インフィニット・ストラトス〜つきのおとしもの〜 (リバルリー)
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プロローグ
プロローグ(1話)


はじめまして。この小説を読んでくださり、ありがとうございます。僕はISのことはほとんど分かりません。投稿したのは、とある動画を見てしまったからです。こんな駄文で、原作崩壊などうしようもなく、意味がわからない小説で良ければ、どうぞ!




僕──白波忍(しらなみしのぶ)には両親がいない。

母親は僕が産まれた時、父親は僕が三歳の頃に交通事故で亡くなった。

親戚の引き取り手もなかった僕はお隣に住んでいた千冬(ちふゆ)さん──織斑(おりむら)さん家に厄介になる事になった。

なんでも織斑さんのところも両親に捨てられた過去があるらしく

千冬さん曰く──

「親のいなくなった子供を一人で放っておく訳にはいかない」

だそうだ。

その織斑さん家には千冬さんの弟の一夏(いちか)もいた。

一夏と遊ぶのは楽しい。よくかけっこをする。……いつも負けるけど(笑) 一夏は運動得意だなぁ……。

千冬さんは怖いけど、なんやかんや優しい。

僕はこの家で暮らすのが大好きだった。

でも、織斑さん家で暮らす楽しい日々もあの日から徐々に崩れていったんだ……。

とある日、僕たちは海に遊びに来た。

すごく楽しかった。一夏と僕でビーチバレーをしたんだよ。(僕は泳げないんだ。あはは……)

 

そんな夜、誰かに呼ばれた気がした。

一夏や千冬さんはもう寝てる。ぐっすりだ。

……気のせいだったのかな……?

 

《来て……》

 

……っ!気のせいじゃない!誰かに呼ばれてる!

僕は外に走り出し、ホテルから出た。

(この時、なぜかホテルの扉が開きっぱなしだったけどその当時は気にならなかった)

外へ出ると、そこには綺麗な満月が広がっていた。

 

《来て……》

 

声はビーチの方から聞こえてくる。

僕はビーチへと走った。

そこには海に流されたのか、クリーム色のマフラーがあった。

綺麗な留め具で止めてある。

なんだろう?

せっかくだし、持ち帰ることにした。

(この時、なぜか防犯カメラの電源が切れていたことをホテルの人から聞いた。泥棒とか来てないよね……?)

その後、千冬さんや一夏にマフラーのことを聞かれ、包み隠さず話したら千冬さんにげんこつをもらった。痛かった……。

千冬さんのげんこつはとてつもなく痛いんだ……。痛いけど、その痛さは千冬さんの心配の現れだって僕は知ってる。その優しい痛みを感じながら僕たちは家に帰った。

 

 

そして、僕が五歳になった頃、事件は起きた。

日本を攻撃できるミサイルが、一斉にハッキングされたらしい。

千冬さんは何故かいなくなってたし、怖いよ……。誰か助けて……。

 

その時、海で聞いた時と同じ声が頭の中に響いた。

 

《祈って……。その留め具に、強く……!》

 

僕は、言われるがまま、強く祈った。

 

すると、黒い鎧みたいなものが僕を包んだ。

それには金色の剣と黒いバイザーのようなもの、そして、カラスのような黒い翼が6枚も付いており、左腕は少し大きくなっていた。

 

「忍……なんだ、その格好……」

 

と一夏が聞いてくる。

 

「僕にも分からない……何これ……?」

 

すると、先程の声が聞こえてきた。

 

《初めまして、マスター。私は補助・制御人工知能(AI)『アルヴィト』と言います。しばらくは私の指示に従ってください》

 

ま、マスター……?訳が分からない。

とりあえず言う通りにしてみよう。

 

《では、マスター。飛びましょう。鳥が羽ばたくようなイメージで背中の翼を動かしてみてください》

 

僕は、アルヴィトに言われるがまま、翼を動かした。すると、浮いた。

 

翼が羽ばたき、僕を空に浮かせてみせた。

僕は高いところは苦手なのだが、この時は全然怖くなかった。

 

《では、太平洋に向かって飛びましょう。現在の位置はここ。太平洋の位置はここです》

 

そう言うと、アルヴィトはマップを目の前に出し、今の位置と大きな海(これが太平洋かな?)に青と赤のマークを出した。黄色い矢印で教えてくれたからわかりやすい。

 

《では、太平洋の方向に体を向けて、うつ伏せになってください》

 

僕は言われるがまま、太平洋に向けて体を倒した。黄色い矢印が今向いてる方向らしい。やっぱり分かりやすい。

 

《では、行きましょう!翼を羽ばたかせてください》

 

僕は、思いっきり翼を羽ばたかせた。




はい、いかがでしたでしょうか?下手くそだけど、可能な限り頑張ってみました!リアル事情もあって、不定期更新になりますが…よろしくお願いします!あ、キリのいいところだったので、プロローグは2話分にします!ちなみに、系列的には、一夏が3歳〜5歳くらいの時です。こんな駄文でごめんなさい!
追記.設定の修正に伴い、忍くんは箒に会わせます。めちゃくちゃ設定でごめんなさい…


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プロローグ(2話)

昨日がスーパームーンだったので初投稿です。かなり難産だなぁ…この調子で続くのかぁ…?では、どうぞ!


空を飛んでしばらくすると、白い人型が宙に浮かんでいるのが見えた。

 

あれは、僕が付けてるのと同じ……?

 

と考えてると、こっちを見てきた。

 

あれ?なんかヤバイ?

 

そう思う間もなく、白い人型は一瞬で目の前に移動してこう聞いてきた。

 

「貴様、何者だ?何故それを纏っている?」

 

あれ?この声まさか……。

そう思った僕は慌ててこう聞いた。

 

「千冬さん⁉︎なんで千冬さんがここに⁉︎いや、その前になんでそれを⁉︎」

 

あ、そういえばなんか今バイザー降りてるんだった。

 

上げなきゃ分からないよね。

 

僕がバイザーを上げたら、千冬さんも驚いたような顔をしていた。

 

そして、僕は千冬さんから色んなことを聞いた。

 

今千冬さんや僕が付けてるのはIS(インフィニット・ストラトス)という兵器で、女の人にしか付けれないというよく分からない仕様があるらしい。

 

だから、僕はすごい特例らしく、このことは内緒にしてほしいとのことだった。

 

あれ?じゃあなんで千冬さんは女の人にしか付けれないなんてことが分かるの?と思って聞いて見たけど、はぐらかされた。

 

むー……。納得いかない……。

 

と言っている間に、何かが爆発したような音がした。

 

ミサイルが発射されたみたいだ。

 

そのミサイルが近づいてくるのを見て、千冬さんは僕へ向けてこう叫んだ。

 

「私一人で片付けるからここで待ってろ」

 

その言葉に僕は怒りを覚え──

 

「そんなの許さない!千冬さんは一夏を置いて死にたいんですか⁉︎」

 

気が付いたらそんな言葉が口から出ていた。

すると千冬さんは困った顔をしてこう聞いてきた。

 

「だが、お前に何か出来るのか?」

 

確かに、僕には何もできない……。

そう落ち込んでると、アルヴィトがある提案をしてきた。

「マスターの安全を確保するのでしたら、オルトリンデを使いましょう」

 

オルト…リンデ……? 何、それ?

そう考える前に、アルヴィトが説明をしてくれた。

 

「要は自由に動く小さな飛行機みたいなものです」

 

うーむ……小さな飛行機かぁ……。

でもそれだとミサイルは……。

と思ってると、アルヴィトは僕の心の声に答えるかのようにこう言った。

 

「大丈夫です。オルトリンデは遠くからビームを撃てます。ロボットアニメを見たことあるマスターならビームも理解できるかと」

 

なるほど!ビームならいけるかも!と思った。

 

ビームならたしか砲弾を爆発させることも出来たはず!

 

ミサイルを落とす方法もなんとなくわかってきた!

そう思っていた時、更にアルヴィトがこう説明を付け加えた。

 

「オルトリンデはその姿で敵を切り刻むことも出来るんですよ?」

 

え、何それさいきょーすぎる……。

……っと!これ以上考えてるのはまずそうなので、一旦アルヴィトとの通信をやめ、千冬さんに説明したけど、オルトリンデがよく分からないらしい。

どう伝えればいいのか悩んでると、アルヴィトがこう言った。

 

「出て来て!オルトリンデ!と念じてください」

 

言われた通りに念じると、僕の周りに六つの短い剣のようなものが現れ、浮いた。

 

これで千冬さんも理解したらしく、こう言った。

 

「なるほど、ビットか」

 

ビット?僕が見たビットはもう少し丸かったかな……。なんか胞子みたいな……。

とにかく、これで僕も何か出来そうだ!

そして、僕はバイザーを降ろし、ミサイルの撃墜作戦……とは言えないものが始まった。

 

千冬さんは前に出て、ミサイルをスパスパ斬り裂いて爆発させていた。

 

よく見ると、爆発する前に高速でそのミサイルから離れてる。

 

人がやると簡単に見えるけど実際には難しいってこのことなのかなぁと思った。

 

すると、千冬さんがミサイルを取りこぼしたのか、後ろを振り向き、僕へ向けてこう叫んだ。

 

「忍!ビットを飛ばせ!」

 

僕は、多分念じるんだろうなと思い、

 

「あのミサイルを落として!」

 

と念じた。

 

すると、オルトリンデのうちの三機が僕から離れ、ミサイルの一つにビームを発射した。

 

ミサイルは、ビームの熱量に耐えられなかったのか爆発した。

 

やった!僕にも出来た!この調子でどんどん……と喜んでいたら、気付かぬ間に、下にいる大きな船が一つ煙を上げながら沈んでいるのが見えた。

 

……ごめんなさい……。守れなかった……。

 

船の中の人達を守れなかったことに後悔していると、千冬さんが僕を叱った。

 

「忍!まだ来るぞ!ボケッとするな!」

 

……っ!僕はオルトリンデを自分の周りを囲むように集め、一斉にビームを放った。

 

見事に上手くいった。かなりの数を落とした。

そう喜んでいる時、アルヴィトからこう告げられる。

 

「マスター!これ以上ビームを放つと、エネルギーが持ちません!」

 

そんな……これからなのに……あれがいけなかったのかなぁ……。

 

すると、千冬さんから電話から出るような声で優しくこう言った。

 

「忍、よくやった。あとは任せろ」

 

あの厳しい千冬さんからよくやったと言われた喜びと役に立てない悔しさを噛み締めつつ、僕はオルトリンデをしまった。

 

結局、残りは千冬さんが片付けてしまった。

(この時、軍艦の乗員たちは、何が起きているのか分からず、呆然とするしかなかったと、後日話している)

 

 

 

後日、軍艦一隻を犠牲に、謎の二機の人型がミサイルを撃墜したこの事件は「白騎士と堕天使事件」と呼ばれるようになった。

 

 

 

そして、僕は何も起きないまま一夏と同じ学校に通うことになった。

 

クラスは違うけど、一夏やその幼馴染である篠ノ之箒と一緒に通うのは楽しかった。

 

通うのは、だ。

 

僕の学校の一日は、女子に黒板消しを投げつけられることから始まる。

 

白騎士と堕天使事件の後、箒のお姉さんである篠ノ之束により、ISが発表された。

 

ISは、女性しか扱えず、ISを倒せるのはISだけと言ったので、女尊男卑の風潮が広まり、今、僕に起きているような理不尽ないじめが起きている。

 

次に、画鋲だらけの椅子。

 

剥がすための道具も無く、仕方ないので、椅子をどかし、空気椅子で座り、勉強することになった。

 

4時間目が終わり、給食の時間になってもいじめは終わらない。

 

今日はカレーライス、ポテチ入りのサラダ、オレンジだったのだが、そのうちのカレーの係の女子が、僕にカレーをかけてきた。

 

熱い……。熱くてヒリヒリした。この後は、体操服で過ごすことになった。

 

一夏や箒が心配してくれたのが幸いだった。

 

だが、5年生になり、箒が転校したので、不安が増した。

 

箒と入れ替わるようにして転校してきた(ファン)鈴音(リンイン)という子も僕のことを心配してくれたのが幸いだった。

 

こんな感じのいじめがずっと続き、中学生になっても、いじめは終わらず、さらに千冬さんの試合を見るために一夏まで一時的とはいえいなくなってしまった。

 

しかも一夏は決勝戦の日に攫われ、一夏を助けるために、千冬さんは決勝戦を棄権し、情報を教えたドイツ軍の教官になってしまい、うちに姿を見せないようになってしまった。

 

そして、中2の頃には鈴もいなくなってしまった。

 

鈴がいなくなってからいじめはさらにエスカレートしていき、とある日、集団で暴力を振るわれた。

 

背中と腕に大量の痣ができ、とても痛かった。

 

理由を聞いて見ると、

「男のくせに女より綺麗とかふざけるな」

 

と言ってきた。意味が分からない。

 

担任の先生に助けを求めても、先生は何もしてくれず、このいじめを黙認しているだけだった。

 

その先生も女性だった。

 

そして、僕は理解した。

 

「ああ……女性はこんなにも汚いんだ……」




いかがでしたか?途中から走り書きになってしまいました…。もうめちゃくちゃだよ…。誰か文才をオラにくれー…。次回からは3人称視点にしてみようかと考えてます!


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オリ主設定
オリ主設定


いきなり脱線。でも書いておかないといけないですし、これなら多少のチートを入れても、唐突に出すよりは受け入れられるかなって…(オイ)では、どうぞ!


白波忍(しらなみしのぶ)

主人公。マフラーを巻いているせいでクールに見えるが、実は大のぬいぐるみ好きな男の娘。元々は比較的明るい性格だったが、白騎士と堕天使事件が起こり、女尊男卑の風潮が流れ、学校で女子にいじめられ、担任の女性の先生にもいじめが黙認され、女性不信に陥るようになり、女性に対して冷たい態度をとる。男子とは、普通の態度で接する。(だが、男装してると雰囲気とか香りで分かる。???『こいつはくせぇ!香水の匂いがプンプンするぜぇーっ!』)

ISに乗れるという理由で、IS学園に編入した。

好きなものは読書(本当はぬいぐるみに囲まれて生活すること。このことは一夏は既に知っている)嫌い、苦手なものはうるさい人、女性。

IS.ヴァルキュリア・ベルフェゴル(女性不信の戦乙女)

これは便宜上付けた名前であり、本当の名称は不明。6枚の翼がある。バイザーがあり、これで顔に当たる風をシャットアウトする。搭乗者をサポートするアルヴィトというAIがあり、一度展開すると、脳内にインストールされる形で起動する。わかりやすく言うと、頭の中に先生がいるっていうかんじ。テストでチート出来るよやったね!…と言っても、予習で覚えられるようにサポートするだけで、テスト中には何も言わない(当たり前だけど。)武装にもそれぞれ名前が付いている。他にも、様々なシステムがあり、それらにも名前が付いている。脳波コントロールでき、実質第3世代である。ちなみに、最初から単一仕様能力を使用できる。

武装

溶断用マニピュレータ(名称:ヒルド)

不折の剣(名称:スルーズ)

無限生成式の槍(名称:ゲルヒルデ)

バイザー(名称:グリムゲルデ)

ダガービット(名称:オルトリンデ)×6

翼型スラスター(名称:ロスヴァイセ)

システム

戦闘指揮、最適化システム(名称:シュヴェルトラウテ)

自動修復、点検システム(名称:ヘルムヴィーゲ)

恐怖心緩和システム(名称:ヴァルトラウテ)

単一仕様能力

神子の祈り(レギンレイヴ)

有害な物質や煙などを吸収し、シールドエネルギーにする超技術な単一仕様能力。しかし、発動中はグリムゲルデを閉めることができないので、吸収する際に命の危険が伴う。

 

 

オルトリンデ(ダガービット)はビームを撃つことができるソードビット。某万能姉さんみたいにビットのビームでシールドを張れる。6つ全部のビームで敵を閉じ込めることもできる。

 

ヒルド(溶断用マニピュレータ)は腕が人の腕の形に似せて作られている《シャイニング○○ンガーとはこういうものか》。

 

スルーズ(不折の剣)は、地球では採れないはずの金属が使われている。(どこかで聞いた設定だな…)

 

ゲルヒルデ(無限生成式の槍)は、生成された瞬間、即、アルヴィトが次の生成に取り掛かり、一瞬で完成させる。アルヴィトさん過労死不可避。

 

ロスヴァイセ(翼型スラスター)のイメージは、ガンダムデスサイズヘル(TV版)のハイパージャマーのデカイ方が6枚(3対)付いてるイメージ。ヘルムヴィーゲ(自動修復、点検システム)は、自分でメンテナンスを行う。(あれ?これもう忍くんいらなくね?とか言ってはいけない)

 

ヴァルトラウテ(恐怖心緩和システム)は、高所、襲われる事への恐怖を和らげ、戦闘の邪魔をしないようにするシステム。だが、これは、暴走すると、某おっp…の付いたイケメンが暴走した時のような話を聞かない狂人になってしまうので、注意が必要。暴走の条件は、トラウマのように突発的な外部的要因の恐怖心が働くこと。

 




はい、頭おかしいですね!もう少しまともなISを考えられなくてごめんなさい…!なんでこんな超技術なのかは、物語の最後くらいに明らかにするつもりです!


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IS学園編
第0話.堕天使は再び姿を現す


燃え尽き症候群が治らないので初投稿です。いつになったら治るんだこれ…別のゲームにハマってたからなぁ…ケツ叩かれてようやく復帰です。今回は試験回です。いつも通りですが、どうぞ!


今回試験会場になったここに、一人の少年が現れた。

 

その少年に、今回試験官となった女性が声をかける。

 

「こんにちは。IS学園入学希望者ね?私が今回の試験官よ。よろしくね」

「白波忍です。今回はよろしくお願いします」

 

女性の微笑みに、少年も挨拶を返す。

 

 

「今回は、ISでの実技試験を行うわ。まぁ、簡単に言うと、貴方がどれだけ適正があるか調べる、ということね。じゃあ、ISを二機出すから、どっちを選ぶか決めて」

 

そう彼女が説明すると、突然地面に丸い穴が開き、そこから、忍の目の前に二機のISが低い台座に乗って現れた。

 

一つは、純国産の第2世代IS「打鉄(うちがね)」。

 

性能が安定して使いやすく、後期型ISがアーマーを大きくして手足を延長しているのに対し、打鉄は操縦者の体格からは大きく逸脱しない。

 

武装は、大型ブレード「(あおい)」と、アサルトライフル「焔火(ほむらび)」。

 

もう一つは、フランス・デュノア社産の第2世代IS「疾風の再誕(ラファール・リヴァイヴ)」。

 

一番最後に出された量産型ISで、世界3位のシェアを誇り、7カ国でライセンス生産されており、12カ国で正式採用されている、一番有力なISだ。

 

人を選ばないISで、操縦しやすい。

 

 

 

女性は、今か今かと待ち構えているようだった。

 

忍は、二機の前に歩み寄り……

 

 

 

 

 

 

 

打 鉄 を 纏 っ た。

 

(この時、もう片方のラファールは、台座と共に地面の中に戻り、穴は塞がった。)

 

 

 

 

 

「へぇ、打鉄を選ぶなんて意外ね。大体の人はみんなラファールを選ぶのに」

 

女性は感嘆の声を上げながら、ラファールを纏った。

 

「だって……打鉄は鉄を打つ、と書くじゃないですか。それなら、貴方が纏う、ラファールという鉄を打ち倒せると思いました」

 

忍は挑戦的にそう笑う。

 

「なるほど……願掛けみたいなものね。それじゃあ、行くわよ!」

 

そして、試験が幕を開けた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

戦いは、ほぼ同じことの繰り返しだった。

女性が銃を連射し、忍が大型ブレードでその銃弾を弾きつつ、アサルトライフルを連射。

女性が距離を縮めてくると、忍は大型ブレードを振り上げ、砂煙を巻き上げ、距離を離させた。

そして、今、お互いにシールドエネルギーはあと僅かだった。

 

「ここまでよくやったわ……。でもパターンが少ないわね。もう少しパターンを増やした方がいい。まぁ、それは私もだけど……」

「はぁ…はぁ…そりゃどうも」

「さぁ…これで終わりにしましょう」

 

そう言って、女性は銃を向けた。

 

「ええ…。これで決着をつけましょう」

 

そう言って忍が、アサルトライフルを向けた瞬間、

 

アサルトライフルがマズルフラッシュを素早く焚いた。

 

女性は素早く左に避け、銃を構え直す。

 

その瞬間、大型ブレードが女性目掛けて飛んできた。

 

女性は慌てて右に転げ回ったが、女性が起き上がる前に忍が、高速で直線的な飛び蹴りを与えた。

 

(まさか、瞬間加速(イグニッション・ブースト)を銃を撃っているときと私が剣を避けている間に貯めるなんてね…してやられたわ…)

 

そして、実技試験は、忍の勝利という形で、幕を下ろした。




いかがでしたでしょうか?短くてごめんなさい…燃え尽き症候群が治らないのでまた先になるかもですが…これからも頑張らないと!さぁ、忙しくなるぞ〜(リアルも)


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第1話.再会(リスタート)1/3

書けました!とある方に「細かくパートを分けた方がいい」というアドバイスをいただき、それに習い、パートを分けました。では、どうぞ!


入学式が終わり、忍たち新入生は一年一組の教室へと案内された。

 

その教室の教壇に立つ眼鏡をかけたやや低身長の女性が教室を見渡し、こう挨拶する。

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)をはじめます!私は副担任の山田真耶(やまだまや)です。今日から一年間、みんな仲良くしましょうね!よろしくお願いします!」

 

副担任の山田先生の挨拶を聞いた忍は……

 

(どうせこの教師も、男子がいじめられていても、助けないんだろうな)

 

と、そう感じていた。

 

それよりも忍は、教壇の目の前にいる学生を注視する。

入学式の時は気付かなかったのだが、教室に案内された時に気付いた。

忍以外にも男の制服を着ている者がいたのだ。

 

それと、気のせいだとは思うが、後ろ姿が心なしか一夏にそっくりに見える。

そうこうしている間に、山田先生が生徒達に自己紹介を促した。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。ええっと、出席番号順で」

 

クラスの女子たちが順番に自己紹介してるのを聞きながら、忍は内心イライラしていた。

先生の煮え切らない態度と、さっきから、クラスの女子たちの視線が自己紹介をしている人にではなく、忍ともう1人の彼に刺さっているのが感じられるからだ。

 

(あぁ…早くここから消えたい)

 

忍は心の中でそう呟きながら、男子生徒の方へと目をやると、彼は横を向いていた。

その横顔に、忍は見覚えがあった。

 

(間違いない…一夏だ!なんで一夏がここにいる⁉︎)

 

忍は思わず立ち上がりそうになったが、落ち着いて、一夏の目線を追ってみる。

そこには、あの彼女がいた。

あの時一夏が助けた女の子。

忍を気遣っていた女の子。

篠ノ之箒(しのののほうき)がそこにいた。

黒髪のポニーテール。

そして、鋭い目つきで忍はなんとなく分かった。

 

(箒もこの学園に⁉︎いや、箒は女性だからここに入るのは当たり前なのか…あっ、箒が窓の外に顔を逸らした)

 

忍は一夏が可哀想に見えると、同時に自分にも気づいて欲しかったかなぁ……とも思った。

 

「一夏くん?織斑一夏くん?」

「は、はいっ⁉︎」

 

一夏は考え事をして、自分の番が来た事に気付いていなかったようだ。

 

周りからくすくすと笑い声が聞こえる。

 

(人を小馬鹿にしてこっそり笑うなんて……)

 

忍は再びイライラする。

 

「あの、大声出してごめんね。怒ってる?本当にごめんなさい!でも、あ、あの、「あ」から始まって今「お」なんだよね、自己紹介、してもらえるかな?だ、ダメかな?」

 

山田先生はおどおどして、何度も何度も頭を下げながらも、自己紹介を一夏にお願いしていた。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても…自己紹介もしますから、先生落ち着いてください」

 

そう一夏が宥めると、山田先生はがばっと顔を上げ、一夏の手を掴み、熱心に一夏に詰め寄った。

 

「ほ、本当?本当ですか?や、約束ですよ?絶対ですよ!」

(まぁここでヘマをすると環境に馴染めなさそうだ。僕は馴染まない方がいいけど……一夏、頑張れ)

 

忍は心の中で一夏を応援する。

一夏は立ち上がり、後ろを少し向いた。

女子たちは、全員一夏に視線を向けている。

箒も、横目で一夏を見ていた。

そして……

 

「えー……織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

一夏は自己紹介をし、儀礼的に頭を下げて、上げた。

だが、JKと呼ばれる時期の女子。

男性のことはもっと知りたいだろう。

ましてや、この学園に2人しかいない男子ともあれば、この程度の自己紹介で満足できるはずもなく……

 

(もっと色々喋ってよ)

 

とでも言いたげなクラスメイトの女子たちの視線が一夏に刺さる。一夏は見るからに焦っていた。

 

「……」

 

一夏は大きく息を吸い込む。

 

(もっと聞きたい!)

 

という女子たちの期待の視線が一夏に向けられる。

 

 

そして、一夏が口を開き……

 

 

「以上です!」

 

ズコーッというずっこける音が聞こえる。

忍も、あまりの虚しさに呆れかえってしまった。

 

「あ、あのー……」

 

一夏にかけられる山田先生の声。

しかも涙声っぽさが増してる。

 

「え?あれ⁉︎ダメでした⁉︎」

 

そう一夏は狼狽えるその直後……

 

ガンッ!

