仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT (風人Ⅱ)
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プロローグ

 

 

──目が覚めた時、"私"は何故か荒れ果てた荒野のど真ん中に立っていた。

 

 

此処はどこ?

 

 

そんな疑問を胸に強風が吹き荒れ、砂埃が舞うだけで何もない荒野を呆然と見回し佇んでいた。その時……

 

 

 

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァンッッッッ!!!!!―

 

 

「?!キャアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

 

突如、何処からともなく飛来した無数の銃弾が"私"の周りに降り注ぎ、突然の爆発音に驚いた"私"は耳を抑えてその場にしゃがみこんでしまう。そして恐る恐る目を開けて目の前に視線を戻すと、其処には何処から現れたのか、見慣れない様々な仮面を身に付けた戦士達が荒野を駆け抜けて"何か"と戦い始める光景が広がっていた……。

 

 

―ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

「……あ……あぁ……」

 

 

"私"はその戦いを見てただ立ち尽くし、恐怖を感じるしかなかった……。

 

 

仮面の戦士達が、上空から降り注ぐマゼンタの砲弾で吹き飛ばされていく。

 

 

空を翔る居城の姿をした竜も、戦場を走る列車も撃ち落とされてしまった。

 

 

それでも尚、仮面の戦士達はボロボロに傷付きながらもマシンを駆って"何か"へと立ち向かっていく。

 

 

―グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!―

 

 

だが、それでも一人、また一人と、仮面の戦士達が戦場を飛び交うマゼンタの銃弾の前に悲痛な悲鳴を上げて倒れていく。

 

 

そして──

 

 

―ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッッ!!!!―

 

 

「キャアァァァッ!!!」

 

 

 

全ての戦士達が倒れた瞬間、最後に巨大な爆発が私の周りに巻き起こった。

 

 

──其処で、私は見た。

 

 

倒れた無数の仮面の戦士達を、たった一人で倒した仮面の戦士を……。

 

 

 

 

──私はあの戦士を知っている。

 

 

──私は彼を知っている。

 

 

彼は──

 

 

 

 

 

「───ディケイド……」

 

 

 

 

その名を口にした瞬間、何故か理由もなく"私"の頬を一筋の涙が伝い

 

 

"私"の意識は闇へと途切れた──

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーディケイド&リリカルなのは

九つの世界を歩む破壊神 Re:EDIT

 

 

 

始まります──

 

 

 

 



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主人公設定

 

黒月 零

 

性別:男

 

年齢:19歳

 

容姿:漆黒の髪に真赤の瞳

 

魔導師ランク:空戦S+

 

階級:一等空尉

 

役職:戦技教導官

 

所持デバイス:アルテスタ(呼称アルティ)

 

魔法術式:ミッドチルダ式

 

趣味:写真撮影、散歩

 

 

解説:本編の主人公。幼い頃、何故かボロボロの姿で高町家の前で倒れてた所をなのは達に拾われ、身寄りがない事から高町家の家族として迎え入れられた経緯を持つ。

 

 

高町家に拾われた当初は自分の名前や手に握り締めていたインテリジェンスデバイスのアルテスタ(通称アルティ)以外の記憶を全て失っており、最初の頃はアルティ以外には心を開かず冷たい人間性の持ち主だったが、なのはを始めとした多くの仲間や友人達と共にPT事件、闇の書事件、JS事件などの多くの苦難を共にしていく内になのは達の優しさに影響を受け、彼女達と協力して共に事件解決に導いた一人となる。

 

 

性格はなのは達との関わりで幼少期から大分改善されたとは言え、基本的に無愛想で天邪鬼。デリカシーの無さや口の悪さから初対面の人間から悪印象を持たれがちな性格をしている反面、仲間想いで情に厚い一面もあり、管理局に入ったのもなのは達を近くで守る為という理由が大部分を占めている。

 

 

しかしそんな一面も常軌を逸している部分が多く、過去に局内で闇の書事件の一件ではやてや守護騎士達が陰口でなじられたり、提督に就任したクロノを親の七光りと馬鹿にしていた輩に素行の悪い不良という体で喧嘩を売ったり、自分が無茶をしたり汚名を被れば事態が解決すると踏めば即座に実行に移したりするなど、良くも悪くも自分を顧みずに身を呈して仲間を守ろうとする危うさはなのは達の長年の悩みの種となっており、彼女達や周りから度々その件で叱られる事が多い。

 

 

その異常なまでに仲間を守ろうとする無茶無謀さも元からだったという訳でなく、PT事件や闇の書事件後から片鱗が見え始め、明確にタガが外れ出したのは高町なのはの墜落事件以降であり、その一件が原因となって新たな『悲劇』へ繋がる事となり……

 

 

中学の頃、誕生日(高町家に迎え入れられた日)に幼なじみであるなのは達から貰った二眼レフカメラが宝物であり、仕事の時以外はいつも首に掛けて歩いてる。

 

 

だが、何故か彼が撮る写真はどれも酷く歪んでしまうせいでまともな写真を撮る事が出来ず、カメラを貰ってから数年経った今でも腕前は変わらず上達出来ていない。最初の頃はその事で悩んでしまう事も多かったが、今では此処まで来ると逆に愛着が湧いてきてこれはこれでいいか、と思えてきてる模様。

 

 

また自分に自覚はないが顔はかなり良い。そのため局内ではクロノ達と並び(その性格を知らない者も含めて)女性からの人気が高く、女性局員からの告白が絶えない(全て断っているが

 

 

しかし、そんな本人は女運がすこぶる悪い上に恋愛感覚が異常なまでに鈍い。どちらも壊滅的と言っていい程でどんな手を尽くしても改善が出来ず、後者に関しては特にそれ以外に有り得ないという場面で『自分なんぞを恋愛対象として見るなんてありえないとして……』など、自己評価の低さから真っ先に一番の可能性を切り捨てるタチの悪さだが、その異常さは何処か可笑しく……?

 

 

JS事件を解決し、期間満了が迫る機動六課で平穏な日々を過ごす中、自分達の世界で起きた滅びをきっかけに全てのライダーに変身する戦士、仮面ライダーディケイドとなってなのは達と共にライダーの世界を旅する事になる。

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦①

 

 

―機動六課・ロビー―

 

 

──管理局所属、古代遺物管理部の機動課第六部隊。通称『機動六課』

 

 

それは嘗て、地球での闇の書事件に関わったとされる八神 はやてが設立し、数ヶ月前に発生したジェイル・スカリエッティ事件(通称JS事件)を終息へと導く貢献を果たしたとして、ミッドチルダではそれなりに名が知れ渡っている部隊の名だ。

 

 

しかし、あくまで試験的に設立・運用された部隊であり、当初から決まっていた1年という運用期間が間近に迫っている為、現在部隊内は局員達が撤去作業と次の部隊先への引っ越しに追われ中々多忙な日々に追われていた。そんな中……

 

 

「──ん…………んんっ…………あ、れ…………わた、し…………?」

 

 

ロビーの一角のデスク。机の上に山のように積まれた書類に囲まれながら、デスクの上に突っ伏して眠っていた栗色の髪をサイドポニーに結んだ女性……この機動六課の部隊の一つであるスターズの隊長を務め、管理局内でもエース・オブ・エースとしてその名が広く知れ渡っている"高町 なのは"が頬を伝う涙の感覚から目を覚まし、寝惚けた目を擦りながら辺りを見回した後、頭を抑え溜め息と共に項垂れてしまう。

 

 

なのは(あっちゃー……いつの間にか眠っちゃってたかぁ……昨日も遅くまで作業してたから、きっと疲れが残ってたんだっ……)

 

 

やってしまったと、なのはは思わず両手で顔を覆って軽く落ち込んでしまう。もうすぐこの機動六課とも別れ、教え子達も次の部隊で頑張る為に残された日々を訓練に費やしているというのに、教導官の自分がこれでは示しが付かな過ぎる。

 

 

なのは「あーもうだめだめ、しっかりしなきゃっ……って、アレ……?私、なんで泣いて……?」

 

 

きっと大きな事件が終わったばかりで気が抜けているんだと、自分に喝を入れようと両頬をペちペち叩こうとするが、其処で漸く自分の頬に痕が残る涙の存在に気付き、なのはは困惑を露わに涙の線が残る頬を拭った手をジッと見つめていく。

 

 

なのは(……そういえば、夢の中で変な光景を見てたような……アレって一体……?)

 

 

見た事もない様々な仮面の戦士達が何かと戦い、倒されていくという凄惨な夢。

 

 

そして、最後に現れた謎の仮面の戦士。

 

 

今でも鮮明に思い出せる先程の夢を思い出し、なのはは涙を拭った掌を見つめながら目を細めた。

 

 

なのは「ディケイド……何でそう呼んだんだろう……私……」

 

 

何故自分があの仮面の戦士の名前を知っているのか分からない。何処かで見た覚えがあるのだろうかと過去に自分が関わった事件の記憶などを思い返してみても、やはりディケイドという名に覚えはない。

 

 

そもそも結局、あの夢は一体何だったのか?もしや働き過ぎのあまり自分の身体が夢となって訴え掛けている無意識な警告なのではと、夢の内容に身に覚えが無さ過ぎるあまりそんな不安まで覚え始めていた、そんな時……

 

 

 

 

―……せって……!―

 

 

―で……が……!―

 

 

なのは「……?何だろ……?玄関の方が騒がしい?」

 

 

 

 

謎の夢について考え込んでたその時、何やらロビーの入り口の方から騒々しい声が響き、気になったなのははデスクから立ち上がって玄関の方へと向かっていく。

 

 

その道中、何故か作業中にも関わらず足を止めて遠巻きにロビー入り口の方を見つめてざわめく局員達の姿が多く見られ、頭上に疑問符を浮かべながら入り口の方に向かい彼らの視線の先を追うと、其処には……

 

 

「──いいから!早くあの男を出せって言ってるんだっ!」

 

 

「此処で働いてるって本人の口から直接聞いてるんだからっ!いないハズがないでしょっ?!」

 

 

「で、ですからそれは……!」

 

 

──ロビーの受付カウンターに大勢の一般人が押し寄せ、口々にクレームを口にしながら応答する局員に迫る光景があった。

 

 

なのは「な、何この騒ぎっ?どうなってるの?!」

 

 

「あ、な、なのはさん丁度良かったっ……!実は──!」

 

 

「どうもこうもないですよっ!アンタ等のとこの局員さんが撮った写真、何なんですかコレッ!」

 

 

なのは「しゃ、写真……?」

 

 

いきなり何の話だ?と、まだ頭が覚醒し切ってないが為に理解が及ばず一瞬困惑してしまうなのはだが、彼等が揃って手にしてる写真を目にした直後に段々と頭が冴え始め、「まさか……!」と、誰かが置いたと思われる受付カウンターの上の"見慣れた写真"を手にして見て、やっぱりかと項垂れてしまった。

 

 

なのは「……あ、あの、皆さんもしかして、全員同じ人に写真を撮られましたか……?黒髪で、目が真赤い、無愛想な……」

 

 

「そうだよっ!その人に町中でいきなり声掛けられて、『写真一枚どうですかー?』って言われてっ!」

 

 

「あの管理局のエースが撮る写真ならと喜んでモデル引き受けて、言われた通り此処まで取りに来たのにっ!何なのよこの写真っ?!」

 

 

腹ただしげにそう言いながら女性がなのはに突き付けるのは、"彼"が撮った数枚の写真。

 

 

しかし、その写真は何故かどれも酷く歪んでいてモデルになっている女性の顔が上手く撮れていない。

 

 

単純に下手というレベルではなく、中にはグニャリとアメ細工のように顔が歪んでるなど、最早不気味さすら感じる出来だ。

 

 

その最早見慣れた写真を見て間違いないと確信し、聞けば他の人達が持参した写真も同じようにまとなモノが一つもないらしい。

 

 

そうして彼等から一通り話を聞いたなのはは頭痛の走る頭を手で抑えて深々と溜め息を吐くと、受付カウンターの上の一角に束になって置かれてる『黒月零への苦情(クレーム)届』と書かれた書類を手馴れた手付きで一枚手に取り彼らの前に差し出した。

 

 

なのは「……取りあえず、彼への苦情のある方は名前と住所を筆記して受付の彼女に届け出て下さい……。彼の方は私が連れて、後で皆さんのご自宅に直接お伺いして謝罪をさせますので」

 

 

「そんなの待ってられるかよっ!」

 

 

「良いからあの男出せよっ!こっちは写真撮る時に金払ってんだっ!なのにこんな不出来なもん出されたんじゃ、一言文句言わないと気が済まないってのっ!」

 

 

なのは「申し訳ありません、生憎黒月一等空尉は只今休暇で外出中でして……ですがご安心下さい♪黒月の方は私が

 

 

か な ら ず

 

 

見つけ出し次第、皆さんの下にお連れして謝罪させますので♪」

 

 

「……え……あ、はい……わかりました……」

 

 

(ありゃー……なのはさんがまたお怒りだよ……こりゃ今日も零さん、血を見るな……)

 

 

(ついこの間も別件でやらかして、廊下で正座させられた上に首からプラカードぶら下げてなかったっけ……なんて書かれてたか忘れちゃったけど……)

 

 

(八神部隊長とフェイトさんが本局に出向中なのが唯一の救いかなぁ……前にあの三人相手に絞られた後、流石の零さんも死んだような顔になってたし……)

 

 

なのはの応対の内容に納得が行かず怒り心頭な様子の市民達だったが、彼ら以上の怒りの炎を背後に燃えたぎらせるなのはの素晴らしい笑顔の威圧感に気圧されて震え上がる彼らの姿を目にし、局員達は揃ってこれから地獄が待つであろう"彼"の身を案じて内心静かに合掌していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

―自然公園―

 

 

ミッドチルダ中央区画にある、とある自然公園。綺麗な噴水や自然、様々な遊具などを取り揃えてる事からお年寄りから子供までの憩いの場としてそれなりに人気のあるその場所にて、傍らにマゼンタと黒の派手めのバイクを停め、一人の青年が芝生の上で片膝を着きながら風景を撮影する姿があった。

 

 

首から下げたピンク色の二眼のレフカメラのファインダーを真赤い瞳で覗き込み、青年が気に入った風景にレンズを向けてシャッターを切ろうと指に力を込めた、其処へ……

 

 

「──やっと見付けたぞっ!」

 

 

「……?」

 

 

背後から不意に怒鳴り声が聞こえ、怪訝な顔でファインダーから顔を上げた青年が振り返る。

 

 

其処には何やら強面の厳つい二人組の男達がズンズンッと公園の入り口の方から怒りを露わにした足取りで歩み寄って来る姿があり、青年の前に立つと共に男の一人が一枚の写真……六課に押し寄せたクレーム客が持参していたのと同じ、光が酷く歪んでまともに撮れていないピンボケ写真を取り出し突き付けた。

 

 

「六課って所にもいやしねぇから探したぞっ!何なんだこの写真っ?!」

 

 

「俺の『全てを撮ってやる』とか自信満々に言って人に金まで払わせといて、それで出来たのがこんなトンデモ写真かっ!?ふざけんなっ!」

 

 

ピンボケ写真の件に加え、彼を探す為に此処まで足を運ばされた事で余計に熱が入っているのか、怒り心頭な様子の男達。

 

 

しかし当の本人……"黒月 零"は男達が突き出す写真を真顔でジーッと見つめた後、男の一人の手から写真を手に取りあからさまに肩を落とした。

 

 

零「あー……また駄目だったか……やっぱ一朝一夕でそう簡単に上手くなる筈もないわな……」

 

 

「『また』?『やっぱり』?オメーやっぱまともに撮る気なんかなかったんじゃっ……!―ガバッ!―……あれ?」

 

 

溜め息混じりにガッカリした様子で自分の写真を眺める零に男の一人が思わず掴み掛かろうとするが、軽い身のこなしで避けられた上、男の手にいつの間にか一枚の茶封筒……零が男達から写真撮影の際に受け取った料金が握られており、何が起きたのか分からず困惑する男を余所に零が軽い口調で口を開く。

 

 

零「受け取った料金ならその封筒の中に全額入ってる。他にも金を取られた奴がいるんなら、六課の届け出に名前と住所を書いといてくれ。受け取った料金はいつでも返せるようにそのまま残してあるから、後で俺が個人で全員に返して回っておくよ」

 

 

「は、はあっ?ふざけんなっ!其処は先ず謝罪が先だろうがっ!」

 

 

零「ウン?謝罪、と言われてもなぁ……生憎、それが今の俺の自信作である事に違いはないんだ。出来が気に入らないという意見も分かるが、それも含めて"俺"でもあるし、実際に悪いとも思っていないのに心にも無い謝罪をするなんて俺には出来ん。まぁ代わりにと言ったらアレだが、次にまた変な勧誘や詐欺にでも遭った時に今回の事を思い出すといいぞ。その程度の価値はある教訓にはなっただろ?」

 

 

「んなっ……!こ、こんの野郎っ……!「待て」……えっ、あ、兄貴っ?」

 

 

悪びれる所か寧ろ開き直り、微笑を浮かべて飄々とそんな傍若無人な発言を口にする零に男の一人が再び憤って掴み掛かろうとするが、兄貴と呼ばれた男がそれを制止し、弟分の手から奪い取った茶封筒の中の料金を確認していく。

 

 

「……確かに払った金は全部入ってんな……しかし解せねぇ。目的が金儲けでもねえなら、この前の事件を解決した管理局のエーユー様がこんな事して、何でわざわざ市民様のお怒りを買うような真似してんだ?」

 

 

零「……またそれか……取りあえず、その英雄呼びは止めてくれ。実際にこの前の事件の解決に貢献したのはなのは達……機動六課のメンバーや、次元航行隊を率いたハラオウン提督とその部下だ。俺はただ自分の仕事を全うしただけに過ぎん」

 

 

兄貴分の男の英雄呼びにあからさまに嫌そうな顔を浮かべながらそう訂正しつつ、零はトイカメラのレンズを調整し、適当な風景を撮影しながら改めて男の質問に答えていく。

 

 

零「別に、何か大した理由があるって訳でもないさ。かれこれコイツで写真を撮り続けて……5、6年?くらい経つが、どれだけ撮っても何故かいつもそんな感じで一向に上手くならなくてな……最初は自分でも不出来な写真だとは思ってたが、此処まで来ると逆に愛着も湧いてきて『まあこんなもんだろう』と漠然と受け入れるようになってた」

 

 

カシャッ!と、そんな零の話の合間にもシャッター音が何度も鳴り響き、男達の方にもレンズを向けようとするも、彼の写真の出来を知っている男達は慌ててレンズから逃げるように両端に避けた。

 

 

零「……ただ最近、少しだけ普通の写真を撮りたいって欲が沸いてきたもんでな……。其処で一つ考え付いて、人から金を貰って撮るとなれば『これは失敗出来ない!』と自ずと何時もより気合が入って今度こそ上手く撮れるんじゃないか……などと考えた訳なんだが、その目論見も外れたみたいでなぁ……」

 

 

「なんだそりゃ……」

 

 

「ようするに何の意味もねえって事じゃねぇかよっ!ったく、こっちにまで無駄な時間使わせやがってっ!」

 

 

零「オイオイ、そう簡単に何でもかんでも無駄と決め付けるなんてあまりに早計だろう?例えば俺なんかは今回の一件で、自分の写真の腕前がそう簡単に上がる事はないと分かった。そっちは今後遭うかもしれない詐欺被害のシュミレーションが出来た。な?物は考えようって奴だ」

 

 

「仮にも公務員の台詞とは思えねぇ暴論だな、オイ……」

 

 

あまりに酷い開き直りように至極真っ当過ぎるツッコミを入れてしまう兄貴分の男。しかしやはりと言うべきか零は気にする素振りもなく、二眼のレフカメラのファインダーから顔を上げて溜め息を漏らし、

 

 

零「大体本当の無駄っていうのは、今後使われるかも分からないモノに力も時間も労力も注ぎ込むって事だ。それで言えば有名なエースオブエースなんて見てみろ?アイツ、未だに胸の脂肪が無駄に増え続けてると来たもんだ。今後何かに使う機会があるかも分からんというのに、あれこそこれ以上増やして何の意味があるというのか」

 

 

「ふーん……誰の何が無駄って?」

 

 

零「現在進行形で増え続けるお前の胸の脂肪以外に何があるってんだ?まぁ、お前に限らずフェイトやはやても似たようなもんだし、昔からそんな感じだったから今更って気もしなくもな、い……が…………」

 

 

全くなぁ、などと後ろ首を摩りながら自分の幼馴染組の身体的特徴の一部分をdisるという、下手をしなくてもセクハラ間違い無しの発言をする零だが、其処で漸く、自分の今の発言を拾ったのが目の前の男達ではない事、同時に今の声に滅茶苦茶聞き覚えがある事に気付いて固まり、今の声がした方へとギギギギィッ……と錆びれたロボットのようにぎこちなく振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

なのは「──そっかぁー……私の胸ってそんなに無駄なんだぁー……なるほどなぁー……貴重な意見をありがとうねー?零くぅーん♪」

 

 

 

 

 

──局員の制服の上に外出用のコートを羽織り、後ろ腰に両手を組んだ高町なのはが、これ以上ないほどニコニコの笑顔を浮かべていつの間にか佇んでいる姿があったのだった。

 

 

……無論、その背後には轟々と燃え盛る赤い業火と巨大な般若の幻影が浮かび上がり、心做しか声のトーンがいつもより低く感じられた。

 

 

零「………………………………………………………あの…………いつからこちらに居らしていたので…………?」

 

 

なのは「んー?うーん、そうだなぁ……『謝罪、と言われてもなぁ……』……の辺りぐらいからかなぁー?」

 

 

零「……ああ、そんな前から……成る程……因みに、何故こちらにおいでになられたのか聞くのは野暮……というヤツでしょーか……?」

 

 

なのは「そうだねぇー、理由なら寧ろ零君の方が一番分かってると思うかなぁー♪」

 

 

零「…………ソウカー…………」

 

 

顔こそ何時もの見慣れた笑顔に見えるが、額にはビキィッとしっかり怒りの血管マークが浮かび上がっているのが目に見えて分かる。

 

 

それに気付いた無表情の零の額から一筋の汗が伝い、一度なのはに背を向けて深呼吸をし、一気に空気を吐いたあと……

 

 

 

 

 

ドバァッ!!と地を蹴り上げ勢いよく公園の入り口に向けダッシュする零だが、それを先に読んでいたかのように、歴戦のアメフト部員も顔負けのなのはの見事な腰タックルが炸裂し地面に抑え込まれていった。

 

 

零「ぬぅゥおおおおおおおおおおッッ!!!?しまったぁァああああああああああッッ!!!!」

 

 

なのは「犯人確保ぉおおおおーーーーッ!!大人しく観念しなさぁああああーーーーいぃッ!!!」

 

 

「なっ……何なんだこりゃっ……?」

 

 

「さ、さぁ……」

 

 

なのは「あっ、そちらのお二人も零君の写真の被害に遭われた方々ですねっ?ちょっと待ってて下さいっ!今から少し締め上げて大人しくさせた後に必ず頭を下げさせて謝罪させますからっ!!」

 

 

零「いだだだだだだだだだだだだだだだっっ!!!!な、何が"少し"だ嘘を吐けぇええええっっ!!!!今のコレも完全に私怨が入ってるだろうがぁああっっ!!!!あっ、待てっ、極まってるっっ!!!!今完全に極まってるそれ以上腕は曲がらんっっ!!!!グア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッッッ?!!!!」

 

 

ギギギギギギギギギィッ!!と、これ以上ないほど見事に決まったなのはの腕挫十字固から逃れる事が叶わず悲痛な叫びが公園中に響き渡り、こうして愚か者は正義の公務員の御用となったのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦②

 

 

それから約十数分後。あの後必死に逃走を試みようとした零はなのはの手によって締め上げられた後、半ば強引に頭を下げさせられて男達に謝罪しどうにかその場を収める事が出来た。

 

 

そしてその後、そのまま六課に連行しようとするもなのはの技が極まり過ぎたせいか零がまともに動けなくなってしまい、仕方がないと一旦公園のベンチで休憩し零が回復するのを待つ事になった。

 

 

零「ぐぅおおおっ……未だに腕の感覚がねえぞっ……どんだけ馬鹿力込めやがったんだお前はっ……」

 

 

なのは「自業自得。人様に迷惑を掛けた上に見ず知らずの人達の前で人の胸捕まえて、散々好き勝手言ってくれたんだから当然の報いでしょ」

 

 

零「だからそれはさっきから何度も謝っとろうがっ……!」

 

 

未だ快調に至らない左腕を揉みほぐすようにマッサージしながらそう言い返す零だが、そんな零をジトーとした目で睨んでいたなのはは自身の膝の上に両肘を立て、頬杖を付きながら溜め息を漏らした。

 

 

なのは「全くもう……私達にそうやって簡単に謝れるのに、なんであの人達にも素直に謝る事が出来ないのかなぁ、零君は……」

 

 

零「それも何度も言ったろっ……。確かに出来が良いとは言えないだろうが、俺は別にあの写真を失敗作とは思ってないんだっ。自信満々で出した物を悪いとも思っていないのに頭を下げられる筈も無し、寧ろ売り物にならないと自覚して商売してるとしたらそっちの方がタチ悪いだろう?」

 

 

なのは「ああ言えばこう言うんだからっ……だったら何でさっき、「まともな写真を撮りたくなった」なんて言ったのっ?あの写真を失敗と思ってないなら、わざわざ上手く撮れるようになる必要もないでしょっ?」

 

 

そもそもな話、彼が人からお金を貰って写真を撮影する様になったのは此処最近の話だ。

 

 

JS事件解決前まではあくまでも個人の趣味として写真を撮っていたし、それ以外殆ど無趣味で、自分の写真の腕も自覚している彼がこんな顧客の不評を買うしかない無駄な商売をするとも思えない。

 

 

何せ今まで局員として働いて貰ってきた給料や報酬でさえ使い道が思い付かないと今も自分の口座に腐らせているのだから、金銭的に困ってるというのも恐らくないだろう。

 

 

だのに一体何のつもりで彼等や自分達を此処まで振り回すのかと、納得いかない様子でジト目を向けるなのはの視線も気にせず、零はベンチから立ち上がって無事である利き腕で適当な風景を撮影していく。

 

 

零「出来に不満がないとは言え、何事においても向上心というモノは大事だろ?普通の写真も撮れるようになれば、その分趣味の幅だって広がるしな。……後はまぁ、そうだな……」

 

 

なのは「……?」

 

 

今まで饒舌に話していたのに突然歯切れが悪くなり、口を噤む零。そんな零の様子の変化になのはも訝しげに眉を潜めると、零は機動六課がある方角の空を見つめ……

 

 

零「……まぁ、こんな不出来な写真を『門出の記念に欲しい』だなんて言われて、らしくなく張り切り過ぎてたとこは確かにあったかもな……」

 

 

なのは「え……」

 

 

ポツリと小声でそう呟いた零の言葉に、なのはが僅かに目を見開き思わず聞き返すが、零はそれ以上語らず再び写真撮影に戻ってしまう。

 

 

一方のなのはは今の零の言葉の意図が読めず怪訝な表情を浮かべていたが、その時ふと、彼女の脳裏に数日前のとある記憶が過ぎった。

 

 

それは六課の運用期間終了の明確な日程が発表された日。

 

 

部隊を設立した日から分かっていた事とは言え、改めて突き付けられる終わりに感傷を覚えながらも、残り限られた時間の中で新人達の教育に力を注ぐ事に決意を改めたあの日の訓練終わりに、彼がFWメンバーから何かをせがまれていたのを目にした気がする。

 

 

今の彼の言葉の起因が其処にあるのだとすれば……

 

 

なのは「──ほんと素直じゃない……そういう事なら先に相談してよ……こんな事しなくても、言ってくれたら私や他の皆も違うやり方で手伝えた事があったかもしれないのにっ」

 

 

零「……俺が生半可なやり方じゃ上達しないってのは、長年お前が一番近くで見てきてよく知ってるだろう?期間満了まで時間も少ない以上、こうでもして自分を追い込まないと間に合うかどうか分からんしな……ま、結果はこの通り大失敗だったんだが、っと」

 

 

―カシャッ!―

 

 

なのは「わっ……!ちょっ、今気が抜けてる時の顔撮ったでしょうっ?!消してよ今の写真っ!」

 

 

零「無茶を言うなよ、最近のデジカメじゃあるまいし……まあしかし、今のは中々良い顔してたじゃないか?FWの奴らに見せる写真の楽しみが更に増えたなぁ」

 

 

なのは「ほんっとに止めてっ!ああもうっ、何で私達そのカメラをプレゼントしちゃったんだろうって今更ながら後悔してきたっ……!」

 

 

零「ほほーう?過去を見つめ直すのは良い事だ、その調子で今まで自分がどれだけ無茶無謀な真似を繰り返してきたかを改めるといい。特にお前にとってはいい薬になるだろうよ」

 

 

なのは「それ零君が言えた口じゃないでしょーっ?!ついこの前だって、私とフェイトちゃんに来てた任務の受注書を無断で書き替えた上に一人で勝手に引き受けたりなんかしてっ!まだこの前の事件から日にちも経ってないのにその任務で無茶したせいで、アルティさんも調子悪くしてメンテナンス行きになったの忘れたのっ?!」

 

 

零「アルティはともかく俺は良いんだよ、男だし。ワーカホリックのお前と違ってこうやって趣味で適度に息抜きもしてるしな。心のゆとりも身体の出来も違うのさ」

 

 

なのは「良い訳ないよっ!差別だよそれっ!」

 

 

ガーッ!!と、抗議100%で零を睨みながら大音量で叫ぶなのはだが、この会話も何度も繰り返してきた零の方は慣れた様子で何処吹く風とばかりに明後日の方を向きながら撮影を続けていき、今度は公園の池を撮ろうとファインダーを覗き込んだ、その時……

 

 

 

 

―ブォオオオオオオオオオオオオオオンッ……―

 

 

零「……ッ?!」

 

 

 

 

ファインダーから見る風景が突然銀色のオーロラのように歪み始め、そのオーロラから一人の青年の姿が徐々に映し出された。

 

 

『ディケイド……今日、貴方の世界が終わりを告げます……』

 

 

零「なっ……」

 

 

オーロラから出現した謎の青年の口から告げられた意味深な言葉。その内容に零も動揺し思わずカメラから目を離し顔を上げるが、其処には銀色のオーロラも、青年の姿もなく何処かへと消えてしまっていた。

 

 

零「……何だ、今の……ディケイド……?」

 

 

なのは「もうほらっ!動けるようになったんなら早く帰るよっ!まだ他にも苦情に来た人達への謝罪とお金の返金が残ってるんだからっ!」

 

 

再びファインダーを覗き青年の姿を探そうとする零だが、痺れを切らしたかのように零の両肩を強めに揺らしてくるなのはに、零は僅かに戸惑った眼差しでなのはの方に振り返った。

 

 

なのは「……?何?どうしたの?」

 

 

零「なのは……お前、今の……」

 

 

なのは「今の?……あ、ごめん、もしかして今肩掴んだの痛かった……?」

 

 

零「……いや、それは大丈夫だ……ただ……」

 

 

なのは「?」

 

 

さっきの謎のオーロラと青年の姿が見えていなかったのか、なのはの様子は特に先程と変わりない。それでますます困惑を深めた零はもう一度池の方に振り向き、先程の青年について考え込む。

 

 

零(何だったんだ今のは……白昼夢?まさか、俺まで働き過ぎで幻覚を見たなんて言うんじゃないだろうなっ……)

 

 

なのは「……ーい……おーい……ねぇ、本当に大丈夫なの零君っ?」

 

 

零「ん……あぁ、平気だ……そうだな……今日はもうそろそろ戻るとするか……」

 

 

なのは「そ、そう?何か急に素直になったけど……どっか可笑しくなった訳じゃないよね……?」

 

 

零「何でちょっと素直に従っただけで頭の心配までされなきゃならんのだっ……はぁ、いいから帰るぞ……何か急にドッと疲れが出てきた……」

 

 

なのは「???」

 

 

こんな真昼間から幻を見るとは、これではなのはをワーカホリックとは笑えない。今日は大人しく彼女の言う通りに従っておこうと踵を返し、不思議そうに小首を傾げるなのはを尻目に六課への帰路に付こうと歩き出した、その時……

 

 

 

 

―ブオォォォォオンッ!―

 

 

零「……ッ?!」

 

 

なのは「え……な、何ッ?!」

 

 

 

 

突如零達の目の前から灰色のオーロラが何処からともなく現れ、そのまま壁のように猛スピードで迫ったかと思えば二人の前を潜り抜けるように通り抜けていったのである。

 

 

零(今のは、さっきのっ……?!)

 

 

なのは「な、何だったのっ?今、確かっ……!」

 

 

「──きゃあああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

零&なのは「「?!」」

 

 

先程幻覚かと思われた銀色のオーロラが再び出現し驚愕を露わにする零の隣でも、初めて目撃した銀色のオーロラになのはも動揺を隠せずにいたが、今度は何処からか悲鳴が響き渡り、慌てて今の悲鳴が聞こえてきた方へと振り返ると、其処には……

 

 

―ブォオオオオオオオオオオオオオオオンッ……!!!!―

 

 

──ミッドの上空を先程と同じ銀色のオーロラが覆い尽くし、更にはそのオーロラが次々とビルや建物を呑み込んで消滅させていくというありえない光景が広がっていたのだ。

 

 

突然のそんな非常事態を目の当たりにして零達だけでなく周りの人々もパニックになる中、更に消滅したビルから数え切れない程の数の巨大な怪物達が翼を羽ばたかせて姿を現した。

 

 

零「何だありゃっ……?!」

 

 

なのは「か、怪物っ……?!って、待って、何かこっちに来てるっ?!」

 

 

オーロラに続いて突如現れた謎の怪物の群れを見て戸惑う暇もなく、空を慌てて指指すなのはの言う通り、複数の巨大な怪物の一体が群れから離れて低空飛行で零となのはに目掛けて迫り来る姿があった。

 

 

零「まずいっ……!なのは!早く逃げ──!」

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

零「うぉおおおおおおおおおおッ!!?」

 

 

なのは「キャアァァァァァァァアッ!!?」

 

 

迫り来る巨大な怪物を見て零が咄嗟になのはに逃げるように呼び掛けようとするが、それよりも早く怪物が零となのはの間を横切り、二人を左右別々に吹き飛ばしてしまう。

 

 

更にそれだけで終わらず、直後、怪物が横切った場所に突然銀色のオーロラが壁のように現れ、二人の間を隔ててしまった。

 

 

零「ッ?!なのはッ!!」

 

 

なのは「ッ……うぅっ……な、何がっ……って、れ、零君っ?!」

 

 

オーロラの向こう側に隔てられたなのはを見て慌てて零がオーロラの壁に駆け寄ると、怪物が横切った衝撃で地面に倒れ込んでしまっていたなのはも壁の存在に漸く気付き、ふらつきながら身を起こしオーロラの壁に近付いていく。

 

 

零「おいなのは、無事かっ?!何処か怪我はっ?!」

 

 

なのは「わ、私は大丈夫……!それより何なのこれっ?!結界っ?障壁っ……?!」

 

 

零「いや、俺にも分からないが何かが違う!コイツは一体っ……?!」

 

 

二人の間を隔てる壁を何度も叩いたり殴り付けたりしてもビクともしない。唐突な事態の連続に状況が一切呑み込めず困惑が深まるばかりな中、突然壁の色が徐々に濃くなっていき、向こう側に見えるなのはの姿が見えなくなり始めていた。

 

 

零「ッ?!お、おいなのはっ……?!何だどうなってるっ?!なのはァッ!!」

 

 

なのは『──?!──!!──ッ!!!』

 

 

必死に壁を殴って向こう側のなのはに呼び掛け続ける零だが、それも虚しく徐々に壁の色が濃くなるにつれてなのはの声も届かなくなっていき、やがて完全に向こう側も見えなくなってしまった。

 

 

零「お、おいッ?!クソッ!一体何がどうなってるんだッ?!」

 

 

なのはの姿が完全に見えなくなってしまい、零は苛立ちをぶつけるように壁を殴りながら彼女を探しに急いでその場を離れようとするが、振り返った先には自分達がいた公園はなく、何故か空に満月が浮かぶ、何処かの見知らぬ街中の夜の広場のような場所へといつの間にか変わっていた。

 

 

零「……何だ……これ……?」

 

 

「──どうやら、始まったみたいですね……」

 

 

零「ッ?!」

 

 

いつの間にか場所が変わっただけでなく、空も夜中にまでなっていて零が不思議そうに辺りを見回していると、突然聞き覚えのある声が聞こえて振り返った。すると其処には、先程の公園でファインダーに映っていた青年がゆっくりとこちらに向かって歩いて来る姿があった。

 

 

零「お前……さっきの……!」

 

 

「貴方のバックルとカードは何処です?」

 

 

零「……?バックル?カード?……何の事だ?」

 

 

いきなり投げ掛けられた質問の意味が分からず零は首を傾げながら青年に聞き返してしまうが、青年はその問いに何も答えず、その身体が徐々に透明になって消えていく。

 

 

「急いでください……世界を救うには、貴方の力が必要です……」

 

 

零「お、おい待て!何の話をしてんだ?!おいッ!!」

 

 

徐々に消えていく謎の青年に向けて叫ぶ零だが、青年の姿はそのまま透明化していき、周りの景色に溶け込むように何処かへと完全に消え去ってしまった。

 

 

零「クッ、何なんだクソッ!……とにかく、早くアイツを探さないと……!」

 

 

突然起きた不可解な異変に、消えた謎の青年。理解不能の展開ばかりが続き未だに混乱が収まらないが、零は青年の言葉が気になりながらも、取り敢えず今はなのはを探し出して無事を確かめなければと、急いでその場から走り出していくのだった。

 

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦③

 

 

その一方……

 

 

なのは「──皆さんこっちにっ!こっちへ避難をっ!零君っ!零くーんっ!!何処に行ったのっ?!」

 

 

謎のオーロラの向こうに消えた零とはぐれてしまった後、なのはは未だミッド中で発生する異常事態によるパニックで逃げ惑う人々を避難シェルターまで誘導しつつ、はぐれてしまった零を探し続けていた。

 

 

だが、避難誘導を続けてる間にも謎のオーロラは上空から立て続けに発生して次々と街を呑み込んでいき、空は無数の怪物に埋め尽くされ完全に都市機能も壊滅状態に陥っていた。

 

 

なのは「ミッドが……何なのこれ……一体何がっ……?」

 

 

「なのはさんっ!」

 

 

なのは「……へ?」

 

 

慣れ親しんだ自分達の街の変わり果てた姿に呆然と立ち尽くしてしまうなのはだが、背後から聞こえた聞き慣れた声に思わず振り返ると、其処には人混みの中から青い髪を揺らして駆け寄って来る一人の少女……零となのはの教え子の一人である、FWメンバーの"スバル・ナカジマ"の姿があった。

 

 

なのは「スバル……!どうして此処に?!」

 

 

スバル「わ、わかりませんっ。さっきまでティア達と一緒で六課にいた筈なんですけど、急に変なオーロラみたいなのが現れて、気が付いたら外に……なのはさんは?」

 

 

なのは「私?私もさっきまで零君と一緒だったんだけど……」

 

 

―ブォォォォォォンッ!―

 

 

「「……えっ!?」」

 

 

二人が事情を説明し合っている中、突然二人の目の前から銀色のオーロラが出現し、まるで分厚い壁のようになのは達を含む周りの人達と共に潜り抜けた瞬間、周りの景色がミッドとは違う別の場所へと変わっていった。

 

 

なのは「な、何これ……?!」

 

 

スバル「こ、これって、さっきのと同じ……?」

 

 

あまりに唐突な事態になのはとスバルだけでなく、オーロラに巻き込まれた周囲の人々も忙しなく周りを見回して戸惑っていた中、その時……

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!?」

 

 

「「?!」」

 

 

突然男性の痛々しい悲鳴が耳に届き、なのは達はその声がした方へと慌てて振り向く。其処には……

 

 

『グウウゥゥゥッ……!!』

 

 

なのは「あ、あれは?!」

 

 

スバル「か、怪物?!」

 

 

再び出現した銀色のオーロラの向こう側から、獣や虫などの様々な動物の姿を形取った異形の怪物の群れ……アンデッドが次々と現れ、逃げ惑う一般人達を一方的に襲う姿があったのだった。

 

 

なのは「次から次へと、何が起きてるの……?!とにかく、行くよスバルっ!」

 

 

スバル「は、はいっ!」

 

 

先程から起こり続ける事態に未だに困惑しながらも、このまま一般市民が襲われるのをただ黙って見ているわけにもいかないと、二人はすぐさま待機状態の自分のデバイスを取り出し構えていく。

 

 

なのは「行くよ、レイジングハート!」

 

 

スバル「マッハキャリバー!」

 

 

「「Set Up!」」

 

 

待機状態のデバイスを掲げて高らかに叫ぶと共に、それぞれのデバイスから桃色と青色の光が発せられて二人の身体に身に纏われ、二人の姿が戦闘時のバリアジャケットへと変化……する事はなく、光が突如弾け飛ぶように霧散し消滅してしまったのであった。

 

 

なのは「ッ?!レ、レイジングハートッ?!」

 

 

スバル「マッハキャリバーっ?!な、何でっ?!」

 

 

何故かバリアジャケットを身に纏う事が出来ず、二人のデバイスが起動しない。思わぬ事態に二人も戸惑った様子で自身のデバイスに必死に呼び掛けてみるも、二つのデバイスからの返事は何も返って来なかった。

 

 

『シャアァアアアアッ……!』

 

 

その間にもアンデッド達は次々と一般人達を無惨にも襲っていき、次の標的をなのはとスバルに狙い定めてゆっくりと近付いてくる。

 

 

なのは「くッ……スバル!とにかく今は逃げるよ!こっち!」

 

 

スバル「は、はい!」

 

 

原因は不明だが、デバイスがなければ戦う事は不可能だ。動揺と混乱を隠し此処は逃げ延びる事を先決しなければと即座に判断し、なのははスバルの腕を掴み、周りの人達と共にアンデッド達から逃げ始めたが、その途中で再びオーロラがなのは達を遮断し、今度もまた全く別の場所に変わっていた。

 

 

なのは「こ、此処は……?」

 

 

スバル「また別の場所?!」

 

 

再び場所が変わり、何処かの町中でなのは達は突然の事に驚くが、先程まで追ってきていたアンデッド達の姿がない事を確認すると一先ず安心し身体の力を抜いていくが……

 

 

 

 

―ヒュンッ……ザシュッ!―

 

 

「あぁっ?!あ……あぁ……」

 

 

「「っ!?」」

 

 

突然二人の近くにいた女性の背後に牙のような物が現れて女性の首に突き刺さり、その女性の身体が徐々に透明となって倒れてしまい、全く動かなくなってしまったのだ。

 

 

スバル「だ、大丈夫ですかっ?!しっかりして下さいっ!」

 

 

なのは「……ッ?!駄目スバル!!離れて!!」

 

 

スバル「……え?わっ?!」

 

 

―ガキイィィィィンッ!―

 

 

慌てて傍に駆け寄ったスバルがその女性の身体を必死に揺さ振り呼び掛けていた中、何かに気付いたなのはが強引にスバルを女性から引き離したと共に、スバルのいた場所に先程と同じ牙が突き刺さったのだ。

 

 

そしてそのすぐ直後、先程のアンデッドとは違う新たな怪物……ファンガイアが物陰から次々と現れた。

 

 

なのは「また違う怪物っ……?!」

 

 

『貴様らの……ライフエナジーを寄越せぇッ!!』

 

 

新たに現れたファンガイア達を見て戸惑うなのは達だが、それを余所にファンガイア達は奇声と唸り声を上げながら周りの人々に先程と同じ牙のようなもので次々と襲い掛かり始める。

 

 

なのはとスバルも危うく牙に襲われそうになるも一息吐く間もなく再び逃げ出すが、また目の前の景色が歪み、今度は何処かの更地へと変わっていった。

 

 

なのは「ま、また変わった……」

 

 

スバル「こ、今度は何処……?」

 

 

憔悴し切った様子で周囲を見渡し、また何処からか怪物が現れないかなのはとスバルが警戒する中、二人の目の前に突如砂で出来た上半身と下半身が逆の怪物が何処からともなく現れた。

 

 

『アァァア……お前の望みを言えぇ……どんな望みも叶えてやるぅぅぅ……』

 

 

なのは「な、何これっ?!」

 

 

スバル「す、砂の怪物っ?!」

 

 

体中が砂で形成される、上半身と下半身が逆の怪物……イマジンは二人にゆっくりと詰め寄って来る。しかもその数は一体だけでなく、次々となのは達の周りにも現れて二人に迫ってきていた。

 

 

『さぁ早く言え!望みを!』

 

 

『お前の願いをぉ!』

 

 

『どんな望みも叶えてやるぅ!』

 

 

スバル「わ、私の……望み……?」

 

 

四方から絶え間なく投げ掛けられる『どんな望みも叶える』というイマジン達の言葉を聞かされていく内に、一瞬スバルの脳裏に一人の女性……今は亡き自分の母の姿が横切った。

 

 

なのは「ッ?!スバル!言ったら駄目!逃げるよ!!」

 

 

―ドシャアッ!―

 

 

『グォオッ?!』

 

 

そんなスバルの様子に気付いたなのははすぐに彼女の腕を掴み、スバルの腕を引っ張りながらイマジン達を蹴り飛ばしその場から駆け出していった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてその頃……

 

 

零「邪魔だぁッ!退けぇッ!」

 

 

―ブウォオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!―

 

 

『グオォッ?!』

 

 

『ギャッ?!』

 

 

なのはを探しに向かった零は先程の公園に置き去りにしていた自身のバイク、マシンディケイダーを回収し、襲い掛かってくる怪物達をバイクで薙ぎ払いながら混乱に包まれるミッドの街中を走り続けていた。

 

 

零「チィッ!さっきから何なんだコイツ等は?!何処かの管理外世界の怪物か?!」

 

 

あれから数十分ほど時間が経ち、あの後も何度も出現したオーロラにより別の場所に飛ばされながらも何とかなのはとはぐれた公園にまで戻る事は出来た。

 

 

しかし其処には既になのはの姿はなく、バイクを回収してなのはを探し続けていた零の前にその後も再びオーロラが立て続けに現れ、其処から先程のような謎の怪物達が次々と現れては人々やミッドの街を襲うという阿鼻叫喚の地獄が瞬く間に広がっていき、街の至る所から立ち上る黒煙を見上げて零は舌打ちしてしまう。

 

 

零「クソッ……!アルティが手元にないって時にっ、そもそも管理局はこんな非常事態に何やってんだっ?!」

 

 

そう、周囲を見渡してみても局員達が出動している様子はなく、先程から念話や通信で六課に連絡を取ろうと試みても何故か通じる気配がなかった。

 

 

零(クッ……一体何が起きてるんだっ……?しかもさっきから妙な胸騒ぎがするし……とにかく急がねぇとっ……!)

 

 

立て続けに起こる不穏な現象と共に増す嫌な予感に駆られるように、零はディケイダーのスピードを更に上げ、無数の怪物が跋扈する街中を駆け抜けていくのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦④

 

 

なのは「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

 

スバル「も、もう駄目っ……動けないっ……」

 

 

何故か突然デバイスが使えなくなり、戦う事が出来なくなってしまった二人はあれから様々な怪物に襲われながらも必死に逃げ続けていたが、遂に体力の限界となり二人はその場で膝から倒れてしまう。

 

 

だが、此処で立ち止まっていてはまた何時先程のような怪物達に襲われるか分からない以上、なのはとスバルは何とか震える膝に鞭を打って立ち上がり再び歩き出していくが……

 

 

なのは「はぁっ、はぁっ……っ?あ、あれは……?」

 

 

倒壊したビルや建物の瓦礫の間を歩き続ける中、なのはの目にある物が映り、瓦礫の山の一部の下に近付いていく。

 

 

なのは「これって、確か……」

 

 

なのはが瓦礫の山の隙間から見つけたのは、カメラに酷似ようなバックルと本の形をしたケースのようなもの。瓦礫に埋まっていたせいか二つともかなり汚れており、スバルもなのはに近づくと、彼女の手に握られたバックルとケースを見て目を見開いた。

 

 

スバル「あ、あれ……それって確か、今朝夢に出てきた……?」

 

 

なのは「……え?も、もしかしてスバルも見たの?あの変な夢?」

 

 

スバル「私もって……じゃあやっぱり、なのはさんもあの夢を……?」

 

 

なのは「……私も……?」

 

 

困惑を浮かべるなのはに対し、スバルが戸惑い気味に説明をしていく。彼女の話では、どうやらなのはが見たあの夢はスバルや彼女と同じメンバーのティアナ達、加えて今日の訓練で彼女達の教導を行っていたヴィータやシグナム、更にはその二人の話ではなのはの親友であるフェイトやはやても同様に例の夢を見たらしく、その話を聞いたなのはは衝撃を隠せない様子で更に困惑してしまう。

 

 

なのは「私だけじゃなくて、皆まで同じ夢を……?」

 

 

スバル「は、はい……でも、これって偶然じゃないですよね……?皆揃って同じ夢を見るだなんて有り得ないし……」

 

 

なのは「そう、だよね……」

 

 

謎のオーロラと共に消えていく街、人を襲う怪物の出現に加えて、自分が見た不可思議な夢をフェイトやはやて、スバル達も揃って見ていた事を知りなのはの中の疑問が更に深まる中、二人は自然と見覚えのあるソレ……機動六課の面々が見たという夢の最後に出てきた仮面の戦士が腰に身につけていたバックルとケースを見下ろしていく。

 

 

なのは「あれがただの夢じゃないなら、コレも何なんだろ……デバイス……じゃないよね……?」

 

 

「──おい……!おいっ!なのはっ!スバルっ!聞こえるかっ?!」

 

 

なのは&スバル「「……っ!?」」

 

 

二人がバックルとケースの正体について考え込む中、何処からか突然二人の名を呼ぶ声が聞こえ驚きと共にその声がする方へと振り向くと、其処にはオーロラの壁の向こう側にいる零の姿があった。

 

 

スバル「れ、零さん?!」

 

 

なのは「良かった……!無事だったんだね……!」

 

 

零「無事って状況じゃないだろう!何なんだよこれ……ッ?!」

 

 

漸く再会出来た事になのは達が喜ぶ中、零は突然目を大きく見開いて驚きの表情を浮かべ、それに気付いた二人は零の視線を追って後ろに振り返り、そして絶句した。

 

 

何故なら其処には、なのは達を見て不気味に微笑んで佇む彼女達と同じ顔の二人……"なのは"と"スバル"の姿があったからだ。

 

 

スバル「えっ……私と、なのはさんが……もう一人……?!」

 

 

零「な、何でなのはとスバルが……?!」

 

 

もう一人のなのはとスバルを見て三人が固まってしまう中、笑っていたなのはとスバルの姿が突然緑色の異形の姿に変わり、更に脱皮するようにその姿が砕けたかと思いきや、中から虫のような姿の怪物が姿を現した。

 

 

なのは「ま、また別の怪物……?!」

 

 

スバル「な、何でこんなのがミッドに沢山っ……」

 

 

デバイスは謎の機能不能で戦えず、背後はオーロラの壁に阻まれて逃げ場がない。そんな最悪の状況下で現れた虫のような姿の怪物……ワームの出現に二人が怯えて後退る中、そんな二人にワームが唸り声と共にゆっくりと近づいていく。

 

 

零「なのはッ!!スバルッ!!クッソォオォォォォォォォォォォォォォオッ!!!」

 

 

ワームに襲われ掛ける二人を助け出そうと零は力任せにオーロラの壁を全力で殴り続けるが、やはり壁はビクともせず、その間にもワームは二人に迫り絶体絶命の危機に陥っていた。

 

 

零「クソッ……!クソォッ!こんなものなのかッ?!世界が終わる日ってのはっ…………ッ?!」

 

 

自分には何も出来ないのか。胸に飛来する無力感のあまり顔を俯かせてしまう零だが、その時、なのはの手に握られているカメラのようなバックルとケースを見て、先程の青年の言葉をふと思い出していく。

 

 

(貴方のバックルとカードは何処です?)

 

 

零「バックル……カード……っ!?そいつの事かッ!なのは!スバル!それを渡せッ!」

 

 

スバル「えっ?!」

 

 

なのは「で、でも……これは……」

 

 

青年が言っていたバックルとカードがなのはが持っているソレだと確信した零にその二つを渡すように言われるが、なのはとスバルはあの夢の事もあってこの二つを渡すのを躊躇してしまう中、零は不安がる二人の目を真っ直ぐと見据え、

 

 

零「安心しろ、世界を救ってやる……多分……」

 

 

根拠などない。だが、目の前の二人を絶対に助け出すという決意から力強い眼差しでそう言い切る零に、彼の言葉を聞いてなのはとスバルは逡巡し躊躇いながらも、零を信じて頷き、バックルとケースを差し出した。

 

 

すると、バックルとケースは壁をすり抜けて汚れが消え、本来の姿に戻ったそれを零が受け取るが、それと同時にワームの背後に出現した銀色のオーロラから更に複数のワームが飛び出し、なのは達へと襲い掛かってきた。

 

 

なのは「ッ!スバルッ!下がってッ!」

 

 

迫り来るワームの群れを見てなのはは咄嗟にスバルを自分の後ろに下がらせ、近くに転がる鉄パイプを拾いワーム達を追い払おうと全力で抵抗していく。

 

 

その間に零はカメラのようなバックルを素早く腰に当てると、バックル端から伸びたベルトが腰に巻かれて装着されていき、更に本のようなケースを開いて一枚のカードを取り出す。

 

 

『シャアァアアアアッ!!』

 

 

―バキィッ!―

 

 

なのは「ぐぅっ?!」

 

 

スバル「な、なのはさんッ!!」

 

 

必死に抵抗するなのはの手から無慈悲にも鉄パイプが払われ、ワーム達が一斉になのはへと飛び掛かる。

 

 

振り下ろされるワームの凶刃を前になのはは鉄パイプを払われた手を抑え最早此処までかと思わず目を逸らし、目に涙を浮かべるスバルの悲痛な叫びが木霊する中、零は取り出したカードを構え、

 

 

零「──変身ッ!」

 

 

カードをバックルに装填し、両手で元の状態に戻すようにバックルをスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦⑤

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

バックルから電子音声が鳴り響いた瞬間、零を囲むように出現した九つのエンブレムが人型の残像となって零と一つになるように重なっていき、灰色の異形のスーツとなって零の身体に身に纏わられた。

 

 

更にバックルから飛び出したカード状のプレートが仮面に刺さったと同時に灰色だったスーツが鮮やかなマゼンタへと変わっていき、全ての変身を完了した零から放たれた衝撃波がオーロラの壁を砕き、破壊された壁の破片がワーム達に直撃して吹っ飛ばしていったのである。

 

 

スバル「え……れ、零……さん……?」

 

 

なのは「零君……どうして……」

 

 

変身した零の姿を見て、二人は驚愕のあまり呆然と立ち尽くしてしまう。何故ならその姿は、二人が夢の中で見た仮面の戦士と全く同じ姿……『仮面ライダーディケイド』そのものだったからだ。

 

 

一方で、ディケイドに変身した零はすぐさまなのはとスバルを囲んでいるワーム達へと挑み掛かろうとするが、ワーム達は突然目にも止まらぬ速さでその場から逃走してしまう。

 

 

ディケイド『チィッ……!ちょこまかと!』

 

 

一旦距離を取ってスピードで撹乱するつもりなのか、肉眼では捉え切れない速さで周囲を駆け巡るワーム達に舌打ちすると、ディケイドは逃げ遅れたサナギ体のワームの背中を蹴り飛ばしつつ即座に左腰に装着される本型のケース、ライドブッカーを開いて赤いカブトムシの仮面の戦士が描かれたカードを取り出し、腰に巻いたバックル……ディケイドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:KABUTO!』

 

 

鳴り響く電子音声と共にディケイドの姿が徐々に変わっていき、バックルにセットしたカードの戦士と同じ姿をした赤いカブトムシを連想させる仮面と青い複眼のライダー……仮面ライダーカブトに姿を変えていった。

 

 

なのは&スバル「「変わった?!」」

 

 

『!!』

 

 

―バゴォオオオオオオオオオオオオオンッッ!!―

 

 

カブトへと姿を変えたディケイドを見てなのはとスバルが驚愕する中、一体のワームが高速で移動しながら柱を破壊し無数の瓦礫をDカブトに向けて放つ。だが、Dカブトは冷静にもう一枚カードを取り出してバックルに装填し、スライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:CLOCK UP!』

 

 

再び電子音声が響いた瞬間、突如周りの時間がスローモーションのように流れ始めた。

 

 

そしてDカブトは左腰に装着するライドブッカーを剣形態のソードモードに変形させて超速度で飛び出すと、空中でほぼ止まっている瓦礫を剣で弾きながら同じ時間の流れの中を駆けるワーム達の間を素早く駆け抜けライドブッカーで次々と斬り捨てていく。

 

 

―ザシュッ!ガギィッ!ズシャッ!―

 

 

Dカブト『ハァアッ!ハッ!ゼェエアアッ!』

 

 

『グガッ……ガァアアアアアアアアアアッ!!?』

 

 

ワーム達の動きを読んだ立ち回りで最後の一体を斬り裂き、Dカブトがスルリとライドブッカーの刃を撫でたと共に時間の流れが元に戻り、直後にワーム達は悲痛な断末魔を上げながら緑色の爆発を立て続けに起こし爆散していったのであった。

 

 

Dカブト『ふうっ……どうにか片付いたか……』

 

 

ライドブッカーを元の本型の形態にして左腰に戻しながらワーム達の撃破を確認し一息吐くDカブト。だが、直後にバックルが独りでに開らかれカブトのカードが飛び出し、カードを手にしたDカブトの姿がディケイドへと戻ってしまう。

 

 

ディケイド『……なんで今俺、このカードを選んだんだ?』

 

 

戦いの最中、何故かワームにはこのカードが有効だと身体が勝手に理解して動き、そのまま流れるように違和感なく戦えた自分に謎に感じるディケイドだが、バックルから弾かれたカブトのカードは突然その絵柄を失ってしまった。

 

 

ディケイド『ッ?!何だ、今の……?』

 

 

いきなり絵柄が消えたカブトのカードに驚きディケイドは疑問を感じながらも、未だに街のあちこちから巻き起こる爆発音を聞いて我に返り、ともかく急いでこの場を離れる為にカードを仕舞い、此処まで乗ってきたマシンディケイダーに搭乗して走らせなのはとスバルの前に止まった。

 

 

ディケイド『二人とも、来い……!此処を離れるぞ!』

 

 

なのは「……ディケイド……?」

 

 

零の声で喋り掛ける夢の中で見たディケイドの姿を見て、思わずその名前を口にするなのはにディケイドも仮面の下で目を見開いた。

 

 

ディケイド『なのは、お前……何でその名前を知ってるんだ?』

 

 

なのは「あ……そ、それは……」

 

 

夢の事を一人知らない零は、何故かディケイドの事を知っているなのはに訝しげにそう聞き返すも、なのはの方も夢の件をどう説明すればいいか迷い言い淀んでしまい、顔を俯かせるなのはを見てスバルが慌てて助け舟を出す。

 

 

スバル「と、ところで、これからどうするんですか?街は今も怪物だらけだし、安全な場所は何処にもないんじゃ……」

 

 

ディケイド『……かもな……ただ此処から近くに、俺の行き付けの写真館がある。六課とも連絡が付かない以上、一先ず其処に匿ってもらって六課と連絡が付かないか試す。お前らも休ませないといけないしな……』

 

 

此処までなりふり構わず全力で逃げてきたのを物語ってるかのように、服もボロボロで体中も擦り傷だらけのなのはとスバルを見てそう言うと、そのまま二人をディケイダーの後ろに乗せ、ディケイドは自身の行き付けであるという写真館に向けてマシンを発進させていった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

ディケイダーを走らせて少しだけ時間が経った後、目の前から突然またオーロラが現れ景色が変わり、今度は廃虚と化した何処かの街に飛ばされた。

 

 

其処にはあの怪物達に襲われて既に息を引き取り、辺り一面に大勢の人々の亡骸が無造作に転がる残酷な光景が広がっており、そんな惨い光景を目の当たりにしたなのはもスバルも、彼等を守る立場でありながら何も出来なかった自分の無力さと悔しさに駆られて悲しげに目を伏せ、思わず顔を逸らしてしまう。

 

 

そしてディケイドもそんな二人の様子を横目に何も言えず口を閉ざす中、自分達の近くに転がる亡骸の中に見覚えのある二人組……零が公園で出会った強面の男達の亡骸を見付けると共に、兄貴分の男の手に決して放すまいと、零が以前撮った彼の子供が笑顔で映る不出来な写真が握られているのに気付いた。

 

 

なのは「……零君……?」

 

 

ディケイド『…………。行くぞ』

 

 

ディケイドの様子が僅かに可笑しい事に気付き、なのはが思わず声を掛けるも、ディケイドは顔を逸らして短くそう言いながら再びディケイダーを走らせ、目的地である写真館に向かって再び走り出す。

 

 

──だがその時、死んだ人間の亡骸が突然灰となり、其処から二本の触手が飛び出してなのはをディケイダーから引きずり降ろしてしまう。

 

 

なのは「キャアァアッ?!」

 

 

スバル「なのはさんっ?!」

 

 

ディケイド『何?!くっ……!』

 

 

ディケイダーから引きずり降ろされたなのはに気付き、ディケイドは慌ててバイクを止めてなのはを連れ戻そうとするが、直後に人間の亡骸が崩れた灰から灰色の怪物……オルフェノク達が現れ、二人が辿り着くよりも早く倒れるなのはを捕らえてしまう。

 

 

なのは「い、いやっ……!!離してぇっ!!」

 

 

なのはは必死に抵抗して逃れようとするが、怪物の並外れた力の前ではその抵抗も虚しく、オルフェノク達はそのままなのはを無理矢理何処かへ連れていこうと歩き出していってしまう。

 

 

スバル「れ、零さんっ!早くしないとなのはさんがっ!」

 

 

ディケイド『分かっているっ!』

 

 

強引に連れて行かれようとしているなのはを指差して焦るスバルにそう答えながらディケイドはライドブッカーから素早くカードを一枚取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

 

ディケイドライバーから電子音声が響くと共にバックルからディケイドの全身に掛けて赤いラインが駆け巡り、紅の閃光が眩く発光する。

 

 

そして光が晴れると、ディケイドの姿は全身に紅いラインが走る金色のΦの瞳が特徴的なライダー……ファイズへと変わっていった。

 

 

スバル「ま、また別の姿になった……?!」

 

 

驚愕するスバルの反応を余所に、Dファイズはオルフェノク達からディケイダーの方に振り返りながら新たにカードを一枚抜き取り、バックルにセットする。

 

 

『ATTACKRIDE:AUTO VAJIN!』

 

 

再度ドライバーから電子音声が響くと、次に変化が起きたのはディケイダーの方だった。

 

 

バイクの前に出現した巨大なΦの紋章をディケイダーが潜り抜けると同時に別の形状のマシンに変化し、更にマシンは変形しながらなのはの下へ飛翔しそのまま人型の戦闘マシンになると、片腕に装備する盾型のホイールからマシンガンを放ってオルフェノク達を蹴散らし、そのままなのはを救出して離れた場所に下ろした。

 

 

なのは「えっ、ロ、ロボット……?!」

 

 

スバル「なのはさんっ!」

 

 

戦闘マシン……オートバジンを見て驚きの声を上げながら慌てて離れるなのはの下にDファイズとスバルが駆け寄るが、今の騒ぎを聞き付けたのか廃墟の物陰から続々と他のオルフェノク達が姿を現し、敵の増援を前にDファイズはすぐにオートバジンから一本の剣、ファイズエッジを抜き取った。

 

 

Dファイズ『隠れてろ、二人ともッ!ハァアアッ!』

 

 

二人にそう言いながらDファイズはファイズエッジを手にオルフェノク達に向かって突っ込んでいき、オートバジンも二人を守るように立ち構えると、なのはとスバルは廃墟の影に身を隠していく。

 

 

Dファイズ『ぜぇええいッ!ハァアアッ!』

 

 

―ザシュンッ!バシュウッ!ギシュンッ!―

 

 

『ヌァアッ?!』

 

 

『ゥッ…オオオォッ……?!』

 

 

一方でDファイズはオルフェノク達の攻撃を掻い潜りながらファイズエッジによる一閃をカウンターで次々と叩き込んでいき、最後の一体を斬り裂いてファイズエッジの刃を撫でた瞬間、オルフェノク達は身体にΦの紋章を刻まれながら悲痛な叫びと共に青色の炎を噴き出し、そのまま灰となって消滅していった。

 

 

Dファイズ『ッ……終わったか……一先ずこれでっ―ドゴォオオンッ!!―ぐぉおおッ?!』

 

 

灰になったオルフェノク達を見下ろして一息吐こうとしたDファイズだが、背後から突然凄まじい勢いで何かに激突されてその場に倒れ込んでしまった。

 

 

突然の不意打ちに苦痛で顔を歪めながらもすぐさま目の前に視線を向けると、其処にはDファイズに激突した巨大な物体……異変発生の際にミッドの上空にも現れた巨大な怪物が空を舞う姿があり、更に怪物はそのまま遠くで辺りを無差別に破壊する妖怪のような姿をした異形の群れ……魔化魍と合流してこちらに向かってこようとしていた。

 

 

Dファイズ『チッ、次から次へと!だったらっ……―バシュウッ!―……っ?!』

 

 

何とか身を起こしてファイズエッジを手に魔化魍を迎え撃とうとするDファイズだが、いきなりバックルから強制的にファイズのカードが弾かれてディケイドの姿に戻ってしまい、驚きと共にファイズのカードを手に取ると、先程のカブトと同様にファイズの絵柄が消滅してしまう。

 

 

ディケイド『クソッ、またか……?!』

 

 

原因も分からず立て続けに絵柄が消えていくカードを見て思わず毒づきながらも、ディケイドはファイズのカードをしまって新たに鬼の戦士が描かれたカードを取り出し、ドライバーのバックルに投げ入れた後に両手でスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:HIBIKI!』

 

 

電子音声と共にディケイドの全身が紫色の炎に包まれていき、炎が収まり消え去ると、ディケイドは鬼のような姿をしたライダー、響鬼へと姿を変えていった。

 

 

なのは「こ、今度は鬼っ……?」

 

 

スバル「な、何かもう、驚き過ぎて疲れてきたっ……」

 

 

此処に至るまでにあまりにも色々起こり過ぎたせいでいよいよキャパオーバーなのか、なのはもスバルも疲労困憊気味な中、響鬼に変身したディケイドは続けて新たなカードをドライバーにセットしていく。

 

 

『ATTACKRIDE:ONGKIBO REKKA!』

 

 

再度鳴り響く電子音声と共にD響鬼は一度両手を叩くように払いつつ後ろ腰に両手を回し、其処から二本の太鼓の撥のような武器、音撃棒烈火を巧みに手の中で回転させながら取り出し両手に構えると、先端に炎を宿した音撃棒烈火を振るって魔化魍達に火炎弾を振り撒いていく。

 

 

D響鬼(……何故だ……?力の扱い方も、立ち回りも自然と分かる……?俺は、戦い方を知っているっ……?)

 

 

初めて扱う筈の力をさも自分のモノのように使える自身の身体に疑問と違和感を抱きながらも、トドメに全方位に向けて音撃棒烈火から放った火炎弾の五月雨撃ちで残りの魔化魍達を全滅させるD響鬼。

 

 

それと同時に、ドライバーに装填されていた響鬼のカードがバックルから弾かれディケイドに戻り、響鬼のカードは今までのカードと同様に絵柄が消えてしまい、ディケイドも変身が解除され零に戻ってしまう。

 

 

なのは「終わった、の……?」

 

 

スバル「も、もう私、限界が近いかもっ……」

 

 

零が魔化魍達を撃退したのを見届けて安堵するものの、不可解な異常の連続と化け物達の絶え間ない襲撃になのはもスバルも体力的にも気力的にもいよいよ辛いのかその場に力なくしゃがみこんでしまうが、零はそんな二人の下へと駆け寄り、出来るだけ身体を労わりながら二人をゆっくりと立ち上がらせていく。

 

 

零「色々とキツイだろうが、もう少しだけ耐えてくれっ。写真館に着いて身体を休ませたら、六課への連絡手段を探して救援を──」

 

 

―ブォオオオオンッ!―

 

 

写真館に着きさえすれば治療と休息が取れ、きっと六課へ連絡する事も出来る筈と、その希望を元に零が二人を励まそうとしたその時、またもやオーロラが三人を潜り抜けて場所が変わってしまう。

 

 

なのは「ッ……こ、此処って……」

 

 

零「ミッド……戻ってこれたのか……?」

 

 

オーロラを潜り抜けた先に繋がっていたのは、三人が先程の場所に飛ばされる前に走っていたミッドのハイウェイの近く。

 

 

しかし三人が違う場所に飛ばされている間にも状況は更に深刻化しているのか、街の被害は先程よりも更に広範囲に広がっているのがひと目でわかり、悠長にしている時間はなさそうだと踏んだ零は二人をディケイダーに乗せ、先を急いでマシンを走らせていくのであった。

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦⑥

 

 

それから十数分後。未だ混乱に包まれる街中を駆け抜けて漸く目的地である『光写真館』の近くにまで辿り着く事が出来た三人だが、写真館に向かうなのはとスバルの後ろでは零が先程の戦いでカードの絵柄が消えた事が気になり、念の為にカードを取り出して確認しようとするも、ライドブッカーから取り出した全てのカードを目にして驚愕してしまう。

 

 

零「何故だ……カードの力が全て消えてる?!」

 

 

そう、先程戦闘の後に消えてしまったカブト、ファイズ、響鬼のカードは勿論のこと、何故かまだ未使用の筈のディケイド以外の全てのカードの絵柄までいつの間にか消滅し、シルエット化してしまっていたのである。

 

 

零(どうなってるっ……力が永く続かないのか……?いやだとしても何故っ──)

 

 

 

 

―……それは、君が"嘗ての君"を捨ててしまったからだ―

 

 

 

 

零「──ッ?!」

 

 

力が消えた原因が分からず疑問を拭えない零の脳内に突然謎の声が響き、思わず足を止めて振り返り声の主を探してしまう。そんな零に気付き、なのはとスバルも足を止めて怪訝な表情を浮かべた。

 

 

スバル「零さん……?どうかしたんですか?」

 

 

零「……いや、何でもない。気にす──ッ?!二人共ッ!」

 

 

なのは「え、きゃあッ?!」

 

 

何かの聞き間違いか、そう思い踵を返そうとした零が何かに気付いて慌てて二人の頭を下げさせると、何処からか飛来した巨大な魔化魍が三人の頭上を飛び越えた。

 

 

そして紙一重で避けた三人が巨大な魔化魍の姿を目で追うと、其処には今まで零達を襲ってきたワームやオルフェノク、魔化魍を含めた魑魅魍魎の怪物達が巨大なビルの上で共食いしている光景があった。

 

 

なのは「な……なにあれ……」

 

 

零「共食いしてやがるっ……」

 

 

その異常な光景を目にし零達も言葉を失い絶句してしまう中、怪物達は突然次々と爆発を起こしてビルを倒壊させただけでなく、周囲一帯の街や人々の全てを無慈悲に飲み込む程の巨大な火の海と化してミッド中に広がっていってしまう。

 

 

スバル「ミ、ミッドがっ……?!」

 

 

なのは「だめ……駄目っ、こんなのっ!!」

 

 

零「ッ?!待てっ、なのはぁッ!」

 

 

嘗てのJS事件で自分達が守り切った筈の人々や街が炎に飲まれ、焼かれ、呆気なく消えていく。そんな理不尽でしかない光景を前に零もスバルもただただ呆然と立ち尽くすしかない中、目の前で業火に飲み込まれようとしている親子を見てなのはが堪らず助けようと飛び出し、零がそれを止めようと慌てて彼女の手を掴んだ瞬間、

 

 

 

 

──炎も人も、辺りの光景が全て突然固まり、まるで時が止まったかのように完全に動かなくなってしまったのである。

 

 

スバル「ッ?!と……とまっ、てる……?」

 

 

なのは「……も、もう訳が分からない……どうなってるの一体っ……」

 

 

最早世界の終わりかと思いきや時間までもが唐突に止まり、信じられない異常事態の連続に三人も訳が分からず唖然としてしまう中、目の前の親子が飲み込まれようとしていた炎の海の中から一人の人物……あの謎の青年がゆっくりと姿を現した。

 

 

零「ッ!お前、さっきの……」

 

 

「──どうやら、力の全てを失ってしまったようですね……ですが、時間はまだ少し残っています」

 

 

謎の青年は淡々とした口調でそう言いながら零達の前まで歩いて立ち止まるが、一方の零はこんな異常事態を前にしても表情の一つも崩さない訳知り顔の青年の反応に苛立ちを抑えられず、青年へと詰め寄りその胸ぐらを掴んだ。

 

 

零「一体何がどうなってるッ……!お前が言っていた世界の終わりってのは何だッ?!何故こんな事になったんだッ?!」

 

 

なのは「え……れ、零君……?」

 

 

スバル「い、いきなりどうしたんですか……?」

 

 

零「っ……!何っ?」

 

 

青年に憤りをぶつける零の姿を見て、何故か不思議そうに首を傾げるなのはとスバルの反応に零は戸惑い、思わず青年と二人の顔を交互に見比べる。

 

 

零「お前ら……まさか、コイツが見えていないのかっ……?」

 

 

まさかとは思い青年を指して二人にそう問い掛ける零だが、なのはもスバルも零が何を言っているのか理解出来ていない様子で頭上に疑問符を浮かべており、そんな二人の反応からやはり青年が見えていない事を理解した零は怪訝な眼差しを青年に向けて後退りしていく。

 

 

零「お前……一体何なんだ……?」

 

 

そもそも彼は敵なのか味方なのか、警戒心を露わにする零の質問に対し青年は何も答えようとせず、代わりに無言のまま僅かに掲げた右手の指を鳴らした瞬間、零と青年の周りが急に暗闇に包まれた。

 

 

突然光が消えた世界に招かれた零は動揺を浮かべて思わず辺りを見回してしまう中、暗闇の中で僅かながらも星のような煌めきを見付け、その光を頼りに次第に闇に慣れてきた目を擦ると、暗闇の向こう側に幾つもの星々……地球に酷似した十個の星を瞳に捉えた。

 

 

零「何だ……アレ……地球、に似てはいるが……?」

 

 

「ええ、全て地球ですよ」

 

 

零「なっ……馬鹿を言うな……!俺達が知る地球は一つしかない!あんな数、ある訳が──!」

 

 

「勿論、貴方達の知る地球はあの中に一つだけ。ですが他の地球は、貴方達の知るソレとは全く別の歴史と可能性を歩んだ並行世界……所謂パラレルワールドであり、それにより、貴方達の世界は"滅び"へと向かい始めています」

 

 

零「っ……どういう事だ……?」

 

 

いきなり明かされた並行世界という概念に辛うじて着いていくのがやっとの零だが、彼の説明の中に出てきた"滅び"というワードが気になりそう聞き返すと、青年は幾つもの地球を見つめながら話を続けていく。

 

 

「9つの世界に9人の仮面ライダーが生まれました。それは独立した別々の物語となり、決して交わる事はありませんでした……」

 

 

ですが、と一拍置いた青年が見つめるのは、幾つもの地球が空間内を漂う中で突然ぶつかり合い、互いに崩壊していく二つの地球同士。その信じられない光景を前に零も目を見張る中、青年は零に視線を向けて説明の続きを語る。

 

 

「……今、物語は歪み合って融合し、その為に世界が一つになろうとしています……やがて、全ての世界は消滅します」

 

 

零「消滅、だと……?」

 

 

世界同士が融合し、その果てに待つのは全ての世界の消滅。突然突き付けられた衝撃的な結論に零も言葉を失う中、同時に此処に至るまでに自分達の身に起こった異変の数々が脳を過ぎり、ハッとなる。

 

 

零「まさか……俺達の世界で起こったアレも、全部……」

 

 

「ええ……消滅していく街や人々、本来いる筈のない怪人、機能しなくなった魔法……それらも全て、交わる筈のなかった物語同士が融合し、世界のルールがぶつかり合い崩壊した影響によるものでしょう」

 

 

零「……そういう、ことか……嗚呼、大体分かってきたぜ……」

 

 

今までの不可解な異変やなのは達が突然魔法やデバイスを使えなくなり、管理局が機能している様子がなかったのも、全てはその"滅び"とやらに起因していた。

 

 

全く嬉しくもない疑問の解消に零も頭を抱え乾いた笑みを浮かべるしかない中、青年はそんな零をまっすぐ見据えて言い放った。

 

 

「ディケイド……貴方は9つの世界を旅しなければいけません。それが世界を救う、たった一つの方法です」

 

 

零「……旅……?」

 

 

訝しげな零の問いに、青年は無言で頷いて数多の地球を見上げていく。

 

 

「貴方は全ての仮面ライダーを破壊する者です。残念な事ですが、創造は破壊からしか生まれませんからね……最も、過去の記憶を失う前の貴方なら、その事を良くご存知だった筈ですが……」

 

 

零「ッ?!過去の、俺……?待てっ、俺が無くした記憶と今回の異変、何か関係があるのかっ……?!」

 

 

この十数年間、蘇る予兆もなく最早取り戻すのは不可能かと半ば諦めていた過去の自分の記憶を仄めかされ、驚愕を露わにする零に対し、青年は瞼を伏せて歩き回る。

 

 

「僕の口から全てを語る事は出来ません。ですが、その記憶を取り戻せるかは貴方次第……そして滅びの現象に巻き込まれ、ライダーの世界に跳ばされてしまった貴方の仲間達を救えるかも、貴方に掛かっています」

 

 

零「仲間……?まさか、フェイト達の事かっ?!」

 

 

自分の仲間であるフェイト達が滅びに巻き込まれ、ライダーの世界に跳ばされてしまっている。青年の口から告げられた仲間達の行方に零が動揺する中、二人の背後で十個の地球同士が激突し、其処から発生した閃光が眩い光となって空間内に広がっていき、二人の姿までも白く染め上げていってしまう。

 

 

―……全ての命運はディケイド、貴方次第です……世界を破壊し、世界を繋ぐ……それこそが、貴方の……―

 

 

零「グッ……!お、おい待てっ……!まだ聞きたい事が山ほどあるんだッ!おいッ!!」

 

 

光の眩しさを両腕で目を庇いながら青年を呼び止めようとする零だが、それも虚しく光は青年の姿を掻き消しながら辺り一帯を包み込んでいってしまう。

 

 

そして光が止んで目の前に視線を戻すと、いつの間にか元の場所に戻り、傍らには怪訝な眼差しを向けて心配そうにこちらを伺うなのはとスバルの姿だけが残されていたのであった。

 

 

 

 

 



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第一章/ライダー大戦⑦

 

―光写真館―

 

 

―ピッ!ピッ、ピッ!―

 

 

「──あれ?んん?テレビ、全然映らないね?」

 

 

その頃、零の行き付けと言われている此処光写真館では、この写真館の老主人である"光 栄次郎"が外の状況にも気付かないまま右手にリモコン、左手に新聞を手にノイズしか映らないテレビと格闘している最中にあった。其処へ……

 

 

―ガチャッ―

 

 

零「──爺さん、邪魔するぞ……」

 

 

栄次郎「ん……?おお!零君じゃないか!いらっしゃい!」

 

 

零「ああ、急に来てすまないな……って、爺さん?アンタ何やってんだ……?」

 

 

栄次郎「ん?うん……実はさっきから全然テレビが映らなくてねぇ。見たい番組がもうすぐ始まるのに困ってるんだよぉ……」

 

 

零(……外があんな状態になのにテレビの心配とは……やっぱり只者じゃないなこの爺さんっ……)

 

 

つい先程まで世界が終わりを迎えようとしていた中、そうとも知らず今の今まで映る筈もないテレビに食い付きリモコンを操作していた栄次郎を見て零も呆れを通り越して顔を引き攣る中、二人が今いる生活スペースのすぐ隣の撮影スタジオの入り口からなのはとスバルが中へと入ってきた。

 

 

なのは「お、お邪魔しまーす……」

 

 

スバル「失礼しまーす……?」

 

 

栄次郎「ん?あれ、お客さんかな?」

 

 

零「いや、客じゃなくて俺の連れだ。ほら、前にも何度か話してた……」

 

 

栄次郎「ああ、あー!前に話してくれた零君の彼女さんか!で、どっちの娘がそうなの?うん?」

 

 

スバル「え、ええ?!か、彼女ですか?!」

 

 

なのは「か、彼女というか、そのぉ……」

 

 

何やらとんでもない勘違いをしている栄次郎からの質問にスバルは思わず顔を赤くして慌ててしまい、なのはも言葉を濁しつつチラッと零の方を見るが、当の本人の零は適当に目に付いたハニワの置物を手に取りながら呆れ気味に溜め息を吐き、

 

 

零「前にも話したとは思うが、生憎俺とコイツらの間に爺さんが期待するようなロマンス溢れる浮かれた話なんてないぞ……。特に管理局なんてとこで働いてれば俺よりマシな男なんて幾らでもいるだろうし、わざわざ俺みたいな変わり種を好くような物好きでもないさ、ソイツ等は」

 

 

栄次郎「えー?そうかなぁ?」

 

 

なのは(あー……うん、シッテタ……どーせ変わり種を好くような物好きですよーっだっ……)

 

 

ナイナイと、片手を振って否定する零のいつも通りの反応に内心拗ねてそっぽを向いてしまうなのは。そしてスバルもそんな彼女の反応を察して苦笑いを浮かべると、話題を変えるのも兼ねて館内の撮影スタジオを物珍しげに見回していく。

 

 

スバル「そういえば私、写真館ってあんまり来たことってないかも……零さんはここ、確か行き付けって言ってましたよね?」

 

 

零「まあな。……あぁ、そういえば紹介もまだだったか。この人が写真館の館長を務めてる──」

 

 

栄次郎「初めまして、館長の光栄次郎です。皆さんのことは零君から常々聞いてますよ〜♪」

 

 

なのは「光、栄次郎さん……?その名前ってもしかして、地球の……?」

 

 

零「あぁ、爺さんは元々俺達と同じ地球出身らしい。ただ随分昔に次元震に巻き込まれてからこっちに跳ばされたらしく、其処からは色々あって此処で写真館を経営して過ごしてるんだとか……俺も初めて話を聞いた時は驚いたもんだ」

 

 

奥で三人への珈琲を用意し始める栄次郎の背中を見つめ、彼の過去について補足を加えながら二人にそう説明すると、零は近くの棚に仕舞われている救急箱を借りていく。

 

 

零「取りあえず、今は治療が先だな……説明しなきゃならない事も山ほどあるし……」

 

 

「「……?」」

 

 

テーブルの上に置いた救急箱から薬とガーゼを取り出しながら、これから説明しなければならない突拍子もない内容に零が今から頭痛を覚える中、そんな彼の様子になのはもスバルも互いに顔を見合わせて不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

なのは「──じゃあ、私達の世界がこうなったのはその滅びのせいで、世界を救うには仮面ライダーって人達がいる世界を旅しなきゃいけない……ってこと?」

 

 

スバル「しかも、ティア達や部隊長達も、その滅びの現象に巻き込まれてライダー達の世界に跳ばされてるって……」

 

 

零「ああ……掻い摘んで説明すると、大体そういう事らしい」

 

 

それから十数分後。零は二人の治療を行いながら先程青年から教えられた経緯をなのはとスバルにも説明していた。

 

 

そして全ての話を終えた後、二人は何も言えず俯き包帯を巻いた自分の手を見下ろしてしまい、そんな二人の反応に零も救急箱を閉じながら溜め息混じりに呟く。

 

 

零「まぁ、すぐに理解しろと言われても飲み込めるような話じゃないだろうな。お前らのその反応も当然だ」

 

 

スバル「あ……い、いえ、確かに突拍子もない話だし、全部を全部理解出来たってワケでもないんですけど、でも……」

 

 

なのは「信じられない、なんて言えないよね……現に今、目の前であんな事が起こってる訳だし……」

 

 

そう言ってなのはは写真館の窓から差す赤い光を見つめ、世界が終わろうとしていた直前の光景を思い出し複雑げな表情を浮かべると、零の方に振り返って不安げに問い掛ける。

 

 

なのは「でも、本当に行くの……?魔法も使えないし、空だって飛べない今の私達じゃ出来る事も少ないのに……」

 

 

零「……それでも出来る事がない訳じゃない。現に今、俺達は此処にいるんだからな」

 

 

ライダーの世界とやらを旅するという事は、もしかしたら今後も自分達が襲われてきたあの怪物達と再び戦う事があるかもしれない。魔法を使えなくなり、戦う手段を失った今の自分達だけでそんな事が出来るのか不安を覚えるなのはに対し、零は椅子から立ち上がって二眼のレフカメラのファインダーを覗きながら何時もの調子で語る。

 

 

零「今までだってどうしようもなさそう状況で、死にそうな目に遭いながらも何だかんだで解決して来られたんだ。今回もそう変わらんさ。分かりやすい敵を叩いて、仲間を助けて、ついでに世界も救う……今まで俺達がやって来たことの延長線だろう?」

 

 

スバル「つ、ついでってっ……」

 

 

なのは「……マイペース過ぎ……こんな状況でもそういうとこは相変わらずなんだからっ……」

 

 

零「それが俺だからな。嫌ってほど知ってるだろ?……少なくとも、六課が無事に終われるまでは、俺もこんな所で終わるつもりはないさ……」

 

 

なのは「……あ……」

 

 

こんな差し迫った状況の中でも相変わらずな調子の零に呆れて言葉も出てこないなのはだったが、零が静かに呟いたその言葉を聞いた瞬間に公園での彼との会話が過ぎり、同時に気付いた。

 

 

彼が見てるのは世界の行く末というもっと大きなものではなく、その世界の中で自分達が一年を共にした機動六課が無事に終われる事や、教え子達の門出に少しでも上手くなった自分の写真を渡し、皆がそれぞれの選んだ道を歩む姿を見届けるという、もっと間近な未来。

 

 

自他共に認める弄れ者だし、根っからの善人とは言い難い彼だが、同時に身近な人達の為ならば文字通り命すら投げ出せる人である事を、"自分は良く知っている"。

 

 

例えそれが世界の終わりという状況の中であっても、仲間達の危機やその未来が奪われようとしているのなら迷わず往く人でもある事、そんな彼に見守られる自分がこれから先に描こうとしていた未来を思い出し、いきなり課せられた世界の命運という重みや今の力無き自分達だけで出来るのかという不安に苛まれてる場合ではないと、一度瞳を伏せて心を落ち着けたなのははソファーから立ち上がった。

 

 

なのは「……分かった。なら一緒にいくよ、私も。まだまだこの世界でやり残した事が沢山あるのに、此処で終わらされたらたまったものじゃないし」

 

 

スバル「なのはさん……うん、私も同意見です!せっかくこれからやるべき事が見えたのに、世界に終わられたら困りますから!」

 

 

零「……そうか……ま、俺一人でも事足りると思うが、九つもの世界を一人旅ってのも味気ないだろうしなぁ。特別に付き合わせてやっても構わんぞ?」

 

 

なのは「私達が付き合ってあげるのっ!大体零君一人に任せてたら、いつまで経っても旅が終わらずにずっと世界がこのままって可能性もあるしっ」

 

 

零「どんだけ信用がないんだよ俺はっ……言っとくが俺は元々大体の事を卒なく熟す方だ。余程の事でもない限り、俺がドジを踏むなんてある訳がないだろう?」

 

 

なのは「行く先々で女の子絡みのトラブルに巻き込まれては首を突っ込んで無茶して怪我した挙句、何故か助けた女の子が付いてくるのは?」

 

 

零「……………………………………………………………………………………………違う世界でまで同じ目に遭うとも限らんだろうよ…………」

 

 

スバル(あ、今すんごい間を空けてから目を逸らした……)

 

 

今の指摘に心当たりがありまくるのか、急に歯切れが悪くなりあからさまになのはから顔を逸らす零を見て、其処は否定はしないんだなぁと内心思ってしまうスバル。

 

 

因みに今のスバルの位置からはなのはの顔は見えないが、恐らくきっと凄い顔をしてるのだろうとこの一年で染み付いた経験故に何となーく分かり、初めの頃にオロオロしていた自分が今や懐かしいなぁーとスバルが遠い日の記憶に浸る中、隣に立つなのはが不意に溜め息をこぼし、椅子に腰を下ろしつつ若干投げ槍な口調で肝心な事を問い掛ける。

 

 

なのは「まあいいや……それで、そのライダーの世界にはどうやって行くの?確か並行世界って言ってたし、私達の世界みたいに船とかで次元世界に行くのとは違うんだよね?」

 

 

零「え?」

 

 

なのは「え?」

 

 

零「……………………」

 

 

なのは「……………………」

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 

なのは「……ちょっと待って零君……まさかとは思うんだけどっ──」

 

 

零「…………………………………………………ああ………そーいえば、行き方自体の説明はなかったなぁ…………と…………」

 

 

スバル「え……えぇえええええええええええええっっ!!!?」

 

 

なのは「な、何でよりにもよって一番肝心な事を聞き忘れるのォッ?!だからそーゆー適当な所はあれほど直しなさいって口が酸っぱくなるほど言ったでしょっっ!!」

 

 

零「お、俺にばっかり責任があるとは言い切れないだろうこの場合ッ?!クッソッ、アイツちゃんとした説明も無しに消えやがってっ……!!」

 

 

まさかのエマージェンシー発生。ここに来てまさかのライダーの世界へ行く方法を聞き忘れるという大ポカをやらかしていた零にスバルは絶叫し、思わず両手で顔を覆ったなのはも零の胸ぐらを掴んでガクガクと前後に激しく揺さぶる中、三人分の珈琲を容れ終えた栄次郎が奥から現れテーブルの上にカップを並べていく。

 

 

栄次郎「まあまあ、取りあえず珈琲でも飲んで落ち着いて。話の内容はよく分からないけど、何事においても急いては事を仕損じる、だよ?」

 

 

スバル「うぅ……スミマセン……じゃあ、頂きますっ……」

 

 

なのは「嗚呼っ、もうほんとにどうしようこれっ!まさかスタートラインからいきなり躓くなんて思いもしなかったっ!」

 

 

零「あー……まあ落ち着け。爺さんの言う通り焦っても事が解決する訳じゃな、美味っ……解決する訳でもないんだ。一先ず冷静になってから三人でもう一度……しかし砂糖が欲しいな……」

 

 

なのは「喋るか飲むかどっちかにしてよぉっ!っていうかこうなったのは零君にも責任あるんだからちゃんと考えてよねぇッ?!」

 

 

実際問題かなりの非常事態であるのに会話の合間に珈琲を啜る零の不真面目さに怒り、再び抗議して零を叱り始めるなのは。そして栄次郎はそんな光景を何処か微笑ましげに一瞥しながら撮影スタジオの壁の一角にある撮影用の背景ロールを操作する鎖の調整を始めるが、何故か鎖を引っ張てもビクともせず一瞬訝しげな表情を浮かべるも、すぐに鎖が留め具に掛かったままだったのに気付いて留め具から鎖を外すと、一気に鎖が出て背景ロールが勢いよく降りてしまう。その時……

 

 

―パアァァァァァァァンッ!―

 

 

零「ッ!何だっ?」

 

 

勢いよく降りた背景ロールに不思議な絵が浮かび上がり、淡い光が何度か放たれたかと思いきや、光はすぐに止んで収まった。そして零達は謎の光を発した背景ロールの前に集まると、ロールには中心にそびえ立つ大きな山に向かって走る数台のパトカーの絵が描かれていた。

 

 

零「これは……」

 

 

スバル「……あ、あれ?何か、外の様子がさっきと可笑しくないですか?」

 

 

なのは「へ?」

 

 

スバルにそう言われ、二人も窓の方を見た。すると確かに、先程まで炎の海の赤い光が差していた窓からいつの間にか普通の日差しが差し込んでおり、二人と共に訝しげに窓を見ていた零は突然「まさか……!」と思い、慌てて写真館の外へと飛び出した。其処には……

 

 

零「……何だ、これ……」

 

 

写真館の外に出て、零は唖然として立ち尽くしてしまう。それもその筈、何故なら零が目にしたのは先程までの炎の海に飲まれ掛けるミッドの街並みではなく、自動車が目の前を行き交う道路沿いの風景に変わった外の世界だったからだ。更に……

 

 

『警ら中の各移動に連絡。春日部二丁目の北二倉庫にて、未確認生命体の出現を確認』

 

 

零「?今のは……って、何だこりゃ?!」

 

 

不意に聞こえてきた無線の声に驚き思わず肩を見れば、其処には何故か無線機が肩に留められており、加えて零の格好がいつの間にか警官の制服姿に変化していたのだ。

 

 

一体何が起こったのか?訳が分からぬまま周囲を見回すと光写真館の外観まで変化しているのに気付き、困惑する零は此処から見える巨大な山を見て、訝しげに目を細めた。

 

 

零「あれは……まさか……」

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

『事件現場の指揮は、警視庁未確認生命体対策本部員が担当する。現場にて対応する署員は、対策本部員の指示に従い、未確認の接近に注意。負傷・事故等無いように注意されたい。以上、警視庁』

 

 

「撃てっ!撃てぇええっ!」

 

 

―バババババババァンッ!!―

 

 

『ヌゥウウッ……ヌァアアッ!』

 

 

そして同じ頃、警察の無線にもあった北二倉庫では、大勢のパトカーと警官達が拳銃やライオットシールド等の装備を手に異形の怪物を包囲し、迎撃する光景があった。

 

 

しかし、異形の怪物……警察の無線の中で未確認生命体と呼称されていた怪人は自身に浴びせられる銃弾をものともせず、その強靭な腕力だけで近くのパトカーを軽々と転がして警官達を威嚇していく。

 

 

それでも警官達は退く事なく何とか此処で食い止めるべく懸命な一斉射撃を続ける中、一人の女刑事がパトカーの無線を使って警察の無線とは別の無線に繋げた。

 

 

「未確認生命体7号を確認……!優矢、聴こえてる?!」

 

 

『──大丈夫、聴こえてるよ姐さん!今ちょうど現場に向かってるとこだ!』

 

 

無線から聴こえたのは、まだ何処か少年っぽさが残る男の声。女刑事はその応答に頷き切羽詰まっていた表情にも僅かに力強さが戻るが、未確認生命体7号が警官の一人を捕まえると共にパトカーの上に叩き付けて襲い掛かろうとしているのを目にし、襲われる警官を急いで救出しようと未確認生命体7号の背中を銃で狙い定めるが……

 

 

―ガシャアアアアアアアアンッ!!―

 

 

『シャアアアアッ!』

 

 

「?!なっ、うぐぅッ?!」

 

 

「あ、綾瀬ぇッ!」

 

 

綾瀬と呼ばれた女刑事の背後にある倉庫の壁から突然もう一体の未確認生命体が現れ、そのまま一番近くの綾瀬の姿を捉えると共に彼女へと襲い掛かり、首を掴んで壁に叩き付けてしまったのだ。

 

 

もう一体の未確認生命体の出現により現場が混乱に包まれる中、其処へ一台のバイクが駆け付ける。そしてバイクに搭乗する少年がヘルメットを外すと、未確認生命体に襲われる綾瀬の姿を見て形相が変わった。

 

 

「姐さん……!?クッ!」

 

 

襲われる綾瀬を目にし、少年はすぐさまバイクから降りて自身の腹部に両手を翳す。すると少年の腹部にベルトが出現し、綾瀬の下へ駆け出しながら腕を前に構え、そして……

 

 

「変身ッ!」

 

 

高らかに叫び、少年がベルトの左側を左手の甲で軽く押すと、少年の体が徐々に赤い鎧の戦士へと変身していく。

 

 

そして完全に赤い戦士へ変身した少年は警官達の頭上を飛び越えながら拳を振りかざし、綾瀬に襲い掛かる未確認生命体を殴り付けて組み合いとなると、そのまま二体の未確認生命体を相手に戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

零「──クウガの……世界か……」

 

 

そして、光写真館の前では零が此処が自ずとあの青年が話していたライダーの世界である事に気付き、背景ロールにも描かれていた山……灯熔山を見つめて静かにそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

第一章/ライダー大戦END

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界①

 

栄次郎が操作して現れた背景ロールの絵により、違う世界へと訪れた零達。滅びへと向かう自分達の世界を救う為に彼等が最初に足を踏み入れたのは、未確認と呼ばれる怪人と戦う仮面ライダー、クウガの世界だった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

スバル「──此処って、ホントに別世界なんですかね……?」

 

 

なのは「うん、多分……写真館の外も、私達がいたミッドとは全然違うし……」

 

 

零が外に飛び出したのと同じ頃、写真館に残されたなのはとスバルも窓から外を覗いて異常に気付き、滅びを迎える寸前で時が停止していた筈のミッドの街並みから見慣れぬ道路沿いに変わってしまっている外の風景を眺め、困惑を浮かべつつも何とか冷静さを保ち、今の状況を一つ一つ整理していた。其処へ……

 

 

―ガチャッ―

 

 

なのは「……あ、零君帰ってきたのかな──って、へっ?」

 

 

撮影スタジオの扉が開く音を聞き、先程出ていった零が戻ってきたのかと思いなのはとスバルが扉の方に振り返るも、二人の目が点となってしまう。

 

 

それもその筈、何故なら撮影スタジオにいきなり踏み込んできたのは一人の警官であり、何故か深々と帽子を被って不自然に顔を隠した警官は何も言わず二人の下へと近付き、重々しい口調で口を開いた。

 

 

「失礼、此処に凶悪な犯罪者がいると通報があった……署までご同行願おうか?」

 

 

スバル「え、えっ?ちょっ、ま、待って下さいっ!何の話ですかいきなりっ?!」

 

 

突然やって来て無茶苦茶な事を言い出した警官の身に覚えのない話に慌てふためくスバルだが、警官の方はお構い無しにと話をロクに聞かずなのはの腕を掴んでしまう。が直後、なのはは手の返しによって警官の手首を素早く掴み返し、警官の腕を捻って目の前のテーブルの上にねじ伏せてしまった。

 

 

スバル「うぇええええっ?!な、なのはさぁーんっ?!」

 

 

「いだだだだだだだァッ!!バカバカ待て待てっ!!ギブだギブっ、ギブっ!!」

 

 

スバル「……へ?い、今の声って……?」

 

 

警察官相手にいきなり乱暴な手段に出たなのはの行動を前に更に動揺してしまうスバルだったが、なのはの腕を必死にタップする警官の聞き覚えのある声を聞いて頭上に疑問符を浮かべ、そんな彼女の反応を他所になのはは警官をねじ伏せたままその帽子を剥ぎ取ると、素顔を晒した警官……零をジト目を睨み付けた。

 

 

スバル「れ、零さん?!」

 

 

なのは「……それで?急に出てったかと思えばこんな格好で戻ってきた上にいきなり人を悪者扱いしてくれるなんて、一体どういうつもりかなぁ零くんはぁっー?」

 

 

零「グゥッ……ちょっと冗談で驚かしてやろうとしただけだろうに、其処までマジになる事もないだろうがっ……!どうせ最初に入ってきた時点で俺だと気付いてただろっ!」

 

 

なのは「当然でしょ、そうじゃなかったら零君以外の人にこんな手荒な真似はしませんから」

 

 

零「其処は俺も含めろやっ!お前の中での俺の扱いは普通の人間以下かっ!」

 

 

クソッ、思いの外本気でやりおって……!と漸く解放された腕を摩って今更ながら相手が悪過ぎたと後悔してしまう零だが、一方で未だに呆然と固まっていたスバルはハッと我に返り、動揺が収まらないまま零の格好を眺めていく。

 

 

スバル「と、というか零さんっ、どうしたんですかソレっ?!さっきまで普通の格好してましたよねっ?!」

 

 

零「んあっ……?ああ……さあなぁ。外に出たらいつの間にかこの格好になってたんだよ、全くっ」

 

 

何が何だかと、ウンザリした様子で隠していた二眼のレフカメラをテーブルの上に置きながら零が椅子に腰掛けると、生活スペースの方からリモコンを片手に栄次郎が不意に顔を出し、零に呼び掛けた。

 

 

栄次郎「零君零君、ちょっといいかい?今やっとテレビが付いたんだけど、何か可笑しなニュースが流れてるんだよ」

 

 

なのは「?ニュース、ですか……?」

 

 

何だ?と揃って不思議そうに首を傾げながら、三人は生活スペースの方に足を踏み入れ栄次郎が指すテレビの画面に目を向けていく。

 

 

其処には彼の言う通り、何やら緊迫した様子のアナウンサーが何処かの事件現場を中継する映像が映し出されており、カメラが必死に追い掛ける画面の中で、謎の赤い戦士と異形が警官隊に囲まれながら激闘を繰り広げる姿があった。

 

 

スバル「あれって……?」

 

 

零「……『未確認生命体4号』、か……成る程、それがこの世界での仮面ライダーの呼び名らしい」

 

 

なのは「え?」

 

 

緊張感が伝わるカメラの向こうで殴り合う異形同士の戦いになのは達が釘付けになる中、二人の背後で部屋の隅に束になって重なっていた新聞の山から一枚手に取った零がそう呟き、振り返ったなのはとスバルに読んでいた新聞を手渡していく。

 

 

其処に書かれているのは、未確認生命体と呼ばれる謎の怪人達が人を襲い殺害してるという事件の事細かな詳細と、その未確認生命体と戦う謎の戦士、今もテレビに映る未確認生命体4号と呼ばれる仮面ライダーの記事の内容が記載されていた。

 

 

なのは「未確認生命、学者はグロンギと呼んでいるって……」

 

 

スバル「私達の世界に現れたのと同じ怪物が、この世界にもいるって事ですか……?」

 

 

零「みたいだな……。で、この世界ではその怪物、未確認とやらが現れ、それと警察が戦っていると言う訳か」

 

 

そう言いながら今もテレビで流れる緊迫した現場のニュース……未確認同士の戦いの陰に映る警官達を見つめる零の言葉を聞き、新聞から目を離したなのはも同様にテレビを見て複雑げに眉を寄せていく。

 

 

なのは「この世界は確かに、私達がいた世界とは違う……それは分かったけど、でも、其処から先はどうするの?私達の世界を救うには九つの世界を巡らなきゃいけないって言ってたけど、此処で何をすれば……」

 

 

そう、そもそもの話、世界を巡った先で自分達は一体何を果たせばいいのかを聞かされていないのだ。

 

 

この世界での目的が分からず、何をするべきなのかも分からないなのは達が俯き悩む中、そんな二人の様子を見て零も僅かに思考する素振りを見せた後、不意に何かを閃いたかのように胸ポケットを漁り、警察手帳と証明写真を取り出し二人に見せていく。

 

 

スバル「?それって……」

 

 

零「巡査、黒月零。恐らくそれがこの世界での俺の役割って奴なんだろう」

 

 

なのは「役割って……警察になる事が?」

 

 

零「この世界じゃ警察は未確認生命体、グロンギって連中と戦ってるんだろう?なら話は簡単だ、奴らと戦ってみてこの世界でやるべき事を探ってみればいい。その中で奴らを潰せば、それが正解って可能性もあるしな」

 

 

スバル「ええっ……?そ、そんな適当で良いんですかっ?」

 

 

零「大丈夫だ、任せておけ。取り敢えず俺はそのテレビに映ってる現場に行ってみる。その間、お前達も出来るだけこの世界での情報を集めてみてくれ。頼んだぞ?」

 

 

なのは「えっ、ちょ、そんなこといきなり言われても……!零君ってばー!」

 

 

テーブルの上のカメラを掴みながら軽く手を振って写真館を出ていく零の後を追い掛けるも、外に出た二人が追い付いた時には既に零は表に停めてあった警ら用の自転車に乗り、テレビに映っていた現場に向かって走り去っていた後だった。

 

 

なのは「ああ、もうっ……!相変わらず人の話を待たずに先に行っちゃうんだから……!」

 

 

スバル「あははっ……でもなんて言うか、違う世界に来ても零さんが相変わらずだと逆に安心感ありますよね。今は私達しかいないから特、に──って、なのはさん?!」

 

 

なのは「え?……え、スバル、その格好……って、何これぇええっ?!」

 

 

人の話も聞かずに先に行ってしまった零の身勝手さに憤るなのはを宥めようとするも、何故か突然驚愕し出したスバルの反応で振り返り、彼女と、自分の今の格好……いつの間にか何処かの学校の制服姿に変わってしまっている自分達の姿を見て、なのはとスバルの驚倒の悲鳴が写真館の前で木霊したのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界②

 

―北二倉庫内―

 

 

クウガ『はぁッ!でりゃッ!ハッ!』

 

 

一方その頃、北二倉庫内ではクウガに変身した少年が7号と呼ばれるヤドカリ型のグロンギと、突如現れた8号と呼ばれる鳥型のグロンギの両方を相手に戦いの場を変え戦闘を行っていたが、その近くに先程殺された女性警官の遺体が倒れているのを視界の端に捉え、クウガは目を開き息を拒んだ。

 

 

クウガ(また被害者が女性警官?!なんでまたっ……?)

