色々おかしい点豊富だと思いますが、許してください。
皆様おはようございます。もしくはこんにちは、こんばんはですね。私、『
私は以前は地方に住んでいまして、学校に通うために東京のマンションで独り暮らしをしてるのです。元々料理や洗濯といった家事は好きなので別に苦ではないのですが、少々部屋が私一人だと大きすぎるかな、というのが難点ですね。楽しいこと...はバイトですかね。働くことは素晴らしいというのは本当でしたね。正直、早く社会人になって残業というものをしてみたいほどです。
まぁ、私のことはここまでにしておきましょう。別にここまでは普通ではあったのですが...とある日、親戚から一本の電話が掛かってきたのです。内容は──
『うちの杏がアイドルになるために東京に行くから、そっちに住まわせて貰えないだろうか?』
──というものでした。
杏は『
この電話を貰ったとき、私はあまりにも意味不明な点があり混乱してしまいました。私の知っている杏は一言でいうなら...面倒くさがり屋ですね。今年の1月に新年の挨拶ということで杏の家を訪ねましたが、何をするにも面倒だ、という性格でした。
更に働きたくないなどとほざきやがっており、少々私が説教をしてしまいました。働くということの素晴らしさを杏は少しでも理解してほしいものです。その杏がですよ、『アイドルになる』などと言ったですって!?ということです。
もう1つ言うならば、何故アイドルなのかということです。アイドルを目指す経緯が良く分からなかったわけですね。まぁ、この疑問は最初のやつのインパクトが強すぎて消えてしまったわけですが。
電話の件ですが、私は了承しました。先ほども述べた通り、この部屋は私一人だと大きすぎると感じており、使ってない部屋もいくつかあったので一人くらいなら別に大丈夫かなと感じていたのです。
その電話から大体二週間後、杏は来ました。杏の両親も一緒に来るだろうなと思い、茶菓子を用意して待っていたのですが、なんと来たのは杏一人。一応杏は現役の女子高生です。何かあったらいけないだろう、と杏を説教しましたが、はいはいと聞き流されてるばかりでした。危機感が足りませんよ...全く。
いつの間にかオーディションは終わったらしく、最低結果が来るまで共同生活をすることになったのですが...殆ど家事は私一人で勤めました。最初の3日程度は声かけをしたのですが、言ってもどうせあまりしてくれないので止めました。ですが──
「いやぁ、否の料理って本当に美味しいよね」
「否の作る飴さ、杏の食べた飴の中で一番美味しいよ」
──こんなこと言われたらもっと頑張るしかないでしょう。お世辞でしょうが、私は物凄く嬉しかったのです。
そしてとうとう、結果の通知がやってきました。杏にそれを言うと、面倒だから私が開けろと言われました。緊張してないのかこいつは...と一瞬思いましたが、若干手が震えているのが私には分かりました。杏にも可愛い所あるんですね。微笑ましくなりましたよ。
さて内容ですが...合格です。杏はなんでもなさそうにしてましたが、私の目は誤魔化せませんよ。あれは完全に喜んでる目でしたね。
その日はお祝いということで料理は杏の好物で固めました。その時に杏にアイドルになった経緯を聞きましたが...
「だって印税貰えるんでしょ?それで遊んで暮らすんだ!」
...呆れましたね。さっき喜んでたのは印税のことを考えてたわけですか...世の中そんなに甘くありませんよ。むしろここでアイドルやって世間の厳しさを学んで来て欲しいですね。
「まぁまぁそんな顔しないでよ。印税次第では否も養ってあげるからさ」
何をバカなことを。そんなことしたら働けないじゃないですか。
◯ ◯ ◯
「杏、何ですかその『働いたら負け』と書かれたTシャツは」
「否だって人のこと言えないじゃん。何その『残業させろ』Tシャツ。正気?」
「なっ!杏はこの良さが理解出来ないのですか!?」
「...多分杏以外も理解出来ないと思うよ。寧ろ杏のこれのほうが共感集めるよ」
「ぐっ、そんなはずは...!!」
これは、こんな二人の物語。
多分続きません。
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2
低クオリティなので期待はしないで下さい(切実)
皆様、ごきげんはいかがでしょうか。私、ヌヌ葉否は元気です。なんなら朝飯前に一仕事出来そうなくらいには元気ですよ。
今の時間は午前4時。いつもなら後一時間は寝てるのですが、目が覚めてしまったのでもう起きておくことにしました。
本日は所謂休日。しかも補習もバイトもないので完全にフリーです...辛いですね。
そろそろ桜の季節でしょうか。まだ満開というまでにはいってませんが、ちらほらとそんな予兆が見えつつありますね。春は好きですよ私。
ちなみに杏のほうなのですが、頑張ってるそうです。自己申告なので真偽は不明ですが信じます。杏は本気を出せば天才ですしね。例で言えば物理でしょうか。なんで杏は自由落下の計算を暗算で出来るのでしょうかね。あれ9.8とかいう慣れないと計算し辛い数字があるにも関わらずですよ。まぁ恐らく自由落下以外にも暗算出来るのでしょうが。そうだったら流石ですね...常に本気でいて欲しいものですよ。
さて、私は今キッチンに向かっているところです。朝御飯...ではないです。朝御飯は杏が起きる時間に合わせて作らないと冷えてしまいますからね。というわけで作ってるのは飴です。杏はどうやら甘い飴が好きなようでよく好んで食べます。結構前に気が乗って試しに飴を作って見たところ大変気に入られたようで、以来私が杏の飴の製作をしてるというわけです。今の世の中は便利になりまして、飴の作り方はインターネットを使えばすぐレシピが手に入ります。そのレシピに軽く杏の好みに合わせてアレンジをします。杏との付き合いはそれなりにありますからね、嫌でも覚えてしまいます...そういえば、杏があんな感じになったのはいつ頃でしょう。少なくとも今年からはああでしたが...
───おっといけないけない、お菓子作りは集中して行わなくてはならないですからね。一つ分量間違えれば味はコロッと変わっちゃいますし。どれ、とりあえず味見を......はい、可もなく不可もなくですね。正直既製品のほうが美味しいと思うんですがねぇ...杏も物好きなんですね。
まぁ、私も好きでやっていますしね。研究を続けますか─────
「...おはよ。いなむぅ、ご飯あるー?」
───おや、気付けばこんな時間に。私としたことがつい研究に没頭してしまったみたいですね...幸い下準備は済ませてはいるので後は作るだけです。
「ちょっと待ってて下さいね。すぐ出来ますから」
「んぅ...」
「まだ寝惚けてますか、とりあえず顔洗ってきてください」
「はーい...」
全く、仮にもアイドルになったんですからその自覚をもって欲しいものですよ...いえ、身だしなみを整え出したら逆に気持ち悪いです。杏らしくなくなりますね。
「...ところでさぁ」
「どうしました?」
「その話し方、いつまで続けるつもり?」
..................
「...ごめん、失言だったよ。顔洗って来るね」
「...いえ、大丈夫ですよ」
......そろそろ食パンが焼き上がる頃です。杏は確か苺ジャムでしたね。コーンスープ用のお湯ももう沸騰してますしササッと進めましょうか。
............
────────
──ほら、見てよお母さん、お父さん。
──テスト頑張ったよ。
──一番だよ。
──習い事だって一番取ったよ。
──素行だって態度だってマナーだって運動だって────
──だから、だからさ、お父さん、否を...私を...
────────
......なんで、今更になって......
「思い出したく、なかったのに...」
多分続きません
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3
皆様こんな低クオリティな小説を見ていただきありがとうございます!
今回も低クオリティですがよろしくお願いしますね!
皆様、どうもこんにちは。本日は晴天、絶好のバイト日和ですね。今日は学校は休みになっているのですが、その代わり朝からバイト尽くし......たまりませんねぇ。
おっと、そういえば杏もレッスンがあるって言ってましたね。昨日もレッスンだったそうで、明日もなのかー、と絶望していましたよ。ですが私は見逃しませんでしたよ?良い友人に出会えたらしく声が若干弾んでました。多分杏は気付いてないでしょうけど。確か...杏は『きらり』と呼んでましたね。その人もアイドルなのでしょうけれど...もし会う機会がありましたらご挨拶しておきたいですね。杏と仲良くして頂きありがとうございます、とでも。
時間にはまだかなりの余裕がありますが、早めに出ておいて損はないです。寧ろギリギリに出て遅刻するほうがいけませんよね。なので、これからバイト先へ向かおうと考えているんですけど...杏はちゃんと行くでしょうか...こればっかりは信頼するしかないのですがね。
せめて一声掛けてから行こうかと思い杏の部屋へと向かうと──
「うぐぉぉぉ......」
──なにやら呻き声のようなものが聞こえてきました。十中八九杏の声でしょうが、これアイドルが出していい声じゃないですよね。寝てるわけ、ではなさそうです。何かに苦しんでるかのような...そんな感じの。
「...杏、入りますよ」
「否、助けて!」
「?」
戸を開けて見ると...体をプルプルさせながらこちらを見る杏が。目がマジなやつなんでふざけてる訳じゃなさそうです。
「か、体が痛くて動かせない...!!」
「...筋肉痛ですか?」
「そんな冷静に解析しなくていいから起こすの手伝ってよ!!」
「はいはい...」
杏は普段運動はしませんからね...何かにつけてサボっちゃいますから。そのツケ?が回ってきたのでしょう。更に杏のことです、激しい運動後のストレッチも面倒だと言って真面目に取り組まなかったのでしょう。全く...
「今日のレッスンは休む!体痛いしダルいし!」
「筋肉痛などで仕事を休めたら世の中終わりですよ?ほら、朝御飯食べさせてあげますから」
「むぅ、否の鬼!悪魔!......あ、美味しい」
「悪魔で結構。そして感想ありがとうございます」
「ふん、杏は屈しないぞ!」
「飴もありますよ。アルミで包んで袋に入れておきますから、休憩時にでも食べてくださいね。後、レッスン用のジャージとかはこっちのバッグに入れておきますから」
「............」
...まるでアレみたいですね。動物園で餌を与えるアレ。実際やったことも生で見たこともないですが。
「ごちそうさま...飴くれたし、否がおんぶしてくれるなら行ってあげてもいいよ」
「分かりました。こっちも荷物纏めるのでちょっと待ってて下さいね?」
「ほら、無理でしょ?だから...って、え?」
「待ってて下さいね?」
「アッハイ」
杏と同じ体型してますけど、一応鍛えてましたからね。自分の重さより1.5倍の物までなら多分運べますよ。多分ですけどね。
「...ねぇ否、やっぱりこれはちょっと...」
「何か言いました?」
「いやだから」
「何か言いました?」
「...もうどうにでもなれ」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
最初抗議してましたが、途中から急に何も言わなくなった杏を無事に346プロに送り届けることが出来ました。346プロに着いた時、ここからどうしようかと一瞬考えてしまいましたが、その時私や杏よりも遥かに背の高い女性に遭遇したのです。何故かその人は私達を見るなりかなり驚いていましたが。すると、杏はその人に気付いたのか私から降りてフラフラしながら向かっていきました。どうやらその人が例の『きらり』という友人だそうで、私も挨拶をしておきました。なんというか...個性的な人でしたね。えぇ、良い人なのは雰囲気で分かりましたが。
そこから私はバイトがある、ということでそのまま別れました。バイト先は地味に346プロから近く、徒歩10分で行けます。
「お、否ちゃん早いね!まだシフト一時間前なのに」
「おはようございます店長。早いほうがいいかと思いまして。とりあえず、準備してきますね」
「時間はまだだし休憩してても......いや、否ちゃんだしなぁ...」
「どういう意味ですか、それ」
少々疑問を抱きながらも制服に着替えます。この制服...私用にサイズ調整してくれたものなんですよね。大切にしないといけないですよ。
「...相変わらず着替えるの早いねぇ。じゃ、やる気があるんなら手伝って貰おうかな」
「よろしくお願いします」
「とりあえず、こっちの荷物をあそこへ運んで貰えるかな?軽いと思うし」
「分かりました」
───あぁ、やっぱり仕事はいいですね。充実してるというかなんというか...何よりも────
─────『仕事中はそれだけに集中出来る』から、本当にいいものです。
多分続きません
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4
今回は杏さん視点でお送りします。
相変わらずの低クオリティです...すみません...
「杏ちゃん!あの否ちゃんのこと、教えてほしいにぃ!」
「へ?」
冗談で言ったはずなのに、否がマジで杏をおんぶして346プロまで送ってくれたあの後少しだけ真面目にレッスンをして、今は休憩中というときに、きらりがこんな事を言ってきた。
「...なんで?」
「だってだって、否ちゃんって杏ちゃんとほとんど同じ容姿だったにぃ!顔とか声とか!」
「あー、まぁ普通は不思議に思うよねー」
「でも性格は全然違ったよぉ。何て言うか、真面目な感じだったにぃ!」
「否は真面目だからねぇ」
杏も最初は鏡を見てるみたいでちょっと気持ち悪かったしね。でも、杏と否は全然違うんだよね。一目は全く同じなんだけど中身がもう別物だし。なんで否はあそこまで仕事が好きなのか未だに理解は出来ないよ...絶対正気じゃないよね。
「何なに?何の話してるの?」
「あ、かな子ちゃん!今ね、否ちゃんのことを聞こうとしてたの!」
「い、否...ちゃん?」
「多分きらりしか知らないと思うよ...とりあえずさ、飴食べる?」
「わぁ!いいのぉ?」
「ありがとう!...あれ、これ手作り?」
「そ、否が作ったんだ。これが癖になるくらい美味しくてさぁ...あ、否は杏と同い年の従姉妹。きらりは知ってると思うんだけど、容姿が杏ともうそのままって位そっくりなんだよね」
...うん、やっぱり否の飴は美味しい。大体こういうのって杏は飽きちゃうんだけど否の飴は飽きないんだよね。何て言うかな...杏の好みにすっぽり入っちゃってるっていうか。表現し辛いけど、とにかく美味しい。それは確かだね。
「ん~、美味しいにぃ!」
「こんなに美味しい飴初めてかも...これ、ホントに手作り?」
「手作りのはず。だって暇さえあれば飴の研究してるし」
「すごい人なんだね...って、杏ちゃんってその否ちゃんって人と一緒に暮らしてるの?」
「そうだよ。言って無かったっけ?杏と否の二人暮らしだよ」
「えぇ!?じゃ、じゃあお金とか大丈夫なの?」
「たまに仕送りもあるし、否がバイトしてるからそれなりにはあるよ。んでその否がね?やれ仕事は最高ですね!とか、やれ残業に憧れます...とか言うんだよ!?有り得なくない!?」
どうしたらそんな思考回路になれるんだって話だよ。本気で頭大丈夫かって心配になるよね。しかもまだ否は学生だよ?
...あれ、かな子ちゃんが笑いはじめた。何かおかしいこと言ったっけ?
「い、いやね。杏ちゃんの容姿で『仕事は最高だ!』って言ってる所想像したら...ちょっと面白くて......フフッ」
「あー、それは分かるにぃ!」
分かるんかい。
...いや、確かに杏がそんなこと言ったら明らかに変だしね。杏が杏じゃなかったら笑えたかもしれないし。
「あ、そういえば否さんって杏ちゃんと従姉妹なんだよね。なら名字も双葉なの?」
「いや、否の名字は『ヌヌ葉』っていうらしいよ。杏も最近知ったんだけどね」
「『ヌヌ葉』...? 不思議な名字...」
「そうだね...あ、そろそろレッスン再開するみたい。じゃあ先に戻ってるね!」
「あ、すぐ行くよぉ!」
形が双葉に似てるから双葉って思ってたんだけど違うんだね。本当に珍しい名字だなぁ...
───いや、おかしいよ。否の名字は『双葉』のはず。だって双葉に最初に会った時───
──────────
『初めまして!私ね、「双葉否」って言うの!宜しくね杏ちゃん!』
──────────
───『双葉』って言ってたじゃん。え、じゃあ何で今は『ヌヌ葉』って名乗ってるの?
「───杏ちゃん?」
「わっ!...きらり、驚かさないでよ」
「ごめんねぇ。でも、もうすぐレッスン再開するから声は掛けておいたほうがいいかなーって」
「...そうなんだ。否の飴もあるし、また頑張ってみようかな」
「おぉ~!杏ちゃんやる気ばっちしだにぃ!」
...今日、帰ったら聞いてみるか?...いや、聞けないだろうね。全力であの時みたいに『踏み込んで来るな』っていうオーラ出されるからなぁ...
「...さて、レッスン頑張るぞいっと」
いつか...いつかでいいからさ否。杏にだけでいいから...その答えを聞かせてくれると嬉しいな。
よろしければでいいのですが、感想を書いて頂くと嬉しいです。
酷評でも何でも言っちまってください。初心者なので意見が欲しいです...
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5
今回もよりによって低クオリティですが、よろしくお願いします!
ふと、バイトが終わってからのことです。
その日は食料の他にちょっと買いたい物があったので、ちょっとだけ遠出して大きなショッピングモールで買い物を訪れました。このショッピングモールは食品店のほかにも服屋とか雑貨店などのとても沢山の店が立ち並んでおり、殆ど毎日沢山のお客さんで一杯になっています。
そこには一ヶ所、少し空間の開けた場所がありまして、たまにライブや仮面ライダーショーなどがやってたりするのです。買い物を全部済ませた後、軽く時間があったので何かそこでやってたらそれでも見て時間を潰そうかな、と考えました。
行ってみると...何やら新人アイドルのライブをするそうで。しかも開催したのは346プロの『シンデレラプロジェクト』と表記がなされてありました。
杏からはまだデビューするなんて情報は届いていませんので、他の誰かということになります。一応メンバーはホームページで確認はしたんですが、まだ顔と名前が完全一致してない状態で...まぁ、それはこれからゆっくり覚えればいいでしょう。恐らくこれから、またかよと思うほどテレビとかで取り上げられるかと思うので。えぇ、これは予想ですけれど。
折角ですしそのライブを見てみましょうか。生でアイドルを見るなんて経験は今までありませんでしたからね。ダンスや歌も...暫くやってないので多分向こうが上でしょう。その辺りも見てみたいです。
...おや、ライブが始まりました。ユニット二組らしいですね。まず一組目は...『ラブライカ』というのですか。衣装が雪の女王を彷彿とさせますね。
雰囲気もお二方同じみたいで相性良さそうです。えぇとお名前は...申し訳ないですが完全には出てきませんね...
あ、でもあの銀髪の方は確か...アナスタシアさん、でしたっけ?確かハーフだとか。となるともう片方の方は...なんとなく大人びた雰囲気ですね。そんな方、ホームページに...いえ、いましたね。新田美波さん...でしたっけ?少し渋谷凛さんと被っちゃいましたが、新田さんのほうが年上という感じがしますし多分あってますね。
それにしても良い曲ですね...落ち着いた雰囲気の中に惹き付ける何かがあるのが分かります。
ダンスも曲にぴったりとした感じで目が離せません。これがアイドル...ですか...これを見てしまうと余計杏がこんな風になるなんて想像できませんよ...あ、終わっちゃいましたね。拍手しましょう。初めましてですが、これから応援させてください、という意味を込めて。
続いては...『ニュージェネレーションズ』というユニットらしいです。おや、このユニットは三人組なのですね。楽しみです。メンバーは...さっき思い出した渋谷凛さんがいますね。後は...えぇと...髪型があんな感じなのは島村卯月さんだったはずです。最後、ユニットの中心にいるのは...多分本田未央さんです。髪型で判断してしまいましたよ...なんか申し訳ないです。
なんというか、このユニットはさっきとは違ってそれぞれ雰囲気が違いますね。これもなんとなくですけど。歌もダンスも陽気な感じがして結構好きです。思わず口ずさんじゃいそうな曲ですよこれは。
...おや?本田さんの表情が他の二人と少し違いますね。完全に作り笑いをしてますよ。私には分かります。何か不都合があったんでしょうか?
...ふむ、緊張してる感じじゃないですし、痛がってる様子はない、と。ならアレでもないですね。え、アレは何かですって?...あまり口に出したくないのですが...その、女の子の日ですよ...とにかく!それではなさそうです。しかし妙に気になりますね...帰って杏にそれとなく尋ねてみましょうか。
っと、ライブ終わっちゃいましたね。終始本田さんの様子はアイドルらしくありませんでしたが...大丈夫でしょうかね?プロデューサーとか主催者とかに怒られないといいんですけれど。
え、CD販売するんですか?今から?......とりあえず一枚ずつ購入しておきましょうか。
◯ ◯ ◯ ◯
「あー、それね」
「心当たりあるんですか?」
「んー...」
事務所から帰ってきた杏に尋ねてみると、どうやら色々と知ってるよう。ふと質問してから、もしかしたらこの質問って内部情報なのでは?一般人の私が得ていい情報ではないのでは?と言うことが過りました。多分そうなんでしょう。証拠に今杏は何か考え込むような様子でいます。
「いえ、言えないのならいいんですよ。私は杏と従姉妹なだけで一般人ですからね」
「...なら黙っとくよ。怒られたくないし。それに多分すぐ解決するだろうしね」
「そうですか。杏が言うならそうなんでしょうね」
割と杏の言うことは当たりますからね。まぁ知ったところで私が何か出来るか?と言えばそれはNOですし。何もしない、が正解なんでしょう。
「あ、そうだ否。今日対戦しない?最近やれてなかったじゃん」
「構いませんが...ポケモンですか?それともぷよテトですか?」
「んじゃポケモンで。今日こそ勝ち越してやるから!」
「勝敗は五分五分...ですけど、私のメガガルーラで無双してやりますよ」
「うげぇ!メガガルはやめろぉ!」
...ゲームの名前とか出しちゃって消されないかな...
あ、多分続きません。
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6
あ、話が頭の中で膨らんで長編化としたため『短編』から『連載』へと変更致しました。もっと早くしろって話ですよね。
それではどうぞ!
現在時刻は5時、当然朝です。もし今日が平日ならばあと1時間ほど寝ていているのでしょうが、今日は祝日です。大体祝日というのは会社とかが休みになるらしいのですが、私の勤めているバイト先は土日祝日24時間営業のとあるコンビニ。休みなんてありません。私にとっては嬉しいことなんですけど。
とまぁ、これから出勤...とはまた違うのかもしれませんが、バイトへ向かいます。杏は今日オフなので起こしません。朝御飯は作りおきしてますので自分でするでしょう...しますよね?信じときましょう。
...実は店長から今日ぐらいは休んでいいよとか休めとか言われちゃいましたが普通に行くつもりです。あの時は正気を疑いましたよ...普通はもっと働け、ちゃんと来いよ、来なかったら給料やらないからなって言うべきなのでは?と思ってましたからね。いや、今でも思ってますけど。
そこでふと、頭にとある疑問が思い浮かびました───いや、以前のライブの本田さんのアレではないです。アレは杏の顔色を伺ったりして状況は読み取りました。人の顔色を伺うのは慣れてますから。その結果、アレは解決したっぽいです。喜ばしいことですねぇ。
...っと、逸れちゃいましたね。そう、疑問ですよ疑問。客観的に見れば嬉しいことなんですけど、それが突然だったので不思議に思うんですよね。そう、それは───お客様の人数が増加したのです。
私の勤めてる所は全国に沢山の店舗が存在するコンビニの中でも割とポピュラーなものでして、多分100人に聞いたら100人全員知ってるんじゃないかというレベルの知名度があると思います。
だからといって来客数が高いのか、といえば必ずしもそうとは言えません。立地条件が悪かったり、設備が他の店舗と比べ充実してなかったりなどの要因であまり来客数が多くない店舗も存在します。
私のバイト先は所謂前者でした。周りの他の店に埋もれて存在感があまりないのです。しかしまぁ、来ないとは言ってません。一応ですが売り上げのノルマはギリギリ達成出来ているのですよ。学生とかが下校際に寄ってくれたり等、とりあえずコンビニ寄るかという感覚で利用してくれる方々のお陰ですね。本当に感謝です。
ですが...今月からでしょうか?いえ、先月の終わりからかもしれません。先ほど言いましたように、来客数が少し増加し始めたのです。それもなんか少しおじさんの方々...商品の入荷とか...全く変わってないはずなんですけどねぇ。ここまでならいいのですが、たまに私がレジに立ったりすると時々握手を求められることがあったりします。別に減るものじゃないので応じてはいたのですが...えぇ、不思議です。なんなんでしょうね?その時の店長の顔が複雑そうだったのも謎です。
...おっと、色々と考えてる内に到着しましたね。行きますか。
「おはようございます。ヌヌ葉否、到着致しました」
「...やっぱり来たかぁ...おはよう、否ちゃん」
「当然です。仕事は楽しいですから」
「はぁ...ま、来てくれたからにはお願いしようかな」
「えぇ、仕事であるならば最長で6時間は休憩無しで動けます」
「うん待て、それは普通に許さないぞ?」
「..................冗談ですよ」
「今の間何?」
「着替えてきますね」
「あ、うん」
全く...私から働くという要素を取り除いたら何も残りませんのに。ちょーっと他の方のお手伝いとか雑用とかを見つけてすぐ実践してるだけなんですけどね。なんで休ませようとしてるのかもう気がしれませんよ。
───さて、着替え終わりました。今日も一日頑張るぞいっと。
短め且つ話は進んでないですが一応、全部の話に意味はあります。そのつもりですが余計な部分もあるかも...ですけれど。
改めてこれからよろしくお願いします!
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7
さてさて皆様ご機嫌はいかがでしょうか。本日は晴天、お出掛けをするならピクニックとかしてもいいと思えるこの頃。私、ヌヌ葉否は本日、とあるライブ会場へと訪れています。何故私がこんなところにいるのかといえばですね、杏が出るからです。本日、杏は『キャンディアイランド』というユニットでデビューをするらしいです。
シンデレラプロジェクトからのあのライブの後にRosenburg Engelという神崎蘭子さんのソロユニットがデビューしてすぐこの話なんですよね。そのCDは買っちゃいましたけど...最近お金使いすぎですよね?自重しなきゃなりません。
...まぁ、何故か仕送りや杏の給料を除いてもお金はそれなりにあるのであまり痛手ではないんですけど...本当に謎です。節約しまくってるからですからね?
おっと、話が逸れましたね。どうやらもうすぐ始まるよう。行きますか。
◯ ◯ ◯
───ライブ会場は始まる前からとても盛り上がってました。規模は以前行ったライブと殆ど同じなんですけれど...身内が出るからでしょうかね、とても凄いと感じました。
明らかにお客さんの量が前回よりも多いです。おそらく、前回のライブがSNS等で広まりシンデレラプロジェクト自体が世間から注目されるようになったのでしょう。
逆に言えば、それだけ期待が集まってしまっている訳ですからそれに裏切らないようにしなくてはならないってことなんですよね。杏は緊張してないでしょうか...いえ、杏が緊張などするわけがないですね。きっとなんだかんだ言いながらもユニットを纏めてくれるでしょう。私の知ってる杏ならそうするはずです。
...おや、そろそろ始まるみたいですね。会場の点いていた電気が全て消えて司会のいるステージにスポットライトが当てられ、それと同時にその司会が挨拶を始めました。正直そんなのいらないのでさっさとライブを初めて欲しいのですけど...まぁ、色々あるのでしょう。
「───さて、お待たせしました。『キャンディアイランド』の皆さんです!どうぞ!」
──おやおや、駆けるように出てきましたね。杏に至ってはマジで緊張してる様子はありませんが、他の二人はめっちゃ固まってますね...
