。


追記:後書きで謝罪&ご報告があります。



 安藤とクリスマスに街ブラしてからしばらくの時間が経過した。

 冬休みにも入り、正月・・・・・・つまり、新年を迎えた。

 さよなら2014年。

 ようこそ2015年。

 短いようでクソ程短い冬休みなんぞあっという間に過ぎ、気付けば登校日になっていた。

 宿題?

 そんなもの初日に終わらせたわ。

 最終日になって慌ててやってるようなバカとは違うのだよ。

 その為、俺は悠々と登校する。

 道すがら、前田と神虎龍とも出会い、並んで歩く。

 

「あけおめ」

 

「一応年明けに会っただろ」

 

「そうよ、大宮くん。初詣の時会ったじゃない」

 

「そうだっけ?」

 

 俺はそう言って首を傾げる。

 たしか初詣の時は、事件解決に走ってたから細かいことは覚えてないんだよな。

 

「スマンな。あの時いろいろあってよく覚えてねぇんだ」

 

「またか。なんだ? 次はスリの退治か?」

 

「大宮くんの周りで起きる事なんだからもっと大きい奴よ。ニュースで言ってたじゃない。人ごみに紛れた通り魔事件。アレでしょ?」

 

「それもあるけど、一番は大仏窃盗事件だよ」

 

「「一体何が!!?」」

 

 二人は同時にそう叫ぶ。

 いつの間にこんなに仲良くなったのだろうか?

 

「そういえば、何かお坊さんたちがドタバタと慌てて走っていたけど、あれってそういう事だったの・・・・・・?」

 

「ああ、そぉ言えば俺も蒼い顔してるハゲ見たわ」

 

「お坊さんをハゲっていうな」

 

 せめてスキンヘッドと言ってあげろ。

 一応剃っているんだから。

 そんなバカみたいな会話をしながら歩いていると、前方に見知った人影が見えてきた。

 俺は彼女に声をかける。

 

「お~い! あんd・・・・・・っ!!?」

 

 だが、彼女の名前を最後まで言う事は出来なかった。

 なぜなら、安藤のその顔に大きなガーゼが着けられていたのだ。

 ガーゼ。

 それは医療用の道具で傷を覆う事を目的に使われるモノである。

 

「あっ。久しぶり、あけましておめでとう。さとし」

 

 そう、力なく言う彼女の両肩を俺は掴み、叫ぶように言う。

 

「一体何があった!?」

 

 油断していた。

 油断しまくっていた。

 年末に起きた騒動に意識を向けていてこっちを気にすることを疎かにしてしまっていた。

 こっちの事件には纐纈が関わっているというのに、それなのに。

 俺は馬鹿か。

『不将協会』にヤツの取引停止及び別組織への根回しを頼んでおいたじゃないか。

 それで、神谷がキレて安藤に手を出す可能性だって十分あったじゃないか。

 馬鹿だ。

 本当に、俺は馬鹿だ。

 こういった所で詰めが甘い。

 ・・・・・・いや、今はこれを考えている場合じゃない。

 今は、

 

「言ってくれ! 何があった! いや、想像はついている! だけど、お前の口から詳細を言ってくれ! 頼む!!」

 

「なんでも、ないよ」

 

「そんなワケないだろ!?」

 

「ホントに、なんでもないから」

 

 安藤はそれだけを言うと、俺の手を振り払って行ってしまった。

 

「おい、大宮」

 

「分かってる。もう、止まってる暇はない。お前は、お前の方から頼む。俺はちょっと行く場所ができた」

 

 俺がそう言うと、前田が心配そうな表情でこちらを見ていた。

 だから、俺は前田の方に視線を向けて言う。

 

「前田。先生には体調が悪くて休む、と伝えといてくれ」

 

「ちょっと、待っt・・・・・・」

 

 俺は前田の言葉を聞く前に走り出す。

 もちろん、前田に言った通り向かう先は学校ではない。

 向かう先は・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「っという訳で『アレ』をまた貸してほしい」

 

「いきなり来てなんだよ、オイ。『っという訳で』って、お前まだ何も言ってないだろ。ってか前も似たような会話したじゃねぇか。これで何度目だと思ってる」

 

 俺の言葉に積田さんはそう悪態を吐く。

 ・・・・・・確か、これで18回目ぐらいだったと記憶しているが気にしない。

 

「スタンガンじゃ足りなくなったのか?」

 

「まあ、そんな所」

 

「・・・学校はどうした?」

 

「『アーチョットハラガイタイー』みたいな感じで休んだ」

 

「嘘つけ。お前絶対に学校内にすら足踏み入れてないだろう」

 

 隅田さんはそう言って頭に手を当てながらため息を吐いた。

 なぜバレたし。

 

「・・・・・・まあ、いいか。それより、なんでまた『アレ』は必要になった?」

 

「スタンガンだけでもいいかと思ったんだがな、ちょっと事情が変わった。・・・それより、別組織への根回しの方は?」

 

「しっかりしといたよ。全部の組織がお前とヤツの名前を出したら途中の仕事や取引を緊急で中止してまでも手を引いて行ったよ」

 

「いや、そこまで・・・・・・?」

 

「大宮。お前は知らないかもしれないが、こっちの界隈じゃテメェらはブラックリスト入りしてるんだよ。たとえ何があろうと関わるな、って感じで」

 

「積田さん普通に関わってるじゃん」

 

「こっちとしてもテメェらが何しているか探りたかったりしてるからな。・・・・・・ほら、もってけ」

 

 積田さんは事務所の金庫を開けると、その中にあった『アレ』をこちらに投げて来た。

 俺はそれを受け取ると、すぐにバッグへとしまい込む。

 

「弾は?」

 

「後でナナシに持っていかせる」

 

「OK」

 

 俺はそう答えてソファーから腰を上げる。

 ここは俺があまり長居していい場所ではない。

 事務所の扉に手をかけると、積田さんが呟くように言った。

 

「ところで、ヒーロー。お前はいつまでこんなこと続けるんだ?」

 

「・・・・・・きっと、死ぬまでかな」

 

 俺はそれだけを言い残し事務所を出る。

 ・・・・・・ヒーロー、か。

 俺はそんな素晴らしいモノではない。

 ヒーローとは、救いを求める者の手を取り、何人であろうと助け、諦めぬ心を持った強者たちの事だ。

 俺は、諦めた。

 救うことを。

 だから、俺はヒーローなんかじゃない。

 だから、俺は俺を許せない。

 救える可能性があるのに、それを放棄したのだから。

 

 

 

 

 

 

 事務所を出た俺はファミレスへと足を向ける。

 ファミレスには昼だというのに客は居らず店員たちはみんなお通夜状態であった。

 店長に関しては「燃え尽きたぜ・・・」状態になっていた。

 いい顔してるだろ? 死んでるんだぜ、これ(注意:死んではいない)。

 俺は店内をグルリと眺めた後、近くにいた渡辺くんに声をかける。

 

「ねえ、あれからもっと酷くなった感じ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッ! ここはどこ!? さっきまで妖精さんたちと花畑で遊んでて、一緒に川の向こうに行こうと、」

 

「死にかけてるじゃん。キミ、どこまで行ってたんだよ」

 

 さすがの俺でも三途の川までは行った事はねぇぞ。

 行きかけた事はあるけど。

 

「あっ、大宮さん。お久しぶりです」

 

「こう言うのもなんだけど、キミ、俺よりも年上でしょ。なんで敬語使ってるのよ」

 

「昔から誰にでも敬語を使っているので・・・」

 

「ああ、そうなのね」

 

 それならしゃーなし。

 ちなみに、俺が現在14歳で、渡辺くんが19歳(大学生)である。

 

「それで、あれからどうなった?」

 

「12月の終わり頃からより攻撃的になって、お客さんみんな怖がっちゃって・・・・・・」

 

「通報しろよ」

 

 いや、ホント、マジで。

 国の犬(ポリス)に問題を丸投げしておけ。

 

「とりあえず、被害状況の報告をお願い」

 

「覚えている余裕なかったのでここにメモしておきました・・・」

 

「あ、うん。お疲れ様」

 

 死んだ魚の眼をしている渡辺くんからメモを受け取り、とりあえず労いの言葉をかける。

 そして、何気なく店長の方に視線を向ける。

 

「・・・・・・oh」

 

 店長は、「燃え尽きたぜ・・・」状態から、「課金したけど爆死した人が悲しみのあまりに部屋の角っこで一人寂しく膝を抱えている」状態になっていた。

 もうどこら辺からツッコミを入れようか判断できなかった。

 

「とりあえず、店長にはしばらく休むように言っておいて」

 

「あっ、はい。分かりました」

 

 俺は渡辺くんの返事を聞き、手をヒラヒラと振り、店を出る。

 ・・・・・・証拠はたくさん手に入った。

 だけど、まだ足りない。

 

 行政は怠慢だ。

 証拠があろうと、問題が目に見えていたとしても、雑な調査をして『調査結果問題なし』と判断する。

 それで最悪の事態になってからようやく事態の重さを把握する。

 何度も、何度も、何度も何度も何度も同じような事を起こしておいて学ぼうとしない。

 だから、より問題を大きくする。

 無視できないほど大きく、そうすれば・・・・・・。

 

 そうすれば、もう『あの時』の様にはならないハズだ。

 




え~この度、21話より存在が明かされ、短編ではちょいちょいと活躍をしまくっていたキャラ、『王蛇幻夢』の設定を一部変更することとなりました。

名前が登場してから47話が経過し、リアル時間で8ヶ月ほど経過しての変更となりましたことをここにお詫びいたします。

これより、『王蛇幻夢』は龍牙(りゅうが) 幻夢(げんむ)へと名前の変更となります。

変更理由としましては、「王蛇もヤバイけどリュウガの方がヤベェよな」「それに、リュウガとゲンムは主人公の色違いライダー・・・こっちの方がベストマッチな気がしてきた」という単純なモノです。
コレを思いついてからリアル時間1ヶ月ほど悩み、このように踏み出させていただきました。

名前の変更によってキャラ設定等が変わることはありませんが、『仮面ライダー王蛇』の登場する可能性が著しく減ってしまいましたごめんなさい。
王蛇ファンの方々には心より謝罪を申し上げます。



まぁ、実際、変更の切っ掛けって作者がアナザーリュウガ見てワクワクして『RIDERTIME仮面ライダー龍騎』のリュウガを見てから使いたくなったって言うのg

\ピンポ~ン/

おっと、誰か来たようだ。


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69話 『大宮さとしの物語㉑』

展開を一気に進めるぞオラァ!!!
多くても今回含めて後、3~4話以内に『大宮さとしの物語』を終わらせてやるぞオンドリャー!!!

という勢いだけで頑張っています。

ホント、ガッチガチのガチでさっさと終わらせようと思っていますのでもう少し待っていただけるとありがたいです、ハイ。


 俺は根回しの為に街を駆け巡る。

 今までいろいろな事件で関わったことのある人に何かあった時の証言を頼む。

 

「という事なんだよ」

 

「あ~、うん。何となく分かったけど、キミ、関係者じゃないんだから高校内に勝手に入るのはいけないだろ」

 

 俺の言葉にそう答えたのは“藤原(ふじわら)大牙(たいが)”。

 一年ほど前に発生した『大きな事件』に関わり、ソレを解決した人物である。

『東月見高校』の一年生、つまり、俺の2コ上である。

 この街の闇に深くかかわっている人物だが、別作品の主人公である為信頼して良い人間でもある。

 藤原は普通に高校へと通っているが、これでも人を殺したことのある人物でもある。

 というよりも人を殺す事を生業とする人物だ。

 

 人殺し、と一言で言っても悪意や害意があって人を殺すのではなく、『人を殺す殺人鬼を殺す』人物。

 殺人鬼キラーと例えられている。

 

 彼自身、あの『大きな事件』で街の闇に深くかかわったとはいえ、そこでは闇の世界に生きることはなかったのだが、そこから数ヶ月経ったある日『とある人物』との出会いで闇の世界に生きる事となった珍しい人物である。

 また、警察の闇と正面からやりあって生き残ったとんでもない人物だったりする。

 

「よく言うよ。お前は俺みたいに闇の中で生きつつ日常生活を送っている『闇の者』よりも深い場所にいるくせに、『表の世界』で生きる本当に『ただの少年』なんだからよ。それで警察すら怖気付きそうな現場を駆け抜けて生きているだけ俺より何倍もすごいよ」

 

 とは本人談。

 普通の高校生だったのに少しの訓練だけで闇を生き抜けるほど強くなってるだけでも凄いと俺は思うんだけどな・・・。

 

「お前は良いよな。人殺しときゃ金がもらえるんだから」

 

「俺的にはお前の方が凄いと思うぞ。・・・・・・色々な所に金を回してそれを何十倍にも増やしてるような中学生が俺みたいな人殺しを変に羨ましがるな」

 

「“悪”に染まれている分まだいいと思うぜ。俺なんて曖昧な立ち位置にいるんだから」

 

「・・・・・・そうだな」

 

 沈黙が流れる。

 お互い、普通の一般人でありながらある事を切っ掛けに『闇』に関わることになった人間。

 もしもその『切っ掛け』がなければ普通の生活を送れていたかもしれない存在。

 それが俺たちだ。

 いや、藤原に関しては俺みたいに纐纈のような『黒幕』がいない為、その『切っ掛け』が無かったとしてもいつかは必ず『闇』に進んでいただろう。

 

「それで、なんで俺登場したんだ?」

 

「ゲスト出演ってやつだろ」

 

 何かメタい気がするが気にしてはいけない。

 いいね?

 

 

 

 

 

 

 夜・・・・・・というよりまだ午後5時なのだが冬という時期はこの時間でもう辺りは暗くなっている。

 他の季節なら夕方と例えられる時間帯であるが、今は夜と例えるのが一番だろう。

 冷たい夜風が肌を撫で、少し鳥肌が立った。

 だが、俺はそんなことを気にせず、目の前にいる人物に告げる。

 

「今日、だと思う。・・・・・・今日、事態が動く。俺はアイツを助けに行くから、お前は義父に情報を伝えてくれ」

 

 俺の言葉に、神虎龍は軽くため息を吐いてから答える。

 

「ンだよ。水臭いな俺も行くに決まっているだろ。テメェだけに背負わせると思うか? あの女の件に関しては俺も加害者なんだ」

 

「ダメだ。お前は将来有望なんだ。この件が後々響く可能性を考えろ」

 

 俺がそう答えると、神虎龍は俺の胸倉を掴み、グッと持ち上げて来た。

 その顔には、明確な怒りの感情が見えた。

 

「ふざけんなお前! お前は、お前は何でそんなに自分を大切にしねぇんだよ! お前がいたことでどれだけの笑顔が生まれた!? どれだけの人が救われた!? どれだけの人が、明日へと進む事が出来た!? テメェは自分はどうなっていいなんて下らねぇことを思ってるだろうがな、テメェの周りにはテメェがいないと駄目なヤツだってたくさんいるんだよ!!」

 

「・・・・・・頼む」

 

 俺が小さくそう言うと、神虎龍は俺を地面へ叩きつけるように手を離した。

 

「勝手にしろ、馬鹿野郎」

 

「ああ、勝手にする」

 

 舌打ちする神虎龍を背に俺は夜の闇へと進んでいく。

 その先が、地獄への入り口だという事を知らずに。

 

 

 

 

 

 

 ある一軒家の中で男は焦っていた。

 男の目の前には倒れ動かなくなっている成人女性の姿があった。

 瞳孔は開き、呼吸は止まっている。

 端的に言えば、その女は死んでいた。

 男―――神谷王仁は焦りと怒りでより正常な判断が出来なくなっていた。

 神谷はここ最近物事がうまくいっていなかった。

 いや、より正確に言うならば麻薬使用がバレ、プロボクシング界から追い出されてから物事が上手くいった試しはなかった。

 

 ボクシング界を追い出されてから神谷はパチンコ店に入り浸り、そこで金を溶かしまくっていた。金がなくなれば借り、負けを取り返そうとした。そのたびに金を溶かし、また借りる。

 神谷はパチカスによくある悪循環に陥っていた。

 そして、ついにはどこも金を貸そうとはしなくなっていた。

 そんなある日、偶然ある女と出会った。

 どんな出会いだったか、どうして一緒になるようになったか、男はもう覚えていないし、そこを語る意味はない。

 結果だけ言うなら、神谷は自分に従順で好きなようにできる女とその女の家を手に入れた。

 その女は、しばらく前に旦那が浮気して出て行っており、その影響もあって愛に飢えていた。

 少し「愛している」と言ってやれば何でもやった為に神谷にとって、とても都合の良い女であったのだ。

 問題があるとすれば、その女には一人娘がいたという事。

 おとなしく、無口で何かをしても特に抵抗をしてこない少女。

 その少女を性欲のはけ口にもできたのだが、妊娠されたら後々面倒な為、イライラした時に殴るサンドバックとして使った。

 そんな生活を続けていようと、当たり前だが金の返済が上手くいくことはなく、借金だけが増えて行っていた。

 それをパチンコの勝ちで返そうとし、また負ける。

 そしてついに、この街で一番大きな組織である『不将協会』に少女を売り、借金をチャラにしようとした。

 取引は順調に進んでいたのだが、ある時いきなり取引の中止が言い渡された。

 意味が分からず聞いたのだが、『不将協会』の人間は一言、

 

「この業界の闇に関わるなら、『ヤツら』の存在を知っておいた方がいい」

 

 とだけであった。

『ヤツら』という事は複数形であることが窺えた。

 それから複数の組織の下へと足を運んだが、その全ての組織が『ヤツら』を怖がり取引をしようとすらしなかった。

 その事実が神谷に怒りと焦りを持たせた。

 知らない人物が原因で自身の計画が崩れたことが許せなかったのだ。

 そして、怒りに任せ、女を殴った。

 全力で、一切の加減もなく。

 殴られた女は勢いそのままに倒れ、そのまま動かなくなった。

 神谷にとって殺してしまった事が焦りになっているのではない。

 この死体をどう処理すればいいか浮かばずに焦っているのだ。

 人間とは焦ったりすると考えがまとまらず、思考が単純になっていくものだ。

 だから、部屋にいたハズの少女がこの現場に現れた時、神谷は脳で考えるよりも先にその少女を殺そうとしていた。

 無言で、一切の躊躇なく。

 少女の首を折ろうとした瞬間、家のチャイムが鳴る。

 それが、神谷と止めた。

 たった一瞬だったが、その一瞬の間にチャイムを鳴らした人物が声を出した。

 

「安藤さ~ん。宅配便で~す」

 

 低く太い男の声。

 神谷は声色から中年の男性であると思った。

 そして少女に、

 

「声を出すな」

 

 とだけ命令し、印鑑を持って玄関へと向かった。

 曇りガラスの張られた引き戸には慎重175~180cmほどの人影が写っていた。

 神谷は少しため息を吐いてから扉を開く。

 そこには・・・・・・、

 

「はっ?」

 

 そこには、だぼだぼのジャージを着たマネキンが立っていた。

 突然のホラー的展開に神谷の脳が混乱してしまった。

 その時、

 

「こっちこっち」

 

 という子供の声が聞こえて来た。

 神谷が足元に視線を向けるとそこには特徴らしい特徴のない少年がいた。

 そして、その少年は神谷に向けて黒い銃口を向けていた。

 

「なっ!!?」

 

 神谷が何かをするよりも前にトリガーが引かれた。

 大きな破裂音と共に神谷の眉間へ大きな衝撃があり、顔が上に向いてしまった。

 その隙だらけの首に少年はスタンガンをつけ、スイッチを押した。

 ビジッバチバチバチバチッッという音と共に神谷の全身を電流が流れる。

 神谷は言葉を発することなく地に倒れ伏すのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 静かに息を吐く。

 ゴミの廃棄場から盗んできたマネキンを囮にしたのが正解だったと思う。

 俺は倒れ伏す神谷王仁を余所に家の中へと侵入する。

 電気はリビングにしかついておらず、そこから確かに人の気配があった。

 そちらへ足を向ける。

 リビングには・・・・・・、

 

「大丈夫だったか? 安藤」

 

「あっ、あぁ。お、お母さんが・・・」

 

 安藤の視線の先には倒れ、動かない女性がいた。

 見ただけでもどうなっているか何て察していたが近くへと行き、瞳孔や脈の確認をする。

 やはり、最悪の予想通りであった。

 

「・・・俺は医者じゃないから断定するのはいけないけど、」

 

 そう前置きをしてから俺は静かに告げる。

 

「残念だけど死んでる」

 

「そん、な・・・・・・」

 

 目の前の事実に安藤がそんな声を出す。

 俺は安藤の隣へと行き、その肩にソッと手を置く。

 

「ごめんな。俺が遅かったせいで救えなかった」

 

「ううん。さとしは、悪くない。運が悪かっただけだから」

 

「いや、俺のせいだ。もう少し早く動いていたら救えてた。だから、俺が悪い」

 

 俺はそう言ってからスマホを取り出す。

 念のために救急車を呼ぶためだ。

 そして、コールしようとしたところで後頭部に強い衝撃と激しい痛みが走った。

 視界がぶれ、足から力が抜けていく。

 それでも振り向いて状況を確認すると、想像以上に早く意識を取り戻した神谷が金属バットで俺をぶん殴ったのだ。

 

「ア゙ガァア゙・・・・・・」

 

「クソ、ガキがぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 振り上げられたバットを避けられるほどの意識が俺には残っていなかった。

 強い衝撃と共に、ついに俺の意識は闇の中へと落ちていった。

 最後に見たのは、自身の血で紅く染まった床で、

 

 

 

 

 

 

 神虎龍は夜風吹く街を走っていた。

 友人である大宮さとしには「勝手にしろ」と言ったが、それでも心配ではあったし、やはり彼一人に任せられなかった。

 だから、彼の下へと走る。

 警察にはとっくに通報してある為、後は時間の問題である。

 そうだとしても彼だけに任せておけるほど神虎龍は情の薄い人間ではない。

 少し息が切れてきたところで、ようやく安藤家が見えて来た。

 玄関前にマネキンが立っていた為、ビックリしたが、それを押しのけて中に入る。

 電気はリビングにしか点いておらず、そこに人影が見えた。

 そこには・・・・・・、

 

「なんっ・・・・・・!?」

 

 大宮さとしが頭から血を流して倒れていたのだ。

 そして、少年の近くには血の付着したバットを持った男がいた。

 それを視覚した時点で神虎龍は頭に血が上ってしまった。

 勝算なんてない。

 何か考えがあったわけでもない。

 

 ただ、自分のライバルを傷つけられたことが許せなかったのだ。

 

 だから、拳を握った。

 それを振るった。

 神虎龍にとって近距離での肉弾戦こそ得意戦法だった。

 だというのに。

 

「ガッ」

 

 男―――神谷に攻撃が当たる事はなく、逆に殴り返されてしまったのだ。

 それでも持ち前のタフさで踏ん張るモノの、ダメージは決して軽くはなかった。

 だが、神虎龍はそれを無視して、再度拳を振るう。

 なのに、

 

「ガッ、ア゙ァッッ!!」

 

 すべてが避けられ、カウンターを喰らう。

 そこでようやく思い出した。

 マイナー選手だったとはいえ、コイツは元・プロボクサーである事を。

 神虎龍は将来有望とされるスポーツ選手でもあるが、それでもまだ中学生である。

 対して神谷はプロの道から転落したとはいえ、元々はその道を突き進んでいた人物だ。

 経験値に差がありすぎる。

 

「お前も、このガキと同じか。・・・クソが。どいつもこいつも俺の思い通りにいかねぇでよぉ。・・・・・・・・・どっちだ? どっちがこの街の闇が恐れる『何か』なんだ!?」

 

 だが、神谷は冷静ではなかった。

 神虎龍の攻撃を捌けたのだって、体にしみ込んだ経験によるモノであった。

 そして、それに気づけないほど神虎龍も馬鹿ではない。

 冷静ではないという事はどこかに隙ができるという事である。

 それに気づけた神虎龍は静かに構えを取る。

 勝つためではない。

 警察が来るまでの時間を稼ぐためである。

 

「テメェが何を聞きてぇのかは分かんねぇけど、俺の好敵者(ライバル)とその友達を傷つけるなら、俺は何があろうと倒れねぇ。例え、テメェが落としたバットで殴られようと、ナイフで刺されようと、死んだとしても倒れるわけにはいかない」

 

 それは、その発言は決意だったのかもしれない。

 脅されていたとはいえ、その少女を気付つけてしまった自身への戒めだったのかもしれない。

 その決意は、罪滅ぼしの意味だったのかもしれない。

 それが分かるのは神虎龍だけだ。

 神谷は神虎龍の言葉を聞いて足元にあるバットを拾う。

 そして、それを思い切り振るった。

 ガンッという音と共に神虎龍の頭が揺れた。

 だが、後退る事もその場から足が動くこともなかった。

 それだけじゃない。

 痛がるような素振りも、声もない。

 それを見て神谷は何度もバットを振るった。

 何度も、何度も殴られる。

 それなのに、神虎龍はブレない。

 その眼から光が消えることないない。

 

「なんだよ!! 何なんだよぉ!!! ふざ、ふざけっ、ふざけんなぁああ!!!」

 

 神谷はそう叫びながらバットを何度も振るった。

 それでも、神虎龍が倒れることはない。

 一人の漢の信念がその程度で揺らいだり折れたりしないように。

 それを目の当たりにし、神谷は強く叫んだ。

 

「どいつもこいつも、なんで俺の思い通りにいかねえんだ!! なんで何かしようとするたびに何かが邪魔するんだよ!!!!!」

 

 叫ぶ神谷は攻撃をしていなかった。

 その言葉に強く意識を置いてしまっていたが故にバットを振るう事無く、したに下げてしまっていた。

 そして、何ら前触れもなくそのバットに強力な電気が走った。

 

「っっ!!?」

 

 思わずバットから手を離した神谷が背後に目を向けると、先ほどまで倒れていたはずの少年がゆっくりと立ち上がるところだった。

 その少年の手にはしっかりとスタンガンが握られている。

 

「な、にっ・・・・・・!?」

 

 あまりの驚きに神谷の動きが停止した一瞬の隙をついて少年の拳が振るわれた。

 神谷は身を屈めてそれを避けるが、それが分かっていたかのように繰り出された少年の膝が顔面へヒットした。

 

「ウガァッ」

 

 そして、少年に前蹴りでよろけ、後退った。

 後退ってしまった。

 当たり前だが、神谷の後ろには神虎龍がいる。

 ガシッと掴まれ、動きが封じられた。

 

「俺の馬鹿力を、舐めるんじゃねぇぞぉ」

 

 ギチギチギチギチと神谷の体が締め付けられる。

 激しい痛みが体を襲う中、神谷の視線の先にあったのは、頭からボタボタと血を流し床を赤く染めながらも満面の笑みを浮かべる一人の少年の姿だった。

 それを見て神谷は察した。

 察してしまった。

 

『コレ』が、街の闇が恐れた存在なのだ、と。

 

 だから、神谷は思考を放棄しようとした。

 恐怖によりそれを、目の前の現実(リアル)を理解したくなかったのだ。

 でも、放棄できなかった。

 目の前にある『ソレ』のインパクトが強すぎて、意識が『ソレ』に囚われてしまっていたのだ。

 気が付けば、神谷は無意識的に声を出していた。

 

「あ、ああ・・・、」

 

 迫る恐怖。

 握られる拳。

 それを目の前にただひたすら叫ぶことしかできなかった。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 そして、

 

 ドズンッッ

 

 という凡そ人体から発せられてはいけない音と共に、少年の拳を喰らった彼はその意識を完全に手放した。

 

 

 

 

 

 

 安藤よしみは目の前の光景を呆然と眺めていた。

 少年が母親を殺した男を殴り倒した時もただ呆然と。

 倒れた男をビニールテープでぐるぐる巻きにした少年はスッと安藤よしみの方へ視線を向けた。

 

「ごめんな、安藤。心配させたみてぇだな。・・・・・・もう大丈夫だ」

 

「あ、頭・・・血が・・・・・・」

 

「血? ああ、この程度大丈夫だ」

 

 少年はそう言って笑った。

 いつも通りの優しく頼もしい笑顔。

 それが、安藤よしみにとって何よりも嬉しかった。

 少年は手に付いた血を自分の服で拭き取ると、安藤よしみの頭を優しくなでた。

 

「さっきも言ったけど、ごめんな。お前の母親を助けられなくて。・・・・・・ただ、これだけは言わせて欲しい。・・・ハァ、ハァ・・・・・・。本当に無事でよかった」

 

 少年の顔色は悪い。

 血の流し過ぎであることは素人目に見ても明らかだった。

 それでも、少年の表情は崩れない。

 安藤よしみは、ソッと少年の胸に顔を埋めた。

 

「お、おい。汚れるぞ」

 

「大丈夫。大丈夫だから・・・少し、このままでいさせて」

 

「・・・・・・分かった」

 

 少年はそう答えて安藤よしみを抱きしめた。

 安藤よしみには、もう、家族は残っていない。

 身寄りらしい身寄りもない。

 だから、もう、彼女が頼れるのは好きな少年だけしかなかったのだ。

 

 

 それ故にまた、少年は事件に巻き込まれることになるのだが、それはまだ誰も知らない。

 知らない故に、事件解決に気を緩ませるのだった。

 




~警察が来るまでの~

神虎龍「ところで、なんで拳銃持ってんだ? 本物?」

大宮さとし「偽物だよ。ゴム弾がでるヤツ。必要かと思って持って来たんだけどあまり使わなかったわ」

神虎龍「よくそんなの持ってたな」

大宮さとし「『不将協会』から借りて来た」

神虎龍「お前ホント何者だよ」

大宮さとし「普通の中学生だよ」

神虎龍(絶対に普通じゃねぇ・・・・・・)



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70話 『大宮さとしの物語㉒』

上手くいけば『大宮さとしの物語』は次回で終わらせられると思います。
最悪は後二回ほど続くかもしれませんが、なるべく早く終わらせたいと思っていますのでもう少々お待ちください。


「暇だな」

 

「あぁ、暇だな」

 

 俺と神虎龍はベッドに寝転がりながらそう言う。

 ここは総合病院の病室。

 さすがに金属バットで殴られた怪我がひどく、さらに頭も殴られている為に入院することになったのだ。

 何度か抜け出そうとしたが、担当医―――加藤さん(過去に助けたことのある一人)に全力で止められて、ベッドに寝かされることになっているのだ。

 おかげで、暇で暇で仕方がない。

 

「精密検査の結果は命に係わるような異状がなかったのになんで休むことになっているんだか・・・・・・」

 

「お前が原因だ。加藤先生が言ってたぞ。『大宮くんは無茶し過ぎだからしばらく休ませます』って。俺はそのとばっちりだっての」

 

「・・・よし、抜け出そう。どこかで助けを求めている人がいるかもしr・・・・・・」

 

 俺がそこまで言ったところでガラッと病室の扉が開いた。

 そこに立っていたのは・・・・・・、

 

「よぉ、久しぶりじゃん。長谷川さん」

 

 知り合いの警察官である長谷川さんがそこにいた。

『長谷川裕也』警部補。

 警察関係者の中で一番俺に協力的な人でもある。

 

「お前の事だ。今回の被害者の事が心配で病院を抜け出そうとする頃だと思ったよ。・・・・・・色々と決まってきたから伝えに来たぞ」

 

「ナイスタイミング」

 

 俺はそう言ってサムズアップする。

 長谷川さんは少しため息を吐いてから俺のベッドの隣にある椅子に座る。

 

「被害者・・・安藤さんは施設で引き取って今まで通り中学校に通ってもらうことになった。ちょうどそこで寝転がってる大男が昔少しの間世話になってた場所だ」

 

「虎龍だ。義親父に言うぞ」

 

「ごめん冗談だからやめて。普通に上司だから」

 

 弱っ。

 自身の発言にしっかり責任持てよ大人。

 

「まっ、情報ありがとう」

 

「これも仕事だ。・・・・・・それで、『ヤツ』は今なにしてる?」

 

「分かる訳ねぇだろ。俺は超能力者じゃないんだ」

 

「まあ、今回ばかりは関わってないだろうとは思ってるけどな」

 

「ああ、纐纈の今回の『ターゲット』が安藤だ」

 

 俺がそう答えると長谷川さんは無言でスッと立ち上がった。

 そして、

 

「僕もう帰るぅぅうううううう」

 

「大の大人が女子中学生の名前が出て来ただけで涙目になって逃げようとしてんじゃねぇ!!」

 

 とツッコミを入れるが、気持ちは理解できなくもない。

 俺もできる事なら纐纈とは関わりたくない。

 だけど、関わらないと被害者が増えるだけなので嫌でも関わらなければならないのだ。

 

「やかましい警察だったな」

 

「纐纈の名前が出たらいつもあんな感じだよ」

 

「そうか。・・・・・・まぁ、お前はしばらく寝てろ。お前の怪我が治って退院するまでの2ヶ月間は安藤のヤツは俺が面倒見とくからよ」

 

「・・・・・・イジメるんじゃねぇぞ」

 

「もう、そんなことは二度としねぇよ」

 

「ん。じゃ、任せた」

 

 俺はそう言って布団に包まる。

 さすがにここ数ヶ月無茶をし過ぎた。

 

 8月の安藤を助けた事件。

 9月の女子大生連続失踪事件と南月見高校自転車のサドル窃盗事件。

 10月のタクシー強盗事件と株式会社OSAWAネットワークハッキング事件と警察官殺人事件。

 11月のオカルトサークルメンバー殺人未遂事件と山奥の夕焼荘での密室殺人事件。

 12月の“藤原大牙”が狙われた『警察』による殺人未遂事件とそれにより浮上した警視総監の孫が起こし隠蔽されていた通り魔事件の浮上。

 そして、現在。

 

 ホント、無茶が過ぎたのだと思う。

 あっちこっちが痛いし、疲れが中々取れない。

 だから、俺はこの入院中だけでも少し休むことにした。

 

 

 

 

 

 

「で、お前。全治何ヶ月と診断されたんだっけ?」

 

「2ヶ月だね」

 

「じゃあ何で2週間で怪我を全て治してんだよ! おかしいだろうが!!」

 

「回復力が船坂弘と同じぐらいなんだよ」

 

「な~んだ。船坂弘と同じなら仕方がない・・・・・・なんて言うと思ったら大間違いだぞゴルァ!!!」

 

 俺は隣で大きな声を出す神虎龍の言葉を華麗に流しながら登校する。

 文句を言われているが、完治しちまったのは仕方がないだろう。

 加藤さんも呆れて頭を抱えていたけど今回ばかりは俺は悪くないと自負している。

 

「まぁまぁ。落ち着きなよ鼎くん。怪我が治ったことは良い事なんだから」

 

「前田さんよぉ。字を間違えてるぞ。確かに読みは同じ『かなえ』だが、俺の名前は『神』と書いて『かなえ』と読むんだよ」

 

「まぁまぁ。発音はあってるからいいだろ、鳳よぉ」

 

「それ俺の旧名だぞ、さとし」

 

 神虎龍は俺と前田のダブルボケに対して的確にツッコミを入れた。

 アニメや漫画あるあるだが、元々敵だった奴が仲間になるとネタキャラと化すことがあるが、コイツもそのパターンなのだろう。

 

「まぁ、一月もあと少しで終わりか。俺の中学生生活も後、2ヶ月程だぜ。時の流れは速いモノだ」

 

「そうか」

 

「へ~」

 

「もう少し話に乗ってくれよ!!」

 

 神虎龍の寂しいツッコミをスルーし、学校へと向かう。

 何かグダグダ文句を言っていたが気にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 2015年2月13日金曜日。

 俺・・・いや、俺たちはズラッと並んで叫ぶ。

 

「「「「「「「「Hell's(ヘルズ) Valentine(バレンタイン)!!!!!」」」」」」」」

 

 実際、バレンタインデーは明日だが、明日は土曜日。

 つまり、学校では今日がバレンタイン状態という事である。

 

「ってか、虎龍。お前彼女いるだろ。なんでこっち側にいるんだよ」

 

「喧嘩して別れた・・・」

 

「またかよ」

 

 神虎龍は、過去何度も色々な女と付き合っては分かれているが、その中でも羽山とは付き合いが長く、分かれてはまた付き合い、分かれてはまた付き合いを繰り返している。

 その為、もう驚いたりしない。

 俺は非リア部隊へ向き直り、叫ぶ。

 

「良いか!? これから行うのは我々非リアによるリア充への聖戦だ!! ここで我々はリア充どもに目の前でイチャイチャしている姿を見せつけられた怒りを、ここで晴らそうぞ!!!!」

 

 その言葉を聞いた非リア部隊が持っていた水爆弾(一部牛乳爆弾)を構える。

 

 ・・・・・・俺と神虎龍に向けて。

 

 それを見て俺と神虎龍は同時に駆け出していた。

 

「ちくしょう裏切られた!!」

 

「なんとなくこんな予感してたぜこのヤロウ!!」

 

「「「「「「「死ねリア充!!!!!!」」」」」」」

 

 後ろから殺意増し増しの攻撃が飛んできている為、足を止めるわけにはいかない。

 

「何か前にも似たようなことがあった気がするなぁ!!」

 

「俺に関しては確実にとばっちりだろぉおおお!!!」

 

 そう叫ぶ神虎龍を背後に俺は駆ける。

 俺の身長は平均的で、逆に神虎龍は大柄である。

 つまり、コイツの前を走れば自然に盾役になるという事だ。

 音から察するに神虎龍の背中に水爆弾が連続ヒットしているようだ。

 

「何サラッと俺を盾にしてんじゃオラァ!!」

 

「盾にされる方が悪いわぁ! は~はっはっはっはっは(爆笑)」

 

 そう言って振り向き、状況を確認すると頭から水を滴らせている神虎龍と俺たちを追いかける非リア部隊。そして、鬼の形相で俺たちを追いかける脳筋系熱血教師の姿が見えた。

 どうやら、随分と楽しいことになりそうである。

 俺は外に露出している二階渡り廊下に出ると同時にそこから飛び降り難を逃れる。

 上からは悲鳴が聞こえてきているが、何事もなかったようなペースで人ごみの中へと隠れ、神虎龍の武運を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 非リア部隊(神虎龍含む)が説教部屋に連れていかれている内に俺はさっさと帰路に就く。

 俺ァこれ以上変なことに巻き込まれたくねぇんだよ。

 それに怒られている暇なんぞないんじゃ。

 さっさと纐纈の動向を探って次の事件の解決に向かわんと・・・・・・

 などとテキトーな事を思いながら歩いていると、前方に見知った人物を発見した。

 

「よぉ、安藤。施設ってこっちの方だったか?」

 

「あ、さとし。久しぶり。・・・今はさとしの事を探してたの」

 

「俺の事? 何か事件でもあったか? それともまた厄介ごとに巻き込まれたか? 解決するのにどれだけ時間かかるかざっくりと計算したいから詳細をできるだけ教えて欲しいんだが」

 

「事件に慣れ過ぎてそれがデフォになってない!!?」

 

 安藤がそうツッコミを入れて来た。

 その反応を見る限りどうやら事件とかではなさそうである。

 

「なんだ。事件じゃないのか。良かった良かった。今現在俺の認識している範囲では平和なようだな」

 

「平和の捉え方が独特すぎる・・・・・・」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

 断言された。

 なんだか解せぬ・・・・・・。

 

「ンじゃ、なんで俺を探してたんだ?」

 

 俺がそう質問すると、安藤の顔がどんどんと赤くなっていく。

 

「あ、あのね。さとしには、ホント色々やってもらったからね。その、こ、これ、お礼」

 

 安藤は詰まり詰まりではあるがそう言って小さな紙袋を渡してきた。

 受け取り、中を見ると、ハートや星の形をしたチョコレートが入っていた。

 

「これ、」

 

「きょ、今日はバレンタインだから! だから用意してたの!」

 

「バレンタインだから、か。最近はこう言ったイベントを妨害することしか考えてなかったからまさか貰えるとはな」

 

「ちょっと塩気を入れてみたり健康を考えて鉄分を入れてみたの」

 

「ふ~ん。いいんじゃないか?」

 

 俺はそう言いながらチラッと安藤の指―――より正確に言うならそこに巻かれた絆創膏に視線を向ける。

 

「指、大丈夫か?」

 

「あ、うん。大丈夫だよ。チョコを細かく切るときに少し失敗しちゃっただけだから」

 

「そっか、気をつけろよ」

 

 心配であったが、料理の失敗と考えれば仕方がないように思えた。

 俺も一度失敗して親指を切り落としかけたことがあるのだ。

 いや~、あれは死ぬかと思った。

 なんてくだらない事を思い出していると、安藤がこっちに手を出してきた。

 

「? どうした?」

 

「さとしが撫でてくれたらすぐにケガ治りそうだから、お願いできる?」

 

「ンなご利益はねぇぞ」

 

「いいの。さとしだから」

 

「そうか? お前が良いなら良いんだが・・・・・・」

 

 少し疑問はあったモノの、事件の臭いは一切しないので、安藤の頼み通りいくつも傷のついた手を優しくなでる。

 それにどんな意味があるのかが分からないが、とりあえずやっておく。

 

「そういや思ったんだが、」

 

「どうしたの?」

 

「義理チョコにハートはチョイスミスじゃね?」

 

「だからどうしてそんな鈍感なの!!?」

 

 何かまた驚かれてしまった。

 

 う~ん。

 俺なんか変なこと言ったかな?

 




塩チョコはあまり珍しくはないと言える。
だけど、チョコに鉄分を入れるなんて不思議だねぇ。
手の怪我も本当に『失敗』しちゃったのかなぁ?

塩分と鉄分が入ったチョコと手の傷。

いったいどういう事なんだろうなぁ(悪役の笑み)。


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71話 『大宮さとしの物語㉓』

申し訳ございません。

長くなりすぎたので二回に分けました。
ホント、マジでごめんなさい。


「久しぶり、安藤」

 

「6日と16時間44分ぶりね、さとし」

 

「すげぇ細かい・・・・・・」

 

 俺はげんなりとしながらもツッコミを入れるのを忘れない。

 今日は3月13日金曜日。

 学校内は先月と同様、明日が休日であるがゆえに今日がホワイトデーのような空気になっている。

 無論、俺も何人かから貰ってるので、お返しに歩いていた所であった。

 

「ほら、アクセサリー。女子はこういうのが好きなんだろ?」

 

「これ、指輪?」

 

「虎龍がプレゼントにはこれが一番って言ってたからな。まぁ、俺はアクセサリーとか邪魔くさくて嫌いだから何がどういった意味持っていて、どう思われるのか全く分からねえけど」

 

 俺はそう言って少し笑う。

 個人的にアクセサリーは戦闘時に邪魔になる物、という印象しかない。

 ゴツい指輪を幾つか使えば武器になりそうにも思うが、そんなの使うぐらいだったら素直にメリケンサックを使う。

 

「そういえば、一週間ほど学校に来てなかったけど、何かあった? どれだけ探しても痕跡すら見えなくなっちゃったから心配してたんだよ」

 

「ちょっと拉致られてデスゲームに参加してきた」

 

「ごめん。スルー出来る内容じゃなさそうなんだけど・・・・・・」

 

「少し前にあった事件を解決したつもりだったんだが、どうやらどこかでデスゲームの内容が漏れたらしくてな。少し改良された新しいゲームとして運用されてたみたいなんだよなぁ。・・・お前も知ってるだろ? 『女子大生連続失踪事件』。アレだよ」

 

「・・・・・・さとしは無茶をし過ぎよ。そんな大きな事件にすら巻き込まれているなんて」

 

「大丈夫だよ。今まで巻き込まれた事件ではそこまでヤバい奴じゃなかったから。もっとヤバいヤツ幾つかあったしな。・・・ま、こんな辛気臭せぇ話は止めようぜ」

 

 俺はそう言って強引に話を切り上げる。

 これはあまり話していいような軽い話ではない。

 

「っと、他にもお返ししないといけねぇからそろそろ行くよ。またな」

 

「うん。また、ね」

 

 安藤に背を向けて俺は歩を進める。

 背中に変な視線を感じたが、敵意ではなかった為気にはしなかった。

 

 気にすればよかったのに。

 気付ければよかったのに。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと見知った事のある廃墟の中だった。

 ここは三丁目にある廃墟の一室だ。

 何度かここで事件解決をした事があるので一目見ただけで分かった。

 分かったからこそ疑問が浮かんだ。

 なんで、俺はここにいるんだ?

 気を失う前に何があったかを思い出そうとしたが、靄がかかって思い出せない。

 その為、自分の状況を確認すると、部屋の真ん中に(なぜか)一本だけ突っ立っている柱を使って腕を固定されていた。良く腕を手錠や縄を使って後ろで固定する手法があるが、まさにそれであった。

 足は縛られているだけだったが、なにで縛られているかが薄暗くて見えない。

 しばらくジッとしていると、暗がりに目が慣れてきて何で縛られているかが見えて来た。

 俺を縛っていた物、それは『結束バンド』であった。

 結束バンド程度なら簡単に千切れそうなものだが、三重に巻かれており、力が分散されるようになっていた。

 足がこのように縛られているという事は手も同じように縛られているのだろう。

 厄介だ。

 縄だったら時間はかかれど千切るのは用意である。

 だが、伸縮性に優れ丈夫な結束バンド、しかも三重は勝手が違う。

 ただ力だけで千切ろうとすると無駄に体力を使うだけである。

 

「クッソ。誰だ、こんなことした馬鹿は。・・・・・・心当たりが多すぎるな」

 

 簡単に思いついただけでも20を超えた。

 もっと考えれば出てくるだろうが、消去法が面倒くさくなりそうなので考えるのを止める。

 しばらく(拘束されたままとはいえ)戦闘態勢を解くことなく様子を伺っているとこの部屋唯一の扉がゆっくりと開いた。

 そして、そこから入ってきたのは、

 

「さ~と~し~ちゃん♡」

 

「安、藤・・・・・・?」

 

「うん。そうだよ」

 

 いつもの調子の安藤がそこにいた。

 服装は制服ではなく、ネコミミのついたニット帽にロングコート、手袋にブーツと寒いこの時期にピッタリ合ったモノで統一してあった。

 安藤は笑顔で俺の方に近づいてくる。

 

「オイオイ。なんだ? 悪い冗談はやめろよ。・・・さっさと拘束を解いてくれ。俺は忙しいんだ」

 

「だ~め。だって、そうしたらさとしちゃんは別の(ヒト)のところに行っちゃうでしょ?」

 

「助けを求めている人がいたら駆けつけるのは当然だろ?」

 

「だから、ダメ」

 

 安藤はそう言って馬乗りしてきた。

 拘束されているせいで抵抗らしい抵抗ができない。

 できる事とすれば腰や足を左右にうねうね動かすぐらいだ。

 

「ねぇ、さとしちゃん。なんでさとしちゃんは他の人ばかり見てるの? 私、精いっぱいアピールしたのに、全く反応してくれなくて、だから、ちょっと強引にやってみたの」

 

「強引すぎて法に反しているぞ」

 

「法なんかじゃ愛は縛れないよ」

 

「ストーカー規制法で縛れているぞ」

 

 一方的な愛は迷惑行為であり犯罪行為にもなる。

 これテストに出るから。

 

「ほら、さっさと解放しろ。今なら怒らないから」

 

「い、や」

 

「?」

 

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ッッッッ!!!!」

 

 うわぉ。

 ゲシュタルト崩壊しそう。

 

「行かないで、離れないで、私を捨てないで・・・・・・」

 

「俺は俺だからな。誰かが手を伸ばしているならそれを掴む。捨てるんじゃねえんだよ。巣立ってもらいてぇんだよ」

 

 俺はいつものペースでそう言う。

 今までずっと戦ってきた意味なんてあってないようなものだ。

 ただ、伸ばされた手を掴んだだけ。

 捨てるなんてことはしない、ただ、手を引くんじゃなくて手を放して並びあい一緒に道を進んでいきたいだけなんだ。

 離れるんじゃない。

 少し成長するだけなんだ。

 

「お前も早く立派に成長してくれ。俺が安心できるぐらいにはな」

 

「だめ、だめなの。私はさとしちゃんがいないと、絶対に、だめなの・・・」

 

「ダメじゃねぇよ。お前h・・・・・・ッ!!」

 

 俺が言葉を紡ごうとした瞬間、安藤が俺の口を塞ぐように自身の口を付けて来た。

 そう――いわゆる、キスである。

 いきなりの事に一瞬だが思考が停止してしまった。

 安藤はそれを狙っていたかのように舌を絡めてくる。

 

 ピチャピチャパチャッと水の音が室内へ静かに響く。

 

 必死に足腰を動かして抵抗するが、焼け石に水の様で安藤のキスはまだ続く。

 長く舌を使って口内を舐めるようなキス―――ディープキスが延々と続き、さすがに息が続かなくなってくる。

 突き飛ばしてキスを止めることができればいいのだが、拘束されている以上やりたくてもできない。

 そろそろマズイという所でようやく安藤の口が離れた。

 俺の口と安藤の舌を繋ぐようにトロリと粘度のある唾液が糸を引き、ポタポタと垂れた。

 

「ゴフッ・・・ハァー、ハァー、ハァー・・・・・・」

 

「フフ。さとしちゃんの唾液甘くて美味しいよ。・・・ねぇ、もっと飲ませて」

 

「ハッ。こんなの飲んだっていい事無いぜ。・・・・・・さっさと離せよ。俺には、やるべきことがある」

 

「・・・まだ、分かってくれないんだ。ワタシノキモチ」

 

 安藤の眼の色が変わった。

 簡単に言うなら目のハイライトが消えた。

 嫌な予感がして(拘束された状態でとはいえ)身構える。

 すると、安藤はゆっくりと立ち上がった。

 

「なら、しょうがないよね」

 

 彼女はそう言って手袋を取ると、ロングコートのボタンを一つ一つ外す。

 はらりと開けたコートの下にはシャツはおろか下着すら着ておらず、素肌が露出していた。

 

「ひぇぇぇえええ! 痴女よぉ!!!!」

 

「反応の仕方が独特すぎるヨ」

 

 こんな状況でも安藤はいつも通り適格なツッコミを入れて来た。

 だが、彼女の動きが止まることはない。

 安藤は腰を屈めると俺のズボン―――より正確に言うならベルトとチャックに手を伸ばす。

 

「なに、する気だ?」

 

「既成事実作っちゃえば、さとしちゃんはどこにも行かないでしょ? ね? 私にさとしちゃんの子供孕ませて」

 

「ひぇぇぇえええ! お嫁に行けなくなるぅぅうう!!」

 

「さとしちゃんはそもそも男でしょ?」

 

 あ、そうだった。・・・・・・じゃねぇ。

 何納得しかけているんだ俺。

 

「うぬぉぉおおおお!」

 

 俺は今まで以上に死に物狂いで足腰を回転させて抵抗する。

 

「ちょ、暴れないでよ。すぐに気持ちよくしてあげるから」

 

「暴れるわ! この年でンな事して万が一があったらどうする!!?」

 

「だから、その万が一をしようって言ってるの。さとしちゃんは私を食べたでしょ?」

 

「記憶に一切ねぇ!」

 

 俺がそう叫ぶと、安藤の動きが止まった。

 

「チョコ、食べてくれなかったの?」

 

「は? チョコ? 食ったけど」

 

「じゃあ、私を食べてくれたんだね」

 

 嫌な予感がした。

 コイツがなんでこんな行動に出ているのかは発言内容から何となく察してはいるが、まさか・・・・・・。

 

「おい、チョコに何入れた?」

 

「え~っと、塩分と鉄分と・・・ヘモグロビン?」

 

「血じゃねえか」

 

 血を入れるチョコって、何かネットで色々と言われてる都市伝説だった気がするが思い出せない。

 確か、恋愛成就だっけ?

 くだらないオカルトだと思ってスルーしてたから詳しくわからん・・・。

 

「・・・・・・ねえ、なんで私を拒絶するの? 私は誰よりもさとしちゃんの事を理解してるし、誰よりも愛してるヨ?」

 

「理解してんなら、さっさと解放しろ。俺にはやるべきことがある」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、ダメだよ」

 

 安藤はそう言って抱き着いて来た。

 頼むから服を着て欲しい

 何とか引きはがそうとするが、ミノムシ状態である故に抵抗にすらならない。

 

「決めたよ。とても、とてもとてもとてもとてもとてもとてもとても、とっても素敵な事」

 

「スマン。嫌な予感しかしないから今すぐ開放してくれ」

 

 俺は冷や汗を流しながらそう言うが、安藤はその言葉に答えることなくスッと立ち上がる。

 そして、ロングコートを拾ってそれを羽織った。

 

「どこかに行っちゃうなら、どこにも行かないように私がずっと『管理』してあげる。お腹が空いたらご飯を持ってきてあげる。喉が乾いたら飲み物を持ってきてあげる。排泄だって、体の汚れだって、全部全部私の手で管理してあげる」

 

「なんだ? そうすれば私しか見れないから、ってか?」

 

 安藤は何も言わない。

 何も言わずに部屋から出ていく。

 無言の肯定と受け取っていいだろう。

 閉じられる扉を見届けてから俺はジタバタを再開する。

 安藤が三重にして結束バンドの拘束をしている状態だが、これは不幸中の幸いだった。

 指を縛られていたらもっとひどい状況になっていた。

 拘束と言えば手首、と一般的に思われがちだが、結束バンドを使う際は指を拘束した方が効果が強かったりする。

 まぁ、そういった事は今は後回しで良いだろう。

 詳しく知りたきゃ各自で調べろ。

 パワーが分散されている状態だとしても、分散されていることを前提にすればいい。

 俺にはちょっとした『ズル』がある。

 時間はかかるだろうが、それでも4~5日以内には終わらせれる・・・・・・と思う。

 とりあえず今は『ズル』をするための事前準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 監禁(多分)2日目。

 動けない俺の隣で安藤は弁当の蓋を取ってそこにある食材を箸で掴む。

 

「さとしちゃんハンバーグ好きだったよね。これ、頑張って作ったんだよ。はい、あ~ん」

 

「生憎腹は減っていないんでな」

 

 無論、ウソである。

 さすがに腹は減っているが、何が入っているか分からない以上口にするのは得策ではない。

 これでも絶食には慣れていて、5~6日程度なら何も食べなくてもベストコンディションで動くことは可能だ。

 

「なんで食べてくれないの? せっかく頑張って作ったのに」

 

「変なものが入っている可能性がある以上、口にするのは、な」

 

「変なものは何も入ってないよ」

 

「そうか。・・・・・・そのハンバーグに何入れた?」

 

「ひき肉と玉ねぎと・・・・・・下腹部から出した私の汁」

 

「愛液じゃねぇか。ぜってぇ食わんぞ」

 

 入ってるじゃん、変なモノ。

 ソースで臭いや味を誤魔化そうとしてんじゃねぇ。

 

「ほら、お腹空いているんでしょ? お腹の虫が鳴いてるよ」

 

「これは腹の中で嵐が吹き荒れているだけだ。ゴロゴロと雷が鳴ってるんだよ」

 

 とんでもない言い訳だが気にしてはいけない。

 時には無理やりで意味が分からない言い訳だろうと、それを使って場を切り抜けなければいけないのが社会である。

 間違っているとは言うなよ。

 これが俺なりのやり方と言うだけだ。

 

「ほら。こんなバカなことしてないでさっさと解放しろ。今なら怒らねぇしポリ公にも言わねぇからよ」

 

「だぁめ」

 

 安藤は甘い声でそう言うと俺の唇に自信の唇を付けて来た。

 昨日と同じようなキスである。

 俺も昨日と同じように無駄だと理解しながらもできるだけの抵抗はしておく。

 当たり前だが意味を成してくれない為、安藤の舌が普通に俺の口の中を舐めてきている。

 数分にもわたるディープキスを終えた安藤はゆっくりと名残惜しそうな表情を浮かべて唇を離す。

 瞬間、

 

「っっ!!!?」

 

 首元に噛みつかれた。

 プツブチッという感覚と共に痛みが走る。

 

「ア゙ッッ・・・!!」

 

「いただきま~す♡」

 

 安藤はチュウチュウと、まるで吸血鬼のように俺の血を吸い始める。

 痛みや驚きよりも俺の頭に浮かんだ言葉は、

 

「感染症の事を考えろボケェ!!」

 

「さとしちゃんのモノなら例え痛くても何でも受け入れるから平気だよ」

 

「そぉいう問題じゃねぇ! ってか股間をわさわさと触ってんじゃねぇよ!!」

 

 無論、俺のエクスカリバーは元気に立っていない。

 ふにゃふにゃのままである。

 これにはコツがあるのだが今はどうでもいいだろう。

 

「あと、四年だね」

 

「何がだよ・・・」

 

「婚姻届出せるようになるまで」

 

「今すぐここで舌噛み切ってやろうか?」

 

 俺はマジトーンでそう告げる。

 安藤は俺の言葉をスルーして、カバンの中からタオルと水の入ったペットボトルを取り出した。

 

「汗かいたでしょ? 拭いてあげる」

 

「俺は暖かい湯に浸かるのが好きなんだ。ただ汗を拭くだけじゃ満足できねぇよ。ほら、ここから少し行った所にボロッちい銭湯あるだろ。そこに行かせてくれよ」

 

「だぁめ。きっと、さとしちゃんはそこに行くまでに他の(ゴミ)の方へ眼を向けちゃうでしょ? さとしちゃんは、私以外見ちゃダメ」

 

 安藤はそう言いながら制服のボタンを外しだす。

 抵抗しようともがいたが、手足が縛られている以上、無意味に終わる。

 ・・・・・・この流れは後何回繰り返せばいいんだろうか。

 

「この体、やっぱり無茶し過ぎなんだよ。こんなに傷だらけになって、いつ死んでもおかしくないような事ばかりして。もっと自分の事を大切にしてよ」

 

「ハッ、俺みてぇなヤツが死のうが悲しむような人間はいねえさ」

 

「いるよ」

 

 俺の言葉に安藤はノータイムでそう返した。

 

「私は、絶対に悲しむ」

 

「だったら俺の事はすぐに忘れろ」

 

「っ!」

 

「俺なんかと一緒にいても幸せにはなれない。俺と深くかかわっちゃいけないんだ。・・・・・・ほら、分かったらさっさと解放しろ」

 

 安藤は俯いて何も言わない。

 その表情を見る事が出来なかった為にどう判断すればいいか分からなかった。

 

「おい。あんd、」

 

「嫌だ!!」

 

 安藤は俯いたまま叫んだ。

 そして、

 

「―――ッ!!!」

 

 胸元に噛みついて来た。

 いや、胸元だけではない、腹や腕へも噛みついて来た。

 何度も何度も。

 俺の体中には彼女の歯形が付いていく。

 

「いっ! うぐぅっ!!」

 

「さとしちゃんの体に『私』を刻み込んであげる。これで、他の(メスブタ)が近づいてくる事はないよね。そうだよね。さとしちゃんはずっと私と一緒にいるんだもんね。他の(クズ)なんて私たちの世界にいらないもんね」

 

 そう言う安藤の眼は輝いており、そこには俺しか映っていなかった。

 

「好き。好き好き好き。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。だぁ~い好き♡」

 

「ハッ、ガッ・・・・・・」

 

 俺は深く息を吸って精神を落ち着かせることで強制的に痛みを忘れる。

 そうしている内に安藤は口から唾液を垂らしながらゆっくりと顔を上げた。

 安藤の顔には恍惚とした表情を浮かべており、ゆっくりと舌なめずりする姿は、小悪魔―――というかサキュバスにも見えた。

 俺がどう抵抗しようか一瞬思考に入ると同時に安藤はソッと腰を浮かした。

 

「また、来るから。逃げようと考えちゃメ、だよ」

 

 安藤はそれだけを言うと、部屋から去っていった。

 ・・・・・・せめて外したボタンを戻してから行ってくれよ。

 今、何月だと思ってんだ。

 3月だぞ。3月。

 冬真っただ中だっての。

 文句が言いたかったモノの、その文句を言う相手は行ってしまっているので、俺は諦めるしかなかった。

 






『安藤よしみ(病み)』
身長:159cm
体重:【さとしちゃんにしか教えない】

【挿絵表示】

大宮さとしに相手されなくて病んでしまった姿。
もう語らなくてもいいだろう(説明面倒くさい)。


前田(まえだ)美歌(みか)
身長:156cm
体重:【ひ、秘密】

【挿絵表示】

大宮さとしの友人。
小学生の頃に助けられたことを切っ掛けに彼に好意を寄せている(ただし毎度スルーされている)。
口癖は物語シリーズの委員長みたいに「何でもは知らないよ。知っていることだけ」である。
ちなみに、その口癖になった理由は大宮さとしが物語シリーズをオススメしたことが原因である。


纐纈(こうけつ)真輝(まき)
身長:155cm
体重:【忘れた】

【挿絵表示】

大宮さとしの天敵。
人を誘導して事件を発生させて遊んでいる。
よく、ヤンデレと勘違いされるが、恋愛関係は乙女思考で、目の下のクマはただの寝不足によるもの。
近年、予想以上に強くなっていく大宮さとしに焦っていたりもする。


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72話 『大宮さとしの物語㉔ 終了 もう書いてたまるか』

これでラストだぁぁぁああああああああ!!!!

もう二度と『大宮さとしの物語』なんて書くものかぁぁぁあああああ!!!!!


 監禁3日目。

 俺は凍えることなく朝を迎える事が出来た。

 この部屋自体、廃墟の中ほどにあり、隙間風などもない為にそこまで冷えることがなかったのが幸いした。

 体中に力を込めて半強制的に血流を促進させたことにより発生した熱気があれば十分一晩を過ごせるほどの温かさになった。

 これが『ズル』のうちの一つ。

 っといってもめちゃくちゃスタミナ使うからあまりやりたくはないけど・・・・・・。

 俺は少し息を整えて精神を落ち着ける。

 そして、力を籠める瞬間、

 

「さ~と~し~ちゃん♪」

 

 部屋の扉が開かれた。

 マッズイ。

 昨日は室温を上げることに神経を使ってたが故に拘束を解く方へ力を使えていなかった。

 もう少し安藤が来るのが遅ければほんの少しでも拘束を解くための準備ができたっていうのに。

 俺は少し焦りつつもそれを表に出さずいつも通りの口調で言う。

 

「よぉ、安藤。・・・ったく、今の季節を考えろよ。昨日は寒くて大変だったぜ」

 

「あっ・・・。ご、ごめんね」

 

 安藤はびっくりした表情を浮かべ、慌てて服を脱ぎだs

 

「何やろうとしとんじゃボケェ!!!」

 

「ひ、人肌で温めようと」

 

「雪山で遭難した際の最終手段にでも取っとけ」

 

 まあ、雪山で遭難した場合は慌てず通報が出来れば通報をし、素早く雪洞を作って一晩を明かし、明るくなってから人目に付く場所へと行って救助されるのを待つのが良い・・・とどこかの本に書いてあった。

 なので、人肌で温めあうってのはそこまで最善手という訳ではない・・・らしい。

 ただ、俺自身雪山に行った事や遭難した事なんてないので正確な事は言えないってのが現状である。

 

「・・・・・・あれ? 室内、さとしちゃんの匂いで溢れてるね」

 

「なんでンな事分かるんだよ。犬か、オイ」

 

 そうため息を吐く俺を余所に安藤はパタパタと足音を立てながら近づいてきてボタンを付け始めた。

 いや、マジでなんで昨日やってくれなかったの?

 そんな疑問を持ちながらも、この日もずっと安藤からの猛攻(性的)を全力で避け続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 監禁4日目。

 俺は少しげんなりとしながら言う。

 

「何やってんの、お前」

 

「白玉団子を作ってるの。さとしちゃん、変なものが入ってるってずっと文句言ってるから、目の前で作れば文句ないかな~って」

 

「だからって、何だよそのチョイス」

 

「私が素手で愛情とかを練りこんだ物を食べて欲しくて」

 

「ああ、うん。そうっすか」

 

 もはやツッコミを入れる気力すらなかった。

 俺は安藤の動向をボーッと眺めている内に白玉が完成した。

 安藤はあんこも手作りしており、料理の苦手な俺からしたら良くできるモノだと感心すらしてしまう。

 

「はい、あ~ん」

 

「自分のペースで食いたいから拘束を解いて欲しいんだがな」

 

 俺はそう文句を言いながらも白玉を口に入れる。

 安藤は嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべている。

 

「どう? おいしい?」

 

「甘い。砂糖入れ過ぎだ」

 

「ここしばらく何も食べてなかったでしょ? だから糖分取った方がいいと思って少し多く入れてみたの」

 

「なるほど。気遣いあんがと」

 

 多少だがエネルギーを摂取できたのは大きい、と思う。

『ズル』の方も順調であり、もしかすれば今夜にでも・・・・・・、

 

「それじゃぁ、私も食べるね」

 

 安藤はそう言って俺の首元に噛みついて来た。

 俺は、痛みを訴えるよりも前に、叫ぶ。

 

「テメェは吸血鬼か!!」

 

「さとしちゃんとずっと一緒にいられるなら私は吸血鬼(バケモノ)でもいいかな」

 

「ハッ。きっと吸血鬼は良いもんじゃないぜ」

 

 俺がそんな軽口を叩いている間も、安藤は俺の血を舐めていた。

 ・・・・・・ってか、血って飲むと嘔吐感が出るんじゃなかったっけな?

 そんな疑問が浮かんだが、調べたりできる状況でもないので後で調べようと頭の片隅に置いて、俺は機を伺うのだった。

 

 

 

 

 

 

 監禁5日目、夜。

 ブツッと言う鈍い音と共に俺の手の拘束が千切れた。

 時間はかかったが、監禁されてからずっと負荷をかけ続けていたのがやはり良かった。

 三重にされてかなり力が分散されていたのがキツかったが、少し『ズル』をすればなんとか行けた。

『ズル』っとは、呼吸法によるリミッター解除である。

 人間・・・・・・いや、すべての生物の体にはリミッターが存在しており、限界値なる物が個々に定められている。

 俺は呼吸法で精神を落ち着かせ、血流を安定させて無理矢理肉体のリミッターを外したのだ。

 今まで様々な事件で、こんな普通の一般人が戦えていたのにはそういった『ズル』があるからである。

 精神安定による強制リミッター解除。

 この方法が使えなければ俺はとっくの昔に死んでいただろう。

 ただ、当たり前だがこれはドラゴンボールで言う所の『界王拳』に近い所がある。

 端的に言えば体への負荷が露骨に出てくる。

 1月に入院するよりも前だってリミッターを解除して無茶苦茶しまくっていた。

 特に、12月なんて拳銃を持った戦闘のプロ二人を相手に藤原が逃げる時間を稼いだりもしているのだ。

 かなり時間が経った為、体へのダメージはなくなっているが、それでもあまり良いモノではない。

 当たり前だが、肉体への疲労は確実に蓄積されているだろう。

 ただ、今はンなくだらない事に意識を割くほどの余裕なんてない。

 俺はスッと立ち上がり、凝り固まった体を解す。

 そして、部屋から抜け出し、窓に板が打ち付けられているこの廃墟の唯一の出入り口である玄関へと向かうために廊下の曲がり角をまg

 

「ッッッ!!!?」

 

 瞬間、左腕に鋭い痛みが走った。

 視線を向けると、二の腕に深々とナイフが突き刺さっていた。

 

「やっぱり、他の(ブタ)の所に行こうとしてたんだ」

 

 そう言う安藤に俺は呼吸法で精神を切り離し、肉体へのダメージを無視しながらつぶやく。

 

「監禁されりゃ誰だって逃げようとするに決まってんだろ」

 

「なんで、私のキモチを分かってくれないの? こんなに、こんなにも好きなのに。他の(ヒト)ばかり見て、私と一緒にいてくれないなんて、私イヤダヨ」

 

「そうかよ。だがな、事件の匂いがするんだ。この五日間、この街で何が起きているか、なにが起きたかを俺は知らない。もしかしたら困っている人がいるかもしれない、助けを求めている人がいるかもしれない。なら、行かないと」

 

「だめ。さとしちゃんは私と一緒にいよう。そうすればもう傷つくことはないもん」

 

 安藤はそう言ってソッと距離を詰めて来た。

 

「もしも、他の人がさとしちゃんを殺すなら、それよりも前に私がさとしちゃんを殺すの。そうすれば、さとしちゃんはずっと、ずっとず~っと私だけのモノだもん」

 

 安藤はそう言って俺の腕に刺さったナイフを掴み、ギチギチギチッと捻りだした。

 さすがに、精神を切り離し続けることはできず、痛みに絶叫を上げる。

 

「大丈夫だよ。私もすぐに黄泉路に向かうから。そうすれば寂しくないよ」

 

「そう、かよ」

 

 俺はそう答えると空いている右手で安藤を抱くように寄せる。

 そして、

 

「ごめんな」

 

 それだけを言うと俺は安藤の顔めがけて思い切り頭突きをくらわした。

 安藤は目を回して倒れる。

 俺はしっかりと意識を奪えたかを確認せずに玄関へと向かう。

 だが、途中で足が動かなくなった。

 理由は明白。

 血を、流し過ぎたのだ。

 壁に手を受け、覚束ない足で何とか立ち上がる。

 そして、扉まであと数メートルの所で完全に足が止まり、体の重心がズレ、倒れてしまった。

 もう、指も動いてくれない。

 そうして、意識が落ちてゆく。

 何よりも、暗い闇の中へと。

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと俺は助かった。

 安藤にナイフを捻られた際に上げた悲鳴を近隣住民が聞いていたらしく、通報を受けた警察が駆けつけて来てくれたのだ。

 俺は病院へと担ぎ込まれ、手を俺の血で真っ赤に染めた安藤は殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された。

 そして、俺が入院している間に容疑が固まり、少女少年院へと収監されることになった。

 マスメディアは安藤の事を何も知らないというのに視聴率のタネと言わんばかりに勝手な事を騒ぎたて、事実と異なるという事がネット上で暴かれた瞬間に報道と止めた。

 間違えを認めずに何も答えず高齢層を騙していくいつものパターンだ。

 だからマスゴミと言われるのが分からないのか・・・。

 そんなことを思いながら俺は特に装飾のない一室に設置されたソファーに座り、窓の外の景色を眺める。

 しばらくすると部屋の扉が開き、監視員と安藤が一緒に入ってきた。

 

「よぉ、安藤。窶れてんじゃねぇかよ。しっかり睡眠は取っているのか?」

 

 俺はいつものペースでそう問いかける。

 だが、彼女からの返事はない。

 いつもの事だ。

 これでここに訪れるのは二桁を超えたが、何度話しかけても安藤が答えてくれることはなかった。

 それでも、俺は話しかける。

 前みたいに、あの事件なんてなかったかのように。

 だけど、安藤は無表情のままずっと下を向いている。

 その顔は、とても寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 その日もリハビリの帰りだった。

 安藤に突き刺された腕は神経をやられており、マヒが残ってしまった。

 ただリハビリが順調に行っている為、多少動きは鈍いが前みたいに動くようにはなっている。

 医者曰く、

 

「こんなに早く経過が出るのはおかしい。異常としか言えない」

 

 らしいが、知ったこっちゃない。

 怪我の回復が早いのが取り柄だからな。

 そんなくだらない事を考えながら歩いていると、スマホに着信があった。

 出ると、長谷川さんからだった。

 またいつものくだらない確認かと思ったが、様子がおかしい。

 

「大宮。落ち着いて聞いて欲しい」

 

「何か、あったんですか?」

 

「実は、」

 

 長谷川さんはそう前置きをしてから告げた。

 

「先ほど、安藤よしみが自殺した」

 

 耳を疑った。

 嘘だと思った。

 だけど、長谷川さんの真剣な声が、それが事実であることを告げていた。

 

 

 救えなかった。

 助ける事が出来なかった。

 

 

 

 やっぱり、俺は無力だった。

 無力でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在。

 

「お前を救える方法がようやく思いついた」

 

《フルボトルバスター》

 

「・・・・・・行くぜ」

 

 

「来て。今度こそ私のモノにするカラ」

 

 縁は繋がり、また、俺の前に壁として聳え立つ。

 

 

 

 さぁ、実験を始めようか。

 

 

 

 前世の後悔を無くす為の、そして、目の前の少女を救う為の法則を立証するために。

 




やっと、終わった
ε-(-ω-; )ハァ…


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73話 『別れと再会。始まりの合図』

短編に登場した『あの医者』の登場。


「はぁあ!!」

 

「やぁあ!!」

 

 フルボトルバスターの攻撃を、グリスはツインブレイカーにボトルを装填し、威力を増幅させることで弾く。

 だが、この程度想定していない訳がなく、弾かれた力に抗う事無く後ろへと跳ぶ。

 そして、

 

《ラビット ドラゴン ジャストマッチでーす! ジャストマッチブレイク!》

 

 ボトルが装填されたことにより、フルボトルバスターのブレードに赤と青のエネルギーが纏われる。

 

「うぉりゃぁ!!」

 

 俺は全力でフルボトルバスターを振るう。

 その攻撃はグリスのガードを無視し、腹部へと直撃した。

 

「ッッ!!!」

 

 だが、俺はそこで攻撃を止めるほど温い道を歩いてはいない。

 振るった勢いに体を持ってかれないよう素早くフルボトルバスターを手放し、体勢を低くしてグリスの懐へと潜ると、思い切りアッパーカットを喰らわせた。

 さらに、後ろにのけ反り隙だらけになったその腹へ肘を叩きこんだ。

 グリスは攻撃の勢いをそのままに地面を転がった。

 それでも、油断することなく俺は攻撃態勢と整え、構える。

 

「ッハ―――!!」

 

「どうした? もう止めといた方が良いんじゃないか? 大分無茶しているだろう」

 

「絶対に、止めな、い」

 

 グリスはそう言って寝そべった状態から飛び上がると同時にヴァリアブルゼリーを噴き出して加速、一気に距離を詰めて来た。

 俺はその斜線上に大きなダイヤモンドの壁を設置し、ロケットフルボトルの効果を使用して一気に飛び上がる。

 そして、

 

《ワンサイド! Ready Go!》

 

 右腕にエネルギーが収束する。

 俺はダイヤモンドの壁に突撃してバランスを崩した彼女へとその拳を向けた。

 

《ジーニアスアタック!》

 

 俺は重力+タカフルボトルによる加速を付けて一気に距離を詰める。

 振りかぶり、それを撃ち込む。

 グリスはガードが出来ず、背中に俺の攻撃をモロに喰らった。

 だが、地面に叩きつけられる前に両手で着地し、横へ跳んで地面を数回転がってから態勢を整えてツインブレイカーにボトルとゼリーを装填する。

 

《ツインブレイク!》

 

 グリスは着地した瞬間にできた一瞬の隙を狙って攻撃をしてきた。

 だが、そんなのに対応できないようだったら俺はもっと昔に死んでいる。

 え? 死んだから転生してここにいるんだろ、だって?

 アー、キコエナイナー。

 俺はまっすぐ飛んでくる攻撃を片手で弾き、フェニックスフルボトルと消防車フルボトルの効果を発揮し、勢いよく炎を放出して浴びせる。

 さらに、グリスの背後へとスパイダーフルボトルの効果を使って粘着性のネットを設置し、炎に怯んでいるグリスを蹴飛ばして引っ付かせる。

 それによってできた一瞬の隙に俺はベルトのレバーを回す。

 

《ワンサイド! 逆サイド! Ready Go!》

 

 俺は取り出したドリルクラッシャーと4コマ忍法刀にジーニアスボトルのエネルギーを収束させ、それを振るう。

 エネルギーは衝撃波となりグリスを襲った。

 え? そんな技ないだろ、だって?

 いいだろう。少しぐらい自分で考えたオリジナル技を使ったってよぉ。

 仮免試験前に頑張って作ったんだぞ、オラァ。

 なんてくだらない一人漫才をしながら俺はドリルクラッシャーと4コマ忍法刀をそこらへんに投げ捨てる。

 一応言っておくと、個性で出現させた武器アイテムは俺の手から離れると時間経過で消えるので回収する必要はない。

 グリスは地に倒れ伏し、それでも立ち上がろうとしていた。

 

「諦めろ。俺にゃ、届かない」

 

「届かせる、よ。・・・例え、キミがどこへ行こうと私は、」

 

「だったら届かねえように俺は離れる。お前にはもう、俺みたいなゴミは必要ないからな」

 

 俺はそう言うとベルトのレバーへと手を添え、ゆっくりと回す。

 

《ワンサイド! 逆サイド! オールサイド! Ready Go!》

 

 足にエネルギーが収束する。

 これで、最後だ。

 コイツと・・・『“安藤よしみ”の記憶を持った“赤口キリコ”』との関係は、これで・・・・・・。

 右足を踏み出す。

 左足を踏み出す。

 いつも普通にこなしている何気ない動きがとてもゆっくりに感じられた。

 少し勢いがついてから飛び上がり、右足を強く突き出す。

 ジーニアフォームによる後方へのエネルギー放射で大加速する少し前に俺は小さく呟く。

 

 

 

 

「ごめんな」

 

 

 

 

 そして、攻撃が叩き込まれる。

 

《ジーニアスフィニッシュ!!》

 

「らぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 グリスは何とか体制を整えてガードしようとしていたが、慌てていたが故にそのガードには穴があった。

 俺は、的確にその穴へと攻撃を入れる。

 大きな破壊音と共にグリスの変身が解除された。

 俺は、彼女が気を失っている事を確認してから言う。

 

「コブラ野郎、力を貸せ」

 

「良いだろう。・・・って誰がコブラ野郎だ」

 

「言ってみたくなったんだよ」

 

 そう言う俺の言葉にエボルトはやれやれと言った様子で近づいて来た。

 

「それで、どうすればいいんだ?」

 

「コイツの記憶を消してやってくれ」

 

 俺の言葉に強く反応を示したのはミキだった。

 彼女は俺の腕を掴みガクガクと小刻みに揺らしてきた。

 

「大宮くん! なんでそんなことをするの!? 君はずっとそんな強引な手段を使わずに助けようとしてたじゃん。それなのに、なんで・・・・・・」

 

「俺が弱いからだよ」

 

「ッッ!」

 

「弱いから救えなかった。ただ、拳を振るう事しかできなかったから、コイツを助ける事が出来なかった。周りが勝手に過大評価をし続けてただけだ。俺は、今も昔も弱いままなんだよ。・・・・・・お前も分かってんだろ? なんか、そんな気がする」

 

「うん・・・・・・」

 

「まぁ、失望させたんだとしたらごめんな」

 

 俺はそう言って苦笑する。

 そして、ミキの頭を撫でながらエボルトに言う。

 

「記憶を消してやってくれ。俺と言う“害”を弾くにはそれしか思いつかなかった」

 

「分かった分かった。・・・・・・顔はどうする?」

 

「そのままでいいだろう」

 

 再度デザイン考えるの大変そうだからな。

 エボルトは安藤の頭に手を置き、軽く撫でた。

 

「それだけでいいのか?」

 

「ああ。これでこの娘は何もかもを忘れたさ」

 

「そうか。手ェ煩わせたな」

 

 俺はそう言ってから詩崎鋭矢へ視線を向ける。

 

「お前は、これからどうするんだ?」

 

「勉強をするよ。来年に向けて。・・・・・・それよりも前に逮捕されそうだけど」

 

「大丈夫だ。今日は何もなかった。お前は普通の生活を送ればいい」

 

 驚いた表情を見せる詩崎鋭矢を余所に、俺は赤口の方へと近づき、ゆっくりと担ぎ上げる。

 スマホを取り出し時間を確認するともう六時間目間が終わる頃であった。

 ・・・・・・こりゃ反省文書いとかないとな。

 俺はそんなことを思いながらどう裏工作をしようか、と思考を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が病室で目を覚ます。

 窓際に設置されたベッドで、朝日が全身を照らしていた。

 何が何だか分からず自分の手のひらに視線を落としていると、少女の意識が戻ったことに気が付いた看護師が慌てて医者を呼びに走る。

 呼ばれた医者は何度か派手に転びながらも少女の下へとたどり着く。

 そんな医者を見た少女の感想とすれば、

 

(大丈夫なのかな? この人)

 

 であった。

 確かに、あっちこっちボロボロになって髪もぼさぼさの医者を見てそんな感想を抱かない人間の方が珍しいだろう。

 医者は身なりをサッと整えて少女に笑顔を向ける。

 

「おはよう。僕の名前は“宝生風夢”。ここでキミみたいな訳アリの患者を担当している医者さ。・・・・・・ところで、生年月日と名前を教えてもらえるかな?」

 

「生年月日と、名前・・・・・・あれ? 私の、名前?」

 

 医者―――風夢の言葉を聞いてようやく気が付いた。

 自分の名前が思い出せないのだ。

 いや、名前だけじゃない。

 今までの人生の思い出すらも思い出せないのだ。

 それに戸惑っている少女に風夢は優しい声色で囁くように言う。

 

「ここにはね、キミみたいに記憶を失って入院している人が大勢いる。中には治療して記憶を取り戻した人もいるんだ」

 

 そこまで言ったところで少し風夢の顔に影が出た。

 だが、すぐにその影はなくなる。

 

「だから、これから僕と一緒に少しずつ治療して行こう」

 

 少女にはそう笑う風夢の顔と“誰か”の顔が重なって見えた。

 顔は全然似ていない。

 だけど、その笑顔の雰囲気がどことなくそっくりだったのだ。

 

「そうだ。まだ君の名前を言っていなかったね」

 

「分かるん、ですか・・・?」

 

「保険証とバイクの免許証を持っていたからね。そこから調べたよ」

 

 風夢はそう言うとクマのマスコットがプリントされた財布とアタッシュケースを取り出した。

 少女は首を横に傾げる。

 財布には何となく見覚えがあるのだが、アタッシュケースには一切ないのだ。

 そんな少女を見て風夢は少し苦笑してから言う。

 

「ああ、このアタッシュケースは君の物じゃないよ。ただ、僕からのプレゼントでもある。この中には君の所持していた“あるアイテム”が入っているんだ」

 

 風夢はそう言ってアタッシュケースを開いた。

 そこにはレンチのような部品の付いた水色のアイテムと同じく水色のナックル型のアイテム、そして、ゼリー状のアイテムとボトル形状のアイテムが入っていた。

 少女にはそれが何なのか思い出せなかった。

 そんな少女を余所に風夢はアタッシュケースを閉める。

 

「これは君が所持していた物なんだ。渡しておくよ」

 

 少女はアタッシュケースを受け取る。

 

「あっ、そうだ。君の名前を教えるのを忘れてた」

 

 風夢はそう言って後頭部を掻く。

 少女も話がそれていたことに気付き、とりあえずアタッシュケースをベッドの隣にある備え付けの棚に置く。

 

「教えてください。私の、名前・・・」

 

「うん。・・・君の名前は“赤口キリコ”。年齢は18。君のしていた仕事は・・・・・・いや、これは言わないでおこう」

 

 そう言う風夢に少女―――キリコは疑問を覚えたが、深く追及はしなかった。

 

「ひとまず今日は休んで、明日からカウンセリングを行おう。それで、ゆっくり思い出して行ければいいさ」

 

「はい」

 

 キリコは風夢の言葉にそう答えた。

 何の穢れもない、普通の少女らしい笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 俺はそんな光景を遠くから眺める。

 彼女が普通の少女としている姿が、俺には眩しく見えた。

 その姿は、俺には達成できなかった。

 彼女の笑顔を守ることも、彼女を幸せにしてやることもできなかった。

 結局彼女を助けるためだと自分に嘘を吐き逃げている。

 やはり、どれだけ時間が経過しても俺は弱く幼いままだ。

 

「なぁ、ユウ。もっと俺に出来た事ってなかったのかな?」

 

「さあね。オレにはどうとも言えないよ。ただ、龍兎が彼女と面識あるとは思わなかった」

 

 そう呟くユウの方へ俺は視線を移す。

 

「ん? なんだ? お前、彼女・・・安藤のこと知ってたのか?」

 

「前世で同学年だったんだよ。だから、廊下ですれ違ったりしてた」

 

「ふ~ん。そぉいや、お前の前世での名前って何なんだ? 俺も安藤と同学年だったからもしかしたら知ってるかも」

 

「ああ、オレの名前? “海野”だよ。“海野(うみの)探紗(たんさ)”。それがオレの前世の名前」

 

 その言葉を聞いて俺はゆっくりと腰を上げた。

 ユウは俺の雰囲気が違うのを感じ取ったのか、首をかしげている。

 俺は少し息を吸ってから叫ぶ。

 

「海野、テメェかこのやろぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「はっ、ちょ、何? 何で怒ってんの!?」

 

「俺だ! “大宮さとし”だ!!」

 

「えっ!? 大宮だったの!? お前が死ぬとか何があった!!?」

 

「俺が誰のせいで死んだと思っているんだゴルァァアアアア!!!!!!」

 

 俺は右手を振りかぶってユウの顔を打ち抜くように殴りつける。

 ユウはガードできずに後ろへと倒れ伏す。

 鼻から血がダラダラと血を流しているが、それには気付いていないらしく、目をぱちくりさせながら言う。

 

「オレのせいなの!?」

 

「階段から足を踏み外したテメェの下敷きになったんだよ!!」

 

「ガチでオレのせいだった!!?」

 

「ココであったが百年目ェ!! 歯ァ食いしばれよォ!!!!

 

「ちょ、まっ、止めt・・・・・・ゴフウァッ!!!」

 

 俺は再度、ユウの顔面に拳を叩きこむ。

 ゴスッという肉を撃つ鈍い感触が腕に伝わってきたが、それを気にすることはない。

 なぜなら、死んでから約15年の月日を得て、俺はコイツを殴る事が出来たのだから。

 




一話から決まっていた”賢王雄”の前世設定をようやく出せたぁ。
長かったぁ(約11ヶ月経過)。

いや、ホント、もう少し早く判明する予定だったんですよ。
それなのにこんなに時間が掛かるなんて・・・(;´∀`)


そして、これで『無個性 編』は終了となります。
次回からは(ようやく)『クマ 編』の始まりです。


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クマ 編
74話 『新しい始まり』


祝・私の誕生日。
あと一年で酒飲めるぞ~('ω')ノ


 俺は白目をむいて倒れるユウを背負って基地へと向かう。

 ユウの顔はボロボロのボコボコになっており、血が滲んでいる個所もある。

 こんな事をした犯人は当たり前だが俺である。

 とりあえず個人的な恨みを晴らすべく全力で殴った。

 何度も何度も殴り続けた。

 気付けば気を失っていたので、面倒くさがったが基地まで背負っていくことにした。

 ったく、ホント面倒だな。もっと空気読めよ。

 え? 俺が殴ったから気を失ったんだろ、だって?

 アーアー、キコエナイー。

 しばらく歩いていると後ろから声をかけられた。

 

「あの、なんで賢王様が怪我をして気を失ってるのですか?」

 

「階段から足を踏み外した」

 

 戸惑う仕原に俺はノータイムでそう返す。

 そして、流れるようにユウを押し付けて身軽になる。

 

「ところで、どうしたんだ? 何か急用でも?」

 

「あ、はい。龍兎さんを訪ねて来たお客様がいるので早めにカフェ地下までお願いします」

 

「客? 俺にか? ・・・・・・う~む。裏社会にそこまで知り合いはいない筈なんだがな。とりあえず行ってみるよ」

 

 俺はそう言って歩を進める。

 ちなみに今は平日であるが、『ファウスト』の仕事があるとして学校を休んでいる。

 昨日も午後の授業を休んでいるので授業についていけないのではないか、と思いのそこのアナタ!

 実は奥の手があるんですよグヘヘヘヘ。

 俺は視力は良い方でメガネを掛けなくても大丈夫なのだが、いつもシンプルな黒縁メガネを掛けている。

 おかげで皆からは飯田とメガネコンビ、とか言われているがそこはスルーしておこう。

 この眼鏡には超小型カメラが内蔵されており、常時撮影をしている。

 また、しっかりと音声も入っているので後々チェックするのには便利なのだ。

 この機能は雄英体育祭二週間前から皆を鍛えていた時にも重宝した。

 皆の動きを正面から見返すことで弱点の指摘などに繋げた。

 これの応用で今現在、教室の机の上にカメラ内蔵の小さなクマの人形を置いてきている。

 その為、勉強方面に関しては無問題なのだ。

 ちなみにだが、小型コンピューターも搭載しており、音声認識でネット検索ができる等、近未来的な機能も備えているのでスマホを取り出すことなく色々な情報を仕入れることも可能だ(だからテスト中は外している)。

 ただ、昨日はメガネを置いておくしかなかったのでなんだか不格好だったのを覚えている・・・。

 まぁ、それはいいか。

 とりあえず休んでも勉強に関しては遅れることはないのである。

 

「さて、と」

 

 俺は腕をクルクルと回して軽く肩を解し、バグスターの力を使って基地へとテレポートした。

 やっぱり、便利だなこの力。

 能力の効果対象が自分だけと言うのが惜しいと思える。

 

「よ、来たな」

 

石動(エボルト)、何やってんだ?」

 

「客に出すコーヒーを淹れているところだ」

 

 俺は石動の頬にパンチをお見舞いした。

 

「痛いな。何をするんだ」

 

「お前は自身のコーヒーの不味さを自覚してるんだろ。だったら客に出すな」

 

「今日は最高級の豆を使ったんだがなぁ」

 

「・・・・・・豆じゃなくて淹れてる人物が問題なんだよ」

 

 俺はそうため息を吐いて肩を落とす。

 そして、店の外に出て近くの自販機から缶コーヒーを買ってから地下へと降りる。

 基地の扉を開けて客人を見ると同時にズッコケてしまった

 

「やぁ」

 

「よぉ」

 

「なんでお前らがココにいるんだよ! マムシ! サクラ!」

 

 地下基地でのほほんとした雰囲気でクッキーを頬張っていたのはI・アイランドで関わった二人だった。

 片方はほぼ不戦で終わり、もう片方は前世からの繋がりのある存在であった。

 

「あ、行ってなかったっけ? 私の名前は桜井真桜だよ」

 

「俺は蛇法(じゃほう)純一(じゅんいち)だ」

 

「サラッと自己紹介に入ったよ・・・」

 

 俺は呆れ半分でそう呟きながら先ほど買った缶コーヒーを投げ渡す。

 サクラは普通にキャッチしたが、マムシは失敗して足に落としていた。

 なんか足抑えてクレームを入れてきているがスルーしておく。

 人生で生きていくには多少の事ならばスルーして気にしないのが正解なのさ。

 サクラは缶コーヒーを一口飲んでから口を開いた。

 

「ところで、君たちが『ベアーズ』を潰すために色々とやろうとしていることを掴んだんだけど、私たちも参加させてもらっていいかな?」

 

「参加? ンでだよ」

 

 俺がそう尋ねるとサクラはポケットからUSBメモリを取り出した。

 それには、見覚えがあった。

 少し前、I・アイランドでサクラがデータをコピーしていた物である。

 サクラがUSBメモリについていたボタンを押すと、ガシャガシャっという機械音と共に大きく変形し、モニターのようなものが現れた。

 

「それは?」

 

「ココに映っているモノを見るよりキミのソレに移した方が良いかもね」

 

 サクラがモニターを何度かタッチすると俺の眼鏡のレンズにデータが映し出された。

 一発で俺特製の『新型コンピュータ:メガネくん』の機能に気付きやがった。

 俺は送信されたデータに一通り目を通す。

 

「このデータは本物か? だとしたら気になる点がある」

 

「気になる点? 言ってみたまえ」

 

「ンで上から目線なんだよ・・・。まぁいい。資料6P8行にある『最新型AIによる強い防衛』ってのは何だ?」

 

「言葉のまんまだよ。『ベアーズ』の基地にはAI兵器による防衛が存在する。それが最小でありながら別組織からの攻撃を受けない理由さ」

 

 例えば、とサクラは前置きをし、

 

「数年前まで『グリフォン』という組織があったんだけど、『ベアーズ』にちょっかいをかけた結果、壊滅している。当時、『グリフォン』は転生者による(ヴィラン)の集まりの中で一番大きな組織だったのにも関わらず、ね」

 

「なんでンなことまで知ってるんだ?」

 

「私はお金を貰ってその作戦に参加していたからね。これでも一応当事者なんだよ」

 

「それで?」

 

 俺がそう質問するとサクラは少し息を吐いてから言った。

 

「当時の基地は今ほど厳重じゃなかったけど、それでも第(なな)防衛ラインのうち第(よん)防衛ラインまでしか破ることはできなかった。『グリフォン』の幹部は全員幻獣の“個性(チカラ)”を使えたんだけど、その中でも一番火力のあった“バハムート”は第Ⅲ防衛ラインで力尽きた。私だって身を守るので精いっぱいだったよ・・・・・・」

 

 サクラの言葉に『ファウスト』メンバーに動揺が走った。

 俺はあまり(ヴィラン)側の情報に詳しくないのでよく分からないが、かなりヤバい事の様だ。

 そんな周りを余所にサクラは言葉を続ける。

 

「そんな防衛ラインが今は第ⅩⅤ(じゅうご)防衛ラインまである」

 

 瞬間、サクラを除くその場にいた全員が言葉を失った。

 規格外。あまりにも規格外すぎる。

 だけど、俺とサクラだけは周りと違う。

 恐怖がないと言えばウソになる。

 焦りがないと言ってもウソになる。

 それでも、勝算があるからこそサクラは―――ナナシは動く。

 コイツが話を持ってきた時点でその防衛ラインを突破する方法があるという事だ。

 

「そんで? 防衛ラインを突破する方法は?」

 

「I・アイランドから盗んできたこのデータを基に作ったウイルスだよ。これを使えば防衛AIを一時的だけど停止させることができる。その隙をついて基地の中心まで行けば・・・」

 

「停止させられるんだったら破壊プログラムの方が良いんじゃねぇのか?」

 

 横からいきなり猿伸が会話に入ってきた。

 

「それだけは駄目、なんだ・・・」

 

 サクラはそう言って目を伏せる。

 瞬間、『ファウスト』及び『パンドラ』メンバー女子勢が猿伸を言葉で攻めだす。

 モノの数分で猿伸はメンタルがやられ、部屋の端っこで体育座りをし、右手の人差し指で地面に延々と『の』を書いていた。

 女子怖ェ・・・・・・。

 ちなみに、暗視波奉だけが猿伸を慰めていた。

 

「お前、相変わらずだな」

 

「ね? 可愛い格好していると便利でしょ?」

 

「やられた方からしたら恐怖でしかないけどな・・・」

 

 俺は後頭部をポリポリと掻いてから、訪ねる。

 

「作戦決行は少し先で良いか?」

 

「どうしてかな?」

 

「俺は一応学生なんだ。これ以上学業を疎かにできない。ただ、そろそろ『校外活動(ヒーローインターン)』があるからそのタイミングなら大丈夫だ」

 

「なるほどそれじゃ、こっちは情報を集めておくからなるべく早めにね」

 

 俺たちは手を取り合う。

 強い握手。

 それは、俺に昔を思い出させた。

 コイツと戦い、コイツと共に『あの少女』を救ったあの頃を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~、俺のこと忘れてない?」

 

 マムシがなんか言っているがスルーしておこう。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 俺が教室でPCを開き、発目と共同開発をしているサポートアイテムの改良点をデータとして打ち込んでゆく。

 すると、ガラッと教室の扉が開かれた。

 俺含むクラスメイトたちがそちらに目をやると、

 

「ご迷惑おかけしました!!」

 

 緑谷が大きな声を上げて頭を下げていた。

 俺はそれをスルーしてPCの画面に視線を落とす。

 そしてカタカタとしばらくデータの打ち込みに専念していると、

 

「いつまでやっているんだ」

 

「アダッ!!」

 

 相澤先生にチョップされた。

 油断しまくっていた為に気が付かなかった。

 昔なら無かった事だろうが、前線から退いてから時間が経ちすぎてブランクがあるようだ。

 

「すみません。仕事に集中してました」

 

「やるな、とは言わん。ただ、周りにも目を向けろ」

 

「うっす」

 

 俺がそう答えると相澤先生は教壇の方へと向かい、全員を見渡せるような位置に立ってから言う。

 

「じゃ、本格的にインターンの話をしていこう。・・・入っておいで」

 

 相澤先生が扉の方に視線を向けながらそう言うとスッと扉が開かれる。

 そして、三人の人物が入ってきた。

 

「職場体験とどういう違いがあるのか直に経験している人間から話してもらう。多忙な中都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3人―――通称『ビッグ3』の皆だ」

 

 天喰環・波動ねじれ・通形ミリオの三人。

 それぞれが濃ゆいキャラを持つ者たち。

 そして、『ビッグ3』の名に恥じない実力者たちだ。

 この先の展開は遅いようでとても速く、落ち着いている暇はなくなるだろう。

 ここから、また時計が動き出す。

 チクタクと時を刻んでゆく。

 

 

 

 そして、そして、そして、そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だけは、俺が殺す。・・・・・・変身」

 

 

ZI-O(ジオウ)!》

 

 

「そうかよ。殺せるもんならやってみな。変身」

 

RIDER TIME(ライダータイム)!》

 

 時は収束しだす。

 




クマ編スタート!!!

なお、クマ編にジオウの登場予定はありません。


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75話 『ミリオ先輩ってかっこいいよね。顔じゃなくて心とか言動とかもう色々』

サブタイトルの名前が思いつかないぜちくしょうorz

課金したのにいらないキャラダブったぜくそがorz

財布のチャック部分壊れたぜおんどりゃぁorz


 教室に入ってきた『ビッグ3』が順に黒板前へ並ぶ。

 三人がそれぞれ独特の強さを持ち、方向性が違うために技術を盗むにも相性があるのは確かである。

 つまり何が言いたいかと言うと、俺個人はこの三人から学ぶことは何もないという事だ。

 強く、技術もあり、経験も豊富。

 そこだけを聞けば少しでも学べまいかと前のめりになる者もいそうではあるが、生憎俺は経験だけなら誰よりもある自信がある。

 多少は真新しい事を知れるかもしれないが、そんなのたかが知れている。

 そんな他人の経験を聞いて納得するよりも自分で経験した方が何倍も良い。

 っと理屈では言えるのだが俺たちはまだ学生。

 最初は聞いて、想像して、最後に体験して行く手順を踏むのが一番だ。

 俺は特に興味がないのでボーっとしている間に気付けば『体育館γ』へと移動することになっていた。

 皆やる気であるが俺は興味がない。

 この場にいる(俺と轟除く)全員がやる気になった瞬間、通形ミリオ先輩の服がすり落ちた。

 女性陣が顔を赤くし手で目を覆う中、先輩は落ちた服をいそいそと着だす。

 緑谷はそれを隙とばかりに攻撃を仕掛けたが、それもまたすり抜ける。

 さらに追撃に飛んできた遠距離攻撃すらすり抜けた。

 ・・・・・・愚策。

 攻撃とそれで発生した砂煙で視界を塞いでいる。

 砂煙が消え、ようやく見えるようになって飯田が叫ぶ。

 

「いないぞ!!」

 

 その言葉と同時に耳郎さんの真後ろに先輩が飛び出した。

 そうして、一瞬の間に遠距離攻撃持ち(神姫含む)が倒された。

 先輩は少し息を吐いてから言う。

 

「あとは近接主体ばかりだよね」

 

 皆が驚きの声を上げる中、緑谷だけが冷静に分析を開始する。

 それを認識した先輩は少し楽しそうに笑った後、地面に沈んだ。

 だが、緑谷は素早く後方へ回し蹴りを放つ。

 先ほどの行動から先輩がどこに現れるのか予想したのだ。

 でも、その攻撃が当たることはなかった。

 先輩は緑谷の攻撃を透過して避けると、彼の鳩尾にパンチを食らわせる。

 その光景を前に皆が動揺した隙を狙い先輩は素早く腹パンをお見舞いした。

 皆が腹を押さえて呻る中、先輩は俺の方に視線を向けて言う。

 胡坐をかいて顎に手を当てながら戦況を見守っていた俺に。

 

「ところで、キミは参加しないの?」

 

「先輩と相性が悪いって理解してるんで」

 

 俺がそう答えると相澤先生からチョップをプレゼントされた。

 

「・・・真面目にやれ」

 

「うっす」

 

 怒られたので面倒くさいがゆっくりと立ち上がる。

 

「ははは。キミ面白いね」

 

「シンプルに面倒くさいだけなんだけどなぁ」

 

 俺はそう答えながら腰を落とす。

 今思えば、昔から本能的に構えていた。

 どこかで学んだ訳でも、何かを真似した訳でもなく、自然に。

 俺は目の前の先輩に全神経を集中させる。

 そして、

 

「っ!!」

 

 俺は背後に飛び出た先輩を迎え撃つ。

 振り向きざまに右の拳を振るう。

 だけど、緑谷にやったのと同じように。

『ブラインドタッチ目潰し』である。

 眼球に向かって来る物を生物は反射的に目を瞑る事で防ごうとする。

 だけど、俺からしたら片目を潰される程度の事(・・・・・・・・・・・)なんて怖がるようなモノではない。

 俺は目を瞑ることなく先輩の動きを観察する。

 

「なっ!!?」

 

 先輩には俺が目を瞑らなかったことが予想外だったようでそんな声を上げていた。

 当たり前だがそこにはブレが生まれている。

 ガッと俺の拳と先輩の拳が擦れた。

 俺を殴ろうとしていた右の拳を少し軽くグーで弾いたのだ。

 先輩は驚いたような表情をし、受け身を取りながら俺から一定の距離を取る。

 そして、俺の眼をジッと見る。

 俺も先輩の眼をジッと見返す。

 深く何も語らない。

 お互い無言のまま見つめ合う。

 高まる緊張感が辺りを包み、腹を押さえて呻っていた皆も言葉を発さない。

 だが、その緊張の堰を切る者が現れた。

 誰であろう? 峰田である。

 この空気の中で屁をこいたのだ。

 不本意ながら、それを合図に俺と先輩は動いた。

 再度沈む先輩。

 俺はそれを視覚し、それから静かに目を瞑った。

 どこから攻撃が来るか分からない時、俺は目を瞑る事が多かった。

『ナナシ』と戦った時だって、殺されるかもしれないと分かりながら目を瞑っていた。

 まるで、それが自分にとって何よりも最適な行動であると分かっているかのように。

 この方法は自然と俺の中にあった。

 ならば、俺はそれを信じるだけである。

 

「・・・・・・・・・」

 

 音が遠のく。

 感覚が研ぎ澄まされる。

 そして、

 

「そこっ!!」

 

 俺は、俺の腹部へと拳を叩きこむ。

 メダル化し、大きな穴の開いた腹部へと。

 

「いっ!!?」

 

 そんな先輩の声が聞こえた。

 俺はそれを頼りに拳を振るう。

 瞬間、

 

「そこまで」

 

 と相澤先生に止められた。

 俺は拳を止めると静かに目を開く。

 

「先輩、どうでしたか?」

 

「ははは・・・。まさか、ここまでとはね・・・・・・」

 

「俺の奥の手どうでした?」

 

「予想外だったよ。まさか、肉体そのものを変化させるなんて」

 

 俺は少し笑い、手を差し出す。

 先輩も少し笑って俺の手をガッシリ掴む。

 そして、俺は笑顔のまま優しく、それでいてハッキリと告げた。

 

「ちんちん丸見えですよ」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 先輩が服を着てから皆は(ほぼ全員が腹を押さえて)順番はバラバラであるが一応整列した。

 

「一応ちんちん見えない教に努めたけど、すみませんね女性陣!!」

 

 先輩は笑いながらそう謝罪しているが、腹パンされた者たちは苦しそうにしている。

 ノーダメージの俺と参加してなかった轟だけがケロリと立っている。

 その後、皆(主に瀬呂・葉隠・芦戸など数名)がクレームを入れていた。

 先輩による個性の説明やインターンの経験がどれだけ大切かが話された。

 

 

 が、ンな事こちとら十分理解しているので当然のように聞き流す。

 頭の中では今後の予定についてを考え続けている。

 

 

 

 

 

 

 雄英高校の廊下を三人の生徒が楽しそうに会話しながら歩く。

 一人は一年生との戦闘訓練をしたことでワクワクしている部分があった。

 

「ムダに怪我させるかと思ってたの知らなかったでしょ? 偉いなあと思ったの今」

 

「いやしかし危なかったんだよね。ちんちn

 

「誰か面白い子いた!? 気になるの。不思議」

 

 そんな波動ねじれの言葉に通形ミリオは静かに語る。

 

「最後列の人間から倒していく・・・俺の大敵基本戦法だ。件の問題児くん。俺の初手を分析し、予測を立てた行動をしていた。それと、」

 

 と通形ミリオは言葉を少し区切って言う。

 

「変身型個性の彼―――機鰐くんだっけ? 彼は、少し不気味だった」

 

 いつも通り掴みどころのない表情でありながら、通形ミリオの体が少し震えた。

 通形ミリオと幼馴染の関係にある天喰環はその異変にすぐに気づいた。

 

「何か、気になる事でも?」

 

「すごく戦い慣れていたんだ。体運びも他の一年生に比べて滑らかだったし、視線が確実に実戦を知っている動きだった」

 

 通形ミリオはピタリと足を止め、自身の手へ視線を落とした。

 

「普通、戦闘時には相手の眼を見て心理状態を読み取ったりするのが一般的だ。だけど、彼は・・・彼の視線は常に胸元に集中していた。それだけじゃない。あの鋭い眼は、もしもナイフを持っていたら躊躇う事無く心臓に突き立てられるような、そんな意思を感じるモノだった。それに、目を潰されそうになれば仕掛けを理解していようと反射的に目を閉じてしまうはずなのにそう言った動きが一切なかった。・・・目の前にいる“敵”から何があっても視線をそらさず観察をし続ける、そんな強い意志も感じた。・・・・・・あれは、ヒーローがする瞳とも、そこらにいる(ヴィラン)がする瞳とも大きく違った」

 

 そんな言葉に天喰環はゴクリと唾をのむ。

 誰よりも通形ミリオの事を知っている彼からすれば、そんな評価をされる機鰐龍兎が得体の知れぬ化け物のように思えた。

 

「きっと、彼は何か重く黒いモノを抱えている。俺にはそれが何か分からないけど、何か嫌な予感がする。・・・あの“闇”を何とかしないと何かが起こるかもしれないという予感が」

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 俺は『ハイツアライアンス』の一階共有スペースに備えられているソファーに座りテレビを眺めながらコーラを飲む。

 やらねばならぬ事があるのだが、風呂上がりでボーッとしてしまっている。

 つまり、長風呂でのぼせてしまい頭が働いてくれないのだ。

 後ろでは、明日に謹慎が終わる爆豪をイジッて爆笑している数名がついに酷い目に合っているが、スルー。

 瀬呂・上鳴・峰田・・・・・・お前らの事は一時間ぐらいは忘れないぞ。

 等とどうでもいい事に思考が割かれている。

 すると、

 

「少し前から暗い顔してるけど、何かあったの?」

 

 と緑谷に話しかけられた。

 

「ンでもない」

 

「何かあった顔してるけど」

 

「・・・・・・お節介は止せ」

 

「それが、ヒーローじゃないかな?」

 

 緑谷はそう言って少し笑う。

 いつの俺なら笑っていただろうが、生憎今は笑えない。

 

「言っておくが。そのお節介のせいで人が死ぬ事だってあるぞ」

 

 俺はそう言い残してその場を去ろうとした。

 だけど・・・・・・、

 

「離せ」

 

「話してくれるって言うまで離さない」

 

 緑谷に手を掴まれたのだ。

 振りほどくことは簡単だが、ここであまり変に事を荒立てるのはしたくない。

 それに、緑谷の眼が誤魔化しを許してくれそうにない。

 

「機鰐くんが何を背負っているかは分からないけど、誰かに話せば楽になるとかよく言うし、それに・・・・・・」

 

「言って何になる?」

 

「っ!?」

 

「初めに言っておくが、とっくに手遅れな話だぞ。解決済みだ。わざわざ話して、他人に背負わせた所で一切意味のない事だ。無駄に疲れるだけだぞ」

 

「だったら話してみろよ」

 

 いきなり横から爆豪が話しに割り込んできた。

 そちらの方へ視線を向けると、爆豪に酷い目に合わされていた数名が無残な状態で倒れていた。

 より正確に言うなら黒焦げになってピクリとも動かず山になっている。

 自業自得としか言いようがないのでスルーしておく。

 それと、もしも爆豪が先生に怒られても今回ばかりは擁護しておこう。

 

「キッツい話になるぞ。そりゃもうお前たちガキは足を震わせて小便漏らすぐらいにはパネェ話に」

 

「誰が漏らすかぁ!!」

 

「冗談だよ。あまりのキツさに心に闇が生まれるだけだよ」

 

 俺はそう冗談を言う。

 まぁ、マジで心に黒い何かが生まれるかもしれないのは嘘じゃぁないが。

 

「まぁ、とりあえずここで話すような内容じゃねぇし、俺の部屋に行こう。ただ、自己責任だぞ」

 

 

 

 

 

 

 飯田天哉は雄英高校1年A組の委員長である。

 常に規律正しく真面目で他の見本になれるように努めている。

 本日は『ビッグ3』の一人である通形ミリオに手も足も出ずボコボコにされたことを思い、何かできることはなかったのかと模索していた。

 風呂上がりに歯を磨きながら思考に耽っていると、後ろから声を掛けられた。

 飯田は急いで口を漱いでから返事をする。

 

「どうしたのかな? 轟くん!」

 

「いや、委員長に相談があって」

 

 飯田のテンションに軽く押されながらも轟焦凍はそう答えた。

 その答えに飯田は小首を傾げる。

 

「君が珍しいな。いったいどうしたんだ?」

 

「機鰐の事が少し気になってな。・・・委員長から見て先輩との戦いはどうだった?」

 

「とてもすごい戦いだったと思う。俺たちが敵わなかった先輩に判定勝ちするなんて、今までも素晴らしい友だと思っていたが今回の事でより尊敬できるようになったよ」

 

「あの、目潰しについては?」

 

 ピンポイントな言葉に飯田はより首を傾げる。

 もはや傾けすぎて180度近くになっているが気にしてはいけない。

 

「いや、すまない。あの時は腹を押さえていて彼の戦いをハッキリと確認する事が出来なかったんだ」

 

「そうか。・・・実は、」

 

 轟は自分の見た光景・・・違和感を覚えた光景を事細かに話した。

 通形ミリオの行動を読めているかのような動きに、飛んでくる目潰しを気にせず防ごうとすらしなかった事を。

 そして、最も気になったのは、

 

「目が、黒かった」

 

「目は大体黒いモノだと思うが?」

 

「違うんだ」

 

 轟は飯田の言葉を否定した。

 否定された方としては何を言いたいのかが分からず、ただ、頭に『?』が浮かぶだけなのだが・・・。

 数秒の沈黙、そして、轟はゆっくり口を開いた。

 

「心に何か“闇”を持ってる人間の眼だったんだ。・・・今まで、何度か見てきてはいたが、普段のアイツの言動や行動から気のせいだと思ってた。だけど、あの時確かに見たんだ。吸い込まれるように黒い眼を・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・そうか。ありがとう」

 

「?」

 

 飯田からの突然のお礼に次は轟の方が頭に『?』を浮かべた。

 だが、それに気づいていないのか飯田は少しロボットのようにカクカクと動きながら言う。

 

「委員長である俺が気付けなかった事を教えてくれて助かったよ。早速、彼のところに行って悩みがないか聞いてくるよ」

 

「いや、でも・・・、」

 

「このクラスの委員長・・・まとめ役としての仕事をしに行くだけさ。彼は普段から明るく楽観的な所がある故にそんな大切なことに気付けなかったのは俺の失態だ。彼の時間の都合とかもあるだろうし、最悪後日になるが必ず相談に乗るさ。もしも、『あの時』の俺のようになってからでは遅いからね」

 

 そう宣言する飯田の頭にはヒーロー殺しとの一軒の事が思い出されていた。

 自分一人で抱え、「相談に乗る」と言ってくれた友を蔑ろにした故に大きくなった事態。

 もしも、その友が一人で抱えて悩んでいる事があるなら今度は自分が相談に乗るなりして何かを変えよう、とそう決めていたのだ

 

「さて、俺は彼を探すとしよう」

 

「それなら、さっき緑谷と爆豪引き連れて自室に向かってたぞ」

 

「む。そうか。・・・あの二人と話をしているなら邪魔しないようにしたいが、一応訪ねてみるか」

 

「なら、俺も行く」

 

 予想外の言葉に飯田は少し固まった。

 だが、すぐに問う。

 

「どうしてだい?」

 

「あの眼、少し前の俺の眼にも似ていた。俺も、何か力になれるかもしれない」

 

「・・・・・・そうか。よし、一緒に行こう」

 

 二人はエレベーターに乗ると、ハイツアライアンス男子棟5階へと昇った。

 目的の少年の部屋はエレベータを降りてすぐの所にある。

 飯田が扉の前に立ちノックをしようとした瞬間、中から目当ての友―――機鰐龍兎の声が聞こえて来た。

 

「そんじゃまぁ、始めるか。俺の“前世”についての話を」

 

 そんな非現実的な言葉が・・・・・・。

 




ヒロアカ新刊買ったので一言。


サンタコス エリちゃん可愛すぎだろうへへへへへへへ(ロリコン)。
もう最高っていうか、何ていうか、最 of the 高としか言えないというかホントありがとうございます。


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76話 『普通の設定考えるよりも裏設定考えてる時の方がワクワクするのは何故なのか』

クマ編前座。


「まず、どこから話そうか? 生まれから? それとも俺が戦う切っ掛けとなった出来事及び事件から? 話の趣旨を変えてタピオカミルクティーについてでもいいよ」

 

「どこからでも良いからタピオカについて語ろうとしてんじゃねぇ!!」

 

 始まりから険悪な空気である。

 軽い冗談だったのだが、お気に召さなかったようだ。

 俺は爆豪を落ち着けてから話し始める。

 

「まず、俺の“前世”の名前は『大宮さとし』。2000年9月12日生まれRh-のAB型。自分で申告するのもアレだが成績は上の下から上の中。生まれた時の体重は、

 

「そこまで細かく話さなくてもいいだろうが!!」

 

「ちょ、かっちゃん。落ち着いて・・・!」

 

 また怒られてしまった。

 

「まぁまぁ。ほら、カルシウムでも摂取して怒りを抑えろ」

 

「知るか!!」

 

 また爆豪を落ち着けるのに少し時間をかけた。

 先ほどよりも抑えるのが大変だったのは言わないでおく。

 

「そんじゃぁ、そもそもの始まり・・・って言えるか怪しいけど、俺の人生の地獄の始まりから話すとしよう。あれは小三の頃だったな」

 

 俺は静かに、ゆっくりと、それでいて客観的に当時の事を語る。

 親にくだらない理由で捨てられた所から、纐纈との出会い、そこから始まる俺の約十年間にわたる壮絶(爆笑)なエピソード。

 っと言っても巻き込まれ過ぎており細かい事は忘れている部分が多いので、印象に残っている大きな事件をピックアップした。

 年代が進むにつれてどんどんと重い話が出てくる故に部屋の空気もどんどん重くなってゆく。

 二人も途中から俯き出して、今では軽い相槌しかしてくれなくなった。

 だが、まだ半分も語っていないので少しおふざけを入れながら話すも笑ってくれない。

 解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 ハイツアイランス男子棟5階廊下。

 そこの壁に二人の生徒が寄りかかり、エレベーターに一番近い部屋の中から聞こえてくる話へ静かに耳を傾ける。

 中から聞こえてきているのは突拍子もなく現実味のない話。

 だが、少年の口調からそれが嘘ではないという事が強く窺えた。

 いつも笑顔でふざけている少年の誰にも言った事のないであろう昔話。

 それは、荒唐無稽でありながらどこかしら現実味を感じさせるだけでなく、少年の戦闘スキルの説明がつく物語。

 一人で戦い続けた孤独なヒーローの話。

 それを耳にしていた飯田は苦虫を噛み締めたような顔で呟く。

 

「それは、ないだろう・・・・・・」

 

 少年の話に寄れば、親はエリート意識が高く優秀な弟へ愛情やお金を注ぎ、少年を見捨てていた。

 小学生のテストの点なんか10点や20点は誤差だったりするのにも関わらず、だ。

 飯田には覚えがあった。

 まだ幼かった頃、飯田は兄に勉強を教わっていた。

 学校に通っていなかったが、兄の教えで小学校入学前には掛け算割り算は覚えていた(塾に行っていた影響もある)。

 きっと、彼の場合もそうなのだろう。

 弟に勉強を教えて、仲良くやっていたのだろう。

 それなのに、親が身勝手で利己的なプライドの為にそれを引き裂いた。

 子供を、自分らのアクセサリーとして扱ったのだ。

 その事実に噴気している飯田の隣で、轟はスマホへ視線を落としていた。

 そして、

 

「『大宮さとし』について調べてみた。色々情報が出て来た・・・」

 

 そう言ってスマホの画面を飯田へと向ける。

 そこには様々な題名で物語がまとめられていた。

 轟からスマホを受け取り、そのサイトの最終更新部を見ると、それは超常発生の十数年前であった。

 そして、そこに書かれているのはまさに少年が語っているモノと類似、または同じ内容であった。

 だが、少年の語りの方が何倍も濃かった。

 深く重く、そして時々辛そうな声で話していた。

 

「彼は、これを抱えていたのか・・・?」

 

「だとしたら、俺たちはどうすりゃいいんだろうな」

 

「っ・・・・・・」

 

 飯田は、機鰐龍兎が何か悩みそれで気を詰めているなら何か手助けをしたいと思っていた。

 もしも自分にできることがあればどんな事でもする気でもあった。

 だけど、もう、遅かった。

 ちょっとやそっと遅いのではなく、もう手遅れ。

 とっくに終わっている事であり、いまさら何かをしたことで変わる事のない現実。

 それが、友の抱えているモノであった。

 しばらくの沈黙。

 そして、部屋の中から緑谷出久の声が聞こえて来た。

 

「機鰐くんは、その人生をどう思っているの?」

 

 その問いに少年はノータイムで答える。

 

「クソ。史上最低のクソゲー的人生」

 

 何の感情もなく、それが当たり前のような口調。

 飯田がその声に己の無力を、完全に手遅れである事実をより付きつけられた。

 だが、(当たり前だが)そんな事を知らない少年は「それに、」と言葉を続ける。

 

「この世界は俺が生きた世界とは違うみたいでな。俺は高校三年生の半ば・・・18歳になってすぐ死んだんだが、この世界の俺は高校二年生で死んでいた。・・・・・・つまり、どんな並行世界でも俺はそんなクソな道を歩んで死んで逝ってる事だと思うぜ。いつ死ぬか、何て分かんねぇモンさ。俺は何度も死にそうになったし、何度も死にかけた。なんとか騙し騙しやってきたがそれは蜘蛛の糸の上を歩いているような不安定すぎる道だった。だから俺は後悔しないように己の正しいと思えることをしようと突き進んだ。最近の世の中は“善”だの“悪”だのくだらないモノサシで全てを図ろうとしているが、ンなモン何の基準にもならない。・・・・・・いや、多少は基準になるが、それだけが全ての物の図り方じゃないって方が正しいか。俺は色々なヤツを相手に拳を振るってきたが、そこには善人や誰かのために行動を起こしていた者だっていたさ。結局、昔のヒーローってのは善悪とかじゃなくて誰かのために動いた結果として『英雄(ヒーロー)』っていう称号を得ただけさ。そう言った方面で見れば俺の人生はクソゲーであり、最低のゲームであり、最高のモノだった。助けられなかった人はいるさ。目の前で死んでいった人や俺の手の中で死んでいった人もいるさ。後悔した事なんて星の数ほどあるし、何度も己を攻めたさ。でもな、それでも救った人も確かに居たんだ。だから、そんな辛気臭ェ顔すんな。これは俺の中でもう完結したモノであり、お前たちが悩むような事でもない。後悔しないのは無理だ。誰にだって後悔は生まれる。だけど、それを少しでも無くすことはできる。お前ら若い世代は先人たちの経験談を聞いて、後悔を少しでも無くす、そのために突き進めばいいんだよ。もしも、俺の話を聞いて何もできない事を悔やむなら、もっと外に目を向けろ。手遅れにならないように。助けを求める者の小さなサインでも見逃さないように。もう、俺みたいな存在を生まないように。それを覚えといてくれりゃ・・・それをしてくれるなら、それだけで俺は満足さ」

 

 強い言葉だった、

 所々遠回しで、寄り道のある、いつもの少年の言葉。

 過去を知ったから重く突き刺さるのではない。

 彼は前からずっと同じように、同じような言葉を言っていたのだ。

 それに、気付けていなかっただけで・・・・・・。

 飯田は己の拳を強く握りしめる。

 彼の言葉の通り、少しでも後悔を無くす為は何をすればいいのか、それは人によって変わるだろう。

 だから、彼は言うのだ。

 過去を見て未来を予測しろ、と。

 経験を積んで少しでも多くの人の手を掴め、と。

 

「・・・飯田、今日はお互い部屋に戻ろう。ちょっと、頭ン中を整理してぇ」

 

「ああ、俺も、考えたい事が出来た」

 

 そう、短く言葉を交わして二人はその場を去る。

 その背には、その眼には強く熱い炎が灯り始めていたのだが、二人がそれに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 俺は語る。

 昔の出来事をなるべく事細かく思い出しながら。

 印象に残っている大きな事件なら大きな事件ほど話は長く、そして濃くなった

 一つ一つの事件に様々な人の思いが絡まっており、年代が進むにつれて死闘が多くなっていく。

 っというより中学三年の後半から高校三年で死ぬまでの事件は大体、命懸けのモノだけであった。

 死ぬと思った事はもう数えきれない。

 だが、突破口さえ見つけられれば意外と死なないものだ。

 ・・・・・・中一の時に発生した『不将協会』と『柵詩』の抗争の時はさすがに死にかけたが、それ以降は「死ぬ」と思っても生き延びてきていた。

 色々な者たちが敵として立ちはだかった。

 色々な者たちと関りを持ってきた。

 今思えばとんでもない経験を積んできたと思うが、当時はそんな事を気にしている余裕なんてなかった。

 殺人鬼と共に街を駆け抜けた。

 自称・霊能力者と共によく分からない“影”と戦った。

 髪を染めた自称・吸血鬼に血を分け与えた。

 山に墜落して困っていた自称・宇宙人の為に部品を買い漁った。

 観光に来ていた石油王を助けるために実弾入りの銃を持った。

 大企業の社長令嬢が誘拐される事件に巻き込まれたあげくに、社長令嬢を抱えてビルから飛び降りたりもした。

 心臓付近を銃弾で打ち抜かれたこともあった。

 他にも思い出そうとすれば沢山出てくるが、多すぎて纏め切れなかったりする。

 それでも、なるべく分かりやすく要点を抑えて語る。

 気付けば空は青くなり出していた。

 

「っと、そろそろ登校準備しないと不味いな。話はこれまでにしておこうか」

 

 俺がそう言うと、爆豪が真剣な表情で言った。

 

「お前、狂ってねえのか?」

 

 そんな短く、それでいて的確な問い。

 俺は、その問いに静かに答えた。

 

「狂えれば楽だったよ」

 

 と。

 爆豪は俺の答えを聞いて少し舌打ちすると、

 

「てめぇがどんな道歩いてたか分かったが、んなモン俺には関係無ェ。俺はてめぇを超える」

 

 とだけ言って部屋を出て行った。

 自分から聞きに着といてそりゃぁないだろう、とは思うも彼らしいとも思えるのでスルーしておく。

 

「ンで、緑谷。お前はどうだった? 俺のくっだらない過去の話」

 

「くだらなくなんて、ないよ」

 

「くだらねぇさ。自分勝手に生きて、他人の迷惑を考えず土足で踏み入って、自己満足のまま終わらせて、勝手に死んだ男の人生なんてくだらねぇだろう」

 

「そんな事ない。機鰐くんは誰かのために戦って、それでその結果が皆に慕われる存在になったんだから、だから、それを君が否定するなよ」

 

「否定するもしないも、俺の勝手だ。身勝手に突き進んだ俺の、な・・・・・・」

 

 数秒の沈黙。

 俺は、その重苦しい空気を変えるためにいつもの口調で言う。

 

「ほら、これからインターンの話とかもあるんだから、こんな所で無駄口叩いてないでさっさと自室戻って登校の準備しとけ。謹慎開けたばかりだってのに遅刻しちゃぁ大変だぞ」

 

 そんな、ごく普通の、ただの高校生としての、少しふざけた言葉を吐く。

 例えそれが作り上げた、自然に生み出された演技だとしても、俺は一向に構わない。

 何であろうと俺は俺だ。

 我思う故に我有りの精神で生きていくだけだ。

 俺は部屋から緑谷を追い出すと、冷蔵庫からモンスターエナジーを取り出して一気の飲み干す。

 ・・・・・・この世界では俺が死んでから随分時間が経過しているのにモンエナとか昔懐かしい(?)物が残っていたりするのは考え深いモノである。

 青くなり始めている空を眺める。

 いつも通りの変わらない、静かな空。

 これから起きる事件なんて、誰も知らないように、何も示唆しない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゙! 仕事のこと忘れてたぁ!!」

 

 PCには今日も500件を超えるメールが届いていた。

 







余談、私の書いている作品は異世界物以外はすべて同じ世界観の別時間軸(現在全作品リメイク中)。
そして、全くベクトルの違う力を持つ主人公が複数人いる中で、一番強いのが何ら力を持たない一般人の『大宮さとし』という現状。どうしてこうなったのか・・・orz


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77話 『決戦前の静寂』

会話シーン多め。
セリフ長し。


 そうして、色々あったが日曜日になった

 何か最近飯田と轟がよそよそしかったのが気になるが、今はそれどころじゃないのだ。

『ベアーズ』壊滅作戦は一日で終わらせないといけない。

 理由としては近いうちに『オーバーホール』との事件がある為、そっちに集中したいのだ。

 だから、『ファウスト』カフェ地下基地に朝から入り浸ってそこで作戦会議をしている。

 作戦を聞く限りでは穴らしいものは見当たらないのだが、相手がどんな“個性”を持っているか分からない以上、油断はできない。

 

「ところで、サクラ。『あの子』は俺が死んだ後どうなった?」

 

「『あの探偵』が自分の後継者としてビシバシ鍛えていたよ。私が死ぬまでには一人前になっていたよ」

 

「・・・・・・そうか」

 

 俺はそう答えて苦笑する。

 コイツと一緒に戦った『あの事件』はかなり大きなモノであった。

 それを懐かしむと同時に、やはり後悔も思い出してしまう。

 

「それで、キミはこっちに生まれついてどんな生活をしていたんだい?」

 

「ごく普通の、一般的な生活を過ごしていたよ。父さんも母さんも良い人でね。昔を忘れるような生活だったな」

 

 サクラの問いに俺がそう答えると、

 

「嘘だね」

 

 とノータイムで一蹴された。

 どうやら、こいつを騙すにはまだ俺の話術レベルは低いらしい。

 俺は少し苦笑してから言う。

 

「ンで嘘だって言えるんだよ」

 

「キミはどんな形であれ、『親』という存在に一線を引く。それは、キミの親があんなロクデナシであった故の事だがね。・・・そんなキミが新しい親を得たからと言って昔を忘れるような生活を送れるはずがないだろう? それに、『父さん』『母さん』呼びなのもそうさ。キミは基本的に他人を『さん』付けで呼ばない。憧れた人や尊敬できる人以外には、ね」

 

「・・・・・・・・・」

 

「キミは今の親にも一線を引いている。・・・前のクソ親に比べれば距離は近いだろうし大切にしているだろう。でも、肝心の、心の奥底では信用できていない。だから、親の事を質問された時はそこらで聞くような回答しかできない。そう言う事だよ」

 

「チッ。・・・・・・そう言うお前はどんな生活してたんだよ」

 

「かわいい恋人とベッドの上でギシギシアンアn

 

「聞いた俺が馬鹿だった」

 

 俺はそう言って深くため息を吐く。

『ナナシ』の時もそうだったが、もう少し恥じらいと言う物を理解してほしい。

 っというか、『あの事件』の時もこんな感じだった気がする。

 

「中性的な顔の少年でねぇ。私がメスにしちゃったんだよ」

 

「お前が攻めかよ」

 

 自分の見た目を客観的に見直せ。

 どこからどう見てもお前の方が女っぽいだろうし、お前が受けだろ。

 

「まぁ、いいか。で? その恋人は今何してる?」

 

 俺がそう問いかけた瞬間、サクラの雰囲気が一瞬で変化した。

 コイツにしては珍しく、怒りの感情を表に出して・・・。

 それを見れば誰だって何かがあった事に気が付くだろう。

 俺だって鈍感じゃないんだからそれぐらい分かる。

 え? 鈍感だろ、だって?

 マジで何言ってんスか(困惑)。

 

「すまん。変なこと聞いたみてぇだな」

 

「いや、大丈夫だよ・・・・・・」

 

 サクラはそう言うモノの、少し傷付けてしまったようである。

 だが、何となく理解できた。

 コイツが『ベアーズ』と敵対している理由が。

 

 

 

 

 

 

 暗視波奉は転生者である。

 転生者が集まって作られた(ヴィラン)組織の一つである『パンドラ』に所属し、そこで働いている。

 っと言っても資金等は投資や株などで得ている為、働くとしても基地内の清掃などであるが・・・。

 少女は元々、地方の裏組織に所属していたのだが、そこで『事件』が発生し、“組織”は完全に壊滅した。

 その『事件』の際に猿伸賊王に拾われた事が『パンドラ』(より正確に言うなら当時はまだ『敵同盟』だった)に所属する事になった。

 そんな少女が『パンドラ』の基地である『オーシャンムーン号』の甲板で“とある資料”を開き、眺めていた。

 “組織”壊滅の際に少女の世話をしていた男―――苦愚群火虎から渡された資料。

 そこに書かれている組織の名前、

 

『ベアーズ』

 

 ソレは、“組織”壊滅の原因である『ガイアメモリ』を売りつけてきた組織であった。

 弱小と言われながらも、未だにどの組織よりも長くその姿を維持している。

 ここが、兄を、信頼していた人を、少女から奪うきっかけを作った組織。

 暗視波奉はスマホを取り出して少し深呼吸をしてから通話ボタンを静かに押す。

 数回のコール。

 現在時刻は午前3時を過ぎた所である。

 さすがにこの時間は寝ているかと思い、コールを切ろうとした瞬間、―――繋がった。

 

『ごめん、トイレに入ってて遅れた。ってか、お前からってのは珍しいな。何っかあったか?』

 

「はひゅぅう!! も、もしも、もも、ももも、もしもしぃい!!!

 

『耳がァ!!』

 

 緊張し、つい大きな声で叫ぶように言ってしまったゆえに少年の耳に大きなダメージを与えてしまった。

 暗視波奉は慌てて謝罪する。

 

「ご、ごめんなさいぃぃい!!!」

 

『耳がァア!!』

 

 追撃を与えてしまったようであった。

 スマホからは相手の唸り声が小さく聞こえてきている。

 

「ごめ゙ん゙な゙ざい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙い゙い゙!!!」

 

『耳がァアア!!』

 

 オーバーキルとはまさにこの事だろう。

 耳に攻撃を受けた少年―――機鰐龍兎は慌てて言う。

 

『叫ぶように言わんでも聞こえるから!! 謝罪も大丈夫だから!! だから、落ち着けぇ(パラガス風に)!!』

 

「はうぅ・・・」

 

『それで、用件は?』

 

「あっと、その、ぶ、武器が欲しくて。わ、わた、私にピッタリの物を作ってもらえませんか?」

 

『いいよ』

 

 機鰐龍兎は一切の間もなくそう答える。

 

『どんな武器が良い? 遠距離・近距離? 銃系なら女の子でも扱えるものを用意するけど』

 

「あの、えっと・・・、■■■■■が欲しいな~。・・・・・・なんて」

 

『あぁ、その程度か。なら3日ほどで仕上げるから待ってろ。それだったら「ベアーズ」壊滅作戦まで間に合うだろ』

 

「3日・・・・・・」

 

『今少しやらなきゃいけない事があってな。そっち終わらせてすぐに作るから。遅くとも3日。早くて2日とちょっとだな。まぁ、ゆっくり待っていてくれ』

 

「あ、うん。あり、ありがとう・・・・・・」

 

 ブツッと通話が切られた。

 暗視波奉はスマホを胸に抱くと空を見上げた。

 黒い夜の闇を月明かりが怪しく、それでいて美しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 とあるアパートの一室で一人の少年が叫び声をあげた。

 

「メインキャラの座を完全に奪われたぁぁああああああ!!!!!!!」

 

 少年の名は通理葉真。

 約56話ぶりの登場であった。

 だが、次の登場がいつになるかは未定である。

 

 

 

 

 

 

 酷い現実を見た気がする。

 どこぞのインなんとかさんみたいに他キャラが人気になる事でフェードアウトして行った悲しき者の姿を、だ。

 まあ、単なるそんな気がしたってだけだが。

 俺はその思考を放棄し、とりあえず目の前の仕事に取り掛かる。

 

「ねぇねぇ。これってどうやるの?」

 

「神姫、あのな。少しは自分で考えようぜ?」

 

 俺は少しため息を吐く。

 今の俺は課題が溜まり提出期限に追われている神姫の手伝いをしている。

 山のように積まれた課題を何とか減らしている所である。

 

「教えてよぉ」

 

「久々のメイン登場だからってここぞとばかりに甘えるな」

 

 メタいとか言わない、良いね?

 俺は涙目になっている神姫を無視して本に目を落とす。

 夏休み終わりに提出するハズの読書感想文である。

 神姫は目を涙で潤ませ、上目遣いでこちらを見てきているがスルー。

 可愛いし、ついつい手伝いたいがあえてスルー。

 とても心苦しいがそれでもスルー。

 気を紛らわせる為に神姫の文字に似せて読書感想文を書く。

 すると、

 

「サンダー・ブレイク(弱)」

 

「あぎゃぁぁああああああ!!!!」

 

 神姫から電撃のプレゼントが来た。

 しかも、本や紙が燃えない程度&感電死しない程度の威力だが、痛いモノは痛い。

 電撃が止まった所で、神姫の方に目をやると、彼女の瞳は赤く染まっていた。

 

「ミキ・・・・・・」

 

「ったく。面倒くさいったらありゃしない。ご主人様(マスター)はいつまで自分に嘘を吐き続けるおつもりですか?」

 

「何が、だよ・・・」

 

「自分でも分かっているでしょう? なら、自分から向き合いなさい。・・・・・・確かに、アナタは過去、親に愛されなかった。それは変わらない事実です。でも、だからって他の人がアナタに愛を向けないなんて事ある訳ないでしょう。アナタは人に好意を抱かれた、愛を向けられた。それでも、アナタは受け入れられなかった。愛されなかったが故に、ね。だから怖いのでしょう? 自分から好意を向けるのも。『好きだ』と言って、もしも相手が自分の事を好きじゃなかったら、それを考える事自体が怖いのでしょう?」

 

「だから、何だっての」

 

「だから、この子(わたし)から好意を持たれている事に何となく気が付いても、それを素直に受け入れる事が出来ない。だから、『好き』と言う短い言葉すら言えない」

 

 どこか諭すような口調。

 そして、それは俺の心の中にあった“何か”を的確に突いていた。

 

この子(わたし)がどれだけアナタの事を好いているか分かりませんか? そんな調子だとまた彼女―――安藤さんみたいな事になりますよ」

 

「っ!!?」

 

 ミキの口からアイツの名前が出た事で、俺は大きく揺すぶられた。

 

「アナタは、彼女の好意に気付いていながら、それを勘違いだと思い続けた。あの悲劇はそれを我慢できなかった彼女と、彼女を受け止められなかった。もしも、もう二度とそうなって欲しくないのなら、すぐにでもそれを乗り越えなさい。この子(わたし)はずっと待っているんですから」

 

「俺が、幸せになっていいとでも思ってるのかよ」

 

「思ってるよ」

 

「俺のせいで、俺が弱かったせいでどれだけの人が死んだと思ってるんだ・・・」

 

「死んだ人もいる。だけど、それ以上に救われた人もいる。アナタが幸せになっちゃいけないなんて残酷な法則はない」

 

 ミキは俺の眼をまっすぐ見て来た。

 そこに、ウソも情けも同情も・・・・・・そんな色は一切なかった。

 

「アナタは一人で抱えようとする。誰にも助けを求めない。『頼む』という事はあれど『助けて』って言った事はない。それでも無理矢理に笑顔を作る。無理矢理に“普通”を演じる。大宮くんにとって、何もない『日常』はそれだけ大切だったって事でしょ? だから、その『日常』にいる人をなるべく巻き込まないようにするし、その『日常』を崩したくない。・・・・・・それでいて自らの幸せを願わない。それって、悲しい事だよ」

 

「悲しくなんてない。これは、俺が抱えなきゃいけない事なんだから」

 

 俺の返事にミキは眼を鋭くする。

 そして、俺の胸倉を掴んで顔を寄せて来た。

 

「馬鹿。・・・いい加減自分を許してやりな」

 

 ミキはそう言うと俺をグイッと引っ張り、その唇を俺の唇と重ねた。

 彼女の唇の柔らかい感触が伝わってくる。

 安藤に監禁された時にされたモノとは違う優しく、包み込むようなキス。

 ミキはゆっくりと唇を離し、俺の胸倉から手を放す。

 

「お、おま、おまえっっ!!!」

 

「何度かこういった経験はしているはずなのに未だにウブなのですか・・・?」

 

「いや、ちょ、おまえ・・・・・・!」

 

「言っておきますが、この子(わたし)がアナタを好きなのと同じように、神鬼(わたし)もアナタの事が好きなんですよ」

 

 妖艶な笑みを浮かべるミキと何も答えられず混乱している俺。

 

「アナタは基本的に単純なんですから、一度でも突破口が見つかれば壁なんて超えられますよ。・・・・・・次、神鬼(わたし)が出て来た時に解決してることを祈ってますよ」

 

 瞬間、ミキの眼の色が元に戻る。

 

「あれ? 私、眠ってた?」

 

「あ、ああ・・・。軽く意識飛んでたぞ。少し仮眠をとったらどうだ? その間の課題は俺がやっておくから・・・・・・」

 

「ほんと!!」

 

 神姫の眼がキラキラと輝く。

 俺はそれに少し押されながらも、

 

「おう・・・」

 

 と返事をする。

 俺の言葉を聞いた神姫はすぐにベッドへとダイブするとそのまま寝息を立てた。

 その姿を見て、さっきまでの緊張が消えて行くのを感じ取った。

 俺はクスリと少し笑い、スヤスヤと寝息を立てている彼女の頬を静かに撫でる。

 

「・・・・・・俺じゃ、おまえを幸せにできないからな」

 

 ミキの言っていたことは正しい。

 俺は自らの幸せを願った事はない。

 願うとしたら、周りにいる家族・友人・知人の幸せだ。

 だけど、彼女は一つ大きな思い違いをしている。

 その思い違いは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、誰かの為にではなく俺の為にしか戦った事がないという事だ。

 




『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』についての感想は活動報告に書きます。
興奮していますので語彙力大幅低下でマイナスになってますがご了承ください。
また、多少のネタバレを含みます。


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78話 『始まりと突撃。不遇枠の少年の戦い』

明けましておめでとうございます。
今年もgdgdと続く駄作ですがこれからもよろしくお願いします。

あと、遅れましたがお気入り400件突破、本当にありがとうございます。


 “『ベアーズ』壊滅作戦”決行日。

 俺たちの緊張は極限まで高まっていた。

 勝てるかどうか分からない戦いになる事は確実だ。

 だから、全員が戦闘態勢に入り、最後の作戦会議に入る。

 

「作戦は変わらず、俺たちは主面から突っ込んでそっちに意識を集中させる。その間に通理葉真がこのUSBメモリを持って基地に潜入し、『防衛AI』を停止させる・・・・・・停止できる時間はどれぐらいだっけ?」

 

「最低でも5分が限界」

 

「OK。それじゃぁ、各自、身も守る事を考えて行動してくれ」

 

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 全員が大きな声で答える。

 しかし、『ベアーズ』と戦うのに全精力で行くことになるとは思わなかった。

 インフレする運命は避けられないのか。

 

「ところで、葉真。なんで泣いてるんだ?」

 

「忘れられていると思ってたから、作戦の要にしてもらえてよかった・・・。メインキャストとしての登場なんてホント何時振りか・・・・・・」

 

「何言ってんの、オマエ?」

 

 なんか涙流して喜んでいるが理由は不明。

 とても心当たりはないし、暇があればよく会話とかもしていたので久しぶりという訳でもない。

 なぜこんなにも悲壮感漂っているのか、本気で分からない。

 俺はとりあえず軽いストレッチの後に、腰にベルトを装着する。

 

「さぁてと、行きますか」

 

 俺はポソリとそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 血化石蛇は転生者である。

『ベアーズ』のリーダーを務め、組織を大きくする事を目標に動いている。

 現在は、『ファウスト』を潰して大々的なアピールをする為に細かい作戦を練っていた。

 一度、高い金を払って刺客を差し向けたこともあったが、あっさりと返り討ちに合ってしまい、資金難で活動を休止していたがようやく最低値は溜まったので動き出そうとしている所であった。

 一部メンバーは離れて行ってしまったが、それでも防衛システムを信じて残ってくれた者も多い。

 そんな彼ら・彼女らを前に血化は言う。

 

「しばらく止まってしまっていたが、これより“『ファウスト』壊滅作戦”及び“『仮面ライダー』撃破作戦”の会議を始める。“博士”、例の物を」

 

「任せなさい! サイエンスが未来をk

 

「あ、そういうの良いので」

 

「ショボン」

 

 決め台詞をバッサリと斬られた“博士”は肩を落としてしょんぼりとする。

 だが、『ベアーズ』メンバーの大多数がこの決め台詞に飽きていたので庇うものはいなかった。

 

「これが、過去の遺物―――ロストテクノロジーを基に作り上げた物、“T6ガイアメモリ”と“コズミックスイッチ”だ。これを使えば大きな力を得る事ができる」

 

「“博士”。ガイアメモリはしばらく前に“組織”に売り渡したヤツと違うのか?」

 

「あれの数段上の性能のヤツさ。しかも副作用は少なめ」

 

 そう言って笑う“博士”を見て血化は内心ゾッとしていた。

 前の“試作型T4ガイアメモリ”は制度だけは高かったモノの副作用が大きく、一度使用すれば遅かれ早かれ死が待ち受ける。

 一番長く生きた者でも一年と少しが限界であった。

 それを、副作用を抑えてより強力にしてあるなんて考えただけでも恐ろしい。

 “博士”は得意げな顔で鼻歌交じりに足をバタつかせる。

 

「しかし、随分と凄いモノを作りましたね。そんな小柄で華奢な体で」

 

「黒猫ちゃぁん。性別や体格は当てにならないよぉ」

 

 血化の秘書である黒猫暗矢は特に深い意味を込めて発言したわけではないのだが、“博士”的にはそれがどうも釈然としなかったらしい。

 身長140cm半ばに腰まである赤茶色の髪、大きな丸眼鏡とぶかぶかの白衣にクマさんがプリントされたTシャツを着た少女。

 それが“博士”である。

 見た目は完全に小学生だが、実年齢は30過ぎのいい大人である。

 

「はいはいは~い。ではではぁ、これを配っちゃいま~す」

 

 “博士”がそう言った瞬間、いくつかのメモリとスイッチが浮かび上がり、『ベアーズ』メンバーの下へ勝手に移動した。

 半分のメモリとスイッチが行き渡り、それぞれが自分の手の中に納まったアイテムに視線を落とす。

 だが、

 

「オレの所に来てないぞ」

 

 と軍長身武がげんなりとしながら言う。

 それを見て“博士”は口を手で押さえてケラケラと笑う。

 

「どうやら、メモリどころかスイッチとも適正が無かったようだね。まぁ、馬鹿に使われたくないってことだね。プギャーwwwww」

 

「うっっっぜぇぇええええええええ!!!!!」

 

「二人とも抑えなさい。今は仲間割れをしている時ではない」

 

 黒猫が二人の間に割って入り、仲裁をする。

 “博士”と軍長はあまり仲が良くない。

 っと言っても、軍長が嫌っているだけで“博士”の方は嫌っている訳ではなさそうだが・・・。

 そんないつも通りのハチャメチャなやり取りをしていると、いきなり緊急事態を知らせるブザーが鳴り響く。

 それに一番驚いたのは血化であったが、それを表に出すことなく言う。

 

「モニターに映像を!!」

 

 ちなみに、大きな声で言ったのはブザーが大きいのと驚いたことを誤魔化すためである。

 少しビクッとなってしまったのだしょうがない。

 モニターに映し出された映像には、『ベアーズ』基地に向かって猛スピードで突き進む『ファウスト』メンバーの姿が見られた。

 

「こっちから出向くよりも前に来るとはな。“博士”! 『防衛AI』は!?」

 

「ばっちし起動中!! 迎え撃つよぉ!!」

 

 “博士”はそう言うと同時にとあるボタンを押した。

 そして、モニターに文字が表示される。

 

Annihilation(アナイアレイション) Mode(モード) 起動』

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 俺たちはひたすら開け抜ける。

 今現在いる所は第Ⅰ防衛ラインである。

 そう、まだ始まりも始まり、序盤でしかない。

 だというのに。

 

「クッソ!」

 

 俺はセルメダルをベルトに投入し、ユニットを出現させる。

 

《ドリルアーム キャタピラレッグ》

 

 そして、ドリルを使用して固定砲台を殴り壊す。

 さらにキャタピラレッグを使って高速移動をし、少し離れた場所にあった固定砲台を移動の勢いそのままに蹴り壊す。

 第Ⅰ防衛ラインは、固定砲台から発射される砲弾とマシンガンによる弾幕がメイン。

 これだけでも破壊力抜群だというのにこれ以上の物がこの先にあるのだ。

 ハッキリ言って、馬鹿じゃないの?

 こんなの、亀みたいに籠っていれば普通に攻め手がない。

 

「固定砲台を全部破壊しようと思うな! ある程度隙間を作れたらすぐさま突破するようn・・・・・・がぁああ!!」

 

 命令を飛ばした瞬間、上からの攻撃が直撃してしまった。

 基地まで飛んでいくという提案も初期はあったが、空にはレールガンや爆撃砲などを積んだ無人兵器が飛んでいる。

 しかも小型(2~3メートルほど)。

 足元にも時々地雷。

 360度全方位に警戒を向けないと生身なら死ねる。

 この作戦は突破メインだが、一番は少しでも時間を稼いでこちらに意識を向けさせ、通理が『防衛AI』を止めてくれるのを待つしかない。

 っと言うか、第Ⅳ防衛ラインから明らかに突破が不可能なレベルに上がるので、無理に突き進むのも得策ではない。

 だから、早く。

 早くウイルスを打ち込んでくれ通理ィ!!!

