戦姫絶唱シンフォギアDF ~DIVINE FLAME~ (私だ)
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プロローグ

 牙狼シリーズ最新作「神ノ牙 -JINGA-」、とうとう終わりましたねぇ…。
 メシアに翻弄された男の末路…崇高な魔戒騎士が闇に堕ちる過程を描ききった見事な作品だったと思います。
 お陰で神牙/ジンガは私の中の魔戒騎士ランキングで確実にベスト5に入り込む人となりました。
 そしてまだまだ先ですが「牙狼 -月虹ノ旅人-」や「戦姫絶唱シンフォギアXV」も控えています。
 なのでほんの少しでもそこまでの繋ぎの一つになれたらな…と思っていたり。

 とりあえず、付いてこれる奴だけ付いてこい!!



 その国は恵まれている。

 近年問題視されている自然環境問題なぞ素知らぬとでも言いたげに周囲一帯は広大な緑地に覆われており、その中に広がる城下町は古来よりの街並みを残しつつも時代に合わせた近代化も進んでいる。

 まるで漫画やアニメの世界からそのまま抜き取ったかのような風景がそこにはある。

 そして街の中心にはその国に生きる誰しもの心に深く有り続けるであろう雄大かつ優美な国城が建てられている。

 この国は恵まれているのだ。

 土地に、環境に、人に、そしてそこから生まれる資源に。

 だからこそ、このような事が起こるのは至極当然の事なのかもしれない。

 どれだけの制約を立てようとも、それを破るのもまた人なのだという事実を突きつけるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「親愛なる現国王ならびに国民全員に告ぐ。我々が要求するはただ一つ…政権だ!!」

 

 城門より10m程手前、そこには多くの武装した集団が並んでいた。

 軍隊歩兵が所持する銃火器はもちろん、少ないながら戦車も用意しているその集団は城門から街を囲う外壁…俗に正門と呼ぶべき場所までズラリと並んでいる。

 ざっと数えても500人以上は居るのではないだろうか。

 その内前線に位置する場所の戦車から身を乗り出し、目の前の城へと声を張り上げているのは、この集団の総指令官と呼ぶべき男だ。

 

「本日を以て現国王による政治的統治を廃し、我々がその位置に着く!堕落しきったこの国を我々が再生するのだ!」

 

 彼等の目的は現国王からの政治奪還、つまりは反乱行動からの革命を起こそうとしているのだ。

 先に述べた通りこの国はあらゆる分野に於いて恵まれた資源を持ち、それらを世界に輸出している。

 余り有る資源を保有し、それらを世界へ提供するこの行為は国王の方針により世界情勢などを一切問わず行われている。

 つまりは輸出対象の国が世界的に見て風当たりの悪い情勢であろうとも変わらず、世界トップの国だろうがそうでなかろうが平等に資源を提供する。

 自らの意思を頑なに曲げず、しかし分け隔て無くほぼ無償とも取れる程に施しを与えるその姿勢は言ってしまえば他国からすれば願ってもない話であり、また場合によっては言いように利用されてしまう話でもある。

 反乱軍はそれを良しとしないのだ。

 その昔この国は隣国の中でも最大級の王国であった。

 そんな由緒あるこの国が今や他国に振り回されてあらぬ濡れ衣を着させられる事も少なくない…そんな国へと落ちぶれてしまった。

 そんな事は断じて許されぬ。

 この国の資源を有効的に活用すれば、この国はかつての威光を取り戻す。

 そう声高々に宣言する反乱軍の指令官。

 しかし件の国王は未だ何の動きも見せない。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「何とも古典的な方法を選んだものだ…これでは子供の悪戯と何ら変わらぬ…。」

 

 城内の会議室。

 この突然の事態に城内に居る官僚達も少々浮き足立っていたが、その中でこの国の現国王たるこの人物はそのような醜態を晒す事なく状況を静観していた。

 彼等の要求内容の吟味、交渉手段の模索、国民の避難状況…。

 一刻を争う状況の中、あらゆる要因を考慮し、選択をしなければならない。

 自然と答えを出すのに時間が掛かってしまっているのだ。

 

「しかし国王…いかがなされますか?」

「無論断る。由緒正しい歴史あるこの国を、あのような者達に明け渡す事など到底出来ん。しかし…。」

 

 国王はそう言うと改めて映像に映る反乱軍を見る。

 正確には、彼等の持つ兵器を。

 

「何の力も持たぬこの国じゃ。古典的とは言ったがその点を鑑みれば、もしかしたら彼等のやり方は一番正しい方法を取っているのやもしれぬな…。」

 

 この国には兵器が無い。

 軍隊はもちろん、自衛隊なんてものも存在しない。

 いつの時代からか、この国は一切の軍事的兵器を持たないと世界に表明し、以来その表明は守られ続けている。

 故にこの国はそういった平和に慣れすぎた。

 だから諜報員も暗殺部隊も使わない、正門以外からも一切攻めぬこんな子供騙しのような暴動でも大事になるのだ。

 兵器という概念そのものに慣れぬ国でそれらを見せつける、それだけでも国にとっては十分効果があるのだから。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「要求に従わぬ場合、我々は無差別の行動をも辞さぬつもりだ!国王殿下の賢明なる判断を求む!」

 

 そう、反乱軍(彼等)もそれを分かってやっているのだ。

 謀略なぞ使わなくとも人を、国を手にする事ができる。

 我等の理想の成就まで、あと少しだ。

 反乱軍に所属する誰もがそう思っていた、その時だった。

 

「何だ…この音は…?」

 

 何処からか大きな音が聞こえてきた。

 ヘリのローター音、それも複数だ。

 

「ヘリ!?何処から!?」

 

 何処から来るのかと警戒を露にする反乱軍。

 やがてそのヘリが現れたのは彼等の目指す頂の先、城の向かい側だった。

 

「向かいからだと!?」

 

 彼等の上空を3機のヘリが通り過ぎる。

 上空と言ってもそれなりに近い場所を通過した為、ローターから生じる突風に煽られ行動が制限される。

 

「しまった…体制を立て直せ!!奴等はこの隙を突く気だ!!」

 

 これが狙いかと革命軍の指令官は急ぎ体制を立て直すよう指示を飛ばすが、そうこうしている間にもヘリは何処へと去っていった。

 

「行った、だと…!?」

「な、何をするでもなく一体…!?」

 

 辺りを見回して数秒、状況は何の変化も無い。

 ではあのヘリは一体何の為にここへ飛んできたのか?

 まさか何処かの観光ヘリが物見遊山のつもりで飛んできた訳ではあるまいと思考を巡らせていた指令官だったが…。

 

「指令、あれは…!?」

 

 補佐官からの問いに応え、視線を彼が指差す方向へ向ける。

 自軍の正面、城の城門前、そこには先程までは居なかった3人の女性の姿が。

 

「な、何だ貴様らは!?」

 

 不意に現れたその者達に問い詰めると、向かって左側に居る青い髪の女性が口を開く。

 

「…我等は超常災害対策機動タスクフォース、“S.O.N.G.”(Squad of Nexus Guardians)の者だ。」

「S.O.N.G.だと…!?」

「そうだ。此度の暴動に伴い、国連から出動が要請されてな。」

「国連だと…!?」

「馬鹿な…いくらこの国が世界の資源輸出に貢献しているとはいえ、こんな辺境の地の騒動に国連が…!?」

 

 国連という言葉に周りの兵士達が浮き足立つ。

 彼等が口にする通り、ここまで国連からの対応が速いとは指令官も思っていなかった。

 彼等の動揺が誰しもの目に映る中、向かって右側に居る少女がさらに彼等を煽るように口を開く。

 

「ハッ!おつむが悪いんだよ!てめえらの考えは全部お見通しって訳だ!」

「今ならまだ間に合います!武器を下ろして、戦いを止めてください!」

 

 続けて声を上げたのは中央に居る少女。

 先の2人とは違い、彼女は反乱軍に対して説得を試みた。

 

「それは出来んな!我等はこの国の実権を握り、他国に並ぶ…いや、それ以上の大国を築き上げると誓ったのだからな!」

「こんな乱暴な事しなくても、話し合えばきっと分かり合えます!皆で手を取り合う事が大事なんです!」

「出来んと言っている!!だからこそ我等は相手の手よりもこの武器を手に取っているのだ!!貴様ら先程おつむが悪いと言ったな?その言葉、そのまま返してやろう…!」

 

 しかし彼等の意思の前に少女の言葉は届かなかった。

 その様子を静観していた青髪の女性が少女に対して小声で問い掛ける。

 

「…気は済んだか?」

「…。」

 

 その問いに少女は答える事は無かった。

 代わりにその手を…どこか普通ではない衣装に包まれたその手を握り締める。

 

「我等の意思は固い!!立ちはだかるなら女子供とて容赦はせんぞ!!」

 

 問答無用と言わんばかりに指令官は部下に命令し、自身も搭乗している戦車の砲台を彼女達へと向ける。

 しかしまだ撃たない、これは警告だ。

 それは少女達へ向けたものでもあり、またこの状況に未だ動く気配の無い国王へ向けた最後の通告でもある。

 普通に考えれば身の危険を感じた少女達が逃げるなり怖じ気付くなり、あるいは国王側から何かしらの動きがあって然るべきだ。

 しかし幾ら待っても状況は全く変わらない。

 少女達は退く事をせず、変わらぬ様子でこちらを見据えており、また国王側からも何の動きも無い。

 指令官の中で勝手に定められていた猶予は無くなった。

 

「…撃てぇ!!」

 

 その号令の後、戦車の火砲から轟音と共に巨大な鉛玉が発射される。

 生殺与奪を決めた自分、1秒とも間が空かず命令に忠実に従った部下、そして無抵抗の人間3人を殺すにしては大きすぎる兵器(凶器)

 自分達は非情である、そんな事を考えている間には既に戦車から弾頭が発射された際の轟音が静まる頃であった。

 この国の為とはいえ、この手で人を殺めた。

 何度見ても慣れるものではなく、慣れたくもない。

 しかし彼女達の犠牲を見ればさしもの国王も重い腰を上げる事だろう。

 彼女達はこの国の未来の為の礎となったのだ。

 人並みのような、狂信者のような、複雑な思いを胸に秘め、指令官は()()()()()()()()()()()を見る。

 

「な、に…?」

 

 思わず漏れた声、それを皮切りに辺りの兵士達からもどよめき声が聞こえてくる。

 

 今目の前には何が居る?

 

 ―少女達だ。

 

 その少女達は死んでいるのか?

 

 ―生きている。

 

 彼女達は何故生きている?

 

 ―分からない。

 

 弾は撃った、間違いない。

 

 ―何故生きている?

 

 狙いは彼女達に向けられていた筈だ。

 

 ―何故生きている?

 

 彼女達は変わらずこちらを見据えている。

 

 ―何故生きている!?

 

 不意に視線の上から何かが降ってきた。

 それは彼女達と自軍最前列との間に出来た空間に落ちる。

 それを目で追っていくと、その落ちてきた物体は何かの弾のようであった。

 大きくひしゃげており元の形が判別しづらいが、少なくとも拳銃程度の弾では無い。

 あの大きさだ、恐らくは戦車などに使われる弾頭だろうと予測をしたその瞬間、指令官の胸中でカチリと何かのピースが嵌まったような感覚がした。

 得も言われぬようなその感覚ではあるが、同時に何故だかそれは決して嵌まってはいけないピースだったのだという確信めいたものも胸中に渦巻いていた。

 そのまま呆然と視線を少女達へと戻すと、中央に居る少女がいつの間にやら掲げていた腕を下ろしていた。

 掲げていた手は握り拳、そしてその時の姿勢はまさに何かを下から打ち上げたかのよう。

 そして落下してきた弾頭。

 きっとこの瞬間、反乱軍の誰しもが同じ表情を浮かべていただろう。

 考えてみれば分かった筈だ。

 戦車の砲台は少女達の身長、位置によって斜め下へ向けられていた。

 その軌道で弾を撃てば確実に地面に着弾し、爆発を起こして黒煙が上がるはず。

 そうだ、最初からそんな煙は立ち昇っていない。

 “戦車の弾を撃てば地面に着弾し彼女達を巻き込んで爆発、煙を上げて彼女達は跡形も無く死ぬ”という常識は崩された。

 代わりに彼女の達の眼が訴えかけるのは、“放たれた弾頭はこの手で弾き飛ばした”という非常識だ。

 

 

 

 

 

 それを理解した瞬間、彼等の内の何かが切れた。

 

 

 

 

 

「うっ、撃てぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 皆揃って銃を構え、躊躇無く引き金を引く。

 非情ではない、その胸に抱く思いは、恐怖だ。

 目の前に居る恐怖の対象を振り払わんと一心不乱に注がれる鉛玉の雨嵐、されどその恐怖は拭われる事は無く。

 確実に被弾している筈の彼女達の身には傷1つ付いておらず、ただ雨嵐の先に居る者達へ向けられている。

 襲ってくる訳でもない、しかしその場には確実に居るという拭われぬ恐怖に恐れ戦く彼等の指からは次第に力が抜け、1つ、また1つと撃たれる鉛玉は減っていき、遂に誰しもが引き金を引く事が無くなった一瞬の静寂。

 

「行くぞ!!」

「おう!!」

「はい!!」

 

 その隙を突き、3人の少女達は走り出す。

 反乱軍の内心に関してはしばらくの間語らないでおこう。

 今まで静観していた恐怖の具現が遂に動き出したのだ。

 誰もがパニックに陥り、いささか気が触れたかとも取れるように少女達に銃口を向けるだけなのだから。

 

 

 

 

 

「行きます!!」

 

 鉛の弾幕の中を一番に飛び出したのは中央に居た少女。

 その脚に一層の力を込めると、まるで彼女自身が1つの弾丸ように飛び出していく。

 彼女が一瞬その動きを止めたその時、そこは既に反乱軍の兵士の1人の前であった。

 

「はっ!!」

 

 一瞬の殴打。

 相手の腹部目掛けて放たれた“軽い一撃”、しかしそれは兵士を気絶させ無力化させるには十分であった。

 

「はっ!せいっ!はぁっ!!」

 

 少女はさらに身を翻し、一人、また一人と拳を当てていく。

 そんな少女の腕には、世界中どこの軍を見ても採用されていないであろう特殊なユニットが装着されていた。

 

 変わって少女の右翼、兵士達が引き金を引く対象は青い髪の女性。

 しかし銃弾は彼女の持つ一振りの流麗な刀によってその悉くを“切り落とされていた”。

 

「…参る!!」

 

 女性の掛け声が澄み渡るや否や、女性の姿が消える。

 それと同時に兵士の1人が一瞬の呻き声を上げると共に地に伏せる。

 何があったとそちらを向く前にまた誰かが倒れ伏す。

 それが何十回と続く中、兵士の1人が意識が飛ぶまでの一瞬の間に耳にした言葉があった。

 

「案ずるな…峰打ちだ。」

 

 《颯ノ一閃》

 

 戦闘が始まって1分にも満たない中、反乱軍はたった3人の少女達に瞬く間に戦況を覆されていた。

 

「えぇいやってくれる…ならば、“アレ”を出せ!!」

「し、しかしアレは…!!」

 

 その中で少しばかり冷静になった指令官は部下に戦車を下がらせながらある兵器の投入を命じる。

 しかし部下は先の忠実な姿勢から一転して二の足を踏む。

 それもそうだろう、命じられた兵器の投入は今回の計画に於いて最後の手段。

 いや、世界全体で見ても使用してはいけない代物だ。

 あの兵器を投入する事こそ、本当の非情というものだ。

 

「いいから出せ!!我等の理想が掛かっているんだぞ!!」

「は、はい!!」

 

 しかし指令官の怒号に折れ、ついにその兵器を投入する為のトリガーを引く。

 もう後には退けぬと断腸の想いで解き放ったそれは、内部が赤く不気味に光る結晶であった。

 無数のそれらが地面にばらまかれると結晶は弾け、代わりに内部の発光体が地面に着く。

 すると発光体を中心に幾何学的な模様が地に走り辺りを朱色に染め、そこから無数の異形が姿を現した。

 

「来たか…!」

 

 それを見た女性は兵士達へ向けていたものとは明らかに違う敵意を向ける。

 反乱軍が投入したこの兵器こそ、彼女達がこの戦場に介入した本当の理由。

 この世界には有史以前から存在が確認されていた特殊災害があった。

 発生場所、目的、それらの一切が不明であり、その存在に干渉する事は出来ない。

 それはその災害が物理法則を無視する事が出来る存在であるが故に。

 そんな災害を研究していく中で産み出された、悪魔の技術。

 人々が決して抗えぬ災いに対し造り上げたそれは、皮肉な事にその災いそのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルカ・ノイズ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アルカ・ノイズ”

 認定特異災害“ノイズ”を模した特殊否法侵略兵器だ。

 

「陣形を変える!!間を読み違えるなよ!!」

「はい!!」

 

 アルカ・ノイズの出現に対し、少女達は行動を変える。

 兵士達はアルカ・ノイズの間から少女達へ発砲するも、少女達は器用にもアルカ・ノイズの攻撃を躱しながら兵士達へ向かってくる。

 他の奴等のように殴られる、打たれる。

 そう思った兵士達は身を固くするも、彼等はそのような目に会う事は無かった。

 

「そりゃぁぁぁ!!」

「は?え…えぇぇぇぇぇ!?」

 

 兵士の一人が投げられた。

 ある兵士は襟首を掴まれ路地裏に投げ込まれた。

 またある兵士達は纏めて胴を掴まれそこら辺に放り出された。

 

「翼さん!!」

 

 やがて少女が声を上げると、翼と呼ばれたあの青い髪の女性が文字通り天高く舞い上がる。

 空中にて身を翻した彼女はその手に何本もの短刀を握ると、狙いを定めてそれらを投げる。

 狙いはただ一つ、アルカ・ノイズの影。

 

 《影縫い》

 

 影に短刀が突き刺さった瞬間、アルカ・ノイズは一切の行動を封じられた。

 そのまま追撃を行うかと思いきや、意外にも彼女達は自らの進む道以外のアルカ・ノイズには構わず先に居る人間の集団の方へと進んでいく。

 その様子から察するに、如何に彼女達でもアルカ・ノイズは倒せないのだろう。

 ならばあの短刀を引き抜きさえすれば、先に進んだ2人を挟み撃ちに出来る。

 そう判断した反乱軍の兵士達はすぐさまアルカ・ノイズの側へと走り寄ろうとする。

 

「ちょいと待ちな、そこらの大勢方。」

 

 だがその行いに待ったを掛ける者が1人。

 それがうら若き少女の声だと理解した時、兵士達はしまったと動きを止め、その声がした方へと視線を向ける。

 そうだ、敵は何も2人だけでは無かった。

 そこには大きく真っ赤なクロスボウを引っ提げた3人目の少女が居た。

 

「よーし良い子だ、そのまま動くなよ…。」

 

 少女は再度兵士達へ声を発し彼等の注意を自分へ向けると、その手に握る真っ赤なクロスボウの狙いをを遥か上空へと定める。

 

「何せアルカ・ノイズ(こいつら)に贈る大事なプレゼントなんだからな。下手に受け取ったりしたら…そん時はあたしは知らないぜ?」

 

 そして引き金を引き、クロスボウから水晶のような矢が発射される。

 狙いは遥か上空という事で放たれた矢はそのまま虚空へと消えてしまい、兵士達は一体何をしているんだと訝しむ。

 少女はそんな兵士達に対し、妙に気取ったようなポーズを取りながら笑みを浮かべた。

 

「ちょいと早めの“クリスちゃん”(クリスマス)プレゼント…ってな!」

 

 その瞬間、文字通り空から“水晶の雨が降り注いだ”。

 

 《GIGA ZEPPELIN》

 

 一瞬の雨嵐、その後に立っていたのは少女と兵士達のみ。

 アルカ・ノイズはその全てが水晶の雨に射たれ、今は赤い塵となって消えている。

 

「心配すんな、あんたらにはあんたらで特別な事情聴取その他もろもろ(プレゼント)があるからよ。」

 

 そして兵士達もアルカ・ノイズのように塵とはならなかったが、その代わりとして一様に水晶で出来た拘束具によって両手を塞がれていた。

 

「なぁに遠慮なさんな、持ってけサービスだ☆」

 

 その可愛らしく発せられた宣言に兵士達は色んな意味で心を撃ち抜かれ、そこでやっと…いや、薄々は感付いていたが、気付いたのだ。

 “彼女達は誰一人殺す事無くこの戦いを終わらせようとしている”事を。

 

 

 

 

 

「馬鹿な…アルカ・ノイズがこうも容易く…!?」

 

 その事実に気付いた反乱軍の指令官は決戦兵器として用意したアルカ・ノイズが易々と倒されている現状に歯噛みをした。

 馬鹿な、あれらは全て正真正銘アルカ・ノイズだぞ!?

 いくら流れに流れた横流し品をかき集めたものだとしても彼女達の戦闘能力は軽い一撃で兵士を昏倒させたり銃弾を切り落としたり異常な程高い精度の範囲攻撃を有していたりと一線を画し過ぎている。

 あれほどの戦力を持つあの装束は一体何なのだ!?

 あれではまるで対ノイズを想定して造られたようなもの…。

 そこまで思考して指令官はようやっと気付いた。

 聞いた事がある、頻発するノイズの襲撃に対抗すべく、一人の科学者が名乗りを上げた事を。

 特殊な調律を発する事によりノイズが持つ炭素化能力も、物理法則を無視する位相差障壁も無効化し、世界で唯一ノイズを攻略する事が出来る超法規的防衛武装。

 “歌の力で戦う”という奇天烈な発想の下で開発されたその力の名は…

 

「まさか…あれが国連が所持しているというアンチ(Anti)ノイズ(Noise)プロテクター(Protector)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “シンフォギア”(Symphogear)なのか!?」

 

 そのシンフォギアが今、目の前で牙を向いている。

 アルカ・ノイズを決戦兵器とした事で…いや、そもそもアルカ・ノイズという存在に手を出した時から、既にそうなる運命だったのだ。

 

「後方部隊より入電!!謎の人物3名による襲撃!!投入したアルカ・ノイズも悉く打ち倒されているとの事!!」

 

 そして世界が決めた法を破った罪は、さらに自らの未来を押し潰す結果となって返ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンフォギアが“6機”も、だと…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~王国近郊~

 

「そこっ!!」

 

 《EMPRESS†REBELLION》

 

 反乱軍の後方部隊、彼等の使役するアルカ・ノイズが銀の煌めきによって滅せられる。

 前線部隊が3人のシンフォギア装者によって瓦解していく中、こちらも同じように3人の装者によって壊滅させられていた。

 

「搦め手は得意だよ…!」

 

 アルカ・ノイズを失い動揺する兵士達を桃色の光放つヨーヨーが拘束する。

 搦め(絡め)の意味を間違えているのではと言いたげにアルカ・ノイズがヨーヨーを操る少女へ向かっていくが…。

 

「ちょいと通るデース!!」

 

 《断殺・邪刃ウォttKKK》

 

 それは彼方より飛来した緑刃と、それを操る少女によって阻まれる。

 

「ノイズの相手はアタシに任せるデス!」

「頼りにしてるわよ切歌!調はそのまま兵士達をお願い!」

「うん、任せて!」

 

 銀のシンフォギアを駆る女性が先陣を切り、3人は革命軍へ駆け出す。

 その様子は前線に居る3人と変わらず、半ば一方的な戦いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ…あのような異形の怪物達をいとも容易く…!!」

「彼女達は一体…!?」

 

 そしてその様子は城内にも知れ渡っていた。

 誰もが畏怖の念を以て戦局を見守る中、側近の1人がはっと我に返り、国王に早急な避難をするよう促す。

 

「しかしながら国王、いずれここも危険になる恐れがあります。早く避難を…!!」

「やはりそうか…!」

 

 しかし国王は側近の言葉に耳を貸さず、少女達の姿を目で追い続けていた。

 初めに彼女達3人が革命軍の前に出た時は肝を冷やした。

 何を馬鹿な真似をしているのだと。

 彼女達が撃たれた時は口から心臓が飛び出るかと思った。

 見ず知らずの者達ではあるが、国王として人を守る事が出来なかったと後悔もした。

 そして少女達が生きている姿を見て、彼女達が戦う姿を見て、ある疑問が生まれた。

 彼女達の姿を何処かで見た事があると。

 いや、見たのでは無い…聞かされたのだ。

 戦場にて命を謳い上げし姫巫女の存在を、この国を今日まで築き上げてきた先代国王からずっと…。

 

「あの者達こそ、絶唱の戦巫女…“神の炎を授けよ”と先祖代々告げられていた、あの…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な…こんな筈では無かった…こんな奴等に…!?」

 

 指令官がそう呻いている時には、既に多くの兵士は捕らえられ、アルカ・ノイズは全て出し尽くした頃だった。

 決定的な戦況と指令官の様子に動揺を隠せぬ戦車内の兵士達だったが、レーダーに反応有りと確認するや否や、即座に配置に着く。

 だが彼等にとっては無情なるか、レーダーに映る反応というのは、敵であるシンフォギアに他ならない。

 

「もう終わりです!他の兵士の皆さんに武器を下ろすよう命じて、投降してください!」

 

 彼等の前に現れたのはあの説得を試みた少女だった。

 この期に及んでまだと言うべきか、それともこの覆しようもない状況から来る余裕、傲慢さか…。

 何れにしろ、その言葉は指令官の逆鱗に触れるには十分であった。

 

「何度も言わせるな!!この国はもっと昇れる!!かつての王国のように、この世界の上に立てる国なのだ!!その為にも…退く訳にはいかんのだぁ!!」

 

 尤も、それは単なる逆恨み(逆ギレ)でしかないのだが。

 

「撃てぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 歪んだ怨念が形となって少女に襲い掛かる。

 それに対して少女が取った行動は…“片手で受け止める”であった。

 仮にも世界の現行兵器で未だ主力である戦車の一撃だ、受け止めるにしても漫画やアニメでは受け止めた際の衝撃によって後退りなんてものが発生するだろう。

 目の前の少女はそれさえもしない、する程の威力が無かったのだろう。

 悪い夢であれと誰もが思っていた、少女は意図してか知らずか、その幻想を真正面からぶち壊した。

 しかし少女も鬼では無い。

 少なくともこの戦いは続けた所で誰も幸せになどならないと分かっている。

 

「最上の旋律(シンフォニー)…。」

 

 故に少女は決めた。

 こんな悲しい戦いは、もう終わらせる。

 

 最速で…。

 

 最短で…。

 

 真っ直ぐに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「声を一つに束ね!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一直線に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃てぇっ!!撃てぇぇぇ!!この国をかつての王国のように…あの“光の騎士伝説”が語り継がれていたあの時代を取り戻す為にぃぃぃ!!!」

 

「無限大の(ソウル)が…!!」

 

 全ての火器を用いて抵抗する革命軍。

 しかし赤いクロスボウを持つ少女がその武器から矢を放ち、戦車の無限軌道(キャタピラ)を破壊。

 

「「手と手を、繋ぐよ!!」」

 

 翼と呼ばれた青い髪の女性が刀を一閃、戦車の火砲を切り捨てる。

 そして最後の一人、心優しき少女が放つ渾身の一撃が…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「激唱…インフィニティィィィィィィィィィィ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦車の砲塔を一瞬で空の彼方へと吹っ飛ばした。

 晴れ渡る指令官と兵士達の視界。

 しかし彼等の目には刀を携え、弓を番え、そして堂々と仁王立つ少女達の姿しか写らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の指令官(リーダー)は捕らえたが…マリア、そっちは?」

「まだ戦闘中。前線の状況が伝わっていないだけかもしれないけど…何れにしろ、早々に終わる気配は無さそうよ。」

「分かった、引き続き頼む。…だそうだ、お互いまだ少しばかり時間が掛かりそうだ。」

「あいよ。ったく、結果なんぞ目に見えて分かってるだろうにこいつらは…。」

「…。」

 

 指令官を捕らえた3人、その中で翼は後方部隊を相手にしている仲間達へ連絡を取っていた。

 クロスボウを携える少女は未だ抵抗を見せる兵士達へ惜し気も無く悪態を吐くも、もう1人の少女は彼女とは打って変わって静かに立ち尽くしている。

 しかしその表情は思い詰めた様子であり、もしその胸の内を吐露するような事があれば、きっと彼女以上に言葉が出る事が目に見える。

 

「…ここからは作戦を残党処理に切り替える。散開し、各個迎撃に当たるぞ。」

「りょーかい。」

 

 それを見越したか、翼はこれ以上止まって思考する事を止め、この場から動き出す決意を固めた。

 クロスボウの少女はその判断に二の次の言葉無しに了承の返事を返す。

 対してもう一人の少女は…。

 

「…はい!」

 

 一拍あったものの、了承の返事を返した。

 話し合う、手を取り合う、分かり合う。

 ただそれだけの、何と難しき事か。

 この戦いでまたその現実を突き付けられた。

 しかしそれでも彼女は歩みを止めない。

 それが自分の生きがいだから。

 その“夢”を追い続ける事が、分かりあえた者達との、分かりあえなかった者達との“約束”になるから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間の欲望、業…。

 

 古より人は幾多もの罪を背負い、神からの贖罪を求めていた…。

 

 神こそが全て、神こそが正義だと…。

 

 だが何時の時代からか、その神への反逆を宣言した者達が現れた…。

 

 人々が救いを求めている神こそが、人類に大罪を着せた悪魔に他ならぬと…。

 

 欲に塗れし人類は彼等のコトバを時に信じ、時に疑い、今も拭いきれぬ罪を背負い生きている…。

 

 神もまた、そのコトバを時に否定し、時に貶し、時にねじ伏せ、今も人類を己が手で導かんと笑みを浮かべている…。

 

 あるべき形となっていた未来を崩し、混沌へ誘われた世界…。

 

 その果てに待つのは、希望の未来か、絶望の未来か…。

 

 世界を壊した愚かなる者達、人々は時に絶対なる神を裏切ったと侮辱の眼差しで以て、時に彼等こそまだ誰も知らぬ新たな世界を築き上げる先見者なのだと羨望の眼差しで以て、彼等の名をこう呼ぶのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “守りし者”と…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは奇跡が起こした偶然か…。

 

 或いは定められし必然か…。

 

 異なる時代に生きる2つの運命が交わりし時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刻まれし刻印は炎となり、絶えず命を謳い上げる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




~思い付いた限りでの補足~


・正面からしか攻めない反乱軍

→いや、こんなアホみたいな連中にするつもりはなかったんだけどね…色々と作者的な都合がね…


・特殊否法侵略兵器アルカ・ノイズ/超法規的防衛武装シンフォギア

→適当に名付けました


・クリスちゃんプレゼント

→シンフォギアはAXZ終了後、冬休み直前からのスタートとなっています
つまりはクリスちゃんの多分な愛が込められた素敵なプレゼントなのです(意味不明)


・そしていつまでも動かない国王殿下

→いや、だからこんな馬鹿みたいな人にする予定はなかったんだけどね…


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第1話「それは奇跡が起こした偶然か」前編

新年明けましておめでとうございます。
このお話を見る前に作者から一言。

“シンフォギア第1話の衝撃を私は忘れない”



「♪~♪~」

 

 弾むような心地好い鼻歌が流れている。

 それと同時に食欲をそそられる良い匂いが室内を満たす。

 

「…よし、晩御飯の準備は完了!後は…。」

 

 時刻は19時を回る頃、彼女…“小日向(こひなた) 未来(みく)”は夕食の準備を終えると必要な分の片付けを済ませ、部屋に備え付けられているソファーへと腰を下ろしTVの電源を付ける。

 

「…ではここで本日の特集です。世界的輸出大国である“ヴァリアンテ王国”に於いて今日未明、国際連合から経済革命を目的とした紛争行為が勃発したとの発表がありました。紛争自体は3日前に行われ、現在は鎮圧が確認されているとの事ですが…。」

 

 TVで放送されていたのは、先日とある王国で起きた騒動について特集を設けたニュース番組であった。

 これまで内戦といった言葉とは無縁であった王国でのこの騒動。

 王国が世界的な輸出大国である事も相まり、今日1日のニュース番組は概ねこの事件を特集として放送していた。

 今ちょうど評論家が画面の向こうで論説しているが、現在の王国の在り方に疑問を持つ者が国内から出てきた以上、これまで通りの貿易関係を続けられるとはどの国も思っていないであろうし、このような問題が起きたのには彼等と貿易を行っている全ての国にも責任があると誰しもが思うであろう。

 今頃ネットではこれらの情報を踏まえて独自の目線でこの事件を追及、考察してみた等といった書き込みや動画が流れているであろうが、この小日向 未来という少女はそれらとは全く別の観点でもってこのニュースに注目していた。

 

「皆が…響が関わった事件…。」

 

 …話は変わるが夕食が出来たのならば冷めない内に食べれば良いのではと思われる人が居るかもしれないが、彼女が作った料理は彼女1人分だけの量では無いのだ。

 彼女は“リディアン音楽院”という音楽学校の生徒であり、同時にそこの寮生でもある。

 つまり彼女が居る部屋というのは何も彼女1人だけの部屋では無い。

 そう、彼女は現在所用で外出している相部屋の者の帰りを待っているのだ。

 帰りの連絡が来ていない以上先に食べてしまっても問題は無いのだが、彼女は敢えてそれをしない。

 彼女は分かっているのだ、自身と相部屋となっているあの少女は、誰かと一緒に笑い合って食事をするのが好きなのだと。

 そして自分もその少女と共に食べる食事が好きなのだ。

 お互いの好きな事、嫌いな事、してほしい事、してほしくない事…。

 特別言葉を交わさなくとも、相手の気持ちは十分理解している。

 ただ同じ部屋となっただけでは無い、彼女達はそれほど長い付き合いなのだ。

 そんな同居人の帰りを心待ちにしていると、室内にとある連絡を告げる音声が鳴り響く。

 待ちわびた連絡だと彼女は飛び付くかと思いきや、意外にもその音声を鳴らす機械を呆けた様子で見つめている。

 それは普段同居人である少女から連絡が入る携帯の着信音では無く、滅多に鳴る事の無い別の通信機からの連絡音だったからだ。

 何故、と疑問に思うが、連絡が来たならばと彼女は気を取り直し、未だ連絡音の鳴るその通信機へと手を掛ける。

 

「はい、小日向です。」

「俺だ。すまないな未来君、こんな時間に…。」

「いえそんな、とんでもないです!それより、どうかしたんですか?私に連絡なんて…。」

 

 通信機の向こうからは壮年の男性の声が聞こえてきた。

 開口一番俺だなど、端から聞けば詐欺紛いの連絡でも掛かってきたのかと疑わしくもなるが、未来は通信の相手を一切疑う事無く話を聞く。

 

「うむ、実はな…未来君、これから時間はあるかな?」

「あ、はい…特に外出する予定はありませんけど…。」

 

 遅くなるであろう待ち人の事を考え、今夜の主食はカレーを選択した。

 急な外出となっても問題は無い。

 

「そうか…では申し訳ないが、未来君には至急本部まで来て欲しい。」

「本部にですか…?」

「あぁ、構わないかな?」

 

 連絡相手から指定された行き先は本部と呼ばれる場所。

 まるで特殊な組織に属する者同士の会話に聞こえるそれは到底10代半ばの少女がするような会話では無くまるで意味の分からないものであるが、彼女はすぐさま了承の返事を返す。

 

「はい、大丈夫です。」

「よし、では至急迎えをそちらに送る。未来君は寮の外で待機していてくれ。」

 

 その言葉を最後に通信は切れた。

 彼女は急いで外出の為の身支度を整えると、言われた通りに寮の外で迎えが来るのを待つ。

 それからおよそ5分後、軽いクラクション音と共に1台の車が目の前の通りに停まる。

 

「あおいさん!」

「お待たせ未来ちゃん、さぁ乗って。」

 

 運転手である“友里(ともさと) あおい”と軽く挨拶を交わし、未来は車に乗り込む。

 彼女が乗車したのを確認したあおいは車を反転させ、海岸へと車を走らせる。

 ここで1つ、種明かしをしよう。

 先程未来と男性の会話をまるで特殊な組織に属する者同士の会話のようだと言ったが、それは事実なのだ。

 彼女はその組織の特別外部協力者。

 そして彼女が属している組織は超常災害対策起動タスクフォース、通称S.O.N.G.。

 今から向かうのは街の海岸に停泊している潜水艦…詰まる所、S.O.N.G.本部だ。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ただいま戻りました。」

「ご苦労、あおい君。未来君も急にすまないな。」

 

 S.O.N.G.本部の中枢である発令室へと到着した2人を壮年の男性が迎え入れる。

 その声は先程彼女が通信機越しに会話をしていた人物のものであった。

 “風鳴(かざなり) 弦十郎(げんじゅうろう)”、このS.O.N.G.の司令官を務める大人の男性だ。

 

「いえ…それよりも、私が呼ばれた理由って…?」

「うむ、実はな…。」

 

 特別外部協力者という名から分かる通り、未来は正式にS.O.N.G.に所属している訳では無い。

 あくまで外部の協力者という立場上自分が呼ばれるというのは余程の事態でも起きない限りは無い筈。

 何故今回自分が呼び出されたのか未来が説明を求め弦十郎もそれに答えようとしたその時、

 

「おっさん!未来の奴が来たって…!」

 

 今しがた未来やあおいが入ってきた扉が開き、そこから3人の少女が司令室へと駆け込んできた。

 

「クリス!調ちゃんに切歌ちゃんも…!」

「未来先輩…!」

「未来先輩、昨日ぶりデス!」

 

 まず先頭、仮にもS.O.N.G.司令官であり何歳も年上の弦十郎をおっさん呼ばわりした少女、“雪音(ゆきね) クリス”。

 その後ほぼ同じタイミングで部屋に入ってきたのは“月読(つくよみ) 調(しらべ)”と“(あかつき) 切歌(きりか)”。

 未来の1学年下の後輩で、いつでも一緒の仲良しコンビだ。

 

「全員揃ったか、では改めて状況の確認を…。」

「え…待ってください!」

 

 少女達3人がやって来たのを確認した弦十郎が改めて話を進めようとするが、未来が慌ててそれを止める。

 

「響は…?今日は皆と一緒に居た筈じゃ…?」

 

 未来に響と呼ばれたその人物こそ、彼女と寮のルームメイトとなっている少女であり、幼い頃からの大親友。

 その響が外出していた理由というのは、他ならぬS.O.N.G.の活動に関するものであり、今日彼女はクリスや調、切歌と共にこの本部へと顔を出していた筈なのだ。

 しかし今この場に彼女の姿は無い。

 まさか彼女だけが部外者なんて事は無いだろうと未来は疑問を投げ掛けるが、弦十郎はそれに対して何故か苦い表情を浮かべる。

 

「…それも含め、未来君に伝えなければならない事がある。まずはこれを見てくれ。」

 

 弦十郎が指示を出すと、司令室内にある巨大モニターにある映像が表示される。

 

「これは…?」

 

 そこに映っていたのは、とある室内に存在している黒い円形の何かだった。

 大の大人1人分くらいの大きさのそれは部屋の中央に存在しており、全体が黒色となっている。

 まるでその部分の景色だけをすっぽりと抜いてしまったかのように黒一色となっているそれだが、その中にもう1つ人目に付く存在があった。

 上手く言葉で説明するのは難しいが、強いて言えば「炎」の漢字をそのまま形にしたような形状のそれは謎の円の中央に存在しており、周りが黒一色なのと相まって異様に色彩を放っているように感じる。

 その奇妙かつ非現実的な光景を目にした未来は怪訝に眉を顰め、心の中で疑問を反芻する。

 これは一体何なのかと。

 

「これはある聖遺物によって生じたものです。」

「エルフナイン…。」

 

 そんな未来の疑問を心を読んだかのように答えたのは、まだ10代にも満たっていないような子供だった。

 彼女の名は“エルフナイン”、幼い見た目に反してS.O.N.G.の専属技術者でもある。

 何処からともなく現れた彼女であるが、その表情は弦十郎と同じく晴れやかなものではない。

 よく見るとクリス達3人やあおいなどのオペレーター達の表情も暗いものであった。

 不意に場を満たす重たい空気に一体何が、と思っていると、弦十郎が漸く重たくなっていた口を開く。

 

「まずは簡潔に事実だけを話そう。未来君、どうか落ち着いて聞いてほしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響君が消息不明となった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 告げられた言葉に驚愕を通り越して呆けた表情を見せる未来。

 消息不明?

 あの響が?

 ここに居たのでは無いのか?

 皆と共にこの本部で仕事をしていたのでは無いのか?

 それが何故居なくなるなんて事になる?

 一体何があった?

 状況が飲み込めず固まる未来の姿を見た弦十郎は胸を痛める。

 彼女達の仲は弦十郎もよく知っている。

 故に当時の状況の説明という彼女にとって受け入れ難い現実を突き付ける行為に踏み込むのが躊躇われる。

 

「すまない、これは全て我々…いや、俺の不遜が招いた事態だ…。」

 

 しかし話さなければならない。

 事は全て自分の失態によるもの。

 大人として、それ以前に人として責任を果たす為、弦十郎は未来に事の次第を説明し始めた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「お待たせしました、師匠!」

「うむ、全員揃ったな。すまないな、冬休み早々呼び出してしまって。」

「全くデス…今日は1日のんびり過ごす予定だったのに…。」

「そうやってグータラしてっからいつまでも課題が終わんねーんだよ…で、今日は一体何の用なんだ?」

 

 時刻は15時頃、S.O.N.G司令室に4人の少女が入ってきた。

 内3人はクリス、調、切歌。

 そして最後の1人、その少女こそ件の人物である“立花(たちばな) (ひびき)”だった。

 ちなみに今の季節は12月後半、弦十郎が言った通り彼女達が通うリディアン音楽院は先日終業式を迎え、多くの学生が待ち望んでいた冬休みへと突入した。

 学生やら勉学やらといった普段のしがらみから解放され心行くまで休日を満喫しようと思った矢先に呼び出しとは、切歌でなくとも色々と募るものがあるだろう。

 

「うむ、まずは全員これを見てくれ。」

 

 そんな少女達の様々な反応にまだまだ若いな、と頬が緩みそうになるが、弦十郎は今回彼女達を召集した理由を今一度脳裏に思い浮かべ、モニターを操作し映像を見せる。

 

「これは…?」

「何だか綺麗な色してるデス。」

「あぁ…おっさん、こいつは?」

 

 少女達が目にしたのは赤、オレンジ、黄色といった暖色系のグラデーションをベースとし、金色のラインが入っている何かの物体であった。

 当然これだけではこの物体が何なのか見当も付かない為、クリスは遠慮なくその正体について問い掛ける。

 

「これは“プロメテウスの火”と呼ばれる聖遺物です。」

「エルフナインちゃん!」

 

 それに答えたのはまたも…というよりかはこの時も、と言った方が正しいか、何処からともなく現れたエルフナインであった。

 

「プロメテウスって?」

「プロメテウスはギリシャ神話に登場する神の1柱であり、主神ゼウスによって取り上げられてしまった火の文化を再び人類にもたらした文化英雄であると記されています。」

「この聖遺物は先日君達が向かったヴァリアンテ王国から提供されたものでな。なんでも絶唱の姫巫女降り立ちし時これを授けよ、と代々受け継がれてきた物らしい。」

 

 S.O.N.G.…超常災害対策タスクフォースという肩書きの通り、彼等は世界から見ても大いに特殊な組織である。

 その活動の1つに聖遺物と呼ばれる物の回収がある。

 その聖遺物というのは世界各地の神話や伝承にて語られる超古代の異端技術(オーバーテクノロジー)の産物の総称の事。

 世界各地の遺跡から発掘され、その殆どは経年劣化や破損によって本来の力を失っているが、ごく稀にその力を宿したままの状態の物が発見される事がある。

 聖遺物は総じて超常的な力を持っており、悪用されればどれ程の被害が出るかは見当も付かない。

 そんな危険を伴う古代の遺物を回収するのがS.O.N.Gの目的の1つだ。

 

「1度は国連の方で引き受けたらしいが、調査の結果これが聖遺物である事が判明し、我々の下に送られた。それもこいつは…完全聖遺物なんだ。」

 

 そしてそんな聖遺物の中に極めて稀ではあるが、経年劣化を起こさず当時の形状そのままを維持した状態の物が発見される事がある。

 それらは“完全聖遺物”と呼ばれ、国連で厳重に保管される事になる。

 欠片でさえ人智を越えた力を秘めているのだ、完全聖遺物となるとその力は未知を超え、もはや神のみぞという言葉を使うしか無い程に途方もない力を秘めている。

 

「完全聖遺物か…懐かしいなその響き。」

「しばらくは聖遺物自体を相手にする事が無かったから…。」

「完全聖遺物…ネフィリム…フロンティア事変…手紙…うっ、頭が…デェス…!!」

「何自爆してんだよ…で?上の連中からこいつを送られて、それで一体こっちは何しろって言われたんだよ?」

 

 そしてそんな完全聖遺物を渡す以上タダで引き渡すという事はあるまいと、クリスは嫌な予感しかしないといった表情で弦十郎達に問い掛ける。

 

「察しが良いなクリス君。そう、上層部からは我々にこの聖遺物の全面的な調査を命じる…と言われてな。」

「はぁ?んなモンたまにはてめぇらの方でやりやがれっての。何で毎度毎度あたしらに全部押し付けてくるんだよ…。」

 

 想像していた通りの答えだったとクリスは愚痴を溢す。

 上の連中はいつもそうだ、常々こちらの動きにあーだこーだとちょっかいを掛ける癖に、ほんの少しでも手に傷が付きそうな事態になれば平気で全ての問題をこちらに丸投げしてくる。

 自分達は良いように扱われる玩具じゃ無いとクリスは頬を膨らませる。

 

「仕方が無いんです。もし万が一にでも聖遺物が暴走を起こした場合、対処できる方法は限られています。目には目を、という事です。」

 

 確かにS.O.N.G.には聖遺物に関連する設備が他の組織よりも多く備わっているし、そもそも聖遺物の調査は元来からS.O.N.G.に一任するものだと決められてしまっている。

 故にクリスのそれは半ばただ駄々を捏ねているだけだという事になるが弦十郎達も人の身、彼女の抱く気持ちは良く分かる。

 クリス自身もそれは分かっている為、それ以上は文句を言うのをやめ、一先ず目先の事情に目を向ける事にした。

 

「ちっ…まぁ良いか。で、あたしらは何をすれば良いんだ?」

「ひとまず聖遺物の起動から始める。方法はただ1つ、歌だ。」

 

 今弦十郎が言った通り、聖遺物に秘められし力を発動させる為に必要な事は、歌だ。

 本来ならば欠片の状態の聖遺物から力を引き出すにはその聖遺物に見合った“適合者”と呼ばれる者の歌が必要なのだが、完全聖遺物ともなれば話は別。

 後は歌によって“フォニックゲイン”と呼ばれる固有の数値を上げれば良いだけだ。

 

「要はいつも通り歌えって事か。」

「うむ、起動には相応のフォニックゲインが必要だ。故に君達には様々な歌を歌ってもらう必要がある。少しばかり時間を取らせてしまうが、暗くならない内には終わらせる予定だから安心してくれ。では全員聖遺物が保管されている部屋へと案内する、頼んだぞ。」

 

 弦十郎に指示に従い少女達は背後の扉へと踵を返す。

 響も同じように先んじて歩く3人の後ろに付いていこうとするが、ふと足を止めモニターへ視線を向ける。

 特に意図した訳では無く、本当に何気無い気持ちで振り返ったその先では、ちょうど弦十郎がモニターの映像を切り替えようとしていた所であった。

 そしてまさにモニターの映像が切り替わったその瞬間…。

 

「え…?」

「ん…どうした?」

「あ、いや…何でもないよクリスちゃん、行こう!」

 

 彼女の様子を不審に思ったクリスに呼び掛けられ、響は慌てて止めていた歩みを進める。

 

「(今、何か見えた…?)」

 

 間違いない。

 モニターの映像が切り替わったその瞬間、響の脳裏を何かが過った。

 あまりにも一瞬の出来事だった為、残念ながら脳裏に過ったそれがどんなものだったのか鮮明に思い出せそうには無い。

 しかしそれは響にとってあまりにも強烈なものだったのか、それ自体が頭の中から離れる事は無い。

 それは全面が赤色掛かった何かの光景だった。

 いや…赤だけでなく所々オレンジや黄色等暖色系の色が混じり、何かの輪郭とおぼしきものが激しく揺れていた記憶もある。

 響の記憶の中にあるものから無理矢理当て嵌めるとすれば、それはまるで炎が揺らめいているようで…。

 しかし響が気になっているのは何もそれだけではない。

 視界を遮るように揺らめく炎のような輪郭、その向こうに響の意識は向けられていた。

 朧気で不鮮明なその光景の中で赤い輪郭が揺らめく度、その隙間から漏れる向こう側の景色。

 そこから見えたものは…。

 

 

 

 

 

「金色の…光…?」

 

 

 

 

 

 果たしてこの光景は一体何なのか、何を意味するものなのか。

 晴れぬ疑問を1人静かに抱える中、響達は件の聖遺物が眠るその部屋へと到着した…。



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第1話「それは奇跡が起こした偶然か」後編

「ふう…疲れたデス…。」

「何回も歌い続けてると、流石にね…。」

「おーいおっさん、どうなんだ?」

 

 聖遺物(プロメテウスの火)の起動実験が始まってから、約2時間が経過した。

 聖遺物が保管されている部屋には4人の少女達が集まり、部屋の中央で専用の装置に固定されているそれに向かって指示された歌を歌っていた。

 

「どうだ2人共?」

「駄目です…数値に変化は見られません。」

「むぅ…やはりそう上手くは行かないか…。」

 

 既に何回も歌い手を変えたりあらゆる曲を歌ってみたりはしているものの、オペレーターであるあおいと“藤尭(ふじたか) 朔也(さくや)”が答えたように、残念ながら今歌い上げた時点でも成果は出なかったようだ。

 

「ひぇ~…こんなに歌ったのに全然デスか…。」

「うむ…残念だが、今日の所はこれまでだな。全員一度こちらの部屋まで来てくれ。やはり翼とマリア君の2人が戻ってくるのを待つしかないか…。」

 

 冬の時期にもなると、17時でも外は暗くなる。

 2時間歌い続け疲弊している彼女達の事を考えると、今日はここらが潮時だろうと弦十郎は終了の合図を告げる。

 少女達もそれに異存は無く、喉が乾いたやら夕飯どうするかやら他愛も無い話をしながら部屋を出ようとする。

 ただ1人を除いて…。

 

「おい何やってんだよ、戻るぞー?」

「うん…。」

 

 響が何故か名残惜しそうに聖遺物を見つめて動こうとしない。

 普段とは少し違う彼女の様子を感じ取り、クリスや他の2人の足も自然と止まる。

 何故あんなにもあの聖遺物の事を見ているのか、何か気になる事でもあるのか。

 実を言うと響本人もこうしている理由はよく分かっていないのだ。

 今も脳裏にちらつくあの光景、それは司令室のモニターでこの聖遺物の姿を見てからの出来事であった。

 ならばこの2つには何か関係があるのではと思いながら実際に目の当たりにしてみたが、特にピンとくるものは無かった。

 ならばこの推理は外れだったのだろうと諦めて踵を返せば良い筈なのだが、それでも何故かこの聖遺物から目を逸らす事が出来ない。

 まるで今ここから離れてはいけない、目を逸らしてはいけないと誰かに押さえ付けられているように身体が動かない。

 

「(いや、違う…。)」

 

 しかし響は即座にその考えを否定した。

 

「(誰かじゃ無い、私自身がここから動いちゃいけないって思ってる…?)」

 

 己の心が身体を支配している、自らの意思でこの聖遺物と向き合っている。

 そう気付いた時、響は何故か胸中に安心感が沸き上がってくるのを感じた。

 この聖遺物を見ていると心が落ち着く、しかしどこか高ぶる想いもある。

 まるでアルバムを捲り、昔の自分の事を思い起こしているような、そんな不思議な感覚…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私…この聖遺物を()()()()()…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 件の聖遺物を見つめながらそう口にした、その時だった。