 

という音が響いた。

その音は拳骨で出るような音ではない。

 

手に持つ出席簿で一夏の頭を叩いたその人物は…………

そうあの人……

 

「いっーー⁉︎げぇっ、関羽⁉︎」

(一夏……)

 

一夏がふざけた事を口走り、

再びガンッ!という乾いた音が鳴り響く。

 

(……そりゃ叩かれるよ、自業自得だ)

 

忍が呆れ果てている内にトーン低めの声で一夏を叩いたその人──織斑千冬(おりむらちふゆ)がこう言った。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

そんな千冬先生に山田先生が声をかけると、

千冬先生は、一夏にかけた声とは比べ物にならないくらい優しい声で答えた。

 

「あっ、織斑先生。もう会議は終わったんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな。」

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと…」

 

先程の涙声とは違い、若干熱っぽい声と視線で千冬先生へと応えている。しかもはにかんだ。

 

(……主人に甘える犬かよ)

 

忍は心の中でそう悪態をついた。

 

そして、千冬先生は教壇へ上がり、こう挨拶する。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ。」

 

すると、女子たちから黄色い声援が響いた。

 

「キャーッ‼︎千冬様、本当の千冬様よ‼︎」

「ずっとファンでした!」

「あの千冬様に指導していただけるなんて嬉しいです‼︎」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです、北九州から!」

「私、お姉様のためなら死ねます‼︎」

 

こう騒ぐ女子たちを千冬先生は鬱陶しそうな顔で見る。

 

「…毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。いや、それとも私のクラスに馬鹿者を集中させてるのか?」

 

すると、また黄色い歓声が上がった。

 

「きゃあああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って‼︎」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして〜‼︎」

 

騒ぐ女子たちに忍は心の中でまた悪態をついた。

 

(…うるさい。そして女子は虐められたいのか?俺が知ってる女子は虐めるのが好きそうだったぞ)

 

そして、千冬先生の視線は一夏に向き、

 

「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」

 

と、一夏に辛辣な言葉をかけた。

だが、事実なので仕方がない。

 

「いや、千冬姉、俺は──」

 

一夏が言い訳を始める前に、

ガンッ!という音がまた響いた。

 

「織斑先生と呼べ」

「…はい、織斑先生」

 

その時、教室が静まり返った。

 

「え…?織斑君って、あの千冬様の弟…?」

「それじゃあ、世界で二人だけのISを使えるって男だっていうのも、それが関係して…?」

「いいなぁ、変わって欲しいなぁ」

 

という声が聞こえる。

 

「……」

「さて、……面倒だが挨拶をしろ、白波」

 

そんな中で千冬先生が忍に話を振ってきた。

 

「……分かりました」

 

忍はそう言い、立ち上がる。

そしてワザと低めなトーンで自己紹介をした。

 

「白波忍。好きなものは読書。嫌いなものはうるさい人や場所。まぁ短い付き合いだが、よろしく」

 

『関わるな』と言おうとしたが、ここは2人の例外を除き、女子だけが操縦できるパワードスーツのことを勉強する学園。よって2人の他には女子しかいない。そんなところで女子に喧嘩を売るようなことをすれば、小中学の二の舞どころか、さらに酷い目に遭わされるかもしれない。だから、その妥協案として、低いトーンで自己紹介をしたのだ。

 

忍が自己紹介をし終えたところで、チャイムが鳴った。

 

「さあ、SHR(ショートホームルーム)は終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半年で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

千冬先生はそのチャイムを聞いて、そう指示を出した。

 

(…ちょっと横暴な気もするが。)

 

忍は思ったが、その思考は、今日何度も聞いた、ガンッ!という音にかき消された。

 

一夏が千冬先生に殴られたみたいだ。

 

「席に着け、 馬鹿者」

 

……一夏は泣いていい。

 




いかがでしょうか?これからも頑張るので、よろしくお願いします!


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第1話.再会(リスタート)2/3

書けました!三人の再会シーンです!


「一夏」

 

一時間目のIS基礎理論授業が終わり、忍は一夏に声をかけた。

 

「おお、忍!良かった、お前と一緒のクラスで!」

 

一夏は忍を見た途端、ぱあっと表情が明るくなった。

 

「うん。僕も君がいてくれて良かった。周りは女性ばかりで嫌だしね…でも、なんで一夏はこの学園に?」

「あぁ、それは…」

 

一夏はこの学園に入るまでの経緯を説明した。

 

「……つまり、藍越学園の試験会場に行く途中に迷子になって、間違えてこの学園の試験を受けて、無事ISを起動した、と。……普通の学校の試験なら着替えないだろうし、そこら辺で気付かない?確かに今は落とす可能性があるからか、受験票とか無くなってるけどさ……」

「あはは……何も言い返せねぇや。…だけど、なんで忍はこの学園に入れたんだ?お前も偶然ISを起動できたのか?」

 

忍は、首を横に振って、一夏の問いを否定する。

 

「じゃあ、なんで…?」

「一夏は5歳の頃のこと、覚えてる?」

「ああ、その時は【白騎士と堕天使事件】が起きたな。それがどうかしたか?」

「やっぱり忘れてる…?あの時、一夏も見たよね?僕が黒い鎧を纏ったの」

「え……?あっ⁉︎あの時の⁉︎じゃあ、【堕天使】って呼ばれてたのは……」

 

一夏が言いかけたその時だった。

 

「…ちょっといいか?」

 

凛とした声が、忍と一夏の会話を遮った。

二人が声を掛けられた方を向くと……

 

「「…箒?」」

 

六年ぶりに再会した、幼馴染がそこにいた。

 


 

「……」

「……」

「……」

 

箒に連れてこられた屋上で、3人とも静寂を守っている。

その静寂を最初に破ったのは——一夏だった。

 

「……そういえば、箒」

「何だ?」

「去年、剣道の全国大会で優勝したってな。おめでとう」

「………//」

 

箒は一夏の祝いの言葉を聞くなり、顔を赤らめた。

 

(ああ、やっぱりな)

 

その箒の反応を見た忍は確信した。

 

箒は、一夏に恋をしている。

 

恐らく虐められている箒を一夏が助けたという日からだろう。

 

「…なんで、そんなこと知ってるんだ」

 

箒は一夏にそう問いかける。

 

「なんでって、新聞で見たし…」

「な、なんで新聞なんか見てるんだっ!」

「はぁ⁉︎」

 

一夏たちが言い合ってる横で忍は……

 

(あぁ、違う違う。一夏、箒はきっと、貴方に頑張ってたところを見て欲しかったんだよ。僕も一応TVで見たしね)

 

そう心の中で呟いていた。

 

箒と一夏の言い合いが落ち着いた頃、また一夏が思い出したように口を開く。

 

「あー、あと」

「な、何だ⁉︎」

 

箒が怒ったような感じで問う。

そんな箒の剣幕に一夏は押されたようで、黙ってしまい、答えを声に出そうとしない。

 

「あ、いや……」

 

どうやら一夏が箒の剣幕に押されていることに、箒は気付いたようだ。ばつが悪そうな感じになった。

剣幕から開放された一夏が、先ほど声に出せなかった答えを出す。

 

「久しぶり。六年ぶりだけど、箒ってすぐ分かったぞ」

「え……」

「ほら、髪型一緒だし」

 

すると、箒は少し照れくさそうに、ポニーテールをいじりだした。

 

「よ、よく覚えてるものだな…」

 

声も少し嬉しそうだ。だが……

 

「いや、忘れないだろ、幼馴染のことくらい」

 

という一夏の発言で、箒は無言のまま一夏を睨んだ。

そして、

 

「ふんっ!」

 

箒はそう言って一夏から離れ、遠くで空を眺めていた忍に声をかけた。

 

「久しぶりだな、忍。元気にしていたか?」

「……うん、おかげさまで」

 

忍は冷ややかな声色で返事をした。

 

「……私の知らない間に、少し冷たくなったか?」

「……そうだね」

「一夏には普段通り話すのに、私に対しては冷たいな……」

「…僕は女子に嫌われるような振る舞いをした。それなのにあまり近付かれると君にも被害が及ぶ。……それに、一夏が好きなのに、僕の隣にいられても困る

 

忍が小声で箒に囁くと、

 

「っ⁉︎//」

 

箒は顔を赤らめた。

 

「ほらほら、行った行った」

 

そう言うって忍は「あっちいけ」のジェスチャーをする。

 

「あ、ああ……」

 

箒が言い、忍に背を向けた途端、チャイムが鳴り出した。二時間目の始まりを告げるチャイムだ。

 

それまでこっそり三人を遠巻きに見ていた野次馬たちも、蜘蛛の子を散らすように去っていく。

 

「さあ、僕らも急ごう。始まるまで時間がない」

「おお、そうだな。俺たちも戻ろうぜ、箒」

「わ、分かっているっ」

 

そういうと、箒は踵を返して、教室に戻っていく。

忍も焦ったように早歩きで、教室に向かう。

その二人を追うように一夏も教室へと駆け出した。

 


 

「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ……」

 

山田先生は、すらすらと教科書を読んでいく。

生徒たちも、黙々とノートを取っている。

——偶然IS学園に入学することになった、一夏を除けば。

 

(……やべぇ、このアクティブなんちゃらとか広域うんたらとか、どう意味なんだ?全然分からねえ……というかこれ、全部覚えなきゃいけないのか…?)

 

一夏は積まれた五冊の教科書の一番上のもののページをぱらりとめくるが、よく分からない単語がずらりと並んでおり、さっぱり分からなかったようだ。

 

「──では、ここまでで何か質問のある人はいますか?」

 

山田先生が何か分からないことがある人はいないかと尋ねる。

だが、一夏は先生に全然分からないと言うのが少し怖いらしく、隣の女子に聞こうとしたが——

 

「織斑くん、何か分からないところがありますか?」

 

理解していなさそうな顔をしていた一夏に気付いた山田先生がそう一夏に尋ねた。

 

「え!あ、あの…えっと…」

 

一夏はあたふたしつつ、教科書に目を落とすが、やはり内容はさっぱり分からなかった。

 

「分からないことがあったら訊いてください、何せ私は先生ですから!」

 

えっへんと言わんばかりに胸を張る山田先生。

一夏は聞こうと決心した。

 

「先生!」

 

一夏が手を挙げる。

 

「はい、織斑くん!」

 

山田先生は、やる気に満ちた返事をする。

そして、一夏は、質問の内容を山田先生に伝える。

 

「ほとんど全部分かりません……」

「え…?ぜ、全部、ですか…?」

 

山田先生の顔が困惑した表情になる。

 

《ああ…これは困ったことになりましたね…》

 

AI【アルヴィト】が忍に語りかける。

 

(うん、そうだね。一夏は望んでここに来たわけじゃない。間違ってIS学園に来たわけだから、土台が出来ていないわけだし。参考書もあったけど、あの厚さを試験後から入学式の短い期間で全部覚えるのはすごく難しい。僕はISを纏ったあの後から、ISの勉強を始めて、今ここにいるけど……)

《先生側も、ISの知識をほとんど持たないまま入学する学生、男子が入学することになるなんて思っていないでしょうからね…》

(……うん。そうだね)

「え、えっと…織斑くん以外で、今の段階で分からないっていう人はどれくらいいますか?」

 

ここで山田先生がクラスの全員にそう問いかけるが、誰も手を挙げることはなかった。

 

「えっ?えっ?」

 

一夏は明らかに困惑している。

 

「……織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

千冬先生が一夏に尋ねる。

 

「ああ、分厚いやつのことですか?」

「そうだ。必読と書いてあったはずだろう?」

「いや……古い電話帳と間違えて捨てました」

 

スパーンッ!

 

千冬先生は、今度はバインダーで殴った。

流石に痛そうだ。

 

「あとで再発行してやるから、一週間以内に覚えろ。いいな」

「いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

 

一夏はそう反論したが……

 

「やれと言っている」

 

その言葉と同時に送られた有無を言わさぬ鋭い目つきに一夏は素直に従う他なかった……。

 

「……はい、やります。」

 

そんな一夏を心配して、山田先生が一夏の両手を握り、詰め寄って、優しく声を掛ける。

 

「え、えっと、織斑くん。分からないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って、ね?ねっ?」

「はい。じゃあまた放課後、お願いします」

「はいっ!任せてください!」

「さぁ、山田先生、授業の続きを。」

「は、はいっ!」

 

そして、山田先生は教壇に戻り———こけた。

 

「うー…いたたた…」

 

(この先生、大丈夫なんだろうか……)

 

一夏と忍は山田先生に不安を覚えていた。

 




いかがでしたか?次もよろしくお願いします!


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第1話.再会(リスタート)3/3

書けました。なんかやけにセシリア叩いてますけど、主はセシリアアンチじゃありません。ではどうぞ!


二時間目が終わった後の休み時間。

 

「少し、よろしくて?」

 

一人の女子生徒が一夏に声をかけた。

 

「へ?」

 

一夏は、何か考え事をしていたのか、呆けたような声を出してしまった。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

その彼女の言葉に忍は焦燥する。

 

(あぁ、クッソイライラする。ああいうのがいるから女子は信用ならん。そして取り巻きができる。そして、権力を振りかざして男を虐める。本当、バカみたい)

《その通りですね。ですが、これが今の世界の現状なのですね……》

(ああ。だから、僕はいつか……)

 

忍とアルヴィトが脳内会話をしていると、一夏が口を開いた。

 

「悪いな。俺、君のこと知らないし」

(まぁ千冬先生のことしか頭になかったし仕方ないわな)

忍はそう思ったが彼女はそう言われたことが気に入らなかったらしく、吊り目を細め、見下した口調で続ける。

 

「わたくしを知らない⁉︎このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを⁉︎」

 

どうやら、彼女はセシリア・オルコットというらしい。

 

その時、一夏が質問の可否を問う。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

明らかに見下した口調。

忍は読んでいる本を握りしめた。

そして、質問の許可を得た一夏は、その質問の内容を伝える。

 

「……代表候補生って、何?」

 

ズコーッと、聞き耳を立てていた女子の何人かがずっこけた。

 

「あ…あ…あ…」

「あ?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの⁉︎」

 

セシリアの甲高い声に再び忍は焦燥。

 

(……うるさい。僕がうるさい人は嫌いって言ったの聞こえなかったのか?)

 

忍の顔には、青筋が立っている。

 

「おう。知らん」

 

一夏はバッサリ言い切った。セシリアは怒りが一周して逆に冷静になったらしく、こめかみを人差し指で押さえながらブツブツ言い出した。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」

 

セシリアがそう呟いた途端、パタンッという音が聞こえた。

その方向を見てみると、そこには本を閉じ、机に置いた忍がいた。

忍は席を立ち、セシリアに詰め寄る。

 

「な、なんですの……?あなた……」

 

セシリアも少し警戒しているようだった。

 

「なぁ、あんたさ」

「な、なんですの……?わたくし、何かしまして……?」

 

忍に声をかけられたセシリアは動揺していた。

 

「あんたその極東の島国にいるのに、なんでその国を侮辱なんてできるの?バカなの?そしてあんた声張り上げてキーキーうるさいんだよ。静かに本読ませてくれない?僕うるさい人嫌いって自己紹介の時言ったけど、聞き逃した?なら今ここでもう一回自己紹介しなおそうか?」

「う、うぅ……」

 

忍の剣幕に、セシリアも少し引いたようだ。

 

「ま、まぁまぁ。で、代表候補生って?」

「そこの女子に変わって僕が説明するね。代表候補生っていうのは国家代表IS操縦者の候補に選ばれた人のこと。まぁ彼女はエリートって言いたいんだろうが、エリートも僕らも同じ人だ。大して気にする必要はない。むしろ、僕はエリートだからといって人を見下すような人の方が下だと思う。例え勉強が出来なくても、自分を他の人より上の立場だと見なければ自然と人は付いて来るさ」

「ぬ、ぬぐぅぅぅぅ……」

 

忍にプライドをめちゃくちゃにされたセシリア。

 

「……大体、あなたISについて何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね。世界に二人だけ男でISを操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思ってましたけど、期待外れですわね」

「いや、考えれば分かるだろう?男でもISを操縦できる人だぞ?だったら、どこかの国に入れさせるより、中立の立場のこの学園で保護した方がマシでしょ」

「ぬぐぅ……」

 

またセシリアが引き下がる。

 

「俺に何か期待されても困るんだが……」

「ふん。まあでも?わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ」

「あれ、さっき言ったはずだけど?見下すやつの方が下だって。あと、あんたのような態度が『優しい』というのなら、他の人のは何というのかな?」

「ぬ、ぬうぅ……あなたいちいちわたくしの言葉に突っかかるのやめていただけませんこと⁉︎」

「なんで?僕は正しいことを言ってるつもりだけど」

「そういうことでは……!」

 

と、ここで3時間目のチャイムが間に入る。

 

「つ…続きはまたあとで!逃げないことね!よくって⁉︎」

 

良くないが、ご機嫌を損なわせても面倒くさいので、取り敢えず忍たちは頷いておくことにした。

 


 

「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

一、二時間目とは違い、千冬先生が教壇に立っている。

よっぽど重要なことなのか、山田先生もノートを手に持っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。ちなみに、クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない。誰かいないか」

 

説明し終わり、自薦他薦は問わないので誰かいないか、と千冬先生が訊くと、女子の一人が手を挙げ、

 

「はいっ。私は織斑くんを推薦します」

 

と、一夏をクラス代表にすることを薦めた。

 

「私もそれがいいと思います!」

 

と、もう一人がそれに同意し、

 

「私は白波くんを推薦しますー」

 

と、一人が忍を薦め、

 

「あっ、いいね、それ。私も白波くんを推薦します!」

 

と、もう一人がそれに同意した。

 

それを聞いた忍はため息をこぼしつつ、こう言った。

 

「マジかぁ……。まぁ、やらなきゃいけないだろうしやりますよ。ただし、僕にはあまり深入りしないで欲しい」

「うん、分かったー」

 

先ほど忍を推薦した女子がそう了承する。

 

「誰にだって知られたくないことくらいあるもんね!」

 

それに同意した女子も了承してくれた。

 

「ごめんなさい。助かります」

 

忍はそう言うのと同時に、こう思った。

 

(あれ?ここの女子って意外と優しい?いや、まだ分からないから様子を見よう。何か企んでるかもしれない)

 

 

クラスの意見を一通り聞いた千冬先生はこう言う。

 

「では候補者は織斑一夏と白波忍…他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

「お、俺⁉︎」

 

今までちゃんと話を聞いていなかったのか、驚きながら一夏が立ち上がり、そしてクラス中の視線が一夏に刺さる。

これは、『織斑くんなら何とかしてくれる』という勝手な期待を込めた眼差しだ。

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら2人で決着をつけて決めてもらうぞ」

 

千冬先生が辛辣な一言を放ちながら話を終えようとする。

 

「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらなーー」

 

そう一夏が反論をしようとした。その時、

 

「納得がいきませんわ!」

 

そう遮る声が響く。

 

(セシリア…えっと…アプリコット…?)

《オルコットですよ、マスター》

 

忍たちが脳内漫才をしている間に、セシリアはこう続ける。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃいますの⁉︎」

「……」

 

忍は女尊男卑という風潮があるため、怒りを抑えるために、拳を作り、握り締めた。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しい理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

「……」

《マスター……》

 

先ほどは冷静になれず、突っかかったが、忍は、今度は歯を食いしばって怒りを抑える。

だが、次国や人を侮辱する言葉をセシリアが発したら、キレない保証はない。

むしろ、今我慢の限界なのだから、これで最後にして欲しい。

そう忍は思っていたが、その願いは次のセシリアの言葉によりあっさり壊されることになる。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で──」

 

プツン。

と、忍の頭の中で堪忍袋の緒が切れる音がした。

いや、先程もうとっくに切れていたが、千冬先生の話の間に辛うじて少し直ったのだが、それさえも見事に切られた。

 

「あんたさ──」

 

と、忍が声を出そうとするが、それは一夏の一言によって遮られた。

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ…⁉︎」

「一夏…?」

「悪い、忍。俺も我慢ならん。ここは、俺に言わせてくれ」

「う、うん…分かった。ここは一夏に任せる。ただし、一夏か僕が勝ったら代表自体は一夏に任せる。それで良い?」

「ああ、分かった。……は?」

「ふっふーん、言質取ったよ?」

「あ、ああ、分かった…」

「あっ、あ、あなたねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの⁉︎」

「お前も俺の国を侮辱しただろ、お互い様だ!」

「ついでに言うなら、僕らの国にいながらその僕らの国を馬鹿にしてるよね。というかこれ2回目だよ?指摘したの。さっきも同じことを繰り返し言ったし。エリート様は何も学習しないのな。ああ、そうか。自分は他の人より偉いと考えるタイプのエリートだもんねあんた。そりゃあ下々の人の言葉なんて馬の耳に念仏だろうな。悪かったね気付かなくて」

 

これにはエリート様もおかんむりらしく、下を向き、小さくプルプル震えている。

そして、突然顔を上げ、バンッと机を叩き、こう告げた。

 

「決闘ですわ!」

 

その提案に一夏と忍も乗る。

 

「おおいいぜ。四の五のいうより分かりやすい」

「僕も異論はない。分からず屋なエリートさんにはお灸を据えないといけないし」

「貴方いちいち癪に触る言い方しますわね…言っておきますけど、わざと負けたらわたくしの小間使いーーいえ、奴隷にしてさしあげますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「同じく。時代遅れとはいえ、きちんと専用機もある。舐めないことだ」

「時代遅れ?第二世代を改良したISかしら?まあとにかく、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

 

ここで一夏が思いついたように口を開く。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺はどのくらい付ければいいのかなと……」

 

自分にハンデを付けようとする一夏に忍はこうツッコミを入れる。

 

「いや、一夏、多分セシリアはISでの決闘をする。今の女が素手で河原で殴り合う戦うわけないだろ」

「あ、ああ、そうか。今の女子にはISがあるもんな。失念してた。……じゃあ、ハンデはいい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ」

 

これに忍はイラっときたらしく、

 

「無くていいと言ったよ?一夏なら男は言ったことは曲げないって言うだろうし。僕は曲がるかもだけど、それでも今回は一夏に賛成。僕も無くていい」

「流石忍、俺のこと、結構分かってくれてるんだな」

「ずっと一緒に暮らしてるし、一夏は変なところで男ぶるしね」

 

忍がそう言うと、一部の女子がざわついてる。

 

「え…?白波くんと織斑くんが同棲?」

「やだ、それって…」

「夜には男と男の禁断の関係が…」

と、おぞましいことをヒソヒソと話している。

「あるわけないでしょ。僕らは至って普通。ただ僕は女性が信じることが出来ないだけだ」

 

忍はここで、ハッとした表情を浮かべる。

女性が敵だらけにしたくないからあんな自己紹介をしたのに、これでは台無しだ。

 

「え〜、なんで〜?」

「教えて〜!」

 

と、女子たちが聞いてくる。

 

「……言えない」

「え〜?なんで〜?」

「教えてくれてもいいじゃ〜ん」

「ぶーぶー」

 

そんな声が忍に飛んでくる。

 

「人には言えないことの一つや二つあるって、誰か言ってなかった?」

 

忍がそう言うと、女子たちは自分の言動に反省の色を見せる。

 

「た、確かに……」

「ご、ごめんね、変なこと聞いて……」

「私もごめんなさい。深入りしない約束だったもんね。白波くんか織斑くんのうちどちらかが勝てば代表自体は織斑くんに決まっちゃうけど、一度クラス代表に立候補してくれたし、その約束は守らなきゃね」

 

女子たちは分かってくれたみたいだ。

 

「ごめんなさいね」

 

忍が申し訳なさそうな表情をすると、

 

「いやいや、気にしないで!」

「私たちも約束忘れてたし…」

「そうそう!」

 

女子たちは許してくれたみたいだ。

 

(あまり悪く考えすぎても悪いか…話しかけたら軽く話す程度はするか)

 

忍はこの時そう思った。

 

「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、そして白波はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」

 

パンっと手を叩き、話を締める千冬先生。

忍たちは、それぞれ席に着き、教科書を開いた。

 


 

-廊下、自販機前-

 

「はぁ〜…初日からストレスマックス…」

《特にあのセシリアとかいう生徒さんはマスターの嫌うタイプですしね……》

「そうだな…慣れようとしても、あのままだと、多分無理かな……」

 

忍とアルヴィトが会話している時に、山田先生が声をかけてくる。

 

「あ、白波くん!探しましたよ!」

「山田先生、何かご用ですか?」

 

忍がそう聞き返すと、山田先生はこう言った。

 

「はい!白波くんと織斑くんの寮室が決まったんです!」

「やっぱり男子生徒同士、おんなじ部屋なんですね」

「はい!女の子と一緒じゃなくて残念でしたか」

 

少しからかうようにそう笑う山田先生。

 

「いえ、逆にありがたいです。さっきも教室で言いましたけど、僕はある事情から女性を信じることが出来ないだけですから」

「そ、そうですか……?まぁ、悩みがあったらなんでも相談してくださいね、私、これでも先生ですから!」

 

えっへんと言わんばかりに胸を張る山田先生。

 

(少し子供っぽい雰囲気あるよね、山田先生って)

《ふふっ、確かにそうですね、マスター》

 

忍とアルヴィトが脳内会話をしながら山田先生の後を歩いていると部屋に到着したようだ。

山田先生が大きく手を広げ、忍の方を向く。

 

「さあ、着きましたよ!ここが白波くんの部屋です!」

「……1025号室、ですね、ありがとうございます」

「えっと、それじゃあ私は会議に戻りますね」

「……あっ、そういえば山田先生、僕の同居人になる一夏は?放課後の補習があったんじゃ……」

「ああ、それは織斑先生にお任せしました!あの人なら多分大丈夫かと思います!」

「そうですか。なら安心です。(なんやかんや、千冬さんも一夏が心配なんだなぁ)」

「それじゃあ私は行きますね。それでは!」

「はい、ありがとうございました」

 

そして、山田先生は去っていった。

忍は1025号室の鍵を開ける。

 

「うわぁ…‼︎」

 

そこにはまるでホテルのような風景が広がっていた。

大きなベッドが二つ。

キッチンに冷蔵庫。

しかもパソコンが二台。

そしてなんとシャワー室もある。

 

「……」

《マスター…?》

「すっごーい!何これ!ホテルみたい!これなら、学食に行く必要もない!1人で弁当作れる!」

 

そして、忍は袋から、モコモコで、手の平サイズの小さなぬいぐるみを取り出した。

 

「ふふ、これで誰にも気にされることなくぬいぐるみに囲まれて寝ることができる…‼︎あぁ…幸せ…」

《マスターは本当にそのぬいぐるみが好きですね。一夏さんにもそれは見せてないのでしょう?》

 

アルヴィトが興奮からか独り言を呟く忍にそう話しかける。

 

「まぁ、趣味自体はバラしているんだけどね。誰にも言わないって約束したけど」

《そうなんですね》

「さて、シャワー浴びるか!」

 


 

シャワーを浴び終わり、数時間、昼寝ならぬ夕寝をしていた忍は突如、付いた部屋の明かりで目を醒ました。

 

「ん……んんっ……」

「あぁ、すまないな、忍。起こしちまったか?」

 

忍は目をこすりながら、そう言ってきた同居人……一夏の顔をベッドから見上げる。

 

「あ、一夏…おかえり~」

「おう……って、なんだそのベッド?」

「えっ?僕ぬいぐるみ好きだって言ってたよね?」

「聞いた……聞いたし、小学生の頃ぬいぐるみ抱いて寝てたのも覚えてるけど……中学からは違う部屋だったからな……」

 

一夏は歯切れ悪くもこう呟く。

 

「忍…ぬいぐるみ、そんなに持ってたのか……」

「えっ?10体くらい普通じゃないの?」

 

忍のその答えに一夏は頭を抱えていた……。




いかがでしたか?主はもうすぐリアルが忙しくなるので、投稿ペースも悪化してしまうかもですが、これからも頑張りたいと思います‼︎


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第2話.不和(ディファレンス)(1)

書きました〜…もう令和かぁ…慣れ親しんだ平成とお別れというのはなんだか寂しいものですね。では、どうぞ!