 

 

女性警官の遺体を見てクウガがそんな疑問を覚えて動きが鈍ってしまう中、二体のグロンギ達はその隙を突くようにクウガに襲い掛かっていき、連携した動きでクウガを徐々に追い詰めていく。

 

 

クウガ『危なっ?!クソッ!考え事なんてしてる場合じゃないかっ……!』

 

 

相手が二体掛かりな以上、油断すればこちらがやられる。今はとにかく目の前に集中しなければと気を改めてグロンギの攻撃を必死に捌いて反撃に転じるクウガの下へ、クウガがグロンギ達を抑えてる間に警官隊の後退と負傷者の回収を終わらせた先程の女刑事……綾瀬が駆け付け、苦戦するクウガに指示していく。

 

 

綾瀬「相手のペースに律儀に付き合わないで!身軽に動くのよ!」

 

 

クウガ『っ、分かってるッ!』

 

 

綾瀬の指示にそう応えながらグロンギ達を退けて少し距離を取り、クウガは変身の時と同様の構えを取り身構える。

 

 

クウガ『超変身ッ!』

 

 

力強い掛け声と共に、クウガの身体が赤から身軽な軽装の青い姿……素早さと跳躍力に特化した形態である『仮面ライダークウガ・ドラゴンフォーム』へ徐々に変化していき、再攻撃を仕掛けてきたグロンギ達の攻撃を軽快な動きで掻い潜りながら近くに転がるパイプ棒を片足で拾い上げて手に取り、両手に身構えていく。

 

 

次の瞬間、クウガが手にするパイプ棒が一瞬で青い棒、ドラゴンフォームの専用武器であるドラゴンロッドにその姿を変えていき、クウガがそれを手に反撃に転じグロンギ達に挑んでいく中、丁度その場に警ら用の自転車で到着した零が自転車を降り、二眼のレフカメラを構えクウガを撮影し始めた。

 

 

零「仮面ライダークウガ。戦況に合わせてフォームチェンジ、周囲の物体を武器に出来る、か……便利に出来てるんだなぁ」

 

 

そんな独り言と共にクウガの能力に関心を覚えつつ、二眼のレフカメラでクウガの戦う姿を写真に収めていく零だが、すぐ近くでクウガの戦いを見守っていた綾瀬が零の存在に気付き慌てて近づいていく。

 

 

綾瀬「君、それ私物?というより何してるの?!後退しろって言われたでしょ!」

 

 

零「はいはい……あ、ところで一枚貰いますね」

 

 

怒鳴る綾瀬の注意も右から左へ聞き流し、今度は綾瀬まで撮影し始める零を見て綾瀬は言葉を失い、呆れて溜め息を吐いてしまう。その一方で……

 

 

クウガD『はぁッ!ダァッ!ハアァッ!!』

 

 

―ドゴオォォンッ!!―

 

 

『グゥッ?!ウッ……オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!?』

 

 

クウガの方は長いリーチを上手く活かしたドラゴンロッドの棒術で二体のグロンギを寄せ付けず圧倒していき、全力で突きを打ち込んだクウガの一撃が7号に叩き込まれ、悲痛な叫びと共に倒れる7号の身体に紋章が浮かび、爆発が発生して完全に7号を消滅させたのであった。

 

 

そして残った8号もこのままでは分が悪いと踏んだのか、背中から翼を生やして飛翔し、天井を突き破って逃走を測ろうとする。

 

 

綾瀬「優矢ッ!これ、使いなさいッ!」

 

 

それを見た綾瀬も空に逃げたグロンギの追撃の為、自分の拳銃をクウガに投げ渡した。

 

 

クウガD『分かったよ、姐さんッ!』

 

 

零「……姐さん?」

 

 

受け取った拳銃を手に頷いて応えるクウガの綾瀬への呼称が引っ掛かり、訝しげに眉間に皺を寄せる零にも気付かず、クウガは再び力強く叫ぶ。

 

 

クウガD『超変身ッ!』

 

 

再びその姿を徐々に変化させていき、クウガの身体が緑色の目と鎧を纏う姿……感覚に特化した形態の『仮面ライダークウガ・ペガサスフォーム』となると、右手に持つ拳銃も金色のラインが入った専用武器のペガサスボウガンへと同様に変化させ、変身を完了させたクウガは8号が逃げた天井の穴を通ってグロンギの追跡に向かっていった。

 

 

綾瀬「言いふらさないでよ」

 

 

屋上に向かうクウガを怪訝な眼差しで追う零に一言そう釘を刺すと、綾瀬も奥の階段からクウガの後を追おうと走り出し屋上へと上がっていった。

 

 

零「……成る程。あの刑事はクウガと協力関係にあるって訳か」

 

 

そしてクウガの正体は警察内でも秘密と、綾瀬の一言から様々な事情を汲み取った零は溜め息混じりに一人そう呟き、カメラを仕舞いながら8号とクウガが消えた穴を一瞥しその場を後にするのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―北二倉庫・屋上―

 

 

一方その頃、8号を追って屋上に上がったクウガは既に遥か上空へと飛び去っていく8号の背中を捉えると共に、ペガサスボウガンを構えて弓を引き、狙いを定めていく。そして……

 

 

―……バシュンッ!―

 

 

『───ッ?!ァッ、ギッ……ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

ペガサスボウガンから放たれた矢が完璧に8号の背中を捉えて撃ち貫き、紋章が浮かぶ8号の身体から爆発が発生し空に爆炎を撒き散らしたのであった。

 

 

そして丁度8号撃破の場面で屋上に到着した綾瀬も上空に広がる火花を見上げて安堵の溜め息を漏らし、クウガの下に駆け寄っていくと、クウガも変身を解除して元の少年の姿に戻りながら綾瀬に拳銃を返していく。

 

 

「ほい、いつもありがとさん!」

 

 

綾瀬「……犠牲者が出てるんだから、あまりはしゃがないでちょうだい」

 

 

「はいはい。で、どうだったかな?今日の俺の変身さ!」

 

 

拳銃を受け取る綾瀬の注意も話半分に、今日の自分の戦いぶりを気にするようにそんな質問を投げ掛ける少年。それに対し綾瀬もジーッと少年の顔を呆れ気味に見つめた後、小さく吐息を吐きながら腕を組んで答えた。

 

 

綾瀬「7号と8号を同時に相手して確実に倒したのだし、まあまあって所ね」

 

 

「ホントに?あ、だったら、何か飯でもおごってくれよ!姐さん!」

 

 

綾瀬「いいから、今日はもう学校に戻りなさい。呼び付けた本人が言えた口じゃないけど、あまり学業を疎かにするものではないわよ?」

 

 

「え、も、戻れって言われてもなぁ……今日の授業はもう終わっちゃってるし……」

 

 

綾瀬「だったらカバンを取りに戻って家でゆっくり休みなさい、優矢。あなたの変身については、まだ分からない事が多いんだから」

 

 

あまり浮かれるものじゃないわと、そう言って綾瀬は少年……"桜川 優矢"に休むように言い聞かせその場を後にしていき、残された優矢も屋上を去る綾瀬の背中に虚しく伸ばした腕をガクリッと落とし、目に見えて気落ちしてしまう。其処へ……

 

 

「──今日もフラられちゃったみたいね……これで一体何度目になるかしら」

 

 

優矢「ウグッ……そ、その声はっ……」

 

 

傷心の男心に、グサリと突き刺さる少女の声が何処からともなく聞こえてきた。その声に釣られ優矢が振り返ると、其処にはいつからいたのか、綾瀬が出ていった扉の前に背中を預けて佇む茶髪の女の子の姿があった。

 

 

優矢「や、やまと……!なんでこんな所にいるんだよ?!」

 

 

「私の学校、今回の現場が近かったから休校になってね。このまま帰るのもなんだしと思って様子見に来たのよ。……これでも一応4号の正体を知ってる関係者なんだから、気になってしまうのも当然でしょ?」

 

 

ふぅ、と小さく溜め息を吐きながら肩を竦める茶髪の女の子……優矢の違う学校の後輩である"永森 やまと"の言葉に、優矢は眉を顰めて首を横に振った。

 

 

優矢「だからって事件現場に近付くんじゃないよ。ただでさえ未確認が出たってだけでも外に出るのは危ないってのにさ、またやまとの身に何かあったらこうが悲しむぞっ?」

 

 

やまと「それを言い出したら先輩だって人のこと言えないじゃない。今の話だと途中で授業を抜け出してきたみたいな感じだったし、いつも一緒にいるあの四人の先輩達、今頃先輩がいなくなったの気にして心配してるんじゃない?」

 

 

優矢「うっ……それ、は……」

 

 

実際彼女が指摘した通りなのか、図星を突かれたように顔を引き攣って視線を逸らしてしまう優矢を見て、やまとも二度目の溜め息と共に扉から背を離してドアノブに手を掛けた。

 

 

やまと「どうせこれから学校に戻るんでしょ?私もちょうど陵桜に用があるし、ついでに付き合ってあげる」

 

 

優矢「え?あ、あぁ、それは良いんだけどさ……何も其処まで気ぃ使ってくれなくても……」

 

 

やまと「ふぅん……先輩一人で彼女達相手に上手い言い訳が出来るとは思えないけど、本当に私がいなくても大丈夫なのかしら?」

 

 

優矢「うぐっ……すみません、フォローお願いします……」

 

 

時間的にまだ学校に残ってるであろう学校の仲間達と出くわした時に事件の件を伏せ、学校を抜け出した事をどう説明すべきか思い浮かばず項垂れる優矢に頼まれ、やまとも「よろしい」と頷き二人揃ってその場を後にしていくのであった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

―陵桜学園高等部―

 

 

その頃、春日部市にある私立の高等学校、陵桜学園。写真館の外に出た瞬間に何故かこの学校の制服の姿に変わってしまったなのはとスバルは、制服のポケットに入っていた生徒手帳からこの学校の名前と住所を調べ、此処に自分達がやるべき何かがあるのではないかとヒントを求め校門の前にまでやって来ていた。

 

 

スバル「陵桜学園高等学校……手帳に書かれたのって此処みたいですけど、本当にこの学校に何かあるんでしょうか?校舎の見た目とか、通う生徒さん達とか、どう見ても普通の学校にしか見えませんけど……」

 

 

なのは「うん……けど、零君みたいに私達の格好も此処の学校の服に変わったし、何も関係ないって事はないと思うから調べてみる価値はあるとは思うけど……でも、何でそれでよりによって制服っ?」

 

 

まさかこの年になって高校の制服を着る事になるとは想像もしてなかったからか、まだ歳若いスバルに比べて自分の制服姿に無理はないだろうかと大分気にしてしまうなのは。

 

 

そんな落ち着きのない様子のなのはの心情を察してスバルも苦笑いを漏らしてしまうも、学校から下校して出てくる大勢の生徒達の声を耳にして辺りを見渡し、若干困った顔を浮かべた。

 

 

スバル「でも学校の方はもう終わっちゃってるみたいですね、どうしよう……」

 

 

なのは「うーん……取りあえず、この辺の生徒さん達から話だけでも聞いてみよっか?学校が終わってるんならこの格好で校内を歩き回ってても不自然に思われないだろうし、此処まできたからには情報収集ぐらいして帰らないとね」

 

 

スバル「そうですね……じゃあ、話を聞けそう子に声掛けてみましょうか?えーっと……?」

 

 

なのはと話し合い方針を決め、一先ず事件の話などを聞けそうな生徒を探してスバルは下校中の生徒達の顔を見回していく。と其処へ……

 

 

「───あふぅ〜……今日の授業もキツかったぁ……特に夜通しネトゲ漬けだったから、目蓋が重いのなんのと……」

 

 

「大丈夫、こなちゃん?」

 

 

「自業自得でしょ。まったく、そんなにキツイならちゃんと睡眠取りなさいよね」

 

 

「柊さんの仰る通りですよ、泉さん。そんなに夜更かしばかりしていては身体にも悪いですし」

 

 

校門から出て来る生徒達の中に混じり、四人組の女子達がそんな雑談を交わしながら下校する姿がたまたまスバルの目に止まった。

 

 

スバル「うん、あの人達とかいいかも……あの、ちょっとすみませーん!」

 

 

「……?はい?」

 

 

あの四人なら話を聞いてくれそうだと踏み、スバルは手を振って呼び止めながら四人の女子達の下に駆け寄り、四人もその声を聞いて足を止め、不思議そうな面持ちでスバルの方へと振り返っていく。

 

 

スバル「突然呼び止めてすみません。あの、実はこの辺で未確認生命体の事件について色々話を聞いて回ってるんですけど、何かご存知だったりとかしませんか?」

 

 

「え、未確認の話……?」

 

 

「っていうか、貴方は?うちの生徒みたいだけど……何でそんな事件の話を?」

 

 

スバル「へ?あ、あー……それは、ええっとっ……」

 

 

「「「「……?」」」」

 

 

しまった、事件の話を探る事ばかりに気が向いてその辺りの帳尻を忘れていたと焦り、今更ながら自分の事をどう説明しようかと慌てふためいてしまうスバル。そしてそんなスバルを見て女子達も不審げな反応を浮かべる中、其処へスバルの後ろから苦笑を浮かべてなのはが割って入った。

 

 

なのは「急にごめんなさい。実は私と彼女も新聞部の部員で、今部の活動で世間を騒がせてる未確認生命体の事件の事を追ってるの。それで生徒の皆にも色々話を聞いて回ってて……」

 

 

「あ、な〜んだ〜、新聞部の人たちだったんだね〜」

 

 

「なんだそういうこと?それならそうとハッキリ言ってくれればいいのに」

 

 

変に言い淀むからちょっと身構えちゃったわよと、二人が新聞部の人間だと分かり不信感が晴れる女子達。咄嗟の助け舟に救われたスバルは彼女達に見えないように裏で「フォローありがとうございます……!」となのはに両手を合わせて感謝し、なのはもそれに対し苦笑いを返す中、四人組の一人のおっとりとした女子が頬に手を当てて首を傾げていく。

 

 

「それにしても事件の話ですか……正直、私達もテレビや新聞で広まってる情報程度の知識しか分かりませんし、あまりお力になれるかどうかは……」

 

 

「ま、この辺で未確認の事件とかあんまり聞かないしね。それだけ警察が頑張ってくれてるって事なんだろうけど……まあつい最近の話だと、女性警官ばかりが狙われてるって今朝のニュースでもやってたわよね?」

 

 

なのは「女性警官が……?」

 

 

「んー……んんっ……?」

 

 

ツインテールの女子が思い出すように語るその内容に二人も真剣な面持ちで聞き入る中、今にも眠そうに瞼を擦っていた小柄な青髪の女子がふとなのはとスバルの顔をジッと見つめて何やらその表情が怪訝なものに変わっていくも、他の女子三人はそんな事に気付かず事件に関する話を続けていく。

 

 

「そういえば携帯のニュースで知ったのですが、つい先程も、女性警官がまた一人未確認に狙われたのだとか……」

 

 

「ええ、マジでっ?ほんっとに最低ね未確認って……!力の弱い女の人ばかり狙うとかまんま暴漢かっつのっ」

 

 

「ううっ、本当に怖いよねぇ……あ、そういえばこなちゃん、確か昼休みの時に従姉のお姉さんもその事ですっごい愚痴ってた話してたよね?」

 

 

「ああ、アンタの従姉さんも確か婦警さんだったわよね。そういえばこの間も『未確認に狙われてるって分かってんのに明日も出勤するとか嫌だぁー!ふざけんなぁー!』って荒れてて大変だったみたいな話してたけど、最近はどんな──」

 

 

「──あああああああぁぁぁぁーーーーーーーーっっ?!そうだ、そうだよっ!やっぱりそうだ間違いないっ!!」

 

 

「「?!」」

 

 

ツインテールの女子が小柄な青髪の女子に話を振ろうとしたその時、青髪の女子は突然なのはとスバルの顔を指差しながら仰天の悲鳴を上げ始め、なのはとスバル、他の三人の女子もいきなり大声を上げた女子に驚き思わず後退りしてしまった。

 

 

「び、びっくりしたぁ……もぉこなちゃ〜ん、急に大声出さないでよぉ……」

 

 

「あ、ごめんつい……じゃないよつかさっ?!大変、一大事なんだよこれはっ!!顔や髪型が似てる上に声まで一緒とか、もうそっくりさんとかのレベルじゃないしっ!え、同一人物?まさかテレビから出てきちゃったとかっ?!」

 

 

「い、泉さんっ?」

 

 

「ああもうっ、さっきから何の話してんのよアンタはっ!ほら、アンタが急に訳わかんないこと言い出すからこの二人も引いてんじゃないのっ!」

 

 

「いやだってこの二人──!」

 

 

と、青髪の女子は突然の事態に戸惑うなのはとスバルの顔をビシィッ!と指差し、

 

 

「この二人、どっからどう見ても『魔法少女リリカルなのは 』のキャラクターにそっくりなんだよー!!」

 

 

なのは&スバル「「……へ?」」

 

 

どどん!なんて仰々しい効果音が何処からともなく聞こえてきそうな勢いで青髪の女子が告げたセリフに、三人の女子は勿論のこと、なのはとスバルも思わず呆気に取られてお互いの顔を見合わせてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界③

 

―警視庁・未確認生命体対策会議室―

 

 

一方その頃、優矢と別れて署に戻った綾瀬は未確認の対策会議に出席し、今回の事件を他の対策メンバーと共に洗い直していた。議題は勿論、先程殺害された女性警官についてである。

 

 

綾瀬「被害者はまた女性警察官でした。これまでと同様、職務中の女性警察官ばかりです」

 

 

「これで三人目か……しかし綾瀬よ、未確認が出現すればすぐ警官が出動する。被害者が警官なのはむしろ当然なんじゃないか?」

 

 

被害者が女性警官である事を注視する綾瀬の話に、彼女と共に会議に参加する刑事の一人が最もらしい意見を口にする。実際のところ、ホワイトボードにも書き記されている今までの事件の流れで被害者となったのはどれも女性警官ばかりではあるものの、一般市民に被害が出たという報告はされていない。

 

 

ならば彼女達が殺害されたのはその市民を守ろうとして代わりに殺されたのではないかと推察する刑事に対し、綾瀬は首を横に振って否定する。

 

 

綾瀬「いいえ、未確認生命体はこれまでも一定の手順に従って殺人を行い、被害者にも共通点がありました。なのに今回だけその例に漏れると言うのは、奴らの今までの習性を考えて有り得ないと思います」

 

 

「……グロンギゲーム殺人説か……奴らにそんな知性があるってのか……?」

 

 

未確認生命体がまるでゲームのように一定のルールの上で人を殺害している。これまでの会議でも度々議題になる事が多かったその定説が濃厚になりつつある事に他の対策班のメンバーも信じ難い様子を浮かべる中、一人の警察官がヤカンを手に会議室へ入り、そのまま淡々と対策班の空になった湯呑に麦茶を注ぎ足していく。

 

 

「では本当に女性警官ばかりが狙われているとして、女性警察官全員に護衛をつけろってのか?無理だろ!」

 

 

綾瀬「それは……」

 

 

署内だけで数えてもかなりの数の女性警官がいる。対策を練るにしてもそんな方法は確かに現実的ではないし、そもそもそれだけの数の護衛の為に人員を裂ける程の余裕もない。ならば一体どうするべきかと綾瀬も頭を悩ませると、湯呑に麦茶を注いでいた警官がホワイトボードの内容を一通り眺め、静かに口を開いた。

 

 

「規則を守って殺す……確かにまるでゲームのようだが、今回の場合はそれだけって訳でもなさそうだな……」

 

 

綾瀬「……え?」

 

 

ボソッと、何やら意味深な事を呟く警官の言葉を耳にして綾瀬が思わず振り返ると、彼の首から何故か警官服に似つかわしくないピンクの二眼のレフカメラが掛けられているのが目に入った。その見覚えのあるカメラを見て慌てて顔を上げると、綾瀬は漸く其処でその警察官が先程の事件現場で出くわした零である事に気付く。

 

 

綾瀬「貴方っ、確かさっきの……?!」

 

 

何故こんなところに?!、と椅子から勢いよく立ち上がろうとする綾瀬だが、その時、突然署内に無線が鳴り響いた。

 

 

『緊急通報。先程とは別の未確認生命体が警ら中のパトカーと接触した模様。繰り返す、先程とは別の未確認生命体が警ら中のパトカーと接触した模様』

 

 

綾瀬「ッ!9号……?」

 

 

零「…………」

 

 

署内に響くあまりに早すぎる次のグロンギの出現の報せに綾瀬も戸惑う中、対策班も慌ただしく会議室を飛び出していく。そして綾瀬もヤカンを手に佇む零を一瞥すると、彼等の後を追って会議室を飛び出しながら携帯で何処かに連絡を取り始めていき、そんな綾瀬の後ろ姿を見送りながら零もヤカンを台の上に置いて溜め息を一つこぼす。

 

 

零「流石に警察も手を焼いているか。しかしこのまま奴らの後手に回るってのも面白味がない……警官らしく証言を取るとするか──」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―灯溶山付近・河原―

 

 

「あ……あっ……ああッ……」

 

 

グロンギ出現の報せが届いてから二十分後、現場では再び現れたグロンギが警ら中のミニパトを襲撃し二人の女性警官の内の一人を襲っていた。そしてグロンギは女性警官の息の根を止めた事を確認すると、そのまま奥のトンネルに逃げ込んで逃走を測るが、其処へ……

 

 

―ブオォォォォォォッ!!―

 

 

『……?!クウガバ?!』

 

 

トンネルの向こうからライトを照らしながら現れた一台のバイクに阻まれ、足を止めたグロンギはクウガかと警戒し槍のような武器を取り出して身構えていく。しかし……

 

 

ディケイド『──クウガ?違うな』

 

 

マシンから降りてそう告げたのはクウガではなく、警視庁から駆け付けた零が変身するディケイドだったのだ。自身の知らない未知の戦士を目の当たりにしたグロンギも動揺し、思わず後退りして驚愕を浮かべた。

 

 

『リントビ ガザダバゲンギブギダボバ!』

 

 

ディケイド『グギグギうるせぇよ。ちょっと話を聞かせて欲しいだけだ』

 

 

そう言いながら悠然とした足取りでグロンギに近付こうとするディケイド。しかし既にディケイドを敵と認識したグロンギは構わず槍のような武器を振りかざして容赦なくディケイドへと襲い掛かり、それに対しディケイドも咄嗟に両腕で槍の攻撃を受け止めながらカウンターの拳でグロンギに反撃し、戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

トンネル内でそんな戦闘が行われる中、女性警官達が襲われた現場にパトカーに乗った綾瀬と、彼女から連絡を受け取った優矢、そしてたまたま彼と一緒に陵桜に向かう途中だったやまとが駆け付け、半壊されたパトカーと襲われた女性警官の下へ駆け寄り三人は目を開いた。

 

 

綾瀬「四人目の犠牲者……!」

 

 

優矢「っ、9号はッ?!」

 

 

殺された女性警官の痛ましい姿を見て険しげな表情になりながらもやまとに見せないように体で隠し、グロンギの居場所をもう一人の女性警官から聞き出そうとする優矢だが、その時……

 

 

―ドガアァンッ!―

 

 

『グォオオオオオッ?!』

 

 

「「「ッ?!」」」

 

 

突然トンネルからグロンギが吹っ飛ばされるように現れ、それを見て三人が驚きと共に振り返る中、更にトンネルの奥からディケイドがゆっくりと歩きながら現れた。

 

 

優矢「な、なんだアイツ……?」

 

 

綾瀬「未確認……10号?」

 

 

優矢と綾瀬は現れたディケイドを呆然と見つめ、やまとは怯える女性警官の肩を抱いて優矢達の後ろに急ぎ下がらせていく。そしてディケイドはグロンギの攻撃を上手く捌きつつ素早いパンチの応酬で殴り飛ばすと、腰に巻いたバックルのサイドハンドルを開き、左腰のライドブッカーから一枚のカードを抜き取った。

 

 

ディケイド『情報提供の礼だ、受け取れ』

 

 

そう言いながらカードをバックルに装填し、両手でサイドハンドルを閉じるようにスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE·DE·DE·DECADE!』

 

 

電子音声が響き渡ると共に、ディケイドとグロンギの間にファイナルアタックライドのカードの形状をした十枚のビジョンが出現していく。それを確認したディケイドは空高く跳躍して右足を突き出すと、飛び蹴りの態勢のままグロンギに向けてカードを突き破るようにフィールドを次々と潜り抜けていき、そして……

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドゴオォォンッ!!―

 

 

『グ、グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーッ?!!!』

 

 

ディケイドの必殺技の一つ、ディメンションキックがグロンギに炸裂し、グロンギは断末魔の悲鳴を上げながら吹っ飛ばされ爆散していったのであった。

 

 

優矢「アイツ……自分の仲間を……?!」

 

 

同じ未確認を倒したディケイドを見て優矢達が驚愕を隠せないでいると、ディケイドは深い溜め息を吐きながら両手を叩くように払って身を起こし、トンネルの中に止めたディケイダーの下へ歩き出していく。

 

 

優矢「ッ!待てお前ッ!何で同じ未確認を倒したッ?!」

 

 

ディケイド『俺をグロンギと一緒にするな!』

 

 

優矢からの問いに簡潔にそう返したディケイドはディケイダーに跨りエンジンを掛け、マシンをUターンさせてその場を去ろうとする。

 

 

優矢「答えになってねぇぞっ!おい待てっ!」

 

 

綾瀬「優矢ッ!」

 

 

優矢は去っていくディケイドに向けて叫びながら追い掛けようとするが、綾瀬は深追いしようとする彼の腕を掴んで慌てて引き止め、二人がゴタついてる間にディケイドはディケイダーを駆りその場から走り去っていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界④

 

―光写真館―

 

 

零「──成る程。で、お前らもお前らでその陵桜って学校に何かあるんじゃないかと思い立って、情報収集に向かった訳か」

 

 

なのは「うん……取りあえず聞けた話だと、女性警察官が狙われてばかりいるっていうのは一般の人達の間でも知れ渡ってるみたい……」

 

 

スバル「あと、あの辺りじゃ未確認生命体の事件とかあんまり起こってはいない、とか……」

 

 

その日の夜。写真館の受付では今日の出来事や情報を交換して話し合う零達の姿があり、グロンギとの戦いからそのまま写真館に戻ってきた零は陵桜学園での二人の話を聞いて顎に手を添え思考に浸っていく。

 

 

零「あの周辺で事件は起きていないか……となると、奴の話も口からのデマカセって訳でもなさそうだ……」

 

 

なのは「?何の話……?」

 

 

零「……いや、こっちの話だ。まぁ取りあえずそっちも情報収集お疲れさん、と言いたい所だが……お前ら、何でそんな揃ってグッタリしてるんだ……?」

 

 

そう、先程から会話してる間ずっと気になっていたのだが、何故かなのはもスバルも受付カウンターに突っ伏していたり、壁に力無く寄り掛かってたりとやたら疲れ切った様子でグッタリしているのだ。

 

 

何かあったのだろうか?と、そんな純粋な疑問から訝しげに二人にそう問い掛ける零に対し、カウンターに突っ伏していたなのはが徐に顔を上げて何処か言い辛そうに視線を逸らす。

 

 

なのは「べ、別に対した事は何もなかったよっ……?ただその……その学園の情報収集に行った時、ちょっと変わった女の子に絡まれたぐらいで……」

 

 

零「……変わった女の子?」

 

 

何だそりゃ?と頭の上に浮かべる疑問符の数を増やして零が首を傾げると、なのはの隣の席に座って壁にもたれ掛かるスバルが苦笑いと共に口を開いた。

 

 

スバル「えと、私達もよく分かんないんですけど……何かその女の子曰く、私となのはさんがアニメ?のキャラクターにそっくりだとか大騒ぎになったんですよ……。それでその後、女の子から色々質問攻めにあって──」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

『ねえねえねえねえ、二人はどうやってこっちに来たの?!っていうか何で?どっから来たの?!やっぱテレビの中から?取りあえずスバルがいるって事は『StrikerS』からってのは間違いないよね!あ、でももしかしてサウンドステージXの辺りとか?見た目の年齢的に『ViVid』や『Force』って事はないだろうけど……いやでも映画とかもあるしなぁー。もしかするとTV版準拠じゃないって事もありだそうだし、そうなるとマテリアル娘達もいたりとか──』

 

 

なのは『ちょ、ちょちょちょちょっとっ、待って待って待ってっ!!さっきから一体何の話をしてるのかサッパリ──?!』

 

 

『ああもうっ、いい加減にしときなさいよアンタはっ?!初対面の人間相手にまでオタクムーブ全力で絡むんじゃないわよっ!』

 

 

『あひっ、あひゃひゃひゃひゃっ!ひょ、ひょっろひはいっへばかがひーん!ほっへはひっはら……って、あーッ!ちょっと待ってよ二人共っ!まだ聞きたい事が沢山──!』

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

スバル「──みたいな感じで、女の子からの質問の勢いとか、名前とか魔法の事まで言い当てられた事にビックリしちゃってつい慌てて逃げてしまった……っていうのが今日の出来事でしてっ……」

 

 

零「……成る程……つまり、ふっ……この世界じゃお前らに似たキャラクターがアニメになってる上に、しかも、魔法少女とか呼ば……クッ!」

 

 

なのは「顔逸らしてるけど今絶対笑ってるよねッ?!ほらもおスバルゥーッ!!零君に話したらこういう反応されるから絶対言わないでってあれほど口止めしたでしょおーッ?!」

 

 

スバル「あ、す、すみませんっ!ぼーっとしてたからついポロッと……!」

 

 

零「ん、んん……!まあ落ち着け、そう怒ってやるなよ。いや、俺は悪くないと思うぞ?違う世界でも形は違えど、お前達の名が知れ渡っているのは幼馴染や教官としても鼻が高いからなぁ。だから寧ろ堂々と胸を張ってもいいだろう魔法少女リリカルなのはさん―ガァアンッ!―イッタァッ?!おまっ、いきなり足踏む事はないだろォッ?!」

 

 

なのは「そっちがあからさまに悪意しかない言い方するからでしょっ?!大体私、自分からそんな風に名乗った覚えなんかないもんっ!」

 

 

零「だからって手ぇ出すのは違うだろうがっ!魔法少女のクセに大人気ない真似なんかしてんじゃねぇよっ!」

 

 

なのは「にゃああああ!また言ったッ!もう今日という今日は絶対に許さないんだからァーッ!!」

 

 

スバル「ちょ、ちょっと二人ともっ?!落ち着いっ、ちょ、喧嘩は駄目ですってばーッ!!」

 

 

零の魔法少女弄りから勃発した姉弟喧嘩を始める零となのはを止めようと泣きそうになりながらも仲裁に入るスバル。だが二人はその声も聞こえていないのか聞く耳を持たず、近くの物をとにかく投げ合ったり、遂には椅子を持ち上げて武器に使ったりとドンドン悪化していく状況に頭を抱えそうになった。その時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

優矢「こんばんわー……って、アレ?此処って喫茶店じゃなかったっけ?」

 

 

綾瀬「……どう見ても違うわよね」

 

 

不意に写真館の扉が開かれ、優矢と綾瀬が中に入ってきたのだ。二人が写真館の中を物珍しげに見渡す中、零となのはの喧嘩を仲裁しようとしていたスバルが二人に気付いて慌てふためく。

 

 

スバル「あ、い、いらっしゃいませー!ほらお二人もっ、お客さんが来ちゃいましたしもうその辺でっ……!」

 

 

なのは「ぜぇっ、ぜぇっ……だって、先に始めたのは零君の方っ……って、アレ……?その制服って、確か陵桜の……?」

 

 

優矢「え?」

 

 

二人が喧嘩で投げ合った物を慌てて床から拾い集めるスバルに止められて渋々引き下がると、なのなは優矢が着ている見覚えのある制服を見てそう呟き、一方で綾瀬は椅子に潰されて床に突っ伏す零の姿に気付き最初はギョッとするものの、良く見ると見覚えのある顔だと気付いて更に驚きを浮かべた。

 

 

綾瀬「も、もしかして貴方、黒月巡査?!どうして此処に……?」

 

 

零「グゥッ……どうして、と言われてもね……一応居候先なんですよ、この写真館……」

 

 

にしてもコレはないだろうッ……とぼやきながら零が頭の上の椅子を退けて徐に身を起こす中、来客の声を聞き付けたのか、奥の方から栄次郎が顔を出した。

 

 

栄次郎「あれ、零君達のお客さんかい?それならどうぞどうぞ!珈琲なら自信ありますんでね!」

 

 

零「……何か知らんが勘違いされてるな……」

 

 

スバル「えと……う、うちの館主さんもああ言ってますし、良かったらどうでしょう?あ、勿論サービスとかしますよ!」

 

 

優矢「えっと……じゃあ、姐さん。せっかくだからご馳走になりましょうよ」

 

 

綾瀬「……そうね。なら、お言葉に甘えて……」

 

 

いきなりの誘いに若干戸惑いながらも、栄次郎からの好意を無下には出来ないと素直に受け入れる優矢と綾瀬。それを見てスバルもこれで零もなのはが喧嘩を続行する事はないと踏み、内心「YES!」とガッツポーズを取っていくのであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

撮影スタジオ内に通され、奥から栄次郎の容れる珈琲の香ばしい匂いが漂う中、優矢と綾瀬は席に着いて先程彼等が遭遇した未確認生命体10号……ディケイドについて話し合っていた。

 

 

綾瀬「未確認を倒した彼……貴方は何者だと思う、優矢?」

 

 

優矢「何って、未確認10号だろ?次は倒してやるっ」

 

 

バシィッ!と、自身の掌に拳を打ち付けてディケイドへの対抗心を燃やす優矢。しかし一方で綾瀬の方はディケイドを其処まで敵視していないのか、落ち着いた口調で先程の現場での戦いを思い返し冷静な分析を口にする。

 

 

綾瀬「でも私には、彼はグロンギよりも貴方に近い存在に見えたわ」

 

 

優矢「?俺に、近い……?」

 

 

綾瀬「そう。……仮にもし、彼もグロンギと戦う存在なのだとしたら、彼の話を聞いてみたいと思うの」

 

 

優矢「聞いてみたいって……何だよそれッ!俺の代わりに戦わせようって事かッ?!」

 

 

ディケイドに肩入れする綾瀬に感情を剥き出しにし、思わずテーブルを叩いてしまう優矢。その大きな音に奥のなのはと栄次郎、珈琲を運ぼうとしたスバルも驚き肩をビクつかせる中、綾瀬はそんな彼女達に申し訳なさそうに会釈しながら小声で優矢を宥めた。

 

 

綾瀬「勝手に早とちりしないでっ。彼もグロンギと戦う者なら、貴方の力になってくれるかもと思っただけよっ」

 

 

優矢「え……あ……そっか……」

 

 

確かにディケイドがグロンギだけと戦う存在なら、今まで一人で戦ってきたクウガである自分にとっても大きな助けになる。綾瀬がそう言ったのも自分を心配しての事だと理解して優矢も安堵と嬉しさから思わず笑みを浮かべる中、其処へ零がカメラを手に二人の顔を撮りながら話に割って入った。

 

 

零「何やら大分親しげですね、綾瀬刑事。そちらの少年は?」

 

 

綾瀬「あ……彼は桜川優矢。ちょっと捜査に協力してもらってるのよ」

 

 

零「ほう……ちょっと、ですか……」

 

 

クウガの事を伏せ、あくまでも一般の捜査協力者である体で優矢を紹介する綾瀬。一方で零は何処か意味深な眼差しで優矢の顔を見つめていき、その嫌な視線に優矢も迷惑げに眉間に皺を寄せていく。

 

 

優矢「な、何だよ……」

 

 

零「……いいや、何も。それより綾瀬刑事、未確認の事件の件で一つ気付いた事があるのですが、良ければ少し時間を頂いても大丈夫でしょうか?」

 

 

綾瀬「え?」

 

 

優矢「いきなり出てきて図々しい奴だな……素人に何が分かるんだよっ」

 

 

零「少なくとも、あの4号とか言う訳の分からん奴よりもマシな事は言えると自負は出来るさ。何せ同業者だしな」

 

 

優矢「はあ?!」

 

 

わざわざ煽るような口ぶりをする零に優矢もカッとなって椅子から立ち上がるが、零はそれを無視して綾瀬の方を向いたまま話を続ける。

 

 

零「どうします、綾瀬刑事?話を聞くだけならタダな上、何よりこの解決法は4号の力を借りなくとも警察の力だけで行える……それなりに価値はあるとお約束出来ますが?」

 

 

綾瀬「…………詳しく聞かせてもらえるかしら?」

 

 

優矢「なっ……姐さんっ?!」

 

 

自分の力を必要としない零の話に耳を傾けようとする綾瀬に驚く優矢。そして零と綾瀬が事件の話を進めていく中、優矢はその様子を面白くなさそうに一瞥してそのまま写真館を出て行ってしまった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

綾瀬を置いて写真館を飛び出した優矢は、表に停めてあるバイクに跨りエンジンを掛けようとするが、其処へ優矢を追い掛けてスバルが写真館から出てきた。

 

 

優矢「……コーヒー代か?」

 

 

スバル「あ、いえ、そういう訳じゃないんですけど……」

 

 

両手を振って否定し、スバルは両手の指を絡めながら少し言い難そうに優矢に問う。

 

 

スバル「あの、一つ聞きたいんですけど……優矢さんってもしかして、4号……ですか?」

 

 

優矢「……何でそう思う」

 

 

スバル「えっと……さっき零さんが話してた時、4号の事で優矢さんが急に怒り出したから、もしかしたらそうなんじゃないかと思って……」

 

 

優矢「……もしそうだったらどうする?怖いか?」

 

 

スバル「いえ、そんな……!ただ、凄いなって……誰かを守る為にあんな怪物と戦えるなんて……」

 

 

自分も前線で戦う身であった為に分かるが、自らの意志で拳を握り締めて戦いの場に身を投じるなど余程の勇気がなければ出来ない筈。それなのに普通の学生の身でありながらグロンギと戦う優矢を凄いと褒めるスバルだが……

 

 

優矢「……別に、誰かの為に戦ってる訳じゃない」

 

 

スバル「……え?」

 

 

優矢「俺はただ、自分の為に戦ってるだけだ。そうじゃなきゃ、俺は……」

 

 

クウガとして自分がグロンギ達と戦うのも、全ては自分の為でしかない。そう言って今度こそバイクのエンジンを掛け走り去ろうとする優矢だが、スバルは僅かに逡巡する素振りを見せた後、優矢の背中に向けて口を開いた。

 

スバル「でも……!あの綾瀬さんって人、優矢さんの事とても心配してると思うんです……!だから零さんの話を聞こうとしてるのも、きっと優矢さんの負担を少しでも軽くしたい一心からなんじゃないかって……」

 

 

優矢「っ……何でそんな事が分かんだよっ」

 

 

まるで綾瀬の気持ちが分かるような口ぶりのスバルに優矢は思わず語気を強くして振り返ると、何処か複雑げな様子で俯くスバルの表情から何かただならぬ事情を悟り、もしやと思い問い掛ける。

 

 

優矢「もしかして……お前も誰かを心配してるから、か?」

 

 

スバル「……今の私達、前みたいに直接力になる事が出来ないから……警察官の綾瀬さんと違って、無事に帰って来て欲しいって祈る事ぐらいしか出来ませんけどねっ」

 

 

たははっ、と頭を掻いて何処か空元気に笑うと、スバルは優矢に頭を下げて一礼しそのまま写真館の中に戻っていく。そして優矢もそんなスバルの後ろ姿を見送ると、綾瀬が残る写真館を見上げながらスバルに言われた言葉を思い出し、複雑げに眉を顰め無言のまま俯いてしまうのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑤

 

―光写真館―

 

 

なのは「──誕生日繋がり?」

 

 

それから翌日。零は昨夜綾瀬と話した事件の話についてなのはに説明しながら、彼女と共に栄次郎の許可を取って借りた暗室に昨日撮影した写真を取りに向かっていた。

 

 

零「ああ。最初の犠牲者から昨日までの犠牲者の四人、彼女達の誕生日を並べて共通点を指摘したんだよ。最初は13日生まれ、次は27日、5日、そして最後に死亡した彼女は26日……それらの数字の最後を上から順に読んでいくと?」

 

 

なのは「?えっと……3、7、5、6で……み・な・ご・ろ……って、まさか?!」

 

 

零「そういう事だ。"皆殺し"の語呂合わせで、グロンギの奴らが犠牲者を狙っている……そう説明したら、最後に4が付く誕生日生まれの女性警官を重点的に警備するとの事で、さっき綾瀬刑事から連絡があった」

 

 

なのは「そっか、そういう事だったんだ……殺された被害者達にそんな繋がりがあったなんて……」

 

 

零「ああ。我ながら良く出来てると思う」

 

 

なのは「うん……うん?」

 

 

聞き間違いだろうか、今何か気になる台詞をサラッと言われたような気がするが、零は構わず到着した暗室の電気を付けて中に入っていき、現像した写真の確認作業を行っていくも、やはり零が撮影した写真はどれも酷くピンボケしていてまともな写真は一枚たりとも存在しなかった。

 

 

なのは「……やっぱり、この世界でも普通の写真は撮れないんだね」

 

 

零「らしいな」

 

 

なのは「らしいなって、そんな他人事みたいな……。零君は虚しくなったりとかしないの?こんなに沢山撮ってるのに、全然まともな写真が撮れないんだよ?」

 

 

零「前にも言っただろ?俺は自分の写真を失敗とは思っていないと。だからどんなに下手であろうと写真を撮るのを止める気はないし、例え一生このままだとしても、俺がこのカメラを手放すだなんて死んでも有り得ない」

 

 

愚問だと言わんばかりに、首に掛けたカメラを手に取って揺らしながらそう告げて暗室を後にしていく零。その言葉を聞いてなのはも一瞬呆気に取られるも、直後に自分達が贈ったカメラを其処まで大事にしてくれているのだと実感して紅に差す頬で嬉しそうに微笑み、零の後を追い掛けていく。

 

 

なのは「それでさっきの続きだけど、これでグロンギ達の目的を阻止出来たなら後は綾瀬刑事達が頑張ってくれるだろうし、もう私達に出来る事ってないんじゃないの?残りのグロンギの件も、クウガ……スバルが言ってた昨日の優矢君が倒してくれるだろうし……」

 

 

零「……それで済むならこっちも助かるんだがな……どうにもそう単純な話って訳でもなさそうだ」

 

 

そう言って撮影スタジオに戻ってきた零は、テーブルの上にドライバーと共に置いておいたライドブッカーから一枚のカード……未だ絵柄が甦らないクウガのカードを取り出してなのはに見せていく。

 

 

なのは「カードの力が戻ってない……」

 

 

零「俺達のこの世界での役目はまだ終わってない。そもそもな話、今やってるコレが本当に役目に沿って動けてるのか俺にも分からん。だから……」

 

 

なのは「……だから?」

 

 

一拍置く零になのはが怪訝な反応で思わず聞き返すと、零はクウガのカードを手にしたまま写真館の固定電話の下へ歩み寄り、受話器を手にしていく。

 

 

零「取りあえず、目に付く物から一つずつ片付けていこうと思う……シラミ潰しって奴だな」

 

 

そう言いながら零は固定電話に番号を入力していき、耳に当てた受話器の向こうから何度かコール音が聞こえた後、警視庁にいる綾瀬の応答の声が届いたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―灯溶山付近・河辺―

 

 

数十分後。零から突然の呼び出しを受け、綾瀬は優矢と共に彼が待ち合わせ場所に指定した山奥の河辺にやって来ていた。

 

 

因みに何故かは分からないが優矢に着いてきたやまとまで一緒であり、彼女曰く「先輩に何かあった時にフォロー出来る人間が傍にいた方がいいでしょ?ただでさえ4号の事は私生活でも内緒にしてるのだし」とのこと。

 

 

そしてそんな二人と共に綾瀬が奥へ進んでいくと、河辺の岩の上に座る零とスバルの姿を発見した。

 

 

零「やっと来たか。……何か知らない奴までいるが、まあいい」

 

 

綾瀬「……それで黒月巡査、さっきの電話はどういう事ですか?自分の推理が間違っていたって」

 

 

綾瀬がすぐに本題に入り、零に先程の電話……零が話した誕生日繋がりの推理が実は間違いだったという内容の意味を問い質すと、零はその疑問に答える代わりに懐から一枚の地図を取り出し、綾瀬達に見せていく。

 

 

その地図には灯溶山を中心に、所々に赤い×印が書かれていた。

 

 

綾瀬「これは……?」

 

 

零「今まで殺された女性警官達が襲われた場所だ」

 

 

そう言って零は岩場から腰を上げて立ち上がり、灯溶山を指差した。

 

 

零「あの山にグロンギの遺跡がある。奴らは今回のゲゲルで其処に眠る、究極の闇……とやらを復活させるつもりらしい」

 

 

綾瀬「究極の闇?一体何処からそんな情報を……?」

 

 

零「聞いたんだよ。昨日のグロンギ9号から直接」

 

 

「「……はあッ?!」」

 

 

サラッととんでもない発言を口にする零に綾瀬と優矢は思わず声を大に驚きの声を上げ、そんな二人の反応にスバルも苦笑を浮かべる中、やまとだけは不審げに目を細めて零の顔をジッと見つめていく。

 

 

そして零の突拍子のない話に一瞬思考が停止していた綾瀬だが、すぐに我に返り、余計に困惑した様子で零に疑問を投げ掛けた。

 

 

綾瀬「だったら例の、皆殺し……は何だったっていうのっ?」

 

 

零「アレは単なるデマカセだ。誕生日なんて何も関係ない。山から等距離の5箇所で、戦うリントの女性……つまり、女性警官を殺していくってのが本当のルールだったんだとさ」

 

 

優矢「何だよそれ、どうして嘘の推理なんか……」

 

 

綾瀬「……警察の警備を警視庁に集中させれば、此処に近づく女性警官も居なくなる……貴方、最初からそれを狙ってわざと嘘の推理を……?」

 

 

つまりはこの山に近付く人間の人払いを目的としたもの。零の真の狙いをこの場の誰より早く悟った綾瀬の問い掛けに対し、零もコートのポケットに両手を突っ込みながら不敵な笑みを浮かべ振り返る。

 

 

零「そう、これで山に近付く女性警官は誰もいない。……今此処にいるアンタを除いてな、綾瀬刑事」

 

 

綾瀬「……え?」

 

 

どういう意味だ?、と一瞬零の言葉の意味が分からず困惑する一同を他所に、零は無言のまま背後に視線を向け、

 

 

零「ゼレボギレ ギレズンザゾグ!(出て来いよ、来てるんだろ!)」

 

 

「「「ッ?!」」」

 

 

『グッ……!』

 

 

突然グロンギ語で叫び出した零に驚く綾瀬達。それと同時に何時から潜んでいたのか、木の上から二体のグロンギがゆっくりと姿を現した。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、写真館では二人の帰りを待って留守番をしていたなのはだったが、写真館から灯溶山の上空に出ている銀色のオーロラを目にし……

 

 

なのは「この世界にも、私達の世界と同じ滅びが……」

 

 

どうにも嫌な胸騒ぎを覚えて居ても立ってもいられなくなり、なのはは急いで写真館を飛び出し灯溶山へ走り出していくのだった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑥

 

 

『ゲゲルゾ ザジレスゾ(ゲゲルを始めるぞ)』

 

 

『ゴンダダバグゴンバ リント ゾボソゲザゴボシザ!(その戦うリントの女を殺せば終わりだ!)』

 

 

グロンギ達はそう言って木の上から飛び降りながら零達に徐々に近づいていき、零もポケットから両手を出してグロンギ達を睨み付けていく。

 

 

零「ボンダギロ ギダビラバシタ(今回も二体掛かりか)」

 

 

綾瀬「言語学者が解析しようとしても出来なかったのに……!」

 

 

グロンギ語で会話する零に驚きを禁じ得ない綾瀬の反応を他所に、零はそんな綾瀬に目を向けてグロンギ達の言葉を通訳していく。

 

 

零「此処で五人目を殺せば、究極の闇とやらが復活するらしいぜ」

 

 

優矢「クッ……!」

 

 

二人掛かりで迫るグロンギ達を前に、優矢は咄嗟に綾瀬の前に出て彼女を守ろうとする。だが零はそんな優矢を突然突き飛ばして綾瀬の方に振り返り……

 

 

―バキィッ!―

 

 

綾瀬「あぐっ?!」

 

 

なんと、綾瀬の顔をいきなり思いっきり拳で殴り付けたのである。

 

 

やまと「なっ……」

 

 

スバル「ちょっ?!零さんっ?!」

 

 

優矢「テメェッ!いきなりなんの真似だッ?!」

 

 

そんな零の突然の暴挙を見てスバルとやまとも慌てて綾瀬の傍に駆け寄り、優矢も怒りで零の胸ぐらを掴み詰め寄るが、零は無表情のまま顎で綾瀬を差す。

 

 

零「落ち着けよ。ほら、見てみろ」

 

 

優矢「はっ……?」

 

 

零にそう言われて優矢が綾瀬に視線を向けると、綾瀬の鼻から血が出て地面に滴り落ちていた。すると突然、それを見たグロンギ達が足を止めて絶句し後退りし始めていく。

 

 

『リントン ヂグバガセダ……?!(リントの血が流れた……?!)』

 

 

『ゲキバスゲゲル パギママギギダ!(聖なるゲゲルは失敗した!)』

 

 

やまと「?未確認が動揺してる……?」

 

 

優矢「急にどうしたんだ、こいつら……?」

 

 

鼻血を出す綾瀬を見て何故か後退りしていくグロンギ達の様子に優矢とやまとが疑問を覚える中、そんな二人の疑問に零が口を開いて答えていく。

 

 

零「よく思い出してみろ……コイツ等は今まで、一滴の血も流さずに女性警官達を殺し続けていた」

 

 

綾瀬「……あ」

 

 

淡々と語る零にそう言われ、綾瀬も其処で初めて気付いた。今までグロンギ達に殺された被害者の女性警官達の遺体から、ただの一滴も血が流れていなかった事を。

 

 

零「聖なるゲゲル……一滴の血を流さずに殺す事が最大のルール。だが残念だったな。血が流れた今、聖なるゲゲルは失敗だ!」

 

 

優矢「……お前……一体何がしたかったんだ……?」

 

 

状況が一転二転と移り変わりし過ぎて困惑してしまう優矢からそんな疑問を受け、零は懐から取り出したディケイドライバーを腰に巻き付けて答える。

 

 

零「決まってる。これ以上余計な犠牲を出す事なくゲゲルを終わらせたかっただけだ」

 

 

そう言いながら左腰に現れたライドブッカーを開き、零はディケイドのカードを取り出し身構えた。

 

 

零「後はコイツ等を始末するだけだ……変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

高らかに叫ぶと共に、零はバックルにカードをセットしてスライドさせる。そして鳴り響く電子音声と共に零の姿がディケイドへと変身していき、両手を払いながらグロンギ達へと突っ込んで戦闘を開始していくのであった。

 

 

優矢「……ディケイド?」

 

 

一方で残された優矢は変身したディケイドを見て何やら覚えがあるかのようにそんな呟きを漏らす中、ディケイドに変身した零はゲゲルの失敗から逃走を図ろうとしたグロンギ達の頭上を軽々と飛び越えて着地し、グロンギ達の前に立ち塞がった。

 

 

ディケイド『生憎だが逃がすつもりはない。ゲゲルと共に此処で終われ……』

 

 

『ヌゥウウウッ……シャアッ!』

 

 

冷淡にそう告げるディケイドを前に逃げられないと悟ったのか、グロンギ達はそれぞれ槍と大剣を手にディケイドに襲い掛かっていく。そしてディケイドも最初の一撃をかわしながら二体目のグロンギの攻撃を掻い潜って背中を蹴り付けると、距離を離して左腰のライドブッカーを剣形態に切り替え、グロンギの武器を弾きつつカウンターの一閃で斬り飛ばした。其処へ……

 

 

スバル「零さん!後ろです!」

 

 

ディケイド『ッ!ハアッ!』

 

 

―ガギィッ!ズバァアッ!―

 

 

『ヌガァアッ?!』

 

 

背後からディケイドに襲い掛かろうとしたグロンギの不意打ちをスバルが大声で知らせ、それを聞いたディケイドは咄嗟に振り向き様に振るった剣でグロンギの大剣を切り払い、そのまま返しの刃でグロンギを斬り裂き退け、スバルにサムズアップを返した。

 

 

ディケイド『ナイスだスバル、助かった!』

 

 

スバル「えへへっ」

 

 

サポートを褒められて照れ臭そうに頭を掻きながら、ディケイドにサムズアップを返すスバル。そして戦闘に戻ったディケイドは再攻撃を仕掛けてきたグロンギの槍の先端を掴んで引き寄せ、一体を集中して剣で繰り返しめった切りにしていき……

 

 

ディケイド『ハッ!ハァアアアアアアアッ!!』

 

 

―ガギイィイイイイイイイインッ!!―

 

 

『グッ、アッ……ギャアアアアアアアアアアアアアーーーーーーッッ!!!?』

 

 

トドメに放った全力の斬撃が叩き込まれ、グロンギは堪らず断末魔の悲鳴と共に爆散し完全に消滅していったのだった。それを確認したディケイドはライドブッカーを左腰に戻しながら一息吐いて両手を払っていくが、その戦いを傍観していた優矢とやまとの表情は何故か険しげに歪んでいた。

 

 

優矢「そうか、こいつがディケイド……」

 

 

やまと「あの人が言ってた事、間違いじゃなかったみたいね……どうするの、先輩?」

 

 

優矢「決まってるっ……!」

 

 

やまとにそう答えると共に、優矢は険しい表情のまま腹部に両手を翳してクウガのベルト、アークルを出現させながら勢いよく飛び出し、クウガに変身しながらディケイドへと飛び掛かっていった。

 

 

綾瀬「優矢ッ?!」

 

 

クウガ『ハァアアアアッ!!ダァアリャアッ!!』

 

 

―バキィイッ!!―

 

 

ディケイド『グウゥッ?!なっ……お前っ、何の真似だッ?!』

 

 

スバル「ゆ、優矢さん?!」

 

 

いきなり攻撃を仕掛けてきたクウガに殴られ、ディケイドだけでなく綾瀬とスバルも戸惑いを浮かべてしまうが、クウガは構わずディケイドに問答無用で拳を振りかざしていく。

 

 

クウガ『聞いていた通りだな、悪魔!』

 

 

ディケイド『ハァッ?!何だいきなり?!』

 

 

クウガ『いつか現れると聞いていた!全てのライダーを倒す為にってなぁ!』

 

 

ディケイド『チィッ!なにワケ分かんねぇこと言ってんだ!』

 

 

身に覚えもない謂れなき中傷を受けて毒づきながらもクウガからの攻撃を捌き続けていくディケイド。そして二人は戦いながら近くの廃寺院に場所を移してお互いに拳の応酬を繰り返していき、ディケイドがクウガの拳を屈んで避けながらその脇腹に打撃を叩き込み吹っ飛ばしていった。

 

 

クウガ『ガハァッ!グッ……まだだぁっ!』

 

 

ディケイド『いい加減にしろッ……!こっちはお前と戦うつもりなんか──』

 

 

『ウォオオオオオッ!!』

 

 

ディケイド『ッ?!―ガギィイイイインッ!!―グッ?!』

 

 

懲りずに身を起こして戦いを続けようとするクウガを見てディケイドも思わずキレ気味になりながら止めようとするが、其処へ先程の戦いの中でいつの間にか姿を隠していたもう一体のグロンギが乱入し、ディケイドに大剣で襲い掛かった。

 

 

突然の不意打ちを受けてディケイドもよろめきつつもグロンギの大剣を抑え込んで動きを封じる中、それを目にしたクウガは両腕を広げて身構えながら右足に力を溜めていき、

 

 

クウガ『邪魔だッ!ハァアッ!!』

 

 

―ドゴォオオンッ!!―

 

 

『グォッ?!イギッ……ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ?!!』

 

 

ディケイドが抑えるグロンギに目掛けて一気に駆け出し、力を溜めた右足でグロンギの脇腹に強烈な横蹴りを叩き込んでいったのだった。そして勢いよく吹っ飛ばされたグロンギが力なく倒れて木っ端微塵に爆散する中、異変に気付いて駆け付けたなのはが対峙するディケイドとクウガの姿を見て戸惑いを浮かべてしまう。

 

 

なのは「な、何これっ……?スバル、一体どうなってるのっ?!」

 

 

スバル「あっ、な、なのはさん……!えっと、それが私にも良く分からなくて……!」

 

 

駆け寄って来るなのはに状況説明を求められるも、同様に突然の事態に困惑するスバルにも今の混迷としたこの状況を上手く伝える事が出来ず、そんなスバルを見てなのはも困惑を深めながらディケイドとクウガに視線を向けると、突然頭の中にあるビジョンが浮かび上がった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

──それは、あの不可解な夢の続き。全ての仮面ライダーを倒したディケイドがただならぬ威圧感を放ちながら自分に歩み寄ろうとした中……

 

 

『……ま、てっ……』

 

 

全てのライダーが倒れる中、クウガだけがふらつきながら起き上がり、圧倒的な波動を放ちながら黒く禍々しい姿に変わり果ててディケイドへと果敢にも挑んでいく。そして一進一退の激しい攻防の末にディケイドとクウガは互いに距離を取ると、それぞれの右腕に圧倒的なまでの力を凝縮させていき……

 

 

『『ハアァァァァッ……ハアァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』』

 

 

互いに向けて振りかざした拳がクロスカウンターとなって激突した瞬間、二人を中心に凄まじい爆発が発生していき、自分をも巻き込んで全てを飲み込み何かもを消滅させてしまったのだった──。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

なのは「──めて……やめて……やめてっ!!二人が戦ったらっ!!」

 

 

スバル「な、なのはさん?どうしたんですか?!」

 

 

突然悲痛な叫びを上げ、二人を止めようと走り出すなのはをスバルも慌てて追い掛けるが、そんな二人の前にやまとが横から立ち塞がった。

 

 

スバル「あ、貴方は……?」

 

 

やまと「邪魔をしないで頂戴、アイツは此処で先輩が倒すのよ」

 

 

なのは「ど、どうしてっ……お願いっ、戦わないで零君っ!!」

 

 

ディケイド『……と言われてもな……向こうがやる気な以上、もう何を言っても無駄だと思うぞ……』

 

 

半ば諦めたようにそう言ってディケイドが振り向いた先には、クウガが撃破したグロンギの大剣を手に取りながら徐々にその身を紫色のラインが入った銀色の鎧の姿……攻撃力と防御力に特化した形態である『仮面ライダークウガ・タイタンフォーム』に変えていく共に、クウガが手にする大剣も紫の刃のタイタンソードに変容させる光景があり、それを見て最早逃げられないと悟ったディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『こうなった以上、戦ってみるってのも手かもしれないな……それで俺も、何かを取り戻せるかもしれん』

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

そう言って脳裏に思い返すのは、この旅の中で自分の失われた記憶を取り戻せるかもしれないと告げたあの謎の青年の言葉。もしかすると、この戦いの中にそのきっかけがあるかもしれないという希望を胸にドライバーにカードを装填し、ソードモードに展開したライドブッカーを構えてクウガと向き合っていくと、クウガがタイタンソードを手に駆け出しディケイドへと斬り掛かっていった。

 

 

―ガギィッ!ギィンッ……!ガキャアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディケイド『フッ……!ハァアッ!』

 

 

クウガT『グッ?!クッソッ……!』

 

 

持ち前の防御力を前面に押し出し、ノーガード戦法でディケイドの剣をその身で受け止めながらタイタンソードを振りかぶるクウガだが、対するディケイドはクウガの剣を次々と切り払いながら分身する刃で何かを探るようにクウガの胴体を何度も切り刻んでいく。

 

 

それでもビクともしないクウガが上段から大きく振りかざした剣を素早く掻い潜りながら、ディケイドはすれ違い様にクウガの脇の下に鋭い斬撃を叩き込んで吹っ飛ばしていった。

 

 

クウガT『ガハアァァッ!!グッ……な、んで……?!』

 

 

ディケイド『幾ら体中が固かろうが、身動きする為に柔軟な部分ってのは必ず何処かにあるモノだ!』

 

 

それはお前も例外じゃないと、クウガの関節部分を狙って立て続けにライドブッカーを振るい斬撃を繰り出していくディケイド。そしてディケイドの弱点を狙った猛攻の前にクウガが徐々に追い詰められていく中、二人を追いかけてきた綾瀬がクウガの下に慌てて駆け寄っていく。

 

 

綾瀬「優矢!もう止めなさい!何で黒月巡査を……!」

 

 

クウガT『クッ!』

 

 

綾瀬「ッ?!優矢?!」

 

 

クウガは止めに入る綾瀬の言葉も聞かず、綾瀬の手に握られている拳銃を強引に奪ってディケイドに向かって駆け出しながらペガサスフォームへ変わる。そして綾瀬から奪った拳銃をペガサスボウガンに変化させ、ディケイドに狙いを定めて放つが……

 

 

―ガギィンッ!―

 

 

ディケイド『それで狙ってるつもりか?射撃ってのは……』

 

 

ディケイドはライドブッカーでクウガの弾を防ぎ、今度は素早く銃形態のガンモードに切り替えながら新たにもう一枚のカードを取り出しバックルにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『こうやるんだ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!―

 

 

クウガP『グアアァッ!?』

 

 

綾瀬「優矢っ!!」

 

 

電子音声が響くと共に引き金を引いた瞬間、ライドブッカーの銃口が分身しながら無数の銃撃を放ち、クウガはモロに直撃を受け吹っ飛ばされていった。しかしそれでも立ち上がり、クウガがペガサスボウガンを手に再びディケイドに挑んでいく中……

 

 

 

 

 

「──ディケイド……お前はこの世界にあってはならない……」

 

 

 

 

 

……そんな二人の戦いを、影から密かに見つめる謎の男の姿があった。そして男がそう呟いたと共に、何処からともなく銀色のオーロラが現れてディケイドとクウガが激闘を繰り広げる戦場を包み込んでいく。

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

クウガP『な、何だ?!』

 

 

ディケイドとクウガは突然の事態に動揺し思わず攻撃の手を止める中、オーロラが徐々に晴れて消え去っていくと、二人の近くにある廃寺院の下にいつの間にか同じ姿をした緑色のライダーと茶色のライダーが現れ、ディケイド達を見据えていた。

 

 

『……兄貴、此処にも居たよ……ライダーが……!』

 

 

『あぁ……いくぜ、相棒……』

 

 

明らかな敵意を宿した眼差しでディケイドとクウガを捉え、同じ外見をした二人組の謎のライダー……『仮面ライダーキックホッパー』と『仮面ライダーパンチホッパー』はいきなりディケイドとクウガに向かって突っ込んで来る。

 

 

クウガP『な、何なんだこいつ等?!』

 

 

ディケイド『チッ、次から次へと……!』

 

 

突如現れたホッパー達に動揺するディケイドとクウガだが、ホッパー達はそんな二人の反応にも構わずそれぞれ鋭い蹴りと拳を振るい、問答無用で二人に襲い掛かっていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑦

 

 

戦いの最中、銀色のオーロラから突如出現したホッパー達の襲撃を受けるディケイドとクウガ。いきなり有無も言わさず襲ってきたホッパー達を前に二人も応戦するしかない中、クウガがパンチホッパーを迎撃しながらディケイドに向けて叫んだ。

 

 

クウガP『何なんだよコイツ等っ……?!コレもお前の罠かッ!』

 

 

ディケイド『冗談じゃねえッ!知るかよこんな奴等ッ!』

 

 

聞きたいのは寧ろこっちの方だと舌打ちしてライドブッカーの銃撃でキックホッパーを近付けまいとするディケイドだが、キックホッパーは素早い蹴りで弾を弾きながら一気に距離を詰めてディケイドに蹴り掛かり、一方のクウガもパンチホッパーが振るうラッシュの前にペガサスボウガンを構える間すら与えられずに防戦一方となりつつあった。

 

 

スバル「れ、零さんっ!」

 

 

なのは「駄目スバルッ!今の私達が行っても足手まといにしかならないッ!」

 

 

スバル「で、でもっ!」

 

 

苦戦を強いられるディケイドを見て堪らず飛び出しそうになるスバルの腕を掴んで引き止めながらも、なのはも内心ではディケイドを助けたい気持ちで一杯なのは同じだ。

 

 

しかしそれと同時に魔法が使えない今の自分達が助けに入った所で何も出来ない事を自覚しており、ただ足手まといにならないように見守る事しか出来ない無力感に苛まれながらも、なのはは一つある疑問を感じていた。

 

 

なのは(それにしても……あの二人、一体何処から……?)

 

 

あの二人のライダー達は一体何者で、何処から現れたのか。前触れなく出現した先程のオーロラも自然に発生したにしてはタイミング的に何処か違和感を覚え、そんな尽きない疑問を抱いてなのはがスバルと共にディケイド達の戦いを見守る中、ペガサスボウガンを弾かれたクウガがパンチホッパーから距離を取り、腕を前に掲げて身構えた。

 

 

クウガP『超変身ッ!』

 

 

―バッ……!バキィイイイイッ!!―

 

 

パンチホッパー『グゥッ?!』

 

 

高らかに叫びながら勢いよく飛び出し、ドラゴンフォームに瞬時に姿を変えて懐に潜り込んだクウガの拳がパンチホッパーに炸裂し後退りさせていく。

 

 

そして先程とは打って変わって素早く軽快な動きで繰り出すクウガの攻撃を前にパンチホッパーも徐々に圧倒されていき、形勢逆転の流れを掴んだと実感したクウガの口から思わず笑みがこぼれた。

 

 

キックホッパー『ッ!貴様ァ、今相棒を笑ったなぁ……?』

 

 

その僅かな声を聞き逃さず、キックホッパーは何を思ったのか何故か今まで戦っていた筈のディケイドからクウガに標的を変え、パンチホッパーと戦うクウガの背後からいきなり飛び膝蹴りを叩き付けて吹っ飛ばしてしまった。

 

 

クウガD『ウグゥッ?!な、何ッ?!』

 

 

キックホッパー『笑ったなァアアアアアアアアアッ!!』

 

 

ディケイド『お、おい……』

 

 

「チッ、誰を狙ってるッ……!」

 

 

突如豹変したキックホッパーとパンチホッパーからの集中攻撃を浴びせられ、一対二という不利な状況に立たされて再び防戦を取るしかなくなってしまうクウガ。

 

 

そして影からその戦いを傍観していた謎の男もターゲットであるディケイドを狙わないホッパー達を見て苛立つ中、いきなりほっとかれてしまったディケイドは思わず溜め息を吐きながらライドブッカーの銃口を突き付けて銃撃し、ホッパー達を纏めて吹き飛ばしていった。

 

 

『『ぐうぅッ?!』』

 

 

ディケイド『お前ら……何者だ?何処から来やがった?』

 

 

訝しげな表情を浮かべてそう問い掛けるディケイドに対し、ホッパー達はまるで幽鬼のようにユラりと身を起こして答える。

 

 

キックホッパー『地獄からだ……』

 

 

パンチホッパー『お前等も……来い!』

 

 

ディケイド『そうかよ、まともに答える気は無しか……!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

答えになってない答えと共に再び迫り来るホッパー達を見据えながらドライバーに再びカードを装填し、ディケイドは電子音声と共に再度ホッパー達にライドブッカーの銃口を向けて乱射していく。

 

 

しかしその時、ディケイドとホッパー達の間に再びオーロラが現れ、ディケイドの放った銃弾はホッパー達に届かずオーロラに阻まれてしまった。

 

 

パンチホッパー『……行こうよ、兄貴』

 

 

キックホッパー『ああ……また別の地獄が待っている……』

 

 

突然現れたオーロラを見てお互いに視線を交わしそう言うと、ホッパー達は躊躇なくオーロラへと飛び込み、そのままオーロラと共に何処かへと消えていってしまった。

 

 

「ディケイド……これが始まりだ……」

 

 

そして残されたディケイドとクウガもホッパー達の気配が消えたのを確認し変身を解除していく中、謎の男は変身を解いた零を一瞥しながらその場から消えるように立ち去っていったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

突然現れたホッパー達の襲撃をどうにか退ける事が出来た零と優矢。しかしホッパー達に横槍を入れられたせいでこれ以上戦う気も起きず、一先ず下山して先程の河辺へと戻る事になったのだが……

 

 

―ギギギギギギギギギィッ!―

 

 

零「イダダダダダダァッ?!馬鹿馬鹿馬鹿ッ!!鼻取れる鼻取れる鼻が取れるゥッ!!」

 

 

……何故か零はご立腹な様子のなのはに鼻を摘まれて引っ張り回されながら下山させられていき、河辺まで降りると共になのはは零の鼻から手を離して怒りを顕わに怒鳴った。

 

 

なのは「何で優矢君と戦ったの?!あれだけ止めてって言ったでしょ!」

 

 

零「グッ……其処で責められるの俺かっ?!文句があるなら向こうに言えばいいだろうっ!先に仕掛けてきたのはあっちだしっ、こっちは正当防衛でやり返しただけだろうがっ!」

 

 

なのは「戦い始めたら後も先もないのっ!二人があのまま戦い続けていたらっ──!」

 

 

戦いの末、あの夢の中の戦いの結末が現実になっていたかもしれない。勢いで思わずそう言い掛けるも、其処でふと冷静になりあの夢の事を口にするべきか否かなのはは迷い、そんななのはの様子を見て零も怪訝に首を傾げる中、二人のやり取りをハラハラしながら見守っていたスバルが間に割って入った。

 

 

スバル「で、でもお二人もちゃんと無事でしたし、取りあえずは良かったじゃないですか!結果的にはゲゲルも終わらせた訳ですし……」

 

 

零「……ま、そうだな。グロンギ共の目的を阻止したし、これでこの世界も救えたんだ。きっとこれで……」

 

 

先程のライダー達の正体など気になる謎は残るが、一先ずゲゲルを潰した事でこの世界の危機は去った筈と踏んで零も鼻を抑えつつ一息吐く中、彼等から少し離れた場所では……

 

 

優矢「──そ、そんなに怒る事ないだろっ!」

 

 

綾瀬「怒りもするわよっ……黒月零は人間だった、何故いきなり戦いを仕掛けたのっ?」

 

 

こちらでは先程の戦闘で零にいきなり戦いを仕掛けた件で優矢が綾瀬から説教を受けており、静かではあるものの凄まじい怒気を放つ綾瀬の威圧感を肌で感じて優矢もたじろぐ中、優矢の隣に立つやまとが後頭部に両手を回しフォローに入る。

 

 

やまと「私達は聞いてたのよ……ディケイドという敵が、何時か先輩の前に姿を現すって」

 

 

優矢「そ、そうなんだよっ!それでそいつが世界を破壊するって……!」

 

 

やまとのフォローを借りて何とか理由を説明する優矢だが、綾瀬にはそれも苦し紛れの言い訳にしか聞こえず溜め息を吐き、二人との会話を切り上げて零達の下に歩み寄っていく。

 

 

綾瀬「黒月巡査!聖なるゲゲルというのは本当なのですか?」

 

 

零「ああ、本当だ。あの山に究極の闇、とやらが眠ってたらしい」

 

 

綾瀬「その目覚めは阻止されたって事ね?今なら警察で倒せるかも……」

 

 

灯溶山を指差す零から証言を取り、綾瀬はこれまでの事を報告する為に急いで車に乗り警視庁に戻っていった。

 

 

優矢「ちょっ、あ、姐さんっ!」

 

 

やまと「綾瀬刑事の事を気にしてる場合?今はあっちが先でしょ、先輩」

 

 

優矢は車で走り去る綾瀬の後を慌てて追おうとするも、ジト目で睨むやまとに後ろから服の裾を引っ張られて引き留められてしまい、やまとに促され振り向いた先では零達がジッと二人を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑧

 

―光写真館―

 

 

それから数十分後。写真館に戻ってきた零達は丁度昼時という事で栄次郎特製のシチューを食べていたが、その中には何故か優矢とやまとも一緒になってシチューを食べていた。

 

 

優矢「……ウメェ!」

 

 

やまと「ホント……味付けがしっかりしてて美味しい」

 

 

栄次郎「ウメェだろう?そのシチュー、昨日から仕込みをしてた自信作だからね。まだまだおかわりあるから、沢山食べてってね〜」

 

 

優矢とやまとから絶賛され、栄次郎は自信満々にそう答えながら台所に戻っていく。

 

 

零「……じゃないだろッ!何でお前等が此処にいる?!」

 

 

優矢「いや、何でって……俺達は二人に招かれただけだし……」

 

 

あまりにも自然に場に溶け込み過ぎてて一瞬スルーしそうになるも、我に返った零からのツッコミに優矢もシチューを食べながら自分達を招いたなのはとスバルに目を向けていく。そしてそんな優矢に、スバルは先程から気になっていた疑問を投げ掛けた。

 

 

スバル「あの……優矢さんに少し聞きたい事があるんですけど、さっき零さんの事を"悪魔"って言ってましたよね?あれって一体──」

 

 

なのは「(ピクッ)」

 

 

先程の戦いで優矢が零に言い放った『悪魔』の意味を聞き出そうとした瞬間、そのワードを耳にしてなのはの持っていたスプーンがピクッと反応する。それに気付いたスバルもハッ!と青ざめて思わず口を塞ぐと、なのはの隣に座る零がそっと自分の肉を彼女の皿に移した。

 

 

零「安心しろ、お前の事じゃないから……」

 

 

なのは「……そう」

 

 

落ち着いた口調で零が宥めるようにそう言うとなのはは再びシチューを食べ進めていき、そんななのはの様子を横目に零とスバルも無言のままアイコンタクトを取って静かに頷き合った。

 

 

優矢「……え?なに今の?」

 

 

零「気にするな、昔取った杵柄を弄られすぎてちょっと過敏になってるだけだ……それよりほら、話を進めろ」

 

 

優矢「?……えっと、言われたんだよ。俺が最初に関わった未確認の事件で、攫われたやまとを助けようとして初めてベルトを手に入れた時に……」

 

 

これ以上は掘り下げるな、と無言の圧を出す零に話の続きを促されて若干戸惑いつつも、優矢は数ヶ月前の出来事を三人に話していく。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

数ヶ月前、灯熔山山頂付近の洞窟……

 

 

グロンギに誘拐されたやまとを救出する為に単身山に乗り込み、其処で手に入れたアークルを腰に巻いてクウガに変身した優矢はグロンギを撃退した後、変身を解いて自分の腰に巻かれたベルトを戸惑い気味に触れていた。

 

 

その背後にはグロンギに手に掛けられる寸前だったやまとが目の前で起こった出来事を未だ信じられない様子で見つめ地面に座り込む中、やまとの背後から事の成り行きを見守っていた男がゆっくりと優矢に近付き語り掛ける。

 

 

「いつか君の前に悪魔が現れる」

 

 

優矢「……悪魔?」

 

 

「全てを破壊する存在、ディケイド……それが君の本当の敵だ」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「……じゃあ何か?お前達はそんな訳の分からん男の言葉を信じて俺を襲った訳か?」

 

 

優矢「い、いや、俺達だって最初は胡散臭いなぁーって思ったさ。でも実際に目の前に現れたら、あの男が言ってた事は本当だったんだって思うだろ……!」

 

 

やまと「それに加えて、貴方の言動もとても善人とは思えない振る舞いだから何か裏があるんじゃないかと変に勘ぐってしまったもの……いきなり綾瀬刑事の顔を殴り付けたりとかするし」

 

 

なのは「綾瀬刑事を殴ったぁ?!」

 

 

ダァンッ!と、全員分の皿をひっくり返さんばかりの勢いでなのはがテーブルの上に身を乗り出すように急に立ち上がった。その剣幕にビビって優矢も引き気味になりながらもコクコクッと頷き返すと、なのははスッと隣に座る零に振り返り、その視線から逃れるように零もサッと目を逸らした。

 

 

なのは「零君……?私、その話は聞かされてないんだけど、どういう事か説明してくれるかなぁ……?」

 

 

零「説明も何も、ゲゲルを潰す為にちょっと綾瀬刑事の手を借りただけだぞ……手っ取り早く鼻を殴って」

 

 

なのは「殴って、じゃないよっ!女の人の顔を殴るとか傷でも残ったらどうするのっ?!というか綾瀬刑事が問題にしてくれなかったから良かったけど普通に傷害になるんだからねソレッ?!」

 

 

零「いや俺もその辺は考えてちゃんと加減を、ちょっ、待てっ、首を掴んで絞めるなっ……!揺らすな馬鹿ッ!」

 

 

ブンブンブンブンッ!!と、綾瀬を殴った件を追求し首を掴んで前後に激しく揺さぶってくるなのはの手から逃れようとするも、あまりの力強さに振り解く事も叶わず成されるがままになってしまう零。

 

 

そして優矢とやまともそんな二人のやり取りを何とも言えない微妙な顔で見つめる中、スバルは一人優矢が話した謎の男の事が気になっていた。

 

 

スバル(零さんが世界を破壊する存在って……もしかして、その人はあの夢の事を知ってる……?)

 

 

だとしたらその男は何者なのか。なお深まる謎にモヤモヤとした気持ちになるスバルだが、そんな時……

 

 

栄次郎「あれ……?何か大変な事になってるね」

 

 

「「「……え?」」」

 

 

奥でテレビを見ていた栄次郎の声を聞き、零達は席から立ち上がってテレビを見ていく。其処には……

 

 

『灯溶山の頂上にて謎の黒い煙が発生し、今現在も煙が広がっています。原因は未だ不明で、先程灯熔山を調査する為に登った警官達との連絡が途絶えてしまい、中の状況は未だ不明です。また──』

 

 

やまと「ッ!これって……」

 

 

優矢「綾瀬の、姐さん……!」

 

 

テレビのニュースから流れているのは、灯溶山で発生した異常と山に突入した警官隊との連絡が途絶えたという緊急速報を知らせるもの。

 

 

それを見た優矢は不吉な予感を感じて慌てて写真館を飛び出していき、バイクに乗って灯溶山に急行していく。そしてやまとも優矢の後を追い掛けるように飛び出し、零達も写真館を飛び出すと、灯溶山の上空に銀色のオーロラが発生しているのが見えた。

 

 

スバル「あ、あれって、私達の世界と同じ……?!」

 

 

なのは「まさか……私達の役目って、まだ終わってなかったの?!」

 

 

予想だにしてなかった事態に二人が動揺する中、零は絵柄が消えたままのクウガのカードを見て舌打ちすると、カードを仕舞って表に停めていたディケイダーに跨がりヘルメットを身に付けていく。

 

 

零「二人は中で待ってろ!俺はアイツを追う!」

 

 

なのは「えっ?ま、待って!零君っ!」

 

 

なのはが呼び止めるが、零はそれを聞かずにディケイダーを発進させ、優矢を追うようにバイクを走らせて灯溶山に向かっていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑨

 

―灯溶山山頂―

 

 

その頃、灯溶山山頂から発生した黒い煙は徐々に広がっていき、封印されたグロンギを撃退する為に山頂に向かおうとしていた警官達は黒い煙を吸って次々と倒れていく。その中にいた綾瀬も大量に黒い煙を吸ってしまった為、よろめいてしまう。

 

 

「あ、綾瀬……逃げろ……これは……」

 

 

一人の刑事が綾瀬の身を案じそう呼び掛けるも、やがて間もなく息絶えてしまう。

 

 

一方でその頃、綾瀬達が目指そうとしていた山頂の空洞の中にある一つの石碑が崩れ、その中から一体のグロンギが現れた。

 

 

その風貌はまるで狼のように禍々しく、圧倒的な威圧感を放つグロンギが咆哮した瞬間、息絶えた筈の警官達が次々とグロンギとなって蘇っていく。

 

 

綾瀬「人間が、グロンギにッ……?!」

 

 

その目を疑うような光景を前に綾瀬が驚愕する中、そんな綾瀬にグロンギ達が襲い掛かろうとする。しかしその時、突然後ろから誰かに腕を掴まれて後ろに引っ張られた。

 

 

綾瀬「ッ?!ゆ、優矢……?」

 

 

優矢「姐さん!早く、こっちへ……!」

 

 

黒い煙を吸わないように鼻と口を塞ぎながら現れた優矢を見て驚く綾瀬の反応を他所に、優矢は綾瀬の腕を引っ張り急いで山を降りていく。

 

 

そしてグロンギとして蘇った警官達も優矢達を追っていく中、石碑から現れた狼のグロンギ……ン・ガミオ・ゼダも大勢のグロンギが山を下りていく光景を眺め、自身も山を降りようと一歩踏み出そうとした。その時……

 

 

ディケイド『ハアァッ!!』

 

 

―ドゴォオオッ!!―

 

 

優矢の後を追い掛けて灯溶山を登ってきた零が変身するディケイドが飛び出し、ガミオに殴り掛かった。だがガミオはディケイドの拳を受けても何故か反撃せず、何処か声を震わせながら口を開く。

 

 

『バゲゴセパレザレダ……?(何故俺は目覚めた……?)』

 

 

ディケイド『……何?』

 

 

『……俺は二度と目覚めぬ筈だったッ!!』

 

 

ディケイド『……そうかよ。気の毒になぁッ!』

 

 

ガミオが人語を話した事に内心驚くも、表情には出さずに再びガミオに拳を打ち込んでいくディケイド。だがガミオはディケイドの打撃を受けても通用している様子はなく、ディケイドの腕を掴んで無理矢理引き寄せ…

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!―

 

 

ディケイド『グッ、ガハァアアアアッ!!?』

 

 

ガミオが放ったまるで鉄球の如く強烈な打撃が腹を抉らんばかりの勢いで打ち込まれ、ディケイドはそのまま岩盤に叩き付けられてその場に倒れ込んでしまった。

 

 

『もう遅い……!リントは全てグロンギとなり、この世を究極の闇が覆い尽くすッ!!』

 

 

ガミオはそう言ってその身を黒い煙と化して街へと降りていく。そして黒い煙は徐々に街を覆い尽くしていき、煙を吸い込んだ街の人達も警官達のように続々と息絶えて間もなくグロンギとなり、他の街の人々を襲って殺戮を始めていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―総合病院―

 

 

なのは「──あの中で、人間がグロンギに変わる……?」

 

 

優矢「……ああ、確かに見た……死んだ筈の人間が、グロンギになって蘇るのを……」

 

 

綾瀬が運び込まれたと連絡を受け、急いで病院に駆け付けたなのは達は優矢から告げられた衝撃的な事実に驚愕と戸惑いを隠せないまま、辺りを見渡していく。

 

 

病院内は既にグロンギの被害にあった者達で溢れ返り、突然の事態に病院側も対応が追い付かず混乱状態に陥っていた。

 

 

そんな中、なのはから連絡を受けて灯溶山から降りてきた零が病院に駆け付けるも、痣だらけのその顔を見たなのはが血相を変え零に駆け寄っていく。

 

 

なのは「零君?!どうしたのその怪我?!」

 

 

零「俺は大丈夫だ。それより……綾瀬は?」

 

 

優矢「……重傷だ……しかも、大量にガスを吸った……このままじゃグロンギにっ……!」

 

 

スバル「そんなっ……」

 

 

悔しげに拳を握って俯き、辛そうに答える優矢の口から聞かされた綾瀬の容態の重さに一同の空気も更に重くなる中、零は目を細めて淡々と語る。

 

 

零「グロンギは戦闘しか考えられない種族だったな。人間全てがそれに変わっちまえば、世界は……終わりだ」

 

 

優矢「ッ!ゲゲルは失敗したんだろッ?!一体どういう事なんだよッ!!」

 

 

やまと「先輩!落ち着いて!」

 

 

綾瀬を助けれなかった自分に対する怒りや悔しさを抑え切れず、堪らず零の胸倉を掴んで行き場のない怒りをぶつけてしまう優矢。そんな優矢をやまとも何とか落ち着かせようとするが、対する零は優矢の手を掴んでゆっくり下ろさせ、優矢の目をまっすぐ見つめていく。

 

 

零「元々奴は目覚める筈のなかった存在だ。だが、この世界にも俺達の世界と同じ……滅びの現象が起き始めてるんだ」

 

 

優矢「……俺達の、世界?」

 

 

スバル「……私達は、別の世界から来たんです。私達の世界を、救う為に……」

 

 

やまと「世界を……救う?」

 

 

自分達が違う世界から来た存在である事を正直に伝える零達だが、いきなり告げられたそんな突拍子のない話に優矢もやまともどんな反応を返せばいいか分からず戸惑ってしまい、その間にも病院内は外から次々と運び込まれる患者で溢れ、院内はさながら戦争状態になりつつあった。極め付けは……

 

 

「ガスで亡くなった患者を運び込まないでっ!!」

 

 

「でもまだ微かに息はあるんですっ!!」

 

 

「未確認になって暴れ出すんでしょうっ!?警察に運んでくださいっ!!」

 

 

「お願い助けてっ……!せめてこの子だけでもっ!!」

 

 

「ぁぁっ……ぅうっ……」

 

 

「綾瀬さんの容態がっ!!」

 

 

優矢「あ……あぁ……」

 

 

黒い煙を吸ったが為にグロンギになる事を恐れて患者の受け入れを拒否する医者、泣きながら助けを求める遺族達、看護師から伝えられる綾瀬の容態の急変、テレビで流されるグロンギ達の殺戮の光景と人々が恐怖する悲鳴に足がすくみ、優矢は怯えて立ち尽くしてしまう。

 

 

優矢「俺は……戦えないっ……」

 

 

やまと「先輩……」

 

 

零「…………」

 

 

混乱と絶望、あまりにも多くの死が渦巻くこの状況を前に戦意を失って俯いてしまう優矢。零はそんな彼を一瞥するも何も語ろうとはせずただ瞼を伏せ、グロンギ達を倒す為に病院の入り口に向かって歩き出していく。

 

 

なのは「ま、待って零君っ!今行ったら零君もグロンギにっ!」

 

 

零「いや、俺はこの世界の人間じゃない……もしかしたらって事もあるさ」

 

 

心配するなと、不安を帯びた顔で必死に止めるなのはの肩を叩いてそう言いながら病院を出ようとする零だが、その時……

 

 

スバル「……あれ?今のって……?」

 

 

現場の状況をテレビで見ていたスバルが不意にそんな呟きを漏らし、それに気付いた零となのははスバルの方に振り返り首を傾げた。

 

 

なのは「スバル?どうかしたの……?」

 

 

スバル「いえ、今テレビに見覚えのある人が映ったような……」

 

 

零「何?」

 

 

スバルにそう言われ、二人も彼女の視線を追うようにテレビを見ていく。其処には迫りくるグロンギ達から必死に逃げ惑う人々の姿が映し出されており、その中に……

 

 

なのは「……っ?!あ、あれって……?!」

 

 

スバル「……ティア?ティアです!ティアが彼処にっ!」

 

 

そう、グロンギ達の攻撃から必死に逃げ続ける人々の中に三人の見覚えのあるオレンジ色の髪の少女……零達の仲間であり、スバルのパートナーである"ティアナ・ランスター"の姿があったのだ。

 

 

テレビの中でグロンギに追われるティアナの姿をスバルが指差すと、なのははテレビと零を交互に見ながら焦りと共に叫ぶ。

 

 

なのは「で、でも、何でティアナがあんな所に?!」

 

 

零「……そうか……!アイツの言っていた、"他の世界に飛ばされた"ってのはこういう意味か!」

 

 

旅に出る前にあの謎の青年が言っていた言葉を思い出し、そういう事かと得心を得た零はすぐさまテレビの中継場所を確認する。どうやらこの病院からさほど距離は離れていないようだ。

 

 

零「とにかく今はグロンギよりティアナが先だな……行ってくる!」

 

 

スバル「あっ、待って下さい零さんっ!私も行きますっ!」

 

 

先ずはティアナの救出を先決して急いで病院を飛び出す零を、スバルも慌てて後を追い掛ける。そして二人が駐車場に停めておいたディケイダーに乗って現場に急行する中、そんな三人のやり取りを離れて見ていた優矢は何も言えず、ただその場から逃げるように綾瀬の病室へ早足で歩き出していった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

陵桜学園付近の商店街。この場所も未だ増え続ける多くのグロンギ達で溢れる中、逃げ惑う人々の中に混じってティアナも必死にグロンギ達から逃げ続けていた。

 

 

ティアナ「ハァッ、ハァッ……ど、どうなってんのよ一体っ……!いきなり知らない場所に飛ばされたかと思えば変な怪物に襲われるしっ、クロスミラージュも動かない上に六課と通信も繋がらないっ……!何が起きてるのっ?!」

 

 

自分が立たされる今の状況を掴み切れていないのか、混乱した様子で他の一般人達と共にグロンギ達から逃げて走り続けるティアナ。その時……

 

 

「きゃあっ!」

 

 

「ッ?!ゆたかっ!」

 

 

ティアナ「?!」

 

 

ティアナと一緒に逃げていた少女が突然足を挫いて転んでしまい、もう一人の少女がその少女に慌てて駆け寄る姿を視界の端に捉え、ティアナは踵を返して二人の少女の下に駆け寄っていく。

 

 

ティアナ「大丈夫ですか?!」

 

 

「あ、す、すみません……!ゆたか、立てるっ?」

 

 

「う、うん、大丈夫だよみなみちゃんっ。これぐらい……痛ッ!」

 

 

「ゆたか?!」

 

 

ティアナ「……もしかして……ちょっと、ごめんなさい!」

 

 

心配を掛けまいと笑って立ち上がろうとする少女だが、足を抑えて痛がるその様子を見てティアナが彼女の靴と靴下を脱がしていくと、少女の足は腫れて青く変色しつつあった。

 

 

ティアナ「(やっぱり足を捻挫してる……!これじゃ立ち上がって歩くのはとてもっ)……取り敢えず、此処は危険ですから急いで離れましょう。私が肩を貸しますから、貴方はそっちを──」

 

 

「──っ?!う、後ろっ!」

 

 

ティアナ「?!」

 

 

とにかく急いで此処を離れる為に自分も肩を貸そうとするティアナだが、少女が恐怖の悲鳴を荒らげティアナの背後を指差し、慌てて振り返ると、其処には数体のグロンギがジリジリと迫る光景があった。

 

 

「「あ……あぁ……」」

 

 

ティアナ「クッ!(まずい、怪我人を抱えたままじゃ逃げられない……こうなったら、私が囮に──!)」

 

 

迫るグロンギ達を前に二人の少女は恐怖で動けなくなり、ティアナはそんな二人を守ろうと少女達の前に立って構える。そして一体のグロンギが片手を振り上げてティアナに襲い掛かり、ティアナが目をつぶって顔を逸らした瞬間……

 

 

『──ティアナ!と他二名!伏せろッ!』

 

 

「「「……え?!」」」

 

 

三人の背後から突然そんな声が響き、ティアナはいきなりの事に戸惑いながらも反射的に動き、言われた通り二人の頭を屈ませて伏せた。その時……

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『『ッ?!ゥッ……グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ?!!』』

 

 

電子音声と共に三人の頭上をマゼンタの銃弾が飛び越えてグロンギ達に撃ち込まれていき、グロンギ達は断末魔と共に爆発を起こし完全に消滅していったのであった。

 

 

ティアナ「ッ……い、今のは……?」

 

 

『ティアナ!無事か?!』

 

 

グロンギ達が爆散した跡の炎を呆然と見つめ何が起きたのか分からず困惑するティアナの下へと、今の銃弾を放った人物……零が変身したディケイドが駆け寄っていき、ディケイドを見たティアナは目を見開いて慌てて身を起こした。

 

 

ティアナ「あ、アンタは夢に出てきた?!というかその声って……もしかして、零さん?!」

 

 

ディケイド『?何だ夢って……いや、今はそれどころじゃないか。とりあえず無事だな?』

 

 

ティアナ「え、あ、は、はい……でも、この子が──」

 

 

ディケイドに変身しているのが零だと気付いて一瞬動揺を浮かべながらも、それより今は少女の怪我について説明をしなければと気を取り直そうとするティアナだが、其処へ……

 

 

スバル「ティーーアァァーーーーーーっっ!!!!」

 

 

ティアナ「え……ってスバルッ?!何でアン、ゴッハァッ?!」

 

 

突然聞こえた聞き慣れた声に釣られて思わず振り返ると、其処にはディケイドと一緒に駆け付けたスバルが勢いよく飛び込んでくる姿があった。

 

 

しかし勢いを付け過ぎたのか、スバルはそのまま驚くティアナに抱き着きながらも彼女の土手っ腹にタックルをかましてしまい、ティアナはそのまま女の子らしからぬ悲鳴と共に倒れるだけでなく、地面に思いっきり後頭部を打ち付けてしまった。

 

 

ディケイド(……oh……今とんでもない音がしたぞ、オイ……)

 

 

スバル「うぇえええんっ……ティア〜!無事で安心したよ〜!見付かって良かっだ〜!」

 