 突如彼女の脳裏にとある強烈な映像が流れ込んできたのだ。

 それはもはや脳裏どころの話ではなく、まるで今自分がその光景の中に立っているのではと錯覚してしまう程。

 先程まで目にしていた無機質な部屋から一転してのこの光景。

 幻覚だと分かっているが故に現実とのギャップの激しさに耐えきれず目眩が起こる。

 そんな彼女の切迫した状況なぞ知る術も無い周りの人達は彼女が何をしているのか全く分からず、いい加減クリスが引っ張ってでも部屋から連れ出すかと考えたその時、彼女達の耳にある歌が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―Gatrandis babel ziggurat edenal…。―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…絶唱?」

 

 “絶唱”…それは聖遺物の力を極限まで高める禁断の歌。

 それを口ずさんでいるのは、他ならぬ響であった。

 何故急に絶唱を歌い出したのか皆その理由を考えていたが、誰よりも早く弦十郎がその思考を中断し響に声を掛ける。

 

「響君、響君!」

「…うぇっ!?な、何ですか師匠!?」

「何ですか、ではないぞ響君。こちらの許可無しに絶唱を歌うのは感心しないな。」

 

 弦十郎が響に声を掛け絶唱の歌唱を中断させた理由、それは絶唱を歌う事による代償を懸念したからだ。

 先に述べた通り絶唱には聖遺物の力を極限まで高める作用があるが、同時にそれは聖遺物を扱う者の安全面を度外視して力を増幅させるという事なのだ。

 別に手に取っている訳でもないし一定距離は保っている為彼女の身に何かが起こる可能性は低いが、理由はどうあれ実際に聖遺物に絶唱を聞かせるのは危険が多い。

 

「え…今私、歌って…?」

「む…どうした響君?」

「あ…いえ、何でも無いです。すみません勝手に…。」

 

 だが彼女の反応を見る限り、彼女は自らが絶唱を口ずさんでいたのを覚えていない様子。

 今さっき行っていた行動を覚えていないとは、まさか悪戯の類かとも一瞬考えてしまったが、彼女はそのような事をする人物ではないというのはこれまでの付き合いで既に分かっている。

 今回は無意識に行動を誘発させてしまう程に疲労を蓄積させてしまったと考えるのが妥当だろう。

 

「いや、こちらも無理をさせ過ぎたのだろう。とにかく響君も一旦こちらの部屋に…。」

 

 報告や事後処理も最小限とし、早めに彼女達を自宅へ送ってやらねばと弦十郎が思った…その時だった。

 

「司令!聖遺物のフォニックゲイン数値に変化が!」

「何!?」

 

 あおいからフォニックゲインの数値上昇の報告が上がる。

 だがそれは決して待ち望んでいた最良の報告では無かった。

 

「フォニックゲインの数値、急激に上昇!」

「何だよこれ…あ、安定基準値超えました!!」

 

 本来予定していた基準値を一瞬で越えた数値の上昇に誰もが浮き足立つ中、更なる報告が彼等の統率を乱していく。

 

「数値、尚も上昇…司令!!聖遺物から熱反応を感知!!熱量…こちらも急激に上昇しています!!」

「何だと!?」

 

 備え付けのモニターから保管室を見てみると、聖遺物は拘束していた装置を破壊して独りでに宙に浮き、不気味にも煌々と光を放っている。

 

「おいおっさん!!一体何が起きてんだよ!!」

「退避だ!!全員部屋から退避しろ!!」

 

 通信機からクリスの声が聞こえてくる。

 モニターを確認するとまだ彼女達が保管室の中に居るのが見え、弦十郎は即座に退避の指示を出す。

 普通なら彼女達ほどの年齢だとこの非常事態にパニックを起こしているかもしれないが、そこは訓練された特殊部隊に所属する者達。

 冷静に、しかし指示された通りに急いで部屋を出る。

 しかし調がある異変に気付きその足を止める。

 

「待って!!響先輩が!!」

 

 そう、この非常事態を前にしても響はその場から動こうとしないのだ。

 

「おい何やってんだよバカ!!早くこっち来い!!」

「響君何をしている!!早く部屋から脱出するんだ!!聞こえないのか響君!!」

 

 クリスや弦十郎の声も無視して、彼女は聖遺物の前に立つ。

 その視線は変わらず聖遺物に向けられたままだ。

 

「聖遺物から発せられている熱量、なおも増大!!先程よりも上がるスピードが早くなっています!!」

「っ…!!いけません!!皆さん今すぐそこ…いや、ここ一帯から離れてください!!ここに居る皆さんもです!!」

「どういう事だエルフナイン君!?」

 

 あおいと朔也からの更なる報告、それが指し示している事をいち早く察したエルフナインが声を荒らげる。

 

「これ以上熱量が上昇してしまうと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最悪ここ一帯がその熱で熔解してしまいます!!!」

 

 

 

 

 

 もはや声にすらならない、絶句という言葉が各々の心にのし掛かる。

 

「あのバカ…って熱っつ!?」

「これじゃ近付くなんて無理デスよ!?」

「響君!!返事をしたまえ!!響君!!!」

 

 最悪の事態を回避する為少女達は響に近付こうとするも、既に室内は生身では容易に居られない程の高熱となっていた。

 迂闊に口を開けば文字通り一瞬で喉を焼かれてしまいそうな程の高熱に少女達の足は自然と室外へ歩みを進めてしまう。

 

「これは…ガ、ガングニールの起動を確認!!こちらも数値が急激に上昇しています!!」

「ガングニールだとぉ!?」

 

 次から次へと舞い込んでくる報告。

 刻々と変化していく状況にS.O.N.Gの面々は翻弄され続ける。

 

「司令!!もう時間がありません!!」

「っ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保管室の扉を閉めろ!!装者達の安全の確保だ!!」

 

 …だからだろうか、普段ならば絶対に出さない非情とも取れる指令を彼が下したのは。

 

「なっ…おいおっさん何してんだよ!?扉を開けろ!!」

「中にまだ響先輩が…!!」

 

 少女達の目の前で扉が閉まる。

 抗議の為に強く扉を叩く少女達だが、無情にも扉のロックが外れる事は無い。

 

「聖遺物の熱量さらに増加!!!もう計測できません!!!」

「いかん!!!皆逃げろおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 限界が来た、そう察した弦十郎は全力で逃げるよう伝える。

 しかし彼等の予測に反しモニターに写る聖遺物はその姿が見えなくなる程の輝きを見せ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、凄まじい衝撃が彼等を襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…皆無事か!?」

 

 衝撃自体は一瞬だった。

 衝撃による揺れの兆候が収まったのを肌で感じた弦十郎はすぐさま全員の安否を確かめる。

 

「――…っさ…!――…おいおっさん!!聞こえねぇのか!?」

「クリス君か!?調君と切歌君は!?」

「こっち…――…2人…――無事です!」

「それよ――…輩は!?響先輩…―無事デ…―!?」

 

 室内の面々は目視で確認し、弦十郎は通信機から聞こえてくる少女達の通信に耳を澄ます。

 ノイズ混じりで正確な音声は聞き取れないが、断片的に聞こえる声から3人とも無事なのだと確認できる。

 

「響君は!?向こうの部屋はどうなっている!?」

「モニター…回復しました!!」

「映像出します!!」

 

 そして、室内に取り残されていた彼女は果たして無事なのか。

 あおいと朔也が高速でコンソールを叩き、保管室内のモニターに映像が写る。

 

「なっ…何だあれは…!?」

 

 そして写し出された映像、それを見た弦十郎は思わずそう声に出してしまった。

 よく見ると他の者達も声には出さないものの、抱いている思いは彼と同じようで、皆写し出されている映像から目を離せない。

 

「おいおっさん!!何で扉を閉めた!?あいつは無事なのかよ!?」

 

 そんな中少女達3人が部屋へと入ってきた。

 1番に室内へと入ってきたクリスは胸倉の代わりに弦十郎のネクタイを引っ張り彼女の安否を問うも、彼等が釘付けとなっているものへ視線を向けるとその先の言葉が続かなくなってしまう。

 

「な、何だよあれ…!?」

 

 調や切歌も同様に声を出せないでいた。

 そう、彼女等が見ているのは少し先の時間で未来が見たものと同じもの。

 つまりはあの黒い謎の物体だ。

 

「し、司令…。」

「どうした!?」

 

 朔也が新たな報告を告げようとする。

 その声は先程の緊迫したものとは違い、明らかに震えの入ったものであった。

 何が彼をそこまで震えさせるのか、それは次に彼の彼の口から告げられた言葉から判明し、それは同時にこの場に居る誰しもの心に刻み込まれる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ちゃんの生命反応…消失(ロスト)しています…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しんと静まり返る室内。

 その言葉に目を見開く者も居れば、彼が何を言ったのか理解していない…いや、理解しようとしない者の姿も。

 起動しているコンピューターの発する最低限の機械音のみが室内に反響する中、一抹の希望を胸にあおいがコンソールへ指を添えて動かし始めるも、次第にその動きは止まっていき、やがて朔也と同じように震えた声で新たに現実を告げる。

 

「ガングニールの反応も同様に消失(ロスト)…室内に彼女の痕跡…発見出来ません…!」

 

 彼女の震えは驚愕から来るものではない。

 受け入れ難い現実を目の当たりにしてしまい、無力感や後悔から来る涙混じりのものであった。

 

「そんな…。」

「嘘…デスよね…?」

「…そ、そうだよな…嘘に決まってるよな…ほら、映画とかでよくあんだろ?実は隠し扉が、とか…な、そうだろおっさん…?」

 

 少女達もあおいが言わんとしている事を理解したが、それでもとクリスは弦十郎に縋り寄る。

 そんな縋り寄られた弦十郎ではあるが、彼もまた表情に影が差しており、彼が今どんな面持をしているのかは1番近くに居るクリスでさえ分からない。

 

「なぁそうだろ…そうだって言ってくれよ…そうだって言えよ!!!嘘だって言ってくれよおっさん!!!」

 

 しかし何も言わずただ黙って俯いている、それだけでも彼が自分達の望む答えを出してはくれないと理解出来てしまう。

 それでもこんな現実は認められないとクリスは弦十郎に掴み掛かる。

 

「あんたが殺したんだ!!!あの時扉を閉めなけりゃ…頼むから嘘だって言ってくれよ!!!じゃなきゃあたしはあんたをぜってぇ許さねぇ!!!」

 

 そう言ってクリスは掴んでいた手を離し、首から下げているペンダントを握り絞め、右手を彼に突き付ける。

 その手に赤き銃身の拳銃を握り締めながら。

 

「っ…!?駄目!!クリス先輩!!」

「先輩駄目デスよ!!そんな事したら…!!」

「お前らは黙ってろ!!!あいつが死んだなんて…何て言や良いんだよ…!!先輩に…マリアに…あいつの家族や学校の奴等にだって…!!何より…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来(あいつ)に何て言えば良いんだよ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚咽混じりに言ったクリスは突き付けていた腕を力無く下げ、そのまま泣きじゃくってしまう。

 調と切歌も彼女の姿に感化されたか、2人寄り添って涙を流している。

 つい先程まで共に笑いあい、共に涙を流し、共に生きてきた仲間が死んだなど、一体どうやって受け止めろというのか。

 ましてやまだ10代半ばの少女達にこんな現実を受け止めろなど、酷以外の何ものでもない。

 

「まだ…死んだと決まった訳じゃない…!」

 

 だからこそ、彼は諦めようとしなかった。

 彼の瞳は、突き付けられた現実を覆そうと燃えていたのだ。

 

「各員に通達、これよりあの正体不明の物体の調査並びに立花 響の捜索を最優先事項とする。絶対に彼女を捜し出すぞ!!!

 

 弦十郎の声が室内に反響する。

 そう、まだ彼女の生存を告げる機械的な反応が無くなっただけ。

 この目で確かめるまでは、彼女が死んだなどと言わせはしない。

 彼の激励に心動かされたS.O.N.G.の面々は今一度彼女の生存を証明すべく各々の作業へと移っていく。

 

「これは俺達…いや、俺が招いてしまった事態だ。全ての責任は俺が背負う。もし彼女の生存が確認されなかった時は…」

 

 そう言って弦十郎はクリスの手を取り、銃口を自身の胸部へと向ける。

 

「君の好きにするんだ…!」

 

 クリスは涙に溢れる瞳をじっと彼に向けている。

 果たしてその引き金を引く事となるかならないか、それは約2時間後S.O.N.G.職員が総力を揚げて謎の物体の調査を進めた時まで持ち越される事となる。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 ―2時間後、S.O.N.G.発令室―

 

「…以上が、事の顛末だ。」

 

 その言葉を最後に、弦十郎からの説明は終わった。

 その場に居る誰もが口を紡ぐ中それ以降の事情を説明すべく、エルフナインが沈黙を破る。

 

「これまでの調査の結果、あの黒い物体はプロメテウスの火から発せられた膨大な熱エネルギーによって生じたものだと判明しました。その熱エネルギーはS.O.N.G.のスーパーコンピューターでも計測が不可能になる程のものです。」

「そんな…それじゃあ響先輩は…!?」

 

 調の表情が蒼白に染まる。

 もしその通りの事が起きたのだとしたら、あの場に居た響は無論無事では済まない。

 

「それ程の熱を耐えきる構造物など、この世界のどこにも存在しません。ですので本来ならその熱量で以て周囲一帯を熔解して、それで全て終わる筈だったんです。」

 

しかし現実には周辺はおろかあの部屋にも何かが熔解した痕跡は一切無く、代わりにあの物体が姿を現した。

あの物体は一体何なのか、立花 響はどうなったのか。

それは現在も調査中だという。

 

「…以上です。」

「以上って…他に何か分かってる事は無いんデスか!?」

「…すまないが、今はこれしか確証のある情報が無い。」

 

 何か朗報の1つでも無いのかと切歌が弦十郎に問いただしてみるも、返ってきた返事は変わらず少女達の心に影を差すものであった。

 

「…なら、確証の無い情報ならあるって事だよな?」

 

 だがクリスは言葉の裏をかき、正確性には欠けるものの彼等が何かしら情報を持っていると読んだ。

 その読みは正しかったようで、エルフナインが慌てた様子で弦十郎に視線を送る。

 すると彼はエルフナインに向かって軽く頷いた。

 秘蔵している情報を話しても良いという事だろう。

 エルフナインはそれでも1度は躊躇う素振りを見せたが、やがて意を決して少女達を見据え口を開く。

 

「これからお話しする事はあくまでも僕の希望的観測に基づく1つの仮説です。それを踏まえて聞いてください。」

 

 前置きを置いた後に語られた仮説、それは実に希望的観測と言うに相応しい荒唐無稽な話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボクはあの物体を、一種のワームホールだと仮定しています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…わーむほーるって何デスか?」

「ワームホールって確か別の空間同士を繋げるっていうあれだろ?何でそんな…?」

 

 エルフナインが語ったワームホール。

 言葉としては知っていても実際に日常生活はおろかS.O.N.G.のような特殊な組織でもそうそう出てくるようなものでは無い。

 そんなものが何故今この場で出てくるのか、その根拠は一体。

 誰もが疑問に思う中、エルフナインは一旦ワームホールの説明を避け、当時の状況について説明を始めた。

 

「ボクがさっき言った事を思い出してください。あの聖遺物から発せられていた熱量は計測も出来ない程のものでした。そんな熱量に耐えられる施設や設備はこの地球上のどこにも存在しません。しかし現実には聖遺物のあったあの部屋でさえも何の被害も被る事なく存在している…普通に考えて有り得ない現象です。」

 

この一連の現象はエルフナインの頭を大いに悩ませた。

有り得ないと説明されるものが今こうして現実のものとなってしまっている。

まるで神様の仕業だと匙を投げたくなる程の非現実的な事情であるが、その時エルフナインは気付いたのだ。

現実的な概念が否定されたのならば、それこそ神様のような空想的な目線で物事を計れば良いのではないかと。

 

「では何故そんな神のような所業が成されたのか、その鍵を握るのは、計測不可能な熱量とその熱源、そして…ガングニールです。」

「ガングニールが…?」

 

 鍵を握るとして出されたキーワード、その内1つは少女達にも馴染みのあるものであった。

 彼女の…立花 響の持つ力が一体あの時何をしたというのか。

 逸る皆の気を抑えつつ、エルフナインは1つずつ説明を始める。

 

「まず熱量に関してなのですが…S.O.N.G.のスーパーコンピューターは世界的に見ても他に類を見ないと言える程の物を使用していまして、概ねこの地上で起こりうるであろう現象に対して計測や演算が出来るようになっています。ですのでこのコンピューターで計測、演算が出来ないとなると、それは正しく()()()()()()()()()だという事が言えます。この事をまず頭に入れておいてください。次に熱源に関してなのですが…。」

 

そう言うとエルフナインは着ている白衣の内側からタブレットPCを取り出しそれを手近なコンソールに接続すると、司令室の巨大モニターにタブレットの画面がそのまま表示される。

 

「これは2時間前に起きた当時の状況をデータ化して算出、その時起きたであろう事をシミュレーションして3Dモデルで再現したものです。」

 

 …この2時間の何処か合間で作ったのだろう、立花 響と名前が貼り付けられた女性用の3Dモデルそのままの姿の前に円柱の3Dモデルそのままの固定台、円形の3Dモデルそのままの聖遺物、果てには背景含めその全てが着色の施されていない初期設定の灰色と、これがごく短時間で作り上げられた力作だというのがありありと見てとれる。

 エルフナイン自身もこの出来映えにはかなり頬を赤らめている。

 

「開始時間はプロメテウスの火からフォニックゲインの上昇が確認された時から始まります。そして開始から約30秒程でボク達はプロメテウスの火から発せられた熱反応を感知しました。その時なんですが…これです、これを見てください。」

 

エルフナインがタブレットを操作し画面を拡大させる。

拡大した箇所は聖遺物を写しており、いち早く未来がその変化に気付く。

 

「プロメテウスの火に色が付いてる…?」

 

そう、3Dモデルで表示されたプロメテウスの火が初期設定の灰色から黄色に変わっているのだ。

エルフナインは少女達4人がそれを認識したのを確認し、解説を続ける。

 

「実はこの時プロメテウスの火からは別の反応が検出されていたんです。調べた所、この反応は物質の燃焼…つまりこの時プロメテウスの火は名前通り火を上げながら燃えていたんです。」

「まさか、それがあの熱を出してた原因…?」

「恐らくは。」

 

尋常ならざる熱源の正体はプロメテウスの火が実際に火をあげて燃えていたから。

熱だけであの熱さなのだ、実際の火は一体どれ程の熱さだったのか。

正直あまり考えたくは無い。

 

「熱の正体は分かったけど…結局あの黒いやつの正体はなんなの?」

「アタシにはチンプンカンプンデ~ス…。」

「…まぁとにかく、問題は何でそんなワームホール()が空いたか、だろ?」

「はい。そしてその問題を解決するのが、ガングニールなんです。」

 

 エルフナインの言葉に改めて皆の注意が彼女に向く。

 何せ話の主題がかの少女が持つ撃槍、ガングニールが主体となるのだから。

 

「プロメテウスの火が暴走を初めてからしばらくして、響さんのガングニールも何らかの要因で起動を始めたんです。少し時間を進めて…ここですね、これがちょうどその時の状況です。」

 

 エルフナインが再びタブレットを操作すると、3Dモデルによる映像が流れる。

特に見栄えの無い映像が流れ、やがて時間の流れを表すタイマーの動きが止まる。

映像が終わったという事なのだろうが、特に変わった所は無かった。

何も分からないではないかと皆がエルフナインに問おうとしたが、彼女はそれを遮るように口を開き新たに説明を始める。

 

「見ての通り()()()()から見た状況はこのようになっていますす。」

「こちら側…?」

 

 エルフナインの言うこちら側というのは、響の背面を写し出している視点、つまり当時の状況で言えば弦十郎達の居た別室側であり、またクリス達が聖遺物の熱によって下がっていった時の視点でもある。

 

「先程の状況を今度は別の視点から見てみましょう。そうすると…。」

 

 エルフナインの操作によって視点が切り替わる。

 エルフナインが定めた視点は響達が視線を向けていた方向を正面とし、部屋そのものを横から見た図。

 そこから当時の状況を見てみると…。

 

「これは…!?」

「何かみょーんって伸びてるデス!」

 

 不思議な事に爆発とは別の色…ガングニールと名付けられたオレンジ色の角錐が響の身体からプロメテウスの火に向かって伸びていたのだ。

これは一体何なのか、皆の抱く疑問を余所にエルフナインは別の事情を口にする。

 

「皆さんはあの時一瞬だけ強い衝撃が発生したのを覚えていますか?」

「あぁ。そういやあれは何だったんだ?何かが爆発したみたいな感じだったが…?」

 

確かにエルフナインの言う通り一瞬だが爆発の衝撃のようなものが襲ってきた。

状況が状況故に身構えていなかったとはいえ、それでもかなりの距離を身体ごと吹き飛ばされたものだ。

思えばあれは一体何だったのだろうか。

 

「その通りです、あの時確かにあの部屋では強い衝撃が発生していました。」

 

どうやらあの時本当に衝撃が発生したらしいのだが、その疑問にエルフナインはまたもそれは一旦置いておくと言って別の話を振る。

 

「少し話は逸れますが…皆さんは炉心溶融(メルトダウン)というものを知っていますか?」

「メルトダウン…?」

「カッコ良い名前デスね。」

「えっと…原子力発電で起こりうる事故災害なんですが…。」

「…あぁあれか!あのニュースとかでたまに取り上げられてる…!」

 

4人の反応が今一パッとしないものだったので意外と知られていない事なのかと焦りを見せたエルフナインであったが、何とか理解を示してもらえた事に内心ほっと一息吐く。

 

「それです。そして響さんから伸びているこれなんですが、これは恐らくガングニールから発せられた純粋なエネルギー反応です。」

 

これで素材は揃った。

後は分かるよう説明をするだけだとエルフナインは1度深呼吸をすると、まず結論からだと声に出して言う。

 

「人智を超越した熱量、その熱を発する聖遺物、そしてガングニール。この3つの要素が炉心溶融(メルトダウン)に類似した現象によって重なった事により、あのワームホールが形成されたのではとボクは考えています。」

 

よし、まずは結論を告げた。

ここから如何に噛み砕いて説明が出来るかが腕(頭?)の見せ所だと意気込むエルフナインであったが…。

 

「…ちんぷん。」

「…カンプン。」

「…デ~ス。」

「じ、順を追って説明しますから…。」

 

既にお前は何を言っているんだと言いたげな表情を見せる少女が3人。

未来も3人のように露骨に表現はしていないが、それでも纏う雰囲気は困惑の一色に染まっている。

いけない、このままではいずれ全員知恵熱で倒れる事態に成りかねない。

こういった話になるといつも無意識にも自分中心に考えて回りの人を振り回してしまう。

 

「この話を聞くに当たりまして、まず皆さんの持つ固定観念を一度捨てる必要があります。錬金術師(アルケミスト)であるボクがこう言うのもなんですが…この話を説明するのに必要なのは“空想観念”と“希望的観測”ですので。」

 

自身の悪い癖を再認識しながら、エルフナインはさらりととんでもない前置きをしてからいよいよこの話の根幹へと口を開く。

 

「まず炉心溶融(メルトダウン)の仕組みなのですが…

そもそも原子力発電というのは核燃料を燃やして水を沸かし、その蒸気でタービンという発電機を回して電気を得る発電方法です。もっと簡単に言うと水の入った容器の中に何本もの熱い鉄の棒を入れて湯を沸かし、その蒸気で発電しているような感じです。」

「な、なんか理科の授業が始まったデェス…。」

「切ちゃん、我慢。」

 

それに伴いどうしても理系の話となってしまい、日々を感覚で生きている自称常識人が早くも音を上げそうになる。

しかし相方に諭されてしまってはと、切歌は何とか理解をしようと努める。

そのやり取りを見届けたエルフナインはでは改めて、と言って続きを話し始める。

 

「そして炉心溶融(メルトダウン)というのは何らかの要因によって冷却が行われず異常な高温状態となった核燃料に炉心が耐えきれず熔けて壊れてしまう事を言います。先程の例で言うと容器の中に入れた棒が熱すぎて勢い余って容器そのものを溶かして穴を開けてしまった、といった所ですね。」

「はぁ…ん、まぁ何となく分かった。」

「…全然分かんないデス。」

「…後でじっくり教えてやるよ。で、そのメルトダウンがどうして今回の事に関わってるってんだ?」

「要はあの時この炉心溶融(メルトダウン)と同じ事があの場所で起きたのだとボクは思っているんです。そしてここで言う核燃料というのがあの聖遺物であり、炉心というのが…()()()()()()()()なんです。」

「おぅ…ここで来たか、その固定観念を捨てろっていうのが…。」

 

最後に発せられた言葉を聞いたクリスの表情が若干ひきつる。

言われはしたものの、実際にそう考えろというのはやはり難しいのだろう。

しかしここで納得と想像をしてもらわなければ先へ進めない。

彼女達には申し訳無いが、今暫く付き合って貰おうとエルフナインはそのまま説明を続ける。

 

「はい。そしてここで1つ訂正をします。先程核燃料を聖遺物だと言いましたが、もう1つその核燃料を構成するものがあるんです。それがあのモデルの中で響さんの身体から伸びていた角錐…ガングニールから発せられていたエネルギーです。」

「ガングニールのエネルギー…?」

 

再び声に出された聞き慣れた単語。

ここぞとばかりに食い付く少女達の勢いに負けないようにとエルフナインも説明に一層力を込める。

 

「鉄の棒を熱くする為にはそうする為の熱源が必要…つまりここで言う熱源というのが聖遺物であり、鉄の棒そのものがガングニールのエネルギー、合わせて核燃料という例えという事です。」

「…読めてきた。」

 

そこまで説明を終えると、クリスが小さく呟いた。

クリスは自分の中で組み立てられた仮説が正しいかを証明する為にエルフナインの説明を遮って自身の意見を主張する。

 

「つまりだ、メルトダウンは何かの原因で冷やせなかった燃料が容器を溶かして起こるものなんだろ?で、ここで言う冷やせなかった燃料っていうのが…。」

「はい、あの聖遺物の事です。」

「んでもってそこにガングニールのエネルギーがぶつかって…。」

「容器であるこの世界に穴が開いた。」

 

あの時皆が感じた衝撃というのはその穴が開いた際の反動なのだろう、と補足を付けてエルフナインは一先ず説明を終えた。

エルフナインは静かに皆の顔色を伺う。

クリスは自身の仮説が正しかったと僅かに笑みを溢していたが、直ぐ様その表情を引き締める。

本当に大事な事はそこでは無いという事を忘れていない。

一方未来や調は未だ思う所があるのか表情が固い。

切歌は…言わずもがなである。

 

「…よく分かんないデスけど、それって本当に出来る事なんデスかね?」

「言ったろ?固定観念を捨てろって。あの聖遺物の熱量はあたしらの想像の範疇を超えた代物なんだ、一々口で説明出来るもんじゃ無いんだろうよ。」

「…でもそれほどの熱量だったのなら、その…ガングニールから出たっていうエネルギーも熔けちゃうんじゃ…。」

 

そう言った未来の言葉にクリスはまた固定観念を捨てろと言おうとしたが、それならば未来の言っている事も正しい可能性があると肯定する事になる。

どう納得させるべきかクリスは悩むが、その疑問にはエルフナインが答える事となった。

 

「確かに未来さんの言う事にも一理あります。そこはそれこそボク達の希望的観測に従うしかありませんが…それに基づく形でなら無理矢理ですが証明する事が出来なくもないです。」

「どんな…?」

 

これまで捻りに捻くれた話から一転して納得のいく説明が出来ると豪語したエルフナイン。

当然ながら皆彼女の言葉に一層耳を傾ける。

そしてエルフナインはこれまでの長ったらしい話とは打って変わってとても短く話を纏め挙げた。

 

 

 

 

 

「皆さん思い出してください、ガングニールの特性を。」

 

 

 

 

 

「ガングニールの特性って…。」

「確か、エネルギーベクトルの操作…。」

 

 そう、ガングニールの特性はエネルギーベクトルの操作。

 あらゆるエネルギー概念の流動を自在に操作できる。

 

「そうです。プロメテウスの火から発せられていた熱エネルギーも想像の範疇を超えた代物ではありますが、そもそも皆さんの持つ聖遺物も人智を超越した代物です。

ガングニールならば“エネルギーが熔ける”という流れも操作が可能かもしれません。そして空間に穴が開いたのだとしたら、ワームホールの法則に従えばきっとその先の空間があると思われます。つまり…。」

「響はそこに居る…!」

 

 エルフナインの説明を遮る勢いで未来が口を開く。

 未来だけじゃない、ようやく彼女の生存という希望の光が見えたのだと少女達の心は浮き足立っていたのだ。

 しかし…。

 

「ですが…もしボクの仮説が正しかったとしても、響さんが無事だという保証は出来ません…。」

「…何でだよ?」

 

 その感動に釘を刺すようなエルフナインの一言。

 思わず刺のある声色で聞き返すクリスであったが、エルフナインの苦々しい表情を見てすぐに後悔の念が押し寄せる。

 

「まず響さんはあの時生身の状態でした。直前にガングニールが起動したとはいえ、計測不能の熱量を発していた聖遺物の近くに居て、さらに空間という概念を穿ち開いたワームホールの吸引。この2つの障害を前にして、果たして響さんの身体が持ちこたえられるのかどうか…。それにワームホール自体未だ解明されていない未知の現象です。ワームホールを通った先がどうなっているのかはそれこそ検討の仕様がありません。ワームホールを通った先に何かしら世界や空間があるという事さえ、ボク達の希望的観測に過ぎないのですから…。」

 

 そう、あらゆる分野で自分達よりも遥かに膨大な知識を得ているエルフナインでさえ今回の件は未知の領域なのだ。

 それも大切な仲間の命が掛かっているにも関わらず未だ少しの解明にも至っていないとなれば、彼女にしか分からぬ募りというものもある。

 その思いが果たして自分達に理解出来るものか。

 そしてそれは、普段自分達を引っ張ってくれている大人達も然りだ。

 

「…すまない未来君、これは俺のミスだ。どれだけ謝罪の言葉を綴ったとしても、どんな贖罪をしたとしても、償いきれる事じゃない。だからもしもの事があったその時にはクリス君…いや、皆共々好きにして良い…。」

「私は…。」

 

 事の成り行きを見守っていた弦十郎の言葉に未来は俯く。

 幼い頃から常に寄り添い、家族同然に生きてきた2人の心はお互いがお互いの存在に大きく支えられている。

 そんなお互いに半身とも言える存在が、運命の悪戯によって引き裂かれてしまった。

 また会える、そんな甘い言葉は許さないとでも言うような現実を突き付けながら。

 好きにして良いなどと言いはしたが、彼女の胸中に渦巻く思いは、きっとそんな程度の事では晴れるものでは無いだろう。

 そしてそれは回りに居る全ての者達にも同様に言える事だろう。

 弦十郎は皆からのどんな仕打ちも受け入れるつもりだった。

 そんな彼に未来が向けたものは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は…響の事を信じてます…S.O.N.G.の皆さんの事も…だから…!!」

 

 涙に溢れながらも、決して希望を捨てない強い眼差しであった。

 突き付けられた現実に抗う術が無く、ただ涙を流す事しか出来ない。

 それでも諦めたくはない、彼女がまたいつも通りに皆の前に現れる事を信じている。

 それを叶えてくれるのは、目の前に居る大人達しか居ない。

 

「あぁ、必ず期待に応えてみせる…!!」

 

 彼女の切実な思いを受けた弦十郎は彼女の肩に手を乗せ、しっかりと頷く。

 彼女の…皆の期待に応えるべく、それが大人のやる事だと。

 その後調査が続く中少女達には自室待機が命じられたが、その命令に従う者は1人としていなかった。

 ある者は待機室でじっと待ち、ある者は相応の事態に備えて訓練室へと向かい、そしてある者は少女の無事を、ただ祈り続けていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこかの国、どこかの街。

 深夜と呼ぶにはまだ早いが、辺りはすっかり暗くなったこの時間。

 1件の宿屋にある青年が帰ってきた。

 

「ただいま。」

「おかえりなさい。あら?その子は…?」

 

 その宿屋の宿主である女性が出迎えるも、青年が背負っている人物を見て首を傾げる。

 

「帰り際にちょっと。こんな時間だから医者はどこも空いてなくて…今夜はここで彼女を寝かせたいんですが…。」

「なら2階に1部屋空いてるわよ、1番奥ね。」

「ありがとうございます。すみません急に…。」

「良いのよ、それよりもその子を…。」

「えぇ。」

 

 事情を理解した女性は快く引き受け、青年を中へと通す。

 青年は承諾をしてくれた女性に礼を言うと2階へと続く階段を上がっていく。

 背に背負っている少女や他の利用客を起こさないよう、慎重に。

 大人達は、少女達は、そして青年はまだ知らない。

 今この出会いこそが新たな物語の運命が交差した瞬間だという事を。

 青年の背に眠る少女…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女の名は、立花 響という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・翼マリ

→海外主張中です


・逃げろと指示するよりも大きな声で言う「ガングニールだとぉ!?」

→シンフォの肝だからね、しょうがないね


・ギアも纏わずに拳銃引っ提げるクリスちゃん

→サブマシンガンまで出したんだ、拳銃くらい訳無い筈だ!…ぶ、部分展開的な事も出来る筈だ…!(この作品は作者の多大な妄想が8割を占めています)


・メルトダウンの説明

→合ってるかどうか?そんな事、俺が知るか!(電気バリバリ)


・ラストに出てきた青年達

→やっと出てきました


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第2話「目覚-Variante-」

今日は久々に雪道の脅威に晒された…。
皆さんもこの時期はどうかお気をつけを。



「ん…。」

 

 暗闇の視界に光が差し込む。

 閉じられし瞼を開き、眠りから目覚めよと優しく促すその光に釣られ、少女…立花 響は目を覚ます。

 目覚めの本能に従い目を開けたものの、意識はもやが掛かったように不明瞭であり、響はそのまま天井を見上げる。

 はて、この身体を蝕む怠惰感と朦朧とした意識は一体何だろうか、眠りに着く前までは一体何をしていただろうか。

 記憶を探ろうにも思考が纏まらず、それどころか上手く機能しない脳内情報を酷使しすぎたせいか頭がズキズキと痛む。

 それでも少しずつ時間を掛け続けながら模索していると、不意に全ての出来事が脳裏に鮮明に甦った。

 

「(そうだ、皆は!?)」

 

 身に起きた出来事を思い出した彼女の意識は急速に明朗になり、急いで身体を起こそうとするも…。

 

「痛っ!?痛った~…!!」

 

 全身に鋭い痛みが走り、彼女は起こした上体をそのまま力無く横たわらせる。

 すると全身を包み込むような柔らかさを感じ取り、違和感を覚えた響は近辺の状況を確認するべく視線を動かす。

 見ると、今自分が横になっている場所はベッドの上だった。

 人が寝るのにベッドは当たり前だと言われてしまえばそうなのだが、そのベッドはいつも彼女が寝ている部屋の物とも、不足の事態や検診などで世話になる事のあるS.O.N.G.備え付けの物でも無かったのだ。

 

「ここは…?」

 

 今自分が身体を寝かせているベッドが馴染みのあるベッドで無い事を理解した響は次いで他の場所へと視線を向ける。

 まずは天井、視線の先に見える限りでは特殊な加工もされていない完全な木造建築であり、近代化が進むこのご時世にとってはかなり珍しい造りだ。

 次に左へ視線を向けると格子で囲われた窓から光が差し込んでいるのが見えた。

 どうやら寝起きを促してくれた光はここから差し込んだ日の光のようで、今も自分の身体を優しく照らしてくれている。

 そう思うとベッドから伝わってくる布団の温かさについ思考を奪われてしまう。

 正直な話、二度寝するには好条件な事この上無い。

 思わぬ寝心地の良さに目蓋がとろんと微睡んでいくのを感じた響は首を振って必死に眠気と抗う。

 このままでは冗談抜きに再び寝入ってしまいそうだと響はまだ視界に納めていない右側の光景を目にするべく、痛む身体を動かして寝返りを打つと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 距離にしておよそ20㎝程、こちらをじっと見つめる子供の顔が。

 超が付く程の至近距離に突然現れたそれに反応が追い付かず数秒間が空いたが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁびっくりしたぁ!!」

 

 やがてありきたりなリアクションと共に響はその場から飛び退く。

 文字通り鞭打つ勢いで身体を酷使したせいでまたも全身に強烈な痛みが走り、彼女はそれに苦悶の表情を浮かべるも…。

 

「あ…。」

 

 先程目の前に居た子供に視線をやると、その子供は一瞬先の自分と同じように驚いた顔をしていたが、やがてその表情が歪みに歪み、瞳に沢山の涙が溢れ返ったかと思うと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぇぇぇぇぇん…!!」

 

 ご覧の通り、泣き出してしまった。

 

「あわわ…ご、ごめんね急に大きな声出しちゃって…ってどうしよう全然泣き止んでくれないよ~!?」

 

 響は必死に子供をあやそうとするも、一向に泣き止む様子は無い。

 どうしたものかと彼女が頭を悩ませていたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたロベルト、何かあったのか?」

 

 子供の背後にある扉から1人の青年が部屋へと入ってきた。

 部屋へと入ってきた青年を視界に捉えたその瞬間、響はその青年の姿に目を奪われる事となる。

 上部へ幾つも逆立つ、1つの混じり気の無い赤色。

 その青年は炎だった、そう比喩出来る位に特徴的な髪だ。

 それに加えて白と黒のツートーンカラーのコートを着用しており、かなり珍しい見た目をしている。

 しかし不思議と似合わないといった印象を受ける事は全く無く、むしろそこらに居る人が着ている服と何ら変わらないと言える程に自然な印象を受ける。

 そんな不思議な風貌の青年は一度響と少年を交互に見ると小さく溜め息を吐き、少年と視線が合うように屈む。

 

「ロベルト、そんなに泣くんじゃない。ほら、下にヒメナさんが居るから…。」

 

 青年に論された少年はぐずりながらも頷き、そのまま部屋を出ていく。

 それを見届けた青年は改めて視線を響の方へ向け、今度は彼女に話し掛ける。

 

「すまない、弟が迷惑を掛けたみたいで…。」

「い、いえそんな!私がびっくりして大きな声出しちゃったからで…。」

 

 青年は謝罪の言葉を掛けるが、あの少年を泣かせてしまったのは自分の方だ。

 そのように響が主張をすると、青年は申し訳なさそうに笑みを浮かべ、そのままベッドの横に置いてあった椅子へと座る。

 

「目は覚めたみたいだが…体の具合は?」

「あ、ご心配無く!全然大丈夫で…。」

 

 響は青年を心配させまいと気丈に振る舞おうとして腕を大きく上げると…。

 

痛ぃっ!!??…た…いぃぃぃ…!!」

「…大丈夫では無さそうだな。」

 

 その瞬間信じられないような痛みが響を襲い、彼女の目尻に涙を浮かばせる。

 その様子を苦笑混じりに見た青年は彼女の肩と背に優しく手を掛け、そのままベッドへ寝かせる。

 

「まだ横になっていた方が良い、何かあったら呼んでくれ。」

 

 気を使わせてしまったのだろう、青年はそれじゃあと言い残して部屋を退出していった。

 青年が部屋を出るのを見届けた響はそのまま先程見れなかった部屋の右側を確認する。

 しかしそこには先程青年が座っていた木で出来た椅子と簡素な化粧台、その向こう側に部屋への出入りの為の扉が付いているだけであった。

 他には何かないのかともう一度辺りを見回してみるも、やはりそれ以上の発見は無かった。

 娯楽の類は勿論の事、生活を補助する便利グッズの1つや2つ置いても良いのではないかと思わず思ってしまう位に非常に物が無い部屋である。

 そう考えていると、不意にある事に気付き響はもう一度辺りを見回し、それが無いと知るや愕然とする。

 何とこの部屋、時計さえも無い。

 さて、今このご時世に時計無しで暮らせる人が果たしてどれだけ居るのであろうか。

 どこぞの防人のように自らの振舞いに枷でも付けている者達に世話になっているという事なのか、それとも単に使われていない部屋を提供されただけなのか、はたまた本当に類稀な者達に世話になっているのか、真相は如何に。

 しかしながら今現在窓から差し込んでいる光は朝日か昼間の日の光のそれであると同時に、S.O.N.G.本部に居た時は既に17時は回っていた筈。

 冬の時期で17時以降といえばもう日が落ちて辺りは暗くなっている。

 となれば今の時間帯は少なくともあれから半日以上の時間が経過している事になる。

 どうやら想像以上に長い時間眠っていたようだと理解した響は先程考想していた中で出てきた防人という単語から思い出し懸念してい事態を確認する為、痛みを堪えながら右手を首元まで持っていく。

 

「良かった…ギアはちゃんとある。」

 

 首元に掛かる紐を手繰り、目的の物がちゃんと着いていた事を確認した響はほっと一息吐く。

 身辺の状況を確認するとなればまずこれから始めなければならない。

 これを無くしたとなれば一大事どころの騒ぎではないからだ。

 他にも通信機や自身の携帯など確認したい物は沢山あるが、それは身体の痛みが無くなってからでも遅くは無い筈。

 一先ずの懸念を解消した響は次いで現状と、本部に居た時の状況を改めて整理し始める。

 まず先程の青年だが、自分は彼の姿をS.O.N.G.本部で見た事は無い。

 見た目からしてもS.O.N.G.の者では無いであろう事から、自分は今何らかの理由で弦十郎達の直接の保護環境に居る訳では無いという事が分かる。

 ではあの時一体何があったのだろうか?

 思い出そうとしても脳裏に浮かぶのは保管室で仲間達と歌を歌った事、実験終了後も聖遺物から離れたくないと強く思った事、そして初めてあの聖遺物を見た時から脳裏にちらつくあの光景、それ以外に記憶している事は無い。

 当時の状況を考察しようにもあまり成果が出ないという事を理解した響は一旦その議題を置き、思考を先程の青年へと向ける。

 

「不思議な人だったな…。」

 

 それは見た目の印象だけでは無い、彼本人の印象から来る感想であった。

 街中ですれ違う人達とも、仲間やS.O.N.G.の面々とも全く違う雰囲気を纏っていたような気がする。

 上手く言葉では言い表せないが、まるで存在そのものが別の次元だと言いたくなるような気持ちに駆られるのだ。

 それに、彼から感じ取った事はそれだけでは無い。

 

「初めて会った筈、だよね…?」

 

 当然ながらと言うのは失礼かもしれないが、過去にあのような不思議な見た目と雰囲気を纏う者と関わったのならばそう簡単に忘れる事は無い筈。

 そう、彼とは初対面の筈なのだ。

 なのに彼の姿を目にした時響が1番最初に感じた印象、それは何故か“懐かしさ”だったのだ。

 まるで長い時を掛けてようやく出会えたかのような…。

 顔も名前も知らない人物にこんな感情を抱くなど、どうかしている。

 目覚めるまでの間に頭でも打ったのだろうか?

 そんな事を考えていると響は不意にある事に気付き、あっと呆けた声を出す。

 

「名前聞くの忘れてた…。」

 

 そういえばお互い名前も聞かずに別れてしまったと今更ながら気付いたが、それは後で聞ける事だろうと響は瞼を閉じる。

 ろくに身体を動かせない以上、出来る事は少ない。

 身体の回復、皆と自分の置かれている現状の把握、青年の事…。

 考える事は多いが、今は無理に何回も身体を動かしたせいか疲労が溜まっている。

 とりあえず今は身体を休めよう、果報は寝て待てとも言うではないか。

 そう誰に聞かせるでもない事を思いながら、響は迫る眠気に抗う事無く再度深い眠りへと落ちていった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 響が再び目を覚ましたのは夕方になってからだ。

 窓から差し込む光がオレンジ色へ変わり、室内を穏やかに照らす。

 先程目を覚ました時が朝か昼かは分からぬが、どちらにせよまた長い時間眠っていた事には違いない。

 

「どうしようかな…。」

 

 さて目を覚ましたは良いものの、特にする事が無い。

 いやあるにはあるのだがまだ身体の節々が痛み、十全に動けるとは言い難い。

 付近に時間を潰せるような物も無い以上、やる事が無いのだ。

 

「そうだ、えっと…すみませーん!