朝八時、一年生寮の食堂。

 

誰もが朝食をとりにここに来る時間。

 

そこに、三人の姿があった。

 

「なぁ……」

「………」

「なぁって、なんで怒ってるんだよ」

「……怒ってなどいない」

「顔が不機嫌そうだよ、箒」

「生まれつきだ」

「…ごめん」

「忍が謝ることではない」

「…そう」

 

一夏、箒、忍の三人だ。

 

ちなみに、忍は一夏の左隣、箒は一夏の右隣に座っている。

 

忍は一見女の子に見えなくない外見なので、忍が女性用の制服を着ていたら両手に花状態だったかもしれない。

 

この三人は『幼馴染だから』という理由で席についているが、忍は──

 

(土曜日までは食材買えないし、当分朝昼はここになるのかぁ……。早く土曜日来ないかなぁ)

 

と、そう思っている。

 

ちなみに一夏と箒のメニューは和食セット。

 

メニューの内容は、ご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁、そして浅漬け。これがとても美味しいらしい。

 

ただし、忍はご飯とふりかけ、卵焼きと味噌汁のセットを頼んだ。

 

ちなみに一夏、箒の味噌汁の味噌は赤味噌、忍の味噌汁は合わせ味噌だ。

 

忍曰く「赤味噌はちょっとしょっぱい、合わせ味噌がちょうどいい」らしい。

 

そのため一夏とたまに赤味噌か合わせ味噌、どっちが美味いかでちょっとした口喧嘩になったこともある。

 

今となっては笑い話だと二人は思っている。

 

「箒、これうまいな」

 

そう一夏が箒に話を振るが──

 

「…………」

 

箒はそれを無視した。

 

しかし箒も同じように美味しいと思っているのか、鮭をつまんでいる。

 

「なぁ、箒。俺なんか悪いことしたか?怒ってる理由が検討もつかんのだが……」

 

一夏はそう、箒に尋ねてみる。しかし……

 

「だから、怒っていないと言っている」

 

箒はその一点張りだった。

箒は「怒っていない」と言ってはいるが、一夏に顔を向けもしない。どうみても明らかに不機嫌だ。

 

(怒ってるのか恥ずかしがってるのか……)

 

と、忍は勝手に悩んでいた。

 

ちなみに、この時箒が怒っていたのは、自分の恋心に気付かない一夏の鈍感さと、その気持ちを表に出さない自分の弱さに対する苛立ちからくるものであった。

 

「ねぇねぇ、あの二人が噂の男子だって!」

「なんでも織斑くんはあの千冬様の弟らしいわよ、しかも白波くんはその織斑くんと同棲してたって」

「えー、三人揃ってIS操縦者かぁ。やっぱり二人とも強いのかな?」

 

この目線も昨日から変わらない。

「興味津々だけどがっつきませんよ」という感じのむず痒い気配の包囲網。

 

忍はこの目線に一週間耐えられるのか不安になった。

 

「だから箒──」

「な、名前で呼ぶなっ!」

「……し、篠ノ之さん」

「…………」

 

名前で呼ぶなと言われたからか、一夏が名字で呼んだら、箒はまたむすっとしてしまった。

この名字も訳ありで、箒にとっては忌々しい名字なのだろう。

 

そんなギスギスした雰囲気が漂い始めた時、一人の女子に声をかけられた。

 

「お…織斑くん、白波くん、同席…していいかな?」

「へ?」

 

急に声をかけられたからか変な声を出した一夏が見ると、そこには朝食のトレーを持った女子が三人、一夏の反応を待ちわびるが如く立っていた。

 

「あぁ、俺は別にいいぞ。忍は?」

 

一夏が忍にそう尋ねると、忍もこう許可を出す。

 

「……僕も構わない。ただし、あまり声は張り上げないでくれ」

 

すると、声をかけた女子は安堵の息を漏らし、後ろの二人は小さくガッツポーズした。

周りから妙なざわめきを感じる。

 

「ああ〜っ、私も早く声かけておけばよかった……」

「まだ、まだ二日目。大丈夫、まだ焦る段階じゃないわ」

「昨日のうちに部屋に押しかけた子もいるって話だよー」

「なんですって⁉︎」

 

(……あぁ、確か一年が八名、二年が十五名、三年が二十一名自己紹介に来たんだっけ。一夏がそう言ってた。安眠妨害されたよ……。幸い一夏がドアの前に出て、ドアを閉めてくれて幸いしたけど……。おかげでぬいぐるみはまだバレてないみたい。本当に一夏には感謝だよ)

《マスター、あの時視線で人を殺せそうな目をしてましたからね》

(そこまでだったかなぁ〜…)

《間違いなく》

 

忍とアルヴィトと脳内会話していると、女子三人は事前に打ち合わせでもしていたかのように席についていた。

 

窓際に一夏、箒、忍。

 

空いている席が全て埋まる。

 

(忍がいてくれて比較的楽だわ……)

 

一夏はこの時そう思った。

 

「うわぁ~、織斑くんたちって朝すごく食べるんだー」

「男の子だねっ!」

「俺は夜少なめに取る方だから、朝たくさん食べないと色々きついんだよ」

「僕もそれに倣ってる。確か千冬さんのを真似たんだっけ?」

「忍、それを言うなよ……っていうか、女子って朝それだけで平気なのか?」

 

三人の朝食は、種類こそ違うが、パン一枚、飲み物一杯、おかず一皿(少なめ)だけだった。

 

「わ、私たちは、ねぇ?」

「う、うん。平気かなっ?」

 

二人の女子はそう言う。

 

(なるほど、ダイエットかな?女子の体型維持って大変)

 

などと忍がそう思っていると、最後の黄色いフードを被ってる女子が予想外の発言をした。

 

「お菓子よく食べるし!」

 

(えぇ……食べすぎてお菓子が主食にならなければいいけど)

 

などと、忍は心の中で彼女の将来を不安視した。

 

 

「……織斑、白波。私は先に行くぞ」

「ん?…あぁ!また後でな」

「了解」

 

食事を済ませた箒は席を立って行った。

 

(しかし箒と同じクラスとはな。まぁ、周りがみんな面識のない女子よりはいいか)

 

一夏はそう思った。

 

一夏、箒、忍は幼馴染だ。

 

小学校一年の時に千冬の付き合いで剣道場に通うことになってから、四年生まで同じクラスだった。

 

両親のいない千冬、一夏、忍はよく篠ノ之夫妻に夕食に招いてもらった。

 

織斑家はあまりお金がなく、貧乏だったので大いに助かった。

 

ただ、箒と一夏はあまり仲が良くなく、むしろ悪かった。

 

それがなんであんな風になったかと言うと、

 

『男女』と言われていじめられていた箒を一夏が助けたからだ。

 

箒と忍の関係は、悪くはない。どこにでもいる普通の友達同士という感じだ。

 

……恐らく忍もいじめを受けていたから、という点もあるにはあるが。

 

(……あんまり覚えてないんだよな、昔のこと。まぁみんなそうなんだろ。昔は昔。今は今だ)

 

一夏はそう思った。

 

「織斑くんって、篠ノ之さんと仲良いの?」

「あぁ……まぁ、幼馴染だし」

 

一夏がそういうと、周りがどよめきだす。

 

「え、それじゃあー」

 

隣の女子(谷本さんというらしい)が、質問をしようとしたところで、突然手を叩く音が食堂に響いた。

 

「いつまで食べている!食事は迅速に効率良く取れ!遅刻したらグラウンド十周させるぞ!」

 

その千冬先生の声を聞いた途端、食堂の全員が慌てて朝食の続きに入った。

 

忍は食べ終わったらしく、トレーを返却口に置き、教室に戻って行った。

 

このIS学園、一周が五キロもある。

 

十周もするとなると、授業を受けても頭に入らないだろう。

 

一夏も急いで食事を始めた。

 

ちなみに千冬先生は、一年生の寮長も務めているらしい。

 

いつ休んでいるのか分からない。

 

だが、一夏は千冬先生にタフネスで勝ったことがないので、恐らく大丈夫だろう。

 

(まあ、今はあまり考えずにISの勉強に集中しなきゃな、来週にはあのセシリアとの対戦もある。なんとかISの操縦をものにしなきゃな。……まぁ、なんとかなるだろ)

 

一夏はそう楽観視した。

 




いかがでしたか?今回は食事パートです。令和始まりましたね。ここから頑張るぞ!


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第2話.不和(ディファレンス)(2)

お待たせしました〜、まさかGW過ぎるとは…スケジュール管理が出来てなかったか…では、どうぞ!


一組の教室。

 

二時間目が終わり、一夏は死にかけていた。

 

(一夏…土台無しでここへ放り込まれたばっかりに……)

 

忍がそう思っていると、後ろから一人の女子生徒に声を掛けられた。

 

「ねぇねぇ、しのぶー」

 

忍が声のした方を向くと、一緒に朝食を食べたフードを被っていた少女(布仏本音というらしい)が、申し訳なさそうにそこに立っていた。

 

「どうしたの?」

「教科書忘れちゃったんだ〜……見せてくれないかなー」

「……分かった。そういえば貴方隣だったもんね。いいよ」

「ありがとうー!」

 

申し訳なさそうにねだる本音に、忍は数秒の逡巡(しゅんじゅん)の後、教科書を見せることを肯定する。

それを聞いた本音は嬉しそうな声で感謝を述べ、笑顔を見せた。

 

そして、三時間目の始まるチャイムが鳴った。

 


 

「──というわけで、ISは宇宙での作業を想定されて作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態に保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ──」

 

(ん?なら、なんでISには剣とか銃とかの武器があるの?宇宙での作業にはあまり必要性は感じないけどなぁ…)

 

忍は、この時そう感じたが、それについて質問しようとまでは思わなかった。

 

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

クラスメイトの一人が、やや不安げに先生の先ほどの説明に対して尋ねる。

 

「そんなこと無いですよ。そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、人体に悪影響を及ぼすなんて言うことはないわけです。まぁ、自分に合ったサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが…」

 

(それ男子がいる中でする話じゃないですよ山田先生…いや、去年まで実質女子校だったもんね、それも仕方ないか)

 

忍は心の中でそう思った。

ふと、一夏と山田先生の目が合う。

 

しばらくすると、山田先生は顔を赤くし、

 

「あ、えっと、織斑君たちはしていませんよね。わ、分かるわけないですよね、この例え……あは、あははは……」

 

山田先生のこの一言で女子が意識したようで、腕組みをして胸を隠そうとしていた。

 

それを見て、

 

(いや、確かに男は狼と言うけどさぁ……)

 

(千冬姉の下着いっつも洗濯してたから今更女子の下着でどうこう騒いだりしないぞ……)

 

二人は心の中でそう呟いた。

 

だが、なんだかむず痒い気配がする。

見せたいけど見せたくないと言う感じの気配。

なんだか落ち着かない。

この雰囲気はとても長く感じられた。

 

忍がふと、隣の本音を見ると、本音は深くフードを被り、俯いて教科書を見ていた。……が、その視線はこっそりと忍を見ているようにも感じられる。

フードに隠れた顔も少し赤面しているように見えた。

 

そんな時、

 

「んんっ!山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ」

 

千冬先生がこの雰囲気を咳払いで霧散させた。

 

千冬先生に促されて、山田先生も話の続きに戻った。

 

「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり—つまり、一緒に過ごした時間で分かり合うといいますか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦の特徴を理解しようとします。それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

そう山田先生が説明を終えると、すかさずクラスメイトの一人が挙手した。

 

「先生、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

「そ、それは…どうでしょう…。私には恋愛経験なんてないので分かりませんけど…」

 

そう言って、恥ずかしがりながら俯く山田先生を尻目に女子が男女に対する雑談を始めていた。

 

その時、忍は山田先生が自分と一夏に助けを求めるような視線をチラチラ送ってることに気づいた。

 

「………」

「……よし、分かりました。ISがパートナーというのは彼氏彼女みたいな関係なのかという話でしたよね」

「は、はいっ」

 

忍は山田先生に話の内容を確認すると、席を立った。

 

「男女の関係と言われると違うかな。無力な僕の力になってくれた存在。共に戦っていく相棒。僕はそんな認識でいます」

《マスター…》

 

そう忍が意見を言うと、周りからは感心の声が聞こえる。

 

と同時に、三時間目終了のチャイムが響く。

 

「あっ。次の時間では空中におけるIS基本静動をやりますからね」

 

この学園では基本担任がすべての授業を持つ。

 

休み時間十五分の為に職員室に戻らないといけないとなると、相当な苦労だ。

 


 

「ねぇねぇ、織斑君さあ!」

「はいはーい、質問質問!」

「今日のお昼暇?放課後暇?夜は暇?」

 

昨日の様子見は終わったのか、先生方が教室を出るなり女子の大半が一夏の席に詰めかける。

 

(最後の女子の人、夜遊びはほどほどにしときなよ)

 

忍は心の中でそう呟いた。

 

「いや、一度に訊かれても……」

 

そう言って一人ずつ訊こうとした一夏だが、何やら整理券を配っている女子がいることに気付いた。

しかも有料で。

 

(商売をするな商売を……)

 

一夏は心の中でそう呟く。

 

そんな中、忍は、

 

「ありがとう〜、助かったよー」

「今度からは気をつけてね」

「うん。気をつけるよー」

 

本音に教科書を返してもらっていた。

 

(忍のところが平和すぎる……)

 

一夏は先日の約束のためか、質問攻めに遭わない忍を羨ましく思った。

 

「………」

 

一夏を囲む集団を、箒が少し離れた位置から見ていた。相変わらず怒っているように見える。

 

まだ昨日のことを引きずっているようだ。

 

(しかし参った。箒にISのこと教えてもらおうと思ったが……こりゃ夜に訊きに行くしかないか……)

 

そんなことを一夏が思っている最中でも、女子の『早く質問に答えて』という視線が一夏に刺さる。

 

今の一夏は、針のむしろに座らされたような状態だった。

 

「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの⁉︎」

 

それは忍に聞いてもいいだろ、と思いつつも、断ると仲が悪くなる可能性が高いので答える。

 

「え。案外だらしな……」

 

一夏が千冬の自宅での過ごし方を言おうとすると、

 

パァンッ‼︎

 

という、叩かれる感覚と音に止められた。

いつの間にか、背後に千冬先生が立っていた。

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

タイミングが良すぎる登場に、本当はこっそり聞いていたのではないか、と一夏は勘繰った。

 


 

「織斑。お前のISだが、準備まで時間がかかる」

「へ?」

 

一夏が間抜けな声を出す。自分のISがあるというのがどれだけのことか理解してないらしい。

 

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

「⁇⁇」

 

混乱している一夏を差し置いて、教室中がざわめく。

 

「せ、専用機⁉︎一年の、しかもこの時期に⁉︎」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

「ああ〜。いいなぁ……。私も早く専用機ほしいなぁ」

 

騒ぐ女子たちの中で、忍は不快感を覚えていた。

 

(驚く気持ちも分かるけど、あまり騒がないでくれ……鼓膜破れそう……)

《マスター、大丈夫ですか…?》

(大丈夫じゃないです)

《ですよね……》

 

忍がアルヴィトと脳内会話していると、千冬先生が一夏を見るに堪えかねたのか、

 

「はぁ……教科書六ページ。音読しろ」

 

千冬先生が、一夏にこう指示を出す。

 

「え、えーと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを製造する技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、その全てのコアは篠ノ之(しののの)博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作成できない状況にあります。しかし博士はコアを一定数より多く作成することを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に接触し、すべての状況下で禁止されています』……」

「つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家、或いは企業に所属する人間にしか与えられない。しかし、お前は状況が状況なので、データの収集を目的とした専用機が用意されることとなった。理解できたか?」

「なんとなく……ん?千冬姉……」

「織斑先生だ」

「……織斑先生、じゃあ忍はどうなんですか?あいつ、どこにも所属してませんよね?」

「一応、倉持技研の所属ということになっている。あいつのISの名前が元々は未設定だったのが幸いしたな……

 

そこまで言って、千冬先生がハッとした表情を浮かべたが、既に遅かったようで、周りがザワザワとし始める。

 

「……未設定?」

「どういうことなんだろう……」

「とんでもない事情があるのかなぁ」

 

少し動揺した様子を見せつつも千冬先生がこう強く言う。

 

「静かにしろ。今は授業中だ」

 

すると教室はあっという間に静かになった。

それに安心したのか、千冬先生はため息を漏らす。

 

と、その時を見計らってか、

 

「先生,あの、篠ノ之さんって、もしかして…」

 

そう言って、女子の一人が千冬先生に質問した。

 

 

──篠ノ之(たばね)

ISを作った稀代の天才。

千冬の同級生であり、箒の実姉でもある。

今は行方不明であり、超国家法に基づき手配中の身である。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

箒の個人情報をあっさりバラす千冬先生。

 

(オイ、個人情報バラしていいのか教師。まぁ、本人はそんなことどうでもいいんだろうな……)

 

一夏は心の中でそう呟いた。

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内が二人もいて、さらにその居候の人もいる!」

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人?やっぱり天才なの⁉︎」

「篠ノ之さんも天才だったりする⁉︎今度ISの操縦教えてよっ」

 

授業中にもかかわらず、教室中が騒ぎ出す。

 

(あれ?箒ってIS使ったことあったっけ?)

 

と、一夏は記憶内を探し始めたが、

 

あの人は関係ない!

 

という大声に中断させられた。

 

見ると、全員驚愕の表情を浮かべており、何が起こったのか分からない様子だった。

 

「……大声を張り上げてすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

そう言うと、箒は窓の方を向いてしまった。

女子は盛り上がったところに水を差されたような気分になったようで、それぞれ困惑や不快を顔にして戻っていった。

 

(天才を家族に持った人は、やっぱりその人との差に苦しめられるんだな)

 

忍は一人そう思い、

 

(箒と束さんって仲悪かったかな?……ダメだ。あの二人が一緒にいた覚えがない)

 

一夏は過去の記憶を探っていた。

 

「さて、授業を始める。山田先生、号令を」

「は、はいっ!」

 

山田先生は箒が心配な様子だったが、その思考を切り捨てて、授業を開始した。

 

(あとで箒に話を聞くか……)

 

一夏はそう考え、教科書を開いた。

 




いかがでしたか?次も頑張ります!


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第2話.不和(ディファレンス)(3)

お待たせしました……ちょっと五月病的なのにかかってやる気が失せてました……少し箒を柔らかめにしたつもりだけど、うまくやれてるかな……では、どうぞ!


「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

休み時間、早速一夏の席にやってくるセシリア。

 

(……腰に手を当てて何になるのか。腰辛いのかなぁ)

 

忍はセシリアのポーズを見て、そんなくだらないことを考えていた。

 

「まあ、勝負は見えてますが、流石にフェアじゃありませんものね」

(……その余裕が、いずれ身を滅ぼさないといいけどね)

 

余裕ぶるセシリアを見て、忍は心の中で警鐘を鳴らす。

 

「…?なんで?」

 

一夏には、何故自分に専用機があることがフェアなのか分からないようだ。

 

「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げますわ。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

「専用機は、量産型や訓練機よりもスペックが高かったり、その機体だけの特殊能力があったりするんだ。まぁその特殊能力は、条件を満たした後じゃないと使えないんだけどね…。そして、専用機はその人の特徴に合ったものが用意されるんだ。だから、一夏が特徴をフルに活かせないであろう訓練機じゃあ、フェアじゃないんだろうな。と言っても、戦闘データが取れてない一夏の実力は未知数だから、どんな専用機が来るのかはわからないけど」

 

少しでも一夏に分かりやすくなるようにと思い、忍はセシリアの解説に専用機の簡単な説明を付け加えた。

 

「へー……」

 

一夏が声を漏らす。

 

「……よく分からなかったかな?ごめんね。僕、人に教えるのは苦手でさ」

「いや、忍の説明のおかげで多少分かった。サンキュー、忍」

「僕の説明が、少しでも専用機のことを理解するための参考になったのなら幸いだよ」

 

忍と一夏が友人らしさを感じる会話をしていると、

「……こほん!」

 

セシリアが咳払いをした。

 

「あなた方の友情は素晴らしいですわね。ですが、話を戻させていただきますわ。先ほど貴方が教科書で読んだ通り、世界でISは四百六十七機。つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類六十億人超の中でもエリート中のエリートなのですわ!」

 

セシリアが脱線した話を戻し、解説を続けた。

 

「そ、そうなのか…」

 

一夏が驚愕の声を上げる。

 

「そうですわ」

 

セシリアが肯定する。

 

が、

 

「人類って今六十億超えてたのか……」

 

そんな的外れな一夏の発言に、忍はずっこけた。

 

「そこは重要ではないでしょう⁉︎」

 

そう言ってセシリアが一夏の席の机を叩く。

 

一夏の席に積まれてあった教科書やノートが落ちる。

 

「あなた……馬鹿にしてますの⁉︎」

「いや、してない」

「……まぁいいですわ。今のわたくしは他にやりたいこともありますし」

 

そう言うと、セシリアは、箒の席に歩いていくと、

 

「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」

 

と、箒に束の話題を振った。

 

案の定、箒は鋭い視線をセシリアに返す。

 

「妹というだけだ」

 

「う……」

 

声を詰まらせると、セシリアは一歩下がった。

 

(あぁ…箒にその話題はタブーって、さっきの会話で分からなかったのかな)

《文化が違うと、察するというのは難しいのかもしれませんね》

 

忍とアルヴィトが脳内会話で陰口を言う。

 

そんなことは知る由もなく、

 

「ま、まぁ。どちらにしてもこのクラス代表に相応しいのはこのわたくし、セシリア・オルコットであることをお忘れなく」

 

セシリアは少し動揺しつつも、自信満々な態度を崩さずにそう言い放ち、立ち去っていった。

 


 

「箒」

「……」

 

お昼休み、一夏は箒に話しかけるが、箒は反応しない。

 

「篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」

 

一夏は箒を気にかけているようだ。

 

(人のことには敏感なのに、自分のことに関しては全く気づかないよね、一夏って)

《どうしたらあんな性格になるんでしょうね……》

(……分からん)

《ですね……》

 

二人が脳内会話してると、

 

「他に誰か一緒に行かないか?」

 

一夏が他に一緒に昼食を食べる人を募集していた。

 

すると、

 

「はいはい、はいっ!」

「行くよー。ちょっと待ってー」

「お弁当作ってるけど行きます!」

 

本音たち三人組が手を挙げて、自分たちが行きたい、という意思を示した。

 

そんな中、忍は、

 

(えっ?うそ、お弁当作れるの?待って、じゃあ僕は勝手に弁当の食材を買いに行けないと思い込んでただけ?)

