霊と戯れるアイドル (雛月 加代)
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プロローグ

それは学校の春休みが終盤にさしかかっていたある日。

 

「あー!疲れたー!やっと帰れる!」

 

疲れた体に鞭をうって穂乃果は、なんとか歩きだす。先程幼馴染みの二人と別れ、現在帰宅途中なのである。

 

「う、海未ちゃん・・・あんなに怒らなくてもいいのに・・・・」

 

そう言いながら穂乃果は先程の事を思い出す。

 

 

 

 

『ダメです!何度言えば分かるんです!』

 

『だってー!終業式が終ってから生徒会の仕事が忙しくて全然勉強できなかったんだもん!』

 

『言い訳しないでください!私もことりも同じ生徒会なのにちゃんと宿題を終らせているのですよ!何故、あなたはいつも宿題を早めにやらないのですか!?』

 

『生徒会長だからって言われても、分かんないものは分かんないんだもん!海未ちゃんが写させてくれれば、それで済む話でしょ!』

 

『穂乃果、あなたは生徒会長なのですよ!生徒会長であるあなたが宿題の一つも提出できなくてどうするのですか!』

 

 

 

 

 

 

そして現在。

 

「もう、海未ちゃんは鬼だよ!鬼!」

 

そう言いながらぶつぶつとこの場にいない幼馴染みの悪口を言い始める少女。

 

「あっ!?」

 

しばらくすると穂乃果はある場所に通りかかる。そこは幼い頃、海未とことりと一緒に遊んだ公園。

 

 

 

「懐かしいな・・・・。そういえば昔、よく三人で一緒に遊んだっけ・・・・」

 

 

 

子供の頃遊んだ公園を見て、穂乃果は当時のことを思い出す。すると突然声が聞こえた。

 

「星が綺麗だな・・・・・・」

 

「えっ?星・・・・?」

 

そう言いながら穂乃果は空を見上げる。

 

「わあーーーーーっ、本当だ!・・・・・って誰!?」

 

そう言いながら慌てて視線を公園に戻す。すると公園には頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年がブランコに座っていた。

 

「お前も星を見に来たんだろう?」

 

そう言うと青年はブランコから立ち上がる。

 

「こっちに来いよ!みんなで見ようぜ!」

 

「い、いいよ・・・もう遅いし・・・・。それに君、文法間違ってない?二人じゃ、『みんな』とは言わないよ。」

 

そう言いながら穂乃果はクスクスと笑い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、『みんな』さ。」

 

「えっ?」

 

青年は嬉しそうに親指で後ろを指す。

 

「この・・・・・・公園の・・・・」

 

「!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

青年の言葉を合図に沢山の霊がその姿を現す。

 

「あ・・・あ・・・・・・・あ・・・・」

 

その光景に穂乃果は言葉を失う。青年はそんな穂乃果を尻目に霊たちと戯れ始める。

 

「わあああああああああああああああ!!!」

 

ありえない物を目撃し、少女は大きな悲鳴をあげる。



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第一廻:幽霊と青年

次の日、学校の教室。

 

「『「『「『「『幽霊!?』」』」』」』」

 

穂乃果は昨日見たことを幼馴染み二人に話した。

 

「何を言ってるんですか・・・・?」

 

「だから見たんだよ!昨日、公園で!!!」

 

穂乃果の話しを海未は信じられず呆れた表情で彼女を見つめる。

 

「穂乃果ちゃん・・・・少し休んだほうがいいんじゃ・・・・・」

 

「ことりちゃんまでそういう事言うの!?二人とも、何で信じてくれないのー!?」

 

「あなたは無理しすぎだったんです。だから幽霊みたいな非科学的な物まで見るんですよ。」

 

当然の反応だろう。普通に考えれば幽霊なんて誰も信じない。テレビ番組で紹介されている幽霊はほぼ見間違えか番組のやらせだし、写真に至ってはプラズマによる超常現象であることが多い。

 

「そんなことないよ!私だって嘘だと思ったけど、ちゃんと頬っぺたをつねって確認したんだから!」

 

可愛らしく頬を膨らませて怒る穂乃果。すると 

 

ザワザワ

 

突然教室の外が騒がしくなる。振り向くと廊下を二人の人物が歩いている。一人はことりの母でこの音ノ木坂学院の理事長。 そしてもう一人は・・・・・

 

「あーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

パチン

 

「うるさい!!」

 

大声を出しながら叫ぶ穂乃果に海未はツッコム。そんな二人の光景を青年は横目で見ながら、理事長の後を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに二人は理事長室に入っていく。そして理事長の扉にそっと耳を寄せる穂乃果。

 

「あの子だよ。」

 

「えっ?」

 

「昨日の幽霊青年。」

 

そう言いながら中の会話に聞き耳を立てる穂乃果。

 

「・・・・・・・・穂乃果ちゃん・・・本当に大丈夫?」

 

穂乃果の言葉に海未は哀れみの視線を向け、ことりは心配そうに彼女を見る。

 

「なっ!?」

 

彼女たちの言葉に穂乃果の機嫌はますます悪くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギイ

 

しばらくすると理事長の扉が開き、

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

理事長と青年がその姿を現す。そして穂乃果は思わず後ろから

 

「ねぇ・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「ねえ!」

 

「???」

 

青年は振り向き、穂乃果に視線を移す。

 

「昨日、公園であったよね?」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

「幽霊と一緒だったよね?」

 

穂乃果は僅かな希望を胸に真剣な表情で青年を見つめる。昨日の出来事がまやかしでないなら、彼は自分の事を知っているはず。海未とことりも静かに青年の返答を待った。すると青年は静かに口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・ていうかお前誰?」

 

ガーン

 

「なっ!?」

 



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第二廻:尾行する少女たち

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

青年の言葉を聞き、膝から崩れ落ちる少女。

 

「穂乃果・・・・・・」

 

「穂乃果ちゃん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

そんな彼女を尻目に青年は理事長とともにその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果は、うなだれたまま、ピクリとも動かない。そして数分後。