 

 三度寝でもするかと呑気な考えも出たが、不意にあの青年の事を思い出し、響は部屋の外に聞こえるよう大きな声を上げる。

 数秒待つも返事が返ってくる様子が無く、誰も居ないのかと思っていると、扉の外から駆け足でこちらの部屋へ向かってくる足音が聞こえ、やがて扉が開かれる。

 

「ごめんなさい待たせちゃって!呼んだかしら?」

 

 部屋へ入ってきたのは先程の青年ではなく、大人の女性であった。

 女性は響の様子を見てとりあえず急ぎの用事では無さそうだと判断したのか優しい笑みを浮かべ、ベッドの横に備わっている椅子へと座る。

 

「ごめんなさいね、夕食を作っていた最中だったから…」

「あ、そうだったんですか!すみません、私もその…呼んだには呼んだんですけど、特にこれといった用事があるとかじゃなくて…。」

 

 夕食を作っていたと言われてしまった手前、単に暇だったから呼んだと素直には言えず何と答えたら良いものかと焦る響を見て、女性は率先して響に話し掛ける。

 

「身体の具合はどう?まだ痛む?」

「えっと…そうですね、まだ歩き回るにはちょっと…。」

「そう…大丈夫、ゆっくりしてて良いからね。」

 

 女性の気遣いに感謝の気持ちが溢れる。

 自身にとって覚えの無い場所に1人だけで居るというのは必要以上に心細くなるもの。

 たとえ見知らぬ人でも、そのような状況で温かな言葉を掛けるのというのは、相手の心に安らぎをもたらすのだ。

 折角会えたこの縁、先程の青年の時のようにここで会話を終わらせる訳にはいかないと、今度は響の方から話を持ち掛ける。

 

「あ…私、立花 響って言います。あの…出来れば貴女のお名前を聞きたいなぁ、なんて…。」

 

 何とか会話を繋げようとする響の必死さに女性は思わず笑みを溢すも、会話を続けるのはこちらも歓迎だと同様に名を名乗る。

 

「タチバナ・ヒビキちゃんね?私の名前は“ヒメナ・ルイス”、よろしくね。」

「はい!よろしくお願いします、ヒメナさん!」

 

 見た目から何となく察していたが、やはり彼女…ヒメナは外国人だった。

 それでいて遜色の無い流暢な日本語を話すギャップに驚きながらも、ようやく今現在周囲に居る者との良識的なコンタクトに成功したと響の心は喜びに満ち溢れる。

 

「良かったわ、レオンが貴女を運んできた時は心配したけれど…見た感じ身体の回復を待てば問題無さそうね。」

「レオン…?」

「えぇ、貴女をここまで運んできたのは彼…って、もしかしてレオンからまだ何も聞いてない?」

「はい。あの…レオンさんってもしかして赤い髪の男の人ですか?」

 

 会話の中で聞き慣れぬ人物の名が出て響は一旦首を傾げるも、今まで出会った人の中で名前が判明していないのはあの青年だけ。

 もしやと思いヒメナに訪ねると、彼女はあの子ったら…と溜め息を吐きながら響の問いに答える。

 

「そうよ。“レオン・ルイス”、それが彼の名前よ。」

「レオン…ルイスさん…。」

 

 レオン・ルイス。

 かつて出会った事があるかもしれないと感じていた相手の名前が分かりその名を反芻してみるも、やはりピンと来るものは無く、かといってこの既視感が消え去る事は無い。

 この正体不明の既視感は一体何なのだとヒメナを置いてうんうん唸る響だったが、突然ヒメナがある事を思い出し手を軽く叩く音に思考が中断される。

 

「そうだ!夕食を作っていた最中だった!タチバナちゃん、まだ少し時間が掛かるけど、夕食が出来上がったら食べられそう?」

 

 ヒメナから夕食のお誘いが掛かると、響はキラキラと絵に描いたように目を輝かせる。

 立花 響、17歳。

 誕生日は9月13日で血液型はO型。

 趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯。

 もう1度言う、好きなものはご飯&ご飯だ。

 思えば15時のおやつもそこそこに本部に呼び出された。

 正直いつ腹の中に居る獣が雄叫びを上げてもおかしくない。

 今の響にとってその誘いはたとえこの身体にどれだけの痛みが襲い掛かろうとも構わぬとベッドから這い出てでもありつきたいものなのだ。

 

「はい、是非!!あ、あとすみません…私、名前の方が響でして…。」

「そうなの?ごめんなさい、勘違いしちゃったみたいで…!」

「いえそんな、こちらこそすみません!そうですよね、ヒメナさん見た感じ外国の人みたいですからファーストネームで言った方が良かったですよね!いや~うっかりうっかり…。」

 

 全力で了承の返事を返すと共に名前の訂正を希望した響はヒメナが外国人である事を考慮すべきだったとしばらく笑っていたが、響のある一言に興味を示したヒメナの言葉に表情が固まる事になる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外国…?あら、もしかしてヒビキちゃん“ヴァリアンテ”以外の国から来たの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…ヴァリアンテ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「はぁ…参ったなぁ…。」

 

 ヒメナが夕食作りを再開すると言って部屋を出てからも変わらずベッドで横になっている響は1人深い溜め息を吐く。

 

 ―ヴァリアンテ?―

 

 この国の名前だとヒメナは答えた。

 

 ―え、ヴァリアンテってあのヴァリアンテですか?―

 

 具体的にどのヴァリアンテだと逆に質問された。

 

 ―えーっとぉ…この前私達が…って言っても分かんないだろうし…そうだ!この前革命運動が行われたっていう…!―

 

 ここ最近、というかこれまでの人生の間で革命運動なぞ行われた事は無いと返された。

 

 ―あ、あれ?おかしいな…えっとぉ…そうだ、輸出大国!アメリカとか世界のいろんな国に資源を提供しているっていう…!―

 

 政治的な事はよく分からないがアメリカという国は聞いた事が無いと話した。

 

 ―へ!?ア、アメリカを知らない!?じ、じゃあ中国は!?フランスは!?イギリスは!?―

 

 少なくとも私は聞いた事は無いと告げられた。

 

 ―…日本は?―

 

 それも聞いた事が無いと言われた。

 

 ―…ここ何処ですか?―

 

 ヴァリアンテ王国の城下町、サンタ・バルドにある民宿よと事細かに説明してくれた。

 

 あの質問攻めにはヒメナも少々困惑の色を示していた、次に会った時には謝らなければ。

 それよりも改めて現状を整理しよう。

 地名的にはここは先日自分達が革命軍と戦ったあのヴァリアンテ王国であり、日本では無い。

 そしてヴァリアンテに関してだが、何故か革命軍との戦闘はおろか諸外国に関しての情報が文字通り消えてなくなっている。

 把握完了、さっぱり分からない。

 ちょっと日本で…恐らく事故であろう事態に巻き込まれてしまっただけなのに何故こんな訳の分からない事になってしまったのか。

 日本で起きた事を頭に思い浮かべていると、そういえば身辺の確認がまだ途中だったと着ている服のポケットを探る。

 幸い何度も寝ていたからか少しは身体が動かせるようになっており、着ている服も変えられた様子は無い。

 その証拠にポケットの中には当時入れていた物がそのまま残っており、響はそのままポケットから自身の携帯とS.O.N.G.の通信機を取り出した。

 誰か知人と連絡が取れないか試してみるも、どちらも音沙汰無し。

 というか携帯に関しては画面にヒビが入っており、電源さえも付かない始末。

 壊れているのは明白だ。

 

「私、久々に呪われてるかも…。」

 

 思わず1年程前まで口癖だった言葉を呟く響。

 今を前向きに生きようとするには相応しくないと自然に言わなくなった言葉だが、今回ばかりは許してほしい。

 そう日本に居る友人知人に謝罪の念を送っていると、部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。

 

「すまない、起きてるか?」

 

 それと共に聞こえる男性の声。

 恐らく朝か昼かの時間にやってきた青年、レオンだろう。

 ヒメナから聞いた限りでは彼が自分をここまで運んでくれたらしい。

 そんな彼ならばここに運ばれるまで眠っていた間に何があったのか知っている筈。

 彼と会話が出来るチャンスだ。

 

「はい、起きてますよ。」

「夕飯を持ってきたんだが、入っても良いか?」

「あ、どうぞどうぞ。」

 

 世話になっている身としては少し返事がフランク過ぎただろうか。

 まぁ人と固く接するのは性に合わないし今更だ、気にしないでおこう。

 そんなしょうもない事を考えている間にドアがゆっくりと開く。

 

「失礼するよ。」

 

 部屋に入ってきたのはやはりあの青年、レオンであった。

 お盆を持って部屋に入ってきたレオンはそのままベッド横の椅子へと座り、響の様子を見る。

 

「…とりあえず身体の方は大丈夫そうだな。」

「はい!まだ動き回るのは難しいですけど、明日になったら絶対良くなってますよ!」

 

 まだ痛むであろうに自ら上体を起こしてまで答える響の献身的な姿に対し、僅かに微笑みを見せるレオン。

 するとレオンは持っていたお盆を化粧台の上に置き、その上に乗っていた大きめのお椀とスプーンを手に取る。

 

「一応怪我人だからな、すまないが食べさせやすいようにとお粥なんだが…。」

 

 レオンがお椀の中からお粥を掬い息を吹き掛ける。

 お粥からは白い湯気が出ており、それが温かな料理だと証明している。

 

「いえいえそんなお構い無く…ん?食べさせやすいように…?」

 

 目の前の料理を食するのを心待ちにする響であったが、ふとレオンが言った言葉が脳裏に過る。

 それと同時にレオンはスプーンを響の口元まで持っていき…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、あーん。」

 

 そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いぃ!?いやいやいやいややっぱりお構い有りましたぁ!!大丈夫ですよ自分で食べられますから!!」

 

 しばらくポカンとしていた響だったが、やがて顔を赤らめ、自分で食べると拒否をする。

 まだ出会ってから少ししか共に居ない、それも男性にご飯を食べさせてもらうなど恥ずかしくてしょうがないのだ。

 

「そんな事言ってもまだ身体が痛むだろう?無理をしない方が良い。」

「そ、そんな事ありませんよ!!平気へっちゃr痛てて…平気、へっちゃらです!!」

「…駄目だ、今無理に身体を動かしたら治りが悪くなる。今日は大人しくしてるんだ。」

「バレた…うぅ…致仕方無しかぁ…。」

 

しかしレオンの強行には敵わず、観念した響は火照る頬に手を当て悶えるものの、やがて目を閉じ意を決して口を開ける。

 

「じゃあ…あーん…。」

 

口を開けた響にレオンは器用にお粥を食べさせる。

響はそのままお粥を咀嚼し飲み込むと、閉じていた目をぱっと開き、感嘆の声を上げる。

 

「あ…美味しい!」

「普通のお粥じゃ何だと、ヒメナさんが色々気を効かせたんだろうな。ほら、まだ食べるだろう?」

「はい、食べます!…けどやっぱりそうなっちゃうんですね…。」

 

 お粥の思わぬ美味しさに舌鼓を打つ響だったが、やはり食べさせてもらうという形式は変わらないと知って再び頬を赤く染める。

 そのまま食事を終えるとしばらく取り留めの無い会話を続ける事になったものの、その中で響は一向に知りたいと思っている話題へ話を振れていなかった。

 と言うのもここまで話して分かった事だが目の前に居るこの青年、そこまで口数の多い人物では無い。

 じゃあ口下手なのかと言えばそれも違う。

 会話に花を咲かせるタイプの人間では無いと言った方が良いか、とにかく相手の事をよく見て少ない言葉で的確に物事を言う人物なのだ。

 別にそれ位なら大した問題では無いのだが、いざ面と向かって話すとなると彼の常人とは違う独特な雰囲気と自身の中に渦巻く謎の既視感が鬩ぎ合い、そう簡単に事を運ばせてくれないのだ。

 相手は間違いなく見知らぬ人、しかし完全な他人行儀で話すには些か失礼な気がする。

 ならばそれとなく親近感のある口調を織り交ぜていけば良いのだろうが、彼の纏うどこか超然とした雰囲気が、彼との会話に慣れていない自分にとっては緊張感として身体に染み込み、気楽に話そうとする自分の心を律する。

 結果として緊張感を解すのと距離感を探るのに精一杯で他の事に気を回せないのだ。

 そうこうしている間にも平行線を辿る話は続いていき、夜も更けってきた。

 こうなったら不自然と思われようが無理にでも話題を切り替えるしか無いと響が声を発しようとしたその時、レオンの口が開く。

 

「そういえばヒメナさんから少し話を聞いたよ、複雑な事情を抱えてるってな。」

「え?あ、あはは…そうなんですよ、どうしてこうなっちゃったんだか…。」

 

 出鼻を挫かれるかのように言葉を遮られ、生返事を返す響。

 まぁ知りたい話題には振れたので結果オーライと言った所だろう。

 

「とりあえず、何があったのか話してくれないか?」

「はい、えっと…。」

 

 そのまま当時の状況を説明しようとするも、響はある事を懸念して思い留まる。

 懸念している事は2つ、1つはS.O.N.G.の情報規制。

 S.O.N.G.は世界でも特殊な部隊であり、当然活動内容も原則極秘だ。

 今は非常事態なので部外者への事情説明自体は咎められる事は無いだろうが、S.O.N.G.は活動内容や存在そのものを隠す為に事情を知ってしまった部外者へ厳しい情報規制を行う。

 今ここで事情を説明すれば間違いなくこの人達に迷惑を掛けてしまう。

 世話になっている手前、これ以上の迷惑は掛けたくないのが響の心情なのだ。

 次に話の信憑性。

 そもそもあの時何が起こったのか当事者である自分でも把握しきれていない。

 国外の秘密機関、それも事故かどうかも正確に判明していない身の上話、普通に考えれば誰も信用しない。

 それを思うと言い出すのを躊躇ってしまい、響はそのまま押し黙ってしまう。

 

「話せない事情なら無理には聞かないが…。」

「いえ、大丈夫です。ちゃんと話します。」

 

 が、やはり説明すべきと判断した。

 ここで誰かに事情を説明しなければ動く事態も動かない。

 信用やら心配やらは後回しに、響はレオンにこれまでの経緯を話し始めた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「成程な…。」

 

 5分程して、響は説明を終えた。

 何分不明な点も多い今回の事態、響自身も話している中で何か気付く事が無いか確認する為に少し長めの説明となってしまったが、相手の反応はどうであろうか。

 見ると事情を聞いたレオンは何やら考え込んだ姿勢のまま動かず、程なくしてから姿勢を崩し響に話し掛ける。

 

「…分かった、とりあえず今日の所はこれで話を終わりにしよう。また明日もっと詳しく話を聞かせてくれ。」

「あ、はい…分かりました。」

 

 特に追求される事無く話は終わりとなり、レオンは席を立ちドアへと向かう。

 

「それじゃあ、また何かあったら呼んでくれ。」

「はい、分かりました。」

 

 最後に挨拶を済ませるとレオンはそのまま部屋を出て扉を閉めた。

 レオンが部屋から退出するのを見届けた響は起こしていた上体をベッドに寝かせ、視線を天井へと向ける。

 

「信じてもらえたかな…。」

 

 そうぽつりと呟くも、何も追求しなかった彼の姿を思い浮かべ、その期待はしない方が良いだろうと思ってしまう。

 もちろんこちらの容態を考慮して早々に話を切り上げたのかもしれないが、話した内容が内容だけにその可能性もあまり無いだろう。

 明日またとは言っていたがそれもどうだかと思った時点で、響は自分の思考がどんどんネガティブな方向へ向いている事に気付き、その邪念を振り払うべく首を左右に振る。

 

「あ~駄目だ!!こんな弱気になってちゃ私らしくない!!いつだって、今出来る事をやるだけだ!!」

 

 どうやら思っていた以上に友人知人が側に居るという温もりが無い孤独な状況が心を蝕んでいたようだ。

 大丈夫、すぐにまた皆と会える。

 根拠は全く無いが、それくらいが今の自分の心を奮い立たせるには丁度良い。

 それに折角会えたのだからここに居る人達とも繋がりを持ちたいと思っている。

 ヒメナはもちろん、泣かせてはしまったがあの子も。

 そして彼…レオンとも。

 彼の事も知っていかなくてはならないだろう。

 響の胸中からは未だに既視感が拭えない、むしろより強まっている気さえしている。

 それに先程彼と話している間、何故だか脳裏にあの光景が時々ちらついたのだ。

 あの光景は一体何なのか、彼は一体何者なのか。あの時一体何があったのか。

 もう何度繰り返したかも分からぬ問答を再び反芻しながら、響は明日元気に身体を動かせるよう眠りについた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、また名前聞いたりするの忘れてた…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ニホン、ソング、セイイブツ…。」

 

 響が眠りについた時、レオンは自室のベッドに腰を下ろしていた。

 そして響から説明された話の中で気になった単語を幾つか反芻する。

 するとレオンは左手を顔の前まで上げ、そのまま口を開く。

 

「…どう思う?」

 

 部屋の中にはレオン以外の人影は無い。

 故にその問いに答える者も当然居ない…。

 

「…どうもこうも荒唐無稽過ぎる、まともに考えたら話にもならん。」

「まともに考えたら、か…。」

 

 …筈なのだが、何処からかレオンに言葉を返す声が。

 その声を聞いたレオンは上げていた手を下ろし、視線をある方向へと向ける。

 その視線の先は、響が居る部屋へと向けられていた。

 

「いずれにしろ、“ガルム”の指示を仰ぐしかないか…。」

 

 そう1人呟いたレオンは就寝の為に立ち上がり、着ていたコートを脱ぎ始めるのだった…。




・泣いちゃうロベルト

→可愛い


・好きなものはご飯&ご飯

→いっぱい食べる君が好き


・「ほら、あーん。」

→内心彼もクッソ恥ずかしがってる


・誰も居ない筈なのに問い掛けに答える声

→牙狼を知っている人ならもうお分かりの筈


・そして最後まで名乗らないレオン

→コミュ障って訳じゃ無いんです


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第3話「慣れない平穏」

「ん~…朝…!」

 

 翌日、窓から差し込む日の光と小鳥のさえずりが気持ちの良い朝を迎えてくれる。

 それに比例するかのように響も目を覚まし、身体を起こして軽く伸びをする。

 何気無く行った動作だが、昨日全身を襲った痛みが無くなっている事を察するに、どうやら寝ている間にすっかり回復したようだ。

 試しに身体を左右に捻ったりベッドから降りて立ち上がってみても違和感の欠片も無い。

 

「響、起きてるか?」

「はい、ばっちり起きてます!」

 

 身体の調子を見ていると、外からノックの音と共にレオンの声が聞こえてきた。

 返事を返すとレオンが部屋へと入り、ベッドから立ち上がっている響を見て少し驚いた表情を見せた。

 

「もう動けるのか?」

「はい、この通り!」

「そうか…なら、朝は下で食べようか。」

 

 そう言って先立つレオンの後を付いていく。

 廊下を歩き階段を下っていくとリビングとおぼしき場所へ辿り着き、そこではヒメナがテーブルに朝食を並べている最中であった。

 

「おはようございます、ヒメナさん。」

「おはようヒビキちゃん、もう動いて大丈夫なの?」

「はい、一晩寝たらすっかり良くなりました!」

 

 大きく身体を伸ばしてアピールする響。

 その様子を見て確かに良くなったのだろうとヒメナも安堵したようで、それは良かったと響に笑顔を見せる。

 

「朝食にする前に顔を洗ってきた方が良い、外に出て左の方に洗い場があるからそこで。」

 

 タオルを渡された響はレオンに施された通りに外へ出る。

 言われた通り左の方向を見ると、確かに綺麗な水が組まれている桶がある。

 レオンが言っていたのは恐らくこれであろう、そう判断した響は桶から手で水を掬い、そのまま顔を洗う。

 タオルで水気を落とし、そのままレオン達の所へ戻ろうとしたが、あるものを見て立ち止まり、感嘆の声を漏らす。

 

「わぁ…!」

 

 それは朝日に照らされた街並みであった。

 地平線から出た日の光が街を照らし、道路や建物を明るくしていく。

 まるで著名な絵からそのまま抜き出したかのようなその景色は、これまで響が見てきた美術的感動をまるごとひっくり返すかのような衝撃を与えた。

 

「本当に日本じゃないんだ…。」

 

 だが逆にその感動が自分が今普段の日常から遠ざかっているという事を明確にし、響の胸中に熱いものが込み上げてくる。

 が、すぐに気持ちを切り替えて響は止まっていた足を動かし、歩き始める。

 今出来る事をやるだけだと決めたのだ、その悲しさに足を止めている暇は無い。

 

「お帰りなさい、朝ご飯にしましょう?」

「はい!…って、あれ?その子は…。」

 

 レオン達の所へと戻った響はヒメナの足元に1人の少年が居る事に気付く。

 昨日の朝だか昼に泣かせてしまったあの子だ。

 

「紹介するよ、弟のロベルトだ。ほら、挨拶。」

「えっと…おはようございます…!」

 

 レオンに紹介された少年…“ロベルト・ルイス”は若干たどたどしい様子で響に名前を告げる。

 

「おはよう、ロベルト君。私の名前は響、立花 響だよ。よろしくね!」

 

 響も自己紹介をして握手しようと手を伸ばすも、ロベルトはヒメナの後ろへ隠れ、疑心の念を響にぶつけてくる。

 原因はやはり昨日の事だろう。

 

「えっと…昨日はごめんね?急に大きな声出しちゃって…」

 

 響は何とかロベルトと仲良くなろうと謝罪の言葉を述べる。

 ロベルトはヒメナの影に隠れるように身を潜め、レオンやヒメナも含め全員の顔色を伺っていたが、やがてヒメナの側から離れて響の前に立ち、小さなその手を伸ばす。

 

「えっと…大丈夫、です…!」

「良かった…ありがとう、ロベルト君!」

 

 ひとまずは仲直りが出来たと響は満面の笑みを浮かべながら彼の手を握り握手をする。

 

「ヒメナさんも昨日はすみません、変な質問ばっかりして…。」

「そんな、良いわよあれ位。さぁ、ご飯にしましょう?」

 

 ヒメナに施された響は言われた通りに椅子に座る。

 そのまま全員が座ると一同は目の前に広がる料理に向けて手を合わせる。

 

「それじゃあ…。」

「「いただきます。」」

 

 皆と共に食事の挨拶を済ませた響は改めて目の前に広がる料理に視線を向ける。

 パン、目玉焼き、サラダ、スープ…。

 如何にもな感じのメニューだが、こちらの想像する朝食のイメージと何ら変わらぬその並びは非常に受け入れやすい。

 試しにスープを口に運んでみると…。

 

「あ、美味しい…!」

「そう?良かったわ、お口に合って。」

 

 訂正、イメージしていたそれとは比較出来ない程の美味しさが口の中に広がる。

 親友の作る朝食も美味たるものだが、これはまた格別な美味しさだ。

 

「おかわりはまだあるから、遠慮せずにどうぞ。」

「はい、お言葉に甘えて!」

 

 朝からこのような食にありつけるとはありがたいと、先程外で胸中に込み上げていた寂しさなぞ何処へやら、響は目の前の料理に次々と手を付けるのであった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ごちそうさまでした~!」

「ふふっ、良く食べたわね。」

「はい!ヒメナさんのお料理、とっても美味しかったです!」

「そんなに大層な物じゃ無かったけれど…喜んでもらえて良かったわ。」

 

 朝食を食べ終え、至福の時間が過ぎた響は満足感に溢れる身体を椅子に預け、余韻に浸る。

 簡素な並びではあったが、そのどれもが今まで味わった事の無い至高の一品であった。

 あれを毎日食しているレオン達が正直羨ましい。

 

「っと…響、少し話したい事がある。今良いか?」

「はい、何でしょう?」

 

 そんな事を考えていると、レオンから声を掛けられた。

 昨日の話の続きであろうか、響はレオンの居る方へと向き直る。

 

「とりあえずこの後は時間になったら医者を連れてくる。だからそれまではここに居てもらう事になる。その後、昨日の話をもう1度聞かせてくれ。それから今後の行動を決める。何かやりたい事などがあれば言ってほしいんだが…。」

「うーん、そうですね…。」

 

 話を聞く限りでは特に不満点は無かったので、他に提案が無いか考えると、ふと先程外で見た光景が脳裏に過り、もっと詳しくこの街を知りたいと感じた。

 

「あ…でしたら、お医者さんの所まで歩いて行きたいです。この辺りの事も知っておきたいので。」

「そうだな…見た限り歩く分には問題無いか…分かった、じゃあ出掛けるまではゆっくりしていてくれ。」

 

 レオンも部屋からここまで難なく歩いてきた響の様子を見て問題無いと判断し、医者の所へは歩いていく事になった。

 後はレオンの言う通り出掛けるまでは部屋でくつろぐだけなのだが…。

 

「あっ、何か手伝いますよ、ヒメナさん。」

「え?良いわよそんな、悪いわ。」

「いえ、何ていうか…何もしてないっていうのはどうも落ち着かなくて…。」

 

 いかんせん立花 響という少女、ただ暇を持て余すというのに馴れていない。

 お節介かもしれないが、趣味=人助けなので動けるのならば誰かの為に動きたいのだ。

 

「じゃあ、一緒にお皿洗いをお願いしても良いかしら?」

「はい、任せてください!」

 

 そのまま響は医者の下へ出掛けるまで、ヒメナ達と仲を深める良い機会だと率先して家事に協力していった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「わぁ~すごいですね!お家も道路も全然違う!何だか素敵な感じです!」

「そうか?見慣れている光景だから何とも…響の住んでいるっていう街はどうなんだ?」

「うーん…そう言われると何とも…まぁ、レオンさんと同じで見慣れちゃってるんですよ。だからここは新鮮味があってとっても良いんです!」

 

 少しして、響とレオンはサンタ・バルドの街中を歩いていた。

 響はせわしなく周囲を見回し、見慣れぬ街並みに改めて目を輝かせる。

 民家や道路、露店など…そのどれもが木や石、レンガといった物で出来ており、コンクリート主体の日本の街並みとはまるで別世界だ。

 そう…まるで別世界だ。

 朝見た時もそうだったが、本当に漫画やアニメからそのまま抜き出したかのような街並みが視界一杯に広がっている。

 そして何よりも響が気になったのは、表通りを歩いている今でも電気及び電子機器の類が一切見当たらない事だ。

 例を挙げるならばまず電柱、日本のみならず現代の街と呼ばれる場所ならば何処でも見掛けるそれが影も形も無い。

 他にもテレビや電気屋などの類が一切無い。

 携帯が壊れて使い物にならないと言ったが、そうでなくても使い物にならなかったという事だ。

 それよりも電柱すら無いとなると自身の持つヴァリアンテでの記憶と大分食い違う事になる。

 1週間前にヴァリアンテを訪れた時、表通りと説明された場所には確かに電柱が何本も立っていたし、テレビやその他の電化製品なども見かけていた。

 何故こうも違う街並みが広がっているのか、響は不安半分、興味半分といった具合で色々と調べる為にあっちこっち歩き回っている。

 

「まぁ景色を見る分には構わないが、あんまり変に動かないで「あ、お婆ちゃん大丈夫ですか?荷物持ちますよ!」…。」

 

 あまりのせわしなさに下手に動かないよう注意を施そうとしたレオンだったが、それよりも前に響は道行く老人に向かって歩いて行ってしまう。

 

「…何してるんだ?」

「お婆ちゃんのお手伝いです!お婆ちゃんの荷物が重そうだったんで…。」

 

 これから病院に行くというのに何をしようとしてるのかと思えば、まさかの慈善活動。

 彼女の人柄が伺える。

 

「これから病院に行くんだぞ?」

「分かってますよ、ちょっとだけです!さ、お婆ちゃん荷物預かりますね!」

「いやそうじゃなくてだな…。」

 

 レオンの制止も他所に、響はそのまま老人の手荷物を持って歩き始める。

 しかもその方向は病院へ行く道とは真逆、つまり来た道を戻るという事。

 彼女の身勝手(趣味)に付き合わされる羽目となったレオンは仕方無く彼女達の後へ付いていく。

 やがて老人の目的地へと辿り着き、そのまま別れを告げると、響はこれまで来た道をわざわざ戻ってきてしまった事に気付き途端に顔を青ざめ、慌ててレオンに謝罪の言葉を述べる。

 

「あわわわわ…す、すみませんレオンさん!つい何時もの癖で…!」

「何でわざわざ来た道を戻らなきゃならないんだ…。」

 

 しかも結構な距離を戻らされた。

 昼前には医者の所に着いて診察が終わっている予定であったのだが、これではどうなる事やら。

 

「全く…行くぞ。」

「は、はい!」

 

 まぁ過ぎた事は仕方無し。

 溜め息を吐きながらもレオンは再び病院へと歩みを進め、響も急いでその後を付いていった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ただいま…。」

「お帰り二人共…って、どうしたのレオン?何だか疲れたような顔をして…?」

 

 夕方、宿屋へと帰ってきた2人をヒメナが迎える。

 しかし何だか二人の様子がおかしい。

 何やらレオンは疲れたような表情をしており、響は響で申し訳無さそうにレオンの様子を伺っている。

 それもそうだろう、老人介護から始まり落とし物を拾ったり泣いている子供がいればあやして回って…。

 結果、今日のレオンは響の溢れんばかりの慈悲慈愛に振り回され続ける羽目となったのだ。

 響も悪気があってやったのでは無いし、レオンもそれは理解しているので咎めたりはしていないのだが、その結果がこれである。

 

「いえ、何でも無いです…。」

「えっと…すみませんレオンさん…。」

「?…まぁ良いわ。とりあえずこれからお夕飯の準備をするから、二人は部屋でゆっくりしてきなさい。」

「あっ、私お手伝いしますよ!」

 

 ヒメナが夕食の準備をすると言い出すと、響は率先して手伝うと名乗り出る。

 昼間あれだけ人の為と動き回っていたというのに元気な事だと彼女の様子を横目に、レオンはヒメナに言われた通り部屋で身体を休めようとしたのだが…。

 

「そういえばレオン、今夜は?」

「あぁ、いつも通りに夕飯を食べたら行ってきます。」

 

 ヒメナからある質問をされ、レオンは足を止めてそれに答える。

 別に何の変哲も無い質問だが、響は何故かそれが妙に気になってしまい、思わず首を突っ込んでしまう。

 

「えっ、レオンさんこれから何処かに行くんですか?」

 

 そう質問すると、何故か場の空気が凍り付いた感覚に襲われる。

 場の空気が一瞬で冷たく変わった事を感じた響は恐る恐る2人の表情を見る。

 その表情は揃って何かを失念していたというようなものであった。

 

「…あぁ、まぁな。」

 

 やがてはっと気を取り直したレオンは簡素な答えを響に返す。

 何かおかしな事を聞いてしまったのだろうかと響は首を傾げるも…。

 

「えっと…ヒビキちゃん!こっち手伝ってもらえる?」

「あっ、はい!」

 

 ヒメナに呼ばれた事で響はそれ以上の詮索を中断する。

 そしてレオンはその間にそそくさと自室へと戻って行ってしまった。

 そんなレオンの様子を見た響は聞いてはいけない事だったかと唇を噛み締め、ヒメナの家事を手伝い始める。

 この家族と仲良くしようとした矢先に失敗してしまったという後悔と、何故だかその隠している事について知りたい…いや、知らなくてはならないという強迫観念に駆られながら…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「それじゃあ、行ってきます。帰りはまた遅くなるだろうから、気にせず…。」

「えぇ、気を付けてね。」

「行ってらっしゃい、レオン!」

「あ、えっと…行ってらっしゃいレオンさん!お気を付けて!」

「あぁ、ありがとう。」

 

 夕食を食べ終えてしばらく、そろそろ日が暮れ夜の時間になる頃、レオンはヒメナとロベルトに見送られ出掛ける事になった。

 響も慌てて彼を見送らんと声を掛けると、レオンは優しい笑みを返して宿屋を後にした。

 

「(それにしてもレオンさん、もう外は暗くなるのに本当に一体何処に…?)」

 

 レオンが出掛けていってからも響はヒメナの手伝いをしたりロベルトの遊び相手になったりしていたが、その間にもレオンが何をしに出掛けていったのかが気になってしまい、後は寝るだけだという段階まで来た所で響は堪らずヒメナにレオンの事を聞いてしまう。

 

「あの、ヒメナさん…ちなみになんですけど、レオンさんは何しに出掛けて行ったんですか?」

「え?えっと…。」

 

 響の質問にヒメナはやはり困惑した様子を見せる。

 一時は知らなくてはならないなどと身勝手な強迫観念に駆られてしまったが、今のヒメナの様子を見ると急速にそこ熱が冷め、代わりに非常に申し訳ないという気持ちが高まってきた。

 

「あ、その…無理に答えなくても良いんです!すみません、勝手にこんな…人の事聞いちゃって…。」

 

 これ以上ヒメナの機嫌を損ねないよう響は直ぐ様謝罪の言葉を述べるも、ヒメナは何故か少し考える素振りを見せてからぽつりと呟く。

 

「…お仕事。」

「へ…?」

「レオンはお仕事に行ったのよ。夜中にやるお仕事でね…。」

 

 レオンが出掛けた理由は仕事に行ったからだと、仕事の時間帯は夜中なのだと言った。

 2人してやけに隠したがっていた様子であったが、蓋を開けてみたら別に何て事の無い事情であった。

 はぐらかされたか?

 いや、この家族に限ってそんな事は無いだろうが…と響は思考に耽る所であったが…。

 

 

 

 

 

「そうだよ!レオンは“ホラー”を倒しに行ったんだよ!」

 

 

 

 

 

 ロベルトが発した一言でその思考は中断された。

 

「え?ホラー…?」

 

 はて、ホラーとは一体何の事であろうか?

 ホラー映画のホラーの事であろうか?

 となれば恐怖という意味合いになるのであろうか?

 ならばレオンは恐怖を倒しに行ったという事になるのか?

 …さっぱり分からない。

 ホラーとは一体何なのかロベルトに聞いてみようとしたが…。

 

「ロベルト!!駄目でしょそんな事言ったら!!」

「ひぅ!?ご、ごめんなさい…。」

 

 そこには既にヒメナに叱られてすくんでいるロベルトの姿が。

 

「えっと…気にしないで!ただの子供の言う事だから…レオンは警備のお仕事をやっているのよ。ここら一帯は夜中になると治安が悪くなる所もあるから…さぁ、今日はもう寝ましょう!」

「は、はい…分かりました。」

 

 そんなロベルトに代わってヒメナが話をし、説明もそこそこに話を切り上げてしまった。

 少々強引な切り上げ方に違和感を感じた響だったが、無闇に食い付く事はしてはいけないだろうとヒメナの言う通りに部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お仕事、か…。」

 

 部屋に戻った響はベッドに横になると先程の会話を思い起こす。

 

「(確かに昼間はヒメナさんのお手伝いとかロベルト君のお世話とかあるだろうし、仕事をやるんだとしたら夜中しかないけど…。)」

 

 正直に言うと不審な点が多々見られる。

 レオンにしてもヒメナにしても単に仕事だというのであればあそこまで何かを隠すような物言いなどしなくても良い筈。

 それにロベルトが言っていたホラーという言葉も気になる。

 ヒメナの言う通りレオンが警備の仕事をしているであればホラーというのは恐らく街中で悪さをする者達の事になるのだろうが、わざわざそんな名前で呼ぶ理由が分からない。

 間違いなくこの一家は何か大事な事を隠している。

 

「でもまぁ、気にしてもしょうがないか…。」

 

 しかしながらそれを知って自分は一体どうすると言うのであろうか。

 どうもしないだろう。

 万が一この家族が何か良からぬ事を隠しているのだとしたら関わるやもしれぬが、そうでなければそれは人様の領域、関わる事では無い。

 それにこの一家はそんな悪さをする家族では無いと思える。

 まだ世話になって1日2日しか経っていない為根拠の無い話ではあるが、不思議と絶対にそんな事はしないのだと思えてしまうのだ。

 だから彼等を信じよう。

 彼等と共に生活し、仲を深め、そして友人達に紹介するのだ。

 自分はこんなに素敵な家族と出会えたのだと。

 そんな未来を夢見ながら響は静かに目を閉じ眠りに就こうとするが、不意に遠くの方から何かが聞こえ、思わず身体を起こして窓の外を見る。

 

「何…?」

 

 今聞こえてきたのは何の音だ?

 いや…あれは音では無い。

 かすかに耳に残るこれは、決して物が出せる音では無い。

 世界に爪痕を残さんばかりに響く、生物でしか発する事の出来ない声。

 S.O.N.Gの活動の中で、辛くもこの手が届かなかった者達が上げる助けを求める断末魔…。

 

 

 

 

 

 ()()だ。

 

 

 

 

 

「まさか、ね…。」

 

 いや、そんな筈は無い。

 ここはとても綺麗で素敵な街なのだ。

 ヒメナが夜になると治安の悪い場所もあると言っていたが、それでも違うだろう。

 レオンが夜中に出掛けていった事も関係無い、関係無いのだ。

 あの声が聞こえたその瞬間に何故かまたあの赤い光景が過ったのも、何も…。

 響は一切の事を忘れんとばかりに布団を頭から被り、今度こそ眠りに就いた…。

 

 

 

 

 




・元気100倍立花ビッキー

→ジーッとしてても、ドーにもならねぇ(話が進まねぇ)!


・でもちょっとおセンチな気分になっちゃう立花ビッキー

→個人的に響は未来さんに限らずあのメンツにかなりメンタル依存してるんじゃないかと思っています。


・それでもやる事は変わらない立花ビッキー

→趣味=人助けって実際側に居たらどれだけ振り回されるのだろうか…。


・そして一家の隠し事が気になってしょうがない立花ビッキー

→誰だって秘密の1つや2つはあるもの、それが彼等なら尚更なのです。


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第4話「黄金-GARO-」

 翌朝、響は瞼を擦りながら1階の食卓へ顔を出した。

 結局昨日の夜はそこまで寝付けなかったのだ。

 

「ふぁ…おはようございます!」

「おはようヒビキちゃん。」

「お姉ちゃんおはよ~!」

 

 寝不足気味ではあるものの、響は元気な挨拶を欠かさない。

 彼女の挨拶にヒメナはもちろん、ロベルトも親しげに挨拶を返すも…。

 

「ロベルト。」

「あっ、えっと…お、おはようございます!」

 

 部屋の奥から現れたレオンに咎められ、直ぐに親しげだった挨拶の言葉を訂正する。

 

「うん、おはようロベルト君。レオンさんもおはようございます。」

「あぁ、おはよう。」

 

 次いで2人も挨拶を交わしそのまま席に座る。

 その中で響はちらりとレオンの姿を見る。

 昨夜聞こえたあの声、そして警備の仕事だと言って出掛けたレオン。

 やはり昨夜のあれはレオンも関わっていたのだろうか?

 それとも単なる偶然なのか?

 見た限りでは目立った変化は見られないが、果たして…。

 

「…どうした?」

「あ…いえ、何でも無いです…!」

 

 どうやら気付かない内に彼の事をじーっと見つめていたようだ。

 レオンに声を掛けられ焦る響であったが、折角だからこのまま直接聞いてしまうかとそのまま彼に話し掛ける。

 

「えっと…レオンさん、昨日は大丈夫でしたか?」

「昨日?何がだ?」

「ほら、昨日の夜…。」

 

 響はレオンに昨夜聞こえた声について問おうとするも、あの何かを隠している彼等の様子が頭の中に過り、言葉が詰まる。

 どんな理由であれ、その秘め事に関わるであろう事を好奇心からつつくのは良心が痛んだのだ。

 

「あ…やっぱり、何でも無いです…。」

 

 結局何も答えを聞く事無く話の話題が尽きる。

 それから朝食の時間は特にとりとめの無い話で会話を繋いでいたが、食べ終えた頃にレオンがふと思い出したかのように響に話し掛ける。

 

「響、今日は少し遠出をしようか。」

「遠出ですか?」

「あぁ、少し見てもらいたいものがあってな。」

「はぁ…分かりました。」

 

 さてレオンは一体何を見せるつもりなのか。

 急な提案ではあるが断る理由は無いと、響は了承の意を示した。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ここだ。」

「ひぇ~すごい…レオンさん、ここは一体?」

「いつもロベルトと鍛練をしている場所だ。」

「鍛練?」

「あぁ。まぁ自分の身ぐらいは守れるように、とな。」

 

 レオンの駆る馬で街を出ておよそ30分程、2人はとある遺跡の跡地へと来ていた。

 なんでもレオンにとっては馴染みのある場所のようで、普段はロベルトと共に来ているそうだ。

 適当な場所に馬を止め跡地内へ足を踏み入れると、響は奥の方に黒い円状の何かが存在しているのを見つける。

 

「レオンさん、あれは…?」

「3日前、突然あれが現れたんだ。そして…ここに君が倒れていた。」

 

 響の問いにレオンは黒い物体の前まで歩いていき、その物体の真正面の地面を指差しながら答える。

 

「あれの前に、私が…。」

「何か覚えは無いか?」

 

 今度はレオンの方から問われるも、あのような物体は今まで見た事が無い。

 一瞬プロメテウスの火(あの聖遺物の事)が頭に過ったが、確証が無い為今は口にしない事にした。

 

「…いえ、特には。」

「そうか…。」

 

 期待していた答えが返ってこなかったからか、レオンは厳しい表情で黒い物体を見る。

 その険しさがやはり常人のそれとは違うと、響はそれ以上彼の姿を目にする事が出来ず、ただ黒い物体を見つめ続けた。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 夕方、宿へと戻っていた響達はそれぞれの時間を過ごしていたが、日が落ち始めて早々レオンが1人出掛ける準備をしていた。

 

「あれ、レオンさん何処か行くんですか?」

「あぁ、仕事だよ。」

 

 レオンから仕事だと言われ、響は胸の奥がチクリと痛むのを感じた。

 ヴァリアンテ(こちら)に来て右も左も分からぬ自分に、まるで本当の家族のようにとても良くしてくれているルイス一家。

 そう…あくまで自分は他人であり、人には秘密の1つや2つはあるという事も理解している。

 ましてやそれを無闇に聞き出そうというのは不粋極まりない事だというのも承知している。

 しかしそれでも彼等が何か自分に対して隠し事をしていると思うと、何とも居た堪れない気持ちになるのだ。

 響は自身のそんな思いに無理矢理蓋を閉め、レオンと会話を続ける。

 

「そうですか…あれ、でもまだお夕飯…?」

「急な仕事が入ってな。心配しなくても早く帰る事が出来たらこっちで食べるし、そうでなくても外で食べてくるさ…よし、それじゃあ行ってきます。」

「気を付けてね、レオン。」

「行ってらっしゃーい。」

「気をつけて、レオンさん。」

「ありがとう、行ってくるよ。あぁそれと…。」

 

 各々と挨拶を交わし外へ出ようとするレオンだったが、ふと足を止め視線を響へと向ける。

 

「歩けるようになったからって、無闇に出掛けないようにな。特に今の時間帯からは。」

 

 そう言い残すとレオンは扉を開け宿を出た。

 レオンが勤めているのは警備の仕事、その出勤時間が早まったという事は詰まる所普段よりも街が危険な状態になっているという事であって、こうしてレオンが念を推すのも尤もな事だろう。

 暇があれば少し辺りを散歩してみようかと思っていたのだが、これでは仕方がない。

 響はこれまで通りヒメナの手伝いを行う事にしようと彼女に問い掛けた。

 

「ヒメナさん、何かお手伝いできる事ありますか?」

「そうねぇ…そしたらお野菜洗ってきてもらってもいいかしら?」

「分かりました!」

 

 野菜の入った篭を渡された響は玄関を出て、洗い場にて丁寧に野菜を洗っていく。

 その最中ふと誰かに見られているような気配を感じ、響はすぐ横の通りへ視線を向ける。

 夕方という事もあって出歩く人の数もまばらになっているその通りを注意深く見てみると、とある路地に気になる人影を見つける。

 黒いローブを羽織っているその人物は何やら表通りを気にした様子で見ており、やがて視線が合いこちらが見ている事に気付く。

 するとその人物は僅かに見える口元を一瞬驚愕したそれへと変え、そのまま路地裏へ姿を消してしまった。

 こちらを見ていただけではあったが、明らかに怪しい人物である。

 そしてそれを見つけてしまった以上、黙って見過ごす事が出来ないのが立花 響という少女。

 洗っていた野菜を篭へ戻し、響はその人影が居た路地へと走り寄る。

 そのまま顔を覗かせるも、そこには夕日が作り出した暗い影が差し込んでいるだけで、やはり先程の人物はこの場から居なくなっていた。

 とはいえ相手がどんな理由でこちらを見ていたのかも分からないし、ヒメナ達に何も言わずにあの場から遠くへ離れる訳にはいかない。

 故に深追いはしないと響は踵を返し、宿の方へと戻ろうとしたが…。

 

「っ!?」

 

 突然背後から口元を抑えられ、そのまま路地裏へと引きずり込まれてしまう。

 

「(しまった…まだ奥の方に居たんだ…!!)」

 

 不意を突かれた響はあっという間に路地裏の奥の方へと引きずられ、やがて止まったかと思えば首元に一瞬ひやりと冷たい感触が。

 一体何だと視線を下へ向けると、そこには路地裏の僅かな木漏れ日に照らされたナイフがあった。

 

「喋らないで。騒ぎでもすれば…分かるわね?」

 

 響はその声を聞いて驚いた。

 ローブを着ていたから分からなかったが、この人物は女性だ。

 その割には力が強く容易に振り解けないと思っていると、不意に耳元でベルのような音が鳴り響いた。

 それなりに大きな音が耳元で鳴った為顔をしかめていると、女性がじっとこちらの顔を覗き込んでいる事に気が付く。

 その瞳はまるで怨敵を見つめるかのような冷たい光を宿しており、目が合ってしまった響は思わず身をすくませる。

 

「違うか…。」

 

 しかし女性はすぐにその目を和らげると、響を拘束していた手を放し、彼女から1歩離れる。

 拘束が解かれた事で自由の身となった響は直ぐ様振り向くと同時にさらに一歩後ずさる。

 彼女は一体何をしたのか、そもそもこうやって無理矢理人を捕まえてこんな所まで連れ込んだとなると、これは立派な犯罪である。

 響は彼女に対して事の追求をしようとするが、それよりも早く女性の方が口を開く。

 

「ごめんなさいね、突然こんな事をして。こちらにも色々事情があって…こんな事をしておいて言うのも何だけど、今回の事はどうか秘密にして欲しいの。」

 

 女性は軽く頭を下げて謝罪の言葉を述べると、ついでとばかりに免罪を求めてきた。

 しかし彼女が行ったのは路地裏への拉致に加え、未だ彼女の手に収まっているナイフとベルのような物の事を考慮すれば、この免罪の言葉も捉えようによっては脅迫になりかねない。

 というより響には脅迫にしか聞こえない。

 

「秘密にしてくれだなんて…立派な犯罪ですよ?」

「それを承知で頼んでいるのだけれども…正直に言うとこれ以上私と関わると本当に危険よ。思う所はあるでしょうけど、ここは何も無かった事にして別れた方がお互いの為よ。」

「関わると危険って…何でですか?何か理由でもあるんですか?」

「まぁ…少しね…。」

 

 女性はしきりに表通りを気にした様子で見ている。

 表通りの方に何かあるのだろうかと気にはなるが、それで隙を作ろうとしているのならば油断は出来ない。

 響の視線はじっと女性を捉えて離さない。

 そうやって食い下がってくる響の姿を見た女性は小さく溜息を吐き、小さな声で言った。

 

「実は…ちょっと追われてて。貴女を襲ったのは、その…奴等の仲間かと思っちゃってね…。」

「え、追われてるって…!?」

 

 女性の言った言葉に眉を潜める響。

 怪しげにこちらを見遣る不審者かと思いきや、まさかの追われる身。

 もちろん彼女の嘘という可能性もあるが、もし本当ならば先程の行為は追われる身として警戒していたが故の過剰防衛。

 そしてそうしなければならなかった程に彼女が追い込まれているという事実。

 たとえ先程自身を危険を目に会わせていた相手だとしても、そんな状況を前にして黙っていられないのもまた、立花 響という少女だ。

 

「追われてるって…一体誰に!?どうしてそんな事に…!?」

「いやそれは…貴女には関係無いわ。」

「関係無いなんて事ありませんよ!それこそこうして貴女に捕まって…それで関係無いなんて言わせません!貴女がそうやって困っているんだったら、私は貴女を助けたい!」

「えっ、えぇ!?貴女何言って…!?」

「それに言ってましたよね、何も無かった事にして別れた方がお互いの為だって。なら私に貴女の事を助けさせてください!2人で一緒に解決して、本当に何も無かったって事にして、それで全部チャラにしましょう!」

「え、えっと…。」

 

 お互い罪を胸に秘めたまま黙っているよりも、思う所を全て解決して大きな声で何も無かったと言えた方が良いに決まっている。

 そう意気込んで女性の手を取る響の思わぬ食い下がりっぷりに逆に困惑の色を見せる女性だったが、ふと響の背後に視線を向け、はっとその表情を歪める。

 

「っ…下がって!!」

「うぇっ!?」

 

 無理矢理身体を引っ張られた響はよろけ、女性の背後へと回る。

 一体何をと女性の方を見ると、彼女の視線の先に自分達以外の誰かが居る事を知る。

 男が2人、どちらも上下共に黒い服装に身を包んでいる。

 2人共暗がりでも分かる程に肌が白く、明らかに虚ろな瞳をしている様は、彼等が生気を纏わないどこか異質な存在であるという印象を与えてくる。

 

「しまった…こんな時に…!!」

 

 女性が口惜しそうに呟く。

 並々ならぬ彼女の気配に驚く響だったが、先程彼女が言っていた言葉を思い出し、この男達こそ女性が追われていると言っていた者達なのではと察する。

 

「貴女、逃げなさい!!今ならまだ間に合う!!」

 

 女性が響に対して逃げるよう促すも、意を固めた響はそれに反して逆に彼女の前に躍り出る。

 

「なっ…貴女何してるの!?早く逃げなさい!!」

 

 突然の響の行動に驚愕する女性。

 再度響に逃げるよう促すも、響は聞く耳を持たず彼女を庇うように手を広げる。

 

「…何だかよく分かりませんけど、この人達普通じゃない!」

「知っているわよそんな事は!!」

「だから、逃げるなんて出来ません!」

「なっ!?馬鹿な事を…っ!?」

 

 先程自分を助けたいと言っていたがまさかここまでやるとは思わず、呆れ交じりの声を上げる女性。

 すると2人の男がゆっくりとした歩みを数歩向けた後、徐々に加速を付けてこちらへと迫ってきた。

 女性は響に対して再三の言葉を掛けようとしたものの、響はそれに構わず男達に対して身を構える。

 

「ごめんなさい…はっ!!」

 

 まず男の1人がこちらを掴もうとしていた手を捌き、体勢を崩した所で肩を押して背中を向けさせるとそのまま鳩尾に掌底を浴びせ気絶させる。

 そしてもう1人襲い掛かってきた男には足払いを行い地面に伏した所を再び鳩尾を打ち、これも気絶させる。

 戦闘はあっという間に終わった。

 

「ふぅ…そうだ、大丈夫ですか!?」

 

 男2人を下した響は女性の安否を気遣う。

 そんな女性はと言えば、目の前で起きた寸劇に目をしばたたかせている。

 

「いや、それこっちの台詞なんだけど…。」

「私ですか?私は大丈夫ですよ!実は私ちょっとだけ武術を嗜んでいまして…。」

 

 えへへ…と笑う響を見て、女性は小さく肩を落とす。

 

「はぁ…無茶をするわね貴女…。」

「無茶なんかじゃありません。貴女が傷付く姿を見たくないって思いましたから…平気、へっちゃらです。」

 

 先の会話でもそうだが、どこの誰とも分からぬ、それもあんな事をした自分が正しい事を言っていると真に受けて助けるとはとんだお人好しだと女性は再度肩を落とす。

 

「馬鹿な子…。」

「あはは…何でかよく言われるんですよね、それ…。」

 

 訪れた一時に笑みを浮かべ合う2人。

 後はこの男2人を然るべき所へと送ればこの一件は解決だろうと思っていた響だったが、突如として背後から感じる気配に思考を止める。

 

「後ろっ!!」

「っ!?」

 

 女性の声が聞こえると同時に咄嗟の判断で女性の方へと転がり込む。

 果たしてその判断は正しかったようで、先程自分が居た場所へ視線を向けると、気絶していた男2人がゆっくりと起き出していた。

 

「もう立ち上がって…っ!?」

 

 再び身を構えようとした響だったが、起き上がる男達の姿を見て固まってしまう。

 男達は単純に起き上がっているのではない。

 脚を、腕を、顔を、身体全体を大きく震わせ立ち上がるその様は“普通”の人間が寝転んだ状態から立ち上がるそれではなく、彼等を初めて目にした時に感じた“異常性”をありありと見せ付けるものであった。

 そして立ち上がった男達は響が与えたダメージなどまるで無いと言わんばかりに先程と変わらぬ様子でこちらに向かってくる。

 その瞳は、何故か不気味な紅色に染まっていた。

 

「(こうなったら…)こっちです!!」

「え!?ちょっ、ちょっと!!」

 

 いよいよもってこの男達はおかしい。

 そう実感した響は少し考えると女性の手を取って男達の反対方向…つまりは路地裏の奥へと駆け出す。

 

「ちょっと!!何処に行くつもりよ!?」

「分かりません!!」

「えぇ!?」

 

 路地裏へと駆け出した響は一心不乱に走り続ける。

 道など端から分からぬが、それでも止まる事はしない。

 

「でも、捕まったら駄目だから…!!」

 

 色々あったが、この女性を助けると決めたのだ。

 それに、女性で無くともあの男達に一度捕まったらその先は無いと本能が警鐘を鳴らしているのだ。

 得体の知れない恐怖に呑まれまいと、響は女性を握る手を強め、さらに走りを速めながら複雑な迷路をひたすら駆け回った…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「やっばい行き止まり!?」

「何してるのよ!?勝手に連れ回しといて…っ!?」

 

 逃亡を初めてからどれぐらい経っただろうか。

 とにかくあの男達から逃げ切る為に闇雲に走り回っていたが、慣れぬ土地を我が物顔で走るという事はもちろん出来ず、やがて2人は袋小路へと当たってしまう。

 すぐに引き返そうと踵を返すも、そこには既にあの男達の姿が。

 

「もう追ってきた…!!」

「くそっ、これでは…!!」

 

 それも先程の2人だけではなく、いつの間にか20人以上の数で押し寄せてきている。

 その何れもが瞬きもせず赤々とした眼でこちらを見据えており、嫌悪感が一層引き立たされる。

 

「っ…貴方達は一体何なんですか!?どうしてこの人を狙って!?」

 

 問い掛けるも答えは言葉では返されず、しかしそれは程無くして目に見えて知らされる事となる。

 男達は響が問い掛けて数秒の間何も行動を起こさなかったが、しばらくすると揃って腕部が尋常ではない震えを見せ、やがて()()()()

 

「え…?」

 

 比喩表現では無い、本当に破裂したのだ。

 しかしそれ以上に響の心に衝撃を走らせたのは、破裂した男達の腕部が即座に再生を始めた事だ。

 そして再生された男達の腕は揃って鋭利な爪や刃物など、人間のそれとは明らかに違う形状となっていた。

 

「何…あれ…!?」

 

 目の前で起きた異常な出来事に狼狽していると、女性がやけに冷静な声色で響の疑問に答える。

 貴女は決して触れてはならないものに触れてしまった、そう諭するかのように。

 

「あいつらに人としての問答なんて無駄よ。あいつらはね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間じゃ無いのよ。」

 

「人間じゃないって…!?」

「貴女がそれ以上知っても意味無いわ。ここまで来たら、どうせここで死ぬんだし…。」

 

 人ならざる者とはと響は女性に問い掛けるも、彼女はどこか達観とした様子でそれ以上の事を喋ろうとはしない。

 彼等に目を付けられた以上、生き残る術はもう残されていないと、そう言いたげに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いいや、死にません!」

 

 しかし響はそれを否定する。

 彼女を庇うように前に出て、力強く宣言する。

 

「は?何言って…?」

 

 現実離れした状況に追い込まれて血迷ったかと疑うが、こちらを真っ直ぐ見つめる彼女の目を見て思わずたじろぐ。

 

「私には帰らなきゃならない場所があるんです…だからまだ死ねません!それに、貴女の事も絶対に死なせません!だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きるのを諦めないで!!」

 

 それは彼女の始まりにして今日までを生きてきた証ともなる希望の言葉。

 この言葉を胸に掲げていたからこそ、沢山の出来事と巡り会えた。

 沢山の命と繋がれた。

 

「私が、貴女の事を守って見せます!!」

 

 それだけの力がこの言葉にはある。

 ならば今もそれを信じよう。

 自分の中の大切な何かを守る為に。

 響は首から下げているペンダントを握り締め、胸の中に響く歌を口ずさむ。

 

 

 

 

 

 ―Balwisyall nescell “GUNGNIR” tron…♪―

 

 

 

 

 

 胸の内から溢れし聖なる歌。

 それは遥かなる時を経て現代に蘇りし力に命を吹き込む。

 命を与えられしその力は選ばれし者にその身を委ね、望むがままの形となって現世に降臨する。

 そして今この地に神の槍を携えし姫巫女が顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 …筈だった。

 

 

 

 

 

「(ギアが…出てこない…!?)」

 

 響が望んだ命を救う力。

 しかしそれは彼女の願いを裏切り、一切現れていない。

 

「何で…どうして…!?」

「な、何よ貴女…何をやっているの!?」

 

 まさか歌を間違えたかともう一度歌うも、やはり響が望む力は現出しない。

 

「何で…何で全然動かないの…!?私は戦えるよ!?応えてよガングニール!!」

 

 いつしか前にも同じような事はあった。

 あの時は力を振るう理由に迷い、歌う事さえも出来なかった故の事だが、今は違う。

 戦う理由も、歌う事にも一切の迷いは無い。

 それなのに何故ガングニール(求める力)は応えてくれないのか。

 

「どういうつもりよ!?助けるとか言って、当てもなく逃げ出して…何がしたいのよ貴女!!」

 

 女性からの罵倒が心に重くのし掛かる。

 何が原因なのかと思考を巡らせると、ヒビが入り機能停止した自身の携帯電話と今朝レオンと共に見たあの黒い物体の事が頭の中を過る。

 

 ―3日前、突然あれが現れたんだ。そして…ここに君が倒れていた。―

 

 携帯が何らかの多大な負荷が掛かって壊れていたと推測出来るように、もし自分が気を失っていた間にギアに何か大きな負担が掛かるような事があったなら…ギアが故障していたとしてもおかしくはない。

 

「そんな…。」

「くそっ、こうなったら…!!」

 

 決して起きてはならぬ事態に狼狽える響の前に出る女性。

 だがその表情は決して思わしいものではなかった。

 

「(未来…皆…!!)」

 

 異形の者に目を付けられ、袋小路に追い込まれ、抵抗する事さえも許されない。

 この絶望的な状況にさしもの響も弱気になってしまった。

 その思い否定し自らを鼓舞する為か、或いはただ目の前の恐怖から少しでも逃れようとしたのか、響は脳裏に浮かんだ大切な者達の事を思いながらぎゅっと目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女達から離れろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …その時だった、声が聞こえたのは。

 自分にとって既に聞き慣れたと言える、あの青年の声。

 その声に反応して目の前の集団が振り返る先、そこにはやはり自身が思い浮かべた彼の姿が。

 

「レオン…さん…!?」

 

 レオン・ルイス、彼がそこに居たのだ。

 そんな彼の姿を捉えた男達は響達へ向けていた歩みの先をレオンへと変え、変化した各々の腕先をレオンへと向ける。

 数十人の怪物染みた男達が迫るなど普通なら恐怖でしかないが、対するレオンはまるで臆せず彼等に向かって1歩を踏み出す。

 それと同時だった、男達が一斉にレオンへと襲い掛かったのは。

 

「レオンさんっ!!」

 

 殺される、そう思った響は声を荒らげるも、レオンは金属音を鳴らしながら男達の間をすり抜け響達の前へと出る。

 

「え…?」

 

 響達の前へと出たレオンは2人を庇うように腕を広げる。

 その両手には、いつの間にか一振りの剣と赤い鞘が握られていた。

 

「レ、レオンさん…!!」

「離れてろ。」

 

 警備の仕事と言ってはいたが、何故彼が都合良く剣など所持しているのか、そもそも彼等に剣を向けて大丈夫なのか。

 響は色々と聞きたい事があるとレオンの身を案じるも、彼から返されたのはこの場から離れろの一言だった。

 

「ボサッとしないで、こっち!!」

 

 レオンに促されてなおその場に残る響を今度は女性が響の手を取り小路の隅に置いてあった空き箱の山の裏へと回り込む。

 そこからレオンの様子を伺うと、既にレオンは男達に包囲されており、抜け出す事が困難な状況になっていた。

 その状況に一瞬息を呑むも、それ以上に目に付いた事があり、響は困惑した声を出す。

 

「レオンさん…?」

 

 男達に囲まれたレオンではあるが、彼はその状況に動じる事なく、何故か左手を顔の前まで持っていっていた。

 よく見るとレオンの口は何かと話をしているかのように動いており、その視線の先には自身の左手に嵌められている指輪へと向けられていた。

 この状況で一体彼は何をしているのか響はますます訳が分からなくなっていたが、それに反応を示したのは隣に居る女性であった。

 

「赤い鞘の剣…それに左手のあれは…まさか!?」

 

 女性が何かに気付いたと声を上げたその時、レオンを囲っていた男達が一斉に彼へと襲い掛かった。

 

「レオンさんっ!!」

 

 響は声を張り上げるも、既にあの状況では逃げる事は叶わない。

 そのままレオンは男達の影に呑まれてしまった。

 レオンが死に、自分達も殺される。

 そんな最悪のシナリオが頭の中で描かれようとしたその時、レオンに群がる男達の隙間から何かの光が漏れだした。

 その光は徐々に強さを増していき、やがて一層の輝きと共に男達を吹き飛ばした。

 

「え…!?」

 

 一瞬の出来事に頭の処理が追い付かず、響はそのまま視線を横にずらすと、そこには余程強い力で吹き飛ばされたのか、小路の壁一面に叩き付けられ、見るも無惨な姿となった男達の姿が。

 その断末魔の凄まじい表情に恐れをなした響はひっと声を漏らすも、直ぐにレオンの安否が頭の中を過り、彼の居た方へと視線を向ける。

 

「あれは…。」

 

 先程彼が居た場所、そこに彼の姿はなかった。

 

「間違いない、あれは…!!」

 

 代わりに居たのは、黄金の光を放つ者。

 その姿を目にした時、響の脳裏にまたあの光景が写し出される。

 目の前を揺らめく赤い光景、しかし今はその先が見える。

 燃え盛る炎の先に佇む者の姿、それは黄金の輝きを放つ鎧を纏った騎士であった。

 神聖なる剣を握り締め、漆黒のマントをたなびかせ、赤き瞳に紅蓮の炎を宿したその騎士の名を、響は知っている。

 何故、とは思わぬ。

 何故、とも思えぬ。

 たとえ出会った事は無くとも、響はその名を知っている。

 知っているのが当たり前だと。

 

 心が、

 

 身体が、

 

 “運命”が、

 

 彼女にそう、教えてくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄金、騎士…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金(GOLDEN)騎士(KNIGHT) ガロ(GARO)

 

 

 

 

 

 それが響の…彼女の運命を変える騎士の名。

 

 

 

 

 

 響が騎士の名を呟いたその瞬間、鎧は一層の輝きと共に天へと昇り、騎士が居た場所には再びレオンの姿があった。

 レオンは一度周囲を見回して状況を確認すると、響達の元へと歩いていく。

 

「…怪我は無いか?」

「は、はい…ありがとうございま…わっとと…!」

 

 怪我は無いかとは、それはこちらも言いたい所だと思ったが、その姿を見る限りでは怪我は負っていなさそうだ。

 それと同時に命の危機が去った事への安堵から張り詰めていた緊張感が解け、響の身体から一瞬力が抜けてしまう。

 そのせいでふらりとよろけてしまうも、レオンが直ぐ様肩を抱いて支えてくれた事で事無きを得る。

 

「す、すみません…。」

「いや…無理をするな。」

 

 レオンに支えられながら再び脚に力を込めるも、その脚は若干震えていた。

 未知の存在に襲われ、望んだ力も使えなかった。

 そのせいか暫く抱いていなかった恐怖に身体と心を蝕まれたのだと思い知らされ、響は小さく身震いした。

 すると肩に掛けられているレオンの手が僅かに力を増す。

 より響の肌に触れるよう力が込められた掌から彼の温かさが伝わってくる。

 それが死を覚悟したあの時に思い起こした大切な者達の温もりと重なり、目頭に熱いものが込み上げてくる。

 しかしこの掌から伝わる温かさが、今自分は生きてここに居るのだと実感させてくれる。

 自分は生きているのだという実感と、心に想う者達の姿、掌から伝わる人の温もり、そして自分を気遣ってくれたレオンの優しさに、響の心の傷は少しずつ癒えていった。

 暫くそのままの状態が続いたが、そういえばあの女性は大丈夫だろうかと気になった瞬間、レオンに肩を抱いてもらっているこの状況が何だか恥ずかしく思えてしまい、響は顔を赤らめながらレオンに目配せする。

 レオンは彼女の視線に気付くとその奥に込められた思いを理解したのか彼女の肩に置いていた手を下ろし、響から半歩距離を取った。

 すると頃合いを計ったのか女性がレオンに対して声を掛ける。

 

「黄金騎士…貴方はもしや、あの黄金騎士なのですか?」

「…あんたは?」

 

 黄金騎士という言葉に強く反応したレオンは若干ぶっきらぼうに女性に問い掛ける。

 いや、警戒しているのだろうか?