フフン、ちゃんと事前に調べては来てますよ?他の二人のお名前は三村かな子さん、緒方智絵里さん...のはずです。流石にプロフィールとかは見てませんが、写真は見てるので誰が誰だかは区別出来ます。
「皆さんこんにちは~!キャンディアイランドで~す!」
...私は幻覚でも見てるのでしょうか?杏がハキハキしながら、しかもめっちゃ笑顔で喋ってます。完全にお前は誰だ状態ですよこれ。まぁ、緊張してる二人を引っ張ってる的なやつかもしれませんが。
「じゃ、聞いてくださ~い!せーのっ」
「「「『Happy×2 Days』!」」」
突然スポットライトが切り替わり、会場をその曲の前奏が包み込み始めます。最初こそ杏を含めた方々の動きがぎこちなかったのですが、段々と調子を掴めてきたのか笑顔で楽しそうに踊って歌うようになりました。会場もそれなりに盛り上がっており、少し楽しくなってきました。
...ちゃんと、杏はアイドルをやれてるのですね。そう思い安心すると同時に、杏が遠い存在になったということも感じました。
すると突然─────アレが頭を一瞬だけ過ります。
──────
──はぁ!?負けた!?
──あいつのガキはそれで賞を取ったんだぞ!?
──一体何のために俺達がここまでしてきたと思ってるんだ!?
──────
...嫌ですね...せっかくの杏のデビューであると言うのに、なんで急に...
考えるのを止めようとしますが、一度出てきたことは中々静まりません。逆に、また溢れだしてきます。
「ハッ...ハッ......うっ」
呼吸が段々と過呼吸へと変化していき、体が少しフラつき始めました。思わず、その場にしゃがみこんでしまいます。
...こんな状態でライブを見るのはここにいる人にも杏達にも失礼でしょうから、とりあえず外の空気を吸って落ち着くことにしましょう。というわけで、人の間を掻い潜ってなんとか外に出ることが出来ました。なんで私のいるところだけ人が密集してるんですかね...さて、深呼吸です。
...それにしても、なんでいきなりアレが...前起こったのを最後に起きてないというのに...
...中々落ち着きませんね。あまりここには長居しないほうが良さそうです...仕方ありません、CDはネットで買うことにしましょうか。かなり惜しいですけど。
「あれぇ?杏ちゃん?どうしたのぉ?」
「ん?」
呼吸を整えていると声をかけられました。聞き覚えのある声でしたので、ふいにその方向を向くと...
「あ、否ちゃんかぁ!おっすおっす☆」
「...どうも、お久しぶりですね。諸星さん」
一瞬誰だか迷いましたが、言葉にしたらスルッと出てきました。というより、知り合いの中でこんな特徴的な話し方をするのは諸星さんしかいません。にしても大きいですねぇ...敢えて口には出しませんけど。
「こんなところで何をしてるのぉ?」
「ちょっと涼んでました。そちらは?」
「キャンディアイランドの皆を見に来たんだにぃ!ちょっとレッスンで遅れちゃったけど...」
「そうでしたか。お目当ての杏達はこの先ですよ」
「否ちゃんはいかないのぉ?」
「いえ.........少し、疲れちゃいまして」
「...気分でも悪いのぉ?」
「...大丈夫ですよ。えぇ、大丈夫です。大丈夫ですとも」
「そうは見えないにぃ...」
意外と顔に出てしまってるんですかね?...直さなければ。
「...あれぇ?」
「どうかしましたか?」
「なんか急に否ちゃんの顔色が普通に......いや、何でもないにぃ」
ふっ、バイトでの経験が生きますね。熱が38度あった風邪の時に出勤しても店長にそれがバレないようになったこの私に死角なんてありません。
「それより、もし杏達に会いに行くのなら...これを」
「あ、飴だぁ!」
「おや、よくご存知で」
「杏ちゃんが毎日持ってきてるからだよぉ!たまに分けて貰えるんだけど、とっても美味しいにぃ!」
「それはそれは、よかったです。沢山作ってきたので、諸星さんもどうぞ」
「ありがとぉ!」
「いえいえ、それでは失礼しますね」
再び声をかけられる前に立ち去ります。とにかく急いでこの場から立ち去りたかったものですから、自然と歩きではなく、走りになってしまいます。
目的も、どこまで行くとかも全く考えずに...私は走り続けました。
「...一体、何のために生まれてきたんですかね、私とは」
無意識にそんな呟きをしてしまったことにも、ずっと私は気付くことはありませんでした。
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8
先日の杏がいるユニットである『キャンディアイランド』のデビューライブが大成功...したそうで、更に続けてテレビ出演という新人にしては異常と呼べる快挙を成し遂げたであろう杏達も一躍有名人へと昇華しました。
その影響でしょう、最近の話題はどこもかしこもシンデレラプロジェクトに関するものばかりです。本格的にメディアもシンデレラプロジェクトに関して取り上げてきてる感じですね。
それに伴いどうなるのかといえばですけれど、やはりそれぞれにファンが付くようになります。これはとても喜ばしいことなんですけど.........少々それで面倒なことになってしまってるのであります。はい、現在進行形でです。
おっと、忘れてました。どうも皆様、ご機嫌は如何でしょうか?私は身体的には元気です。精神的には...えぇ、例のやつで少しアレですけど。
今、私はバイト中です。制服を着て邪魔な髪は一つに纏めています。
この時間帯は基本人は来ないのでいつも通り商品並べ等をやっています。
最初のほうは商品がこんがらがることがあったんですよね...まぁ、もう慣れたもんですよ。頭の中でどうやれば効率が良くなるか考えつつ配置をしていると───
「...あの、すみません」
────突然、とある男性から声を掛けられました。
その瞬間、思わず内心私はため息をついてしまいます。何を隠そう、それが...
「...握手、してくれませんか?」
「はぁ...」
これが、その例の面倒事だからです。
いや、別に握手程度はいいんですよ?他人と握手することはそこまで嫌いではありませんから。
問題は『何故私なのか』というところですよ。まぁこれは考えるまでもないでしょうけれど。
私の容姿は世間から見れば最近アイドルデビューを果たした今人気勃発中の双葉杏そのものです。オマケに声まで似てる...らしいです。他の容姿は誤魔化せたとしても、さすがに声は自分で意識して直すのは難しいですね...
えぇ、もう分かるでしょう。この男性は私を杏と勘違いしているわけですね。
しかも、これはこの男性に限ったことではありません。他にも、
「...おい、あれって双葉杏じゃね?」
「お、マジじゃん!制服ってことはバイトか?」
「マジかよ、あのキャラって作ってたんだな...すげぇな」
「なぁ、そこの人も握手して貰ってるぽいし握手しに行こうぜ!お前双葉杏好きだろ?」
こんな青年達みたいな感じみたいに連鎖して他の人まで私に握手をしに来るんですよね...
いえ、私は杏ではないと言わなかったわけではないんですよ?最初から違うときちんと言っているんですが誰も信じてくれず、『分かってますから』の一点張り。何を分かってるって言うんですかねぇ...
まぁ、ここまでなら...って言っても問題はあるわけですけど、他にもあるんです。それは握手し終わった人に関してなのです。
「あ、ありがとうございます!これからも頑張って下さいね!」
「...はぁ、私は双葉杏ではないんですけど」
「いえ、分かってますから!」
「はぁ...」
「それでは!」
「あっ、ちょ......」
...このように、何も買わないで出ていってしまうんですよね。所謂冷やかしです。
前々からこんな感じのお客さんは増えてきてはいるんです。というか一週間前に比べたらほぼ二倍ですよ。二倍。
さてどうしましょうか...ずっとこのままなら軽い営業妨害的なことになるでしょうし、杏に変なイメージがついてしまいます。
...まぁ、殆ど決まってるようなものですけど。
「あの、次俺らいいですか?」
「...私は双葉杏ではありませんよ?」
「いえ、分かってますから!」
「はぁ...」
とりあえず、今は業務に専念しますかね。
◯ ◯ ◯ ◯
「い、否ちゃん!?これはどういうことだい?!」
「辞表ですよ、辞表。バイトを辞めに来ました」
バイトが終わった後、店長のいる部屋に訪れ朝書いてきた辞表を店長に提出しました。おそらく、これが一番ノーリスクで事を片付けられる最適解です。
「...一応聞くよ、理由は?」
「最近のアレですね。かなりのペースで増えてきているので、これ以上私がここに居れば迷惑になるでしょうし」
「否ちゃん...あれは気にしなくていいよ。最悪、ボクがなんとかするから」
「勿論、ここの迷惑も考慮してのことですが...その、杏にも迷惑になりますし」
「杏って...うーん、誰だっけ?」
...今更ですけど、この店長、世間に疎い気がします。今や杏といえば双葉杏、名前が知れ渡っているはずなのにあまり知らなさそうです。普段何してるんでしょうね?
「双葉杏。最近デビューした人気アイドルですよ」
「あぁ思い出した!否ちゃんにそっくりなあの娘か!」
「多分その娘です」
ホントに何してるんでしょうこの店長...まぁ、それは今置いておきましょうか。
「店長の言う通り、杏と私はかなり似ています。ですから、私の活動が杏のイメージを損ねる可能性があると思いました。そして店のほうですが、仮に店長が対処してくださるとしても多少たりとも面倒なことがあるでしょう。ならば、ここで一言『クビ』と言ってくだされば、それで解決ではないですか?」
「...それは今はいい。仮に辞めたとしよう。その後はどうするつもりだい?」
「勿論新たなバイト先でも探しますよ。条件がかなり厳しいでしょうけど、それは仕方ないです」
「.........本当にいいのかい?」
「...世間の理不尽さをここで勉強したと思えば安いものです」
「本気、なんだね...」
勿論本気ですとも。迷惑はかけたくないですからね...店にも、杏にも。
再就職...というと少しおかしい気がしますね...どこにしましょうか?
「最後に聞くよ。本当にいいのかい?」
「はい...私は大丈夫です」
「...なら、後1日待ってくれないかな?というか、明日またここに来てほしい。そこで初めて、これを受け取ろう」
「?...分かりました。では、失礼します」
なんなんでしょう...手続き、でしょうかね?まぁ、とりあえず明日また来ましょうか。
帰ろうとして歩を踏み出す直前、先ほどまでいた部屋から店長の声が聞こえてきました。独り言でしょうか。良く聞こえませんでしたがおそらくは関係ないことのはずです。
さて、早くスーパーで夕飯の食材を買わなければ...そうだ、変装グッズとかも今度買っておきましょうかね。
店長...何者なんでしょうね?()
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9
「...ボクはあの娘に何かしてやれたかな...」
否のバイト先の店長の執務室。そこから話が終わった否が退室した後、その店長は思わず呟いてしまった。
そこから感じられるのはまるで自分の娘を心配する親のそれ。更にどこか暖かみも感じられる。
「本当はこんな事、ボクはしちゃいけないんだろうけどね...」
そう言いながら店長はため息をつく。
「...でも、せめてこれくらいは許してくれるよね?」
すると店長は携帯電話を取り出して、とある所へと電話を掛ける。掛けた電話はコール一回で繋がったようで、彼は流暢に話始めた。
「...もしもし、ボクだよ。久しぶりだね......とまぁ、実は頼み事があって掛けたんだ。君の管轄外かもしれないけど聞いてくれるかい?...今西君」
◯ ◯ ◯ ◯
どうも皆様、お久しぶりでしょうか。私は...なんとか元気です。強いて言えば新しいバイト先が見つからないというのが苦でしょうか。
念のため、杏にはこの事は黙っています。下手に心配はされたくありませんからね...まぁ、あの賢い杏のことです。きっと何かしら感づいているのでしょうけれど。
さて、時は店長との話の次の日。用事を済ませて軽く変装をし出来るだけ早く店長のもとへと行きました。その時苦しそうな表情で私の辞表を受け取っていたのですが、その後に何か悟ったような表情でとあるメモと店長の名刺を貰いました。これは何なのかと聞くと、
『とりあえずここに書いてる場所に行って欲しい。何かと聞かれたらこの名刺を見せればいいよ。必ず否ちゃんの役に立つから』
と言われてしまいそのままです。
それで今はそのメモに書かれた場所に来ているのですが───
「...ここ、どう見ても346プロですよね」
えぇ、見間違えるはずがありません。何回か杏をここに連れてきてたりしますし、あのコンビニへ向かうときもこの辺りを通るため割と知っています。というか、日本にいる人は大抵知ってるんじゃないんですかね?というレベルですよこれ。よくテレビに映ってますし。
紙に書かれた情報が間違ってるのだと思い何回も調べたりしてみるのですが、やはり場所は変わらず346プロ。
...何をさせる気なんでしょうかねあの店長は。芸能人になれというわけではないのは百パーセントですけど...芸能事務所で事務員しろってことなんでしょうか...気は進みませんけれど。
確かにExcelやWardとかは人並みに扱えるようにされましたけど...まぁ、仮にそうだとしてもとりあえずシンデレラプロジェクトでなければ無問題です。杏の様子を見たいというのは少なからずありますけれど、またあの時のように倒れるのは御免ですからね...
うむむ、どうしたらよいのでしょう...
「あ、もしかして貴女が『ヌヌ葉否』ちゃんですか?」
「ふぇ?」
思考していたら突然声を掛けられました。
声は女性。そこにどこか幼さが感じられるような...母性が感じられるような...不思議と虜になりそうな声です。思わず変な返事をしてしまいました。
その声の方向へと振り向くと、メイド服を着た可愛らしい方がいました。見た目から察するに大体私と同年齢でしょうか。
「...すみません。貴女は...」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!ウサミン星からやって来た現役JKの声優アイドル!安部菜々、17歳です!キャハ☆」
「...安部さんでしたか。よろしくお願いします」
...凄いとしか言えませんね。なんていうんでしょうか...なんか...なんか凄いです。
...私の語彙力では凄いとしか言えませんでした。これが平安時代の人間ならば面白しとかあはれなりとか言うんでしょうか?単純に現代人の語彙力が低いだけかもですけど。
おや、安部さんの様子が少しあれですね...どうかしたんでしょうか。
「あ、安部さん...ですか」
「あ、えっと、お気に召しませんでした?」
「い、いえ!ナナは17歳ですからもっとフランクに呼んで頂けるといいかなーって...」
「...すみませんが初対面ですので、まだそれは難しいです。それより、何故私の名前を貴女が?」
「あぁ、それはですね、店長から聞いたんですよ。何でも、急遽もう一人バイトを雇うことにしたって」
「...なるほど...」
恐らく安部さんの言っている店長はこっちの店長ではないでしょうけれど、こっちの店長が何かしたのは事実です。
にしても何故346プロなんでしょう。他には...いえ、ありませんね。私が探して見つからなかったんだから言えます。
...ん?ちょっと待ってください?
「...無礼なのは分かってますが改めて聞かせてください。安部さんはアイドルなんですよね?」
「は、はい...って言っても、まだそこまで有名じゃないんですけどね...」
「ならここの事務所に所属しているんですよね?」
「そうなりますね」
「...それならば、346カフェとの関係は?」
「あ、実はですね。たまにバイトをしてるんですよ。レッスンがない日とか撮影がない日とかですね」
「なんと!」
あ、アイドル業をやりながらバイト...ですか!?え、マジですか?!私と同年齢のはずなのにここまで働くことに対して積極的とは......私もまだまだのようですね。
確かに芸能人の中には仕事があまり少なく、バイト等を兼任してる人もいらっしゃいます。しかし、そこにいる安部さん...いえ、安部先輩は私と同年齢なのにも関わらず私以上に頑張っているのです!これを敬わずしてどうしろと言うのでしょう!
「...えっと、否ちゃん?」
「安部先輩!」
「先輩!?」
「改めまして、これからよろしくお願いします!!」
「せ、せめて菜々と呼んでください~!!」
余談になりますが─────というか、これが本題なのですが────私は346カフェでアルバイトとして雇って貰えることになりました。
メモを見せたら一発合格でした。もうホントに店長には感謝してもしきれないですねぇ。
さて、安部先輩...もとい、菜々先輩を見習ってこれからももっと頑張ります!
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10
あ、後キャラ崩壊してる箇所と理解にしくい所があるかもです。ここも許して。
外は雲一つない晴天...というわけではないですが、晴れ。働くには絶好な日となっています。洗濯物が良く乾きそうですね。
さてさて、本日は346カフェでの最初のバイトとなります。昨日は書類を書いただけでしたからね。
ちなみに、杏にはバイト先を変えたことは伝えましたが346カフェで働くことはまだ伝えておりません。フフフ、軽くドッキリってやつですよ。
実はこのカフェ、制服というかそういう縛りは無いみたいなんですよね。菜々先輩とか完全に自分のメイド服を着ていらっしゃるらしいので。
ですが私には私服でそういうのはありません。それに私にはメイド服なんてキラキラしたものは絶対似合うはずがありません。そういうのはもっと輝いてる方が着るべきでしょう。それこそ菜々先輩のような方とかですね。他にも理由はありますけれど、私にはメイド服は似合わないと言っておきましょう。
更に私は喫茶店の服みたいなものは持っていません。というわけでカフェの店長や菜々先輩と色々相談した結果、カフェの店長経由でどこからかとある服を貸していただける事となりました。
「否ちゃん...タキシード似合ってますねぇ」
「...ありがとうございます」
そう、タキシードです。杏が見ているアニメで知ったのですが、最近では女の執事というのも有りかと問われれば有りだそうです。ならばあまり違和感はないでしょう。メイド服よりはこっちのほうが私には合ってますし。
「でもよかったんですか?多分否ちゃんサイズのメイド服ありますよ?」
「メイド服なんて私には眩しすぎます...それに、あまり肌を人前に晒したくないというのも...」
「あ~確かに否ちゃん、いつも長袖のものを着てますからねぇ。分かります分かります。ナナも最近肌のシミとか出てき...あ、ン゛ン゛!!!な、なんでもないですよ!」
「?」
いきなり慌ててどうしたんでしょう?何か不味いことでも言ってしまったとかですかね?
──おや、そろそろ始まる時間に差し掛かってますね。接客は確かに以前のバイトでもやってはきてましたが、コンビニとカフェとでは一言接客と言っても全く性質は異なります。念のために昨日の夜に軽く勉強...というか杏の見てたアニメを見ました。偶然女執事の話でしたので参考にと思いましてね。
見てたら杏から意外そうな表情で見られたのは心外でした。一応私ゲームとかやってるんですけど...9割ポケモンですけどね。とまぁこんな感じなのかなということを見てきたわけですよ。
おっと、早速お客さんが来たみたいですね。話し声からしておそらく女性三人でしょう。さて頑張りますか!
「──いらっしゃいませ。ようこそ346カフェへ、お嬢様方」
アニメでやってた執事みたいに左手を腰に右手を左胸に当てて忠誠心を見せるが如く目を瞑りながら頭を下げます。多分これであってるはずです。
「わぁ、執事さんだぁ...ってあれ?ここ執事さんなんて居たっけ?」
「あ、新しいバイトさんかも...」
「......」
よしよし、掴みはいい感じかもですよ。この感じで頑張っていきますか!
...そういえば、このお二方の声、どこかで聞いたような...?さらに後一名から物凄く視線を感じるのですが何でしょう...
──いえ、今は仕事中。考え事は禁止です。
「それではお席までご案内させて頂きますね」
「...いや、ここで何してんのさ。否」
「...杏?」
これはこれは、杏と...三村さんと緒方さんですか。ということはキャンディアイランドのお三方ですね。
とりあえず予定通り席に案内しましょう。
「何って...バイトですよ?」
「いや確かにバイト先変えたって言ってたけどさ、ここだとは思わないじゃん...それに何その格好!」
「言ってませんしね。後、服はこれしかありませんでした」
「ふーん...プッ!」
あ、こいつ笑いやがりましたね。仕方ありません...明日の飴は全部ハッカにしてやりましょうか。確か杏はハッカ苦手なはずですしね...フフッ、楽しくなってきました。
「...あの、杏ちゃん。この人知り合い?」
「ん?あぁ、かな子ちゃんと智絵理ちゃんは面識無かったっけ。ほら、例の飴作ってくれる人だよ」
「...あぁ!もしかしてこの人が否さん?初めまして!三村かな子です!」
「よ、よく見るとホントに杏ちゃんにそっくりなんだね...緒方智絵理です。よろしくお願いします...」
「...どうも、杏の従姉妹のヌヌ葉否です。そしてこちらが座席となります。どうぞ」
そっくり...まぁいいですけれどね。自覚はしてますし。
本当はもう少しこのお二人から杏に関しての話を聞きたいところですが、生憎バイト中ですのでさっさと仕事に戻りましょうか。
「それではご注文がお決まり次第お呼びくださいませ」
...おやおや、またまたお客さんがいらっしゃったようですねご案内しなければ。
「いらっしゃいませ。ようこそ346カフェへ」
★ ★ ★ ★
「...ホントにそっくりだね」
「でも性格とかは真逆だね」
「杏ならあそこまで勤勉には働かないよ」
キャンディアイランドの三人、双葉杏と緒方智絵理と三村かな子は自分達を出迎えてくれた杏の従姉妹である『ヌヌ葉否』を話題に話が進んでいた。
彼女らと否が出会ったのはほんの偶然。否がこの時間にシフト入れてなかったり、三人が今日はここで食事をしようと話をしていなければこうはならなかっただろう。
「...そういや、否が働いてる所初めて見たかもしれない」
「え、そうなの?」
「うん。かなり忙しそうにしてたから大変そーだとは思ってたけどさ、まさかあんな働き方をしてるなんてね」
ジッと現在別の席に客を案内したり、注文品を運んだりしている否を観察しながら杏は言う。
「...いや、それは否さんが服はアレだけしかなかったからだって言ってたからじゃ...」
「あぁ、それもなんだけどね...杏が言ってるのは別の事」
「...別?」
うんと頷き、軽く杏はため息をつくような様子で杏は続ける。
「だって否の働き方さ────何かから逃げてるみたいじゃない?」
「──逃げてる?」
「そ。その何かを考えたくないから無理矢理自分を追い込んでる...みたいな」
「そうかな...」
三人の目線はそのまま否へと移る。
一見すればただバイトを真剣に取り組んでいるだけの普通の人に見える。
「私にはただバイトを頑張ってるだけに見えるよ?」
「わ、私も...」
「...うーん、じゃあ杏の勘違いだったのかなぁ。ごめんね変なこと言って」
そうは言いつつも、杏は自身の言葉に間違いはないだろうと感じていた。
上手く隠してるな、とも。
「(もしかして、否と結構付き合いあるから分かるのかな...否が何か隠してることと繋がってるのかも)」
杏は心の中で色んな可能性を考えては消し、考えては消しを繰り返していくが──今いくら考えても無駄だと思い、止めた。
「(...まだ聞くにしても時期尚早だね。何かきっかけがあればいいんだけど...とりあえず今は皆とお昼かな)ねぇ、なに食べる?」
「えっと...このパフェとか!」
「かな子ちゃん、今はお昼御飯だよ...!」
「あ、そうだった...」
そのまま三人はメニュー表からそれぞれ食べたいものを選んでいく。
否もその様子を見て微笑ましそうに...そしてどこか羨望も含んだ目線で見てから仕事を再開し始めた。
───杏の言う『きっかけ』のきっかけを作る
誤字報告ありがとうございました!
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11
そして急展開っぽい点があります。お許しを。
───あれから色々ありまして、現在季節が変わり夏になりました。
バイトの方は軌道に乗りまして以前と変わらずやっていけています。接客業にも慣れてきたものですよ。日常生活の中で他人に対してうっかり『お嬢様』や『ご主人様』と呼んできてしまうくらいにはですね。その事を話すと流石の杏も苦笑いをしてました。やっぱり異常でしたか...
しかし、そんな杏は昨日シンデレラプロジェクトの合宿に行ってしまったので暫く会えません。と言っても一週間程度ですけれどね。一応飴を急いで大量に作ったので飴が無くなるということはないでしょうが...いざというときは諸星さんに任せましょう。あの人なら杏の面倒を見てくれるはずですし。
まぁ、だからと言って私が暇な訳がありません。今日もバイトがあります。時間はあまり無いので朝御飯は...今日はいいですね。抜きましょう...杏もいないのでね。
バイトというのは私にとっては癒しでもあるわけなので、少しルンルン気分...とでもいうのでしょうか、そんな気持ちで346プロダクションへと向かっております。表面に出すのは恥ずかしいので隠してはいますけど。
そんな中でです。
「...いますよね、これ」
私の後ろを誰かが着けているの感じました。どの辺りからでしたっけ...多分家の近くからでしょう。最初は気のせいだと思って普段は通らない道を通ったりしてやり過ごそうと思ったんですけど、それでも着けてきているのです。杏のファンとかですかね?
「...まぁ、気にしていても仕方ありません。行きますか」
結局、それは346プロダクションの敷地内へと入るまで続きました。
★ ★ ★ ★
「否ちゃん、何か悩み事でもあるんですか?」
「ふぇ?」
現在、バイトの休憩時間です。仕事ならば最長6時間は動けますし休憩なんて必要ないんですけど、カフェの店長が無理矢理休憩時間を作りやがりまして...悲しいですけど休憩してます。菜々先輩という監視役を付けてです。なんでこんな徹底してるんですか...
とまぁその時、菜々先輩がさっきの言葉を私に掛けました。
「...悩み事ですか?」
「はい。なんか浮かない顔をしていたので」
「...えぇと」
今朝の件...お話するべきでしょうか?菜々先輩なら何か知っているかもですし...
...いえ、菜々先輩の負担になりますし辞めましょう。それに、私の被害妄想だったという可能性も否定できません。
「いいえ、特にこれと言ってはないです」
「そうですか、勘違いだったんですかね?...でも、何かあったらいつでも相談してくださいね!」
「ありがとうございます」
菜々先輩が眩しいです...私はまだまだのようです。頑張って菜々先輩のように...いえ、これは無理ですね。菜々先輩のようにキラキラした存在になんて私には...
...おや、ようやく休憩時間が終わるようですね。
さて、切り替えましょう。It's begin、ですね。
★ ★ ★
...帰宅中です。仕事に夢中で今朝の件はすっかり抜け落ちてたんですが、また着けられていることで思い出してしまいました。
人数は...あれ、増えてますね。一人だったはずが三人辺りの気配を感じます。
ちょっとアレなので撒きますか、ということで、その辺の路地裏へ行くことにしました。単純に行き先が被っただけの可能性もありますし、これが被害妄想だったりしたらここまではこないはずですからね。
...まぁ、結果は最悪のものとなってしまいましたが。
「へっへ...とうとう追い詰めたぞ...」
「大丈夫だって。少し着いてきて貰うだけだしさ」
「飴なら山ほどあるよ...ぐひひ」
...うへぇ、気持ち悪い。なんですかこれは完全にヤベーやつじゃないですか。
しかもここは行き止まりですから逃げるにしても前の三人の男性を突破しないとなりません。これは無傷で突破するのは厳しいみたいですね...なんとか穏便に済ませたいのですが。
「...私を着けていたのはあなた方ですか?」
「お?なんかしゃべり方ちがくね?」
「ぐひひ...キャラ付けだったんだ」
話をしましょうよ。私は早く帰りたいんですが。
「私は双葉杏ではないですよ?」
「誤魔化しても無駄だって!」
「少し変装してもバレバレ...」
「そういうのいいから、俺らに着いてきてよ?」
さてどうしましょう...撒くために来たのが人の気配がほぼないところですから助けは望めません。
絶体絶命...ですか。
「...ッチ!おい!やるぞ!」
「し、仕方ないね!」
「しゃーねーなァ!!」
あれま、完全に包囲されちゃいましたね...
