魔法少女たちと仮面使い (...)
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今へ繋がる物語

 


 昔から、何かを『繋ぐ』ことが得意だった。

壊れたおもちゃとか、壁の亀裂とか、そういうものを塞いだり紡いだりすることが自然にできていた。

だからだろうか、何時からか『繋ぎ目』が分かるようになった。

 

 ――人間界と魔界と天界――

 

 そんな奇跡の三角関係が、何となくわかっていた。

人間が暮らし、悪魔が襲い、天使が救う。

そして自分もそんな枠組みの中の一つなのだと、ある時自覚した。

 

「あぁ……」

 

 迫る悪魔を見て、死ぬのかと感じた。

無機と有機、魔力と生命力――生と死。

迫った危機に対して本能的に行った選択肢。逃避か諦めか、苦肉の反抗か。

どれを選んだって間違いなんてことはない。痛いのは嫌だし、非力な自分を認める事だって当たり前のことだ。

 

 それでも、例え自身の力はちっぽけだとしても、彼が選んだのは反抗だった。

 

「――ペ・ル・ソ・ナ(■ ■ ■ ■)

 

 呟いた言葉に深い意味を込めたつもりはなかった。

自然と沸起ったものだったからだ。

そうして、■■■■へと『繋がった』彼はその日、人でありながら違うモノへと変貌した。

 

 そんな彼の名前は、桐ケ谷境也。三年後には「仮面(ペルソナ)使い」の二つ名を無理やり付けられることとなる、少年だ。

 

 ***

 

 淡々と、詰まらない日々が過ぎていく。

しかしその詰まらないという印象は独りよがりの視点でしかなく、今この世界ではそこら中にいる有機体(人間達)が幸福と絶望を各々味わっている。自分という一人は平和と戦争の繰り返しの混沌とした毎日の中にいる一粒の石ころに過ぎない。

 

「そんなわけだから、ちっぽけな俺なんて放っておいてくれませんかネー?って聞こえてないか」

 

 そんなことを、中学生であることを証明する学ランを着た少年が、悪魔(・・)を足蹴にしながらのたまった。

殺してなどいない。そんなことをすればもっと恐ろしい存在(自分が対処できない者)が来てしまう可能性があるからだ。

その可能性を出来るだけ潰すために、力を磨いてはいるが……それを待ってくれるかというと、別の話だ。

 

「よぉ」

「うげっ」

 

 手を振って近づいてくる大学生ほどの男性。

快活で笑顔が素晴らしく(獰猛で)、見た目好青年にみえるが……立派な悪魔である。

名前は「桜」という。ただの喧嘩屋だ。

 

「なぁ」「ヤんねー」

 

 即答すると舌打ちで返す桜。

やる気のない相手とは喧嘩しない、楽しい喧嘩はお互いやる気があってこそだという変なルールを持っているがゆえ、彼らは一度しか衝突したことが無かった。

もし響也が正義の味方で、暴れまわる桜を止めるという理由があれば、桜とどちらかが死ぬまで戦ったかもしれない。

だが違った、境也はあくまで自分の日常を謳歌する自称一般人であり、自分の幸せ以外は護るつもりが無い究極的なまでの自己完結系………だった(・・・)から。

 

「ん?そーいやぁ何時ものちびっこどもは今日はいねぇのな?」

「今頃学校だろうよ。っていうかいつも一緒に居るみたいな言い方止めてくんない?」

「事実一緒に居るじゃねぇか」

「最近色々活発で厄介だから、一緒に行動してただけだ」

「って言いながら、実は今日もこの後合流予定なんだろ?」

「………」

「たはは、わっかりやすいやつ」

 

 ケラケラと誤魔化すことが苦手な境也を笑う桜。

こういう不器用だけども誠実な所が、力以外で彼を気に入っている理由でもあった。

 

「もういぃや。デート予定の野郎と喧嘩すると、馬に蹴られかねないからな」

「ハッ、馬くらい蹴散らす強者がよく言う――いや、デートじゃねぇよ!?」

「反応がおせぇって」

 

 からかえて満足したのか、にやにやしたまま手を振って去っていく桜。

嫌な奴にあったと悪態をつきながら、集合場所へと急いだ。

 暫く待つと、可愛らしい三人の女の子が走り寄ってくる。

境也より三つ以上年下、詰まる所小学生ほどの女児。

言っておくが別に付き合っていてとかそんな話ではない。

 