 

(私は・・・・・嘘なんて付いてない・・・・・嘘つきなんかじゃない・・・・・・・・)

 

涙目になりながらなんとか立ち上がり、決心した。

 

「このまま引き下がらないよ・・・・意地でも正体を暴いてやるだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そして放課後】

 

「いた!」

 

なぜかサングラスをかけて、パンと牛乳を持っている穂乃果。

 

「何で私たちがこんなことを・・・・」

 

「仕方ないわよ・・・・ああ言ったら止められないし・・・・」

 

全員穂乃果に無理やり付き合わされ、例の青年を遠くから監視する。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

そして当の本人は橋の手すりに手をつき、空を眺めていた。

 

「なにしてるんだろう?」

 

「待ち合わせとか?」

 

ことりと真紀が双眼鏡で青年を観察する。

 

 

 

 

 

 

【そして30分後】

 

青年に変化がない。

 

「異常なし。」

 

海未が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

【そして一時間後】

 

穂乃果たちに変化が訪れた。

 

「お腹すいた・・・・・・」

 

花陽が呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そして三時間後】

 

「全然動きませんね。」

 

「一体いつまで待てばいいのよ!」

 

しびれを切らした海未と真紀が口を開く。彼女たちの我慢も限界を迎えていた。

 

「あっ!」

 

すると青年に異変が

 

「くーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

腕を伸ばし、背伸びをする。

 

「動くかにゃ?」

 

凛の言葉に全員息を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自然と一体になるって気持ちいいなーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「『「『えっ・・・・・!?』」』」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

青年の言葉に真紀たちの目が点になり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「『「『なにそれーーーーーーーーーーーっ!?』」』」』」

 

思わず叫んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「???」

 

彼女たちのツッコミに青年は振り返る。

 

ササササ

 

穂乃果たちは間一髪、電柱の影に隠れた。

 

「不味いにゃ。」

 

「思わず声が出ちゃった。」

 

「見つかってない・・・よね・・・?」

 

そーっと電柱の影から顔を出すことりたちだったが。

 

「あーっ!見失ったーーーーーーーーっ!!!!」

 

穂乃果の声が周囲に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するといきなり後ろで声がする。

 

「もしもし?」

 

振り向くとそこには警官が立っていた。

 

「ちょっと、交番まで来てくれるかな?」

 

『「『「『・・・・・・・・・・・・・・。』」』」』」

 

こうして穂乃果たちはめでたく警察のお世話になることになった。

 



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第三廻:青年と光

夕方五時、学生や社会人が帰宅するこの時間。彼女はこのバスに乗っていた。名は矢澤にこ、元μ'sのメンバーで、穂乃果たちが通っている音ノ木坂学院の卒業生でもある。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

大学の授業を終え、妹たちが待つ家に帰宅途中。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

雨が降っているせいか、外は真っ暗。おまけに彼女以外に人は乗っていない。

 

「!?」

 

窓の外に視線を向けると、公園で青年が大勢の不良たちに絡まれていた。

 

(どうしょう!?どうしょう!?)

 

突然の事で彼女は内心焦り出す。だがしばらくすると

 

「!?」

 

何かが青年の後ろで光かりだした。青年は右掌を天高くあげると、光が掌に集まってきた。

 

「くっ・・・・・・・!?」

 

にこは急いで席を立ち、運転手に駆け寄る。

 

「止めて!!!」

 

にこの言葉に運転手は面倒くさそうに

 

「次の停留所はすぐそこだよ!座ってお待ち・・・・」

 

答えた。

 

「いいから止めて!!!!!」

 

運転手の制しを振り切り、にこはその場でバスを降りる。そして来た道をそのまま戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

「あれ!?」

 

やっとのおもいで公園に辿り着いたにこ。だがそこには人どころか、ゴミ一つ落ちていない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

そのまま辺りを見渡すが特に変わった様子はない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

夢でも見ていたのか?そんな言葉が頭を横切る。

 

「そんな・・・・・でも私は本当に・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日、あるデパートの屋上ではヒーローショーが行われた。

 

「頑張れー!!!!」

 

黒髪の小さな男の子がピコピコハンマーを持って応援していた。そしてその横には左右対称のサイドテールの双子の女の子とツインテールの女の子が座っていた。

 

「虎太郎、喜んでますわね。」

 

「毎週テレビを見てたもんね。」

 

ショーに夢中な三人を尻目ににこは昨日の出来事を思い出す。昨日の頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年。

そして彼の掌に集まった光。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「お姉さま?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「お姉さま!」

 

「えっ!?なっ、何!?」

 

突然声をかけられ、慌てふためくにこ。

 

「どうしたんですか?」

 

「ため息ばかりついて?」

 

「なっ、なんでもないわよ。」

 

そう言いながら苦笑いするにこ。そんな彼女を妹たちは心配そうな顔で覗き込む。

 

(あれは一体、なんだったのかしら・・・?)



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第四廻:弟と中華店

「あ、あの・・・・お姉さま・・・・」

 

「どうしたのこころ?」

 

青ざめた顔をにこに向けるこころ。

 

「虎太郎が・・・迷子に・・・」

 

「え・・・!?」

 

そう言われ、辺りを見渡すと弟の姿が見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくデパート内を探索していると・・・・・

 

「虎太郎!」

 

「お姉ちゃん・・・・・」

 

にこは虎太郎を見た瞬間、彼の元に走り、抱き締める。

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「虎太郎。何処に行ってたのよ、心配したんだから!」

 

「大丈夫だった?」

 

姉たちの言葉に虎太郎は無言で後ろの人物を持っていたピコピコハンマーで指差した。にこが顔をあげるとそこには

 

「!?」

 

その人物ににこは動揺する。頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年。昨日バスの中で目撃し、今の今まで悩んでいた諸悪の根源。青年はにこたちが抱き合っている光景を無表情で見守っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

そしてここあとこころは青年の元へいくと、お礼を言う。

 

「『弟を助けてくれて、ありがとうございます!』」

 