 何れにせよ女性はレオンの問いに答えるべくローブの中からある取り出す。

 

「失礼、私はこういう者です。」

 

 それは小学校の理科の授業でよく使用していたアルコールランプに似た物であった。

 ただこちらの方が明らかに煌びやかな装飾しており、価値観の高さや特別製が強調されている。

 それを見たレオンは一瞬眉を潜め、先程と変わらぬような低い声で呟いた。

 

「“魔戒法師”か…。」

「え…まかいほうし…?」

 

 小さいながらも確かに呟かれたそれの意味が分からず困惑する響。

 そんな響の様子を見たレオンはまたも一瞬だけだが、今度は明らかに不味い事になったと言わんばかりの表情を見せるも、今は気にするまいと女性に再度話し掛ける。

 

「あんたも怪我は無いか?」

「はい、お陰で命拾い致しました。」

「…それにしてもあれだけの数に追われるなど…何があった?」

 

 そう問い掛けたレオンの言葉に今更ながらもそういえばと同調する響。

 思えばあれだけの数の、それも人外の者に狙われるなど普通でなくともそうそう有り得ない話だ。

 一体彼女は何があって彼等に狙われたのか。

 

「…その事で、黄金騎士である貴方に是非お頼みしたい事があります。」

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、私を匿っては貰えませんか?」

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「ただいま。」

「レオン…!大変なの!!ヒビキちゃんが…って、ヒビキちゃん!!」

 

 既に日は落ち、夜の時間。

 匿ってほしいと頼み込んできた女性の真意を知る為にも彼女を連れて宿へと戻ってきた響とレオン。

 扉を開けるとヒメナが慌てた様子で駆け寄ってきた。

 

「あ…ヒメナさん…その…。」

「何処に行ってたのよ!?ずっと帰ってこないからもう…!!」

 

 そういえばここを離れたのはヒメナから頼まれ夕飯の為の野菜を洗っていた時だったと思い出し、勝手に居なくなってしまった事に対して罪悪感を抱いた響はどうにか謝罪の言葉を述べようとするも、それは突如身体を包み込んだ柔らかな感触によって阻まれる。

 

「本当に、心配したんだから…!!」

 

 ヒメナが響の身体を抱き寄せたのだ。

 決して離すまいと強く回された腕に、彼女の頭を優しく頭を撫でるその姿はさながら親が子に対して行うそれのようであり、立花 響という存在がヒメナにとってただの他人ではないという証となっていた。

 

「ヒメナさん…はい、本当にごめんなさい…!!」

 

 それに気付いた響はまた目頭に熱いものが込み上げてくるのを感じてヒメナを抱き締め返す。

 

「ヒメナさん、響をお願いします。」

 

 それを見たレオンはこれ以上側に居てはいけないだろうと判断して女性と共に部屋の奥へと姿を消した。

 そこに残っているのは世代や血の繋がりを越えた、家族の愛であった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「はぁ…駄目だなぁ、私…。」

 

 あれから暫くして自室に割り当てられている部屋へと戻った響はベッドの上で横になっていた。

 本当はレオン達の会話に混ざるべきだったのかもしれないが、今はそうする気分では無いとヒメナに部屋で休むと言って伝えたのだ。

 ヒメナには勝手に居なくなって心配を掛けてしまった。

 女性には何とか助けようと勝手に振り回した挙げ句助ける事が出来なかった。

 そしてレオンには実際に命の危機から救ってくれた。

 ここに来てから迷惑を掛けてばかりで何一つ恩を返す事が出来ないでいると響は溜息を吐いた。

 

「それにしても…。」

 

 響は首に掛けられているギアのペンダントを握る。

 やはり見た限りでは損傷等は見られない

 

「どうしてあの時ガングニールは動かなかったんだろう…。」

 

 戦う事にも歌う事にも迷いは無かったと断言できる。

 となるとやはり内部系統の異常としか考えられない。

 それはまるで全幅の信頼を寄せられる存在に真っ向から否定されたようだと、響は再び深い溜息を吐く。

 

「それに…。」

 

 ギアへと向けていた視線を剃らし、今度は中空を見る。

 脳裏に思い浮かべているのは、あの黄金の光放つ騎士となったレオンの姿。

 

「レオンさんのあの姿…あの光景の中に…。」

 

 それはS.O.N.G.本部に居た頃から度々見続けているあの不可思議な光景の中にもあった。

 激しく燃え上がる炎の中に居るそれ、しかし今一度その光景を思い浮かべてみると、少し変わった絵面である事に気付く。

 目の前を揺らめく炎の向かいに居る黄金騎士、しかしその姿は先程自分達を救った時のような敢然と立ち上がっている勇姿では無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで正反対の構図となっているこの情景は、一体何を示しているのか。

 そもそも何故自分はこのような光景を目にするようになったのか。

 響は自身の身に次々と迫る不可解な謎から逃れたいと言うように手をぎゅっと握り、今はこの場に居ないレオンに1人問い掛ける。

 

「レオンさん…貴方は…。」

 

 

 

 

 

 貴方は一体、何者なんですか…?

 

 

 

 

 




・黒い円状の何か

→S.O.N.G.本部にあるのと同じものです。


・魔戒法師の女性

→感想欄で予定は無いと言ったな、あれは嘘だ。


・発動しない響の力

→本編でも書きましたが、決して響の意思が足りないとかそういうのじゃ無いんです。
 ただちょっと理由がありまして…。


・発動したレオンの力

→まだチラ見せ。
 本格的な活躍はこれからです。


・壁に叩き付けられる怪物達

→奇跡的に返り血は浴びていないそうな。


・怖がる響

→ちょっと聖遺物と融合しかけたり腕喰われたり神の兵器に成り代わったり色々あったけど、響だって普通の女の子ですからそれでも怖がったりする筈…多分。


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第5話「撃槍、異界を穿つ」前編

「おはようございま…あ…!」

 

 翌朝、響はこれまで通り一家に朝の挨拶をしようとするが、その言葉が途中で止まる。

 彼女の視線の先、そこには昨日の女性の姿が。

 

「おはよう。」

「はい、おはようございます。」

 

 どうやら彼女は先に起きていたらしく、既に空いている椅子に座っている。

 響も同じように彼女の対面の席へと座り、朝食の時を待つ事に。

 

「名乗るのが遅くなったわね。私の名前は“アンジェ”、昨日は迷惑を掛けたわね。」

「いえそんな!困った時はお互い様ですし…あ、私の名前は立花 響です!響って呼んでください!」

 

 その間の暇潰しと言っては何だが、2人は昨日交わせなかったお互いの自己紹介を済ませる。

 そのまま他愛の無い話を続けるも、彼女…アンジェは昨日と同じくローブを着た姿であり、素顔を晒そうとしない。

 部屋の中なのだし脱げば良いであろうもの、何か特別な理由でもあるのだろうか?

 そう思っていると、キッチンからレオンが朝食を持って現れた。

 

「2人共、朝にしよう。」

「あ、レオンさん…。」

 

 響はレオンと挨拶を交わそうとするも、不意に昨日の出来事が頭を過り、言葉が詰まってしまう。

 彼の姿はこれまで共に過ごした時と何ら変わらぬまま。

 しかし響の脳裏にはあの金色の鎧を纏った彼の姿が未だ鮮明に焼き付いて離れない。

 あの鎧は一体何なのか、昨日の男達…いや、あの怪物達は何者なのか、彼や魔戒法師と呼ばれた彼女の正体は…。

 

「…ヒビキちゃん?大丈夫?」

「え…?」

 

 そう考え込んでいると、いつの間にやらヒメナやロベルトも席へと座っており、目の前には朝食が並んでいた。

 

「あ…いや、何でも無いです!大丈夫ですよ!」

 

 話し掛けられた事で気を取り直した響を交えて、一家は朝食を取り始める。

 アンジェを始め、ルイス一家はこれまでと変わらぬ様子で会話に華を咲かせながら時間は過ぎていく。

 昨日の出来事を把握出来ていない自分にとって、普段と変わらぬ姿を見せてくれるその気遣いはとてもありがたい事なのだが、それは同時に自分の中に鮮明に刻まれているあの記憶が全て現実に起きた事なのだと遠回しに肯定しているようにも見え、彼等に何と話し掛けたら良いのか分からなくさせる。

 

「えっと…レオンさん、今日は何処に行くんですか?」

 

 とにかく何か会話をしなければと、響は先日も行った彼との外出について問い掛けるも…。

 

「あぁ…悪いが今日は一緒には居られない。彼女と少し用事があるからな。」

「そうですか…。」

 

 レオンはアンジェの方を見ながらそう答えた。

 確かに昨日はあんな事があって、2人はその事について知っているようで。

 ならばその2人がその次の日に共に行動するのは至極当然の話である。

 

「ごめんなさいね、彼を取ってしまって。」

「いえそんな…大丈夫ですよ。」

 

 アンジェにからかわれるように謝られるも、仮にも当事者の1人であるのにその輪の中に入れてもらえない事に胸の奥がチクリと傷む。

 

「そしたらヒビキちゃん、私達と一緒に買い物に行かない?」

 

 それを察してか、代わりにヒメナが共に外出をしないかと誘ってきた。

 先にも言ったが、今の自分は昨日の出来事が一体何だったのか、そもそも一体何が起こっていたのか、その殆どを把握出来ていない。

 きっとこのままではいつまでも悩み続け、その内何処かの誰かさんみたいにポッキリといってしまいそうだ。

 ならば今は気持ちを切り替えて、非日常に触れてしまった自身の感覚を元に戻そう。

 

「はい、是非!」

 

 ヒメナの誘いを聞いた響はそう笑みを浮かべて了承の返事を返した…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「本当に大丈夫?やっぱり少しは私が…。」

「いえいえ大丈夫ですよ!体力には自信ありますから!」

 

 ヒメナとロベルトと共に街へ買い出しに出掛けた響。

 ヒメナが心配したように響の両手には既に相当数の荷物が抱えられているが、響は何のそのと言わんばかりに笑顔で答える。

 実際は昨日の出来事を早く記憶の片隅に置いておきたいが為に空元気を出しているようなものだが、ヒメナはそれを知ってか知らずか、無茶しないでねと言い残して再びロベルトの手を引いて歩き出す。

 そうして出店を回り、そろそろ買い物も終わりに近付いた時だった。

 

「ん…?」

 

 ふと視線を向けた先…そこは果物屋であったのだが、店員が客と話し込んでいるその後ろに、何やらそろりそろりと近付く怪しい人影が。

 見た所10代前半の少年だろうか、彼は店員が客と話し込んでいる姿を注意深く観察しながら商品棚に並んでいるリンゴを2つ手に取ると…そのまま路地裏へと姿を消した。

 間違いない、窃盗だ。

 

「お待たせヒビキちゃん、行きましょうか。」

「すみませんヒメナさん、ちょっとだけ失礼します!」

「えっ!?ヒビキちゃん!?」

 

 買い物から戻ってきたヒメナの足下に荷物を置いて響は駆け出す。

 そして路地裏へ逃げ込んだ少年。

 彼はとある一角で立ち止まり手に持ったリンゴを見て笑みを浮かべるも、そのリンゴが急に手元を離れて消えてしまった。

 

「こーら、駄目でしょ?勝手にお店の物盗んだら。」

「なっ、返せよ!!」

 

 それと同時に背後から声が聞こえてきた。

 振り返るとそこには今しがた自分が手に入れたリンゴをその手に握る女性の姿が。

 そう、立花 響だ。

 少年は響にリンゴを返すよう要求するも、彼女はそれに耳を貸さない。

 

「駄目です。ちゃんとお店の人に謝って…?」

 

 響はそのままお叱りの説教を始めようとするが、少年の背後…山積みのゴミの向こうから顔を覗かせる人影に気付き、話を止める。

 よく見てみると、その人影は目の前に居る少年よりもさらに幼く見える顔立ちをしており、その長い髪と目鼻立ちから察するにきっと女の子であろう。

 さらに少年は響の視線に気が付いたのか彼女から1歩下がり、少女の前に立つ。

 まるで少女を庇うようなその振舞いに彼等の外見年齢、そして盗んだリンゴの数…。

 これらの情報を照らし合わせ、響はある事に気が付いた。

 

「兄妹…?」

 

 2人の容姿はそこまで似てはいないが、少年が取った一連の行動は、まるで妹にリンゴを届けに来た兄の姿のように思える。

 そして次に気が付いたのは彼等の見た目。

 少女の方は姿を隠していて見えないが、少年の方は肌も服も埃だらけで正直に言って綺麗な見た目をしていない。

 まるで何日も同じ格好のままで過ごしてきたかのような姿だ。

 そして気になる事がもう1つ。

 彼等はまだ子供、こんな路地裏をそう易々と行き来して良い歳では無い。

 少なくとも同伴者…そう、親が居なければ。

 しかし辺りを見渡してみてもそのような人物は見当たらない。

 

「(何で…って、まさか…!)」

 

 その時響の脳裏に一瞬()()()()が浮かんだが、それはいくらなんでも漫画やアニメの中の話過ぎると響はその考えを否定する。

 

「ようやくありつけたんだメシなんだ…返せって言ってるだろ!!」

 

 そうこうしていると少年が痺れを切らして懐からナイフを取り出し、響に向けて突き出す。

 そんな少年の行動にこれは困ったと響は顔をしかめる。

 両手は塞がってはいるものの、この少年が余程その道に通じてなければ、一見不利に見えるこの状況を覆す事は難しくないだろう。

 だからと言ってそれを実行するには相手はまだ子供であるし、何より先程思い浮かんだ考えが頭から離れず、彼等に対して何かをする事に躊躇してしまう。

 そう踏鞴を踏んでいると少年は一層表情を険しくし、響に向けてナイフをさらに突き出して脅しを掛けてくる。

 そんな時だった、少年達のさらに向こう…路地裏の奥から彼の声が聞こえてきたのは。

 

「何をしている?」

「レオンさん!」

 

 視線をそちらへ向けると、いつの間にかレオンとアンジェの2人がこちらへと歩いてきていた。

 レオンはそのまま一同へ視線を向けると成程…と呟き、やや足早に少年へ歩み寄ってナイフを持つ手を掴む。

 

「おい離せよっ…!!」

 

 少年は抵抗をするも大人であるレオンの力には敵わない。

 レオンは少年の手首を軽く捻りナイフを手放させると、同時に彼が抵抗出来ないよう彼の首に腕を当て、そのまま彼を壁へと押し付ける。

 

「うっ…ぐぅ…!!」

「…悪い事は言わない、もうこんな事はするな。その代わり…。」

 

 軽く力を込めた後、拘束を解く。

 支えを無くした少年はそのまま地面に崩れ落ち、苦しそうに咳き込むも、レオンはそれに目もくれず響の方へ視線を向ける。

 

「響、それを。」

「え…?あ、はい…。」

 

 レオンは響の持つ2つのリンゴに目を向けながら両手を出す。

 渡せという事なのだろう、響は戸惑いながらも彼にリンゴを手渡す。

 するとレオンは渡されたリンゴ2つを少しの間品定めするかのように見てから、少年の前に置く。

 

「こいつと…ついでにこいつもやる。」

 

 そしてレオンは懐から別の食料を取り出し、それも少年の前に置いてから1歩下がる。

 少年はレオンの行動の意図が読めず暫し呆然としていたが、やがて恐る恐る目の前の食料に手を出し、全て手に納めた所で少女の下へと駆け寄る。

 

「…行け。」

 

 少年が食料を手にしたのを確認したレオンはただ一言ここから去るように施す。

 少年は未だに警戒心を露にしていたが、やがて彼の服の裾を怯えた様子の少女が引っ張ると、それに気付いた少年は少女を連れてそのまま路地裏の奥へと走っていった。

 

「…貴女も厄介事に巻き込まれるわね。」

「アンジェさん…あの…さっきの子供達は…?」

 

 2人が去ったのを見届けた響はアンジェに少年達について問い掛ける。

 自分より長くこの地に住んでいる彼女なら、あの少年達の事について何か知っているだろう。

 アンジェはそう聞かれると、やや大きく溜息を吐きながら答える。

 

「恐らく貧困地区の子供達ね。貴女サンタ・バルドの貧困地区は知ってる?」

「いえ…でもヴァリアンテって豊かな国だって聞いてましたけど…?」

「いや、言う程豊かじゃないぞ。これでも少しはマシになったが。」

 

 家を、そして身寄りを無くし、今日を生きる事も満足に出来ない、表の世界から追いやられた影に生きる者達。

 浮浪者、ホームレス…。

 S.O.N.G.の活動の中でもあまり触れる事の無かった世界の闇、日々の生活を送る中では見る事の無かった存在…。

 

「ヒビキちゃん!」

「ヒメナさん…!」

「急にどうしたの…って、レオン!」

 

 昨日の怪物達とはまた違う、現実味が溢れながらも非日常的な存在を目の当たりにした響が唇を噛み締めていると、表通りの方からヒメナの声が聞こえた。

 見ると、ヒメナはロベルトを連れて息を切らしながらこちらへと駆け寄って来ている。

 

「…何かあったの?」

 

 響以外にレオンやアンジェが居た事に驚いたヒメナであったが、場を満たす重たい空気にヒメナはたまらず何があったのか問い掛ける。

 

「まぁ、少しだけ。ヒメナさん達はまだ買い物の途中ですか?」

「えぇ…レオンの方は?」

「話は通してきました。とりあえず呼び出されるまでは待機するようにと…ここで何があったかは歩きながらでも。」

 

 それに対してレオンは表通りへと向かいながら返事を返す。

 そんなレオンに続いてヒメナ達が後を付いていく中、響だけはやるせない表情を浮かべながら、中々表通りへと向かう1歩を踏み出せなかった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 夕方。

 宿へ戻った響はいつも食事をしている1階の机にその身を預けていた。

 浮かない表情をしている今の響の心を支配しているのは、やはり昼間に出会ったあの兄妹。

 

「ヒビキちゃん。」

 

 沈んだ様子の響を見かねて、ヒメナが優しく宥めるような声で話し掛ける。

 

「ヒメナさん…。」

「お昼の事なら気にしなくても大丈夫よ。あの子達ならきっともうあんな事はしない筈よ。」

 

 そんなヒメナの言葉が胸に刺さる。

 日本に居た時、ヴァリアンテはとても裕福な国と聞いていた。

 しかし実態は家や職、家族を失った者達が日の当たらない影に潜んでいる現実。

 それもあんな小さな子供でも例外無く、だ。

 何故あの子達があんな苦しい思いをしなければならないのか…。

 いや、あの子達だけでは無い。

 誰だってあのような思いはしたくない。

 それでもそうしなければ彼等は生きていけないのだ。

 

「そう、ですよね…。」

 

 誰かの為に進んで手を伸ばしてきた。

 誰かの為に一心不乱に腕を振るってきた。

 それでも目に見えない場所というものはあり、そしてそこにはどれだけ手を伸ばしても届かない。

 全ての人が幸せであってほしい、そんな理想を願う彼女に突き付けられた現実は、彼女に大きな無力感を与える。

 それでも、彼等の為に何か出来ないだろうか。

 例えこの手が届かないとしても、貴方達を思って手を伸ばしている人が居るんだと証明する方法は無いだろうか。

 そう心に重く考えていると、遠くの方から何か物音が聞こえてきた。

 

「何だろ…?」

 

 よく耳を澄ませてみると、段々とその物音は近付いてきているようだ。

 鉄と鉄がぶつかり合うような金属音を響かせながら…。

 

「(まさか…!?)」

 

 その瞬間響の脳裏に過ったのは昨日の光景。

 赤い柄の剣をその手に持ち、得体の知れぬ怪物相手に向かっていく彼の姿。

 

「ヒビキちゃん、部屋に戻りましょう。」

 

 ヒメナが響に向かって部屋に戻るよう促す。

 いつもの柔らかで温厚な雰囲気とは違う、何処かレオンやアンジェが纏っていたものと同じような空気を身に纏うヒメナの姿を見て、響は自らの推測に確信を得た。

 

「…すみませんヒメナさん、私見に行ってきます!」

「あ、ちょっ…ヒビキちゃん!!」

 

 ヒメナの制止を振り切り、外へと飛び出した響。

 レオンとアンジェは昼間買った荷物を宿まで運ぶのを手伝って、再び何処かへと行ってしまった。

 そしてあのヒメナの様子から察するに、この物音を立てているのはきっとレオンやアンジェ、そしてあの怪物達だろう。

 響の胸中には、レオン達の抱える秘密を知らなければならないというあの強迫観念が再び押し寄せていたのだ。

 そのまま音が聞こえた方向だけを頼りに半ば勘で道を選びながら走っていると、とある路地裏に怪しい人影を見付けた。

 どうやら昼間の時の少女のように、端の方に無造作に積み上げられている廃材に身を隠しているようだ。

 先日のアンジェとの件もあり、慎重にその人影へと近付いていく響。

 やがて手を伸ばせば届きそうな距離まで近付いたその瞬間、響は一気に身を乗り出して人影の前に立つ。

 

「君達は…!」

 

 路地裏の木漏れ日によって照らされた人影。

 その正体は、昼間出会ったあの兄妹であった。

 

「どうしたの!?大丈夫!?」

 

 見ると2人とも着ている服は昼の時よりもボロボロになっており、特に少年の方は裂けた服の間から幾つもの切り傷が見える程であった。

 

「た、助けてくれ!!変な奴等に追われてるんだ!!」

「変な奴等…!?」

 

 少年は響の姿を見ると、昼の時のような敵意に溢れた姿なぞ嘘のように弱々しく響にすがり寄る。

 

「(それってやっぱり昨日の…!!)」

 

 響の脳裏に過ったのは、昨日自分達を襲ったあの怪物達の姿。

 まさかこんな小さな子供にまで手を掛けようとするとは…。

 ならば、響が取る行動は決まっていた。

 

「分かった、お姉ちゃんが2人の事絶対に守ってあげる。」

 

 響は2人の手を取り、その場から駆け出す。

 宿からがむしゃらに走ってはいたものの、幸いにもそう遠くない場所であった為、昨日のように迷ったりする事は無く宿前の通りまで出る事が出来た。

 

「とりあえずここまで来れば大丈夫かな…?」

 

 大通りまで出てしまえばそう襲われる事は無い筈。

 そう思った響は次に視線を2人の方へ向け、そのまま2人に話し掛ける。

 

「ねぇ、何があったのかお姉ちゃんにお話し出来ないかな?」

 

 昨日怪物達に襲われたのは、怪物達がアンジェを狙っていて、それを自分が庇ったから。

 そもそもアンジェが狙われていた理由自体不明ではあるが、もし2人を襲ったのがあの怪物達なのだとしたら、彼女のように2人もまた何か襲われる事情というものがあるのではないだろうか。

 この2人に限ってそれは無いだろうが、もし理由が分かるならば聞いておきたい。

 

「分かんない…ただいきなりあいつらが現れて、それで…なぁ?」

「う、うん…。」

「そっか…。」

 

 そう思って話を聞いてみるも、やはり2人が何かをしたからという訳では無さそうだ。

 理由も無しに襲われた2人の身を案じた響は眉間に皺を寄せる。

 

「(この子達だって、必死に生きているのに…。)」

 

 理由の有り無しに関係無く、人を殺してはならない。

 どんな事情があろうとも、それは人を殺して良い理由にはならない。

 響はそう考えている。

 しかし世界には人を傷付け殺める事に快感を見出だし、人々を襲う者達も居る。

 あの怪物達もきっとそうなのだろう。

 

「…もうすぐ着くよ。あそこの宿まで行けば大丈夫だからね。」

 

 ならば2人は自分が守ろう。

 大丈夫、この手はちゃんと2人の手を握っている。

 彼等の明日に手を伸ばす事は出来なくとも、彼等の今日の命を手に取り、明日へと届ける事ぐらいは出来る筈だ。

 

「お姉さん…。」

「ん?どうしたの?」

 

 2人の手を握る力を強めて心に強く決心したその時、少女の方から声を掛けられた。

 もしや握る力を強くしすぎたかと響は一旦手を離して目線を少女の高さに合わせる。

 

「えっと…っ!?」

 

 少女はそのまま話を続けようとしたが、ちらりと少年の方へ視線を向けたその瞬間何故か言葉を詰まらせ、怯えた様子で後退りし始める。

 一体どうしたというのか、響も少年の方へ視線を向けると…。

 

「え…?」

 

 少年はじっと少女を見詰めていた。

 しかしその表情は先程までの怯えた様子では無く、ただただ無表情であった。

 まるで彫刻のように感情を一欠片も見せぬ少年。

 響の目には、彼のその姿が何故か昨日の怪物と同じように見えて…。

 

「響!!」

 

 その瞬間、背後から自身の名を呼ぶ声が聞こえた。

 その声につられ後ろを振り返ると、こちらへと駆け寄ってくるレオンとアンジェの姿が。

 

「レオンさん!良かった…実はこの子達昨日の奴等に襲われて…!」

 

 少年達の様子が少し気掛かりだが、あの2人が来たならばもう安心だと響は笑みを浮かべ、2人に事情を説明しようと口を開くが…。

 

「その子供達から離れろ!!」

「…え?」

 

 突如レオンから告げられた言葉に耳を疑う。

 この2人から離れろ?

 たった今怪物か、そうでなくとも誰かに襲われて命の危機に瀕した2人を置いて離れろと?

 彼は一体何を言っているのだ?

 レオンが言い放った言葉の真意が掴めず、心に疑惑が募った響はレオンに抗議をしようとするが…。

 

「離れろと言っているでしょう!!」

 

 アンジェが手を翳した瞬間、彼女の手が光り輝き、そこから一筋の光がこちらに向かって瞬時に伸びてきた。

 

「えっ!?なっ…!?」

 

 いきなりの出来事に呆気に取られていると、伸びてきたその光が響の回りを囲み、まるで紐で縛るかのように響の身体を拘束した。

 アンジェはそのまま強く光の筋を引っ張り、強引に響の身体を手繰り寄せる。

 そのとてつもない力に響は抵抗する間も無く、気付けばその身体はレオンの腕の中に収まっていた。

 

「大丈夫か!?」

「レオンさん!?えっ…どういう…!?」

 

 その一瞬の出来事に理解が追い付かず暫し呆然としていた響だったが、やがて我に帰るとレオンが先程言い放った言葉が脳裏に起こされ、彼に対しての疑惑が再び呼び起こされる。

 

「レオンさんあの子達は…!!」

「アンジェ!!響を頼んだ!!」

 

 響はその感情に身を任せ、再び彼に抗議をしようと口を開くが、レオンは聞く耳を持たずそのまま少年達へ向けて駆け出してしまった。

 

「待ってレオンさん!!その子達は昨日の変な奴等に襲われて…!!」

 

 よく分からないが、レオンは何か誤解をしている様子だ。

 このままではあの少年達に対して何か手を出してしまうかもしれない。

 響はレオンの誤解を解こうと身体を動かすが、アンジェがその行動を遮ってしまう。

 

「アンジェさん!?何で…!?」

「…後ろを向いて、振り返らずに走りなさい。」

「でもあの子達が「いいから行きなさい!!」っ…!?」

 

 彼女は両手を広げて響の正面に立つ。

 まるでその先の光景を見せまいとしているように。

 

「でも!!」

 

 しかし響は彼女を押し退けるように身を乗り出す。

 アンジェも負けじと響を押し返そうとするも叶わず、響はアンジェの腕を退けて向かいの景色をその目に捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 そして響は見てしまった。

 少年達へ向けた視線の先、そこに居る彼等の姿を。

 

「くそっ…!!」

 

 少年達へ向けて駆けるレオン。

 

「お兄…ちゃ…ん…。」

 

 怯え、逃げるように後退る少女。

 そして彼女の視線の先に居る少年。

 そんな彼の眼が、同じ人間とは思えない程に不気味に赤く発光しているのを…。

 

「(え…あの子の目…昨日の…!?)」

 

 やがて少年の顔面に無数の突起が現れたかと思うと、一瞬にしてその突起が触手のように伸び、少女の身体に突き刺さる。

 

「え…?」

 

 足を、胴を、手を、首を、目を、頭を…。

 あらゆる箇所に触手を突き立てられ、血飛沫を上げる少女の身体。

 しかしその血飛沫は瞬時に勢いを無くし、同時に少女の身体が内側へと萎んでいく。

 その瞬間、少女の身体に突き刺さっていた触手が宙を舞う。

 少女の代わりに血飛沫を上げる触手の先にはレオンが居り、その手には昨日と同じ赤い柄の剣が。

 どうやら触手を叩き斬ったらしいレオンはそのまま少年へ向けて剣を振るい、彼と相対する。

 そんな彼等の周りには、通りを真っ赤に染めるおびただしい量の血。

 斬られた触手から撒き散らされた肉片、臓物。

 そして文字通り薄皮1枚だけとなった少女の亡骸。

 恐らく10秒にも満たないであろう一連の出来事。

 しかし響にはその10秒が嫌というほど長く感じられ、同時に周囲をこれでもかと満たす血の臭いとおぞましい光景が響の五感を刺激し、響は堪らず口元を手で覆い、喉元から込み上げてくるものを必死に抑える。

 

「だから行けと言ったのに…。」

 

 力無く膝を付いた響を見て、アンジェが苦々しく愚痴を溢す。

 

「何で…何であの子があんな…?」

 

 それから数十秒か、それとも数分か。

 吐き気を抑えた響は荒い息を吐きながらアンジェに問い掛ける。

 何故あの少年が昨日の怪物のような姿になってしまったのか。

 昼間に会った時には何らおかしい所など無かったではないか。

 

「昨日も言ったでしょう?奴等は人間じゃない。」

「じゃあ…何なんですかあれは…?」

 

 響にそう問い掛けられたアンジェは、通りの先でレオンと相対しているあの少年だった怪物にも、そして何故か響にも冷ややかな視線を送りながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「…遥か昔、人が神によって造り出されたその時から、奴等は常に人と共に在った。だがそれは決して共存などという甘えた理想では無い。争い、喰らい、根絶やしにする…奴等との時間は常にそうだった。人は奴等を悪魔と呼ぶわ。でも私達は違う。奴等は悪魔なんかよりも残忍で、狡猾で、そして強い。だから私達は奴等の事をこう呼んでいる。世界が生まれたその日から座する、あらゆる恐怖の概念の象徴…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホラー(Horror)とね。」

 

「ホラー…?」

 

 これまでにも、響は人ならざるものを沢山見てきた。

 しかし今目の前に居るあの化け物は、今まで見てきたそれらとはまた違う存在だ。

 それこそアンジェの言った通り、残忍で、狡猾で…。

 

「だからって…何であの子達が…。」

「ホラーが人間に取り憑くには“陰我”と呼ばれる負の感情が関係して「あの子達、必死に生きていたんですよ…?」…?」

 

 アンジェの話を遮り、響はゆっくりと膝に力を込める。

 

「どんなに辛い事があっても、あの子達は生きてた…2人で頑張ってた…!」

「ちょっと貴女、何を…?」

 

 これ程深く心を抉られたのは、いつ以来だろうか?

 そんな事を頭の片隅で考える響の身体は、震えていた。

 

「私…言えなかった…2人の背中を押してあげられなかった…!」

 

 しかしその震えは決して怯えや恐怖から来る震えでは無い。

 

「絶対に大丈夫だよって…だから、これからも…“生きるのを諦めないで”って…言えなかった…!」

 

 手を伸ばせなかった、救えなかった。

 自分に出来る事がありながらそれが出来ず、目の前で小さな命が散った深い悲しみ、そして怒り…。

 

「だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

許さない!!!私は私を許さないし、あなたも絶対…許さない!!!」

 

 響は目元から流れる涙を隠さずに、溢れる想いを形に変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、歌が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―Balwisyall Nescell “GUNGNIR” tron…!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸の内から溢れし聖なる歌。

 それは遥かなる時を経て現代に蘇りし力に命を吹き込む。

 命を与えられしその力は選ばれし者にその身を委ね、望むがままの形となって現世に降臨する。

 そして今この地に、神の槍を携えし姫巫女が顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人の命を…返して!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖遺物第3号、撃槍・GUNGNIR(ガングニール)、起動。

 

 

 

 

 



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第5話「撃槍、異界を穿つ」後編

「響…!?」

 

 背後から聞こえてきた怒声を耳にしたレオンは、振り向いた先に居た人物を見て驚きを隠せなかった。

 最初はただ他人に心配を掛けまいと気丈に振る舞う健気な子だと思っていた。

 それが常に人の為と言って己の身を削っていく無意識な自己犠牲の心情の持ち主だと、それ以外には何の変わりの無い普通の子だと思っていた。

 しかし今あそこに居るのは一体誰だ?

 誰かの為にと嘆くその姿自体は、いつもの彼女と変わらない。

 しかしその身に纏う物は、彼女から溢れるこの圧は一体何だ?

 

「一番槍の拳…。」

 

 少女が1歩踏み出す。

 その瞳から流れる想いを、哀愁漂う歌声に乗せて…。

 

「一直線の拳…!」

 

 少女の拳に力が籠る。

 その内から沸き出る怒りを、震える歌声に乗せて…。

 

「撃槍…ジャスティスッ!!」

 

 そして一気に解き放たれる。

 投槍の如く飛び出した彼女は一瞬でレオンを抜き去り、彼と対峙していた怪物へと拳を振るう。

 拳が腹にめり込み怪物は直撃を受けるも、そこから微動だにせず、相変わらず感情の無い視線を響に向ける。

 それに対し響はさらにその表情を怒りへ染め、浮いていた脚を強く地へ踏み込ませる。

 陥没した地面が脚部を固定し、力が込められるようになると、響は身体の捻りを利かせて無理矢理怪物を殴り飛ばす。

 とは言え無理な体勢からの拳の打ち抜きは対した威力にはならず、怪物はその場から少しよろけただけであった。

 響は間髪入れずに次の拳を、また次の拳を打ち込み、怒濤の攻めを見せる。

 体力の温存など一切考えていない無茶な戦い、そうさせる程彼女の…響の心は荒れていた。

 見捨てないと選んだ正義。

 決意を固め、掴んだ正義。

 

「離さない事、此処に誓う!!」

 

 決して離さないと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、誓った筈なのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(出来なかった…私、何にも出来なかった…!!)」

 

 救えなかった2人の命に懺悔するのはこれで何度目だろうか?

 いや…何度目だろうが関係無い。

 きっと自分はこれから何度でも彼等に頭を垂らす事だろう。

 そんな響の脳裏に浮かんだのは、レオンとアンジェの姿。

 

「(貴方達は知っていたの!?こうなるって事を!?)」

 

 黄金の鎧を纏うレオン、怪物達の事を知っていたアンジェ。

 あの時レオンが離れろと言ったのは…アンジェが強引に2人から引き離し、自分の前に立ったのは…あの2人の命が助からない、救えないものなのだと知っていたからだろうか?

 

「(2人の命を奪った貴方は誰!?一体何なの!?)」

 

 ホラーと呼ばれた目の前の怪物は一体何なのか。

 何故人の命を狙い、奪うのか。

 そしてその果てに何を望んでいるのか…。

 

「(私は何を知らなくて、何を知れば良いの!?)」

 

 分からない。

 自分は何を理解して、何をしなければならないのか。

 それでも…。

 

「突っ走れ!!」

 

 怒り、哀しみ…例えその全ての声が枯れ果てたとしても…。

 

「突っ走れぇ!!」

 

 この胸に流れる歌だけは。

 そこから溢れる愛は、正義は。

 それだけは絶対に…絶対に絶やさない。

 

そう決意(ジャッジ)した空を…ぶっ飛べぇ!!!」

 

 全力の想いを乗せ、響は拳を下から上へと突き上げる。

 相手の胴にめり込んだ拳を振り抜き、宙へと飛ばす。

 まだだ、まだ終わらせない。

 響は間髪入れず怪物の下へ飛び上がろうと両脚に力を込めるが…。

 

「っ!?」

 

 宙へ打ち上げられた怪物の体表に再び無数の突起が現れた。

 恐らく先と同じ触手を伸ばしてくるのだろう。

 避けなければならない、しかし既に自身の体勢はもう飛び上がる寸前まで行ってしまっている。

 他の行動を取る余裕は無い。

 触手がこちらを捉える前に接近出来るか?

 いや…一瞬だが相手の出方を伺った為、僅かに脚部から力が抜けてしまった。

 再度力を込めている頃には、あの触手の餌食になっているだろう。

 

「(飛びながら捌くしかない!!)」

 

 出来る事はそれだけだと、響は行動の方針を変えずにそのままの勢いで宙へと飛び出す。

 怪物は予想通り表皮の突起を触手に変え、響へと向けて高速で伸ばしてくる。

 しかし…。

 

「っ…!?(数が多い…!!)」

 

 向かってくる触手の動きに目を配り、最初の1手を繰り出そうとした響。

 しかし怪物は先程少女に向けて突き立てた数の倍近い量の触手を時間差で伸ばしてきた。

 目や耳なども含めて、怪物の体表は触手で覆われている。

 そして唯一覆われていない口元、先程まで何の感情も表さなかった怪物は…確かな嘲笑を浮かべていた。

 

「(捌ききれない…!!)」

 

 相手の巧妙な手口に掛かった響の下へ、怪物の触手が迫る。

 そして彼女の身体に触手が突き刺さらんとしたまさにその時、響は身体を優しく包み込まれる感触と、何かを切り裂くような音を同時に感じた。

 そして響の身体は自分の意思に関係無く地面へ降りていく。

 いや…降りていくのでは無い、降ろされている。

 そう感じた響は正面に向けていた視線を上へと移す。

 

「レオンさん…!」

 

 視線を移したその先で、レオンがじっとこちらを見ていた。

 妙に近い距離だと一瞬戸惑ったが、ふと視線を下げた先…そこに映った自身の体勢を見て、合点がいった。

 自分は今レオンに抱き抱えられているのだ。

 そして膝裏に通された彼の左手には、あの赤い柄の剣が。

 どうやら自身の身体に触手が突き刺さらんとしたその瞬間に彼が割って入って触手を切り裂き、そのまま自分を抱き抱えて地面に降りたようだ。

 レオンは事の次第を理解した響を見て抱き抱えるのを止め、彼女を地に立たせる。

 そして彼女の目を真っ直ぐ見ながら、一言口を開いた。

 

「…1人で突っ走るな。」

 

 その言葉に響は先程までの自分を思い返してはっとする。

 僅かに手が痺れている。

 かすかに疲労を感じる。

 喉に若干の違和感を感じる。

 まだ歌い(戦い)出したばかりだというのに、ここまで消耗している。

 自分の身体も満足に管理できない程に激情に呑まれていた。

 それがあの結果に繋がったのだ。

 何度も命を救ってもらい、そして何度も迷惑を掛けてしまった事に、響の表情が曇る。

 

「…まだ行けるか?」

 

 そんな響にレオンは努めて優しい声で問い掛ける。

 およそ命を賭けるこの場には相応しくない程の声色は、まるで彼女が思っている事の全てを読んで、なお気にしていないと伝えているようだ。

 その優しさが響の心を落ち着かせ、そして奮い立たせる。

 

「…はい!!」

 

 怒りも、哀しみも、全てが消え去った訳では無い。

 しかし…涙は出しきった。

 もう己の中の激情に呑まれる事は無い。

 

「無事のようね。」

「アンジェさん…はい、もう大丈夫です。」

「それは結構。それにしても気味の悪い奴ね…。」

 

 アンジェも合流した所で改めて怪物を見ると、先程響と相対していた時と変わらず全身のあらゆる箇所から触手を伸ばしており、それらが不規則に動く様は、成程彼女の言う通り気味が悪い。

 

「…ザルバ、奴は?」

 

 そう思っているとレオンの声が耳に届き、そちらを見る。

 するとレオンは何故か左手を顔の前まで持ってきて、中指に嵌められている銀色の指輪に向かって話し掛けた。

 よく見てみると指輪はまるで人間の骸骨を模したような見た目をしており、確かに話し掛けたら喋り出しそうな程に精巧にデザインされてはいるが…。

 

「奴はホラー・デジュモニグ、見ての通り全身が触手で構成されている。斬っても新しいのが生えてくるだけだ。」

「…え?」

 

 響は己の目と耳を疑った。

 

 誰かが喋った気がする。

 

 ―誰が?

 

 何かが動いた気がする。

 

 ―カチカチと音を鳴らして。

 

 …今何が起こった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすれば良い?」

「何処かに奴の本体である核がある筈だ。それを斬れ。」

「喋ったぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 A.(答え)指輪が喋った。

 

 

 

 

 

「え、あ、え!?い、今それ喋って…えぇ!?」

「…うるさい奴だな。」

 

 喋りそうだと思っていたらまさか本当に喋るとは、それも結構な良い声(イケボ)で。

 ましてや至近距離でそんなものを見せられるとは思わず、響はヴァリアンテに来て1番とも言える程の動揺を見せる。

 

「さて…どうするの?」

「ザルバの言っていた核を探したいが…出来るか?」

「やってみましょう。」

「ならアンジェはそれを頼む…響はとにかく奴を引き付けてくれ、最後は俺が奴を斬る。」

 

 慌てふためく響をそのままに、レオンは剣を頭上に掲げ素早く宙に円を描く。

 すると切先が描いた円が光の輪となってその場に残り、次の瞬間には円の内側がひび割れ、眩い光がレオンを照らす。

 その光が晴れた時響の前に居たのは、あの黄金の鎧を纏った騎士であった。

 

「黄金の鎧…!」

 

 黄金騎士・ガロ。

 再び脳裏に過るその言葉と姿に動揺を忘れ、暫し言葉を失う響。

 そんな響に黄金の鎧を纏ったレオンは真紅の瞳を彼女に向け…。

 

「行くぞ…!」

 

 力強い声で彼女を促した。

 ならばこちらもその意思に応えんと、響も覚悟を以て返事を返す。

 

「…はい!」

 

 その言葉を皮切りに、3人は動き出した。

 対する怪物…ホラー・デジュモニグは、相も変わらず嘲笑を浮かべながら全身の触手を伸ばして、その矛先を3人へ向ける。

 地を抉る、人1人を簡単に殺める触手の刺突。

 まるで槍の雨とも言えるその中を、3人は時に躱し、時に捌き、時に斬り捨てながら猛進する。

 そしてあと数メートルという距離まで近付いた瞬間、アンジェはその場で垂直に、レオンと響はデジュモニグ目掛けて跳躍する。

 

「全身うねらせていようが!」

 

 アンジェは両手を光らせ、光の帯をデジュモニグへ伸ばす。

 帯はデジュモニグの腕に相当する場所へ到達すると、響を拘束したように触手を束にして巻き付ける。

 これで襲い掛かる触手の数は減った。

 ならば、後は斬り捨てるまで。

 

「ハァッ!!」

 

 デジュモニグに肉薄したレオンは剣を下から上へと斬り上げ、デジュモニグの身体を両断する。

 一刀の下に斬り裂かれ、苦痛の表情を浮かべるデジュモニグ。

 斬り裂かれた箇所に、核とおぼしき物は…見当たらない。

 

「まだぁ!!」

 

 反撃される前に、打つ。

 そう言わんばかりに両者の間に割って入った響は両断されたデジュモニグの身体に両腕を打ち込む。

 それと同時に響の腕部に付属しているユニットが起動、ハンマーパーツが自動で引き延ばされ、一瞬の内に絞られた撃鉄が打ち込まれる。

 そこから発せられる衝撃は並大抵のものでは無く、デジュモニグを一瞬で10メートル以上の距離まで吹っ飛ばした。

 

「なっ…!?」

「おいおい、何だあの馬鹿力は…!?」

 

 地面に激突すると凄まじい粉塵が舞い上がり、その威力を目の当たりにしたレオンと彼の指輪は目を丸くする。

 そんな彼等の側に着地するアンジェ。

 しかし彼女の表情は彼等とは違い若干怒りに満ちていた。

 

「貴女ねぇ…危うく巻き込まれる所だったじゃない…!」

「あわわ…すみません!」

 

 そういえば殴り飛ばした際、彼女がデジュモニグの両腕を拘束していたままだった事に気が付いた響は慌てて彼女に謝罪の言葉を述べる。

 その直後、デジュモニグが飛ばされた方向から不可思議な音が聞こえてきた。

 デジュモニグが動き出したのだろう、全員直ぐ様臨戦態勢を取る。

 それと同時に未だ舞い上がる粉塵の中からデジュモニグが姿を表す。

 しかしその姿は先程の人型の形状ではなく、一点に触手を集め螺旋状に回転している奇妙な姿であった。

 

「ど、ドリル!?」

 

 そう、螺旋を描きながらこちらへと向かってくるその姿はさながらドリル。

 デジュモニグは線上全ての物を薙ぎ払って自分達を排除する気だ。

 

「なら…こっちだって!!」

 

 響は右腕を空へ掲げる。

 すると彼女の腕部ユニットが再び変化し、回転を始める。

 ユニットが回転し始めたのを確認した響はそのまま腕を大きく振りかぶる。

 更に勢いを増し、回転するユニット。

 暴風を纏い形を為すその姿はデジュモニグと同じ形状…ドリルであった。

 

「貫けぇぇぇぇぇ!!」

 

 そのまま腰部のユニットから火を吹かせ、響はデジュモニグへ向かっていく。

 突き出した腕から伸びる円錐の頂点がデジュモニグにぶつかると、甲高い金属音が周囲に響き渡る。

 押して、押されて…一進一退の攻防が続く中、響はさらに険しくデジュモニグを睨みつける。

 

「(だから…どうした!!)」

 

 地に脚を付け、突き出していた腕を引く。

 無理矢理体勢を変えた事による多大な負荷が襲い掛かり、響はデジュモニグの力に押されそうになる。

 

「(守れなかった…けど、決めたんだ!!私は負けない…負けるわけにはいかないんだって!!)」

 

 砕けそうな腕、震える脚…しかし響は今にも破壊されそうな自身の身体に鞭打ち、全身全霊の()を込めてその場に踏ん張る。

 響の想いに応えるように、2人もまた動き出す。

 

「背中借りるわよ!!」

 

 アンジェは響の背後へと近付き、片方の手を彼女の背中へ翳す。

 すると翳した両手の先に水色の幾何学的な光の紋様が浮かび上がる。

 

「え!?アンジェさんそれって…!?」

「前見て踏ん張る!!」

 

 横目でその紋様を見て動揺を見せる響にアンジェが叱咤した瞬間、展開している響の腕部ユニットから大量の水が噴射された。

 

「え!?み、水!?」

「だから踏ん張る!!」

 

 水噴射という本来備わっていない筈の攻撃が出た事によりさらに狼狽する響を叱り付け、アンジェはさらに空いている手を響の背中に翳す。

 その手に光る紋様は…土を表すような黄色であった。

 

「水と土を足して…!!」

 

 響の腕部ユニットからまたも予期せぬ攻撃が繰り出される。

 アンジェが言った通り、それは水と混ざり合い泥と化した土であった。

 辺り一面黄土色となる中、デジュモニグもまたその泥を大量に被っていた。

 

「貴女、一気に空へ跳べる!?」

「空…はい、出来ます!!」

「なら合図で跳ぶわよ!!1、2の…!」

「え!?ちょっと待ってそんないきなr「3!!」あぁぁぁぁぁもうっ!!」

 

 急が急を呼ぶ展開に若干やけくそになりながらも響は脚部ユニットを起動、自身の跳躍と合わせて引き絞ったインパクトを地面に向けて打つ。

 ユニットの力が加わった響の跳躍は本来なら絶対に抜け出せないであろう体勢からの脱出を可能とした。

 

「焼いて!!黄金騎士!!」

 

 それと同時にアンジェの声が響き渡り、つられてレオンの居る方向を見る響。

 するとそこにはまたもや彼女の見知らぬ彼の姿が。

 

「あれは…!?」

 

 彼の姿は黄金の鎧を纏ったあの姿のままだ。

 しかし今の彼はただ鎧を纏っているだけでは無い。

 その上にもう1つ…と呼んでも良い程の炎を纏っていたのだ。

 雄々しく、激しく…見る者全てを魅了する緑色の炎を。

 

「ハァッ!!」

 

 レオンが剣を振り下ろす。

 すると全身に纏っていた炎が瞬時に刀身へと集まり、デジュモニグ目掛けて放射された。

 炎はデジュモニグを軽く呑み込む程の勢いで放たれ、その炎が晴れた時、そこにはあのドリルの形状のまま土くれと化したデジュモニグの姿があった。

 

「そして火で熱すれば土器になる…って事よ。」

 

 アンジェは響にそう言い聞かせるように呟くと、今度は緑色の紋様を手の平に光らせる。

 

「ぶちかましてきなさい。」

「…はい!!」

 

 短いながらもアンジェの言葉には次の一撃で終わらせろという確かな想いが込められていた。

 言われずとも応えよう、そう決意を表した響を見たアンジェは緑光の紋様を響に向けて翳す。

 すると紋様から強い風が吹き、響を地上へと下ろしていく。

 地に脚を着けた響は右腕のユニットを引き絞る。

 特殊な機械音と共に引き絞られたユニットであるが、響はさらにもう一段ユニットを引く。

 限界まで引き絞られたユニットが軋み、機械音は不協和音へと変わる。

 響はそれをかき消す勢いでデジュモニグへ向かいながら最後の歌を口ずさむ。

 

「熱き(ハート)…!」

 

 腕を引き、拳を握り締め、デジュモニグへ向かっていく響。

 ただ真っ直ぐに向かっていくその姿とは裏腹に、彼女の心は複雑な迷路を歩いていた。

 この戦いで初めて歌を口ずさんだ時に心を占めていた疑問、疑惑…それらが再び響の心を支配する。

 しかし彼女はその迷路にもう迷わない。

 見つけたのだ、自分が為すべき事を。

 デジュモニグの下まで、残り僅か。

 

「翔ける想い(ハート)…!!」

 

 突き出した拳がデジュモニグの身体に突き刺さり、そこを起点にデジュモニグの身体に亀裂が走る。

 もう迷わない、恐れない。

 この胸にある想いは、ただ1つ。

 決意を固めた彼女の拳は、決して折れない。

 そう…!