 信じがたい話ではあるが――彼女たちは魔法少女と天使たちなのだ。

 

「お、お待たせしました」

「「ハロー、おまたせー」」

 

 緊張した様子な薄桃色のショートヘアと、純粋無垢そうな真っ直ぐな青い瞳の少女。名前は、桃地美雪。つい最近魔法少女になり、人知れず悪魔と戦い人間を守っている小学生の少女だ。

 見事なシンクロで言葉を発した二人の少女たち。白の長髪と色白の肌と赤い瞳が特徴的なミルク、褐色で白髪ショートに水色の瞳の少女はココア。

この二人はものすごい索敵能力を持った天使で、二人そろってミルココと言うらしい。二つ名は「双索敵手(ツイン・レーダー)」とかあるらしいが、人のこと言えないのでそこは弄ったことはない。

 

「待ってない、っていうかまだ学校終わったばっかじゃ……早くない?」

「え!?あ、いや、そのーえへへ」

 

 学校をさぼって狩りをしている境也が言えたことではないが、特に何も言い返さず笑って誤魔化す美雪。可愛いから誤魔化されておきつつ、今日の活動をすることに。

 

「それじゃ、どっから行く?」

「えっと……ミルココ?」

「はいはい、待ってねー」

 

 ココアが返事をして、ミルクと一緒に索敵を開始する。

この索敵とは悪さをしている悪魔を見つけるだけでなく、困っている生物を発見することもしている。

精密索敵範囲は驚きの20キロであり、全力を出せば二人でも最大規模が測れないという規格外の能力だ。

ちなみに遠距離重視がミルクで、近距離重視がココア。重視というだけであり、別に両者ともに持つ能力は同じである。

 

「ん、あっちに困ってるネコちゃん発見!」

「よっし、いこー!」

「うん!」

 

 元気いっぱいに走り出す少女三人に少し遅れてついていく境也。

周りから見て一体どういう関係に見えるのだろうか?兄妹?先輩後輩?

まぁ少なくとも魔法少女とそのお手伝いには見えないだろう。

 

「………平和だなぁ」

 

 殺しにかかってくる魔族を撃退しながら、困っている動物や人の手助けをする毎日。

魔法少女と天使たちと超能力者(・・・・)の人助けの日々は、彼ら自身にとっては平穏に過ぎていった。

 

 ***

 

 そしてその日々も唐突に慌ただしくなった。

何時ものように悪さをしている魔族を蹴散らしていると、一本の刀を持ったお爺ちゃんと秘書らしき美人さんが現れた。

なんでも、蹴散らした中に『東軍』と呼ばれる魔王軍の一派がいたらしい。

此方としてはただ防衛しているだけのつもりだったのだが、あちらとしては見過ごすことが出来なくなったらしい。

 

「いやいやいや、だからって何だよあの化け物!?」

「ペガサスもグングニールも切裂いてるよ!?」

「「こっちくんなぁぁあああああ!!!」」

 

 御爺ちゃんが最強過ぎて笑えた。

魔法少女の神威召喚も超能力者のペルソナも、その両者の単純魔力/思念攻撃も切裂くという化け物具合。

四人そろって涙目だったのは言うまでもない。

 

「………ジロウ」

「あはは、いやぁ相手が子供だということを失念してましたねぇ」

 

 魔族を打倒する圧倒的武力を持つ子供達は、思っていた以上に感情に素直だった。

もっと殺伐としていたり、色々理知的だと思っていた魔王二人はどうやって話し合おうかと思案する。

 事実、小学生とは思えないほど美雪は理知的だし、冷静という点では生死の瀬戸際を幾度かのりこえてきた境也も一般的な小中学生からは並外れていた。

いたのだが、如何せん相手が非常識過ぎた。

 悪さをしている雑魚を纏めて吹き飛ばそうとしたら、一番前に現れたお爺ちゃんが攻撃をことごとく切裂くのだから、そりゃもう驚いた。

 

(っていうか、この追いかけっこをしながら悪さをしてた奴らもしっかり処理してねぇかあれ?!)

