ソードアートオンライン 妖精と三日月 (立花ばなな)
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1章 空に浮かぶ城の中で
Ep.0
『ソードアート・オンライン』
2022年11月6日にサービスを開始したこのゲームは、世界初のVRMMORPGだった。
茅場昌彦という一人の天才…のちに考えるなら間違いなく"天災"だったのだろうが、彼の作り上げた新世代ゲーム機『ナーヴギア』によって、ゲームの中に入り込み完全なる仮想世界を楽しむことができる"夢"の機械である…これも、のちに見れば"悪夢"の機械ともいえたのだろうが。
そんな夢の機械の製作者まで関わったSAOというゲームは、発売前から多くの期待を寄せられているゲームであり、「これが良ゲーで無い筈が無い」と思えるほど完璧な条件だったのだ。
舞台は、空に浮かぶ城【浮遊城アインクラッド】、市や村、森や湖など様々な「フィールド」を内包する100の層を積み上げたこの城を駆け上り、頂点たる100層にたどり着くことを目的としたゲームだった。
ファンタジー世界に必須と思われた、【魔法】の概念はなく、代わりに存在するのは無数の武器とその為のスキル、それにちなんだ無数の|剣技≪ソードスキル≫。
必殺技というべき無数の剣技を引っ提げ、まるで…いやまさにゲームの主人公としてその手に握った武器を振るい、戦う事が出来るのだ、例え現実世界でその経験がなくとも。
無論戦うだけがMMORPGではない、<鍛冶>や<鑑定>などのスキルを持って鍛冶師になったり、商人になったりと、多くのプレイスタイルが許される生粋の、MMORPGなのだ。
それまでのナーヴギアのゲームが味気のなかったことも相まってか、SAOはゲームが始まってすら居ないにもかかわらずリアルラックの低い人に絶望を思い知らせるとんでもない確率ゲーを強いた、βテストの抽選者は1000人の募集枠に対し10万を超える応募が殺到、何と倍率百倍近くである、これに運よくー本当に運良く受かったゲーマーたちは、βテスターと呼ばれるようになる、初版の一万本が、店頭販売は3日前から並ぶ連中が出て、web予約は数秒で瞬殺という信じられないほどの状況だったことからも、このゲームがどれほど期待されていたかわかるだろう。
そんな多くの人々の期待と希望は、その日付も変わらぬうちに失望と絶望に取って代わることとなる。
のだが
此処からの話は、少し異なる
これから始まるのは、その世界に何故か迷い込んだ二つの魂
その二つの偶然により、僅かにズレた筆が綴るのは
此処とは異なる世界の戦場にて命を失った少女と少年が迷い込んだ、少し違う浮遊城の物語だ
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Ep.1
ゲームのプレイ方法とかの知識どうしようね…
斬る 穿つ 躱す
無数に迫ってくる触手をかいくぐり、目の前の
また一体、それでも止まることはできない。
もう何度目か分からないほどの全方位からの触手による攻撃。
避けれるものを極力避ける
迫る触手を薙ぎ払う
それでも避けられないものは体を動かし致命傷を避ける。
その荒野は今や地獄絵図とも言えるありさまだった、無数の異形の死骸が転がり、沈みかけの太陽がその場を赤く染める。
この場に数えるのも億劫になるほど集ったそれは、決して弱い相手ではない、この世界を一度滅ぼし、必死に生きのびた僅かな命をも滅ぼそうとしている十七種の獣の一体。
恐ろしく成長が早く、殺してもその死体を盾にして高速で育ち、実質復活する、おまけに強くもなる、それが大型の個体ともなると200回殺してもまだ倒せないというのだから恐ろしい。
おまけに、ちぎれて増える、今人々ー多少語弊はあるがーが生き残る為だけに相手にしているのは偶然ちぎれてタンポポの綿毛のように飛んできた六番目だけだ、それなのに毎度毎度大きな被害が出る、こんな化け物があと16種類もいたのだ、伝承で伝わる恐ろしい速さで世界が滅ぶわけである。
