俺はしがない商会の三男坊のオスカーだ。ついこの間20歳になったばかりで商会の手伝いもせずフラフラしている俺はそろそろ親父に追い出されると思う。
だが、そんな心配も俺には関係ない商会のコネを使い情報屋としての地位を築いているからだ。大店から貴族の情報を旅商人からは各地の情報を得るのに丁度良い中規模の商会の出というのは情報屋になるのに役立った。
そんなある日、プランタン商会から使いの者が訪れた。
「こんにちはオスカー、情報は売れてる?」
「よう。ルッツ、絶好調よ」
プランタン商会はエーレンフェストからローゼマイン様の専属としてやってきた商会でアレキサンドリアでは新参だ。情報収集のため俺からよく情報を買ってくれるお得意様でもある。今日はどんな情報を欲してるのか?
「で、今日は何の情報が欲しい?」
「いや、今日は情報を買いに来たわけじゃない、お前に招待状を渡しに来たんんだ」
「俺に招待状だと?誰からだ?」
「ローゼマイン様の筆頭文官であるハルトムート様が差出人だが実質ローゼマイン様からの招待状だな」
「本当か?しがない情報屋である俺にどんなようがあるか聞いてるか?」
「それは行ってみないと分からないな。ローゼマイン様は突拍子もないことを考えるからなぁ」
「そうか」
これはチャンスでもあるが失敗は許されないな。このアレキサンドリアではローゼマイン様の人気は絶大だ。だからこそ専属の情報屋としてお抱えになれれば成功は約束されたようなものだが失敗すればどうなってしまうか分からない。
「とりあえず。三日後、俺たちと一緒にローゼマイン様の図書館へ行ってもらうからな」
「神殿じゃないのか?」
「あ〜成人されて神殿からは出たんだよ。今はレティーツィア様が神殿長をされている」
「そうなのか」
「五の鐘の予定だから。昼食をとったらプランタン商会まで来てくれ」
「わかった。三日後の四と半の鐘ごろプランタン商会まで行けばいいんだな」
「じゃあ、待ってるからな」
そして、当日プランタン商会へ訪れた俺は馬車に乗せられ図書館へやってきた。門もプランタン商会だとわかると平民への嘲りもなくすんなり通ることができた。さすがはローゼマイン様の専属の商会だ。袖の下も必要ないとは恐れ入った。
「お待ちしておりました。ベンノ様、オスカー様」
出迎えてくれたのはシュミルの魔術具だった。一体だけ人間に遜色なく話すことができると情報として知ってはいたが実際に目にすると驚きだ。シュミルに案内され一つの部屋の前まで来たここからが本番だ。気合いを入れベンノの後を追い扉をくぐる。そこにはローゼマイン様、呼び出し主のハルトムート様とその婚約者であるクラリッサ様、ローゼマイン様の兄であるコルネリウス様と護衛騎士が数名と情報にない護衛騎士一人と女性の文官だ。
「ご無沙汰しております。ローゼマイン様、ローゼマイン様のお召しに従い情報屋のオスカーを連れてまいりました。」
まずは、ベンノが挨拶をし俺を紹介してくれる。
「水の女神 フリュートレーネの清らかな流れのお導きによる出会いに、祝福を賜らんことを お初にお目にかかります。情報屋のオスカーと申します。以後お見知り置きを」
「心より祝福を贈りましょう。水の女神 フリュートレーネの祝福を」
ここから貴族相手の長い挨拶を行う。成人されたお祝いの言葉を述べ世間話に俺が集めに集めた情報を開示する。ここで出し惜しみは無い俺の有用性を説くのだ。挨拶の受け答えはハルトムート様が行って、ローゼマイン様はにこやかに頷いておられる。まずは上手くいってるようだ。
「さて、オスカーそなたを呼び出したのはローゼマイン様よりお願い事があるからだ。心して聞くがよい」
「かしこまりました」
「オスカーあなたには新聞紙を発行してもらいたいのです。新聞紙とは情報を紙に書き記したものです。もちろん無料で配るものではありません相応の値段で売って構いません。貴族向けに下々の情報を平民の大店向けに貴族の情報を取りあえず二種類の新聞紙を毎月発行してください」