 

「ジャッジした空を…!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     負けない愛が(ここ)にある!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 全霊の叫びが木霊し、腕部のユニットが打ち込まれる。

 その威力は、デジュモニグの巨体を文字通り一撃で粉砕する程。

 そして一瞬だが、響は確かに見たのだ。

 デジュモニグの身体だった土気色の破片が飛び散るその中に、赤く不気味に蠢く物体を。

 

「レオンさん!!」

 

 間違いない、あれが核だ。

 そう確信した響はレオンに向かって声を上げる。

 対するレオンは…既に動き出していた。

 黄金の脚が地を駆け、吹き飛ぶデジュモニグの核へ迫り…!

 

 

 

 

 

「ウオォォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 一閃。

 横一文字に放たれた斬撃は数秒の間を置いて核に一筋の線を作り、見事に2つに裂かれた。

 そのまま地へと落ちた核と破片は、やがて風と共に塵となって消えていった。

 

「終わったわね。」

「あぁ…。」

 

 先日と同じように鎧が天へと昇り、黄金の騎士はレオン・ルイスへと姿を変える。

 鎧を解除したレオンはアンジェへ簡単に返事を返すと、そのまま視線を響の方へ移す。

 彼女はいつの間にか2人の先の道端に佇んでおり、彼女が見下ろすその先には、あの少女の亡骸が。

 

「響…。」

 

 果たして今の彼女に何と声を掛けたら良いのかレオンが模索していると、突然少女の亡骸が独りでに燃え始めた。

 目の前で起きた突然の出来事にびくりと身体を震わせた響は慌ててレオン達2人へと視線を移す。

 レオンも向けた視線の先、そこには少女の亡骸へ掌を向けているアンジェの姿が。

 その翳している掌の先には、火を連想させる赤い紋様が灯っていた。

 

「…残しておいても意味無いわ。」

 

 アンジェの声が2人の耳に届く。

 非情とも、せめてもの情けとも取れるその言葉に、響はただ拳を握り締めるしかない。

 レオンもまた、2人の抱える想いを理解している為に何も言えない。

 

「…色々と、聞きたい事がある。」

「…私も、色々聞きたい事があります。」

 

 複雑な事情が交差している今、お互いが出来る事はたった1つ…。

 

「全部話します…だから、全部聞かせてください。」

 

 全てを伝え、全てを知る事。

 疑惑、哀しみ、決意…。

 様々な想いを宿した響の瞳をじっと見据えながら、レオンはその場でただ深く頷いた…。

 

 

 

 

 




・「てめーはおれを怒らせた」状態の響

→気持ちはTESTAMENTばりのオラオララッシュをしている


・喋る指輪

→そりゃあんなの動いたら誰だって驚くわ


・アンジェの放つ4色の光の紋様

→現在どこぞの人形達が出番だと思ってスタンバっているみたいです


・怪物の詳細

→次回説明回なのでそこまで持ち越しで


・シンフォギアの戦闘

→総評「クソムズい」


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第6話「裏側-Shadow side-」

「はい、どうぞ。」

「どうも…。」

 

 夜…宿へと戻った響達にヒメナから温かいミルクが差し出される。

 いつもはもう一言付け足した感謝の言葉があるのだが、今はどうしてもそれを言う気分にはなれない。

 そんな響の心情を察してか否か、ヒメナはそれじゃあと言って足早に部屋を後にした。

 3人だけとなった部屋は誰として言葉を発しようとせず、沈黙した状態となった。

 何を話せば良いだろうか、何を聞けば良いだろうか。

 全てを話し、全てを聞くと決意したものの、聞きたい事が沢山ある。

 しかしどこから手を付ければ良いのかさっぱり分からない。

 何が分からないのかが分からない、今の響はそんな状態なのだ。

 

「まずは…俺達の方から話した方が良いか。」

 

 そう響が口を結ぶ中、レオンが静かに口を開く。

 その言葉を聞くと、不意にあの怪物の事が脳裏に過り、先程までの葛藤が嘘のように響の口から自然と言葉が流れ出る。

 

「あの子の…あの子に成り済ましていたあの怪物は一体何なんですか?」

 

 あの時、目の前で命を奪ったあの怪物。

 自らの知る異形とはまるで違うあの怪物の正体は一体…。

 響の問いにレオンは一度ミルクに口を付け一呼吸置き、その後真っ直ぐ響の目を見つめながら彼女の質問に答える。

 

「奴等の名は“ホラー”。魔界から現れ、人を喰らう魔獣だ。」

「魔獣、ホラー…。」

 

 魔獣ホラー。

 反芻し、しっかりと心に刻んだその名前からは、直球ながらもどこか名前以上の底知れぬ何かを感じる。

 

「この世界は俺達人間が住む人間界と、ホラーの住む魔界の2つがある。奴等は餌である人間を喰らう為にこの世界へやって来るんだ。」

「人が…ホラーの餌…!?」

「正確には“陰我”と呼ばれるものを喰らうのよ。」

 

 人界や魔界といったゲームにでも出てきそうな言葉が現れ困惑する響。

 そんなレオンとの会話に割って入ったのはアンジェだった。

 

「陰我というのは生きとし生けるもの全てに於いて存在する負の感情が形となったものを指すわ、恨み、妬みといったね…突然だけど、物には人の想いが宿るって聞いた事無い?」

 

 そう問い掛けるアンジェに響は当然だと頷く。

 例えば人から貰った贈り物、それには贈った人が贈る人へ向けて込めた想いがある。

 何を贈れば良いか、どう渡せば喜ばれるか。

 自分も何度人から物を贈られ嬉しくなった事か、何度人に物を贈り、贈った人の笑顔を見て心が晴れやかになった事か…。

 贈り物だけでは無い、普段自分達が使っている物の中にも愛着を覚える物はある。

 そういう物は当然大事にするし、それだけの想いが籠っている。

 

「大抵は良い方向で捉えられる事が多いけれど、実際は別。物に宿る大抵の想いは人の負の感情…つまりは陰我なのよ。」

 

 そういった大切な感情が込められた想い、しかしアンジェはそれらを真っ向から否定した。

 

「負の感情なんて…そんな事無いですよ!」

 

 それはまるで響がこれまで贈り物として他人に向けていた、向けられていた好意が全て偽りだと言われているように聞こえ、思わず声を荒らげる。

 しかしアンジェはそんな響にまたも冷ややかな視線を送り、彼女を論そうと口を開く。

 

「人から向けられる好意が常に希望に溢れているとは思わない事ね。過剰な愛はその人に不快感を抱かせる…そういった感情も陰我に繋がるのよ。」

 

 その言葉を聞いた響は声を詰まらせる。

 そう、人に向ける好意や愛情…単純に端から見れば素敵な美談に他ならない。

 だがもし好意を向けられている人が、好意を向けている人の事を何とも思っていない…或いは何らかの理由で距離を置いていたとしたら?

 好意を向けている人の感情は負担にしかならない。

 自分だって仲間や友達から好きだと言われたら喜ぶが、全く面識の無い人から突然好きだと言われても正直困る。

 ましてやそれが何度も続けば迷惑にもなるし嫌悪感も表れる。

 そしてその嫌悪感こそ人の負の感情…陰我なのだ。

 

「そうやって物に大量の陰我が集まると、それが人間界と魔界を繋ぐ“ゲート()”になる。ホラーはそこから人間界へ現れるのよ。ただしホラーはそのままの姿では人間界には留まれない、ホラーの身体は日の光に弱いのよ。」

「…何だか吸血鬼みたいですね。」

「みたいじゃなくてそうなのよ。何せ世に出回っているそういった噂の大半はホラーが正体なんだから。」

 

 そういった噂というのは恐らく幽霊だったりUMAといったものの事だろう。

 今世では大抵夏になると特番としてテレビで放送されたりするので、自分も仲間と共に肝試し感覚で見たりするのだが、ふとそういう噂の正体がホラーだという言葉に違和感を覚える。

 そういえばそんな存在を自分はよく知っているではないか。

 ホラーと同じようにあらゆる怪奇現象の正体とされている奴等を。

 

「(後で聞いてみようかな…。)」

 

 ホラーという存在はこれまでに聞いた事は無かったが、同じような噂が立ち、同じように人を襲うのならば、そういった事態に対処する存在である自分が名前も何も知らないというのは少々おかしな話なのではと思ったのだ。

 恐らくこちら側の説明をする時に自分の知る怪物については触れるであろうから、今は頭の片隅に置いておくだけに留めておき、アンジェ達の話に響は再び耳を傾ける。

 

「話を戻すと、ホラーはこの世界に留まる為にある事をするの。ホラーというのは目ざとい奴等でね、ゲートが開くと10秒もしない内に魔界からこの世界に這い出てくるの。すると大抵近くには最後に物に陰我を宿した元凶…人間が居る訳よ。だからホラーはまずその人間を襲うの。人の皮を被ってしまえば、日中でも活動出来るからね。」

「人の皮を被るって…!?」

「奴等にとっては着替えみたいなものよ。貴女も時と場所で服を替えるでしょう?」

「だからって…人の命ですよ!?そんな簡単に…!?」

「出来るのがホラーだ、奴等にとって人間は単なる餌にしか過ぎないからな。」

「そんな…!!」

 

 しかし耳を傾けた先に聞こえたのは想像以上の残虐性を持つホラーの実態であり、響の表情に影が射す。

 人の命をまるで玩具のように扱うホラーに言い知れぬ怒りが込み上がり、拳に力が籠ったその時。

 

「おいおい、それじゃまるで俺様も同じみたいな言い方だな?」

 

 どこからか聞き慣れない声が聞こえてきた。

 男性のような声であったが、ここに男性はレオンしか居らず、声質からして彼の出した声では無い。

 当然アンジェの声でも無ければ自分の声でも無いこの声の正体は一体…と一瞬疑問に思ったが、ふと先程の戦闘の事を思い出し、視線をレオンの方へと向ける。

 

「あ…指輪さん…。」

 

 すると声に反応していたレオンが左手を持ち上げており、中指に嵌められている指輪に視線を合わせていた。

 

「悪かったよ…先に紹介しておくよ、魔導輪の“ザルバ”だ。こんな見た目だが、こいつも立派なホラーだ。」

「え、ホラー…!?」

「安心しろ、別に人を喰ったりはしない。後でまた説明するさ。」

 

 指輪の正体がホラーという事で一瞬身構える響を窘めたレオンは次にその視線をアンジェへと移し、話の再開を促す。

 

「…で、人の皮を被ったホラーはこの世界で行動する事が出来るようになる。そうして次なる餌を求めて、ホラーは人を喰らう…って訳よ。」

「人を喰らう…魔獣…。」

 

 魔界から出て、人に憑り付き、人を喰らう。

 その目的はただ、自らの欲求を満たす為だけ…。

 

「何で人間なのかって顔してるわね?」

 

 誰の事も考えていない、本当に自分勝手に命を奪う。

 そんな横暴に何故人間が巻き込まれなければならないのか。

 そう考え込む響の疑問にアンジェが答える。

 

「当然の事よ。人は様々な事を考えられるし、感受性も高い。そしてそこから生まれる感情は他の動物よりも遥かに深くて多い。もちろん負の感情…陰我もね。食事は美味しいに越した事は無いでしょう?」

 

 何でもないように答えるアンジェの言い方が少し癪に触ったのか目付きを鋭くする響。

 視線をアンジェに向けていた為意図せず睨むようになってしまった事に気付いた響は慌てて謝ろうとするも、分かっていると言いたげに苦笑するアンジェ達の前に、こちらも申し訳無く苦笑いを浮かべるしかない。

 

「そしてそんなホラーから人を守る使命を帯びた者達が、魔戒の者達なのよ。俗に“守りし者”と呼ばれる私達は基本的に2つに分かれているの。私のような“魔戒法師”と、彼のような“魔戒騎士”ね。」

「魔戒法師…錬金術師(アルケミスト)とは違うんですか?」

 

 説明を受けた響が問い掛けた質問、それが意外すぎたのかアンジェは珍しくえっ、と驚いた声を上げてしまう。

 

「貴女よく知ってるわね…錬金術を見た事が?」

「はい、前にちょっと…。」

 

 S.O.N.G.の活動の中で知る事となり、そして2度に渡り敵対する事になってしまった錬金術。

 そんな力をアンジェが使うとは思わず、響はずっと気になっていたのだ。

 するとこれまた珍しく置いてけぼりを喰らってしまったレオンが2人の話に割って入り、錬金術について質問する。

 

「錬金術?」

「魔戒法師の扱う術の前身となったやつね。想い出を焼却…つまりは記憶を無くして力を行使するから最終的な損害が大きすぎると敬遠されてるけど、術自体は強力だから私は使ってるのよ。」

 

 錬金術…俗に魔法と称される事もあるそれは聖遺物にも匹敵する力を持っているが、その力の行使には記憶の焼却…つまりは扱う人物がこれまで培ってきた記憶や想い出を力へと変換して発動するのだ。

 従って何回も力を行使するという事は最終的に何の記憶も持たない人形のような存在となってしまう為、敬遠されるというアンジェの言葉も納得だ。

 

「最初に誕生したのは魔戒法師の方だった。錬金術を初めとしたあらゆる術式を参考にホラーに対抗出来る術を編み出して、暫くはそれで何とかなっていた。しかし激化するホラーとの戦いで徐々に劣勢となっていった人類は、新たな存在に望みを託す事にした。」

「それが…魔戒騎士?」

 

 魔戒法師が対抗出来なくなったのならば、残る存在はアンジェの言っていた魔戒騎士だろう。

 そう確信した響の言葉にアンジェは深く頷いて肯定の意を示す。

 

「レオンの纏う鎧…あれは“ソウルメタル”と呼ばれる特殊な金属で出来ていてね、ホラーを封印する事が出来る唯一の金属なのよ。魔戒騎士はああやってソウルメタル製の鎧と剣を使ってホラーを倒すの。」

「凄かったですよね、レオンさんの…。」

「当たり前よ、彼は特別なの。」

 

 黄金に光り輝き、ホラーを滅するレオンの鎧。

 その豪華絢爛たる姿は特別だと言われれば十分納得出来るものだと、響はその程度にしか考えていなかった。

 

「こいつは黄金騎士 ガロ。ガロの称号は魔戒騎士の中でも最高峰の証だ。」

 

 しかしザルバの言葉に響は首を傾げる。

 はて、最高峰とはどういった意味であっただろうか?

 確か、ある一群の中で最も優れているという意味であった筈だが…。

 

「え…って事は…?」

 

 響はちらりとレオンの方を見る。

 そこには何処か気恥ずかしそうにそっぽを向くレオンの姿が。

 

「良かったわね、今貴女が世話になっているのは今世最強の魔戒騎士の下なのよ?」

 

 対して笑みを浮かべているのはアンジェ。

 そう、今目の前に居るこの青年こそ、あらゆる魔戒騎士…ひいては守りし者の頂点に位置する存在。

 特別どころの話では無かったのだ。

 

「はわわ…レオンさんそんな凄い人だったんですか!?」

「別に言う程でも無いさ。2人もそんな煽てないでくれ…。」

「あら、貴方は紛れもなくガロの称号を継ぐ者。もっと誇っても良いと思うけれど?」

 

 アンジェの称賛に何とも言えないような笑みを浮かべるレオンだったが、脱線していた話を戻そうと軽く咳払いをし、表情をいつもの鋭いものへと変える。

 

「とにかく…奴等の名前はホラー、人を喰らう魔獣だ。俺達の仕事はそんなホラーの討滅…そうだ、ザルバの説明をまだしていなかったな。」

「そういえばその、ザルバさん?…もホラーって言ってましたけど…?」

「あぁ。ただザルバは人間に友好的なホラーの1体でな、そういったホラーは魔戒法師達の手によって“魔導具”という物に魂を移して俺達に協力してくれる。まぁ…ホラーも1枚岩じゃないという事だ。」

 

 人を喰らう筈のホラーの中に人間に友好的な者が居る。

 守りし者の頂点であるレオンの側に居るのだから間違いは無いのだろう。

 しかし…。

 

「あの子達は…その…。」

 

 ホラーの実態を目の当たりにしたばかりの自分にはやはり信じがたい。

 2人の命を目の前で奪われた感覚が、今もこの身に染み付いて離れない。

 

「男の子の方はもう手遅れね。ホラーに憑依された時点で、人の魂は消えてなくなる。女の子の方は…悔しいけれど私達2人の力不足ね。」

 

 悔しさを含めた溜息を溢したアンジェ。

 響を含めず自身とレオンの2人だけの責任としたのは、何も事情を知らなかった響に対するせめてもの慰めだったのだろう。

 しかし知らなかったとはいえ、この身体は動く事も出来なかった。

 何が起きるか分からなかろうが、この手を伸ばす事は出来た筈。

 アンジェの気遣いは、逆に響の心を再び深い所まで落とし込んでしまった。

 

「分かりました…次は私の方ですね。」

 

 だからといってこのまま悲観に暮れる訳にはいかない。

 もうあの2人のような犠牲者を出さない為に、今度はちゃんと手を伸ばす。

 そう決めたのだから。

 

「…あの戦いの時の格好は一体?」

 

 己の悲観を払拭した響は普段の爛漫な表情を引き締め、レオンからの質問に対し1つ1つ冷静に情報を整理して答える。

 

「あれは“シンフォギア”っていうもので、聖遺物って呼ばれる物を加工して作られたものなんです。」

「セイイブツ…前に話していた奴か。」

「…何の話?」

「あ、アンジェさんにはまだ話してなかったですよね。」

 

 前にレオンには軽く話していたが、そういえばアンジェにはまだ何の説明もしていなかったと、響は改めて聖遺物に関する事から説明を始める。

 

「聖遺物っていうのは神話やおとぎ話なんかで神様とかが使っていた武器や、身に付けていた物の事です。大体は年月が経っちゃって使い物にならなくなっちゃってるんですけど、たまに昔の力がそのまま残っている物があるんです。ただそれも物自体が欠片でしか残っていなかったりするので、それを加工して力を引き出せるようにしたのがシンフォギアなんです。」

「シンフォギアか…魔戒の技術とは違うのか?」

「そうですね、多分関係無いかと…。」

「まぁセイイブツなんて言葉は私達も知らない訳だしね。」

 

 普段自分が力を行使する対象とホラーの特徴は少なからず似通っている所がある。

 そう思うとシンフォギアや聖遺物にも何か魔戒の方面と繋がりがあるやもと思われるが、自分がこれまでホラーの情報を一切知らなかった事から考えるにその線は薄いだろう。

 思う所があった様子のレオンに代わり、今度はアンジェが響に対して質問を投げ掛ける。

 

「戦いの時に歌っていたのは何故?」

「シンフォギアには“フォニックゲイン”っていう特殊なエネルギーが流れているんです。それがシンフォギアの力の源で、そのフォニックゲインを高めるには歌を歌う必要があるんです。」

「成程、トチ狂っていた訳では無いと。」

「そ、そんな事無いですよ!」

 

 確かに命を掛ける場で歌いながら戦うとなると、端から見れば気の触れた者にしか見えないだろう。

 分かってはいたものの改めてそう言われると何だか哀しい気分になる。

 

「それにしても魔戒騎士に匹敵する程の力…一体何の為にそんな物を?」

 

 アンジェがそう聞くと、レオンも視線を改めて響へと向ける。

 自らの預かり知らぬ所で同じような力を使っている者が現れたのならば気になるもの。

 2人に関してもそれは同じようで、これまでの会話以上に意識を向けられている気がする。

 ちょうど良い、こちらも聞きたい事がまだ1つある事だし、この際にまとめて話してしまおう。

 

“ノイズ”っていう奴等に対抗する為に作られたんですけど…ノイズの事は知っていますか?」

「…いいえ、聞いた事無いわ。」

「ザルバ、何か知っているか?」

「いや…知らないな。」

 

 レオン達の返答に響は困ったと唸り声を上げる。

 と言うのもこのノイズというのは表向きに世界中で存在が認知されているものである為、レオン達の内誰もが知らないというのはおかしな話なのだ。

 

「ノイズは国から認定特異災害として扱われている、人を襲う怪物です。有史以前から存在しているって言われてる奴等で…。」

 

 まるで先程の自分のようだと思いながら、響はノイズについて引き続き説明を続けようとしたが…。

 

「ん…?有史以前から存在する怪物…?」

「どうしたザルバ?」

「いや…似たような話なら聞いた事がある。そいつらも有史以前から人を襲ってきたとか…。」

「それってどんな…?」

「さぁな…俺様も話を聞いた事があるだけだし、そもそもそれにはノイズなんて名前は付いてなかった筈だが…?」

 

 急にザルバが何か思い当たりがあるようにぶつぶつと呟き始めたのでレオンが問い掛けると、非常に興味深い事を話したのだ。

 もしかしたらやはり何か繋がりのようなものがあるのかもしれない。

 共通した特徴を持つホラーの言う事だ、信憑性はありそうだ。

 

「あの黒い物体…前にあれはセイイブツの力で出来たものだと言っていたが…。」

 

 お互い一通り質問をし終えたのか沈黙が続く中レオンが小さな声で呟いたのは、遺跡に存在しているあの物体について。

 

「…あれに関しては本当に私もよく分からないんです。多分事故だと思うんですけど…。」

 

 シンフォギアやノイズの事を隠していたので、念の為の確認といった所であろうが、それに関しては嘘偽りを言ったつもりは無い。

 というよりも嘘の付きようも無い。

 何故なら当事者である自分も未だに何が起きたのか分かっていないのだから。

 確認を取るにはあの時同じ場に居た仲間達から話を聞くしかないが、今はその手段が無い。

 こればかりは手放しで信じてもらうしかないと考えていると、アンジェが眉間に皺を寄せて自分とレオンを交互に見ていた。

 何をそんなに睨みを効かせているのかと思っていると、レオンが彼女の意図に気が付いたのか、そうだったと前置きをしてから彼女に説明をする。

 

「響と出会ったのはここから少し離れた所にある遺跡だ。そこに普段見掛けない黒い物体があってな、響はそれの前に倒れていたんだ。」

 

 その話を聞いてアンジェも響も成程と納得した。

 そうであった、アンジェには自分とレオンの出会いも何も話していなかった。

 これまでの自分や先程のレオンではないが、話の中で蚊帳の外にされれば誰だってむっとするものだ。

 アンジェの疑問も解けた所で後は何を話せば良いか考えていると、部屋の外から扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「入っても良いかしら?」

「ヒメナさんか…どうぞ。」

 

 レオンが返事を返すと扉が開き、ヒメナが部屋へと入ってきた。

 その視線はレオンへと向けられており、何やら思わしくない表情を浮かべている。

 

「レオン、これ…。」

 

 そう言ってヒメナが差し出したのは1通の赤い封筒であった。

 レオンもその封筒を目にした途端、ホラーと対峙していた時のような険しい表情を浮かべ、ヒメナから封筒を受け取る。

 はて、あの封筒は一体何であろうと響が首を傾げていると、レオンは懐からアンジェが持っていた物と同じようなランプを取り出し火を付ける。

ランプに緑色の火が灯され、部屋の中が淡い緑の光に満たされた次の瞬間、何とレオンは持っていた封筒をランプの火に翳してしまったのだ。

 

「え!?燃やしちゃうんですか!?」

 

 まさか封も開けずに燃やしてしまうとは思わず響は声を上げるが、翳された封筒のその後の姿を見て、それ以上の声を上げる事が出来なくなった。

 ランプの火に翳された封筒は一瞬の内に燃え、代わりにその灰が独りでに宙を舞ってレオンの前に並んだのだ。

 

「これは私達が所属している“番犬所”からの指令よ。単純に封を開けるのでは無くて、魔界の火…“魔導火”で燃やす事で初めて解読する事が出来るの。」

 

 目の前に浮かぶ、複数の文字列。

 そのどれもが響には読めない文字となっており、またすごいものを見せられてしまったなと響は若干上の空な様子でアンジェの言葉を聞いていた。

 

「…とりあえず今夜はここまでだな。明日また一緒に出掛ける所があるから、しっかりと寝ておいてくれ。」

「は、はい…。」

 

 宙に浮かんでいた文字列は暫くするとまた独りでに燃え、その姿を消した。

 それと同時にレオンが今夜はここまでだと話を切り上げ、席を立つ。

 

「黄金騎士、今夜は大丈夫なの?」

「あぁ。今日はもう1人の魔戒騎士が見回りに行ってる、俺達は休もう。」

 

 あの指令書には何が書いてあったのか、明日共に行くという場所は何処なのか。

 まだ気になる事はあったが、それは明日また分かる事だろうと響はレオンの指示に従い、置かれていたミルクに手を付ける。

 長話ですっかり冷めてしまったが、気持ちを切り替えるにはちょうど良いだろう。

 レオンが言ったもう1人の魔戒騎士という言葉だけ耳に残しながら、響は残っていたミルクを飲み干した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 夜も深まったヴァリアンテ郊外、そこで1人の青年が大きく身を翻した。

 それと同時に地面を抉る複数の物々しい音が。

 

「クッ…こいつら…!!」

 

 青年は荒くなった息を整えながら抉られた地面とそれを起こした者達へ視線を向ける。

 およそ20年間生きてきた中で知り得た生物の何れにも該当しないその見た目は宵闇に包まれるこの世界の中で異様な発光と共に不気味な存在感を露にしている。

 

「これは流石に不味いな…。」

 

 普段自分が相手しているあの“悪魔達”とはまた違う異質な気配を漂わせながら迫る彼等に注意を向けながら、青年は手元に握る物を見る。

 それは青い柄の長剣…だった物。

 その刀身の所々は、信じられない事に錆びるでも無く“炭”と化して朽ち果てていた。

 

「これでも少しは数を減らしたのだがな…。」

 

 青年がここへやって来た本来の目的は、先にも述べた悪魔から人々を守る為であった。

 深夜となり不穏な気配を察知した彼は悪魔が現れたと確信し現場へと向かったのだが、そこに居たのは件の悪魔ではなく、目の前に居るこの謎の生物達であった。

 こちらを見つけるなり襲い掛かってきたので応戦をしたのだが、その結果はとても思わしくない。

 初見で30体程居た敵の数は現在およそ25体。

 謎の炭化現象を掻い潜りながら持ち前の剣で斬り伏せていたのだが、10体も斬らない内に使いようが無くなってしまった。

 ここまで来れば頼れるのは己の身体のみとなるのだが、先程抉れた地面から風に乗って流れる炭を見る限り、どうやら奴等の炭化は剣に留まらず触れた物全てに適用されるようだ。

 直接拳で殴ろうものなら、その結果は火を見るより明らかだ。

 

「だとしても…!!」

 

 状況は限りなく悪い。

 しかし自分はこの者達を打ち倒さなくてはならないのだ。

 この国を、民を、世界を守る為に。

 ならばこの身が朽ち果てようとも、その使命を全うするのみ。

 文字通り決死の覚悟を胸に青年が再び身を構えた、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―Killter “ICHAIVAL” tron…♪―

 ―Zeios “IGALIMA” Raizen tron…♪―

 ―Various “SHUL SHAGANA” tron…♪―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が聞こえてきた。

 とても美しく、幻想的な歌声が。

 

「今のは…?」

 

 突如響いた歌声に困惑する青年。

 何処から聞こえてくるものなのかと辺りを見回そうとしたその瞬間、自身の正面に空から激しい光が降り立った。

 

「なっ…何だ…!?」

 

 突如として現れた謎の光に警戒する青年だったが、その光が徐々に晴れていくと同時にその警戒心は再び困惑へ変わる事となる。

 

「ふぅ…間一髪デス!」

「ったく、こちとら迷子の馬鹿探しに来ただけだってのによぉ…。」

「何でこいつらがここに居るのか分からないけど…!」

 

 光の中から現れたのは、3人の少女。

 それぞれが赤、緑、桃色を基調とした軽装を着ており、その手や頭、肩からは青年にはどういった用途を持つ物なのか予想も出来ない武装や装飾を身に付けていた。

 少女達は目の前の存在へ一通り視線を送ると、それぞれ思い思いに身を構える。

 

「しょーがねぇ、久々にただのノイズ狩りと洒落込むか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンフォギア装者と魔戒騎士、もう1つの出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・俺様ザルバ

→我口調のザルバは作者的都合により魔界へ強制送還されました


・魔戒法師の術の前身となった錬金術

→そんな繋がりがあったら良いな~…


・少年に取り憑いたホラー

→「奴はホラー・デジュモニグ、全身が触手で構成されている気色悪い奴だ。その触手を自在に操り、ヒビキの
言っていたドリル…?とかを始めとした様々な形状を取る事が可能だ。触手は斬っても途端に再生を始める。倒すには本体である核を斬るしかない面倒な奴でもあるな。今回奴が取り憑いたのはヴァリアンテの貧困層に居る名も無い少年。妹と2人で暮らしていたらしく、恐らくその妹を守るという使命感と現状への脱却心が、過酷な日々の疲れや表通りを平然と歩く奴等への恨み辛みと混じりあい、持っていたナイフに陰我が宿ったんだろう。人種差別や部落問題…どうやらいつの時代でもそれは変わらないようだな…ん?何だこの紙は?何々…『ちなみにホラーの名前は《ポケットモンスター サン・ムーン》から《ウルトラビースト デンジュモク》とそのコードネーム《UB03 LIGHTING》からの造語です。』…おいおい、これは一体何の話だ?」


・ランプを持っているレオン

→映画で魔戒法師ではないレオン達の下に普通に指令書が送られていた事からの発想です


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第7話「再会の証」

「しょーがねぇ、久々にただのノイズ狩りと洒落込むか!!」

 

 青年の前に突如現れた3人の少女。

 その内の1人である赤い装飾を纏った少女…雪音 クリスが声を上げると、3人は一斉に異形であるノイズ目掛けて動き出す。

 まさか戦うつもりだろうか、青年は少女達に危険だと声を掛けようとするも、突如耳にある音が聞こえてきた事で言葉を発せずに終わってしまう。

 いや…これはただの音では無い、音楽だ。

 このような状況で一体誰が…と青年は訝しむが、その正体はすぐに判明する事となる。

 

 ―全身凶器でミサイルサーファーのターンだ!残弾0(ゼロ)になるまでバレットのKissを…!―

 

 《QUEEN's INFERNO》

 

 クリスが両手に持つ武器から大量の矢を放つ。

 その矢が刺さり、瞬く間にノイズが炭と化す中、少女の口元は…歌を口ずさんでいた。

 

「よーし、先輩に続くデスよ!」

「遅れは取らない…!」

 

 続いて緑と桃色の装飾を纏う少女達、暁 切歌と月読 調もノイズの前へと躍り出て、手に持つ鎌や振り子のような武器であるヨーヨーを使って異形の身体を切り刻んでいく。

 その間もクリスは歌を口ずさんでおり、戦場を歌一色に染めている。

 だからこそ青年には…というよりかは恐らくこの場に別の誰かが居たとして、その誰もが思う事があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何故歌いながら戦っているのだ…!?」

 

 

 

 

 

 ―Bang☆ Bang☆ yeah!!―

 

 

 

 

 

 …しかもかなりノリノリである。

 

 

 

 

 

 ―どうやら理不尽がまかり通る世の中だ、(やっこ)さんにも都合があるってんだろ?―

 

 少女達の奇天烈な戦いに思わず呆然としてしまう青年。

 しかし背後から迫る僅かな気配を感じ取り気を取り直した彼は、その正体を知るべくちらりと背後を見る。

 そこにはあの異形の内の1体が居た。

 

「しまった…!?」

 

 迂闊だったと青年は距離を取ろうとするも、時既に遅し。

 ノイズはその身体を槍状に変化させ、青年を貫こうと迫ってくる。

 回避…無理だ、避けられる体勢では無い。

 防御…この炭と化した剣では到底不可能。

 このままでは当たる()しかない。

 ならばせめてもの抵抗と青年は両腕で身体を守るように身を固くする。

 そして槍状に変化したノイズの先端が青年を貫こうとしたその瞬間、青年の視界の横を赤く発光する何かが通過し、それがノイズに突き刺さると、ノイズはその身体を一瞬くねらせ瞬く間に炭となって消滅した。

 

 ―だけど得物をそっちも抜くってんなら…。―

 

 そして再び青年の耳に届く歌声。

 まさかと思い、青年は恐る恐る後ろを振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…容赦しねぇ。」

 

 

 

 

 

 振り向いたその先、そこには得物をこちらへと構え、不適に笑うクリスの姿があった。

 

 ―バキュンと放った銃弾(タマ)が絶対曲がらないように!過去は変わらないと月を仰いだ夜…!―

 

 《BILLION MAIDEN》

 

 そのままクリスは振り返りノイズの群れへと身体を向ける。

 その最中少女の持つ得物は信じられない事にその形を変え、先程持っていた得物の倍近い大きさの武器へと変わる。

 そして束となっている白銀の筒が高速で回転し始めると、筒の先から幾つもの閃光が迸る。

 まるで目にも止まらぬ速さで戸を叩いているかのような音を発するその武器が向けられた先、そこに居る異形達は文字通り蜂の巣となってこの世から消え失せる。

 

「合わせる…!!」

「便乗デース!!」

 

 《α式・百輪廻》

 《切・呪りeッTぉ》

 

 それに続き調は身を翻すと、彼女の頭部に付いている機械が展開、中から大量の円盤が射出される。

 それと同時に切歌は持っている鎌を大きく振りかぶる。

 すると鎌の刃が3つに分かれそのまま振るうと、その内2つの刃が異形の群れ目掛けて飛んで行く。

 切歌が放った碧刃がノイズの脚を切り裂き、調が放った緋刃が頭部を穿つ。

 

「あいつでラスト…!!」

「先輩!!」

 

 ほぼ同時に放たれた2色の刃は完璧な連携を見せ、残る異形はあと1体となった。

 2人に声を掛けられたクリスは一丁前にお膳立てかい?と呟きながら小さく笑みを浮かべ、異形の下へと歩き始める。

 

 ―Ah…今は描けなくても信じれば…。―

 

 脚部を無くし、頭部に緋色の刃が刺さっているノイズは痛みにのたうち回っているが、悠々と歩いてきたクリスが異形の胴に足を乗せ拘束すると、最初に手に持っていた形へ再び変形させた武器で狙いを定め…。

 

 ―力に変わると誰かは、歌う…!―

 

 赤色の矢が放たれた。

 ちょうど喉元を射抜かれたノイズはしばらく痙攣を起こしていたが、やがて他のノイズと同じように炭となって消えていった。

 

「…一丁上がりってな。」

「楽勝デース!」

 

 全てのノイズを倒し終えたクリスは気取ったポーズを取りながら終了の合図を告げる。

 それを聞いた切歌は万歳の要領で腕を大きく伸ばし、手に持つ鎌を高々と空へ上げる。

 調もピースサインで静かに喜びを表している。

 

「さて、ノイズも片付けた事だし…さっさと引き上げるとするか。」

「はいデス!」

 

 勝利の余韻に浸っていた2人にクリスが声を掛ける。

 それと同時に少女達の身体は一瞬光に包まれ、先程の軽装から私服と思われし格好へと変わる。

 異形を倒した事で特にこの場に用事の無くなったクリスはそのままこの場を立ち去ろうとするが…。

 

「待って先輩、あの人は…?」

 

 調がそれを引き留める。

 その声に釣られ後ろを振り返ると、そこには未だ呆然としているあの青年の姿が。

 

「あぁそうだ…あんた、怪我は無いか?」

「え…あぁ、大丈夫だ。ありがとう、危ない所を助けてもらった。」

「気にする事は無いのデス。ノイズを倒すのが私達の役目デスから!」

「ノイズ…奴等はそういう名前なのだな…。」

 

 切歌から異形の名前を聞いた青年はそのまま何か考え込むように眉間に皺を寄せる。

 

「…つーかあんたこんな所で何してたんだよ?フラフラ出歩いて良い時間帯じゃ無いだろうに…。」

「え?まぁ、その…少し仕事で…そういう君達こそ一体…?」

 

 青年が何を考え込んでいるのか分からないので取り合えず第一に気になった事を単刀直入に聞くクリス。

 すると青年は何やら困ったような、言葉を選んでいるかのように少したどたどしい様子で彼女に答える。

 そして同じように青年から問われると、クリスは青年とは違い堂々とした様子で答えを返す…。

 

「え?あー…あたし達は…人探しって所だ。」

「人探し…?」

「…まぁ、あんたには関係の無い話だ。」

 

 …事は無く、青年と同じように言葉を選んで答えを返した。

 決して言っている事に間違いは無いのだが、少し事情が複雑なので説明が難しいのだ。

 

「悪りぃが急いでるんでな、あんたも気を付けて帰れよ。」

 

 とにかくこんな所で油を売っている訳にはいかないと踵を返し、早々にその場を後にしようとしたが…。

 

「待ってくれ、折角助けてもらったんだ…何か礼をしたい。私に何か出来る事は無いだろうか?」

 

 それを青年が引き留めようとする。

 確かに命を救われたのなら、礼の1つや2つしたくなるのが人情というものなのだろう。

 

「…いや、特には無ぇな。助けたのだってたまたまだ。そんな気ぃ使わせる程のもんじゃ無ぇよ。」

 

 しかし先程の青年の視線…それは未知の存在を目の当たりにし、複雑な感情が絡み合った視線であった。

 ああいう手合いは怖いもの見たさで世界の深秘に触れようとする。

 俗に好奇心と呼ばれるそれがどれだけ危険なものなのか、少女達はよく知っているのだ。

 彼の為にも、自分達の為にも、これ以上巻き込む訳にはいかないと、クリスはあえて彼の厚意を突っぱね、そのまま暗い夜道を歩き出した。

 

「でも先輩…これからどうするデスか?」

「どうするって、そりゃあいつを探…す前に寝るとこ探さないとか。」

「でももう真っ暗ですし、宿も空いているかどうか…それにそもそもここが何処かも分からない…。」

「ついでに言えばお腹も空いたデス…。」

 

 さて歩き出したまでは良いものの、実は2人の言う通り少々事情があって3人は現在迷子中なのだ。

 迷子を探しているのに迷子とはこれ如何にと言われそうなので青年の前ではおくびにも出さなかったが、いざ歩き出してみるとその辺りの不安が一気に押し寄せてくる。

 朝が来るまでじっとしていようにも、やはりどこか屋根の下で過ごすのが理想ではあるのだが、それをするにはこの明かりの無い真っ暗な夜道を歩き回る必要があり、そんな事はこの土地を知らぬ自分達にとって危険極まりない。

 いざやろうものなら仲良く共倒れ、そんな未来が目の前に広がるばかりだ。

 さてどうやってこの状況を脱するか…。

 

「…おいあんた!」

 

 そう考えた時には既に自分の口は声を発しており、それに気付いた少女は慌てて後ろを振り返る。

 自分達がこの場を去ろうとしていたので彼も帰ろうとしていたのだろうか…辛うじて見える視界の先で、彼も自分と同じようにこちらへと振り返っていた。

 

「その…れ、礼がしたいって言ってたよな…?」

 

 完全に無意識に発していた声であったが、そうなった理由は既に判明している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…泊めてくれないか?」

 

 

 

 

 

 …結局の所、答えは1つしかなかったのだ。

 

「い、いや勘違いすんなよ!?///これは、その…あ、あんたがどうしても礼をしたそうにしてたからであって…その…!///」

「…普通に寝る場所無いって言えば良いじゃないデスか。」

「あとあの人だけで帰すのは危ないからだって。」

「う、うるせぇ!!///お前等はちょっと黙っとけ!!///」

 

 先程突っぱねてしまった手前、こんな掌を返すようにして頼み込むのは居た堪れないと、クリスは顔を赤らめて必死に弁明を繰り返す。

 もっとも、残りの2人が余計な事を言ったお陰でバレバレであるが。

 

「あぁ、喜んで!」

「本当デスか!ありがとうデス!」

「ありがとうございます。良かったですね。」

「ふんっ…。///」

 

 そんな中青年が見せる笑顔が妙に眩しく、他の 2人と違いクリスは素直になれないのかそっぽを向いてしまう。

 

「と、とりあえずあんたを家まで送らなきゃだな。ほら、さっさと行こうぜ。」

「あぁ。ここからだと少し遠いが、その分存分に持て成そう。」

 

 とにかくこれで寝床は確保出来た。

 少女達は青年に付いていく形で再び暗い夜道を歩き始めた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「…で、送り届けた先がまさかあの城だったとはねぇ…。」

「私も驚いたよ、まさか君達がヴァリアンテ以外の国から来ていただなんて。」

 

 翌日、街の大通りを4人の男女が歩いていた。

 内3人は無事に夜を明かしたクリス、切歌、調の3人。

 そして彼女達と並んで歩いている男は、昨夜クリス達がノイズの脅威から助け出した青年。

 彼の名は“アルフォンソ・サン・ヴァリアンテ”。

 ヴァリアンテ王国の現王子であり、魔戒騎士という特殊な力を持った人物である。

 

「…まぁ、ありがとな。お陰で行き倒れにならずに済んだからな。」

「ベッドがふかふかで気持ち良かったデ~ス!」

「ご飯もとっても美味しかった。」

「喜んでもらえて何よりだ。」

 

 昨夜の彼の服装が中々特徴的な見た目だったのでただの一般市民では無いだろうとは思っていたが、まさかこの国の王子だったとは思っておらず、ましてや自分達と同じ様にホラーという脅威から人々を守る者であったとは想像の範疇にある訳が無く、昨日は真夜中にも関わらず驚きから大声を上げてばかりであった。

 同時に自分達の現在地がヴァリアンテ王国と判明したという事で、クリスは談笑に興じる他の3人に気取られぬよう出店に近付き、適当に並んでいるどこか古めかしい商品を手に取り、そのまま辺りを見回す。

 

「(やっぱおかしい…街の様子が随分と様変わってやがる…。)」

 

 ヴァリアンテ王国…クリス達は1週間前にこの地を訪れている。

 その時この国は心無き者達の振るう力に脅かされ、表通りが壊滅した。

 故にクリスは今目の前に広がっているこの光景に違和感を覚えていたのだ。

 確かに王国は現在も復興作業を行っているとは聞いていたので多少の違和感を感じてもおかしな話では無いのだが、それにしては街が綺麗に整いすぎているし、民家や商品、人々の格好などあらゆる要素が全てどこか古めかしい物になっている。

 まるで時代そのものが逆行したかの如く様変わりしている街の様子に、クリスは言い知れぬ疑惑を抱いた。

 そんな中アルフォンソは1人はぐれていたクリスに気付くと、彼女を会話の中に引き込もうと声を掛ける。

 

「ところで、そのヒビキという少女は一体どんな娘なのだ?何か特徴があるのなら私も聞いておきたいが…。」

「一言で言うなら、馬鹿だな。」

「ば、馬鹿って…。」

「そんぐらいお人好しが過ぎる奴って事だ。」

 

 昨夜お互いの事を打ち明けた際に話した自分達の目的。それは行方不明となった仲間である立花 響の捜索だ。

 彼に事情を説明すると、知り合ったついでという事なのか自分も協力すると言ったのだ。

 クリスは最初に会った時同様手を煩わせまいと彼の申し出を許否したのだが、土地勘のある彼が居た方が良いのではという調と切歌の意見に押され、渋々同行を許可したのだ。

 そんな彼は響の事を知らないので率直に彼女の印象を言うと、彼は少々困ったような表情を浮かべる。

 大方仮にも仲間と言った者を馬鹿呼ばわりとはどうなのか、といった所なのだろう。

 仕方が無いので軽く彼女の事を話すと、今度はまるで無垢な少年のような明るい笑みを彼は浮かべた。

 

「困っている人は見過ごせない…成程、素晴らしい性格の持ち主ではないか!」

「普段それに付き合わされてるこっちの身にもなれっての…。」

 

 彼女のお人好しは当事者じゃないからこそ美談に捉えられるのだろうが、普段近くに居る者としては色々と危なっかしいのだ。

 しかしこうも手放しに喜ぶとなると、もしかしたら彼もそういった類いの人間なのかもしれない。

 気苦労が増えそうだ。

 

「ま、あいつの事だ。生きてんならこういう人通りの多い所でお節介の1つや2つ…。」

 

 ともかく彼女が無事ならば、身体的不自由でも無い限り誰かのお節介に回っている筈。

 そう思いながら何の気無しに辺りを見回してみると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと…よし!これで大丈夫ですかね?」

「あぁ、助かったよ!ありがとなお嬢さん達!」

「いえいえそんな!お礼を言われる程でも…。」

「…これ何で私達は手伝わされたの?」

「これが彼女なんだ、諦めてくれ…。」

 

 ふと目に付いた一行にクリスの動きがピタリと止まる。

 並んでいる野菜の多さからして八百屋であろうか、店主の指示に従い商品の卸しを手伝っている3人の姿が在った。

 

「あれ?どうしたんデスか先ぱ…い…?」

 

 内2人は成人した男女、あまり乗り気で無いのか2人で何か話をしながら荷物を整理している。

 

「切ちゃん…?クリス先輩もどうしたんで…。」

 

 そして最後の1人、まだ少女と呼べる年齢であろうその娘は他の2人とは違って率先と手伝いに回っている。

 

「おぉ!あの娘もまた心優しき少女だな!…ん?あそこに居るのはレオン…?」

 

 一行を見つめ固まっている少女達の事なぞ露知らず、アルフォンソは視線の先で行われている慈善活動に関心を示しながら、顔見知りでも居たのか首を傾げている。

 

「「い…。」」

「い?」

 

 すると少女達が揃って何か言葉を言い掛ける。

 はて、何を言うつもりなのであろうかとアルフォンソが耳を傾けると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「居たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

「うわぁっ!?何が居たって!?」

 

 突然少女達は揃って大きな声で叫んだ。

 その声量は大通りいっぱいに響き渡る程であり、当然ながら彼女達の先に居る一行の耳にもその声は届いた。

 すると今度は一行の内の少女がクリス達を見て動きを止めた。

 

「クリスちゃん…!?調ちゃんに切歌ちゃんも…!?」

 

 少女はそう言いながらこちらの様子を伺うように歩いてくる。

 やがて近付くにつれて少女の顔は信じられないものを見たような表情から満面の笑みへと変わる。

 

「皆!!良かった…やっと会えた…って痛ぁ!?いきなり叩くのは酷くない!?」

「こぉんの馬鹿ぁ!!何こんな所でいつも通りしれ~っとしてんだよ!!生きてんなら連絡の1つや2つ寄越しやがれ!!」

 

 嬉しさ故か少女がクリス達の下へ駆け寄ろうとすると、当のクリスは何故か罵倒の言葉を発しながらポカポカと少女を殴り続ける。

 しかしそれも束の間、段々と殴る勢いが弱まり、最後には少女の胸に埋もれるかのように行動を止める。

 一体どうしたのだろうと少女が訝しんでいると…。

 

「…他の奴等も心配してんだぞ。」

 

 クリスは小さな声でそう呟いた。

 

「…うん。ごめんねクリスちゃん、心配掛けちゃって…調ちゃんと切歌ちゃんも本当にごめんね。」

「いいえ。」

「先輩が無事で何よりデス!」

 

 先程の罵詈雑言は決して少女の事を嫌っているからでは無い。

 むしろその逆…生きているかも分からぬとされていた大切な仲間が無事でいた事による安堵や、再会の喜びを素直に表現出来なかった故の、謂わば愛情の裏返しなのだ。

 少女も、そして調や切歌も彼女の気持ちは十分に理解出来ているので、彼女の行いを咎める事は無く、代わりに皆でそっと抱き締めあった。

 きっとあの少女こそ、件のタチバナ ヒビキなのだろう。

 そう思いながら少女達の再会を微笑ましく見守るアルフォンソの下に、少女と共に居た大人の男女2人が歩み寄ってきた。

 