その化け物がー小型とはいえー、地を覆うほど揃い踏み、その猛威を振るっているというのに。
薙ぎ払われた六番目の獣が魔力の奔流に飲み込まれ消える。
赤い剣と黒い軍服、光の無い虚ろな目、そして、かつては蒼空に例えられ、今ではその名残も残らぬ紅の髪の少女ただ一人に、世界を滅ぼす悪夢が切り裂かれ、数を減らしていく。
無論少女も無傷ではない、その逆、知識がある人物でなくても分かる程にその体は死に体だった、貫かれて、打ち付けられて、無茶な動きで捻じれて、切り裂かれて…胸と頭にこそ大きな傷はない、だがそれ以外の部位は、思わず目をそむけたくなるほどの有様だった。
それでも彼女がその手の剣を振るえるのは一重に魔力の恩恵である。
死に踏み込めば踏み込むほど力を増すそれは、幼い死者の夢たる
振り下ろす、切り払う、すれ違いざまに裂く
死にかけの体のまま、大剣を振り回し一体、また一体と六番目の獣を葬る。
切り裂き、叩き潰し、焼き尽くし・・・
…どれほど、その戦いが続いたのだろう
気が付けば、月の光の下に動くものは、紅い少女ただ一人だった。
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周囲を囲んでいた《獣》が居なくなったことに気付き、その手と足を止める。
何の為に戦っていたのかすらもう思い出せない、だけれど、もう戦う相手は居ない、それならばこの剣の出番もないと、右手の剣を放る。
私はなぜ戦っていたんだろう、自問してみるが、何も思い出せない、あったはずの理由が、掴めない。
私はなぜここにいるんだろう、分からない、呼ばれたはずの名前も、居た筈の場所も、今の私には分からない。
体が重くて仕方ない、意識が遠くて考えが纏まらない…。
視界に誰かが映った。
誰だろう、と思う、そちらを見ようと思うが、体が言うことを聞いてくれない、苦労しつつ、その誰かを視界にとらえる
「あ…」
それは、灰色の少女を抱いた黒髪の青年だった。
頭では思い出せない、けれど、自分を失ってなお残る願いが覚えている、
私を待ってくれた人、私に希望を見せてくれた人、そして、私が笑っていてほしいと望んだ、けれど同時に、私の為に泣いて欲しいとも思った、私のことを泣いてしまうほど思ってほしいとも望んだ、大切な人だ、その人に泣いていていて欲しいとか、我ながらひどい奴だなと呆れもする、でも、覚えていなくても今はそれが私なのだと思える。
そして、そんな自分でも分からなかった自分を見せてくれたのが"彼"だ、
そうだ、私は、彼に…
青年が、うっすらと目を開いて、こちらを見たような気がした。
喜びが胸の奥から沸き上がった、今ならば伝えられる、今しか伝えられない、私が消えきる前に、彼にどうしても伝えたかった事。
自分を見失っても、今尚覚えている願い。
「--、---。」
もう声は出なかったけど、何とか、口をその形へと変えて
そうして、消えゆく意識と視界は、僅かに青白い光をとらえて…
今度こそ、少女の意識は暗転した。
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「………困ったな」
仮想世界でありながら、現実とあまり変わらない視点から目の前のウィンドウに視界を落とす、その画面にはこの世界での私ーアバターネーム:ルクスーのステータスのデータが出ている。
そして、かれこれ15分程前からこの画面のままだった。
理由は深刻なものではない、世界初のVRMMORPG、《ソードアート・オンライン》を何とかーβテスターには当選できなかったので非常に苦労しながらもー入手する幸運に恵まれたた私は、日曜である事をいいことに、キャラ作成もほとんど自分そのままに本サービス開始とほぼ同時にログインした。
とは言え、リアルそのままの姿と言うのも気がかりではあるので、少し手は加えてある。髪の色を白に変え、目の色も黄色に近くして………体の起伏を控えめにした程度で大して変えてはいない、いないとも。