 

 

 

 

 

 

 ギチギチギチと首を絞める。

 通理葉真は『ベアーズ』基地に侵入したまではよかったが、丁度トイレへ向かってい敵に発見されてしまい、戦闘になってしまっていた。

 不幸中の幸いに敵は一人だけで、素早く後ろを取れたことが良かった。

 後はこのまま落すだけである。

 そして、数秒後、敵の意識は完全に落ちた。

 だが、少し時間をかけすぎてしまったらしく、異変に気が付いた者たちがぞろぞろと出て来た。

 

「・・・・・・『コックローチ・ドーパント』と『アルター・ゾディアーツ』と『オリオン・ゾディアーツ』、か。生身で戦うのはキツそうだね」

 

 通理はそう言って腰にベルトを装着する。

 そして、ナックル状のアイテムを取り出し、手に平に押し付ける。

 

《レ・ディ・ー》

 

 通理は軽い深呼吸の後に宣言する。

 

「変身」

 

《フィ・ス・ト・オ・ン》

 

 瞬間、通理の体にイクサスーツが装着され『仮面ライダーイクサ(セーブモード)』への変身を完了させる。

 バーストモードではない理由は、元々、初期設定では“通理葉真”が『仮面ライダーグリス』に変身するはずだったのに、ぽっと出の“赤口キリコ”(旧名・安藤よしみ)にその立ち位置を奪われたことに由来する(中の人繋がりというやつだ)。

 ああ、不遇。

 そんな思いを込め、怒気を込め、イクサは叫ぶ。

 

「祭りの始まりだぁぁぁあああああ!!!」

 

 違う仮面ライダーのセリフであるが、気にしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 現在、第Ⅲ防衛ライン半ば。

 まだウイルスはインストールされていないようである。

 第Ⅱ防衛ライン終わり頃から殲滅装置に音声機能が追加されており、やかましいったらありゃしない。

 っと言うか、二足歩行のロボットなんて無駄でしかない。

 

『敵性を持つ者を確認。排除します』

 

 俺は突撃してきたロボットを片手間に破壊する。

 そもそも、二足歩行は人間が思っているよりも難しいモノである。

 例えるなら、人間は自転車で犬猫は車だ。

 人間はその不安定な立ち方が出来るように進化してきたが、それをプログラムで再現するのは至難である。

 初めて作られた二足歩行ロボットなんて一歩歩くのに一分以上掛かったらしい。

 それから技術は発展してかなり軽やかに動く二足歩行ロボットは出来たが、それでもやはり欠点はある。

 俺は完璧なロボットであるが故に生まれる隙を狙って破壊する。

 そんな時、俺の耳に悲鳴が届いた。

 それを脳が認識した瞬間、俺はその人物の下へ駆けつける。

 

「ラクラ!! 何やってんだよ、お前らしくもねぇ」

 

「うる、さい。キミには関係ないだろう」

 

「馬鹿野郎! こんな所で寝転んでたら死ぬぞ!! 今だって変身しているから何とかなってるだけだ!!」

 

『敵性を持つ者を確認。排除します』

 

「チッ」

 

 俺は突撃して来たロボットをドリルアームで正面から破壊する。

 腰辺りから二つに分かれ辺りに部品が散乱する。

 

「だ、めだ」

 

 さらに突撃して来たロボットも同じ要領で破壊する。

 

「ダメだ! 止めてくれ!!」

 

「はぁっ!? 何言ってんだよ、オイ! 少しでも数減らさねえt

 

「娘なんだ!」

 

「っ!!?」

 

 サクラが何を言っているかなんてわからなかった。

 いきなりそんなことを言われても理解できる人間なんていないだろう。

 だけど、それは何も知らない人間からしたら、という事だ。

 

「・・・・・・『あの夫婦』と同じと解釈して良いか?」

 

 俺の問いにサクラは静かに頷く。

 だったら、確かにこれ以上はサクラにはキツイだろう。

 

「お前は撤退しとけ。助けてやる。救ってやる。停止ウイルスなんぞ知った事か。そんなの無視して突撃する」

 

《カッターウィング》

 

 俺は背中にユニットを出現させると、『ベアーズ』基地を直線的に睨む。

 そして、勢いよく飛び出す。・・・・・・と、

 

「私も行くよぉ!!」

 

 紅が俺の後に続いて飛び出していた。

 

「なぁっ!!?」

 

「一応これでも不死性を持ってるからね。これくらいなら突破できるよ」

 

「・・・・・・そうか。だったら、行くぞ!」

 

 俺たちは一直線に突き進む。

 体に受けるダメージなんて無視して。

 ただひたすら。

 第Ⅳ防衛ラインを突破した。

 第Ⅴ防衛ラインを突破した。

 第Ⅵ防衛ラインを突破した。

 第Ⅶ防衛ラインを突破した。第Ⅷ防衛ラインを突破した。第Ⅸ防衛ラインを突破した。

 その時、防衛システムの機能が停止した。

 好機。

 これを逃すほど俺は、いや、俺たちは優しくない。

 

「「「「「「「「「「「進めぇぇえええ!!!!!」」」」」」」」」」」

 

 俺と紅を先頭に『ファウスト』及び『パンドラ』が突き進む。

 そして、最終防衛ラインにある壁を見据える。

 これを破壊すれば基地に侵入するのはとても容易い。

 

《ブレストキャノン》

 

 俺はベルトにセルメダルを大量投入する。

 紅はその両手に深紅の炎を纏わせる。

 

「壊れろぉぉぉおおおお!!!!!!」

 

「必殺『不死鳥の爆炎』!!!!!!」

 

 二つの高エネルギーが壁にぶつかり、そこを中心に壊れる。

 ここから、こっちの攻撃タイムだ。

 

 

 

 

 

 

 イクサは制御ルームの壁に背中を預け、床にへたり込む。

 襲い掛かってくる敵を倒し続け、屍の山を築き、フラフラになりながらようやくUSBメモリをコンピューターに差し込んだ。

 

「やっと、メインキャラらしい行動が出来た・・・」

 

 そう言って達成感を得るイクサだったが、その気持ちはすぐに消え去った。

 

《ウェザー》

 

 そんな音声が耳に飛び込んできたのだ。

 イクサはそれを聞いて「あぁ・・・」と小さく呟いた。

 そして、ゆっくりと立ち上がった。

 

「『ウェザー・ドーパント』かぁ。面倒くさい・・・」

 

「侵入者が。すぐに排除してやろう」

 

「チッ」

 

 イクサはモードチェンジをし、『仮面ライダーイクサ(バーストモード)』へと変化する。

 そして、イクサライザーを取り出し、キーを打ち込む。

 

《ラ・イ・ジ・ン・グ》

 

 瞬間、イクサのアーマーが弾け飛び、『仮面ライダーイクサ(ライジングモード)』への変身を完了させる。

 

「さてと、サブ主人公としての格の違いを見せてやるぜ」

 

 そう宣言するイクサ。

 だが、戦闘シーンは全カットされるのであった。

 

 ああ、不遇。

 





なお、クマ編が終わり次第、また不遇枠に戻る可能性大。



通理「Σ(゚Д゚)


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79話 『“ナナシ”と“サクラ”。決意と願いの物語』

今回は『サクラ』がどうして戦っているのか、そんな物語です。
何の為に立っているのか、そんな過去編です。


なお、今回セリフ少な目です。


 闇ブローカー『ナナシ』。

 性別年齢等、そのほとんどが謎に包まれた裏社会伝説の存在。

 金さえ支払えばどんな仕事でもする者。

『魔物』とも称されるほどの凄腕で、同じく裏社会の伝説として語り継がれる『大宮さとし』とも負けず劣らず、怒らせてはいけない人物として警戒されていた。

 

『ナナシ』は生まれた時点で裏社会の人間だった。

 より正確に言うならば裏社会の人間によって作られた“道具”だった。

 幼い頃より殺しを教え込まれた。

 幼い頃より騙しを教え込まれた。

 幼い頃より影の中で生きていく方法だけを教えられ続けた。

 

 だから、人を殺す事は当たり前であった。

 そこに深い感情はなく、何か特別な理由がある訳でもない。

 

『ナナシ』には天性の才能があった。

 裏社会で生きて行くために必要な技術(スキル)は簡単に身に付いた。

 裏社会で生きて行くために必要な知識も全て記憶した。

 大人ですら難しいモノも、大人ですら出来ない事も、その全てを簡単にこなせた。

 両親は何時しか『ナナシ』に恐怖を抱き、最終的に二人で共謀し殺そうとまでした。

 だけど、『ナナシ』には通用しなかった。

『ナナシ』からすれば親のしようとしている事などすぐに分かる、程度の低いモノであり、油断を誘うために引っかかったフリをして親の仕掛けた罠を利用してどちらも殺した。

 そこにも何ら深い感情はなかった。

 

 それが普通と教え込まれたから。

 ただ、それだけであった。

 だけど、そんな“当たり前”は一人の少年が裏社会に飛び込んできたことで大きく変わった。

 

『不将協会』と『柵詩』の間で起きた大きな抗争。

 それは、『ナナシ』からすれば大きな稼ぎ時でもあった。

 依頼を受けて戦いを引っ掻き回す。

 少しの事でも大金を得る事が出来た。

 だけど、それを一人の少年がその拳で止めてしまった。

『柵詩』は崩壊。

 もっと得られるはずだった儲けも失った。

 

『ナナシ』はそれに怒りを覚えた。

 今までも計画が思い通りにいかない事は多く、仕方がない事であると割り切っていたのに、なぜか怒りを覚えてしまった。

 だから、少年を殺して憂さ晴らしをしようとした。

 ただの素人だと思いながらも油断はしていなかった。

 そこら辺の馬鹿のやるような後ろから刺すなんて低レベルなモノではなく、すれ違いざまに首の動脈を素早く、それでいて小さく斬るという方法。

 殺気はしっかりと隠していた。

 なのに、

 

「っぶねぇ! 何だなんだ!? 『柵詩』の生き残りか何かかよぉ!!?」

 

 彼は、小型ナイフの刃が動脈に届く一瞬前に素早くそれを避けてしまった。

 確かに首は切れたが、掠り傷程度で死に至るようなものではない。

 それを見て『ナナシ』は生まれて初めて恐怖を覚えた。

 齢12歳の少年のハズだ。

 一般家庭に生まれ、特殊な訓練を積んでいる訳でもないただの子ども。

 それだというのに、その目は黒かった。

 その目は吸い込まれそうなほど深い闇を持っていた。

『ナナシ』よりも年下で、『ナナシ』とは違う生き方をしているはずの存在。

 それなのに少年の持つ『闇』は確かに『ナナシ』と同等―――もしくはそれ以上であった。

 それを感じ取った時、『ナナシ』の頭の中に浮かんだのは一つの言葉だった。

 

 ――――コイツはここで始末しないとマズイ。

 

 そんな、普段の『ナナシ』なら考えないような生産性のない端的な思考。

 普段なら先を考えて行動する筈だというのに、この時はただ本能の思うがままに少年に襲い掛かった。

 少年は『ナナシ』の攻撃を避けると、近くの路地へと飛び込んだ。

『ナナシ』は警戒を怠る事なくその後を追う。

 少年の動きは俊敏で、常に『ナナシ』の視覚へと移動し続け、路地の奥へ奥へと進んでゆく。

 そして、

 

「そっちが武器を使うなら、こっちだって使うぜ」

 

 そう言う少年の手には鉄パイプが握られていた。

 大方、路地のどこかに隠していたのだろう。

 

「さぁてと、手加減はしないぜ」

 

 少年はそう宣言した。

 戦いは『ナナシ』が思っていた以上に簡単なモノではなかった。

 今まで暗殺以外にも正面からターゲットを殺す事だってあったし、ターゲットが抵抗してきて戦闘になった事だってあった。

 その中には軍人や下手な軍人じゃ束になっても敵わないような存在だっていた。

 だというのに、少年はそんな今まで対峙して来たどの敵よりも強かった。

 力はない、技術も付け焼刃、それなのに、少年は強かった。

 そして、

 

「ほんじゃ、終わり」

 

『ナナシ』は負けた。

 人生で初めての敗北。

 歴戦の英雄ではなく、ただの少年に。

 

 それ以来、『ナナシ』は自分を見つめ直した。

 幼い頃より作られた“自分”という形を変えようとしたのだ。

 そうして、『ナナシ』は初めて新しい生き方に気付けた。

 裏社会に生き続ける“道具”の『ナナシ』ではなく、“人間”の『ナナシ』としての生き方に。

 

 それに気付けて以来、『ナナシ』は今までしなかった様々な事をした。

 ゲームや漫画などの娯楽、何もせずのんびりと過ごす休日、こたつに入ってゆったりとテレビを見る堕落。

 今まで張り詰めて生きていた分、だらける行為が何よりも充実を感じさせた。

 

 そんな生活の中で恋愛もした。

 出会いや別れをより強く感じるようになった。

 

 今までやる事のなかった人助けもした。

 その関係で昔の自分のように人を殺す道具として育てられていた少女を助ける為に奮闘もした。

 結局、その事件は成長して高校生になった少年―――『大宮さとし』の手で解決したが・・・・・・。

 

『大宮さとし』が死んで、裏社会が大きな混乱に陥り、権力争いが発生した時は、彼に変わって一般人への被害を減らすために奮闘した。

 結局、裏社会は『大宮さとし』が現れる前と同じようになってしまったが、仕方がない事だと割り切った。

 

『ナナシ』は裏社会で生き、そこで伝説として語られた。

 だが、そんな存在だって、所詮は人である。

 

 ある時、『ナナシ』は死んだ。

 なにかの陰謀でも無ければ、誰かに殺された訳でもない。

 ただ単に、何の変哲もない病気でその長いようで短い一生に幕を閉じた。

 

 だけど、それは終わりではなかった。

 

 それは、新しい始まりだった。

 

 自らが主役となる転生は望まなかった。

 望んだのは、『ある少女』を助ける為に共に戦った少年のいる世界だった。

 そうして、『ナナシ』は新しい名前を得て『僕のヒーローアカデミア』の世界へと転生した。

 その世界の事を知れば知る程、あの少年らしくないと感じた。

 常に理不尽に襲われ、身を削っても感謝されることは少なく、自ら孤独を選びながらも、平凡な日常生活を求めていた、そんな矛盾を抱えた存在。

 彼の事だから争いのない平和な世界を望んでいるモノだと考えていたのだがその時点で当てが外れた。

 だが、それでも良い事はあった。

 優しい両親と世間一般で平凡と呼ばれる日常を始めて過ごせた。

 裏社会と関わる事はなく平凡に生きていた。

 

 そんな日、ある少年と出会った。

 色白でクリーム色の髪の超絶スーパー美少年であった。

 

「好きだ・・・」

 

 一目惚れであった。

 それから、『ナナシ』―――いや、『サクラ』は少年と近づくきっかけを何とか作るためにストーカー行為を行った。

 運のいい事に、昔の技術(スキル)は衰えておらず、それを十二分に活用した。

 

 変態に技術を与えた結果がこれである。

 

 そうして、少年がハンカチを落とした事を利用して少年と関りを持ち、時間をかけて友人の座を掴んだ。

 そこから恋人になるまではそりゃぁもう早かった。

 親のいない自宅に招き入れて、飲み物に媚薬を入れて、そこからはベッドの上でレッツ運動会。

 とても熱い夜になったとかなっていないとか。

 

 人間、一線を越えればもう止まらなくなるモノで、二人は隙あらばイチャイチャするようになった。

『サクラ』の見た目が完全に少女だったこともあり、事情を知らない人からすれば普通のカップルにしか見えなかっただろう。

 そんなある日、少年が『サクラ』を自室に呼び出した。

 何があるのか不思議に思いながら部屋に入ると、少年がノートPCの画面を見せて来た。

 そこには光の線で六角形が映し出されており、『サクラ』にはそれが何なのか分からなかった。

 

「これは?」

 

「僕たちの子供だよ」

 

 少年がそう言って微笑むと同時に六角形が波打ち、PCのスピーカーから合成音声が流れる。

 

『そうですよ。初めましてパパ』

 

「ふぇっ!?」

 

 突然のことに驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「・・・・・・これって、AI?」

 

「そう。僕たちは子供を作れないからね。せめて、こういった形でも良いから二人の愛の結晶を作りたかったんだ」

 

『しかも、私はパパとママの性格及び行動パターンのデータを共に作られているのです』

 

「そうやって自慢げに鼻を伸ばしたような声を出すのはパパ似かな?」

 

『いいえ、ママ似です』

 

 その返事に『サクラ』は「へ?」とまた素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「私が、『パパ』?」

 

『そうですよぉ~』

 

「娘にいじめられたよぉぉおお」

 

「ちょ、落ち着いて・・・」

 

 まさかの『パパ』判定にショックを受けて泣く『サクラ』を少年はおどおどしながら慰める。

 その後、二人で何とか『パパ』と『ママ』の判定を逆にしようとしたが、AI―――『アナ』は一向にそれを変えようとしなかった。

 でも、そんな少しハチャメチャな日常が『サクラ』には楽しい事でもあった。

 本当の夫婦・親子のような関係。

 いつまでもそれが続いて行くと信じて疑わなかった。

 

 そんな事は無いと誰よりも深く・強く知っていたハズなのに、それなのにそう思う事は一度もなかった。

 この日常が失われるなんて想像すらしなかった。

 

 

 だけど、―――――やはり世の中は残酷で不条理な事で溢れている。

 

 

 少年が死んだ。

 事故として処理されたが、明らかに怪しい所が多かった。

 一番怪しかったのは轢き逃げ事故だったのだが、犯人が見つかる事が無かったという事だ。

 事故のあった場所は見通しの良く人通りは多いモノの車通りの少ない所であり、さらに近くには幾十もの防犯カメラが設置されている所でもあった。

 それなのに犯人に繋がる手掛かりが一切見つからなかったのだ。

 だというのに、「不幸な事故」として処理されてしまった。

『アナ』が入ったPCも無くなっていた。

 あまりにも不自然で、疑問しか浮かばない現場。

 それを見て『サクラ』は決意した。

 

 また、闇の中に入る事を。

 

 少年はきっと『サクラ』が犯罪者になる事は望まないだろう。

 誰よりも優しく、自分よりも他人を思えるような人だったから・・・。

 それでも、『サクラ』は止まらない。

 止まる事もなければ止める気もない。

 

 こうして、『サクラ』の中に眠っていた『ナナシ』は目覚めた。

 金のために暗躍する『魔物』としてではなく、復讐に燃える『怪物(オニ)』として。

 

 

 そこから、『サクラ』は情報収集を徹底した。

 金が必要ならばどんな事でもした。

 情報を得る為なら苦痛なんてなかった。

 

 ――――昔のように人を殺す事すら、何ら感情を抱かなくなった。

 

 そんな生活が続き数年、ようやく『ベアーズ』が犯人である証拠が固まった。

『ベアーズ』を潰すために戦力を求めている組織―――『グリフォン』の作戦にも乗った。

 それでも、届かなかった。

 裏社会最大とも称されていた『グリフォン』ですら防衛ラインの突破は出来なかった。

 結局、『グリフォン』は大損害を受け、幾つかの組織に分断してしまった。

 

 ピースが足りない。

 

 この絶望的な状況を、こんな理不尽を、不条理を変える事の出来るピースが。

 心当たりはある。

 今まで積み上げてきた経験の中で思い出される、絶望をひっくり返してきた存在。

 

『彼』を当事者に出来れば戦況は大きく引っ繰り返る。

 

 だから、遠回りとは分かっていても、『サクラ』は『彼』を探し出す事に力を注いだ。

 それらしい情報を得る事は出来たが、事実確認が上手くできなかった。

 確定情報でなければ動きたくても動けない。

 そんな風に足踏みをしている時だった、テレビに映し出された『雄英体育祭』の映像が目に付いた。

 手の平を爆発させる少年と、二つのナックルを持って立ち回る少年。

 片方の少年の戦い方に見覚えがあった。

 ずっと探し求めていたあの少年の立ち回り。

 

 最後のピースは、こうして揃った。

 

 

 そして、現在(いま)

『サクラ』は不死鳥と共に突き進んで行く少年に願いを託す。

 例え何があっても、少年ならそれを叶えてくれると強く・深く確信して。

 

「頼む。私の―――私たちの娘を救ってくれ!!!!」

 

 爆音鳴り響く戦場ではそんな声が届くことは普通、無いだろう。

 小さく呟かれた言葉なんて尚更だ。

 だけど、『サクラ』の耳には少年―――機鰐龍兎の声が確かに聞こえた。

 

 

「任せろ」

 

 

 そんな短く、それでいて心強い声が。

 




(嘘)次回予告【CV.血化石蛇】


ちょ、やめて! 無敵だった防衛AIが無力化されたせいで、基地内をボッコボコのキッタギタにされたら、『ベアーズ』が完全に壊滅しちゃう!

お願い、破壊工作しないで! こんな所でダメになったら、確実に多方面(ボスたちのメタ集会)から彼(魔我覇仁)みたいに貶されちゃう! ライフはまだ残ってる。AIが復旧するまで耐えれば、『ファウスト』に勝てるんだから!

次回、『「ベアーズ」壊滅』。デュエルスタンバイ














なお、この予告は完全なるデタラメなので安心してください。(by 作者)


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80話 『振り切る速さ』

投稿、少し遅れて申し訳ありません。
仕事疲れで少しだらけてました。


 俺は襲い掛かってくる敵を一人一人丁寧に叩き潰していく。

 

 素手で。

 

 そう、今俺は変身していない。

 少し事情があって変身を解除している所を襲われたのだ。

 だが、襲い掛かってくる奴らはどいつもこいつも力に飲まれたような者たちばかりで、攻撃を避けてカウンターを浴びせたり同士討ちをさせれば簡単に処理できた。

 はい、そこ! 変身するよりも生身の方が勝率高いとか言うな!!

 

「ったく。どいつもこいつも力に振り回されやがって。そんなんじゃぁ、ほとんど足止めにもならんぜ」

 

 俺はそう言って赤いメモリを取り出し、スイッチを押して起動する。

 

《アクセル》

 

「変・・・身っ!!」

 

 俺はそう宣言すると同時にアクセルドライバーにメモリを差し込み、パワースロットを回す。

 瞬間、俺を中心に赤い炎が吹き荒れる。

 そして、

 

《アクセル》

 

 俺の体に赤い装甲が纏われ、『仮面ライダーアクセル』への変身を完了させる。

 そして、素早くエンジンブレードを取り出す。

 ふ~む。

 思ったよりも軽いな(注・20~30kgです)。

 俺はとりあえず切れ味を試すために襲い掛かってきたドーパント二体を同時に叩き切った。

 さすがに遠心力が掛かると少し体の軸がブレるが、この程度なら問題ない。

 振るって行けば慣れるだろう。

 照井竜だって最初は苦労していたが、最終的には片手で使えるようになってたし。

 ・・・・・・いや、ちょっと待て。

 20~30kgを片手で振るえるとか無双ゲーのキャラクターか何かかよ。

 驚愕の事実に(今更)気付き、内心げんなりしながらも敵の中へと突撃した。

 マキシマムドライブを使う事無く倒せるようなザコばかりだったので、別段苦労することなく突き進んでいた。

 すると、偶然にも猿伸たちと合流した。

 

「よぉ、猿伸。そっちは?」

 

「ある程度の探索は終わった。血化石蛇は、この通路の先だと思う」

 

「OK。ンじゃ、行こう」

 

 集まったメンバーは、

 

 俺(仮面ライダーアクセル)

 猿伸賊王(ギア2)

 暗視波奉

 紅華火

 通理葉真(仮面ライダーイクサ ライジング)

 

 の5名であった。

 その他メンバーたちは基地内の破壊活動を行っている。

 だから、俺たちは速攻で血化石蛇がいるであろう廊下を駆け抜ける。

 暗視波奉は猿伸に背負われていたが、女子だし致し方無いだろう。

 紅は、まぁ、炎をジェット代わりに飛んでいるから特に気にしなくていいと思う。

 しばらく先まで進むと、少し広い部屋に出た。

 その部屋の中央に白衣を着た小柄の少女が椅子に踏ん反り返っていた。

 

「やぁやぁ。よくぞここまで来た勇者たちよぉ。わたしたちの仲間になるなら世界の半分をやr

 

「あ、そういうの良いので」

 

「敵からもかよぅ!!」

 

 少女はそう叫んで椅子から勢いよく飛び降りた。

 普段どんな扱いを受けているのかは知らないが、敵に同情してやるほど俺は優しくない。

 

「テメェは誰だ?」

 

「相手に質問するなら、自分から名乗るのが礼儀じゃないのかなぁ?」

 

 少女はそう言ってニヤニヤと笑う。

 クソガキが・・・。

 

「とっくに知ってるだろうが。だから聞いてるんだよ」

 

「ふっふふ~。バレちゃってたか。・・・・・・わたしは、う~ん、“博士”とでも呼んでもらおう」

 

 少女はそう言って腰にガイアドライバーを装着した。

 俺の頬を汗が伝う。

 少女が手に持っているガイアメモリには見覚えがあった。

 見覚えしかなかったのだ。

 俺が万が一の為に皆を庇えるようにと前へ出ようとした瞬間、一人の少女が歩を踏み出した。

 

「“博士”って、どういう事?」

 

「その名前のままだよ。わたしがこの組織の『博士』・・・つまり開発者さ。ガイアメモリやゾディアーツスイッチもわたしが過去の遺物を基に作りだしたアイテムなのだ」

 

 少女はそう言って胸を張る。

 そんな少女を前に暗視波奉はいつものオドオドした様子はどこへ行ったのかと思えるほどの怒気を込めた声で言う。

 

「“T3ガイアメモリ”と“T4ガイアメモリ”について何か知ってる?」

 

「わたしが作った試作品だね。それがどうしたの?」

 

 “博士”がそう答えた瞬間、暗視波奉は懐から俺の開発した武器を取り出してそのトリガーを引いた。

 大きな音と共に“博士”の後方の壁に大きな穴が開いた。

 

「っぶないなぁ。いきなり発砲するとか頭おかしいんじゃないのぉ?」

 

 暗視波奉の攻撃を何とか避けた“博士”は焦りを顔に出しながらもそう煽るような口調で言う。

 だが、暗視波奉はそんな事を気にすることなく熱線銃(ブラスター)を構えていた。

 

「みんなは先に行って、この子は私が仕留める」

 

「いや、波奉。危険だ。俺も残って戦うよ」

 

「賊王くん、私は大丈夫だから。先に言って待ってて」

 

 暗視波奉はそう言って猿伸にキスをした。

 それを見た“博士”は口を押さえてビックリしていた。

 無論、俺たちも。

 こんな戦場だからこう言うのは少し場違いかとも思うが、それでも俺は二人の頭をワシャワシャと撫でて言う。

 

「イチャイチャするのは後にしとけ馬鹿ップル。・・・行くぞ、猿伸。彼女の思いを大切にしな」

 

 そして、俺はガイアメモリを取り出すとガジェットに差し込む。

 瞬間、メモリガジェットたちが飛び出し、暗視波奉の周りを飛ぶ。

 

「この子をサポートしてやってくれ」

 

 そう命令してから俺は暗視波奉の発砲によって出た隠し通路の方へと視線を向ける。

 

「駆け抜けるぞ」

 

 俺の言葉に暗視波奉以外の全員が通路へ視線を向けた。

 そして、暗視波奉が再度発砲をすると同時に“博士”の隣を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 二人の少女が殆ど明かりの無い部屋の中で睨み合う。

 一人は銃を構え、もう一人はメモリを持っている。

 

「そうだったね。キミは『例の件』の当事者だったね。・・・それで? 過ぎたことはもう変わらないというのに、それなのに武器を持つのかな?」

 

「そんなことは分かってる。だけど、ここでアナタを逃がしたら他にも被害者が増えるから。・・・・・・だから、私はアナタと戦うっ!」

 

「フフッ。勝てたらの話だよ。・・・わたしとメモリの適合率は99%。・・・・・・わたしは『ハイドープ』なんだよ」

 

 “博士”はそう言った瞬間、暗視方へと手を向けた。

 一瞬の事だった。

 誰も触れていないのに暗視の体が大きく後ろへと飛ばされた。

 強い衝撃派だった。

 暗視は“博士”がそう言った“個性”を持っているのだと判断し、警戒する。

 

「さて、本気で行くよぉ」

 

《ユートピア》

 

 “博士”はガイアメモリを起動させると同時に腰に装着したガイアドライバーへと差し込んだ。

 すると、その体が黄金に輝き、大きく膨れ上がる。

 それを見た暗視はその異様な光景に一歩後退る。

 全身を駆け巡る恐怖、竦む足、逃げようとする本能と留まろうとする理性の中で混濁してゆく思考。

 だが、そうしている間に“博士”は『ユートピア・ドーパント』への変化を完了させていた。

 

「さぁ、始めようか。こうなったわたしは優しくは無いy・・・・・・アバァア!!!」

 

 折角、“博士”が格好付けていたというのに、暗視はその言葉を最後まで聞くことなく熱線銃(ブラスター)の引き金を引いていた。

 その威力はすさまじく、“博士”は後方数メートル飛ばされることになった。

 

「さ、さすが、龍兎くん作の『対地球外生命体エボルトぶっ飛ばし専用超高威力破壊型抹殺用熱線銃(ブラスター)』・・・・・・。威力が普通じゃない」

 

「そんな危ない武器を生身だったわたしに向けてたのかようぅ!!」

 

 流石の“博士”もあまりに危険な武器に背筋に寒いモノが走った。

 っというか普通、人間相手に使っていいような武器ではないのは名称から確実なのだ。

 それをカッとなっていたとはいえ人に向けて撃った暗視が異常なのである。

 

「ふ、ふふ。今度はもう油断しないさ。なぜならこの天才が君みたいな小娘に負けるようなことは100%ありえn・・・・・・アブフゥ!!」

 

 暗視はまた、隙を狙って発砲した。

 頑張って格好付けているのに酷いと思うかもしれないが、残念ながらここは戦場。

 油断していた方が悪いのだ。

 暗視は痛みに悶絶している“博士”の足の小指を狙って発砲。

 

「アヒャァッ!!!」

 

 “博士”は足を抑えてピクピクと痙攣することしかできなかった。

 これが訓練を受けている者と開発者の違い。

 戦う意思の堅め型の差なのである。

 

 

 

 

 

 

 俺たちは長い廊下を駆け抜ける。

 防衛AIが復旧するまでの時間はそれほど残っていない。

 一応、『懸け』は用意しておいたが、それが上手くいってくれるとは限らない。

 と言うか、サクラの言葉を聞いて咄嗟に思いついた苦肉の策であり、それが成功する可能性は限りなく低い。

 だからこそ、これ以上時間を使っている暇がない。

 それであるが故に俺は言う。

 

「その軍長とかいうよくわからん大男は任せたぞ、通理!!」

 

「丸投げかよぅ!!」

 

 通理がなんか文句を言っているが気にすることなく走る。

 彼にはこういった扱いの方が良い気がした、ただそれだけなのだ。

 そうして、俺たちはまた長い廊下を駆ける。

 思ったよりも廊下は入り組んでおり、カーブしていたり直角に曲がったり、階段を下りる事になったりとあったが、着実に先へ進んでいた。

 そうして、また、広い部屋に出た。

 その部屋の真ん中には黒いスーツを着た細身の男がいた。

 

「おや、ここまで来てしまったようですね。いいでしょう。ここでその進撃はお終いです」

 

「あ゙ぁ゙! 面倒臭ェ!!」

 

 三回目となるとさすがに相手するのも嫌になってくる。

 俺は少し似たような展開にウンザリしながらもエンジンブレードを構える。

 だが、そんな俺の前に猿伸が立った。

 

「仮面ライダー、お前は先に行け。コイツの相手は俺がする」

 

「・・・・・・任せた」

 

 俺がそう言ってスーツの男の隣を駆け抜けようとした瞬間、その男の姿が消えた。

 一切物音がしなかったが、俺はとっさに転生特典である『十秒先の世界を見通す力』―――正確に言うなら『思考能力増強』の応用で世界をゆっくりと見る。

 今回することは未来予想ではない。

 精神と時間を切り離す事で意識的に世界をゆっくり見る力だ。

 そうする事で見えた。

 手袋の指に刀のような長い刃が付いた特徴的な武器を振るうスーツの男の姿が。

 

「チィッ!!!」

 

 それを視覚すると同時に俺はエンジンブレードを振るってその攻撃を防いだ。

 ギリギリだった。

 後、視覚するのが0.01秒遅かったら喰らっていた。

 

「行かせると思いますか?」

 

「ああ、足止め係がいるからな」

 

 俺がそう答えた瞬間、スーツの男が横から殴り飛ばされた。

 

「ゴムゴムのJET(ジェット)(ピストル)! ・・・・・・ほら、さっさと行け!!」

 

「おう! 任せた!!」

 

 俺はそう答えて紅と共に奥の廊下へと飛び込んだ。

 そうして、廊下を進んですぐの階段を全速力で駆け下りる。

 

 この事件を終わらせる為に。

 

 アイツの娘を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、そして、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、“また”救えなかった。

 俺は何でこんなに弱いのだろうか。

 手の中で冷たくなって行く彼女を、俺はソッと抱きしめた。

 



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81話 『激戦』

最近リアルが忙しいので次回の投稿遅くなるかもしれません。

ご了承くださいm(_ _)m


 暗視波奉はユートピア・ドーパントの攻撃を避けながら熱線銃(ブラスター)を放つ。

 だが、やる事がずっと同じだったが故に今は対処されてしまっていた。

 

「くっ!」

 

「おやおや。最初の威勢はどこへ行ったのやら」

 

 ユートピア・ドーパント―――“博士”は余裕をもって暗視と対峙していた。

 そもそも、スペックが違い過ぎる。

 生身で普通の少女である暗視とドーパントになった“博士”の差なんて説明するまでもないだろう。

 時間が経過していくうちに暗視は追い詰められていっていた。

 メモリガジェットたちは壊され、戦力もダウンした。

 そして、一瞬の隙を突かれて首を掴まれ、グッと上へと持ち上げられた。

 草加だったら首が折られていただろう。

 多分鈍い音と共に、

 

(首が折れる音)

 

 というテロップが入っていただろう。

 本当、草加じゃなくて本当に良かった。

 そんな体勢で暗視は足をバタバタと動かしたが、何ら抵抗になってはいなかった。

 

「さて、キミから生きる希望を奪うとしようか」

 

 “博士”がそう言った瞬間、首を掴んでいた手が淡く光り、暗視の体の中から『希望』が吸い取られていく。

 だが、暗視の瞳から光は一向に失われない。

 

「? 一体どこにそんな精神力が?」

 

「・・・あ、アナタには、分からないよ。私たちの、信じる、心の力の強さを」

 

「フフッ。不思議な事を言うね。信じる心の力? そんなもの必要ないさ。どんな存在であれ人間は自分以外とは全て他人だ。例え、血の繋がった親兄弟姉妹でも他人であることには変わりない。人間、口ではどうとでもいえるモノなのさ。ただ、内心どう思っているのかなんて誰にも分からない。それを信じてどうになるのかな? 信じる意味なんて、理由なんてどこにもないでしょう」

 

「意味は、あるよ。確かに、相手が内心どう思っているかなんて分かるモノじゃない。だけど、それは人を信じない理由にはならない。信じることで傷つく事だってある。・・・それでも、人は信じるからこそ先に進めるんだ!」

 

 暗視がそう強く、ハッキリと宣言した瞬間、“博士”が大きく横に飛ばされた。

 宙に投げ出されるような形になった暗視をガッシリとした腕が受け止める。

 その人物が“博士”を蹴り飛ばしたのだと暗視が気付くのはそう遅くは無かった。

 自身をしっかりと受け止めてくれる腕。

 暗視の頭の中にありえないイメージが浮かぶ。

 兄は死んだ。

 もう自分の身内は『パンドラ』メンバーだけだ。

 だから、ありえないのだ。

 死んだはずの兄が助けに来てくれる事なんてないのだから。

 それでも、暗視は呟いていた。

 

「お兄、ちゃん・・・・・・?」

 

「残念。正解はァ、ブラッドスターク!

 

 暗視は無言でブラッドスタークの顔面を熱線銃(ブラスター)で撃ち抜いた。

 

 

 一方、部屋の入り口では入るタイミングを見失ったエターナルが、ゆっくりと立ち上がっている敵に対峙するか、荒く息をしながらブラッドスタークを何度も熱線銃(ブラスター)で撃ち抜いている妹を止めに入ろうかとオロオロしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 ガキィンッと金属同士がぶつかる音が部屋に響く。

 軍長身武は1トンほどの重さを持つ大戦槍(だいせんそう)を大きく振るう。

 対する通理葉真こと仮面ライダーイクサはイクサカリバーを巧みに使ってその攻撃を受け流している。

 これだけを聞けばイクサが優勢に思われるかもしれないが、大戦槍(だいせんそう)は触れると爆発する仕組みになっている。

 爆破エンチャントとかズルい。

 近距離戦闘は不利だが、遠距離もまた不利だったりする。

 と言うのもイクサカリバー(ガンモード)とイクサライザーの二つしか遠距離武器を持っていないのだ。

 逆に、相手は複数の遠距離武器を持ち、臨機応変にそれを使ってきている。

 ハッキリ言って攻めきれないしこのままではジリ貧である。

 通理はそれを理解しつつも打点の無さに舌打ちをした。

 

(このライダー、攻撃が単調すぎるだろぉぉおおお! 龍兎みたいにボトル入れ替えれば臨機応変に対応できるライダーがよかったぁああ!!!)

 

 内心、そんな事を叫びながらも攻撃を避け、反撃のチャンスを伺う。

 相手は確かに強い。

 だが、攻撃は大振りで威力はあるモノの体力の配分を考えていないのか、常に全力と言ったところで体力の配分を考えているようには見えなかったのだ。

 つまり、持久戦になるが、時間があれば勝てる確率は大きくある。

 だが、それは時間があればの話である。

 

 防衛AI復旧までの時間はそこまでない。

 

 多くてもせいぜい後1~2分だろう。

 そこまで暴れて相手が疲れてくれるとは限らないし、疲れたからと言ってすぐに勝てるという訳でもない。

 防衛AIは基地内に問題が発生した場合は内部にも機能を働かせるという所である。

 通理の場合はボコボコに殴り倒した『ベアーズ』メンバーを盾代わりにすることでそれを切り抜けたが、今はそう言った事を出来る状況でもない。

 汗が頬を伝う。

 今の状況は最悪of最悪のコンボである。

 だが、それでも通理は大丈夫という安心感があった。

 きっと彼なら、機鰐龍兎ならこの状況を何とかしてくれる。

 そんな確信めいたものが確かにあるのだ。

 だから、通理はそれを信じて立ち向かう、戦い続ける。

 

 

 

 

 

 

 猿伸は地を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、ただひたすら跳び続ける。

 その動きはプロヒーローの『グラントリノ』の動きにそっくりなのだが、どこかそれを使う者のアレンジを感じさせるモノに仕上がっていた。

 だが、その動きですら目の前の敵を撹乱するのにはほとんど意味をなしていなかった。

 

「確かに早い。だが、そんなの“覇気”を使えば見える程度のモノでしかない」

 

 敵として立っている男―――黒猫暗矢はつまらなそうにそう呟くと、自身の武器『猫の手』を振るう。

 瞬間、猿伸は地面を殴る事で自身の動きを半強制的に中断した。

 慣性の法則すらも無視するほどのパンチに地面が大きく抉れるが、それと同時に猿伸の頬が薄く切られた。

 後一瞬でも止まるのが遅れたら頬は完全に斬り裂かれていただろう。

 それを視覚して脳が認識するよりも前に猿伸は後方へと大きく飛ぶことで追撃を免れる。

 

「クッソ、キャプテン・クロは“覇気”を使えないだろう!!」

 

「原作では使えないというだけで修行すればいいだけの話だろう」

 

 そう、つまらなそうに呟く黒猫に猿伸は軽く舌打ちをして右手に力を籠める。

 

「ギア2、武装色硬化!!」

 

 瞬間、猿伸の腕が黒く染まり、すぐに高熱を帯びていく。

 猿伸はその腕を素早く後方へと伸ばし、戻ってくる勢いそのままに拳を振るう。

 

「ゴムゴムの・・・火拳銃(レッドホーク)!!!」

 

 現在、この狭い部屋の中で使える最強火力の攻撃。

 地下でありそこまで広くない室内ではギア3及びギア4(バウンドマン)は隙を生むだけで役割を果たす事は無い。

 その為、肉体変化のないギア2が今現在出来る最適の肉体強化なのだ。

 それ故に選んだ技が『ゴムゴムの火拳銃(レッドホーク)』。

 一番威力があり、決め技としては最適すぎると言えるだろう。

 だというのに。

 それだというのに・・・・・・。

 

「なぁっ・・・・・・!?」

 

 黒猫は、猿伸の最高威力の一撃を簡単に受け止めた。

 まるで、それが攻撃にもなっていないかのように。

 まるで、飛んできた野球のボールを受け止めるような軽い動きで。

 その光景に猿伸は絶句してしまった。

 黒猫はその隙を突いて猿伸の腹に蹴りを叩きこんだ。

 いや、それだけではない。

 猿伸の耳には確かに黒猫が技名を呟くのが聞こえていた。

 

 ――――「杓死(しゃくし)」、、、、、、、と。

 

 それがどんな技なのかなんて猿伸は理解っていた。

 理解っていてもどうすることもできなかった。

 蹴られ、宙に体が投げ出されて身動きが取れないのだ。

 いや、“個性”を使えば無理矢理とはいえ身動きを取ることは可能だっただろう。

 だけど、態勢を整えるための一瞬の時間すらなかったのだ。

 

 ―――――ザク、ズバッ、ジャジャジャジャジャ、ザクザクザクザクザクッッッ

 

 室内に肉を刻む音が響く。

 傍から見れば猿伸の体に突然大量の切り傷が出来ているように見えるだろう。

 だが、ある一定レベルの者たちからすれば、素早く動く黒猫が『猫の手』で猿伸をメッタメタに斬っている光景が見えていただろう。

 無論、猿伸にもしっかりと見えていた。

 見えていながらも反撃をする事が出来ていないのだ。

 猿伸は体中を斬り刻まれながらも、その体を大きく捻る。

 そして、

 

「ゴムゴムの・・・・・・花火!!」

 

 どこから斬られるのか、手が出せないなら、自身を中心に全方向に向けてめちゃくちゃに攻撃を出す。

 何ら考えなんてないただめちゃくちゃなだけの攻撃。

 その攻撃の一つが黒猫の腹部にヒットした。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとはよく言ったもので、数が多ければ多いほど当たる確率は多くなるのは当然である。

 だが、そのマグレヒットが事態を動かした。

 鳩尾への攻撃は、たとえ予期していたとしても強い衝撃を腹全体に通し、肺の空気は反射的に吐き出される。

 つまり、一瞬とはいえ体が硬直するのだ。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 猿伸は全身に力を入れる。

 傷口から血が噴き出すが、それを一切気にしない。

 気にしている余裕なんてない。

 

 ギア2を発動することで全身が赤く染まる。

 両手に武装色の硬化を纏う。

 炎を纏い、全身全霊で最後の一撃を放つ。

 

「ゴムゴムのぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 黒猫の顔が歪む。

 避けられない事を理解っているから、これから防御姿勢を取る事が難しい事が認識できているから。

 その顔を見て、猿伸は強気に笑った。

 そして、

 

 

火拳銃(レッドホーク)バズーーーーーーーカァァァアアアアアアア!!!!!」

 

 

 深紅の炎を纏った腕が、攻撃が、圧倒的な破壊力が黒猫を襲う。

 その体の骨を砕き、その臓物を潰し、壁へと叩きつけた。

 

 

 

 勝利。

 そう言えるだろうか。

 相手は倒している。

 相手が動くことはもう無いだろう。

 

 

 だけど、猿伸もまた、動かない。

 最後の一撃を放ち、そのまま地に倒れ、体中から出血し、動く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

それでも、その顔は確かに、満足そうに笑っていた。

 



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82話 『また(・・)届かない手』

Q.なんで猿伸くんの使った技は『ゴムゴムのツイン火拳銃(レッドホーク)』ではないのですか?


猿伸「(=◇=;)ギクッ」


A.その場のノリです。


 最後の部屋。

 そこは特に装飾のない寂しい部屋で生活の為と言うよりも、一人にでもなりたい時に使うような所であった。

 そんな静かな部屋の中心に一人の男がいた。

 

「血化石蛇、か」

 

「あぁ、そうだ。良くここまで来たな。・・・用件は分かっているがあえて聞こう。なんの用だ?」

 

「この組織をぶっ潰しに来た」

 

「その付き添いで~す」

 

「「イヤ、アンタ幹部だろ」」

 

 紅の言葉に俺と血化は同時にツッコミを入れた。

 この感じ、何となく理解した。

 コイツ、俺と同じでツッコミに慣れている。

 そうでなければいきなりのボケ、しかも敵がしたモノに即座にツッコミを入れることは不可能だ。

 敵対関係になかったら、友になれていたかもしれないだろう。

 まぁ、敵対した以上そんなことはどうでも良いのだが。

 

「それじゃ、やろうか。仮面ライダー。・・・・・・俺たちは『ファウスト』を倒して名を上げたい。お前らはそれを阻止したい。それなら、やる事は一つだ」

 

「ああ、そうだな。一つだ」

 

「一つじゃない気がするんだけどな~。ま、脳筋くんたちには何言っても無駄か」

 

 紅、お前は一言余計なんだよ。

 せっかくのシリアス空気が台無しだ。

 俺は心の中で深くため息を吐きながらもエンジンブレードを構える。

 血化も少しげんなりとした顔をしながら、手にナイフを持ち構える。

 視界の端なので認識し辛いが、紅は両腕に炎を纏って構えている。

 長いようで短い静寂。

 こういった戦いではよく「先に動いた方が負ける」とか言うが、それは半分正解で半分間違えである。

 確かに、攻撃した瞬間と言うモノは隙を晒してしまう。

 駄菓子菓子。

 ・・・・・・間違えた。

 だがしかし、先制攻撃とは悪い事ばかりではない。

 色々と説明するのは面倒だから、詳細を省いて結論から言おう。

 

 時と場合による。

 

 脳死発言に思われるかもしれないが、これは意外とどこでも通じる。

 どれだけ強い男だろうと、寝ている時に襲われたら負けるだろ?

 つまり、状況なんてその場その時によって変わるから余所からどうだこうだと言える事ではないのだ。

 高まる緊張。

 息をする事すら隙を晒してしまうのではないかとも思える静寂。

 その緊張の糸を、紅が切った。

 

「ハックション!!」

 

 紅のくしゃみを合図に俺たちは最短距離でぶつかり合う。

 俺は下段に構えたエンジンブレードを体を急回転させて素早く横に構えると回転力そのままに胴へと向けて振るった。

 下段から襲うと思わせての攻撃だったのだが、血化はその小さなナイフで斜線をズラす事で回避し、エンジンブレードを両手で持っている事でがら空きになっている頭に蹴りを叩きこんできた。

 俺は当たる瞬間に自ら頭を揺らすことで衝撃を和らげてダメージを少なくする。

 思ったよりも辺りが無かった事に驚きを顔に出す血化。

 そこを狙って紅が炎を出す。

 血化は素早く飛び退いてそれを避けるが、着地までの一瞬の隙を狙って俺は足払いをし、無防備になった体に蹴りを叩きこんだ。

 

「カハッ・・・!!」

 

 空中で踏ん張りがきかなかったが為に血化は大きく吹き飛んだ。

 だが、勢いを殺すことなく宙で一回転し、着地すると同時に近くにあった机の引き出しを開けてその中にあった拳銃を素早くつかむとこちらに向かって発砲して来た。

 目で捉えることなど不可能な鉛玉。

 紅は炎の壁を展開することで防いだ。

 

 ―――互角。

 いや、こちらの方が分が悪いと言えるだろう。

 二対一で戦っているのに互角という事は、向こうの方が上手という事である。

 その事実に俺の頬を汗が伝う。

 まだ、相手の“個性”が分からないが故にこの状況はマズい。

 

 戦闘は続く。

 予想のできない続きへと。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「勝ったぞオラァァァアアアアアア!!!!!!」

 

 仮面ライダーイクサこと通理葉真は勝利の雄叫びを上げた。

 苦戦に苦戦を重ねた戦いだったが、一瞬の駆け引きに勝った事が勝因となった。

 あまりにも激しくレベルの高い戦い。

 どちらが敗北しても別段不思議でないほどの戦闘。

 それに勝利し、通理は確信していた。

 

 ――――絶対、メインキャラらしい活躍だった、と。

 

 だが、彼は知らない。

 自分の戦闘シーンが全てカットされているという事実を。

 

 ああ、不遇。

 そして、そんなヤツと戦ってしまったばかりに出番を減らされた軍長身武もまた不遇。

 不遇と出会い不遇が感染(うつ)る。

 もう一度言おう。

 ああ、不遇。

 

 

 

 

 

 

 ユートピア・ドーパントを前に二人の戦士が共に戦っていた。

 白き戦士は纏っている黒いマントを目くらましに使いながら臨機応変に戦い、赤い戦士は変幻自在な動きで相手を翻弄しながら戦っている。

 反撃はさせない。

 反撃なんてさせる訳がない。

 相手をどんどんと追い込んでいく中、赤い戦士は自身のカラーリングと同じ色のアイテムを取り出し、腰に装着した。

 

《エボルドライバー》

 

「お前には、面白い物を見せてやろう」

 

《コブラ! ライダーシステム! エボリューション! Are you ready?》

 

「変身!」

 

《コブラ! コブラ! エボルコブラ! フッハッハッハッハッハッハ!》

 

 赤い戦士新しい鎧を纏い、より凶悪な姿へと変化した。

 その姿にユートピア・ドーパント―――“博士”は一歩後退る。

 目の前にいるのはあまりにも強すぎる二人。

 

 

 白い戦士―――『仮面ライダーエターナル』

 赤い戦士―――『仮面ライダーエボル』

 

 

 両方、ボスクラスの仮面ライダー。

 いくら『仮面ライダーW』のラスボスの力を持っていたとしても、ボスクラス一人VSボスクラス二人が戦えばさすがに数が多い方が勝つのは明白だろう。

 さらに、後方支援として暗視波奉が熱線銃(ブラスラー)を構えて隙あらば発砲してくる。

 一対二+αである。

 あまりにも不利に不利が重ねられている。

 もう弱い者いじめとしか言えないし事実そうでしかない。

 これで必殺技とか食らわせたらオーバーキルどころじゃない。

 単なる死体蹴りどころか原形すら留めずグチャグチャになって肉の塊が完成しても何ら不思議はない。

 

「さぁて、この姿になったばかりだがさっさと終わらせてやろう」

 

「さぁ、地獄を楽しみな」

 

 どうやら、必殺技を使用するようである。

 フラグ回収が早すぎるので少し自重してほしいものだ。

 

《Ready Go! エボルテックフィニッシュ! チャオ!》

 

《エターナル マキシマムドライブ!》

 

 二人の仮面ライダーの足にエネルギーが収束する。

 それを見て暗視も熱線銃(ブラスラー)最終安全装置(リミッター)を外して構えた。

 殺す気しかない。

 絶対殺すマンたちですら顔を真っ青にしそうなほどの絶望的な状況がそこに広がっていた。

 

永遠の鎮魂曲(エターナルレクイエム)!!!」

 

「これでお終いだ。それじゃぁ、チャオ!」

 

 協力で凶悪な攻撃がユートピア・ドーパントを襲った。

 その攻撃は完全に怪人化を解除し、その幼く華奢な体を吹き飛ばす。

 骨は折れ、衝撃で肉は裂け、口から大量の血反吐を吐き、辛うじて人の原形を留めているほどのダメージを受けた。

 ここで即死できれば楽だっただろうが、自らの肉体を改造し強化していただけでなく『ハイドープ』としても強化がされていたことが災いし、下手に生き延びてしまった。

 これは生き地獄としか言えないだろう。

 下手に意識がある分苦しみが長く続く事になるのだ。

 だが、その苦しみは長くは続かなかった。

 それは神からの慈悲でもなければ悪魔からのギフトでもない。

 

 

 復讐者による怒りの一撃が放たれたのだ。

 

 

 最終安全装置(リミッター)が外された熱線銃(ブラスラー)の威力は通常状態の威力を大幅に超越()えている。

 その熱線は太く、まるでレーザー兵器から発せられた攻撃にすら見えるほどの物であった。

 威力・破壊力。熱量共に強大で、“博士”の肉体は蒸発した。

 だが、それだけでは済まさない。

 少し残った肉片すら見逃すことなく蒸発させる。

 

 あまりの光景にエターナルはドン引きし、止めたくても止めたら撃ってくるのではないかと嫌なイメージが浮かんできたせいで動けずにいた。

 エボルは小さく口笛を吹いて静かに拍手をしていた。

 

 この日この時、『ベアーズ』の作戦の要を担っていた発明家“博士”は死んだ(・・・)

 

 

 

 

 

 

 ピ、ピピ、ピピピピピピピピピ・・・・・・。

『ベアーズ』基地から数百キロ離れた場所にある賃貸マンションの一室でPCが自動的に起動した。

 複数の0と1が表記され、それが段々と人の姿に成って行く。

 そして、小さな少女の形を模した『ソレ』になる。

 

『ふぅむ。予想よりロクな死に方が出来なかったな~』

 

『ソレ』はつまらなそうにそう呟く。

 そこに強い感情がある訳でもなければ、関心がある訳でもない。

 少し予定より早かったが概ね自分の思うような展開になった。

 結局、いつか『ベアーズ』が壊滅するのは予想出来ていた。

 そこで自分が死ぬという事も予想していたし、それも計画の内である。

 だから、バックアップ(・・・・・・)を取っておいた。

 

 死んだとしても意識を続かせるために。

 

 少女からすれば生きている定義とはとても曖昧で雑なモノであった。

 まず、何をもって生きているとするのか?

 

 ―――体がある?

 

 ―――心臓が動いている?

 

 いいや、少女からすれば『意識がある』、それが生の定義であった。

『我思う、ゆえに我あり』、である。

 そこに自分がいると思っているなら、そこに自分はいるのだ。

 だから、躊躇いはしなかった。

 死ぬ事は新しいステップへの移行であり、何ら特別で絶望的な事だとも思わなかった。

 “転生”している為に理解しているが、魂を本体とするならば『本当の自分』は消えてしまった事だろう。

 だが、今自分はここにいる(・・・・・・・・・)

 それならば問題はどこにもない。

 

 新しい(ボディ)の調子を確かめて少女は『ベアーズ』基地の様子を確認する。

 そうして呟く。

 

『ごめんねぇ、血化ちゃん。君は必死にあがいているけどここで詰みだよぉ。ま、運が悪かったと思って諦めて“その炎”に焼き焦がされてねぇ』

 

 クスクスと静かな笑い声が部屋に響く。

 少女は自身の“計画”の為に最後の調整に入った。

 

『さぁて、データとなった私は世界にインターネットというモノがある以上は不死身だ。何人たりとも私を倒すことはできない』

 

 少女は歓喜した。

 今、この瞬間、自身は人を超越した存在になったのだから。

 

 

 

 

 

 

 額を汗が伝う。

 だが、それを拭っているほどの余裕はない。

 身体能力で負けているだけでも普通に厄介なのに、戦闘技術も一歩先を行かれている。

 今までにも技術でも力でも、そして、特殊能力も、俺みたいな凡人を超えたヤツは大勢いた。

 苦しい事もあった、絶望的な事もあった、それでもいつも勝利の道筋は見えていた。

 だけど、今は違う。

 勝利のイメージも沸いてくれない。

 俺は深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出す。

 もう、時間はそこまでない。

 このままグダグダしていても来るのは時間切れによる防衛AIの復旧だけである。

 少し前にも言ったが、それ用の対策もしておいてはいるが、それが上手く作用する確証なんてどこにもない。

 っというかあの突撃してからコンピュータールームまで行く短時間でしっかりとしたプログラムを組む事なんて無理だ。

 だから、俺は少し腰を落とし足に力を籠める。

 そして、

 

「ラァッ!!!」

 

 エンジンブレードを血化に向けて全力で投げた。

 仮面ライダーの力で増幅された腕力はすさまじく、エンジンブレードは猛スピードで飛ぶ。

 血化は体を倒すように低くすることでそれを避けるが、その態勢が故に隙がある。

 俺はその隙を逃さぬように駆ける。

 

 だが、その時。

 俺の後方から、俺の耳にある言葉が聞こえてきた。

 短くそれでいて聞き逃せない、聞き逃す事なんてできない言葉。

 

 

「危ない!!!」

 

 

 そんな、紅の言葉。

 反射的に振り向くと紅が手を広げ、大の字になっていた。

 まるで、『何か』から自身の後方にいる人物―――俺を守るかのように。

 俺の脳がそれを認識した瞬間に紅の上半身が『何か』の衝撃により大きくのけ反った。

 そうしてようやく見えた。

 

 彼女の胸元に刺さるナイフが。

 

 それを視覚した瞬間、俺は叫んでいた。

 

 

「紅ぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!」

 

 

 目の前で彼女が倒れ行く光景がスロー再生されたビデオのようにゆっくりに見えた。

 俺には経験がある。

 今まで突き進み続けてきた中で、俺の脳が世界をこのように見た時には決まって『ある事』があった。

 それは、

 

 

 

 

 

 ――――誰かが死ぬ時である。

 

 

 

 

 

 俺は手を伸ばす。

 彼女を受け止める為に。

 

 だけど――――――――届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トサッ、と紅は力なく倒れた。



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83話 『託された炎と溢れ始める“闇”』

Q.ところで、僕は何時になったら登場できるのかな?(by.ライダー界屈指の泥棒系ホモストーカー)

A.オーバーホール編まで待ってて。


「紅ぃぃぃぃいいいいいいい!!!!!」

 

 俺は倒れた彼女の下へ駆け寄る。

 変身を解き、生身で彼女の体に触れた。

 紅の胸にはナイフが深々と突き刺さりそこから血が溢れるように流れ出ていた。

 だが、それだけではない。

 

 ――――ピシッ、ピキッ、パキパキパキパキパキッッッッ・・・・・・。

 

 そんな音と共にナイフの刺さっている傷口から紅の体が石化し出したのだ。

 目の前の光景に思考が一瞬停止した。

 そしてすぐにある一つ考えにたどり着いた。

 

 “個性”、だ。

 

『血化石蛇』の“個性”がそう言った類のモノなのだろう。

 それが、その“個性(チカラ)”が彼女の体を石へと変えていく。

 どうすればいいのか判断がつかない。

 なにかこれを止める方法は?

 

 ナイフを抜けばいいのか?

 

 血化を倒せばいいのか?

 

 判断がつかない。

 “個性”の種類は千差万別、多種多様。

 似ている“個性”は多く、親子間なら全く同じ“個性”である事すらある。

 だが、血縁関係がない場合はその“個性”は似て非なるモノでしかない。

 それだけでも判断に困るというのに、相手は俺たちと同じ『転生者』なのだ。

 この世界の“個性”とは根本的な所から違う。

 だから、判断のしようがないのだ。

 そんな俺の耳に血化の声が聞こえて来た。

 

「一応言っておこう。俺の“個性”は『石化の血』。俺の血を少しでも体内に入れたら徐々に石化していく。・・・ちなみに、俺でも一度石化し始めたら止めることも治す事もできない」

 

 そんな、救いのない無情な言葉。

 頭の中に幾つもの行動パターンが浮かんでは消える。

 

 ―――救えない。俺の“個性(チカラ)”じゃ救けられない。

 

『仮面ライダー』に登場する敵の中には相手を石化するヤツも確かに居る。

 だが、大抵は敵を倒せば解除されるか、解除されぬまま終わる場合が多く、仮面ライダーが自身の能力で石化を解除するような描写は見当たらない。

 つまり、それが無い以上俺にはそれを使う事は出来ない。

 ウィザードならありそうな感じもするが実は無いのだ。マジで。

 魔法使いモノの作品で敵に石化能力持ちがいるのにそれの対策無いとかちょっとおかしいと思う。

 ただ、今この状況で必要なのはこの一文だけだ。

 

 対策がない。

 

 という、救いのない一文。

 どうすればよかったのだろうか。

 油断をしていたわけではなかった。

 警戒を解かずに集中して血化の行動を見ていた。

 失敗があったとすれば時間に焦って血化に攻撃を仕掛けようとした所だろうか。

 攻撃を仕掛ける際は一番隙が出来る。

 理解していたはずだ、分かっていたはずだ。

 なのに、それなのに・・・・・・。

 

「俺の、せいだ」

 

 気付けば俺はそう呟いていた。

 俺の心の声が漏れたのだ。

 だが、そんな俺に紅はいつもの優しい笑みを浮かべながら言う。

 

「しょうがないよ。完璧な人なんていないんだから。自分を責めることは無いよ」

 

「だけど、もっと周りに警戒していたら・・・・・・っ!!」

 

 俺が最後まで言う前に紅が俺の頭に手を置いて来た。

 まるで、泣いている子供をあやす母親のように。

 

「そんな辛そうな顔をしないでよ。私なら大丈夫だから」

 

「大丈夫なわけないだろ! 石になって行ってるのに、それに対抗策がある訳でもないのに! 俺が助けられなかったってのにっ!!」

 

「私は助けられてるよ。何度も」

 

「どこがだよ。助けれてねえじゃねぇか」

 

「助けられてるよ。お兄ちゃんは気付いてないだろうけどね」

 

 紅の言葉に俺の思考は一瞬加速した。

『お兄ちゃん』、今までの人生(前世・現世含む)の中で俺をそう呼んだのは一人だけである。

 あの、救う事の出来なかった少女。

 

「実余、ちゃん・・・?」

 

 思考が到達する。

 手を掴めなかった少女、『中村実余』。

 イジメによる自殺ではなく、イジメによる殺人。

 

 

 あれは、『あの温泉街』復興によって活気が戻ってきた頃の事だった。

 あの企業に勝利し多額の金を得る事が出来た為に復興がされた街の住民と勝利の宴を上げた。

 朝から始めたのに気付けば日を跨ぎ夜は明けそれでも宴は止まらず、二回目の昼を過ぎる頃にはほとんどの大人が物言わぬ屍のようになっていた。

 俺は酒を飲んでいなかった為に修善寺のヤツと一緒に酔っぱらいを布団に寝かせ、片づけをした後に帰宅した。

 眠気眼を擦りながら電車に二時間揺られ『月見市』に帰った俺はいつものように帰路を辿った。

 その途中の大通りの赤信号で止まっていた時に、一人の少女と目が合った。

 実余ちゃんだった。

 学校帰りだったらしい彼女は俺に気が付くと大きく手を振ってきた。

 俺もそれに小さく手を振り返す。

 そこまでは何事もないいつも通りの光景だった。

 だけど、それはすぐに崩された。

 

 実余ちゃんは背後から忍び寄っていた少年に道路へ突き出された。

 

 一瞬、何が起こったのか分からず思考が停止した。

 だが、その間にも事態は最悪の方向へと進んで行く。

 青信号故に普通に通行しようとした車が倒れ行く彼女の体に接触した。

 

 ドンッッッという大きな音と共に彼女の小さな体が宙を舞った。

 俺の眼には、その光景が映画のスローモーションかのようにゆっくり見えた。

 どこにも視点を置かず、目に映るモノ全体を捉える。

 だが、その時には彼女を押したヤツらは逃走していたらしくどこにもいなかった。

 信号待ちをしていた人たちも今の事態を理解すると同時に悲鳴を上げる。

 俺は事態を呑み込めず通過しようとする車を制止させる意味も込めて飛び出すと、すぐに彼女の下へと駆け寄る。

 彼女は頭を強く打ち付け、そこから血が溢れ出ていた。

 下手に動かしては駄目だ。

 頭に大きなダメージを受けている場合、シロウトが動かせばそれが致命傷になる事すらある。

 俺はバッグから常に持ち歩いているタオルと飲料水(災害用で保存が効くヤツ)を取り出して濡らすと傷を抑える。

 

「オイ、そこにいるチャラチャラしてこの前も今隣にいる女の子以外とデートしていた高校生! 救急車呼べ!!」

 

「キミなんでそれ知ってるの!? あ、美咲っ!? ゴメンって! 今はそれどころじゃないからカッターナイフは止めろ!!」

 

 何かカップルが大変なことになっているが気にしない。

 彼氏の方がスマホで救急車を呼びながら彼女が振るっているカッターを避けているがスルーして実余ちゃんに呼びかける。

 大きな声で意識を保たせる為に。

 すると、美余ちゃんはうっすらと目を開け、俺を認識すると優しく笑い、俺の頬に触れて言った。

 

「お兄、ちゃん・・・」

 

 それが、彼女の最後の言葉だった。

 救急車が到着した時点でもう手遅れだった。

 街で一番の名医がどれだけ手を尽くしても無理だった。

 

 俺は、無力だった。

 

 色々な事件を解決してきた中で一番後悔した。

 手が届かなかった事をいつまでも嘆いた。

 それまでにも人が目の前で死んだことは多々あった。

 だけど、それを超えるほどの悲しみと苦しみで自身を呪うしかなかった。

 

 

 俺の思考がそこへ至ったのに気付いたのか、紅はあの時の様な笑顔で言う。

 

「やっと、気付いてくれたね」

 

「あ、ああっ・・・・・・」

 

 何て事だろうか。

 俺は彼女を二度も助ける事が出来なかったのだ。

 

「はは、そんな顔しないでよ・・・」

 

「だって、だってっ・・・・・・」

 

「私はね、辛い時や苦しい時、どんな時でもお兄ちゃんと一緒にいれば幸せだったの。お兄ちゃんが私の心をずっと救けてくれてたの」

 

 紅は、少し苦しそうな声色で言葉を続ける。

 

「だから、死ぬ時もお兄ちゃんがいてくれたから怖くもなかった。今もそう。お兄ちゃんがいてくれるから大丈夫なの」

 

「っ!」

 

 何も言えなかった。

 俺は何もできていないのに、何もしてやれてはいないのに。

 それなのに、彼女は「救われた」と言っている。

 紅の体からはどんどんと熱が失われて行き、熱がなくなった部分から石化して行く。

 それを感じ取り、俺は彼女の体を強く抱きしめる。

 例え、それが何の意味をなさない事だとしても俺はそうするしかなかった。

 紅はソッと俺の方へと手を伸ばす。

 その手は、淡く光っていた。

 

「私は大丈夫だから。・・・・・・これ、あげるね。お兄ちゃん」

 

 紅の手が俺に触れた瞬間、その淡い光が俺の全身を包んだ。

 瞬間、頭の中に『知識』が流れ込んできた。

 それ故に紅が一体何をしたのかがすぐに分かった。

 だから、俺は言う。

 彼女の覚悟をしっかりと受け取った事を示すために。

 

「紅・・・・・・ありがとう」

 

 俺がそう言うと紅は今まで以上に優しく笑みを浮かべた。

 本当に幸せそうな笑顔。

 そして、その笑顔のまま彼女は石になった。

 

 

 

 

 

 

 血化石蛇はその光景に口を挟むことなく見届けた。

 仮面ライダーの攻撃が止まった事で、防衛AI復旧の時間が稼げる為に無理に追撃する意味がなかったのだ。

 なにかやり取りの後に仮面ライダー――――機鰐龍兎の体が燃える炎のような淡い光に包まれたが、それも見届けた。

 そして、警報が流れる。

 防衛AIが起動したときの音だ。

 それを聞いて血化は自身の勝ちを確信した。

 だが、その確信はすぐに揺らいだ。

 

『「Annihilation(アナイアレイション) Mode(モード)」の削除に成功しました。また、凍結されていた「アナ」システムの解凍にも成功。これより“私”は通常通りに起動します』

 

 そんな音声が確かに聞こえて来たのだ。

 勝利する為の最大のピース、防衛AIが機能しない。

 それは、血化にとっては負けを意味する事だというのは簡単に理解できた。

 驚きで声を出せない血化を余所に、龍兎は石になった紅を静かに寝かし、ゆっくりと立ち上がりながら言う。

 

「一か八かの賭けが、上手くいったようだな」

 

「なっ、あ・・・・・・!?」

 

「短い時間だったから簡単なプログラムしか作れなくてな、それで『防衛AI』をサクラの『娘』に戻してやるのは難しいと思っていた。俺のメガネ型コンピューターで簡単なウイルスを作成してメインコンピューターに仕込んできた。そのせいでこの基地内で一度変身を解かなきゃいけなくなったのは少し痛かったがな」

 

 龍兎は淡々と語る。

 

「少し『防衛AI』内のファイルを覗いた時にスペックの割に内部用量の少なさに疑問があった。そこで仮説を立てた。サクラの『娘』としてのデータは削除されずに圧縮凍結されているんじゃないのかってな。・・・・・・その仮説は正解だったようだな。ちなみに、『防衛AI』としての機能の方は削除したからもう起動はしないぞ」

 

「そん、な・・・。いつの間にっ・・・・・・!!」

 

「そんなの良いだろう。今は、殺り合おうじゃないか。お前だって、やられっぱなしは嫌だろう?」

 

 そう言う龍兎の声には段々と怒気が含まれて行く。

 血化はそれを感じ取り額に汗を掻いた。

 今までこの裏社会で生きて来て何度か強敵と戦う事もあった。

 だが、そのどのパターンにも当てはまらないほどの殺気に血化は一歩後退る。

 

 これは、本当に人間が出しているモノなのだろうか。

 危機を感じ取った血化には、もう龍兎の姿が人の形をしたバケモノにしか見えなかった。

 

「っ!!」

 

 恐怖を覚えた血化は自身の血を塗ったナイフを投げる。

 だが、龍兎の体から噴き出した炎が空中でそれを溶かす。

 血化の脳がそれを認識した瞬間、顔面へ強烈な衝撃が走り体が後方へと大きく飛んだ。

 

「な、ガァ・・・・・・」

 

 鼻に強烈な痛みが走り、血がボタボタと溢れる。

 視線を上げれば、先ほどまで血化がいた場所に龍兎がその右拳を前に突き出して立っていた。

 そしてそれを見て背筋が凍った。

 あまりにも黒い眼。

 今までに見た事のないほど闇を含んだ視線。

 殺気を感じるというレネベルではない。

 人間の、生物としての本能が叫んでいるのだ、戦ってはいけない(・・・・・・・・)と。

 ブワッと血化の毛穴と言う毛穴から汗が噴き出す。

 瞬間、龍兎が炎と共に宙へ消えた。

 血化は何が起こったか理解らなかったが、それでもその場にいてはマズいと本能的に察してすぐに飛び退く。

 だが、

 

 ―――ボウゥ、シュウゥッ。

 

 そんな、炎が風に揺れる音と共に血化が飛び退いた場所に龍兎が現れた。

 血化の判断ミスを上げるとすれば跳んでしまった事だろう。

 両足が地から離れているが為に方向転換が出来なくなっていしまったのである。

 

「しまっ・・・・・・ッッッ!!!?」

 

 血化の顔面に龍兎の回し蹴りが叩き込まれた。

 その蹴りは普通の蹴りの威力を大幅に上回っており、血化は宙で何度も回転し、地面に叩きつけられた。

 

「・・・・・・“個性”『不死鳥(フェニックス)』、か。ンだよ。不死なのは“個性”だけなのかよ。名ばかりじゃねぇか」

 

 血化が痛みで悶えている中、龍兎は歯を食いしばりながらそう呟く。

 一体、何を言っているのか理解できてはいなかったが、それでもその隙に少しでも距離を取ろうとした。

 

 距離を取ろうとしたのだ。

 

 それだというのに・・・・・・・、

 

「逃がすと思うか?」

 

 そんな声が、背後から(・・・・)聞こえて来たのだ。

 そして血化が振り返るよりも前に炎を纏った拳がその顔面を貫いた。

 

「アギャァァアア!!!」

 

 顔が焼ける。

 痛みの余りに顔を抑えるが、それはただ隙を晒すだけである。

 隙だらけになった胴体に向けて膝が叩き込まれ、衝撃で前のめりになり頭が下がった所へダブルスレッジハンマーを叩きこむ。

 バランスを崩して地面に倒れた所に大振りの蹴りを食らわせ、無理矢理に起き上がらせる。

 当たり前だが蹴り飛ばされただけでありその体は重力のままに弧を描いて倒れる。

 龍兎は肘から炎を噴き出し、それをジェット噴射のように噴き出して威力を増大させた拳を振るう。

 血化はその攻撃を防ぐことなんてできる訳もなく、胸部に叩き込まれた拳は皮膚どころか肋骨をも焼き砕き、その体を吹き飛ばして壁へ強く叩きつけた。

 

「ッ~~~~~~~~~!!!!!!」

 

 もはや悲鳴を上げる事すら叶わない。

 全身に痛みが走り、意識が落ちそうになるたびにその痛みで目が覚める。

 もはや立つことすらままならないというのに、目の前にいる(龍兎)は長時間寝かしてやる気など一切なく、血化の髪を掴み強引に立ち上がらせる。

 

「悪いな。普段の俺ならこうはしないだろうが、生憎と今の俺は冷静じゃない。徹底的に痛めつけるなんて趣味の悪い事はしないが、その命を絶つことだけはさせてもらう」

 

 龍兎のその言葉は、普段の彼を知っている者たちからすれば衝撃的なモノであった。

 彼は前世である『大宮さとし』の頃から命を絶つことに躊躇いを持っていた。

 怒りで我を忘れた事なんて何度もあったが、それでも相手の命まで奪おうとした事はなかったのだ。

 だが、今の彼はその『今までの自分』では決して選択しないだろう道を選んだ。

 

「は、ははっ。いい顔してるぞ。・・・・・・深く、黒い、闇を持た顔だ。ハァ・・・。まさか、ヒーローの道を歩んでるヤツがそんな顔をするなんてよ」

 

 血化は自分がこれからどうなるかを理解しながらもそう呟く。

 声を発するたびに胸が痛み、口から血が溢れる。

 だが、それを気にすることなく言葉を紡いでゆく。

 

「ああ、クッソ。計算違いだったか。裏組織に所属していようがテメェは根本的な所でヒーローそのモノだという前提で動いていたが、違ったか・・・・・・」

 

「ああ、そうだ。生憎と俺はヒーローなんてもんにはなれない。あれだけ気高い存在になろうなんて烏滸がましいさ。俺はただ俺のやりたいように生きてるだけなんだよ。・・・・・・これは、俺がアイツを救えなかった己への怒りの八つ当たりだ。恨んでくれて構わない」

 

 龍兎のその言葉を聞いて血化は笑った。

 楽しそうに、悔いなどどこにも無いかのように。

 

「・・・・・・こんな事でいちいち恨んでいたら生きていけないさ。・・・・・・・・・地獄で待ってるぞ」

 

「あぁ、地獄で待っていろ」

 

 瞬間、龍兎の手から深紅の炎が噴き出し、血化の体を包む。

 その炎は『血化石蛇』という存在そのものをこの世から焼き消すかのような勢いで燃え上がる。

 骨すらも炭にするほどの火力。

 それに焼き尽くされながらも血化は大きな声で笑った。

 

 最後の最後で良い物が見えた。

 最後の最後で面白い物を見れた。

 

 この(せかい)そのものを飲み込んでも尚、足りないほど深く重く濃い“闇”。

 人間一人が抱えるようなモノでもなければ人間一人が生み出せるはずのない圧倒的な何か。

 今、自分を焼いた(龍兎)はコップに並々と注がれた水を彷彿とさせるほどの強大な『何か』をその身に抱えている。

 絶妙なバランスでそれは保っているが、少しでもそれを崩すだけで溢れ、この星に生きる全ての生物を殺し尽くしても大げさとは思えない“闇”。

 

 血化は意識が遠退いて行く中、最後に思う。

 

 ああ、最高だ。

 このクソみたいな世界を救う者の中にそれを滅ぼす闇がある。

 光と闇の相容れぬモノを抱える存在。

 血化石蛇(オレ)という存在を打ち倒し、殺す者が特別で良かった。

 

 そんな、一般的には狂った考えとされそうな思考。

 公衆の面前で言おうものなら精神科への受診を進められそうな思い。

 

 そんな敵を龍兎は燃え尽きるまで見続けた。

 最後まで見送った。

 血化が何を考えているかなんて理解してないし、どんな事を思っているのかも分かりはしない。

 だが、それでも燃え行く人間を最後まで眼を逸らすことなく見続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、一人の少女が死んだ。

 少年が助けられなかった幼く純粋な少女が。

 

 その死が、少年の(なか)に封じ込まれていた『闇』を溢れさせる事になったのだが、それは誰も知らない。

 無論、その闇を抱える少年も。

 



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84話 『終わり。そして新たな始まり』

シリアス「フッフッフ。重い演出で鬱にしてやるぅ」

ギャグ&作者「ネタと勢いで吹き飛ばすンゴwwwwww」

シリアス「止めろぉぉおおお!!」


 俺は炎が小さくなり、消えゆくまで『ソレ』を眺める。

 そうして、炎が消えたのを見届けると、その場から踵を返す。

 歩む先には石となりもう二度と戻る事のない紅がいる。

 

「・・・・・・ごめんな。仇を討つンじゃなくて、八つ当たりで倒しちまった」

 

 返事なんて帰ってくる訳がない。

 だけど、俺はそれでもそう言う以外になかった。

 これがただの自己満足の謝罪だという事は十分に理解している。

 俺は紅を傷つけないようにソッと持ち上げると、ゆっくりと部屋を出る。

 階段を一段一段しっかりと踏みしめて地上を目指す。

 体中から汗が流れ、息が中々整わない。

 全身に痛みが走り少し動くたびに意識が落ちそうになる。

 

 “個性”『不死鳥(フェニックス)

 肉体を炎に変化させる・炎の鳥に変化する・破損した肉体を再生する・状態異常にならない・炎を操る“個性”。

 特殊条件下で発動される能力として、有個性者が死ぬ寸前に他者へとそれを譲渡する力がある。

 譲渡する個性という点ではワン・フォー・オールと同じように思えるが、少し表現が違う。

 オールマイトが言っていたが『聖火の如く引き継ぐ』という言葉の通りに、“個性”という名の『炎』を他者へと燃え移らせるのだ。

 

 俺は必要な知識は詰め込めるだけ詰め込んだが、戦う中であまり関係なさそうな知識は必要とせずに記憶していない為によく覚えていないのだが『数百年毎に木で作った巣に閉じ籠って自ら焚死し、残された灰から再び命を得て再生する』らしいとどこかで読んだ記憶がある。

 随分と昔の事なので記憶が曖昧である。

 ここで調べようかとも思ったが生憎と圏外だった。

 猿伸と別れた部屋はあちらこちらが崩れ、大きく陥没した壁の近くには肉の塊が転がっていた。

 俺はそれを無視して部屋を抜ける。

 通理と別れた部屋も激しい戦いがあったらしく中心には全身から血を流して絶命している―――えっと・・・誰だっけ? 確か軍・・・何とかというヤツがいた。

 俺は右手に炎を纏うと、軍何とかに向けてそれを放出する。なぜか火葬してやろうという気持ちが出たのだ。

 暗視と別れた部屋もした二つの部屋と似通っており激戦が窺えた。

 何か―――というより人体が焼け溶けたような臭いが充満しており、居て気分の良い場所ではなかった。

 俺は足早に部屋を出る。

 そうして地上に上がると、壊滅してパッと見廃墟と化した『ベアーズ』基地の廊下を歩く。

 向かう先はもちろん出口だ。

 万が一侵入された時の対策として備えて作られたであろう迷宮のような廊下をひたすら歩き続け、途中、制御ルームに立ち寄り、『アナ』の入ったメガネを回収する。

 そうして基地を出ると、そこには『ファウスト』及び『パンドラ』メンバーたちが怪我人の手当てなどをしていた。

 俺の姿を確認したユウがこっちに駆けて来た。

 

「龍兎、無事だったか?」

 

「・・・・・・被害状況は?」

 

「軽症者60名、重傷者1名だが・・・」

 

「それなら、そこに死者1名追加だ」

 

 俺はそう言って背負っていた紅をゆっくりと降ろす。

 

「ッッ!!?」

 

「血化の“個性”だ。もう二度と、戻らねぇ」

 

 俺がそう言うと、ユウは俺の胸倉を掴んで持ち上げた。

 

「ンだよ」

 

「なに諦めてんだよ。お前なら何とかなるんじゃないのか? オレはほとんど関わったことは無いがお前が数々の絶望をぶっ潰して希望に変えた事を知ってんだぞ。お前なら、『大宮さとし』ならこの程度じゃ諦めないだろ!!」

 

 ユウのその言葉に俺の中で何かが切れた。

 俺はユウの腕を掴み捻り上げる。

 

「過剰評価し過ぎだ。生憎と、俺は何度も失敗しているし、救えなかったことの方が多い」

 

「でも、お前だったら・・・・・・」

 

「手は尽くしたし、出来る事はもう全部やった。・・・・・・俺じゃ、救えなかった」

 

 俺はユウの腕を振り払うと近くをハタハタと慌てて歩いていた治実に声をかける。

 

「オイ、重傷者はどこにいる?」

 

「え、えっと、全回復して食事してます」

 

「どうぇぇええええ!!!!?」

 

 唐突な展開にさっきまでのシリアスな雰囲気が吹き飛んだ。

 大切な仲間が死んで、後悔して、そんな状況だからこそ少しでも多くの仲間を救おうと思っていたのに。

 あまりの驚きに変な声を上げてしまった。

 治実に案内を頼み向かうと、もう色々と頭を抱えたくなる光景が広がっていた。

 

「なぁ、治実。これなんなんだ?」

 

「気絶している間に少しでも体力をつける為に寝ながら食べているそうです」

 

 その言葉を聞いて俺は頭を教えて深いため息を吐いた。

 目の前には全身に包帯が巻かれている状態で寝たまま食事を口に運ぶ猿伸がいた。

 

「コイツは本当にルフィなのかよ・・・・・・」

 

「私も少し変だと思っています」

 

 俺は治実の言葉を聞いて肩をガックシと落とす。

 緊張感がまた失われていく。

 心の中にあった引っかかりがなくなり、背負っていた重い物がなくなったような感覚になる。

 ああ、クソ。

 やっぱり、俺は弱い。

 相も変わらず、こんな普通じゃない生活の中で生きているのに俺には『普通』が一番心地いいらしい。

 背負っていたモノが本当に消えたわけじゃない。

 後悔や苦しみがなくなったわけでもない。

 ただ、昔みたいに一歩足を進めただけなのだ。

 停滞してて誰も救えないようなことが無いように。

 辛い事を掴んで、引っ張ってでも誰かを助ける為に戦い続けたあの頃のように、一歩だけ。

 

 紅。

 ごめんな、俺が弱かったせいで。

 お前から受け取った“個性(チカラ)”は必ず自分のモノにしてみせる。

 この“個性”で一人でも多くの人間を救って見せる。

 だから、俺はまた進むよ。

 優しい笑顔の仮面をかぶって『普通』の日常に戻るよ。

 ただ、一つだけここに誓う。

 俺はこの先、何があってもどんな事が起きようとお前の事を忘れない、と。

 

 

 

 

 

 

 ある程度被害状況が分かってきたところで俺はサクラと合流した。

 サクラの顔は少し不安の色はあるモノのどこかこちらを信頼しているような視線を向けてきている。

 俺はいつものように笑みを浮かべる。

 相手を安心させるための笑顔を。

 

「お前の娘、『アナ』は助けたぞ。・・・・・・ほれ、挨拶をしてやれ」

 

『・・・・・・お久しぶりです。パパ。ママはいなくなってしまいましたが、パパは元気そうで本当に嬉しいです』

 

 メガネについているスピーカーから『アナ』が声を発する。

 その声を聴いた瞬間、サクラは目に涙を浮かべ、その場に蹲る。

 

「よかった。消されてなくて、昔みたいに・・・彼と一緒にいた時みたいに会話できるような状態で本当に良かったっ・・・・・・」

 

『パパってこんなすぐに泣く人でしたっけ?』

 

「どうかは知らないが、お前と離れている間にずっと辛く苦しい重荷を背負っていたんだろうよ。それが、今回の事で無くなって抑えていた感情が溢れ出したんだよ」

 

『はへ~。なるほど、マスターは物知りですね』

 

「「はァ!!?」」

 

 アナの言葉に俺とサクラは同時に声を上げた。

 

『あれ? 言ってませんでしたっけ? 私はマスターと共に行くことを決めましたよ』

 

「初耳なんですけどぉ!?」

 

 何かAIが勝手に変な事を決めていて俺はその事実に驚くしかできなかった。

 そもそもこちとら自家製のAIがいるのでアナにはサクラと共に生活しt

 

『ちなみにマスターが今まで使っていたAI内のデータは全部コピーしてAIそのものは削除しておきました』

 

「何してくれちゃってるのぉ!!?」

 

 中学生の頃からコツコツと学習させ続けていたAI(名前はまだない君【仮】)が知らないうちに消えていた事実に俺は頭を抱える。

 今日は厄日なのか?

 色々とショックが重なり頭を抱えて唖然としておると、ずっと黙っていたサクラが口を開く。

 

「キサマなんぞに娘はやらんぞぉぉぉおおおお!!!!!」

 

『もう、パパ! 私が選んだ人なんだから認めてくれたっていいじゃない!!』

 

「いいや、そんな女たらしを認めてやるものかぁぁぁああああ!!!!!」

 

「そういう会話は俺の関係ない所でやってくれェ!!」

 

 先ほどまでとは違う修羅場が始まり、ただでさえ疲れていた精神により疲労が溜まる事になったのは言うまでもないだろう。

 途中からは『ファウスト』及び『パンドラ』面々と忘れられていたであろうマムシも間に入りこの修羅場を切り抜ける為に奮闘する事となった。

 一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。

 余談だが、この修羅場は最終的にアナの、

 

『認めてくれないとパパの事嫌いになるよ』

 

 の一言で収まったのであった。

 もっと早く言ってくれればすぐに帰れたというのに。

 あぁ、今日は本当に厄日だ。

 

 

 

 

 

 

 現在は午前3時。

 ハイツアライアンスの消灯時間はとっくに過ぎており、皆はとっくに寝静まっている。

 まぁ、仕方がない。

 明日、、、、と言うかもう今日か。

 今日は月曜日で普通に授業のある日である。

 俺も少しは寝ておきたいので扉を開けると共有スペースを通り抜けようとしてそこに誰かがいた。

 ソファーに座っているその誰かの方に視線を向けると相澤先生がいた。

 

「おはこんばんにちはです、先生」

 

「何だそのごちゃまぜの挨拶は。・・・まぁいい。連絡がなかったがどうした?」

 

「親子の修羅場に巻き込まれてました」

 

「? ・・・・・・そうか。それはご苦労だったな」

 

 相澤先生はそう言いながらゆっくりと立ち上がる。

 

「それで、こんな時間までどうしたんですか?」

 

「お前に頼みたいことがあってな」

 

「頼み事、ですか・・・。俺に出来ることであれば何でも」

 

「そう言ってくれるとありがたい」

 

 少し緊張が高まって行く。

 そもそも、だ。

 あの相澤先生が一生徒に頼み事をするなんてあり得るのか?

 いや、事実、目の前にそれがあり得る現象として存在している。

 それならば、それが合理的であると判断したという事だろう。

 つまり、これから大きな『何か』があるという事だ。

 

「『死穢八斎會』は知っているか?」

 

「古い知り合いには『不将協会』がいましたけど、生憎とそこは知らないですね」

 

「聞いたことのない組織だな。・・・まあ、いい。『死穢八斎會』を相手にした大幅検挙の話が上がっていてな。その手伝いをして欲しいんだ」

 

「・・・・・・ゑ!?」

 

 ここでようやく疲弊しきっていた脳みそがフル稼働を始めた。

 そうだよ、なんで忘れていたんだ。

 この時期と言えば『ヒーローインターン編』、つまりあのオーバーホールとの一件があるじゃねえか。

 その事実に俺が気付き内心焦っているのに相澤先生は話を続ける。

 

「数日後にプロヒーローを集めてこの件についての会議が行われることにもなっている。A組からも数名参加する事にもなっているからお前が先頭になって引っ張ってくれ。・・・・・・伝えることは以上だ。さっさと寝ろ」

 

 相澤先生は俺の頭をポンポンと軽く叩きハイツアライアンスを出て行った。

 それを余所に俺は頭を抱えた。

 

 睡眠時間を大幅に削ってでも何かしら対策の為のアイテムを作らなければ・・・。

 頭の中に複数のサポートアイテムの設計図が浮かび、俺は小さく呟いた。

 

「素材が足りねぇ・・・」

 

 そんな、某モンスターをハントするゲームとかソシャゲとかにありそうでなおかつ現実的にも厳しい問題を・・・。

 ああ、通理のヤツにイクサベルト(とイクサのパワードスーツ)を作るんじゃなかった。

 




これで『クマ 編』は終わり。

この勢いのままに『オーバーホール 編』に続く。


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オーバーホール 編
85話 『トレーニング』


謝罪。

アンケートで約200名の方がオーマジオウに変身して欲しいと投票してくれましたが、随分と先になりそうです。
また、オーマジオウにどう変身させようと幾つか流れを作った結果、どう足掻いても最初に『オーマフォーム』への変身が必要になるという何とも情けない状態になりました。
もはやアンケートの意味を全否定するような形になった事をここに謝罪いたします。

誠に申し訳ございません。
m(_ _)m




 数日が経過した。

 クラスでは切島くん(烈怒頼雄斗)と麗日さん&蛙吹さん(ウラビティ&フロッピー)についての話題で持ちきりだった。

 それを余所に俺はトレーニングルーム使用許可を貰い、ただひたすらに『不死鳥(フェニックス)』の力を使いこなせる様に特訓を続ける。

 炎を放出するだけでもかなりの体力を使う事が判明し、少しでも最適化する事をメインにし続けた結果、ただ放出するのではなく一点に集中させることで半分以下のエネルギー量でありながら倍以上の熱量を放つ事に成功した。

 また、全身に炎を纏う事で物理戦闘であれば相手は接近いただけで熱ダメージを受ける害悪使用になった。

 しかし、

 

「こりゃぁ、まんま『超サイヤ人ゴッド』だな・・・」

 

 俺は『不死鳥(フェニックス)』の力を発動させた状態でそう呟く。

 この“個性”を発動させている時は何故か見た目が変化するのだ。

 髪と眼は赤く染まり、炎を纏えばもはやその姿は『超サイヤ人ゴッド』そのもの。

 赤い髪と眼、この色には見覚えがあった。

 そう、紅の髪と眼と全く同じ色に変化しているのである。

 それをどこか嬉しくも悲しく思いつつ、そもそもの俺の髪と眼の色が黒から赤へと変わっている為に頭に浮かんだイメージが『超サイヤ人ゴッド』であった。

 ・・・まぁ、この見た目の変化にもいつかは慣れるだろう。

 俺はとりあえずこの“個性”に体を慣らすだけである。

 炎の翼を背中に出し、飛行訓練をする。

 鳥がどうして飛べるのか、それは体を極限まで軽くして体の構造を飛ぶために特化させているからである。

 だが、生憎と俺は人間。

 体は軽くないし、むしろ空を飛ぶには重い方。

 翼があるからと言って鳥のように飛べるかと言ったら否だ。

 その為に炎の扱い以上に難易度の高い特訓になった。

 飛べずに地面に激突して怪我をしては『不死鳥(フェニックス)』の“個性(チカラ)”で回復をし、それをまた繰り返す。

 この“個性”は今まで俺が使っていたグリードの力による回復に比べるとスタミナの消費は少なく尚且つセルメダルを無駄に消費しないのでかなり楽である。

 今現在俺の肉体を生成しているセルメダルは一日に10枚ほどしか作れない。

 怪我の度合いにもよるが、例えば林間合宿の際に足が千切られたが、あの怪我を再生するのに少なくとも4500枚は使っている。

 ハッキリ言って今までの回復はコスパが悪かった。

 だが、今回の『不死鳥(フェニックス)』による再生は軽いランニングをした時と同じぐらいのスタミナ消費で怪我を再生してくれるのでかなりコスパが良いのだ。

 その為に多少の無茶が出来る。

 そうして、練習して行く内に滑空なら可能になった。

 紅のように空を自由自在に飛ぶにはまだまだ時間が掛かりそうである。

 

 余談だが、対オーバーホール用のアイテムの作成は諦めた。

 素材も金も今はない。

 サポート科なら調達は簡単だろうが、生憎と俺はヒーロー科でそれは難しい。

 発目に言えば何とかなりそうな気もしたので頼みに行ったが、新しい発明に集中していて一切話を聞いてもらえなかった。

 

 その為、今は“個性”『不死鳥(フェニックス)』の訓練に的を絞って時間を注いでいる。

 っと言ってもこれが最善策とは全く思えない。

 本当なら今すぐにでも『死穢八斎會』の事務所にワープして壊理ちゃんを助けたい。

 戦う事が出来なくてもあの子を連れて逃げたい。

 だけど、それは出来ないだろう。

 まず事務所の隠し通路の内部が分からない為にワープしようがない。

 もしも場所が分かっていたとしても逃走手段がない。

 そこら辺にいる雑兵ども程度なら相手の“個性”に関してはこの『不死鳥(フェニックス)』の力が役に立つ。

 

『入中』はそもそも敵じゃない。

『窃野』は武器を使わなければいいだけだし俺はそもそも基本的に武器を使わない。

『宝生』は結晶が出されようと炎でブチ破れる。

『多部』は食われるよりも前に焼き潰せばいい。

『乱波』は力よりも技で完封する。

『天蓋』はバリアの中にワープすればいいだけ。

『酒木』は不死鳥の力で“個性”を無効化可能。

『音本』はそもそも口を開かせなければいいし、俺は本当の中に虚偽に含まれない戯言を入れるのが得意だ。

『玄野』の“個性”も不死鳥の力で無効化可能。

 

 と、『死穢八斎會』の面々はほぼ全員攻略可能だ。

 “個性”が厄介だが、そもそも全員一撃で潰せば問題ないし、そんなの過去に何度もやってきたことだ。

 格上相手に正面からぶつかる事は無い。

 下手打って酷い目に合う事は目に見えている。

 よく分からない力を持っている奴と正々堂々戦う事はない。

 鬼門はやはり『オーバーホール』――――『治崎』になるだろう。

 アイツに分解されようと再生は可能だがそれでも難点は多い。

 まず壊理ちゃんの安全確保が最優先であり怪我をさせる訳にはいかない。

『オーバーホール』の攻撃は広範囲攻撃で自身の“個性”を深く理解しているが故に壊理ちゃんへの被害なんて考えずに動く。

 ワープが出来れば速攻でカタが付くのだが、俺は俺単体でしかワープが出来ない。

 なぜなら俺のワープの原理はバグスター化による超高速移動だからである。

 俺がバグスター体になれたとしても壊理ちゃんは無理だ。

 つまり、ワープして飛び込もうものなら戦闘は避けられないし、俺一人でしか飛び込めないからどれだけの被害が出るかも分からない。

 それならば、プロヒーローたちの作戦に便乗して乗り込むのが一番の最善策だ。

 俺は右手で拳を作り、ゆっくりと開く。

 

「さて、なんで相澤先生は俺を指名したんだろうな」

 

 自身の手のひらを見ながらそう呟く。

 そもそも、原作ではインターンに行っていた生徒たちが参加することになっている。

 つまりインターンに行っていない俺はそこに含まれないのだ。

 後ろからこっそりと近づいて行ってピンチに駆けつけようとも思っていたのだが、何故か相澤先生直々に指名が来た。

 っという事は、そこには原作には存在しない何かしらのイレギュラーが発生しているという事だろう。

 過去に何度かそういった事は起こったがそれでも原作の流れを大きく変えるようなことは少なかったし、ほとんど原作と流れは変わっていない。

 変わっている所は、俺たちみたいな転生者が動いたことによる物事の流れの違いだけだ。

 だが、今回ばかりは違うのだろう。

 俺が呼ばれたという事は、この“個性”――――仮面ライダーの力が必要という事だ。

 

 仮面ライダーはそれぞれ強い特徴を持っている。

 中には他のライダーには真似できないような特殊で強い個性のあるヤツらが多い。

 

 

 例を挙げるなら仮面ライダー龍騎。

 ミラーワールドの中を移動できるというのはかなりのアドバンテージだ。

 他の者に気付かれることなく移動できるという事は、潜入捜査や偵察に便利だ。

 

 例を挙げるなら仮面ライダーカブト。

 クロックアップによる高速移動は普通の人間の眼では捉えることは不可能だ。

 ・・・・・・正確に言えばアレは超加速という訳ではないのだが、幾つもの作品が出てくる内に別の加速系能力と同じように扱われているのは残念だな・・・。

 あとハイパークロックアップはチート。

 

 例を挙げるなら仮面ライダー電王。

 デンライナーを使って過去に行けるとかもうチート。

 ただし俺は変身は出来るけどデンライナーには乗り込めない。解せぬ。

 

 例を挙げるなら仮面ライダーディケイド。

 理由は言わずもがな。

 

 例を挙げるなら仮面ライダーウィザード。

 複数の魔法を組み合わせることで応用が利くし、実はコイツもタイムスリップ可能。

 

 例を挙げるなら仮面ライダーエグゼイド。

 ハイパァームゥテキさえ、いなければぁぁぁぁああああああ。

 とはよく言ったモノである。あれはチート過ぎる。

 

 例を挙げるなら仮面ライダージオウ。

 流石、我が魔王。

 全てのライダーの力を継承し、平成と言う時代の王となりました。

 ・・・・・・とでも言えば良いのだろうか?

 とりあえずディケイドと同等だと思っておけばいいだろうな。うん。

 

 

 俺はこの後の予定を頭の中で整理しつつトレーニングへ戻る。

 少しばかり思考に耽って休んでしまっていたが今は少しでも時間が惜しい。

 

「ふぅぅぅぅぅーーーーーーーー」

 

 俺は大きく息を吐く。

 吐き続ける。

 視界が黒くなり出す、額から汗が噴き出す。

 それでも吐き続ける。

 そうして、酸欠により失神寸前までなった所で息を止める。

 

 これは昔からやっている自主的低酸素運動の基盤だ。

 無理矢理酸素を吐いて、体内の酸素量を低下させてから運動をする。

 普通の低酸素運動と違う所を上げるとすれば、始まったら終わるまで息をしないという所だろう。

 ただ無理やり肉体を酸欠状態にしての動き。

 最初はただの思い付きでの特訓だった。

 だけど、これが思いの他いい特訓になったのは確かである。

 首を絞められた時も、火事の中に飛び込む時も、長時間息を止められる事は大きな利になった。

 今後、この炎の“個性”を使っていく為にはやはり炎に慣れておかないといけない。

 っとなると最初にするべき事は炎の中でも長時間活動できるようにする事しかないだろう。

 他にも色々とありそうに思うだろうが、肝心なのはココだろう。

 考えてみて欲しい。

 炎を纏っている中で息をするなんて自殺行為以外何物でもないだろう。

 いくら再生できると言っても痛みはあるのだ。

 出来る事なら避けたいと思うのは普通の思考である。

 

 息を吐き、止めてから約2分が経過した。

 流石に苦しくなり俺は大きく息を吸う。

 瞬間、体中からドッと汗が吹き出し、肩を大きく上下させながら息をする。

 体中の細胞が酸素を求め脳に苦しみを訴えている。

 それでも休んでいる時間は1分にも満たないが、これは大きなロスになるだろう。

 誰かを助ける為に強くなるトレーニングはいくら時間があろうと足りない。

 そんな状況で1分ほどの時間のロスはかなりキツイ。

 俺は汗を拭い、再度、運動を始めようとした所で背後から声が掛けられた。

 

「いつまでやっているんだ、もう時間だぞ」

 

「相澤先生・・・・・・」

 

 時計を確認すると申請書に書いた時間をオーバーしていた。

 

「無茶のし過ぎは体に毒だぞ。今日はさっさと休め」

 

「ハァハァ・・・これぐらい、無茶にも入りませんよ。・・・・・・もっと、もっと強くならないと」

 

「だから、それが無茶だと言っているんだ」

 

「これぐらいで無茶に入るなら、俺はとっくの昔に死んでいますよ」

 

 そう答えてトレーニングに戻ろうとした瞬間、相澤先生の捕縛アイテムで体中を縛られた。

 しかも、かなりキツ目に。

 

「うぎゃぁぁぁああああっっっ!!」

 

 体中に痛みが走りそんな情けない声を上げてしまった。

 

「お前の前世を調べれば調べる度によく生きていたと思うよ。プロヒーローとして俺はこの体を鍛え続けて来た。それだというのに、お前は俺のその努力を大きく上回っている。・・・・・・一体、どうすればそこまで頑張れたのだか」

 

 相澤先生は深くため息を吐く。

 

「そう思っていたのだが、どうやら命を削るような血反吐を吐くようなそれを続けていたんだな。・・・・・・休んでおけ。これから忙しくなるんだ」

 

「その為にも、鍛えているんですよ・・・」

 

「だから・・・・・・」

 

 俺の言葉に相澤先生は眼を細くして睨んできた。

 そして、より強く全身を締め付けられる。

 

「休めと言っているんだ。それにもう時間は過ぎているんだ。それだけ強くなりたいのならもっとスケジュールを組んでじっくりとやれ」

 

 そう言われながら俺は引きずられる。

 抵抗しようとしジタバタするも一切の抵抗にならず、俺はハイツアライアンスまでの道のりをただひたすら地面に体を擦り続けることになった。

 

 ズボンが一つ駄目になっちまったぜ☆

 



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86話 『不穏な気配と常識の通じない少年』

神姫「私、影薄くない?」

使原「この作品ヒロインキャラが出番なさすぎるんですよ」


暗視&紅(ギクッ)


神姫&使原(ジーッ)



彼女らの出番はまだ先になりそうである。


 俺は痛む体に鞭を打ちながら起き上がる。

 ここ数日、トレーニングで酷使しまくった場所が激痛を訴えているが、俺はそれを無理矢理意識の外に外す。

 この程度で止まってはいられないのだ。

 

 俺は制服に着替えると外へと出る。

 そこにはクラスメイト四人が屯っていた。

 

「よぉ、皆どこに行くんだ?」

 

「あ、機鰐くん」

 

「おう! 機鰐!」

 

「おはよー」

 

「ケロ」

 

 緑谷・切島・麗日さん・蛙吹さんがそれぞれ俺に気付き反応する。

 一応、どこへ向かうかは事前に相澤先生から聞かされているが、あえて言わない。

 ちなみに俺は自分自身で話す意味がないと判断した内容は他社に話すような事はない。

 だって、どうでも良い話をされたって迷惑なだけだろう。

 

 

[出せ]

 

 

「ん?」

 

 俺は何か聞こえて気がして後ろを振り向くが、そこには誰もおらずいつも通りのハイツアライアンス一階共有スペースが広がっていた。

 少し頭を傾げていると、切島が声をかけて来た。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「いや、何でもない。気のせいだったみたいだ。・・・それで、どこか行くのか?」

 

「ああ、インターンでな。ところで、そっちは?」

 

「ちょっと相澤先生に用事があるって呼ばれてな」

 

 俺はそう言って頭を掻く。

 

「まぁ、そっちはそっちで頑張れ。俺は俺の問題を解決せにゃいけねぇから」

 

「そうか。それじゃ、機鰐そっちも頑張れよ」

 

「おう」

 

 俺はぶっきらぼうに答えてその場を後にする。

 後方では四人の談笑が聞こえてきているが、特に気にすることなく走る。

 実際、アイツらが集合場所に到着するよりも前に向かわなければいけないので早めに行かなければ。

 俺は四人の視線から外れる場所まで走ると『不死鳥(フェニックス)』の“個性”を発動させる。

 背中に炎の翼が形成される。

 

 ここ最近は夜遅くまでずっと訓練を続けていた。

 ずっと工夫を凝らして特訓を続けていた結果、不安定ながらようやく飛べるようになった。

 っといっても長時間飛ぶにはやや不安があり、高く飛んで後は滑空する方法が安定する。

 

「フッ」

 

 俺は空へと飛び上がり、ある程度の高さから滑空する。

 そして、集合場所まで空の旅を楽しむ。

 まぁ、長い時間飛んでいるのも何だし、そもそもこれは“個性”の無断使用になるのでプロヒーロー達には見られない様に雲に隠れて飛ぶ。

 上空で浴びる風は体感で大体マイナス・・・え~っと、何度かは分からないがマイナスは行っている。

 そんなのを長時間浴びていたら普通に体に悪いので全身に炎を纏わせて体温の調節をする。

 

 

[ここから、出せ]

 

 

 一瞬、意識が堕ちて俺はバランスを崩した。

 意識が戻ってすぐに体勢を立て直して一気に上昇する。

 そして空中でホバリングし、自身の体の異変を確認するが外傷はなく、いつも通り変わらない状態であった。

 深呼吸をして精神状態を落ち着ける事でメンタル面も客観的に捉えるが異常なし。

 

(なんだ、今の・・・・・・?)

 

 また、頭の中に誰かが語りかけて来た。

 声・・・・・・そう表現して良いのかも分からない。

 まるで、脳内に直接語り掛けて来たようにすら思える『ソレ』の気配を感じ取ろうとするも、どこからも感じ取れない。

 一瞬だけ感じ取った『ソレ』の気配はあまりにもドス黒く、こんなにも強く感じ取れたならその後に察知できない筈がないのだ。

 あれだけ濃密な気配なら少なくとも俺を中心に10メートル以内にいると考えて良いだろう。

 だが、それはあり得ないとも思える。

 ここは空中・・・・・・しかも先も言った通り雲の上なのだ。

 だとしたらここにいる人間なんて普通ではないだろう。

 俺だって訓練を積むことでようやく短時間だけ行動できるようになっている領域だ。

 そんな所で誰かの声がする・・・・・・しかも頭に響くなんて『あり得ない』と断じたい所なのだが、それは『前世』の常識である。

 この世界には“個性”がある。

 テレパシーを使えるヤツなんていて当然である。事実、マンダレイの“個性”がそういうものだ。

 だが、俺の今までの経験がそれを否定する。

 あの気配は、あまりにも近く感じ取れたのだ。

 俺は深呼吸後、ポソリと静かに呟く。

 

「誰なんだ、オマエは・・・」

 

 いや、違う。

 この表現は間違っている。

 

「誰なんだ、オマエ達(・・・・)は・・・・・・」

 

 俺の呟きに答える者はいない。

 俺の耳には強い風の吹く音だけが聞こえてきていた。

 

 

 

 

 

 

 そこは何よりも深く黒い“闇”の中であった。

『影』はそこに差し込む一筋の光を見続ける。

 そこに意味なんてない。

 そもそも『影』には意思なんてなく、ただそうあるべきだという『ルール』の下に動いているだけなのだ。

 

 いや、今は違うだろう。

 今現在、『影』には僅かだが意思が生まれ始めていた。

 この深淵に封じ込められて長い時が流れ、そこに突然流れ込んできた光は『影』に強い影響を与えていたのだ。

 

 だから、『影』は呟く。

 その光に向かって。

 

[ここから、()を出せ]

 

『影』は確かにそう言った。

 “俺”、と自分を表現したのだ。

 意思なんてなく自我なんてなく、自己という形を形成していない筈の『影』がである。

 専門家(・・・)が見ればその異常さに鳥肌を立てただろう。

 

[出せ、出せ・・・・・・]

 

『影』はひたすら呟き続ける。

 邪念・悪意・殺意etc.・・・・・・人間が持つ負の面が集合した事によって生まれた『影』は溜め込まれ続け、意思を持った事で自然現象として世界へ溢れ出そうとしている訳ではなく、人間の勝手な都合で封じ込められてきたが故に『影』そのモノが悪意を持って封印から抜け出そうとしているのだ。

 それが溢れ出したら世界には不条理で理不尽な事件・事故が多発し、人々はいがみ合い、世界に秩序が戻る事はないとすら言えるだろう。

 そんな『影』が光の方へと手を伸ばした瞬間、深淵に耳を塞ぎたくなるほどの大声が響き渡った。

 

『うるっっっせぇぇぇぇええええええええ!! さっきから何なんだテメェ!! 頭ン中でグチグチグチャグチャと言い上がってぇ!! テメェがなんか言う度に一瞬意識が堕ちるんだよ!! 俺が「良し」と言うまで黙ってろ!! 次喋ったら例え地球の裏側だろうが月の後ろだろうが太陽の中だろうが天の川銀河の外だろうが空間を隔てた異世界だろうがテメェのいる場所まで行って生まれて来た事を後悔させてやるから覚悟しとけア゙ァ゙!!!』

 

[・・・・・・・・・]

 

 その言葉を聞き、『影』は思った。

 

 ――――コイツ、俺よりもヤバいんじゃないか、と。

 

 そんな『影』の思いなんて誰も知るハズはなく、時は流れる。

 時間経過と共に解かれて行く封印を『影』はただひたすらに眺めるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 俺は肩を上下させて深呼吸をする。

 上空で大きな声を上げたせいで酸素を一気に消費してしまった。

 そのせいで並行思考をするのにも支障が出るレベルまで脳の能力が低下している。

 俺は低酸素状態であまり動かない脳を無理矢理動かして集合場所まで滑空する。

 地上近くへと落ちれば落ちるほど吸い込む酸素量も増え、並行思考ができるようになってきた。

 そして、俺が集合場所に到着するとほぼ同時に緑谷たちも到着した。

 

「ビッグ3・・・と機鰐くん!?」

 

「おお! 奇遇だな。お前たちもここに呼ばれていたのかぁ」

 

 少しわざとらしいが一応そう反応しておく。

 そうして俺たちは先輩たちの案内に従ってナイトアイの事務所に入る。

 事務所内には複数人のプロヒーローがすでに集まっており、それに緑谷が驚いている。

 俺は事前に聞かされていたのでスルー。

 始まった会議自体も、原作知っているし事前に情報を集めておいたのである程度流し聞いていた。

 緑谷と通形先輩が壊理ちゃんを助ける意思を固めている中、俺はボーっとある事えお考えていた。

 それは、なぜ俺がココに呼ばれたのか、である。

 相澤先生からは「手伝ってくれ」ぐらいしか説明をされていないのでさっさと教えて欲しいのだ。

 その説明を今か今かと待っている内に気付けば会議は終わっていた。

 

 俺たちはナイトアイ事務所一階に設置されているテーブルを囲う。

 暗い顔の緑谷と通形先輩の口から何があったかが語られる。

 話を聞いた皆の中でも特に切島が緑谷たちと同じような表情になっていた。

 俺? 素敵演技力でこの暗い空気に溶け込んでるよ。

 重い沈黙。

 一秒が長く感じるその空気がさっさと終わって欲しい俺は相澤先生が降りてくるのを待つしかできない。

 

 沈黙が続く中チーンというエレベーターの到着音が鳴り、そちらの方へ視線を向けると相澤先生がちょうど降りてきたところであった。

 先生! この重っ苦しい空気を無くす救世主!!

 俺はそんな内心を隠し周りの空気に溶け込んでおく。

 

「・・・通夜でもしてんのか」

 

「先生! ケロ!」

 

「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ」

 

 相澤先生はそう言いながらどこか複雑そうな表情を浮かべている。

 重い空気の中、相澤先生―――いや、イレイザーヘッドは俺たち全員の顔を見据えてから言う。

 

「いやァ、しかし・・・今日は機鰐を除く君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなァ・・・」

 

「あの、俺インターンに参加していないんですけど」

 

「言葉の綾だ。聞き流せ」

 

「ウッス・・・」

 

 俺がそう答えるとイレイザーヘッドは少しため息を吐いて頭を掻く。

 そうして仕切り直しという感じで話を続ける。

 

「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。それだと話は変わってくる」

 

 イレイザーヘッドのその言葉に緑谷が辛そうな顔をする。

 コイツの性格からして無理してでも突っ込んでいきそうなイメージさえ湧いてくる。

 無論、イレイザーヘッドだってそれを考慮していない訳がない。

 俺が成り行きをジッと見守っているとイレイザーヘッドは「ただなァ・・・」と言葉を続けた。

 

「・・・・・・緑谷、おまえはまだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ。残念なことにここで止めたら、おまえはまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。・・・・・・だから、俺が見ておく。現場には実戦を多く知っている機鰐もいるんだ、俺への負担は少ない。なァ、緑谷・・・するなら正義の活躍をしよう。・・・・・・わかったか、問題児」

 

 イレイザーヘッドの言葉に緑谷はそこか泣きそうな顔を上げる。

 俺はそれを見てシシシと変な笑い声を出してしまった。

 

「緑谷、お前は確かに壊理ちゃんの手を掴み損なったかもしれない。・・・・・・でもよ、そこでグジグジしてたら完全に手遅れになる。俺だって何度も掴み損なったし、掴めず目の前で人が命を落とす所を見守るしかできなかった事だってある。でもよ、掴めなかったからと言って全部が全部絶望に繋がる訳じゃないんだ。俺たちが必死に藻掻いて、足掻いて突き進めば絶望を希望に変えられるかもしれない。だから、行こうぜ問題児」

 

「機鰐もそう呼ぶんだ・・・」

 

「切島、俺はイレイザーヘッドのセリフに乗っただけだ」

 

「カッコイイ事を言ってたハズなのにそのセリフで残念なことになってるぞ!?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「あると思うけどぉ!!?」

 

 俺は切島の華麗なるツッコミを流れるようにスルーした。

 簡潔に言えばそっぽを向いて口笛を吹くという古典的なスルーの仕方だ。

 そんな俺と切島とのやり取りに少しの間が出来たとほぼ同時に天喰先輩が静かに口を開いた。

 

「ミリオ、顔を上げてくれ」

 

 そんな短くも力のある言葉に波動先輩が後に続く。

 

「ねえ、私知ってるの。ねえ、通形。後悔して落ち込んでても仕方ないんだよ! 知ってた!?」

 

「・・・ああ」

 

 こうして、この場にいる全員に火が付いた。

 たった一人の少女を守るために、震える小さな手を掴むために。

 

 

 

 暗闇に覚える幼い命を救い出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタカタとキーボードを叩く音が室内に響く。

 その部屋には一人の男しかおらず、明かりの無い中でPCの画面に目を落としていた。

 

 男の名前は『鏡面 漸竜』。

 現在は『死穢八斎會』という名の組織に所属している裏社会の人間である。

 っと言っても本人は『死穢八斎會』に忠誠を誓っている訳でも、オーバーホールに忠誠を誓っている訳でもない。

 鏡面にとってはこれから起きるであろう事も、その後にあるかもしれない戦いも自身の計画を進める為の通過点でしかないのだ。

 そんな鏡面だが、オーバーホールに忠誠は誓っていなくても、どこか感情移入している。

 裏社会のトップになり世界を変えようと動いているその姿は過去の自分自身を見ているようだったからだ。

 鏡面はチラリと横目でPCの隣に置いてあるペストマスクを見る。

 オーバーホール自ら手渡しして来たソレはハッキリ言って鏡面のセンスとは方向性が違った。

 

(・・・・・・ダセェ)

 

 そう思いつつも何故か隣に置いているソレは雑に扱う事が出来なかった。

 鏡面は失敗した過去を持つ。

 オーバーホールのように世界を変えようとして失敗した過去を。

 だから、どれだけダサかろうと、それが泥を這う様な道であろうとやると決めていた。

 世界を変えるために計画を立てている時にオーバーホールから組織に誘われた時もそれでも良いと割り切った。

 全ては、『王』になる為に。

 

「ふぅ~~」

 

 鏡面は深く息を吐くとゆっくりと立ち上がり、ペストマスクを付ける。

 そうして前日に不注意で蛍光灯を壊してしまったが為に明かりの無い部屋を後にする。

 タパンと扉が占められ、CPの画面しか高原のない部屋が時間経過とともに暗くなり出す。

 放置されたことによりスリープモードに入ろうとしているのだ。

 そんなCPの画面には纏められ途中のレポートが表示されていた。

 

〔仮面ライダー、『機鰐龍兎』の“個性”についてと対抗策〕

 

 そんな、たった一人の少年を名指しした資料。

 ただのヒーロー志望の高校生を警戒しているようなモノ。

 きっと、鏡面は無意識的に察知しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 過去に自身の計画を止めたのがこの少年だという事に。

 
















なんで大宮さとしが単騎・単体でインフレしているんだ?(困惑)


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87話 『事件前の静寂と現れる怪盗』

 壊理ちゃんの居場所がハッキリと分かるまで俺と雄英生インターン組は待機となった。

 その間はいつも通りの授業を受ける事になっており、今回の件に関しては一切の口外を禁止されている。

 緑谷を除いて皆が奮い立っていた。

 ちなみに、俺は他の皆とは違ってその後の会議にも参加している。

 俺の役割をそこで説明されたが、プロヒーローたちはあまり気乗りしていなさそうな表情を浮かべていた。

 納得しているのはイレイザーヘッドとサーナイトアイだけであった。

 俺は、その会議の事を思い出す。

 

 

『待て待て、イレイザー! インターンに来てる子たちを参加させるのはまだええとして、なんで彼を参加させるんや!!』

 

『今回の件に関して彼が適任だと私が思ったからです』

 

『先生~、俺一切説明されてないからそろそろ教えて欲しいんやけど』

 

『機鰐、ファットガムさんの口調がうつっているぞ。・・・・・・え~、今回コイツに参加を頼んだ理由としましては、「死穢八斎會」について調べていた所厄介な情報が入ってきたからです。・・・・・・完璧な時期は不明ですが、「死穢八斎會」にあの「ミラー」が所属したことが判明したのです』

 

 イレイザーヘッドの言葉にその場にいたプロヒーローほぼ全員が息をのんだ。

 俺は『ミラー』の名を聞いてようやく自分のすべきことを理解する。

 

 ――――名有り敵(ネームドヴィラン)『ミラー』。

 “個性”『鏡入り』を巧みに使い、足取りを残さずに様々な事件を起こしまくっている(ヴィラン)で、姿が映るなら水面であろうと鏡の向こう側へと逃げることが可能。

 コイツの登場によって全国の銀行や金庫内は反射しないように壁にたわし等で傷をつける事で入られることを防ぐという何とも地味な光景が起こったものである。

 また、鏡の中から攻撃を仕掛け人を殺したという事件すら起こしているある意味で世界的に見ても厄介な(ヴィラン)の一人だろう。

 

 そんな奴が今回の事件に関わってくるかもしれないのだ。

 俺が呼ばれるのも納得の理由であった。

 自己完結を済ませた俺は腕を組んでウンウンと頷く。

 だが、他のプロヒーローたちは理解できていないらしく困惑している。

 そんな空気に嫌気がさしたのかロックロックさんが口を開いた。

 

『オイオイ、俺たちは「雄英体育祭」でソイツの“個性”を知ってるつもりだけどよぉ。どう見たって「鎧を纏う」系の「変身型“個性”」だろ? それが対抗策になるのか?』

 

『・・・・・・こればかりは一度見てもらった方が早いでしょう。・・・機鰐、出来るか?』

 

『うっす』

 

 俺は椅子から立ち上がると同時にサーナイトアイがバブルガールさんに命令をする。

 

『手鏡を持っていたら出して渡してやってくれ』

 

『は、はい!』

 

 バブルガールさんから手鏡を渡され、それを自分の正面に置く。

 そして、俺は少しだけ思考を加速させた。

 まぁ、簡単に言えばだれに変身しようか迷ったってヤツだ。

 龍騎系列の仮面ライダーの量が多すぎるのが悪いんだ、俺は悪くない。

 0.1秒にも満たない思考を終えた俺は紅色・・・・・・というより桃色のカードデッキを取り出す。

 そして、

 

『変身!』

 

 そう宣言すると同時に腰に現れたVバックルにカードデッキを差し込み『仮面ライダーライア』への変身を完了させる。

 ・・・・・・実は、個人的にナイトと同じぐらい好きなのだ。

 っというか龍騎系列の仮面ライダーは全員、デザインに統一製がないにも関わらず一人一人に強い個性があってとても良い。

 龍騎もナイトもゾルダもライアもガードベn――ガイも王蛇もタイガもインペラーもファムもベルデもリュウガもオーディンもいいデザインだ。

 蟹刑事? 知らない人ですね。

 まあ、そんな事はさておいて、俺は目の前の手鏡の中に入る。

 横目で鏡の向こう(現実世界)を見れば、俺がミラーワールドに入った事に驚きの声を上げている。

 俺はどこから現実世界に戻るかを少し考え、ロックロックさんがイヤリング代わりにしている錠前から飛び出した。

 

『うぅぉぉおお!!!』

 

 何の前触れもなく耳付近から人が飛び出したことに驚いたらしくロックロックさんは大きな声を上げた。

 それだけじゃなく椅子から飛び上がって倒れ込んだ。

 

『こういう事です。コイツは確かに変身型“個性”ですが、その変身した姿によって複数の能力を使う事が出来るのです。その中には「ミラー」と同じように鏡に入る力も。・・・これ以上に説明入りますか?』

 

 イレイザーヘッドの言葉に誰も答えない。

 俺はそれを無言の肯定として受け取っておく。

 

『コイツの役割は少女の保護へ我々が向かった際に「ミラー」がいた場合に限りヤツと交戦する事です。いなかった場合は他のインターン生たちと同じような扱いになります』

 

『ちょっと待てイレイザー! いくらその子が対抗できる力があると言ってもまだ子供やぞ! 一人で(ヴィラン)と戦わせる気か!?』

 

『えぇ。コイツは今の段階でもプロヒーローとしてやっていける程の実力を持っています。例え、(ヴィラン)が複数人いようと一人で戦えるほどです。・・・・・・皆さんもご存じの「神野の悪夢」の際もコイツはエンデヴァーたちをオールマイトの救援として向かわせる為に一人で戦い、結果を残しています』

 

 俺はそんなイレイザーヘッドの少し虚偽の混じった過剰表現を否定する事なく元々座っていた椅子に腰かける。

 その後はプロヒーローたちからの質問に対しイレイザーヘッドは分かっている限りで俺の“個性”に関する情報を話していた。

 そうして、万一の時に俺は単独行動して戦うという許可を得る事が出来たのだった。

 

 

 俺はそれを思い出しながら命綱を使わずに断崖絶壁を駆け上がる。

 多少の凹凸さえあり、足先や指を引っ掛ける事が出来れば大体の場所は登れるのだ。

 下を見れば俺とほぼ同時に上りだした皆がポカーンとした表情を浮かべこちらをジッと見ていた。

 ちなみに、その中に含まれる爆豪だけは顔を険しくしていた。

 

「おーい、遅いぞー」

 

「テメェが早すぎるんだよ、変身野郎!!! どうやったか教えろ!!!」

 

「ふっはっはっは。吠えたきゃ吠えろ。知りたきゃその場で土下寝するんだなぁ」

 

「殺す!!!」

 

「かっちゃん!!!」

 

 ロープを引きちぎって俺の方へと飛ぶ爆豪を見て緑谷が叫ぶが、俺的には爆豪が殴ったりしないと何となく分かっているので動かない。

 そうして、俺の胸倉を掴み睨んでくる爆豪に懇切丁寧にやり方を教えた。

 だが、苦虫を噛み潰したような顔で、

 

「ンでそんな事できてんだ、オマエ」

 

 と軽く引かれてしまった。

 なんでや。

 

 

 

 

 

 

 警察上層部に位置する者たちが集まり会議を開いていた。

 この世の中では警察が軽視される傾向がある。

 ただでさえ『(ヴィラン)受け取り係』なんて比喩されているのに、その(ヴィラン)を引き渡してくれるヒーローという存在にも不安が広がっている。

 だからこそ、警察からしても治安を守るための力が必要になっていた。

 

 (ヴィラン)と戦うための力が・・・。

 

 一人の男がPCを操作し、プロジェクターを使ってスクリーンにある映像を映す。

 そこにはとある兵器の資料が映し出されている。

 ずっと昔、まだ『超常』が発生するよりも前に使われていたモノ。

『超常』発生時はまだ使われていたが、『ヒーロー』の登場を機に使われなくなってしまったソレを男たちは眺める。

 数秒後にスクリーンの前にガッシリとした体形の男が立った。

 

「ご覧いただいた通り、この強化スーツを使えば大抵の(ヴィラン)なら正面戦闘でねじ伏せる事が出来ます。今現在、スーツは破棄され残っているのはデータだけですが、許可さえ下りれば数日の内に作製できるように準備は終わっています」

 

「それを使うのは良いが、『我々は(ヴィラン)には屈しない』とどうアピールする気だ?」

 

「最近、『死穢八斎會』検挙の話が出ております。予定としては家宅捜索をする事になっていますが、万が一抵抗された場合、そこで使い性能を確かめると同時に『警察にも(ヴィラン)に対抗できる力があるのだ』と証明したいと考えております」

 

 男の説明にその場にいたほぼ全員が頷いた。

 そして、

 

「そのスーツの作製を許可しよう。平和の為、存分に使ってくれ」

 

 そう、判断された。

 警察が戦うための『兵器』の開発が始まった。

 この判断が後に大きな事件を起こし『とある少年たち』をキレさせる事になるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 とある施設の地下深くに封印されたそこに一人の男が降り立った。

 それに反応するかのようにそこにある電子機器が起動し、一人の男の声が鳴り出す。

 

『ここに来るとは随分と根気のある者みたいだね。一体なんの用事かな?』

 

 プップーっとクラクションのような音が鳴り男は少し耳を塞ぐ。

 

『おっと、こういった音は嫌いだったかな?』

 

「あ、いや。少し驚いただけだ。・・・・・・それで、アンタが『ベルトさん』であってるのか?」

 

 男の言葉に声の人物―――ベルトさんこと『クリム・スタインベルト』は少し驚く。

 そもそもずっと昔に自らをここに封印して以来、基本的に誰かと接したことはなく、自身の事を知っている存在がいるなんて想像すらしていなかった。

 

「その反応を見る限りだとあっているみたいだな。・・・頼む、アンタの力が必要なんだ。俺と一緒に来てくれないか?」

 

『ふむ。嘘を言っている訳ではなさそうだね。いったい何があったのかな?』

 

「警察上層部が過去の技術を掘り出して使おうとしている。だけど、俺にはそれが危険な何かを孕んでいると考えてる。だから、力を貸して欲しい。上層部は今度ある指定(ヴィラン)団体の家宅捜索及び検挙の際にそれを使うつもりみたいなんだ。それを機に全国配備も目指しているらしいんだが、その時に何かしらの事件が起こる・・・・・・俺はそう確信してる」

 

『? どうしてかな?』

 

「警察としての勘だ」

 

 一切の間もなくそう断言した男にベルトさんは少し苦笑した。

 

「そもそも、指定(ヴィラン)団体の検挙の時も何も起こらないなんて思っていない。だから、その時も力を貸して欲しいんだ」

 

『・・・・・・・・・分かった。君の誠意は感じ取れたよ。君だったらこの技術を悪用することなく正義のために使ってくれるだろう』

 

 ベルトさんがそう言うと、ミニカー―――ではなくシフトカー(ほぼ同じような物)がとあるアイテムを男の下へと運ぶ。

 男がそれを受け取ると、それを左手に装着した。

 

『それが私と君を繋いでくれる。・・・・・・新しい乗り手(相棒)を歓迎するよ。―――え~っと、名前を聞いていなかったね。教えてくれるかい?』

 

「ああ、俺の名前は『(とまり) シンジ』。ただの警察官だ」

 

『「泊」か・・・・・・』

 

 ベルトさんはどこか懐かしそうな口調で男―――泊シンジの苗字を呟く。

 そして、クスリと笑った。

 

『そうか。シンジ、君にだったら私は安心して力を貸せそうだ』

 

「・・・・・・これからよろしく頼む」

 

 こうして、封印されていた戦士がこの時代に目覚めることになった。

 誰かの為に戦う―――市民の平和の為に突き進む英雄(ヒーロー)が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定(ヴィラン)団体『死穢八斎會』の本拠地。

 ごく一般的な住宅街の半ばにあり、よくある洋風の豪邸でありながらデザインの中に和を取り込んでおり、どこかごちゃ混ぜなのにも関わらず統一感のある見た目になっている。

 そんな事務所の近くにある民間人宅の屋根の上からそこをジッと見つめる男がいた。

 男の名前は『海東大樹』。

 

 簡単に説明すれば、お宝大好きの怪盗兼仮面ライダーディケイドこと『門矢士』大好きな変態ホモストーカーである。

 

 この説明だと何か色々と闇が深そうな人物だと思われそうだが、事実そうなので訂正しようがないのである。

 もしも本人がこの事を否定したとしても今までの行動が行動だったので仕方がない。

 そんな海東は『死穢八斎會』の事務所を注意深く観察する。

 

「・・・・・・ふ~ん。あそこにこの世界の『お宝』があるのか」

 

 夜風に吹かれながらそう呟くと、手に持っていたネオディエンドライバーをクルクルと回す。

 そして、事務所の方へと銃口を向けると、トリガーは引かずに撃つような動作をした。

 

「そこにある『お宝』、僕が貰うよ」

 

 海東はそう呟くとカードを取り出してネオディエンドライバーに読み込ませた。

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・INVISIBLE(インビジブル)

 

 瞬間、その体が宙に紛れ消える。

 まるで、元々そこには誰もいなかったかのように。

 

 

 こうして、運命の悪戯か、彼が持つ因果なのか。

 機鰐龍兎が知らないところで事件は複雑に絡まりだし、予想をしていない事態が起きる要因が重なりまくっていた。

 その事に誰も気が付くことなく時間は過ぎる。

 

 チクタク、チクタクと音を立てながら、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

RIDER TIME(ライダータイム)!》

 

 魔王の再誕まで時を刻むのだった。

 









次回『突入』。




海東「ようやく僕の出番だね☆」

龍兎「お願い、来ないで・・・・・・」


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88話 『突入』

しばらく変身しないので生身で突き進むことになる機鰐龍兎。
・・・・・・ホント、なんで生身の方が勝率高いの??

あと、少し駆け足気味に書いてます。

追記:以前アンケートで大多数の方が『そんな事よりおうどん食べたい』という完全な遊びでアンケート内にいれた選択肢に投票されまくり、まさかの『ディエンド登場して欲しいのか【Yes】』の選択肢を大幅に超えるという事件が発生しました。
なので、今回は『うどん』を出していきたいと思います。
はい、『うどん』です。


 俺は軽くため息を吐く。

 あまりにも緑谷の調子がいつもと違い過ぎるのだ。

 壊理ちゃんの事で悩んでいるのだろうし、その事が引っかかっていつもの調子が出せないのも理解できるが、他から見れば怪しすぎる。

 現に、

 

「食わないのか?」

 

 と轟に至極当然な疑問をぶつけられている。

 今は昼時なのだから落ち込んでると言っても箸と口ぐらい動かして欲しいモノである。

 ほら、見てみろ。

 流石に飯田もかなり真剣な顔になっている。

 ってか、何が「食うよ! 食う、クー!」だよ。

 テンパり過ぎだよもう少し取り繕え。

 

「・・・・・・大丈夫か?」

 

「インターン入ってから浮かねぇ顔が続いてる」

 

 飯田と轟の心配と的確な指摘に緑谷は少し汗を浮かべている。

 その姿を見て飯田は何かを思ったのか少し黙った後、静かに言った。

 

「『本当にどうしようもなくなったら言ってくれ。友達だろ』。・・・いつかの愚かな俺に君が掛けてくれた言葉さ! ・・・・・・職場体験前の、」

 

 飯田がそこまで言ったところで緑谷は涙を流し始めた。

 嬉し涙というヤツだろう。

 こんな状況だからこそ誰かからの優しい言葉と言うモノは癒しになる。

 そして、それが突き進むためのガソリンになる。

 それを見て俺は少し笑い、いつも通りの軽い口調で言う。

 

「ってか、インターンって一応プロの現場に行くんだから守秘義務とかだってあるだろう。そうそう人には話せねぇんじゃねぇの?」

 

「はっ!! そ、そうか!! 緑谷くん、そういう事だったのか!! すまない!! 俺としたことがそう言った事情を考えていなかった!!!」

 

「いや、だ、大丈夫だから、うん・・・」

 

「飯田、緑谷押されてるからそこら辺で止めとけ。マジで」

 

 俺はそう言ってうどんを食べる。

 ちなみにこれで五杯目である。

 

「なぁ、機鰐。さすがに食いすぎじゃないか?」

 

「轟だってそうだろう。蕎麦それで何杯目だよ。・・・・・・それにアンケートの結果なんだからしょうがないんだ」

 

「アンケート?」

 

「こっちの話だ」

 

 俺はそう言って五杯目のうどんを完食すると、六杯目に手を付けた。

 今は色々な問題が重なり合って煮詰まってしまう所もある。

 だけど、心に余裕がなければ何かあった時に集中を乱してしまう事もある。

 だからこそ追い詰められた時ほど冷静でどこか呑気にいるのが良いのだ。

 苦しくても悔しい事があっても、辛い時だからこそ余裕を持たないと取り返しのつかない失敗を誘発することになる。

 さて、ここまでグダグダと持論を述べた所で雑に事を終わらせるとしようか。

 

 ―――そんな事よりおうどん食べたい。

 

 もう食ってるだろとかそんなチャチなツッコミはするなよ。

 いいな?

 

 

 

 

 

 

 二日が経過した。

 俺は自室にてうどんを茹でていた。

 目の前には楽しそうに鼻歌を奏でている神姫がいる。

 

「な、なぁ。なんでいきなりうどん食いたいとか言い出したんだ?」

 

「ん~。そういう気分だったからかなぁ」

 

「そうか」

 

 俺はそう言いながらオーズドライバーを腰に装着し、メダルを読み込む。

 

「変身」

 

《シャチ! ウナギ! タコ! シャ・シャ・シャウタ! シャ・シャ・シャウタ!!》

 

 そしてうどんをザルにすくうと、ベランダに出てシャチヘッドから水を噴き出しうどんを締める。

 なんかもったいない使い方をしているがあえてスルー。

 使えるモンは出来る限り使い続ける。

 それが俺の手の中にある物で尚且つ俺自身を削り取るモノならばなお良しである。

 俺は変身を解除すると、締めたうどんを机に置く。

 ここから箸で適当に取って食うのが俺のスタイルである。

 一応、神姫もそうであると補足だけしておこう。

 

「ほれ、食え」

 

「うん!!」

 

 神姫は元気よく返事するとものすごい勢いでうどんを口に運ぶ。

 それをボケッと見ていると俺の分がなくなるのは目に見えて明らかなので俺も急いでうどんを食べる。

 そこに会話はなく、目の前のうどんにひたすら集中し続ける。

 そうして数分と立たずに5玉はあったうどんは消えていた。

 満腹になったのか神姫は大の字になって寝転がる。

 食い終わって膨らんだ腹を撫でながら俺は言う。

 

「それで、何かあったのか?」

 

「ん~、なんでぇ~」

 

「お前が俺に何か飯をせびる時は何か話したいことがある時だけだ」

 

「あ~あ。バレてたかぁ」

 

 神姫はそう言ってムクリと起き上がった。

 

「最近さ、また何か抱えてない?」

 

「ンでさ。特にこれと言った事はねぇぞ」

 

「嘘つき。・・・・・・どうせ、また色々あったんでしょ?」

 

 そう言って神姫は俺の眼を正面からジッと見て来た。

 まるで、俺の心の底を見透かすかのように。

 

「ったく。お前はスゲェな。何でも知ってるみたいだ」

 

「何でもは知らないよ。知ってることだけ」

 

「お? なんだ、お前も『物語シリーズ』読んでたのか?」

 

「え? あ、あれ? 私、何でそう言ったんだろう?」

 

 神姫は不思議そうな顔で首を傾げた。

 どうやら、本当に分かっていないらしい。

 俺は神姫の言ったセリフを少し思い出して笑ってしまった。

 

「ちょっとぉ! 何が可笑しいのよ!!」

 

「いやぁ、可笑しいんじゃない。懐かしいんだ」

 

「え?」

 

「昔さ、好きだった子に勧めた本があってさ、その作品のキャラのセリフに『何でもは知らないよ。知ってることだけ』ってのがあったんだよ。それで、アイツさ、気に入ったのか良くそのセリフ言っててな。・・・・・・ハハッ、もうずいぶん昔の事だな」

 

「好き、だったんだ。その子の事」

 

「あぁ、誰よりも好きだった。・・・ま、結局俺の事情に巻き込みたくなくて友人関係のままで終わっちまったんだけどな」

 

 俺がそう言って自嘲気味に笑うと、神姫は少し俯いてしまった。

 

「・・・ったく。こう言っといて何だが気にするなよ。俺だって生きるか死ぬかの道をずっと突き進んでたから死ぬ覚悟はとっくに出来ていたし、もしも告白して、それで万が一・・・・・・いや、億が一付き合う事になってたとしても俺は長く生きれなかったはずだからな。ただ悲しませるだけだったよ。だから、お前が責任を感じるこっちゃねぇよ。俺は結局、綱渡りをし続けていただけなんだ。いつバランスを崩して落ちるのか、いつ縄が切れ転落するのか分からねぇ生き方だったんだからよ。・・・・・・ま、お前と出会ってこうやって一緒にいるのも何かの縁なんだ。俺はさ、『今』ってのを守りたいんだよ。大切なお前やみんなと一緒にいてさ、楽しく生活している『今』を。だから、お前はいつも通りのほほんとしてくれてりゃ俺はそれだけで十分なんだぜ」

 

「ん・・・・・・」

 

 俺はそう小さく返事する神姫の隣まで移動するとその小さな体をソッと抱きしめる。

 コイツは今でも俺を殺した事を気にしている。

 生まれ変わって再開した時からずっと気にしてないという事を言い続けているのだが、未だにそのことで悔やんでいる。

 俺としてはいつ死んでもいいような命だったから問題ないと考えているのだが、神姫はそんな命でも奪ってしまった事が悲しいという。

 たまに俺が自虐ネタをするとこうやって落ち込んでしまうのだ。

 こればっかりは俺の悪い癖だ。

 ある程度の事なら自虐ネタとして使ってしまう。

 元々どうしてこんな風に自虐ネタを始めたのかは覚えていない。

 ずっと昔の事だし、どうせくだらない事だろう。

 

「俺は今まで生きてきた中じゃお前みたいに親密に関わってる。信頼して背中を預けられるのは神姫、お前だけなんだ。そこは誇ってもいいぜ。・・・まあ、俺なんかに信頼されてるなんて誇れるようなモノじゃないだろうけどな」

 

「誇れるよ。君の隣にいれることは、何よりも誇れることだよ」

 

「そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 俺がそう言うと、神姫は俺の胸に顔を沈めて来た。

 どうしてかは知らないがこうしていると落ち着くらしい。

 まぁ、人によって落ち着く落ち着かないの環境や姿勢は変わるので俺がどうだこうだと言うつもりはない。

 俺はソッと神姫の頭を撫でる。

 しばらくそうしていると、神姫は寝てしまっていた。

 昔っからそうだ。

 コイツはリラックスした状態でいるとすぐに寝てしまう。

 変わらないその姿を見て俺は少し笑ってしまった。

 俺は、こういった何気ない日常が好きだった。

 その何気ない日常を守りたいが為に非日常の中で戦い、何気ない日常から最も遠い所に立っていた。

 だから、今度こそは守ろう。

 演技ではなく、心からこうやって笑える日常を守るために。

 スマホを確認すると『死穢八斎會』事務所突撃の決行日を知らせるメールが届いていた。

 俺はそれを確認すると神姫を起こさないように抱き上げ、ベッドに寝かせると布団をかけてやる。

 神姫はスヤスヤと寝息を立てており、その姿は純粋な幼子の様であった。

 そんな神姫の頭をクシャっと撫で、俺は言う。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

 部屋の電気を消して俺は共有スペースへと降りる。

 共有スペースには緑谷・切島・蛙吹さん・麗日さんが集まっていた。

 

「来たか!?」

 

「あぁ、来てたぞ。・・・・・・決行日に関するメール」

 

 俺はそう答えてニヤリと笑う。

 

「さぁ、気合い入れていくぞ。俺たちが向かうのは戦場だ」

 

「戦う事前提なのかよ」

 

「いや、言ってみたかっただけ」

 

「一気に格好悪くなったぞ!!」

 

「ハッハッハ、気にするな切島。格好付けようと思って格好良さそうな事を言うヤツほどイタイだけだから」

 

「それ、なんのフォローにもなってないぞ!!」

 

 切島のツッコミをスルーしながら俺はギュッと握りこぶしを作る。

 今度こそは失敗してたまるか。

 もう、紅みたいに救えなかったなんて事を起こす訳にはいかない。

 

 さぁ、俺よ。

 この先にあるのは一手でも間違えれば大きな悲劇が起こる戦場だ。

 失敗は許されない。

 敵が誰であろうと勝ち続けよう。

 障害が何であろうと潰し・砕き・乗り越え続けよう。

大宮さとし(過去)』にはできなかった事を全てやって、成功させて、多くの人の手を掴んでやる。

 これは決意だ。

 俺という存在が憧れたヒーローになる為の覚悟だ。

 

 

 

 

 

 

 ナイトアイが構成員のその後を“見た”結果、八斎會邸宅には届け出のない入り組んだ地下施設が存在しており、その中の一室に今回の目的の女児―――つまり壊理ちゃんが監禁されている事が分かった。

 地下の広さや構造を完全に把握することはかなわなかったが、それでも情報があるだけでも動きが変わってくる。

 俺やプロヒーローやインターン組は構成員が抵抗してきた際に無力化するのが主な仕事になる。

 その為、皆コスチュームに着替えていた。

 これから始まる戦いに備え、俺が精神統一をしていると後ろから声を掛けられた。

 

「ねえねえ! 機鰐くんの姿って普段着そのものだけどそれってコスチュームなの?」

 

「ええ、俺の“個性”にとって服装は特に意味がないのd

 

「そういえば変身型だったね! 雄英体育祭でも色々変身してたけどどれだけ変身できるの?」

 

「えっと、『1号』『2号』『V3』『X』『アマゾン』『ストロンガー』『スカイライダー』『スーパー1』『ZX』『BLACK』『BLACK RX』『真』『ZO』『J』『クウガ』『アギt

 

「たくさんって事ね!」

 

「平成序盤で話が切り上げられた!」

 

 確かに一人一人の名前を上げていくのは話が長くなるかもしれないので切り上げたくなる気持ちは理解できるがせめて平成一期までは言わせてくれ。

 いや、平成二期もしっかり言いたいよ。

 それだけは補足しておく。

 等と、波動先輩と話をしていると警察が真剣な表情で口を開いた。

 

「ヒーロー、多少手荒になっても仕方ない。少しでも怪しい素振りや反抗の意思が見られたらすぐに対応を頼む! 相手は仮にも今日まで生き延びた極道者。くれぐれも気を緩めずに各員の仕事を全うして欲しい!」

 

 そうして、少しの間の後に合図が出された。

 

「出動!!」

 

 と。

 これから起こる大きな戦いの開始を意味する命令が。

 俺は大きく深呼吸をして再度精神統一をした。

 そして、

 

「さて、始めますか」

 

 小さく、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 午前八時半。

 俺は何時でも突っ走れるように軽く準備運動をする。

 そうこうしている間に警察官が事務所のインターホンを押そうとした。

 瞬間、

 

「何なんですかァ」

 

 轟音と共に扉が破られ、飛び出してきたペストマスクの大男―――えっと、名前忘れた。まぁ、大男が警察を何人か殴り飛ばした。

 それを確認したイレイザーヘッドが対応に当たろうとした所を俺が止める。

 

「俺がやります」

 

 瞬間、俺は背中から炎の羽を出すと宙を舞う警官を抱きかかえ、衝撃を与えぬように着地した。

 

「内臓系がやられている可能性があるので休んでいてください」

 

「あ、ああ。すまない。ありがとう」

 

 その答えを聞いて俺はすぐに大男の方へ視線を向ける。

 大男は隙だらけな大振りパンチで周りを威嚇する。

 だが、その拳をリューキュウが受け止め、押し倒すと同時に警察及びヒーローが一気に事務所内へと雪崩れ込んだ。

 俺は中にいたヤーさんの一人が葉っぱを操り抵抗をしている所へ間に割って入り葉っぱを全て焼き尽くすと同時に、炎を利用して酸素を奪い意識を落とす。

 

「一気に中へ!!!」

 

 俺の叫びよりも一瞬早くヒーローたちが事務所内へと飛び込んだ。

 少し出遅れたが、俺もすぐに後を追う。

 隠し通路の扉はもう開かれておりそこに飛び込むとすぐに追いつく事が出来た。

 

「いったい何が!?」

 

「道を塞がれてる! 壁はかなり厚く作られてる!」

 

 俺はそれを聞いてすぐさま右手に炎を纏った。

 だが、俺が壁を破壊するよりも前にデクと烈怒頼雄斗がその壁を砕いた。

 道が開けたのを確認して俺たちが先へ向かおうとした瞬間、通路全体が歪みだす。

 

「道が!! うねって変わってく!!」

 

 そんな叫びに警官が呟く。

 

「治崎じゃねえ・・・逸脱してる! 考えられるとしたら・・・・・・本部長『中入』! しかし、規模が大きすぎるぞ。奴が“入り”“操れる”のはせいぜい冷蔵庫程の大きさまでと、、、、」

 

「“個性”をブーストしてるって事だろう。俺たちを先に行かせねぇための時間稼ぎだ」

 

 さすがにプロヒーローでもこの状況への対処は難しいらしく、頼みの綱のイレイザーヘッドの“個性”も本体が見えないと無理だという。

 だけど、結局はこの程度、持久戦でしかない。

 そしてここにはこの道を無視して先へと進める人物がいる。

 

「スピード勝負。奴らもわかってるからこその時間稼ぎでしょう! 先に向かってます!!」

 

 瞬間、ルミリオンが壁の中へと入っていく。

 流石に一人で行かせるのはマズイと判断し、俺はアイコンのスイッチを押し、ベルトへと装填した。

 

「変身!」

 

《カイガン! オレ! レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》

 

「俺も先に行ってきます!!」

 

 そうして、俺は壁を透過してルミリオンを追いかける。

 俺は昔から感じる『嫌な予感』がハズれた事は一切なかった。

 まるで、予知であるかのように。

 今回も嫌な予感ってやつを感じるし、それが何なのかが不思議と浮かんでくる。

 

 

 きっと、この先、しかもすぐ近くに『ミラー』がいる。

 そしてその『ミラー』と戦う事になるのだろう。

 俺はこの後に起きるであろう事を何十通りも想定しながら先へと向かった。

 




次回はガンガン変身させていきたい。


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89話 『最近忙しくって寝不足か徹夜なんだよォ。文章なんて思いつかねぇよ基本的に深夜テンションによるノリと勢いじゃ。頭空っぽの方が夢詰め込めるからなァ!!(by.作者)』

リメイクしたりなんだりとしといて何だが、疲れた。
休みたいけど休んでると文章浮かんできて結局執筆している現実が憎い。


 壁を抜けた先で俺は変身を解除する。

 生身だと防御力は下がるが、今の俺はロケランを打たれようと死ぬ軟な体ではない。

 このスペシャルボディが前世でも持てていたら何人救えただろうか・・・・・・。

 うん、止めよう。

 今これを考えたら俺の中に10人を超える俺を生成して延々と自問自答をしてしまう。

 最終的には脳内で俺しか選択キャラのいない大乱闘スマッシュブチコロスーズがスタートして大惨事になる。

 それこそ俺同士が持てる技術(スキル)をフル活用して戦い続け、最後は新しい戦術を編み出して無双する修羅が現れるのだ。

 その修羅の戦い方がどれだけ役に立ったか・・・。

 うん、止めよう(二度目)。

 変な事ばかり考えすぎて思考が纏まらねぇ。

 

 俺が思考を切り上げ、隣を見ると丁度先輩が壁から出てきたところだった。

 どうやら、途中で追い抜かしてしまっていたらしい。

 

「よぉ、ルミリオン。さっきぶり」

 

「!! なんでいるの!!?」

 

「俺の“個性”の中には透過可能なモノもあるんであるんですよ。それを使ってスルスルーっと」

 

「本物、だよね?」

 

「そうですよ。なんなら相澤先生が止めなかった時にルミリオンパイセンをどこまでボコそうと思ってたか詳細に話しましょうか?」

 

「あ、本物だ」

 

 納得のさせ方が大分荒っぽいが気にしてはいけません。

 俺は説明が苦手なんだ。

 どこかの仮面ライダー風に言うなら「俺に質問するな」である。

 ハッキリと答えられないから。

 

「そんで、この先にいるんですよね? 女の子」

 

「ああ、きっといる。だから、行かないと」

 

「了解です。まぁ、『ミラー』のヤツがいたら俺はいなくなるんでその辺よろしくです」

 

 そう返事をすると同時に、俺たちは何の合図もなく同時に駆け出した。

 だが、思いのほかターゲットは遠くへ行っていなかったらしくすぐに追いつく事が出来た。

 う~ん、味気ない。

 いや別に、刺激的でスリリングな事を求めていたわけではない。

 ただ昔に関わった事件に比べると黒幕に到達するまでがあまりにも早すぎると感じたのである。

 昔なんて最悪の場合、別の事件を並行で解決しながら丸一年かけて事件の大本までたどり着く何てことザラだったからな。それが一年に数回起こったりするのさ。オーバーワークだよちくしょう。

 等と変な事を考えていると先輩が静かに口を開いた。

 

「すいませんね。・・・・・・やっぱ、少し話を聞かせてもらっていいですか?」

 

「あの時の・・・。すぐ来れるような道じゃなかったハズだが」

 

「近道をしたんで・・・。その子を保護に来ました」

 

 先輩は力の籠った強い口調でそう言った。

 だが、肝心の治崎は呆れたように返す。

 

「・・・・・・・・・・・・事情が分かったらヒーロー面か、“学生”さん。あの時、見て見ぬふりをしたよな。おまえに保護されるなんてこの子は望んじゃいない」

 

 そんな言葉に、

 

「そんじゃ、俺が保護すれば万事解決か?」

 

 と俺は割って入った。

 少しイラついた表情でこちらに視線を向ける治崎に俺は間を与えず言う。

 

「ったく。ヤクザってのも随分ロクでもない連中になったモンだな。まぁ、昔のヤクザも大抵ロクでもなかったがよ。・・・それでも義理は通していたし、それぞれ通過しちゃいけない線引きってのをしていた。お前は、それをしていない。軽々と通過し自らの欲の為にその子を利用しようとしている。・・・・・・過去のヤクザ連中にスライディング土下座でもしたらどうだ? 『我を通し過ぎてごめんなさい』ってな」

 

「・・・・・・ヒーロー気取りの病人が。・・・“個性”がなければ立ち上がる気すらない人間が知ったような口を叩くなっ!」

 

 その言葉に俺は呟くように言う。

 

「生憎と、“個性”なんてなくても俺は立ち上がるさ。今までもずっとそうだったからな」

 

「?」

 

 俺の言葉を理解できないのか、治崎は眉を顰めた。

 だが、いちいち説明する気もなければ、それをしてやるほど優しくはない。

 数秒の沈黙の後、治崎は「足止めしろ」とだけ言って振り向いた。

 先輩がそれを追いかけようと踏み出した瞬間、急にふらついて壁にぶつかった。

 俺も少し意識がブレ、足元がおぼつかなくなるが、何とか踏ん張る。

 

「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 酔っ払っちゃったかァア~~~~!?」

 

 少し混濁し始めた意識の中でそんなバカみたいな笑い声が上から聞こえて来た。

 クラクラと眩む意識を無理矢理動かして上へ視線を向けると、剥き出しのパイプに一人の男がぶら下がっていた。

 

「ウィイイ。足元がァ、おぼつかっおぼつかねェエなァァアア!?」

 

 うるせぇよ。馬鹿みてぇに酒飲みあがって。

 こちとら昔っから『酔う』って感覚には弱いんだよ。

 そんなイラつきを覚えながらも俺は危険を察知し肉体を炎化させた。

 瞬間、大きな発砲音と共に飛んできた鉛玉が俺と先輩の体を通過し後方へと飛んで行く。

 いつの間にか前方に立っていた・・・えっと、やべぇ、頭がクラクラして名前が浮かんでこねぇ・・・・・・あぁ、『音本』がオートマチック銃を片手に立っていた。

 音本は俺たちに銃が利かなかった事に対し問いかけて来た。

 

「どういう“個性”だ?」

 

 俺は瞬時に先輩の口を塞ぐと、声を発する。

 

「俺の“個性”は説明がむずい。異形化と超回復だと言っておこう」

 

「もう片方は?」

 

 そんな質問に、俺は自分の口を焼き塞ぐことで物理的に話が出来ないようにし、両手で先輩の口を全力で塞いだ。

 どこかコミカルな感じになっているが実際は色々と必死だ。

 普通に焼き塞いだ口が痛いし。

 まぁ、そんな傷も数秒の後にはもう回復している。

 

「へっ、強制的に喋らせるってのは確かに強いだろうがなァ、警戒しときゃある程度何とかなるんだよ」

 

「いや、だからって自分の口を焼くのは異常だと思うよ!?」

 

 先輩からのツッコミは激しくスルーして俺は先方に視線を向ける。

 そして、

 

「どうやら、俺はここで途中離脱みたいなんで、後はお願いします。・・・・・・透過してください」

 

 そういうと同時に前方に向かって炎を噴き出す。

 狭い通路では逃げ場なんてなく、目の前の二人は一瞬で炎に包まれた。

 俺の攻撃(ほぼ無差別)を透過で避けた先輩は一風変わった風景に少し唖然としてた。

 

「生きてるよね?」

 

「焼き殺すよりは周りの酸素を奪って失神させる方に炎を使ったので問題ありません」

 

 先輩の言葉にそう答えると、俺はカードデッキを取り出した。

 視線の先にはあからさまに怪しい姿見が壁に取り付けられている。

 俺はその前に立つと、カードデッキを前に翳し、腰にVバックルを到着させる。

 

「変身!!」

 

 そういうと同時にVバックルにカードデッキを差し込み、俺は『仮面ライダーナイト』への変身を完了させた。

 ・・・・・・実を言うと龍騎よりもナイトが好きなんです、ハイ。

 

「・・・・・・それじゃぁ、行ってきます。ルミリオンも気を付けて」

 

「ああ、分かった」

 

 こうして、俺と先輩は別行動に移った。

 ミラーワールドへの移動には当たり前だがライドシューターに乗っている。

 そう、あのライドシューターだ。

 実際に道を走る事なんて全く想定しておらずどう足掻いてもカーブすら曲がれないバイクとしての存在意義も怪しいアレである。

 まぁ、近年の仮面ライダーはバイクにすら乗っていない所を考えると全ライダー共通とはいえ使われているのは優遇されt・・・・・・いや、ライドシューターも後半になったら出番無くなってたわ。

 俺はそんなことを考えながらミラーワールドへと向かうのだった。

 

「ってか、『ミラー』が“個性”で潜伏してるところってホントにミラーワールドなのか?」

 

 今更だとかいう無粋なツッコミは止めろよ。

 いいな?