 

 秘書っぽい女性がガトリングだろうか?片手に出現させたそれで雑魚を蹴散らしているが、一部見逃している。そしてその一部は降参している連中を捕縛し、どこかへ連れていっている。

なるほど、どうやら魔法少女VS悪ガキ魔族という図の中に東軍が混ざっていたのではなく、収めつつ話し合うために混ざりに来たようだ。

 

「よし、状況把握。いったん落ち着こうぜ」

「え?え?」

「あ~なるほど……うん、落ち着いた」

「いや、どのみち化け物じゃないアレ?」

 

 振り返る余裕が若干あった境也がいの一番に冷静になり、次にミルココが得意の能力で状態をサッと把握。分かっていない美雪に説明をしながら、相手の化け物具合に苦笑いを浮かべる。

 ほんと、全面的に化け物だが、このままだといずれ逃げれなくなる。

何せ相手は障害などないように真っ直ぐこっちに来ているだけなのだから、追い込まれるのは時間の問題だ。

話し合おうとする気があるのなら、そうした方がいい。

 

「とりあえず警戒はしとけ、魔法少女(ソレ)は解くなよ?」

「う、うん」

 

 美雪とミルココの前に立ちながら、年長者として魔王と呼ばれる二人の人物と相対した。

お爺ちゃんの間合いギリギリの場所に立ち止まりながら、話し合いを開始した。

 

「いやはや、落ち着いてもらえたみたいで良かったです」

「すんません、ちょっと……いや、かなり取り乱して」

「いえいえ、こちらこそ乱闘さわぎにしちゃいましたね。まぁでもこれが一番効率がいいと思ったので」

「は、はぁ」

 

 その後の話し合いの内容としては、大雑把にまとめるとこうだった。

まず、魔法少女と超能力者、この二人は個で軍に匹敵する戦力であること。

人類としての自衛とはいえ、このまま魔族を相手どられると色々問題があること。

かといって自衛を止めるわけにはいかない。

現状を変える打開策、それが無い限りは現状が変わることなどありえない……のだが。

 

「問題として、魔族が人を襲う原因……人で言う栄養である『瘴気』の収集が、人を襲うことくらいでしか効率のいい回収方法が無いという点です。我々は、それを解決する術を今開発しているのです」

 

 なんと、彼らは瘴気収集システムというモノを作り出し、それぞれの魔王軍に分配することで魔族が人間を襲わないでも大丈夫なようにするというのだ。

そのシステムの安定の協力と、何より相互不可侵であって欲しいという要望だった。

 こちらとしてはただの自衛のつもりだったので、魔族が襲ってこないということならば、相互不可侵で構わない、ということに落ち着いた。

 そして、意外とあっけなく魔界の戦国自体が終わり、四竦みの睨みあいに落ち着き、天界は魔族から人間を守るという大義名分を失った。

 

 

 こうして一時の平穏が訪れて――――『そいつ』が現れた。

 

 

「やぁ、魔法少女プリティ☆ベルと仮面の超能力者ってキミたちかい?。んふふー、かわいいねー、かっこいいね~」

 

 

 そいつは白い肌以外は服も何もかも真っ黒で、何より顔が分からなくて、不気味だった。

 

「はじめまして、這い寄る混沌、ナイアルラトホテップだ。気軽にナイアって呼んでね」

 

 普通の顔だ、今見えている表情は作り笑いを浮かべている、でも、それでも(・・・・)分からない。

そいつは確かに無貌(むぼう)であった。

 

「マジカル・トランス!!!」

「ペルソナ!!」

 

 美雪はすぐさまロッドを手にして変身し、ミルココも隠していた片翼を出現、武装した。

境也は胸に現れた『杭』を引き抜き、砕くことで一番馴染んでいるペルソナ『ロキ』をその身に降ろした。

 

「おやおや、なんだい唐突に」

「邪神の名前を冠している奴が現れたら、そりゃ警戒するだろ」

「周りが勝手にそう読んでるのさ」

「そういうやつってことよね?」

「そうだね」

 

 ココアのツッコミをあっさり認めると、そいつは用件を一方的に告げた。

 

「世界を滅ぼすから、邪魔してみないかい?」

 

 思わず呆然としてしまう。

思考停止とかではなく、本当に何を言っているのか飲み込むのに時間がかかったのだ。

 

「本気かよ」

「本気だし、正気さ。準備は着々と進めているしね。でもさ、僕の計画には足りないものがあることに気づいたんだ」

「足りないモノ?」

「そ、僕が計画を発動すれば世界は滅ぶ。つまり、これでみーんな最期ってわけだ。何が足りないか、わかったかい?」

 