そして最初にするべきことと聞いているスキルポイント振りとスキルの習得をしようとメニューを操作していた。
そこでものの見事に詰まった、レベル1のルクスには二つのスキル枠が与えられていた、ソードアート・オンラインにおける武器の使用にそのスキルは必要ではないー例えば、〈片手直剣〉がなくとも片手剣自体は扱えるのだが、熟練度が上がらないのでスキルによる威力の上昇は期待できない、おまけに必殺技たるソードスキルを使うにはスキルのセットが必要なのだと言う。
スキルは取ったらそれきりではなく、外すこともできるらしい、ただ、その場合そのスキルの熟練度は0になってしまう、ならば取るなら早めに取り、できる限り変えない方がお得だろうと思って、あれこれ5分ほど悩んで一つ目のスキルスロットを〈片手直剣〉で埋めた私は、二つ目は武器系統以外から早く選んでフィールドに出ようと意気込んでスキル選択に移った。
甘かった。
目に付いたスキルも気になるスキルも多すぎた、〈投剣〉〈軽業〉と言った戦闘の役に立ちそうなスキルから〈限界重量拡張〉などのあって損はなさそうなもの、まだとろうとは思えないが〈釣り〉や〈調合〉など、欲しいものの数に反しスキルのスロットはあと一つしかないのだ。
あれでもない、これでもないと悩んでいたらいつの間にやら15分が経過していたのだった。
「何時までもこうしているわけにも行かないし、流石にそろそろ決めないと…」
〈限界重量拡張〉…は、こまめに倉庫のようなところに行けば問題ないはずだ、〈投剣〉は欲しいが、まだ投げ武器がない、そもそも普通の近接戦にも慣れていないのだ、これは後回しでよさそうだ、〈軽業〉もAGIを重視すると決めたわけでもないし…。
「………」
結局、さんざん悩んで…私は自分のとある欲に従い、二つ目のスキルスロットを移動速度向上のスキルである〈疾走〉で埋める。
ここまで来たらあとは、とややSTR寄りに能力値を振る、ほかのゲームではここも大きく悩むものだが、SAOで振れるのは
結局、ここまで20分ほどを消費してしまったが、ようやく準備が完了したので、〈はじまりの街〉の外に出てさっそく戦闘を…
視界の隅…それも上の方に、薄い青の光が見えた。
「………?あれ?」
光の正体は、転移の光だ、〈はじまりの街転移門広場〉の名の通り、ゲームを始めたプレイヤーは最初にこの街からスタートになる、つまり初期のスタート地点である、実際私も、この街に来てから何度か青い光とともに新しいプレイヤーがこのゲームにログインしてくるところを見た。
だか、今回はそれが少し違う、光はいつもの青色であり、もしそれが地上に出ていたら違和感など無かっただろう。…そう、つまりはその光は上の方に…空中に、出ていた
「ッ!?」
とか思っている場合ではなかった、光が消えると共に、蒼と黒の少女ーと言っても私とそう変わらなそうな年齢の少女ーが視界に映る。
当然ながら、上空に投げ出された少女は重力にー
ーーーフルダイブ環境下での落下、と言うものは冗談じゃないほど怖い。
SAOが出る前に出ていたナーヴギア対応ゲームの中に、バンジージャンプができるゲームがあった、万が一の命の危険も無く、外に出る必要も無い状態で現実に限りなく近い体験ができるナーヴギア対応ソフトには、そう言ったいわば…現実においては色々な理由で躊躇うような内容の様々な行為をゲーム化したモノはもう既にいくつかリリースされていた、そして私は一度だけ、そのゲームをプレイした経験があった。
すごく後悔した。
そんなにリアルに再現しなくてもいいじゃないかと思うようなバンジージャンプの恐怖…風とか一瞬で流れていく風景とか音とかをそれはもう堪能する羽目になった、…実際にやった事はないから、リアルだともう少し感覚も違うのかもしれないけれど…
開始直後にそんなのを味わった挙句に地面に叩きつけられて即死亡、なんてことになったらいくら何でもそれは惨い…!