「礼なんていらんよ・・・・。大したことはしてねえからな。」

 

そう言いながら青年はここあたちの頭を撫で始める。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「お姉さま?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

「お姉さま!」

 

「えっ!?なっ、何!?」

 

突然声をかけられ、慌てふためくにこ。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

再び妹たちは心配そうな顔でにこの顔を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐうぅうぅ。

 

「お腹すいたー。」

 

 虎太郎のお腹がなる。

 

「そういえばもうお昼ね。どこか空いてる店は・・・・」

 

そう言いながらデパートの中を見渡すにこ。だが今は丁度お昼時、飲食店が一番込む時間帯なのだ。すると青年は

 

「近くに知り合いの中華店があるけど、良かったら一緒にどうだ?」

 

「えっ!?で、でもあんたは・・・?」

 

「元々そこで食べる予定だったし。い、嫌なら別にいいけど・・・・・」

 

「いいわ。そこに行きましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は変わって中華店。

 

「じーーーーーーーーーーーーーーっ。」

 

注文をし終えると、にこは青年の顔をジト目で睨んでいた。

 

「どうかしたか?」

 

「単刀直入に聞くわ!」

 

「???」

 

「昨夜、何処で何をしていたの?」

 

「・・・・・?」

 

突然の質問に青年は首を傾げる。

 

「それとアンタの右手!!」

 

「・・・・・・?」

 

青年は無言で右手を差し出す。にこは彼の右手を掴むと、掌をジロジロと観察し始める。だが特に変わった所は見当たらない。

 

(そ・・・・そんな・・・・・・)

 

「もういいか?」

 

「えっ!?あっ、うん。ありがとう。」

 

青年は右手を引っ込める。『やっぱりあれは見間違い、もしくは夢』そんな言葉がにこの頭をかけ巡る。すると青年はここでにこに違和感を感じ、彼女の顔に視線を向ける。

 

「そういえばオメエ、どっかで見たような顔だな。」

 

その言葉ににこは待ってましたとばかりに胸を張る。

 

「それはそうよ!だって私は・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さては手配中の被疑者だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年の口から出た言葉ににこは呆然とする。



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第五廻:財布と真紀

「違うわよ!!私は・・・・・・・」

 

想定外の返答に一瞬言葉を失うにこ。

 

「お姉さまはスクールアイドルだったのですよ。」

 

「スクールアイドル?」

 

こころの説明に首を傾げる青年。

 

「知らないのですか?」

 

「ああ・・・・そういえばいたな、そんなの・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

青年の言葉ににこは唖然とする。この街に自分たちを知らない人間がいたなんて、しかもそれが子供や老人ではなく同い年の青年なのだから。にこの様子に青年は申し訳なさそうに

 

「わりい、さっきは・・・・・・。」

 

「これ以上何も言わないで!なんかすっごく悲しくなるから!」

 

口を開く。だがにこは顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠す。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「それよりあんた、スクールアイドルを知らないなんて時代遅れじゃない?」

 

にこがジト目で青年に詰め寄ってくる。

 

「いやー、アイドルとか元々そこまで詳しくなくて。それに高校の時はそれどころじゃなかったし・・・・・。」

 

「何よ?勉強とか部活で忙しかったとか?」

 

「いや・・・・修行させられて・・・・」

 

「修行?」

 

「いやあれは修行じゃないよな・・・・・修行という名の拷問だ・・・・・」

 

「どんな高校生活を送ってたのよ・・・・?」

 

「ハハハ・・・・・・」

 

にこがそう言うと青年はただただ苦笑いすることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、またな!!」

 

「ええ、また会いましょう。」

 

中華店で食べた後、青年は買い物籠を持って、にこたちに別れを言う。こころ、ここあ、虎太郎も手を振りながら、礼を言う。

 

「なんか面白い人でしたね。」

 

「また会えるかな?」

 

「うん・・・・・・」

 

そして自分たちもその場から立ち去ろうとしたその時。

 

「あれ?」

 

何かが地面に落ちていた。拾ってみるとそれはがま口財布であった。

 

「あっ、これ。あいつのだ。」

 

青年がレジでこれを使っているのを思い出すにこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその数時間後。人気のない所を歩く元『μ's』のメンバー。数日前、警察に補導されたので親や教師たちにこっ酷く叱られた少女。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

真っ赤な髪色に紫色に輝く吊り上がった目。それは彼女をプライドの高い女性へとイメージさせるのには十分な材料であり、そのイメージは決して間違っておらず、成績は優秀。両親は地元の総合病院の医者。将来は実家の病院を継ぐ予定。

 

「ヴェエエ!?」

 

目線の先に見知った顔の青年が立っていた。

 

(な、な、何であいつがここにいるの!?)

 

青年は目の前のマンションを興味深かそうに観察する。

 

「ちょっと!アンタ!!」

 

「???」

 

いきなり怒鳴る真紀に対し、青年はゆっくりと振り向く。

 

「ここに何の用!?事と次第によっちゃ警察・・・・・」

 

「おめえに用はねえ。オイラは矢澤にこに用があるんだ。」

 

「にこちゃんに?一体何の・・・・・」

 

「知り合いなのか?ちょうどいいや、取り次いでくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチン

 

青年の口調に少女の中で何かが爆発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、な、な、な、なんで・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でそんなに偉そうなのよーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真紀は叫びながら青年の胸をポカポカ叩き出す。

 

「私たちにあんなことしておいてーーーーーーーーーーーーー!!!!」



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第六廻:神社と占い

神田明神、ここはかつてμ'sのメンバーが練習として使用していた場所。そしてこの場所に今、足を踏み入れた二人。

 

「懐かしいわね。ちょっと前までここで練習してたのに。」

 

「そうやね。なんか何年も前のことに感じるわ。」

 

神田明神の階段を見ながらそう呟くのはμ'sの元メンバー、絢瀬絵里と東條希の二人である。

 

「今日は買い物に付き合わせちゃってごめんね、希。」

 

「ううん、気にせんといて。ウチもここに寄りたいって言ったんやし。」

 