「アルフォンソ。」

「レオン!えっと…これはどういう…?」

「それはこっちの台詞だ…。」

 

 少女達が再会出来た、それは良い。

 しかし件の少女が自分の知り合いの下に居た事には驚き、今彼の隣に居る女性の事や彼女達の抱える事情を2人は知っているのかという疑問やらなんやらで、実の所アルフォンソの頭は上手く回っていない。

 

「ともあれ、お互い積もる話になりそうだな…。」

 

 とにかくお互いに話さねばならぬ事が多そうだと、レオンとアルフォンソは互いに深く頷きあった…。

 

 

 

 

 




・ガトリングぶっぱクリスちゃん

→近所迷惑待った無しである


・響の事を手放しで喜ぶアルフォンソ

→個人的にアルフォンソは男版ビッキーといった印象


・すぐに再会した装者

→世間は狭いと言うではないか


・総じて素直になれないクリスちゃん

→だがそれが良い


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第8話「未知-Garm-」

 装者達が再開し、合流した2組。

 そんな中一行は揃って同じ目的地へと歩き出していた。

 

「…で?結局あたしらはこれから何処に行くんだよ?」

「番犬所と呼ばれる場所だ。君達やノイズの事を報告しておかなくてはならないからな。」

 

 番犬所とはレオンやアルフォンソ、アンジェのような魔戒の者達が所属している組織であり、ホラー討滅の指令や情報を受けたりする場所だ。

 ヴァリアンテ郊外の遺跡に出現した黒い物体やシンフォギア装者、ノイズなど想定外の事態が多発したので一度装者全員を連れて話をしようという事になったらしい。

 そのような話をしながら歩いていると、とある裏通りの薄暗い一角へ辿り着いた。

 

「ここですか?」

「ただの行き止まりにしか見えないけど…?」

 

 辺りを見回してみても特に何があるという訳では無く、装者達が何故こんな所で立ち止まったのか訳を問おうとすると、レオンが一角の適当な壁面へと近付いていった。

 

「ザルバ。」

「あぁ。」

 

 そのままレオンが左手に嵌められているザルバを壁に向けると、壁が変形して道が出来た。

 

「「…え?」」

 

 もう一度言おう、壁が変形して道が出来た。

 それはもう複雑怪奇な変形をしながら。

 

「行こう。」

 

 壁が無くなりぽっかりと空いた道をレオン達が先立って歩き始めたので、少女達もそれに連なって1歩踏み出す。

 

「…いやいやいやいや待て待て待て待て!!何がどういう理屈だよこれ!?」

 

 …なんて事は無く、唐突に目の前で起きた出来事にツッコミ担当のクリスが声を張り上げる。

 

「カッコいいデス!ガションガションって変形したデス!」

「いや関心すんなよ!!」

「わ~レオンさん達こんな事も出来るんだ~。」

「納得してんじゃねぇよ!!」

「…。」

「お前はお前で何か喋ろよ!!」

 

 それに対し切歌は変形した壁にロマンでも感じたのか目をキラキラと輝かせ、響はもはや慣れたものだと言わんばかりにレオン達の後に続き、調は調で平常運転だ。

 駄目だ、ツッコミが追い付かない。

 息の上がったクリスはそう観念したのか1度深い溜め息を吐いてから渋々と何も言わずに最後尾を歩いていく。

 そのまま通路をしばらく歩いていくと、先の方に光に照らされた広い空間が見えてきた。

 その空間の中央には赤いシートが掛けられたかなりの高さの高台があり、その中腹には目を閉じて静かに眠りに就いている女性の姿が。

 

「…誰だ?」

「番犬所の神官の“ガルム”だ。」

 

 彼女の印象を一言で表すとするならば、それは白。

 レオンの赤い髪と同じように1つの混じり気の無い白髪に、遠目で見ても染み1つ無いと分かる真っ白な服。

 極め付けは色白を通り越して、病的にまで見える程の肌の白さ。

 異常なまでに白く染め上げられたその姿は、背後の赤いシートや口紅、アイシャドーの色が必要以上に際立ち、装者達は言い知れぬ不気味さを感じた。

 すると眠っていた女性…ガルムの目が開き、視線をこちらの方へと向けてきた。

 

「…来たか。」

 

 予想通りの時間だと彼女が視線を向けた先、そこにはレオン達の他に見知らぬ4人の少女の姿が。

 ガルムは彼女達の姿を捉えると、何故関係無い者まで居るのかと眉を潜める。

 するとそれを察したアルフォンソが先立って彼女に少女達の事を説明する。

 

「彼女達は昨夜私を助けてくれた者達です。魔戒騎士や魔戒法師とは違う力を持っていまして…。」

 

 そのままアルフォンソが装者達の手を借りながらシンフォギアについて軽く説明をすると、彼女は事情を察したのか睨みを効かせていた視線を和らげた。

 と言っても、代わりに面倒臭そうな表情を浮かべているが。

 

「それと合わせてなのですが…。」

 

 アルフォンソは懐から青い柄の剣を取り出すと、鞘から剣を引き抜く。

 その刀身はやはりあらゆる箇所が炭となって朽ち果てており、それを初めて見たレオンや響は目を見開く。

 対してガルムは先程と同じ様に眉を潜めると、相も変わらぬ面倒臭そうな表情とは裏腹に真剣な声色で言葉を紡ぐ。

 

「…成程、奴等か。」

「知っているのか?」

「有史以前に人がホラー討滅の為にと創り上げたモノよ。もっとも、手に負えんからと早々に捨てたと聞いていたが…。」

「…今さらっととんでもねぇ事言った気がするが…?」

「ホラーを倒す為にノイズが創られたって…!?」

「微塵も聞いた事の無い話デース…!」

 

 ガルムがノイズの事を知っていた事実に驚いたレオン達であったが、それ以上に反応を示したのは装者達であった。

 ノイズが先史文明人によって創られたという事は知っていたが、その目的にまさかホラー討滅も含まれていたとは。

 確かにノイズの炭素化能力ならばホラーも炭と化す事が出来るであろう。

 もっとも、ホラーにはソウルメタルや対応した術でないと真に討滅したとは言えないので、先史文明人も討滅しきれなかったホラーへの対処やノイズの暴走に手を焼いていたのだろうが。

 

「それでガルム、前に渡したアレはどうだったんだ?」

「あぁ…。」

 

 レオンからの問い掛けに答えるように、ガルムは後ろ手で何かを取り出した。

 

「結論から言うと、こいつは魔導具では無い。」

「魔導具じゃ無い…?」

「まぁ、それこそ先に言ったやつと同じ先史文明の技術といった所だな。」

 

 その物体はパッと見た限り鍵のような物であったが、その全体は黒く染められており、歪な形をしていた。

 ガルムはそれを手の中でいじり回しながら自らの憶測を述べる。

 それに大きな反応を示したのは、またも装者達であった。

 

「なぁ、それちょっと見せてくれねぇか?」

 

 クリスがその物体を渡すよう言い願うと、ガルムはふむ、と一呼吸置いてからクリス目掛けてそれを投げ渡す。

 

「おっと、ナイススローっと…。」

 

 怠惰感溢れる投げ方からは想像も出来ない程に寸分違わず手元に投げ渡されたその物体をクリス達はじっと観察する。

 それの見た目はやはり歪な鍵のような形をしており、よく見てみると黒色に染められている全体には赤黒い線が乱雑に引かれており、遠目でも感じた不気味さを一層引き立たせている。

 まるで開けてはならない禁断の扉を開ける為の鍵のようだ。

 

「レオンさん、これは…?」

「アンジェが持っていたんだ。」

 

 この鍵のような物は一体何なのか響がレオンに問い掛けると、その出所は意外な所からであった。

 

「私もそれが何なのかは分からないのよ。でも私がホラーに狙われていたのは間違いなくそれが原因…だから番犬所に預けて調べてもらっていたのよ。」

 

 本来所有していたアンジェですら正体不明という謎の物体。

 果たしてこれは何なのか、どう扱えば良いのか皆が試行錯誤していると…。

 

「…これ、あたし達が預かっても良いか?」

 

 クリスの突然の発言に一同は彼女に視線を向ける。

 クリスはそんな周囲の視線など気にせず、手の内にある謎の物体をじっと見詰めながら自らの意見を口にする。

 

「これ、あんた達の所で造ったやつじゃ無いんだよな?先史文明の産物って言うなら、もしかしたらこいつはあたし達案件かもしれねぇ。」

 

 そう、クリスは先程ガルムが言った先史文明の技術という言葉が引っ掛かっていたのだ。

 その言葉は自分達にとって身近な存在であるシンフォギアや聖遺物によく使われる言葉…つまりこの鍵のような物体も、もしかしたら聖遺物やそれに近い何かである可能性がある。

 魔戒方面で調べが付かないのなら、こちらの方で調べてみたいというのが彼女の見解なのだ。

 とはいえ元々はそちらの方で調べていた案件であり、流石にこの申し出は断られるかと思っていたが…。

 

「…まぁ良い、好きにしろ。」

 

 一通り調べた以上こだわる必要が無いのか、意外にもガルムはあっさりとそれを彼女達へ引き渡した。

 

「ありがとうございます!アンジェさんも、これ私達の方で預かっても良いですか?」

「良いけど…なるべく早めに返してよね。」

 

 アンジェはガルムと違い渋い表情を浮かべていたが、何とか了承の返事を得る事ができ、それを聞いたクリスはその物体をポケットの中へ入れる。

 

「後は…あの黒い物体か…ガルム、あれは結局何なんだ?」

 

 するとレオンがあの遺跡に在中している黒い物体についてガルムに問い掛ける。

 こちらもガルムに調査を願っていたのだが、当のガルムは存外にあっけらかんとした様子でそれに答える。

 

「あれは局地的な空間の捻れよ。もっとも、それに関してはお前達の方が余程詳しいだろう?」

「あぁ、もうネタは上がってる。あぁそうだ、お前も早めに準備しておけよ。」

「準備?」

 

 クリスの言った準備というのが何の事か分からず、響は首を傾げる。

 それに対してクリスは不敵な笑みを浮かべながらその答えを言う。

 

「帰る準備だ、あたし達の居場所にな。」

 

 

 

 

 




・番犬所への入口

→光のゲートだったり壁が変形したり、つくづく男心をくすぐる仕様だよあれは


・ホラー討滅用兵器ノイズという設定

→ホラーにノイズに同族にと、先史文明の人は一体どれだけ戦いに明け暮れていたんだとか言ってはいけない


・謎の物体の模様

→Fate/のアンリマユみたいなものを想像してもらえれば


・元の世界帰る宣言

→しかしまだ帰らないし、帰ってもまだ終わらないのだ


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第9話「アララギ」前編

「「遠征?」」

「あぁ。」

 

 装者達の再会から2日後の昼、アルフォンソから話があると言われヴァリアンテ城の客間に揃ったクリス達は、彼の話に耳を傾けていた。

 

「明日、城の兵士を何人か連れて近辺の村へ遠征に行く事になっているんだ。各農村の視察を目的としてね。」

「へぇ…お偉いさんはやる事多いねぇ。」

「一応好きでやってる事さ。まぁ、それは()()()()()()なんだがな…。」

「表向き、デスか…?」

 

 何やら含みのある物言いに切歌が首を傾げていると、アルフォンソは懐から赤い封筒のような物を取り出し、3人に見せる。

 

「これは…?」

「番犬所からの指令書だ。番犬所の各神官はこうやって私達に指令を飛ばすんだ。」

「指令…もしかして、ホラー…?」

 

 そう問い掛ける調達に答えるよう、アルフォンソは深く頷き、今回承った指令について話始める。

 

「ここ最近、辺りの農村で暗躍しているホラーが居るらしくてな。ちょうど表向きの仕事(こちらの方)の都合と重なったから私が行く事になったんだ。」

「わざわざあんたにか?その村とかに他の騎士は居ねぇのかよ?」

「居ないな。今ヴァリアンテに居る魔戒騎士は、実質私とレオンの2人だけだ。」

「2人だけ…!?」

「何でそんなに少ないんデスか!?2人だけだなんて世のブラック企業も真っ青な人数デスよ!?」

「まぁ…少し事情があってな…。」

 

 どれ程の規模かは分からないが、ヴァリアンテはとても広い国だ。

 その広大な土地をたった2人だけで守っているとは思わず切歌が事情を問い詰めようとするも、アルフォンソは曖昧な返事を返して話をはぐらかす。

 

「とにかく私が何を言いたいかと言うとだな…君達の内誰か1人にその遠征に付いてきて欲しいんだ。」

「遠征に、ですか…?」

「そりゃまた何で?」

 

 彼の提案に3人は首を傾げる。

 別に断る理由なぞ無いが、本来彼等の仕事とは無縁の存在である自分達に何故そのように声を掛けたのか不明だからだ。

 

「…こう言うのも何だが、実を言うと皆がこの城の中に居られるのは私による所が大きいんだ。」

 

 するとアルフォンソは暗い表情を浮かべながらその訳を話し始めた。

 

「残念な話だが、ヴァリアンテでは未だにかつての政治体制が拭いきれていなくてな。余程の用事でない限り城内に王族や貴族では無い立場の者を置いておく事は基本的には許されない事とされていて、それは皆も例外では無い。今皆がこの城の中に居られるのは、私がもてなした客人という立場に在るからだ。」

「王子様自らのおもてなしだからな、そりゃ誰も文句なんざ言わないだろ?」

「そうだな…だが、だからといって安全かと言われればそうでは無い。改革をした今の政治を好ましく思わない者達の中でも所謂過激派と呼ばれる者達ならば、そういった者達に手を掛けるなんて事も珍しくは無い。」

「そんな…。」

 

 アルフォンソが語った政治的事情…。

 クリス達はそういった事には詳しくないので上手くは言い表せないが、人として好ましくない状況だという事は良く分かった。

 貴族や王族…3人からすれば、それはただの飾りでしかない。

 そんなものにこだわって人を蹴落とすのは正真正銘の馬鹿のする事だ。

 

「そして遠征中は当然ながら城内に私は居ない。そんな中皆が城内に居たとしたら…。」

「でももしそうなったら周りの人達が黙って見ている訳が…!」

「確かにそうだが、それは皆の存在を肯定的に見てくれる人が居たらの話だ。私や私を信頼してくれる者の目が行き届かない場所でなら…状況や証拠なんて幾らでも捏造出来る。」

 

 そう…この国ではそれが当たり前の事となってしまっている。

 誰も彼もがアルフォンソのように手を取り合える者達だけではないこの世界で、この件はそれが最もよく表されていると言えるだろう。

 

「つまり、遠征中はあたしらを任せられる奴が城ん中に居ねぇから目の届く所に居ろって事か。」

「そういう事だ。」

 

 だからといってアルフォンソの提案が最善かと言われればそれも少し違うだろう。

 かたや幼い頃からそういった教育を受けたアルフォンソや城の者達、かたやそういった作法のさの字も知らない自分達。

 右も左も分からぬ自分達が付いていけば彼等にとって迷惑な事この上無い。

 もし何かおかしな事でもしでかせば自分達を連れてきたアルフォンソにも責任が回り、王子としての示しも付かなくなるであろう。

 彼にとってもこの選択は苦汁のものであった事は間違いない。

 

「でも何で1人だけなんだ?いや、そりゃあ3人ノコノコと付いていくのは荷物以外の何物でもねぇ事は分かってるけどよ…。」

「そう、最初は皆揃ってレオンの居る宿に泊まってもらおうかと思っていたんだが…残念ながら空いている部屋が今2人部屋の1室だけらしくてな…。」

「…で、他に預けられる所も無いから1人来いと。」

「あぁ、遠征中も側に居れば私の目も届くからな。」

「成程…。」

 

 ならばこの3人の内誰が付いていけば1番良いであろうかと、クリスは思考に耽る。

 先程も述べた通り同行するアルフォンソや城の者達にくれぐれも失礼の無いようにしないといけない。

 となれば当然切歌(自称常識人)は論外となり、残りは自分と調の 2人。

 遠征はホラー討滅も兼ねているので、その時ホラーを討滅する力を持たない自分達は彼のサポートがメインとなる筈。

 ならば応用性、戦術性共に高いギア特性を持つ調が適任か…。

 

「(ん…?ちょっと待てよ…?)」

 

 するとそこまで考えたクリスは途端にある事に気付いた、気付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいそれ殆どあたしに付いてこいって言ってるようなもんじゃねぇかよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「すまないクリス殿、無理を言ってしまって…。」

「いや別に…あそこで駄々こねた所で無駄に話が長引くだけだからな。」

 

 ヴァリアンテの首都サンタ・バルドを離れ、緑豊かな平原をアルフォンソ率いる兵士達が行進していく。

 その中で彼と共に馬に乗っているのは、話し合いの末同行する事となったクリスであった。

 さて、結局何故彼女がこの遠征に同行する事となったのか。

 色々と理由はあるのだが、1番の決め手は調と切歌…2人の持つシンフォギアの、とある特性が要因だ。

 実は調と切歌のギアは2つ揃って運用するとユニゾンという共鳴現象が起こり、装者最大の戦力となるのだ。

 だが逆を言えば揃って運用しないとお互い真価を発揮する事が出来ず、個人の力も他の装者より1歩劣ってしまう。

 おまけにあの2人は1日でも離れてしまうと禁断症状でも起こすのか、離れている間は1時間に4~5回は定期的に連絡を取り合い、いざ再開した時には軽く10分以上は抱き締め合ったまま離れない。

 つまりあの2人を引き離すと色んな意味で非常に面倒な事になるのだ。

 そうなると必然的に2人を遠征に行かせる事は出来なくなり、結果自分が行くしかなくなるのだ。

 結局あの夜の時のように、答えは最初から決まっていたのだ。

 

「って言うか…。」

 

 まぁそんな事はこの際どうでも良い話。

 今のクリスはそれ以上にある問題を抱えているのだ。

 それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でこんな格好なんだよ!!」

「ど、どうしたクリス殿?こんな格好とは…?」

「色々だよ色々!!今着てる服といい馬の乗り方といい!!」

 

 クリスの金切声が周囲一帯に木霊する。

 兵士達が何だ何だと視線を向ける中、アルフォンソは癇癪を起こすクリスをどうにか宥めようとする。

 

「着てる服…まぁ、その…一応城の者による視察だからな。形だけとはいえ、クリス殿にもそういった身なりをしてもらわないと…。」

「ちっくしょ~何だってこんなヒラヒラした服…絶対似合わないってのによぉ…!!」

 

 今クリスが着ている服はいつもの私服では無く、アルフォンソが用意した貴族様御用達のドレスである。

 全面が彼女のパーソナルカラーとも言える赤色をしたそのドレスは黒いフリルの付いた、いかにも品のあるものとなっている。

 赤と黒という大人な雰囲気を醸し出す配色に加え、急ごしらえ故に若干サイズが合わず、本来魅せる以上に身体のラインが出てしまっている。

 そんな羞恥にクリスが顔を赤らめていると…。

 

「そんな事は無いさ。とても似合っていると私は思うが…?」

「っっっっっ!!!???///ばばば、馬鹿!!!///何平然とそんな事…!!!///」

 

 アルフォンソが率直な感想を口にした。

 お世辞だとは分かってはいるが、まさかここでそんな追い討ちを喰らうとは思わず、ただでさえ赤くなっていたクリスの顔がさらに真っ赤になる。

 

「つ、つーかこの馬の乗り方もだよ!!///色々おかしいだろうが!!///」

 

 堪らずクリスは次に問題となっている事について声を荒らげる。

 今クリスはアルフォンソと共に馬に乗っているのだが、その乗り方というのが所謂普通の2人乗りではなく、手綱を持つアルフォンソの前に座らされている。

 さらにクリスは馬に跨がっているのではなく、身体を横向きにした状態で乗っている為、まるでお姫様抱っこをされている感じがして落ち着かないのだ。

 

「いや、馬は後ろに乗る方が揺れるんだ。それにクリス殿の着ている服は馬に跨がれる程生地が広がらない。故にこの乗り方になってしまうのだが…。」

 

 別にアルフォンソも他意があってやっている訳では無い。

 なので当然彼に当たるのは筋違いというもので…。

 

「くそったれが…何だよその天然発言行動は…どこぞの馬鹿や先輩じゃねぇんだからよ…!!///」

 

 クリスは早く目的地に着かないかと愚痴を溢しながら、拭えぬ羞恥を1人抱えるのであった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「…人気者だな、あんた。」

「こんな私でも慕われていると分かって、とても嬉しいよ。」

 

 それからおよそ2時間程、一行は目的地である村へと辿り着いた。

 未だアルフォンソの駆る馬に揺られる中、一行を出迎えた村人達の目に晒される事もあってクリスの顔色はもはや熟れた林檎のように真っ赤であるが、諦めが付いたのか口調はいつもの調子に戻っていた。

 

「にしても…。」

 

 村というだけあって、そこにはサンタ・バルドでは見かけなかった田園風景が広がっている。

 そして出迎えた農民の姿は、やはりサンタ・バルドの町民よりも見窄らしい。

 

「(成程、あの馬鹿の言っていた通りか…。)」

 

 世界的に恵まれた地と言われていたヴァリアンテ王国。

 しかし今目の前に居る者達にその言葉が当て嵌まるかと言われれば、それは違うだろう。

 そういった情報の錯誤、国全体の技術的発展具合、暗躍する(守りし者)(ホラー)…。

 段々と形となってきた憶測という名の答えを胸に抱きながら、クリスはアルフォンソに指令について問い掛ける。

 

「…んで?指令の方はどうすんだよ?」

「もちろん遂行するさ。ただ今はこうして表向きの仕事がある。そちらの方は夜になってからだな。」

 

 そうしてクリスは周りの者に聞かれぬよう彼と小声で話をしながら、何気なく景色を眺めていると…。

 

「ん…?」

 

 少し離れた林の中から視線を感じた。

 そちらの方へ目を向けると、生い茂る木々の隙間からこちらを覗く人影が見えた。

 よく見てみると、どうやらその人影は女性…それも身なりから察して修道女(シスター)のようだ。

 歳は自分より少し上といった所か…じっとこちらの方を見つめる彼女の視線は、何故かあまり優しいものでは無い。

 

「クリス殿?」

「え?あぁ…何でも無い、気にすんな。」

 

 あまりに一点を見詰めすぎていたか、クリスが何かを見ている事に気付いたアルフォンソが声を掛ける。

 急に声を掛けられたクリスは一瞬彼の方に気を取られてしまい、再び視線を林の方へ向けた時には、その女性は何処かへと居なくなっていた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 森の奥深くの道を1人の女性が歩いていた。

 生い茂る木々が日の光を遮り、危険な予感を漂わせる薄暗いその道を、彼女は歩いていく。

 そんな女性の向かう先には1軒の建物が。

 細長く白い外壁のその建物の屋根には、簡潔な造りながらもちゃんとした意味合いを持つ十字架が。

 その建物…教会の扉の前まで辿り着いた女性はそのまま扉を開けるかと思いきや、取っ手に手を掛けたまま動こうとせず、終いには溜め息を1つ溢した。

 ここへ来る前、たまたま騒がしかった方向へ向かっていった先、そこにはこの国の首都であるサンタ・バルドからやって来た王族達が村の者から祝福を受けていた。

 あの光景が、今も目に焼き付いて離れない。

 そうやって女性が扉の前で立ち尽くしていた時だった。

 

「へぇー…奥の方だってのに、結構立派な造りしてんのな。」

 

 突如聞こえてきた声に驚き、女性は背後へ振り返る。

 

「貴女は…!」

「さっきぶりだな。」

 

 そこには先程見た王族達の中に居た少女…クリスが立っていた。

 

「…城の方がこのような所に、何か御用でしょうか?」

「そんな殺気立たせながら聞くなよ…別に大した用事がある訳じゃねぇ。それにあたしは城の連中とは違う、あんたと同じお飾り無しだ。」

「しかしその衣装は…。」

「仕方無くだよ…こっちにも色々事情ってもんがあるんだ。そんで…ここはあんたの教会なのか?」

 

 やけに敵意を露にする女性の警戒を解こうとしたクリスは女性にこの教会について問い掛けるも、彼女は視線を反らして答えようとしない。

 余程知られたくないのであろうか、頑なに拒否の意思を示す女性。

 こういう状態の人は何を言っても聞きやしないし、そもそも彼女の事自体別にそこまでこだわる事でも無いと思われるので、クリスは適当に別れを告げて帰ろうかと思ったが、教会の扉が開きそこから出てきた者達の姿を見た事で踵を返そうとしていた足を止める。

 教会の中から現れたのは、年端も行かない子供達であった。

 数は男女合わせて12人、きっと外から話し声が聞こえたので出てきたのだろう。

 子供達は一度クリスの方へ視線を向け戸惑う様子を見せたが、やがて女性の側に挙って集まった。

 

「結構な数だな…皆あんたの子か?」

「まさか…村の人の子を預かっているんですよ。」

「つまり教会と託児所を兼用してるって事か?何だってこんな森の奥に…?」

 

 体感時間ではあるが、ここは村から歩きで30分以上は離れている。

 おまけにこんな森の奥深く、いつ熊などの被害にあってもおかしくない。

 教会としても託児所としても機能させるにはあまり良くない立地条件だ。

 どっちの施設にしろ、村の中にあっても良い筈では…と女性に聞くと、彼女は足元に集う子供達に適当に離れて遊ぶよう伝えると、物悲しい様子でクリスの問いに答える。

 

「村は狭いですから…託児所なんて建てる場所は無いし、日中は皆仕事に追われていますから、子供達の面倒を見ていられる人なんて居ないんです。1番近くの預け所まで行くにも隣の村まで行く必要がありますし…それにここは私1人で住むには広すぎますから。」

「…優しいんだな、あんた。」

 

 そんな女性の献身的な姿勢を見たクリスは、途端に服の裾を引っ張られる感触を感じた。

 足下を見ると、先程の子供の内の1人である少女が何かを伺うような、期待しているような表情を浮かべ、クリスをじっと見詰めている。

 一体何だとクリスは少しだけ考えたが、すぐにその答えに辿り着きそれが無理だと分かると、クリスはその少女と目線を合わせるように膝を付き、申し訳無いと少女の頭に手を乗せる。

 

「…悪りぃ、この格好じゃあ遊べねぇな。」

 

 クリスの返答に少女は残念そうな表情を浮かべるも、自身の頭を優しく撫でるクリスの姿に嘘は無いと感じたのか、やがて笑顔で彼女の下を去っていく。

 途中で何度も振り返り、今度は絶対遊ぼうねと手を降りながら。

 

「…でもやっぱあんただけじゃ大変だろ?1人ぐらい村の連中に頼んでもバチは当たんないと思うぜ?」

「…前はここに、私の他にもう1人居たんです。この教会の本来の持ち主である、神父さんが。」

 

 少女を見送ったクリスは、やはり1人だけであの人数を相手するのは辛いのではと女性に意見するも、女性はその言葉に首を縦に振る事は無かった。

 

「あの子達全員が村の子っていう訳じゃ無いんです。中には捨てられたり、病気で親を無くしたり…そういった子達も居るんです。私もそんな身寄りの無い子供の1人だった…そんな私達を一身に引き受けていたのが、ここの神父さんだったんです。」

 

 彼女はそれ以上の事を言いはしなかったが、彼女の言いたい事は何となく分かる。

 

「…継ぎたいって訳か、その神父さんの意思を。」

 

 きっとこの女性はその神父に多大な恩義を感じているのだろう。

 そしてその神父の事を“だった”と過去形にする辺り、きっともうその神父はここには居ないのだろう。

 だから彼がやっていた通りに子供達を引き受ける事で、彼女は恩返しとしたいのだろう。

 自分はちゃんと貴方の意思を継いでいますよ、と。

 

「だからって何でもかんでも1人で背負い込むってのは頂けねぇ話だな。あんたが倒れちゃあ、その神父さんもおちおち休んでらんねぇだろうし。」

 

 だからこそ、この女性には無茶をしてほしくない。

 彼女が倒れてしまえば、誰がこの子達の面倒を見るというのか。

 

「…それであの人が帰ってくるなら、それも良いかもしれませんね。」

 

 そう儚げに笑みを浮かべた女性に仲間()の姿を重ねたクリスは彼女と同じ心の持ち主ながらどこか疲れているような印象を受ける女性に、それ以上の言葉を掛ける事が出来なかった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「クリス殿!急に居なくなるから何処に行ったかと…!」

「あー…悪りぃ、ちょっと気晴らしのつもりがそれなりの散歩になっちまった。」

 

 夕方、クリスはアルフォンソ達と共に寝泊まりする事となる宿へと帰っていた。

 アルフォンソが目を離した隙にあの教会へ行ってしまった為、当然ながら彼から心配されてしまう。

 失礼の無いようにと自分で言っておきながらこの様とは、存外人の事は言えないものである。

 それを隠すようにクリスは指令にあったホラーについて彼に問い掛ける。

 

「んで?そっちはどうなんだ?」

「あぁ…今の所この村の近くには居なさそうだが、警戒するに越した事は無いな。番犬所の話だと、奴は幼い子供から順番に人を喰らっていっているらしい。この村の者達は日中子供達を近くの託児所に預けていると聞いたが…。」

 

 人は千差万別とよく言うが、それはホラーにも当てはまる。

 姿形はもちろん、人を喰らう際にもそれぞれ好みがあったりするのだ。

 だが総じてホラーに美味と称されるのは、幼い子供の命。

 純真無垢なその心こそ、多くのホラーにとって最高のディナーとなるらしい。

 

「…なら付いてこい。知ってるぜ、その託児所。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこか?」

「あぁ…子供が10人ちょい、世話をしている女が1人。子供達の中には孤児も居る、だから夜中でもあそこには何人か子供が居るんだ。」

 

 2人が向かった先は、昼間にクリスが行ったあの教会。

 少し離れた所からでも明かりと楽しげな会話が確認出来るこの場所は、ホラーには絶好の的であろう。

 

「成程、村の中心からかなり離れているな…分かった、何か対策を考えよう。まさかこんな所にあったとは…。」

 

 アルフォンソの提案に、クリスは異論は無いと頷く。

 もしあの時自分がここに来ていなかったらどうなっていただろう。

 もしあの時あの女性を見つけられなかったらどうなっていただろう。

 

「あたしも大概、お人好しって訳か…。」

 

 だがあの女性が守りたいと思ったものは自分も守りたいと思った、ただそれだけだ。

 

 

 

 

 




・魔戒騎士、2人だけ

→本当は他にも居るのかもしれないけど、少なくともこの作品で出てくる事は無いでしょう(多分)


・離れたら面倒なきりしら

→XDのメモリアカードのストーリー「可愛い寝顔」が個人的に結構ツボ


・天然王子アルフォンソ

→クリスちゃんの弱点を的確に突いていくスタイル


・シスターと12人の子供

→12とはまた不吉な数字だなぁ…(すっとぼけ)


・結局レオン達の所に世話になるきりしら

→来る10話への布石と先に言っておこう


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第9話「アララギ」後編

・「よし、もうちょいで完成や!」←ここまでバックアップ無し

・「あ、そういやあの設定ってどんなんだったっけ?」←ブラウザバックポチー

・「(;゜∀゜)」←ヤラカシチャッタ…

素直に3部構成にしときゃ良かったんだよ…お陰でいつもよりも時間掛かるわ話の内容も変わるわ…ダーメだこりゃ…。(byツ○ヨミ)



「よう、シスターさん。」

「貴女は…今日はどのような…?」

 

 翌日、クリスは再びあの教会へとやって来ていた。

 クリスの姿を見た修道女の女性は、彼女が何故またここに来たのか理由が分からずその訳を問うと…。

 

「暇だから来た。」

「…はい?」

「だから暇なんだよ、あたしは城の連中とは違うから日中の仕事(そういう事)とは縁が無いんだよ。」

 

 女性にとって少々意外な答えが返ってきた。

 予想していなかった答えに女性が面食らっていると、彼女の側を小さな人影が走り抜ける。

 クリスの前に走り寄ってきたその影は、昨日クリスを遊びに誘おうとしたあの少女だ。

 

「よう、今日は着替えてきたから思いっきり遊んでやるよ。」

 

 今日のクリスはあのヒラヒラのドレスではなく、愛用の私服を着ている。

 それを聞いた少女はぱっと表情を明るくし、クリスを遊び場へ誘おうと手を引く。

 

「待て待て、そんな急かすな。焦らなくても逃げやしねぇよ。」

 

 クリスはそんな少女を嗜めながらも、速く遊びたいと逸る少女の希望に応えるべくしっかりと歩みを合わせている。

 少々乱暴な口調からは考えられないその細やかな気遣いは、本人に言わせれば柄じゃないと言うのであろうが慣れてもいるし、きっとその道にも向いているのであろう。

 

「ありがとうございます、子供達の我儘に付き合ってもらって…。」

「別に大した事じゃねぇ、わざわざ礼を言われる事でもないさ。」

 

 一頻り子供達が遊び終え、疲れて眠ってしまった昼下がりに女性はそんな事を思いながらクリスへと礼を言った。

 

「それに…我儘に付き合ってもらうのはこっちの方だ。」

 

 するとクリスは子供達へ向けていたものとは明らかに違う空気を纏いながら、女性へと話し掛ける。

 自分がここに来た本当の理由を。

 

「今この辺りの村の連中は狙われてる…ずる賢くてふざけた趣味を持ってる悪魔にな。ここも例外じゃない…あたしがここに来たのは、あんた達にその事を伝える為だ。」

 

 悪魔という言葉を耳にした途端、女性の顔色が青ざめる。

 修道女という立場に加え子供達を預かる身だ、当然の反応かとクリスはそのまま話を続ける。

 

「そんでもって明日の夜、城の連中でその悪魔を退治する事になった。村に居る奴等はその夜絶対に外に出るなって…当然あんた達もだ。」

 

 クリスは一度話を区切って女性の顔色を伺う。

 彼女は変わらず青ざめた表情で何かを考えていたようだが、やがて顔を上げクリスへと視線を合わせると深く頷いた。

 

「分かりました、戸締まりを徹底しておきます。」

「…いや、そうじゃねぇんだ。まだ話には続きがある。」

 

 何か問題でもあったのかと首を傾げる女性に対して、クリスは説明を始めた。

 今追っているその悪魔は幼い子供から手に掛けていくので、ここは格好の餌場となっている事。

 この教会は村から離れている為、監視の目が行き届かない事。

 そして皆の安全を確保する為に悪魔退治の日の夜はこちらで用意したテントで寝泊まりしてもらいたいという事…。

 クリスから全ての事情を聞いた女性は成程…と小さく呟くと、教会の方へと目を向ける。

 

「…ここは私にとって全てがある場所、この子達の居る場所なの。」

 

 既に顔色は元通りとなった彼女の表情は、昨日も見せたあの疲れているような、悲しいものであった。

 

「…無理言ってるのは分かってる。でもここで折れてくれねぇと、あたしらがあんたらを守りきれねぇ。」

 

 何事も命あっての物種だろ?とクリスは女性にそう言ったが、女性は教会を見つめたまま動かず、やがて消え入りそうな声でクリスに問い掛ける。

 

「思い出のある場所に居る事は、いけない事なの?」

 

 子供達の寝息にかき消されてしまいそうな、そんな小さく…そしてこれ以上なく疲れきった悲しさを秘めたその言葉。

 

「…ここに居たら、その思い出も無くなっちまうぞ。」

 

 我ながらよく聞き取れたと思いながら、クリスは女性に再度条件を呑んでもらう為に少々強気な言葉を放つ。

 それに対し女性は変わらず、寂しげに教会を見つめたままであった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 昼から夕方、そして夜へと差し掛かった逢魔が時、村へと戻っていたクリスの下へ公務を終えたアルフォンソが駆け寄った。

 目的は明日の夜の提案を教会に居る彼女達が受け入れてくれたかどうか。

 

「クリス殿、どうだった?」

「あぁ…渋っちゃいたが、何とか呑んでくれたよ。」

「そうか…ありがとう、よく説得してくれた。」

「あたししか面識ねぇんだから当たり前だろ?」

 

 望んでいた返答が返ってきた事に安堵するアルフォンソ。

 するとクリスがホラーに関する事でアルフォンソにとある質問をする。

 

「…で、どうやって奴さんを見つけるんだ?まだどこに居るのかも分かってないんだろ?」

「心配ない。番犬所に事前に連絡をして、餌を用意してある。」

 

 そう言うとアルフォンソは懐から小瓶を1つ取り出した。

 中には赤黒い滑りのある液体が入っており、正直見ててあまり心地の良いものではない。

 

「これは魔戒騎士によって斬られたホラーの返り血を集めたものだ、この返り血を浴びた肉はホラーにとって最高の美味となる…今回はこれを使って目的のホラーを誘き出そうと思っている。ただ…。」

 

 そこまで説明して、何故か急に言葉を渋るアルフォンソ。

 何故言葉を渋る必要があるのか分からず、何だよと問い詰めると、アルフォンソは昼間の公務の最中に村人達から聞いたと言って話の続きを口にした。

 

「あの教会…今でこそ託児所として使われているが、あそこに教会があると知ったのは村の者達もつい最近の事らしい。」

 

 そこから先のアルフォンソの話を纏めると、何でも2~3ヵ月程前にあの修道女の女性が突然村にやって来たらしく、託児所としての話を申し出たらしい。当時子供達の預け先に困っていた村人達は彼女の人当たりの良さもあってその件を了承したそうだが…。

 

「おかしいと思わないか?」

 

 どうやらアルフォンソはそこに疑問を感じたそうだ。

 特にそういった箇所が見当たらなかったクリスはアルフォンソの問いに首を傾げる事で答えると、アルフォンソは自らが疑問に思った事をクリスに説明し始めた。

 

「確かにあそこは森の中でもあるし村から離れてはいるが、それでも歩いて行けない距離ではない。そんな場所にあるあの教会をどうして村人達は今まで知る事が無かったのか…。」

 

 現に村の者達もあの辺りは何度も歩いた事はあるが、あんな教会なぞ見た事は無いと言っていたらしい。

 そして彼女が初めて村へとやって来た日は、今自分達が追っているホラーが最後に姿を消した日から幾日も経っていないらしい…。

 その言い回しで、彼が何を言いたいのかは十分理解した。

 

「確証は無い、だがそういった可能性は十分にある…。」

 

 要は疑っているのだ、彼女達を。

 現にそれだけの理由は十分揃っている。

 だが…疑いたくないと思っている自分が居る。

 子供達に慕われ、敬愛する神父の意思を継ぎ、しかし1人で抱え込みすぎて悩み、疲れ、必要以上の悲しみを纏う…そんなありきたりな馬鹿をしている彼女がホラーなど、そんな事はありえない。

 ただの偶然だろうと片付けたい、そう願っている自分が居る…。

 

「何あんたが迷ってんだよ、あんたがシャキッとしないとこっちも動けねぇよ。」

 

 しかし迷ってしまってはお仕舞いだ。

 たとえほんの一瞬でも、ホラーはその迷いを見逃さない。

 そこにつけ込み、自らの虜とする…アルフォンソから、そして仲間()から聞いた話で、それはよく心に刻みつけてある。

 

「…すまない、私もその者達の事を疑いたくはないからな…。」

 

 アルフォンソもアルフォンソだ。

 彼の方がホラーに関して熟知している筈なのにこうも迷いを見せるのは、きっと彼女達と親しくしている自分を思っての事なのだろう。

 申し訳ないが、それは余計なお世話というもの。

 自分は、彼女(あの馬鹿)とは違うのだ。

 そう彼と話をしながら歩いていると、クリスは村の入口の方が何やら騒がしい事に気付く。

 よく見ると、村人と警備の兵士達の間で揉め事が起きているみたいだ。

 

「おい…何か揉めてんぞあそこ、良いのか?」

「良くないな…すみません、何かあったのですか?」

 

 アルフォンソもその状況を確認し、仲裁の為に喧騒の輪の中へ入っていった。

 クリスは面倒事は避けたいとその場で事が収まるのを待つ事に。

 すると意外にも彼はすぐにこちらの方へと戻ってきた。

 いや…あの思わしくない表情とわざわざ走り寄ってくるその姿は、問題を解決して戻ってきたというわけではなさそうだ。

 

「クリス殿、どうやら村の子供達がまだあの教会から帰ってきていないそうだ。いつもならもうこの時間帯には彼女が子供達を連れて村へと来ているらしいが…。」

 

 やがて戻ってきたアルフォンソのその言葉を聞いたクリスは思わず教会のある森の方へ視線を向ける。

 しかしここから見た限りでは何か変化が見られる訳ではない。

 それでも、胸騒ぎは収まらない。

 2人が駆け出したのは、ほぼ同時であった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 村から走り、教会の見える範囲まで近付いた2人。

 道中は何事もなく、それが却って不安を煽る。

 彼女達とすれ違わなかった、かといって何者かに襲われた形跡も無し。

 ならばまだ教会に居るのが妥当な考えなのだろうが、それにしては1つ気になる事が。

 

「…やけに静かだな。」

 

 そう…今目の前にあるあの教会からは、見える限り全ての明かりが消灯され、人の気配というものが全く感じられないのだ。

 まさかこの時間帯に就寝…は昨日見た限りでは無いだろう。

 ならば彼女達は今一体何を…と考えていると、不意にどこからか鼻につく匂いが漂ってきた。

 何の匂いだとよく嗅いでみるも、漂ってくるその匂いは嗅いでいてあまり心地の良いものではなく、思わず眉間に皺が寄ってしまう。

 しかしこの匂い、どこかで嗅いだ事がある。

 

 行き付けのファミレスのメニュー?

 

 ―んな訳ねぇだろ、と。

 

 妥当に考えてこの辺り独特の匂いというものだろうか?

 

 ―まさか、昼間に来た時はこんな匂いしてなかった。

 

 じゃあこいつ(アルフォンソ)の匂いか?

 

 ―いや違う、こいつは地味に良い匂いするんだ。

 

 段々話の焦点がずれている事に気付いたクリスは何を馬鹿な事を考えているんだと頭を振る。

 それがクリスを現実へと戻した、戻してしまった。

 

「(違ぇよ…そうだよ、何馬鹿な事を…!)」

 

 そう…この匂い、やはり嗅いだ事がある。

 本当はすぐに気付いていたのだ、しかしクリスの心がそれを認めたくないと否定した。

 そう気付いた時にはクリスは既に駆け出していた。

 教会の扉の取っ手に手を掛け、思いっきり引く。

 扉はクリスの強行に意外にもすんなりと応え、何の抵抗も無しに勢いよく開く。

 そこに広がっていた光景は…不覚にも芸術的だと、そう思ってしまった。

 そう思ってしまう程に現実離れした、地獄絵図であった。

 外は今なお宵闇へと包まれていっているというのにステンドグラスからは光が漏れ、教会の内部を妖しく照らす。

 まず目に付いたのは、祭壇へと続く通路に転がる無数の物体。

 形はそれぞれ歪…中にはまるで()()()()()()()()()()()()のような形をしたものも。

 そして村でアルフォンソが見せた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その物体が放つ異臭は、先程クリスが教会の外で嗅いだあの匂いと同じ。

 その数、およそ1()1()()

 

「これはっ…!?」

 

 遅れて着いたアルフォンソが漏らした声に気付くと同時に、クリスは自分の視界がぼやけている事にも同時に気付く。

 そのまま視線を上げると、祭壇の前にあの修道女の女性が居た。

 彼女は祭壇の前で普段神に祈りを捧げているのと同じように膝を付き、胸の前で手を組んでいる。

 違いがあるとすれば、祈りを捧げる為に閉じるであろう視線を上げている事であろうか。

 そしその視線の先に居たのは…。

 

「てめぇが…っ…!!」

 

 クリスの頬を熱い水粒が伝う。

 そこに居たのは、正しく神であった。

 しかし神は神でも、それは人が求める神に在らず。

 目も鼻も無い剥き出しの骸骨の頭部に、皮の無い隆々とした筋骨を見せるその神は、死神そのものであった。

 そしてその死神…ホラーの前にある祭壇の上には1つの命が。

 祭壇の上で横たわるその命は、クリスを遊びに誘ったあの少女…。

 

「させるかぁぁぁぁぁ!!」

 

 そこでアルフォンソが動いた。

 鞘から剣を引き抜き、祭壇や女性を飛び越してホラーへと斬り掛かる。

 アルフォンソの存在に気付いたホラーは彼が振り下ろす剣を手で受け止めるや否やその背中から骨張った翼を生やし、彼の剣を掴んだままステンドグラスを破って彼共々教会の外へと出ていってしまった。

 ステンドグラスが割れる耳障りな音に暫し気を取られていたクリスだったが、やがて女性や少女の安否を確認する為、11の亡骸が転がる通路を駆ける。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 転がるそれを踏まないよう進んだ為、辿り着くまでにまたしても時間が掛かってしまったと焦るクリス。

 落ち着け、落ち着けよと逸る自らの心を何とか嗜めながら、クリスはまず祭壇の上に居る少女を降ろし、その胸元に耳を当てる。

 外からアルフォンソとホラーが鬩ぎ合う音が教会の中に響き、クリスが求める答えを妨害する。

 

「クソったれが…!!」

 

 思わず悪態を吐くクリスであったが、クリスが少女から耳を離したその時、少女はうなされているような声を発しながら軽く身動ぎをした。

 

「…生きてる。」

 

 彼女は生きている、そう確信したクリスの頬にまたも熱い水粒が伝う。

 このまま目尻に溜まる想いを吐露したい…だがクリスにはそれは出来なかった。

 

「あんた…さっき何してた…?」

 

 クリスはゆっくりと背後へ振り返る。

 未だ膝を付き、しかし祈りを捧げていた時とは違い項垂れている女性は、クリスの問いにはこたえない。

 

「あたしには…あんたがこの子をあの化物に捧げているようにしか見えなかった…!」

 

 悪魔へと捧げる、生贄の儀式。

 どこかの美術館で見たような、そんな光景が広がっていたからこそ、あの時クリスはすぐに動く事が出来なかったのだ。

 これは現実ではない、絵画をそのまま抜き出したのだと、そう感じさせる程に完璧な図であった。

 そう感じさせる程に完璧な儀式が目の前にあったのだ。

 

「あんた…一体何してたんだよ!?」

 

 頼むから嘘だと言ってくれ、たった1つの間違いくらいあっても良いじゃないか。

 そう目の前の神の代行者に縋るクリスの想いは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうしないと…殺されるから…。」

 

 尽く、打ち砕かれた。

 

「だって、こうしないとあの人が怒って…殺されるから…私…私…っ…!!」

「あの人って…まさか…!?」

 

 女性の言うあの人…クリスがその正体に気付いた瞬間、激しい音と共に何かが教会の天井を破って落ちてきた。

 

「くっ…!!」

 

 落ちてきたものの正体はアルフォンソであった。

 見ると彼の服は所々破け、彼自身頬に真新しい傷跡が。

 彼は剣を支えに再び立ち上がると、ステンドグラスの方目掛け剣を構える。

 そこには既に雄々しく翼を広げ、悠然とこちらを見下ろす死神の姿が。

 

「…上等。」

 

 クリスは一度顔を伏せると少女を抱え、女性の手を引き教会の入口の方へと踵を返す。

 

「クリス殿…。」

「…分かってる。」

 

 背を向けたままアルフォンソに応えるクリス。

 その声色はいつもの彼女と変わらない。

 

「こんな馬鹿げた茶番は…。」

 

 だがそう言って振り向いたクリスの瞳は…。

 

「とっとと終わらせるぞ…!!」

 

 隠しきれない程の激情を宿していた。

 そのまま数秒両者の間に沈黙が訪れたが、やがてクリスは踵を返し、2人を連れて教会の外へと出ていった。

 それを見送ったアルフォンソは目を閉じ、彼女の宿していた想いを深く心に刻み込むと、改めてホラーへと向き直る。

 

「尊く、清らかで…そして神聖なる心を誑し、未来ある命を奪い続けた貴様の暴虐、私達が断じて許さん!!」

 

 ホラーへと向き直ったアルフォンソは魔戒剣を空へと掲げ円を描く。

 レオンのそれよりも大きく描かれた円は濃紫の光を放ち、円の内側がひび割れると同時に辺りに地響きが起こる。

 それは光の輪より現れし騎士の鎧が起こしたもの。

 圧倒的な重厚感を放つその姿は、さながら1つの城壁。

 しかし彼の体型に合わせられた鎧は同時に軽やかな印象を見る者に与える。

 何処へでも速く駆け抜け、決して退く事なくそこにある命を守りきる。

 まさに彼の掲げる理想…“この国をホラーの魔の手から守りきる”という意思を体現したその鎧は、アルフォンソが師より受け継いだ誇り高き志と魂の権化。

 そんな彼に与えられし称号…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その名は堅陣騎士(STRONGHOLDKNIGHT) ガイア”(GAIA)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここに居ろ。」

 

 教会の中から再び両者が鬩ぎあう音が響く中、2人を連れて外へと出たクリスは適当な木陰に2人を置くと、再び教会へ向けて歩みを進めようとする。

 しかしその歩みは女性が服の裾を掴んだ事により阻まれる。

 

「何をする気なの…?」

 

 絞り出したかのようなその声は、他にクリスを留める言葉が見つからなかったからだろうか。

 何れにせよ、その質問はナンセンスだとクリスは裾を掴む彼女の手を払い再び歩き出す。

 

「やめて…あの人には手を出さないで!!」

 

 やはりそう言うかと、クリスは内心乾いた笑みを浮かべた。

 到底受け入れられないとしても、そう言葉に出さずにはいられない。

 どれだけ道を踏み外した者でも、それは変わらないのだと。

 しかしその願いは、やはり聞き入れられない。

 

 

 

 

 

 ―Killter “ICHAIVAL” tron…♪―

 

 

 

 

 

 

 そして歌を口ずさむ。

 その歌に応えたギアが形となり、彼女の身に纏われていく。

 

「あたしがやる事はただ1つ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんたを縛る枷を外す事だけだ…!!」

 

 

 

 

 

 穿て、百魔を滅する聖祈の弓…イチイバル(ICHAIVAL)

 

 

 

 

 

 ―何でなんだろ?心がグシャグシャだったのに…差し伸ばされた温もりは、嫌じゃなかった…。―

 

 まだ何かを言おうとしていた女性を置いて、クリスは歩き出す。

 その瞳に未だ宿る想いとは裏腹に、彼女の歌声はとても静かで、落ち着いていた。

 

 ―こんなに…こんなに…こんなに、溢れ満ちて行く…。―

 

 やがて立ち止まったクリスの纏う武装が形を変える。

 両手の弓矢はガトリングへ。

 腰部のユニットは大小様々な形のミサイルへ。

 全ての武装を展開したクリスはその身を大きく構え…。

 

 ―光が…力が…魂を…。―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっ放せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

《MEGA DETH QUARTET》

 

 吼える、吼える。

 ありったけの想いを込めて、クリスは歌う。

 

 ―激唱、制裁、鼓動、全部!!―

 

 放たれた鉛玉が、爆炎が、教会を壊す。

 跡形もなく、粉々に…。

 その様子を目の前で見せられている女性の心は、グチャグチャに混乱していた。

 何をしている?

 何の冗談だ?

 何故彼女はあの教会を壊している?

 自分達の…彼との想い出が詰まったあの教会を、何故?

 自らを縛る枷を外すと言った彼女の行いは一体何だ?

 

 ―暴虐にして非道。

 

 これは赦されるべき行いか?

 

 ―否、断じて否。

 

 ならば自分は何をすべきだ?

 

 ―やめろ、壊すな、彼との思い出を傷付けるな!!