 

 

 

 

 

 

 ここで時間は少し巻き戻る。

 機鰐龍兎が事務所に突入してから数分。

 警察を相手に大暴れをしていた『活瓶力也』はリューキュウに圧倒され、捕らえられるのもそう遅くはないと思われた。

 だが、『死穢八斎會』のメンバー数名が“灰色の怪物(オルフェノク)”に姿を変えた瞬間、戦況は大きく傾いた。

 外に残って居たヒーロー達でも苦戦するような状況に陥り、一時的なパニックが起こった。

 そう、一時的である。

 なぜなら、

 

『落ち着きなさい。我々がこのようなパニックを起こしていては一般住民に示しがつかない。・・・・・・本部へ連絡、最悪の事態発生。これよりシステムの実戦テストを行う』

 

 青い強化スーツに身を包んだ一人の男が『GM-0・スコーピオン』でオルフェノクを一体倒したからである。

 それは、警察が(ヴィラン)に対抗するために作られた過去の遺物。

GENERATION-3(ジェネレーションスリー)』、通称『G3ユニット』。

 かつて、アンノウンに対抗するために作られたスーツであり、『アギト』の活躍によってアンノウンによる事件が収束した後も使われ続けていたが、『超常』発生時の混乱の中で失われた物であった。

 それが、今ここに存在している。

 かつて人々を守るために使われたソレが。

 

 ただ、パニックが収まったのはそれだけが理由ではない。

 今回の件に参加していた警察官の一人の姿が変化し、その彼もオルフェノクを倒した事も大きな要因になっていた。

 

《ドライブ タイプスピード》

 

 そんな音声と共に再誕した『戦士ドライブ』―――いや、『仮面ライダードライブ』が独特な形をした銃を使いオルフェノクを倒して行く。

 

「ところでベルトさん。この武器の名前って何なの?」

 

『ドア銃だ』

 

「なんだそのネーミングセンス」

 

 どこか呆れた様子のドライブ。

 一般論からすれば確かにアレなネーミングセンスではあるのだが、それはツッコミを入れてはいけない領域なのでここでは語らないでおこう。

 

 パニック状態にあった戦場は二人の戦士によって持ち直し始めた。

 だが、それでも戦場の混乱が収まったわけではなく、オルフェノクは依然暴れている訳であり、少し戦況が戻ったからと言って現場の混乱が収まる訳ではない。

 

『本部へ。銃火機では流れ弾による被害が出る可能性があると判断しました。「GS-03・デストロイヤー」の使用許可を。・・・・・・はい。「GS-03・デストロイヤー」使用します』

 

 G3は右手に『GS-03』を装着しブレードを展開させるとオルフェノクを斬る。

 もしもここに機鰐龍兎がいたらその光景に涙を流していただろう。

 なぜなら、劇中どころか外伝含め平成ライダー20年の歴史の中で片手だけで足りる程しか敵に命中していない武器なのだ。

 命中しているだけでも奇跡、それを平然と連続で行えているならもはやどんなライダーキックや必殺技よりも感動できる光景だろう(個人差はあります)。

 

 そんなG3を見てドライブも武器を変えた。

 無論、『ハンドル剣』である。

 やはりとんでもないネーミングセンスだが気にしてはいけない。

 前の使用者のせいなのだから。

 

 そんなG3とドライブの活躍もあって警察は持ち返したかのように思えたが、それはそう思えているだけであり戦況は最悪の一言である。

 オルフェノクはフォトンブラッドによる攻撃以外では撃破できない。

 逆にオルフェノク側は人間を簡単に殺す事が出来る。

 仮面ライダーたちが戦っているとはいえ依然不利な状況が続いていた。

 

 だが、その状況もまたすぐに変化した。

 突然戦場のど真ん中に現れた一人の青年がシアン色の銃を取り出してオルフェノクを撃ち抜いたのだ。

 それだけでは終わらず、青年がカードを取り出して銃に読み込ませたのだ。

 

KAMENRIDE(カメンライド)

 

「変身!」

 

DIEND(ディエンド)!!》

 

 ディエンドライバーの銃口から放出されたエネルギーが青年――――海東大樹の体を包み、その姿を変えた。

 シアン色をベースにした戦士『仮面ライダーディエンド』は襲い掛かってくるオルフェノクを撃ち権勢をしつつ二枚のカードを取り出した。

 

「君たちにはコレが一番かな?」

 

KAMENRIDE(カメンライド)・・・・・・KAIXA(カイザ) DELTA(デルタ)

 

 ディエンドがトリガーを引くと銃口から二種類のエネルギーが飛び出し、それが人の形となって表れた。

 現れた戦士たち、『仮面ライダーカイザ』と『仮面ライダーデルタ』はオルフェノクの方へと視線を向けると攻撃を開始した。

 あまりにも突然な事に警察の混乱は大きくなったが、現れた仮面ライダーがオルフェノクと戦っていた為に増援と判断され、それはすぐに収まった。

 だが、幾つもの戦闘を経験しているプロヒーローは違う。

 リューキュウは戦場を悠々と歩くディエンドに声を掛けた。

 

「ねえ、何なのアンタ?」

 

「僕かい? そうだねぇ、通りすがりの仮面ライダーとでも言っておこうかな? フフッ、もしも士が聞いていたら怒りそうだな」

 

 どこか嫌な雰囲気を放つディエンドにリューキュウは軽く引いた。

 

「・・・・・・おや? 質問はもういいのかな? それだったら僕は先に進ませてもらうよ」

 

「ちょ、待ちなさい!」

 

「邪魔をしないでもらえるかな? 僕には大切な用事があるんだ。・・・・・・ああ、あのオルフェノクたちは殺してしまっても大丈夫だよ。元々死人だ」

 

「・・・・・・どういう事よ」

 

「オルフェノクは『記号』を持つ人間が一度死ぬ事で覚醒して蘇り生まれる人類の進化形態(・・・・・・・)だ。もはや人と呼ぶことのできない怪物だよ」

 

「そんな事が・・・・・・」

 

 リューキュウがその言葉に驚いている間に、いつの間にかディエンドはいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるカフェの一席で一人の男が軽くくしゃみをした。

 そして、目の前に運ばれてきたばかりのコーヒーに視線を落としながら呟く。

 

「海東のヤツ・・・また何かやり始めたな」

 

 どこか呆れたような口調。

 だが、男―――門矢士は特に動こうとはしなかった。

 なぜなら、海東大樹と極力関わりたくなかったからである。

 

 士はカップを手に取るとコーヒーを口に含んだ。

 そして、

 

「マッズ!!!」

 

 勢いよく噴き出した。

 その光景を見たメイド服姿の店員が驚いたような顔になり、すぐさまコーヒーを運んできた男の方へと視線を向ける。

 

「石動さん!! 貴方は絶対にコーヒーを淹れるなと言っていた筈ですけど!!!」

 

「いやぁ、良い豆が手に入ったもんでね」

 

「そんなの言い訳になりません!!!」

 

 店員がギャーギャーと言い合いをしている中、士はそのコーヒーの不味さに悶絶する事しかできなかった。

 




ちょっと休みます。

次回の投稿は少し遅れると思います。


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90話 『激・戦☆』

オリジナルオルフェノク登場。


 ミラーワールドに到着してすぐにライドシューターから降りる。

 コイツの出番はここで終わりだ。・・・・・・出番が少ないのはご愛敬って事で。

 俺は辺りを見渡すとすぐに通路を進む。

 どこに潜伏しているか分からない以上は警戒を解く気はない。

 だが、それでも落ち着いてのんびりと探索をしている余裕なんてモノもない。

 

 ミラーワールド内では生身の人間は1分ほど、仮面ライダーだと9分55秒ほどしか活動できない。

 ・・・・・・のだが、ディケイド世界軸で言うとそういった制約はないし、ジオウ世界軸も同じだ。

 つまりは、判断がつかない。

 一応は龍騎世界軸と同じと考えて行動をする。

 

 ・・・・・・先輩が心配だ。

 あ、先に言っておくとギャグじゃないぞ。

『先輩』と『心配』を掛けたとても面白いギャグとかじゃないからな。

 おい、誰だ「アルトじゃないと~~!!」とか思い浮かべたヤツ。

 それが何なのか分からないから振られても反応に困るわ(令和ライダー未視聴)。

 

 先輩の事だからもう治崎と戦闘に入った所だろう。

 つまり、約10分後には先輩は“個性”を失い、さらにそこから5分ほどひたすら一人で壊理ちゃんを守り続けることになる。

 実際、ミラーの事なんて無視して先輩と共に行動したかったが、ミラーを放置しておいた場合のリスクがあまりにも高すぎる。

 

 どれほど時間が経過しただろうか。

 時計がないので分からないが体感5分は経過している。

 だが、ようやく発見できた。

 

「よぉ、お前がミラーか・・・・・・」

 

 手鏡を持ちそこに銃を向けていた男はこちらに視線を向ける。

 

「こんな所にまで入ってくるとはな、仮面ライダー」

 

「おお、知ってくれてたか。だったら今すぐに戦意がなくなるまでボコボコにしてやるから歯ァ食いしばっとけ」

 

 俺がそう言ってミラーの方へ駆け出した瞬間、物陰から何者かが飛び出してきた。

 突然の事で少し驚きはしたが、素早く体制を低くすると、飛び出してきたヤツを背負い投げの応用で地面に叩きつけた。

 叩きつけてからようやく分かったのだが、飛び出してきたのが灰色の怪物―――オルフェノクだった。

 

 が、ここで一つ問題が発生した。

 

 ナンダコレ。

 いや、ナンダコイツ。

 オルフェノクであることは確定なのだが、全く知らない見た目をしている。

 猛禽類を思わせる頭に大型の肉食獣と類似した胴体、下半身――と言うより足は頭と同じように鳥を思わせる形状で、背中から翼を生やしたオルフェノク。

 うん、俺の知識には存在しないタイプですね分かりましたこんちくしょう。

 

 俺は距離を取って最大限に警戒を強めると、オルフェノクはゆっくりと立ち上がってこちらをじっと睨んできた。

 立ち上がった姿を再度観察することでようやくモチーフの生物を理解できた。

 まんまグリフォンである。

 幻獣系のオルフェノクと言えばドラゴンオルフェノクがいるが・・・・・・それに比べたら数段劣って見えるが、それでも脅威である事には変わらないだろう。

 

 それを理解したところでさらに問題が発生する。

 

 オルフェノクを倒すにはファイズ系統じゃないと無理といえる。

 まぁ、ディケイドは例外的に倒せるけど。

 つまりは今現在ナイトに変身している俺には倒せないというのが現状である。

 変身解除してファイズ系に変身すればいいだろ、と言われそうだがミラーワールドがどの世界軸か分からない以上、下手に変身を解けば待ち受けているのは『死』あるのみ。

 だけど、こんな所で時間を食っている余裕だってない。

 選択肢は二つ。

 

『ファイズに変身する』か『このまま戦う』だ。

 

 ・・・・・・どちらにもリスクがある。

 だが、リスクを恐れて止まっているだけじゃ事態は好転しない。

 多少のリスクなんぞドブに捨ててヨシ。

 

 俺は大きく後方へ跳ぶと変身を解除。

 そして、素早く取り出したファイズフォンでグリフォンオルフェノクをけん制し、[555]とキー入力、間を置かずEnterキーを押した。

 

《STAND BY》

 

「変身!!」

 

《COMPLETE》

 

 俺の体を赤い光が包み込み、『仮面ライダーファイズ』への変身を完了させる。

 変身完了と同時にミッションメモリをファイズエッジに挿入してフォトンブラッドの刃を展開する。

 グリフォンオルフェノクは自身の翼から羽をもぎ取った。

 そして、それを振るうと羽がファイズエッジの1.5倍ほどの大きさを持つ剣へと姿を変えた。

 

「へっ、武器が一本多いってのは俺からすればハンデにすらならねぇぜ」

 

「・・・・・・」

 

 俺はファイズエッジを下段に構え突撃する。

 グリフォンオルフェノクは右の剣を振り上げる。

 そして、距離が1メートルを切った瞬間、同時に攻撃を始めた。

 振り上げるファイズエッジと振り下ろされる刃がぶつかり合い火花が散る。

 

 俺はファイズエッジを軽く傾ける事で攻撃を受け流し、懐に潜り込むと肘打ちを叩きこんで体制を崩す。

 そして、上段からファイズエッジを振るった。

 だが、グリフォンオルフェノクは左の剣で地面を突く事で体を横にズラし俺の攻撃を避けた。が、俺は自らの体制を倒すことでファイズエッジの軌道を無理矢理変えてその背中から生えている翼を切り裂いた。

 

「チィッ・・・! 本体を外したか」

 

「・・・・・・・・・ッッ!!!」

 

「うぉっと!!」

 

 グリフォンオルフェノクは右の剣を横一線に振るう。

 それをバク転の応用で飛ぶことで避けると少し距離を取ってから身構える。

 

 ハッキリ言って強い。

 

 過去に戦った中で俺が強敵判定をした者の中で5本の指に入るだろう。

『“神”』『“闇”』『神虎龍』『ナナシ/サクラ』『グリフォンオルフェノク』と濃ゆい面々が揃ってしまった。

 最初の二人(?)に関しては超常的な何かだし、神虎龍とナナシは訓練によって人間の限界を突破したアスリートと殺し屋だし、グリフォンオルフェノクに関してはバケモノ。

 逆にここに名前が載っているアイツらって何者?

 そんな疑問を覚えつつも俺は目の前の“敵”を見据える。

 

 今までの“敵”は一筋縄ではいかぬ者ばかりだった。

 だけど、今回は違う。

 今回の相手はフォトンブラッドをぶち当てる事が出来れば勝てるのだ。

 俺は、ファイズアクセルからアクセルメモリーを引き抜き、ファイズフォンに差し込む。

 瞬間、胸部の装甲である『フルメタルラング』が展開され、出力の上昇に合わせて赤色のフォトンストリームが銀色のシルバーストリームに変色した。

 

《COMPLETE》

 

 これが、勝ちの一手と言っていいだろう。

 もしも通じなければ勝ち目はない。

 そんな予感がする。

 

「・・・・・・さぁ、行くぜ」

 

 俺はそう宣言するとファイズアクセルのボタンを押した。

 瞬間、この体は超加速する。

 

《START UP》

 

 俺はその音声と同時に駆け出すとグリフォンオルフェノクの顔面を殴り飛ばす。

 超加速によって威力の上がった拳はその肉体を浮かべ、大きくのけ反らせた。

 さらにその体を蹴り上げると壁まで殴り飛ばす。

 1000倍まで速度を底上げされた世界ですら超高速で叩きつけられるほどの速度だ。

 通常速度ならそもそも人の目で捉える事の出来ない加速を超えるソレは人間が喰らえばモザイク必須な肉体状況になるだろう。

 

《THREE・・・》

 

 俺はグリフォンオルフェノクに複数のポイントを付けると飛び上がる。

 

《TWO・・・》

 

 その全てはフォトンブラッドをぶち込む為の目標だ。

 

《ONE・・・・・・》

 

「くらぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!」

 

 瞬間、何発もの何十発ものクリムゾンスマッシュがグリフォンオルフェノクを襲い、その体を撃ち抜き続ける。

 そこに容赦なんてなくその命を刈り取る為にそれを食らわせる。

 

《TIME OUT REFORMATION》

 

 そんな音声と共にアクセルフォームが解除される。

 グリフォンオルフェノクの方へ視線を向けるとその体にφマークが浮かび灰化消滅していった。

 

「終わったぞ、ミラー。鏡ばかり見てないでさっさとこっちに視線向けろ」

 

「・・・・・・ヒーローの癖に殺すのか。呆れたモノだ」

 

「元々オルフェノクは死人だ。『死人を殺してはならない』っていう法律は無いだろう。・・・まぁ、『死体を傷付けてはならない』って法律はあるけどな」

 

「随分と割り切っているんだな」

 

「・・・・・・手心を加えたら何があるか分からねぇからな。『窮鼠猫を嚙む』ってな」

 

 俺はそう言いながら変身を解除する。

 

「ミラー、俺はお前を倒すぞ。危険分子は全て叩き潰す。それだけだ。恨むなら恨んでくれていいさ」

 

「・・・・・・随分ととんでもない考えの男がいたモノだ」

 

 ミラーはそう言って俺の方へ銃口を向ける。

 その目には、どこか見覚えがあった。

 

「どこかで見た事あるな、オマエ」

 

「オレからしても、お前はどこかで見たことあるな。・・・・・・転生者か?」

 

「あぁ、そうだ。お前もそうだろう」

 

「・・・・・・なぁ、お前、『王』に興味はないか?」

 

 ミラーからの質問に俺は眉を顰める。

 突然こんなことを言われて変に思わない人間はいないだろう。

 

「『王』?」

 

「そうだ。『王』だ。この世界のすべてを牛耳る最上級の存在。オレとお前が手を組めば確実に世界を支配できる」

 

「随分と懐かしい事を言うヤツだな。俺の転生前にもいたぞ。そんな夢物語を語ってテロを起こそうとした大馬鹿者がな」

 

 俺がそう言った瞬間、ミラーの頭に青筋が浮かんだ。

 その表情を見て俺の頭の中にある可能性が現れ、確信に変わる。

 

「ハハッ、なるほどなぁ。お前があの時の大馬鹿者か。嫌な縁があったモンだ」

 

「ッ・・・。そうだな、『救いの英雄』。だが、今度こそオレの目的は達成させてもらうぞ」

 

 瞬間、俺は赤いカードデッキを取り出し、ミラーはもう一丁の拳銃を取り出した。

 高まる緊張が辺りの空間を支配してゆく。

 コイツはここで倒さなければならない。

 俺は頬を汗が伝うのを感じながら相手の動きを探るのだった。

 

 

 

 

 

 

 通形ミリオことルミリオンは一人の少女を庇いその身に銃弾をその背に受けた。

 それは、“個性”を消す銃弾。

 この世界を大きく引っ繰り返す力を持ったソレを受けたルミリオンは“個性(チカラ)”を失った。

 “個性”の有無は大きい。

 それ一つで戦況を大きく変化させられるのだから。

 だが、それでもルミリオンは止まらない。

 

 いや、止まるハズがない。

 

 怯える少女を守るために、苦しむ女の子を救い出すために。

 止まっている訳にはいかないのだ。

 ルミリオンには“個性”以外のモノが備わっている。

 

 即ち、技術。

 

 相手の動きを見て、先を予測する。

 そんなひたすら積み上げていたモノが消された訳ではない。

 例え“個性”が無かったとしても戦えないなんて事はない。

 努力は裏切らない、この言葉は誤りとされる場合が多いが、それは努力の方向性を間違えた者の判断だ。

 ルミリオンの努力は、助けを求める者の手を掴むためのモノだ。

 つまり、このような場面で何よりも輝く努力といえるだろう。

 

 ルミリオンの拳が治崎の顔面に直撃する。

 そして、治崎の攻撃は全て避ける。

 触れられてはいけない、隙を作ってはいけない、油断なんてもっての外だ。

 今、この瞬間に出来る最大級で最上級で最善手を使い続けろ。

 目的は戦って勝つ事じゃない。

 戦って守る事だ。

 

 治崎は殴られ、体勢を崩しつつも地面に触れ“個性”を発動させる。

 地面が変化して棘状になりルミリオンに襲い掛かる。

 ルミリオンはその攻撃の隙間を縫い、治崎の懐へ踏み込むと鳩尾に肘を叩き込み頭が下がった所へアッパーを食らわせた。

 

「くっ・・・・・・」

 

「もう、お前には何もさせない!!」

 

 ルミリオンが治崎との距離を詰めて追撃をしようとした瞬間、二人との中間地点ら辺に銃弾が撃ち込まれた。

 二人が銃弾の飛んできた方へ視線を向けると、そこにシアン色の男―――仮面ライダーディエンドがいた。

 ディエンドは治崎の方を向きながら言う。

 

「争うのは勝手だが、折角の貴重なお宝をそんな事に使うなんて君は少し物の価値を考えた方が良い。・・・・・・ふむ。まだ少しだけだが“ソレ”は残っているみたいだね。なら、残りは僕が貰うよ」

 

 そんなどこかこの状況からズレた言葉。

 だが、治崎にとってその言葉は警戒をより強めるモノでしかなかった。

 キーワードを上げよう。

 

1.宝

2.使った

3.まだ残っている

 

 今この状況で当てはまる物なんて一つしかなかった。

 それ以外なかった。

 

「音もt

 

 治崎は音本へ『弾』を守るように命令しようとした。

 だが、それよりも前にディエンドが音本を蹴り飛ばし、その意識を刈り取った。

 元々機鰐龍兎の炎で意識を失い、その後念入りにボコボコされていた状態であり意識を保っていただけでも上出来だったのだ。

 ディエンドの攻撃を避ける余力なんてある筈がない。

 倒れ動かなくなる音本を余所にディエンドは鼻歌交じりに『弾』の入ったケースを拾い上げる。

 

「この世界のお宝。『“個性”で成り立っている世界を根底から崩す銃弾』、貰った」

 

「っっ・・・・・・!! 返せっ!!!」

 

 治崎はルミリオンを完全に意識から外し、ディエンドに向かって攻撃を仕掛ける。

 地面を棘状にしてディエンドを突き刺そうとしたが、ディエンドはそれの先端に足を付けると同時にクルリと前転して攻撃を避けた。

 そして、ディエンドライバーの銃口を治崎の方へと向けると、一切の躊躇いなくトリガーを引いた。

 銃口から発射された弾丸は治崎の右手を貫き、後方の壁にヒビを入れた。

 

「くっ・・・・・・」

 

「諦めろ。君じゃ僕には勝てない」

 

 ディエンドはそう言って一枚のカードを取り出した。

 だが、それを読み込ませるよりも前にディエンドの後方の壁が砕かれ、そこから誰かが飛び出してきた。

 

「あっ」

 

 衝撃で態勢を崩されたディエンドの手から『弾』の入ったケースが離れ、地面を転がって行く。

 飛び出してきた人物――――緑谷出久(デク)は突然の事に一瞬行動が遅れた治崎を殴り飛ばし、イレイザーヘッドと共に確保へと動いた。

 

 

 

 

 さぁ、ここから事件は最終章へと向かって行く。

 一回でも選択を失敗すればどれほどの犠牲が出るかなんて誰にも判断の付かない戦場だ。

 だからこそ、迷うな、突き進め、己が信じた道を。

 




『“神”』

短編㊱に登場したヤツ。
機鰐龍兎(大宮さとし)は退魔師たちが戦っている間に裏工作をする事で危険性を大幅に無くしてから戦いに挑み、反撃の余裕を与えなかった。
術式を発動させる為の魔法陣に書かれた文字を消すのは流石に酷いだろう。


『グリフォンオルフェノク』

即席追加キャラ。
元々オルフェノクを暴れさせる予定の中で原作のオルフェノクを引用しようとするもオルフェノクの設定を考えると大分無理がある事に(書き始めてから)気付き急いで作られたためにデザイン設定など含めて即席。
強さ自体は幻獣オルフェノクらしく強力にしようとした結果パワーにステが振られる結果となった。
殺したはいいモノの、もう少し活躍させたかったとは思う。

唯一あるキャラ設定【無口】


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91話 『半分以上が蛇足話だよやったね(白目)』

5月に入ってからアホみたいに仕事が忙しくなりました。
食品関係の仕事をしているのですが、今現在流行っているコロナの影響で生産数が2倍近くに膨れ上がり忙しくてたまりません。
残業が当たり前な状態になりました。

その為に疲れで執筆が進まないという状態に陥り、やりたくはありませんでしたが短編or蛇足として出す予定で書き溜めていた駄文を無理矢理ねじ込んで文字数を底上げしました。

次回は本編メインで行こうと思っていますので今回は許してください。


 戦闘が始まる。

 俺は『龍騎サバイブ』に直接変身すると素早くドラグバイザーツバイに『ソードベント』カードを読み込ませ剣を展開するとミラーの持つ銃から発射される鉛弾を切り落として行く。

 しかし、厄介な敵だ。

 跳弾を利用して予想外の方向から来る攻撃を全て予測して弾くのはなんとも面倒くさい。

 実際、弾丸程度当たっても大したダメージはないのだが、それでもバランスが崩れて動きが鈍る。

 ハッキリ言ってウザい。

 攻めようにも連射されて足止めされる。

 龍騎サバイブは性能だけで言えば強いのだが、いかんせん攻撃が直線的で分かりやすい。

『シュートベント』も結局は直線的な光弾を飛ばす技だ。

 当たれば強いが、逆に言えば当たらなければ意味がない。

 さて、困った。

 ここで無駄に時間を使っている余裕なんてなく、早期決着が望ましいが決め手に欠ける。

 これでも殺す気でやっているのだが、俺は遠距離武器を使うのが苦手で接近戦じゃないと少々反応が遅くなる。

 それだけじゃなく、相手が遠距離で行動し、こちらの動きを制限してきている以上は接近が難しいのだ。

 

『ストレンジベント』を使えばこの状況を逆転できる何かが起こるかもしれない。

 だけど、それは確率の話でしかない。

 状況に応じて自在に変化するカードと言えば聞こえが良いかもしれないが、逆に言えば何が起こるか分からないのだ。

 こちらが有利になる事が起こると言ってもそれが必ずしも勝ちにつながるかなんて分からないし、これは奥の手だ。

 今使って、その後戦闘が長引いた場合は確実に警戒されて使えなくなるだろう。

 様子見が必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて悠長な事を言ってる場合じゃねぇんだよ!!!

 俺はカードを取り出すとドラグバイザーツバイに読み込ませる。

 

STRANGE VENT(ストレンジベント)

 

 瞬間、俺の眼が捉えた情報で表すならば、世界がブレた。

 何が起きたか分からなかったが、すぐにでも、否応にも理解させられた。

 そもそも違法で地下に作られたこの通路が(ミラーワールド内とはいえ)そこまで丈夫であるとなぜ思っていた?

 俺のシュートベントとミラーの跳弾による傷は確実にこの空間の強度を落としていたのだ。

 

「・・・・・・ったく。こんな決着は望んでいなかったんだがな」

 

 ああ、この世界はなんで俺の望んでいない結末ばかりを用意するのだろうか。

 俺はこちらを睨むミラーに視線を落とす。

 

 ミラーは、崩れた壁や天井の瓦礫に挟まれ身動きが取れない状態になっていた。

 いくら何が起こるか分からないストレンジベントだとしてもこれは流石に無いだろう。

 あまりにもこの状況に打って付けであり、俺が一番望んでいない結果だ。

 

「どうやら、もう身動きは出来ないみたいだな」

 

「・・・・・・ッ」

 

「俺は行かせてもらう。・・・恨むなら俺を恨め」

 

 それだけを言い残すと、俺は砕けバラバラになった鏡に視線を落とす。

 ミラーは悔しそうにギリギリと歯軋りの音を鳴らしながらこちらを睨んできている。

 俺はそれを無視し、砕けた鏡から元の世界に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 緑谷出久―――デクは必死に戦っていた。

 部下と融合した治崎は四本の腕で“個性”を操り、辺りの状況を変化させて行く。

 足止めは出来ているモノのこのまま行けばジリ貧であった。

 デクは“個性”を自分で扱えるようになって日が浅いだけでなく、あまりにも経験が少ない。

『USJ襲撃事件』『雄英体育祭』『保須市襲撃事件』『期末テスト実戦』『雄英林間合宿襲撃事件』『ヒーロー仮免試験』etc.

 実戦から訓練含め確かに経験がない訳ではない。

 だが、あまりにも下地がなさすぎる。

 とある少年だって常日頃からのトレーニングと何十もの実戦を積むことで今がある。

 デクには確かにセンスがある。

 素早い状況分析能力と咄嗟の機転は実戦で大きなメリットとなるだろう。

 だけど、それを正確に行う為の経験値が足りない。

 

 彼は確かに大きな事件に巻き込まれ、そこを生き抜いてきている。

 だけど、数はそこまで多くない。

 いくら世間を揺るがすような大事件だったとしてもそれが劇的な変化を生む経験値になる通りはない。

 かの少年も大小合わせて数百もの事件に関わった経験があるからこそ『救いの英雄』と呼ばれるほどの力を得た。

 デクがいくらプロヒーローでも怖気付きそうになるような事件に関わっていようと、それはそれで彼の強さを引き上げるような事柄なんかではない。

 精神力は鍛えられただろうが、肉体は普段からのトレーニングが物を言うし、戦闘に関しては経験と精神力と肉体等己の持つ全てが結果に繋がる。

 デクは確かに強い。

 下手な地方都市なら十分に通じる程の実力はあるだろう。

 でも、そこ止まりである。

 だからこそ、ここで戦闘に割り込む者がいた。

 

「こいつの相手は私がする! 貴様はルミリオンとエリちゃんを!!」

 

 サー・ナイトアイ。

 元№1ヒーロー『オールマイト』の元相棒(サイドキック)である。

 ナイトアイの“個性”は戦闘に不向きだ。

 だけど、長年のトレーニングと経験値はこの場にいる誰よりもある。

 戦闘不可能状態でどこかへ連れ去られたイレイザーヘッドを除いて今この場で戦闘に適しているのはナイトアイである。

 無論、デクもそれを理解している為戦闘を任せ、エリちゃんの保護へと向かった。

 デクはルミリオンとエリちゃんを抱えると、道を塞いでいた壁を破壊して非難をしようとした。

 だが、それと同時に事態は最悪の方向へと向かった。

 治崎の攻撃がナイトアイの腕を千切り、その腹部を貫いた。

 あまりにも致命的であまりにも悪いタイミング。

 ナイトアイを仕留めたと考えた治崎はエリちゃんを奪還するべく突き進む。

 

「っ!!!」

 

 それはとっさの判断であった。

 デクに計算があった訳でも自信があったわけでもなく反射的にソレを選択した。

 許容限界を超えた限界20%をさらに超えた“個性”。

 

 ―――ワン・フォー・オール フルカウル 【30%】

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 雄英高校での訓練をした際、ある少年が中心となって1年A組の面々が己の“個性”を鍛えていた。

 ・・・・・・・・・のだが。

 

「オラ! テメェらの限界はその程度かァ!! 良いか、『限界』なんていう言い訳はさせねェぞ!! 『限界』ってのはちょっと死ぬ気でやれば超えられる段差の事だァ!!! 大丈夫、そう簡単には死なねェからよォ!!!」

 

 それはあまりにもスパルタ過ぎた。

 少年の足元にはボロボロになった爆豪勝己が倒れ伏しており、全身に痣を作っていた。

 最初にコーチになってくれと頼んだのは誰だっただろうか、そんな事が些細に思える程この場にいる者たちは疲弊していた。

 

「切島ァ!! もっと硬化しろォ!! 俺特製の『とても破壊力のある凄いミサイルくん【仮】』を受けて50cmも後退してボロボロになってる程度で強くなれると思ってんじゃねェぞ!!」

 

 あまりにも無茶苦茶である。

 だが、誰も少年に文句を言おうとする者はいなかった。

 恐怖と彼の放つ威圧に圧倒されていたのである。

 

「機鰐くん! さすがにこれ以上は切島くんの体が持たない!!」

 

 と唯一意見を上げた飯田天哉なんて一本歯下駄を履かされ、飛んでくる剛球を避け続ける特訓を受けさせられている。

 もはや彼の本体ともいえるメガネは砕かれ地面にレンズが散らばっていた。

 

「ほ~ら、八百万さァん。もっと早く『創造』できねェと実戦じゃァ役に立たないぜェ! コンマ0.1秒を詰めていけェ!!! さもなくばその無駄な乳を千切り取るぞォォオオ!!!」

 

「上鳴ィ!! 貴様はもっと放電し続けろよォ。テメェの許容Wなんてこっちは知ったこっちゃねェからなァ!! だが安心しろ、無駄にはしねェよ。テメェの放電した電気はちゃんと蓄電してハイツアライアンスで有効活用したやるからなァ!!! ハ~ハッハッハッハッハ!!!!」

 

「瀬呂ォ!! もっとテープを出し続けろ!! あ゙ぁ゙!? もう無理ィ!! 甘えたこと言ってんじゃねェぞ!! 次ンな情けねェ事を言ったらテメェがドンマイと言われまくってる動画を集めまくってMAD素材としてネット上に流すぞ!!」

 

「青山ァ!! もっとビーム出せやァ!! 腹が痛ェだァ!! そんなの関係ねェぞカス野郎!! 強くなりてェならその程度の腹痛なんぞ耐え抜けェ!! 分かったかあ゙ぁ゙!!」

 

「葉隠さん!! もっと隠密に徹せないと戦場じゃ生き残れねェぞ!! 音だけじゃねぇ、気配もだ!! それができねェなら実戦の場じゃ一瞬で死ぬ事になるぞ!!!」

 

「峰田、お前はとりあえずもぎってろ。血が出てもずっと」

 

「砂藤ォ!! もっと力入れろォ!! 3分程度の持続時間で満足してんじゃねェぞ!! 10gで3分を1gで3分に出来るまでやれやァ!!」

 

「尾白くん、君はとりあえずトレーニングしときなさい。ほら、このスケジュールで。は? できねぇじゃねェんだよ。やれよ」

 

「芦戸さん!! ほら、もっと酸を出す!! 皮膚が解ける限界ギリギリの濃度を出し続けて強い酸を使えるように!! ほおら、グダグダ文句言う暇があったらやれ!!」

 

「口田くん、君は動物と静かに話をしていなさいな。そして連携を取れるようにしておきなさい」

 

「轟ィ!! もっともっと熱を高めろォ!! 炎なんぞ熱エネルギーの集合体だ!! そのエネルギーをどう活用するかを考えねェで使いこなそうとか思ってんじゃねェぞ!! 氷と炎をどう組み合わせるかもっと想像力を広げろォ!! 大丈夫、熱中症や脱水症状は何度かなれば慣れてくるからよォ!!!」

 

「神姫、お前は軽い筋トレと体力作りしとけ」

 

「麗日さんはもっと重い物を浮かばせ続けろォ!! キャパなんぞ無視しとけェ!! 吐き気なんぞ気合いで抑え込める!! もしもゲロゲロと吐いたなら二度と吐きたくならないように腹に痣作ってやるから覚悟しとけェェエエエエエ!!!」

 

「常闇くんと梅雨ちゃんは一緒になって互いの弱点を教えあったり新しいアイデアを出し合ったりしておきなさい」

 

「おら、障子くゥん!! もっとたくさん複製しろォ! そしてこの安土城完全再現パーツ1500以上のプラモデルを素早く完成させるんだァ!! 手が多いから何倍も早くできるだろォ!!? 文句はねェよなァ!!!!」

 

「耳老さァアん!! もっとプラグ強化のために特別開発した『とっても固い物質【仮】』に刺して刺して刺しまくれェエエ!! 痛みなんぞ無視して大丈夫だからよォ!!!」

 

 スパルタ of the スパルタ。

 一流のアスリートが立派な監督になれる訳ではない。

 少年は確かに一流であり、戦場に立てば彼に勝てる者は少ないだろう。

 だが、少年は説明が苦手であり誰かに物を教える事は得意としていない。

 さらに基本的にやれば出来るタイプの人間なので人に物を教える場合も自分基準でやるのでスパルタ化してしまうのだ。

 全員にトレーニングの指示を出した少年は出久の方へと視線を移し、言う。

 

「ところで、フルカウルで何%ぐらいできるようになった?」

 

「8%ぐらいは・・・」

 

「限界突破で行けるとしたら?」

 

 少年のその言葉に出久は腕を組んで少し思案し、呟く。

 

「多分だけど、15~20%くらいならギリギリ出せると思うけど」

 

「じゃぁ30%は行けるな」

 

 突然のその言葉にさすがの出久も理解が出来なかった。

 いや、そもそもこんなトンデモ発言を一瞬で理解しろというのが無理だ。

 困惑する出久に少年は少し説明する。

 

「人間の体ってのは本能的にブレーキをかけてしまう。それはハッキリ言ってどうしようもない。だけど、やりようがない訳じゃぁない。・・・呼吸法って知ってるか? 特別な呼吸をすることで精神を落ち着かせるっていうアレだ。アレはやりようによっては肉体のリミッターを外せるんだ。こんな感じで」

 

 少年はいつも通りの笑顔でなぜか隣に置いていた1P仮装敵(かそうヴィラン)を殴り壊す。

 その威力は“個性”を使ったかのように思える程あり、大きな音を立てて破壊された仮想敵の装甲は大きく凹み、力の凄まじさを物語っていた。

 だが、出久の視線は少年の腕に向いていた。

 

「機鰐くん、その腕ッ!!」

 

「あぁ、この程度問題ねぇ」

 

 少年の腕はあり得ない方向へと曲がり、充血していた。

 だが少年の腕はメダルへと変化し怪我は一瞬で治る。

 

「これがリミッターを解除した人間の100%のパワーだ。まぁ、ここまで変に引き上げて限界突破する必要はないんだがな」

 

 少年は出久の顔を見ながら説明する。

 

「リミッターの解除ってのはハッキリ言ってデメリットの方が多い。肉体にかかる負担がデカくて制御できないと今みたいに完全に自滅でしかない。でもよ、お前は何度も経験しているだろ? その“個性(チカラ)”で何度も体ぶっ壊してるから。・・・・・・この方法ってのも体をぶっ壊さないでもできるんだ。ダメージや負担はあるけどな。これを使えば短時間だけだが自らの意志で大幅な限界突破が出来る。さらに極めて行けば肉体ダメージの無視も可能だ。・・・一番オススメはしないが」

 

 少年はそこまで行ってどこか不気味な笑みを浮かべた。

 

「さァ、さっそくやってみようか。あ、慣れるまで“個性”の使用は禁止ね」

 

 ちなみに、少年はスパルタで訓練をさせているがそれは合理的に考えられたものばかりである。

 例えを上げるとしよう。

 

 飯田天哉がさせられているトレーニングは体感と反射神経を鍛える為のモノである。

 一本歯下駄は立つだけでも難しく歩くなんて相当の訓練が必要となる。そうすればバランス感覚は鍛られ肉体の中心線を安定させる効果が期待できる。

 さらにそんな不安定な状態で飛んでくる攻撃を避ける事ができるようになれば戦場でどれだけ状態が悪い場所であろうと安定して戦う事ができるだろう。

 

 障子目蔵がさせられている特訓も、彼が多く肉体部位を複製すると動きが鈍ってしまうという弱点を克服させる為のモノだし、上鳴電気のさせられているのなんて林間合宿中と全く同じである。

 つまり、本当にそれは効率の良いトレーニングであると少年が判断したからこそやらせているのだ。

 その他クラスメイトたちもである。

 

 それを理解しているからこそ、出久は何も文句が言えなかった。

 いや、そもそも教えを乞うている立場である以上、文句を言える訳がないのである。

 

 こうして、少年による地獄の猛特訓が始まり、多くの者が悲鳴を上げた。

 上げなかった者は爆豪勝己と轟焦凍の二名だけだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 デクは治崎に向かって最高速で突撃する。

 分解構築により作られた棘を避け、地面を踏み抜く。

 治崎の“個性”は手で触れなければ意味をなさないのは今までの戦闘と事前に知らされていた情報で知っていた。

 無論、その弱点も。

 だからこそ、デクは最速で全てを終えようとする。

 傷を回復させるよりも前に、脳天への一撃で意識を刈り取る。

 デクは治崎の攻撃を跳んで避けると、天井を蹴飛ばして体に回転を掛けて全力の踵落としを繰り出す。

 だが、治崎はソレを簡単に避けた。

 

「いくら早かろうが、先の二人に比べれば動きの“線”が素直で見えやすい」

 

 治崎は近くの瓦礫を分解構築し、棘を放ちデクへと攻撃をした。

 もしも過去に飯田天哉と同じように一本歯下駄によるトレーニングを受けていたのだとしたらこの攻撃を避けられたかもしれないが、精神トレーニングをメインにしていたが為にソレが叶う事はなかった。

 デクの腕から血が溢れ出る。

 強く激しい痛み、デクは深く深呼吸をして精神と肉体を切り離し、痛みを意識的に無視する。

 あの少年からは多用しない様に言われていたが、今はそんな状況ではない。

 治崎はそんなデクを見て軽くため息を吐くとルミリオンが保護しているエリちゃんを奪い返すために行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 俺はミラーワールドから出てすぐに変身を解除すると辺りを確認する。

 そして、ソレを視覚した。

 

「ウラビティ!! フロッピー!! ッ・・・ナイトアイ!!!」

 

 大怪我をしたナイトアイを支える麗日さん(ウラビティ)梅雨ちゃん(フロッピー)

 遅かった、それを理解した瞬間に俺はフォーゼドライバーを取り出して駆ける。

 今この状況で適しているのはシフトカー(マッドドクター)ではなくアストロスイッチ(メディカル)の方だろう。

 回復量や治癒能力ならマッドドクターの方が圧倒的に上だが、使用する度に死ぬような痛みが走るとか欠陥過ぎる。

 瀕死の人間に使ったらそれだけで死にかねない。

 

 上からは戦闘音が聞こえてくる。

 いくら何でも時間をかけすぎたようだ。

 あまりにも手遅れで、あまりにも取り返しが付き辛い状態になってしまっている。

 それでもまだ挽回できない訳ではない。

 

 急げ、今これから起きる悲劇を止めるには1秒も無駄には出来ないっ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーは瓦礫から唯一逃れ出ていた右手で地面を掻く。

 あまりにも惨めで愚かな最後である。

 この世界に生まれ変わり、自らの“個性”を有効活用して『王』になる為に行動していた。

 ミラーの計画は、治崎が裏社会のトップになった後に表社会へ攻撃を仕掛けて一気に世界を牛耳るつもりであった。

 冷静な者が聞けばただの机上の空論にしか聞こえないだろうが、ミラーにとっては本気の作戦だった。

 それがこんな所で終わる。

 怒りなんて言う言葉では表せないほど黒い感情。

 ミラーは何もない空間へと手を伸ばす。

 何かを掴むかのように。

 そんな手に触れる物があった。

 先ほどまで無かったハズだというのに。

 ミラーは手を伸ばし、それを掴み取った。

 

 ソレはストップウォッチのような形状をしたアイテム。

 紫色をベースとしたソレをミラーが掴んだ瞬間、ソレの使い方が・どんな道具なのかがその頭の中に流れ込んできた。

 そうして、理解した(・・・・)ミラーはそのアイテム―――アナザーウォッチのボタンを押して起動させた。

 

ZI-O(ジオウ)

 




次回の投稿も遅くなりそうですがゆっくり待っていただけるとありがたいです。


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92話 『時の王者と裏の王者』

ジーオー、とーきーのーおーおじゃー


「ウラビティ!! フロッピー!! ッ・・・ナイトアイ!!!」

 

 自身らを呼ぶ声に反応し、麗日お茶子――――ウラビティは声のした方を向く。

 そこには別行動をしていたクラスメイトである機鰐龍兎――――仮面ライダーがこちらに向かって走ってきている所だった

 

「きg・・・仮面ライダー!!」

 

「ナイトアイの怪我の状況はっ!?」

 

 普段から冷静でどこか裏の有りそうな少年と同一人物とは思えないほどその声に焦りが見えた。

 ウラビティは今分かっている情報を少年に伝えた。

 すると少年は一つのベルトを取り出した。

 

「うまく行くか分からねぇが、ここで治療する」

 

「出来るん!?」

 

「応急処置だがな」

 

「ケロ。気を付けてね・・・」

 

「・・・分かってる」

 

 少年がそう答えた時だった。

 彼の背後にある瓦礫から突然謎のエネルギーの刃が飛び出し、こちらに向かって襲い掛かってきた。

 怪我人を抱えているこの状況では素早く避けようにも避けられない。

 ウラビティはそれを直観するとナイトアイを庇うために自身の体を覆いかぶせる形で抱きしめた。

 

 だが、その攻撃が届く事は無かった。

 少年の背中から黒い“闇”が噴き出し、その攻撃を防いだのだ。

 生物の本能がその“闇”がとてもマズイモノである事をひしひしと伝えてきていた。

 恐怖でウラビティとフロッピーは一瞬固まった瞬間、少年の背中からその“闇”を覆い包むかのように深紅の炎が飛び出し、そして宙へと消えて行った。

 

「い、今のは・・・?」

 

「分かんねェけど、助かったみたいだな」

 

 少年はそう呟き攻撃の飛んできた方へ視線を向けた。

 視線の先には不穏な気配をひしひしと出している男が憤怒の表情で少年を睨んでいた。

 そんな男と少年の間にリューキュウが割って入った。

 

「ココは私に任せて三人はナイトアイを連れて外へ!! お腹のトゲは抜かずに!!」

 

「いや、リューキュウ。アイツの目当ては俺です。アナタが二人について行ってください」

 

「でも・・・、」

 

「大丈夫です。ここで負けるようなタマじゃァありませんから」

 

 少年はそう答えて前へと踏み出す。

 その体からは紅い火花と黒いオーラが宙へと舞い散っていた。

 

「よぉ、ミラー。脱出できたんだな」

 

「随分飄々と言うな、障害物が。お前だけは、俺が殺す」

 

 ミラーはそう言って紫色をベースとしたアイテム―――アナザーウォッチを取り出す。

 それを視覚した少年は顔を顰めた。

 

「・・・・・・変身」

 

ZI-O(ジオウ)

 

 ミラーの体が黒い無数の時計のバンドの輪の様なエフェクトが包み、その姿を大きく変えて行く。

 白をベースとした怪物。

 

『アナザージオウ』

 

 ミラーは時計の短針と長針を模した双剣を持ち、構える。

 少年は軽くため息を吐いた後、一つのベルトを取り出して腰に装着し、ライドウォッチを起動させる。

 

《ジクウドライバー ZI-O(ジオウ)

 

 そして、少年はニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

「そうかよ。殺せるもんならやってみな。変身」

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)!》

 

 少年の体を無数の金属製腕時計のバンドの輪の様なエフェクトが包み、ライダースーツを纏わせて行く。

 そして、彼の後方に現れていた巨大な時計から『ライダー』の文字が飛び出し、その顔に綺麗にセットされた。

 

 そう、今この時、戦場に『仮面ライダージオウ』が再誕したのだ。

 

 時の王者となる資格を持つ者、それは2000年生まれとされている。

 機鰐龍兎としての彼は今代生まれだが、その前世である『大宮さとし』は2000年9月12日生まれである。

 そう。もしかしたら資格を得れたかもしれない“魂”なのである。

 まぁ理論的にはそうと言うだけで結果が伴わない憶測の域を出ないが・・・。

 

「行くぜ」

 

《ジカンギレード ケン》

 

 ベルトから武器を取り出し、ジオウはそれを下段で構える。

 アナザージオウもそれに合わせて双剣を構えた。

 緊張が高まっていく中、地上の方から大きな衝撃音が響く。

 ソレがデクと治崎がぶつかった合図であることを地下にいる彼らは知らない。

 だが、二人にそんなことは関係なくその衝撃音を合図に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 俺はジカンギレードを下段に構えてアナザージオウとの距離を詰める。

 この戦法は先ほど見せたモノ全く同じである。

 つまり、警戒されているどころか対策されている事だろう。

 だが、その対策自体が俺の作戦そのものだ。

 

 ジカンギレードを振り上げるとアナザージオウは片手の剣でその攻撃を防ぎ、もう片方の剣を振り上げた。

 俺はそれを狙ってジカンギレードを傾けて攻撃を滑らせると、アナザージオウの攻撃をかすめる形でその頭上を飛び越える。

 そして、着地と同時に体を回転させてその背中を斬ろうとしたが、攻撃が当たる寸前で避けられカウンターを喰らってしまった。

 

 だが、これで何となく予想が出来た。

 コイツは仮面ライダージオウⅡ及びアナザージオウの能力である未来予知―――正確に言えば未来視ができる。

 つまり、コイツの見た未来を予測してソレを上回る行動ができなければこちらの負けが確定する。

 一見不可能に近い方法だが、やりようはある。

 

 まず手順を踏んでいくとしたら、アナザージオウが未来Aを予知して行動を始めた時に俺がその未来Aを予想して別の未来Bになるように行動すれば良い。

 一瞬の駆け引きで勝敗が大きく変わるが、ハッキリ言ってこの方法以外で勝てる道が見えない。

 ってかそもそも未来予知ができる相手と戦うのだとしたら同じレベルで未来予知ができないと無意味だ。

 

 残念なことに俺はアーマータイムの使用は可能だがその他フォームへの変身は出来ない。

 ざっくり上げるとするなら、ジオウⅡ・ジオウトリニティ・グランドジオウ・オーマフォームになれないのである。

 理由としてはどれも変身するための条件を満たしていないからだ。

 もしも変身できるなら速攻でグランドジオウに変身してライダーリンチによるRTAをしている。

 

 俺がどうしたものかと思案していると、アナザージオウがアナザーウォッチを取り出して起動した。

 

BUILD(ビルド)

 

 瞬間、アナザージオウの姿が大きく変化し、『アナザービルド』への変身を完了させていた。

 俺がソレを視覚すると同時にアナザージオウじゃなくてアナザービルd・・・・・・ややこしい。

 以下『アナザー』と表す事にする。

 アナザーは二つのボトルを取り出すとそれを飲み込んだ。

 

「剣道・スノーボード。ベスト、マッチ」

 

 いや、どんなベストマッチだよ。

 俺は心の中でそうツッコミを入れつつ俺はライドウォッチをD'3スロットに差し込みベルトを回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム) ベストマッチ! BUILD(ビルド)!》

 

 そんな音声と共に俺の体に微妙にビルドに似たアーマーが纏われ『仮面ライダージオウ ビルドアーマー』へ姿を変えた。

 そして素早くベルトを回転させると一気にアナザーとの距離を詰める。

 

VORTEX(ボルテック) TIME BREAK(タイムブレーク)

 

 俺は右手のドリルクラッシャークラッシャーを振りかぶり直線グラフに体を滑らせると一気に加速した。

 アナザーはエネルギーでスノボと竹刀を作り出すと地面を滑り変形した地形を駆使して不規則に突撃して来た。

 直線では対応できないが、ジオウである以上は直線以外が何故か出せない。

 ビルドやゲイツみたいに曲線を描きたいのになぜか直線にしかならないのだ。

 俺は直線を滑りながら体を捻り、横から上段で竹刀を振り下ろしてきていたアナザーの胴体へドリルクラッシャークラッシャーを突き刺した。

 だが、勢いの止まらなかったアナザーの攻撃はしっかりと俺にもヒットする。

 一応左手で防いだがそれでも大分ダメージを負ってしまった。

 アナザーの姿が元のアナザージオウへと戻る。

 俺のアーマーも外れ、素の状態へと戻った。

 

「クッソ・・・」

 

 地面を転がりながら距離を取り体勢を立て直すとライドウォッチを取り出してジカンギレードに装填する。

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)!》

 

 ジカンギレードの刃にオレンジ色のエネルギーが集中する。

 アナザーもその双剣にエネルギーを集中させている。

 

 予測しろ。

 相手が予知している未来を。

 そしてその未来を塗り替えろ。

 それができなければ勝ちはない――――俺とコイツとの戦いだけじゃない。

 アナザーが未来予知の力を使えば今、デクが変えようとしている未来をも捻じ曲げられる可能性が高い。

 だからこそ、考えろ。

 

 俺は態勢を低くし最高速で突撃する。

 アナザーは右の剣を上段に、左の剣を下段に構えている。

 どのように攻撃が来るのかを一瞬で判断する。

 

 振るわれる右の剣の攻撃体を捻る事で避ける。

 だが、俺の避けた方向から左の剣が振るわれてきていた。

 体重移動から考えても確実に避けるのは不可能と言えるだろう。

 防いだとしても右の剣が背後から襲い掛かってくる。

 この時点でかなり詰んでいる状態だろう。

 でも、それは少し前の俺ならそうであるという話だ。

 

 俺は右足の指先に力を籠めると攻撃の合間を縫うように跳ぶ。

 アナザーは攻撃が空ぶった事によりバランスを崩し、大きな隙を晒していた。

 それを狙ってジカンギレードのトリガーを引く。

 

GAIMU(ガイム) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)

 

 最高潮まで高められたエネルギーがジカンギレードの刃の切れ味を鋭くし、アナザーに大きなダメージを与えた。

 だが、それだけには留まらずアナザーを蜜柑(オレンジ)状のエネルギーが包み込み動きを封じた。

 普通ならここで切り裂くところだが、あえて追撃はしない。

 

「な、あぁっ・・・・・・」

 

「さて、コイツで終わらせてやるぜ」

 

 俺はそう宣言し、一つのライドウォッチを取り出す。

 ジオウⅡ・ジオウトリニティ・グランドジオウ・オーマフォームになれない以上、これが俺の変身できるジオウ最強の姿となる。

 

DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

 ライドウォッチの起動音を聞くと素早くベルトに装填して回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム) KAMENRIDE(カメンライド) WAO(ワーオ) DECADE(ディケイド) DECADE(ディケイド) DECADE(ディーケーイードー)

 

 俺の周りを幾つもの影が現れ体に重なり合いアーマー形成してゆく。

 

『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー』。

 劇中ではほとんど使われなかった姿だが、個人的には大好きなフォームだ。

 そして、今この状況で最適な姿と言えるだろう。

 

《ライドヘイセイバー》

 

 俺はヘイセイバーを構えると未だにエネルギーに囚われているアナザーへと視線を移す。

 アナザーはその腕を無理矢理伸ばして片手だけだが自由になっている。

 片手が使える、それだけで十分脅威となるだろう。

 だから、素早く攻撃を当てる。

 

Hey(ヘイ)! BUILD(ビルド)! Hey(ヘイ)! EX-AID(エグゼイド)!》

 

 ヘイセイバーの針を動かすとそんな音声が流れる。

 そして、トリガーを引くことで必殺技を発動させる。

 

EX-AID(エグゼイド) DUAL TIME BREAK(デュアルタイムブレーク)

 

 俺はアナザーとの距離を一気に詰めるとヘイセイバーを振るう。

 攻撃が当たるたびに『HIT!』のエフェクトが現れる。

 アナザーはなんとか自由になっている腕を使って攻撃を防ごうとしているが完全に防ぐことはできず連続攻撃によるダメージを負った。

 だが、俺の攻撃はここで止まらないし止める気なんて1ミクロンも無い。

 

Hey(ヘイ)! GHOST(ゴースト)! Hey(ヘイ)! DRIVE(ドライブ)! Hey(ヘイ)! GAIM(ガイム)! Hey(ヘイ)! WIZARD(ウィザード)! Hey(ヘイ)! FOURZE(フォーゼ)! Hey(ヘイ)! OOO(オーズ)! Hey(ヘイ)! W(ダブル)! Hey(ヘイ)! DECADE(ディケイド)! Hey(ヘイ)! KIVA(キバ)! Hey(ヘイ)! DEN-O(デンオウ)!》

 

 ここで言うのもアレだが平成初期ライダーを選ぶ場合かなり手間が必要になるな、コレ。

 少しそんなことを思いながら俺はトリガーを引く。

 

DEN-O(デンオウ) DUAL TIME BREAK(デュアルタイムブレーク)

 

 ヘイセイバーの刃に赤いエネルギーが充填される。

 まるで、電王の『俺の必殺技(エクストリームスラッシュ)』を思わせる赤い稲妻が走りそれが刀身を赤く染めている。

 

 俺はヘイセイバーを横に構えると思い切り横一線に振り斬る。

 それだけに留めず、再度横一線に切り裂いてから兜割りの応用で上から叩き斬る。

 

「ぐっ・・・・・・」

 

「これじゃ終わらないぜェ」

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! DECADE(ディケイド)!》

 

 ベルトに装填してあるライドウォッチのボタン(ライドオンスターター)を押すと、次はジクウドライバーの上部ボタンを押してロックを解除する。

 ベルトからはチクタクと待機音が静かに鳴る。

 アナザーは蓄積されたダメージの影響か、地に膝をついて今にも倒れそうになっている。

 もはや避けるのほどの気力も体力も残っていないだろう。

 

「や・・・止めっ・・・・・・」

 

「残念、生憎と止める気はねェよ」

 

 コイツは未来が見える。

 だからこそ焦りが大きくなっているのだろう。

 自分の敗北する未来、それが見えるという状況がどれだけ絶望的かは俺には分からない。

 でも、同情してやる心なんて持ち合わせてはいない。

 

 俺はジクウドライバーを360度回転させた。

 

ATTACK TIME BREAK(アタックタイムブレーク)

 

 目の前にライダーカード状のエネルギーの膜が複数枚現れた。

 飛び上がり足に力を込めて攻撃を繰り出す。

 それは『ディメンションキック』をイメージした態勢である。

 

「喰らっとけェ!!!」

 

 カード膜を通過するたびに俺は加速し、足にエネルギーが収束してゆく。

 アナザーは自身の足元に落としていた長針状の剣を掴むとそこにエネルギーを込めて横に大きく振るう。

 辺りには衝撃が吹き荒れたが、それには意味なんてなかった。

 無駄な抵抗だ。

 

 そうして、俺の攻撃はアナザーの胸部にヒットし、その体を大きく後方へ吹き飛ばして壁へと叩きつけた。

 元々、治崎との戦闘でボロボロになっていた壁や天井が崩れ、地に伏せるアナザーを埋めていった。

 




戦闘がめちゃくちゃグダグダになったので他アナザーライダーはカット。


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93話 『英雄(ヒーロー)と泥棒 ~一人の少女を巡って~』

連続投稿、短めです


 デクはエリちゃんを背負い、『ワン・フォー・オール』をフルパワーで発動した。

 その体は“個性(チカラ)”に耐える事ができず常に骨は折れ、靭帯は切れ、軋み続けていた。

 だが、少女の“個性”によって大怪我をする前に戻される事で動く事ができている。

 逆に言えば全身を大怪我し続けなければその肉体は戻り続け(・・・・)跡形もなく消滅してしまうだろう。

 

 デクからすればそれは懸けでしかない。

 もしもこの出力が途中で低くなれば全身大怪我で戦闘不能になるだろうし、出力が高くなれば肉体は消滅する。

 つまり、どうなるか分からない以上は短期決戦が望まれる。

 

 そんなデクの隣に一人の男が立った。

 視線を向けるとシアン色をベースにした独特のデザインの強化スーツを身にまとう存在が鼻歌交じりにいた。

 

「どうやら、話を聞く限りだとアレの『元』はその子みたいだね。・・・・・・それを君たちが助けようとしている、と」

 

「誰、ですか?」

 

「僕かい? 僕は『仮面ライダーディエンド』、通りすがりの泥棒だよ」

 

「仮面、ライダー・・・?」

 

 ディエンドは驚くデクを無視し、治崎の方へと視線を向けた。

 そして、軽く舌打ちをする。

 そこには強い怒りの色が感じ取れた。

 

「お前はどうやらお宝の本当の価値が分からないみたいだね」

 

「貴様も病人か。・・・・・・この『弾』の事を言っているようだから教えてやる。これは

 

「あ、そういうの求めてないから」

 

 治崎の言葉をディエンドは簡単にあしらった。

 そもそも彼の性格上、そんな話を聞いてやるような優しさなんて持ち合わせていない。

 あるのは『お宝』への興味と『門矢士』への気持ちとちょっとの人情だけだ。

 

「僕が言いたいのはこの子を使って作った物がそんな下らない物だったことに不快感が大きい、という事だけだ。・・・・・・ホント、最悪な気分だ。僕としたことが一時的とはいえそんなゴミ同然の物を『お宝』だと思っていたなんて・・・・・・」

 

「ゴミ、だとっ・・・? これがどんな物か、どれだけ強大な物かも理解できない『英雄(ヒーロー)』気取りの病人がっ! その病気を俺が治してやるt

 

「あ、だからそういうの求めてないから」

 

 それに、とディエンドは言葉を続けた。

 

「残念なことに僕に英雄(ヒーロー)は似合わない。無論、士も。・・・・・・彼なら『俺は通りすがりの仮面ライダーだ!』なんて反論しそうだね、フフッ」

 

 突然この場にいない誰かの名前を持ち出して笑ったディエンドに治崎やデクはともかくエリちゃんまで軽く引いた。

 だが、それに気づいていないらしくディエンドは飄々と口を動かす。

 

「僕もそうさ。僕は『泥棒』。お宝を求めて世界を放浪する存在だよ」

 

「『泥棒』だと、そんな下らない存在が俺の邪魔をするのか!」

 

「ああ、しよう。君は『誰かの思い』を踏みにじってこの場にいるみたいだ。それは、少し僕のポリシーに反する。さあ、そこの少年、始めようか。僕と君で彼のお宝を奪ってあげよう」

 

「僕は、『泥棒』じゃないんですけど・・・」

 

「その子を救うんだろう? 彼にとっての、この世界にとっての『お宝』がきっとその子さ。君はその子を救う、僕は彼からその子を盗む。それでいいだろ?」

 

 あまりにも独創的で独特で遠回りな言い回しであったが、それはデク相手に「共に戦おう」と持ち掛けているようであった。

 それに気づいたからこそデクは言った。

 

「お願い、できますか?」

 

「さぁ、何のことか分からないね」

 

 ディエンドはそう答えてネオディエンドライバーを治崎の方へと向けた。

 

「始まりと行こう。この世界で初めての僕のお宝を盗む戦いの」

 

「エリちゃん、しっかり掴まってってね。君は僕が・・・・・・いや、僕たちが救けるから」

 

 瞬間、戦闘が始まった。

 近くにある家が分解・復元され巨大な棘としてデクとディエンドを貫こうと襲い掛かる。

 だが、攻撃が直撃するよりも早くデクは治崎に超高速で接近し、全力で蹴りを見舞う。

 治崎は“個性”を使ってそのダメージを分解・再生させようとした。

 でも、それを止めるかのように攻撃が飛ぶ。

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DIEND(ディ・ディ・ディ・ディエンド)

 

 ネオディエンドライバーの銃口から放たれた超強力なエネルギー波が治崎の行動を半強制的に止め、さらにダメージを入れる。

 そして、その隙を狙いデクが再度急接近した。

 

 デクの頭にはとある少年の一生が思い出されていた。

 彼自身は自分の為だと言っていたが、他からすれば誰かの為に身を削って戦い続けた存在。

 治崎は“個性”があるからヒーローになろうとする者が現れたと言った。

 “個性”がなければそれはただの夢だと言った。

 でも、それは違う。

 “個性”がなくても、力がなくても己の命を懸けて立ち上がり戦ったものは確かに存在する。

 治崎の思想は、考えは、行動倫理は・・・・・・自分の平和な日常を守るために一番平和から遠い場所に立ち正真正銘『死ぬまで』戦い続けた彼を侮辱する行為に他ならない。

 

 デクは拳を強く握る。

 そして、左のジャブでガードを弾き飛ばし、右の拳をその顔面に叩きつけた。

 それだけに留まらず被害を最小限に抑える為に治崎の開けた大穴近くへと投げ飛ばした。

 

「ほう。さすがこの世界のヒーロー。そんな所にも気を遣うか」

 

 ディエンド(ほとんど動いていないし働いていない)はデクの行動を評価し、着地した彼の方へと歩を動かそうとした。

 瞬間、事態が動く。

 

 デクの体を包んでいた光が激しさを増し、辺り一帯にそのエネルギーを放出し始めた。

 

「まずいっ!!」

 

 エリちゃんの“個性”の出力が増加したのだ。

 それによってデクの肉体崩壊が追いついていない。

 ディエンドはカードを取り出すと仮面に隠れて見えはしないが少しだけ顔を顰めた。

 

「うまく行くかは分からないけど、今はこれしかないか」

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・BARRIER(バリア)

 

 ネオディエンドライバーの銃口から放出されたエネルギーがデクの体を包んだ。

 それによってデクの体は戻ることなく保護に成功した。

 

 こうして出来た少しの時間が功を奏し、イレイザーヘッドが“個性”を使用してソレを止めた。

 

 事件は、終わった。

 怪我人多数で解決したとは完全に言えないが、それでも事件は収束へと向かい出す。

 そのゴタゴタの間にディエンドはどこかへと姿を消してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「G3ユニットの実践訓練が終わりました。これより本部に戻り今回のデータを基に新たなシステムの構築へ移ります」

 

 

 

 

 

 

「終わった、みたいだな」

 

『ああ、それでもまだ油断はできない。・・・・・・だが、今はこう言おう。初乗りにしては上出来だった。ナイスドライブ』

 

「ありがとう、ベルトさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がヤツとの戦いを終えて地上に出たと同時に治崎が倒された。

 そして、メディカルスイッチを使用してナイトアイの応急処置を済ませたが、治療が遅れたせいもあってか結局は予断を許さない状態だという事は変わらなかった。

 

 結局、俺は弱いし甘い。

 

 しっかりとアイツにとどめを刺しておけば自体が好転した確率は大きく上がっていただろう。

 ほんと、俺はどうしようもないほど弱い。

 

 現場で大勢の人間が慌ただしく動いて行く中、俺はナイトアイの乗せられた救急車をただひたすら見送る事しかできなかった。

 



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94話 『再会』

注意。

今回、機鰐龍兎の強化イベが発生します。
しかも武器を得る事での強化で、大分インフレします。

ごめんなさい。


この回含めて後2~3話で新しい編へと移行しようと思っています。
ゆっくりお待ちいただけると幸いです。




 あれから、一夜が明けた。

 結局、ナイトアイは助からずに終わってしまった。

 現代医療もリカバリーガールの“個性”も、そして仮面ライダーの力(メディカルスイッチ)も意味をなさなかった。

 ただ、現場でメディカルスイッチを使った事で僅かな生命維持の役には立ったらしく、先輩との最後の会話をほんの少しだけ長くできていた事だけでも良しだと思いたい。

 

 薄情に思われるかもしれないがこれが俺なのだ。

 

 悲劇に慣れた事は無い、人の死を悲しまなかった事も無い。

 でも、そこで留まって入れないのだ。

 苦しんで後悔して止まっている間にも悲劇は発生するし、助けを求める者が手を伸ばしている。

 だからこそこれで思考を終わらせるしかないのだ。

 冥福を祈り、そして、俺は先に進む。

 

 ナイトアイ、俺が弱かったばかりに救けられなくてごめんなさい。俺は、これを経験として胸に刻み込み先に進みます。

 

 青く澄んだ空見上げながら一人黙禱をする。

 ここで言うのもアレだが人が死んでこのように黙禱をするのは初めてである。

 過去の『大宮さとし(オレ)』は酷い時には一度に5個以上の事件に関わっていたのが当たり前で、黙禱している時間も後悔している時間も無かった。

 時には事件に飛び込み参加もしていたから下手なブラック企業よりも労働をしていたように思う。

 

 黙禱を終わらせた俺は病院の入り口の方へと足を向ける。

 少し落ち込んだ気分のままいると、後ろから“何か”が飛んできて頭に当たった。

 油断していたので普通に喰らって大分ダメージを受けてしまった。

 後頭部を抑えてしばらく悶絶していると、聞いたことのある声が耳に届いた。

 

「ご、ごめん。・・・まさか上手くヒットするなんて」

 

「ユウ、覚えてろよ。いつか必ずお前に何を食ってもザクロの味しかしなくなる呪いをかけてやるからな」

 

「思いのほか地味!!」

 

 そもそも呪いなんぞ使えないからどんな内容だろうと関係ないから良いだろう。

 そんな下らない事を思いながらも深く息を吐いてから一気に空気を吸い込む事で多くの酸素を半強制的に取り込み、精神を落ち着かせる。

 

「ンで、何の用だ?」

 

「・・・・・・ある二つの組織が睨み合ってて今にもぶつかり合いそうになっている。ちょっと警備に来てくれないか?」

 

「それぐらいならいいけど」

 

 俺はそう答えてユウの後に続く。

 ったく、こんな状況でも何かしようとする馬鹿はいるんだな。

 そんなことを思いながら俺は病院にいる緑谷にメールを送った。

『スマン予定できた先に帰っててそれじゃ~の~』となるべくいつも通りのテンションを装って。

 

 

 

 

 

 

 俺とユウは街中を一般人を装って歩き回る同じ所を行ったり来たりしているだけだと怪しい為、時には裏路地に入ったりコンビニで立ち読みをしたりしながら当たりの状況を観察し続ける。

 すぐに事が起こるという訳ではないだろうが、何が起こるか分からない以上は常に警戒し続けないといけない。

 なのでマックでポテト大食いをしているのは馬鹿な学生のフリ。

 カモフラージュなのである。

 決して昔を思い出してはしゃいでいる訳ではない。

 

 そうしてそれだけの時間が経過しただろか。

 少し古びた建物が視界に入った。

 正確に言えば元々視界に入っていたのだがあまり気にはしていなかったのだ。

 だけど、少しだけ視線を向けた時にそこから“何か”が俺を呼んでいる気がした。

 

「なぁ、ユウ。ちょっとあの店行って良いか?」

 

「? いいけど、何かあったか?」

 

「呼ばれてる。なんか、懐かしい声に」

 

「お前ってオカルト系の不思議野郎だっけ?」

 

「自称オカルト系のよくわからん奴らとは関わったことはあるけど俺自身は何も持っちゃいねえよ」

 

「一体全体どんな道を歩んでいたんだよ・・・」

 

「俺の周りの平和を守るための道だよ」

 

 俺はそう答えると古びた店の扉を開ける。

 どうやら骨董店のようであっちこっちに古びた道具が無造作に置かれていた。

 

「いらっしゃい」

 

 不愛想な老人店主が新聞から眼を逸らさずにそう言う。

 俺はそんな態度を特に不思議に思う事無く店内を物色する。

 

「なんだか懐かしいな。昔にもこういった骨董店に足を運んで店主が隠してた通路の先にあった巻物から出て来たとかいうよく分からない自称妖怪の獣耳の女を故郷とかいうよく分からない山奥まで連れてく途中“鬼”と戦って勝った報酬としてソイツの被ってた般若の面を奪い取って山の頂上にソイツが大事に持っていた巻物を埋葬してやった事があったな」

 

「何やってんの!?」

 

「人助け」

 

「下手な映画の内容を端的に説明したのかと思ったぞ」

 

 意味が分からない。

 あの件に関しては半日程度で終わった簡単なモノで特に大きな事件でもなかった。

 少し内容が濃かったから覚えているだけだ。

 薄かったら記憶にもとどめていない程度のモノでしかない。

 

「それで、その『呼ぶ声』ってヤツの正体は分かったか?」

 

「あぁ。何となく、な」

 

 俺はそう答えると店主の方へと足を向ける。

 店主は未だに視線を新聞から移していないが、意識はずっとこちらに向けていた。

 これは何かを隠している人間によくある事だ。

 知らぬ存ぜぬの態度でいながらついつい意識を向けてバレていないかを確認する。

 

「なあ、おっさん。『豪刀・大斬刃』はあるか?」

 

「・・・・・・そんな物はない」

 

「それは俺の刀だ。俺が、アイツから貰ったモンだ。返してもらうぞ」

 

 俺はそう言うと手に炎を纏わせる。

 

「出さないと、燃やすぞ」

 

「・・・・・・」

 

「だんまりか? なら、」

 

 炎を纏ったままで俺はカウンターを触る。

 瞬間、カウンターが勢いよく燃え出し、炎が広がろうとして行く。

 だが、炎を操り炎の周りを一瞬真空にすることで消した。

 

「脅しじゃないぞ。次は店ごとやる」

 

「・・・・・・あれは、苦労して手に入れたワシの物だ」

 

「鞘から抜けなかっただろ?」

 

「ッ!!?」

 

「アレは俺にしか使えない。返せ」

 

「・・・条件がある」

 

 そう言って睨んでくる店主を相手に俺は少しあざ笑うような表情を浮かべて言う。

 

「言ってみろよ」

 

「鞘から抜くことができれb

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、普通に抜けた。

 刃部分は(はばき)から5cmほどの所で折れて無くなっており、大分軽くなってしまっている。

 だが、その刀身からは懐かしい気配が俺との再会を喜んでいる、そんな気がした。

 

「・・・・・・金は置いてく。これは俺が持ってくぞ」

 

 俺は財布の中身を全部出し、店主から視線を外す。

 店主は何も言わずに項垂れていた。

 

「ユウ、行くぞ」

 

「・・・なぁ、ソレって」

 

「『大宮さとし(オレ)』が自称侍の女と共にソイツの仇を追い詰めて色々あって貰ったアイツの刀だ。死んで離ればなれになったが世界軸が少し違うとはいえ再会できてよかった」

 

「だからお前はどんな生活してたんだよ」

 

「人助け」

 

 俺はそう言いながら店を出た。

 そんな俺の後を追ってユウが付いて来たのが分かる。

 腰には懐かしい刀を差されている。

 今日の気分は先ほどまでと違って高揚としており、今日はこれからいい日になりそうな気がしている。

 ・・・・・・そんな気がするってだけだが。

 

 

 

 

 

 

 とある少女がある男と共に街を歩く。

 二人は恋人関係という訳ではなく、恋愛感情がある訳でもない。

 男の名前は『宝生風夢』、医者である。

 少女の名前は『赤口キリコ』、記憶喪失の患者である。

 

 今、街を歩いている理由は少女の失われた記憶を取り戻す切っ掛けを探すためのモノである。

 記憶とは不思議なもので、ひょんな事が取り戻すピースになったりもする。

 それが何か分からない以上は出来る事は全て試す。

 患者を救う為に何でもするのが風夢の信念であり、決め事である。

 

「先生、ダメみたいです。何も引っかかりができません」

 

「そうか・・・。まぁ、それじゃあもう少しだけ散歩したら病院に戻ろう。ほとんど院内にいてようやく外出許可が出たんだ。少し楽しんでも誰も文句は言わないと思うよ」

 

「そうですね。それじゃぁ、ちょっとあのクレープ買ってください♪」

 

「・・・・・・1つだけだよ」

 

 風夢は財布を開いて中にある硬貨を一枚ずつ数えた。

 そして、

 

「あと、一番安いイチゴクレープだけだよ」

 

「は~い。すみませ~ん! イチゴクレープ5つください!」

 

「1つだけでお願いしますぅ!!!」

 

 少し涙目でそう懇願する風夢をみて、クレープ屋の店主は営業スマイルでイチゴクレープを作り始めた。

 そして、数分の後に出来たクレープをキリコは受け取り、鼻歌交じりに近くに設置されていた椅子に腰かけた。

 風夢もその向かいに腰掛ける。

 

「ふふ~ん。おいしそう♪」

 

「それはよかった」

 

「それじゃぁ、いただきま~s

 

 瞬間、近くの建物が大きな破壊音と共に崩れ去った。

 その衝撃でクレープはキリコの手から離れ、地面にベチャリと落ちた。

 キリコが振り向くとその視界に飛び込んできたのは全身に稲妻を纏う大男と六本の腕と強靭な足を持つ異形型の者が戦っている姿だった。

 

「くっ、(ヴィラン)か! 逃げるよ、赤口さん」

 

 風夢はキリコの手を持つと戦場から離れるべく駆け出す。

 だが、異形の者に稲妻男が吹き飛ばされ、逃走ルートに落下した。

 

 ―――マズイ、と風夢は思った。

 

 まだここには一般人がいる。

 同じ場所で戦っているならまだ何とかなるが、常に場所を変えられたらどれだけの被害が出るかなんて想像がつかない。

 風夢はヒーロー免許を持ってはいない。

 衛生省から出された許可により病院及び患者を守るために戦う許可は出ているが、街中で(ヴィラン)と戦う許可はない。

 この状況では逃げる事しか許されていないのである。

 

「・・・・・・・・・医療免許はく奪になるかもしれないけど、怪我人を増やすよりはそれの方が何倍も良い!!」

 

《マイティアクションX》

 

 風夢はガシャットを取り出し起動させた。

 瞬間、(ヴィラン)の方へと駆けて行く人影があった。

 

「ユウ、最初っから変身して行け。俺は少し『大斬刃』の試し切りをしてから変身する」

 

「だったら試し切りしてる間に終わらせてやるよ」

 

《デンジャー! クロコダイル!》

 

「変身っ!」

 

《割れる! 食われる! 砕け散る! クロコダイルインローグ! オラァ! キャー!》

 

 そして、駆け出していた少年の一人の姿が変化した。

 

「っ!! 『仮面ライダー』!!」

 

 風夢はそれを知っている。

 歴史の中に消えて行った伝説のヒーロー。

 彼自身もその力を受け継いでいる数少ない人物の一人である。

 だからこそ直感した。

 今戦いに参加した彼も受け継いだ者なのだろう、と。

 

「赤口さん、逃げるよっ!!」

 

 そう言って遠くへ行こうとした。

 だが、肝心のキリコが動こうとしない。

 ただジッと戦場を見つめているのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 俺は刀を鞘から抜く。

 刃のないソレで戦うのは無謀だと思われるだろう。

 だが、俺以外にこれを使える存在はいないと言って良い。

 

「久々の戦闘だぜ、相棒」

 

 俺はそう言うと同時にイメージする。

 一振りの大きな刃の姿を。

 この刀を使う為にはアイツらの使っていたよく分からない技術が必要になる。

 結局どんな仕組みなのかは生涯一度も理解できなかったが、それでもある程度法則が分かれば後は感覚で何とでもなる。

 

 瞬間、刀に光の刃が出現した。

 

 アイツら―――『退魔師』とかいう連中が使っていた・・・・・・えっと、確か生命エネルギーをなんとかしてソレをイメージにより外に出力して攻撃に利用する方法、だったっけ?

 よく分からないオカルト関係の事には深く関わっていなかったのでうろ覚えでしかない。

 だけど、今使えている以上は特に気にする必要はない。

 

 俺は六本腕の異形型のに襲い掛かる。

 異形男は右手を大きく振るってくる。

 その攻撃は身を低くして避け、勢いよく刃を振るった。

 この刃に殺傷性はない。

 あるのは、

 

「ッ!? なん、だッッ!!!」

 

「『豪刀・大斬刃 感斬形』。斬られた部分の感覚が一時的に失われる刃だ。その手はしばらく動かねぇぜ」

 

 俺の言葉を聞いた異形男の顔が歪む。

 片手(3本)を使えなくなった挙句に自分の分からない事を言われればそりゃ混乱もするだろう。

 

「さて、さっさと終わらせてやる」

 

「やられて、たまるかっっ・・・・・・!!!」

 

 異形男は残った片手でポケットから『何か』を取り出して口に含んだ。

 瞬間、異形男の筋肉が数倍に膨れ上がった。

 

「・・・・・・や~べぇ。“個性”をブーストする薬、か」

 

 試し切りするつもりで手加減してたのがマズかった。

 油断していたわけではないのだが、少し舐めてかかってたのが痛い。

 

「まだ完全に手に馴染んでねぇ武器を実戦で使うのはやっぱり駄目だったか」

 

 俺はそう自嘲気味に呟きつつベルトを装着する。

 

《スクラッシュドライバー ドラゴンゼリー》

 

「変身!!」

 










次回『再会と再動 ~これが祭りの始まり~』








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95話 『再会と再動 ~これが祭りの始まり~』

疲れた *o_ _)oバタッ

休憩してたら別作品(現在作成中)のネタが浮かび結局休めず、そんな悪循環を繰り返して書いてます。

あと、会社に来た新入社員の教育係を任されて休む暇が殆どありません。
ちったぁそっちでも面倒見てみろ教育主任(怒)。


今回少し短めです。


 少女は見た。

 自身の持つ道具と全く同じ物を使ってその姿を変えた戦士の姿を。

 その道具を取り出し、少しの間観察する。

 間違いない。

 完全に戦士たちの使っている道具と一致している。

 少女は―――赤口キリコはその道具を自身の腰にソッと当てた。

 

《スクラッシュドライバー》

 

 そして、もう一つのゼリー状アイテムを取り出すとそのキャップを正面に合わせた。

 それを少しおどおどしながらベルトにセットする。

 

《ロボットゼリー!》

 

「えっと・・・変身?」

 

 瞬間、キリコを中心にビーカー状のケミカライドビルダーが展開された。

 突然の事にキリコは戸惑う。

 

「へっ、ちょぉ、何なのぉ!!?」

 

《潰れる! 流れる! 溢れ出る! ロボットイングリス! ブラァァァアアアア!》

 

 ケミカライドビルダー内に満たされたロボットゼリーの成分がキリコの体を覆い、『仮面ライダーグリス』へとその姿を変えた。

 一応予想はしていたが突然の事にキリコの思考は一瞬停止した。

 だが、思考が停止していたとしても時間が停止している訳ではない。

 

 キリコ―――仮面ライダーグリスの姿を確認した(ヴィラン)が襲い掛かってきた。

 グリスはとっさに左手を前に突き出した。

 瞬間、襲い掛かってきた(ヴィラン)は大きく吹き飛びビルの壁に頭から突っ込んだ。

 あまりの力にグリスが唖然としていると、ちょうど一般人を逃がし終えた風夢が戻ってきた。

 

「先生~。なんか変なんですけどぉ~(涙)」

 

「赤口さん!? ・・・・・・変身できたんだ、仮面ライダーに」

 

「仮面、ライダー・・・・・・?」

 

「『超常』が起こるずっと昔に存在していた過去の英雄(ヒーロー)の事だよ。僕も、その力を受け継いだ人間の一人だったんだけど。やっぱり君も今あそこで戦っている彼らみたいに受け継いだ存在だったんだ」

 

「よくわかりませんよぉ~」

 

 少し涙目(仮面に隠れてて確認はできない)でそう言うグリスを相手に風夢はどうしたモノかと悩む。

 彼女はヒーロー免許を持っている訳ではないのでここで戦うのは法律違反になってしまう。

 風夢がそうしたものかと思考をしていると、物陰から(ヴィラン)が襲い掛かってきた。

 だが、横から紫色の仮面ライダーがその(ヴィラン)を蹴飛ばしてそのまま戦闘に移って行った。

 

「えっと、とりあえず変身解除してみよっか。やり方は・・・・・・ッ!! 避けて!!」

 

 風夢の視線の先にはこちらに向かって飛んでくる(ヴィラン)の姿。

 突然の事にグリスは足がすくみ、避ける事ができなかった。

 だが、その(ヴィラン)が二人に直撃する事は無かった。

 なぜなら、

 

「ったく。ユウの奴。ちったぁ周りを確認しろってんだ」

 

 白いボディースーツをベースに一部透き通るような水色のアーマーを纏った戦士『仮面ライダークローズチャージ』が飛んできた(ヴィラン)を受け止めていたのだ。

 クローズチャージはチラリとグリスと風夢を確認した後、少しギョッとした。

 仮面に隠れて見えなかったが、その雰囲気とビクリと震えた方がそれを物語っている。

 

「えっと、何かありました?」

 

「い、いいえ。何もありませんよお嬢さん。これは個人的な事なので気にしないでください」

 

「この姿なのに、なんで性別が分かったの?」

 

「・・・・・・・・・声です」

 

 クローズチャージはそう言って言葉を切ると飛んできた瓦礫を弾き壊す。

 

「とりあえず、戦えるなら戦って。っと言ってもこの戦場は俺たちで何とかなるから非難してる人たちを守る為に後方でね」

 

 それだけを言い残すとクローズチャージは戦場の中心へと走って行った。

 その後ろ姿を見た彼女の心はキュンキュンとときめいていた。

 理由は分からない、どうしてなのか考えても浮かんでくるモノは無かった。

 でも、一つだけ直感できたことはある。

 

 彼はきっとピースだ。

 自信の失った記憶を呼び起こすための。

 だから、少女の足は自然に戦場の中心へと向かって行っていた。

 

 

 

 

 

 

 俺はツインブレイカーにロックフルボトルを装填し、トリガーを引く。

 

《シングル! シングルフィニッシュ!!》

 

 瞬間、ツインブレイカーの銃口から鎖が飛び出し、(ヴィラン)を複数人拘束する。

 拘束にめちゃくちゃ便利だな、このボトル。

 前世で中古価格数千円で売られていたのはビビったよ、ホント。

 あぁ、無論俺は朝から並んで手に入れた。

 しっかりと朝(午前1時)から開店まで並んでな。

 

 こういった限定アイテムがクソ共の手で転売される現状は見ていて悲しかった。

 中には手に入らずに泣いている子どももいたからなぁ。

 可哀そうだったが俺も『使用用』『保存用』『観賞用』『予備×3』の最低限しか持ってなかったら何もしてやれなかったのは心苦しい経験だったよ。

 え? ロックフルボトルがその店頭からなくなった原因の一つが確実に俺のせいだって?

 ハハッ、勘のいいガキは嫌いだよ。

 

 俺が何人かの(ヴィラン)を拘束して戦場を確認していると、後方から呼ぶ声がした。

 振り向くと、どこかへ逃げるように言っておいたはずのグリスがこちらに向かって走ってくるところが視界に飛び込んできた。

 

「ねえ! 待ってよ!!」

 

「うげぇ・・・・。待たねぇ、さっさと逃げとけ」

 

「アナタ、私のこと知ってるんでしょ? さっきから態度にそんな雰囲気を感じるの」

 

「・・・・・・知らねえ」

 

「じゃあさ、この胸のときめきについて教えてよ」

 

「だから知らねえ。危機的状況で緊張してるだけだろ」

 

 俺がそう言うとソイツはズイッと顔を近づけて来た。

 

「そのあからさまに素っ気ない態度が怪しい」

 

「他人とそこまで関わりたくないだけだ」

 

「・・・・・・・・・嘘つき」

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「ううん、何でもない。・・・・・・それよりも、まだ(ヴィラン)がいるみたいだよ」

 

 ソイツのその言葉に俺は視線を周りに向ける。

 3人・・・いや、遠くからこちらを狙っている奴を含めて4人か。

 少しため息を吐いてから俺は言う。

 

「俺から見て5時の方向に一人いるからそっちを頼む。・・・・・・一応これを持って行け」

 

 ソイツにビートクローザーを渡してから俺は腰を落として突撃できる構えを取る。

 そして、一瞬で9時の方向にあるビル内にいた(ヴィラン)との距離を詰めてアッパーカットを繰り出して天井までカチ上げる。

 (ヴィラン)は天井に頭から突き刺さり、力なく手足をぶら下げており完全に意識を刈り取れたと判断して良いだろう。

 俺はその(ヴィラン)から視線を外してビル内から飛び出るとツインブレイカーをビームモードにして遠くからこちらを遠距離狙撃しようとライフルを向けていた(ヴィラン)を逆に遠距離狙撃して潰す。

 思っていたよりアッサリと攻撃が当たってびっくりした、うん。

 昔っから狙撃は苦手だったのだが、仮面ライダーになるとそこら辺も補助してくれるんだな。さすがライダーシステムと言ったところだろう。

 そう判断してアイツの方へ視線を向けると丁度一人の(ヴィラン)を倒したところだった。

 

「あと、一人だぜ」

 

「う、うん・・・・・・」

 

 ソイツの返事を聞きながら俺は最後の一人の方へ視線を向ける。

 (ヴィラン)は自身の危機を感じ取ったのか、慌てて近くの街路樹の方へと走り、振れた。

 瞬間、街路樹が(ヴィラン)の体に纏われ、その姿が大きく変化する。

 

「・・・・・・『樹木』もしくは『植物』を操る“個性”って所か。この感じからして薬使ってブーストしてるな、こりゃ」

 

「分かるの?」

 

「これでも実戦経験は多いからな、勘だ」

 

 俺はそう答えると、軽くストレッチをしてから質問を返す。

 

「必殺技の出し方は分かるよな?」

 

「????????」

 

「あ、分からないんだな。変身の時に降ろしたレンチを再度降ろすことで発動できるぞ」

 

 そう説明した瞬間、別行動をしていたローグが駆けつけて来た。

 遅いと文句を言いたかったが、基本的に雑魚退治を押し付けていたので特に何も言わない。

 これで文句を言うのは流石に理不尽と言うモノだ。

 

「ローグ、さっさと必殺技で潰すぞ、この樹木野郎を」

 

「人に面倒事を押し付けてきた挙句唐突にそr・・・わっ! なんであんd、ゴフェ!!」

 

「余計な事を言おうとするな」

 

「ねえ、やっぱり私の事知ってるよね?」

 

「知らん。・・・・・・それよりもさっさと終わらせるぞ」

 

 俺はそう言ってレンチに手を添える。

 二人もそれに合わせるように手を添えた。

 そして、同時にソレを降ろして必殺技を発動させた。

 

《スクラップブレイク!》

《スクラップフィニッシュ!》

《クラックアップフィニッシュ!》

 

 俺が最初に飛び上がり、それに続いて二人も飛び上がった。

 三人の足にはスクラッシュゼリー・クロコダイルクラックボトルのエネルギーが収束し蒼・金・紫に輝いている。

 それが最高潮まで高まると同時に一気に叩き込んだ。

 こうやっといてあれだが、こんなザコ相手にはオーバーキルした挙句に死体蹴りしてるほどの威力はあると思う。

 とりあえず死なない事を願っておく。

 

「ふう・・・・・・・・・こりゃ、やり過ぎたな」

 

「だよね。こんな相手に必殺技を叩きこむこと自体が色々と間違ってるんだよ。少しは冷静になれ、龍兎」

 

「名前で呼ぶなバカ」

 

 俺はユウの言葉にため息交じりにそう返してから視線を移動させる。

 

「変身を解除したければベルトのスクラッシュゼリーを引っこ抜けばいいぞ」

 

「え、あ、ありがとう」

 

 ソイツはそう礼を述べてからスクラッシュゼリーをベルトから抜いた。

 俺もそれに合わせてスクラッシュゼリーを抜いて変身を解除させる。

 変身が解除されて顕になったそいつの顔はやはり俺の想像通りで想定通りの人物の者だった。

 それを見て俺は軽くため息を吐いて仕方なしに呟く。

 

「久しぶりだな、あんd・・・・・・赤口キリコ」

 

 間違えて安藤と呼びそうになったのはご愛敬って事で。

 え? ダメ?

 








次回も遅れそうですごめんなさい(;´д`)


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96話 『加入。そして介入』

「久し、ぶり・・・・・・?」

 

 俺の言葉をキリコはそう反復させる。

 その顔には驚きの色が強く出ており、やはり何も言わずに去った方が良かったかもしれない。

 

「ああ、久しぶりだ。前世でも現世でも結局は俺と言う不運の糸に絡め捕られるったぁ運が悪いってレベルじゃねぇぞ」

 

「あの、何の話か分からないんだけど」

 

「知らなくてもよかったんだがな。いや、一生知らないままで平穏な生活を送っていてほしかった」

 

 少し、悲しかった。

 この刀が俺の手に戻ってきたことで無意識的に浮かれていたらしい。

 周りへの警戒を、周りの人間の顔を全て把握する事を怠ってしまっていた。

 敵意や悪意を持つ人間の把握ばかりに意識を置いて一般人全般を一括りにして個々を無視していた。

 もしもそれを怠る事をしなければ彼女をこのような世界に踏み込ませる事は無かっただろう。

 ああ、クソが。

 俺は本当に詰めが甘い。

 

 ギリッと無意識的に歯軋りをしてしまった。

 昔からのクセだ。

 イライラすると歯を食いしばってしまう。

 

「お前と一緒にいた白衣の男との関係は?」

 

「えっと、私が患者で彼が主治医さん・・・・・・」

 

 俺はその言葉を聞いて少し離れた場所で怪我人の応急処置をしている男を確認する。

 どうやら嘘ではないらしい。

 無論、疑っていた訳ではないが今のこの状況では一個一個の裏取りをしていかないと後々面倒くさいのだ。

 

 白衣の男を少し見ているとその近くで同じように怪我人の手当てをしている存在に視線が止まった。

 その人物はこの場にいるには不釣り合いであり、それでありながら一番この場に似合う存在でもあった。

 

「ッ! パラド!!」

 

「知ってるの? 宝生先生のパートナーの彼の事」

 

「宝、生・・・・・・!?」

 

 パラドの存在によりまさかと思っていたがその予想が的中した。

 どうやらこの世界は俺が望んでいたよりも、想像していたよりも絡み合っているらしい。

 元々少し前から予感していたが、その予感が確定しそうな気がして何だが気分が重くなってゆく。

 だが、今はその思考は置いといて手良いだろうと判断し、キリコの方へと視線を戻した。

 

「それじゃ、主治医さんの手伝いをして彼に余裕ができたら一緒に話を聞いてもらおう。ユウ、お前も手伝え」

 

「了解。ったく、今日は人使い荒いぜ」

 

 怪我人の方へと向かって行くユウの後に続いて俺も手伝いに向かう。

 バッグ内には応急処置用の道具がいくつか入っているのでそれを取り出しておく。

 え? アストロスイッチ(メディカル)使えって?

 便利なものに頼りすぎるのはいけないんだよ分かったかオラァ(逆切れ)。

 

 

 

 

 

 

 あれからしばらくの時間が経過した。

 怪我人の手当てが終わり俺たちはカフェに移動した。

 宝生先生とは自己紹介をしてついでにパラドとのツーショットを撮らせてもらった。

 うぇっへっへうぇっへっへ(気持ちの悪い笑い方)。

 これは、これはぁもう家宝にして一生大切にするしかなぁいなぁ(テンションマックス)。

 俺たちはとりあえずカフェ奥の席に座る事でなるべく誰かに会話を聞かれない様にする。

 無論、話す前に他言しない様に念を押しておいた。

 そして俺の関する話せることを全て語った。

 隠す所は隠したがそれでも話せるところは包み隠すことなく時系列順に。

 話し終わる頃には日が暮れていた。

 

「・・・・・・これで、全てです。なので俺はさっさとキリコから離れたいのですが」

 

「あ、うん。それは、ごめんね」

 

 キリコは顔を青くして謝罪してくる。

 

「ああ、まあいいよ。気にするな。全般的に俺が悪いから」

 

「ううん。いくら好きだからって誘拐解禁して【自主規制】で【自主規制】しようとしていたと思うと・・・・・・」

 

「若いって良いね、パラド」

 

「スマン風夢。バグスターにはそういった感情は理解できないんだ」

 

 少し気まずい空気が流れた。

 こういった所は苦手なので何とかしたいのだが、この状況を変える言葉が思い浮かばない。

 どうしたものかと頭を悩ませていると宝生先生が口を開いた。

 

「この子の記憶は、戻らないのかい?」

 

「過去に戻った人の例はありますけど特殊ケースですから何とも言えませんし俺個人としては戻って欲しくないです」

 

「だよね・・・」

 

 もうヤンレデは嫌だ。

 流石の俺もアレはトラウマ級の体験だった。

 鉛玉で心臓をぶち抜かれたり警察の特殊部隊に所属している人間二人と戦ったりよく分からない能力を使う般若面のヤツと戦ったりヒーローを名乗る団体に喧嘩を売って大暴れしたり神を自称する馬鹿と戦ったりしたがあの数日間の方が何故か怖かった。

 俺が昔を思い出して身震いをしていると宝生先生がまた口を開いた。

 

「それだったら、せめて彼女と一緒にいてあげてくれないかな?」

 

「と、いいますと?」

 

「彼女はまだウチの患者だからね。手続きが必要だろうけど、通院することを前提に退院させるから、一緒にいてあげてくれないかな?」

 

 その言葉に俺は「無理です」「嫌です」と答える前に今までずっと黙り込んでいたユウが答えた。

 

「いいですよ」

 

「ユウてめぇ!!!」

 

「いいじゃん。もう昔の話なんだから」

 

「アイツの顔見てると昔の事を思い出して胃がキリキリ言ってるんだよ」

 

「我慢したら?」

 

 ワオ、ここに味方なんていなかったんや。

 三対一(パラドは不参加)での口論は流石に不利だ。

 元々口論は苦手なんだ。

 口で戦うよりも戦場で相手を殴る方を得意としている。

 

「龍兎のトラウマだって事は聞いているし、確かに内容を知れば恐ろしく思う事もあるだろうけどさ。・・・・・・逃げるのは、お前らしくないだろ?」

 

「俺はこんなんでも何度かは逃げてるそ」

 

「それでも、お前らしくないんだよ」

 

 問答無用かよ。

 

「俺の知っているお前は誰が相手だろうと正面からぶつかって全部を乗り越えて行っている。なら、できるだろ?」

 

「・・・・・・チッ」

 

 俺はユウの言葉に舌打ちをした。

 過剰評価が過ぎる。

 前世でも周りの人間は俺への評価を過剰にしていた。

 別段大した事をしていないにも関わらずそれを特別な事のように取り上げて持ち上げる。

 ユウは俺の前世を知っているからこそそんな評価をそのまま付けているのだろう。

 期待と信頼の眼差し。

 俺は深くため息を吐いてから口を開く。

 

「分かったよ。条件を飲む。・・・・・・ただ、俺は普段寮生活で常に一緒に入れるとは思えねぇけどな」

 

 ため息交じりにそう言った瞬間、おずおずとキリコは右手を上げてから言う。

 

「あの、退院するにしても私は家無いよ」

 

 そもそもが駄目だった。

 行き場のない患者を病院側も無理して退院させる訳にはいk

 

「それだったらオレの店で住み込みで働く? ちょうど新しい店員来てほしかったし」

 

 ユウゥゥゥウウウウウウ!!!

 貴様ァァァアアア!!!

 

 回避できると思っていたのにぃ。

 いやね、俺もユウの店の二階の居住スペースが開いていた記憶あったよ。

 でもわざわざソレを言って自分を不利にしたりする事は無いでしょ?

 だからあのまま無理と言う流れが続けばよかった。

 

 俺が呆然としている間にも話は着々と進んで行き、キリコは退院してユウの店で住み込みで働く事が決定していた。

 それだけでなく俺は少なくとも週に一回会いに行くことが確定し、有無を言える空気ではなかった。

 やっぱりあれだ。

 多対一は不利だな、実戦の有無にかかわらず。

 

 ――――あ、いや、実戦での多数相手は得意だったわ。

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間が経過した。

 話し合いが終わってすぐ現地解散となり俺は街を徘徊していた。

 夜の街を見ていると昔を思い出す。

 

 毎日のように走り回って汗を流して時には血も流して、悪い意味で刺激的な日々だった。

 ある事件を追っている途中で別の事件に巻き込まれたりした事だって数えきれないほどあるし、人を救えなかった事件の後ですぐに人を救えた事件だってある。

 その逆もしかり。

 どれもこれも運が悪かった、と言えれば楽になれるのだろう。

 でも、それは言い訳でしかない。

 キリコが・・・安藤があのようになったのだって、俺が向き合っているつもりでしっかりと向き合えなかった事が大きな原因だ。

 だから、もしかしたらこれはやり直せる機会なのかもしれない。

 やり直すなんて烏滸がましいとは思っているが、それでも俺は聖人君主でなければ全てを容認して受け入れる事の出来る完璧な英雄(ヒーロー)じゃない。

 だからその気になってしまうのだ。

 やり直せるなら、もしももう一度出来るのなら・・・・・・。

 

 ああ、俺は何て傲慢な人間なのだろう。

 自身の限界を完全に理解しているくせにそれを何度も超えて、いつの間にか当たり前になっていた。

 常に気を張っているという事は精神的に大きく疲労する行為だと理解しながらも当たり前に続けていた。

 今回の事も、嫌だ嫌だと言いながらそれでもどこか期待していた・・・・・・気がする。

 

 俺は路地に足を向けるとビルの壁を蹴り登って屋上へと降り立つ。

 見上げる空は静寂が広がっているが、逆に見下ろす地上は人々が騒がしく行き交っている。

 こんな何気ない風景、これを平和と感じて昔に耽るのもたまには悪くは無いだろう。

 ソッと腰を下ろしてその当たり前で何気なくて、それでいてたくさんの奇跡によって生まれている平和な光景を眺める。

 

 無理だという事は理解っている。

 ソレを願っても叶わないという事は嫌程見て来た。

 でも、こんな日ぐらい願っても良いだろう。

 願っても誰かに文句を言われるようなことは無いだろう。

 

 ――――この、何気ない平和がずっと続きますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラッと視界が揺れる。

 突然の頭痛と目眩に一瞬脳が混乱するが無理矢理立て直す。

 だが、立て直しても暗転してゆく視界に変化はない。

 “何か”が起きた事は分かったがそれが何なのかが分からない。

 誰かからの襲撃や何かしらの攻撃ではないと思う。

 

 何も感じなかったから。

 

 殺気も、敵意も何も・・・・・・。

 だからこそこの現象を理解できないのだ。

 以前、よく分からない声と共に視界が揺れる事はあったがそれとは少し感覚が違う。

 薄れゆく意識の中、俺は呟く。

 

「ちく、しょ、うがぁ・・・・・・・・・」

 

 平和を願った途端発生したコレに対して、俺はそう言う事しかできなかった。

 それ以外、出来る事なんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チクタクチクタク。

 時計の針の動く音が鳴り響き続ける。

 その“何者か”の前で『世界』は大きく変わりだしていた。

 まるでビデオの逆再生かのように人々は『あの日』まで戻り続ける。

 

 “何者か”はその手に持つウォッチに視線を落としてからゆっくりと腰を上げた。

 

 そう、時間が『あの日』になったのだ。

 ここを改変すれば世界は大きく変化するだろう。

 平和の象徴を狙って少年少女らが襲われたあの事件を改変すれば・・・・・・。

 

 立ち上がった“何者か”――――“時の王者”は雄英高校内施設『U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)』へ向けて跳んだ。

 ソコで起きている(ヴィラン)による襲撃へ介入する為に。

 

 

 

 

 

 

 歴史を変える為に。

 




次回より『蛇足 編』開始。
多くとも4~5話で終わらせる予定です。
無個性 編のような悲劇にはしないとここで約束いたします。


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蛇足 編
97話 『蛇足①』


話にするのは短すぎて放置していたり書いていなかった裏話等の纏め。


その1

 

 雄英体育祭まで残り一週間を切った。

 緑谷たちのトレーニングは続いているが、そろそろ難易度を上げようかと考えている。

 そもそも単純な鬼ごっこじゃ相手の動きを予測する事と多少の体力作りにしか意味を成していない。

 だが、この年齢の彼らにとってはこれ以上レベルを上げるとさすがに体を壊してしまう恐れがある。

 昔の俺はこの程度準備運動にもならなかったが、少し前までただの中学生だった彼らに小学生の頃からあっちこっちで戦っていた俺レベルを求めるのはおかしいというのは流石に分かっている。

 なので、俺は全員の休憩時間に言う。

 

「はいは~い。注目~~!!」

 

 その言葉に全員の視線が俺の方へ集中する。

 

「もう雄英体育祭まで一週間を切ったが、俺と特訓していて自分で変わったと思うところはあるか?」

 

 その問いにその場にいた全員が何も言わずに少し困ったように眉を顰める。

 

「分からないようだから一人ひとり言うよ。緑谷は動きの無駄が少なくなってきている。切島くんと飯田くんと尾白くんも同じ。常闇くんはダークシャドウとの連携が上達してきている。上鳴くんは俺の教えた護身術が身に付きだしている、その調子だ。麗日さんは分かっていると思うけど浮かせれる物の重量が少し多くなった。芦戸さんは動きのキレが良くなったね。蛙っ・・・梅雨ちゃんは総合的に動きが滑らかになってる。葉隠さんは少し体力が向上。耳郎さんも同じかな?」

 

 俺の言葉に全員が納得したように頷く。

 まあ、納得している所は自身への評価ではなく周りへの評価だろうけど。

 

「そこを踏まえたうえで俺と少し手合わせしたい人~?」

 

「俺がやろう!!」

 

 一瞬の間もなくビシッと真っ直ぐ手を上げる飯田くん。

 うんうん、元気なのは良い事だ。

 特別に俺の専用必殺技凄いコンボを喰らう権利をやろう。

 

「よぉし、立てぇ!」

 

「よろしく頼むよ、機鰐くん!」

 

 ビシッと立ち上がる飯田くんを前に俺は構えを取る。

 そして、一瞬で彼との距離を詰めた。

 予想外だったのか彼の顔に焦りが浮かぶが特に気にする事は無い。

 

 素早く彼の鼻目掛けてジャブを繰り出して目潰しをする。

 素人は目に攻撃をすることを目潰しだと勘違いしている輩が多いがそれは違う。

 相手の視覚を一瞬でも奪えればそれが目潰しとなるのだ。

 顔への攻撃は反射的に目を瞑ってしまう為に大きな隙が生まれる。

 そこを狙って胸元と腕を掴むと背負い投げをし、彼の体が宙に浮いている間に手を放して背中に張り付くと足で左手を封じつつ右手を抱き込む形で首を絞める。

 

「なッ・・・・・・」

 

「これが俺より弱い相手に使える一対一戦闘専用の捕縛技だ。これは簡単にできる技の一つだから教えて欲しい奴は手を上げろ~」

 

「「「「「「簡単にできるかぁあああああああ!!!!!」」」」」」

 

 皆からそんなそうツッコミを受けた。

 いや、本当に簡単な技だよ。

 俺からしたらだけど。

 

 

 

 

 

 

その2

 

「ハァ・・・・・・」

 

 切島は昼休憩中に何気なくため息を吐いた。

 特に意識をしていた訳ではなく無意識的に外に出たモノだったが、それを見逃さない存在がいた。

 誰であろう。飯田である。

 

「切島くん、どうしたんだい?」

 

「あ、いや・・・・・・、ちょっとな」

 

「?」

 

 首をカクリと傾げる飯田に切島は少し躊躇った後に口を開く。

 

「俺さ、機鰐に嫌われているのかな・・・?」

 

「? 俺が見ている限りではあるが、彼は誰彼構わず隔たり無く接していると思うが」

 

「だよな・・・・・・」

 

 飯田の言葉を聞いて切島は少し俯いた。

 そんな二人の会話に少し離れた場所で聞き耳を立てていた蛙吹g「梅雨ちゃんと呼んで」・・・・・・梅雨ちゃんがソッと話に参加する。

 

「ケロ。それなら私が聞いてきてあげるわ」

 

「梅雨ちゃんナイスアシスト!!」

 

 突然の助け舟に切島はガバッと顔を上げてサムズアップをした。

 あまりの変わりように梅雨ちゃんは少しケロケロと笑ってから少し顎に指を当てて思考する。

 

「そういえば、機鰐ちゃんはどこにいるのかしら?」

 

「・・・大食堂で食事をしていた所は見たが、俺の方が早く食べ終えてしまったのでその後は知らないな・・・・・・」

 

 そんな飯田の言葉に切島は少し眉を顰めた後に言う。

 

「それじゃ、情報収集でとりあえず大食堂まで行ってみよう」

 

「そうね、もしかしたら向かう途中で出会えるかもしれないし」

 

「ああ、彼はいつも最短ルートで移動しているからな。行き違いはないだろう」

 

 こうして、満場一致で三人は移動を開始した。

 

 

~~切島パーティメンバー~~

 

・切島鋭児郎

・蛙吹梅雨

・飯田天哉

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 移動中、教室と大食堂との丁度中間ら辺まで付いた所で大食堂方面から見知った人物たちが歩いて来ていた。

 それを視覚した切島は手を大きく振りながら話しかける。

 

「緑谷! 常闇! ちょうどいい所に来た!!」

 

「き、切島くん、と飯田くんと蛙っ「梅雨ちゃんと呼んで」・・・つ、梅雨ちゃんも、どうしたの?」

 

「珍しい組み合わせだな。何かあったのか?」

 

「あ、いやぁ。実はちょっと機鰐のヤツを探しててさ、見てないか?」

 

 切島からのその質問に真っ先に答えたのは緑谷であった。

 

「機鰐くんなら食堂にいたけど」

 

「緑谷、本当か!?」

 

「う、うん・・・ね、常闇くん」

 

「ああ、俺も見たから間違いないぞ。・・・・・・一体何の用があるんだ?」

 

 不思議そうな顔をする二人に飯田は先ほどの事を説明する。

 話を聞いて行く内に二人も納得したような表情を見せた。

 

「確かに、切島くん相手だとなんか溝があったね」

 

「ふむ、実はそこは気になっていたからな、俺も同行しよう」

 

「常闇院っ!」

 

「その呼び方は止めろ!」

 

 こうして、見事なツッコミを受けつつ新たなメンバーを加えて大食堂への移動を再開するのだった。

 

 

~~切島パーティメンバー~~

 

・切島鋭児郎

・蛙吹梅雨

・飯田天哉

・緑谷出久

・常闇踏陰

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 大食堂に付いてすぐに切島たちは目当ての少年を見つける。

 昼の時間もあとわずかとなりつつあるにも関わらず、少年は山盛りになった空の皿を隣に置きながら未だに食事をしていた。

 その光景に切島パーティは言葉を出せずにいた。

 

 いや、感想を言えというのが酷だろう。

 テレビでもなかなか見ないような大食いが目の前で起きているんだ。

 それを脳が受け止めきれないのは仕方が無いと言える。

 

「えっと、とりあえず行ってくるケロ」

 

「梅雨ちゃん、ホントにありがとう・・・・・・」

 

 ゆっくりと少年に近づいて行く梅雨ちゃんの様子をパーティメンバーは見守る事しかできなかった。

 少し離れていた為に話声は聞こえなかったが、それでも円滑に話が進んでいる事だけは伺えた。

 そうして、数分後に梅雨ちゃんは少年から離れて戻ってきた。

 なお、少年は会話を終えてすぐに食事を再開している。

 

「そ、それで梅雨ちゃん、何て言ってた?」

 

「えっと、少し言いづらいんだけど・・・・・・」

 

 梅雨ちゃんはそう前置きをしてから言った。

 

「なんでも、古い友人に切島ちゃんみたいに熱血系の子がいて、その子の事を思い出して熱血に当てられそうだから一線を引いているんだって」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」」」」」」

 

 

 

 

 こうして謎は解けたのだった。

 

 

 

 

 

 

その3

 

 俺は自室のベッドで目を覚ます。

 なぜここを説明したのかと言えば、俺はよく寝落ちをする方であり、ベッドで寝ていること自体実は珍しいのだ。

 昨日は雄英体育祭で適度に動いたのもあってぐうっすり気持ちよく寝られた気がする、・・・・・・のだが、何か違和感がある。

 具体的に言えば左手が異様に重い。

 どこか嫌な予感をひしひしと感じつつもゆっくりと視線を向ける。

 そして、そこには予想通りの姿があった。

 

「何してんだよ、神姫・・・・・・」

 

「え、んん・・・・・・。おはよ、龍兎」

 

 眼を擦りながらそう言う神姫の反応を見て、俺は大きく息を吸って叫ぶ。

 

「何やってんだオメェエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」

 

 こういった事はラブコメだけにしろ。

 テンプレ過ぎて逆につまらないんだよぉ!!!

 

「うるさいよぉ。もう少しだけ寝かせて・・・・・・( ˘ω˘)スヤァ」

 

「スヤァじゃねぇよ起きろそして状況説明をしろ」

 

 俺がため息交じりにそう言うと、神姫は俺から奪った掛け布団にもぞもぞと包まりながら呟くようにもごもごと答えた。

 

「龍兎も男の子だからティッシュどれだけ消費しているか気になって侵入したのに全部が機械性油まみれでガピガピで独特の匂いを発するのがなくて白けたから寝てた」

 

「お前は新種の痴女かよ」

 

 幼馴染兼相棒のトンデモ発言に俺はそう返すしかなかった。

 しかも何事もなかったかのように二度寝をしている。

 ここが健全な男児高校生の部屋だという事を忘れているのだろうか・・・。

 少しは危機感を持ってほしいモノである。

 いやね、襲ったりはしないけどさ。

 

 危機感を一切感じない顔で寝息を立てている神姫の頬を俺は何気なくつつく。

 持ちみたいな弾力でかなり柔らかい。

 ・・・・・・雑煮食いたくなってきた。

 今日は一日中暇だしスーパーにでも行って食材買って来るか。

 時期的に雑煮は合わなそうだし餅も売ってないと思われそうであるが、ウチの近所にあるスーパーの品揃えは異常なほど良く、時期に全く合わない物ですら置いてあるのだ。

 コイツが起きたら買い物にでも誘うか。

 

 そんなことを思いながら神姫の頭をワシャワシャと撫でる。

 滑らかな髪が手を滑るような感触がある。

 

「ったく、お前は本当に成長しねぇな。神様にとって、俺との15年間ってのは一瞬の事なんだろうな・・・・・・。なあ、どうなんだ? 相棒」

 

 もちろん答えは返ってこない。

 それは分かっている。

 ・・・・・・ああ、本当に俺はちっぽけな人間だな。

 

 そう自己完結して、俺は僅かに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

その4

 

 夏休み。

 俺は学校のプールで優雅に泳いでいた。

 それはもう極々普通(・・・・)一般的(・・・)な泳ぎ方を。

 

「言っとくが機鰐、それは一般的じゃない!!」

 

 切島からツッコミが入ったがスルーしておく。

 ・・・・・・と思ったが変に思われるのも嫌なので説明だけしておく。

 

「古式泳法の『立泳』を改良したものだよ。少し古いだけで普通の泳ぎだ。気にするな」

 

「いや、あのな。上半身が水上に出ている状態での泳ぎはおかしい」

 

「まあ、そうだな。普通の『立泳』は胸のあたりまでしか出ないからなぁ」

 

「やっぱりそれはおかしいんだよ」

 

 うん。

 説明せずに完全スルーしておけばよかった。

 1を言えば2が返ってくる。

 俺は説明が苦手だし大っ嫌いなのだ。

 まだ隣でいろいろ言っている切島の言葉をスルーし、俺は一気に潜水すると足を細かに動かす事で発生する推進力を進み前に進んだ。

 水の中なら質問の声が聞こえるような事は無い。

 

 ちなみにだが、この後緑谷・切島・飯田を中心に泳ぎ方を聞かれた。

 結局指導することになって面倒くさかったし、爆豪にはいちゃもんつけられるし。

 ああ、散々だなぁ。

 参加するんじゃなかったよ、ホント。

 

 

 

 

 

 

その5

 

 ドンッッと鈍い音が鳴る。

 俺の拳を鳩尾に喰らった緑谷は腹を抑えて吐こうとする。

 だが、さっきから何度も吐いているせいもあってかもう胃液と唾液しか出ていない。

 

「ほら、どうした? 近距離戦の練習をしたいんじゃなかったのか?」

 

「ゲホッ、ウゲェ・・・・・・。ま、まだ、できるっ」

 

 緑谷は戦闘スタイルをパンチスタイルからシュートスタイルへ移行させたばかりだ。

 まだ戦闘に慣れているという訳ではない。

 だから、緑谷の方から戦闘訓練の頼みをされた。

 まあ、付け焼刃以上ではあるのだが、それでもまだ粗が目立つ。

 

「キックをメインにするのは良いが、そこを意識し過ぎだ。俺は基本的に全身を使って戦うから分かるが・・・一方を意識しすぎると隙が出来る。もう少し全体を見ろ」

 

「う、うん・・・。もう一戦、お願い」

 

「おお、いつでも来い」

 

 俺がそう言った瞬間、緑谷は全身に力を入れて一気に俺との距離と詰めて来た。

 だが、そんな直線的な動きではあまりにも弱い。

 振られる右での回し蹴りを俺は前に出る事で太腿に左手を当てる事で攻撃を受けて威力を殺し、それと同時に緑谷の顎にアッパーを食らわせた。

 それだけでなく、振り上げた腕を降ろし、脳天に肘を食らわせる。

 

「が、はっ・・・」

 

 緑谷の口から反射的にそんな言葉を漏らす。

 だが、気にすることなくその顔面を鷲掴みにする。

 普通の鷲掴みではない。

 人差し指と中指をまるで瞼を押し込むように掴んでいる。

 そうなると人は反射的に目を潰されまいと後ろへと逃げようにする。

 その反射を付いて手の手根部辺りで顎を押して一気にその体を空へと浮かせて勢いそのままに後頭部を地面に叩きつけた。

 

「ゔぁ゙ぁ゙っ゙っ゙・・・・・・」

 

「っと、スマン。少しやり過ぎた。ちょいっと確定勝利コンボパート2を使っちまった」

 

「だ、大丈夫だよ・・・。というか幾つかあるんだ・・・・・・」

 

「ああ、パート13まである」

 

 俺はそう答えながらフォーゼドライバーとメディカルスイッチを取り出し、念のために治療をしておく。

 

「ってか、お前は何で俺に指導して欲しかったんだ?」

 

「この前機鰐くんがやってた仮面ライダーの必殺技がキックだったから詳しいと思って・・・」

 

 その言葉に、俺はついため息を吐いてしまった。

 

「いいか、緑谷。仮面ライダーの必殺技は主にキックだ。そのほとんどが飛び蹴りだが、ハッキリ言ってお前が飛び蹴りをしてもそんなに威力は出ない。考えてみろ。飛び上がっている分、踏ん張りが効かないんだ。普通に威力のある攻撃をしたいなら地を踏みしめている方が良いんだ。見ただろう? 仮面ライダーの中にはロケットの推進力を使って攻撃している者もいるんだ。それを体一つで再現しようなんて無理。・・・・・・でも、ワン・フォー・オールによる推進力とパワーをつければ変わると思う。実際、無個性でもしっかりと鍛えた人が走る推進力そのままに飛び蹴りを出せばかなりの威力が出る。そこにお前の“個性”を上乗せすればとんでもない威力にはなる。だが、慣れていないままでやれば普通に人死ぬから駄目だ。だから・・・・・・、お前に教えるのはコレが良いだろう」

 

 俺はそう言い終えるとニヤリと笑う。

 

「さあ、死ぬ気で特訓しようか」

 

 

 

 数分後、体育館γ内に緑谷の悲鳴が響き渡った。

 




まだ続きそう。


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98話 『蛇足②』

不遇キャラは何時までも不遇なのだ。
そう、ヤムチャみたいに・・・。


その1

 

 エンデヴァーは不機嫌だった。

 つい数日前に出会った男が定期的に事務所に入り浸っており、今現在仕事に深い支障がないといっても流石に図々しいのではないかと思う事もある。

 来るのは構わない、仕事の手伝いをしてくれるのは正直言って助かっている。

 だけど、だからと言って他のサイドキックたちと平然と食堂で楽しそうに食事をしているのは何なのだろうか。

 

 お前はプロヒーローではないだろう、と何度もツッコミを入れたがその度にサイドキック達からブーイングが入る。

 あの男―――葛葉紘汰は基本的に好青年であり力も強くアクロバティックな動きも得意であり尚且つ戦闘においては天才的な動きや行動をする為に信頼が厚い。

 さらにはダンスを得意としている部分が若いサイドキック達の心をがっちりと掴んでいる。

 

 最近では『紘汰先生のダンス教室』と称してトレーニングルームを一つ使ってサイドキック達と暇な時間に踊っている。

 自由時間をどう使おうが個々の自由だしどうしていようが構わないが、踊っているサイドキック達が日に日に増えて行っている気がするのだ。

 別段それを咎める理由なんてないし逆にそれが事務所の空気をより柔らかくしているだけでなく現場での彼らの動きの向上に繋がってはいるのだが・・・・・・、

 

「なあ、葛葉よ。お前は仕事とかはしていないのか?」

 

「ん? いや、特にはしてないけど・・・」

 

 目の前にいる男の言葉にエンデヴァーはため息を吐く。

 ちなみに、今はエンデヴァーも休憩時間に入っており来客から渡されたケーキを食べている所であった。

 捨てるのは勿体ないからね。

 

「貴様は神を自称しているのだから少しはそれらしい事をしたらどうだ」

 

「神様らしい事って言ってもな・・・」

 

「・・・・・・普段は何をしているんだ?」

 

「森の管理」

 

 ノータイムでそう答えられ流石のエンデヴァーでも何も言えなかった。

 葛葉の声色から嘘をついていないのは分かるし、そもそも彼が変な嘘を吐くような人物だとは思っていない。

 その為、逆にどう答えればいいのか迷ってしまった。

 そんなエンデヴァーの心境に気付いていないだろう葛葉は何気ない様子で呟く。

 

「そういえば、最近なんか焦っているようだけどどうしたんだ?」

 

「っ・・・。キサマには関係の無い事だ」

 

「どうせアレだろ? 『強くなるため』ってヤツ」

 

「グッ・・・だ、だとしたらどうだっていうんだ?」

 

「いや、その・・・なんていうかな。俺の知り合いに強さを求めてたやつがいてさ、ソイツとどこか重なって見えてな・・・・・・」

 

「・・・その知り合いとやらはどうなったんだ?」

 

「・・・・・・俺と最後の戦いの末に、」

 

「それ以上は言うな。分かったから」

 

 さすがのエンデヴァーもこれ以上聞くのはマズイと判断した。

 過去の英雄『仮面ライダー』は現在のプロヒーローとは違う存在だと知っている。

 それが(一部を除いて)職業としてではなく運命の悪戯によって戦う事になった者たちであり、その戦いの中で命を落とした者や仮面ライダー同士で戦った事もあるという。

 葛葉も、そうなのだろう。

 仮面ライダー同士で殺し合い、そして、生き残った。

 

「キサマは、俺がそうなると思っているのか?」

 

「いや、そうは言っていないけど。ただ、やっぱり気になっちまってな」

 

「それなら、黙って見ていろ。俺は、俺のやり方で進む。俺のやり方で胸を張れるヒーローになる」

 

 そう、強く宣言した。

 宣言したのだが・・・・・・、

 

「ケーキを前にしてると迫力ないぞ」

 

「そこはスルーしろ!!」

 

 キメ切れなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

その2

 

 俺は発目に呼ばれて開発工房へと出向いていた。

 なんでも新しいアイテムが完成したというのでそのテストプレイヤーに選ばれたのだ。

 選ばれたのだが、ハッキリ言って人選ミスとしか思えない。

 俺は基本的にある程度のアイテムは使いこなせてしまう。

 それが設計不良の物でない限りなら構造さえ知れれば後は手に馴染むまでが問題であり、手に馴染めば使い続けるだけだ。

 

「っという事で見てください私の新しいベイビーを!」

 

「・・・・・・ゴム弾?」

 

「そうですそうです! 高スピードで15cmのゴム弾を発射して相手にダメージを負わせる最高のベイビーです!!」

 

「弾がでかいしそのせいで銃そのものもでかいし重いしそれ普通に相手の骨が折れるか当たり所悪かったら死ぬし、そもそも反動がでかすぎて撃った方もただじゃすまない」

 

 俺は発目に渡された設計図とサポートアイテム本体を見ながら欠点を上げる。

 過去に似たような兵器を見た事があったのだが、欠点もそっくりそのままで溜め息しか出ない。

 

「使えると思ったんですが・・・」

 

 バッサリとした指摘に少し肩を落とす発目。

 無論、励ましの言葉なんて送らない。

 数分もすればすぐに回復して新しいの作り出すから。

 だけど、これだけは言っておいても良いだろう。

 

「いや、使えるよ。でかい反動なんて体の動きで受け流してやればあってないようなものだし。・・・・・・まあ、出来るとしても俺ぐらいだろうけど」

 

「本当ですか!!!!?」

 

 一瞬で回復した発目は俺との距離を一気に詰めて来た。

 近い近い。

 おっぱい当たってるから離れろ。

 

「俺はな。俺以外は大分無理だと思うぞ」

 

「それでも使える人がいるっているのはいいデータになります。早速使ってみましょうか!!」

 

「押し付けてくるな、室内でやる訳ないだろ落ち着け馬鹿。こんな狭い部屋で撃とうもんなら跳ね返って二次災害を招くぞ」

 

「ならすぐに外に生きましょう!!」

 

「止めろ引きずるな。ってか人の返事を聞いてから行動しろ。・・・・・・聞いてんのか発目!!」

 

「そんな事よりもベイビーちゃんのテストが優先です」

 

「人を何だと思ってんだオマエ!!」

 

 発目は俺の意見も文句も全て無視して襟首を掴みズルズルと引きずって行く。

 あのさ、俺の体重プラスこの新しいサポートアイテム含めて大分重量ある筈なんだけどなんで片手で簡単にやれてるの?

 なんなの、ギャグ補正とでもいうの?

 等々疑問が浮かんでいる間に校舎の園にある開けた所に到着した。

 

「あそこの的を狙ってください」

 

「俺の意見は無視か・・・・・・」

 

 少しため息を吐きながらも俺は銃を構える。

 そして、思い切り踏ん張ると同時にトリガーを引く。

 衝撃が俺を吹き飛ばすよりも前に脱力して体の動きを利用する事でその場から動くことなく衝撃を全て受け流す。

 

「ふう・・・・・・俺自身も大分鈍ってるな。少し腕が痛い」

 

 そんな俺の言葉に発目は目を輝かせながら近づいて来た。

 

「どうでしたどうでした!? 威力は申し分ないとしても使ってみた感想を教えて欲しいのですが!!?」

 

「さっき説明した通りだよ。デメリットがでかい。小型化した方が良い」

 

「やっぱりそうですか」

 

 やっぱりってなんだオマエ。

 薄々気づいていたが自分でもこれがダメって事を理解してたろ。

 

「ありがとうございました! では、私は新しいベイビーちゃんを産み出さないといけないので」

 

「『生み出す』だろ。字が違うぞ」

 

 そんな俺のツッコミを発目は一切聞かずにさっさと校舎の方へと走って行ってしまった。

 無論、俺からサポートアイテムを引っ手繰って。

 ・・・・・・マジなんなんだよ。

 

 

 

 

 

 

その3

 

 大食堂でとある少年が一人黙々と食事をしていた。

 誰かと一緒に食べていようという気はなく、ひたすら栄養を大量摂取する為に。

 彼からすれば食事をするにおいて一番重要としているのは『エネルギー補給』でしかない。

 カロリーが高い? 太るから? 知った事かそんなもの。

 緊急時により早くより強く動くためにはそれ相応のエネルギーが必要なのだ。

 少年にとって食とは緊急時に備えた貯蓄であり、特に味などにこだわる事はしない。

 無論、美味しい事に越したりはしないが、多少不味くともエネルギーになるならなんだって食べる。

 過去、山の中で“敵”と数日懸けて戦った時なんてカエルを食べて生き延びたぐらいだ。

 多少のゲテモノなんてあってないようなモノである。

 少年の相棒も同じような考えで、エネルギー効率メインで食事をしている。

 どれだけ食べただろうか?

 彼の前に座る影があった。

 一応視線を上げて誰であるかを確認した後、すぐに視線を食事に戻して手と口を動かす作業に戻、

 

「あれれー!? 今視線上げて僕の方を見たのに無視するんだー! へー、A組ってそんn

 

 少年の前に座った人物―――物間寧人が何かを言い終えるよりも前に机の下で足を踏み抜いた。

 物間の指を、踵でだ。

 グギュッッという鈍く嫌な音が鳴り、物間は声にならない悲鳴を上げて硬直する。

 少年にとって、普段の平和で何もない時間こそ最も大切なモノであり、その間に“何か”が起きた時に備えて準備をしていたりするのだ。

 先ほども言ったが、食事もそうだ。

 食事中の少年にちょっかいを出すという事は体中に生肉をはっ付けて空腹状態のライオンがいる檻の中に素手で飛び込むようなものだ。

 つまり、足を踏み潰されただけで済んでラッキーと言える。

 少年は制服を自分専用に魔改造しており、上着だけでも5kg超。それだけでも振り回せば十分武器になるのに、さらにあっちこっちに凶器を隠し持っていたりする。

 余談だが、ちゃんと学校側からの許可は得てやっている。

 

「っ~~~~~~~~~~~~~。・・・・・・A組は何も言わずに人の足を踏むんだー! お里が知れるってこんなことを言うんじゃいないのk

 

 瞬間、物間の意識は刈り取られることになった。

 少年が胸辺りに隠し持っていた警棒を素早く取り出して物間の顎を揺らしたのだ。

 顎が揺らされるという事は脳が揺らされ脳震盪が起こるという事他ならない。

 もはや(一応生きているが)物言わぬ屍と化した物間を視界に収めることなく少年は食事を続けた。

 

 数分後、異変に気が付いて拳藤一佳が駆けつけた時にはもうその場に少年は居らず、足の爪を割られ顔に大量の悪口を油性ペンで書かれた物間だけがいたのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

その4

 

The()Sweets(スイーツ) Café(カフェ)】閉店時間後、中で会議が行われていた。

 カフェに関する会議ではない

 集まっている人物は以下の通り、

 

・通理 葉真

・剣山 騎士

・道力 強

・速川 翔

・投影 華武器

・猫澤 美寝

 

 もはや誰だよとツッコミを入れられそうな面子である。

 彼ら彼女らは登場したはいいモノの出番がない『ファウスト』メンバーである。

 言うならば不遇キャラ同士の集まりだ。

 葉真が最初に口を開いた。

 

「出番が欲しいかーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

「「「「「欲しいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!!」」」」」

 

 切実な願いだった。

 一回だけしか登場していないパターンや、短編は作られたけど作者が面倒くさがって大分重要部分を端折られたパターン、様々だがとりあえずここにいる連中には出番がない。

 キャラ設定どころか“個性”がどんなものだったか大分忘れ去られていたぐらいだ。

 そんな彼ら彼女らは少しでも出番が欲しいのだ。

 

 その為の会議。

 

 つまりはここで良い案を出せればもしかしたら出番が増えるかもしれないのだ。

 だが、彼らのそんな話を長々と書いてもつまらないので出番はバッサリカットする。

 

 

 理不尽だろうが何だろうが、知った事では無い。

 



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99話 『蛇足③』

蛇足編ラストォ
(少し抜けがあったので再投稿)


その1

 

 俺は態勢を低くしてヤツの懐に潜り込む。

 そして、拳を固く握りしめると突撃した勢いプラス全身の力を乗せて振り上げる。

 

(オレ)の拳ィ!!!」

 

 ガゴッという固い音と共にヤツ―――切島の顔が上へと向く。

 それだけに止めず腕と首元を掴むと体を回転させるような勢いそのままに地面へと投げ叩きつけ、さらにその勢いを殺すことなく前転をして踵落としを叩きこむ。

 

「ウグッ」

 

「ほい、俺の勝ちぃ」

 

 俺はそう宣言して大の字になっている切島に向けてピースをする。

 

「ってか、さっきの必殺技(?)はなんなんだよ・・・。何が何なのか分からなかったぞ」

 

「俺の必殺コンボパート5だけど、それが?」

 

「パート5って、1~4もあるのかよ」

 

「おう、あるぞ」

 

 俺はそう答えた後に少しだけ言葉を足す。

 

「まあ、中身はただのパンチとそれに続くコンボだけどさ。それでも名前を付けるだけでも意外と変わるんだよ。先生も言ってたろ? 覚えてるか?」

 

 その言葉に切島は少し言い淀んだ後におどおどと確かめるかのような口調で言う。

 

「確か、自分の中に自信のある型を作る事で自信を付けたり安定行動をとる為だったか?」

 

「正解。俺のさっきのパンチもそれだ。俺なりの型・・・・・・ただのパンチだけど」

 

 少し自嘲気味に俺は乾いた笑みを出す。

 元々は“あの馬鹿野郎”に対して使った技(?)なのだが、気付けばキメワザの一つになっていた。

 ああもちろんの話だがもう一つのキメワザはキック(飛び蹴りメイン)だ。

 

「でもいいよな、機鰐は。戦闘慣れしてるし、いくつか必殺技あってさ」

 

「そんないいもんでもねえぞ。俺の道は基本的に巻き込まれて飛び込んでだからな。平穏な生活で何もないのが一番さ。必殺技だって相手を牽制する意味で名前つけただけだし」

 

「牽制?」

 

「そう。戦闘ってのは戦いの中で笑っていたモンが強いんだ。相手からすれば『何かあるのでは?』『まだ余裕があるのか?』と疑問を持たせられるし、その疑問が焦りに変わる。格上が相手の時も俺はそれで相手のミスを狙って勝ち続けて来たからな」

 

「なるほど。なんか、笑顔でいるってオールマイトみたいだな」

 

「ハッ、確かに言えてる。・・・・・・なんかさ、オールマイトの話聞いてると俺とそっくりって感じるんだよな」

 

「その心は?」

 

「どちらも教えるのが下手でしょう」

 

 そんな自虐ネタに俺と切島はゲラゲラと爆笑する。

 今日はいい日になる、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

その2

 

 俺は彼女の作った強化スーツの下へと走る。

 強化スーツと言ってもアニメや漫画、某ア〇アンマンみたいな軽量化されて滅茶苦茶すっごいヤツではなく、着る人の体よりも二回りほど大きい外骨格という感じだ。

 脇や又、肘や膝の裏など動きに干渉する所以外をほぼ完全に覆い尽くすように作られており、頭も目の部分に透明の特殊モニターの付いたヘルメットをかぶる事で安全性を考えられた設計。

 元々は災害現場で重機を使わなくても救助活動ができるように作られたスーツであり、装着者の安全性をしっかり考えられたものになっている。

 

 ここはそんな未来のアイテムがたくさん集められそれぞれ発表する会場。

 ここは誰かの為に研究開発を続ける者たちが夢や希望を語る場所。

 

 俺が今求めているのは、彼女が未来への希望として作った道具。

 名前は『Hope Armor Suit』、略して『H・A・S』が保管されているであろう場所である。

 今、この会場は“ヤツ”によって占拠されている。

 “ヤツ”はここ数日で『H・A・S』の設計図を盗み出し、あろうことか兵器として造り替えやがった。

 元々、災害様に考えられていたが故に装甲は固く、拳銃なんて意味を成していない。

 だから、アレが必要なのだ。

 

 到着すると彼女の作った『Hope Armor Suit=№00』、通称『0号』はご丁寧に倒されていた。

 近づいて状況を確認してみれば背部にある制御盤部分がひしゃげており、ここをどうにかしないと動かないという事が分かった。

 直さないと動かない、ならば、修理をするしかない。

 彼女は言っていた。

 

『もしも基盤に何かあった時用に予備を作ってあるんだ。これを使えば何かあっても応急的にだけどこの子を動かせるの』

 

 初日に出会い『H・A・S』を紹介してくれた時に確かに言っていたのだ。

 そして、その応急用基盤のある場所は知っている。

 

 俺は彼女用の棚へ向かうとそこにある重要部品と基盤を持って0号の元に戻り修理を開始する。

 焦っては駄目だ。

 少しのミスが、少しのムラが致命的になる。

 見て来ただろう、この0号に未来への希望を見た人たちの輝く目を。

 この機体に未来への願いや想いを書いていた人たちの笑顔を。

 チラリと視線を動かせば0号の装甲に書かれた不特定多数の人々のサインが目に映る。

 それが、俺に力を与えてくれる。

 5分ほどで修理を終わらせて俺は起動確認に入る。

 機械音と共に0号の電源が入り、AIによる確認でも問題なく動くことが分かった。

 ならば、することは一つだけである。

 

 0号は試験的に装着させてもらった。

 その時にどのように着るのかは記憶しておいた。

 俺は0号を素早く装着すると、念のために動作確認をしておいた。

 

 ――――よし、問題なく動く。

 

 そう判断すると同時に部屋の扉を蹴破って廊下を駆け抜ける。

 最高時速を出したいのは山々だがこんな狭い廊下でそんな事をしようものなら曲がり角で制御を失って自爆するのが目に見えている。

 だから、普段の俺の速度で走るしかない。

 ヘルメットの耳部分についているスイッチをを操作すると視界を塞がない程度にマップが表示され、“ヤツ”がどこにいるかが分かった。

 

 中央展示会場のど真ン中。

 

 確かあそこには・・・・・・。

 それに気づくと俺は無意識的に舌打ちをしていた。

 “ヤツ”は『H・A・S』の設計図を盗んだ理由は兵器として使う面が多いだろう。

 だけど、今現在“ヤツ”がしようとしているのはただのゲス行為だ。

 夢や希望を未来に託した彼女を侮辱する行為に他ならない。

 

「・・・・・・行くぞ、0号。お前の親を助けよう」

 

 俺は廊下前方の大窓へ全力で駆ける。

 コイツなら、あの程度の強化ガラスなんてあってないようなものだ。

 ガッシャァァァアアアアンッッという大きな音と共に俺は空中に投げ出される。

 大丈夫、この程度の高さなら生身の時でも十分着地が出来る。

 しかも今はコイツが一緒だ。着地と同時に走る事だって一切の難はない。

 

 地面に足が付くと同時に飛ぶように跳ねる。

 そして、中央にいる“ヤツ”目掛けてロケットのように突撃した。

 予想外だったらしく防御はされずに綺麗に決まった。

 大きな音を立てて転がっていく“ヤツ”を視界の端に収めつつ周りの状況を確認する。

 

「ッ! あの、馬鹿!!」

 

 中央にある台座の近くには頭から血を流す彼女が横たわっていた。

 きっと、彼女は止めようとしたのだろう。

 自分の希望をこんなことに使われない様に、必死に。

 俺は逃げろと言ったはずだ。

 だけど、それでも彼女は研究者として、開発者として必死に抗ったのだ。

 ならば、後はこっちの仕事だ。

 

「オイ、立てよクズ野郎! テメェの狙い・・・・・・この発表会最優秀者に贈られる『オリハルコン』は絶対に渡さねぇ。これは、未来に希望を託す研究開発者たちが使うべき金属だ!!」

 

「グッ、ガキが!! それは世界を変える金属だ!! 俺のような研究開発者が使ってこそ価値がある!!!」

 

「ヘッ、戦争屋に渡してたまるかよ!!」

 

 俺が跳ぶと同時にヤツも跳んだ。

 空中でのぶつかり合いは無論、俺の負けだ。

 そもそもの重量が違う。

 俺の0号の総重量が150kgに対して、ヤツの『H・A・S』の総重量は350kgほど。

 倍以上の違いはやはり馬力にも影響してくるし、正面からのぶつかり合いは不利だとハッキリわかった。

 ならばやる事は一つ。

 

 “ヤツ”は俺を掴むと一瞬の間もなく壁へと投げつけて来た。

 もちろん当たればただでは済まないし、0号には致命的なダメージが入るだろう。

 だが、この程度の速度なんて先月の事件に比べたら遅い。

 俺は体を回転させて壁を蹴ると“ヤツ”の周りを周回するように走る。

 いくら補助されているとはいえ大きく重いという事は細かい動きには弱い。

 さらには急造設計のせいで0号と基本形状の変化がほとんどない。

 つまり、弱点もそっくりそのままという事だ。

 

 近くにあった手すりを千切るように掴み取ると一気に距離を詰める。

 そして、“ヤツ”が迎え撃とうと大振りの拳を振りかぶった所で出来た脇の隙間を手すりでぶん殴る。

 刺してやってもよかったが、さすがに人殺しはしたくない。

 時間がかかるのは理解しているが、それでもチクチクとダメージを与えるのが確実だろう。

 

 

 

 ―――さて、何分経過しただろうか。

 やはりと言うべきか何と言うか、応急用基盤が悲鳴を上げているのが感覚で分かる。

 正確に言えば補助がどんどん利かなくなってきたのだ。

 そもそもメイン基板が壊れた時に少しの間だけ制御するために設計された物なのだ。

 こんな長時間稼働させることを考えられていないし、それも戦闘での使用なんて想定外の壁を幾つも突破して大気圏外へと思考が飛んで行ってしまっている。

 “ヤツ”自身もボロボロであるがこっちも何度も攻撃を喰らい流石にダメージが大きい。

 俺は大きく息を吸って静かに呟く。

 

「・・・0号、お前の最後の力を貸してくれ。アイツをぶっ飛ばして、それで希望を取り返すぞ」

 

 リミッターを解除する。

 これは・・・、0号は彼女がついでと言わんばかりに自身のロマンを詰め込んでいた機体でもあるのだ。

 最終隠し機能として一定時間だけ全ての機能を大きく底上げする仕組みがある。

 嬉々として教えてくれて本当に良かった。

 それが無ければこれに、彼女ロマンに賭けるなんて事は思いつかなかった。

 ホント、何がどこに繋がるか分からないのが人生ってやつだな。

 

 ビキッバチバチバチバチバチィィィッッッッッ!!!!!と大きな音と共に0号全体に稲妻のようなものが走る。

 リミッター解除稼働時間は10秒程。

 速攻で決着を付ける。

 

 俺は地面を強く踏みしめると一気に跳んで距離を詰める。

 いきなりの速度上昇に“ヤツ”は反応出来なかったようでガードしようとしているのは見えるが、あまりにも遅い。

 懐に潜り込み頭部装甲の顎部分を掴むと上へと跳ぶことで剥ぎ取る。

 だが、そもそも丈夫な素材で作られているせいもあってか上手く取る事ができず、頭部を完全に露出させることはできなかった。

 それでも、顔への衝撃で“ヤツ”は反射的に目を閉じている為にこっちの動きを判断できていない。

 俺は“ヤツ”の肩を掴んでブレーキを掛けるとその背中に蹴りを叩き込む。

 一発だけじゃない。

 連続で何発も、何十発も蹴り続ける。

 そして、“ヤツ”の背中を蹴り跳んで地面へと着地すると同時に再度跳び上がりその背中の基盤目掛けて拳を振るう。

 

「喰らっとけ! 未来へ託した者(オレたち)希望(コブシ)ィ!!」

 

 ズッドォォンッッッ!!!!!という大きな衝撃音と共に“ヤツ”の体は大きく吹き飛び壁へと叩きつけられた。

 それと同時に0号も機能を停止し、ただの重いナマクラへと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、聞いてますか?」

 

 メリッサの言葉に俺はハッと顔を上げる。

 そして、

 

「スマン。ちょっと考えごとしてた。ンで、どこまで話進んでたっけ?」

 

「I・アイランドの原点についての話よ。ねえ、デクくん」

 

「そうだよ、機鰐くん。元々は新たな発明を発表するために作られた大きな船で、超常発生後に様々な変化を経て今の形になったって所までだよ」

 

「あ~、そうだったな続けてくれ」

 

 俺たちが今いるのはI・アイランドのメリッサの部屋でなんやかんやあってここの歴史についての話を聞いていた所である。

 その話を聞いていたのだが、懐かしい話が出て来て少し昔を思い出してしまっていた。

 

「えっと、それで過去にその発表会場で『人工オリハルコン』を狙った事件は正体不明の誰かが止める事で防がれたの。・・・犯人が防犯カメラをほとんど破壊していたせいでそのヒーローの正体が分かる事はなかった。それから超常が発生してプロヒーローが登場した事で、その事件の際に使われた『H・A・S』のシステムを基に今のヒーロースーツの補助装置が作られることに・・・・・・、

 

 俺はメリッサの言葉を聞きながら託した未来の形を快く思う。

 あの日、あの時、俺たちが望んだ未来が今輝いているという現実はとてもいいモノであった。

 

 少しだけ、俺は心の中で呟く。

 

 

 ―――――――お前のロマンは、人を助ける大きな功績を残しているぞ。

 

 

 と。

 

 

 

 

 

 

その3

 

 俺は目の前にいる少女の顔をジッと見つめる。

 少女は俺に気付いて顔を赤くすると読んでいた本で顔を隠す。

 だが、気にせずその姿を観察し続けているとその少女の方から口を開いた。

 

「あの、な、なんなの?」

 

 おどおどとそう言う少女―――暗視波奉の問いに俺は答える。

 

「いやさ、前世でお前そっくりのヤツを見た覚えがあってな」

 

「わた、私の服装は地味だからそう思えるんじゃない?」

 

「ん~、最初はそう思ってたんだけどさ。でもなんか色々と一致するんだよな。・・・・・・あの子は小学生だったけど」

 

「そう、なんだ・・・・・・」

 

 そう答える暗視の声を聴きながら俺は少し思案する。

 そして、ポツリと言った。

 

「ん~、でもよ。他の所でもそっくりのヤツを何度か見た覚えがあるんだよな。・・・小学生のあの子以外のヤツとは直接顔を合わせたわけじゃないけど。それに、その小学生の子は『はっちゃん』って呼ばれていてさ。なんか、」

 

 俺がそこまで言ったところで突然目の前が真っ暗になった。

 暗視の“個性”であると気付いた時には遅く俺は今自身の状態がどのようになっているのかが判断付かなくなっていた。

 先ほどまで座っていたソファーの感触もなく、まるで何もない空間に放り出された勘か悪に陥る。

 そんな俺の耳に先ほどまで話していた少女の声が入ってくる。

 

 

『あーあ、気付いちゃったか。まったく、世の中には知らなくていい事があるってのに君って人間は深く詮索しようとするね。・・・でも、それが「救いの英雄」と呼ばれる愚かしい君の性ってモノなのかな? まあ、いいや。とりあえず“今回はここまでだった”って思っておくよ』

 

「な、何を言っt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は自室のベッドで目を覚ます。

 窓から射す日の光は朝の訪れを感じさせ、それが眠気を飛ばしてくれた。

 いつものように体を解すと俺は何気なく呟く。

 

「そういや、昨日っていつぐらいに寝たんだっけ?」

 

 少し腕を組み思い出そうとするが何故か出てこない。

 まあ、疲れていたんだろう。

 そう判断すると俺は着替えていつものように部屋を出た。

 










次回より、最低最悪の魔王 編スタート。






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最低最悪の魔王 編
100話 『崩壊した世界で』


本編記念すべき100話に行きました。
当初、この作品は50話も行かないだろうと想定していましたがまさかここまで行くとは・・・。

っという訳で今回から『最低最悪の魔王 編』が始まります。
実はこの話自体、『林間合宿 編』時点でネタの一つとして面白そうだと想定していたのですが、まさかここまで続くと思っていなかったので没ネタ扱いでした。
でも、ここまで続いてしまったのでinゴミ箱だったこの話を始めようと思いました。

ゆっくり楽しんでいただけるとありがたいです。


 目を覚ますとそこは廃墟の中の様であった。

 俺はガンガンと痛む頭を抑えながら気を失う前の事を思い出す。

 たしか、街を眺めている時に急に視界が歪んで、

 

「ッ!!」

 

 そこまで考えた所で俺は自身の体の様子を確かめる。

 怪我や異変等は見受けられず何かが変わった様子はない。

 なのだがそれが逆に強い違和感を発している。

 俺は慌てて廃墟の窓から外を確認すると、そこは廃れた世界だった。

 

 某世紀末を思わせる風景であり、モヒカン肩パッド野郎が「ひゃっはー」と言っていれば違和感なさ過ぎて感心してしまいそうなほどひどい惨状になっていた。

 建物は一部崩壊しつつも形を保っている物から完全に崩壊してただの瓦礫と化している物もあり原形を留めていない。建物だけではなく街並み全てが、だ。

 チッ、と舌打ちをする。

『何か』が起こったのは確定だろう。

 だけど、その『何か』が分からない。

 スマホを取り出して中身を確認するがその全てが元のままだった。

 日付も、纏めておいた情報も、その全てが。

 代わりと言わんばかりに圏外になっていたのは腹が立った。

 これじゃ今の日付が分からない。

 時間は日の傾きである程度予測できるが、それも季節によって変わってしまうので日付は普通に知りたい。

 

 思考を走らせながら外を確認していると悲鳴が聞こえた。

 声の方へと視線を向けると親子と思える女性二人が男三人組から逃げている所だった。

 

 ――――助けよう。そしてついでに情報を聞き出そう。

 

 頭の中にそれが浮かぶと同時に俺は反射的にビルドドライバーを取り出そうとして―――そして、取り出せなかった。

 一瞬思考が停止する。

 普段なら取り出そうと思った時にはもう手の中にあるのだ。

 でも、今現在手の中に馴染んだドライバーの感覚は一切ない。

 焦りが出てきたがそれを押し殺すと素早く腰に手をかざしてアークルを出そうとして――――出ない。

 ・・・・・・オルタリング―――出ない。

 ・・・・・・Vバックル―――そもそもカードデッキすら出ない。

 ・・・・・・ファイズドライバー―――出ない。

 

 止めよう。

 ここで平成ライダー20年分試して全部無理だったらただの時間の無駄だ。

 俺は窓から飛び出すと炎の羽を展開しようとして――――炎の羽が出ずそのまま地面へと激突した。

 ああ、久しぶりに着地ミスをした気がする。

 怪我はメダル化した後に戻った為に全ての力が失われた訳ではないのだろう。

 それを頭の片隅に置きながら俺は全力で駆け抜け、そして、

 

「必殺! 通りすがり鷲掴みジャイアントスイング!!!!」

 

 男の内の一人を掴むとソイツを回転させて周りにいた仲間をなぎ倒す。

 俺は男たちの意識が完全に俺に向いたのを確認してから親子と思う二人組に視線を移すと叫ぶように言う。

 

「逃げろ! 早く!!」

 

 その言葉に二人は慌てて走り出す。

 逃げる方向を確認してから俺は男たちの方へと視線を戻し、言う。

 

「俺、参上!!」

 

 無論、あのポーズをしっかりと決めた。

 昔から決めポーズの練習はしっかりとしていたのでミスター仮面ライダーの某レジェンドのあのお方そっくりにできたと思う。

 男たちは一瞬ポカーンとした後に怒りの色を顔に浮かべる。

 

「ふざけてんじゃねえぞ!!」

 

「エモノ逃がしやがって、ヒーロー気取りか!!」

 

 ヒーロー気取り、ねぇ。

 確かにそうかもしれない、俺はヒーローに憧れたし、誰かの救世主になりたかった。

 でも、それは過去の話だったりする。

 さてと、俺は近くに落ちていた石を幾つか掴むと大きくため息を吐いた。

 

「ったく。・・・・・・お前らに言っておく。俺は今情報が欲しい、情報さえ吐けば特別に見逃してやる。痛い眼には会いたくないだろ?」

 

「っ!! ふざけんn、

 

 俺は激高して手に炎の球(?)を出現させた男のゴールデンボール目掛けて石を投げつけた。

 

「人の話を聞こうか? 俺は今大変気分が良くない。情報を教えれば助けてやると言っているんだ。・・・・・・どうする?」

 

「イキがってんじゃねぇぞ、ガキィ!!!」

 

 せっかくの忠告を無視した馬鹿が殴りかかってきた。

 俺は一歩下がる事でその攻撃を避けると空ぶって隙を晒したソイツの鳩尾に膝を叩きこみ下がった頭に肘を降ろして意識を刈り取る。

 

「・・・・・・言ったよね、気分が良くないって。俺が“個性”を使うよりも前に情報言えよ」

 

 残った男は仲間二人が瞬殺されたことでようやくレベルの違いを悟ったらしくおとなしくなった。

 

「質問だ。世界がこうなる前に何があった?」

 

「? オマエ、なんでそんな当たり前な事を知らないんだよ」

 

「少し前まで意識不明の重体で入院してたんでな。情報に疎いんだ」

 

「入院していたようなヤツの動きじゃねえよ・・・」

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「いいえ何でもありません」

 

 少し殺気を向けてやれば素直におとなしくなってくれた。

 うんうん、それでいいんだ。

 

「さて、どうして世界はこうなったんだ?」

 

「・・・・・・オールマイトが殺されたんだよ。数か月前にな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

 男の言葉に俺はそう漏らすしかできなかった。

 俺の様子に男は少し眉を顰めるもすぐに面倒くさそうな表情になり言葉を続ける。

 

「突然の事だったよ。TV見ながらいつも通りの生活を送ってたら急に『王』を名乗るヤツが全てのチャンネルをジャックして世界に宣戦布告をしたんだ。最初はみんなオールマイトの死なんて信じてなかったけど、すぐにネット上にオールマイトが殺される映像が投稿されて、それで世界の秩序は崩れた」

 

「・・・・・・そこは、雄英高校の『USJ』って施設か?」

 

「そうだ。その場にいた生徒のほとんどが殺され、女子生徒は数名が連れ去られた。そこからだよ。『王』不死身の軍団と共にプロヒーローたちを殺しまくったのは」

 

 男はそこまで行ってチッと舌打ちをした。

 

「最初はプロヒーローたちも抵抗してたさ。でも、平和の象徴(オールマイト)がいなくなったってのはあまりにも大きかった。オレは裏社会のバイトで稼いでるただのチンピラだったけど、そんなオレでも変化に気付いたさ。・・・・・・ここまで言えば分かるだろ?」

 

「抑圧されていた(ヴィラン)連中が『王』に付いた、か」

 

「正解。それだけじゃねえよ。プロヒーローの中には金稼ぎのためにヒーローやってたクズもいるからな。ソイツらも保身のために『王』の下に行ったよ」

 

 戦力が偏り過ぎだ。

 そりゃ世界もこんなふうに荒廃してしまうだろう。

 真面目にプロヒーローをやっているヤツもいるだろうが、それでも多勢に無勢だ。

 あまりにも差が激しい。

 

「まあ、オレみたいにフリーで生きて行ってるヤツもいるけどさ。・・・・・・ああ、生き残った者たちのほとんどは『抵抗軍(レジスタンス)』を名乗ってあっちこっちに小さな拠点作って生活してる」

 

「なら、一番近い『抵抗軍(レジスタンス)』の拠点に連れていけ。そこならもっと情報が集められそうだ」

 

「ウゲェ・・・・・・」

 

「案内しろ。俺の予想が正しければ、俺は世界を修正しないといけないんだ」

 

 俺の言葉に男は怪訝そうな顔をする。

 だが、大きなため息を吐いて後頭部をポリポリと掻きながら言った。

 

「まあ、オレもこんな生活には飽きてた所だしな。オマエに付いて行ってやるよ」

 

「・・・ありがとよ。ああ、俺の名前は『機鰐龍兎』だ」

 

「オレは・・・・・・『マサキ』とでも呼んでくれ。それが通り名だ」

 

 自己紹介を終え、俺たちは握手をする。

 無論、信じてはいないし警戒を怠るつもりは一つもない。

 だけど、今はとりあえず使えるモノは何でも使って行かないと、な。

 

 

 

 

 

 

 30分ほど歩いたところにいくらか形を保った廃墟群が見えて来た。

 マサキのいう事が正しければあそこが拠点の一つらしい。

 上には見張り台のような物があり、そこに見覚えのある人物が見えた。

 それを視覚したと同時に俺は手を振って叫んでいた。

 

「おーーーい! 芦戸さーーーーーん!!!!」

 

 向こうもこっちに気が付いたらしく無線機のようなもので何かを伝えているのが見えた。

 そうして数分後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、マサキ。これってどういう事だと思う?」

 

「当たり前だが警戒されてんだよ。気付け馬鹿」

 

 俺とマサキは拠点内の簡易的な牢屋に後ろ手を縛られた状態で放置されている。

 やはりと言うか何と言うべきか。

 ニセモノだと思われているらしい。

 いやまあ、それはしょうがないと言えるだろう。

 USJが襲撃されたのは入学間もない頃だ。

 俺との関りなんて大分薄いし、あんな事件を経験すればそりゃ警戒心も高くなる。

 

「馬鹿ってなんだよ~。これでも成績は良い方なんだぞ~。社会に出たら成績なんて意味ないけど」

 

「オレだってこれでも高学歴だ。それでも社会のはみ出し者状態だよ。学歴や成績なんて社会じゃほとんど意味成さなかったよ」

 

「おお、当たり前のことをよくご存じで。褒めてやる」

 

「どこ目線だ」

 

 マサキとそんなバカみたいな会話をしていると誰かがこちらへと来る気配があった。

 敵意のようなものは感じるがどちらかと言えば警戒している感じが強い。

 気にせず駄弁っていると見知った人物と知らん奴らが来た。

 

「ん? よお、芦戸さんと蛙吹さn「梅雨ちゃんと呼んで」・・・・・・梅雨ちゃん。久しぶりだね」

 

「・・・・・・本当に、機鰐くんなの? でも、確かにあの時に」

 

「死んだ、と思っていたと」

 

 俺の言葉に芦戸さんの肩がビクリと震えた。

 その反応で何があったのかを何となく理解したがあえて口には出さない。

 そして、

 

「そこの人。ちょいっとその手に持ってる銃で俺の足撃ち抜いてくれない?」

 

 一瞬、空気が凍った。

 その空気の中で最初に口を開いたのはマサキだった。

 

「頭でも狂った?」

 

「生きてる理由を説明するのが面倒くさい。実際に見てもらった方が早い」

 

 そんな俺の言葉に芦戸さんの隣にいた男はオドオドしながら言う。

 

「ナイフじゃ駄目ですか?」

 

「あ、そっちの方が良いならいいよ」

 

 俺がそう了承すると男は牢屋の中に入って来て俺の足を少しだけ斬った。

 切り傷からは少し血が流れるがすぐにメダルと化し数秒で元に戻る。

 

「って事で超回復持ちなんだよ」

 

「待って。それじゃおかしいじゃん」

 

「ハイ、芦戸さん。何がおかしい?」

 

「だって、機鰐くんの“個性”って変身系だったもん」

 

「変身の応用だよ。体を変化させれるって事は怪我を無理矢理塞ぐこともできるんだよ」

 

 ちょっとウソが混ざっているが気にするでない。

 人を納得させるには真実とほんの少しのウソがあった方が良いのだ。

 俺が変に表情を崩さず平然としていると芦戸さんは両手でズボンをギュッと掴んで俯いた。

 

「生きてたならさ、なんで、なんであの時にっ・・・・・・」

 

 言葉はそれ以上続かなかった。

 いや、続ける事ができなかったと言った方がいいだろうか。

 先ほどマサキが言っていた。

『USJの事件の際にほとんどの生徒が殺された』と。

 何人が死んだのか、誰が死んだのかはマサキも知らなかった為に俺も分からない。

 だけど、みんな死んだとなると俺が生きていて、数か月経って現れたのはやはり怪しい。

 俺もそんな状況に対面したら怪しみまくるだろう。

 

「怪しむなら数日様子でも見な。俺は一切の敵意はないし、もしも怪しいと思って、信じられないならその手で殺しな。・・・・・・まあ、その時はコイツ―――マサキは助けてやってくれな」

 

「オレは巻き込まれただけだから今すぐにでもここから逃げ去りたいんだけど」

 

「ドンマイ」

 

「軽っ!?」

 

 マサキは眉を眉間に寄せてツッコミを入れて来たが笑ってスルーをしておく。

 

「ケロ。ねえ、機鰐ちゃん。私たちはね、凄く傷ついているの。・・・あの日から、苦しんでるの。だからね、信じたいけど怖いの」

 

「だろうな。悲劇を経験し続ければ心は摩耗し信じる事を恐怖するようになる。それでいいさ。俺はしばらく休むから」

 

 俺の答えにその場にいた全員が黙る。

 そして、先ほど俺を斬った男が「行こう・・・」と口を開きその場にいた全員が去って行った。

 さあて、少し休むか。

 俺はゴロリと寝転がる。

 

「マサキ、一応聞いておく。オマエの“個性”はなんだ?」

 

「秘密だ。知られてないってだけで有利になれるんだ。簡単には教えねえよ」

 

 その答えに「そうか」とだけ答えて俺は意識を落とす。

 今この状況では下手にエネルギーを使う事は致命傷になるだろう。

 低燃費でいる事が一番だ。

 



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101話 『RIDER TIME(ライダータイム)

ジオウの決め台詞って格好いいけどレジェンドライダーのオマージュに限ってズレてますよね。

『勝利の法則は決まった~!』
『ノーコンティニューで、なんかクリアできる気がする』
『命、燃やしちゃってみるぜ!』
『花道で、オンパレードだぁ~!!』
『宇宙に行く~』
『さぁ、お前の罪を・・・・・・教えて?』

・・・・・・あれ?平成一期は?