 

弁当が作れるという事実を知り、心の中で狼狽えていた。

 

「……私は、いい」

 

肝心の箒は誘いを断った。

 

が、

 

「まあそう言うなって。ほら、立て立て。行くぞ」

 

そう言って、一夏は強引に箒の腕を組み、箒を立たせようとした。

 

「お、おいっ、私は行かないと言って——う、腕を組むなっ!」

 

当たり前だが箒は嫌がる。

 

だが、一夏はやめない。

 

「なんだよ、歩きたくないのか?おんぶしてやろうか?」

 

一夏は相手が幼馴染だからか、軽々しくそう言った。

 

「なっ……⁉︎お、お前は他人の目線は気にならんのか⁉︎」

「お前が頑なに他の誰かと一緒になるのを拒むからだろ。ほら、行こうぜ」

 

一夏はそのまま箒の腕を引き、食堂へ向かおうとする。

 

「は、離せっ‼︎」

「学食に着いたらな」

 

箒は嫌がるが、一夏は聞こうともしない。

 

が、それがいけなかった。

 

「い、今離せっ!ええい、こうなったら——」

 

箒がそう言うと、一夏が箒に絡ませた腕が、肘を中心に曲がった。

 

気付けば一夏は、床の上に投げ飛ばされていた。

 

(一夏……年頃の女子に馴れ馴れしく触るから……)

 

忍は、心の中で一夏を憐れんだ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

箒は息を荒げている。

 

「腕上げたなぁ」

 

一夏はそう呑気に言った。

 

「ふ、ふん。お前が弱くなっただけではないか?こんなものは剣術のおまけだ」

「まぁ一夏はずっと家事に勤しんでたからね。弱くなってたり忘れてるのは許してあげて。かく言う僕もそうだけど……」

「そ、そうか……なら仕方ない。だが、武術はISでの戦闘の助けになると思う。お前たちも鍛え直しておくといい」

「うん、そうする。ありがとう、箒」

「まぁ、これも幼馴染である私の役目だ」

 

忍と箒が幼馴染らしく会話している横で、

 

(古武術をついでで覚える女子は世界でお前くらいだと思うぞ箒……)

 

一夏は立ち上がり、心の中でそう呟いた。

 

「え、えーっと……」

「私たち、お邪魔みたいだし、やっぱり……」

「え、遠慮しとこうかなー……」

先程誘いに乗ってくれた本音たちが下がろうとする。

 

「あ、おい、待ってくれ!折角だし、みんなで食べようぜ、な?」

 

一夏がそう言って引き留める。

 

「ま、まぁ、織斑君がそう言うなら……」

「わかったー!」

「お弁当無駄になっちゃったけど、織斑くんと一緒にご飯を食べられるならいっか!」

 

そう言って三人は戻って来た。

 

「じゃあ箒、行こうぜ」

「な、名前で呼ぶなと——」

「いいから行くぞ」

 

そう言って、一夏はまた強引に箒の手を引く。

 

「お、おい一夏。いい加減に……」

「黙ってついてこい」

「し、忍!なんとかしてくれ!」

「やだ。なんとかしても箒に怒られそうだし」

「薄情者ォォォォ‼︎」

 

教室に箒の叫びが響いた。

 


 

学食に六人が着くと、

 

「箒、何でもいいよな。お前、何でも食うし」

 

一夏がそう言った。

 

「ひ、人を犬猫のように言うな。私にも好みがある」

「そうだぞ。僕が合わせ味噌が好きなように人にはみんな好き嫌いがあるものだ」

「そ、そうだな……。あ、日替わり二枚買ったからこれでいいよな。鯖の塩焼き定食だってよ。忍もいるか?」

「ありがたいけど遠慮しとく。他の三人に渡してあげて」

「お、おう……任せとけ」

「織斑くんの奢りは嬉しいけど……やっぱり私、自分で買うよ」

「私も遠慮しておくね。やっぱりお弁当食べたいし」

「私もいいよー。お菓子あるし!」

「話を聞いているのか一夏!」

 

そう言って、箒が一夏に怒る。

 

「聞いてねえよ。俺がさっきまでどんだけ穏和に接してやってたと思って——」

 

台詞を言い終わる前に、忍が一夏の頬を叩いた。

 

周りの視線が、一斉に忍と一夏に刺さる。

 

 

「な、何するんだよ忍!」

「してやってるとか、偉そうな態度をとるのはよしなよ一夏。箒は君の大切な幼馴染だろ?なら大切にしなきゃ。友達にそんな態度をとってたら嫌われるよ。僕もそんな態度をとる一夏は嫌い」

 

そう言って、忍は食券を購入し、並んだ。

 

「……悪かった、箒」

「いや、その…私も悪かった。好意を無下にするような真似をして……すまない」

「お、おう……まぁ、その……俺は頼まれたからってこんなことは普通しないんだ。幼馴染の箒だからこんなことやれるんだ」

 

一夏は頬を掻き、目を逸らしながらそう言った。

 

「ふふっ、なんだそれは……おかしな一夏だ」

「うーん……そこまでおかしいか?普通だと思うけどなぁ……」

 

そのやり取りを見ていたみんなの視線が和らいでいく。

 

忍も、学食のざるそばといなり寿司を持ちながら、二人を見て微笑んでいる。

 

「一夏」

「おう、なんだ?箒」

「……そ、その……ありが……」

 

箒がそう言おうとした時、

 

「はい、日替わり二つお待ち!」

 

学食のおばちゃんの声に遮られた。

 

「ありがとう、おばちゃん。おお、美味そうだ!」

「美味そう、じゃなくて美味いんだよ」

 

そう言って、学食のおばちゃんはニッと笑った。

 

「おーい、一夏、箒!みんなも!こっちだよ」

 

席を先に確保した忍はそう言って、五人に手を振る。

 

一夏と箒が座ったしばらく後、本音たちも同じテーブルに座った。

 

ちなみに、並び順は、癒子、さゆか、本音、忍、箒、一夏といった順番だ。

 

 

「そういやさあ」

「なんだ、一夏」

 

一夏が箒に話題を振り、それに箒は、味噌汁を啜りながら返事をした。

 

「ISのこと教えてくれないか?このままじゃ来週の試合、何も出来ずに負けそうだ」

 

「あんなくだらない挑発に乗らなければ、そんなこと考える必要なかったろうに……」

 

そう言って箒はまた味噌汁を啜る。

 

「まぁ、篠ノ之さんの言う通りだよね……」

「ま、まぁまぁ、織斑くんも専用機とか知らなかったわけだし」

「しのぶーの話によると手違いでここに来ちゃったんだってー」

「えっ、それって本当に⁉︎」

 

本音たちはその話で盛り上がる。

 

「そこをなんとか、頼む!」

 

一夏が箸を持ったまま、手を合わせ、箒に頭を下げる。

 

「一夏、その前に箸置きなさい」

「はい……」

 

忍に促され、一夏は箸を置く。

 

その時、

 

「ねえ、君たちって噂の子でしょ?」

 

いきなり、声をかけられる。

 

声をかけられた方をみんなが向くと、三年生らしき女子が立っていた。

 

学年の違いは、制服のリボンの色で判別できる。

 

一年が青、二年が黄色、三年が赤だ。

 

「はあ、多分」

 

一夏が返事をすると、先輩は一夏の隣の席にかけ、若干傾けた顔を一夏に向ける。

 

「代表候補生の子と戦うって聞いたけど、ほんと?」

「はい、そうですけど」

「まぁ、そうですね」

 

噂って広がるの速いね……

女の子は噂好きだしね

うーん……でも私は噂、あまり好きじゃないかもー……

 

三人が小声でそう話す。

 

「でも君たちって素人だよね?IS稼働時間いくつくらい?」

 

そう聞かれて、

「いくつって……二○分くらいだと思いますけど」

 

と、一夏は言い、

 

「うーん…初めて起動したのが五歳だから……大体十一年くらいになりますかね。正確には分からないですけど…時間に直して、1日2時間稼働させてると仮定して……一九二七二○時間くらいでしょうか」

 

そう言った瞬間、周りが驚愕の色に染まる。

 

「え、白波くん……十一年って……」

「ちょっと長すぎじゃない……?」

「わたしたちが五歳の頃は……えっとー……」

 

本音たち三人も例に漏れず、ざわついている。

 

「え、えっと、そっちの子は、二○分だったわよね」

 

顔を引攣らせながらも、先輩は強引に話を戻す。

 

「え、えぇ、まぁ」

「それじゃあ無理よ。ISは稼働時間がものをいうの。その対戦相手は代表候補生なのよね?なら軽く三○○時間はやってると思うわ。まぁ、そこの子は……うん」

 

そう言って、先輩は忍を少し引いているような目で見つめた。

 

「でさ、私が教えてあげよっか?ISのこと」

 

先輩は、少し冷や汗をかきながらも、一夏に顔を近づける。

 

「はい、ぜ——」

 

一夏がそう言おうとした時、

 

「結構です。私が教えることになっていますので」

 

箒が食事を続けながら、それを遮った。

 

「あなたも一年でしょ?私の方が上手く教えられると思うなぁ」

「……私は、篠ノ之束の妹ですから、他の人より多少は教えられると思います」

 

言いたくないが、しかしここは譲れないとばかりに箒はそう言った。

 

「篠ノ之って——えぇっ⁉︎」

 

先輩はとても驚いた様子だった。

 

ISを作った人の親族が目の前にいるともなれば、驚くのも無理はないだろう。

 

「ですので、結構です」

 

箒はそう言って、先輩の案をキッパリと断った。

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね……」

 

そう言うと、先輩は軽く引いた感じで去っていった。

一夏は驚いた様子で、箒を見た。

 

「なんだ?私の顔に何か付いているのか?」

 

じっと見つめる一夏に、箒が聞く。

 

「なんだって……その、教えてくれるのか?」

「お前から頼んだのだろう?おかしなことを聞くのだな、一夏は」

 

そう言って、箒は少し笑う。

 

「今日の放課後」

「ん?」

「剣道場に来い。一度、腕が鈍ってないか見てやる」

「いや、俺はISのことを——」

「ISで戦うなら、その前に武術を身につけておくべきだと私は思う。お前の専用機が格闘特化の機体だとしたら大変だしな。……まぁ、射撃特化の機体だったら、すまない」

「……分かった」

 

箒の意見にも一理ある。

 

一夏は、箒の意見に乗ることにした。

 

「織斑くん、頑張って!」

「織斑くんなら、きっと強くなれるから!」

「おりむー、ふぁいとー!」

 

本音たち三人も、一夏を応援する。

 

「おう、サンキュー!」

 

一夏は笑顔で応えた。

 

「……箒、よく束さんの妹って言う気になったよね」

「一夏が他の人に取られるのが嫌だったんだ……それで、先輩に優位に立てるのがこれしか無かった……軽蔑するか?」

「いや、むしろそう思って当然だと思うよ。恋する人は他の人に取られたくないっていうのはみんな同じだろうしね」

「……//」

 

忍にそう言われ、箒は顔を赤らめた。

 

 

 




いかがでしたか?多分投稿期間また伸びるかもです……


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第2話.不和(ディファレンス)(4)

お待たせしました〜…最近暑いですね…やる気が起きません…でも頑張ります。では、どうぞ!


放課後 剣道場

 

「うーむ……」

「いてて……」

 

一夏と箒は、満載のギャラリーの目線が刺さる中、先程まで剣を打ち合っていたのだが、やはりというか、この三年間、まともに剣を握る機会が無かったからか、一夏は一方的に箒に負け続けていた。

 

「まさかここまで弱くなっていたとはな……。部活は帰宅部だったのか?」

「ああ。三年連続皆勤賞だ」

「一夏はずっとバイトしてたんだ。僕が行ければ良かったんだけど、ISの勉強しなきゃいけなかったから……」

「そ、そうなのか……?二人とも大変だったな」

「気遣ってくれてありがとう。ところで、一夏のことはいいの?」

「そうだな。一夏」

 

忍に促され、箒は一夏を呼ぶ。

 

「はい?」

「お前を鍛え直す。キツイことを言うが、IS以前の問題だ。バイトが大変で剣道が手につかなかったことは理解したが、このままでは代表候補生を倒せるとは思えない。これから毎日、放課後三時間、お前がカンを取り戻すまで、私が稽古を付ける。いいな」

「え……それはちょっと長いような……っていうかそれよりISのことをだな」

「ダメだ。正直に言って、ISは後から感覚でどうとでもなる。なんというか、こう…シュバッという感じで」

 

そう言うと、箒は「また明日な」とだけ言い残し、更衣室に行ってしまった。

 

「シュバッってなんだよ……忍、教えてくれ」

「僕も感覚で戦うタイプだから教えるのは無理。それより、トレーニング続けよう。こんなんじゃ、自分を許せないでしょ。一夏」

「ああ、そうだな。ところで、俺は今の箒のシュバッという言葉の意味を知りたいんだが……」

「多分移動とか、回避のことを指してるんだろうけど……僕にも分からない」

「だよな……」

 

忍にそう言われると、一夏はがっくりと肩を落とした。

 

 


 

 

(少しキツく当たってしまっただろうか……)

 

更衣室で剣道着から制服に着替えながら、箒は先程の自分の発言を少し悔やむ。

 

(……い、いや!これもあいつのためだ!昔の一夏は……もっと強かった……)

 

昔の一夏を思い出し、不安を振り払うと同時に箒の口元がほころぶ。

 

(あいつがISで戦えるようにする為に、明日からも頑張ろう……)

 

箒はそう意気込んだ。

 

(……そういえば、結局あいつの専用機ってどっち寄りなんだろう……?まぁ、よく前に出るあいつのことだ、格闘特化だろうな。あいつがそれを扱いこなせるように、私も頑張って稽古を付けなければな)

 

そして、小さく拳を握る。

 

(……それにしても、よく私と分かったものだな)

 

意気込んだ箒はふと思った事を心の中で呟きながら、頭に巻いた手拭いをほどいて、髪に触れる。

 

(あいつら、六年も経っていたのに……顔も、見た目も、あの頃とはまるで別物になっているのに)

 

それでも、一夏は箒を覚えていた。

忍も、しっかり覚えてくれていた。

 

「ふふっ」

 

そう思うと、嬉しくて、つい笑みが溢れてしまう。

 

箒が二人を一夏と忍だと分かったのは、単に二人の名前がTVで出ていて、その時に写真が出たからだ。

名前が出ていなければ分からないくらい、幼馴染みの二人は男らしい顔つきになっていた。

いや、忍はそうでもなかったが、あの時と比べ、目付きが鋭くなっていた。

 

──正直に言えば、格好いいと思った。

 

特に一夏が。

 

名前を見て、飲み終わり、流しに持って行こうとした湯呑みを落としてしまったほどである。

 

(……一夏は、新聞で昨年の全国大会優勝を知ったと言っていた。だが、それは私の知る限り、端っこの記事であるはずだ。なのに、一夏は『すぐにわかった』と言ってくれた。……髪型を変えなかった甲斐があったな)

 

そう心の中で呟くと、箒は髪を弄る。

 

箒も十五歳の乙女。

 

恋をするのはなんら不思議ではない。

 

ふと、箒は鏡を見る。

 

「………はっ⁉︎」

 

鏡に映った自分の顔を見て、我に返る。

 

「………」

 

箒は、平静さを取り戻す為に、鏡の中の自分を睨む。

すると、恋する乙女の目付きから、元の鋭い目付きに戻る。

 

(と、とにかく、明日の放課後から特訓だ。せめて人並みには扱ってもらわなくては……それに……)

 

そこまで心の中で呟くと、箒は一つため息をつく。

 

(放課後、一夏と二人きりに、いや、忍も来るだろうから三人か。とにかく、一夏と一緒になれる口実が出来……)

 

そこまで心の中で呟き、箒ははっとした表情を浮かべる。

 

「い、いや!そのようなことは一切考えてはいない!何も下心などない……私は純粋に、同門の衰えを嘆いているだけだ。そして同門故に面倒を見てやる。それだけなんだ……」

 

そう一人で口に出して言うと、箒は再びため息をついた。

 

「故に、正当だ!」

 

誰もいない広い更衣室に、箒の声が響き渡った。

 

 


 

 

「忍ー、痒いところはないか?」

「もー、僕も十六歳だし、子供じゃないよ!」

 

夕飯を食べ終わり、部屋に戻った一夏と忍は今、二人でシャワーを浴びていた。

 

「ほーう……そんなおませさんな子はこうだ!それっ!」

「わっ、ちょっ、やめっ、あははは‼︎」

「はぁ…はぁ…参ったか!」

「あははは、あはっ……いやー、参った参った……降参だよ」

 

まるで幼い子供のようなやり取りをしながら、体を洗う二人。そんな中、一夏がふと呟く。

 

「……忍、その痣、やっぱり、まだ消えないんだな」

 

忍の背中と腕には、痛々しい痣があった。

 

「あぁ……うん。まだ消えないね。これを隠すためには長袖着ないといけないんだよね……。5月になったらもう暑くなるから、早く消えて欲しいけどね。あの時腕で防がなきゃ良かったかなぁ……」

 

そう言って、忍は俯き、少し悲しそうな笑顔を見せた。

 

「ごめんな……忍。あの時、俺がもう少し早く助けに行けてたら、お前にこんな痣作らせることなかったのに……」

「謝らないで。一夏は何も悪くないじゃない。むしろ、助けに来てくれて感謝してる。あの時、一夏が来てくれなかったら、きっと僕、今頃死んでると思うよ」

 

女子の集団から暴行を受けたあの日、一方的に嬲られていた忍を、一夏が助けに来たのだ。

 

 

「そ、そうか……?」

「うん。だから一夏、あの時助けてくれて、ありがとう」

「お、おう……どういたしまして」

「さあ、僕を洗うんでしょ?」

 

忍はそう言って、話を切り替えた。

 

「ああ、そうだった。よし、気合い入れて行くぜ!」

「あっ、ちょっと、背中で洗うときに力入れるのはやめ……痛ぁぁぁぁぁぁ!」

「わ、悪い!」

 

忍の悲鳴が部屋中に響き渡った。

 




いかがでしたか?次回は戦闘描写だから、かなり時間かかるかも……


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第2話.不和(ディファレンス)(5)

大変長らくお待たせいたしました……戦闘描写に三週間もかかるとか……今後大丈夫かな……
あ、今回はセシリアと忍のバトルです。どうぞ!


訪れたセシリアとの対決の日。

一夏と箒は、第三アリーナのAピットにいた。

 

「なぁ、箒」

「なんだ、一夏」

 

IS学園に入学して一週間経ち、箒と一夏の仲は元に戻ったようだ。

六年の溝はあっさり埋め立てられたらしい。

 

「ISのことは教えてくれないのか?」

 

一夏がそう尋ねると、箒は目を逸らした。

 

「目 を 逸 ら す な」

 

箒の教えで、剣に関して言えば大体昔のカンを取り返せた一夏だが、肝心のISについてはさっぱりである。

なのに、箒は全くISのことを教えてくれない。

忍も「僕は感覚でやってるせいで教えるの苦手だから他の人にあたって」の一点張り。

 

つまり一夏は忍が教えた専用機の知識と、今まで読んだ教科書の内容、あの分厚い参考書の内容だけしか、ISの知識がないということになる。

 

「し、仕方ないだろう。お前のISがどんなものか分からないのだから、私にはお前の機体が格闘機であると仮定して、剣道の稽古をつけるしか出来なかったのだ」

「だけど他にも教えられる事あったろ!ISの基礎知識とか!」

 

一夏がそう言うと、箒はそのまま固まってしまった。

 

「……失念してたんだな」

「……すまない」

 

一夏が苦笑いを浮かべ、箒は己の未熟を恥じる。

 

そんな時──

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くん‼︎」

 

山田先生が転びそうな足取りで、Aピットに駆け込んできた。

 

「山田先生落ち着いて!深呼吸しましょう!」

「は、はいっ!すー、はー…、すー、はー…」

「はい、そこで止めて」

「ふぐっ」

 

一夏がふざけてそう言うと、山田先生は本当に息を止めた。

こうしている間にも、山田先生の顔は酸欠で赤くなっている。

 

「………えっと……」

「……ぷはぁっ!ま、まだですか?」

 

山田先生がそう一夏に尋ねる。

 

「……いや、すみません、止めるタイミング見失いました」

 

一夏がそう言った直後、パァンッ!と言う軽い打撃音と、ゴンッ!という鈍い打撃音が連続して響く。

それと同時に、一夏は二重の衝撃を後頭部に受け、頭を押さえる。

 

「目上の人間には敬意を払わんか」

「山田先生が酸欠で病院送りになったらどう責任をとるの、一夏」

 

一夏が声のした方を向くと、

 

 

 

鬼 が 二 人 い た 。

 

 

 

「し、忍、千冬姉……」

 

パァンッ!

 

千冬先生のバインダーが一夏に炸裂する。

一ミリもブレずに全く同じ位置に当てられ、一夏はまた頭を抑えた。

 

「織斑先生と呼べ。いい加減学習しろ」

「僕らの名前を呼ぶより先にやることがあるでしょ、一夏」

「……すみません、山田先生」

「い、いえ、気にしないでください。慌てた私も悪いですし……」

 

(しかし千冬姉の教育者とは思えないこの態度……これだから彼氏出来ないんじゃ……)

 

一夏が心の中でそう呟くと、

 

「ふん。手のかかる弟らが独り立ちするようになれば、お見合いだろうが結婚だろうがいつでも出来る」

 

まるで一夏の心を読んだかのように、千冬先生がそう言った。

 

(家で手がかかるのは千冬さんのような気もするけど)

 

「……」

(うぐっ……)

 

千冬先生が無言で忍を睨む。

忍は表情に出さないようにしていたが、どうやらそれすらお見通しらしい。

 

「そ、それでですね、来ました!織斑くんのIS!」

(—え?)

「織斑、すぐに準備しろ。お前のISを一次移行(ファースト・シフト)させるため、今回の試合は忍を先に出させるが、いつお前の出番が回ってくるか分からん。早急にものにしろ」

(—えっ?)

「可能な限り時間は稼ぐから、頑張ろう、一夏」

(—ええっ?)

「この程度の障害、お前なら乗り越えられるさ、一夏」

(—えええっ⁉︎)

 

「え?え?なん……」

 

話についていけなかったのか、一夏が口を開こうとしたが……

 

「「「「早く‼︎」」」」

 

という、四人の声に遮られた。

 

そして、ピット搬入口が鈍い音を響かせ、ゆっくりと扉を開ける。

 

──そこには、【白い騎士】がいた。

 

純白の鎧は、その装甲を開き、主人を待っているかのように見える。

 

「これが……」

「はい、織斑くんのIS、【白式(びゃくしき)】です」

「すぐに装着しろ。先ほども言ったが、いつまで忍が持たせるか分からん。間に合わなかったら実戦でフォーマットとフィッティングを済ませろ。できなければ負けるだけだ。いいな」

 

そんな会話の途中、白式を見た忍はふとそんなことを思う。

 

(どこかあの時の千冬さんのISに似ているような気がするな……)

 

忍がそう思っている間に、千冬先生に急かされた一夏は純白の鎧に触れる。

 

「……あれ?」

 

何か違和感を感じたのか、一夏がそう呟く。

 

「どうしたの?」

 

カタパルトに乗った忍が尋ねる。

 

忍は、大きさこそ違うものの、【白騎士と堕天使事件】の頃に一夏が見たあの黒いISを纏っていた。

足首には、既に固定用のロックがかかっている。

 

「いや……初めてISに触れた時のような感じがしなくて」

 

一夏はそう答えた。

 

「一度触れたからじゃないかな?一度体験したことは慣れちゃうし、新鮮さを感じなくなるのかもね」

 

そう言うと、忍はまだ開いていない戦場への扉を見つめる。

 

「背中を預けるように装着しろ。座る感じでいい。後はシステムが自動で最適化をしてくれる」

 

千冬先生に言われた通り、一夏は白式に体を任せる。

 

すると、装甲が一夏に合わせて閉じ、空気の抜く音が鳴った。

 

そして、一夏の目に、様々な情報が飛び込んでくる。

ほとんど基礎知識がない一夏だが、その情報は瞬時に理解できた。理解できてしまった。

理解できることに、一夏は少し驚く。

 

驚きつつも目で流れ込んでくる情報を追っていると、新たに一つの情報が、一夏の目の前に現れた。

 

「あ……」

 

そこには、こう書かれていた。

 

《戦闘待機状態のISを感知。操縦者:セシリア・オルコット。ISネーム:【ブルー・ティアーズ】。戦闘タイプ:中距離支援型。特殊装備あり》

 

そこには、カスタム・ウィングにビットらしき物が四つ付いた機体が映っている。

どうやら、今回の相手、セシリアのISについても教えてくれるようだ。

忍も、同じ情報を見ている。

 

(……これ、相手の個人情報ほとんど筒抜けってことだよね……万が一実戦が起きた時、大丈夫かなぁ……)

 

忍は、情報を見ながら完璧すぎるISのハイパーセンサーに多少の不安を覚えた。

 

「ISのハイパーセンサーは問題無さそうだな。……一夏、気分は悪くないか?」

 

一夏に話しかける千冬の声が、少しだけ震えているのが一夏に伝わる。

 

そして、兄妹だから、一夏には分かる。

 

これは、自分への心配からくる声の震えだと。

 

 

「大丈夫、千冬姉。問題ない」

「……そうか」

 

安心したような声。

だが、それはハイパーセンサーがないと分からないような声色の違いだった。

 

(でも、俺のこと名前で呼んでたし、やっぱ分かるかな?)