先ほど取った《疾走》が役に立ったかは分からないが、落下地点に走り込み、受け止める…が、それなりに高くから落下してきた自分と同じくらいの体格の少女を受け止めて見せるには、未だレベル1のルクスの筋力値では足りるはずもなく。
「わぷっ」
潰れて下敷きになり、地面に倒れこむ…
が、その前に私と地面の間に紫色の障壁が浮かび上がり、接触を拒んだ、HPに変化は無く、叩きつけられるような感触は無い。
…そう言えば、SAOだと街の中などの〈圏内〉ではシステムの保護によりHPが減らないのだというチュートリアルを今更ながらに思い出す、放っておいてもコードに弾かれるだけで少女はそのHPを失うことは無かっただろうとも。
…かと言って、目の前で落下してくる人を見捨てようとは思わない、取り敢えず現実でやったら死ぬほど痛い思いをするであろう所を、痛覚を遮断するペインアブソーバーのおかげでそうならなかった、これがなかったら正直切ったり切られたりするRPGゲームの完全没入など成り立たないだろう。
何とか抑えた落ちてきた少女は、気を失っているのかどうかは分からないーこの世界で呼吸は必要ないーが、全く動きそうになかった。
落ちている最中に確認するすべなどなかったから、このタイミングで初めて少女の外観をしっかり見る事が出来た。人の顔に対して評論する言葉はそう知らないから大した言葉で表すことは出来ないけれど、整った顔をしているなと思う。
年齢は、やっぱりそう変わらないと思う。少し軽い…と言うより、肉付きが薄いような気もするけれど。
視線を少しずらせば少女が纏う服が見える、黒を基調とし金の装飾が所々に見えるそれは、現実世界のそれでいうなら軍服のような服だった。
つまりは、
ただその服装ながらも、少女はこのゲームの世界に…仮想現実の世界に違和感なく存在する、その印象を与えるのはその長い髪の色だった。
蒼、それこそ、晴れた日の蒼空のような蒼色だった。その蒼空を湛えた髪を腰ほどの長さに伸ばしている。
現実では見様のないその蒼が服装の現実感をも凌駕して見せていた。
ーーー綺麗な色だと思い、しげしげと見つめてしまう。
「?」
そんなことをしていると、周りからの視線とささやき声を感じた、視線をあげ周囲を見渡すとこちらを窺う幾つかの視線と目が合った。
何でだろうと少し考えて………当然だと納得する、空中から落下してきた少女と、そこに滑り込んで下敷きになった二人だ、注目を集めるのはそれはそうだと思う。
「名前のスペル」
ルクス「クトリ…珍しい名前だね、どう書くんだい?」
クトリ「Chtholly、ね」
ルクス「…本当に珍しいね」
*本編とはあまり関係ありません
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Ep.2
「ソードアートオンライン ガールズオプス」の主人公です、外伝三作(ガールズオプス、ガンゲイル・オンライン、クローバーズ・リグレット)の中ではガンゲイルが知名度高いけど他二つが若干空気なのは気のせい…?それはともかく
クトリPart2です、どうぞ
剣の技と書くそれは、このゲーム、ソードアートオンラインの、いわば必殺技である。異世界で武器を振るって戦うーーそれも従来のゲームとは違って自分で体を動かすのだーこのゲームで、必須と言えるものかもしれない。
なにせ、一般人は武器を振るうことなどそうそうないのだ、そんな一般人でも、技と同じように体を動かせばシステムの恩恵を受け、存分に技を振るうことができる。
ただし、ソードスキルの動きに失敗したり、逆らい過ぎると技が発動しないのだ、逆に自分の身体を同じように動かせばブーストされるが。
もしソードスキルが無ければどうなるか、答えは簡単だ、大半のプレイヤーが剣もろくに振れず、威力のある攻撃も出来ず、序盤はそこらの雑魚に何度も殺されまくる超ハードゲーである、有りがたきシステム様である。
ーーーけれども、やはり例外は存在する
それは例えば、現実で武器を振るっていたような人々で。
そして、独自の剣術のようなものを持っていて。
そう、要約するならば
「現実で武器などを振るってその技術を持つが、ソードスキルという物に限りなく縁がない」