「おい、怪我したくなかったらさっさと頷け。俺らに着いてくるか?」
「嫌です」
「...は?お前この状況分かってんの?」
「だから嫌だと言ったでしょう。早くどいて下さい」
「...こんの、アイドル風情が!チョーシ乗ってんじゃねぇぞ!!」
その言葉と共に男から拳が私に向かって飛んできます。
...はぁ、使いたくはないですが...仕方ありませんね。怪我はしたくないですから。
「フッ!!」
「ガッ!」
「「!?」」
拳を最低限の動きで避け、股間に向かって思いっきり蹴りを放ちます。久しくやってない動きですからぎこちなさが自分でも分かりますよ。まぁ、この男には十分な一撃みたいでしたが。
そしてどうやらこの男が一番腕には自信があったみたいですね。他の男達は怯んで動きませんし。
「ッ...このガキ...!!」
「...一応言っておきます。私は『杏』ではなく『否』です」
「『否』?...『否』って...!!?」
「空手や柔道、合気道に飽き足らずダンスや剣道等数々の種目の大会で賞を獲得し、それぞれでプロの道に誘われたのにも関わらず受賞した後何故か辞めてしまった伝説の秀才、『双葉否』!?...噂では、アイドルの双葉杏にそっくりな見た目だと言われてるが...まさか!!」
「...お、おい嘘だろ?俺たち人違いした挙げ句、ヤベーやつに手を出しちまったんじゃねーか...?」
「ヒ、ヒィィィ!!い、命だけはぁ!!」
.................................
「...今回はこれで勘弁してあげますが...次は容赦しませんからね」
.....................帰りますか。
★ ★ ★ ★
「ただいま戻りました...ん?...あ」
反応が返ってこなかったので一瞬不思議に思いましたが、そういえば杏は合宿中でしたね。既に帰ると杏がいるものだと認識してしまっています...
...はて、この家はこんなに広かったでしょうか。なんとなく昨日よりとても広く感じます。
前はこの家に一人で住んでたんですよね...えぇ、その期間は杏と過ごす日々よりも長かったはずです。思えばあの時は───
「──いえ、やめましょう」
...さて、ご飯はどうしましょうか...なんかとてつもなく面倒ですね。今日は抜きましょうか...1食しか食べてませんが死にはしませんしいいでしょう。
と、すると───
「...電話?」
私の携帯に電話の通知が届きました。更に相手は──『非通知』。
5秒ほど取るべきか迷いましたが、とりあえず取ってみることにしました。詐欺紛いならすぐ切りましょう。
「...もしもし」
『もしもし、否?』
「...杏?」
『あー良かった。合ってたみたい。今ね、泊まってる場所の電話から掛けてるんだ』
なら非通知なのも頷けますね。ケータイはどうしたと思いましたが、皆と過ごして関係を深めるためケータイは置いていくように言われてたなんて愚痴ってたのを思い出しました。それ災害とかあったとき大丈夫なんですか?なんて私が返したのも。
そういえば杏からログボ受け取っといてって言われてましたね。後でやっておきましょう。
「合宿はどうですか?」
『うん、正直ヤバい』
「おや、何かあったんです?」
『全体曲の練習してるんだけどさー、全く息が合わなくてね』
「ふむ...まぁ、なんとかなるんじゃないですか?」
『うわ、かなり適当』
「実際現場を見てれば解決策は浮かぶのでしょうけど見てませんので」
『うーまぁそうか。そっちはどう?』
「今日は...そうですね、帰りに男三人に路地裏で追い詰められたことぐらいですかね」
『!?だ、大丈夫だったのそれ!?』
──おっと、これは話すべきではありませんでしたね。こちらでも分かるほど大声で叫ぶようにこっちに問いています。
「...んーまぁはい。なんとかなりましたよ」
『...ホントに?怪我とかしてないんだよね?』
「はい。きちんと穏便に済ませましたから」
...私の中では、ですけどね。嘘は言ってませんよ。
『ならいいけど...』
「えぇ、私のことなど気にせず合宿に励んで下さい。夏フェス...でしたっけ?応援してますから」
『...ありがとね』
「では、この辺りで」
『うん、じゃーねー』
後6日はこんな調子なんでしょうか...なんか調子が狂いそうです。
...寝ますか。どうせ明日もバイトですからね。その前にログボ受け取ってと...
夏フェスは...チケット予約してますが当たりますかねぇ。当たらないと見に行けないので是非とも当たって欲しいものですが。
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12
実は、この展開は最初から考えてありました。
めちゃくちゃな個人解釈、個人設定入ります。ご注意ください。
──夏フェス当日。なんとかチケットには当選しました。杏にそのことを伝えると、『チケットぐらいなら杏がプロデューサーに言って用意出来たよ?』なんて言ってましたよ。なのでとりあえず『それではズルになりますからね』と言っておきました。それプラス色々話しましたが省略しましょう。長くなるのは自覚してますから。
野外のライブには初めて来ましたがやはり迫力が凄いですね...もう沢山の人で賑わってます。杏が出るのは...おや、真ん中のほうなのですね。まぁどうせ全部見るつもりなので関係はないですけど。
...おや、そろそろ始まるみたいですね。杏、見せてください。あなたのアイドルの姿を。
★ ★ ★
───圧巻。感想を言うならその一言でしょう。
私がこれまで行ったのは杏達キャンディーアイランドのデビューライブ。であるため比較的小規模だったのですが、今回はそれの何倍も上を行く大きさのライブ会場です。更に皆さん以前よりも相当成長していましたので素晴らしいという言葉も添えておきましょう。ありがとうございます、とも。
途中、新田さんが何故か出なかったとか雨が降りだしたなんてトラブルが有りましたが、それに屈することなく笑顔で皆さんとても頑張っていました。
杏達のライブですが、私が以前のようなことになることはありませんでした。ですが───
「...私は、どうでしょうか」
この思いが無くなることはありません。
ライブは確かに良かったですが、それとこれとは話は別なのです。私はアイドルの方々のファンではありますが、ライブを見に来たのは杏が出ているからという面が強く他の方々とは違い人生を全てアイドルに費やすなんて覚悟はありません。言い方はアレかもですが、テレビを付けて、その人が映ってたら『あ、ちょっと見てみようかな』なんて思うレベルのファンです。
...恐らく、私は永遠に探すのでしょうね。私の意味を、生きる意味を。
───いいえ、考えるのは止めましょう。今日は杏は打ち上げで遅くなると言ってましたので、ご飯は作らなくてもいいですね。今日は抜きましょう。
───そんな時でした。
「失礼、少し話をしませんか?」
...誰でしょう?スーツ姿の女性の方...
「...まぁ、大丈夫です」
「ふむ、では聞かせてください。君にこのライブはどう映りました?」
「...」
怪しい人ではなさそうですし、まぁいいですよね。
えぇと...私がどう感じたか、ですか。
「...そうですね。とても輝いていたかと思います。出演者の方々、ファンの方々、皆が一つになって一つのステージを作り上げてる...こんな具合にですね。キラキラしてました」
「なるほど」
...こんな感じですかね?なんか関係者っぽく感じますし意見としては妥当でしょう。
「...おっと申し訳ない。私はこういう者です」
「あ、これはどうも...!?」
かなり丁寧に名刺を頂いたのですが、そこには...
「346プロダクション常務取締役の...美城さん!?」
つまり346プロのNo. 4...めちゃくちゃ御偉いさんじゃないですか。...なんでそんな方が私にお声を。
「君の名前は?」
「...ヌヌ葉否です」
「そうですか、ではヌヌ葉否さん。後一つだけ聞かせてください」
そう言って美城さんは続けます。
「君も、彼女らのように輝ける可能性を持っている。どうでしょう、これから私が開始する予定のプロジェクトに参加してみませんか?」
★ ★ ★ ★ ★
「......お、お断りさせて頂きます」
余りにも展開が急過ぎで、少しの間フリーズしていましたが、なんとか言葉を捻り出すことに成功しました。
プロジェクトに参加するってことはアイドルになるってことですからね。全力で拒否します。
「...ふむ、何故です?」
「それは...相応しくないからです。あの場所は、彼女らだからこそ相応しい」
「果たしてそうかな?私からすれば、君は立派なアイドルの原石。磨けば輝くが、逆に磨かなければただの石同然。君にとってもこの機会は良いものだと思うが」
なんかこの人急に口調変わりましたね。これが素なんでしょうか。
「何か理由があるなら聞かせて欲しい」
「...」
...やけに食い下がってきますねこの人...仕方ありません、最終手段を使いましょう。本当は...やりたくないのですが...
「...分かりました。すみませんが場所を移動させて下さい。私と貴女以外誰も居ない場所へ」
★ ★ ★ ★
ライブを見に来たのは確かめるためだった。現美城プロのアイドル事業の様子を。
私は美城プロのデビューしてるアイドル、出演した番組、ライブ映像を全て目を通してきた。そこで抱いた感想は面白い、だった。一人ひとりそれぞれ異なる個性を持ちそれぞれが色褪せることない魅力を兼ね備えている。
──だが、それまでだ。それでは勝てない。
この現代社会。アイドル事業を制しているのは美城プロではなく、765プロなどだ。我々美城プロがそれらに勝つためにはとある目標を目指さなければならない。
そう...その目標こそがかの伝説のアイドル、『日高舞』。彼女がアイドルとして君臨していた時間は大して長くはない。しかし、現在存在するどのアイドルよりも輝き、どのアイドルよりも名前と顔が知られている。アイドルと言えばまず人々が最初に浮かぶのがこの『日高舞』だろう。
単体では彼女に匹敵することはほぼ不可能。ならばどうするか...そこで我が美城プロの武器である『数』だ。
他事務所に比べ美城プロは人材が非常に豊富。ならばこれを生かさない手はない。
私が美城プロのアイドル事業の役職として就任した際には全ての事業を一度白紙にし、一つに纏めようと考えている。全ては『日高舞』という存在に匹敵させるため。今後の美城のブランドはその方向へ向けようとも思う。
だが───足りない。美城プロに所属しているアイドルはデビューしてるしてないに関わらず全て目を通した。だが足りないのだ。これから自分が発足しようと考えているプロジェクトの最後のピースが。
名前やメンバーは粗方決めてある。方針は言わずもがな。だが欠けている気がしてならなかったのだ。
そんな思いを胸の内に秘めつつ、ライブを見てやはり一新しなくてはと再認識した時────偶然、彼女を見つけた。
ふと目にやった先に彼女はいた。帽子を被っていたものの見た目はこれほどかというぐらい『双葉杏』によく似ており、何故かライブを楽しそうに見ている他の客とは違い、羨望と諦感と...何かを求めているような、そんな視線で見ていた。
正直、私は彼女に惹かれた。美城の他のアイドルにはない魅力───上手く言葉には出来ないが───少しでも圧力を加えたら台無しになるような儚さ、多少穢れてはいるもののそこからうっすらとある美しさがそこにはあったのだ。
それで目の前の彼女は『双葉杏』とは別物であるとした私はライブ終了後に彼女に声を掛けた。彼女こそが探していた最後のピースに違いない、と確信して。
彼女──名は『ヌヌ葉否』というらしい──は私の申し出に断った。だが折角見つけたピースを失うわけにはいかない。なんとか食い止めようとするが乗り気ではない様子。そこまで断る理由は何かと思いそれを問う。すると彼女はこう切り出した。
「──すみませんが場所を移動させて下さい。私と貴女以外誰も居ない場所へ」
...誰も居ない場所か。余程広めたくないものらしい。
そこで私達は近場のホテルの一室へと向かった。偶然にもかなり空いていたらしくすぐに入ることが出来た。
部屋に入るや彼女は部屋の鍵、カーテンを全て閉める。そして椅子へと座りこう言い出した。
「...後日また、というのが嫌なのでここではっきりさせましょう。まずは私の身体を見てください」
とりあえず同意し彼女を見る。
かなり躊躇していたが、最終的に彼女は自分の長袖の上着を脱ぎ下着姿になる。その肌には────
「これは...」
「...醜いでしょう?これが理由です」
────物凄く痛々しい傷跡だった。
大量の切り傷、火傷の跡......数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほど存在していた。
「...まさか」
「...そうです、私は両親から多数の虐待を受けてました...もう、その両親は居ないですけど」
「居ない...?」
「交通事故、らしいです。二人とも」
力なく笑う彼女は続けた。
「隠さず言ってもいいんですよ?気持ちが悪い、醜いと...昔で慣れましたから」
そんな彼女に、私は────
「私はそうは思わない」
「...いいんですよ、お世辞なん「私は冗談というのが嫌いな質だ」...て」
「...ヌヌ葉否さん。君と同じ目をした人間を私は向こうで見てきた。君と同じように、過去に囚われ何をすべきか分からないという人間をだ」
「!.........」
「君のしたいことすべきことや君の過去...それは分からない。だが、したいこと等は動かなければいつまでもそれははっきりしない。だからこそ、それを探してみないか?」
「...私はアイドルみたいに輝くことなんて...」
「アイドルというのは輝こうとしてなるものじゃない。輝いているものだ。いつの間にか輝いてるものだ。私は君にそうなる可能性を持っていると確信している」
「ですが、この身体が...」
「少なくとも、私はそれが醜いなどとは感じなかった。気になるのならばこちらでなんとかしよう」
「......そこでは見つかるのでしょうか。私が生きる意味を、希望を」
「...それはまだ分からない。だが、それも全力でサポートすることは約束する」
一呼吸置いて続ける。
「...ヌヌ葉否さん、ここでもう一度君の答えを聞きたい。私の予定しているプロジェクトに参加してみないか?」
「...私は──────
終わりが少し見えてきた
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13
かなり雑になってますがお許しください...
「...はぁ」
どうも、絶賛バイトの休憩をしてるヌヌ葉否でございます。今は本当にマジで休憩なんかしたくないほど悩みがあるんですけどね。
その内容は勿論、先日のアレです。美城さんの謎スカウトです。流石は大手プロダクションのNo4...話が上手いです。気付いたら言いくるめられて契約書にサインする五秒前でしたからね。いや契約書出されてませんけど。
結局あの後は考えさせて下さいと言って切り上げちゃったんですよね...私の考えでは『アレ』を美城さんが見た後は私が改めて断ってこの話は無かったことに...という話がスムーズに進んでいくはずだったんですけど。どうしてこうなったのか...
そして美城さんが『アレ』を見た時の表情が嫌悪してなかったのが謎です。てか全く表情変わりませんでした。普通、『アレ』を見たら表情が変化するもののはずなんですけど...無表情なんでしょうかね。
っと、それよりも考えるべきことがあるでしょう私。美城さんへの返事です。少し前の私なら即断りを入れていましたが...それに悩んでいる自分がいます。その時の私が今の私を見たらどう思うのでしょうかね。軽蔑...いえ、私を私と認識しないでしょうね。あれは私ではない、とするでしょう。おそらく。
...さて、どうするべきなんでしょうか......
「お疲れ様です、否ちゃん」
「あ、お疲れ様です、菜々先輩」
菜々先輩がご出勤なされました。はて...本日はアイドルのレッスンのはずでは...?
「今日はとても早くレッスンが終わったので来ちゃいました。丁度休憩時間みたいで良かったです」
「なるほど、そうでしたか」
...そうです。菜々先輩に相談させて頂きましょう。菜々先輩ならば答えとなる何かを与えてくださるはずです。
「...菜々先輩、実は相談事がありまして」
「悩み事ですか?えぇ、いいですよ!」
「実は────
★ ★ ★ ★
────と、言うわけなんです」
『アレ』等の部分は伏せ、この前の出来事を話しました。途中、これは完全に嫌味になってしまってるのではないか...と思い、表情を伺い言葉を選びながら話していたのですが、菜々先輩はそんな表情を一度足りとも見せることなく真剣に私の話を聞いてくれてました。流石菜々先輩...
「なるほど、そうですねぇ...えぇと、とりあえず否ちゃんはアイドルをやってみたいんですよね?」
「...え?」
「え、違いました?かなり否ちゃんアイドル活動に興味がありそうな感じでしたけど...」
まさか、私が?アイドルのような輝いてる存在になれるはずのない私が?なりたいと思っている?...そんなそとはないはずです。私とアイドルというのは闇と光、決して交わることのないものなのです。
「っ.........」
...しかし、何故か私はこれに即答出来ませんでした。ただ一言、『私はアイドルには興味がない』と口にすることが出来なかったのです。
...まさか本当に私は...
「...否ちゃん?」
「は、はい!」
──考え込んでしまってましたね。菜々先輩が聞いて下さっているのにこれでは...
「おほん、否ちゃん。否ちゃんはまだ若いんですからもっとトライしてみることが大事ですよ!」
「...?」
「なんでもとりあえずやってみる!これが若さの特権なんです!自分には向いてない、なんてネガティブに考えて可能性を捨てるのは勿体無いと思いますよ!」
「...ですが、私がアイドルになんて...」
「否ちゃんは正直可愛いです!双葉杏ちゃんと容姿は似てますけど全く違う可愛さを持ってますし、時々見せる笑顔が素敵だなって思いますよ!」
「か、可愛いだなんてそんな...」
...うぅ、顔に熱が籠っていくのを感じます。菜々先輩に褒めてもらうのは嬉しいですが、恥ずかしい...ですね。
「それに、アイドルは楽しいですよ!お仕事やレッスンは大変ですけど、それ以上に皆さんが喜んでくれますから!」
...なるほど────
────ん?
「
「?はい、そうですよ?」
──お仕事...仕事、仕事!!!
「そういうことでしたか!!!!」
「...?」
今完全に理解しました!私はアイドルという存在を今までとても尊い神様のような神聖なものであると考えていました...ですが違ったのです!アイドルは人間と同じ『仕事』をする労働者の一員なのです!
あぁ、どうして気付かなかったのでしょう!労働という点ならば私が今しているバイトも同じ区分。つまり、アイドル活動は仕事をするということなのです!何、当たり前?ならば気付かなかった私がバカなのですね!
つまり、私がアイドルになったとしても輝く必要なんてない、
「ありがとうございます菜々先輩!お陰で解決しました!」
「そうですか!お役に立てて良かったです!」
「このお礼はいつか!では、少し失礼しますね!了承の電話をしてきます!!」
「あ、否ちゃん!休憩時か......まだ後10分はありますね」
その日、美城常務の元に妙にテンションがおかしい否からの電話があったという。常務が相当困惑したのは言うまでもない。
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14
それではどうぞ
はい、どうもご機嫌よう。いつの間にかアイドル候補生となってしまっていたヌヌ葉否と申します。後日美城さんとお話させて頂いたところ、プロジェクト発足までは私はずっとレッスンの日々となるそうです。しかし、バイトを止めることはしません。菜々先輩でさえバイトを続けてるんです、辞める理由など存在しませんよ。美城さんはそれでもオーケーとおっしゃってくださいましたからね。遠慮無く続けます。
つまり今はどうなっているかと言うとですね、レッスンを受けに来ているのです。生まれて初めてのアイドルの初レッスンです。いくらレッスンとはいえこれは仕事の内に入るでしょう。生半可な覚悟では即座に切り捨てられる可能性だってありますから真剣に取り組まなくては...
「失礼します!」
「お、来たな。私は青木聖、ダンストレーナーだ。お前が噂の候補生か」
「どうも青木さん、おはようございます...すみません、噂とは?」
「お前は確か...ヌヌ葉だったな。かなり噂になってることだぞ?お前が美城常務から直々にスカウトされたと」
...そうなのですか?私はプロダクション内には今日初めて入ったのでその噂の広まりようは知りませんけど、そこまで噂されるとは...
「だが、私はそんなお前だろうと贔屓するつもりなどは一切ない。とりあえずダンスレッスンの基礎からだ」
「分かりました」
始める前に、一度目を閉じ大きく深呼吸をします。脳内を切り替えるときはこれをするのが一番ですしね。
ここからはいつもやってる仕事と同じものです。さぁ、始めましょうか...
「──よろしく、お願いします」
「!...あぁ、それじゃ始めるぞ」
「...化物か?あいつは」
346プロダクション所属トレーナー、青木聖は妙な悩み事を抱えていた。その対象は先ほどまでこの部屋でレッスンをしていたアイドル候補生、ヌヌ葉否について。
最初の方、初心者であろうと思い相当軽めのレッスンをさせていたのだが、案外動けていることに聖は気づく。ぎこちなさは残っていたものの、そこらのアイドル候補生と劣らないというレベルであった。
気になって以前ダンスをやっていたのか?と尋ねてみると、どぎまぎした様子で否は肯定した。相当前の話ですけど、ということも追加してだ。
否への評価を改め、少しレッスンの難易度を上げてみるがへばることなくついてきた。そしてレッスン開始から二時間後、少し休憩を取らせようと声をかけると、きょとんとした顔でこう言った。
『...え、もう終わりですか?後四時間は動けるのですが...』
後半のは流石に言い過ぎだろうと聖は思ったが、否の様子を見る限り本気なのかと思ってしまった。
なんと、汗はかいているものの息はあまり切れていなかったのである。
どういう原理だと思わず聖は尋ねてしまったが、きちんとそれに対しても返事を返す。
『はい。私はそれが仕事であるならば、最長六時間は休憩無しで動けます。実践済みですし』
スタミナお化け。否を一言で表すならそうなのだろう。本当に一体どこで休憩を取っているというのだろうか。
というか実践済みってなんだ。346カフェで未成年を休憩無しで六時間働かせたなんてことは聞いたことないので別の場所での話だろうとは容易に推察出来はするが、それをやらせた職場は何を考えているのだ。未成年にまでブラックとは......いや、なんとなく違う気がする。
こいつはなんか人の目を盗んでどんどん働きそうな目をしてる。自主的に働きに行った可能性もなくはないだろう。
「...あれじゃいつか取り返しのつかないことになるぞ」
はぁ、とため息をついて頭をかく。
「...まさかあいつ...」
ふと頭にとあるワードが過るが考えすぎだと頭を振って考えを消す。とりあえず常務には報告してはおこうとも思ったが。
「ともかく、あいつのレッスンには休むことも追加させないとな...そうじゃなきゃ意地でも休憩は取らないだろ」
また妙な問題児が入ってきたものだ、と頭を抱えながら聖はこれからの予定を思索し始めるのだった。
こいついっつも働いてんな
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15
文章にするとキャラが崩壊してる気がしてならないのです...つまりキャラ崩壊注意です。
─────暫くそのように生活をしていて数日経ちました。
バイトの日数を減らすのは心苦しかったですが、少しすると慣れ始めてさほど気にならなくはなりました。レッスンも仕事の内になりますからね。
杏にはまだ内緒です。言おうとはしていたのですが...言う機会が無かったのが現状でした。忙しかったですからね。バイトにレッスン、疲れは感じる気がするかなーって程度はありますがまだきつくはないですし平気ですけどね。まぁ例の噂の広まり次第では知られてるかもですけど。
さて本日、というか先日に美城さんからお電話を頂きまして。何やら美城さんが企画していた私の参加するプロジェクト───『プロジェクトクローネ』のメンバーが粗方集まったらしいので本日は顔合わせと宣材写真を撮るのだそうです。
同じプロジェクトのメンバーとなるなら割と長い付き合いになるようですから、仲良くなっておかないと後からきついですし、自身を売るために必要な宣材写真は物凄く重要ですからきちんとしなくてはなりません。特に緊張はせずにいつも通りやっていきましょう。
「では杏、私はそろそろ家を出ますので鍵をお願いします」
「ん...否、最近なんかあった?」
「...何、とは?」
「いや、なんか最近なんか変わったように感じたからさ、何かあったのかなって」
「んー、そうですね...」
...ここで言ってしまいましょうか?
いえ、それを説明するとしたら少々面倒ですし時間もかかりますからね...粗方事が片付いたら話しましょう。まだその時では無さそうですからね。
「今はちょっと話せません...ですから、暫く待っててください。必ず話しますから」
「...そう。じゃあ待っとくよ」
「もしや飴のクオリティが落ちてたりしてました?」
「いや、いつもと同じで癖になる美味しさだよ?」
「それは良かった。では行ってきますね。杏もちゃんと出勤するんですよ?」
「分かってるよ。いってらっしゃーい」
「.........」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「失礼します」
ここはプロジェクトクローネのプロジェクトルーム。集合時間にはまだまだ余裕はあるのですが───
「お、君で最後かなー?」
「みたいね」
「...あらま」
───どうやら一番最後だった様子。流石皆さんですね。モチベーションというかやる気というか...凄まじいです。
おっと、先に挨拶をしなくては。恐らく私が一番この中では後輩でしょうし。
「初めまして。『ヌヌ葉否』と申します。気軽に『否』とでも呼んでください。これからよろしくお願いしますね」
──おや、思ったより好感触ですね。礼儀が効きました。
「おっとそうでした。皆さんに渡したいものがあるんです。こちらをどうぞ」
「...これは?」
「私の手作りの飴です。味は企業のものには劣りますが、従姉妹が美味しいと言ってくれるので不味くはないと思います」
「へぇ、手作りかぁ......ん、美味しい」
「おー、癖になる味だねー!あ、私宮本フレデリカって言うんだ、よろしくねー!」
「ホントに美味しいこれ...あ、私は塩見周子、よろしくねー」
「宮本さん、塩見さん。よろしくお願いします」
...今更ですが皆さんキレイな方々ですね。私なんかとは全然違いますよ。
「じゃあ私も。私は速水奏、よろしく否ちゃん」
「はいはーい!アタシ大槻唯!よろしくねー否ちゃん!」
「橘ありすです。橘と呼んで下さい」
「アタシは神谷奈央。よろしくな!」
「私は北条加蓮。よろしくね否さん」
「速水さん、大槻さん、橘さん、神谷さん、北条さんですね。覚えました」
...おや、まだ知らない方がいますね。本に夢中でこちらに気付いていない様子...あ、橘さんが声を掛けに行きましたね。
「鷺沢さん!最後の人が来ましたよ!鷺沢さん!」
「───おや、橘さん。ありがとうございます」
「いえ!大丈夫です!」
おやおや...微笑ましいですね。皆さんも心無しか微笑みを向けている気がします。
「申し遅れました。私、本のことになると少し前が見えなくなりまして───あ、鷺沢文香です。よろしくお願いします」
「ヌヌ葉否です。よろしくお願いします。受け取ってないようでしたら、こちらを」
「飴...ですか。ありがとうございます」
ふむ、これで一通り...おや?
「これだけ...ですか?」
「ん?どゆこと?」
「あ、いえ...人数が少ない気がしまして」
「あーそれね。常務が絶賛スカウト中だってさー」
「なるほど」
「...あら、そろそろ時間ね。皆、行くわよ」
速水さんの声掛けにより皆さん移動を始めます。向かう場所は勿論スタジオです。少し楽しみな部分もありますが──────まぁ、終わってみると呆気なかったです。衣装は今着ているもので良かったみたいですし特に注意もされませんでした。
そして先程、プロジェクトクローネの現時点でのメンバー全員でレッスンを始めました。私の体感は三十分位だったのですが、どうやらぶっ続けで2時間もレッスンをしていたそう。まぁまだ四時間は休憩無しで動けてたんですが、無理矢理休憩を取らされてしまいました...皆さんから少し変な目で見られたのは恐らく気のせいでしょう。えぇ、きっとそうに違いありません。
今更だけど、あらすじ詐欺だなこの小説...