 

絶対に大丈夫とは言い難い鈍い音を立てて倒れたティアナを見てディケイドも仮面の下で顔を引き攣る中、スバルの方は自分がそんな大ダメージをティアナに与えているとも露知らず、倒れるティアナに抱き着いたまま滝のような勢いで涙を流し再会を喜んでいたが……

 

 

ティアナ「…………な…………け…………」

 

 

スバル「……へ?」

 

 

ティアナ「無事な訳あるかァァああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 

ガバァアアッ!!と、そんな憤怒の雄叫びと共にティアナが上に乗っかるスバルを押し退ける勢いで立ち上がったのだった。

 

 

スバル「ひぃいいッ?!ど、どうしたのティアっ?あっ、もしかして何処か怪我してたとかっ?!」

 

 

ティアナ「今したわァっ!!頭に怪我っ!!アンタが抱き着いたせいでそのまま倒れてゴツンッ!ってぇっ!!」

 

 

スバル「え……あ、それは……えっと……ごめんっ」

 

 

ヒリヒリと痛むたんこぶが出来た頭を抑えて怒るティアナに怒鳴られ、申し訳なさそうに目を泳がせながら謝罪するスバル。そしてそんな二人のやり取りを無言で静観していたディケイドは呆れるように溜め息を吐き、変身を解除し零に戻っていった。

 

 

零「それだけ元気なら、とりあえずは大丈夫そうだな……無事で安心した。グロンギに襲われてると知った時は流石にヒヤッとしたぞ」

 

 

ティアナ「あ……零さん、あの、此処は一体……?というか今何が起きてるんですか、これっ?」

 

 

零「説明したいのは山々だが、悠長に話してる時間がない。詳しい話はなのはから聞いてくれ。今は……」

 

 

と、零は其処で一拍置くと、何が起きたのか分からず困惑した様子で零達を見つめる二人の少女に目を向けていく。

 

 

零「あの二人は?」

 

 

ティアナ「あっ、あの二人は一般人で、一人はあの怪物達から逃げてる時に怪我をしたみたいです」

 

 

零「そうか……ティアナ、これを」

 

 

ティアナ「え?」

 

 

僅かに何かを考える素振りを見せた後、零は懐から何かを取り出してティアナに手渡していき、ズッシリと重みを感じるその感覚にティアナが驚いて手元を見下ろすと、それは鈍い光を放つ黒い拳銃だった。

 

 

ティアナ「これ……?」

 

 

零「お前、今デバイスが使えないだろう?奴らを倒すのは無理でも怯ませる事ぐらいは出来る筈だ。それであの二人を連れてこの先の病院まで逃げろ」

 

 

スバル「えっ?れ、零さんはどうするんですかっ?というかこんなのいつの間に手に入れて……?!」

 

 

零「あぁ、それは綾瀬刑事からパクッ……んんっ……借りただけだ」

 

 

スバル(……今パクったって言おうとしたんじゃ……)

 

 

ティアナ(絶対に言おうとしたわよね、パクったって……)

 

 

あからさまに咳払いして言い直す零を見て冷や汗を流してしまうスバルとティアナ。

 

 

まあ実際のところは廃寺院での戦いでクウガが使っていた拳銃を零がたまたま拾って返しそびれたというのが真相なのだが、今は其処まで説明している時間はないと近くに停めておいたディケイダーへと近付き、マシンに跨っていく。

 

 

零「まぁ、病院に着いたら綾瀬刑事に返しておいてくれ。俺はこのままあの煙の中心に向かう……そっちは任せたぞ」

 

 

スバル「あっ、零さん?!」

 

 

慌てて呼び止めるスバルだが、そんな制止の声も聞かずに零はディケイダーを再び発進させて走り出し、未だに黒い煙が広がる街の中心へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑩

 

 

その頃、未だ混乱に包まれる病院の一室ではベッドの上に横たわる綾瀬が弱々しく瞼を開いて意識を取り戻し、その傍らにはやまとと、綾瀬の手を握り締める優矢の姿もあった。

 

 

綾瀬「優矢……?」

 

 

優矢「綾瀬さん……」

 

 

傍らにいる優矢の顔を見て、一瞬だけ僅かに驚いた様子を見せる綾瀬。しかし直後に今の自分の姿、そして病室の外から聞こえてくる人々の混乱の声で今までの事を思い出し、優矢に目を向けていく。

 

 

綾瀬「優矢……此処で何をしてるの……?」

 

 

優矢「ッ……俺は……俺はただ、あんたに誉めてもらいたかった……あんたに……笑って欲しくて、今まで戦ってただけだ……今の俺じゃ……戦えないよっ……」

 

 

ただの高校生でしかなかった自分がクウガなどという超常の力でグロンギと戦って来られたのも、全ては目の前の唯一人の笑顔の為だった。

 

 

なのにその戦う理由を無くしてしまえば、ちっぽけな自分にこの力をどう使えばいいのかなんて分からない。

 

 

唯一の理由であった目の前の大切な人を失えば自分はもう戦う事は出来ないと、綾瀬の手を握りながら優矢は悔しそうに俯き、やまともなのはもそんな優矢の姿をただ黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

綾瀬「……私はもうすぐ死ぬ……そうすれば、この体もグロンギに変わるわ……そうなったら……貴方は私を殺せる……?」

 

 

優矢「ッ?!で、出来ない!出来る筈ないっ……!」

 

 

自分が尊敬する人を殺せる筈がない。首を横に振って強く否定する優矢に対し、綾瀬は力無く微笑む。

 

 

綾瀬「私の笑顔の為に、あんなに強いなら……世界中の人の笑顔の為なら、貴方はもっと強くなれる……」

 

 

綾瀬は弱々しい声を必死に振り絞りながら、優矢の手を強く握り返す。

 

 

綾瀬「私に見せて……優矢……あなたの力を……」

 

 

優矢「ッ……命令かよ、綾瀬刑事……?」

 

 

綾瀬「……えぇ……命令よ……」

 

 

綾瀬が振り絞って出した声を聞いて、優矢は一瞬だけ悲痛な顔になる。しかし、彼女の言葉の中にある確かな願いを感じ取り、ゆっくりと綾瀬に頷き返すと、自分が今すべき事の為に、握っていた綾瀬の手を離し病室から飛び出していった。

 

 

なのは「……綾瀬さん」

 

 

優矢が出ていくのを見届けた綾瀬の表情は、笑っていた。その笑顔を見たなのはが思わず綾瀬の名を呟くと、綾瀬は何処か罪悪感の入り交じった声音で優矢が握り締めていた自分の手を見下ろしていく。

 

 

綾瀬「ずっと、あの子が心配だった……無茶ばかりして……まるで弟みたいで……でも、そんなあの子の心を利用した……これは、罰ね……」

 

 

なのは「違う……違います!そんな……!」

 

 

これが今まで優矢を利用してきた自分への報いだと、後悔するように自嘲する綾瀬の言葉をなのはが否定して必死に首を横に振る中、やまとは僅かに逡巡する素振りを見せた後、綾瀬に向き直って静かに口を開く。

 

 

やまと「例えそうだったとしても、あの人は多分それでもいいと笑ってたと思うわ……ある日突然、人間でなくなった自分がこれからどうすればいいか、道に迷っていたあの人の標となってくれた貴女の為になるなら、って……」

 

 

綾瀬「……永森さん……」

 

 

やまと「……正直、そんな貴女がずっと羨ましかった……あの人を普通の人間でいられなくなるきっかけを与えてしまったのは私なのに、何もしてあげられない自分が嫌だったから……」

 

 

なのは(……何もしてあげられない、自分……)

 

 

今まで自分が抱えていた鬱屈した気持ちを始めて告白するやまとのその言葉に、なのはも今の自分の姿を重ねて無言のまま俯いてしまう。

 

 

そんな時、病室の扉からグロンギ達から逃げ切ったスバルとティアナが息も絶え絶えの状態で現れ、そのまま床に倒れてしまった。

 

 

スバル「ハァッ……ハァッ……つ、疲れたァああああっ……!」

 

 

ティアナ「た、弾も切れたしっ、あと少し遠かったから危なかったわねっ……取り敢えずあの二人も医者に任せた事だし、もう大丈夫でしょうっ……」

 

 

なのは「ス、スバル?!それにティアナも?!大丈夫?!」

 

 

病室に入ってくると同時にいきなり倒れてしまったスバルとティアナを見て、なのはも動揺しつつも慌てて二人に近付いて肩を貸し、取り敢えず近くにある椅子に二人を座らせて休ませていく。

 

 

スバル「だ、大丈夫です……ちょっと、休めば……って、あれ……?優矢さんは……?」

 

 

なのは「あ、優矢君なら今さっき出ていったけど……多分入れ違いになったんだと思うよ……」

 

 

取り敢えず、なのはは先程までの事をスバルに、これまでの経緯をティアナに説明していくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ビルが立ち並ぶ繁華街。其処には今なおグロンギ達が人々を襲い、死に絶えた人がグロンギとなってまた人を襲うという地獄絵図が続いており、そんな凄惨な光景を一際大きい高層ビルの屋上から眺めるガミオの姿もあった。

 

 

『リントは全てグロンギと化し、戦いを求め続ける。そしてこの世を究極の闇が覆い尽くす!』

 

 

―ブォオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

『……ん?』

 

 

人々の骸をグロンギ化させるガミオの咆哮を掻き消すかのように何処からかエンジン音が鳴り響いた。

 

 

それを聞いたガミオが視線を下ろすと、其処には高層ビルの貨物用エレベーターから現れたディケイダーがグロンギを次々と跳ね飛ばしていく姿があり、ディケイダーに乗る青年……零はマシンを停めてヘルメットを徐に外していく。

 

 

『お前はクウガでもリントでもない』

 

 

零「……知るか」

 

 

ガミオの言葉を短く一蹴し、ディケイダーから降りた零は腰に巻いたままのドライバーのバックルを開くも、そんな零を見下ろしたままガミオは構わず言葉を続ける。

 

 

『どうやらお互い、この世界にはいてはならない存在らしいな』

 

 

零は黙ってガミオの言葉を聞きながら、ライドブッカーを開いてディケイドのカードを抜き取った。

 

 

『消えよ。リントは全て殺し合うグロンギとなる……それが宿命だったのだ』

 

 

零「……俺も嘗て、アンタと同じ事を考えていた気がするよ。人間とは所詮、戦い合う事しか出来ない。全てを破壊する、そんな存在だと……変身!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

バックルにカードを装填し、零は電子音声と共にディケイドに変身しながらガミオに目掛けて高らかに飛び上がり、ガミオの頭上を一息で飛び越えた。そしてガミオの背後に着地すると共にディケイドはガミオに突っ込み殴り掛かるが、ガミオは僅かに身を逸らして拳を避けながら逆にディケイドを殴り飛ばしてしまった。

 

 

ディケイド『ぐうっ?!うぁああああああああああッ!!』

 

 

ガミオの攻撃を受けたディケイドは高層ビルの屋上から落とされ、そのまま地上へと叩き付けられてしまう。

 

 

ディケイドに変身しているとは言えダメージは流石に半端ではないが、其処へ追い討ちを掛けるかのように地上に落ちたと同時に、ディケイドの周囲にいたグロンギ達がディケイドの姿を見つけてまるでゾンビのように迫って来ていた。

 

 

ディケイド『グッ……クソッ……一体どれだけの人間がグロンギに変わったんだっ……!』

 

 

『ガァアアアアアアッ!!』

 

 

『シャアアアアアアッ!!』

 

 

四方から続々と迫るグロンギの大群を見回しながら思わず毒づくと、ふらつく身体を起こしたディケイドは両手を叩くように払って襲い掛かるグロンギ達を迎え撃っていき、ガミオも近くまで降り、その光景を眺めていた。

 

 

そしてディケイドは最初に飛び掛ってきたグロンギの突撃をかわしながら脇腹を蹴り付けて退け、次に背後から羽交い締めして身動きを封じようとしたグロンギを強引に払い除けながら殴り飛ばし、左腰のライドブッカーをソードモードに切り替え周囲のグロンギ達を払うように剣を振るっていくが、それでもグロンギ達の猛攻は止まらず、寧ろ戦闘音を聞き付けて更にグロンギの数が増え、逃げ道を完全に塞いでいってしまう。

 

 

ディケイド『チィッ!邪魔をするなぁああああッ!!』

 

 

―ガギィイイイイインッ!!ザシュウゥッ!!ズバアァッ!!―

 

 

『ギャアッ?!』

 

 

『グァアアッ!』

 

 

それでもディケイドは抵抗を続けてグロンギ達を次々と斬り捨てていくが、やはり数が違い過ぎるグロンギ達に苦戦を強いられて徐々に戦い方も荒々しくなりつつあった。

 

 

倒しても倒しても、次から次に襲い来るグロンギ達の数を前に体力も徐々に限界に近付き、半ばヤケクソでライドブッカーを振り回していくも、グロンギの一体が死角からディケイドに突進して吹っ飛ばしてしまい、そのまま壁に叩き付けられた衝撃で変身が強制解除されボロボロの姿の零に戻ってしまった。

 

 

零「ガハァッ!ぅッ……ッ……クソッたれっ、めッ……!」

 

 

『アァアアアアアアアアアッ!!』

 

 

『グルァアアアアアアアアッ!!』

 

 

血塗れの手で壁に手を付きながら戦いを続けようとする零だが、そんな零にグロンギの大群が一斉に群がっていき、疲労困憊でまともに動けない零を四方から容赦なく殴り飛ばしていってしまう。

 

 

零「グゥッ?!この世界が、俺の死に場所っ……?」

 

 

グロンギ達の凄まじい力で絶え間なく殴られ続け、意識が朦朧とする中で一瞬自分の死を悟る零だが、その時ふと、破滅に向かう自分達の世界、そしてなのは達や他の仲間達の顔が頭を過ぎった。

 

 

零「ッ……!ふざけるなぁああああああッ!!」

 

 

―バキィイイッ!―

 

 

『ブァアアッ?!』

 

 

光を失い掛けていた瞳に力が戻り、零は闇雲にグロンギ達を殴り続けていく。だが生身の人間がグロンギ達に適う筈もなく、抵抗も虚しく返り討ちにあってしまう。

 

 

零「グッ、ァアッ……ウワァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

 

遂にはグロンギ達に囲まれ、零の身体をバラバラにしようと無数の醜い手が伸びて零の腕や足、首を掴んで嫌な音を立てていく。

 

 

そのあまりの激痛に零も最早悲痛な悲鳴を上げる事しか出来ず、完全に追い詰められて絶体絶命の危機に陥っていた。その時……

 

 

 

 

 

 

―ブウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッ!!!!―

 

 

 

 

 

──何処からともなく、青空にまで響き渡る轟音のようなエンジン音が鳴り響いた。

 

 

それを耳にした零が振り返ると、其処にはクウガに変身した優矢がバイクを駆って踊り場の階段を駆け下りて来る姿があり、そのまま猛スピードのウィリーでグロンギ達を薙ぎ払っていったのだった。

 

 

そしてその隙に零もクウガの乱入により数が減った他のグロンギ達を力づくで払い除けていき、クウガを見据えて僅かに笑みを浮かべていく。

 

 

零「ハァッ……ハァッ……来たか……」

 

 

クウガ『……ああ』

 

 

零の目をまっすぐ見つめ返して頷き、クウガはバイクから降りてグロンギ達と戦闘を開始していく。

 

 

クウガ『俺は、戦う!』

 

 

零「……あの人の為か?」

 

 

クウガ『あんた一人に戦わせたら、あの人は笑ってくれない!』

 

 

グロンギ達の攻撃を掻い潜りながら突き進み、クウガは拳を振りかざして必死に戦い続けていく。しかし……

 

 

『ヌゥウウウウウウォオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』

 

 

―バチィイイイイイイッ!!ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァンッッ!!!!!―

 

 

零「ッ?!ぐっ、うぐぁああああッ!!」

 

 

クウガ『ガハァアアッ?!』

 

 

上空に浮遊するガミオが巨大なエネルギー波を地上へ打ち込み、他のグロンギ達も巻き込みながら零とクウガを吹っ飛ばてしまい、そのあまりの威力にクウガも変身が解けて優矢に戻ってしまう。

 

 

『見たか!人間は強さを求め、戦いを求める!グロンギになるのも運命だ!』

 

 

倒れて悶え苦しむ優矢を指し、人間の本性が闘争を求めるグロンギに等しき存在であると自信に満ちた声で語るガミオ。

 

 

だが、零はボロボロの身体をふらつきながら起こして立ち上がり、ガミオを睨み付けた。

 

 

零「違うなっ……この男が戦うのは、誰も戦わなくていいようにする為だッ!」

 

 

『……何?』

 

 

零「例え自分一人が闇に墜ちたとしても、誰かを笑顔にしたいッ!そう信じてるッ!」

 

 

力強くそう言い切る零の言葉を聞き、傷付いた身体を起き上がらせた優矢は呆然と零を見つめていく中、そんな優矢を指差し、零はガミオに向けて告げる。

 

 

零「コイツが人の笑顔を守るなら……俺は、コイツの笑顔を守るッ!」

 

 

優矢「……お前……」

 

 

零「……知ってるか?コイツの笑顔、悪くない」

 

 

零のその言葉を聞いた瞬間、優矢の中で一つの強い決意が生まれ、優矢の表情も力強い表情に変わっていく。その変化を目にしたガミオも戸惑いを露わにし、動揺を浮かべて零を睨み付けた。

 

 

『貴様は、一体何者だ?!』

 

 

そう問い掛けるガミオに対し、零は不敵な笑みを浮かべて取り出したディケイドライバーを腰に装着し、左腰に出現したライドブッカーから抜き取ったディケイドのカードをガミオに見せるように掲げていく。

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ……」

 

 

『ッ?!』

 

 

零「憶えておけッ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

零はカードをバックルに装填し、鳴り響く電子音声と共にディケイドに変身していく。そして変身を完了すると同時にライドブッカーが独りでに開かれ、中から絵柄の消えたクウガのカードを含む三枚のカードが飛び出していき、ディケイドがそれらを手に取った瞬間、絵柄のなかった三枚のカードに絵柄が浮き出ていった。

 

 

ディケイド『……優矢、いくぞ』

 

 

優矢「……ああッ!」

 

 

ディケイドの呼び掛けに力強く答えて頷き、優矢は腹部に両手を翳してアークルを出現させ、変身の構えを取った。

 

 

優矢「変身ッ!」

 

 

高らかに叫び、優矢はクウガに変身してガミオに向けて拳を構えていく。だが左右から再び大群のグロンギが現れたのを目にし、先ずはグロンギの大群を倒す為に二人はそれぞれ左右に別れグロンギ達と戦闘を開始していくのだった。

 

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑪

 

 

クウガ『ハァアアッ!デリャアアッ!』

 

 

グロンギの大群に果敢に飛び掛かり、渾身の拳を叩き込んでグロンギ達を次々と倒していくクウガ。一方のディケイドもグロンギ達を殴り飛ばしながらライドブッカーからカードを取り出し、バックルに装填してスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『ハアァッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『ガァアッ?!』

 

 

『ギェエアアッ?!』

 

 

鳴り響く電子音声と共に、ライドブッカーをガンモードに変えて周りを囲むグロンギ達に向けて乱射するディケイド。そして怯んだグロンギ達を払い除け、ディケイドはクウガの下に駆け寄っていく。

 

 

ディケイド『邪魔だ!』

 

 

クウガに背後から組み付こうとしていたグロンギを蹴り飛ばし、ディケイドはクウガの後ろに付きながらライドブッカーから先程力が蘇った内のカードを一枚を取り出していき、それをバックルに投げ入れてスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:KU·KU·KU·KUUGA!』

 

 

ディケイド『優矢、ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

クウガ『え?』

 

 

ディケイドはそう言いながらクウガの背中に手を伸ばす。すると次の瞬間、ディケイドが触れたクウガの背中が開かれ、其処から巨大な装甲が現れた。

 

 

クウガ『うわっ?!あ、あぁ……?!』

 

 

装甲が現れたと同時にクウガの身体が宙に浮かび上がり、その姿が徐々に変形され巨大なクワガタムシへと変化していく。

 

 

これがディケイドの持つカードの力の一部……ファイナルフォームライドにより、クウガはクウガゴウラムへと超絶変形したのだった。

 

 

『こ、これは……?』

 

 

ディケイド『これが、俺とお前の力だ!』

 

 

超絶変形した自分の姿を見てクウガゴウラムが戸惑いを浮かべる中、クウガゴウラムを見て危険を感じたグロンギ達が奇声を発して一斉に二人に襲い掛かる。だが、クウガゴウラムは構わずにグロンギ達へと突っ込んでいく。

 

 

『ハアァアアアアアッ!!』

 

 

クウガゴウラムの突進により、グロンギ達は纏めて吹っ飛びながら次々と爆発していき、それを見たガミオは再びエネルギー弾を放つ為に力を溜める。

 

 

『ヌゥウウッ、ヌオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

ガミオは地上を薙ぎ払うように再び巨大なエネルギー波を地上へと打ち込む。だがディケイドはそれを見てすぐさま跳躍してかわし、クウガゴウラムの上に着地して共にガミオに向かって突っ込んでいった。

 

 

『な、何?!』

 

 

『『うおぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』』

 

 

猛スピードで迫る二人を見て動揺するガミオに目掛けて、先ずはディケイドが飛び掛かりソードモードに切り替えたライドブッカーですれ違い様に斬り裂き怯ませた。

 

 

其処へすかさずクウガゴウラムが二本の角でガミオを捕らえてビルの壁に思い切り叩きつけていき、その隙にディケイドが地上に降ると、クウガゴウラムは上空へ飛び上がってクウガに戻り、ビルの壁を走るように駆け降りていく。

 

 

クウガ『ハアァァッ!!』

 

 

『ヌオォッ?!』

 

 

そしてクウガは降下の勢いを利用してガミオに向けて飛び蹴りを放ち、そのままガミオと共に地上へと落下すると、ディケイドがライドブッカーを構え、ガミオに向かって跳躍した。

 

 

ディケイド『セアァッ!!』

 

 

―ガギィイイイインッ!!―

 

 

『グッ?!オォォォッ!!』

 

 

跳んできたディケイドに斬りつけられ、ガミオはバランスを崩しそのまま地上へと落下し叩き付けられるように地面に倒れる。そして二人も地上へと着地すると、倒れているガミオを見て一息吐くが……

 

 

『グッ、ググッ……グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォッッッ!!!!!!』

 

 

ガミオはふらつきながら身を起こし、いきなり大地を揺るがす程の雄叫びを上げ始めた。すると、周囲に残っていたグロンギ達がガミオの周りに集まっていき、ガミオは集まったグロンギ達を自分の中に吸収していく。

 

 

クウガ『アイツ……自分の仲間を吸収した?!』

 

 

ガミオは吸収を終えると再び上空へと飛翔し、ビルの屋上まで飛んでいく。そして屋上のヘリポートに体当たりして剥がし、ディケイドとクウガに向けて落としていった。

 

 

ディケイド『なっ、あんなのアリかよッ……!』

 

 

クウガ『任せろッ!』

 

 

落下してくるヘリポートを目にしてディケイドも怯む中、クウガは再びクウガゴウラムに姿を変えて飛翔し、落ちてくるヘリポートを真っ二つに切り裂いてディケイドを助けただけでなく、そのままガミオに向かって突っ込んでいく。

 

 

『な、何だとッ……?!』

 

 

ヘリポートを斬り裂き、迫り来るクウガゴウラムを見て分が悪いと踏んだガミオは慌ててその場から逃げようとするが……

 

 

『逃がすかぁッ!!』

 

 

『グゥオオッ?!』

 

 

後ろから追ってきたクウガゴウラムの角に捕えられ、そのまま元の場所へと戻されていく。そしてディケイドもライドブッカーから絵柄の戻ったもう一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:KU·KU·KU·KUUGA!』

 

 

電子音声が響くと共にクウガゴウラムの背中の羽部分が開かれ、光輝く羽根を羽ばたかせながらディケイドに向けて急降下していく。

 

 

そしてディケイドもクウガを彷彿とさせる構えから駆け出して割れたヘリポートに飛び移ると、そのまま割れたヘリポートを一気に駆け上がって上空へと飛び上がり、クウガゴウラムと共に落下してくるガミオに向かって跳び蹴りを放った。そして……

 

 

ディケイド『ハアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァッッ!!!』

 

 

『ウオォリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

『グッ、オッ……ヌゥウオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォォッッ!!!!?』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォンッッッ!!!!―

 

 

ディケイドとクウガゴウラムの必殺技……ディケイドアサルトが見事に炸裂し、ガミオは身体を激しく燃え上がらせながら地上へと堕ちていったのだった。

 

 

そしてディケイドと元の姿に戻ったクウガは地上に着地すると、身体が炎上して倒れるガミオにゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

ディケイド『アンタも嘗ては、人だったのかもしれないな……』

 

 

『グゥッ……な、ならお前は、何処から来た……?』

 

 

ディケイド『……あー……悪い、忘れた』

 

 

ガミオの問いに一瞬考える素振りを見せるも、仮面の下で苦笑いを浮かべながら呆れた返事を返すディケイド。

 

 

だがその答えを聞いたガミオは可笑しそうに笑うと、徐に顔を上げ青空を見上げていく。

 

 

『リント……闇が、晴れるぞ……』

 

 

何処か穏やかな口調で最後の言葉を口にした共に、ガミオは爆発して消滅していった。そしてガミオの消滅と同時に街中を覆い尽くしていた黒い煙も消えていき、グロンギ達も次々と倒れて黒い煙と共に消えていったのだった。

 

 

 

 

 



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第二章/クウガ×らき☆すたの世界⑫

 

ガミオを倒し、急いで病院に戻った零と優矢は綾瀬の病室へと戻っていく。他の患者や医者の間をすり抜け、慌てて病室に入ると、其処には……

 

 

 

 

 

綾瀬「──────」

 

 

 

 

 

優矢「……綾瀬、さん……」

 

 

零「…………」

 

 

……既に息を引き取り、眠るように目を閉じる綾瀬と、彼女の傍らに座るやまとと涙を流すなのは達の姿があった。

 

 

やまと「……綾瀬刑事……最後まで笑ってたわ……」

 

 

髪で表情を隠し、やまとが静かにそう告げると、優矢は茫然自失のまま綾瀬に近付いて彼女の手を握り締めていく。その顔にはやまとの言う通り穏やかな笑みが浮かんでおり、優矢は溢れ出しそうになる涙を堪えるように綾瀬の手に額を当てていき、やまとも何も言わずそんな優矢の背中に触れて彼を慰めていく。

 

 

零「……いくぞ……俺達の役目は終わった」

 

 

なのは「……え?ま、待ってよ零君っ!」

 

 

そんな優矢達の姿を見てこれ以上此処に留まる訳にはいかないと思った零は、なのは達と共に綾瀬の病室を出ていき、そのまま病院を後にするのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻、灯溶山山頂。ガミオが目覚めたこの場所で零達を監視していた謎の男が消えていくグロンギ達の中で一人、崩れた石碑を眺めていた。

 

 

「……私は許さない……ディケイド……」

 

 

男がそう言うと辺りに銀色のオーロラが出現していき、そのオーロラと共に男はその場から消えていった。

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

零「──痛ッ!ば、馬鹿っ、もう少し丁寧にやれってッ!」

 

 

なのは「いいから我慢してッ!本当にもうっ、またこんなボロボロになってっ……!」

 

 

あれから数十分後、病院を後にした四人は光写真館に戻り休息を取り、零は先程の戦いで傷付いた箇所をなのはに治療してもらっていたが、その量が半端なく多い為、治療を終えるのに大分時間が掛かっていた。

 

 

なのは「はい、終わったよ。全く、ちょっと目を離した隙に無茶ばっかりするんだから……」

 

 

零「いや、それに関してはお前が言えた口じゃないだろうよ……」

 

 

なのは「私以上に零君が無理してるよ!昔から危険な任務が終わる度に会うのはいっつも医務室のベットの上だったし、他にも──!」

 

 

零「わ、分かった!分かったから!もう十二分に分かったからそれ以上はいい!」

 

 

ちょっとボヤいただけで百になって返ってきたなのはからの文句に慌てて止めに入る零。一方でなのははまだまだ言い足りないような様子で口を尖らせており、そんな二人を見てスバルとティアナも栄次郎が煎れてくれた珈琲を飲みながら苦笑いを浮かべていたが、スバルがふと気になっていた疑問を口にしていく。

 

 

スバル「それにしても、この世界の滅びを止める……それが私達の本当の役目だったんでしょうか?」

 

 

零「さあな……ただ一つだけ言えるのは、恐らく他の世界でもこの世界と同様に滅びの危機に瀕してる可能性が高いって事だ。多分、この先でもそういった脅威と戦う事は避けられないとは思う」

 

 

なのは「……この先も……」

 

 

つまりこの先の旅でも今回のような戦いが待ち受け、零はその度に一人戦って傷付く事になるかもしれない。体中に包帯を巻いた零の痛々しい姿を見てそんな不安を覚えるなのはを他所に、零はソファーから立ち上がって背景ロールに近付いていく。

 

 

零「取り敢えず、この世界での俺達の役目が終わった事に変わりはない。次の世界に向かわないといけない訳だが……」

 

 

栄次郎「──あれ?零君、もう動いても大丈夫なのかい?」

 

 

次のライダーの世界に向かう方法を考える中、背景ロールの脇から呑気な口調と共に栄次郎がひょっこり顔を出した。

 

 

零「爺さん……?アンタそんなとこで何やって……」

 

 

栄次郎「いやね、君の写真を額縁に飾ろうと思ってた所なんだよ。ほら、零君にしては今回の写真、中々イイ感じに撮れてたから」

 

 

そう言いながら栄次郎が差し出して見せたのは、額縁に収められた一枚の写真。其処には先日写真館に訪れた優矢と綾瀬が笑い合う姿が写し出されており、綾瀬の姿が影のように浮き出ていた。

 

 

その二人の穏やかな写真を見てなのは達も切なげな表情を浮かべる中、零は肩を竦めて溜め息を漏らした。

 

 

零「別に額縁に収める程の出来でもないだろう?個人用のアルバムとか売ってくれればそれに収めるだけで十分……」

 

 

栄次郎「いやいや、こういう味わいのある写真はちゃんとした額縁に入れておいてやらないと。ええっと、確かもう1枚の写真を入れる用の額縁がこの辺に……―ガシャンッ!―……あっ」

 

 

背景ロールの脇の物置を漁り額縁を探す中、栄次郎の肘が背景ロールを操作する鎖に当たってしまい、その衝撃でまた新しい絵の背景ロールが現れて一瞬淡い光を放った。

 

 

零「!これは……」

 

 

新たに出現した背景ロールに描かれているのは、満月の夜と高層ビル、そしてそのビルからドラゴンの首と手足が出ている不可思議な絵だった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

グロンギ達との戦いを終えた翌日。先の事件で今日は学校が休日となったこなた達は、こなたの従妹である"小早川 ゆたか"がグロンギの事件で怪我をして入院したという連絡を受けてお見舞いに訪れていた。

 

 

しかし実際の所は捻挫で一日病院で安静にしていただけで今日で退院出来ると聞いて安堵し、同じように彼女のお見舞いに来ていたみなみに後を任せて帰路に付いていた。

 

 

こなた「──いやぁー、でもホントに良かったよ〜。ゆーちゃんが怪我をしたって連絡受けた時は流石に私も心臓が飛び出そうなぐらいビックリしたし……」

 

 

かがみ「ホントにね。捻挫程度で済んだって聞いた時は安心したわ……っていうか、こっちはこっちでアンタから急に連絡来てパニックたってのっ」

 

 

こなた「い、いや、私もお父さんもいきなり病院から連絡もらって滅茶苦茶気が動転しちゃってたから……や、ほんとすみませんでしたっ……」

 

 

つかさ「ま、まあまあ、こなちゃんの気持ちも分からなくもないし……でも、二人とも無事で本当に良かったよねぇ」

 

 

みゆき「えぇ、本当に大事がなくて安心しました。でも、結局お二人を助けてくれたという二人の女の人、一体誰だったんでしょうね……」

 

 

こなた「ほんとにねー。名前も名乗らずにいなくなっちゃったからこっちもお礼が出来ないし、分かってる特徴と言えば、青髪のショートヘアにツインテールのオレンジ色の髪ってだけだけど……」

 

 

ゆたかとみなみが話してくれた二人を助けてくれた二人組の女の子の特徴を口にし、こなたの脳裏にふとこの前学校の校門前で出会った二人……なのはとスバルにそっくりな女子達の顔が過ぎる。

 

 

あの二人がいなくなった後、気になったこなたは後日学校の新聞部に二人を尋ねてみたのだが、何故か部員達は口を揃えてそんな二人は知らないと怪訝な反応を返されてしまった。

 

 

あの二人も結局何者だったのか。もし仮にあの二人が自分の知るアニメのキャラクターと同一人物だとするのなら、ゆたか達から聞いた特徴的に心当たりがない訳ではないのだが……

 

 

こなた「う〜、ぜんっぜん分からない……こんなにも漫画の中の名探偵が欲しいと思ったのは生まれて初めてかも……」

 

 

かがみ「なにさっきから一人でブツブツ言ってんのよ……っていうか、優矢は?アイツにも連絡したって言ってなかったっけ?」

 

 

こなた「え?あ、優矢は何か今日は大事な用があって行けないって。っていうか、何かゆーちゃんのお見舞いはもう昨日行ってて先に二人の様子を見てきてたっぽいよ?」

 

 

つかさ「え、そうなの?でも優矢君、何でゆたかちゃんが入院してるって知ってたのかなぁ……?」

 

 

みゆき「病院側も先日の事件の影響で混乱が続いてたせいで、泉さん達に連絡があったのも今朝頃になったという話でしたしね……。それに大事な用というのは一体?」

 

 

こなた「うーん、その辺の事は話してくれなかったんだよね……まぁ、どうせこれから優矢の家に寄ろうと思ってたとこだし、ついでに聞いてみたらいいんじゃないかな?」

 

 

そう言いながらこなたは三人と共に優矢の家に向かうべく歩き出していくが、この時の彼女達は知る由もない。彼の家を尋ねても優矢に会う事はなく、暫くこの世界に戻って来なくなる事を……。

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

一方その頃、優矢はやまとと共に綾瀬家の墓に花を添えて拝んでいた。その顔は昨日までとは違い、力強い決意が秘められた顔付きとなっている。

 

 

―世界中の人の笑顔の為なら、貴方はもっと強くなれる……私に見せて……―

 

 

優矢「……綾瀬さん。俺、今なら出来る気がするよ。だから、見ていてくれ」

 

 

やまと「……先輩」

 

 

墓で眠る綾瀬に自分の想いを告げる優矢の表情は、まるで青空のように何処までも晴れやかな物だった。そんな優矢の顔を見てやまとも安堵するように微笑を浮かべていき、優矢は墓地の近くに停めておいたマシンに乗ってその場を後にしようとするも、片付けを申し出て此処に残る事を告げたやまとに申し訳なさそうな目を向けていく。

 

 

優矢「なぁ、ホントにいいのか?やっぱ俺も片付け手伝って──」

 

 

やまと「人の事を気に掛けるより、先ずは自分の心配をしなさい。まだ昨日の今日で戦いの傷も癒え切っていないのだから、ちゃんと安静にしてないと」

 

 

優矢「……そっか……悪いやまと。それと、いつもありがとうな……」

 

 

やまと「……一丁前の口を効くなんて、先輩の癖に生意気ね」

 

 

優矢「な、何でだよっ?!」

 

 

其処まで変な事は言ってないだろ?!とやまとからの辛口に慌てふためいてしまう優矢だが、やまとはそんな優矢に背中を向けて見えない所で小さく微笑む。

 

 

そして優矢も何も言わず綾瀬の墓へと戻っていくやまとの背中を疲れた顔で見つめるも、すぐに笑みを浮かべてヘルメットのバイザーを下ろし、やまとの厚意に甘えバイクを走らせてその場を後にしていくのだった。

 

 

──自分の後を追い掛けてくる、小さな白いコウモリの存在にも気付かず……。

 

 

 

 

クウガの世界 END

 

 

 





【挿絵表示】



桜川 優矢


解説:らき☆すたの世界におけるオリ主的存在であり、仮面ライダークウガの変身者。凌桜学園高等部三年に所属し、こなた達と同じクラスの高校生。


こなたとは幼なじみらしく、昔からよく遊んでいて今でもこなた達と友人関係にある。


またこなたの影響でオタク趣味にもそれなりに理解があり、特に彼女に勧められて半ば無理矢理プレイさせられた型月作品にどっぷりハマる事に。


性格は明るく前向きだが、普段から個性豊かな面々に囲まれていたからか、こなた達の中ではかがみに次ぐツッコミポジションだった模様。


ある日、グロンギに攫われた凌桜学園での後輩である八坂こうの親友、永森やまとを単身で助け出そうとした事をきっかけに謎の男の導きでクウガのベルトのアークルを手に入れ、彼女や後の事件で知り合った女刑事の綾瀬翔子の協力の下、仮面ライダークウガに変身してグロンギと戦う事になる。


元々はクウガである自分を受け入れてくれた綾瀬に恋慕を抱き、彼女に認められたい一心からグロンギと戦い続けていたが、死に際の彼女との最後のやり取り、零との共闘を通じて『世界中の人達の笑顔の為に戦う』という新たな道を見出すが、綾瀬の墓参りの帰宅中の謎の白いコウモリに出会い……?


イメージキャラクターはひぐらしのなく頃にの前原圭一






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第三章/キバの世界①

 

 

クウガの世界を究極の闇から救う事に成功し、思わぬ形で次の世界に向かった零達。

 

 

その一方、墓参りを終えて家に戻った筈の優矢は謎の白いコウモリに呼ばれ、何処かへと連れていかれていた。

 

 

優矢「お、おいっ。何処まで行くんだよっ?」

 

 

「フフフ……こっちこっち♪」

 

 

謎の白いコウモリに誘われ、灰色のオーロラの中を彷徨う優矢は戸惑い気味に白いコウモリに行き先を問うも、白いコウモリは妖艶に笑うだけで何も答えずそのまま何処かへと飛び去っていってしまい、直後に灰色のオーロラが晴れて優矢はいつの間にか西洋風の豪華な部屋の中心に佇んでいた。

 

 

優矢「え……ど、何処だよ、此処っ?」

 

 

見知らぬ場所に出て、訳も分からず優矢が困惑した様子で部屋の中を見回す中、其処へ突然部屋の扉が開き、部屋の中に青い狼、緑の魚人、紫のフランケンのような怪物達を先頭に数人のメイド達が部屋の中へ入ってきた。

 

 

優矢「何だ……人間と……怪物……?」

 

 

恐らく普通の人間であろう筈のメイドの女性達と、異形の怪物達が共にいるという普通ならありえない光景を目の当たりにした優矢は呆気に取られ、呆然と立ち尽くす事しか出来ずにいたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

そして同じ頃、次の世界に訪れた零となのはは一先ず写真館の外に出て周囲を見回し、クウガの世界の時とは明らかに違う街並みを見て零は肩を竦めてしまう。

 

 

零「成る程な……どうやらあの背景ロールを使えば、次の世界に着くって仕組みになってるらしい」

 

 

なのは「じゃあ、また次の世界に移動したって事なんだ……って、サラッて流し掛けたけどコレって相当なオーバーテクノロジーだよねっ?もしかしてあの背景ロール、実はロストロギアだったりとかするんじゃ……」

 

 

光写真館の外観を見上げると、やはり写真館もクウガの世界の時と同様に見た目が変化してしまっている。

 

 

一体本当にどういう仕組みになっているのか、並行世界間の移動という超常的に過ぎる現象を前になのはも懐疑的な眼差しを写真館に向ける中、突然灰色のオーロラが二人を包むように通過して過ぎ去り、零となのはの服装がいつの間に礼服に変わり、それぞれの手に黒と桜のバイオリンケースが握られていた。

 

 

なのは「え、ええっ?!また変わったっ?!」

 

 

零「おいおい、前回だけじゃなかったのかコレ……」

 

 

スバル「零さーん、なのはさーん?どうかしましたか……って、また変わってるっ?!」

 

 

ティアナ「な、何ですかその格好っ?!」

 

 

またもいきなり姿が変わった自分の格好を見て騒ぐなのはの声を聞き付け、遅れて写真館の外に出たスバルとティアナは二人の礼服姿を見て驚愕するも、零は特に動じる様子もなく手に持ったバイオリンケースを肩に担いで溜め息をこぼす。

 

 

零「俺にも良く分からんが、前の世界で警官やら学生やらをやらされてた所を踏まえるに、多分これが今回この世界での俺達の役目なんだろう……」

 

 

なのは「役割って……私にも?」

 

 

零「ああ。ただまぁ、こんな格好で何をしろと……うん?」

 

 

役割が分かりやすかった警官と違い、服装を見るに恐らくヴァイオリニストと思われる自身の格好を見てこの世界でやるべき事が読めず困惑する零だが、突然何かに気付いてカメラを構えていき、そんな零を見てなのは達も釣られて零がカメラのレンズを向ける先を追うと、其処には……

 

 

スバル「えっ……な、何あれ?!」

 

 

ティアナ「ビルに……竜の頭?」

 

 

そう、零がカメラを向ける先にあったのは、市街地の中心に建つ一際目立つ高層ビルの中腹から巨大な竜の頭が出ているという目を疑う光景だったのだ。

 

 

そのあまりにも突飛な光景になのは達も開いた口が塞がらないでいる中、零は高層ビルから頭を出す竜の写真を何枚か撮影して小さく呟く。

 

 

零「キャッスルドラン……キバの世界か……」

 

 

なのは「……え?零君、何であれの名前知ってるの?」

 

 

初めて訪れた世界である筈なのに、高層ビルから頭を出す竜……キャッスルドランの名前をまるで知っているような口ぶりで語る零になのはが疑問げに問い掛けるが、写真を撮り終えた零はファインダーから顔を離して暫し考える素振りを見せた後……

 

 

零「…………忘れた」

 

 

「「「ええぇっ……」」」

 

 

何かありそうな間を意味深に空けておきながらそんな呆れた返事を返され、思わず肩からずっこけにそうになるなのは達。とその時、突然強い風が零達の周りに吹き上がり、その風に乗って一枚のチラシが飛来しスバルの顔に巻き付いてしまう。

 

 

スバル「ぶぁうっ?!な、何これっ?!」

 

 

ティアナ「ハァッ……何やってんのよアンタは……ん?」

 

 

チラシが巻き付いただけで忙しなく慌てふためくスバルを見て呆れながらも、彼女の顔に纒わり付くチラシを取って上げるティアナ。

 

 

だが其処でチラシの内容が目に映って紙を読み始めていくと、ティアナは驚きで目を見開きながら零に慌ててチラシを見せていく。

 

 

ティアナ「れ、零さん!コレ、見て下さい!」

 

 

零「?」

 

 

スバル「ど、どうしたのティア?」

 

 

何やら急に慌て出したティアナの反応を見て訝しげに首を傾げながらも、零はティアナから受け取ったチラシを開きなのはとスバルと共に内容に目を通していくと、其処には……

 

 

スバル「"ファンガイアと人間の共存の手引き"……?」

 

 

チラシに書かれていたのは、人間とファンガイアと呼ばれる異形が交流を深めて町を盛り上げようという内容のものだった。しかも一緒に記載されている写真には、人間とファンガイアが仲良く笑い合う姿が映った集合写真が載っていた。

 

 

零「ファンガイアと人間の交流?何だこりゃ……どうなってんだ一体っ……?」

 

 

チラシに書かれた内容を見て零も手で口を覆い戸惑いを露わにするが、なのは達はその内容の意味がよく分からず首を傾げてしまう。

 

 

なのは「ねぇ零君、ファンガイアって一体何?」

 

 

零「……人間のライフエナジー……簡単に言えば命だな。ソイツを吸って人間を殺す怪物、分かりやすく言えば吸血鬼みたいな怪人達の事だ」

 

 

スバル「……あれ……?なのはさん、このファンガイアって確か、私達の世界で滅びの現象が起こった時にも現れたのと同じ怪人じゃ……?」

 

 

なのは「え?……ッ!そうだ……!確かあの時にも、ライフエナジーを寄越せって私達も襲われたんだ……!」

 

 

ティアナ「……じゃあホントに、この世界じゃ人間と怪人が一緒に暮らしてるってこと?」

 

 

見覚えのあるステンドグラスのような模様が特徴的なファンガイア達を見て元の世界で襲われた事を思い出し、人を襲う筈の存在がこの世界ではその人と共存しているという事実になのはとスバルは動揺し、ティアナも驚く中、零はチラシを折りたたんで胸のポケットに仕舞いながら市街地の方に視線を向けていく。

 

 

零「とにかく、この世界についてもう少し調べてみる必要があるな……よし、此処からは二手に別れるか。なのは、いくぞ」

 

 

なのは「え、ちょ、ちょっと待って!それじゃえっとっ、二人は聞き込みをお願い!何かあったら私達に連絡して!すぐに駆け付けるから!」

 

 

表に停めておいたディケイダーにさっさと乗って準備する零を慌てて追いつつ、なのははスバルとティアナにそう言いながらマシンの後部座席に乗り、ディケイダーで零と共にキャッスルドランが見える市街地の方へと向かっていった。

 

 

スバル「行っちゃった……えーっと、私達はどうしよっか……?」

 

 

ティアナ「どうするって……取り敢えず、私達は私達でこの世界の事を調べるしかないでしょ。ほら、行くわよ!」

 

 

スバル「えっ、ま、待ってよ!ティア~ッ!」

 

 

残された二人も、なのはから言い渡された指示通りに動くべく、情報収集の為に取りあえず近隣の人達から話を聞き出そうと歩き出していくのであった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界②

 

十分後。情報収集の為にスバルとティアナと二手に別れ、ディケイダーに乗って市内の繁華街に訪れた零となのは。

 

 

バイクで走行しながら二人が周囲を見渡すと、街のあちこちでは人間とファンガイアが実際に仲睦まじく共に暮らす光景が多く見られた。

 

 

なのは「凄いね……本当に人間とファンガイアが共存してる……」

 

 

零「らしいな。だが、二つの種族が平和に共存してるこの世界で何をしろっていうんだ……」

 

 

クウガの世界でならグロンギという分かりやすい倒すべき存在がいたが、ファンガイアが人間と共存しているのなら敵対する存在もなく、自分達がこの世界で果たすべき役目が分からず溜め息を漏らしてしまう零だが、その時……

 

 

―……ギギィッ……ギギギギィッ……ギギギィッ……!―

 

 

なのは「……え?」

 

 

バイクを走らせる中、不意に何処からともなくバイオリンのような音が聞こえてきた。しかし、その音は音楽と呼ぶにはあまりにも酷く不気味であり、なのはは薄気味悪さを感じて顔を引き攣らせながら零の肩を叩く。

 

 

なのは「ね、ねえ零君っ、この音って……」

 

 

零「……まさかファンガイア以外にも敵が?いや、だとしても──」

 

 

何度も肩を叩いて呼び掛けるも、零はこの世界での使命や戦うべき存在について考え込んでなのはの声も奇妙な音も聞こえておらず、無視する零になのはは頬を膨らませ……

 

 

なのは「もうっ……零君ってばぁッ!!」

 

 

―バゴンッ!―

 

 

零「痛ったァッ?!うぉおおおおおお危ねぇええええええええええーーーーーーーっっ!!!!?」

 

 

―キキキキィイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!―

 

 

怒ったなのはが自分の持っていたバイオリンケースで零の頭を後ろから小突き、いきなり不意を突かれて殴られたせいで零も手元が狂って危うく道端の電柱に激突しそうになり、蛇行しながらも何とか態勢を立て直しマシンを停車させた。

 

 

零「お、おまっ!いきなり何しでかしてくれてんだこの野郎ォッ?!遂に本気で俺を殺りに来たのかァッ?!」

 

 

なのは「零君が無視するからだよッ!……ってそうじゃなくて、何か変な音が聞こえて来ない?」

 

 

零「音っ……?」

 

 

危うく事故り掛けて泣きそうになりながら頭を抑えて抗議する零だが、なのはにそう言われて漸く不気味なバイオリンの音に気付き、険しげに眉を顰めていく。

 

 

零「随分と個性的な音楽だな……音は……あっちからか……よし、行ってみるか」

 

 

なのは「えっ?あ、うん」

 

 

奇妙な音の正体が気になった零は再びディケイダーを走らせ、なのはと共にその音が聞こえてくる住宅街の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、零達とは別行動で街に着いたスバルとティアナは早速この世界での情勢について調べ始め、街ゆく人に田舎から出てきた体を装って話を聞き出したり、コンビニの雑誌から情報を集めたりなど暫く探索を続けた後、情勢の整理も兼ねて一旦休憩を挟もうと適当な飲食店に入っていた。

 

 

スバル「うあー、つぅーかぁーれぇーたぁーよぉー……イテッ!」

 

 

ティアナ「うっさいわよバカスバルっ。もうちょっと声を抑えなさい、他のお客さんに迷惑だから」

 

 

歩き疲れた足をパタパタ振りながら声を大にテーブルの上に突っ伏すスバルの頭を、ティアナがメニュー表で軽く叩いて注意する。

 

 

それに対し「ふぁーい……」とスバルは気の抜けた返事を返しつつ店内を軽く見回し、人間とファンガイアが一緒に食事をしたり、共に働く姿を物珍しげに見つめていく。

 

 

スバル「それにしても、調べれば調べるほど本当に平和みたいだね、この世界」

 

 

ティアナ「みたいね……それでも以前までは人間とファンガイアの間でそれなりにいざこざもあったみたいだし、紆余曲折あって漸く今の現状に落ち着いたらしいから、色々大変だったみたいだけど……でもまさか、本当に人間と怪人が共存してるなんて……」

 

 

スバル「でも、それっていい事じゃないかな?争いとか事件とかなさそうで」

 

 

ティアナ「まぁ、そうかもね。前の世界の時みたいにまた追い掛け回されるとかゴメンだし……」

 

 

スバル「あー……うん、それは確かに……」

 

 

クウガの世界でグロンギ達に襲われた事を思い出して溜め息を吐くティアナの言葉に、彼女と同様に元の世界で多種多様な怪人達から必死に逃げ回った記憶が蘇り複雑な表情を浮かべるスバル。

 

 

そうしてティアナは椅子にもたれ掛かりながら店の天井を仰ぎ、溜め息を一つこぼしてしまう。

 

 

ティアナ「でも、だとしたらこれからどうするかよね。こんな平和な世界で、私達は一体何をすればいいのか……」

 

 

スバル「うーん……あっ、じゃあさ!他の皆を探しに行かない?ティアみたいに、もしかしたら私達の世界の誰かがこの世界に飛ばされて何処かにいるかもしれないし!」

 

 

ティアナ「いるかもって、あんたねぇ……簡単には言うけど、この街も相当広いのよ?人も多いし、そう簡単に見つかるワケ──」

 

 

「おめでとうございまぁーーすっ!!見事、完食でぇーーすっ!!」

 

 

カランカランカランッ!と、テーブルに身を乗り出すスバルの提案に呆れるティアナの言葉を遮るように、突然店内に嬉々とした声と鐘を鳴らす金属音が響き渡った。

 

 

すると、その声を聞いた二人以外の客達が一斉に席から立ち上がり、今度は盛大な拍手が店内に響き渡る。

 

 

スバル「え?え?な、何がどうなってんの?」

 

 

ティアナ「わ、私が分かる訳ないでしょ!」

 

 

盛大な拍手が鳴り渡る店内を見回し、突然の事に理解が追い付かず困惑してしまうスバルとティアナだが、取りあえず何が起きてるのか探る為に自分達の後ろの席の客の一人に声を掛けた。

 

 

スバル「あ、あのー?これって、一体何ですか?」

 

 

「ん?君達知らないのかい?この店には"ビッグステーキ"っていう超巨大ステーキがあってね。それの完食に挑戦するイベントが行われてたんだよ」

 

 

ティアナ「あ、成る程。イベントをやってたんですね、ここ」

 

 

「そうそう。でも今までそれに挑戦して完食した人なんて一人もいなくてね。だけど、今親衛隊の人が挑戦して見事完食だよ!いやー、ファンガイアの人達でも無理だったあんな物を完食するなんて本当に凄いよ~」

 

 

へえ~、と二人は感心する。すると二人はそんな凄い物を完食したのは誰なんだろう?と興味が沸き、客達が視線を向けている先へと振り返って大食いチャレンジャーの顔を確かめると、其処には……

 

 

「──おう!ありがとな!いや~、でも何か照れ臭いな~♪」

 

 

―ゴォオンッ!!―

 

 

……盛大な拍手を浴びて照れ臭そうに頭を掻く噂のチャレンジャーの顔を目にした瞬間、二人はほぼ同時にテーブルに頭を打ち付けてしまった。

 

 

何故か?無論、そのチャレンジャーの顔に滅茶苦茶見覚えがあるからである。

 

 

スバル「……ねえティア……私、此処のところ色んなことに巻き込まれ過ぎて疲れてるのかな……?何か今、幻を見たような気が……」

 

 

ティアナ「……奇遇ね……多分それ、私が見たのと同じヤツだわ……」

 

 

いやほんと、何故よりにもよってこんな形でと、お互いに目頭を抑えて軽い現実逃避をしてしまう二人だが、そんな心境も他所に上機嫌な聞き馴染みのある声が再び聞こえてコレがリアルであると再認識させられる。

 

 

……こうなっては仕方がない。何処か観念したように溜め息を吐いた二人は徐に席から立ち上がると、他の客達の間を抜けて注目を浴びる件のチャレンジャーに恥ずかしそうに声を掛けた。

 

 

スバル「ヴィ、ヴィータ副隊長!」

 

 

ティアナ「何やってるんですかこんな所で!」

 

 

ヴィータ「──うん?って、スバル、ティアナ?!お前らなんで此処に?!」

 

 

件のチャレンジャーである幼い外見をした赤毛の少女……スバルとティアナが所属するスターズ分隊の副隊長であり、ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士である"ヴィータ"は目の前に現れた見知った顔の二人を見て驚きで目を丸くするが、スバルとティアナの方は注目を浴びるヴィータに声を掛けた事で他の客達の視線を集めてしてしまい、恥ずかしさで顔が赤くなり萎縮してしまうのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

場所は変わり、零となのはは不気味なバイオリン音の出処を追って住宅街を訪れ、音の発生源と思われる家の前まで来ていた。しかし……

 

 

零「……何だこの幽霊屋敷は……こんな所に人なんか住んでるのかっ?」

 

 

なのは「でも、あの音は此処から聞こえてくるんだから……多分誰かいるんじゃないかなぁ……?」

 

 

音の出所である家を半信半疑の眼差しで見つめる零にそう言いながらも、なのは自身もあまり自信はないのか何処か口調に覇気がないが、それも無理はない。

 

 

二人が辿り着いた音の出処である家は遠目に見れば豪邸のように見えるが、近くで良く見ると門は錆付いていてツタが巻き付いており、家の壁も所々ヒビ割れて窓が割れていたりなど、とてもじゃないが人が住んでいるようには見えない。

 

 

だが、肝心の奇妙な音は確かに今もこの廃墟のような家の中から鳴り響いていた。

 

 

なのは「うーん、どうしよう?流石に勝手に家の中に入るのはマズイだろうし……」

 

 

零「バレなきゃ別に問題ないだろう?見たところ廃墟のようだし誰も気にしな、おごはぁああッ?!」

 

 

なのは「駄目に決まってるでしょ?!不法侵入しただなんてスバル達に知れたら教官の面目丸潰れになり兼ねないんだから、下手な真似しないのっ!」

 

 

そう言ってなのはは人目を気にせず廃墟の中に踏み込もうとする零の襟首を掴み、力づくで引っ張って注意する。

 

 

そして無理矢理襟を引っ張られたせいで首が締まった零は喉を抑えて何度か激しく咳き込み、若干涙目になりながら廃墟を見上げて少し考える素振りを見せた後、目元を拭いディケイダーに積んである自身のバイオリンケースを手に取っていく。

 

 

なのは「?バイオリンなんて取り出してどうするの?」

 

 

零「この音を出してる奴を誘い出そうと思ってな。なのはも準備しろ」

 

 

なのは「え?で、でも私、バイオリンなんて弾いたこと……」

 

 

零「やってみればわかるさ。ほら、早くしろ」

 

 

なのは「う、うん……」

 

 

零に言われるがまま、なのはは戸惑いながらも自分のバイオリンをケースから取り出し演奏の準備を整えていく。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方、廃墟と化した家の中。室内は外と同様に荒れ果てており、床や壁が抜けていたり、辺りに蜘蛛の巣が張り巡らされていたりと、人が住んでいる気配は一切ない。

 

 

そんな家の中で一人、少年が埃被ったバイオリンを引いていたが、流れる音楽はとても音とは呼べない不快な物しか出ず、どれだけ引いても望む音が出ないバイオリンを見て少年は暗い表情で諦めたように溜め息を吐き、演奏を止めてしまう。その時……

 

 

 

 

―♪~♪♪~♪~♪♪―

 

 

 

 

「……?」

 

 

不意に外から美しい音楽が聞こえてくる。少年はそれが気になり、バイオリンを置いて窓から家の門を覗くと、其処には零となのはがデュエットで優雅にバイオリンを奏でている姿があった。

 

 

「……あの人達……」

 

 

二人の存在か、それとも二人が奏でる音楽が気になったのか、少年はまるで零達の音楽に誘われるように外へ出ていき、扉から顔を覗かせて家の中から出てきた少年を見て零となのはも演奏を止める。

 

 

零「よぉ、あの音楽を弾いていたのはお前か?だったら止めてくれ。余りの酷さに耳がおかしくなる」

 

 

なのは「もう零君っ!何でそんな言い方するのっ!ゴメンね?このお兄さん、人当たりは良くないけど別に悪気があって言った訳じゃ……」

 

 

意地の悪い言い方をする零を叱りつつ、なのははそう言いながら少年に笑顔で歩み寄る。が……

 

 

「近寄るな!」

 

 

なのは「……へ?」

 

 

少年は歩み寄ろうとしたなのはを怒鳴って止めた。その表情は険しく見えるが、何処か怯えているようにも見える。

 

 

「近寄るな……人間が僕に……」

 

 

零「……お前、ファンガイアか?」

 

 

「……だったら何?恐い?僕のこと……」

 

 

零「別に。お前が人間だろうとファンガイアだろうと関係ないし、どうでもいい。ただな、初対面の人間に対して礼儀って物がなってないだろ!」

 

 

なのは「ちょっ、待ってよ!相手はまだ子供なんだしっ、というか礼儀云々で零君がお説教出来る立場じゃないからねっ?!」

 

 

今の思いっきり自分に返ってきてるからソレっ!と少年の態度に怒鳴る零にごもっとなツッコミを返すなのはだが、そんな二人のやり取りを他所に少年は暗い表情を俯かせて顔を逸らしてしまう。

 

 

「関係ない……お前達に何が分かる……」

 

 

なのは「……ねえ君、もしかして何か悩みとかあるのかな……?もし私達で良ければ──」

 

 

と、人間を拒絶して寄せ付けようとしない少年の顔を見て何か気になるのか、なのはは少年と目線を合わせるように屈んで彼と話が出来ないか試みようとするが、その時……

 

 

―キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!―

 

 

突如、街の方から女性の悲鳴が聞こえ、零達はその悲鳴が聞こえた方へと振り返る。

 

 

なのは「今の悲鳴は……?!」

 

 

零「……どう考えても何かあったって感じだな。行くぞ、なのは!」

 

 

なのは「う、うん!」

 

 

少年の事は気になるが、今は街の状況を確かめる為に二人はディケイダーに乗り込み、マシンを走らせて急いで現場へと向かっていく。

 

 

「…………」

 

 

そして、残された少年も騒ぎが気になるのか、零達が走り去っていった後に別方向から街へと向かっていった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界③

 

街中の広場。其処には零達が耳にした悲鳴の主と思われる女性が必死の形相で街ゆく人の肩とぶつかりながら脇目も振らず逃げる姿があり、その背後からはライオン型の白いファンガイア、ライオンファンガイアが追ってきていた。

 

 

―ドサァッ!―

 

 

「うあッ?!た、助けて……!お願いっ、お願いしますッ!」

 

 

『いいや、貴様は掟を破った。その重罪は命を持って償え!』

 

 

背後から追ってくるライオンファンガイアに気を取られ過ぎて転んでしまい、尻もちを着きながら後退りし必死にライオンファンガイアに命乞いをするも聞く耳を持たれず、ライオンファンガイアは拳を振り上げて女性に襲い掛かろうとするが……

 

 

「止せ!」

 

 

『……?!』

 

 

ライオンファンガイアの拳が振り下ろされようとした直前、悲鳴を聞き付けた零が漸くその場に到着し、女性は隙を見て急いで零の後ろへと隠れていった。

 

 

『貴様、一体何の真似だ?』

 

 

零「何だはこっちのセリフだ。これの何処が人間とファンガイアが仲良くだよ?」

 

 

『その女は掟を破ったのだ。掟を破った者を生かす訳にはいかない』

 

 

いいから其処を退けと、女性を引き渡すように威圧的に警告するライオンファンガイア。だが零は怯えた様子で自分の陰に隠れる女性を見て険しげに眉を顰め、ライオンファンガイアを見据えながら懐から取り出したディケイドライバーを腹部に当てて装着する。

 

 

零「生憎、殺されると分かってる人間を素直に引き渡すほど俺も人でなしじゃない……変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

左腰に現れたライドブッカーから抜き取ったカードをドライバーに装填し、電子音声と共に零の姿がディケイドへと一瞬で姿を変えていった。

 

 

『な、何だとッ?!』

 

 

ディケイド『あまり騒ぎを大きくしたくはないんでな、すぐに終わらせる!』

 

 

そう言って両手を叩くように払い、変身した零を見て困惑するライオンファンガイアに拳を振るって戦闘を開始するディケイド。

 

 

「……あれは……?」

 

 

その様子を近くの木の影から、先程廃墟のような家で零となのはが出会った少年が怪訝な眼差しでディケイドの戦いを見つめる姿があるが、それに気付かぬままディケイドはライオンファンガイアの拳を上手く捌きながら左腰に装着するライドブッカーをソードモードに切り替え、更に一枚のカードを取り出しバックルに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

鳴り響く電子音声と共に刃が分身するライドブッカーを振るい、ライオファンガイアに斜め下、横一閃に斬撃を放ち、思わぬ攻撃にライオンファンガイアも対処出来ず全ての斬撃を刻み込まれた。

 

 

『グウゥッ?!キ、サマッ……何者ぉッ……?!』

 

 

ディケイド『仮面ライダーディケイド……通りすがりの仮面ライダーだ』

 

 

淡々とディケイドが名乗ると共に、ライオンファンガイアは断末魔の悲鳴を上げて硝子のように粉々に砕け散った。すると、その様子を陰から見ていた少年がディケイドの名を聞いた瞬間、何やら顔色を変えディケイドへと近づいていく。

 

 

「ディケイド……?ディケイドだと?!」

 

 

ディケイド『?お前、さっきの……』

 

 

木の影から姿を現した少年を見て構えを解くディケイド。だが、ディケイドを見つめる少年の顔は何故か険しく敵意を剥き出しにしており、そんな少年の下に何処からともなく金色の奇妙なコウモリが羽ばたいて現れた。

 

 

『ワタル!コイツ、キバーラが警告していた……!』

 

 

ディケイドの名を聞いて敵意を露わにする少年、"ワタル"の下に飛来した金色のコウモリが真剣な口調で呼び掛けると、ワタルは無言のまま右手を頭上に掲げる。

 

 

ワタル「キバット!」

 

 

『おう!キバっていくぜぇ!』

 

 

ワタルからの呼び掛けに陽気に応じ、キバットと呼ばれた金色のコウモリはワタルの手に捕まると、ワタルはそのまま自身の左手にキバットを近付けていき……

 

 

キバット『ガブッ!』

 

 

なんと、キバットはワタルの手に躊躇なく噛み付いたのである。しかしキバットに噛み付かれたワタル自身は動じる様子もなく、その顔にステンドグラスのような模様が浮き出て腰に何重もの鎖が巻き付いていき、赤いベルトへと変化していった。そして……

 

 

ワタル「変身ッ!」

 

 

高らかに叫び、腰に出現したバックルの止まり木にキバットをセットしたワタルの身体が徐々に変化を始めていき、小さかった背丈もディケイド並に変わっていく。

 

 

全ての変身を終えたその姿はコウモリを彷彿とさせる赤と黒の仮面と黄色い瞳、真紅の鎧を纏った異形の姿……この世界のライダーである『仮面ライダーキバ』へと変身したのだった。

 

 

「王子……!」

 

 

「王子だ!」

 

 

「キバの鎧、初めて見た!」

 

 

ディケイドと対峙するワタルが変身したキバを見て、周りの群衆がざわめていく。その中には、クウガの世界にも現れた謎の男と、優矢を誘った白いコウモリの姿もあった。

 

 

『ほ~らね?優矢ってのを連れてくれば、きっとディケイドも現れる。言ったとおりでしょ?』

 

 

「ディケイド……ここがお前の最後の場所だ」

 

 

そう言いながら謎の男が不敵な笑みを浮かべる中、ディケイドは群衆から聞こえてくるキバの名前から目の前の戦士がそうであると確信し、ライドブッカーの刃で軽く指す。

 

 

ディケイド『成る程……お前がキバ、この世界のライダーだったのか?』

 

 

ワタルがこの世界のライダーだった事に内心驚くも、それならそれで話が早いとキバにそう尋ねるディケイドだが、それに対しキバは何も答えずいきなりディケイドへと襲い掛かりハイキックを放った。

 

 

ディケイド『ッ?!何すんだいきなり?!』

 

 

キバ『お前の事は聞いているっ!悪魔っ!』

 

 

ディケイド『なっ……チッ、またそれかっ……いい加減、なのはの奴の気持ちが分かってきた気がするぞ……』

 

 

どうやらキバは前回の優矢の時と同様、何者かにディケイドが悪魔だと吹き込まれてるらしい。

 

 

身に覚えのない中傷にいよいよ管理局の白い悪魔だなんだのと呼ばれ続けてたなのはの気持ちに共感を覚えつつも、ディケイドはキバが繰り出す素早い拳をライドブッカーで弾いて何とか拮抗し、隙を突いてライドブッカーの柄頭でキバの顔を殴り付け怯ませた。

 

 

キバ『ぐっ!クソッ!』

 

 

キバット『おいワタル!少し落ち着けって!』

 

 

気を逸らせるキバを落ち着けようとベルトの止まり木に止まるキバットが宥めるが、キバはそれを無視してベルトの左腰に備え付けられた三色の笛型のアイテム……フエッスルの中から緑のフエッスルを取り出す。

 

 

キバ『来い!バッシャー!』

 

 

キバット『あー、しょうがねえ……!バッシャーマグナム!』

 

 

キバは緑のフエッスルをキバットに吹かせると、キバットの掛け声と共に奇妙なメロディーが流れ、辺りに鳴り響いていく。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

同時刻、キャッスルドラン内では王の側近である三体のアームズモンスター、ガルル、バッシャー、ドッガがある人物を探して城内を忙しなく走り回っていた。

 

 

『王子、やっぱり城の中にいないよ!』

 

 

『まただ……王に即位する件を持ち出すとすぐに逃げだされる……!』

 

 

『城にいないのなら我々だけで探すのは無理だ……すぐに出動中の親衛隊に連絡するぞ!』

 

 

城内を隈無く探しても見つからないこの城の主である王子が外に出ていったのかもしれないと推測し、三体は街でパトロール中の親衛隊にも連絡を入れようとするが、その時……

 

 

―♪♪~♪~―

 

 

キバットが吹いた笛のメロディーがキャッスルドラン城内に響き渡った。

 

 

『え、呼ばれた?!』

 

 

三体の内の一体、バッシャーは一瞬困惑を露わに他の二体と顔を見合わせるも、すぐにその姿を緑の彫像へと変えて城の外に飛び出していった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

そしてキャッスルドランから飛んで来たバッシャーの彫像をキバが手に取ると、彫像は銃のように形状が変化し、キバの右腕と胴体に鎖が何重にも巻き付いて魚人を彷彿とさせる緑色の装甲に変わっていく。

 

 

最後にキバとキバットの瞳の色が緑へ変化していき、キバはバッシャーの力をその身に宿した遠距離射撃に優れた形態、『仮面ライダーキバ・バッシャーフォーム』にフォームチェンジしたのだった。

 

 

キバB『ハアッ!』

 

 

―ダンッダンッダンッダンッ!!―

 

 

ディケイド『クッ?!ガハァッ!』

 

 

姿を変えたキバが放つ水弾を咄嗟に身を翻して回避しつつライドブッカーソードモードを振るって何とか水弾を切り払うディケイド。しかし相手の連射速度が上回って次第に対処し切れなくなり、立て続けに水弾を食らって全身から火花を撒き散らし吹き飛ばされてしまった。

 

 

ディケイド『ッ……ガキンチョが、大人への礼儀ってのが分かってないようだな……!』

 

 

流石に子供相手ならなるべく穏便にと思ったが、向こうがその気なら最早加減はしない。水弾が直撃して激痛の走る肩を抑えて起き上がり、ディケイドは左腰に戻したライドブッカーからカードを一枚取り出す。そして……

 

 

ディケイド『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:KUUGA!』

 

 

ディケイドライバーにカードを装填しスライドさせた瞬間、電子音声と共にディケイドの身体が徐々に赤い鎧を纏うクワガタムシの仮面の戦士に変化していき、其処へ零と別れて悲鳴の主を探していたなのはが騒ぎを聞き付けて駆け付け、ディケイドの姿を見て驚愕した。

 

 

なのは「あれは……優矢君と同じクウガ?!」

 

 

そう、ディケイドが姿を変えたのは前の世界で優矢が変身したのと同じクウガであり、キバも他のライダーの姿に変わったディケイドを見て動揺を浮かべた。

 

 

キバB『姿が変わった……?!』

 

 

Dクウガ『本職でなら戦術や戦い方しか教えないが、今回は特別に礼儀作法も追加で仕込んでやる!』

 

 

キバB『クッ!』

 

 

そう言って勢いよく飛び出すDクウガを近付けまいと咄嗟にバッシャーマグナムを連射するキバ。だが、Dクウガは水弾を掻い潜ってキバに肉薄すると共にその手からバッシャーマグナムを叩き落とし、そのままキバに組み付いて膝蹴りを打ち込んで怯ませ投げ飛ばした。

 

 

キバB『グゥッ!クッ……ドッガ、お前だ!』

 

 

キバット『ドッガハンマー!』

 

 

何とか態勢を立て直したキバは今度は紫のフエッスルを取り出し、バックルのキバットに吹かせて重厚なメロディを鳴らせる。

 

 

直後、キャッスルドランから今度は紫の彫像がキバの下へ飛来し、キバがその彫像を手に取ると、彫像は拳のような鉄槌、ドッガハンマーへ形状を変えていく。

 

 

そしてキバの身体を再び鎖が巻き付いて両腕と胴体が紫の頑丈な鎧のような装甲へと変わり、最後にキバとキバットの瞳の色が紫に変化した姿……怪力自慢のドッガの力をその身に宿したパワータイプの形態、『仮面ライダーキバ・ドッガフォーム』にフォームチェンジしたのである。

 

 

キバD『ハアアアァッ!!』

 

 

―ブォオオオッ!!ドゴォオオオンッ!!―

 

 

Dクウガ『クッ……?!ゴハァアアッ!!』

 

 

巨大な鉄槌を軽々と振り回すキバの攻撃を咄嗟に回避するDクウガだが、続けて振り下ろされた一撃が肩を掠めただけでとてつもないパワーで身体がよろめき、直後にその隙を突いたキバの連撃をモロに受けて吹き飛んでしまい、壁に思い切り叩き付けられてしまう。

 

 

Dクウガ『っ、ぐッ……この野郎っ!』

 

 

『FORMRIDE:KUUGA!TITAN!』

 

 

いい加減頭にきたと、ライドブッカーから新たに取り出したカードを荒々しくバックルに装填し、電子音声と共にDクウガの姿が赤い鎧から白金の鎧姿……タイタンフォームに姿を変えていく。

 

 

しかしキバは臆すること無くドッガハンマーを構え直してDクウガに突っ込み再度全力で振るった打撃を叩き込もうとするが、Dクウガはタイタンフォームの防御力でドッガハンマーを正面から受け止めつつ、ドッガハンマーを掴みながらキバの身体を持ち上げ宙に投げ飛ばした。

 

 

キバD『うああッ?!』

 

 

DクウガT『この槌、借りるぞッ!』

 

 

そう言って投げ飛ばしたキバから奪ったドッガハンマーをクウガの能力であるモーフィングパワーでタイタンソードに変化させ、Dクウガは先程のお返しとばかりに起き上がろうとするキバをタイタンソードで斬り飛ばした。

 

 

そして地面を何度も転がり、何とか身を起こしたキバは苦々しげにDクウガを睨みながら左腰に残った青いフエッスルを手に取る。

 

 

キバD『ガルル、来い!』

 

 

キバット『ガルルセイバー!』

 

 

最後のフエッスルをキバットに吹かせると、キャッスルドランから飛来した青い彫像がキバの下に渡り、キバが手にした青い彫像は金色の刀身が輝くガルルセイバーへと変化する。

 

 

そしてキバの身体を鎖が巻き付いて左腕と胴体が狼男の毛皮と腕を模した青い鎧となり、瞳の色も青く変化した形態……スピードと脚力、剣技に特化した『仮面ライダーキバ・ガルルフォーム』にフォームチェンジし、ガルルセイバーを手にDクウガの剣と切り結んでいく。

 

 

―ガギィイッ!!ガァンッ、ガギィイインッ!!―

 

 

DクウガT『ッ!ほう、いい剣筋してるじゃないか……!精進すれば将来は俺やシグナムに匹敵するかもなっ!』

 

 

キバG『うるさい!』

 

 

狼の如く荒々しくも、しかしワタル自身の技量の良さが浮き出る太刀筋に感心を覚えるDクウガだが、キバは聞く耳を持たずタイタンソードを弾き、ガルルセイバーの柄頭部分でDクウガを殴り飛ばした。

 

 

DクウガT『痛ぅッ!このっ、少しぐらい話を聞けよっ!』

 

 

キバに殴られた顔を拭いつつ、Dクウガはライドブッカーから新たにカードを取り出しドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『FOMARIDE:KUUGA! DAAGON!』

 

 

電子音声と共に、Dクウガは徐々にその姿を変えてドラゴンフォームへと姿を変える。そして手に持つタイタンソードもドラゴンロッドに変えながら、Dクウガはキバと間合いを測りつつ語り掛けた。

 

 

DクウガD『一応断っておくが、俺は人間が襲われてる所を助けただけだし、悪魔ってのもただのデマだ。それでもまだ俺と戦う気か?』

 

 

キバ『ッ……黙れぇええッ!』

 

 

経緯を説明しても信用されず、キバは再びガルルセイバーを手にDクウガに斬り掛かる。

 

 

対するDクウガもキバの斬撃をドラゴンロッドで受け流しながら、横薙ぎに振るわれたガルルセイバーの一刀を身を翻して避けながら屈んで逆に足払いでキバを倒し、追撃でキバにドラゴンロッドを振りかぶるも、キバも負けじとまるでブレイクダンスのような足さばきでドラゴンロッドを弾き、その勢いを利用して獣の如く軽い身のこなしで軽々と起き上がった。

 

 

DクウガD『チィッ……!思いの外ッ──!』

 

 

キバG『ハァアアアアアアッ!!』

 

 

エリオやキャロとそう歳も変わらない子供とは思えぬ卓越したバトルセンスに内心驚きを禁じ得ないDクウガだが、狼のように飛び掛かりガルルセイバーを振りかざすキバを見てすぐさまシャンッと音を鳴らすドラゴンロッドを手の中で回転させながら後ろ腰に引き、キバに目掛けて一気に振り抜いた。その勝敗は……

 

 

―ガギィイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!―

 

 

キバ『──うわぁああッ!!』

 

 

ディケイド『──グォオオッ!!』

 

 

──結果は相打ち。互いの肩と鳩尾に炸裂した一撃を前に二人は火花を撒き散らしながら吹き飛び、ダメージのあまり通常形態にまで戻ってしまったのだった。そのまま倒れて互いにダメージで顔を歪めるが、キバは一人ふらつきながら起き上がっていく。

 

 

ディケイド『ッ……おいおい、まだやる気かよっ?こっちとしてはもうそろそろ止めにしときたいんだが……』

 

 

キバ『うるさいっ!僕は……まだ戦えるっ!』

 

 

ディケイド側としてこの辺で切り上げたい所だが、キバは戦いを続けるつもりらしく徐に構えを取っていく。それを見てディケイドもやるしかなさそうだと諦めたように溜め息を吐きながら身を起こし、両者が再び激突しようとした、その時……

 

 

 

 

「──待て待て待て待てッ!!二人ともストォオオオーーーーーップッ!!」

 

 

 

 

『『……ッ?!』』

 

 

ディケイドとキバが再び衝突しようとした寸前、突然一人の少年が大声を上げながら二人の間に割り込んできたのだ。いきなりの乱入者にキバも驚愕して思わず構えを解くが、ディケイドと交戦中の二人を追ってきたなのははその少年の顔を見て別の意味で驚いてしまう。何故なら……

 

 

ディケイド『お前……!』

 

 

なのは「ゆ、優矢君っ?!」

 

 

そう、二人の間に割り込んだ少年の正体とは、前の世界で零と共に戦った仮面ライダークウガである桜川優矢だったのだ。

 

 

クウガの世界で別れたハズの彼が何故ここに?と、ディケイドとなのはも困惑した様子で優矢を見るが、優矢はまーまーとディケイドを宥めつつ、まるで忠臣のようにキバの前で跪き頭を垂れた。

 

 

優矢「王子、コイツは俺の知り合いです。悪魔などではありませんのでご安心ください」

 

 

キバ『……優矢、か……』

 

 

キバを落ち着かせようと笑い掛ける優矢を見て気が抜けたのか、キバは闘争心を鎮めて変身を解除しワタルに戻っていくと、ディケイドも零に戻りながら隣に駆け寄ってきたなのはに目を向けた。

 

 

零「なあ、これ一体どういう状況なんだ……?」

 

 

なのは「わ、私も分かんない……そもそも、何で優矢君がこの世界にっ?」

 

 

あまりに唐突過ぎる予想外な状況を前に二人もただただ困惑して立ち尽くす事しか出来ない中、其処へ騒ぎを聞き付けた別働隊のスバルとティアナ、そしてヴィータが零達の下に駆け付けた。

 

 

ティアナ「零さん!なのはさん!大丈夫ですか?!」

 

 

零「?ああ、お前達か。丁度良かった……って、お前ヴィータか?!」

 

 

なのは「ヴィータちゃんっ!良かったっ、ヴィータちゃんもこの世界に飛ばされてたんだねっ!」

 

 

ヴィータ「おう。お前らも無事だったみてぇだな。大体の事情はコイツらから聞いてるぜ」

 

 

へへっと、ヴィータの無事な姿を見て安堵するなのはに得意げに笑い返すと、ヴィータは優矢の下に近付いていく。

 

 

ヴィータ「おい優矢。何があったんだよ?街中が騒ぎでパニクってたぞ」

 

 

優矢「ああ、ちょっと色々あってね……ほら零!あんたがこの騒ぎを起こしたんだから謝れって!」

 

 

零「はぁっ?!何でだよ?!俺はただ人間がファンガイアに襲われてる所を助けただけで──!」

 

 

『人間ではない』

 

 

何故か騒ぎの原因にされて零が理由を話そうとしたその時、何処からか声が聞こえ全員がその方向を向くと、其処にはアゲハチョウを彷彿とさせる一体のファンガイア……スワローテイルファンガイアが先程零が助けた女性を捕まえて歩み寄ってくる姿があった。

 

 

『貴様が助けたこの女はファンガイアだ。そして、この女は人間のライフエナジーを吸うという最大の禁忌を犯した』

 

 

「ぐっ!うぅっ……!」

 

 

スワローテイルファンガイアが女性の首を掴む腕の力を強めると、女性の顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がっていく。その模様こそ、彼女がファンガイアである証拠だった。

 

 

優矢「あのファンガイアは掟に背いて人間のライフエナジーを吸っていた。既に何人もの人が被害にあってるんだ」

 

 

「な、何が悪いのよッ!これがファンガイアの本能でしょうッ?!それを抑えて生きていける訳がないじゃないッ!何が掟よッ!何が禁忌よぉッ!!」

 

 

ワタル「……ッ……」

 

 

自分の行いを省みる所か、それが当たり前の事だと開き直る女性の言葉にワタルの表情が徐々に歪んでいく。そしてスワローテイルファンガイアは女性を自分の方に身体を向けさせると、片手を振り上げて女性の身体を引き裂いた。

 

 

「キャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ワタル「ッ!」

 

 

引き裂かれた女性は断末魔の悲鳴を上げながら硝子のように砕け散っていき、ワタルはその光景を直視出来ずに顔を背けてしまう。

 

 

優矢「ああいう風に掟を破るファンガイアを罰するのが、俺たち親衛隊の役目って訳さ。な、ワタル王子!」

 

 

ワタル「………」

 

 

零「…………」

 

 

優矢が親衛隊の事を熱く語りながらワタルに呼び掛けるが、ワタルは俯いたまま何も答えず、零達は無惨にも砕け散った女性の硝子の破片を見て何も言えず口を閉ざすしかなかった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界④

 

―光写真館―

 

 

あれから十数分後。一先ず誤解を解いてワタルと別れた一行は優矢とヴィータを写真館に招き入れ、二人から話を聞こうとした訳なのだが……

 

 

優矢「──ん~、旨い!幸せだ~♪」

 

 

ヴィータ「ギガうま!栄ちゃん中々やるじゃねぇか~♪」

 

 

栄次郎「そうでしょう?零君達が急にお客さんを連れてきたから慌てて用意したけど、喜んでもらえて良かったよ~」

 

 

零「……コイツら、何で来て早々無遠慮に人んちの飯をガツガツ食ってんだ……」

 

 

スバル「あ、あはは……」

 

 

ティアナ(っていうかヴィータ副隊長、確かさっき大食いチャレンジをクリアした後だった筈じゃ……どんな胃袋してるのよこの人っ……)

 

 

写真館に戻ってきた頃には丁度昼時であった為か、栄次郎が気を利かせて用意してくれていたテーブルの上の料理を優矢とヴィータが貪っていく光景を目にし、若干顔を引き攣らせる零と苦笑いを浮かべるスバル。

 

 

加えて先程まで大食いチャレンジをしていたとは思えないヴィータの食欲っぷりにティアナも引いてしまうが、このままでは話が進まないと零は薄く溜め息を吐き、優矢の隣の席に腰掛けて質問を投げ掛けた。

 

 

零「それで……?優矢、ヴィータ。お前らどうやってこの世界にきたんだ?」

 

 

優矢「ん?ん~……だって俺クウガだし♪「ブッ飛ばされたいのかお前……」……ひぇっ」

 

 

なのは「ま、まあまあ!あんまりカリカリしても話が進まないから……!」

 

 

優矢の冗談にわりとガチめなトーンと真顔でキレる零に、なのはが慌てて横から宥めに入る。そして優矢も零の放つ威圧感にビビり、今はジョークを言ってる場合ではないと悟ったのか気を取り直すように咳払いをした。

 

 

優矢「ゴホンッ。えーっと、この世界に着いた経緯だったよな……俺は綾瀬さんの墓参りを終えて家に帰ろうとした時に、突然現れた変なコウモリに誘われたんだよ。んで、気が付いたらいつの間にかキャッスルドランの中にいたってトコ」

 

 

ヴィータ「ムグムグ……あたしも六課の訓練所でシグナムと模擬戦してたら変なオーロラみたいなのに呑まれて、気付いたらあの城の中にいたんだよ」

 

 

そう言って二人はそれぞれの経緯を説明し終えると、食事を再開して再び料理を貪っていくが、話を聞いた零は頭を抑え呆れるように溜め息を漏らしてしまう。

 

 

零「ヴィータの方はだいだい分かったが、お前の方は意味が分かんねぇぞ……何なんだよその変なコウモリって……」

 

 

なのは「まあまあっ……それで二人は、この世界に着いた後にあの親衛隊に入ったってこと?」

 

 

ヴィータ「まあな。他に行く宛もなかったし、それにあのワタルって奴に興味があったし」

 

 

ティアナ「ワタルって……さっきのあの王子の事ですか?」

 

 

先程零が戦ったキバに変身していたワタルの顔を思い出し、疑問げに問うティアナの質問に対し二人は首を縦に振って肯定する。

 

 

優矢「あのワタルって子は人とファンガイアの間に生まれたらしくて、人間とファンガイアの架け橋になって本当の共存を実現しようとしてるらしいんだ。その話を聞いて、俺もその力になりたいって思ってさ」

 

 

ヴィータ「あたしも似たような理由と、助けてもらった恩もあるから親衛隊に入ったんだ。それに街の方でもさっきみたいなファンガイアが増え続けてるから、どうにかしたいって気持ちもあったからな」

 

 

どうやら二人は自分達を助けてくれたあの王子、ワタルが抱える人間とファンガイアの共存という夢に惹かれ、力がなりたいが為に親衛隊に入ったらしい。

 

 

その話を聞いてなのは達が二人に感心する中、零は無表情のまま一人黙々と料理を口にしていく。

 

 

零「まぁ、お前等のその意気込みは立派だとは思うが……あのガキがお前達の期待に応える事はないと思うぞ」

 

 

優矢「……何でだよ」

 

 

二人の話に水を差すかのようにきっぱりと言い切る零に、優矢が料理を食べる手を止めて思わず零を睨み付けるが、零はそんな優矢の目を見つめ返しながら淡々と話を続ける。

 

 

零「今のアイツには、それを行おうとする強い決意が感じられないからだ。奴と戦ってる時にも何処か迷いを感じた……今のアイツにそんな重い責任を任せても、その重みに耐え切れずに折れちまうのが目に見えてる」

 

 

優矢「やれるさ。アイツなら」

 

 

あの廃墟のような家で初めて出逢った時の人間に対する怯えよう、自分と戦っていた時のあの余裕の無さから何かを感じ取ったらしき零の言葉に、優矢は箸を置いて立ち上がりながら真剣な眼差しで零の前に立つ。

 

 

優矢「確かに、今のアイツは何処か迷ってるように見える。お前の言う通り、今のアイツに王の責務をやらせても難しいかもしれない……でもだからこそ、俺はアイツを支えてやりたいと思ったんだよ」

 

 

零「…………」

 

 

目を逸らさず、零の瞳をまっすぐ見据えて力強く語る優矢に対し、零も無言のまま優矢の目を見つめ返して何も答えない。そんな二人の間に走るピリピリとした空気になのは達も止めに入るべき若干迷う中、暫しの睨み合いの後、優矢が先に目を逸らして台所にいる栄次郎に笑顔で呼び掛けた。

 

 

優矢「ごちそうさんでした!飯、美味かったです!じゃあヴィータさん、俺、先に城に戻るから。今日は此処でゆっくりして行きなよ。せっかく仲間達と会えたんだしさ」

 

 

ヴィータ「お、おお。お前も気を付けて帰れよ?」

 

 

優矢「分かってるってっ」

 

 

それじゃ!と、優矢は片手を振って明るげに一同に挨拶しながら、写真館を出てキャッスルドランへと戻っていった。

 

 

そして、零は徐に窓際に移動し城に向かって走り去る優矢の背中を窓から無言で見送ると、そんな零の隣になのはが歩み寄り、窓から同じように優矢を見送りながら口を開く。

 

 

なのは「優矢君、本気であのワタルって子の力になりたいみたいだね……」

 

 

零「……ああ。だが、それでもあのワタルって奴の本当の心が見えなければ、アイツの助けは逆にあの王子の重荷を増やすだけだ……」

 

 

僅かに目を細めて何処か心配を含むようにそう呟くと、零は懐から絵柄の消えたキバのカードを取り出し、未だ力が戻る兆しのないシルエットのみのカードをジッと見つめていくのであった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑤

 

―キャッスルドラン・玉座の間―

 

 

『──それにしても、王子が無事に見付かって良かったよホントに』

 

 

『ああ。即位式を前に王子の御身に大事があれば、民達にも不安を与える事になるからな。やはり一日でも早く即位の儀を……』

 

 

数時間後、キャッスルドラン城内にある玉座の間。其処にはワタルがガルル達アームズモンスター達と共に玉座の間に集い、ワタルの王即位の式を開く日取りを考えていた。だが、当の本人のワタルは何やら浮かない様子で俯いており、それに気付いたバッシャーは訝しげにワタルの顔を覗き込んだ。

 

 

『王子?』

 

 

「僕は……王にはなれない」

 

 

『なっ……何故だ?!今日もキバとなり戦っていたではないか!』

 

 

ワタルの突然の発言にアームズモンスター達も騒然となるが、無言のままそれ以上は何も答えないワタルに、ガルルは誰も座っていない玉座を指し必死に呼び掛ける。

 

 

『王子っ、既に玉座は十年以上空位!そのためファンガイアの中には掟を忘れ、人を襲う者も多い!あなたが王になる事を、誰もが望んでいるのです!』

 

 

ワタル「…………」

 

 

だからどうか考え直して欲しいと説得を試みるガルルだが、ワタルはやはり浮かない表情のまま口を閉ざし、椅子から立ち上がってそのまま何も言わず玉座の間から出ていってしまった。

 

 

『お、王子……』

 

 

『やはり、アイツじゃ若すぎる』

 

 

『だが、他にキバを継げる者はない。あの方がお戻りにでもなれば別だが……』

 

 

しかしそれも叶わぬ事だと、空白の玉座を見つめ頭を悩ませてしまうアームドモンスター達だが、三体は気付かなかった。その様子を影から覗く不審な影の存在に……。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

夜が明けた早朝。ワタルは誰にも告げず再びキャッスルドランから抜け出し、行く宛もないまま街の中を歩き続けていた。其処へ、後ろからトライチェイサーに乗った優矢がやって来てワタルの前に止まり、ヘルメットを脱いで笑顔でワタルに軽く挨拶する。

 

 

優矢「よっ!こんな朝早くにどうしたんだよ、ワタル?」

 

 

ワタル「優矢……」

 

 

優矢の顔を見て一瞬立ち止まるワタル。しかしすぐに顔を背けてしまい、そのまま何処かへと歩き出していく。

 

 

優矢「ま、待ってくれって!そのさ、昨日は大変だったと思うけど、零の奴のこと許してやってくれないか?アイツあんなだけど本当は良い奴でさ、俺の友達っていうか……」

 

 

ワタル「……友達……?」

 

 

その言葉にワタルは思わず足を止めて振り返り、優矢も徐にバイクから降りると、トライチェイサーの後部座席の上に手を置いて言葉を続ける。

 

 

 

優矢「どっか行きたいとこでもあるのか?なら乗ってけよ、連れてくからさ」

 

 

ワタル「……行きたいところなんて……それに、僕は何処にも行けやしない……」

 

 

何処か諦めを含んだような口調で俯くワタル。だが、優矢は笑みを浮かべたまま首を横に振ってみせた。

 

 

優矢「そんな事ないさ。お前が本当に其処へ行きたいと望めば必ず行けるし、頼ってくれたら俺が連れていく。何処にでも、何処までも」

 

 

ワタル「…………」

 

 

その時は俺にひと声掛けてくれよな?と、胸を張って笑顔を向ける優矢にワタルも何処か期待の眼差しを向けるが、すぐにそれを振り払うように顔を伏せてしまう。

 

 

そんなワタルの様子を見て優矢も小首を傾げるが、直後に何かを思い出したように懐を漁り出す。

 

 

優矢「そうだ……まだこんな時間だし、どうせ何も食べずに城を出てきたんだろ?ほら、これやるよ」

 

 

そう言いながら優矢はワタルに歩み寄り手を取ると、その手にポケットから取り出したキャンディを握らせていき、ワタルは渡されたキャンディを見て一瞬戸惑うも、優矢はそのままバイクに戻ってヘルメットを被りながらマシンに跨っていく。

 

 

優矢「あんま一人で悩むなよ!俺やヴィータさんもいるんだし、辛い事があったら何時でも相談してくれ!」

 

 

じゃあな!と軽く挨拶すると共にヘルメットのバイザーを下ろし、トライチェイサーを発進させて何処かへと走り去っていく優矢。その後ろ姿をジッと見送りながら、ワタルは優矢から貰ったキャンディを大事そうに手の中で握り締めていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから更に数時間後。朝食を終えて写真館を後にした零となのははこの世界での自分達の役目について手掛かりを探しに、再び街に出て住宅街にやって来ていた。

 

 

なのは「──うーん……此処にもそれらしい手掛かりはなさそうだね……」

 

 

零「そうだなぁ」

 

 

―カシャッ!―

 

 

なのは「前の世界じゃ格好の見た目とかですぐに分かったけど、ヴァイオリニストなんて何をすればいいのか検討つかないよね……」

 

 

零「だなぁ」

 

 

―カシャッ!―

 

 

なのは「これだけ探してもヒントも見付からないし、次は何処を探そうかな……ねぇ、どうしようか?」

 

 

零「なー」

 

 

―カシャッ!―

 

 

なのは「‥‥‥零君。私の話、ちゃんと聞いてる?」

 

 

零「ふうむ……お、此処からだとあの城が良い感じに写るな。一枚っと」

 

 

―カシャッ!―

 

 

なのは「……って、やっぱり聞いてなかったんでしょうッ?!」

 

 

こっちは真剣にこの世界での役割に繋がる手掛かりを探しているというのに、人の気も知らず適当に返事をしながらカメラで周りの風景を撮っている零になのはが怒鳴る。

 

 

だが、零はそんななのはのお叱りを受けても特に気にせず写真を撮り続けていく。

 

 

零「そう騒ぐな。こうして写真を撮っていれば、何か手掛かりになるものが写ってる事だってあるかもだろう?そういう訳で俺はこっちで忙しいから、そっちの方はお前で探しといてくれ」

 

 

なのは「零君のブレブレ写真じゃ手掛かり写ってても全然分かんないでしょっ?!大体これは零君の役目なんだよっ?!なんで私が……!」

 

 

零「忘れたのか?お前も俺と同じ役目があるんだ、だったらお前が探しても俺が探しても結局は同じだろ」

 

 

なのは「もぉー!!何でそう言う屁理屈しか言えないのかなぁっ?!昔からそうやって都合の良い事ばっかり言ってっ!!」

 

 

零「それが俺だぞ?」

 

 

なのは「むっかぁあああああああっーーーー!!」

 

 

フッ、と軽く鼻を鳴らしておちょくるように笑う今の一言で完全に怒ったなのはが声を荒らげ、募りに募った今までの不満を含めて零の文句をガーッ!と言いまくる。だが零はそれも何処吹く風と聞き流し、再び写真を撮ろうとカメラのファインダーを覗いた。その時……

 

 

―……ギィー、ギィーギィー……ギギィーッ……―

 

 

零「……ん?」

 

 

なのは「え?」

 

 

何処からともなく奇妙な音が響き渡り、零は写真を撮るのを止め、なのはも零への文句を止めて辺りを見渡していく。

 

 

なのは「ねぇ、これって確かワタル君が弾いてたバイオリンと同じ音だよね……?」

 

 

そう、なのはの言う通り、その奇妙な音は昨日ワタルが弾いていたバイオリンの音と良く似ているが、零はその音を聞きながら何処か不可解そうに目を細めた。

 

 

零「確かに似てるはいるが、ワタルが弾いてたのとは少し違う……なのは、あの家に行ってみるぞ」

 

 

なのは「え?あ、うん……」

 

 

零もその音の正体が気になったのか、なのはにそう呼び掛けながら彼女と共に奇妙なバイオリンの音が聞こえてくる方向、ワタルと初めて会ったあの廃墟のような家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

ワタルと出会った廃墟。中は昨日と変わらず荒れていたが、其処には荒らんだ服を来た中年男性が窓際に立ってバイオリンを奏でていた。しかし男は懐かしそうな、だが何処か寂しそうな顔でバイオリンを弾き続けている。其処へ……

 

 

―♪~♪~♪~♪―

 

 

「……?」

 

 

その音に合わせるように不意に家の下から美しいメロディーが聞こえ、男は一瞬驚いて思わず演奏を止めたが、次第にそのメロディーに惹かれ心を委ねていく。

 

 

そしてその演奏を奏でていた零もなのはと共に階段を登って二階へと上がり、暫くバイオリンを奏でた後に演奏を止めて男と向き合った。

 

 

「……君達は?」

 

 

零「気にしないでくれ、単に通り掛かっただけだ……あんたは?」

 

 

「……以前この家に住んでいた者だ。愛する妻と、そしてその妻との間に産まれた子供と共に幸せな暮らしを送っていた……だが、そんな幸せも長くは続かなかった……」

 

 

そう言いながら手に握るバイオリンに視線を戻す男だが、その顔は何処か物悲しげに見える。

 

 

「夢見ていた……人間とファンガイアは共に生きていけると……だが、無理があったのかもしれないな。人間と共に生きるなどと……」

 

 

なのは「……もしかして、貴方はファンガイアなんですか?」

 

 

「……どうだろうね?では、私はもう行くよ。良い演奏をありがとう」

 

 

男は二人に礼を言うと、手に持っていたバイオリンを机の上に置いて家を出ていった。

 

 

なのは「零君……もしかしてあの人……」

 

 

零「……どうだろうな。仮にそうだったとしても、俺達が関わっていい事じゃなさそうだ……行こう」

 

 

なのは「……うん」

 

 

何かを察したなのはの言葉にそう答え、階段を降りていく零の姿を見てなのはも後を追おうと踏み出すが、その時……

 

 

―カチャッ……!―

 

 

なのは「へ?」

 

 

なのはが足を踏み出した瞬間、不意に何かを踏んだような感触と共に金属音が鳴った。それに気付いてなのはは自分の足を退かし足元を見てみると、其処には……

 

 

なのは「……腕時計?」

 

 

そう、其処にはボロボロに汚れている銀色の腕時計が床に落ちていたのだ。

 

 

なのははしゃがんでそれを手に取り、汚れを手で払ってまじまじと眺める。

 

 

時計自体は汚れてはいるが、壊れている様子はなく画面もちゃんと時間が表示されていてまだまだ使える様に見える。

 

 

もしや以前此処に住んでたというあの人達が使っていた物だろうか?そう考えながらなのはが首を傾げていると…

 

 

零「──おーい、どうしたなのは?何かあったのか?」

 

 

なのは「ッ!あ、ううん、何でもない!今いくから!」

 

 

もしかしたらコレもあの人にとって思い出の品かもしれないと思うと捨ててしまうのも躊躇してしまい、またあの人に会う事があれば綺麗にして返そうと考え、なのはは一度写真館に持ち帰ろうとその腕時計をポケットに仕舞い、零の下へ急ぎ階段を降りていった。

 

 

 

 

──その時、ポケットの中で腕時計の画面が僅かに輝き、ディケイドの紋章が浮き出ているとも気付かず……。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑥

 

それから数時間が経ち、時刻は夜になった。あれから街中を捜索してこの世界で果たすべき役目のヒントを探し続けたものの、やはり何処を見ても人間とファンガイアが手を取り合って暮らす光景しか見られず、昨日のように掟を破ったファンガイアと遭遇する事もなかった。

 

 

結局この日も収穫となる手掛かりを得られず、歩き疲れた零となのはは写真館に戻る前に休憩しようと近くの公園のベンチに腰掛けていた。

 

 

なのは「はぁ……色んな所探し歩いたけど、結局何にも見つからなかったね……」

 

 

零「ああ……全く、こんな平和な世界で一体何をやれっていうんだ……」

 

 

此処まで何も異変がないと、いよいよ自分達がこの世界に訪れた意味はないのでは?と思い始めてきた。

 

 

……いや、元の世界から飛ばされてきたヴィータもいた事だし全くの無意味とは言えないが、この世界に来てからの自分達の行動を振り返ると誤解からファンガイア、ワタルと戦ったりと、寧ろ自分達が現れた事で平和なこの世界を荒らしてるようにしか思えない。

 

 

これじゃ本当に……と、優矢やワタルに言われた『悪魔』の呼称を思い出し掛けるも、それを振り払うように軽く頭を振り、零はベンチから腰を上げて写真館に戻ろうとなのはに声を掛けようとした。その時……

 

 

 

 

『フフフ……見つけたわよ、ディケイド♪』

 

 

「「……?!」」

 

 

 

 

不意に何処からともなく妖しげな声が聞こえ、零となのはは驚き共に警戒して辺りを見渡す。すると、二人の目の前に奇妙な白いコウモリがクスクスと妖しげに笑いながら現れた。

 

 

なのは「?えと、これって……コウモリ、かな?」

 

 

零「……もしかしてこいつか?優矢が言っていた変なコウモリってのは」

 

 

『失礼ね!私はキバット族のキバーラっていうのよ!……そんな事よりディケイド、お前、自分がこの世界に何をしに来たか……知りたくない?』

 

 

零「!お前、何か知ってのか?!」

 

 

何か訳知りな口調でそう語る奇妙な白いコウモリ……キバーラの言葉に零が思わずそう聞き返すと、キバーラは二人の周囲を飛び回りながら薄く微笑み、

 

 

キバーラ『えぇ、勿論知ってるわよ。……お前は、この世界を破壊しに来た』

 

 

零「……何?」

 

 

―ブォオオオオオオオンッッ……!!―

 

 

冷たい声音でキバーラが不穏にそう答えたと同時に、周囲の景色が突然銀色のオーロラに包まれて歪み始めていき、オーロラが晴れると、いつの間にか二人は何処かのスタジアムの観客席に佇んでいた。

 

 

なのは「え?こ、此処ってっ?」

 

 

零「景色が変わった……?まさか、また別の世界に……?」

 

 

見知らぬ場所にいきなり飛ばされて戸惑うなのはとは対照に、零は胸でざわつく嫌な予感から警戒して辺りを見渡していく。其処へ……

 

 

―カタンッ……カタンッ……カタンッ……―

 

 

「「!」」

 

 

周囲を見回す二人の耳に不気味な足音が届き、すぐさま音がした方へと振り返る。すると其処には、黄色のラインが入った黒鉄の鎧を纏う紫の瞳の仮面ライダーがスタジアムの階段を徐に下りてくる姿があった。

 

 

零「お前は……?」

 

 

『──貰うぞ。お前のベルトを……』

 

 

怪訝な表情を向ける零の問いにも答えず、紫眼のライダー……『仮面ライダーカイザ』は右手にあらかじめ持っていたギリシャ文字のχを形状とした銃剣、カイザブレイガンの銃口を二人に突き付ける。

 

 

零「ッ?!伏せろなのはッ!」

 

 

なのは「え?キャアッ?!」

 

 

―バシュッバシュッバシュッ!!―

 

 

それを見て零が咄嗟になのはを抱き抱えながらその場から飛び退いた瞬間、カイザはいきなり発砲して二人が立っていた場所に風穴を開けたのである。続け様に放たれる銃弾の雨をどうにか掻い潜り、零はなのはと共に客席の陰に身を潜めながら懐からディケイドライバーを取り出す。

 

 

零「クソッ……!あの時の訳の分からんライダー達の仲間か?!なのはっ、隠れてろっ!」

 

 

なのは「う、うんっ!」

 

 

恐らくクウガの世界で突然襲ってきたホッパー達と同じライダーの襲撃か、当たって欲しくはなかった嫌な予感の的中に思わず舌打ちしながらもなのはを避難させ、バックルを腰に装着した零はライドブッカーから取り出したカードを構えながらカイザの前に躍り出た。

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カイザ『チッ!』

 

 

―バシュンッバシュンッ!!―

 

 

カードを装填したドライバーのサイドハンドルをスライドさせ、電子音声と共に灰色のスーツを身に纏う零に向けてカイザが変身を妨害しようと容赦なく銃撃する。

 

 

だが、零のバックルから飛び出したカード状のプレートが銃弾を跳ね除けて零を守り、そのまま仮面に収まると共にディケイドに変身した零は左腰のライドブッカーを瞬時にガンモードに切り替え、カイザに向けて銃撃し反撃を開始していった。

 

 

―バシュッ!バシュッバシュッバシュッバシュッ!!―

 

 

カイザ『ハッ!ハァッ!』

 

 

ディケイド『グゥッ!ハッ!』

 

 

スタジアムを駆け回りながら互いに目掛けて銃を乱射し、激しい銃撃戦を繰り広げてゆくディケイドとカイザ。其処へ……

 

 

―バッ!!―

 

 

カイザ『デェアアッ!!』

 

 

ディケイド『ッ!ハァッ!』

 

 

―バシュンバシュンッ!!―

 

 

ディケイド『グゥッ?!』

 

 

カイザ『づあッ?!』

 

 

カイザがいきなりディケイドに向かって飛び掛かりながら銃を撃ち出していき、ディケイドも即座にカイザを狙い撃って撃ち落とし互いに倒れてしまうも、直ぐさま身体を起こし互いに向けて銃口を突き付けた。

 

 

ディケイド『ッ!何故俺と戦うッ?!』

 

 

カイザ『……邪魔なんだよ……俺の思い通りにならないモノは全てッ!』

 

 

―バシュンッ!―

 

 

そう言いながら銃の引き金を引いてディケイドの顔を至近距離から撃つカイザ。しかしディケイドも咄嗟に首を横に動かし紙一重で銃弾を避けながらカイザに掴み掛かり投げ飛ばすが、カイザは受け身を取りながらバックルのメモリーカードを抜き取って銃剣に装填し、刃を展開してディケイドに斬り掛かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

優矢「──な、何だよコレっ……?!」

 

 

一方その頃、親衛隊として街をパトロールしていた優矢とヴィータは衝撃的な光景を目の当たりにしていた。二人の目の前にはライフエナジーを吸われてしまった無数の人間や粉々に砕かれたファンガイアの残骸が辺り一面に散乱していたのだ。

 

 

ヴィータは近くに倒れる人間に急いで駆け寄り息がないか確かめるも、徐に手を離して悔しげに唇を噛み締めた。

 

 

ヴィータ「駄目だ、やっぱり限界までライフエナジーを吸われてやがるっ……多分他の被害者も、もう……」

 

 

優矢「そんな……一体誰が……っ……?」

 

 

生存者は期待出来ないだろうと断言するヴィータの言葉に悲痛な顔を浮かべる優矢だが、その時ふと、目の前の凄惨な光景を見渡してある違和感に気付く。

 

 

ライフエナジーを吸われてしまった人間の骸とファンガイアの残骸はキャッスルドランに向かって道中まっすぐ続いており、それに気付いた優矢はハッと息を拒みヴィータの方に振り向いた。

 

 

優矢「ヴィータさん!ワタルが危ない!キャッスルドランに戻ろう!」

 

 

ヴィータ「は?あ、ああ!」

 

 

嫌な予感を感じて叫ぶ優矢に押されながらも、ヴィータは同行していた同じファンガイアの親衛隊に現場を任せると、念のため写真館のスバル達にも連絡しようと携帯から電話を掛けながら、二人はワタルの安否を確かめる為に急いでキャッスルドランに戻っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「キャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」

 

 

ワタル「……?!」

 

 

同時刻、キャッスルドランの玉座の間でワタルが窓から月を見上げていた最中、城内に突然悲鳴が響き渡り、驚愕を浮かべて思わず振り返った。

 

 

直後、入り口の扉が荒々しく開かれ、扉の奥から重厚な身体を持つカブト虫型のファンガイア……ビートルファンガイアが現れた。

 

 

『漸く見付けたぞ……王の印、キバの鎧……この俺が貰い受けるッ!』

 

 

ワタル「なっ……キバットッ!」

 

 

キバット『よっしゃあ!キバって行くぜ!』

 

 

敵意を剥き出しに迫るビートルファンガイアの襲撃に一瞬戸惑うも、すぐに真剣な表情に切り替わりキバットを呼ぶワタル。そしてワタルに応えその手に収まるキバットを手に近付けさせ、

 

 

キバット『ガブッ!』

 

 

ワタル「変身ッ!」

 

 

キバットを噛み付かせると共に顔にステンドグラスの模様を浮かび上がらせ、ワタルは腰に出現したベルトの止まり木にキバットをセットしキバへと変身していく。

 

 

だがビートルファンガイアはキバに変身したワタルを見ても臆する所か鼻で笑って悠然と迫り、キバはその佇まいから発せられる謎の威圧感に押されながらもそれを振り払うように身構え、ビートルファンガイアに突っ込み戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑦

 

銀色のオーロラと共に現れた謎のライダー、カイザの襲撃に遭い、窮地に追いやられるディケイド。逆手持ちで巧みに振るうカイザブレイガンの斬撃を前に次第に防戦一方に追い込まれ、ライドブッカーを弾かれた隙を突かれて何度も鋭い斬撃を浴びせられていき、階段を勢いよく転げ落ちて地面に倒れ込んでしまう。

 

 

ディケイド『ぐうぅッ!』

 

 

なのは「零君っ?!」

 

 

倒れ伏すディケイドの姿を目にし、二人の戦いを離れて見ていたなのはが思わず駆け寄ろうとするが……

 

 

ディケイド『……ッ!来るななのはッ!』

 

 

なのは「え……?!」

 

 

カイザ『ツァアアアアッ!!』

 

 

其処へカイザがカイザブレイガンを振りかざしながら階段から飛び降り、追い討ちを掛けるようにディケイドへと容赦なく斬り掛かった。それを見たディケイドも咄嗟にライドブッカーを盾に斬撃を受け止めながらカイザの腹を蹴り飛ばして距離を開かせ、そのまま身を起こしてなのはから離れるように戦闘を再開していく。

 

 

なのは「ッ……このままじゃっ……レイジングハート……!お願い応えてっ!このままだと零君がっ!」

 

 

一時は持ち直したかのように思えたが、戦況は目に見えてディケイドが再び不利になりつつある。このままでは彼の身が危険だと悟ったなのはは縋る思いで首に掛けた待機状態のレイジングハートに必死に呼び掛けるも、やはりその声は届かず、機能が停止したレイジングハートからは何も返ってはこなかった。

 

 

なのは「お願い……お願いだからっ……!零君を助けたいのっ!だからっ!」

 

 

その場に崩れ落ちる様に膝を着き、必死に願うようにして叫ぶなのは。その時……

 

 

―ガギィイイイイイイイイイイイイイイインッ!!―

 

 

ディケイド『ガハァアッ!!』

 

 

なのは「ッ?!」

 

 

けたたましい斬撃音と悲痛な声がスタジアムに鳴り渡る。その声を聞いてなのはが弾かれたように顔を上げると、其処にはディケイドがフェンスに叩き付けられ、カイザの胸ぐらを掴まれ追い詰められる姿があった。

 

 

カイザ『がっかりだな……君の力はこの程度、という事でいいのかなぁ?』

 

 

ディケイド『ッ……!』

 

 

なのは「れ、零君っ!!」

 

 

最早黙って見ている事は出来ない。ディケイドの危機を前にいても立ってもいられず、なのははディケイドを助けるべくその場から走り出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、キャッスルドランの城内では玉座を襲撃したビートルファンガイアの圧倒的な力の前にキバが手も足も出せず追い詰められていき、繰り出す技の一つ一つが通用せず首を掴まれて身体を持ち上げられてしまっていた。

 

 

『こんなものか……?弱い王にその鎧は相応しくない、キバの鎧を渡せ!』

 

 

キバ『ッ……ァッ……!ダメだっ……これは、王の資格だっ……!』

 

 

『いいや、お前はまだ王に即位していない!だから俺が王となる!』

 

 

そう言いながらビートルファンガイアは凄まじい力でキバを床に思いきり叩き付け、更に痛みに悶えるキバの胸を足で踏み付け踏みにじっていく。其処へ騒ぎに気付いて駆け付けたガルル達がその光景を目の当たりにし、動揺を露わにした。

 

 

『王子?!王子に手を出すとは、この狼藉者めっ!』

 

 

『待て!あの方は……』

 

 

キバを襲うビートルファンガイアに側近のファンガイアが飛び出そうとするも、ビートルファンガイアの姿を見たガルルが何故か片手でそれを制して止めに入る。そしてビートルファンガイアは踏み付けていたキバをガルル達の下へ蹴り飛ばしてしまい、何とか身を起こしたキバはガルルに目配りする。

 

 

キバ『ガルル……!お前の力を貸せ!』

 

 

このままでは奴に太刀打ち出来ない。戦い方を変える為に素早い身のこなしのガルルフォームになる為、ガルルに力を貸すように命じるキバだが、しかし……

 

 

『…………』

 

 

キバ『……?ガルル……?』

 

 

ガルルは何故かキバの命令に応えず、他のアームズモンスター達と共に顔を背けて口を閉ざしてしまう。臣下達のその様子にキバも困惑を浮かべ戸惑ってしまう中、一瞬で背後に接近したビートルファンガイアがキバを殴り飛ばし、そのまま足でキバを押さえ付けながら自らの手をキバットの前に翳していく。

 

 

『キバットバット三世よ……!我に従え!』

 

 

キバット『ッ?!ウ、ウオォォォォォォォォッ!!』

 

 

ビートルファンガイアの手から放出されるエネルギー波がキバットを捉えて包み込み、キバットの意識を封じ込んでしまう。そしてそのままキバットベルトから独りでに離れたキバットはビートルファンガイアの手に収まってしまい、キバットを奪われたキバも変身が解かれワタルに戻ってしまった。

 

 

ワタル「?!な、何でっ……?!」

 

 

変身が解け、王の資格であるキバの鎧を奪われたワタルは茫然自失となりその場から動けなくなってしまう。そしてビートルファンガイアはそんなワタルに目もくれず玉座に腰を下ろし、ガルル達もビートルファンガイアの前に並んで忠義の構えを取っていく。

 

 

『キバの鎧は受け継がれた』

 

 

『この方が、新たな王だ』

 

 

ワタルを見捨て、新たな王へと忠誠を誓うガルル達。だがその新たな王、ビートルファンガイアから発された言葉はこの場にいる者全ての意表を突くものだった。

 

 

『俺は掟など廃する……人間との共存など無意味。ファンガイアは人間を貪り尽くす。逆らう者は、滅ぼす!』

 

 

『ッ……?!』

 

 

ワタル「そ、そんな……」

 

 

今までの掟を廃し、人間を餌として貪る。それは嘗てこの世界で起こったとされる人間とファンガイアの争いを今一度起こすに等しい命令であり、ワタルだけでなく彼に忠誠を誓ったガルル達すらも驚愕を露わにしてしまうが……

 

 

「──そんなこと許すかよ!」

 

 

玉座の間の扉が勢いよく開かれ、其処から優矢、スバル、ティアナが現れ、優矢はワタルの前に飛び出してビートルファンガイアを睨み、スバルとティアナは傷付いたワタルに駆け寄って抱き寄せていく。

 

 

『貴様……!新たなファンガイアの王の御前だ!控えよ!』

 

 

優矢「違う!王は……ワタルだ!変身ッ!」

 

 

腹部に両手を翳し、アークルを出現させた優矢は即座にクウガに変身しながらビートルファンガイアへと飛び掛かる。しかし、それを阻むようにドッガが咄嗟にビートルファンガイアの前に出てクウガの拳を代わりに受け止めて防ぎ、ガルルとバッシャー、スワローテイルファンガイアが三方からクウガを攻め立ててビートルファンガイアから引き剥がしてしまう。

 

 

ティアナ「優矢さんっ!」

 

 

クウガ『グッ!俺の事は良いっ!二人は今の内にワタルをっ!』

 

 

スバル「っ……わ、分かりました……!王子!さぁ、早く逃げましょう!」

 

 

ワタル「あ……」

 

 

四体のファンガイアの攻撃を必死に捌くクウガに後ろ髪を引かれながらも、今の自分達に出来る事をする為に未だ呆然としているワタルをスバルが背中に抱え、玉座の間から脱出しようとした二人の前に扉の方からヴィータが現れた。

 

 

ヴィータ「スバル、ティアナ!退路は確保したぞ!急げ!」

 

 

「「はい!」」

 

 

城に潜入する際に三人とは別行動を取り、逃走経路を確保していたヴィータの後を追い掛け、二人はワタルを連れてキャッスルドランから脱出していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方、スタジアムでは…

 

 

カイザ『さぁ、君のベルトを貰おうか……』

 

 

なのは「零君ッ!!」

 

 

カイザはディケイドライバーを奪おうとディケイドの腰のバックルに徐に手を伸ばし、なのはもディケイドのピンチを前にデバイスも無しに助けに向かおうと走り出すが……

 

 

ディケイド『ッ……どうかな……?こっちはまだ手の内を明かし切っていない……!』

 

 

不敵な笑みと共にディケイドが一枚のカードをライドブッカーから取り出し、バックルに装填してスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

ドライバーから鳴り響く電子音声と共に、カイザに首を掴まれるディケイドの身体が突如一人から三人に、更に三人から六人、九人と増え続けてカイザを包囲していったのである。

 

 

カイザ『何ッ?!』

 

 

なのは「ぶ、分身した?!」

 

 

分身したディケイド達に囲まれたカイザは驚き、なのはもまた同じように驚きを隠せず足を止めてしまう中、九人に分身したディケイド達はすぐさま数の多さを利用した立ち回りでカイザを翻弄しながら仕掛け、左右前後からの攻撃をカイザに絶え間なく浴びせていく。

 

 

カイザ『ぐううぅっ?!コ、コイツ等……?!』

 

 

なのは「あれって……フェイクシルエットみたいな幻影じゃない……全部実体がある?!」

 

 

そう、ディケイドが使用した新たなカード、イリュージョンは一体一体が確かな実体を持ち、それぞれ意思を持って動く分身を生み出せるトリッキーなカードなのである。

 

 

加えて一人一人の能力や技能も元のディケイドと同様であり、九人のディケイドは連携を組んでカイザの技を容易く弾きながら徐々に追い詰めていき、トドメに三人同時蹴りを打ち込みカイザをスタジアムの壁に叩き付けていった。

 

 

カイザ『がァああッ!ぐッ……キサマァッ……!』

 

 

『Redy!』

 

 

ディケイドを忌々しげに睨みながらどうにか身を起こし、カイザは自身のベルトに付属されているデジタル双眼鏡型のデバイスを手に取り、バックル表面に取り付けられてるメモリカードを装填して右足に装備していく。

 

 

カイザのその動作で何かを察したディケイドも即座に一人に戻りながらライドブッカーからカードを一枚取り出し、ディケイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE·DE·DE·DECADE!』

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

カイザ『ハァアアッ!』

 

 

ディケイドライバーから響く電子音声に合わせ、カイザもバックルに装填されてる携帯を開いてエンタキーを押し、バックル部分から右足に向けて黄色のラインに光を走らせながら一息で空高く跳躍する。

 

 

そしてディケイドも空へ跳び上がるカイザに目掛けて無数のカードの残像……ディメンションフィールドを展開していくと、カイザが突き出した右足のデバイスから放たれた黄色の閃光が円錐状のポインターとなって最後のカードの残像を捉え、カイザは上空で飛び蹴りの態勢を、ディケイドはカイザに目掛けてディメンションフィールドへと右足を突き出して飛び込み……

 

 

 

 

 

ディケイド『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!ハァアアァッッッッ!!!!』

 

 

カイザ『デェエエエヤァアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

―チュドオォオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォンッッッッ!!!!!!―

 

 

なのは「うっ、くっ……!!キャアアアアッ?!」

 

 

 

 

 

観客席の上空でディケイドとカイザの必殺技同士が激突した瞬間、凄まじい爆発と閃光が発生し、辺り一帯に衝撃波が広がっていったのである。そのあまりの威力に両腕で顔を庇い、衝撃波を耐えようとしたなのはも堪らず転倒してしまう中、爆風が止んだ黒煙の中からディケイドとカイザが勢いよく飛び出し、お互いに壁やフェンスに叩き付けられて苦悶の声を上げた。

 

 

ディケイド『グアゥッ!』

 

 

カイザ『グッ!……ッ……今日は、こんな所かなっ……』

 

 

ディケイドの技のダメージが見た目以上に響いているのか、ふらつきながら起き上がったカイザは襟を掴んで首を軽く鳴らすと、背後から再び出現した銀色のオーロラに呑まれてそのまま何処かへと姿を消していった。

 

 

そしてカイザの逃走を確認したディケイドも身を起こして変身を解除し零の姿に戻るも、それと同時に右腕を抑えながら片膝を着いてしまい、それを見たなのはも血相を変えて零の傍に駆け寄った。

 

 

なのは「零君!しっかりして……!大丈夫?!」

 

 

零「ッ……あぁ、大丈夫だ……それより今の奴は……」

 

 

なのは「あ、うん……前の二人組のライダーみたいに消えたちゃったみたいだね……」

 

 

零「……そうか」

 

 

零はなのはに支えられて何とか立ち上がり、銀色のオーロラと共にカイザが消えた場所を訝しげに見つめる。結局あの仮面ライダーは何故自分達をいきなり襲ってきたのか?募る疑問を胸に二人が考える中、辺りの景色が再び歪み始め、二人はまた公園の中へと戻っていた。其処へ……

 

 

キバーラ「フフフッ……アハハハッ♪」

 

 

スタジアムからいつの間にか姿を消していたキバーラが二人の前に現れ、妖しく笑いながら何処かへと飛んで夜の闇の中へと消えていってしまった。

 

 

零「おい……!待て!」

 

 

―ディケイド!仮面ライダー達と戦う悪魔よ!―

 

 

「「……?!」」

 

 

キバーラを呼び止めて後を追おうとしたその時、突如何処からか聞き慣れない男の声が響き渡った。思わず周りを見渡す二人だが、夜の闇に紛れているのか声の主と思われる人影は何処にも見当たらず、その間にも男の声は明らかな敵意を宿して零に呼び掛けていく。

 

 

―このキバの世界も、調和は取れていた。だが貴様が現れた事で調和が乱れ、破壊を望むキバが誕生してしまった!―

 

 

なのは「破壊を望む……キバ?」

 

 

零「どういう意味だ……?!答えろッ!」

 

 

意味深な発言をする声の主に向かって問い返すが、男の声は何も答えず、そのまま返事が返ってくる事はなかった。

 

 

零「……クソッ、逃げたみたいだな……」

 

 

なのは「みたいだね……でも、あの人の言っていた破壊のキバって……ワタル君に何かあったって事なのかな……?」

 

 

零「……かもな……ともかく、一旦写真館に戻るぞ……分からない事も増えたし、これからの事について話し合わないといけないしな……」

 

 

なのは「……うん」

 

 

新たに増えた謎や疑問に不穏の影を感じるも、此処で立ち往生していても何も変わらない。一先ず写真館に戻って傷を治療し、他の皆と合流して此処であった事を話し合おうと決めた零が歩き始めたのを見て、なのはも後を追うように歩き出す。だが……

 

 

零(……あの声、一体何者だったんだ……それに、俺の存在が世界を破壊する?まさか、俺の失った過去と何か関係があるのか……?)

 

 

カイザとの戦闘で傷付いた腕を見つめながら先程の声の主の言葉を思い出し、零の心中は疑問ばかりが溢れていた。そしてその後ろを歩くなのはの表情も暗く、何処か思い詰めているように見える。その理由は先程の、ディケイドとカイザの戦いにあった。

 

 

なのは(私……全然だめだ……レイジングハートがいないと、何も出来ない……)

 

 

傷ついていく零をただ黙って見ているしか出来なかった。それが堪らなく悔しかったし、自分の無力さを痛感した。魔法が使えなければ、自分はこんなにも弱いのだと……零の背中を見つめながら改めてそう思い、なのはは無意識に胸に当てた拳に力を込めてしまう。

 

 

なのは(私も一緒に戦って、零君を助けたい……だけど、無理なのかな……魔法が使えなくて、レイジングハートもいない今の私に……何が出来るんだろう……)

 

 

大事な相棒と一緒に戦えず、戦う力を失った今の自分に何ができるのか?自分は結局、このまま黙って零が一人戦って傷ついていくのを見ている事しか出来ないのか?なのはは暗い表情を浮かべながらも今の自分が零に一体何をしてやれるのか必死に考えながら、彼と共に光写真館への帰路に付いていくのであった。

 

 

 

 

 

──その時、自分のポケットが淡い光を放っていた事に気かぬまま……。

 

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑧

 

 

それから数時間後、港区。

 

 

ティアナ「…ここまで来れば大丈夫ですかね…」

 

 

ヴィータ「あぁ、一先ずは此処で身を隠すぞ。優矢にも此処の場所は教えてあるから、合流したら一度写真館に戻る。いいな?」

 

 

『はい!』

 

 

ワタル「………」

 

 

キャッスルドランからどうにか無事に脱出し、港区の倉庫で身を隠していたヴィータはスバルとティアナにこれからの方針を話し合う中、ワタルは一人、座ったまま顔を俯いて何も喋らない。そんなワタルの様子を見たスバルがワタルに近づく。

 

 

スバル「大丈夫ですよ王子!私達が必ず王子を守りますし、それに零さん達の所に行けば絶対なんとかなりますから!」

 

 

ワタル「………」

 

 

ガッツポーズをとりながらワタルを元気づけようとするスバルだがワタルは俯いたままスバルから目を反らしてしまい、スバルはそんなワタルを見て苦笑いを浮かべて頬を掻く。

 

 

その時、外からバイクのエンジン音が聞こえ、ヴィータ達はそれを優矢だと思って倉庫の外へと出るが、

 

 

スバル「ゆ、優矢さんっ?!」

 

 

倉庫の外に出た瞬間、三人は驚愕した。そこにはバイクの近くに体中から血を流して倒れている優矢の姿があったのだ。三人は慌てて優矢に駆け寄ると必死に優矢の身体を揺さぶる。

 

 

ティアナ「大丈夫ですか?!しっかりして下さい!」

 

 

優矢「お、俺は…大丈夫だから…それより、ワタルは…?」

 

 

ヴィータ「あいつなら無事だ!今この中に…」

 

 

ワタル「……優矢」

 

 

そこへ、ヴィータ達の騒ぎ声が気になったワタルが外に出て来た。優矢はワタルの顔を見ると一安心し傷付いた身体を無理矢理動かしながら起き上がるとワタルに歩み寄る。

 

 

優矢「ワタル、零達の所へ行こう。あいつに事情を話せばきっと力を貸してくれる。その後に城に戻ってキバットを取り戻そう」

 

 

ワタルの手を掴んで写真館に向かおうとしたがワタルは優矢の手を乱暴に払って背を向けてしまった。

 

 

優矢「ワタル……」

 

 

ワタル「僕は…もう城には戻らない。僕はもう、王子じゃないんだ…」

 

 

キバットを奪われ、王の資格を無くし、側近達にも見捨てられた。全てを無くしたワタルは自分を見失ってしまい、ただ優矢達から目を背けて黙ってしまう。

 

 

ヴィータ「ワタルっ、お前それでいいのかよ!あのファンガイアは掟を廃して人間もファンガイアも見境なく襲おうとしてんだぞ!そうなったらこの世界がどうなるか、それぐらいお前だって分かってんだろ!」

 

 

ワタル「…ッ…五月蝿い!僕は帰りたくないと言ってるんだ!」

 

 

ヴィータの説得も聞かずにワタルは優矢のバイクに近づく。

 

 

 

ワタル「僕の行きたい所に連れてってくれるんだろ!?城以外なら何処でもいい!連れてってくれ!!」

 

 

優矢「……」

 

 

優矢は傷ついた身体を引きずってワタルに近寄る。

 

 

優矢「あぁ、連れてってやるさ。お前が本当に行きたい所になら……それは何処だ?」

 

 

ワタル「………わからない」

 

 

自分が何処に行きたいのかわからず、ワタルは優矢から目を反らした。

 

 

優矢「わかっている、はずだろ…?」

 

 

ワタルの肩を掴み、優しく言い聞かせる。

 

 

ワタル「……なんで、そこまで僕にこだわるんだ…。僕はもう、王子じゃないのに…」

 

 

自分はもう王にはなれない。それなのに何故ここまでして自分を助けるのか、ワタルは自分の疑問を優矢に投げ掛ける。

 

 

優矢「……俺はお前が王子だから今まで助けてきたんじゃない。お前が一人じゃ戦えないって知ってるからなんだ。だから俺は、お前の友達になって、お前を助けたいって、そう思ったんだ…」

 

 

ワタル「……友達」

 

 

ワタルがそう呟くと優矢は頷いてワタルの頭を撫でる。ヴィータ達はその様子を黙って見守る。だが……

 

 

ワタル「ッ!やめてくれッ!」

 

 

突然、ワタルは苦しそうな表情を浮かべ優矢の手を振り払って離れた。

 

 

優矢「わ、ワタル…?」

 

 

ヴィータ「お、おい?どうしたんだよ」

 

 

ワタル「だ、駄目だ…ッ!もう…ッ」

 

 

様子がおかしいワタルを見て心配になった優矢とヴィータ達はワタルに近づこうとした。だがその時、ワタルの顔にファンガイア特有のステンドグラスの様な模様が浮かび上がり、そして…

 

 

―ヒュッ……!ザシュッ!―

 

 

優矢「なっ?!グッ、アアアアアァァッ!!」

 

 

ティアナ「ッ?!優矢さん?!」

 

 

優矢の首元に突然半透明の牙のような物が刺さり、優矢のライフエナジーを吸おうとしていた。

 

 

ヴィータ「ワタルッ!!この馬鹿!!目を覚ませぇッ!!」

 

 

ワタル「……?!」

 

 

勢いよく肩を掴むヴィータの声を聞き、ワタルが正気に戻ると共に優矢の首元に刺さっていた牙も消え去った。それと同時に優矢はその場に倒れてしまう。

 

 

スバル「優矢さんっ…!しっかりして下さい!!優矢さぁん!!」

 

 

ワタル「ゆ、優矢…」

 

 

ライフエナジーを吸われ、ぐったりと倒れている優矢を見たワタルは泣きそうな表情を浮かべて優矢に近づこうとした。だが優矢はそれを手で制して止めると、スバルに支えられて立ち上がる。

 

 

優矢「だ…大丈夫だ、心配するな…ワタルは気にしなくていいから…な?」

 

 

ワタル「……ッ」

 

 

ワタルに心配をかけまいといつもの笑みを浮かべ、優矢はおぼつかない足取りで自分のバイクに近づく。

 

 

優矢「……俺は城に戻ってキバットを取り返してくるから……皆はワタルを連れて零の所へ行ってくれ……」

 

 

マシンチェイサーに跨がりながらそう言うと、ヘルメットを被ってエンジンを掛ける優矢。

 

 

ヴィータ「ま、待て優矢!その身体であいつらとまともに戦えるわけねぇだろ!お前も…!」

 

 

優矢「大丈夫だって……俺の事は気にしなくていいから……ワタルを頼む」

 

 

ヴィータ達にワタルを任せ、優矢はキバット奪還の為にキャッスルドランへと向かって走り去っていく。ヴィータ達は走り去っていく優矢の後ろ姿をただ黙って見ているしかなかった。

 

 



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第三章/キバの世界⑨

 

 

―光写真館―

 

 

なのは「──優矢君を、襲った?」

 

 

ワタル「…………」

 

 

ヴィータ「……まぁ、色々あってな……」

 

 

その後、ヴィータ達はワタルを写真館に連れて今までの経緯を零達に話していた。ヴィータ達が写真館に着いた時には既に昼時となっていた為、奥では栄次郎が昼食の準備をしていた。

 

 

栄次郎「零君、王子様も同じ物でいいのかな?」

 

 

零「なんでも食うだろ。王子と言ってもまだ子供なんだし」

 

 

カメラのファインダーを除きながら栄次郎に適当に受け答えする零。だが……

 

 

ワタル「……何も、食べない……食べたくない」

 

 

ワタルは首を横に振ってそれを拒否した。

 

 

なのは「でも、ワタル君。何か食べないと元気出ないよ?」

 

 

スバル「そうですよ!栄次郎さんの作るご飯、すっごく美味しいからきっと王子も気に入ると思いますよ?」

 

 

ワタル「……いいんだ……いらない……」

 

 

スバル「あうっ……」

 

 

なのはとスバルが料理を進めようとするが、ワタルはそれも拒否してしまう。困った様子で二人は顔を見合わせてしまうが、零はカメラのファインダーから目を離し、

 

 

零「それで腹が空いて、優矢のライフエナジーを吸おうとしたって訳か?」

 

 

ワタル「ッ!ち、違う!僕は……」

 

 

零の言葉に首を振って否定しながら、自分の服を掴む手に力を込める。ワタルの表情は次第に暗くなっていき、その顔を隠すように両手で隠した。

 

 

零「……お前は確か、人間とファンガイアの血を引いていたんだったな。お前の中に眠るファンガイアの血が、無意識の内に優矢のライフエナジーの欲していた……違うか?」

 

 

核心を突いた零の言葉に、ワタルは一瞬動揺したが、一度間をおいてゆっくりと頷いた。

 

 

ワタル「そうだ……僕はずっと怖かったんだ……人と親しくなって……その人と友達になりたいって思うと……心の何処かで、その人のライフエナジーが欲しくて堪らなくなるんだ……」

 

 

なのは「……だからあの時、私がワタル君に近寄ろうとしたのを嫌がったんだね?人と接して、親しくなるのが怖かったから」

 

 

ワタルと最初に出会った時の事を思い出しながら、なのはが優しげな口調で言う。ワタルはそれを聞いてゆっくりと頷いた。

 

 

ワタル「だから、僕が王になったら駄目なんだ。こんな僕が……人とファンガイアの間の懸け橋になる事は……不可能なんだ」

 

 

零「だから、ずっと一人で生きていくとでも言うのか?誰とも親しくならず、誰も好きにならずに、優矢の事も」

 

 

ワタル「………」

 

 

ワタルは俯いたまま何も答えない。それを肯定と受け取ったのか、零は深い溜め息を吐く。なのは達もそんなワタルの心境を察して掛ける言葉が見つからず黙ってしまうが、その時…

 

 

―バァンッ!―

 

 

ティアナ「あーーっっ……もう!!男のくせにいつまでもウジウジウジウジと、本っっ当にイライラする!!」

 

 

ワタル「?!」

 

 

スバル「え、ティ、ティア?!」

 

 

そんなワタルの様子を見兼ねたティアナがいきなりテーブルを強く叩いて立ち上がり、ワタルに向かって怒鳴り始めた。

 

 

ティアナ「アンタ、優矢さんの気持ちがわかんないの?!アンタの為に!アンタを助けたくてあんなに傷ついてまで必死に戦ってる!なのにアンタがそんなんでどうすんのよ!」

 

 

ワタル「ッ……でも、僕にはそんな資格……」

 

 

ティアナ「それはアンタが決めることじゃないでしょ!優矢さんは、アンタがいい王様になれるって信じてんのよ!だからあれだけボロボロになっても戦ってる!その気持ちに、誰よりも先ずアンタが応えないでどうすんのよッ!!」

 

 

スバル「ティ、ティア!落ち着いて!どうどうどうどう!」」

 

 

大音量で叫びまくるティアナを落ち着かせる為にスバルが宥める。そんなディアナの剣幕にワタルも呆気に取られる中、零達もそんなティアナの様子を見て苦笑いを浮かべる。

 

 

零「まあでも、ティアナの言う通りだな。あいつはあいつなりにお前の力になりなくて頑張ってるんだ。お前がお前自身をどう思おうが勝手だが……せめて、あいつの想いくらいは受け止めてやれ」

 

 

ワタル「……優矢の……想い、を……」

 

 

突然の事に驚いたものの、ティアナと零の言葉はワタルの心を揺さぶっていた。零は椅子から立ち上がるとワタルに近づく。

 

 

零「心配するな。もしお前がファンガイアになって人を襲う様な事をすれば……その時は俺がお前を倒す。俺は破壊者……悪魔だからな」

 

 

なのは「……零君……」

 

 

もしかすると、あの夜に謎の男から告げられた事と今のワタルを重ねているのだろうか。何処か陰のある零の横顔を見つめながらそう思うなのはを他所に、零はワタルから離れると、床に置いてあった自分のバイオリンケースを持つ。

 

 

なのは「行くの?」

 

 

零「あぁ。俺は今の王とやらの顔を拝んでくる。お前達はその間に優矢を助けに行ってくれ」

 

 

なのは「……うん。わかった。気をつけてね」

 

 

なのはの言葉に片手を上げて答え、零は写真館を出てキャッスルドランへと向かっていった。

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑩

 

 

一方その頃、キャッスルドラン地下では優矢がガルル達と戦闘を行っていた。しかし、優矢は先程までのダメージが身体に響いてまともに戦う事が出来ず、ただやられていくしか出来ずに敗れてしまっていた。

 

 

『こんな身体で乗り込んで来るなんて、馬鹿なヤツ……』

 

 

優矢「ぅ、ぐっ……ま、まだ……俺はまだ、戦えるっ……!!」

 

 

そう言って立ち上がろうとするも、優矢の身体は既に限界だった。しかし、ここで負けてはワタルに合わせる顔がない。優矢は力を振り絞って再び立ち上がろうとした。その時……

 

 

『──何故殺さない?』

 

 

『……ッ?!』

 

 

突如ガルル達の背後から声が響き、振り返る。其処には薄暗い闇の向こうから姿を現すビートルファンガイアの姿があり、地に倒れ伏す優矢を一瞥する。

 

 

『もはや掟など存在しないのだ。そいつのライフエナジーを吸え』

 

 

『ッ……王よ……!本当に掟を捨てるおつもりですか?!』

 

 

『人間との共存を断ち切れば、再び世界は混沌に満ちてしまいますぞ?!』

 

 

掟を廃しようとするビートルファンガイアに思わず反抗するガルル達。だが……

 

 

『貴様等……俺の命令が聞けぬのかッ!!』

 

 

―ガッ!―

 

 

『な、があッ?!』

 

 

反抗するガルル達に苛立ったビートルファンガイアはドッガの頭を掴み、紫色のエネルギー波をドッガに流し込む。そして……

 

 

『グゥッ?!ガアァァァァァァァァアーーーーッ?!!』

 

 

ドッガは光の粒子となってそのままビートルファンガイアに取り込まれてしまい、ビートルファンガイアの左肩の装甲に紫のステンドグラスの様な模様が浮かび上がる。

 

 

『う、うわぁあああああああッ!!』

 

 

ドッガが取り込まれる光景を目の当たりにし、恐怖を感じたバッシャーが背中を見せてその場から逃げ出そうとする。が……

 

 

『ハアァッ!』

 

 

『ウッ?!ぅ、ウァアアアアアアアアアアアスカーーーーッッ!!!』

 

 

ビートルファンガイアの片手から放たれた緑色のエネルギー波がバッシャーを捕えてしまい、バッシャーはドッガと同様に光の粒子となってビートルファンガイアに取り込まれ、今度はビートルファンガイアの左肩の装甲に緑のステンドグラスの様な模様が浮かび上がる。

 

 

『お、王よ……!何故こんな……!』

 

 

立て続けに仲間を失い、ガルルは後退りながらビートルファンガイアに問う。しかし、ビートルファンガイアは何も答えずに片手を中空にガルルに向けて掲げる。

 

 

『貴様も、俺の中で永遠に生きるがいい……ハァッ!!』

 

 

『グゥッ?!ガっ、グゥオオオオオオオオオオオーーーーーッッ!!!』

 

 

ビートルファンガイアの片手から放たれた青のエネルギー波がガルルに向かって放たれ、残ったガルルもビートルファンガイアに取り込まれてしまう。そして、ビートルファンガイアの胸部の装甲に青いステンドグラスのような模様が浮かび上がった。

 

 

優矢「あ、あいつ…自分の側近を……」

 

 

その光景を間近で見ていた優矢も、自身の部下を容赦なく取り込んだビートルファンガイアの無慈悲さに恐怖を感じてしまう中、ビートルファンガイアは倒れている優矢に目を向ける。

 

 

優矢は身体を動かして逃げようとしたがやはりダメージのせいでか全く身体が動かない。優矢は一瞬諦めて死ぬ覚悟を決めたが、しかし……

 

 

『…………』

 

 

―ザッ……―

 

 

優矢「……え?」

 

 

ビートルファンガイアは優矢に何もせず、無言で優矢に背中を見せてその場から去っていってしまった。

 

 

優矢「……あいつ……何で俺を殺さなかっ……た……」

 

 

ビートルファンガイアの不可解な行動に疑問を持ったが、優矢は其処で必死に繋ぎ止めていた意識が完全に途切れ、そのまま倒れてしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから数時間後。キャッスルドランの王座の間では、以前零となのはが廃屋の家で出会った男が窓際に立ち、城下に広がる街を見下ろしていた。

 

 

「……ワタル」

 

 

男は寂しげな表情で、ワタルの名を呟く。そんな時……

 

 

―……♪~♪♪~~♪~―

 

 

「…………彼か」

 

 

何処からか聞こえて来た演奏に男は耳を傾ける。男は暫くその演奏に聞き入っていると、その演奏に誘われるかのように王座の間から出ていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

そして、その演奏を奏でていた零はキャッスルドランのある一室の部屋の中心で椅子に座ってバイオリンを奏でていた。

 

 

そして、バイオリンを弾き続けて数分後。部屋の扉が勢い良く開かれてスワローテイルファンガイアが踏み込んできた。

 

 

『人間め、最早容赦はせんぞ。王の命令だ……!』

 

 

ファンガイアは敵意を剥き出しに零にゆっくりと近づいていく。すると零も演奏を止めてバイオリンをケースに仕舞うと、懐からディケイドライバーを取り出して腰に装着し、スワローテイルファンガイアと向き直りディケイドのカードを構える。

 

 

零「……変身!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

バックルにカードを装填し、零はディケイドに変身すると共に左腰のライドブッカーをソードモードに変え、スワローテイルファンガイアに向かって駆け出し攻撃を開始した。

 

 

ディケイド『ハアァッ!!』

 

 

―ガギィイイッ!!ギンッ、ドグォオッ!!―

 

 

『グッ、ォオオオッ?!』

 

 

幾重もの残像のように放たれるディケイドのマゼンタの斬撃にスワローテイルファンガイアは押され、トドメに放たれた後ろ回し蹴りで窓際に向かって蹴り飛ばされる。そしてディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに投げ入れて片手でスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

電子音声が響くと共に、ディケイドの目の前にディメンジョンフィールドが出現していく。そしてディケイドはライドブッカーを構え直しスワローテイルファンガイアに向かってディメンジョンフィールドを一直線に駆け抜け、ファンガイアを縦一閃に斬り裂いた。

 

 

『ガァッ?!ゥグアアァァァァァァァァーーーーッッ!!!』

 

 

ディケイドの必殺技、ディメンジョンスラッシュを受けたファンガイアは断末魔の悲鳴を上げながら硝子の様に砕け散った。ディケイドはそれを確認して構えを解くと、部屋の中へビートルファンガイアが足を踏み入れディケイドに歩み寄っていく。

 

 

ディケイド『あんたが新たな王か?』

 

 

『……俺は王座などに興味はない』

 

 

ディケイド『……なんだと?なら、何故ワタルから王座を奪った?』

 

 

『くだらぬ掟など忘れさせる為だ。人間とファンガイアは殺し合い、滅ぼし合うしかない。それを証明したかっただけだ!』

 

 

ビートルファンガイアは固く握り締めた拳を振りかざし、ディケイドに向かって駆け出して殴り掛かる。対するディケイドもライドブッカーSモードで初撃を受け流しながらビートルファンガイアの拳を正面から受け止めてせめぎ合う。

 

 

『貴様も信じてはいないだろう!人間とファンガイアの共存など!』

 

 

ディケイド『ッ……俺にとって人間とファンガイアなんて関係ない……!倒すべき敵は倒すだけ、だから俺はあんたを倒す!』

 

 

『フッ……愚かな』

 

 

ビートルファンガイアはディケイドとの間合いを離し、何処からか意識の無いキバットを取り出した。瞬間、ビートルファンガイアの腰に何重もの鎖が巻き付きキバットベルトが現れる。

 

 

『我が力を見るがいいッ!変身ッ!』

 

 

ビートルファンガイアがキバットベルトの止まり木部分にキバットをセットすると、ビートルファンガイアはキバへと変身した。

 

しかし、その姿はワタルが変身していたキバフォームではなく、右腕がバッシャー、左腕がガルル、胴体がドッガのフォームアーマーの姿……三体の怪人の力をその身に取り込んだドガバキフォームに変化していたのである。

 

 

ディケイド『なっ……』

 

 

キバDGB『これぞ王の力……!その身を持って味わうがいい!』

 

 

ライダーに変身しただけでなく、新たな姿に変貌したキバに驚愕するディケイドを他所に、ビートルファンガイアが変身したキバは何処からともなく取り出したドッガハンマーを引きずりながら迫る。その圧倒的な威圧感にディケイドも僅かに押されながらも咄嗟にライドブッカーSモードで対抗するが…

 

 

―ガキィイイッ!!ガッ!!ドゴォオオオオオオッ!!ドゴォオオオオオオオッ!!―

 

 

ディケイド『ガァッ!ッ、クソッタレめ……!デタラメかコイツ……!』

 

 

正面からライドブッカーで斬り掛かってもドッガの分厚い装甲の前に刃が弾かれ、剣を弾かれてよろめいた瞬間に圧倒的なパワーのハンマーの反撃を喰らってしまう。殴られた肩を抑えて膝を着くディケイドに、キバは更に追撃を仕掛ける。

 

 

キバDGB『どうした……?さっきまでの威勢は何処へ行ったァッ!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオッ!!―

 

 

ディケイド『グゥッ?!うぉおおおおぉぉおおっ!!』

 

 

―ガッシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!―

 

 

横薙ぎに振るわれるドッガハンマーをライドブッカーで受け止めようとするが、そのあまりの力強さに踏み止まる事が叶わず、ディケイドはそのまま部屋の窓を突き破って外へと吹き飛でしまい、キバもディケイドを追撃する為に割れた窓から地上へと飛び降りて行った。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑪

 

同時刻。キャッスルドランの地下では、先程まで意識を失っていた優矢が漸く目を覚まし、地面を這い蹲るようにして傷ついた身体を引きずり、脱出を試みようとしていた。

 

 

優矢「っ…早く…早く零達に、あのファンガイアの事を…」

 

 

一刻も早く、零達にあのファンガイアの事を伝えなければと、優矢は傷ついた身体を無理矢理動かして写真館へと急ぐ。其処へ……

 

 

ワタル「──優矢!」

 

 

優矢「……ッ?!わ、ワタル!?」

 

 

地下の入り口の方から、優矢を助けに来たワタルが現れて優矢の下へと駆け寄って来たのだ。その後ろにはなのは達も一緒だ。

 

 

優矢「み、皆……?何で此処に?!」

 

 

スバル「何でって、勿論助けに来たに決まってるじゃないですか!」

 

 

ヴィータ「今零の奴があのファンガイアの相手をしてる筈だ!今の内にこっから逃げるぞ!」

 

 

優矢「零が…あいつと…?」

 

 

なのは達は傷付いた優矢を抱え、急いでその場から避難しようと歩き出す。その時……

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

ディケイド『ウグァアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

ティアナ「?!えッ?」

 

 

なのは「れ、零君ッ?!」

 

 

突然地下の天井が凄まじい音と共に崩れ、其処からディケイドが無数の瓦礫に混じっていきなり落下してきたのだ。なのは達は突然の事に驚くがすぐに我に返り、倒れているディケイドを見て思わず慌てて駆け寄ろうとした。だが……

 

 

キバDGB『ヌゥオオオオッ!!』

 

 

―バゴォオオオオオオンッッ!!―

 

 

ディケイド『ガハァアアッ!!グゥッ!!』

 

 

「「「なっ……!」」」

 

 

ディケイドが突き破ってきた穴から今度は鉄槌を振りかざしたキバが現れ、そのまま降下の勢いを利用してドッガハンマーでディケイドを容赦なく殴り付けた。ディケイドは倒れたまま突然の攻撃に為す術なく痛め付けられ、キバは怯んだディケイドへと更に追い打ちを掛けるようにドッガハンマーを容赦なく餅つきのように何度も何度も打ち付けていく。

 

 

なのは「れ、零君ッ!!」

 

 

優矢「駄目だッ!!あいつは……ワタルの側近達を全て取り込んだんだ……!今の奴には俺でも、零でも勝てないっ……!!」

 

 

スバル「そ、そんなっ……!」

 

 

優矢の口から告げられた衝撃的な事実に驚きを隠せないなのは達。そしてキバは無理矢理立たせたディケイドをドッガハンマーで殴り飛ばすと、なのは達と一緒にいるワタルの存在に気づき、ゆっくりとワタルに近づいていく。

 

 

キバDGB『お前に最後のチャンスをやろう。……其処にいる人間共のライフエナジーを吸い尽くせ』

 

 

ワタル「……?!」

 

 

キバから告げられた冷酷な命令。それを聞いてワタルだけでなく優矢達も驚愕するが、キバは構わず優矢達を顎で指す。

 

 

キバDGB『さあ早くしろ!人間のライフエナジーを吸う、それがファンガイアの本能なのだ!お前も、本当はそれを望んでいるのだろう!』

 

 

ワタル「…………」

 

 

キバに命じられ、ワタルは優矢の前に立つ。

 

 

優矢「ワタル……」

 

 

優矢はワタルを見上げ、しかしその顔には明確な覚悟を決めてワタルを見つめる。恐らく、いや、きっとワタルにならライフエナジーを吸われても構わないと思っているのかもしれない。そんな優矢の眼差しを受け、ワタルは一度顔を俯かせると、キバの方へと振り向き、徐に顔を上げて告げる。

 

 

ワタル「……この人を……この人達を、解放して……」

 

 

優矢「……!」

 

 

なのは「ワタル君……!」

 

 

キバ『ッッ……!!貴様ァアアッ!!』

 

 

―バキィッ!!―

 

 

ワタル「ぐぅっ!」

 

 

「「「 ワタル(君・王子)!!?」」」

 

 

予想とは反対の答えに、キバは激昴してワタルの顔を容赦なく殴り飛ばした。それを見たなのは達、そして優矢も身体が傷ついているにも関わらずに倒れるワタルの下へ駆け寄った。

 

 

優矢「ワタル!何で……!?」

 

 

ワタル「ッ……まだ……まだ、約束を果たしてもらってない……僕の行きたい所に、連れてってくれると……そう行ってくれたでしょ……?」

 

 

優矢「っ……お前……」

 

 

ワタル「漸くわかった……僕の本当に行きたい所が……まだ僕は……貴方の、友達ですか……?」

 

 

自分の、嘘偽りのない本当の気持ちを優矢に伝えるワタル。その言葉に優矢は一瞬息を飲んだが、すぐに微笑み、ワタルの頭の上に手を置いて笑顔を向けた。

 

 

優矢「当たり前だろ?俺も、零も、なのはさん達も……皆、お前の友達だ……」

 

 

優矢の言葉に、なのは達もワタルに向かって頷く。それを見て、ワタルの心を渦巻いていた迷いが消え去り、ワタルは明るい表情で優矢達に微笑み返した。

 

 

キバDGB『……なんだ……馬鹿な、人間とファンガイアの友情だと……?!』

 

 

人間とファンガイア。彼等が微笑み合う姿を目にし、キバは信じられないと戸惑う。その時、キバに吹き飛ばされたディケイドがよろよろと立ち上がり、キバに向かって語る。

 

 

ディケイド『そいつは信じているんだ……掟を。人間とファンガイアは、共に生きていけると……!』

 

 

キバDBG『ッ……共に生きていける?ふざけるな!そんなものは、ただの幻想にすぎない!』

 

 

ディケイド『お前にとってはそうかもしれない……だがワタルは、その幻想を信じ、信じる者の為にそれを実現しようとしている!それがワタルの強さであり、王の資格だ!』

 

 

キバDGB『ッ……!!』

 

 

今の優矢達とワタルの姿を指し、力強く言い切るディケイドの言葉にキバは思わず押し黙る。そして、その言葉を聞いてワタルも力強く頷き、身を起こしながらキバを真っ直ぐ見据える。

 

 

 

 

ワタル「僕は……王に……なりたいっっ!!」

 

 

 

 

偽りの王を見つめるその瞳に、力強い決意が宿る。

 

 

それは最早迷いのない、己の信じる未来を確かに見据えた覚悟を示していた。

 

 

キバDGB『ッ……ぅ……うぅあああああああああああああああぁぁぁっっ!!!!』

 

 

そんなワタルの決意を聞き、キバは激高の雄叫びを上げ、それを好機だと感じたディケイドはすぐさまライドブッカーをカードを一枚バックルに装填した。

 

 

ディケイド『お前もいい加減目を覚ませ!コウモリ!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

キバDGB『ガァアアッ!!?』

 

 

電子音声と共に即座に銃形態に切り替えたライドブッカーでキバのベルトに取り付けられているキバットに狙いを定め、無数の銃弾を乱射するディケイド。

 

 

完全に油断を突かれたキバはそのままダメージにより変身が解除されてビートルファンガイアに戻り、キバットもキバのバックルからフラフラと地面に墜ちていった。

 

 

キバット『い、痛たたたっ……ん?ここは……』

 

 

ワタル「キバット!」

 

 

キバット『ん……?おお!ワタル~!無事だったんだな~!』

 

 

ワタル「うん、キバットも無事で良かった。早速で悪いけど、キバットの力を貸してくれ!」

 

 

キバット『おう!何かよくわかんないが、ワタルの為だ!キバッていくぜ!ガブッ!』

 

 

そう言ってキバットがワタルの左手に噛み付くと、ワタルの顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がり、腰に何重もの鎖が巻き付いてキバットベルトへ変化する。

 

 

ワタル「変身ッ!」

 

 

手にしたキバットを突き付けてベルトの止まり木部分にキバットをセットした瞬間、ワタルの姿がメロディーと共にキバへと変身する。そしてディケイドもライドブッカーをソードモードに切り替え、キバと共にビートルファンガイアに突っ込んでいった。

 

 

ヴィータ「よし、お前ら!今の内にここから離れるぞ!」

 

 

『はい!』

 

 

ディケイドとキバがビートルファンガイアと戦闘を開始したこの隙に、ヴィータ達も優矢を連れて避難を始める。だが……

 

 

なのは「…………」

 

 

スバル「……?なのは、さん?」

 

 

皆が移動を始める中、何故かなのはだけはその場から一歩も動かず、ディケイド達の戦いを無言で見守っていた。

 

 

ヴィータ「オイ!何やってんだなのは!早く此処から……!」

 

 

なのは「……ヴィータちゃん達は先に逃げて。私は……此処に残る……」

 

 

「「「っ?!」」」

 

 

なのはから告げられた予想外の言葉に、全員が驚愕する。

 

 

ヴィータ「お、お前っ、いきなり何言ってんだ?!」

 

 

ティアナ「そ、そうですよ!私達が此処にいたら、零さん達にも迷惑が……!」

 

 

なのは「うん、それは私もわかってる。けど、今此処で逃げたら…私は何時まで経っても零君に守ってもらうことしか出来ないと思うんだ…」

 

 

キバと肩を並べ、ビートルファンガイアに剣戟を見舞うディケイドの姿を見つめながらなのはは言葉を続ける。

 

 

なのは「私、ね……零君が一人で戦って、傷付いてる姿を見て、考えたんだ。多分……私は魔法やレイジングハートに頼りすぎてたんじゃないのかな、って……魔法を使っていく内に、自分も強くなってるって思い込んでたんだと思う。だから、それじゃ駄目なんだ。魔法に頼らず、私自身が……本当の意味で強くならなくちゃいけないって……そう思ったの」

 

 

スバル「……なのはさん……」

 

 

なのは「だから私は、零君を一人置いて逃げ出すだなんて出来ない……!何も出来ないとしても、あの人が身体を張って誰かの為に戦い続けた事を、生き証人としてこの目で見届けたい!此処で逃げたら、レイジングハートと一緒に戦う資格も、私自身が強くなることも、そして……零君の隣に立つ資格もなくなるから!」

 

 

自分の正直な思いを、自分が必死に考えて決めた決意をヴィータ達に力強く告げるなのは。その時だった。

 

 

 

 

―パアァァァッ……―

 

 

なのは「……え……?」

 

 

 

不意に、なのはのポケットが淡い光を放って輝き出した。突然の事に驚きながらなのはは自分のポケットに片手を入れ、その輝きを放っていると思われるものを取り出す。それは……

 

 

なのは「…これって…あの時の腕時計…?」

 

 

そう、なのはが取り出した輝きを放つそれの正体は、あの廃屋の家で拾った銀色の腕時計だったのだが、その腕時計は最初に拾った時とは違い、何故か全体を被っていた汚れが消えて本来の姿に戻っていた。

 

 

更にもう一つの違いとして、腕時計の画面に表示されているのは時間ではなく、何かのエンブレムが表示され点滅を繰り返していた。

 

 

なのは「?何だろ…このマーク…」

 

 

それが気になったなのはは、思わず画面に表示されているエンブレムに指先で触れてみた。その瞬間……

 

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

 

なのは「……えっ?」

 

 

画面のエンブレムにタッチした瞬間、突然電子音声が響いて腕時計となのはの腰が輝き出し、輝きが収まると、なのはの左腕には腕時計が、腰にはディケイドライバーに酷似したオレンジ色のベルトと、ディケイドの物と同じライドブッカーが左腰に装着されていた。

 

 

なのは「え?え……ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!!?な、何これぇええっ!?」

 

 

ヴィータ「お、おい、なんだよそれっ?!」

 

 

スバル「そ、それってもしかして、ベルト……?!」

 

 

なのはの腰に突如出現したディケイドライバーに酷似したベルトを見て一同が戸惑う中、なのはの左腰にあるライドブッカーが勝手に開き、一枚のカードが飛び出した。

 

 

それを見てなのはが反射的に慌ててそのカードを手に取ると、そのカードにはディケイドに酷似した一人のライダーの姿が描かれていた。

 

 

なのは「これ……まさか……?」

 

 

―ドゴオォンッ!!―

 

 

ディケイド『グゥッ!!』

 

 

キバ『うわぁッ!!』

 

 

なのは「ッ?!」

 

 

そのカードを眺める中、ディケイドとキバがビートルファンガイアに吹き飛ばされて倒れる姿が視界の端に映る。それを見たなのははディケイド達とカードを交互に見ると、駄目元で零の見様見真似でカードを構えた。

 

 

ティアナ「な、なのはさん……!まさか……?!」

 

 

なのは「ふーーーっっ……変身ッ!」

 

 

高らかに叫ぶと共に、なのははカードを自分のバックルに装填し、両手でサイドハンドルをスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

その瞬間、ディケイドライバーに酷似した電子音声が鳴り響き、なのはの周りに九つシルエットが現れ、それら全てがなのはの身体に重なり灰色のスーツとなって身に纏う。

 

 

そして最後にバックルから出現した無数のカードが仮面部分に刺さると、灰色のスーツは鮮やかなオレンジ色へと変化していったのである。

 

 

『……?!な、何?!』

 

 

ディケイド『?!あ、あれは……?!』

 

 

スバル「な、なのはさんが……変身しちゃったぁああああああ?!」

 

 

その場いた全員が、なのはの姿に驚愕した。

 

 

その姿はディケイドに酷似しているが、スーツの色がオレンジであり、アーマーはディケイドと違ってシメントリーで瞳の色が白となっている。

 

 

誰もが予想だにしていなかった展開に一同が驚きから目を剥く中、変身したなのは……魔法に変わる新たな力を手にした『仮面ライダートランス』は、己の手を見下ろして感慨を覚えていた。

 

 

トランス『この力……これなら……!二人共!そこから離れて!』

 

 

『『……ッ!』』

 

 

なのはが変身したトランスの姿を見て未だ唖然としていたディケイドとキバだが、トランスに呼び掛けられて我に返り、ビートルファンガイアから慌てて離れる。それを確認したトランスはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

鳴り響く電子音声が響くと共に、トランスはライドブッカーをガンモードに切り替えながらビートルファンガイアに銃口を向け、それと同時にトランスの周りに複数の魔力球が現れた。

 

 

トランス『アクセルシューター……!シュートッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『なッ?!ぐぁああああああッ!!』

 

 

トランスがライドブッカーのトリガーを引くと同時に、彼女の周囲に浮遊する魔力球が全てビートルファンガイアに向かって一斉に放たれ、ビートルファンガイアはそれらを受けて耐え切れずに吹き飛ばされていった。

 

 

キバ『す、凄い……!』

 

 

ディケイド『……何が一体どうなってんだ、こりゃ……』

 

 

ビートルファンガイアを吹き飛ばしたアクセルシューターの威力に驚嘆するキバの横で、立て続けに起こる超展開に頭の理解が追い付かず困惑するディケイド。そんな二人の下に、トランスが駆け寄っていく。

 

 

トランス『零君!ワタル君!大丈夫?!』

 

 

キバ『え……?あ、は、はい!』

 

 

ディケイド『なのは、お前……その姿は一体……?』

 

 

トランスと向き合い、変身した彼女の頭から足の爪先を眺めながら困惑するディケイドからの問いに、トランスも自身の姿を見て困った様子で頬を掻く。

 

 

トランス『え、えーっと……実は私にもよく分かんなくて……前に拾った腕時計を使ったらベルトが出てきて、勢いに任せてやったらこうなっちゃって……にゃはははっ』

 

 

ディケイド『勢いで、お前……というか、腕時計っ?』

 

 

笑って誤魔化すトランスから返された呆れた答えに、再び唖然となるディケイド。そんな時……

 

 

『ゥッ……ぐっ……!き、貴様等ァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!!』

 

 

『『『!!』』』

 

 

先程のトランスの技で吹き飛ばされたビートルファンガイアが、身体から白煙を立ち上るせながら起き上がり、怒りを露わに殺気を放ちながら咆哮する。

 

 

ディケイド『チッ!取り敢えず話は後だ!なのは、お前も戦えるんだな?』

 

 

トランス『え、あ、うん……!いきなりで驚いたけど……大丈夫!今なら私も戦えるから!』

 

 

ディケイド『そうか、ならいい……!ワタル!なのは!行くぞ!』

 

 

キバ『はい!』

 

 

トランス『うん!』

 

 

なのはの突然の変身や腕時計の事など気になる点は多いが、何にせよ戦力が増えたのは助かる。

 

 

今はともかく戦いに集中すべく、トランスはライドブッカーの銃口をビートルファンガイアに向けて発砲し、彼女の援護でビートルファンガイアが動きを封じられている隙にキバは徒手空拳、ディケイドはライドブッカーによる剣戟でビートルファンガイアに挑み掛かっていくのであった。

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑫

 

 

トランス『ハッ!』

 

 

キバ『セェアアアアッ!!』

 

 

ディケイド『ハアァッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガァッ!!ガギィイイッ!!バキィイイッ!!―

 

 

『ガハァッ!グッ?!』

 

 

なのはが変身したトランスの参戦により、三対一という戦況で劣勢に陥るビートルファンガイア。

 

 

後方からのトランスの援護射撃で怯んだ所へ、肉薄したキバが目に止まらぬ高速ラッシュを打ち込んで後退りさせ、更にキバが退いた背後からディケイドがライドブッカーSモードをビートルファンガイアに押し付けながら壁際へと追い詰めて語り掛ける。

 

 

ディケイド『お前も望んでいたんだろ!ワタルが、お前の無くしてしまった夢を叶えてくれる事を!』

 

 

『ッ?!貴様……何者だ?!』

 

 

ディケイド『……通りすがりの仮面ライダーだ。憶えておけ!』

 

 

自らの確信を突かれて動揺するビートルファンガイアを押し付けたライドブッカーSモードを振り下ろして斬り裂き、更に追撃の上段回し蹴りで蹴り付けて吹き飛ばす。其処へキバがビートルファンガイアの後ろに回り込むと共に右腕を掴んで封じ、ディケイドもそれに続いてビートルファンガイアの左腕を掴んで動きを封じた。

 

 

キバ『捕まえたッ!』

 

 

『な、何を……!離せぇ!!』

 

 

ディケイド『そうはいくか……!なのは、今だッ!』

 

 

トランス『うん!』

 

 

ビートルファンガイアの動きを封じるディケイドの呼び掛けに応えながら、トランスはライドブッカーから新たにカードを取り出してトランスドライバーに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:SHIDEN ISSEN!』

 

 

電子音声と共にトランスがライドブッカーをソードモードに切り替えると、ライドブッカーの刀身が炎熱に包まれていく。そして剣の柄を両手で強く握り締め、トランスはライドブッカーを構えながらビートルファンガイアへ一気に駆ける。

 

 

トランス『紫電っ……一閃ッ!!』

 

 

―ザシュウゥウウウッッ!!!―

 

 

『がァあぁあああああああっっ!!!?』

 

 

上段から一気に振り下ろされたトランスの剣技……零やなのはと同じ六課の仲間であるシグナムが得意とする剣技のひとつである紫電一閃が見事に炸裂し、ビートルファンガイアはそのまま十数メートル先まで盛大に吹き飛ばされていった。

 

 

『ぁ……ぐぅっ……こ、こうなれば……!!』

 

 

このままでは分が悪いと感じたのか、トランスに斬り付けられた胸を抑えてビートルファンガイアはふらつきながら立ち上がると、背中の羽を広げ、天井を突き破って外へと逃げ出した。

 

 

ディケイド『逃がすか……!なのは、俺とワタルは奴を追う!お前は優矢達を連れて此処から避難してくれ!』

 

 

トランス『えっ?!だったら私も……ううん、わかった。二人共、気をつけて!』

 

 

キバ『はい!』

 

 

ディケイド『わかってる!行くぞ!』

 

 

先程からの激戦の影響で、此処も何時までも無事とは限らない。怪我人の優矢やヴィータ達の避難の手助けを了承してくれたトランスにこの場を任せ、ディケイドとキバはビートルファンガイアが突き破った天井を飛び越えてビートルファンガイアを追いかけていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてその一方、外へと逃げ出したビートルファンガイアは上空へと高く飛び、キャッスルドランの頭の上に飛び降りていた。

 

 

『ドラゴンよ!我に力を!』

 

 

ビートルファンガイアがそう叫ぶと、キャッスルドランは咆哮してビルの中から抜け出そうとする。其処へ、ビートルファンガイアを追ってきたディケイドとキバはキャッスルドランの様子を見て驚愕した。

 

 

キバ『キャッスルドランを奪うつもりだ……!』

 

 

ディケイド『おいおい……流石に怪獣が相手だと骨が折れるぞ……』

 

 

流石に此処までサイズ差が違う相手だと今の戦力で戦うのは分が悪過ぎる。一体どうしたものかとディケイドが溜め息混じりに呟くが、キバはキャッスルドランを見上げながら臆する様子を見せない。

 

 

キバ『それでも、倒してみせます!僕は……王だから!』

 

 

キバが力強くそう答えた瞬間、ディケイドの左腰のライドブッカーが独りでに開かれ、中から三枚のカードが飛び出しディケイドの手に収まる。その瞬間、今まで消えていたキバのカードを含む絵柄が全て浮かび上がっていった。

 

 

ディケイド『……そうだな。折角のお前の新しい門出だ。俺も最後まで付き合わせもらう』

 

 

ディケイドはそう言いながら絵柄の戻った三枚のカードから一枚抜き取り、ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:KI·KI·KI·KIVA!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

キバ『……え?う、わっ?!』

 

 

キバの答えを待たず、背中に回り込んたディケイドはキバの背中を扉を開く様にして開いた。するとキバの背中にキバットの巨大な顔が現れ、直後にキバの身体が宙に浮かんで巨大な弓矢、キバアローへと超絶変形していったのだ。

 

 

キバ(A)『こ、これは……?』

 

 

ディケイド『これが、俺とお前の力だ。行くぞ!』

 

 

超絶変形した自身の姿に戸惑うキバアローを手にしながら、ディケイドは更にライドブッカーからもう一枚のカードを取り出してバックルに装填した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:KI·KI·KI·KIVA!』

 

 

再度鳴り響く電子音声を耳に、ディケイドはキバアローの弓を徐に引きながら、キャッスルドランの頭上を陣取るビートルファンガイアに狙いを定めていく。

 

 

『……ッ?!な、何だ、あの姿は?!』

 

 

ビートルファンガイアは眼下のディケイドが手にするキバアローに気付き驚愕する。そして、限界まで弓を引いたキバアローの先端の矢に紅色に輝く膨大なエネルギーが溜まっていき…

 

 

―キバッて…いくぜぇ!―

 

 

キバットの掛け声と共に。先端の矢のヘルズゲートに巻き付いていたカテナが解放され、激しい輝きを放つ。瞬間……

 

 

 

ディケイド『ふっ──ハアァッ!!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥーーーーーーーーーーウウウウゥッッッッ!!!!!!!―

 

 

弓を手放したキバアローの先端から凄まじいエネルギーの矢が放たれ、血のように赤い光の線を描きながら猛スピードでビートルファンガイアに迫り、その胸を穿った。

 

 

『な、んっ……!!??グ、グアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

エネルギーの矢の直撃を受け、ビートルファンガイアはそのままキャッスルドランの頭上から後方のビルへと吹き飛び、壁に叩きつけられて地上へと落ちていく。

 

 

ディケイド『よし、ワタル…行くぞ!』

 

 

キバ(A)『はい!』

 

 

呼び掛けに力強く応えると共に、キバアローはキバに戻ってディケイドの隣に並び立つ。そしてディケイドはファイナルアタックライドのカードを取り出してバックルに装填し、キバは赤い笛、ウェイクアップフエッスルをキバットに吹かせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE·DE·DE·DECADE!』

 

 

キバット『ウェイクアップ!』

 

 

ディケイドライバーの電子音声とキバットの奏でた音色と共に、ディケイドの目の前にはディメンジョンフィールドが現れ、キバの右足のヘルズゲートの鎖が解き放たれる。そして二人は上空に高く飛び上がると共に右足を突き出し、ビートルファンガイアに向かって猛スピードで猛スピードで迫り、そして……

 

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァッ……ハアァッ!!!』

 

 

キバ『ダァアアアアッ!!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッッッ!!!!!!―

 

 

『ガァッ!!?グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

ディケイドの必殺技、ディメンジョンキックとキバの必殺技、ダークネスムーンブレイクが同時に炸裂し、ビートルファンガイアは悲痛な雄叫びと共にビルを突き破って吹き飛ばされていったのだった。

 

 

そして、地上に着地した二人はキャッスルドランを見上げると、キャッスルドランもビートルファンガイアの支配から開放されて元の落ち着いた状態に戻っていた。

 

 

ディケイド『……終わったみたいだな』

 

 

キバ『……はい』

 

 

スバル「お〜い!!王子〜!!」

 

 

なのは「零くーん!!ワタルくーん!!」

 

 

漸く全てが終わり、感慨深い心持ちで変身を解除した零とワタルの後ろから優矢を抱えたなのは達がこちらに向かってくる姿が見える。

 

 

二人はそんな一行を見て互いに顔を見合わせながら微笑すると、二人揃ってなのは達の下へと歩き出していくのであった。

 

 

 

 

 

 



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第三章/キバの世界⑬

 

 

 

『ハァ…ハァ…ハァ…』

 

 

以前、零達がワタルと出会った幽霊屋敷内。

 

 

其処には零達との戦闘で傷ついた瀕死状態のビートルファンガイアが薄汚れた台の上に寄り掛かる姿があり、その肉体が徐々に人間体へと変わっていくと、その姿は以前幽霊屋敷に訪れていた男性に変わっていった。

 

 

そして男の姿が変わり終えると共に、その場へ零となのはが訪れた。

 

 

「ハァ、ハァ……ワタルは……良い王に、なれるだろうか……?」

 

 

男は零達の来訪に驚く事なく、必死に声を振り絞って尋ねると、零は目を伏せて頷いた。

 

 

零「なれるさ……あんたの息子だからな」

 

 

「……気づいて……いたのか……」

 

 

零「何となく、だけどな……あんたはワタルに自分と同じ過ちを犯してほしくなかった。だから──」

 

 

零が男に近寄ろうとするが、男は手でそれを制して零の歩みを止め、椅子に座ってテーブルに置かれていたバイオリンを手に持って胸に抱く。

 

 

それを見た零は無言のままなのはに視線を向けると、なのはもそれを察したように頷いて互いのバイオリンを取り出し、演奏を始めた。

 

 

―♪♪~、♪~~♪♪~♪~―

 

 

家内に広がる二人の演奏。男は目を瞑り、その演奏を聴きながらバイオリンを抱く腕に力を込める。そして……

 

 

 

 

「…………ワタル……」

 

 

―ガシャアァァァァァアンッ……―

 

 

 

 

なのは「……ッ……」

 

 

零「………」

 

 

 

男は穏やかな表情を浮かべて、ワタルの名を呟くと最後は硝子のように砕け散り、男が抱いていたバイオリンはそのまま床に落ちていった。それを見た二人は演奏を止めて構えを解き、なのはは床に落ちたバイオリンに近づいて手に取っていく。

 

 

なのは「……これで、良かったのかな……あの人だってきっと、ワタル君と一緒に……」

 

 

零「……あれがあの男なりの、ワタルへの愛情だったんだろう。自分の子供を愛しているからこそ、子供に辛い試練を与えて強く成長させる……そして子供の為なら自分の命も捨てられる……本当の親を知らない俺でも、そういうものなんだと、俺にも分かる」

 

 

なのは「……うん」

 

 

なのはは切ない表情を浮かべ、バイオリンを強く胸に抱いた。すると、その家にワタルが訪れて二階に上がって来ると、二人の下に近づいて来る。

 

 

ワタル「懐かしいな……僕、此処で産まれたんです……」

 

 

零「……そうか」

 

 

ワタルに小さく微笑んで零は答える。ワタルはそれに頷き、窓際から外の景色……人間とファンガイアが共に暮らす世界を見据えていく。

 

 

ワタル「もう一度、此処から始めてみます……人間とファンガイアが、本当に共存出来る世界を!」

 

 

自分の決意を零となのはに打ち明けるワタル。なのははそんなワタルに近づき、自分が持っているバイオリンをワタルに差し出す。

 

 

なのは「大丈夫だよ。ワタル君ならきっと良い王様になれる。私達もワタル君の事、応援してるから」

 

 

ワタル「……はい!」

 

 

優しく微笑み掛けるなのはにワタルも明るく微笑み返し、なのはの手からバイオリンを受け取った。そして零もそんな二人の姿を前に微笑み、カメラを構えシャッターを切るのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから数時間後。ワタルの家を後に写真館へと戻った零は、写真を現像しながらなのはが拾った謎の腕時計を手に取ってそれを眺めていた。

 

 

零「──つまり、この変な腕時計を使ったらベルトが現れて、お前はライダーに変身出来たって事か……」

 

 

なのは「うん。それに変身して戦ってた時に使った力も、私の魔法やシグナムさんの技と同じだったし……一体なんなんだろ、この時計……」

 

 

二人は腕時計について考えていたが、やはり何も分からず溜め息を吐く。するとその時、零は腕時計の画面の上にアルファベットらしきものが小さく書かれている事に気づき、目を細めてそのアルファベットを読んでみた。

 

 

零「K…ウォッチ…?」

 

 

なのは「?何それ…」

 

 

零「……多分この腕時計の名前だと思うが……まぁ考えても全然わからないし、使えるものは貰っておけ」

 

 

手掛かりがないのでは考えても答えがわかる筈もなく、取り敢えず戦力として使えそうなものは貰っておこうと軽く考え、零はKウォッチと呼ばれる腕時計をなのはに投げ渡して現像した写真を持ってスバル達のいる部屋へと向かう。だが、その零の様子が何処かおかしい様な気がしたなのはは、もしかしてと思い零に聞いてみた。

 

 

なのは「ねぇ零君。もしかして……あの人が言ってた事気にしてる?」

 

 

零「……」

 

 

なのはが言うのは、カイザとの戦闘を終えた後に謎の男の声が言っていた事だろう。零はそれを聞いて足を止めた。どうやらなのはの予想は当たっていたらしい。

 

 

なのは「気にする必要なんてないよ。ワタル君は王様になったんだし、この世界もきっと良くなっていく。だから、零君は破壊者なんかじゃない」

 

 

零「…だといいんだけどな…」

 

 

零は再び歩き出してスバル達のいる部屋へと入っていく。だが、その中には何故か優矢も一緒になって零に挨拶してきた。

 

 

優矢「よっ!漸く来たな!」

 

 

零「……何でお前まで此処にいるんだ」

 

 

優矢「いやさ、俺もお前と一緒に九つの世界を旅したいって思ったんだ。それに元の世界に帰る方法もないし……なっ!いいだろ?」

 

 

零「…ハァ、勝手にしろ。俺には関係ない」

 

 

零が素っ気ない返事を返すと、優矢はよし!とガッツポーズを取って喜びを露わに栄次郎の煎れた珈琲を飲んでいたスバル達の所へと駆け寄っていった。

 

 

なのは「にゃははは……あれだけ酷い怪我があったのに、すっかり完治してるね……」

 

 

零「多分クウガのベルトが関係してるんじゃないか?…それよりも、さっさと次の世界に行くぞ」

 

 

適当に自分の予想を返しながら、零は壁際にある背景ロールに近づいて背景ロールを操作し始める。その時……

 

 

キバーラ「ちょーーっと待ちなさいよ!私も行くわ!」

 

 

突然窓からキバーラが侵入し、そのまま背景ロールに突っ込んでいく。だが既に零が背景ロールを操作していた為……

 

 

―シュルルルルッ!ムギュッ!―

 

 

キバーラ「え?ウギュッ!」

 

 

丁度下りてきた背景ロールの間に挟まれてしまったのだ。だが零はそんなキバーラに気づかずに背景ロールの絵を見つめた。それは……

 

 

零「?なんだ……この世界は……?」

 

 

背景ロールに描かれている絵は暗雲に包まれた空に巨大な満月、そしてその中心に聳え立つ黒い城の背景ロールだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、何処かの深い森林。其処にはボロボロの姿の一人の少女が"何か"から逃れ必死に森の中を走っていた。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、……キャアァっ?!」

 

 

だが、少女は走っている途中にツタに足を引っ掛けてその場に倒れてしまう。それでも少女はすぐに起き上がると、大木に背中を預けて荒れた呼吸を整えていく。

 

 

「ハァ…ハァ……ママ……パパァ……誰か……助けてぇっ……」

 

 

涙ぐみながらそう呟くと、少女は涙を拭いて再び深い森の奥へと走り去っていったのだった……。

 

 

 

 

キバの世界END

 

 

 



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原作キャラ専用オリジナルライダー(一部ネタバレ注意)

 

【仮面ライダートランス】

 

なのはが拾った謎の腕時計、【Kウォッチ】を使う事により腰にライダーベルトを出現させ変身出来る。

また資格者は選ばないが、誰が変身するかによって現れるベルトが違い名称も違う。

 

 

 

ヴィータ:クウガタイプ

名称:トウガ

 

クウガによく似ているが、肩のアーマーはキバ・ドッガフォームのものに近く、角もクウガに比べてすこし開いている。戦闘スタイルはヴィータ+クウガとなっており、槌状の物体を巨大な槌、トウガハンマーへと変化出来る。

 

 

ギンガ:アギトタイプ

名称:レイス

 

アギトに似ているが、装甲は響鬼に近い部分がある。ベルトの左右の腰を同時に押す事でベルトの中心から銃剣・レイスガンブレードを召喚出来る。

 

 

キャロ:龍騎タイプ

名称:フリード

 

解説:龍騎に似ているが、キャロの使役竜のフリードリヒの意匠が所々施された白とピンクのアーマーに、仮面とバイザーがフリードの頭部に酷似している。又、契約モンスターは滅びの現象の影響でミラーモンスターとなったフリードリヒを使役して戦う。

 

 

ティアナ:ファイズタイプ名称:ヒート

 

解説:ファイズに似ているが、仮面の目の部分がφではなくHになっている。色は赤と白のツートンカラー。戦闘スタイルはファイズ+ティアナ。

 

 

シグナム:ブレイドタイプ名称:セイヴァー

 

ブレイドとギャレンを足して二で割り、紫で統一した感じのアーマーが特徴。戦闘スタイルはブレイラウザーとレヴァンティンの特徴を合わせた紅いの剣…セイヴァーラウザーとブレイドとギャレンのラウズカードを使用して戦う。

 

 

スバル:響鬼タイプ

名称:移鬼

 

響鬼に似ているが、色は薄い青色となっている。武器は音撃棒・真炎と音撃菅・真風、そして音撃玄・真雷を上手く使い分けて戦う。

 

 

フェイト:カブトタイプ

名称:ビート

 

カブトに似ているが、色は黒と黄色のツートンカラーで、角も少し長い。戦闘スタイルはフェイト+カブト。使用する武器はカブトと同じクナイガンであり、刃から雷を纏った斬撃を放つ事が出来る。

 

 

???:電王タイプ

名称:???

 

 

はやて:キバタイプ

名称:リイン

 

解説:キバの鎧に似ているが、所々に月のエンブレムが刻まれており、両足に鎖(カテナ)が巻き付けられている。ベルトのバックルにセットされたリインキバットはリインフォースⅡが変身した姿。

 

 

なのは:ディケイドタイプ名称:トランス

 

解説:ディケイドに似ているが、一番の違いはオレンジ色でアーマーがシンメトリーになっている。戦闘スタイルはディケイドと同じ。使用カードはディケイドと同じものやフェイト達が使用する魔法など多数。

 

 

 

【Kウォッチ】

 

なのはが拾った銀色に輝く謎の腕時計。画面の周りに九人のライダー達のエンブレムが印されており、戦闘の際には画面に浮かび上がるライダーエンブレムをタッチすると腰にライダーベルトが現れる。

 

 

 

深紅さんが考えて下さったオリジナルライダーです。

有り難うございます!

 



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第四章/魔界城の世界(今後の更新について大事なお知らせ有り)

お久しぶりです、風人IIです!ここ数ヶ月、更新を怠り申し訳ございませんっ。

最近までスランプだったり、入院をしていたり、執筆していたデータが消えてしまったりとアクシデントが続いてしまい、漸く普通に執筆が出来るようになれるまで快調致しました(ブランクが長くて執筆の癖が忘れ気味になっていますが……

さて、ここからが本題なのですが、今までお世話になっておりましたサイト様が閲覧出来なくなるとの事なので、そちらで書いておりました作品を可能な限りこちらに移してみようかと思っております。

リメイク前の十年以上前の作品ですので、主人公を含めて主要キャラの設定や人物描写の差異、他作品の作家様のコラボキャラ多数出演など、まだ右も左も分からない頃に描き始めたものばかりでお見苦しい部分も多いと思いますが、そちらも順次再編集して書き直していきたいと思いますので、どうか今後とも宜しくお願い致します





 

キバの世界での役目を終え、次の世界へ向かった零達。だが、零は新たに現れた背景ロールを見て妙な違和感を感じていた。

 

 

零「何だ…この世界は…」

 

 

スバル「?どうかしたんですか…?」

 

 

零の様子が気になったスバルが尋ねると、零は曖昧な返事を返して再び背景ロールを見る。

 

 

暗雲に包まれた空に巨大な満月、そして背景ロールの中心に描かれた黒い城。

 

 

これが何を意味するのか考えるが、考えた所で何かが分かるはずもなく、溜め息を吐いて考えるのを止めた。

 

 

零「いや、なんでもない。取り敢えず外に出てみるか…まずはこの世界について調べないと」

 

 

零は妙な違和感を感じながらもこの世界について調べる為、なのは達と共に外に出ていった。

 

 

キバーラ「ちょっと!早くこれを退かしなさいよー!こらぁぁーッ!」

 

 

一方で、未だ背景ロールに挟まれているキバーラは零達に向けて叫ぶが既に零達は外へと出ていってしまい、残った栄次郎も奥でスバル達が飲んだ後のコーヒーカップを洗っていた為、キバーラの叫びは虚しくも部屋中に響くだけだった…。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「……何だ…これ…」

 

 

外に出た瞬間、零達は外の光景を目にして唖然とした表情になる。外には街や人などがなく、見渡すかぎりが深い森林だった。だが、零達が一番驚いたものは此処から遠くに見える黒い城…背景ロールに描かれていたのと同じ巨大な城だった。

 

 

ティアナ「此処も…ライダーの世界なんですか?」

 

 

ヴィータ「にしても…何かおかしくねぇか?何つうかこう…変な感じがして気持ち悪りぃ…」

 

 

ティアナとヴィータも何処かこの世界に違和感を感じて疑問を口にする。すると零はライドブッカーから絵柄の消えたライダーカードを取り出してそれを眺めながら口を開いた。

 

 

零「…二人の言う通りだ…。この世界は…ライダーの世界じゃない」

 

 

なのは「えっ?それって、どういう事…?」

 

 

ライダーの世界ではないと言葉を口にする零。なのは達はそれが気になって零の方へと振り向いた。

 

 

零「俺にもよく分からないが、この世界に着いた瞬間に懐かしい様な…けど何か悪寒みたいなものを感じたんだ。多分この世界には…俺達の世界と関係する何かがあるんだと思う」

 

 

スバル「私達の…世界と?」

 

 

零の言葉になのは達は再び遠くにそびえ立つ黒い城に視線を向けた。すると零はカードを仕舞ってなのは達の前に出る。

 

 

零「取り敢えずこの世界については俺と優矢で一通り調べてみるから、お前達は写真館の中で待っててくれ。優矢、行くぞ」

 

 

優矢「えっ?あ、あぁ…」

 

 

なのは達に写真館で待ってるように言うと零は優矢を連れて森林の中へと歩いていった。

 

 

なのは「ちょ、ちょっと待って!零く…」

 

 

ヴィータ「なのは!此処は零の言う通りにしろって!」

 

 

ティアナ「副隊長の言う通りです!いくらなのさんが戦える様になったからって無闇に動くのは危険ですよ!」

 

 

零達を追おうとするなのはをヴィータとティアナが止めて説得する。

 

 

確かに、本当にこの世界がライダーの世界でなければ何が起こるか分からない。それに自分まで此処を離れて写真館が何者かに襲われたりした時に誰がみんなを守るのか…。なのははそこまで考えると一度間を置いて渋々と頷いた。

 

 

なのは「うん…分かった。じゃあ、私達も中で零君達の帰りを待ってよう?」

 

 

スバル「はい!」

 

 

全員が写真館の中に戻る中でなのははいつでも変身が出来る様にとKウォッチを取り出して左腕に装着すると写真館の中に戻ろうとする。その時…

 

 

 

―だ………け……―

 

 

 

なのは「…え?」

 

 

 

突然、何処からか声が聞こえた様な気がしてなのはは思わず辺りを見渡した。だが周りを見回しても何もなく、声の様なものが聞こえてくる事はなかった。

 

 

なのは「今の…一体?」

 

 

それが気になったなのはだが、中にいるスバル達に呼ばれ、なのははそれが気になったまま写真館の中へと戻っていった…。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界①

 

 

優矢「──しっかし、本当に何もないなぁこの世界は…」

 

 

零「そうだな…。ここまで来ると虫一匹すらいるかも怪しくなって来たぞ…」

 

 

あれから暫く森の中を探索していた零と優矢だったが、辺りに人がいないかと見回しても、人どころか動物一匹すらも見つからなかった。

 

 

優矢「なあ、やっぱ一旦戻らねえか?このままじゃ埒があかないし、なのはさん達にも手伝ってもらった方が効率いいって」

 

 

零「……まあ、これ以上の収穫は望めないだろうしな。仕方ない、一度写真館に──」

 

 

と、二人が来た道を引き返そうと踵を返した。その時……

 

 

 

―ドゴオオオォォンッ!―

 

 

 

『……ッ?!』

 

 

突如、轟音にも似た爆音が響き渡り、二人は驚いてそれが聞こえた方へと振り返った。

 

 

優矢「零!今の…!?」

 

 

零「あぁ、俺も聞こえた……!確か……あっちだったな。行くぞ!」

 

 

零と優矢はその爆音の正体を確かめる為に急いでそれが聞こえた場所へと向かっていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

森を抜けた先にある広々とした更地。其処には怪奇な服を身に纏った二組の少女が黒煙に包まれた場所で何かを話していた。

 

 

「ケホッ、ケホッ、あらら…さすがにやり過ぎましたかね?」

 

 

丸い眼鏡に白いマントを纏った少女が立ちのぼる煙を手で払いながら隣の少女に話し掛ける。

 

 

「馬鹿者がッ!加減という物を知らんのか?!もし今ので死んでしまったらどうするつもりだ!」

 

 

一方で長身で紫色の髪のショートカットをした少女が眼鏡を掛けた少女に向かって怒鳴り声を上げた。

 

 

「大丈夫ですよ。ちゃーんと手加減はしていますし、それに"陛下"ならあの程度の攻撃では簡単に死にませんから」

 

 

眼鏡の少女は甘ったるい口調で簡単に説明すると黒煙の向こうから異形な姿をした化け物、レジェンドルガが歩いて来た。それを確認した眼鏡の少女はレジェンドルガに近づいて腕に抱えられている小さな少女に目を向ける。

 

 

「それにしても"ドクター"はまた陛下を使ってなにをするんでしょうねー。私達にもまだ詳しく話してもらってないし…」

 

 

「さあな……ドクターにはドクターのお考えがあるんだろう……そんな事よりも任務は終わったんだ、早く城に戻るぞ」

 

 

長身の少女がそういうと眼鏡の少女は「はーい」と返事を返し、レジェンドルガを連れて何処かへと向かって歩きだした。その時…

 

 

零「待てッ!」

 

 

『……?!』

 

 

先程の場所から駆けつけた零と優矢がその場に着いて少女達を呼び止めた。少女達は驚きながら振り返ると長身の少女は零達を見て顔をしかめた。

 

 

「人間…?どういう事だ?この世界について調べた時は人間は一人も存在しなかったはずだろう」

 

 

「うーん、そのはずだったんですけど。…もしかして調査不足でしたかね?」

 

 

二人は零と優矢を見ても特に動揺した様子を見せずに会話をしている。

 

 

優矢「お前ら…一体何者だ!?こんな所で何をやっていたんだ!」

 

 

「何…っていわれてもね。…悪い事してました~♪…って言えばどうするのかしら?」

 

 

優矢「っ…ふざけんな!こっちは真面目に聞いてんだよ!」

 

 

「我々が何者だろうと貴様には関係あるまい。こっちも忙しい身なんだ…今すぐ我々の前から消えるというなら見逃してやる。さっさと失せろ」

 

 

優矢「なんだと…!」

 

 

優矢は目の前の少女達を睨みながら身構える。だが、そんな優矢とは別に零は目の前の少女達を信じられないもの見るかのように目を開いて驚愕していた。その零の様子に気づいた優矢は怪訝な表情を浮かべて零を見た。

 

 

優矢「零…?どうしたんだよ?」

 

 

零(そんな……まさか……なんであいつ等がこんな所に…?!)

 

 

零はあの少女達の事をよく知っていた。

 

彼女達はミッドチルダで起こったある事件で、機動六課と敵対していた広域次元犯罪者が造った人造魔導師。

 

 

零やなのは達は彼女達とは何度も戦闘を行った事があり、その度に苦戦をしいられた強敵だった。しかし、目の前の彼女達はその事件の解決後、捜査に非協力的だったために彼女達を造った広域次元犯罪者と共に軌道拘置所に収容されているはずなのだ。

 

 

だから彼女達がここにいるはずがない。ありえない…と思った瞬間、そこで零は思考している中で一つの可能性が浮かんだ。

 

 

零(まさか…そんな…)

 

 

自分達の世界に起こった滅び…。その滅びの現象により自分の仲間達は別々の世界へと飛ばされた……。それらを組み合わせた瞬間、答えは簡単に出てしまった。

 

 

零(…そうか……そういう事かよ……くそッ!)