 

 女性もまた、クリスと同じ様にその想いを形にして吼えようとした。

 

「空を見ろ!」

 

 しかし彼女の歌につられてしまい、女性は声を上げるよりも先に空を見上げてしまう。

 そこには変わり果ててしまった愛する悪魔と、濃紫の鎧を纏う聖なる騎士の姿が。

 

「零さない!」

 

 

 

 

 

 

 そしてその中へと向かって跳んでいくクリスの姿が…。

 

 

 

 

 

 

「見つけたんだから!!」

 

 

 

 

 

 今は忌み嫌うものとなってしまった、天使のように見えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 ―嗚呼、2度と、2度と迷わない!叶えるべき夢を!轟け全霊の想い!断罪の鎮魂歌(レクイエム)…!―

 

 ホラーがその目や翼から無数の赤い光線をアルフォンソ目掛けて放つ。

 彼は臆する事なくそれを躱し、斬り伏せ、空を駆ける。

 

 ―歪んだFAKEを千切る、My song!未来の歌…!やっと見えたと、気付けたんだ…!―

 

 クリスも彼に続きホラーへと向かっていき、再び弓矢へと変えた武装の狙いをホラーへと向ける。

 それは聖戦であった。

 聖なる天使と騎士が悪い悪魔を討ち倒す…まだ自分が幼かったあの頃、神父が語った物語。

 そんなありきたりな物語が好きだった。

 あの人が…あの人の傍に居て、語られる物語が好きだった。

 

「何で…?何でこうなっちゃったの…?」

 

 しかし今討ち倒されんとする悪魔は、大好きだったあの神父。

 神に仕え、誰よりも慈悲深く、皆の幸せを願っていた彼が、物語の悪となっている。

 

「私が悪いの…?あの人がああなったのも、今こうなっちゃってるのも…?」

 

 何故こうなってしまったのだろう?

 何故彼はあんな姿になってしまったのだろう?

 思い出そうとしても何も思い出せず、しかしはっきりと覚えているのは、あの時刻み込まれた恐怖と、それでも彼と共にあらんと心に決めた事。

 たとえ彼が、忌み嫌っていた悪魔と成ってしまったとしても…。

 

 ―嗚呼…涙を越えた明日には、何が待ってるんだろう…?―

 

 クリスの歌声が耳に届く。

 それと同時に彼女と交わした言葉の数々が思い起こされていく。

 見ず知らずの自分に構い、何気なく話した事でさえ真摯に受け止め、その為に戦う。

 彼女の姿は、まさにあの日あの時の神父の姿と同じだった。

 

 ―消えてた歯車がぐっと動き出す、煌めいて…。―

 

 自分が目指し、そして共にあらんとした理想の姿。

 どこで間違えたのだろう?

 何を間違えたのだろう?

 今一度己に問い掛けるも、やはり答えは出ない。

 

「教えてよ…誰か教えてよ!!ねぇ!!」

 

 その答えを教えてくれる者も、また居ない。

 しかし彼女の悲痛な叫びは、確かにクリスとアルフォンソの胸の内に響いていた。

 

 ―嗚呼ッ!!繋いだ手だけが紡ぐ、何かへの為には!!―

 

《MEGA DETH PARTY》

 

 クリスの放った小型のミサイルが空を覆う。

 それを足場とし、アルフォンソはホラーへ猛然と斬り掛かる。

 ホラーもまた両手の爪でアルフォンソの剣と打ち合うも、それは単なる時間稼ぎ。

 

《GIGA ZEPPELIN》

 

 遥か上空から舞い降りた水晶の矢がミサイルを貫き、ホラーの周囲で爆発する。

 黒煙が辺りを覆い視界が悪くなると、ホラーは黒煙の中からの奇襲を想定したのか直ぐ様上空へ飛び立つ。

 しかしそこには既にその思考を読んで大剣を構えるアルフォンソの姿が。

 

 ―繋いだ手を離さずに、行かなくちゃ分からない!!―

 

 突き出された魔戒剣は、あと少しの所でホラーの手によって阻まれる。

 

「まだだぁっ!!」

 

 しかしアルフォンソは一度剣を手放すと直ぐ様体勢を変え、柄尻を蹴り込む。

 たった一度ではない、二度、三度と…彼の猛攻は止まらない。

 そして剣を止めるのに必死となっていたホラーは気付かなかった。

 背後に迫るもう1つの影に。

 

 ―歪んだFAKEを千切る、My song!!未来の歌…!!―

 

 ホラーの背後へと回ったクリスはくるりの身を翻し、そのままホラーの首もとへ回し蹴りを決め込む。

 完全な意識外からの一撃は、怒濤の攻めを見せるアルフォンソの剣を受け止めるホラーの力を弱めるには十分であり…。

 

 ―やっと見えたと、気付けたんだ…!―

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 楔を解かれた魔戒の剣が、ホラーを貫く。

 己が身を貫かれたホラーが2人へと伸ばすその腕は最後の足掻きか、それとも救いを求める何かか…。

 何れにしろ、2人の答えは揺るがない。

 

 ―きっと…届くさ…。―

 

《QUEEN's ABYSS》

 

 クリスの放った閃光がホラーの頭蓋を穿つ。

 思考を、肉体を、そして想う心を失ったホラーの存在は地へと堕ちていく中で黒い霧となって消えていき…。

 

「きっと…。」

 

 2人が地上へと降り空を見上げる頃には、その存在は跡形もなく散っていた。

 その様子は修道女の女性も見ており、彼女は散っていった霧の行方を暫し見詰めていたが、やがてがくりと力無く項垂れると、自らの舌を歯の間に挟み、そのまま口元に力を込める。

 しかしそこから先は突然頬を襲った痛みによって遮られる。

 

「それだけはするんじゃねぇ…!!」

 

 いつの間にか側に居たクリスが頬を叩いたのだ。

 女性の口元から血が流れる。

 その苦い味が自分で自分を表しているのだと思ってしまい、女性の瞳から止め処もない涙が溢れる。

 

「じゃあどうしろっていうのよ!?あの人も居ない…あの人が教えてくれた道ももうない…1人ぼっちになっちゃった私に何が出来るの!?どうすれば良かったの!?これからどうやって生きてけって言うのよ!?」

 

 先には答えてくれなかった問いを再び投げ掛ける女性。

 神も捨てた、悪魔も居ない、進むべき道を教えてくれたあの人も、もう居ない…。

 ならば目の前の憧れに縋るしかないと、そんな女性の悲しい想いを受け止めてやりたい。

 

「…そうだな、あんたは全部を無くしちまったかもしれない。けどな…。」

 

 しかし彼女は縋る相手を間違えている。

 彼女の全てを奪ったのは、他ならぬ自分だ。

 そんな自分が彼女を導く神になぞ、成りえはしない。

 それに…。

 

「あんたは1人じゃないだろ…?」

 

 クリスは女性の横を通り過ぎ、少し離れた所で膝を付く。

 そんなクリスの目の前に居るのは、今も眠りに就いているあの少女。

 少女の姿を見た女性はそれで全てを察したのだろう、その場でうずくまり、ただただ嗚咽を流す。

 月明かりが下界を照らす夜の始め。

 慈悲深き神々が見守る中、悪魔の討滅はここに終わりを告げた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 翌日、アルフォンソ達は本来よりも1日早く村を発った。

 予定していたホラーの討滅を終えた今、長居は無用だと判断したからだ。

 クリスは旅立ちの時と同じようにアルフォンソの腕の中で馬に揺られているが、その顔は旅立ちの時とは違い赤くは染まっていない。

 しかしそれは決してこの乗り方に慣れたから、という訳ではない。

 

「これで良かったのかと、そう思っているのだな?」

 

 アルフォンソが問い掛けるも、クリスは返事を返さない。

 あの後女性と少女の2人は保護という形で村へと連れ帰った。

 だが当然村人達にその様子を見られてしまい、追究される事となった。

 

「…こう言うのは守りし者として失格なのだろうが、クリス殿は私達とは違う。思い残しがあれば、引き返す事も出来るぞ?」

 

 簡潔に事実を告げ、しかし彼女達が悪いようにならないよう言い回したが、愛する我が子を失った家族の想いはあれだけでは治まらないだろう。

 きっとまた彼女達に事実の追究をするに違いない。

 その時彼女達はどのように答えるのか?

 いや…どのように答えたとして、村人達の想いがそれで治まるのであろうか?

 

「…いや、いいさ。」

 

 彼女達にはこれからも生きていてほしい。

 罪を背負って、償って…そんな大層な事は望まない。

 ただただ、生きていてほしい。

 そう願ったからこそ、クリスはあの時彼女の問いに答えなかったのだ。

 

「あたしはあいつらの神様なんかじゃないからな。」

 

 彼女が縋るべき存在は、もうこの世に居ない。

 それもそうだろう、彼女はもう縋られる存在なのだ。

 職業的に?

 それとも経験的に?

 いや違う…どれだけ本人が拒んだとしても、彼女の本心がそう望んでいるからだ。

 愛する人が悪魔となり、殺されるかもしれない恐怖に怯え、そんな中で子供達と向き合う彼女の心は、酷く疲れ果てていた。

 しかし子供達と向き合っていた彼女の姿は、たとえホラーに殺されまいと必死に繕っていたものだったとしても、クリスの目には紛れもなく彼女自身が成りたがっていたと言っていたその姿だと感じたのだ。

 それに気付いてほしい、そしてその姿を誰かに受け継いでほしい。

 例えばそう、あの少女に…。

 

「信じるだけさ、人の心の温かさってもんをよ…。」

 

 目を閉じ、清清しい様で語るクリスを、思考の放棄だと…無責任の権化だと、世の誰かは罵るだろうか?

 

「…強いのだな、クリス殿は。」

 

 例えそうだと言われようとも、彼女はこの道を変えるつもりはないのだろう。

 たった17年しか生きていない少女が抱えるには複雑で重たいその志しを、少なくとも彼は否定をする気は無かった。

 

「…さーてと、辛気臭ぇのはここまでだ。もう帰るんだろ?」

「そうだな、途中他の村へと立ち寄ってからだが…あと2日で終わる予定だ。」

「へいへい、となると後はあいつらの問題か…。」

「そういえばシラベ殿やキリカ殿に何か頼んでいたな。確か…ツーシンキ?とやらだったか…?」

「そうそう、そいつを調整して向こうの奴等と連絡を取れれば…。」

「元の場所へ帰れる、という事だな?」

 

 そういう事だと笑う彼女の姿は、やはり年頃の娘らしいものだ。

 アルフォンソの表情も笑顔に溢れる反面、心には少しだけ痛いものが突き刺さる。

 彼女のような者があんな想いを抱え込む事なく普通の日々を暮らせる、そんな優しい世界…。

 

「まぁ分かりやすく取説も付いてんだ、帰る頃には完成してんだろうよ。」

「そうか…何だか寂しくなるな。」

「お、おいよせよ、何でそんな事…!あ~もうっ!!ほんっとあんたとは調子狂うな!!大体そんな長い時間一緒に居ないだろうに何長年の付き合いみたいな事…!!」

 

 それを為すにはまだまだ遠い現実だと、アルフォンソは腕の中で暴れる清き心にそう懺悔した…。

 

 

 

 

 




・今回のホラー

→「どうやら今回のホラーは珍しく憑依された奴の陰我で人間界に来た訳ではないそうだ。何でも側に居た若い女がそいつに向けていた愛情が陰我となってホラーを呼び寄せちまったとか…。それ以来ゲートにもなった教会を魔術で移動させながら辺境の村を襲っていたらしい。他者へ贈る幸福でさえ闇に堕ち入る原因になるとは…全く、人間ってのはつくづく生き辛い奴等だよな。まぁ、そこが人間様の魅力ってやつなんだろうが…おっと、またこんな所に紙が…『今回のホラーは特に名前を決めていません…っていうか思い付かなかった(焦)モチーフは《GANTZ》より《ぬらりひょん 第九形態》です。』…よくは分からんが、果敢な挑戦をしたという事だけははっきりと分かるぜ。」


・アルフォンソは良い匂い

→シリアルな空気にしたかっただけのネタだ、気 に す る な 。


・子供達の数って意味あったの?

→特に無い、気 に す る(以下略)


・いつの間にか直ってる魔戒剣

→8話でガルムに渡して今回返り血貰った時に一緒に受け取ったと思ってください。
え?期間が短すぎる?気 に す(以下略)


・堅陣騎士の綴り

→捻りの無いただの英語変換だ、気 に(以下略)


・繋いだ手だけが紡ぐもの

→歌わせたかっただけだ、気(以下略)


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第10話「女神-ZABABA-」前編

「仮面ライダージオウ」40話感想

想像以上にエグいもんを見た。



「どひぇ~~~疲れたぁ~~~…。」

「全然分かんないデ~~~ス…。」

 

 アルフォンソとクリスが遠征へ向かった2日目の夕方、響達はレオン引率の下、あのワームホールのあるヴァリアンテ郊外の遺跡から帰っている最中であった。

 その中でも響と切歌が肩を落としながら盛大な溜息を吐く。

 というのも、実はクリス達がワームホールに突入する際に仲間であるエルフナインからあるものを渡されていたのだ。

 それが彼女特製の通信機器であり、何でもワームホールの歪な電波障害を克服する為にギアから発せられている特殊な信号を直にキャッチしてうんたらかんたら…と言っていたので、無事にワームホールを抜けたらそれの調整をするよう頼まれていたのだ。

 ご丁寧に説明書も付いており、クリス曰く猿でも分かるとの事だったのだが…。

 

「やっぱり響さんじゃなくてクリス先輩に残ってもらった方が良かったかも…。」

「調ちゃんが地味に私を苛めてくる!?」

 

 結果としては何1つ解決していない。

 猿でも分かると言われた説明書があったにも関わらずだ。

 機械の類をまるで知らぬレオンなら話は別だが、これでは自分達は猿以下かと響は調の言葉に鋭く反応する。

 ちなみに今一行の中にアンジェの姿は無い。

 皆で番犬所へと向かったあの日、やる事があると言ってそのまま一行の下を離れてしまったのだ。

 後にヒメナに聞いた所、ヴァリアンテからも少し離れると言っていたらしく、自分達が宿に帰った時には既に宿代も払って行ってしまっていた。

 魔戒法師として聡明な彼女が居ればもしかしたら話は別だったのかもしれないが、無いものねだりをしてもしょうがない。

 

「でも何とかなるデスよ、きっと!」

「そうそう、諦めない事が肝心だよね!」

「前向きと言うか、何と言うか…。」

 

 なお、クリスには自分が帰ってくるまでに終わらせておけと言われている。

 このままではクリスにどんなどやされ方をされるか分からない。

 100%中0%進行しているのこの状況から果たしてどう巻き返せるのか、調の胸中は穏やかではない。

 

「それよりも早く宿に帰らないといけないデス!皆ダッシュデスよ!」

 

 そんな相方の考えなぞ露知らず、切歌は突然はっと何か思い出したかのように1人先立って行ってしまう。

 

「わっ、元気だね切歌ちゃん。でもそんなに急ぐ用事なんてあったっけ?」

 

 響はそんな切歌の姿を微笑ましく見ながらも、彼女を急かす理由に心当たりが無いと首を傾げる。

 すると調が何故か呆れたような様子で響に心当たりのある事を話す。

 

「多分、“あれ”じゃないかと…。」

「“あれ”?…あ、“あれ”かぁ…。」

 

 調に“あれ”と言われた響はそう聞いて納得した表情を見せる。

 レオンもそれを聞いて納得したような、しかしどこか困ったような表情を浮かべた。

 調の語る“あれ”…それは切歌達がヒメナの宿に世話になる為に挨拶をしに行った時まで話は遡る。

 

「ただいまでーす。」

 

 あの日初めてルイス一家と顔を合わせたクリス達。

 その際に切歌が“あるもの”を見て以来、すっかり虜になってしまったものがあったのだ。

 その“あるもの”とは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロベルト~~~~~♡」

 

 玄関を開けた先、そこにはロベルトを抱き抱えて猫撫で声を発する切歌の姿が。

 

「あぁ、やっぱり…。」

「んぅ~~~ロベルト可愛いデス~~~スリスリしたくなっちゃうデスゥ~~~~~♡」

「お、お姉ちゃん…。」

 

 そう、切歌が虜になってしまったのはレオンの実弟でありルイス一家の末っ子、ロベルト・ルイスだったのだ。

 

「…駄目デス、我慢できないデス!スリスリするデス!スリスリ~~~~~♡」

「お姉ちゃん苦しい…!」

「ロベルトのほっぺ柔らかいデス~~~~~♡スリスリ~~~スリスリ~~~デ~~~~~ス♡」

 

 初日の時点でやけにロベルトの方を見ながらそわそわしていた彼女だったが、昨日の朝にはもうこの状態であったのだ。

 

「切ちゃん、ロベルトが苦しそう。」

「はっ!アタシとした事がついうっかり…大丈夫デスかロベルト!?」

「う、うん…。」

 

 暴走状態であった切歌を嗜めると、彼女はこれはまずいとロベルトを腕から降ろして安否を気遣う。

 昨日の朝から振り回されっぱなしで正直大丈夫ではないが、こうして気遣ってくれる彼女の気持ちを無下には出来ない。

 そんな年不相応な考えを持ちながらロベルトは切歌に大丈夫だと伝える。

 流石に彼女もこれ以上は振り回す事はしないであろう、そう願いながら。

 しかし考えてみてほしい。

 ロベルトは切歌でも抱えられる程まだ幼い年齢であり、その容姿は男子であれど年相応に可愛らしく、まるで人形のよう。

 それでもって性格は大人しくて優しい良い子であり、そんな彼が涙目になりながらもこちらに心配を掛けまいと気丈に振る舞おうとしているのだ。

 

 

 

 

 

「…やっぱりロベルト可愛いデス~~~~~♡」

「わあぁぁぁぁぁ誰か助けてぇぇぇぇぇ…!!」

 

 

 

 

 

 …それで彼女のスイッチが入らない訳が無く、ロベルトは自身の誤った選択を後悔して今度こそ本当に泣きながら再び彼女に振り回される羽目となった。

 

「おかえりなさい、皆。」

「ヒメナさん!ただいまです!」

 

 そこでヒメナが宿の外から顔を出してきた。

 どうやらご近所さんと世間話をしていたようで、彼女は切歌とロベルトの様子を見ると、あらあらと微笑みを浮かべる。

 

「すみません、切ちゃんが…。」

「良いのよ。ロベルトの事を好いてくれて、私は嬉しいわ。」

「その好い方に問題があると思うんですが…。」

 

 調はヒメナに相方が失礼をしていると謝罪する。

 現にその相方は今レオンからやりすぎだと軽く手刀を喰らって悶えている最中だ。

 すると今まで状況を見守っていた響がヒメナに今夜の夕食について問い掛けた。

 

「ヒメナさん、これからお夕飯作るんですよね?」

「えぇ、また手伝ってもらえる?」

「はい、任せてください!」

 

 大方腹の中の獣が騒ぎだしそうで我慢ならなかったのだろう、ヒメナの答えを聞いた響は腕を捲って元気よく返事を返す。

 すると今度は調がヒメナの服の裾を引っ張りながら彼女に話し掛けた。

 

「ヒメナさん…。」

「えぇ、シラベちゃんも勿論。昨日と同じようにやれば良いのよね?」

「はい、ヒメナさんにお任せします。」

 

 調の表情がぱっと明るくなる。

 そうして3人は揃って台所へと向かうと…。

 

「それじゃあ、今日も料理教室を始めましょうか。」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 ヒメナを講師とした小さな料理教室が開催された。

 だが当の本人は照れくさそうに顔を赤らめているが。

 

「と言っても、教えられる程の腕は持っていないんだけれどね…。」

「そんな事ありません、ヒメナさんの料理はとても美味しいから…。」

 

 2日前、初めてヒメナの料理を食べた調は衝撃を受けた。

 こう言うのは失礼ではあるが、料理のメニュー自体は目新しいものではないし、使っている食材に関しては普段自分がスーパーで買うものよりも品が悪い物まで見受けられた。

 しかし彼女が一度その腕を振るえばあら不思議。

 何だこの美味しさは?

 何だこの料理から溢れ出る暖かさは?

 ただ料理を作るだけでは成し得られない、調にとって未知の境地がそこにあったのだ。

 成程、あの猛獣(立花 響)の胃袋を掴める訳だ…そう思った時には既に彼女に料理を教えてほしいと志願していた自分がいた。

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。それじゃあ始めましょうか。」

「はい。」

「私もアシスタントとしてお手伝いしますよ!」

「えぇ勿論、よろしくね。」

 

 知りたい、彼女の料理の秘訣を…。

 そしてそれを生かしたい、自身が料理を振る舞う人に向けて…。

 真の“おさんどん”を目指す為、今日も調の特訓が始まった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「さぁ~て夕飯も食べ終えた所で、そろそろ本当に暇になっちゃったデスねぇ…。」

「響さんやレオンさんも行っちゃったし…。」

 

 切歌と調の2人は現在リビングの椅子に身を任せ、暇をもて余していた。

 調達3人が作った絶品料理を堪能した一同は揃って思い思いの時間を過ごそうとしたのだが、いつの間にか机の上に置かれていた赤い封筒がそれを阻んだ。

 番犬所からの指令書…書かれていたのはやはりホラー討滅の指令であった。

 内容は、サンタ・バルドの外れにホラーの集団が現れたのでこれを討滅するように、との事。

 それを見たレオンの表情がいつもより一層険しくなったのは、少しばかり時間が経った今でもはっきり覚えている。(主に恐いという意味で)

 曰く指令自体は当然受けるとの事だが、現在このサンタ・バルドを守る騎士はレオンただ1人。

 魔戒騎士の絶対数が少ないこのご時世では1人の魔戒騎士が複数のホラーを相手取る事も決して珍しくなく、特にここサンタ・バルドはそれが日常茶飯事だ。

 指令によると対象の集団は全て素体ホラーで構成されているとの事なので、黄金騎士である彼に掛かればさして時間は取られないであろうが、もしその間街中に別のホラーが現れてしまった場合、引き返すまでの間そのホラーを野放しにしてしまう事になり、それは絶対に避けなければならない。

 

――じゃあ、私達も一緒に行きますよ!ホラー退治!

 

 そう悩むレオンに響が提案したのが、誰か1人がサポート要員としてレオンと共に付いていき、残り2人にザルバを預けてここで待機する、というものであった。

 そうすれば指令の遂行も迅速に終わるであろうし、レオンが戻るまでの間ホラーの足止めも出来る。

 しかし彼は彼なりに思う所があったのかその意見に反対気味であったが、響の押しの強さに負けて渋々承諾した。

 ちなみにあの時のレオンの表情も未だにはっきりと覚えている。(主におかしいという意味で)

 紆余曲折の末満場一致の意見となった一同は話し合った結果、響がレオンと共に行く事となり、そんな2人はつい先程宿を出ていった所だ。

 ヒメナはヒメナで宿の方の仕事が残っているとの事で席を外しており、それも2人に手伝いをお願いする程でもない程度のものらしい。

 なので今2人が出来る事といったら、こうしてダラダラと暇をもて余す事ぐらい。

 

「後はロベルトと一緒に遊ぶ事ぐらいデスね、ロベルト~♡」

 

 そう言って切歌は自身の側に居たロベルトに抱き付こうとするが、それよりも早くロベルトが調の影に隠れた為未遂に終わる。

 

「なっ!?ロベルト逃げないでほしいデス!お姉ちゃん抱っこがしたいデス!」

「駄目だよ切ちゃん、ロベルトが怖がってる。」

ガーーーン!?アタシ…嫌われちゃったデスか…!?」

「それは…あれだけ振り回していれば…。」

ガガガーーーン!?そ、そんな…ロベルトに嫌われるだなんて…アタシはこれからどうすれば…!?」

「素直に謝れば良いんじy「ロベルトごめんなさいデス!!お願いデスからお姉ちゃんの事許してほしいデス!!」切ちゃん痛い!切ちゃん重い!」

 

 唯一無二の親友を足蹴にしてまでロベルトに許しを懇願する切歌。

 それに対しロベルトはそっぽを向いて一言だけで彼女の願いに答えた。

 

 

 

 

 

「…やだ。」

「ガガガガーーーン!?」

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた切歌はあからさまにショックを受けたと言わんばかりの仕草で椅子から転げ落ち、床へと膝を付く。

 

「もう駄目デス…ロベルトに嫌われたアタシは生きていけないデス…アタシの黒歴史がまた1ページ…。」

「何なんだこいつは…?」

「ピュアな子なの、切ちゃんは…。」

 

 そのまま俯いて明らかな絶望オーラを発しながらぶつくさと呟く切歌を見て、現在調の指に嵌まるザルバも、調本人も面倒な事になったと溜息を吐く。

 

「ど、どうしたのこの状況…?」

「あ、ヒメナさん…大丈夫です、ただの自業自得ですから。」

 

 そこでちょうどヒメナが仕事を終えて戻ってきたらしく、部屋の状況(主に切歌)を見て眉を潜めるも、調は特に気にする事はないとあっけらかんと答える。

 何せ漫画でしか使われないような効果音をわざわざ自分の口で言う位には余裕があるのだから、一々気にしていたらきりがない。

 そんな調の意思を汲み取ったのかは分からないが、ヒメナはそれ以上の詮索はせず、代わりに自分が持っている情報を彼女達に提供した。

 

「そうだ、皆ちょっとお出掛けしない?」

「お出掛けですか?」

「えぇ。ご近所さんから聞いた話なんだけど、この後広場の方で音楽団の演奏が行われるらしいのよ。折角だから一緒に聞きにいかない?」

 

 音楽団の演奏…暇潰しにはもってこいの話だ。

 切歌の機嫌直しにも持って来いであろう。

 

「ザルバ、平気かな?」

「すぐに動けるのなら問題はない。」

「そっか。分かりました、行きましょう。ほら切ちゃんも…。」

「ほっといてほしいデース…今のアタシはさながら地獄を彷徨う亡者の女(ゾンビーガール)デース…。」

「めんどくさいなぁ、もう…。」

 

 ホラーが動き出すまで、まだ時間はある。

 それまでの間なら大丈夫だろうと、調は未だ塞ぎ込む切歌の首根っこを掴んで引き摺り、ヒメナ達と共に宿を後にした…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「う~ん…ロベルトぉ~…。」

「まだ立ち直ってない…。」

 

 件の音楽団の演奏会場へ向かう一行。

 …で、あれから切歌は何とか自力で歩くようにはなったのだが、やはりどこか上の空。

 

「ロベルト、ちょっとだけで良いから切ちゃんと手を繋いでくれないかな?」

 

 流石にこれ以上は他の人にも迷惑になるだろうと、調はロベルトに手を繋ぐよう持ち掛けてみる。

 が、やはりロベルトは表情を険しくして切歌から距離を取ってしまった。

 

「嫌か…そうだよね、ごめんね?」

 

 切歌は持ち前の明るさと人懐っこさで誰にでも擦り寄って仲良くなろうとする。

 それが彼女の良い所でもあり、同時に悪い所でもある。

 そして今回はその悪い方向へと運が傾いてしまったようだ。

 彼女も嫌われてしまったものだと調は相方が自分で招いた不幸にまたも溜息を吐く。

 

「…何かあったの?」

「まぁ、ちょっと…。」

 

 とはいえ、彼女の気持ちも分からなくもないのだ。

 むしろ自分には十二分に分かってしまう。

 何せ彼女がロベルトに擦り寄る理由は…。

 

「…あ、あれみたいね。」

「すごい人集り…。」

 

 そうやって感傷に耽っていると、一行の行く先にかなりの人集りが。

 その向こうにはサーカス会場で使われるような大きなテントが見え、どうやらその中で演奏が行われるようだ。

 話によるとこの音楽団はヴァリアンテでも結構有名な団体らしく、今は自分達の演奏力の向上も兼ねて各地を回っているのだとか。

 その実力は、今この場にて老若男女に子連れ問わず集まる群衆を見れば明らかであろう。

 しかし調にはそれよりも気になる事が。

 

「それにしてもいつの間にこんな大きなテント…。」

 

 ヒメナの宿に世話になる為に街を歩いた際…つまりは2日前にもこの広場は歩いたのだが、その時にはこんなテントを造っていた形跡は全く無かった。

 それに話を聞く限りヒメナがこの楽団の詳細を知ったのもつい先程のよう。

 現地人であり人当たりも良いヒメナがそういった情報に疎いというのはあまり考えられない。

 何だろう、何かが引っ掛かる…第六感と言うべきなのだろうか、得も言えぬ感覚が調を思考の渦へと拐っていく。

 

「えー皆様本日はお集まり頂きまして、誠にありがとうございます。それでは我らが響かせる華麗なる音楽の数々、ぜひ皆様の耳に留めてもらいましょう!」

 

 しかし指揮者の男性が集まった観衆に向けて発した声でそれは中断された。

 どうやら考え込んでいる間に会場の中に入っていたようだ。

 客席からは彼等を歓迎するように多くの拍手が鳴り、それを満足げに受け止めた指揮者の男性は改めて演奏者達の方へ向き直り、そして音楽会は開かれた。

 

「綺麗…。」

「おぉ…何だかスゴいデス…。」

 

 彼等の演奏はとても素晴らしかった。

 あのめんどくさいダウン状態であった切歌も夢中になっている辺り、聞けば聞くほど我を忘れてのめり込んでいく、そんな錯覚さえ覚えてしまう。

 先程抱いていた感覚がまるで嘘のようだと、調を始めこの場に居る誰もが時間を忘れて彼等の演奏に聞き入っていた。

 

 

 

 

 

「感じます…皆様が私達の奏でる数々の楽曲で心が満たされていくのを…あぁ…もっともっとその幸福を感じていたい…!」

 

 しかし不意に聞こえてきたその言葉が耳に留り、調ははっと我に返る。

 いや、別に気にする事はない筈だ。

 強いて言えばちょっと酔狂な気もしなくもないが、音楽家なのだし自分達の演奏でこれだけの人の心を満たせているのを実感できればその喜びも一入のもの、喜びを露にするのはおかしな事ではない。

 しかし何故か調には彼の言葉の1つ1つが気になって仕方がなかった。

 得も言えぬ何かが再び調の心を支配する。

 今ここで、何か良くない事が起きると、そう警告しているような…。

 

「…ロベルト?どうしたの?」

 

 そう考えていると、不意に隣に居るヒメナが声を発した。

 見ると抱き抱えているロベルトの様子が何かおかしい。

 楽団に向けているその目は何故か涙で潤んでおり、しかし同時にその視線は彼等を睨み付けていた。

 

「しかし、残念ながらこれが最後の楽曲となります。それでは皆様がここまで高めた熱を、ここで全て解放致しましょう!」

 

 そして指揮者の男性が高らかに叫ぶ中、ロベルトはこう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ…僕あの人達…嫌…!!」

 

 その瞬間、調は背筋に強烈な寒気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒメナさん、ここを出ましょう!!何か嫌な予感が…!!」

 

「最後の曲名は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Je vais recevoir votre commande(あなたの命、頂きます)”。

 

 直後、文字通り貫くような頭痛が襲い掛かってきた。

 

「なっ…!?」

「何…この音…!?」

 

 どれだけ耳を塞いでも聞こえてくる楽団の演奏。

 その演奏が聞こえる度に起こる頭痛に、周りの人達も次々に悶え倒れ伏していく。

 

「何なんデスか一体!?」

「まさかあの楽団…!!」

 

 空は既に日が落ち、目の前に居るのは異様な音を放つ謎の集団。

 調の脳裏に浮かんだのは、ホラーという言葉ただ1つであった。

 

「ザルバ!!どういう事!?」

「分からん!気配を全く感知出来なかった!」

「っ…とにかくここを出なきゃ…!!」

 

 調はヒメナ達の手を引き、会場の出口の扉へと手を掛けるも…。

 

「開かない…!?」

「結界だ!この会場からは出られないぞ!」

 

 扉は鍵が付いていないにも関わらずびくともしなかった。

 すると調は視界の端で小さな影が項垂れる姿を捉えた。

 

「ロベルト!?」

 

 その正体はやはりロベルトであった。

 青褪めた表情を浮かべ呻くロベルトの安否を気遣うヒメナ。

 しかしそんなヒメナも段々と表情が青くなっていくのが目に見えて分かる。

 いけない、このままでは全員奴等の餌食だ。

 一刻も早くあの音楽を止めなければならない。

 

「切ちゃん!」

「分かってるデス!」

 

 切歌も考えていた事は同じらしく、2人は互いに頷きあうと、一節の歌を口ずさむ。

 

 

 

 

 

 ―Zeios “IGALIMA” Raizen tron…♪―

 ―Various “SHUL SHAGANA” tron…♪―

 

 

 

 

 

 辺りを支配する騒音の中、不意に澄み渡る小さな歌声。

 その歌が終わる時、ヒメナの前には2色の女神の申し子が立っていた。

 

「シラベ、俺様をヒメナに預けろ。ここでは何が起きるか分からん。」

「分かった。ヒメナさんはここに居て…切ちゃん!」

「行くデスよ調…!」

 

 お互い言われずとも同時に跳躍し、群衆の上を飛び去っていく。

 

「シラベちゃん…キリカちゃん…。」

 

 ヒメナは2人の姿を霞んでいく視界で捉えていたが、やがてぷつりと糸が切れるように意識が途絶え、他の者と同じように地に倒れ伏した…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ごめんなさい…。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 サンタ・バルドの広場に設立された大きな会場。

 そこに響き渡る大合唱。

 その中心で指揮者の男は目を閉じ、満足げな表情を浮かべながら指揮を振るっていた。

 

「うーん…やはり素晴らしい。私が鳴らす演奏に、それを聞く皆様自身から奏でられる様々な音…まさに演奏者と観客とが一心となって完成するこの音楽…これに勝る音楽は世界中どこを探しても見つからない…私だけが奏でられる、神の曲…!」

 

 酔いしれる、酔いしれる。

 嗚呼、もっと…もっとこの音楽を、更なる高みへと…。

 そう願う男の願望は、突如として聞こえてきた雑音によって遮られた。

 

「ん…あ?あ…あ、あぁぁあぁぁぁぁ!?」

 

 男が目を開けたその先、そこには小さな円鋸で頭部を抉られた演奏者達の姿が。

 

「だ、だ、誰ですか!?私の演奏を阻む愚か者は!?」

 

 一方的に閉幕を告げられた事に憤慨した男は、その主催者をこの目で捉えようと背後へ振り返る。

 しかしそこにそれらしき者の姿が見当たらず、怪訝に眉を潜めていると…。

 

「こっちデスよ!このイカれた“コンニャクター”!!」

 

 右側から敵意を剥き出した少女の声が。

 見るとそこには緑を基調とした軽装を着た、大きな鎌を携えた少女の姿が。

 

「貴方の演奏はこれでおしまい…あと切ちゃん、それを言うなら“conductor(コンダクター)”ね。」

 

 さらに左側からも人の声が。

 そこには桃色の軽装を着た可憐な見た目の少女の姿が。

 ()を切り刻む翠の碧刃、イガリマ(IGALIMA)

 (肉体)を伐り刻む紅き緋刃、シュルシャガナ(SHUL SHAGANA)

 全ての生を奪い取る2振りの刃が宙へと踊り、男の前へ姿を現す。

 

「何だい君達は?魔戒法師…では無さそうだけれど?」

「アタシ達が何だろうがどうだって良い話デス!」

「音楽をこんな風に使うなんて…!」

 

 切歌は鎌の切先を、調はギアからヨーヨーを取り出しそれを男へと突き付ける。

 そんな2人の反応を見た指揮者の男は再び眉を潜める。

 しかし今度は怪訝にではなく、少々の募りで以てだ。

 

「こんな風に、ですと?私は皆さんの為に演奏しているのですよ?皆さんの心に幸福をもたらす私の演奏…何か間違っていますか?」

 

 人の為と謳う男の言い分は、2人は全く理解できない。

 話し合いは、やはり成立しないようだ。

 

「だったら正しい音楽の奏で方…!!」

「教えてやるデス!!」

 

 ならばこれ以上の問答は無用。

 2人はギアから自らを鼓舞する音楽を流し、揃って駆け出した。

 指揮者の男は一瞬わざとらしく身をすくめると、持っている指揮棒を楽譜の上で一振りする。

 すると譜面に描かれていた音符が紙をすり抜け宙で形となり、2人目掛けて一斉に放たれた。

 

「そんな攻撃…!!」

「余裕で躱せるデース!!」

 

 しかし2人はそんな奇妙な攻撃にも臆せず音符の合間を駆け抜け、先んじて切歌が男の前へと躍り出る。

 

「地獄からの…テヘペロちゃんデス!!」

「おぉう!?危ないですよ!!お客様は客席にてご静聴願います!!」

 

 切歌は愛用の鎌を指揮者へと振り下ろす。

 対して指揮者の男は迫る切歌を見るや、如何にも慌てた様子で彼女の攻撃を躱す。

 一度で当たらぬのなら二度、三度と切歌は次々に鎌を振るうも、鎌という特殊な長柄武器を扱う以上どうしても付きまとう隙の大きさが、攻撃の命中という結果を生み出すのを阻害する。

 

「うーむ…この一瞬で命を刈り取られるかもしれないというスリルと、合間合間に挟まれるこの休息…絶妙に組み込まれた2つのテンポが聞く者の心を飽きさせない…成程、貴女意外と音楽の才能ありますよ!」

「ごちゃごちゃうるせーデスよ!!」

 

 切歌の鎌が水平に薙ぎ払われる。

 切歌の攻撃パターンを掴んできたのか、男は先程見せていた慌てた様子を引っ込め、余裕綽綽といったように身体を仰け反らせてその攻撃を躱す。

 しかしそれに対して笑ったのは…意外にも攻撃を避けられた切歌の方であった。

 刹那の瞬間で彼女の表情を捉えた男は怪訝に眉を潜めるも、次の瞬間視界飛び込んできた緋色の剣を見て再びその表情は余裕を無くした。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、これ以上の危険物は持ち込み厳禁ですよ!?」

「貴方の方がよっぽど危険物!!」

 

 そう、調の鋸が男を襲ったのだ。

 二度、三度の一撃が当たらないのであれば、質と量をさらに上げよ。

 切歌の大振りな攻撃の合間を調が縫い、さらに調の攻撃を囮とする事で切歌の必殺の一撃を確実に当てにいく。

 

「異なる2つの音楽を重ね合わせ、1つの曲を造り上げる…それを演奏する側だけでやり遂げるとは素晴らしい!!やはり君達音楽の才能有るよぉ!!」

「「貴方(テメェ)に聞かせる音楽は無い!!」」

 

 称賛の声を浴びせる男の腹に深々と2人の蹴りが突き刺さる。

 一瞬時が止まったかのように男の悶絶した表情(アホ面)が見えたような気がしたが、次の瞬間には遠くの方へとすっ飛んでいた。

 

「…デス!」

 

 決まった、と言わんばかりに切歌は着地と同時に鎌を担ぎ、紡いでいた演奏を中断する。

 しかし男は遠く先の方でよろよろと身体を起こしていた。

 

「まーだ立つデスか…。」

「でも、これなら余裕…。」

 

 2人の連携は確実に相手を追いたてている。

 このままいけばレオン達が到着するまで十分持ちこたえられるだろう。

 そう思っていると、男は服に着いた埃を払いながら2人へ歩み寄ってきた。

 

「いやぁ…驚きましたよ。まさか人間の演奏にここまで心打たれる日が来るとは…案外この世界も棄てたもんじゃないですねぇ。」

「へぇ…自分からネタばらしデスか?」

「ならついでに心打たれた音楽でも聴いて、そのまま眠りに着きませんか、ホラーさん?」

 

 男の打って変わったような態度は今この場に明確に天敵と呼べる存在が居ない事から生まれるものなのか、それともこちらを探り、試しているのか…。

 何れにしろ相手のペースに持ち込ませてはならないと、2人も挑発するように男の話に乗る。

 すると男は2人の発言がどこか面白かったのか1人ゲラゲラと笑いを浮かべた。

 

「いやいやいや…眠りに着くのは私ではなく…貴女達の方でしょう?」

 

 そう言って男は指揮棒を顔の前に翳し、撫でるように振るう。

 そして振るわれた指揮棒の先に居たのは、既に人ではなくなった者の姿が。

 

「本性現したり…。」

「ふざけた見た目のホラーデスね。」

 

 醜く嘲笑う老人のような悪魔の顔に、様々な楽器がごちゃ混ぜになって背中から生え、肩へと乗っている歪な見た目。

 纏う布地は一見教会に属する聖歌隊の着るそれのようにも見え、しかし彼等を冒涜する黒一色に染まっている。

 そんな人を小馬鹿にしたような見た目のホラーは2人の感想を鼻で笑うとその身を一度縮こませ、大きく身体を開くと同時にその身体が四散、大量の音符となって2人へ襲い掛かる。

 しかし調は冷静に切歌の前へと出て、アームドギアを望む形へと変える。

 

γ式 卍火車(なんとノコギリ)

 

 展開された大鋸は見事音符を防いでいく。

 そして全ての音符を防ぎきった調は鋸を解除し、続けて切歌がホラーの下へ向かおうとするも、彼女達の視線の先にあのホラーは居なかった。

 

「あれ?どこ行っちゃったデスか?」

「逃げた…訳ではないみたい。」

 

 ホラーがどこに行ったのか2人は辺りを見回し、調がいち早くその姿を捉えた。

 自分達の後ろ…客席の方でホラーは悠々と椅子に座ってくつろいでいる。

 

「ほんっと余裕シャキシャキな態度デスね…。」

綽綽(しゃくしゃく)、ね。でも確かにあの態度はちょっと…ムカつく。」

 

 ホラーの回りにはあの忌々しい音色によって倒れ伏す観客が。

 人質のつもりだろうか?

 そこで堂々と椅子に座っているあのホラーは、その醜悪な見た目も相まってこちらをそうやって挑発しているようにしか見えない。

 舐められたものだ、ホラーと言えどあの程度の実力しかない奴に遅れなぞ取らない。

 このまま追い込もうと2人が身を構えた瞬間、ホラーはその歪な手で拍手を鳴らした。

 

「いやいや、本当にお見事。貴女達の奏でる音楽は実に素晴らしい…このまま無くすには惜しい程にね。」

「そう、それは何より。」

「お詫びに死ぬまで遠慮なく聴かせてやるデスよ!」

 

 さらに称賛の声を掛けられるも、それがどうした。

 これ以上時間掛けるのは無駄、レオン達が来るまでにぐうの音も出ない程に叩きのめしてやる。

 2人はそう意気込んで中断していたギアからの演奏を再生しようと身構える。

 しかしここで調はふと気付いた。

 何かがおかしい。

 奴のあの態度…人質を取るというのは確かに戦いの場では有効な手段と言えよう。

 しかしそれだけであんな大きな態度を取る事が出来るだろうか?

 自分だったらそうはしない。

 本気を出していない…それは当たり前と考えたとして、どうにも腑に落ちない。

 単純な力ではない、何か…()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな何かを隠し持っている?

 そう思ってホラーを見た調に対し、ホラーはその醜悪な表情を…さらに歪めた。

 

「ッ!?うるさっ!?何デスかこれ!?」

「切ちゃん!?どうしたの!?」

 

 直後、隣に居る切歌が悲鳴を上げた。

 彼女は何やらヘッドギアを押さえて顔をしかめている。

 その行為に一つしか心当たりのない調はまさかと思い曲を流してみるも、ヘッドギアから聴こえるのは慣れ親しんだ伴奏ではなく、何故かけたたましいノイズ音。

 何があった?まさかここにきてギアの不調か?

 そう戸惑う2人の耳にノイズ音とは別に聞こえてきたのは、あのホラーの笑い声。

 

「だから言ったでしょう?貴女達の演奏はこのまま無くすには惜しいって。だから…。」

 

 そう言ってホラーは後ろ手に隠していた物を取り出し、ヒラヒラと2人に見せ付ける。

 それは幾枚もの楽譜…その楽譜の題名を見た瞬間、調の背筋に再び冷たいものが伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思わず楽譜にして残しちゃいましたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “獄鎌・イガリマ”

 “鏖鋸・シュルシャガナ”。

 “オーバーキルサイズ・ヘル”。

 “ジェノサイドソウ・ヘヴン”。

 “デンジャラス・サンシャイン”。

 “メロディアス・ムーンライト”。

 “Edge Works of Goddess ZABABA”。

 “Just Loveing X-Edge”。

 “ギザギザギラリ☆フルスロットル”。

 

 楽譜に描かれていた題名は、いずれも自分達が手掛けた数々の曲であった。

 

「あれって…アタシ達の曲!?どうなってるデスか!?」

 

 ホラーの手にある楽譜を見て困惑する切歌を他所に、調はさらに思考に耽る。

 あの楽譜に描かれているのは間違いなく自分達の曲だ。

 このヘッドギアから流れるノイズ音も恐らくそのせい。

 つまり奴の手元に曲があり、自分達の手元に曲が無い状態。

 さらにヒメナとの会話を思い出す。

 あの楽団は演奏力の向上を兼ねて各地を回っていた。

 ここから導き出される答えは…。

 

「奪ったんだ…私達の曲を…!!」

「な、何デスと!?」

 

 調が出した結論に、ホラーは再びゲラゲラと笑う。

 

「そう!!私が目指すは至高の一曲!!貴女達の曲は私の望みに一層近付く為の良い糧となりましょう…ですからお礼として…。」

 

 そう言ってホラーは指揮棒を指で弾く。

 すると回りで呻いていた人々が途端に静かになり、ゆらゆらと起き上がる。

 そして顔を上げたその瞳は、皆一様に色を失っていた。

 

「聴かせてあげましょう、私がこれまでに作り上げた数々の曲達を。」

 

 ()を切り刻む翠の碧刃、イガリマ。

 (肉体)を伐り刻む紅き緋刃、シュルシャガナ。

 全ての生を奪い取る2振りの刃…しかしそれを扱うは、今や神に見放され、踊らされる運命を背負わされた平雑なる2人の少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余す事なく全て、ね…。」

 

 悪魔の操りし人形達が奏でる悪夢に、神の刃は鈍り、朽ち果て、そして堕ちていった…。

 

 

 

 

 




そしてあれ以上に強いオーマジオウやオーマフォームって…。


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第10話「女神-ZABABA-」後編

相変わらず常識何それおいしいのがふんだんに詰め込まれたシンフォギアが楽しみで夜も眠れない…。



 同時刻、レオンと響は共にサンタ・バルド郊外の林の中を歩いていた。

 目的はもちろんホラー討滅による指令の遂行、なのだが…。

 

「レオンさん…。」

「あぁ…どうもおかしい、これだけ探しても見つからないのは普通有り得ない。」

 

 指令書に記載されていた場所に向かったは良いものの、そこにホラーの姿は無かった。

 くまなく辺りを探し回っても、結果は同じ。

 ホラーの姿は影も形も見当たらない。

 

「じゃあホラーは一体どこに…?」

 

 何らかの理由でここから移動してしまったのか、はたまた指令に何か誤りがあったのか…。

 こういう時にザルバが居れば頼りになるのだが、現在は街に残っている調と切歌の2人に預けてしまっているのでそれは出来ない。

 レオン唇を噛み締め、これはまずいな…と独りごちる中、響もその表情に暗い影が差す。

 本来の指令に時間を割いている間に街に別のホラーが現れてしまったら…。

 そんな事態を考慮しザルバを託すよう提案したのは他ならぬ自分だ。

 その結果そもそもの指令の遂行に支障をきたしている。

 もしあの時余計な事を言わなければ…響の頭はそんな思いで一杯だ。

 せめてこの間に街にホラーが現れないよう祈るしかない。

 そう思ってレオンにこの後どうすべきか問い掛けようとした時だった。

 

「っ…!?(これ…あの時と同じ…!?)」

 

 響の脳裏に見た事のない光景がフラッシュバックされた。

 それはあの炎の中に膝を付く黄金騎士の光景と同じような感覚であり、響はあえて受け入れようと目を閉じる。

 するとフラッシュバックされる光景が徐々に鮮明に、そして1つの映像へと変わっていく。

 その映像に写っていたのは…。

 

(切歌ちゃんに…調ちゃん…?)

 

 今は街に残っているあの2人の姿だった。

 しかし2人の様子はいつも見る明るく元気な姿ではない。

 その身体は傷だらけであり、鮮血が2人の纏うギアの色を赤黒く変えてしまっている。

 虚ろな眼で寄り添い合う2人…そんな彼女達に前には真っ黒な闇が広がっており、そこから多くの手が伸ばされる。

 しかしそれは決して彼女達を介抱しようとするような優しい手つきではなく、2人はその向かってくる手に向けて弱々しく武器を構え…何の抵抗も出来ずに2人は闇から出でた多くの手に掴まれ、そのまま闇に呑まれていってしまった。

 後に残ったのは彼女達が構え、そして呑まれていった際に手から滑り落ちた各々の武器。

 そして…。

 

(ヒメナさんに…ロベルト君…!?)

 

 調と切歌に守られていた2人は目の前で起きた出来事と今なお広がる闇に恐怖し、やがて2人も再び闇から伸びた腕に…。

 そこで映像は途切れた。

 目を開けた響は自身の額に先程まではなかった玉のような汗が流れている事に気付く。

 何だ今の映像は?

 あまりにも不穏なその光景は響に多大な焦燥感を与えるには十分であった。

 そして響の視線は自然とサンタ・バルドの街の方向へと向く。

 今の光景は…まさか…。

 

「レオンさん…!」

 

 響はレオンにすぐに街に戻るように言おうとしたが…。

 

「戻ろう、響。」

 

 遮るように開かれたレオンの口からは、意外にも自身が言おうとしていた言葉が紡がれた。

 そんな彼は何故か困惑しているような、しかしどこか焦っているような表情を浮かべており…。

 

「何か…嫌な予感がする。」

 

 しかしそれを詮索している暇はないという事は、響も承知の事実であった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「はぁ…はぁ…っ…!」

 

 暗い、暗い闇の中。

 視認できる範囲は精々己の手元のみといった中、調と切歌はお互いに手を繋ぎ、息を切らして走り続けている。

 もうどのくらいの時間こうしているだろうか?

 ホラーが観客達を操って無理矢理起こしたあの後、世界は闇に包まれた。

 これもザルバの言っていたホラーの結界の力なのだろうか?