 

一夏は、心の中でそう思った。

 

そして、一夏は、忍の方に意識を向ける。

忍は、少し震えていた。

これも、ISが無ければ分からないレベルのものなのだろう。

 

「忍」

「⁉︎」

 

一夏に呼ばれ、忍は驚いたのか、肩を震わせた。

 

「な、なんだい? 一夏」

 

そう返す忍の声は、驚きからか、上擦っていた。

それも、ハイパーセンサーが無くても分かりそうなほどに。

 

「大丈夫だ。お前ならきっと負けないさ」

 

一夏はそう言って、忍を励ます。

 

「今回やるのは時間稼ぎと同じなんだけどね……。だけど、ありがとう、一夏。少し落ち着いた」

 

忍は下げていたバイザーを上げ、笑顔を見せた。

 

「おう。頼むぜ、忍」

「負けるなよ、忍。お前には、私も期待している」

「参ったなー……。今言ったけど、僕がするのは時間稼ぎなんだけどねー……」

 

一夏と箒に背中を押され、忍は、少し困ったような笑みを浮かべた。

 

だが、すぐに表情を険しくし、バイザーを再び降ろした。

 

「それじゃあ行ってくる。白波忍、【ヴァルキュリア・ベルフェゴル】行くよ!」

 

忍がそう言うと、カタパルトが動き出す。

扉が開き、フィールドの姿を露わにしていく。

開いた扉の前にカタパルトが辿り着くと、足のロックが外れ、忍を戦場に放り込んだ。

 

 


 

 

「あら、逃げずに来ましたのね……っ⁉︎」

 

高飛車な態度を取ろうとしたセシリアだが、忍の纏うベルフェゴルを見た途端、一瞬だが表情が変わった。

 

「……?どうした?」

「……いえ、何でもありませんわ。(他機の空似……ですわよね?)それよりも、今なら見逃して差し上げますわよ?代表候補生ですらない貴方に私が勝つのは自明の理なのですから」

 

戦闘開始の鐘は忍がカタパルトを降りた時に鳴り終わっており、セシリアはいつでも忍を狙い撃つことができる。

だが、直ぐに撃たずに、こうやって降参を勧めてくるのは、セシリアの余裕の表れなのだろう。

 

「嫌だ。僕はもう弱いままじゃない。あんたのような人に背を向けるようなら、僕のしたいことも出来なくなる」

 

忍はそう言って、セシリアの勧めを拒絶した。

 

「そうですか。そちらが逃げてくだされば楽でしたのに……では」

 

そう言うと、セシリアは、その手に持つ銃を構えた。

 

《ヴァルトラウテ、シュヴェルトラウテ起動。……マスター、ブルー・ティアーズの操縦者の左目が射撃モードに移行しました。セーフティーも解除されています》

 

アルヴィトが戦闘指揮システム【シュヴェルトラウテ】と、恐怖心緩和システム【ヴァルトラウテ】を起動させ、セシリアが射撃準備を整えたことを忍に伝えた。

 

 

そして──

 

「お別れですわ!」

 

そうセシリアが叫ぶと、銃口に光が集まり始めた。

 

《ブルー・ティアーズが射撃体勢に入りました、エネルギー装填。トリガー確認……マスター、来ます!回避を!》

 

そうアルヴィトが言った直後、忍の横をレーザーがすり抜けた。

 

「……っ‼︎」

 

忍は咄嗟に体を捻って避けたが、今の射撃で、ベルフェゴルの肩の装甲が少し持っていかれた。

 

肩に激しい痛みが生じた忍は少し顔を歪めながら、こう思考する。

 

(流石は代表候補生…ってところかな。射撃が凄い正確だ。見てから避けるのはちょっと難しかったよ……)

 

しかし、IS自体には大きなダメージにはなっていないようで、SE(シールドエネルギー)は561と、まだ余裕がありそうだ。

 

 

セシリアの射撃の威力と正確性を身をもって知った忍はとりあえず回避に専念しようと心に決める。

 

 

「さぁ、踊りなさい‼︎この私、セシリア・オルコットと、ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で‼︎」

 

セシリアはそう言って、レーザーライフルを連射し始めた。

 

激しく警報が鳴る中、忍はアルヴィトの声を頼りに回避を繰り返すが、すべてを避けきれるほどの技量を忍は持ち合わせていない。

時々受ける攻撃で徐々にSEが削られていく。

 

(本当はただの時間稼ぎだけど……箒に負けるなと言われたし、あちらも全力で戦って欲しいみたいだし……負けられないな、これは)

 

心の中でそう呟きつつ、忍はダガービット【オルトリンデ】を一機呼び出す。

 

そして、忍はそれを手に持ち、射撃を続けるセシリアに向かって投げつけた。

 

それに気づいたセシリアは、レーザーでオルトリンデを撃ち抜く。

 

オルトリンデは、推進剤を撃ち抜かれ、爆発した。

 

「くっ、目くらまし⁉︎なら、私の後ろ⁉︎」

 

セシリアは忍を見つけ出そうとして、後ろを振り向くが、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

忍が左腕を自分の面前に構えて爆煙の中から現れ、呼び出(コール)した不折の剣【スルーズ】で、セシリアに斬りかかる。

 

「なっ⁉︎」

 

咄嗟の判断が出来なかったセシリアは、銃を盾にし、攻撃を受けるのを免れ、銃が爆発した。

 

だが、それだけでは終わらない。

 

「やぁっ…‼︎」

 

忍はセシリアを蹴り飛ばし、さらにエネルギー状の槍【ゲルヒルデ】を一本呼び出し、セシリアに向かって投げつけた。

回避が間に合わず、セシリアのSEが540まで下がる。

それと同時に、槍も消滅する。

 

「ぐっ⁉︎……やってくれますわね」

 

SEが一気に削られたセシリアが唸る。

 

「さっきのお返し」

 

忍はそう言うと、バイザーの下で不敵な笑みを浮かべた。

 

「おかしな方ですわね……。でも、私の主力兵装の【スターライトmk-Ⅲ】を壊されてしまいましたし、これは奥の手を見せる時が来たようですわ」

 

そう言って、セシリアは口元を歪めた。

 

 


 

 

そして、十七分経ち、戦局は若干セシリアに傾いていた。

 

「お行きなさい‼︎」

「やらせるか!」

 

二人のISのビットが戦場を飛び交う。

 

セシリアのISのカスタム・ウィングから放たれたビット【ブルー・ティアーズ】が忍を追い立て、あわよくば撃ち抜こうとレーザーを放つ。

 

しかし、忍のオルトリンデが飛びかかり、ブルー・ティアーズを両断した。

 

 

だが、レーザーが放たれた後のビットを斬ったところでレーザーを反らせるわけもなく……

 

「ぐっ……」

 

レーザーは容赦なく忍を撃ち抜く。

 

他の三機のブルー・ティアーズも忍を追い立てるが……

 

「まだ、負けてない…!」

 

二機目のオルトリンデがレーザーを放ち、ブルー・ティアーズをもう一機打ち砕く。

 

それでも食い付き、レーザーを放つブルー・ティアーズだったが……

 

「……このビットの攻撃の仕掛け方、ようやく分かってきた。遅すぎるよ、僕……」

 

そう忍は小さな声で呟き、襲いかかる二機のレーザーを後方に旋回して回避すると、ブルー・ティアーズに斬りかかる。

 

そうは行くまいと二機のブルー・ティアーズは容赦なくレーザーを放つものの、忍は左右に旋回。

 

これを回避して、二機のブルー・ティアーズを一閃した。

 

「ここで決めなきゃ…」

 

そう呟き、忍は間合いに飛び込もうとする。

 

「ここまでですわ」

 

そうセシリアが言うと、腰のスカートアーマーが開き、二発のミサイルがその姿を現した。

 

「……っ⁉︎」

 

突撃を掛けようとした忍が、急停止する。

 

「……ブルー・ティアーズは、全部で六機あります。そのうちの二機はミサイル型。迂闊に近づこうとしたあなたの負けですわ」

 

そう言うと、セシリアがミサイルを放つ。

 

 

その時、忍の脳裏に【白騎士と堕天使事件】の時の光景が浮かんだ。

 

 

──暗い空

 

──襲い来るミサイル

 

──炎に包まれて沈む一隻の船

 

 

「ミサ……イル……いや……いや……‼︎」

「……?なんですの……?」

 

忍が急に震え出す。

 

逃げようとしたが、ミサイルはしつこく忍を追いかける。

 

 

「まずいな……」

 

ピットでモニターを見ていた千冬先生が苦々しい顔でそう呟いた。

 

「どうしてですか?」

「あいつは【白騎士と堕天使事件】の一件がトラウマになっている。あの弟とは違い、あいつは多少繊細なところもあるからな」

 

トラウマになっていること以外は出任せである。

忍はテレビなどではなく、その目で実際にあの光景を見た。

それは、五歳の子供には、あまりにも凄惨すぎる光景だったのだ。

 

「でも、あのISには恐怖心を緩和させるシステムがあるって……」

「ああ。だがそのシステムは高所への恐怖心や、戦闘への恐怖心など、IS展開中に常に感じるであろうものだけを想定して作動している。トラウマのように、突発的な外部的要因の恐怖心が働くと……」

「どうなるんですか……?」

「システムが過剰に作動してしまう可能性が高い」

 

《マスター、落ち着いて!あの時のミサイルじゃありません!だから、落ち着いて‼︎》

 

アルヴィトが忍を鎮めようとするも、トラウマを刺激され、忍の精神はもう限界だった。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」

 

 

突然、忍が狂ったように叫ぶ。

 

千冬先生が警戒していたように、恐怖心緩和システム【ヴァルトラウテ】が、忍のトラウマからの恐怖心を抑制するために過剰に作動し、暴走したのだ。

 

「なっ……⁉︎一体何が起こったんですの……⁉︎」

 

セシリアが驚愕の声をあげる。

 

暴走した忍の耳には、最早、誰の声も、アルヴィトの声さえも届かない。

 

「ヴゥアアアアアアァァァァ‼︎」

 

忍は、ミサイルの一機に向かって飛び込むと、剣を振り抜き、それを両断した。

 

もう一機のミサイルも忍を狙うが、忍はそれも一閃。

 

「ゥゥゥゥゥゥ…‼︎」

 

忍は、左手のマニピュレーター【ヒルド】にエネルギーを込め、貫手の構えをとり、セシリアを貫こうとする。

 

「い、インターセプター‼︎」

 

とっさにセシリアは、近接武器のショートブレード【インターセプター】を呼び出し、面前に構え、攻撃を受け止めようとした。

 

 

だが……

 

「……⁉︎」

 

忍がセシリアに向かって踏み込もうと地を蹴ったその時、ベルフェゴルのSE残量が0になった。

 

《試合終了。勝者.セシリア・オルコット》

 

「え……?」

 

自らの勝利を告げるアナウンスを聞き、セシリアが呆けた声を出した。

 

「……」

 

ISが解除され、忍は気を失い、その場に倒れた。

 

「……」

 

忍が担架に運ばれ、セシリア一人がフィールドに立っていた。

 




いかがでしたか?戦闘描写は中々難しいですね……今後はリアルも更に忙しくなるし……大丈夫かな……


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第2話.不和(ディファレンス) (6)

悩んでたら箒の誕生日に2日も遅れるヘマやらかしたので初投稿です。
かなり時間を掛けてしまい申し訳ありません……。しかも間違えて返信の内容を変えようとして折角の感想を消してしまいました……。書いてくださった方本当に申し訳ないです……。
改めて、今回はセシリアvs一夏をカットし、クラス代表が決定します。それでは、どうぞ!


「う、ううん……」

 

夕方、忍はベッドの上で目を覚ました。

ベッドといっても、寮室のぬいぐるみで囲まれた柔らかいベッドではなく、病院にあるような硬いベッドだ。

 

「ここは……?」

 

そう言って、忍は周りを見渡す。

外は茜色に染まり、グラウンドには人の影もない。

ベッドの形状から察するに、ここは保健室だろう。

 

「……まだ夕方だし、ご飯食べに行こうかな」

 

そう思い、忍が起き上がろうとした瞬間──

 

「忍、起きてるか?」

 

一夏の声がそう問いかけた。

いつからいたのか、カーテンの後ろに人影が見える。

 

「……うん、起きてるよ。一夏」

 

忍は少し顔を曇らせ、数秒ほど間を空けた後にそう返した。

 

「入るぜ」

「うん」

 

そう言って、一夏はカーテンを開ける。

 

左手には、お見舞いのつもりなのか、林檎などの果物が入った籠がぶら下がっていた。

 

「……そういえば、代表決定戦はどうしたの?一夏の番だったよね?」

 

忍は、クラス代表決定戦のことを尋ねた。

ミサイルを見た後の記憶が抜け落ちていたのだ。

 

「ああ、それなら千冬姉の提案で明日に延期になった。割と時間も迫ってたしな。使えても、時間はごく僅かだったと思う」

「そうなんだ……」

 

家庭科室から借りてきたらしいナイフで果物を切りながら、一夏はそう答えた。

 

「……ごめん」

「ん?なんで謝るんだよ?」

「だって……『お前ならきっと勝てる』って言われたのに、トラウマに怯えて逃げ回って負けるなんて……」

 

明日に延期になった、ということは、自分はセシリアに負けたのだろうと、忍はそう結論づけた。

 

「なんだよ、そんなこと気にしてたのか」

 

そう言って、一夏は笑う。

 

「そんなことって……親友の期待だよ?それを裏切るなんて……」

「あまり重く考えないでいいんだぞ?千冬姉から聞いたよ。お前が【白騎士と堕天使事件】のことがトラウマになってること。トラウマなら逃げて当然だろうしな。しかもお前はテレビじゃなくて実際に見てるわけだし。箒もきっと同じこと考えて『負けるな』って言ったんだと思うぜ。実際に見てることに気付いてるかは分からないけど」

「そ、そうかな……?」

「ああ。だから、次は俺のことも応援してくれよ?」

「当たり前だよ。きっと勝ってね。親友」

「おう!任せとけ!」

 

二人は右手で拳を作り、それを小さくぶつけ合う。

沈み行く太陽が、二人の拳を優しく照らしていた。

 

 

一方、セシリアは自室でシャワーを浴びていた。

金色の髪から、水滴が滴り落ちる。

 

「今日の試合……」

 

彼は最後に一度逃げ回ったとはいえ、それまでは恐れすらせず立ち向かってみせた。

なぜ、彼はそんなことが出来たのか。

 

「……分からない」

 

男は皆、女に畏怖するものだと思っていた。

だが、彼は、そんな様子は全く見せなかった。

それは、ISを纏えることから来る自信の表れなのだろうか。

 

「……そういえば」

 

彼の隣には、いつもあの男がいた。

 

「……織斑、一夏」

 

彼も、セシリアが知っている男とは全く違う男だった。

彼は初めて邂逅したあの日、他人を窘めつつ自分の意思をはっきり示してみせた。

彼の存在も、忍の支えになっているのだろうか?

 

(……父は母の顔色をうかがうばかりの人だった)

 

ふと、セシリアは父のことを思い出す。

名家に婿入りした父は、母に引け目を感じていたのかもしれない。

母に媚びるような父を見て、セシリアは、『情け無い人とは結婚しない』という思いを幼い頃から抱いた。

セシリアの男を見下す態度も、そこから来たものである。

 

オルコット家に関わる男が全て情け無い男ばかりで、いつからか、男全てを見下すようになっていた。

 

そして、ISが発表されてから、父の態度は益々弱々しいものになった。

それからの母は、父との会話を拒んでいるようにも見えた。

 

(母は強い人だった……。女尊男卑の風潮になる前から、いくつもの会社を立ち上げ、成功を収めた人だった)

 

厳しいが優しい、セシリアにとって自慢の母だった。

だが、三年前の越境鉄道の横転事故が起きて、セシリアの両親は帰らぬ人となった。

死傷者は百人を超え、その中に、両親もいた。

 

(……普段会話すらしていなかったのに、何故、あの時だけ……。私を置いていって……)

 

セシリアの手元には莫大な資産が残り、それを守るために様々な勉強をした。

その一環のIS適性テストでA+が出て、政府から、他所に取られないための国籍保持のために、様々な好条件が出され、セシリアは、両親が遺した遺産を守るため、その条件に飛びついた。

そして、第三世代型ISのブルー・ティアーズの第一次運用試験者に選抜され、稼働データと戦闘経験値を得るため、セシリアは日本にやって来た。

 

そして、あの二人に出会った。

 

「白波、忍……織斑、一夏」

 

何故、あの二人は女尊男卑が当たり前のこの世の中で、女性に屈しないのか。

何故、あの二人はこんな世界の中でも、あんな強い意志を持てるのか。

 

「……知りたい」

 

あの二人を。

この女尊男卑の世界でも曇らない、強い目を持った男たちを。

 

(そのためには……親睦を深めていかないといけませんわね)

 

そんなことをセシリアが考えていると、部屋からリモコンで通信が入る。

 

「はーい?」

「セシリアー、いつまで入ってるのさ。もうお湯空っぽ!」

「え……?」

 

ルームメイトである如月キサラの話がにわかには信じられず、セシリアはリモコンを見る。

そこには、残り湯無しの表示が出ていた。

 

「な、な……⁉︎」

「私もシャワー浴びたかったのに……」

「も、申し訳ありません‼︎」

 

そして、夜は更けていった。

 

 

翌朝、一夏と忍は廊下を歩いていた。

 

「なぁ忍、お前もう動いて平気なのかよ?」

 

一夏が心配からそう尋ねる。

 

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう。でも、一夏も自分の心配をしないとね?」

「わ、分かってるって。ところで忍、俺のISなんだけど、武装が剣一本だけなんだけどさ……」

 

一夏が唐突に話題を変えてきた。

しかし、その内容に忍は驚愕の表情を浮かべた。

 

「えっ……⁉︎いや、第三世代なのにそれはおかしいんじゃ」

「まぁ落ち着けよ。その剣の名前がなんと【雪片弐型(ゆきひらにがた)】って言うんだ」

「…⁉︎その剣の名前……」

「ああ、千冬姉のIS【暮桜(くれざくら)】の専用装備【雪片(ゆきひら)】と同じ名前なんだ。凄えよな、運命すら感じそうだ」

「そうだね。それとその剣を使うってことは、千冬さんの名前を預かるみたいなもんだし、強くならなきゃね」

「おう、というわけで忍、レクチャー頼む!」

「まともに教えられないから実戦形式になりそう……」

 

二人がそんなことを話しているうちに、教室に着いた。

忍が教室のドアを開ける。

 

「おはようございます」

「おはよう」

 

二人が挨拶する。

 

「忍、もう動いて平気なのか?」

 

箒がそう聞いてくる。

 

「うん、大丈夫。ありがとう心配してくれて」

「昔からの友であるお前たちが怪我したとあっては私も悲しいからな、無事で良かった」

 

忍はそう返し、箒は少し微笑みながらそう言った。

 

「それと……ごめんなさい」

「ん?……あぁ、昨日のことか。そのことなら気にするな。私もミサイルが飛んできたら斬ったり逃げ切ったりする自信はないからな。怖いと思うのは当然だと思う」

「うん……ありがとう」

《良かったですね、マスター》

(うん。ありがとう、アルヴィト)

「まぁ、ISを纏ってるのにそれはないだろとは思ったけどな」

 

そう言うと、箒はくすっと笑った。

 

「否定出来ないけど、ひどいよー……」

「すまんすまん、少しからかっただけだ」

「もう……」

 

少し頬を膨らませつつ、忍は席に着いた。

 

「しのぶー、大丈夫?頭とか痛くない?」

 

席に座った忍に、本音が声を掛けた。

 

「みんな僕なんかのことを本気で心配してるんだ……。ありがとう、でもこの通り元気」

「そうなの?良かったよー。あと、渡したいものがあってねー」

 

そう言うと、本音はだぼだぼの袖を漁りだした。

 

忍が不思議そうな顔をしていると、本音は、小さいお菓子がたくさん入った袋を取り出した。

 

「はい、これどーぞー!」

「え……?」

「多分昨日の戦いで疲れてるかなって思ってー。甘いものは疲労回復に効果的って聞いたことあるから、お菓子は効果てきめんかなーって思ってお菓子をたくさん袋に詰めたんだー!」

「……でも、いいの?僕なんかにこんなの渡して……。貴方は、お菓子をよく食べるんでしょ?」

「いいよー、渡すためにお菓子を袋に詰めたから!」

「そ、そう……?なら、いただきますね。ありがとう、布仏さん」

「本音って呼んでほしいなー、同じクラスメイトだし!」

「うん。分かった、本音さん」

 

そんなことを話しつつ、忍は心の中でこう呟く。

 

(やっぱり、ここにはいい人が多いな…僕のいたあの学校とはまるで違う。女尊男卑なんて、初めからなかったみたいに)

 

すると、千冬先生たちが教壇に立つ。

 

「おはよう、諸君。本当に突然だが、クラス代表決定戦が中止になり、代表は織斑が選抜されることとなった。誰か異論のあるものはいるか?」

「「……え?」」

 

一夏と忍の声が綺麗に重なる。

そのまま二人は硬直する。

そして、誰も異論を唱えようとはしなかった。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

山田先生は、嬉々とした話し方でそう言った。

 

(あれ?おかしいぞ?まだ一夏の試合残ってるよね……?)

《ですね。何故でしょう……?》

 

忍とアルヴィトが脳内でそう会話していると、

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

一夏が手を挙げた。

 

「はい、織斑くん!」

「まだ俺の試合は始まってすらいないのに、何故クラス代表になってるんですか?」

「それは——」

 

山田先生が理由を話そうとした瞬間、

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

席を立ち、セシリアが胸に手を当てそう言った。

 

(((いやなんで辞退してるんだよ《ですか》)))

 

忍たちは、心の中で同時にツッコんだ。

 

「まぁ、ISに乗って一ヶ月も経たない初心者が、代表候補生であるわたくし、セシリア・オルコットに挑むのは、流石に可哀想ですし……」

(ひでぇ。まぁ実際そうなんだけどさ)

「それに、わたくしも協調性がない行為をしてしまいました。そんなわたくしでは、クラスの代表には不釣り合いだと思い、それを反省し、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたの。IS操縦は、実戦が一番糧になりますし、クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」

(ありがた迷惑だなぁ……ん?今俺のこと名前で呼んだ?あと、なんで忍と戦った後に……?あ、忍と俺が戦うと確実に俺が負けるからか)

「いやぁ、セシリア分かってるね!」

「だよねー。私たちは貴重な経験を詰めて、他のクラスの子に情報が売れるし。一粒で二度おいしいね、織斑くんは」

(だから商売にするなって……)

 

一夏は心の中でそうツッコんだ。

 

「それでですわね、わたくしがIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみる成長を──」

 

セシリアが言い切る前に、机を叩く音で遮られた。

そして、箒が立ち上がった。

 

「生憎だが、一夏の教官は私で事足りている。済まないが、他を当たってくれ」

「そうでしたのね。ですが、引き下がるつもりはありませんわ。わたくしも、一人のクラスメートとして、貴方方の信頼を取り戻し、親睦を深めるために一夏さんのお手伝いがしたいんです。私自身の態度のせいで、こうなってしまいましたが……それでも、今のこの気持ちに嘘偽りはありません」

「……」

 

セシリアの目は真剣そのものであり、言葉通り、嘘偽りのないことを窺わせる。

 

「……そうか。私も説明は苦手だ。お願いしてもいいだろうか?」

「ええ、勿論ですわ。二人で一緒に一夏さんにISのことを教えていきましょう」

「ああ!」

 

そして、二人は互いに歩み寄り、固い握手を交わした。

 

(セシリア、変わった……?)

 

そう思い、忍が少し驚いたような表情をしていると、

 

「うむ。友情が芽生えるのはとても良いことだ。だが……」

 

その声に二人の顔が、青ざめていくのが分かる。

二人が声がした方を向くと、

 

バシンバシンッ‼︎

 

「……今はSHR中だ。席につけ、馬鹿ども」

 

そう言って、千冬先生が二人の頭を同時に叩く。

 

(流石元日本代表にして第一回世界大会の覇者。凄みが違うな)

 

一夏は心の中でそう思った。

そして、二人はすごすごと席に戻った。

そんな二人を見て、一夏が何か閃いたような顔をする。

 

(凄みと、すごすご……なんつって)

 

その時、

 

バシーンッ‼︎

 

という音とともに、一夏の頭に衝撃が走った。

 

「その得意げな顔はなんだ。やめろ」

 

千冬先生が出席簿で叩いたことによる衝撃だった。

 

(うーん、千冬姉、職場ではこんなにしっかりしていたのか。そういえば、俺たちが寮で暮らすようになってから、千冬姉洗濯物ちゃんと自分でしてんのかな。ずっと俺らにやらせてたけど)

(……というか、せめて下着くらい自分でネットに入れて欲しいよ……。男に女性ものの下着任せちゃいかんでしょ……)

(それくらいはやってくれよ、二十四歳社会人)

 

などと二人が心の声を漏らしていると、

 

バシンッ‼︎

バシンッ‼︎

 

という音とともに、二人の頭に衝撃が走った。

言わずもがな、千冬先生の出席簿で殴られた衝撃である。

 

「……お前達、今何か無礼なこと考えていただろう」

「「そんなことは全くないです」」

「……ほう……」

 

バシバシバシバシンッ‼︎

 

という音とともに、二人の頭に二連続で衝撃が走る。

 

「「すみませんでした」」

「分かればいい」

 

そう言って、千冬先生は教壇に戻った。

 

(理不尽な……)

(痛い……というか手の動き見えなかった)

《マスター、大丈夫ですか?》

(だいじょばない)

《ですよね……》

 

二人が頭を抑えている間に、ほぼ全会一致でクラス代表は一夏に決定した。

 

その中で、一夏だけが不満そうな顔をしていた。




いかがでしたか?相変わらず長い時間掛けてますが、これからも頑張ります‼︎


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第3話.鈴の音一つ(1)

梅雨明けして本格的に暑さが襲撃し、ダラけてたので初投稿です。頑張ると言った矢先にこれか…(自虐)では、どうぞ!