情報を紙に書いて売るだと!画期的だ。なぜ俺は今までそんなことに気がつかなかったのだろう。今は新たな産業として製紙業、印刷業がどんどん広がっているところでエーレンフェスト紙の値段もかなり安くなってきている。これは乗るしかない。
「新聞紙、それは画期的な産業ですね。ぜひやらせて頂きたく思います」
「よかったはオスカー、全て手書きでは大変でしょうから神殿の印刷工房へ行ってガリ版印刷の技術を習得してください」
「ローゼマイン様のお心遣い感謝いたします」
「それと、貴族側の情報を得るのは大変でしょうから、ここにいるフィリーネから情報を貰ってくださいね」
「下級文官のフィリーネです。これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「では、大儀であった。あとはフィリーネ頼みましたよ」
ハルトムート様が会談の終わりを告げ、別室へ移動しフィリーネ様と今後についての話し合いをする。
「オスカー、こちらから提供する予定の情報は領主会議の結果、貴族の洗礼式、成人、婚礼、あとは夏にあるであろう大海獣の討伐の功績順位と貴族院での成績優秀者です。他に欲しい情報があれば言ってください」
「そうですな。ローゼマイン様が始められる新たな産業の情報もあれば頂きたく存じます」
「考慮しましょう。それと新聞紙の最初の号に乗せて欲しい情報があるのです」
「何なりと申しつけください」
「それは身食いの情報です。平民が魔力を持つのは貴族として受け入れがたいというのが今までの状況でしたがローゼマイン様は身食いにも慈悲を持って扱いたいと考えておられます」
「身食いですか、それはなんと申し上げたらよいのか・・・」
「ここだけの話ですが、ローゼマイン様が成人し名実ともにアウブになられたので手をつけられるのです」
身食いの問題はそれだけ繊細に扱わねばならない情報だ。下手をすれば社会システムが崩壊してしまうだろう。
「なるほど、それほど繊細な問題なのですね」
「そうです。ではまずは身食いの症状ですが赤子の場合、乳が欲しくて泣くときに顔にブツブツができ高熱を発します。乳を与えるとブツブツも高熱も無くなります。これは中級から上級の魔力を持つ赤子によく現れる症状です。次に下級ぐらいの魔力だと……」
と身食いの症状を教えてくださいます。今回の会談、新聞紙の発行はついでで身食いについての情報の流布が本命ではないだろうかと邪推してしまうぐらい熱心だ。
「症状についてはよく理解できました。して、どのように扱われるのですか?」
「魔力を持つものは貴族と関わらず生きていくのは難しいでしょう。下級中級の子供は洗礼式まで定期的に神殿まで魔力を抜きに来ていただきます。洗礼式後は神殿教室に通ってもらい貴族との付き合い方を学んでもらいます。その後は魔術具に魔力を注ぐ職業についてもらう予定です。ですが上級の赤子は神殿で預かります。親が面談を申し込めば会うことはできるでしょうですが、一部は洗礼式を機に貴族の養子になると思います。今は貴族が少ないですから」
「わかりました。この情報を平民に受け入れやすいように伝えるのが私の仕事なのですね」
「大変なお仕事を申しつけてごめんなさいね。でも頼みましたよ」
「かしこまりました」
その後、俺は新聞記事を書きに書きまくり記事は売れまくった。身食いの記事も平民に瞬く間に知れ渡り一つの年に3〜5人の身食いがいることがわかった中級から上級の赤子は一年を待たずに死んでしまっていたようだが下級の赤子は4、5歳まで生きているものが見つかり下級が10人中級が2人上級が1人の命が俺の記事によって救われた。やりがいのある仕事をもらい感謝している。神に祈りを!!
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