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16
色々間違ってるかもしれません。許して。
それではどうぞ。
さて、プロジェクトクローネとしての活動は順調...順調?いえきっと順調なのでしょう。モデル雑誌の撮影やインタビュー等の仕事はありますのでね。仕事があるだけよいと思いますし。
ちなみに、ライブ公演はまだだそうです。秋の定例ライブ──要は、それなりに規模があるライブです──がプロジェクトクローネの初舞台となるらしいのですが...正直な感想を申し上げますと、本気か?と思います。
初レッスンの時に皆さんと色々と話していたのですが、完全な新人というのは私、そして鷺沢さんぐらいでして、後は元々別の部署に所属してたという方々ばかりなのです。それならば私達よりも経験値があるでしょうからまぁなんとかこなせるでしょう。
しかし完全に新人の私達がいきなり規模のあるライブ会場でライブをする...普通しませんよね?最初は小さい仕事からコツコツと...いやまぁ仕事はしてますけど、そこから始めるものだと思うのですよ。それに鷺沢さんは比較的人前に出るのが苦手な様子...緊張し過ぎで倒れたりしなきゃいいんですが...
「...あのー、否ちゃん?どしたの?」
「...おっと失礼。まだ撮影の途中でしたね」
辺りを見渡してみると、これでもかというレベルにまで精密に作られたスタジオのセット。正面にあるのは色んな角度に配置されたカメラやそれを操作するカメラマンさん達。
現在はプロジェクトクローネのPV撮影の真っ最中です。私としたことが、仕事中に別のことを考えてしまうとは...疲れでしょうか?いや、あり得ませんね。私が疲れるなど。
「ちょっと否、大丈夫なの?なんかさっきからボーッとしてたけど...」
「はい、もう大丈夫ですよ...皆さま、大変申し訳ありませんでした」
速水さんの言葉に応えつつ、ここのスタジオにいるすべての関係者さん達に頭を90度あたりまで下げて謝罪をします。
「いや、気にしなくていいよ!まだ撮影序盤の序盤だし、むしろ始まる前に元に戻ってくれてよかった!」
「ありがとうございます」
めっちゃいい方じゃないですか監督さん...っとと、配置に着かなくては。
今私が来ている衣装は長袖の黒と青を基調としたドレス。後、青色のバラに模したものがついてるゴムで髪を縛ってポニーテールにしてます。まぁ髪型に関してはいつも通りですからゴムを変えただけになりますけど。というか、正直ドレスというよりはビジネス用手袋を身につけたスーツに近い格好してますね、私。スカートが付いてるだけまだギリギリドレスと言えなくもないですが。
このPVには特に動くような場面は無く、決めポーズみたいなのを取るのが良いのだそうです。しかし思い思いにというわけではなく、きちんとどう動くべきなのかは指定はされてます。
まぁ、そこに関しては大してきつくはないんですけど。そこよりは完成形はCG込みのものとなるのでそれに合わせ易いようにするのが少々難しいって感じではありますね。
更に怖いのがこの様子を美城さんが見ている、ということなんですよね...見限られないように張り切らなくてはいけませんね。
と、緊張感を常に持ちつつ皆さんが望むようなポーズをとりながら撮影は進んで行き、そのまま何事もなく終えることが出来ました。
...そういえば、美城さんから後で来いと言われてましたね。早めに行かなくては...上司を待たせてはいけませんからね。
「失礼します」
「よく来てくれ......」
「......どうされました?」
美城さんがいらっしゃるお部屋...常務室とでもいいましょうか、そこに訪れた瞬間...いえ、美城さんが私を見た瞬間何故か固まってしまいました。
心なしか少し驚いて...いや引いてる?そんな気がします。しかし美城はすぐに表情を元に戻し私を見つめながら言いました。
「...いや、なんでもない。それよりかけたまえ、早速だが本題に入ろうと思う」
「分かりました」
手が示されている方向にあるソファに一言断りを入れてからかけ座ります。
...んー、なんとなくですが部屋が眩しいような...目もなんか乾いているのか若干痛みを感じる気もしますし...後で顔を洗ってすっきりするとしましょう。
「どうかしたか?」
「あ...いえ、なんでもないです」
「...そうか。それで本題なのだが...君の曲が完成した」
「!!」
...とうとう出来てしまったのですね。私のデビュー曲が。
その曲は先程述べた私のデビューステージである秋の定例ライブで歌うこととなる曲だそう。
最初私はてっきり誰かの曲を私が歌うという形を取り、顔と名前を覚えてもらうデビューになるかと思っていたのですがまさかデビュー曲まで頂けるなんて思っても見ませんでしたよ...
デビュー曲を頂くと聞いたのはほんの少し前でしたがもうできたとは...流石美城さんといったところでしょうか。この場合作曲家の方が凄いのでしょうかね。
「とりあえず聞いてみたまえ」
「分かりました」
渡されたヘッドフォンを付け、曲に集中するため目を閉じて耳をその曲に傾けましょう───
────どこか寂しさが垣間見えるイントロから始まり、歌詞の前に一瞬盛り上がったかと思えば無音になり...静かに歌詞が歌われていきます。曲のテーマは『失恋』でしょうか?......なんかしっくりきませんけど。
そもそも仮に失恋がテーマなら歌えない気がします。恋なんてしたことありませんでしたし...そんな暇なわて......
...やめましょう。とにかくなんかマイナスっぽいイメージがある曲...いえ、これは違いますね。これは───
「───なにかから立ち直る曲...ですか?」
「ほう...」
曲を聞き終わりヘッドフォンを外して唐突に美城さんに尋ねてみます。
すると美城さんは軽い驚きと面白そうな感じの声と表情を見せました。正解...みたいですね。
「君はそう読み取ったか」
「ええ、完全な直感ではありますが」
「間違ってはいない。その直感を大事にしなさい」
...別の正解があるのでしょうか。しかし私はこれからはその意味でしか取れません...ぐぬぬ、視野をもっと広めなくては...
「明日からのレッスンはこの曲の練習をしてもらう。ダンスも歌もだ」
「分かりました」
いままではいつどんな時でも対応できる全体曲のレッスンばかりでしたからね...おねがいシンデレラとかその辺りです。ようやくか...という感情もあれば、もうなのか...という恐れという感情もあります。というか後者が凄まじいです。
「それと唐突だが...君は休みを取っているか?」
「? とってますよ? きちんと週2はレッスンのお休みを頂いています」
「その二日は何をしている?」
「勿論346カフェでバイトです」
「...辞めないのか?」
「そのつもりはありません」
実はこの美城プロダクションには特殊なシステムがありまして、アイドル部門に限らないですが、見込みがある候補生ならば給料が貰えるようになっています。つまりまだデビューしてなくて仕事もさほどない私でも一応給料は貰えるのです。
要はバイトはしなくても良いということですが......正直給料のために仕事をしているわけではありませんし関係ないですね。
「質問を変えよう。君は何もしないで身体を休める日を取っているか?」
「必要ないです。何かしてないと落ち着かないですし、何より私は仕事であれば6時間休みなしで動けますし、何より私は疲れませんから」
「...そうか」
事実、346カフェでのバイトがレッスンに悪影響を及ぼしてるなんてことはないわけですからね。仕事ですから、きっちりやらないといけませんし。
「...ヌヌ葉否さん。ダンスレッスン、ボーカルレッスンの日以外でのこの曲のレッスンを禁止する」
「なっ!!??」
「これは決定事項だ。決して自主レッスンはしないように...」
「っ......」
なんて残酷なことを...なぜ禁止にしたのか理解に苦しみます...!!
「あぁそれと、カフェのほうには話を付けておく。バイトも暫く禁止だ」
「なっ!!!」
「自身の体調管理も仕事の内だ」
「ですから私は疲れなど───」
「一度進んだ時計の針はもう二度と元の同じ場所へと戻ることはない。何かあってからではもう手遅れだ...話は以上。今日は帰ってこのCDを覚えなさい」
「っ......失礼します」
まさか美城さんと意見が噛み合わない日が来るとは...しかし、ここで従わないといつ切られるかわかりません。
バイト禁止...なかなかハードですね...やることが本当に飴制作ぐらいしかすることがありませんよ...
「あれ、否?」
「否ちゃん?」
「...あ、杏と...諸星さん。どうもです」
「おっすおっす☆」
帰宅の準備を整え今から帰ろうとした時、並んで歩いている杏と諸星さんに出会いました。
「なんで否ちゃんはここにいるのぉ?」
「......ええとですね...」
...なんか私、アイドルになったんですって言うの恥ずかしいですねコレ。なんて誤魔化しましょうか...ふむぅ...
「...もしかしてさ、噂の新人って否のことじゃない?」
「...噂?」
はて...どこかでその単語を聞いたような...
「美城常務直々にスカウトされて、なんかとても小柄で、初レッスン4時間受けてもあんまり息切れしなくて、とある天才が作った機械じゃないかって言われてたやつ」
「あ、それかなり噂になってたよぉ!トレーナーさんがとーってもびっくりしてたにぃ!」
「ええと...はい、多分私です...」
「あーやっぱり...もう噂の内容だけで否だってほぼ確信したしねぇ」
なんか変な広まり方してますねその噂...まぁ、最後以外は事実ですけども。なんですか機械って。流石に酷くないですかね...?
「ねぇ否。アイドルになろうと思った理由ってある?」
「...というと?」
「なんか今まで否はアイドルとかには興味なかったじゃん。なんで急にって思ってさ」
「...理由、ですか」
............言ってもいいんでしょうかねこれ。恥ずかしいですが...
「そうですね...決定的だったのは美城さんのアプローチですけど...ここでは、『生きる意味』を見つけられるかもって言われましたから」
「...へぇ」
「...結構凄い理由だにぃ...」
「...あ、すみません。いきなりなんか変なこと言い出して...」
「んーんー!ダイジョブ☆ ね、杏ちゃん!」
「.........」
「...杏ちゃん?」
「杏?」
「え!あ、ごめん...聞いてなかった」
「もー!杏ちゃんったら!」
...どうしたのでしょうか。いきなり黙り混んでなんかして...
「とにかく、これからよろしくにぃ! もし一緒のステージに立つことになったら一緒にハピハピしようね!」
「!」
...一緒の...ステージ...? 杏と同じ舞台...に?
私と杏が...同じ場所に......
「...否?」
「否ちゃん?」
「! だ、大丈夫ですよ!」
私はとっさに表情を作ります。それにしても何故でしょう...杏と同じステージに立つと考えただけで.........だけ、で......
「...あ、ヤバーい!!レッスンに遅れちゃう!!」
「え、じゃあ杏はプロジェクトルームに」
「ダメだよ杏ちゃん! 一緒に行こー! ごめんね否ちゃん、またね☆ きらりんダーッシュ!!」
「やめろぉぉぉ.........」
「...ハァ!!...ハァ、ハァ...うぷっ...」
あの二人がどこかへ行ってしまった後、私はとっさに近くの壁へと背中を預けました...
幸いここには今誰もいませんから、落ち着いて息を整えれます...
この感じは...何なんでしょう、なぜ杏と一緒にステージに立つことを考えると......
「ハァ...ハァ...落ち、着いて...きました...ね...」
プロジェクトが違うからほぼ関わることはないのかとか思ってましたが...それは無さそうです。そりゃそうですよね...同じ会社ですし...
「とりあえず...早く、帰りましょう...曲を、覚えなくては......」
一旦これは忘れましょう...今は、私の曲のことに...秋の定例ライブのことに集中...しなくては......
「...あれって...否さん?」
後どれくらいで本編完結かな...
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17
短め...になるのかな?
──プロジェクトクローネへの参加。それは今までデビューが中々出来なかった私...橘ありすにとって非常に嬉しいものでした。
元々私は美城プロダクション内ではあるけど別の部署に所属していました。将来は音楽関係の仕事に就きたいと考えているのでアイドルをやってみたいと思ったのがきっかけです。でも...中々デビューできる機会は来ませんでした。アイドルをこのまま続けても大丈夫なのか...と悩んでいた時に声を掛けられたのです。
プロジェクト内最年少ではありますが他のメンバーはそんなことで差別とか全くしなくて、優しい人達ばかりです...まぁ、一部の人は私のキライな名前を呼んでからかったりしてくるんですが...
そして先日、私は同じプロジェクト内のメンバーで一番憧れている鷺沢文香さんとのユニットを組むことになり、それ用の曲まで貰いました。鷺沢さんは私の目指している大人の女性そのもので、とても博識なんです。現在は私達のユニットがデビューする秋の定例ライブに向けてそこ曲のレッスンを積んでいるところです。私も鷺沢さんもまだ不完全ではありますが順調に成長してきているところです。
...しかし、今私は悩みがあります。勿論レッスンとは別のことです。
ちなみにですが、私にはこの同じプロジェクトクローネ内で鷺沢さん以外で憧れている人がいます。実は、悩みというのはその内の一人に対してのことなんです。その人とは────
「おや、橘さん。おはようございます。お早いですね」
「...おはようございます。否さん」
───そう、ヌヌ葉否さんです。身長は私とあんまり変わらない否さんの一体どこに憧れているかというと、仕事に対する姿勢と果てしない体力面です。
このプロジェクトに参加する前、私は346カフェの前を通りかかるとき否さんを初めて見ました。その時否さんは何故かタキシードを着ていたんですが、全く笑顔を絶やさずキビキビと仕事をこなしていました。仕事が出来る女という感じがして格好いいな、とそこで私は思いました。
そして、同じプロジェクトに所属しての初めてのレッスンの時...なんと2時間も休憩無しでトレーナーさんのレッスンを受けてたんです。今までここでレッスンをしてきた私でさえその日はハードだったと思ったのにも関わらず否さんは...
『今日はここまでですか?...むぅ、そうですか』
と、物足りなさそう言ったんです!
ありえない...と、浮き出てきた感情を隠しつつ否さんにその体力をどこで鍛えたのかと聞いてみると...
『えぇと...以前に空手やダンス等の習い事をしてまして...』
そこで死ぬほど体力作りをしましたから、と言ってました。
アイドルのLIVEというのは実際に行ったりやってみたりしたことある人なら分かるかと思いますが、長時間で一人何曲かする場合もあります。
つまり非常に体力が重要となるわけです。元々運動はしてきましたが更なる体力向上を目指そうと決意したときまた否さんから声がかけられました。
『後は身体の効率のいい動かし方を自己流で見つけたんです。長時間パフォーマンスが続けやすくなるというやつです』
良かったら軽くですがお教えましょうか?という提案に私は即座に乗りました。
自主レッスンするため部屋を探しましたが空いてなかったので近くの公園ですることになり、動きやすい格好になって集合し始めました。
否さんのアドバイスはとても的確で分かりやすいもので、私のダンスを客観的に見て指摘してくれたり躓いているところのコツを教えてくれたりしてくれ、見た目とは大きく違ってとても大人な人なんだと思いました。
そんな否さんに対しての悩みというのは────この人、全くと言っていいほど休みを取らないんです。
レッスンの休みをそれぞれ週2に入れてるのですがその日はバイトをしており、尚且つバイト中もにカフェの店長さんが無理言わないと休憩しないんです。実際に見てたから分かります。
それに改めて考えてみると、否さんは習い事をしてたのは結構前らしいですからそれなりに体力は落ちてるはず。絶対否さんは無理をしてるんです。
更にです、この前否さんが誰もいない場所できつそうに壁に寄っかかって息を整えてるところをこっそり見ました。確実に疲れが溜まってる証拠です!
...正直言って、トレーナーさんも美城常務さんもお手上げの様子です。デビューが控えてるのでレッスンを禁止には出来ませんからね。ならその二人よりも否さんに近いクローネのメンバーでなんとかしたいのですけどその事実を知ってるのは多分私だけです、私がなんとかしないと......
「ふむ...よし」
「いや待ってください否さん。来たばっかりなのにどこに行くんですか?」
「何って...自主レッスンですよ。多分部屋は空いてないんで公園に行きます」
「...否さん。私、否さんが自主レッスン禁止されてること知ってるんですよ?」
「えっ......」
あの事を見たその日に私は咄嗟に常務さんに報告しました。常務さんは少し頭を抱えてから教えてくれたんです。
『そうだな...彼女のことを気にかけてる君には伝えておこう。彼女のこれからレッスン時間以外の自主レッスン、及びバイトを禁止した。実は彼女は休みという休みを全く取っていなくてな...もし都合が良ければでいい、彼女が自主レッスンをしないよう見ていてほしい』
無論そのつもりです。だって...否さんには倒れてほしくないですから...
「...なるほど、今理解しましたよ。橘さん、貴女は勘違いをしています」
「勘違い?」
「私、先日デビュー曲を頂きました」
「それはおめでとうございます」
「それと同時に、確かに私は自主レッスン禁止を言い渡されました」
「はい」
「ですがこれは『私の曲だけの自主レッスンの禁止』であり全体曲とかには影響ありません。つまりは全体曲の自主レッスンはオーケーなのです!」
「なるほどそれなら......ってダメです!自主レッスンは自主レッスンだから禁止です!」
「...そうですか...」
一瞬落ち込んだ否さんでしたが、いきなりスッと復活しまたドアに手を掛けました。
「では『散歩』に行ってきます。レッスンまでには戻りますから」
「散歩...ならいいです。きちんとレッスンまでには戻ってきてくださいね」
「分かってますよ。では」
「やっほーありすちゃーん♪げんきー?」
「...宮本さん、おはようございます。後、橘です」
「んー今日のありすちゃんもゼッコーチョーみたいだね!フレちゃんもゼッコーチョー♪」
「ですから橘ですって...」
「んーゼッコーチョーと言えば、さっき近くの公園で否ちゃんがめっちゃ張り切ってトレーニングしてたような─────ってあれ、ありすちゃーん?? どこいくのー??」
次も多分ありすちゃん視点辺りになるかと思います←
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18
ありすちゃん視点といいましたね。あれは嘘だ。
違和感ありまくりんぐですがどうぞ。
...どうも皆様、ご機嫌はいかがでしょうか。少なくとも私は少しだけ悪いかもしれません。
えぇ、私は...というか私の所属してるプロジェクトクローネのメンバーはデビューライブとも言える秋の定例ライブに向けて貰った曲のレッスンをしているわけであります。もう既にある程度は露出していて正真正銘のデビューとは言えないかもしれませんが、ライブをするのは初めてなのでデビューライブです。
そういうわけでプロジェクトクローネの皆さんは...いえ、私は内心割と焦ってるのですよ。
そりゃですよ、最初から完璧なんてのはあり得ないのは十分承知していますし、例のライブを見に来るであろうお客様も正直そこまで期待していないと思います。ですが、私はプロジェクト内では最後に曲を貰った立場。つまり一番遅れているというわけです。ある程度仕上げないと他のメンバーにまで影響が及んでしまいますし、何より私自身が納得出来ません。
そのためには普段のレッスンだけではダメなのは確定として、自主レッスンを入れる予定だったのですが......それは美城さんから『禁止』という死の宣告に等しいものを受けてしまったので出来ません。不味いです。
バレたらマジでヤバいですが、私はその美城さんの言葉を『君の曲以外の自主レッスンは禁止してない』という風に私の中で都合良く改変し、全体曲の自主レッスンをしてるという体で誰も見てない時にその曲をレッスンしようと思ってたのですが......残念ながら中々一人になれません。
えぇ、実はこれが私のちょっと不機嫌な理由です。プロダクション内にいる間ほぼ一人にさせてくれないとある人に対してなんですよ。そしてその人とは─────
「否さん、どこに行くつもりですか? まだレッスンの時間まで一時間はありますよ?」
─────橘ありすさん...なんです。
橘さんはとても真面目でして、自分にも他人にも結構厳しい方です。プロジェクト内最年少なんですが、とてもしっかりしていて、どこか同じユニットを組んでいる鷺沢さんに憧れを抱いている節があります。あと何故か名前に対してコンプレックスを持っているようで、名字呼びをお願いしてきます。そのせいか毎回宮本さんや塩見さんに弄られているんですけどね。
そんな彼女ですが、よく最近私のそばにいます。明らかに私を一人にしないようにしてるのは確定です...私、何かしましたかね? 何故か自主レッスン禁止のことも知ってましたし、この前もこっそり自主レッスンしようとしたら怒られましたし...なんですかね、美城さんから見ててくれとでも頼まれたんですかねこの娘は。
まぁ私が知らないだけで自主レッスン禁止令は他のメンバーも知ってる可能性ありますけど。
「えぇ、残念ながら暇を潰す道具は持ってきていないので...散歩にでも行こうかなと」
「それなら私も行きます。いいですよね?」
「...まぁ、いいですが」
ここでそうですか、とでも返されたらそのまま自主レッスンに行くつもりだったのに...そう上手くはいきませんよね。はぁ......
「あ、否。今日のお昼、一緒に食べない?」
「? は、はい。構いませんが...」
出ていこうとしたら唐突に速水さんからこう言われました。あまりにも急だったために返事がおぼつかないものになってしまいました...
...さて、本当に散歩に行くことになってしまったのですが...どこへ行きましょうかね。
「...なんで皆さんここに...」
「皆、興味があるからよ」
お昼時。一緒に食べると約束したので、その後指定されたレストランに向かうと...なんとプロジェクトクローネ全員集ご......あ、橘さんと鷺沢さんだけいませんね。
一瞬人数に違和感を感じなかったのはその二人の枠にシンデレラプロジェクト所属のアナスタシアさん、渋谷さんがいらっしゃったからでした。何故他のプロジェクトメンバーが? とは思いましたが、少し前から美城さんがスカウトしていたようでして、兼任という形でここにいるようです。忙しそうでうらやましいですね...
「ところで、興味がある...とは?」
「ほら、最近ありすちゃんが否の後ずっと着いていってるじゃない? 否が何かしたんじゃないかっていうのを聞きたいわけよ」
その言葉に皆さんが頷きます。というか、全員でこっち見るのやめてくれませんかね。怖いんですけど。
「別に、何もしてませんよ。恐らく私を監視しているんだと思います」
「監視? ってことは何かしてるってことよね?」
「...とりあえず注文してもいいですか? 他の方々のはもう来ているみたいですし」
「ええ、いいわよ」
ベルを鳴らして店員さんを呼び、メニュー表にあった日替わりランチを注文します。以前杏がここの日替わりランチは美味しいと言っていたような覚えがあるのでそれを手がかりに選びました。そういえば...こういう店に来るのは初めてかもしれませんね。
注文が完了し後は料理が来るのを待つだけになった頃、質問が再開されます。
「それで、なんで監視されてるのかしら?」
...ふと、私は閃きました。
橘さんが私のことを理解してくれなかったのはまだ幼かったからのではないかと。ならば、ここにいる私と歳が近いメンバーは私の考えを理解してくれるんじゃないかと。
私はそれを話すことにしました。
「橘さんが私が自主レッスンをしないかどうか監視してるんですよ」
『...え?』
...おや、何故か全員の動きが止まりましたね。
「言葉の通りです。私はクローネでは最後に曲を貰ったので仕上がりは不完全なのですが、何を思ったのか美城さんが自主レッスンを禁止されたんですよ。恐らく美城さんから監視してくれと頼まれたんだと思いますが......正直、止めてほしいです...」
「み、美城常務から禁止って言われたの...?」
「はい...ですがおかしいですよね? この中で一番遅れてるのは私なんですよ? なのに自主レッスン禁止だなんて...私は疲れないのに」
「...それよ」
「...それだね」
「...うん、それだ」
...あれ、なんか流れがおかしくなったような。
「...否、ちゃんと休んでるの?」
「休みなんて取らなくても動けますよ。仮に休んだら効率が落ちると思います」
...え、なんで呆れられたような目線で見られるんですか。居心地悪いんですけど...
あ、料理が来ましたね...これは美味しそう。いただきます、っと。
「...こりゃ見てられないよ」
「ワーカホリックってやつだねぇ否ちゃん...」
「これってありすちゃんだけで監視の目足りるかしら...」
なんかプロジェクトクローネメンバー全員が私を監視してくるようになったんですが...これ、自主レッスン諦めたほうがいいかもしれませんね...解せませんが。
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番外1
頭わるわるーな内容となっておりますので空っぽにして見てください。
ストーリーとはあまり直接関係ないかもです。
完全休日の日。つまりレッスンもバイトも学校ですらもない本気で何をしようかいつも考えるこの日のことです。
休日って何をすればいいのか分かんなくなりませんか? なりますよね? ...そうですか。
そんな普段なら無駄とも言える時間を生んでしまうこの日ですが、今日の私はなんとなく浮かんでしまった疑問について頭を悩ませています。ホントに些細なことなのですが、一度気になってしまうと他に手が回らなくなってしまいます。
うぅむ...流石に一人で解決は難しそうです。客観的な意見が欲しいですね。
と言うわけで、休日が被った同棲相手の杏に聞いてみることにしました。
「杏、ちょっと聞きたいことがあるのですが...」
「ん、珍しいね。否が聞きたいことなんて。んで、何?」
「えぇ、その聞きたいことというのはですね─────」
「─────私って、属性は何なんでしょう?」
「...否、きっと疲れてるんだよ。ほら、杏が今日は一緒に寝てあげるからさ...寝室、行こ?」
「ま、待ってくださいよ杏! 私は疲れてなんかいませんから!」
「いやーあのワーカホリックの否が厨二発言しただなんて...あ、まさか杏が疲れてるのかな。疲れてるから幻聴が聞こえたんだねうんきっとそうだ。今日はもう寝るよおやすみ」
「いやストップです杏!! 話を!! 話を聞いてくださいぃぃ!!」
「...ふう、落ち着いた。でもごめん、中身が全然読めないからなんでその疑問に至ったのかから教えてくれない?」
「分かりました」
ここで私はその経緯を説明します。
私や杏が所属している美城プロダクション...というか、この世界に存在しているアイドルというのは簡単に分けて三つの属性があります。
一つ目は『キュート』。これは可愛さを重視するアイドルの方々に付けられる属性です。例を挙げればですと、そこにいる杏や杏と同じユニットに属している緒方さんや三村さん、後は菜々先輩辺りが該当しますね。
二つ目は『クール』。これは...なんといいますかね、美しさとか格好良さとかを重視するアイドルに付けられる属性ですね。また例を挙げれば、私の属してるプロジェクトのメンバーの大半がこの属性です。宮本さんと大槻さんはまた違う属性なんですけどね...というか少し疑問なのですけど、トライアドプリムスの神谷さんはクールらしいのですがこれ属性詐欺なんじゃないですかね。一緒に仕事すればするほどなんか違う気がしてならないのですが。
そして三つ目は『パッション』。これは元気ハツラツ! な方々に付けられますね。またまた例を挙げれば、杏とよく一緒にいるシンデレラプロジェクト所属の諸星さん、後は城ヶ崎さん等でしょうか。それと先ほど述べた大槻さんもこのパッション属性となりますね。多分ですが。
さて、こうなってくるのは私は何なのかというわけです。他の皆さんは定まっているのに私だけ定まってないような気がしてなりません。ちょっと自問自答をしてみたこともありましたが───
キュート───私に可愛いげなどないため除外。
クール────私に美しさや格好良さはないため除外。
パッション──仕事に対して情熱はありますが他の皆さんほど元気ハツラツではないので除外。
このような感じでした。
自分の中ではこう考えることしか出来ず膨らませ切れなかったので助けを仰ぐことにしたのです。
「───と、いうわけですよ」
「そんなの気にしなくてもいいと思うけどなぁ...まぁ杏的には否はクールかパッション辺りだと思うけど」
「なるほど」
「でも杏の意見だけだと偏りそうだし、他の人ここに呼ぼうか。どうせ暇だしね」
「と、いうわけでさ、意見ちょうだい」
「そういわれても...ねぇ」
「そうですよ。いきなりはちょっときついです」
「うーん、結構要素あるから断定するのは難しぃかも...」
杏の手によって呼ばれたのは速水さん、橘さん、諸星さんの三人。単純に話した回数で言えばプロダクションの中のトップスリーです。
とはいえそこまで差というのはないんですけどね。だからこそ色眼鏡無しで判断出来るのかもですが。
「今出てるのはクール説とパッション説」
「確かに否にはキュートの要素ないものね」
「その二つですよね...」
「確かに否ちゃんにはカワイイよりカッコイイが似合うねぇ☆」
「そうです?」
来る途中で買ってきてくれたであろう少し多めのお菓子を摘まみながら円になって話をする。
...あれ、これなかなか美味しいですね。ふむ、九州醤油味ですか...今度自分用にでも買いましょうかね。
「確かにね。否のレッスンを知らない人からすればカッコイイって感じるんじゃないかしら」
「逆に私達は知ってるのでカッコイイとはあまり見れないかもです」
「えぇ...?」
「否、普段どんな感じなのさ......ああ待ってごめん、余裕で想像出来たわ」
...なんで皆さんから変な目線を受けなきゃならないのでしょう。特に諸星さん以外の視線がきついです。私はいつも通りやっているだけなのに...