「それより聞いた?穂乃果たちが警察に補導されたった話?。」

 

「補導?」

 

「何でも幽霊青年を尾行してたんだって。」

 

「幽霊青年?」

 

絵里の話に首を傾げる希。すると

 

ヒュン

 

何かが頭上から降ってきた。よく見るとそれは頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年だった。

 

ダンッ

 

青年はそのまま絵里の目の前に足を曲げて着地する。

 

「キャッ!」

 

いきなりのことで絵里は小さな悲鳴をあげ、その場に尻餅をつく。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

青年は立ち上がると、何事も無かったかのように歩きだそうとするが

 

「ちょっと!」

 

「???」

 

いきなり声を掛けられ、青年はゆっくりと絵里に視線を向ける。

 

「どうしたんだ、お前?」

 

「どうしたじゃないわよ!あなた何処から現れたのよ!?」

 

その言葉に青年は階段の上にある神社を指差した。

 

「階段降りるより、オイラこの方が楽でいいんよ。」

 

そう言うとにししと笑う青年。

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

その言葉に二人は唖然とする。すると階段の上から

 

「待ちなさーーーーーい!!!!」

 

叫び声がした。

 

「!?」

 

青年は何かを思い出したように階段の上に目線を向ける。するとそこには

 

「あれって・・・・・・・」

 

「真紀ちゃん?」

 

真姫は物凄い勢いで階段を降りてくる。その光景に青年は

 

「何でだ?何であいつ(真紀)はオイラを追いかけて来るんだ?」

 

と呟く。そして追いかけてくる真姫から青年はわけもわからず逃げることにした。

 

「待てーーーーーっ!!!!」

 

そして真紀も急いでいるのかそのまま絵里たちの横を通り過ぎる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

そして二人の後ろ姿を見ながら希はカードで二人の運勢を占ってみた。

 

「こ、これは・・・・」

 

「どうしたの希?」

 

「二人の運勢を占ってみたんやけど、あの二人・・・・これからすぐ恐ろしい目に合うわ・・・・・」

 

あまりの出来事に驚く希と絵里。 

 

「それ、本当!?」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

そして心配になった希と絵里は二人の後を追いかけ始める。



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第七廻:希と不良

「ふぅー、何とか撒いた見てえだな。」

 

そう言いながら青年はその場で腰を下ろす。激闘、五時間半。ついに地上最強の鬼ごっこにピリオドが打たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見〜つけた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシッ

 

「!?」

 

後ろで声がしたと同時に腕を掴まれる。

 

「さあ、大人しく訳を聞かせて!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、路地裏では。

 

「なあなあ、暇なら俺らと一緒に遊ぼうぜ?」

 

「・・・・・結構です。私たち、ちょっと急いでるんでこれで失礼します!!」

 

青年を追いかけていた真紀と絵里。だが不運にも彼女たちは三人の不良高校生達に遭遇してしまった。真紀は何とか不良達の横を通り抜けようとする。

 

「そんなこと言わないでさぁ」

 

ガシッ

 

だが、不良の一人に腕を掴まれてしまう。

 

「やめて!離してよ!」

 

「いやいや!誰か助けて!」

 

泣き叫ぶ彼女たちだったが、人気がないせいか誰も駆けつけて来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぷー、ぷー。

 

「おっかしいな。」

 

携帯で絵里たちに連絡するが一向に繋がらない。

 

「オイラ、ちょっと用事があるんだけど・・・・」

 

そう言うと青年はその場から去ろうとするが

 

ガシッ

 

腕を強く掴まれていて逃げられない。そんな青年を無視し、もう一度電話をかける希。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

真紀と絵里はどこかの倉庫に連れてこられ、縛られて椅子に座らされていた。そんな彼女たちを見ながら、いやらしい顔をした不良が口を開く。




 

「おい、見ろよ!!こいつらμ'sの西木野真姫と絢瀬絵里だぜ!」

 

「マジ!?うわ、本物だ!?」

 




不良たちが彼女たちを見て驚きの顔をする。

 

「ごめん、エリー 巻き込んじゃって。」




 

「大丈夫、気にしてないわよ。」




 

(何でこんな事になっちゃったのよ。元はと言えば全部あいつが悪いんじゃない。)

 

責任を一方的にこの場にいない青年に押し付ける真紀。すると不良たちはニヤけた顔で真紀たちに歩み寄る。

 

「ひっ!?いや!来ないで!!」

 

「いや!!誰か助けて!!」

 

「バーカ、そんなんで助けがくる訳ねーだろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると後ろで声がした。

 

「真姫ちゃん!!えりち!!」

 

そこには見知った顔が二人立っていた。

 

「何だ、お前たちは・・・?」

 

「オッス!オイラは麻倉葉。で、こっちが友だちの東條希。」

 

「なっ!?・・・・・・・ど、どうも。」

 

いきなり自分が紹介され、不法いながらもぺこりと頭を下げる希。

 

「そこの二人を迎えに来たんだ。」

 

「迎えに?お前たち二人でか?」

 

そう言いながらゲラゲラと笑う不良たち。そして各々の武器を構える。

 

「希、ちょっと下がっててくれ。」

 

「???」

 

言われるがまま希は青年と距離を取っていく。

 

「ちょ、ちょっと何やってんのよ!?早く逃げなさい!!」

 

慌てふためく真紀に比べ青年はどっしりと構えている。

 

「だから大丈夫だって・・・・・・」

 

「無茶よ!あなた一人じゃあ・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人じゃ、ないさ!!!」

 

 

 

その言葉を合図に青年の背中に巨大な光が現れる。

 



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第八廻:誤解と少年

「う〜〜〜。」

 

しばらくして目を覚ます。

 

「!!!」

 

目を開けると辺りは真っ暗。

 

「ここは・・・・・・・・」

 

真紀は辺りを見渡すと先程の不良たちが全員倒れている。

 

「あっ、絵里!希!!」

 

隣で倒れていた友だちに気づき、彼女たちの体を揺さぶる。

 