 女児三人が悩む中、一人境也が気づいた。

半分以上そんな馬鹿なと思いつつ、しかしロキ(トリックスター)をその身に宿している彼だからこそ、理解に及んだ。

 

「正義のヒーローさ」

 

 準備万端、発動すれば世界は滅ぶ。道筋としては完璧だ。

だが、完璧だからこそつまらない。

 

「つまらないっていうのはこの世で一番よく(・・・・・・・・)ないこと(・・・・)だ。存在の意味自体を根底から否定してしまう。それだけは許せないだろ?少なくとも、僕は絶対に許せない(・・・・・・・)

「この、ドM」

「好きなように言ってくれたまへ!まぁ何にしても拒否権は無いよ。拒否してもいいけど、そしたら全部おじゃんだ。一ヵ月後に世界が滅びるだけ(・・)

 

 ふと、その台詞に疑問が浮かんだ。

コイツの目的はなんだろう、と。正義のヒーローならこんな風に依頼をするまでもなくあらわれるものじゃないだろうか?

世界を壊すんだ、邪魔ものは一人や二人で済まないはずだ。

 それに何より、淡々と終わるのが嫌だというのならなお一層勧誘する意味がない。

もし相手どられなければ、それこそ詰まらないだろう。

 

(つまらないと言いながら、詰まらないままでも滅ぼす気でいるのか……?)

 

 疑惑の目を向けながらも、相手は本気だと察する。

本気で世界に宣戦布告しているのだ、この邪神擬きは。

 

「何をしてもいい。一ヵ月後までに『僕たち』を止めればキミたちの勝ち、滅ぼせば僕たちの勝ちだ。

なお、僕たちの根城は異空間『ン・ガイの森』にある」

「それを信じろって?」

「真偽についてなら、東の魔王にでも聞いてみなよ。もう影響は表れ始めているだろうからね?」

 

 それだけ言い残して、ナイアルラトホテップはその姿を掻き消し去った。

そして、事実その日から魔族の住む大異空間と人間界で異変が起こり始めた。

 

 本当に、着実に世界は危機を迎えていたのだ。

 

 ***

 

 東の魔王、ジロウ・スズキの考えにより、基本ナイアルラトホテップに対し、プリティ☆ベルや仮面(ペルソナ)使いが直接動くことはなかった。

いつも通り、相手のいうつまらない作業の様に淡々と処理していくように、と。

 しかし現実はそうはいかない。

謎の影のような人型による自爆技を警戒、ほかにもナイアルラトホテップが複数体現れ四大魔王を襲撃。人間界にも影は現れ、その迎撃。

気付けば、天使も悪魔も一部の霊的なものに鋭い人間も、皆が混乱し、怯え、反抗し、死に……混沌としていた。

 

「餓鬼どもがいたぞぉ!!!」

 

 そして遂にはナイアルラトホテップが固執するプリティ☆ベルと仮面使いを殺せば助かる、なんて曖昧な情報が流れる始末。

魔族にはよく狙われていたが、こんなに頻繁な襲撃はなかった。

特にラスト三日になってからは酷いもので、一日数度と襲撃された。

 美雪達も怯えて、最後の一週間はずっと四人一緒に居た。

夜は皆が身を寄りそり合って眠り、朝起きると全員で朝食を作った。混沌とした中で、確かな平穏がそこにあった。

 

 そして、その日々の中探索し続けていたン・ガイの森は見つからず、最後の時が来た。

 

――【やぁ、みんな】

 

 脳裏に響くナイアルラトホテップの声。同時に現れる、謎の異空間。

そう、いくら異空間を探しても見つからないはずだ。だって、その異空間はナイアルラトホテップ自身の中にあったのだから。

 

 ――【種明かしと行こうか、全世界の混乱と恐怖によって垂れ流された莫大な瘴気は、全て美味しく頂いた】

 

 ン・ガイの森と最終兵器を顕現させるための瘴気、それを世界中を混乱の渦に陥れることで手に入れた。

そうだと分かっていても、世界全てを掌握など出来るはずもなく、悔しい思いをした者たちは大勢いただろう。

 

 ――【そしてこれが本邦初公開、世界を滅ぼす最終兵器――ヨグ=ソトースだ】

 