「ならパッションになるのぉ?」
「いや...」
「そうかと言われると...」
「なーんか違うんだよねぇ...」
確かに、目の前の諸星さんを見れば...そこまではないはずです。ないですよね? そうですよね。
やはり、ここで詰まります。二択ではあるのですが......定まりません。
「...もうさ、クールとパッションの中間でいいんじゃないかな」
「え」
「そうねぇ、というかもういっそのことキュートって名乗ってもいいんじゃないかしら?」
「え」
「全属性網羅ですか...まぁ、いいんじゃないですか?」
「ちょ」
「それよりぃ、皆でどこか行かない? きらりとってもハピハピするケーキ屋さん知ってるよぉ!」
「あの...」
駄目だこの人たち...考えるの面倒くさくなって放棄してしまってますよ。
あ、三人が出ていってしまいましたね...どうしましょう。
「ていうかさ否、それって今決めないといけないことなの?」
「...え?」
「明日やれることは明日やる、杏のポリシーだよ。必要になったとき考えりゃいいんじゃない?」
「............そうですね」
──言われてみれば、なんで私はここまで本気で考え込んでいたのでしょう。
わざわざ考えなくてもよいことです。その辺りはきっとファンの人たちが決めてくれるでしょう。アイドル活動には支障はありません。
「...それでは、諸星さんご希望のケーキ屋に行きましょうか」
「えぇ、外出るのぉ? 杏このままゴロゴロしてたいんだけど...」
「満更ではありませんよね? 杏とは比較的長い付き合いなんですから大体読めますよ」
「...ちぇ、バレてたかあ。杏を連れていこうと懇願する否が見たかったのに...」
「それ私のキャラじゃないですよね。はぁ...」
『おーい、杏ちゃーん、否ちゃーん! もう考えるの止めてケーキ屋行こー?』
「...どうやらお呼びのようですよ?」
「否もじゃん。ま、今日は仕方ないよね」
並んで諸星さん方が待っているであろう玄関へと向かう途中、私は一言...誰にも聞こえないようにボソッと呟きました。
「...いつもありがとうございます杏。変な相談にも乗ってくれて...こんな私ですが、これからもよろしくお願いしますね」
「ん、否何か言った?」
「な、なんでもないですよ。ほら、いきますよ!」
自分で言ったことなのに妙に恥ずかしくなり早足になってしまいました。
きっと私はそれで少し周りが見えなくなっていたのでしょう。何せ、後ろで立ち止まった杏の呟きが聞こえなくなっていたのですから。
「こちらこそ、だよ」
「...杏?」
「ううん、なんでも。じゃ、行こっか」
「...そうですね。明日からまた忙しくなりますし満喫しましょう」
「うぇえ、仕事の話は止めてよ...」
「何を言いますか! 何回も言いましたが仕事とはですね───」
「...『彼女達』の平穏が、末永く続きますように」
どこか遠くの誰もいない場所で一人、空を見上げ男はそう呟いたのだった。
雑なのは勘弁してください...
最後に出てきた男...一体誰なんでしょうね?
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19
色々忙しくて執筆する暇が全然とれなかったんです(言い訳)
ですがチマチマとやってきたので完成しました。どうぞご覧ください。
───秋の定例ライブ当日。ライブ開始まで残り6時間を切ったあたりでしょうか。私は一人外で振り付けの確認をしていました。
勿論、他のメンバーの皆さんも既に会場入りは済ませてます。やるならば皆さんと一緒にやるのが効率的なのかもしれませんが、どうしても一人でやりたいのです。
理由なんて一つです。私が納得してないから。
今日はプロジェクトクローネだけのステージではなく美城プロの殆どのアイドルが出場します。そこではそれぞれが持ち歌を披露したり、限定ユニットを組んだりして会場を盛り上げるのでしょう。かなりクオリティも高いはずです。
比べ私はどうでしょう。正直プロジェクトクローネで一番遅れているのは私です。なんかいきなり皆さんが私の監視をし始めたことが原因なのですけれど。まぁとにかく付け焼き刃にはなりますがレッスンをしておかないとダメなのです。
それに......今日は杏もステージに出ます。共演というわけではありませんが、見る人からすれば容姿も合わさり比較されてしまうでしょう。
そこでもし杏に劣ったりなどしていたとしたら───私は.........
『お前を何のためにここまで育ててきてやったと思ってるんだ!!!』
「─────っ!!!」
ゴンッ!! と1発、私は近くにあった木に頭突きをかましました。それで木が揺れ葉っぱが落ちてきたりしましたが気にしません。
それにしても...い、意外に痛いですね...ですが、正気に戻れました。
「...とりあえずは、ステージの成功だけを祈りましょう。そもそも杏と私は比較なんぞされませんよ。プロジェクトコンセプトも違いますから」
ええ、きっとそうに違いないのです。そう思わないと......
.........さて、再開しますか。
私の曲───『I AM DREAMING』は難しめのダンスが数秒あるのが特徴です。ダンサーレベルとまではいかないでしょうが、普通のアイドルはここまでしないよってレベルですね。
歌も歌で静か目から始まりサビになるにつれどんどん激しくなり、サビがもう盛り上がるピークです。聞いてて楽しくなる曲だと感じました。
歌詞のほうはもう完璧...とまではないでしょうが何も見ずに歌えるようにはなりました。ですが問題はダンスの方です。
先ほども述べたようにこの曲には難しめのダンスをする場面があります。必要なのは割と細かい技術です。
おそらく美城さんがオーケーを出されたのでしょうが...まぁ、それは構わないのですけど。レッスン時間が足りないですよ。
レッスン時、トレーナーさん方はもう十分だと言ってくださいましたが私個人として見てもまだまだです。他の皆さんに比べて見劣りしてしまいますし、トレーナーさんもとりあえずオーケーを出したに違いありません。
これのせいで皆さんの足を引っ張ったりなんてしたら? 期待に応えられなかったら? ...考えたくなくもない。
だから自主レッスンです。自主レッスン禁止? ええ上等ですとも。私よりもお客さんに魅せることのほうが重要に決まってますから。特に本日は本番で、美城さんは止める道理はありませんし、魅せるためにはやらなくてはなりません。『結果が全て』...今までだってそうでしたから。
「......よし、もう一度です」
流れ自体は覚えてます。歌っている時は大した量のダンスではないのですが、今まで問題視してきたダンスは間奏のところなのです。『生きる意味』を探すためにも完璧に、魅せれるものに仕上げなくてはなりませんね。
と、この考えが頭に浮かんだ時───────ふと、とある疑問が沸きました。
「...何故、私は『生きる意味』を探しているのでしょう?」
考えるべきではないと脳内が警告してきているのにも関わらず、私は一旦動きを止め考え始めました。
更に言えば...そもそも『私』とは何なんでしょう。私というのはあの親によって作られたものであることは明白。私はある意味作られた人間に過ぎないのですから。なら今こうしてアイドルをしているのも、生きる意味を探しているのも私自身によるものではない...? 仮にそうだとしたら、私は─────
「つまり、私は───」
「否さん?」
「! 橘、さん...」
今にも沈んでいきそうだった自分がもとに戻っていくのを感じます。これは私自身の問題、他の方を巻き込むわけにはいきませんからね...切り替えましょう。
「何故ここに?」
「否さんを探してたんですよ! ほら、今からリハーサルです!」
「? まだリハーサルまでまだ時間はあるはずでは?」
「何を言ってるんですか? 本番まで残り4時間ですよ! 4時間前には全員でリハーサルだって伝えられたじゃないですか!」
「え...あ、ホントですね。申し訳ありません」
いつの間に...時計を持っていかなかったこちらのミスですね。
「...もしや否さん、自主レッスンしてました?」
「はい、まだ不完全なの.........あ」
「...本番までクローネ全員で見張りますからね、否さん」
「え、それはちょっと...」
「ダメです!! 本番前に倒れたらどうするんですか!? とあるプロジェクトの人が過労で熱が出てステージに出れなかったという事例もあるんですよ!? リハーサルは軽くしてください、いいですね!」
「あ、はい」
年下のはずなのに圧が凄いです、橘さん...と、感じると共に私は疑問を持ちました。
...何故、橘さんは私なんかに構っているのでしょう。何かした覚えは...ありますけど大したことではないはずです。ちょっとした本番での動き方を教えただけです。
───平たく言えば、勉強の仕方ではなく受験の受かり方を教えたようなものですが。
ですがその程度であればトレーナーさん方で十分足りていますから...うーん、謎です。ま、今はとりあえず考えるのは辞めましょう。
身体的なレッスンは仮にできなくとも、脳内でイメージトレーニングなら出来ますし仕方ないですからそっちをしましょうか。ここで橘さんから見れば休んでるように見せつけるのがポイントです。流行り?のマルチタスク?ってやつです。勿論バイトによって身に付けましたよ...ふふふ、やはりバイトは正義ですね。
「...頑張りましょうね、否さん」
「ええ、必ず成功させましょう」
そのためにも、休んでる暇を作らないようにしないとなりませんね。
これから暫く亀になります(確定)
あ、『I AM DREAMING』とかいうのはオリジナル曲です。否さんの専用曲みたいなのだと思っててくださいな。歌詞は......どうしましょうかね?←
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20
なんか時間が取れたので完結させるため投稿します。
前が妙に忙しかっただけ...なのかなぁ。
ともあれ、本編どうぞ。
何故か周りから割と厳しめの視線を受けつつリハーサルをこなし、さて後は本番までは待機という状態になりました。私達プロジェクトクローネは全員一つの控え室で待つことになっていますので、今は全員──いえ、シンデレラプロジェクトに属しているアナスタシアさん、渋谷さんはそちらの方に向かわれてますので全員ではありませんが、そこに待機しています。
現在は午前11時。ライブ開始まで残り1時間ほどとなり、私達は少し早めの昼御飯となったわけですが...
「.........」
「.........」
誰も会話をしていません。凄く静かなんです。
緊張...しているんでしょうか? いつも何かと場を騒がせたり和ませたりしている宮本さんあたりも今日に限ってかなり静かです。というか無表情ですね。ごめんなさい少し怖いです。
...ふむ、ここは交流を深めるべきなのかと思いましたが、そのような雰囲気ではなさそうです。だからといって私は場を和ませるようなことは出来ませんし...
仕方ありません。とりあえずご飯を食べましょう。昼御飯には各自それぞれ弁当が支給されるのですが、今回私は手作りにしました。勿論杏のも一緒に作ったので渡しました。喜ばれるといいのですがね。
自分の荷物から昼御飯を出すと同時にペンと大学ノートを出します。ご飯を食べながらの作業は行儀が悪いかもしれませんがそんなこといってる暇なんてありません。左手で昼御飯を袋から取り出し口に入れつつ、右手でノートを開きペンを持ち書き出していきます。
「...あの」
内容は勿論、本番のことについてです。一度ステージに立ったことにより本番へのイメージが持ちやすくなり、魅せる研究がしやすくなりました。
想定よりもステージが大きかったですが、緊張はしてません。というかしてる暇が惜しいです。
「否さん...?」
ステージに一度上がれてよかったですよ。具体的なイメージというのは大事ですから本当に...おっと、食事が疎かになってましたね。いけないいけない。つい夢中になってしましましたよ。
さて、見に来てくれる方々全てに満足して頂くためにはどういう角度がいいんですかね...やはり身体の軸を左に30°ほどずらすべきでしょうか。いえそれだと中盤の場面が少し変になりそうですね...ふむ、間を取って15°にしますか。
「...」
おお、なんか良さげなイメージが沸きました。15°にしておきましょう。
残る不安要素は...やはりダンスの完成度ですね。躍り方を理解したとはいえ、その肝心のダンスが追い付いていないとなると意味がありませんから。
どこか隙を見て逃げ出して見ましょうかね...? イメージだけでは物足りませんしトイレに行くと言って少し抜け出しましょうそうしましょう───
「否さんっ!!!」
「はいぃ!?」
み、耳が痛い...キーンってなってますよこれ...
「否さん! 今何を考えてました?!」
「え、ちょ...橘さん?」
「また本番について考えてましたよね?! もう、休憩時間なんですから少しは脳も休ませてください!!」
「で、ですが本番まではあと1時間もないですし...少しくらいいいじゃないですか!」
「......でもっ!」
と、私と橘さんが言い争い...のような何かをしていると───突然、私と橘さん以外のクローネの皆が次々に笑い始めました。それも苦笑や微笑などではなく、爆笑に近いレベルでです。
い、いきなりどうしたんでしょう皆さん...? もしや変なキノコでも弁当に入ってたりしたり...?
「フフフ......ごめんなさいね、否がいつもと変わらなさすぎて」
「こっちが緊張してるのが馬鹿らしくなってさー!」
...なるほど、そういうことでしたか。
自分でも確かにさほど緊張はしていないのは分かっています。まぁ理由は先ほど言ったようにしている暇が惜しいというのも当然あります。
「なんかさ、否ってこういうの慣れてそうだよね。昔にそういうのやってたりして!」
っ....................................
「...否?」
「否さん?」
「否ちゃん?」
.........いえ、皆さんは純粋な疑問でそう言ったに違いありません。ここで昔を振り替えるわけには......
「...えぇ、まぁ昔...色々ありましてね」
濁しておきましょう。あまり触れられたくはない話題ですし...
「...少しトイレに行ってきますね。失礼します」
「あっ...」
話を終わらせるため控え室を出てトイレではなく、先ほど自主レッスンをしていた場所へと向かいます。こんなことをしている場合ではありませんが切り替えるためです。少し身体を動かしましょう。
とにかく今は...忘れなくては。大事なのは目の前に迫った本番のみなのですから。
──────────────────────
「うーん...」
「あれ、杏ちゃん? どうしたの?」
「いやさ、今日ってプロジェクトクローネも出るじゃん?」
「そうだね」
「そこに否もいるわけだよ」
「そうなんだ.........って、えぇ!?」
「否ちゃんアイドルになってたんだ...」
「あれ、言ってなかったっけ? まぁとにかくいつの間にかアイドルになってたんだよ」
「色々突っ込みたいけど...それで?」
「......無茶してないかなぁって」
「え?」
「前も言ったかもしれないけど、否って何かから逃げるみたいに頑張るんだよね。怯えてるみたいにさ...杏にはそのことを教えてくれないけど」
「...杏ちゃんってホントに否さんのことが好きなんだね」
「......まぁ家族だし。気になるのは当然じゃん?」
「あ、なんか杏ちゃん照れてない?」
「う、うるさいよ!...まぁ、無茶してないといいなぁ」
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21
さて、本編へどうぞ。
あ、キャラ崩壊注意です。
あれから、キリのいい時間に自主レッスンを終わらせ、控え室に戻りました。
戻ると私に対して皆さんは何か言いたそうな表情をされていましたが、私は切り替えをもう済ませていたので気にしてないという風な様子を見せ、無理矢理ライブへと意識を向けさせました。悪気が無いことは重々承知なのでそんなに気にしなくてもいいんですがね...
───そして時間が過ぎライブが始まって早一時間が経ってしまいました。私達、プロジェクトクローネは開始から一時間半頃から...つまり、あと三十分もすればクローネの出番なのです。
私の出演順は何故かラストとなります。ラストを飾るのはシンデレラプロジェクトの渋谷さん率いるトライアドプリムスのほうが相応しいかと思うのですが...クローネの中では一番期待されてるユニットですからね。その次にアナスタシアさんあたりでしょうか。何せ、渋谷さんとアナスタシアさんはシンデレラプロジェクトにより知名度は他に比べ圧倒的に高いですからね。その他の方々もダンス等私より上のはずなのです。やはり相応しくないでしょう...しかし、文句を言える立場ではないので従うしかありません。納得はしてませんけれど...
...そして、現在ステージにいるのはシンデレラプロジェクト──だけではないですね。主となるのはシンデレラプロジェクトの方々ですが、そこに菜々先輩を初めとする別の部署に属している方々をちらほら見かけます。
今控え室の中継テレビからその様子を見ているのですけれど......やはり皆さんダンスの完成度が高いです。羨ましくなるレベルに...いいえ、妬むのはあまりよくありません。自身のレベルが足りてないのが悪いのですから。残念ながら今から自主レッスンをしに行く暇はないですし場所もありませんからこのままでいくしかありません。見に来てくださっている方々は失望するでしょうが...腹をくくりますか。最悪アイドルを辞めることになるでしょうけど、私の責任なので文句は言えません。
「...大丈夫? 否。険しい顔してるわよ」
「おや、これは失礼しました。ありがとうございます速水さん」
急いで表情を戻します。全く、何のためにバイトでポーカーフェイスを身に付けたのやら。こういう場面で使ってこそでしょうに。
「......」
「...速水さん?」
「...いえ、なんでもないわ」
「?」
どうしたんでしょうかね速水さん...緊張、されているんでしょうか。なんとなく、らしくない感じがします。
そういう面から見ると、私も緊張しているのかもしれません。なんとなく不安になるような感じがしてしまいます。
とりあえず一度内心を落ち着けるため辺りを見渡してみます。既に皆さん、ステージ用の衣装になっている状態です。
皆さん、かなり似合っています。とても眩しいほどに...クローネの衣装の基調となっているのは黒ですが。
当然ですが、私の衣装も黒が主になっています。というか私を含めた全員以前のPV撮影で着たやつまんまですね。簡単に私の衣装を説明するとタキシードレスです。
...おや、誰かの足音?
「すいませんクローネの速水さん、スタンバイお願いします」
「...」
...もう、ですか。最初である速水さんが呼ばれた、ということはそうなんでしょうね。
チラッと皆さんの顔を伺ってみますと、全員の顔つきが強張ってます。速水さんに至ってはもうすぐだからでしょうか、かなり表情が固くなってます。うーむ、これではいけないですね...
「速水さん」
「...否?」
...咄嗟に声をかけてしまいました。
あ、確かここで『頑張って』は逆効果なんでしたっけ? ええとじゃあなんと声を続ければよいか...しかし声をかけてしまったからには何かを続けなくては......
「...今日は、楽しみましょうね!」
「......」
...やっちまいましたよ私。これって『頑張ってください』とほぼ同じじゃないですかぁ! あぁ私としたことが、さらに緊張をさせてしまうことに...そもそも声をかけてしまった時点で失敗でしょうに! うう、申し訳ありません速水さん...
「...ありがとね、否」
「...へ?」
「じゃあ、行ってくるわ」
「あ...」
何故か私に微笑みを向けたかと思えば、そのまま控え室を出て行きました。心なしか、少し肩の荷が降りていたような...幻覚でしょうが、そうであってほしいですね。
心の中ですから許してくださいね速水さん......頑張ってください。
─────────────────────────
クローネの番がやって来ました。最初である速水さんですが、特にアクシデント等はなく、無事にステージを終えて来ました。歓声も凄まじく、成功したと胸を張って言えるでしょう。
それに勢いが付いたのか続けてアナスタシアさん、塩見さん、宮本さんもあまり緊張を様子はなく、無事にやりきっていました。宮本さんが緊張していたとき無表情で怖かったのでもとに戻ってくれて割とほっとしてます。
さて、現在ステージにいらっしゃるのは大槻さんです。彼女もさほど緊張の色は見えず楽しそうに踊ってます。やはり完成度は高い...私とは大違いです。曲の終盤に入りましたが、綻びは全然見えませんよ...
そうこうしている内に大槻さんの出番は終了。続けての出番は鷺沢さんと橘さんのユニットの出番のはず...ええ、確かにそうでした。
...おや、何やら妙に控え室の外が騒がしいですね...
「何かあったんでしょうか?」
興味本位で控え室から出てみると──何やら会話が聞こえてきました。
「鷺沢さん、緊張でダウンしちまったってよ」
「マジか...とりあえず、上にどう動けば聞きにいく!」
「俺は向こうの人探して伝えてくるわ!」
...今の話...
私は控え室から出てステージを出るところへと向かいます。そこにいたのは...蹲ってる鷺沢さんと、それに声をかける橘さん、そして忙しく走り回ってるスタッフさんたちでした。
私は迷わず鷺沢さんのもとへ行き、顔を近づけ声をかけます。
「鷺沢さん、まずは深呼吸をしましょう。私に続いてください」
わざとらしく呼吸の音を大きく立て注意を引きます。それに気付いてくれたのか、鷺沢さんは私の真似をして深呼吸を始めました。
...この調子では、ステージに上がるのは厳しいかもですね。
「橘さんは水をお願いします。コップ一杯を医務室に」
「わ、分かりました」
「鷺沢さん、医務室へ行きましょう。立てますか?」
鷺沢さんは一回コクリと頷き、自力で立とうとしますが...転けてしまい立てなさそうです。確かにまだ身体は震えていますからね...私の身体がもう少し大きければ鷺沢さんを支えれるのですが...と、悩んでいると、速水さんと女性スタッフさんがやって来ました。
「私達が代わりに医務室に連れていくわ...文香、行くわよ」
...ふぅ、なんとか鷺沢さんの心配は一段落と言ったところでしょうか...さて、ここで問題となってくるのは出演順です。橘さん、鷺沢さんユニットが出られないとなると代わりに誰か出なくてはならないでしょう。そうでなくては観客の皆さんに迷惑がかかりますからね。
とりあえず美城さんに報告をすべきでしょうが...
「あの人どこにいるの?!」
そうです。大槻さんの言う通り、どこにいるのか分からないのです。一応そこら辺のスタッフさんに連絡するよう言っておきますか...おや、ステージ裏のほうで声が...
「出演順を入れ替えなくては...」
「...そうですね、なら──」
...その権限を持つ方がいるのでしょうか。なら、話は早いですね。
「私が出ます」
「! 貴女は...」
「プロジェクトクローネ所属ヌヌ葉否、17歳です。出演順を入れ替えるならば、先に私を出してください」
「...しかし、」
「時間があまりありません。すみませんが、早めのご決断を」
「...やむを得ません。分かりました。ヌヌ葉否さん。よろしくお願いします」
「了解しました」
おや、どうやらシンデレラプロジェクトの皆さんが場繋ぎをしてくれていた様子...本当にありがとうございました。
「待って、否」
「...渋谷さん?」
どうしたんでしょう。かなり真剣な表情です。
「緊張、してるよね?」
「...ええ、していないと言えば嘘になります」
「やっぱり、身体震えてるよ」
...あれま、流石に震えは消せませんか。これを隠せるようになれば完璧なんですけどね。
「...私達が先に出ようかって聞こうと思ったんだけど...意志は固そうだし、代わりにちょっとだけアドバイス...いい?」
「なんでしょう?」
「...ステージに出るときに好きな食べ物を言ってみてよ。気合いが入りやすくなるから」
「なるほど、それはいいことを聞きました。ありがとうございます渋谷さん」
「役に立てたなら良かった...あ、もう一ついい?」
「どうぞ」
「否ってさ、かなり他人行儀だよね。誰に対しても。なんかむず痒く感じるから、せめて名前で呼んでよ」
「...へ?」
「ほら、『凛』って呼んでみて」
「えっと、あの」
「.........」
「...凛さん、で許してください」
「...ま、今はこれでいいかな」
...なんかやりきった感出してますね渋谷さ...凛さん。
「あの、何故私にこんな話を...?」
「なんか放っておけないんだよね、否って。だから...かな?」
「...そうですか?」
なんか複雑な気分ですね...遠回りに危ない人認定されてませんかね?
「すみません。ヌヌ葉さん、お願いします!」
「あ、はい!...では、失礼します」
「うん、行ってらっしゃい」
ステージ裏に立ち一呼吸おきます。
さて...好きな食べ物、ですか。特にこれというものはないのですが...そうだ、あれでいきましょう。いつもお世話になってるあれです。
「五秒前!」
四。
三。
二。
一─────
「──カロリー、メイトォ!!」
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22
「...ねぇプロデューサー、冬のシンデレラの舞踏会ってさ、出来るだけ杏達の要望聞いてくれるんだよね?」
「はい。出来る限り案を採用をさせていただきたいと考えていますが...」
「実はその舞踏会でのお願いが一つあるんだけど、いい?」
「ええ、どうぞ」
「それじゃあ言うね、それは────.........」
─────────────────────────
時間が経つのは早いもので、秋の定例ライブが終了してから一週間が過ぎようとしています。その様子は私の中ではかなり印象が強く、もはや昨日のことのように思い出せます。
実は今日美城さんに後で来るよう言われているのですが、それまではまだ時間があるので自主レッスンでもやろうかと思ってましたが、何故か橘さ...いえ、ありすさんを初めとする皆様から監視されてますので、時間まで秋の定例ライブのことについて振り替えってみることにします。反省点とかも見つけないといけませんからね。
私が凛さんに教えてくれたやり方でステージ入りしたあと、私は中央に立ち、深呼吸をしてマイクのスイッチを入れて語ります。私にはスポットライトが当てられている状態であり、かなり目立っています。
『プロジェクトクローネ所属、ヌヌ葉否と申します。先ほど放送であったように、少々トラブルが発生したため先に私がやることになりました。しかし、全力を尽くしますので、どうぞご覧ください』
スタッフさんは放送で伝えたと言っていましたが、改めて私でも観客の皆さんに伝えます。そこで何か反論が来るのかと少し警戒をしていたのですが、逆に《頑張れー!》という応援の言葉が聞こえました。なんと優しい方々なのでしょうか...思わず感動してしました。
しかし私はそれを抑えつつ、続けます。
『では聞いてください、私のデビュー曲...「I AM DREAMING」!』
それを言った直後、曲のイントロが流れ始め、同時私は目を瞑り、右手を正面を通して真上へと曲に合わせて少しずつ上げていきます。その際指は親指と中指を合わせている状態に。
そして右手が真上へと到達し、曲も一瞬止んだ時、指を弾いて目を開け、囁くように呟くのです。
『───It's begin.』
...実は、この後のことはよく覚えていません。頭に本番前に立てた修正案などなく、もうとにかくがむしゃらに踊り歌っていました。
───そして、気付いたら曲が終わっていたのです。いつの間にか最後のポーズを決めていて、息が切れている私。そして聞こえる観客の皆さんの拍手。じわじわと、自分はやったのだ、為し遂げたのだという実感が沸いてきました。
なんとも言えないこの高揚感。もっと踊りたい、もっと歌いたいという欲求。そして...今まで感じたことが少ない「楽しい」という感情! 仕事の時とはまた違う楽しさ!!...これが、私の生きる意味...に繋がるのかもしれません。
表情がにやけていくのを堪えつつ、最後の挨拶を告げます。
『ありがとうございました!!』
その後は無事に落ち着いた鷺沢さ...文香さんとありすさんが私の次に、さらにその次にトライアドプリムスが出て、無事に秋の定例ライブの幕を閉じました。
その終了後にクローネの控え室で祝賀会みたいなのをしたのですが、その際に凛さんにのみ名前呼びをしていると...皆さんに何故か文句を言われてしまいました。そしてそこから色々あり、結局クローネの皆さんを名前呼びすることになったのです...どうしてこうなったのか。あと一人だけ名前呼びされてた時の凛さんが少し得意げな表情をしていたのは何故なのでしょう...