 現にこうしてどれだけの距離を走り続けても、一向に壁にぶつかったりどこかに辿り着いたりといった事がない。

 2人は今完全に暗闇の中を彷徨っている状態なのだ。

 そんな状況に歯噛みをする切歌だったが、ふいに握っている手から力が無くなり、何かが倒れる音が聞こえた。

 それが相方の調が倒れた音だと察した切歌は足を止め、脱兎の如く彼女の傍に駆け寄る。

 

「調、大丈夫デスか!?」

「っ…ごめん、切ちゃん…。」

 

 倒れた事を謝る調に、切歌は謝らなくていいと首を横に振る。

 調が倒れた原因は分かっており、それは自分にも当て嵌まる事だからだ。

 切歌は肩部のパーツから緑色の液体が入った注射器のような物を取り出す。

 

「最後の1セット…。」

「ごめんね…。」

「大丈夫デスよ、ちょうどそんな頃だと思ってたデスよ…。」

 

 それに合わせて調も同様の物を取り出し、お互いの首筋にそれを当て、取り付けられているトリガーを引く。

 すると液体は首筋に当てた針先から2人の身体へと流れ、2人の身体に活力を生み出す。

 

「持ってきたLiNKER(リンカー)は、これで最後…。」

「これが効いてる内に、決着をつけないとデスね。」

 

 今しがた2人が注射したのはLiNKER(リンカー)と呼ばれる物で、聖遺物の適合者の適合係数を引き上げる作用を持っている。

 しかしこれは本来の適合者には不用の産物。

 と言うのも調と切歌の2人は響やクリスのような元々の適合係数が高い“先天的適合者”ではなく、本来ならばその身にギアを纏う事さえ難しい、所謂“後天的適合者”と呼ばれる存在なのだ。

 そんな彼女達のなけなしとも言える適合係数をLiNKERによって無理矢理引き上げる事で2人はシンフォギア装者の戦力の一端となっているのだ。

 しかし先にも述べた通り、2人は本来まともにギアを扱えぬ存在。

 それを薬の効果によって引き上げているのだが、薬というのならば当然効き目というものが存在する。

 もし時間が経過してしまいその効き目が無くなってしまったら…後は言わずもがなである。

 

「そうと決まれば、さっさとあいつをぶっ飛ばすデス!」

「でも…私達にはそれ以外にもやる事がある。」

 

 調がそう言った直後、2人の耳に風を切り裂くような音が聞こえてきた。

 切歌は咄嗟に調の前に立ち、鎌を立てる。

 するとその直後に鎌の柄に強い衝撃が走る。

 1歩後ずさった足を踏み直し、ぶつかってきたものの正体を探る為に切歌は目を凝らすも、視線の先から放たれた不協和音に切歌は顔を歪ませる。

 

「アタシをバイオリン代わりにしないでほしいデス…!!」

 

 彼女の前にはバイオリンの弦を鎌へと押し付け、そのまま演奏するが如く弦を引く女性の姿が。

 調はその女性を止めるべくヨーヨーを取り出すも、背後から迫る気配に気付き、至急頭部のアームドギアを展開する。

 その直後、展開した2つの鋸にそれぞれ違う衝撃が襲い掛かる。

 

「こっちはシンバル代わりにしたい訳…!?」

 

 調の言う通り男2人が鋸の面に向かってスティックを叩き、切歌の対峙する女性と同様演奏しているかの如く連打を続けている。

 この道中で壁にぶつかったりどこかに辿り着いたりはしなかったが、1つだけ当たったものがある。

 目的の1つであるホラーを探している道中では、このように複数の人間達の妨害に遭っていたのだ。

 手っ取り早く倒せれば良いのだが、2人はこの人物達に手を出せない。

 何故ならこの人達は自分達と同じく演奏を聴きにきた観客達であり、ホラーに操られているだけなのだから。

 傷付ける訳にはいかない。

 

「「だとしても…!!」」

 

 切歌は弦を擦り付けている女性を力ずくで押し退け軽く飛ぶと、切先が3つへと分かれた鎌を調が相手している男2人に目掛けて振るう。

 

《切・呪リeッTぉ》

 

 振り抜かれた切先は1つを残して空を裂き、男達の持つスティックを的確に切り裂く。

 同じタイミングで調は背後へと向き直り、切歌が対峙していた女性の身体にヨーヨーを巻き付ける。

 そして切歌も肩部のパーツを展開し、2人の男を射出したワイヤーでぐるぐると巻き付け、固定した。

 目下の障害を乗り越えた2人は再び手を繋ぎ、そしてその場に同時にへたり込んだ。

 

「これで…何人目…?」

「端から数えちゃいないデスよ…。」

 

 そう…これが2人のやらなければならない事の1つ。

 囚われ、そして操られている人達の解放だ。

 その為には元凶のホラーを倒さなくてはならないのだろうが、その意欲に反して2人は立ち上がろうとはせず、切歌に至っては地面に寝そべってしまった。

 

「切ちゃん、寝ちゃだめだよ…。」

「分かってるデスよ…ちょっと疲れちゃっただけデス…すぐ起きるデスよ…。」

 

 すぐ起きる、そう言ったわりには彼女は一向に起きようとする気配がない。

 

「…静かデスね。」

「いつまた誰が襲ってくるか分からないけどね…。」

 

 無限に続くが如き空間でありながらも限定された視界、その中から自分達の命を狙う、決して傷つけてはならない存在。

 残された感覚を鋭利に研ぎ澄まし、今の所大事には至っていないものの、もはやいつそのような目にあってもおかしくはない。

 2人の精神は、疲弊しているのだ。

 それでも、2人は歩みを止める訳にはいかない。

 

「ヒメナさんとロベルト…どこに居るんデスかね…?」

「探さないとね…。」

「結構歩き回ったんデスけどね…。」

「暗いから…行き違いとかありそう…。」

「うへ~…ここだだっ広いデスからねぇ…。」

 

 ヒメナ・ルイスと、ロベルト・ルイス。

 あの時会場から出られなかった2人はきっとこの世界のどこかに居る筈。

 彼女達を探すのも、今自分達がやらなくてはならない事の1つだ。

 それも早急に探し出さなければ。

 

「不安?」

「色々と、デス。」

 

 ザルバが居るとはいえ、2人は戦う力を持たぬ。

 彼女達がこのような場所でどれだけの間無事で居られるか…正直考えたくない。

 

「アイツに操られていないかとか、操られていなかったとして、怪我してないかとか…挙げたらキリがないデス。」

「そもそも会えるか、なんていう心配は?」

「そんなもの…会えるか会えないかじゃなくて、会うに決まってるデス!」

 

 そう言いながら切歌はようやく身体を起こした。

 うん、まだまだいけそう。

 その明るい仕草が、少しだけネガティブな思考に偏りそうになっていた調の心を解してくれる。

 調はそんな相方の空元気に乗じて、何となくある質問をしてみる。

 

「切ちゃんはどうしてロベルトの事が好きなの?」

「え?…それはもちろん、ロベルトがとってもキュートでプリティーで愛らしくって…たまんないからデスよ~♡」

 

 場違いな質問にもしっかり惚気ながら答えてくれた切歌の優しさに、調も自然と頬が緩む。

 うん、正直だ。

 でもちょっとだけ()()()だ、と。

 

「そう言う調は、どうしてヒメナさんにお料理教わってるんデスか?」

 

 すると代わって切歌が同じ様な質問を返してきた。

 調はうーん…とわざとらしく前置きをしてから、()()()()()()()()分かる答えを返した。

 

「ヒメナさんのお料理は、とっても美味しいから…知りたいなぁ、って思って。」

「知りたい、デスか?」

「うん。」

 

 きょとんとしている切歌に、調は切ちゃんも同じでしょ?と問い掛けると、彼女はあぁ、と納得した様子を見せ、それもそうデスねと笑顔で返した。

 

「はぁ~…ロベルトが恋しいデス…。」

「私も…ヒメナさんともっとお料理したい…。」

 

 そのまま暫く沈黙が続いたが、やがてお互いともなく立ち上がった。

 

「会いに行かなきゃ…。」

「デスね!」

 

 手を繋いで、目を閉じて…。

 深い深い深呼吸をして、2人はそのまま歩き始める。

 

「ほんとにこれやるデスか?」

「走ってもドタバタして聞こえなくなるし、疲れるだけ。」

「きっとすんごく痛いデスよ?」

「承知の上。」

「なら、問題なしデスね。」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩く2人は、お互いに聴覚のみを頼りに暗闇の中を進んでいく。

 刹那、風を切る音が聞こえてきた。

 

「(違う…これじゃない…。)」

 

 鋭い、痛み。

 その音が自分達が求めているものではないと知ると、2人はその音にはもう見向きもしなくなる。

 次に聞こえてきたのは、肉を叩くような音。

 

「(これでも…ない…。)」

 

 よろけ、身体が痛む。

 違う、これではないと、2人の意識は再び聞こえてきた音を無視する。

 それを皮切りに、様々な音が鳴り響く。

 頭が割れるような、手足が千切れるような。

 命が、終わってしまうような…。

 

「(どこに…。)」

 

 それでも2人は歩みを止めない。

 

「(どこに…。)」

 

 ただその()を聞く為に、2人は歩みを止めはしない。

 

「(どこに居るの…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ロベル―…駄目!!―

 

 

 

 

 

 そうして歩いて、どれ程か…。

 

 

 

 

 

―シラ―…ちゃんとキ―…ちゃんが来てくれ―…ら!!戻っ―…お願い…!!―

 

 

 

 

 

 2人の求めていた声が…。

 

 

 

 

 

―でも僕―…を守りたい!!―

 

 

 

 

 

 2人の求めていた人達が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が、ママを守らなくちゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく、見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫…。」

「見つけた、デスよ…。」

 

 2人が触れた手の先に居たのは、大方自分達が闇から迫る魔の手だと思っていたのだろう、その小さな身体を震わせながらも精一杯腕を広げて、後ろに居る存在を守りたいと強い意思を示すロベルトが。

 そして彼の後ろには、彼が守りたいと願う存在であるヒメナの姿が。

 

「シラベちゃん…キリカちゃん…!!」

「ロベルト~♡会いたかったデスよ~♡」

「怪我はありませんか…?」

 

 切歌は今なお若干嫌がるロベルトに構わず抱きつき、調はヒメナの側へ歩いて安否を気遣う。

 

「えぇ、ザルバと…この子が守ってくれたお陰で…。」

「おぉ凄いデスよ!さっすがロベルトデス~♡」

「全く…遅いぞお前ら。」

「そうだね…ごめん、遅くなった。」

 

 そういえばやけにここだけ明るくヒメナ達の姿もよく見えるなと思っていたが…成程、ザルバが結界のようなものを展開していたようだ。

 おかげでヒメナとロベルトは、傷を負う事は無かった様子。

 そして久しくまともに見ていなかった知人と光、そして色を見ると、心の底から安心感が沸き上がってくる。

 と、同時に調はある事に気が付き、ヒメナもそれに対して珍しく焦りを見せる。

 

「でもそれよりも貴女達の方が…!!」

「へ?…あぁ!?いつの間にこんな血みどろにぃ!?」

 

 そう、調と切歌の身体が血で真っ赤に染まっていたのだ。

 当然だ、先程歩いてきた時に聞こえてきた雑音は全て自分達を攻撃してきた者達が発していた音だからだ。

 それに対して反撃をせずただ歩いてきたのだからこうなるとは分かっていたとはいえ、お互いの姿を改めて見ると、数えきれない程の切り傷を始め、殴打によって内出血でもしたのであろう無数の痣が各所に見え、とても痛々しい。

 

「…ってギャアァァァァァ!?ロベルトも血みどろじゃないデスか!?アタシのせいデス!!ごめんなさいデスロベルトぉ!!」

 

 しかし切歌はそんな事よりもと言わんばかりに自分が抱きついたばかりに汚れてしまったロベルトに謝りながら再度抱きつく。

 そんな事したらもっと汚れてしまうだろうが、これが今の切歌なりの最大限の謝り方だ。

 言って引き剥がしたとしてもエンドレスになるだけだろう。

 

 

 

 

 

「ごめんなさいなんて…こっちの台詞なのに…。」

 

 

 

 

 

 調はそんな切歌の暴走を眺めていた時、隣から小さく弱々しい声が聞こえてきた。

 それはヒメナが発した言葉であり、やがて俯く彼女の影から一粒の涙が落ちたと気付いた時には、彼女は調を抱き寄せ、とめどめのない涙を流し始めた。

 

「ごめんなさい…私が行こうなんて言わなかったら…貴女達をこんな目に合わせる為に言った訳じゃなかったのに…!!」

 

 自らが血で汚れるのも厭わず、自分達の為に涙を流すヒメナ。

 魔戒騎士である息子を持ち、日々傷を負って帰ってくるその姿を見て、ヒメナは安堵した表情こそあれ、心からの笑顔を現した事はない。

 毎晩魔戒騎士としての使命に赴き、そして帰ってきたレオンを出迎えるヒメナの姿を見ていれば、短い間だとしても調や切歌にもそれがよく分かる。

 ただでさえそうなのに今の自分達の姿を見てしまえば、彼女がこうなってしまうのも()()か。

 

「謝らないでください、謝るのはむしろ私達の方…。」

「貴女達が謝る事なんて何も…!!」

 

 しかし今、調と切歌はそんなヒメナの姿を見て、何故か微笑みを浮かべていたのだ。

 それは決して気が触れた訳でも、彼女を侮辱している訳でもない。

 

 

 

 

 

「私、知りたかったんです…()()ってなんだろう、って…。」

 

 ただ、嬉しかったのだ。

 そんな()()の事を自分達に向けてくれる事が。

 

「アタシも調も気付いた時には、血の繋がってる家族が居なくて…アタシにとって家族っていうのは調や響さん、クリス先輩っていった人達になっちゃったんです。…あ、いや…もちろんそれが悪いとか駄目とか、そういうのじゃないんデスよ?でも家族っていう場所があって、それが無くても思い出として語る事が出来る先輩達が、ちょっぴり羨ましくって…。」

 

 今なお健在であり、こじれていた関係も徐々に癒えていっていると話す、響の家族。

 小さい頃に両親を亡くし、その存在を失ったものの、過去を乗り越え、思い出話として語れる程に側に居た、クリスの家族。

 ここには居ないが、響と同じく健在であり、不器用ながらもお互い歩み寄ろうとしている、翼の家族。

 クリスと同じく唯一の妹を亡くし、しかしそれを乗り越え、大切な存在だと語れる、マリアの家族。

 会った事こそ無いが、話を聞くに大きな揉め事も無く良好な関係を築き、平凡という名の平穏な家庭を持つ、未来の家族。

 これまでにも2人は色んな家族に出会ってきた。

 しかし、2人には家族が居ない。

 血の繋がった、今を生きる家族も。

 思い出として、過去として語れる家族も。

 

「だからヒメナさん達を見て、それがすっごく羨ましくなって…でも、それだけじゃなかった。」

 

 そんな時、2人はこの家族に出会ったのだ。

 

「ヒメナさんは見ず知らずの私に一緒になって、色んな事を教えてくれて…。」

「ロベルトはアタシの我が儘にず~っと付き合ってくれたデス。」

 

 改めて言ってしまえば、それは今までお互いがお互いにしてきた事。

 

「何の繋がりもないアタシ達に“繋がり”を作ってくれて…。」

「“羨ましい”だけで終わらせてくれなかった貴女達が…。」

 

 でも、始めは違った。

 

 

 

 

 

―たとえどれだけ似てなくても、血が繋がってなくてもいい…。

 

 

 

 

 

―家族が、欲しい…。

 

 

 

 

 

 そんな()()()な想いから始まった、偽りだけど、本当の気持ち。

 

「とっても…。」

 

 それを密かに思い出させてくれたこの家族と、もっと繋がりたい。

 私達の想いが、偽りだけど、嘘じゃないと、そう大きな声で言いたいから。

 

「とっても…!」

 

 

 

 

 

―願わくば、本当の家族のようでありたい…。

 

 

 

 

 

 そう…これは夢を願う2人の孤児の…。

 

 

 

 

 

「「嬉しくて…!!」」

 

 

 

 

 

祈り(我が儘)なのだ。

 

 

 

 

 

「だから、ごめんなさいを言うのはアタシ達なんデス。」

「それを伝えなきゃいけなかったのに、伝えられなかった事…でもそれはもしかしたら私達がそう思っているだけの、2人はそんな事全然思ってもいない、ただの思い上がりかもしれない事…全部全部引っくるめて、沢山迷惑掛けちゃった事…謝りたくて…謝らなくちゃって…。」

 

 そんな我が儘に付き合わせてしまったからこそ、その繋がりを失くしてしまう所だった。

 自分達よりもその繋がりを必要とする者達に、大きな悲しみをもたらしてしまう所だった。

 2人の孤児はその微笑みの裏に、どうしようもない涙を溢れさせている。

 

 

 

 

 

「馬鹿…。」

 

 

 

 

 

 それでも彼女(ヒメナ)はそんな孤児(調)を優しく抱き締め…。

 

 

 

 

 

「思い上がりだなんて…。」

 

 

 

 

 

 家族(調)を、受け入れた。

 

 

 

 

 

「…たとえ血は繋がっていなくても、誰かを想う心は繋がっている…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そう信じても、良いですか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 か細い声で問われたそれに、ヒメナはただ優しく、しかし強く抱き締める事で答えとした。

 そんなヒメナの身体に調はほんの少し遠慮がちに腕を回し、溢れさせていた涙を静かに流した。

 

「ロベルト…?」

 

 その様子を見守っていた切歌であったが、ふと側に居るロベルトの様子を見て首を傾げる。

 ロベルトは切歌に向けて何かしようとしていて、しかし俯いて何もしようとしない。

 切歌はそんなロベルトの様子を見て、再び微笑みを見せた。

 

「…恐かったデスか?」

 

 切歌の問いに、ロベルトは暫く沈黙した後に首を小さく縦に振って答える。

 あの時聞こえてきた声は決して恥じないものであったというのに控えめであるその姿勢は、黄金騎士の弟という肩書きに似合わぬ感情を持っていたと読まれた故の恥ずかしさと、実際に恐怖に気圧されてしまった事実を読まれまいと精一杯振る舞っているからだろうか。

 そんないじらしさに敵わず切歌はまたもロベルトに抱きつこうとするが、距離を詰めた気配を感じたロベルトがびくっと身体を震わせた事で、切歌は抱きつこうとした動きを止めた。

 

「…嫌だったデスか?」

 

 その問いに、ロベルトは再び時間を掛けてから首を縦に振って頷く。

 すると切歌は詰めた距離はそのままに、ロベルトと目線が合うよう膝を曲げる。

 

「…ごめんなさいデス。」

 

 そう謝った切歌の声は、普段の明るい彼女が発するものとは思えない程小さく、静かで、後悔の念が押し寄せたものであった。

 

「ロベルトの事、いっぱい置いてけぼりにしちゃったデス。アタシはダメでダメでダメダメなお姉ちゃんデス。」

 

 少しだけ涙混じりの声で話し掛ける切歌の前には、同じ様に涙を溢れさせるロベルトの姿が。

 ロベルトはまだ小さな子供。

 人の心なんて…それこそ、そこから紡ぐ論理的な言葉なんて言えやしない。

 それでも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―こんなアタシを…許してくれますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―こんなアタシが…お姉ちゃんでも良いですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロベルトは切歌の問いに、自ら歩み寄って答えた。

 どうしようもない嗚咽を流しながら、切歌の身体を抱き締めて…。

 

「ありがとうデス。お姉ちゃん、とっても嬉しいデスよ~…♡」

 

 切歌もまた、どうしようもない想いを曝け出し、ロベルトを抱き締め返しながら涙を流した…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 それから暫くして、調と切歌は相手に回していた腕を戻し、その相手と視線を合わせる。

 

「ヒメナさん…。」

「…えぇ、行ってらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 本当はもう少し、こうしていたいけれど…。

 

 

 

 

 

「ロベルト…お母さんの事、よろしくお願いするデスよ。」

「…うん!」

 

 

 

 

 

 自分達には、やらくてはいけない事がある。

 

 

 

 

 

「行けるのか?」

 

 皆に背を向け歩き出す2人にザルバが問い掛ける。

 2人は一旦足を止め、振り返る事無くその問いに答えた。

 

「うん、大丈夫…。」

「アタシ達は今まで、2人だけの音楽を奏でていたデス…。」

 

 そして2人は再び歩き出し、ザルバの張った結界の外側へと出る。

 

「でも…。」

 

 その途端に聞こえる、救わなくてはならない数多の雑音。

 2人は手を繋ぎ、そして目を閉じる。

 

「今はもう…。」

 

 すると2人の纏うギアが変形…いや、“分解”し始める。

 身を守っていたアーマーが徐々に2人の身体を離れ、宙に浮かび、身を包む装飾がアンダースーツのみとなった、その瞬間。

 

「「2人だけじゃない!!」」

 

 キッ、と目を開けた2人は空いている手を目の前の闇へと大きく翳す。

 すると宙に浮かび上がっていたアーマーが全て六角形の水晶体となり、翳した手を合図に空を飛ぶ。

 射出されたアーマーは徐々にお互いのパーソナルカラーと同じ光を発しはじめ、全てのアーマーが展開された時には、世界を覆っていた闇は光に照らされていた。

 

「な!?光だと!?」

 

ギア(GEAR)ブラスト(BLAST)…シンフォギアのシステムを触媒となる最小限の固定物質のみ残した高純度エネルギーへと変換し、純粋なエネルギー照射による一点突破を初めとした、エネルギー体でしかなし得られず、かつ装者全員が共通して同様の効果を発揮出来る技として近日研究されたものである。

 特訓によってまだ修得し始めたばかりの技であるが、今回はザルバの結界をヒントに周囲を照らすエネルギーフィールドとして展開したのだ。

 その結果、ぶっつけ本番なれど実に良好なり。

 事実2人から10メートル程手前に、久しく見ていなかったあのホラーの姿(アホ面)が鮮明に見える。

 その両サイドにはホラーによって操られている人達がオーケストラ団体のようにズラリと並んでいる。

 どうやら暗闇の中観客達を引き連れてこちらの様子を観察していたようだ。

 何とも趣味の悪い奴だと2人が睨む中、ホラーは一度は取り乱したものの、2人の姿を見て下劣な笑いを見せた。

 

「いやこれはお見事といった所ですが…何ともまぁ可愛らしいお姿になってしまった事。そんな姿で一体何が出来るというのでしょうかぁ?」

 

 2人の姿はアンダースーツにそれぞれの得物を携えたのみ。

 端から見ればあまりにも心許ないが、それでも2人の闘志は揺るがない。

 

「決まってるデス…テメェをぶっ倒して、そのとことん人をおちょくりまくったアホ面ひっぺがして、下の顔を晴天に拝ませてやるデスよ!!」

「覗きの変態魔にはキツいお仕置き、ね…!」

 

 そう意気込み構える2人の姿が滑稽に見えたのだろう、ホラーは大声で再びゲラゲラと笑い転げる。

 

「そうですかそうですか…では私も特別に貴女達を食さず、晴天に晒す事にしましょう…私の作曲をとことん邪魔した、愚かな者達だとね!!」

 

 ホラーはそう叫び、右手に持つ指揮棒を高く掲げる。

 それを合図に両サイドに集まる観客達は各々どこからか楽器を取り出し、演奏の準備を始める。

 ヒメナとロベルトが固唾を飲んで見守る中、調と切歌はそれまで繋いでいた手を離し、2人揃って歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―重ねあったこの手は、絶対離さない…。―

 

 

 

 

 

 奪われてしまった、愛の歌を口ずさみながら…。

 

 

 

 

 

「…はっ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがどうしたぁぁぁぁぁ!!」

 

 ホラーが指揮棒を振り下ろし、演奏が始まった。

 演奏者(観客)達が奏でる演奏がホラーの力で形を変え、音符という凶器となって2人へ襲い掛かる。

 ()を蝕む、悪魔の演奏。

 (肉体)を汚す、死の音符。

 まるで自分達のギアのようだなと思いながらも、2人は頭を割りそうな音楽に苦しみながら迫り来る凶器を捌いていく。

 

「その音楽は既に私の手元にある!!その音楽は私のものだ!!伴奏も無い声楽だけの音楽など…馬鹿にしてぇぇぇぇぇ!!」

 

 ホラーはさらに指揮棒を振る速度を上げ、曲のさらなるテンポアップを計る。

 演奏者(観客)達もそれに答え、苛烈を増した音楽は2人容赦無く降り掛かる。

 

「シラベちゃん…キリカちゃん…!」

「っ…。」

 

 足が止まり、片膝を付く2人をただ眺める事しか出来ないヒメナとロベルトは、ならば決して2人から目を離さないと強く意気込む。

 大丈夫、2人はまだ立ち上がれる。

 2人はまだ、歌う事を諦めていない。

 

 

 

 

 

 

―斬り刻む事ない世界に夢を抱き、kiss(キス)をしましょう…?―

 

 

 

 

 

 新たにホラーの耳に届いたフレーズは、またしても奪った曲の内の1つにあるもの。

 

「またしても…!!」

 

 往生際が悪いと憤慨したホラーはもはや滅茶苦茶と言わんばかりに指揮棒を振るう事に集中する。

 先程見た茶番劇で何か新しく曲を見出だせるか、そうでなくとも彼女達が見出だしてくれるかと期待していたが、もういい。

 何も無いのならば用済みだと、ホラーは一心不乱に指揮を振るう。

 

 

 

 

 

 だから気付かなかったのだ、このホラーが望んでいた新たな楽曲は、もう完成していた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―光も闇も番う調べ、見せようよ奇跡の歌を…!―

 

 

 

 

 

 そのフレーズが聞こえてきた時にまずホラーが思った事は、まだ歌うのかという呆れ。

 そして、やけに静かだという事実。

 確かにこのフレーズを歌う時に流す伴奏は全体の曲の中でも特に静かに演奏する場面であるが、それにしても静かすぎる。

 まるで…()()()()()()()()()かのように静かだ。

 そう気付いたホラーは耽っていた思考を現実へと戻し、正面に居る2人と、両サイドに居る演奏者達へ視線を向ける。

 演奏者達は…誰も演奏していない(観客へと戻っている)

 そして2人は…続きとなる、新たな楽曲のフレーズを口ずさむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ―胸の中の“祈り”届けて…!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、誰も知らない音楽(物語)の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―人は誰もが孤独な存在じゃないんだ…!―

―人の命、人の心、それぞれ違うけど!想いは1つ…そう!―

 

 歌の始まりと共に切歌は展開していたギアの一部を呼び戻し肩部のアーマーともう一振り鎌を生成すると、2つの鎌を合わせて1つの長柄の武器とし、バーニアを利用してホラーへと突貫する。

 

《対鎌・螺Pぅn痛ェる》

 

 さらに調も一部のギアを呼び戻すと同時に切歌の両肩にヨーヨーを巻き付け、置いていかれないように脚部のアーマーを生成する。

 それによって世界を照らす明かりが少し減ってしまうが、問題はない。

 

「な!?そ、そんな馬鹿n!?」

 

 ホラーが台詞を言い終わる前に顔面を串刺しにした切歌は一瞬バーニアを強く噴射して観客(演奏者)達から距離を取ると、今度は逆噴射をしてホラーを無理矢理引き剥がす。

 それと同時に調は跳躍、牽引の力も相まって綺麗な放物線を描きながら飛ぶ調は、吹き飛ばされながらも串刺しにされた顔を元に戻そうとする余裕のあるホラーに向けて合体、巨大化させたヨーヨーを振り下ろす(プレゼントする)

 

「こ、ここをkうして…それdこkを…こうしてっと!ふぅ…何とか…?」

 

《β式 巨円断》

 

「へ?あ…あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?」

 

 ぶっ飛ばされた先で何とか顔面整形が完了したホラーは一息吐くも、ふと自身が影に隠れている事に気付き上を見上げ、そして迫る凶器に目を見開く。

 そしてピンク色の可愛らしい色をした物騒な鋸がホラーの身体を一刀両断…。

 

「ぐっ…ぬn…。」

 

 …する事は無く、ホラーは指揮棒で鋸をすんでの所で受け止めいた。

 …いや、顔面の半分ぐらい鋸が入っているのですんででは無いが。

 だが今のホラーにとってはそんな事はどうだっていい。

 

「な、何故dすか…!?」

 

 顔の半分程が鋸で抉られ、潰されているので少々発音が悪いが、それでも彼が一番に投げ掛けたかった問いは、皮肉にも発声良く2人の耳に聞き取れた。

 

 

 

 

 

「何故こいつらに向けて演奏してるんだぁっ!?」

 

 

 

 

 

 そう…演奏していたのだ。

 観客(演奏者)達が、この2人の歌声に合わせて。

 馬鹿な、ありえない!!

 あいつらは全員自分が操っている筈!!

 何故こいつらの音楽を奏でているんだ!?

 癇癪を起こすホラーに対し、観客(演奏者)は答えない。

 しかしその答えはこの2人(調と切歌)が応じてくれる。

 何故ならその答えは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「僕らは“()()”だよ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てこの歌に込められているから!!

 

 

 

 

 

「いや意味が分からんッッッ!!??」

 

 

 

 

 

―だから…手と手…。―

―だからその手、怖がらないで…。―

 

―繋ぎ合おう!!―

 

 そんなホラーの嘆きと、そこから生まれる大量の楽譜を飛ばした攻撃に2人はまともに応じる事はなく、調は切歌の前に飛び出して再びギアの一部を回収、腕部のみを残して全て生成し、鋸と化して宙を舞う。

 

《裏γ式 滅多卍切》

《Δ式 艶殺アクセル》

 

 4本の巨鋸を展開しながら6回ムーンサルトという常軌を逸した回転技で以てホラーの攻撃を全て凌ぎきると、次は切歌の番。

 展開していたギアを集め、脚部以外のアーマーを展開。

 がら空きになったホラーの懐目掛けて2振りの鎌の肩部の鎌で滅多切りにした後、大きく空を飛び鎌からエネルギーを放出、十字にホラーを切り裂いた。

 

《封伐・PィNo奇ぉ》

《聖罰・HoワiTオNAイToォ》

 

 それに合わせて調も跳躍し、空中で切歌と並び互いに頷きあった後、全てのギアを呼び寄せた。

 それにより世界は再び闇へと還ってしまうが、目指すべき場所(仕留めるべき相手)は、もう見えている。

 

 

 

 

 

 

―「愛してる」コトバで…!!―

―「愛してる」コトバ紡ぎ…!!―

 

 

 

 

 

 

 2人は自身の得物である鎌とヨーヨーを合体させ、巨大な刃の着いた車輪状の武器とし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「夢を叶え…生きていこう!!!」」

 

 

 

 

 

《禁合β式・Zあ破刃惨無uうNN》

 

 

 

 

 

 そのままホラーへとぶち当たった。

 

 

 

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!??」

 

 2人の攻撃は止まる事を知らずホラーの身体を抉り轢き、やがて何かにどん詰まったかと思いきや、パリン、と硝子が割れるような音と共に世界が真に色を取り戻した。

 どうやら2人の攻撃にホラーの結界が耐えきれなくなったようだ。

 結界が解けると同時に演奏していた観客達も次々に気を失ったように倒れ始める。

 観客達の解放も、これで完了だ。

 しかし…。

 

「まさか、即興で歌を作り出すとは…それも…ここまでの歌を…!」

 

 抉りに抉られた身体をヨロヨロと整体しながら起き上がるホラーだったが、その表情には余裕の笑みが浮かんでいる。

 

「ですが、ついには終演の時のようですね…?」

 

 ホラーの視線の先、そこには力尽きたと言わんばかりに膝を付く調と切歌の姿が。

 

「っ…ゲホッ!!ゲホッ!!」

「調!?」

 

 調のあまりにも苦し気な咳を聞いて切歌が手を伸ばそうとするも、その手は彼女の肩に触れようとした手前で止まってしまう。

 

「調、血が…大丈夫デスか!?」

 

 調の口から大量の血が吐き出されていたからだ。

 だが調はそんな自分の状況を省みず、逆に切歌の事を気遣った。

 

「切ちゃんこそ…目が…。」

 

 調の言う意味が分からず一瞬戸惑った切歌だったが、ふいに頬を伝う涙とは違う滑りを感じ、指で拭ってみる。

 それはまだ真新しい血であった。

 そして気がつけば、自身の視界が真っ赤に染まる。

 あぁ、前にもこんな事あったなぁと思いながらも、前回とは違う要因で流したであろう血涙について考えてみる。

 いや…考る必要は無い。

 元から体中に蓄積されていたダメージに加えて慣れないギア・ブラストの行使、さらに言えばこの身体を蝕むような感覚…恐らくLiNKERの薬効切れ。

 本来ならもっと長引く筈のLiNKERも、今回の劣戦には音を上げてしまったようだ。

 

「素晴らしい…素晴らしいですよ貴女達は!!私は今、この世界で真に評価に値する名曲に出会いました!!まるで私が探し求めていたものが今まさにそこにあるかと錯覚してしまうように!!」

 

 ヘッドギアからは、未だにノイズが鳴り響いている。

 どうやらまだ自分達の曲は奴の手元にあるようだ。

 

「貴女達の歌には感動しました、感銘を受けました、そして感謝を致します。先の歌をこの手に納める事が出来れば、必ずや私は神の1曲へと到達する事が出来るとね…。」

 

 逃げる手立て、無し。

 戦う手立ても、無し。

 

「シラベちゃん!!キリカちゃん!!」

「お姉ちゃん…!!」

 

 朦朧としてくる意識の中、背後からヒメナとロベルトの声が聞こえてくる。

 

「アンコールを、ご希望デスか…。」

 

 そうだ…この背中には、守るべき家族が居る。

 

「でも…その前に…。」

 

 だから、まだ立ち上がれる。

 

「もう1曲聞いていく気は…。」

「無いデスかね?」

 

 最後の切札が、まだ残ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…。」

 

 

 

 

 

 ホラーの耳に何かが聞こえた。

 誰かの声のようだ。

 

 

 

 

 

「ま…。」

 

 

 

 

 

 ホラーは目を凝らす。

 どうやらあの2人でも、その後ろに居る親子が発した声でも無いようだ。

 

 

 

 

 

「た…!」

 

 

 

 

 

 ホラーは辺りを見回す。

 段々と近づいてくる第三者の正体を知る為に

 そしてホラーは気付いた。

 その者は自身の背後、その上空からとんでもない速度で来ている事を。

 

 

 

 

 

「せぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 そして拳が撃ち込まれた。

 ホラーの背中にメキリと撃ち込まれた拳は声を発する事も、呼吸をする事も忘れさせ、そのまま遥か上空へと打ち上げる。

 こんな最速で最短で真っ直ぐに一直線にある意味一番常識をぶっ飛ばした事を平気でやり遂げる者は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共!」

 

 

 

 

 

 立花 響以外誰が居る!

 

 

 

 

 

「響さん!!」

「待ってました!!」

 

 指令に赴いていた響が、やっと帰ってきた。

 となれば当然、あの男も…。

 ホラーが遥か上空へと打ち上げられたその時、その方向に向けて街を駆ける1人の青年の姿が。

 そう、レオン・ルイスだ。

 彼はホラーが天高く打ち上げられているのを見ると既に引き抜いていた剣で斜め前方に円を描き、その輪の中へと飛び込む。

 その光の輪から出てきたレオンはガロの鎧を纏っていたが、それとは別にもう1つ飛び出してきた影が。

 赤き鬣をたなびかせ、ガロと同じく黄金の輝きを放つその影は、魔戒騎士が100体ものホラーを封印し、己の内なる影との試練を乗り越えた暁に授かる、大いなる力。

 ザルバと同じく、常にガロと共に在る、もう1つのガロの相棒…。

 

 

 

 

 

“魔導馬 ゴウテン”。

 

 

 

 

 

「響さん!!」

「ぶん投げ、お願いするデス!!」

「え!?で、でも「「良いから早く!!」」は、はいぃ!!」

 

 ゴウテンの嘶きが聞こえたのか、調と切歌は響に自分達をホラーの下までぶん投げてもらうようお願いをする。

 当然響は今の2人の姿を見て躊躇したものの、2人の剣幕には勝てずに言われるがまま2人の手を取り…。

 

「行ってらっしゃぁぁぁぁぁい!!」

 

 本当にぶん投げた。

 響にぶん投げられた調と切歌はどんどんホラーへと近づいていく。

 ゴウテンを駆るレオンもそれに気付き、さらにゴウテンの腹を蹴って加速させる。

 やがてゴウテンは気高い蹄音を響かせながら2人と同じようにヴァリアンテの空を跳ぶ。

 するとガロの持つ牙狼剣が金色の輝きと共に形状が変化し、大剣へと姿を変える。

 これぞ魔導馬の持つ秘めたる力。

 主人を厚く慕う魔導馬の想いにソウルメタルが応え、魔戒騎士の持つ剣を更なる領域へと昇華させる。

 そして牙狼剣がゴウテンの力によって変化したこの剣こそ、“牙狼斬馬剣”。

 どんな強大な闇でさえも断ち斬る大聖剣だ。

 

「待ちくたびれの…!!」

「大儲けデス!!」

 

 そしてホラーと同じ高度に達した切歌は肩部のワイヤーを射出しホラーをがんじがらめにすると、調が放った2つのヨーヨーを両手で受け止める。

 

「がっ!?なっ…あ…!?」

 

 拘束されたホラーはワイヤーを解こうとするも、それは許されない。

 そしてホラーは目にしてしまった。

 ()を切り刻む切歌(イガリマ)の碧刃が…。

 (肉体)を伐り刻む調(シュルシャガナ)の緋刃が…。

 そして自らの天敵(黄金騎士)の金色の刃が…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、黄金騎士ぃぃぃぃぃ!!??」

 

 

 

 

 

 一斉に自分へと向かってくる光景を。

 

 

 

 

 

「「いっけえぇぇぇぇぇ!!!」」

「ウオォォォォォ!!」

 

 

 

 

 

《禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS》

 

 

 

 

 

 ヴァリアンテの空に、3色の光の軌跡が描かれた。

 

「まだ…っ…私はまだ…最高の音楽を…っっっ…!!」

 

 その交点となる場には4色目となる軌跡もあったのだが、その()はすぐに3色の光によって揉み消され、やがてヴァリアンテの空は日常の夜景へと戻っていった。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

「わっ、わっ、わぁ!?調ちゃん、切歌ちゃん…!」

 

 ホラーを討滅した直後、力を使い果たしたのか調と切歌は受け身の姿勢を取る事なく下界へ落下してきていた。

 調は響が受け止め、切歌はレオンが機転を効かせてすぐに馬を反転させて受け止めた為大事にはならなかった。

 

「シラベちゃん!!キリカちゃん!!」

 

 2人を地面へと寝かせると、ヒメナとロベルトが駆け寄ってきた。

 そのまま安否を気遣おうとしたが、2人は側に駆け寄った段階でその動きを止めた。

 

「シラベちゃん…!?」

「お姉ちゃん…?」

 

 もっと言えば響とレオンも動きを止めて調と切歌に見入っていた。

 何故なら2人は目を閉じ、眠っていたから。

 ただしそれは真に文字通りの意味ではない。

 

「調ちゃん…切歌ちゃん…!?」

 

 響は2人の頬に触れてみる。

 2人の肌はとても、とても冷たかった。

 

「っ!?ちょっと…ねぇ2人共!ねぇってば!!」

 

 響は堪らず2人の肩を揺さぶる。

 それでも、起きる事はない。

 レオンが割って入って脈を計るも、脈が感じられない。

 呼吸で胸が上下している様子もない。

 

「駄目…駄目だよ2人共!!お願い戻ってきて!!」

 

 響は再び調に寄って彼女の胸部に手を置き、そのまま上下に体重を掛けたりやめたりを繰り返す。

 いわゆる心臓マッサージを施す響の隣では、レオンもまた切歌に対して同じ処方を施していた。

 それでも…2人は目を覚まさない。

 

「そん…っ…な…!!」

 

 ヒメナが大粒の涙を流す。

 沢山の傷跡による出血に肉体の破壊。

 長時間暗闇の中で行動し、限界まで疲弊した精神。

 そしてLiNKERが切れた事による反動(バックファイア)…。

 それでもなお最後の一撃の為に力を行使したのだ。

 彼女達は戦った、戦い過ぎたのだ。

 

「くっ…っ…!!」

「お願い…お願い調ちゃん!!切歌ちゃん!!諦めないで…生きるのを諦めないで!!!」

 

 しかし彼女達にとっては本望であろう。

 自分達が求めていたもの、そして守りたいと思ったものを、守りきる事が出来たのだから。

 どこか安心しているような彼女達の表情からは、そんな意図さえ読み取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだ…死んじゃ、やだぁ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロベルトぉ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …それでも、“生きていたい”という欲を持ってしまうのが、人間という種族が持つ罪の1つなのだろう。

 

「おね、え…ぢゃんっ…!!」

 

 涙が止まらず嘔吐き、しゃくりあげ、声にならない声を上げるロベルト。

 切歌はそれをしっかりと聞き届け、えへへ…と笑い、

 

「お姉ちゃん、ちょっと頑張り過ぎちゃったデスよ~…♡」

 

 ロベルトの頬に手を添えた。

 彼女手は弱く、儚げで、それでいて優しさに溢れた、確かな温もりがあった。

 そのままロベルトは切歌に抱きつき、散々に泣きわめいた。

 再び自らの足取りで、確かに切歌(お姉ちゃん)という存在を受け入れて…。

 

「ヒメナさん…。」

「シラベちゃん…っ…!」

 

 調もまた目を覚まし、ヒメナの涙を拭おうと手を伸ばす。

 その手は願い通り彼女の止まらぬ涙を拭い、そして彼女の手に包まれる。

 生きる暖かさを貰っているみたいだと、調は何となくそう思った。

 

「2人共…良がっだぁぁぁa「やめよう響、それこそ本当に2人が死ぬ!」ふぎゅうっ!?でも…でも本当に、良かった…!」

 

 そんな場面に容赦なく抱きつこうとする響に、それを止めるレオンも交えて、長い長い夜は終わりを告げた…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 3日後、ルイス一家の宿屋…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程な、そりゃあお互い災難だったな。けどな…何1つとして終わってないのはどういう了見だおい!!」

「しょ、しょうがないじゃん!全然分かんなかったんだし!」

「挙げ句ホラーとのすったもんだの療養生活でやってる暇なかったデスよ!」

「うるせぇ!!お前ら真面目に帰る気あんのかぁぁぁぁぁ!!」

「ギャアァァァァァ!!痛い痛い痛い痛い!!クリスちゃん痛い!!クリスちゃん痛い!!」

 

 ご覧の通りの大惨事である。

 何が起きたか簡潔に説明すると、昨日の夜中にサンタ・バルドへ帰還したアルフォンソとクリスが今朝宿屋へと顔を出し、お互いの情報交換をしていた所、頼んでおいたものが未だに完成していない事を知ったクリスがお冠になった、といった所だ。

 

「あ、アカンとです…今のクリス先輩は何故か虫の居所が悪いデス…ロベルト~♡お姉ちゃんと一緒に遊ぶデス~♡」

 

 いつも以上に容赦の無いクリスに恐怖した切歌は現実逃避の為ロベルトに向けて手を伸ばす。

 というのもやはりあの戦いの傷は深く、しばらくは療養生活を強いられる羽目となっているのだ。

 と言ってもあの後早急に病院へと担ぎ込まれた事により奇跡的にも本当に深刻なまで、とはいかなかったようであり、さらにレオンが病院には内緒で魔界の知識による治療を施している事も相まり、早ければ1週間程でこの妖怪ミイラ女生活ともおさらばできるようだ。

 そんな訳で今は安静の為切歌は現在ベッドからあまり派手に動く事は出来ない。

 なので愛しのロベルトと遊ぶ為には彼の方から来てもらう必要がある。

 大丈夫、仲直りもしたし、彼も何だかんだ満更でもなさそうだから、今となっては呼べば来てくれる。

 

「ロベルト、今切歌お姉ちゃんと遊ぶとお姉ちゃんまた倒れちまうからさ、今日はちょっと我慢してくれねぇかな?」

「えっと…。」

「なっ!?先輩酷いデス!!ロベルト、お姉ちゃんは大丈夫デスから一緒に遊んで「そんじゃあロベルトはちょっと向こうで遊んでような~。」あぁっ!?先輩酷いデス!!ロベルト戻ってきてほしいデス~~~!!」

 

 しかしそれを許さぬと、クリスはロベルトを隣の部屋に居るアルフォンソの下へと連れていってしまった。

 切歌はロベルトに戻ってくるよう懇願するも、隣の部屋からは徐々に楽しげな声が聞こえてくる始末。

 

「し、調!!助け…!!」

 

 かくなる上は生涯の友にしてやっぱり1番の家族、月読 調に頼るしかない。

 切歌はそんな最後の希望に縋り付こうとするも…。

 

 

 

 

 

「おさんどん~おさんどん~わ~た~し~は~お~さ~ん~ど~ん~♪」

「見捨てないでほしいデスぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 

 

 

 哀しいかな、自分より一足早めの回復を見せる調は既にベッド生活とは軽くおさらばをしており、今日も今日とてヒメナの手伝いに奔走している。

 

「…さぁ~て準備は良いかぁ、おい?」

「ちょっ!?重病人!!アタシゃ今見ての通りの重病人でアカンとデスよ先ぱi「黙って喰らっとけこの大馬鹿野郎共ぉ(必愛デュオシャウトォ)!!」みぎゃあぁぁぁぁぁ!!??」

 

 ここから先はご想像にお任せしよう。

 まぁヒメナが引きつった笑みを浮かべながら見守っているので、大事にはならないだろう。

 ちなみに調は軽いチョップ1発だけで済んだ。

 何故だ。

 と、ここで各々の様子を見守っていたレオンが急に外へ出て行こうとする。

 

「あれ、レオンさん?どこ行くんですか?」

「番犬所だ、まだあの指令について報告をしていなくてな。」

 

 復活した響に皆にもそう伝えておいてくれと言い残し、レオンは喧騒溢れる宿から番犬所へと向かっていった…。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 そして、番犬所…。

 

「来たか…。」

 

 番犬所の神官ガルムは来訪者の存在を感じ取り、そちらへと視線を送る。

 暗がりの中から歩いてきたのは、いつも以上に険しい表情を浮かべるレオンだ。

 レオンはそのまま歩きながら、明らかな怒気を含んだ声でガルムに質問を投げ掛ける。

 

「…先日の指令、あれは一体どういう事だ?」

 

 あの時渡された指令に従い出向いた先にホラーは居らず、代わりに街中にホラーが出現した。

 しかもあの街中に現れたホラーこそ、本来出向いた先に居なくてはならなかったホラーだというのだ。

 明らかなる錯誤…それを問われたガルムはあぁ…といつも通り面倒くさそうに溜息を吐いてから答える。

 

「あれはこちらのミスだ、非礼は詫びよう。」

 

 その仕草が、今は余計に腹が立つ。

 

「そんな簡単に済まされる問題じゃない、指令にここまでの誤りがあるなど…前代未聞だぞ。」

 

 レオン守りし者達を統括する神官としての至極もっともな意見をぶつけるも、ガルムは特段意に介した様子もない。

 

「随分と言うな、黄金騎士?こちらも今忙しいのだ。一々お前らに気を掛けている暇などない。」

「忙しい?」

 

 ガルムの口から出た忙しいという発言に眉を潜めるレオン。

 それもそうだろう、何せガルムは今高台の側に設置してある泉に釣竿の糸を垂らしている。

 まぁ…つまりは見ての通り釣りをしているのだ。

 

「…とてもそうは見えないが。」

「束の間の休息、といった所だ。」

 

 あくびをしながらガルムはそう答えた。

 釣れないのだろうか…いや、そんな事を気にしてる場合じゃない。

 それよりもガルムが言っていた忙しいという言葉が妙に気になり、レオンはそれについて掘り下げようとする。

 

「何がそこまで手を煩わせる?」

「貴様に話してどうする。」

 

 …が、結果は門前払いだ。

 ガルムは視線を釣り糸の先へ向けながら逆にレオンへと話し掛ける。

 

「全てに於いて完璧に物事をこなせる者などこの世には存在しない。我ら神官とて、それは同じ事よ。」

「だから疎かになっても仕方がないとでも言うのか?ふざけるな、もしあの時俺達が遅れていたら…!」

 

 レオンの脳裏に過ったのは、やはりあの時の切歌と調の姿。

 彼女達の手を煩わせたのは他ならぬ自分とは言え、今言った通りもし自分達の到着が遅れていたら、彼女達はもちろん、あの場に居た他の観客達もどうなっていた事か。

 それについてはガルムも承知しているらしく、揚げ足を取るような真似をせずに答えた。

 

「だが、結果としては間に合った…それで良いではないか?」

「そういう問題じゃない…ったく、俺達を纏める存在が忙しいって理由でそれを疎かにして、おまけに秘密ときたか。風情にも置けないな。」

 

 やはりこの女との会話はいつもながら平行線を辿るばかりだと腕を組んでそっぽを向くレオン。

 そんなレオンに、ガルムは大きな反応を示した。

 

「…それは貴様とて同じ事だろう?」

「何…?」

 

 ガルムの声色が、一段と落ちた。

 そう感じたレオンは外していた視線を改めてガルムの方へと向ける。

 

「…どういう意味だ?」

「風情にも置けぬなどと…それを今の貴様が言うかと言っているのだ。」

 

 ガルムもまた、逸らしていた視線をレオンの方へと向けており、その目は険しいものになっている。

 一体何だと訝しむレオンに対し、ガルムは今回の件でただ1つだけ、自身がどうしても納得できなかったある決定的な事実を告げる。

 

「あの時お前は指令によって指定された場から真っ直ぐにホラーの居る広場まで向かっていった。そう…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。」

 

 まさかそう言われるとは思っていなかったのだろう、それを聞いたレオンの目が見開かれる。

 

「思えばあの裂け目について報告した時もそうだったな…あの時は言及するまいと思っていたが、今はさせてもらうぞ。」

 

 そんなレオンの反応に気を良くしたガルムはそれに乗じて別件でも気になっていた事を問い掛ける。

 

「あの日、あの時…貴様は何故あの遺跡へと()()()()()()()()()()?話を聞く限りでは、あの時もまるであそこに裂け目があると知っているかのようだったな?」

 

 弟君の鍛練は、終わった後だったのだろう?と問い掛けるガルムに対し、レオンは…悔しそうに目を逸らす事しか出来なかった。

 

「…そういう事だ。お互い秘めたる事情の1つや2つ、あるというもの。だが今回の件は完全なるこちらの失態だ、重ねて詫びるとしよう。」

 

 どうやらぐうの音も出ないようだと確信したガルムは一応自らの失態は詫びて、早々に話を切り上げた。

 レオンもああ言われてしまって話す事などなく、彼は背を向けて出口へと進んでいく。

 

「…次は頼むぞ。」

 

 そんな捨て台詞を残して、レオンは番犬所を後にした。

 

「黄金騎士とて多感なお坊ちゃん、か…。」

 

 すごすごと引き返したその姿がとても最強の魔戒騎士の姿とは思えず、ガルムはレオンが去った後に1人笑うも、やがてその表情を再び真剣なものへと変え、垂らしていた釣り糸を引いて綺麗に竿へと巻き付ける。

 それと同時にガルムの前に無数の映像が表示された。

 それはガルムが番犬所で保管してある魔導具の数々であるのだが、たった一ヶ所だけ映像が抜け落ちている箇所があった。

 ガルムはそれを見て再度溜息を吐きながら1人ごちる。

 

 

 

 

 

「さて…一体どこの誰だ?わざわざ()()()()を盗む物好きは…。」

 

 

 

 

 




・ギア・ブラスト

→だからズルいんだってあんなの使いたくなっちゃうじゃん


・世界記録もびっくりの調選手

大きい鋸が4本あるので内2つで局所的に非常Σをやれば浮いて何とかなる説


・聖罰・HoワiTオNAイToォ

→実は「銀弾の軌跡」をやっていなくて動画で見たら何だかやってる事微妙に被ってるって焦って、でももう引き返せないから何デスとぉした記念に


・2人の楽曲

→描写はしていませんが、ちゃんと2人の下へと戻ってきています


・で、実際に歌ったやつ

→いや、何と言いますか…普通にやるのもつまらないと言いますか…深夜のテンションと言いますか…


・魔導馬ゴウテン

→映画直前なので既に持っているという設定で
試練を期待していた方には申し訳ない…
(いや、やっても良いんだけど雷牙狼の特例を鑑みるに、彼の場合歩んできた人生そのものが内なる影との試練だって言って片付けられそうだし…)


・ホラーについて

→「こいつは“ホラー・アビスコア、真の音楽を~とか言って情熱を注いでいる酔狂なホラーだ。取り憑いたのは同じく音楽に情熱を注ぐ音楽団の指揮者だ。とはいえ今回は奴にとって運が良かっただろうな。何せ何だかんだ音楽に携わる事なら大抵の事が出来るのに加え、それに勝るとも劣らない情熱を持つ奴に憑依した訳だからな。だからこそ今回は音楽団なんて規模にまで拡大したんだが…まぁ、だからといって借り物の音楽なんかで黄金騎士やあの嬢ちゃん達に勝てる訳がないがな。奴が真の音楽ってやつに辿り着くのは、きっともう少し先の未来…何故だかそんな気がするぜ。…おぉそうだ、手紙を預かっていたんだったな。あー…っと…『実を言うとこの回全然ホラーのデザインやら何やらやが決まってなかったんです。なので勝手ながらもご意見の方から使わせて頂きました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます、未確認蛇行物体さん、大変ありがとうございました!』…だそうだぜ。」


・で、ジルヴァは?

→もうちょっと、もうちょっと待っててください…大丈夫出番はありますから…


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