 

 

考えてみればすぐにわかる事だ。彼女達がこの世界にいる理由などそれしかない。零は心中で舌打ちすると一歩前に出て目の前の彼女達を睨みつけた。

 

 

零「…こっちの質問に答えてもらおうか。ここで何をしていた?」

 

 

「はぁ…まったく。さっきも言わなかった?貴方達には関係な――」

 

 

零「あるさ。こっちはもう一度お前達を逮捕しないといけないんだからな………"ナンバーズ"のトーレさんとクアットロさん…?」

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に自分達の名を呼ばれた二人…トーレとクアットロは驚愕の表情を浮かべて零を睨みつけた。

 

 

トーレ「貴様…!何故私達の事を…?!」

 

 

零「知っているか……か?簡単な話だ…俺はお前達を知っている。お前達も記憶を掘り返してみればすぐに俺の事を思い出すさ」

 

 

零にそういわれるとクアットロが何かを思い出した様に納得して零を睨み返した。

 

 

クアットロ「成る程ね…。トーレ姉様。あの男、機動六課にいた隊長陣の一人ですよ」

 

 

トーレ「なに…?」

 

 

クアットロに言われてトーレも零の顔を見ると自然と記憶が蘇って納得した。

 

 

零「…思い出したか?ならもう一度質問だ。お前達はこの世界で何をしている?お前達以外にも誰かいるのか?」

 

 

零が再び問う。だが、クアットロが邪な笑みを浮かべながら零にその答えを返す。

 

 

クアットロ「ふふっ、馬鹿ね。答えろと言われて、私達が簡単に話すとでも思ってるの?」

 

 

クアットロは嘲笑うかの様に話すと片手を上げて指を鳴らした。すると、後ろに控えていたレジェンドルガが零達に右腕を向けてエネルギー弾を放った。

 

 

優矢「いっ!?」

 

 

零「チッ!」

 

 

―ドゴオォオオオオオオンッ!!―

 

 

放たれたエネルギー弾が零と優矢に直撃し爆発に呑まれていった。

 

 

クアットロ「ふふ~ん♪鼠二匹の始末かーんりょ~♪」

 

 

その凄まじい爆煙は零達のいた周囲を包み込んでいきクワットロはそれを見てほくそ笑む。その時…

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズドドドドンッ!!!―

 

 

『……ッ!?』

 

 

電子音声と共に爆煙の中から複数の銃弾が放たれ、二人は慌ててそれをかわすと銃弾が放たれた方へと目を向ける。爆煙が晴れると、其処には…

 

 

ディケイド『──いきなりご挨拶だな。俺達でなかったら危うく死んでた所だ』

 

 

其処にはライドブッカーGモードを二人に向けて立つディケイドと……隅っこで砂埃だらけになった優矢が尻餅をついていた。

 

 

優矢「ゲホッ!ゲホッ!くっ、この、零!いきなり人の首根っこ引っ張り回してんじゃーねぇよ!」

 

 

ディケイド『知るか……そもそもボケッとしてたお前が悪いんだろ。助けてやっただけ有り難く思え』

 

 

優矢「そっちはありがとうなぁ!けど本気で振り回してくれたお陰で危うく首の骨逝き掛けたけどね?!」

 

 

と、優矢がディケイドに向かって怒鳴り漫才(?)をしている中、トーレとクアットロは姿の変わったディケイドを見て険しげな顔を浮かべていた。

 

 

トーレ「……クアットロ。まさかアレは…」

 

 

クアットロ「えぇ…恐らくアレが、あの男の言っていた悪魔……ディケイドだと思いますよ」

 

 

クアットロがそういうと、トーレは目の前にいるディケイドを強く睨みつけた。

 

 

トーレ「なるほどな。奴がディケイドなら、我々の邪魔をするに違いないか」

 

 

クアットロ「えぇ、それに陛下の事が知れれば確実に城へ乗り込んで来ますね。どうせなら、ついでに此処で始末しちゃいません?」

 

 

トーレ「同意見だ。そっちの方が後々事が楽に運ぶからな…アースキバット!」

 

 

トーレが叫んだ瞬間、何処からか黒と白のツートンカラーのコウモリがトーレの下へと飛んで来た。

 

 

アースキバット「お呼びですか?トーレ嬢」

 

 

トーレ「あぁ、あそこにいる奴らを消す。お前の力を貸せ」

 

 

アースキバット「承知」

 

 

アースキバットと呼ばれたコウモリが短く返事を返すと同時にトーレの腰に黒いベルトが現れる。そして…

 

 

トーレ「変身!」

 

 

アースキバット「変身!」

 

 

ディケイド&優矢『「?!」』

 

 

アースキバットが掛け声と共に黒いベルトの止まり木部分に止まると、トーレの目の前に巨大な紋章が現れその紋章が硝子の様に砕け散るとその破片がトーレの身体に集まっていく。するとトーレの姿は紫色の装甲に黄色い瞳、両腕と両足に鎖を巻いた仮面ライダー…『アース』へと姿を変えたのだ。

 

 

ディケイド『なっ!?』

 

 

アース『また以前の様に邪魔をされたくないのでな。ここで死んでもらうぞ…!管理局ッ!』

 

 

ディケイド達が驚いているのを他所にアースはディケイドに向かって突っ込んで来た。

 

 

ディケイド『チッ!下がれ優矢!アイツは俺が相手をする!』

 

 

優矢「わ、わかった!」

 

 

ディケイドは優矢を下がらせるとアースが放ってくる打撃をかわしながら後退しライドブッカーからカードを取り出してバックルに装填する。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

ディケイド『ハァッ!』

 

 

ディケイドはライドブッカーをソードモードにするとアースに向かって斬りかかった。だが…

 

 

―ガキィィィンッ!―

 

 

ディケイド『なっ?!』

 

 

アース『ふん!』

 

 

なんと、アースは片手でライドブッカーの刃を軽々と受け止めたのだ。ディケイドがそれに驚いている中、アースはライドブッカーを払い、ディケイドの胴体に素早い蹴り技を打ち込んで吹っ飛ばした。

 

 

ディケイド『グッ!くそっ!速さでならこいつだ!』

 

 

すぐさま態勢を立て直したディケイドはカードを一枚ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:KUUGA!』

 

 

電子音声が鳴るとディケイドは赤い戦士、Dクウガへと変身して姿を変えていった。

 

 

アース『な、なにッ!?』

 

 

優矢「あれは…クウガ!?」

 

 

クアットロ「ふ~ん…なるほどね~…」

 

 

アースと優矢はDクウガを見て驚愕し、クアットロは興味深そうに頷いてDクウガを見つめる。Dクウガは更にもう一枚カードを取り出してバックルに装填した。

 

 

『FORMRIDE:KUUGA! DRAGON!』

 

 

電子音声と同時にDクウガの姿が蒼い身体、ドラゴンフォームへと変わりアースに向かって身構えた。

 

 

アース『チッ!姿が変わったからといって何になる!』

 

 

アースは構わずにDクウガに向かって素早いパンチを放っていくがDクウガはそれよりも素早く動き、それをかわしながらアースに打撃を打ち込んで徐々に追い詰めていく。

 

 

Dクウガ『ハアァァァッ!』

 

 

―ドゴォォンッ!―

 

 

アース『グゥッ!ガハッ!』

 

 

Dクウガは一瞬でアースの懐に接近して渾身の蹴りを打ち込みアースは耐え切れずに後方へと吹っ飛ばされていった。するとDクウガはディケイドへと戻ってアースに追い撃ちを掛けようと駆け出した。だが…

 

 

―ドゴォォンッ!ドゴォォンッ!―

 

 

『!?』

 

 

クアットロ「はーい!そこまで!」

 

 

突如、レジェンドルガがディケイドとアースの間に向けて砲撃を放ち、二人の戦いを止めた。ディケイドはそれにより足を止めて思わずクアットロの方へと振り向いた。

 

 

クアットロ「流石にこれ以上遊んでたらウーノ姉様に怒られるし、私達はもう帰りまーす♪」

 

 

ディケイド『ッ!?ふざけるな!こっちはお前達に聞きたい事が山ほどあるんだ!黙ってお前達を見逃がすわけにいくか!』

 

 

ディケイドはクアットロに向かって叫ぶがクアットロはそれを聞くと怪しい笑みを浮かべた。

 

 

クアットロ「そう…でもこれを見ても、貴方は同じ事が言えるのかしらね?」

 

 

ディケイド『なに…?』

 

 

アース『ッ!クアットロ!』

 

 

アースがアワットロに向けて怒鳴るがクアットロは気にせずに言葉を続けた。

 

 

クアットロ「貴方があくまでも私達を捕まるっていうなら…」

 

 

クアットロが指を鳴らすと隣にいたレジェンドルガが腕に抱えていた少女をディケイドに見える様に地面に寝かせた。するとその少女を見たディケイドは仮面越しに目を開いて驚愕する。

 

 

ディケイド『ッ!?そんな…まさか…』

 

 

小さいツインテールをした金髪の少女。その少女を見たディケイドは一瞬自分の目を疑った。何故ならあの少女は………

 

 

クアットロ「ふふ、そっ♪貴方の大事な陛下が…どうなってもいいのかしら?」

 

 

優矢「陛下…?」

 

 

クアットロが再び指を鳴らすとレジェンドルガは腰に収めていた剣を取り出しその切っ先を少女に向けた。

 

 

ディケイド『ッ?!よせッ!その子には手を出すなッ!』

 

 

クアットロ「だったら貴方はどうすればいいのか………わかってるでしょう?」

 

 

ディケイド『クッ…ッ…』

 

 

クアットロの問いにディケイドは俯き、一度間を置くと次第に構えを解いて無防備となっていく。

 

 

優矢「零?!」

 

 

クアットロ「ふふん♪素直で結構♪それじゃ……トーレ姉様!」

 

 

 

アースキバット「ウェイクアップ!」

 

 

 

『ッ!?』

 

 

突如アースキバットの掛け声が響き渡り、ディケイドと優矢は慌ててアースの方へと振り向くと、アースは猛スピードでディケイドに向かって突っ込んで来た。その手には紫色の球体の様な形をしたエネルギーの塊が握られている。

 

 

ディケイド『くッ!?』

 

 

ディケイドは慌ててそれをかわそうとしたが、アースは既にディケイドの懐へと接近し紫色の球体をディケイドの身体に押し当てていた。そして……

 

 

ディケイド『ッ!?』

 

 

アース『ディバインド……インパルスッ!』

 

 

アースの言葉と同時に、紫色の球体が衝撃破となって辺りに広がり、ディケイドとその周囲が巨大な爆発に呑み込まれていった…。

 

 

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーンッ!!!!!―

 

 

 

 

優矢「くっ?!うわぁぁっ!」

 

 

辺りが凄まじい爆発と衝撃破に包み込まれ、優矢は爆風に吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える。暫くすると爆風が止み、視界を埋めていた煙が少しだけ晴れて来た。それを確認した優矢はディケイドとアースが戦っていた場所へと駆け出して行った。

 

 

優矢「零!何処だ!?零ッ!」

 

 

優矢は黒煙の中を走り回って必死に零の名を叫びながら零の姿を探す。

 

 

優矢「ッ…一体どこに……………ん?」

 

 

そこで優矢は煙の向こう側に何が地面に倒れているのに気づき、優矢は近くに駆け寄ってそれを確かめると、その表情が青ざめていった。

 

 

優矢「れ、零!?しっかりしろ!おいッ!?」

 

 

そう、地面に倒れていたものの正体は体中に怪我を負った零だったのだ。優矢は必死に零の身体を揺さぶって呼びかけるが、零からは何も返事は返って来ない。

 

 

優矢「くそっ!とにかく、早く零を写真館に…!」

 

 

零の状態を見てまずいと感じた優矢は零を背中に抱えあの二人がいないかと警戒して辺りを見渡した。だが既にその場には優矢達以外は誰もいなかった。

どうやらさっきの爆発に紛れて逃げたらしい。優矢は安心にも悔しさに似つかない感情を感じながらも、傷ついた零を抱えて急いで写真館へと戻っていった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界②

第四章/魔界城の世界(前編)④]

 

 

あの戦闘から約二時間後。

 

アースとの戦闘で傷ついた零は優矢に連れられて写真館に戻り、栄次郎達に治療をしてもらって部屋で休んでいる。その後、優矢は何があったのか問い詰めてくるなのは達にナンバーズと呼ばれる少女達の事、その二人が連れていった少女の事、そしてアースとの戦闘で零が重傷を負った事を話した。

 

 

スバル「な、ナンバーズ…!?」

 

 

ティアナ「なんでよ!?確かあの二人は拘置所に収容されてるはずじゃ…?!」

 

 

なのは「それに…その二人が連れていった女の子って………まさか…」

 

 

ヴィータ「なのは……ッ……クソッ!」

 

 

話を終えた後、なのは達の表情は驚愕と困惑のものへと変わり、その場の空気も重苦しいものに変わる。

 

 

そんな中で、優矢は気になっている疑問をなのは達に投げ掛けた。

 

 

優矢「な、なぁ。あいつらは一体何なんだ?皆の知り合いか…?」

 

 

優矢がなのは達に聞くが、なのは達も色々と混乱している為どう答えていいのか分からず俯いてしまう。

その時…

 

 

零「…それについては…俺が説明する…」

 

 

『っ!?』

 

 

そこへ体中に包帯を巻いた姿の零が入り口から現れ、壁を伝ってなのは達の下へ歩いて来た。

 

 

なのは「零君?!駄目だよ!そんな身体で…ッ!」

 

 

零「いや…俺の方は大丈夫だ。というか、今の状況で大人しく寝てなんていられないだろ…」

 

 

零はそう言ってテーブルの椅子に座り、それを見た優矢も向かいの椅子に座った。

 

 

零「じゃあ説明の前に…以前俺達の世界について話した時の事を覚えてるか?」

 

 

優矢「?えっと、科学が発達していて…魔法が存在する世界…だったか?インパクトのある話だったからよく覚えてるよ」

 

 

零「そうだ…アイツ等はその俺達の世界で、ある犯罪者が造った魔導師…"人造魔導師"なんだ…」

 

 

優矢「人造…魔導師?」

 

 

零達は人造魔導師の説明も加え、ナンバーズ達について簡単に話を纏めながら優矢に話し始めた。

 

 

 

 

 

…………………

 

 

……………

 

 

………

 

 

 

 

 

 

零「これが、人造魔導師とナンバーズについての全てだ。…分かったか?」

 

 

優矢「あ、あぁ…」

 

 

ナンバーズと人造魔導師についての説明を終えた後、優矢は驚愕していた。人間の身体に機械を融合させ、人工的に魔導師を作り上げる。その内容に優矢は信じられないといった表情を浮かべ、なのは達の間にも流れる空気も更に重くなる。

 

 

優矢「……じゃあさ。あの二人が連れていった女の子は?零はあの子の事知ってるみたいだったけど…」

 

 

優矢の問いに零は一度なのはの方に視線を向けると、それに気づいたなのはは頷く。すると零は優矢に視線を戻し、

 

 

 

零「……あの子の名前は"ヴィヴィオ"…俺となのはの"娘"だ……」

 

 

優矢「へえ……………………は?」

 

 

 

言葉の意味が理解出来ない…といった表情を浮かべて聞き返した優矢。零はそれを見て溜め息を吐き、優矢に向けてもう一度言う。

 

 

零「だから、あの子はヴィヴィオ。俺となのはの"娘"だ」

 

 

優矢「……ああ、娘……むすめ…………………………娘ぇぇえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!!!!????」

 

 

 

再び長い間が開いた後、光写真館の中を優矢の大絶叫が響き渡ったのだった……。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一方その頃……。

 

 

光写真館から離れた場所にある森林。その中を二人の男女が歩いていた。一人は首にカメラを掛けている青年。そしてその青年の後ろを歩く小柄な少女…。二人は共通する奇怪な服装……トレジャーハンターの様な格好をして森の中を歩いていた。だが、青年の後ろを歩いていた少女が突然その場にしゃがみ込み、それに気づいた青年は少女に歩み寄る。

 

 

「はぁ…、おい"こなた"。こんな所で休んでる場合じゃないだろ?」

 

 

こなた「うぅ~~…だって仕方ないじゃん!何処まで行っても森ばっかで何にもないし!いい加減疲れたよ~」

 

 

こなたと呼ばれた少女は目の前にいる青年に向かって叫ぶが青年はそんなこなたを見てため息を吐きながら言う。

 

 

「…お前さぁ、前に体力には自信があるとか言ってなかったか?だったらこれくらいお前なら何ともないだろ?」

 

 

こなた「それでもさっきから四時間くらいは歩いてんじゃん!何で"進"は息切れ一つしてないの!?」

 

 

進「これが俺の普通なんだから仕方ないだろ?ほら、さっさとこの世界を調べて家に戻るぞ」

 

 

進と呼ばれた青年はそういうとこなたをその場に置いて再び歩き出した。

 

 

こなた「ちょっ!!?待ってよ進!」

 

 

それを見たこなたは慌てて立ち上がると進の後を追って駆け出した。その時…

 

 

―ドゴォォンッ!ドゴォォンッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突然二人のいた場所に砲撃が放たれ、二人は驚きながら辺りを見回した。すると突如周りの茂みから数体のレジェンドルガ達が現れて進とこなたを包囲していく。

 

 

進「な、なんだよコイツ等!?おいこなた!コイツ等一体なんだ?!」

 

 

こなた「えっと、確かコイツ等は…レジェンドルガ!キバの映画に出て来た怪人だよ!」

 

 

進「キバの…?まさか俺達…キバの世界に戻って来たのか!?」

 

 

こなた「わかんないけど…でも気をつけて!コイツ等はファンガイアと違って目茶苦茶強いから…!」

 

 

進とこなたは背中合わせにレジェンドルガ達を警戒する。一方でレジェンドルガ達は二人を見て何かを話していた。

 

 

『こいつがディケイドか?』

 

 

『いや、確か奴が連れていたのは男だと聞いていたが…』

 

 

そう、実はこのレジェンドルガ達はクアットロが零と優矢に向けて放った追っ手だったのだが、進とこなたは運悪く、二人を探していたそのレジェンドルガ達に見つかってしまったのだ。突然の事に戸惑う二人を他所に、レジェンドルガ達はゆっくりと二人に近づいて来る。

 

 

進「チッ、仕方ねぇな…。行くぜ!こなた!」

 

 

こなた「うん!」

 

 

二人は互いに呼び掛け合い、カメラの様な形をした変身ツール…零と同じディケイドライバーとセカンドドライバーを腰に装着すると、左腰に現れたライドブッカーからカードを取り出して変身のポーズを構えた。

 

 

 

進「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

 

こなた「変身!」

 

 

『KAMENRIDE:SECOND!』

 

 

 

バックルにカードを装填すると電子音声が響き、二人の周りにそれぞれ別のシルエットが現れる。それらが二人に重なると、こなたはディケイドに酷似した灰色のライダー『セカンド』に変身し進は『ディケイド』に変身してその姿を変えた。

 

 

そう、彼は……元道進は零とは違う別の並行世界に存在するディケイド。零達の世界と同じ様に滅びの現象によって滅びようとしている自分達の世界を救う為にライダー達の世界を旅する仮面ライダーだったのだ。

 

 

『ッ?!やはりコイツがディケイドだったか!!』

 

 

ディケイド(進)『何だ…?コイツ等俺を知ってるのか?』

 

 

二人に身構えるレジェンドルガ達を見て疑問府を浮かべるディケイド(進)。

 

 

『だが報告ではディケイドと一緒にいたのは男だったのだろう?!まさか…あの女は男かッ?!』

 

 

セカンド『んなッ?!わ、私はれっきとした女だぁぁぁぁぁぁぁーーッ!!!』

 

 

ディケイド(進)『何か話が噛み合わねぇが…とにかくコイツ等を倒すか!行くぞこなた!』

 

 

ディケイド(進)とセカンドはライドブッカーをソードモードに変え、レジェンドルガ達に突っ込んで戦闘を開始した。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界③

 

 

―光写真館―

 

 

零「……んで、少しは落ち着いたか?」

 

 

優矢「あ、あぁ……悪い、勝手に一人で騒いで……」

 

 

なのは「い、いいよそんなの!誰だって最初は驚くに決まってるしっ……」

 

 

あれから数十分後。零達は優矢にヴィヴィオの事、自分達がヴィヴィオの保護責任者になっている事を簡単に説明し騒いでいた優矢をなんとか落ち着かせた。

 

 

ティアナ「けど、これからどうするんですか?ヴィヴィオはあの二人に連れていかれたわけだし…」

 

 

スバル「というか…あの二人はヴィヴィオをどうする気なんだろ…」

 

 

零「それは……俺にもわからない。だが、今俺達にとって重要なのはヴィヴィオの救出だ。今はそれだけを考えよう」

 

 

ヴィータ「だけど、問題はどうやってヴィヴィオを助けるかだろ?あたしらは今デバイスも魔法も使えない…戦えるのは零と優矢と、Kウォッチを持ってるなのはだけなんだぞ……」

 

 

なのは「……うん」

 

 

そこまで話すと、誰も口を開かなくなりその場は沈黙となる。

 

恐らくクアットロ達やヴィヴィオはあの城にいると思うが、詳しい城までの道がわからない。それにこちらで戦えるのはたったの三人だけ。城まで向かう途中にはクアットロが放った追っ手のレジェンドルガ達が今も零達を探しているはずだ。

 

 

それをいちいち相手しながら敵の本拠地に突っ込むのは無謀すぎるだろう。零達はいい考えが全く浮かばず、どうすればいいのかと途方に暮れていると…

 

 

 

「──どうした?何やらお困りの様だな?」

 

 

 

『ッ?!』

 

 

 

突如、その場に聞き慣れぬ声が聞こえ零達は慌てて辺りを見渡した。すると窓の向こうから何かが写真館の中の様子を覗いているのに気づき、零は窓を開け放った。其処には…

 

 

零「お前は…ッ?!」

 

 

優矢「あん時の黒コウモリ?!」

 

 

アースキバット「…失礼だな。私にはアースキバットというちゃんとした名があるのだぞ」

 

 

そう、其処にいたのは宙を羽ばたくトーレと共にいた黒いキバット……アースキバットであり、いつの間にか写真館の近くにまで近付いていたアースキバットに一同は敵意の込めた目で睨みつける。

 

 

零「テメェ…一体何しに此処へ来やがった?」

 

 

低い声で零がそう問うと、アースキバットは近くにある木の枝に止まって零を見据える。

 

 

アースキバット「何、私はただ主達の命でお前達を迎えに来ただけだ」

 

 

零「……なに?」

 

 

スバル「む、迎え…?」

 

 

アースキバットの言葉の意味が理解出来ず零達の頭上に疑問符が浮かび上がる。そんな零達を他所にアースキバットは肯定の意味を込めて頷いた。

 

 

アースキバット「そうだ。私の主がお前達を客として城に招き入れたいらしい」

 

 

『…………』

 

 

予想外の返答に零達は唖然としてしまう。零はそんなアースキバットを再び睨みつけた。

 

 

零「何訳のわかんねぇ事言ってんだよ。こっちは殺され掛けたんだ、そんな話信じられるわけないだろ」

 

 

ティアナ「そうよ!そんな事言って、本当は私達を罠に嵌めようって魂胆なんじゃないの?!」

 

 

二人はアースキバットを警戒しながら言う。当然だろう。敵である彼等がこんな簡単に自分達をテリトリーに入れようとするなんて警戒するなという方が無理がある。何かの罠では?と考える零達だが、アースキバットはそんな零達の反応に溜め息を吐いた。

 

 

アースキバット「こちらとてお前達を招きたくなどない。だが、私の主がその男を大層気に入ったらしくてな……お前に会ってみたいなどと言い出したのだ」

 

 

零「……俺を?」

 

 

アースキバット「そうだ。もしお前達が城に来るなら、あの子供にも会わせてもいいと言っていたが…」

 

 

なのは「ッ!?ヴィヴィオは無事なんですか?!」

 

 

ヴィヴィオの安否をなのはが問い詰めると、アースキバットは「あぁ」と頷いた。ヴィヴィオの無事を聞いたなのははホッと胸を撫で下ろす。

 

 

零「……ちょっと待ってろ」

 

 

―カタンッ―

 

 

零は一度窓を閉めると、頭を抱えて溜め息を吐いた。

 

 

零「わけわかんねぇぞ…。あいつら一体何考えてんだ…」

 

 

優矢「でも…これってある意味チャンスだよな?これなら苦労せずに城へ行ける訳だし!」

 

 

スバル「そうですよ!それにこのチャンスを上手く使えば…ヴィヴィオを助ける事が出来るかも!」

 

 

確かに、これならわざわざ城に向かうまでにレジェンドルガ達の相手をせずに城へ入る事が出来るし、ヴィヴィオの救出も余り難しい事にはならないかもしれない。このチャンスを逃すわけにはいかないだろう。

 

 

零「…そうだな。アイツ等の言う通りになるのは癪だが、これで城に殴り込む手間が省けるし、それに…奴らの主とかいうのも気になる……奴らの誘いに乗ってみるか」

 

 

その後、零は少しの間だけアースキバットを外で待たせて皆と作戦会議を始めた。まずは先に零となのはがアースキバットについて行き、その後にスバルとティアナがアースキバットに気付かれない様に離れた位置から二人の後を追って城へと潜入し、ヴィヴィオを救出。優矢とヴィータはもしもの時の為に写真館で待機という方針に決まった。

 

 

零「よし、じゃあ……行くぞ…!」

 

 

一通りの作戦を立てた後、零となのははアースキバットに城への案内を頼むと写真館を出て城へと向かって行く。それから少しした後にスバルとティアナが二人の後を追って写真館を出ていった。

 

 

優矢「皆、大丈夫かな…」

 

 

ヴィータ「心配すんな。あいつらはそう簡単にやられる様な奴らじゃねぇよ…」

 

 

四人を見送った二人も写真館の周りを警戒しながら外の戸締まりをしっかりして中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

気がつけば辺りは既に夜。空には満月が浮かび美しい輝きを放っていた……。

 

 



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第四章/魔界城の世界④

 

―魔界城・廊下―

 

 

アースキバットに案内され、彼等の本拠地『魔界城』へとやって来た零となのははアースキバットの後ろをついて異様に長い廊下を歩いていた。

 

 

零「はあー……結構立派な城なんだな……」

 

 

城の内部の豪華な作りに率直な感想を口にする零。

 

 

アースキバット「そうであろう?この城は数千年もの歴史ある城でな。我々にとってもこの城は貴重な宝の一つなのだ」

 

 

零「なるほど……」

 

 

やけに得意げなアースキバットに適当に相打ちを打ちつつ、零はなのはに視線を向けると、なのはもこちらへと視線を向けて互いに小声で会話する。

 

 

零(なのは、あの二人は?)

 

 

なのは(大丈夫、ちゃんとお城に入ってそのままヴィヴィオを探しにいったみたいだよ)

 

 

零(そうか…よかった…)

 

 

零は心中で安心すると目の前のアースキバットに視線を向けた。取りあえず今はあの二人がヴィヴィオを助け出す事を信じよう。そう考えているとなのはが再び話し掛けて来た。

 

 

なのは(ねぇ零君?私……あのコウモリさんが言ってた主って人の事で、少し気になってる事があるんだけど…)

 

 

零(……何か気づいたのか?)

 

 

なのは(うん……何となくではあるけど……零君も、もしかして気付いてる……?)

 

 

零(……俺もなんとなくだけどな………捕まったはずのナンバーズがこの世界にいるなら、"奴"がいても可笑しくない…)

 

 

二人は会話の中で、ある男の姿を頭の中に思い浮かべた。自分の望みを叶える為に生体改造や戦闘機人など人の道を踏み外した研究を続けヴィヴィオやナンバーズ達を利用して管理局に反乱を起こした科学者。

 

 

その科学者の反乱は零達の世界で『JS事件』としてその名を残しその事件後、第9無人世界の「グリューエン」に存在する軌道拘置所に投獄されていたはずだが、もしその男がこの世界にいるのだとしたらクアットロ達がヴィヴィオを狙った理由も頷ける。そんな時……

 

 

アースキバット「──さぁ、着いたぞ。この扉の先が主達のいる……王座の間だ」

 

 

アースキバットの声で会話を切り上げ、二人はそこで一旦思考を中断し目の前に目を向ける。そこにあったのは石造りで出来た巨大な扉。アースキバットは二人を扉の前まで案内すると何処かへと飛び去っていった。それを見送った零は巨大な扉に歩み寄って扉に手を掛ける。

 

 

零「……よし、行くぞ」

 

 

なのは「…うん」

 

 

二人は警戒心を強め、巨大な扉をゆっくりと開けると、王座の間へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

──一方その頃、魔界城に侵入したスバルとティアナはヴィヴィオを探して魔界城の中を駆けずり回っていた。

 

 

スバル「ねぇティア!忍び込んだのはいいけど、これからどうするの?!」

 

 

ティアナ「取りあえず部屋を一つ一つ探すしかないでしょ!出来るだけ早くヴィヴィオを見つけて零さんとなのはさんの所に戻らないと!」

 

 

二人は目に映る部屋を全て調べていくが、見る部屋見る部屋が空部屋ばかり……。

 

 

スバル「え~ん!ヴィヴィオ~!どこにいるの~!?」

 

 

ティアナ「いいからさっさと探しなさいよ!ほら、次はあっちの部屋!」

 

 

やはり城という事もあり、広い上に部屋の数も多すぎる。そんな中で一人の少女を探すのは困難だ。それでも二人は片っ端からそれらしい部屋を調べてヴィヴィオを探していく。そんな時……

 

 

スバル「えっと……あれ?ねぇティア、あれ何だろ?」

 

 

ティアナ「え?」

 

 

スバルが廊下の曲がり角を曲がると何かに気づき、その方を指で示す。其処にあったのは…

 

 

ティアナ「階段…?」

 

 

其処にあったのは、地下へと続く薄暗い階段だった。二人はそれに近寄ると階段の奥を覗いた。奥は不気味な程暗くて何も見えず何処か怪しく感じる。だが、この奥から微かに声の様なものが聞こえて来る。

 

 

スバル「ティア…もしかして!」

 

 

ティアナ「えぇ、もしかしたらヴィヴィオはこの奥に……行くわよスバル!」

 

 

スバル「うん!」

 

 

もしかしたらヴィヴィオはこの奥に捕まってるのではと予想し、二人は地下へと続く薄暗い階段を駆け降りて奥へと進んでいった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑤

 

一方その頃、王座の間。

 

 

 

「ようこそ、お待ちしておりました」

 

 

零となのはが王座の間に入ると同時に、王座の脇に控えているウェーブの掛かった薄紫の女性が丁寧にお辞儀をして二人を迎え入れた。

 

 

零「………」

 

 

なのは「………」

 

 

二人は何も言わずに無言で部屋の中心へと歩いて行くが、二人の表情は険しい。その原因は部屋の一番奥にある王座に座っている男にあった。肩まで伸びる紫色の長髪に金色の瞳をした白衣の男。その男の姿を見て零は思わず頭を抱えたくなる。

 

 

出来れば外れていて欲しかった予想通りの人物であるその男は、そんな零の心境を知らずに零を見て喜びの表情を浮かべながら王座から立ち上った。

 

 

「やぁ、よく来てくれたね、黒月零君。何やら痛々しい格好をしているが、大丈夫かね?」

 

 

男は身体中包帯だらけの零を見て心配そうに問うが、その表情は笑っている。零はその男の態度に苛立ちを感じながらも表情には出さずに淡々と答える。

 

 

零「お前に心配される筋合いはねぇよ、というか…何故の俺の名を知ってる?お前に俺の名前を教えた記憶はないんだが」

 

 

「あぁ、君の事はこちら側で調べさせてもらったよ。君自身にはとても興味が沸いたからね。どうしても会いたかったんだよ…君に」

 

 

両手を広げながら愛おしそうに呟く男の言葉に零は一瞬寒気を感じ、自分の肩を両手で摩りながら目の前の男に答える。

 

 

 

零「そうかい。こっちはお前の面なんて二度見たくなかったよ………"ジェイル・スカリエッティ"」

 

 

 

零は男…「ジェイル・スカリエッティ」を敵意の込めた目で睨みつける。するとスカリエッティは妖気な笑みを浮かべながら王座に腰を下ろした。

 

 

ジェイル「嬉しいよ。君に私の名を覚えていてもらって」

 

 

零「ふざけろ、こっちはお前の事なんて綺麗サッパリ忘れたいんだよ。…そんな事よりもヴィヴィオは何処だ?何処にいる!」

 

 

声を荒らげてヴィヴィオの居場所を問い詰める零だが、スカリエッティはそんな零の形相を見てもただ妖気な笑みを浮かべているだけだった。

 

 

ジェイル「あの子なら無事さ。今は城の地下に閉じ込めているがそれ以外は何もしていない。安心していいよ」

 

 

なのは「なら今すぐヴィヴィオを返して!あの子は何も関係ないんだから!」

 

 

なのはが身を乗り出して叫ぶ。が、スカリエッティは怪しい笑みを浮かべたまま首を横に振る。

 

 

ジェイル「残念ながら、私の望みを叶える為にもあの子の力は必要不可欠だからね。それは出来ないんだよ。ふふふ」

 

 

なのは「っ!」

 

 

零(くそっ…やっぱりそう簡単にはいかないか…ヴィヴィオの事はスバル達に任せるしかないな…)

 

 

スバル達がヴィヴィオを助け出すのを信じ、今はこの男を捕まる事だけに専念すべきか。零はそう考えながら一歩前に出て目の前の男を睨む。

 

 

零「幾つかお前に質問がある。お前の目的なんだ?ヴィヴィオを使って、今度は何をしでかすつもりだ?」

 

 

目の前の男がヴィヴィオを狙うのは、恐らく聖王の力が関係していると思うが明確な理由はわからない。それが気になった零は目の前の男に直接問い質すと、スカリエッティは手の平を上に徐に手を伸ばす。

 

 

ジェイル「世界を旅している君達なら、既に知っているだろう?私達の世界と並行して存在する、数多の世界の事を…」

 

 

零「ッ!何でその事を……というかお前、ライダー達の世界を知ってるのか?!」

 

 

ジェイル「勿論だとも。世界が滅びようとしていたあの日、私達は突然現れた歪みに飲み込まれてこの世界へと辿り着いた。その後はこの城を拠点に、この世界について少しずつ調べていった。……そこで始めて知ったんだよ!私達の世界とは違う並行世界!それぞれの世界に存在するライダー達!そしてレジェンドルガの力を!」

 

 

今までの経緯を話していく中で興奮状態へと変わり、それでも声高らかに話を続けるスカリエッティ。

 

 

ジェイル「私達の世界では不可能だった事も可能に出来る力!魔法と対等……いやそれ以上の力を持つかもしれないライダー達!……心が揺さぶられたよ。それらを知って私はライダー達が、全ての並行世界が欲しくて堪らなくなった!だから私はこの世界で新たな力を手に入れ、この力を使って数多の世界を私の手に収める!それが私の新たな望みなのだよ!ふふふ……ふはははははははははは!!」

 

 

自らの新たな野望を語り、狂った様に笑うスカリエッティ。だがそんなスカリエッティの目的を聞き、なのはは怒りをあらわに叫ぶ。

 

 

なのは「そんな…そんな事の為に、貴方はまたヴィヴィオを利用するって言うの!?」

 

 

ジェイル「もちろん!あの子の中に眠る聖王の力に、私が独自に開発したライダーシステムとレジェンドルガの力を合わせればあの子は最強のライダーとして生まれ変わる!そうなれば数多の世界を手に入れるのもたやすい事だからね!」

 

 

なのは「ッ!ふざけないで!そんな事――ッ?!」

 

 

怒りを抑え切れず、スカリエッティに向かって思わず飛び出そうとしたなのはを零が手で制してそれを止めた。

 

 

なのは「零君!?」

 

 

零「…ジェイル・スカリエッティ。お前の目的はヴィヴィオとレジェンドルガ達を使って他の世界を手に入れる事。それで間違いないな?」

 

 

ジェイル「そう!そしてその為に、君のディケイドとしての力が欲しいんだよ!世界の破壊者である君の力さえあれば、私の夢を阻まんとする者達を消し去る事が出来る!私が世界を手にする事は約束されたも当然だからね!」

 

 

零「…………」

 

 

興奮冷めやらぬ様子で語り続けるスカリエッティだが、零は無表情のままで口を閉ざしている。それでも構わず、スカリエッティは玉座から身を乗り出して歪な笑みを向ける。

 

 

ジェイル「無論ただでとは言わない。君は確か過去の記憶がないのだろう?それも安心するといい。この世界に来てから、実は君の事を調べる中で君の過去の手掛かりになりそうな物を手に入れてね」

 

 

なのは「ぇ……零君の、過去……?」

 

 

零の失われた過去に関する手掛かり。その話を聞かされたなのはの顔に動揺が浮かび、スカリエッティは両手を広げ嬉嬉として叫ぶ。

 

 

スカリエッティ「私が君に興味を抱いたのはそこからさ!君にはとてつもない秘密がある!知られざる異聞がある!私はそれを解明したい!故にだ!世界を手に入れた暁には私がその記憶を取り戻す手伝いをしようじゃないか!」

 

 

そう言って、スカリエッティは零に向けて手を伸ばす。それが意味するのは仲間になれと言う意味だろう。

 

 

スカリエッティに協力すれば失われた過去を取り戻せるかもしれない。その可能性をチラつかされ、なのはは不安げな表情を浮かべて零を見つめる。そして、その肝心の零の答えは……

 

 

 

零「……なるほどな。お前の言いたい事はだいたい分かった……が、興味ないな」

 

 

 

戸惑う事も迷う事もなく、スカリエッティの誘いをバッサリと斬り捨てた。

 

 

ジェイル「……何だって?」

 

 

零の返答にスカリエッティが思わず聞き返すが、零は何も言わずに懐からディケイドライバーを取り出して構える。

 

 

ジェイル「……何のつもりかね?」

 

 

零「何?決まってるだろ。脱走した犯罪者をもう一度逮捕するんだよ」

 

 

当たり前の様にいいながらディケイドライバーを腰に装着すると、零はライドブッカーからディケイドのカードを取り出す。

 

 

なのは「零君……!」

 

 

零「だいたい、俺達がここに来たのはそんな馬鹿げた妄言を聞く為でも、お前のくだらない目的を手伝う為の駒になりたくて来たんじゃない…俺達の目的は最初からヴィヴィオを取り戻す事と……お前のその面ぶん殴りに来ただけなんだからな……!変身!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

迷いのない答えを告げてディケイドのカードをバックルに装填すると電子音声が鳴り、零はディケイドに変身して身構えた。

 

 

ジェイル「……交渉決裂か……ならば仕方ない。こちらもこちらなりのやり方で君を手に入れるとしよう。ウーノ」

 

 

ウーノ「はい、ドクター」

 

 

スカリエッティに呼ばれた女性…ウーノは短く答えると、彼女の立つ床下が開いてそこから大型のコンソールの様な機械が上がってくる。その機械が安定置に止まるとモニター及びコントロールパネルが出現し、ウーノは指先を走らせて機械を操作する。

すると…

 

 

―バチィッ!バシュュュュュュュュッ!!!―

 

 

ディケイド『ッ……?!なッ!?』

 

 

なのは「な、なに?!」

 

 

突如王座の前が激しく輝き出し、ディケイドとなのはは眩しさに耐え切れず目を瞑った。暫くすると光りが徐々に治まっていき、二人は目を開けて目の前を見ると、其処には……

 

 

『グゥゥゥゥ…』

 

 

白銀の肉体に、両手には巨大な爪の様な武器を付けた一体のレジェンドルガが王座の前に佇み、二人を睨み付けて唸り声を上げる姿があった。

 

 

なのは「あれは…!?」

 

 

ジェイル「私が以前レジェンドルガの研究をしていた時に造った人造レジェンドルガだ。これを使って君を手に入れるよ…ディケイド」

 

 

スカリエッティが左手を上げて指を鳴らすと、人造レジェンドルガが二人にゆっくりと近づいて来る。

 

 

ディケイド『…ッ…下がれなのは!早く!』

 

 

なのは「う、うん!」

 

 

なのはを下がらせながらディケイドはライドブッカーをSモードに変え、人造レジェンドルガ向けて構える。

 

直後、人造レジェンドルガは獣の雄叫びと共に両腕の爪を振りかざし、ディケイドに飛び掛かったのであった。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑥

 

その頃、魔界城の地下。

 

 

其処には砂埃などで汚れた複数の独房が存在し、その中にある一つの牢屋に一人の少女が汚れた部屋の隅で膝を抱えて縮こまる姿があった。

 

 

「っ…ッ…うぅ……」

 

 

少女の瞳から涙の粒がこぼれ落ちそうになるが、涙が落ちる前に少女はすぐにそれを拭いて再び顔を俯かせる。

 

 

小さいツインテールをした金髪の髪に左右の目が赤と緑のオッドアイの少女。その少女こそ、零となのはの娘であり彼等が今助け出そうとしている少女……ヴィヴィオだった。

 

 

ヴィヴィオ「うっ……ッ…」

 

 

ヴィヴィオは泣きそうな表情を浮かべているが、その瞳から涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。

 

 

するとヴィヴィオは目尻に溜まった涙を拭き、何かを決心したようにその場から立ち上がり入り口の扉に近づいて扉を開けようとする。

 

 

だが案の定、扉には鍵が掛かっていて扉は開きそうになく、扉からの脱出は諦めて室内を見回すと、扉の向かいにある壁の一番上に小さな窓があるのを見つける。

 

 

彼処からなら抜け出せるかもしれない。一抹の望みをから、ヴィヴィオはその窓から外へ脱出しようと考えて壁をよじ登ろうとした。そんな時…

 

 

―ドゴォオンッ!!!―

 

 

ヴィヴィオ「ひっ!?」

 

 

突如、入り口の扉が何かによって突き破られ、ヴィヴィオは突然の事に驚いて尻餅をついてしまう。砂煙が辺りに立ちのぼっているせいで入り口の向こうがよく見えないが、煙の中で二つの影がうごめいているのに気づき、ヴィヴィオはまたあの怪物達が来たのではないかと思い震える身体を抑えながら入り口を見据える。するとその内の一つの影が牢屋の中へと入って来て…

 

 

スバル「──いた!ティア!ヴィヴィオ見つけたよ!」

 

 

ヴィヴィオ「……え!?」

 

 

扉の向こうから現れたのは、レジェンドルガではなく、魔界城に侵入してヴィヴィオを探していたスバルだったのだ。予想とは違う人物の登場にヴィヴィオは驚きを隠せずにいた。

 

 

ヴィヴィオ「お姉ちゃん、なんでここに…?」

 

 

スバル「ヴィヴィオが捕まってるって聞いたから、助けに来たんだよ。もう大丈夫だからね。すぐに零さん達にも会えるから」

 

 

ヴィヴィオ「パパ達に…?」

 

 

ヴィヴィオの言葉にスバルは「うん」と頷いて返し、ヴィヴィオを連れ部屋から出ようとした。その時、スバルはヴィヴィオの腰に着いているある物に気づき首を傾げた。

 

 

スバル「あれ?ねぇヴィヴィオ、そのベルトは?」

 

 

そう、ヴィヴィオの腰には黒と白のツートンカラーをしたベルトが装着されていたのだ。スバルはそれが気になってヴィヴィオに聞くが、ヴィヴィオはその問いにわからないと首を横に振った。

 

 

ヴィヴィオ「わかんない……部屋の中で起きたら最初から着いてて…外そうとしたけど全然取れなくて…」

 

 

ヴィヴィオにそう言われてスバルは試しにそのベルトを外そうとしてみたが、何かで固定されているのか確かに外れない。

 

 

スバル(う~ん……?なんだろこれ、爆弾……とかには見えないし、それになんか、零さんや優矢さんのベルトにも似てる気が──?)

 

 

ティアナ「スバルッ!何やってんの!?ヴィヴィオを見つけたんならさっさと逃げるわよ!」

 

 

何だか既視感のあるベルトに首を傾げる中、外で見張りをしていたティアナの声が聞こえスバルは思い出した様に声を上げて入り口の方に振り向いた。

 

 

スバル「あっ、ゴメン!すぐに行くから!さっ、ヴィヴィオ!早く逃げよ!」

 

 

ヴィヴィオ「う、うん!」

 

 

取りあえずベルトの事は後回しにし、スバルはヴィヴィオを背中に抱えて牢屋の外へと出るとティアナと合流する。

 

 

ティアナ「遅い!」

 

 

スバル「ご、ごめん!ちょっとあって!…それより、これからどうするの?」

 

 

ティアナ「……そうね……取りあえずヴィヴィオは助け出せたし、今から零さん達と合流して……これをなのはさんに渡さないと」

 

 

ティアナは自分のポケットから取り出した銀色の腕時計…Kウォッチを見ながら呟く。

 

 

元々はなのはの持ち物なのだが、今回の潜入にて何が起きるか分からないからと、なのはが写真館を出る前に事前にティアナに渡しておいたのだ。

 

 

スバル「あ、そっか。でも零さん達の居場所は…」

 

 

ティアナ「それなら零さん達と別れた場所までいけば何とかなるでしょ…とにかく急ぐわよ!」

 

 

スバル「ん、わかった!」

 

 

仮にレジェンドルガが襲ってきても、ライダーの力さえあれば何とかなる。ティアナはもしもの為にとKウォッチを左腕に装着し、ヴィヴィオを抱えたスバルと共に自分達が来た道を戻って地下から抜け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、ヴィヴィオが捕まっていた部屋から離れた牢屋では……

 

 

こなた「───あれ? 今人の声が聞こえた様な…もしかして誰かいる!?おーい!!おーーい!!!」

 

 

地下牢の一番奥の牢屋にて、レジェンドルガ達との戦いで不覚を取り、捕まってしまっていたこなたがスバル達の声に気づいて扉を叩きながら大声を上げる。だが、既にスバル達は地下から脱出していた為にこなたの声は届いていなかった。

 

 

こなた「うう……どうしよう……このままじゃ……」

 

 

こなたは一瞬諦めてその場にしゃがみ込んでしまう。がその時……

 

 

―ドゴォォォンッ!―

 

 

こなた「ひょわああああっ!?な、なに?!」

 

 

突然前触れもなく牢屋の扉が突き破られ、慌ててこなたは扉の側から離れると砂埃が立ちのぼる扉の向こうを見た。すると砂埃の向こうから何かが牢屋の中へと入って来る。

それは……

 

 

進「こなた!無事か!?」

 

 

ゆたか「お姉ちゃん!大丈夫!?」

 

 

こなた「す、進!?ゆーちゃん!?」

 

 

牢屋の中に入って来たのは、こなたを救出しに魔界城に侵入した進とゆたかであり、思わぬ救援にこなたは目を丸くするのであった。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑦

 

 

地下に監禁されていたヴィヴィオを助け出したスバルとティアナは、零となのはがいる王座の間へと向かって城の廊下を走っていた。

 

 

スバル「ティア!本当に零さん達はこの先にいるの!?」

 

 

ティアナ「此処までずっと一本道だったから多分そうだと思うけど…!とにかく今はこの道を辿っていくしかないでしょ!」

 

 

二人は王座の間に向かって続いていると思われる一本道の長い廊下を走り続ける。暫く二人が廊下を走り続けていると、長い廊下の一番奥、他の部屋の扉に比べてやけに仰々しい王座の間の入り口である石造りの扉が見えて来た。

 

 

スバル「ッ!ティア!もしかしてあそこが…!」

 

 

ティアナ「えぇ!多分あの先に零さんとなのはさんが……スバル!このまま突っ込むわよ!」

 

 

スバル「うん!ヴィヴィオ、しっかり掴まってて!」

 

 

ヴィヴィオ「う、うん!」

 

 

スバルに言われ、ヴィヴィオはスバルの肩にがっちりと掴まる。それを確認したスバルはティアナと共に廊下を疾走して一気に扉へと向かおうとするが……

 

 

 

―ドゴオォォォォォッ!!!―

 

 

『……ッ!?』

 

 

突如、二人の目の前で廊下の壁が巨大な爆発を起こし二人は突然の出来事に思わず足を止めた。

 

 

辺りが黒煙に包まれる中、その壊れた壁の奥から数体のレジェンドルガ達と一人の少女が現れ二人の目の前に立ちはだかる。

 

 

その少女を見たスバルとティアナは目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

 

ティアナ「あ、貴方は…!?」

 

 

トーレ「──なるほど。地下からあれを持ち出したのはお前達だったのか。これは予想外の獲物が掛かったものだ」

 

 

二人の目の前に立ちはだかる少女……トーレは二人を睨みつけながら呟き、スバルとティアナも突然現れたトーレに戸惑いを隠せずにいた。

 

 

スバル「な、何でこんな所にナンバーズが…!?」

 

 

トーレ「何故?可笑しな事を訊く。此処は元々我々の塒なのだから何処にいようと不思議はあるまい。……まあ強いて言うなら、お前達が此処に来るのを待って待ち伏せしていただけだ。お前達がそれを助け出した後に取る行動は城から抜け出すか、あるいはあの二人を助ける為に此処まで来るかの二つだけだろう?お前達の行動はわかりやすいからな」

 

 

ティアナ「ッ…なるほど…最初から私達の行動はそっちに筒抜けだったわけね……」

 

 

ティアナは自分達の行動がばれていたの事に内心で毒づいたが、そこで彼女の中で一つの疑問が生まれる。

 

 

ティアナ「でも、だったら何でもっと早く私達を捕まえなかったのよ?そんな回りくどい事をしなくても、貴方達なら私達が城に侵入した時点で捕まえれたはずじゃ…」

 

 

そう、考えてみれば彼女達の行動は不自然だ。何故彼女達は二人の存在に気づいた時点ですぐに二人を捕まえなかった?それが気になったティアナが問い掛けると、トーレは何処か不服げな面持ちで肩を竦めた。

 

 

トーレ「確かに、本来ならすぐにお前達の捕まえられたはずだったが、お前達が城に来る前に城へ侵入した奴らがいてな。そいつ等を追っていたせいで今までお前達の存在に気づけなかった。私達がお前達の存在に気づいたのはお前達が地下からそれを持ち出した後だったからな」

 

 

スバル「?…私達以外の…侵入者…?」

 

 

どういう事だ?とトーレの言う自分達以外の侵入者という言葉に疑問符を浮かべるスバルとティアナだが、トーレはそれ以上は語らず、そんな二人に向けて手を伸ばした。

 

 

トーレ「まぁ、此処から先の話はお前達には関係ない事だ。……それより、それをこちらに渡してもらおうか?私達も今は忙しい身でな。お前達と遊んでいる暇はないんだ」

 

 

ヴィヴィオ「う…ッ」

 

 

トーレがそういうとヴィヴィオは怯えた表情を浮かべた。それを見た二人は互いに顔を見合わせると、目を閉じて顔を俯かせる。

 

 

トーレ「さぁ、早くしろ。大人しく渡すなら命だけは助けてやる。お前達もこんな所で死にたくは……」

 

 

ティアナ「――断らせてもらいます」

 

 

トーレ「……何だと?」

 

 

ティアナが俯かせていた顔を上げ、力強い表情でトーレに答えた。予想とは反対の答えにトーレは険しい表情を浮かべ、隣に立つスバルにも視線を向けるが、スバルもティアナと同様の表情でトーレを見据えていた。

 

 

スバル「私達はヴィヴィオを助ける為に此処まで来たんです!だから、貴方達にヴィヴィオを渡したりはしません!」

 

 

ティアナ「貴方達がまたヴィヴィオを利用しようとするのなら、私達は全力でヴィヴィオを守る!貴方達なんかに…ヴィヴィオは絶対に渡さないッ!」

 

 

ヴィヴィオ「お姉ちゃん……」

 

 

トーレ「……交渉決裂か……ならば仕方ないな……アースキバット!」

 

 

淀みのない眼差しを向ける二人にこれ以上の交渉は無駄と判断し、トーレが腕を掲げると何処からかアースキバットが現れてその手に握られ、同時にトーレの腰に黒いベルトが現れた。

 

 

トーレ「変身!」

 

 

アースキバット「変身!」

 

 

アースキバットが掛け声と共に黒いベルトの止まり木部分に止まると、トーレはアースへと変身していった。

 

 

アース『ドクターの望みにそれは必要不可欠だからな。返してもらうぞ……』

 

 

ティアナ「…ッ!スバル!下がってて!あいつ等は私が何とかする!」

 

 

スバル「えっ…?!で、でも大丈夫なのティア!?」

 

 

ティアナ「…本音言っちゃえばあんまり大丈夫じゃないけど…でもやるしかないでしょ!あんたやヴィヴィオの事は…私が任されたんだから!!」

 

 

ティアナはトランスに変身しようと、Kウォッチの画面下にある小さいボタンを軽く押す。すると時間を表示していた画面が切り替わって一つのエンブレムが浮かび上がりティアナは画面に表示されているエンブレムをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL HEAT!』

 

 

電子音声が鳴り響きティアナの腰が激しく輝き出してすぐにその輝きが徐々に治まっていった。だが……

 

 

ティアナ「……え?な、何これ!?なのはさんのベルトと違う…?!」

 

 

そう、輝きが治まると、ティアナの腰に装着されていたベルトはなのはが使っていたトランスドライバーではなく、赤と白のツートンカラーをした全く別物のベルトだったのだ。以前になのはが使っていたのとは違うそれを見てティアナは動揺してしまうが、右手にいつの間に何かが握られているのに気づき、自分の右手を見てみる。それは…

 

 

ティアナ「これ…ケータイ?」

 

 

ティアナの右手に握られていた物は、ティアナの腰に装着されているベルトと同じ色をしたケータイだったのだ。ティアナはそのケータイを開きケータイの画面を見ると、何故か自然と頭の中にそれの操作方法が浮かび上がっていく。

 

 

スバル「ティアッ!危ない!!」

 

 

ティアナ「ッ?!」

 

 

突然後ろからスバルの悲痛な声が響き、ティアナは慌てて前を向くと、目の前からレジェンドルガの拳が自分に向けて振りかざれていた。

 

 

『ヌゥアアアアッ!!』

 

 

ティアナ「くっ!」

 

 

―ドゴォンッ!!―

 

 

迫る拳を前に、ティアナは咄嗟に地面を転がる様にしてギリギリでかわし、レジェンドルガの拳は狙いを外して壁を突き破った。

そしてティアナはすぐに態勢を立て直してケータイを開くと、頭の中に浮かび上がった数字である8・1・0とボタンを入力し、最後にエンターキーを押した。

 

 

『Standing by…』

 

 

エンターキーを押すと電子音声が響き、ティアナはケータイを閉じてケータイを持つ右腕を空高く掲げる。

 

 

ティアナ「変身ッ!」

 

 

『Complete!』

 

 

高らかに叫びながらティアナがバックル部分にケータイをセットした瞬間、ティアナの全身を赤白いラインが駆け巡り、辺り一面が強い輝きに包まれていく。

 

 

アース『な、何?!』

 

 

スバル「ま、眩しいッ!」

 

 

その場にいた全員がその輝きに耐え切れず、目を背けた。すると次第にその輝きが治まっていき、全員が目を開いてティアナの方へと目を向ける。其処には……

 

 

アース『…ッ?!な、何だ…あれは?!』

 

 

スバル「…ティア…なの?でもあれって……トランスじゃない?!」

 

 

そう、スバルの言う通り、変身したティアナの姿はトランスではなく、赤と白のツートンカラーの装甲に黄色い光を放つH型の瞳。その姿は以前一度だけ零が変身したファイズや、キバの世界で戦ったカイザと同系統のライダーに見える。

 

 

これこそが、ティアナの変身した彼女専用のライダー、ファイズタイプの『仮面ライダーヒート』だ。

 

 

ヒート『こ、これは……何だかよくわからないけど、これなら!』

 

 

ヒートに変身したティアナは自分の姿に一瞬驚くが、全身から湧き上がる信じられない力で自信に満ち、アース達に向かって身構えた。

 

 

アース『ちっ、面倒な事に……お前達!すぐに奴等を消せ!絶対にドクターの下には向かわせるな!』

 

 

『ウオォオオオオオオオオオオ!!』

 

 

ヒートを見て危険と感じたアースがレジェンドルガ達に命令すると共に、レジェンドルガ達が一斉にヒートに向かって襲い掛かる。

 

 

ヒート『スバル!ヴィヴィオをお願い!』

 

 

スバル「……?!わ、分かった!」

 

 

未だ放心状態だったスバル達を下がらせ、ヒートは向かって来るレジェンドルガ達を迎え撃つ。

 

 

ヒート『ハアッ!セアッ!ハァッ!』

 

 

『グガァアアアッ!』

 

 

『グオォッ?!』

 

 

最初に飛び掛ってきたレジェンドルガの爪を掻い潜って避けながら背後から腰を蹴り飛ばし、続けて殴り掛かってきた個体の繰り出す拳を護身術の要領で捌きながら別のレジェンドルガにぶつけ合わせる。完全に相手の動きを読んだ体捌きで数の優劣差をものともしないヒートだが、

 

 

アース『ハアァァッ!!』

 

 

ヒート『ッ?!くっ!』

 

 

其処へアースが死角からヒートの隙を突いて蹴り技を打ち込み、ヒートは突然の攻撃に怯みながらもアースが放つ打撃技をかわしながら後退していく。

 

 

アース『どうした?!威勢のいい事を言っておきながら、この程度か!』

 

 

―ドゴオォオオオッ!!―

 

 

ヒート『ガハッ!』

 

 

スバル「ティア!?」

 

 

アースの強烈な回し蹴りが顔面に炸裂して吹っ飛ばされ、地面に倒れてしまうヒート。それを見て好機と見たレジェンドルガ達が一斉にヒートに襲い掛かる。

 

 

ヒート『クッ!甘くみないでよ…!こっちはまだ本気じゃないんだから!』

 

 

地面を転がってレジェンドルガ達の攻撃を避けながらすぐさま身を起こし、ヒートは左腰に装備しているHを模した形の武器……ヒートブレイガンを手に取り、ベルトのバックル部分に付いているミッションメモリーをヒートブレイガンに装填した。

 

 

『Redy!』

 

 

電子音声が響くと共に、ヒートはブレイガンの柄部分を掴んで二つに別ける。すると、二つに別かれたブレイガンに赤い光を放つ刀身が現れて双剣へと変わり、レジェンドルガ達に向かって一気に駆け出した。

 

 

ヒート『ハアァァァ!ハアァッ!!』

 

 

―ブォオオンッ!ザシュウゥッ!ザシュンッ!ザシュッ!―

 

 

『グアァァッ?!』

 

 

『ゴウゥッ?!』

 

 

舞うようにして双剣を振りかざし、すれ違い様に切り伏せてゆくヒートの剣舞を前にレジェンドルガ達は為す術もなく次々と吹っ飛ばされていく。

 

 

アース『貴様ァッ!』

 

 

ヒート『ふッ!セアァッ!』

 

 

―ブォンッ!ガキィイイッ!ザシュンッ!ザシュウッ!―

 

 

焦ったアースが再びヒートに向けて素早い打撃技を繰り出していくが、ヒートは左右横ステップでそれを避けながらアースの攻撃後に出来る隙を突いて双剣で攻撃していく。

 

 

アース『グッ!こ、こいつ?!』

 

 

ヒート『セアアァッ!!』

 

 

―ズバアァァッ!!―

 

 

アース『ぐあぁぁッ?!』

 

 

完全にこちらの動きを読んでるようにしか見えないヒートに驚きを隠せないアース。その隙を見逃さず、両手の剣でクロスを描くように放ったヒートの斬撃にアースも堪らず斬り飛ばされ、その隙に双剣を元の形のブレイガンに戻したヒートはバックル部分のケータイを開いてエンターキーを押していく。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

電子音声と共にヒートがケータイを閉じると、バックル部分から右腕に向かって伸びたスーツ上のラインを赤白い光が走り、右腕に到達した瞬間、ヒートはブレイガンの銃口をレジェンドルガ達に合わせトリガーを引いた。

 

 

ヒート『ハアッ!』

 

 

―バシュッ!バシュッ!―

 

 

『ガッ?!』

 

 

『なッ?!』

 

 

ブレイガンの銃口から放たれたエネルギーネット弾がレジェンドルガ達に直撃し、動きを封じる。

 

 

それを確認したヒートはブレイガンに刃を出現させて右手に構えると、ブレイガンの刃が一際赤い輝きを放ち、それと同時にヒートの目の前にHを模する光の紋章が現れ、ヒートは光の紋章と一体化して赤い閃光となり目にも止まらぬ速さでレジェンドルガ達に向かって突っ込んでいった。

 

 

ヒート『ハアァァァァァァッ!!ヤアァァッ!!』

 

 

―ズバァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!―

 

 

『『『ギッ……!!!?ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』』』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!―

 

 

赤い閃光となったヒートがレジェンドルガ達を一瞬の内に纏めて斬り裂き、成す術なく斬り裂かれたレジェンドルガ達は断末魔の悲鳴を上げて立て続けに爆散していった。

 

 

アース『なっ……馬鹿な?!』

 

 

目の前で起きた出来事にアースは信じられないと目を疑うが、ヒートはそんなアースに向けてブレイガンを構える。

 

 

ヒート『貴方の部下は全部片付いたわ。これ以上やるってんなら、こっちだって容赦は出来ないわよ』

 

 

アース『ッ!小娘がッ!』

 

 

アースは身を屈めてヒートと再び激突しようと踏み出し掛ける。その時……

 

 

クワットロ『──はーい、トーレ姉様?聞こえてます?』

 

 

アース『ッ!?クワットロ…!?』

 

 

ヒート&スバル『「……?」』

 

 

突然クワットロから音声通信が届き、アースはそれを聞いて足を止める。そんなアースの様子を見たヒートとスバルは不思議そうな表情を浮かべてアースを見据える。

 

 

アース『こんな時に何だ!今はお前と話ている暇はない!』

 

 

クワットロ『こっちだってちょっとヤバいんですよ~……実は城の中に侵入した奴らの正体……どうやら"あっち側のディケイド"だったみたいなんですよねぇ』

 

 

アース『ッ?!な、なに…!?』

 

 

"あっち側のディケイド"。それを聞いたアースは仮面越しに驚愕の表情を浮かべた。

 

 

クワットロ『今こっちの方であっち側のディケイド達と戦ってるんですけど…ちょっとまずい状況になってましてね。出来ればこちらへ援護に来てくれませんか?』

 

 

アース『くッ、それぐらい自分でどうにかしろ!こっちも今あれを持ち出した侵入者の相手をしているんだぞ!此処でコイツ等を逃す訳には…!』

 

 

クワットロ『でもこっちの方もドクターの大事な研究サンプルを持ち出したみたいなんですよ。それにそっちの侵入者達は今のところ城から抜け出すつもりはないみたいですし、そっちはドクターとウーノ姉様に任せても問題ないと思いますよ?』

 

 

アース『…………』

 

 

クワットロにそう言われ、アースは少し考える素振りを見せる。

 

 

アース『……分かった。今からそっちへ向かう。お前が今いる現在地を教えろ』

 

 

クワットロ『はーい。場所は――――』

 

 

アース『―――分かった。すぐにそちらへ向かう』

 

 

クワットロ『はぁい♪それじゃあお願いしますねー♪』

 

 

その言葉を最後にクワットロからの通信が切れ、アースは一度舌打ちをして何処かへ向かおうとする。

 

 

ヒート『ッ?!待ちなさいよ!あんた逃げる気?!』

 

 

アース『……逃げる?勘違いするな。お前達の相手をしている暇がなくなっただけだ』

 

 

アースはヒート達の方へと振り向くと右手を廊下の壁に向ける。それを見たヒートも思わず身構えた。

 

 

アース『この先に進みたいのなら好きにすればいい。だが、忠告はしておく。この先に進むのなら…覚悟は決めておけよ』

 

 

―バシュンッ!ドゴォォォッ!!―

 

 

ヒート&スバル『「?!」』

 

 

アースは廊下の壁に向けてエネルギー弾を放ち、辺りが爆風と黒煙に包まれアースの姿が目で確認出来なくなる。そして黒煙が少しずつ晴れていくと、其処には既にアースの姿はなく、彼女に破壊された巨大な壁の穴だけが残されていた。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑧

 

 

一方その頃、王座の間ではディケイドと人造レジェンドルガが攻防を入れ替えて激戦を繰り広げていた。人造レジェンドルガが繰り出して来る巨大な爪による攻撃をディケイドはライドブッカーで受け流しながら人造レジェンドルガに斬りかかり、人造レジェンドルガは両手の爪でそれを振り払い再び爪で攻撃するという膠着状態が続いていた。

 

 

ディケイド『チッ!ハアァッ!』

 

 

―ズバアァァンッ!!―

 

 

『グゥオォォッ!?』

 

 

そんな中で、ディケイドの放った一閃が人造レジェンドルガの脇腹にヒットし、不意を突かれた人造レジェンドルガはバランスを崩して吹っ飛ばされた。

 

 

なのは「よし……!今だよ零君!」

 

 

ディケイド『ああ、貰ったぁッ!』

 

 

一瞬のチャンスを逃さないと、ディケイドは態勢を立て直そうとしている人造レジェンドルガに向かって一気に駆け出し、ライドブッカーSモードを両手に構えて一刀両断に斬り裂いた

 

 

 

 

はずだった。

 

 

―ブオオォォンッ!!―

 

 

『グウウゥゥッ…』

 

 

『クヒャハハハハハ!』

 

 

ディケイド『?!何ッ?!』

 

 

なのは「ぶ、分離した!?」

 

 

そう、ディケイドが縦一閃に人造レジェンドルガを斬り裂いた瞬間、斬り裂かれた人造レジェンドルガの身体が二つに別れて同じ姿をした小柄なレジェンドルガ二体に分離してしまったのだ。驚いた様子のディケイド達を見て、スカリエッティは口元を吊り上げながらディケイド達に告げる。

 

 

ジェイル「ああ、言い忘れていたよ。実はそのレジェンドルガは分離体を持っていてね。もう一体のレジェンドルガを生み出して分離する事が出来るんだよ」

 

 

ディケイド『な…チィ!余計な能力を!』

 

 

ディケイドは毒づきながら二体の人造レジェンドルガが放ってくる攻撃をライドブッカーを使って防いでいくが、二体の左右同時攻撃に翻弄されて少しずつ押されていってしまう。そして…

 

 

『ヒャッハァーッ!!』

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

ディケイド『ガハッ!!』

 

 

『ヌアァッ!!』

 

 

―ガキィィンッ!!―

 

 

ディケイド『ぐッ?!ぐあぁぁッ!!』

 

 

なのは「零君ッ?!」

 

 

二体が繰り出した連携攻撃を防ぎきれず、ディケイドは吹っ飛ばされて柱に激突しその場に倒れてしまう。それでもディケイドはよろめきながらも何とか起き上がろうとしたが……

 

 

なのは「駄目ッ!逃げて零君!!」

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

悲鳴にも似たなのはの叫び。それを聞いたディケイドは慌てて目の前を見ると、二体の人造レジェンドルガ達が巨大な爪を振りかざして獣の如く飛び掛ってきていた。それを見たディケイドはこのまま態勢を立て直すのは無理だと判断し、倒れたままの状態でライドブッカーを構え何とかそれを防ごうとした。その時…

 

 

『Burst Mode!』

 

 

―バシュンッ!バシュンッ!―

 

 

『ギガアァッ?!』

 

 

『ギャッ?!』

 

 

ディケイド『……?!』

 

 

突如、その場に聞き慣れない電子音声が響き、それと同時にディケイドへ襲い掛かろうとした二体に複数の銃弾が直撃して王座の前まで吹っ飛ばしたのだ。突然の出来事にその場にいた全員がその銃弾の放たれた方、王座の間の入り口へと目を向けると、其処には……

 

 

ヒート『──よし、何とか間に合った!』

 

 

スバル「零さん!なのはさん!助けに来ました!」

 

 

ディケイド『お前ら……!』

 

 

なのは「ス、スバル?!それに……えっと…?」

 

 

王座の間の入り口から現れた二人、ヒートとスバルを見てディケイドとなのはは驚きの声を上げるが、なのははスバルの隣にいるヒートを見て誰だか分からず首を傾げ、ディケイドはティアナの姿がない事に気づきスバルと一緒にいるヒートを見て「まさか」と呟いた。

 

 

ディケイド『お前、もしかして……ティアナか?』

 

 

なのは「え?」

 

 

ヒート『あ、アハハ……えっと…その…あ、当たりで~すっ』

 

 

ディケイド『…当たりで~す…じゃないだろ?!一体なんだその姿は?!』

 

 

てっきりトランスの姿で助けに来ると思っていたのに、予想だにしてなかった全く別のライダーの姿で現れたティアナに思わぬ形で驚かされるディケイドに、ヒートは一度考える仕草を見せるが……

 

 

ヒート『あ、えーと……単に、Kウォッチを使ってトランスに変身しようとしただけなんですけど……そうしたら全然違うベルトが出て来てしまって……』

 

 

なのは「違うベルト?」

 

 

ヒート『はい…後は勢いで変身したらこうなって…それ以外の事はよく分からなくてっ…』

 

 

ディケイド『いきお……お前までそれか……』

 

 

キバの世界でトランスに変身した時のなのはと全く同じ答えに、ディケイドは思わず頭を抱える。すると……

 

 

ヴィヴィオ「……ママ?」

 

 

スバルの背中に抱えられていたヴィヴィオの目になのはの姿が映り、ヴィヴィオはすぐにスバルの背中から下りてなのはの下へと駆け寄った。

 

 

ヴィヴィオ「ママーッ!!」

 

 

なのは「え…?…ヴィヴィオ…?……ヴィヴィオッ!」

 

 

自分の下へ駆け寄って来るヴィヴィオの姿が目に映り一瞬我が目を疑ったが、それが本物のヴィヴィオだと気づいた瞬間、いつの間にか身体が勝手に動いてヴィヴィオの下へと向かって駆け出していた。ヒートとスバルはヴィヴィオを見送ると互いに顔を見合せて頷き、ヒートはブレイガンを構えて人造レジェンドルガ達に向かって駆け出した。

 

 

なのは「ヴィヴィオ!!」

 

 

ヴィヴィオ「ママ!!」

 

 

駆け寄った二人は抱き合い、互いの存在を確かめる様に強く抱きしめ合う。それが夢ではないと改めて感じるとなのはの双眸から次第に涙が溢れて来た。

 

 

なのは「よかった…本当によかったぁ……ごめんね、ママ、ヴィヴィオを助けにいけなくて…本当にごめんね…」

 

 

……今まではあまり表情には出していなかったが、やはりヴィヴィオを助けられなかった事で何処か自分を責めていた所があったのか、泣きながら何度もヴィヴィオに向けて謝るなのは。そんななのはの様子を見て、ヴィヴィオは彼女に見えない様に涙を拭き首を横に振った。

 

 

ヴィヴィオ「う、ううん!ヴィヴィオ、怖かったけど…でも泣かなかったよ!ママとパパ達が絶対助けに来てくれるって思ってたから…だから大丈夫だったよ!」

 

 

目を紅くし、なのはに満面の笑みを向けるヴィヴィオ。それを見たなのはも涙を拭いヴィヴィオに微笑みかける。するとそこへ、二人の様子を見守っていたディケイドが二人の下へと歩み寄りヴィヴィオの頭を撫でた。

 

 

ディケイド『そうか。強くなったな、ヴィヴィオ。えらいぞ』

 

 

ヴィヴィオ「?………………………パパ?」

 

 

ヴィヴィオが首を傾げながらそう呼び掛けると、ディケイドは「あぁ」と首を振って肯定した。

 

 

ディケイド『悪いな、この姿だと誰だかわかりづらいだろ?やっぱり、ちょっと変か?』

 

 

ディケイドが両手を広げながら苦笑し、流石に一度変身を解いて直接顔を見せるべきかと考えるが……

 

 

ヴィヴィオ「……」

 

 

なのは「ヴィヴィオ?」

 

 

ヴィヴィオ「……カッコイイ……」

 

 

『……え?』

 

 

何故か少し目を輝かせてディケイドを見つめるヴィヴィオに二人は呆気に取られ思わず間抜けな声を漏らしてしまった。その時……

 

 

ジェイル「──感動の再開は別に構わないが、お仲間の心配はしなくてもいいのかな?」

 

 

―ドゴォオオオオッ!!―

 

 

ヒート『うわぁッ!』

 

 

スバル「ティアッ!」

 

 

『「ッ?!」』

 

 

スカリエッティの言葉と共にヒートが三人の目の前にまで吹っ飛ばされ、その衝撃でヒートの変身の解除されティアナに戻ってしまった。

 

 

ディケイド『ティアナッ……!』

 

 

なのは「ティアナっ!大丈夫?!」

 

 

ティアナ「ッ……だ、大丈夫です……すみません、こんな……」

 

 

ディケイド『いや、気にするな。お前は充分によくやってくれた。後は俺となのはに任せろ。スバル、ティアナとヴィヴィオを頼む……!』

 

 

スバル「はい!」

 

 

ティアナ「なのはさん、後は、お願いします…」

 

 

なのは「うん、ありがとう。ティアナもゆっくり休んでて。ヴィヴィオ?少しの間だけお姉ちゃん達と一緒に隠れててね?」

 

 

ヴィヴィオ「……うん!」

 

 

優しく頭を撫でるなのはにヴィヴィオは笑って頷き返し、三人が下がるのを確認すると、なのははティアナから受け取ったKウォッチをを左腕に装着しKウォッチを操作して出た画面のライダーエンブレムをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

 

なのはは自分の腰にトランスドライバーを出現させると、ライドブッカーからトランスのカードを取り出す。

 

 

なのは「変身!」

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

トランスのカードをバックルにセットし、なのははトランスへと変身しながら左腰のライドブッカーをガンモードに変えて身構えていく。

 

 

ジェイル「ほぉ、これは面白い事になって来たね…」

 

 

変身したトランスを見て、スカリエッティは怪しい笑みを浮かべ再び片手を上げて指を鳴らした。すると二体の人造レジェンドルガ達がそれに応えるかの様に咆哮し、ディケイドとトランスに向かって飛び掛ってくる。

 

 

ディケイド『さて、大事な教え子と娘が見てるんだ。カッコ悪い所はみせられないな……!』

 

 

トランス『もちろん……!こっちも最初から全力全開でいくよ!』

 

 

ディケイドとトランスは互いに持つライドブッカーを構える、向かって来る二体の人造レジェンドルガ達をそれぞれ迎え撃ち戦闘を開始していった。

 

 

 

トランス『はあぁぁッ!』

 

 

―ズガガガガァンッ!!―

 

 

『グゥアァァ?!』

 

 

ディケイド『せぇああッ!!』

 

―ズバアァッ!!バキィイイッ!!―

 

 

『ギッ!ギャアアァ?!』

 

 

ディケイドとトランスは二体の人造レジェンドルガ達と一対一の戦闘に持ち込んで攻撃していく。状況はディケイドとトランスが優勢であり、二体の人造レジェンドルガは得意の連携による戦闘を封じられ二人の攻撃を避けながら後退していくしかなかった。

 

 

『ぬぅッ!ハアァッ!』

 

 

トランス『っ、え!?』

 

 

一対一では自分に勝ち目がないと思ったのか、トランスが相手をしていた人造レジェンドルガがトランスの頭上を飛び超え、そのままもう一体の人造レジェンドルガと戦っているディケイドに向かって襲い掛かった。

 

 

トランス『まずい……!零君、後ろッ!』

 

 

ディケイド『何?!グッ!』

 

 

背後から別の人造レジェンドルガに蹴り飛ばされ不意打ちを受けたディケイドは受け身を取ってなんとか態勢を立て直すが、二体はディケイドが身を起こすと共に左右から同時に襲い掛かった。

 

 

トランス『零君ッ!これ使って!』

 

 

それを見たトランスは自分の持つライドブッカーをソードモードに変え、ディケイドに向かって投げ付けた。

 

 

―パシッ、ガギィイイッ!!―

 

 

『『?!』』

 

 

ディケイド『ハアァァッ!!』

 

 

―ズバァアアアッ!!―

 

 

『グガァッ?!』

 

 

『ウァアアッ?!』

 

 

トランスから受け取ったライドブッカーSモードと、自分のライドブッカーSモードを両手に構え、左右から襲い掛かって来た二体のレジェンドルガ達の同時攻撃を両手のライドブッカーで弾いて斬り飛ばしていく。すると、吹っ飛ばされた二体は地面に倒れながら今のダメージによって元の一体に戻っていった。

 

 

『グゥゥゥ…グオオオオオォォォッ!!』

 

 

一体に戻った人造レジェンドルガはゆっくりと起き上がる。しかし、もはや自分では二人に勝ち目がないと判断したのか、自棄になったようにディケイドに向かってくる。

 

 

ディケイド『なのは!』

 

 

トランス『うん!』

 

 

ディケイドは振り向かぬまま、トランスのライドブッカーを後ろへと投げて人造レジェンドルガの攻撃を自分のライドブッカーSモードで受け流して斬りつける。そしてトランスはディケイドが投げた自分のライドブッカーを受け取ると、瞬時にガンモードへと切り変えてカードを一枚取り出した。

 

 

トランス『零君!』

 

 

ディケイド『あぁ!』

 

 

トランスの呼び掛けに答えながら、ディケイドは人造レジェンドルガを横一閃に斬り裂いてその場にしゃがみ込む。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

トランス『ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガァ!!―

 

 

『グゥッ?!』

 

 

ディケイドがその場にしゃがんだと同時に、トランスがライドブッカーGモードを人造レジェンドルガに乱射して怯ませる。そしてその隙にディケイドも一枚のカードを取り出してディケイドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

ディケイド『ハアァッ!!』

 

 

―ズバァアアアアアアンッッ!!!!―

 

 

『グガアアァッ!!!?』

 

 

電子音声と共に、ディケイドはライドブッカーSモードを両手で構え下段から人造レジェンドルガを斬り上げて吹っ飛ばし、その隙に二人は隣り合わせに立ち構えそれぞれ一枚ずつカードを取り出す。

 

 

ディケイド『決めるぞ、なのは!』

 

 

トランス『わかった!』

 

 

互いに呼び掛け合い、二人は自分のバックルにそれぞれカードをセットしスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE·DE·DE·DECADE!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:T·T·T·TRANS!』

 

 

重なり響き合う電子音声と共に、ディケイドとトランスの目の前にディメンジョンフィールドが展開されていく。そして二人は上空へ高く飛んでキック態勢に入ると、人造レジェンドルガに向かって一気にディメンジョンフィールドを突き抜けていく。

 

 

ディケイド&トランス『『ハァアアアアアアアアアアアアアッ!!!ダァアアアアッ!!!』

 

 

『ゥ……グガアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!?』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

最後のカードの残像を突き抜けたディケイドとトランスのWディメンジョンキックが同時に直撃し、人造レジェンドルガは断末魔の悲鳴を上げて爆散していった。

 

 

ディケイド『ッ……終わったみたいだな……』

 

 

トランス『う、うん…そうみたいだね…』

 

 

ディケイドとトランスが肩で息をしながら人造レジェンドルガが消滅した場所を見つめ、漸く一息吐く。すると物陰に隠れていたスバル達が二人の下に駆け寄って来た。

 

 

スバル「お二人共!やりましたね!」

 

 

トランス『うん、二人もありがとね。二人がいなかったら、ヴィヴィオを助ける事が出来なかったよ』

 

 

ティアナ「いえ、そんな…」

 

 

ヴィヴィオ「パパ~!」

 

 

ディケイド『おっと……大丈夫だったかヴィヴィオ?

さっきの戦いで怪我とかしなかったか?』

 

 

ヴィヴィオ「うん!大丈夫だった!」

 

 

ディケイド『そうか、ならよかった。……さて』

 

 

ディケイドは気を取り直し、王座に座っているスカリエッティを見つめる。

 

 

ディケイド『さぁ、お前の造ったご自慢の玩具は俺達が倒したぞ。お前はどうする気だ?』

 

 

ディケイドがスカリエッティに向かって問うが、スカリエッティは顔を俯かせたまま何も答えず、傍に控えるウーノも何も言わないスカリエッティを心配そうな表情を浮かべて見つめていた。

 

 

トランス『大人しく投降するなら、私達は貴方達に武器を向けません。武装を捨てて投降して下さい!』

 

 

トランスもこれ以上の戦いは望まないと、スカリエッティに説得を試みる。しかし……

 

 

ジェイル「……ふ、ふふふふふふ……」

 

 

ディケイド『……?』

 

 

ジェイル「ふははははははははははははははははは!!あッはははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

突如、スカリエッティは王座から立ち上がり、狂ったように笑い出した。

 

 

ディケイド『……一体何がそんなに可笑しい?』

 

 

ジェイル「ふ、くくく……いやなに、ただ単に君のその力を見て嬉しく思っただけだよ」

 

 

ディケイド『……嬉しいだと?』

 

 

ジェイル「そうさ!やはり私の予想通り…いや、私の予想を超えた力を君は持っていた!これを喜ばないでどうするというのだね!」

 

 

そう言ってスカリエッティは笑いながら王座から下り、ディケイド達に近づいていく。

 

 

ジェイル「君の力は私の睨んだ通り素晴らしいものだ!ああ……!やはりこの力を"彼等"に譲るなどもったいない!やはりどんな手を使っても必ず君を手に入れてみせるよ!」

 

 

ディケイド『……しつこい奴だなお前も。言ったはずだぞ、俺はお前の駒になる気なんてないって』

 

 

ジェイル「あぁ、それは分かっているさ。だから、私が自分の力で君を手に入れる。この…ダークライダーの力でね!」

 

 

トランス『…ダーク…ライダー?』

 

 

トランスがスカリエッティの言葉に疑問を抱いて首を傾げる。

 

 

ウーノ「ドクター!まさか…!?」

 

 

ジェイル「ウーノ、君は地下に行ってクワットロ達の手助けをしてやってくれ。私は彼らの相手をする」

 

 

ウーノ「…………。分かりました。どうかお気をつけて…」

 

 

ウーノはそういうと機械のモニターを操作する。するとウーノのいる床が下がっていき城の地下へと消えていった。

 

 

ジェイル「さて、これで思う存分暴れられる。今から君達に見せようじゃないか……私の新たな力を……アークキバット」

 

 

スカリエッティが片手を中空に掲げると、奇妙な白いコウモリが彼の下へと飛んで来た。

 

 

アークキバット「さぁ~行きますよ~。どろ~ん、どろ~ん」

 

 

ジェイル「変身…」

 

 

アークキバット「へ~んし~ん!」

 

 

気の抜けた掛け声と共に、アークキバットと呼ばれた白いコウモリがスカリエッティの周りを飛び回る。瞬間、スカリエッティの身体が宙に浮き、そしてアークキバットがスカリエッティの腹部にくっつくとスカリエッティの周りに一人のライダーの形をしたオーラが現れ、そのオーラが拡散すると、スカリエッティの身体を包み込んで一人の黒いライダーへと変身していった。

 

 

トランス『なっ……』

 

 

ディケイド『な、なんだ…これは…!?』

 

 

ディケイド達は変身したスカリエッティの姿を唖然とした表情で見つめる。その姿は前の世界でワタルが変身したキバと似ているが、身体の色は黒く、瞳の上の部分が角の様に伸びており胸部にカテナが巻かれている。だが、ディケイド達が一番驚愕したのはその黒いライダーの"巨体"だった。

 

 

スバル「あ、あれって…あれもライダーなの!?」

 

 

ティアナ「何よあれ…こんな大きさって反則じゃない!?」

 

 

そう、その黒いライダーの身長はディケイド達の倍以上はあったのだ。推測すれば恐らく3m以上はあるだろう。ディケイド達はスカリエッティの変身した黒いライダー、『仮面ライダーアーク』の巨体を前に思わず後退ってしまう。

 

 

アーク『さぁ!君の力をもっと私に見せてくれ、ディケイド!』

 

 

重々しいエコーが掛かったスカリエッティの声と共に、アークは地響きを鳴らしながらディケイド達にゆっくり近づいていく。

 

 

ディケイド『ッ……いいぜ。だったら此処でお前との決着を着けてやる!行くぞなのは!』

 

 

トランス『っ……うん!』

 

 

アークの巨体に圧倒されそうになるのを啖呵を切って振り切り、ディケイドはライドブッカーをソードモードに、トランスはガンモードに切り替えてアークと戦闘を開始していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑧(裏)

 

王座の間でディケイド達とアークが戦い始めたその頃…

 

 

―魔界城・廊下―

 

 

 

セカンド『ヤアァァァッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『グギャアァァァッ!!』

 

 

聖王『フェアリス!スピードを40パーセント削って、その分をアタックに!』

 

 

フェアリス「了承!」

 

 

聖王『ハアァァッ!!』

 

 

―ズバァァアアアンッッ!!!!―

 

 

『グガアァァァッ!!?』

 

 

アース『デリャアアッ!』

 

 

ディケイド(進)『グゥッ!セェアアッ!』

 

 

魔界城の廊下の一角。其処ではこなたを救出し城から脱出しようとしていた進達一行がクアットロ率いるレジェンドルガ達、そしてクアットロの援護に現れたアースと激戦を繰り広げていた。しかし、レジェンドルガ達の数が多過ぎる為にディケイド達は苦戦をしいられていたのだった。

 

 

セカンド『くっ、駄目…!コイツら全然減ってる気がしないよ!』

 

 

聖王『ッ!下がってゆたか!あまり前に出たら危ない!』

 

 

ゆたか「う、うん!」

 

 

クアットロ「ふふふ、随分と頑張るわね。でもそれもあとどれくらい持つか…」

 

 

セカンドに変身したこなたと聖王に変身したみなみがゆたかを守る様にしてレジェンドルガ達と戦っていくが、どんなに倒してもレジェンドルガ達の数が減っておらず、三人は徐々に壁際へと追い詰められていってしまう。

 

 

一方、三人から少し離れた場所ではディケイドに変身した進がアースとレジェンドルガ達を相手に単独で戦っていたが、あらゆる方向から仕掛けてくるレジェンドルガ達の攻撃にディケイドは苦戦してしまっていた。

 

 

ディケイド(進)『くそッ!コイツ等邪魔だッ!』

 

 

ディケイドは周りにいるレジェンドルガ達を払いのけながら毒づくが、レジェンドルガ達はそんな事はお構いなしにと次々とディケイドに襲い掛かっていく。

 

 

アース『そんな事を言ってる暇があるのか!!』

 

 

ディケイド(進)『うおッ!?チッ!お前もいい加減しつこいぞ!』

 

 

そんな中で、アースの繰り出す素早い打撃技がディケイドに襲い掛かりディケイドは何とかそれを回避していくが、周りにいるレジェンドルガ達の攻撃もある為に上手く避ける事が出来ない。

 

 

―ガクッ……!―

 

 

ディケイド(進)『グッ?!しまった!?』

 

 

その時、ディケイドは攻撃を避ける事に集中しすぎていた為に足がもつれてバランスを崩してしまった。

 

 

アース『ハアァァッ!』

 

 

ディケイド(進)『グゥッ!うわぁッ!!』

 

 

『進(さん)!!?』

 

 

その隙をアースのキックが襲い掛かり、ディケイドはセカンド達の目の前にまで吹っ飛ばされ、セカンド達は倒れたディケイドを見て思わず駆け寄った。

 

 

ゆたか「進さん!しっかりして下さい!大丈夫ですか!?」

 

 

ディケイド(進)『クッ、俺は大丈夫だ!それよりも…』

 

 

クアットロ「はーい。そこまでですよ、侵入者さん達?」

 

 

『?!』

 

 

クアットロの声にディケイド達は辺りを見渡した。其処にはクアットロとアース達が完全にディケイド達を包囲しており、ディケイド達はいつの間にか完全に壁際の方にまで追い詰められて逃げ道を無くしてしまっていた。

 

 

セカンド『や、やばいよ進!何処にも逃げ道がない!』

 

 

ディケイド(進)『くっ!』

 

 

完全に包囲されてしまったディケイド達は仮面越しに焦った表情を浮かべる。するとクアットロは一歩前に歩み出てディケイド達に語り掛ける。

 

 

クアットロ「さて、どうしますか、侵入者の皆さん?此処まですれば、貴方達が逃げる事は不可能だと思うけど?」

 

 

余裕な表情を浮かべるクアットロにディケイド達は何も言い返せず悔しい表情を浮かべていた。そしてクアットロはディケイド達に向けて更に言葉を続ける。

 

 

クアットロ「まぁでも、貴方達が持ち出したドクターの研究サンプルを返してくれるなら、命だけは助けて上げてもいいんだけど?」

 

 

クアットロがセカンドを見つめながらそう言うと、ディケイド達はセカンドを守るように前へ出た。

 

 

ディケイド(進)『ふざけんじゃねぇぞ!こなたはお前達の玩具なんかじゃねぇんだ!こなたを連れて行きたいなら、まず俺達を倒してからにしろ!』

 

 

ゆたか「進さんの言う通りです!貴方達なんかに絶対お姉ちゃんは渡しません!」

 

 

セカンド『進…ゆーちゃん…』

 

 

自分を守る為に仲間を売り渡せなど、そんな条件を呑むくらいならわざわざこんな危険な場所に潜り込んだりなんてしない。交渉決裂、クアットロは強情な二人を見るとやれやれといった表情を浮かべる。

 

 

クアットロ「ハァ~残念。あまり無駄な殺生はしたくなかったんですけどね~」

 

 

ディケイド(進)『チッ、何が無駄な殺生だ。散々俺達を殺そうとしやがったくせに…』

 

 

聖王『わざとらしいにも程がありますね』

 

 

明らかに芝居臭いクアットロの言動にディケイド達は苛立ちを覚えるが、クアットロは構わずに片手を掲げた。

 

 

クアットロ「まったく…せっかく最後のチャンスを与えたのに…本当に馬鹿な人間達ね」

 

 

アース『いい加減にしろよクアットロ…遊んでないでさっさと片付けろ』

 

 

クアットロ「ふふ、分かってますよ、トーレ姉様」

 

 

笑いながらアースに向けてそう言うと、クアットロは上げていた片手で指を鳴らした。するとレジェンドルガ達がディケイド達に向かってジリジリと歩み寄っていく。

 

 

セカンド『す、進…!どうすんの!?このままじゃ本当にやばいよ!』

 

 

ディケイド(進)『分かってる!けど…』

 

 

どんなに思考を巡らませてもこの状況から抜け出す方法が浮かばず、ディケイド達は焦りを浮かべて壁際の方へどんどん後退していく。その時、聖王が三人に小声で語り掛けて来た。

 

 

聖王(皆さん、少しいいですか)

 

 

ゆたか(え?みなみちゃん?)

 

 

ディケイド(進)(?どうしたんだ、みなみ?)

 

 

聖王(実は、この状況から脱出する方法が一つだけ考えついたんです)

 

 

セカンド(え?!本当に!?)

 

 

聖王(はい。ですが、その為にお二人の力が必要なんですが…)

 

 

ディケイド(進)(ここから逃げられるならなんだっていいさ、教えてくれ!)

 

 

聖王(わかりました。まずは……)

 

 

聖王は自分の考えた脱出法をディケイド達に教えていく。

 

 

ディケイド(進)(…成る程な。確かにそれなら此処から脱出出来るかもしれない…よし、やってみるか!)

 

 

『うん(はい)!』

 

 

セカンド達は力強く頷いてそう答えると、ディケイド達はクアットロ達の方へ振り向いた。

 

 

クアットロ「…あら?漸く抵抗するのを諦めたのかしら?」

 

 

抵抗を止めたディケイド達を見て嘲笑うクアットロ。それを見たレジェンドルガ達もディケイド達へ一斉に襲い掛かった。その時…

 

 

ディケイド(進)『こなた!今だ!』

 

 

セカンド『うん!』

 

 

ディケイドの呼び掛けに答えながら、セカンドはライドブッカーからカードを取り出してセカンドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:MIST!』

 

 

電子音声が響くとセカンドの身体から白い霧が発生して辺り一面に広がっていきレジェンドルガ達は驚いて足を止めた。

 

 

クアットロ「?これは…」

 

 

アース『霧…?ふん、下手な小細工を!』

 

 

発生した白い霧を見てアースは鼻で笑い、構わずにディケイド達へ突っ込もうと身を屈める。その瞬間……

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!SONIC SMASH!』

 

 

『Full Charge!』

 

 

『?!』

 

 

不意に白い霧の中で二つの電子音声が響き渡った。そして……

 

 

『ハアアアアァァァッ!!!』

 

 

―ドゴオオオオオオオォォォォォンッ!!!―

 

 

アース『グゥッ?!』

 

 

クアットロ「なっ?!」

 

 

『グオオォォッ!!?』

 

 

突然、辺りが物凄い爆風に包まれ周りを包んでいた白い霧も爆風によって吹っ飛ばされていき、周りにいたレジェンドルガ達にも爆風に混じって吹っ飛んで来た瓦礫が直撃して次々と吹っ飛ばされていった。

 

 

暫くすると、視界を埋めていた黒煙が徐々に晴れて視界が戻っていく。

 

 

クアットロ「ッ!やられた…!」

 

 

アース『ちぃ!探せ!まだそう遠くには行っていないはずだ!急げ!』

 

 

目の前には既にディケイド達の姿がなく、そこにあったのは逃げた痕跡と思われる巨大な穴の開いた廊下の壁だけが残されていた…。

 

 



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第四章/魔界城の世界⑨

 

―魔界城・王座の間―

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

ディケイド『ハァッ!!』

 

 

トランス『シュートッ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドォオオオオッ!!!!―

 

 

ディケイドとトランスの同時攻撃がアークの頭部に見事命中し、アークの上半身が黒煙に包まれる。しかし……

 

 

―……ブォオオオオッッ!!!!―

 

 

『『……なっ……』』

 

 

アークは自分の身体を包み込んでいた黒煙を片手で払って姿を現した。その姿には傷一つすらなく、正しく"無傷"だった。

 

 

アーク『どうしたのかね?君の力はこんな物ではないだろう!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

トランス『キャアッ?!』

 

 

ディケイド『ッ!クソッ!』

 

 

あれから約数十分。王座の間でアークと激戦を繰り広げていた二人だったが、どんな攻撃を仕掛けて幾ら打ち込んでも全く通用せず、二人は石柱すら意図も簡単に破壊するアークの必殺級の拳と蹴りを必死に避けながらアークに反撃していたが、スペック的にもアークの方が上な為か状況は明らかにディケイド達の方が不利に近かった。

 

 

アーク『ハアアァァッ!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオッッ!!!!!―

 

 

ディケイド『グァアアアアアアアッ!!』

 

 

トランス『きゃあああああああああッ!!』

 

 

―ガシャァアアアアンッッ!!!―

 

 

そんな状況の中で、アークの放った蹴り払いによってディケイドとトランスは勢いよく吹っ飛ばされ王座の間の石壁に叩きつけられてしまった。

 

 

ヴィヴィオ「パパッ!ママァッ!」

 

 

スバル「ヴィヴィオっ!行っちゃ駄目っ!危ないよっ!」

 

 

ティアナ「ッ…あいつ…なんてデタラメな強さなのよ…!!」

 

 

物陰からディケイド達の戦いをずっと見守っていた三人も、アークの圧倒的とも言える戦闘能力に驚愕し、それと同時にアークに恐怖を感じていた。

 

 

ディケイド『グッ…な、なのは…大丈夫か…?』

 

 

トランス『ぅ……う…うん…なん、とかっ……』

 

 

二人は苦しげな様子を浮かべながらも何とか起き上がろうとするが、アークから受けたダメージが半端なく大きかった為に身体がまったく言うことを聞かなかった。その時……

 

 

アーク『休んでいる暇があるのかね?』

 

 

『『ッ?!』』

 

 

不意に頭上から嘲笑うかの様な声が聞こえ、二人が慌てて上を見上げると、其処には二人に向けて右手を振りかざすアークの姿があった。

 

 

ディケイド『なのはぁッ!!』

 

 

トランス『きゃっ!!?』

 

 

―ドガァアアアアアアアアアアンッッ!!!!!―

 

 

直感的にまずいと感じたディケイドは動かない身体を無理矢理に動かしてトランスを抱え、ギリギリで振り下ろされたアークの拳を回避すると、狙いを外したアークの拳は床に直撃して巨大なクレーターを作り上げた。

 

 

トランス『ご、ごめん零君!大丈夫ッ?!』

 

 

ディケイド『っ、大丈夫だ……なのは、下がってろ……これで決着をつける……!』

 

 

このままでは自分達が敗れる。決着を焦ったディケイドはふらつく身体でトランスを退かして前に出ると、一気に勝負をつけるべくライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出してディケイドライバーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

電子音声が鳴ると同時にディケイドの目の前にディメンジョンフィールドが出現し、アークに向かって一直線に並んでいく。

 

 

ディケイド『ハァ…ハァ…ハァ……ハアァッ!!』

 

 

ディケイドは荒れた呼吸を一度整えると上空へと高くジャンプし、右足を突き出してディメンジョンフィールドを一気に潜り抜けていく。それを見たアークも左手を構えディケイドの必殺技を迎え撃つ。

 

 

ディケイド『ハアァアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

アーク『フッ…ヘアァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

ディケイドのディメンジョンキックとアークの拳が激しくぶつかり合い、火花を散らした。だが……

 

 

―ジジジジジィッ……!!!!ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

ディケイド『ぐぅ?!ぐあぁああああああああッ!!!』

 

 

トランス『ッ?!零君!!』

 

 

『パパ(零さん)!!?』

 

 

なんと、ディケイドの渾身の必殺技はアークの拳に打ち負かされ派手に吹っ飛ばされてしまったのだ。ディケイドはそのまま勢いよく激突する柱を幾つも破壊しながら吹き飛ばされて地面に叩き付けられ、そんなディケイドにアークが追撃しようとするが、トランスは倒れたディケイドを助ける為にアークに向けて横からライドブッカーGモードを乱射し、スバルとティアナも倒れたディケイドに駆け寄った。

 

 

スバル「零さんッ!しっかりして下さいッ!零さんッ!!」

 

 

ヴィヴィオ「パパ……!しっかりしてぇッ!」

 

 

倒れたディケイドの身を起こさせて必死に呼び掛けるスバル達。すると……

 

 

ディケイド『───……ッ…み、耳元で…騒ぐな…ちゃんと聞こえてるから……』

 

 

ティアナ「零さんっ……!よかった…」

 

 

掠れ掠れに話すディケイドの声を聞き、スバル達も一先ずホッと胸を撫で下ろした。そこへ、トランスがライドブッカーをアークに向けて乱射しながらスバル達の下へと後退していく。

 

 

トランス『みんな!!一旦外に出るよ!!此処だと場所が悪すぎる!!』

 

 

スバル&ティアナ「「ッ!はい!!」」

 

 

こんな狭い空間ではあんな化け物の相手をまともにする事は出来ない。何処か広い空間に出て戦わなければと考えたトランスはディケイドを抱え、スバル達と共に王座の間の入り口から出て逃走を開始した。

 

 

アーク『ふむ。成る程、場所変える気か…ウーノ、聞こえているかい?』

 

 

ウーノ『なんでしょうか、ドクター?』

 

 

アークの目の前に小型の電子モニターが現れ、地下にいるウーノの姿が映し出される。

 

 

アーク『私は今から彼らを追う。君は引き続き、クアットロ達と共に侵入者達の追跡を頼むよ』

 

 

ウーノ『分かりました……お気をつけて……』

 

 

その言葉を最後に電子モニターが消え、アークもディケイドと奪われたヴィヴィオを取り返す為にディケイド達の後を追って王座の間から出ていった。

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

アークが去った後の王座の間。王座の間に誰もいなくなると部屋の中心に突然銀色のオーロラが現れ、オーロラが晴れると、其処にはコートを着た一人の男が険しい表情を浮かべ佇んでいた。

 

 

「ちっ!スカリエッティめ…余計な事をせずにさっさとディケイドを始末すればいいものを!」

 

 

アークが去った後の入り口を睨み、零を始末しない彼のやり口に謎の男も忌々しげに毒づく。

 

 

「ディケイドの事を教えてやればすぐにこれか……やはり奴も所詮は出来損ないということか……それに完全に"奴ら"の言いなりとなっているようだ……哀れな男だな……ッ?!」

 

 

その時、謎の男は何かを感じ取り驚愕と困惑の入り混じった様な表情を浮かべながら辺りを見渡した。

 

 

「この感じは……まさか、"七柱神"の?!なぜ奴がこの世界に……仕方ない、此処は一度退くとしよう……」

 

 

何かを感じ取った謎の男はそれから逃げるようにして銀色のオーロラに包み込まれ、男の姿は其処から消えてしまっていた。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑩

 

 

月明かりが差す長い廊下。王座の間から脱出した零達は駆け足で廊下を疾走し城の外へと向かっていた。

 

 

ティアナ「なのはさん!次はこっちです!」

 

 

なのは「わかった!」

 

 

ティアナを先頭に、その隣をヴィヴィオを抱えたスバルが走り、二人の後ろを走るなのははティアナに返事を返しながら零の肩を担ぎ直して先を急ぐ。

 

 

零「ッ…悪い…なのは…」

 

 

なのは「ううん、私は大丈夫だよ。それよりも、零君こそ大丈夫なの?なんかさっきから苦しそうな顔してるけど…」

 

 

零の顔を見てみれば大量な汗を流し、顔色も青ざめていて呼吸も何処か荒く苦しそうに見える。零のその様子になのはは心配を拭えず問い掛けた。

 

 

零「いや…全然大丈夫だ、ホントに何とも―――――ッ!」

 

 

なのは「えっ?!ど、どうかした!?」

 

 

突然、急に身体を押さえて苦痛の表情を浮かべた零の様子を見てなのはが慌てて零をその場に座らせる。

 

 

しかしその時、零の身体に触れたなのはの手に生暖かい液状の物がこびり付いた。それに気づいたなのはは自分の手の平を見てみると、驚愕で息を拒んだ。

 

 

なのは「これって…血!!?」

 

 

そう、なのはの手に付いたのは生暖かい真っ赤な血だったのだ。それを見た瞬間、なのはは「まさか!」と何かに気づいて零の服を掴んだ。

 

 

零「ッ?!お、おい!やめ――」

 

 

―ガバッ!!―

 

 

なのはは零の制止を聞かず、強引に零の服を左右に引っぺ返した。

 

 

なのは「ッ!?こ、これッ……!?」

 

 

零の服の下の身体を見た途端、なのはの表情がどんどん青ざめて絶句してしまう。其処には、零の身体に巻き付いている包帯の上から大量の血が流れ出ていたのだ。包帯は既に血によって真っ赤に染まっており、端から見ても大量出血をしていると分かってしまう程ひどいものになっている。

 

 

なのは「れ、零君!!傷が!傷が開い、んぐぅッ?!」

 

 

零の怪我を見てなのはが思わず叫ぼうとしたが、零がなのはの口を手で押さえてそれを防いだ。すると、二人の先を走っていたスバル達がその様子に気づいて立ち止まり、二人の方へと振り向いた。

 

 

スバル「?二人とも、どうかしたんですかー?!」

 

 

零「いやっ、何でもない……!ちょっとつまずいただけだから気にするな!」

 

 

汗を流しながらも表情は変えずスバル達にそう答えた零は、なのはの口から手を離し、真っ赤な包帯が見えない様に服を元の状態に戻して壁を伝って歩き出す。なのはもそれを見ると慌てて零の身体を支え歩きながら、小声で零に問い掛けた。

 

 

なのは(零君っ、この怪我の傷…何時から…?!)

 

 

零(……最初は多分あのレジェンドルガと戦ってた途中で…此処までひどくなったのはスカリエッティと激突した辺り……だったかな……どうやら無理しすぎたせいで傷が開いちまったみたい……やれやれだ……)

 

 

ははは…と自嘲気味に苦笑する零。

 

 

なのは(笑い事なんかじゃないよ!!どうして!?どうしてこんなになるまで一言も言ってくれなかったの!?)

 

 

自分の身体の事をまるで他人事のように語る零になのはが怒りを露わにするが、その他にも自分には何も話してくれなかったことや零の怪我に気づけなかった後悔などがなのはの心を埋め尽くしていた。すると、零はそんななのはの様子を見た溜め息を吐いた。

 

 

零(俺が怪我の事を話したりしたら、どうせお前は俺が戦うのを止めたに違いないだろ……?それに、もしお前が俺の怪我の事を知った上で俺と一緒に戦っても、俺が余り無茶しないようにと今度はお前が無茶をする可能性だってあった……黒月さんの予想は外れていますか?)

 

 

なのは(そ……それは…)

 

 

零の言葉は全て的を突いており、なのははそれに否定も何も出来ず顔を俯かせてしまう。すると零は小さく溜め息を吐いて一度間を置くと、再びなのはに語り掛ける。

 

 

零(…今ヴィヴィオを守って戦えるのは俺達しかいないだ…だから…今は自分の事なんか考えてる暇はないんだよ…なのは)

 

 

なのは(そ、それは……そうかもしれないけど……でも!)