まぁ、ともにもかくにもこんな感じですね。
うーむ...肝心なライブをしていた場面を覚えていないのは残念です。美城さんに会いに行くとき、ついでにライブ映像があるか確認してみましょうか。
──おや、気付けばこんな時間に...そろそろ行きますか。
「否さん、どこへ行くんですか?」
「本日は美城さんから呼ばれていましてね。今から常務室に行くところです」
「...そうですか」
ありすさんから疑いの目線が持たれてますが、私の進路方向にはレッスン出来るような場所は無いのでそんなに疑わなくてもいいですのに...まぁいいです。
ふむ、そういえば美城さんと直接対面するのは久しぶりでしょうか。ライブ終了後に軽く全員に対して「よくやった」的なことを言ったぐらいですから...怒られはしないでしょう。きっと、ええきっとですけれど。
そんなことを考えている内に到着しました。ノックを4回し、自分の名前をいいます。少しすると「入りなさい」と言われたので入り、ソファに掛けろとも指示をされたのでソファに腰を掛けました。美城さんの雰囲気からして怒られる案件ではなさそうです。
「久しぶりだな...こうして君と一対一で話すのは」
「そうですね。時が流れるのは早いものです」
「そうだな...さて、少し話をするとしよう。先日の秋の定例ライブの感想を聞かせて欲しい」
「分かりました」
私は先ほどまで考えていたことを隠さずそのまま話します。あの高揚感や達成感、もっとやりたいという感情。そしてそれが、生きる意味に繋がるものなのかもしれないということも。
「──そうか」
一つそう言い、美城さんは考え込むような姿勢になりました。そして十秒ほどし、美城さんは私にこう言いました。
「一つ、君に話がある」
「...なんでしょう?」
「冬に行われる『シンデレラの舞踏会』を知っているだろう」
「『シンデレラの舞踏会』...ですか」
勿論知っている...というか、最近美城プロダクション内で噂になっていることですね。詳しくは知りませんが、何やらシンデレラプロジェクトを中心に計画されているそうで、プロジェクトの壁を越えて声がかけられているそう。
「定例ライブよりも大きなライブであることは間違いない。よってプロジェクトクローネもそれには参加するのだが、君個人にはクローネとはまた別件で話が来ているんだ」
...妙に胸騒ぎがします。
「...ちなみに、その話はどこからでしょう?」
「シンデレラプロジェクトの...双葉杏からだな」
「杏から...?」
右手が震え始め、思わず左手でそれを抑えます。
...なんでしょう。この感覚は...
「そう、君には───
───舞踏会で、双葉杏とユニットを組んで貰いたい」
やめて! まだ色々不安定な否にこんな提案したらトラウマストレスがマッハになっちゃう!
お願い死なないで否! 貴女が倒れたら皆が心配しちゃう! まだ理性は保ってる! ここで話を断ればこれ以上酷くならないで済むんだから!
次回、「否死す」。デュエルスタンバイ!
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23
繋ぎの回なので短めです(いつもの)
時が止まるのを感じた。目の前の景色全てが静止していく。それを合わせて呼吸、鼓動、思考──あらゆるものも静止していった。
────今、なんと言われた? 杏と...ユニットを組めと?
何故、どうして、等の言葉が頭をループする。いつもならある程度汲み取れる美城さんの意図が今回に限っては全く読めない。答えのない問題を解いている気分だ。
「......何故」
なんとか、その一言を言えることが出来た。かなり小さめな声であったが、美城さんの耳にその音は届いてくれたよう。
「それはどういうことに対しての『何故』かな?」
──そういえば...と、呼吸をしていなかったことを思い出し、一度深呼吸を挟んでから先程よりは大きい声でそう告げ......ます。
「......何故、私なのか、です」
...深呼吸のお陰で少し、冷静さを取り戻せました。それと同時に身体の震えが復活しますが、抑えれない程度ではないです。ええ、まだ、この程度なら大丈夫です。
「そうか...」
ふむ、と一言呟かれた後、美城さんはスッと座り直し、改めてこちらを向きました。
「まず、この案を出したのは私ではない。シンデレラプロジェクトの双葉杏だということは先程も言ったな」
「...はい」
そもそもそこです。杏が何を考えてこの案を出したのか、それが不明なのですから。
私と杏は外見は似ていますからね。それを売りに出す...というのにしても、時期が早いと思います。こちらはまだデビューしたての新人なのですから。
「...本人の強い希望といるのが一番の理由だ。それ以外は本人に聞きたまえ。同棲しているのだろう?」
...痛いところを。
というか美城さん何気に心読んでませんでしたか? 表情に出ているのでしょうか...ポーカーフェイスのつもりなのですけれど...
「...ん?」
ふと、美城さんの言われた最初のほうの言葉が頭を過りました。
『君には舞踏会で、双葉杏とユニットを組んで貰いたい』
──待ってください。『貰いたい』...? この言い方ではまるで...
「...あの美城さん」
「どうした」
「美城さんは、もしかしてこの案には賛成なのですか?」
まだこの案は提案段階なのです...が、私が受けるか受けないか次第で事が決まるところまで来ているみたいです。
しかし断る、断らないの前に美城さんの意見を聞かなくてはなりません。新人が自身をプロデュースしてくださる人の意見を無視することなどあってはならないものですから。
内心私は祈りながらその問いの答えを待ちました。
「──そうだな、私としては君には出てほしいと考えている」
───嗚呼、これでもう私の中に『断る』という選択肢が消滅してしまいました。震えがますます強くなっていきますが、無理矢理抑え続けます。
...本心を言えば、断りたかった。杏と同じステージに立つこと...『比較される』ことが嫌ですから。正直、今すぐ吐きたい程気分は悪いですが耐えます。耐えなくては、ならないのです。
「...分かり、ました」
...覚悟を決めましょう。
「やります。是非、やらせてください」
もっと文章上手くなりたいですねぇ...
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24
今回は杏さん視点でお送りさせて頂きます。
それではどうぞ。
───否と一緒にユニットを組みたいんだ。
そう自身のプロデューサーに告げてから一週間。思っていた以上に話がトントン拍子に進んでいたせいか、今日から初のユニット練習となる。正直もうちょっと渋ったり、悩んだりするものなのかなって思ってたらから割とびっくりした。
家で否が、何でユニットを組もうと思ったのか、と聞いてきたけど、私は敢えて本当のこと──否のことをもっと知りたいから──を言うのはなんか恥ずかしいから避けて、それらしいことを言った...はず。適当にでっち上げて言ったからあんまり覚えてないんだけどね。
...私って、否のこと気にかけてはいたけど、全然本人のこと知らないんだよね。否の好物とか、否の生い立ちとか、否のお父さんやお母さんとか......多分だけど、否のお父さんって私のお父さんの弟...だと思う。弟がいるって言ってただけで実際にその人には会ったこと無いんだけどさ。いや覚えてないだけかもしんないけども。
それを強く自覚したのは、否と初めて346プロ内で会ったとき。あの時は内心かなりびっくりしてたからね。アイドルみたいなのと無縁だった否がアイドルになんてなってるなんてさ。しかも理由が『生きる意味を見つけるため』と言ってた。ここでさ、私と否の距離が急に遠く感じたんだよね。前からそれは感じてはいたんだけど、その件でそれが思っていたよりも深いものだと知った。割と近くにいるだろうと感じてた否が、実はそれは幻影で、本当の否は見えないどこかにいる...そんな感覚だった。それが妙に嫌だって感じたのも覚えてる。
だから、否のことを深く知るためにユニットを組ませてもらった。これで否の全てが知れるとは思ってはない。だけど、その切っ掛けには繋がってほしいなとは思ってる。
...でも、その思いとは裏腹に、否はなんか不調になってきている。例として、最近の否はなんかいつもの否じゃないような行動を連発しているところがある。
つまり、ここ最近はどこか様子が変になってるのだ。どういうことかと言うと...何かから怯えるようにして周りをキョロキョロしてたり、心臓部分を掴んで自分に『大丈夫』と言い聞かせていたり、飴を忘れてたり...ん、最後がおかしい? ...実はね、否は毎週一定数の飴を作っているんだよ。それを7日分に分けて袋に詰めて杏にくれるんだけど、今日に限ってはそれがなかった。まぁまだ数個残ってるから大丈夫なんだけど...否は自身のルーティーンを忘れることは絶対にないはずなのに、なんで忘れたんだろ...
ダンスレッスンの時間になって、私が着替えてレッスン場へと到着すると......既に否がいた。髪はいつものポニーテールだけど、格好は全身ジャージという私にとっては見慣れない姿だった。
「やほー、否」
「ハァ、ハァ......おや杏、どうもです」
...否が息を切らしてる? あの否が? あのワーカホリックな性格とマッチしてる異常な体力を持ってるあの否が? トレーナーのダンスレッスン二時間ぶっつづけを割と楽々耐えてたらしいあの否が?...珍しいこともあるものだね。
「もうレッスン始めてたの? まだトレーナー来てないのに」
「ええ...自主レッスン、ですよ」
汗を拭きつつ、息を整えながら否は答える。なんか元気があんまり無さそうに見えた。
「自主レッスンって...まだ曲とか決まったわけじゃないのに」
「だからこそ、です。既存の全体...いえ、ユニット曲のダンスを粗方調べ、踊れるようにしておけば、すぐ対応出来ますし、新曲だとしても勉強したダンスのとある部分が応用されて使えるかも知れませんから」
「...やりすぎだと思うけどなぁ」
妙に張り切ってるような...少なくともなんかいつもの否じゃないことは確かだね。
あ、トレーナーが来たね。じゃあ否とのレッスン...いつもよりかは頑張りますかぁ。
─────────────────────────
───初レッスンから3日が経過した。その時に曲が発表されたんだけど、なんと新曲。でもそこまでダンスや歌い方が難しいってわけじゃなくて......いや、この話はどうでもいいや。
今は3日目のレッスンを全て終えたところ。完成までには程遠いかもだけど...それ以上に気になるのが否のことだ。
件の否のことなんだけど......やっぱりおかしい。
最初に、かなりミスが多い。ダンスにしろ、ボイスにしろ、何かと細かいミス──否なら絶対にしないだろうってミスが多発している。2日目あたりに本格的に不調なら休んだら? って声は掛けたんだけど、否はこれを拒否。何か焦った表情でやりますって言ったからそれ以上杏は何も言えなかった。心配だから気になる度に声かけはしてるんだけど。
次に...やっぱり何かに怯えているような妙な感じの行動を繰り返している。それについて尋ねてはいるけど、尋ねる度になんでもないですよって誤魔化される。その時の微笑みが痛々しいものだってのには気付いているんだけど...そこから先に進めない。
そういうところにやきもきしながらも、否とのレッスンを続けていた。
──って、とりあえず振り替えってみたけど...今一番心配なのは否のことを知れないってことじゃなくて...
「...否、大丈夫?」
「...はい、大丈夫です」
...目の前にいる、なんか目の焦点があんまり合ってないで一人で突っ立っている否本人のことなんだよね。
「ホントに大丈夫? 何度も言うけど、少しくらい休んだら?」
「いえ...やれます。やらなくてはならないのです」
「焦ってもどうにもならないって。たまにはサボっちゃおうよ」
「そんな暇などありません。とにかく、もっと...もっとレッスンしなくては...」
あ、これダメだ。今までは正気だったけど、この否は無理矢理にでも休ませないとダメだこれ。
...よし。絶対に明日は休ませよう。そのためになんか一人で自主レッスンしようとしてるやつを無理矢理にでも連れて帰らないと。
「ほら否。もう今日は帰るよ。今日のご飯は作ってあげるから」
「まだ、足りないのです...まだ、まだやらないと...」
「とりあえず明日は絶対に休む、いいね?」
とにかく連れていこうと、否の手を握って引っ張ると────
ドサッ
────え?
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25
次も含めて急展開っぽいので賛否両論ありそうですが...最初から考えてたことなのでお許しを...
ではどうぞ。
「───過労、です。かなり酷いので相当な疲労を溜め込んでいたのでしょう。しかし命に別状はありません。危なかったですね、もう少し後だったら命が危うかったかもしれません。ですが、暫くはこちらの方で安静にしておいたほうがいいでしょう」
「...そう、ですか」
「............」
否が倒れて、緊急搬送された。
今、私とプロデューサーがいるのは否が搬送された346プロから一番近い病院。否が寝ているベッドの横から否の担当医から症状を聞かされたところだ。
そういえば...初めてかもしれない、否の寝顔なんて...こんな形では見たくなかったけど。
「...双葉さん」
プロデューサーが声を掛けてきた。顔を否からプロデューサーの方へと移すと...何やら深刻そうな顔つきをしていた。
「申し訳ありませんが...ヌヌ葉さんが倒れてしまったことにより、限定ユニットを解散ということになります」
...そこまで、驚かなかった。覚悟はしていたんだと思う。予測も出来ていたんだろう。
本音を言えばやりたい。まだ否を知りたいし、足りない。でも、結果この様だ...
...それにしてもやっぱり気になる。何が否を──
「...一体、何が彼女をここまで突き動かしたのだろうね?」
ガラッと扉が開き、否の病室にとある人物が入ってくる。その人は...私が割とよく知る人物だった。
「今西さん...」
「すまない、双葉君に少し話があるんだ」
「...わかりました」
「助かるよ」
プロデューサーが病室から出ていき、代わりにさっきプロデューサーがいた位置に今西さんがやって来て、否のことを優しげな目で見つめる。
今西さん...プロデューサーより立場が上の少し老けた男の人。かなり優しくて何かあればアドバイスをくれる人。最近はあの常務のところによくいるからあまり会ってないかな。
「ヌヌ葉君の...いや、ここは敢えて名前で呼ぼうか。否君のことはカフェでアルバイトをしている時から見ていてね。10代にして働くことに異常なまでに関心を持ち、アイドル候補生になってからもレッスンの休日でもバイトをするほどだった...」
「......」
「ただのワーカホリックではない...そのことは分かってるね?」
「...うん、そりゃあね」
「ここまで否君を突き動かしたのはなんだと思う?」
この人も気づいてたんだ。否の異常性に...
...私が分かってるのは『否は何かから逃げている、恐れている』ってことだけ。その『何か』は私は知らないし、知りたい。だけど現状それを知る方法はない。だけど...
「...分かんない。だけど、きっといつか教えてくれると思う」
「どうだろうね、私は君に教えることは決してないと思うよ」
「...どういうこと?」
いつものような微笑みを浮かべて諭すように今西さんは続ける。
「否君はおそらくね、知られてほしくないのさ。特に杏君、君にはね」
「...なんで?」
「誰にも言えないほど酷いもの、と私は思うよ。それか杏君を巻き込みたくない、とかかな? どちらにせよ、否君の本意は否君にしか分からないけれどね」
優しい目付きで否に目をやる今西さん。
「実はね、否君が346プロにきた経緯には私の知人が関わっているんだよ」
「知人?」
「そうさ、もうずっと前のね...そして最近、否君の件で久々に連絡してきたんだ。うちで務めてた否君をそっちで働かせてほしい、とね。それも必死にさ」
その知人って、もしかして否の前のバイト先の人かな...結局何が言いたいんだろう、と少し疑問と苛立ちが出て来はじめたけど、まだ何かあるだろうと思って続きを待つ。
「その必死さに理由をあまり聞くこと無く話を通して346カフェを紹介したんだけどね。偶然346プロも人手不足みたいだったから...と、それはいいか」
少し苦笑し、更に続けた。
「──彼なら、否君について...ここまで否君を突き動かせさせた何かを知っているかもしれない」
「!」
───その言葉に、私はピクッとした。
「最初私はね、否君の容姿関係かと思ったんだよ。否君の容姿は杏君にそっくりだから、それ関係かなってね。実際、時期も杏君のデビューして少し経った頃だったしねぇ...でも、彼の必死さはそれが原因だとすると少し弱い気がしてね...何か他にある、そう感じたんだよ」
.........
「あくまで可能性、だよ。でももし、否君のことが知りたいなら...彼のもとを訪ねるといいかもしれないね」
そう言って今西さんは懐から折り畳まれた紙を一枚渡してきた。受け取ってそれを開いてみると...とある場所に印がつけられている地図だった。しかも、そこは346プロから近くの場所だった。
「...これは?」
「彼がおそらくいるところさ...といっても、これは彼から連絡を受けた時に渡されたんだけどね。いずれ使うだろう、って」
...その人が何を知っているのか分かんない...けど、ここで迷っているだけじゃ始まんないよね。
「...」
「...そろそろかね。じゃあ、私はここで失礼するよ。それを生かすかどうかは任せるからね」
最後にそう告げた後、今西さんは病室から出ていった。それと同時に交代でプロデューサーが入ってくる。
「...これから、どうされますか?」
...敢えて話の内容は聞かないんだ。ありがとねプロデューサー。
「...ちょっとさ、杏用事が出来たんだ。今からそっちに行くから」
「では、その場所まで送りましょうか?」
「いや、いいよ。意外と場所は近いし、一人で行けるから」
「分かりました...では、先に失礼します」
プロデューサーも出ていってしまい、ここにいるのは私と否だけになった。
点滴されてて、酸素マスクみたいなのをつけられて静かに眠っている否の頭をなんとなくそっと撫でてみる。
「──早く起きてね。飴、楽しみにいつも待ってるから」
ポケットの中にある無くなりかけている飴の入った小さな袋を握りしめ、私は病院を出て、地図を頼りに目的の場所へと向かい始めた。
これから投稿ペースはガタッて落ちます。
最悪の場合一年後とかになるかもしれません...すみません。
必ず完結はさせるので待ってくださると嬉しいです。
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26
確かに忙しいけど今年中に完結させろと自分も含めた誰かに言われている気がするのでがんばります...!
展開急ですがいつものように最初からきめてたことなのでご了承を...
────ふと目が覚めた時、私は謎の空間にいました。ぐにゃぐにゃとしてる変なところ、現実的ではない空間です。ふむ...どこなのでしょうか。前も後ろも、上も下もない感じの不思議な場所...多分、夢なのでしょうね。
試しに頬をつねってみますが痛くありません。夢確定ですねこれは。夢を見るなんて久しぶり...でもないのでしょうか。
どうやら私はいつの間にか眠っていたようですね。ふむ、一体どうして眠ってしまったのでしょう...何か重要なことをしていたような...?
...ダメですね。思考がはっきりしません。目覚めたら思いだしそうですが、目覚め方が分からないのでどうしようもなさそうです...
『あっ、起きた?』
...おや?
『いやー、このまま起きてこないとかあったらどうしようかと思ったよー』
......?
『無茶しすぎだよ流石にね。だから倒れちゃうんだよー』
......
『...あれ、これ気付かれてない感じ? 見えてない感じカナ?』
...なんなんでしょう、あれ。私? 容姿がめちゃくちゃ私に似てる...いや、杏に似てるんですかね。性格も合わせるとですけど。
『おーい! 聞こえるー??!』
「...聞こえますよ?」
『あ、よかった。聞こえてたんだね!』
少し不安そうな表情から一転し、ニコニコした表情になる何か。
何故か近視感...みたいなのを感じます。どこかで会った...いえ、見たことがある?
「...貴女は一体...?」
『...分かんないか。そっか、そうだよね』
また表情がガラリと代わり今度は少しだけ悲しそうな表情に。凄いですねこの子...コロコロ表情が変えれるなんて。こんな時にこんなことを思うのは変な感じですけれど。
『私はね──
──「双葉否」』
...え?
『...まぁ、そんな反応するよね。覚えてないみたいだし...いや、無意識に封じ込めてたのかな?』
同情、憐れみ等を含んだ表情でこちらを見つめている「双葉否」を名乗る彼女。それが更に、私の混乱を加速させる。
『とりあえず、まずはとあるものを見てもらいたいんだ。質問は後で受け付けるから...じゃ、イッツビギン!!』
彼女に疑問を問いかけようとしたその瞬間、あやふやだった背景が徐々に鮮明になっていき─────ある映像が始まりだした。
─────────────────────────
「──ここが、例の場所...」
地図と目の前の建物を比べ、その場所が合っているのかを確かめる。今の自分の心境は、まるでラスボスの本拠地に向かおうとしている主人公か...いや例の人が悪いことをしたわけじゃないけどさ。
って言っても...これって...
「...コンビニじゃん」
めちゃくちゃ見覚えが...ってか誰でも一度は聞いたことあるだろう超有名コンビニのチェーン店。それが目の前にあった。
...でも妙だ。なんか店内が暗めなような...? 客は一人も中にいないし、店としてやっているのだろうか?
「とりあえず、行ってみようかな」
足を踏み出すと、自動ドアが開き中の心地のよい空気が私を包み込んでいく。一応やっているみたい...だけどやっぱり暗い気がする。
「いらっしゃいま───おや、否ちゃん?」
「え?」
店の奥から出てきたのは若々しい男の人だった。『否』と呼んでいたことに少し警戒していたが、よくよく考えると...否ってコンビニでバイトしてたんだよね。しかも346プロからかなり近めのとこの。多分ここでバイトしてたんだな、と察して少し警戒を緩めた。
「否の知り合いなの?」
「ん? おや...否ちゃんじゃなかったか。すまないね。否ちゃんは前にここでバイトをしていたんだよ」
なるほど、予想は正しかったみたいだ、ということで私は今度こそ警戒を解いた。
「えっと確か君は...双葉杏さん、だったかな?」
「...知ってるんだ」
「そりゃそうさ! 君は人気者だからねぇ...とは言っても、最近までは詳しく知らなかったんだがね」
何かを懐かしむように男性は告げた。
「あ、そうだ。最近否ちゃんはどんな感じ? あの娘ここにいたときからワーカホリックでさ。全く休もうとしなくてさ? 大変だったんだよ」
「否...」
相変わらずワーカホリックなのはどこも変わってないようだった。そんな否に呆れると共に、改めてここに来た理由を内心で確かめた。
「...ねぇ、その否のことで話があるんだけど」
「!...何かな?」
──一瞬、ほんの一瞬だけど、何故か動揺していた。何で...?
「知り合い...なんだよね? 今西さんと。その今西さんから言われて来たんだ」
「今西君が...
───そうか、もう
「!!!」
雰囲気が、変わった。
見た目は、何にも変わってはない...けど、きちんと変わった。
風格...いや、佇まい? そんな感じなものが変わった気がした。
人じゃない...本能がそれを感じたのが全身に伝わっていく。
「...立ち話ではアレだし。奥へ来てくれるかい?」
「う、うん」
言われるがままに男性の後を着けて店の奥へと向かう。連れてこられた場所は休憩室みたいなところで、机が一つ、パイプ椅子が2つほどあった。ここだけ明るさが他よりあるような気がした。
男性に言われ、パイプ椅子に腰をかける。男性もそれを見た後、自身も腰をかけて考えるような姿勢を作った。
あれらの反応から察するに...この人は絶対何かを知ってる。バイトでの出来事ならここまで神妙になることはないだろうし、何より嘘を言ってる目はしてない。芸能界に入ってからある程度嘘を言ってる人の目は見抜けるようになったけど、この人は嘘はついてない目をしてる。
「...さて、何から話そうか」
「......」
彼は一拍置いて、続けた。
「その前に、少し昔話をしようか」
「...え?」
何を言ってるんだこの人...?
「これは、ちっぽけな神様が偶然見つけた不幸な少女のお話。...だけど、この少女の話をする前には、この娘の父親の話をしなくちゃいけない」
「ふ、ふざけないでよ!! そんな話をするために来たんじゃ──」
「まぁまぁ、とにかく聞いてくれ。実はこの少女はね...否ちゃんにそっくりなんだよ。色々とね」
「否に...?」
...意図は分かんない、けど、話を聞く価値はあるかもしれない。そう思い、一旦引っ込めた。
「そうさ、だけどその前にその少女の父親の話をしよう。じゃ、始めるよ──」
目の前には昔話を話す男性一人しか映ってない...そんなはずなのに、私の周りでその話が映像化されて、それを見ているような錯覚を味わいながら、話に耳を傾け始めた。
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27
いつもながら急展開ですが、どうぞ...
むかしむかし、あるところに一人の男がいた。
そして、男には双子の兄がいた。その兄は所謂『天才』と呼ばれる存在。一度やらせれば初めての事でも人並みに、二度やらせれば上級者に近いレベルで何でもこなすタイプの人間だった。更に兄は人柄も良く、友人も沢山おり、充実した毎日を送っていた。
では、弟である男はどうか? 彼の人生は悲惨なものだった。頭は良かったが兄ほどでなく、人付き合いは苦手で殆どの時間一人でいるような性格であった。
そんな双子となれば、比較されるのは当然のことだった。男は、
『どうして兄は出来るのに、貴方は出来ないの?』
『どうして兄と違ってお前は何も出来ないの?』
こんなことを常に言われ続けていた。
男は努力家であった。なんとか彼らを見返すため、必死に勉強したり、走り込みをしたりした。兄が手を出さないようはジャンルのことに取り組んだりもした。
確かにそれで一定の評価な貰えた...だが、それだけだった。結局は、兄ならもっとやれる。もっと上手く出来るなど言われ、挙げ句の果てには弟と仲良くなりたいということでそのジャンルに兄まで取り組んでしまった。
いつも注目されるのは兄。皆口を揃えて兄、兄、兄だとほざく。
男は考える。何故、こんなことになったのか。何故、自分はこんな目にあってしまうのかを。
そこで、彼は思い至ってしまう...全てあの『兄』のせいだと。
それから、彼は兄を憎み始めた。兄に注目していたやつらをいつか見返してやると常に思い続けた。
だが、それは殺人衝動ではない。前述したように、兄ほどではないが彼は頭は良かった。殺したとしてもそれは意味が無いことであるし、殺すなんてとても出来ないからだ。
何かしらのことで見返す。そのために彼は生き続けていた。
高校を卒業してからのこと。彼は親元を遠く離れ、連絡などせずに静かに暮らしていた。
家を離れたお陰か、段々と復讐心が薄れたのだろう。彼は落ち着いた人物となり、恋人が出来、最終的に結ばれることとなった。彼の背景を聞いたその恋人は親を無理矢理説得し、本当にあまり人を呼ばず些細な結婚式を挙げた。このままいけば、彼の人生は平凡な幸せを味わい終えれた──────このままだったなら。
結婚してから暫く、彼のもとに一つの噂が届く。それは──兄は結婚し子供がいる、という知らせだった。
信憑性なんてない。兄というとは男の兄ではなく別の人物の兄だったのかもしれない...だが、男はその噂が事実であると感じるとると共に、復讐心がまた芽生えだしてきた。
そこで男はとある策を思い付く。それは...自分の子供が兄の子供を超えれば、自分は兄を超えたことと同じであると。暴論かもしれないが、彼はそれを目標にし始めた。
しかし、彼ら夫婦には子供がいなかった。というより、出来づらい体質だったのだ。そこで男は孤児院から子供を一人引き取った。奇しくも、その容姿は兄の子供とそっくりであったらしい。妻の反対を無理矢理押しきり、子供に彼は名を──『否』と名付けた。
─────────────────────────
「『否』って...」
「彼が何の意図でこの名前を着けたのかは不明だけど、予測は容易に可能さ。自分の子供だけど自分の子供じゃない。ただ兄の子供を超えさせるためだけの存在。そんな意図が含まれている...みたいにね」
「.........」
「...続けるよ」
─────────────────────────
男は妻に一緒に男の実家へ行くよう頼んだ...いや、指示をした。その頃は男の急激な変化により、妻は怯えて従うくらしいか出来なくなっていたためだ。理由は、兄の子供を一目見るため。否に兄の子供見せるためでもあった。これがお前が超えるべき存在だと分からせるための。
この頃は、男は否に対し普通の教育を行っていたため、否は名前によらず、明るい性格であった。
そして、親戚が集まる日...男達は実家へと言った。偶然にも、兄の子供と否は同い年、なんと容姿もそっくりであったためか、すぐに仲良くなった...なって、しまった。
内心で何をしているんだと男は怒り、兄や兄の子供に対し憎しみを交えつつ表面はにこやかに親戚に接し、着実に情報を集めていた。男の内心を知っている妻からすれば、その怒りで身を震わせていたが。
そこで得た情報はこんなものであった。
『兄の子供は兄に負けず劣らず天才だ。昔の兄を見ているようだよ』
男に更なる怒り、憎みが包み込む。
やめろ! また俺を苦しめるつもりか!! どれだけ俺を苦しめれば気がすむんだ!!