 虚空に展開された大きな映像には、玉座のような椅子に座るナイアルラトホテップと……その背後に、歪つで巨大な門が存在していた。

ヨグ=ソトース、時空を繋ぐ門にして門番たる神。その門が繋がっている先は、魔族たちの魂の故郷「魔界」。

魔界に満ちた瘴気が異空間や人間界に溢れれば、人々は勿論、魔族も一たまりもない。

ブラックホールのようなドロドロとしたドス黒い気に飲み込まれ、全てが無に帰すだろう。

 

 ――【あぁそれと、このン・ガイの森の結界は一定以上の魔力を持った魔族と天使を通さない。完璧ではない代わりに強力だ。最大の脅威はやっぱり魔王軍だからねぇ】

 

 もちろん、魔王クラスが結界を破ろうと攻撃し続ければ壊れる程度のものでしかないが、敗れるころには全て終わっている。

この結界に入れるのは中級以下の魔族、天使、そして……。

 

 ――【あとはプリティ☆ベルと、降ろした対象によって魔力が変動する仮面使いくらいかな?まぁどれも力不足だが】

 

 わかっている、あくまで脅威なのは魔王()

いくら自分たちが個で軍単位の脅威だとされていたとしても、莫大な瘴気を手に入れたナイアルラトホテップからすれば対処可能の範囲だろう。

 既にチェックメイトは打たれた。勝ち目は無く、動いても痛い目を見るだけかもしれない。

それでも――。

 

「いこう、ミルココ、キョーヤさん」

「「ええ」」

「おう」

 

 内心、まるで呼ばれているようだと思いつつ、それでも動かないわけにはいかなかった。

何もしなければ、きっと後悔するし、何よりこれ以上ナイアルラトホテップを無視できない。

今この瞬間がきっと、最後のチャンスだから。

 

「ようこそ、ヨグ=ソトースのための最後のピース」

「「「!?」」」

「やっぱか」

 

 驚く魔法少女たちと違い、仮面使いは分かっていたように頷いた。

 

「……おいおい、仮面使いは気づいてたのか?」

「まぁおかしいとは思ってたよ」

「ハハ、マジかよ。誰も知らない技術(確実に想定外の事実)で裏をかいたんだぜ?」

「なぁに、此処までお膳立てされて来ないわけにはいかないだろ?」

「んふふ、最高だよアンタ」

「お褒めの言葉恐悦至極だよ、ナイア」

「……どうして?」

 

 美雪の疑問はきっと、殺気をぶつけ合う両者に向けられたもの。

自分たちが最後のピースだからという理由をなんとなくでも察していたのに侵入した境也。

そして、どうして最後のピースが自分たちなのか、という純粋な疑問。

 

「ここで俺らが入らなくても、きっとまた違う方法で世界滅亡させただろうからな。きっと今度はこの莫大な瘴気を使って、もっと完璧に近い(・・)方法でさ」

「もっと酷くなる前に潰しておこうって考えたの?」

「言ってよ、正直今凄く驚いてるわよ私ら」

 

 ミルココ達に悪い悪いと軽く謝りながら、それでも悔いたりしていない。

これでダメならもっとえげつない方法を模索するのがコイツだ。

無言でこっちを見つめる美雪に、自分の考えを改めて言った上で堂々と目を見て話す。

 

「恨んでいいよ、美雪」

「んーん……ジロウおじーちゃんから効率的な考えを聞いてたから、その影響かなぁって思っただけ。それに何か裏があるって分かってても、私は来ちゃったと思うし」

「そっか……ありがと」

「うん」

 

 ぽんぽんっと頭を撫でると、改めてナイアルラトホテップへと視線を向けた。

 

「いやー、お熱いねぇ」

「うっせ」

「はいはい、次はボクの番だよね。まぁ簡単だよ、最後のピース……正確にはリィン・ロッドが放つ波長が必要だったんだ。このヨグ=ソトースはね、プリティ☆ベルのもつリィン・ロッドの在り方(・・・)をモチーフにしたコピーなんだけど、残念ながら僕のセンスと理解度じゃ完コピできなくてね。音楽的で指摘で絵画的なアナログのセンスを今、この場でコピーさせてもらった」

 

 門の内側から黒いモノが溢れ出し、崩壊するように扉が開いた。

 