 

 

確かに零の言葉に間違いはないが、やはり納得が出来ずなのはは零に向けて訴え続ける。と、そこで零はヴィヴィオが心配そうな顔でこちらを見ている事に気づき、小さく笑いながらヴィヴィオに向けて手を振った。ヴィヴィオはそれを見て安心したのか笑顔を浮かべて零に手を振り返す。

 

 

零(悪い、なのは。もう決めたんだ。ヴィヴィオをアイツ等から守りきるまでは何があっても、何が起きても全力でヴィヴィオの為に戦うって……此処で戦わないと、多分俺は後悔すると思うから……だからお前が止めても、俺は戦う事を絶対に止めない……絶対にだ)

 

 

それは真摯の答え。

 

 

零は真剣な表情でなのはの目を見ながら断言した。

 

 

すると、そんな彼の目を見たなのはは何も言えなくなってしまい顔を俯かせてしまう。

 

 

なのは(ずるいよ零君は…そんな顔で言われたら…何も言えなくなっちゃうよ…)

 

 

彼は何時もそうだ。自分達がどんなに止めても、決して自分のやり方を曲げない強情な所……長い付き合いだから分かる。彼がこうなってしまえば何を言っても無駄だと。

 

 

零(……悪い…けど…)

 

 

なのは(……ううん、何も言わなくていいよ……零君の気持ちはちゃんと伝わってるから。だから私も、全力で零君やヴィヴィオを守るから……絶対に、零君を一人で戦わせたりはしないから……)

 

 

だから、彼女も自分の中で決めた決意を……何があっても、決して彼を一人では戦わせないと、彼と共に戦うという強い想いを零に告げた。そんななのはの言葉に零は一瞬呆気に取られたが、自然と笑みが浮かび上がる。

 

 

零(すまない……いや違うよな……ありがとう、なのは…)

 

 

なのは(あ…う、うんっ…)

 

 

苦しげな表情を浮かべながらも零はなのはに感謝して小さく微笑む。しかし、至近距離からそんな顔を見せられたなのはは自分の顔が熱くなっていくのを感じて俯いてしまい、そんな彼女の様子に零は「はて?」と小首を傾げる。と……

 

 

スバル「零さん!なのはさん!こっちの方に下へ続く階段がありました!!」

 

 

目の前からスバルの声が聞こえ、二人が目の前に顔を向けると、二人から数メートル先にいるスバル達が下の階へと続く階段の前に立って二人が来るのを待っていた。

 

 

零はそれに「すぐに行く!」と答え、なのはに支えられながら廊下の途中にある曲がり角の前を通ろうとした、その時……

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

零「……なっ?!」

 

 

なのは「キャッ?!」

 

 

「うおッ?!」

 

 

「ほわぁッ?!」

 

 

零となのはが曲がり角の前を通った瞬間、何かが急に飛び出して二人とぶつかり合い、その衝撃で二人と飛び出した何かは互いに吹っ飛ばされてしまったのだ。それを見たスバル達が驚きの声を上げながら、慌てて二人の下へと駆け寄った。

 

 

ティアナ「ちょっ!?大丈夫ですか二人共!?」

 

 

なのは「あいたたっ……う、うん、大丈夫っ…」

 

 

零「ぐっ、何なんだ一体!……ん?」

 

 

零は痛む身体を片手で押さえながら顔を上げると、目の前には自分達とぶつかったらしきカメラを首に掛けた青年と小柄な少女が尻もちを着く姿があった。

 

 

零(…………誰だ?)

 

 

ゆたか「──お、お姉ちゃん!進さん!大丈夫ですか!?」

 

 

こなた「いたたた…う、うん、ダイジョブ、ちょっと頭ぶつけただけだからっ」

 

 

みなみ「進さん、大丈夫ですか?」

 

 

進「痛ってぇ~…くそっ!今度は一体何なんだ!?」

 

 

尻餅をついていた青年と少女……進とこなたはパンパンッと服に付いた汚れを払って立ち上がり、自分達とぶつかった相手である零達に視線を向ける。すると、零達とぶつかった進とこなた、そして二人の下に駆け寄って来たゆたかが、なのは達を見て驚愕した。

 

 

進「な、なのは?!」

 

 

ゆたか「なのはさん!?何でこんな所にいるんですか!?」

 

 

なのは「……え?」

 

 

自分達とぶつかった相手の一人である進とゆたかにいきなり自分の名前に呼ばれて呆然とするなのはだが、進達はそんななのはの様子に気づかずになのはに詰め寄る。

 

 

進「お前…!家で大人しくしてろって言っただろ!?こんな所で何やってんだ!」

 

 

なのは「え?え?あ、あの……貴方たち、誰ですか?どうして私の名前を?」

 

 

こなた「?何言ってんのさ?…というか何でスバルとティアナ…ヴィヴィオまでここに…というかこの世界にいるわけ!?」

 

 

ヴィヴィオ「?」

 

 

スバル「へ?……って、ああ!?貴方確か、クウガの世界で陵桜学園で私達を問い詰めてきた高校生さん?!」

 

 

ティアナ「そ、それにそっちの子達、確かクウガの世界でグロンギに襲われてた…?」

 

 

みなみ「……?私達、が?」

 

 

こなた「はえ?な、何言ってんのっ?クウガの世界って、何で二人がその事……?」

 

 

ゆたか「それに私とみなみちゃんがグロンギに襲われてたって……私達、クウガの世界に行ったことはありませんけど……?」

 

 

ティアナ「え?で、でもだって……?!」

 

 

お互いに知ってる顔の筈なのに、何故か全く話が噛み合わず困惑してしまうスバル達とこなた達だが、すると……

 

 

―チョンチョン…―

 

 

進「……ん?」

 

 

不意に後ろの方から進の肩を何かが突き、進は思わず後ろの方へと振り返った。すると……

 

 

―カシャッ!―

 

 

進「ッ?!な…!?」

 

 

零「はい、一枚頂きました…っと」

 

 

「「「零(君・さん)!?」」

 

 

進が振り返ると、そこには何時の間にか進の至近距離に立ち自分のカメラで進を撮影する零がいたのだ。

 

 

進はいきなりの背後を取られた上に写真まで撮られて戸惑い唖然とした表情を浮かべ、零はそんな進の様子を見ても構わずに進の顔をカメラで撮影していく。

 

 

零「ほお、思ったよりいい顔するじゃないか……成る程、久方ぶりに良い被写体に出会えたかもしれんな……」

 

 

進の写真を撮っていく零はファインダーを覗きながら何度も顔を頷かせる。一方で写真を取られていた進は漸く我に返り、驚いた表情を浮かべたまま慌てて零から離れた。

 

 

進(何だこいつ…?!いつの間に俺の背後に回ったんだ?!気配も何も感じなかったぞ…?!)

 

 

気配を少しも感じさせずに自分の背後をとった零に向けて進は少し身構えると、自分を撮影し続ける零に問い掛けた。

 

 

進「お前…一体誰だ?こんな場所で何やってんだよ?」

 

 

零「?いや、誰、といきなり不躾に言われてもな……肩書きで良いのなら、天才カメラマンとかか?」

 

 

なのは「いや絶対違うから。本当にやめて。その肩書きが流行り出したら被害被るの絶対周りだから」

 

 

スバル(す、すごい真顔になってる……)

 

 

ティアナ(……そういえば、零さんの写真のクレーム対処で隊長陣の中じゃなのはさん達が一番苦労してたんだったわね……)

 

 

キリッと、若干キメ顔で天才カメラマンを自称する零になのはも横から本気でダメ出しするのを見て、スバルもティアナも六課にいた頃のなのは達の気苦労を思い出して何とも言えない顔を浮かべてしまう。

 

 

ゆたか「え、えーと……そ、それより、何でなのはさんが此処にいるんですか!?確か私達の家で留守番していたはずじゃ…!」

 

 

なのは「…へ?」

 

 

ゆたかが怪訝な表情を浮かべてなのはにそう問い掛けると、わりと本気でなのはにダメ出しされて若干落ち込んでいた零がそれを聞いて訝しげに眉を顰めた。

 

 

零「お前達の、家?…何だなのは、お前こいつらと知り合いだったのか?」

 

 

なのは「え?う、ううん、知らないよ?私もスバルも、知ってるのは其処の青髪の女の子だけだし……それ以外は初対面、だと思うけど……」

 

 

ゆたか「えっ?そ、そんな…どうして…?」

 

 

こなた「な、なにが、どうなってんの?」

 

 

まったく噛み合わない会話になのはとゆたか達は訳が分からないといった表情を浮かべて困惑してしまうが、零は「ふむ」と顎に手を添えて思案し、進達の顔を見回した。

 

 

零「というか、お前達の方こそ一体誰何なんだ?何でなのは達の事を――」

 

 

 

―……ゴォン……―

 

 

 

零「……ん?」

 

 

 

零が進達の正体を聞き出そうとしたその時、不意に自分の立っている足元が一瞬揺れたような気がした。零は「なんだ?」と疑問を感じて進に視線を向けると進も……いや、進だけではなく、なのは達やこなた達も自分の足元を見て怪訝な表情を浮かべていた。その時……

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!―

 

 

零「ぐぅあああッ!!?」

 

 

進「うわあああッ!!?」

 

 

『零君(さん・パパ)!?』

 

 

『進(さん)!?』

 

 

突如、零と進の間を割るように床が巨大な爆発を起こしたのだ。零と進は突然の出来事に対処できず、爆風によってなのは達とこなた達の目の前まで吹っ飛ばされてしまった。

 

 

こなた「進?!ちょっ大丈夫!?」

 

 

進「クッ!今度は一体何なんだよ!?」

 

 

なのは「零君?!大丈夫!?」

 

 

零「ぬぉぉぉぉっ……!くそッ!次から次へと何だ!?今ので若干傷に響いただろ!?」

 

 

地面に倒れた二人はなのはとこなたに支えられて立ち上がると、先程まで自分達が立っていた場所を見て驚愕した。

 

 

進「な、何だよコレ?!」

 

 

零「これは…!」

 

 

そこには、零達と進達の間に境界線を張ったかのように廊下が粉々に割れて地割れを形作ってしまっていたのだ。出口に続いている廊下には進達が、その反対側には零達がいる為、零達は今まで向かっていた出口からの脱出が出来なくなってしまったのだ。

 

 

スバル「ちょっ?!コレってやばいよ!?」

 

 

ティアナ「私達が知ってる出口はこの先なのに…これじゃ城から脱出できない…!」

 

 

道を遮られて脱出ができなくなってしまった零達は焦りを浮かべる。その時…

 

 

『……以外と簡単にこちらの策に嵌まってくれたな』

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に進達の後ろから声が聞こえ、進達は後ろへと振り返った。そこには…

 

 

進「お前は?!」

 

 

零「トーレ?!」

 

 

そこにはいつの間にか、数体のレジェンドルガ達を引き連れたアースが進達の後ろに立ち構えていたのだ。進達は急いで自分達のバックルを取り出そうとしたが、それよりも早くアース達が進達を捕らえて動きを封じた。

 

 

ゆたか「きゃあッ?!」

 

 

みなみ「ゆたか?!」

 

 

進「くっ!?離せこのっ!!」

 

 

こなた「はーなーしーてー!」

 

 

アース『悪いがそうはいかない。お前達の相手は私達がする事になってるいるんでな。場所を変えさせてもらうぞ!』

 

 

進「何?!うわぁぁぁ!!」

 

 

アース達は進達を無理矢理連れて廊下の壁を突き破り、そのまま外へと飛び出して進達を何処かへと連れ去っていってしまった。

 

 

スバル「れ、零さん!あの人達が!」

 

 

零「クッ!仕方ないか…!なのは!」

 

 

なのは「うん!」

 

 

『RIDER SOUL TRANCE!』

 

 

取りあえず今は進達の救出を最優先にしなければと思い、零はディケイドライバーを懐から取り出して腰に装着し、なのはもKウォッチを操作してトランスドライバーを腰に出現させると二人はライドブッカーからカードを取り出そうとした。だが…

 

 

―ドゴオォンッ!ドゴオォンッ!―

 

 

『!?』

 

 

突如零達の周りに砲撃のようなものが放たれ、零達はその砲撃が放たれた方向へと振り向いた。そこには……

 

 

アーク『ふふふ…漸く見つけたよ、黒月零君!』

 

 

零「?!スカリエッティ!?」

 

 

なのは「そんな?!こんな時に…?!」

 

 

そう、其処には零達がいる廊下の向こう側から、巨大な振動を響かせる歩みと共にこちらへと近付いて来るアークの姿があったのだ。アークの姿を見た零は険しい表情を浮かべてアークを睨みつける。

 

 

零「くそっ!今お前の相手をしてる暇はねぇんだよ!行くぞなのは!」

 

 

なのは「ッ!わかった!」

 

 

逃げ道を無くし、進達が連れ去られた上に最悪の敵の出現という状況に零達は内心焦ってしまうが、とにかく今は戦わなければと、零となのははそれぞれのライドブッカーからディケイドとトランスのカードを取り出した。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

バックルにカードをセットすると零はディケイドに、なのははトランスへと変身した。そして二人はアークに向かって駆け出し、自分の腰にあるライドブッカーをソードモードに切り替えるとアークに飛びかかって斬りかかる。だが…

 

 

―ガキィィンッ!―

 

 

トランス『くっ?!』

 

 

ディケイド『ちぃ!』

 

 

二人が振り下ろしたライドブッカーの刃はアークが素手で軽々と受けて止めてしまい、アークはそんな二人を見て深い溜め息を吐いた。

 

 

アーク『やれやれ、まだ分からないのかな?君達では私には勝てないと………絶対にねぇええええッッ!!!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

ディケイド『ぐああっ!!!』

 

 

トランス『うぁああっ!!!』

 

 

『零さん!?なのはさん!!』

 

 

ヴィヴィオ「ママ!パパ!」

 

 

アークがライドブッカーの刃を掴んだまま二人を廊下の壁に向かって思いっきり投げつけ、ディケイドとトランスはそのまま城の壁を突き破って外へ吹っ飛ばされてしまい、アークも二人が突き破った壁を通ってディケイド達を追いかけていった。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑪

 

 

魔界城から少し離れた場所にある広々とした荒れ地。其処では、アース達によって城の外へと連れ出された進達とその進達に襲い掛かるアースとレジェンドルガ達の姿があった。

 

 

『ヌァアァッ!』

 

 

こなた「うわっ!!」

 

 

進「グッ?!クソッ!」

 

 

アース『フンッ!ハアッ!』

 

 

六体のレジェンドルガ達とアースに包囲され、逃げ道を無くした進達はあらゆる方向から襲い掛かるレジェンドルガ達の攻撃を何とかギリギリ避け続けていた。だが、休む間もなく次々と襲い掛かるレジェンドルガ達によって進達は変身をする暇もなく、攻撃をよける事しか出来ずにいた。そして…

 

 

アース『ハァアアッ!』

 

 

―バキィッ!ドゴォッ!―

 

 

進「ガハッ?!グッ!!」

 

 

ゆたか「進さん!?ウアッ?!」

 

 

みなみ「ゆたか!ウグッ!?」

 

 

不意を突かれてアースとレジェンドルガ達の攻撃が進達に襲い掛かり、進達は広場の中心にまで吹っ飛ばされてしまった。四人は何とか傷付いた身体を起こすが、目の前からレジェンドルガ達がジリジリと進達へ迫って来る。進達はそれを見て怪我した箇所を片手で抑えながら立ち上がって後退していく。

 

 

進「ハァ…ハァ……こ、これはちょっと……いや、かなりヤベェな……」

 

 

こなた「ハァ…ハァ…そ、そうだね…」

 

 

進達の表情には既に余裕なんて物は残されていなかった。身体中が傷だらけ、衣服も所々擦り切れており、その姿を見ただけで相当のダメージを負っていると分かる。とそこへ、進達の目の前にいるレジェンドルガ達の間を一人の少女が通り抜けて現れ、現れた少女…クアットロは進達の姿を見てほくそ笑んだ。

 

 

クアットロ「あらら、ぶざまな格好♪そんなボロボロになってもまだ戦うつもりなんてね~。まぁ、人間にしては中々の根性を持ってるじゃない?」

 

 

進「チィ!またお前か!」

 

 

みなみ「ッ!本当にしつこい人ですね…!」

 

 

進とみなみは再び現れたクアットロを睨みつけるが、クアットロはそんな二人の眼差しに気にも止めず言葉を続けた。

 

 

クアットロ「さあて、これからどうするのかしら…?変身も出来ないんじゃさっきみたいに逃げる事は不可能。その身体で私達から逃れる事も不可能に近い。…完全に手詰まりなんじゃないかしら?」

 

 

『くッ!』

 

 

反論しようにもクアットロの言葉は的を突いている為に何も言い返せない。変身しようとすればレジェンドルガ達が邪魔をするし、生身の身体のままではレジェンドルガ達に対抗出来ない。

 

 

クアットロの言う通り完全に手詰まりとなった状況の中で、進達はこの状況から脱出する方法は何か無いかと必死に思考を巡らましていく。とそこへ…

 

 

―ドゴォオォォォッ!!!―

 

 

零「ぐぁあああッ!!」

 

 

なのは「きぁあああッ!!」

 

 

『?!』

 

 

突如、その場に悲鳴が響き渡り、その場にいる全員がその声が聞こえた方へと振り向く。すると、そこには森林の中から吹っ飛ばされて来た零となのは、そしてその二人を追い掛けて森林の中から飛び出して来たスバル達が倒れている二人の下へと駆け寄ってくる姿があった。

 

 

ゆたか「あれって…なのはさん達と城の中で会った男の人?!」

 

 

進「な、何でアイツ等がこんな所にいるんだ?!」

 

 

突然現れた零達に驚きの声を上げる進達。

 

 

ヴィヴィオ「ママ!パパ!」

 

 

ティアナ「二人共!しっかりして下さい!」

 

 

なのは「…ッ…み、みんな…!」

 

 

零「クッ!…ば、馬鹿…!早く逃げろ!ここにいたらお前等も…『他人の心配をしている余裕があるのかね?』…ッ?!」

 

 

零の言葉を遮るように森林の方から声が響き、零達は森林の方へと振り向くと、森の中にある木々が次々と倒れていき、その中からアークがゆっくりと姿を現して零達に迫って来た。

 

 

ゆたか「な、何あれ?!」

 

 

進「で、でかすぎるだろう?!なんだよあいつは?!」

 

 

現れたアークを見た進達も、その姿の大きさに思わず驚愕してしまう。

 

 

みなみ「い、泉先輩…あれは一体…?!」

 

 

こなた「そ、そんな…あれって、アーク?!キバの映画に出て来た巨大ライダーだよ!」

 

 

進「あ、あれもライダーかよ?!いくらなんでも体格がおかしいだろ?!」

 

 

明らかに限度を越えているアークの巨体に進達は驚きと戸惑いを隠せずいる。そんな中で、アークは倒れている零達にゆっくりと近づいていき零達もアークが近づく度に身体を引きずって後退していく。

 

 

アーク『もういい加減諦めたまえ零君。君は私の下に来るに相応しい人材だ。このような場所で散っていい存在ではないのだよ。さあ、大人しく君の娘と共に私の所に来るんだ!』

 

 

零「…ッ…うるせぇよ…何度も言わせるな…俺はお前の駒になるつもりも、ヴィヴィオをお前のくだらない目的の為なんかに渡すつもりもないッ!!」

 

 

アークに向かって叫びながら零は再び立ち上がり、ディケイドに変身しようとディケイドライバーとライドブッカーを取り出した。だが……

 

 

アーク『そうか…ならば仕方がない……ハアッ!』

 

 

―バシュウウウウッ!!!―

 

 

零「?!な、何?!」

 

 

零がディケイドライバーを腰に装着しようとした瞬間、アークが零に片手を向けて黒いエネルギー波を放ち、ディケイドライバーとライドブッカーが零の手から勝手に離れてアークの手に握られた。

 

 

スバル「れ、零さんのベルトが……?!」

 

 

 

なのは「そんな……!」

 

 

アーク『ククク…どうするかね零君?これで君は変身が出来ない…戦う力を失った君が私に敵うはずもない…君の負けだ!』

 

 

零「チィッ……!」

 

 

奪ったディケイドライバーとライドブッカーを零に見せつけながら煽るアークに零も思わず舌打ちしてしまう。一方で、その光景を見ていた進達はアークの手に握られているディケイドライバーとライドブッカーを見て驚いていた。

 

 

みなみ「あれは…ディケイドライバーとライドブッカー?!」

 

 

ゆたか「な、何であの人が進さんのベルトを持ってるんですか?!」

 

 

こなた「進…!もしかして廊下でぶつかった時に取られちゃったとか?!」

 

 

進「い、いや、俺のバックルとカードはちゃんと此処にあるぞ…?」

 

 

進はそう言って自分の懐からディケイドライバーとライドブッカー取り出しそれをこなた達に見せる。

 

 

こなた「あ、あれ?何で?」

 

 

ゆたか「進さんがコレを持ってるなら…何であの人があれを…」

 

 

進「…何がどうなってんだ…アイツは一体…?」

 

 

なぜ進の物と同じディケイドライバーとライドブッカーを零が持っているのか。進達はアークの手に握られているディケイドライバーとライドブッカー、そして零を見て訝しげな表情を浮かべていた。だが…

 

 

アース『敵を目の前にしてよそ見とは、随分と余裕だな』

 

 

『ッ!?』

 

 

背後からアースの声が聞こえ、進達が慌てて振り返ると、其処にはアースとレジェンドルガ達が進達に片手を向けてエネルギーを集めている姿があった。

 

 

進「!?ヤベェ!」

 

 

身の危険を感じた進達はそれを回避しようとアース達から離れようとする。だが、時は既に遅く…

 

 

『ハァアッ!!』

 

 

―スドドドドドドドドッ!!ドゴォオオオオンッ!!―

 

 

『ウァアァァァァァアッ!!?』

 

 

アース達の放ったエネルギー弾がマシンガンの如く放たれ、進達は爆風と共に別々の方向へと散って吹っ飛ばされていき、その攻撃によって発生した爆風が離れた場所にいる零達にも襲い掛かった。

 

 

零「こ、これは…?!」

 

 

ティアナ「こ、今度は一体なんなのよ?!」

 

 

スバル「ゲホッ!ゲホッ!うぅ…何にも見えない……!」

 

 

状況を確認しようと辺りを見回す零達だが、周りは黒煙に包まれている為に何が起きたのか分からず混乱してしまう。更に……

 

 

―シュウゥゥゥゥゥ…ズドォオオオオォォォーーンッ!!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァアッ?!!」

 

 

突如、黒煙に包まれる中で零達の後ろから砲撃のようなエネルギー弾が向かって来て、零達は反応が遅れてそれをかわせずに直撃して吹っ飛ばされてしまう。零は空中で何とか態勢を立て直して着地し慌てて辺りを見回した。すると…

 

 

ヴィヴィオ「キャアァァッ!」

 

 

零「?!ヴィヴィオ!!?」

 

 

黒煙の向こうからヴィヴィオが吹っ飛ばされて来るのが目に映り、零は慌てて地面に墜ちようとしていたヴィヴィオを自分の身体をクッションにして受け止めた。

 

 

ヴィヴィオ「わっ?!パ、パパ…?」

 

 

零「大丈夫かヴィヴィオッ!?何処か怪我とかしてないか?!」

 

 

血相を変えてヴィヴィオに怪我がないか問い掛ける零にヴィヴィオは大丈夫だと頷き、零はホッと胸を撫で下ろしてヴィヴィオを地面に下ろし、未だ黒煙に包まれている辺りの景色を見渡して他のみんなを探す。

 

 

零「クソッ……!なのは達は何処だ……?!アイツらも無事なんだろうな!?」

 

 

零は黒煙の中を見渡して必死になのは達の姿を探すが、この黒煙が視界を邪魔している為に中々みつからない。暫くその場でなのは達を探していた零だったが、遂にジッとしている事が出来なくなりその場から動こうとした。その瞬間…

 

 

―ドォオンッ!―

 

 

零「おわぁっ!?」

 

 

「なぁっ?!」

 

 

突然後ろから何かがぶつかり零はその衝撃でバランスを崩しかけたが何とかその場で踏ん張ると後ろに振り返ってヴィヴィオを守るように立ち構える。振り返った先には黒煙の向こう側でうごめく一つの影があった。

 

 

零(チッ!こんな時に一体何だ!?レジェンドルガか…トーレか…まさかスカリエッティとかじゃねぇだろうな…!)

 

 

頭の中に浮かび上がる嫌なビジョンを振り払うように軽く頭を横に振ると、黒煙の向こうで側でうごめく影を睨みつけながら右拳を岩のように硬く握る。すると黒煙は徐々に薄れて目の前の景色が目で見えるようになっていく。そこにいたのは…

 

 

零「…ッ?!お、お前は…?!」

 

 

進「…?!お前、さっきの…?」

 

 

其処にいたのは、自分と同じようにボロボロの姿で身構えている進だった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方、零達から離れた場所にある大木の陰では…

 

 

「…ちっ!今ので仕留められなかったとは…しくじったか…!」

 

 

其処には王座の間で姿を消したはずの男が、零と進を険しい表情で睨んで悔しそうに唇を噛み締めていた。どうやら零達を狙っていた先程の攻撃は彼が仕掛けた物だったらしい。

 

 

「元道進…お前もいずれは全てを破壊する存在だ…。この世界のディケイドと共に始末してくれる!」

 

 

謎の男がそう呟くと共に男の背後に銀色のオーロラが現れ、オーロラが晴れると、其処には青い瞳に金色の装甲、カブトムシを連想させるような姿をした一人のライダーがその場に現れ左手に持つ青い薔薇を遠くにいる零と進の姿に重ね合わせていた―――。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑫

 

謎の男とアース達によって仲間達と逸れてしまった零と進、そしてヴィヴィオ。そんな中で、彼等は思いもよらぬ形で再会を果たしていた。

 

 

零「お前、なんで此処に…というかこんな所で何やってんだ!?」

 

 

先程城の中でアース達に連れ去られたはずの進が何故此処にいるのか、一先ず適当な岩陰に進と共に身を潜めた零の疑問に、進は小さく溜め息を吐いて答える。

 

 

進「何でも何もない。俺達はあの後ここに連れて来られて、あの怪物達と……それと気持ち悪い笑い方をする眼鏡の女に一方的にやられてたんだよ」

 

 

零(…眼鏡の女?…ああ、クアットロの事か…確かにアイツの笑い方は苛つく上に気持ち悪いからな…分かりやすい上に共感出来るわ…)

 

 

バツが悪そうに言う進の言葉に納得して頷く零だったが、進の周りを見て一つ疑問を感じ首を傾げる。

 

 

零「? なあ、お前と一緒にいた子達はどうした?確かあの子達もお前と一緒に連れていかれたはずじゃ…」

 

 

そう、アース達に連れていかれた時に進と一緒にいたはずの少女達……こなた、ゆたか、みなみの三人の姿が何処にも見当たらず尋ねると、進は再び溜め息を吐きながら額に手を当てて答える。

 

 

進「ちょっと訳ありでな。さっき言った怪物達のせいで皆とはぐれちまったんだ。それで皆を探していた時に此処でお前と会った。そんな所だ…そういうお前は?」

 

 

零「…俺もお前と似たようなもんだ。いきなり攻撃されて、その時に俺達は皆と逸れ、あいつ等を探していたところにお前が現れた……って所だ」

 

 

互いの経緯を簡単に纏めて話すと二人は辺りを見回し、零は進を横目で見ながら口を開く。

 

 

零「それで、さっきは聞きそびれたからもう一度聞くが…お前一体誰だ?せめて名前だけでも教えてくれるとこっちも色々と助かるんだが」

 

 

進「……気にするな、ただの通りすがりだ。呼びたければ好きなように「そうか……じゃあ仏頂面で」元道進だッ!!!」

 

 

かっこよく決めようとした瞬間に絶対に呼ばれたくない名前を出され、進は咄嗟に振り返って改めて名を名乗った。

 

 

零「元道進か…いい名前じゃないか。俺は黒月零。まあ、お前の言葉を借りれば同じくただの通りすがりだ。それでこっちが……ヴィヴィオ、おいで」

 

 

ヴィヴィオ「う、うん」

 

 

先程から零の後ろに隠れていたヴィヴィオを前に出すとヴィヴィオは進の前に立ちペコッと可愛らしく頭を下げた。

 

 

ヴィヴィオ「えと…ヴィヴィオです。はじめまして」

 

 

少し照れた様子で丁寧にお辞儀をするヴィヴィオ。だが……

 

 

進「………え?……はじめ…まして……?」

 

 

ヴィヴィオ「…?」

 

 

零「?どうした元道?」

 

 

ヴィヴィオが進に挨拶をした瞬間、進は衝撃を受けたような表情を浮かべ、零とヴィヴィオは「?」と頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる。すると固まっていた進が漸く我に返り戸惑った様子でヴィヴィオに問い掛けて来た。

 

 

進「ちょ、ちょっと待て?!ヴィヴィオ!何ではじめましてなんだ?!俺の事忘れたのか?!!」

 

 

ヴィヴィオ「え?え?」

 

 

零「おい、ちょっ、落ち着け元道!!どうしたんだ急に?!」

 

 

戸惑った様子でヴィヴィオに問い詰めて来る進を後ろから羽交い締めにして落ち着かせようとする零。すると進は何かに気づいたようにハッと声を上げて零の方に振り返った。

 

 

零「お、おい?どうした?そんな怖い顔をして…ウグゥッ?!ま、待て元道!落ち着け!何で首を締め…ってか苦しい!苦しいって!首が締まって!呼吸がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

進「やかましい!!お前の仕業か!?何か色々とおかしいと思ったら全部お前の仕業だろッ?!なのは達に一体な・に・を・し・た!?全部吐けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

零「い、意味が…分からな……ちょっ!堕ちる堕ちる堕ちる堕ちる!!!本当に堕ちる!!!!!」

 

 

零の首をガッチリと締めて問い詰める進だが、呼吸ができない今の零にそんな問いに答えられる余裕があるはずもなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

一方その頃…零達のいる場所から少し離れた所では…

 

 

こなた「進ー!進ー!何処にいるのー!?」

 

 

ゆたか「進さん!いるのなら返事をして下さい!進さん!」

 

 

先程の攻撃によってバラバラに散ったこなた達三人は何とか合流出来たのだが、肝心の進の姿が見つからず、三人は未だ見つからない進を探して黒煙の中を駆け回っていたのだ。

 

 

みなみ「泉先輩!ゆたか!駄目です、こっちにもいません!」

 

 

ゆたか「……進さん。一体どこに行ったんだろ…無事だといいんだけど」

 

 

こなた「…進ならきっと大丈夫だと思うけど、ここまで探しても見つからないんじゃちょっと心配だよね…よし!次はあっちを探してみよう!」

 

 

ゆたか「あっ!お、お姉ちゃん待って!」

 

 

胸の中で渦巻く不安を振り払うように大声を上げて進の探索を再開するこなた。ゆたかとみなみもそんなこなたの後を追ってその場から歩み出した、が。

 

 

―ズドドドドドドドドドドドォオオオオッ!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突如こなた達の周りに複数のが砲弾が放たれ、こなた達は思わず足を止めて振り向いた。そこには…

 

 

『──漸く見つけたぞ……ロードの研究のサンプル!』

 

 

こなた「?!レジェンドルガッ?!」

 

 

こなた達が振り向いた先にいたのは、ゆっくりとこなた達に近づいて来るレジェンドルガ達だった。しかも、その数はおよそ十体。今のこなた達にとっては迷惑な数だ。

 

 

こなた「もうッ!なんでこんな時に出て来んのさ!!みなみちゃん…ゆーちゃんをお願い!」

 

 

みなみ「はい!」

 

 

とにかく今はレジェンドルガと戦うしかない。こなたはみなみにゆたかを任せると懐からセカンドライバーを取り出し変身して戦おうとした。その時…

 

 

 

『ATTACKRIDE:PHANTOM BLAZER!』

 

 

―ズドォオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『グゴォッ?!グァアアアアアアアアアッ!!?』

 

 

 

こなた「…え?」

 

 

突如、その場に電子音声が響いたと同時にレジェンドルガ達の真横から極太の巨大な砲撃が放れ、十体はいたレジェンドルガの内の最前線にいた四体がその砲撃に包まれ、断末魔を上げながら消滅していった。それを見ていたこなた達も残りのレジェンドルガ達も呆然となり、その砲撃が放れた方向……先程の砲撃によって黒煙が晴れた場所を見た。そこにいたのは…

 

 

トランス『──よし、何とか間に合った!』

 

 

スバル「うわっ…よ、容赦ないですねなのはさんっ」

 

 

ティアナ「……塵一つ残さず完全に消滅……手加減なしだとここまですごいなんてねっ」

 

 

そこには、トランスに変身したなのはと先程の砲撃の威力を見て顔を引き攣らせているスバルとティアナが立っていた。

 

 

先程の謎の男の攻撃で零とヴィヴィオと逸れたなのは達は、二人を探していた途中、偶然にもこなた達が襲われていた場面を目の当たりにし三人を助ける為に加勢に入ったらしい。そして、突然現れたトランス達を見たこなた達は…

 

 

みなみ「あれは……ディケイド?」

 

 

ゆたか「だ、だけど…鎧の形も色も違う…お姉ちゃん…あれって一体?」

 

 

こなた「わ、わかんない…あれも原作にないライダーだし…というか何でスバルとティアナがあのライダーと一緒にいるの?!」

 

 

突然現れたトランス達にこなた達が驚いている中、トランスは一人レジェンドルガ達にゆっくりと近づいていく。

 

 

『貴様!我々の邪魔をするなッ!』

 

 

トランス『そういう訳には行かないよ!あんな小さい女の子達にまで手を出そうなんて…そっちがその気なら、私も容赦はしないから!』

 

 

トランスはそう言って腰にあるライドブッカーをソードモードに切り替えながらレジェンドルガ達に向かって斬りかかり、その間にスバルとティアナがこなた達の下へと駆け寄っていく。

 

 

ティアナ「大丈夫ですか!何処か怪我は?」

 

 

ゆたか「あ、だ、大丈夫です」

 

 

こなた「ね、ねぇ二人共…あの人は一体…?」

 

 

こなたは呆然とした様子でトランスを指差すとスバルがその問いに答える。

 

 

スバル「ああ、うん。あの人はなのはさんだよ。さっき城の中で会ったの時の人…ってもう知ってるよね、あははっ」

 

 

苦笑いを浮かべながら頬を掻くスバル。だが、それを聞いたこなた達は目を見開いて驚愕の表情を浮かべながらトランスを見つめる。

 

 

ゆたか「あのライダーが…なのは…さん?」

 

 

こなた「ど、どういう事?…だってなのはさんの変身するライダーってナノハのはずじゃなかったの!?」

 

 

『…ナノハ?』

 

 

困惑した表情を浮かべながら言うこなたの言葉に首を傾げる二人。その一方で、トランスは次々とレジェンドルガ達を斬り裂いていき、ある程度ダメージを与えるとレジェンドルガ達との距離を離した。

 

 

トランス『さて、じゃあそろそろ終わらせてもらうよ。私達も零君とヴィヴィオを探さないといけないんだから!』

 

 

トランスはライドブッカーソードモードからカードを二枚取り出し、その内の一枚をトランスドライバーにセットしスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:SHIDEN ISSEN!』

 

 

電子音声が鳴るとライドブッカーの刀身を炎熱が包み込み、更にトランスは取り出したもう一枚のカードをトランスドライバーにセットしスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:SONIC MOVE!』

 

 

再び響いた電子音声と共にトランスはライドブッカーを両手で構え身を屈める。そして…

 

 

トランス『…フッ!』

 

 

トランスが力強く足を踏み出した瞬間、その場にいる全員の視界からトランスの姿が消えた、と同時に。

 

 

―ズバァンッ!ズバァンッ!ズバァンッ!ズバァンッ!ズバァンッ!―

 

 

トランスは目にも止まらぬ速さでレジェンドルガ達の間を通過し、それと同時に手に持つ炎を纏ったライドブッカーでレジェンドルガ達を斬り裂いていく。そしてトランスが最後の一体の横を過ぎ去ると、炎の消えたライドブッカーの刀身を軽く撫でる。次の瞬間……

 

 

『………アッ?……ガッ?!グガアアァァァッ?!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥッ!サァァァァァァ…―

 

 

レジェンドルガ六体の内の五体の身体に切り刻まれた斬り傷から炎が吹き出し、その炎が包み込まれたレジェンドルガ達の身体は灰となり、風に吹かれて消え去っていった。

 

 

『っ?!クソッ!』

 

 

トランス『あッ!逃がさないよ!』

 

 

最後に残ったレジェンドルガがその場から逃走を始め、トランスはそれを見逃さず逃走したレジェンドルガを追おうと駆け出した。だが…

 

 

 

 

『HYPER CLOCK UP!』

 

 

 

 

『……?……ガッ?!グォオオオオオオオーーッ!!!?』

 

 

―ドゴォオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

『……?!』

 

 

突如、その場に無機質な電子音声が響いたと同時に、逃走したレジェンドルガが大爆発を起こして散っていったのだ。

 

 

そして爆炎が少しずつ晴れていくと、爆発したレジェンドルガのいた場所の中央に黄金の装甲、青い瞳を輝かせるカブトムシのような姿をしたライダーが立ち構えていた。

 

 

トランス『?!だ、誰?!』

 

 

突然目の前に現れた黄金のライダーにトランスが思わず問い掛ける。すると、黄金のライダーは左手に持つ青い薔薇を見つめながら口を開いた。

 

 

『なるほど、貴方の血は美しい色合いをしている様だ……破壊者達の血よりも先に、貴方の血を私の薔薇の色取りに加わえましょう……』

 

 

トランス『え?―ドゴォオンッ!―グッ?!ウァァァァッ!!?』

 

 

スバル「?!なのはさん?!」

 

 

トランスが黄金のライダーの呟きに聞き返した瞬間、黄金のライダーが一瞬でトランスの懐へと入り強力な打撃を打ち込んでトランスを吹っ飛ばした。そして黄金のライダーは吹っ飛ばしたトランスの追撃を始め、その場から再び駆け出していくのだった。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑬

 

一方その頃、トランス達がいる場所から数十キロ離れた先の場所

では、合流したアーク、アース、クアットロ、そして数十体以上のレジェンドルガ達が、突然目の前に出現した銀色のオーロラによって道を阻まれ足止めにあっていた。

 

 

アース『チッ!一体なんなんだこの歪みは!?何故破壊できない?!』

 

 

クアットロ「うーん、厄介ですね~。これじゃあ外にも出れなさそうだし…」

 

 

レジェンドルガ達の大群の最前線にいるアースが歪みの壁を殴りつけている一方で、遠方にいるクアットロは歪みの壁を見上げながら困ったような表情を浮かべている。

 

 

アーク『…なるほど…これも君の仕業かね?』

 

 

その一方、レジェンドルガ達の大群の一番後方にいるアークが自分の後ろにある森林の方へ振り返りながら言うと森林の中から一人の男が現れゆっくりとアークに歩み寄っていく。

 

 

「…ああ、お前ではディケイドを始末するのは無理だと分かったからな。私の手で奴らを消す事にしたよ」

 

 

そう言って謎の男が険しい表情でアークを睨みつけるが、アークはそれでも仮面越しに歪んだ笑みを浮かべているだけだった。

 

 

アーク『なるほど。ならばそうなる前に私が先に彼を手に入れるよ。…もう一人の方は君にくれてもいいがね』

 

 

「ちっ、本当に欲望の強い男だ。……まあいい、この世界のディケイドも別世界のディケイドも私が始末する。お前の出番はここまでだ…スカリエッティ」

 

 

謎の男がそう言うと、男の周りの空間が銀色のオーロラに包まれていき、オーロラが晴れると男の姿はそこから消え去っていた。

 

 

アーク『……愚かな男だ。あの力の素晴らしさを理解出来ないとは』

 

 

アークは男が消えた場所を見てそう呟くと、目の前の銀色のオーロラに視線を移し、レジェンドルガ達を退かしてアースのいる最前線にまで歩いていく。

 

 

アース『ドクター?』

 

 

アーク『下がっていたまえトーレ。この程度の物なら私一人で壊せる…フンッ!』

 

 

―ドォオンッ!ドォオンッ!ドォオンッ!ドォオンッ!―

 

 

アークが目の前の歪みの壁を何度も殴りつけていくと歪みの壁に少しずつ皹が入っていく。すると、アークのその姿を見て感化されたアースやレジェンドルガ達も目の前の歪みの壁に向かってエネルギー弾を放ち歪みの壁の破壊作業に入った。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一方その頃……。

 

 

―ドゴォンッ!バキィッ!ドゴォッ!―

 

 

トランス『グゥッ!クッ!貴方は一体何者ですか?!なんでいきなり…!』

 

 

『私が何者であろうと貴方に関係ありません。私はただ、薔薇が見つめてくれる限り戦うだけ……それだけです!』

 

 

トランス『グッ?!』

 

 

突如襲い掛かって来た謎のライダーと戦闘を行いライドブッカーソードモードで対抗するトランス。だが、謎のライダーの放つ激しいボディラッシュによってトランスは防御する事しか出来ず、防戦一方となっていた。

 

 

ゆたか「な、なのはさん!」

 

 

スバル「ティ、ティア!何とかならないの!?このままじゃなのはさんが!」

 

 

ティアナ「そんな事言ったってどうする事も出来ないわよ!私はもう変身出来ないし…というか一体何なの、あのライダー?!」

 

 

謎のライダーに追い詰められていくトランスを見てゆたかもスバルも焦り、ティアナもいきなり現れた謎のライダーにただただ困惑を浮かべるしかない中、あの謎のライダーを見たこなたは驚愕していた。

 

 

こなた「そんな…あれってコーカサス?!アークの次にアイツまで出て来るなんて!」

 

 

みなみ「?泉先輩、あのライダーの事知ってるんですか?」

 

 

謎のライダーを見て驚いているこなたにみなみが怪訝そうに問い掛けると、こなたは戸惑いながらゆっくりと頷く。

 

 

こなた「う、うん。あれはコーカサスっていうライダーで、カブトの映画に出て来たライダーの一人だよ!」

 

 

こなたの説明では、あの謎のライダーの正体はカブトの映画に出て来た敵ライダー、コーカサスと呼ばれる名のライダーらしい。原作ではカブトの世界に存在する組織、「ZECT」の中でも最強と呼ばれるライダーでありその強さは「彼と戦う者は、戦う前から敗北している」と囁かれる程の強さを持つライダーなのだ。

 

 

ゆたか「そ、そんな……あのライダーってそんなに強いんですか?!」

 

 

こなた「…うん。進がいないのはちょっとやばいけど、アイツが"アレ"を使う前に私達でアイツを倒さないと!」

 

 

コーカサスが"あの力"を使えばトランスにも自分達にも勝ち目などない。そうなる前に何としてもコーカサスを倒さなければと、

こなたはセカンドライバーを取り出し腰に装着する。

 

 

みなみ「待って下さい泉先輩、私も行きます!」

 

 

こなた「みなみちゃん…。うん、分かった。スバル!ティアナ!ゆーちゃんの事お願い!」

 

 

スバル「え?」

 

 

ティアナ「ちょっ、貴方達、何を!?」

 

 

前に出た二人を呼び止めるティアナだが、二人はそれを聞かず、こなたは左腰のライドブッカーからカードを、みなみはセイオウベルトを腰に装着しポケットからライダーパスを取り出した。そして…

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:SECOND!』

 

『Holy form』

 

 

スバル&ティアナ「「……え?!」」

 

 

二人が自分のバックルにカードとパスをセット&セタッチした瞬間バックルから電子音声が響き、こなたはセカンドに、みなみは聖王に変身してその姿を変えていった。それを見ていたスバルとティアナはいきなりライダーに変身した二人を唖然とした表情で固まってしまうが、セカンドと聖王はそんな二人を他所にライドブッカーGモードとセイガッシャーを構え、セカンドはライドブッカーガンモードの狙いをコーカサスに向け乱射した。

 

 

―ズガガガガガガッ!―

 

 

コーカサス『ウグゥッ?!』

 

 

トランス『えっ?!』

 

 

聖王『ハアァァッ!』

 

 

コーカサスがセカンドの乱射に怯んだ瞬間を聖王がセイガッシャーで斬りかかるが、コーカサスは直ぐさま後退してそれをかわし、その間にセカンドが聖王の下へと駆け寄って来る。すると、トランスは直ぐに後ろへと後退し二人を警戒してライドブッカーソードモードを構える。

 

 

セカンド『ちょっ?!なのはさん落ち着いて!!私達だよ!』

 

 

トランス『え?…その声…もしかしてさっきの女の子?』

 

 

セカンド『そうだよ!も~、いつまでそうやって知らない振りしてるの?此処まで来ると逆に質が悪いよ~』

 

 

トランス『?…えーと…』

 

 

ため息混じりで言うセカンドの言葉にトランスは首を傾げる。自分の事を知ってると言う事は自分はこの子達と知り合いなのか?と、自分の記憶を掘り返して彼女達の事を思い出さそうとするが、やはりそんな記憶はない。

 

 

トランス『えっと……ゴメンね、全然思い出させないんだけど、前に会った事あったかな?』

 

 

セカンド『………え?ちょっ、本当にもうそんな振りいいって!それともなんか怒ってる?!もしかして私がなんか怒らせるような事した!?』

 

 

トランス『う、ううん!そうじゃなくて!…悪いけど、本当に思い出せないの。ゴメンね…』

 

 

セカンド(え、ええっ……?どゆこと?最初は冗談かと思ったけど、でもそんなふうには見えないし……?)

 

 

自分の事を知らないと申し訳なさそうに謝るトランスが嘘を言ってるようにも見えず、いよいよ訳が分からず困惑してしまうセカンド。すると…

 

 

コーカサス『フンッ!デアァァッ!』

 

 

聖王『クッ!ハァァッ!』

 

 

―ガキィンッ!ドゴォッ!ガキィィンッ!―

 

 

トランス『ッ!とりあえずその話しは後でしよう!今はあの子を助けないと!』

 

 

セカンド『えっ?あ、は、はい!』

 

 

一人でコーカサスと奮闘する聖王を見たトランスがライドブッカーソードモードを構えコーカサスに突撃し、セカンドも疑問を拭えないままだが、取り敢えずその話しは後にし後方からライドブッカーガンモードをコーカサスに乱射し二人の援護に回っていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方その頃、なのは達とこなた達と逸れた零と進達は……。

 

 

 

進「…痛ぅ~…と言うと、つまりあれか?お前となのは達は滅びかけている自分達の世界を救う為に色々な世界を旅して、その時にばらばらになったフェイト達も探している…と?」

 

 

零「ゲホッ!ゲホッ!ッ…ああ…そうだよ。くそっ…もう少しで三途の川を渡り切る所だった…」

 

 

と、痛そうに自分の頭を押さえている進に、零が自分の首筋を撫でながら答える。

 

 

あの後、進に首をガッチリと掴まれた状態が長く続いたせいで冗談抜きで呼吸困難に陥り、死の一歩手前まで来た瞬間に進へ脳天チョップを喰らわせ、進を正気に戻した事により命の危機から逃れたのだ。

 

 

因みに、進は頭に血が上りすぎていた為に零が死にかけていた事にまったく気づいていなかったという。

 

 

進(……けど、一体どういう事だ?なのは達の世界は俺達が救ったはずだ……なのにあいつ等の世界が滅びかけている上にフェイト達が行方不明…?何がどうなってんだ……)

 

 

零の説明に進は訳がわからないといった表情を浮かべて自分の頭を摩っている。

 

 

零「――ゲホッ、ンンッ!……ところで、さっきのは一体なんだったんだ?ヴィヴィオの事やなのは達の事がどうのこうの言っていたが……というか、城の中で最初に会った時にもなのは達を知ってるような事言ってただろ?何故だ?」

 

 

ヴィヴィオ「~♪」

 

 

自分の膝に座るヴィヴィオの頭を撫でながら未だに頭を押さえている進に問い掛けると、進は若干不機嫌そうな表情を浮かべて零に視線を移す。

 

 

進「何故って、俺となのははナノハの世界で一緒に戦ってるし、何より今は共に世界を旅しているんだからな。知ってて当然だろ」

 

 

素っ気ない言い方で零の問い答える進。すると、零は進の言葉に幾つか疑問を抱いた。

 

 

零「ナノハの世界?…一緒に旅?……待て元道。どう意味だそれは?それだとまるで――」

 

 

進の言葉が頭の中で引っ掛かり、気になった零は進に言葉の意味を求めて再び問い掛けようとした。その時…

 

 

―ズドォオオオオオオオオオオンッッッ!!―

 

 

『?!』

 

 

突然その場に轟音が響き渡り三人は驚いて思わず辺りを見渡した。

 

 

進「黒月!今の!」

 

 

零「ああ!今の音は…まさかなのは達か…?』

 

 

進「…分からない。だが何かあるのは確かだろ。確か音は……あっちからだ!」

 

 

その音の感じからして一大事だと気づいた二人は急いでその轟音が聞こえた方向へと走り出した。

 

 



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第四章/魔界城の世界⑬(裏)

 

同時刻、魔界城・王座の間。

零達とアークの激戦により、壁や柱、床などの至る所が破壊されてボロボロになったその場所で、二人の男が何かを探して部屋の中を歩き回っていた。

 

 

「いや~…それにしても、随分と派手にやったもんだよな~」

 

 

黒を特徴とした服装の男が破壊された柱に触れながらそう言うと、もう一方の男がそれに同意するように頷いた。

 

 

「そうだな……けど、この世界のディケイドとアークがここにいないって事は…もしかして戦いの場を何処に変えたって事か?」

 

 

「多分な。どうやら無駄足を踏んじまったらしい……ん?」

 

 

黒い服装の男が部屋の中を歩きながらそう言うと、何かに気づき辺りを見回す。

 

 

「?…なあ"智大"、"昌平"の奴はどうした?ここに来る途中まで一緒だったはずだろ?」

 

 

黒い服装の男が誰かを探し辺りを見渡しながらそう聞くと、智大と呼ばれた男は何処か呆れたようにため息を吐いてその問いに答える。

 

 

智大「アイツならここに来る途中、城の中を探検するとか言ってどっかに行っちゃったまま、それっきりだよ」

 

 

智大が返した答えを聞くと男は呆気に取られ、額を押さえながら同じく呆れた様にため息を吐く。

 

 

「またかよ、こんな非常事態って時にアイツは……」

 

 

智大「まあ、アイツの自由気ままは今始まった事じゃないし、気にしても仕方ないと思うぞ。"幸助"?」

 

 

智大が幸助と呼ばれる男にそう言いながら苦笑いを向けると、幸助はやれやれといった表情を浮かべて首を小さく左右に振る。

 

 

幸助「それもそうだな。とりあえず、今はアイツの事よりディケイド達の足取り調べねぇと……」

 

 

智大「そうだな……そういえば幸助、"シズク"さんは一体どうしたんだ?てっきりお前と一緒だと思ったんだけど…」

 

 

幸助「ん…?ああ、アイツならまだこの世界に来てねぇぞ。俺達の世界にはまだ大量のレジェンドルガ達がいるからな…あらかた片付いたらこの世界に来るって言ってたぜ」

 

 

柱に背中を預けながら簡単に説明する幸助。智大もそれを聞くと「そうか」と納得したように頷く。その時……

 

 

―PPPPP…PPPPPP…―

 

 

幸助「?なんだ…?」

 

 

智大「あっ、僕の携帯だ……ん?……誰だコレ?」

 

 

着信音の鳴る自分の携帯を懐から取り出しディスプレイに表情されている番号を見てみるが、ディスプレイに表情されていたのは見知らぬ番号。智大は、はて?と首を傾げながら携帯の通話ボタンを押し携帯を耳に当てる。

 

 

智大「…もしもし?」

 

 

『やっほーい♪智大♪俺だ俺!』

 

 

智大「?………その声……まさか、昌平か?!」

 

 

『ピンポーン♪大・正・解♪』

 

 

智大の携帯の向こうから聞こえてくる陽気な声。その声の主こそ先程自分達が話していた男、昌平だった。

 

 

智大「おまっ、なんで僕の携帯に……というかお前も携帯持ってたんだな…てか使い方知ってたのか?」

 

 

昌平『……それって遠回しに俺の事馬鹿にしてない?いくら俺でも携帯ぐらい持ってるっつの…まっ、いいけどさ。それよりもちょっと頼みがあるんだけどいいか?』

 

 

智大「……頼み?」

 

 

予想していなかった昌平の言葉に思わず聞き返すと、昌平は『YES♪』と軽快に答え自分の頼みを智大に伝える。

 

 

 

昌平『実はさあ、城の中を探検してたら帰り道が分からなくなっちまったんだよね~。というわけで智大、悪いんだけど迎えに来てくれ♪』

 

 

 

智大「……………はあ?」

 

 

 

何言ってんだコイツ?と、昌平の頼みを聞いた瞬間、智大は唖然とした表情を浮かべながらそう思う。だが、昌平はそんな智大の反応を他所に『それじゃあ待ってるから、早く来てくれよ~♪じゃっ!』と、その言葉を最後に電話を切られてしまい、後に聞こえてくるのはプー…プー…と通話が切れた音だけだった。

 

 

幸助「…どうした智大?誰からの電話だったんだ?」

 

 

携帯を握ったまま固まっている智大を見て幸助が思わず問い掛けた。すると、智大は今の電話の相手が昌平だという事、昌平の言っていた頼みを教えると、同じように幸助も唖然とした表情を浮かべ二人はガクッと両肩を落とし、不本意ながらも城の中で迷子になった昌平の迎えにいく為、調査を一度中断して王座の間を後にした。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、光写真館から少し離れた場所にある森林の中では、光写真館と酷似した一つの建物が現れその建物の扉が開くと、中から三人の男女が姿を現した。

 

 

「ウォオオオオオー!ジャングルじゃんジャングル!すっごいね~!!」

 

 

茶髪の少女がハイテンションでそう叫ぶと自分の首に掛けているトイカメラで辺りの景色を撮影し始める。するとその様子を見ていた二人の男女が呆れてため息を吐いた。

 

 

「ハァ…"ツカサ"、少しは落ち着けよな…てかここって何の世界だ?見た感じ人も町も何もないようだが」

 

 

「ですよね。どこを見ても森ばっかりだし………ん?あれは…」

 

 

少女が何かを見つけてその方向を見ると、ツカサと呼ばれた少女と少年も少女の視線を追ってその方向を見る。すると、少年は驚愕の表情を浮かべ、ツカサは「オオオオオーー!!!!」と更にテンションを上げながらトイカメラを構え何かを激写していく。

 

 

三人が見つけたのはここから遠くに見える場所でそびえ立つ城……魔界城だった。

 

 

「な、何だあれ…城?!」

 

 

「……あっ、もしかして、背景ロールに描かれてた黒い城って…アレの事?」

 

 

ツカサ「凄い凄い凄い凄いすごいよ~♪生の魔界城だ~♪よし!"俊介"!"裕香"!あの城に行こう!もしかしたらあそこにアークとかがいるかも~♪」

 

 

俊介「は?お、おい待てよツカサ!」

 

 

裕香「ま、待ってください!一人で出歩くのは危険ですよ!!」

 

 

俊介と呼ばれた少年と、裕香と呼ばれた少女が興奮状態で城へと向かっていくツカサを呼び止めるが、ツカサはそれを聞かず二人を置いてズンズンと森の中を歩き魔界城へ向かおうとする。その時……

 

 

―ズドォォォォォォンッ!!―

 

 

『ッ?!!』

 

 

不意に森の中で轟音に似た爆音が響き渡り、三人は驚きのあまり足を止めて辺りを見渡した。

 

 

俊介「な、何だよ今の…?」

 

 

裕香「…今の音は…爆音?結構近かったですよね?確か…えーと…」

 

 

いきなり聞こえて来た轟音に動揺する俊介とは反対に、落ち着いた様子の裕香は先程の音が聞こえた来た方向を探して辺りを見回している。とその時、いつの間にか二人の隣にいたツカサが「おおおっ?!」と、何かに反応するように飛び跳ねた。

 

 

ツカサ「わかる…私にはわかるぞ~!この先に何人ものライダー達がいると私の中に眠るライダーセンサーが反応しているぞ~!」

 

 

俊介「……また根拠のない事を。つかそんな意味不明で信憑性のないセンサーなんかアテになるか馬鹿」

 

 

ツカサ「馬鹿とは失礼な!私のライダーヲタとしての魂がそう言ってんだから間違いないの!」

 

 

俊介「…センサーじゃなかったのかよ」

 

 

裕香「ま、まあまあ…ところで、さっきの音が聞こえてきた場所って分かるんですか?」

 

 

俊介を宥めながら裕香が怪訝そうにツカサに問う。するとツカサは少し悩むように顎に手を添え、あちらこちらを見渡している。

 

 

ツカサ「ん~とね…あっちだよ!」

 

 

暫く悩むような素振りを見せていたツカサが指である方向を示すと、俊介が訝しい目つきでツカサを見た。

 

 

俊介「お前なぁ、本当に分かってて言っ…「さあ!さっさっと行くよ二人共!私について来なさい!」…って人の話しを聞けよ!!」

 

 

ツカサに向かって叫ぶ俊介だが、聞こえていないのか、それとも聞こえておきながら敢えて無視しているのか定かではないが、ツカサは何も答えずに木々の間を抜けて歩いていく。俊介と裕香はそれを見て再びため息を吐くと急いでツカサの後を追ってその場から駆け出し、三人はその轟音が聞こえてきた方……コーカサスと戦闘を行っているトランス、セカンド、聖王達のいる場所へと向かっていった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑭

 

その頃、場所は戻ってトランス達が戦闘を行っている戦場では……

 

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

トランス『シュートッ!』

 

 

セカンド『ハアァッ!!』

 

 

コーカサスと距離を離したトランスとセカンドはバックルにカードを装填し、ライドブッカーガンモードをコーカサスに向け乱射していく。しかし…

 

 

―ズガガガガガガァッ!!―

 

 

コーカサス『クロックアップ!』

 

 

『CLOCK UP!』

 

 

トランス『ッ?!消えた!?』

 

 

セカンド『ヤバッ!?クロックアップ?!』

 

 

トランスとセカンドの射撃がコーカサスに直撃しようとした瞬間、コーカサスが自分のベルトの右側にあるボタンを軽く押してクロックアップを発動させ自身に迫って来た銃弾を高速で動いて回避し、三人の視界からもコーカサスの姿を目で追うことが出来なくなる。

 

 

聖王『任せてください…フェアリス!アタックを50、ディフェンスを全て削ってその分をスピードに!』

 

 

フェアリス「了承」

 

 

聖王が左手に持つホーリーフェアリスに指示を出すと聖王の両足が赤く輝き出し、その場から踏み出した瞬間、信じられないくらいのスピードで動き出し、そのスピードによってクロックアップの世界にいるコーカサスへと一瞬で追いついた。

 

 

コーカサス『何!?』

 

 

聖王『フッ!ハァアッ!』

 

 

コーカサスに追いついたと同時に、聖王は両手に持つホーリーフェアリスとセイガッシャーでコーカサスに斬りかかった。コーカサスは聖王が自分のクロックアップについて来た事に驚きながらも振り下ろされた剣を紙一重でかわし、聖王から距離を離す。

 

 

コーカサス『…これは驚きました。まさかクロックアップについて来られる能力がこの世に存在したとは…中々やりますね』

 

 

聖王『貴方に誉められても何も嬉しくはありません。…早く始めましょう。出来れば早く終わらせたい』

 

 

コーカサスの言葉を冷たく切り捨て、聖王は両手に持つ剣をゆっくりと構えていく。それを見たコーカサスも少し微笑しながら再び構える。そして二人は無言のまま、相手の出方を伺って立ち回り、辺りに緊張感に包まれた静寂が流れる。

そして…

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

―……………ザッ…―

 

 

 

『ッ!!』

 

 

 

どちらかの足音が響き、二人の耳にその音が届くと同時にその場から勢いよく飛び出し相手に向かって剣と拳を振りかざした。

 

 

―ズドオォンッ!ズドオォンッ!ズドオォンッ!ズドオォンッ!ズドオォンッ!ズガガガガガガガッ!!!ズドォォォォォンッ!!!―

 

 

『『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』』

 

 

スピードを極限にまで上げた聖王とクロックアップを発動させたコーカサスが音速の世界で激しくぶつかり合う。コーカサスの素早いラッシュが次々と放たれる中、聖王は最低限の動きでそれらを回避し両手に持つホーリーフェアリスとセイガッシャーでコーカサスに反撃していく。

 

 

トランス『す、凄い……』

 

 

『……………』

 

 

風を切って何度もぶつかり合う緑の閃光と金色の閃光を遠くから見ていたトランスは驚きを隠せずにおり、スバル達に至っては心ここにあらずといった感じでその戦いを見ていた。だが、そんなトランス達とは違ってセカンドは一人、コーカサスの戦いを見てある一つの大きな疑問を考えていた。

 

 

セカンド(…変だ。何でコーカサスはアレじゃなくてクロックアップを使うんだろ。確かコーカサスはアレを使う事を前提にして戦うライダーだったはずなんだけど…)

 

 

そう、セカンドの思っている通り、本来コーカサスはクロックアップを使って高速戦闘を行う事はないに等しい。何故ならあのライダーにはクロックアップを越える力を持っており、その力を使って戦う事があのライダーのバトルスタイルだったはずだ。だが、コーカサスはその力を持っているにも関わらず、一向にそれを使おうとしない。それが不審に思えたセカンドは、二つの閃光を見つめながらその疑問を考えていた。

 

 

コーカサス『フンッ!ハァァッ!』

 

 

聖王『グゥッ!クッ!』

 

 

一方で音速の世界で戦う二人。先程まではコーカサスと互角に渡り合っていた聖王だったが、今ではこちらが剣を振りかざせば相手は軽々とそれを避け、攻撃した後の隙を狙って拳を打ち込んでくる。どうやら既にこちらの剣術はコーカサスに見切られてしまったようだ。そう思った聖王は剣で戦う事をあきらめ、後方へと高く跳んでコーカサスから距離を離す。

 

 

コーカサス『逃がしません!』

 

 

聖王が距離を離した同時にコーカサスが態勢を低くし聖王に向かって一気に飛び出した。聖王はそれに気づくとホーリーフェアリスを地面に突き刺し、セイガッシャーのパーツを一つ取り外すとコーカサスに向けてブーメランの如く投げつけた。

 

 

コーカサス『?!このようなものがッ!!』

 

 

だが案の定、コーカサスはそれを片手で軽々と払い、構わず聖王へと再び突撃する。もちろん彼女も今のでコーカサスにダメージを与えられると思っていない。今のはただの注意を引く為の時間稼ぎ…言わば囮だ。現に聖王はセイガッシャーのパーツを投げたと同時に残りのパーツを組み直し、今度は縦一列に組み立てている。そして、コーカサスが払ったパーツがこちらへと跳ね返って来るとセイガッシャーの先端に勝手にくっつき、セイガッシャーは槍のような形態に変わったのだ。

 

 

コーカサス『な、何?!』

 

 

聖王『フッ!ハアァッ!!』

 

 

セイガッシャーが変わったのを見たコーカサスは驚きのあまり思わずその場で立ち止まってしまう。それを好機と思った聖王はセイガッシャーを構え、コーカサスの胴体に向け素早くセイガッシャーを突き立てた。

 

 

―ズドオォンッ!!―

 

 

コーカサス『グッ?!グアァァァーーッ!!!』

 

 

聖王の突貫が直撃しコーカサスは耐え切れずに吹っ飛ばされ、地面を転がるようにして倒れ込んだ。それを見た聖王はセイガッシャーを地面に突き刺し、ベルトの後ろ腰にあるライダーパスを取り出してバックルに翳した。

 

 

『Full Charge!』

 

 

電子音声が響くと、聖王は地面に突き刺していたホーリーフェアリスを引き抜く。するとホーリーフェアリスの刀身を風が包み込み、それを両手で構え、コーカサスに向って駆け出す。

 

 

聖王『セェェェェェェアッ!!!』

 

 

―ズバァァァァンッ!!!―

 

 

コーカサス『グアァッ!!グッ…ウッ…』

 

 

振り下ろされたホーリーフェアリスがコーカサスのボディを斬り裂き、コーカサスはふらつきながら後退していくとその場で両膝を付けて座り込み、ピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

聖王『……ふぅ』

 

 

それを確認した聖王は警戒を解き、ホーリーフェアリスを軽く払った後に一息吐く。と、同時に周りの時間の流れが元に戻り、全員が地面に座り込むコーカサスの姿に気づくと驚愕した表情を浮かべていた。

 

 

スバル「あ、あれ?もしかして…もう終わっちゃった!?」

 

 

ティアナ「い、一体今…何が起きたわけ?」

 

 

セカンド(!…コーカサスが負けた…ってことは最後までアレを使わなかったんだ…なんだ、私が心配する必要なんてなかったみたい)

 

 

スバルとティアナは目の前の光景に呆気に取られ、セカンドは先程までの自分の心配はただの杞憂だったのかと肩を少し落として一息吐いた。すると聖王が変身を解除してみなみに戻り、セカンド達の下へと近づいていく。

 

 

みなみ「二人共、無事でしたか?」

 

 

ゆたか「えっ?あ、う、うん!」

 

 

セカンド『うん、こっちは全然大丈夫だよ。というか、私ほとんど何もやってないしっ……』

 

 

セカンドはみなみに向けて苦笑いを浮かべると変身を解除してこなたに戻っていき、トランスもこなた達の様子を遠くから見つめながら変身を解除し、なのはに戻っていく。

 

 

スバル「なのはさん、大丈夫でしたか!」

 

 

なのは「二人共…うん、私は全然大丈夫だよ。あの子達の助けもあったから」

 

 

ティアナ「そうですか…良かった」

 

 

なのはの下に駆け寄って来たスバルとティアナがなのはの無事を確認するとホッと一安心し、三人はそのまま零とヴィヴィオの探索を再開しようと歩き出した。その時……

 

 

こなた「ちょっ?!ちょっと待ってっ!」

 

 

なのは「え?」

 

 

突然呼び止められ、三人は少し驚きながらも後ろへと振り返ると、そこにはこなた達がこちらへと向かって走って来る姿があった。

 

 

こなた「ハァ、ハァ…も~ひどいよなのはさん…さっきなのはさん達の話を聞かせてくれるって約束したばっかじゃんっ」

 

 

なのは「えっ?……あ」

 

 

そういえばそうだった。

先程の戦闘の前に彼女達と話した事についてまた話しを聞かなければならないのをすっかり忘れていた。

 

 

なのは「ご、ゴメンね!私達も先を急いでたからすっかり忘れてた!」

 

 

『……ハァッ……』

 

 

なのはの謝罪にこなた達…いや、一緒にいたスバル達もそれを聞いて呆然とし、ほぼ同時にため息を吐いて肩を落とした。当の本人であるなのははそれを見てもただ苦笑いを浮かべるしか出来ずにいる。

 

 

なのは「えっと…えっと……と、とりあえず自己紹介からしよっか!私は高町 なのは……って知ってるよね、さっきも名前で呼んでたし」

 

 

こなた「あ、えっと…(…とりあえずこっちも名乗った方がいいのかな?なのはさん達は私達の事を忘れてるみたいだし…)…私は泉こなた、気軽にこなたって呼んでくれていいよ」

 

 

とりあえず互いに簡単な自己紹介を終えた後、なのは達とこなた達は先程の話しの続きを話し始めた。

 

 

 

 

だがしかし、そこにいる全員はまだ気づいていなかった。

 

 

先程の戦闘で聖王によって倒されたはずのコーカサスがまだ生きており、その手には銀色のカブトムシのような形状をしたツールが握られていた事を……。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑭(裏)

一方その頃、魔界城のとある部屋では……

 

 

 

昌平「いや~助かったよ二人~♪あのままずっと迷子だったらどうしよ~って困ってた所だったからさ♪」

 

 

智大「まったく…こっちは遊びに来たんじゃないんだぞ!一刻も早くこの事件を解決しないといけないんだって言うのに…」

 

 

幸助「智大の言う通りだぞ昌平。早くアークを見つけて奴を倒さないといけないんだ。さっさと終わらせないといけないってお前も分かってんだろ?」

 

 

昌平「わぁーてるよ。二人して言わなくてもちゃんと分かってますって♪」

 

 

智大(……本当に分かってんのかコイツ)

 

 

どう見てもこっちの言葉を右から左へと聞き流しているようにしか見えない昌平の言動に頭を抱えたい衝動に駆られながら、二人は深いため息を吐いた。

 

 

……あの後、無事(?)に昌平と合流を果たした幸助と智大は一度中断していた調査を再び再開し、スカリエッティの使っていた研究室へと足を運んで本棚や机に置いてある資料を手に取り目を通していた。

 

 

幸助「しっかし、随分と惨い内容しか書いてねぇな、この資料」

 

 

智大「あぁ、人間の身体に機械を融合させた上にレジェンドルガの力を加える……更には他の世界のライダー達にレジェンドルガの力を融合させる事まで載ってるぞ」

 

 

資料を読みながら会話を続ける二人。その内容は全て幸助の言う通り人間が考えられるものではない惨いものばかりであり、幾つもの資料を読み進めていく内にスカリエッティの研究やその目的が明確になっていき、二人の表情も自然と険しくなっていた。

 

 

幸助「こいつァマジで止めねーと不味い事になるかもな。ほっといたらどんだけの被害者が出るか分かったもんじゃねぇ」

 

 

智大「そうだなぁ……けど、こんだけの技術力をこんな短期間で何処で手に入れたのかって疑問もある。幾らあの男が天才とは言え、こんな何もない世界でどうやってこんな機材……」

 

 

昌平「……多分、その答えがこれなんじゃねーかな」

 

 

「「……?」」

 

 

二人が資料を読んでいた途中、二人が読んでいたものとは別のファイルを読んでいた昌平の言葉に二人は反応し、気になった幸助と智大は昌平の読んでいたファイルを覗き込む。其処に書かれていたものは……

 

 

幸助「…まさか…コレは…」

 

 

そのファイルに書かれていた内容を見た幸助と智大は僅かに目を剥き、昌平は先程までの飄々とした言動から打って変わり真剣な顔付きで智大にファイルを渡す。

 

 

昌平「なーんかキナ臭せぇなぁーと思っちゃいたが、わりと洒落にならねぇ感じだわ、コレ。どーするよ?」

 

 

智大「……どうもこうもない。直接スカリエッティを締めて、奴に洗いざらい吐いてもらうだけさ」

 

 

智大がそう言うと幸助と昌平も真剣な表情で頷き、そのファイルを持って三人は研究室から出ようとした。だが……

 

 

「―――申し訳ありませんが、ここから先に貴方達を進ませるワケにはいきません」

 

 

「「「……!」」」

 

 

三人が部屋から出ようとしたその時、突然部屋の扉が閉まってロックがかかり、それと同時に辺りの物陰から複数レジェンドルガ、そして数体のファンガイアが姿を現し三人を包囲した。

 

 

智大「コイツ等…いつの間に!?」

 

 

幸助「チッ、どうやら俺達の事はあっちにバレてたらしいな…」

 

 

「ええ、貴方達がここに来るずっと前から、貴方達の動きを把握してましたから…」

 

 

暗闇に包まれた部屋の奥から少女の声が響き、レジェンドルガ達の間を抜けて幸助達の前に桃色の長髪をした一人の少女が姿を現した。

 

 

幸助「ほお…ナンバーズか。てっきりディケイド達を追うために全員が動いてると思ってたんだが…どうやら見当違いだったようだ」

 

 

「……ナンバーズ7・セッテと申します。混沌の神・カオス、調律者・ガンナ、そしてディロード……貴方達は危険人物として認識されています。よって、此処で排除させてもらいます……」

 

 

現れた少女、ナンバーズの一人のセッテはそう言って片手を上げると、周りにいたレジェンドルガ達がそれを合図に一斉に三人へ襲い掛かって来た。

 

 

智大「悪いね……!それは流石にお断りさせてもらうよ!」

 

 

昌平「デートのお誘いなら喜んで受けるんだけど!」

 

 

幸助「智大!昌平!行くぞッ!」

 

 

三人はレジェンドルガ達の攻撃を軽々と避けると、レジェンドルガ達から距離を離しながら幸助は腰にベルトを出現させ、智大はバックルを、昌平は十枚のトランプを宙に広げ、そのトランプが全て腰に集まってバックルに変わる。そして…

 

 

『変身ッ!』

 

 

『GATE UP!』

 

『KAMENRIDE:GANNA!』

 

『KAMENRIDE:DELOAD!』

 

 

幸助は高らかに叫び、智大と昌平がカードをバックルに装填してスライドさせると、それぞれの電子音声が響き鳴り、幸助、智大、昌平の三人はライダーとなってその姿を変えた。

 

 

カオス『天が呼ぶ、地が呼ぶ、風が呼ぶ!お前達を弄べと俺を呼ぶ!混沌の神、仮面ライダーカオスッ!只今推参!!』

 

 

ガンナ『…その決め台詞…久しぶりに聞いたような気がするな…』

 

 

ディロード『だな、ここ最近は色々と省略されてたし』

 

 

カオス『うるせぇっ!!人がせっかく決めたんだから水差すなっ!』

 

 

幸助が変身したライダー、『カオス』が智大と昌平が変身したライダー『ガンナ』と『ディロード』に怒鳴るが、二人は何処か馴れた調子で「ハイハイ」と適当に聞き流す。

 

 

セッテ「……ライダーに変身されてしまいましたか……ですが、それでも貴方達を倒す事に変わりありません。行きなさい!」

 

 

『ウオォォォォッ!』

 

 

カオス『ハッ!お前達みたいな雑魚に俺達が倒せるかよ!』

 

 

ガンナ『こっちも先を急いでるんだ!早く終わらせてもらうぞ!』

 

 

ディロード『速攻で打ち負かす!いっくぜぇぇぇぇ!』

 

 

三人はそれぞれに武器を構えるとレジェンドルガ達に向かって駆け出して攻撃を開始した。

 

 

カオス『ハァッ!セイッ!』

 

 

ガンナ『フッ!ハッ!』

 

 

クロノスとガンナはレジェンドルガ達に接近してカオスブレイドとガンナブラスターで攻撃していくと、一旦レジェンドルガ達との距離を離す。

 

 

カオス『さーて、お次はこいつで行くぜッ!イフリートッ!』

 

 

『IFRIT FORM!』

 

 

ガンナ『こっちも行くぞ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:GATAKKU!』

 

 

カオスのベルトから電子音声が響くと、カオスの身体を業火が包み込む。そして炎が晴れるとその姿は黒から真紅へ、そして手に持つクロノスブレイドは巨大な斧へと変わってイフリートフォームに、ガンナはカードをバックルに装填するとクワガタを連想させる青いライダー、ガタックへと変身したのだ。

 

 

セッテ「!あれが…カオスの持つ聖霊の力と、ガンナの持つディケイドと同じ、他のライダーに変身する能力…」

 

 

セッテが姿の変わった二人を観察するように見つめてそう呟き、フォームチェンジを終えたクロノスとGガタックは手に持つ武器で次々とレジェンドルガ達を倒していく。

 

 

ディロード『フッ、やってるなあの二人。それじゃ、こっちも数を増やすとしますか♪』

 

 

レジェンドルガの攻撃をかわしながら余裕そうに呟いたディロードはカードを一枚取り出しライドロッドにライズさせる。

 

 

『KAMENRIDE:KUUGA!』

 

 

ディロードがカードを通しすと電子音声が響き、それと同時に辺りに幾つものシルエットが駆け巡りそれが一つになると赤いクワガタのような戦士、クウガへと変わったのだ。

 

 

セッテ「ライダーを召喚した…!?なるほど、あれがディロードの能力という事ですか」

 

 

出現したクウガを驚いた様子で見つめるセッテ。ディロードとクウガはそれを他所に次々とレジェンドルガ達を倒していく。

 

 

カオスIF『そらそらぁああ!!ボサッとしてると上半身と下半身が真っ二つだぜぇええ!!』

 

 

『グギャァァァァァッ?!』

 

 

カオスは手に持つイフリートアックスを豪快に振り回してファンガイア達を真っ二つにしていき、斬り裂かれたファンガイア達は次々と爆発を起こし消滅していく。

 

 

Gガタック『それじゃあ、こっちも決めさせてもらおうか!』

 

 

ディロード『待ってました!』

 

 

カオスIF『んじゃっ、こっちも行かせてもらうぞ!』

 

 

クロノスはイフリートアックスを構え、Gガタックとディロードはバックルとライドロッドにカードをセット&ライズさせる。

 

 

『END OF CRASH!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:GA・GA・GA・GATAKKU!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DELOAD!』

 

 

それぞれの電子音声が響くと、イフリートアックスを激しい炎が包み込み、Gガタックの右足が雷のような激しい輝きを、ディロードはライドロッドを高速回転させレジェンドルガ達に突撃する。

 

 

『『『デリャァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』』』

 

 

『グゥオオオオオッ?!!』

 

 

―ドゴォォォォォンッ!!!―

 

 

セッテ「くっ?!」

 

 

三人の必殺技がレジェンドルガ達に直撃して爆発を起こし、爆風が晴れるとレジェンドルガ達は全て全滅しており、残っているのはセッテただ一人だけとなった。

 

 

ディロード『さーて、どうするよ嬢さん?お前の部下はもういないぜ?』

 

 

セッテ「クッ……」

 

 

ディロードの言葉にセッテは焦りを浮かべ、何処からかブーメランのような形をした武器を取り出して構える。だが…

 

 

―チャキッ…―

 

 

セッテ「!」

 

 

カオス『止めとけ。お前一人で俺達三人を相手に出来るわけねぇだろ?』

 

 

ガンナ『大人しくこっちの指示に従うのなら、君に危害は加えない…ディケイド達とアークの居場所、教えてくれないかな?』

 

 

いつの間にかセッテの後ろに回り込んだカオスとガンナがセッテの首筋に剣を突き付けながら投降を促す。

 

 

するとセッテも流石にこの三人から逃げられないと悟ったのか、両手に持つ武器を下ろし、両手を静かに上げるのだった。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑮

 

 

 

なのは「──つまり、私達とこなたちゃん達は私達の世界で一緒に戦った仲間で、私達とは色々な世界を巡って一緒に旅をしている仲間……って事?」

 

 

こなた「うん…ホントにみんな忘れちゃったの?」

 

 

スバル「えーと、忘れたというか…」

 

 

ティアナ「……悪いけど私達、貴方達と会った事なんてないわよ?それに話しに出て来た…えっと…メタルスだっけ?そんな敵と戦った覚えなんてないし…」

 

 

ゆたか「そ、そんな…一体どうして…」

 

 

話を始めて数分後、こなた達はなのは達に自分達の事、そしてなのは達が前の世界で自分達と一緒に戦い、今は一緒に色んな世界を旅している仲間である事を説明した。

 

 

しかし、なのは達はそれらの話を聞いても何の事か分からずにただ首を傾げる事しか出来ず、こなた達は自分達を知らないと言うなのは達の言葉に沈んだ表情を浮かべていた。と、そこへ…

 

 

みなみ「あの、泉先輩、ゆたか、少しお話が…」

 

 

こなた「?みなみちゃん?どうかしたの?」

 

 

みなみ「はい…実はなのはさん達の事について、とても重要な事が分かったんですけど…」

 

 

こなた「なぬっ!?」

 

 

ゆたか「ホント!?みなみちゃん!」

 

 

みなみ「うん…だから、ちょっとこっちに」

 

 

こなた達三人はなのは達から少し離れた所に移動し、みなみからなのは達の事についての情報を聞く。

 

 

こなた「………ッ?!それってホント!?」

 

 

みなみ「はい…なのはさん達の様子がおかしい事が気になってさっき家の方に連絡してみたんですけど、なのはさん達はちゃんと家にいて、私達が城に向かった後も家から一歩も外に出てなかったそうです」

 

 

みなみの言葉にこなたとゆたかは困惑し驚愕と動揺を隠せないでいた。

 

 

ゆたか「ど、どういう事!?だって現になのはさん達はあそこに…!」

 

 

こなた「……わかんない。でもとりあえず、あそこにいるなのはさん達から話を聞くしかないね……なのはさん!」

 

 

悩んだ表情を浮かべていたこなたが自分達の気になっている事を聞き出すためになのはに詰め寄っていく。

 

 

なのは「ど、どうしたの?こなたちゃん?」

 

 

こなた「今から私が言う質問に全部、正直に答えて!先ずは、えーと―――」

 

 

先ず何処から質問すべきか。沢山あり過ぎて悩みながらもこなたが自分の気になっている疑問を聞き出す為になのはに疑問を投げかけようと口を開いた。だが……

 

 

 

 

 

 

『HYPER CLOCK UP!』

 

 

『――――えっ?』

 

 

 

 

 

 

……二度と聴くはずのなかったその無機質な電子音声によって、それは遮られてしまった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

一方その頃……。

 

 

 

進「こなたーッ!ゆたかーッ!みなみーッ!何処にいるんだーッ?!」

 

 

零「なのはーッ!スバルーッ!ティアナーッ!いるのかーッ!?いないならいないと言えーッ!!」

 

 

ヴィヴィオ「言えーッ!」

 

 

進「…いや、それは流石に無理だろ」

 

 

先程の轟音が響いた場所へと向かっていた三人。

黒煙によって周りが何も見えない中、進とヴィヴィオを背中に抱えた零はただひたすらにその方に向かって走っていたのだが、道標にと頼りにしていた金属音と爆音が急に聞こえなくなり、それによって道が分からなくなってしまった三人は辺りを見渡し皆の名を黒煙に向かって手当り次第に叫んでいた。

 

 

進「くそっ、ここは一体どこなんだ!?俺達は今どこら辺にいるんだよ?!」

 

 

零「俺が知るか…!それよりも、さっきまで聞こえてた音がおさまったみたいだが…まさか、あいつらに何かあったのか…?」

 

 

進「…さあな。だが急いだ方がいいと言うのだけは分かるんだが……チッ!この煙のせいで!」

 

 

辺り一面を覆っている黒煙のせいで周りは何も見えず、これのせいで今自分達が何処にいるかもまったく分からない。こうしている間にも皆の身に危機が迫っているのではと、零と進はそう考えるだけで焦燥感を感じていた。その時…

 

 

『キャァァァァァァァッ!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突然何処からともなく悲鳴が響き、二人は声が聞こえて来た方へと振り返った。

 

 

進「今の声は…!?」

 

 

零「…まさか、なのは達か!?元道!こっちだ!」

 

 

進「ちょ、おい!黒月っ!」

 

 

再びヴィヴィオを背中に抱え悲鳴が聞こえて来た方向へと向かって走る零。進も零の後を追ってそこから走り出した。

そして二人が暫く走ると、黒煙の向こう側へと出る事ができ、その先にあった光景を見て二人は驚愕した。

 

 

 

コーカサス『…………』

 

 

 

ティアナ「うっ…うぅ…」

 

 

みなみ「っ…くっ…!」

 

 

零「ッ?!なのはっ!スバルっ!ティアナっ!」

 

 

ヴィヴィオ「ママっ!」

 

 

進「こなたっ……!ゆたかっ!みなみっ!」

 

 

なのは「うっ…れ、零…君…ヴィヴィオ…?」

 

 

こなた「…進…?もぉ…おそい、よ…」

 

 

二人が目にしたのは、ボロボロに傷ついた皆が地面に倒れている姿と、皆から少し離れた場所に佇むライダー、コーカサスの姿。二人は皆のその姿を見てだいだいの状況が分かり、コーカサスに視線を移して睨みつけた。

 

 

零「ッ…お前一体誰だ!こいつらに何をしたっ!」

 

 

怒りをあらわにコーカサスに向けて叫ぶ零。すると、コーカサスはゆっくりとした動作で二人の方へと振り返る。

 

 

コーカサス『ほお、君達が破壊者ですか……成る程、それなりの修羅場をくぐり抜けてきているみたいですね』

 

 

零「…なんだと?」

 

 

進(…まさか、また鳴滝の仕業か?ちっ!余計な奴を送り込んできやがって!)

 

 

コーカサスの言葉に疑問を持つ零とは別に、進は険しい表情で舌打ちする。すると、コーカサスはまがまがしい殺気を放ちながらそんな二人にゆっくりと歩み寄って来る。

 

 

ヴィヴィオ「うっ…」

 

 

零(ッ!まずい…バックルとカードはさっきスカリエッティに奪われたままだ…このままじゃ…!)

 

 

変身が出来ない今の状態ではコーカサスと戦えない。零は内心焦りを浮かべながらヴィヴィオを守るようにして構える。すると、進が二人の前に立ってコーカサスと対峙する。

 

 

零「…元道?」

 

 

進「…黒月、お前はヴィヴィオを連れて下がってろ。あいつは俺が食い止める!」

 

 

進はそう言ってポケットからバックルを取り出し、自分の腰に装着するとライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

進「変身っ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

電子音声が響くと、進は瞬時にディケイドへ変身して直ぐ様腰にあるライドブッカーをソードモードに切り替えコーカサスに向けて構えた。

 

 

スバル「あ、あれって…!?」

 

 

なのは「零君と同じ…ディケイド?!」

 

 

倒れているなのは達がディケイドに変身した進を見て驚愕し、ディケイド(進)の近くにいた零もそれを見て驚愕していた。

 

 

零「元道…お前…?!」

 

 

ディケイド(進)『話は後だ!お前達は下がってろ!』

 

 

ディケイド(進)はそう言いながらライドブッカーから一枚のカードを取り出し、すぐにそれをディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

 

電子音声と共にディケイドの身体に赤い閃光が浮かび上がり、一瞬激しく輝くとディケイド(進)はファイズへと変身した。

 

 

ティアナ「変わった!?」

 

 

零「今度はファイズ?!あいつ、あんなカードまで持ってるのか…?!」

 

 

Dファイズを見て唖然とした表情を浮かべる零達だが、Dファイズはコーカサスに向かって突っ込み、ライドブッカーソードモードで斬りかかっていく。

 

 

コーカサス『ほお、中々やりますね。彼女達よりかは楽しめそうだ』

 

 

Dファイズ『そうかよ!それは光栄だなッ!』

 

 

Dファイズはライドブッカーソードモードでコーカサスに攻撃していくが、コーカサスはそれらを片手で弾いてDファイズの攻撃を防いでいく。

 

 

Dファイズ『お前に幾つか聞きたい事がある!鳴滝は一体今度は何をする気だ!何か知っているんだろ!』

 

 

コーカサス『私から話す事は何もありません……ですが、私のするべき事は貴方達破壊者を始末すること……それだけは教えてさしあげましょう』

 

 

Dファイズ『?…貴方達?―ドゴォオオオッ!!―ウァッ!?』

 

 

Dファイズがコーカサスの言葉に疑問を覚えた瞬間、コーカサスはその隙を逃さず攻撃を仕掛けてDファイズを吹っ飛ばしてしまう。

 

 

コーカサス『さて、こちらもあまり時間を掛けられません。……早く終わらせてもらいますよ』

 

 

Dファイズ『ッ……悪いな。俺はそう簡単に終わるような奴じゃないんだよ!』

 

 

態勢を立て直したDファイズはライドブッカーを開き、そこから一枚のカードを取り出してディケイドライバーに投げ入れた。

 

 

『FORMRIDE:FAIZ!AXEL!』

 

 

電子音声が響いた瞬間、Dファイズの胸部のアーマーが展開し、肩の定位置に収まるとボディーの色が銀色に、そして瞳の色が黄色から赤色へと変わっていった。

 

 

スバル「ま、また変わった…!?」

 

 

零「…ファイズのアクセルフォーム…あのカードも使えるようになってるのか…」

 

 

姿の変わったDファイズを見て再び唖然とした表情を浮かべる零達。その一方で、Dファイズは左腕に装着されているファイズアクセルを、コーカサスはベルトの右側にあるボタンを押そうとする。

 

 

こなた「っ!待って進っ!そいつには普通の高速戦は通用しな――」

 

 

『START UP!』

 

『CLOCK UP!』

 

 

二人の戦いを見ていたこなたが何かを言いかけたが、その時には既に二人の姿は消え、Dファイズとコーカサスは音速の世界で激しくぶつかり合っていた。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑮(裏)

 

―魔界城付近・森林―

 

 

 

ツカサ「──あぅあぅ~、ここは一体何処ですか~?私は今何処にいるんですか~?」

 

 

俊介「……結局こうなるんじゃねぇかよ」

 

 

裕香「ま、まあまあ…」

 

 

あれから数時間。ツカサ達は先程の爆音が響いた場所へと向かっていたのだが、予想通りというか案の定、見事なまでに道に迷い迷子になっていた。

 

 

その原因であるツカサはと言うと先程から「あぅあぅ~」と媚び媚びの声を上げてオロオロしてばかりで、その様子を見ていた俊介は予想通りの展開にイライラを募らせ、裕香がそれを必死に宥めている流れがずっと続いてる状態だった。

 

 

俊介「…んで?ツカサさんは一体この状況をどう打破する気なんでしょうかね?ちゃんとこうなる事は予測していたんだろ?」

 

 

流石の俊介もツカサの無責任な行動にはいい加減胃が痛いと言うだけでは済みそうではなかった。必死に怒りを抑え、器用に片眉をピクピクと動かしながら普段通りの口調でツカサに問い掛ける。すると、その問いにツカサはゆっくりと俊介の方へと振り返り……

 

 

 

 

ツカサ「……まっ!ドンマイだね!エヘ♪」

 

 

 

 

見事なまでの可愛らしい笑顔でごまかしたんだとさ。

 

 

 

 

裕香「ストップッ!!ストップストーーップッ!!!!落ち着いてくださいッ!!冷静になりましょう!!ねっ?!ねーっ?!」

 

 

俊介「フフフフ…安心しろ裕香…別にそんな危ない事をしようとしているんじゃないんだぞ?ただすこーし、こいつのふざけた頭を冷やしてやろうとしているだけなんだから全然大丈夫なんだぞ……?」

 

 

裕香「だったらその手に持つ鈍器はなんですかッ?!というか何処から取り出したんですかそんな物ッ!!!いつもの俊介君に戻って下さーーーい!!!!」

 

 

ツカサ「おほ~、遂に俊介が壊れちゃったね~♪漸く私との〇〇禁な方向に目覚めたのかな?も~♪この、き・ち・く~♪」

 

 

俊介「コロスぅうううううッッ!!!!!!」

 

 

裕香「火に油を注ぐような事しないで下さいッ!!!!」

 

 

……もはや状況は悪化する一方。ツカサは俊介に挑発的な言い方をするわ、我慢の限界を越えツカサに殴りかかろうとする俊介を裕香が後ろから羽交い締めにして必死に止めようとするわで、色々と収集がつかなくなってしまっていた。

 

 

ツカサ「………ん?」

 

 

と、そんな時。何かに気づいたのか、俊介をからかっていたツカサが急に表情を変えて辺りを見回し始めた。

 

 

俊介「……?ツカサ?」

 

 

裕香「…どうかしたんですか?」

 

 

ツカサのその様子に気づき、疑問を感じた二人が落ち着きを取り戻してツカサに問い掛けた。すると…

 

 

ツカサ「──俊介、裕香、今すぐ戦う準備をして!敵が来るよ!」

 

 

「「え……?」」

 

 

緊迫した様子のツカサがそう叫んだ瞬間、突如目の前の茂みから数十体のレジェンドルガ達が飛び出し、ツカサ達の目の前に現れた。

 

 

『人間?……なるほどな。まさかこんな場所にまで人間がいたとは…』

 

 

俊介「な、何だコイツ等?!」

 

 

裕香「まさか…この世界の怪物?!」

 

 

ツカサ「へ~、やっぱりね!アークの世界ならレジェンドルガもいるんじゃないかと思ってたよ。まぁでも、コイツ等を倒さないと先に行けないか…俊介!裕香!行くよ!」

 

 

裕香「う、うん!」

 

 

俊介「仕方ない…さっさと終わらせるぞ!」

 

 

向こうは完全にこちらを獲物として捉えて襲う気満々だ。ならばこのまま黙ってやられる訳には行かないと、ツカサと俊介は腰にバックルを装着してカードとライダーパスを取り出し、裕香は腰に両手を翳して優矢のものと同じベルト、アークルを出現させて変身ポーズを構える。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Hijack Form』

 

 

三人はそれぞれの変身動作を行うと、俊介は牙が印象的な黒い鎧に、レールを模した赤いマフラーを首に巻いた黒いライダー『幽汽』へと変身し、ツカサと裕香の姿はスーツではなくドレスのような服装となって、頭には複眼のような髪留めを装着した仮面ライダー……いや、"ライダー少女"『ディケイド』と『クウガ』に変身した。

 

 

『ッ?!こ、こいつら…ライダー?!』

 

 

『どういう事だ?!何故ライダーがこんなにも?!』

 

 

『いや…それよりもあの女…まさかディケイド?!』

 

 

『ど、どういう事だ?何故この世界に三人目のディケイドが…?!』

 

 

幽汽(俊介)『?何だコイツ等…何を動揺してんだ?』

 

 

クウガ(裕香)「一体どうしたんでしょうか…?」

 

 

ディケイド(ツカサ)「いいじゃんいいじゃん、そんな事はどうだってさ!さっさと終わらせよ!」

 

 

三人の姿を見て動揺しているレジェンドルガ達に幽汽とクウガが疑問を感じている一方で、大して興味のないディケイドはライドブッカーを開き、そこから一枚のカードを取り出してバックルに装填しスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:HIBIKI!』

 

 

電子音声と共にディケイドの身体を紫炎が包み込み、炎が晴れると、ディケイドの姿は法衣を纏い角のようなものを付けた髪留めをした姿、D響鬼へと変身した。

 

 

D響鬼「よ~し!早くコイツ等を倒して……アークに会いに行ぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

幽汽(俊介)「……フフッ、何かもう慣れて来たのかな?胃があんまり痛まなくなって来たよ」

 

 

クウガ(裕香)「そ、その…今は戦いに集中しましょう!後で胃薬を用意しますから!ねっ?」

 

 

自分達が迷子である事を忘れてそうなD響鬼は放置し、一先ず幽汽とクウガは目の前にいるレジェンドルガ達に突撃していく。先陣を切った幽汽はザヴェジガッシャーで、クウガはそれに続いて打撃を放ってレジェンドルガ達を殴り倒していき、D響鬼は離れた距離でライドブッカーからカードを取り出してディケイドライバーに装填する。

 

 

『ATTACKRIDE:ONGKIBO REKKA!』

 

 

D響鬼「よ~し!いっくよーー!!!」

 

 

電子音声が鳴ると同時にD響鬼は後ろ腰にある音撃棒烈火を取り出し、先端に炎を宿らせるとレジェンドルガ達に向けて振りかざし炎の弾を次々に放っていく。

 

 

―ドオオオォォォォンッ!ドオォォォンッ!ドオォォォンッ!―

 

 

D響鬼「フッ!!ハッ!!デアッ!!」

 

 

幽汽(俊介)『ウオリャァァァァッ!!』

 

 

クウガ(裕香)「フッ!!ハァァァッ!!」

 

 

三人はそれぞれが得意とする戦い方で次々とレジェンドルガ達を倒していく。そしてものの数分もしない内にレジェンドルガ達は全滅し、周囲にもう敵影が見られないのを確認した三人は構えを解き、D響鬼もディケイドに戻っていく。

 

 

クウガ(裕香)「ふぅ…何とか倒せましたね…』

 

 

ディケイド(ツカサ)「楽勝楽勝♪雑魚の相手なんて御てのものよ♪」

 

 

幽汽(俊介)『浮かれんなよツカサ。…けど、こいつらこんな所で何やってたんだろうな…?』

 

 

取り敢えず襲われたので反撃はしたものの、そもそもこんな何もない場所でレジェンドルガ達は一体何をしていたのか。何となくそんな疑問を口にしながら幽汽は辺りを見回していたが、その時…

 

 

―……バゴオオォンッ!!―

 

 

『ガァアアアアアアッ!!』

 

 

クウガ(裕香)「?!キャアアアッ?!」

 

 

幽汽(俊介)『グッ?!な、何?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)「ッ?!俊介?裕香?!ウァッ?!」

 

 

突然幽汽とクウガの足元から四体のレジェンドルガ達が飛び出し、二人両腕を掴んで動きを封じてしまったのだ。更にそれだけではなく、ディケイドの後ろからも四体のレジェンドルガが更に現れ、ディケイドを焦点に不意打ちを仕掛けて来た。

 

 

ディケイド(ツカサ)『アゥッ!くっ!卑怯だよ!いきなり不意打ちを仕掛けた上に人質を取るなんて!』

 

 

『フンッ、貴様等の道理など知った事ではない!』

 

 

『連中の命が惜しければ抵抗はしない事だ。ディケイドが三人もいれば我等に勝ち目はない……どんな手を使っても、貴様だけは倒す!』

 

 

ディケイド(ツカサ)「くっ!」

 

 

幽汽(俊介)『ツカサ!』

 

 

クウガ(裕香)「このっ!離しなさいっ、卑怯者!」

 

 

幽汽とクウガはレジェンドルガの拘束から逃れようとするが簡単には行かず、その間にも二人を人質に取られてるせいでディケイドは抵抗も出来ず一方的に痛め付けられ、レジェンドルガ達の連携攻撃に段々追い詰められ吹っ飛ばされてしまう。

 

 

ディケイド(ツカサ)「うっ…こん、のぉ…っ!」

 

 

『ディケイド、貴様自身に恨みはないが、ロードの身の為だ。だから……お前は此処で死ねェェェェェェェェェェェェッ!!』

 

 

『「ツカサ!!」』

 

 

レジェンドルガが振りかざした武器が、倒れるディケイドに向けて勢いよく振り下ろされる。幽汽とクウガの悲痛な叫びを耳に、ディケイドは目を強く閉じ痛みに堪えようとする。だが、その時…

 

 

 

 

―ブオォオオオオオオオオオオッ…―

 

 

 

 

『『『……?!』』』

 

 

ディケイド(ツカサ)「…え?…これは…」

 

 

レジェンドルガが振り下ろした武器がディケイドを切り裂く寸前当、突然ディケイド達とレジェンドルガ達を囲むように銀色のオーロラが出現したのだ。その場にいる全員が突然の出来事に驚いていると、誰もが予想だにしていなかった異変が起き始めた。

 

 

 

 

―……フッ……ズガガガガガガガガガガァアアアッ!!!!!!ドゴオォオオオオオオオオオオンッ!!!!!!―

 

 

 

 

『アガッ?!グガアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

幽汽(俊介)『ウアァッ?!』

 

 

クウガ(裕香)「キャアァッ!?」

 

 

『な、何だッ?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)「え?え?な、何コレ?!」

 

 

ディケイド達は目の前の光景を見て唖然とした表情を浮かべ困惑する。それもそのはずだ。何故なら、いきなり銀色のオーロラが出現したかと思いきや、直後に突然レジェンドルガが次々と爆発を起こして散っていったからだ。更に…

 

 

―…フッ…グサアァッ!!―

 

 

『グガアァッ?!アガァ…アアァ…ッ!』

 

 

「「『……?!』」」

 

 

最後に残ったレジェンドルガの胸を、突然後ろから何が突き刺した。レジェンドルガの胸をからは剣の先のようなものが突き出て、その刃に貫かれたレジェンドルガは首だけを動かして後ろの方を向くと、"ソレ"を見て息を拒んだ。

 

 

『き、貴様は…?!何故…貴様…が…―ズザアァァッ!!―ギガアァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