...いや、これを超えさせればいい。あいつには兄のガキを超えさせる。そうすれば───!!!
──そこからが、悲劇の始まりであった。
男は否に数多くの習い事をさせ、トップになることを強要した。出来なければ、男が気がすむまで、その身に直接
否は最初こそ喚き、助けを求めたが────助けなどないことを自覚すると、男に怯え従順になった。明るい性格など消え失せ、相手の機嫌を損なわないため常に敬語を使って話すようになってしまった。
その頃の妻は子供を助けないとと思う母親としての精神、虐待を平然と行う男へと恐怖との板挟みになり、精神を病み、病院に収用されてしまった。口がまともにきけなくなったため妻の実家は男に事情を聞こうとするが、男は平然と嘘をつき、実家側は見事に騙されたという。
否に対しては、妻は交通事故で死んだと男はまた嘘をつき、否の逃げ場になるかもしれなかった場所を完全に無くしたのだった。
否はトップに君臨し続けた。そうしなければ、自分が苦しむから。もう、痛いのは嫌だから。否は逃げるように打ち込み続けたのだ。ただがむしゃらに、ひたすらに。
─────────────────────────
《何でこの程度のことさえも出来ねぇんだよ!!》
《糞が!! 何のために生かしてると思ってんだ!!》
《お前に双葉を名乗る資格なんて無い...そうだ! お前は今日から『ヌヌ葉』だ!! 糞みたいな名字だろ? お前にはそれで十分だ!!》
「...止めて、ください...! 嫌です、嫌...もう、見たくない...!」
『うん...私だって...でも、向き合わないといけない。私はもう覚悟は決めた...でも見て? こんなに私も震えてるの...でも、乗り越えないと...』
「...乗り越えることに、意味...あるの?」
『
「...わか、りました...それに意味が、あるなら...乗り越えて、見せます...!」
『うん、頑張ろう...
─────────────────────────
父親である男の言いつけを守り、トップを取り続けた否だったが、学校ではそうもいかない。勉強時間はいいとして、何もやることがない時間がある程度できる学校で否は手持ちぶさたになってしまった。
そこで否が無意識に目を着けたのは──『仕事』であった。最初は教師の手伝い、学級委員、生徒会の役員など、とにかく現実を忘れさせる忙しいものに取り組み始め、最終的には男をなんとかの思いで説得し、バイトを始め、無理矢理帰宅時間を遅らせた。
そこから、否の仕事中毒は始まっていくのだった。そんな否に、一つの転機が訪れる────
結論から言おう。男は交通事故に巻き込まれた。即死であったのだ。
否は一人になった。しかし、目の前で男が死んだのをみたわけではない。否はまたひょっこり男が帰ってきて、自分に教育をしてくることを恐れた。習い事はお金の都合で辞め、現実逃避するためにバイトへと打ち込み始めた。
いつしか、仕事をすることが生きる意味となっており、そのように暮らしていた。あの日が来るまでは───────
─────────────────────────
「──ここから先は、君でも知っているんじゃないかな?」
「............ねぇ、一つだけ聞かせて」
男性が話を終えた後、私は一つ問いを投げ掛けた。本当はもっと聞きたいことだってある。何でこんなことを知ってるのかとか、そもそもあんたは誰だとか...だが、敢えてこの質問をした。
「その神様はさ、なんで否って娘を見ていたのに助けなかったの?」
「...助けれなかったのさ」
男性は苦しそうに告げた。
「その神様はちっぽけでね。権力もほぼない形だけの神様だったのさ。だから、やれることなんて限られていた。例えば...居場所を作ってあげる、事ぐらいしかね...」
「...そっか。その神様は...見捨てたわけじゃないんだね」
「...」
「...私さ、やることが出来た。話してくれて、ありがとね」
「いやいや、ボクは昔話しかしてないよ。それで、君の助けになればいいんだけどね...」
「なるよ。勿論ね...じゃ、私行くよ」
そういって、私はコンビニを後にしようとする。すると最後に、男性は私の背中に声をかけてきた。
「あの娘を、頼むよ...ボクじゃ、何も出来なかったからね」
「...分かった」
振り向かずに答え、そのまま駆け足でその場を離れる。もう大分暗くなってしまったが...まだ時間はある。
行き先は病院。否の病室だ。
今更なのですが、この作品の良い点、悪い点があれば教えてくださると嬉しいです。参考にしますので...!
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番外2
あ、本編とかーなーり設定が変わってます。所謂平和な世界です。短めです。許して。
どうも皆さん。ご機嫌はいかがでしょうか...ふふふ、このように誰かに向かって挨拶をするのは久しぶりのような気がしますね。気のせいかもしれませんが。
おっと失礼しました。私こと『ヌヌ葉否』は元気にアイドルをやらせて頂いております。
と言いましても、私はデビューしたての新人ですのでアイドルらしい仕事というのはまだ殆どやってないのですが。しかし、今は色々と学んでいく時。毎日レッスンをして実力を着けていく時期なのです。
現に本日、何故か私は休みとなっていますが、休日でも開いているレッスン場で自主レッスンをしているところです。私はまだデビューしたてなのに何故私に休みを与えるのか...理解に苦しみますね。
さてそんな私ですが、非常に有難いことに専属のプロデューサーがついてます。このプロダクションでは、一人のアイドルに一人プロデューサーをつけてくれるという凄いものでして、同じプロダクションにいる親戚で、現実同棲していて、幼なじみですがアイドル歴が先輩の『双葉杏』も専属プロデューサーがいます。やはり中々凄いことだと思うのは私だけでしょうか。
それで、件のプロデューサーですが...ええ、悪い人ではないんです。決して悪い人なんかではないんです。寧ろよい人です。
ただですね──
「見つけたぞ否ゥ!!」
「なっ、プロデューサー!?」
「今日は休みだろ否ゥ! レッスンは禁止だぞォ!」
「し、しかし! こうしてレッスンを積んでいかなければ──」
「いいから行くぞ否ゥ!!」
「ちょ、あの! 無理矢理連れていくの止めてくださいぃぃぃ!!!」
──このように、レッスンの時以外無理矢理にでも私を休ませようとするのです。
少ーし無休憩でレッスンをしたり、少ーし皆に隠れてレッスンをしたり、少ーし何もない日にバイトを無休憩でやっただけでですよ!? 私の体力はこのプロダクションの中ではトップであると自負しているのでその程度問題無いのですのに...そのせいでバイト禁止令を出され、泣く泣く辞表を出しに行ったのはつい最近のことです。だからこの日は自主レッスンをしていたと言うのに...
「全く、ひどいと思いませんか杏!!」
「...えっと、十割否が悪いって思うのは杏だけかな」
プロデューサーからなんとか解放され、偶然そのタイミングでレッスンが終わった杏と、先程述べた以前バイトしていたところのカフェで愚痴を聞いてもらいます。共感してもらえるのを期待したのに杏は呆れた様子。何故なのでしょう?
「いやいや、何でポカンってしてるの」
「ですから、杏や皆さんのような先輩アイドルに追い付くためにはそれなりに努力しなければ...」
「だからってさ、否はオーバーワークしすぎ。絶対過労死する。それかいつか倒れるよ」
「うぐぐ...」
何故分かってくれないのでしょう...私ってそんなに貧弱そうに見えますかね? 外見は杏とめちゃくちゃ似てはいますけれども。
「うーん...なら、否って何でアイドルやってるの? そんなに仕事したいならさ、前みたいにコンビニバイトとかしてたほうが仕事量は今より多いんじゃない?」
ふむ、その疑問は確かにそうです。コンビニだけでなく、他のところでバイトしていたほうが仕事量は多いですし、満たされるかもしれません。
「そうですね...」
ですが、私はアイドルを現に今続けてます。その理由は──
「生きる意味を見つけるため、ですかね...」
「...重いし痛い」
「い、いいでしょう別に!」
杏にはきっと話したと思うのですが、私はスカウトされてアイドルになりました。それがなんと今の私のプロデューサーだったのですが。そのときに問われたのです。
『──あなたの「生きる意味」、探してみませんか?』
私は仕事が、働くことが大好きです。ワーカホリックってやつなんでしょう。
しかし、心のどこかではこのままでいいのか...なんて思っていました。少し痛いと思うかもですが、私だって年頃の女の子なんです。そんな時にスカウトされました。
「それにですね、アイドルって楽しいんですよ」
「なんだ、否はアイドルが好きなんだね」
「えぇ、そうですね」
結局それに落ち着くんでしょう。辞めない理由はそれなのですし。
「...あ、ごめん。そろそろ時間だから行くよ。打ち合わせでさ」
「なら、私も出ますかね。それと杏、これを」
「お、ありがと。やっぱりこれがないと始まらないよね」
そういって、杏は嬉しそうに私の渡した袋の中の飴を一粒口に入れます。
杏の好物は飴なのですが、何故か私の作る飴を気に入ってくれてます。まぁ美味しいと言われるとこちらも嬉しいので、次も張り切って作るとしましょう。杏の嬉しそうな顔は何かと癒されますし。
「じゃねー否ー」
会計を済ませ、杏と別れます。心なしか急いでるような...あぁ、そういえば杏は杏のプロデューサーのことが気に入ってますものね。早く会いたいとかそんな感じでしょう。
さて、では私はこれからどうしましょう。時計を見ればまだ午後3時。ならば...よし自主レッスンしましょう。先程はここのレッスン場を使ったから見つかったんです。ならプロダクション内ではない、例えば公園等のような場所でやれば見つからないはず───
「否ゥ!!」
「え、プロデューサー!?」
「まぁた自主レッスンしようとしただろ否ゥ!!」
「し、してません! してませんとも!!」
一体どこから...それより心を読まれた...!?
「ぷ、プロデューサーは自分の仕事をしなくてもいいんですか!?」
「もう今日の分は終わってるぞ!」
「速いです!!」
まだ定時2時間前じゃないですか! それなのにもう終わってるって...きっとこのプロデューサーがおかしいんです。ええ、絶対そうです。
「仕方ない...今日は買い物に付き合ってもらうぞ否ゥ!」
「へぁ!?」
「放っておくとこのまま自主レッスンしそうだからな!」
「しませんから!」
もう今日は近場では出来ませんよ! だってどこでやろうとしてもきっとプロデューサーがどこからともなく出てきそうですし...まぁ人目につかないところを探しにいくつもりではありましたが!
「いいから行くぞォ!」
「ですから! 無理矢理! 連れていかないでくださいぃぃ!!!」
熱血プロデューサーってこんな感じかな。上手くできてなかったらごめんなさいです...
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28
2019年中には結局投稿出来ませんでしたが、なんとか元旦には投稿できました。
相変わらずの低クオリティ。矛盾豊富の今作品ですが生暖かい目で見守ってくださると幸いです。
あ、軽く今回人によってはアレかもなのでお気をつけください。
「っっっっ!!!!!」
急に目が覚め、思わず身体を起こしてしまう。口の周りに着いてた何かが無くなった感覚がした。
心臓が痛む。傷口全てが痛む。肺が痛む。錯覚だと分かってはいるが痛みを感じてしまう。
荒くなり始めた呼吸を深呼吸によって沈ませ、なんとか自身を落ち着かせようと努めた。状況が読めない。とりあえず周りのことだけでも把握しなくては──
──ひとまず落ち着きました。
肺を抑えて呼吸を正常に整えつつ、辺りの景色を見渡してみます。
私が今いる場所はベッドで、先程まで寝ていたというのははっきり分かります。しかし、ここは家ではなさそうです。明らかにこのベッドのほうが高級品でしょうし。
ベッドの観察は止め、部屋を見渡してみることにします。先程まで着けてたであろう酸素マスクのようなもの。清潔感溢れる白が基本色の小部屋。以上からして、おそらくどこかの病院の個室でしょう。はて、私は何故こんな所に...いや、それよりも何故私は震えているのでしょう? これはまるで──
「...っ!」
──さっき『否』を名乗る何かと共に見ていた映像が頭を駆け巡っていく。
そうだ。私はさっきまで変な人と一緒にアレらを...
思考が変な方向へと飛びそうになった時──コンコンコン、と三回この部屋の戸がノックされた。現実に戻してくれたノックした人に少し感謝しつつ、私はどうぞ、と一言言いました。
「否...起きたんだ」
「杏...」
...今、出来ればあまり会いたくない人が来てしまいました。理由はアレに杏が関わってるからです。ぶっちゃけますと杏は何も悪くないんですが、こちらの精神的に...です。
勿論杏にはそんなことを察して欲しくなどなく、鍛えたポーカーフェイスで隠します。
外が暗いことが気になり確認してみると午後7時...ここの病院の面会時間はいつまでかは知りませんが、おそらく終了間近。こんな時間に...しかも深刻そうな顔をして...どうしたんでしょうか?
「どうしました? 杏」
「...少し、話さない?」
「構いませんが...」
あ、そうです、聞いておきましょう。
「私って何でここにいるんでしょう?」
「...え、覚えてないの?」
「ええ...」
なんか顔つきが軟化して呆れ顔になりやがりましたね...
「...倒れたんだよ。過労で」
「...は?」
「だから、過労で倒れたの」
「私がですか!?」
「何で驚いてるのさ!?」
そりゃ驚きますよ!────あ、段々と思い出してきました。
もうすぐある『シンデレラの舞踏会』でまさかの杏との限定ユニットを組むことに。それにより焦りが生じて...あれ、そこから記憶がないですね。そこらで倒れたんでしょうか...体力には自信あったんですけど。
「限定ユニットは?」
「解散、だってさ」
「...申し訳ありません、杏」
元々この限定ユニットを提案したのは杏。それが私のせいで潰れてしまったのですから謝らなくては筋が通りません。
...正直、どこかで安心している自分がいます。杏と比較されずに済むからですかね...
「ううん、もういいんだ。残念だけどね」
「...?」
おや、これはどういうことでしょうか。責められると思っていたのに...
それに見ると、杏はそこまでこの話題に関して悲観してないと感じます。ふむ、元々は杏もこの限定ユニットには積極的ではなく、周りから煽られてから取り組んでいた、みたいなことだったとかなのでしょうかね。無いでしょうが。
「...ねぇ、否」
意を決したような表情で私を見る杏。それを見て私は何故か嫌な予感と妙な寒気を感じました。
震え出す手を反対の手で無理やり抑え、深呼吸をし落ち着こうと試みます。
「否はさ、何のために働いてるの?」
「...何のために?」
かなり唐突な問いに対し私は少し怯んでしまいました。
「一体何を...」
「......」
マジな目付きをしてますよ杏。以前同じ問いをされ、それに私は答えた気がしますが...
...とりあえず答えましょうか。
「...私が仕事を楽しんでいるからです。どんな労働であれ私はそれに対して──」
「あぁうん。もう大丈夫だよ...」
呆れ...いえ、悲しさや悔しさ? みたいなのが入り乱れた、そしてなにかを決意した表情で杏は話を止めました。そして一つ、間を置いて──
「それで、本当は?」
「...は?」
「本当の理由は何って聞いてるの」
「いえだから先程言ったのが──」
「本当に?」
────まさかまさか。いやあり得ない。そんなことがあっていいはずがない。
「ねぇ否。教えてよ」
────止めて。入ってこないで。
「私はさ、否から頼られたいんだ。力になりたいの」
────まだ、まだ引き返せるから。
「ねぇ否──」
────まだ...
「──もう、怖がらなくていいんだよ。『否のお父さん』からさ」
─────────────────────────
「な、なんで...あ、あん、杏が、それ...を...」
否の少しずつ乱れていた呼吸がここにきて一気に乱れ始めた。その表情は驚きが殆どを占めていたが...そこには恐怖の感情も見える。
思わず、私は抱き締めた。ああ、こうなることは分かってはいた。否にはこの話はタブーであるから。でもやらずにはいられなかった。このタイミングしか無かったから。否を本当に知ることが出来るのは。
「......」
「あんず...わたし...!」
「...大丈夫。否はもう何も怖がらなくていいの。頑張らなくていいんだよ。否が怖がってるお父さんは、もういないんだから」
震えて泣き始めた否を私は強く抱き締める。
──ようやく、否の弱いところを知れた。初めて否の中に入れた。やっと...家族になれた。
「私は否の味方だよ。ずっと、ずぅっとね...仮に血は繋がってなかったとしても、家族なんだから」
「...ほんとう? いたいことはしない?」
「しないよ。出来るわけがない」
ヤバい...場違いだけどこの否すごく可愛い...なんか護ってあげたくなる感じ。
あぁ...そっか、否はずっと一人だったんだね。あの篭の中で。お父さんが死んで、その環境から脱出したとしても何も分からないからずっと仮面を被ってたんだ。だから誰も否を知らないし理解出来ない。そうだったって皆は知らないんだから。
多分今この事を知ってるのは346プロには他にいない...なら、私が護ってあげなきゃ...
「...こわい」
「ん?」
「おとうさんがまたやってくるかもしれないのもそうだけど...あんずに嫌われるのが...こわい」
「え、なんで?」
「わたしの...いなむのはじめてのともだちだから...いなむのむかしはこわいものなの。それをしられたらいなむをみんなこわいっておもうはずだから...」
「...あのねぇ」
「わっ!」
私は更に否を抱き締める力を強めた。絶対に離さないというように。
「否にはいっつも感謝してるんだよ? 飴作って貰ったり何かと気にかけてくれたりさ...嫌いになる? あり得ないから。寧ろ...うん、好き、かな」
「え...」
否の表情がハッとしたものになる。あれ、なんか変なこと言ったかな。
「...いなむのこと、すきなの?」
「え、あ、うん」
「!! いなむもあんずだいすき!」
「あの、ちょ、否さん?!」
暫く抱きつかれ、否はそのまま眠ってしまった。結構きつく抱き締められていて、結局起きるまではこのままの姿勢を無理やり維持した私だった。
─────────────────────────
「お騒がせしました」
起きたら杏とハグしていまして、何があったのかを思い出してたら杏も起きまして、その瞬間に私が幼児退行しちゃってたあの時のことをはっきりと思い出しまして、現在そのことについてベッドから降りて土下座をしている真っ最中でございます。
いやー...いくらあの時の私とはいえ、唐突に好きとかなんなんでしょうかね。
「いや、まぁ、あの時は...ね?」
「...忘れてくださると嬉しいのですが」
「あ、あははは...」
...気まずい。
「...ねぇ否、もう大丈夫?」
「...どうでしょう」
杏から話を反らされ、私もそれに乗っかることにした。
「まだ正直、信じられてない部分もあります。お父さんがもう死んでしまったとか...またひょっこりと出てきてくるかもしれない。そんな不安もあるんです」
「否...」
「でも、少しだけ楽になれたかと思います...杏のおかげです」
「...そっか。私もようやく否のことを知れて良かったよ!」
ふと時計を見れば面会時間終了五分前です。ここの面会時間は比較的長いのですから、結構話していたことになりますね。
杏もそれに気がつき、病室を立ち去ろうしています。またね、と一言言った後に...私はとても変なこと思い付きました。待ってくれと私は杏を引き留めました。
「どうしたの?」
「...変なことをふと思い付きました」
「え、何」
「あのですね───」
なんかあっさりしてるとか、否さんチョロい気がするとか色々言いたいことはあるでしょうが申し訳ありません...精一杯なんです...! もっと上手くなりたいなぁ...
ちなみに、身体検査とかの時に否へのアレが明らかになるのではないかとかは美城さんが(きっと)なんとか対応してくれました。
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29
いつも通り拙い感じではありますが、雰囲気で読んでくれるとうれしいです!
──冬の舞踏会当日。これは美城プロダクションのその年の集大成のようなライブであり、所属プロジェクトなど全く関係なく全員が出るライブです。
勿論杏の所属しているシンデレラプロジェクトや、私の所属しているプロジェクトクローネも出場致します。そのためお客さんはいつもの定例ライブとかよりはるかに多く、異常な盛り上がりを見せるらしいです。私は初めてなのでよくは知りませんが...
おっと挨拶が遅れてしまいましたね。どうもお久し振りでございます。ヌヌ葉否です。何故か私の過去が知られたくなかった杏に知られてしまい、知ってなお私と共にいてくれるということを言ってくれ少しだけ気持ちが楽になったということもありましたが元気です。
あれからプロジェクトクローネの皆さんやトレーナーさん、さらには美城さんまで私のお見舞いに来てくださいまして。皆さんからは少し...いえ、かなり怒られ、心配されました。特にありすさんからは泣かれてしまいまして...非常に申し訳無い気持ちになりました。
しかし、それだけではありませんでした。皆さん共通して言っていたことなのですが、どこか表情が柔らかくなったらしいです。自分ではよく分かんないですが、皆さんがそう言うならば、きっとそうなのでしょう。
そして私は今、舞踏会の会場にいます。お客さんとしてでなく、アイドルとしてで、です。
ええそうなのです。美城さんになんとか無理を行って出してもらえることになりました。幸い、予定変更するギリギリ前に美城さんにどうかと頼み込んだため、凄く渋られましたが許可を頂きました。復帰したばかりで無理はさせられないとして出場は一回のみと条件を付けられましたが。
ならばとここで私は杏と相談して決めたことを美城さんに伝えました。
──今回、私はクローネでなく杏とのユニットで出たいです。
最初美城さんは呆気に取られたような表情をし、否定するわけではなく、いいのか? と、一言言いました。なんとなく美城さんは私が杏に抱いていた気持ちを分かっていたのでしょう。だから美城さんは聞いてくださった。私を気遣って。
それに対して私は迷うことなく肯定しました。もう杏のことを怖がる私はいません。結局、どう足掻いても杏と私は別物なのですから。
暫くしてから美城さんは、善処はしようと言ってくださいました。思わず私は深く頭を下げて感謝の念を伝え、その場を後にしました。さらに有難いことに、その要望は通ったのです。
現在私は一人、控え室にいます。出場まで残り三十分ほど。限定ユニットとして私と杏は出る予定です。
私はいいとしても、杏はキャンディアイランドとこのユニットと出場は二回します。時間は空いているとはいえ大丈夫なのかなと心配してるのですが...大丈夫ですよね。きっと。
本番まで、あと二十五分。
─────────────────────────
「いやぁ、いいじゃないか。アイドルとファンが一体になっているこの感じ」
「ええ」
関係者のみが立ち入れるライブの席。割と広いその空間に、二人の人物がいた。アイドル部門の部長である今西と、美城プロダクションの常務である。今西のほうは楽しそうに、微笑ましそうにライブを眺めているが、対して常務の顔は硬い。
「それにしても、よくアレを通したねぇ。かなり無茶な要望だったはずだが」
「珍しい本人達からの熱い要望でしたから」
ここで言われている『アレ』とは、杏と否のユニットのことである。否の過労によりその話は白紙に戻されたのだが、常務が強く働きかけ、なんとか実現をすることが可能とすることができたのだ。
「随分と彼女を気に入っているようだね? 君が初めてその手で見つけたアイドルだからかな?」
「別に贔屓しているわけではありません。あくまで彼女はわが社の大事な一人のアイドルですから」
「そうかい」
「それに、アレを通したのには理由があります」
「ほお、なにかな?」
ここで初めて今西は視線をステージから常務へと移し、ほんの少し驚いた表情で尋ねた。
「彼女は以前と変わってしまったように見えます。それは悪い変化ではなく寧ろ良い変化です。しかし、おそらく本質は全く変わっていない...というより、そもそも変化はしていないのかもしれません。ただ──」
「──依存先を増やした。そうだね?」
「...はい」
否は以前までは仕事のことしか考えてなかった。しかし、その仕事という柱がトラウマにより少し崩れ、否を支える柱が壊れかけてしまった...
そこに新たに杏という柱を加えることで、少し安定したというわけだ。
「依存先が増えることは悪いことではありません。人は多数の依存先を作ることで安定を作っているのですから。だが彼女の場合は...少し依存の程度が大きい」
「そうだね」
「彼女は他のアイドルとは違いかなり儚く、脆い存在です。そのため、彼女が今必要なのは自信。まずは自分を認め、その存在を丈夫なものにしてもらう必要がある...だから敢えて通したのです」
「...なるほどねぇ。双葉君と一緒に出してライブを成功させることで自信をつけさせると...」
今西は視線を再びステージのほうへ向ける。今ステージでは、アスタリスクがトークをしていた。二人のトークは会場を飽きさせることはなく、まるで台本でも作っているのではないかと疑ってしまうほどだ。
そんなトークを見ている今西に対し、常務は切り出した。
「今西部長。貴方は...何者ですか?」
その場はシンと静まっていて、ライブ会場の音しか聞こえない。今西はそうだねぇ、と少し考え、告げた。
「おせっかいの友人、と言っておこうかな。まぁ私も彼女には救われてほしいからね...」
その目は、非常に暖かい目であった。
─────────────────────────
『さて、実は皆にサプライズがあるんだよー!』
『なんと今夜限りの限定ユニット! 凄くロックだよね!』
本番まであとほんの少し。私と杏はもうすぐにステージに出られる位置で待機しています。ステージには下から射出される形で入場します。
ステージではシンデレラプロジェクトのアスタリスクのお二方が自然な流れを作って下さっています。私もトーク技術も学ばないとですね...