四月の下旬の朝。

グラウンドで全員が並び、千冬先生の授業を受ける。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、白波、オルコット。試しに飛んでみせろ。織斑は初めてに見えるが、白波たちと放課後に訓練していたようだからな。初めてという言い訳は通用しないぞ」

(((バレてた《ました》か)))

 

一夏たちは、千冬先生の観察力に脱帽せざるを得なかった。

セシリアと忍の戦いの後、彼らは訓練の内容を放課後の剣道の訓練からIS操縦の訓練にシフトしていたのだ。

これは、一夏が『ISのことを学ばないと、あの二人に追いつけないし、そうなったら、千冬姉の名前に泥を塗り直すことになるかもしれない。そんなのは嫌だ』と言って決めたことである。

 

「早くしろ。熟練のIS操縦者は展開(オープン)までに一秒もかからない。お前たちもそうなれるように努力しろ」

 

そう言われて、忍とセシリアが同時に、少し遅れて一夏が、それぞれ展開を終えた。

 

セシリアの四つのBTは、とっくに修復が終わっており、スカートアーマーに新品のそれが付いていた。

 

「よし、飛べ」

 

その言葉と同時に、セシリアは飛び上がり、グラウンドの上空を飛び回る。

忍もセシリアが飛び上がるのと同時に翼を大きく羽ばたかせて飛び上がり、上空を飛び回り始める。

 

一夏も飛び上がり、グラウンドの上空を飛び回り始めたが、その速度は二人と比べてかなり遅いものだった。最初はフラフラしたが、すぐに体勢を立て直し、真っ直ぐ飛べるようになった。

何も経験がないところから、始めて一ヶ月にも満たない放課後の特訓だけでここまで腕を上げているのだから、目覚ましいほどの進歩である。

 

「何をやっているんだ、織斑。スペック上の出力では白式が二人のISよりも上だぞ」

 

だが、千冬先生は容赦なく一夏を叱る。

その時、セシリアから忍に個人間秘匿回線(プライベート・チャネル)で通信が入った。

 

≪忍さん、一夏さんはまだイメージをはっきり固めておられないご様子。わたくしたちでイメージのことを教えて差し上げた方がよろしいのではないでしょうか?≫

≪そうだね、そうしようか≫

 

二人のわだかまりは、放課後の一夏の訓練にセシリアも同伴することによって、すっかり無くなっており、忍も、周りの生徒と同じようにセシリアと接するようになっていた。

 

そして、二人は速度を落とし、一夏に近付いた。

 

「なぁ、セシリア、忍。『角錐を自分の前方に展開するイメージ』ってどうやるんだ?よく分からないんだが」

 

一夏は困った表情を浮かべつつそう言った。

 

「一夏さん。イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索すればいいのですわ」

「僕は翼を羽ばたかせるイメージで飛んでるけど、一夏は?どんなイメージしてる?」

「うーん……背中からジェット噴射してる感じかな」

「なら、それをもっと強く意識して飛ぶといいよ」

「ISはイメージが大切ですから、そのイメージに任せて飛んでみてくださいな」

「だけど、そもそもこれどうやって浮いてるんだこれ……」

 

一夏がまた疑問を浮かべる。

 

「まぁ、PICっていうすごい装置がISにかかる重力を軽減してるって考えればいいんじゃないかな?」

「忍さんのもあまり間違っていませんが、結構端折ってますわね……。更に説明しても構いませんが、長いですわよ?反重力力翼と流動波制御の話になりますから」

「うっ……。俺では理解出来なさそうだからいいです」

「そう、それは残念ですわ。ふふっ」

 

そう言って、楽しそうにセシリアは微笑んだ。

ただ純粋に楽しんでいるようなその笑みに、かつて、一夏たちや日本を見下していた頃のセシリアの面影はなかった。

 

そんな時、地上から箒の声がした。

 

「一夏、忍。オルコットも、そろそろ降りてこい。授業が進まないぞ」

「分かりましたわ。あと箒さん、そろそろ苗字で呼ばずに、セシリアと名前で呼んで欲しいですわ」

「む、そうか……。分かった、セシリア」

「ふふっ、名前で呼ばれるのは、気心知れた友人という感じがして嬉しいですね」

 

またセシリアは楽しげな笑顔を見せる。

 

セシリアは、過去に男にいじめか何かを受け、男性が苦手なだけだったのかもしれない。

それが女性特権であるはずのISを動かせたなんてこと言われたら、ああなるのも仕方ない。

 

(……そう思うと、セシリアは僕に似ている。僕にそれを責める資格はなかったよね)

 

忍はそう思うと、少し表情を曇らせた。

 

「どうかしましたの?忍さん?」

 

ハイパーセンサーで忍の表情の変化に気づいたのか、セシリアが少し心配した様子で近付いてきた。

 

「……ううん。何でもない」

 

忍は首を横に振り、そう言った。

 

「それは良かったです」

 

セシリアは、今度は優しく微笑んだ。

心配してくれているということが伝わり、忍は申し訳ないと思いつつ、少し嬉しくなった。

 

「ちなみに一夏さん、あんなに遠いところにいる箒さんたちが見えるのはハイパーセンサーのおかげですが、ハイパーセンサーはこれでも機能制限がかかっていますのよ。元々ISは宇宙空間での稼働を想定していて、何万キロも離れた星で自分の位置を把握するために、ハイパーセンサーはあるんですの」

 

(代表候補生の肩書きは伊達ではない、ということか……。すげぇな、セシリアは)

 

一夏はセシリアの知識量に感心していた。

ちなみに箒の説明だと、

 

「ぐっ、とする感じだ」

「どんっ、という感覚だ」

「ずがーん、という具合だ」

 

こんな具合である。

 

その度に、『擬音ばかりでは分からないですわよ』と、放課後の特訓に付き添うようになったセシリアに言われていた。

 

箒も箒なりに考えているのだろうが、彼女自身がそう言った通り、説明はうまくできないのだろう。

知っていることと、その知識を人に分かるように説明することの難しさは、全然違うのだから。

 

「織斑、白波、オルコット。急下降と完全停止をやってみせろ。目標は地上から十センチだ」

「了解です。ではお二人共、お先に」

 

そういうや否や、セシリアはすぐさま地上に向かった。

ぐんぐんセシリアの姿が小さくなっていくのを見て、一夏は、

 

「うまいもんだなぁ」

 

という感嘆の声を漏らす。

 

そして、セシリアは完全停止も難なくクリアしてみせた。

 

「よし、僕も」

 

そう言って、忍も翼を羽ばたかせ、急降下した。

だんだん忍の姿が小さくなり、やがて姿が小さくなっていくのも止まった。

 

(よし、最後は俺だ。気合い入れて行くぜ)

 

一夏は気合を入れる。

意識を集中させて、翼からジェット噴射しているイメージを思い浮かべる。

体を傾けて、一気に地上へ近付く——。

 

だが、気合を入れたのが失敗だったのか、白式の出した速度は予想以上に速く、停止できそうにない。

 

(しくじった……)

 

そして、砂煙が上がった。

 

「織斑くん⁉︎」

 

山田先生が心配した声を出す。

 

「あら?忍さんは……?」

 

セシリアが忍がいないことに気付く。

 

煙が晴れると、

 

「ぐぅ……いたた……」

「わ、悪い、忍……」

 

一夏を上にして、忍が押し潰されていた。

一夏を庇ったのだろう。

それを見た一部の女子は、

 

「こ、これは……」

「お、織斑君が攻め、白波君が受け……」

「一忍キター!これは……いいものね、イケメン男子がちょっとクールな感じの男の娘を押し倒す……。誰かカメラを!」

 

このように大騒ぎしている。

 

「勘弁してよ……」

「馬鹿者。グラウンドに穴を開けてどうする」

「「……すみません」」

 

そう言って、一夏は姿勢制御をして上昇し、地面から離れた。

忍もそれに続き、翼を小さく羽ばたかせ、地面から離れる。

 

《マスター、大丈夫ですか?お怪我は?痛くないですか?》

 

アルヴィトが少し慌てた様子で聞いてくる。

 

(もう、アルヴィトは僕のお母さんじゃないんだから……。大丈夫だよ。SEは減ったけど……)

《……そうですか、無事で良かったです》

(ありがとう、アルヴィト)

 

「「(お)二人とも、大丈夫か(でして)⁉︎」」

 

箒とセシリアが二人の元に慌ててやってくる。

 

「うん、大丈夫、僕は平気」

「俺も大丈夫だ、安心してくれ」

「「良かった〜……」」

 

二人は安心したようだ。

 

そんな忍たちの前に千冬先生が立ち、

 

「よし、織斑。武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようにはなっているだろう」

「は、はぁ」

「返事は『はい』にしろ。社会に出た時『はぁ』と返事したら上司にこっぴどく叱られるぞ」

「は、はいっ」

「よし。では始めろ」

 

千冬先生に言われ、一夏は横を向く。

そして、正面を少し見つめ、誰もいないことを確認し、一夏は右腕を突き出し、それを左手で握った。

 

(来い……!)

 

一夏の右腕を握る左手の力が強くなっていく。

すると、一夏の掌から光が放たれ、それが形になっていく。

光が収まると、そこには一夏を守る剣【雪片弐型】が握られていた。

 

(よし、だいぶイメージが固まってきたぞ)

 

一夏はそう思い、口を緩めた。

 

「遅い。構えてから一秒で出せるようになれ。戦場では相手は武器を出すまで待ってくれないぞ」

 

そんな一夏を、千冬先生は初心者にも関わらず容赦なく叱る。

 

(いや、普通戦場のことなんて誰も考えないぞ千冬姉……)

(千冬さん、決勝戦を辞退してからドイツ軍の教官になってたらしいから、それも関係あるのかなぁ)

《マスターはお二人が試合に行く時、一人だけ取り残されたから少し怖がってましたね》

(そ、その時の話はいいでしょ!)

 

忍とアルヴィトが脳内で話していると、千冬先生は、

 

「オルコット、白波。武装を展開しろ」

 

そう二人に命令した。

 

「「はいっ」」

 

二人はそう返事をすると、武器を出すポーズをとる。

 

セシリアは左手を肩の高さまで上げ、真横に突き出す。

忍は自分の視線の先に右手を翳す。

すると、二人の掌が一瞬だけ爆発的に光り、二人の手には、それぞれ【スターライトmk-Ⅲ】と【スルーズ】が握られていた。

 

(すげぇ……。俺なんかより全然速い)

 

一夏は二人の展開の速さに感心していた。

 

「流石だな。だがオルコット、そのポーズはやめろ。横に向けて展開しても、相手はお前の視線の先にしかいないからな。お前のイメージを固めるには大切かもしれないが、余計な手間がかかる。次の実習までに直すように」

「はいっ」

 

セシリアがそう言うと、千冬先生がまた新たな指示を出す。

 

「オルコット、今度は近接用の武装を展開しろ。白波はオールレンジ攻撃用の武装を展開だ、いいか?」

「はいっ」

「はっ、はいっ!」

 

忍とセシリアがそれぞれ返事をする。

そして、セシリアは【スターライトmk-Ⅲ】を光の粒子に変換した。

 

続けて、セシリアは新たに近接用の武装を展開する。

しかし、【スターライトmk-Ⅲ】を展開した時とは違い、光が像を結ばず、空中を彷徨っている。

 

(……あれ?おかしいぞ?忍と戦っていた時は、一瞬で近接武装を出してみせたのに……)

 

一夏はセシリアの武装の展開の遅さに疑問を覚えた。

 

ちなみに、忍は既に【オルトリンデ】を展開しており、短剣が六つ、忍の周りを浮いていた。

 

「くっ……」

「まだか?」

 

苦戦しているような様子のセシリアを、千冬先生は急かした。

 

「だ、大丈夫です。すぐですから……。——ああっ、もう!【インターセプター】‼︎」

 

武器の名前を叫び、それによってイメージがまとまったのか、光はショートブレード【インターセプター】として形を成した。

 

「……何秒かかっているんだ。近距離での戦闘になったらどうするんだ?相手に待ってもらうのか?この前の試合では咄嗟に名前を呼んだからそれを用意できたわけだが、武器の名前を呼び、それを展開するということは初心者がやる手法だ。名前を呼ばず、即座に展開出来るようにしろ。そんな調子では代表候補生の名が泣くからな」

「じ、実戦では近接の間合いに入らせませ——」

「前の試合で白波に一度間合いに入られただろう?それが全てを物語っている。近接戦闘も多少はこなせるようにしておけ」

「……はい」

 

この二人のやりとりを聞き、一夏はなんであの試合の時一瞬で展開できたのかを理解した。

 

すると、チャイムが鳴り出した。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、白波。グラウンドを片付けておけよ」

「「はーい……」」

「……」

 

箒が心配そうに一夏を見ていたが、一夏が目線を送ると、箒は顔を赤らめ、帰っていった。

 

セシリアは、すでに帰ったようだった。

 

「誰も手伝ってくれないのかよ……」

「まぁ、みんな疲れただろうからね」

「そうだな。さぁて、俺たちもやらなきゃな」

「IS使えたら早めに片付けられそうなんだけどなぁ……」

「おっ!それいいな、やろうぜ!」

「え、えっ⁉︎でもバレたら……」

「バレないって!みんな帰ったし!見てる人なんていないって!」

「わ、分かった……(千冬さん、僕らの特訓知ってるから、見られててもおかしくないんだけどなぁ……)」

 

そして、二人はISを展開し、グラウンドの手入れを始めた。

その後、二人は忍の心配通り、千冬先生に見つかり、こっぴどく怒られ、反省文を書かされた。

 

 


 

 

「ふーん、ここがそうなんだ……」

 

夜のIS学園の正面ゲートに、一人の少女が立っていた。

少女の髪は、黄色いリボンで左右それぞれを高い位置で結ばれている。

 

(アイツら、元気かな……多分この学園にいるのよね)

 

ふと、少女は二人の幼馴染を思い出す。

片方は元気な姿以外見たことないが、もう片方は、女子にいじめられていたので、女子だらけのこの学園にいるのなら、鬱になっていてもおかしくない。

 

(ふふっ、あの二人、あたしがここに来たことを知ったら、びっくりするだろうなー)

 

そう思い、少女は、走り出した。

 




いかがでしたか?ご期待に添えていたら嬉しいです!


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第3話.鈴の音一つ(2)

夏バテ起こして、さぁてやるぞと思った矢先に体調崩したので初投稿です。大変長らくお待たせして申し訳ありません……。今回はパーティー回です。色々と雑かもしれませんが許してください……。では、どうぞ!


夕食後の食堂。

本来は全員帰りはじめている時間帯だが、今日は事情が違った。

 

「織斑君、クラス代表決定おめでとー!」

「「「「「「おめでとー!」」」」」」

 

そう言うと、女子たちはクラッカーを一斉に鳴らした。

 

「…………」

 

一夏は驚愕と困惑が入り混ざった表情をしていた。

 

(めでたくない、全然めでたくない……忍はさっさと食い終わって帰っちまったからな……俺も早く食べてれば良かった)

 

一夏は心の中でそう呟き、溜め息を吐いた。

だが、お祭りムードの女子にはそれは気付かれなかった。

 

「いやー、これでクラス代表も盛り上がるねえ!」

「ほんとほんと」

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

「ほんとほんと!」

 

女子たちの会話を見て、一夏は違和感を覚えた。

 

(相槌打ってる女子は二組だったはずだけどな……っていうか、心なしか女子の人数がクラス人数より多い気がする……)

 

だが、あいも変わらずお祭りムードな女子たちには関係ないようで、飲み物を乾杯していたりしている。

 

そんな女子たちを困惑した表情で一夏が見つめていると、

 

「人気者だな、一夏」

 

そう言って、いつのまにか隣に来ていた箒が不機嫌そうな顔をする。

 

「……そう見えるか?」

「ふん」

 

一夏は箒に聞くも、箒は不機嫌そうに鼻を鳴らすだけで返答もせず、不機嫌そうな表情を顔に貼り付けたまま、お茶を飲んだ。

 

「まぁまぁ箒さん、皆さん一夏さんの活躍を期待して、景気付けにこうしたパーティーを開いているんです。箒さんも、折角ですから楽しみましょう?」

 

そう言って、セシリアが箒の隣に歩いて来た。

 

「むぅ……。確かにそうかもしれないが……なんだか友人を都合よく祭り上げられているようで釈然としない……」

「……」

「な、なんだ……?セシリア」

 

箒を見て、黙って微笑むセシリアに、箒が問いかける。

 

「いえ。ただ、箒さんは一夏さんが本当に好きなんだなと思っただけですわ」

「なっ、ななななな⁉︎//」

 

セシリアがそう言うと、箒は顔を真っ赤にして慌てた。

 

「ち、違うぞ!一夏は私にとって二人しかいない幼馴染だし……だからその……決して好きとかそういうのでは……//

 

だんだん声が小さくなっていき、言い終わると、箒は顔を真っ赤にして、縮こまってしまった。

その時、

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生の一人、織斑一夏君に特別インタビューをしにきましたー!」

 

という、明るい声が響いた。

 

「「「「「「おおー‼︎」」」」」」

 

女子たちの歓声が一斉に湧き上がる。

 

もちろん一夏は困惑しきった表情を浮かべている。

そして、その新聞部の人は一夏に近づき、

 

「私は二年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ、名刺」

 

そう言って、自己紹介をしつつ、一夏に名刺を渡した。

一夏はそれを見て、

 

(うわ、すごい画数。書く人は大変だな)

 

と思った。

 

「ではではずばり織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

そう言って、薫子は、ボイスレコーダーを一夏に向けた。

 

「えーと……」

 

一夏はインタビューを受けるなどと全く考えてなかったので、困った顔をしつつ、頭を掻いた。

薫子は、ボイスレコーダーを向けつつ、目を輝かせている。

期待を裏切りたくないので、一夏は必死にコメントを絞り出した。

 

「えっと、クラス代表の名に恥じないように、精一杯頑張ります」

 

一夏はそう言って、少し溜め息をついた。

だが、薫子の表情は芳しくない。

 

「えー、もっと何かないの?なんかこう、『俺に触るとヤケドするぜ』みたいなさー!」

「勘弁してください……」

「まぁいいや、これは適当にねつ造するとして」

 

薫子がさらりととんでもない発言をする。

 

(いやいやいや、そりゃダメだろ⁉︎)

 

一夏は内心慌てた。

 

「あ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」

 

そんな一夏には目もくれず、薫子はそう言って、セシリアにボイスレコーダーを向けた。

 

「わたくし、こういったコメントはあまり得意ではありませんが……仕方ありませんわね」

 

そう言って、セシリアは深呼吸をした。

そして、咳払いをして、続ける。

 

「ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したかというと、それはつまり——」

「あ、長くなりそうだからいいや。写真だけちょうだい」

 

そう言って、薫子が話を遮る。

「ええっ⁉︎いや、最後までお聞きください!」

「いいよ、適当にねつ造しておくから。よし、織斑君に惚れたってことにしておこう」

「ちょっ、違いますわ!私は親睦を深めるために——」

「あーなるほど、つまり惚れたってことだな!よし!」

「ちーがーいーまーすー!」

 

そんな時、忍が食堂の前を通りかかる。

「うー……トイレトイレ…エレベーターは廊下の真ん中だったよね」

《はい、そして男子が使えるトイレは一回の来賓トイレです》

「僕が来ることは分かってそうだったのになんで男子トイレ増設されてないのさー……」

《増設も時間かかりますから……》

 

そんな忍を見て、薫子が忍の方へ走り出した。

 

「ねえ白波君、白波君も何かコメントちょうだい‼︎」

 

そう言ってボイスレコーダーを向ける薫子を見て、忍は困った表情を浮かべた。

 

「あ、あの……何についてのコメントなのか分からないし、僕トイレに行かなくちゃいけないので……」

「まぁまぁ、時間はかけないから!というわけで、織斑君がクラス代表になったことについてのコメントをちょうだい‼︎」

 

そう言って、さらに薫子はボイスレコーダーを近づけた。

 

「えっと……一夏の剣は去年の剣道大会全国優勝者譲り。とても強いよ」

 

忍は少し考え込んでから、表情を戻してそう言った。

 

「ああ、箒譲りの剣術だ。そう簡単には負けてやらないさ」

 

一夏も頷き、忍の言葉に便乗する。

 

「なっ、わざわざ名前を出さなくてもいいだろう⁉︎」

 

話題に上がられた箒は、顔を真っ赤にしてそう言った。

 

「ふむふむ、なるほど、箒ちゃんは織斑君が好き、と……よし、コメントありがとう!」

「なっ……⁉︎///」

「さりげなくねつ造された気がするけど、まぁいいか……」

《急いでトイレに向かいましょう!》

「そうだね、急がなきゃ!」

 

そう言って、忍はエレベーターに向かって走っていった。

 

「これは拡散されますわね……」

 

セシリアがそう呟く。

 

「……//」

 

箒はまたもや顔を真っ赤にして俯いている。

 

「参ったなぁ、箒に変な噂は流れて欲しくないんだが……」

「……この朴念仁め」

「え?なんか言ったか?」

「なんでもないぞ」

「なんか不機嫌そうだけど……」

「生まれつきだ」

 

そう言って、箒はまたそっぽを向いた。

 


 

しばらくして、忍がトイレを済ませ、また食堂の前を通りかかる。

その忍を見て、本音が声をかけた。

 

「ねーねーしのぶー、みんなで写真撮ろー!」

「いや、僕は写真写り悪いから、やめとくよ……。せっかくの記念写真だし、一人でも写真写り悪いのがいると、後から見た時、気分悪くなるでしょ?」

 

そう言って、忍は自分の部屋に戻ろうとするが、本音と一夏、セシリアに腕を掴まれる。

 

「なっ……⁉︎」

「忍さんだけがいないなんて嫌ですわ。集合写真というのは、クラスの全員が揃って初めて、集合写真になるのではなくて?」

「お前だってクラスの一員なんだ。だからお前だけいないのなんて俺は嫌だ」

「そーだよー。しのぶーはみんなの輪の中にいないとダメなのだー。そもそも集合写真に写真写りが悪い人がいるだけで気分悪くする人なんていないよー!」

 

そう言われて、忍は手を引かれて、みんなのに混ざった。

 

「はい、じゃあ撮るよー!一+一はー?」

「「「「「「「に〜‼︎」」」」」」

「残念、二進数の十でしたー!」

「「「「「ええー⁉︎」」」」」」

 

みんなが驚いているうちに、シャッターが切られた。

 


 

「あの、忍さん!」

 

帰る途中の忍に、セシリアが声をかけた。

 

「……何?セシリア」

 

背中から声をかけられ、忍は内心びっくりしたが、なんとかそれを表に出すことなくセシリアの声に応えた。

 

「あの、なんで貴方や一夏さんは、女尊男卑の世の中なのに、あんなに堂々としていられるんですか?今や、ただすれ違っただけで男がパシリに使われる世の中だというのに……」

「一夏は特に何もないと思うよ。いつも隣には女の子がいたし、あまり気にしてないんじゃないかな?そもそもあいつ自分に向けられている好意には疎いし」

「そ、そうなんですね……。ですが、貴方は?」

「……ただ、事情があって女性が苦手なだけ」

「その割には、ここの女子には普通に話せてますが……?」

「それは……」

 

そう言うと、忍は口を噤んでしまった。

 

「……分かりました。これ以上は聞きません。その代わり、もう一つ気になったことを聞いてもよろしくて?」

「……うん」

 

セシリアがそう聞くと、忍はそれを了承した。

 

「あの、戦ってる最中に思ったんです。貴方のISがISを世界に知らしめることになった二機のISのうちの一機【堕天使】なんじゃないかって……」

「…………」

《マスター、ここは……》

(うん。分かってる)

「もし、そうなら……」

「悪いけど、僕のISは【堕天使】なんて名前じゃない。あのISは【ヴァルキュリア・ベルフェゴル】。それとはきっと別物だよ」

「そう、ですか……そうですよね」

「…………」

 

これが箒の場合なら、話しても問題なかったが、もしもセシリアがこれを国に話したらとても面倒なことになりそうだと思い、忍は言わなかった。

 

「でも、もし【堕天使】の操縦者だという人を見かけたら、こう伝えて欲しいんです」

「伝える……?」

「一夏さんや忍さん、箒さんたちに会わせるためのきっかけを作ってくれてありがとうございます、と」

「…………覚えておくよ」

「ありがとうございます。では、ごきげんよう」

「うん、また明日」

 

挨拶を済ますと、セシリアは自室へ帰っていく。

忍は、自室へ走っていった。

 


 

「〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎」

 

忍は自室に帰ってくると、顔を枕に埋めた。

 

「ど、どうしたんだよ忍?少し遅いなと思ったら急に枕に顔を埋めて……」

 

セシリアと話している間に先に帰っていた一夏が、忍に尋ねる。

 

「だってだって、あんなことを言われたら照れ臭くて仕方ないよ!」

「お?告白か?」

 

そう言って、一夏は忍を茶化す。

 

「ちーがーうー!」

「じゃあなんだよ?」

「セシリアに、会えたきっかけを作ってくれてありがとうって言われたんだ……」

「ははっ、良かったな。それにしてもあいつ、少し前から急に変わりすぎじゃね?」

「何かあったんだろうね、きっと。まぁそれは僕らが考えても多分分からないし、シャワー浴びようシャワー!」

「おう、そうだな!」

 

そう言って、二人はシャワールームに向かった。

 


 

セシリアは、自室に帰って、ベッドで横になった。

 

(忍さんは女性が苦手……なのにここの女子との関わり合いでそんなことは感じさせなかった……)

 

セシリアは、先程の話について考えていた。

 

(ここの女子は外の女性たちと比べると、まだ優しい……。なら、外の女性と何かあったのかもしれませんわね……)

 

セシリアはそう推察した。

 

(なら、初対面時の男性を見下したあの言動は、忍さんにとって地雷だったのでしょうね……はぁ)

 

セシリアはそのまま目を閉じた。

 

(わたくしは、あの人たちと、親睦を深めることなんてできるのでしょうか?)