レジェンドルガが驚愕と恐怖の入れ混じった声で何かを呟き掛けるが、突き刺されていた剣がそのままレジェンドルガの胸から右肩までを斬り上げ、レジェンドルガは断末魔を上げて散っていったのだった。

 

 

ディケイド(ツカサ)「な、何?!一体なにが起きてるの?!」

 

 

最後に残ったレジェンドルガも爆発を起こして散っていき、残されたディケイド達は目の前で何が起きたのか全く理解出来ずに混乱するしかなかった。そして、その爆発により発生した爆煙が少しずつ晴れていくと、煙の向こう側から一つの人影が見え始めて来た。それは…

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

幽汽(俊介)『?!な、何だ…アイツ…?』

 

 

クウガ(裕香)「ラ…ライダー?」

 

 

そう、爆煙の中から姿を現したのは、怪しい輝きを放つ赤黒い鎧に、鋭く尖った両肩のアーマー、右手には禍々しいオーラを放つ赤い剣を手にした、何処かディケイドに似た姿をした謎のライダーだったのだ。

 

 

ディケイド(ツカサ)「……あ…ああぁ……あぁ…」

 

 

幽汽(俊介)『……?ツカサ…?』

 

 

その謎のライダーの近くに立つディケイドの様子に、幽汽が怪訝な表情を浮かべた。

 

 

可笑しい。いつもの彼女ならどんなライダーでも目の前に現れた瞬間、テンションが最高潮に上がったり写真を激写しまくったりするはずなのだが、ディケイドは目の前にいるライダーを見て明らかに怯えて固まっていたのだ。すると、先程からジッと佇んでいた謎のライダーがディケイドにゆっくりと近寄る。

 

 

『……ディケイ、ド……いいや、違う…おマえじゃ…ナイ…』

 

 

ディケイド(ツカサ)「…え…?―ズバアァンッ!!―キャアァァァァアッ!!!」

 

 

クウガ(裕香)「なっ?!」

 

 

幽汽(俊介)『ツカサァッ!!』

 

 

なんと、謎のライダーはディケイドを見て何かを呟いた瞬間、いきなり有無も言わさず右手に持つ剣でディケイドを斬り飛ばしたのだ。ディケイドはそのまま近くの大木に叩きつけられ、謎のライダーはディケイドを見つめながら僅かに口を開く。

 

 

『ディケイドも…ライダーも……全テの世界ニ必要なイ…ライダーは存在しテはナらない……"レイ"も…ライダーも…存在してはナラナイ……こんナ、世界……!』

 

 

語る言葉が、所々カタコトで拙い。それだけでも謎のライダーの異常さが伝わり、憎悪を込めたような口調と共に謎のライダーは右手に持つ剣を持ち直しディケイドに向かって再び斬りかかっていった。

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑮(裏ー2)

 

 

 

―ズバァアアアッ!!!ガギィイイイッ!!!―

 

 

ディケイド(ツカサ)「ウァァァァッ!!」

 

 

クウガ(裕香)『ツカサァ!』

 

 

幽汽(俊介)「何やってんだツカサッ!!なんで戦わないんだよッ!?」

 

 

突然現れた謎のライダーの放つ斬撃が無抵抗のディケイドを斬り刻んでいく。一方でディケイドは何故か先程から反撃どころか防御や回避も行おうともせず、幽汽とクウガは何もせずに攻撃を黙って受けていくディケイドを見て疑問や焦りを感じていた。

 

 

ディケイド(ツカサ)「クッ…う…うぅ…」

 

 

『………………』

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

ディケイド(ツカサ)「ウグッ!?」

 

 

謎のライダーは無言のまま地面に倒れているディケイドに近づき片足でディケイドを動けないように抑えつけ、右手に持つ剣を両手で握り締めながらその切っ先をディケイドの胸に突きつける。

 

 

ディケイド(ツカサ)「うっ…うぅ…」

 

 

『……哀れ、ダナ……この先二待つ、クルシミもシらず……そうなる、前二、ココで……お前の旅ヲ終えろ』

 

 

ディケイドを片足で抑えつけたまま、謎のライダーは両手に持つ剣を掲げ、その切っ先をディケイドの左胸に向けてその命を刈り取ろうと勢いよく剣を振り下ろした。だが…

 

 

幽汽(俊介)『させるかァァァァァァァァッ!!!』

 

 

『……!』

 

 

―ガキィイイイイイイイイッ!!―

 

 

謎のライダーの剣がディケイドの胸に突き刺さろうとした瞬間、横から幽汽が飛び出して謎のライダーに斬りかかった。謎のライダーは突然の攻撃に驚きながらもそれを防いで後退し、その間にクウガと幽汽がディケイドに駆け寄る。

 

 

クウガ(裕香)「大丈夫ツカサ?!しっかりして!」

 

 

ディケイド(ツカサ)「…あ…裕香……俊介…?」

 

 

幽汽(俊介)『この馬鹿!何やってんだ!あんな奴、いつものお前なら簡単に倒せるはずだろッ?!』

 

 

幽汽がディケイドに向けて大音量で怒鳴るが、ディケイドは顔を俯かせたままで何も答えない。

 

 

幽汽(俊介)『…ツカサ?』

 

 

ディケイド(ツカサ)「…あ…あはは…ゴメン……何か、アイツを見たら…身体中が震えちゃってさ……全然…思い通りに動かないんだよ…ね」

 

 

震えた声で申し訳なさそうに謝るディケイドに幽汽は一瞬戸惑った。ディケイドには何時ものような元気はなく、身体中をガタガタと震わせて弱々しく見える。長い付き合いである幽汽でさえディケイドのそんな姿は見た事がない為、驚きや戸惑いを隠せずにいた。そんな時……

 

 

『……なるほど……幽汽にクウガか……一度に二人ノライダーが現レルとは……探す手間が省けタ』

 

 

『ッ?!!』

 

 

背後から聞こえてきた無機的な声に、幽汽とクウガが反応して慌てて振り返った。その瞬間、

 

 

『ATTACKRIDE:SPIRAL BLADE!』

 

 

―ズバアァアアアアアアンッ!!―

 

 

幽汽(俊介)『グアァァァァァァアッ!!』

 

 

クウガ(裕香)「キャアァァァァァアッ!!」

 

 

ディケイド(ツカサ)「?!俊介ッ!裕香ッ!」

 

 

二人が振り返った瞬間、謎のライダーが凄まじい風を巻き付けた剣戟で幽汽とクウガを纏めて斬り飛ばした。ディケイドはそれを見て思わず二人の下に駆け寄ろうとするが、謎のライダーがそれを許さないと言う様にディケイドの首筋に剣を突き付けた。

 

 

ディケイド(ツカサ)「ッ…な…何で?何でこんな事するの…?貴方は一体…誰っ?」

 

 

震えた口調でそう問い掛けると、謎のライダーはディケイドに剣を突き付けたままゆっくりと口を開く。

 

 

『かつテ…ライダーとしテ戦い…ライダーと言ウ運命に……全テを奪ワレた者だ……』

 

 

ディケイド(ツカサ)「えっ?―ズバアァァアンッ!!―ウアァァッ!!」

 

 

幽汽(俊介)『クッ…!ツカ…サ…ッ!』

 

 

クウガ(裕香)「…!身体が…動かない…っ!」

 

 

謎のライダーに圧されて不利になっているディケイドを助けようとする幽汽とクウガだが、先程の攻撃により身体が麻痺を起こしまともに動こうとせず、二人は黙ってただその光景を見ている事しか出来なかった。その間にも、謎のライダーはまるで憎しみを叩き付けるようにディケイドを何度も何度も斬りつけて吹っ飛ばしていく。

 

 

『コレで……終わらせヨう……ソレが……オマエに、とっても……』

 

 

謎のライダーはそう言って左腰のカードフォルダーからカードを取り出し、右手に持つ剣に装填してスライドさせる。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DIREED!』

 

 

電子音声が響くと、謎のライダーの周りにカードの形をした九枚のディメンジョンフィールドが発生し、何度か謎のライダーを中心に回ると、一枚、また一枚と剣に集束されていき、全てのディメンジョンフィールドが刀身に集まると、刃が徐々に伸び、遂には数十メートル程まで伸びた巨大な光刃となっていった。

 

 

ディケイド(ツカサ)「クッ……!」

 

 

幽汽(俊介)『ツカサッ!!立って逃げろッ!!早くッ!!』

 

 

あれを直感的に見て危険だと感じた幽汽がディケイドに叫ぶが、ディケイドは今まで受けたダメージによって身体が全く言う事を聞いてくれず、そして……

 

 

『……さヨならだ……別世界のディケイド……ウオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

―シュウウウウウゥッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァアアアアアアッッッッ!!!!!!!―

 

 

謎のライダーが右手に持つ剣を横薙ぎに払うと、光刃が大地を削りながら徐々にディケイドへと近づていき、光刃がディケイドに直撃しようとした、その時…

 

 

 

 

 

『END OF CRASH!』

 

 

『ゲル・ギム・ガン・ゴー・グフォ…ふんッ!ウィィィィィィィタァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ズガアァンッ!!スガガガガガガガガガガガァ…ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!―

 

 

『……?!』

 

 

「「『……え?!』」」

 

 

突然上空から何者かが現れ、そのまま降下の勢いを利用して謎のライダーがディケイドに向けて放った光刃に向かって両手を固く握り締めた鉄拳をぶつけ合わせ、巨大な大爆発を起こして辺りを爆風が包み込んでいった。

 

 

ディケイド(ツカサ)「ケホッ!ケホッケホッ!こ、今度は何?!まさか、また敵?!」

 

 

次から次へと続く急展開にディケイドは混乱し、また新たな敵が出現したのではと辺りを警戒する。すると…

 

 

『──大丈夫だよ。助けに来たのは私だから』

 

 

ディケイド(ツカサ)「え?……その声は……」

 

 

爆煙の中から聞こえた優しげな声に、ディケイドは疑問符を浮かべる。次第に爆煙が強風に吹かれて少しだけ晴れると、いつの間にかディケイドの目の前には一人のライダーがディケイドを守るようにして立ち構えて謎のライダーと対峙している。そのライダーを見たディケイドは信じられないものを見る様に目を見開いて驚愕した。そのライダーとは…

 

 

ディケイド(ツカサ)「ガ、ガイア…?…まさか…"シズク"?シズクなの?!」

 

 

ガイア『──うん♪久しぶりだねツカサ。元気にしてた?』

 

 

目の前にいたのは、漆黒の翼を背中にし、両膝にはドリルを、両腕には巨大な手甲をして頭部からは後ろ髪を靡かせている獅子のような姿をしたライダー……ツカサ達の異世界の友人である、シズクと呼ばれる少女が変身した『仮面ライダーガイア』だったのだ。

 

 

ディケイド(ツカサ)「えっ?ちょっ、何で?!何でシズクがここにいるの?!」

 

 

ガイア『アハハ…まあ…それについては後で説明するから、今は…』

 

 

ガイアは一度ディケイドとの会話を中断し、目の前に視線を戻す。そこには右手に剣を持って構えた謎のライダーが、殺気を放ちながらガイアを睨みつけていた。

 

 

『…ナるほド…お前達マでこの世界ニに来てイタトは…予想外ダッたよ…』

 

 

ガイア『……それはこっちの台詞だよ。なんで貴方がここにいるの?貴方はこの時間―ズバアァンッ!―…ッ!』

 

 

ガイアが何かを言いかけた瞬間、謎のライダーがそれを遮るように斬撃破を放ち、ガイアの頬を掠めた。

 

 

『ソれ以上ハ禁句だ…本当ならこのセカイのライダー達を潰シてから戻ろうとオモッていたが…お前達がイルのなら話は別だ……今回はコノ辺りでヤメにしよう…』

 

 

謎のライダーがそう言うと、背後から銀色のオーロラが出現していく。

 

 

ガイア『ッ!逃げる気?!』

 

 

『……イマはまだ、オマエ達と事を荒立てる必要ガないのでな……イズレまたアエるさ……例エ俺でなくとも……"いつか"の──』

 

 

謎のライダーはガイアに向けてそう言うと、銀色のオーロラが謎のライダーを包み込み、そのままオーロラと共に謎のライダーは何処かへと消え去ってしまった。

 

 

ディケイド(ツカサ)「消え、た……ハァ~、助かった~!ありがとねシズク!さっきのは流石の私もやばかったよ~。てか、さっきのライダーは一体なんだったの?………シズク?」

 

 

謎のライダーが消えて安心したのか、いつもの調子に戻ったディケイドがさっきのライダーの事についてガイアに説明を要求するが、ガイアは深刻そうな様子で両腕を組み、何やら考えに浸っていた。

 

 

ガイア(まさか、彼が此処まで来ていたなんて…もしかして、この世界のディケイドに引き寄せられて?いやでも――)

 

 

ガイアは先程のライダーについて何か心当たりがあるらしく、その事について何かを深く考えていた。そんな時…

 

 

ディケイド(ツカサ)「―――――シズク?聞いてるの?オーーイ!シ・ズ・クー!」

 

 

ガイア『…えッ?!あっ!な、何?ツカサ…?』

 

 

考え事に集中していた為に、ディケイドが話し掛けていた事に気づかなかったガイアが漸く我に返り、慌てて返事を返した。

 

 

ディケイド(ツカサ)「もお!「な、何?ツカサ…?」じゃないよ!さっきから聞いてるじゃん!あのライダーは一体何なのかって!」

 

 

ガイア『えっ?あ、ああ…えーと…それは…』

 

 

説明を要求して詰め寄ってくるディケイドに戸惑いながらも何とか説明しようとするガイア。すると……

 

 

俊介「ツカサーッ!何処にいるんだーッ!?」

 

 

裕香「返事をしてーッ!!」

 

 

黒煙の向こうからディケイドを探しに来た俊介と裕香の声が聞こえ、ディケイドはそれに反応して振り返った。

 

 

ディケイド(ツカサ)「あっ、俊介と裕香だ」

 

 

ガイア『ああ、それなら二人も含めて一緒に説明するよ。そっちの方が私も色々と説明しやすいし、これからの事も皆と話し合わないといけないしね』

 

 

ディケイド(ツカサ)「ああ、そっか……じゃあそうと決まればさっさと二人を迎えに行こ!」

 

 

ガイア『うん』

 

 

取りあえず二人は変身を解除すると、先程の事やこれからの事について話し合う為に俊介と裕香と一度合流しようと考えてその場から歩み出していった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

辺りが銀色のオーロラに包まれた無空間。そんな何も無い空間にで、先程ディケイド達と戦っていた謎のライダーが自分の世界へと向かう為にその場所を歩いていた。

 

 

『……奴らのセいでレイを探せず、別世界のディケイドも仕留められなかっタが……まあイイ……いズれは奴らと戦ウ事になるンダ、急ぐ必要モないか……』

 

 

謎のライダーは誰に言う訳でもなく、ただ一人呟きながら無空間を歩いていく。

 

 

『……なノは…フェイト…ハやて……皆……俺はモう迷わナイ……オレは必ず、ライダーを一人ノコラズ消し去っテみせる……ダから……見ていてクレ…』

 

 

謎のライダーは僅かに哀しみの混じったような声で決意を固めるように言うと変身を解除して元の姿に戻っていく。その姿は全身に黒いコートを着て頭にフードを被った男であり、男はフードを深く被って自分の世界へと戻る為に歩みを進めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑯(前)

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァアアアッッッッ!!!!!!―

 

 

 

Dファイズ『ハァァッ!セヤァッ!』

 

 

コーカサス『ハッ……!やはりやりますね!流石は破壊者と呼ばれるだけはある!』

 

 

Dファイズ『チッ!破壊者破壊者って、何度もうるせぇんだよ!』

 

 

音速の世界で格闘戦を繰り広げるDファイズとコーカサス。素早いラッシュを繰り返してくるコーカサスの攻撃をかわしながら、Dファイズは素早く蹴りを放って反撃しコーカサスとの距離を離していく。

 

 

コーカサス『ハアァァッ!!』

 

 

Dファイズ『ッ!デアアァァッ!!』

 

 

―ドゴォオオンッ!!―

 

 

Dファイズ『グゥッ!』

 

 

コーカサス『グッ!』

 

 

猛スピードで突撃して来たコーカサスにDファイズも迎え撃ち、互いに放ったクロスカウンターが互いのボディを殴り付けて二人は勢いよく吹っ飛ばされてしまう。

 

 

Dファイズ(っ!あと7秒か…早めにケリを付けねぇとな!)

 

 

ファイズアクセルを見てそう思ったDファイズは直ぐ様起き上がり、ライドブッカーを開いて其処から一枚のカードを取り出した。

 

 

Dファイズ『こっちは時間が迫ってるんでな!そろそろ決めさせてもらうぜ!』

 

 

取り出したカードをコーカサスに見せつけるようにしてそう言うと、Dファイズは取り出したカードをディケイドライバーに投げ入れスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

Dファイズ『ふっ!』

 

 

電子音声が鳴ると同時に、Dファイズは空高く飛び上がる。するとコーカサスの周りに複数の赤い円錐状の光が出現してコーカサスをロックオンし、Dファイズは空中前転した後に右足をコーカサスに向ける。

 

 

Dファイズ『セエァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

Dファイズはそのまま降下を利用しコーカサスに向けて必殺技を放とうとした。だが、

 

 

 

 

 

『HYPER CLOCK UP!』

 

 

 

 

 

―フッ……―

 

 

Dファイズ『──……?!なッ!?』

 

 

Dファイズの必殺技であるアクセルクリムゾンスマッシュがコーカサスに直撃しようとした瞬間電子音声が響き、それと同時に、目の前にいたはずのコーカサスの姿が突然消えてしまった。

 

 

Dファイズ『な、なんだ?一体何処に…―ドゴォオッ!!―グァッ!!?』

 

 

Dファイズは着地しすぐにコーカサスの姿を探していたが、突然背中から何かに殴られたような衝撃が走りDファイズは耐え切れずに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

Dファイズ『グッ…何なんだ一体…?!―バキィッ!!―ウアァッ!!!』

 

 

突然の出来事に戸惑いながらも何とか態勢を立て直そうとするが、それを許さないとばかりにDファイズは気がつかぬ内に何かによって何度も吹っ飛ばされていく。そして…

 

 

『TIME OUT!』

 

 

ファイズアクセルから時間切れを示す電子音声が響き、Dファイズはディケイド(進)へと戻ってしまい、それと同時に周りの時間の流れが元に戻ってしまった。

 

 

零「……?!元道ッ!?」

 

 

『進(さん)?!』

 

 

時間の流れが戻ったと同時に、零とこなた達は地面に倒れているディケイド(進)に気づき驚愕の声を上げる。その時…

 

 

『HYPER CLOCK OVER!』

 

 

先程聞こえた電子音声が再び響き、ディケイド(進)から離れた所にクロックアップの効果が切れたコーカサスが姿を現した。

 

 

ディケイド(進)『クッ!何だったんだ今のは…?!俺の速さでも追いつく事が出来なかったぞ…!?』

 

 

突然とんでもないスピードで動き出したコーカサスにディケイド(進)はふらつきながら立ち上がり、目の前に佇むコーカサスを見て困惑ふる。すると、こなたがディケイド(進)の様子を見て何が起こったのか気づき、何とか身体を起こしてディケイド(進)に叫ぶ。

 

 

こなた「に、逃げて進っ!そいつの力には、今の進じゃ太刀打ち出来ない!」

 

 

ディケイド(進)『?こなた…アイツの力の事知ってるのか…?』

 

 

こなた「うん!そいつにはハイパーゼクターって言うアイテムを使った、"ハイパークロックアップ"っていうクロックアップを越えた力を持ってるの!その速さにはファイズのアクセルフォームでもカブトのクロックアップでも対抗出来ないんだよ!」

 

 

「「「なッ……」」」

 

 

こなたから告げられた衝撃的な事実に、ディケイド(進)や零達は驚愕した。クロックアップの力だけでも限度を越えたものなのに、それをも越える化け物じみた力を目の前にいる敵が持っている。その事実にディケイド(進)や零達は戦慄する中、コーカサスはこなたを知識に感心を覚えていた。

 

 

コーカサス『ほお、この力の事を知ってる者がいたとは……確かに、そこにいる彼女の言う通り私にはクロックアップを越える力を持っています。例え破壊者である貴方達でも、この力に打ち勝つ事は叶いませんよ』

 

 

自信に満ちた口調でコーカサスはそう言うと、ディケイド(進)に悠然と近づいていく。

 

 

ディケイド(進)『クッ…(確かにアイツの力は面倒なものだ……けど、さっきこなたの言っていたハイパーゼクターとかって言う奴を壊せば、俺にも勝機があるはずだ…!』

 

 

ディケイド(進)はコーカサスの左腰に備え付けられた銀色のカブトムシのようなツールが先程こなたが言っていたハイパーゼクターだと予測し、それを狙って腰にあるライドブッカーをガンモードに変えコーカサスの左腰を狙う。だが…

 

 

『HYPER CLOCK UP!』

 

 

―シュンッ…ドゴォオオンッ!!ドゴォオオンッ!!―

 

 

ディケイド(進)『グゥッ?!ウアァァァァアッ!!!』

 

 

その狙いをコーカサスも予測しているのか、コーカサスは再びハイパークロックアップを発動させて超高速で動き出し、ディケイド(進)を一方的に殴り飛ばしていく。そのダメージによって変身が解除されてディケイドから進に戻ってしまった。

 

 

ゆたか「す、進さんっ!」

 

 

こなた「うぅっ!駄目ぇ…全然動けない…!」

 

 

なのは「っ!お願い…っ!動いてぇ…!」

 

 

進を助ける為になのは達は起き上がろうとするが、先程コーカサスから受けたダメージがまだ残っており、全身に痛みが走ってまったく動けなかった。

 

 

『HYPER CLOCK OVER!』

 

 

進「うっ…ぐぅ…!」

 

 

コーカサス『破壊者とは言っても所詮この程度ですか。大した事ありませんでしたね……さて』

 

 

零「ッ!」

 

 

コーカサスは倒れている進から視線を外し、今度は零とヴィヴィオの方に視線を移し二人の方へとゆっくり近づいて来る。

 

 

コーカサス『彼は後回しにしても問題はないようだ。先に貴方から始末して差し上げましょう』

 

 

零「チィッ!」

 

 

ヴィヴィオ「パ…パパ…」

 

 

零は険しい表情を浮かべてヴィヴィオを自分の後ろに下がらせ、コーカサスを睨みつける。コーカサスは二人に近づきながら左腰にあるハイパーゼクターのホーンに触れ上下に可動させた。

 

 

『MAXIMUM RIDER POWER!』

 

 

ハイパーゼクターから電子音声が響くと、ハイパーゼクターからコーカサスの角にエネルギーが流れていき、今度は角から右足に流れコーカサスの右足が輝き出した。

 

 

零(クソッ!どうする…?!このままじゃヴィヴィオも…!)

 

 

何か手段はないかと必死に考える零だが、どんなに考えた所でそんな考えが浮かぶはずもない。それに怪我のせいでヴィヴィオを連れて逃げる事も出来そうにない。零は自分の無力さを悔しく思い、血が滲むまでに手を握り締める。すると、ヴィヴィオは零のその様子を見て泣きそうな表情を浮かべ、零の服を力強く握り締める。

 

 

ヴィヴィオ(…やだ…やだ……このままじゃパパが……パパが死んじゃうなんて……絶対いやだぁ!」

 

 

何も出来ない。ただ見ているしか出来ない。目の前で皆が傷ついていくのを見ているしか出来ない。ヴィヴィオはそれが耐え切れず、ただ自分の無力さを恨むしか出来ずにいた。

 

 

進「く…黒月!逃げろッ!早くッ!」

 

 

なのは「止めて…!二人に手を出さないで!!」

 

 

みなみ「ぐっ!まだ…動けないっ…!」

 

 

こなた「動いてよ…!お願いだからッ!」

 

 

ヴィヴィオ(……ママも……お姉ちゃん達も……皆死んじゃう……やだ……そんなの絶対いやだ!!!)

 

 

──皆を守る力が欲しい。

 

 

守ってもらうのではなく、助けてもらうのではなく、

 

 

皆を守る為の、助ける為の力が欲しい。

 

 

ヴィヴィオは強くそう思い、目尻に涙を浮かべて零の服を握る手に力を込めた。そして……

 

 

 

コーカサス『まずは…一人目………ハアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

 

零「ッ!クソッ!」

 

 

 

進「黒月ィッ!!」

 

 

『零(君・さん)ッ!!』

 

 

コーカサスは零に向けてライダーキックを放ち、零は死を覚悟しながらもヴィヴィオだけは守ろうと自分の身体を盾にするようにしてヴィヴィオの前で両腕を広げた。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオ「やめて……やめて………これ以上……皆を…!……傷つけないでぇええええええええええええええッ!!!!」

 

 

 

『Cord…Set Up!』

 

 

 

―シュウウウウウゥゥゥゥ……ズドオォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

コーカサス『?!なっ……グアァァァアッ!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

コーカサスのキックが零の頭を蹴り砕こうとした寸前、突然ヴィヴィオの腰に巻かれていたベルトから独特な電子音声が鳴り響き、それと同時にベルトが激しく輝き出し光の波動が発生した。それはコーカサスを吹っ飛ばしただけでなく、光の波動が拡散しヴィヴィオの身体を包み込んでいった。

 

 

零「?!ヴィ…ヴィオ…?」

 

 

目の前には光に身を包まれたヴィヴィオの姿があり、その姿は今までの小さい姿から徐々に大きくなっていき、十代半ば程度と思われる少女の姿『聖王モード』となった。

 

更に、その身体の上には聖王モードのヴィヴィオが着ていた戦闘服をイメージしたような黒と白のツートンカラーのライダースーツを身に纏い、背中からキバ・エンペラーフォームが身に付けているマントを黒一色に染めた様なマントが出現し、最後にマスク部分の額に埋め込まれている赤い宝石が輝くと、灰色だった複眼が緑色となって輝き出した。

 

 

『―――ふっ、ハアァアッ!!』

 

 

―ドゴオォオオオオッ!!!!!!―

 

 

全ての変身を終えたヴィヴィオ……否、新たなライダーは自身の身を包んでいた光を片手で振り払うと衝撃波が発生し、新たなライダーが佇む大地が轟音と土煙を起てて沈没した。

 

 

なのは「ッ?!ヴィ、ヴィヴィ…オ?」

 

 

こなた「ヴィ、ヴィヴィオが……ライダーになっちゃった?!」

 

 

進「!…あれは……そうか……あれが―――」

 

 

零「―――『ナンバーズ』……か」

 

 

なのは達が新たなライダーを見て驚く中、零と進は何故かあのライダーの名が脳裏に浮かび、思わず小さく呟いた。そしてナンバーズは背中のマントを翻し、零の横を素通るとコーカサスの下へゆっくりと近づいていく。

 

 

コーカサス『…っ!クッ!何者かは知りませんが、私の邪魔をするのなら排除するまで!!』

 

 

ナンバーズから放たれるとてつもない気迫に圧倒されながらも、コーカサスは拳を振りかざしナンバーズへと突っ込んでいく。だが…

 

 

―パシッ!―

 

 

コーカサス『……なっ?!』

 

 

ナンバーズ『ふっ──!ハアァアアアアアアッ!!』

 

 

―ズドオォン!ズドオォン!ズドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!―

 

 

コーカサスが突き出した拳を片手で払い除け、ナンバーズはそのまま身体をコマのように回転させた後にコーカサスに高速の蹴りを打ち込んでいく。その蹴りはマシンガンの如く次々とコーカサスに直撃してダメージを与えていき、コーカサスの身体も少しずつ宙に浮かんでいく。そして…

 

 

ナンバーズ『セェェアァァァァァアッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!―

 

 

コーカサス『グッ?!!アァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

とどめに放った回転蹴りがコーカサスの頭部に打ち込まれ、それをもろに受けたコーカサスは約30mの距離まで吹っ飛ばされ地面に叩きつけれていった。

 

 

コーカサス『…アッ…ガッ…グゥッ…!』

 

 

ナンバーズ『…もう誰も、傷つけさせない。今度は私が…皆を守ってみせる!!』

 

 

凜とした声で言い放ち、ナンバーズは漆黒のマントを翻して自らが蹴り飛ばしたコーカサスの下へと歩み出していった。

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑯(後)

 

 

零「…凄いな……あれがナンバーズの力か…」

 

 

スバル「ヴィ、ヴィヴィオ…強~いっ…」

 

 

進「いや…というかデタラメ過ぎるだろ。あの強さ…」

 

 

ゆたか「ヴィヴィオちゃん…凄っごいパワフルですね…」

 

 

ナンバーズの戦いを離れた場所から見ていた零達はナンバーズの戦闘能力を見て驚愕し、そのあまりの凄まじさに唖然とした表情を浮かべていた。

 

 

ナンバーズ『ふッ!ハアァッ!』

 

 

コーカサス『グゥッ!ハアァッ!』

 

 

一方、戦闘を開始したナンバーズとコーカサスは互いに拳と拳を何度もぶつけ合い、激しい格闘戦が続いている。ナンバーズは必要最低限の動きでコーカサスの攻撃を次々とかわしながら反撃していき、一歩も引かない互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

なのは「……ヴィヴィオ……くっ…うぅっ!」

 

 

こなた「?!なのはさん…?!」

 

 

ナンバーズが戦う姿を見ていたなのははふらつきながらゆっくりと起き上がり、Kウォッチを操作して自分の腰にトランスドライバーを出現させた。

 

 

ティアナ「な、なのはさん!無茶ですよ!そんな身体で動いたら…!」

 

 

ゆたか「そ、そうですよ!ただでさえそんなにボロボロなのに…!」

 

 

なのは「ッ…ううん…こんな所で…ジッとしてるワケには行かないよ…ヴィヴィオが戦ってるのに…私だけが休んでるなんて出来ないからね…」

 

 

なのははそう言いながら左腰にあるライドブッカーからトランスのカードを取り出して変身しようとする。すると、なのはの隣に同じくボロボロの姿をしたこなたとみなみが立ち並ぶ。

 

 

なのは「?…こなたちゃん…みなみちゃん…」

 

 

こなた「ッ…私も行くよ。アイツに負けたままっていうのも悔しいし、二人にだけ戦わせるワケにも行かないしね♪」

 

 

みなみ「どこまで戦えるかは分かりませんが、私達も加勢します…」

 

 

力強い表情でそう告げる二人になのはは一瞬呆気に取られるが、すぐに笑って頷き返し、二人もそれぞれの変身ツールを取り出して腰に装着する。そして…

 

 

『変身ッ!!』

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

『KAMENRIDE:SECOND!』

 

『Holy form』

 

 

三人はそれぞれの変身動作を行い、なのははトランス、こなたはセカンド、みなみは聖王へと変身していった。そして変身を終えたトランスはすぐにライドブッカーをガンモードに変え、カードを一枚取り出す。

 

 

コーカサス『グオアォッ!グゥッ…!こうなれば!』

 

 

ナンバーズ『ッ!やらさせない!!』

 

 

このままでは自分が追い込まれると焦りを感じたコーカサスがハイパークロックアップを発動させて一気に勝負を付けようとし、それを見たナンバーズはすぐにそれを阻止しようと駆け出した。とその時…

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

―ズガガガガガガガガッ!!―

 

 

コーカサス『ッ?!グアァッ!!』

 

 

不意にコーカサスに複数の弾丸が降り注ぎ、コーカサスは反応が遅れて防御出来ずに吹っ飛ばされていった。更に今の攻撃によってハイパーゼクターがコーカサスの左腰から外れて宙を飛び、それをトランスが横から跳んでハイパーゼクターを掴み取った。

 

 

トランス『……成る程、これがこなたちゃんの言ってたハイパーゼクターだね。これが無ければあんな風に動く事は出来ないんでしょ?』

 

 

コーカサス『な…ッ?!』

 

 

ナンバーズ『なのはママ!』

 

 

そう言って掴み取ったハイパーゼクターを見せびらかすようにコーカサスに見せるトランス。其処へナンバーズの隣にセカンドと聖王も駆け寄って立ち並び、トランスもハイパーゼクターを懐に仕舞うと三人の下へと下がって武器を構えた。

 

 

コーカサス『くっ…どこまで邪魔を…っ!いいでしょう!ならば先に貴方達から殺して差し上げます!!』

 

 

トランス『悪いけど、倒されるのは貴方の方だよ!』

 

 

聖王『アレを封じたのなら互角に戦える…今度こそ、貴方を倒してみせます!』

 

 

セカンド『そう言う事~♪んじゃ!こっちもそろそろ本気でいかせてもらうよ!変身ッ!』

 

 

『LYRICALRIDE:SUBARU!』

 

 

セカンドがライドブッカーから取り出したカードをセカンドライバーにセットした瞬間、セカンドの身体を風が包み込み、風が晴れるとセカンドの姿は白い薄着を来て右腕に篭手のような物を装備し白いバンダナを額に巻き付けた青髪の少女…スバルへと変身していったのだ。

 

 

トランス『……え?えぇぇぇぇえっ!!?』

 

 

ティアナ「こっ、ここっ、こなたが…ッ?!」

 

 

スバル「わ…私になっちゃったぁぁぁぁッ!?」

 

 

零「……あんな変身まであるのか……え、もしかしてお前もアレ出来るのか……?」

 

 

進「やんねーよ!ちょっと引いた目でこっち見んな!」

 

 

トランスとスバル達が変身したCスバルを見て我が目を疑い驚愕してしまう中、零は何を想像したのか進の方を見て少しドン引く様子を見せる。そして、そんな一行の反応を他所にCスバルは再びライドブッカーからカードを取り出しセカンドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『FORMRIDE:SUBARU!LOAD!』

 

 

電子音声と共にCスバルの髪の色が緑となり右腕に付けられてるマッハキャリバーが変形してサバイバルナイフのような刃が出現した。

 

 

この姿がCスバルのフォーム形態、『ロードフォーム』である。新たな姿へと変わったCスバルを見てトランスやスバル達は再び唖然とし、零は興味深そうにCスバルを見ている。

 

 

Cスバル『さ~て!いっちょキバッて行きますかっ!………あれ?……オ~イ、なのはさん?大丈夫~?』

 

 

固まったまま動こうとしないトランスの前で手を振ってみるCスバル。すると、トランスもそれで漸く我に返った。

 

 

トランス『ハッ?!あっ、だ、大丈夫だよ!ちょっとビックリしただけだから!うん!』

 

 

Cスバル『そう?ならいいんだけど…んじゃま、気を取り直して行きますか!』

 

 

聖王『はい。フェアリス、アタックスタイルへ移行。ディフェンスを削って一気にパワーで押し倒すよ』

 

 

フェアリス「了承」

 

 

トランス『……私も気を取り直してと……こっちも速攻で行かせてもらうよ!』

 

 

『ATTACKRIDE:SHIDN ISSEN!』

 

『ATTACKRIDE:BOOST UP ACCELERATION!』

 

 

ステータスの設定を終えた聖王と、カードで自身の能力を上げたトランスは武器を構えてコーカサスに突撃し、Cスバルも持ち前の瞬発力を使ってコーカサスを翻弄させ、三人は連携を取りながらコーカサスを追い詰めていく。

 

 

ナンバーズ『三人共すごい……よし!なら私も!』

 

 

ナンバーズはそう言って自分のベルトのバックル部分から携帯のような形をした変身ツール『Kナンバー』を取り出して開き、画面に表示されている『SAMON』を選んだ後に9の番号を押した。

 

 

『SAMON!NOVE!』

 

 

ナンバーズ『"ノーヴェ"!来て!』

 

 

ナンバーズはKナンバーを閉じ、ベルトの左側からKナンバーをスライドさせるようにセットした。

 

 

『Set Up!』

 

 

ベルトにセットしたKナンバーから電子音声が響き、それと同時にナンバーズの隣にBJのような服を纏い右手にスバルのデバイスであるリボルバーナックルとマッハキャリバーに似た簡素な篭手を付け、両足にはローラーブーツの様な物を装備した赤い髪の少女が出現した。

 

 

 

一方、トランスとセカンドと聖王は互いに連携を取りながらコーカサスを追い詰めていき、コーカサスも三人の息の合った見事なコンビネーションに圧され追い詰められていった。

 

 

コーカサス『ガハアァッ!ば、馬鹿な…こんなハズでは…!』

 

 

Cスバル『いい加減あきらめなよ!今のお前じゃ私達には勝てないんだから!』

 

 

トランス『こなたちゃんの言う通りです……私達も命までを奪ったりはしません。今すぐ戦闘を止めて引いて下さい!』

 

 

地面に片膝を付いて倒れるコーカサスをトランスが説得する。しかし…

 

 

コーカサス『クッ…!私が…敗れる…?ありえない!私に敗北など……ッ!』

 

 

コーカサスは再び立ち上がろうとした時、三人から離れた場所にいる零と進の姿が視界に入り、コーカサスは何かを思い付いたようにベルトの右側を押した。

 

 

『CLOCK UP!』

 

 

零「……ッ?!グアっ?!」

 

 

進「なっ?!」

 

 

『?!!』

 

 

電子音声が鳴ったと同時に、コーカサスの姿が三人の視界から消え、直後に零と進の悲鳴に似た声が聞こえて三人はその方に振り返った。すると、其処には零と進の首に腕を回して立つコーカサスの姿があった。

 

トランス『?!零君ッ!』

 

 

Cスバル『進ッ!』

 

 

コーカサス『おっと、動かないで下さい。それ以上近寄れば…この二人の首をへし折りますよ?』

 

 

零「ッ!テメェ!」

 

 

進「コイツ!離せ!」

 

 

二人を人質に取られた為に動きを封じられてしまった三人は、悔しそうな表情を浮かべてコーカサスを睨みつけ、コーカサスはそんな三人を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた。その時……

 

 

『Final Attack!Nove!』

 

 

『『『……!!?』』』

 

 

コーカサス『な、何?!』

 

 

不意にコーカサスの背後から電子音声が響き、コーカサスが振り返ると、其処には右腕にエネルギーを溜めて構えるナンバーズと赤髪の少女が身構える姿があった。

 

 

スバル「ッ?!う、うそッ…あれって?!」

 

 

ティアナ「な、何でアイツが此処に…?!」

 

 

スバルとティアナはナンバーズの隣に立つ赤髪の少女を見て信じられないもの見るように目を開き、零とトランスも驚愕した表情を浮かべて赤髪の少女を見つめる中、赤髪の少女は態勢を低くした状態のままナンバーズに呼び掛ける。

 

 

「よしっ、行くぞ!ヴィヴィオッ!!」

 

 

ナンバーズ『うん!ハアァァァァァァ……ハアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

右腕にエネルギーを溜め終えたナンバーズと赤髪の少女はコーカサスに向かって同時に駆け出し、凄まじいエネルギーを込めた右腕をコーカサスに向けて突き出しながら突っ込んでいく。

 

 

コーカサス『ッ?!チィ!』

 

 

「「うおおっ?!」」

 

 

猛スピードで突っ込んで来るナンバーズ達を見て危険だと感じたコーカサスは、零と進を投げ飛ばし、向かって来る二人を迎え撃つ為に右腕に付いているカブティックゼクターを可動させる。

 

 

『RIDER BEAT!』

 

 

電子音声が響くと同時にコーカサスの右腕が激しく輝き出し、コーカサスは輝く右腕に力を込めてナンバーズ達に殴り掛かった。

 

 

コーカサス『ハアァァァァァァァアッ!!』

 

 

『「デリャアァァァァァァァァァァアッ!!」』

 

 

―ズガアァアンッッ!!!!ズガガガガガガガガガガガッッ……ズドオォオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

コーカサス『ぅ……グアァァァァァァアッ!?』

 

 

二人の必殺技とコーカサスのライダービートが正面から激しくぶつかり合うが、二人の方がパワーが上だった為か、コーカサスは二人に押し負け吹っ飛ばされていった。

 

 

「へっ!やるじゃねぇかヴィヴィオ。今のは中々いいパンチだったぜ?」

 

 

ナンバーズ『えへへ~♪ありがとう♪』

 

 

赤髪の少女の褒め言葉にナンバーズは嬉しそうに答える。だが、零達は二人のその様子を見て唖然とし、いち早く我に返った零とティアナが慌てて赤髪の少女に呼び掛けた。

 

 

ティアナ「ちょ、ちょっと待ちなさいよ?!おかしいでしょ?!なんでアンタ普通に溶け込んでんのよ?!」

 

 

零「というか、何でお前がこんなところにいるんだ?!"ノーヴェ"!」

 

 

そう、ナンバーズと一緒にいる赤髪の少女、ノーヴェは零達の仲間の一人であり、彼女も滅びの現象で違う世界に飛ばされた……と思っていたのだが、何故か普通にナンバーズと一緒に零達を助けたのだった。

 

 

ノーヴェ「ったく、相変わらず細かいこと気にする奴だな零……そんな面倒な事は後で話せばいいだろう?それよりも……ほら、あの金ピカがマジギレしてるみたいだぞ?」

 

 

呆れたようなノーヴェの言葉に、零達は吹っ飛ばされたコーカサスの方に視線を向ける。其処には殺気を全開に放ちながらゆっくりと起き上がり、こちらへと向かって来るコーカサスの姿があった。

 

 

コーカサス『許しません…一度ならず二度までもっ!貴方達全員…、ここで私が殺しますッ!!』

 

 

進「オイオイ…あれでまだ生きてんのかよ?」

 

 

零「いい加減しつこいにも程があるだろ……」

 

 

尋常じゃない殺気を放ってくるコーカサスに呆れた眼差しを向けながら溜め息を吐く進と零。その殺気を感じて唖然としていたトランス達は正気に戻り、ナンバーズはバックル部分にあるKナンバーを開きノーヴェに視線を向ける。

 

 

ナンバーズ『ノーヴェ、一度戻って。私達だけの力じゃあの人を倒すのは無理みたい…』

 

 

ノーヴェ「ああ、どうやらそうみてぇだな。ワリィヴィヴィオ、後は頼んだぞ?」

 

 

少し悔しげなノーヴェの言葉にナンバーズは力強く頷き、それと同時にノーヴェは光の球体となってベルトにセットされてるKナンバーに吸い込まれるように戻っていく。そしてナンバーズはノーヴェがKナンバーに戻ったのを確認すると、今度はKナンバーの12の番号を入力する。

 

 

『SAMON!DEED!』

 

 

ナンバーズ『"ディード"!お願い!』

 

 

『Set Up!』

 

 

電子音声が響きナンバーズはそれと同時にKナンバーを閉じると、ナンバーズの隣に人型の残像が出現して徐々に実体化していき、BJを身に纏い、両手に赤い光を刀身とした双剣を持った栗色のストレートヘアーの少女となっていった。

 

 

零「?!あれは…!」

 

 

ティアナ「ディ、ディード?!何であの子までここに?!」

 

 

ナンバーズの隣に現れた少女、"ディード"を見て零達は驚くが、ディードはそんな反応を他所に隣に立つナンバーズに目を向ける。

 

 

ディード「陛下、行きますよ?準備はいいですか?」

 

 

ナンバーズ『うん!』

 

 

ナンバーズは力強く答えると、再びKナンバーを開き、今度は『1212』と番号を入力した後にエンターキーを押してKナンバーを閉じた。

 

 

『Final Attack!Deed!』

 

 

無機質な電子音声と共に、ナンバーズの両手にディードが持つのと同じ双剣『ツインブレイズ』が出現した。そして二人は両手に持つツインブレイズを構えて身を屈めると、ツインブレイズの刀身にエネルギーが溜まっていき、徐々に激しく輝き出した。

 

 

コーカサス『ッ?!クッ?!』

 

 

それを見たコーカサスはすぐさま防御態勢を取ってそれを防ごうとするが、

 

 

『ハアアァァァ……ハアァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

コーカサス『グググググッ……グアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

双剣にエネルギーを溜め終えたナンバーズとディードが同時にツインブレイズ振るうと巨大な斬撃破が放たれ、コーカサスは何とかそれを受け止めるも耐え切れずに吹っ飛ばされていった。それを確認した二人も構えを解くと、ディードは先程のノーヴェと同じく光の球体となりKナンバーに戻っていく。

 

 

Cスバル『す、凄いよヴィヴィオ!』

 

 

聖王『あれが、ヴィヴィオの力…?』

 

 

トランス『…もしかして、ヴィヴィオの力はナンバーズ達を呼び出せるって事?―ブオォォンッ!―…え?』

 

 

トランスがナンバーズ達を見てその能力を分析する中、突然トランスのライドブッカーが勝手に開き、そこから三枚のカードが飛び出してトランスの手に収まる。

 

 

それは零の持つカードと同じシルエットだけのカードであり、トランスがそれらのカードを手に取った瞬間、聖王の絵柄が入ったカードとファイナルアタックライド、そしてファイナルフォームライドのカードとなって浮かび上がっていった。

 

 

トランス『これはって…よしっ!』

 

 

トランスはそれらのカードを見て一瞬驚いたが、すぐに気を取り直してファイナルフォームライドのカードを手に取り、トランスドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

 

トランス『みなみちゃん、少しくすぐったいけど我慢して!』

 

 

聖王『……は?―ドンッ!―アウッ?!』

 

 

トランスは聖王の後ろに回って背中を開くように両手を広げると、聖王の身体が宙に浮きながらその姿を徐々に変えていき、聖王の武器、ホーリーフェアリスを模した巨大な大剣……『セイオウセイヴァー』へと超絶変形したのだった。

 

 

Cスバル『え、えぇっ?!み、みなみちゃんが…』

 

 

ゆたか「け、剣になっちゃった?!」

 

 

進「アイツ…なんで聖王のファイナルフォームライドを…?!」

 

 

超絶変形したセイオウセイヴァーを見て驚く進とCスバルとゆたか。トランスはその間にセイオウセイヴァーを持って構えると、周囲の風がセイオウセイヴァーの刀身に集束され激しく輝き出した。

 

 

トランス『行くよ、みなみちゃん!ヤアァァァァァアッ!!!』

 

 

―バシュウゥッ!ドゴオォオオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

トランスはコーカサスに向けてセイオウセイヴァーを思いっ切り振り下ろすと、セイオウセイヴァーの刀身から巨大な風の刃が発生し、コーカサスに直撃して吹っ飛ばしていった。

 

 

コーカサス『ガハァッ!!な、何だっ、アレはッ?!』

 

 

Cスバル『スッゴ……あれがなのはさんとみなみちゃんの力……よ~し、私も負けてらんないね!ティアナ~?カモ~ン!』

 

 

ティアナ「へ?わ、私?」

 

 

トランスの力を見て感化されたCスバルはティアナを呼び出すと、セカンドへと戻って自分のライドブッカーからカードを取り出し、一度ティアナとカードを交互に見ながら少しだけ考えるような仕草をみせる。

 

 

セカンド『う~ん…ちょっと気が引けるけど…仕方ないよね~♪ティアナ、ちょっと我慢して!』

 

 

ティアナ「………え?」

 

 

セカンドの言葉にティアナは何となく嫌な予感を感じ取ったが、時すでに遅し。セカンドは戸惑うティアナを他所にセカンドライバーにカードを装填しスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:TE・TE・TE・TEANA!』

 

 

セカンド『いっくよ~!せ~の!』

 

 

ティアナ「ま、待って!?一体な―ドンッ!―にゃぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

嫌な予感からティアナが身を引こうとするが、セカンドは構わずティアナの背中を問答無用で押した。すると次の瞬間、ティアナの身体が宙に浮びながら変化していき、まるでティアナのデバイス、クロスミラージュを模した巨大なレーザー抱『ティアナバレル』に超絶変形しセカンドの手に収まった。

 

 

トランス『え…あれって…?!』

 

 

スバル「ティ、ティアも武器に変わっちゃったぁ?!」

 

 

零「…………。なぁ、アレって俺にも使えたりするか?特になのはやフェイトやはやて辺りの……」

 

 

進「……なんでその三人チョイスなんだよ」

 

 

 

まさか生身の人間まで武器になるとは思わず、ティアナバレルを見てトランスとスバルは驚愕し、零に関しては何を企んでるのかわりとマジな顔で進にそんな質問を投げ掛けていた。

 

 

コーカサス『くっ?!これ以上は好きにやらせません!』

 

 

超絶変形したティアナを見たコーカサスには既に余裕など無く、コーカサスはティアナバレルを構えるセカンドに向かって突っ込んでいく。しかし……

 

 

『SAMON!DIECI!…Set Up!』

 

 

コーカサス『……ッ?!―ズドドドドドドォンッ!!―ウアァァァアッ!!?』

 

 

トランスやセカンドのモノではない電子音声が響き、コーカサスがそれに気づいて振り返った瞬間、二つの閃光が直撃し吹っ飛ばされた。それを見て零達が振り向くと、其処にはナンバーズと茶色の長髪を薄黄色のリボンで結わえた少女が大型の狙撃抱を構えて佇む姿があった。

 

 

零「"ディエチ"!お前も来てくれたのか!」

 

 

ディエチ「うん、ヴィヴィオや零達の為だしね。私も手伝うよ」

 

 

茶髪の少女、"ディエチ"は自身の持つ狙撃抱を持ち直しながら頬笑んで答える。するとトランスは自分のライドブッカーから先程絵柄の戻ったもう一枚のカードを取り出しながら、セカンドとナンバーズに呼び掛ける。

 

 

トランス『よしっ…こなたちゃん!ヴィヴィオ!ディエチ!決めるよ!』

 

 

セカンド『待ってましたッ!』

 

 

ディエチ「うん。ヴィヴィオ、行こう!」

 

 

ナンバーズ『うん!』

 

 

三人はトランスにそう答えると、セカンドはライドブッカーからカードを取り出し、ナンバーズはKナンバーを開く。そしてトランスとセカンドはバックルにカードをセットし、ナンバーズは『1010』と番号を入力してエンターキー押し、Kナンバーを閉じた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

『FINALATTACKRIDE:TE・TE・TE・TEANA!』

 

『Final Attack!Dieci!』

 

 

それぞれの電子音声が響くと、セカンドの持つティアナバレルとナンバーズ&ディエチの持つヘヴィバレルの銃口にエネルギーが集束されていき、トランスの持つセイオウセイヴァーにも強力なエネルギーが溜まっていき、それに呼応する様にトランスの周りには台風に近い風が吹き荒れている。

 

 

コーカサス『くっ……わ、私が敗れる?ZECT最強の戦士である私が…?……ありえない…そんな事がァアアアアアア!!』

 

 

完全に追い込まれたコーカサスは自暴自棄になり、トランス達に向かって突っ込んでいく。その間にトランス達はそれぞれの武器のチャージを終え、自身の持つ武器を構える。そして…

 

 

『イッッッけェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェッ!!!!!』

 

 

―シュウゥゥッ……チュドオォォォォォォォォォォオンッ!!!ズガアァアンッ!!ドガガガガガッ!!ドゴオォォォォォォォォェオンッ!!!!―

 

 

コーカサス『グ……ガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!?』

 

 

セカンドのティアナバレルと、ナンバーズ&ディエチのヘヴィバレルから放たれた巨大なレーザー抱、トランスが放ったTRO(トランスオーバー)が見事に炸裂し、コーカサスは光の中に飲まれて大爆発を起こし断末魔と共に散っていったのだった。それを確認したトランスとセカンドは肩で息をしながら聖王とティアナを元に戻し、コーカサスが爆散した場所を見つめた。

 

 

トランス『ハァ…ハァ……か…勝った……?』

 

 

セカンド『み、みたい…だね……』

 

 

ナンバーズ『……やった……やったーーッ!!』

 

 

ディエチ「わっ?!ヴィ、ヴィヴィオ……!」

 

 

聖王『フフッ…ヴィヴィオも嬉しそうですね』

 

 

ティアナ「まったく…こっちは巻き込まれていい迷惑よっ……まぁ、これはこれでいい経験だったかもしれないけど……」

 

 

色々あったものの、強力な敵を打ち倒したトランス達は喜びを露わにし、変身を解除して元に戻った後も、少しの間だけその場で笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

進「…………………なあ。どうでもいいが、何か俺達忘れられてないか……?」

 

 

零「……………そうだな。大して活躍も出来なかったし……喋ってないと空気になりかけてたし……」

 

 

『ア、アハハ…』

 

 

なのはやこなた達に見せ場を奪われ、大した活躍も出来なかった男二人の心に寂しい風が吹き、スバルとゆたかはそんな二人に掛ける言葉が見つからずただただ苦笑いを浮かべるしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

一方その頃…

 

 

 

―ズドオォンッ!ズドオォンッ!ピシィッ!―

 

 

アーク『フンッ!フンッ!ハアァァッ!』

 

 

アース『もっと撃てッ!!あと少しで外に出られるぞッ!!』

 

 

『ウオォオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

クアットロ「皆さ~ん、頑張って下さ~い♪」

 

 

あれから一時間弱。銀色のオーロラに囲まれ閉じ込められてしまっていたアーク達はあれからずっとオーロラの壁の破壊作業を続けていた。オーロラの壁は既にヒビだらけになっており、今にも少しの衝撃で壊れそうになっている。そして…

 

 

アーク『ハアァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

―ドゴオォオオオオオオオオオオンッ!!!……ピシッ!ピシピシピシ……ガシャアァァァァァアンッ!!―

 

 

アークが最後に打ち込んだ渾身の拳がオーロラの壁全体に大きなヒビを作り上げ、巨人達を封じ込めていた壁は遂に音を経てて崩れ落ちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑯(裏)

 

―魔界城・廊下―

 

 

 

カオス『デリャアァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバァッ!ズバァンッ!―

 

 

『グオォォォォォォォッ!』

 

 

―ドゴオォオンッ!!―

 

 

ガンナ『ちっ!コイツ等いい加減しつこいッ!!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガァッ!!―

 

 

ディロード『ウジャウジャと出て来やがって!つか数が多過ぎてキモイッ!!』

 

 

スカリエッティの研究室でレジェンドルガ達を倒し、捕虜として捕らえたセッテからアーク達の居場所を聞き出した幸助達。だが四人が城の廊下へと出た瞬間、城のあらゆる場所から大量のレジェンドルガが出現して幸助達に襲い掛かって来たのだ。変身した幸助達はそれぞれに散り、迫り来る数十体ものレジェンドルガ達を相手に奮闘していた。その時…

 

 

『オォォォォオッ!!』

 

 

セッテ「?!」

 

 

ガンナ『?!危ないッ!』

 

 

―ズバアァァァアンッ!―

 

 

ガンナはセッテに襲い掛かって来たレジェンドルガ達を斬り飛ばし、セッテを自分の後ろに下げてガンナブラスターをレジェンドルガ達に向けて構える。だがレジェンドルガ達はそれに怯む事なくジリジリと二人に迫って来る。

 

 

セッテ「あ、貴方達…一体どういうつもりですか?!何故私を…!?」

 

 

味方である自分にいきなり襲い掛かって来たレジェンドルガ達を見て困惑を隠せないセッテ。そんな彼女の疑問に、レジェンドルガ達が彼女にとって衝撃的な答えを返した。

 

 

『残念ですが、セッテ様。貴方は既に用済みという事になっております』

 

 

セッテ「よ…用済み?」

 

 

『ええ。クアットロ様達の命により、貴方が混沌の神と調律者達の抹殺に失敗して捕らえられた場合、我々の重大な情報が彼等に知られる前に貴方を排除しろ…との事です』

 

 

セッテ「!」

 

 

ガンナ『な、何だって…?!』

 

 

レジェンドルガから告げられた衝撃的な答えにセッテは驚愕し、傍にいたガンナもその内容に言葉を失う。すると、セッテはそれを聞いた数秒後にその場に力なく崩れ落ち、ガンナは慌ててセッテの身体を支えた。

 

 

ガンナ『お、おい!しっかりしろ!』

 

 

セッテ「わ…私は……姉様達に……見捨てられた……私……一体どうすれば……」

 

 

ガンナ『クッ!』

 

 

姉達に見捨てられたというショックによりセッテは完全に生気を失ってしまい、ガンナは険しい表情を浮かべながら迫って来るレジェンドルガ達に向けてガンナブラスターを構えセッテを守ろうとする。その時…

 

 

『VOLT FORM!』

 

 

カオスVF『天高満つるところに我は有り、黄泉の門開くところに汝有り、出でよ神の雷……インディグネイションッ!!!』

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ガアァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

ガンナ『グッ?!』

 

 

ガンナとセッテに襲い掛かろうとしたレジェンドルガ達の頭上から巨大な稲妻が落雷してレジェンドルガ達に直撃し、十数体以上のレジェンドルガ達は断末魔を上げて爆散していった。

 

 

するとそこへ、西洋の槍を右手に持ち、黒い装甲から黄色の装甲へと変わった姿、『ヴォルトフォーム』となったカオスとディロードがガンナ達の下へと駆け付けた。

 

 

カオスVF『智大!無事か?!』

 

 

ガンナ『ッ…!すまない幸助!助かった!』

 

 

ディロード『よそ見すんな二人共!まだ奴等は残ってるぞ!』

 

 

ディロードに言われて二人は未だ増え続けるレジェンドルガ達に視線を向け、ガンナも二人と肩を並べるように立つと三人はそれぞれに武器を構えてレジェンドルガの群れに突っ込もうとする。その時…

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォッッッッ…ッ!!!!―

 

 

『?!!』

 

 

突然轟音と共に廊下の窓から激しい光が差し込み、三人とレジェンドルガ達は突然の事に驚きながら廊下の窓に視線を向けると、魔界城から離れた場所にある更地で巨大な爆発と閃光が発生しているのが見えた。

 

 

ガンナ『な、何だあれ……爆発?……まさかアーク達か?それとも……』

 

 

カオスVF『……だとしたらコイツ等の相手なんてしてる暇はねぇな。元凶の奴を倒さなきゃとコイツ等も消えねぇワケだし…昌平ッ!』

 

 

ディロード『分かってる!任せろ!』

 

 

クロノスの呼び掛けに答えながらディロードは二枚のカードを取り出し一枚ずつ順にライドロッドにライズさせる。

 

 

『KAMENRIDE:IXA!SAGA!』

 

 

ライドロッドから電子音声が響くと複数の幻影が現れ、幻影が重なると三人の目の前に聖職者をイメージさせるような姿をした白いライダー『イクサ』と、チェスの駒のキングのような姿をした銀のライダー『サガ』が現れ、二人は武器を構えるとレジェンドルガの群れに突っ込んでいく。

 

 

ディロード『よし、今の内にこっから脱出すんぞ!』

 

 

ガンナ『了解っと…!』

 

 

セッテ「…あ」

 

 

イクサとサガがレジェンドルガ達を引き付けてる間にガンナは未だ生気を失って座り込むセッテを抱えて逃げる準備を始める。するとカオスは近くの廊下の窓に近づいて窓を蹴り破り、二人にこっちだと手でジェスチャーして呼び寄せる。

 

 

カオス『二人共急げ!!こっからなら近道だ!』

 

 

ガンナ『分かった!昌平、行くぞ!!』

 

 

ディロード『あいよ!』

 

 

セッテを抱えたガンナとディロードはカオスが蹴り破った窓を通って地上へと降りていき、クロノスも後を追って踏み出そうとしたが、イクサとサガの防衛線を突破したレジェンドルガ達がこちらへと突っ込んで来る姿が視界の端に移り、カオスは不愉快げに舌打ちをして振り返った。

 

 

カオスVF『クソッ、邪魔すんじゃねぇよ雑魚共!来いアスカ!』

 

 

『TWIN FORM…ASKA!』

 

 

鳴り響いた電子音声と共にカオスはヴォルトフォームから『アスカフォーム』へとフォームチェンジし、手に持つヴォルトスピアもアスカブラストへと変化していった。

 

 

『END OF CRASH!』

 

 

フォームチェンジを終えてすぐに電子音声が響き、カオスがアスカブラストの先端をレジェンドルガ達に向けると、アスカブラストの先端に光が集束されていく。そして…

 

 

カオスAF『ターゲットロック…シューーートッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥ…チュドオォオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『ガ、ガアァア……ッ!?』

 

 

アスカブラストから放たれた巨大な閃光が標的となったレジェンドルガ達に直撃し、レジェンドルガ達は何も出来ないまま閃光に呑まれ塵一つ残さずに消滅していった。

 

 

カオスVF『掃除完了っと…んじゃ、後は頼んだぜ!』

 

 

カオスは残ったレジェンドルガ達をイクサとサガに任せ破壊した窓から地上へと降りていき、下で待っていたガンナ達と合流すると先程の爆発が起きた場所である更地に向かっていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻。謎のライダーとの戦闘を終えたツカサ達は、シズクからあらゆる世界で起き始めている異変について説明を受けていた。

 

 

俊介「――つまり、今色んな世界に大量のレジェンドルガ達が出現し始めて、皆はその原因がこの世界にいるアークっていうライダーにあると知って調査に来ていた……って事か?」

 

 

シズク「うん、そう言う事。今は他の七柱神や違う世界の皆がレジェンドルガ達の進行を止めてくれてるから、私と幸助達はその間にアークを倒しにこの世界へ来たの。そうすれば私達の世界や他の世界にも現れたレジェンドルガ達も消滅するはずだからね」

 

 

腰まである長い青い髪に、何処かスバルと似た容姿をした十代半ば程度と思われる少女、"中島 シズク"の説明に三人は納得したように頷いている。そんな中で、ツカサはシズクが話した経緯を聞いた後に一人目を輝かせていた。

 

 

ツカサ「ね、ねぇねぇシズク?さっきさ、この世界に幸助達以外のライダー達も来てるって言ってたよね?」

 

 

シズク「え?うん…えっと確か、違う世界のディケイドである黒月 零と元道 進…電王と同じ系統の聖王っていうライダーに変身する岩崎 みなみ…後、ディケイドと系統が似ているトランスとセカンドっていうライダーに変身する別世界のなのはさんと泉 こなたって子だよ」

 

 

裕香「そ、そんなにライダーがいるんですか?!」

 

 

ツカサ「オオオオーッ!!二人のディケイドに聖王にトランスにセカンドッ!!は…早く見てたぁぁぁぁぁいッ!!」

 

 

自分以外のディケイド達や自分がまだ見た事ないライダー達がこの世界にいると言う事実にツカサはハイテンションとなって叫び、俊介と裕香はツカサのその様子に呆れるが、一々ツッコミを入れたらキリがないので放置し話を続けていく。

 

 

俊介「まあ、そっちの事情はだいたい分かったけど…ならさっきのライダーは何だったんだ?アイツを見た時に、何となくディケイドと似たような感じがしたんだけど?」

 

 

裕香「あっ、それ私も疑問に思ってました。ツカサもあのライダーを見て怯えてたように見えたんですけど……あれもそのアークっていうライダーの仲間なんですか?」

 

 

ツカサ「むっ…人が忘れたいと思ってる事を…」

 

 

先程のライダーについて質問する俊介と裕香をジト目で睨みつけるツカサ。どうやら二人に自分のあんな姿を見られたのが相当恥ずかしかったらしく、必死にその事を忘れようとしていたらしい。するとシズクは…

 

 

シズク「ううん……あれはアークの仲間なんかじゃないよ……あのライダーの事を教えるのは構わないけどその前に一つ約束して?もしもあのライダーとまた会う事になったら、絶対に戦わずに逃げるって」

 

 

裕香「…?どういう意味ですか?」

 

 

俊介「絶対に戦うなって…あのライダー、そんなに危険な奴なのか?」

 

 

揃って首を傾げる俊介の疑問に、シズクは僅かに考える素振りを見せた後、小さく頷く。

 

 

シズク「あのライダーについては、まだ不明な点があるから詳しい事は話せないけど、あのライダーはツカサ達のようにあらゆる世界を旅し、無差別にライダー達を襲ってる危険なライダーなの」

 

 

裕香「ライダー達を…襲ってる?」

 

 

俊介「何で、アイツはそんな事を?」

 

 

シズク「……ゴメン、それについてはまだ分かってないの。何故あのライダーはライダー達を襲い、何の意図があってそんな事をするのか……けど、アイツは無差別にライダー達を襲い、私達と互角に戦える力を手に入れる可能性がある……って事は分かってるんだけどね」

 

 

ツカサ「シズク達と…互角…」

 

 

シズク達……神のライダーと互角に戦えるライダー。

 

 

ツカサ達自身もシズク達の強さを知っているし、彼女達なら例えレジェンドルガが数千の軍勢で攻めてきても何の問題もなく撃退出来そうな力を持っているのだ。そんなシズク達に迫る力を持つ可能性があのライダーにはあると聞かされ、ツカサ達は驚きを隠せなかった。

 

 

ツカサ「まあ、あのライダーの目的とかについては置いといて、シズクはアイツの正体について何か知ってるの?アイツと話してる時にもそれっぽい会話してたけど…」

 

 

ツカサのその問いに俊介と裕香もシズクに視線を向ける。するとシズクは何かを考えるように一度目を瞑り、再び目を開き話しを始めようとした。その時……

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォッッッッ…ッ!!!!―

 

 

「「「「……?!」」」」

 

 

シズクが口を開き掛けたのと同時に爆音が響き、四人がその音が聞こえて来た方へと振り返ると、森を抜けた先にある場所で巨大な爆発と閃光が発生しているのが四人の瞳に映った。

 

 

裕香「あれは…もしかしてさっき聞こえて来た爆音と同じ…?」

 

 

俊介「というか、何なんだあの爆発……まさか、さっき話してたアークっていうライダーか?」

 

 

シズク「…その可能性は大きいかもね。もしかしたらあそこに幸助達も…よし!ガイアストライカー!」

 

 

ツカサ「!だったら私達も行くよ!来て、ディケイダー!!」

 

 

二人が自分のバイクの名を叫ぶと、何処からか二台の無人のバイクがツカサ達の下へと走って来た。そしてツカサは自分のバイクの後ろに俊介を乗せ、シズクは裕香をガイアストライカーの後ろに乗せるとアクセルを全開に先程の爆発が起きた場所である更地に向かっていった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑰(前)

 

 

コーカサスを辛くも撃退した零達と進達はここまでの戦いの連続で疲れが溜まっている為、怪我の治療も兼ねて身体を休められそうな適当な場所で休憩を取っていた。そんな中、零はヴィヴィオからKナンバーを借り、"Kナンバーの中にいる"ナンバーズ達から事情を聞いていた。

 

 

零「―――んで、お前等は俺達の世界が滅びようとした時に歪みに呑まれ、気がついた時には何故かこの変な携帯の中にいた…と?」

 

 

『うむ、そういう事になるな』

 

 

『ホントに大変な事ばっかだったっスよ!外に出ようとしてもこっちからは出れないし、外にいる零達に何度も呼び掛けても気づいてもらえないし……ホントに辛かったっス……!』

 

 

『だね。しかもこの中結構窮屈だし……いい加減外に出してほしいって感じなんだけど……』

 

 

零「……なるほど、お前等も結構苦労してたんだな」

 

 

ナンバーズ達の話では、零達の世界に現れた怪人達がミッドを襲っていた時、魔法が使えなくなった魔導師達に変わって唯一戦う事が出来たナンバーズ達が民間人の救助などを行っていたらしいのだが、その時にナンバーズ全員は突然現れた歪みに呑み込まれてしまい、目を覚ました時には既にKナンバーの中にいたらしく、地下室に閉じ込められていたヴィヴィオのベルトにセットされていたらしい。

 

 

因みに零と会話をしているのは上から順に姉妹の中でリーダー(姉)的な役割を持つNo.5"チンク"とNo.11とNo.6である"ウェンディ"と"セイン"だ。

 

 

零「お前達の事情はだいたい分かった。だが、本当に何も覚えていないのか?歪みに呑まれた後の事は?」

 

 

『うん。僕達も何とかその時の事を思い出そうとしてみたんだけど……やっぱり無理だったよ』

 

 

ディエチ『多分、誰かが私達の眠っている間に何かしたんだと思う。そのせいで私達はこの中に閉じ込められてるんだと思うんだけど…』

 

 

No.7の"オットー"に続くように話すディエチの言葉に零は小さく溜め息を吐いて頭を抱えると、脳裏にある男……スカリエッティの顔が思い浮かんだ。

 

 

零「なるほどな……あくまで俺の推測だが、多分お前達をこの中に閉じ込めたのはスカリエッティだろう。アイツはヴィヴィオを使って最強のライダーの作り上げるとか言っていたからな…その為にお前達の力も利用しようとしていたんだろう」

 

 

ノーヴェ『ッ……やっぱりドクターか…』

 

 

チンク『…今までの話を纏める限り、私達はあの歪みによってこの世界へと飛ばされてしまい、それよって気を失ってしまった私達をドクターが見つけた後に、その最強のライダーとやらの力の一端として私達をこの端末機の中に閉じ込めた……というワケか』

 

 

彼女達もKナンバーを通して零達の行動をある程度見ていた為、零達が話す今までの経緯やスカリエッティの目的、自分達が今いる世界についてなどの事を理解するのは早かった。

 

 

零「まあだが、ヴィヴィオがナンバーズに変身してた時にもお前達を呼び出していたワケだから…この携帯を操作すればお前達も外に出れると思うぞ?」

 

 

ウェンディ『マ、マジっスか?!』

 

 

セイン『れ、零!だったら私達をこっから出して!もうこんな窮屈な所にいるのも嫌なんだよ~!』

 

 

漸くKナンバーの中から外に出られるという事にナンバーズ達の表情は一気に明るくなっていく。だが…

 

 

 

零「ああ、それは別に構わないんだが、"後で"な」

 

 

『…………………後?』

 

 

 

後で、という単語に反応したナンバーズ達は先程までの明るい声音から一転して不思議そうな声音へと変わり、零に聞き返した。

 

 

零「今はこっちも色々と立て込んでるんだ。お前達を外に出すのは後回しにさせてもらう。まあそういう訳だから、じゃあな」

 

 

『へ?ちょっ?!待った――プツッ…ツー…ツー…』

 

 

ナンバーズ達が何かを言いかけたが、その前に零が通話を切ってしまったためそれが零に届く事はなく、後に聞こえてくるのは通話の切れた音が一定のリズムで聞こえて来るだけだった。

 

 

零「ふぅ…ほらヴィヴィオ、これ返すよ。ありがとな?」

 

 

ヴィヴィオ「うん♪」

 

 

『……………』

 

 

零は一方的に電話を切った後にKナンバーを閉じるとなのはの隣に座るヴィヴィオにKナンバーを手渡しながらお礼を言う。ヴィヴィオはそれに笑って応えるも、ヴィヴィオ以外の全員は今の会話を全て聞いていた為、若干苦笑いを浮かべていた。

 

 

零「……さて、取り敢えずナンバーズ達の件については後回しにするとして……お前達の事を話してもらっていいか?何故なのは達を知っていて…そして元道、何故お前がディケイドになれるのか」

 

 

進「……ああ、それは別に構わないがその前に一つ。その呼び名はもう止めてくれ。呼び慣れてないからどうも調子が狂う…普通に進でいい」

 

 

零「……分かった、だったら俺も零でいい。…それじゃあ気を取り直して、話を聞いてもいいか?進?」

 

 

進「ああ、分かった…」

 

 

そう言った後に進達は自身達について詳しく話をしてくれた。彼等の住んでいた世界が崩壊し、彼等は自分の世界の滅びを止める為に九つの世界を旅しているという。なのは達については前の世界で巡った『ナノハの世界』で知り合い、今は彼女達と共に旅をしているという事らしい。

 

 

スバル「ナノハの…世界?」

 

 

なのは「管理局がライダーシステムを開発して…私達がライダーになってる?……どういう事?」

 

 

なのは達は進達が話す経緯に先程のこなたが話した時と同じく訳が分からないといった反応をし、零は一人何処か納得した様な表情を浮かべて進達の話を聞いていた。

 

 

進「――俺達の事についての話はこれで終わりだ…次はそっちの話を聞いていいか、零?」

 

 

零「……分かった」

 

 

進達の話が終わった後、零も自分達の事について詳しく説明する。自分達の世界で起きた出来事。そして自分達も九つの世界を回って旅をし、自分達の世界を救う旅をしているという事を……

 

 

ゆたか「なのはさん達の世界に…滅びの現象が?!」

 

 

こなた「ど、どういう事?!だってなのはさん達の世界は私達が救ったはずなのに?!」

 

 

なのは達の世界の敵であるメタルス達を倒した事によりなのは達の世界は救われたはず。なのになのは達の世界が滅びようとしているという事を知ってこなた達は驚愕とショックを隠せないでいる。だが、そんな中で進と零の二人は何か納得したように頷いていた。

 

 

零「なるほどな、やっぱりそういう事だったか」

 

 

進「ああ、こっちも大体分かった」

 

 

こなた「え?進、何が分かったの?」

 

 

なのは「ふ、二人だけで納得しないでよ!私達なんて、まだ何がどうなってるのか分からないのに…!」

 

 

未だ互いに話した経緯の意味がよくわからないなのは達とこなた達は零と進に視線を向ける。すると二人は一度互いに顔を見合わせると溜め息を吐いてなのは達に説明を始めた。

 

 

進「簡単な事だ。此処にいるなのは達は俺達の知っているなのは達によく似ているが、全く違う別の世界の住人って事だ。だから、こいつら俺達の事を知らないワケだ」

 

 

こなた「私達の知ってる…なのはさん達じゃない?」

 

 

零「お前達の知るなのは達と俺が知るなのは達がどう違うかは知らんが、どうやらそういう事らしい…ところでいきなりで悪いんだが、お前…もしかして泉こなたって奴か?」

 

 

こなた「え……?えぇっ?!な、何で分かったの?!」

 

 

いきなりフルネームを当てられ驚くこなたに「やっぱり」かといった表情を浮かべる零は今度はゆたかとみなみに視線を移す。

 

 

零「それで…そっちのちっちゃい子が小早川 ゆたかで、そっちのスレンダーなペチャパイちゃんが岩崎 みなみだろ?」

 

 

みなみ「ペ?!ペ、ぺチャパイ…」

 

 

ゆたか「あ、当たりです…な、何で分かったんですか?!私達まだ自己紹介もしてないのに…!」

 

 

まだきちんと自分達の名を名乗ってないにも関わらず簡単に名前を当てられた事にこなたとゆたかは驚き、みなみは自分が密かに気にしている事を言われて若干へこんでいたが、原因である零は意に介さず話を続ける。

 

 

零「簡単な事だ。俺がクウガの世界で優矢の事について調べていた時に、アイツの友人であるお前達についても色々と知ったんだよ」

 

 

こなた「は?クウガの世界…?優矢…って誰?」

 

 

クウガの世界や優矢の名前を出した途端に、意味が分からないといった表情を浮かべるこなた達。

 

 

そんなこなた達の様子を見た零は自分の知ってる彼女達の世界と目の前にいる彼女達の世界は全く別だと今更になって気づき、とりあえず自分達が旅したクウガの世界は彼女達の世界と同じ事を説明すると、こなた達は再び驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

零「まあ色々とややこしくて意味が分からないとは思うが、これでハッキリとしたな……進は俺とは違う別の世界のディケイドであり、俺達の世界はお前達の知ってる世界ではない別世界。だから此処にいるなのは達はお前達の知っているなのは達ではない……みたいな感じなんだろ」

 

 

進「…何かアバウトっぽい説明だな。てか、お前はそれを知ってもコイツ等みたいに驚いたり混乱したりはしないんだな」

 

 

進はそう言ってなのは達とこなた達に視線を向けると二人とヴィヴィオ以外の全員が信じられないといった表情をして唖然としたまま固まっていた。

 

 

零「それはお前だって同じだろ?それに俺だって十分驚いているぞ。分かりづらいとは良く言われるが」

 

 

進「……変わった奴だな、お前」

 

 

零「それが俺だからな。さて…」

 

 

零は少し笑いながら言って立ち上がると、少しだけ身体を動かしながら辺りを見回す。

 

 

零「そろそろ休憩は終わりにするか。俺もさっさとスカリエッティを探して…奴からバックルとカードを取り戻さないといけないし」

 

 

進「…そういえば、さっきのコーカサスとか言うライダーが現れてから奴らの姿を見てないな。一体何処に―ガサガサッ!―…ッ?!」

 

 

二人が辺りを見回していたその時、突然一同の近くある茂みから何かを掻き分けるような音が聞こえて全員がその方を見た。

 

 

ゆたか「こ…今度は一体なんですか?!」

 

 

ティアナ「まさか…またあのレジェンドルガとかいう化け物?!」

 

 

進「ちっ!また懲りずに出て来やがったか…!」

 

 

進はそう毒づきながら懐にあるディケイドライバーを取り出すとこなた達やなのはも自分のバックルを取り出して茂みを睨みつける。そして……

 

 

―ガサガサガサッ…ガサッ!―

 

 

『………え?』

 

 

ツカサ「ジャジャーンッ!呼ばれて飛び出て私、参上!!さあ~どっからでもかかって来なさいレジェンドルガ!……アレ?人間?」

 

 

俊介「馬鹿!勝手にヅカヅカと行くなよツカ…サ?」

 

 

裕香「……えっ?人?何でこんな所に…?」

 

 

茂みの中から出て来た少年少女達……ツカサ、俊介、裕香の三人は零達を見て驚いた表情を浮かべており、零達もレジェンドルガではない普通の人間が突然現れた事に唖然としていた。

更に…

 

 

「なるほど、貴方達だね?違う世界のディケイド達というのは…」

 

 

零「ッ!?誰だ?!」

 

 

ツカサ達の後ろから少女の声が聞こえ零達はその方を見ると茂みの中から一人の少女…シズクがゆっくりと姿を現して零達に歩み寄っていく。

 

 

ティアナ「えっ?あ、貴女は…」

 

 

スバル「わ、私…?」

 

 

ティアナとスバル…いや、二人だけではなく零達もシズクの容姿を見て驚いていた。何故なら彼女の容姿はスバルと全く同じ、うり二つだったからだ。

 

 

零「誰だお前等は?何で俺達の事を…」

 

 

シズク「知っているのか…でしょ?私の名前は"中島シズク"。その子と同じ顔してるのは、まあ…簡単に言えば別世界のスバルって言えば分かるかな♪」

 

 

こなた「?!べ、別世界の…スバル?!」

 

 

スバル「……え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ?!!」

 

 

突然零達の目の前に現れた門矢ツカサ達、そして中島シズクの登場に、スバルの絶叫が暗闇に包まれた空に吸い込まれていったのだった。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑰(中)

 

それから暫くして数十分後……

 

 

零「―――つまり、そっちの三人組は俺と進とは違う別の世界のディケイド達であり、別世界のスバルであるお前は神のライダーと呼ばれるライダーに変身して、同じように色んな世界に回っている……と?」

 

 

シズク「うん、簡単に言えばそういう事になるかな」

 

 

ゆたか「で、でもなんだか…普通に考えたら凄い事ですよね……」

 

 

進「だな。まさか、ディケイドが他の世界にも複数存在していたとは……」

 

 

ツカサ「まあ、色んな世界があるワケだからそういうのはあんまり珍しくないよ?…それよか君達の持ってるベルトを私にも見せてーーーッ!!」

 

 

こなた「おわぁっ?!ちょっ?!」

 

 

俊介「いいからお前はもう少し落ち着け!!!!」

 

 

『あははは……』

 

 

先程の出来事から今になるまで、零達はシズクとツカサ達から彼女達の事やあらゆる世界について説明を受けていた。そのどれもが零達を驚かせるものばかりであり、特に此処にいる三人以外のディケイドが他の世界に存在している事や別世界のスバルであるシズクが神と呼ばれるライダーに変身する事が一番の驚きだった。

 

 

ティアナ「でもまさか…別世界のスバルっていうだけでこんなにも違うなんてね…」

 

 

スバル「うん…そっちの私達は地球出身で…母さんも生きてるんでしょ?」

 

 

シズク「うん、みんな元気にしてるよ。それに、私やギン姉も戦闘機人とかじゃないしね」

 

 

スバル「…そうなんだ……いいなぁ…」

 

 

シズクの話を聞いていく内に別世界の自分達の暮らしに羨望を感じていたスバル。

 

 

零「…それじゃあ、ツカサ達の旅してる世界のライダー達は全員女なのか?」

 

 

ツカサ「そっ♪その名も"仮面ライダー少女"。私の変身するライダーはディケイドも含めて二人のとはちょっと違うの」

 

 

進「…凄いな。まさかこういうディケイドまでがいるなんて予想もしてなかったぞ」

 

 

俊介「まあ、今までのライダー達の世界を見てきたなら、ツカサ達のライダー少女を異質に感じるのも無理はないな」

 

 

一方で、ツカサ達から彼女達が今まで旅して来た世界について話しを聞いていた零達は自分達が旅して来たライダーの世界とは違う、ライダー少女の世界の存在に驚いていた。

 

 

こなた「なるほど……じゃあそっちの裕香って子はもしかして、クウガに変身するの?」

 

 

裕香「あっ、はい!そうです!」

 

 

こなた「ほほお~、なるほどね~…」

 

 

裕香「……ふぇ?あ、あの…?」

 

 

こなたは自分の顎に手を当て、裕香をジッと観察するように上から下までを見下ろしていく。

 

 

こなた「なるほどなるほど…萌え要素が沢山詰まった上物だね~この子は♪」

 

 

ツカサ「おおっ?分かりますかねお姉さん?」

 

 

こなた「えぇ分かりますともお姉さん♪それに…中々発育が良さそうだ…将来が楽しみですな~♪」

 

 

ツカサ「ふっふっふっ、話しが中々分かるではありませんか♪」

 

 

裕香「あ…あ…あわわわ…(ガタガタガタ」

 

 

何やら危ない目つきで裕香を見つめるこなたとツカサの視線に、裕香は涙目になりながら身を縮めて怯えきっていた。

 

 

俊介「…すごいなあの子…あのツカサの意味の分からないトークについていっているぞ…」

 

 

進「…他の世界にもいるんだな。ああいうこなたみたいな奴が…」

 

 

零「類は友を呼ぶとはよく言ったものだ…あの二人を見てたらお前達の気苦労がどれだけ大きいのかよく分かるよ」

 

 

あの三人のやり取りを見ていた進と俊介に零は溜め息交じりで言いながらポンッと二人の肩に手を置き、それを見ていたなのは達は苦笑いを浮かべていた。

 

 

零「まあ、そっちの事情は大体分かった。…それで、この世界にはまだお前達の仲間はいるんだよな?」

 

 

シズク「うん。今は別行動で動いてるんだけど、まだ何処にいるのかまでは分かってな…「俺達なら此処にいるぞ」…えっ?!」

 

 

不意にその場に聞こえて来た男の声。シズクや零達がそれに驚いて辺りを見渡していると近くの茂みの中から何かが近づいて来る音が聞こえ、茂みの奥から三人の男と一番後ろを歩く少女が現れ、シズクはその三人を見た瞬間驚いた表情を浮かべた。

 

 

幸助「よっ、シズク。無事にこの世界に着いてたみたいだな」

 

 

シズク「こ、幸助?!それに智大君や昌平君まで?!どうして此処に?!」

 

 

突然の仲間との再開にシズクは驚きを隠せず、三人の下へと駆け寄りながら問い掛けた。

 

 

智大「ああ、うん。僕達も魔界城の方で調査をしていたんだけど、此処で異変が起きてるのに気づいてね」

 

 

昌平「それで此処にアークがいるんじゃないかって慌てて来てみたんだが、どうやら違ってたらしいな…」

 

 

シズクが問いかける問いに三人は溜め息混じりで答える。するとツカサ達も幸助達に近づいていき、三人はツカサ達を見て一瞬驚いた表情を浮かべた。

 

 

ツカサ「やっほー!幸助!智大!昌平!久しぶりだね!」

 

 

幸助「ツカサ?!お前等もこの世界に来てたのか!」

 

 

智大「俊介と裕香も!久しぶり!元気にしてたか?」

 

 

俊介「おう、そっちも元気そうで良かったよ」

 

 

裕香「こうして会うのもどれぐらいぶりでしょうか」

 

 

昌平「おいおい裕香ちゃん。それじゃあ俺達が老けてるように聞こえるって」

 

 

予想外の再開に一瞬驚いた三人だが久々に会う仲間に幸助達も自然と笑みを浮かべながらツカサ達と会話をしていた。その様子を見て疑問符を浮かべていた零達と進達だが、その視線に気づいた幸助達は一同の下へと歩み寄っていく。

 

 

幸助「…お前達だな?別々の世界のディケイド達っていうのは?」

 

 

進「あ、ああ、そうだが…」

 

 

零「…もしかして、お前等がシズクの言っていた…」

 

 

智大「話は聞いているみたいだね…僕は早瀬 智大。君達の対の存在と呼ばれる調律者 ガンナの装着者だ」

 

 

昌平「俺は井川 昌平。智大の友人でディロードに変身する…まあ、通りすがりのマジシャンだ♪」

 

 

幸助「そして俺はシズクと同じ神のライダー…混沌の神 カオスに変身する天満 幸助だ。よろしく頼む」

 

 

進「調律者 ガンナ…ディロード…」

 

 

零「カオス……混沌の神……?」

 

 

二人は思わず三人のライダーの名を口にするが、零は何故か混沌の神という部分に聞き覚えがあるような気がして疑問を感じていたが、ただの気のせいだろうとすぐに考えるのを止めて三人から話を聞く事にした。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

それから数十分後。零達一同は幸助達が魔界城の調べた情報について詳しい説明を受けていた。

スカリエッティの新たな研究や目的、ライダーとレジェンドルガを融合させる事、そしてスカリエッティの仲間であるセッテがクワットロ達に見捨てられ殺されかけた事を話した。だが、三人が研究室で手に入れたファイルや中身の内容だけは除いていた。

理由はただ信憑性が余りない事やそれに一番関係している零の前で話すのはまだ早いと思ったからだ。

 

 

進「…なるほどな、大体の事は分かった。とりあえずそのアークっていうライダーを倒さないとこの事件は終わらないワケか」

 

 

智大「ああ。奴が倒れない限り、どんなにレジェンドルガを倒し続けても意味はないからね」

 

 

昌平「元凶を断たないとレジェンドルガも消えないし、この戦いも終わる事なんてないからな」

 

 

ツカサ「他の世界のライダー達にレジェンドルガの力を融合させる……反対!そんなのゼッッタイ反対!!」

 

 

零「…………」

 

 

幸助達の話した経緯を聞きそれぞれに反応の示す進達とツカサ達。だが、零だけは自分達から離れた所にある大木に背中を預けた形でうずくまっているセッテの事を考えていた。

 

 

幸助「…気になるのか?」

 

 

零「まあな…姉達に見捨てられたアイツは今一人だ。それを考えるとどうしてもアイツが気になってな」

 

 

幸助「ほお?まさか惚れちまったとかか?」

 

 

幸助がからかうように言うと零は若干顔をしかめたがすぐに溜め息を吐いてセッテに視線を戻した。

 

 

零「そんなんじゃない。ただ、家族とも言える姉達から見捨てられ、しかもその姉達から殺されかけたと考えるとかなりショックなんじゃないかと思ってな」

 

 

幸助「…妙にアイツを気にかけるな…アイツはお前達の敵だったんだろ?そこまでお前が気にかける必要があるのか?」

 

 

幸助はセッテに視線を向けながら零にそう問いかけると零は頷きながら再び話し出した。

 

 

零「…そうだな。たしかにアイツは俺達の敵だった…だが、家族と呼べる存在との繋がりを失った今のアイツの気持ちが、なんとなく俺には分かるんだ」

 

 

意味深な言葉を放つ零に疑問を浮かべる幸助。すると零はその場から立ち上がりながら言葉を続けた。

 

 

零「…俺には過去の記憶がないからな。家族との繋がりを失い、一人孤独になる気持ちが…何となく分かるんだよ」

 

 

零はそう言いながら歩き出し自分達から離れた場所にいるセッテへと歩み寄っていく。幸助は零の背中を見送るとシズクがゆっくりと幸助に近づき隣に座った。

 

 

シズク「…やっぱり、何も覚えていないみたいだね」

 

 

幸助「ああ、奴から"破壊の因子"の気配が感じられない。その時点で大体予想はついてたけどな…」

 

 

幸助はそう言いながら懐から一冊のファイル、スカリエッティの研究室で手に入れたファイルを開いて其処に書かれている内容に目を遠していく。

 

 

幸助「因子による黒月零の神氣の解放……揺り篭……別世界に飛ばされたスカリエッティ達を拾ったのは、アイツ等の──」

 

 

ファイルに書かれている内容を淡々と口にするも、幸助は其処で口を閉ざして深い溜め息を吐きながらファイルのページをゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑱

 

 

セッテ「……………」

 

 

一方、セッテは大木に背中を預け、うずくまったままピクリとも動かない。その表情からは生気は感じられず、正に人形という例えが一番に当て嵌まっていた。

 

 

セッテ(……私は姉様達に見捨てられた……いえ、見捨てられて当然ですね……私は重大な任務をこなす事が出来なかった……悪いのは私だ……だから……姉様達は何も……)

 

 

そう思いながら、セッテは顔を俯かせたまま握り拳を作って力を込める。そこへ……

 

 

―ポンッ…―

 

 

セッテ「……?」

 

 

不意に自分の頭の上を何か暖かな感触が乗せられ、セッテはゆっくりと顔を上げた。

 

 

零「よう」

 

 

セッテ「……貴方は……」

 

 

其処にいたのは、セッテの頭の上に右手を乗せて見下ろす零、姉達から捕獲対象として認識させられていたターゲットの一人だ。

 

 

零「随分と辛気臭い顔してるな」

 

 

セッテ「……何しに来たのですか」

 

 

零「別に……ただお前の姿が視界に入って、気になったから話し掛けただけだ」

 

 

ぶっきらぼうな口調でそう言いながら、零はセッテの隣に腰を下ろすが、セッテはそんな零の行動を見ても何の反応もせず、再び顔を俯かせうずくまってしまう。そしてお互いに何も語らないまま暫しの沈黙が流れる中、零は横目でそんなセッテを見つめて口を開いた。

 

 

零「姉達に見捨てられたのが辛いか?」

 

 

セッテ「……ッ……」

 

 

無遠慮に放たれた零の言葉に、セッテはピクリッと一瞬反応する。しかしすぐにまた何もなかったかのようにうずくまり、零はそんなセッテの反応を見ると言葉を続けた。

 

 

零「辛くない訳がないか……自分が最も信頼する人達から見捨てられ、一人孤独となってしまうのは」

 

 

セッテ「……貴方には関係のない話です。私は任務に失敗して貴方達に捕らえられた……私が貴方達に重大な情報を話してしまう前に私を抹殺する。姉様達の行動は最善の方法です。何も間違ってはいません」

 

 

零「だから、自分はそれを受け入れる。姉達の命令なら、姉達の為なら自分の命も差し出すと?」

 

 

零はセッテに視線を向けて話すが、セッテは頑なにこちらを見向きもせず、何も答えない。

 

 

すると、そんな彼女を見兼ねた零は深く溜め息を吐きながら彼女の目の前に移動し、セッテの両頬に手を添えて顔を上げさせた。

 

 

セッテ「ッ?!何を……!」

 

 

零「何、嘘つきの泣きっ面をこの目で拝んでやろうと思ってな」

 

 

セッテ「嘘つき…?何を馬鹿な…私は嘘など…それに私は、泣いてなんて──ッ?!」

 

 

いません、と言い切ろうとした瞬間、セッテは自分の頬を何かが伝うような感覚を感じた。

 

 

戸惑い気味に自分の頬を手で拭うと、手は濡れて、気が付けば目の前の視界が揺らいで零の姿がよく見えない。それで、自分が零の言う通り"泣いている"のだと初めて自覚した。

 

 

セッテ「そ…んな……何故……?わた、し……はっ……」

 

 

自分でも何故涙を流していのか分からず驚愕し、両手で涙を拭おうとするが、逆に涙は止まる事なくどんどん溢れていく。

 

 

零「ほら見ろ。やっぱりお前は嘘つきだ」

 

 

セッテ「ち、ちがっ……ちがい、ますっ……!わた、し……わたし、はっ……!」

 

 

零「………………」

 

 

何度も何度も溢れる涙を拭い、必死に否定しようとしても、肩が僅かにに上下して嗚咽をこらえているのが分かる。そんな彼女の泣き顔をジッと見つめ、零は僅かに目を伏せて溜め息を漏らすと、セッテの背中に両手を回してポンポンっと子供をあやす様に優しく叩く。

 

 

零「本当は辛かったんだろ?自分が今まで信頼し、敬愛し…任務だろうと日常だろうとどんな形であれ、家族同然だった人達から見捨てられ……その人達から殺されそうなったのが辛くないなんて……嘘に決まってる」

 

 

セッテ「……っ……」

 

 

零「自分の感情を無理矢理押さえ込む必要なんてない。泣きたいなら、辛ければ泣いたっていい。それは戦闘機人だろうが人間だろうが、全く関係ない話だ……お前が泣き止むまで、俺がお前の傍にいる……だから、今は大人しく泣いてろ」

 

 

セッテ「……っ……ぅ…………うぅっ……ううううっ……!!」

 

 

零の言葉に今まで自分でも気付かなかった感情が抑え切れずに溢れ出し、セッテは零の胸元に頭を預けて静かに泣き出した。零はそんなセッテを優しく抱き締め、彼女が泣き止むまで暫くそうしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

因みにそのやりとりを見ていたこなたやツカサがニヤけた表情で「あらあらとんでもないプレイボーイですことよ奥さん」とかなんとか呟き、一方でなのはは「 ま た か……」と焚き火にくべる木枝を握り潰しながら額に血管を浮かび上がらせ、スバルとティアナを震え上がらせてたのは別の話だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして休憩後、零達一同は改めてアークとレジェンドルガの対策の為に作戦会議を始めていた。ちなみに先程の一件の後、セッテは零達から離れた場所でKナンバー内のチンク達と共にヴィヴィオ達の相手をしてもらっている。

 

 

智大「──なるほどな。奴には生半可な攻撃や真っ正面からの攻撃は余り好ましいものじゃないか」

 

 

幸助「俺やシズクなら問題はないが、他の皆は奴との近接戦闘は出来る限り避けた方がいいな。遠距離からの強力な攻撃が一番ベストだろう」

 

 

進「遠距離からの攻撃か……それならこっちにも幾つかそういうカードがあるから問題はないな」

 

 

ツカサ「こっちもライダーに変身して色々と戦い方を変えれば何とかなるかな…」

 

 

零「俺もまだ使っていないカードが幾つかあるから、それを上手く使って奴と戦うしかないか…」

 

 

自分達の戦力を合わせて、何とかアークに対抗しようと考える一同。そんな中、こなたが夜空を見上げながらある疑問を口にした。

 

 

こなた「そういえばさぁ…此処って何時になったら夜が明けるワケ?私達ずっとこの世界にいるけど全然夜が明けそうな感じがしないんだけど…?」

 

 

裕香「そうなんですか?」

 

 

スバル「あ、言われてみれば確かに…」

 

 

こなたの言葉に裕香やスバル達も夜空を見上げると、先程まで零達と共に作戦会議をしていた昌平が変わって説明を始めた。

 

 

昌平「それは多分アークのせいだろうな。奴がこの世界を中心に色々な世界へレジェンドルガを送り込む為に時空を開閉するから、この世界も軸が乱れて色々とおかしくなっちまったんだろ」

 

 

みなみ「一つの世界をおかしくする力……アークはそんなにも強大な力を持つライダーなんですか?」

 

 

昌平「まあな…それぐらいの異変を起こせるだけの力を持ってるんだろう…伊達にあんな怪物達の王様をやってないって事だな」

 

 

昌平の説明にこなた達は納得し、同時に自分達が立ち向かおうとしている敵がどれだけ強大なのかを改めて知り、再び気を引き締め直した。

 

 

幸助「まあ、大体の事は決まったし、後はアークを探して見つけるだけなんだが、一体何処にいるのやら……そういえば、お前達はアークが今何処にいるのか知らないのか?」

 

 

シズク「あ、そっか。零達は今までアークと戦ってたんだよね。何か知らないの…?」

 

 

零「…いや、俺達も奴を見たのはさっきまでなんだ。そのすぐ後に別のライダーの奇襲があって、その後はまだアイツの姿を見ていない」

 

 

ツカサ「そうなんだ…あーもう!あんだけデカイんだから直ぐに見つかると思ったんだけど―ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!―…な?」

 

 

一同がアーク達の居場所について話し合っていた時、何処からともなく奇妙な音を耳に届き、同時に、肌がピリピリするような空気の振動を感じ始める。

 

 

裕香「な、何なんですか、この感じ?!」

 

 

みなみ「……ッ?!みなさん!上です!」

 

 

なのは「え?!」

 

 

頭上を見上げるみなみが何かを発見して指を指すと、全員が上を見上げる。そこには、上空から零達の下に向かってまるで雨のように巨大なエネルギー弾と数十発の小型のエネルギー弾が降り注いでくる光景があった。

 

 

こなた「で、デカァアアアアアアアアア?!何さあれ?!」

 

 

俊介「オイオイ!アリかよあれ?!シャレになってねぇだろ?!」

 

 

進「ちぃッ!みんな逃げろっ!急げっ!!」

 

 

智大「早く離れろっ!あんなの受けたら一たまりもないぞっ!!」

 

 

降り注いで来るエネルギー弾からの被害を出来るだけ避ける為、一同は急いでその場から離れようとする。だが…

 

 

―ヒュゥゥゥウウウウウ……ズドドドドドンッ!!スドドドドドドドンッ!!ズドオォンッ!ズドオォンッ!ドゴオォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ウアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!?』

 

 

無差別に降り注いで来たエネルギー弾の雨が次々と地上に落下していき、零達は何とか直撃を避けたものの爆発から発生した爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされてしまった。

 

 

進「ぅっ……っ……み、みんな、無事か……!!?」

 

 

ツカサ「うう……な、なんとかー……」

 

 

ティアナ「でも、今のって……!」

 

 

『──ほう…今のでまだ生きてるとはね。流石はライダーと呼ばれるだけの事はある』

 

 

『……ッ?!』

 

 

エネルギー弾の雨から何とか逃れられた一同の耳に、不気味な笑いを含んだ声が届く。その声が聞こえてきた方に振り返ると、爆煙が徐々に薄れて晴れた先に、まるで巨山のように重く佇むアークの姿があった。

 

 

 

セッテ「あれは…ドクター?!」

 

 

ツカサ「おおぉーーっ!アークだ!生のアークだよ!やっぱりおっきいね~♪」

 

 

俊介「アホかお前は?!今は喜んでる状況じゃないだろ?!」

 

 

幸助「ッ、漸く出て来やがったな…全ての元凶さんよ!」

 

 

倒れた一同はゆっくりと身体を起こすと、目の前にいるアークを睨み付ける。しかしアークはそんな一同を品定めするかのように眺め、再び不気味に笑い出した。

 

 

アーク『別々の世界の破壊者達…神のライダー…調律者…フフフッ、今夜は豪華なゲストが次々と集まってくれるね。私も嬉しいよ』

 

 

智大「何が嬉しいだ!お前のせいで、一体どれだけの人間が苦しんでるのか分かってるのか!?」

 

 

シズク「今すぐレジェンドルガ達の信仰を止めなさい!貴方の馬鹿げた行いで、これ以上多元世界を荒らすような真似をしないで!」

 

 