「...緊張してる?」
「多少は...いえ、かなり緊張してます」
「やっぱり。でも大丈夫だって。なんとかなるよ」
そういう杏はかなり余裕があるようです。ぐぬぬ...羨ましい。
「というか否! 敬語!」
「あっ、すみま......ごめん、杏」
杏と話終わったあの後、限定ユニットの件の他にもう一つあることを話しました。それは、敬語を止めてみること。仕事の時はいいとしても、仲間と話すときぐらいは敬語を止めてみないかと杏から提案されたのです。確かにこれから接することは増えるのにずっと敬語だと堅苦しいかもしれません。とりあえずは慣れ、ということで杏との会話は出来る限り敬語を止めて話すことになったのです。うう、結構難しいんですよ...正直タメ口で話していいものなのか不安なんですよね...
「...というか杏。何そのハチマキ...『働いたら負け』なんて」
「人のこと言えないじゃん...『残業させろ』だなんて、正気?」
「なっ!? この良さが理解出来ないと...!?」
「いやそれ杏以外も共感絶対出来ないから。寧ろ杏のほうが共感集めるよこれ」
「そ、そんな......ププッ!」
「アハハハハッ!」
ここまでやった後、私と杏は二人で小さな声で笑いあいました。
「前にも似たようなことやったよね。しかもこれ殆ど同じ内容じゃない?」
「そうで......そうだね。確か前は...シャツだったかな」
「あー笑った笑った...否、緊張は取れた?」
「...うん」
「じゃ、行こっか!」
杏に手を取られ、ステージの方へ行きます。
『それでは登場してもらうよ!』
『皆! めいっぱい盛り上げてね!』
射出五秒前。杏と顔を見合せ、互いに頷きあいます。
私の生きる意味...まだはっきりとは形は見えませんが、きっと見つかるはずです。
その日まで...アイドルを続けられるといいですね。
さぁ、ライブを始めましょう。
かなりヘンテコで急ぎ足になりましたが...一応これで完結です。今まで見てくださった方、本当にありがとうございました!
最後に簡単なアンケートをしますのでよかったらお願いします!
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とあるどこかの掲示板のスレ ぱーと1
かなり至らぬ点があるかと思いますが、よかったら見てってください。
時期としては大体否がアイドルを始める前になりますね。
かなりやさしい世界で実際にこんなのありえねーよと思うかもしれませんが、私の世界ではあり得るのでよろしくお願いします。
あ、初投稿です。
[悲報]双葉杏ちゃんがバイトしてた件について...[346アイドル]
1 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
あれはキャラ作りだったのか...
2 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
どこ情報だよ
3 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ソースあんの?
5 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ってか双葉杏ってだれぞ?
教えてエロい人
6 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>5
最近346のシンデレラプロジェクトってとこからデビューしたキャンディアイランドってアイドルグループの一番ちっさい子
働きたくないって性格だけど天才とかいうとにかく凄い子
詳しくはggr
10 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>6
さんくす
はぇー...ちっちゃいすね杏ちゃん
15 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
実際会ってきたから間違いない
なんか雑誌とかテレビとかで見たときと全然性格違うから驚いたけど見た目まんま双葉杏
18 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>15
会ったの? どこで?
20 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
>>18
346プロ近くのアーケードあるじゃん?
あそこ入ってすぐのコンビニ
25 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>20
そこ近所じゃん...行こうかな
29 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>25
真偽報告よろです!
26 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
性格真逆ってどんな感じだったのよ
詳細もっとkwsk
29 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
>>26
マジでまんま真逆
ワーカホリックって感じだった
そんで声とか容姿とかおんなじなんだ
32 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
見間違いとかじゃないの?
>>1の妄想力が凄すぎて幻覚見たとか
35 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
>>32
見間違えたかもしれないってぐらい似てた
てか本人としか思えなかった
39 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
イッチ名札とか見てないん?
知らんけどコンビニ店員って名札してるイメージあるんだが
48 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
>>39
あー...覚えてないわ。顔ばっか見てたからなぁ...
50 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>48
ずっとその子の顔ばかり見てたのか...
仮に本人でも本人でなくても未成年の女の子の顔をずっと...
通報しとく?
65 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:###
>>50
やめてw
いや本当にまんまだったからつい...ね?
68 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
その例のコンビニ見てきたぞ
70 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>68
早いっすね...それで結果は?
71 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>68
wktk
75 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>68
マジで行ったのか...んでどうだったんすか?
80 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
いやマジでそっくりだったなあの子...本人じゃないって否定してたし流石に写真は撮れなかったが
85 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
否定してたんかーい
90 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
えぇ...否定してたならそっくりさんじゃないの?
この前もとある芸人のそっくりさんいたらしいじゃん
95 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>90
あれはマジで似てたな...
100 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
でも目元とか公式プロフィールと比較してたんだけど微妙に違ってたぞ
杏ちゃんよりも例の子はつり目だった
110 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
名札見てきたー?
116 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>110
ちらっとね
双葉って書いてあったと思う
119 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
親戚だったりするのかもなぁ...
126 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
あと因みにというか余談なんだが...その例の子、凄く姿勢が綺麗だったんだよね
なんか格闘技とかでもしてそうな感じだった
138 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>126
面倒くさがりで格闘技してて天才でロリっ子とか...属性盛り過ぎぃ!
146 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>138
本人かどうかは分かんないんだよなぁ
150 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
んでさ、結局本人なんですかね?
158 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
俺は違うに一票
目元違ったし何より杏ちゃんのアレがキャラ作りだと思いたくない
164 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
そもそもアイドルってバイトできんの?
っていうかアイドルやってるならバイトなんてする必要あるの?
180 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>164
百里ある
184 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>164
それは思った
194 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>164
やる暇もなさそうだよな
レッスンとかで
200 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
おうお前ら、たまに346カフェでバイトしてるらしい菜々さん忘れんなよ
205 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ミミミンミミミンウーサミン!
208 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>205
うわきつ(うわきつ)
210 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>205
うわきつ(可愛い)
215 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ウサミン皆は色々言ってるけど僕は好きです...(小声)
240 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>215
分かるわ
219 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
バイトするならするで会社からストップかかると思うんですがそれは...
233 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
写真とか誰か撮ってないの?って聞こうと思ったらそれやったら盗撮になるって気付いて聞くのやめた
246 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
俺もそのコンビニ行ってきた
なんかあの子を支えたくなってきた
250 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>246
えぇ...
261 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>246
どゆことなの
267 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
なんかな...なんていうのか...うまく言葉に出来ないんだけどさ...
放っておけないって感じ...
270 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ヤバそう(KONAMI)
275 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
なんか過去に暗い過去でも背負ってそうだった
俺あの子がアイドルになったら推すわ...
282 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>275
お前の観察力がこわい
284 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
俺も例の子見てきた
なんかアイドルになったらクーデレキャラで人気出そうな感じだった
298 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
んー、なんだか結局違う人っぽそうね?
299 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
せやな
300 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
せやな
301 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
せやな
─────────────────────────
[悲報]例のバイトの子、バイト辞める[悲しみ]
1 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
俺の癒しが...
3 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
え、あの子辞めたの?
6 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
あの子って誰だよ
小梅ちゃんの友達か?
8 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>6
最近この掲示板サイトでごくごくたまに話題に上がるコンビニバイトの女の子らしいよ
アイドルグループのキャンディアイランドの双葉杏ちゃんに似てるんだってさ
9 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
なんか会社とかで疲れた時にさ、コンビニ立ち寄ってさ、んで握手してもらってたんだよ...
10 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
は?
12 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
は?
13 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
えぇ...
14 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
上の二つまではわかるが最後の一文が意味不明すぎる
17 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
なんで芸能人でも何でもない女の子に握手してもらってるんですかね...
19 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
よくその子握手受け入れてるな...
25 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
だって推しなんだもの...
29 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
ストーカーじゃないのかこれ...
34 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
>>29
いやストーカーの領域までには至ってないからセーフ!
37 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>34
もう大分危険な領域に入ってると思うよ
41 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
あれ、あの子杏ちゃんじゃないんか
てっきり本人かと
45 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>41
一応本人じゃないってことで決着はついたがまだあの子を杏ちゃんだと言ってるやつはいたぞ
特にツブヤイターで
50 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
なんで辞めたってわかったん?
56 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
>>50
先々週と先週、そして今週一回もあの子見てないんや...勇気出して他の店員に聞いたら辞めたって
64 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>56
やっぱりストーカーじゃないか!
69 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
めっちゃ引いたやろうなぁ聞かれた店員さん
72 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
辞めた原因イッチじゃねーの?
75 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>72
それ
81 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
>>72>>75
いや握手だけしてもらってる訳じゃなくてきちんと売上にも貢献してるから...
89 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>81
そこじゃないと思うんですが...
92 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
双葉杏ちゃんに似てる子がいるコンビニに双葉杏ちゃんだと思って握手だけをしに来る人が多いらしいな
友人から聞いたんだが
96 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>92
お前のことじゃねーの?
99 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>96
俺はその地域に住んでないから違う
その友人、偶然そのコンビニに行ったらそんな人ばっかいて軽く引いたそうな
106 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>99
絶対その中にイッチおるやん
109 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
その話本当ならなんか辞めた理由分かる気がするなぁ
てか辞めさせられた可能性もあるのでは?
116 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
営業妨害ってやつなのかな? よくわかんないけども
いちいち対応してたらキリなさそうだしな
120 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
うーん、自主的に辞めたにせよ辞めさせられたにせよその子可哀想だよな
偶然容姿が似てたって理由で辞めざるを得なかったんだから
135 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
なにかあの子にいいことが起こるといいなぁ
146 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
その例の子に会ったこと無いんだけどさ
本当にそっくりさんなら346が見逃さないと思うんだけど
147 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
お、ということは...
150 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
あの子がテレビ出演する可能性も微レ存...?
158 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
そもそもイッチは例の子のどこに惹かれたの?
160 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
>>158
こう言うと気持ち悪いかもだが一目惚れだ
恋愛的に好きになったわけじゃなくて推し的にって感じ
なんかこう...見守ってあげたいっていうの?
164 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>160
そういうタイプなら握手なんかしないで遠くから売上に貢献すりゃよかったのに...
168 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
>>164
確かに今考えたらそうかも
だけどあの時はなんかその子の支えになりたいって思ったんだよ
だから君を応援してる人もいるんだよみたいな意味で握手求めた気がする
170 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>168
キモい(直球)
172 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>168
ストーカー定期
175 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>168
通報の用意は出来ているぞ
180 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>168
例 の 子 が コ ン ビ ニ を 辞 め た 理 由
199 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
てかこの掲示板に話題になってる時点で可哀想
206 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
他のスレに比べてこのスレ皆優しい感じするわ
209 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
>>206
それは思った
でもふとした拍子に本性表しそう
216 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
とりあえずその例の子の未来が幸あるものであるために...乾杯!
217 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
乾杯!
218 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
乾杯!
219 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
乾杯!
220 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
乾杯!
221 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:☆☆☆
乾杯!
222 通りすがりの名無し 20XX/XX/XX ID:***
乾杯!
──以降は乾杯! という書き込みで埋め尽くされたという......
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番外編3-1
今回はのんびりまったりしているはずです。タグ詐欺ではないのです。
めっちゃキャラ崩壊してます。苦手な方はご注意下さいませ。
「む、こんな所に栄養ドリンク...誰かの忘れ物でしょうか?」
「おっと、何か書いてますね...『ご自由にどうぞ』?」
「...喉も乾いてきてますし、頂きますか。置いてくれた優しい誰かさんに感謝を」
「では───
─────────────────────────
「ねぇ、今日否のこと見た?」
「え?」
346プロダクションのとある休憩所。そこに仲良く並んで座っているのは双葉杏、速水奏の二人です。所属プロジェクトも方向性も違い、二人でいることが珍しいと思われる組み合わせですが、二人には否という共通点があります。杏がクローネでの否の様子なんかを聞いたりしている内に、割と色々話す仲になったようです。
そんな二人ですが、なんとなくその空気は重そうです。
「見たって...どういうこと? 一緒に住んでるんじゃないの?」
「今日は先にレッスンしたいからって朝から先に出ていったんだよ。釘は刺したから無茶はしないはずだけど...それで、今日この事務所で否のこと見かけた?」
「いえ...見てないわ。すれ違ったのかしら...」
否と同じプロジェクトに所属する奏ですが、仕事やレッスンが被ることはあんまりありません。方向性が若干違うからでしょうか。
そして時刻は午後3時。杏が最後に否と会ったのは7時間程前ですので、少し心配のようです。
「今日は仕事は無いって言ってたしこの事務所にいるはずなんだけどなぁ...」
「...妙ね」
普通の子ならそこまで心配しないかもしれませんが、あの否です。放っておいたらいつの間にかバイトしてたり無茶して倒れる寸前までレッスンしてたりします。勿論周りが止めたり、最近では本人も少しずつではありますが自重してきたりしてますが。いい子ではあるので言われれば渋々ではありますが止めてくれます。
そんな否がある意味行方不明なのです。なんか心配になりますよね? なるんです。
「...まぁ最悪帰るまでには見つかるはず...だよね?」
「そうね...そうだといいけれど...何か嫌な予感がするわ」
「奇遇だね。杏もだよ...」
そんな時でした。
「わぁ...お姉さんたちの髪ばりキレイかねー...」
「...ん?」
「...え?」
聞き覚えのあるような、無いような、そんな感じの幼い声が二人の背後から聞こえてきました。
思わずサッと振り返ってみると──
「「...否?」」
「わぁ! 髪もキレイかったけど顔ももっと素敵やねー!」
まるで否をそのまま小さくしたかのような可愛らしい女の子がいました。といってもいつもの否が持っているような重々しい雰囲気は一切無く、その身長相応な子供らしいものを持っていました。可愛らしいですね。
「あ、自己紹介するね! わたし、双葉否っていうんです! よろしく!」
「よ、よろしくね...」
「あれー、なんかお姉さん達見たことある気がするー...似てるだけかな?...名前、なんていうと?」
「あー...こっちが速水奏で、私は双葉杏だよ」
「おぉ! ってことは杏おねーさんか! 実は私、友達に双葉杏ちゃんっているとよ! 似てるなーって思ってたんやけど名前までおんなじなんて驚いたわ!」
まだ混乱してる奏の代わりに紹介を杏はしてあげます。その間に杏はあの時の記憶と昔の記憶を探ってしてました。
「(あ、そういや否と初めて会った時こんなんだったような...)」
初めて会ったのはあの時の記憶と自分の記憶の両方に一致する親戚が集まってた日のようです。
「(...そっか、昔の否ってこんなに明るかったんだな...)」
いつもの否、そして昔の否を比較してなんだか複雑な気持ちが湧いてきている様子。否がそのまま成長していたらそれはそれでいいアイドルになっていたかもしれませんね。もう、取り戻せないことですが。
「えっと...杏? 大丈夫?」
「...え? あ、うん。大丈夫」
いつの間にか思いに耽ってたみたいで、少し混乱から回復した奏が杏に声をかけてくれてました。
その間、目の前の否ちゃんはこてんと首をかしげて不思議そうに二人のことを見ていました。かわいいですね。
ここで、奏が否ちゃんに対してまだ戸惑いを見せながら質問をします。
「えーっと...否ちゃん? 何でここにいるのかわかる?」
「えっと...知らんけどいつの間にかここにいたんよ。なんかこれが目の前にあって。持ってきちゃったけど」
「これ...?」
否ちゃんが手のひらを広げ持っていたものを二人に見せます。そこには『栄養ドリンク』とだけ書かれたそれはそれは怪しげなものでした。材料名は記載なし、志希ちゃん特性! と割と目立つ所に書かれてありました。明らかにヤベードリンクです。
「「(...これ絶対アレだ)」」
薄々感づいていた二人の考えが一つの確信へと持っていかれました。何で否はこれを疑わなかったのか。疲れていたんでしょうか。
あまり目の前の否ちゃんを心配させないためか、二人はこそこそと否ちゃんからは聞こえない程度の声量で話をします。
「...私はとりあえず専務とあの子のプロデューサーのところに行ってくるわ。否のこと頼んでもいいかしら?」
「わかった。とりあえずここで見ておくよ」
「じゃ、行ってくるわね」
スッと奏が目的の所へ行こうとしたところ、否ちゃんが反応しました。
「あ、奏おねーさんどっかいくと?」
「───っ!!! え、えぇそうよ。ちょっと用事があってね」
奏は一瞬だけ何かに目覚めそうになってしまいました。可愛らしく無邪気な子からのおねーさん呼びされたからでしょう。わかります。
「へぇー、かんばれー奏おねーさん!」
「......ちょっと本気で頑張ってくるわ」
「...程ほどにしときなよ?」
杏は呆れてますが、仕方がないことなのかもしれません。可愛い子からの応援に期待を裏切って頑張らない人などいるのでしょうか。いえ、きっといないでしょう。
さて、奏が言ってしまった後、杏は否ちゃんと二人きりとなりました。奏のこともあるため下手にフラフラと動けないこの状況ですが、そんなこと否ちゃんは知りません。否ちゃんは早速退屈してしまっていました。
「杏おねーさん! ここ探検してきてもいいやろー!?」
「だからダメだって。奏が戻ってくるまで待っておかなきゃ」
「ひーまー!」
普段からは考えられない我が儘娘っぷりです。そのことを思いつつも、少々対応が面倒になってきた杏は思わずため息をついてしまいます。
「大体...迷ったらどうするのさ、帰れなくなっちゃうよ?」
「あ、それは大丈夫やと思う。なんかね、何故か知らんけどここ見覚えあるっさねー...来たことないはずなのに」
「へぇ......(ん? ってことはやっぱり普段の記憶とかも少しはあったりするのかな...?)」
どうやら、否ちゃんは完全に幼い頃に戻ったってわけじゃなさそうです。
「(もしかして、今の否からなら...)」
──否の本音を聞き出せるかもしれない。あの時の記憶は見たとは言ってもまだ完全に否のことを知れたわけじゃないから──
そうやって思考を続けようとしたとき...突然杏の携帯の着信音が鳴り出し、思考がストップしてしまいます。あまりにも突然であったため、杏と否ちゃんは一緒にビクッと同じような表情で驚いてしまいました。
いきなりなんだと杏は少し面倒そうな顔付きで電話に対応し始めました。
「...もしもし?」
『あ、杏ちゃん?!』
「なんだきらりか...驚かせないでよ」
『もうっ、杏ちゃん! そろそろレッスンの時間だにぃ! 早く来ないと怒られちゃうよぉ!』
「あー...」
「?」
目の前の否ちゃんをチラ見してどうしようかと考える杏。レッスン時間を把握し忘れていた自分のミスだと考えつつも、否ちゃんをどうしようかと考えているようです。
「...ごめん、もうちょっと後だと思ってた。レッスンいつから?」
『あと15分で始まっちゃうよぉ!』
「15分かぁ...わかった。ありがとね、きらり」
今杏達がいるところからレッスンルームまでそこまで時間もかかりませんが、着替えや準備体操等を考慮するとそろそろ向かうべきです。レッスンするのは面倒だが後で怒られるのはもっと面倒で嫌だと杏は考えてるので一人ならば渋々レッスンに向かうでしょう。
しかし否ちゃんをどうするか。同じプロジェクトであるクローネに預けようにも事情を話す時間もないですし、そもそもクローネのルームまで行くのに時間がかかります。
「...連れてくしかないかぁ」
「え、どっかいくと!?」
暇をしていた否ちゃんには今のは救いの言葉です。目をキラキラと輝かせ杏の方を見ています。
杏はトークで奏に事を軽く説明し、携帯のしまいました。
「じゃ...行こっか」
「うん!」
手を繋ぎ、二人は並んで歩いて行きます。その後ろ姿はまるで姉妹のようです。隣でさーんぽ! さーんぽ! とはしゃぐ否ちゃんを見て、杏はまた微笑ましいような、悲しいような複雑な気持ちになりながらレッスンルームを目指すのでした。
次回以降は後編を投稿してからアフターストーリーに入っていきます。そちらの方は若干ではありますがシリアスがあるので、気長に待っててくださると嬉しいです。
掲示板の方は...すみません、もうちょっと待っててください。
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番外編3-2
前後編で終わらせたかったのですが思ったより長くなったのでもう一つ区切ります。
寄り道が多いですが、まぁ番外編なのでということで……。
「ほら、ついたよ」
「おぉ! ここがレッスン場……!」
「の、前の部屋ね」
手を引かれて、とことこと杏のあとを着いてきた否。さながらその目は子ども特有の何にでも興味を持つ目でした。
「それじゃ、杏は着替えてくるからちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」
「はーい!」
元気よく手を上げてにこやかに返事をする否。可愛いですね。
その返事を聞き、杏は駆け足で更衣室へと走っていきました。電話から大体5分程度経ってしまっているので、あと10分で着替えてストレッチを軽く済ませておく必要があるからでしょう。
まだかなー、早くこないかなーと否が杏のことをうずうずして待っていると──誰かが否を発見しました。
「あっ、杏ちゃんかな?」
「うーん、あれは否ちゃんじゃないかな。でも、どこか小さいような……」
先ほど杏と否が入ってきたところからやって来た三村かな子、緒方智絵理のお二人さんでした。否とも面識があり、まだざっくりですが区別できるようです。
かな子は、とりあえず話しかけることにしました。
「おーい!」
「……んぇ? おねーさんたち、だーれ? ここにはキレイな人しかおらんと?」
「え?!」
声をかけてみて返ってきたのは、ダルそうな声でも、丁寧過ぎる声でもなくまさかの訛り。さらに急に褒められたことも重なり思わずかな子は驚いてしまい固まってしまいました。
「(この子、杏ちゃんや否ちゃんに凄く似てるけど誰なんだろう。どっちかの妹さんなのかな……)」
美城プロダクションのレッスン場にいるということは、誰かの関係者か、もしくはただ似てるだけの自分の見たことがないアイドルかのどちらかでしょう。どちらにせよ、目の前の女の子とは初対面だと思った智絵理は自己紹介をすることにしました。
「えっと……私はね、緒方智絵理っていうんだ。それで、こっちのお姉さんはかな子お姉さんだよ」
「智絵理おねーさんとかな子おねーさんかぁ……あ、わたしね、双葉否っていいます! よろしくね!」
「……いなむ、ちゃん?」
「え、否ちゃん?」
「うん、そーよ!」
さらに出てきた衝撃の事実に復活したかな子と智絵理は頭の中が疑問でいっぱいになってしまいました。
「「(こんなに小さかったっけ……? )」」
しかも口調も以前会ったときのそれは大分かけ離れていたので、二人の混乱を加速させていました。
「不思議やねー、おねーさんたちにもなんか見覚えあるんよ。ねぇねぇ、もしかして前にどっかで会ったりしとらん?」
「あ……」
「えっと……」
二人はもうこの状況を整理することで精一杯。上手い答えが浮かばずどうしようかとお互いに目を見合わせていると、更衣室の方から駆け足の音が聞こえてきて、その場の皆がその方を向きました。
「お待たせ否ー。あれ、今日二人もレッスン?」
「うん、そうだよ。そろそろ時間だよね?」
「あー、じゃあ急いだ方がいいよ。あと5分で始まっちゃうから」
「え?! うそっ!?」
「急いで着替えないと……!」
二人は走って更衣室のほうへと向かって行ってしまいました。
「……? あれ、着替える? そういや杏おねーさんもさっき着替えてたやんね。何で着替えてきたと?」
「今更それ聞くの? ……まぁいいや。レッスンをするためだよ。だからレッスン場に来たってこと」
「レッスン? なんでレッスンすると?」
「なんでって……そうだった」
口調や身長こそ全く違いますが、否は否。対峙しているのは本人なため本人が知っている知識をこの否が持っているものだという考えがあったようですが、目の前の女の子はここがどこなのかさえも分かっていないのだ、ということを杏は思い出しました。
「……実はね否、私やかな子ちゃん、智絵理ちゃんみたいなここにいる人殆どがみんなアイドルなんだ。だからレッスンしてるの」
「アイドル!? アイドルってあの!? だから綺麗な人しかおらんかったとね……。皆すごかー……」
あんたもそのアイドルの一人なんだよ、と内心苦笑します。
「んー、まぁそういうことだよ。私はこれからレッスンがあるんだけど、その間一人になっちゃうのは心細いよね?」
「……うん」
「それでなんだけど……本当のアイドルがどんなレッスンしてるのか、見てみたくない?」
「え、いいん!? 見てみたい!!」
「よし決定。じゃあ本当のレッスン場へいくよー」
「おー!!」
──────
────
──
「失礼しまーす」
「まーす!」
「あ、杏ちゃーん!」
「ギリギリだぞ双葉」
レッスン場で待っていたのは準備運動をしているきらりと、トレーナーさんでした。やっと来たという思いを二人は持っていましたが、杏と手を繋いでいる女の子が目に入った瞬間それは吹き飛んでしまったみたいで固まった様子でその子を見つめます。
「……ところでだ、その子は誰だ?」
「否ちゃんにそぉっくりー……」
「えっと、この子は」
「双葉否です! よろしくおねがいします!!」
「「……ふたば、いなむ?」」
「あー……実はね」
杏はこれまでの出来事を端的に説明します。
「ってことなんだ」
「一ノ瀬か……やつならやりかねん」
「早く戻るといいねぇ」
今の否には難しい話はさっぱり。杏が今何について話しているのか分からず、ぽかんとしていました。
「……ねぇねぇ杏おねーさん。この人たちだぁれ?」
「んーとね。あっちはきらりで、こっちはレッスンのトレーナーさんだよ」
「よろしくねぇ否ちゃん♪」
きらりはいつも年少相手にするように少し体を屈めて笑顔で優しく声をかける。その笑顔に引かれたのか、少し控えめ気味だった否は一転して子ども特有の人懐っこい笑顔でそれを答えます。
「よろしくね、きらりおねーさん!」
──途端、きらりに電流が走る。
「か、か、か──」
「……きらり?」
「──きゃっわいぃぃ!!!☆」
「ふぐぅ?!」
目の前にやってきた否をもうそれはぎゅぎゅぅっと抱き締め始めました。急に激しく抱き締められたせいか少し否は苦しそうです。
これがただの年少の子からの対応であったならばきらりはここまでには至らなかったでしょう。では何が原因でこうなってしまったのか。それはこの子が否だからであることです。
元の否とは面識があって、その際は表情は固くどこか一歩身を引いたようにして壁を作って接してきており、もっと仲良くなりたいけど中々なれないという状態でした。
そんな中でこの否です。幼くなり言動もその姿相応のものとなり、いつもからは考えられない満面の笑顔を振り撒いてくるのです。それはそれは守らなくてはならない愛しさを持ち始めたのです。
まとめますと、所謂『ギャップ萌え』に近いことがきらりには起こったのです。普段クールなあの子が満面の笑顔を見せてくれたらドキドキしますよね。あれです。
「すっっっごいハピハピしてるよぉ!!!」
「」
「きらり離したげて! 否潰れてる! これ多分息出来てないから!」
「諸星! そこまでにしておけ! おい諸星ぃ!!」
暴走してしまったきらりを止めることは一部では鬼とも言われているトレーナーでも難しく、一分かけてようやく暴走が収まって否が解放されました。
さっきの出来事によって軽く気絶してしまった否は隅に寝かせられ、その間にかな子や智絵理が合流し、時間は遅れたもののレッスンは開始されるのでした。
多分きっとおそらく次は短いので今回みたいな開きはないかと思います。
しかし先のことは分からないのでこれ以上の開きがあるかもしれないですが、よかったら待ってくださると嬉しいです。
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