ゆさゆさ

 

「う~ん・・・」

 

「・・・・・もう朝・・・・?」

 

真紀に起こされ、絵里と希も目を覚ます。

 

「あれ・・・・?」

 

「どうなったん?」

 

三人は立ち上がると辺りを調べ始める。

 

カタン

 

「何、これ?」

 

落ちていた物を手に取る。それは

 

「あっ、これ。あいつのだ。」

 

木刀だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

真紀は自分の記憶を手繰り、先程のことを思い出す。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

突然青年の背中から巨大な光が現れる。青年は右掌を天高くあげると、その光が掌に集まってきた。青年はその光を体内に取り込んだ。それと同時に不良たちは全員青年に飛びかかる。そこから先は頭に靄がかかったようにあいまいだ。

 

「あっ、そうだ!あいつは!?」

 

辺りを見渡すが少年の姿がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーポーピーポー

 

ピーポーピーポー

 

するとパトカーのサイレンがこっちに近づいてくる。

 

バタンバタン

 

パトカーから降りた警官たちがやってきた。良かったこれで助かる。心の底から安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君たちか!木刀振りながら暴れているっていうのは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『「へっ?」』」

 

 

 

 

 

 

警官の言葉に三人は唖然とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、立って!!」

 

そう言いながら警官たちは真紀たちの腕を掴む。

 

「違います!!私たちはその・・・・・・」

 

「だから私たちは違いますって!!」

 

「犯人はとっくに逃げたの!!」

 

必死で弁解する三人だが

 

「はい、はい、犯人はみんなそう言うの!」

 

「言い訳は凶器隠してから言いなさい!」

 

そう言うと警官たちは真紀が持っていた木刀に視線を向ける。木刀には大量に血がついている。

 

「『「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」

 

物的証拠を出され、彼女たちの顔が青ざめる。

 

「じゃ、調書とるから交番まで来て!」

 

「待って下さい!!」

 

「お願いします、話を聞いてください!」

 

「私たちは違うんです!!」

 

警官に手を引かれ、パトカーに押し込まれそうになる三人。だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その喧嘩、ちょっと待ったーーーーっ!!!!」

 

「???」

 

振り向くとそこには黒人系アメリカ人の少年が立っていた。少年は警官たちと真紀たちの間に割り込む。

 

「喧嘩なんか止めて、俺のギャグでハッピーになろうぜ!」

 

「『「喧嘩?」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九廻:逮捕と身元保証人

カチャ

 

ドン

 

ピーポーピーポー

 

「そんなバナナ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

黒人系アメリカ人の青年が何故か手錠をかけられ、パトカーに押し込まれる。涙目になりながら、必死で無罪を訴える青年。どうやら先程、放ったとっておきのギャグが通じなかったらしい。

 

「君たち、早く家に帰りなさい!!」

 

先ほどもまで真紀たちをパトカーの中に押し込んでいた警官が鋭い口調で言った。

 

「『「は、はい・・・・・・。」』」

 

そして警官たちは去っていった。残されたのは未だに唖然としている真紀、絵理、希の三人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後。

 

「いや〜、助かったぜ!」

 

苦笑いしながら、警察署の玄関から出てくる黒人青年。そしてその後ろから

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

トンガリ頭の青年が出てくる。

 

「一時はどうなるかと思ったぜ!」

 

笑いながら言う黒人青年に対してトンガリ頭の青年は

 

ブチッ

 

バコン

 

切れた。

 

「いい加減にしろ!何故俺や姉さんがお前の身元保証人にならなければいけないんだ!」

 

ドス黒いオーラを纏いながらそう言うと、剣を取り出し、黒人青年に向ける。そしてあまりの恐怖に尻餅をつきながら後ずさりする黒人青年。

 

「い、いいじゃねえか。『チームTHE蓮』で一緒に戦った仲間だろ?」

 

あはははと笑いながら何とかトンガリ青年を宥めようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの!」

 

「『!?』」

 

突然声をかけられ、二人は振り向く。するとそこには

 

「『「・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」

 

真紀、絵理、希が立っていた。流石にあのまましておくわけにはいかなかったので様子を見に来た三人。

 

「貴様らは?」

 

「あ、私、音ノ木坂大学に通っている絢瀬絵里といいます。そして友だちの東條希と・・・・

 

「西木野真姫よ!」

 

「『「先程は助けていただいてありがとうございました。」』」

 

三人とも丁寧に頭を下げる。

 

「そんなことをいうためにわざわざ来たのか?ご苦労なこった!」

 

「ちょっと!!そんな言い方はないんじゃない!?」

 

トンガリ頭の青年の言い分に真紀は食ってかかる。そしてにらみ合う二人。

 

「まあ良い。用は済んだんだ、俺は帰らせて貰う。」

 

そう言いながらその場を後にするトンガリ頭の青年。

 

「お、おい!待ってくれよ!」

 

そして黒人青年もその後を追う。

 

「『「・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャ

 

「ただいま、姉さん!!」

 

「おかえり蓮!!」

 

店に入るなり、姉に出迎えられる蓮。

 

「あ!お客さんが来てるわよ!」

 

「客?俺に?」

 

そう言いながら店の奥をみると、

 

「よぉ!」

 

頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年がテーブルに座っていた。



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第十廻:待ち合わせと再会

-音ノ木坂大学-

 

「私、今日は先に帰るわね。」

 

「どうしたん、にこっち?なんか用事でもあるん?」

 

「え・・・?ま、まぁそんなところよ・・・!!と、とにかく先に帰るから!」

 

多少ギクシャクしながらもにこは、走って校門から出ていった。そんな彼女を唖然とした顔で見送る絵理。

 

「何か変ね・・・・・・・・・・」

 

「ふ〜ん。」

 

そしてにこの行動に不信感を感じた希は携帯を取り出し、電話をかける。そして数分後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標発見にゃ!」

 

希から連絡を受けた穂乃果たちは、すぐに家を飛び出していった。希と絵理がにこを尾行し、今いる位置をLINEのグループトークで随時、連絡していく。

 