 一夜が明けて俺はボケーっとしている。

 監禁されている事には慣れているが脱出してはいけないってのは初めてだ。

 基本的に監禁されても数分から数時間、時には数日使って脱出して監禁してきた野郎をボコボコにしていたから目的もなく掴まっているのは実は初めての経験だったりする。

 まあ、それでもボーっとしている訳ではなく後ろ手で縛られている状態で確認はしている。

 

 ―――ブレイバックルも出ない。

 ―――音叉音角も出ない。

 ―――ライダーベルト及びカブトゼクターも出ない。

 ―――ライダーパス及びデンオウベルトも出ない。

 ―――キバットバットⅢ世も出ない。

 ―――ディケイドライバーも出ない。無論、ネオも。

 ―――ダブルドライバーもメモリも出ない。

 ―――オーズドライバーもメダルも出ない。

 ―――フォーゼドライバーも出てくれない。

 ―――ウィザードライバーどころかそもそも指輪も出ない。

 ―――戦極ドライバーもロックシードも出ない。

 ―――ベルトさんも出ない。

 ―――ゴーストドライバーもアイコンも出ない。

 ―――ゲーマドライバーもガシャットも出ない。

 ―――ビルドドライバーは・・・・・・そもそも最初に分かっているか。

 

 そして、最後。

 ジクウドライバーとライドウォッチ―――出た。

 ようやく最後に出るのがあった。

 ジオウ系列のアイテムを全て試してみた所、全部、例外なく出て来た。

 ・・・・・・まあ、トリニティは条件満たしていないせいで出ないけどさ。

 

 俺はとりあえず使える力があっただけでも良しとして一日を終わらせた。

 余談だが、今日のご飯はおにぎり一つだった。

 低燃費モードならこれで一週間は持たせられるからごちそうだな。

 マサキは文句を言っていたけど。

 

 

 

 

 

 

 さらに一夜明けた。

 俺はマサキとしりとりをしながら時間を潰す。

『ル』攻めは反則だろう。

 いやさ、確かに俺も『リ』攻めをしたけどさ。

 

 最後の方はお互い自棄になってしりとりというよりも罵り合いになった。

 無論、言葉の最後の文字をしっかりと使ってしりとりのような形式ではあったが。

 

 最終的に看守に怒られて止めることになった。

 ちなみにそのせいでご飯抜きになった。

 低燃費継続決定☆

 

 

 クソが。

 

 

 

 

 

 

 さらにさらに一夜明けた。

 そろそろ暇にもなってくる。

 朝7時に起きるとして寝るのを夜9時とするのなら、約14時間もあるのだ。

 特にやる事も目的もなくその時間を過ごせばすぐに退屈になってしまうだろう。

 

「・・・なあ、マサキ」

 

「なんだよ。腹減ってんだよ。余計な体力使わせるな」

 

「『王』ってのは強いんか?」

 

「直接会った事は無いから知らないけど、オールマイトの死後にエンデヴァーが戦ったが大怪我を負ったって聞いた覚えがある」

 

「あー、未来予知可能な相手に挑めばそりゃそうなる」

 

「? 未来予知?」

 

「ああ、こっちの話」

 

 一応何となく予想はついているのだが、確定していない以上は断言するつもりはない。

 しかし、もう少し情報が欲しい。

 今現在は不確定情報の上にさらに不確定な予測を立てている状態だ。

 一つのミスで全ての想定が崩れると言って良い。

 だからこそ今の状況は実は好ましくないのだ。

 

 さてどうしたモノかと考えているとドタバタと辺りが騒がしくなる。

 看守が通信機でしている会話に耳を傾けると、どうやら『王』の部下がこの拠点に攻め込んできているらしい。

 話を聞く限り、どうやら不死身の軍団とやらが来ているらしく大分マズイようだ。

 

「仕方ねえ」

 

 俺は腕を、足をメダル化させて拘束を解く。

 そして立ち上がると軽く体を解した。

 

「オイ、なにやってんだよ」

 

「ちょいっと助けに行ってくる。逃げはしねえから安心しな」

 

 俺はそれだけを言い残すと戦場へとワープする。

 さてと、まずは被害をゼロにするか。

 

 

 

 

 

 

 芦戸三奈は見張り台で仲間たちに敵の位置を知らせる。

 敵は二人。

 両方重量級の大剣を持っており一振りで人間なんて簡単に真っ二つになってしまうほどの切れ味がある。

 仲間たちは何とか抵抗をしているが焼け石に水と言って良い。

 依然不利な状況が続きいつ死傷者が出てもおかしくない状況である。

 

 そんな戦場に向かって誰かが突撃してくる。

 その人物を芦戸は知っていた。

 

「それ以上はさせねえよ!」

 

 一瞬で詰められる距離、そこから繰り出される必殺技。

 

月堕蹴(ルナフォール)!!」

 

 巨漢の敵の頭に蹴りが叩き込まれ、その巨体が地面へと沈む。

 到着した人物の名は『ミルコ』。

 反乱軍と共に『王』を相手に戦う戦士の一人だ。

 

 ミルコの到着に落ち武者のような見た目をした敵は意識をそちらに向けてその大剣を振るった。

 だが、そのような大振りな攻撃が当たる筈もなくミルコは身を屈める事で避けると同時にその懐へ潜り込むとその胴へと蹴りを叩き込んだ。

 

「テメェらは攻撃が読みやすいんだよ。これで何度目かは忘れたが、今回も殺してやるよ!!」

 

 ミルコがそう言って追撃をしようとした瞬間、その体が地面に叩きつけられた。

 それだけでなく強い力で押し付けられているかのように立ち上がる事さえできないのだ。

 

 そこで、芦戸は物陰に隠れていたもう一人の敵に気付く。

 黒をベースとした体に赤い頭をした敵。

 

(気付けなかったっ・・・!)

 

 見張り台といえど視覚はある。

 その視覚を突かれたことに焦りを覚えたが、もう遅い。

 地面に倒れ伏していた巨漢の敵がその手に持つ大剣を動けないでいるミルコに振るう。

 だが、

 

「だっしゃらぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

 突然出現した少年が巨漢の敵を蹴り飛ばした。

 何ら前兆もなく突然そこに現れた彼に芦戸はただ驚くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりか」

 

 俺はそう呟きながら手に持つライドウォッチを起動させる。

 

ZI-O(ジオウ)

 

「変身!」

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)!》

 

 そんな音声と共に俺は『仮面ライダージオウ』への変身を完了させる。

 敵は三人。

『アナザーブレイド』・『アナザーウィザード』・『アナザー鎧武』。

 コイツらがここにいる時点で俺の予想は大方当たっていると考えて良いだろう。

 まあ、とりあえず今は倒す事優先させるか。

 

《ジカンギレード ケン》

 

 俺はジカンギレードを構えると最初にアナザーウィザードに狙いを定める。

 魔法は厄介だ。

 こういった戦闘では最初にサポート役を潰した方が楽だったりする。

 

 さて、ここで突然だがアナザーウィザードの簡単攻略法を教えよう。

 ヤツは原初仮面ライダーウィザード同様ベルトに指輪をかざす事で魔法を使う。

 つまり極論になるが・・・・・・、

 

「腕さえ封じちまえばただの雑魚だぁ!!!」

 

 ベルトに指輪をかざそうとするアナザーウィザードの腕を蹴り上げてそれを妨害するとその胸にジカンギレードを突き刺す。

 そしてそのまま一刀両断する事で何もさせずに簡単撃破した。

 アナザーウィザードがいなくなったことにより倒れていた人物が起き上がった。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、すまないね。助かった」

 

 その人物―――ラビットヒーロー《ミルコ》はすぐに俺から視線を移すと残ったアナザーブレイドとアナザー鎧武の方を向く。

 

「なあ、アンタはどっちをやる?」

 

「俺からしたらどっちの相手も同時に一人でできるんだけど・・・。まあ、任せるとしてミルコさんはどっちの方が楽ですか?」

 

「私からしたらあのゴツイ方かな。動きがそこまで俊敏じゃなくて鈍いからやりやすい」

 

「それじゃ、俺はアナザー鎧武の方をやりますわ」

 

 相手が決まればやる事はもう決まった。

 俺はライドウォッチをもう一つ取り出すと起動させ、ベルトに装填する。

 

GAIMU(ガイム)

 

 そして素早くベルトを回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム) ソイヤァ! GAIMU(ガイム)!》

 

 上から降りて来たアーマーが頭に被ると同時に鎧状へと展開される。

 そうして、俺は大橙丸Zを両手に持って構えながら宣言する。

 

「花道で、オンパレードだぁ~!!」

 

 やっぱりこの決め台詞が無ければ始まらないだろう。

 まあ、ソウゴらしく合っているようでズレているんだけどさ。

 

 俺は少しそんなことを考えながらアナザー鎧武に向かって突撃する。

 アナザー鎧武はその大剣を上段に構えると距離が縮まると同時に一気に振り下ろしてきた。

 直線的で予測しやすいソレを俺は体を少し捻る事で回避し、大橙丸Zを隙だらけの胴体に叩き込む。

 俺の攻撃にバランスを崩したアナザー鎧武を前に俺はライドウォッチのボタンを押す。

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! GAIMU(ガイム)!》

 

「細切れにしてやるぜ」

 

SQUASH(スカッシュ) TIME BREAK(タイムブレーク)!》

 

 大橙丸Zを水平に構えると一気にアナザー鎧武との距離を詰めて切り裂く。

 無論、輪切りだ。

 アナザー鎧武はどこか納得いかなそうな様子で爆散する。

 うん、俺も初めて見た時アレにはビビったよ。

 アナザー鎧武を撃破し、ミルコさんの方へと視線を移したら、

 

月頭鋏(ルナティヘラ)!!」

 

 丁度、アナザーブレイドが倒されたところだった。

 あの巨体が地面にめり込むとは、凄い光景だなこりゃ。

 俺は安全を確認してから変身を解除する。

 

「お疲れ様です」

 

「ああ、そっちもな。アンタが来てくれなきゃ不味かったよ」

 

 俺たちは握手を交わす。

 すると、周りにいた人たちから拍手と歓声が湧き出た。

 

「とりあえず、アンタについての話は拠点で利くことにするよ。・・・・・・どうやら、ヤツらについて何か知っているみたいだしね」

 

「知っているというよりも予想でしかないんですけどね。まあ、今じゃほぼ確信ですけど」

 

 そう答えながら俺はミルコさんの後に続く。

 他の人たちも安心した様子で拠点の方へと歩を進めている。

 さて、ここからどうするかを考えないとな・・・。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず今日は休め、と牢屋に戻された。

 ただし先ほどと違って拘束は解かれ大分自由にはなれた。

 俺は看守に頼んで鏡を貰う。

 小さな手鏡だが・・・。

 

「龍兎、お前手鏡なんか何に使うんだよ」

 

「いや、ちょっとな。・・・・・・これから少し変な行動するけど気にするな」

 

「お、おう・・・」

 

 俺は手鏡の方へと向くと“個性”を使って『D'3サイド』を取り出す。

 そして、それを鏡に向けながらそこに映る自分自身に語り掛ける。

 

「『お前は、諦められないんだよな。勝ち負けとか関係なしに、世界をこんな風にした野郎に。だったら、行くぞ。力を貸せ、テメェが全てを・・・未来を掴むんだ」』

 

 俺はゆっくり『D'3サイド』を鏡に近づける。

 鏡の中の俺の手には黄金に輝く“何か”が映っておりそれを近づけてきている。

 それを見て少し確信に近い物を持ちながらニヤリと笑う。

 

 そこにあるのは反撃の一手。

 この世界を救済するための新たな力。

 

 

 

 

 

 

 さあ、始めようか。

 全てを取り戻して全てを掴み取る為に。

 

 

 王の、戦いを。

 



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102話 『抵抗軍(レジスタンス)とある種達観している少年』

ガ~チャガチャ☆
ガ~チャガチャ☆
課金でガチャ回しぃ☆
(今月5万使って欲しい鯖が来てない)


 翌日、俺と解放されたマサキは拠点内にある会議室に通された。

 会議室と言っても折り畳みテーブルを5個ほど並べただけの簡易的な所ではあるが。

 別段それに文句はないし、この状況なのだから贅沢を言えないという事は理解している。

 今この会議室には俺とマサキ以外に、芦戸さんと梅雨ちゃんとミルコさんと男性数名が集まっている。

『玄武』と名乗った男がこの拠点を指揮しているらしい。

 部屋には重々しい空気が立ち述べており誰かが口を開く様子はない。

 俺はそもそも個人での活動を主にしているせいでこういった場所に弱かったりする。

 どうしたものかと頭を悩ませていると玄武が口を開く。

 

「俺たちのこの拠点にも『王』の魔の手が伸びてきている。・・・食量も後僅かとなり一刻も争う事態だ。・・・ミルコさん、他の『抵抗軍(レジスタンス)』の拠点はどのような感じですか?」

 

「『王』が拠点としている『魔王城』に近ければ近いほどそれだけ襲撃を受けてる。前線じゃ最近もプロヒーローに死者が出たよ」

 

 その言葉に玄武の隣にいた男(確か『朱雀』と名乗っていた)が歯軋りをした。

 隣でボケーっとしていたマサキも少し顔を引き締めている。

 そして、

 

「なあ、死んだプロヒーローって誰だ? それによって今後の動きとかも影響するだろ?」

 

 マジトーンでそんな質問をする。

 いや、お前数日前まで『王』にも『抵抗軍(レジスタンス)』にも属さないで盗賊じみた事やってただろ。

 俺が少し肩をガクリと落としつつもミルコさんの言葉を待つ。

 

「死んだのはシンリンカムイ。・・・戦っていた仲間を庇って、な」

 

 会議室の空気がより重くなる。

 シンリンカムイは若手でありながら相当の実力を持つヒーローだ。

 彼の欠落は『抵抗軍(レジスタンス)』側からしたら相当大きなものになっているだろう。

 俺がどうしたものかと少し頭を悩ませているとミルコさんがため息交じりに言う。

 

「A拠点のホークスも負傷で現在治療中。B拠点のベストジーニストは右足を失った。C拠点のエンデヴァーに関してはみんなも知っている通り『王』との戦闘で右の視力と左腕を失っている。D拠点のギャングオルカは今のところは大きな怪我はないけど目に見えて疲労が溜まっている。E拠点はガンヘッドとインゲニウムが死守しているがそれでも怪我人が増えて行っている。・・・・・・私があちこち回ってそれでも何とかやっているけど、やっぱりこのままだとジリ貧だ」

 

 いやさ、『抵抗軍(レジスタンス)』側ボロボロすぎるだろう。

 相手が悪いと言ってもこれは流石に・・・・・・。

 

 そこまで考えて俺は首を横に振る。

 俺基準で物事を考える癖は直した方が良いな。

 彼らは情報の無い状態でここまで戦い続けて来ていたのだ。

 そこをとやかく言うのはあまりにも理不尽だろう。

 

「勢力図的にもこっち側が不利なのは確実だな」

 

 マサキがそう呟く。

 まさにその通りだからどうしようもない。

 

『王』側が現在未知数。

抵抗軍(レジスタンス)』側が保護を求める民間人含めて一つの基地に付き50~150人前後であり、例外として前線にあるエンデヴァーのいる基地に限り30人程度だけ。

 そして、そのどちらにも属さない連中が幾つか(マサキ曰く一つのチームに付き多くとも10人前後ほどらしい)。

 

 俺は腕を組んで頭を捻る。

 実の所、こういった戦略系の物事は苦手なのだ。

 基本的に相手の戦力を分析して俺個人が正面からぶつかって勝てるかどうかしか考えないのだ。

 正面からが無理なら罠を張って戦力ダウンをさせてから潰す。

 そんな立ち回りをしていたせいで他人の動きを想定するのに慣れていない。

 まあ、少数精鋭(2~3人程度)だったら予測するが・・・。

 

 そんな風に頭を悩ませていると玄武の隣にいる朱雀のさらに隣にいる男(確か『青龍』を名乗っていた)が難しそうな顔のまま口を開いた。

 

「今までは『王』からこちらへの攻撃はそこまで激しくなかったけど、最近はそれが激しくなり出している。死者も怪我人も増え出している。それだけでなくこの拠点に関しては食料も大分少ない。明日にでも数人で食料を探してきて欲しい」

 

「それじゃ、行くよ。世話にもなるんだし」

 

 俺が手を上げてそう言う。

 だが、その場にいる者で良い顔をするヤツはいなかった。

 それを仕方ないと思う一方で少し面倒くさい事になったと数舜前の自分を呪う。

 昨日の事があったとはいえ俺はまだ警戒されている身なのだ。

 ついついしゃしゃり出てしまったがさてどうしたものか・・・・・・。

 

 この間約0.1秒。

 悩む時間すらも惜しい状況ではこれぐらいの思考をすぐにできないと死ぬ事だってある。

 本日何度目かの沈黙が会議室を支配する。

 今日一番強いのはこの重苦しい空気かもしれない。

 なんて下らない考えが浮かぶ中、朱雀さんが深くため息を吐いてから言った。

 

「それだったら俺が同行しまして監視をしましょう」

 

「頼む。お前なら何かがあったとしても大丈夫だろう」

 

 玄武さんがそう答えた事で決定したらしく俺は明日の朝から朱雀さんと共に食料探索に出る事になった。

 話を聞く限りでは缶詰だけでなく山へ向かって山菜を取ったり、山に構えられている拠点から野菜を買ったりするそうだ。

 一応まだ形式的にだが通貨は取引に使えているらしい。

 荒廃した世界なのにしっかりと金で取引できるもんなんだな。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 俺は大きめの布袋を持たせられていた。

 朱雀さんは銃火機と手榴弾、サバイバルナイフ所持というガッチガチの重装備である。

 ちなみに俺は普段着だから超軽装。

 装備すら貴重なこの世界じゃ俺に渡せる装備はないんだと、HAHAHAテラバロス。

 

 まあ、変に重い装備を付けて動きを鈍らせるなら軽装備で戦った方が個人的にはやりやすいから実際問題文句はないんだけどな。

 考えてみて欲しい。

 極論になるがどれだけ強大な攻撃だろうと当たらなければ関係ないのだ。

 つまりは動きやすい事に越した事は無い。

 そんなことを考えていた所、前方を歩いていた朱雀さんがポソリと語り掛けて来た。

 

「・・・・・・先日の襲撃の際にお前は姿を変えていなよな?」

 

「ええ、まあ。一応“変身型個性”ですから」

 

「“変身型”、か。それに制限はあるのか?」

 

「ありますけど教えませんよ。・・・・・・普通に説明面倒なので」

 

「それは教えたくないのではなく君が説明下手だと言っているようなあものだぞ」

 

「まさしくその通りなので」

 

 俺がそう答えると朱雀さんは楽しそうに笑った。

 どうしたのかと眉を顰めると彼は俺の方へと視線を向けた。

 

「いやなに。まるで自分の学生時代を見ているようでな」

 

 クックック、と朱雀さんは笑い言葉を続ける。

 

「俺も学生時代は自身の“個性”の説明を嫌がったものだ。通っていた学校は別にヒーロー科があったわけではなかったのだがね。それでも珍しかったり格好いい“個性”はステータスそのもので、あっちこっちで自慢大会があったよ」

 

 だけど、どこか自嘲気味に話は続く。

 

「俺の“個性”は『火炎』。名前だけ聞けば格好いいかもしれないが全く使えないヤツでな。炎を噴出した場所が焼け爛れるんだ。使えば使うだけ自分にダメージが入り、命を削っていく。エンデヴァーにそう言った様子が見られないから憧れたし羨ましいと妬んだこともある。・・・・・・“個性”の説明をすれば『見せろ』と言われる。拒否したら複数人で囲まれたり詰め寄られたりする。そうして無理矢理“個性”を使わせておいて俺の皮膚が焼け爛れるのを見たら逃げられたりなんて当たり前で、いつしか自分の“個性”を誰かに説明する事がとても嫌に思えた。怠い、面倒くさいなんて理由付けしては逃げていた。なんだか、君はそんな昔の自分を見ているように思えるんだ」

 

「ん~? 俺の場合はシンプルに説明が面倒くさいだけなんだけどなぁ・・・」

 

「ははっ、それが若さってやつだよ。大人になれば分かるさ」

 

 朱雀さんはそう話を終わらせると正面に視線を戻して先ほどと同じようにどんどん先へと歩を進めている。

 だが、雰囲気は今までと違いどこか楽しそうに感じられた。

 

「さて、あと一時間で食料供給拠点に到着だ。頑張れよ、若者」

 

「へっ、これでも人生経験だけは大分積んでますよ」

 

「ほう、魔法使いへの道をもう捨てているのか」

 

「それはまだ保持しています」

 

 そんな少し下らない会話をして笑った。

 こんな世界でも小さな笑顔やささやかな幸せがある。

 それは誰にでも平等に与えられていい権利であり、何者も奪ってはいけない大切な物だ。

 改めてそれを感じると同時に『王』に対する怒りが湧いてきていた。

 もしも『王』と戦う事があるならば顔面にジャイアン式めり込みパンチを喰らわせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 とある場所のとある一室で『王』は空を眺める。

 そこは元々国会議事堂があった場所に建築された『魔王城』。

 今この世界を支配しようとしている『王』の住まう場所だ。

『王』はその手に持つ通信機器に声をかける

 

「・・・・・・報告を」

 

『「仮面ライダー」が現れました。準備を進めてそちらへ攻めるつもりの様です』

 

「そうか。ご苦労」

 

 それだけを言うと『王』は通信を終える。

 そして、その部屋を後にしてとある一室へと向かう。

 向かった先は普段『王』が生活している場所でありそこには一人の『メイド』が常にいる。

『王』は部屋へと戻るとメイドの方へと近づき、その腹に一発拳を叩きこんだ。

 突然の事にメイドは腹を抑えて咳き込むが、『王』は気にせずに少女の美しい白銀の髪を掴んで無理矢理立たせると何度も何度も殴った。

 腹を、顔を、腕を、足を徹底的に殴り続ける。

 髪を離せばメイドは力なくぐったりと倒れ、小さく振るえる。

 だが、『王』はそれを見てメイドの背を強く踏みつけた。

 メイドは歯を食い縛ってその暴力にひたすら耐える。

 

「ぅっ・・・うぅっ・・・・・・」

 

「ああ、本当になんで世界はこの俺を受け入れないんだろうなぁ。なあ、言えよ。答え言ってみろよ」

 

 その問いは理不尽としか言えないだろう。

 そもそも答えなんかないのだから。

 世界を受け入れるつもりもなく自身の我を押し通す事しかしていない傲慢な『王』を受け入れようとするモノなんてまずいないだろう。

 理不尽で不条理な世界を受け入れ、その荒波に乗れてこそ自身の我が通るのだ。

 それをするつもりがなく無条件で受け入れられようとしている『王』は誰にも受け入れられずその怒りを誰かにぶつけて発散することしか出来ない。

 愚かでしかない行為だが、それを『王』に指摘する者はここにはいない。

 

「・・・・・・まあ、いい。お前は俺の言う事を聞いていればいい。生き返らせたいんだろ? なら、分かっているよな?」

 

「はい」

 

「下がれ。小一時間程一人で居たい」

 

「はい」

 

 メイドは静かに部屋から出て行く。

 それを確認してから『王』は通信機を取り出して電源を入れる。

 

「応答して情報を教えろ」

 

『王』は端的にそう言って通信相手の名前を言う。

 

「『マサキ』よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイドは三畳ほどの広さしかない自室に戻り扉を閉めると同時にその場に倒れる。

 全身がズキズキと痛み、自然と涙が溢れてくる。

 だけど、彼女はこの場から何があっても逃げる事は出来ない。

 

 数か月前、目の前で『彼』が殺され、混乱が起こる最中『王』に対して攻撃を仕掛けたが簡単に返り討ちにあってしまった。

 だが、その際に『王』から、

 

「言う事を聞くならば生き返らせてやろう」

 

 と言う悪魔の誘いを受けた。

 真実か嘘かなんてその場で冷静に判断できなかった。

 大好きな少年を生き返らせられるなら、その可能性があるならそれだけで十分だった。

 

 それから始まったのは地獄の日々。

 殴る蹴るは当たり前。

 時には拷問にも近い暴行を受け、そのせいで体はボロボロに壊れてしまっていた。

 メイドは自身の腹部―――正確に言えばへその下あたりを撫でる。

 そこの中にあった物はもう壊れて機能していないと聞かされた。

 女としてある種何よりも大切な部位であり、それを失ったのはどの暴行の中でも苦しく辛かった。

 

 でも、それを耐えるしかないのだ。

 人間とは真に好きなモノの為なら例えどれだけ苦しい事だろうと耐えられる傾向が多い。

 だがしかし、それは少し突き放されれば瓦解してしまう様な脆い器の中に居続ける行為に他ならない。

 器はちょっとしたことで欠けて割れる。

 少しでもそうなれば弱音が漏れる事は仕方がないだろう。

 

 メイドはポロポロと涙を零し床を濡らす。

 そして自身の体を出し決めるような形で蹲りながら弱音を漏らした。

 救いを求める小さな弱音を。

 

「痛いよ。苦しいよ。・・・・・・救けて、救けてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍兎」

 



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103話 『あり得ない筈の再会』

魔王との戦いはいつになるのだろう・・・・・・。


「ん?」

 

 俺はクルリと振り返る。

 特に何かがあったわけではなく何気なく振り向いていた。

 その方向に何があるかは知らないし分からないが、それでもその方向から呼ばれたような気がしたのだ。

 

「? 何かあったのか?」

 

「あ、いえ。なんか変な感じがしまして・・・」

 

「・・・そっちの方向には、『魔王城』があるな」

 

「『魔王城』が・・・・・・」

 

 しばらくその方向を呆然と見てしまっていた。

 これは勘でしかない。

 ただ、きっと合っていると断言しても良いだろう。

 ―――『魔王城』で誰かが救けを求めている。

 脳がそれを判断したと同時にそちらへと向かって行こうと足が動こうとした。

 

 だけど、無理矢理それを止める。

 今は食料を求めている人の為に行動することが一番だ。

 そう、自分に言い聞かせて理性でソレを制止するしかできない。

 嫌な癖だな、こりゃ。

 

「・・・・・・行きましょう。拠点の食糧難を何とかしないと」

 

「今ある食糧だけでもあと一週間ぐらいは持つよ」

 

 朱雀さんのそんなツッコミを聞きつつ俺たちは歩を進める。

 ちなみに今現在、俺たちは山道を歩いている。

 向かっている拠点は山奥に隠されておりそこで野菜を育てて様々な拠点がそれを食料としているらしい。

 山奥の拠点にはそこまで戦力はなく襲われたら一貫の終わりだろう。

 拠点にいるプロヒーローはデステゴロ一人だけであり、その彼も『王』の軍勢との戦いで大怪我を負い激しい戦闘を行えなくなっているらしい。

 また、拠点内にはリラックスできるスペースもあり、世界中の拠点の中でも大分にぎわっているのだとか。

 少し時間があれば寄ってみたい気持ちもある。

 

「あの、朱雀さん。リラックスできるところにコーヒー飲める場所ってありますか? 何か一週間に一度は飲んどかないと調子が出なくって・・・・・・」

 

「コーヒー・・・? ああ、あるよ。名前はちょっとド忘れしてしまったがコーヒー専門店が一つ。若い女店主さんが一人で経営しててね。コーヒー自体は一種類しかないけどそれでもちょくちょく人が訪れているよ」

 

 なるほど、と俺が言ったと同時に右斜め前方の草むらが揺れた。

 敵意などを感じない所から考えると野生動物か何かだろう。

 そう判断して警戒を解こうとした瞬間、朱雀さんがナイフを取り出し腰を落として構える。

 

「動物の肉は高く売れる。狩ろう

 

「あ、はい」

 

 目が血走っていらっしゃる。

 これはアレだ。

 売るとかじゃなくて自分で食べる為だ。

 ジト目になりながら朱雀さんの方を見ていると彼は息を顰めながら足音を立てない様にゆっくりと音のした方へと向かって行く。

 そして、一気に草むらへと飛びつく。

 だが、エモノはあっさりと逃げる。

 そんな大っぴらに行けばそうなるだろう、と思いながら見ていると朱雀さんはすぐに態勢を整えて持っていたナイフを投げつけて足に傷を負わせることに成功した。

 良いセンスだな、とどこから目線なのか分からない感想を覚えながら様子を伺う。

 朱雀さんは負傷してもなお逃げるエモノを追いかけて森林の中へと姿を消し、数分後に戻ってきた。

 その手には狙っていたエモノ―――野兎が握られている。

 

「鹿とか猪とかじゃなくてよかったですね」

 

「例えその二匹だろうと狩って肉にしてたよ」

 

「さいですか」

 

 そんなやり取りをしている間にも朱雀さんは血抜きをして皮を剥ぎ持ってきていた物で簡易的に肉を焼くための道具を組み立てていく。

 俺は近くにあった手ごろな大きさの岩に腰を掛けてそれを眺める。

 朱雀さん手際の良さに少し感心してしまう。

 そうこうしている内に朱雀さんは解体を終えた野兎を持っていたチャッカマンと近くに落ちていた枝を集めて作った焚火でじっくりと焼いている。

 美味しそうな匂いが鼻腔を突きついついよだれが出てしまう。

 

「ほれ、出来たぞ。食うか?」

 

「はい、少し貰います」

 

 今後の事を考えると今の内にエネルギーを補給しておくことが得策だ。

 野兎よ、お前の命は無駄にしないからな。

 なんて事を思いながら俺と朱雀さんは肉を食べる。

 味付けは特になく少し塩が塗されているだけだがそれでも美味い。

 

「あむ。・・・・・・拠点までは後15分ほどの距離だけど・・・今何時だろう? 時計はあるか?」

 

「ないですけどある程度でなら分かりますよ」

 

 上を見上げて太陽の位置を確認する。

 

「大体、11時半くらいですね」

 

「分かるのか?」

 

「太陽の高さとか傾きで推測可能ですよ」

 

「良い技術(スキル)だな。大切にしなさい」

 

「今みたいに活用しまくっていますよ」

 

 そう言ってムシャッと肉を頬張る。

 山は静かで平和そのものであると言って良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 扉が開かれる。

 そして4人の男たちが入ってくる。

 彼らは所謂『四天王』と呼ばれる者たちだ。

『王』から特別に力を受け取った者であり、その力は他の者を凌駕しており一人でプロヒーロー数十人を相手に出来る実力者でもある。

 普段は世界中に散って『抵抗軍(レジスタンス)』の拠点を襲っているのだが役1ヶ月ぶりに『王』直々に呼び出しがあったのだ。

 扉の真正面にある椅子に腰かけたまま『王』は言う。

 

「よく来た。『火炎』・『水流』・『暴風』・『土砂』。・・・・・・『暴風』―――いや、『マサキ』よ。キサマの口から説明をしろ」

 

 名を呼ばれた『マサキ』は立ち上がり数歩前に出ると振り返り他三人に視線を向けた。

 

「俺たちを殺せる存在。『仮面ライダー』がついに姿を現した。今までは無敵で不死身で居られたが、今後は死ぬこともあると考えた方が良い」

 

 その言葉に三人は唾を飲んだ。

『仮面ライダー』あまりにも早すぎる登場は予想外だったのだ。

 この力を得てから数ヶ月、常に上位で居られたのにそれが揺らぐと聞かされて驚かない者はいないだろう。

 だが、次の言葉でその緊張はすぐに解けた。

 

「だが、ヤツは『ディケイド』の力までしか使えないと聞く。・・・・・・『火炎』、オマエ以外は大丈夫だぜハハッ」

 

「クッ、何が可笑しいクソが」

 

 名指しされた『火炎』は忌々しそうな視線を『マサキ』へと向ける。

 その横に並んでいた『水流』と『土砂』はジッと横へ憐みの眼を向けた。

 

「止めろ。・・・・・・それに、だ。もしかすれば新たな力を得ている可能性だってある。十分気を付けろ」

 

『王』の命令に四天王たちは強く返事をする。

 そして少しの間もなく『火炎』が手を上げて言った。

 

「『王』よ。その『仮面ライダー』は今どこに?」

 

「・・・・・・何故だ?」

 

「この私が始末してきましょう」

 

「・・・・・・いいだろう。山の食糧拠点、と言えば分かるだろう? 今そこに向かっている」

 

 その言葉を聞き『火炎』は『王の部屋』を後にする。

『火炎』の背を何も言わず見送った土砂は王に視線を向けると言葉を発した。

 

「・・・・・・良かったのですか?」

 

「ああ、力に溺れソレを十分に扱えぬアイツがどうなろうともう良い。勝てれば良し、まあ、せいぜい相打ちが精一杯だろう」

 

『王』はそれだけ言うと立ち上がり『王』と許された者だけが入る事を許されている『部屋の奥』へと姿を消した。

 残された三人は『王』が完全に姿を消してから口を開いた。

 

「『暴風』、お前はこれからどうする? 俺は『仮面ライダー』と戦うために戦力をこっちに集中させるが」

 

「俺は情報を集めて有利に立てるようにするだけさ。それよりも『火炎』がいなくなったらどうする? アイツは慢心に塊でハッキリ言ってダメ野郎だが、能力だけなら最高クラスだ。失うのは痛いだろう」

 

「オイオイ、お前らは阿呆か?」

 

『水流』と『土砂』の言葉に『マサキ』は呆れたようにそう返す。

 確かに『火炎』の持つ能力は強く使い方によっては四天王の中で最強と言えるほどのものとなっている

 だが、ヤツはそれに胡坐をかき慢心し堕落している。

 ああなってしまえばもう終わりだろう。

 それに、

 

「アイツがいなくなったとしても『王』の力があるだろう。アイツは、必要ない」

 

 そうハッキリと『マサキ』は結論付けた。

『マサキ』の言葉を聞いて『水流』と『土砂』も納得する。

 もはやここに『火炎』に対して大きな関心を持つ者はいなかった。

 

「・・・・・・とりあえず俺は潜伏に戻るさ。二人もできることをやって『王』の為に動きな」

 

『マサキ』はそう言うとポケットからウォッチを取り出して上部のスイッチを押した。

 

《1号》

 

 

 

 

 

 

 肉を(ついつい全部)食べた俺たちは満腹の余韻に浸りながら歩を進めた。

 そうしてついに目的の拠点に到着した。

 拠点は大分賑わっておりあっちこっちで取引が行われていた。

 

「よし。休憩前に食糧を買い込むぞ。モタモタしてたら売り切れる」

 

「そうですね。・・・えっと、白米・ニンジン・ジャガイモ・タマネギ・豚肉・カレールーでしたよね」

 

「カレー食べたいのは分かったけど日持ちしないから駄目だよ! ・・・・・・いや、でもたまにはいいかも。しかし、予算が」

 

 腕を組んでそう言う朱雀さんに俺は自身の財布を見せる。

 財布の中身を確認した瞬間、ギョッと眼を見開いて驚愕の表情を浮かべる。

 

「1、2、3、4、5・・・・・・10万以上ある。これだけあれば全員分のカレーの食材を買える!」

 

「それならこれ使っちゃいましょう」

 

「・・・・・・そうだね。君のそのカレーへの気持ち、受け取ったよ」

 

 そう言いながらサムズアップする朱雀さん。

 俺もそれにサムズアップで返す。

 そうして、二手に分かれると俺はカレーの食材を買うためにあっちこっちを練り歩く。

 拠点内には様々な者たちがおり、銃を携帯している者、包帯を巻いている者、全身傷だらけで豪快な笑い声をあげている者・・・・・・いや、あれはただ古傷自慢しているだけか。

 とりあえず野菜を購入し、肉を買いに向かっていると後ろからいきなり頭を手で押さえられた。

 何事かと思い少し跳んで距離を取ってから振り返ると、親の顔よりも見たと公言できる人物がそこにいた。

 

「門矢、士・・・」

 

「よう、奇遇だな。機鰐龍兎、だったか。どうやらお前はこの改変に巻き込まれても平気だったようだな」

 

「・・・・・・そう言うって事はアンタも相手の正体には気付いてるんだろ? 力貸してもらえないか?」

 

 俺の言葉に士はやれやれといった表情で首を横に振る。

 そして、軽くため息を吐いた後に言う。

 

「残念ながら俺の変身能力は奪われている。・・・今回はこうなると予想してなかったから力を移していなかった」

 

「・・・なるほど、それは最悪だ」

 

 士の言葉に俺はそう返す事しかできなかった。

 

「海東のヤツも同じ感じでな。・・・まあ、アイツに関してはまだディエンドライバーを武器として仕えているからまだマシだが」

 

「あの怪盗もいるんですか・・・。ところで何でここに?」

 

「一番安定して飯を食えて一番安全だからだ」

 

「理由がクソ」

 

「そういうな。これでも苦労しているんだ。・・・・・・どうだ? あっちにコーヒーが飲める店があるんだがそこで話さないか?」

 

「せっかくのお誘いですけど、連れがいるんで勝手に行くのは申し訳ないんですよ」

 

「・・・そうか、まあいい。俺は一日そこにいるから気が向いたら来ると良い」

 

 士はそれだけを言い残すと人混みの中へと消えて行く。

 いやまさかこんな所でレジェンドと会うとは思わなかった。

 緊張で失神しないようにしていたせいで辛口対応になったのが少し落ち込みたくなる。

 だが、落ち込んでいる時間は無い為俺は歩を進めてカレーの食材を買いに向かった。

 

 

 

 

 

 

 食材を買い終えて朱雀さんと合流すると彼は滅茶苦茶いい笑顔になっていた。

 話を聞くとカレーを食べるのは数か月ぶりらしい。

 なんやかんや言って嬉しいようだ。

 

「あ、そういえばコーヒー飲みたいって言ってたよね。店まで案内するよ」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

「俺はその近くの小さなカフェでパフェを食べているから。飲み終わったら呼びに来て」

 

「分かりました」

 

 そうして俺は朱雀さんに連れられてコーヒーの飲める店へと到着する。

 到着して早々に鼻歌交じりで朱雀さんは二軒隣のカフェへと姿を消した。

 ・・・まあ、本人の小遣いでやっているから文句はない。

 少し態度の大きな変化に呆れながら俺は店の扉を開けて中に入る。

 そして、眼を見開いた。

 

「は~い、いらっしゃ~~い。コーヒー専門店『不死鳥の炎』へようこそ。日頃の疲れをゆっくり癒して行ってね」

 

 そう楽しそうに言う人物に見覚えがあった。

 そのウキウキとしている声には聞き覚えがあった。

 俺は、驚きでビクビクと痙攣する横隔膜のせいで軽く過呼吸気味になりながらその人物の名前を言った。

 

「紅、華炎・・・・・・」

 












四天王出したせいでこいつらぶっ倒すまで魔王との戦いが無さそうで草も生えない。


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104話 『VS「火炎」①』

セイバーカッコイイ(確定)


「紅、華炎・・・・・・」

 

 彼女の名前を無意識的に呟いて俺は少し呆けてしまった。

 名前を呼ばれた紅は訳が分からないようでキョトンとした表情を浮かべている。

 

「私たちどこかで会ってたっけ?」

 

「・・・ああ、ずっと昔に」

 

 俺はそれだけを答えると紅を強く抱きしめた。

 そして、右手を彼女の頭に置いて優しく撫でる。

 

「え、ちょ・・・なっ・・・・・・」

 

「ごめん」

 

 絞り出すように言う。

 言えなかった言葉を、伝えられなかった言葉を。

 

「ごめん、助けられなくてごめん。俺が、俺が弱いせいでお前を死なせてしまって本当にごめん。情けない兄ちゃんで・・・ごめんっ」

 

「お兄、ちゃん・・・・・・?」

 

「ああ、『大宮さとし』だ。紅・・・いや、実余ちゃん」

 

 俺がそう答えると次は紅の方から強く抱きしめて来た。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!!」

 

「ごめん。お前のイジメに気付けなくて、あんなクズ共に殺されるまで何にも・・・いや、殺されても何もしてやれなくてっ!」

 

「いいよ、そんなの。忘れないでくれただけで十分だよ」

 

 彼女のその言葉を聞いたと同時に目頭が熱くなる感覚があった。

 だが・・・・・・、

 

「そういった事は人目のない所でやれ」

 

 そんな声が店の奥から聞こえて来た。

 溢れ出そうになっていた思いが一瞬で引っ込み、自然と視線が声のした方に向く。

 

「門矢士・・・」

 

「ココで待っているといっただろう。・・・感動の再会を喜ぶよりも今はこの状況をどうするか考える所だろう。店主さんにも説明が必要になった所みたいだがな」

 

「・・・・・・ああ」

 

 俺はそう返事すると顔を叩いて気合いを入れる。

 

「紅、これからは重要な話になる。そして、これ以降はいつ激戦の中に入るか分からない状況になるだろう。・・・・・・もしも、それが嫌なら俺たちは別の所で話をする。どうする?」

 

 その言葉に紅は目頭に浮かんだ涙を拭って言う。

 

「大丈夫、聞かせてお兄ちゃん。私も手伝う」

 

「・・・そうか。それじゃあ、まずは」

 

 俺はそう前置きをして俺の分かっている事を話した。

 改変される前の世界の事を中心にどのように俺が進んできた道を。

 紅が、どうなってしまったかを。

 全てを聞き終わってから紅は自身で淹れたコーヒーをグイっと飲んで顔を歪ませる。

 どうやら苦かったようだ。

 

「そっか~、死んじゃったかぁ。まあ、この“個性”事態も欠点あるけど、その欠点以外で殺されるとはね~」

 

「? 欠点?」

 

「回復に体力が必要なんだよ。だから怪我しまくって回復し続けて疲れると回復できないから最終的に殺される」

 

(・・・・・・やっべぇ。回復は今まで通りにやってたから気付かなかった)

 

 俺は表情を崩さすに気付けなかったことに対してヒヤヒヤする。

 基本的に何かをする際にはできるだけチェックしているのだが、回復能力に関しては元々持っていた事もあって確認していなかったのだ。

 今後はもっと確認を怠らない様にしようと無言で心のメモ帳に追記しておく。

 

「それにしてもこの世界が『王』に改変された世界だったとはね。・・・・・・それでさ、お兄ちゃん。これを修正できるんだよね?」

 

「ああ、俺の予想さえ正しければ『王』を倒せればその瞬間に世界の改変は修正されて元通りになると思う。ンで門矢士。アンタも協力してくれないか?」

 

「協力、か。残念だがそれは無理だな」

 

 飄々とした表情でそう言いながら門矢士はコーヒーを一飲みした。

 余裕そうな雰囲気を出しているがこちらとしては余裕のない状況なので冗談なのだとしたら笑えない。

 

「なんでだ?」

 

「『ジオウの世界』ではライドウォッチに保険として力の半分を預けていたが、この世界でこうなるとは思っていなくてな。残念ながら今の俺に変身能力はない」

 

 当然のようにそう宣言する門矢士の言葉を聞いた俺は数秒間息をすることを忘れてしまっていた。

 あまりにも衝撃なトンデモ発言に脳が一瞬バグったのだ。

 

 変身能力が、ない?

 それって・・・・・・まさかっ!

 

 俺の思考が『ソコ』へ至るよりも前に店の外から大きな音が聞こえた。

 それと同時に強い衝撃波が店の窓ガラスを割る。

 爆発だ、と気付いたと同時に俺は店の外へと駆けだしていた。

 後ろから遅れて二人も店を飛び出した。

 

「何が起きた!?」

 

「音がしたのはこの拠点の中央! 一番人が集まる場所!!」

 

 紅がそう言うと同時に片手にクレープを持ったままの朱雀さんが奥の店から飛び出してきた。

 口元にクリームが付いており緊張感が一瞬削がれそうになった。

 

「拠点中央で大きな爆発! 被害不明、これから確認に行きます!」

 

「俺も行く! ・・・で、そのお二人は?」

 

「信頼できる知り合い。こっちが古い顔なじみの紅でこっちが世界の破壊者の門矢士」

 

「ああ、そうなの。よろしk・・・って世界の破壊者ぁ!? 何なのそれ!!?」

 

 驚き質問をする朱雀さんの言葉を無視して俺たちは駆け出した。

 銃数秒後、中央に到着してそこにいたモノを見た俺は「やっぱりか」と呟く。

 そこにいたモノの名前を反射的に言っていた、それは・・・、

 

「アナザーディケイド!!」

 

 チッ、と舌打ちをしてライドウォッチを取り出そうとした瞬間、その腕を掴まれた。

 視線を向けると門矢士が真剣な顔をしていた。

 

それ(・・)を使うのは最終決戦にしておけ。アイツ程度なら俺のウォッチだけで十分だろ?」

 

「・・・・・・無茶言うなぁ。ホント」

 

 俺はライドウォッチを仕舞うとジオウライドウォッチとディケイドライドウォッチを取り出すとヤツに向かって走りながらライドスターターを押してウォッチを起動させる。

 

ZI-O(ジオウ) DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

「変身!」

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)! ARMOR TIME(アーマータイム) KAMENRIDE(カメンライド) WAO(ワーオ) DECADE(ディケイド) DECADE(ディケイド) DECADE(ディーケーイードー)!》

 

 戦場になりつつある広場を駆け抜けながら俺はアーマーを纏うと最短距離でアナザーディケイドとの合間を詰める。

 こちらに気が付いたらしきアナザーディケイドは近くにあった売店のテントの骨組みに使われていた鉄パイプを掴んで振るってきた。

 俺はライドヘイセイバーを取り出してソレを切り落とそうとする。

 だが、大きな金属音と共に俺の攻撃は受け止められてしまった。

 

「なっ!」

 

「ふんっ!!」

 

 アナザーディケイドは力任せに鉄パイプを振るい俺はそれに押し負けてしまった。

 だが、あえてその力に逆らわず後ろに跳ぶことで衝撃を受け流す。

 油断をしていたわけでもないし普段以上に警戒をしていたのだがさすがに予想外だ。

 

 ―――コイツは強い。

 

 無論、ジオウのラスボスという事もあるだろう。

 だけど、そもそも本編アナザーディケイドはスウォルツ自身の元々持っている力が上乗せされているが故のチート性能だったのだ。

 それを除けば普通のアナザーライダーよりは強いにしてもアーマータイムでまだ対処できるほどのハズだ。

 でも、コイツは違う。

 本編ほどではないにしても大分上位の実力を持つ存在だ。

 

「・・・・・・お前が『仮面ライダー』か?」

 

「そうだ。テメェは何だ?」

 

「俺か? 俺は『火炎』。・・・『王』直属の四天王の一人だ」

 

「そうかよ。その四天王サマとやらが何の用だ?」

 

 愚問だろう。

 俺を指名している時点で何となく察しがついている。

 

「キサマを殺し『王』の元へその首を持って行く。それで世界は完全に『王』の物になる」

 

 その答えに俺は舌打ちをし、何も返すことなく最短距離で再度合間を詰める。

 だが、アナザーディケイド―――『火炎』が手を前に付き出すと同時にオーロラカーテンが現れ、そこから見覚えのある二つの影が飛び出してきた。

 そして、そいつらはその手に持つガオウガッシャーとサヴェジガッシャーによる突き攻撃を俺に的確にヒットさせた。

 

「グウェッ・・・・・・」

 

 飛び出してきた存在『仮面ライダーガオウ』と『仮面ライダー幽汽 ハイジャックフォーム』は無言のままこちらに襲い掛かってくる。

 

「クッソ」

 

《ジカンギレード ケン》

 

 俺は即座にジカンギレードを取り出して二刀流に構えると二人の斬撃を受け流す。

 だが、流石に二対一で攻撃を全て捌き切る事は難しく段々と追い詰められてしまう。

 しかもそれだけでなく背後から少しくぐもった音声が聞こえて来た。

 

FINAL VENT(ファイナルベント)

 

 振り返る余裕なんてなく俺は背後からライダーキックを喰らい吹き飛ばされる。

 音声だけでもすぐに理解できた。

 攻撃してきたのは『仮面ライダーリュウガ』だろう。

 空中で身動きが取れず何とか着地だけをしようと飛ばされた先を見てすぐに防御の姿勢を取る。

 俺の落下予想地点にいた『武神鎧武』は赤い大橙丸を振りかぶりそのままタイミングよく振るってきた。

 無論、当たればただでは済まない為、俺はシカンギレードとライドヘイセイバーを振るってその攻撃を防ぐと武神鎧武の腹部を蹴り、隙を作ってから素早くライドヘイセイバーを操作する。

 

Hey(ヘイ)! GAIM(ガイム)! GAIM(ガイム) DUAL TIME BREAK(デュアルタイムブレーク)!》

 

「ウォラァッ!!」

 

 そのままライドヘイセイバーを振るい、武神鎧武を仕留める。

 だが、着地から撃破までの僅かな時間の間にも状態は着々と悪い方へと進んで行く。

 左右からこちらに襲い掛かってくる影に俺はすぐその場を離れる事で何者かを確認する。

 

 ――――『仮面ライダーサイガ』と『仮面ライダーセイヴァー』か。

 

 もはや接点が一切見えない。

 それと間違えてはいけない事だが『セイバー』ではなく『セイヴァー』だ。間違えない様に。

 

 俺は態勢を整えるとジカンギレードをジュウモードにしてライドウォッチをセットして素早くトリガーを引く。

 

W(ダブル)! SURESURE SHOOTING(スレスレシューティング)!》

 

 銃口から射出された風の渦がサイガとセイヴァーを絡め捕りその動きを封じる。

 それを視覚したと同時に再度ジカンギレードにライドウォッチをセットし、ライドヘイセイバーを操作する。

 

GAIM(ガイム) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

FAIZ(ファイズ) DUAL TIME BREAK(デュアルタイムブレーク)!》

 

 俺は身を翻すと背後から追いかけてきていた二人の方へと突撃し、すれ違いざまその胴体を切り捨てる。

 完全撃破を確認したいところだが、今この現状でそんなことをしている暇はない。

 俺は上へと飛び上がるとライドウォッチを起動させる。

 

RYUKI(リュウキ)! FINAL FOAM TIME(ファイナルフォームタイム)! RYUKI(リュ・リュ・リュ・リュウキ)!》

 

 俺を纏っていたアーマーが変化し『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー 龍騎フォーム』へと姿を変える。

 そして空中で方向転換をするとリュウガのいる方向へと飛ぶ。

 

「ッラァ!!!」

 

 ライドヘイセイバーを振るうが黒いドラグセイバーで防がれた。

 だが、そこで止まっている暇なんてなく連続でライドヘイセイバーを振るい続けてひたすら攻め続ける。

 そして、黒いドラグセイバーを弾き飛ばすとベルトのディケイドライドウォッチのボタンを押す。

 

RYUKI(リュ・リュ・リュ・リュウキ) FINAL ATTACK TIME BREAK(ファイナルアタックタイムブレーク)!》

 

 足に炎を纏わせるとそのままリュウガの胸部へと蹴りを叩き込み、そのまま爆散するのを見送ることなくライドウォッチを外して龍騎フォームを解除すると場所を移動する。

 そういて、本日何度目かもう数えていないがジカンギレードにライドウォッチをセットし、ライドヘイセイバーを操作する。

 

DEN-O(デンオウ) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

DEN-O(デンオウ) DUAL TIME BREAK(デュアルタイムブレーク)!》

 

 身を屈めてガオウと幽汽との距離を詰めると二人の持つガオウガッシャーとサヴェジガッシャーごとその体を両断する。

 そうしてようやく『火炎』が俺の前に現れた。

 

「・・・・・・良く対処できたな」

 

「こいつら程度、やり方さえわかれば簡単だよ」

 

 そうは言うモノの実際は内心ヒヤヒタしている。

 それぞれボス級ライダーだったのだ。

 今のように対処できただけ手を叩いて喜びたいぐらいだ。

『火炎』は近くに落ちていた鉄パイプを掴む。

 ―――それが武器で良いのかお前は・・・。

 

「俺が直接相手してやろう」

 

「ハッ、そりゃありがたいこった!!」

 

 瞬間、同時に駆け出しぶつかり合う。

 ここからが本場だ。

 



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105話 『VS「火炎」②』

疲れた。


 

 ガキィンッと金属同士がぶつかり追う音が辺りに響く。

 俺はライドヘイセイバーとジカンギレードを振るって攻撃をしているがその全てを鉄パイプ一本で防がれている。

 しかも、ただの鉄パイプではなくコイツの力を纏わせることで強化した物だ。

 と言うかそうでもなければ鉄パイプで防げるわけがない。

 

「ったく厄介だな」

 

 俺は不満をそう口から漏らす。

 無論、文句を言ったから何かが変わる訳ではないとは分かっている。

 そうだとしても膠着状態が続いている以上、どんな手段であれ何かしら『変化』を起こして動きを調整して行くしかないのだ。

 将棋には『千日手』という物がある。ざっくりと言えば膠着状態のようなものだ。

 それを繰り返していても状況の打開が出来ないのなら打開できるように別の手を打つのも作戦なのだ。

 例え、それが歩を一枚無作為に前に出すような行為だとしても、である。

 

 俺は地面を蹴り上げて砂埃を作り出すと後方へと跳んで距離を取る。

 そして、身を屈めて石を拾い上げると『火炎』目掛けて全力で投げつけた。

 当たり前だがこの投石攻撃はダメージを期待できない。

 でも、生きている以上分かっていたとしても反射的に攻撃を防ごうとしたり弾いたりしてしまう。

 その一瞬の隙に俺はライドウォッチを起動させ、ディケイドライドウォッチにセットする。

 

FINAL FOAM TIME(ファイナルフォームタイム)! FAIZ(ファ・ファ・ファ・ファイズ)!》

 

 俺が纏っているアーマーが変化し、『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー ファイズフォーム』へと変わる。

 左手に視線を落とせばそこにファイズアクセルがセットされている。

 本編で使われていないが故に時間制限等不安要素があるが今現在それを一つづつ数えている暇はない。

 俺はファイズアクセルのスイッチを押すと同時に駆け出す。

 そして、ディケイドライドウォッチのボタンを押す。

 

FAIZ(ファ・ファ・ファ・ファイズ) FINAL ATTACK TIME BREAK(ファイナルアタックタイムブレーク)!》

 

 超加速をしながら『火炎』の周りに何十も何百もポイントが展開される。

 なんやかんや言ってファイズアクセルは強力な姿だ。

 基本的に負け知らずで、そして短い間しか使えないその姿そのものが『必殺技』。

 これで決められなければアナザーディケイドに対する対抗手段がなくなる。

 っと言うかそもそも『ディケイドアーマー』でアナザーディケイドと戦う事自体が間違っている。

 

「うぉぉおおらぁぁぁぁあああああああああ!!!!」

 

 俺は時間制限ギリギリまでただひたすら蹴りを敲き込み続ける。

 1000倍に増幅された10秒の中で何度も、何度も。

 そして、

 

《TIME OUT REFORMATION》

 

 そんな音声と共に加速が終わり俺の姿が強制的に『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー』へと戻った。

 瞬間、俺の体を激しい衝撃が襲う。

 

 着地点から飛ばされ、俺は近くの建物の壁をぶち破りそのまま地面を転がる。

 ああ、これが床ペロか・・・なんて変な言葉が頭に浮かんできた。

 だがすぐ体が脳へ痛みを訴える。

 気分的には血反吐を2リットルほど吐き出しそうな感じがする。

 立ち上がろうとした所で俺の体が大きく跳ね飛び空中へと投げ出される。

『何かしらの』攻撃をされたと思ったと同時に、俺の体は地面へと叩きつけられた。

 

「ガハッ・・・グッ・・・・・・」

 

「期待外れだ。もっと強いかと思っていたが、やはり貴様程度が『王』の障害になるというのは過大評価だったか」

 

「ハァハァ・・・・・・。ちょっと攻撃を当てた程度でそんなことを言われるなんてな」

 

 俺は立ち上がり、投げ出してしまっていたライドヘイセイバーを掴む。

 

「言っておくが、こっちはまだ本気を出してねぇぞ。テメエが俺を評価しようが知ったこっちゃねえが、そんな考えだと足元をすくわれるぞ」

 

「・・・その忠告はキサマ自身が受け取るべきだな」

 

 瞬間、『火炎』の手に赤黒いエネルギーの塊が生成され、そのまま放たれた。

 あまりにも大きく強大な攻撃。

 避ける事ができずに俺はなすすべなくそれに飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それよりもずっとずっと前――――『火炎』がエネルギーを生成する前に俺はヤツを背後から蹴飛ばした。

 無論、そのまま終わらせる事無く追撃としてライドヘイセイバーで切りつけた。

 

「なっガフッ・・・・・・」

 

「油断したな」

 

FINAL FOAM TIME(ファイナルフォームタイム)! KABUTO(カ・カ・カ・カブト)!》

 

 そう、俺はエネルギー弾が放たれた瞬間にカブトライドウォッチをディケイドライドウォッチに装填する事で『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー カブトフォーム』になりハイパークロックアップを使用して過去に『飛んだ』のだ。

 とっさの判断だったが、上手く行ってくれてよかった。

 俺はライドヘイセイバーを構えると『火炎』との距離を一気に詰める。

 

「クッ!!!」

 

『火炎』が前に手をかざすとオーロラカーテンが展開され、それが変化して襲い掛かってきた。

 捕まったらまずい、と判断すると同時に身を屈めて潜り抜けディケイドライドウォッチのボタンを押す。

 

KABUTO(カ・カ・カ・カブト) FINAL ATTACK TIME BREAK(ファイナルアタックタイムブレーク)!》

 

 瞬間、俺の肉体が人間に認識が出来ない物理法則を超えた高速移動をし、そのスピードを乗せた蹴りを繰り出す。

『火炎』は反応出来ないまま大きく吹き飛ぶ。

 もちろんだがここで終わらせてやるほど俺は優しくない。

 再度距離を詰めると全身を回転させてその勢いをヘイセイバーへと乗せ、思い切り斬り裂く。

 

「ぬぅ・・・グォッ・・・・・・」

 

「オイオイ、マジかよ。これで倒れねえなんてよ」

 

「俺は『王』より力を与えられた選ばれた存在だ。キサマのような三下と違うのだ!!!」

 

 瞬間、『火炎』の体からドス黒いオーラが放出される。

 それを見た瞬間、背筋に冷たいモノが走る。

 

 ―――これはマズイ。

 

 頭の中にその言葉が浮かんだ瞬間、そのオーラが何かに引っ張られるように動いた。

 突然の事にビクッと体を震わせたと同時にそのオーラが俺の体を包みそのまま消えて行った。

 何事か分から混乱している脳に直接謎の声が響く。

 

[この程度の“闇”は俺にとっては小腹の足しにもならん。いちいちビビるな。お前を襲う『コレ』は俺が対処する]

 

「っ・・・。誰だよ、テメェ」

 

 過去に一度頭の中に響いた『誰か』の声のようなモノ。

 結局何なのか分からずに放置していたソレは俺の問いに答える。

 

[俺は何者でもなくそこにあってそこに居ない存在。お前に向けられた負の感情は吸収してやる。気にするな]

 

「・・・・・・ハッ、誰だか知らねえがサンキュー」

 

 俺はそれだけを言うと『火炎』の方へと視線を向ける。

『火炎』は肩で大きく息をしながらこちらを強く睨みつけていた。

 その姿に余裕は感じられない。

 

「そろそろ、終わりになりそうだな」

 

「舐めるな!! 俺は、俺は選ばれた人間だァ!!!!!!」

 

「それに固執しているからテメェは弱いんだよ」

 

 俺はそう言うとライドヘイセイバーにディケイドライドウォッチを装填し、針を連続回転させる。

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! Hey(ヘイ) KAMEN RIDERS(カメンライダーズ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)!》

 

 やかましい。

 ライドヘイセイバーから流れる音声を耳にしながら俺は『火炎』との距離を詰める。

『火炎』は俺を迎え撃とうと拳を振るってきたが、そんな大振りの攻撃が当たる訳がない。

 少し体勢を低くするだけで簡単に避けられる。

 攻撃を避けてから俺はライドヘイセイバーのトリガーを引く。

 

DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)! HEISEI RIDERS(ヘイセイライダーズ) ULTIMATE TIME BREAK(アルティメットタイムブレーク)!!》

 

 俺は横一線にライドヘイセイバーを振るう。

 剣の軌道上には『ヘイセイ』と書かれたライダーズクレストが表示されているカード状のエネルギーが展開される。

 ヘイセイバーの刃がそれを通過するたびにエネルギーが纏われて行く。

 そして、

 

「終わりだぁぁぁあああああ!!!!!!」

 

 ズバッッッと勢いよく『火炎』が二つに斬り裂かれる。

 だが、それだけに止める気はない。

 刃を翻して再度横一線に斬り裂き、それから上段に構えそのまま叩き斬る。

 

 バラバラになった『火炎』の体は地面に落ちると同時に爆散する。

 普通に爆発に巻き込まれて慌ててその場から離れたのはご愛敬と言った所だろう。

 

「ふぅ・・・」

 

 俺は息を吐くと変身を解除する。

 辺りを見渡して被害状況を確認したところ、目の届く範囲での人的被害は見られない。

 ただ、建物は幾つか倒壊しておりこの拠点がこのまま維持されるのは難しく思える。

 ここ以外にも食料供給の為の拠点は幾つかあるらしいが、それでもここは放棄しないと不味いだろう。

 そんなことを考えていると頭にボスッと手が置かれた。

 

「いつまで考え事をしているんだ。この拠点の人間はもう脱出の準備を始めているぞ」

 

「あ、ああ。すまない。・・・それで? 力の方はどうだ?」

 

 俺の問いに門矢士はその手に持つディケイドライバーを揺らす。

 しかもどこか得意げな顔で。

 

「それならよかった。取り返してやったんだから力貸してくれよ」

 

「はいはい」

 

 俺は門矢士に促されてその場を後にする。

 今はとりあえず今後の事は置いておいてこの勝利を喜ぶとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・」

 

『王』の城内部にある広間で『マサキ』が深いため息を吐いた。

 それに『水流』と『土砂』がピクッと反応する。

 

「どうした?」

 

「予想通り『火炎』がやられた。しかも、こちらの予想を裏切って拠点の機能を破壊しただけで仮面ライダーに大きなダメージはない。痛み分けどころか大損害だ」

 

「ハッ、調子に乗った馬鹿の末路だな。ざまあねぇ」

 

 あざ笑うように『水流』はそう言う。

 

「たしかに無様だが、予想以上に仮面ライダーは強いみたいだが大丈夫なのか?」

 

「ああ、そこは大丈夫だろう」

 

『マサキ』は『土砂』の問いにそう断言する。

 あまりにもハッキリと言うその姿に『土砂』は首を傾げる。

 

「見た所ヤツは『王』の力と同質のモノを持ちながらそれは『王』以下だ。『火炎』のように油断しなければただの雑魚だろう」

 

「なるほど。・・・・・・なら、俺が行くか」

 

「くれぐれも『火炎』の二の舞にはなるなよ」

 

 仲間からのありがたい言葉(笑)を背に『水流』はその場を後にする。

 その背を見ながら『マサキ』はポソリと呟く。

 

「まあ、お前程度じゃ勝てないだろうがな」

 

 その言葉は空に溶け、誰にも拾われる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『水流』は仮面ライダーのいる拠点の大まかな方向を見据える。

 そして、その手に持つアナザーウォッチを起動させた。

 

《クウガ》

 



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106話 『VS「水流」①~戦いを見守る影~』

えっと、まず初めに自身の反省点を言います。
『四天王』なんて作るんじゃなかった。

本来なら10話ほどで終わらせる予定でった最低最悪の魔王編が少し長めになりそう。
もはや連続で『四天王』と戦わせるかついでの雑魚みたいに倒さない限り予定よりも長くなりそうです。

あ゛~早く『ジオウサイキョウ!!』をやりたい(願望)


 俺たちは荷物を纏めると拠点を後にする。

 無論、俺たちだけじゃなくそこに居た全員が拠点を放棄してあっちこっちへ散らばって行く。

 相手に襲われ壊滅した以上、留まっていられないのだとか。

 

「それにしても、食料を買いに行ったら襲われた挙句に仲間が増えるとはね」

 

 朱雀さんは苦笑いを浮かべながらそう呟く。

 俺もそれを予想していなかったので無言で頷き同意しながら歩を進める。

 

「いや~、まさか四天王の一人を倒しちゃうなんてね~。さっすがお兄ちゃんだね」

 

「あの程度に苦戦しているようじゃこの先辛いだろうがな」

 

「言っておくが門矢士、あの時お前が手伝ってくれてらもう少し早く処理出来ていたぞ。変身能力を失っていたとしてもまだ力は残っているだろう」

 

「さあな」

 

 門矢士はどこかすました表情でそう答える。

 そうだ、コイツは基本こんな感じで掴みどころのない人間だった。

 

「しかし、『四天王』って事はあのレベルの奴があと三人いるのか・・・。なあ、朱雀さん。残りの三人について何か知っているか?」

 

「ん~そもそも『四天王』自体基本的に表に出る事は無しい、表に出てきた場合の生存者が少ないせいで情報も無いからね・・・」

 

「なるほど・・・」

 

 多少なりと情報を得られれば対策を練られるのだが、それが無いとなると全てのアナザーライダーに警戒をしなければいけないだろう。

 っと言ってもある程度アタリが付いていたりもするのだが・・・。

 

「拠点に戻ったら玄武になんて説明しようか・・・。一応全部の拠点にあそこの壊滅は知らされているけど事細かに聞かれそうだ」

 

「正直にそのまま伝えればいいじゃないですか。『四天王』の一人の『火炎』が攻めて来て俺がボコボコのギタギタにしたって」

 

「あのね、言っておくと他の拠点にも動揺が滅茶苦茶広がってるんだよ。あそこを離れる前の通信で大分動揺が広がってるのが伝わって来てるんだよぉ。不用意に動揺や不明情報を伝えられないんだってぇ」

 

 なんか涙声になっているが俺に負担はなさそうなのでスルー。

 

「まあ、そんなことよりもさ。これからどうするの? 私的にはここで焦らずに作戦を練るべきだとは思うんだけど」

 

「まあ、そうだろうな。それに俺もただ潜伏していたわけじゃない。勢力関係は大体分かった」

 

「大体分かったって、曖昧な表現じゃなくて具体的に言えよ」

 

「フッ、大体は大体だ」

 

 ああ、これ全く分かってないパターンだ。

 俺はそう確信し、門矢士の情報に頼るのも期待するのも止めようと決意する。

 いや待て、そもそもこの通りすがりの世界の破壊者に期待する事自体が間違えなのでは?

 確かに数々の世界で戦ってきた戦歴はあるが基本的にコイツは行き当たりばったりか裏でこそこそ何かやっているような人間なのだ。

 下手に期待するのが間違いなのだ。

 

「ってか、紅。お前その格好は良いとしてその銃はなんだよ。お前の個性上必要ないだろ」

 

「今この世界じゃ女ってだけで舐められるからね。武器を持ってる方が良いの」

 

「あ~なるほど。そういう事か」

 

 俺が腕を組んで納得していると少し息を切らしながら朱雀さんが言う。

 

「三人とも、楽しそうに話すのは良いけどスタミナ管理には気を付けなよ」

 

「大丈夫ですよ。この程度運動にすらならないんで」

 

「そうそう。これぐらいじゃまだまだだよ」

 

「若いって良いねぇ。俺なんて二十歳を過ぎたあたりからどんどん体力が落ちて行ってるってのに・・・」

 

 ハハハと自嘲気味に朱雀さんは笑う。

 何か声を掛けたかったが残念な事にその気持ちを理解できない為、何も言わない。

 精神年齢だけで考えればもう俺は魔法使いになれていいくらいなのだが、肉体年齢はほとんど成長していない。

 18歳で死に、現在は15歳。

 同じような成長しかできていないし、同じような肉体年齢でしかない。

 違うところを上げるとするなら俺自身の肉体が人間のモノとは企画が違ってしまっている所だろう。

 

「二十歳ならまだ鍛え直せば何とかなる年齢だと思いますよ」

 

「・・・・・・そうだね。君たちなら『王』を倒せるかもしれないんだろ? だったら、平和な世界になったら鍛えるとするよ。この年齢でヒーロー科の学校に行くのもいいかもな」

 

 朱雀さんは楽しそうに笑う。

 ここ数ヶ月の地獄のような日々に終わりが見えたのが―――希望が見えたのが嬉しいのだろう。

 その背中を見ながら俺は強く拳を握る。

 

 ―――『王』、テメェの正体は何となく分かってる。

 ―――だから俺は何があろうとテメェを許さないし、刺し違えてでも倒す。

 

 空を見上げれば、ちょうど大きな入道雲が太陽を隠し、辺りを暗くした所であった。

 そして、俺たちが拠点に戻ると同時に大雨が降り、辺りの景色を滲ませていった。

 

 

 

 

 

 

 俺は枠組みだけの簡易的な窓から外を眺める。

 激しい雨のせいで見張り台に上る事自体が危険な状態になってしまい、今は各自このような形で見張りを行っている。

 その気になればこの程度の雲なら吹き飛ばせるのだが、その後の気象の変動や荒れを考えるとあまり好ましくないのでやらない。

 ちなみにだが、俺の向いている方向にはなにもない。

 一切合切敵意や悪意、害意なんてものを感じない。

 

 そう言った気配を感じるのは正反対・・・つまり背後だ。

 その方向には『魔王城』がある。

 この感じからしてこっち方面に『誰か』が近づいて来ている。

 

「ハァ・・・・・・」

 

 俺は深いため息を吐く。

 ここを戦場にすることはできない。

 ただでさえ前の事があって皆疲弊しているのにさらに苦しめる事はしたくない。

 窓から視線を外し立ち上がると俺は部屋を後にする。

 廊下を歩いていると前から蛙す―――梅雨ちゃんが歩いて来た。

 

「あら? 機鰐ちゃん、どうしたの?」

 

「戦場に行ってくる」

 

「・・・っ。なにか、あるの?」

 

「こっちに近づいて来ている何者かがいる。ここを戦場にするわけにはいかない」

 

「待って、ここにいる人たちで迎え打ったり他の拠点からプロヒーローの応援を呼んだりすれば」

 

「死者が出るぞ」

 

 俺の言葉に梅雨ちゃんの肩がビクリと震えた。

 そして、少し瞳孔が揺れている。

 

「食糧供給拠点での出来事は聞いているだろ? あの時は相手の狙いが完全に俺だったから何とかなったが、今回はどうなるか分からない。いくら何でも全員を守りながら戦えるほど俺に余裕がある訳でもない。・・・・・・だから、こっちから打って出る」

 

「大丈夫、なの?」

 

 その言葉に、俺は優しく微笑んでサムズアップをする。

 そして、

 

「大丈夫」

 

 それだけを言ってそこを後にする。

 外の雨は激しさを増し、数メートル先すら視覚が困難になっている。

 そんな中、俺は雨具を使わずに歩く。

 全身が濡れていくが気にする事なくに前へと進み続ける。

 一歩でも遠くにいかなければ。

 

「・・・・・・ったく。次の敵は何だ、クソが」

 

 

 

 

 

 

「ふっふふ~ん♡」

 

 一人の少女が楽しそうに鼻歌を奏でる。

 大雨の中、傘をさしていないにも関わらずその少女は濡れていなかった。

 まるで、雨粒の方から少女を避けているかのように丸いドーム状の空間ができているのだ。

 あまりにも不可思議な状況だが、周りにソレを指摘するような人間はいない。

 少女は雨のカーテンの先の空間を見据える。

 50人を超える人間がずらずらと歩くその光景を見ながら静かに呟く。

 

「軍勢としては最精鋭を集めているみたいだけど、あれじゃあ駄目だ。『彼』は私と違って自らの意志で『そうあるべき概念』に居続けて何よりも鍛え抜かれた運命力のある『魂』の持ち主だ。有象無象が集まった所で勝てはしないさ」

 

 だけど、と少女は言葉を続ける。

 

「彼も今は弱体化しているからなぁ。しばらく平和というぬるま湯に浸り過ぎたみたいだね。せっかく人工でありながら天然宝石の原石のような珍しい『魂』に不純物が混じって鈍くなっている。・・・でも、この状況はある意味最高かも☆」

 

 少女は両手を横に伸ばし、楽しそうにくるくると回る。

 それに合わせるように少女の周りに降り注ぐ雨粒も回り始めた。

 

「この狂った状況が研磨剤の役割を持って彼の『魂』を磨くだろう。そうすればきっと『神』にも・・・・・・いや、今は言及すべきではないか」

 

 クスクスと少女は笑う。

 そして、ピタリと止まると今まで少女を避けていた雨がその幼さの残る体を濡らし始めた。

 

「しょうがない。この私には少し悪いけど私が介入するか。まあ、この私に迷惑が掛からない様に少し認識を弄ればいいだけだしね」

 

 少女はそう言うと、ある一方向を眺める。

 その方向には軍勢に向かって歩く一人の少年がいる。

 

「さあ、見せてくれ。偶然と必然の積み重ねで『救い上げる』側に居続け、ついには私と同じ“概念”の存在となった君の―――『救いの英雄』としての真価を」

 

 楽しそうに少女がそう言った瞬間、今まで空を覆っていた雨雲が消え去った。

 月明かりが辺りを照らし、少年と軍勢が互いを認識する。

 軍勢の中からは高価そうなスーツを着崩しその高級性を一切感じさせない薄い青髪の男が一人前に出る。

 少年はそれを気にした様子無く歩を進める。

 

「さあ、今は傍観でいてあげるから楽しませてよ。『私たち』の求める“強き魂”の者」

 

 その光景を見ながら少女はただ笑顔で笑っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 俺は前方50メートルほどの所にいる男に視線を向ける。

 男の後ろには何十人ものチンピラたち。

 まあ、そんな有象無象がいくら集まっても意味はない。

 今一番警戒しなければならないのはスーツを着崩している男だけだ。

 

「・・・・・・アンタは?」

 

「『水流』。・・・『王』に使える『四天王』の一人だ。んで、お前が『火炎』を潰した『仮面ライダー』か」

 

「ああ、そうだ。・・・仇討ちにでも来たって所か」

 

 俺がそう言うと『水流』はあざ笑う様な表情になる。

 

「アイツの? 馬鹿を言うな。『王』の名を辱めたあんな愚か者なんて興味はない。俺はただ『王』の不安分子を取り除くだけだ」

 

「・・・・・・そうか。それで、後ろの有象無象は?」

 

「単純な戦法だ。数で攻めて疲弊させる、分かりやすいだろ?」

 

『水流』の言葉を聞いて俺はつい笑ってしまった。

 数で押す? そんな使いつぶされた単純な手が今の俺に通じると本気で思っているのか?

 だとしたら、コイツはホームラン級の大バカ者だ。

 

「なるほど、つまりお前は勝てる気でいたんだな」

 

「は?」

 

 疑問の色を隠すことなく顔に浮かべる『水流』。

 その表情に笑みを返すと俺は一瞬で軍勢の中へとワープする。

 そして、目の前にいたチンピラの腹を殴ると飛び上がり、近くにいたチンピラの顔面を踏みつけて跳び上がり、別のチンピラの方へと跳ぶと集団をかき乱し一人一人丁寧に倒して行く。

 そして、数分とかからずに全員を沈めた。

 

「・・・な? 集団なんて俺からしたら弱いモノだ」

 

「なるほど。・・・・・・『王』が警戒したのも頷ける。だが、それでも俺に勝てる保証はないぞ」

 

『水流』は少し冷や汗を流しながらアナザーウォッチを取り出した。

 

「変身」

 

《クウガ》

 

 瞬間、『水流』の体が大きく変化し異形の怪物へとなる。

 

《ジクウドライバー ZI-O(ジオウ)

 

「変身」

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)!》

 

 俺はジオウに変身すると同時にジカンギレードを取り出し、アナザークウガへと姿を変えた『水流』との距離を詰める。

 大きな体は確かに強いだろう。

 だけど、懐に潜り込んでしまえば案外攻撃に被弾しない。

『クウガアーマー』になれば良いだろうと言われそうだが、同じライダーの力でトドメを刺せればいいのだ。

 ダメージを与えるなら身軽な方が良い。

 身を低くして攻撃を避けるとその胴体を斬りつける。

 さらに体を回転させて勢いを乗せた蹴りを叩き込みその態勢を崩すと倒れている方向へと回り込み肘打ちで無理矢理態勢を元に戻しそこに跳び蹴りを食らわせた。

 

 ―――やっぱり、アナザーディケイドに比べたら大分楽な相手だ。

 アナザークウガ自体の戦闘力はそこまで高くない。っというかアナザーアルティメットクウガになられない限りは脅威ですらない。

 楽に倒せる雑魚という訳ではないがそれでも十分弱い。

 俺は左手にジカンギレードを持ち替えると右拳に力を込めてそのまま振るう。

 

「ライダ~パ~ンチ」

 

 ズッドォォオオオオンッッという大きな音と共に『水流』が吹き飛ぶ。

 うん、楽だわ。

 なんだろう、表現し辛いが。

 アナザーディケイド(本編ボス)と最初に戦ったせいでアナザークウガ(劇場版ボス)との戦闘がそこまで苦じゃない。

 今のところボーナスバトルだ、これ。

 

「・・・・・・まあ、そうそう簡単にいくとは思わないけど」

 

 俺はそう呟くと追撃に向かった。

 




(くれない) 華火(かほ)(魔王編)』
身長:180cm
体重:【少しやせた☆】

【挿絵表示】

世界軸のズレにより生存(他メンバーは死ぬか『王』へと寝返った)。
動きやすい格好として服装もチェンジ。ただし個性の関係上特に意味はない。
世界が修正され次第消滅する運命でありそれを受け入れている。


『????/謎の少女』
身長:154cm
体重:【知ったら消えるよ】

縺昴%縺ォ螻?※縺昴%縺ォ縺翫i縺夊ェー縺九?遏・繧雁粋縺?〒隱ー縺ィ繧る未菫ゅ?辟。縺??手ェー縺九?上?髮?粋菴薙?
逕キ縺ァ繧ゅ≠繧雁・ウ縺ァ繧ゅ≠繧雁ュ蝉セ帙〒縺ゅj閠∽ココ縺ァ縺ゅj莠コ髢薙〒縺ゅ▲縺ヲ莠コ髢薙〒縺ッ縺ェ縺上?取ヲょソオ縲上〒縺ゅj縲取ヲょソオ縲上°繧蛾?ク閼ア縺励◆閠??
縺昴?諢剰ュ倥?隍?焚縺ゅj縺ェ縺後i荳?縺、縺ォ邨ア荳?縺輔l縺ヲ縺?k縲
莠コ遏・縺悟所縺ー縺ェ縺?←縺薙m縺九?守・槭?上〒縺吶i繧ら炊隗」縺励″繧後※縺?↑縺??
縺溘□縲∵悽莠コ縺ッ讌ス縺励¢繧後?菴輔〒繧ゅh縺剰。悟虚蛟ォ逅?↓螟ァ縺阪↑逅?罰繧呈戟縺溘↑縺?ー怜?螻九?


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107話 『VS「水流」②~介入者~』

よっしゃ、駆け足で行くぞ()


 

 俺は態勢を低くして一気に突撃する。

『水流』は腕を伸ばして攻撃をしてくるが跳び上がり避けると太陽を背に突撃する。

 目が眩み一瞬怯んだその隙を見逃すことなくその頭部にギカンギレードの斬撃を食らわせる。

 そして、足元へと着地すると同時に再度跳び上がりその胴体へと蹴りを打ち込む。

 グラッと『水流』はバランスを崩して倒れる。

 

「ヘッ。やっぱりお前は力を扱いきれていないようだな。・・・そりゃそうか。テメェは今まで雑魚狩りしかしてきてねえんだ。自分より弱いヤツ相手にゴリ押ししかしてこなかったようなテメェに同格かそれ以上の相手はキツイだろうな」

 

 それに、と俺は言葉を続ける。

 

「その力は笑顔を守る為の物だ。テメェが好き勝手使っていいもんじゃねぇ」

 

「ぐっ・・・。少し善戦できたからと言って調子に、乗るなぁあ!!!」

 

『水流』が口を開くと同時にそこから火球が放射される。

 俺はジカンギレードを上段から振るい、眼前に迫る火球を真っ二つに斬り裂く。と伸ばされた手が俺の体を叩く。

 体が宙に放り出され身動きが取れない隙に立ち上がった『水流』が連続で攻撃を繰り出し、それが俺の全身を容赦なく襲う。

 ダダダダダッという打撃音と共に俺の体がより打ち上げられそのまま弧を描き地面へと落ちた。

 

「・・・ハァ、ハァッ! どうだ! 俺は、俺は強い!!!」

 

「・・・・・・そうか。やっぱりその程度か」

 

「なっ!?」

 

ARMOR TIME(アーマータイム) KUUGA(クウガ)!》

 

 俺の体をアーマーが包み、『仮面ライダージオウ クウガアーマー』へと姿を変える。

 

「特に大きな痛みもねえし、迫力もあったモンじゃない。その程度の攻撃でイキがっていたとはな」

 

「ぐっ・・・まさか、そんなっ! ありえん!!」

 

『水流』は顔を抑えて目の前の現実を否定しようとする。

 だが、いくら否定しようと事実が変わる事は無い。

 俺は身を屈めて『水流』との距離を詰めるとその顔面に鉄拳を叩き込む。

 無論そこで手を休めることなく連続で殴り続ける。

 

「ウガァ!!」

 

 むやみやたらに振るわれる腕を避けながら一撃一撃を正確に打ち込む。

 

「ウガガァァァアアアアアアア!!!!!」

 

「いい加減、終われ!」

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! KUUGA(クウガ)

 

 俺はジクウドライバーを回転させるとそのまま飛び上がる。

 その動きは、その態勢はクウガのマイティキックを再現している。

 

「ウォラァア!!」

 

 ドガスッッという鈍い音と共に『水流』は吹き飛び近くにあった瓦礫の山へと突撃した。

 息を整えて警戒をするが何かが動く気配は感じない。

 ここで油断する気はないし逃げられても後々面倒くさいのでゆっくりと近づいて行く。と背後から俺を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「お~い、大丈夫~?」

 

「ん?」

 

 クルリと振り向くとそこに居たのは、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブツッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り向くとそこに居たのは拠点で待っていくように伝えておいたはずの少女だった。

 なぜここに来たのかとがっくり肩を落としてため息を吐く。

 そして、その少女の名前を呼ぶ。

 

「危険だから来るなって言っただろ、暗視波奉(・・・・)

 

「ごめんって。心配だったんだよ。でも、この感じからして勝てたみたいだね~」

 

 そう言って笑うその姿にどこか違和感を覚える。

 それが何なのか分からないがついそれを口に出していた。

 

「お前、そんなキャラだったか?」

 

 波奉は小首を傾げ不思議そうに言う。

 

「何言ってるのさ、元々こうだったでしょ?」

 

「・・・ん、ああ。そう、だったな・・・・・・」

 

 俺はそう返事をするとすぐに視線を瓦礫の方へと戻す。

 瞬間、瓦礫の山がガタガタッと動く。

 

「ッ! まずっっ・・・・・・」

 

 とっさに波奉を押しのけるとさらに覆いかぶさり衝撃を防ぐ盾になる。

 ドッオオォォォンッッという衝撃音が鳴り響き辺りに落ちていた瓦礫が吹き飛ばされる。

 慌てて攻撃の中心地へ視線を向けると同時に伸びて来た腕に殴り飛ばされた。

 

「ガッ・・・」

 

 先ほどと違う強力な一撃でアーマーが弾け跳ぶ。

 そして、俺の体は何度も地面をバウンドする。

 

「ふ、ふは、ふははははははははははは!! 先ほどまでの威勢はどうしたぁ!! やはり貴様は俺には敵わないのだ!!!」

 

 アナザーアルティメットクウガへと姿を変えた『水流』は馬鹿みたいにそう笑いながら追撃を仕掛けてくる。

 俺はその攻撃を避けながら叫ぶ。

 

「逃げろ、波奉!! なるべく遠くへ!!」

 

「う、うんっ!!」

 

 背を向けて走って行く波奉を視界の端で捉えながら俺は急いでライドウォッチを起動させベルトに装填する。

 無論、攻撃は飛んできているがそれを全て避け僅かな隙にベルトを回転させる。

 

ARMOR TIME(アーマータイム) KAMENRIDE(カメンライド) WAO(ワーオ) DECADE(ディケイド) DECADE(ディケイド) DECADE(ディーケーイードー)!》

 

 幾つもの影が重なりアーマーを形成していく中、ライドヘイセイバーを持って『水流』に向かって突撃する。

 瞬間、『水流』から発せられた黒い煙が多くの怪人の数へと変貌した。

 俺はライドヘイセイバーを振るいながら数百を超えるその軍勢へと突撃する。

 

「うぉらぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 

 雑魚も幹部レベルも入り混じる中、ひたすらにライドヘイセイバーの針を操作し剣を振るいまくる。

『水流』が最初に目的としていた数で押して疲弊させる作戦は今まさに始まったと言って良いだろう。

 ここで大きく疲弊するのも強い攻撃を受けてダメージを負うのも今後の戦いに大きな影響を与えてくるのは明らかだ。

 目の前に山のようになっていたクズヤミーを散らせると同時に左右から初級インベスが、正面からクロウイマジンが攻撃を仕掛けてくる。

 ジカンギレード(銃)でクロウイマジンの飛ばしてきている羽を打ち落としその手に持つ杖を弾いて弱体化させライドヘイセイバーでインベスを切り伏せる。

 

「ッガァ!!」

 

 瞬間、背後からの一撃に飛ばされ地面を転がる。

 慌てて立ち上がり自分が先ほどまでいた所を見るとそこで『メ・ガルメ・レ』と『カメレオン・ゾディアーツ』がちょうど姿を消す瞬間が見えた。

 姿を消す系は基本厄介だな。等と文句を出している余裕はなく襲い掛かってくる奴らをひたすら蹴散らす。

 だが、倒しても倒しても湧いてくる怪人たちに流石に疲れが出てくる。

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! DECADE(ディケイド)! ATTACK TIME BREAK(アタックタイムブレーク)!》

 

「ラァ!」

 

 ライドヘイセイバーにエネルギーを纏わせるとそれを思い切り振るって周りにいた怪人たちを一斉に薙ぎ払う。

 そして、ライドヘイセイバーを地面に突き刺し、秘密兵器を取り出すとジカンギレードと合体させる。

 

SAIKYOU(サイキョウ) FINISH TIME(フィニッシュタイム)!》

 

 サイキョージカンギレードの刃に黄金のエネルギーが収束するのを確認し、トリガーを引く。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

 

 先ほど以上に大きく膨れ上がった光の刃を辺り全体に向けて激しく振るう。

『ジオウサイキョウ』の文字に多くの怪人たちが吹き飛ばされて空中で散って行く。

 流石に予想外だったのか『水流』は羽を広げて上空へと逃げる。

 無論、その程度で追撃を諦める気も無ければ逃がそうとも思わない。

 俺は走る勢いをそのままにサイキョージカンギレードを地面に突き刺し、剣先を軸に思い切り飛び上がる。

 

「なぁ!」

 

「終わりだ、『水流』!!!」

 

 俺はライドヘイセイバーにクウガライドウォッチを装填し、針を思い切り回転させる。

 

FINISH TIME(フィニッシュタイム)! Hey(ヘイ) KAMEN RIDERS(カメンライダーズ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)! Hey(ヘイ)! SAY(セイ)!》

 

『水流』は光線を放ち打ち落とそうとしてくるが、俺は空中で身を翻す事で斜線を外れそのまま懐へと潜り込む。

 そして、トリガーを引くと同時にライドヘイセイバーを振るう。

 

KUUGA(クウガ)! HEISEI RIDERS(ヘイセイライダーズ) ULTIMATE TIME BREAK(アルティメットタイムブレーク)!!》

 

 その巨体を真っ二つに斬り裂くと同時に『封印』を表すリント文字が大きく浮き上がる。

『水流』は何か言葉を発送と口を動かしたが、そこから言葉が出るよりも前に大きな音と共に爆散した。

 それを確認して、俺は態勢を整えると足を地面に向けて衝撃に備える。

 着地と共にズトンという少し嫌な音が鳴ったが特にダメージはなく、軽く息を吐いてから変身を解除する。

 

「あ~、大分グダったな」

 

「いやいや、実質戦闘時間なんて20分も無いよ。大分短期戦だったと思うよ」

 

「そう言ってもらえるだけマシか」

 

 俺はそう言うと波奉の頭にポンッと手をやる。

 

「ったく、拠点で待っとけよ。梅雨ちゃんにだってそう伝えたんだからよ」

 

「梅雨ちゃんが心配そうにしてたから様子を見に来たんだよ」

 

「そうか。なら、早めに戻って安心させないとな」

 

「そうだよ。早く拠点に戻ろう、ね」

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

 どこか違和感を覚える。

 だが、その違和感が何なのか分からず、俺は少し思考を巡らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 深くため息を吐く。

『魔王城』の一室で本を読んでいた『マサキ』は本を閉じて部屋を出る。

 廊下では奴隷たちが掃除をしており埃一つも見逃さぬように必死で働いている。

 この奴隷たちの首には首輪が付いており、『王』の意思決定一つで爆発するように設計されている。

 誘拐され無理矢理働かされている哀れな奴隷から視線を外し、『マサキ』が正面を向くと銀髪のメイドが丁度歩いてきている所だった。

 

「よう、今日も元気ないな」

 

「・・・・・・」

 

「『王』の直属なんだ。もう少し愛想を良くしたらどうだ? ・・・・・・いや、無理な話か。想い人を殺した相手とその仲間の命令を聞くことすら苦痛だろうからな」

 

「何の用ですか?」

 

 メイドの言葉に『マサキ』は獣のような笑顔を浮かべる。

 

「俺は数日中に『オレ』を殺して完全になる。そして、『王』は完全に世界を支配するだろう」

 

「・・・・・・」

 

「分かったか? 次の大戦で勝った方がこの世界の支配者だ。お前は、何もできないままそれを見ていろ。・・・・・・変な気は起こすなよ。お前が裏切れば想い人の復活もなく、ここにいる奴隷たちは死ぬ。心しておけ」

 

『マサキ』はそれを言い残しさっさとその場を去る。

 向かう方向には『王』の部屋がある。

 残されたメイドは俯き、ギュッと拳を作る。

 

 何もできない自分が情けなかった。自分の“個性(チカラ)”では状況を打破できない無力さが。

 唇を噛み、涙を堪えるしかなかった。

 ここで無理矢理働かされている人たちの為にもひたすら耐えるしかない少女は、涙を拭うと再度歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 拠点に戻ってすぐに会議室に放り込まれた。

 しかも朱雀さんと青龍さんに二人して正座させられ怒られている。

 

「君たちはなんて無茶をするんだ!!」

 

「そうだ、俺たち大人を頼れ。勝てたとはいえ『四天王』を相手に二人だけで戦いを挑むなんて無謀も良い所だ!!」

 

「いや、俺一人で行ってコイツが勝手に付いて来てたんです」

 

「そうです私が勝手に付いて行きました」

 

「「大人に何も言わずに出て行った事には変わりない!!!」」

 

「「ヒェッ」」

 

 俺たちは抱き合って震える。

 大の大人からのガチ怒りの迫力は想像を絶するモノであった。

 ・・・・・・そういえば、俺って大人にこうやって真剣に怒られた経験ってほとんどないんだよな。

 

「・・・説教はそこまでに。これから会議を始める」

 

 扉の方を見れば、あきれ顔の玄武さんと他メンバーたちが立っていた。

 視線を下げると玄武さんの手に通信機器のようなものが見られる。

 

「最終作戦会議を始める。みんな、席につけ」

 

 その言葉に俺たちはそれぞれ動き出す。

 っと言っても俺と波奉は反省の為に壁際に立たされている。

 玄武さんが机の上に通信機器を置くとそこから少し懐かしさを感じる声が聞こえて来た。

 

『各拠点に連絡をする。こちらプロヒーロー「エンデヴァー」。もしかしたらこれが最後の通信になるかもしれん。・・・・・・「王」が動き始めた』

 

 エンデヴァーの言葉に会議室がざわつく。

 

『どうやら、最終大戦に出るつもりかもしれん。向こうは全勢力を持って襲い掛かってくるだろう。・・・ここで負ければ、世界の平和はない』

 

 そんな、重苦しい言葉を聞き会議室が沈黙に包まれる。

 

『このペースで行けば後4日程で動き出すだろう。各自、2日後に地点A-G-225-SRに集まるように』

 

「・・・・・・なぁ、波奉。それってどこだ? 全く解読できる気がしないんだが」

 

「エンデヴァーが独自で作り出した新しい暗号だからね。一部の人間しか解読法は知らないよ」

 

「へ~」

 

 ボソボソと会話をしている内にいつの間にか会議は終わっており各自が覚悟を決めた顔で行動を開始していた。

 それを見て、俺はポケットからライドウォッチを取り出す。

 

「さて、俺はこれを使いこなせるかな。・・・・・・いや、使いこなさないとな」

 




108話との間に短編㉙が入ります。


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108話 『乱戦』

 日が過ぎるのはあっという間で、準備を終えた俺たちは集合地点に集まっていた。

 辺りには霧が立ち込め決戦前だというのにコンディションは最悪だと言えるだろう。

抵抗軍(レジスタンス)』の他拠点から集まった面々の中にはUSJで起こった悲劇の生き残りがいた。

 

「・・・・・・腕、大丈夫か? 常闇くん」

 

「あぁ、黒影(ダークシャドウ)が腕の代わりになってくれている。それよりも機鰐が無事だったことに驚いているぞ。てっきり死んだとばかり思っていたからな」

 

「そうそう。あの時に胸貫かれてたからな。あれは致命傷だと思ってたぜ」

 

 上鳴くんのその言葉に俺は後頭部をピリポリと掻きながら言葉を返す。

 

「いやぁ、致命傷だったせいで回復に時間かかってたんだよ。脳みそ潰されたたらヤバかったと思うぜ」

 

「数ヶ月気絶していたってのは結構大事だと思うけどな」

 

 軽口を叩いているが言葉の端々に緊張感が感じられた。

 これからの決戦を前に心を落ち着かせたいのだろう。

 少し首を回して関節を鳴らすと、大きな声が聞こえて来た。

 

「いいか! 俺たちがここで『王』を倒せなければ世界中で怯えている人々の希望が潰える事になる!! 全員、気合いを入れていけ!!!」

 

 勧説が沸き起こる。

 叫んでいた男―――エンデヴァーの痛々しい姿を横目に俺は『魔王城』の方向を見る。

 そして、視線を動かさない。

 後ろではエンデヴァー含むプロヒーローや大人たちが作戦の最終確認壊をしているが、俺は役職付ではなく言い表すなら『一般兵士A』なので一切気にしない。

 どうせ作戦固めても現場で新しく変更するし。

 

 緊張感が高まる中、俺はジクウドライバーを腰に装着しておく。

 マサキも真剣な表情で真っ直ぐ前を見ている。

 いったいどれほどの時間が経過しただろうか、数分・・・いや、数十分か。

 霧が晴れだすと地平線の向こうに多くの人影が見えて来た。

 数千・・・数万・・・数億だろうか? いや、億は流石に言い過ぎか。ともかく数えきれないほどの人間の壁に圧倒されそうな気分になる。

 距離にして5~8km程だろう。目測だからよく分からんけど。

 ただ、もはや目と鼻の先と言っても良い距離であるのは間違いない。

 

 そんな敵軍に一際目立つ二人がいた。

 雰囲気から分かる事、それは言わずもがな『四天王』だろう。

 

 単体で来た『火炎(バカ)』と質を捨てて数で来た『水流(マヌケ)』と違い完全に迎え撃つ準備を終えているのだろう。

 数で言えば向こうが圧倒的に上。レオニダスですらビックリする程だろう。

 ・・・・・・いや、レオニダスだったらスパルタ理論で「もし敵が5倍の軍勢ならば1人が5人以上の敵を殺せばいい!!」とか言いそうだな。ってか確実に言う。

 ただ、この戦争で勝つにはそのスパルタ理論で戦わない限り勝算は少ないと言って良いだろう。

 周りをぐるりと見ればこの場にいる全員の顔に緊張の色が浮かんでいる。

 

 ここで負ければ世界は終わる、そんなプレッシャーが重く圧し掛かっているのだろう。

 それを視覚し、俺は深くため息を吐いてしまった。

 重い空気に飲まれているんじゃ勝てる戦いも勝てる訳がない。

 大きく息を吸い、深く吐いて正面を強く見据える。

 瞬間、俺は右手開き前へと突き出して言う。

 

任せた(・・・)!!」

 

[了]

 

 腕に纏われた“影”が正面へ大きく展開され突然飛んで来たその攻撃を弾き飛ばす。

 ―――向こうが準備をしていた数日間でこっちが一切準備をしていない訳がないだろう。

 

 

 

 俺は、俺の中にいる“影”に語り続けていた。

 

 ―――お前は誰だ?

 ―――お前は何なんだ?

 

 再三の問いかけに(どこかうんざりしたように)“影”は答えた。

 

 ―――俺たちは救われなかった人の心から漏れ出た闇の集合体だ。

 

 一言、そんな言葉を。

 救われなかったという言葉は俺の心に刺さった。

 だから、再度問いかけた。

 

 ―――救われなかったってなんだ。

 

 そこからはグダグダと長い説明があったので要約すると、コイツは人の負の面の集合体らしい。

 あの『退魔師』とやらから聞いた覚えがある。

 どんな人間でも無意識的に力を放っておりその中でも負の感情というモノは取り分け外界への影響が多いのだとか。

 それがまとまり集まれば災害が起こる確率が上がり人々に不幸が降りかかるという。

 そういった事を防ぐために戦国の世の中、秘密裏に負の感情のみを封じる術が作られたとかなんとか。

 しっかりと聞いていなかったせいで良く思い出せないが確かこんな感じだったと思う。

 

 つまり、この“影”とやらはあの日あの時、纐纈のヤロウのせいで現れ、“鬼”がアイリを使って封じ込めようとし、大森がなんやかんややったアレの事なのだろう。

 あの後も忙しかったせいで言われるまですかっり忘れていた。

 まあ、ともかく。俺はここ数日の間に出来るだけたくさんの会話を交わし、そして共に戦う事になった。

 だってそうだろ。

 別に負の感情ってのは全てが『悪いモノ』って訳じゃないんだ。

 政界の理不尽や不条理に対する怒りだって負の感情なんだ。

 だったら、それを受け入れて受け止めてやるのが当然の事だろう。

 

 だた、それだけの簡単な事で良かった。

 受け入れさえできれば、救う事ができれば、これは俺の力になる。

 

 

 

 正体不明の攻撃を吹き飛ばしてすぐ、『抵抗軍(レジスタンス)』たちは一斉に駆け出す。

 俺はその流れに乗らず、戦闘を駆ける。

 走りながら腰のジクウドライバーを少し撫で、呟く。

 

「すまん。ちょっと変身は後でだ」

 

 そうして、少し後方を確認すれば俺同様に最前線を突っ走る人物の影。

 

「お兄ちゃ~ん。抜け駆けは無しだよ~」

 

「ハッ。子供(ガキ)に最初に戦わせるかっての」

 

「ヌゥ、さっそく作戦が乱れそうだ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしているエンデヴァーにサムズアップを送り、そのまま一気に加速する。

 体を倒し、ほぼ全体重を前へと向けて重力加速のを得ての前進だ。普通の走り方じゃ追いつけないだr、

 

「お兄ちゃん足早いんだね~」

 

「個性使わずにその速度ってのは将来は安泰か? エンデヴァー、アンタはどう思う?」

 

「今は目の前の事に集中しろ!!」

 

 普通に追いつかれた。

不死鳥(フェニックス)』の羽ばたき、『兎』の脚力、『ヘルフレイム』でのバーストは想像以上に加速できるらしい。

 いや~、凄いモンだ。

 

「脚力だけで“個性”での加速に追いつけてる辺り、お兄ちゃんの方が凄いと思うよ」

 

「心を読むな」

 

 俺はそう言いながら両手に影を纏わせるとこちらに向かって突撃してきている『魔王軍』の上部、飛んでいる敵に向けて一気に放つ。

 これにダメージはない。だが、これを喰らえばソイツの命は俺の掌の上と言って良いだろう。

 ニヤリと笑い、手をギュッと握りながら呟く。

 

「[魔女の一撃」]

 

 瞬間、飛んでいた有象無象が大きな悲鳴を上げて落下して行く。

 別に何か大きなことをしたわけではない。相手の腰に“影”を纏わせてそのまま筋肉を引き攣らせただけだ。

 

 まあ、言うなら偶発的にギックリ腰を起こす技だ。

 これでしばらく動くことはできないだろう。

 そして、厄介な飛行系はあらかた片付いたってのはこちらに有利でしかない。

 

「さぁてと、始めますか」

 

ZI-O(ジオウ)

 

 何故だか知らないが、変身すると“影”を纏えなくなる。

 だからこそ飛行系を潰すまで変身をしなかったのだ。つまり、それさえ済めば大丈夫ってこった。

 

「変身!」

 

RIDER TIME(ライダータイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー) ZI-O(ジオウ)!》

 

 変身し、そのまま大軍勢の中へと飛び込む。

 俺たちは襲い掛かってくる敵を千切っては投げ千切っては投げひたすら暴れまくる。

 殴りかかってきたヤツの腕を掴んで投げ飛ばし、近くにいたヤツにタックルして掴んでからぐるぐると回し投てき武器にして、時に攻撃を避けて同士討ちを狙う。

 やっぱり乱闘は面倒くさい。

 敵味方が入り乱れているせいで派手に動きづらい。

 え? 上記の事は派手じゃないのか、だって?

 ハッハッハ。本当に派手にやるなら一気に『ジオウサイキョウ』で薙ぎ払ってるよ。

 

 戦闘が始まって数分、少し息を整えながら移動をする。

 乱戦中に一定の場所に留まるのは狙われるリスクが多く付きまとう。

 だからこのように常に移動することによって狙われにくくなる。

 そうして動きながらも襲ってくる奴らを一人一人丁寧に叩き潰しておく。

 

「ッ・・・。ンだ?」

 

 突然人の流れが大きく変化し、円状の広間ができる。

 その中心は、俺だ。

 何が起きたか分からず辺りをぐるりと見渡すと、軍勢の中から見知った顔の人物が出て来た。

 

「・・・・・・マサキ」

 

「ん? なんだ、やっぱりそうだったか。・・・・・・勘違いするな。俺は『暴風』。『四天王』の一人だ」

 

 目の前の人物はそう言いながらこちらをジッと睨んでくる。

 そして、いきなり姿勢を引くして突撃して来た。

 俺はジカンギレードを取り出すとそのトリガーを引き牽制をする。

 だが、『暴風(マサキ)』はその全てを避けると一気に懐へ潜り込み、その手に持つ熱線銃(ブラスター)のトリガーを引いた。

 

「うごッ!!」

 

 よろけ後退った所へ叩き込まれた後ろ回し蹴りを何とか弾き、拳を振るうが無理な体勢から放った攻撃のせいで避けられてしまった。

 俺は軽く息を整えて相手を見据た。瞬間、発砲音と共に俺の耳元を何かが通り、目の前のマサキの頬を掠めてその後ろにいた全身タイツの人物の胸部を貫いた。

 慌てて振り向くと、そこにもマサキがいた。

 何が起きているのか分からず思考を巡らそうとすると、背後にいたマサキがゆっくりと口を開く。

 

「オレの“個性”は『分裂』。二人になれる“個性”だ。両方オレで片方が死んだらもう片方に死んだ方の記憶が入る。逃走するのには便利なんだが戦闘ではあまり使えない。・・・・・・過去、オレは『俺』とケンカし、『俺』は『王』の下へと付いた。だから、アレは敵だ」

 

「・・・そうか。じゃあ、殺してもいいんだな?」

 

「ああ」

 

 その言葉に俺は一歩前に出る。

 

「さて、ちょっと俺らしくもなく動揺しちまったが、もうさっきみたいには行かねえぞ」

 

「そうか? お前の程度は知れたと思うが」

 

『暴風』はそう言うとアナザーウォッチを取り出して言う。

 

「変身」

 

《1号》

 

 アナザーウォッチの起動と同時にその体が大きく歪み巨大化してゆく。

 それを前にしながら俺は大きく息を吸って、深く吐くと秘密兵器として用意しておいたそのライドウィッチを起動させる。

 

ZI-OⅡ(ジオウツー)

 

 二つに分かれたライドウィッチをベルトに装填し、ベルトのロックを外すと俺は何も言わずベルトを回転させる。

 

RIDERTIME(ライダータイム) KAMENRIDER(カメンライダー) RIDER(ライダー) ZI-O(ジオウ)ZI-O(ジオウ)ZI-O(ジオウ)! (ツー)!!》

 

 二つの時計が重なり合い、それがアーマーとして俺の体に纏われて行く。

 そうして、変身が完了すると同時にアナザー1号―――『暴風』に向かって一気に駆け出す。

 俺はサイキョージカンギレードを取り出し、下段に構える。

 大きく振るわれる腕を避けて距離を詰めると視界の端から跳んでくる影が見えた。

 慌ててサイキョーギレードを盾のように構えてその蹴りを防ぐ。

 ガァンッッという音と共に体が弾かれる。

 態勢を整えて着地すると追撃を仕掛けて来た黄色い影を蹴り飛ばす。

 

 見た事の無いアナザーライダーだった。

 黒と発光色の黄色をベースとしたリアルバッタをそのまま怪人にしたような見た目のなんか気持ち悪いヤツ。

 うん、知らない人だ。(平成に取り残された男)

 

 ただ、形状からしてアナザーライダーであることは確実なのだ。

 つまり倒せない相手ではない。

 俺はサイキョーギレードを下段に構えて駆け出すと振り上げるようにそれを振るう。

 アナザーライダーはそれを寸前で避けるが、俺は勢いを止めずジャンプで飛び越えてそのまま『暴風』の方へと走る。

 

「なっ、待て!!」

 

 そう叫ぶ名前も知らないアナザーライダーを無視して加速する。

『暴風』は自身を中心に紅い閃光を生み出すとこちらに向けて放ってきた。

 

「チィッ!」

 

SAIKYOU(サイキョウ) FINISH TIME(フィニッシュタイム)!》

 

 刀身にエネルギーが集まり、黄金に輝き出す。

 そして、突っ走りながらサイキョーギカンギレードのトリガーを引く。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

 

 何倍にも膨れ上がった光の刃を大きく振るい、飛んでくる閃光を切り伏せる。

 そして、体を180度回転させ背後に迫って来ていたアナザーライダーを脳天から斬り伏せた。

 

「おっと、待てというから急ブレーキしてやったんだがなぁ」

 

 俺のそんな言葉をアナザーライダーが聞けたかどうかは知らないが、そんなことを気にする必要もない。

 すぐに視線を『暴風』の方へと戻す。

 

「・・・・・・チッ。『土砂』め、油断するからだ」

 

「オイオイ、仲間に対してその態度は無いだろう」

 

「仲間? 馬鹿を言うな。俺を含めてここにいる全員は『王』の道具だ。『王』の名前に泥を塗る馬鹿は必要ない」

 

「そうか、じゃあ、戦おう」

 

 話が通じない。

 いや、そもそも通じる訳がない。

 妄信者を相手にこっちの理論を理解させようとするだけ無駄でしかない。

 それにこの乱戦の中なのだ。

 

 勝った者が正義、そんなガキみたいな理論さえあれば十分だ。

 




アナザーゼロワン「俺の出番少なっ!!」


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109話 『終わりの始まり』

 飛んでくる閃光を避けながら戦場を駆け抜ける。

 時に弾き、時に防ぎ、直撃しないように注意しながらそれでも全速力で。

 

「調子に、乗るなぁ!!」

 

 振るわれる腕に跳び乗り、踏み台にして一気に超跳びする。

 そのまま顔面目掛けてサイキョーギカンギレードを振るうが、飛んで来た閃光によって弾かれ、その一瞬の隙に下からの足(バイク?)によるカチ上げ攻撃をモロに喰らってしまった。

 空中だったが故に踏ん張りが利かずそのまま吹き飛ばされる。

 

「クッソ!!」

 

 下を向いて状況を見ると『暴風』が閃光を幾つも放って来ていた。

 手をクロスさせて少しでもダメージを減らそうとした所、横から体を掴まれてグンッと引っ張られた。

 

「大丈夫!? お兄ちゃん!!」

 

「ッ・・・。スマン」

 

 俺はサイキョーギカンギレードをサイキョーギレードとジカンギレードに分解して、ジカンギレードをジュウモードにして飛んできている閃光を打ち落としていく。

 下ではエンデヴァー・ミルコ・波奉・朱雀さんを含む数名が攻撃をしているが一切決定打にはなっていない。

 いや、そもそもこの戦場でアイツに致命的攻撃を与えられるのは俺だけだ。

 もし仮にエンデヴァーの攻撃で倒したとしても、アナザーライダーの特性上すぐに万全の状態で復活する事になる。

 つまりは、俺が行かなければ戦況は不利な方へと傾いて行く。

 

「紅。俺を一気に投げ落としてくれ」

 

「えっ!? どうしたの突然! 普通に危ないし」

 

「大丈夫」

 

 ガシャンと、再度ジカンギレードとサイキョーギレードを合体させる。

 

「お前は受けから援護を頼む。・・・さっさと、この戦いを終わらせて一緒に文化祭に行こう」

 

「・・・うん。行こう、一緒に」

 

 紅はその炎翼をより大きく広げ旋回すると重力加速を乗せて一気に俺をぶん投げた。

 落下しながらも俺は態勢を整えてサイキョーギカンギレードを上段に構える。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!!》

 

 落下速度をそのままに全身を使って一気に振るう。

 

「喰らっとけやぁぁぁああああ!!!」

 

 こっちに気が付いた『暴風』がこちらに攻撃をしようとした時にはもう遅く、俺は全身を縦回転させて切断威力を乗せる。

 そして、確かな手応えが合った。

 何かを確かに斬り裂いた手応えが。

 だが、回転していた為にその瞬間を見れていた訳ではなく、俺は着地と同時に上を向き、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そして、小さく舌打ちをする。

 

「マジかよ・・・」

 

「貴様ァっ!!」

 

 腕を抑えながら『暴風』は俺を睨んでくる。

 どうやら、ギリギリで避けられてしまったらしく、俺の渾身の攻撃は『暴風』の左手を斬り落としただけで本体に大きなダメージを与えられなかった。

 だが、片手を落とせたのはそれだけでこちらが有利になる大きな要因になるだろう。

 そう捉えれば上出来と思えてくる。・・・・・・いや、本体真っ二つに出来た方が何億倍も良かった。

 

「さて、片手を失っちゃ体のバランスが崩れてしまうだろう。どうする? 降参するか?」

 

「少し優勢になったぐらいでっ・・・! 調子に乗るなァ!!」

 

 振るわれる拳の軌道から少し体をずらしてからサイキョーギカンギレードを使って弾きその態勢を崩す。

 そして、バランスを崩し隙だらけになったその胸部目掛けて一気に突っ込む。

 

「終わりだァ!!」

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!!》

 

 胸部へ突き刺さったソレをそのままにしておかず左足を軸に回転し、一刀両断する。

 

「が、がぁぁぁああああああ!!!」

 

『暴風』は叫び声を上げ、爆散する。

 それを見届けてから、俺は辺りをグルリと見渡す。

 先ほどまで威勢の良かった敵たちの顔には陰りが出てきており、中には逃げ出し始める者も少なくない。

 この場の指揮を執りトップクラスに強かった『四天王』が一気に倒されたのだ。

 動揺しない方がおかしいと言える。

 

 戦況は傾いた。

 有利なのは、こっちだ。

 俺がニヤリと笑うと同時に同じく戦況を読み取ったエンデヴァーが大声を上げた。

 

「今だ! 一気に畳みかけろぉ!!」

 

 その言葉を合図に大きな雄叫びと共に乱戦の流れが一気に変わる。

 普段なら流れに乗る事は無いが、今回ばかりは乗ろうと思い流れの向く先へと足を向けようとした時、視線の端で顔を青くし汗を滝のように流すマサキを捉えた。

 慌てて近づくと、マサキの鼻からは血が出て目は視点が合っていなかった。

 

「オイ! 大丈夫か!?」

 

「・・・・・・数ヶ月分の自分の記憶を受け取るのは、初めてだったんでな・・・。さすがに、キツイ」

 

「・・・しょうがねえ。一旦お前を戦場から離れさせるぞ。物陰に隠れてゆっくりしてな」

 

 そう言って俺は変身を解除してマサキを抱き抱えようとすると、強く手を掴まれる。

 マサキの顔を見ると視点が定まらない目でこっちを見ていた。

 

「・・・オレの事は良い。お前は、『魔王城』へ急げ」

 

「いや、お前を放置できるかよ」

 

「いいから、聞け!」

 

 顔を青くし、少し冷たくなった手で俺の肩を掴みながらマサキは強く声を発する。

 

「・・・どうしたんだよ」

 

「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 

 マサキは少し途切れ途切れになりながらもハッキリと得た情報を言う。

 それを聞き終えて俺は小さく舌打ちをした。

 

「分かったか? ・・・・・・はぁ。なら、行け」

 

「おう、言ってくる。・・・死ぬなよ」

 

「そっちこそな」

 

 マサキの言葉を背に俺は『魔王城』方面に向かって瞬間移動する。

 大切な相棒を助ける為に。

 

 

 

 

 

 

 とある一室で『王』はギリリッと歯軋りをした。

 戦況が傾き『魔王軍』が不利な状況へとなり巻き返しが難しくなり始めている。

 

「力を与えてやったが、この体たらくか。・・・ゴミが」

 

 そう言って自身の斜め背後に居たメイドの方へと視線を移すと、その顔に向けて裏拳を繰り出す。

 メイドの幼く華奢な体はその衝撃で飛ばされ、地面を転がる。

 

「なんで世界はいつも思い通りにいかねえんだよ。俺は世界の頂点に立つべき存在なのに。・・・なあ、神々ってのはどこまで傲慢なんだ? 観戦者として上から物事を見て娯楽として楽しんでいるくせに俺と言う存在を認めない。世界はなぜ支配者に逆らおうとする?」

 

「決まっているじゃないか。君が世界を見ていないからだ」

 

 今まで一切反論をせず従順だったメイドの言葉に『王』は眉を顰める。

 メイドは痛む頬を片手で押さえながらゆっくりと立ち上がる。

 

「世界って言うのは人間一人のエゴを押し付けただけじゃ変わらないし、身勝手な思いがまかり通るようにはできていない。お前みたいなろくでもない人間が、押し通せる理想なんて一つもない!」

 

「・・・逆らうのか?」

 

「ああ、いくらでも逆らってやる。私は、彼が好きなんだ。いつも必死で、周りの人だけでなく自分も騙して誤魔化して、必死に誰かの為に戦う彼が。・・・お前と彼の違いなんて明白だ。お互い身勝手で、自分本位だけど、方向性が違うんだ」

 

 メイドは『王』を真正面から睨み、叫ぶように言う。

 

「自分の世界を押し通そうとする、という面では同じだろう。だけど、お前は結局自分が特別である事(・・・・・・・・・)に拘り他を軽視している。でも、彼は常に他人本位だ。平和を望んで、平穏でいたくて、それを守る為に自分の周りにある『平凡な日々』の為にそれを押し通すために立ち上がっているんだ! お前みたいに自分の好き勝手だけを押し通そうとする者の自由に世界が動くと思うな! 世界は、彼のように立ちあがれる者の為に動く! 彼のように、誰かの為に戦える者の味方をする!!」

 

「・・・遺言は、それでいいな?」

 

『王』はそれだけを言うと一瞬でメイドとの間にあった距離を詰めた。

 メイドは慌てて防ごうとしたが、元来運動が苦手だった事とここ数ヶ月の栄養失調で衰えた体では対応できるはずもなく、『王』からの一撃を受けて跳ね飛ばされる。

 なんとか“個性”を使って壁への衝突は免れたモノの、それだけで体力を大幅に失い地に膝を付いてしまった。

 

「まったく。俺の言う事を聞いて入ればアイツを生き返らせてやっても良かったのに。そのチャンスすらも棒に振るうか」

 

「・・・お前は見えてなかったの? 戦場で振るわれるあの輝く聖剣が。彼は、戦ってる。お前が定めたルールなんて関係ないんだ。・・・・・・いや、そもそも彼を相手に正規方なんて通じるはずもないんだ。彼はいつもルールをぶち破っていた。ルールなんて通じるはずがないんだ」

 

「もう、黙れっ!」

 

『王』の掌にピンク色をベースとした少し紅黒いオーラが纏われる。

 禍々しく、そして圧倒的な威圧感にメイドは一瞬圧倒されそうになるがそれでもフラフラと立ち上がり手を正面に翳す。

 翳した手には風が渦巻き、雷が纏われそれが高まって行く。

 

「死ね」

 

『王』が放った攻撃をメイドは作り出したその小さな竜巻を大きく展開して防ぐ。

 だが、元々のエネルギー不足もあって竜巻を壁として展開し続けるような余力はなく、ほんの数秒で竜巻は弾き飛ばされメイドのその体を『王』の攻撃が飲み込む。

 

 ―――大きな爆発と共に部屋の一部が吹き飛ぶ。

 

 舞い上がる煙から『王』は視線を外し戦場の方へ向く。

 そうして、戦場に向けて一歩踏み出した時、背後からこの場にいなかったはずの人物の声が聞こえた。

 

「すまない。遅れちまって」

 

『王』はゆっくりと振り向く。

 

「よく頑張った。後は、俺に任せろ」

 

 そこに居たのは天敵となる少年だった。

 そこに居たのは戦況をひっくり返すほどの力を持つ人物だった。

『王』は少し歯軋りをしてから呟く。

 

「救いの英雄っ・・・・・・」

 

「よう、やっぱりお前だったか。ミラー。・・・・・・テメェだけは流石に生かしておかねぇぞ」

 

 少年はメイドを―――白神神姫を抱き抱えながら『王』を睨みつける。

 だが、『王』はどこか余裕のある表情で返す。

 

「キサマは俺に勝てない。・・・・・・『王』としての俺の力はすでにキサマを超えている」

 

「だろうな。だけど、それが諦める理由にはならないぜ。・・・・・・神姫、お前はここから離れてろ。後は、俺の仕事だ」

 

 少年は神姫の体からソッと手を離し、大きく息を吸う。

 そして、吐き終わった瞬間、戦闘が始まった。

 




『白神神姫/メイド』

【挿絵表示】

『王』に無理矢理働かされ、サンドバック代わりに殴られたりしているせいで常に怪我を負っている。


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110話 『王』

ポケモン楽しい()


 

 姿勢を低くしミラーとの距離を詰める。

 ミラーは腕にオーラを纏わせてそれを放って来るが当たる寸前で俺の体から出た黒いオーラに飲み込まれて消える。

 予想外だったのかミラーは回避ではなく防御をしようと手を動かしているがあまりにも遅い。

 俺は下から上へのアッパーを繰り出し、ミラーの鳩尾に一撃を入れる。

 そして手を引き、正面に拳を突き出して再度ぶん殴る。

 

「ぐふっ・・・」

 

「隙だらけだぜ」

 

 俺はそう言いながらも後方へとステップし、一定距離を取る。

 一気に攻めるのも戦術としてはあるがコイツを相手に深入りするのはマズい。

 

 今まで戦ってきた相手と明らかに桁違いのプレッシャーを感じる。

 背筋にゾワゾワと冷たいモノが走るこの感覚は『神』と戦った時以来である。

 ――――あ、『神』は弱体化させてたから実質向こうの方が上だわ。

 うんうん、なら大丈夫か(暴論)。

 

「さて、そろそろ準備運動はここまででいいだろ?」

 

「調子付くなよ。キサマの力なんて、この『王』の力に比べたらゴミに等しい」

 

「そうかよ、なら、テメェのその力を粗大ごみにしてやる」

 

 俺たちは互いにウォッチを取り出して言う。

 

「「変身」」

 

ZI-OⅡ(ジオウツー)

 

RIDERTIME(ライダータイム) KAMENRIDER(カメンライダー) RIDER(ライダー) ZI-O(ジオウ)ZI-O(ジオウ)ZI-O(ジオウ)! (ツー)!!》

 

 変身が完了するとともに俺たちは一気にぶつかり合う。

 アナザージオウⅡの秒針型の武器とサイキョーギカンギレードが接触するたびに火花が散り一挙手一投足が相手の急所を狙い、それを防ぎ反撃をする。

 一瞬の油断や一瞬の迷いが負けに繋がる攻防をしながらも俺はジオウⅡの能力を使用して未来を予知し続ける。

 無論、アナザージオウⅡ(以後:アナザー)も同じことをしているのだろう。

 見えている未来が目まぐるしく変化し、一切定まるような気配はしない。

 

 上段に構えるアナザーに対し俺は下段に構えて一気に振るう。

 両者の胴体に両者の攻撃が直撃し、同時に吹き飛び壁に激突する。

 無論、悠長に寝ている時間なんてなくすぐさまその場から跳び退いてサイキョーギカンギレードを操作する。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

 

 体を大きく回転させて全方位に向けて斬撃を放つ。

 だが、途中で回転が止められてしまう。

 

「やっぱ、これでやられるようなタマじゃねえよな」

 

「当たり前だ。遊んでやっているってことに気付いたか?」

 

 瓦礫から這い出てくるアナザーは重心を落とすと一瞬にしてその姿を消す。―――いや、違った。

 腹部に襲い掛かる強い衝撃と激しい痛み、そして、吹き飛ぶ体。地面を数度バウンドしてからようやく攻撃されたことを脳が認識する。

 何とか体制と立て直し前方に視線を向けてから失敗に気が付く。

 

 眼前には、白い拳がいっぱいに広がっていた。

 

 カチ上げるようなアッパーに一瞬頭が吹き飛んだかと錯覚する。

 だが、そんな無駄な思考に余力を割いている余裕なんてなく、来るであろう追撃をサイキョーギカンギレードで防ごうとした。が、そのガードを避けるように攻撃が当たる。

 

「ガァァッッッ!!!」

 

 俺は吹き飛びながらも重力方向を判断し、サイキョーギカンギレードのトリガーを引く。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

 

 バンッッと俺の体は上空へと打ち上げられる。

 今はとりあえず1秒でも良いから時間が欲しい。・・・対策を考える時間が。

 下に視線を向けて思考を始めようとした時には、もう俺は行動を始めていた。

 サイキョーギカンギレードに足を付けるとそのまま跳んで放たれた攻撃を回避する。

 

 先ほど自分のいた場所をチラリと見れば高エネルギーによってサイキョーギカンギレードが完全に消滅していた。

 もしも避けるのが少しでも遅ければ俺もああなっていただろう。

 そう思うと背筋に冷たいモノが走る。

 

「いくら何でも、強くなりすぎだろ」

 

 そうぼやいても何も変わる事は無い。

 だが、流石に予想以上に強くなっていたアナザーを相手にそうでも言わないとやってられないのだ。

 そして着地するとすぐにその場から離れる。

 アナザーから放たれる攻撃は一発当たっただけでも致命状になるだろう。

 数回攻撃を観察してパターンを読む。

 身を屈める事で攻撃を回避してから一気に距離を詰める。

 アナザーは腕にエネルギーを纏わせ放出してきたが、直撃寸前で身を翻す事で避ける。

 そして、アナザーの胴体目掛けて回し蹴りを食らわせる。

 

「なっ・・・!?」

 

「同じ攻撃を連発するもんじゃぁねぇぞ! テメェのその攻撃は読んだぞぉ!!」

 

 よろけるアナザーの腹部に前蹴りを叩き込み、下がった頭へ肘を打つ。

 それによってより下がった頭部を蹴り上げるとそのまま大振りの拳で殴り飛ばした。

 

「ぐがぁ!? ・・・・・・くっ、うがぁぁぁああああああ!!!!」

 

 アナザーが叫ぶとその体に黒ずんだオーラが纏われ、瞬間、その姿が見えなくなる。

 先ほど以上の速さである事を直感しながらも咄嗟に体を丸める。

 ブオンッと風を切る音と共に俺の体に攻撃が当たる。

 その力に逆らわず後方へと跳ぶことで衝撃を受け流しある程度距離を稼いでから着地する。

 だが、それと同時に失敗に気が付いた。

 

「しまっっ!!?」

 

 振り返ろうとして首を掴む感触に体を引っ張られる。

 そして地面に叩きつけられるとそのまま何度もバウンドし、瓦礫に叩きつけられる。

 

「カハッッ。・・・・・・クソったれ」

 

 そう文句を口にするも現状が変わる訳がない。

 咄嗟に視線を上げると飛び上がっているアナザーの姿があった。

 無意識的に腕をクロスさせてガードしようとするが、意識がその悪手に敗北を直観させた。

 

ANOTHER TIME BREAK(アナザータイムブレーク)!》

 

 アナザーの足にエネルギーが収束し、それが一気に叩き込まれた。

 体を襲う今までに感じた事の無い―――いや、感じた事はあるな―――経験した覚えのある衝撃に体は大きく飛ばされる。

 全身に激しい痛みが走り変身が解除される。

 

「あ、はっっ・・・」

 

 急速に意識が堕ちる。

 視界が狭まって行き、力が入らず俺は暗闇の中へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中を歩く。

 意識がハッキリとせず今なぜここにいるのかも分からない。

 ただ、一つだけハッキリしている事は、俺は負けたという事だろう。

 誰に負けたかも思い出せない。

 どうして戦っていたのかも何のために抗っていたのかも、そして、何を掴めなかったのかも今じゃ頭の靄が隠してしまう。

 一歩、また一歩と踏み出す。

 

 どこへ向かっているのかは分からない。

 そもそもここが道なのかも怪しい。

 歩いているように感じているだけで本当は一歩も進んでいない可能性すらある。

 

 チラリと視線を下へと向けるが何も映らない。

 暗闇が体を隠しているのか、体が存在しないのかは考えたくない。

 考える余裕もない。

 

 視線を上げると、そこに誰かがいた。

 見覚えがあるのだが思い出そうとすると頭がズキリと痛む。

 ただ、敵意の無い存在であることだけは感じられた。

 その誰かは暗闇の中にいるにも関わらず全身をハッキリと視認する事ができた。

 

「まったく。君らしくもない。あの程度の敵に敗北するようなタマじゃないだろう。君は私たちなんかとは違う存在なんだぞ」

 

 何を言っているのか分からない。

 言葉を認識できているハズなのだが、脳が完全に理解してくれない。

 

「その情けなく呆けた顔は何とかならないものかねぇ。・・・いいか? 私たちは『そこに居てそこに居ない、誰かであって誰でもない』そんな『概念』だ。でも、君は違うだろ? 『救いの英雄』。善も悪もなく、自身の信じた心の声に従って多くを救った存在だろう。だったらここで立ち止まるな。君は、、、、、、、、、、、、、、、」

 

 突然、目の前にいた誰かが消えた。

 本当にそこに居たのかも曖昧で、もしかしたらただの幻覚だったのかもしれない。

 俺は静かにまた一歩踏み出す。

 歩数を数えたりはしないし、数えたとしてももう数字すら分からなくなってしまっている気すらする。

 そうしてまた歩き出すと、次は別の誰かが現れた。

 

「テメェ、なに情けねえ顔してんだよ」

 

 厳つい顔の巨漢野郎だった。

 何故か近くにいるだけで安心できる気がする。

 

「俺はテメェに負けた。でも、そのお陰で俺は進めたんだ。テメェのその生き方が俺の道を示したんだ。そんなお前がそんな面しててどうするんだ!」

 

 その誰かは俺の胸倉を掴む。

 

「いいか? 俺はテメェに託したんだ。俺の全てを! だから、何があっても前を向け! どんな困難が立ちはだかろうと乗り越えていけ!! それがテメェn、、、、、、、、、」

 

 ザァッとその誰かも闇に消えて行く。

 そうして、また暗闇だけが残る。

 だが、そんな暗闇を俺はまた進むしかない。

 時間の概念なんて感じられずに一分も一時間も分からずひたすら足を動かし続ける。

 もはや思考する事すら億劫になり始めた時、赤い眼をした茶髪の人物が現れた。

 

「さとしちゃん♡ やぁっと会えたねぇ。フフッ、分からないかな? そうだとしても私は受け入れるよ。だって、さとしちゃんは私の夫d、

 

「君は何を言っているのだか。彼はボクの夫だよ」

 

 突然もう一人現れた。

 小柄で白髪の見覚えのある誰か。

 

「君は彼を誘拐監禁しただけのストーカー女だろう。ボクは正式ではないにしろ彼と結婚式を挙げた新婦だぞ。そして神父はチャラい医者だった」

 

「は? ・・・ねえ、さとしちゃん? 浮気、してたの? ・・・答えてよ。なんで答えてくれないの? なんで? ねえ、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッッッッッッッ。好きって言ってよ。私だけを見てよ」

 

「ハッ、病み病み女の妄想に付き合う必要はないさ。君は自由な鳥の様な人間だ。ボクの想いを持ってそれでも天空へと跳べる羽を持つ。こんな束縛馬鹿の事なんてさっさと忘れて先に進むと言い。・・・君も彼が元気でいる事が望みだろう?」

 

 白髪の誰かがそう言うと小さなリングを差し出してきた。

 

「持っていくと良い。君とボクが結婚式の時に使った安物の指輪だ。今のボクよりも君が持っていた方が何倍も価値がある」

 

「ダメだよ! こんな泥棒猫の物なんて持ってちゃダメ! ほら、私が君との為に作った結婚指輪! 生前は渡せなかったけど、持っていって! それでそっちは捨てて!!」

 

「君はねぇ。今は恋心や嫉妬を優先させるのではなく彼の背中を押してあげる事を優先させよう」

 

 二人から差し出された指輪を俺は認識できていない手で掴む。

 

「それじゃ、ボクたちはもう行くよ。きっと、君なら大丈夫さ。それに、その指輪が君を導いてくれるだろう。頑張れ、旦那サマ♪」

 

「嫌だぁ! 私はさとしちゃんとずっと一緒に、永遠に結ばれていくんだぁ!!」

 

「ポンコツヤンデレは今は落ち着いて寝なさい。セイ!」

 

「ゥッ・・・ガクッ」

 

 二人はそのままスッと消えて行った。

 ギャグのようなテンポに驚き、その流れに押されたままになってしまった。

 手の中にあるソレを握り一歩踏み出そうとした時、そこに、大切な誰かが―――白神神姫がいた。

 

「・・・・・・大丈夫。龍兎ならまた立ちあがれる。だから、今は休んで」

 

 神姫は俺の手を包むように握る。

 

「待ってるから」

 

 それだけを言って闇の中へと消える。

 手を見ると先ほど受け取った二つの指輪が輝いていた。その輝きが、その光が前へと延びて行き、そこにまた誰かがいた。

 姿は見えず全身真っ白で性別すら判別できなかった。

 

「ねえ、君が俺を呼んだの?」

 

 誰か、分からない。

 どこかで見た覚えがあるし、きっと忘れない筈の存在な気がする。

 でも今の俺には判断できなかった。

 

「疲れてる顔してるね。・・・ちょっと俺に何があったか聞かせてよ」

 

 優しい声だった。

 それでいて全てを内包し、受け入れてしまう様なおおらかな気配がする。

 

「言っても、変わらない」

 

「そうだとしても、そんな顔している民を放ってはおけないよ。大丈夫。俺の出来る事なら協力するから」

 

 自信満々の声だった。

 まるで諦めずにひたすらに突き進んでいた頃の自分のように。

 そんな声を聴いた瞬間、俺の中でせき止められていた何かが溢れ出した。

 



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111話 『それぞれの道と新たに歩む道』

ダイマックスアドベンチャー楽しいなぁ()


 戦場で一人の少女がピタリと立ち止まった。

 ただ、この場では自殺行為でしかなく格好の的でしかない。

 そんな少女は軽く息を吐くとポツリと呟く。

 

「君がそこまでやっているなら、私たちも頑張らないとね」

 

 ガチャッと少女は熱線銃(ブラスター)を取り出し、敵の頭を正確に撃ち抜く。

 

「テメッ!」

 

 別の敵が大きく拳を振るうが少し体を逸らせることで避け、その腕を掴むと背負い投げの要領で投げる。

 地面に背を打つ敵の喉を踏みつぶし、意識を完全に刈り取る。

 

「っと!」

 

 だが、背後からの伸びて来た触手に絡み取られその足が地から離れる。

 少女の力では解けないほど強く、全身に絡みつく。

 

「んっ・・・、くぅ・・・・・・」

 

 締め上げられた少女の手から熱線銃が落ちる。

 

「ヘッヘヘ。それさえなけりゃただの性処理具(オンナ)だなぁ」

 

「下衆。みっともないそのハゲ散らかした頭を何とかしてから出直して来い変態野郎。童貞臭いからさっさと離せ。不清潔な加齢臭がこんな美少女に付いたらどう責任取るつりだ。分かったかこのハゲ」

 

「なっ・・・!? 俺は、タコの”個性”なんだよ!!」

 

「そうか。でも私には関係ないかな」

 

 少女はそう言いながらある一点を見る。

 タコがその方向に視線を向けた時にはすでに勝負は付いていた。

 

黒影(ダークシャドウ)ッ!!」

 

「アイヨッ!!」

 

 影からの一撃がタコの頭を直撃する。

 それだけでは終わらず、黒影(ダークシャドウ)はタコの体を敵群衆の方へとぶん投げる。無論、捕縛されていた少女の救出をしてから。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫。それよりも、君の方こそ。無茶してない?」

 

「俺は大丈夫だ。それに、今は一人でも多くの敵を無力化しないと・・・・・・」

 

 救けに来た人物―――常闇がそこまで言った時、背後から大きな電撃音が響いて来た。

 

「ヘッ、やっぱり人間スタンガン普通に通用するわ!」

 

「上鳴、その明かりのせいで黒影(ダークシャドウ)の力が弱まっているから今すぐにでも離れてくれ」

 

「いやぁ、でも私的には使えると思うよ」

 

 少女はそう言いながら落としてしまった熱線銃を拾い上げる。

 そして、

 

「さて、立ち上がったか。それじゃあ最後のひと踏ん張り頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 エンデヴァーは炎を纏わせた拳を振るい、巨漢の敵を地に沈める。

 片手片足を失い、全盛期に比べれば大分弱体化してしまっているが、それでもチンピラ上がりの敵に後れを取る程弱くはない。

 それに、周りにいる者たちがサポートをしてくれている為に苦戦はない。

 視界の端に映る魔王城では光の剣が飛び出したりする等、戦闘が行われていることが窺えるが、どっちが優勢で今どうなっているのかが分からない。

 しかも、光の剣は先ほどから見えなくなってしまい、戦闘をしていたであろう音ももうしない。

 

 決着がついた、そんな雰囲気がしているがこの乱戦は続いている。

 もしも『王』が勝ったのだとしたら勝利宣言を上げるだろうし、戦いに(勝手に)向かって行った少年も勝利宣言をしているだろう。

 それが無いという事はまだ戦闘が続いているのかもしれないが、ここからでは判断できない。

 今はとにかくこの乱戦で一人でも多くの敵を倒すしかない。

 

「クッ、こいつら、マトモじゃないなっ・・・」

 

「そうみたいですね。何人も仲間をやられているのに気に留めた様子がありませんね・・・」

 

 サポートをしていたインゲニウムは軽く息を吐きながらエンデヴァーの呟きにそう返した。

 襲い掛かってくる敵たちは何かしら薬を使われているようで、恐怖等の感情を一切感じていないようである。

 その為にどれだけ仲間がやられても躊躇うという事も知らずひたすらに襲い掛かってくる。

 

 この戦闘が始まってかなりの時間が経過したが、流石に敵の数が多く長期戦を続けている『抵抗軍(レジスタンス)』メンバーたちには疲労の色が浮かんできている。

 だが、それでも戦わなければいけない。

 ここで諦めたら世界の未来は暗転に包まれてしまう。それを、阻止しなければいけない。

 その思いがあるからこそ戦い続けているのだ。

 

「ッ・・・。でもよぉ、流石に私たちプロヒーロー以外は押されちまってる・・・。向こうにも寝返った元プロヒーローがいる以上、そろそろマズいぞ」

 

 戦場をあちこち跳び回り敵を倒し続けていたミルコに関しては後衛に回って休んだ方が良いとすら思えるほどに疲弊している。

 これ以上の戦闘は素人が見ても危険であると判断できるだろう。

 

「ミルコ、お前はもう休め」

 

「ヘッ、そうはいかねぇよ。まだ相手の方が強いんだ。ここで私がいなくなったらその分をどうするんだ・・・?」

 

「・・・・・・俺が、その分戦う。これでいいだろう」

 

「アンタこそ理解してんのか? 片手片足失ってる体で私一人分戦う気か?」

 

「ああ、その程度ならいくらでもやってやる。・・・心配ならさっさと休んで体力を回復させて戻ってこい」

 

 エンデヴァーは強い口調でそう言おう。

 それを聞いたミルコは汗を拭い、ニヤリと笑う。

 

「それなら、アンタのその言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「・・・・・・」

 

 その言葉にエンデヴァーは答えずにスッと視線を外す。

 ミルコも何も言わずその場を離れて行った。

 

「大丈夫、なんですか?」

 

「無駄口を叩く暇があったら手を動かせ。行くぞっ!」

 

 瞬間、エンデヴァーは炎を噴出させて一気に敵陣中央へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 今まで誰かに自分の重荷を背負わせようとした事なんてなかった。

 これは自分だけの負荷であり、俺だけが持ち続けなければいけない物だったから。

 過去の教訓として言って聞かせる事はあれど、それは解決済みだからこそ口から出せた。

 

「なんで、だよ」

 

 でも、目の前にいる誰かには全てを吐き出したくなった。

 

「なんでなんだよ」

 

 俺の口は自然と動く。

 

「なんでこんなことばかり起こるんだ。俺は別に特別な存在になりたかった訳じゃない。周りの人たちが笑顔でいて、何気ない日常が送る事の出来る平凡ってやつがあればそれだけで良かった。・・・でも、周りでは事件ばかり起きて、誰かが救けを求めていてっ・・・! 纐纈のヤツが悪い訳じゃないし、そもそも最終的に事件に飛び込んだのは俺の判断だ。アイツがやっていたのは事件を起こす事では無く溜まっていた人の蓋を開いて心の憎悪を解放する事だった。つまり、あれらは全て何かしら切っ掛けがあれば起きていた事件なんだ」

 

 俺は少し息を吸う。

 

「結局、世界ってのは理不尽だけだった。どれだけ頑張っても何かしら問題が起きて、ひたすら踏ん張っても不条理な事ばかりが発生して、どこまで行っても悲劇は目の前にあったよ。でもさ、なんで俺ばかりこんな目に合うんだ。大森だって、藤原だって、夢見だって何かが起きても最終的には成功してたよ。その道がどうであれ、全員が持ち得るその能力をフルに使って悲劇を回避していたし、周りの人たちを笑顔にしていた。だけど、俺は違う。常に事件が付きまとって、常に誰かの為に奮闘してて、でも俺は凡人だから、何の才能もないからどれだけ必死に足掻いても出来ない事の方が多かった。その度に新しい事を学んで、新しい事に挑戦して一つでも多くの事をできるようにやってきた。でも、進めば進むほど社会の裏に隠れた実力者が現れて、そんな奴らが狙ったかのように俺の周りばかりで事件を起こしたよ。正規方じゃ勝てないバケモノばかりで、時にはえげつない戦法だって沢山やったさ。ツテを頼って法律的にアウトになる道具を握ってそれを使った事なんてもう数えるのも止めるぐらいだった。それでも俺の周りに来る平穏は僅かだった。一週間何もない日々が来れば奇跡にも近かった。結局、俺は血みどろの世界でしか生きられなかった」

 

 視認できない腕に力いっぱい握り拳を作る。

 

「しかも最終的に何もできずあっさり死んで、争いのある世界だという事を知りながらも、それでも笑顔でいるキャラクターたちに引かれて、そんな世界を望んだよ。でも俺以外にも異端者がいて、そいつらの制御をしようとすれば楽しい世界から遠ざかる事になった。しかも障害を取り除く度により厄介な敵が出てくる。どれだけ俺が頑張ろうと意味なんてなかった。もう、嫌だ。嫌なんだよ。いくら戦っても意味のないこの道が、とてつもなく嫌なんだ」

 

 ギリッと歯軋りをする。

 靄が掛かった頭に自然と浮かんでくるのは悲劇や惨劇しかない。

 

「昔は理想だけを掲げて突っ走れたよ。社会の仕組みも世界の残酷さも完全に理解していないガキだったからな。でもすぐにでも、嫌でも思い知らされたよ。手の中で冷たくなっていく人の体温はどれだけ時間が経っても忘れられないし、忘れるはずもない。そんな人たちは決まって言うんだ。『君は悪くない』『頑張ってくれてありがとう』って。助けられなかったのに、なんで感謝するんだ。なんで満足したような笑顔をしているんだっ・・・! なんでなんだよ!! クソがァッッ!!!!」

 

 もう、最後は叫んでしまっていた。

 頭に浮かんでくるのは血まみれになりながらも優しい笑顔を浮かべていたあの少女の顔だった。どこか寂しそうな表情を浮かべながら落下して行く少女の顔だった。片腕を失いながらも強く笑うおっさんの顔だった。どこか自虐的な笑顔を浮かべる彼の顔だった。―――不治の病に全身を侵され食べる事すらできない程弱った体でそれでも満足そうに目を瞑るあの子の顔だった。

 いや、もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっと―――――多くの人たちが俺の近くで命を落とした。

 苦しい、悔しい、悲しい。多くの感情が俺を支配して行く。

 そんな俺にその誰かは優しく問いかけて来た。

 

「君はさ、それだけの事があっても立ち上がってきたんだよね? それは、何の為?」

 

「何の、為・・・・・・?」

 

 靄のかかった頭にある光景が浮かんで来た。

 幼き頃の記憶。

 その記憶を再現するように小さな俺の幻覚が視界の端に現れた。

 ゆっくりそちらの方へ視線を向ける。

 

 

『助けて、誰か助けてよ』

 

 

 幼い俺は事故に遭い親に見捨てられ、必死に手を伸ばしていた。

 でもその手を掴んでくれる英雄(ヒーロー)はいなかった。

 助けられず、誰にもその手を掴んでもらえなかった弱い存在。

 

「あれが、君が立ち上がる理由なんじゃないかな?」

 

「あっ・・・・・・」

 

 そうだ、なんで忘れていたのだろう。

 俺は誰にも助けてもらえず誰にも救われず、そうして纐纈と出会って決めたんだ。

 この理不尽で不条理でどうしようもなくクソッたれな世界に立ち向かうために。

 幼い俺の口の動きに合わせて俺も言葉を発する。

 

「『それなら、俺が一人でも多くの人を助けて一つでも多くの悲劇を無くしてやる」』

 

 瞬間、幼い俺は霧となって霧散して行った。

 

「・・・・・・諦めちゃ、ダメだな」

 

「そうだよ。きっと、君ならどんな絶望も乗り越えられるさ」

 

 頭の靄が晴れ思考能力が戻ってくる。

 光を放つ誰かはポケットから黄金に輝く何かを取り出した。

 

「君に、俺の歴史の一つを託すよ。君なら誰かの為に使ってくれると思う」

 

 差し出されたそれを俺は受け取り、胸に抱くようにしっかりと持つ。

 

「ありがとう。貴方の力を借りて、必ず勝ってみせる。・・・・・・でも、俺なんかで良いのか? もっと適任者がいたはずだろう?」

 

「うん、大丈夫。君だからこそ託すんだ。それに君ならなんか行ける気がする」

 

 その言葉と共に、暗闇が晴れて俺の意識は覚醒へと向かった。

 



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112話 『KING TIME(キングタイム)

もう少しでこんな作品が投稿初めて二年を迎えてしまう。
半年で終わらせる予定だったのにどうしてこうなった。

しかも知り合いに「物語終らせるにはどうすればいいか」を聞いてみたら。
「俺たちの冒険はここからだ『完』」と「とりあえずキャラたちに拍手させて『おめでとう』と言わせとけば?」という多方面から怒られそうなアイデアを貰いました。
絶対にこの二つのラストにはしないと決意しました。




 俺は立ち上がると油断して隙だらけになっていたアナザーへ蹴りを叩き込む。

 そして、その場には留まらず後ろへと跳んで距離を取る。

 

「キサマッ・・・何故生きている!!?」

 

「さあな。俺にも分からねえけど、もうテメェにやられたりはしない」

 

 俺は自分の手に視線を移す。

 そこにあるのは、二つの指輪と一つのライドウォッチ。

 それを視界に入れただけで少し頬が緩んでしまう。

 

「いいか? テメェは王様気分でいられるのももう後僅かだ。・・・自分のしてきた事を後悔しろ」

 

 俺は黄金のライドウォッチを起動する。

 

OHMA ZI-O(オーマジオウ)!》

 

 これは本来俺が持っていない筈の力だ。

 これは本来俺なんかが使っていい筈の無い力だ。

 でも、今ここにあって使う事ができる。

『平成』という時代の集合であり、未来へと物語をつなげていく力を。

 俺は大きく深呼吸をすると静かに宣言する。

 

「変身っ!」

 

KING TIME(キングタイム)! KAMEN RIDER(カメンライダー)! ZI-O(ジオウ)! OHMA(オーマー)!!》

 

 黄金に輝く力が俺の体を纏い、王の鎧を形成した。

 そうして、俺は『仮面ライダージオウ オーマフォーム』へと姿を変える。

 

「何だ、その姿っ・・・!?」

 