「リィン・ロッドに仮面使い……その原理が知りたかったけども、今となってはどうでもいい。さぁ、始めよう!最終決戦を!!」

 

 門からあふれる瘴気。門から出ているなら、門を破壊すればいい。

そう考えた美雪と境也は揃って声を上げた。

 

「神威召喚!必滅定めし神の槍(グングニール)!!!」

「ペルソナ!現れろ、オーディン!」

 

 神槍グングニールを美雪が、その持ち主であるとされるオーディンを境也が召喚した。

グングニールを境也の背後に出現した隻眼の神が手にすると、雷を槍に有りっ丈込め――音速を突破した速さ(雷速)で投擲された。

 

形成位階(イェッツラー)噛み砕く三重の壁(バイティングウォール)!!」

 

 瘴気を使って作り出した黒い攻勢防御の渦は、神槍を飲み込み砕こうとする。

しかし、それを神雷が阻み、まるで何もないかのように突破した。

渦で座標をずらされ、ナイアルラトホテップの右腕を吹き飛ばしながら門を掠って通り過ぎていく槍。あまりの凄まじさと痛みから冷や汗と脂汗をかくナイアルラトホテップ。

 

「くっそ、相性最高すぎだろ!!創造位階(ブリアー)!!」

 

 悪態をつきながらも、笑みを崩さない。

彼は黒い巨兵を作り出した。

 

「「美雪、境也!!」」

「神威召喚!!」

「来い、ペルソナぁ!!」

 

 ――『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』!!!

 

 多少形に違いはあれど、二体の大蛇が影を圧倒していく。

 

「そんなの反則だろ……化け物っっ」

「てめぇが言うかよ」

 

 八岐大蛇だけに仕事はさせない。

念意による砲撃を放つも、ナイアルラトホテップはそれを防いで見せる。

片腕失ってなお衰えない戦意は、寧ろ増しているようにも思えた。

 

「影たち!!」

「「「「「「「「「「形成位階(イェッツラー!!)」」」」」」」」」

 

 改めて召喚された十を超える巨影は、全員巨大な棘と化して二体の八岐大蛇を貫いて見せた。

一定以上のダメージを受けると消える上、自身にも精神負荷がかかる境也は一瞬眩むも強く歯を噛み締め前を見据える。

境也と違い、召喚すれば同意が無い限り消えない美雪の八岐大蛇は、その身を傷つけながらも首一本で門へと突撃した。

 

「やった!?」

「………いや」

 

 門が破壊されたかのように見えた、事実破壊された。

だが、ドス黒い瘴気は未だ溢れ続けている。

 

「やってないよー、ヨグ=ソトースの門は一度開くと壊しても閉じない。その方法は僕にも思いつかないなぁ」

 

 それはつまり――。

 

「そう、此処まで来たら分かると思うけど――最終決戦の結果がどうだろうが、もう関係ないよ?」

 

 止まらない、止められない。世界が滅ぶ迄秒 読み。敵もまだ倒せていない。

まさに絶望、だけども。

 

「神威召喚!!石と化す邪視の盾(アイギス)!!!」

「ペルソナぁああああっ!!広範囲絶大雷撃(マハ・ジオダイン)!!!」

 

 石化の盾とオーディンの雷で雑兵を石に変え砕いた。

ついでに軽くナイアルラトホテップも石化し足を止めることに成功。

畳みかけるとしたら、此処しかなかった。

 

「神威、召喚!必滅定めし神の槍(グングニール)!!」

「身に憑け(・・)、オーディン!!!」

形成位階(イェッツラー)アアアアっ!!!」

 

 境也は胸元に現れた『杭』を押し込み(・・・・)身の内(意思の力)で砕いた。

 バチバチという雷を纏い(・・)、稲妻で出来た眼帯とマントをその身に着けた境也。

境也にペルソナが降り、現界するのとはまた違う。

正真正銘降ろしたオーディンの力をその身に宿し、神の雷を扱うことが可能となる。

ペルソナの新たなる段階、精神を特に疲弊させる切り札だった。

 

真理の雷神槍(グングナール)、貫けぇえええええええ!!!!!!」

 

 美雪の槍へ境也の雷が浸透、力が膨れ上がったことによりさらに長く伸び長槍となったソレを全力で放つ。

投げられた神槍は雷の如く、否、それよりも早い神速を持ってして、ナイアルラトホテップの全力の攻勢防御を容易に貫き、邪神を見事首だけにして見せた。

 一応、傍に飛竜と巨蜘蛛を待機させておく。何かしようとした瞬間にぐしゃっだ。

 