状態の人だ、単発突き、薙ぎ払い、大振り、突進など、此処の技に覚えは有れど、ソードスキルとして登録されたものと、あまりにも手法が異なる場合。
そう
「ふぎゃっ!?」
発動させようとした両手剣のソードスキル〈ブラスト〉の動きに失敗した彼女は、
「クトリ、大丈夫かい?」
「…大丈夫」
クトリはむくりと起き上がる、目の前にはいまだにイノシシ、手にはあまり質がよさそうに見えない両手剣
そして、すぐ隣には一人の少女がいる。つい数時間前、この世界で始めた話しかけた少女、ルクスだ。
何があったか、簡単だ。
ブラスト…上段に構え一歩踏み込んで切るソードスキルだが、突っ込んできたイノシシを条件反射で魔力で強化た脚力で飛び越え、後方から切ろうとした…ら、ソードスキルのキャンセルが起こり、硬直してしまった結果がこのザマである。
「クトリはこういうの苦手かい?」
ルクスの方は、綺麗に〈スラント〉を決めてクトリを吹っ飛ばしたイノシシのHPを吹き飛ばす。
「そうじゃなくて…今までの慣れが邪魔してるの」
「そういう事もあるんだねぇ…」
数時間前のことだが
ルクスには
帰る方法は不明のまま、おまけに
今まで自分が居た世界からまったく知らない世界に来たと思ったらそこは現実世界ではなく仮想世界だった、正確には他の現実世界の
仕方がないので、今はルクスからこの世界についてのレクチャーを受けていた。
「私は正直今でも信じがたいんだけれど、本当に"そういう世界"から来たんだね、君は」
まぁ、信じられないのも仕方ないとは思う。
もし、初対面の相手に「実は異世界から来ました」ということを言われたら自分ならどうするか、医者を呼ぶか悪ふざけかと思って流すかだろう、それをこれほど信じてくれる彼女は良い人何だと思う…警戒心が薄すぎるような気もするが。
それよりも…
「これからどうしよう…」
帰る方法もわからなければこの世界の右も左も分からない、そんな状態でどうしろというのだろうか。アレか、その辺の魔物を苛立ちのままに殺しつくせというのか。
なんてことを考えていると。
「そう言えばクトリ、メニューは開けるんだよね?だったら〈ログアウト〉は出来るんじゃないかな?」
「ログアウト…って?」
「ああ、ゲームから離脱するコマンドのこと、だよ」
確かに、この世界からの離脱ーーしたら何処に行くのか見当もつかないがーーが試せるなら試してみて損はあるまい。
「そのコマンドって?」
「メニューの…まぁいいか、可視モードにして見せてくれるかい?」
ルクスのその言葉に、クトリはメニューウィンドウを出してーー最初の頃は操作に凄まじいほど悪戦苦闘したーーきごちない動きで可視ボタンを押す、そして後ろに回ったルクスと共に覗き込む。
「そこの…そう、歯車みたいなイラストを押したら、そこの一番下にログアウトが有る筈だよ」
「歯車みたいなの…これね」
そのアイコンを押して、さらに展開された中の一番下…ログアウトが本来有るらしい所を見る。
無かった。
というか、空白だった。
「…此処なの?」
「…その筈なんだけどね?」
しばし、二人無言で眺める。
「流石にそう上手くは行かないのかな…そもそもこの世界から出たらクトリは自分の世界に帰れるのか…」
不吉なこと言わないでほしい。
「というか、ログアウトボタンの場所はここで合ってるの?」
「うん、その筈だよ、私のメニューには…」
「…ん?」
「…どうしたの?」
「いや、私のメニューからもログアウトボタンが無くなっているんだ、バグだろうか…」
「それ大丈夫なの?」
「大丈夫か否かで言うなら…大丈夫じゃないね…」
この時、メニューの端に映る時計は午後の5時25分を指していて
二人が青い光に包まれ、はじまりの街の最初の広場に戻されるのはこれから5分後のことであり、そして、その時が。
1万の命を閉じ込めた〈ソードアートオンライン〉というデスゲームの開幕となる。
作者「結構疲れるじゃねぇか…」
三日月「ねぇ、俺の出番は?」
作者「ままま待ってくれ」
三日月「駄目だよ作者、俺はまだ止まれない」
作者「勘弁してくれよミカァ…」
*本編とは関係ありません
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