 

 




いかがでしたか?なんか今回は箒の影が少し薄い気もしますね……。とにかく次回も頑張らなきゃ


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第3話.鈴の音一つ(3)

オリキャラタグ付けるべきか悩んでいるので初投稿です。
今回は短め。


朝の教室。

今日は心なしか、普段より騒がしい。

そんな中、忍は本を読んでいた。

 

「ねえねえしのぶー、何読んでるの?」

 

本音がそう聞いてくる。

 

「月の本。最近は色々なことが分かってきてるから面白いんだ。月の海は玄武岩という石でできていたり、とか」

「ほぇー、しのぶーは物知りだなー」

「僕は頭は良くないよ。アルヴィトがお手伝いしてくれるんだ」

「アルヴィト?アルヴィトって誰ー?」

 

そう本音に尋ねられ、忍はハッとした表情を浮かべた。

 

(そっか、僕の脳に直接話しかけるから、アルヴィトは他の人には気付かれないんだよね)

 

心の中でそう呟くと、アルヴィトが応えた。

 

《はい。マスター以外と話す必要性はないと製作者に想定されてますから》

(そうなんだ)

 

そして、短い脳内会話を済ませて、忍は本音にこう説明した。

 

「えっと……アルヴィトは先生。家庭教師さん。オンライン家庭教師ってのがあって、その先生」

 

もちろん、ウソである。

ヴァルキュリア・ベルフェゴルの情報は、秘匿されているらしいからだ。

もう前回の戦いである程度バレてると思うが、それでも、忍はアルヴィトのことまでバラす気にはならなかった。

 

「どんな人なの?」

「えっと……外国の人。女性なんだけど、小さい頃から教えてもらったからか、不快じゃないんだ」

「その人がいなくなったら、しのぶー悲しい?」

「小さい頃からお世話になった人が死んだら、基本誰だって悲しいと思うよ。その人を憎んでいたならば、話は変わりそうなもんだけど」

 

そう言って、忍は読んでいる本のページをめくる。

すると、挟まっていた何かが落ちた。

 

「あっ……」

 

落ちたそれを、本音が拾った。

 

「はい、しのぶー」

「あ、ありがとう、本音さん」

「えへへー、どういたしましてー」

 

笑顔でそう言うと、本音は忍が手に持っている、栞としては大きいそれを見た。

 

「それ、写真?」

「うん、写真」

「綺麗だなー。お月さまの下に男の人と女の人」

 

その写真には、忍と似た髪色の男性と、青白い髪の女性が月に照らされる砂浜の下でこちらに微笑んでいる姿が写されていた。

 

「この二人、もしかしてしのぶーのお母さんとお父さん?」

「よく気づいたね。そう、この二人はお母さんとお父さん。そしてこの写真は、僕と二人を繋いでくれる」

 

忍は、少し憂いを帯びた顔をしてそう言った。

 

「遠い所にいるの?」

 

本音は、忍にそう尋ねる。

 

「うん。遠い。きっとISを使ってもエネルギー切れる」

「ほえー、そんな遠いところに住んでるんだー」

 

二人で談笑していると、忍は、やや遅れて来た一夏の席に集まっている女子の話を耳にした。

 

「織斑くんおはよー。ねえねえ、転校生の噂聞いた?」

「転校生?今の時期に?」

(転校生……)

 

そう聞いて、忍は顔をしかめた。

転校生は、IS学園のほとんどの生徒とは違う。

女尊男卑がほとんど感じられないのは、ここの女子たちが男子だろうと平等に、学園の仲間として扱うからだろう。

でも、転校生は、そういうのは関係ない、女尊男卑が当たり前の学校からやってくるので、男子がいじめを受けても何ら不思議ではない。

 

《今のマスターは、弱いままではないですよ。長い間ISの訓練をした上、一夏さんたちと共に武術の稽古もしました。だから、きっと大丈夫です》

 

アルヴィトがそう言って、忍を励ました。

 

(ありがと、アルヴィト)

 

《いえいえ》

 

アルヴィトにお礼を言い、脳内会話を終えた忍は、一夏の周りから聞こえる声に耳を傾ける。

 

「転校生?今の時期に?」

 

今はまだ四月下旬。

なのに転校生は、いささか早すぎる気がする。

それなら、初めから入学届を出せば良かったはずだ。

あまりの早さに、一夏は疑問を抱かざるを得なかった。

 

「そう、なんでも中国からの代表候補生なんだってさ」

 

ふーん、と言って興味無さそうな一夏とは対照的に、忍は考え事をしていた。

 

(中国というと、鈴を思い出すな。彼女にはなんやかんやよくしてもらったし、元気にしてるといいなぁ)

 

心の中で、忍は中国にいるであろう、数少ない女性の友達である鈴に思いを馳せた。

 

(そういや、代表候補生といえば)

 

心の中でそう呟き、一夏はセシリアに目線を送った。

 

「他国の代表候補生の存在を危ぶんでの転入?それとも、一夏さんたちのデータ取り……?」

 

そのセシリアは、席に座ったまま、考え事をしているようだった。

 

「だが、このクラスに転入してくるわけではなさそうだ。机も増えていないからな。ならば、騒ぐほどでもあるまい」

 

セシリアの肩を叩き、箒は一夏の方を向いてそう言った。

 

「そ、そうですわね……。今はそんなこと気にしても仕方ないですわね」

「そうだ。来月にはクラス対抗戦が控えている。相手の情報収集も大切かもしれないが、それをするのはお前の実力が納得のいくものになってからだ。でないと次の戦い、あっさり負けるぞ」

「でもなぁ……」

 

箒にそう諭されるも、一夏は釈然としない様子だった。

 

「む……そんなに気になるのか?」

「ああ、少し」

 

箒の問いかけに一夏が正直に答えると、箒の表情が不機嫌な時のそれに早変わりした。

 

(私というものがいながら、同クラスはともかく、他クラスの女子を気にするとは……)

「……とにかく、来月のクラス対抗戦に向けて、実戦的な訓練をするべきだ」

「お、おお……」

「他の皆さんだと、訓練機の手続き等で時間がかかってしまいますから、専用機持ちであるわたくしや忍さんの出番ですわね」

「え、僕?……うん、やるよ」

 

話を振られた忍は一瞬困惑したが、すぐにそう答えた。

 

「まあ、やれるだけやってみるか」

 

一夏が諦め半分といった感じでそう言った。

 

「やれるだけではダメですわ!一夏さんには勝っていただきませんと」

 

やる気のなさげな一夏に喝を入れようと、セシリアが声を張り上げる。

 

「そうだぞ。男がそんな弱気でいてどうする」

 

セシリアに便乗し、箒も声を上げる。

 

「一夏ならきっと勝てるさ。なんたって、昨年の剣道全国大会優勝者の箒の幼馴染だもん」

 

 

忍はそう言って、一夏を励ます。

『そういうのは言わないでいい!』と箒が声を上げるが、スルーした。

 

 

「おりむー、ふぁいとー!」

 

そう言って、本音も一夏を応援する。

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」

 

何故クラスみんなが幸せになるかというと、クラス対抗戦に優勝すると、そのクラスには学食デザートの半年フリーパスを配られるからだ。

 

忍が少し本音を横目で見ると、

 

「えへへ……おかし…おかし……」

 

そううわ言のように繰り返していた。

 

忍はなんだか見てはいけないものを見た気がして、目を逸らした。

 

「織斑くん、頑張ってね!」

「フリーパスのためにもね!」

(多分そっちの方が目的だよね……)

「今のところ専用機持ってるクラス代表って一組と四組だけだし、余裕だよ」

「お、おう……」

 

女子の雰囲気に圧され、一夏はそう言うしか出来なかった。

その時、

 

「——その情報、古いよ」

 

という、声がした。

 

((なんかすごく聞いたことある声……))

 

そう思い、一夏と忍は顔を上げる。

 

「二組も専用機持ちのクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

そこには、腕を組み、ドアの前に立っているツインテールの少女がいた。

 

「鈴……⁉︎」

「お前、鈴か?」

 

二人は記憶の中の少女の姿と照らし合わせ、その少女の名を呼ぶ。

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)!今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

その名を呼ばれた少女は、笑みをこぼし、そう答える。

ツインテールが、小さく左右に揺れた。

 




いかがでしたか?進行が遅くてすみません…。次回も頑張ります


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第3話.鈴の音一つ(4)

一夏の誕生日に二日遅れたので初投稿です。
すみません、先の展開の妄想という名のサボりをしてました。
今回も短めです。では、どうぞ!


「…………」

「…………」

 

一夏と忍が口を開けっぱなしで呆然とした表情をする。

 

(ふふっ、いきなりあたしが現れてビックリしてるわ)

 

そう思い、上機嫌な表情になっている鈴に、二人が口を開いた。

 

「ねえ、鈴、あの……なんというかさ」

「何格好つけてんだ?お前らしくないぞ」

 

そう言うと、一夏はクスッと笑った。

 

「んなっ……⁉︎なんてこと言うのよアンタは!」

 

鈴の声が、先ほどの気取ったものから、崩したものに変わった。

そんな時、

 

「おい」

 

という低い声が聞こえた。

背筋が凍りそうな声だったが、鈴は一夏たちとの会話を邪魔されたのが気に食わなかったのか、

 

「何よ⁉︎」

 

と大声で言い、振り向いた。

その瞬間、

 

バシィンッ‼︎

 

という乾いた音が響き、鈴が頭を抑える。

 

鈴が顔を上げると、そこには出席簿を持った千冬先生がいた。

 

「ち、千冬さ……」

「織斑先生と呼べ。もうSHRの時間だ。さっさと自分の教室に戻れ。それとドアの前に立って入口を塞ぐな。教室に入れん」

「す、すみません…….」

 

そう言って、鈴はドアからどいた後、

 

「また後で来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

一夏を指差し、鈴はそう言った。

 

(俺がお前から逃げる要素あるのかよ)

 

一夏は心の中でそう呟いた。

 

「早く戻れ。遅刻だ」

「は、はいっ!」

 

千冬先生に促され、鈴は大急ぎで二組に走っていった。

 

「アイツ、IS操縦者だったのか。初めて知ったな……」

 

一夏がふと口に漏らしたその言葉。

だが、それが箒の耳に入り、箒の表情が不機嫌になった。

そして、箒は一夏の隣に立った。

「……一夏、今のは誰だ?知り合いか?えらく親しそうだったが……」

「ああ、それは——」

「それ私も気になってた、教えて教えて!」

「あ、私もその話聞きたい!」

「私も私も!」

 

そして一夏の席には、女子の集まりができていた。

 

「うわぁ一夏大変そう……」

「そういえばしのぶー、しのぶーもあの子知ってたみたいだけど……」

「うん、彼女は——」

 

そう忍が答えようとした瞬間、バシバシバシバシバシン‼︎という連続して響く乾いた音に止められた。

 

「席につけ、遅刻だとさっきアイツにも言ってただろ」

 

そして、みんな一夏の席から退散していく。

 

(うーん、しかしなんでこうも知り合いとばかり再会するんだろうな。人生ってのは不思議なもんだな)

 

一夏はそう思いつつ、教科書のページを開く。

今日も、ISの勉強と訓練の一日が始まった。

 


 

(…………)

 

箒は朝の一件で、授業が手につかないでいた。

 

(あの一夏の反応、あれはまるで、さっきの女子が幼馴染だというような反応だった……)

 

そう思うと、箒の不満が強まった。

 

(幼馴染は私の知る限り、私と忍くらいのはずなのに……)

 

そう思いつつ、箒は一夏の様子をうかがう。

 

一夏は、昨日の失敗を引きずっているのか、真面目にノートを取っている。

 

(私が授業に集中出来ない原因が真面目に授業を受けているというのはなんとも皮肉なものだな……まぁ、それでも、私にはセシリアが同伴しているとはいえ、一夏のISの特訓をしているというさっきの女子に比べて有利な条件がある。同じクラスでもあるしな。ふふ、放課後もまた特訓だな)

 

そう考えると、箒の口角が上がった。

だが、一瞬よぎった思考に、箒は不安感に苛まれた。

 

(だが、もしも一夏が特訓もいらないくらい強くなったら……?)

 

そんな思考を、箒は首を大きく振って、振り払った。

 

(ダメだ。こんな弱気では一夏のISの特訓を出来るわけがない。強気でいなければ)

 

そんな時、

 

「にやけたり落ち込んだり首を振ったり忙しいな、篠ノ之。そんな様子なら、今の問題は解き終わったんだろう?篠ノ之、答えは?」

 

「ひゃい⁉︎」

 

急に名前を呼ばれて、箒は素っ頓狂な声を出した。

 

「答えは?」

「き、聞いてませんでした……」

 

箒がそう答えると、

 

「ふむ、正直なのはいいことだ」

 

そう千冬先生が言った。

 

直後、

 

バシーンッ!

 

という音と同時に、箒の頭に衝撃が走った。

 

「……だが、きちんと授業は聞け、分からないなら教師にその内容を質問しろ。私達教師はそのためにいるのだからな」

「はい……」

 

そして、千冬先生は奥に歩いていった。

 


 

「…………」

 

奥の方では、セシリアがノートにシャーペンを走らせていたが、その筆跡は、意味のない線。

セシリアが集中できていないのを明確にするだけだった。

 

(あの中国の代表候補生の方、既に一夏さんたちと仲がよろしかったご様子……)

 

その原因は箒と同じ、さっきの鈴、と呼ばれた少女と一夏、忍の関係だ。

 

(もうこれでは、わたくしにはほとんど混ざる隙が……)

 

そんな思考を、セシリアは振り払った。

 

(ダメですわ。わたくしは、一夏さんたちと、IS訓練するのですから。弱気でいたら、一夏さんたちに笑われてしまいますわね)

 

だが、セシリアはまた悩んだ。

 

(でも、これでは親密な関係になれた、とは言いがたいですわね……、もっとこう、何か、親交を深めるキッカケを——)

 

「……オルコット、聞いているのか?」

 

奥の席に行った千冬先生が、セシリアに問う。

だが、セシリアは上の空で、聞いていない。

 

「……例えば、一夏さんたちとわたくしで、休日にピクニックとか……?」

「はぁ……」

 

千冬先生が溜め息をつくと、

 

バシィンッ‼︎

 

という音が教室に響き渡った。

セシリアの頭に、出席簿が炸裂した。

 

 

 

 




いかがでしたか?今回アルヴィトさん出なかったなぁ……。次回も頑張ります!


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第3話.鈴の音一つ(5)

これもうキャラ崩壊タグつけた方がいいんじゃないかなと思うくらいキャラの性格改変してしまったので初投稿です。気をつけてたはずなのになぁ。おかしいなぁ。
それとなんかこの回異様に終わらせるのが早い気がする…
では、どうぞ!


 

昼休み、食堂にて。

忍、一夏、箒、セシリアの四人が席に座っていた。

ちなみに忍は、弁当の素材を買ってからはいつも屋上に行って弁当を食べている。

今日もそのはずだったが、

 

「たまには一緒に食おうぜ、一人飯なんて寂しいだろ?ほら、行こうぜ」

 

という一夏に半ば強引に連れて行かれ、今に至る。

 

「はぁ……」

「すごく殴られましたわ……」

 

あの後、山田先生に注意五回、千冬先生に三回出席簿攻撃を食らった二人は、昼食が並ぶテーブルの前でげっそりしていた。

 

「あははは……大変だったね」

 

忍はそんな二人を見て苦笑いした。

 

「二人ともぼーっとしすぎだぞ、千冬姉の前でぼーっとするなんて。それこそ虎の目の前に焼肉のたれを塗りたくって出るようなもんだ」

 

一夏がそんなことを言った。

 

((原因であるお前(あなた)には言われたくない(ありませんわ)))

 

二人が一夏を睨むが、一夏本人は、

 

「何だよ?」

 

と言って聞き返すだけだった。

そんな時、

 

「相席していいかしら?」

 

という声がした。

 

「おお、いいぜ……って鈴じゃないか」

「やっほー、一夏、忍。少し聞くの遅れたけど元気してた?」

 

鈴は、ラーメンのどんぶりを乗せたお盆をテーブルに置き、一夏の隣に座った。

 

((むっ……))

 

箒とセシリアが険しい表情をしているが、一夏たちはそれに気づかなかった。

 

「おう、俺たちは元気だ。お前はどうなんだ?」

「私も……まぁ、元気よ。というかあんたは少しくらい疲れを知りなさいよ」

「どういう希望だよそれ……」

「一夏は全然病気しないからねー、僕はまぁ……元気、なのかな?ここの人たちは良い人たちばかりだから、少なくとも中学の頃よりはマシだと思うよ」

「転校生が来ると聞いて、少し表情を険しくしたけどな」

「まぁね。転校生ってことは、ここの人たちと同じような人とは限らないから」

 

忍がそう言うと、アルヴィトがこう言った。

 

《マスター、でもマスターが心配することが起きるとは限りませんよ?》

(でも起きるかもしれない。むしろ起きる可能性の方が高い……)

《確かに、外は今、女尊男卑が主流になっていて、すれ違っただけでパシリにすることもあるという社会ですからね》

(そう思うと、ここはゲームでいう安地みたいなものかもしれない)

《ですね……。でも今、その安地も侵されつつあります》

(まぁ今回は親友の鈴だったし、そもそも転校生なんて一年に一回くらいしか起こらないイベントだし、気にするほどでもないんじゃないかな?安地はまだ残ってるし)

《そうなのでしょうか?私はなんだか不安です。二度あることは三度あるということわざもあるくらいですし》

(でもまだ一回目だし、アルヴィトが心配してるようなことは起きないよきっと)

《私も起きないことを祈ってます》

 

そんな脳内会話をアルヴィトと交わし終えた忍は、他の皆を見る。

箒とセシリアが何やら問い詰め、鈴はそれを聞き流し、一夏はどうすればいいか分からないという表情をしていた。

 

「忍、考え事は終わった?」

「え?ああうん、終わったよ」

 

鈴に尋ねられた忍は、何のことかと思い、一瞬戸惑ったが、アルヴィトとの脳内会話のことだと気付いた忍はすぐにそう答えた。

 

 

忍が答えた後、鈴がこう尋ねてきた。

 

「ねぇ忍。髪、切った?」

 

一瞬だけ、一夏たちの席は沈黙に包まれた。

その静寂を、鈴が言葉を続けることで打ち破る。

 

「あの時の忍の髪、女の子みたいに長かったし、弄るの楽しかったから」

「……私も気になっていたが、一夏の件でしばらく忘れてしまっていた。私にも教えてくれないか、忍」

 

箒も忍の変化に気づき、そう尋ねた。

だが、

 

「……別に、少しうっとおしくなっただけだよ」

 

忍は、そっぽを向き、それだけしか答えなかった。

 

「ところで、お前は……」

 

箒が鈴に尋ねる。

 

「凰鈴音。鈴でいいわ」

「そうか、では鈴。お前は、一夏といつから知り合っていつまで一緒にいた?」

「え?」

「私は一夏と昔馴染みの仲なのだが、お前が隣にいた記憶がなくてな。お前が良ければ教えてもらいたい」

「三年。あんたは?」

「……驚いたな。私もそれくらいだ」

「あんたは、いつから一夏と一緒だったの?」

「小二くらいだろうか。そこから小五の初めに諸事情で転校せざるを得なかったが……」

「あたしも中二の時に転校することになっちゃってねー……。中々私たちって似てるわね、もっと話しましょうよ」

「ああ、いいだろう」

「お二人の話、私にもお聞かせください!」

 

これは一夏たちのことを知るチャンスだと思ったセシリアも話に混ざり、女子三人で話はヒートアップしはじめる。

 

「俺たち完全に蚊帳の外だな」

「そだねー、というわけで千冬さんに怒られる前にさっさと食べちゃおうか」

「そうだな、もう千冬姉の出席簿アタックは食らいたくない……」

 

午後は千冬先生の担当する実技だ。

二人は大急ぎで昼食を食い終わり、着替えに行った。




いかがでしたか?相変わらず短くてごめんなさい


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第3話.鈴の音一つ(6)

難産だったので初投稿です。
クロスグリッドターンの資料どこ…?
相変わらずのレベルですが、どうぞ!