「何処に行くんだろう?」

 

先ほどから何遍も辺りを見渡すにこ。明らかに挙動不審である。そしてしばらくして小さな喫茶店へと入っていった。穂乃果たちも道路の向かい側からにこをこっそりと観察する。

 

「お店に入っちゃったよ。」

 

「なんで後をつけるの?」

 

「だってあやしいんだもん!」

 

真紀の言葉に穂乃果がつっこむ。

 

「まさかここでバイトしてるとか?」

 

そう言いながら穂乃果たちはにこがこの店(喫茶店)でバイトしている光景を想像する。

 

「はまりすぎだにゃ〜!」

 

「待って、違う見たいよ!」

 

そう言われ、視線を戻すと、にこはウェイトレスに案内された禁煙席に座る。

 

「なんだ!お客さんとして店に来ただけか!」

 

何故か心から安心する穂乃果たち。そしてしばらく観察していると、

 

「誰かと待ち合わせしてるのかな?」

 

「でもそれだけであんなにコソコソするでしょうか?」

 

「・・・・そうだね・・・・・・」

 

「どんな人だろう・・・・?」

 

穂乃果たちはにこの待ち合わせの人物の事が気になり始めた。

 

「余程大切な人とか・・・・・」

 

「どうしても私たちに紹介したくない相手とか・・・・・」

 

様々な推理が穂乃果たちの頭を駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!!!」

 

そんな中で喫茶店に新しい客が入ってくる。

 

「『「『「『「『「!!!!!!!」』」』」』」』」

 

その人物に穂乃果たちは思わず驚きの言葉をあげそうになるが、何とか堪えた。見覚えのあるあの姿、頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた青年、麻倉葉。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

葉は店の中をキョロキョロ見渡すと、禁煙席に座るにこと目があった。

 

「よぉ!」

 

葉はニコリと笑うと、にこの向かい側の席に座る。そしてその様子を見ていた真紀たちは

 

「な、なななななななんであいつがここにいるのよ!!」

 

「おおお落ち着いてください、真紀!!」

 

「そ、そうよ!!みんなも冷静になりましょう!!」

 

興奮を抑えきれずにいた。



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第十一廻:チケットとリーゼント

「わざわざ呼び出してすまねえな!」

 

「いいわよ。予定なかったし・・・・」

 

苦笑いしながらにこに謝る麻倉葉。

 

「すまねえな。」

 

にこから財布を受け取ると、ポケットにしまう。

 

「これは少しばかりの礼だ。」

 

そう言いながら葉は反対のポケットから何かを取り出す。

 

「そ、それは・・・・・・・」

 

それはアイドルコンサートのチケットだった。にこはチケットを葉から受け取る。

 

「う、嘘でしょ・・・・・私だって購入できなかったのに・・・・」

 

アイドル好きのにこにとって、葉がA-RISEのライブのチケットを手に入れたことに驚きを隠すことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、あんた!!!」

 

「『???』」

 

突然声をかけられふりむくと、そこには

 

「あ、あんたたち・・・?どうして・・・?」

 

無言で殺気を放っている穂乃果たちがおり、それを見たにこは体中から大量の汗を流しながら体を震わせ、少しであるが恐怖していた。一方で葉は動揺することもなく

 

「何だ、おめーら?」

 

呑気に口を開く。

 

コトン

 

すると、当然のことながら、怒りのオーラを纏った希が葉の元に近付いて見覚えのある木刀を彼の目の前に差し出した。

 

「――これが分からないなんて言わんよね?」

 

「???」

 

「よくも身代わりにしてくれたわね!!!」

 

「おかげでこっちはむちゃくちゃよ!!」

 

希に続いて真紀と絵里も声をあげる。

 

「律儀な奴だな・・・・・。木刀返しに来てくれたのか?いいぞ別に、オイラのじゃないし。」

 

ブチッ

 

「違うわよ!!!」

 

 

 

 

 

ガシッ

 

「???」

 

にこは葉の腕を掴むと、

 

「逃げるわよ!」

 

そのまま走り出す。

 

「あっ!逃げた!!」

 

葉はにこに引っ張られながら財布から小銭を取り出すと、

 

チリーン

 

レジの前に放り投げる。

 

「ありがとうございました!!」

 

そして引っ張られながら店を出る。

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。公園では

 

「あれー?」

 

「いないにゃ!」

 

「どこいったの?」

 

急いで追いかけた穂乃果たちだったが、途中で二人を見失ってしまった。

 

「あっ!」

 

するとベンチに座っている大きなリーゼント頭の男が目にとまる。おそらく公園の入り口に止めてあったバイクも彼の物だろう。

 

「あの〜、すいません!」

 

「ん?なんだい、お嬢ちゃんたち?」

 

「黒いツインテールの女の子と頭にヘッドホンを付けている男の子を見ませんでしたか?」

 

「ああ〜、そいつらならあっちに行ったぜ!!」

 

男は駅の方を指差した。

 

「本当ですか?」

 

「よし!行こう!!」

 

「うん!」

 

穂乃果たちは互いを見つめ合い、頷くと。

 

「『「『「『「『ありがとうございました!!!』」』」』」』」

 

礼を言い、去って行った。



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第十二廻:落し物とコンサート

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

穂乃果たちがいなくなったのを確認すると男は

 

「いきゃしたぜ、旦那。」

 

ベンチの後ろにある草陰に声をかける。

 

ガサゴソ

 

「いや〜、助かったぜ。ありがとな、竜!」

 

「全く。ひどい目にあったわ。」

 

草陰から葉とにこが姿を現す。

 

パッパッ

 

二人は身体中に張り付いた葉っぱやコケなどを払い落す。

 

「しっかし、何で追われてたんですか?」

 

リーゼントの男は心配そうに問いかける。彼の名は梅宮竜之介。『木刀の竜』の通り名を持つベストプレイスを探す永遠の旅人である。

 

「そうよ。あんた一体何したのよ?」

 