「・・・・・・俺一人じゃ、到達できなかったはずの、変身できなかったはずの姿だ。そして、テメェにはどう足掻いても成る事の出来ない『王』の到達点だ!!」

 

 俺は足を踏み込むと一気にアナザーとの距離を詰める。

 アナザーはそれに反応して腕にオーラを纏わせるが、俺が手を翳してそこから軽く衝撃波を放つだけでその身体を大きく吹き飛ばす。

 その分距離ができるが、少し早く走るだけでその程度は一気に詰められた。

 

「ッラァア!!」

 

 振るう拳はアナザーの体を正確に捉え、その軌道を大きく変化させる。

 無論、ここで止めてやる気なんてさらさら無く、そもそも許してやる気なんて一切ない。

 飛び上がると膝で蹴り飛ばし、そのまま飛ばぬように首を掴むと床へと叩きつける。

 バゴッドドドドッッという大きな音を立てながら床を貫いて堕ちていくのを追いかけ、一階の床に叩きつけられると同時に高速回転を乗せた踵落としを食らわせる。

 地面が砕け、さらに下層へと落ちる。

 

 着地した場所は地下牢で、鉄格子と狭い通路しか見えない。

 アナザーは素早く起き上がると前に手を翳した。

 瞬間、俺とナナザーの間に割り入るようにアナザーカブトが出現し、そして、

 

「邪魔」

 

 俺はクロックアップをして突撃して来たアナザーカブトを一撃で消滅させる。

 クロックアップ自体は確かに脅威になるかもしれないがこんな狭い所では真価を発揮できる訳がないだろう。

 それに、この姿の前では敵として数えるまでもない。

 

「お前は、多くを傷つけた。テメェの勝手で行動して、テメェの下らねえ思想でこの世界を地獄に変えた。別に思想の自由をどうだこうだ文句言うつもりはねぇよ。どんな思想を持とうが、それを語ろうがどうでも良いし個人の勝手だ。・・・でもな、それで誰かを苦しめるような事をしたのなら話が違う」

 

 俺はギリリッと握り拳を作る。

 

「『命で償え』、なんて下らねえ事は言わない。そもそもテメェの命程度で償えるような軽い罪じゃない」

 

 だけど、と言葉を続ける。

 

「テメェは殺す。生きてたら何をするか分からねぇからな。地獄で犯した罪を反省しろ」

 

「・・・金色になっただけで勝てると思っているならキサマは先ほどのように地に伏せるだけだっ!!」

 

 アナザーが一気に俺との距離を詰めてその拳を振るって来るが、先ほどと違い今はスローモーションのように見る事ができる。

 簡単に攻撃を受け止めるとブンッと横へ振り壁に叩きつける。

 ガラガラと崩れた瓦礫に埋もれるその体を掴んで思い切り引き上げると地面に叩きつけた。

 

「ゴハッ!」

 

「・・・・・・地に伏せたのはテメエの方だったな」

 

「ッ! 黙れェ!!」

 

 顔を上げたアナザーは先ほど使っていたエネルギー波を放ってきた。

 流石に近距離だったために避けれなかった。だが、流石オーマジオウの力と言った所だろうか。ほとんどダメージを受けなかった。

 

「なぁっ!?」

 

「・・・・・・」

 

 もはや何も言わず拳を振るう。

 アナザーは地面に体を打ち付けてバウンドして軽く宙に浮く。

 そうして出来た地面と肉体の隙間に足を入れると、グンッと押し上げる。

 無論、そんな事で終わらせる訳もなく上げた足の角度を変えてそのまま蹴り出す。

 あまりいい体制でやった攻撃ではないのでダメージを与えると言うよりは押して叩きつけるという蹴り方だ。

 

「グウッ・・・」

 

 俺はアナザーとの距離を詰めると壁に背を付けさせた状態で何度も殴りまくる。

 地に足を踏ませはしない。

 壁にめり込ませそのまま殴り続ける。

 

「あがぁぁああああああああッッ!!」

 

 一撃一撃、確実に急所を撃ち抜く様に拳を振るう。

 そして、アナザーの首を掴むとゼロ距離で衝撃を放ちその体を宙へと打ち上げる。

 追うように跳び上がり、ある程度距離が詰まった所でサイキョージカンギレードを取り出す。

 サイキョージカンギレードを上段に構えると、全力で振り下ろす。

 

KING(キング) GIRIGIRI SLASH(ギリギリスラッシュ)!》

 

 アナザーの胴体に強力な斬撃を食らわせる。

 そのまま真っ二つになってくれれば楽だったが、想定していた以上にアナザーの体が硬く、斬撃と言うより打撃に近い攻撃になってしまった。

 打ち上げた時以上の速度で地へと落ちるアナザーを追いかける。

 そして、空中でその顔面を鷲掴みにするとそのまま頭部を地面に叩きつける。

 

 大きな衝撃音が辺りに響き地面が大きく陥没する。

 アナザーと俺を中心にクレーターが発生し、それが衝撃を物語る。

 俺はそのままアナザーの後頭部を地面にグリグリと擦りつける。

 

「ぐがっ、あぐぅ・・・」

 

「ハ~ゲ~ろ♪ ハ~ゲろ、ハ~ゲ~ろ♪」

 

「ふざけた歌を楽しそうに歌うなぁぁぁあああああ!!!!」

 

 アナザーが体から衝撃波を出してきた。

 俺はそれに逆らわず衝撃に乗って跳ぶ事でアナザーから距離を取る。

 

「俺を、俺を舐めるなぁぁぁああああ!!」

 

「ヘッ、お前には遊び心がない、心に余裕がない、張り詰めた糸はすぐ切れる・・・・・・なんてな。余裕のないテメェと余裕しかない俺。どっちが場を支配しているか理解しな!!」

 

 そう言うと俺はアナザーの背後へと回ると、その背に拳を食らわせる。

 

「アグアッ」

 

「さぁて、これで最後だ」

 

 俺がベルトに装填されているライドウォッチのボタンを押そうとした時、アナザーがゲラゲラと笑い出した。

 この状況でなぜ笑うのか、そこに疑問を覚えピタリと手が止まる。

 

「あ? ンで笑ってんだテメェ」

 

「キサマは数百人の命と手前勝手な理想、どっちを選ぶ?」

 

「?」

 

「俺の頭には小型のチップが入っている。そして、このチップは俺の意志一つでこの城で働いていた奴隷共の首輪に付けられた爆弾が起動し、死ぬ」

 

「ほう・・・」

 

「キサマの攻撃よりも前に数百人単位で人が死ぬ。どうする?」

 

 アナザーの言葉に俺は軽くため息をする。

 

「勝手にしろ。もう、テメェは詰んでる」

 

「・・・・・・だったら、今ここで殺すッッ!!!」

 

 そうアナザーが宣言するも何も起こらない。

 元々聞こえていた戦闘音は変わりなく聞こえているが、それ以外に大きく変わった音は一切しない。

 困惑しているアナザーに俺はため息交じりに伝える。

 

「満足したか?」

 

「な、にを・・・・・・」

 

「俺が神姫のピンチに駆けつけた時に言っただろ? 『すまない。遅れちまって』ってな。なんで俺が遅れたと思っているんだ」

 

 俺の言葉にアナザーはヒュッと息を吸う。

 全てに合点がいったように。

 

「まさか、まさかまさかまさかまさかっっ!!!」

 

「俺は肉体をデータに出来る。テメェのそのシステムはマサキから聞いてたんでな。無力化してから駆けつけたんだよ」

 

KING(キング) FINISH TIME(フィニッシュタイム)!》

 

 俺はジクウドライバーの上部スイッチを押してロックを解除する。

 アナザーは強く握り拳を作り突撃して来た。

 我武者羅で無鉄砲で無意味なその行動は、アナザーにもう手段が無い事を示していた。

 

 哀れだ。

 あまりにも哀れであまりにも愚かであまりにも矮小だ。

 この程度の器で『王』を名乗り世界を混乱に貶めていたと考えるだけで頭が痛くなってくる。

 

「・・・返してもらうぞ。俺たちの歴史を」

 

 俺は大きく飛び上がり蹴りを放つ。

 瞬間、俺の周りに幾つもの幻影が現れる。

 クウガ・アギト・龍騎・ファイズ・ブレイド・響鬼・カブト・電王・キバ・ディケイド・ダブル・オーズ・フォーゼ・ウィザード・鎧武・ドライブ・ゴースト・エグゼイド・ビルド。――――そして、ジオウ。

 まるで、俺の背中を押すように平成の時代を守り続けた英雄たちが俺と同じようにライダーキックの態勢を取っている。

 

「っ・・・」

 

 感動的な光景だった。

 息をする事すら忘れてしまう様な、いつまで見ていても絶対に飽きる事の無いと断言できるその姿。

 でも、振り向いている暇はない。

 前を向いて、未来を見て、奪われたものを取り返さなければいけない。

 俺は、自身の右足にエネルギーを集中させる。

 

KING(キング) TIME BREAK(タイムブレーク)!!》

 

「はぁぁぁああああああああっっっ!!!」

 

 閃光を纏いアナザーへ向けて繰り出すライダーキック。

 アナザーは拳を振るって抵抗しようとしてくるがそんな行為に意味はない。

 思いを乗せたライダーキックはアナザーの腕を弾き正確に胸部へと突き刺さる。

 

「うぐぁぁあああああ!!!!」

 

 ピシッパキッバキバキバキバキバキッッッと大きな張裂音と共に空間にヒビが入りそれが大きく広がっていく。

 それが、この捻じれ改変された世界の終わりを告げていた。

 壊れ行く世界の地面に大きな跡を残しながらも俺の蹴りは終わらずアナザーにダメージを与え続ける。

 その時、フッと視界の端に何かが入る。

 反射的にそちらの方へと視線を移すと優しくそしてどこか寂しそうな笑顔を浮かべる紅がいた。

 世界に入るヒビは紅の体にも発生しており、その姿が段々と消えて行く。

 

(・・・・・・ごめんな、紅)

 

 俺が心の中でそう呟くと同時に紅は小さな炎の鳥へと変化してそのままこちらへと飛んで来た。

 そして、スッと俺の中に入る。

 ――――紅、一緒に行こうな、文化祭に。

 

 俺の中に紅の炎が宿ると同時に世界は完全に崩れ、辺りは暗闇へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深淵。

 光源の無い筈のここにいるのは俺とミラーだけだ。

 不思議な事に俺とミラーの体だけはハッキリと視覚できており、互いに睨み合っている。

 

「終わりだな」

 

「終わってはいない。俺は、俺はこの力で何度でも世界を作り替えるっ」

 

「知るかよ」

 

 俺はそれだけを言うと隠し持っていた拳銃でミラーの胸部を撃ち抜く。

 闇しかない空間に乾いた炸裂音とミラーの倒れる音が鳴る。

 

「ゴッ、ゴフッ・・・」

 

「ここはお前の作った世界と元々あった世界の狭間だ。ここで死んでおけ」

 

「ッ・・・・・・。それが、ヒーローのやる事かッッ」

 

「生憎と、俺はヒーローなんかじゃない。万人を救えるような存在を望んでたのなら俺以外を望むんだったな」

 

 そう言ったと同時に新たな変化が訪れる。

 スッと俺の体が闇の中へと消え始めたのだ。

 

[元の世界に戻るようだな]

 

 俺の内側から聞こえてきた声に「だな」とだけ返す。

 ミラーの方に視線を向けるが、ミラーだけは闇に包まれる事無くそのままの状態だった。

 きっと、この世界の狭間に取り残されてしまうのだろう。

 そんなイメージが頭を過ると共に俺の視界は何も見えない暗闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラーは胸部を抑えてただ呻り続ける。

 どれほど溢れたかもう分からないほど出血しているにも関わらず意識はハッキリとしており痛みと苦しみが延々と続くのではないか、とそんな想像すらしてしまう程であった。

 いっそのこと死ねた方が楽になるだろう。

 

「オグォッ・・・ア゛ガァ゛ッ゛」

 

 だが、突如呻くことしかできないミラーの視界に誰かの足が映る。

 視線を向けると、幼い顔つきに目に被る程の長さのある茶色い前髪、黒パーカーにホットパンツ、黒ニーソにスニーカーを履いた少女だった。

 その少女は腰を落とし蹲踞の態勢になるとミラーの方をジッと見る。

 

「誰、だ・・・」

 

「君には関係の無い事だよ。聞かなくていいし教えてもすぐに忘れる。・・・不運だね。この世界の狭間じゃ致命傷を受けても死ねずどこかの世界に向かう事も出来ない。このままでは永劫の時を苦しみ続ける事になるだろうね」

 

「うぐぁ、そんな事があって、たまるかァ」

 

「君の意見はどうでも良い。興味もないしどうなろうが知った事じゃない」

 

 少女はそう言うとスッと立ち上がる。

 

「愚かな君への罰と思い壊れるまで苦しみ続けな。魂を磨かず他を落とす事でしか上位になれない錆付き汚れた魂には一銭の価値もない」

 

「待、てぇ・・・」

 

 ミラーは手を伸ばすが、少女はもはや視線を向ける事すらせずに暗闇の中へと進んで行く。

 そうして、ミラーは何もない闇の中に取り残され苦しみ続ける。

 意識がある限りその苦しみは止まる事は無いだろう。

 







次回、『最低最悪の魔王 編』終了。


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113話 『そして日常へ』

仕事が繁忙期に入り日をまたぐことが多くなってきました。
投稿頻度下がりますごめんなさい。


 目を覚ますと、そこは最初に気を失ったビルの屋上だった。

 スマホで日付や時間を確認するとキリコと再会した翌日の朝のようである。

 どうやら、戻ってこれたらしい。

 フウ、と息を吐いてからゆっくりと立ち上がると登ってきたところから飛び降りる。

 裏路地には誰もおらず普通に着地をする事ができた。

 ビルから飛び降りる、かぁ。

 前世では何度もやった行為ではあるが今世ではさほどやっていなかったので着地隙が大きくなっている。―――いや、変身した状態で着地する感覚に慣れてしまっているのが原因だろうか。

 今回の事で分かったが仮面ライダーの力に頼りすぎるのもあまり良くないかもしれない。

 ジオウしか変身できなくなって大分致命的になった気がする。

 裏技のさらに裏技を使用してジオウⅡになってもダメだったのは少し心に来るものがある。――――端的に言って空しい。

 

 勝ち負けに深い拘りと言うモノを持ったことは無い。

 救けられたか、救ける事ができなかったかが問題なのであり戦うという行為とその勝敗はあくまでも過程でしかない。

 だが、それでも今回は勝つことに拘り戦ったのだ。

 結果はボコボコにされてあそこに繋がらなかったら、受け取る事ができなかったら確実に負けていた。

 やはり悔しく思うし、自分の弱さを強く実感してしまう。

 

「・・・鍛え直すか」

 

 手の中に握られていた指輪に視線を落としながら呟いた。

 そうして、顔を上げる。

 

 これから文化祭が始まるのだ。モタモタしている暇なんてないしそもそも俺は今日外泊許可を取らずに一晩過ごしてしまったので反省文提出は確定時効かもしれない。

 ――――いや、スマホに来ている通知からして確定と断言できる。

 俺はガックリと肩を落とすとトボトボと歩を進める。

 

「・・・・・・?」

 

 フッと、視界の端に見知った影が入った気がした。

 そちらに視線を向けると特徴的な髪色の人物が人混みの中に紛れていく瞬間を捉えた。

 

「あいつは・・・・・・」

 

 その雰囲気には見覚えがあった、その背姿には心当たりがあった。

 俺は学校に向かっていた足を別方向へと向かわせる。

 まだ朝早いという事もあって一足は疎らであり、方向さえ掴めれば再度視界に捉えるのは用意であった。

 そうして、俺はその人物の肩を掴む。

 

「アイリ!」

 

「ほへ・・・? ん、誰??」

 

 振り向いてこちらを認識したアイリはキョトンとした表情を浮かべる。

 俺は肩で息をしながら言う。

 

「羽、仕舞わなくていいのかよ」

 

「ん~、だってこういう”個性”だし」

 

「なるほど、それで通していれば確かに問題はねえな」

 

「ってか、君は誰よ。突然話しかけてくるなんてさ。ナンパ? このままホテルにでも連れ込んで孕ませようとでも思ってる?」

 

「誰が思うか」

 

 ガックリと項垂れながらそう答える。

 流石長寿種族の中でも最長寿とされる真祖級の吸血鬼だ。

 最後に会った時と性格が大きく変わっていてもう訳が分からない。―――いや、そもそもこの世界は俺と言う『大宮さとし』がいた世界とは微妙にズレたパラレルワールドだから性格の違いも致し方ないのかもしれない。

 

「それじゃあ何の用事なのさ?」

 

「やっぱ分かんねえもんなんだな。・・・俺だよ、『大宮さとし』だ」

 

 そう告げるとアイリは目を見開いてポカーンとした表情を浮かべる。

 

「さとし、なの?」

 

「まあ、正確に言えばこの世界とは違う並行世界の『大宮さとし』の生まれ変わりだけどな。・・・その反応を見た感じだとこっちでも俺とお前は知り合いだったみたいだな」

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 しっかりと知り合いだったことに内心ホッとしているとアイリが掌をこちらに向けて来た。

 まるで、「何か寄越せ」と言いたげなその姿に俺は首を傾げる。

 

「血、ちょうだい。君が死んで以来、一滴も飲んでいないの」

 

「それじゃ、そこの路地にでも行くか」

 

「・・・・・・野外孕まセックs

 

「こんな大通りで血を飲ませる訳にもいかないだろう。ってかお前の脳みそはいつから性行為優先思考にまったんだよ・・・」

 

 年齢が上がれば上がる程むっつりになるとどこかで聞いたことがある。が、これは極端な例であると考えておこう。

 というよりもコイツの現在の年齢が幾つなのかが気になる。

 初めて会った時は800歳以上だと言っていたし。

 場所を移動して人目が無い事を確認すると、俺はグイっと肩を露出させる。

 

「ほれ、今は注射器も瓶もないから直で吸って良いぞ」

 

「・・・・・・っ。変態」

 

「何がだよ」

 

「良い。吸うから」

 

 アイリは顔を赤くしながらも俺の首に噛みついて来た。

 プチプチッという音と共に俺の頭に痛みが伝わる。

 今世では首を噛まれた事なんて一切なかったので昔に比べて痛みが鋭く感じる。

 特に時間は計っていないので体感でしかないがアイリは5分程時間をかけてじっくりと血を飲んだ。

 

「んっ・・・。ぷはっ。ふわぁぁあああああ♡ すっごく美味しい♡ 昔に比べて味がより熟成されてて一飲みするだけで体の芯からゾクゾクして・・・やっぱり君の血は極上だね」

 

「そうか。そりゃよかったな」

 

 肩がチャリチャリとメダル化して傷が塞がる感覚がある。

 

「ん? 君も随分と人間離れしたねぇ」

 

「だな。俺もそう思うよ。それで? 大森は―――『退魔師』たちは今何を?」

 

「山奥にひっそりと暮らして霊的な問題が起こった時だけ下りてきているよ」

 

「そっか。これも時代かね」

 

 俺はそう言いながら背筋を伸ばす。

 

「連絡先でも交換しておくか。何かあったら言うよ」

 

「言わない癖に。君はもう少し誰かに頼るという事をした方が良いよ」

 

「頭の片隅にでも置いておく」

 

 俺はそう答えながらスマホをポケットにしまい込む。

 

「まあ、なんだ。君に再会できたこの幸運に感謝しておくよ」

 

「そうか。また定期的に会うようにしよう」

 

「そうだね~。こんな絶品の血を味わっちゃったらもう他の粗末なモノじゃ我慢できないもん♡」

 

 少し顔を火照らせながらアイリは笑う。

 血が美味しいって言うのは俺に理解できない感情だが、吸血鬼相手に人間の感覚を当てはめるのは違うだろう。

 ただ、噛まれる感触はあまり気分が良くないので今度までにはしっかりと注射器と瓶を用意しておこう。

『注射針で刺しても噛まれても変わらなくね?』と思う輩もいるだろうが、俺にとって噛まれるという行為は安藤にされた監禁時の出来事が軽いトラウマなんだ。

 

「それじゃ、私はそろそろ行くよ。毎朝10時開店のケーキ店の限定ホイップ増し増し超絶甘々マシュマロケーキを買わなきゃいけないから」

 

「・・・・・・糖尿病には気を付けろよ」

 

「りょ~」

 

 アイリは楽しそうに手を振るとそのまま人混みの中に姿を消していった。

 彼女の姿は、昔だったら異質な存在だったが今この世界には強く馴染んでいた。

 むしろ、この世界で何よりも異様で最も異質なのは・・・・・・、

 

「いや、止めだ止め。変な事考えてる余裕なんてねえよ。早く学校に行かねぇと」

 

 俺は体をデータ化すると一気にそこから学校へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 俺が校門前に立ち、雄英高校内へと足を踏み入れようとすると、見知った影が視界に入った。

 向こうもこっちに気が付いたらしく少し慌てた様子で声を発する。

 

「機鰐少年!! いったいどこに行っていたんだ!!?」

 

『オイオイオイ、バッドボーイ! 朝帰りったぁ良いご身分だなァ!』

 

「オールマイト先生と・・・・・・山田先生」

 

『本名で呼ぶな!』

 

 綺麗にツッコミを入れるプレゼントマイク先生を無視して俺はオールマイトの方へと視線を向ける。

 

「ちょっと残党狩りをしていました。朝帰りと言うのもあって確実に反省文提出になると思うんで、反省文ついでに報告書を作成します」

 

「そ、そうか。お疲れ様」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 俺は軽く頭を下げるとハイツアライアンスへ向けて歩を進める。

 頭の中では今後の生活の事を思考していると、丁度ハイツアライアンスの扉が開き見知った人物が顔を出す。

 

「おっ! おはよう、二人とも」

 

「あぁん? ったく、どこほっつき歩いてた変身野郎」

 

「機鰐・・・。みんな心配していたぞ。・・・無事でよかった」

 

 眉を顰めてどこか不機嫌そうに言う爆豪とホッとした表情を浮かべる轟。

 うん、マジで対照的だなこいつら。

 互いに頭も良いし戦闘面においても優秀だしフィジカル面も普通に強く根本的な所はどこか似ている。だというのにここまで反応の違いがある事が少し微笑ましい。

 数ヶ月前までは互いにピリピリとした雰囲気を纏っていたのに今じゃほんわかとしている面が大きい。

 成長したなぁ。

 

 ――――うん、こりゃ自分で感じている以上に疲れているな。

 子供の成長を見てしんみりするなんて俺はおっさんかよ。いや、精神年齢は多分おっさんだ。

 18年+15年・・・・・・33歳かァ。マジでこりゃ魔法使いだな。

 性欲らしいモンは持ってなかったし童貞を捨てている暇なんてなかったからどうしようもなかったし。―――いや、そもそも彼女いない歴=年齢だったわ。

 

「? ボーっとしてどうした?」

 

「いやぁ、何でもねェ。ちょっと疲れているみたいだわ」

 

「連絡が付かないぐらい大変だったのか・・・。でも特に大きな事件のニュースはやっていなかったが」

 

「ちょっと歴史と戦ってた」

 

「???」

 

 轟は腕を組んで首を傾げる。

 うん、俺も逆の立場だったら同じような反応をしていた自信がある。

 

「おい。くだらねぇ話してないで行くぞ」

 

 少し不機嫌そうに爆豪はそう言ってずんずんと歩を進める。

 そして、俺とすれ違う際に耳元でポツリと呟く。

 

「後でじっくり聞かせろ」

 

「へいへい」

 

 ハァ、とため息を吐いて俺も足を動かす。

 

「それじゃ、二人とも頑張ってね」

 

「ん」

 

「ああ、行ってくる」

 

 二人の背中を見送り、俺はハイツアライアンスの扉に手をかけて静かに引いた。

 









ってか、アイリさんの存在がほのめかされてから一年が経過しているという恐怖。
投稿遅すぎやろこの作品。


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文化祭 編
114話 『サブタイトルなんてもう決められねえよ。ネタがねえよ。』


明けましておめでとうございます。
ネタ切れ饅頭のゆっくりシンでございます。

今年もゆっくりまったり投稿して行きますので気長に待っていただけると幸いです。


 ハイツアライアンス一階共有スペース。

 まだ朝早い事もあってここに人の気配はなく静まり返っていた。

 そりゃ休日だからみんな寝てるか。

 一人納得してエレベーターに足を向けると、チーンッという音と共にエレベーターの扉が開いた。

 

「あ?」

 

「お、や・・・?」

 

 寝癖の一切ない頭髪に誰も見ていないにも関わらずピッシリと背筋を伸ばして立っている飯田が、その顔をポカーンとしたものに変える。

 俺は右手を軽く上げるといつも通りの調子で口を開く。

 

「よぉ、おはよう」

 

「機鰐くん! どこに行っていたんだ!! みんな心配していたんだぞっ!!」

 

「どうどう、落ち着けって」

 

 俺は飯田の肩を掴んで落ち着かせようとするが、彼の興奮は一切の収まりを知らずに高速で面倒な方向へと進む。

 具体的に言うならクラス連絡網に俺の生存確認を連続で打ち込み、その通知で起きた誰かが気付かずに寝ている誰かを起こして・・・とまるでぷ〇ぷよを思わせる連鎖が繋がりモノの数分で(爆豪と轟を除く)全員が共有スペースに集合した。

 ちなみに、俺は共有スペースに設置されているソファに(無理矢理)座らされている。

 

 全員が集合すると同時に一気に質問攻めにされて答える暇すらない。ってか聞き取れない。

 待て待て落ち着け、俺は聖徳太子じゃない。いやそもそも聖徳太子の逸話だって事実かどうか怪しかったりするんだ。人間の聞き取り処理する要領以上の事を求めるな。

 俺が必死に皆を止めようとしていると、どこか邪気を含んだ声が聞こえて来た。

 何と言っているかは聞き取れなかったが、そのねっとりとした黒い気配に俺の視界はそこに向く。

 

「なんだぁ、機鰐ゥ・・・。女かァ? ホテルで一晩かァ・・・!?」

 

 変態ブドウが今まで以上の邪気を身に纏いながら、口から息を吐く様にその邪気を吐き出している。

 その姿は今まで戦った幾多の強者よりも強いプレッシャーになっていた。一体全体その小さな体のどこにそんな事ができる程の力が詰まっているのか聞き出したいものである。”神”やミラーでもここまでの邪気はなかったぞ。

 ―――なんて変な事を考えている内に後ろから首元に手を回されブツブツと耳元で呪語を呟かれる状態になってしまった。

 ウザいし怖いしキモイ。

 

 俺は峰田の腕を掴むと背負い投げの応用で宙へと投げ飛ばす。

 そして、俺が座っていたソファとは別のソファに向けて蹴り飛ばした。

 

「うぐぇえっ・・・!!」

 

「一旦落ち着け、こっちが口を開く暇すらねえ」

 

 その言葉にこの場にいた全員が一斉に頷く。

 俺は軽くため息を吐いてからゆっくりと腰を下ろす。

 

「事件に巻き込まれていたんだよ。しかもその後に色々あってなぁ」

 

「女かァ・・・、機鰐ゥゥゥウウウウウ」

 

「一旦黙れ峰田。金玉潰すぞ

 

「「「「「「「ヒッ」」」」」」」

 

 オイ待て男子組、なんでほぼ全員が股間を抑えて縮こまっているんだ。

 俺が殺気を向けたのは峰田だけだぞ。そっちにまで飛び火しないように注意しているんだ。

 なんでそんなに恐れられるのか分からねえ。

 

「・・・・・・アナ、俺の昨日からの行動を簡単に出してくれ」

 

『了解しましたマスター! ちなみにアナちゃんは大体一年ぶりの登場になりま~す』

 

「一年ぶり?」

 

『こっちの話です。それでは、ご命令は昨日のあれやこれですね♪ 纏めていますので少々お待ちください』

 

 アナがそう言うと同時にポカーンとした表情を浮かべていたクラスメイトの中から常闇くんが興味深々な様子で問いかけて来た。

 

「機鰐、まさかそれはAIか? しかも自立型の」

 

「ん? ああ、そうだけど」

 

「今のやり取りからもほぼ確実な自立が出来ているようだな。しかも極めて自然にいる。・・・・・・機鰐、そのAIをどうやって作ったんだ?」

 

「あ~いや・・・。俺が作った訳じゃないんだよ。知り合いから譲り受けたからさ」

 

 少し笑いながらそう言って誤魔化すとほぼ同時にアナが元気に声を上げる。

 

『纏め終わりましたぁ! 昨日のマスターは病院から出て小さな(ヴィラン)組織の小競り合いを止めた後にビルの屋上に侵入して街を眺めていたら突然意識を失って朝早くに何事もなかったかのように目覚めましたぁ』

 

「ああ、確かにそんな感じだったな。色々あり過ぎて細かい所忘れてたわ」

 

「「「「「「色々ってなんだよ!!?」」」」」」

 

 わお、一斉に見事なシンクロでのツッコミ。

 確かに色々じゃ曖昧な言い方な気もするが説明するのも面倒くさい。

 

「まあまあ落ち着けって。俺はこうやって無事なんだし」

 

「そうだねぇ。ねぇみんな、龍兎疲れているみたいだし追及はまた今度でいいじゃん!」

 

 俺が何とか誤魔化そうと思考していると神姫が助け船を出してくれた。

 神姫は手をぶんぶんと振りながらみんなの前でトテトテと動き場の空気を変えていく。

 その子供みたいな動きにみんなの雰囲気もどこか柔らかくなっていった。

 

「そ、そうだな。無事みたいだし今はゆっくりさせてやろうぜ」

 

 切島がそう言ったのを皮切りに一時解散する形になった。

 俺もその流れに逆らう事無く、さも当然と言った表情で自室へと向かった。のだが・・・、

 

「なんでついて来てんの?」

 

 俺は同じく当然といった表情でついて来ていた神姫にそう問いかける。

 神姫はキョトンとした顔になるとニパーっと笑顔になった。

 

「話したい事があるから」

 

「・・・そっか。ちょっと待ってな。今、折り畳み式の椅子用意するから」

 

「わざわざそんなもの取り出さなくても、ベッドに座ればいいじゃん」

 

 その言葉に俺が反応するよりも前に、神姫はさっさと室内に入りベッドに腰かけた。

 

「ハァ、そうかい」

 

「ちょっと待って」

 

 俺は軽くため息を吐きながら自分の椅子を掴んで座ろうとした所で突然ストップをかけられる。

 降ろしかけた腰を空中で制止させる。

 

「隣、座ってよ。じっくりと話をしたいから」

 

「お、おう・・・・・・」

 

 俺は素直に神姫に従い、ベッドに腰掛ける。

 今までずっと親友兼相棒として生活してきていたがこうして真面目な顔で話しかけられた事はほとんどなかった。

 それに、真面目な顔での相談の大半が有名店のお菓子が食べたいだとかそんなものばかりで毎度拍子抜けした記憶がある―――のだけど、今回ばかりは雰囲気が違った。

 

「んで、どうしたんだ?」

 

「龍兎はさ、いつも飄々としてて掴みどころがなくてみんなの事を大切に思っているのに関心がないよね」

 

「・・・・・・?」

 

「君は過去に囚われ過ぎなんだよ。親に見捨てられて、幼いのに大人の闇に飲み込まれて、たくさんの悲劇を見て・・・・・・もう忘れても良いんじゃない? 過ぎた事だよ」

 

 優しい言葉だった。

 だけど、俺にとっては何よりも突き刺さる言葉である。

 

「簡単に言うなよ。・・・俺が弱いせいでたくさんの人が死んだんだぞ。俺は主人公じゃないし、主人公にはなれない。ダメなんだ、無理なんだよ」

 

「・・・・・・馬鹿だよ、君は。結局、乗り越えられてないじゃないか」

 

 神姫がそう言った瞬間、俺はベッドに押し倒された。

 突然の行動に抵抗できずそのまま馬乗りされてしまった。

 

「私はさ、ずっと待っていたんだ。君が一人で苦しんで、どれだけ手を伸ばしても君には届かなくって・・・。もう、嫌なんだよ。近くにいるのに隣にいる事ができないのは」

 

 ポタポタと、神姫の眼から涙が溢れる。

 

「私を頼ってよ。君は指示を出すけど、基本的に危険な所から離れさせようとするじゃん。一緒に戦わせてよ」

 

「悪い、それはできない。・・・・・・俺はお前に傷付いて欲しくないんだ」

 

 俺は、神姫の頬を触る。

 柔らかい感触と少女の涙が手を伝ってくる。

 

「俺はさ、何となく理解っているんだ。鈍感で、人と感性がズレているけどそれでも馬鹿じゃないんだ・・・・・・多分」

 

 一応保険は懸けておく。

 自分ではそう思っていないだけで本当は馬鹿の可能性だってある。

 俺は神姫の赤くなっている瞳(・・・・・・・・)をスッと見据える。

 

「ミキ、気付いていないと思ったか? お前は神姫とあまりにも雰囲気が違い過ぎる。・・・懐かしい雰囲気だったよ」

 

 ソッと、両手をミキの背に回して抱きしめる。

 

「ミキ―――いや、前田。そんなに寂しそうな顔をするな。俺は特に変わってないよ。昔もそうだっただろ?」

 

「馬鹿。君は馬鹿だよ。ずっと一人で抱えていて、それで勝手に死んじゃって・・・」

 

「・・・ごめんな」

 

 俺は静かにそう言った。

 神姫の感触を、その体温を体で感じる。

 

 ―――室内に、一人の少女の鳴き声が静かに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 数日が経過して今日もまた必殺技の開発及び向上をみんなが行っている所を眺める。

 俺自身は元々持っていた生身での必殺技+仮面ライダーの必殺技がある為、ハッキリ言ってやる意味のない授業だったりする。

 一応、生身での必殺技の向上をしようとしたのだが、基本的に人をぶっ殺せるような技が大半なので先生から封印するように説得される羽目になった。

 視界の端では切島くんが爆豪と砂藤くんにボコボコにされている。

 

「ハァ、みんな頑張っているなァ」

 

 呟くが俺自身が何もできていない現状は変わっていない。

 ボーっとしていると自然に歌っていた。

 

「時を~超え~ろ、空を~駆~けろ、この星のため~♪」

 

 自然に浮かんで来た歌詞がこれだった。

 平成ではなく昭和だが、普通に昭和ライダーも好きである。

 ちなみに、過去何度か仮面ライダーXのOPを歌おうとして何故か仮面ライダーストロンガーのOPを歌っていた事がある。いったい何故なのか未だに分からない。

 

「生き~ること~が好きさ~、蒼く~浮かぶ~宇宙(コスモ)~♪」

 

「なぁ、今大丈夫か?」

 

 サビに入ろうとした所で声を掛けられた。

 

「ほへ?」

 

 振り向くと尾白くんがどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 一体全体何の用なのか言葉を待つが続きの言葉が紡がれないので俺はソッと口を開く。

 

「時を~超え~ろ、空を~駆~けろ、この星のため~♪ 熱く~燃~やせ、涙~流~せ、明日という~日に~♪」

 

「いや、ごめん! 歌っている途中で話しかけちゃってホントごめん!」

 

「うん、それで? 何の用?」

 

「いや・・・その・・・・・・」

 

「見上げる星~♪ それ~ぞれの歴史が~輝い~て~♪」

 

 一気に平成まで上り詰めてやった。

 

「言う! 言うから! ・・・・・・あのさ、俺の”個性”ってこの尻尾に依存しているだろ?」

 

「うん、そうだねぇ」

 

「だからさ、機鰐の体術を教えてくれないかな?」

 

 どこか申し訳なさそうに言うその表情に俺は軽く笑みを浮かべて言う。

 

「良いよ。それじゃ、広い所に行くか」

 

「っ! すまん、ありがとう!」

 

 そうして、俺たちは少しスペースのある所に行って準備運動から始めた。

 ある程度体が温まった所で体に叩き込んでやった。

 口で教えるのは苦手だからなぁ。

 授業が終わる頃には尾白くんはぼろ雑巾のような状態で転がっているのだった。

 



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115話 『お待たせしました by.作者』

一か月ほど投稿せず申し訳ございませんでした。
簡潔に申しますと萎えてました。

他には、仕事が忙しかったり文が思い浮かばなかったりポケモンの技遺伝を忘れ最初っからになったり友達とモンスターを狩りに行ったりと忙しくしていました。

今日からまたまったりと投稿して行きますのでまっていただければ幸いです。


「文化祭があります」

 

「「「「「「ガッポォォオオイ!!」」」」」」

 

 学校っぽい、の略である。

 相澤先生の言葉にみんなのテンションは最初っからクライマックスへと突入する。

 それを横目に俺は発目と共同開発をしている新たなサポートアイテムの設計図の修正をする。

 発目のアイテムは画期的で中には時代を変えそうな物も数多くあるのだが、思いついたら感覚でポンポンと作ってしまうので中には生死に係る物も多い。

 この前なんて上半身と下半身がさようならしそうになった。ちなみに腕は軽く飛んで行った。

 それもあって説教&設計図を描いて俺に渡すように強く言い聞かせたのだ。

 再生するとはいえ痛い物は本当に痛い。ってか千切れるブチィって感覚もあまり気分のいいモノではない。

 俺が説明を聞き流して目の前の事に集中していると、出し物をどうするかの話し合いになっていた。

 

「ここからはA組委員長、飯田天哉が進行を務めさせていただきます!」

 

 張り切っている飯田と八百万さん。

 俺自身、出し物に興味はないのだが気分転換に手を止めて周りの様子を確認する。

 

「まず候補を挙げていこう! 希望ある者は挙手を!」

 

 瞬間、ノリの良さなのか何なのかほぼ全員が我先にと手を上げる。

 その圧に押されながらも飯田は一人一人の意見を聞いて行く。

 

「上鳴くん!」

 

「メイド喫茶にしようぜ!」

 

「メイド・・・奉仕か! 悪くない!」

 

 飯田、多分お前の考えているモノと上鳴の考えているモノは別物だ。

 真面目過ぎてメイド喫茶に言った事が無いのだろう。今度暇な時にでも社会勉強がてら連れて行くか。

 ボケーっとそう考えていると峰田が本気の形相で声を上げる。

 

「ぬるいわ上鳴ィ!!」

 

「峰田くん!」

 

「オッパb

 

 瞬間、俺と蛙吹さ「梅雨ちゃんと呼んで」―――梅雨ちゃんのダブルラリアットが峰田の首を襲う。

 さらにどこからか取り出した麻袋とロープを使って縛り上げるとさかさまに吊るす。

 変態はこのような事にするのが正解だろう。

 ついでと言わんばかりに両手両足の親指同士を結び付けて抵抗すらままならないようにしておく。何になるか決定するまでそのまま放置である。

 

 その後、多くの意見が飛び出すも決定には至らない。

 しかも議論は熱を持ち始めもはや話し合いと言うよりも叫び合いになってきた。

 青山くんの提案は真っ先に却下されただけでなく元々問題になりそうだった殺し合い(デスマッチ)も同じく却下された。うん、正しい判断だと思う。

 そうこうしている内に授業終了のチャイムが鳴り、今まで寝ていた相澤先生がゆったりと立ち上がりふらふらと歩きながらとんでもない事を言った。

 

「実に非合理的な会だったな。明日、朝までに決めておけ。決まらなかった場合・・・公開座学にする」

 

 今まで出た提案では多分一番盛り上がりに欠けるだろう。

 多分見ている方も見られている方も死ぬほどキツイ時間になる。

 少し教室をグルリと見渡せば、何とか公開座学回避のために頭を抱えている者が多数だった。

 俺は頭を抱えず冷静(笑)にソレを見ているが公開座学だけは嫌だ。少しは楽しみたい。

 

 

 

 

 

 

 ハイツアライアンス1階共有スペース。

 そこにみんなで集まり動画投稿サイトで過去のデータを見ながらなんとか公開座学回避のために話し合う。

 何本目かの動画を見終わった所で飯田がソッと口を開いた。

 

「落ち着いて考え直してみたんだが・・・。先生の仰っていた他科のストレス、俺たちは発散の一助となる企画を出すべきだと思うんだ」

「そうですわね。ヒーローを志す者がご迷惑をおかけしたままではいけませんもの」

 

 飯田の言葉を肯定する八百万さん。

 二人の言葉を潤滑油にみんながある一定の方向性にある意見を出し始め、どんどんと出し物が絞られていく。

 それを横目にオリジナルサポートアイテムの設計図を描いて行く。

 すると、

 

「なあ、機鰐は何かないのか?」

 

 と横から声が掛けられた。

 声のした方へと視線を向けると砂藤くんが不思議そうな顔をしていた。

 ああ、そうか。みんなは文化祭について話し合っているのに一人だけ違う事をしていたらそりゃ不思議に思うか。

 俺は持っていたペンを置いて視線を合わせて言う。

 

「なんもない」

 

「いや、そう即答しなくても・・・」

 

「ないモノはない!」

 

「断言!!」

 

 だってどうせすぐに決定案が轟の口から出るだろうし。

 設計図を折りたたんでいると、端から轟が話に入ってきた。

 

「ダンス、いいんじゃねぇか?」

 

「超意外な援軍が!」

 

 うん、彼からこの提案が来るなんて誰も想定していなかっただろう。

 

「ちょっといいか?」

 

 轟は皆が使っていたノートパソコンの前に行くとカタカタとキーボードを打つ。

 そうして一つの動画が再生された。

 

「なんかあっただろ。なんて言うか知らねェけど・・・バカ騒ぎするやつ」

 

 そうしてPCの画面にはどこかのライブ会場の映像が再生される。

 映像からして地下アイドルだろうか。

 

「パーティーピーポーになったのか轟・・・!?」

 

「違ぇ。飯田の意見はもっともだと思うしそのためには皆で楽しめる場を提供するのが適してんじゃねぇか。―――仮免補講からの連想なんだが」

 

「どんな補講だったんだよ・・・」

 

 ホント、それは気になる。

 轟の言葉にみんなのスイッチが入り方向性が定まったようだ。

 無論、懸念の声を上げる者(瀬呂)もいる。

 

「言っとくが素人芸程ストレスなもんはねぇぞ?」

 

「私、教えられるよ!」

 

 瀬呂の言葉に芦戸さんがそう答えた。

 ここまで燃料が投下されれば後は淡々拍子で話が進むのがこのクラスの長所だ。

 その証拠にもはや皆のテンションがノり出している。

 

「奇っ怪な動きだった素人(青山)が一日でステップをマスターした! 芦戸の指導は確かだ!」

 

「待て素人共!! ダンスとはリズム!! 即ち”音”だ!! 客は極上の”音”にノるんだ!!」

 

「音楽と言えばぁ―――――!!」

 

 瞬間、俺含めて全員の視線が一か所に集中する。

 全員からの視線を受けた耳郎さんは顔を赤くしてオドオドしている。そんな耳郎さんに葉隠さんが元気に言葉を投げかける。

 

「耳郎ちゃんの楽器で生演奏!!」

 

「ちょっと待ってよ・・・」

 

「何でェ!? 耳郎ちゃん、演奏も教えるのもすっごく上手だし、演奏している時がとっても楽しそうだよ!」

 

 葉隠さんの言葉に耳郎さんは少し間を置いてから静かに口を開いた。

 

「芦戸とかさ、皆はさ、ちゃんとヒーロー活動に根差した趣味じゃんね? ウチのは本当只の趣味だし・・・正直、表立って自慢できるモンじゃないつーか・・・」

 

 その表情はどこか恥ずかしそうであり、その謙遜はいつもの耳郎さんの雰囲気とは少し違った。

 その姿に皆が口を紡ぐ中、上鳴だけがズイズイと場の空気を押すように入ってくる。

 

「なあ、耳郎・・・。あんなに楽器できとかめっちゃカッケーじゃん!!」

 

 上鳴の真っ直ぐな言葉に少したじろぐ耳郎さんを相手に続けるように普段無口な口田くんが口を開いた。

 

「・・・っ耳郎さん、人を笑顔にできるかもしれない技だよ。十分ヒーロー活動に根ざしていると思うよ」

 

 その言葉は、期末テストの演習試験でコンビを組んだ口田くんだからこそ言える事なのだろう。

 二人の言葉を聞いた耳郎さんは恥ずかしそうに頭をワシャワシャと掻く。そして、スッ腰頬を赤らめながら言った。

 

「ここまで言われてやらないのも・・・ロックじゃないよね・・・・・・」

 

「じゃあ、A組の出し物は――――生演奏とダンスでパリピ空間の提供だ!!!」

 

 おお、盛り上がっているね。

 みんな頑張れよぉ(他人事)。

 

 

 

 

 

 

 いつも通り、俺は尾白くんを相手に拳を振るう。

 尾白くんはそれを上手に弾き、受け流して直撃を避ける。

 今はそれぞれの必殺技の向上又は派生の訓練をしている中で尾白くんの特訓に付き合っている。

 彼の個性はその尻尾で終わってしまっている為、身体能力の向上と技術(ワザ)を磨く事に専念している。

 教えているのは攻撃のいなし方の初歩中の初歩なのだが、これができないとそもそも話にならない。

 

「ふぃー、いいね。練度が上がって来てる」

 

「はは、そう言ってもらえると嬉しよ。・・・やっぱあ、少しできることがあるだけで格段に選択肢が増えるな」

 

「そうだねぇ。・・・・・・そうだ、俺がずっと前に喰らった大技を食らわせるから肌で感じてみてよ」

 

「嫌な予感がするんだけど」

 

「大丈夫、大丈夫。俺はあばらが折れただけで済んだから」

 

「それは大丈夫と言わないぞ!!」

 

 尾白くんのツッコミを笑ってスルーした。

 いやさ、本気でやる訳が無いじゃん。これで怪我されたら怒られるのこっちだし。

 

「ほれほれ、細かい事は気にせず構えろ」

 

「うぅ・・・」

 

 どこか不満そうにしながらも構えを取る尾白くん。

 俺は軽く息をはいてから先ほどの様に殴りかかった。ジャブと右ストレートの単純な攻撃に尾白くんが少し眉を顰めているが気にせず殴り続ける。

 そして、何回目かの右ストレートが弾かれたところでその流れに逆らう事無く体を回転させると、そのまま後ろ回し蹴りをその腹部へと撃った。

 

「ごっ・・・!!」

 

「あ、」

 

 足に伝わる感覚がクリーンヒットした事を伝えてくる。

 

「す、すまん。ちょっと力み過ぎた」

 

「ゴホッ、だ、大丈夫だから。・・・・・・それで、今のは?」

 

「受け流された時の力の流れをそのまま蹴る力にしたんだよ。こういった体の使い方もあるのさ」

 

「えっと、つまり・・・?」

 

 尾白くんの額からタラリと汗が流れる。

 俺自身、言葉が足りないのは十分理解しているがこれだけで理解してくれるとは長ったらしい説明の手間が省けて有り難い限りだ。

 その喜びを前面に出してニッコリと笑いながら言う。

 

「力の流れの使い方、動きの流れ―――使えるようになれば戦闘の際に自分の動きが良くなるだけじゃなくて相手の動きも読めるようになる。使えて損の無いスキルだからな。徹底的に叩き込むぞ」

 

 この言葉に尾白くんは震え声になりながら答える。

 

「お、お手柔らかに・・・」

 

「残念な事に優しくやるのは不得意なんでな。体に叩き込むからしっかりとついて来いよ」

 

 その後、体育館内に尾白くん(となんか途中から混じってきた切島含む数人)の悲鳴が上がる事になった。

 うん、みんな元気でよろしい(他人事)。

 









機鰐龍兎が基本他人事なのは、今までの人生でこういったイベント(文化祭などの祭りとか)はほぼ事件があって参加できた試しがないので経験測からまた何かあるだろうと諦めているからです。





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その他
キャラ


機鰐(きがく) 龍兎(りゅうと)

身長:170cm

体重:65kg

 

 短く整えられた黒髪に四角縁のメガネ。眼が悪いわけではないが、頭がよさそうに見えそうだからと掛けている。授業中―――座学―――以外では外している。

 転生チートによって調子に乗ってはいるが、戦闘になると物事を客観的に見る傾向があり、勝てないと判断すれば即座に撤退する。

 仮面ライダーが大好きで前世では何十万円もつぎ込むほどのオタク。

 神姫の事が好きなのだが、告白する勇気のないヘタレ。

 なお、前世も今世も彼女いない歴=イコール年齢。

 かなり性格が悪く、実は、人を小馬鹿にすることが好き。

 根っからひねくれてはいるが、それでも正義感は強く、困っている人を見捨てられない性格で、助けたいと感じれば、誰彼構わず救おうとする癖がある。

 仮面ライダージオウの放送が始まってすぐに死んでしまったが、主神に頼み込んでジオウのストーリー全てを閲覧・記憶している為、ジオウへの変身も可能。ただし令和ライダーは無理。

 本人はビルドが好きなため、ビルドをメインに戦っている。

 前世の名前、『大宮さとし』。

 なぜか生身の方が勝率が高い。

 

 

 

白神(しらがみ) 神姫(みき)

身長:142cm

体重:【見せねぇよ】

 

【挿絵表示】

 

 元・死神。

 初仕事で大失敗をし、神から人へと転落した少女。

 腰辺りまである長い銀髪に童顔。中学生の時からそうだが、よく小学生に間違われる。

 仕事の失敗で殺してしまった龍兎に責められるものだと思っていたが、龍兎は一切気にする様子はなく、拍子抜けしたという。

 今では龍兎の理解者であり相棒。

 恋愛感情の有無は不明。

 嫌いな人は峰田実。

 個性の燃費が悪く、そのせいで暴飲暴食。

 子供っぽいところが目立つも、どこか冷静で端的。

 普段から優しくお調子者なところがある。

 自室は人形で埋まっていて、子供らしさが溢れている。

 

 出番が少なくメインヒロインなのに影が薄い。

 

 

 

神鬼(みき)/ミキ』

身長:142cm

体重:【絶対に見せない】

 

【挿絵表示】

 

 白神神姫のもう一つの人格。

 冷静で端的、そしてどこか毒舌。

 何か重要な事を知っているようだが、話そうとしない為不明。

 機鰐龍兎の事を『ご主人様(マスター)』もしくは『大宮くん』と呼ぶ。

 

 

 

賢王(けんおう) (ゆう)

身長:174cm

体重:73kg

 

 龍兎の前に現れた転生者。

 黒い服を好み、特に和服が好きで毎日黒い和服を着ている変人。

 裏組織、『ファウスト』の幹部。

 個性:『英雄王』により、Fateシリーズの”ギルガメッシュ”に近い力を持っているが、本人はそれ中心の戦い方はせず、自身を高める事を楽しんでいる。

 (ヴィラン)ではあるが、真面目かつ気さくな性格でプロヒーローですら彼が(ヴィラン)であることを見抜けるものはまずいない。

 龍兎と馬が合い、良い信頼関係を築いている。

 前世で関りがあった可能性もあるが、お互い前世の名前を名乗っていない為、関係性は不明。

 趣味、筋トレ。

 苦手な人物、仕原(つかはら)(ゆみ)

『仮面ライダーローグ』に変身が可能。

 仮面ライダーに変身するようになってからは、ただでさえそんなに使っていなかった個性をより使わなくなった。

 

 

 

仕原(つかはら) (ゆみ)

身長:162cm

体重:【見せません。見たら殺しますよ】

 

【挿絵表示】

 

 転生者。

 賢王雄に仕えるメイド。

 元々はフリーの殺し屋として(ヴィラン)をやっていたが、”ある事”が切っ掛けで賢王雄と出会い、彼に心から仕えるメイドとなった。

 賢王雄の命令を絶対とし、賢王雄の命令なら自殺すらためらわないほど。

 普段から賢王雄の後に続いて行動したりすることが多く、彼自身がそれを嫌がっているのには(なぜか)気が付いていない。

 個性:『狙撃』によって彼女が放った投てき武器(石、槍等)・発射系武器(銃、ボウガン、大砲等)は彼女の狙った場所に必ずヒットする。

 だが、彼女の恋のキューピットは想い人の心を撃ち抜いた例はない。

 好きな人、賢王雄。

 嫌いな人、賢王雄に無礼な態度を取った人物全て。

 

 

 

通理(とおり) 葉真(ようま)

身長:155cm

体重:49kg

 

 転生者。

 気さくな性格で礼儀知らずだが、なぜか憎めないヤツ。

 個性:『通り抜け』は壁や地面を通り抜け、自由自在に移動し、目的の場所まですぐに移動できる個性で、本人曰く「女湯を除きたかったから」らしい。

 その性格とは裏腹に日常生活、プライベートは一切不明で、賢王雄も内心何を考えているのか分からず不気味に思っている。

 なお、普段は部屋に引きこもってエロ本を読んでいる。

 個性的に非戦闘型だが、意外と努力家で、身体能力は高く、戦闘能力はある程度ある。

 彼女はいないが、気になっている子はいる。

 ちなみにだが、これでも中学生だ。

 

 不遇キャラ第一位。

 

 

 

(くれない) 華火(かほ)

身長:180cm

体重:【個性の使い方によって変わるよ☆】

 

【挿絵表示】

 

 転生者。

 自分勝手でわがままで思い立ったらすぐ行動というかなり困った人。

 こんなんでも裏組織、『ファウスト』の幹部。

 普段から周りに迷惑を掛まくりだが、戦闘時に関しては幹部トップクラスの実力者。

 年下相手にお姉ちゃん面する傾向があり、龍兎の事を弟のように思っている。

 個性:『不死鳥(フェニックス)』はその名の通りの個性なのだが、紅華火本人もその全てを把握している訳ではなく、その力は未だ未知数。

 普段からラフな格好をしていて、時折発生するチラリズムは健全な高校生の目に毒である。発育も良く、何がとは言わないが、八百万百よりも大きい。

 なお、ブラジャーは付けていない模様。

 性知識は豊富(自称)で、賢王雄の経営するカフェに来ている龍兎にアピールをかますがことごとく無視されている。

 好きな人、機鰐龍兎。

 嫌いな人、おっさん(正確には年上全般)。

 機鰐龍兎の前世、『大宮さとし』と何らかの関係があるようだがそれは今のところ不明。

 

 

 

猿伸(さるのび) 賊王(ぞくおう)

身長:178cm

体重:65kg

 

 元・ファウスト幹部。

 楽しい事が好きで、『ファウスト』が窮屈だと感じ、脱退後、敵対、『パンドラ』という組織のリーダーとなった。

 機鰐龍兎と戦闘し、敗北後、『ファウスト』と同盟を結んだ。

 個性:『ゴム人間』はその名の通りの個性で、某麦わらの海賊を意識しているらしく、いつも麦わら帽子を被っている。

 冷静なたちだが、興奮すると血の気が多くなり交戦的になる。

 普段から被っている麦わら帽子は、ドン・キホーテで買った物である。

 

 

 

龍玉(りゅうぎょく) 悟雲(ごうん)

身長:182cm

体重:89kg

 

 自由奔放な性格。

 身勝手でわがままなところがあるが、根は素直で真っ直ぐなヤツ。

 ファウスト幹部の一人。

 個性:『孫悟空』は説明をする必要はもうないだろう。

 いつも山吹色の道着を着ており、一人称は『オラ』。

 頑張って孫悟空のマネをしようとしているが、服装以外全く似ていない。

 最近、『超特大盛を15分で食べ切れれば無料&賞金プレゼント』を掲げている店から出禁を言い渡された。

 

 

 

威厳(いげん) 星汰(せいた)

身長:183cm

体重:91kg

 

 龍玉悟雲の友人兼部下。

 普段はフリーターとしてあっちこっちで働いている。

 最近は工事現場での目撃情報が出ている。

 性格は真面目で優しいと、“ベジータ”とは確実に別人。

 だが、個性名は『ベジータ』

『ファウスト』の幹部になれるほどの実力を持ちながら、幹部にならずに自由な生活を送っている。

 神野での事件鎮静化作戦にも参加し、脳無をブチ飛ばしまくっていたが、途中から戦闘ではなく逃げ遅れた人の避難誘導をメインに行っていた。

 趣味は、釣り。

 今までの人生であった不幸、ビンゴゲームでまさかの12リーチで終了。

 髪の毛はワックスでベジータヘアーに固めている。

 

 

 

龍牙(りゅうが) 幻夢(げんむ)

身長:170cm

体重:65kg

 

 雄英高校ヒーロー科1年B組の生徒。

 学校での立ち位置は変化型の成績優秀生徒。

 本気を出すことなく学校生活を過ごしている。

 機鰐龍兎を(勝手に)ライバル視しており、いつか全力で戦いたいと思っている。

 個性:『ヒーロー』

 中身は、機鰐龍兎の個性の二番煎じである。

 機鰐龍兎と何かしら関りがあるようだが、詳細は不明。

 口は悪く、面倒くさがりだが、面倒見が良い性格で、苦労を抱え込んでしまうクセがある。

 そのせいで最近では胃に穴が開き出している。

 鈴科(すずしな)百合子(ゆりこ)との関係は幼馴染兼同居人。

 だが、全寮制になってからは別々。

 

 

 

鈴科(すずしな) 百合子(ゆりこ)

身長:159cm

体重:39.8kg

 

【挿絵表示】

 

 雄英高校1年B組の生徒。

 強個性故に推薦枠に入る事など簡単だったが、それで目立つのが面倒くさかったがために普通に受験して合格。

 模擬戦闘試験の時も、率先して仮想敵を倒そうとはせず、襲い掛かってきたから反射しただけというチート。

 そして、緑谷出久同様、0Pゼロポイント仮想敵をブッ飛ばした生徒でもある。

 個性の関係で、体中の『色素』がほとんどないために、肌も髪も白く、眼球は赤い。

 雄英体育祭では、トーナメントが面倒くさかったがために障害物競走を真面目にやろうとすらしなかった。

 その為、実力は未知数。

 龍牙(りゅうが)幻夢(げんむ)との関係は幼馴染兼同居人。

 だが、全寮制になってからは別々。

 

 

 

暗視(あんし) 波奉(はほう)

身長:134cm

体重:【ヤダ。ダメ。教えない】

 

【挿絵表示】

 

『パンドラ』に所属している転生者。

 名前から男子だと思われがちだが、女子である。

 低身長で子供とよく思われるが、二十歳(ハタチ)で、しっかり自動車の免許も持っている。

 小心者で人見知り。

 前髪を伸ばして目を隠し、人と目を合わせないようにしている。

 人前に姿を現すことがほとんどなく、『パンドラ』内でも彼女について知っている者は少ない。

 志井逢奈の事を実の姉のように慕っている。

『パンドラ』に所属する前は地方の(ヴィラン)の組織に所属していた。まあ、この話はまた今度短編で。

 

 

 

志井(しい) 逢奈(あいな)

身長:164cm

体重:【知れば明日の朝日は拝めませんよ】

 

【挿絵表示】

 

『パンドラ』に所属している転生者兼秘書。

 真面目でしっかり者。

 優しくて面倒見も良く、皆の頼れるアネゴ的存在。

 個性:『忍ぶ者』は隠密や暗殺に長けているモノで、正面戦闘に向いているわけでは無いが、彼女は努力で正面戦闘をできるようになった。

 外に出るときはコンタクトを付けているが、普段はメガネを掛けている。

 実はレズで、自身の事を慕って後ろをトコトコと付いて来る暗視波奉が好き。無論、性的に。

 むっつりスケべでコミケには変装してまで参加している。

 余談だが、ほとんどの事は出来るのに恋愛については奥手。

 

 

 

甘崎(かんざき) 厳廿楼(げんじゅうろう)

身長:198cm

体重:87kg

 

『ファウスト』メンバーの一人。

 堅物そうな厳しい顔で無口。

 だが、自身の作ったケーキを褒められると表情が和らぐ。

 正面戦闘に向いている個性ではないのだが、本人の涙ぐましい努力により、前線で戦えるほどの力を持っている。

 普段はカフェで働いている。

 好きな事、お菓子作り。

 嫌いな物、安価で作られた体に悪いお菓子。

 

 

 

治実(ちみ) 癒香(ゆか)

身長:143cm

体重:【見ちゃ駄目】

 

『ファウスト』メンバーの一人。

 オドオドした性格で恥ずかしがり屋。

 個性:『祈りの治癒』

 非戦闘型で前線に出ることは無く、前線で戦って傷付いた者のケガを治すことが仕事。

 実は隠れオタク。

『機鰐龍兎×賢王雄』を妄想しては興奮している。

 

 

 

赤口(あかぐち) キリコ』

身長:169cm

体重:【教えない♡】

 

【挿絵表示】

 

 機鰐龍兎に病的に執着している少女。

 前世で助けられてからずっと付きまとっていた。

 そして、それは“機鰐龍兎の魂に傷を負わせた事件”へと繋がるが、それはまた別の話。

 機鰐龍兎を殺してでも自分のモノにしたいと思うと同時に、機鰐龍兎のモノにされるならそれでも良いとも考えている。

 つまり、機鰐龍兎がこのヤンデレから助かる方法は、『機鰐龍兎が赤口キリコのモノになる』か『機鰐龍兎が赤口キリコを自身のモノにする』かの二択である。

 前世での名前は、『安藤よしみ』



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キャラ②

ここに書かれないキャラも多数いる。
なぜなら、設定が特にないから。


久間(くま)永千(えいち)

身長:186cm

体重:87kg

 

【挿絵表示】

 

 暗視波奉の腹違いの兄。

 身体能力が高く、素の戦闘力で有個性の相手と互角にやりあえる。

 なお、本人は無個性。

『とある事件』で“T4ガイアメモリ”を使用し、『仮面ライダーエターナル』へと変身した。

 だが、その反動で死亡した。

 

 ・・・・・・ハズなのだが。

 

 

久間(くま)殺切(さつきり)

身長:190cm

体重:87kg

 

【挿絵表示】

 

 久間永千の父親にして暗視波奉が所属することになった組織のボス。

 個性:『瞬間増強』

 一瞬だけパワーを増幅させることができる個性なのだが、『暗闇の赤』という殺し屋から受けた傷のせいで使えなくなっている。

 何を考えているか分からない人物。

 自身の目的の為なら何百何千の人間が死のうと気にしないタイプ。

『とある事件』で“T4ガイアメモリ”を使用し、『エターナルドーパント』になった。

 余談だが、辛いのが苦手。

 

 

苦愚群(くぐむら)火虎(かこ)

身長:188cm

体重:90kg

 

【挿絵表示】

 

 誰にでも敬語で話し、雰囲気から警察も悪人だと見抜けないような性格。

『あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ』など、あ段に含まれる文字だけなぜか片言で話す。

 普段から煙草を吸いまくっている人物。

 煙草は持ち歩いているが、ライターは持ち歩いていない。

 個性:『炎虎(えんこ)

 火を纏った虎に変身する個性である。

 プロヒーローになれば前線で戦えるような個性なのだが、とある事情で裏社会の人間になっている。

 元・雄英高校の生徒で、エンデヴァーと同期。

 余談だが、家事全般が得意。

 

 

黒猫(くろねこ)暗矢(あんや)

身長:198cm

体重:73kg

 

『ベアーズ』で秘書をしている転生者。

 苦労人で、気分屋の“血化石蛇”に振り回されている。

 そのせいで、20代でありながらいくつか白髪があり、黒く染めてる。

 個性『【NO DATA】』

 ただし、ワンピースに関するものだという事だけは分かっている。

 

 最近はバイトに明け暮れている。

 

 

軍長(ぐんちょう)身武(しんぶ)

身長:248cm

体重:147kg

 

『ベアーズ』の幹部。

 バカだが裏表がなく普段は真面目。

 だが、戦闘になるとそれがすべて一転し、凶悪で残忍な本性が出てくる。

 アルバイトをクビになるまでの最短時間、5分。

 なお、その記録は日に日に更新されて行っている。

 個性『【NO DATA】』

 ただし、ワンピースに関するものだという事だけは分かっている。

 

 最近はバイトの面接すら出禁になっている。

 

 

大宮(おおみや)さとし』

身長:159cm

体重:74kg

 

 機鰐龍兎の前世。

 “とある事件”から体を鍛え続けている為、かなり強い。

 腕立て伏せ100回。

 上体起こし100回。

 スクワット100回。

 そしてランニング10kmキロ、これを毎日やっている。

 成績は普通であるが、この頃から性根が腐っていて、かなり性格が悪い。

 

 また、纐纈真輝の起こす事件を解決するために奮闘していたこともあって交友関係は無駄に広い。

 

 必殺技は『(オレ)の拳』

 ただの全力パンチである。

 

 

大宮(おおみや)はやと』

身長:177cm

体重:733kg

 

『大宮さとし』の弟。

 両親の束縛に近い英才教育のせいであまり人付き合いが得意ではない。

 兄である『大宮さとし』の事を慕っていたが死別してしまう。

 それからは親の意思に逆らうように『自分』を持って生活をする。

 その手には兄である大宮さとしからのプレゼントである3DSが握られていた。・・・・・・が、スイッチを購入してからはそっちがメインとなる。

 

 大学に入学後、そこで出会った先輩と交際し、卒業後に結婚して子供が自由にのびのびと育てる家庭を築く。

 

 

纐纈(こうけつ)真輝(まき)

身長:158cm

体重:48.4kg

 

『大宮さとし』の敵。

 言葉巧みに人を誘導して事件を起こさせる。

 数々の事件を起こしており、『大宮さとし』が解決できたのはごく一部。

 何かの目的があって『大宮さとし』を中心に事件を発生させていたが、自分が関わらない事故で少年が死んで以来、事件を起こすことはなくなった。

 その後、大学で出会った人と付き合い、結婚している。

 

 余談だが、結婚一周年記念で温泉旅行に出かけた際に事件に巻き込まれ、そこで某名探偵並みの推理力で犯人を当てた。

 

「真実はいつも一つとは限らないけど、それでもこの事件の犯人だけはもう分かった!」

 

 

三好(みよし)視夜(しや)

身長:176cm

体重:71kg

 

 プロゲーマー。

 デジタルゲームから体を使うサバイバルゲームまで一通りのゲームができる。

 顔立ちもよく、プロゲーマー界隈のイケメン枠になっている。

 ゲームを始めたきっかけは、『兄』が気まぐれにプレゼントしてくれた3DSで遊んだことで、今ではそれにどっぷりと浸かっている。

 個性『レーダーアイ』

 

『とあるゲーム』によって起こされる事件に巻き込まれるのだが、それはまだ先の話。

 

 

『マキ・アルタイア』

身長:166cm

体重:49kg

 

【挿絵表示】

 

『三好視夜』の彼女。

 個性『【NO DATA】』

 

 物語のカギを握るキャラだが、登場はまだ先。

 

 

詩崎(しざき)鋭矢(としや)

身長:171cm

体重:57kg

 

 機鰐龍兎が助けられなかった少年。

 今では高校浪人のニート。

 

 

(かなえ)虎龍(こりゅう)

身長:198cm

体重:87kg

 

 旧名『(おおとり)大翔(おうが)』。

 大宮さとしのライバル兼友人。

 身体能力が高く、スポーツ万能なのだが勉強はあまりできない。

 死別した兄の夢である『オリンピックで金メダル』を代わりに叶えるために日夜筋トレに励んでいる。

 中学時代は大宮さとしと共にいたが、高校進学で離ればなれになってしまう。

 そして、スポーツで忙しかったのもあり、大宮さとしが死んだことを知るのは彼の死後半年も経過してからだった。

 その後、オリンピック選手に選ばれるものの、結局は銀メダル止まりで選手を引退することとなる。

 引退後はバラエティー番組などに出演し、アイドルと結婚し二児の父となった。

 

 




そろそろキャラ名のネタもなくなってきたぜ_(:3」∠)_


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??話 『ボスたちのメタ集会』

本編に関係のないメタ話。

時間軸とか次元軸とかごっちゃまぜだけど気にしないでねw


纐纈「っと、いう訳で始まりました。“個性『英雄』”ボスキャラの集会だよぉ! 司会はウチ『纐纈真輝』が行いま~す!」

 

魔我「いや、ちょっと待って。僕何も聞かされてないんだけど」

 

ゲムデウス「まず貴様は誰だ?」

 

魔我「『ヴィラン編』のボス! めっちゃ最初の頃に主人公の道を左右した重要な役割のボス!!」

 

殺切「オレは本編に関係ないボスだが、キサマはボスじゃなくて雑魚じゃないのか?」

 

血化「そもそも、まだ始まってすらいない編のボスの俺がいること自体おかしくないか?」

 

??「そんなこと言ったらまだ名前以外の性格とかもろもろ決まってない己はどうすればいいのじゃ? まだ一人称から口調すらしっかり定まってないのじゃぞござる」

 

魔我「なんかスゲェキャラ来たよ」

 

脳無「・・・・・・・・・」

 

魔我「もはや言葉を発せない人すらいるじゃん・・・・・・」

 

猿伸「ンなこと言ったら本編メインキャラの俺はどうするの?」

 

纐纈「一応、『仮免編』のボスだからいいじゃん」

 

血化「そういやさ、赤口キリコは?」

 

纐纈「今、『無個性編』でボスしてるから来れてない」

 

殺切(・・・・・・眠い)

 

??「ところでミーはどうしたらいいざますでござす?」

 

魔我「さっきまでのキャラすら見失ってる!?」

 

纐纈「とりあえずなに編のボスかは決まってるの?」

 

??「一応、『DB編』のボスになってます」

 

猿伸「『Dust Box編』って事か」

 

??(以後、DB)「違うでございますます」

 

魔我「なんでここまでキャラがブレブレなヤツ呼んだし・・・・・・」

 

纐纈「まぁまぁ。あまりに前の事過ぎて作者がキャラ設定丸々忘れて慌てて登場回見返したけど結局思い出せなかった人は黙っていてください」

 

魔我「メタいわ! ってか通りで違和感あると思ったらさぁ!!」

 

DB「アナタは確か、初期は主人公をどんどん追い詰めていくラスボスポジションだったのに作者が勢い余って殺しちゃった人ですよね」

 

魔我「ンな裏事情は聞きたくなかったぁぁぁあああああ」

 

 

【ただ単に魔我覇仁というキャラが扱いづらかったというのもあります】

 

 

魔我「変なテロップ出たっ!!!?」

 

纐纈「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえずここに集まったボスがどんな人かを自己紹介していきましょう」

 

猿伸「それもそうだな」

 

纐纈「それじゃウチから。主人公(の前世)が生涯倒すことのできなかった究極のボス」

 

ゲムデウス「主人公をギリギリの限界まで追い詰めて連続ライダーキックを出させたボス」

 

猿伸「主人公と敵対したけど和解して仲間になったボス」

 

殺切「主人公とは関わったことないけど『クマ編』に繋がる重要な話のボス」

 

血化「『クマ編』で主人公を追い詰めて苦しませる(予定の)ボス」

 

DB「10万人以上の人間を巻き込む大事件を起こす(予定の)ボス」

 

魔我「主人公にちょっかい出して殺されたボス」

 

一同「こいつだけショボい」

 

魔我「うるせぇ!!!」

 

(チョンチョン・・・)

 

魔我「誰だよ。肩つついたヤツ」

 

脳無「・・・・・・・・・」

 

魔我「なんか言えよ。せめて呻れ」

 

脳無「(*’▽’)b」

 

魔我「いい笑顔でサムズアップしてくるんじゃない! 情けなくなってくるだろう!!」

 

纐纈「まぁ、ボスの中では魔我くんが一番しょぼいよね」

 

 

【ある程度手加減されていたとはいえ脳無ですら強化フォームでやっと撃破だからね】

 

 

魔我「もう止めて、悲しくなってきた・・・・・・」

 

纐纈「それじゃ、今回はここでお開きにしようか。次はもっとボスが登場してからで」

 

魔我「もう二度と参加したくない」

 

 

【なお、魔我覇仁だけは何があろうと強制参加です】

 

 

魔我「なんでぇえ!!!?」

 




次回が本当にあるかは未定。


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~トチュ~』


注意



今回は『外伝 2人の英雄・1人の仮面ライダー』終了を前提として書かれております。
深くつながっている訳ではないですが、外伝を読み終わってから読んでもらった方が良いと思います。


いいですね?
では、どうぞ↓↓↓


サクラ「はっ? こ、ここは?」

 

纐纈「ここは“個性『英雄』”のボスキャラたちが集まる不思議な空間。アナタには『外伝 2人の英雄・1人の仮面ライダー』のボスとして来てもらったわ」

 

サクラ「なっ、纐纈真輝!? なんでアンタがここに!?」

 

纐纈「私はここの司会なのさ」

 

サクラ「ワケがわからないよ」

 

魔我「諦めろ。ここではこいつがルールだ」

 

サクラ「あ、何かよく分からない事やろうとして死んだ人」

 

魔我「フォローに入ったのに貶された!?」

 

(ツンツン…)

 

魔我「誰だよ」

 

脳無「・・・・・・」

 

魔我「何だよ、オイ」

 

脳無「(*’▽’)b」

 

魔我「だから何なんだよお前!?」

 

DB「さぁて、ワシは今回誰の味方をすればいいのでおじゃるのかのうズラだがや」

 

魔我「またキャラがぶれてるよ・・・・・・」

 

DB「己のキャラはしっかりと定まっておるでガンス」

 

魔我「誰か助けてぇ」

 

猿伸「今回ばっかりはお前に味方するよ、魔我」

 

ゲムデウス「ところで、血化とかいうやつはどこに行った?」

 

纐纈「彼なら『クマ編』に参加するから台本を確認しに行ってる」

 

魔我「台本!!?」

 

サクラ「で、纐纈真輝。ここはいったいどこなんだい? 私にはやる事があるんだけど」

 

殺切「気にしなくていいさ。戻れるし、時間は一切経っていないし、ここにいた記憶もない。だから、気にしなくていい」

 

サクラ「なら良いか」

 

魔我「納得した!?」

 

サクラ「これでも色々と経験しているからね。不可解な事でも納得できないと生きていけないものだよ」

 

纐纈「さっすが。立ち絵が『白神神姫』のモノを少し改造しただけの人の言う事は違う」

 

魔我&サクラ「さらっと貶した!!?」

 

纐纈「まぁまぁ。いいじゃん。私たち仲間なんだから」

 

魔我「は? 何言ってんの?」

 

纐纈「あのね。二人は前世が決まっているキャラなんだよ」

 

サクラ「確かに。私は『ナナシ』という過去があるけど、この細男は?」

 

纐纈「“64話 『大宮さとしの物語⑯』”に登場した大宮さとしの財布を盗った子供」

 

魔我「僕アレなの!!?」

 

一同「うわぁ。微妙」

 

魔我「猿伸すらそっち側に!?」

 

(ツンツン…)

 

魔我「何だよ、脳無。いい加減にしてくれ」

 

脳無「(´・ω・`)」

 

魔我「落ち込むなよ! なんだか申し訳なくなってくるだろう!!」

 

纐纈「まぁまぁ、悪気はないんだから許してあげなさいな。そんなことよりも少し雑談と行こうじゃないか。ゲストも呼んだし」

 

猿伸「ゲスト? 誰だ? また先の編のボスか? コイツみたいな」

 

DB「コイツとは何ですか。ちゃんと『DBちゃん』と呼んでください。べ、別に、アンタに名前で呼んでほしいとかじゃないんだから。勘違いしないでよね」

 

魔我「またキャラが変な方向に行っている・・・・・・。それで、ゲストって誰だ? どんなボスだ?」

 

纐纈「今回のゲストはボスじゃなくて不遇キャラだよ」

 

殺切「ボスなのにロクに設定のないオレと比べてどうだ?」

 

纐纈「ある意味ではあなたよりも不遇ですよ。・・・・・・『転生者の物語』も作られる予定だったのに『暗視編』が思いのほか長くなった影響で作者がどんなストーリーにするかを忘れて作られずじまいになったあげく、メインキャラだったのにフェードアウトしていった人ですから」

 

一同「うわぁ・・・・・・(同情)」

 

纐纈「っという事で来てもらいました! “通理(とおり)葉真(ようま)”くんです!!」

 

通理「どうも」

 

魔我「あ、葉真。久しぶり」

 

通理「久しぶりだね。覇仁くん」

 

サクラ「何? 知り合いなの?」

 

魔我&通理「女湯覗き仲間」

 

一同「うわぁ・・・・・・(ドン引き)」

 

魔我「予想はしてたけどこんな反応されるとさすがにキツイな」

 

通理「慣れてるわ」

 

纐纈「とりあえず、通理くんの不遇ポイントはこちら↓↓」

 

 

1.メインキャラだったのに今ではサブキャラ

2.序盤から登場していたのに最後に登場したのは21話(2019年2月頃)

3.本当は『仮面ライダーグリス』に変身する予定だったのに赤口キリコにその座を奪われる

4.作者が性格を忘れる

5.作者が『転生者の物語 通理編』の内容を忘れる(そのせいで物語が作られずに終わった)

6.実は1話制作時点から登場予定で“通理葉真”が主人公の外伝が作られる予定だったが上で書かれている諸々の事情があり中止

7.メインキャラの座を「一回だけ、しかも名前だけの登場予定」だった“暗視波奉”に奪われたあげく『転生者の物語』すら出番を奪われる

8.その影響で通理葉真がフラグを立てて恋仲になる予定だったヒロインキャラが抹消される

9.“暗視波奉”がキャラとして出来過ぎていたが故に一時期作者に存在すら忘れられる

 

 

纐纈「思い浮かぶだけでもこんな感じだね」

 

魔我「序盤で退場した僕よりもヒドイ・・・・・・」

 

通理「へ~、俺ってこうなるハズだったんだ」

 

猿伸「め、目が死んでる・・・!?」

 

DB「名前すら登場できなかったヒロインの方が不遇なのではないでごわすか?」

 

纐纈「本編に登場した、って所を考えれば通理くんが不遇。ヒロインは今や設定や“個性”含めて作者が忘却してるからどうしようもない」

 

殺切「そんなこと言ったらオレは妻と浮気相手がいる設定なのに名前どころかちゃんとした描写すらないぞ」

 

ゲムデウス「妻も浮気相手もぶっ殺しといて何を言っておるか・・・・・・(呆れ)」

 

通理「俺、なんでこの作品に出てるんだろう・・・。俺って、何の為に作られたの?」

 

【その点(かなり不遇)に関しては本当に申し訳ないと思っています】

 

魔我「また変なテロップ出たよ」

 

サクラ「ところで、私は何のためにここへ?」

 

【纐纈真輝も言っていましたが『2人の英雄・1人の仮面ライダー』終了を記念して、一応外伝のボスとしてのゲスト出演です。次回以降の参加は強制ではないです。また、次回は今回のように誘拐ではなくしっかりとアポ取りさせていただきます。また、お呼びした理由の中に顔合わせの意味もあります】

 

サクラ「なるほど。それじゃ、私は予定があるからしばらく参加は遠慮させてもらうよ」

 

魔我(僕は強制参加なのになんでだ・・・・・・)

 

纐纈「まぁ、とりあえず、今回は短めだけどここでお開きにしてサクラちゃんの歓迎会と通理くんの慰め会と行こうじゃないか」

 

殺切「酒はあるか?」

 

ゲムデウス「ココでは貴様が一番の大人だろう。今回は諦めろ」

 

脳無「(*゜▽゜)*。_。)*゜▽゜)*。_。)ウンウン」

 

猿伸「何も話さない癖してジェスチャーだけで何を言いたいかがわかるってすごいな、オイ」

 

纐纈「それじゃ、行くとしますか」

 

魔我「そうだな。僕もたまには羽を伸ばしますか・・・・・・」

 

【あ、魔我覇仁はお留守番です】

 

魔我「なんでぇえ!!!?」

 




とことん魔我覇仁はイジメて行きます。
次回があるかは未定。


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特別編 『大宮サンタの物語』

メリー苦しみます(非リア)

リア充滅べ。爆ぜろ。


 2015年12月24日木曜日。

 俺はいつものように街を散策する。

 年末に近く、さらにクリスマスイブという事は何かしら事件が起こる可能性が高いという事である。

 毎年、大小さまざまな事件に巻き込まれた故の経験則だ。

 今年に至っては、街を歩き回り事件が起こるよりも前にその芽を潰そうと考えている。

 と言っても、何も起こらない方が良いのだが。

 

「ギャァァァアアアアアアア!!!」

 

「ば、バケモンだぁぁぁあああああ!!」

 

 何か起こったようである。

 フラグ建築から何と驚異の0.1秒で回収してしまったよふざけんな。

 いくら何でも急展開過ぎるだろう。

 俺は心の中でぶつくさと文句を言いながらも叫び声の聞こえた方へ足を進める。

 向かう方向からこちらに向かって逃げてくる数名がいたが、流れるようにスルーしておく。

 しばらく進んだ先に、ゴミ箱を椅子代わりにして座っている影が見えた。

 赤い鼻に二股に分かれた角、もふもふ毛むくじゃらで蹄を持つ存在・・・・・・そう、まごう事無き『トナカイ』であった。

 

「何してんの、オマエ?」

 

 俺はとりあえずそう問いかける。

 トナカイは俺の方を見て、数秒の沈黙の後に大きく飛び上がった。

 

「な、なななななな何で驚かないんですかぁ!!!?」

 

 喋れるのかよ。

 

「何してるの? クリスマスのアルバイト?」

 

「アルバイトじゃありません!! これでも天界から派遣された使いです!!!」

 

「そっか」

 

 俺はそう答えて近くの壁に寄りかかる。

 トナカイは俺のその態度に驚いたらしく口を大きく開いていた。

 

「なんで、平然としているんですか・・・?」

 

「一応知り合いに『吸血鬼』がいるし、1~2ヶ月ぐらい前に退魔師とやらと戦ったりもしたからな。話すことのできるトナカイ程度じゃ驚かないよ」

 

「な、なるほど・・・」

 

「それで、トナカイが何しているのさ? 困った事でもあるなら手伝ってやるけど」

 

 俺がそう言うと、トナカイが大粒の涙を流し出した。

 

「じ、実は、おじいちゃんが返ってこないんですぅ」

 

 トナカイのその言葉を聞いて俺の頭の中に白い髭を生やしたトナカイの姿が浮かんだ。

 動物だから保健所にでも連れてかれたんじゃないかとも思ったが、ここ数日こんな大きな動物が運ばれたという話は聞いていない。

 

「その爺さんの名前ってわかるか?」

 

「ニコラウスおじいちゃんです」

 

「サンタクロースじゃねぇか!!!」

 

 あぁ、何となく分かってたよ。

 この季節にトナカイに爺さんって、分からない方がおかしいもんなこのヤロウ。

 ってか、トナカイ放っておいて何やってんだサンタ!!

 

「ちょうど休暇取って観光に来ているヴァレンタインさんと飲みに行くと言ってもう三日も戻ってこないんですよぉ( ;∀;)」

 

「聖ヴァレンタインが観光に来てるって事実にも驚きだよ!!!」

 

 どっちもキリスト教史の聖人じゃん!

 何、普通に飲みに行って行方不明になってるんだよ!

 ってか、明日がクリスマスなんだからはよ探さないとヤバイじゃんかぁ!!

 

「最後の仕事が残っているのに、『まだ時間はあるからな。トナカイ1号、ここで待っておれ。ヴァレンくんと少し飲んでくるから』って意気揚々と夜の街へ消えてしまったんですぅうう」

 

「ノリがめっちゃ軽い!!」

 

 オカルト方面は基本的に専門外だが、こんな緩くていいのかよ。

 いや、いいんだろうな・・・。

 戦った時も意外と判定緩々だったもん。

 

「とりあえず、爺さんを探そうか。・・・・・・ちょっと待っていてくれ」

 

 俺はそう言うと近くのドン・キホーテまで向かい、そこでサンタ服を買って戻る。

 そして、制服の上から無理矢理着て季節感を出す。

 

「背中に乗せな。そうすりゃ多少なりとカモフラージュにはなるだろう」

 

 実際、ならないとは思うが、そこら辺はツッコミを入れないでくれ。

 特別編だからなんとかなっちゃうのだ。

 

 

 

 

 

 

 俺はトナカイ1号の背中に乗りながら街を散策する。

 少しばかりのお菓子を買って袋に詰めておいたので、近寄ってくる子供にはそれを渡しておく。

 ソリに乗っていないのはご愛敬ってことで。

 

「ってか、クリスマスが働く時期だろ? なんで職務放棄して飲みに行ってるのさ」

 

「私たちは6月から働いてますよ」

 

「え? マジ?」

 

「年が始まって半年ほどでプレゼントを渡す子を世界中からランダムで選び、その子の枕元にポータルを設置するんです。そして、12月25日0時にそのポータルからプレゼントが出現するって感じです。なので、半年かけて世界中を回り、子どもの枕元へポータルを設置するのが仕事なんです」

 

「はへ~。そんな仕組みがあったのか」

 

「はい。なので、この街に住むとある少女の枕元へポータルを設置すれば仕事終わりなんです」

 

 最後の一人だから少し気が抜けてしまったのか。

 それで行方不明になったら本末転倒じゃぁないかよ・・・。

 

「ンで、そのポータルの設置ってサンタクロースじゃないとできないのか?」

 

「いいえ。私でもできますよ」

 

「・・・・・・だったら、ポータルを設置してから探した方が良いな? もしも、時間過ぎても見つからなかったらヤバイだろ?」

 

「・・・・・・・・・そうですね。では、今はプレゼントを渡す子の下へ行きましょう」

 

「ところで、その子の名前は?」

 

「“纐纈真輝”って少女です」

 

「アイツかぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 クリスマスイブの騒がしい夜をかき消すような叫び声が辺りにこだました。

 

 

 

 

 

 

「で、ウチの所に来たって事ね」

 

「そゆこと」

 

 俺はトナカイ1号の角をハンドル代わりに持ちながら、俺の後ろに座る纐纈に短くそう答える。

 あの後、侵入したは良いモノの、トナカイ1号がヘマやらかして見つかってしまったのだ。

 トナカイ1号は顔を青くし「始末書書かないと・・・」と落ち込んでいるが俺たちには関係ないので揃ってスルー。

 

「それで? サンタコロースがどこにいるかの目星はついているの?」

 

「サンタクロースな。殺しちゃアカン。・・・・・・目星はついているよ。何となくだけどさ」

 

 俺がそう言うと纐纈はつまらなそうに呟く。

 

「だとしたら、さっさと終わらせて。ウチは忙しいの」

 

「なら今すぐここから飛び降りるか?」

 

「出来る訳ないでしょ? ココをどこだと思っているの?」

 

「空」

 

 そう。

 今俺たちはトナカイ1号の背に乗って空をかけている。

 サンタがソリに乗ってトナカイに引かれながら空を飛ぶのは本当だったらしい。

 

「ところで、何となく予想はついてるけど、その心当たりって?」

 

「『入国者収容所』って分かるだろ? 多分だけど、酔っ払って警察に職務質問受けたあげくパスポート無いからそこに連れていかれたんだと思う」

 

「ああ、やっぱりそうね。・・・・・・でも、大丈夫なのかしら? ウチたちみたいなシロウトで何ら権限のない一般人がどうこう出来る事?」

 

「確かに、俺たちには権限はないさ。でも、権限がないなら権限のある人を使うまでさ」

 

 俺はそう言ってニタリと笑う。

 纐纈も思い出したらしくソッとサムズアップをしてきた。

 

 

 

 

 

 

 施設の前で待っていると、黒い車が猛スピードでこちらへと飛んできた。

 そして、乱暴に扉が開かれる。

 

「やぁ、“丼電(どんでん) 返巳(がえし)”首相。お忙しい中どうもありがとう」

 

「いやいや。キミからの頼みだからね。・・・・・・隣にいるその子には会いたくなかったけど」

 

「何? ウチがココにいるのに文句あるん? また酷い目に合いたい?」

 

「い、いえ・・・・・・」

 

 丼電首相は額からダラダラと汗を流す。

 俺は二人の間に割って入り、仲裁をする。

 すると、

 

「やぁ、呼ばれてきたよ」

 

 と電柱の“影”から一人の男が現れた。

 そこに隠れていたという訳ではない。

 光に照らされていた影の中から現れたのだ。

 

「よぉ、怪世(かいせい)さん。遅かったですね」

 

「こっちにも仕事があるんでね」

 

 影の中から現れたのは“祭陣(さいじん) 怪世(かいせい)”。

 俺の住む『月見市』の裏に潜む『退魔師』の大本を担っている人物だ。

 サンタクロースと聖ニコラウスがピンチと伝えたら深く理由を聞かずに来てくれた。

 

「ンじゃ、俺たちはトナカイと一緒にここで待ってるから、手続きは大人が頑張って」

 

「うぅ・・・。最近の子どもは容赦ないなぁ」

 

「首相、諦めなさい。彼に関わった時点で我々は貧乏くじしか引けない運命なのさ」

 

 二人の大人が肩をがっくりと落とし施設へと入っていった。

 俺はそれを見送ってから纐纈に視線を向ける。

 

「お前は、オカルト方面にも手を入れるか?」

 

「ううん。それはしないよ。さすがに訳が分からないからね」

 

「そうか。じゃぁ、」

 

 俺は纐纈に向かって拳を振るう。

 纐纈は後ろに跳ぶことでその攻撃を避けると同時に石のナイフを投げて来た。

 そんな直線的な攻撃が当たる訳もなく、俺は少し首を傾けることでそれを避ける。

 

「なんで、岩を動かした? あれがなけりゃアイリがあんな目に合う事も、俺が“鬼”と戦う事もなかったんだぞ」

 

「何が起こるか気になったからだよ。ただ、あの結果を見る限りもう手を出さない方が良さそうだよ」

 

「・・・マジで二度と手ェ出すなよ」

 

「はいはい」

 

 纐纈はそう返事をしてナイフを拾い上げる。

 

 

 

 

 

 

 こうして、サンタクロース及び聖ニコラウスは釈放された。

 権力って素晴らしい。

 今回の件で、聖ニコラウスは天から降臨して観光を楽しむのではなく、しっかりパスポートを持って来るそうだが、そもそもそのパスポートの発行はどうする気なのだろうか?

 俺のそんな疑問を抱えながらも口に出すことなく見送る事にする。

 

「それじゃ、ニコラウスさん。次は気を付けてくださいね」

 

「はっはっは。いやぁ、こんなことになるとは思っていなくてね。どうしたものかと悩んでいた所にいい助け舟だったよ」

 

「今度から、飲みに行くときは仕事終わってからにしてくださいね」

 

「手厳しいね。・・・・・・そうだ、特別にキミにもプレゼントをしよう。どうだい? なにか欲しい物でもあるかな?」

 

 まさかの申し出で驚いたが、それでも俺の答えは決まっている。

 

「今は特に欲しい物はないんでいいです」

 

「そうかね? う~ん。・・・・・・それじゃあ、何か欲しくなった時に私の名前を呼びなさい。その時にキミが欲しい物をプレゼントしよう」

 

 ロクに働いていないのにまさかの報酬が来た。

 棚から牡丹餅ってこの事なのだろうか?

 いや、そんなのどうでも良いか。

 

「わかりました。では、何か欲しくなったら呼びますね」

 

 俺とサンタクロースはガッシリと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 結局、生前の俺はプレゼントを望む事はなかった。

 特に欲しい物なんてなかったし、プレゼントを望んでいられるほど余裕もなかった。

 それに、中三の冬にサンタと出会い、高三の夏に死ぬまでにそんなことを願っていられるような余裕はほとんどなく、事件の発生していない時はとにかく休んでいたが故に、願う事なんてなかった。

 だから、サンタとの契約(?)が有効かどうかはもう分からない。

 分からないし興味もない。

 

 俺は、今が楽しいから。

 俺は、今が幸せだから。

 




クリスマス特別会を書いたのでとりあえず休む。


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~トツレ~』

今から約一年前に投稿を始めて、まさかここまで続くとは・・・・・・。

え? 半年以上『大宮さとしの物語』で潰しただろ、だって?
アーアーキコエナーイ。


纐纈「祝! “個性『英雄』”一周年!! わ~、パチパチ」

 

魔我「おいちょっと待て」

 

纐纈「何よ。お祝いの席なんだから水差さないでよ」

 

一同「そ~だそ~だ」

 

魔我「全員で僕を攻めるんじゃない!!」

 

纐纈「それで、どうしたのよ」

 

魔我「前回も思っていたが、『パ~トチュ~』とか『パ~トツレ~』とか英語をもう少し頑張ろうよ」

 

纐纈「遊び心だからセ~フ」

 

【セ~フです】

 

魔我「クソテロップがぁ!!」

 

纐纈「さてさて、今回の企画は“主人公『機鰐龍兎』、『大宮さとし』の頃よりも勝率低い問題”についてだよぉ!」

 

猿伸「まぁた微妙な題材を・・・・・・」

 

纐纈「だってしょうがないじゃん。不遇枠で呼んで今後もいじっていこうと思っていた通理くん、本編登場決定しちゃっただもん」

 

ゲムデウス「それは『しょうがない』のか?」

 

殺切「不遇から脱出か?」

 

DB「どうせ一時的なものに決まっているでござるまんねん」

 

魔我「お前もう少しキャラを作ってから来いよ。・・・・・・それで、今回の議題の理由は?」

 

纐纈「ほら、本編見ると『機鰐龍兎』って追い詰められている描写多いじゃん。だけど、私の記憶で語ると彼が追い詰められてるって珍しいんだよね」

 

猿伸「そうなのか?」

 

纐纈「彼って、大体の場合は圧勝してるから。スペックとかその他諸々はこんな感じ↓↓」

 

 

01.素の身体能力はプロアスリート並み

02.戦闘力で表すと7~8程

03.呼吸法で精神を落ち着け、それを基に肉体のリミッターを外すことが可能(火事場の馬鹿力を自分の意思でいつでも使う事が可能)

04.緑谷出久(オーバーホール編)のワンフォーオール20%フルカウル程度の身体能力相手なら圧勝可能

05.免許はないが車の運転は出来る(トライドロンを運転したかったと供述している)

06.親から渡されている月5万の生活費を株などに投資して数千万まで増やす

07.大人でも飛び込むことのできない大火事に一切躊躇なく飛び込む

08.心臓を一度打ち抜かれるも蘇生しただけでなく数分で傷が塞がる

09.人間離れした力を持つ『退魔師』を相手に勝つ

10.銃を持った警察の裏特殊部隊の人間二人を相手に圧勝(その後、別の事件を解決)

11.宇宙人と遭遇

12.大企業の社長令嬢が誘拐された時、その所長令嬢を抱えてビルからダイブ

13.テロを起こそうとしていた集団がテロを起こす前に潰す

14.合衆国大統領暗殺未遂事k

 

 

魔我「嘘も休み休み言えぇ!!」

 

纐纈「事実だよ。というかまだ半分も出してないんだから中断しないでよ」

 

【事実です。説明を中断させないでください】

 

魔我「アイツなんで本編で苦戦してるの!? 後、僕への当たりキツくないかな!!?」

 

猿伸「まぁ、何となく分かる」

 

ゲムデウス「主人公が追い込まければ話が盛り上がらんからな」

 

脳無「(*゜▽゜)*。_。)*゜▽゜)*。_。)ウンウン」

 

纐纈「まぁ、勝率が低い理由としては、彼が『仮面ライダー』に固執し過ぎている所があるからなんだよね」

 

殺切「と、言うと?」

 

纐纈「憧れていた『仮面ライダー(ヒーロー)』になれるようになった事で、『仮面ライダー』らしい戦い方に固執しちゃっているんだよね。だから、彼本来の力が引き出せていない。まぁ、そこら辺は今後ストーリーで何か変化が生まれるだろうからスルー推奨」

 

魔我「何もなかったら?」

 

纐纈「負けや苦戦が多くなるだけ」

 

魔我「何かあったら?」

 

纐纈「オリ主最強の無双ゲー」

 

猿伸「それならまだ苦戦するシーンがあるだけマシか・・・」

 

DB「もしも強化されたらおいどんは勝てるのでゴワスのか?」←かなり先の章のボス

 

纐纈「まぁ、ウチはアンタがどんなボスか知ってるから言えることやけど、うまく立ち回れば負けるよ」

 

DB「勝てるよ、じゃないんですかぁあ!!!?」

 

魔我(いや、どれだけ強かろうとボスは負ける運命だろう・・・・・・)

 

纐纈「まぁ、勝ち負けは良いとして、DBくんちゃんさんはきっと歴代ボスの中で一番彼を苦しめるとは思うよ」

 

殺切「なぜ?」

 

纐纈「【自主規制】で【自主規制】な【自主規制】【自主規制】【自主規制】【自主規制】だから」

 

魔我「ネタバレのし過ぎで発言がカットされてる!!」

 

DB「(゚д゚lll)ガーン

 

魔我「君の扱いは良い方だよ。ほら、元気だしな」

 

ゲムデウス「序盤退場のザコボスに慰められても悲しいだけだと思うぞ」

 

魔我「僕への当たりキツくないかなぁ!!?」

 

魔物(リムル)「ドンマイ」

 

魔我「今なんか知り合いいたんだけどぉ!!?」

 

纐纈「気のせいでしょ」

 

猿伸「気のせいだろ」

 

ゲムデウス「気のせいだな」

 

DB「気のせいですね」

 

殺切「気のせい」

 

魔我「いや、絶対いただろ!! 登場させたはいいけど能力が強すぎて扱いに困った故にほぼ本編に登場してないヤツg

 

 

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

魔我「あれ? なんの話してたんだっけ?」

 

纐纈「機鰐龍兎の今後についてだったじゃん。もう認知症?」

 

魔我「違う・・・」

 

纐纈「まぁ、言える事とすれば、彼が本領を発揮するには自分に向き合って自分の過去を乗り越える必要があるからそうすぐに強化されるってことはないと思うよ」

 

猿伸「ふ~ん。・・・・・・そう言えば、龍兎って、一部の最終フォームに変身できないけど、変身できる最終フォームって何があるんだ?」

 

纐纈「アルティメットフォーム(ブラックアイ)・シャイニングフォーム・サバイブ・ブラスターフォーム・装甲(アームド)・エンペラーフォーム・コンプリートフォーム・コズミックステイツ・インフィニティースタイル・タイプトライドロン・ムゲン魂・ジーニアスフォームだね」

 

ゲムデウス「12、か。全20種類と考えれば半分行っている分いいのか」

 

纐纈「変身できない理由は、まぁ、大人の事情って事で」

 

魔我「大人の事情なら仕方ないか」

 

【そろそろ時間ですのでお開きにしてください】

 

纐纈「りょ~か~い。まぁ、『大宮さとし』と『機鰐龍兎』の戦闘スペックの差はどうしても全盛期である『大宮さとし』の方が上になってしまうと考えてもらえれば幸いです。それじゃ、今日はこれにて解散!」

 

魔我「さて、帰ってゆっくりするか・・・」

 

【あ、魔我くんは次回の議題を考えてきてください】

 

魔我「なんでぇえ!!!?」

 




魔我覇仁。
アイツは、いいヤツ(?)だったよ。

彼がどんな議題を持って来るかこうご期待!(次回があるかは未定)


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~トフェ~』

[血化石蛇・桜井真桜〔サクラ〕:本編登場中の為に欠席

 

 

魔我「議題考えて来たぞぉ・・・」

 

纐纈「あ、覚えてたんだ。そんな事」

 

【覚えてたんですね。冗談だったのに】

 

魔我「相も変わらず僕への当たりがキツイ!!」

 

ゲムデウス「まぁ、折角考えて来たのだ。ここに集まっても特にやる事がある訳でもないのだ。聞いてやるだけ良いだろう」

 

殺切「何もやる事がないのに集まっているというのはどこか滑稽だな」

 

DB「まぁ、アナタたちは本編で死亡判定受けていますから、ここに居座るぐらいしかできないって言うのが事実ですけどね」

 

猿伸「っというか、死んでないボスキャラって俺とサクラぐらいじゃないか? 纐纈さんは一応時間軸的に故人だろうし」

 

纐纈「ははっ、確かに私死んでるよ。ね、DBくんちゃんさん」

 

DB「そうですね、纐纈さん」

 

魔我「何? 仲良いの?」

 

纐纈「一応、【自主規制】【自主規制】【自主規制】【自主規制】だからね」

 

魔我「壮大なネタバレ止めい」

 

【そんなことはどうでも良いので、魔我くんは考えて来た議題とやらを言って下さい】

 

魔我「そんな事って・・・・・・まぁ、いいか。今回僕が考えて来た議題は『大宮さとし、武器を持った時の勝率低さ問題』だ」

 

纐纈「相手を殺す可能性があって無意識的に手加減してる、ハイ以上」

 

魔我「早いよ!!」

 

猿伸「つまり、アイツは武器を使う事はほとんどなかったって事か?」

 

纐纈「ガチギレして理性のほとんどを失った時は使ってたよ」

 

DB「今後の為にそれを聞いておきたいでやんす!!」

 

魔我(ここで得た知識は本編に引き継げないハズだが・・・まぁ、本人が良いならそれでいいか)

 

纐纈「彼がね、許せない事って色々あったのよ。例を挙げるとするなら、人の命を軽視する人、人の思いを踏みにじる人、・・・・・・そして、ウチのような人間。彼が感情的になる事は多かったけど、怒りのままに暴れた時は何よりも酷かった。普段なら多少傷付けても足腰が立たなくなって抵抗する気すらなくなってもう逃げないと分かるまでしか攻撃しなかった」

 

魔我&猿伸「それは普通にやり過ぎの部類に入ると思う」

 

纐纈「だけど、彼は過去に何度か殺しそうになった出来事があるの。一度、無差別殺人未遂事件が起こった時、彼はその場にいた誰よりも自責の念に駆られていた。自分のせいだ、と。自分がもっと気を付けていたらって。普段、その怒りは全て彼自身に向いていた。だけど、その時は違ったの。犯人は笑っていた。苦しんでいる人がいて、死にそうな人がいて、目の前に地獄のような光景が広がっていたのに、笑っていたから。ウチでも少し引くレベルで、ホントに。よく無差別殺人とかで『誰でもよかった』とか言うけどあれは大体嘘だよね。ほとんど自分より弱い女子どもとかを狙ってる。その犯人もそうでさ、子どもが狙われたの。それを認識した彼さ、怒りのままに犯人へ攻撃を仕掛けた。ウチも想像できなかったね。まさか、を武器にするとは思わなかったね・・・」

 

殺切「事件の簡単な説明をして欲しいのだが」

 

纐纈「年末の餅つき大会で、餅の中に毒が入れられてた」

 

ゲムデウス「杵を武器にするのも納得の理由だな」

 

魔我「いや、少しも納得できないんだが」

 

猿伸「そうそう。武器にするなら臼の方だろう」

 

魔我「そっちの方がより納得できないよ!!」

 

纐纈「他にもいろいろな武器を持つことはあったけど、彼が持った中で一番殺傷能力の高い武器はやっぱり丸太かな?」

 

魔我「彼岸島かよ。あれはあの作品だから成り立っているのであって、現実じゃ無理だ」

 

纐纈「じゃぁ、ハンドガン?」

 

魔我「なんで世界的に見て比較的安全な日本で遠距離殺傷武器を持ってるんだよぉ!!」

 

【いや、ホント、なんでなのでしょう?】

 

魔我「この世界作ってる作者(ヒト)が困惑してどうする!!?」

 

DB(パワーインフレを恐れた結果、紆余曲折あり世界観がインフレしたような作品ですからね・・・)

 

ゲムデウス「しかし、これではもう話す事は無いではないか。文字数を稼ぐためにはもっと何か会話をしないとならんぞ」

 

脳無「(*゜▽゜)*。_。)*゜▽゜)*。_。)ウンウン」

 

猿伸「メタいし、お前らは一応俺と違って凶悪ボスだろうになぜその立ち位置になっているんだ・・・」

 

【ただ、一理あるので適当に議題を出してください】

 

猿伸「それじゃぁ、一つ良いか?」

 

纐纈「どうぞ」

 

猿伸「この作者の作品に確実に出てくる『大宮さとし』と『暗視波奉』って一体全体何者なn

 

 

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

猿伸「あれ? 何の話してたんだっけ?」

 

纐纈「『龍牙 幻夢』についてのあれやこれじゃない」

 

魔我(前回の僕、あんな感じになってたんだ・・・・・・)ガタガタ

 

殺切(どうでも良いから寝たい)

 

纐纈「『龍牙 幻夢』については『無個性 編』や『短編』を読めばいったい誰なのか気づく人も多いだろうけど、ネタバレは駄目だから正体についてはスルーしておくね」

 

魔我(散々ネタバレしまくってる作品が今更何を言っているんだろうか?)

 

纐纈「一応、彼のデータはこんな感じ↓」

 

 

1.個性『ヒーロー』―――“仮面ライダー”に変身できるぞ! 機鰐龍兎の二番煎じだ!

2.機鰐龍兎に対抗意識を燃やしているぞ! ただし一学期終わりぐらいまで認識すらされてなかったぞ!

3. 『拳藤一佳』同様にクラスのまとめ役を担っているぞ! ただし責任感が強すぎて最近は胃薬が手放せなくなってきているぞ!

4.機鰐龍兎と違ってクラスの女子とのフラグが立ちまくっているぞ! ただし、過去に浮気性だったが故に酷い目に合っているので怖くて何もできていないぞ! やったね! トラウマだ!!

5.機鰐龍兎同様に死神に間違われて死んだタイプの人間だぞ! 幼馴染の『鈴科百合子』がその死神だ!

6.“個性”抜きの単純な戦闘スペック及び才能は『爆豪勝己』を上回っているぞ! 単純な殴り合いだけなら雄英高校ヒーロー科1年の中で断トツトップだ!

7.そもそもの初期案ではもっと最初の方に登場して『無個性 編』よりも前に物語に深くかかわる予定だったぞ! 初登場(ってか存在が語られたのが)2019年2月10日なのでそろそろ1年放置されたことになるぞ!

8.さらに初期予定では性格クズで機鰐龍兎とは悟空とベジータみたいな関係になる予定だったぞ! 龍玉悟雲と威厳星汰の登場でボツになったぞ!

9.正直な所、ノリで作ったキャラだから扱いに困っていたりするぞ! ほぼ無計画だからね!

 

 

纐纈「大体こんな感じ」

 

魔我「通理よりも不遇じゃねぇかぁぁあああ!!!」

 

猿伸「いや、一応『短編』で何度か触れられてるから不遇ではない・・・と思う」

 

ゲムデウス「そうだな。それに、一応最強クラスではないか」

 

纐纈「どすうる? 約一年放置記念の話でも作る?」

 

【止めてください本編が進まなくなります】

 

魔我「作者の方から止めるように懇願して来た!!?」

 

猿伸(ただでさえ『大宮さとしの物語』に半年潰して予定くるっくるに狂ってるからな・・・)

 

殺切「そのゲンムとかいう男もボスになるのか?」

 

纐纈「なるよ。だから今のうちに席を空けておかないとね」

 

魔我「席を空ける? 作るじゃなくて?」

 

一同「・・・・・・」ジー

 

魔我「は、ちょ、なんでこっち見て・・・」

 

【魔我くんの席を代わりに使うのもありですね・・・】

 

魔我「なんでぇえ!!!?」

 




クビの危機になった魔我覇仁。

次回、どうなるのか!?(次回の予定は未定)


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~トファ~』

グダグダな雑談回。


纐纈「お疲れさま~」

 

血化「お~、ありがとう~」

 

猿伸「歴代ボスの中でトップクラスにボスらしい活躍してなかったか?」

 

殺切「ああ、オレよりもボスらしかったな」

 

ゲムデウス「上に同じ」

 

DB「あんなボスらしい活躍されちゃったらミーはどのように動けばいいか分からないデ~ス」

 

魔我「またキャラがブレてる・・・」

 

纐纈「しかし、今回の血化くんのボスらしさは本当に凄かったよねぇ。どこかの誰かと違って」

 

魔我「こっちを見るな・・・」

 

猿伸「ドンマイw」

 

魔我「今現在生死不明な人に言われたくないよ」

 

猿伸「多分きっと何とかなるさ」

 

ゲムデウス「その自信はどこから来るのやら・・・」

 

血化「まぁ、猿伸なら何とかなりそうな予感はするね」

 

纐纈「まぁまぁ。それは置いておいて、『祝・血化くん本編登場終了記念雑談』を始めましょうか。それじゃぁまず、血化くんが気になる事はある? 本編で語る気のない裏設定程度ならいくらでも話すけど」

 

魔我(それを“程度”と言って良いのか?)

 

血化「それじゃぁ、死ぬ前に龍兎から感じ取ったあの“闇”って何かわかるか?」

 

纐纈「『短編㉜』に登場した『“影”』と同質の何かだと言っておくよ」

 

殺切「その“影”とやらは何なんだ?」

 

纐纈「人の悪意そのもの」

 

ゲムデウス「っと、言うと?」

 

纐纈「人の念って何を起こすか分からないでしょ? 言霊とか念力とか、まぁ、そういった概念的なナニカね。幾つもの人の念が合わされば強い力になるでしょ? それが良いモノか悪いモノかはさておいて。私の世界には『退魔師』とかいう存在がいた事も語られているでしょ? 『退魔師』っていうのは世界中にいるんだけどさ、ウチの主時間で言う数百年前に世界の悪い『気』を封じ込めるという話になったらしいの。理由としては、邪気を世界中に散りばめてそれによって起こる『悲劇』を広げるのではなく、一つの場所に押し込める事で被害の拡大を防ごうって感じかな? 結果、ウチの住んでいた街は『邪気』で溢れていたの」

 

猿伸「それってどうやって集めてたんだ?」

 

纐纈「ウチも詳しい事は知らないけど、『風水』的な何かだったと思うよ? まぁ、それで集まった邪気は数百年もの間に蓄積されていった。もちろん、『退魔師』たちも何も対策を取っていなかったわけじゃないよ。しっかりと『浄化』をしていた。だけど、世界中から集まる邪気の量は想定量を超えていて『浄化』し切れずに溜まり続けた。一日に10浄化しているのに100溜まっているって感じかな? そんな時に『蓋』が開けられてそこから『邪気』が“影”となって飛び出したの」

 

DB「どうして『蓋』が開けられたのですかますか?」

 

纐纈「ウチが『退魔師』の会話を聞いて興味持ってね。やってみた」

 

一同「何やってんの!!?」

 

纐纈「まさかああなるとは思わなかったね~。あっはっはっはっは」

 

魔我(絶対に笑い事じゃない・・・・・・)

 

纐纈「まぁ、それで街のバランスを取る事が仕事の『大森剣符』と偶然か運命か巻き込まれた『大宮さとし』が一緒に行動することになった。“鬼”に関しては『人類の敵を倒す』ことを目的としつつも『最悪のパターンを避ける為なら何でもする』がモットーだったから彼らの敵として立ちふさがった。“鬼”は『吸血鬼・アイリ』の体を触媒に“影”を封じ込める気でいたみたいだったからね。まぁ、失敗に終わったけど。それで行き場を失った“影”は暴走を始めた。何百年も積み重なった『悪意』は地球を飲み込んでも尚収まらないほどだった。『大森剣符』でも『器』が無ければ封印が出来なかった。それもとびっきり巨大な『器』が。そこに現れたのが『魂』に大きな空きがあった『大宮さとし』だった」

 

殺切「なぜ空きが?」

 

纐纈「『大宮さとし』が二回ほど死んだからかな?」

 

魔我「ちょっと待て聞き逃せない単語があるぞ!!」

 

纐纈「ああ、それは、極々稀に一つの体に二つの魂を持った『二重魂者』って呼ばれる人がいるんだよ。『大宮さとし』はそれ以上に珍しい『三重魂者』だったから、二回死んでも大丈夫だったって事。っと言っても、彼が異常だっただけで普通は一回目で完全に死ぬらしいけど」

 

魔我(いや、マジでアイツ何者・・・?)

 

纐纈「まぁ、その空きに半ば強引に無理矢理詰め込む形で“影”を『封印』することで世界に齎されるかもしれなかった『最悪』が起こらなかったっていうのが良かったよね」

 

殺切「それは良かったと言えるのか? もしもその『封印』が解けたらもっと酷い事が起こるのではないのか?」

 

纐纈「うん、起こるよ」

 

殺切「そうか。起こるのか」

 

纐纈「それじゃぁ、次の話にでも移r

 

魔我「何サラッと流そうとしているんだよ! 一体何が起きるんだよぉ!!」

 

纐纈「え? いや、ウチにも分からない。『最悪』が一体何なのかなんて誰にも分からないよ。いうならば彼は『人間版パンドラの箱』だね。・・・・・・でも、もしかしたら、、、、なんてね」

 

ゲムデウス「何一人で納得しているんだ」

 

纐纈「なんでもないよ。それで、まぁ、本編ではその『封印』が解かれかかっている感じだけど、彼ならきっと何とかすると思うよ。今まで見たいに、何でもないよう顔で平然と」

 

DB「それで何とかされてもしも強化しちゃったらワシが勝てる可能性が低くなるじゃろうなぁ」

 

魔我(そもそもボスだから負ける運命だろう・・・)

 

血化「そういえばさ、ボスとして龍兎と敵対してた俺だけど、もしかしたら友達になれてたのかな? 何となく馬が合いそうだし」

 

猿伸「まぁ、なれてたんじゃないか? アイツは俺みたいに一度敵対したヤツだろうと周りと同じように平等に接してたから」

 

血化「そうか。・・・・・・欲を出さずに手を結んでいればもっと別の未来があったんだろうな・・・・・・」

 

脳無(ツンツン・・・)

 

血化「何かな?」

 

脳無「(*’▽’)b」

 

血化「何か喋って。良く分からないから」

 

魔我(仲間が増えた・・・?)

 

纐纈「ボスキャラたちがこうやって集まると豪華に思えるけど、ウチ以外はみんな小物ばかりだからそこまですごく感じないよね」

 

一同「いきなりここにいる全員をディスった!!?」

 

纐纈「だってさ、編ごとに並べたら、平和の象徴用兵器・自称最強・病気の親玉・海賊王もどき・某都市裏組織トップ・男の娘・まだ登場すらしてないヤツ、だよ。ウチに比べたら小物じゃんか」

 

魔我「小物って、キミはいったい何をしたんだよ」

 

纐纈「人を先導して大きな争い事を何度も起こして何度か世界滅ぼしかけたけど」

 

殺切「それを止めたのは?」

 

纐纈「『大宮さとし』だね」

 

魔我「本当に何者何なんだよ、、、」

 

【ホント、なんで彼は彼と言う単体存在だけでインフレしているのでしょう?】

 

魔我「アナタがそれを言ってはいけないだろう・・・」

 

【しかし、ここでの事も大分語った所でしょう。新たに人をお呼びしました】

 

纐纈「誰?」

 

??「俺だ。・・・・・・諸事情により名前は発表できねぇから何とでも呼んでくれ」

 

ゲムデウス「じゃあ、名無しの権兵衛」

 

殺切「魔界大帝 ボルゲナード」

 

DB「シドー」

 

猿伸「山賊棟梁 ヒグマ」

 

魔我「英傑神殺し オーディン・キル」

 

??「なぜロクな名前が出てこないんだ。『名無しの権兵衛』は無難として、最後のヤツは北欧神話に謝ってこい」

 

纐纈「殺切さんのはよく分からないし、DBくんちゃんさんのはドラクエⅡのボスだし、猿伸くんのはザコだし・・・・・・いい案出てないから『匿名』で決定ね」

 

一同「我々の意見総無視かよ!!」

 

匿名「今後は俺も参加するからよろしく」

 

魔我(正式名称が分からないヤツがDBの他にもう一人来た・・・・・・)

 

纐纈「まぁまぁ、とりあえず今日は匿名さんの歓迎会を兼ねて飲みに行こう! 魔我くんの奢りで」

 

魔我「なんでぇえ!!!?」

 

血化「いつも損な役回りお疲れ様w」

 

【あ、今回は血化くんもお金出してください】

 

血化「なんでぇえ!!!?」

 




【速報】血化もいじられキャラへ移行。


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~ト〇ックス』

魔我「ちょっと待てやぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 

纐纈「ちょ、うるさい。毎度の事だけど静かにして欲しい」

 

血化「まぁ、これは叫びたくなる気持ちも分かるな。・・・・・・うん」

 

猿伸「タイトルに悪意があるもんな」

 

纐纈「は? 『パ~トシックス』に決まってるじゃん。まさか、『Si()』じゃなくて『Se()』だと思ったの? だとしたら君たちをスケベ判定するよ」

 

魔我「え? ファックスじゃないの?」(震え声)

 

血化&猿伸(保身に入りあがった・・・・・・)

 

ゲムデウス「しかし、話は変わるが本編の方は中々大変な事になっているな」

 

脳無「(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン」

 

殺切「それにしても88話はメタい事が多かったな。いくらアンケートでうどんが選ばれたからと言ってあそこまで露骨に出すか?」

 

【めちゃくちゃ悩んだんですよ、アレでも・・・・・・】

 

魔我「なら何でアンケートに入れたんだ(困惑)」

 

纐纈「この作品自体が基本的にノリと勢いで書かれているからね。一応大体のストーリー自体は決まっているけど、それでもその他ストーリーは後付けが大半だからね」

 

魔我「『大宮さとし』とかもか?」

 

纐纈「あ、それは元々裏設定」

 

一同「最初っからあったのかよ!!!!」

 

纐纈「弟の『大宮はやと』が追加設定だね☆」

 

血化「『追加設定だね☆』じゃねぇよ・・・・・・。じゃあなんだ? 最初っからあの過去設定はあったのかよ」

 

纐纈「あったよ。それでも今の寄りはライトな過去だったけど、作者に色々あってとことんヘビーにしようとした結果がアレ」

 

殺切「その何か、とは?」

 

纐纈「まぁ、コメントで機鰐龍兎の事を『転生特典で調子に乗ってるだけ』って言われたことが原因だね。あの頃の設定は『重い過去を持っているがそれを表に出さないように取り繕い続けている』だったからねぇ」

 

ゲムデウス「そんな描写は無かったと思うんだが?」

 

纐纈「それじゃあ聞くんだけどさ、彼、序盤から戦闘慣れし過ぎじゃない? いくら原作を知っているとはいえ死ぬ可能性がある中であそこまで余裕に戦える?」

 

魔我「いや、なら何で『敵連合』からの殺意とかにあそこまでビビってたんだよ」

 

纐纈「彼ってさ、『闇』の受け皿じゃん。人の悪意・害意とかの負の感情の」

 

血化「そう言ってたね」

 

纐纈「それって初期からの裏設定でさ、受け皿だから人の邪な感情を強く受けちゃうんだよ。それを強く表に出してたんだけど今思えばアレは失敗だった、って嘆いてるよ。作者」

 

ゲムデウス「アホなのか?」

 

纐纈「アホなんだよ」

 

一同「納得」

 

 

【補足説明:ヒーロー殺しの殺意にビビっていたのも同じ理由です】

 

 

纐纈「ちなみにウチは半分裏設定半分追加設定でできてるよ」

 

魔我「あ、そうですか」

 

纐纈「最初は男女設定どころか名前設定すらなかったからね。『黒幕』だけの存在だったよ」

 

DB「それでも設定があるだけでええやんけ」

 

殺切「貴様は設定じゃなくて性格や口調が決まっていないだけだろう」

 

ゲムデウス(それはそれで問題な気がするぞ)

 

纐纈「ちなみに本編初期を少しリメイクしようか考えてるんだって。本編進んでない状況で」

 

魔我「止めときゃいいのに」

 

殺切「ところで、話は変わるがこの作者はキャラの設定をどこまで練っているんだ?」

 

魔我「僕の設定だけでもかなり雑に作られてるからね。適当でしょ」

 

纐纈「適当だろうね」

 

【適当です】

 

一同「やっぱり」

 

殺切「オレがナチュラルサイコパスで作られてるのに(から)いの苦手な理由が分かった」

 

纐纈「もっとサイコパス振りを掘り下げたかったらしけど話が長くなって焦ってたせいもあってカットされたからね」

 

魔我「通理のヤツのストーリーは、」

 

纐纈「大人の都合でカット」

 

猿伸「元々だけど、ホントに酷いなこの作品」

 

纐纈「そうだね。・・・・・・う~ん。これ書かれてる理由って本編の文章が思いつかないから先延ばしの意味を込めてるんだよね」

 

魔我「ぶっちゃけたよ・・・」

 

纐纈「つまり、もう話すことがない」

 

魔我「そこまでぶっちゃけるか・・・」

 

纐纈「だから今回は短いけどここで解散!」

 

ゲムデウス「それでは、帰るとするか」

 

殺切「どこかで少し飲んで行こうか」

 

ゲムデウス「良いのか? 俺は酒を飲んだ事は無いぞ」

 

殺切「たまには良いだろう」

 

猿伸(ウイルスにアルコールを飲ませるのか・・・・・・)

 

血化「それじゃ俺も帰るわ」

 

纐纈「お疲れ様~」

 

魔我「それじゃあ僕m

 

【あ、魔我くんは本編序盤のリメイク手伝ってください】

 

魔我「なんでぇ!!?」

 








マジで本編初期リメイク中☆


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~ト差分』

 

【欠席者:サクラ・鏡面漸竜(ミラー)・匿名】

 

 

魔我「もはやカタカナですらなくなったぞ」

 

猿伸「ネタがないんだろ」

 

纐纈「正解☆」

 

一同「やっぱりか」

 

 

 

 

―――気を取り直して―――

 

 

 

 

纐纈「っと、言う事で今回も本編で説明する気のない裏設定や補足説明を出せるだけ出しちゃうよ~。それはもうドピュドピュと」

 

魔我「何だよその擬音」

 

纐纈「それはもう射s

 

猿伸「ドーパミンだな」

 

DB「ドーパミンですね分かりますた」

 

ゲムデウス「下ネタ発言を強制的に止めたか。さすがの腕前だな」

 

殺切「どこ目線で語っているのだか。・・・・・・ところで、今回の裏設定や補足説明とやらは何だ?」

 

纐纈「まず、『大宮さとし』の戦闘力についてだね」

 

血化「確か、7~8程度だっけか?」

 

纐纈「そう。その戦闘力ってほぼミスターサタンと同じか少し上くらいなんだよね。つまり、ボブ・サップよりもちょっと強い」

 

殺切「? 誰だ?」

 

ゲムデウス「アメリカコロラド州コロラドスプリングス出身のプロレスラー兼タレント。格闘家としては(ヒール)役で最後はド派手にやられるというのがテンプレだ。身長は196cmに体重は145kgのヘビー級選手でもある」

 

血化「詳しいな」

 

ゲムデウス「偶然たまたま知っていただけだ」

 

魔我(さっきスマホいじっていたのはググってたからか・・・)

 

纐纈「そんな彼だけど攻撃タイプとしてはパワーファイターじゃなくてテクニックファイターでさ、力でのゴリ押しはほとんどしない傾向にあったんだよ」

 

DB「今とはだいぶ違いますねぇ。クッフフクッフフ」

 

魔我(ブレてる・・・)

 

纐纈「まぁ、仮面ライダーが基本的に力か能力でのゴリ押ししているせいだね。カブトみたいにスタイリッシュだったりウィザードみたい軽やかだったりもあるけど基本的に脳筋ばかりだからね仕方ない」

 

血化「なるほど、通りで戦闘スタイルがガラッと変わったと思ったけど・・・」

 

殺切「オレも観ていたが、大分違いがあったからな。生身になった瞬間に立ち回りがあまりにも変化し過ぎていた。アレに対応するのは大分骨が折れる・・・・・・物理的にボキッと」

 

纐纈「彼の技術に対応しようと無理すればそりゃ骨の10本や20本は折れるだろうね」

 

魔我「折れ過ぎだ」

 

纐纈「それで、その、次はウチにも分からない技術なのよね・・・。『退魔術』、だったかしな? 流石のウチもあっち方面には手を出さない様にしていたからね。・・・・・・一度下手に手を出して世界滅ぼしかけたから」

 

魔我「もうツッコミを入れる余裕すらない・・・」

 

纐纈「だからあの『気』だか『霊力』だかで刃を作り出すとかなんで彼が出来るのか全く分からないんだよね~。そもそも彼が高校生になったあたりからウチの起こした事件自体が少ないし」

 

殺切「なぜだ?」

 

纐纈「ウチが危険人物扱いされて中々いいカモがいなかった」

 

一同「なんだ、好き勝手やっていたツケか」

 

纐纈「というか彼が高校生になってから極端に変な事件ばかり発生しまくってたのが最大の原因。昔はウチが起こした事件に彼が途中参加するっていうのが定番だったのに、いつしか彼が参加した事件にウチが介入するって形になってた。本当、恐ろしい。昔のウチはアレを制御するつもりでいたんだから」

 

一同「・・・・・・」

 

ゲムデウス「・・・・・・静まり返っているところ悪いが、質問良いか?」

 

纐纈「何?」

 

ゲムデウス「あの、“影”とやらの制御ができるようになったのだとしたらあの男は何ができるようになる?」

 

纐纈「あ、ちょっと待って。資料もらってくる」

 

【ほいほい。コレですね~】

 

魔我「そういった事は裏でやれ、裏で・・・」

 

纐纈「えっと、基本的に彼の想像力次第で大抵の事なら何でもできるみたいだよ」

 

DB「例えばどんな事ですかぁ? 私ぃすっごく気になりますぅ♡」

 

纐纈「“影”のエネルギーを全身に纏わせて身体強化したり、物質化させることで『鎧』や『武器』にしたり、某ドラゴンボールの技みたいに放出したり、何かの『形』を取らせることで中・遠距離戦闘を可能にしたり、物理法則に捕らわれない“影”を利用したベクトル操作とか、

 

魔我&猿伸&血化「多い多い多い多い多い多い」

 

殺切「戦闘面での汎用性が高すぎるな。敵に回したくないと深く感じる・・・・・・」

 

ゲムデウス「流石に単騎でインフレし過ぎだろう。いくら我でもこれは流石に相手をしたくないぞ。今は扱えていなかったとしても万が一に扱えるようになられたら・・・考えただけで恐ろしい」

 

脳無「(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン」

 

魔我「いや、僕たちは纐纈さんとDBの野郎を除いて全員敗北して本編に出れないボス」

 

猿伸「スマンが、俺はメインキャラに昇格している。そこだけは訂正しておこう」

 

血化「そんな事よりも、俺からも一つ良いか?」

 

纐纈「どうぞ」

 

血化「“博士”のクソ(アマ)はどこで何をして今後どんな風に関わってくる?」

 

纐纈「それは、その・・・ねえ?」

 

DB「それは、言えませんねぇ・・・」

 

魔我(察し)

 

猿伸「あのさ、『機鰐龍兎』ってその“影”が解放されかけているんだよね?」

 

纐纈「されかけてるよ。地球を複数滅ぼしても足らないほどのエネルギーを持つ“影”が」

 

猿伸「不味くね、ソレ」

 

纐纈「資料によれば幾つかの並行世界では制御しきれずに地球滅んでいるからね。まぁ、彼が制御できることを祈っておこう♪」

 

魔我(アイツが単騎でインフレして暴れている挙句世界の運命を握っているのか・・・・・・)

 

纐纈「まぁ、今の彼はハッキリ宣言すると変身した方が弱体化しているのは確定だね。生身の方が数段上の実力を引き出せてる。・・・・・・だけど、だからって変身しなくなるとはウチは思ってないよ」

 

ゲムデウス「っと、言うと?」

 

纐纈「アンタもその当事者だよ・・・。バグスターウイルスの再活性化・ばら撒かれるガイアメモリ・オルフェノクの増殖とか色々含めて変身しないと対処できないようなことが増えまくっているからね。・・・・・・それに、警察が『G4』の作製にも取り掛かり始めたみたいだし、しばらくは生身の戦闘と仮面ライダーでの戦闘が続くだろうねぇ」

 

魔我「大分、課題が山積みだな。しかもこれ対処できるの機鰐龍兎だけだろ? 流石に過労死しないか?」

 

猿伸「しないと思う。なんか慣れてそうな感じだったから」

 

-

 

【グギャァァァアアアア!!!!!】

 

魔我「はっ!? 何!? いきなりなんなの!!?」

 

纐纈「上の『-』を境に三日が経過してるよ」

 

ゲムデウス「それで、何があったのだ? 突然の事でうるさかったぞ」

 

【今までキャラの立ち絵をカスタムキャストでやっていましたよね】

 

猿伸「あ~、そうだね。それが?」

 

【引継ぎの際に色々ミスしてキャラの立ち絵全部消えました( ;∀;)】

 

一同「うわぁ・・・・・・」

 

【ここで言うのもなんですが、これ以降に同じキャラの立ち絵を更新した場合は頑張って復旧したモノになるので少し違いがあると思いますがご了承ください】

 

纐纈「はい、報告終わり。仕切り直して新しい議題を上げよう」

 

殺切「オレから良いか?」

 

纐纈「どうぞっ!!」

 

殺切「コメントにもあった事なのだが、この作品は(ヴィラン)側のインフレが加速して逆にヒ-ロー側があまりにも不利ではないか? いや、そのコメントの返信に『描写されていないだけで一応ヒーロー側も強化されてる』とは書かれていたがさすがに無理矢理過ぎないか?」

 

纐纈「44話で一応強化されている事を匂わせている描写はあるよ。そのフラグが回収されていないままというだけで」

 

魔我「それ、投稿日昨年の三月中旬だろ。誰も覚えてないよ・・・」

 

【もしも暇な人がいれば探してみましょう。見つけたからと言って何もないけど】

 

猿伸「じゃぁ読者の時間を奪うようなこと言うな」

 

ゲムデウス「これは批判覚悟で言うが、このサイトに投稿されている小説で少なくとも二週間に一度は投稿されているような作品でフラグが丸々一年以上回収されていないのってココだけなのだはないか?」

 

DB「可能性はありますますますですねこまんと」

 

魔我「頼むからキャラを安定させてくれ」

 

殺切「こういう言い方はアレだが、そもそも一年以上書かれる作品自体が少ない。簡単に投稿できるが故に長続きしないパターンが多いからな。この作者もネタが思いつかなくて一部小説の削除及び現在リメイク中だろう?」

 

【しかも仕事とか色々あってリメイクが進んでくれません】

 

魔我「ダメじゃん」

 

纐纈「そんなダメ野郎でもこの作品の流れはもう大体決まっているらしいから首を長く待とう」

 

猿伸「どこ目線だ・・・」

 

ゲムデウス「それで、『蛇足 編』はどこまでやるつもりだ? 何を語るのだ?」

 

纐纈「本編で語るつもりだったのに書くことのできなかった短い話の纏めやそのまま蛇足話だね。多分長くても5話で終わると思うよ」

 

殺切「この作者のそう言った想定は信じない方が良い」

 

血化「1年も続けばいいと思っていたこの作品がもう1年半になり、10話で終わらせる予定だった『大宮さとしの物語』が24話まで続いたからな。倍近くになると想定していた方が良いだろうな」

 

【なるべく短く纏めたいと考えているのでゆっくり待っていただけると幸いに存じます】

 

纐纈「とりあえず思いつくだけ本編で語るつもりのない無駄話はしたし、今日はこれで解散しよう」

 

殺切「さて、飲みに行くか」

 

ゲムデウス「付き合おう」

 

殺切「DB、お前も来い。こいつは酔っ払うと何をするか分からない」

 

DB「いいですよ~、まだ出番先なので暇ですから」

 

血化「ちょっとやりたいことあるから帰る」

 

魔我「じゃあ、僕も

 

纐纈「あ、君は少しこの資料纏めといてね」

 

魔我「なんで毎度僕ばっかりぃ!!!!?」

 



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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~ト塩湖』

滅茶苦茶短いです。


纐纈「という訳でタイトルの『パ~ト〇〇』の部分のネタが思いつかなくなってきてこじ付けでなんとか続けている『ボスたちのメタ集会』が始めるよ~」

 

魔我「長いわ」

 

猿伸「しかもこの前の集会終わった後の飲み会で『もうネタが無い』って愚痴ってたじゃん」

 

サクラ「・・・・・・なんで私呼ばれたの?」

 

纐纈「まあまあ、今回はちょっと前に感想で送られてきた考察(?)に関するものだよ」

 

殺切「あの主人公が『悪落ち』するのか、だったか?」

 

纐纈「結論から言うとそもそも彼に『悪落ち』という概念が無い」

 

ゲムデウス「その心は?」

 

纐纈「彼の中には『善』も『悪』もない。彼は彼なりのモノの見方で何をするかを決めるからたとえ相手が善人でも悪人でも敵対すれば等しくぶん殴るからね」

 

匿名「それがアイツの偽善的で腐っている所だろうな。そんな愚かしい考えさえ持たなければ救われた命もあっただろうに・・・」

 

サクラ「君の彼に対する評価がどうしてそんな感じなのかは知らないけどさ、それは無いと思うよ。彼がいないかった方がもっと酷い事になっていた事件は多いし、彼のおかげで救われた人も多い。私を含めて、ね」

 

纐纈「事件を起こしまくってたウチが言うのもアレだけど確かにそうだね」

 

殺切「ところで、聞きたいのだが。アイツにはアイツなりの『モノの見方』があると言ったが、どういうことだ?」

 

纐纈「ウチもそうなんだけど、彼は・・・・・・う~ん、説明が難しい。そうだね、世間一般で通じる常識を『1』とするなら彼はそれとは大きく異なる『2』もしくは『3』という常識で生きているの。・・・・・・それにはメリットがあってさ、精神干渉系の能力とか催眠術とかその他諸々が一切合切通じないんだよね。だから何だって話でもあるけど。とりあえずその中には彼なりの見方があって彼なりの常識がある。その中には『悪落ち』って概念自体が無いんだよ」

 

サクラ「たしかにそんな感じだったね。・・・私の時もあくまで敵対行動をとったが故にボコボコにされただけで手出ししなければ不干渉だっただろうしね。『あの子』の時だって、彼は人殺しのマシーンとして作られた『あの子』を守るためにヒーローと戦ったしね」

 

纐纈「そうそう。転生した後だって戦った理由は正義の為なんかじゃないしね。連合が来た時も害意を向けられたからだし、魔我くんとの戦いだって身内に危害を加えられたから、ヒーロー殺しも然り、ゲムデウスに関しては珍しく自主的に誰かを守る為、血化くんとの戦いもファウスト側に少しずつ被害が出ていた為、オーバーホールとの戦いは苦しむ少女を守る為。・・・・・・結局、彼は誰かの為に戦うパターンが多いんだよね。魔我くんと血化くんに関しても、あれ以上被害を出さない為の防衛策の一環だし」

 

血化「今更だけど敵対せずに静かにしていればよかった気もしているよ」

 

殺切「狂っているな、きっと」

 

ゲムデウス「どうしたのだ?」

 

血化「発狂だのといった方向性じゃない。ある種永久的狂気というモノに近い気もするが、それとも違う。・・・オレ自身狂っている自覚はあったが、それ以上だと言って良いだろう。狂っていながら平然としており、狂っていながら通常に近い感性を持ち、狂った行動倫理で狂気的な結果を残して周りから信頼される存在となっている。あまりにも狂っている。狂っているが故に狂っていない」

 

纐纈「そうだね。ウチも彼に近い狂い方をしているけど、それでも最終的に片足だけは平常の中に入れたままだった。だけど彼は完全に狂気の中に入りながら平常を持ち続けていた。さすがにあの狂い方は恐ろしいを通り越して興味深い気もしているよ」

 

魔我「なあ、血化」

 

血化「何だい? 魔我(ザコ)

 

魔我「辛辣っ! ・・・・・・いやさ、龍兎って『悪落ち』をしないのではなくて、『狂い過ぎて』そういった次元を飛び越えてそもそも選択肢に含まれないんじゃね?」

 

血化「RPGでいうならレベルで得られるスキルが二択で片方を選んだ場合もう片方が二度とえられないって設定の中で『狂気』ステータスだけを底上げした結果、そっち方面の選択肢しか得られない感じか」

 

魔我「ごめん、僕にはその説明がよく分からない。もう少し短く要約してくれ」

 

【私も理解できていません】

 

魔我「君が言っちゃぁお終いだ」

 

纐纈「まあ、彼は私の調教で究極的に誰かを助ける事を優先する人間になってるからね。死後の生活のおかげなのか多少その側面は収まって来て多少の犠牲は目を瞑って置けるようになってはいるけどさ。それでも、きっと彼は暴走するだろうね。全てを元に戻すために」

 

DB「随分と意味深ですねぇ。私、少し興奮してきちゃいましたビクンビクン」

 

魔我(気持ち悪い・・・)

 

纐纈「さて、それじゃあ見ようか。彼が、いったいどんな道を歩いて、いったいどんな選択肢を選ぶのか・・・・・・」

 

 






[TV]


〈ゲム〉〈纐纈〉〈殺切〉

〈サク〉〈魔我〉〈血化〉

〈D B〉〈匿名〉

/ワイワイ ガヤガヤ\


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??話 『ボスたちのメタ集会 パ~ト無院』

纐纈「お久しぶり。面倒くさいけど今日もやっていくよ」

 

魔我「あのさ、人がいない気がするのは気のせいかな?」

 

纐纈「多人数に喋らせるのって実は少し大変だし、今回は長々と書きたくないから大幅に削ってある」

 

魔我「貧乏くじ引かされてる感があるな。・・・それで? 今回は何があったの?」

 

纐纈「えっと、まず初めに『話がトントン拍子に進んでいる』という意見があってね。制作サイドとしての裏事情を少し」

 

 

―――――ここから本編です―――――

 

 

纐纈「話がトントン拍子に進んでる回ってのは基本2~3話書いてその内容を端折っているんだよね。ギュッと押し込んでいる感じで」

 

魔我「なんでそんなことをしているんだよ。普通に投稿すればいいだけの話だろう」

 

纐纈「R-18描写が普通にある」

 

魔我「何やってんの!?」

 

纐纈「この作者(バカ)ってエグイ・グロイ・救いなんてないってのが好きだからね。救われないのが当たり前。救われないのが当然。絶望なんて物はぬるま湯。これを当然と考えてキャラクターをひたすらに苦しめるのが趣味の変態だよ」

 

魔我「ホント、ろくでもない人間だな」

 

纐纈「特に今やってる『最低最悪の魔王 編』なんて、『荒廃した世界で救いの無い者たちがひたすらに体を重ねて性快楽で現実逃避をする愚かな人間どもの描写』『100話に登場したモブ親子がそこら辺のチンピラに舐り殺される描写』『疑心暗鬼に陥った人たちに全ての罪を擦り付けられて拷問を受けさせられ続けても説得しようと努力する主人公』なんてシーンが丸々カットされているからね。トントン拍子で進んでいるんじゃなくて、トントン拍子で進ませているんだよ。削除の対象になりたくないから」

 

魔我「じゃあ書くなよ」

 

纐纈「作者の性癖だから仕方ない。苦しめて、苦しめ続けるのが好きなロクデナシだから。『無個性 編』がいい例だよ。理不尽は当たり前、不条理は当然、主人公が平和を願ってもそれは訪れない」

 

魔我「クズも良い所だ」

 

纐纈「それと、機鰐龍兎視点での表現・・・『景色や風景を描写がまったく無い』ってのはただ単に壊れた人間視点だから。なんだよね」

 

魔我「もう少しわかりやすく」

 

纐纈「彼は『無個性 編』での物語以外にも多くの悲劇を見て来て、結果的に『平然の皮を被り平凡を演じ平和を望んでいるだけの存在』なんだよね。・・・雄英高校入学後にふざけているのも過去に出来なかった『青春』を楽しもうとしているだけだし」

 

魔我「裏設定を表に出さなすぎるだろう。全部書けよ。ってかそれのどこに背景描写の無さと繋がるところがあるんだよ」

 

纐纈「つまり周りに大きな関心が無いんだよ。それこそ敵意を持つ者がいない限りは周りの人間を有象無象としか捉えていない。多少人間観察をしたりしているけどそれも『何をしているか』しか見ていない」

 

魔我「だったら描写多くなる気がするんだが」

 

纐纈「彼の頭にあるのは基本的に『この後事件が起きた場合の対処法』なんだよね。周りを見ているのも危険察知の為だし、何かが起きた時の対処をする為でしかないから、それ以外に見ている景色の価値を見出していないんだよね」

 

魔我「主人公としてそれは良いのか悪いのか・・・・・・」

 

纐纈「あと、最近作者がボーボボ読み返し始めて先々の展開を考えるのが馬鹿らしく思えてきたってのもある」

 

魔我「あの伝説のギャグマンガの魔力が強すぎる」

 

纐纈「最近はバカサバイバーを聞きながら小説書いてるぐらいだからね」

 

魔我「アホだろ、それ」

 

纐纈「アホなんだろうね。それと来ていた意見の中に『更に表情や身体の見た目の描写も少し凝った感じにしたほうがいい』と言うのもあるんだけど、彼は戦闘中にそんなことを考えている余裕があるなら自身への『大丈夫だ』という言い聞かせと相手の動きを読むことに専念するからねぇ。彼が視点である以上は無理だろう」

 

魔我「? 言い聞かせ?」

 

纐纈「彼が余裕ぶっているのは基本ブラフなんだよ。相手の方が強くても強気で余裕があるように見せる事で少しでも優位を取ろうとしている、ね。だから、ブラフを立てまくる事に専念している為にそこまで大きな余裕がある訳でもないの。イキっているんじゃなくて、イキっているように見せて相手にプレッシャーを与えているだけ。内心ドキドキで基本的に余裕はない」

 

魔我「作戦としてはありなんだろうな。それが良いか悪いかは置いておいて」

 

纐纈「まあ、ウチからすればあの“影”を自分のものにして使役している所の方が驚きだけどね」

 

魔我「前に『力として使うのとはできるかもしれないがありあえない』って断言していたからなぁ・・・」

 

纐纈「うん。なんであんなことで来ているのか・・・。さすが彼と言った所かな。常識が通じない」

 

魔我「常識が通じないってレベルを超越している気もするがな」

 

纐纈「まあ、とりあえず今回はこんな所かな。じゃあ、彼がどんな選択を取るか見ようか。『大宮さとし』としての器から解き放たれた彼がどんな選択を取るのか、ね」

 

魔我(嫌な予感しかしない・・・)

 



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謝罪

2021年2月28日現在、私は執筆を行えない状況に陥りました。

まず私と父親の関係性が今回の事態を引き起こしてしまいました。申し訳ございません。

 

私の父親は小説・漫画含めて書籍が好きで友人関係もそういった人たちがたくさんいます。そんな人々に囲まれて育った私も本が好きで、電子媒体よりも紙媒体を好む傾向にあります。

さらに、私と父の共通点として、好きな作品があってもそれが連載している雑誌は買わず発売されたコミックスを買い集めます。一応、私は友人の一人が雑誌を買い集めているので少し借りる事でリアルタイムで話は追っていますが手元にはありません。

 

事態の根本な原因は約二週間前まで遡ります。

父が友人から超絶大人気作品『鬼滅の刃』を全巻借りてきました。買えよ、とも思いましたが父の自由意思な為何も言いませんでした。

ちなみにそれまで私も父も『鬼滅の刃』を見た事は無く「へー、流行ってるんだ」程度の認識しかありませんでした。

父は読んでみてハマったのか何度も読み返しておりそれを横目に私はずっと執筆を続けていました。一応補足として、私もざっと読みました。無惨様マジ無惨様。

父が本の貸し借りをしているのは昔からの事なので特に気にせずにいたのですが、つい昨日、問題が発生してしまったのです。

 

上記の通り私と父は本が好きで買い漁っているのですが、お互い資金の関係上『買える本』と『買えない本』がどうしても出てきてしまいます。

その為、ある程度は本をシェアをしてきました。

 

父からは様々な本を借りました。『究極超人あ~る』『ワッハマン』『無敵看板娘』『GS美神』『絶対可憐チルドレン』『ワンピース』『実は私は』『ダンジョン飯』等々多数。

私からは『ドラゴンボール』『ドラゴンボール超』『盾の勇者の成り上がり(漫画)』『転生したらスライムだった件(小説)』『転生したらスライムだった件(漫画)』『僕のヒーローアカデミア』『べるぜバブ』等々これまた多数。

 

その為、互いに貸し借りは当然、買って一度読んだら渡しているような状態でした。

そんな生活を続けていたある日というか昨日。父から私の本についての相談が来ました。

 

曰く「『鬼滅の刃』借りたお礼に本を貸す話になったんだけど、シンの本も少し借りて良い?」との事でした。

よくある事だったので私は二つ返事で了解をしました。してしまったのです。

 

今日、私は友人と朝から初詣に行っていました。・・・そうです、2月も終わるのにようやく初詣に行ったのです。関係ありませんが、過去一番遅く行った初詣は10月です。

初詣に行ったついでにアニメイトに寄って本を買ったり、メロンブックスに行ってR-18コーナーに入り「あーこの作者知ってる」「この人の作品お勧めだよ」と下らない話をしてじっくり楽しみ、最後にポケモンでお互いにサブデータでゲットしたザシアン・ザマゼンタを交換したりと休日を満喫して帰宅しました。

そうして、帰宅して本棚を見るとあら不思議。『僕のヒーローアカデミア』が全部ないではありませんか。驚きすぎて数秒間思考停止してしまいましたよ。

だってあれないと続き書けないんですから。私、コミックス片手にこの作品書いてるんですよね。オリジナルシーン以外全部。

慌てて父に聴いたら「(『鬼滅の刃』貸してくれた人が)ヒロアカのコミックス持ってないらしいから貸すことにした」、と・・・。

 

はい。ここで少し叫びます。ふざっけんなっっ!!!!

 

何故か29巻だけが無事に残っており今目の前にあります。爆豪きゅんの表情スコ。

ホント逆に聞きたい、なんで29巻だけ置いて行った。

 

まあ、ここまで長々と語りましたが、原作コミックス不在により執筆がほぼ不可能になりました事をここにお詫びいたします。

誠に申し訳ございません。

 

このような個人的な事情により、更新が長期に渡って停止すことになりました。え?この前、一か月間更新途絶えていただろ、って?アーアー、キコエナ~イ。

 

今後の更新はヒロアカが戻ってきてからになります。

その為、次回がいつになるかは未定になってしまいました。

 

こちらの事情でこのような事になってしまい、数少ない読者の皆さまに本当に申し訳ございません。



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外伝 2人の英雄・1人の仮面ライダー
1話 『I・アイランド』


書く気はなかったのですが、なんかアイデアが浮かんでしまったので書きました。
本編や短編と同様ゆったりまったり更新していきます。


 期末試験が終わって待ちに待った夏休みが始まった。

 っと言ってもすぐに林間合宿からの神野の悪夢へと流れるように移行するからな。

 今の内に何とかしないと。

 そんな事を思いつつPCを立ち上げると、いつものように500件を超えるメールが届いていた。

 そのどれもがプロヒーローのサポートアイテムを作成している会社からである。

 だが、全てに目を通すなんて事をしていたら夜になっても終わらない。

 それ故に新しいモノから削除して、今日の0時0分に送られてきたモノを先頭に10件を残して後は削除する。

 後々文句を言われそうなやり方に思われそうだが、ホームページにはこの事をしっかりと書いてある為、問題はないハズだ。

 俺はメールを開いて見て行くが、どれもこれもくだらないモノばかりでつまらない。

 だが、それも仕事だと思い改善点と修復個所を描いた新しい設計書を作成して返信しておく。

 そして、昼になってようやく最後のメールを開く。

 

「?」

 

 それは、仕事のメールではなかった。

 いや、仕事と言えば仕事なのだが、いつもの仕事とは違った。

 俺はそこに書かれていた文章を読む。

 

「『“I・アイランド”へのご招待』・・・か・・・・・・」

 

 その文章を確認してすぐに頭を抱えてしまった。

 こんな仕事しなければ良かった。

 俺のしている仕事は、サポートアイテムにある不備や不良、設計ミスから何まで、それを確認して指摘、修正をするというモノだ。

 最初は暇つぶし感覚で始めたのだが、いつの間にか業界では有名人になってしまっていた。

 一応シロウトがやっているため安くやっているのだが、なんか安い料金で出来る分より流行ってしまった。 

 顔や名前を出さず匿名でやっていたのだが、ここ数年の業績によって信頼は大きい。

 そして、ついにコレだ。

 やってらんねえと言うのが本音だが、これはきっと『2人の英雄(ヒーロー)』の物語に参加できるチャンスだと前向き(?)に考えることにした。

 そして、『行きます』とだけ返信しておいた。

 

 

 

 

 

 

「マジか」

 

 俺はついそう呟いていた。

 I・アイランド行きのチケットを持って搭乗口に向かって歩いていると、目の前に同じように搭乗口に向かって歩いている緑谷とオールマイトがいた。

 が、話しかける理由も特に見当たらなかったので無視して搭乗口へと行く。

 やはりI・アイランドに行く人は多いらしく、機内は満席だった。

 しかも、緑谷とオールマイトとはかなり離れてしまっていて話しかけにわざわざ行くのも億劫になったので止めることにした。

 離陸時間までまだ時間があるし、離陸してからも到着までに数時間かかる。

 つまり、やる事は一つ。

 俺は3DSを取り出し、レコチョクを起動させる。

 スマホなどのネットに接続されている物はアウトだが、ゲーム機で尚且つネットと繋がっていない物はギリギリセーフなのだ。

 レコチョクで音楽を聴き、これまたネットに接続されていいないノートパソコンへ設計図の入ったUSBメモリを差し込み、発明の続きに取り掛かる。

 まずは大雑把に設計した図面から不要な部分と追加すべき部分を書き足していく。

 そうこうしている内に飛行機は離陸準備に入り、気づけば大空へと飛び立っていた。

 飛行機を使わなくともその気になれば俺単体でI・アイランドへ行くことも可能なのだが、あそこはタルタロス並みにセキュリティが凄い。

 勝手に入り込もうものなら速攻で捕まるのは目に見えている。

 だから、正規の方法で行くしかない。

 でも、招待状で入るが故にある程度俺の正体がバレることも確かである。

 本当、面倒くさいことになったモノだ。

 俺は何気なく窓から外の光景を見る。

 空は青く美しく、これから起こる大きな事件の事など思わせないようであった。

 

 

 

 

 

 

 I・アイランドに着いてすぐ、俺は搭乗口に向かう緑谷とオールマイトに声を掛ける。

 コスチューム姿だったため分かりやすかった・・・・・・訳ではなく圧倒的に画風の違うオールマイトさえ発見すれば後は簡単なモノであった。

 話しかけられた二人は驚いていたが俺も招待されたことを話すと納得してくれた。

 こうして合流できた俺は二人と並んで進む。

 ちなみに、先ほども言った通り二人はコスチューム姿なのだが、俺は普段着である。

 っと言うかコスチュームは桐生戦兎を真似たモノになっている為、似たような服を買っておけば、コスチューム姿であろうと普段着であると大差はないのだ。

 

『ただ今より、入国審査を開始します』

 

 動く歩道に乗りながら搭乗口を出るとシャッターが開く。

 無駄に凝ってるな、オイ。

 入国審査室で俺たちは全身をスキャンされる。

 体が体な為変に反応されるのではないかとヒヤヒヤしたが大丈夫であった。

 上のモニターを見ると、そこには俺たちのパーソナルデータが映し出されている所であった。

 それをポケーっと見ていると、

 

「緑谷少年、機鰐少年の二人にクエスチョン! この人工島が作られた理由は?」

 

 と楽しげにクイズ出してきた。

 やっべぇ、つい反射的にクイズドライバー出しそうになっちまったぜ。

 俺が下らない冷や汗をかいている内に緑谷がオールマイトのクイズに答えていた。

 

「世界中の才能を集め、“個性”の研究やヒーローアイテムの開発っを行う為です。この島が移動可能なのは、研究成果や科学者たちを(ヴィラン)から守る為です。その警備システムはタルタロスに相当する能力を備えていて、今まで(ヴィラン)による犯罪は一度もなく、」

 

「そういうの本当詳しいね、君!」

 

「何かフラグ立った気がするぜ」

 

 今後の展開をある程度知っているが故についそんな事を言ってしまった。

 だが、二人に俺の言葉を気にした様子はない。

 そんな会話をしている内に入国審査終了のアナウンスが流れた。

 

『入国審査が完了しました。現在、I・アイランドではさまざまな研究・開発の成果を展示した展覧会、I・エキスポのプレオープン中です。招待状をお持ちであればぜひお立ち寄りください』

 

 ゲートが開き、I・アイランドの中へと足を踏み込めた。

 緑谷は感激の声を漏らしていた。

 俺は特に声を出すことなく周りをグルリと眺める。

 巨大なエキスポ会場にはいくつものパビリオンが建てられている。

 面白そうだとは思うが技術の無駄にしか見えない。

 それに、いくつか効率の悪い組み方をしているモノすらある。

 ここが完成するまでにあと最低でも5年は必要だろう。

 まあ、それでも今この状況でも楽しめるから特に伊問題はないか。

 俺がそんな事を思いながら辺りを確認している内にオールマイトに気付いた人たちが集まり、オールマイトを中心に人だまりが出来ていた。

 ・・・・・・これだから有名人は。

 俺はオールマイトを囲んでいる人たちの作る波に飲まれる緑谷を見ながら静かに距離を取った。

 

 

 

 

 

 

「あそこで足止めされるとは・・・・・・約束の時間に遅れてしまうところだったよ」

 

 顔中にキスマークを付けたオールマイトがそう呟く。

 いや、ホントさ、どれだけ時間かかったと思ってるんだ。

 ファンサービスも良いけどほどほどにして欲しい。

 俺はそのクレームをあえて言うことなく呑み込んでおく。

 緑谷はと言うと、オールマイトの言葉にぐったりとしながらも反応していた。

 

「約束?」

 

「あぁ。久しぶりに古くからの親友と再会したいと思ったからなんだ。悪いが少し付き合ってもらえるかい?」

 

「オールマイトの親友・・・・・・もちろん喜んで!」

 

「俺は呼ばれて来たから付き合えないかもな」

 

「機鰐少年には機鰐少年のやることがあるんだ。気にしなくて良いよ」

 

 オールマイトはそう言ってHAHAHAHAと笑った。

 その後、二人が会話をしだした。

 ワン・フォー・オールについての話だった為、俺は聞き流しておいた。

 ハッキリ言ってこの会話に関わるつもりもない。

 しばらく歩いているとホッピングでピョーンと大きくジャンプしながら笑顔で向かって来るメガネを掛けた少女・・・・・・メリッサがいた。

 

「マイトおじさま!」

 

「OH! メリッサ!」

 

 あっというまにメリッサは嬉しそうにオールマイトの胸に飛び込んだ。

 オールマイトも満面の笑みで抱き留める。

 緑谷は突然の事に驚いて固まっている。

 俺はとりあえずスマホで写メっとく。

 

「お久しぶりです。来てくださって嬉しい」

 

「こちらこそ招待ありがとう。しかし見違えたな。もうすっかり大人の女性だ」

 

「十七歳になりました。昔と違って重いでしょ?」

 

「なんのなんの」

 

 オールマイトはそう言ってメリッサを軽々と持ち上げる。

 ってか、メリッサはなんでナチュラルに日本語で話しているのだろうか?