「んふふー……いやぁ、負けた負けた」

「まだ喋れんのかよ」

「まぁ最後だし、見ておきたいだろ?」

「最後、ねぇ……」

 

 魔界は際限なく溢れ、全てを埋め尽くし飲み込む。

それを止める方法は……方法はっ。

 

「ねぇ」

 

 ミルココと境也が頭を悩ませていると、思いついたように美雪がつぶやいた。

 

「このン・ガイの森全部を根こそぎ燃やし尽くしたら、穴を維持してる何か(・・)だって持たないよね」

「!?」

「美雪!?」

 

 ミルココを飛竜(ワイバーン)が、そして境也を巨大蜘蛛が連れていこうとして……雷によって、蜘蛛だけが弾かれた。

 

「「――!」」

 

 遠ざかっていく二人をにこやかに見送り、改めて魔法少女と超能力者は互いを見つめる。

 

「おいおい、俺まで除け者か?」

「ご、ごめんなさい……でも、―あぅ」

 

 ぽんっと頭に手をおき、撫でる。

この優しい少女が仲間を逃がそうとした理由なんて、簡単に想像できた。

 

「危ないんだよな」

「……うん、クトゥグアっていって私も、全部……ン・ガイの森の中、全部、灼き尽くしちゃうの」

「コイツの天敵ってわけか……無理しなくて、いいんだぞ?」

 

 全部放り投げて諦めたって構わない。

だって彼女は未だ小学生だ。両親に甘えて、友達と過ごして、楽しい日々を謳歌する権利がある。

脚は震え、呼吸だってまともに出来ないほどに恐れている。こんな少女に、何を背負えと言えるのだろうか。

 

「魔王や天使にはどうにも出来ねぇかもだけど、俺ならなんとか出来るかもだし」

「アハ、ハ……嘘、だよ。キョーヤさん、嘘つくときね、まっすぐ目を見て、嗤う(・・)の」

「………」

 

 不器用な彼の嘘を、正しく美雪は見抜いていた。

そうだ、境也には魔界をどうにかするなんて芸当出来ない。

魔王クラスを超えるもので彼がその身に降ろし、憑けるのはロキとオーディンのみ。他は平均的な魔王クラス以下未満etc。

 

「でも、美雪やミルココ……あの町の皆くらいなら、逃がしてやれる」

 

 伊達に神を名乗る連中を降ろしていない。

その身を犠牲にすれば、小世界(・・・)の一つや二つ作ることが出来る……出来てしまう。

世界は救えないが、少女の世界くらいならどうにかなる。そういう力を、今の境也は持っていた。

 

「うっうぅぅ」

 

 ぽろぽろと涙を溢し葛藤する美雪。

死にたくない、生きていたい――幸せでありたい。

自分の願望が涙となって現れる中、虚空に映像が浮かんだ。

ナイアルラトホテップが、結界外へ逃がされたミルココと対話できるように映像を繋げたのだ。あの二人は美雪の初めての友達。だから、クトゥグアも知らされていた。

こうすれば二人は美雪を止めるだろう。悩んでいる美雪を諦めさせるために、説得するだろう。

 

【何してるの!!】

【まだ何か方法がある!見つける!魔王たちと、天界だって協力させる!!】

「んふふー、残念それじゃぁ間に合わない。魔王だけでも元々無理だったのに、今から天界と魔王軍を協力させてからなんて、夢物語だ。例え間に合ったとしても、結界を破るだけで力尽きるし、結界に満ちた魔界を吹き飛ばすほどの熱量は、最強と謳われるドゥール・ヴァリオンにだって出せやしない」

「ぐすっ」

 

 八方塞がり。

彼女の選択肢は三つ、世界が滅びるのをこのまま眺めるか、世界を救うために一緒に灼かれるか……大好きな人に造られた幸せな世界(ディストピア)へ逃げるか。

どれを選んでも、彼女の望む最高の幸せには届かない。

 

「私、は……私は」

 

 キッと覚悟を決めた。ニャルラトホテプの反応からして、死にたくはないし傷つきたくもないようだ。そんなニャルラトホテプが妨害しようとしている、つまり、今この瞬間ニャルラトホテプを殺せるチャンスでもあるということ。これ以上酷いことを企む前に、見逃せない。何かを行う前に止める必要がある。