竜の言葉ににこも葉に視線を向ける。

 

「う〜ん、オイラにもよく分からねえんだ。」

 

あははと笑いとばす葉。

 

「『・・・・・・・・・・・・。』」

 

そんな彼を呆然としながら見つめる竜とにこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

「ふっふふふふふふふふ。」

 

サングラスとマスクで顔を隠しながら、コンサート会場の列に並ぶにこ。マスクで隠しているものの、その口元は明らかにニヤけている。まさか財布を拾っただけで、こんな美味しい思いができるなんて。やはり人間はコツコツ真面目に生きるべきだ。これは日頃がんばっている自分へのご褒美に違いない。にこは今日初めて神様に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてコンサート会場の駐車場。

 

ブーン

 

ブロロロ

 

「竜、助かったぜ!」

 

「いいってことっすよ!それより急がないと間に合いませんぜ!」

 

「あっ、本当だ!わりい、それじゃあな!!」

 

竜のバイクでコンサート会場に送ってもらった葉。とある用事でにこに連絡をとった葉。だが時は既に遅く、彼女はコンサート会場に出発していたので、こうして彼女を追いかけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

ゴソゴソ

 

「あれ、あれ、あれ?」

 

鞄をお急ぎであさる元μ'sのメンバー、矢澤にこ。

 

ガサゴソ、ガサゴソ。

 

「お客様、どうかしましたか?早くしてください!」

 

昨日、葉から貰ったコンサートチケットを必死に探す。確かに昨日はちゃんとあったはずなのに。

 

「ない、ない、ない。」

 

「困りますよ、お客さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてさらに数分後。

 

「う〜んと、どこだ?」

 

会場についた葉は大急ぎでにこを探し始める。その手にはにこが落としたライブのチケットが握られていた。

 

「あっ、お客さん!もう始まってますよ!」

 

側にいたスタッフが葉の腕を掴むと、そのまま会場の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まいったな〜っ。」

 

まさかこんなことになるとは、流石の葉も頭を抱える。なぜかと言うと、会場の中は人混みが多いのでまともにたってもいられない。



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第十三廻:花陽と事故

ステージにスポットライトが当たると、3人の女性が登場し、会場が一気に盛り上がっていった。

 

「今日は私たちのライブに来てくれてありがとう!今日はこの日の為に新曲を作ってきました!是非、聞いていってください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ・・・・・」

 

「はい?あっ!」

 

葉は、目を輝かせながらステージに目線を向けている少女に尋ねる。

 

「ゆ、ゆ、幽霊少年!」

 

「???」

 

少女は葉を見るなり、驚いた表情をする。そんな彼女の様子など気に止めず、葉は質問する。

 

「アイツらって芸能人とかなのか?」

 

そう言いながら葉はステージの上にいる三人に視線を向ける。

 

「ええ!?知らないんですか!?あの人はA-RISEのみなさんです!」

 

「あらいず?」

 

「元スクールアイドルで第1回ラブライブの優勝者で今はアイドルやってるんですよ!」

 

「ふ〜ん。そんじゃあ、オメエは何回もここに来たことがあるのか?」

 

「いえ、実は今回が初めてなんです。今までも何回か、応募はしてみたんですけど全然当たらなくて・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・。」

 

「あ、私、小泉花陽といいます。」

 

「オイラは麻倉葉。よろしく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうした?」

 

葉はいきなり誰かと話し始めた。

 

「どうかしたんですか?」

 

いきなり独り言を話し始める葉に花陽は声をかける。だがそんな彼女を無視し、葉はステージの天井に視線を向ける。

 

ギギギ

 

天井に設置してある鉄パイプの柱が音をたてて少しずつ傾き、ゆっくりとステージの3人のほうへ傾いていく。

 

「あぶない!逃げろ!」

 

「あっ!」

 

アイドルの一人が躓いて、その場で転んでしまった。そして鉄の柱は彼女目掛けて落ちてくる。

 

ドーン!!

 

「「ツバサ!」」

 

会場中はツバサが鉄パイプの柱の下敷きになったことに、動揺してしまう。

 

「ツバサ・・・」

 

「そんな・・・」

 

英玲奈とあんじゅは絶望的な表情になる。だが

 

「大丈夫か?」

 

「ありがとう、助かったわ・・・!!」

 

声がした方に行ってみると、そこには葉と彼に助けられたツバサがいた。

 

「怪我は、ねえみてえだな?」

 

「え・・・ええ・・・」

 

ツバサは自分を助けてくれた葉に礼を言う。そして英玲奈とあんじゅもツバサが無事でよかったという事にホッとする。

 

「大丈夫ですか?」

 

そういいながら花陽は葉に駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

葉は身体中についた埃を落としながら、立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーポーピーポー

 

「それじゃ、またな!!」

 

このままここいると面倒くさい事になると悟った葉はその場から歩き出す。

 

「あっ、ちょっと・・・・・」

 

ツバサの静止も聞かず、葉は大急ぎで走り出す。

 

「えっ・・・・あ・・・・・待って下さい!」

 

突然の事で花陽はオロオロしていたが、急いで葉を追いかける。



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第十四廻:事件とにこ

「あの〜」

 

「ん?なんだ?」

 

「いいんですか、あのまま出てきちゃって・・・・」

 

「まあ、何とかなるって!」

 

そう言いながら笑みを浮かべる葉。

 

「ん?」

 

ふとファミレスの前を横切ると、店の中に見知った人物がいた。

 

「(T ^ T)」

 

テーブルでシクシクと泣いている元μのメンバー、矢澤にこ。

 

「よぉ!どうかしたのか?」

 

「にこちゃん?」

 

店に入り、葉と花陽は声をかけるが、にこは顔をあげない。

 

「『???』」

 

訳が分からず、二人は顔を見合わせる。すると花陽のスマホに一本の電話がかかってきた。

 

「はい、もしもし。」

 

『小泉さん?』

 

「あんじゅさん。どうしたんですか?」

 

電話の相手は、あんじゅであった。

 