第三アリーナ。

授業が終わり、誰もいないこの場所で、一夏がセシリアに特訓を受けていた。

 

「——という風に三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)は行います。ご理解いただけましたか?」

「うーん……細かくて分からないな……」

「そうですか……」

「悪いな、こうして付き合ってもらってるのに」

「まぁ、一夏さんはほとんど勉強できないままここに来させられたと忍さんに聞いてますし、気にすることではありませんわ。わたくしも砕けた説明が出来ませんし」

「そ、そうか……忍がいれば多少は楽になったかもだけどなぁ」

「今は箒さんと剣道してらっしゃるんでしたよね」

「ああ。公式試合はしなかったけど、まあまあ強かったな」

「?なぜ出られなかったのですか?」

「それはな——」

 


 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

箒が叫び、竹刀を忍の脳天に向けて振り下ろす。

 

「ッ‼︎」

 

忍は、竹刀で箒の攻撃を防いだ。

 

「イヤァァァッ‼︎」

 

そして忍は、逆手に持ったもう片方の小さい竹刀(・・・・・)で突きを繰り出した。

 

「ッ!」

 

箒は、忍が繰り出したその突きを、竹刀の角度を変え、防いだ。

 

そして、忍が鍔迫り合いをやめ、距離を取ろうとした時を狙い、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

箒がお返しとばかりに突きを繰り出し、忍の喉元に当たった。

 

「一本!突きあり!」

 

先輩の一声で、その試合の終わりが告げられた。

 


 

「……たぁー!負けたー!」

 

忍が、防具を片付けた後、そう叫んだ。

 

「お前と打ち合うのは久しぶりだったから勝てるかどうか不安だったけどな」

 

箒が少し笑いながらそう返した。

 

「全国大会優勝者の余裕か、このー!」

 

そう言いながら、忍がポカポカと、箒の頭を叩いた。

 

「はは、すまんすまん、そういうつもりじゃないんだ」

 

箒が笑いながら、忍の攻撃を手で受け止める。

 

「じゃあ、どういう意味?」

 

忍が尋ねる。

 

「長く離れ離れだったから、私がお前たちの太刀筋を忘れてないか不安だったんだ」

 

箒はそう返した。

 

「結局負けちゃったけどね」

「そうだな。そして、それが私がお前たちの太刀筋を忘れてないことの証明にもなった」

「僕たちが忘れているだけかもよ?」

「なら、何度もお前たちと戦って、それを思い出してもらい、その上で勝つまでだ」

「ふーん。ところで、一夏に勝ったら何かご褒美でももらうの?」

「ご、ご褒美っ⁉︎」

 

忍にそう聞かれた箒は顔を真っ赤にした。

 

「ははっ、冗談だよ。じゃあ、また明日ね」

 

そう言って、忍は手を振って、剣道場を去っていった。

 

(全く……あいつはいつも私をからかってくるな。だが、不思議と不快ではない。むしろ楽しいと思える。こんな日々が続いて欲しいものだ)

 

箒は、心の中でそう思い、口角を上げた。

 

(ご褒美、か……)

 

そう心の中で呟くと、箒は更衣室に向かっていった。

 


 

「なるほど……、剣道では二刀流は試合に出られませんのね」

 

セシリアがそう呟く。

 

「ああ、大学生になれば二刀流の公式試合も出来るようになるんだが、忍は多分、俺たちと一緒でいられるための手段として剣道してるみたいなんだよな。それでもそこそこ強いんだからすげぇよな」

 

一夏はセシリアの言葉にそう返した。

 

「ですが、二刀流なんて使えば誰でも勝てるのではなくて?」

 

セシリアが疑問を呈する。

 

「まあ、皆そう思うよな」

 

一夏はうんうんと首を縦に振り、こう続ける。

 

「でも、二刀流はそんな簡単にできるもんじゃないみたいなんだ。箒も強くなるためだって言ってやったことあったんだけど、無理って言って、その翌日に筋肉痛起こしたみたいなんだ」

 

その言葉を聞いて、セシリアが驚愕の表情を浮かべる。

 

「えっ、あの箒さんが、ですの?」

「ああ」

「箒さんは力強い雰囲気が漂うお方ですから、出来るとばかり……」

「そもそも竹刀が重いからな。箒も小学生だったし……。両方小太刀だったけど無理だったってさ」

「忍さん、一体何者……?」

「さあな……。あいつが誰なのかなんて関係ない。俺たちは同じクラスの仲間だろ?」

「確かに……その通りですわ!」

 

セシリアが立ち上がる。

 

「さあ、特訓を続けましょう!」

「おう!」

 


 

「結局ダメだった……」

 

ピットから帰ってきた一夏が、廊下で項垂れる。

 

「一夏、お疲れ!」

 

スライドドアが開いてそこから鈴が現れた。

 

「はい、これタオルとスポーツドリンク。少しぬるくなっちゃったけど」

 

「おお、サンキュ!運動後に冷たいものを流し込むと体にダメージを受けるからな」

 

一夏はそう言うと、スポーツドリンクを一気に飲み干した。

 

「あら、鈴さん?」

それと同時に、セシリアが別のピットから歩いてきた。

 

「セシリアもお疲れ様。あ、セシリアも飲む?」

「お心遣い、感謝しますわ、鈴さん」

「どういたしまして」

 

そして、セシリアもスポーツドリンクを啜るように飲み始めた。

 

「それにしても、変わってないね、一夏。若いくせに体のこと気にしてるの」

「箒さんに聞きましたが、全くその通りですわね……」

「あのなあ、若いうちから不摂生してたら駄目なんだぞ。クセになるからな。最終的に泣くのは自分と家族たちだ」

「ジジくさいよ」

「う、うっせーな……」

 

にやにやしている鈴は、一夏には記憶にある彼女とはどこか違っているように見えた。

一夏は鈴を、女としてではなく、ただの友達と認識していた。

だが、今の目の前にいる少女からは、あの頃にはなかった女性らしさ、といったものを感じた。

 

(いやいや、高校生にもなれば多少なりとも変化はあるはずだ。鈴もそんな感じだろ)

 

そう思い、一夏は首を横に振り、頬を叩き、どこかに行きそうだった我を取り戻した。

 

「どうしたのよ、一夏」

「いや、少し頭がぼーっとしてた」

「一番健康に気をつけろって言ったあんたがそんなんでどうすんのよ」

「あははは……悪い」

 

そう言って、一夏は頭を掻いた。

 

「ところで、一夏さぁ」

 

鈴が一夏に何かを尋ねようとした。

 

「ん?なんだ?」

 

一夏はそれに気づき、続く言葉を求めた。

 

「やっぱあたしがいなくて寂しかった?」

 

鈴はそう問いかける。

 

「ああ、遊び相手がいなかったからな。五反田は家の手伝いが忙しくなって遊べなくなって、忍も遊べる状況ではなかったからな、寂しかった」

「そっか、今度はあたしたち四人で遊びたいわね」

 

鈴はそう言ったが、

 

(そういうことじゃないわよ……)

 

内心ではそう思っていた。

 

少し頬が染まり、曇った鈴の顔を見て、一夏が大丈夫か、と声をかける。

だが、鈴はなんでもない、と言って笑顔を見せた。

 

(恥ずかしくて言えるわけないじゃない……)

 

一夏は、そうか、と言って、再び口を開いた。

 

「そういえば、忍は五反田とは遊んでなかったな。俺たちは基本あいつの家に行くか外に行ってたけど、忍は……」

 

それを聞いて、鈴の顔がまた曇る。

だが、それは先程頬が染まった曇り方とは違うものであった。

一夏も同様に顔を曇らせる。

それを見て、セシリアは忍に何か事情があるのかもしれないと思ったが、それが何かまでは分からないので、聞こうとしたが、何か聞いてはいけないものなのかもしれないと思い、躊躇った。

 

「……そういえば、セシリアは忍のこと知らなかったよな」

「そ、そうですけど……。でも、知らなくても、わたくしはお友達になりたいです」

「ありがとな。それ聞いたら、忍もきっと救われるよ」

 

そう言うと、一夏は一回咳払いをして、こう言った。

 

「じゃあ忍が最初この学校に嫌悪感を顕にしてた理由も言うよ。でもここだと話しづらいな……」

「なら、一夏の部屋にしたら?」

 

鈴が一夏にそう聞くと、

 

「いやぁ、今散らかっててさ。土日に持ってきた荷物が多くてな。まだ仕分け中なんだ」

 

一夏がそう言うと、

 

「一夏が片付けられないなんて相当ね……。ならあたしも手伝うわよ」

「わたくしも手伝いますわ!」

「い、いや、俺の荷物だから俺がやるよ、じゃあ後になったら呼ぶから待っててくれよ」

 

そう言って、一夏は自室まで走っていった。

二人はそんな一夏を見て、呆然とその場に立ち尽くしていた。




いかがでしたか?
二刀流は一応公式試合じゃないのでセーフ(震え声)
文才ゼロでダメだこりゃ。助けてエロい人!
とにかく次回も頑張りますので、よろしくお願いします!


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第3話.鈴の音一つ(7)

もう1年終わるのにまだほんへ3話から抜け出せない奴がいるらしい。
はい僕ですごめんなさい。
1カ月に一回ペースでやろうとしてるからなぁ…。
その間にも「そうだったのか!知らなかった」というのがたくさん出てきましたが、この小説は思い描いたのをつらつらと書き連ねていきます(オイ)


一夏と忍の部屋。

そこに一夏は一人で何かをしまっていた。

 

「あとはこいつとこいつと……。なんか忍に悪いな、けど鈴たち呼ぶことにしちまったし、誰にも言わない約束をしたってことは、知られたくない事だってことだろうし、しまわないと」

 

一夏がしまっていたのは、忍のぬいぐるみだった。

 

「こいつらが、俺がいない間にも、忍の心の支えになってたんだよな……」

 

ぬいぐるみのうちの一体を、一夏が優しく撫でた。

と同時に、ドアが開く音がした。

 

「お、おい!呼ぶから待ってろって……」

 

一夏が振り向き、そう言いかけると、

 

「……僕そんなこと言われてないんだけど」

 

そこには、タオルとスポーツドリンクを手に持った忍が立っていた。

 

「ところで、なんで僕のぬいぐるみ隠してるの?」

「そ、それは……」

 


 

「……なるほど、そんなこと言ったんだ、一夏」

 

忍は仏頂面のまま、一夏が、鈴たちを呼んだという話を聞いていた。

 

「わ、悪い……」

「別に怒ってはないよ。ただ、誰でも通すのはよくないよ」

「お、おう……」

「まあ、鈴は問題ないな。鈴は僕の過去を知ってて、その上で僕にかまってるわけだし。ただ……」

「ただ?」

「問題はセシリアの方。今はあんな感じだけど、そもそもあの子、女尊男卑に乗っかって僕らを見下してたんだ。そんな人に僕だったら過去まで話す気は起こらないかな」

 

そんな忍に、アルヴィトがこう言った。

 

《ですがマスター、相手は代表候補生。イギリス代表の卵という名誉な称号がある以上、それを自ら傷つける事はないと思いますが》

(いや傷付けてたけど。ズタボロにしてたんだけど)

《あれは多分、下等と見ていた種が、自分と同等以上の立場にいることに対する恐怖心でしょう。見た感じ、プライドが高そうな方だったので》

(そんなもんなのかなぁ)

《とにかく、マスターがここにいれば、マスターを蔑む発言は慎むと思います。代表候補生と言われるほどの頭の良い方なら、マスター達の価値は理解できてると思います》

(……アルヴィトって割と詳しいね。やっぱりISだから?)

《いいえ。マスターと一緒に、私も学んでるからですよ》

(そっか)

 

アルヴィトが自分と一緒に勉強してると思うと、忍は少し嬉しくなった。

 

「……よし、二人を呼んで。腹を割って話そう」

 

忍は一夏の方を向いてそう言った。

 

「……いいのか?」

「セシリアを信じてみる。でも、信じるのはこれ一度きりのつもりだから、その時は僕の見る目がなかったってことで」

「分かった。悪いな、忍」

「今度何か奢ってね」

 

そう言うと、忍は少し悪い笑みを浮かべた。

 

「分かったよ。お前のこんな重い話を他の誰かに言うくらいだから、それくらいはするよ。何がいい?」

「じゃあバニラアイスで」

「まだ春じゃねえか……。腹壊すぞ」

「好きだからいいじゃん。ここ最近暑いし……」

「それはお前がどんな時も長袖着てるからだと思うぞ。ISの時もジャージ羽織らないといけないんだからな」

「あはは……。鈍臭くてごめん」

「鈍臭いのは俺も同じだよ。俺がしっかりしてれば、忍を傷付けずに済んだし、千冬姉も……

「それは過ぎたことだよ。仕方ない。あの件については、僕も男だ。僕がなよっちかったから招いた事態だ」

「それは絶対に違う!お前は頑張ってミサイルを撃墜したんだ。なよっちいことなんてこと、絶対にない」

「ISの機能に助けられたからだよ。僕は、一夏が信じているような、ヒーローなんかじゃない」

「ヒーローなんて、最初から信じてない」

「えっ……?」

「そんなのがいるなら、俺もお前も助けてくれたはずだ。でもそれをしてくれるヒーローは、現れなかった」

「一夏……」

「だから俺は、ヒーローなんて信じてないし、信じない。誰かが困っている時に都合よく現れるヒーローなんて、いやしないんだ」

 

一夏はうつむいて、吐き捨てるようにそう言った。

忍は、そんな一夏の手を握った。

 

「……そんなことないよ」

「忍……?」

「僕にはね、ヒーローがいるんだ。白い鎧を纏うヒーロー」

 

そう言うと、忍は一夏の顔を見据える。

 

「へー、そんな奴がいるんだ。スゲえな」

「鈍感……」

「へ?」

「僕のヒーローは君だ、一夏。僕がいじめられてもうダメだって時に、都合よく現れて助けてくれた」

 

忍は一夏の手を握り直し、微笑んだ。

 

「違う。俺はお前を助けられなかった。いっつもいっつも、止めろと言うだけで、結局止められなかったじゃないか!」

 

一夏は辛そうに叫んだ。

 

「でも、君は最後まで助けようとしてくれた。別の学校に行くことになっても」

 

「でも、俺は……」

「とにかくっ!一夏は僕のヒーローだ。それだけは事実だ。それに、僕だけじゃない。君に助けられた幼馴染がいるってこと、忘れないで」

「お、おう……分かった、覚えとく」

「よしっ!」

 

一夏がそう言うと、忍は白い歯を見せ、ニッと笑った。

 

 




一応補足を。
忍はISの授業中にはジャージを着ています。理由は痣を隠すためです。
忍くんはホモじゃないです。幼馴染の親友の一夏が大好きなだけです。友愛の表現が子供っぽいだけです。

余計なものを入れてしまい申し訳ないです(しかも短い……)。次回こそはセシリア達に忍くんの話する回書きます(巻きそうだけど)。


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第3話.鈴の音一つ(8)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
正月気分が抜けないので初投稿です。
今回も短いし難産でした。
それでは、どうぞ!


「それじゃあ一夏、二人を呼んできて」

「分かった。呼んでくるよ」

 

そう言って、一夏は部屋を出た。

 

「……あんまり人にペラペラ話すことじゃないんだけどなぁ……」

 

忍はため息をついた。

 


 

少しして、一夏がドアを開けた。

少し微睡んでいた忍はハッとして、鋭い目つきになった。

 

「お邪魔しまーす」

「お邪魔いたしますわ」

 

ドアの外から、鈴とセシリアが入ってきた。

 

「いらっしゃい」

「へー、結構片付いてるじゃん。って、忍もここの部屋なの?」

「うん。同じ男だしね。一夏から今回の件を聞いた。人のトラウマをそう簡単に掘り起こさないでよ……」

 

そう言って、忍はため息をついた。

 

「あー、ごめん」

「まぁいつかはバレるものだったろうし、仕方のない話だけどさ」

「あの、わたくしは忍さんにどんな過去があろうとも関係はないと思ってます。あんなこと言ったのは……、男に偏見を持っていただけですから」

 

セシリアのそんな言葉を聞いて、忍はセシリアに感謝しつつも、無駄足にして帰すわけにもいかないと思った。

 

「そう、ありがとう。でも、それを話すために二人が呼んだんでしょ?それでは無駄な時間をかけただけになっちゃう」

「ですが……」

「セシリアのさっきの言葉に嘘はないんでしょ?なら、知っておいた方が蟠りもなくなると思う」

「……はい、分かりました」

 

セシリアは頷いた。

 


 

「そんなことがわたくしの知らないところで起きてたなんて……」

 

セシリアは、話を聞いて、相当驚いていた。

 

「当然だよ。あくまでこれは僕の学校の中での話。ずっと外国にいたセシリアとは何の関わりのないお話だから」

「ですが、わたくし、何も知らずにあんなこと……」

「人は世論に流されるから仕方ない。でも、世論の波に隠された真実を掴めたのなら抗うことも出来るよ」

「お前妙に大人っぽいこと言うな」

「お爺ちゃんっぽいこと言う一夏には言われたくないでーす」

「なにをー⁉︎」

「やるかー?」

 

そう言って、忍と一夏は叩き合いを始めた。

 

「あ、忍さん、一夏さん!そんなことしたら……」

 

さっきの話を聞いたセシリアが焦る。

 

「大丈夫よ、ほら、あいつら楽しそうでしょ?」

 

二人をよく見ると、お互い笑いあっている。

 

「あの二人はあたしや箒よりも付き合い長いからね。だからお互い許すんだろうね。少し、忍に妬いちゃうな……

「あら?鈴さん、何か仰りました?」

「ううん、なんでもない。それよりも一夏に聞きたいことあったんだった」

 

そして、鈴は一夏に声を掛けた。

 

「ねえ、一夏」

 

一夏と忍は殴り合いとは程遠い喧嘩をやめ、鈴に目線を向けた。

 

「あの時の約束……覚えてる?」




いかがでしたか?正月ボケが治らずかなり遅くなってしまいましたが、見てくださると幸いです。こんな自分ですが、今年もよろしくお願いします!


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第3話.鈴の音一つ(8.5)

下痢が再発したので初投稿です。
お待たせしました。今回は次話の前日譚なので、8.5という形を取らせていただきました。
それでは、どうぞ!


「約束?」

「そう。あたしと一夏が小学生の頃にした約束。…………覚えてない?」

 

少し顔を赤らめ、一夏にそう尋ねる鈴の表情を見て、

 

(あっ、これ箒が一夏にだけ見せる顔だ)

 

忍はそう思い、鈴の想いを察した。

 

「えーっと、確か……」

 

一夏は考え込む仕草をする。

 

「……」

 

鈴は期待と不安が混ざり合ったような表情をしながら、一夏が答えを出すのを待っていた。

 

(というか、一夏そんな約束してたのか。いじりネタ増えたかも)

 

そんな二人を見ながら、忍はそんなことを考えていた。

 

《マスター、今すごく悪い顔してますよ》

(嘘だろアルヴィト)

《本当です》

 

「あっ、思い出した‼︎」

 

忍とアルヴィトが会話し始めた直後、一夏がハッとした表情で大声を上げた。

 

その直後、

 

ゴンッ‼︎

 

 

という音が響くと同時に、一夏の頭に鈍い衝撃が走る。

 

「お隣さんに迷惑だからあまり大声出さないの」

「いてぇ……。千冬姉ほどじゃないにしても、忍の拳骨も中々痛いんだよなぁ」

「殴られたくなかったら気を付けないとね。僕よりも痛い人はいるし」

「お、おう……」

 

スーツを着こなし、右手に出席簿、左手にバインダーを持ちながら腕組みをする怒りの表情の姉の姿を思い出して、一夏の顔は一瞬青ざめた。

 

「とにかく、約束、思い出せたぜ」

「ほ、本当⁉︎」

 

鈴が一夏にずいっと近寄り、一夏を上目遣いでみる。

 

「ああ。鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を——」

「そ、そうっ!それ!」

 

鈴の顔から不安が消え、期待一色になった。

しかし、

 

「——おごってくれるってやつか?」

 

一夏があっけらかんとそう言い放った瞬間、部屋の空気にひびが入ったような気がした。

 

「…………はい?」

 

鈴が怒りを抑えたような声を出す。

 

「……また鈍感スキルか?」

 

忍が頭を抑える。

 

「り、鈴さん、落ち着いてくださいまし」

 

セシリアがなんとか鈴を諌めようとする。

しかし、

 

「ん?鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをご馳走してくれるんだよな?」

「……は?」

「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心——」

 

その瞬間、一夏は不思議な光景を目の当たりにした。

 

「……へ?」

 

一夏が見たものは、部分展開させたISの右手で一夏を殴ろうとせん鈴と、左手のヒルドを部分展開し、それを受ける忍の後ろ姿だった。

セシリアも、それを見て、呆気にとられていた。

 

「どいて忍」

「どいてもいいけど、その拳で殴ったら、多分もう約束は果たせなくなるよ」

「……っ!」

 

鈴が拳を引き、右手の部分展開を解く。

それと同時に、忍もヒルドの部分展開を解いた。

 

「…………」

 

鈴は、肩を小刻みに震わせ、怒りに充ち満ちた眼差しで一夏を睨んでいた。

しかも、うっすらと瞳に涙が浮かんでおり、その感情を抑えるために、唇を噛み締めていた。

耐えられなくなり、忍の方に目を向けると、忍は、左手をさすりながら、冷ややかな眼差しで一夏を睨んでいた、

こちらも耐えられなくなり、セシリアの方を見ると、こちらも怒っているような表情を浮かべていたが、二人と比べると可愛いものだった。

 

「あ、あの、だな、鈴……」

 

一夏が何か話そうとする。

しかし、

 

「最ッッッッ低‼︎女の子との約束を忘れるなんて、男の風上にも置かないヤツ!犬に噛まれて死ね!」

 

そう言って、鈴はバッグをひったくるように持って、ドアを蹴破らんばかりの勢いで出て行った。

ドアが乱暴に閉まる音がして、一夏はやっと我に返った。

 

「……まずい。怒らせちまったな」

 

一夏は自分のやったことを後悔した。

 

「一夏」

 

忍が声を掛けてきた。

 

「な、なんだよ、忍」

「お前は何を言っているんだ?」

(ぐあっ。なんか普段より忍が辛辣)

 

「一夏さん……今のは流石に酷いと思いますわ」

 

「そ、そうだな……謝らないとな」

(でも、覚えてたのに、何がダメだったんだ?…………ああクソッ、何も分からねえ)

 

一夏は答えが出ず、頭を抱えた。

 

「忍さん、一夏さん、今日はこれにて、失礼いたしますわ、おやすみなさいませ」

 

「おやすみ。疲れが出ないようにね」

「お、おう、おやすみ……」

 

そして、セシリアも部屋を出て行った。

 

「……風呂、入るか」

「そうだね」

 

さっきより口調は柔らかくなったが、まだ冷ややかな声で忍がそう言った。

 


 

「なぁ、忍、何がいけなかったんだ?」

「おごるから鈴が部屋から出るまで大体一夏が悪い」

 

一夏の髪の毛を洗いながら、一夏の問いを、忍はそう切り捨てた。

 

「おう……辛辣だな」

「なんでその他はほぼ万能なのにそんなこと分からないの?」

「お前には分かるのか?忍」

「分かるけどその答えを見つけるのは一夏自身の役目だよ、僕が答え教えてもあー、なるほどで済んじゃうでしょ」

「そうだけどさ……」

「…………はぁ、仕方ないな」

 

落ち込む一夏を見かねて、忍は一夏の髪の毛に付いた泡を流した。

 

「ならヒントをあげる。これが分かったら答えとほぼイコールになる大ヒント」

「そんなヒントがあるのか、教えてくれ、忍!」

「分かったから落ち着きなよ、じゃあそもそもの話」

 

そう言って、そこで忍は一旦言葉を止め、息を吸い、こう言い放った。

「『なんで料理の腕が上がらないと、酢豚を奢らないの?』」

 


 

「なんでって……そりゃ……」

「酢豚を奢るんだよね?それならお金を稼げばいい、幸い今なら代表候補生ってことで、多額の資金援助を受けてるはず。なのになんで料理の腕を上げるの?」

 

言い淀む一夏に、さらに忍は追い討ちをかける。

 

「いや、小学生の時の約束だから、料理店のコックとか目指してたかもしれないし……」

「なるほど、確かにそうだね、でも、だったらなんで、あの時鈴は顔を赤く染めてたんだろう」

「えっ……」

「さて、一夏は今回のペナルティとして、これの答えを導きながら僕の髪を洗ってください」

「ペナルティ弱いなぁ」

「確かに、グラウンド五十周の方が良かったかも」

「いきなりハードルが上がったんですけど忍さん」

「冗談。僕もそんなのできないし」

「だよな、じゃあ髪洗うぜ」

「じゃあ明日までに追加のペナルティ考えとくから」

「マジですか」

「流石にこの程度で済ませるのはないわ」

 

そして、翌日。

生徒玄関前廊下に【クラス対抗戦(リーグマッチ)】という紙が貼られていた。

一夏の一回戦目の相手は——鈴だった。

 




いかがでしたか?ちなみに追加のペナルティというものは箒に叱ってもらうというものです。ちなみに箒は馬に蹴られて○ねとだけ言ってます。
今回言葉遣い荒いなぁ……。ロックされないか不安です。
次回からいよいよバトル回に突入していくから気合入れないとなぁ…でも最近忙しいから投下できないかもしれません。楽しみに待って頂ければ幸いです!


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龍騎相打つ(1)

メンタルやってて遅れました。しばらくハーメルンも開けられませんでした。情けない奴でごめんなさい。間違えて削除したのがトラウマみたいになっているのでコメント返信はしないつもりです。とりあえずどうぞ


クラス対抗戦(リーグマッチ)日程表が張り出されて数週間経った五月、鈴の機嫌は未だ直らず、むしろ悪化していた。

一夏も忍からのアドバイスを貰ったものの、未だに答えが出ずにいた。

鈴は一夏と会うことは避けて、一夏に声を掛けられても顔を背ける姿が見られるようになった。

「一夏、答えは出た?」

忍が一夏にそう尋ねても、一夏には「まだ分からない」としか言えなかった。

 


 

「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されているから、実質特訓は今日で最後だな」

 

空が橙色に染まり始めた放課後、一夏たちは第三アリーナへ向かった。

世界で二人しかいないIS操縦者の特訓とあって、皆興味があるようで、放課後のアリーナはほぼ毎回満席であった。

その席を『指定席』として売った二年生の生徒もいたようだが、その生徒は千冬先生に制裁を下され、首謀者グループは三日間寮の部屋から出てこられなくなったらしい。

何をされたのかは…本人たちのみぞ知る。

 

「IS操縦もようやく様になってきたな。今度こそ———」

と箒が言葉を続けようとするが、

 

「まあ、武術に長けている箒さんと、IS代表候補生のわたくし、そして忍さんが訓練に付き合っているんですもの。このくらい当然ですわ」

 

初めての対等な友と呼べる存在、その存在に最後まで教えられるという事実に気持ちが舞い上がったのか、胸を張ったセシリアが言葉を遮ってしまった。

 

「…中距離射撃型の戦闘法(メソッド)は今の一夏の役には立たないぞ。一夏には射撃武装がない。普通は『後付装備』(イコライザ)|があるのだが、何故か一夏の白式は『初期装備』《プルセット》」だけだからな」

 

言葉を遮られたせいで、箒は少し不機嫌そうにセシリアに告げた。

 

「確かに。今後射撃武装を持つことがあるかもしれないにしても、もっとさまざまな操縦技術を教えておくべきでしたわね…」

「まぁまぁ、それを教えても多分一夏には難しかったと思うよ。実際僕もかなり時間をかけたし」

 

忍が頭を抱えるセシリアを慰めるために、苦笑いしつつもそう言った。

 

「おいそれどういう意味だよ!」

「一夏にはまだ早すぎるってだけ。下地が出来てない状態の入学だったから、それを頭に焼き付けられるのはまだ早いって事。地道に予習と復習をしてけば、知識は身につくよ。ね?」

「お、おう…頑張る」

 

馬鹿にされたような気がして一夏が腹を立てたが、拗ねた子供を励ますように微笑みかけた忍を見て、怒りを引っ込めた。

 

「それでは一夏さん、今日はは昨日からの無反動旋回(ゼロリアクト・ターン)から始めましょう」

「おう」

 

セシリアに促され、第三アリーナのAピットのドアセンサーにに一夏が

触れる。

指紋・静脈認証により開放許可が下り、ドアがバシュッと音を立てて開いた。

 

が、

 

「待ってたわよ、一夏!!」

 

そこには、いるはずのない人物、凰鈴音が立っていた。

 




いかがでしたか?これからも書きたいときに書いていきたいと思っていますので、こんなメンタルクソ雑魚遅刻常習犯で良ければよろしくお願いします。


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