 

「うぅっ……ぐすっ、う、ぁ、ぅぅ――ッ」

 

 覚悟を決めても零れてくる嗚咽を必死に噛み締める。

もっと生きていたい、死にたくない、幸せでいたい、でも――それでも、皆には本当の幸せの中で生きていてほしい(・・・・・・・・)

 

「ぁ」

 

 ギュッと小さな少女の手を、少年の少し大きな手が優しく包み込んだ。

見れば、いつも隣にいてくれた彼が、仕方ないなぁと笑っていた。

 

「俺としては、美雪に幸せでいて欲しかったんだけどな」

「それじゃ、ダメ……私は、私は、皆に幸せであってほしい」

「美雪が死ぬと、皆悲しいよ?」

「皆なら、頑張って、幸せになってくれる、からっ」

「そっか……」

「だから、きょーや、さん……も」

 

 手を放して、私を置いて逃げて――幸せになって。

……そう、小さな少女は言外に告げた。

 だが残念、彼は人の願いを叶える『ヒーロー』ではない。

彼はどこまでも自分のために生きてきた。自分がそうしたいと思ったから、今まで美雪達と共に居たのだ。

 

「最後まで一緒だ」

「あっうぅ、ぁあああああああああああ!!!!!」

 

 この我儘な少年を止める術を少女は持っていない。

一人じゃないのが嬉しくて、一緒にしてしまうのが悲しくて、自分たちの力じゃこれ以外の選択肢を選べなくて、悔しくて。

 少女はしがみ付いて、泣き叫んで、撫でられて、少年は抱擁して、涙を受け止めて、優しく撫でて……少しの間だけ、そうして二人の時間を堪能した。

 

 

――僅かな慟哭を上げた少女は、最後の一時だけ少年と唇を合わせ、そして――。

 

 

「神威、召喚!!」

 

 

 ――『無慈悲な灼熱(クトゥグア)』――

 

 

 神の炎が全てを灼き尽くし、後に残ったのは……石になった一本の杖だけだった。

 

 

***

 

**■

 

*■■

 

■■■

 

 

 パチリと、一人の少年の瞼が開いた。

頭を強く打ち付けたんだ、と思い出し――当たり前のように回復の術(ディア)を唱えた。

自ら閉じた額の傷跡(・・・・・・・・・)から流れていた血を拭い、ぐっぱぐっぱと掌をにぎにぎする。

きょろきょろと辺りを確認し、自分の胸元にある名札を見る。

 

  月読 響也。

 

「――――…………ハ?」

 

 段々と記憶が混ざり、溶け合い、そして『自分』に気づいて、呆けた声を上げた。

クトゥグアによって灼け死んだ少年は、桐ケ谷境也は来世と繋がり(・・・)、短い産声を上げた。

 

 

「ハァアアアアアア!?!?!?」

 

 

 驚き慄く彼が数年後、新たなプリティ☆ベルと出会い、今以上の声を上げることとなるが、それはまた、別の話。




・桐ケ谷境也
 意思で現実を捻じ曲げる超能力者と呼ばれる存在。
彼の意思は何かに繋がり、現実へと出力される。
炎と氷、武技と魔法、まるで仮面を付け替えているかのようにガラッと在り方が変わることから、能力覚醒から3年たつと『仮面使い』の二つ名を受ける。
そして13歳、中学1年になったばかりの彼は魔法少女と天使達に出会い、大きな流れに巻き込まれていく。
最後は魔法少女と共に焼死、蒸発したはずだった。
 (コミュ)MAX……0愚者(魔法少女) 14節制(ミルココ) 17星(桃地美雪)

・月読 響也
 強くてニューゲーム、所謂2週目的な状態。
繋がりが確かなものになった瞬間、記憶が混ざり混濁、頭を打ち付け一時的に意識喪失。
無意識の中本能的に流れ込んできた情報を整理し、驚愕の声を上げた。
彼が大好きだった魔法少女が居ない世界で、彼はまた大きな流れに巻き込まれることとなる。

・作者
 年末だし何もしないのは何だかなぁと思い、一話出来たので上げるかという気分で上げた人。
続く予定は今のところないです。そもそも私得優先で書いたコレに需要があるのだろうか……?


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