「ねぇ、ツバサを見ていないかしら?』

 

「ツバサさんですか?見てませんけど・・・・どうかしたんですか?」

 

「ジュースを買いに行ったきり帰って来ないの。さっきから英玲奈が携帯に電話してるんだけど、全然繋がらなくて・・・・今、みんなで探してるの・・・・・』

 

「そ、そんな・・・どうしよう・・・」

 

花陽は、慌て出す。すると天井に視線を向けていた葉は

 

「ちょっと、変わってくれ。」

 

真剣な顔で花陽に詰め寄る。花陽は、葉にスマホを渡すと、

 

「おい、聞こえるか?」

 

「え?君はもしかしてさっきの・・・・・?」

 

「麻倉葉だ。今は説明している時間はねぇ。ツバサはオイラが助け出す、会場にいる奴らにはなんとか誤魔化しといてくれ。」

 

「え!?ちょっと!?」

 

葉はそれだけ言うと、一方的に電話を切ってしまった。

 

「よし、行くぞ!」

 

そう言いながら走り出そうとする。だが

 

「ちょっと!どこに行くの!?」

 

にこに腕を掴まれる。

 

「アイツを助けに行くんだ!」

 

「助けるって・・・・・一体どう言うことよ!?」

 

「心配するなって、何とかなる。」

 

葉はにこの腕を振りほどく、店を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、行っちゃました・・・・・」

 

「本当に何がどうなってるのよ!?」

 

状況が理解できず、二人は混乱する。

 

「ん?」

 

するとにこの視線は、奥のテーブルに座っている三人の男たちに止まる。

 

「!?」

 

にこは、急いで彼らの元に向かう。

 

「ちょっと、アンタたち!!」

 

「『「???」』」

 

テーブルに座っていたのはリーゼントの男、トンガリ頭の少年、黒人系の少年の三人であった。

 

「お!嬢ちゃん!どうしたんだ?」

 

慌ててるにことは反対に三人はのんびりと視線を向ける。

 

「実は・・・・・」

 

にこは急いで状況を説明する。だが

 

「『「そうか(い)。」』」

 

事情を話しても顔色一つ変えず、呑気にコーヒーを飲み出す始末。

 

「何でそんなに落ち着いているのよ!!!!」

 

そんな三人ににこは、声をあげる。だが蓮は、ゆっくりと口を開く。

 

「やかましいぞ、女。大体貴様、一体何者だ?」

 

その言葉ににこは待ってましたとばかりに胸を張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっこにっこにー!あなたのハートににっこにっこにー!笑顔を届ける矢澤にこにこー。にこにーって覚えてラブニコ♥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、あのロックボーカリストの!!」

 

ガクッ

 

にこは、その場にずっこける。

 

「違うぜ。ほら、ユーチューバーの・・・・・・・。」

 

「あれは、奈良岡にこだ。」

 

「じゃあ・・・・・・・」

 

三人は、にこに視線を戻す。

 

「『「・・・・・・誰だ、こいつ?」』」

 

 

チーン

 

 

にこはその場に崩れ落ち、

 

「(T ^ T)」

 

シクシク泣き始める。



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第十五廻:翼とシャーマン

「あー!今日も疲れたー!」

 

いつものように穂乃果は生徒会の仕事を終え、帰宅していた。

 

「ん?・・・・・・あれって・・・・・」

 

目の前を誰かが横切る。見覚えのあるあの姿、頭にヘッドホン、足に木製の便所サンダルを履いた少年、麻倉葉。

 

「・・・・・・・・・・。」

 

穂乃果は大急ぎで彼の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここって・・・・・・・・・・・・・」

 

やってきたのは今は使われていない古い工場だ。

 

ごくり

 

穂乃果はオロオロしながら中へ進んでいく。すると

 

「なんだ、お前は!?」

 

いきなり声がした。物陰に隠れ、こっそりと声のした方を覗くと、黒尽くめの男たちが葉に絡んでいた。そんな葉は女性を庇うように立っている。女性には見覚えがあった。

 

「あ、あれってもしかしてA-RISEのツバサさん!?な、何でいるの!?」

 

穂乃果は葉の傍にいる女性が、かつてラブライブでμ'sと死闘を繰り広げたA-RISEのリーダーである綺羅ツバサであることに驚いてしまっていた。

 

(どうしょう!?どうしょう!?)

 

見るかにヤバい状況だ。急いで携帯を取り出し、警察に電話しょうとする穂乃果。だが

 

「ほんじゃ、行くか!」

 

葉はニッコリと笑う。すると何かが彼の後ろで光かりだした。

 

「阿弥陀丸!人魂モード!!」

 

葉は右掌を天高くあげると、光が掌に集まってきた。

 

「憑依合体!!」

 

掌に集まった光の玉をそのまま体内に入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまえ!!!」

 

その言葉を合図に男たちは葉に飛びかかる。だがその瞬間、葉の目が光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

まさに一瞬の出来事だった。男たちの体は宙を舞い、地面に叩きつけられる。

 

「何が起きたの!?」

 

影で様子を見ていた穂乃果は目を丸くし、言葉を失う。

 

「次はオヌシたちの番だ。覚悟は良いでござるか?」

 

そう言いながら木刀の先を残りの男たちに向ける。いつものぼーっとした雰囲気は成りを潜め、鬼神の顔になっている少年。

 

「どうした?我が剣に恐れをなしたか、小僧ども。」

 

挑発するような言葉。

 

「こ、こいつ!!!」

 

それを聞き、残りの男たちは葉に飛びかかる。だが

 

「ふっ、殺しはせん。オヌシたちのような奴らに我々の同類となられてはかなわんからな。」

 

一瞬で彼らを倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!起きたのか?」

 

葉は翼に歩み寄り、手を差し出す。

 

「立てるか?」

 

翼は彼の手を取り、立ち上がる。

 

「ありがとう。それよりあなた一体何者なの・・・・・?も、もしかして超能力とか・・・・・?」

 

「オイラは、シャーマン。あの世とこの世を結ぶ者。」



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