 まあ、いいか。

 俺は自分の招待状をチラリと見て、とりあえずこの成り行きに流されようと決意する。

 

「マイトおじさまは相変わらずお元気そうでよかった」

 

「それで、デイヴはどこに?」

 

「フフ・・・・・・研究室にいるわ。長年やってきた研究が一段落したらしくて、それでお祝いとサプライズを兼ねてマイトおじさまをこの島に招待したの」

 

 何か俺に関係ない話になりそうだったため、俺はしまっていたノートパソコンを取り出し、左手を支えに置いて右手でアイテムの設計図の改良をする。

 視界の端でとらえていると、メリッサの興味はオールマイトから緑谷に移ったらしく、緑谷はテンパりながらもなんとか会話をしていた。

 そして、俺の方にも視線を向けてきた。

 

「そういえば、アナタは?」

 

「ん? 雄英高校ヒーロー科1年の機鰐龍兎です」

 

「アナタもマイトおじさまの教え子なのね」

 

「ヒーロー基礎学以外ではほとんどかかわった事ありませんけど、まあ、そうですね」

 

「どんな“個性”なの?」

 

「説明が難しい。・・・・・・ってか、時間は大丈夫なのか?」

 

 俺の言葉に我に返ったメリッサは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。

 

「ごめんなさい、つい夢中になって・・・・・・」

 

 そしてホッピングを持ち、ボタンを押した。

 するとホッピングが光り、ひも状になった。それはポケットに入るほど小さい。

 どんな仕組みなのだろうか?

 仕組みを知れれば個性を使わずに仮面ライダーに変身する為に作ったベルトを小型化させて持ち歩けるようになって便利なのだが・・・・・・。

 まあ、そこは後々聞くとしよう。

 

「速くパパを喜ばせてあげなくちゃ。こっちです、マイトおじさま!」

 

 メリッサはそう言って駆けだす。

 俺たちはその背中に続いて歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 セントラルタワーの中にある広い研究室へと俺たちは案内された。

 最初にメリッサが入る。

 数言の説明の後にオールマイトが中に突入した。

 

「私がぁぁぁ、感動の再開に振るえながら来た!!」

 

 オールマイトの姿を見たデヴット博士は驚きで固まっていた。

 そして、それが現実なのかと確かめるかのように小さな声でつぶやく。

 

「トシ・・・オールマイト・・・・・・」

 

 おい、本名から付けたあだ名を言ってるじゃねえか。

 驚いたのは分かるけどもう少し隠そうよ、ね?

 

「HAHAHAHA! わざわざ会いにきてやったぜ、デイヴ!」

 

 何か目の前で感動の再開が行われていたからとりあえずスルーしておいた。

 緑谷が滅茶苦茶興奮していたけどそれもスルー。

 とりあえずスルーをし続けているとデヴィット博士が本当にうれしそうな表情で言う。

 

「今日は本当に良い日だ。オールマイトとも会えた。返事はまだとはいえ“彼”も来てくれる。こんな最高な日は無いよ」

 

 この後最悪の日になるけどな。

 俺がそんな事を思いながらボケーっとしていると、緑谷が不思議そうに声をかけてきた。

 

「そういえば、機鰐くんの予定って何だったの? ここまで付いて来て大丈夫だった?」

 

「ああ、偶然同じ目的地だったようだな」

 

 俺はいけしゃあしゃあとそう答えてデヴィット博士の方へと歩く。

 デヴィット博士は俺の方に視線を向けて不思議そうな顔をした。

 

「・・・・・・君は?」

 

「自己紹介が遅れましたね。雄英高校ヒーロー科の機鰐龍兎・・・・・・ネットでは『ラビットドラゴン』で通ってる。まあ、招待ありがとう、デヴィット博士」

 

「!! 君がか! ありがとう、よく来てくれたね」

 

 デヴィット博士はそう言ってハグしてきた。

 俺もハグで返す。

 

「それで、答えを聞いて良いかな?」

 

「今回の話は断らせていただきます」

 

 俺は一秒のタイムラグ無く返答する。

 ガックリと肩を落とすデヴィット博士。

 

「そうか・・・・・・」

 

「残念がらないでください。俺はヒーロー科ですからね。ヒーローになりたいんですよ。・・・・・・まあ、もしもヒーローになれなかった時はまた呼んでください」

 

「ハハ、なるほど。それじゃあ、その時になったらまた」

 

 デヴィット博士はそう言いながらも肩を落としている。

 許せ、学生なんだ。

 まあ、デヴィット博士はすぐに顔を上げて緑谷とメリッサの方へ視線を向ける。

 

「オールマイトとは久しぶりの再会だ。すまないが、積もる話をさせてくれないか」

 

「あ、はい」

 

「メリッサ、ミドリヤくんとMr.ラビットドラゴンの二人にI・エキスポを案内してあげなさい」

 

「わかったわ、パパ」

 

 デヴィット博士の言葉に元気に答えるメリッサ。

 だが、緑谷は申し訳なさそうにしている。

 

「いいんですか?」

 

「未来のヒーロー達とご一緒できるなんて光栄よ。行きましょう、デクくん、ラビットドラゴンさん」

 

「本名かヒーロー名で呼んで欲しいんだけどなぁ」

 

 そんな俺の小さな願いが聞き入られることは無かった。

 俺と緑谷はメリッサに引っ張られるように研究室を出る。

 向かう先は、そう、エキスポ会場だ。

 

 




次回の軽いネタバレ。

『ヴィラン・アタック』に挑戦する機鰐龍兎。
彼は、空に手を掲げて言った。

「来い! ガタックゼクター! 変身!」

《ヘンシン》

次回へ続く。
更に向こうへ。‘‘Plus Ultra‘‘!! 


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2話 『ヴィラン・アタック』

クロックアップって、最近じゃ超加速と同じうように扱われているけど、実際はもっと奥深いモノなんだよな~と思う今日この頃。
ネタが浮かばないってキツいですね・・・・・・。


 エキスポ会場にはさまざまなパビリオンがあり、そのどれもが最先端技術で作られていた。

 っと言っても俺的には興味なんてなく、あーうんすごいねー、ぐらいでしか反応していないのだが、緑谷が滅茶苦茶楽しそうに反応していて俺のその態度は一切触れられなかった。

 楽しそうに走り回る緑谷と、緑谷の持つアイテムの説明をするメリッサ。

 俺は二人の背中を見ながらも色々なアイテムにも意識を向けるが、どれもこれも仮面ライダーになれば解決できるような問題を解決するために作られた物であるため俺には不要であった。

 一瞬で止血ができる応急処置用のアイテムもあったが、俺の場合ケガしてもすぐに再生できるので問題はないし、サイバーテロ対策の高性能AIなんぞなくても俺自らデータ内に侵入して防げる。

 それ以外のアイテムは変身すれば解決できるため問題無し。

 ああ、つまらない。

 そんな事を思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「楽しそうやね、デクくん」

 

「う、麗日さん!? どうしてここに?」

 

 おお、修羅場るか?

 展開知ってるからそうならないことは知っているけど。

 しかし怖ぇ。

 麗日さんはいつも通りなのだが、どことなく雰囲気の違う笑顔で言う。

 

「楽しそうやね」

 

 二回言ったよ。

 怖ぇえ。

 俺は少し恐怖しつつも麗日さんと八百万さんと耳郎さんの三人と合流した緑谷の下に近付く。

 三人は俺に気付いていなかったらしく驚かれた。

 ・・・・・・・・・いや、気付いてくれよ。

 傷付くぞ。

 

 

 

 

 

 

 カフェに移動して、すぐ、三人はメリッサに自己紹介をし、すぐに打ち解けていた。

 女子同士気軽に色々な事を話し合っている。

 俺と緑谷の男子()は女子たちの会話に入れず、ただ、和気あいあいとしている女子たちを眺める事しかできなかった。

 一応、緑谷に掛けられていた(いらない)疑惑が解けたとほぼ同時に俺たちのテーブルに「お待たせしました」と聞いたことのある声の人物が飲み物を置いた。

 

「その声・・・・・・か、上鳴くん!」

 

「よぉ、上鳴。・・・・・・と社会のゴミ」

 

「機鰐はオイラに恨みでもあるのか!?」

 

 恨みらしい恨みは無いんだ、峰田。

 だが、神姫の体形の事を小馬鹿にして「未成熟」だの「ぺたんこ」だの言ったのは一生忘れないぞ。

 雄英高校1年の変態s(クズズ)に気づいた耳郎さんが驚きの声を上げる。

 

「あんたら何してんの?」

 

「エキスポの間だけ臨時バイト募集してたから応募したんだよ。な」

 

「休み時間でエキスポ見学できるし、給料もらえるし、来場した可愛い女の子とステキな出会いがあるかもしれないしな!」

 

 上鳴に同意を求められた峰田が得意げに胸を張る。

 なんだろう、殴り飛ばしたい。

 俺が変態s(クズズ)の行動にイライラしていると、またしても聞いたことのある声が聞こえてきた。

 声のした方を振り向くとコスチューム姿の飯田がダッシュでやってきた。

 

「い、飯田くん!」

 

「来てたん?」

 

 驚く緑谷と唖然とする麗日さん。

 俺は飯田に詰め寄られる涙目の変態s(クズズ)の冥福を祈りながら注文した紅茶を飲もうとする・・・・・・と、

 

「っ!?」

 

 ズンッと大きな破壊音が当たりに響いた。

 びっくりして紅茶を零してしまったじゃないか。

 ああ、もったいない。

 音のした方へ視線を向けると、近くの会場から大きな土煙が上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 観客席に急ぐ緑谷たちの後を俺はトボトボと追う。

 この先にあるのは“個性”を使って(ヴィラン)ロボットを倒していくアトラクションの『ヴィラン・アタック』である。

 “個性”をフルで使っていい当たりI・アイランドの良さが強く見える気がする。

 チラリとモニターに目をやると、そこに切島が映し出された。

 

「クリアタイム、33秒! 第八位です!」

 

 おお、すげえ。

 硬化する個性でそのタイムなら上出来だろう。

 そんな事を考えていると、MCの女性が次のチャレンジャーを呼ぶ。

 滅茶苦茶やる気満々の爆豪がずんずんと足音を立てながらステージ内へ現れる。

 

「それではヴィラン・アタック! レディ~・・・・・・ゴー!!!」

 

 スタートと同時に爆豪は“個性”で一気に上昇する。

 上から(ヴィラン)ロボットの位置を確認して効率よくぶっ壊せるルートを一瞬で導き出しているのだ。

 その証拠に、すぐに降下して(ヴィラン)ロボットを効率よく破壊していく。

 物の数秒であっさりと全てのロボットが破壊された。

 

「これはすご~い! クリアタイム15秒、トップです!」

 

 トップになった爆豪にそれを喜ぶような様子はなく、ただ、つまらなそうにスタート地点へと戻る。

 っと、同時に緑谷たちに気づいた切島が指差した事により爆豪は怖い顔で緑谷に突撃した。

 

「なんでテメーがここにいるんだぁ!?」

 

「や、やめようよ、かっちゃん。人が見てるから・・・・・・」

 

「だからなんだっつーんだ!」

 

 人目もはばからず緑谷にかみつく爆豪。

 飯田が止めに入ったが、その程度では止まらない。

 そして流れるように緑谷がヴィラン・アタックに挑戦することが決まった。

 緑谷がスタート地点に立ち、構える。

 皆はそっちに釘付けになっているが、俺は特に興味もないので近くの自動販売機でコーラを買う。

 そして、キャップを開けて一口飲むころには緑谷はヴィラン・アタックをクリアしていた。

 早いな、うん。

 記録は16秒と爆豪の記録には1秒届かなかった。

 そんな緑谷を皆が励ましていると、これまたすぐに記録が塗り替えられた。

 その人物はもちろん轟くんだ。

 記録を抜かされた爆豪が轟くんに突っかかろうとしていたが、素早くてレポートして顎に軽く一撃をプレゼントして黙らせる。

 そして、轟くんの方に視線を向ける。

 

「来てたんだね」

 

「ああ、親父の代理でな」

 

 短くそれだけを答える轟くん。

 う~ん、クールだな。

 俺はそう思いながらMCのお姉さんに言う。

 

「飛び入り参加OK?」

 

「いわよ~! ジャンジャンチャレンジして!!」

 

 俺はその言葉に甘えてスタート視点に立つ。

 そして、右手を上に掲げる。

 MCのお姉さんも俺が何をしようとしているのか分からないらしくスタートを言うのを忘れていた。

 まあ、変身する時間が出来たのだと解釈しよう。

 俺は息を深く吸い込むと強く叫ぶ。

 

「来い! ガタックゼクター!」

 

 俺の声に反応するかのように空高くから青いクワガタ・・・・・・ガタックゼクターが現れる。

 それを掴むと同時に俺は言う。

 

「変身!」

 

《ヘンシン》

 

 俺の体に装甲が纏われ、『仮面ライダーガタック マスクドフォーム』への変身を完了させる。

 そして、素早くゼクターホーンを展開する。

 

「キャストオフ」

 

《キャストオフ チェンジ スタッグ・ビートル》

 

 そんな音声と共にマスクドアーマーが飛散し、『仮面ライダーガタック ライダーフォーム』へのフォームチェンジを完了させた。

 ここでようやくMCのお姉さんがスタートの合図を出していないことに気づいた。

 

「そ、それではヴィラン・アタック! レディ~・・・・・・ゴー!!!」

 

「クロックアップ」

 

《クロックアップ》

 

 スタートと同時にベルト横のボタン押してクロックアップすると俺は素早く駆けだす。

 肩に装備されているガタックダブルカリバーを握り、それを使って(ヴィラン)ロボットを丁寧に破壊していく。

 軽く小走りして(ヴィラン)ロボットの下に向かっては破壊する。

 俺はランニングするぐらいの気持ちで走っているが、皆からしたら俺は目にも止まらぬ速さで動いているように見えるだろう。

 気付けば(ヴィラン)ロボットは最後と一体になっていた。

 最後ロボットは巨大で、特別感満載だった。

 俺はガタックゼクターのボタンを3回押してゼクターホーンを元に戻し、再度展開する。

 

(ワン)(ツー)(スリー)

 

「ライダーキック」

 

《ライダーキック》

 

 右足にエネルギーが収束し、そこからくり出す必殺技、『ライダーキック』。

 それを喰らった(ヴィラン)ロボットは粉々のバラバラになった。

 俺はそれを確認してからクロックアップを解除する。

 瞬間、ライダーキックを喰らった(ヴィラン)ロボットが爆散した。

 思っていたよりも爆発の威力が大きく少し驚いたのは秘密である。

 

「ぜ、ぜ、ぜぜ0秒!!?? ダントツで1位です!!」

 

 そんなMCのお姉さんの驚きの声を聞きながら俺は皆の下に戻る。

 すると、皆に囲まれた。

 何か滅茶苦茶質問攻めにされたが、全てテキトーに返事をしておいた。

 俺がこの状況をどうしたものかと考えていると、人波を掻き分けるのではなく、無理矢理押しのけて爆豪が突っかかってきた。

 

「おいコラ! この変身野郎! いきなり出て来てなんだそりゃぁ!? 体育祭の時もそうだったが舐めプすんのもたいがいにしろ!!」

 

「あーハイハイ。ガンバレー」

 

「適当に返事してんじゃねえぞコラ!!」

 

 ああ、面倒くさい。

 俺はそう思い、この場から離れる為に何をしようかと指南していると爆豪が、

 

「無視してんじゃねえぞ!!!」

 

 と叫びながら殴りかかってきた。

 俺はその攻撃をひょいひょいと避けながら「おっと危ない危ない」と言ってニヤニヤしておく。

 そう。煽っているのだ。

 そんな俺の態度を見て、より爆豪が怒る。

 ホント、怒った時の顔は(ヴィラン)そのものだな。

 とりあえずしばらく回避に専念していると、ようやく飯田たちが動き出した。

 

「みんな、止めるんだ! 雄英の恥部が世間にさらされてしまうぞ!」

 

「う、うん!」

 

「お、おう!」

 

 飯田・緑谷・切島が爆豪を取り押さえに入る。

 それを、女子()が遠目に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 ある男たちがI・アイランドへと侵入した。

 一人が個性を利用してセキュリティを無力化したのだ。

 といっても、この男たち・・・・・・『サタンズ』に対してセキュリティが反応しないようにしただけなのだが。

 それでも、そんな事を簡単に行えるのは、それだけの力を持った『誰か』がいるという事である。

『サタンズ』のリーダーである“魔鬼(まき) 双我(そうが)”は辺りを警戒しつつ今回の作戦の最終確認をする。

 今回の作戦、それは『ウォルフラムたちがゴタゴタ事件を起こしている内にI・アイランドの機密情報を盗む』という単純なモノである。

 つまり、今の彼らに暴れる気はない。

 隠密行動で表に出る気は一切ないのだ。

 魔鬼双我は計画に穴がないことを確認してから、今回、この計画を実行するにあたって決して安くない金で雇った協力者の方に視線を向ける。

 紅い瞳に腰まである茶色く長い髪、身長は低くそんな脅威を感じるような容姿ではないのだが、その力は強く、『サタンズ』の全員が束になっても敵わないほどである。

 本人は自身の個性を秘匿していて、誰にも話してはいないが、「金を貰っている以上はしっかり働く」との事。

 この裏社会では信用はないが信用が必要なのだ。

 たった一回の仕事でも引き受けた以上、それをこなせなければ後々の仕事に響いたりもする。

 それ故に、雇われた側はそう簡単に裏切ったり仕事を放棄することは出来ないのだ。

 

「ところで、サクラさんよぉ。アンタどうやって警備システムを無力化したんだ?」

 

「簡単さ。ハッキング。ただそれだけだよ」

 

「オイオイ。タルタロス並みの警備システムを簡単にハッキングするとか・・・お前ホントにスゲェんだな」

 

「これぐらい普通だよ」

 

 サクラと呼ばれた人物はそれだけを言うと青い空に視線を向ける。

 

(・・・・・・確かに、『2人の英雄』のストーリーのままならこの計画には一切の穴はないね)

 

 だけど、とサクラは続ける。

 

(ここに来る際の飛行機内に“仮面ライダー”がいた。つまり、『2人の英雄』の物語とは大幅にズレが出るだろう。・・・・・・コイツらも私と同じ“転生者”だけど、多分、まだその事には気がついてはいない)

 

 サクラはそこまで考えた後に契約内容を思い出す。

 そして、ニヤリと笑った。

 美しく、それでいて不気味に。

 




新しい敵の登場。


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3話 『事件発生』

ジオウよぉ。
何でアクア殺しちゃうんだよぉ・・・・・・。


 

『本日は18時で閉園になります。ご来場ありがとうございました』

 

 そんなアナウンスがエキスポ会場に流れる。

 それと同時に峰田と上鳴がドッとその場に座り込んだ。

 

「プレオープンでこの忙しさってことは、明日からどうなっちまうんだ、いったい・・・・・・」

 

「やめろ、考えたくない!」

 

 何かぶつくさと言っているが諦めろ。

 労働とは、金を稼ぐとはそう簡単な事ではないのだ。

 俺だって難しく細かくガチャガチャした設計書を書き直しても良くて10万円だぞ。

 割安にしてやっているとはいえ普通に割に合わない。

 そんなことを思いながら成り行きを見ていると、峰田と上鳴がレセプションパーティーの招待状を渡されて気持ち悪いぐらいに喜んでいた。

 二人が抱き合って喜んでいると、飯田が一歩前に出て皆を見える位置に移動して言う。

 

「パーティーには、プロヒーロー達も多数参加すると聞いている。雄英の名に恥じないためにも正装に着替え、団体行動でパーティーに出席しよう! 18時30分にセントラルタワーの7番ロビーに集合、時間厳守だ!」

 

 そこまで言ってから時計を確認し、

 

「轟くんや爆豪くんには俺からメールをしておく。では解散!」

 

 そう言って“個性”をフル使用し走り去っていった。

 キバってるねぇ。

 俺たちはみんなと宿泊するホテルの前で別れる。

 そして部屋に戻ろうとしたときにメリッサに呼び止められた。

 

「デクくん、ラビットドラゴンさん、ちょっと私につき合ってもらえないかな?」

 

 

 

 

 

 

 サクラはI・アイランドに“種”を撒きながら様々なところを歩く。

 この“種”が後々に役立つ事が分かっているからこそ、このように地道な事に力を入れるのだ。

 どれほどの時間“種”を撒き続けただろうか。

 

『本日は18時で閉園になります。ご来場ありがとうございました』

 

 そんなアナウンスが流れてきた。

 それを聞き、サクラは会場を後にする。

 部屋を取ってあるホテルへ向かう途中、金髪メガネの少女・・・・・・メリッサとその後を追うように緑谷出久と機鰐龍兎が歩いていた。

 三人とすれ違いながらサクラは気づいた。

 機鰐龍兎は、ウォルフラムが起こす事件の他にラクラたち『サタンズ』が起こそうとしている事に何気なく気付いているのだろう。

 そんな予感がした。

 それを間近で感じ、サクラは体の芯からゾクゾクと興奮する。

 

(ああ、これは最高だ。“仮面ライダー”ならきっと“ヤツら”にも辿り着けるだろう。その為にはやはり多少危険だけど私自ら彼に接触するのが一番だろう。その際に上手く行けば新しい“力”も手に入りそうだ)

 

 そう考えると、サクラの気分は最高潮へと達し、鼻歌を奏でながらホテルへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 厄介な事になりそうだ。

 そう思うと気分が重くなってくる。

 さっきすれ違ったアイツから敵意や害意がひしひしと伝わって来ていた。

 だが、今はメリッサの研究室にあるアイテムに目が行き、それ以上考えることができなかった。

 隣で何かメリッサと緑谷が楽しそうに話しているがそれはスルーしてメリッサの発明品をじっくりと観察する。

 そして欠陥を発見し、そっと元の場所へと戻しておいた。

 指摘するのも良いが、こういったモノは自分で気付いてこそ成長のきっかけになる為、あえて言わないでおく。

 そんなこんなで適当に発明品を見ていると、メリッサが緑谷との会話を終えてこっちに話を振ってきた。

 

「ねえ、ラビットドラゴンさん。少し気になってたんだけど、アナタの“個性”ってどんな感じなの? 変身型にしては機械的過ぎだから気になっちゃって」

 

「ん? 変身型であってるよ。ただ、変身するモノがちょっと変わってるだけで」

 

「確かに今まで見たことないような姿だったけどどんなやつなの?」

 

 メリッサに説明を求められた俺は『仮面ライダー』についての説明をした。

 以前、一度授業でしたこともあってかスムーズに話すことができた。

 説明を聞き終わったメリッサは腕を組んでウンウンと頷きながら言った。

 

「なるほど。だから見た目が機械的だったのね。でも、不思議な個性ね。どういった経緯で歴史の中に消えて行った過去のヒーローの力がラビットドラゴンさんの手に・・・・・・」

 

 メリッサがそこまで言った時、緑谷のスマホが鳴った。

 

「もしもし」

 

 緑谷が電話に出た瞬間、

 

『何をしているんだ緑谷くん! 集合時間はとっくに過ぎているぞ!』

 

 ある程度離れた位置にいる俺の耳にすら届くほど大きな飯田の怒号が聞こえてきた。

 顔を青くしている緑谷を余所に、俺は大きなあくびをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 セントラルタワー七階ロビーへと向かうと、そこには飯田・轟くん・上鳴・峰田がいた。

 全員正装を身に纏い、パーティに参加しても恥ずかしい事にはならなそうである。

 

「ごめん、遅くなって! ・・・・・・って、アレ? 他の人は?」

 

「まだ来ていない。団体行動を何だと思っているんだ!」

 

 そう憤慨する飯田。

 そして、俺の方に顔をグルリと向けてきた。

 うわっ、怖っ・・・・・・。

 

「機鰐くん! どうしたんだその格好! 雄英の名に恥じぬよう正装に着替えるよう言ったじゃないか!」

 

「俺そもそもレセプションパーティーに招待されてねえよ」

 

 瞬間、その場が凍り付いた。

 飯田どころか普段から無表情の轟くんですら驚きを顔に出している。

 凍り付いた場を動かしたのは緑谷だった。

 

「デヴィット博士に招待されたんだよね。それなのに、なんで・・・・・・?」

 

「さぁ? 俺に分かるハズがねぇだろ」

 

 実際、丸分かりである。

 デヴィット博士はこの後に何が起きるかを知っている。

 だから、俺をなるべく巻き込まないように招待券を渡さなかったのだろう。

 まっ、関係無しに首ツッコむ気満々なんだけどな。

 俺がそう思いニヤリと笑っていると、女子たちがやっと合流してきた。

 何か女子のドレス姿に興奮してるブドウがいたので、暴走防止の為にとりあえず蹴飛ばしておいた。

 その後、爆豪と切島を待つも来ない。

 電話もつながらない。

 どうしたものかと皆が頭を悩ませている間、俺はどの仮面ライダーで戦おうか思案する。

 ビルド系なら慣れている為、特に負担なく行けるだろうが、この際、あまり使ってこなかったライダーたちを使うのもアリだとも思う。

 どうしたものかと思考に耽っていると、

 

『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エクスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』

 

 そんな前置きから何か色々な注意喚起アナウンスが流れ、皆がパニックになっている間に事が進み、ほぼ完全に閉じ込められてしまった。

 まあ、この程度ならワープ可能だし俺は問題ないけど。

 とりあえず皆の動向を見守っていると、緑谷の提案でパーティー会場まで行くことになった。

 俺はとりあえず、

 

「何かあった時の為に周りを警戒しとくからそっちは頼んだ」

 

 とそれらしいことを言って面倒くさそうなところは丸投げした。

 実際、会場に乗り込んで(ヴィラン)全員を叩き潰すことは可能だが、会場以外にも(ヴィラン)はいるので、ここでそんな事をしようものなら警戒レベルが一気に上がり今後の行動が大きく制限される可能性が高いのでしないのだ。

 俺はとりあえずシフトカーとシグナルバイクを取り出し、探索に向かわせる。

 しばらくすると、緑谷と耳郎さんが戻ってきて結果を報告した。

 皆が呆然としている中、飯田が口を開く。

 

「オールマイトからのメッセージは受取った。俺は、雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」

 

「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生、ヒーロー免許もないのに、(ヴィラン)と戦う訳には・・・・・・」

 

 飯田の言葉にそう賛成する八百万さん。

 上鳴が脱出を提案するも即却下され項垂れる。

 だが、気落ちしている上鳴の態度に眉を寄せて聞いていた耳郎さんが立ち上がる。

 俺も、それに合わせて立ち上がる。

 

「上鳴、それで良いわけ?」

 

「飯田と八百万さんもだ。それで納得できるのか?」

 

「「助けに行こうとか思わないの」か?」

 

 耳郎さんの顔には不安と苛立ちが浮かんでいた。

 直接、不安に覚える人々の声を聞いたのだ。

 ヒーローを目指す者として居ても立っても居られないのだろう。

 俺たちの言葉に答えを詰まらせている上鳴・飯田・八百万さんの代わりに怯えていた変態ブドウが答える。

 

「おいおい、オールマイトまで(ヴィラン)に捕まってんだぞ! オイラたちだけで助けに行くなんて無理すぎだっての!」

 

 叫ぶようにそれでも小さな声でそう言うブドウ。

 すると、轟くんがおもむろに口を開いた。

 

「オレらはヒーローを目指している」

 

 轟くんの冷静で、それでいて熱い言葉がトリガーになった。

 緑谷がポソリと呟いた。

 

「・・・・・・救けたい。――――救けに行きたい」

 

「そうだな。それでなくっちゃ緑谷じゃねぇ」

 

 俺は緑谷の言葉をそう肯定する。

 だが、そこに変態クソブドウが抗議をしてきた。

 

(ヴィラン)と戦う気か!? USJでコリてないのかよ、二人とも!!」

 

「違うよ、峰田くん。僕は考えているんだ。(ヴィラン)と戦わずに、オールマイトたちを、皆を救ける方法を・・・・・・」

 

「最悪。戦う事になったとしても、ここで動かなかったら確実に後悔することになるさ。だったら、ここで動いた方が絶対にいい」

 

 俺と緑谷の言葉に上鳴が戸惑うように言う。

 

「気持ちは分かるけど、そんな都合の良い事・・・・・・」

 

「それでも探したいんだ。今の僕たちにできる最善の方法を探して、みんなを救けに行きたい」

 

「必ず手はある。どんな凶悪なヤツが相手でも、どんな絶望的な状況でも、それでも希望はある。諦めず、突き進んで、それを掴むんだよ」

 

 俺はそう言って右手を堅く握る。

 そうだ。

 必ず手はあるんだ。

『あの時』だって、諦めなかったからこそ突き進めたんだ。

 だったら、その経験を信じて行きたい。

 俺と緑谷が覚悟を決めると同時にメリッサが口を開いた。

 

「I・アイランドの警備システムは、このタワーの最上階にあるわ。・・・・・・(ヴィラン)がシステムを掌握しているなら、認証プロテクトやパスワードは解除されていないはず。私たちもシステムの再変更ができる。(ヴィラン)の監視を逃れ、最上階まで行くことができれば・・・みんなを救けられるかもしれない」

 

 メリッサのその言葉に耳郎さんが身を乗り出す。

 

「監視を逃れるって、どうやって?」

 

 耳郎さんの言葉にメリッサが作戦を話す。

 だが、俺の耳にその言葉は入ってこなかった。

 俺の視線の先。

 そこに、ウォルフラムの仲間とは思えない連中がコソコソと動いていた。

 知らない連中。

 訳の分からない状況。

 ・・・・・・マッズイ。

 何が何だか分からないが、この状況はマズい。

 皆が先へと進もうとする中、俺はポソリと言う。

 

「皆は先に行ってくれ。俺はチョイっと用事ができた」

 

「用事? この状況で何かあるのかい?」

 

「ああ、少しな」

 

 俺はそう言ってトランスチームガンとロストボトルを取り出し、装填する。

 

《コブラ》

 

「蒸血」

 

《ミストマッチ! コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

 そんな音声と共に俺の姿が『ブラッドスターク』へ変わる。

 

「んじゃ、行ってくる」

 

 俺はそう言って飛び出す。

 謎の連中を追って。

 I・アイランドの闇の中に向かって。

 




とりあえず移動するためにスタークに蒸血。
しかし戦う時は仮面ライダーになるという二度手間。


▼▼▼▼


『【本名不明】/サクラ』
身長:142cm
体重:38kg

【挿絵表示】

雇われの(ヴィラン)
個性『【NO DATA】』
約束・契約はしっかりと守るが、そこにある抜け穴を利用する癖がある。
何か秘密を知っているようだが現段階では不明。


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4話 『フルスロットルで進む展開』

ネタがなかなかでなかったので勢い半分で書きました。


所で皆さんは、デッドヒートとフォーミュラ、どっちが好きですか?
私はデッドヒートですw

フォーミュラも好きなんですけどね・・・・・・。


 俺は警備システムに引っかからないように注意しながら暗闇を駆け抜ける。

 謎の集団の目的が何なのかは分からないが、ここで止めておかないと面倒くさいことになるのは確実だろう。

 暗闇の中を駆けていても、足下や進行方向の確認及びセンサーに引っかからないように細心の注意を心掛けておく。

 謎の人物たちが向かって行く方向はセントラルタワーのようで、そこで暴れられたら厄介な事になるのは確定だろう。

 あ~、嫌だ嫌だ。

 何でウォルフラムだけでも面倒くさいのに、これ以上変な事されたら物語にどんな影響を及ぼすか分かったもんじゃない。

 そうこうしている内に謎の連中は正面からセントラルタワーの中に入っていt・・・・・・ナニィ!!

 待て待て待て待て待て待て待て!!!!

 セキュリティはどうした、オイ。

 俺は変身を解除し、ブラッドスタークから人間体になると同時にバクスターの特性によるデータ化でセキュリティ内に潜り込む。

 ホント、一回につき一世代分の力しか使えないのは不便だ。

 バクスターの力とグリードの力を同時に使えれば意外と便利なんだが、それが使えないとなると切り替える時間のラグが隙になるから嫌なんだよな・・・・・・。

 そんな事を思いながらセキュリティをチェックしていると、一部書き換えられているようで、ヤツらに対しては一切セキュリティが働かないようにハッキングされていた。

 俺はハッキングされたそのデータ内に俺の情報を書き込む。

 普通、ここでこれを書き直せばいいと判断するだろうが、良くデータを洗ってみると、元通りに書き直すと全データが消去されるウイルスが仕込まれていたのだ。

 このウイルス自体、かなり凶悪なモノで、解除しようと手を付ければたちまち全データを削除するプログラムがされていた。

 解除するには時間がかかるが、ここに時間を割いている余裕はない。

 その為、俺自身にセキュリティが働かないようにするしか手がないのだ。

 今、上に向かっている皆のぶんもやりたいのだが、いかんせん皆のデータが少なくやりたくてもできないのだ。

 この事に早めに気付けていればやりようがあったんだけどな・・・・・・。

 俺はガクリと肩を落とし自分のデータを書き込むと、素早く謎の連中の向かう先へと先回りする。

 そして、まるでラスボス感を匂わせるような立ち方で向かい打つ。

 

「よぉ。何者だ、オマエら?」

 

 俺のその言葉に謎の連中たちが騒めく。

 

「なっ、ここには警備のヤツはいない筈だろ」

 

「オイ、“サクラ”!! 計画と違ェぞ」

 

 細身で長身の男にそう声を掛けられたヤツ・・・・・・つい数時間前にすれ違った長い茶髪の少女はつまらなそうにため息を吐いた。

 

「私は『原作通りだったら』で作戦を作ったと言ったよね? でも、彼は違う。私たちと同じ“転生者”よ。転生者が介入してきたのだから少し計画がズレる事なんて招致でしょ?」

 

 そう淡々と答えるサクラに細身の男は舌打ちをする。

 そして、隣にいた赤い尖がった髪型をした褐色肌の大男の方へ視線を向ける。

 

「“マムシ”。お前、相手しておけ。オレら『サタンズ』に突っかかった事を後悔させてやれ」

 

「了解」

 

 マムシと呼ばれた男がこちらへズンズンと近づいてくる。

 

「お前が誰かは知らんが、邪魔するなら手加減はしないぜェ」

 

 俺が身構えた瞬間、マムシの手に炎が現れ、こちらへと発射される。

 横へ飛ぶことで素早く回避すると同時に腰にドライブドライバーを、左手にシフトブレスを装着する。

 

「小せぇ炎だな。メラって所か?」

 

「フッ。今のはメラではない」

 

「じゃあ何だよ」

 

「メラゾーマだ!」

 

「弱すぎるわ!」

 

 まさかの逆パターンかよ。

「今のはメラゾーマではない、メラだ」ならまだ分かるよ。

 それだったら力量差のヤバさが理解できる。

 でも、逆パターンだとただのザコでしかない。

 俺は軽くため息を吐いて上がってしまったテンションを下げる。

 そして、精神を落ち着けてから言う。

 

「マムシ、だったっけ? お前らの目的は何だ?」

 

「聞かれて答えると思うか? そやとしたら随分と気楽な人生送ってきたんやろな。それなのにこんな現場に出向いて来るなんて、ヒーローごっこは止めたらどうだ?」

 

「残念。これでも多少の修羅場は潜り抜けてるよ」

 

「ほう。・・・例えば?」

 

「これは転生前の話なんだが、武器の密輸してた組織をぶっ潰したと思ったらその取引先のDQNグループの起こした事件に巻き込まれて戦闘マシーンとして育てられた女の子を助けてそのグループのメンバーを全員豚箱送りにしたとか」

 

「ちょっと待て何だその経歴」

 

「ちなみにこれでも数ある事件の一つ」

 

 俺がそう言うとマムシは腕を組んで首をひねる。

 そして、数秒間ほど呻った後、何か思いついたようにポソリと言った。

 

「お前・・・まさか、“大宮さとし”か?」

 

「根拠は?」

 

「昔行った事のある『さとし神社』の碑石・・・・・・『大宮さとし冒険譚』に書かれてたぞ」

 

「アイツらぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!」

 

 俺は頭を抱えて叫ぶ。

 そんな俺を余所にマムシは言葉を続けた。

 

「しかも、年々色々なエピソードが増えていっているし。近くの大学じゃ『大宮さとし研究サークル』なるモノもあるらしいぞ」

 

「クソがぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!」

 

 叫ぶことしかできなかった。

 まさか死後に晒されているなんて想像もしていなかった。

 俺が頭を抱え蹲ると、マムシがため息を吐きながら残念そうな様子で言う。

 

「アンタが相手なら俺はこの計画から降りてさっさと帰るよ。アンタにゃ敵わねえ」

 

「普通に怪しいわ」

 

「ほら、アンタ『棚橋未進』って分かるか? アレ、俺の父さんなんだよ。ガキの頃からアンタの話は聞いてんだ」

 

「!? 棚橋さんの!?」

 

「そう。アンタが居なけりゃ俺は生まれれなかったからな。まっ、父さんの恩を息子の俺が返すだけさ」

 

 マムシはそう言うと回れ右をしてセントラルタワーから出て行った。

 それを確認してからチラリと時計に目をやると、思っていたより時間が経過していた。

 ・・・・・・どうやら、足止めはしっかりできていたらしい。

 俺は慌てて『サタンズ』の後を追うと同時に、マムシに計画の内容を聞くのを忘れていた事に気が付き後悔した。

 

 

 また、この時は思いもしなかった。

 まさか、ぽっと出のチョイキャラであろうと思っていた“マムシ”があんな活躍をするなんて。

 

 

 

 

 

 

 その後も階段を上っていくたびに足止め要因がいたが、変身しなくとも素手で倒せるような相手でしかなかった。

 様々な転生個性を使ってきたが、どれもこれも制度が悪く、ハッキリ言って今までの戦いに比べたらあくびが出そうになる程退屈なモノであった。

 だが、今はそれが有り難い。

 大抵ワンパンで倒せるが故に段々『サタンズ』面々に近付いて行っている。

 そして、

 

「追いついたぞゴラァ!!!」

 

 俺がそう叫ぶと『サタンズ』の面々は驚いたような顔になる。

『サタンズ』は機械に何かを接続してデータを取っているらしく、パーセンテージは56パーセントを超えた所だった。

 

「・・・・・・なんでセキュリティをいじれる癖してわざわざこんな所まで来てデータ盗ろうとしてんだよ」

 

「言うと思うか?」

 

 ボスらしき人物が殺気を放ちながら俺の方を睨んできた。

 だが、その隣でパソコンをいじっていたサクラがつまらなそうに呟く。

 

「デヴィット博士の発明した“個性を増幅させる装置”の研究データは凍結されたことによって、データの奥深くに沈められて何十にもセキュリティが施されている。ただ、彼らがそれを奪うためにそのセキュリティを解いてくれている。そこで、メインコンピューター近くのここでデータを盗めばデヴィット博士及びウォルフラムに罪を着せて私たちは悠々と逃げられる。それだけよ」

 

「なっ。サクラ! 何で言うんだ!!」

 

「知られたって、アナタが彼を倒せばお終いでしょう? “リーブ”」

 

「・・・・・・チッ」

 

 リーブと呼ばれたボス野郎は舌打ちをしてから俺の方を睨んできた。

 そして、その髪の毛が逆立つ。

 

「オレの“個性”は『ブロリー』。この意味が分かるか?」

 

「伝説の超サイヤ人、か。いいね。俺の“個性”は『英雄(ヒーロー)』。テメェを止めるにはいい名前だろう」

 

「へっ。だったら勝ってみろ!!」

 

 リーブがそう言った瞬間、その体が大きく膨れ上がり、髪の毛が緑色位に変化した。

 その体から発せられる圧力は今まで倒してきたザコ共とはレベルが違った。

 だが、それがなんだ。

 俺は腰に装着していたドライブドライバーのエンジンキーを回す。

 そしてーシフトカーを半回転させ、シフトブレスに差し込む。

 

「変身!」

 

《ドライブ タイプスピード》

 

 そんな音声と共に俺の体に強化スーツが纏われ、『仮面ライダードライブ タイプスピード』への変身を完了させる。

 俺が変身を完了させたと同時にリーブが殴りかかってきた。

 振り上げられる拳。

 俺は身を屈めてその攻撃を避けると同時にハンドル剣でその腕を斬りつける。

 だが、リーブの腕はハンドル剣の刃を通さず、簡単に弾いてしまった。

 

「クソッ!」

 

「そんなんじゃぁ届かないぜぇ!!」

 

 リーブの左手にエネルギーが集まって行くのが見えた。

 

「イレイザーキャノン!」

 

「グアァッ!!」

 

 体が大きく後ろに吹き飛ばされる。

 全身に激しい痛みが走ったが、そんなことを気にしている余裕はない。

 俺は空中で身を翻し、着地すると同時にシフトブレスにシフトカーをセットし、シフトアップをする。

 

《タイヤコウカン マックスフレア》

 

 そんな音声と共にどこからともなくフレアのタイヤが現れ、タイヤ交換が行われた。

 そして交換が終わると同時に手に炎を纏わせてリーブを殴る。

 

「ぐおっ!」

 

「まだ終わらねえぞ!!」

 

 俺は両手に炎を纏わせ、リーブを全力で殴り続ける。

 だが、

 

「舐めてんじゃねえぞぉぉおおおお!!」

 

「グアッ!!」

 

 リーブの拳が俺の顔面に叩き込まれた。

 その威力はすさまじく、俺の体は後ろにのけ反った。

 大きな隙。

 相手がそれを見逃すほど甘くないのは分かっていたが、殴られのけ反った事で身動きが取れない。

 瞬間、俺の腹に前蹴りが直撃する。

 あまりの威力に肺の空気がすべて吐き出される。

 

「ッ~~~~~~~!!!!!」

 

 だが、この程度じゃ倒れない。

 この程度の攻撃なんぞ、前世で何度も味わっている。

 だから、俺は止まらない。

 俺は素早くエンジンキーを回し、シフトカーをシフトブレスに差し込む。

 

《ドライブ タイプ デッドヒート》

 

 瞬間、俺のボディースーツの色が黒から、仮面ライダーマッハを連想させる白色に代わり、『仮面ライダードライブ タイプデットヒート』へのフォームチェンジを完了させる。

 それだけではない、フォームチェンジ完了と同時に再度、エンジンキーを回してシフトカーをシフトブレスに差し込む。

 

《タイヤコウカン マックスフレア》

 

 そんな音声と共にフォームチェンジの際に飛ばされたマックスフレアタイヤが飛んできて、タイヤコウカンがされた。

 デッドヒートの熱がマックスフレアの炎をより強くさせる。

 俺は素早くリーブに接近し、炎を纏わせた拳をその顔に叩き込む。

 

「ウグゥ・・・・・・」

 

 リーブは体を後ろにのけ反らせる。

 これは、リーブのようにただパワーを振るった攻撃ではない。

 体中を使って、何倍にも威力を増幅させたパンチだ。

 俺が体勢を整えると同時にリーブが殴りかかってきたが、そんな大振りな攻撃など当たるハズもない。

 振りかぶられるリーブのパンチを俺は炎を纏った手で掴み、合気道の応用で投げ飛ばした。

 

「こっちは自分よりも強いヤツを相手に戦えるようにずっと鍛え続けて来たんだ。肉体も、技術もな。テメェみたいにパワーに振り回されているようなバカが勝てると思うんじゃねぇぞ」

 

「ふざ、ふざけるなぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 そう叫ぶリーブを前に俺はエンジンキーを回し、シフトブレスのボタンを押す。

 

《ヒッサツ》

 

 そんな音声と共にシフトカーをシフトアップさせる。

 

《フルスロットル フレア》

 

 瞬間、俺の体に炎が纏われる。

 その熱量は想像していたよりも凄まじく、熱で周りの機械が溶け始めていた。

 だが、そんな小さなことを気にするワケもなく、俺はその熱を足に集中させて飛び上がり、リーブへと叩き込んだ。

 リーブは大きく吹き飛び、壁をぶち破って外へと落ちていった。

 俺がそれを確認すると同時に強い衝撃が俺を襲い、変身が解除されてしまった。

 訳が分からず痛みのある胸部を見ると、そこから“何か”が突き出ていた。

 口から血が溢れ、傷口からも血が漏れていく。

 そんな中、俺の後方からサクラの声が聞こえて来た。

 

「も~らい

 

 意味が分からなかった。

 だが、俺はすぐにそれの意味を思い知る事となった。

 




ボツネタ



「“モホウ”。お前、相手しておけ。オレら『サタンズ』に突っかかった事を後悔させてやれ」

「了解」

 モホウと呼ばれたぐるぐるメガネの人物がこちらへズンズンと近づいてくる。

「誰だけは知らないけど、私には勝てないよ」

「ほう。なんでだ?」

「私は『ホルホルの実』の能力者」

「イワンコフかよ」

「見るがいい。私の真の姿!!」

 瞬間、モホウの姿が変化する。
 そして、

「┌(┌^o^)┐ホモォ」

「掘る掘るの実かよ!! ってか、それは腐女子であってホモじゃねえよ!!!!」


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5話 『再開。そして殺し合い』

個人的に、

デッドヒートはパワー系
フォーミュラはスピード系

のように思っています。

なので、デッドヒートなら正面からとりあえず殴る。
フォーミュラなら素早さを利用した攻撃。
みたいなのが書きたかった(過去形)。


 俺の体を衝撃が俺を襲い、変身が解除されてしまった。

 訳が分からず痛みのある胸部を見ると、そこから“何か”が突き出ていた。

 口から血が溢れ、傷口からも血が漏れていく。

 そんな中、俺の後方からサクラの声が聞こえて来た。

 

「も~らい

 

 振り向くとサクラが妖艶な笑みを浮かべて舌なめずりをしていた。

 サクラの言葉を理解しようとした瞬間、体中に異変が起きる。

 吸われているのだ。

 何を、と問われると分からない。

 だけど、確実に何かが吸われていた。

 俺は体を全てメダル化させる。

 ジャラジャラジャラ、チャリチャリチャリと音を立てて体が崩れ、その一つ一つが意思を持ってサクラから距離を取る。

 そして、ある程度離れたところで肉体を再生成する。

 

「クッハァ・・・・・・」

 

「ふぅん。そんなこともできるんだ。少ししか吸い取れなかったからそれは出来ないな」

 

「なに、言ってんだテメェ」

 

 俺がそう言って睨むと、サクラは俺の方にスッと手を伸ばしてきた。

 瞬間、その手にバグが発生したゲームのようなノイズが走った。

 

「っ!?」

 

「面白い力だね。少しだけど貰ったよ」

 

「貰った? どういう事だ!?」

 

「まあ、教えてあげる。私は他人の力を少し吸い取ってコピーすることができるの。アナタの力も、ね。これ見ればわかるでしょ?」

 

 そう言ってクスクスと笑うサクラの手には見たことのあるアイテムが握られていた。

 それを視覚した瞬間、俺は反射的に、叫ぶようにそのアイテムの名称を言った。

 

「ガシャコンバグヴァイザーⅡ!!?」

 

 なぜサクラの手にあるか、それを俺が理解するよりも前にサクラはガシャットを起動させる。

 

《ときめきクライシス♪》

 

 瞬間、サクラを中心にゲームエリアが広がる。

 サクラはガシャコンバグヴァイザーⅡのAボタンを押して待機状態にすると同時に、ガシャットを差し込む。

 

《ガシャット!》

 

「変身」

 

《バグルアップ! ドリーミングガール♪ 恋のシミュレーション♪ 乙女はいつも ときめきクライシス♪》

 

 そんな音声と共にサクラの体が淡い光に包まれる。

 そして、その光が空に消えるように無くなると同時に『仮面ライダーポッピー』への変身を完了させた。

 

「なんっ・・・・・・!?」

 

「行くよ」

 

 その言葉が俺の耳に届いた時には、サクラは俺の視界から消えていた。

 俺は飛び上がり、その場から離れると同時にシフトカーを取り出し、シフトブレスにセットする。

 そして、

 

「変身!!」

 

《ドライブ タイプワイルド Go・Go・GOGO! WA・WA・WA・WILD! Don't Stop Your Beat!》

 

 そんな音声と共に体に黒いアーマーが纏われ、『仮面ライダードライブ タイプワイルド』への変身を完了させる。

 そして、着地すると同時にハンドル剣を取り出して構える。

 辺りは静まり返っており、殺気すら感じない。

 まるで、あの時の様だ。

『ナナシ』とぶつかり合うことになった、あの時と。

 

「ふ~ん。さっきとは似ても似つかない姿だね」

 

「っ!!?」

 

 気付かなかった。

 警戒していた筈なのに、それなのに・・・・・・、

 

 

 

 懐に踏み込まれるまで気付くことができなかったのだ。

 

 

 

 体中の鳥肌が立つと同時に攻撃が来る。

 俺はツヴァイのチェンソーモードによる突きをハンドル剣で防ぎ、後ろに跳んで距離を取る。

 

「・・・これって」

 

 知っている。

 そう。知っているのだ。

 この気配、この感覚、この戦い方。

 俺は、確かに知っているのだ。

 

「お前、まさか、ナナシか?」

 

「・・・・・・さぁ。何のことだろうね」

 

 瞬間、攻撃が加速する。

 一撃一撃が急所を突こうとしている凶悪な攻撃。

 だが、どの角度でどの位置から攻撃が来るのかは全て分かっていた。

 なぜなら、一度喰らったことがあるからである。

 

「チッ」

 

「お前は正面戦闘が苦手だったからな。同じような攻撃しかできないと思ったぜ」

 

「・・・・・・やっぱり、キミか。死んだと聞いた時は驚いたけど、どうやら元気そうにやっているみたいじゃないか」

 

「それは、お互い様だな」

 

 俺たちはそんな言葉を交わしながらも攻撃を打ち・受け止め・弾き、辺りには火花が散る。

 

「アハハハハハハハ。随分と懐かしいね。最後にキミと戦ったのはいつだったかな?」

 

「さぁな。忘れちまったよ。・・・ってか、相変わらず女装好きなんだな」

 

「好きなわけじゃないさ。この姿の方が相手の油断を誘いやすいってだけだよ。まぁ、キミには通じなかったけどね」

 

「そうだな。俺は昔っから『敵』には容赦がないからな」

 

「その容赦のなさにはさすがの私も驚いた・・・よっ!」

 

 サクラはツヴァイをビームガンモードにして発射してきた。

 俺はとっさの反射でそれを弾き、反撃に左拳を振るう。

 その攻撃は簡単に避けられ、素早くチェーンソーモードにしたツヴァイの攻撃が俺を襲う。

 ギュィイイイン! という回転音が聞こえたと思った時にはもう遅かった。

 俺の腹部、アーマーが纏われていない部分にチェーンソーが辺り、ガリガリガリガリッッと音を立て、火花が散る。

 

「グッァァアアアアアアアアア!!!!!」

 

「相変わらずキミはとっさの攻撃が大振りになるね。そこが隙になっている事が分かっているハズなのにね」

 

「カッハ・・・。そうだな。癖ってやつだ。・・・・・・ところで、これが俺の作戦だという可能性は考えなかったのか?」

 

「!!?」

 

 俺はサクラの左手を掴み、強くねじる。

 

「しまっ・・・・・・」

 

「喰らっとけ!!」

 

 俺は背負い投げの応用でサクラを投げ飛ばすと同時に空中で身動きの取れないその体に前蹴りを喰らわせる。

 そして、飛ばされ、地面にたたきつけられた所に踵落としを喰らわせる。

 

「~~~~~~~~~~ッ!!!!」

 

「どうだ・・・・・・」

 

 大の字で倒れ、変身が解除されたサクラを見下ろしながら俺はそう言う。

 これで終わってくれ、と思うがはやり現実はそこまで甘くないようである。

 

「随分と懐かしい技だね。確か、前に戦った時はこれで決着がついたんだっけ。・・・・・・思うと、私もキミもかなり人間離れしていたねぇ」

 

「・・・・・・お互い、守りたいプライド(モノ)があったからな」

 

「あの子も、結局キミが救ったからね」

 

「その後、アイツが日の当たる世界で生活できるようにしたのはお前だろ。なら、最後の最後で救ったのはお前だ」

 

「・・・そうだったね。なら、キミも分かっているだろう?」

 

 サクラはそう言ってニタリと笑う。

 俺はそれに静かに答える。

 

「ああ、分かっているな。お前は、」

 

「私は、」

 

「「最高に諦めが悪い」」

 

 同時にそう言うと同時にサクラを中心にその足元から『何か』が飛び出す。

 

「言い忘れてたね。私の“個性”は『植物使い』。名前の通りで、植物を自由自在に操れる“個性”だよ」

 

「なるほどな」

 

 つまり、さっき俺を突き刺したのは何かの植物の根っこで、そこから『養分』のように俺の中の力を少し吸い取ったってことか。

 俺はそう思いながらあるシフトカーを取り出し、シフトブレスにセットする。

 

《ドライブ タイプフォーミュラ》

 

 そんな音声と共に俺の体を纏っていたアーマーが別の物に変わり『仮面ライダードライブ タイプフォーミュラ』への乗り換え(フォームチェンジ)を完了させる。

 サクラはその『何か』の根っこを撫でながらある一方向を見る。

 そこにいたのは、細身でありながらがっしりと筋肉の付いた体の男であった。

 その男はサクラが先ほどコンピューターに接続していた機械(多分自作のメモリ)を抜き取ろうとしていた。

 俺がそれを確認すると同時にその男を根から生えてきた無数の蔦が巻き付いて捉える。

 男は焦点の合わない目でサクラを見る。

 

「・・・・・・『拘束蔦(Restraint ivy)』」

 

「な、にを・・・・・・」

 

「そのデータは私の物だよ。アンタの物じゃない」

 

「契約を、忘れたのかっ!」

 

「契約? それは『私が君たちがここに来れるようにサポートすること』でしょ? なら、もうそれは達成されているじゃないか」

 

「っ!!?」

 

「キミは私を信頼し過ぎた。私の助言のままに部下を各階に設置した。彼に倒されるとも知らずに、ね。まぁ、リーブだけはキミから離れてくれなかったけどね。・・・・・・だから、キミを隠れさせて彼をボスのように扱った。まぁ、影武者だね。そして、リーブも簡単に倒されてくれた。ここまでご苦労様。全部私の手の上だったよ」

 

「ふ、ふざっ、ふざけっっ・・・・・・」

 

 男の顔はひどく歪み、逆にサクラの顔は妖艶な笑みを浮かべていた。

 

魔鬼(まき)双我(そうが)。もう一度言っておくよ。キミは私を信頼し過ぎた。この世界で生きていくならちゃんと裏の裏まで読まないといけないよ。・・・・・・確かに、私はお金をもらった以上しっかりと仕事をするよ。だけど、契約したこと以外については保証しないの。契約やルールの隙間は見つけて上手く使うモノだよ」

 

「ちくしょぉ・・・・・・」

 

「じゃあね。・・・・・・『血の桜(Blood Cherry Blossoms)』」

 

 瞬間、魔鬼双我と呼ばれた男の胸部を根が貫き、その体が干からびていく。

 10秒と経たずに魔鬼双我はミイラとなって地に倒れ伏した。

 

「さて、お待たせ。さっそくやろうか」

 

「なにさらっと人殺してんだよ。・・・・・・まあ、いいか」

 

 俺がそう呟くと、サクラは驚いたように目を見開く。

 

「珍しい。キミが人殺しを容認するなんて。前のキミならすぐにブチギレしていたじゃないか」

 

「俺も変わったってことだよ」

 

「変わった、ね。『壊れた』の間違いじゃないのかなぁ?」

 

「さぁな。どっちでもあまり変わらねえよ」

 

「そうか」

 

 サクラがそう言って笑った瞬間、蔦が俺に襲い掛かってくる。

 だが、その蔦が俺に当たることはない。

 なぜなら、

 

「いない!?」

 

「後ろだ」

 

「ッ!?」

 

 俺が拳を振りかぶると同時にサクラはその場から跳んで離れようとしていたが遅い。

 フォーミュラを相手にするなら遅すぎる。

 

「っらぁあ!!!」

 

「グッッ」

 

 サクラはとっさに根っこを盾代わりにししたが、その程度で防げるわけがなく、サクラの顔に攻撃が当たる。

 殴り飛ばされたサクラは根っこを生やし、それをクッションに着地する。

 

「普通、こんなかわいい顔を殴るかな」

 

「かわいいって、お前は男だろう」

 

「これでもモテるんだよ」

 

「そうだったお前同性愛者だった」

 

「ちなみに受けも攻めもどっちも大丈夫」

 

「聞いてねぇよ」

 

「ただ好きなのは受け」

 

「だから聞いてねぇし、テメェの性癖なんぞ興味ないわ」

 

 俺が肩をガックリと落としながらそう言う。

 初めて会った時はクールなヤツだと思っていたが、『あの一件』以来、(いろいろな意味で)かなりヤベェヤツだという事は分かっていたつもりだったが、ここまで大っぴらになっているとは思わなかった。

 

「俺もそうだが、お前も変わったな。・・・・・・何か、いい出会いでもあったか?」

 

 俺は何気なくそう呟く。

 すると、サクラの表情が一瞬固くなった。

 

「・・・・・・どうやら、いい出会いがあったみたいだな。そして、その為にやってるって所か」

 

「教えると思う?」

 

「いいやまったく」

 

「教えたとして、逃がしてくれるのかな?」

 

「ココの技術を盗ませるわけにはいかないから無理だな」

 

 俺はそう答え、トレーラー砲を取り出す。

 たとえ知り合いだろうと、顔なじみだろうと、それは見逃す理由にはならない。

 

「それじゃ、やろうか。久しぶりに、ね」

 

「ああ、やろう。久しぶりにな」

 

「俺との面倒くさい、」

 

「私とのとても楽しい、」

 

「「殺し合いを」」

 

 瞬間、俺の視界からサクラが消える。

 俺は後ろ回し蹴りを繰り出す。

 サクラはその攻撃を身を屈めることで避け、俺の懐へと潜り込んできた。

 だが、俺の手にはトレーラー砲が握られている。

 俺はトレーラー砲のトリガーを引く。

 大きな炸裂音と共にエネルギー弾が発射されたが、サクラはそれすら避けていた。

 

「なんっっ!?」

 

「ドーピングって便利だよね!」

 

「ドーピングのレベルを超えてるわ!!」

 

 俺の顔面にサクラの蹴りが直撃する。

 その衝撃で視点が上へと向いてしまった。

 そんな大きな隙を見逃してくれるほどやはり優しくなかった。

 周りから伸びて来た蔦や根が俺の全身を打ちのめす。

 俺はボコボコにされながらもシフトブレスに手をやると、シフトカーを掴んでシフトアップする。

 

《フォーミュラ フォ・フォ・フォ・フォーミュラ》

 

 俺は振り下ろされる根に足を付けると同時にそれを蹴って距離を取る。

 ズザザザザザッッという地を滑る音を鳴らしながら地面スレスレまで体を倒し、弧を描きながら走る。

 そして、トレーラー砲を投げ捨て、サクラを殴る。

 

「ッッ!! ・・・・・・っぱり、武器を使うとキミは弱くなるね」

 

「確かにな」

 

 俺はそう短く答えながら部屋を駆け回る。

 

「三橋の時も、佐久間の時も、夕張の時も、安藤の時も、鈴原の時も、そして『あの子』の時も、キミは武器を使うと何故か勝率が下がる。・・・相も変わらず何だね」

 

「ああ、そうだな。どれだけ泥を被ろうと、どれほど闇を見続けようと、どれほど黒く染まろうと・・・・・・そこだけは変わってくれなかったよ」

 

「武器を使えば相手を殺す可能性がある。キミは優しいからね。相手を殺してしまう可能性があった場合、すぐに躊躇ってしまう。どれだけ強く出ようと、どれだけ本気で行こうとしても、どれだけ憎い相手であろうと、キミは命まで奪えない。どんな時でも私みたいに非情になれない。ただ、そこがキミの良い所でもあるけどね」

 

「そう言ってもらえるとありがたいね。まっ、今じゃ殺す事にはほとんど抵抗はねえよ」

 

「そういえば、そうだったね! 『あの件』が切っ掛けだっけ?」

 

「そういうこった」

 

 俺たちはそう言いながら殴り合う。

 拳を振るい、相手の拳を避け・弾き、それをひたすら繰り返す。

 

「ハッ」

 

 そう、短く笑ったのはどっちだっただろうか。

 そんな簡単なことも分からない。

 分かる事は、それを皮切りに俺もサクラも笑っていたという事だけだ。

 

「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!!」」

 

 俺たちは笑いながらひたすら殴り・殴られ続ける。

 そして、そして。

 

 そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして、そして・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは戦う。

『あの日』のように、お互いを殺すつもりで。

 狂ったように笑いながら。

 




次回、『二人の英雄・一人の仮面ライダー』最終回。



~~~~~~~

桜井(さくらい)真桜(まお)/サクラ』
身長:142cm
体重:38kg

【挿絵表示】

雇われの(ヴィラン)
個性『植物使い』
植物を意のままに操る事が出来る。
また、種を強制的に発芽させることも可能。

機鰐龍兎(大宮さとし)とは深いかかわりがあるのだが、今回とは別件なので割愛。

なお、女装好きのホモである。


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6話 『終わり』

4~5ヶ月かけてようやく終わる。
そして来月は新しいヒロアカの映画公開日。

あれ? もしかしてめちゃくちゃ遅かった?(当然)


 殴る。避けられる。殴られる。避ける。撃つ。弾かれる。

 ただひたすら攻防を繰り返す。

 お互い、『あの頃』に比べると技術がより研ぎ澄まされており、一挙手一投足、その全てが相手を倒すために正確な動きをする。

 例え、少し無駄な動きのように見えても、それによってタイミングがずらされ、攻撃が空をかく。

 本当にすごいヤツだ、と改めて思う。

 生まれつき持った天性の才能を腐らせる事無く、逆にそれを強く生かすことで高みへと進んでいたコイツは全く変わることなく、当時よりも強くなっていた。

 

「いいね! それでこそキミだよ!!」

 

「お前もな! ったく、仮面ライダーのスピードに付いてくるとかどれだけ鍛えたんだよ!!」

 

「毎日プロテインジュース飲んでた」

 

「・・・・・・マジ?」

 

「嘘」

 

「だよな。無駄に摂取するのは体に悪いし、しっかり鍛えてないと意味がないからな」

 

 お互い、そんな風に無駄口を叩いてはいるが、それでも技の繊度が落ちることはない。

 その眼の色も。

 相手の隙を逃さぬように、どんな時でも視線を逸らすことはない。

 とても濃い時間が流れていく。

 体感では一時間にも、十時間にも、一日にも感じるほど濃い時間。

 だが、それもいつかは終わりが来る。

 

「っ!」

 

 足場が崩れ出した。

 瓦解している訳ではない。

 建築に使われている素材が意思を持っているかのように動いているのだ。

 そう。

 時間切れである。

 

「しまっっ!!」

 

 足場が無くなり宙に放り出された俺の耳に二人の人物の声が聞こえて来た。

 

「ハハッ。決着はつかなかったね。まぁ、また会えると思うよ。じゃあね♪」

 

 一人は、足場を跳び逃げて聞くサクラの声。

 もう一人は・・・・・・、

 

「さぁて、装置の価値をつり上げるためにも、オールマイトをぶっ倒すデモンストレーションと行こうじゃないか!」

 

 強気なウォルフラムの声だった。

 瞬間、俺の頭に一気に血が上った。

 俺とアイツの戦いに水を差しあがったのだ。

 それは、到底許せる行為ではない。

 俺は重力に身を任せつつ、体への負担を計算して着地する。

 着地して最初に飛び込んできたのは、オールマイトに向けて飛ぶ鉄柱の雨だった。

 いや、それだけじゃない。

 オールマイトを助けるために走る二人の影があった。

 それがあるなら俺がやる事は一つだろう。

 

《フォーミュラ フォ・フォ・フォ・フォーミュラ》

 

 俺が駆け出すと同時にオールマイトへと向かっていた鉄柱が凍り付く。

 そして、爆豪とタイミングを合わせて飛び出す。

 

「くたばりやがれ!」

 

「一回死んどけぇ!」

 

 爆豪の爆破攻撃と俺のトレーラー砲による狙撃がウォルフラムを襲う。

 だが、攻撃が当たる寸前で下から立ち上がってきた鉄壁で防がれてしまった。

 俺は空中では身動きが取れない為、トレーラー砲を撃ち、その反動を利用して着地できる場所まで移動する。

 爆豪はというと、軽く舌打ちをしてからオールマイトへと視線を向け、叫ぶように言う。

 

「・・・・・・あんなクソだせえラスボスに、なにやられてんだよ。オールマイトォ!」

 

「爆豪少年・・・・・・!」

 

 驚きの声を上げるオールマイトの近くで鉄柱を氷結させた轟くんが辛そうに息をしながら言う。

 

「今のうちに・・・・・・(ヴィラン)を」

 

 その体には霜がおりており、炎を使って体温調節をしているとはいえ辛いのは確実だろう。

 俺はフォーミュラだとスペックなどはともかく今の状況では何かあった時の対応が難しいと判断して、シフトカーを入れ替える。

 

《ドライブ タイプスピード》

 

 そうしてから緑谷たちと合流する。

 

「轟くん! みんな!」

 

「どぉやら、困難を乗り越えてきたみてぇだな。そんな顔してるよ」

 

「えっと、機鰐くん?」

 

「俺じゃなかったら誰だっての」

 

 そう軽口を叩きながらも俺はハンドル剣を取り出して構える。

 

「金属の塊はオレたちが引き受けます!」

 

「八百万くん、ここを頼む!」

 

「はい!」

 

 腕を硬化させた切島くんと飯田が駆け出し、伸びてくる鉄柱を砕いていく。

 轟くんと爆豪も鉄柱を氷結及び爆破し防いでいく。

 無論、俺もシフトアップすることにより加速し、鉄柱をハンドル剣で切り裂いていく。

 オールマイトの方を確認すると、その体から出ていた煙は消え、ゆっくりとであるが立ち上がっていた。

 

「教え子たちにこうも発破をかけられては、限界だなんだのと言っていられないな。限界を超えて、さらに向こうへ―――」

 

 俺はそれを見て素早くシフトカーをシフトブレスにセットする。

 

《タイヤコウカン! ミッドナイトシャドー!》

 

 そして、跳んでくる三本の鉄柱に手裏剣を投げつけ、オールマイトの道を作る。

 

「行け!!」

 

 オールマイトは俺の開けた道を通り過ぎていく。

 

「そう、“Plus Ultra”だ!!」

 

 飛び出していくオールマイトを迎え撃つように幾つもの鉄柱が襲い掛かる。

 だが、その全てを己の拳で砕き、突き進んでゆく。

 ウォルフラムも負けているではなく、砕かれるたびにより激しい攻撃を繰り出していく。

 壁のようにも思える攻撃。

 それを前にオールマイトは腕をクロスさせ、突撃していく。

 

CAROLINA(カロライナ) SMASSH(スマーッシュ)!!!」

 

 激しい破壊音と共に鉄柱が砕け、辺りを衝撃波が揺らす。

 そして、オールマイトは勢い衰えぬままウォルフラムへと突撃する。

 だが、辺りから無数のワイヤーが伸び、オールマイトを拘束した。

 オールマイトはそれを千切ろうとするが、その前にウォルフラムの手がオールマイトの首を掴み、何倍にも膨らみだす。

 ウォルフラムが何かを言ったが、遠かったのと周りの破壊音のせいで聞こえなかった。

 だが、一つだけ言えることは、オールマイトがピンチという事だ。

 当たり前だがそのことに周りのみんなも気付いており、緑谷に関してはオールマイトを助けようと駆け出そうとした。

 しかし、緑谷も無茶をしてここまで来ていたらしく、呻り蹲る。

 俺たちも飛んでくる鉄柱への対処に追われ、助けに行く事が出来ない。

 そうこうしている内にオールマイトに四角い鉄の塊がぶつかる。

 いくつもの鉄塊がオールマイトを包み、その固まりを幾つもの鋭く尖った鉄柱が貫いた。

 瞬間、俺は通常の1.5倍の大きさのあるシフトカーを取り出してそこについているスイッチを押す。

 

《Fire! All Engines!!》

 

 そして、シフトブレスにセットし、レバーを上げる。

 

《ドライブ タイプトライドロン!!》

 

 どこからともなく現れたトライドロンが分解され、アーマーとして俺の体に纏われ『仮面ライダードライブ タイプトライドロン』への乗り換え(フォームチェンジ)を完了させた。

 そして、オールマイトが閉じ込められた鉄塊へと飛び出す。

 

《カモン! フレア! スパイク! シャドー! タイヤカキマゼール! アタック1.2.3》

 

 緑谷も俺と同時に飛び出しており、その右手に力を込めていた。

 俺はスパイクの棘とシャドーの手裏剣にフレアの炎を纏わせ、構える。

 そして、

 

DETROIT(デトロイト) SMASH(スマッシュ)!!!」

 

「壊れろぉぉおおおおおお!!!!」

 

 俺と緑谷の攻撃が鉄塊を打ち砕く。

 壊れた鉄塊の一部がウォルフラムを押し上げている鉄塔にぶつかり、それを少し崩した。

 落下した緑谷は勢いよく地面に叩きつけられる。

 そして、そこへ大きな鉄片が落ちる。

 だが、緑谷が下敷きになる事はなかった。

 なぜなら、解放されたオールマイトが寸前で彼を助けたんだ。

 

「緑谷少年! そんな体で・・・なんて無茶な!」

 

 心配の声を上げるオールマイトの言葉に乗って俺も言う。

 

「そうだぞ。ンなボロボロの体で・・・、勝算でもあったのかよ」

 

 なんて答えるのは分かっている。

 だけど、ここで少し発破をかけてやってもいいだろう。

 俺たちの言葉を聞いた緑谷は痛みに顔を歪めながらも当然のように言った。

 

「だって、困っている人を救けるのがヒーローだから・・・・・・」

 

 ぎこちなくも強い笑みを浮かべる緑谷。

 ったく、最っ高じゃねぇか。

 

「・・・・・・HAHAHA、ありがとう。確かに、今の私はほんの少しだけ困っている。手を貸してくれ、緑谷少年」

 

「オールマイト、俺もひとっ走り付き合うぜ」

 

「そうか、機鰐少年。君も手を貸してくれるのか。・・・・・・少年たち―――――行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

 気合を込め、俺たちはウォルフラムへと向かって駆け出す。

 

「くたばりぞこないとガキと・・・え~っと、良く分からない赤いヤツが・・・・・・。ゴミの分際で、往生際が悪ィんだよ!」

 

 ウォルフラムは迎え撃つように幾つもの鉄塊を生み出し、散弾のように飛ばして来た。

 一つ一つが圧倒的破壊力を持つ攻撃。

 だが、

 

「そりゃ、てめえだろうがぁ!」

 

 爆豪が叫びながら鉄塊の散弾に向けて両手から最大級の爆撃を放った。

 それが、俺たちに道を作る。

 俺たちはその道を最高速度で駆け抜ける。

 そんな俺たちに向けて伸びてくる鉄柱は轟くんが凍らせる。

 ウォルフラムは幾つもの、幾十もの鉄塊が、鉄柱が飛んでくる中、俺たちはひたすら走り続ける。

 攻撃が当たる寸前のところで避け、鉄塊を破壊し、突き進む。

 緑谷とオールマイトが二人並んでウォルフラムが攻撃で放った鉄柱の上を駆け抜けていく。

 俺は鉄柱を足場にし、上へと跳んでいく。

 ウォルフラムは力を振り絞るように両腕を高く上げる。

 瞬間、たくさんの鉄片が一塊になっていく。

 あまりにも大きな金属の集合体。

 その成長が止まることはなくどんどん大きくなっていく。

 だが、それを目の前にしても俺たちは止まることなく突き進んでいく。

 下の方で二人が拳を構える。

 俺はそれを確認すると同時にエンジンキーを回す。

 

「タワーごと潰れちまえ!!」

 

 振り下ろされる攻撃。

 個性により圧縮され、高密度高重量の攻撃が俺たちに向かって落ちてくる。

 俺はそれを見ながらシフトブレスのボタンを押し、シフトアップをする。

 

《ヒッサツ フルスロットル! トライドロン!!》

 

 足にエネルギーが集中する。

 緑谷とオールマイトが腕を振りかぶり大きく叫ぶ。

 

「「DOUBLE(ダブル) DETROIT(デトロイトォ) SMASH(スマァーッシュ)!!!」」

 

「吹き飛べぇぇぇええええええええ!!!!!!!」

 

 緑谷とオールマイトの拳が、俺の足が、超巨大な鉄塊へと衝突する。

 ウォルフラムが全力で押し潰そうとしてくるが、俺たちはそれを全力で押し返す。

 

「「「ぅぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

 オールマイトが吐血し、緑谷のフルガントレットにヒビが入る。

 だが、二人の拳の威力が衰えることはない。

 ならば、俺もフルスロットルで行こう。

 俺はシフトトライドロンのボタンを押す。

 

《フレア! スパイク! シャドー! ハンター! ドクター! ブレイバー! ベガス! キャブ! サーカス! ダンプ!ミキサー! グラビティ! ソーラー! ウィンター! コマーシャル! モンスター! レッカー! トラベラー! マンターン! ジャッキー! スパーナ! タイヤカキマゼール!》

 

 タイヤにエネルギーが収束し、白く輝きだす。

 俺はそれを全て放出する勢いでエンジンキーを回し、トライドロンキーをシフトアップする。

 

《ヒッサツ! フルスロットル! トライドロン!!》

 

 ビチッバチバチバチィッッという大きな音と共にベルトとブレスに電気が走り、タイヤのエネルギーがすべて足へと収束する。

 オーバーヒートだ。

 タイプトライドロンのエネルギーを無理矢理底上げしたせいでシステムが追いつけていないのだ。

 だが、それはウォルフラムも同じだ。

 ウォルフラムが頭に装着している個性増幅装置がオーバーワークで移乗動作を起こし始める。

 そして、ついに超巨大な鉄塊にヒビが入った。

 瞬間、みんなの声援が聞こえてくる。

 

「いけえぇぇ!」

 

「「オールマイト!」」

 

「「緑谷! 機鰐!」」

 

「「ぶちかませぇっっ!!」」

 

 俺たちの耳にみんなの声援が聞こえたと同時に、鉄塊が壊れ、そこを突き抜けた。

 ウォルフラムが金属の盾を使い俺たちの攻撃を防ごうとするが、そんなの意味をなさない。

 

「「さらに!」」

 

 緑谷と俺の言葉にオールマイトが続く。

 

「向こうへ!」

 

 俺たちは示し合わせたかのように同時に叫ぶ。

 

「「「“Plus Ultra”!!!」」」

 

 そして、俺たち三人の攻撃が金属の塔にぶつかり、辺りに衝撃波が広がった。

 俺たちの攻撃が容赦なくウォルフラムを暴き打ち砕く。

 それと同時に個性増幅装置が壊れ、爆発した。

 

 

 それが、この事件の終わりを意味する攻撃となった。

 夜明けと共に事件が終わる。

 朝日がまるで夜の闇に潜む“悪”を倒したヒーローを祝福しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 皆が焼き肉を貪るように食べる。

 オールマイトの奢りなので俺も一切の遠慮なく喰らう。

 今回の件で、雄英高校1年A組が戦ったという事は公表されないこととなった。

 まぁ、仮免も持たない子供が戦ったなんて、例え人助けの為だとはいえ批判が出てくる事は目に見えている。

 公表しなくて当然だろう。

 また、『サタンズ』についてはメンバー全員が煙のように消えてしまっていた為に“無かった事”として扱う事になった

 個人的にそっちの方が都合はよかったので文句は言う事無くスルーした。

 俺はしっかりと焼かれ香ばしい匂いを出し、油ギトギトで体に悪そうな肉を大きく口を開けて咀嚼する。

 すると、後方から声をかけられた。

 

「・・・・・・ねぇ、なんで私をよばなかったの?」

 

「神姫。・・・お前が来てるとは知らなかったんだよ」

 

 そう。

 マジで神姫はココ、I・アイランドに来ているなんて知らなかったのだ。

 女子たちは八百万さんに連れられてきた者とそうじゃない者で分かれるモノの、一応全員来ていた。

 だが、俺は全くそのことを知らなかったので、一切呼びかけることなく事件が終わったのだ。

 神姫的にはそれがたいそう不満だったらしく、先ほどからこの調子だ。

 

「私がいれば苦戦なんてしなかったでしょ」

 

「そうかもな。だけど、燃費が悪いことを忘れるな」

 

「ん~~~~~」

 

「ほら、これでも食って機嫌直せ」

 

 俺はそう言って持っていた肉を差し出す。

 だが、

 

「やだ。今回ばかりは許さない」

 

 神姫はそう言ってからギュッと抱き着いて来た。

 どうすればいいのか分からずおどおどしていると、神姫は静かに一言言った。

 

「死んだら、どうするつもりだったの?」

 

「・・・・・・スマン」

 

 俺はそう言って神姫の頭を撫でた。

 神姫は俺の胸に顔をうずめて動かない。

 ・・・心配させちまったみたいである。

 今度からはちぃとばかり気を付けねぇとな、と俺は思いながら空を見上げる。

 青い空を鳥が飛んでいた。

 静かに、事件の終わりを告げるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーブは自身がどこにいるのかが分からなかった。

 一つ言えることは、体が拘束されているという事だけであった。

 

「なんっ、なんだよ! 誰の仕業だァ!!」

 

 そう叫ぶと、近くから声がした。

 

「僕の仕業だよ」

 

 リーブが視線をやると、そこにはスーツを着込み頭に生命維持装置を付けた男がいた。

 それを視覚し、リーブは呟くように言う。

 

「・・・オール・フォー・ワン」

 

「おや、僕の事を知っているのか。嬉しいね。最近では僕の事を知らない者ばかりだったからね」

 

「なに、する気だ・・・」

 

「君の“個性”を貰おうかと思ったんだが、なぜか奪えなくてね。どうしようかと考えていた所さ」

 

 オール・フォー・ワンの言葉に、リーブは思い出す。

 リーブ自身、転生特典で“個性”を奪われないようにしていた事をすっかり忘れていたのだ。

 だが、安心できなかった。

 目の前にいるのはあのオール・フォー・ワンだ。

 安心していいはずがなかった。

 

「フフッ。目に恐怖の色が浮かんでいるよ。・・・黒霧に頼んで君たち『サタンズ』のメンバーは全員回収させてもらったよ」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

「さぁて、どうするか決めたよ。・・・・・・少しもったいない気もするが、脳無に改造することにしよう。すぐに取り掛かるから無駄な抵抗はしないようにね」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 リーブは叫んだ。

 だが、体は動かない。

 気絶している内に薬を盛られたことは確実で、それが絶対的な決定打になっていた。

 こうして、『サタンズ』は壊滅した。

 こうして、多くの脳無が作られていくのだった。

 














サクラ「さぁて、少し準備と行きますか」
纐纈「ちょっとだけ来てもらうよ♪」
サクラ「ふへ? ひゃぁぁぁあああああああっっ!!!!!???」


  /|__________
〈  To BE CONTINUED…|
  \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


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短編
短編① 『魔王』


個性:『魔王』
は自己申告で、本当の個性名は不明。



 機鰐龍兎が雄英高校受験をする1ヶ月前に起きた事。

 

 

 ぷにぷにピョンピョンとその人物は街を跳ね歩く。

 その人物は『敵同盟(ヴィランどうめい)』という組織の所属している(ヴィラン)だ。

 と言っても、自由人で『敵同盟(ヴィランどうめい)』の集まりや会議に参加をすることは無く、着の身着のまま世界を飛び回っている。

 飛び回っていると言っても、飛行機を使う事もあれば、自身の個性を使って飛んでいることもある。

 その人物は跳ねて移動することが面倒くさくなったのか、普段の姿から“人間の姿”へと体を変える。

 そして、手に持つジャンクフードを頬張る。

 

(うん。やっぱり人間の姿じゃないと味覚は感じないんだな)

 

 そう思いながらただひたすら夜の街を歩く。

 その人物の名は“魔物(まぶつ) (さとる)”。

 転生者としては最年長に当たる人物だ。

 魔物はこの世界に超常が発生してから5年後に生まれた。

 その時代は、突如として“人間”の規格が崩れ去り、裏で『オール・フォー・ワン』が暗躍していた。

 そんな時代だったからからこそ“生まれた時には完全に人間の姿ではなかった”魔物は出生届を出されることなく捨てられた。

 つまり、戸籍上は存在しない人間なのだ。

 だが、魔物本人はその事を一切気にしていない。

 

『死なない人間に戸籍があるだけ無駄だ』

 

 そう思ったからだ。

 それに、転生者である魔物は個性の関係上、食事もいらないし呼吸をする必要もない。

 今している食事だって、魔物からしたらただの娯楽でしかない。

 (ヴィラン)として暴れることによって暇つぶしをしようとも考えたこともある。だが、個性があまりにも強すぎるためそんな遊びはすぐに終わってしまう。

 だから、歩き続ける。

 だから、旅を続ける。

敵同盟(ヴィランどうめい)』に所属したのだって、単なる暇つぶしの一環でしかない。

 だから、暇をつぶせるものはないか、とそれを探し続ける。

 今だってそうだ。

 そんな時、何となく裏路地に足を向けた。

 特に深い意味はなく、ただ、そっちへ向かおうとしたのだ。

 どれほど足を進めただろうか。

 軽く暴れられそうな広さがある更地に出る。

 魔物はその更地をグルッと見渡す。

 そして、そこで数人のチンピラ(ヴィラン)に襲われている人がいた。

 助ける理由なんてなく、見捨ててもなんら問題はないのだが、魔物は“暇つぶしの為”にもめごとの中に入る。

 

「やめてあげなよ。もう、動かなくなってるじゃん」

 

「あ゙ぁ! 何だガキ。こいつが俺たちの言う通りにしてたらこうなってねえよ!!」

 

「そうだぞ、オイ。テメエみたいなメスガキが俺たち大人に意見しようとか10000年早えんだよ!!」

 

「「「「ゲヒャヒャヒャヒャ!!!」」」」

 

 下品な笑い方だな。

 魔物はそう思うと同時に、自身を『メスガキ』呼ばわりした(ヴィラン)の顔を殴り飛ばす。

 ポーンと飛ぶ頭部。

 その光景を見た残りの(ヴィラン)たちは何が起きたかを理解できなかった。

 

「あ~あ。俺を『メスガキ』呼ばわりするから。ほら、胴体と頭がさよならしちゃったじゃん。・・・・・・どうする? まだやるの?」

 

 魔物がそう挑発すると同時に、激高した(ヴィラン)が襲い掛かってくる。

 (ヴィラン)Aは典型的な発動型で、どうやら火を手から噴き出す個性のようだ。

 (ヴィラン)Bは異形型。牛みたいな角に膨れ上がった筋肉。どう見ても鬼。

 (ヴィラン)Cは変身型。ひょろっちい見た目だったのが、一瞬で2メートルを超える筋肉質の大男へとなった。

 この(ヴィラン)たちは戦い慣れてはおらず、自分たちより弱い者を数人で一方的に攻撃するのを得意としている。

 その行為を続けた結果、負けることが無かったために自分たちは強いのだと勘違いしている。

 仲間やられたのも油断したからであって、三人で掛かれば問題ないと思っている。

 そういった油断の為に相手の個性を知ろうとしていない。

 一旦後ろに飛びのき、そこまで情報を整理する魔物。

 なんだつまらない。

 魔我覇そう思うと同時に相手するだけ無駄だと判断した。

 だから、本気を出すことなく敵s(ヴィランズ)を殺した。

 一瞬で。

 何ら苦労はなく。

 黒い炎に焼き尽くさせ、塵すら残させない。

 

「・・・・・・まったく。さてと、そこの人大丈夫ですか?」

 

 魔物はそう言いながら倒れ伏す人を助ける。

 倒れ伏していたのはボーイッシュな服に身を包んだ少女だった。

 その体の傷は酷いもので赤黒い痣から火傷、骨も何本か折れているようだった。

 その少女の顔を見て魔物は瞬時に理解する。

 ああ、この少女も転生者だ、と。

 魔物の特典は『転生者判断』というものだ。

 その名の通り、転生者を判断するだけの特典だ。

 だからこそ、そう分かったのだ。

 魔物は女の頬を何度もペチペチと叩く。

 

「お~い。起きろ~」

 

 だが、少女は目覚めない。

 魔物はやれやれと思いながら瞬間移動を行い、他の幹部が経営するカフェの地下へと移動する。

 

「うお! なんだよ・・・・・・魔物か」

 

「本名は嫌いだから(ヴィラン)ネームで呼んでくれと言っただろう」

 

 魔物が瞬間移動したところに丁度、幹部の賢王雄がいた。

 別段仲の良いわけではないが魔物は幹部の中で最も信頼できる人物だと考えている。

 

「ケガを治せる個性の持ち主いただろう。この子を治してやって欲しい」

 

「だったら魔我の奴に頼めばすぐだろ。アイツ自身がそう言った個性持ってるし」

 

「アイツは何か信頼できない」

 

「? ・・・・・・まあいいけど。お~い、仕原。アイツ呼んできてくれ」

 

 賢王雄がそう言うと基地の掃除をしていた仕原弓が階段を上って行った。

 どうやら、ケガを治す個性の持ち主は上のカフェにいるらしい。

 それを見た魔物は、

 

「それじゃ、行く」

 

 そう言い、賢王雄に少女を押し付ける。

 魔物はそのまま瞬間移動をして旅に出た。

 瞬間移動する瞬間、賢王雄が何か言おうとしているようだったが、魔物はそれを気にすることなく元居た場所へと飛び、また旅に出た。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経った。

敵同盟(ヴィランどうめい)』の名前は『ファウスト』に変わり、リーダーなる者まで現れた。

 その際に、魔我覇仁が殺されたと聞いた。

 さらに、しばらくして猿伸賊王が敵対したとも。

 だが、魔物にとってはそんな事も些細なもので、一切気にすることなくただひたすら旅を続ける。

 ある時、気まぐれで日本に寄った。

 街を観光で歩いていると、裏路地の方からイヤな気配を感じた。

 魔物はそれが何か気になり、ぷにぷにピョンピョンと路地を進んで行く。

 そして、人影を確認すると同時に人型になる。

 

「お嬢ちゃん。何をやっているの? ずいぶん赤く染まっているけど」

 

 路地の奥にいたのは、どこかの学校の制服と思わしい服に身を包み鋭くとがった犬歯、髪型は両サイドに団子を作っている少女だった。

 これでも一応転生者である魔物はその人物に見覚えがあった。

 だが、初対面で名前を呼ぶのは変に怪しまれると思い、とりあえず他人行儀に話す。

 服を血で染めた人物、トガヒミコは魔物の姿を確認すると明るい顔で

 

「カァイイ」

 

 と言って魔物に抱き着く。

 予想外の行動に魔物は反射的に固まってしまった。

 瞬間、魔物の体にトガヒミコのナイフが刺さる。

 魔物は個性の副作用として、痛覚無効と物理攻撃無効を持っているためその攻撃は何ら意味を持たなかった。

 ナイフが意味をなさなかった事に不思議そうな顔になるトガヒミコ。

 

「落ち着け。俺も(ヴィラン)だ。同業相手に何かするわけないだろ」

 

「そうなんですか? それにしてもカァイイね。ねえ、どう? お友だちにならない? ねえ、いいよね」

 

「答えはNOだ。俺は友達を作らないんだ」

 

「じゃあさ、じゃあさ。名前教えてよ」

 

 断られてなおそう言うトガヒミコ。

 魔物としては教える義理なんて一切なかった。

 だが、魔物は気まぐれに名前を言う。

 本名ではなく(ヴィラン)ネームを。

 

「リムル。そう呼ばれてる」

 

 

 




オリキャラ設定

魔物(まぶつ) (さとる)
身長:擬態した姿によって変わる
体重:擬態した姿によって変わる

ファウスト幹部。
長生きというよりは不死身。
個性名は自己申告であるが、その姿、その力から、実は違うのではないかと思われている。
本人は自身の本名を嫌っているため、(ヴィラン)ネームで呼んであげるとすごく喜ばれる。
18話現在、新たに賢王雄の元へ『今は南極にいるよ♪』という手紙がカナダから届いている。
なお、中の写真にはホッキョクグマと共に撮られた写真が入っていた。


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短編② 『説明』

本編としては語る事のない短編。
時間軸としては雄英体育祭前。


 雄英体育祭まであと一週間。

 登校してすぐ、相澤先生に呼び止められた。

 なんでも、ヒーロー学として“仮面ライダー”について教えて欲しいらしい。

 その為、俺のあのファイルの中の資料をコピーさせて欲しいと言われた。

 俺は快く承諾し、ファイルを手渡した。

 

 

 

 

 

 

 午後、ヒーロー基礎学の時間だ。

 さて、ここで質問だ。

 

「何故俺が教壇に立つことになってるんですか!!」

 

「“仮面ライダー”について最も詳しいのはお前だろう。資料を眺めても俺にその本質はわからん」

 

 寝袋に入りながら面倒くさそうにそう言う先生。

 畜生・・・・・・。ハメられた・・・・・・・・・。

 この教師、最初からこれが目的だったな・・・・・・。

 座っているクラスメイトの方へ視線を向けると、一人、キラキラとした少年の目でこちらを見ている人物がいる。誰であろう? 切島くんである。

 ああ、もっと先を考えておくんだった。

 ・・・・・・・・・諦めよう。

 

「じゃあ、始めます。と、言っても、仮面ライダーの中にはその戦い自体が不明になっている者もいるので、そこら辺は許してくれ。じゃあスマホの準備。それで調べられるような出来事もあるからな。まあ、それも資料に乗っているけど一応のためだ」

 

 俺がそこまで言った所でクラスメイト達から一斉に質問の嵐が飛ぶ。

 

「まず仮面ライダーって?」

 

「名前の由来ってどこから来てるの?」

 

「仮面ライダーがヒーローの原点ってなんで?」

 

「複数いるの?」

 

「オールマイトと比べるとどれだけ強いの?」

 

「僕って格好いいよね☆」

 

「んんん~~~~、聖徳太子ィィイ!!!」

 

 つい、オールマイトみたいな反応をしてしまった。

 そして青山、何関係ない事を言っているんだ。

 

「お前ら! 人が話をしている途中で質問をぶつけてくるな!! 少しは待て!!」

 

 俺がそう言うと、皆静かになってくれた。

 決して俺がガシャコンバクヴァイザーの銃口を向けて一発発砲したからではない。

 

「・・・・・・まず、仮面ライダーってのは日本の元号が“昭和”だった時に現れだした都市伝説だ。その時代の情報はネットが普及していなかった事もあってあまり正確な情報が無いから割愛する。ただ、昭和という時代に“仮面ライダー”が現れたとだけ考えてくれ」

 

 俺はそこまで言ってファイルをパラリとめくる。

 

「平成に入ってから初めて記録に残った出来事と言えば1999年に渋谷に突如落ちた『渋谷隕石』が最初と言えるが、それによって仮面ライダーが生まれたのはもう少し後の話になるから少し飛ばす。

 平成最初に確認された仮面ライダーは『クウガ』。

 クウガの物語は2000年に長野県の九郎ヶ岳にあった遺跡に封印されていた未確認生命体“グロンギ”が目覚め、人を襲い出したことが始まりだと言えるだろう。

 これに関しては警察にも記録が残っているはずだから、今度調べてみると言い。絶対に見せてくれないから。

 え? 何で見せてくれないか、だって? そこまでは知らねえよ。

 と、話を戻そう。

 グロンギは“ゲゲル”というゲームを始める。簡単に言えば決められた期間内に人間をどれだけ多く殺せるかっていうゲームね。

 それを止める為に戦ったのがクウガ。

 クウガに変身していた青年は優しい人でね、誰かを気付つけるのが嫌だった。無論、グロンギすら傷つけたくなかった。

 それでも彼はグロンギと戦い続けた。誰かの笑顔を守るために自身の笑顔を壊し続けた。そういうヒーローだ。

 最後はゲゲルを開催した張本人であり、究極の闇と呼ばれる最強のグロンギ、“ン・ダグバ・ゼバ”と戦い、クウガの力を失った。

 だが、それによってグロンギによる“ゲゲル”は終了し、グロンギによる事件は終結した」

 

 皆、俺の言葉を聞きながら資料に目を通している。

 

「さて、ここから記録に残っている仮面ライダーと残っていないライダーがいるが気にしないでくれ」

 

 俺はそう前置きし、話を続けた。

 

 アギトの話についてはかなりぼかしたがG3など、人間がどう抵抗していったかをメインに話した。

 

 龍騎は一般的に不明点が多いため、かなりぼかす結果になった。

 

 ファイズに関しては“オルフェノク”を中心に話した。皆の顔色がコロコロ変わって何か面白かった。

 

 ブレイドはオンドゥル語を多用し話した結果、皆資料ばかり見ていた。解せぬ。

 

 響鬼はぼかしにぼかし続けた。話辛いよ。

 

 カブトになってやっと渋谷隕石についてを話した。皆驚いていたが、まあ気にしない。

 

 電王は正体不明のライダーとして話した。時間を超えたライダーとか説明難しいわ。

 

 キバについてもまた然り。

 

 ディケイドについては異世界がある事を前提として話をした、異世界がある事に皆は衝撃を覚えていたようだが特に気にせず、異世界を旅した写真家の話をした。

 

 ダブルはミュージアムがばらまいたガイアメモリについての話をメインにエターナルが起こした事件に繋げた。やり方は間違っていたが、それでもエターナルも“仮面ライダー(ヒーロー)”だったから。何がヒーローなのかを考えてもらう為に話した。

 

 オーズは彼の持つ辛い過去とそれによって彼がどういう存在になったのか、人間とグリード、命とは何か、そして、彼らの最後の戦いについてを話した。手が届かなかった者。命を欲した者。切っても切れないあの二人の話をだ。クラスメイトの中には涙を流す者もいた。

 

 フォーゼの話は皆の驚きは今までの域を超えた。“天ノ川学園高校”の名前を出した結果だろう。この世界での天ノ川学園高校はヒーローを何人も出している名門校だ。そこでの出来事だと言われて驚かない者はいないであろう事を失念していた。失敗失敗。

 

 ウィザードは絶望を希望に変え続けた誰かの希望になる事について、絶望に打ち勝った魔法使いについての話をした。誰かの希望になろうとする男、たった一人の娘の為に大勢の人たちを犠牲にした男。この二人の思いについて、俺が分かる限り話した。

 

 鎧武に関しては登場人物のほとんどがクズだという事を前提として話をした。鎧武の身勝手でわがままで我を押し通そうとし続けたフリーターの話を。大勢の人を救うためにその身を懸けた大バカ者の事を・・・・・・。

 

 ドライブの話はかなり面倒くさかった。重加速粒子の説明が一番難しかった。重加速の説明を終えた後は警察としてその命を懸けた男の話をした。いや、あの人一度死んだけど・・・・・・。

 

 ゴーストは生き返るうんぬんの話はバッサリカットし、人々の思いや願いを繋いでいった青年の話をした。(ガチ目に)命を懸けた、この世界を懸けた戦いをし、人間の持つ無限の可能性を掴んだ彼の話を。ちなみに、その戦いをしていたのが高校生であったことを伝えたら驚かれた。

 

 エグゼイドの話は最初にバグスターウイルス感染症についての話をした。皆には出してもらっていたスマホでバグスターウイルス感染症についてを各自調べてもらった。現在ではワクチンもあり、まず発症することがないが昔は手術(オペ)をしなければ死亡率ほぼ100%の病気であった事、手術(オペ)が失敗すれば患者だけでなく医者(ドクター)も死んでしまう事、それでも誰かの笑顔を守るために戦った天才ゲーマーの話は想像以上に長くなってしまった。

 

「ずいぶん長い話になったけど皆疲れてはいないか? ・・・・・・・・・OK。話を続けよう。

 仮面ライダービルドは物理学者だ。

 彼の事を表すなら、ナルシストで自意識過剰で記憶喪失な正義の味方、というのが的確だろう。

 ディケイド同様、ビルドもこの世界の仮面ライダーではない。

 その世界・・・・・・まあ、世界Aと呼んでおこう。

 世界Aの日本は火星から回収された正体不明の物体、“パンドラボックス”が引き起こした“スカイウォールの惨劇”によって三つに分かれてしまった。

 え? どう分かれたか、だって? ウォールという言葉で分からないかな? パンドラボックスから巨大な壁が出現して物理的に日本を三つにしたんだ。

 そして、東都、北都、西都で戦争が起こされる事になる。そして、その裏ではある組織が暗躍していた。

 みんな知っているだろう? この前からメディアで大きく取り上げられていた“ファウスト”がそれだ。

 非道な人体実験を繰り返し、多くの人々を傷つけていた。

 東都、北都、西都の間で戦争を起こさせ最終的に日本を乗っ取った。

 しかも敵は最凶最悪。星を破壊するほどの力を持つ地球外生命体だった。

 え? どこから地球外生命体が出て来たか、だって? 火星で発見されたパンドラボックスがその地球外生命体の物でその力を得る戦いを仕掛けさせたのもソイツだ。

 ファウストの“ブラッドスターク”の正体がその地球外生命体だ。

 仮面ライダーたちは全力で戦ったが、全く敵わなかった。

 だが、“とある方法”を使えば勝てる可能性が出て来た。それは、地球外生命体の力を使って平行世界である世界Bを世界Aと合体させ、悲劇の起こらなかった世界を(ビルドす)るという方法だった。

 最終決戦はそれはもう激しいものだった。一人、また一人と仮面ライダーが命を落としていった。

 だが、それでも仲間が命を懸けて作った大きな隙をつき、平行世界を合体させ、悲劇の起こらなかった新世界C・・・・・・つまり、この世界を作った。

 そして、天才物理学者は悲劇のなかった世界を相棒と共に歩んでいった。かなり端折ったが、これが仮面ライダービルドの戦いだ。

 ちなみに、ビルドは新世界を作る前に世界を超えて色々な仮面ライダーたちと共に戦った事もある。

 そこでは色々な仮面ライダーが各々の戦う理由を、本当の力とは何かを叫んでいたよ。

 ある者は『誰一人見捨てないために』。ある者は『世界中の友達(ダチ)を守るために』。ある者は『二つの世界を未来に繋ぐために』。ある者は『この手が届く世界を守るために』。ある者は『世界中の人々の笑顔を守るために』。ある者は『愛と平和のために』。

 この言葉だけでもヒーローとは何かと考えさせられるよ。

 ああ、そうだ。皆、スマホで調べて見な。『仮面ライダービルド』を。

 ・・・・・・・・・・・・・・・おお、良い反応だ。データが残っているだろう? 彼らの戦いが。

 ・・・・・・・・・なぜそれが残っているか、だって?

 ビルドは新世界で自分たちの戦いを49のエピソードに分けてデータ化したんだよ。

 それが残っていたんだ。暇だったら見てみなさい。

 良い切っ掛けにはなるだろうから。

 最後に、『見返りを求めたらそれは正義とは言わないぞ』。この言葉を覚えていてくれ。仮面ライダービルドの言葉だ。

 この次は仮面ライダージオウの話をしたいところなのだが、ジオウは全くと言っていいほど記録が残っていない。キバや電王もそうだったけどな。だから、話そうにも話せないからそこは許してくれ」

 

 俺が話し終えるとほぼ同時にクラスメイトの何人かはスマホに視線を集中させていた。

 ああ、読んでいるな。

 ・・・・・・・・・よし。

 

「ここまで聞いて何か疑問でもある人~?」

 

 俺が軽くそう言うと、

 

「ハイ!!」

 

 と真っ直ぐ手を上げる飯田くん。

 お~、比喩表現じゃなくてガチ目に真っ直ぐだ。

 定規にでも使えそうだな。

 

「ハイ、飯田くんどうぞ」

 

「仮面ライダーにはそれぞれ戦う理由があったが、それでなぜ仮面ライダーがヒーローの原点であると言えるのですか!? 先生!?」

 

「今は先生(仮)だけどいつも通り呼んでくれていいよ、飯田くん。まあ、いい質問だ。皆、考えてくれ。超常が起きる前、言ってしまえばみんな無個性だ。そんな時に正体不明の(ヴィラン)が現れたら抵抗のしようが無いだろう? 実際、当時の正義の味方と言えば警察だったが、その警察すら手も足も出なかったんだ。そこに現れたのが仮面ライダーだぞ? そこに憧れない者はいないだろう。だから、昔の人は正義の味方(ヒーロー)になりたいと願った。そして、超常が起きた事によりその願いが叶った。ただそれだけだよ」

 

 俺がそう言い終わると同時に授業終了のチャイムが鳴った。

 思ったよりも長い話になってしまったようだ。

 

「はい、お疲れ様。HRはやらないから各自、帰るなり残るなり好きにしな」

 

 相澤先生は流れるように寝袋から出た後、そう言い残して教室を後にした。

 あまりに自然体過ぎて誰も止めることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

「相澤先生、資料は?」

 

「これです」

 

「ふむふむ。・・・・・・なるほどね。この資料をコピーしてHN(ヒーローネットワーク)に出しておこう」

 

「いいのですか?」

 

「うん。この資料の中に“人間を超えた仮面ライダー”についても書かれていた。・・・・・・もしかしたら、今後現れる可能性もあるからね」

 

 

 




これによって、エンデヴァーは“仮面ライダー”について知っていた。


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短編③ 『女子会』

この話は、21話と22話の間の話となっております。


 1年A組の女子たちは雄英の近くにあるカフェに入って行く。

 少女たちはカフェに入り、椅子に座ってすぐにこのカフェ名物のパンケーキを注文した。

 ふんわりと焼かれたパンケーキ二つが重なり、その上にはふわふわのクリーム。その上からシュガーパウダーがかけられた、言うならばインスタ映えしそうなモノだ。

 そのパンケーキを持って来たのは、白いひげに仏教面のコック某を被った初老の大男だった。

 男の名前は“甘崎(かんざき) 厳廿楼(げんじゅうろう)”。

 またの名を、『ケーキ職人』“スイーツマスター”。

 そう、(ヴィラン)である。

 個性:『お菓子作り』

 お菓子の材料を無限に生み出したりする個性だ。

 まるっきり戦闘向けの個性ではないが、甘崎厳廿楼は長年の訓練により、この個性でも最前線で戦えるほどの力を持っている。

 普段はこのカフェでケーキを提供する爺さんだが、裏では『ファウスト』に所属する(ヴィラン)として活動している。

 

「お嬢ちゃんたち、そろそろ林間合宿に行けるかどうかを懸けた期末テストがあるんだろう? こんなところでのんびりケーキを食べながら談笑していて良いのか?」

 

「ええ、大丈夫よ。まだそれなりに期間はあるし、慌てても何も生まないわ。時には落ち着いて精神を休ませないと、ケロ」

 

 蛙吹梅雨はそんな事を言いながらパンケーキを頬張る。

 他の女子たちもとても美味しそうにパンケーキを食べている。

 それを見て甘崎厳廿楼は少し表情を和らげる。

 普段からムスッとした顔なのだが、自分の作ったケーキが美味しそうに食べられている所を見ると、つい表情が和らぐのだ。

 少女たちは学校の事についての会話をする。

 だが、途中から“とある少年”についての愚痴へと変わっていった。

 普段は他人の不満を言わない八百万百ですら“とある少年”についての愚痴を話す。

 それはしょうがないと言えるだろう。

 数日前、1年A組はテスト前実戦訓練で“とある少年”にボコボコにされたばかりなのだ。

 しかも、一切の本気を出さずにだ。

 クラスメイトで唯一本気らしい本気を出された切島鋭児郎ですら、全力の2%しか出されなかったという。

 それすら出されることなくボコボコにされた者の怒り、恨みは大きいものになっている。

 そんな少女らの元に白い髪の女性が近づいていく。

 

「よう、久しぶりだねぇ」

 

 その人物の名は“紅 華火”。

 フリーな性格だが一応、『ファウスト』の幹部である。

 紅華火は愚痴を言い合っていた少女たちの輪にさも当然のように入る。

 

「龍兎ちゃんの愚痴? う~ん。訓練だったからしょうがないんじゃないかな? あの時私は白神ちゃんと戦ってたけど、彼女も本気じゃなかったみたいだし」

 

「それでもさ、皆実戦やと思って全力でやってたのに遊び感覚でやられてたなんて何か、こ~、キツイやん」

 

「そうかな? 一応私たちは生徒側がクリアできるように色々な穴を作っていたし。まあ、その穴を突く為の難関として龍兎ちゃん(ブラッドスターク)が選ばれたんだけどね・・・・・・」

 

「難関過ぎるよぉ~。私なんか後ろから攻撃しようとしたのに見抜かれたもん」

 

 葉隠透はそう言いながらパンケーキを頬張る。

 それを見て紅華火は少し笑う。

 そして、

 

「だから、あの時、駄目だったところを一々説明していたでしょ。そこを期末テストの実技で気をつけろ、って事なんだよ」

 

 紅華火はそう言ってコーヒーを一飲みし、大人のお姉さんアピールをする。

 これは、紅華火の悪いクセと言えるだろう。

 年下に接するときに“お姉さんアピール”をついしてしまうクセがあるのだ。

 前世で若く死んだことが原因なのだが、二十歳になるのだからそろそろ治って欲しいクセだろう。

 事実、(勝手に、無理矢理)弟みたいな扱いをされている機鰐龍兎からしたらそれはたまったモノじゃない。

 だが、紅華火本人に悪気はないため、よりタチが悪い。

 しかし、周りの人間にそこにツッコミを入れる人物がいないのも問題点の一つと言っていいだろう。

 

「そういえば、紅さんの“個性”、プロでも通じそうなモノですのに、何で『ファウスト』として(ヴィラン)という汚名を被っているのですか?」

 

「ん~? “ヒーロー”に興味が無いから・・・かな? それに、私の個性は戦う事に特化していても守る事には適していないから」

 

「守ることに適していない、ですか?」

 

「そう。私は傷を負ったとしても個性の関係ですぐに回復するし、体を炎に変化させれば物理攻撃を完全に無効化できるんだけどさ、その攻撃は私を貫通して後ろに行くのよ。誰かを守るためには炎に変化せずに守らなきゃいけないけど、そうすると怪我の回復に体力を奪われるために戦闘時間も短くなる。それに、飛ぶときなんて炎の羽を使ってる分、誰かを抱えて飛ぶなんて無理。焼き殺しちゃうもん」

 

 紅華火はそう言いながら勝手に八百万百のパンケーキを少し切って頬張った。

 だが、それをとがめる者はいなかった。

 雄英に通っているという事は、当たり前だが少女たちはプロヒーローを目指している。

 そして、目の前にいる女性はプロヒーローでも通じるほどの実力の持ち主だ。

 そんな彼女は自身の個性の特性を全て把握したうえで自身の道を決めている“大人”だったのだ。

 ニコニコとした優しい笑顔で、大人っぽく、どこか抜けているお姉さん。

 そんなイメージを持っていた少女たちにとって、自分を見つめ、未来を決めている紅華火は“凄い存在”であった。

 

「ん? なんか静まり返っちゃってるね。う~ん。・・・・・・そうだ、私について何か質問ある人~! 答えられることなら何でも答えちゃうよ~」

 

「えっと、せやさ。紅さんの個性名って何なん?」

 

「よくぞ聞いてくれました! 私の個性名は『不死鳥(フェニックス)』。個性の内容は名前のまんまだよ」

 

 紅華火は楽しそうに、それでいて当たり前のようにそう言った。

 だが、それが普通じゃない少女たちからしたらその個性は驚きでしかない。

 

「『不死鳥(フェニックス)』・・・となりますと・・・・・・死なないという事でしょうか?」

 

「いんや。死ぬよ」

 

 紅華火は芦戸三奈のパンケーキを頬張りながらサラッという。

 

「さすがに死なない個性ってのはないよ。・・・・・・ただ、不死鳥は二種類いるからね。どうかは分からないよ。だって死んだことないもん」

 

 紅華火は楽しそうに言いながら耳郎響香のパンケーキを盗み食いする。

 当の紅華火は楽しそうだが、少女たちは楽しいお茶会をする雰囲気ではなくなってしまった。

 その時、カフェの扉が音を立てて開かれた。

 より正確に言えば、扉につけられている鈴が扉が開く事によってチリンチリンと音を立てたのだ。

 少女たちの視線は音のした扉へと向けられた。

 だが、そこには誰もいなかった。

 店内にいる客は少女たちだけだったので、誰かが店を出たという訳ではなさそうだ。

 少女たちが不思議に思っていると、

 

「紅。お前何やってるんだ」

 

 そんな声がした。

 声のした方を向くと、いつの間にか少女たちの輪の中に青い長髪の少女がいた。

 

「あっ、帰って来てたんだ。しばらく前に龍玉ちゃんが探しに行ったばっかりだよ。欧米に」

 

「今帰って来たばかりでな。北米から」

 

「あら。見当違いだったのかな?」

 

「いや、少し前までは欧米に居たからあながち間違っていない」

 

 長髪の少女はそう言いながらウエイトレスをしていた仕原弓を呼んで注文をする。

 あまりにも自然で、それでいて少女たちの事を見えていないようなそぶりに、八百万百はオドオドしながらも話しかける。

 

「あの・・・貴女は・・・・・・?」

 

「間違いが一つ。『貴女』じゃなくて『貴方』だ。・・・・・・俺は男だよ」

 

「そ、それは失礼しましたわ」

 

「賢王から聞いてる。俺は“リムル”。一応『ファウスト』の幹部だ」

 

 リムルはそう言いながら運ばれて来たケーキを食べる。

 

「“リムル”ってアレじゃない! 神出鬼没のヴィジランテ! 個性不明で滅茶苦茶強いって有名なヤツ!」

 

 と芦戸三奈が興奮気味に言う。

 

「神出鬼没、ねえ。俺は放浪癖があるだけなんだけどな」

 

「世界を股に掛けた放浪は迷惑なだけだよ」

 

「そう言うなよ、紅」

 

 リムルはそう言いながらケーキと共に頼んだ紅茶を一飲みする。

 そして、

 

「そんじゃ。そろそろ行く」

 

 そう言ってスッと姿を消した。

 少女たちはポカーンとその様子を見ている事しかできなかった。

 そして、リムルのせいで完全にお茶会の雰囲気ではなくなり、解散となった。

 

 




『ファウスト』幹部は大体自由人。


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短編④ 『転生者の物語 鈴科編』

白い少女の物語。


 白い少女が夜道を歩いている。

 その少女の名前は“鈴科(すずしな) 百合子(ゆりこ)”。

 転生者である。

 現在の年齢は14歳。

 近くの市立中学に通う女子中学生だ。

 なぜ、そんな少女が夜中に外を出歩いているかと言うと、

 

(あ~、クッソ。なンで今日に限ってコーヒーが切れちまうかなァ)

 

 そう。

 コーヒーの買い出しである。

 鈴科百合子の手には大きなコンビニのビニール袋、その中には大量のブラックコーヒー(缶)が入っている。

 量が量なだけに相当の重量があるのだが、鈴科百合子にその重さを気にした様子はない。

 鈴科百合子はしばらく歩き、裏路地へと歩を進めた。

 何か目的があった訳でもなく、ただ、その道へ行こうと思ったからそうしただけだ。

 路地と言ってもある程度の広さはあり、大人が横に並べるほどの幅はある。

 鈴科百合子が路地に入って50メートルほど歩いたところで、目の前に大きな人影が現れた。

 服装から、近所にある偏差値底辺高校の学生であることが伺えた。

 

「なンだ、テメェ」

 

「いやぁ、何ね。俺たちと良い事しないか? お嬢ちゃん」

 

「くだらねェ。邪魔だからさっさとそこを退け」

 

 鈴科百合子がそう言うと、目の前の男がニヤリと笑い、

 

「少し強引でもヤっちまおうか」

 

 と言った。

 鈴科百合子が周りをグルリと見渡すと、目の前の男の他に数人いて、囲まれている事が分かった。

 馬鹿Aは2メートルはありそうな巨体に坂だった髪、頬に切り傷のある男

 馬鹿Bはヒョロヒョロとした体格、腕がグニグニと伸びているため、そうい個性なのだろう。

 馬鹿Cは見た目だけでは無個性と同じため、どんな個性化は不明。

 馬鹿Dはギザギザの歯が特徴的である。

 

「それで、やろォってのか? 三下ァ」

 

 鈴科百合子はそう言いながら、左手を“ポケットにいれた”。

 まるで、目の前にいるチンピラを問題とも思っていない様子で。

 それを見た馬鹿たちは余裕の表情を見せる。

 そして、

 

「お嬢ちゃんには悪いが、ちょっとだけ眠ってろ!!」

 

 馬鹿Aがそう言うと同時にその手のひらに電気の弾のようなものが現れ、それが放たれた。

 鈴科百合子はそれを目の前にしても慌てる様子も抵抗する様子もなかった。

 そして、電気の弾が鈴科百合子に直撃した。

 その時には馬鹿Aは“自身の電撃”で地に伏せた。

 それを見た馬鹿たちは何が起こったのか一切分からなかった。

 だが、鈴科百合子のその血のような赤い目で見られた馬鹿Cが恐怖のあまり、とっさに襲いかかったのだ。

 馬鹿Cは自分が何でそんな行動に出たのか分からなかった。

 ただ、とっさに攻撃をしていたのだ。

 馬鹿Cは増強型だったようで、その腕は倍以上に膨らんでいた。

 その攻撃が鈴科百合子に当たった瞬間、バギリッという鈍い音がした。

 鈴科百合子からではない、馬鹿Cの殴った腕が折れたのだ。

 殴られた本人には一切のダメージが無く、殴った方がダメージを負ったのだ。

 その事実を見て残りの馬鹿二人に動揺が走った。

 だが、さすが馬鹿と言ったところだろう。

 逃げるという選択肢が取れたにもかかわらず、戦うという悪手を選択してしまった。

 結果として馬鹿二人は地に伏せることになった。

 そんな状況だが、鈴科百合子は攻撃をしたわけでは無い。

 “ただ、突っ立っていただけ”なのだ。

 正確に言えば個性を発動させていたのだが、元々、鈴科百合子は24時間365日ずっと個性を発動しているため、それがデフォルトなのだ。

 常日頃から自身への危害となるモノは全て反射するようにしているのだ。

 だから、攻撃する必要もないために左手をポケットに入れたのだ。

 つまり、鈴科百合子からしたら馬鹿たちが勝手に自滅しただけなのだ。

 鈴科百合子は辺りの状況をグルリと見渡し、ただ一言呟いた。

 

「つまンねェな」

 

 そして、馬鹿を放置し、夜の闇の中へと消えて行った。

 




キャラ設定

鈴科(すずしな) 百合子(ゆりこ)(14歳)』
身長:154cm
体重:39kg

コーヒー好きの中学生。
成績は学校トップ。
テストでは毎回、5教科合計500点。
個性の関係で、体中の『色素』がほとんどないために、肌も髪も白く、眼球は赤い。
本人はそれが普通なため、気にしてはいないが、学校の裏サイトでは『白い死神』という別称で呼ばれている。
転生者であり、強個性。ミサイルを撃たれようとも無傷で生還できるほどである。
ただ、強すぎる個性故に外部刺激が少ないせいでホルモンバランスが崩れてしまっている。


鈴科(すずしな) 百合子(ゆりこ)(16歳)』
身長:159cm
体重:39.8kg

コーヒー好きの高校生。
雄英高校1年B組の生徒。
強個性故に推薦枠に入る事など簡単だったが、それで目立つのが面倒くさかったがために普通に受験して合格。
模擬戦闘試験の時も、率先して仮想敵(かそうヴィラン)を倒そうとはせず、襲い掛かってきたから反射しただけというチート。
そして、緑谷出久同様、0P(ゼロポイント)仮想敵(かそうヴィラン)をブッ飛ばした生徒でもある。
雄英体育祭では、トーナメントが面倒くさかったがために障害物競走を真面目にやろうとすらしなかった。
その為、実力は未知数。
龍牙(りゅうが) 幻夢(げんむ)”との関係は幼馴染兼同居人。


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短編⑤ 『転生者の物語 龍牙編』

龍牙幻夢編みたいにしておきながら、ほとんど他の転生者視点になってしまった・・・orz


 三好(みよし)視夜(しや)は転生者である。

 ただ、転生者と言っても、主人公らしいものがあるワケでもなく、ただ、異世界で自由気ままに生きたいという人物だ。

 その為、雄英に行けるほどの成績を持っていたとしても、行こうとは思わず、ごく普通の高校に進学し、普通の成績で卒業後、プロゲーマーとして全国を渡り歩いている。

 業界内では有名で、全国から助っ人で呼ばれている。

 助っ人料は少し高いぐらいだが、少なくとも年間約二千万円は稼いでいる。

 ゲームのジャンルは問わず、時には大会に出場して賞金を掻っ攫っている事もある。

 今回の仕事はサバイバルゲームで、勝ち残るという簡単な仕事を請け負い、とあるチームに所属して敵と戦っている所だった。

 この超人社会では個性を使えずにストレスをためている者が多くいる。

 今回参加したサバイバルゲームは、個性の使用有りというルールで行われている。

 審判を務めているのは、正真正銘のプロヒーロー。

 参加人数は150人。

 会場は木が生い茂る自然いっぱいの山。

 チームで参加する者たちもいれば、ソロで参加している者もいる。

 使う武器は申請して許可が出れば何でもあり。

 ただし、個性は殺傷性のあるモノだと大きな制限が付き、その制限を破った場合はしっかりと法律で罰せられることになる。

 そして、この大会の目玉と言えば、優勝賞金1500万円ではなく、優勝景品の欄にある伝説のゲーム『マイティアクションX』だと言えるだろう。

 超常が起きる前、“幻夢コーポレーション”によって作られた大人気ゲーム。

 今では完全に伝説となり、真のゲーマーなら一度はプレイしたいゲームだろう。

 それが景品として出展されているなら、参加しないわけがない。

 三好視夜以外のメンバーは賞金目当てであるが、しっかりと戦ってくれるのなら文句はない。

 ゲームスタートから一時間。

 どんどんと相手を倒していき、現在勝ち残っている者は約40人ちょっとだった。

 そう、だったんだ。

 ゲーム前に支給されたゴーグルには、残っている人数が表示される仕組みになっているのだが、40人いたハズが、一気に16人まで数を減らしたのだ。

 16人。

 三好視夜のチームは全員で15人。

 つまり、24人ほどの人間がたった一人に負けたという事だろう。

 それだけの実力を持つ者がいるという事だろう。

 それを察した三好視夜はチームメイトに指示を出す。

 

「A班は南側から、B班は北側から、残りは俺と直進」

 

「わかった」

 

 指示を受けて仲間たちはそれぞれが行動を開始する。

 三好視夜は敵の影がしっかりと捉えていた。

 個性:『レーダーアイ』

 自信を中心に直径300m以内の情報を瞬時に理解、または見る個性。

 三好視夜自身がレーダーであり、双眼鏡であり、管制塔であるのだ。

 さらに、マッハを超える速度のモノですらしっかりと判別ができ、例え、マッハ50をたたき出している米粒に書かれた英単語ですら読むことが可能だ。

 そんな目だからこそ、目の前にいる敵が持っている武器を判別することが出来た。

 そんな目だからこそ、その武器から発射された弾丸を見る事が出来た。

 そんな目だからこそ、仲間が全員やられた瞬間を見る事が出来た(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ハァッ、ハァッ」

 

 三好視夜は木の影に隠れながら状況を整理する。

 相手は一人。

 持っている武器は一つ。

 腰には蛍光色のアイテムを装着しており、何かの機能がある事は確実だが、それが何なのかは判別不可能。

 そして、味方は全員、一瞬にして倒された。

 息を整え、隙はないかとタイミングをうかがっていると、

 

「そこにいることは分かっている。さっさと出て来い」

 

 そんな声が聞こえてきた。

 距離は後方約110m。

 全力で走れば速攻で詰められるほど近い距離。

 相手が何をしてくるか分からない以上、ここで出て行くのは確実に愚策である。

 そう判断し、様子を見ようと構えると同時にある音が聞こえてきた。

 

《ギュ・イーン!》

 

 それと同時にチェンソーが回転しているような音が鳴り響く。

 さらに、メキメキメキィと木が倒れる音。

 三好視夜のレーダーが捕らえたのは、こちらに向かって倒れてくる大木の影であった。

 慌ててその場から離れ、回避する。

 どうやら、相手がその手に持つ武器で来を切り倒したようだ。

 

「さあ、ゲームを始めようか」

 

「ハッ、俺以外をブッ倒したからって調子に乗るんじゃねぇぞ」

 

 三好視夜はそう言いながら手に持つサブマシンガン(ペイント弾発射)を連射する。

 だが、目の前にいる敵はその攻撃を全て避ける。

 そして、

 

《チュ・ドーン!》

 

 手に装備していた武器が操作されたと同時にその武器から銃弾が発射された。

 それが見えているからこそ避けることが可能なのであり、それが出来るのは三好視夜がトレーニングを欠かさずにやっている事が功を奏したのだろう。

 だが、避けられたのは本当に偶然であって、次も避けられるという保証はない。

 それでも、勝つために、三好視夜は目の前の敵を睨む。

 

「フッ。面白いじゃないか。いいね、その目。その勇気に免じて少し本気を出してあげよう」

 

 そう言った敵の手には紫色のアイテムが握られていた。

 見たところによると、ゲームのラベルのようなものが確認できた。

 だが、それはおかしい。

 手の大きさ程のゲームカセットはもう存在していない。

 いや、存在すること自体がおかしい。

 超常が起きるずっと前、“昭和”と呼ばれる時代のゲームならいざ知らず、“平成”になってから、ゲームカセットはどんどん小型化していき、SDカード並みの大きさになって行った。

 だから、そんな大きさのゲームカセットなんてありえないんだ。

 三好視矢がどういうことなのかと混乱していると、目の前の敵はゲームカセットのボタンを押す。

 

《マイティアクションX!》

 

 そんな音声と共に辺りの風景が一瞬デジタル化し、元通りになる。

 何が起きたか判断できなかったが、何かまずいという事はシロウトの三好視夜でも判断できた。

 

「グレード2・・・・・・変身!」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティー! アクショーン! X!!》

 

 そんな音声と共に目の前の敵の姿が変わる。

 知識を持つ者にはすぐにそれが何なのかが判別できただろう。

『仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル2』であると。

 前世で特撮を見ずに、ゲーム一筋で生きてきた三好視夜であったが、目の前の敵の姿をどこかで見た事はあった。

 だが、思い出せなかった。

 ゲームセンター等で見たハズなのだが、当時は興味が無く、手を付けていなかった為、仮面ライダーに繋げることが出来なかった。

 

(今、どんな音が鳴った? マイティアクションXだと!? どういうことだ・・・・・・? マイティアクションXは“マイティ”がお菓子の国を冒険するゲームのハズだ。あんな姿になるゲームじゃない・・・・・・! だが、あの姿はどこか“マイティ”に似ている。・・・・・・どういう事なんだ!?)

 

 判断が出来なかった。

 いや、これほど少ない情報で判断しろという方がおかしい。

 それでも三好視夜は諦めなかった。

 ゲーマーとして、諦めるわけにはいかなかった。

 

「お前は特別に必殺技で終わらせてやろう」

 

「そうかよ」

 

 ゲンムはガシャットを抜き、キメワザスロットホルダーに差し込む。

 

《ガッシューン! ガシャット! キメワザ!》

 

 ゲンムの足にエネルギーが収束しだす。

 それを見た三好視夜は瞬時に理解できた。

 それが、喰らったら本当にマズイものであると。

 だが、逃げるには時間がなさ過ぎた。

 

《MIGHTY CRITICAL STRIKE》

 

 くり出されるキック。

 どんな射線で来るのか、どんな攻撃なのか、三好視夜には全て見えていた。

 でも、避けれる攻撃ではなかった。

 三好視夜の意識は一瞬で刈り取られる事となったのだった。

 仮面ライダーゲンム・・・・・・いや、龍牙(りゅうが)幻夢(げんむ)は目の前に倒れ伏す三好視夜を見ながら変身を解除する。

 そして、さっさと初期地点・・・・・・つまり、会場まで歩を進めた。

 

(“学校”じゃまだ使えないからな。こういうところで練習しとかないと・・・・・・。さて、俺はどんどんこの力に慣れて言っているぞ。お前はどうだ? “機鰐龍兎”)

 

 王蛇幻夢は宿敵になるであろう“自分以外の仮面ライダー”の事を思いながら不気味に笑うのだった。

 




キャラ設定

龍牙(りゅうが) 幻夢(げんむ)
身長:170cm
体重:65kg

雄英高校ヒーロー科1年B組の生徒。
学校での立ち位置は変化型の成績優秀生徒。
本気を出すことなく学校生活を過ごしている。
機鰐龍兎を(勝手に)ライバル視しており、いつか全力で戦いたいと思っている。
個性:『ヒーロー』
中身は、機鰐龍兎の個性の二番煎じである。察せ。
機鰐龍兎と何かしら関りがあるようだが、詳細は不明。
口は悪く、面倒くさがりだが、面倒見が良い性格で、苦労を抱え込んでしまうクセがある。
そのせいで最近では胃に穴が開き出している。
鈴科(すずしな)百合子(ゆりこ)との関係は幼馴染兼同居人。


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短編⑥ 『模擬市街地演習』

1話の裏話。


 緑谷出久が0P仮想(ヴィラン)をブッ飛ばしたと同時刻。

 他の演習場でも、0P仮想(ヴィラン)が出現し、暴れていた。

 そして、そんな脅威に緑谷出久以外にも飛び出した者がいた。

 

 

 

 

 

 

 鈴科百合子は率先して仮想(ヴィラン)を倒すことなく、襲い掛かってきた個体を吹き飛ばして終わらせていた。

 そして、そろそろ演習終了という所で大きな地響きが鳴り響いた。

 震源地らしい方を見ると、ビルよりも高く、日の光を簡単に遮る程大きな仮想(ヴィラン)がいた。

 

(なンだ。アレが0P仮想(ヴィラン)ってヤツか。つまンねェな。“この程度”かよ)

 

 鈴科百合子は0P仮想(ヴィラン)を見据えながらその場から一歩も動かない。

 周りには慌てて逃げる受験者たち。

 そして、その中の一人が一歩も動こうとしない鈴科百合子に近付き、言う。

 

「どうした!? 何で逃げようとしないんだ!?」

 

「あン? 逃げる意味なンてねェからに決まってるだろォがよ。そンな事もわかンねェのか? オマエ」

 

 鈴科百合子はそう言いながらも0P仮想(ヴィラン)から視線は動かさない。

 話しかけた受験者は少女が何をしようとしているのかが分からず、少女の雰囲気に押され、その場を足早に去って行った。

 周りにはもう、人っ子一人いない。

 そんな中でも鈴科百合子はピクリとも動かない。

 そして、その背中に複数の竜巻が現れた。

 唐突に、何の前触れもなく。

 それだけではない。

 竜巻が現れた時には、鈴科百合子は辺りに爆風をまき散らしながら0P仮想(ヴィラン)へと突撃していた。

 その少女の拳は強く、硬く握られていた。

 飛び出した理由は簡単なモノである。

 それが邪魔だったから。そして、このまま進まれたら他の受験者に被害が及ぶかもしれないから。

 だから、これ以上進ませないようにするために飛び出したのだ。

 

「悪りィが、こっから先(・・・・・)は一方通行だ! 侵入は禁止ってなァ! さっさと俺の拳を喰らって修繕不可能なスクラップになりやがれェ!!」

 

 鈴科百合子の拳が0P仮想(ヴィラン)に叩き込まれる。

 すべてのベクトルを操作してくり出された拳は、いとも簡単に0P仮想(ヴィラン)を破壊した。

 鉄でできているハズの0P仮想(ヴィラン)がまるで紙でできているかのようにあっさりと。

 

 

 

 

 

 

 龍牙幻夢は本気を出すことなく仮想(ヴィラン)を撃破していた。

 その手にはガシャコンバグヴァイザーが装備されており、ビームガンモードやチェーンソーモードを駆使して仮想(ヴィラン)を難なく倒していた。

 そろそろ演習時間終了という時に地響きが鳴り響く。

 原作知識のある龍牙幻夢はその地響きが何なのかなんて容易に想像できた。

 だからこそ、音のした方へと視線を向ける。

 ここには、当たり前だが、巨大な0P仮想(ヴィラン)がいた。

 周りの受験者たちは泣きながら逃げる者や、腰を抜かして四つん這いになりながら逃げる者、中には恐怖のあまり動けない者すらいた。

 龍牙幻夢は大きなため息を吐いてから、ガシャコンキースラッシャーとガシャットを取り出す。

 そして、

 

《マキシマムガシャット! カミワザ!》

 

 ガシャコンキースラッシャーの銃口にエネルギーが収束する。

 あまりにも強大で、あまりにも圧倒的なエネルギーが。

 そして、ガシャコンキースラッシャーのトリガーが引かれる。

 

《GOD MAXIMUM MIGHTY CRITICAL FINISH》

 

 ガシャコンキースラッシャーの銃口から放出された高エネルギー光線が0P仮想(ヴィラン)を襲う。

 エネルギーの余波は辺りの建物にも影響を及ぼし、ビルの窓ガラスが割れ、砕け散った。

 エネルギー光線が収まった頃には、0P仮想(ヴィラン)の姿はそこに無かった。

 そう、あまりのエネルギー量に消し飛んでしまったのだ。

 

《神の一撃!》

 

 龍牙幻夢と0P仮想(ヴィラン)の直線状にあった雲は吹き飛び、太陽が覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 白神神姫はカロリーメイトを食べながら模擬市街地を飛ぶ。

 あらかた、仮想(ヴィラン)を倒したところで大きな影が動くのを見た。

 神の生まれ変わりであり、原作知識なんて一切ない、それどころか自分の転生した世界がどんなモノなのかも一切知らない。

 そのため、その影が何なのか一切分からなかった。

 プレゼント・マイクの説明時も、机に突っ伏してイビキをかいていたのだ。

 それが何なのかそもそも知れたはずもない。

 あの機鰐龍兎も、プレゼント・マイクの説明があるから大丈夫だとタカを括っていたぐらいなのだから。

 この事実を知れば誰だって、「アホか!」ぐらいのツッコミを入れるだろう。

 0P仮想(ヴィラン)が何なのか分からない白神神姫だったが、その姿を確認した時にキラキラと目を輝かせた。

 

(あれだけおっきくて凄そうなロボットだったら絶対にポイントがたかいよね? たっくさんポイント取ったら褒めてくれるかな? ナデナデしてくれるかな? ギュッと抱きしめてくれるかな?)

 

 白神神姫を支配していた感情は、“とある少年”に褒めてもらえるかどうかしかなかった。

 もしも、白神神姫に犬の尻尾が付いていたなら、ブンブンと振られていたであろう。

 少女にとって、少年はそれだけ重要な存在なのだ。

 白神神姫は0P仮想(ヴィラン)の前に降り立つ。

 そして、目を瞑り、静かに唱える。

 

「我が右手には雷鳴。我が左手には竜巻。この二つは混ざり合い、新たな天災を生み出す。・・・・・・・・・吹き荒れろ! 『ブレイクストーム』!!」

 

 白神神姫の手を中心に発生していた竜巻と雷が合わさり、強力な破壊力を持つ攻撃となって0P仮想(ヴィラン)を襲った。

 自然災害そのものを凝縮した攻撃は人工物である0P仮想(ヴィラン)なんか簡単に破壊し、バラバラのボロボロにした。

 だが、自身のエネルギーの事を考えていなかった白神神姫はエネルギー切れにより、その場に倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 教師陣は唖然としていた。

 緑谷出久が0P仮想(ヴィラン)をブッ飛ばし、救助活動P(レスキューポイント)で60Pをその場で速審査したと同時に、別演習場で0P仮想(ヴィラン)が吹き飛ばされたのだ。

 0P仮想(ヴィラン)をブッ飛ばしたのには変わりないのだが、三人ともその印象が大きく違った。

 一人は、後ろの受験者を気にしながら。

 一人は、まるで虫を潰すかのように。

 一人は、目を輝かせながら楽しそうに。

 その為、救助活動P(レスキューポイント)を多くとれたのは鈴科百合子だけだった。

 白神神姫に関しては、周りへの被害何か気にしていなかった為、ロクにポイントはもらえなかった。

 




作者としては鈴科百合子(の元になったキャラ)が個人的に好きです。はい。


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短編⑦ 『転生者の物語 龍玉編』

ファウスト幹部は一人一人がバチクソ強いけど、突飛抜けている部分が全員違うため、誰が一番強い、というものはない。
ただ、その中でも“リムル”は一つ頭抜けて強い。


 龍玉(りゅうぎょく)悟雲(ごうん)は転生者である。

『ファウスト』という組織に所属し、そこで幹部をしているが、そこでの仕事はあまりない。

 同じ幹部である賢王雄や紅華火はしっかりと仕事を持っているのだが、龍玉悟雲は何もないため、ただただ自堕落な生活を送っている。

 たまに、放浪癖のある幹部“リムル”を探すために海外へ出ることもあるが、今まで一度も出会えたことは無い。

 それでも、それ以外に仕事をもらえた例がないため、全力で取り組んではいる。

 だが、1ヶ月間丸々休みな事が多いため、その間は、のんびりしているか、修行しているかのどちらかだ。

 それでも、急遽仕事が入ることはある。

 例えば、同じ転生者仲間である、“威厳(いげん)星汰(せいた)”と修行中にもそれは起こる。

 だが、先に“威厳(いげん)星汰(せいた)”の説明をしておこう。

 彼は龍玉悟雲の友人で、出会いは中学生の頃。

 二人は別クラスの同級生で中学入学から半年後に出会った。

 偶然廊下で顔を合わせただけなのだが、それだけで二人は相手が転生者であると確信した。

 そして、その日の内に話をして交友を深めた。

 威厳星汰はキッチリとした性格でのんびり屋の龍玉悟雲は正反対に思われるかもしれないが、二人には大きな共通点があった。

 それは、ネーミングセンスである。

 威厳星汰の個性名は『ベジータ』なのだ。

 そう、龍玉悟雲が自身の好きなキャラ名を個性名にしたように、威厳星汰も自身の好きなキャラ名を個性名にしたツワモノである。

 しかも、あの『ベジータ』だ。

 龍玉悟雲と気が合うのも当然と言えるだろう。

 二人は、孫悟空とベジータの関係と違い、龍玉悟雲と威厳星汰はとても仲が良い。

 お互いフリーな日は一緒に出掛けたり修行をしたりなど、休みを謳歌している。

 ここまで長々とどうでもいい事が語られていたが、話は本編に戻る。

 二人は修行中に襲われた。

 龍玉悟雲からしたら、それはたまったモノではない。

 数日前に神野で激しい戦闘を行い、その後処理に追われ、やっと得た休みだったのだ。

 なのに、襲われた。

 しかも、相手はまさかの転生者(ヴィラン)

 個性が何かなんてすぐに分かっていた。

 その見た目から判断する事なんて容易であった。

 

「個性、『孫悟空』に『ベジータ』か。随分と適当な個性名だなァ。・・・・・・まっ、私の言えたことではないか」

 

 敵はそう言いながら構える。

 見た目は完全に異形型と思われそうな姿だが、それが違うという事は二人は理解していた。

 異形すぎるその見た目、姿、声・・・・・・二人の記憶にしっかりと保管されている存在そのものであった。

 

「そういうオメェの個性名は『セル』ってところか?」

 

「そうだろう。そうでなければあの見た目の説明がつかない」

 

 龍玉悟雲と威厳星汰はそう言いながら構える。

 セルもそれを見て静かに構える。

 二人は直感していた。

 目の前にいる転生者は、本物の“セル”を大幅に超えた力を持っているという事を。

 それが、どれほどのモノかは戦わなければ分からないが、少なくとも通常状態で戦えば殺されるのは確定であった。

 だから、

 

「「ハァア!!」」

 

 二人は『(スーパー)サイヤ人』になった。

 瞬間、戦闘が始まる。

 龍玉悟雲は後ろに飛びながら両手に気を溜める。

 そして、それを一気に放出し続ける。

 その気光弾、一つ一つが人を簡単に殺せるほどの威力を誇る攻撃。

 だが、セルはその全てを弾き、龍玉悟雲に突撃する。

 その速さは尋常ではなく、辺りにソニックブームをまき散らしながら飛んでいる。

 

「まず一発」

 

「俺の事を忘れてもらった困るぜ!!」

 

「なっ! グアァッ!!」

 

 龍玉悟雲に目を取られていたセルは、威厳星汰を軽視していた。

 さらに、それだけではなく、ベジータが個性である威厳星汰が龍玉悟雲を助ける事なんかない、とタカを括っていたのだ。

 それが故の油断。

 転生者がそのキャラそのものと同じ性格ではないという事を失念していたが故の失敗。

 それによる隙を見逃すほど二人は優しくない。

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!!」

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!!」

 

 一瞬の隙を狙って連続で殴り続ける二人。

 だが、その程度の攻撃ではセルに大きなダメージは与えられない。

 

「ぬぅん!!」

 

「グアッ!」

 

「ガアッ!」

 

(スーパー)サイヤ人程度でこの私にかなうとでも思ったかァ」

 

「思って、」

 

「ねぇよ!!」

 

 二人は体勢を立て直すと同時に上へと飛ぶ。

 セルもそれを追って飛ぶ。

 雲の上に到達してから二人は全身の気をより高める。

 

(スーパー)サイヤ人2・・・か。その程度じゃ話にならなァい」

 

 セルはそう言いながら笑う。

 二人はその言葉に答えようとすることなく突撃する。

 ぶつかり合うが、セルは(スーパー)サイヤ人2の戦闘力を持ってすら敵わないほどの力を持っていた。

 

「悟雲! 少し任せた!!」

 

「おう!!」

 

 戦闘から離れる威厳星汰。

 そして、自身の手のひらにエネルギーを集中する。

 そのエネルギーがある一定量を越えた時、それが一気に放たれる。

 

「ギャリック砲!!」

 

 それが放たれた瞬間、龍玉悟雲は瞬間移動で威厳星汰の元まで飛ぶ。

 そして、ギャリック砲はセルに直撃した。

 直撃したのだ。

 なのにセルはケロッとした様子でその場にいた。

 

「フッ、私でなければ簡単に葬り去れていただろうな」

 

 セルはそう言って笑う。

 その体には傷一つなかった。

 龍玉悟雲はそれを見て舌打ちをする。

 威厳星汰のギャリック砲の威力は生半可なモノではなかった。

 それが直撃しても無傷ということは・・・・・・。

 龍玉悟雲はそこまで考え、後ろへ飛ぶ。

 威厳星汰もその後に続く。

 それを見て、セルは不敵に笑った。

 なぜなら、二人の目は恐れを持たず、逃げるという訳ではないとすぐに分かったからだ。

 セルは、二人がどんな打開策を出すのかが気になり見逃したに過ぎないのだ。

 そして、それは龍玉悟雲たちも分かっていた。

 だから、二人は森に降り、辺りの広さをしっかりと確認する。

 

「・・・・・・しっかりと覚えているよな。あと、嫌じゃないよな?」

 

「当たり前だろ。ベジータは嫌がるが、俺は違うからな」

 

 二人は、(スーパー)サイヤ人状態から、通常状態に戻る。

 龍玉悟雲の髪は、(スーパー)サイヤ人になった事による負担でボサボサになっている。

 だが、それを気にすることなく二人は全身の気を高める。

 そして、二人は両手を横に伸ばし、唱える。

 

「フューーーーー・・・ジョン・・・・・・はっ!!!」

 

 二人の指が合わさりあい、辺りに眩い光が散る。

 そして、その光が収まると、そこにいるのは“一人の戦士”であった。

 その戦士はセルに向かって突撃するように飛ぶ。

 

「ほう。“フュージョン”をしたのか」

 

「「ああ、こうでもしねぇとお前には勝てそうになかったからな」」

 

 その言葉を聞いてセルはニヤリと笑った。

 そして、セルは右腕に強大な気攻弾を生み出す。

 瞬間、その気攻弾が放たれた。

 戦士に直撃する気攻弾。だが、戦士はケロリとしていた。

 その戦士の名前は“ゴジータ”。

 二人の力が合わさり生まれた最高の戦士である。

 

「「行くぞぉ!!」」

 

「なっ!」

 

 ゴジータは一瞬でセルに接近し、その体を殴り飛ばしていた。

 たった一発のパンチ。

 それだけでセルは大きなダメージを負ってしまった。

 だが、攻撃はそれだけでは止まらない。

 何度も、連続で叩き込まれる。

 

「ぬぁあ!!」

 

「「うぉっと! よく反撃でしたなぁ」」

 

 ゴジータはあざ笑うようにそう言う。

 それはセルの精神を逆なでするだけモノである。

 セルは全身の気を極限まで高める。

 その気はあまりに凄まじく、大地は揺れ、大気は乱れ、世界各地で異常気象が発生した。

 

「はぁぁあああああああ。さあ、私の力はこの時点でキサマを越えたぞぉ」

 

「「・・・・・・・・・そうか。だが、まだだな」」

 

 瞬間、ゴジータは(スーパー)サイヤ人になった。

 だが、その気はセルにあと一歩届かない。

 それでも、ゴジータは構える。

 静かに、それでいて力強く。

 それを見て、セルは微笑を浮かべながら構える。

 

「はぁあ!!」

 

「「どりゃあ!!」」

 

 ゴジータとセルがぶつかり合う。

 セルの方が圧倒的な気を放っていたにも関わらず、押されていた。

 そこでセルは気づく。

 ゴジータの髪の色が金色から変わっている事を。

 その髪の色が“青色”になっている事を。

 

「なぁっ!!」

 

「「だりゃあ!!」」

 

「ぐああっ!!」

 

 セルはゴジータの気が感じられないことに混乱した。

 あまりに一瞬で『(スーパー)サイヤ人ブルー』になられたため、相手の気を感じて攻撃を予想得していた戦法が使えなくなり、脳が処理に追いつけなかったのだ。

 ゴジータはその隙を逃さない。

 

「「ぅおりゃあ!!」」

 

「ぐふぉぉおおおっ!!」

 

 セルを殴り飛ばし、構える。

 瞬間、ゴジータの手に気が集中する。

 

「「か・・・め・・・は・・・め・・・・・・」」

 

 気の高まりが最高緒になると同時に、ゴジータは両手をセルの方へと突き出し凝縮した気を放出する。

 

「「波ぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」」

 

 放たれるかめはめ波。

 気の嵐が吹き荒れるほどの威力のある攻撃が直撃し、セルは抵抗らしい抵抗が出来ないまま消滅していった。

 ゴジータはセルに勝利したところである事に気付く。

 

「「そういえば、アイツは何で俺を狙ってきたんだ?」」

 

 

 

 

 

 

 血化(けつか)石蛇(せきじゃ)は転生者である。

 普段は『ベアーズ』のリーダーとして日夜慌だたしい生活を送っているのだが、今日だけは優雅にワインを飲みながら高笑いをしていた。

 そこに、黒猫(くろねこ)暗矢(あんや)がどこからともなく現れた。

 

「・・・・・・リーダー。貴方はまだ未成年でしょう。なにアルコールを取り込んでいるんですか」

 

「いいじゃないか。今日ぐらい。・・・・・・『ファウスト』幹部の下に刺客を送ったんだ。しかも、かなり強力なヤツを。ターゲットの名前は何て言ったかな? え~っと・・・・・・、そうだ、龍玉悟雲だ。さすがのアイツでもタダじゃ済まないだろう」

 

 血化石蛇がそう言いながら笑っていると、黒猫暗矢は下を向いて黙った。

 その態度を変に思わない人間はいないだろう。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「その刺客が倒されたと、先ほど報告がありました・・・・・・」

 

「はぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!????」

 

 




キャラ設定

威厳(いげん)星汰(せいた)
身長:183cm
体重:91kg

龍玉悟雲の友人兼部下。
普段はフリーターとしてあっちこっちで働いている。
最近は工事現場での目撃情報が出ている。
性格は真面目で優しいと、“ベジータ”とは確実に別人。
だが、個性名は『ベジータ』
『ファウスト』の幹部になれるほどの実力を持ちながら、幹部にならずに自由な生活を送っている。
神野での事件鎮静化作戦にも参加し、脳無をブチ飛ばしまくっていたが、途中から戦闘ではなく逃げ遅れた人の避難誘導をメインに行っていた。
趣味は、釣り。
今までの人生であった不幸、ビンゴゲームでまさかの12リーチで終了。


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短編⑧ 『転生者の物語 紅編』

今回の短編は軽いネタバレが含まれます。
それが嫌だという人は読むことを止めてください。


 (くれない)華火(かほ)は転生者である。

 今回は、彼女の過去と現在の彼女について語ろうと思う。

 “中村(なかむら) 実余(みよ)”。

 それが彼女の前世の名前である。

 彼女には「お兄ちゃん」と呼び慕っていた“大宮(おおみや)さとし”という少年がいた。

 大宮さとしは気さくな中学生で、小学校低学年の中村実余からしたら少年は大の大人に見えた。

 両親が共働きで一人っ子だった中村実余は大宮さとしと一緒にいることが何よりの楽しみであった。

 彼は“仮面ライダー”が好きで、よくその話をしていた。

 中村実余は仮面ライダーの話をする大宮さとしの顔が、明るく楽しそうな表情が大好きだった。

 ただ、少女は少年に行っていない秘密があった。

 おとなしく、友達と言える存在がいなかった中村実余は学校でイジメられていた。

 クラスメイト全員に暴言を吐かれ、時には殴られ、時には物を壊され、クラスであった問題の責任を全て押し付けられていた。

 担任も見て見ぬ振りをするどころか、率先して少女をイジメていた。

 心身共にボロボロで、働き詰めの親に相談できなくて。

 そんな少女の唯一の楽しみが大宮さとしと一緒にいる時間だった。

 夕方、日が傾き出してから日が沈むまでの短い時間。

 あまりに楽しく、刹那にも感じるほど短く美しい時間。

 それがあったからこそ中村実余の心が折れることなく日常を歩めていたのだ。

 だが、楽しい時間はいつまでも続かない。

 エスカレートしたイジメはついに少女の命を奪ったのだ。

 それは、小学校入学から僅か半年後の出来事であった。

 進級するどころか、年を取ることなく死んだ。

 享年6歳。

 7歳の誕生日まであと一週間の所であった。

 そして、少女は転生した。

 新しい世界での家族は優しく、少女を大切に育てた。

 父親は厳しくも真面目で、母親は優しく柔和。

 そんな二人に育てられ、紅華火はすくすくと育った。

 二人の個性は平凡なモノで、紅華火の個性とは一カスリもしていない。

 親は突然変異(ミューテーション)であると考えた。

 そして、彼女の生きたいように、好きなような人生を歩ませていきたいと考えた。

 だから、紅華火は有名校で学び、知識を得た。

 だから、紅華火は親の土地の中で個性の訓練をした。

 だから、紅華火は『敵同盟(ヴィランどうめい)』に所属した。

 そんな彼女は自身の行く道を転生前から決めていた。

 彼女には、核心に近い直感があった。

 大好きなお兄ちゃん、“大宮さとし”もこの世界に転生してくると。

 だから、その為に鍛え続けた。

 いつか必ず現れる少年の力になる為に。

 そして・・・・・・、

 

「これ、あげるね。お兄ちゃん」

 

 彼女・・・いや、少女は“お兄ちゃん”に会えた。

 そして、お兄ちゃんの力になれた。

 お兄ちゃんに“力を渡せた”。

 

「紅・・・・・・ありがとう」

 

 その言葉は彼女にとって何よりも、どんな言葉よりも嬉しいものだった。

 だから、紅華火は微笑む。

 強く、優しく、そして優雅に。

 炎は移り変わる。

 まるで、聖火の如く。

 彼女の火は少年に燃え移る。

 そして、より強く燃え上がるのだった。

 




不死鳥は死なない。
その火が途絶えることは無い。


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短編⑨ 『転生者の物語 黒猫編』

『ベアーズ』内ナンバーワンの苦労人の話。


 黒猫(くろねこ)暗矢(あんや)は転生者である。

 普段は『ベアーズ』のリーダーである血化(けつか)石蛇(せきじゃ)の秘書をしているが、最近は駅前のおしゃれな喫茶店で働いている。

 敵対組織である『ファウスト』の経営しているカフェよりは人気のある所で、黒猫暗矢はせっせと働く。

 数日前の事だ。

『ベアーズ』は『ファウスト』の幹部である“龍玉悟雲”を抹殺するために刺客を雇ったのだ。

 だが、かなりの金をふんだくられた為、活動資金が尽きかけているのだ。

 それだけじゃない。

 大金を支払ったのに、その刺客は龍玉悟雲とその部下に破られてしまったのだ。

 そう。

 大切な活動資金をドブに捨てたも同然である。

 結果、黒猫暗矢含め『ベアーズ』のメンバーは―――リーダーである血化石蛇も―――アルバイトに明け暮れている。

 黒猫暗矢も複数のアルバイトを掛け持ちで一日の睡眠時間が半分になっていた。

 今までは一日一時間も寝ていたのに、一日三十分しか寝れていないのだ。

 朝は新聞配りを。

 昼は駅前のカフェで。

 夜はコンビニの深夜店員。

 そんな生活が続いている為、さすがの黒猫暗矢も疲れていた。

 さすがの黒猫暗矢も、こんな生活ではいつかは倒れてしまうだろう。

 そもそも、活動資金だって『ファウスト』と戦うために貯蓄していたのであって、その資金を稼ぐために疲労で倒れて戦えなくなれば本末転倒である。

 その為、この日は朝6時から深夜3時までの約21時間も休みを取ったのだ。

 黒猫暗矢以外の『ベアーズ』メンバーも各自しっかりと休憩の日は作っている。

 ただ、『ベアーズ』幹部の一人である“軍長(ぐんちょう)身武(しんぶ)”に至っては、毎度何かしら問題を起こして速攻でクビになっている。

 アイツは何をしているんだ、と黒猫暗矢も頭を抱えた。

 軍長身武は『ベアーズ』幹部の中で一番の短気者で脳筋。

 組織内の人間ともよくぶつかっている奴なのだ。

 そんな奴がアルバイトなんぞ長続きするハズもなく、最近では人と関わらない仕事として、トラックの運ちゃんをしている。

 そんなことはどうでもいいと流すとしよう。

 黒猫暗矢は今、問題に直面している。

 それは、

 

「警察とヒーロー共に言う! コイツが殺されたくなければ金と逃走用の車を用意しろ!!!」

 

 (ヴィラン)によって人質にされているのだ。

 平和の象徴(オールマイト)の引退によって今まで押さえつけられていた者たちが暴れるようになった。

『ベアーズ』もそうなのだが、まさか、(ヴィラン)(ヴィラン)に人質にされるとは誰も思わないだろう。

 事実、普段から慎重な黒猫暗矢もこうなるなんて予想していなかった。

 だから、黒猫暗矢はただひたすら救出されるのを待ち続けた。

 問題を起こして警察やヒーローにマークされようものなら今後の身の振り方が難しくなるのだ。

 昼夜問わず働き尽くめの男なんて怪しまれないハズがないだろう。

 それに、住所不明・年齢不明・戸籍不明・個性不明で偽造身分証明書を持っている時点でマズいのだ。

 警察に保護されたとしても確実に別件で捕まってしまうだろう。

 最善手としては(ヴィラン)の目を盗んでこの立て籠もり現場から逃げる、というモノだろう。

 黒猫暗矢は縛られた状態で辺りを確認する。

 実行犯は4人。

 話しぶりからしてサングラスを掛けている人物が主犯。

 全員発動型。

 黒猫暗矢が本気を出せば全員1秒で殺害可能。

 だが、このような事態を想定していなかった為、武器と言える武器を持っていない。

 小さな果物ナイフ一つだけでは全員を殺害するのは難しい。

 1.3秒は掛かってしまうだろう。

 黒猫暗矢はそれを考え、深いため息を吐く。

 そして、(ヴィラン)の視線が全て黒猫暗矢から外れると同時に、果物ナイフで自身を縛り付けていたロープを斬り裂く。

 そして、その場から瞬時に走り去る。

 その速さは人間の目で追えるスピードではなく、(ヴィラン)どころか人質を救出しようとしていた警察・ヒーロー側も黒猫暗矢を見失った。

 その後、人質がいなくなった(ヴィラン)はあっさりと確保された。

 警察は人質の捜索もしたが、結局見つかる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

『ベアーズ』基地内にある小綺麗な喫茶店で黒猫暗矢は優雅に紅茶を飲む。

 残りの休み時間はもうわずかになっている。

 だからこそ、次の仕事の為にリラックスしているのだ。

 そこに、2メートルはある大男がドシドシと入って来た。

 

「ハァ・・・・・・。また何かやらかしたのですか? 軍長(ぐんちょう)身武(しんぶ)

 

「あ? 違ぇよ。未成年の癖して『タバコ売れ』『酒売れ』とうるさいクソガキがいたから少し殴っただけなのにクビになったんだよ」

 

 イライラした口調でそう言う軍長身武。

 その言葉を聞いて黒猫暗矢は深く大きなため息を吐いた。

 

「君の怒っているポイントはまだわかる。だが、対応が悪いんだ。相手がどんなゴミクズであろうと、こっちが店員で、相手が客ならそれ相応の対応をしなければいけないだろう。ボロクソに言いたいならオブラートに包んで遠まわしに言うとかね・・・・・・」

 

「そんな回りくどい方法何ぞ駄目だろう。正面突破で行かなくちゃ」

 

 そう。

 軍長身武は直進性のあるバカである。

 下準備や計画など一切立てず突撃する性格なのだ。

『ファウスト』壊滅作戦に関しても、

 

「基地に乗り込んで一斉攻撃して潰せば良くね?」

 

 と言ってのけたぐらいなのだ。

 だが、それでも裏表のない奴なのだ。

 黒猫暗矢は適当に紅茶を入れて軍長身武に差し出す。

 

「君も疲れただろう。しばらく休もう」

 

 黒猫暗矢は優しく微笑みながらそう言った。

 軍長身武はそれを受け取って一気飲みをし、舌を火傷したという。

 




キャラ設定

黒猫(くろねこ)暗矢(あんや)
身長:198cm
体重:73kg

『ベアーズ』で秘書をしている転生者。
苦労人で気分屋の“血化石蛇”に振り回されている。
そのせいで、20代でありながらいくつか白髪があり、黒く染めてる。
個性:『【NO DATA】』
ただし、ワンピースに関するものだという事だけは分かっている。


軍長(ぐんちょう)身武(しんぶ)
身長:248cm
体重:147kg

『ベアーズ』の幹部。
バカだが裏表がなく普段は真面目。
だが、戦闘になるとそれがすべて一転し、凶悪で残忍な本性が出てくる。
アルバイトをクビになるまでの最短時間、5分。
なお、その記録は日に日に更新されて行っている。
個性:『【NO DATA】』
ただし、ワンピースに関するものだという事だけは分かっている。


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短編⑩ 『転生者の物語 魔物編』

究極クラスにネタバレが含まれています。
それが嫌な方は読まないことを推奨します。


 魔物(まぶつ)(さとる)は転生者である。

 超常発生時期に生まれた魔物悟はオール・フォー・ワンが活躍しだした時から生きている。

 そんな彼の話をしよう。

 超常が発生し、表向きは混乱が収まりだした時代の話を。

 

 

 

 

 

 

 超常黎明期。

 社会がまだ“個性”という変化に対応しきれておらず、混乱渦巻く社会の裏でそれをまとめ上げた存在、オール・フォー・ワン。

 悪魔とも魔王とも呼ばれる男が活躍していた時代。

 魔物悟は・・・・・・え? ちょ、ちょっと待て!! 分かったから!! ゴメンって!! ちゃんと通り名で呼ぶようにするからさ!! ゆる、許しt・・・・・・、

 

 

 

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

 

 

 

 魔物悟改め、“リムル”は街を散歩していた。

 その体は流線的な洗練されたスタイルで、ぷにぷにとしている。

 そう、スライムである。

 彼は前世で『転生したらスライムだった件』を毎日楽しく読んでいた。

 他にも色々な作品を呼んでいたのだが、その中でも『転生したらスライムだった件』がリムルの心をガッシリと掴んでいた。

 つまらない日々に光が戻っていた。

 だからそれを切っ掛けに様々な作品に手を出した。

 暗く沈むような日常に輝きが出てきた。

 そんな時、偶然『僕のヒーローアカデミア』を知り、その作品へものめり込んでいった。

 だが、そんな楽しみは長く続かなかった。

 それは事故だった。

 不幸な事故。

 過積載車の起こした事故だった。

 出張で県外に向かっている途中の事であった。

 近年問題になっていたヤツだったのにまだやってるところはやっているからなぁ~。

 あんな事故とか起きているのに未だにやっている所はやっているからな。

 コストカットの為だという事は理解できるがやめて欲しいものだ。

 っと話が反れた。

 こうしてリムルは死に、主神によって転生のチャンスを与えられた。

 最初は『転生したらスライムだった件』の世界に転生でもしようと考えたが、リムルは『僕のヒーローアカデミア』の世界が気になった。

 完結した作品と完結していない作品。

 結局、リムルは『僕のヒーローアカデミア』を選んだ。

 個性名は『魔王』を名乗っているが、実際の個性名は『リムル=テンペスト』である。

 どんな個性かは名前のまま。

『リムル=テンペスト』の肉体、スキル。その全てを我が物としている。

 その為、普段はスライムの姿で生活している。

 だが、たまに人の姿になって遊んだりもしている。

 生まれてから捨てられ、それから一人で生きてきたリムルは時代の移り変わりを見続けていた。

 超常発生から数十年が経過した。

 世の中は表向きはヒーローが守っていた。

 だが、裏ではオール・フォー・ワンが着々と自身の力を付けて行っていた。

 そんな世界情勢の中でもリムルは特に何もしなかった。

 やっていた事としたら、TVを見ながらポテチ食べてゴロゴロするぐらいである。

 それなのにこの日はどんな気まぐれか、散歩をしていた。

 プニプニピョンピョンと跳ねている。

 

「ふんふ ふんふ ふ~ん♪ 僕は悪いスライムじゃないよ~♪」

 

 とオリジナルの即興ソングを歌いながら楽しそうに。

 だが、散歩をしている場所はそんな呑気な歌が似合うようなところではない。

 名称は様々であるが、もっとも多い呼び方として『異端者のスラム街』と呼ばれる場所だ。

 このスラム街に住んでいる者は大多数が、個性の異常性のせいで社会に溶け込めない者なのだが、残りはオール・フォー・ワンに忠誠を誓った者である。

 ただ、オール・フォー・ワンと関りのある者たちの中にはやはりと言えばいいのか、調子に乗って強気になり問題を起こす輩もいる。

 それでも、スラム街を支配している“ZERO(ゼロ)”が許してしまっている為、ここに住んでいる者は文句が言えないでいる。

 リムルもこのスラム街に住んでいるが、見た目が異端過ぎて仲の良い人物はほとんどいない。

 ちなみに、スラム街では『姿を変える個性』であると話が通っている。

 

「よぉ、魔物じゃないかぁ」

 

 そう声をかけてきたのはこのスラム街で“ZERO(ゼロ)”の次に顔をきかせている“オッチャン”だった。

 本名は不明。

 リムルの事を異端の中の異端だと決めつけ石を投げる者を叱責し、リムルを本当の息子のように可愛がってくれている人物である。

 “オッチャン”は超常発生から10年後に生まれた世代で、個性があるがゆえに親に捨てられた人物でもある。

 個性『蟹鋏(カニバサミ)』。

 左手が大きなカニのハサミになっている。その力は凄まじく、その手で防げばグレネード弾でも一切のダメージを受けず、その鋏で挟めば大抵の物は破壊可能。

 生まれる時代がもう少し遅ければプロヒーローになれるほどの実力の持ち主だ。

 ちなみにだが、リムルは超常発生最初期に生まれた世代で、リムルの方が年上である。

 

「オッチャンから俺に話しかけてくるって事は何か問題でも発生したのか?」

 

「何でそう思う?」

 

「オッチャンが話しかけてくるのは、イタズラをした時か、いい仕事があって給料が入った時か、問題が発生した時だけだ」

 

 リムルが面倒くさそうにそう言うと、オッチャンは「ガッハッハッハ」と豪快に笑った。

 

「お前には敵わないなぁ」

 

「・・・・・・それで、何があった?」

 

「スラム街に住んでいる子供たちが誘拐されて放置される事件が発生した」

 

 オッチャンのその言葉にリムルはスライム体で無いはずの眉を顰める。

 スラム街で出会い、結婚し、子供と生活している者は多い。

 出産の際も、スラム街に住んでいる闇医者の下で出産する為、意外とリスクは少ない。

 そんな子供は親の個性が混ざり合い、強い個性を持って生まれる者が多い。

 話を聞くと、そんな子供が誘拐され、数時間後に発見される。

 だが、その時には個性が使えなくなっているという。

 中にはより強い個性を持って発見される子供もいるらしい。

 それでも、数割だが帰ってきていない子供もいる。

 

「それで? オッチャンは何が言いたいの? 俺に解決しろとでも?」

 

「違う違う。お前も子供なんだから気を付けろって事だ」

 

 オッチャンはそう言ってゆっくりと立ち上がった。

 体格の約3分の1以上はあるカニの腕のせいで座る・立つだけでも一苦労なのだという。

 

「それじゃ、俺にはここら辺の警備があるから」

 

 そう言い残すとフラフラとスラム街中心部へと歩いて行った。

 リムルはそれを見送ってからその場を離れる。

 今回の事件の大まかなところから裏で糸を引いているものの存在まで全て把握したのだ。

 そして、もうこのスラム街に居られないという事も理解する。

 そもそも、転生者であり強者であるリムルが同じ場所に長居するのは得策ではない。

 このスラム街には長く住み過ぎた。

 そう。リムルは旅に出ることを決めたのだ。

 リムルは柔らかくスライムスマイルを浮かべると同時に人間に擬態する。

 その姿は劇中の『リムル=テンペスト』の姿そのものである。

 つまり、幼児体系である。

 狙われるには絶好の姿だろう。

 だって、ほら。

 もう誘拐されたから。

 あまりにも雑でため息が出そうになる誘拐方法にリムルは頭を抱えた。

 後ろから襲って大きな袋で包むとかどんな時代劇だよ、と。

 それでも一切抵抗をせずにされるがままに誘拐された。

 しばらくすると、雑に下ろされた。

 

「旦那。連れてきましたぜ」

 

 リムルの前にいる人物は腰かけていた椅子からゆっくりと立ち上がった。

 素顔でまだ生命維持装置を付けていない。

 そう。オール・フォー・ワンだ。

 

「君か。あのスラム街で有名な子供は」

 

「どうも。・・・・・・有名になった覚えは無いけどね」

 

「君、ずいぶん強い“個性”らしいじゃないか。そうだい? 僕の下で働く気はないかな? こんな小汚いスラム街よりも良いところに住めるし、沢山お金も他に入るよ」

 

 オール・フォー・ワンの言葉を聞いてリムルは悟った。

 

(ああ、コイツは俺を本当に子供だと思っているな)

 

 と。

 そうと分かればやれることは意外に多い。

 

「断ったらどうなる?」

 

「さあ? それは君次第だよ。僕なら君の願いを叶えることもできるし、君に力を与えることもできる」

 

 この時代のオール・フォー・ワンは勢力拡大に動いていた。

 自身の弟・・・・・・初代ワン・フォー・オールに力を与え、初代がその力を紡ぎ出した時代でもある。

 それを面倒臭く思ったオール・フォー・ワンが手駒をより増やそうとしているのだろう。

 

「そうか。・・・・・・所で聞きたいんだが、スラム街での誘拐事件の黒幕はお前でいいんだよな?」

 

「ん? そうだけど?」

 

「だったら、選択できる答えはこれだけだな」

 

 リムルが右手を上に上げると、そこに黒い炎の弾が発生する。

 

「スキル『黒炎』!!」

 

 腕が振るわれ、黒炎がオール・フォー・ワンを襲った。

 だが、直撃したにもかかわらずオール・フォー・ワンは無傷であった。

 

「ふむ・・・・・・君の個性は『姿を変える』ものではなかったのかな?」

 

「残念! そんなのおまけだよ!!」

 

 リムルはそう言ってオール・フォー・ワンに向かって突撃する。

 オール・フォー・ワンは面倒くさそうに右手をリムルの方へと向ける。

 瞬間、そこから幾百もの、幾千もの炎の弾が放出された。

 リムルの視界が隙間のない炎の壁に埋め尽くされる。

 だが、“その程度”では慌てない。

 

「喰らい尽くせ! 暴食之王(ベルゼビュート)!!」

 

 瞬間、リムルにぶつかる軌道だった炎が全て掻き消えた。いや、“食われた”。

 それを見てオール・フォー・ワンは驚愕する。

 目の前にいる子どもの個性がどのようなモノか分からない。だが、それが今現在自身(オール・フォー・ワン)の持っているどの個性よりも強いことは理解している。

 だからこそ、その個性を「欲しい」と思った。

 これから先、リムルの個性が役立つと判断したオール・フォー・ワンはその個性を奪おうとした。

 だが、リムルはそれを許さない。

 リムルの手には一振りの刀が握られていた。

 そして、その刀には黒炎が纏われている。

 それを見たオール・フォー・ワンは直感的にマズイと判断する。

 その直感を信じ、オール・フォー・ワンは前転するかのように体を屈め、リムルの攻撃を避けた。

 瞬間、先ほどまでオール・フォー・ワンが座っていた椅子が真っ二つに斬り裂かれた。

 そして、黒い炎に包まれて消える。

 

「避けるな! 水刃!!」

 

 リムルの手から細く薄く圧縮された水の刃が飛び出す。

 岩をも斬り裂くほどの威力のある攻撃。

 だが、それも避けられてしまった。

 

「クッ・・・・・・。どうやら、今の僕では分が悪いみたいだね」

 

「知るか!! このスラム街にちょっかい出しやがって!! 腕一本ぐらい貰わねえと割に合わないんだよ!!」

 

 リムルはそう言いながら突撃する。

 だが、

 

「ここは君に任せよう。“ZERO(ゼロ)”」

 

 オール・フォー・ワンがそう言った瞬間、リムルの目の前に3メートル近くある巨体の男が現れた。

 そう、このスラム街のトップの“ZERO(ゼロ)”である。

『鋼鉄の肉体』という個性で、大型トラックにぶつかられても無傷。さらに攻撃力も異常で、銀行の金庫を拳1つで破壊したという逸話すらある。

 だが、そんなの相手ですらなかった。

 

「邪魔だぁああ!!」

 

 リムルは“ZERO(ゼロ)”の顔面を思いっきり蹴飛ばす。

 そして、再度、刀に黒炎を纏わせ、“ZERO(ゼロ)”を結界で閉じ込める。

 

「黒炎結界連撃!!」

 

 結界によって区切られた空間内が黒炎によって燃やし尽くされる。

 それだけでも致命的なのだが、さらに刀で斬り続けるおまけ付きだ。

 “ZERO(ゼロ)”は一瞬で塵すら残さず焼き尽くされた。

 

「そこまでとはっ!」

 

 リムルをただの子供だと思い油断していたオール・フォー・ワンはその力に驚愕した。

 “ZERO(ゼロ)”は汚れ仕事をさせる為に仲間にし、複数の個性を与えた。

 その反動にも耐えて理性を保てた存在であり、オール・フォー・ワンはかなり優遇していたのだがそれがあっさり殺されたのは痛手であった。

 脱出する時間、ほんの十数秒でも稼いでくれれば御の字だったのだが、それすら叶わなかった。

 ここで目立つのは愚策なのだが、逃げるためには仕方がなかった。

 オール・フォー・ワンは隠れ家の天井を突き破り、スラム街の空を飛んで逃げる。

 だが、リムルはそれを許さない。許すハズがない。

 リムルの背中には蝙蝠の羽が生えていた。

 

「喰らっとけ! 水氷大魔槍(アイシクルランス)!!」

 

 巨大な氷でできた槍がオール・フォー・ワン目掛けて飛ぶ。

 オール・フォー・ワンはその攻撃を紙一重で避けたが、自身が追い詰められていっている事をしっかりと悟っていた。

 このままではいつかやられてしまう、と。

 だから、オール・フォー・ワンはただでさえ目立っているにもかかわらず、より注目される方法を選択した。

 それは、

 

「なぁっ!!」

 

「いくら君でも全力で挑まなければ受け止めきれまい!!」

 

 オール・フォー・ワンは奪った個性内にある発動系個性にある、炎発生・光放出・エネルギー放出等々etc.・・・・・・様々な個性を合わせて強大なエネルギーの弾を生み出した。

 そして、そのエネルギーを“スラム街に向けて”くりだす。

 

「っ!! クッソぉおおおおお!!!!」

 

 リムルはオール・フォー・ワンの攻撃を全力で受け止める。

 暴食之王(ベルゼビュート)で喰らい尽くそうとするが、エネルギー量と質のせいで手間取ってしまった。

 結果、スラム街を守ることはできたが、オール・フォー・ワンは逃がしてしまったのだった。

 リムルはゆっくりとスラム街の中心地に下りる。

 だが、そんなリムルに近付こうとする者はなかった。

 当たり前だろう。

 いきなり生活圏を襲った謎の攻撃を受け止め、消した存在など、敬意の念より恐怖が出てくるのはどうしようもない事だ。

 リムルはその事を気にしない。

 そういうものだと昔から思っていたからだ。

 なのに・・・・・・、

 

「魔物・・・何があったんだ・・・・・・?」

 

 リムルにそう話しかける人物がいた。

 

「オッチャン・・・・・・」

 

「もう一度聞く。何があった? なんでそんな辛そうな顔しているんだ?」

 

「・・・・・・子供を誘拐していたヤツを追い詰めたらヤケを起こされた。そいつは“ZERO(ゼロ)”を裏で操っていた黒幕だ」

 

「なっ!?」

 

「大丈夫。黒幕は追い出したし、“ZERO(ゼロ)”は死んだ。もう大きな問題が起こる事は無いだろうよ」

 

 リムルはそう言って歩を進める。

 

「どこ・・・行くんだよ・・・・・・」

 

「さあね。目的の無い旅だからね。まあ、もう二度度会わないだろうけどさ、今までお世話になったね、オッチャン」

 

 リムルは止めようとするオッチャンを無視してその場から去った。

 そして、言葉の通りスラム街に二度と現れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 リムルは神野区での戦闘を終え、また旅に出た。

 目的なく、ただただ放浪するだけの旅。

 そして、あるヒーローを見つけた。

 

「ふ~ん。そうなったんだ」

 

 そのヒーローは災害救助現場で活躍する“大きなカニの腕”のヒーローだった。

 リムルはそれを見ながらクスクスと楽しそうに、昔を懐かしむように笑い、また歩き出すのだった。

 




「フフッ」

 リムル・・・・・・いや、俺はつい笑ってしまった。
 いや、笑ってしまうのはしょうがないと言えるだろう。
 まあ、それはさておき・・・・・・。

「俺の話をここまで聞いてくれた見ず知らずの君たち、どうだったかな? “俺の語り”は?」

 俺はそう言ってスライムスマイルを浮かべる。

「いつから俺が語り部だったか? 君たちならわかるだろう。それじゃあ、また会おう」


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短編⑪ 『仮免試験前日の事』

ネタが浮かんでは消えて行く・・・・・・orz


「ふぁああああああ! 疲れたぁぁああああああ!!」

 

 切島が変な声を上げながら共有スペースに設置されているソファーに倒れ込む。

 まあ、みんな連日の特訓で疲れているのは事実だ。

 こうやってだらけるのも良いだろう。

 

「まあ、明日が仮免試験当日だし、今日はゆっくり休もうぜ」

 

 俺はそう言いながらもパソコンに向かって“ゲーム”を作る。

 といっても、後は軽くデータを出力するだけなんだけど。

 

「そういえば、機鰐くんは先ほどから何をやっているのかな?」

 

 と質問してきたのは誰であろう? 飯田である。

 

「ん? ゲーム制作だよ。ゲーム制作」

 

「ほう。機鰐くんはサポートアイテムの開発だけじゃなく、プログラミングもできるのか。多様で羨ましい。・・・・・・それで、どんなゲームなんだい?」

 

「戦闘シミュレーションゲーム。1年A組生徒全員のデータを組み込んだ、ね」

 

 俺が何気なくそう言うとめちゃくちゃ反応してきた人物がいた。

 誰であろう? 峰田である。

 

「それってどういう事なんだぁぁあ! まさか、まさか女子のスリーサイズとかもデータ化されているのか!?」

 

 うわっ。気持ち悪い。

 

「あ、あるにはあるけど・・・・・・」

 

「じゃあちょっと見せてくれ!!」

 

「俺も俺も!」

 

 さらっと混ざるな上鳴。

 

「八百万のヤオヨロッパイ!! 芦戸の腰つき!! 葉隠の隠れしスタイル!! 麗日のうららかボディに蛙吹の以外おっぱァァアアア・・・・・・

 

 瞬間、耳郎さんのイヤホンジャックが峰田と上鳴に突き刺さり、俺の拳が二人の顔面にめり込む事となった。

 ふぅ。

 バカが居なくなってようやく静かになった。

 ただ、女子の視線が痛いからしっかりとやましくない説明をしよう。

 

「これはVRを使った本格実戦的シミュレーションゲームで、みんなの個性・身体能力・成長から体重・その他多数。すべてをデータとして入力することでゲーム感覚で特訓できるアイテムなんだ。本当ならもう少し早めに完成する予定だったんだが、立て込んでて遅れたんだよ」

 

 俺がそう説明すると皆の興味が一気にこちらへ向いた。

 あの轟くんですら視線をこっちに向けている。

 

「戦闘はその個性をどれだけ上手に扱えるかも求められるからな。このゲームでその経験値を少しでも稼げたらと思ってたんだよ」

 

 俺が皆の反応に若干引きながらそう説明すると、さっきまで疲れた、とグダグダ言っていた切島がPCの隣に置いていたVRを手に持ちながら言う。

 

「ちょっとやらせてくれよ。滅茶苦茶気になるんだ」

 

「いいけど、これは対戦型ゲームだから相手がいないと起動しないぞ」

 

「じゃあ俺がやる。貸せ、変身野郎」

 

 爆豪がそう言いながらもう一つあるVRをひったくる様に取った。

 オイオイオイ。

 ずいぶんと勝手だなぁ。

 

「一応、専用の“ゲームVRギア”は全員分あるから皆一度にプレイできるけど、やる?」

 

「「「「「「やる!!!!!」」」」」」

 

 皆一気に食い付いて来た。

 

 

 

 

 

 

 ゲームルールはランダムバトルで、勝敗はHPがゼロになるか降参をするかの二つ。

 全員の基礎体力を元にHPを計算している。

 例えば、体力の多い爆豪のHPを[100]とした場合、体力のクソ少ない峰田は[10]となっている。

 さえらに、個性によってダメージも定められていたりする。

 だが、それは不安定なモノで、バランスが崩れているときに効果力の攻撃が来ればより大きなダメージを受けるし、ガードすればダメージを軽減できる。

 まあ、最初は戸惑いも多いだろうが、やって行けばなれるだろう。

 ステージは複数あり、それもランダム。

 ちなみに、プレイしようとしたら丁度相澤先生が来て、今後の課題の為に、と審判をしてくれることになった。

 っと、言う事で第一戦。

 ステージは森の中であった。

 

「・・・・・・おまえかァ」

 

「何だよその反応! もう少しいい反応してくれてもいいだろ!!」

 

 対戦相手は瀬呂だった。

 しばらく前の実戦訓練でボコったばかりなのであまりやる気が出ない。

 

「まぁ、やるか」

 

「だな」

 

 俺はトランスチームガンを取り出す。

 そして、

 

《コブラ》

 

 そんな音声と共に待機音が流れる。

 俺はトランスチームガンの銃口を下へと向けながら、

 

「蒸血」

 

 そう言うと同時にトランスチームガンのトリガーを引く。

 

《ミストマッチ!》

 

 トランスチームガンの銃口から黒い霧が噴き出し、俺の体を包む。

 

《コッ・コブラ・・・コブラ・・・・・・ ファイヤー!》

 

「さァて、この姿で相手してやろう」

 

 俺はそう言いながら腰を落として構える。

 瀬呂は少しイヤそうな顔をした後に体をほぐしてから構える。

 

「ゲーム内だから準備運動とかは必要ないぞ」

 

「いいだろ。気分的なもんだ」

 

「そうか」

 

 俺はニヤリと笑う。

 そして、俺と瀬呂はぶつかり合った。

 瀬呂は肘からテープを出して俺を捕縛しようとしてきた。

 だけど、

 

「前も感じたが直線的過ぎるんだよ!!」

 

 俺はスチームブレードで瀬呂のテープを切りながら突撃する。

 そして、接近と同時に蹴りを繰り出す。

 だが、瀬呂は自身のテープを使い、緊急回避をすることで俺の攻撃を避ける。

 うおっ! 上手いな。

 俺はそう思いながらもトランスチームガンを取り出して瀬呂を撃つ。

 

「痛っ!」

 

「銃火器の存在を忘れちゃぁ駄目だぞぉ」

 

 瀬呂は撃たれた痛みでバランスを崩してしまった。

 フッ。その隙を見逃してやるほど俺は優しくはないぜぇ。

 俺は地面に体を叩きつけた瀬呂に追い打ちを掛ける。

 飛び上がり、回転する遠心力を乗せた踵落とし。

 普通にリアルでやれば簡単に殺してしまう威力があるのだが、ゲーム内であれば大丈夫だ。

 俺の視界内に[GAME CLEAR]の文字が浮かんできた。

 あっさりと終わった。

 そう思うと同時にスッと景色が変わった。

 

 

 

 

 

 

 ステージは体育館。

 次の相手を見た瞬間、少し笑ってしまった。

 こっぱずかしさを隠す笑い。

 いやいや、これはまあ恥ずかしい。

 

「まさか緑谷とだなんてな」

 

「う、うん。僕も驚いてる。二回戦目で機鰐くんとだなんて」

 

 俺たちは後頭部を軽くポリポリと掻いてから構える。

 緑谷は自身の体に力を入れる。

 そう、フルカウルだ。

 俺はそれを見てから腰にアークルを装着する。

 そして、

 

「変身!!」

 

 俺は『仮面ライダークウガ』に変身する。

 

「行くぞ!!」

 

「うん!!」

 

 瞬間、俺たちはぶつかり合う。

 俺と緑谷の拳が真正面から同時にぶつかり合う。

 そして、押し負けた。

 やっべえ。

 予想以上に強かった。

 マイティフォームじゃ普通にパワー負けしてるわ。

 しょうがない。

 

「超変身!!」

 

 俺は速攻で『仮面ライダークウガ タイタンフォーム』へ超変身(フォームチェンジ)する。

 パワーならこれだ。

 超跳から、殴りかかってくる緑谷。

 俺もその攻撃に合わせて拳をくり出す。

 

「なっ!!」

 

「タイタンフォームのパワーを舐めるなよ!!」

 

 俺はそう言うと同時に反対の手で緑谷を殴る。

 が、当たる寸前・・・・・・まさに紙一重で避けられてしまった。

 

「やるな」

 

「機鰐くんもね」

 

 俺と緑谷はそう言いながらぶつかり合う。

 腕と腕を合わせて、自身の力そのままの押し合い。

 ・・・・・・・・・俺が単純にパワー勝負をするとでも思っているのか?

 俺は瞬時に力を抜いて緑谷を後方へと投げる。

 緑谷は自身の力をそのままに飛んでいく。

 

「超変身!!」

 

 俺はその隙に『仮面ライダークウガ アメイジングマイティフォーム』に変身する。

 そして、体勢を立て直したばかりの緑谷に向かって突撃する。

 

「隙だらけだぜ緑谷ァ!!」

 

「しまっ・・・・・・・・・!!!」

 

 くり出す必殺技、『アメイジングマイティキック』。

 それが見事に緑谷の腹部へと突撃した。

 

「俺の勝ち」

 

 俺がそう言ってブイサインをすると同時に視界内に[GAME CLEAR]の文字が浮かんできた。

 

 

 

 

 

 

 それから、俺たちは夜が更けるまで戦闘に励んだ。

 だが、相澤先生から、

 

「明日試験なんだからもう寝ろ」

 

 と言われ、48回戦終了と同時にシミュレーションも終了となった。

 まさか、あの後、9回も緑谷と戦う事になるとは思わなかった。

 ちなみに、なぜだかは分からないが、一度も爆豪と当たらなかった。

 




クウガ格好いいよね。
放送されていた時、生まれたばかりで見てないけど( 一一)←2000年12月生まれ。
覚えているのファイズからだけど( 一一)←しかも覚えているのOPの映像だけ。


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短編⑫ 『転生者の物語 仕原編』

アンケの結果で仕原弓さんの話です。



 仕原(つかはら)(ゆみ)は転生者である。

『ファウスト』の幹部である賢王雄のメイド兼秘書である彼女だが、本編で描写される回数が恐ろしいほど少ない。

 その為、その生活から何から何までが不明である。

 今回はその生活を少し覗いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 仕原弓の朝は早い。

 早朝五時にはメイド服に着替えて朝食の仕込みに入っている。

 ここはとあるビルの一部屋。

 賢王雄の部屋である。

 そこに設置されている簡易的な台所でただ淡々と料理をし続ける。

 朝とはいえ、外からは人の歩く音や車の走る音がしているが、この一室だけは仕原弓がトントンと包丁で野菜を切る音しか響いていない。

 静かで優しい朝。

 仕原弓はある程度料理の準備が終わると時計に視線を向ける。

 小さな置時計の秒針は6時を指していた。

 これは、仕原弓にしては珍しいことである。

 普段ならもう少し早く準備が終わるのだが、今日は腕によりをかけて作った事もあり、いつも以上に時間がかかってしまったのだ。

 それに気づき、仕原弓は慌てて賢王雄の寝ている個室へと向かう。

 スタスタトタトタとなるべく音を立てずに歩き、賢王雄の部屋へと入る。

 この時間ではまだ賢王雄は寝ているのだが、仕原弓にはその方が好都合である。

 仕原弓がソッと部屋に入ると賢王雄はスウスウと小さな寝息を立てながら静かに眠っていた。

 それを確認し、大きな音をたてないように服の準備をする。

 タンスにしっかりと畳まれて収まっている服を一つ一つ丁寧に取り出し、置き場に置いておく。

 ここに服を置いておけば賢王雄が勝手にその服を着るのだ。

 こうしてさっさと仕事を終わらせた仕原のする事、それは・・・・・・、

 

「・・・・・・・・・・・・ん」

 

 仕原弓はソッと賢王雄の枕元に近付き、その姿を静かに見る。

 その顔、息をするたびに上下する胸、その体から香る汗の臭い。

 どれもこれもが仕原弓の心を奪う。

 

(ハァァアアアアア。駄目っ! 好き好き好きスキスキスキスキスキ。・・・・・・我慢。我慢よ私。ここで何かしたら二度と枕元まで近づけるチャンスが無くなっちゃう。でもっ・・・でもぉっ・・・・・・・・・!!!)

 

 そう、彼女は病的に賢王雄を好いている。

 無論、性的に。

 ただ、嫌われたくない一心にその事を表に出せず、ずっと我慢しているのだ。

 そんな日常の糧の足るのが朝のこのタイミング。

 仕原弓の事を信頼しているが故に出来る大きな隙。

 そのタイミングをチャンスとばかりに仕原弓は好き勝手をやるのだ。

 と言っても見て和んで、嗅いで興奮してをしているだけなのだが。

 賢王雄が目覚めるのは早くとも朝8時。

 つまり、2時間は好き放題できるのである。

 仕原弓はこうして“今日の仕事”をこなすためのエネルギーを補給したのだった。

 

 

 

 

 

 

 仕原弓は不満を露わにする。

 本当は通理葉真とコンビで潜入・殲滅することになっていたのだが、通理葉真が問題を起こして来れなくなったため、別の人間と一緒に潜入することになった。

 なのに・・・・・・、

 

「なんでアナタなんですか・・・・・・」

 

「しらねぇよ。知るか」

 

 そう乱暴に答えたのは“速川(はやかわ) (しょう)”である。

 足が速いだけの個性の持ち主で、正面戦闘よりも逃走の方が得意という人物。

 かなり雑な性格で潜入捜査に向いていないだけでなく、毎度何かやらかして他の『ファウスト』メンバーが後始末をすることになっている。

 そもそも、そんなヤツと一緒に仕事をしたいと思う人間はいないだろう。

 

「それで、動きは?」

 

「特にねぇな。今はテロで使う爆発物の実験に集中している。爆発物の数は残り2個。最後の爆発物が爆発すると同時にその爆煙に紛れて突撃する。相手の個性が分からない以上、俺の素早さで早期決着をつけるしかない」

 

 速川翔の言葉に仕原弓は驚く。

 いつも不真面目で何かやらかしてばかりなのに、ここまで冷静に分析して先の行動を考えれるなんて予想していなかったのだ。

 ただの足手まといだ、と。

 仕原弓がその事実に驚いている内に速川翔は走る体勢を整える。

 (ヴィラン)は10人。

 そして、

 

「援護射撃頼むぜ」

 

 速川翔はそう言うと同時に駆け出す。

 目にも止まらない速さ。

 ただ、単純に早いという次元を超えている。

 以前、雄英生徒1年生に行ったテスト前実戦訓練の時は軽いランニングレベルだったが、今回は全力で走っている。

 その速さは亜音速を超えるため、まず見ることなどできない。

 それだけではなく、その速さそのままに蹴りを使うのだ。

 普通、死ぬ。

 だけど、速川翔は殺さず意識を奪えるギリギリの所の攻撃ができる。

 こうして、(ヴィラン)たちは5秒も経たないうちに殲滅された。

 そして、

 

「んじゃ、あとはお願いね」

 

 速川翔はそう言ってさっさとどこかに行ってしまった。

 そう。

 サラッと後始末を仕原弓に押し付けたのだ。

 

「ふ、ふ、ふっ・・・・・・ふざけるなぁあああああああ!!!!」

 

 仕原弓はそう叫ぶ。

 だが、その声は辺りに静かにこだまし、消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 仕原弓は後処理を終わらせ、フラフラしながら帰宅する。

 現在は午後6時半。

 普段なら晩御飯の支度を終わらせてテーブルに並べている頃である。

 だから、驚いた。

 扉を開けると同時に飛び込んできた匂いに。

 とても、おいしそうな匂いに。

 仕原弓が台所に行くと、そこでは、黒いエプロンを付けた賢王雄が料理をしていた。

 

「おっ。帰って来たか。お帰り。疲れ様」

 

「け、賢王様。・・・・・・っ! すみません!! 賢王様の手を煩わせてしまって」

 

「いいんだよ。俺料理するの好きだし。・・・・・・それに、いつもやらせてばかりじゃないか。今日は仕事で疲れているだろうし、こんな日ぐらい少しは休んでくれよ」

 

 賢王雄はそう言いながら作っていた料理・・・・・・肉じゃがを皿に盛った。

 そして、

 

「ほら、ゆっくり食べよう」

 

 賢王雄の優しい言葉に仕原弓は自身の疲れが全て吹き飛ぶような感覚を覚えた。

 そして思う。

 

(いつか。・・・・・・いつか必ずこの気持ちを伝えよう)

 

 と。

 仕原弓は、この時だけ、賢王雄のメイドではなく、一人の少女として食卓を囲んだのだった。

 

 

 余談だが、仕原弓が賢王雄に告白しようとする日に限って何故かトラブルが発生してそれどころではなくなってしまう。

 恋のキューピットが彼女に味方したことは過去、一度もない。

 




仕原弓と賢王雄の出会いは二人しか知らない。
ただ、言えることは、その出来事があって、仕原弓は賢王雄を好きになった。
だけど、それはまた別のお話。


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短編⑬ 『転生者の物語 投影編』

アンケで2番目だった投影華武器の物語。

多分、覚えている人はいないと思うので補足説明。
投影華武器は本編19話に一度だけ登場したキャラです。
それ以降、一切登場していません。


 投影(とうえい)華武器(かぶき)は転生者である。

 と言われても彼を覚えている者はまずいないであろう。

 彼は雄英高校1年生に実施された期末テスト前実戦訓練にも参加した『ファウスト』のメンバーで、あまり目立った活躍は無いものの、その実力はトップクラスである。

 投影華武器は雰囲気の柔らかい青年で、家事全般を得意としている。

 個性は『武器創造』であると『ファウスト』では話しているが、実際は違う。

 さて、話すとしようか。

 投影華武器の物語を。

 

 

 

 

 

 

 投影華武器はとある廃墟に侵入していた。

 天井裏を移動し、ターゲットの潜伏している部屋を探す。

 今回の仕事は子供を誘拐して身代金を要求している(ヴィラン)をプロヒーローが説得している間に裏から潜入して人質を助けるというものであった。

 ただ、潜入したは良いが、投影華武器は動けずにいた。

 

(無能ヒーローがぁ・・・・・・)

 

 ヒーローや警察からの情報では単独犯だったのだが、潜伏先の廃墟に来てみれば仲間が五人もいるのだ。

 犯人は計六人。

 単独犯であれば奇襲して速攻解決が可能だったのだが、この状況では人質の安全を優先しつつ(ヴィラン)を倒す方法何て一つだけであった。

 投影華武器が任された仕事の成功内容は二つ。

 1.(ヴィラン)の無力化&確保

 2.(ヴィラン)の殺害

 である。

 投影華武器は『ファウスト』に自身の個性の事を偽っている。

 なぜなら、使い方によっては“強すぎるから”だ。

 (ヴィラン)の行動を見て、隙を伺い、天井をぶち破って突撃した。

 いきなりの事に(ヴィラン)は驚きで固まってしまった。

 投影華武器は両手に武器を持つと(ヴィラン)に向かって突撃する。

 (ヴィラン)の一人が真っ先に反応し、投影華武器を迎え撃とうとしたが、戦闘慣れしている投影華武器にはそんな攻撃はへでもない。

 投影華武器はその攻撃を避けると同時に武器を投影し、(ヴィラン)の手を斬る。

 そして、その(ヴィラン)を足場にして跳ぶと同時にもう片方の手に武器を投影し、跳んだ先に居た(ヴィラン)を斬る。

 一瞬で仲間が二人もやられたのを見てパニックになる(ヴィラン)

 投影華武器はその隙をついて“詠唱”をする。

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく、)Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)Stood pain with inconsistent weapons.(遺子はまた独り)My hands will never hold anything.(剣の丘で細氷を砕く)――――yet,(けれど、)my flame never ends.(この生涯はいまだ果てず)So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

 瞬間、辺りの風景が変わる。

 果てなき黄昏の荒野に無限とも思える量の剣が地に刺さっている風景。

 いきなり景色が変わった事に(ヴィラン)の混乱はより強いものになった。

 いや、それはしょうがないと言えるだろう。

 いきなり景色が変わって驚いたり混乱しない人間の方がおかしいのだ。

 だが、それでも(ヴィラン)は目の前に現れた投影華武器を敵と判断し、襲い掛かる。

 投影華武器は複数の相手を目の前にしながら目を瞑って立ち続ける。

 自身へ攻撃が直撃する一瞬前、投影華武器は静かに呟く。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 瞬間、投影華武器の両手に二振りの剣が現れる。

 そして、その剣・・・・・・干将と莫耶で(ヴィラン)を斬りつける。

 さらに、周りに突き刺さっている剣が(ヴィラン)たちへ襲い掛かった。

 決着は一瞬、勝負なんていえるモノではなかった。

 それだけ一方的なモノ。

 こうして、(ヴィラン)たちは殲滅され、表向きはプロヒーローの大活躍として伝えられたのだった。

 

 




キャラ説明。

投影(とうえい)華武器(かぶき)
身長:170cm
体重:78kg

『ファウスト』メンバーの1人。
賢王雄の部下で、いつも自ら貧乏くじを引きに行くほどのお節介さん。
個性『投影魔術』
“衛宮士郎”のできる事なら何でもできる。
無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)を使う時の詠唱はその日の気分で変えている。
右腕の肘から下―――つまり指の先まで―――が“英霊エミヤ”を思わせるような褐色肌で、髪も所々白い。
過去に色々あったらしいが、それだ誰も知らなく、聞いてはいけないと暗黙のルールになっている。
普段は“甘崎厳廿楼”と共にお菓子作りをしている。


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短編⑭ 『転生者の物語 暗視編 Sの記憶/地獄の始まり』

短編と言ったな。
アレは嘘だ。

正確に言えば想像以上に長くなったので区切りました。
ごめんなさい。


 一人の少女が夜の街を駆ける。

 ただひたすらに、息を切らせ続けながら。

 少女は裸足だった。

 そして、その足の皮は剥け、爪は割れ、血が流れ出ていた。

 だが、少女にそれを気にする様子は一切ない。

 後方からは男たちの怒鳴るような叫び声が聞こえてきている。

 それから逃げる為に少女は走り続ける。

 

「逃げやがったぞあのクソガキィ!!!」

 

「追え!! 追え!!!」

 

「どこ行きやがったクソがぁぁああああ!!!!」

 

 とても乱暴で恐ろしい声。

 少女の体が震える。

 それでも少女は走り続ける。

 走りながら思う。

 どうしてこうなったのだろうか、と。

 それでも足は止まらない。

 ただ、ひたすら駆け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 暗視(あんし)波奉(はほう)は転生者である。

 彼女の人生は決して恵まれた物ではなかったと言えるだろう。

 母親不明・父親不明で、駅のコインロッカーに放置されている所を発見された。

 プロヒーロー及び警察が必死に捜査した結果、母親の実名・顔は報道されなかったが、発見はされた。

 援助交際をしていた高校生で、避妊に失敗して妊娠、気付いた時には堕胎のできない時期だった事もあり、家出後に色々な男の家を転々とし、最終的に駅のトイレで出産、それと同時にコインロッカーに捨てて行ったという。

 だが、これは捜査したことで判明した証拠による憶測でしかない。

 なぜなら、暗視波奉が見つかり保護されてから一週間後に母親は死体で見つかったからだ。

 髪は裂かれ、顔は原形を留めないほど潰され、手足は千切られ行方不明、腹は裂かれ内臓が当たりにまき散らされていた。

 そして、手足と同様、子宮も無くなっていたという。

 死亡した場合、未成年でも顔や名前を報道されそうなものなのだが、殺された女子高生の親の近い親戚に当時の政権を握っていた人物が居た為、報道機関に圧力が掛けられ、その事が大きく報道されることは無かった。

 警察組織も、「捜査に支障が出るので」と言葉を濁して終わらせた。

 そして、犯人も分からないまま時間だけは過ぎた。

 暗視波奉は忌み子として捨てられた。

 しかも、ただ捨てられるだけではなく、地方の児童保護施設に捨てられたのだ。

 だが、暗視波奉自身、その事については一切気にしていなかった。

 施設にいた子供たちは皆明るく、大人も皆優しかったからだ。

 その施設では、高校・大学を卒業するまで面倒を見てくれるところで、暗視波奉も高校まで行かせてもらえた。

 学費も施設持ちで、暗視波奉はそのお礼代わりに施設の手伝いをしていた。

 だが、進路が一切決まらないまま高校三年生の夏休みを迎えた。

 そんなある日、施設長から声が掛けられた。

 

「波奉ちゃん。ちょっといいかしら?」

 

「あっ、はい。良いですよ」

 

 暗視波奉は上がり症であるが、施設内の人とは普通に接せられる。

 彼女が施設長に促されて施設にある『相談室』内に入る。

『相談室』内にはスーツ姿の、明らかにカタギの人間ではない人たちがいた。

 5人。

 暗視波奉はこの時点で不穏なモノを察知していた。

 この時はまだ18歳だが、転生者である彼女の精神年齢は高く、前世での実年齢と今世の実年齢を合わせれば30代後半ほどである。

 子供ではない為、目の前の男たちが危険な存在であるという事は容易に予想がついた。

 だが、施設長の手前、逃げたりすることはできず、男たちの話を聞くしか選択肢はなかった。

 話を聞くと、男たちは暗視波奉をスカウトしに来たという。

 暗視波奉の個性は探索・闘争・翻弄などに適している強個性で、裏社会でならフリーであろうと活躍できるモノである。

 どうやらそこに目を付けたらしい。

 さらに、話を聞いてみると、この男たちの組織がこの施設に多額のお金を入れている事で多くの子供を受け入れることができているらしく、施設長も逆らえないという。

 

「どうかな? 別に強制しようってわけじゃぁないんだ。君がやりたいならそうする。やりたくないならさせない。それだけの話だ」

 

 男の一人、リーダー格のような男がそう言った。

 これは酷な話だ。

 遠回しに言っているのだ。

「君が断ったらこの施設への援助がどうなるか分からないよ」と。

 たかが18歳。

 されど18歳。

 自分で考え・判断し、先を見据えることのできる年齢だ。

 そこを巧みに突いた悪意。

 選択肢があるようで一切なく、男たちの望むような答えしか出す事の出来ない選択。

 暗視波奉はそれに気が付いた。

 だが、それでもあえてそれに乗っかった。

 いや、より正確に言うなら乗っかるしかなかった。

 こうして、暗視波奉は(ヴィラン)となった。

 

 

 

 

 

 

 高校を卒業した暗視波奉はその足で事務所へと向かう。

 その足取りは重く、その表情はとても硬いモノであった。

 いや、それはしょうがないと言えるだろう。

 少女はこれから、裏社会の人間になる。

 今後、日の光を浴びることは少なくなっていくだろう。

 今後、施設にいる血の繋がっていない弟や妹たちと会えることは無いだろう。

 手を繋いでやる事も、抱っこしてやる事も、眠れるまで隣にいてやる事も、その全てをすることができない。

 これから手を汚す彼女は、それを自覚していた。

 犯罪者が、彼らと共にいる事なんてダメなのだと理解していた。

 どれほど歩いただろうか。

 気が付けば古びた雑居ビルの3階にある事務所に着いていた。

 暗視波奉は大きな深呼吸をして扉を開けた。

 瞬間、扉の横にいた男に殴られた。

 何ら前触れもなく、ただ、突然。

 

(あっ・・・・・・)

 

 その攻撃は暗視波奉の顎を揺らし、脳震盪を起こし、彼女の意識を完全に闇の中へと沈めて行った。

 暗視波奉が床に倒れ、動かなくなったのを確認した男・・・・・・“久間(くま)永千(えいち)”は深いため息を吐く。

 

(ボスも酷いことをするもんだ。・・・・・・いや、こんな仕事しているオレが言えたことじゃないというのは分かっているが、それでも酷い)

 

 久間永千は中腰体勢になって気絶している暗視波奉の頬を撫でる。

 

(ボス・・・・・・いや、クソ親父から守ってやるからな。波奉)

 

 優しく微笑んでから、暗視波奉を担ぎ上げると、そのまま事務所を出て、雑居ビルの外に止めてあった車に乗せる。

 久間永千は運転席に乗り込むと、助手席に座っている人物・・・・・・、“苦愚群(くぐむら) 火虎(かこ)”に向かって言う。

 

「煙草は止めてくれ。後ろにいるのは未成年なんだぞ」

 

「アラ? そんナ事を気にするようナ真面目サんでしタカナ?」

 

「最低限のマナーは守る。それだけだ」

 

 久間永千はそれだけ言うと、キーを回してエンジンをかける。

 そして、クラッチペダルを踏み、ギアを入れる。

 

「そういえバ、ナんでワザワザ旧式のマニュアルにしタんですカ? オートマの方ガ楽でしょうに」

 

「なぁに。夢があるだろ、夢が。後単純にカッコイイ」

 

「そんナものナのですカね」

 

「そんなものだ」

 

 発進する車。

 大通りを通って『スラム街跡地』へと進んで行く。

『スラム街跡地』は超常が発生したばかりで、まだまだ世間が“個性”と馴染めず混乱渦巻いていた時代に、“個性”のせいで社会に溶け込めずにいた者たちが集まって作っていたと言われている。ただ、そこを指揮していた人物が、スラム街で暮らす子供を誘拐して何らかの実験をしていて、“とある人物”がそれを見つけ、止めた事で不信感や混乱がスラム街全体に広まったが為に秩序が乱れて崩壊しだした時に、今ではプロヒーローとして活躍している一族の初代がそこをまとめ上げたという逸話が残っている所だ。

 今では碑石が残されているだけで、広々とした公園になっている。

 ただ、その公園内には複数の店やガレージ、中には公園の一部を買い取って作られた別荘も合ったりする。

 久間永千の目的地はまさに、公園内にある別荘だ。

 別荘周辺の敷地も所有している為、一般人はおろか警察も立ち入れないようになっている。

 公園内にはしっかりと舗装された道路もあり、車が通る事もしばし。

 と言っても通る車なんて、別荘へ向かう成金ぐらいなのだが。

 そろそろ別荘に着く、そんな時、いきなり目の前に人影が飛び出してきた。

 久間永千は慌ててブレーキを踏む。

 キキキキーッという音を立てて車は止まった。

 飛び出してきた人物は驚く様子も避ける様子もなく、久間幸人の方へゆっくりと視線を向けてきた。

 久間永千は車の外に出る。

 

「何者だ、何の用だ?」

 

「ん? いや、何。昔を懐かしんで歩いていたせいで気付かなかったんだ」

 

「? 昔を?」

 

 久間永千は当たりをグルリと見回しながら言う。

 

「この公園で遊んでたのか?」

 

「いや、この公園ができる前のスラム街に住んでた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、久間永千は背中に冷たいモノが当たったような感覚に襲われた。

 そう。

 これは恐怖だ。

 このスラム街があったのは超常が発生してすぐなのだ。

 スラム街に住んでいた者なんて死んでてもおかしくない。いや、死んでないとおかしい。

 久間永千がその事に気付き、本能的に身構えた。

 だが、目の前にいる人物は特に動くことなく言った。

 

「何かするのは良い。誰かの為にやろうとする気持ちも良い。・・・・・・だけど、気を付けた方が良いよ。その先は地獄だから」

 

 訳知り顔でそう言う人物に、久間永千は不振感を隠すことなく言う。

 

「何者だ、オマエ」

 

「さあ? 俺はただのスライムだからな」

 

「はっ!?」

 

 目の前にいたハズの人物は、一瞬のうちに消えていた。

 久間永千は慌てて辺りを見回したが、見える範囲内では人っ子一人いなかった。

 

「ナんダ? 今のヤツ」

 

「わからない。ただ、害意とかは無さそうだった」

 

「そうカ」

 

 久間永千は車に戻ると、再度、別荘に向けて車を走らせた。

 




キャラ紹介

久間(くま)永千(えいち)
身長:186cm
体重:87kg

【挿絵表示】

とある(ヴィラン)の組織の所属する謎の人物。
暗視波奉のことを何かと気に掛けている。
何故かは不明。
個性:『【NO DATA】』
今のところ唯一立ち絵のある男性キャラ。


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短編⑮ 『転生者の物語 暗視編 Sの記憶/出会い』

 暗視波奉は暗く光の入ってこない室内で静かに目を覚ます。

 そして、冷静に状況を確かめる。

 真っ暗だが、個性を使えば普通に見ることができた。

 普通、いきなり殴られ気を失い、次に目を覚ました時はパニックになるモノなのだが、転生者として培ってきた経験により、自分が無事であることを瞬時に理解したのだ。

 暗視波奉は木製の椅子に座らされ、足は椅子の足に、腕は後ろで固定されていた。

 使われているロープは固く、身体能力の低い(というか女性の平均並み)の暗視波奉の力で外すのは不可能であった。

 無理な抵抗だとは理解しつつも、何とかして解けないモノかと抵抗していると、部屋の扉が開き、誰かが入って来た。

 髪で片目を隠しヒゲを薄くはやしたメガネの男と、肩までありそうな髪をセンター分けにしている男、女と見間違うほど黒い髪を伸ばしている男の三人だった。

 

「・・・・・・誰?」

 

 暗視波奉は警戒心マックスで、それでいて勇気を振り絞ってそれだけを言う。

 あがり症な彼女にとっては、この言葉を言うだけでも精一杯なのだ。

 今にも泣きたいし、逃げたいというのが本音である。

 その様子を見てメガネを掛けた男が言った。

 

「おい。コイツってあがり症なんじゃなかったのか? オレに中途半端な情報教えたんだとしたら殺すぞ」

 

「違いマすよ。よく見てくダサい。今にも泣きそうじゃアりマせんカ。強ガっているダけですよ」

 

「なるほど。血の繋がっていない家族の為か。・・・・・・健気だねぇ」

 

 メガネの男はそう言って暗視波奉に視線を向けると同時にその頬を思い切り引っ叩いた。

 突然の事だったのと、動きを封じられていた為に暗視波奉はその勢いそのままに地面に倒れた。

 それを見てセンター分けの男がすぐに暗視波奉に駆け寄った。

 

「何してるんですかっ!!」

 

「ん? ああ、そうか。そうだったな。・・・・・・よし、永千。お前を教育係にする。精々使えるように躾けておけ」

 

 メガネの男はそれだけ言ってその場を後にした。

 永千と呼ばれた男は暗視波奉の拘束を解くと、肩を掴んで少女の事を真っ直ぐ見ながら言う。

 

「オイ、大丈夫か? 痛みは? 怪我は? その他に問題は!?」

 

 だが、暗視波奉は何も言わない。

 センター分けの男・・・・・・久間永千はその様子を見て強くゆすったりするが、暗視波奉は一切の反応を示さない。

 焦る久間永千を見ながら苦愚群火虎は煙草に火を点けながら言う。

 

「よく見ろ。気絶しているダけダ」

 

「えっ?」

 

 しっかりと観察してみると、暗視波奉は目を開けたまま気を失っていた。

 久間永千は暗視波奉をソッと抱き上げ、隣の部屋のソファーに寝かせ、タオルケットを掛ける。

 そして、苦愚群火虎の方を見ながら言う。

 

「それで、状況は?」

 

「ボス・・・・・・“久間(くま)殺切(さつきり)”ハ新しい取引先と手を結んダようです」

 

「・・・・・・今度のは何人が犠牲になりそうだ?」

 

「分カりマせん。タダ、今回の取引ハ、今マで以上に危険ダと思いマす」

 

「その理由は?」

 

 苦愚群火虎は煙草を吸い、深く煙を吐いてから腕を組む。

 そして、難しそうな顔で言う。

 

「“風都大狂乱”という事件ハご存知ですカ?」

 

「? ・・・・・・ああ。テロリストが風都タワーを占拠して、高化学兵器で街を吹き飛ばそうとしたって言う事件だろ? それがどうした?」

 

「その際に使ワれていタ兵器を手に入れタラしいです。ナんでも、人を超えタ力ガ手に入るとカ・・・・・・」

 

 苦愚群火虎の言葉を聞いた久間永千は思考に入る。

 

(人を超える力手に入る・・・・・・。現代のサポートアイテムはそれぞれの“個性”に合わせた物が大半だ。だが、“風都大狂乱”が起きたのは“超常”発生前、つまり“個性”がまだない時代だ。そんな時代で人を超えるとなれば、パワードスーツか? いや、現実的じゃないか。そもそも、そんな大昔のパワードスーツを使うぐらいなら現代の技術で作られた誰でも使えるサポートアイテムを使うのが得策の筈だ。それなのに・・・・・・)

 

 久間永千の思考は深まっていく。

 だが、すぐにその思考は止まった。

 

「ん、んん・・・・・・」

 

 暗視波奉が目を覚ましたのだ。

 それを視覚した瞬間、久間永千は思考を保留して暗視波奉の下へと駆ける。

 ほんの数メートルの距離を全力ダッシュするその迫力は相当なモノであろう。

 それを見た暗視波奉は、

 

「ひゃふひひゃぁぁああああああああ!!!!!!???」

 

 と大きな悲鳴を上げて再度気を失った。

 

 

 

 

 

 

 暗視波奉が目を覚ましたのは午後20時を回ってからだった。

 近くには長髪の男がいて、タバコをスパスパと吸っていた。

 

「おヤ、起きマしタカナ?」

 

 長髪の男はそう言ってタバコの火を消す。

 その手に持っていた灰皿には山のように積み上がったタバコがあり、近くのゴミ箱には煙草の箱がぎっしりと詰まっていた。

 

「驚カせてしマっタカナ? 1時間に最低でも1カートンハ吸ワナいと気が済マナいタチでね。・・・・・・おっと、自己紹介ガマダダっタね。私の名前ハ苦愚群火虎。気軽に火虎と呼んでくれて構ワナい」

 

 苦愚群火虎はそう言って灰皿を机の上に置く。

 そして、室内に設置されている冷蔵庫を開け、中の物をいくつか取り出すと電子レンジに放り込む。

 

「聞いておくガ、アレルギーとカハアるカナ?」

 

「えっと、その・・・・・・・・・ありま、せん」

 

「そうカ。・・・・・・先ほどハ私の上司ガ君を驚カせてしマってすマナカっタね。アイツ、過保護ナんダ。君の教育係ダカラ、慣れてくれ」

 

 苦愚群火虎はレンジで温めた料理を皿に盛り、机の上へと並べていく。

 暗視波奉はゆっくりとソファーから立ち、机の方へと歩を進める。

 

「アァ、言い忘れていタ。君の教育係の名前ハ“久間永千”ダ。根ハ良い奴ダカラ警戒とカハいラナいよ」

 

 そんな事を言っている間に、苦愚群火虎は机の上にキレイに食事を置く。

 白飯に豆腐の味噌汁、肉野菜炒めという素朴なモノであった。

 暗視波奉は小さな声で「いただきます」と言ってから白飯の上に肉野菜炒めを乗せ、口に運ぶ。

 

「・・・・・・美味しい」

 

「そう言っていタダけると作っタ甲斐ガアるってものサ」

 

 苦愚群火虎は恥ずかしそうに笑う。

 そして、

 

「ここハ君の為の拠点ダ。廊下に出て右側に風呂とトイレ。左側に寝室と玄関ガアる。浴槽にハもうお湯ハ入っているカラね。明日の朝・・・・・・大体ダガ、9時くラいに迎えに来るカラ。それマでゆっくり疲れを癒しナ。明日カラ大忙しにナるカラ」

 

 そう言い残して部屋を出て行った。

 暗視波奉はそれを静かに見送り、それから食事を再開する。

 極度の緊張状態の中に居た為、エネルギーを消費していたらしく、いつも以上にハシが進んでいた。

 気が付けば完食していた。

 暗視波奉は食器を洗い、片付け、風呂へと向かう。

 脱衣場には、真新しい下着とパジャマがカゴの中に置かれていた。

 その隣には洗濯機もあり、その上の棚には洗剤など(予備複数)もあった。

 暗視波奉は服を脱ぎ、洗濯機の中へ入れる。

 洗濯機は一般的に出回っているモノで、施設にもあったタイプの最新型であった。

 AI搭載で、中にある洗濯物の量を判断し、水と洗剤量を適量にし、乾燥も行ってくれるというなんとも最先端を行くモノであった。

 その為、暗視波奉はスタートのボタンを押すだけで良かった。

 だが、これからまだ洗濯物は出る為、洗剤を入れるだけで止めておく。

 暗視波奉は洗剤を入れ、それを棚に仕舞ってから風呂場へと入る。

 そして、まずは浴槽のお湯に手を入れ、温度を確認する。

 熱過ぎずぬる過ぎず、丁度いい温度であった。

 それを確認してからお湯を手桶ですくい、頭から被る。

 暗視波奉は全身がほんのりと温かくなっていくのを感じながら、バスチェアへ腰掛け、頭を洗う。

 髪の短い暗視波奉は、ほんの数分で洗い終えると、次はリンスを使う。

 リンスを髪全体に馴染ませると、それを流す前にボディーソープで体を洗う。

 これは余談と言うか蛇足であるが、暗視波奉はオシャレに一切の興味が無く、体を洗うのだって汚れ(垢など)を落とす為だけで、美容などをしようという気はない。

 体中をくまなく洗い、リンスもしっかりと落としてからようやく浴槽に浸かる。

 

「ふうぁぁああ~~」

 

 暗視波奉はつい気の抜けた声を出していた。

 やはり、極度の緊張と疲れがあったのだろう。

 風呂とは不思議なモノである。

 疲れを癒すだけでなく、人によっては自分をさらけ出せる場にもなる。

 暗視波奉にとっては、風呂場は安心できる場所であり、自室と同様に自分だけの空間という認識がある。

 それゆえに気の抜けた声を出してしまったのだ。

 暗視波奉は浴槽にザップリと浸かり、考える。

 

(私、これからどうなっちゃうんだろう・・・・・・。メガネ・・・ボスって人は怖そうだし。でも、火虎さんは優しそうだった。そして、永千さん・・・だっけ、確かそんなような名前の人は・・・・・・よく分からないや。過保護らしいし私の事を心配してくれてるのかな? でも、そうだったら何で? ・・・・・・今はまだ分からないや)

 

 そんな時、暗視波奉の頭に浮かんだのは幼い血の繋がっていない家族の事。

 子供達には「仕事が決まったからここを出て一人暮らしをする」と伝えてある。

「寂しい」と泣きそうになっていたが、それでも快く送り出してもらえた。

 それゆえに心が痛かった。

 暗視波奉はその思考を振り払った。

 今後、裏社会で生活するなら少しの余計な思考が命取りになる場合がある(と漫画に書いてあった)。

 そして、自身の頬を何回かペチペチと叩いて気合を入れる。

 っと、ある事に気が付いた。

 この風呂場の窓が極端に小さいのだ。

 小柄で細身な暗視波奉がギリギリ通れるほどの大きさしかない。

 換気をする分には良いだろうが、それでも心もとないように見える。

 それに気づいた暗視波奉の感想は「掃除がし辛そう」であった。

 だが、そのような設計なら仕方がないと諦め、風呂から上がる。

 タオルで体を隈なく拭き、用意されていた下着を着る・・・・・・、

 

「なんでブラジャーのサイズもぴったりなんだろう・・・・・・?」

 

 暗視波奉はポソッと呟く。

 だが、施設長から聞いていたのだろうと無理矢理納得することにし、この日は就寝することにしたのだった。

 

 




キャラ紹介

久間(くま)殺切(さつきり)
身長:190cm
体重:87kg

【挿絵表示】

久間永千の父親にして暗視波奉が所属することになった組織のボス。
個性:『【NO DATA】』
何を考えているか分からない人物。
自身の目的の為なら何百何千の人間が死のうと気にしないタイプ。
余談だが、辛いのが苦手。


苦愚群(くぐむら)火虎(かこ)
身長:188cm
体重:90kg

【挿絵表示】

誰にでも敬語で話し、雰囲気から警察も悪人だと見抜けないような性格。
『あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ』など、あ段に含まれる文字だけなぜか片言で話す。
普段から煙草を吸いまくっている人物。
煙草は持ち歩いているが、ライターは持ち歩いていない。
個性:『炎虎(えんこ)
火を纏った虎に変身する個性である。
プロヒーローになれば前線で戦えるような個性なのだが、とある事情で裏社会の人間になっている。
余談だが、家事全般が得意。


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短編⑯ 『転生者の物語 暗視編 Eの戦い/決意と決行』

一応活動報告でも書きましたが、長くなりすぎたので一部カットしました。
そのせいで所々ダイジェスト状態になっていますのがご了承ください。


 暗視波奉は静かに目を覚ます。

 より正確に言うならば物音が聞こえた為に目が覚めたのだ。

 

「おヤ、起こしてしマっタカナ?」

 

「い、いえ・・・・・・。いつも、この時間に起きる、ので、大丈夫です、はい」

 

「それナラよカっタ。・・・・・・タダ、聞きタいのダガ、ナぜ寝室のベッドでハナくリビングのソファーで寝ているのカナ?」

 

「ベッドだと何だか眠れなくて・・・・・・」

 

 暗視波奉はそう言って後頭部をポリポリと掻く。

 

「ナるほど。確か施設でハ敷布団ガ寝具ダっタナ。それナラ仕方ガナいカ。・・・・・・軽食ダガ良カっタカナ?」

 

 苦愚群火虎の言葉を聞いて暗視波奉はそれが何の事なのかすぐ気づいた。

 人によって個体差はあるが、敷布団で寝るのに慣れるとベッドで眠れなく人がいるという。

 その理由は人によって様々で、暗視波奉はふかふかし過ぎていて寝心地が悪いからであった。

 

「今ハ7時カ・・・・・・。出発マでハ結構ナ時間ガアるカラそれマで身を整えタりしておきナさい。時間ガ近づいタラ呼ぶカラ。・・・・・・アァ、早めにヤる事ガ終ワっタラ普通に出て来てもラって構ワナいよ」

 

 苦愚群火虎はそう言いながらサラダと目玉焼きとトーストを机に並べていく。

 

「っと。私の独断でトーストにマーガリンを塗っタガ、嫌ダっタラ遠慮ナく言ってもラって構ワナいよ。無いものダっタラ近くのスーパーで買ってくるカラ」

 

「あっ、いえ、大丈夫、です・・・・・・」

 

「ナラ良カっタ。・・・・・・それじゃ、マタ後で」

 

 苦愚群火虎は煙草を銜え、その指先から小さな火を出す。

 そして、それを使って煙草に火を点け、スパスパ吸いながらリビングを出て行った。

 暗視波奉はそれを見届けてから食事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 苦愚群火虎は別荘(暗視波奉の仮住まい)を出て玄関の近くで煙草を吸う。

 一本吸ってはまた一本を繰り返している為、携帯灰皿がすぐいっぱいになる。

 携帯灰皿がいっぱいになると、新しい携帯灰皿を取り出し、それがいっぱいになったらまた新しいのを取り出すというループを繰り返す。

 いっぱいになった携帯灰皿が4個を越えた時、別荘に向かってくる影を視界に捉えた。

 

「おヤ、送り迎えハ私の仕事の筈ですよ」

 

「そう言うなよ、俺、今日仕事無いんだから」

 

 現れたのは、そう、久間永千である。

 久間永千は苦愚群火虎の隣に立つと、そのポケットに“何か”を入れる。

 そして、自身のポケットから煙草を取り出し、銜える。

 

「火、点けてくれ」

 

「ハイハイ」

 

 苦愚群火虎は指先に炎を発生させて久間永千の煙草に火をつける。

 それからしばらく二人は無言のまま煙草を吸い続ける。

 久間永千の煙草が短くなり、吸えなくなってからやっと話し出す。

 

「計画の実行まで早くて11ヶ月だ。・・・・・・大丈夫そうか?」

 

「大丈夫でしょう。タダ、アの人ガ何を手に入れタカガ鬼門でしょう」

 

 苦愚群火虎がそう呟きながら煙を吐く。

 その煙がゆらゆらと消えて行く中、久間永千は1つの資料を取り出す。

 そして、その資料をソッとしだす。

 

「これハ?」

 

「クソ親父の手に入れた“何か”について。・・・・・・この一晩のうちに調べられるだけ調べてきた」

 

「どおりで、目の下にクマガアる訳ですね」

 

「そだよ。一睡もしてない」

 

 苦愚群火虎はそう悪態をつく久間永千を横目に資料へと目を向ける。

 

『“NEVER”

 正式名称“NECRO OVER”

 財団Xの研究によって生み出され、廃棄されたモノ。

 特殊な薬品により死んだ人間を蘇らせたモノ。

 その制度は凄まじく、その薬品を注入された者の変化・及び長所は以下のようになる。

 

・身体能力は生前より高くなり、女であろうと訓練された軍人数名に1人で勝てるほどになる。

・銃弾でも致命的なダメージにはならず、瞬時に再生する耐久力と治癒力を持つ。

 

 なお、短所もある為、それは次に記する。

 

・定期的に薬品を投与しないと塵となり死ぬ

・極端に強いダメージを受けると肉体を維持できずに塵となり死ぬ

・生前の記憶・人間性は時間経過と共に消える

 

 このように短所が多き過ぎた為、研究は破棄された。

 

 “ガイアメモリ”

 NEVERと同時期に研究・開発され、採用された兵器。

 “地球の記憶”を記録した媒体で、これを使う事で人は新たなステージへと上ることができるようになる。

 体のどこか(どこでも良い)に“生体コネクタ”を付けることによってガイアメモリが使用可能になる。なお、“生体コネクタ”を付けなくても使用可能だが、強い副作用が確実に現れる。

 利点を以下に記す。

 

・メモリに記憶されているモノに依存するが、超人的な力が手に入る

・個人差はあるが、ガイアメモリ使用者の中には“ハイドープ”と呼ばれるメモリを使用しなくてもある程度メモリの力を使える者もいる

・これも個体差があるが、メモリとの適合率が高ければ普通以上の力を引き出すことが可能

 

 欠点は以下に記す。

 

・依存性と毒性が高く、使用し続ければ肉体も精神もただでは済まない

・過剰適合した場合、メモリブレイクされれば死に至る

・また、過剰適合のさらに先に行った場合、時間経過によって使用者は死に至る

 

 世代として、“T1”・“T2”が存在している。

 財団Xとミュージアムの実験では“T1”を街に出回らせることでデータを収集した。

 メモリの毒素を極限まで減らすためのフィルターとして、ガイアドライバー・ロストドライバー・ダブルドライバーが開発された。それについては別記。

 なお、“T2”は暴走したNEVERの起こした事件により“T2・エターナルメモリ”は破壊されたが、残りのメモリは街に散らばり行方は分からなくなった』

 

 資料に目を通した苦愚群火虎は一層強く煙草を吸った。

 そして、一言呟く。

 

「こんナのを手に入れタという事ですカ?」

 

「多分な。しかも、時間の都合的に手に入らなかったデータも存在する。・・・・・・ってか、そのメモリ以上にヤバい奴があるみたいだ」

 

「それハ・・・マズイですね・・・・・・」

 

 苦愚群火虎は苦虫を噛み潰したような顔でそう呟く。

 だが、それは仕方がないと言えるだろう。

 このメモリを使えば無個性の人間ですら有個性並みに・・・・・・いや、最悪は有個性以上に慣れる可能性すらあるのだ。

 しかも、それが複数。

 それだけでも驚愕だというのに、それを超える“何か”がある可能性もあるのだ。

 

「それでも、ヤるのですカ?」

 

「当たり前だろ。・・・・・・お前だって“あの日”から決めてるじゃないか」

 

「そうですね」

 

 苦愚群火虎牙は煙草の火を消しながらそう答える。

 それを聞いて、久間永千はフッと静かに笑う。

 

「お前は、己の為に」

 

「貴方ハ、“妹の為”に」

 

 久間永千はソッと立ち上がって腕時計で時間を確認する。

 そして、言う。

 

「もう9時過ぎてるぞ」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

 久間永千たちが別荘内に慌てて入ると、暗視波奉は泡を吹きながら目を回して倒れていた。

 二人は大慌てでベッドまで運び、氷水と濡らしたタオルを用意して暗視波奉の救護に当たる。

 それから数分で暗視波奉は目を覚ました。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫ですカ!?」

 

「きゅぅ・・・・・・」

 

 二人に詰め寄られた暗視波奉はまた気を失いそうになったが、何とか持ちこたえた。

 そして、周りをキョロキョロと確認する。

 

「さっき、蜘蛛がいて・・・それで・・・・・・」

 

「苦愚群。今すぐ蜘蛛退治と行こうじゃないか」

 

「それハ私ガ後でヤっておくカラ。今ハ今日ヤる事を終ワラせよう」

 

 苦愚群火虎はため息交じりにそう言って再度、煙草を吸う。

 そして、深く煙を吐きながら玄関の方へスタスタと歩き出した。

 そんな態度を見て、久間永千は文句を言おうとしたが、時間が時間であったため、それは止め、暗視波奉をゆっくりと立たせた。

 

「ありがとう、ございます・・・・・・」

 

「緊張しなくて良い。俺は平和主義者だから」

 

「酔っパラって酒瓶で殴って来タ一般人を、ボコボコにしタアげく上半身素っ裸にして歩道橋に括りつけタ人ガ何を言っているんダカ」

 

「ちょっ!! 何で言うんだよ!!?」

 

「貴方ガ平和主義でナい事を知っているカラダ、永千サん」

 

 苦愚群火虎はそれだけを言い残してさっさと別荘から出て行った。

 久間永千がソッと隣を見ると、暗視波奉がジト目でジーっと痛い視線を向けていた。

 

「・・・・・・・・・怖い人」

 

「い、いや!! 違うんだ!! その・・・そう!! アレだ!! アレ!!!」

 

「浮気がバレた人の言い訳みたい、かも」

 

「そこまで言う!!」

 

 

 

 

 

 

 くだらない茶番をしている間にも時間は過ぎていく。

 予定があったにもかかわらず変な事に時間を割いてしまった者たちは、法定速度ギリギリで車を走らせる。

 後部座席に座っている暗視波奉は、車が揺れるたびに小さな悲鳴を上げていた。

 そして、ある場所に着いた。

 

「こ、ここは・・・・・・?」

 

「自動車学校」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 予想外の場所に連れてこられた暗視波奉は、何が何なのか分からず慌てだす。

 そんな彼女を尻目に、男二人は建物の方へと歩を進める。

 暗視波奉もそれを見て慌ててその後を追いかける。

 その後、事務的に入校手続きが終わる。

 男二人が指揮してやっていた為、暗視波奉は書類に名前を書いたりするだけで良かった。

 慌しい数十分はすぐに過ぎ、暗視波奉たちは帰路につく。

 その車内で暗視波奉は呟くように言う。

 

「なんで、自動車学校なの・・・・・・?」

 

「免許あれば便利だから」

 

「仕事に必要ダカラ」

 

 男二人はさらっとそう答える。

 あまりにも端的で、それでいて納得できる言葉に、暗視波奉は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 自動車学校入学から8ヶ月が経過した。

 その間に、暗視波奉は複数の免許を取った。

 車も運転できる、トラックも運転できる、バスも運転できる、クレーン車やショベルカー・フォークリフト・ホイールクレーンも運転できる。

 船や飛行機以外は(戦車など兵器を除く)ほぼ全てを運転できるようになっていた。

 それだけの期間が経つと、人見知りな暗視波奉も男二人には慣れていた。

 苦愚群火虎は裏社会で生きているのかが怪しくなるほど優しく、人を楽しませるような特技をいくつも持っていた。

 久間永千は身体能力が高く、個性を使って攻撃してくる相手に対し一切個性を使わずに圧倒するほどであった。

 昼間は自動車学校へ行き、夜は三人で食事をする楽しい生活が続いていた。

 そんなある日、自動車学校へ行く予定もなく、暗視波奉が家で自主勉強を、その隣では男たちが将棋をしていた。

 いつものような静かな日常。

 そこに、何ら前触れもなく一人の男が入って来た。

 

「・・・・・・・・・何をしている?」

 

 入って来たのはボス・・・・・・久間殺切であった。

 久間殺切の言葉に、久間永千は面倒くさそうに答える。

 

「勉強の邪魔をしないように静かにしていただけですよ、ボス」

 

「勉強・・・・・・? 何をやらせている?」

 

「爆薬の合成に関するモノです。知識ハ有って困るようナ物でハアりマせんカラ」

 

「なる程・・・・・・。で、あとどれぐらいで使い物になる?」

 

「さァ? タダ、飲み込みハ良いので来年の半バマでにハ」

 

 苦愚群火虎がそう言うと、久間殺切は「そうか」とだけ言ってさっさと行ってしまった。

 その間、久間殺切は暗視波奉の方に一切視線を向けなかった。

 

「何しに来たんだろう・・・・・・?」

 

「「様子見」」

 

 暗視波奉の呟きに男二人は同時にそう返した。

 そして、何事も無かったかのように将棋を再開する。

 そんな態度に、暗視波奉は何も言うことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 それからさらに2ヶ月が経過した。

 その頃になると、暗視波奉は組織の仕事の手伝いをするようにもなっていた。

 仕事と言っても書類整理がメインで、実戦に駆り出される事もなかった。

 だが、周りの大人は厳つく乱暴で、仲を深めるどころか怖くて近寄れていない。

 乱暴者たちが小柄な暗視波奉にちょっかいを出したりすることもあるが、久間永千と苦愚群火虎がそれを許さなかった。

 そんなある日、苦愚群火虎が深刻そうな顔で暗視波奉を暗がり(人気が無く見られずらい場所)へと連れ込んだ。

 そして、

 

「波奉ちゃん、良いカいよく聞いて」

 

 と真剣な表情で言う。

 その表情に暗視波奉はおどおどとしながら聞く。

 

「どうしたの、ですか・・・・・・?」

 

「マず、これを持って」

 

 苦愚群火虎はそう言ってバックを押し付けるように渡す。

 小型のバッグの中には物がたくさん詰められていて、ギュウギュウになっていた。

 

「どういうこと?」

 

「これカラここハ戦場にナる。私と永千サんガこの組織を潰す。・・・・・・いいカい、9時に事を起こす。ダカラ、それと同時に君ハ逃げるんダ」

 

「なんでっ・・・・・・!」

 

「詳しい事ハバッグに入れてアる封筒内の書類に纏めている。それを読んでくれ。・・・・・・君の個性ナラ逃走ハ容易いダろう。それマでハいつも通りにしていてくれ。事ガ起きタ瞬間にハ、周りの人間ハ混乱して君の監視をしている余裕ナんて無くナるカラね。・・・・・・いいカい? 何ガ何でも逃げるんダよ」

 

 苦愚群火虎はそれだけを言い残し、素早くその場を去って行った。

 暗視波奉は何が何だか分からないまま、自分のデスクまで戻り、書類整理の続きをする。

 時間が過ぎるのが遅く感じられるほど、暗視波奉は緊張していた。

 何が起きているのかなんて分からない。

 何が怒ろうとしているのかも分からない。

 ただ、ひたすら気配を消して仕事をし続ける。

 そして、時計の針が9時を刺した瞬間、大きな爆発音と共に事務所が大きく揺れた。

 暗視波奉はそれと同時に駆け出す。

 事務所から出る時、後ろから男たちが全力で追いかけて来ている事に気が付き、靴を履くことなく外へ出る。

 後ろからは怒鳴るような声が聞こえてくる。

 

「逃げやがったぞあのクソガキィ!!!」

 

「追え!! 追え!!!」

 

 暗視波奉は足が遅い(というより女性の平均並み)。

 追いつかれるのも時間の問題であった。

 それ故に、暗視波奉は自身の個性を発動させる。

 

「どこ行きやがったクソがぁぁああああ!!!!」

 

 暗視波奉の個性によって、男たちから暗視波奉を見ることは出来なくなっていた。

 それだけじゃない、事務所の方が火事になっていた為、男たちが暗視波奉に割ける余力もなかったのだ。

 そして男たちは暗視波奉を探すのを止め、事務所の方へと走って行った。

 それを確認した暗視波奉は、自身の足がボロボロになっている事を一切気にすることなく、ただひたすら駆け続けたのだった。

 

 




次回・個性『英雄』 短編 暗視編

男は戦う。
家族の為に、妹の為に。

「それは人間に使うことのできない最新型のメモリだ」

「だからどうした!! 例え死ぬことになっても、俺は戦う!! 力を貸せ!! “E”のメモリッッッ!!!!!」

《エターナル》

「変身!!!」

短編⑰へ続く。

更に向こうへ。‘‘Plus Ultra‘‘!! 


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短編⑰ 『転生者の物語 暗視編 Eの戦い/永遠なる切り札』

今回はほぼタイトル詐欺になってしまいました。ごめんなさい。
暗視編とか言っておきながら、今回、暗視波奉の出番は少なめになってしまっています。ごめんなさい。

また、オリジナルドーパント&オリジナル技等も出ますがご了承ください。


「ずいぶんと派手なプレゼントだな・・・・・・」

 

 久間殺切はため息交じりにそう言う。

 そして、“倒れ伏している”久間永千の服で自身の靴の汚れを拭き取る。

 

「クソ、親父がァ・・・・・・」

 

「なんだ。喋る力ぐらいはあったか」

 

 久間殺切は久間永千を蹴飛ばし、転がす。

 瞬間、久間殺切の背後から苦愚群火虎が襲い掛かった。

 だが、久間殺切はそれを分かっていたかのように避け、苦愚群火虎の腹に膝を叩き込む。

 

「カハッ・・・・・・」

 

「弱いなァ、苦愚群」

 

 バランスを崩した苦愚群火虎を久間殺切は蹴り飛ばし、久間永千の近くまで転がす。

 

「お前ら二人がそうこうした事でオレに敵う訳が無いだろう。・・・・・・特に、“無個性”の永千は特にな」

 

「ヘッ、無個性でもやれる事はあるんだよ」

 

 久間永千はそう言いながらゆっくりと立ち上がる。

 苦愚群火虎もその体を虎に変化させながら立ち上がる。

 

「さて、二人に見せてやろう」

 

 久間殺切は二人から簡単に視線を外し、近くのアタッシュケースを開ける。

 その余裕は、久間永千と苦愚群火虎を障害とすら思っていない証拠であった。

 アタッシュケース内には複数のメモリが入っていた。

 

「良いだろう。最新型の“T3メモリ”と“T4メモリ”だ。・・・・・・と言っても、“T4”は出力が強すぎて、使えばほぼ確実に死ぬがな」

 

 久間殺切はそう言いながら一つのメモリを手に取る。

 白いメモリ。

 それを視覚した久間永千は、そのメモリが危険なモノであると瞬時に察した。

 

「このメモリと、“このアイテム”を使う事で、力が手に入る」

 

 そう言う久間殺切の手には、あるアイテムが・・・・・・ロストドライバーが握られていた。

 久間殺切がロストドライバーを腰に装着しようとした瞬間、苦愚群火虎がそうはさせまいと飛び掛かっていた。

 苦愚群火虎はその腕に纏っていた炎を束ね、一気に放出する。

 デタラメな攻撃に見えて、隙間なく逃げ場の無いように放たれた炎。

 だが、久間殺切にその攻撃が当たる事は無かった。

 なぜなら、暗視波奉を追いかけていた男たちが戻ってきて、その炎防いだからであった。

 

「なっ・・・・・・!」

 

「ボスはやらせませんぜぇ」

 

 男たちの手にはガイアメモリが握られていた。

 苦愚群火虎がそれに気づいたとほぼ同時にメモリのスイッチが押され、起動する。

 

《マグマ》

 

《アノマロカリス》

 

《バイオレンス》

 

 メモリの起動と同時に、男たちは生体コネクタにメモリを差し込んだ。

 瞬間、男たちの体が異形の姿・・・・・・ドーパントへと変わった。

 苦愚群火虎は、自身の頬に汗が伝うのを強く感じた。

 直感だけで分かったのだ。

 目の前にいるドーパントたちは自身を超える力を持っている、と。

 腰を落とし身構える苦愚群火虎を見て、久間殺切は不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「苦愚群。確かにお前はプロヒーロー並みの実力もある良個性だ。・・・・・・だがな、その程度の実力じゃドーパントには勝てない」

 

 久間殺切はそこまで言った所である事に気付いた。

 それは、

 

「っ! 永千はどこに・・・・・・!」

 

 そして、それに気づいた時には遅かった。

 

「相変わらず詰めが甘いぜ、クソ親父!!」

 

 久間永千はそう言って久間殺切の腕を蹴飛ばし、ロストドライバーを弾く。

 それと同時にその場から素早く離れ、近くにあったアタッシュケースと地面を転がったロストドライバーを回収する。

 

「これでそのメモリは仕えねぇだろ」

 

「・・・・・・・・・ふむ。確かに、ロストドライバーが無ければ無理だろう。普通の人間ならな。だが、残念だったな。俺はこのメモリに好かれているんだ」

 

 久間殺切はそう言って笑うと同時にメモリを起動させる。

 

《エターナル》

 

「“T3”メモリの本領。それは、生体コネクタが無くても自由に使えるというところだ」

 

「まさっ・・・・・・!!!」

 

 久間永千が気付いた時には遅かった。遅すぎた。

 止めようとしたが、間に合わず、久間殺切はその腕にメモリを差し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 苦愚群火虎は三体のドーパントを相手に戦っていた。

 マグマドーパントの火力は苦愚群火虎の纏っている炎の通常火力を大幅に上回っていた。

 アノマロカリスドーパントが高速で放つ牙弾は苦愚群火虎の炎の装甲をいとも簡単に消す威力を持っていた。

 バイオレンスドーパントはパワーとスピートがすさまじく、正面からぶつかり合えば簡単に押し切られてしまう程であった。

 だが、そんな三人を相手に、苦愚群火虎は一歩も引くことなく、逆に押し切っていた。

 

「アッ・・・ガァッ・・・・・・なんで・・・だァ・・・・・・・・・」

 

「何でって、分カラナいのですカ? ・・・・・・全く。私ハ高校を中退・・・・・・いヤ、退学していマすガ、そこガどの高校カお忘れですカナ?」

 

 苦愚群火虎は煙草を取り出し、余裕の態度を見せる。

 ドーパントたちは、苦愚群火虎の言葉を聞いてようやく思い出した。

 

「そう、だったな。アンタ、元・雄英生だったな」

 

「ヤっと思い出しタカ。全く、上司の出身校ぐラい覚えておいタ方ガいい」

 

 苦愚群火虎はそう言いながら大げさに後頭部を掻く。

 そして、右腕に全身を纏っていた炎を収束させる。

 

「これハ学生時代に作っタ必殺技でね。ここ数年ハ使っていナカっタのダガ、マァ、ここで使うのも悪くナいダろう」

 

 そう言う苦愚群火虎の腕に収束している炎の温度はどんどんと高くなっていっている。

 ドーパントたちは気づいていないが、その温度はエンデヴァーの“プロミネンスバーン”の熱量をとうに超えていた。

 辺りに散らばっていたアスファルトはもちろん、コンクリートすらその熱量によって溶け始めていた。

 

「・・・・・・思い出すナァ。学生時代、炎司とよく火力勝負しタっけ」

 

 苦愚群火虎はそう言うと同時に、ドーパントたちに向かって収束させていた炎を放った。

 

「オーバーフレア!!!」

 

 高威力・超高熱の攻撃がドーパントを襲う。

 バイオレンスドーパントはとっさに避けたが、炎に耐性のあるマグマドーパントとアノマロカリスドーパントは避けようとしなかった。

 それが、悪手だという事に気付かずに。

 ドーパントたちを包んだ炎はマグマドーパントすら溶かしたのだ。

 無論、マグマドーパント以上に熱に耐性の無いアノマロカリスドーパントなど、一瞬で燃え尽きた。

 だが、戦いはこれだけでは終わらない。

 バイオレンスドーパントがその大きな腕で殴りかかる。

 苦愚群火虎は身を屈めながらその攻撃を避け、それと同時に地面に手をついてブレイクダンスの応用で蹴りを叩き込む。

 それによってバランスを崩したバイオレスドーパントの顔面に拳を叩き込む。

 そして、そして殴った方の手とは反対の手でバイオレスドーパントの顔面を掴むと、頭を包むように炎を発生させる。

 バイオレンスドーパントは必死に抵抗しようとしたが、なすすべなく焼き尽くされたのだった。

 

 

 

 

 

 

「アッ、うがァ・・・・・・」

 

 久間永千は腹を抑えながら目の前の敵を睨む。

 体中が悲鳴を上げ、今すぐにでも腹の中の物を吐き出したい程であったが、それでも折れる事なく立ち上がる。

 しっかりと、アタッシュケースとロストドライバーを握りながら。

 

「ずいぶんと相応しい醜い姿になったんじゃないか、クソ親父」

 

 久間殺切はメモリを刺したことによりドーパントと化していた。

 全身は白く、頭には三本の角、獣のように鋭い黄色い目、腕は二倍以上に膨れ上がり、指先から二の腕までに赤く燃える炎のようなマークがついていた。

 

「さあ、“T4”メモリを返せ。お前が持っていていいような物ではない」

 

「知らねえよ。テメェの計画を実行させるかよ。・・・・・・ってか、もっと奥の手があるんだろうが」

 

「・・・・・・なるほど、そこまで知っていたか。それじゃあ見せてやろう」

 

 久間殺切はクルリと振り向くと瓦礫を退かし始めた。

 大きな瓦礫をいくつか退かした事で、ようやく“ソレ”が姿を現した。

 

「“エクスビッカー”。NEVERたちが使った超化学兵器だ。これにメモリを装填することで、生きている人間をNEVERにすることができる。・・・・・・永千。その様子ならNEVERがどんなモノかは知っているな? なあ、どう思う? 何でたんぱく質などで構成されている人間が塵となって消えるんだ? おかしいだろう。・・・・・・だから、オレは思い至ったのさ。NEVERはNEVERになった時点で、その体を構成する物質は別の物へと変化しているのではないか、と。もしもそうだとしたら、そこには分解と再構成の二つが行われているという事だ。・・・・・・もしも、その分解の過程でそれを止めることができれば、これは単純な殺戮兵器になる」

 

 久間殺切は楽しそうにそう言いながら“T3”メモリをエクスビッカーに差し込んでいく。

 だが、全てに装填されてはいない。

 一つだけ開いているのだ。

 

「・・・・・・オレがエターナルメモリを使っている以上、“T3”メモリでは全てをエクスビッカーに装填することは出来ない。だから、その“T4”メモリが必要なんだ。さぁ、さっさと寄こせ。お前には不要の産物だ」

 

「ヘッ、そこまで聞いて渡す気になるとでも思ったのか」

 

「思わないさ。だが、渡せ。それを使えばほぼ確実に死ぬぞ」

 

「そうかよ」

 

 久間永千はそう言いながら走る。

 それも、ただやみくもに走るのではなく、うまく視界から外れるような走り方で。

 素早く、小刻みに、不均等に駆ける。

 そうする事で、自身を目で追わせ、隙を作る作戦なのだ。

 だが、

 

「多少の衝撃では“T4”メモリは壊れないからな」

 

 ぶっきらぼうにそう言った久間殺切の腕に淡い光が収束しだす。

 それがマズいものであると気づいた時にはもう遅かった。

 放たれた光が久間永千を直撃し、彼は強く地面に叩きつけられた。

 その衝撃でアタッシュケースが開き、中のメモリが当たりに散らばった。

 

「ウガァアッッ・・・・・・」

 

 久間永千は押し殺したような悲鳴を上げる。

 だが、痛みに悶絶している暇なんてない。

 追撃が来るかもしれないし、そもそも戦場でのんびり寝転がっているなんて「殺してください」と言っているようなモノである。

 久間永千は素早く立ち上がると同時に目の前に落ちていた二本のメモリを拾い上げて距離を取る。

 

「それを拾ってどうする? それは人間に使うことのできない最新型のメモリだ。持っていても意味がない」

 

「・・・・・・した」

 

「さっさとオレに渡せ。有効活用してやる」

 

「黙れ!!!!」

 

 久間永千は力強く久間殺切・・・・・・いや、ドーパントを睨みながら叫ぶ。

 目の前の男には常識が無い。

 いや、それだけではない。

 自身の思い通りに事を運ばせ、周りの人間がどうなろうと一切気にしないだけでなく、向かう先が破滅であろうと自分がやりたいのなら突き進むような破綻した人間だ。

 それ故に話が通じない。

 そんな男が父親であった久間永千は幼少期から振り回されていた。

 だからこそ、目の前にいる男が許せないのだ。

 

 男は少年の持っていた“個性”を『ある男』に捧げた。それ故に“個性”を失った。

 男は少年の目の前で母親を殺害した。理由なんてなく、ただの気まぐれで。

 男は『とある女子高生』を孕ませ、出産させてから殺害した。それ故に、“少年の妹”は施設に捨てられることになった。

 

 そんな男を、許せるはずなんてなかった。

 いや、許す理由も意味も存在なんてしなかった。

 

「死ぬだぁ!? だからどうした!! 例え死ぬことになっても、俺は戦う!! テメェみてぇなクズを殺す為なら命の一つや二つ懸けてやる!!!」

 

 久間永千は拾った二つのメモリの中から白色のメモリを選び、強く握る。

 腰にロストドライバーを装着し、メモリの記号を確認してから言う。

 

「俺の命程度ならいくらでも差し出してやる。だから、力を貸せ!! “E”のメモリッッッ!!!!!」

 

《エターナル》

 

 久間永千はロストドライバーのスロットにエターナルメモリを差し込む。

 ロストドライバーを中心に白いオーラが発せられ、それが少年の全身を囲み、優しく包みだす。

 

「変身!!」

 

 少年はそう叫ぶと同時にスロットを倒す。

 

《エターナル》

 

 瞬間、久間永千を包んでいた白い光がチップ上の装甲へと変化し、少年の体を覆いだす。

 すべての装甲が久間永千を包むと同時にマキシマムスロットが出現し、背中には黒いローブが現れた。

 それだけではない。

 腕の赤い炎が青い炎へと変化した。

 そうして、久間永千は『仮面ライダーエターナル』へと変身を完了させた。

 

「・・・・・・そうまでして計画の邪魔をするか。もう少し頭は良いと思っていたのだがな」

 

「死に晒せクソ親父!!!」

 

 瞬間、二人のエターナルがぶつかり合った。

 ドーパントはその大きな腕を振るってエターナルに殴りかかる。

 大振りな攻撃。

 エターナルは身を屈めることでその攻撃を避け、ドーパントの懐に潜り込むと同時にエターナルエッジでその脇腹を刺す。

 さらに、軽く跳び、ドーパントを足場にして距離を取る。

 距離を取ると同時に落ちていたメモリを拾い上げ、素早く起動させると同時にドライバーのマキシマムスロットに差し込む。

 

《ユニコーン マキシマムドライブ》

 

 エターナルの右腕にドリル状のエネルギー波が生成する。

 そして、素早くドーパントに接近すると同時に、全力でドーパントの顔面を殴り飛ばす。

 

「グハッ・・・!!」

 

 だが、一発では終わらない。

 エターナルは、ドーパントを何度も殴り続ける。

 10発ほど殴ったところで、ドーパントが手を広げ、エターナルを押しつぶそうとした。

 バッチィィンと手が合わさる音が当たりに響いただ、そこにエターナルの姿はなかった。

 ドーパントが辺りをグルリと見渡すと、近くに詰み上がった瓦礫の上にエターナルは立っていた。

 その漆黒のマントを闇夜に靡かせながら。

 

「どうやら、立場が逆転しちまったみたいだな。俺の方が強いようだぞ、バケモノ」

 

「“T4”メモリの方がエネルギーが強いだけだ。・・・・・・だが、それは自分自身を殺す行為だぞ」

 

「だからどうした? お前を殺せるならどうでもいいと言っただろう」

 

「だったら。今すぐ死ね」

 

 ドーパントの体から眩い光が発生し、それが右足に収束する。

 

「そうかよ、死ぬのはテメェも一緒だぜ」

 

 エターナルはそう言って、ベルトからメモリを抜き、素早くエターナルエッジに差し込む。

 

《エターナル マキシマムドライブ》

 

 そんな音声と共にエターナルの足にもエネルギーが収束する。

 普通ならエターナルメモリのマキシマムドライブが発動した場合、他のメモリの機能は停止されるのだが、お互いの使っているメモリが同じエターナル同士であるために、その効果は相殺されていた。

 にらみ合いが続く。

 そして、二人から約150メートルほど離れた所で火柱が上がった。

 二人はその火柱が苦愚群火虎の放った『オーバーフレア』であることを気付きもしなければ、知りもしない。

 なぜなら、その火柱が合図となり、二人がぶつかり合ったからだ。

 

永遠の破壊(エターナルブレイク)!!!」

 

永遠の鎮魂曲(エターナルレクイエム)!!!」

 

 ドーパントの永遠の破壊(エターナルブレイク)とエターナルの永遠の鎮魂曲(エターナルレクイエム)が空中でぶつかり合う。

 バチバチバチバチィッと辺りに稲妻が走り、散らばっていた瓦礫をその衝撃で吹き飛ばしていく。

 そして、

 

「ウグアッ!!」

 

「グオアッ!!」

 

 結果は相殺・・・・・・互角であった。

 ドーパントは地面を転がる事でその衝撃を受け流し態勢を整える。

 エターナルはマントを翻しながら着地し、クルクルッと回転して衝撃を受け流し構える。

 

「さあ、次で決めてやるぞクソ親父」

 

「黙れ! 貴様がこのオレに敵うはずがないだろう!!」

 

「そうかよ。精々無駄に吼えてな」

 

 エターナルはそう言うと、エターナルメモリと共に拾ったもう一つのメモリを取り出し、ベルトのマキシマムスロットに差し込む。

 

《ジョーカー マキシマムドライブ》

 

 ドーパントは大きく吠え、再度足にエネルギーを集中させる。

 瞬間、二人は再度ぶつかり合った。

 

永遠の破壊(エターナルブレイク)!!!」

 

切り札による永遠の鎮魂曲(ジョーカー・エターナルレクイエム)!!!」

 

 攻撃がぶつかり合った瞬間、ドーパントの攻撃が簡単に弾き飛ばされた。

 そして、エターナルの切り札による永遠の鎮魂曲(ジョーカー・エターナルレクイエム)がドーパントに直撃した。

 

「これで終わりだ、クソ野郎。・・・・・・さあ、地獄を楽しみな」

 

 瞬間、二つのメモリによって増幅されたエネルギーは巨大な爆発を起こし、辺りの建物を吹き飛ばした。

 

 




 暗視波奉は人混みに紛れ辺りの様子を窺いながら苦愚群火虎に渡されたバッグ内にあった手紙を読んでいた。
 優しい字で書かれたその手紙には衝撃の事ばかりが書かれていた。

『やあ、波奉ちゃん。この手紙を読んでいつという事は逃げきれたのかな?
 いや、逃げきれたのだろう。君なら絶対そうだと信じている。
 と言いたいところなのだが、君の事だ。逃げている途中でこの手紙を開いているのだろう。
 そうなら2枚目以降は逃げきれてから読みなさい。ここでは2枚目以降に書いている事を端的に記してある。
 まず初めに、私たちがボスと呼んでいた男、久間殺切は君の実の父親に当たる男だ。君の母親を殺したのも久間殺切だ。どうして殺したか、どうやって殺したかその細かい詳細については2枚目に記してある。別紙参照というところだ。
 次に、上の事で何となく気付いているだろうが、永千さんは君の腹違いの兄にあたる人物だ。それ故に君の事を気に掛け、色々と世話を焼いていたのだ。これも詳細は別紙参照。
 次に、私たちが君に資格を取らせまくったのは、君が表社会に出てやっていけるようにである。だから資料整理だけをさせて違法活動をやらせなかったのだ。
 他にも言いたいことは山ほどあるが、君の性格じゃ手紙に集中して逃げることを忘却してしまっている事だろう。
 いいかい? 今はこの手紙を閉じて逃げる事に集中しなさい。
 あと、久間殺切が取引した物についての詳細については6ページに纏めてある。読みたかったら読みなさい。無理に読まなくいても良い。
 健闘を祈っているよ。
 追記:財布の中には現金と銀行のカードが入っています。パスワードは9966(くぐむら)になっている』

 手紙はそう締めくくられていた。
 衝撃な事とおちゃらけた所があり、暗視波奉の脳は情報の整理は上手く行っていなかった。
 だが、それ故に混乱して動けなくなるという事はなかった。
 暗視波奉は手紙から視線を外すと、辺りを見渡す。
 苦愚群火虎と少女の兄の起こした事は周りに大きな影響を及ぼし、警察やプロヒーローが大勢呼ばれ、交通規制が敷かれている状態であった。
 周りの一般人は何が起きているのか分からず、混乱だけが広がっていた。
 その時、交通規制や避難誘導によって一般人がいない筈の所に、三つの影が現れた。
 見た目は人間からかけ離れた異形型の個性とも思えない姿。
 暗視波奉は直感的に苦愚群火虎からの手紙・・・・・・『ガイアメモリとその取引先について』を読む。

『ガイアメモリ。これを簡単に言うなら無個性の人間でも有個性並み・・・・・・もしくはそれ以上の力を手に入れる事のできる兵器だ。ガイアメモリの詳細については次のページに記す。ここでは大まかな説明避けさせてもらう。
 ガイアメモリは地球の記憶をデータとして保存してある電子媒体だ。
 使う事でそのメモリに保存されている情報に関する力を使うことができるようになる。
 例えるなら、火の記憶を内包したメモリを使えば火を操ることができる、みたいな感じだね。
 使用した際には人体は異形の怪物『ドーパント』に変身する。
 それについては次のページに記すが、これだけは先に書いておく。
 ドーパントになった人間は個体差はあるが好戦的で攻撃的になる。
 中には完全な怪物になってしまう者もいる。
 なぜそうなるかは別紙参照だ。
 なお、このメモリを組織に売ってきた別組織の名前は『ベアーズ』というマイナーな組織だ。
 そんな組織がなぜこのようなテクノロジーを持っていたのかは不明だが、くれぐれも気を付けてくれ』

 そう書かれていた。
 これを読んだだけで分かる。
 現れた怪物たちが暗視波奉を追いかけてきた組織の人間であるという事が。
 追いかけて来ていた全員が久間永千と苦愚群火虎の方へ向かったと思っていたのだが、実は別動隊に分かれ、暗視波奉の事を探していたのだ。
 暗視波奉がどうすればいいか試行していると、ドーパントの一体・・・・・・バードドーパントが急に空へ飛びあがった。
 そして、野次馬たちの方へと火炎弾を放った。
 それを合図に残りの二体・・・・・・ティーレックスドーパントとビーストドーパントも野次馬へと襲い掛かった。
 すぐさま野次馬たちは逃げ出し、警察とプロヒーローが戦闘に入った。
 道は逃げ惑う人たちで混乱し、押して押されての騒ぎが起きる中、暗視波奉はドーパントたちを見据える。
 怖いし逃げ出したかった。
 それでも、少女は勇気を振り絞ってその場に残る。
 この混乱は自分が引き起こしたものだから、自分で何とかするのだ。
 その思いだけで残り、戦う決意を固めたのだ。
 暗視波奉は個性を発動させ、飛んで攻撃をしているバードドーパントの平衡感覚を狂わせる。
 バランスの取れなくなったバードドーパントは落下の勢いそのままに近くのビルに突撃した。
 さらに、ビーストドーパントの視覚を奪ったが、鼻の利くビーストドーパントには意味がなく、逆に襲われれてしまった。
 プロヒーローたちは巨大化したティーレックスドーパントの処理に追われていたが故に暗視波奉の救出に間に合うタイミングではなかった。
 だが、ビーストドーパントが跳び上がった瞬間、暗視波奉の後方からある声が聞こえてきた。

「ゴムゴムの・・・・・・(ピストル)!!!!」

 瞬間、ビーストドーパントは“伸びてきた腕”に殴られ大きく吹き飛んだ。
 暗視波奉が何が起きたか理解できない間に、その伸びてきた腕に捕まれ、そのままその場から引き離されたのだった。


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短編⑱ 『転生者の物語 暗視編 Fの絆/最後の戦い』

まず初めに謝罪します。
ごめんなさい。

本当は今回で終わらせる予定だったのですが、想像以上に長くなってしまった為、二分割することにしました。
このような事になってしまい本当に申し訳ございませんでした。


・・・・・・それと、今回の時間軸は30~35話の『オール・フォー・ワン 編』と同じになります。


「やあ、今日は調子良さそうかい?」

 

 とある医者が患者にそう問いかける。

 ここは神野区で一番大きな総合病院の病室。

 様々な病気の患者が入院しているのだが、この病室にいるのは特例措置を受けている人間である。

 本当なら(ヴィラン)として逮捕されるハズの人物、もしくは何かしらの事件の重要参考人が入院しているのだ。

 入院理由は単純で、何かしらの理由で記憶を失っている者たちが大半である。

 足にGPS装置が付いており、病院内を自由に歩き回ることも可能だ。

 時には、別々の事件で記憶喪失になった人たちが親友のように仲良くなっている光景もある。・・・・・・のだが、極まれにそれが殺し合いをしていた二人だったというパターンも存在する。

 そんな人たちの相手をする医者も普通の医者であるはずがなく、この男『宝生(ほうじょう)風夢(ふうむ)』もまた特殊訓練を受けた専門医である。

 宝生風夢が話しかけた青年もまた、とある事件で記憶喪失になり入院することになった人物である。

 一年ほど前に起きたとある事件で記憶喪失になり、数々の病院を転院し続け、この病院まで流れ着いた人物でもある。

 

「はい、ドクター。かなり調子はいいです」

 

「そうかい、それは良かった。・・・・・・実は、君に見せたいものがあるんだ」

 

 いつも以上に改まった態度に、青年は疑問を覚えた。

 

「どうしたんですか?」

 

「これは、君の失った記憶に関するモノなんだ。もしかしたら何か思い出すかと思ってね」

 

 宝生風夢が取り出したアタッシュケース内には謎の機械と複数のUSBメモリが入っていた。

 そして、それを見た青年はとっさに呟いた。

 

「ロストドライバーとガイアメモリ・・・・・・」

 

「やっぱり。これは君の持ち物だったみたいだね」

 

 宝生風夢はそう言うと青年用の棚にそのアタッシュケースを置く。

 

「他の人や別の病院のドクターたちからは君にこれを渡すのを反対されたんだけど、君の笑顔を作る為には必要かと思ってね」

 

「そうですか。・・・・・・わざわざありがとうございます」

 

「もしも何か思い出したらすぐに教えてね」

 

 宝生風夢はそう言い残して病室を後にする。

 そして、静かに廊下を歩き、静かに院の屋上へ移動する。

 誰もいない静かな屋上。

 そこで、宝生風夢は静かに言う。

 

「パラド」

 

 瞬間、宝生風夢の体から赤と青の靄のようなものが現れ、それが人型へ変化する。

 それは、黒いコートに三色のコードを付けた青年・・・・・・パラドである。

 

「どうだった? 風夢」

 

「・・・・・・あれが彼の物だとしたら、彼も“そう”だって事なんだよね?」

 

「ああ、そうだろうな。・・・・・・だが、今は様子を見えることが最優先だと思うぞ。味方なのかはまだ分からないからな」

 

「そう・・・だね・・・・・・」

 

 宝生風夢はそう言うとゆっくりと空を見上げる。

 その日は、雲一つなく優しい風の吹く晴天であった。

 

 

 

 

 

 

 青年がアタッシュケースを渡されてから数日が経過した。

 何もやる事が無くTVでニュースを見ているとどのテレビ局でもある事件が大々的に取り上げられていた。

 少し前に、雄英高校内に『敵連合(ヴィランれんごう)』が侵入し大暴れしたことが大々的に取り上げられていたが、今回はその日ではなかった。

 なんでも、生徒が2人・・・・・・雄英体育祭で一年生のトップになった少年と3位成績だった少年が誘拐されたのだという。

 青年はそれを見ながら心底気分が悪くなった。

 どの番組も雄英の管理体制を叩き、誘拐された少年の事については何も言わないどころか、(ヴィラン)の仲間にされた可能性もある等と憶測に憶測を塗り固め好き勝手騒いでいた。

 ヒーローは万能でもなければ、限界があるというにもかかわらず、安全地帯から好き勝手口を出し、言いたいことだけを言うその態度に青年は怒りを覚えた。

 だが、それでも何ら権力の無い青年が口を出した所で何かが変わる訳もない。

 それ故に青年はベッドに横になる。

 見ているだけで不快になるなら見ない。

 ただ、それだけであった。

 そして青年は静かに眠りにへと入って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 暗視波奉は猿伸賊王と買い物に出ていた。

 神野区で暗視波奉の好きな作品の新刊が作者サイン付きで売られていた為に、猿伸賊王はカップラーメンの箱買いをする為に『パンドラ』メンバーに内緒で出かけていたのだ。

 二人が大通りに出ると、近くの家電量販店に並べられていたテレビ画面に“ある謝罪会見”が映し出されていた。

 それを目にした二人は一気に事態のヤバさに気付いた。

 転生者である二人にはしっかりと原作知識があるのだ。

 それは、今現在テレビに映し出されている謝罪会見がどんな意味を表しているのかも全て分かっているという事である。

 

「まっずい。最近、仮面ライダーと戦うために鍛えてたせいでニュース見てなかった!」

 

「私も、最近見てなかった、かも」

 

 今からこの神野区は戦場になる。

 だからこそ、猿伸賊王は暗視波奉に指示を出す。

 

「いいか。今から逃げても遅い。ここは神野区の中心だ。どの方向に逃げようと必ず巻き込まれる。・・・・・・だから、自身の安全を最優先させて隠密行動をしながら逃げるんだ。そうすれば巻き込まれるだろうけど余り被害なく逃げられると思う」

 

「分かった。・・・・・・賊王くんはどうするの?」

 

「逃げ遅れた人を逃がす」

 

 猿伸賊王はそれだけを言うと、人混みの中へと走って行ってしまった。

 それを見送った暗視波奉は大通りを自然体で歩き出す。

 現在、神野区は厳戒態勢が敷かれている。

 そんな状況で不審な動きをすればプロヒーローにマークされかねない為、何事も無いかのように歩き出す。

 20分ほど歩いただろうか。

 辺りから大きな悲鳴が上がる。

 暗視波奉が周りをグルリと確認するともう、神野区に脳無が放たれたのだ。

 神野区に放たれた脳無は一般人に襲い掛かる。

 暗視波奉は素早く個性を発動させ、脳無の視界を奪う、感覚を鈍らせて眠らせる、バランス感覚を鈍らせる等することで一般人への被害を抑える。

 だが、その程度の子供だましでは十数分時間を稼ぐのが限界であった。

 暗視波奉の個性には人数制限がある。

 ある一定数の者に個性の効果を付与させると、それ以上には付与できなくなるのだ。

 そう。

 その限界が来てしまったのだ。

 個性が付与できなかった脳無が暗視波奉に襲い掛かった。

 だが、その脳無の攻撃が暗視波奉に当たる事は無かった。

 なぜなら・・・・・・、

 

「大丈夫か?」

 

 黒いマントを靡かせた白い戦士が脳無の攻撃を防いでいたからだ。

 

「・・・・・・え?」

 

「隠れてな。ここは“お兄ちゃん”が何とかしてやる」

 

 白い戦士はそれだけ言うと脳無の群れへと突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 脳無が神野区に放たれる数分前。

 病院の大広間(入院患者のたまり場)で青年は宝生風夢から渡されたアイテムを眺める。

 なぜかそのアイテムの名前は分かったのだが、それがどう使うモノなのか、それが理解できていなかった。

 思い出そうとしても強い頭痛により、考える事すら出来なくなっていた。

 青年は大広間の中庭に繋がる大きなガラス窓に視線を向ける。

 

「月が、きれいだな・・・・・・」

 

 そう呟いて静かに微笑む。

 その時、中庭に“何か”が降り立った。

 青年は素早く立ち上がり、それが何なのかを確かめる。

 

「なんだ・・・? アレ・・・・・・?」

 

 そこにいたのは、脳みそがむき出しのバケモノ・・・・・・脳無であった。

 入院患者たちはパニックになり、一斉に逃げ惑う。

 いや、入院患者だけではない。

 ドクターもナースも避難誘導を優先しつつもさっさと逃げようとしていた。

 そんな中、一人のドクターが・・・・・・宝生風夢が黒いコートの青年・・・・・・パラドと共に脳無へ向かって駆けだしていた。

 宝生風夢はゲーマドライバーとガシャットを取り出し、言う。

 

「パラド、行くよ」

 

「ああ!」

 

 瞬間、宝生風夢の体の中にパラドが入り込む。

 

《マイティアクションX》

 

「変身!」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!》

 

 宝生風夢は目の前に現れたライダーパネルを右手でタッチし、選択する。

 

《マイティジャンプ! マイティキック! マイティ マイティ アクションX!》

 

 そんな音声と共に、宝生風夢は『仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル2』への変身を完了させる。

 そして、素早くガシャコンブレイカーを取り出し、脳無との戦闘に入る。

 エグゼイドは十数秒ほどで一体の脳無を倒す。

 だが、その間にも脳無はワラワラと湧くように現れていた。

 

「クッソ。キリがねぇ・・・・・・」

 

《ドラゴナイトハンターZ》

 

「大・大・大・大・大変身!」

 

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ! マイティジャンプ! マイティキック! マイティ マイティ アクションX! アガッチャ! ド・ド・ドラゴ! ナ・ナ・ナ・ナ~イト! ドラ! ドラ! ドラゴナイトハンター! Z!》

 

 エグゼイドは素早く『仮面ライダーエグゼイド ハンターアクションゲーマー レベル5』へとレベルアップし、素早く飛び上がって空中から脳無の殲滅に入る。

 だが、流石に一人では殲滅しきれていなかった。

 人手が足りなかった。

 そんな時だった。

 記憶喪失の青年は宝生風夢が変身したのを見た事で渡された物がどう使うのか理解できた。

 だから、青年はロストドライバーを腰に装着する。

 そして、

 

《エターナル》

 

 青年はエターナルメモリをロストドライバーに装填する。

 

「・・・・・・変身」

 

《エターナル》

 

 青年を中心に風が吹き、それと同時に現れたチップ状の装甲が纏われて行く。

 そうして、青年は・・・・・・いや、久間永千は『仮面ライダーエターナル』への変身を完了させる。

 

「・・・思い出した。・・・・・・そうだった。俺はアイツの為に戦って、それで・・・・・・・・・いや、今はどうでもいいか」

 

 そう、どうでも良かった。

 エターナルは目の前で暴れている脳無たちに向かって突撃していく。

 目の前には2メートルほどの巨体に六本の腕を持った脳無(バケモノ)

 手、一歩一本に何かしらの力を宿しているらしく、右腕は上から炎・氷・電気。左腕は上から怪力・岩石発射・弱念動力であることが窺えた。

 脳無は大きな咆哮を上げ、エターナルに襲い掛かる。

 エターナルは自身に襲い掛かる攻撃を前に、微笑した。

 そして、素早く体を捻り全ての攻撃を避け、脳無の腹にエターナルエッジを突き刺す。

 それと同時にエターナルエッジにメモリを差し込む。

 

《ヒート マキシマムドライブ》

 

 瞬間、エターナルエッジが燃え上がり、脳無を焼き殺した。

 エターナルは素早くエターナルエッジを抜き、他の脳無へ標的を定める。

 そして、ベルトのマキシマムスロットにメモリを差し込む。

 

《ルナ マキシマムドライブ》

 

 眩い光と共にエターナルが5人に分身する。

 そして、その全てが別々の脳無たちに襲い掛かる。

 それによって多くの脳無が数分の内に殺害された。

 

「っ!! 君は・・・・・・やっぱりそうだったのか」

 

「そう言うドクターもそうみたいだな。・・・・・・名前は?」

 

「エグゼイド。“エクストリームエイド”という意味の名前の仮面ライダーだ」

 

「そうか。・・・・・・俺はエターナル。仮面ライダーエターナルだ」

 

「・・・永遠(エターナル)、か。良い名前だね」

 

 エグゼイドはそう言ってエターナルに手を伸ばす。

 それを見たエターナルもエグゼイドへ手を伸ばし、二人は固い握手をした。

 

「その様子なら思い出せたみたいだね。完治おめでとう」

 

「ありがとう、ドクター。アンタの治療のおかげだ」

 

 エターナルはそう言って優しく笑う。

 エグゼイドもそれにつられて笑う。

 そして、すぐに真剣な表情に戻った。

 

「病院を襲ったバケモノはどんな感じだ?」

 

「一時的にだと思うけど退けた。ただ、建物の破損状況を確認して怪我人の手当てに使えるかを確認しないと・・・・・・」

 

「そうか。だったらここはドクターに任せる。俺は怪我人の救助と避難誘導をしてくる」

 

「・・・・・・ありがとう。頼んだよ」

 

「ああ、任せろ」

 

 それだけ言うと、エターナルは戦場となっている街へ、エグゼイドは院内の被害状況の確認へと向かって行った。

 街は脳無(バケモノ)たちで溢れかえり、あちこちで破壊音や悲鳴が上がっていた。

 エターナルは近くにいる者の救助・避難誘導を優先させながら騒ぎの中心へと向かって走っていく。

 少しでも被害を食い止める為に、少しでも多くの人を救うために。

 5分程走ったところで、エターナルはあるモノを目撃する。

 それは・・・・・・、

 

「波奉・・・・・・!?」

 

 そう。

 エターナルの・・・・・・久間永千の妹である暗視波奉が脳無を相手に戦っていたのだ。それだけじゃない、脳無と戦闘をすると同時に避難誘導をしながらである。

 それを見たエターナルはすぐさま暗視波奉の方へと駆けだす。

 そして、暗視波奉に襲い掛かっていた脳無の攻撃を受け止める。

 エターナルは暗視波奉に優しく言葉を掛ける。

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・・え?」

 

 何が起きたのか分かっていない暗視波奉は呆け、そんな言葉しか出せなかった。

 そんな妹を見ながら、エターナルは言う。

 

「隠れてな。ここはお兄ちゃんが何とかしてやる」

 

 そして、素早く脳無の群れへと突撃していく。

 強く、宣言しながら。

 

「さぁ、バケモノども! 地獄を楽しませてやる!!」

 




次回こそ暗視編ラストになります。
いや、ラストにします(決意)。


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短編⑲ 『転生者の物語 暗視編 Fの絆/仮面ライダー』

長くなり過ぎた短編(短編とは言っていない)もこれでお終い。
暗視編のラスト、お楽しみください。
なお、今回も暗視波奉の出番は少ないです。

・・・・・・時間軸的には仮免試験よりも前となっています。


 エターナルは素早く脳無の群れの中へと突入する。

 脳無の数は不明。

 それでも、エターナルは止まらない。

 エターナルは素早くエターナルエッジにメモリを差し込む。

 

《アクセル マキシマムドライブ》

 

 マキシマムドライブが発動した瞬間、エターナルの体が赤いオーラで包まれ、超加速する。

 エターナルはまず、真正面にいた脳無に襲い掛かる。

 脳無は腕に散らばっていた瓦礫を引っ付け肥大化させ、エターナル目掛けて大きく振るう。

 大振りで、単調な攻撃。

 エターナルは身を屈めることでその攻撃を避け、一気に脳無との距離を縮めその腹に蹴りを叩き込む。

 その衝撃で後方へ数メートル飛ぶ脳無。

 瞬間、脳無の口から高圧力によってレーザーと化した水が放出された。

 複数の個性によって増幅されたその攻撃のスピードは凄まじく、音速をとうに超えていた。

 だが、エターナルはその攻撃を簡単に避け、脳無の脳天に拳を叩き込んだ。

 その攻撃で脳が潰された脳無は完全に沈黙した。

 

「弱点むき出しとかコレ作ったヤツ頭おかしいだろ」

 

 エターナルはそうぼやきながらも辺りをグルリと見回す。

 今の戦闘の間に脳無が倍以上に増えていた。

 一人の相手をするのはかなり分が悪かった・・・・・・のだが、そこに一人の男が現れた。

 

「なんだ。ここにも脳無(バケモノ)がいたか」

 

 その人物・・・・・・『仮面ライダーディケイド』はそう呟きながらカードを取り出し、ベルトに読み込ませる。

 

ATTACK RIDE(アタックライド)・・・・・・ILLUSION(イリュージョン)

 

 瞬間、ディケイドが5人に分身した。

 そして、それぞれが脳無に向かって突撃していく。

 それを見たエターナルも負けじとマキシマムドライブを発動させる。

 

《ルナ マキシマムドライブ》

 

 マキシマムドライブ発動と同時にエターナルも5人に分身し、それぞれ独立して脳無との戦闘に入る。

 合計10人となった仮面ライダーによって、脳無はみるみるうちに無力化されて行く。

 そして、

 

FINAL ATTACK RIDE(ファイナルアタックライド)・・・・・・DECADE(ディ・ディ・ディ・ディケイド)

 

《エターナル マキシマムドライブ》

 

 ディケイドの『ディメンションキック』とエターナルの『エターナルレクイエム』が脳無を襲い、それによって辺りにいた脳無は全て殲滅された。

 分身体は脳無殲滅と同時に消える。

 

「誰だか知らないけど、助けてくれてありがとう。アンタが来てくれなかったら倒しきれなかった。・・・・・・アンタの名前は?」

 

「俺か? 俺はディケイド・・・・・・通りすがりの仮面ライダーだ」

 

「ディケイド、か。・・・・・・俺はエターナル。仮面ライダーエターナルだ」

 

 エターナルがそう言うと、ディケイドは「そうか」とだけ言ってある一方向を見る。

 

「・・・・・・? どうしたんだ?」

 

「あっちにヤバイヤツがいる。・・・・・・どうする? お前も行くか?」

 

 

 ディケイドはエターナルに視線を向けずそれだけを言う。

 

「・・・・・・いや、俺は避難誘導をしなければいけない。残念だけど、そっちには行けない」

 

「そうか。なら、せいぜい残り少ない時間を大切にするんだな」

 

 ディケイドはそれだけを言い残すと騒ぎの中心、大きな火災が発生している方へと走って行った。

 エターナルはそれを見送ると、すぐに暗視波奉の下へと足を進める。

 当の暗視波奉はへたり込んでポカーンとしていた。

 

「おい。なにボーっとしてるんだ。ここは戦場だぞ」

 

「・・・・・・へぁ?」

 

「せめて日本語を話せ。・・・・・・ったく。無茶しすぎだぞ、波奉」

 

「・・・・・・お兄、ちゃん・・・・・・・・・?」

 

 暗視波奉は絞り出すようにそれだけを言う。

 その言葉を聞いたエターナルはつい笑ってしまった。

 

「手紙読んでくれたみたいだな、波奉。・・・・・・久しぶり」

 

 エターナル・・・・・・いや、久間永千はそう優しく言葉を掛ける。

 そして、

 

「ここは危険だ。一旦、安全な所まで行くぞ」

 

「う、うん・・・・・・」

 

《アクセル マキシマムドライブ》

 

 瞬間、エターナルの体にアクセルメモリの効果が付与される。

 エターナルは暗視波奉を背負うと一気に病院まで駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 エグゼイドはパラド・・・・・・いや、『仮面ライダーパラドクス』と共に病院を襲っていた脳無を倒し、患者の手当をしていた。

 そんな時、超高速でエターナルが現れた。

 

「良かった。無事だったんだね。・・・・・・それで、その子は? まさか! 重症人!!?」

 

「いや、違うから。そんな心配はしなくて良い」

 

 エターナルはそう言いながら背負っていた暗視波奉を下ろす。

 

「コイツは俺の妹の暗視波奉だ。さっき、偶然再会した」

 

「あ、あの・・・その・・・・・・はじ、はじめまして」

 

 暗視波奉はおどおどしながらも挨拶をする。

 それを見てエグゼイドは少し笑い、暗視波奉に手を伸ばす。

 

「仮面ライダーエグゼイド・・・・・・宝生風夢だ。よろしく」

 

「俺は仮面ライダーパラドクスだ。よろしく」

 

「は、はひゅぅ・・・・・・」

 

 暗視波奉は顔を赤くし、スッと倒れてしまった。

 あがり症な暗視波奉にとって、いきなり男二人に詰め寄られる(挨拶をしただけなのだが)なんて、彼女からしたら意識を保てないほど緊張する場面なのだ。

 そうして、倒れた少女を前にあわあわと慌てて無能状態になった大人がそこに残った。

 

 

 

 

 

 

 あれから3日が経過した。

 神野区はほぼ全壊。

 約8割方が壊滅し、残りの2割もなんとか機能している状態である。

 この2割が残ったのだって、エグゼイド・パラドクス・エターナルが戦った為である。

 逆にそれ以上に仮面ライダーがいた騒ぎの中心が崩壊しているという事は、そこにいたモノがとてつもない怪物(バケモノ)であった証拠に他ならない。

 そして、それにより多くの犠牲者が出たのもまた事実である。

 エターナルが戦場を駆け回り、避難誘導をしていようとも、やはり犠牲者は多かった、いや、多すぎた。

 死者・行方不明者・重傷患者から軽傷の者まで多くの被害を出した。

 この病院にも多くの患者が運ばれていて、医師たちはてんやわんやになりながら処理に追われていた。

 だが、もともと入院していた患者的に医師たちの苦労が大きな影響を及ぼすことはあまりなかった。

 無論、久間永千もいつも通り病室でのんびりと空を眺めていた。

 

「賑やかなところだね」

 

「前までは静かだったんだけどな」

 

 いや、いつもと違うところはあった。

 隣に暗視波奉が・・・・・・妹がいるのだ。

 たったそれだけの事、されどそれは素晴らしい事であった。

 ここ数日で色々な話ができた。

 ただ、兄として妹が結局裏社会で生きているという事は納得しきれないでいた。

 それでも、その裏組織・・・・・・『パンドラ』の事を楽しそうに話す姿を見て、ほっこりしてしまっていた。

 最近巷を騒がせている『パンドラ』についての意外な裏話(というより愚痴に近い)が聴けて久間永千はつい笑っていた。

 久間永千の所属していた組織は普段からピリピリしていて、誰も彼も敵であった。

 あの男―――久間殺切は自分以外の人間にロクに興味が無く、何かするにしても利用価値があるかないか、それだけでしか人を判断していなかった。

 それ故に、気にくわなければ誰でも簡単に殺していた。

 ただ、ある日を境に“個性”を使わなくなった。

 より正確に言うなら『暗闇の赤』と呼ばれる殺し屋と戦い、なんとか退けたモノのその時の傷が原因で“個性”が使用できなくなった。

 だから、ガイアメモリに手を出したのだろう。

 いや、もうそれを知るすべはないだろう。

 久間永千は世間がオールマイト引退で騒がしくなっていた時に自身が記憶を失った事件について調べたのだ。

 結果、苦愚群火虎は逮捕され、久間殺切は死亡していた。

 そう。

 少年たちの身内と呼べる人間はもういないのだ。

 

「しっかし、お前も大変だったみたいだな」

 

「お兄ちゃんもそうじゃない。記憶喪失だったなんて・・・・・・」

 

「あの時はかなり無茶したからなぁ」

 

 久間永千はそう言って苦笑する。

 それを見た暗視波奉は頬を膨らませて文句を言った。

 

「笑い事じゃないよ。心配してたんだからね」

 

「それに関してはすまなかった。あの時は無茶をしすぎたよ」

 

「無茶ってレベルじゃない気がする、かも」

 

 暗視波奉はそう言いながらも優しく微笑む。

『パンドラ』のメンバーになってから楽しい事もあり、辛いこともあった、それでも、いつもどこかで久間永千の事を考えていたのだ。

 だから、再会できて、今まで以上に会話できることが嬉しいのだ。

 そんな時、少女の持っていたスマホがバイブした。

 

「誰かからの連絡?」

 

「あ~、何か『パンドラ』で会議をするみたい」

 

「会議、ねぇ」

 

 久間永千はその言葉に不穏なモノを感じ取る。

 

「どんな会議だ? いや、言えないなら別に良いんだが・・・・・・」

 

「なんか、“仮面ライダー”・・・・・・機鰐龍兎って子を潰す為の会議だって」

 

「へ?」

 

「なんか急ぎみたいだから行くね、お兄ちゃん。また来るね」

 

 久間永千が暗視波奉の言葉に驚いて思考停止している間に、当の妹は帰ってしまった。

 そして、放心状態から戻るとすぐに『機鰐龍兎』について調べた。

 結果、モノの数分で山のように情報が出てきた。

 その情報の中には機鰐龍兎が数日前の大事件でディケイドが向かって行った騒ぎの中心まで行き、戦っていた事すら書かれていた。

 

(・・・・・・・・・なんだよ。すげぇヤツじゃねえか。コイツ、プロでもないのにあんな脳無(バケモノ)と戦っただけでなく、それ以上にヤバイヤツと戦って勝ち残ってるのか。これを潰すって、オイ。『パンドラ』のリーダーはどんな人間なんだ?)

 

 久間永千はそう考えながらも、フと空を見上げた。

 あんな騒ぎがあったのにもかかわらず、まるで何事も無かったかのような晴天が広がっていた。

 そんな空を見て、久間永千はある事を失念している事に気付く。

 だが、それが何なのか一切思い出せなかった。

 それが、何よりも重要な事だというのに。

 

 

 

 

 

 

 暗視波奉は『パンドラ』の基地にして豪華客船の甲板で夜風に当たっていた。

 豪華客船の名前は『オーシャンムーン号』。

 見た目は世界最大の大きさを誇る『Symphony of the Seas(シンフォニー・オブ・ザ・シーズ)』を真似て作られており、本物よりも一回り小さいモノの、乗員人数は最大で3500人を超えるかなりの大型船となっている。

 ただ、客を運ぶことを考えて作られていない為、個室は質素でシンプルな作りになっている。

 暗視波奉が空を見上げ、星座を眺めていると後ろから声を掛けられた。

 

「波奉ちゃん☆」

 

 そこには、優しい笑顔を浮かべた志井逢奈がいた。

 そしてその手には暗視波奉の好きなコカ・コーラが握られていた。

 

「飲む?」

 

「飲みたい!!」

 

 そう飛びついた暗視波奉を見て志井逢奈はまた笑う。

 微笑ましいものを見た保護者のように。

 コカ・コーラを渡された暗視波奉は、すぐにキャップを開け、ゴクゴクと飲む。

 

「美味しい~」

 

「喜んでもらえたようで何よりだよ。・・・・・・それで、悩んでいたようだけどどうしたの?」

 

「・・・・・・実は、」

 

 暗視波奉は話した。

 自身の事、『パンドラ』に拾われる前の事、兄の事。

 その話に志井逢奈は一切の横槍を入れることなく最後まで聞き終えた。

 そして、

 

「波奉ちゃんはどうしたいの? このまま『パンドラ』にいたい? それとも、『パンドラ』を抜けてお兄さんと一緒に進んで行きたい? もしくは、お兄さんを『パンドラ』に勧誘したいの?」

 

「・・・・・・・・・分からないの。お兄ちゃんや火虎さんとの日々はとても楽しいものだったし、『パンドラ』での生活も楽しかった。お兄ちゃんと一緒にいたい気持ちもあるし、『パンドラ』のみんなといたい気持ちもあるの。だから、分からないの」

 

「それは、私は何も言えないかな。だって、最後に決めるのは波奉ちゃんだから。・・・・・・ただ、私は波奉ちゃんの選択を尊重するよ。例え、『パンドラ』を抜けるのだとしても、笑顔で見送る。それは約束する」

 

「・・・・・・ありがとう、逢奈さん」

 

「いいのよ」

 

 志井逢奈の言葉を聞いた暗視波奉はコカ・コーラを一気に飲み干してから言う。

 

「とりあえず、明日にでもお兄ちゃんに相談してみる」

 

 

 

 

 

 

 久間永千は夜中に一人目を覚ました。

 普段ならそんなんことは無いのだが、この日だけは何故か目が覚めた。

 眠気眼で左手を見ると、そこあるべきモノがなかった。

 より正確に言うなら、左手が緑色の光に包まれて消えかかっていたのだ。

 それを見て久間永千はようやく思い出した。

 自分が使っていたメモリが、使えば死ぬ物であるという事を。

 だが、なぜか恐怖はなかった。

 それどころか自身がどうなるのかも久間永千はなぜか理解していた。

 

(消えるのか。・・・・・・しかも、ただ消えるだけじゃなくて、地球の記憶に取り込まれる。ああ、クソ。もう少し波奉の面倒を見てやらないといけなかったのによ)

 

 久間永千はそこまで思い、急いで備え付けの棚を開く。

 そして、ロストドライバーとメモリの入ったアタッシュケースを左手で掴む。

 掴めたのだ。

 消えかけて、もう目視すら出来なくなっているにも関わらず掴むことは出来た。

 つまり、消えかけているだけでまだ実体はあるのだ。

 それを確認してから、棚の上に置いてあったメモ帳にボールペンで遺言と現在自身の置かれた状況を書き記していく。

 ただひたすらに、そして、自身の関係者に感謝の言葉を書いていく。

 と言っても、久間永千と関係のある人物など少ないため、それは簡単に書くことができた。

 ただ、最後の最後、全員に向けた感謝の言葉を書こうとしたところでボールペンが床に落ちた。

 そこで、ようやく気が付いた。

 左手どころか、右手も足も胴体も、もう、消えかかっているという事に。

 ただ、なぜかアタッシュケースだけは落ちることなくしっかりと掴めていた。

 

(ンだよ。もう時間かよ。・・・・・・ホント、もう少し生きていたかったな)

 

 その思考を最後に、久間永千の体は消滅し、地球の中へと取り込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 女が暗い裏道を逃げる。

 追いかけて来ているのは4人の男たち。

 どれだけ逃げようとも、どこへでも追いかけて来ていた。

 そしてついに、捕まってしまった。

 女は大きな声で助けを呼んだ。

 だが、誰も来ない。人の気配すらない。

 

「ヘヘヘッ。残念。ここら辺はヒーローも警察もなかなか寄り付かない絶好のスポットなんだよ。・・・・・・アンタは、俺達が可愛がってやるから無駄な抵抗はするなよ」

 

 男の一人はそう言いながら女の髪の毛をギュッと掴む。

 女は恐怖を押し殺して男たちを睨む。

 瞬間、女の頬を男が思いっきり叩いた。

 薄暗く静かな裏道にパッチーンという音が響く。

 

「あっ・・・・・・」

 

「反抗的なのも良いけど、すぐに壊れちゃうよ。でも大丈夫、本能に従って鳴くだけでいいんだから」

 

 男がそう言ってニタリと笑った瞬間、

 

《エターナル》

 

 裏道に機械音が鳴り響く。

 男たちは音のした方へと視線を向けた。

 そこには、緑色の光とその光に包まれる人影があった。

 光に包まれている者は一言、小さく呟く。

 

「変身」

 

《エターナル》

 

 瞬間、白い光が緑色の光を晴らし、その白い光が謎の人物を包む。

 そして、そこには白いボディに青い腕、黒いマントを羽織った戦士がいた。

 その姿を見た男たちに動揺が走る。

 

「おい、これって・・・・・・」

 

「そうだ、コイツは・・・・・・」

 

「「仮面、ライダー・・・・・・」」

 

 男たちがそれを認識した瞬間、白い仮面ライダーが男たちに向かって駆けだす。

 その手には黒いコンバットナイフが握られていた。

 男の一人が反射的に個性を発動させ、仮面ライダーに攻撃を仕掛けた。

 だが、仮面ライダーにその攻撃を気にする様子はなく、攻撃をした男の鳩尾に肘を叩き込む。

 そして、近くにいた別の男にアッパーカットを喰らわし、壁に叩きつける。

 一瞬で仲間が無力化されたのを見た男たちは慌てて逃げようとした。

 だが、見逃してやるほど仮面ライダーは優しくなかった。

 

《アクセル マキシマムドライブ》

 

 瞬間、男たちの進行方向に仮面ライダーが現れた。

 それは瞬間移動などではなく、超高速で走っただけなのだが男たちにはそれを理解することができなかった。

 そして、恐怖し混乱して出来た隙をつかれあっさりと無力化された。

 女はそれをただ茫然と見ていた。

 そんな女の下に仮面ライダーは近づき、そっと手を差し伸べる

 

「大丈夫か?」

 

「えっ! ・・・は、はい・・・・・・」

 

「ならいい。もう、こんなことにならないように人気のない道を通るのは止めておくんだな」

 

 仮面ライダーはそれだけを言うと、女に背を向けて歩き出す。

 女は、慌てて叫ぶように言う。

 

「あ、あの! お名前を教えていただけませんか!?」

 

 女の言葉を聞いた仮面ライダーは足を止め、女の方に少し視線を向けると、小さく呟くように言った。

 

「エターナル。仮面ライダーエターナルだ」

 

 エターナルがそう言ったと同時にその体が緑色の光に包まれた。

 そして、エターナルはその光と共に裏道の闇の中へと姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 子供たちの間にある噂が広まっていた

 

「ねぇねぇ知ってる? 助けを呼ぶと来てくれる戦士(ヒーロー)の事」

 

「知ってる知ってる。困っている人の所に現れて勇敢に戦ってくれる白い戦士(ヒーロー)の事でしょ」

 

「僕もこの前、(ヴィラン)に襲われた時に助けてもらった」

 

「私も崖から落ちた時に助けてもらった」

 

「そのヒーローの名前は・・・・・・」

 

「名前は・・・・・・」

 

 

「「エターナル」」

 

 

 子供たちはとある戦士(ヒーロー)について楽しそうに語る。

 ただ無邪気に、その死人の事を広めていくのだった。

 




これで終了です。
もう暗視編は書きません。疲れました。


これから、ちょっとした解説を。


暗視編のタイトルについての解説です。

『Sの記憶』の『S』の意味は

1.少女(つまり暗視波奉)の『S』
2.Story(ストーリー)の『S』

となっています。


『Eの戦い』の『E』の意味は

1.永千の『E』
2.Eternal(エターナル)の『E』

となっています。


『Fの絆』の『F』の意味は

1.Family(ファミリー)(つまり暗視波奉と久間永千の関係性)の『F』
2.Final(ファイナル)の『F』

となっています。
一応無理矢理ですが意味は持たせていました。


久間永千が地球の記憶に取り込まれどうなったのか、それは読者様の想像にお任せします。


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短編⑳ 『転生者(?)の物語 エボルト編』


~注意~


今回、究極クラスのネタバレが含まれます。
というかこの物語(本編)のラスボスが登場します。
「ネタバレ? 知りたくねぇよ」という方は読まないことをおススメします。


「おやぁ、いつもどうも~」

 

 コーヒーの豆を専門に取り扱っている店の店主が嬉しそうにそう声を掛ける。

 話しかけられた人物・・・・・・石動惣一(エボルト)は店主の方へと視線を向ける。

 

「やあ。ここの豆はいつも良いモノを置いているなぁ。・・・・・・おや? この豆は新しいヤツかな?」

 

「そうですよ。最近品種改良が終わったモノでしてね。知り合いが品種改良をしたものですから特別に購入させて貰って並べさせていただいているんですよ」

 

「ほう。・・・・・・それで、どのような特徴があるのですか?」

 

「石動さんがいつも買われて行っている豆よりも深い香りが特徴・・・・・・なのですが」

 

「ですが?」

 

「香りに力を入れすぎたせいで少し味が薄いんです・・・・・・。なので、いつも買われて行っているその豆の割合を7、この豆の割合を3でブレンドすれば丁度いい味と香りのコーヒーになります」

 

 店主の話を聞いた石動惣一は小さく口笛を吹くと財布の中身を確認した。

 そして、

 

「それじゃ、いつもの豆のこの新しい豆をもらおう? いくらだ?」

 

「いつもの量×2ですから・・・・・・まあ、今回は少し値引きして2500円になります」

 

「おお、ありがとう」

 

 石動惣一は支払いを終え、鼻歌交じりに店を出る。

 現在考えている事と言えば、新しく手に入れた豆をどのようにブレンドするかという事ともう一つ。

 とりあえず石動惣一はカフェに向かって歩きながら人気のない道へと進んで行く。

 そして、周りに誰もいなくなった所で言う。

 

「見ているんだろ? 出て来いよ」

 

 瞬間、石動惣一の前に白い光が現れる。

 そして、その白い光から男の声が聞こえてきた。

 

『なぜ、仮面ライダーと敵対しなかったのですか?』

 

「ん? 決まっているだろう? “俺が俺じゃないから”だよ」

 

『・・・・・・・・・』

 

「お前なら分かっているだろう? アイツらには俺の事は『戦兎たちに倒された際に“俺”から抜け出た意識が姿を持ったモノ』だと説明しているがそれは違う」

 

 石動惣一は白い光を見据えながら言う。

 

「俺はお前が作った“エボルトのコピー”だろ?」

 

『よく・・・気付きましたね・・・・・・』

 

「それぐらい分からないようじゃ、日本を三つに分断させて三国内で戦争なんて起こさせれないさ」

 

 軽々しく、まるでそれがどうでもない事のようにそう言いながらトランスチームガンを取り出す。

 そして、コブラロストボトルを取り出し、いつでも使えるように構える。

 

『それでも、アナタなら仮面ライダーと敵対し、この物語を面白くしてくれると思ったのですが・・・・・・』

 

「面白くなっているだろう? 俺みたいな完璧なラスボスが味方になるって」

 

『私が期待していたのはアナタが暴れて“彼”が苦戦する姿だったのですけどね。・・・・・・まあ、確かにこの展開も面白い』

 

 白い球からクックックと小さな笑い声が聞こえる。

 

「それで? 何の用だぁ?」

 

『ただの様子見です。アナタが変な事をしようものなら・・・・・・ね』

 

「そうかよ。まあ、俺は好きなようにやるだけさ」

 

 石動惣一がそう言うと白い球は『またしばらく観察はしていますよ』とだけ言って消えて行った。

 せっかく取り出したのに意味の無かったトランスチームガンとコブラロストボトルをしまい、また歩き出した。

 そして、ポソッと呟いた。

 

「アンタの計画なんて、俺どころか機鰐龍兎も気付いているさ。なあ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主神♪」

 

 

 




~その後~

エボルト「良い豆買ってきたぞ~。早速、淹れてやるからな~」

仕原弓「全力で、」

賢王雄「止める!!!」

エボルト「あっ! クソ!! 俺の豆だぞ!! ちょ、やめ、返せ~~~~!!」


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短編㉑ 『転生者の物語 仕原編 過去①』

本編9話の後書き等にサラッと書いた仕原弓の過去、元々はフリーの殺し屋であったという事についての物語。
つまり、過去編になります。


 これは、『敵同盟(ヴィランどうめい)』が出来てすぐの物語。

 

 

 

 義爛と呼ばれる男がいた。

 闇のブローカーとしては業界内で1位2位を争えるほど有名で、主に裏組織への人員紹介から武器装備の販売含め全般的に取り扱っている。

 それは、殺し屋への仕事紹介もである。

 とある暗い廃ビル内を義爛はカツカツと足音を立てながら歩く。

 そして、

 

「おーい。仕事を持って来たぞ~」

 

 とビル内に響くように大きな声で言った。

 だが、物音一つなくビルは静まり返っていた。

 それでも義爛は言う。

 

「いるんだろ? 『静かなる銀弾』。お前への依頼だ。さっさと出て来てくれ」

 

 瞬間、義爛の頭に銃口が付きつけられた。

 義爛は大きなため息を吐いてから両手をスッと上げる。

 

「相変わらずだな。・・・・・・ほら、依頼内容の資料だ。さっさと読んでくれ」

 

『静かなる銀弾』と呼ばれた人物は義爛の手の中にある資料を受け取り、片手でパラパラとめくる。

 そして、深いため息と共に義爛の手に資料を返した。

 

「引き受けないのか?」

 

「桁が足りない。1000万じゃ少ない。最低でもこれの5倍で持って来て」

 

「・・・・・・わかった。じゃあ、この仕事は『暗闇の赤』にでも持って行くよ」

 

 義爛はそう言うとゆっくりと歩き出す。

『静かなる銀弾』は資料を読んでいる時も、義爛が去る時もずっと拳銃を構えたままであった。

 そして、一人になったところでようやくその場から離れる。

 義爛と接触した階から下の階へ行き、柱や放置された廃材の関係上完全に死角になっている所にある拠点へと戻る。

 拠点と言っても6畳あるかどうかの広さで、1畳が寝る為で1畳が料理をする際にガスコンロなどを置く為の空間。残りの4畳に銃や弓矢などの武器とそれを手入れするための道具が置かれている。

『静かなる銀弾』は自身が寝る際に使っている空間に座り込み、自身の武器の手入れを始めた。

 先ほど目を通した資料には『暗殺に向かった10名は全員死亡』と書かれていた。

 もしも、『暗闇の赤』が向かったとしても勝てるかどうかと言えば、普通に負けるだろう。

 いや、彼女の事だ。

 負けを確信した瞬間には逃げるだろうし、そもそもこんな仕事を受けるとは思えない。

 そんな事を考えながら『静かなる銀弾』は自身の愛銃を一つ一つ丁寧にメンテナンスするのだった。

 

 

 

 

 

 

 義爛の仕事を断ってから一週間が経過した。

『静かなる銀弾』はそろそろであろうと考え、スッと太ももに付けたホルダーにトカレフをしまうと、ゆっくりと行動を開始する。

 誰にも見られないように隠れ家から出ると、静かに屋上へと上がる。

 廃ビルは骨組みと床しか残っておらず、窓ガラスなどは全て無くなっている。

 つまり、どこから入るかなんてその人物の気分次第でどこからでも入れる。

 それに今のご時世、空を飛べる人間すらいるのだ。

 屋上から侵入しようと思えば侵入できるのだ。いとも簡単に。

 それ故にどこから義爛が来るのかと眺めていると、彼は堂々と真正面から廃ビル内へと入って行った。

『静かなる銀弾』はそれを確認してから自身も廃ビル内へと入る。

 物音を立てないようにしつつ静かに、それでいて素早く下階へと降りて行く。

 そして、物陰に隠れ様子を窺う。

 それに気付いているのか気付いていないのかは不明だが、義爛は『静かなる銀弾』の隠れている階で止まるといつも通りの口調で言う。

 

「おーい。仕事を持って来たぞ~。この前に断られたヤツだ。お前の望むような報酬になっているぞ~」

 

「気付いているから大きな声は出すな。この隠れ家だっていつヒーローにバレるか分からないんだ」

 

『静かなる銀弾』はため息交じりにそう言いながら義爛の後ろに立つ。

 義爛はいつも通り両手を上げる。

 

「ほら。資料を読んでくれ」

 

『静かなる銀弾』は義爛の持っていた資料を素早く奪うと中身を確認した。

 細かいところはほとんど変わっていなかったが、報酬が大幅に上がっていた。

 それを確認してからようやく義爛に向けていた銃を下す。

 

「引き受けるか?」

 

「ああ。引き受けよう。・・・・・・それで、『暗闇の赤』は?」

 

「引き受ける受けない以前の問題が起きた」

 

「そうか」

 

『静かなる銀弾』はそれだけを呟いて再度資料を眺める。

 こんな社会だ。

 下手に聞くだけ面倒ごとに巻き込まれる可能性があるし、つい数分前まで話していた人物が死ぬことだってある。

 知らなくて良い事は知らないままでいいのだ。

『静かなる銀弾』にとって『暗闇の赤』は同乗者で、ライバルで、時には助け合って、最悪殺し合うかもなるかもしれない関係なのだ。

 深く知る時は殺そうとするときだけ。

 だから、聞かないのだ。

 もちろん、その事は義爛も分かっている。

 だからこそ何も言わないのだ。

 

「まあ、分かっていると思うが、その資料はしっかりと消去してくれよ」

 

「当たり前だろう。こんな証拠の塊を残しておく物好きがいるのなら見てみたいぐらいだ」

 

『静かなる銀弾』のその言葉を聞いた義爛は「クックック」と小さく笑ってから歩き出す。

 スタスタと、前だけを見ながら。

 何故そんな事をするのかと言えば、振り向けば『静かなる銀弾』に殺されるからである。

 以前、義爛と同じ闇のブローカーが『静かなる銀弾』の顔を見た結果、何ら容赦なく殺されたのだ。

 それ故に『静かなる銀弾』に仕事を依頼する際は顔を見ないようにしなければいけないという暗黙の了解が出来ているのだ。

 義爛はそう言ったことを熟知し、仕事に関わる人物の事を最大限考えて行動できる闇のブローカーの中でも信頼の大きい人物である。

 だから、『静かなる銀弾』も資料に意識を向けて義爛が去っていく姿に見向きをしないのだ。

 義爛が去ってすぐ『静かなる銀弾』は資料を全て暗記し、燃やして終わらせる。

 だが、何かの気まぐれか、普段は資料と共に燃やしているターゲットの写真は燃やさずポケットへとしまい込む。

 そして、ターゲットの名前を静かに呟いた。

 

「賢王雄、ねぇ・・・・・・」

 

 

 

 




何か長くなりそうだったので区切ります。


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短編㉒ 『悪夢より一夜明けて変わった何か』

新しい仮面ライダーが発表されましたね。
01(ゼロワン)・・・・・・令和ライダーとしてどんな戦いを、物語を見せてくれるかが楽しみです。

ただ、社長ライダーはもういただろう・・・・・・ヴェハッハッハッハって笑う自称神とその父親が。


それと、今回の話の時間軸は35話あたりになっています。


 神野の悪夢から一夜明け、世界は混乱していた。

 日本中を恐怖に貶めた(ヴィラン)、『オール・フォー・ワン』とNo.1ヒーロー『オールマイト』との戦い・・・・・・その先にあった『オールマイト』の正体の露呈と引退の表明。

『オールマイトの引退』これは、とある男・・・・・・轟炎司(エンデヴァー)に大きな影響を与えていた。

 オールマイトを超える為にすべてを捧げていた男にとって、こんな終わり方は認めるわけにはいかなかった。

 轟家にある『訓練場』でエンデヴァーが怒りに身を任せてトレーニング道具に八つ当たりをしていた。

 その姿を、息子である轟焦凍が眺めていた。

 人生を、家族を・・・・・・その全てを犠牲にしてきた男の末路を。

 その時、『ピンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。

 焦凍が玄関に向かうと姉の轟冬美が訪問者の相手をしていた。

 訪問者は優しい顔つきの青年でずっと「エンデヴァーはいるか」と聞いて来ていた。

 冬美は記者か何かかと警戒をしていたが、焦凍は違った。

 青年から発せられている残り香を嗅ぎ取ったのだ。

 殺気の残り香を。

 

「アンタ、誰だ?」

 

 焦凍は冬美と青年の間に入り臨戦態勢も整える。

 一度、職場体験でエンデヴァー事務所に行った時、サイドキック全員と顔合わせをしたことがある為、目の前にいる人物が事務所の人間ではないのは確定。

 さらに、エンデヴァーはあんなのでもトップヒーローの一人だ。大抵のプロヒーローは敬語で話呼び捨てに等しない。となるとヒーローではない。

 発せられている殺気から記者説は一瞬で消え去る。

 この消去法で行くと目の前の青年が(ヴィラン)である可能性しか浮かばないのだ。

 だが、青年に焦凍から向けられている敵意を気にした様子は無く平然と言った。

 

「俺の名前は“葛葉紘汰”っていうんだ。エンデヴァーに言ってもらえれば分かると思うんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・姉さん、俺が対応してるから親父呼んできてくれ」

 

 焦凍にそう言われ、冬美はすぐに『訓練場』へと向かう。

 これで一対一。

 もしも何かしてきたとしても焦凍一人ならすぐに対処できる。

 青年が(ヴィラン)だとしたら子供一人になったところで事を起こしそうなものだが、青年・・・・・・葛葉紘汰は特に何をするわけでもなくのんびりとしていた。

 そしてすぐにエンデヴァーが『訓練場』からやってきた。

 

「よっ、エンデヴァー。何か大変な事になってるみたいだな」

 

「何の用だ、葛葉。俺はいま忙しいんだ」

 

「イライラして物に当たっていたようにしか見えないんだけどな」

 

 葛葉紘汰の言葉にエンデヴァーは言葉を詰まらせた。

 適当に言ったのだろうが、それが事実である故に何も言えないのだ。

 そんなエンデヴァーを見て葛葉紘汰は苦笑した。

 そして、

 

「分かりそうか? 只の力じゃない、本当の『強さ』」

 

 と説いた。

 だが、その言葉にエンデヴァーは答えられなかった。

 まだ迷っているのだ。

 それを認めるという事は、分かるという事は、今までの自分の人生を否定するという事だから。

 それ故に戸惑いが表に出てしまっていたのだろう。

 葛葉紘汰は深く息を吐くと、

 

「また来るよ。お前の事だから、次来る時にはきっと分かってるはずだからな」

 

 そう言ってクルリと振り向いた。

 瞬間、葛葉紘汰の体が白く淡い光に包まれ、髪色が金色に、服装が銀色の鎧へと変化した。

 そして、オレンジ色の丸い光に包まれ大空へと飛んでいった。

 

「・・・・・・親父。何なんだアイツ」

 

 あまりの光景に父親を毛嫌いしている焦凍がボソリとそう呟いていた。

 それに対しエンデヴァーは、

 

「神、らしいぞ」

 

 そう答える事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 エンデヴァーはヒーロースーツに身を包むととある刑務所へ来ていた。

 目的は一つ。

 この刑務所に収監されている『昔の同級生』に会いに来たのだ。

 タルタロス程ではないが強力な“個性”を持つ(ヴィラン)が多く、手続きが面倒なのだが、さすがNo.2ヒーローと言った所か、スムーズに進めた。

 エンデヴァーが仏教面で面会室に座っていると反対側の扉が開きとある囚人が部屋へと入って来た。

 

「ヤア、炎司。久しぶりダね」

 

 そう言ってエンデヴァーの目の前に座ったのは、エンデヴァーの学生時代の同期である“苦愚群火虎”であった。

 十数年前、まだエンデヴァーが雄英生だった頃の友人でもある。

 

「No.2・・・・・・いヤ、今ハNo.1ヒーローダっダカ。そんナ君ガ犯罪者でアる私にどんナ用事カナ?」

 

「相変わらず変な話し方だな」

 

「君も相変ワラず堅いね」

 

 苦愚群火虎はそう言って苦笑する。

 エンデヴァーは一切表情を崩さずに苦愚群火虎の顔をジッと見る。

 

「サて、君ガここにワザワザ足を運んダという事ハ何カ悩みガ出来タのカナ? ・・・・・・良いのカい? 仮にも私ハ(ヴィラン)ダ。プロヒーローガ助言を求める相手でハナいダろう」

 

「貴様なら分かっているだろう。俺が今どのような立場にいるのかを。それで貴様に何を聞きたいかを」

 

「アア、分カっているサ。君ガ言いタいのハ『俺は本当にNo.1ヒーローにふさわしいのか』ダろう? それナラ答えハ簡単サ。君ハNo.1ヒーローとしてふサワしいよ。今の君ハ目標ガ消えタダけじゃナく、その目標ガ最後に成し遂げタ『何か』によって『自分』を見失っているダけサ。・・・・・・いヤ、より正確に言うナラ『オールマイトを追い越そうとして全てを切り捨てて行った結果の“今”と“本来の自分”の間』で揺れているのサ。頭の良い君の事ダ。ここマで言えバ後ハ自分で気付けるダろう?」

 

 苦愚群火虎はそう言って小首をかしげた。

 エンデヴァーはただ俯き、

 

「ああ」

 

 とだけ返した。

 その短い答えを聞いた苦愚群火虎は満足そうに頷く。

 そして立ち上がり、

 

「後ハ君自身の問題ダ。・・・・・・頑張れ。ヒーローにナれナカっタ私の分マで活躍してくれタラ嬉しいよ」

 

 と言い残して部屋を出て行こうとした。

 だが、

 

「まて」

 

 とエンデヴァーがそれを止める。

 

「マダ、何カ有るのカナ?」

 

「何故、貴様は『あんな事』をしたんだ?」

 

「昔の事サ。もう知ラナくていい」

 

 そう言って苦愚群火虎次こそ本当に退室していった。

 エンデヴァーの頭に浮かんでいるのはとある事件・・・・・・『雄英生殺害事件』である。

 名前の通りとある雄英生が何者かに殺害された事件で、結局、犯人を突き止めた苦愚群火虎が犯人を殺害したことで幕を閉じたモノであった。

 当時は日本中で騒がれ、雄英教師陣が対応に追われていた。

 その中で、苦愚群火虎は退学&逮捕された。

 良き友人・良きライバルという存在であった為、プロヒーローになった後も何かと気に掛けていたのだが、出所後、彼は姿を消した。

 どれだけ探しても見つからず時だけが過ぎて行っていた。

 そして一年前、いきなり情報が上がってきたのだ。

 だが、エンデヴァーは会いに来ることができなかった。

 本当ならすぐにでも会いたかったのだが、『今の自分』を見られる事を怖くなってしまったのだ。

 真面目でいつもキビキビしていた苦愚群火虎に見られることが。

 そして現在。

 苦愚群火虎は昔と変わらず平然としていた。

 そこに安心すると同時に、今までの自分が歩んできた道が何だったのかを考えさせられた。

 彼は、(ヴィラン)になったとしても一切変わっていなかった。

 変わらずにエンデヴァーと接した。

 そんな姿を見てエンデヴァーの中にある自分が間違っていたのではないか、という思いがより一層強くなった。

 だが、二人の人間―――正確に言えば片方は神だが―――から言われた言葉、「お前なら分かる」「君なら気付ける」この二つがエンデヴァーを動かした。

 エンデヴァーはゆっくりと顔を上げ、歩き出す。

 最高の、子供が誇れるようなヒーローになる為に。

 




FGOのサバフェスが始まってしまった・・・・・・。

っという事で周回しまくるので次回の投稿がいつになるかは分かりません。
ごめんなさい。


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短編㉓ 『一人の少女の話』

ネタバレ注意。


 昔々の物語。

 一人の少女がいた。

 成績は優秀だったが如何せん運動が苦手で、少女の事を良く思っていない者にそこは格好の攻撃材料であった。

 いわゆるイジメである。

 殴る蹴るはデフォルトで、物を壊す、盗む等々挙げればキリがない。

 少女が学校で唯一安全にいられる所は図書館しかなかった。

 そんなある日、学校行事である臨海学習に行くことになった時、事件が発生した。

 少女の浮き輪に穴が開いていたのだ。

 いや、より正確に言うならイジメっ子たちがイタズラ感覚で開けていたのだ。

 しかも運の悪い事に離岸流に巻き込まれ、どんどん沖へと流されて行った。

 まずいと判断できても、どうすればよいのかが判断できなかった。

 その時、岸の方から誰かが泳いできていた。

 普通、海流の流れと人が泳ぐスピードでは圧倒的に差があるのに、その人物はどんどん少女に追いついていく。

 そこに深い仕掛けがある訳でもなければ奇跡という訳でもない。

 ただ、その人物も離岸流に乗っているだけなのだ。

 離岸流に乗り、さらに泳いで少女を追いかけていただけ。

 普通考え付かないだろう。

 離岸流自体危険なモノであるという認識が当たり前だというのに、それに乗って加速するなんてどれほど危ないかなんて言わなくても分かるだろう。

 その人物はパニック状態になってもがいている少女に浮き輪を掴ませると、浮き輪についているロープを引いて離岸流から脱出した。

 助かったという安心感から気を失い、次に気が付くと浜に寝かされていた。

 担任教師含む引率の先生は助かったことに喜び、呼ばれて飛んできた近くに病院を構えている医者も「引き上げられてすぐに適切な処置がされていて良かった」と言ってた。

 だが、少女が辺りを見渡しても海に飛び込み助けてくれた人物の姿がどこにも無かった。

 担任教師に聞くと、少女を引き上げ処置をした後、旅館に戻って行ったらしい。

 そこで初めて助けに飛び込んだ“誰か”が現在旅館でレクレーションをしている別クラスの同級生であることを聞かされた。

 室内にいた少年がなぜ外の異変に気付けたのかが疑問として残ったが、結局、助かったという事でその事件はなあなあで終わった。

 臨海学習が終わり、学校へと向かうバスの中でクラスメイトにこっそり聞いた所、助けてくれた少年が誰かなんてすぐに分かった。

『大宮さとし』。

 学校でもかなり有名な問題児で、普段からムスッとした表情で廊下の窓から校庭を眺めている少年だった。

 しかも、そのクラスメイトは少女を茶化すかのように「彼ね、アナタに人工呼吸とかしてたんだよ」とも教えてくれた。

 人工呼吸。

 簡単に言えば口と口を合わせて肺に酸素を送り込む処置方法。

 それが少女にとってのファーストキスになった。

 それに気が付きドキドキして顔を真っ赤にしている間にいつの間にか学校に到着しており、後は保護者が迎えに来るのを待つだけであった。

 そんな中、保護者が来ていないにもかかわらず大宮さとしはフラリと帰ってしまっていた。

 その事に教師は一切触れようとしていなかった。

 後日聞いた話によると、少年の親は少年に対して一切の関心が無く、このような行事があり迎えが必要な時も迎えに来ることは絶対にないのだという。

 なぜなら、少年には成績優秀な弟『大宮はやと』がいて、親の関心は全てそっちに移っているからだという。

『大宮はやと』。少女はこの名前に聞き覚えがあった。

 少女の通っている小学校には望めば誰でも月に一度放課後に学力テストを行うことができる。

 どの学年であろうと内容は一緒で当たり前だが学年が高ければ高いほど有利なのだが、年上である少女よりも高い点数を取って常に一位を取り続けている人物であった。

 彼の親は弟にばかり英才教育をして兄には最低限の物しか与えていなかったのだ。

 それを知って以来、少女は少年の事ばかりを考えていた。

 だが、クラスが違く接点も特にないため、結局話しかけることは叶わなかった。

 そして小学校を卒業して中学へと上がってすぐに喜ばしい事が起きた。

 少女の隣の席の人物が件の少年だったのだ。

 嬉しくて、嬉しくてしかたがなかった。

 ただ、話をしていくと、少年は臨海学習の時の事を一切覚えていなかった。

 嘘でも冗談でもなく本当に覚えていなかったのだ。

 愕然としてしまったが、それでも少年の隣に入れることはその落胆をすぐに解消した。

 そして、隣にいるからこそ少年がどれだけ身を削って突き進んでいるのかなんてすぐに分かった。

 何度も止めようとした。何度も説得した。

 それでも少年は誰かを助ける為に突き進み続けた。

 結局、見守る事しかできなかった。

 そして、ついに深刻な事態が発生した。

 少年と突然連絡がつかなくなることはよくあった。

 少年が数日間自宅に帰らないこともよくある事だった。

 だからこそいつもの事だろうと安心してしまっていたのだ。

 少年がほんの二ヶ月ほど前に警察が介入するほど大きな事件を解決したばかりだというのに。

 その結果は酷いものであった。

 少年は左手の神経を傷つけられマヒが残った。

『とある少女』が、少年が助けた少女がやったのだった。

 春休みの間に治療を終わらせた少年は新学期になっていつも通り登校してきた。

 一切変わることなく、いつもの調子で。

 それから、少女はより少年の隣にいるようになった。

 少年の助けになる様に様々な知識を付けた。

 それが役に立つとき、少年はいつも言う。

 

「ホント、お前は何でも知ってるな」

 

 少女はそれにいつも同じ言葉で返す。

 

「何でもは知らないよ。知っていることだけ」

 

 少年が進めてくれた作品のセリフ。

 それで返すといつも少年は楽しそうに笑う。

 そんな日々が続いた。

 だが、ある日、あの日、全てが変わった。

 すべてが終わった。

 いつも通りの日常のハズだった。

 ただ、昼休みになっていきなり廊下が騒がしくなった。

 何かあったのだろうと思い騒ぎの大きな方へと向かうと、その“何か”を目撃した生徒がヒソヒソと話をしていた。

 その言葉を耳が捕らえた瞬間、少女は駆け出していた。

 そして、その目が捕らえたのは、階段の踊り場で倒れ動かない少年の姿であった。

 

 

 そこからの記憶はない。

 ただ、ぼんやりとしか覚えてい。

 彼の葬式ですらロクに記憶していなかった。

 それから少女は生きている意味を見出せなかった。

 ただひたすらに生き、仕事ばかりに打ち込んでいった。

 就職できる中で一番大きな会社へと就職し、そこでただひたすら仕事ばかりをしていた。

 同期は恋愛に結婚と人生を充実させて行っていたが、少女・・・・・・いや、彼女は仕事ばかりしていた。

 稼いだお金も募金に使い、最低限の生活しか送っていなかった。

 そんなある日、ある噂を耳にした。

 仕事人間でどんどんと昇格して行っていた彼女を同期の一人が妬んでいるというモノだった。

 そんなの考えれば簡単な事である。

 仕事ばかりに時間を懸けている者と、仕事以外にも時間を懸けている者なら、どちらが昇格しやすいかなんて明白である。

 それだというのに、仕事中にも絡んできたり、飲み会に無理矢理連れて行ったあげく奢れと要求するなど、その行動はどんどんエスカレートしていった。

 そして、ついに自事態が大きく変化した。

 いつも通りの帰路。

 いつも通りホームで電車を待っていると、後ろから強い衝撃があった。

 線路へと落ちる中、チラリと視界の端に移ったのは嫉妬で酷く顔を歪ませた同期の顔であった。

 

 

 

 

 

 

「生まれた。生まれたぞ。私たちの子だ。■■。元気な女の子だ」

 

 気付くと、見知らぬ中性的な男に抱かれ、そんな事を言われていた。

 訳が分からず混乱していると、その男が何かに気付いたかのような表情になり、言った。

 

「いいね。なる程。君の魂は“人間”だったんだね。・・・・・・よし、この世界の事を教えておこう」

 

 男はそう言ってゆっくりと優しく今の状況を説明した。

 死んで神に生まれ変わった事から入り、この世界の成り立ちや神の国の事まで事細かに話した。

 そして、最後にこう言った。

 

「神には生まれながらにして適性が出る。それによって仕事が決まってしまうんだ。・・・・・・そして、君の適性はどうやら“死神”のようだね」

 

 男はそう言って優しい手で頭を撫でてきた。

 それが、彼女の新しい人生・・・・・・いや神生(じんせい)の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 それから、長い時を生きる。

 神とは人以上の生命を持ち、人の一生など神にとってはたかが知れているモノである。

 ただひたすら死神としての知識を蓄え続けていた。

 そして、ある時、少女は“自分”を捨てて“神”になった。

 父親である主神はその事について特に何も言わなかった。

 元々人間だった神が人間だった時の記憶を捨てて完全に“神”として生きる事はよくあるのだ。

 そうして、“神”となった少女は“神”としての生を受けて800年経ってようやく初仕事をすることになった。

 とある街で起きた事故で死んだ少年の魂を連れてくるというだけの簡単な仕事であった。

 少女はそこで倒れている二人の少年を見た。

 連れて行く少年がどちらかなんて分かっていた。

 片方の少年は無視してよかった。

 それなのに、ターゲットではない少年の方へずっと視線が固定されてしまった。

 ダメだと分かっているのに、それなのに少女の手はターゲットではない少年の魂の方へと伸びていく。

 そして、その手に持つ鎌で少年の魂を刈り取っていた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ!! ・・・・・・ハァハァ」

 

 少女はハイツアライアンスの自室で目を覚ます。

 悪夢を見ていた気がするが、それを思い出すことができなかった。

 まだ夜遅かった為また寝ようとしたのだが、心の底から湧き上がる恐怖のせいで眠ることができなかった。

 動物の人形で埋め尽くされている自室にいるのも怖かった。

 そして、少女は開け放たれている窓から外に出て男子棟5階まで飛ぶ。

 目的の部屋の窓も開け放たれていて、そこから中に入る。

 その部屋の主である少年はベッドに横たわりグッスリと寝ていた。

 少年は一日に1時間から3時間しか寝ておらず、この時間も寝ているかどうかは怪しかった。

 どうやら、今度の仮免試験に向けての必殺技作りに疲れているようで、普段ならすぐ来客に気付くのだが、今日ばかりはそうではなかったようだ。

 少女はそれを確認した後、少年の寝ているベッドに潜り込む。

 

(・・・・・・温かい)

 

 夏だからこそ普段より熱があるのは当たり前なのだが、少女にとって少年の体熱は熱いではなく温かいものであった。

 昔からそうなのだ。

 少年の近くにいると心の底から暖かくなる。

 ずっと不思議で、ずっと気になっている事であった。

 だが、少女はそれ以上考えることなく静かに目蓋を閉じ、眠りに入る。

 大好きな少年の隣で心から安心し、スヤスヤと夢の世界へ行くのだった。

 

 

 

 翌朝。

 

「何でお前俺のベッドで寝てんだぁぁぁああああああああ!!!!!!!」

 

 ハイツアライアンスに少年の叫び声が響いたという。

 




疲れた。
普段なら3~6日懸けてゆっくり書いていくのですが、今日は朝早くからずっとPCに向かって作ってました。
なので今ヘトヘトです(笑)
もう休みたいですわHAHAHAHAHAHA(爆笑)。






さてと、本編の続きに取り掛かりますか(末期)。


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短編㉔ 『転生者の物語 仕原編 過去②』

短いです。


『静かなる銀弾』はビルの屋上で夜風に当たる。

 そして、トランクケースから銃を取り出し、構える。

 その銃の名は『SVLK-14S』。

 ロシア製のスナイパーライフルで、正解トップクラスの性能を持つ物である。

 だが、『静かなる銀弾』にとって銃の性能なんて有って無いようなものだ。

 最悪、手で投げるだけでも十分なのだ。

 それなのに性能の良い物を使っているのは、クライアントにしっかり仕事をする事を示す為だ。

 世の中は不思議なモノで、より高性能で、より知名度のある物を使うだけで人間は勝手に信頼度を上げてくる。

 その為にわざわざ独自のルートで性能の良い『SVLK-14S』を手に入れたのだ。

 構えた銃口の向く先は、某ファミリーのマートである。

 ターゲットがそこで買い物をしているのだ、黒い髪に黒い和服の人物・・・・・・賢王雄が。

 本来、『静かなる銀弾』の“個性”を考えると直線的に撃たなくても大丈夫なのだが、なぜか今回の仕事では直線的に狙いたくなった。

 スコープから景色を覗き見ていると、コンビニの自動ドアが開き、そこからターゲットが現れた。

『静かなる銀弾』はそれを確認すると同時にトリガーを引く。

 改造に改造を重ねている『SVLK-14S』は大きな発砲音を出すことなく銀弾を発射する。

 銃の間近にいる『静かなる銀弾』の耳にもパシュッという小さな音しか聞こえない。

 それを500メートル以上離れた距離にいるターゲットが聞くことは不可能と言えるだろう。

 だが、

 

「っ!?」

 

 瞬間、『静かなる銀弾』はとっさにその場から飛び退いた。

『SVLK-14S』を動かす時間はなく、ソレは一瞬のうちに破壊された。

 唖然とそれを見ていると、『静かなる銀弾』に向かって飛んで来た“何か”が壁に突き刺さっている事に気が付いた。

 それは、一振りの剣だった。

 何が起きたのか理解できずその剣を眺めていると、ソレは突然空間に開いた穴の中へと吸い込まれて行った。

『静かなる銀弾』はそれがターゲットの“個性”によるモノだという事に気付いた。

 そして、ターゲットが自身と同じ“転生者”である事にも。

 

 

 

 

 

 

 暗殺開始三日目。

 今日もまた銃を構える。

 ただ、銃は安値で手に入る物だ。

 銃は安ければ2万円程度で買えるのだが、今回はそれよりも安い中古の5000円程度の物を使っている。

 昨日も頑張って手に入れた高い銃が破壊された為、もう安物で済ますことにしたのだ。

 ただ、安物と言っても暗殺用に改造はしているが故にある程度金は掛かっているのだが・・・・・・。

 ターゲットの方を見ると、その隣に茶髪の少年がいた。

 資料にも書かれていた人物で、ターゲットの組織に所属している戦闘員の一人で、ターゲットと違って情報がほとんどない存在でもある。

 だが、ターゲットを殺す事だけを考えれば無視しても良いだろう。

『静かなる銀弾』はターゲットに銃口を向けてトリガーを引いた。

 その瞬間、『静かなる銀弾』は失敗に気付いた。

 銀弾の射線上に少年が移動してしまったのだ。

 このままではターゲットにより警戒されることになってしまう。

『静かなる銀弾』は慌てて銀弾を操作し、ターゲットの後頭部に当たる様にした。

 なのに、

 

「っ!!!?」

 

 また、剣が飛んできた。

 今回使っていた銃は片手でも扱えるハンドガンであった為、壊されることは無かった。

 だが、潜伏に使っていたビルの一室は瓦解してしまった。

 もしも直撃したら、そう考えると『静かなる銀弾』の背筋に冷たいものが走った。

 

 

 

 

 

 

 あれからどれほどの時間が経過しただろうか。

 何度殺そうとしても、どれほど離れた場所から狙撃したとしてもことごとく弾かれ、お返しと言わんばかりに剣が飛んできた。

 仕事開始から半年が経過した。

 いつものように狙撃ポイントへ向かっていると、背後から話しかけられた。

 振り向くとそこには、ターゲットがいた。

 瞬間、『静かなる銀弾』はターゲットに向けて銃を突きつけた。

 だが、何もない空間からいきなり現れた鎖に拘束され、動けなくなってしまった。

 

「くっ!」

 

「どうかな? オレの“天の鎖(エルキドゥ)”は。それに一度捕まったら簡単には離れてくれないぜ」

 

 ターゲットはそう言って笑う。

『静かなる銀弾』はただ、顔を見られたという事に焦った。

 普通、ターゲットに見つかった事を焦らなければいけない状況だというのにだ。

 

「さて。確か、『静かなる銀弾』だっけ? 多分、金貰う為にやってるんだろうけど諦めた方が良いぞ。オレ、強いから」

 

「仕事、だから」

 

「そうか。・・・・・・んで、契約内容は? 知られないで殺す事? それとも殺せれば何でもOKな感じか?」

 

「守秘義務がありますので」

 

「そうか」

 

 ターゲットがそう言うと同時に『静かなる銀弾』を拘束していた鎖が解ける。

 

「何のつもりですか?」

 

「真正面からやろうじゃないか。最近鈍って来ててな。お前はちょうど良さそうだ」

 

 瞬間、ターゲットの黒い髪が美しい金色に変わる。

『静かなる銀弾』は知らない。

 それは、ターゲット・・・・・・賢王雄が本気になった証拠である事を。

 それを知らない『静かなる銀弾』はトカレフを両手に持ち、賢王雄に向けて発砲した。

 発砲して気付いた。

 

 正面から戦ってはいけなかった、と。

 

 賢王雄がその手に持つ一振りの剣。

 名を『グラム』。

 北欧神話における最大の絵英雄が愛用した剣である。

『静かなる銀弾』がそれを視覚した時には、もう勝負はついていた。

 発砲の光で0.1秒にも満たない僅かな時間視界が塞がれた瞬間、賢王雄は発射された銀弾を切り伏せ、トカレフを輪切りにし、『静かなる銀弾』の首筋に刃先が突き付けられていた。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

「残念だったか。・・・・・・ああ、いや。君が悪い訳じゃない。少し自分の目すら鈍っていた事を残念に思っただけさ」

 

 賢王雄はそう言って剣を宝具庫にしまい込む。

 

「殺せ。・・・・・・ターゲットを殺せなかっただけでなく情けを懸けられるなんて、殺し屋としての恥だ。殺してくれ」

 

「ん~。そうだね」

 

 賢王雄はそう言って『静かなる銀弾』の近くまで歩くと、腰を落として視線を向ける。

 

「だったら、オレの物になってよ。オレさ、家事全般苦手なんだよ。だから、殺し屋辞めてオレ専属の家政婦として働いてくれない?」

 

「馬鹿に、するな!」

 

『静かなる銀弾』は賢王雄を睨み叫ぶようにそう言う。

 だが、賢王雄はそれを一切気にした様子はなく、懐から取り出したメモ帳にスラスラと何かを書いて渡してきた。

 

「オレの住所が書いてあるから。気が向いたら来てくれよ」

 

「何で、そこまでするんだ」

 

「ん? キミが可愛いから、かな? まっ、特に理由はないよ」

 

 賢王雄はそう言って『静かなる銀弾』の頭をワシャワシャと撫で、その場を去って行った。

 

 

 

 

 それから数週間後。

 賢王雄の隣には一人のメイドがいたという。

 




6話で初登場した賢王雄やその後に登場していった『ファウスト』幹部たち。

実際、メイン転生者キャラ達の実力で言えば機鰐龍兎はハッキリ言うと弱い方です。
幹部メンバーだけで比べれば最弱と言っても過言ではありません。

【ファウスト】
・英雄王
・不死鳥
・孫悟空
・リムル=テンペスト

【パンドラ】
・麦わらの海賊

ここまでバケモノが揃っている所に、いくらチート特典を持っていたとしても、仮面ライダーの力だけで戦っている以上、『ファウスト』幹部及び『パンドラ』リーダーが本気を出せば勝つことは難しいと言えます。
そんな中で勝ち上がっていられるのは、天性戦いの才能と、ヒーローになる為に鍛え続けた努力と野生の勘のお陰で立ち回って居られているだけです。
生まれ持った力を奢ることなく、努力をし続けていたからこそトップクラスで戦っていられるのです。
まあ、弱い相手には調子に乗りますけど・・・・・・。


今回、賢王雄の戦闘を(少し)書いた理由は、普段から活躍の場が無いので、少し目立たせてあげたかったのです。


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短編㉔ 『転生者の物語 三好編』

短編⑤ 『転生者の物語 王蛇編』で登場したきっと誰も覚えていないキャラトップに入りそうな“三好視夜”の物語。

一応、キャラを作った時点で設定や過去などは決まっていたのですが、特に出すタイミングも無く終了してましたw


 少年には兄がいた。

 いつも一定の距離を持ち、親しく接してくれない兄が。

 だが、少年からしたらそれでもよかった。

 一定の距離があると言っても、時折見せる兄の不器用な優しさが温かかったから。

 親は少年に勉強ばかりを押し付けた。

 兄はそんな少年に「世界を見ろ」とよく言った。

 最初は意味が分からなかった。

 でも、年を追う事に分かるようになった。

 勉強以外にも大切なモノが。

 兄にも分かってきたことを伝えたかったが、話す機会はなかなか訪れない。

 昔からなのだ。

 兄は家にいることがほとんどない。

 時には数日帰らない事すらある。

 何度か家に警察が来たこともあったが、その全員が口をそろえて言うのだ。

 

「彼のお陰です」

 

 と。

 その時点で兄がなにか凄い事をしているのは分かっていた。

 何をしているのかは知らなかった。

 親に聞いても兄に直接聞いても教えてくれなかった。

 兄は、

 

「まあ、いつか話すさ」

 

 と言っていつも核心を話すことは無かった。

 それどころか、高校生になってから兄はより家に寄り付かなくなった。

 時折フラリと帰ってきた時には、あっちこっちにケガをしていた。

 ただ、どれだけケガをしていても兄の表情が大きく変わる事は無かった。

 ずっとムスッとしていた。

 そんなある日、いつも通り学校から帰宅すると、家の庭に“何か”が落ちていた。

 不法投棄かと思い近づいてみると、それは“物”ではなかった。

 それは、

 

「兄さん!!」

 

 あっちこっちボロボロになり倒れていた兄だった。

 呼びかけるが意識は無いようで一切合切反応をしない。

 その服はいたるところが裂かれ・破け・千切られ、体は痣だらけで出血している箇所すらあった。

 今までのケガとは比較にならないほど大きなそれに、少年は軽くパニックになってしまった。

 だが、すぐに手当をしようと思い立ち、兄を抱えて風呂場まで運んだ。

 そこで少年はフッと気付いた。

 兄が家の風呂に入るのはいつぶりなのだろうか、と。

 少年は普段から勉強詰めで夜遅くまで起きているのだが、兄が風呂に入る所をここ数年見ていなかったのだ。

 そして、こんな形とはいえ兄と風呂に入るのもいつぶりだろうか。

 少年が小学校に入学する前はよく一緒に入っていたが、ある時を境に一緒に入る事は無くなっていた。

 それを思うと、こんな状況だというのに何だか懐かしいと考えてしまっていた。

 兄の服を脱がすと、服に隠れていた傷が露わになった。

 生々しい傷だけじゃない。

 その体にはいくつもの傷跡が残っていたのだ。

 特に右手の火傷跡が何よりも酷く、皮膚が変形してしまっていた。

 多分、皮膚組織や汗腺が完全に潰れている。

 それは、火傷の熱傷深度で一番重い『Ⅲ度』だろう。

 普通そんな怪我をすれば皮膚移植などをしなくてはならない。

 それなのに移植を行わずケガをそのままにしていたのだ。

 少年はそれを見て唖然とする。

 親は兄のケガについて何も言っていなかった。

 これだけ酷いケガをしているというのに、それに対しての関心のようなものを見たことが無かった。

 腕の火傷跡だけでも酷いというのに、それ以外にも酷いケガはあった。

 腹・・・・・・肝臓付近にある抉れたような傷、心臓付近にあるクロス状の切り傷、左の二の腕にある深い切り傷、足にある変色した傷跡。

 他にも小さな傷があったが、数えていればどれほどの時間がかかるか分からない。

 少年はシャワーを使って兄の体の汚れを落とす。

 時折撫でるように兄の体の汚れを落としていくが、兄の体の傷跡の感触が手に嫌な感覚を伝えてくる。

 それでも兄の意識が戻るような気配は無い。

 汚れを落とし終え、体を拭き、リビングで手当てをするがあまりに痛々しい傷を直視しるのが辛かった。

 手当をし終わってすぐに兄は目を覚ました。

 そして、兄は素早く近くに置いていおいたスマホを手に取り時刻を確認する。

 瞬間、兄の表情が険しいモノに変わった。

 兄は歯を食いしばりながら、

 

「3時間も寝てたのか」

 

 と言った。

 そして、少年が用意しておいた自身の服を素早く着た。

 

「に、兄さん? そのケガで動くのは駄目だよ。安静にしておかないt・・・」

 

「黙れ」

 

 兄は、少年の言葉をそう短く切り捨てた。

 その目は気立っていて、その体は殺気だっていた。

 

「・・・・・・手当、ありがとうな。でも、休んでいる暇はないんだ。アイツが、纐纈が危ないんだ」

 

 兄はそれだけを言い残して家を飛び出していった。

 その背中は、戦場に向かう兵士のように思えた。

 

 

 結局、少年が兄と過ごした中で、この出来事が兄と一番長く過ごした出来事になった。

 それが少年の見た普段のつまらなそうな兄とは違う、『戦う戦士』としての厳しい兄の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 あの出来事から一年が経過した。

 結局、兄との会話が増えることは無く時間だけが過ぎて行った。

 その日もまたいつも通りのハズだった。

 家には親はおらず、帰宅してすぐいつものように勉強を開始した。

 だが、勉強を始めて10分と経たずに家の固定電話からコール音が聞こえてきた。

 子機を取り、耳に当ていると、その電話は警察からだった。

 内容はよく覚えていなかった。

 ただ、覚えている事は一つ。

『兄が死んだ』という変わる事のない現実であった。

 

 

 

 

 

 

 三好視夜はビジネスホテルのベットの上で目を覚ます。

 ムクリと体を起こし、先ほど見た悪夢を思い出す。

 転生前、まだ親に縛られていた時代にあった悲しい出来事。

 兄のその自由な生き方に憧れていた。

 兄のその何気ない優しさに癒された。

 そんな大切な人の死。

 悲しかった。

 だが、一番悲しかったのは、両親が兄の死を悼む事無く喜んだ事だ。

 

『これで無駄な金を使わなくて済む』

 

 そう言って喜んでいたのだ。

 それも葬儀中に。

 思い出しただけでも悲しいし、思い出しただけでも怖い。

 あんな二人に育てられたと想像しただけでも悍ましかった。

 ただ、そんな親も三好視夜(の前世)が高校卒業の少し前に仕事帰りに酔っ払い運転をしていた馬鹿に撥ねられ死んだ。

 大学の学費は奨学金で何とかなったが、生活費は兄がずっと隠し持っていた遺産のお陰で一定の生活ができた。

 親の遺産もあったし、加害者側からの慰謝料もあったのだが、親が死んだ際に来た弁護士が、

 

『彼からもしも親に何かあって君が困る可能性がある時にこれを渡すように頼まれてまして』

 

 と持って来た通帳と手紙を受け取り、その手紙の中身を見た事で親の遺産等は使わないと決めた。

 そこには兄らしい事が書かれていた。

 

『両親がどう死んだかは知らない。興味もない。でも、遺産は将来の為に取っておけ。俺の金使ってしばらくは生活しな』

 

 と短く端的で、ざっくりしている割に的確な言葉。

 それを見てつい笑ってしまっていた。

 いつもつまらなそうな表情をしていて、何でも短い言葉だけで済ませる兄らしい言葉。

 それを思い出すと本当に懐かしい気持ちでいっぱいになった。

 三好視夜は思い出に浸るのを止め、隣で寝ている少女を起こす。

 

「起きてくれ、マキ。そろそろ“ゲーム”を始める」

 

「ん、んん・・・・・・。ふぁああ。おはよう、はやと君」

 

「・・・昔の名前で呼ばないでくれ。ほら、早く準備を始めるぞ」

 

 三好視夜はそう言ってカバンの中からVRを取り出す。

 そのVRの名前は“ダイブギア”。

 人間の五感に干渉し、肉体の電気信号を遮断すると同時に読み取る事でコントローラー無しでゲーム内のアバターを動かせる最新型ゲーム機である。

 ただ、最新型と言っても発売からもう五年は経過しており、今のところこれを超えられる新しいゲーム機が発売されていないだけである。

 そして今回は大人気ゲームである“アンミリテッド・ストーリー・ゲーム”通称『USG』の新イベント実装日なのだ。

 

「さてと、もしも何かあったらお願いな」

 

「ハイハイ。ウチの旦那様」

 

 三好視夜はマキの言葉を聞き、すこし苦笑しながらダイブギアを頭にはめる。

 新イベント開始まであと3時間。

 それまでに準備の最終確認等をするのだ。

 

「さてと。それじゃ、ゲームスタート」

 

 瞬間、三好視夜の視界が大きく変化していった。

 これが事件の始まりとなる事を知らずに。

 

 

 

 そして、

 

 

「兄さん、なの?」

 

「お前の兄貴はとっくに死んでるだろ。俺は“機鰐龍兎”っていう別人だ」

 

 

 その事件が再会に繋がるのだった。

 




FGO、ガチャで出たのは水着沖田だけ・・・・・・



水着メルト欲しかったよぉぉぉおおおおおおおお(ノД`)・゜・。


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短編㉖ 『龍の牙がおこす幻の夢withライジング』

特に意味のないストーリーにもあまり関係ない短編。


 幻夢は雄英高校一年B組の生徒である。

 学校やクラスメイトには増強型の個性であると話をしているが、実際は違う。

 個性『ヒーロー』。

 少年が生まれ変わる前・・・・・・前世のライバルが大好きだった『仮面ライダー』の力を使える“個性”である。

 ライバル・・・“大宮さとし”が大好きだった『仮面ライダー』。

 龍牙幻夢もよくその話に付き合わされ、そのたびに日常では使わない知識を入れられ続けていた。

 そんな彼は今、かなりのピンチに陥っていた。

 それは、

 

「人質がどうなってもいいのかぁ!!」

 

 そう。

 (ヴィラン)に人質にされているのだ。

 オールマイト引退より抑圧されていた者が暴れ出しているが、こいつらもそんな連中の一つだ。

 今は雄英高校の授業がない日曜日。

 月曜日から土曜日まで授業詰めでやっと来た休日にデパートへ買い物に出かけたらそこで人質にされてしまった。

 実行犯は2人。

 一人(仮にA)は、赤い肌に鋭い牙を持つ異形型。

 一人(仮にB)は、見た目は普通のため変身型か発動型のどちらか。

 仮免を持っている為、この場で対応しようと思えばできるのだが、自分以外にも3~4人ほど人質がいるのでそれも難しい。

 それ故に隙を待つ。

 一瞬でもそれを見つけることができれば対処ができる。

 そうして隙を待ち続けること約5時間。

 膠着状態は続き(ヴィラン)もイライラを隠せなくなっていた。

 そして、ついにことが起こった。

 (ヴィラン)Bが人質の一人に暴行を加えたのだ。

 蹴り飛ばされた人質の女性は小さなうめき声をあげながら地面に身を倒して体を震わせている。

 それを見た時点で勝算も作戦もすべてなく、龍牙幻夢は飛び出していた。

 (ヴィラン)はいきなりの事に一瞬固まっていた。

 その隙をついて、龍牙幻夢は(ヴィラン)を蹴飛ばし、腰にベルトを装着する。

 そして、“蛍光色の四角いアイテム”を取り出してそのスイッチを押す。

 

《ジャンプ!》

 

 王蛇幻夢はゼロワンドライバーに“プログライズキー”をタッチする。

 

《オーソライズ》

 

 それと同時にプログライズキーを展開させ、ベルトに差し込む。

 

「変身!」

 

《プログライズ! 飛び上がライズ! ライジングホッパー! "A jump to the sky turns to a rider kick."》

 

 そんな音声とともに龍牙幻夢の体に強化スーツとアーマーが纏われる。

 蛍光色のその姿を見た(ヴィラン)たちに動揺が走る。

 

「なんだ、お前ッ・・・・・・!」

 

「俺は、『仮面ライダーゼロワン』」

 

「仮面、ライダー・・・!?」

 

「お前たちを止められるのはただひとり! 俺だ!」

 

 ゼロワンはそう言って親指で自信を指さす。

 (ヴィラン)Aは大きな砲口を上げてゼロワンに向けてタックルを仕掛ける。

 だが、そんな単調な攻撃は意味をなさない。

 ゼロワンはジャンプでその攻撃を避けると同時に空中で身をひるがえして(ヴィラン)Aの背中を蹴り飛ばし、(ヴィラン)Bにぶつけて一塊にする。

 そして、ベルトに差し込んでいるプログライズキーを押し込む。

 

《ライジングインパクト!》

 

 ゼロワンの足にエネルギーが収束し、そこから勢いよくキックを繰り出す。

 その攻撃を喰らった(ヴィラン)たちはデパートの窓をぶち破り外へ放り出されていった。

 

 

 

 

 

 

「クソォ」

 

 龍牙幻夢はぶつくさと文句を言いながら反省文を書く。

 仮免があったので問題にはならなかったが、やりすぎであると怒られて反省文の提出を命じられたのだ。

 しかも、事件のせいで買いたかった物も買えぬままなのだ。

 クラスメイト達からは「ドンマイ」と慰めを貰ったが、反省文の手伝いをしてくれる人はいなかった。

 ただ一人、手伝いはしなくても一人の少女がその隣にはいた。

 

「ったく。随分と派手にやったみてェだな」

 

「ああ。初めて使う力だったからな。加減が難しかった」

 

「それで? A組の“機鰐龍兎”と戦ったら勝てそォか?」

 

「さあな。それはやってみないと分からないよ」

 

「そォか」

 

 白い少女・・・鈴科百合子はそう言って缶コーヒーを置く。

 そして、一言言った。

 

「ここ誤字してるし、ここは言い回しが間違ってるぞ」

 

「マジッ!?」

 




なお、龍牙幻夢の前世は『大宮さとしの物語』に登場しています。


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短編㉗ 『ウチの話』

これが100話目の話で良いのか、俺・・・・・・。

っという訳で一部ネタバレがある回がまさかの100話目の投稿となりました。
本編があまり進んでいないのにこっちを更新してしまい申し訳ありません。


なお、今回の語り部は主人公ではありません。

だれかは・・・まあ、ご想像にお任せします。


 ウチがアイツと会ったのは偶然だった。

 っと、その話をする前にウチがどうして人を誘導し、事件を起こしていたのか、その“原点(オリジン)”について語った方がいいだろう。

 

 

 始まりは何時だっただろうか。

 正確に覚えてはいないが、小学生の低学年頃だったと思う。

 一人のクラスメイトから話をされたのが、そもそもの切っ掛けだった事だけは記憶している。

 どんな子だったかもよく覚えていない。

 確か、三つ編みツインテールの女の子だったと思う。

 いつもオドオドしていて、一人ぼっちでいる所をよく見ていたような気もする。

 彼女がウチに話しかけてきた理由はよくわからない。

 予想を立てるとしたらウチがどのグループにも所属していなかったから、かな?

 まあ、そんなことはもうどうでもいいね。

 その子からの相談は、内容はもうほとんど覚えていないけど、なんでも女子グループにイジメられている・・・とか何とかいうありがちなヤツだった。

 ウチがその子に何を言ったかはこれまたよく覚えていない。

 ここまで覚えていないのは、かなり昔の事だってのもあるし、そもそもこの頃は人を惑わす事自体に興味がなかったのが原因だろう。

 ただ、そんな覚えていないような言葉が始まりになった。

 その子に“アドバイス”をした翌日、その子はいじめっ子を滅多刺しにした。

 いじめっ子は周りから「可愛い」「可愛い」ともてはやされていた女の子だった。

 でも、その顔はナイフの切り傷でめちゃくちゃになっていた。

 クラスメイトたちは恐怖で震えている子が大体だったが、ウチは違う。

 震えていたが、それは恐怖によるものではなかった。

 

 気持ちよかったのだ。

 

 ウチの言葉で人が動き、これだけの事をした。

 それがウチの体を・心をゾクゾクと震わせたのだ。

 これを切っ掛けに人の心にある闇を見出せるようになっていった。

 だから、それを磨き上げていくことにした。

 そうすればもっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっと・・・・・・気持ちよくなれると思ったから。

 ただ、3回目だったか4回目だったか、事件を起こした際に予想外の事が起きた。

 一人の少年が横から介入してきたのだ。

 そして、事件を解決してしまった。

 ウチはその姿に見とれてしまっていた。

 恋心だったのか興味心だったのかは今となっては覚えていない。

 だけど、見とれていたが故に逃げるのが遅れてしまった。

 結果、彼に追いかけられてある空き教室に追い詰められてしまい、さすがにその時は焦ったが、その少年を間近で見たときにすぐに分かった。

 彼の心には闇がある、と。

 見たことがないほど深く暗い闇、それを持ちながら『正義(ヒーロー)』に憧れている輝き。

 光と闇、それを両立し、それに飲み込まれる事無く『自分』を持っている存在。

 面白そうだった。

 この少年を計画に組み込めば今まで以上に素晴らしいモノを見れるかもしれない。

 そうすれば、もっともっと気持ちよくなれると思った。

 だから、『ゲーム』を考えた。

 少年が戦っていく気持ちのいい『ゲーム』を。

『ゲーム』開始の合図は自然と浮かんできた。

 この少年がどうなっていくのか、どんな選択をするのか。

 

 もしも、『正義(ヒーロー)』を貫き続ければウチの敵として立ちはだかる事になるだろう。

 

 もしも、心が折れれば操り人形としてはもってこいの存在になるだろう。

 

 もしも、もしも、もしももしももしももしももしも・・・・・・。

 考えれば考えるだけで体の奥底からゾクゾクとしてきたのをよく覚えている。

 だから、交わりを持とうとした。

 有り体に言ってキスである。

 唇を合わせてお互いがくっ付くスキンシップを、ウチは『ゲーム』開始の合図に選んだ。

 それから、少年の周りで様々な事件を起こした。

 少年は親から放置されていて、夜には街を徘徊することを掴んでからは少年が巻き込まれたりするように起こし続けた。

 次第に、少年は巻き込まれるのではなく自ら事件に飛び込んでいくようになった。

 老若男女・善人悪人関係なく、誰であろうと助けようとしだす本当の『ヒーロー』に近付きだしていた。

 でも、ある時、ウチが関わっていない、本当に偶然起きた事件に彼は飛び込んでいき、解決して帰ってきた。

 それを目撃した時はそれまでで一番ゾクゾクした。

 だから、ウチも起こす事件の難易度を上げていった。

 でも難易度が高くなりすぎて解決できない事件が増えだした。

 死人も多くなっていった。

 彼は人が死ぬたびに叫んでいた、苦しんでいた。

 

 そして、ウチはようやく気付いた。

 

 彼は、一切の涙を流していなかったのだ。

 辛い時も、苦しい時も、もちろん悲しい時も、一滴の涙も零していないのだ。

 流していたとすれば、目にゴミが入った時かあくびをした時くらいだった。

 それに気が付いた時はゾクゾクではなくゾッとした。

 生まれて初めての恐怖だったかもしれない。

 ウチだって泣くときは泣くのだ。

 でも、彼にはそれがなかった。

 喜怒哀楽は確かに存在していたのに、それなのに・・・・・・。

 そこでウチの考えていた『プラン』が大きく揺れた。

 彼が『正義』を振りかざし続ける、または、心が折れてウチの人形になる。

 ウチの中にあったそんな考えが一瞬で消えた。

 きっと、彼はウチの理解できない領域に行ってしまったのだろう。

 その証拠として、彼はもう単純な『善悪論』を放棄していた。

 手を伸ばされれば誰であろうと掴んだ、誰であろうと隣に立った、敵が誰であろうと戦った。

 だから、ウチは黒幕を演じ続けた。

 それしか出来なくなっていた。

 今まではウチが事件をコントロールし、彼を追い詰めていた。

 だけど、いつの間にか彼が関わった事件を“なるべく上手に解決できるように”誘導することがメインになっていた。

 その切っ掛けが何かはよく理解している。

 

 安藤よしみさんの『死』だろう。

 

 彼女を完全に救えなかったことが彼の心を大きく歪ませたのだろう。

 ・・・・・・彼女の死はウチからしても想定外だった。

 今までは人の恨み・僻み・嫉妬を煽って事件を誘発させていたが、彼女の場合は恋心を利用した。

 まさか、恋心があそこまで強く歪んでいくとは思わなかった。

 

 そして、彼女が死んだと知った時も彼は泣かなかった。

 

 咆哮を上げ、後悔し、苦しんでいたがそれでも涙は出ていなかった。

 彼が泣く事は生涯一度もなかった。

 

 

 

 

 

 

 意識が覚醒する。

 一瞬、ここがどこなのか分からなかったが、すぐに思い出した。

 ウチは顔を上げて状況を確認する。

 あの少年が、血まみれで立っていた。

 そこでようやく気付いた。

 少年が『神々』からの攻撃を、体を張って防ぎ、ウチたちを助けたのだ。

 昔みたいに、自己犠牲を当たり前として。

 ただ、昔と違う点は彼の怪我がすぐに再生・回復する所だろう。

 少年は息を切らせながら言う。

 前世でも、現世でも今まで一度も言わなかった言葉を。

 

「助けて」

 

 そんな短い一言。

 彼が何を思ってその言葉を言ったのかは分からない、助けを求めた意味も。

 それでも、一つだけ分かった事はある。

 その言葉で周りの風景が歪んだ。

 ぐにゃりぐにゃりと。

 ただ、恐怖心はなかった。

 その歪んだ空間の先からこちらに向かって歩いてくる影があった。

 少年もそれに気が付いたようで、それを認識した彼の瞳から一粒の涙が零れた。

 そして、彼の口から小さな声が漏れる。

 

「なん、で・・・・・・」

 

 彼の言葉に答えたのはピンク(マゼンタ?)色の英雄(ヒーロー)だった。

 

「知っているんじゃないのか? 俺たちは助けを求める声があれば、必ず駆けつける。そういった存在であると」

 

「・・・ああ、そうだったな」

 

 少年の眼に光が戻る。

 その顔が運命を変えられそうなほどの力強い表情になる。

 

「頼む。これは正義の為なんかじゃないけど、誰かの為なんかじゃないけど、それでも助けてほしい。この、俺の・・・いや、俺たちの戦いを終わらせる為に」

 

「それなら大丈夫だ。俺達は正義のために戦うんじゃない。俺達は人間の自由のために戦うんだ。・・・・・・今回の敵は人間の歩む“旅”を邪魔する存在だろ? だったら戦わない理由はない」

 

「ありがとう」

 

 少年は英雄(ヒーロー)たちにそう言って涙を拭う。

 彼の姿を見た仲間たちも立ち上がる。

 なら、ウチが戦わない理由もまたない。

 これは懺悔の為ではない事だけは言っておく。

 ただ、ウチは彼という存在の歩む“(ストーリー)”を見届けたいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、始めよう。

 人による神々への挑戦を。

 一人の少年による最大の戦いを。

 




誰が語り部か。

ヒント『一人称』


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短編㉘ 『ちょっとした』

筆休めで書いたクソ短い話。
特に深い意味はない。


 仮免試験数日前。

 俺は自主訓練の為にハイツアライアンスの外に出る。

 そこでは緑谷が熱心にシュートスタイルの練習をしていた。

 

「よぉ。お前も自主練か?」

 

「機鰐くんも? あっ、もし良かったらシュートスタイルの特訓を手伝ってくれない?」

 

「いいぞ。俺の場合自主練と言ってもちょっとした確認だから」

 

 俺がそう言うと、緑谷は不思議そうな顔をした。

 

「確認?」

 

「そ。確認」

 

 俺が両手を腰にやると、そこに『アークル』が出現する。

 だが、そこには金色のアーマーはついておらず、いつも通りの変わらない状態であった。

 

(アルティメットフォームはダメ、か)

 

 俺は右手をスッと上にあげる。

 瞬間、夜空よりカブトゼクターが飛来する。

 それを掴み、言う。

 

「変身」

 

《ヘンシン》

 

「・・・キャストオフ」

 

《キャストオフ チェンジ ビートル》

 

 俺は『仮面ライダーカブト ライダーフォーム』なると同時に左手を天に翳す。

 それと同時に俺の左手のひらを中心に空間の歪みが現れた。

 だが、それ以上の事は起こらなかった。

 何も現れないし、何か掴める物の感触すらない。

 

「チッ。ダメか」

 

 俺はそう呟き変身を解除する。

 そして、オーズドライバーを腰に装着する。

 深呼吸をし、意識を集中させると、

 

「っ!」

 

 俺の体から『紫色のメダル』が出現する。

 だが、すぐに引っ込んでしまった。

 

「これもダメ」

 

 俺は後頭部をポリポリと掻き、ゲーマドライバーを装着する。

 そして、

 

《マキシマムマイティX ハイパームテキ》

 

 二つのガシャットを起動させ、ゲーマドライバーにマキシマムマイティXガシャットを差し込む。

 

《マキシマムガシャット! ガッチャーン! レベルマックス!》

 

「ハイパー大変身」

 

《ドッキーング》

 

 ハイパームテキガシャットをマキシマムマイティXガシャットに合体させる。

 だが、ビジッバチバチバチバチバチッッッという大きな音と共に自動でハイパームテキガシャットが外れた。

 

「これもダメ、と」

 

 俺は少しため息をつきながらグランドジオウライドウォッチを取り出し、スイッチを押す。

 だが、反応しない。

 クソがァ。

 

「OK。緑谷。これで俺の用事は終わったから手伝うよ」

 

「・・・・・・何してたの?」

 

「ちょっとした確認。まあ、あまり騒いだりするような事じゃないから気にするな」

 

 俺はそう言って話を終わらせる。

 そして、さっさと緑谷の特訓に流れるように(無理矢理)移行した。

 

(一部最終フォームへの変身は不可能、か。理由は分からねえが、そこは追々考えていかねぇとな)

 




最終フォームへの変身はさせたい。





























ただしハイパームテキ、テメーは駄目だ(強すぎるから)。


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短編㉙ 『いつかの夜』

まさかのネタバレ回。

・・・・・・っといってもかなり先のストーリーなので読者様にとっては何言ってんのか分からない回になっていると思います。



あと、短編らしくかなり短いです。


 倒壊した建物で溢れた街。

 治安などはなく、力ある者が君臨し、暴れたい者が暴れるだけの世界。

 夜だというのに騒がしく、あっちこっちで爆発が起き、火柱が上がっている。

 それでも、空には星が輝き、月が怪しく街を照らす。

 俺はそんな月を眺めながら隣にいる少女に声をかける。

 

「なあ、紅。俺は駄目だったのかな?」

 

「ん? どうして?」

 

「だってさ。お前を助けなかったんだ。逆に、助けられちまった」

 

「困った時はお互い様だよ。私はお兄ちゃんに何度も救われているからね」

 

 紅はそう言って笑う。

 だけど、俺は笑えなかった。

 

「だとしても、俺のせいでお前は“二回も死んだ”んだぞ。・・・・・・それなのに、何でお前は笑えるんだよ」

 

「それは、お兄ちゃんがいつも笑っていたからかな。私馬鹿だからさ、お兄ちゃんがどんな道を歩んでて、どんなモノを抱えていたかなんて全く知らなかったし気付かなかった。・・・・・・お兄ちゃんはね、私の前ではいつも笑顔だったんだよ。辛い時も苦しい時も、私の前ではずっとそうだった。私はね、その笑顔に元気をもらってた。だから、私も笑うんだよ。そんなつらそうな顔してるお兄ちゃんに少しでも元気を上げられると思うから」

 

 紅はそう言ってまた笑う。

 満面の笑みを浮かべる。

 その紅い髪が夜風に吹かれ、月明かりで輝いていた。

 

「もしも、“ヤツ”を倒したらこの世界は元に戻る。そうしたら、元通り・・・・・・。そうなるともうお前とこうやって話せないんだよな」

 

「そうだね。でも、それが正しい歴史なら、そっちに軌道修正しないとね。たしか、そろそろ文化祭でしょ? みんなと楽しむ為にも頑張らなきゃね。お兄ちゃんが何をするのか楽しみだなぁ」

 

「お前は、来れないだろ」

 

「ううん。行けるよ。だって、お兄ちゃんの中にはしっかりと炎が移ったんでしょ? だったら、その炎が私だよ」

 

 そう言う紅の手が燃え上がったと思うと、そこに炎で作られた小さな鳥が羽を広げていた。

 その鳥に視線を向けると同時に鳥が空へと羽ばたく。

 

「私の炎はお兄ちゃんに移った。聖火みたいにね。そこには私の願いや想いが入ってる。だから、私はお兄ちゃんと一緒に文化祭に参加するの」

 

「・・・・・・そうか。それだったら寂しくねえな」

 

「うん。寂しくないよ。私はお兄ちゃんの中にいるから」

 

 そう言って笑顔を浮かべる紅につられ、俺も笑顔になっていた。

 これが最後なのだ。

 彼女と楽しく話せるのはこれで。

 なら、やはり辛気臭い顔は駄目だな。

 こういった時こそ笑顔で勇気を、元気を、希望を与える。

 

 

 それが俺の憧れたヒーローなのだから。

 だから笑おう。

 楽しく、馬鹿みたいに時間を忘れて。

 

 

 

 

 

 

 これは歴史を書き換えた悪しき魔王との決戦前夜の話。

 魔王が降臨する前日の、小さな小さな物語。

 




祝え!
休日で台風直撃中なのに出社し、定時まで仕事して命からがら帰宅した後に小説を投稿した馬鹿な(自称)作家の末路を。



・・・・・・台風ヤバいですよね。
皆さんもお気をつけて。


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短編㉚ 『(;’∀’)<ネタバレでっせ)』

オーバーホール編のボス視点。

ネタバレあるかな?
よぉわからんや(徹夜で頭働かない)。


 ある組織が『とある街』で事件を起こそうとしていた。

 その街は都心部から少し外れた場所にあり、駅の近くは発展しているモノの少し外れれば住宅街や畑などが広がり、田舎と都会が混ざり合ったような不思議な場所である。

 街は『鶴亀川(かくきがわ)』という名の大きな川で中央から分断されており、そこが都会と田舎の境目になっている。

 その『組織』の目的はテロによる革命であった。

 民主主義国家である日本を自らの思想で塗り替えるためのモノである。

 その最初の現場に選んだのがその街であった。

 程よく発展していて都心からもそこまではなれていない。

 ここを火種にして国を作り替えようとしていたのだ。

 だが、『組織』のやろうとしている事を知っている別の裏組織からは、

 

「その街だけは止めておけ」

 

 と言われた。

 理由を聞くが、どの組織も口をそろえて『とある人物』の事を語った。

『組織』がテロを起こそうとしている街に住む謎の男。

 事件が起きればそれを察知し、犯人をどこまでも追い詰めて行く存在。

 様々な噂が流れていたが『組織』はそれを全て誇張されたデマであると判断した。

 別の裏組織の言う事など信じなかったのである。

 

 

 そして、テロ実行当日。

『組織』のボスは手下たちに街中へ爆弾を設置するように命令した。

 爆弾は手製で、ボスの持つスマートフォンが一斉メールを送ると、それを受信したスマホの反応を得て繋がれている爆弾が爆発を起こす仕掛けとなっていた。

 つまり、手下が定位置に爆弾を設置し終わればいつでも革命を起こすことが可能であった。

 そんな中、手下の一人から着信があった。

 何か問題が起きたのかと思い出ると、手下は息を切らし途切れ途切れに言葉を紡いでいた。

 

『あ、あの、噂は本当だった! マズい、このままz・・・・・・』

 

 瞬間、大きな発砲音と共に大きな物が地面に倒れたような音が鳴り、電話は途切れた。

 その声色から手下が焦っているという事が十分に伝わってきた。

 嫌な予感を感じ取ったボスは素早く潜伏していた場所を離れ、人ごみにへと隠れる。

 

 あの噂。

 

 手下は確かにそう言った。

 噂とはつまり、他の組織が恐怖していた『とある人物』の事だと何故か直感していた。

 それ故に自身の選択ミスに気が付けた。

 ここの街は流通にも便利で首都圏から少し外れているとはいえとても便利な立地であった。

 だから、選んだというのに。

 人ごみに紛れてすぐに別の手下からの着信があった。

 

「・・・もしもし?」

 

『ったく。面倒なことしてくれたな』

 

 聞こえて来たのは全く知らない人物の声であった。

 

「なっ・・・・・・」

 

『この街で変なことはさせない。覚悟しておけよ』

 

 ブツッと通話が終わった。

 ボスの体からはブワッと汗が流れ出ていた。

 現在は冬に近付いて来た秋の終わり。

 気温は低く肌寒く感じるような季節だというのに、ボスは汗が止まらなかった。

 そして、嫌な予感がして一人の手下の下へと慌てて向かった。

 電話してもよかったのだが、なぜかしてはいけないと本能が叫んでいる。

 爆弾は全部で五つ―――五ヶ所に設置する計画であった。

 この街―――『月見市』最大の大きさを誇るビルである“セントラルニュータワー”の地下に設置する爆弾を持っている手下の様子を見に行ったのだ。

 セントラルニュータワーに近付くにつれ、警察が増えて行く。

 その雰囲気から『組織』の計画がバレているのは明白であった。

 そして、セントラルニュータワーの前に集まっている野次馬に紛れ確認すると、手下が警察に連れていかれる所であった。

 そして、セントラルニュータワーから学生服に身を包んだ一人の少年が出て来た。

 警察が包囲している場所にいる場違いな存在。

 ボスはそれを見て瞬時に察した。

 

 あれがこの街にいる『何か』なのだと。

 

 ボスがそれを確認した瞬間、少年が視線を向けて来た。

 まるで、そこにボスがいる事が分かっていたかのように。

 

「ヒィ」

 

 ボスは人ごみをかき分けてその場から逃げる。

 どこへ逃げるかなんて決まっていなかった。

 ただ、すぐにでもその場から遠くへと行きたかったのだ。

 そんな様子を当たり前だが場違いな場所にいる少年は見ていた。

 そして、ニタリと笑う。

 

「み~つけた♪」

 

「ヒィ」

 

「いきなり悲鳴上げてどうしたんですか、長谷川さん」

 

「君がめちゃくちゃ怖い顔をしていたんだよ! 自覚していなかった!?」

 

 警察官にそうツッコミを入れられた少年はキョトンとした表情で首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 ボスはひたすら街を駆けた。

 作戦は失敗した。

 この街にいる『何か』にも正体がバレた。

 すぐにでもここを離れなければ手下と同じ運命を辿ることになる。

 だから、絶望した。

 とっくに駅は警察によって封鎖されていたのだ。

 人っ子一人入れないように厳重警戒が敷かれていた。

 当たり前だが、犯人が逃げないようにする為に公共交通機関が使えなくなっているのだ。

 ボスは額から汗を流しながら山へと足を向ける。

 文明から外れた場所へ逃げれば追跡されまいと判断したからである。

 日は傾き、辺りが薄暗くなり出す中、ボスはただひたすらこれからの事を考える。

 警察は防犯カメラなどから面を割り出すだろう。そうすれば逃亡し続ける生活となるのは明白だ。

 だからこそ歩き続ける。

 山の奥深くで隠れて生活すれば見つかる可能性が低いと判断したからだ。

 なのに、それなのに、

 

「どこ行こうとしてるんだ?」

 

 山へと向かう道の真ん中に先ほどの少年が仁王立ちしていた。

 

「な、あぁっ・・・!?」

 

 ボスは後退る。

 恐怖が全身を震わし、今にもその場に崩れ落ちそうだった。

 

「さぁて。せっかくの休日を潰してくれたんだ。手加減しねぇから覚悟しとけよ」

 

「う、うぁっ・・・」

 

 少年は素早くボスとの距離を詰める。

 その顔には不気味なほど強い力を感じ取れる笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 一人の男が目を覚ます。

 自然に目が覚めたのではなく寝室の扉がノックされたからだ。

 

「いるよ」

 

 そう答えると扉が開き赤いペストマスクを付けた男が入ってきた。

 

「顔色が悪いが何かあったか?」

 

「昔の夢を見ただけさ」

 

 男はそう答えて体を伸ばす。

 関節がポキポキと鳴り、体が少し固まっていたことを示す。

 

「そっちこそ何があった?」

 

「エリが逃げ出した。捕まえに行くから手伝ってくれ」

 

「了解」

 

 赤いペストマスクの男―――治崎の言葉に短くそう返事をすると男は手鏡を取り出してその中へと入っていく。

 鏡の向こうの世界、『ミラーワールド』へと。

 




鏡面(きょうめん) 漸竜(ざりゅう)
身長:179cm
体重:77kg


個性『鏡入り』
鏡の世界である『ミラーワールド』へ入る事の出来る個性。
まだ謎が多いが本編で語られるだろう。
なぜオーバーホールと手を組んでいるのか、どんな利害関係があるかは不明。


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短編㉛ 『血を求める者』

76話のチョイ話


 ズドンッという大きな音と共に砂煙が空へと舞う。

 その下には一人の女性が頭から地面に激突していた。

 手足はピクピクと痙攣し、地面に関しては大きく割れていた。

 だが、その女性―――“アイリ”には一切の怪我はなく、ゆっくりと頭を上げる。

 

「うぅ~。何するのよぉ」

 

「人を襲おうとしたお前が悪い」

 

 そう言いながら一人の少年がアイリを見下げるように立つ。

 少年は“大森(おおもり) 剣符(けんふ)”。

 この街で『退魔師』をしている人物である。

 

「あのねぇ。わたしが血を吸わないとダメって事知っているでしょ?」

 

「血以外でも栄養は取れるんだろうが。なんで態々人を襲うんだ・・・」

 

「アナタは、スーパーで売っている油だけの安肉と高級黒毛和牛の二つがあるならどっちを食べたいよ? わたし達“吸血鬼”からしたらそんな選択でずっと安肉を選ばなきゃいけない状況なの。さすがに我慢にも限界は来るものよ」

 

「なら、俺の血でも吸うか?」

 

「『退魔師』の血はわたし達『魔族』からしたら毒という事を覚えてないのかしら?」

 

「わざとだ」

 

 少年はそう言って小刀と呪符を仕舞う。

 そして、

 

「変に人を襲うんじゃねぇぞ。俺だって知り合いを退治したくないからな」

 

 大森はそう言い残してその場を去る。

 アイリは地面に寝転がりながらその眼がしらに涙を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 変な人に絡まれた。

 今の現状を表すならその一言だけでいいだろう。

 学校をさぼって時間を潰していたら公園に変な女性がいたのだ。

 なんか涙を流しながら水道の水をひたすら飲み続けていた。

 怪しさ満点だった故に話しかけたのだが、公園のベンチに座らせられたあげく何か抱き着かれて愚痴を聞かされている。

 よくわからん単語が出てきているのでちょっとイタイ人だと判断した。

 

「アンタはどう思うよ? ちょっとぐらい血ィ吸っても怒られないわよね?」

 

「知るか。ってか吸血鬼名乗るなら勝手に太陽で焼かれておけ」

 

「なによぉ。そんな迷信を信じてるの?」

 

「吸血鬼自体が迷信だろう」

 

「あのねぇ。良く一般的に言われてる吸血鬼の弱点についてだけどさぁ、」

 

「無視か」

 

 俺の言葉をスルーして女性は言葉をつづけた。

 

「太陽の光が苦手っていうのはそもそも人間の活動時間が日中なのに関係しているのよ。日の光が苦手だとしておけば安心できるからね。聖水や十字架もそう。宗教的に自らが神聖であり魔と払う力があると宣伝するためにソレを弱点にした。そういったものよ。時代背景によって追加されていったデタラメよ」

 

「じゃぁ心臓に杭を打ち込めば死ぬっているのは・・・」

 

「逆に聞きたいのだけど、心臓に杭が撃ち込まれて死なない生物がいるかしら」

 

「なるほど」

 

 確かに納得できた。

 心臓ぶち抜かれりゃどんな生物でも死ぬわ。

 

「それに、わたし達からすれば“血”は最上級の食事なのよ。人間でいうならフィアグラとかそんな所。そりゃ食べたくなるでしょ」

 

「フォアグラがどんな味か知らないからその気持ちが理解できん」

 

「じゃぁ、フォアグラじゃなくて高級黒毛和牛で」

 

「理解できたわ」

 

 そりゃ吸いたくなるだろう。

 しかも周りに大好物が周りを歩いているとか我慢する方も大変だろう。

 一度、血を吸われた事があるが吸われる側の気持ちも吸う側の気持ちも理解はできないとしても例えさえはっきりしていれば何となくは想像できる。

 

「そういえば、アンタの名前聞いてなかったわね。なんて言うの?」

 

「人に名前を聞く前にまず自分で名乗るのが礼儀じゃないか?」

 

「あぁ、そういえばそんなルール合ったわね。わたしは“アイリ”よ。それでアンタは?」

 

「大宮さとし、普通の中学三年生だ」

 

「中学生ィ? そういえば制服着ているわね。・・・今日、平日じゃなかったっけ?」

 

「サボリ」

 

「あらら」

 

 そう言って少し苦笑するアイリを余所に俺はゆっくり立ち上がる。

 そして、くるりとアイリの方へ振り向く。

 

「とりあえず腹減ってんだろ? 近くのコンビニでなんか買ってやるから行くぞ」

 

「年下に奢られるのは何か歯がゆいかも」

 

「お前何歳だよ」

 

「800超えたあたりから数えてない」

 

「そっすか」

 

「自分から聞いておいてその反応はひどくないかな!?」

 

 知るか、と俺はアイリの言葉を一蹴した。

 

 

 

 

 

 

 俺は買い物かごの中に弁当を入れていく。

 アイリは外で待つらしく、俺の独断で適当に選んでいた。

 飲み物もあった方が良いと思いコンビニの奥にある飲み物棚を眺めていると、後ろから声を掛けられた。

 

「あの女からは手を引け」

 

 目の前のガラスが少し反射し、背後にいる人物が確認できるのだが、異様または異質としか言えなかった。

 だぼだぼのジャージを着、顔には般若の面を被りその手には刀らしき物を持った存在。

 日常の中にある風景には合わない者。

 それが俺の背後にいるのだ。

 だが、今まで色々な事を経験したことがあるが故に変に冷静になれた。

 

「誰だ?」

 

「“鬼”。そう呼ばれている」

 

「そのままだな」

 

「おや? 君は振り返ることなくオレの姿が分かるのか。百目の子孫か何かか?」

 

「ガラスに映ってるんだよ気付け」

 

 俺が少しため息を吐くとその人物は後頭部をポリポリと掻く。

 

「だとしたら、随分と冷静だな。こんな存在が背後に立っているというのに」

 

「殺気を感じない。害意も感じない。それだけだ。・・・・・・それに、もしも殺気満々だったら背後に立たれる前に存在を認識している」

 

「ふむ。子供だと思っていたが随分と肝が据わっている。それに先を読む力もあるようだ。・・・なら、分かるだろう? あの女から手を引け。アレは君のような一般人が関わっていい存在じゃない」

 

「吸血鬼だからか?」

 

「っ! なぜそれを?」

 

 言葉に出た揺らぎ。

 少しカマを掛けただけなのだが、当たりだったようだ。

 

「アイツ自身が言っていた。・・・教えろよ。内容次第では手を引いてやる」

 

「上から目線な・・・」

 

「手ェ引いて欲しいんだろ? だったら良いだろう。少し話すだけで手を引く“可能性”があるんだからな」

 

 俺の言葉に“鬼”は数秒押し黙る。

 そして、(面のせいで隠れているせいで確認はできないが)静かに口を開いた。

 

「あの女は吸血鬼の真祖。この世界にいるすべての吸血鬼のルーツをたどればあの女にたどり着く、そういう存在だ。力だけで言えば神にも匹敵する。ただ、本人は気分のままに生きているから問題だ。過去、彼女が惚れた男が戦争によって殺された時には、その敵国は一夜にして滅ぶことになった。それだけじゃない。教会が派遣した退魔十字軍は掠り傷負わす事も敵わず殺された。まさに災悪であり人類の敵だ。今現在はほとんどの力を失っているが、もしもの事があれば人類の未来すら危うい。だから、手を引け」

 

「そうか。じゃぁ、仲良くするよ」

 

「は?」

 

 俺の答えに“鬼”は素っ頓狂な声を上げた。

 

「だったら仲良く接して行くさ」

 

「オレの言葉が理解できなかったのかい?」

 

「できた上で言っているんだ。危険だからなんだよ。アイツは、悪い奴じゃなかったぜ」

 

「もしも、これ以上彼女と共にいるのだとしたら、オレは君を殺す事になる」

 

「できるもんならやってみな。テメェなんぞに殺されるほど俺は弱くねえよ」

 

 俺が強気にそう答えた瞬間、刀が抜かれた。

 それを視覚すると同時に俺は素早く床に伏せた。

 ガッシャァアアアアアン!という大きな音と共に“店内の棚全て”が横一線に切り裂かれた。

 俺はその場から離れ、態勢を整えながら“鬼”の方へと体を向ける。

 

「ふむ。シロウトとばかり思っていたが、思いのほかやるようだね」

 

「そうかよ」

 

 そう答えながら刀の方へ視線をやると、投信部分に白く輝く刃が付いていた。

 だが、それは一瞬のうちに書き消えた。

 

「・・・・・・『妖刀・霊力刃』。使用者の霊力を流し込むことで刃の形を作る世にも珍しい武器さ」

 

スターウォーズの世界に帰れ」

 

「あれとはまた仕掛けが違うのさ」

 

 “鬼”がそう答えると同時に再度、刃が出現した。

 俺はバックステップで距離を取ろうとしたがそれよりも先に刀が振るわれた。

 とっさに横へ跳ぶことでその攻撃を避けると同時に叫ぶ。

 

「みんな、逃げろ!!」と。

 

 そう。まだ店内には客及び店員がいたのだ。

 パッと見、最初の斬撃による怪我人はいないようだが、このままここにいられると何があるか分からない。

 目の前の“敵”に集中するためにも早く逃げて欲しい。

 

「周りに気を掛けるとは、随分と余裕だね」

 

「余裕を作るための行動だよ」

 

 俺はそう答えつつ身構える。

 逃げるための構えではなく、迎え撃つための構えを。

 再度振るわれる刀。

 俺は体を捻りそれを避けると、般若の面めがけて拳を叩きこむ。

 

「っ!?」

 

「まだまだぁ!!!」

 

 腕を振るった時の回転力を殺さず逆に生かし、体を回転させて裏拳も撃ち込んだ。

 

「カハッ・・・!!」

 

「舐めてんじゃなぇぞ。こちとら弾丸が飛び交う戦場を駆け抜けた事だってあるんだ。今更、よく分からない近接武器の一本や二本でビビるほど若くねぇよ」

 

「なる、ほど。子供だと思って油断したが、どうやらこの街の“毒”に侵された存在だったか」

 

「あん? 何言ってんだ、オマエ」

 

 俺の疑問に“鬼”は答えることなく、ポケットから一枚の紙を取り出した。

 そこには赤いインクで何か書かれており、何かしらの『札』である事が確認できた。

 

「このまま戦ってもいいけど、こっちにも事情があるんでね。ここは引かせてもらうよ」

 

「逃がすと思ってるのか?」

 

「逃げるさ。霊力のない君がオレを追いかけることはできない」

 

 瞬間、“鬼”が『札』を自身に張り付ける。

 すると、あっという間にその姿が消えてしまった。

 

「なん、だっての」

 

 俺は、誰もいない破壊された店内でそう呟く。

 裏社会での事、警察組織の闇、他にもいろいろあったが、この世界にはまだまだ分からない事や知らない法則がありそうである。

 

 

 

 

 

 

「みたいなことも経験したことあるよ」

 

 俺の言葉に爆豪は目を吊り上げて叫ぶ。

 

「さすがにウソだってわかるわ!!」

 

 そして椅子代わりに使っていたベッドから立ち上がり胸倉を掴まれた。

 それは良いのだが室内で小爆発を起こさないでほしい。

 普通に危険だから。

 

「ところがどっこい。事実なんだよ」

 

 緑谷に関しては俺と爆豪の間へ仲裁に入る。

 

「そ、その後どうしたの!?」

 

「警察に事情説明とかして大変だったよ。まぁ、アイリとは定期的に会うようになってそのたびに少しばかり血を分けてやっていたけどな」

 

「大丈夫、だったの?」

 

「悪い奴じゃなったからな。親しく隣人として接すれば特に問題はなかったよ」

 

 爆豪は俺の胸倉から手を離すと、ドカッとベッドに腰掛ける。

 

「ほら。とっとと話の続きをしろ。お前が死んだのが高校三年なんだろ。だったらまだ色々あんだろうが」

 

「そうだな。ンじゃ次は高校一年になったばかりの時に体験した『石油王暗殺未遂事件』と、その半年後に体験した『自称・宇宙人との接触』について話そうか」

 

「どっちもとんでもねぇ題名だな、オイ」

 

 そう毒づく爆豪を余所に俺は語る。

 昔の、懐かしい思い出を。

 




大森(おおもり) 剣符(けんふ)
身長:174cm
体重:51kg

『退魔録』(現在リメイク中)の主人公。
生まれ持った天性の才能を驕る事なく、努力をしてより上を目指すなど才能マンにしては珍しい部類の人間。
他人とは一線を引いて接するが、親しくなればどんな『退魔師』よりも優しく接しやすい人物になる。
『鬼』と戦う場合は逃げに徹する。


『????/鬼』
身長:167cmぐらい
体重:不明

常に般若の面とだぼだぼのジャージを着ている謎の『退魔師』。
トップクラスの実力を持つ大森剣符が逃げに徹しないといけないほどの実力者。
本名及び年齢・性別は不明。
無敗だったが、シロウトである大宮さとしを相手に逃げ、その後、再会した際に敗北。
それ以来、ドジっ子属性が追加されることになった。
大宮さとし曰、「強いけど勝てない相手ではなかった」らしい。


『アイリ』
身長:157cm
体重:49kgぐらい

【挿絵表示】

世界最強クラスの吸血鬼なのだが、『ある事』を切っ掛けにその力のほとんど(約98%)を失っている。
甘党で気分屋。
力を失っていてもそこらの『退魔師』程度になら勝てる。
大宮さとしが死ぬまで定期的に血を貰っていた(注射器使ってビン詰めされた物)。
TwitterなどのSNSに写真を投稿している。
基本的に平和主義者。


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短編㉜ 『血を求めた者』

リア充は修羅場になって酷い目に合え(願望)


 とある山の中腹。

 道はなく、ただ進める場所を進んで行くと、その先に見覚えのある人物がいた。

 顔に般若の面を付けた者、そいつは静かに口を開く。

 

「君のような素人は今すぐ回れ右をして去った方が良い。ここからはオレやそこにいる馬鹿の関与すべき世界だ」

 

「知るかよ。俺には俺のやり方や考えがあるんだ。テメェが線引きして管理しようと、そんなの乗り越えてやる」

 

 俺は腰を落とし、隣にいる人物へ声をかける。

 

「大森。お前は先に行け。この“鬼”は、俺が足止めをしておく」

 

「・・・大丈夫か?」

 

 隣にいる人物―――“大森剣符”は“鬼”から視線を外すことなくそう聞いて来た。

 コイツとは数時間前に出会ったばかりで、昔からの知り合いと言う訳でもなければ、素性を詳しく知っている訳でもない。

 だが、ここまで一緒に走ってきたからこそ完全にとは言わないが信頼はしている。

 

「大丈夫だよ。だから、任せていいか? “アイリ”の事を」

 

「そこら辺は気にしなくていい。俺の仕事は『この街』のバランスを取る事だからな。人妖問わずの」

 

「ンじゃ、先へ行け」

 

 俺はそう言い残して“鬼”との距離を一気に詰めると地面を蹴り上げる事で砂煙を起こす。

 そして、素早く後ろ回し蹴りを繰り出した。

 だが、それは“鬼”の持つ刀の鞘に防がれる。

 それでも、“鬼”は俺の攻撃を防ぐために、一瞬だがこちらに意識を向けていた。

 その隙をついて大森は飛び出していく。

 

「死ぬよ?」

 

「はっ。できるならやってみな。俺を殺そうなんて5秒早ぇ!」

 

「すぐじゃないか」

 

「テメェが5秒進んだ時には俺も5秒進んでいるんだよ」

 

「そうかい。なら、その5秒を縮めてやろう」

 

 “鬼”はつまらなそうにそう言って刀を抜く。

 そこに出現した刃は、依然見た物と違い赤く染まっていた。

 

「それ・・・」

 

「以前、キミに見せた物とは違い、『人を斬り裂くこと』に特化したモノさ」

 

「なら、当たらなければいい」

 

 振るわれる刀を俺は回転しながら後ろに跳ぶことで避け、少し身を屈めて石を拾い、回転力そのままに石を投げつける。

 だが、“鬼”には簡単に避けられてしまった。

 

「その動き・・・。キミ、あの吸血鬼と交わったか?」

 

「は? 交わった?」

 

SEXしたか、と聞いているんだ」

 

「ブッッ!!」

 

 突然の質問に噴き出してしまった。

 

「どういうこったぁ?」

 

「吸血鬼の交わりは・・・まぁ、詳細は省くが結論だけ言うと人間のモノとは少し違う。人と吸血鬼が交わると、人間にはその力が少し宿る。・・・・・・キミの動き的にそうだと思ったんだがね」

 

「生憎と、俺は童貞だよ」

 

「なら、その動き・力は・・・・・・?」

 

「努力故の結果だよ」

 

 俺は腰を落として構える。

 “鬼”も刀をゆらりと下に垂らすようにして構える。

 そして、俺たちは最短距離でぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 アイリと呼ばれる吸血鬼は山の頂上に作られた“祭壇”の真ん中に横たわっていた。

 目の前には黒い“影”。

 その“影”の『目』と『耳』を通して少年の戦いが見えていた。

 少年と“鬼”の戦い。

 最初は優勢だったが、時間が経過していくにつれてどんどん追い詰められていた。

 何ら力を持たない少年と、『退魔師』として最高クラスの力を持つ“鬼”。

 逆に一時的とはいえ優勢だった方がおかしいのだ。

 少年の体に外傷はない、服は擦り切れたり枝に切っ掛けたのか破けたりしているが、それでも切り裂かれたような跡はない。

 

『妖刀・霊力刃 魂斬形』

 

 通常なら使用者の霊力によって切れ味や形状を変える『霊力刃』の刃が人間の魂を斬り裂く刃(・・・・・・・・・・)へと変化した姿だ。

 それで斬られた場合、外傷はなくとも『魂』に深刻なダメージが入る。

 それが一定値を超えると、『魂』は肉体へ留まる事が出来ず天へと昇る―――つまり、死ぬ。

 そして、“影”の『目』を通して見ていても分かる。

 少年の魂は、もう肉体から離れ行く寸前であるという事を。

 

『キミも何となく分かっているだろう? もはやキミは死に体だ。休めば大丈夫だが、これ以上は本当に死ぬよ』

 

『知る、かよ・・・。死ぬよりも前にテメェをぶっ倒せば・・・そうすりゃぁ、大丈夫だろう』

 

『・・・・・・なぜ、そんな無茶をする? あの吸血鬼の事でも愛しているのか?』

 

『いいやまったく』

 

 少年は一瞬の間もなく“鬼”の問いに答える。

 あまりにもバッサリと切り捨てるような短く端的で完結している言葉。

 少し乙女心が出て来てキュンとしていたアイリの気持ちもバッサリと切り落とされていた。

 

『なら、なぜ命を懸けて戦う?? その必要はどこにもないだろう』

 

『誰かを助けるのに理由なんていらねぇだろ。あるとすればそうだな・・・。俺が助けたいから助ける。そんな身勝手な理由さ』

 

 少年はそう答えながら腰を落とす。

 もう、その体―――いや、魂はボロボロで、いつ死んでもおかしくないのに。

 それなのに、少年の表情は崩れない。

 いつものように、強く獣のように牙をむき出しにしながら笑っている。

 

『死にたいならいいさ。来な』

 

『土の上で安らかな朝を迎えさせてやるから覚悟しろ』

 

 瞬間、少年は今まで以上のスピードで“鬼”との距離を詰めた。

 だが、それでも、

 

『届かない』

 

 少年の体が横一線に切り裂かれた。

 彼の体から力が抜け、自身の突き進んだ勢いそのままに地面に激突した。

 

『・・・・・・これだから何も知らないシロウトは嫌いなんだ』

 

 そう呟く“鬼”。

 対する少年は動かない。

 一切動くことなく、生気を感じる事すらできない。

 “鬼”は少年に一切視線を向けることなくその場を去ろうとする。

 その光景は、アイリにとって何よりも衝撃的な光景だった。

 今まで生きてきた中で一番に。

 

「あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 アイリは叫ぶ。

 その瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。

 今まで人が死ぬところなんてたくさん見て来た。

 それなのに、たった一人の少年の死が何よりも心に刺さった。

 だけど、

 

『どこ、行こうとしてんだ?』

 

 そんな声がした。

 

『な、に・・・・・・?』

 

『何勝った気でいるんだよ。俺は、負けてねぇぞ』

 

『馬鹿な。確かに、死んだはずだ。・・・・・・なのに、ありえない。どんなイカサマをっ!?』

 

『知るかよ。今俺はここにいて、生きてる』

 

 少年は近くに落ちていた手ごろな石を拾い上げ、それを頭に叩きつけた。

 

『ほら、血も出る』

 

 少年は笑う。

 その目に光が宿る。

 

『行くぜ』

 

 瞬間、少年は“鬼”との距離を先ほどのスピードを凌駕する速さで詰める。

 

『なっ!!?』

 

 少年の拳が“鬼”の顔―――般若の面の中心を打ち抜く。

 だが、それだけでは止まらない。

 前蹴り、後頭部掴み引き寄せ膝蹴り、エルボー、左フック、右ストレート、脳天踵落とし、頭突き、アッパー・・・・・・。

 流れるように攻撃を打ちこみ続ける。

 “鬼”は何とか抵抗をしようとしているが、少年はそれを許さない。

 

『終わりだ』

 

 あちこちに攻撃を受けてボロボロになった“鬼”に対し、少年はそう言って飛び上がる。

 そして、“鬼”の顔面に飛び蹴りを食らわした。

 

『・・・・・・ライダーキック、ってな』

 

 少年はそう不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 大森剣符が“祭壇”に現れ、“影”と戦う。

 いつの間にか、戦場は“祭壇”から離れ、森の中へと移行した。

 そして、気付けば空は白みだしていた。

 

「・・・・・・いい朝焼け、だな」

 

 少年はいつもの調子でアイリにそう声をかける。

 あっちこっちに怪我をしていて、あまりにもボロボロな姿。

 だけど、いつもの調子で、まるで何事もなかったかのように。

 

「あのよく分からない“影”は大森が終わらせてくれたよ。俺は軽い手伝いしかできなかったぜ」

 

 嘘だ、そう思った。

 少年の体からはあの“影”の匂いが強く嗅ぎ取れた。

 アイリが何を言おうかと言葉を探していると、少年はスッと首元を差し出してきた。

 

「ほら、オマエも疲れてるだろ。ちょっと血でも吸って栄養取れ」

 

「え、いや・・・でも・・・・・・」

 

「俺の怪我の事は気にするな。数日で完治する」

 

 アイリが気にしているのはそこではないのだが、少年はそれに気づかない。

 

「えっと、いいの?」

 

「特に気にするような事でもあるのか?」

 

「あ、いや、その・・・・・・」

 

 人間と吸血鬼の常識は違う。

 少年はそれが普通だと思っているだけなのだ。

 アイリはゆっくりと、少年の首に噛みつき、血を吸う。

 

「死なない程度に頼むな」

 

 そう呟く少年の言葉はほとんど届いていなかった。

 吸血鬼にとって、相手の首元から血を吸う行為は『親愛』であり『婚約の意味』である。

 だが、そんな事を少年は知らない。

 アイリの顔が真っ赤になっている事にも気付いていない。

 この日、アイリは知った。

 自分の中にあった強い感情に。

 

 この少年を愛しているという事実に。

 

 

 

 

 

 

 アイリは目を覚ます。

 そして、身支度を整えてカプセルホテルを出た。

 あの少年が死んでから長い時間が経過した。

 その間に世界は大きく変わり、アイリのような人間で世界は溢れかえった。

 お陰で背中から蝙蝠の羽を生やしたりしても誰も驚かない。

 アイリはいつものように街を歩き回る。

 

 しばらく血は吸っていない。

 人の血とはその者の有り方で味が変化する。

 例え血のつながりのない他人でも、似たような人間なら似たような味になる。

 少年のように心身ともに強く、少しの闇を抱えた者の血は何よりも絶品であった。

 そのせいで他の血はそこまで美味しく感じなくなってしまった。

 だが、少年のような存在はいない。

 もう二度あの味を味わう事はできないのだ。

 アイリは少しお腹を空かせながらフラフラと人並みの中に紛れる。

 それを、

 

「あいつは・・・・・・」

 

 視覚した存在がいた。

 その者の名は“機鰐龍兎”。

 アイリの求めるあの少年の生まれ変わりである。

 




アイリさんの本編登場はまだ先なのだ。


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短編㉝ 『片腕の少年』

【西暦2050年/魔法歴84年】―――[夏]

 

 

 風が吹く。

 ビルの屋上に立つ少年は風で乱れた少し長い前髪を軽く払い視界を開く。

 月明かりが街を照らし、人々が騒がしく行きかう場所。

 そこの中心に黒い影を纏った男がいた。

 少年は首をグルグルと回し肩を解すと、軽く深呼吸をした。

 その時、再度風が吹き少年の体を揺らす。

 少年は顔色を変えずに前を見続ける。

 だが、何の気なしに自分の左腕があるべき場所を見た。

 服の袖には何も通ってはおらず、それが風に揺られバタバタと音を鳴らしていた。

 少年には左腕がなかった。

 左肩からは何も生えておらずそこだけがポッカリと空いている。

 だが、すぐに何もなかったはずのそこに腕が生える。

 比喩表現などではなく、本当に生えたのだ。

 少年は腕の調子を確かめると、ビルの屋上から飛び降りた。

 

 そこは高層150階を超える『日之出市 セントラルビル』の屋上。

 生身の人間が飛び降りて無事で済むような場所ではない。

 だが、少年の顔は揺らがない。

 少年は左手を地面へと向け、呟く。

 

「速攻で仕留める・・・」

 

 瞬間、少年の腕が地面へと延び、地を弾くことで男の方へと勢いの向きを全て変換した。

 重力によって超加速された少年は勢いと衝撃を全て男に向けて放出した。

 大きな破壊音と共に男が吹き飛び地面にクレーターを作った。

 

 だが、一瞬の時間が流れるよりも前に倒れている男の肉体からより強大なオーラが発せられ、その影を変えて行く。

 それはまるで、黒い一角巨人(バケモノ)

 通行人はそれを視覚したと同時に大きな声を上げて逃げ惑う。

 少年はイヤホン無線機に向けて一言いう。

 

「『狂魔鬼病』感染者一名発見。排除します」

 

 この世界で問題となっている病気、『狂魔鬼病』。

 名前の由来は『気が狂い魔力が暴走しそれが鬼の形となって暴れる病気』だからである。

 主に精神疲労や何かの病気の合併症として現れるケースが多く、発症すれば迅速に止めなければ『魔力』が失われて死に至る。

 それ故に少年は素早く『鬼』の懐へと潜り込み、『魔力』を練り上げて作った左手で殴り飛ばす。

『鬼』はバランスを崩して尻餅をつく。

 その大きな隙を狙い『鬼』の頭目掛けて右手に集中させていた『魔力弾』を発射して目を潰す。

 大きな悲鳴を上げる『鬼』を前にしても少年はつまらなそうな表情のままに左腕を太刀の形にへと変化させる。

 そして、鬼の角を一刀両断した。

 

『■■■■■■■■■―――――――――!!!!』

 

『鬼』は大きな悲鳴を上げて倒れる。

 少年は魔力で作り出した腕を消すと、『鬼』に近付き右手で触れる。

 瞬間、『鬼』が萎み、そこには気を失った一人の男が倒れていた。

 男の生死を確かめ、少年は再度イヤホン無線機の先にいる人物に告げる。

 

「命に別状なし。原因は疲労と思われます」

 

『ほいほ~い。そろそろ救急車も到着する筈だからしっかりと受け渡してね。そうそう、それよりも「あの子」がまた君を訪ねてきているんだけどそろそろしっかりと相手をしてあげたら? 可愛い子なんだし、上手くいけばベッドインもd・・・ブッ――――』

 

 少年は『上司』が最後まで言う前に通信を切った。

 

 

 

 

 

 気付くと少年は真っ白な何もない空間に佇んでいた。

 記憶ではいつものように自宅のベッドで眠りに入ったはずだというのに。

 だが、少年は焦らなかった。

 様々な事件に関わって来た経験から辺に焦っても無駄だと理解しているのだ。

 少年はとりあえずその場に座ると最大限警戒をしつつも何かが起きるまでジッと待った。

 どれほどの時間が経過しただろうか。

 前方10メートルほどの所に突如黒い『穴』が開きそこから誰かが出て来た。

 その誰かは言う。

 

「えっと、アンタが『大宮さとし』でいいのか?」

 

「今は『サトシ=オーミヤ』だけどな。何か用事でも?」

 

「いやぁ、実はさ、俺は強くならなきゃいけないんだ。その為には幾つも存在している『可能性』と関わって受け取らないと(・・・・・・・)いけないんだと」

 

「ふむ。全く意味が分からない」

 

 少年は右手を顎に当てて首を傾げる。

 目の前にいる誰かも意味をよく理解していないらしく変に問いただすのも悪く思い思考を放棄した。

 

「まぁ、とりあえず戦ってみれば分かるんじゃないか?」

 

「戦うって、片手のないヤツを相手になんて戦いづらいぞ」

 

「大丈夫だ。変な心配をすることは無い。・・・・・・ところで、キミの名前は?」

 

「ん? ああ、そう言えば言ってなかったな。俺は『機鰐龍兎』。・・・『大宮さとし』の中にある可能性の一つだ」

 

「・・・・・・なるほど、そういうことか。それじゃぁ、自分同士の戦いって事だな」

 

 サトシ=オーミヤはそう言って苦笑した。

 機鰐龍兎もそれにつられて笑う。

 

 

 その日、普通ならばあり得ない戦いが始まった。

 全く同じ少年同士の、似ても似つかない自分同士の戦いが。

 

 違う選択をし、違う道を歩んだ同一人物の競い合いが。

 



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短編㉞ 『二人の奇妙な関係』

本編の上手い文章が思いつかないぜ☆


 これは、『死穢八斎會』突入作戦二日前の話だ。

 

 

 

 俺はジャージに着替え、トレーニングルームへと入る。

 そこの中央には腕を組んで仁王立ちをしている爆豪がとんでもない顔で立っていた。

 それを見て少し肩を落としてため息を吐きながら言う。

 

「ンでいきなりイライラしてるんだよ」

 

「テメェが遅れたからだろうが」

 

「そっちがいきなり呼び出したんだろ? こっちにだって予定があるんだからそこら辺考慮してくれよ」

 

 俺の言葉を聞いて爆豪は少し舌打ちをして黙った。

 

「それで? 何の用だ?」

 

「テメェの全てを寄越せ」

 

 爆豪のその言葉を聞いた瞬間、俺は素早く距離を取りケツをガードする。

 俺のその一連の行動に爆豪は訝しむような顔をした。

 だが、そんなの気にすることなくいつでも逃走できるように態勢を整える。

 

「何してんだ、オマエ」

 

「いや、爆豪がソッチ系の趣味持ちとは思わなくってな」

 

 そう言った瞬間、爆豪は一瞬だけ呆けた後、一気にバケモノみたいな顔になった。

 

「そういう意味じゃねェ!! 何変な勘違いしてんだコラ!!!」

 

「ほんとぉ?」

 

「本当だボケェ!! ってか何だそのウザい表情と口調は!!!!?」

 

「どうどう。落ち着けって。ただ煽っただけじゃねえか」

 

「煽んなぁ!!」

 

 爆豪は両掌を小さく爆破させてこちらに近づいてくる。

 ちょ、止め、止めろ。

 俺は衝撃系の音が苦手なのだ。

『あの事』を強く思い出すスイッチになってしまうから。

 

「んで、なんで俺を呼んだの? 詳しく言ってくれ」

 

「お前の話を聞いてからずっと考えてた。俺は強くなるためにどんなものでも俺のモンにしてNo.1になると決めた。だから、テメェの技術含めた全てを寄越せ。それを取り入れて強くなる」

 

「いいけど、俺の技術は俺だからこそできるんだぞ?」

 

「あ? どういうことだ?」

 

 怪訝な顔をする爆豪から俺は距離を取ると、軽く跳ねる。

 これは準備運動でしかない。

 俺は少し深呼吸をすると、素早く体を動かす。

 

 最初に前へと飛び跳ねる。

 そして、着地と同時に後方へバク中で真っ直ぐ飛び跳ねる。

 次は足ではなく右手で地を触り、腕力だけで体を浮かせながら回転させると素早く全方向に打撃攻撃を放つ。

 それだけでは終わらせず、着地と共にその場から離れて即座に構えを取る。

 この一連の流れを終え、俺は息を吐いて腕を下げた。

 

「ほれ、これが俺の技術。ただひたすら慣性の法則を自分の筋力で押しつぶして無理矢理な動きで敵を翻弄するだけなんだ。だから、俺にしかできない」

 

 俺がそう言うと爆豪は少し息を吐くと前へと飛び跳ねた。

 その軌道は俺の動きと全く一緒だと思う。

 あまりにも正確な動き。

 俺はそれを見て柄にもなく感心してしまった。

 才能マンだという事は知っていたが、まさかここまでとは思っていなかったのだ。

 爆豪はバク中をすると、右手で着地すると同時に小さな爆破で体を浮かせ回転をしながら俺と同じ動きにプラスで自身の爆破攻撃を織り交ぜて綺麗に着地した。

 

「おお! “個性”込みとはいえ、簡単にモノにしただけじゃなくもうオリジナルアレンジを入れるとは思ってなかったよ。スゲェな」

 

「・・・・・・別に、動きを真似るぐらいは猿だってできる。けど、お前みたいに“個性”無しでやれって言われたらすぐにはできねぇ。・・・・・・・・・なぁ、聞いても良いか?」

 

「言われなきゃわからんから聞きたいことがあればどうぞ」

 

「無駄な動きが多くねぇか?」

 

「うん。わざと。・・・・・・今のは攻撃よりも相手へのけん制及び威嚇目的だからね」

 

「なるほどなぁ。派手に暴れる事で力を誇示しつつ『何をするか分からない』雰囲気を出すって所か」

 

「正解」

 

 俺は両手の人差し指を立ててソレナのポーズで答える。

 

「じゃあ次は実践で使えるモン見せろ」

 

「無理」

 

「は?」

 

 俺の即答に爆豪は呆けた顔を見せて来た。

 少し笑いそうになったので、足を抓ってそれを堪えた。

 

「俺の戦術は常に一対一を基本としてる。相手が多数だった場合は一か所に留まらず動き続けることで一対一で戦えるようにしてた。だから俺は勝ててたんだ」

 

「常に一対一、か」

 

「そ、多数相手じゃ流石にきついからな。それに、戦いの中で咄嗟に使っていた技術も多いから説明が難しいし、見せるだけじゃ分からないだろうよ」

 

「それだったら、俺と戦え」

 

「格ゲーで?」

 

「実戦だボケェ!!!」

 

「ちょ、冗談だって。怒るなよ・・・」

 

 俺は爆豪の迫力に押され、少しだけ縮んだ。

 戦闘中ならばこの程度怖くもなんともないのだが、こういった日常の中では少しでもリアクションを取っておいた方が良いと思ったから押され気味になっているだけだと補足しておこう。

 いいか、俺は一切ビビってないぞ。

 

「それじゃ、“個性”ナシが条件だけど良いか?」

 

「ああ、それでいい。そっから盗む」

 

 爆豪の返事を聞いた俺は彼から一定距離離れた。

 そして、

 

「それじゃ、どこからでもかかって来なさいな」

 

 俺がそう言った瞬間、爆豪は一気に俺との距離を詰めた。

 だけど、あまりにも動きが見えすぎている。

 人間は動こうとすると確実に体のどこかに力が入る。

 それを確認できれば、後は行動を読んで動くだけで簡単に攻撃を避けることが可能だ。

 俺は体を少し後ろに倒し、肉体の防衛本能に動きを委ねる。

 

 例を挙げよう。

 直立した状態から体を前に倒すとある一定の所で利き足が意識していないのに勝手に倒れるのを防ぐ。

 これが肉体の防衛本能による反射である。

 もっと分かりやすい例で言うなら熱い物を触ると意識していなくても手を引く反射がまさにソレである。

 人間の動物として備わっている『体を守る』防衛機能。

 これを上手に利用すれば体にほとんど力を入れることなく動く事が出来る。

 

 後ろに倒れそうになった体は勝手に足が動くことでバランスを取り、その動きによって爆豪の攻撃を避けた。

 さらに、倒れようとする勢いを殺さず体を回転させることで爆豪の後頭部に裏拳を叩きこんだ。

 

「ッ!!!」

 

 爆豪は何が起きたのか判断できなかったらしく俺の攻撃を喰らってバランスを崩し倒れそうになる。

 だが、素早く地面に手を付いて倒れるのを阻止しつつ態勢を整えた。

 俺はそれを見計らって次は爆豪の方に向かって体を前に倒す。

 これまた反射の応用で『踏み込みのないダッシュ』が可能となる。

 

 バトル漫画とかを見てもらえれば分かりやすいかもしれない例を挙げよう。

 一番いいのはサイヤ人編だろう。

 さぁ、ドラゴンボール(漫画)の準備は出来たか?

 説明を始める。

 基本的にダッシュなど勢いよく前に出ようとする際には『強い踏み込み』が必要になる。

 悟空が「カラダもってくれよ!! 3倍界王拳だっ!!!!!」と限界を突破してベジータに向かって飛んでってボコボコにするところが参考だ。

 基本的に現実でもああやって地面を強く踏みしめるモノだ。まぁ、地面がへこんだり砕けたりはしないが。

 あのように踏み込むという動作がある為に動きが分かるのだ。

 だが、倒れ込む勢いで防衛本能による反射で前に出た場合、勢いはあれど踏み込むというワンテンポがない。

 その為に一瞬意識的な反応が遅れるのだ。

 

 態勢を整えたばかりで完全な状況把握のできていなかった爆豪が『踏み込みのないダッシュ』を認識するのは困難だっただろう。

 とっさに顔を守ったのは良いが、それでは自身の視覚を塞ぐだけになる。

 しかも完全に態勢が整っていない状態でやるのは愚策。

 俺は倒れる勢いそのままに前転をして、その頭に踵落としを食らわせた。

 脳天に強い衝撃を喰らえばどれだけ鍛えていようと一瞬だが意識が堕ちる事だってある。

 だが、そう何度も上手に事が運ぶはずなんてなく、俺が着地する寸前で爆豪が動いた。

 癖になっているであろう右の大振りは“個性”があるなら十分脅威だがなければただの打撃技だ。

 俺は着地してすぐ爆豪に接近し、二の腕を抑えることで攻撃を防ぐのではなくそもそも攻撃をさせない。

 回し蹴りもそうだが、遠心力を使う攻撃は中心点に近付けばそこまで威力はない。

 欠点としては近づくことで組合になったり殴り飛ばされる可能性があるという所だろう。

 だから必要なのは素早い先制攻撃である。

 俺は爆豪の顔に軽いジャブを入れ、反射で目を瞑ったと同時に鼻に指を入れて中を抉る。

 そして、素早く指を引っこ抜くと、隙だらけの腹に前蹴りを叩きこんだ。

 

「ガッ・・・・・・!!!」

 

 この一連の攻撃にさすがの爆豪も地面を転がった。

 

「ほれほれ。どうした? 盗むんじゃないのか?」

 

「調子に乗んな、変身野郎。今までのは準備運動だ」

 

「ほほう。言ったね? それじゃあこっちもギア上げてやっちゃうよぉ」

 

「次はテメェが地面に背中を付ける番だぜ」

 

 爆豪の返しに俺は少し笑った。

 あざ笑う意味ではなく、この戦いを純粋に楽しいと思って出た笑みだ。

 

「さぁ、どこからでも来い!!」

 

「いくぞコラァ!!!」

 

 瞬間、俺たちは最短距離でぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 結論だけ言うとやり過ぎでどっちも怪我だらけになり相澤先生にこっぴどく叱られた。

 




爆豪くんが才能マンだとしたらウチの主人公はセンスだけで戦ってる。

似ているようで少し方向性が違う。
ただしどこか似ている。

不思議。


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短編㉟ 『魔法使いの少女』

本編の文章が思いつかないのでこの短編で時間稼ぎじゃぁ。


 中央大国『ニネヴェール』にある魔法学園内にある寮の一室の扉を一人の少女が開く。

 二人一部屋で作られている寮であり中には少女とそのルームメイト用の勉強机とベッドが元々設置されており、その他の物は全て私物になる。

 ルームメイトの生活圏は小ぎれいに整っており清潔さが伺える・・・・・・が、逆に少女の方は取っ散らかっており何とか足を踏むスペースが確保されているだけである。

 ただし、ルームメイトとの生活圏の境界線はしっかりと守られており、まるで見えない壁でもあるかのように真っ直ぐ区切られているのだ。

 それはまるでアニメで男女ともに大切な部分が壊露出する際に現れる謎の光のようにしっかりと。

 少女は何とか寝るスペースだけが確保されている物が乗りまくりのベッドに腰を掛けると図書館で借りて来た魔導書をペラペラと読みだす。

 

 少女の名前は『ミサ=マーリ・オミ』。

 この魔法学園で一番と称される天才であり、変人である。

 暇なときは大抵どこかに出かけているか魔導書を熟読し研究をしているかであり、人付き合いもそこまでしていない。

 ちなみにだが、本名は『ミサ』だけであり『マーリ・オミ』は少女が夏の大会で優勝した時に付いた“称号”である。

 “称号”とは、魔法使いが何か功績を残した時に王国トップの大魔法使いから与えられるモノで、称号そのものは功績を残した魔法使いが自分で名前を決める事が出来る。

 少女からすればそんなもの興味はなかったし、そもそも優勝だってしたくてした訳ではなかった。

 “昔”のように『助けて』と言われたから行動しただけであり、優勝はその副産物に過ぎない。

 

 魔導書を読みだしてそれほどの時間が経過しただろうか。

 カチャリと部屋の扉が開きルームメイトが入ってきた。

 大きなケモミミに茶色で短く整えられた髪、服装は少女と同じ学園指定の制服なのだが一部改造されており、その腰部分には尻尾を出す用の穴が開けられている。

 ルームメイトはいつも通り自身の机に座ると、ミサと同じように魔導書を開きペラペラと読みだす。

 同じ部屋で生活している者同士、会話とかがあっても良さそうに思われるが、二人には最低限の会話しか存在しない。

 そもそもミサ自身が基本的に人と関わろうとしておらず、研究や鍛錬に没頭しているのでそのルームメイトとの関りなんて無いに等しく、そもそも名前すら記憶していない。

 ただそこにいて、生活をしているだけの存在。

 それがミサのルームメイトに対する評価であった。

 

 ルームメイトはこの魔法学園では優秀な部類に入り、いくつかの功績を残していたりする。

 つまりミサと同様学園の秀才と言えるだろう。

 だが、秀才と言っても残している功績はどれも微妙なモノであり、言うほど騒がれるようなモノではないのだ。

 ハッキリ言って微妙 of the 微妙。

 神童も二十歳過ぎればただの人とはよく言ったモノであるがそのレベルにすら達していない。

 ただ成績が良くて要領がいいだけ。

 今はまだごまかしが効いているが後数ヶ月もすればそれもダメになって行くだろう。

 ミサはそれが分かっていながらも教えようとは思っていない。

 なぜなら、そのルームメイトもそのことを十分理解しているからである。

 

 ミサが寝た後も夜遅くまでずっと勉強と研究・鍛錬を続け、誰よりも努力する姿を見ている。

 この学校にいる誰よりも陰ながら努力をし、それを表に出さない姿を知っている。

 だけど、手を貸してやる義理はない。

 

 別に、ミサが薄情という訳ではなく助けを求められれば手を貸すが、向こうからアクションがない以上下手に手を出せないのだ。

 下手なお節介がどんな結果を招くかを十分理解しているからこそのやり方である。

 ミサは数舜だけルームメイトを眺めた後、すぐに魔導書へと視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 休日。

 ミサはいつものように図書館で魔導書を開き研究に明け暮れる。

 とはいってもこれは基礎魔法の反復であり、そこまで重要かと問われればほぼ全ての魔法使いが「必要ない」と答えるだろう。

 だが、ミサからすれば基礎こそより強固にしておくことが大切なのだ。

 筋トレだって、基礎反復の積み重ねで力を付けていく。

 勉強だって、基礎がしっかりしていなければ応用なんてできるハズもない。

 百年に一人の天才?

 それがどうした。

 そんな慢心の椅子に座っていれば人間は誰もが腐りすぐに地へ落ちる事になる。

 だからこそ基礎反復であろうと普段から学習癖を付けておくのだ。

 

 ミサは朝早くから図書館にいた。

 朝食は軽い物しか食べておらずお昼ごろになれば腹の虫が鳴いた。

 そうなれば向かう先は食堂しかない。

 腹が減ってはなんとやら、と軽く呟きながらミサは図書館を後にする。

 

 休日と言ってもここは学園内であり、全寮制でもある為に廊下は生徒で溢れかえっていた。

 基本的にはお昼時であるが故に食堂へ向かう生徒ばかりで、中には混む前に昼食を済ませて部屋に戻ろうとしている者もいる。

 そんな人波をミサは流れるように進む。

 人の動きを全て予測し、その流れに乗る事で簡単に食堂へと到着する。

 

 ここは『異世界』から来た者や『異世界』の記憶を持つ転生者たちの知識によってもたらされた最新鋭の装置が導入されている食堂。

 そう、食券機が設置されているのである。

 随分としょぼく思われそうであるが、魔法が発展した事で化学が根付かなかったこの世界では『異世界』の技術となっている化学は何よりも貴重なのだ。

 この食券機だって数年前に完成したばかりで未だに故障が多かったりする。

 ミサはカツカレーを選択すると、食券と学生証を専用魔法具に読み込ませると食堂入口を入ってすぐ右手前にある厨房の仕切り部分へと向かう。

 そこで数分待つと、厨房のオバチャンがミサの名前を呼んだ。

 ミサはカツカレーを受け取ると適当に空いている席を選んで座る。

 

 別段、これが好きで選んだという訳ではなく、簡単に食べられるから選択しただけなのだ。

 その為、特にリアクションをすることなくただ淡々とカツカレーを口に運んで行く。

 半分ほど食べた所で後ろから、

 

「ミサさ~ん、少しよろしいかしら?」

 

 呼ばれた。

 ミサは少し食べている手を止めたが、すぐに動かして後方からの声を無視した。

 だが、声の人物はそれを気にすることなくミサの隣に座ってきた。

 

「私をあんな卑怯な手で倒してくださったミサさんは今日も一人ぼっちかしら?」

 

「・・・・・・」

 

「それにしても、審判もおかしいわねぇ。魔法の大会で魔法を使わずの勝利をそのまま了承してしまっているのだから」

 

「“魔法不可結界(マジックキャンセルエリア)”を使っているから魔法を使わなかったわけではないよね」

 

「それでもそれ以外の魔法を使わなかったのは事実でしょう?」

 

 その言葉を聞いてようやくミサは隣にいる人物へ視線を向けた。

 背中を半分隠すほど伸びた金色の髪に、ルビーのように紅い瞳の少女。

 ミサは軽くため息を吐くと再度カレーに手を伸ばす。

 

「ちょ、無視はよろしくないですわ!」

 

「生憎と、アタシは貴女と関わろうとは思っていないし、興味もないの。・・・・・・それに、名前を知らない人と長時間話す気もないの」

 

「なんですって!! 私の名前は『ティナ・セーレン』ですわ!! あの“名家”の!!!」

 

「あ、そういうのいいんで」

 

「なによその態度ぉぉおおおおおお!!!!」

 

 ミサからすれば名家だろうと何だろうと、そんな表向きの衣に興味はなのだ。

 興味があるのはソイツ自身の『人間性』だけ。

 その『人間性』をミサが持つモノサシで図り、『関わる価値無し』と判断すれば基本的に無視する。

 向こうから関わって来てソレを避けられなければ最低限の会話だけで済ませ、それ以上の事をする気は一切ない。

 

 隣でティナがグチグチと言っている文句を全て無視したミサは食事を終えるとその首元に手刀を食らわせ、意識を刈り取った。

 そして、テーブルに突っ伏しているティナを放置してさっさと食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 ミサが目を覚ますと何もない真っ白な空間が広がっていた。

 一瞬、状況が判断できずにボーっとしてしまっていたが、すぐにその場から立ち上がって肉体状況を確認した。

 

 これでもミサは有名人である。

 実力・才能共に学園から認められておりその実力は国が認める程である。

 大会優勝をしてからしばらくの間は一部犯罪組織から誘拐されそうになった事もちらほらと・・・。

 ミサは今までの経験則から自身は『誘拐された』と判断した。

 

 だが、ミサの頭の中には『違う』という言葉が浮かんできていた。

 裏組織にしてはやり方がおかしい。

 ああいった馬鹿たちは裏でこそこそやるか大々的にやるかのどちらかしかいない。

 大々的にやればすぐに気づけるし、こそこそ計画を立てられてもそういった『悪意』には直ぐに反応打出来るので簡単に壊滅させる事が出来ていた。

 だからこそこの状況は理解が出来ない。

 ミサに気付かれる事無くこんな空間に連れ去るなんて不可能と言っても良いだろう。

 そんな事をモンモンと考えながら腕を組んでいると、ミサの前方10メートルほどの所に黒い『穴』が開いた。

 すぐに身構えて警戒しているとその『穴』から地味な少年が現れた。

 その少年はミサの方に視線を向けると唖然とした様子で大きく口を開く。

 そして、言った。

 

「女ァ!!!??」

 

「うるさっ! ・・・・・・む~、何なのさキミは」

 

「え、あ~。・・・・・・俺の事よりも、お前って『大宮さとし』なのか?」

 

 少年の言葉にミサは眉を顰めた。

 だが、『大宮さとし』という名前には覚えがあった。

 

「『大宮さとし』・・・という訳ではないけど、まぁ、『大宮さとし』でもあるね」

 

「・・・・・・?」

 

 ミサの言葉に次は少年が眉を顰めた。

 

「アタシは『大宮さとし』の“知識”と“経験”と“技術”を受け取っただけで、アタシ自身は『大宮さとし』じゃない。確かに、前世ってヤツがそうだけどソレはアタシとは違う。『大宮さとし』は確かに切っ掛けをくれた。だけど、アタシは彼じゃない」

 

「・・・・・・なるほど。そういう事か。ハハッ、そういう世界もあるのか」

 

「ふむ。つまり、キミも『大宮さとし』の“何か”って事?」

 

「あぁ、俺は『大宮さとし』の生まれ変わりで『大宮さとし』と地続きの存在。・・・・・・“機鰐龍兎”だ」

 

「変な名前」

 

「ウグゥ!!」

 

 ミサが直球で言った言葉は少年の心にダメージを与えたらしく、彼は胸辺りを抑えるリアクションを取った。

 

「ところで、なんでキミはここにいるの?」

 

「あ、あぁ、俺は強くならなきゃいけないんだ。その為に幾つも存在している『大宮さとし』の『可能性』と関わって受け取らないといけないんだ。まあ、それにどんな意味があるのかは俺も詳しく知らないんだけどな」

 

「へ~。・・・・・・受け取るって何?」

 

「いや、俺もよく分からない。今までかかわった『可能性』とは戦ったり、話し合ったり、戦ったr

 

「それじゃ戦おう」

 

 少年の言葉を聞いてミサはそう即答した。

 こんなよく分からない事に長くかかわる気なんて無く、ほぼ同一人物とはいえ知らない人と状時間話をする気もない。

 つまりは、さっさと目の前の少年をボコボコにしてこの茶番を終わらせれば終了だと判断したのだ。

 

「・・・そっか。・・・・・・うっし、やろう」

 

「今少しイライラしてるから、殺す気で行くけど死なないでね」

 

「善処しよう」

 

 少年のその言葉を合図に戦いが始まった。

 ミサは先制攻撃を成功させ、少年の顔面に拳を叩きこんだのだった。

 




『ミサ=マーリ・オミ』
身長:155cm
体重:【ヒ・ミ・ツ】


とある世界の魔法使い見習い。
魔法の才能を持ちながら『大宮さとし』の戦闘技術を持った(ある意味)サラブレッド。
人付き合いが好きではない。


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短編㊱ 『グレートなヒーロー』

本編の文章が思いつかない為の引き延ばし。


 一人の少年が宙を見上げる。

 宙からは幾つもの岩が地表へ降り注ごうとしていた。

 表の世界では世界の危機と考えられ、裏の世界では“神”によるモノだという事で騒がれていた。

 

 “神”。

 神話に登場するソレではなく、新たに生まれた存在。

 世界の不条理を無くし、世界全体を管理しようとした男の末路。

 その考えは素晴らしいものであった。

 その行動は称えられるものであった。

 

 だけど、少年はそれを受け入れる事が出来なかった。

 

 理不尽な事なんてなく、苦しむ者なんていない。不条理もなければ悲劇も存在しない平和な世界。

 それは誰もが願う幸せな世界と言える。

 

 誰よりも平和を望み、誰よりも世界の理不尽を、不条理を恨んだ少年がソレに敵対するなんて思う者はいないだろう。

 少年ならそれに賛同すると思う者が多いだろう。

 でも、少年は“神”の考えを否定した。

 少年は“神”に向かってその場にいる誰よりも、何者よりも強くハッキリと宣言した。

 

 

 ――――そんな道じゃ、何も生まれない。

 

 ――――ああ、確かに悲劇がない世界は素晴らしいだろう。

 

 ――――だけど、人間はその悲劇を・・・理不尽を乗り越えることで成長できるんだ。

 

 ――――確かにその全てが成長に繋がる事は無いさ。

 

 ――――でも、テメェみたいな弱虫に誰かの人生を左右する権利はどこにも無い!

 

 ――――何度でも行ってやるよ、弱虫。

 

 ――――テメェはベラベラと“理由”を並べていたがそんなの言い訳でしかない。

 

 ――――俺は、、、、、、、いや、俺たちはテメェなんかに救われなきゃいけないほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!!!

 

 ――――来いよ、カミサマ。

 

 ――――理不尽に抗い続けた俺と、理不尽から逃げたテメェ、どっちが強いかハッキリさせてやるよ。

 

 

 この言葉は、どの並行世界でもここまでたどり着くことのできた少年が必ず言っていたセリフであった。

 だが、その後の戦いの流れの違かった事を上げるとするならば、“神”の最後の抵抗を許してしまった所だろう。

 例を挙げよう。

 

 ある並行世界では退魔師と共に“神”の術式を止めた。

 

 ある並行世界では退魔師たちに戦闘を任せて“神”の術式の核を破壊した。

 

 ある並行世界では“神”を相手に少年はその場にいた退魔師を差し置いて前線で戦い『覚醒』した。

 

 ある並行世界では、少年は敗北し、死んだ。

 

 ある並行世界では、そもそもココまでたどり着く事が出来なかった。

 

 可能性なんて幾つもある。

 その中でこの世界の少年は最後の抵抗を許してしまった。

 それだけである。

 “神”の最後の抵抗、名を『世界を破綻させる巨星(ワールド・エンド)』。

 宙から幾つもの隕石が降り注ぎ最後に数キロメートルにも及ぶ巨星が地表に落下する、そんな攻撃だ。

 それは、悪あがきでしかない。

 死なば諸共とはよく言ったものである。

 負けるぐらいならば敵と共に死ぬことを選ぶなんて諦めが悪いにも程があるだろう。

 だが、諦めが悪いのは少年も一緒だった。

 絶望と己の無力さに打ちひしがれる退魔師を余所に少年は宙を見上げていた。

 そして、

 

「よし、行くか」

 

 そう呟くと大気圏まで一気に飛び上がった。

 ただ飛び上がるだけではなく自身の周りに空気の膜を作る事で人間が活動できる限界を無視する。

 目を向ける先には幾つもの岩や宇宙デブリ。

 その奥には世界に氷河期を訪れさせるのに十分な大きさの岩。

 人類にはどうしようもできない天災。

 それを前にしても少年はいつものように何気ない様子で呟く。

 誰かに向けたわけではない何気ない小さな呟き。

 

「生憎と、俺の憧れはこんな事じゃ止まらねぇし諦めねえ。だから、俺も止まらねぇし諦めない」

 

 そう言って両手を腰辺りまで引き、手にエネルギーを集中させる。

 成層圏にはエネルギーの嵐吹き荒れ、世界中のレーダーにもその波は捕らえられた。

 

「か~め~は~め~」

 

 エネルギーがより高まる。

 そして、少年は両手を上下に開いた形で前方へ突き出し、溜めたエネルギーを一気に放出した。

 

「波ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 強大なエネルギーが隕石を破壊し、吹き飛ばして行く。

 宇宙を一直線に強大な光の筋が伸びる。

 あまりにも強力な破壊力に、隕石は砕け・吹き飛び・地球へ向かう軌道上から外れて行った。

 

 

 

 

 

 

 “神”との戦いで傷つき、己の無力を呪う事しかできなかった退魔師たちはその光景を目にした。

 一人の人間に納まるにはあまりにも強大過ぎるエネルギーを使いこなし、“神”にも勝って見せた少年。

 退魔師たちはその背中をこの地球(ほし)よりも大きく感じた。

 ゆっくりと地上へ着地した少年は退魔師―――大森剣符の方へ手を伸ばした。

 

「立てるか?」

 

「・・・ああ。ホント、助かったよヒーロー。大宮さとし」

 

 大森はそう言って少年の腕を掴む。

 少年は無言のまま大森を起こすと、他にも倒れている三人を起こした。

 そして、

 

「大森くん、君は一つ大きな勘違いをしている」

 

「? 勘違い??」

 

「そう、わたしは『大宮さとし』ではなく、正義のヒーロー!!」

 

 少年はバッと決めポーズをとった。

 

「『グレートオーミヤン』だ!!!」

 

 あまりにもセンスのないポーズと名前に“鬼”を除いた退魔師たちが軽く引いた。

 ってかそもそもグレートサイヤマンの色違いコスプレ姿にも大分序盤の方から引いていた。

 

 

 

 

 

 

 少年が目を覚ますと何もない真っ白な空間にいた。

 普通の人間ならパニックになるところだろうが、少年は腕を組んでドンと構える。

 ただし、警戒をしていない訳ではなく全方位に集中を向ける事で不意打ちに対応できるようにしていた。

 何分経過しただろうか。

 少年の前方に黒い『穴』が開きそこから誰かが出て来た。

 その誰かは少年の方へ視線を向けると唖然とした表情を浮かべながら言う。

 

「信じたくないんだけど、お前は『大宮さとし』なんだよな?」

 

「違う! わたしは正義のヒーロー!! 『グレートオーミヤン』だ!!」

 

「ほとんど正体バラしてるようなモンだぁ!! どんな可能性(・・・)の中でもコレがトップクラスに嫌だぁ!! ってかポーズダセェ!!!」

 

 誰かは頭を抱えて叫ぶ。

 決めポーズを取る少年は誰かの言葉にピクリと反応した。

 

「こんなにも格好いいではないか!」

 

「ダセェよ!! センスまで悟飯並みになってんのかよ、脳を念入りに検査してもらえ!!」

 

 二人は数分間言い合いを続ける。

 そうして、息切れして肩を上下に動かし両方とも口喧嘩する気力がなくなった所で、誰かが口を開く。

 

「おい、大宮さとし。もう話すのも面倒くさいから簡単に言うぞ。・・・俺の名前は『機鰐龍兎』、大宮さとしの持つ可能性の一つだ。俺は俺以外の大宮さとしから何かを受け取る事で強くならないといけないんだ。協力してもらえないか?」

 

「わたしの持つ、可能性の一つ・・・・・・?」

 

「ほい、今自分の事を大宮さとしだって認めたな」

 

「はっ!!?」

 

 龍兎の言葉に少年は口を大きく開いた。

 

「正体の発覚の仕方もグレートサイヤマンみてぇだな、ホント・・・」

 

「く・・・、わたしとした事が・・・」

 

 項垂れる少年を余所に龍兎は軽い準備運動を始める。

 そして、体をしっかりと解してから言う。

 

「今までも色々な可能性と会ったけど、ほとんどが戦闘することで受け取ってきた。お前もアイツらみたいに戦闘型だろ?」

 

「ふむ・・・。ヒーローとして無用な争いはしたくないのだが・・・・・・」

 

「ヒーロー自称してるのって大分イタイと思うぞ」

 

 龍兎は呆れ顔でそう言いながら腰を落として構える。

 

「これは争いじゃねぇ。“稽古”だよ」

 

「稽古、か。それなら問題はない、のか?」

 

「問題ねぇよ。さて、お互い全力で行こうじゃないか」

 

 瞬間、龍兎の体を黒いオーラの渦が包みそれを紅い炎が吹き飛ばした。

 その髪は深紅に染まり背中からは紅い炎の翼が生えていた。

 いきなりの変化に少年は「ほ~」っと驚きと関心の声を上げ、その姿をまじまじと観察する。

 

「これは、わたしも本気でいかないとな」

 

 少年はそう言うと全身に力を籠め、エネルギーを解放する。

 その力は凄まじく、辺り一帯に爆撃級の風が吹き荒れた。

 

「「行くぞ!!」」

 

 こうして、人知を超えた二人は最短距離でぶつかり合った。

 




『グレートオーミヤン』

大宮さとしがなにをとち狂ったのか『グレートサイヤマン』に憧れた世界軸の存在。
めちゃくちゃ強い。
普段の一人称は『わたし』なのだが、興奮したりすると『俺』になる。

自身に封じ込められている“闇”を完璧に操れ、それによって人知を超えた力を使う事ができる。
単体物理という方向性では『大宮さとし』の持つ可能性の中でも最強クラス。

ちなみに、ギャグ補正も入っているのでだいぶ理不尽。


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短編㊲ 『人探し』

私は思った。
どうでもいいネタで頭が埋まるなら、それを外に出してしまえば容量が開く分また新しいネタが浮かぶのではないか、と。

という事で蛇足編で書こうと思っていたクッソどうでもいい蛇足話をどーぞ。


時間軸的には大宮さとし高校一年夏の出来事です。


 休日。

 学校と言う無駄な時間を消費することなく朝から訓練に時間を割く事ができる。

 最近はちょっとした事から知り合ったヤツの所有している山を借りてそこで人知れずトレーニングをしている。

 やっぱり山は良い。

 自然に囲まれているだけで気分も落ち着くし、不安定な足場が多い分バランス感覚と咄嗟の判断力が求められる為に俺にとってここまで打って付けの場所はない。

 しかも普通に電波届くから何かあったらすぐにこちらに情報が入る。

 普段なら良い所で悲報が入るのだが、珍しくこの日は何もなく日が傾いた。

 

 夜の山は危険だ。

 街灯なんてなく月明かりしか頼りにならない。

 一応暗がりでも目は効くのだが、安全を考えるに越した事は無い。

 

 俺は下山路を探す。

 いつもより深くまで来てしまったので普段通る道からはかなり離れてしまっている。

 どうしたものかと辺りを見渡すと獣道―――いや、古い山道を見つけた。

 長い間ほとんど使われていないようで何とか道の形を保ってはいるモノの、雑草が生い茂り人気の無さをより感じさせた。

 それでも道が形を成しているという事は定期的に使われている証拠である。

 つまり、大通りに通じている可能性が高いだろう。

 

「さて、方向的にこっちか」

 

 俺は太陽の傾きから方角を見定めると歩を進める。

 多少の雑草程度は気になる事なんてなく、スムーズに道を駆け抜ける。

 大分進んだところに俺の伸長程の倒れた大木が道を塞いでいたが、人飛びで乗り越えて、

 

「うわっぷッッ!!」

 

 とんでもない叫び声をあげてしまった。

 飛び越えた先に人がいたのだ。

 こんな山奥に俺以外に人がいるとは思っておらず、空中でバランスを崩してしまった。

 無論、大木を全力で蹴る事で半強制的に方向転換をして何とか避ける事に成功する。

 そして、体を丸める事で受け身を取り足が地面に接する瞬間に立ち上がる。

 

「っ。スマン、大丈夫k・・・・・・なっ!!!」

 

 そこにいた人物に視線をやった瞬間、驚きの感情がつい口から出てしまった。

 

「おっ? ここに人とは珍しい。道にでも迷ったか?」

 

「生憎と、下山中の身だよ。・・・・・・そっちは? そこの古びた祠にでも住んでるのか?」

 

 俺はそう言ってソイツの近くにあるボロボロの祠を指さした。

 ソイツは祠に少し視線を移した後こちらに顔を向ける。

 

「なんじゃ。“こちら側”の人間だったか?」

 

「ンなこったねぇよ。多少巻き込まれたことがあるだけだ。そっちは、妖狐って所か?」

 

 俺はソイツを見たままの感想を包み隠すことなく言う。

 ソイツは着物に身を包み肩まで掛かる程伸びた金色の髪と大きなケモミミと尻尾を持った完全に人外の存在である。

 

「妖狐・・・ふむ、まあそんな所じゃ」

 

「狐系のじゃロリってのはド定番すぎるから改善した方が良いと思うぞ」

 

「お主何を言っておる?」

 

「ああ、気にするな。ただの独り言だ」

 

 俺はそう言って後頭部を少し掻く。

 さぁて、どうしたモノか。

 こういった輩と関わってよかった思い出は一つもない。

 アイリと“鬼”の二人だけとしか関わった事は無いがそれでも面倒な事になっているのは悩みの種でしかない。

 

「一つ聞きたいことがあるのじゃが良いかの?」

 

「あ? 聞くだけならいいぞ」

 

「『(おおとり) 文之(ふみゆき)』という小童を知らないか? 我の友なのじゃが突然ここに訪れなくなって久しいのじゃ。少し助けてはくれんかの」

 

「訪れなくなって久しいって、どれぐらいの期間来てないんだ?」

 

「50年と少々じゃ」

 

「久しいってレベルを超えてるわ!!」

 

 俺は妖狐の言葉に全力でツッコミを入れる。

 半世紀は流石に長い、長すぎる。

 妖だのといった存在の寿命がどれぐらいか知らないが人間には無理だ。

 半世紀どころか数年で大きく変化する。

 ただ、

 

「あ~、ソイツ自身の事は知らないけど、『鳳』っていう苗字には聞き覚えがある。まぁ、今のところそこまで立て込んでるわけでもないし探せるだけ探してやろうか?」

 

「いいのか!!」

 

「ああ、少し知り合いを頼ってみるが、見つかるかどうかは別だぞ」

 

「少しでも行動してもらえるだけありがたい! 一行だろうと情報が得られるならそれで十分じゃ」

 

「そうか。じゃ、約束するよ。一週間後にまた来る」

 

 俺はそう言って踵を返すとその場を後にする。

 さぁてと、やりますか。

 ポケットからスマホを取り出すと俺はアイツの番号をタップする。

 数回のコールの後にアイツが出る。

 

「もすもす」

 

『何が「もすもす」だ。「もしもし」だろ。で、どうした、大宮』

 

 電話をかけた相手、虎龍は少し呆れた様子でそう返す。

 

「お前の旧姓って確か『鳳』だよな。だったら『鳳文之』って知ってるか?」

 

『あ? 残念だが知らねえよ。俺の親父は頑固者の祖父に反発して縁を切ってるからな。俺も生まれてこの方親戚との付き合いはねぇよ』

 

「その親父から何か聞いてねえのか?」

 

 俺のその問いに数秒の沈黙があった。

 そして、虎龍はポソリと呟いた。

 

『俺の祖父には兄貴がいたらしい。そして、その兄貴には三人の息子がいた、らしい。大分ガキの頃に聞いた話だから曖昧だけどな』

 

「いや、それだけでもありがたい。それじゃ、またな」

 

『何があったんだよ。聞くだけ聞いて説明は無しk・・・・・・ブツッ』

 

 俺はスマホをしまうと道を急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 あれから二日が経過した。

 様々なツテを頼り、『鳳』についての情報を集めた。

 どうやら、虎龍の祖父は一人寂しく街はずれで小さな古本屋を開いて生活をしているらしい。

 つまり、今日向かうべきはその古本屋だろう。

 

 俺は学校をサボりそこへと向かう。

 今回のサボりでまたあのクソ風紀委員のポニテ女にぐちぐち文句を言われそうだが、気にしなくていいだろう。

 何か言われてもスルーすればいい事だし。

 

 少し面倒事に巻き込まれつつ予定よりも大分遅れて古本屋に到着する。

 あの程度の揉め事解決に4時間かかるなんてな。

 流石に大雑把にやり過ぎた感が否めない。

 一思いに意識を刈り取ってやれればもっとスマートに終わっただろう。

 一思いにできていれば長く苦しませる事は無かっただろう。

 うん、まぁ、これは今後の反省点として肝に銘じて行けばいいか。

 俺は自分の中でそう物事を完結させて足を進める。

 

 昼過ぎ辺りに古本屋に到着し、俺は店内に入り店主を探す。

 入り口から一番遠い所に目当ての人物がいた。

 防犯意識が無さすぎる。

 万引きなどの防犯のために出入り口近くにレジを構えておけ。

 等々思う事はあるが人それぞれなので何も言わずに店主の方へと向かう。

 

「なぁ、爺さん。人捜してるんだが少し話良いか?」

 

「・・・なんだ?」

 

「『鳳文之』っていう人を探している。知らないかな、『(おおとり)重弓(しげゆみ)』さん」

 

「・・・・・・用件は?」

 

「文之さんの古い知り合いからの依頼でね。探してるんだ。生死の情報だけでも良い知らないか?」

 

 俺のその言葉に爺さん―――重弓は俺の方に視線を向けた。

 

「・・・・・・もはや死んでいるようなものだ」

 

「何でもいい。こっちは情報さえ手に入ればそれで終了なんだ」

 

 重弓は数秒間黙り込んだ後に近くにあったメモ用紙に何かを書き込んでこちらに渡してきた。

 受け取ると、病院の名前が書かれている。

 

「そこにいる。ほら、何も買わないならさっさと帰れ」

 

「ありがとよ」

 

 俺は礼を述べると店を後にする。

 後はこの情報の裏取りをして妖狐に伝えるだけだろう。

 

 

 

 

 

 

 あれから四日が経過した。

 まさか妖狐の下に向かう途中で墜落したUFOに遭遇してソレを修理するために街を駆けまわる事になるとは思わなかった。

 しかもUFOを回収に来たスーツ姿のエージェント達と戦うとか予想できる訳がないだろう。

 当たり前のように撃たれたぞ。

 アイツら一切の躊躇が無いんだな。

 あれだけ簡単に殺しに来るヤツなんてナナシ以外で初めて見たわ。

 

 少し不満たらたらでため息を吐きながら山を登る。

 道を思い出しながら一時間ほどかけてゆっくりと祠に到着すると、辺りを見渡す。

 ずっとここにいると思っていたのだが、少し出ているらしい。

 したかなく近くの岩に腰掛けると、スマホを取り出して最新情報を調べる。

 珍しく今日は表沙汰になっている事件は無いようで、街は今のところ『平穏』を保っているようだった。

 

 一時間ほどしたところで近くの茂みから妖狐が顔を出した。

 俺を視覚した瞬間、驚いたような顔になるもすぐに表情を引き締める。

 

「来るのがはやかったのう。まさか今日だとは思わなかった故少し狩りに行っておったわ」

 

「ああ、思いの他早く情報を集める事ができたんでな」

 

 俺はそう言ってから少し深呼吸をして言う。

 

「文之さんは今入院している。生物学上は生きてると言って良い」

 

「生きて、おるのか・・・。おうか、よかった・・・・・・」

 

「どうする? 今日にでも会いに行くか?」

 

 その質問に妖狐は俺の方にズイッと身を乗り出す。

 おおう、落ち着け。

 

「行く! 一秒でも早く!!」

 

「嬉しいのは何となく分かったから尻尾をぶんぶんさせるな」

 

 気圧されながらそう言うと妖狐ははっとしたような表情を浮かべて慌てて俺から少し距離を取った。

 少しの間気まずい沈黙が流れる。

 だが、このままではらちが明かないので俺の方から口を開いた。

 

「それじゃ、ついて来いよ。・・・・・・ところで、耳と尻尾は隠せないのか?」

 

「ああ、少しの間だけなら大丈夫じゃ。これはあくまでも自分が何者かを忘れない為の記号じゃからな」

 

「へ~」

 

 よく分からないが大丈夫ならそれでいいだろう。

 着物姿はまだいいとしても、ケモミミにふわふわ尻尾を付けた人物と街をある程の度胸はない。

 恥ずかしいという感情は無いのだが、目立つことはしたくないのだ。

 

 

 

 

 

 

「よぉ」

 

「うげぇ」

 

 病院に到着してすぐに知り合いに見つかった。

 この街一番の名医なのだが如何せん医師としての腕前以外信頼できない人物である。

 だが、ある意味都合が良いと言えばそうである。

 

「なあ、ドクター。『鳳文之』さんの病室がどこか知ってるか?」

 

「あ? ・・・・・・ああ、あの爺さんか。なんだ? そこの狐でも連れて行くのか?」

 

 ドクターはつまらなそうにそう呟く。

 一瞬ビクッとしてしまったが、そういえばこの人には霊感があった事を思い出す。

 

「ああ、文之さんの古い知り合いでね」

 

「山に住まう者じゃ。一応言っておくと危害を加えようとはしていない故安心してくれ」

 

「ふ~ん」

 

 ドクターは少し首を回して関節を鳴らすとニヤリと口を歪めるとクルリと踵を返す。

 

「案内してやる。ついて来な」

 

 そう言ってこちらの返事も聞かずに歩き出す。

 ドクターのその行動に少しため息を吐きながらも俺はその後に続く。

 妖狐は少し警戒しながらも俺たちの後に付いて来る。

 

 階段を上り廊下を進み特別な部屋まで通された。

 部屋には一つのベッドと小さな棚が設置されており、空いているスペースには様々な機器類がある。

 

 流石、長年意識不明なだけはある。

 ここまでしないと生命活動すら怪しいのだろう。

 

「まあ、なんだ。親族の方からは『生かしておいてくれ』とは言われているがこちらからしても厄介な患者なんでな。連れて行きたいならいつでもどうぞ、狐のお嬢さん♪」

 

 ドクターはそれだけ言うと鼻歌交じりに去っていく。

 金髪サングラスのチャラチャラした男だがどこか信頼はしているので特に何も言う事無く見送る。

 

「・・・・・・詳細を説明しておく。彼は役50年前に家族へ『山に遊びに行く』『大切な予定がある』と言って家を出て、信号無視をして突っ込んできたトラックと衝突しそれ以来目覚めていない」

 

「そうか」

 

「俺はアンタと出会って二日目にはこの情報は掴めていた。だけど、どうしても気になる事があって少し寄り道をした結果変な事件に巻き込まれた。けど、それを解決しながらもなんとか集められるだけは集めた」

 

「そうか」

 

 妖狐はそう言いながら文之さんの隣へと行き、その手をソッと握る。

 

「そこで分かった事実、文之さんはまっすぐ山に向かっていなかったという不思議な情報だった。あまりにも不自然だった。山に行くのは大切な予定があるから、なのに寄り道・・・しかも遠回りをしていた。古い情報だったのと別の事件の為に走ってたのもあって苦労したがそれでも掴んだ。彼は買い物をしていた。何年も溜めたお年玉と親から前借したお小遣いで、その棚の上に置かれている物を」

 

 俺は指を指す。

 彼が50年―――つまりは半世紀以上前に妖狐に渡したかった物、指輪を。

 

「そうか・・・」

 

「これ以上は俺から言うなんて野暮な事をしようとは思わない。これで俺とあんたとの間にある『約束(けいやく)』は終わり、だろ?」

 

「知っていたか」

 

「あぁ、アイリから聞いた。妖と約束をすればそれは命を懸ける契約になるってな」

 

「なら、なぜ?」

 

 妖狐のその質問に、俺は少しクスリと笑ってから答える。

 

「お前が言ったんだろ、『助けてくれ』って。なら、それに応える為に全力を懸けるのは当然だろ?」

 

「・・・・・・ああ、そうか。お主はそういう人間だったか。まったく、どの時代にも面白い人間はいるモノだな」

 

「・・・・・・そうか」

 

 俺はそれだけを言って部屋を去る。

 ここからはあの二人だけの物語だ、あの二人だけの世界だ。

 異物は必要ないだろう。

 それに、彼女の気持ちを考えれば俺みたいな人間はいない方が良い。

 

 出口に向かい廊下を歩く中、背後からは愛する者に顔を埋めて半世紀分の思いを乗せて涙を流す声が聞こえてくる。

 俺は振り返ることなく人混みの中にへと身を隠す。

 そこには、何気ない当たり前の日常が広がっていた。

 




『?????/ドクター』
街一番の名医、なのだが女性関係が非常に悪く多くの愛人を持っている。
金髪でサングラスと医者として大分怪しい風貌なのだが、医者としてのプライドは高く意外と友情に熱い。
霊感が強いというレベルをとっくに超越しており、サングラスは見えすぎる事を防ぐための封印の役割を持っている。

数か月に一度のペースで愛人に刺されている。

何度も大宮さとしの主治医として手術をしている為、彼の体の事を世界で一番詳しく知っていると言っても過言ではない人物でもある。


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短編㊳ 『絶望を受け入れる者』

 世界。

 それは普遍的なモノであり人間一人の手で変質させることはできない。

 そんな世界でも、変えられるものはある。

 

 

 夜の街、台風が近づいている影響か強い風が吹く。

 そんな繁華街のビル屋上を二つの影が高速で移動し、時にぶつかり合う。

 

 片方は黒い影を纏った『神になれなかった者』。

 片方は黒い影を纏った平凡な少年。

 違いがあるとするなら少年の纏っている影が時に純白に変化している所だろう。

 そして、その違いが戦況を変化させて行く。

 

「ア゙、ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙・・・・・・」

 

『神になれなかった者』は不気味な呻き声をあげる。

 それを見据えながら少年は深くため息を吐きそして口を開く。

 

「哀れだな、ホント。情けないぐらい哀れだ。・・・世界を救おうとして、無理に力を得ようとして、飲まれて怪物(バケモン)になって。・・・・・・その程度でよくそんな大きな目標を掲げたもんだ」

 

 少年はそう言うと黒い影を右手の平へと集中させる。

 影は大きな渦を巻き、それが風を起こす。

 そして、少年はボールを投げるようにその影を放つ。

『神になれなかった者』はそれを簡単に避ける。が、移動した先に少年が先回りしていた。

 慌てて別方向へ移動しようとするも体勢が崩れそれが叶う事無く、大きく振るった。

 全身の力を籠め、回転力を乗せたソレはまるで金属バット振るったような威力を出し『神になれなかった者』を大きく吹き飛ばす。

『神になれなかった者』は何度も地面を転がり、体勢を立て直した時にはすでに眼前に少年の拳が近づいていた。

 鈍い音と共に再度飛ばされた『神になれなかった者』はその身に纏っていた影を大きく広げるとそれを翼にして飛行する。

 

「チッ、少しは知恵が回るのか」

 

 面倒くさそうにそう呟く少年に対し『神になれなかった者』は手を広げて向ける。

 瞬間、そこに影が集中しそれが連続で射出される。

 

「クッソ!!」

 

 少年は両手に影を纏わせると射出された影を上空へと弾いてゆく。

 避ける事は簡単だが、影が着弾すれば足場としているビルは一瞬で崩壊してしまうだろう。

 この戦いに関係の無い一般人はいつも通り街を往来している。

 避ければそんな当たり前の日常を送っている人たちに確実に被害が出る。

 少年はそんな人たちを守るために自身に直撃する可能性がるにも関わらず全ての攻撃を弾いているのだ。

 もちろん、そんなことを続ければ少年の体力は大きく削られてしまう。

 その事を天秤にかけても少年は自身の安全よりも顔も知らない他人を優先させているのだ。

 一体どれだけの時間が経過しただろうか。

 数分にも数十分にも感じられる濃厚な時間の中、ひたすら攻撃を弾く少年の耳が『神になれなかった者』の声を捉えた。

 

「どうして」

 

 それは、わずかに残った理性から発せられたモノだった。

 

「どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!!」

 

「・・・・・・?」

 

「どうして、貴様は飲まれていないっ!? この深い闇になぜ浸食されていない!!?」

 

 力に飲まれた者。

 力に飲まれていない者。

 

 同じ力を持ちながら二人には大きな違いがあった。

 いや、そもそもの前提が違う。

 少年の持つ力が影そのモノなのだとしたら『神になれなかった者』の持つ力は余っていた残留物―――所謂残りカスだ。

 保持しているエネルギー量も闇の深さも圧倒的に少年の方が強大である。

 それにもかかわらず、少年は闇に飲まれず影を使いこなしている。

 元々ソッチ(・・・)方面のプロであった『神になれなかった者』からすれば異質で異常なのだ。

 少年は深くため息を吐く。

 一瞬だけ少年を纏っていた影が純白に変化し、元通りの影になる。

 

「下らねえ。そんな事も分かんねえからテメエは力に飲まれるんだよ」

 

 少年は攻撃を弾きながらキッと眼を鋭くする。

 

「そもそも力の元になっている『負の感情』は何だと思っている? 悪意や害意が理由なく溢れ出ているとでも思っているのか? 違うだろ。世界の不条理や周りから受ける理不尽・・・・・・それを背負った時に湧き出してしまうモノがこれだろう。別に『負の感情』を持つ者は悪人って訳じゃあねえ。苦しんで辛い目に合って、傷付いててしまった人たちなんだよ! だったら、救うしかないだろ!! だったら掴んで引っ張り上げてやるしかないだろう!!」

 

 そうして、強く断言する。

 

「受け入れる気のねぇテメエが、人を救えると思うな!! 善も悪も、光も闇も、表も裏も――――そこにある全てを受け入れて救い出す気のねえ小さい器しか持たないテメエに世界が救えるなんて思い上がってんじゃねえ!!!」

 

 瞬間、再度少年の纏っていた影が純白に変化する。

 それと同時に少年の髪も純白になり、瞳は透き通るような蒼色になる。背中に集まった純白の影は鳥の翼のような形状になり、少年の体を宙へと浮かせた。

 

 まるで、その姿は神話に登場する救いをもたらす存在―――『天使』を思わせた。

 少年が手をかざせば純白のエネルギーが剣状になり彼の周りを浮遊する。

 

「テメエは『救いをもたらす絶対的』存在じゃない。力に飲まれた哀れで愚かな人間だ」

 

 だから、と少年は言葉を続ける。

 

「俺が―――救う力を持たない矮小な俺がお前を止めてやる。愚か者同士で削り合おうや」

 

「・・・・・・・・・う、、、、、うわぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」

 

『神になれなかった者』は絶叫を上げながら少年との距離を詰める。

 少年は迎え撃つかのように浮いていた剣を掴み、体を並行にして全身を一つの剣かのように突撃する。

 そして、体を回転させて貫通力を高めた一撃を放つ。

 

「全てを穿つ剣!!!」

 

『神になれなかった者』の攻撃はその高速回転により全て弾かれる。

 慌てて避けようとした時にはすでに遅く、その体を少年は大きく抉り貫く。

 普通の人間なら致命傷を通り越して即死してしかるべき傷だが『神になれなかった者』の肉体はすでに人ならざる者へと変化している。

 それ故にまだ動く事ができる。

 

「グガァァァァアアアアアアア!!!!!!!」

 

「これで、終わりだァ!!」

 

 少年が両手を重ね前へと付き出す。

 そこに、今までとは比較にならないほどのエネルギーが収束する。

 

「インパクト!!」

 

 放たれた強大な一撃は『神になれなかった者』を飲み込み、その肉体を消滅させて行く。

 悲鳴を上げる暇も苦しんでいる余裕もなくそのまま無となる。

 

「・・・・・・フゥ。もしも生まれ変わる事があるのだとしたら、次は間違えるんじゃねえぞ」

 

 少年は静かにそう呟くと先ほどまで立っていたビルの屋上に降り立つ。

 少年の足が屋上に付くと同時に髪の色が元に戻り彼を包んでいた白銀のオーラが霧散する。

 

(やべぇ。さすがに、無茶し過ぎたなこりゃ)

 

 少年は息を吐くとそのまま倒れ伏し、完全に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 少年が目を覚ますと何もない白い空間にいた。

 辺りを見渡すが特に目立った物なんてなく一人ぽつんとそこに居る事だけが分かった。

 どうしたものかと考え込むが激戦後に意識を失いここにいた影響か上手く頭が働いていない。

 その為、休む目的でただボーっとしていた所、急に目の前に黒い穴が開く。

 特に危険を感じないソレを見つめているとそこから特徴の無い誰かが顔を出す。

 

「よう。アンタが俺をここに呼んだのか?」

 

「あ、う~ん。まあ、そんな感じだ。・・・・・・えっと、『大宮さとし』だよな?」

 

「そうだけど? 『大宮さとし』19歳フリーターだが、どうした?」

 

「あ、フリーターなんだ」

 

 誰かは少し肩を落とす。

 それを見て少年は少し笑いながらゆっくりと腰を浮かした。

 

「それで、アンタは何者だ?」

 

「俺は“機鰐龍兎”。大宮さとしの持つ可能性の一つだ」

 

「ふむ、それで?」

 

「いやさ。俺強くならなきゃいけなくてさ、その為に幾つも存在している『大宮さとし』の『可能性』と関わって受け取らないといけないんだ」

 

 龍兎の言葉に少年は頷く。

 そして、深く息を吸うと一気に吐いた。

 

「それじゃあ、受け取るか? 俺のすべて。お前も俺なら戦ってれば何とかなるだろ」

 

「ハッ、流石に脳筋過ぎるぜ。・・・それも俺らしいと言えばそうかもな」

 

 龍兎はそう言うとその体に赤い炎を纏わせる。

 

「おっ! いいね。強そうだ。・・・けど、俺も強いぜ」

 

 少年は意識を集中させると体の奥底にある力を引き上げ解放する。

 

「はぁ!!!」

 

「ッ!! ・・・オイオイ。天使かよ。さすがにやべえな」

 

 龍兎はそう言いながらもにやりと笑う。

 そして、二人は笑いながら言った。

 

「「さあ、始めようか!!!」」




『大宮さとし(2019)』
身長:175cm
体重:77kg

高校卒業と同時に家を出て地元でアパートを借りそこを拠点に日本中を旅しているフリーター。
最も効率的に強くなっていった所謂、最高最善の大宮さとし。
全てを受け入れるほどの大きな懐を持つ一方、敵対した者に限り救えない存在と判断すれば速攻で潰しに行くなど機鰐龍兎に比べて甘さが少ない。


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