智大とシズクがアークを睨みつけながら怒りを含んだ口調で叫ぶ。しかし、アークはそんな二人の言葉を聞いてもただ不気味に笑うだけだった。

 

 

アーク『馬鹿げた行いとは心外だなぁ……。君達には理解出来ないかい?この世に存在する多元世界を全て手に入れるという事は、この世の全てを手に入れたと言っても過言ではない!それを手に入れるというこの私の夢の何処が馬鹿げているというのだね?』

 

 

ツカサ「そんなの全部に決まってるでしょう?!そんな自分勝手な都合の為に大勢の人達を犠牲にしようなんて間違ってる!」

 

 

アーク『世界を手に入れるという事はそういう事なんだよ!犠牲もなしに何かを手に入れようなんて事は不可能だ!君達だって分かっているだろう!何かを手にするにはそれなりの代価が必要だ!その為にも、全ての世界に存在する人間達を一人残らず根絶やしにする!彼等には私の夢を叶える為の犠牲になってもらわねばならないからね!』

 

 

進「…なるほどな。大体の予想はついていたが、話しが通じる相手じゃないらしいな」

 

 

高らかに言い放つアークを睨みながら一同はゆっくりと立ち上がり、それぞれのバックルを取り出して変身しようとする。

 

 

アーク『ほう…私と戦う気かね?いいだろう、ならば君達の力を見せてもらおうか!!』

 

 

アークは高らかに叫びながら自身の右腕を天高く突き上げた。その瞬間……

 

 

アース『───合図が出た……全軍ッ!!突撃いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいッ!!!』

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォーーーーッ!!!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突然その場に響いた轟音に近い雄叫び。直後に零達の後方とアークの後方に広がる森林の中からアースが引き連れた大量のレジェンドルガが零達一同に向かって来たのだ。

 

 

その数は……およそ"数千"を越えていた。

 

 

なのは「そんな…いつの間にこんな数のレジェンドルガを…?!」

 

 

零「ちっ!暫く姿を見せなかったのはこういう事だったのか…!」

 

 

裕香「ど、どうするんですか?!こんな数の相手を!」

 

 

智大「ッ!とにかく戦うしかないさ!」

 

 

昌平「だよなぁ…クソッ!戦う前からこんなの見せられたら気が滅入るだろに!」

 

 

ツカサ「だけどやるしかないよ!アイツ等と戦えるのは私達しかいないし!」

 

 

俊介「確かにな…珍しくまともな事を言うじゃないかツカサ!」

 

 

シズク「幸助!私達も!」

 

 

幸助「分かってる……!さっさと雑魚共を潰してアークも弄り倒す!!」

 

 

みなみ「それしかレジェンドルガを止める方法はないみたいですね…!」

 

 

こなた「だったら私達も行こう!進!」

 

 

進「ああ、分かってるっ!行くぞッ!」

 

 

全員はそれぞれのバックルを腰に装着すると、それぞれの変身の構えを取る。そして……

 

 

『変身ッ!!!』

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

『GATE UP!』

 

『GATE UP!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:SECOND!』

 

『Holy form』

 

『KAMENRIDE:GANNNA!』

 

『KAMENRIDE:DELOAD!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Hijack Form』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーッ!!!!!』

 

 

それぞれの変身を終えた一同は、前方のアーク達に向かってディケイド(進)、カオス、ガンナ、ディロード、ディケイド(ツカサ)が、後方のアースが引き連れて向かってくるレジェンドルガ達には、トランス、セカンド、聖王、ガイア、幽汽、クウガが一斉に突撃し、アークとアース、そして数千を越えるレジェンドルガの軍勢とぶつかり合っていった。

 

 

零「皆…クソッ、俺は…」

 

 

スバル「零さんッ!私達も早く避難しましょう!」

 

 

ゆたか「そうですよ!此処にいたら私達も巻き込まれます!」

 

 

戦えない自分の非力さを憎む零にスバル達が呼び掛ける。するとヴィヴィオと共に避難しようとしたティアナが三人の下へと駆け寄って来た。

 

 

ティアナ「何やってんの!?零さんも二人も急いでッ!早くしないと此処も戦場に……って、あれ?セッテは?」

 

 

スバル「…え?あ、あれ?さっきまで一緒だったハズなんなんだけど…?」

 

 

ゆたか「…ッ!?み、皆さん!あそこ!」

 

 

セッテの姿を探していたゆたかがある方向を指差し、零達はその方向に視線を向けた。その先にはセッテがトランス達とレジェンドルガ達が戦っている戦場に向かって走る後ろ姿があったのだ。

 

 

スバル「セ、セッテ!?何であんな所に!?」

 

 

ゆたか「ど、どうしましょう!?あのままじゃセッテさんが!」

 

 

ティアナ「クッ…とにかくセッテを連れ戻すしかないでしょ!行くわよ皆!」

 

 

零「待て皆!あそこに向かうのは危険だ!アイツは俺が…!」

 

 

セッテを連れ戻そうとするティアナとスバルとゆたかを呼び止めようと手を伸ばす零。だがその時…

 

 

 

―ディケイド!世界を破壊する悪魔!―

 

 

 

零「…ッ!?その声は…」

 

 

突然その場に聞こえてきた男の声。それはキバの世界でも聞いた男と同じ声であり、零は思わず辺りを見渡した。

 

 

―貴様がこの世界に現れたせいで、レジェンドルガがあらゆる世界に出現し、世界を滅ぼそうとしている!これも貴様という存在が引き起こした結果の一つだ!―

 

 

零「誰なんだお前は?!いい加減姿を現せ!!」

 

 

声の主に向かって叫ぶ零だが、声の主から返事が返って来る事はなく、代わりに響くのはライダー達とレジェンドルガ達が戦う銃撃音や爆発音だけだった。

 

 

零「…クッ、何なんだ一体…奴は何者なんだ…」

 

 

ヴィヴィオ「……パパ」

 

 

零は思い詰めた表情を浮かべながら唇を噛み締め、そんな零の様子を横から見ていたヴィヴィオは心配げにポツリと呟いていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同時刻、スバル達と離れたセッテは一人、ある事を確かめる為に混雑した戦場の中を必死に駆け巡っていた。

 

 

セッテ「はぁ…はぁ…聞かなければ…姉様は…トーレ姉様も本当に…私を処分する事に同意したのかを…」

 

 

自分の師と呼べる存在であり、スカリエッティと同じように敬愛していた自分の姉であるトーレ。そんな彼女も自分を処分する事に同意したのか、その真意を知りたくセッテは彼女を探して銃撃やエネルギー弾が辺りに飛び舞う戦場の中を駆け回っていたのだ。だが…

 

 

『ウオォォォォォオッ!』

 

 

セッテ「…ッ!?」

 

 

突然セッテの背後の爆煙の中から飛び出して来た十体のレジェンドルガ達。セッテは突然の奇襲に反応が遅れてしまい、振り返った時には既にレジェンドルガが振りかざした爪がセッテの目の前にまで迫っていた。その時…

 

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガッ!―

 

 

 

『グガァッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

 

セッテ「な…」

 

 

突然レジェンドルガの背後から電子音声が響き、その直ぐ後に十体のレジェンドルガが爆発を起こして散り去っていった。何が起きた理解出来ないセッテは今の電子音声が聞こえて来た方を見ると、爆煙の向こう側にライドブッカーGモードを構えたトランスとセカンドの姿があったのだ。

 

 

セカンド『セッテ!大丈夫だった?!』

 

 

セッテ「え?あの…はい…大丈夫ですけど…」

 

 

トランス『よかったぁ…でも、何やってるのこんな所で?此処は今危険だって事ぐらい、貴方も知ってるでしょ?』

 

 

若干怒りを含んだ言い方でセッテをジト目で見るトランス。セッテはそれに少し口ごもり、どう説明しようかと考えていると…

 

 

スバル「はぁ…はぁ…なのはさん!こなた!セッテ!」

 

 

トランス『?!スバル!?ティアナ!?』

 

 

セカンド『ゆーちゃんまで!?何やってんの三人共!?此処は今危険なんだよ!?』

 

 

ゆたか「ご、ごめんねお姉ちゃん!だけどセッテさんが心配で…」

 

 

セッテを追い掛けて来た三人はトランスとセカンドに頭を下げて謝ると、申し訳なさそうな表情を浮かべるセッテに視線を向ける。

 

 

ティアナ「それで?あんた一体何しようとしたワケ?…まさか、アイツ等の所に戻ろうとしていたって言うんじゃないわよね?」

 

 

スバル「ちょっ、ティア!何もそんな言い方しなくたって…」

 

 

セッテ「…いえ…そういうワケではありません…ただ私は、姉に会って確かめたい事があって…それを知りたくて、ここへ来たんです…」

 

 

セカンド『確かめたい事?』

 

 

疑問そうに聞くセカンドの言葉にセッテは小さく頷いた。

 

 

セッテ「ですから…お願いします。行かせて下さい!どうしても知りたい事なんです…!」

 

 

一同に頭を下げて頼み込むセッテ。トランス達はそれを見て少し考えるように顎に手を添える。その時…

 

 

『見つけたぞ!!ライダー達だ!!!』

 

 

『!?』

 

 

耳に届いた声。一同はそれが聞こえて来た方へと振り返ると、いつの間にか周りには数え切れない数のレジェンドルガ達が一同の周りを囲み、退路は断たれてしまっていた。

 

 

セカンド『ちょ!やばいよコレ!?完全に逃げ道がないし!』

 

 

トランス『ッ!こうなったら仕方ないね……みんな!一気に行くから離れないようについて来て!!』

 

 

ゆたか「えっ?」

 

 

スバル「なのはさん…それって…」

 

 

トランスはスバルの言葉に頷き、ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。するとそれを見たセッテは一度瞼を閉じた後にゆっくりと目を開き…

 

 

セッテ「…ありがとうございます…」

 

 

その言葉を聞くとトランスは黙って頷き、ライドブッカーガンモードをレジェンドルガの大群に向けながら取り出したカードをトランスドライバーに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:DIVINE BUSTER!』

 

 

トランス『いっくよーッ!久々の!ディバイーーーンバスタァァァァァ!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

『グッ?!グオォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

ライドブッカーGモードの銃口に集束された光が一つの桜色の閃光となり、放たれた閃光はレジェンドルガ達を包み込み100体近くのレジェンドルガが爆発して散っていった。

 

 

セカンド『す…すごっ…』

 

 

スバル「流石なのはさん…だねっ」

 

 

トランス『みんな走って!一気に突き進むよ!!』

 

 

ゆたか「あっ、は、はい!」

 

 

レジェンドルガ達が怯んでいる間に一同はその場から全力で走り出し、先にアースの下へと向かっていったガイア達を追ってレジェンドルガの大群の中を突き進んでいった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑲

 

 

『怯むなあぁぁぁぁぁ!!奴らを一人残らず皆殺しにしろぉぉぉぉ!!!』

 

 

―ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!―

 

 

ガンナ『ちぃ!邪魔をするな!!』

 

 

ディロード『お前達なんかに用はねぇんだよっ!奴は何処だ!?』

 

 

―ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!―

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

カオス『タイムクイックッ!!』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

―シュンッ…スガガガガガガガガガガガガガガッ!!ズドオォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

カオス『今ので二百ッ!次はどいつだァッ!?』

 

 

―ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!ドゴオォオンッ!!―

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズドドドドドドドドッ!ドガアァァァァァァンッ!―

 

 

ディケイド(進)『くっ…!クソッ!一体どっから沸いてくんだよコイツ等は?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『倒しても倒してもキリがない…!やっぱりアークを倒すしか手はないみたいだけど…もう!一体何処にいったのアイツは!!』

 

 

エネルギー弾の雨が辺りに飛び舞う戦場の中、数千のレジェンドルガ達に囲まれそれぞれの戦い方で応戦するライダー達。だがどんなに倒してもレジェンドルガが減る事はなくむしろ増える一方であり、ライダー達は波のように押し寄せてくるレジェンドルガの大群の猛攻に少しずつ圧されていた。その時…

 

 

―シュゥゥゥ…ズドオォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『?!』

 

 

突然彼方から放たれて来た巨大な閃光。それはレジェンドルガ達の頭上を通り過ぎ、猛スピードで真っすぐにライダー達に直撃しようと迫っていた。

 

 

カオス『チッ!皆下がってろ!ハアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガァッ!!ジジジジジジジジッ…ドシュゥッ!!ドゴオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ガッ?!グオォォォォォォォォォォオーーーッ?!』

 

 

『グッ!』

 

 

向かって来た巨大な閃光をカオスが難無く受け止め、そのまま別の方向へと弾き返し、弾き返された閃光はレジェンドルガの大群の直撃して巨大な大爆発と共に爆風を巻き起こした。発生した爆風により周囲にいたレジェンドルガは吹っ飛ばされていき、ライダー達は吹っ飛ばされないように耐え切るとその閃光が放たれて来た方へと振り返る。そこには…

 

 

アーク『…ほう、あれを弾き返すとは…フフフッ、流石は混沌の神 カオスだ』

 

 

ガンナ『ッ!アーク…!』

 

 

クロノス『舐めんなよ…?あんなもんで俺達を倒せると思ったら大違いだ!』

 

 

レジェンドルガの大群の中で佇むアーク。ライダー達はアークの姿を確認するとアークに向けてそれぞれの武器を構えていく。

 

 

アーク『いい加減諦めた方がいいのではないかな?君達がどんなに抵抗しようと、私のレジェンドルガ達を殲滅する事など不可能だ』

 

 

ディロード『ああ…それくらいの事は分かってるさ。だがな!』

 

 

ガンナ『お前が消えればこのレジェンドルガ達も全て消え去る…ならばお前を倒してコイツ等を止めるだけだ!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『覚悟しなよ~?私達が本気を出せば貴方なんてイチコロなんだから!』

 

 

それぞれの武器を構えながら強く言い放つライダー達。だがアークはそんなライダー達を見ても不気味に笑うだけであり、ゆっくりと片手を掲げた。

 

 

アーク『そうか。ならば見せてもらおうじゃないか、君達のその力とやらを!!』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォーーーーッ!!!』

 

 

カオス『皆!雑魚共に構うな!狙いをアークに集中させろ!』

 

 

ディケイド(進)『分かってる!!』

 

 

レジェンドルガ達が向かって来たのと同時にライダー達は散開し、襲い掛かってくるレジェンドルガを素早く斬り捨てながらアークへと突っ込んでいく。

 

 

ガンナ『まずは僕達が相手だ!!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディロード『数は多い方がいいからな!頼んだぞ!!』

 

 

『KAMENRIDE:ZOLDA!GARREN!』

 

 

ガンナはアークに突撃しながらガンナブラスターで乱射し、ディロードも二枚のカードをライドロッドに通すとディロードの左右に銃を片手に持った緑のライダーと赤いライダー…『ゾルダ』と『ギャレン』が出現し、ガンナに続くようにアークへ乱射していく。

 

 

―ズガガガガガガガガッ!ズドォォォォォォォンッ!―

 

 

アーク『甘い!甘すぎる!そのような攻撃では私は倒せないぞ!』

 

 

だがやはりアークには何の効果も与えず、アークはガンナ達の攻撃を片手で払いながら銃弾の雨の中を突き進んでいく。その時…

 

 

カオス『後ろががら空きだァ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァアッ!!!―

 

 

アーク『ぐぅ!?』

 

 

上空から勢いよく下降したカオスがアークのがら空きとなった背中を縦一閃に斬り裂いた。アークはそれによりバランスを崩しかけたが、直ぐに振り返って額から光弾を放ってカオスを攻撃していき、カオスはバックステップでそれらを回避する。そこへ…

 

 

『KAMENRIDE:RYUKI!』

 

『ATTACKRIDE:STRIKEVENT!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥウッ!!―

 

 

アーク『?!』

 

 

再び電子音声が響き、アークは振り返りさまに右腕を前へ掲げた。

それと同時に前方から激しい炎がアークの右手に直撃し、その炎を放つ龍型の仮面ライダー少女……龍騎のバトルドレスを着たディケイド(ツカサ)が右腕に装着したドラグレッダーの頭部を模した篭手、ドラグクローの口から更に火炎放射の威力を上げていく。

 

 

D龍騎『こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

アーク『ッ!こんなものがぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

D龍騎は出せる限りの力を出し切り火炎放射の勢いも増すが、アークも負けじと炎を押し返そうとする。その時…

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

『うおおおおぉぉぉぉぉぉーーーッ!!!』

 

 

アーク『?!』

 

 

後方から聞こえて来た電子音声と叫び声。アークは首だけを動かして後ろを見ると、そこにはディメンジョンフィールドを展開したディケイド(進)が周囲のレジェンドルガ達をライドブッカーソードモードで斬り捨てながらアークへと猛スピードで突っ込んでくる姿があった。

 

 

アーク『まさか…今までの攻撃はこれを狙って…?!』

 

 

D龍騎『よーし!やっちゃえ進ーーッ!!』

 

 

アークは向かって来るディケイド(進)の攻撃を避けようとするが、前方からD龍騎が放つ火炎放射を防ぐ事で手が離せずその場から動く事が出来ない。その間にもディケイド(進)は地を蹴り、宙を飛ぶとディメンジョンフィールドをくぐり抜けながら右足をアークに向けて飛び蹴りを放った。

 

 

ディケイド(進)『デアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

D龍騎『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

アーク『グゥッ!?ウアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『グオォォォォォォォオッ?!』

 

 

ディケイド(進)のディメンジョンキックと、D龍騎の火炎放射が周りにいたレジェンドルガの大群を巻き込みながらアークを挟み撃ちに直撃し、巨大な爆発を起こしていった。そして…

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥゥ……パシッ!―

 

 

ディケイド(進)『よっと…確かにコイツは返してもらったぜ?』

 

 

ディケイド(進)は着地したと同時に爆煙の中から飛び出してきた零のディケイドライバーとライドブッカーをキャッチし、アークが吹っ飛ばされた方へと視線を移した。そこには大量のレジェンドルガの屍の山があり、おそらくアークもその屍の山に埋もれていると思われるため姿が見えない。

 

 

ガンナ『……やったのか?アークを…』

 

 

カオス『いいや、おそらくまだ奴は生きてるだろ。そこら辺にゴミのようにいるレジェンドルガ共がその証拠だ』

 

 

カオスは辺りにいるレジェンドルガ達を見渡しながらため息混じりで言う。確かに辺りのレジェンドルガ達はアークがやられた事に動揺はしているも消えるような様子はない。ライダー達はそれを見てため息を吐くと、アークにとどめを刺す為再び武器を構えていく。だが…

 

 

―シュゥゥゥゥ…ズドオォォォォォォォォオッ!!―

 

 

『ッ!?』

 

 

『グオォォォォォォォオッ!?』

 

 

突然、屍の山を中心に巨大な衝撃波が発生して辺りを包み込み、屍達や近くにいたレジェンドルガ達を吹っ飛ばしていった。ライダー達はそれぞれの武器を盾にして衝撃波を耐え切り、目の前に視線を移す。そこには屍の山があった場所で異様なオーラを放ちながら不気味に笑うアークが佇んでいる姿があった。

 

 

アーク『フフフッ…なるほど、流石の力だ…だが、どうやら私を倒すまでには至らなかったようだね』

 

 

ディケイド(ツカサ)『う、嘘でしょ?!全然ピンピンしてんじゃん……!』

 

 

ディケイド(進)『チッ、あれでもダメージが少ない方なのか……本当の化け物だな……!』

 

 

二人の技を受けたにも関わらず弱っている様子がなく、まったく余裕の笑みを崩さないアークの強靭さにライダー達の表情も険しくなっていく。

 

 

アーク『君達の力はまだその程度ではないのだろう?なら…君達の力をもっと私に見せてくれ!!』

 

 

両手を頭上に掲げながらアークは高らかに叫ぶ。すると突然ライダー達を囲んでいたレジェンドルガ達が引き付けられるようにアークへ集まっていき、集まったレジェンドルガ達が光の粒子となりアークに吸収され始めた。

 

 

ディケイド(進)『アイツ、レジェンドルガを取り込んで…?!』

 

 

ガンナ『ちっ、また面倒な事を!』

 

 

毒づくライダー達を他所に、アークは吸収を終えると同時に右手を勢いよく頭上へと掲げた。するとアークの右手に小さな球状のエネルギー弾が形成され、それは徐々に巨大化してアークの身体を上回る程の大きさとなっていった。

 

 

ディケイド(ツカサ)『ちょっ、タンマタンマタンマ!何あのシャレにならない大きさは?!』

 

 

カオス『クソ……!散開だ!急いで奴から離れろ!!』

 

 

アークの攻撃からの被害を出来るだけ避ける為、一同は残ったレジェンドルガ達を払い除けながら別々の方向に散りその場から離れ様とする。だが…

 

 

―ドゴオォンッ!―

 

 

ディケイド(進)『な…?!』

 

 

『グウゥゥゥ…』

 

 

ガンナ『?!進!』

 

 

その場から離れようとしたディケイド(進)の足元から突然数体のレジェンドルガが飛び出し、ディケイド(進)の身体に絡み付いて動きを封じたのだ。それに気づいたライダー達はディケイド(進)の下に走り出すが、周囲のレジェンドルガがそれを阻止しようとライダー達の前に立ち塞がった。

 

 

アーク『まずは君からにしようか…君の持ってるそれは彼をおびき出す餌の一つだからね。返してもらうよ?』

 

 

ディケイド(進)『クッ!』

 

 

『進ッ!』

 

 

アークは不気味な笑みを浮かべながら頭上にある巨大なエネルギー弾をディケイド(進)に向けて勢いよく撃ち放った。

 

 

エネルギー弾は嵐のような激しさで地面をえぐりながらディケイド(進)に接近していき、ディケイド(進)は何とかレジェンドルガ達の拘束から逃れようとするが、既に目前にはエネルギー弾が迫ってきている。

 

 

ここまでなのか…と、ディケイド(進)は諦め掛けて一瞬全身の力を抜いた。その時…

 

 

 

 

 

零「そうは…させるかあぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

アーク『なっ……』

 

 

ディケイド(進)『?!零?!』

 

 

不意に、レジェンドルガの大群を掻き分けながら飛び出して来た青年……零がディケイド(進)を拘束していたレジェンドルガ達を払い除け、ディケイド(進)と共にその場から飛び退いた。それと同時に…

 

 

 

 

―ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォーーーーーオオオォンッッ!!!!―

 

 

 

 

―――アークの放ったエネルギー弾が二人と周囲のレジェンドルガを包み込み、巨大な炎の波が辺り一面を呑み込んでいった。

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界⑳

 

──アークの放った広範囲の大規模な攻撃。その被害も大きく、辺りが炎に呑まれ一面には燃え上がるレジェンドルガ達の屍が錯乱していた。

 

 

ディケイド(進)『……っ……零っ……無事かっ…?』

 

 

零「……ああ…何とか…な……」

 

 

辺り一面が炎に包まれ、周囲の景色も黒煙に遮られ何も見えない中、先程のアークの攻撃により吹っ飛ばされた零とディケイド(進)が傷ついた身体をゆっくりと起こしていく。だが、零は立ち上って直ぐに崩れ落ちるようにその場に倒れ込んでしまった。

 

 

ディケイド(進)『?!お、おい?!どうした零――ッ!?』

 

 

ディケイド(進)は慌てて零に近づくと彼の身体を見て驚愕の表情を浮かべ息を拒んだ。ディケイド(進)が目にしたのは、ズタズタに引き裂かれたかのようにボロボロとなっている零の姿だったのだ。口から大量に流れる赤い液体、そして体中が赤い色に染まり今にも死んでしまうのではないかと思わずにいられない酷い有り様をしている。そんな零はゆっくりと顔を上げると、額から血を流しながらいつもの笑みを浮かべて喋り出した。

 

 

零「悪い、な…どうやら…ちょっと…ドジったみたいだ…それに…左足の方もやられた…ちょっとまずい…な…これ…ははは…」

 

 

ディケイド(進)『ッ!笑ってる場合かッ!!クソッ!何でこんな馬鹿な真似をしたんだお前ッ!!』

 

 

ディケイド(進)は零に怒鳴りながらも何とか出血を止めようとする。これだけの血を流せばいくら零でも出血多量で死ぬ可能性があるからだ。だが、怪我の箇所を抑えた所で溢れ出る赤い液体を止める事は出来ない。治療をしようにも、生憎此処は戦場のど真ん中。そんな場所で、しかも医療器具すらないのにこれだけの怪我を治療するなんてまず無理だ。ディケイド(進)は舌打ちをしながらも何とか怪我の出血を止める方法だけでもないかと必死に思考するが…

 

 

『全く…君の予想外の行動には本当に驚かされたよ』

 

 

『……ッ?!』

 

 

爆煙の向こうから聞こえてきた声に二人はその方向に振り返った。爆煙の向こう側には巨大な影がうごめき、それはゆっくりと二人に歩み寄り巨大な影…アークはその姿を現した。

 

 

零「ッ…スカリ…エッティ…!」

 

 

アーク『まさか、あんな場面で君が出て来るとは予想もしていなかった…流石の私も君が死んだのではないかと一瞬焦ったが、どうやら逆に嬉しい誤算となったようだ…』

 

 

零「くっ…!」

 

 

今の零は満足に動く事は出来ない。アークからして見れば今の状態の零なら何の苦労をする事なく簡単に手に入れられる。アークはほくそ笑みながら零に歩み寄っていき、零は何とか傷ついた身体を起こそうとする。その時…

 

 

―ズガガガガガガガガンッ!!!―

 

 

アーク『む…?』

 

 

―ズドォオオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

 

零「ッ?!進っ…!」

 

 

ディケイド(進)『勝手に人の事無視すんじゃねぇよ!俺がいんのを忘れんな!』

 

 

自分の事を無視されている事に腹が立ったディケイド(進)が怒りを露わにライドブッカーガンモードでアークに乱射し、零を庇うように前に出る。だが…

 

 

―ブォオオオオオオッ!!―

 

 

アーク『──こんなもので私が倒せるハズがないだろう?いい加減学習したまえ』

 

 

ディケイド(進)『グッ……!』

 

 

顔を包む黒煙を片手で軽く払い、嘲笑うように言いながらアークは再び二人へと近づいていく。すると、零が傷付いた身体を抑えながら起き上がり、目の前にいるアークを睨みつけながら口を開いた。

 

 

零「何故だ…何故そこまでして俺を手に入れる事に固執する…?ディケイドの力が欲しいのなら…進やツカサでも構わないだろう…?」

 

 

苦しげに肩で息をしながら零は目の前にいるアークに自分の疑問を投げ掛ける。すると、アークはその質問を聞いてその場で足を止めた。

 

 

アーク『…ディケイドの力を持つなら誰でもいい、か…確かにそれだけの理由ならばそこにいる彼や、先程の少女でも構わないのだが…私が君を手に入れたい理由はそれだけじゃない』

 

 

零「ッ…どういう…事だ…?」

 

 

アーク『私が君を手に入れたい理由は幾つも存在する。その中で一番重要と思われる理由を上げるなら……まず君がディケイドである事、そして君が破壊を司る存在である、といった感じかな』

 

 

零「…破壊を…司る…」

 

 

その言葉自体に聞き覚えはない。ただ、それと似たような事を世界を巡る旅へと旅立つ前に現れた青年が告げていたような気がする。

 

 

零「……なる…ほどな……どうやら、お前が俺の過去の手掛かりを知ってるって話も、あながち間違いじゃなさそうだ……」

 

 

 

アーク『そうとも。その答えを知る術は、私と共に来る事で手に入れられる。私の下に来るのなら、君の知りたい事を全てを教えてあげよう……知りたいだろう?過去の自分がどんな人間なのか、自分が本当は何者なのか』

 

 

零「……………」

 

 

ディケイド(進)『……零』

 

 

差し延べて来る手に零は顔を俯かせる。そんな彼の横顔をディケイド(進)がジッと見つめると、アークはディケイド(進)にもう片方の手を伸ばす。

 

 

アーク『元道進君、君はどうかね?君も自分の記憶を取り戻したいとは思わないかい?』

 

 

ディケイド(進)『ッ?!お前…何でその事を?!』

 

 

アーク『勿論知ってるよ。君も過去の記憶がなく、自分の本当の家族も知らない。だが、もしも君が彼と共に私の下に降り、ヴィヴィオや他のライダー達を手に入れる事、そして私の目的に手を貸してくれるのなら、君の記憶も私が取り戻してあげよう』

 

 

ディケイド(進)『…ッ!』

 

 

アークの言葉にディケイド(進)もまた顔を俯かせる。そんな二人を見てアークは笑みを浮かべて、手を差し延べたままゆっくりと二人に近づいていく。

 

 

アーク『さあ、聞きかせてもらおうか!君達の答えを!!』

 

 

既に二人の答えを予想しているアークは嬉々として叫ぶ。それに対し、二人は……

 

 

零「……進」

 

 

ディケイド(進)『……ああ、悩む必要なんてないな……俺達の答えは……これだァッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

アーク『?!なっ……!』

 

 

ディケイド(進)は顔を上げると同時に、ライドブッカーガンモードの銃口をアークに突き付けて発砲した。思わぬ攻撃にアークは驚くも、直ぐさま防御態勢を取り銃弾を防いだ。

 

 

アーク『ぐっ……どういうつもりだ……?君達は正気か!自分の過去を知る事が出来るんだぞ!こんなチャンスを自分から投げ捨てるなど…君達は自分の事を知りたいとは思わないのか?!』

 

 

予想とは違う二人の返答にアークは動揺を隠す事が出来ずに二人に問う。すると、零はアークは睨みつけながら一歩前へ踏み出した。

 

 

零「知れるものなら知りたいさ。この旅の中で、それがやっと見付かるかもしれないと言われた時は、正直心揺らいだし、過去に何度も自分の事を知りたいと思った事だってあった……だとしても、何かを犠牲にしてまで、自分の過去を取り戻したいとは俺は思わない!」

 

 

ディケイド(進)『お前のそれは、ようは自分さえ良ければそれでいいってこったろ。例えそれで無くしたものを取り戻して、それで何に満足する?……見損なってくれるなよ。俺達は今まで自分達と共にしてきた仲間を裏切ってまで、記憶を取り戻したいとは思わねぇ!そんなもんはこっちから願い下げだ!』

 

 

零「俺達の旅路は、俺達自身で決める。こんな俺でさえ信じてくれたアイツらに報いる為に、自分の信じる道を進んで、その先で自分を取り戻す!信じられる仲間もいない、自分しか信じる事の出来ないお前に、世界も、これからの未来を進もうとしているヴィヴィオ達を渡したりはしないッ!!」

 

 

アーク『ッ!』

 

 

迷いのない、力強さを宿した二人の眼差しから凄まじい気迫を感じ取り、アークは思わず後退った。

 

 

アーク『っ……何処まで強情な……ならば力付くで従わせるだけの事だァ!!』

 

 

最早口で言っても聞かない相手にこれ以上の説得は無意味だと悟り、アークは額にエネルギーを集束させて砲撃を放とうとする。それを見たディケイド(進)は直ぐさま零の前に出てアークの行動を阻止しようとライドブッカーガンモードを構えた、その時……

 

 

―ズババババババッ!!―

 

 

アーク『ウグァッ?!』

 

 

『……!』

 

 

突然アークに複数の斬撃破と銃弾が降り注ぎ、不意を突かれたアークはそのまま背中から地面に倒れ込んだ。そして二人がその攻撃が放たれてきた方へ振り返ると、其処には自分達の武器を構えるカオス、ガンナ、ディロード、ディケイド(ツカサ)、そしてヴィヴィオが駆けつけてくる姿があった。

 

 

零「皆……!それにヴィヴィオまで?!」

 

 

ヴィヴィオ「パパーッ!」

 

 

カオス達の登場に一瞬驚いた零だが、直後にヴィヴィオが零にしがみついていき、ライダー達も二人に近づいていく。

 

 

ディケイド(進)『皆…無事だったんだな…!』

 

 

カオス『当然だ。あんなんで俺達はくたばったりはしねぇよ』

 

 

ディロード『まっ、しぶとさには自信があるしな♪』

 

 

ガンナ『零、君は大丈夫なのか?その身体の傷は…』

 

 

零「ッ…これぐらいなのは達のリンチに比べればなんともない…それよりヴィヴィオ…隠れてろって言っておいただろっ?」

 

 

ヴィヴィオ「うっ…だって…」

 

 

ディケイド(ツカサ)『まあまあ!ヴィヴィオだって零が心配で居ても立ってもいられなかったんだよきっと。だから許してあげなよ…ねっ?』

 

 

零「…そうだな…すまないヴィヴィオ…心配かけたな」

 

 

ヴィヴィオ「…うん!」

 

 

零は溜め息を吐きながら、笑い掛けるヴィヴィオの頭を優しく撫でる。だがその時、吹っ飛ばされたアークが起き上がり、先程とは比べものにならない程の禍々しいオーラを放ってきた。

 

 

アーク『君達は何処まで……何処まで私の邪魔をすれば気が済むんだあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ありゃりゃ…何かお怒りになっちゃったよあの人』

 

 

零「まあ、流石の奴も此処まで邪魔をされればそうなるよな」

 

 

ガンナ『?!見ろ!アイツの周りにレジェンドルガが!』

 

 

怒りを剥き出しに咆哮するアークをガンナが指で示す。アークの足元から次々と数え切れない程のレジェンドルガが咆哮しながらその姿を現していきあっという間にアークの周りを埋めつくしていった。

 

 

ディロード『アイツ…レジェンドルガ達を生み出してる?!』

 

カオス『成る程な…奴は今までああやってレジェンドルガ共を増やしていったワケか』

 

 

一同が話し込む間にもアークは大地が揺れるような咆哮と共に自分の周りに数え切れない数のレジェンドルガ達を作り出していく。すると、そんなアークを睨み付けていた零がヴィヴィオに顔を向け、彼女と視線を合わせるようにその場にしゃがみ込んだ。

 

 

ヴィヴィオ「パパ?」

 

 

零「…ヴィヴィオ…お前に一つ聞きたい事がある。お前は今でも…俺達と一緒にいたいって、思ってくれてるか?」

 

 

ヴィヴィオ「?…うん」

 

 

零「そうか…ならお前も…奴との決着を付けるんだ」

 

 

ヴィヴィオ「え?」

 

 

ディケイド(ツカサ)『ハァ?!ちょ!何言ってんのれ…?!』

 

 

ヴィヴィオを戦わせようとさせる零にディケイド(ツカサ)は反論しようとするが、ガンナとディケイド(進)がそれを止め、零は構わず話を続けた。

 

 

零「もちろん、お前を戦わせるのはあんな奴を倒す為なんかじゃない。お前が…自分の運命と戦い、自分の幸せを守る為にだ」

 

 

ヴィヴィオ「幸せを…守る?」

 

 

零「そうだ…嫌な事を思い出させると思うが…お前やチンク達を造ったのはアイツだ。それは誰にも覆せない事実だし、消える事のない真実だ…」

 

 

ヴィヴィオ「…うん」

 

 

零「だから…奴と戦って、運命と向き合い、そして証明する為に戦え。その手で奴を殴って、お前の思いをぶつけろ。お前が道具なんかじゃない、クローンなんかじゃない、ヴィヴィオという一人の人間であるという事を……!そして守る為に戦うんだ!傷つける為でも壊す為でもない!お前の道、お前の信じるものを守る為に!」

 

 

ヴィヴィオ「傷つける為でも…壊す為でもない…守る為に…」

 

 

ヴィヴィオは呟きながら自分のポケットからKナンバーを取り出して見つめる。こんな難しい事を教えるのはまだ早いと思うし、本当なら零もヴィヴィオを戦わせたくないと思っている。だが、あの男が未だにこの少女の未来を阻もうとするのなら、過去の因縁を含めてこの子の手で決着を付けさせてやりたいと思ったのだ。この子の事や、これからの未来の為に…

 

 

ヴィヴィオ「…やる…ヴィヴィオも守る!パパもママも、皆を守る!だから…」

 

 

零「…うん…俺も、お前を守る為に一緒に戦う。当然だろ?俺はお前のパパなんだから…!」

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

零はヴィヴィオの答えを聞くと、微笑みながら一度頭を撫でてその場から立ち上がる。

 

 

すると、不意に自分の身体が暖かい光に包まれ、先程まで負っていた怪我が消えていく。不思議に思った零は振り返ると、そこには自分に手を翳して回復魔法を使うカオスとディケイドライバーとライドブッカーを差し出してくるディケイド(進)、そしてその後ろに立つライダー達の姿があった。

 

 

カオス『そんな身体じゃ奴とまとも戦えないだろう?戦うのなら万全の状態の方がいいしな』

 

 

ガンナ『ここまで来たんだから、僕達にも手伝わせてもらうぞ?』

 

 

ディロード『ま、例え断られても無理矢理手伝うけどな!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『これが本当のラストバトルっぽいし!私もやるよ!』

 

 

ディケイド(進)『俺達の旅を終わらせない為に…そうだろ、零?』

 

 

零「…ああ…勿論だ…!行くぞ!ヴィヴィオ!!」

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

零はディケイド(進)の手から受け取ったバックルを腰に装着してディケイドのカードを取り出し、ヴィヴィオはKナンバーの5~12の番号を順に押し、最後にエンターキーを押すと腰にベルトが出現しKナンバーを閉じて構える。そして…

 

 

『変身ッ!!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Cord…Set Up!』

 

 

それぞれの変身動作を行うと、零はディケイドに、ヴィヴィオはナンバーズに変身を完了するとライダー達も二人と肩を並べるように列び、眼前のアークとレジェンドルガの大群と向き合った。

 

 

アーク『最早容赦はしないよ…君達は此処で捻り潰すッ!!』

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォーーーッ!!!』

 

 

ディケイド『これで決着を付けるぞ…スカリエッティッ!!!』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォーーーッ!!!!!!!』

 

 

ディケイドを先陣にライダー達が、レジェンドルガ達を従えるアークが同時にその場から動き出し、戦場の中心に到達したと同時に両軍は激しくぶつかり合っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界21

 

 

ガイア『ハアァァァァァァアッ!!』

 

 

クウガ(裕香)『ヤアァァァァァァアッ!!』

 

 

―ガシャアンッ!ズガガガガガガガガガガガガガッ!ズドオォォォォォオンッ!―

 

 

聖王『ふっ!ハアッ!』

 

 

アース『ちぃ!セアッ!』

 

 

幽汽(俊介)『ハアッ!セイッ!』

 

 

ディケイド達とアーク達が激突するその頃、ガイア達は背後から攻めてきたアースと数百を越えるレジェンドルガの大群と奮闘を繰り広げ、周囲を囲むレジェンドルガ達をガイアとクウガが、アースとの戦闘は聖王と幽汽が受け持っていた。

 

 

―ズバアァァアッ!!―

 

 

アース『ウアァァッ!グッ…!』

 

 

聖王『……いい加減諦めたらどうですか?どんなに数で攻めてきても貴方達は私達に勝てません』

 

 

幽汽(俊介)『確かにな…こっちにはディケイドが三人いて、しかも幸助やシズク、智大達までいるんだ。この戦いはお前達にとって負け戦も同然だろう?』

 

 

剣の切っ先をアースに向けながら、これ以上の戦闘は止せと呼び掛ける聖王と幽汽(俊介)。だが……

 

 

アース『…フッ…もう勝ったつもりでいる気か?こちらにはまだ切り札が残されているぞ!』

 

 

仮面の下で不敵な笑みを浮かべながら、アースは左腰にある三つの笛の中から深紫色の笛を取り出しベルトの止まり木に止まっているアースキバットに吹かせた。

 

 

アースキバット「ライド・インパルスブレード!」

 

 

アースキバットの掛け声と共に鳴る風を切り裂くようなメロディーが響き、アースの両腕と両足に巻き付いていた鎖が放たれ、その下には濃紫の刃が飛び出した紫色の装甲が装着された。

 

 

幽汽(俊介)『何?!』

 

 

アース『貴様等に見せてやろう…私の本当の力を!』

 

 

アースキバット「ライド・インパルス!」

 

 

聖王『…ッ!フェアリス!アタックを50!ディフェンスを全て削ってスピードに!』

 

 

フェアリス「了承」

 

 

アースの行動を先読みした聖王は直ぐさま自身のステータスを変更させて高速で動き出し、アースも同じように信じられないスピードで動き出して双方激しく衝突していく。だが、アースの方はスピードだけではなくパワーも敏感性も向上しており、パワーとディフェンスを削った今の聖王にはアースのスピードに付いていくだけで精一杯であり、相手の一撃を受ける度に押されていた。そして……

 

 

―ズババアアアアッ!!スバアァンッ!!―

 

 

聖王『ウアァッ!!』

 

 

幽汽(俊介)『みなみ!!』

 

 

アースの素早い連撃を受け、聖王は堪らずに幽汽の下へと吹っ飛ばされてしまった。そして、アースはそんな二人にゆっくりと近づいていきながら右腕を構えていく。

 

 

アース『終わりだ。まずは貴様等から先に……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 

アースキバット「ライド・インパルス!」

 

 

幽汽(俊介)『クッ!!』

 

 

ガイア『ッ?!みなみちゃん!!』

 

 

クウガ(裕香)「俊介君!!」

 

 

再び猛スピードで動き出したアースは二人に向かって突撃し右腕の刃を勢いよく振り下ろした。が、その時…

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!―

 

 

アース『なっ?!ウアァッ?!』

 

 

『グガアァッ!!』

 

 

『?!』

 

 

突如、頭上から雨のように降って来た複数の弾丸が、アースとジェネシック達の周りを囲んでいたレジェンドルガに直撃し吹っ飛ばしていったのだ。それを間近で見ていたライダー達は突然の事に驚き、何が起きたのか分からず唖然としていた。その時…

 

 

『──まったく…この私がこんな事をするはめになるとは思いもしませんでしたわ』

 

 

『えっ?』

 

 

アース『くっ…!誰だ?!』

 

 

爆煙の向こう側から聞こえて来た謎のお嬢様口調の声に、ライダー達やアースが振り返る。すると爆煙の向こうから水色の髪に黒と青を基調としたバトルドレスを身を包み、バーコードのような髪飾りを着けたライダー少女が姿を現した。

 

 

聖王『あれは…?』

 

 

幽汽(俊介)『リ、"リン"?!』

 

 

クウガ(裕香)『な、何でこんな所にいるんですか?!』

 

 

ディエンド(リン)『ごきげんよう、俊介、裕香。でも残念ながら、貴方達に構ってる暇なんてありませんのよ』

 

 

突如現れたライダー少女、『ディエンド』の登場に幽汽とクウガが驚愕するが、当の本人であるディエンドは二人に簡単な挨拶をしてすぐにアースへと視線を向ける。

 

 

アース『貴様、何者だ!ディケイド達の仲間か?!』

 

 

ディエンド(リン)『仲間?それは心外ですわね…それは私の一番嫌いな言葉です!』

 

 

そう言いながらディエンド(リン)は腰にあるホルダーから二枚のカードを取り出し、右手にある銃のような形をしたドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:OーGA! KAMENRIDE:G3!』

 

 

電子音声と共にディエンド(リン)が引き金を引くと辺りにビジョンが走り、それらが重なるとディエンド(リン)の前に昔の中国の皇帝のようなバトルドレスを着たライダー少女『オーガ』と、機械的なベストのバトルドレスを着用したライダー少女『G3』が姿を現した。

 

 

ディエンド(リン)『貴女は周囲の雑魚を、貴女はあのライダーもどきですよ……行きなさい!』

 

 

ディエンド(リン)が指で二人の相手を指示すると、オーガは周囲のレジェンドルガ達を、G3はアースと格闘戦に入り、ディエンド(リン)の下にライダー達も駆け寄っていく。

 

 

幽汽(俊介)『リン!お前も助けに来てくれたんだな!』

 

 

ディエンド(リン)『助け?勘違いしないで下さい。私が此処に来たのはそんな事の為ではありませんわよ。私はただ、"彼"の道案内役としてこの世界に来ただけですからね』

 

 

聖王『…彼?』

 

 

ディエンド(リン)の"彼"という言葉が気になって首を傾げる聖王だが、幽汽(俊介)は彼女に軽く頭を下げ、

 

 

幽汽(俊介)『だけど、お前のおかげで助かったよ…ありがとな』

 

 

ディエンド(リン)『…っ…フンッ、別に貴方の為なんかじゃ……ありませんわ……』

 

 

クウガ(裕香)『むっ…』

 

 

聖王(……何でしょう……この辺りの空気が少々ピリピリしているような……)

 

 

ガイア(まぁ、うん……触らぬ神になんとやら、だよっ)

 

 

 

微笑みながら礼を言う幽汽にディエンド(リン)は頬を赤らめながらそっぽを向き、そんな二人のやり取りに面白くなさそうに口を尖らせるクウガを見て、何だか色々と察したらガイアと聖王は苦笑いを浮かべる。その時…

 

 

アース『チィ!雑魚共が!貴様等になど用はない!』

 

 

アースキバット「ウェイクアップ!」

 

 

オーガとG3の相手をするのに痺れを切らしたアースはウェイクアップフエッスルを取り出し、ベルトの止まり木に止まっているアースキバットに吹かせた。するとアースの両腕と両足から飛び出している刃が輝き出し、それと同時にアースの姿が消えた。

 

 

―ズバアァァンッ!ズバアァァンッ!―

 

 

『『?!ウアァァァァァァァアッ!!』』

 

 

アースの姿が消えたと共にオーガとG3の間を紫色の閃光が過ぎ去り、それと同時に二人は断末魔を上げながら爆散していった。

 

 

ディエンド(リン)『あらあら…中々やりますわね、貴方』

 

 

アース『フンッ、その余裕が何処までも続くと思うな!行くぞ!!』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 

ガイア『来るよ皆!気をつけて!!』

 

 

聖王『はい!』

 

 

レジェンドルガの大群と共に突っ込んで来るアースにライダー達は武器を構え同じように突撃しようと駆け出した。その時…

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:T・T・T・TRANS!』

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・ERIO!』

 

 

『ヤアァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グギャアァッ!!?』

 

 

アース『ぐっ?!』

 

 

『?!』

 

 

突如ライダー達の背後から飛び出した二つの影が放ったダブルキックがアースとレジェンドルガ達に直撃して吹っ飛ばし、二つの影はライダー達の前に着地した。その影の正体は…

 

 

ガイア『なのはさん?!』

 

 

聖王『泉先輩?!』

 

 

トランス『皆、ゴメンね!ちょっと遅れちゃった!』

 

 

Cエリオ『でもアイツ等をぶっ飛ばしたし!遅刻はこれでちゃらにして!ね?』

 

 

そう、影の正体はトランスと、赤い髪に中立的な顔立ちをした少年……零達の仲間であるエリオに変身したセカンドだったのだ。二人のいきなりの登場にライダー達は一瞬唖然とするもすぐにまた笑いながら二人に駆け寄る。すると、ライダー達の後ろから更に四人、トランス達を追い掛けて来たスバル達が追い付いてきた。

 

 

ゆたか「はぁ…はぁ…ま、待ってよ~!お姉ちゃん!なのはさ~ん!」

 

 

クウガ(裕香)『え?…ゆたかちゃん?!』

 

 

幽汽(俊介)『スバルとティアナ…セッテまで!?何やってんだよこんな所で?!』

 

 

ティアナ「そ、それは、そのっ…」

 

 

スバル「ちょ、ちょっと、待って下さい、走りすぎて…息がっ…」

 

 

此処まで全力疾走で走って来たスバルとティアナとゆたかは、肩で息をしながら何とか説明しようとする。その時…

 

 

アース『ちっ!またライダーが増えたのか…面倒な事に…!』

 

 

吹っ飛ばされていたアースが再び起き上がり、新たな援軍のトランス達を睨みつけると、セッテがアースの姿を見てライダー達の前に身を乗り出した。

 

 

セッテ「トーレ姉様…?トーレ姉様!」

 

 

アース『…ッ?!お前、セッテ?!』

 

 

漸く叶った再会。セッテは喜びの表情を浮かべて自分の姉の名を叫び、アースは目の前に現れたセッテを見て驚愕していた。

 

 

アース『何故だ…何故お前がそいつ等と一緒にいる?!一体どういう…?!』

 

 

何故セッテがライダー達と共にいるのか理解出来ず、アースは困惑をしていた。セッテはそんなアースの様子に気付かずに再会を喜んでいたが、すぐに思い詰めたような表情を浮かべてアースに向かって問い掛けた。

 

 

セッテ「トーレ姉様…教えて下さい!姉様は…姉様も本当に…私を処分する事に同意したのですか?!」

 

 

アース『…?処分…だと?』

 

 

セッテ「レジェンドルガ達から聞きました!…姉様達が…任務に失敗した私を…重大な情報を守る為に私の抹殺を命じたと…それは本当なのですか?!」

 

 

アース『ッ?!』

 

 

セッテから話された事実にアースは驚愕し、再び困惑した表情を浮かべて何かを考えるように顔を俯かせていく。

 

 

アース(私がセッテに抹殺命令を出した…?馬鹿な…そんな命令を出した覚えなど…それにセッテが任務に失敗した事すら聞いていないぞ…?!)

 

 

セッテから聞かされた話のそのどれもがアースにはまったく覚えなどなく、頭の中が混乱しきって思考が思い通りに進まなかった。そして、アースは取り敢えず一度戦闘を中断しセッテからその話を詳しく聞こうと考えた。その時…

 

 

―ズドドドドドドドォッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

クアットロ「は~い!お疲れ様でした、トーレ姉様♪」

 

 

突如ライダー達とアースの間を遮るように複数のエネルギー弾が放たれ、それが放たれてきた方からクアットロと零と、なのはが倒した人造レジェンドルガと似たレジェンドルガ達がゆっくりと近づいて来た。

 

 

トランス『?!貴方は?!』

 

 

クアットロ「……あらぁ?誰かと思えばいつぞやの悪魔様ではありませんか~♪ゆりかご事件の時は本当にお世話になりましたね。何せ、あんな身を削るような真似をして私を捕まえてくれたんですからね~」

 

 

トランス『クッ!』

 

 

セカンド『ちょっ?!なのはさん落ち着いて!』

 

 

幽汽(俊介)『相手のペースに呑まれるな!冷静になれって!』

 

 

挑発的な言い方をするクアットロにトランスが思わず飛び出そうとするが、セカンドと幽汽がそれを抑え何とか冷静にさせる。

 

 

アース『クアットロ!これは一体どういう事だ?!セッテの処分についてなど私は聞かされていないぞ!』

 

 

クアットロ「ん?…あ~、その件ですか。別に伝える必要なんてないと判断したから伝えなかっただけですよ♪任務も真っ当に遂行出来ない役立たずなんて、私達には必要ないでしょう?」

 

 

セッテ「な……」

 

 

クウガ(裕香)『…まさか…セッテさんを抹殺するように命じたのって…あのクアットロって人?!』

 

 

ガイア『うん…あの口ぶりからして…多分そんな所だろうね』

 

 

セッテの抹殺命令がクアットロの独断だと知った一同は険しい表情でクアットロを睨みつける。そしてアースはそんなクアットロに早足で駆け寄り、クアットロの胸倉を乱暴に掴んで引き寄せた。

 

 

アース『貴様ァ…!一体何のつもりだ!?』

 

 

クアットロ「…私の独断がそんなに気に入りませんか?だけど、間違えないで下さいトーレ姉様。ゆりかごの時のような失敗を二度と繰り返さない為にも、任務が遂行出来ないものは即棄てる…そうしなければまた私達の夢は潰える事になるんですよ?…分かって頂けますよね?」

 

 

アース『ッ!…ッ…』

 

 

眼鏡の中央をクイッと押し上げながら真剣な口調でそう継げるクアットロの言い分には間違いがなく、アースは何も言い返せずにゆっくりと胸倉から手を離していく。

 

 

クアットロ「…それじゃあ、トーレ姉様は一度戦線から離脱しドクターが戦っている戦場近くで待機しててもらえます?もしもの時にドクターを助けて頂く人が必要ですから♪」

 

 

アース『……了解した』

 

 

セッテ「ッ?!待って下さい!トーレ姉様!」

 

 

何処かへと向かおうとするアースをセッテは呼び止めようとするが、アースはそれを聞かずに高速移動をしてその場から去っていってしまった。

 

 

セッテ「トーレ…姉様…」

 

 

クアットロ「あらら、セッテちゃんたらそんな見捨てられた子犬みたいな顔して~…そういうのって鬱陶しいからさっさと消えてくれる?」

 

 

―パチッ!ズドドドドドドドドッ!!!―

 

 

クアットロが指の音を鳴らしたと共に、クアットロの後ろに控えていたレジェンドルガ達が無気力で地面に座り込むセッテに向けて一斉にエネルギー弾を放った。だが…

 

 

―ガキィィィィィンッ!―

 

 

クアットロ「…あら?」

 

 

聖王『…………』

 

 

ガイア『………』

 

 

クアットロは目の前で起きた出来事に思わず一声漏らした。何故なら、セッテにエネルギー弾が直撃しようとした瞬間、聖王とガイアがセッテの目の前に飛び出しエネルギー弾を全て叩き落としたからだ。更に他のライダー達もセッテを守るように立ち構え、スバルとティアナとゆたかはセッテの傍に駆け寄りセッテを抱き寄せる。

 

 

ゆたか「…なんでですか?なんでこんな酷い事が出来るんですか?!」

 

 

セカンド『セッテは…セッテはお前の妹でしょ?!それなのに棄てるなんて!殺すなんて事が何でそんな簡単に出来るワケ?!』

 

 

怒りの込めた口調でクアットロに向けて強く言い放つセカンドとゆたか。二人の言い分に共感しているのか、ライダー達やスバル達もクアットロを強く睨みつけている。

 

 

クアットロ「フフッ、なにを言い出すかと思えばそんな事……そんなくだらないこと、一々気にしていたら私達の夢は到底叶わないのよ。二度と失敗が起こらない様に、使えないものは全て処分する…それが、例え妹だとしてもね!」

 

 

セッテ「…ッ!」

 

 

クアットロの言葉が最後の引き金となったのか、セッテの瞳から止めどなく涙が溢れ出し、声を殺しながら泣き出すそんなセッテをゆたかはより一層強く抱きしめた。

 

 

トランス『…そう…貴方にとって…姉妹の絆なんて、その程度の価値でしかないんだね…』

 

 

クアットロ「はい?姉妹の絆?……あっははははっ!バカバカしい!私にとって姉妹と思えるのは、ドクターの為に身も心も捧げた姉様達だけ!それに比べて…チンク達はホントにダメダメでしたね~…くだらない事に気を取られて結局は簡単に負けちゃったんだから。あんな使いものにならない役立たずなんて、私は姉妹なんて思えないし、寧ろ役に立たない妹達なんていない方が良かったのかもしれないわねぇ…貴方達にだって、そう思う時ぐらいあるでしょぉ?」

 

 

トランスの言葉に手を叩いてバカにするどころか、嘲笑うかのようにチンク達の悪口まで口にするクアットロ。その言葉を聞いたライダー達は遂に我慢の限界となり、クアットロに向かって叫び出した。

 

 

聖王『使えものにならないから…?役に立たない妹達なんていらない…?ふざけないで下さいッ!!』

 

 

セカンド『妹っていう存在に役に立つとか立たないとか、そんなの関係ない!それに私は、ゆーちゃんがいない方が良いなんて思った事はいッッち度もないよ!!』

 

 

ゆたか「…お姉ちゃん…」

 

 

セカンドの言葉に心を打たれ、ゆたかの瞳に涙を溜まる。

 

 

ジェネシック『いつも助けられて…いつも傍にいてくれる…私達はそんな家族がいてくれる事を、いつも幸せな事だって思ってたんだから!』

 

 

スバル「そりゃあ…ずっと一緒にいたら喧嘩だって何度もする事だってあるけど…でもそれでも!いない方が良かったなんて思う訳ないよ!」

 

 

ティアナ「寧ろ、自分の中ではとても大きな存在で、失ってしまえば胸にポッカリと穴が開いたような感じになる…それだけ大切なもので!とても大きなものを無くしたんだって悲しく思うんだから!」

 

 

クアットロ「…ふう。ひっきりなしにごちゃごちゃと、馬鹿馬鹿しい…そんなくだらない事が…」

 

 

一同の言葉にクアットロは馬鹿にするように鼻で笑うが、ディエンド(リン)が一同の言葉に続いて語り出した。

 

 

ディエンド(リン)『貴女には一生掛かっても分からないでしょうね…姉妹という存在がどれだけ大事で…どれだけ自分の中で大きな存在なのかを…』

 

 

幽汽(俊介)『…リン』

 

 

クウガ(裕香)『リンさん…』

 

 

ディエンド(リン)が一瞬だけ見せた寂しげな表情に気づいた幽汽とクウガは切なげな顔を浮かべ、トランスもゆたかに抱かれて涙を流すセッテを一瞥し、鋭い眼光でクアットロを睨む。

 

 

トランス『セッテは一生懸命…必死になって、姉である貴方達の役に立とうと頑張って来た!なのに、いらないと思えば簡単に捨てて…あわよくばなんの戸惑いも無くセッテを殺そうとした!!そんな貴方なんかに…姉妹なんて言葉を口にする資格なんてない!!』

 

 

クアットロ「……ッ?!」

 

 

怒りを込めた言葉を強く言い放ったトランスから気迫を感じ取り、クアットロは思わず後退った。と、その時、突然トランスのライドブッカーが開いて其処から三枚のカードが飛び出し、トランスがそれらをキャッチするとシルエットだけだったカードがガイアの絵柄が入ったカードとファイナルアタックライド、ファイナルフォームライドのカードとなって浮かび上がっていったのだ。

 

 

クアットロ「…ッ…フッ!どんなに強がろうと、貴方達だけでこの軍勢に勝てるワケないでしょう!!行きなさいッ!!!」

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォーーーッ!!』

 

 

クアットロの号令が響くと同時に、視界を埋め尽くす程の数のレジェンドルガ達の大群がまるで雪崩の如くライダー達に向かって突撃していく。そんな軍勢を前に、トランスは自分達の背後にいるセッテに視線を移し、

 

 

トランス『セッテ…よく聞いて?…まだ諦めたら駄目だよ』

 

 

セッテ「……え……?」

 

 

トランス『私達が絶対に、貴方とあのお姉さんが話せるように導く……だから、絶対に諦めたりしないで。ね?』

 

 

セッテ「……っ……は、い……」

 

 

涙で声を詰まらせながらも頷き返したセッテを見て、トランスは笑顔で頷き、再び前方から向かって来るレジェンドルガの大群に視線を移した。

 

 

トランス『よし…みんな、全力全開!手加減無しで行くよ!!』

 

 

『(おう) (はい) (うん) (ええ)!!!!』

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界22

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

―ズバアァンッ!ドガアァァァァアンッ!!―

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

―ズドドドドドドドンッ!ズドオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

アーク『どうしたのかねライダーの諸君!私を倒すのだろう?!ならばレジェンドルガなど気にせず私に向かって来たまえ!』

 

 

ディケイド(進)『チッ!あの野郎ッ!』

 

 

ガンナ『そうしたいのにそっちがそうさせてくれないんだろう!』

 

 

カオス『クソッ!コイツ等さえいなければ…!』

 

 

レジェンドルガの大群に囲まれながらも猛攻を続けていくライダー達。しかし、周囲を囲むレジェンドルガ達により最優先目標であるアークには中々近寄る事が出来ず、ライダー達は次第に焦りを浮かべていた。

 

 

ナンバーズ『クッ……!駄目!やっぱり数が多過ぎる!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『もおおおお!!いい加減どっかに行ってよ!!こっちはお前達の顔なんてもう見飽きてんだから!!』

 

 

ディケイド『チッ、こうなったら此処から直接スカリエッティに攻撃するしかないぞ!』

 

 

カオス『ッ…それしか手はないか…皆!こっから奴に一斉射撃を仕掛けるぞ!!』

 

 

ディロード『それしかないみたいだな……分かった!任せろ!』

 

 

このままでは埒が明かないと踏み、遠距離から攻撃を仕掛けるべくライダー達は襲い掛かって来るレジェンドルガ達を払い除けながらそれぞれ攻撃準備に入っていく。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE! VITAL SEARCH SHOT!』

 

『TWIN FORM…ASKA!』

 

『TIME CRASH!』

 

『ATTACKRIDE:STRIKEVENT!』

 

 

それぞれの電子音声が響くとカオスはアスカフォームにフォームチェンジしてアスカブラスターにエネルギーを集束させ、ディケイド(進)はライドブッカーガンモードをアークに向けて発砲する。

 

 

するとアークの身体の数ヶ所に緑の的のようなものが設置され、ディケイド、ディケイド(ツカサ)、ガンナ、ディロードもそれぞれの武器の狙いをアークに定める。そして、ナンバーズはKナンバーを開き『11』の番号を押した。

 

 

『SAMON!WENDI!』

 

 

ナンバーズ『ウェンディ!手伝って!』

 

 

『Set Up!』

 

 

Kナンバーから電子音声が響くと、ナンバーズの隣に人型の残像が出現しそれが徐々に実体化していき、紫を強調したBJを纏い、ボードのような形をした武器を抱え、赤い髪を後頭部で纏めた少年的な容姿をした少女、ウェンディが出現した。

 

 

アーク『ほお、これは素晴らしい!既にベルトの力を…ナンバーズの力を使いこなしているではないか!』

 

 

ウェンディ「ッ…ドクター…!」

 

 

嬉々とした表情で嬉しそうに叫ぶアークに、ウェンディは僅かに顔をしかめた。

 

 

ナンバーズ『ウェンディ、お願い!』

 

 

ウェンディ「…分かったっス!ヴィヴィオと零達の為ッスからね!」

 

 

カオスAF『よし…チャージ完了…皆!行くぞォ!』

 

 

『(おう) (ああ) (うん) ッ!!』

 

 

ライダー達はカオスの掛け声を合図に、それぞれの武器を遠方で佇むアークに狙い定め、ウェンディもライディングボードの銃口をアークに向ける。それと同時に周囲のレジェンドルガ達が一斉に襲い掛かって来た。そして…

 

 

『ハアァァァァァァァ…!ハアァアッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガカガガガガガガンッ!!!!チュドオォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グゴォッ!?グガアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ライダー達が撃ち放った一斉射撃が周囲のレジェンドルガの大群を巻き込みながらアークに向かっていき、目標であるアークに全ての攻撃が直撃したと同時に大爆発を起こしていった。

 

 

ディロード『はぁ…はぁ……やった…か…?』

 

 

ディケイド『ッ…さあな…だが、流石の奴も今ので無事って事はないだろ…』

 

 

ガンナ『…だといいんだが…な』

 

 

肩で息をしながら爆煙に包まれた場所を見据え、ライダー達は流石のアークも今の攻撃で何かしらダメージを与えたハズだと張り詰めていた背筋を少し和らげた。だが…

 

 

 

『……ククク…クククク…フハハハハハハハーーーッ!!!!アハハハハハハハハハハハハハハハーーーッ!!!!』

 

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『い、今の声って…?!』

 

 

ウェンディ「まさか…そんな…!」

 

 

信じたくはない…信じられない…爆煙の向こう側から聞こえてきた不気味な高笑いにライダー達の額に冷や汗が流れた。そして…

 

 

―……ゴォオオオオオッ!!!!!!―

 

 

アーク『ァハハハハハハハハハハハハハハッ!!君達の力はこの程度なのかね?!ええっ!?ライダーの諸君ーーーッッ!!?』

 

 

狂ったように笑いながら爆煙の中から暴走列車の如く猛スピードで飛び出して来たアーク。そのボディは所々ボロボロにはなっているものの、アーク自身にダメージがあるようには全く見られなかった。

 

 

ナンバーズ『そ…そんな…全然効いてない?!』

 

 

ディケイド(進)『何なんだよアイツ…急所を全部撃ち抜いたハズなのに?!本当の化け物か?!』

 

 

カオスAF『ッ!それよりも早く応戦するか散開するか急げ!奴が来るぞ!!』

 

 

あれだけの攻撃を受けても全くダメージがないという事に呆然としていたライダー達は、向かって来るアークの進行を止める為再び一斉射撃を試みる。しかし、アークはライダー達の射撃を受けても怯むような様子をまったく見せず右手を振りかざしながらライダー達に向かって行く。そして…

 

 

アーク『ハアァァァァァァァァァァァア!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『グッ?!グアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ライダー達の抵抗も虚しくアークはライダー達に向けて勢いよく右拳を振り下ろした。ライダー達は直ぐさま回避行動に移った為直撃は免れたものの、アークの右手が振り下ろされた時に発生した衝撃波によりライダー達は四方へとバラバラに吹っ飛ばされてしまった。

 

 

ディケイド(進)『グッ…!クソォ…!』

 

 

ディケイド『クッ…ヴィ、ヴィヴィオ…無事か?』

 

 

ナンバーズ『ッ…う、うん…大丈…夫…』

 

 

カオス達とバラバラに吹っ飛ばされた三人は何とか身体を起こして立ち上がっていく。先程の攻撃の被害にあったものの、大したダメージもなく、ウェンディも間一髪の所でKナンバーに戻したため一先ずはホッと一安心する。だが…

 

 

―バシュンッ!!バシュンッ!!バシュンッ!!―

 

 

『ッ?!―ズガアァァァァァァァァアンッ!!―ウアァァァァァァァアッ!!?』

 

 

そんな暇さえ与えないと言わんばかりに爆煙の向こうから複数の光弾が放たれ、突然の攻撃に三人は反応が遅れ纏めて吹っ飛ばされてしまう。そして、その光弾の放たれてきた方向からゆっくりとアークが近づいてきた。

 

 

ディケイド『くっ!クソ…がァ…!』

 

 

アーク『ふふふふっ…まだ抵抗する気なのかね?いい加減諦めた方が身の為だ、君達では私には勝てない。決してね……ふふふふっ…ふははははははははははっ!!』

 

 

ディケイド(進)『クッ!』

 

 

ナンバーズ『っ…うっ…』

 

 

アークは勝ち誇ったように高笑い、自分の周りに再びレジェンドルガ達を生み出し始めた。三人は何とか立ち上がろうとするが先程の攻撃により身体が麻痺を起こしてしまい全く動こうとしない。その間にもアークが生み出したレジェンドルガ達がジリジリと三人に詰め寄り、今にも一斉に飛び掛かろうとした。その時…

 

 

 

 

 

―ブォオオオオオオッッ……―

 

 

 

『ッ……?!』

 

 

アーク『…何?』

 

 

ナンバーズ『…え?』

 

 

ディケイド(進)『ッ?!これは…』

 

 

ディケイド『…オーロラ?』

 

 

そう、三人とアーク達の間に突然銀色のオーロラが出現し出したのだ。想わぬタイミングで現れたオーロラを前にその場の全員が動きを止め、呆然とした様子で銀色のオーロラを見つめていた。次の瞬間…

 

 

―……ブォオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!―

 

 

『……ッ?!―ドゴオォッ!―グオォォォォォォオッ!?』

 

 

『……なっ?!』

 

 

突如、銀色のオーロラの向こう側から一台のバイクが飛び出し、オーロラの近くにいたレジェンドルガをいきなり跳ね飛ばしていったのだ。そのバイクが地面に着地して止まると同時に銀色のオーロラも消えていき、ディケイド達とアーク達は突然の出来事に頭が付いて行けず、突然現れた一台のバイクと、そのバイクに乗っている一人の"赤い戦士"を呆然と見つめていた。

 

 

『…ここか?魔界城の世界っていうのは?…しっかしまあ、まさかいきなり戦場のど真ん中に出ちまうとはなぁ…ったく、あの海東とかいう女が途中でいなくなったせいだな』

 

 

ディケイド(進)『…な、何だ…アイツは…?』

 

 

ディケイド『赤い…ライダー…?』

 

 

突如現れた謎の赤い戦士はゆっくりとバイクから降りると、二・三回ほど肩をCalc回しながら未だ唖然としているアークに向かってゆっくりと近づいていく。

 

 

アーク『…ッ?!な、何なんだ君は?!一体何者だ?!ディケイド達の仲間なのか?!』

 

 

アークは珍しく動揺した様子で赤い戦士に問い掛けるが、赤い戦士はそれに対し鼻で笑いながら答える。

 

 

『仲間?違うな、俺はこいつ等とは違う。俺は…新たなネクストステージを駆け抜ける全世界の中で一番最強のライダーだ…よく覚えておけ』

 

 

赤い戦士はアークに向けて指を指しながら強気にそう言い放ち、アークや周りのレジェンドルガ達はそのライダーから一瞬だけ放たれたとてつもない何かを感じ取り数歩後ろに後退した。

 

 

アーク『…ッ…面白い…!君が何者かは知らないが、最強と名乗るその力…見せてもらおうかァ!!』

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

最強と自称する赤い戦士の力に興味を持ったアークはレジェンドルガ達に指示を出し、レジェンドルガの大群はそれと同時に赤い戦士に向かって一斉に飛び出していった。

 

 

ディケイド『まずいっ…!おいお前!早くそこから逃げろ!』

 

 

ディケイド(進)『お前一人で奴等と戦うのは無理だ!急いで此処から離れるんだ!』

 

 

流石にあの数を一人で相手取るのは分が悪すぎる。二人が赤い戦士の身を案じて必死に叫ぶが、赤い戦士はその場から一歩も動こうとせず、前方から向かって来るレジェンドルガ達に指を向けながら口を開いた。

 

 

『さあ、ステージの開演だ。その目に焼き付けろ!』

 

 

赤い戦士はそう叫んだと共に、レジェンドルガの大群に向かって怯む事なく突っ込んでいった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界23

 

 

―ズガアァァァァアンッ!ズガアァァァァアンッ!―

 

 

『グギャアァァァァァァァァアッ!?』

 

 

『ハッ!こんなもんかよ!レジェンドルガってもんも案外大した事ねぇなァッ!セエアァッ!!』

 

 

次々と襲い掛かって来るレジェンドルガの大群を華麗な脚技で難無く倒していく赤い戦士。赤い戦士は無駄のない動きでレジェンドルガ達を蹴り飛ばしていき、蹴り飛ばされたレジェンドルガは赤い戦士の一撃を受けただけで断末魔の叫びと共に消滅していっている。その戦いを離れた場所で見ていたディケイド達は唖然とした表情を浮かべていた。

 

 

ディケイド『な、何なんだ…アイツは…』

 

 

ナンバーズ『…凄い』

 

 

ディケイド(進)『たったの一撃でレジェンドルガ達を倒して……奴は…一体何者なんだ?』

 

 

レジェンドルガ達の軍勢を次々と薙ぎ倒していく赤い戦士の実力を見てディケイド達は驚きを隠せず、同時にあの赤い戦士の圧倒的とも言える力に恐怖を感じていた。そして…

 

 

『零ーーッ!進ーーッ!ヴィヴィオーーッ!!』

 

 

ディケイド『ッ?!ツカサ?!皆も!』

 

 

爆煙の向こう側から先程の攻撃により逸れてしまっていたライダー達がその場に駆け付け、ディケイド達と合流した。

 

 

ディロード『三人共、無事だったみたいだな!』

 

 

ディケイド(進)『ああ、お前等も無事で良かった!一時はどうなるかと思ったぞ…!』

 

 

カオス『さっきも言ったろ?俺達はあんなもんじゃ簡単にくたばんねぇよ…………ん?』

 

 

話の途中で、ライダー達はレジェンドルガの大群と一人戦う赤い戦士の存在に気づきライダー達は赤い戦士に視線を向けていく。

 

 

ガンナ『…?三人共、あのライダーは?』

 

 

ディケイド『あっ…いや…アイツは…』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ふおおおおおおぉぉぉぉ!?また見た事のないライダーだ!しかも真っ赤かボディーだよ!カックイイ~!』

 

 

ナンバーズ『ま…真っ赤か?』

 

 

カオス『いや、ツカサの方は何時もの事だから気にしなくていいから…それより、アイツは一体何だ?見た所……敵って感じじゃなさそうだが?』

 

 

ディケイド(進)『あ…ああ…えっと…なんて言えばいいものか…』

 

 

あの赤い戦士は誰だ?と、質問してくるライダー達に三人もどう説明すればいいのか分からず、頭を悩ませながらも何とか説明しようとした。その時…

 

 

アーク『ウオォォォォォォォォ!!!』

 

 

『?!』

 

 

『…ッ?!よっと!』

 

 

―ズドオォォォォォオンッ!!!―

 

 

何時の間にか赤い戦士の背後に回り込んでいたアークが赤い戦士に向けて右腕を振り下ろすが、赤い戦士は後方へと飛んでそれを軽々と回避した。

 

 

『おいおい…不意打ちなんて卑怯な真似してくれるじゃねぇか?』

 

 

アーク『フッ…最強と名乗るぐらいなら、この程度の攻撃はかわせるだろう?それよりも早く君の力を見せてくれないか?あまり勿体振られても私は退屈なだけだからね』

 

 

早く力を見せろとアークは右腕に付いた汚れを払いながら言うと赤い戦士はやれやれと首を振りながら左腕に触れる。

 

 

『それは別に構わないが…後悔しても知らねぇぞ?』

 

 

アーク『…なんだと?』

 

 

アークは言葉の意味が理解出来ずに思わず聞き返したが、赤い戦士はそれを無視して左腕に装着されているタッチパネルのようなものを操作し、最後に手の甲にあるボタンのようなものをタッチした。

 

 

『BLADE KING!ROYAL STRAIGHT FLUSH!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

『……え?!』

 

 

アーク『…ッ?!何?!』

 

 

電子音声が響くと、アークとライダー達は赤い戦士を見て驚愕していた。何故なら、あの電子音声が響いた同時に突然赤い戦士の周りに一人のライダーの残像が現れたからだ。しかもその残像は…

 

 

ディケイド(ツカサ)『…ね…ねぇ!あれってもしかしてブレイドじゃない?!』

 

 

カオス『何?……ッ!?本当だ…あの残像ブレイドの姿をしてるぞ?!』

 

 

『っ?!』

 

 

そう、現れた残像の正体はブレイドの強化形態、ブレイド・キングフォームだったのだ。ライダー達もその残像の正体がブレイドだと気づいて驚愕していると、ブレイドの残像が赤い戦士に重なって消えていき、それと同時に赤い戦士の手にブレイド・キングフォームの専用武器『重醒剣キングラウザー』が出現した。

 

 

『さあ、これが俺の力だ!その目に焼き付けろ!』

 

『ROYAL STRAIGHT FLUSH!』

 

 

電子音声が響くと共に赤い戦士の目の前に5枚のライズカード、スペードの10+ジャック+クイーン+キング+エースの順に並びながらアークへと向かって出現していく。

 

 

アーク『な、何だ?!』

 

 

ディロード『あれは…まさか!?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ブレイドの…ロイヤルストレートフラッシュ?!』

 

 

出現したライズカード達を見てライダー達とアークが驚いている中、赤い戦士は重醒剣キングラウザーを両手で構えると五枚のライズカードのオーラを猛スピードで潜り抜けていき、それを見たアークは赤い戦士の攻撃を防御しようと慌てて両手をクロスさせた。

 

 

『ハアァァァァッ!デアァァァァッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァアッ!!―

 

 

アーク『うッ?!ウアァァァァァァァァアッ?!』

 

 

赤い戦士はライズカードのオーラを駆け抜けると重醒剣キングラウザーでアークを一刀両断に斬り裂き、アークは赤い戦士の斬撃を受け止め切れず、その巨体は宙を飛び吹っ飛ばされていった。

 

 

ガンナ『アークにダメージを与えた!?』

 

 

ディケイド『何なんだアイツは…あんな能力を持つライダーなんて見た事ないぞ!?』

 

 

自分達の攻撃ではまったくダメージを与えられなかったアークにダメージを与えた赤い戦士を呆然と見つめるライダー達。そして赤い戦士は右手に持つキングラウザーを消すと再び左腕のタッチパネルの画面にある紋章をタッチし最後に手の甲にあるボタンを押した。

 

 

『DEN-O LINER!DENKAMEN SWORD!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が鳴ると赤い戦士の周りに再び一人のライダーの残像、電王の強化形態である電王・ライナフォームの残像が現れすぐに赤い戦士と重なって消えていった。完全に残像が消えていくと赤い戦士の右手に一つの剣、電王・ライナーフォームの武器である『デンカメンソード』が現れた。

 

 

ディケイド(ツカサ)『今度はデンカメンソード?!』

 

 

ディケイド(進)『ブレイドの次は電王…あの力は一体何なんだ…!?』

 

 

赤い戦士の右手に出現したデンカメンソードを見て再び唖然となるライダー達。一方で赤い戦士は出現したデンカメンソードを両手で構えながら未だ地面に倒れ込んでいるアークを見据えた。

 

 

アーク『グッ!くっ…』

 

 

『さあて、遠慮は無しだ!どんどん行かせてもらうぜ!!』

 

 

『URA ROD! KIN AX! RYU GUN! MOMO SOWRD!』

 

 

デンカメンソードのレバーを引いて電仮面を一周させ最後にレバーを押し込むと電子音声が鳴り響き、赤い戦士の前に金色のレールが顕れ、そのレールはアークの元まで伸びていく。そして赤い戦士は金色のレールに乗り、出現したオーラライナーと共に猛スピードでアークに突っ込んでいく。

 

 

『ウオオオオオオオオオォォォォーーッ!!電車ァ!斬りぃぃぃぃぃぃ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァアンッ!!!―

 

 

アーク『ウグッ?!グオォォォォォォォォオッ!?』

 

 

赤い戦士の放った必殺技、デンカメンスラッシュがアークを横一閃に斬り裂き、態勢を立て直せていなかったアークは耐え切れずに再び吹っ飛ばされ、ライダー達は再びアークが吹っ飛ばされた光景を見て唖然としていた。

 

 

アーク『ガハァッ!クッ…ば、馬鹿な!?何なんだあの力は…?!』

 

 

斬り裂かれた箇所を抑えてふらつきながら立ち上がるアーク。だが、赤い戦士はお構い無しにと再び左腕のタッチパネルにある一つの紋章に触れその後に手の甲のボタンに触れた。

 

 

『KABUTO HYPER!PERFECT ZECTOR!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

タッチパネルから電子音声が響くと先程とは別の残像が赤い戦士の周りに出現し始めていく。それは…

 

 

ナンバーズ『…え?赤い…カブトムシ…?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『おおぉぉぉぉぉ!?今度はカブトだァ!!』

 

 

そう、その正体はカブトの強化形態、カブト・ハイパーフォームの残像だったのだ。カブトの残像は出現してすぐに赤い戦士と重なって消えていき、赤い戦士の右手にはカブト・ハイパーフォームの専用武器『パーフェクトゼクター』が現れそれを構えた。

 

 

『さてと…お前にコイツの威力を受け切れるかな?』

 

 

『KABUTO POWER! THEBEE POWER! DRAKE POWER! SASWORD POWER! ALL ZECTOR COMBINE!』

 

 

パーフェクトゼクターの四つのボタンを全て押していくと電子音声が響き、赤い戦士はそれを確認するとパーフェクトゼクターの先端をアークに向けて引き金に手を掛ける。

 

 

『いくぜ…マキシマムハイパーサイクロンッ!!』

 

 

『MAXIMUMHYPER CYCLONE!』

 

 

―シュゥゥ…チュドオォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

アーク『な…!?』

 

 

パーフェクトゼクターの先端から竜巻の如く放たれた砲撃。それは地面をえぐりながら一直線にアークへと向かっていき、アークはその砲撃を両手で受け止めるが砲撃の勢いは止まらず徐々に押されていく。

 

 

アーク『ば、馬鹿な…ッ!こんな馬鹿げた力が…グ、グアァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

―ズガガガガァッ…ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンーーーーッ!!!!―

 

 

パーフェクトゼクターの砲撃がアークを呑み込むように直撃すると辺りに爆発と衝撃波が巻き起こり、アークは再び後方へと吹っ飛ばされていった。

 

 

ガンナ『……何だか…もう何でありだな…』

 

 

ナンバーズ『凄~い!』

 

 

ディケイド『…そうだな…俺もヴィヴィオみたいに凄いの一言で片付けられたら…どれだけ楽なんだろうか……』

 

 

最早目の前の光景を見て言葉が見つからないライダー達はただ呆然とそれを見ているしか出来なかった。そして赤い戦士はパーフェクトゼクターを消すと吹っ飛ばされたアークへとゆっくり近づいていく。

 

 

アーク『……アッ…グッ…ば、馬鹿な…こんなハズでは…ッ!』

 

 

『だから言っただろ?後悔しても知らねぇぞってな。まあだが、今までの戦いでよく分かった…お前がその程度だって事がな!』

 

 

地面に片膝を付けるアークを見据えながらそう言い放ち赤い戦士は左腕のタッチパネルを操作して手の甲のボタンを押した。

 

 

『KIVA EMPEROR!ZANBAT SWORD!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が響くと再び赤い戦士の周りに再び一人のライダーの残像が出現し始めていく。

 

 

ディロード『またライダーの残像か…!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『おおぉっ?!今度はキバ・エンペラーフォームじゃん?!』

 

 

赤い戦士の周りに現れた一人のライダーの残像…キバの強化形態、キバ・エンペラーフォームの残像は今まで現れた残像達と同じように赤い戦士と重なって消えていき、赤い戦士の手にはキバ・エンペラーフォームの武器『ザンバットソード』が出現した。

 

 

『キバもどきにはキバってな…さあ、行くぜ!』

 

 

赤い戦士はアークを見据えながらザンバットソードの鍔を掴みスライドさせていく。鍔をスライドさせていくとザンバットソードの刀身が怪しく輝いていき、鍔を定位置に戻すと赤い戦士は紅い刀身を輝かせるザンバットソードを両手で構えた。

 

 

アーク『ッ?!クッ!これ以上好きにやらせるものかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

アークはザンバットソードを見て自分の身の危険を感じ、額から光弾を乱射して赤い戦士の行動を阻止しようとする。対して赤い戦士は、光弾の雨が辺りに降り注いでいるにも関わらず、ザンバットソードの柄を握り締めて次々と巻き起こる爆発の中を疾走し上空へと高く飛んだ。そして…

 

 

『デアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァアッ!!!―

 

 

アーク『グゥッ!?グガアァァァァァアッ!?』

 

 

赤い戦士は降下を利用してザンバットソードを勢いよく振り下ろしアークを斜め一閃に斬り裂いた。斬り裂かれたアークは絶叫を上げながらザンバットソードで斬られた胴体を抑え、再び膝を付いて悶えていた。

 

 

ディケイド(進)『…ありえねぇ…目茶苦茶過ぎるだろあの力……』

 

 

カオス『ライダーの力を自在に使える力……まさかあれは、コピースキルの類か?』

 

 

自分達の苦戦したアークを徐々に追い詰めていく赤い戦士を見てライダー達はただ呆然とし、それとは別にカオスはあの赤い戦士を見つめながら一人何かを考えていた。

 

 

『ふぅ……さてっと…』

 

 

赤い戦士はザンバットソードを消して両手を払いながら一息吐くと、ゆっくりとした足取りで自分の乗って来たバイクに近づき跨がった。

 

 

ディケイド(ツカサ)『…え?えぇ!?ちょ、ちょっと待ってよ?!もしかして帰るつもり?!』

 

 

『…?当然だろ?俺の役目はもう終わったんだ。此処から先の事はお前達の物語…俺はこれ以上この世界に干渉出来ないんだよ』

 

 

バイクに跨がりながらそう言うと赤い戦士はバイクのエンジンを掛ける。すると赤い戦士の近くに歪みの壁が出現し、赤い戦士はアクセルを踏んで歪みの壁を通ろうとする。

 

 

ディケイド『待て!お前は一体誰なんだ!?!』

 

 

ディケイドは赤い戦士を呼び止め、名前を教えて欲しいと呼び掛けた。すると、赤い戦士はライダー達に指を指しながらこう答えた。

 

 

『…俺は、鮮烈のネクストステージを駆け抜ける最強のライダーだ。覚えておけ…じゃあな!ヴィヴィオ!』

 

 

ナンバーズ『…え?』

 

 

赤い戦士はナンバーズに向けて手を振りながらそう言うとバイクを走らせて歪みの壁に向かっていき、赤い戦士がバイクと共に歪みの壁を通ると歪みの壁は徐々に薄れて完全に消え去っていった。

 

 

ナンバーズ『……あの人…何で私の名前を?』

 

 

ディケイド(進)『…結局…あのライダーは何だったんだ?』

 

 

ディロード『いや…さあ…?』

 

 

カオス『(……鮮烈?…まさか……あのライダーは…)』

 

 

ライダー達は釈然としないまま赤い戦士が消えていった場所を見つめ、カオスはあの赤い戦士が言っていた鮮烈という単語が脳裏に留まり、それを考えていく内に何か分かった様な表情を浮かべた。その時、先程の連撃により動けずにいたアークが立ち上がり、ライダー達に覚束ない足取りで近づいて来た。

 

 

アーク『ウッ…グゥ…まだだ…こんな事で…こんな事で!私の夢を潰えさせてたまるものかァ!!』

 

 

ディロード『おいおい…あれだけの攻撃を受けてまだ動けるのか?』

 

 

カオス『チッ!ほんっとにしぶとい奴だな。タイムオーガ並にうざいぞ…』

 

 

ガンナ『だが、流石の奴もさっきのは効いてるみたいだな…多分さっきよりかは攻撃が通りやすくなってるかもしれないぞ?』

 

 

切り傷などでボロボロになったアークを見据えながらライダー達は再び自分達の武器を構えていき、アークはそれを見ると歩くのを止めて立ち止まり先程のように再びレジェンドルガ達を生み出し始めた。

 

 

ディケイド(ツカサ)『うわ!?またレジェンドルガを出してるよ…もう勘弁してよねぇ〜っ……!!』

 

 

ディケイド『まあ、もう一踏ん張りなんだ、頑張れ。アイツを倒せば全部終わるんだからな』

 

 

ナンバーズ『うん!』

 

 

ディケイド(進)『よし…なら俺も一肌脱ぐとするか』

 

 

ディケイド(進)は自分に気合いを入れるように言いながらライドブッカーを開いて其処から一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド(進)『コイツの力は初出しなんだが、折角だ。お前達にも見せてやるよ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:NANOHA!』

 

 

ディケイドライバーから電子音声が響くと、ディケイド(進)の身体に光の粒子が集まり、光が晴れるとディケイド(進)の姿は星形のマスクをした白いライダー…進達一行が旅したナノハの世界のなのはが変身していた『ナノハ』へと変身していったのだ。

 

 

カオス『あれは…』

 

 

ディケイド(ツカサ)『おおぉぉぉぉっ!?何何?!見た事ないライダーに変わった?!』

 

 

ディケイド『…?あの色具合い…まさか、あれが進達の言ってた別世界のなのはが変身する…ナノハか?』

 

 

姿の変わったDナノハを見てディケイド(ツカサ)は始めて見るライダーに興奮し、カオスやガンナ達はまだ自分達も見た事のないライダーであるDナノハを興味深そうに見つめ、ディケイドは進達から事前にナノハの事を聞いていた為大して驚きはしなかった。

 

 

Dナノハ『まずは手始めに…これだ』

 

 

Dナノハは姿が変わってすぐにライドブッカーを開き、そこから一枚のカードを取り出してディケイドライバーに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:SUKOSHI ATAMA HIYASOKKA!』

 

 

電子音声が響くとDナノハは顔を俯かせ、またゆっくりと顔を上げていき…

 

 

 

 

 

 

 

Dナノハ『…少し…頭冷やそっか…?』

 

 

 

 

―………ピシッ!!!―

 

 

 

 

『…………ッッ!!!!?(ビクッ!!!?)』

 

 

 

Dナノハはドスの効いた低い声で目の前のアーク達に向かってポツリと呟いたのだ。その台詞が放たれた瞬間その場のいる全員が一斉にDナノハから身を引いていく。ある者は恐怖で固まり、ある者は見覚えのありすぎる光景に顔を引き攣らせたり、ある者は納得したように頷き、ある者は昔のトラウマを思い出して若干身体を震わせながらちょっぴり涙を流したりなど反応は様々だが……特に変化などは何も起きなかった。

 

 

アーク『……元道進君。一応聞かせてほしいのだが……それは一体なんだね?』

 

 

Dナノハ『……えっ、いや……これは…その……た、ただの手違いだ!次からは本気で行くぞ!!』

 

 

『ATTACKRIDE:LYRICAL MAGICAL GANBARIMASU!』

 

 

気を取り直して再びライドブッカーから取り出したカードを装填すると電子音声が響き、Dナノハは今度は一回二回とターンをして…

 

 

 

 

 

 

 

Dナノハ『リリカルマジカル頑張ります♡』

 

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

ディケイド『……うわぁ…』

 

 

またもや意味不明な発言を言い出したDナノハ。しかも今の発言に合わせてか、声音までしっかりと変えている。それを見た一同は固まり、ディケイドはその発言が昔自分の幼なじみが言っていた台詞だと気づいて思わず声を漏らした。そしてやはりと言うべきか、特にコレと言った変化は何も起きなかった。で……

 

 

 

 

『……………………プッ…ブハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーー!!!!!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーーーー!!!!!』

 

 

 

……それがツボにハマったのか。カオス、ディロード、ディケイド(ツカサ)が腹を抱えながら地面を転がって盛大に笑い出し、ナンバーズも肩を震わせながらも必死に笑いを堪え、レジェンドルガ達はそんなライダー達の姿を見てどうしたらいいのか分からず困惑していた。

 

 

ディケイド『……お…おい……進?』

 

 

ガンナ『その…大丈夫か?お~い?』

 

 

かろうじて無事だったディケイドとガンナがポーズを解除せずに固まっているDナノハを心配してゆっくりと歩み寄り、Dナノハに呼び掛けた。だが…

 

 

 

 

 

Dナノハ『……………………………………………………あんのぉ……バカなのはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーッ!!!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!―

 

 

『グギャアァァァァァァァァァァァァアッ!?』

 

 

ガンナ『ちょっ!?落ち着け進!?冷静になれ!!』

 

 

ディケイド『気にしてても仕方ないだろ!?大丈夫だ!確かにちょっぴりイタい奴に見えた気もするがそこはポジティブに…って待て待て待て待て!?何でこっちに銃を向け―ズガガガガガガガガガガンッ!―うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?』

 

 

怒りと羞恥心で我を忘れてしまったDナノハはライドブッカーガンモードで辺りを無差別に撃ち始めた。二人は慌ててDナノハを抑え込もうとするがDナノハの無差別破壊活動はそれでも止まらず、そんなDナノハは自分の怒りをぶつけるように周囲のレジェンドルガ達を阿修羅の如く次々と倒していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃……泉家。

 

 

 

なのは(別)「……はっ…くしゅん!」

 

 

ライダー達とアーク達の大激戦が繰り広げている中、泉家で留守番をしていたナノハの世界のなのは(別)が両手で口を抑えながらくしゃみをした。

 

 

はやて(別)「んん?なんやなのはちゃん?もしかして風邪か?」

 

 

なのは(別)「う…ううん…大丈夫だよはやてちゃん…(……何だろ?今もの凄い殺気を感じた気がしたんだけど…気のせいかな?)」

 

 

自分のせいで進が大変な事になってるとも知らず、窓から外の景色を眺めながら「進君、大丈夫かな~」と呑気な事を口にするなのは(別)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

トランス『…はっ…くしゅん!うぅ…何だろ?今もの凄い寒気が……風邪かな?』

 

 

ガイア『ッ?!なのはさん危ない!後ろッ!!』

 

 

トランス『えっ?―ブオォンッ!―キャアッ!?クッ!こんのォッ!!』

 

 

―ガキィィィィンッ!―

 

 

『グギャアァァァアッ!』

 

 

後ろから襲い掛かって来たレジェンドルガの攻撃を何とか交わすとレジェンドルガを横一閃に斬り飛ばし、トランスは先程感じた寒気に疑問を浮かべながらも、気を取り直して再びレジェンドルガの大群に向かって突撃していった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一方その頃、ライダー達とアーク達が戦っている場所から離れた所にある崖の上…そこには先程消えたハズの赤い戦士がバイクに跨がったままライダー達の戦い見守っていた。

 

 

『……はあ……何やってんだよアイツ等は……これじゃあ俺が来た意味ないだろ…』

 

 

赤い戦士が向ける視線の先には白いライダー…怒りによって暴走したDナノハと地面で笑い転がるカオス達、そしてDナノハを必死に止めようとするディケイドとガンナの姿があり、赤い戦士はそんなライダー達を見て呆れた様に溜め息を吐いた。

 

 

『…まあいいか。後の事はディケイド達が片付けてくれるだろう。俺もそろそろ帰らないとアイツ等に心配掛けると思うし…』

 

 

赤い戦士が溜め息混じりでそう呟くと赤い戦士の乗るバイクの近くに先程と同じ銀色のオーロラが出現した。それを確認した赤い戦士はハンドルを握ると、横目で一人のライダー…ナンバーズを見つめる。

 

 

『……お前なら大丈夫だ。頑張れよ、ヴィヴィオ』

 

 

赤い戦士はそれだけを口にすると、バイクを走らせて銀色のオーロラに飛び込んでいった。赤い戦士が銀色のオーロラに飛び込んだ後、オーロラは完全に消滅してその場には何もない、ただの荒れ地だけが残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第四章/魔界城の世界24

 

 

全く役に立たないカードによって阿修羅と化したDナノハ。レジェンドルガ達を圧倒していくその姿は、正に『管理局の白い悪魔』を体現していた。

 

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!―

 

 

『ギャアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

『どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!?』

 

 

ライドブッカーガンモードの引き金を引き、数え切れない数の閃光を撃ち放つDナノハ。複数の閃光はレジェンドルガの大群に直撃して巨大な爆発が巻き起こり、更にDナノハを止めようとしたディケイドとガンナまでもが巻き添いを喰らい吹っ飛ばされてしまった。

 

 

ガンナ『ぅ……な…何で、こんな事に…』

 

 

ディケイド『…あんなカードがあるなら…何故あの二つが最初に出て来たんだ…』

 

 

二人はゆっくりと起き上がりながら目の前に視線を向ける。其処にはレジェンドルガの攻撃を軽々と弾いてライドブッカーガンモードを乱射していくDナノハの姿があり、燃え盛る炎の中を歩きながら背中を見せて逃げるレジェンドルガも問答無用で倒していく。その戦いを見て二人は無意識の内に身体を震わせていた。

 

 

『ク、クソッ!これ以上やらせるなァ!撃てぇぇぇぇ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガッ!ズガアァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディケイド『ッ!?進ッ!』

 

 

レジェンドルガの大群が容赦なく撃ち放った一斉射撃がDナノハに向かっていき全てのエネルギー弾がDナノハに命中して巨大な爆発を巻き起こしていった。今の攻撃で流石に無事でいられるはずがない。燃え上がる炎を見つめながら、誰もがそう思いレジェンドルガ達も肩の力を抜いた。だが…

 

 

『――――ッ!?』

 

 

レジェンドルガ達は見た。燃え盛る炎の中から歩いて来る一人の人影……Dナノハの姿を。

 

 

ただならぬオーラを放ちながら、まるで何事もなかったかのように悠然と歩み寄って来るDナノハの姿にレジェンドルガ達は恐怖を覚え、少しずつ後退していく。

 

 

『…あ…あああ…悪魔だ…奴は悪魔だァ!!』

 

 

傷付いた一体のレジェンドルガがDナノハのその姿を見て恐怖の余り大声で叫んだ。すると、Dナノハはユラリとした動きで俯かせていた顔をゆっくりと上げていく。

 

 

Dナノハ『…悪魔でいいさ……悪魔らしいやり方で…俺もお前達を潰すからなァァァァァッ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドッ!!!―

 

 

『ヒッ…ギャアァァァァァァァァァァァァアッ!』

 

 

逃げ惑うレジェンドルガ達に向けて容赦なくライドブッカーガンモードで乱射していくDナノハ。その姿は正に悪魔……否、魔王という名が一番似ついていた。

 

 

ガンナ『む、酷い…』

 

 

ディケイド『…まるでブチ切れたなのはそのものだな…』

 

 

余りの光景に体中から冷や汗を流す二人。離れた場所からレジェンドルガを生み出しているアークも流石に焦りを浮かべているが、先程の赤い戦士の攻撃によるダメージのせいかレジェンドルガを生み出すスピードがだんだんと落ちている。そして、先程まで笑い転がっていたライダー達はというと…

 

 

 

ディロード『げほっ!んんっ!…流石に笑い過ぎて腹がいてぇな…』

 

 

カオス『いやぁ、久々に大爆笑させてもらったな~。ビデオの方にもちゃんと取ってあるし、後でもう一度見るとするか』

 

 

ディケイド(ツカサ)『あっ!だったらそれダビングして私にも頂戴!』

 

 

ナンバーズ『私ももう一回見たい!』

 

 

『…………………』

 

 

目の前であんな事が起きてるにも関わらず何だか別の話題で盛り上がっていた。というかいつの間にそんなビデオを取ったんだ…とツッコミたい衝動に駆られるが、どうせ無駄な体力を消費するだけだと思うので止めておく。

 

 

Dナノハ『さあ…そろそろ終わらせてやるぞ…』

 

 

『ATTACKRIDE:DIVINE BUSTER!』

 

 

その一方で、暴走の勢いが止まらないDナノハはライドブッカーから取り出したカードをディケイドライバーにセットし、ライドブッカーガンモードの銃口をレジェンドルガの大群に向けて光が集束されていく。

 

 

アーク『ッ!?レジェンドルガ達よ!私の下に集まれッ!!』

 

 

それを見て嫌な予感を感じ取ったアークは、直ぐさま大量のレジェンドルガ達を自分の目の前に集めて盾にしようとする。そして…

 

 

Dナノハ『何もかも消え去れ……ディバイィィィィン!!バスタァァァァァーーーーー!!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ギィッ!?グッ…ガアァァァァァァァアッ!!』

 

 

アーク『クッ!?ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーー!!!』

 

 

ライドブッカーの銃口から放たれた巨大な砲撃が盾となったレジェンドルガ達を難無く吹っ飛ばし、アークも巨大な砲撃に呑み込まれていった。のだが……

 

 

 

ガンナ『こ、こっちに来たァーーーーーッ!!?』

 

 

ディケイド『ああ…うん…これはかわせんな…なのはの砲撃は百発百―――』

 

 

―ズドオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーンッ!!!!―

 

 

……Dナノハの放った全力全開の砲撃がアーク達のみならず、何故か後方にいたディケイドとガンナまでもを巻き込んでいったのだった。

 

 

因みにビデオの事で話題を盛り上がらせていたライダー達はそれに巻き込まれずに済み、二人に気づいたのは巨大な砲撃がその場から過ぎ去り遥か後方へと向かっていった後だったらしい。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

セカンド『…ッ!?な、何!?今の音!?』

 

 

ガイア『……爆音?しかも幸助達の方から?』

 

 

スバル「…ま、まさか…零さん達に何か…?」

 

 

クアットロの率いるレジェンドルガの軍勢と戦っていたライダー達が、自分達の後方から聞こえて来た巨大な轟音に思わずその方へと振り返っていき、アークと戦っていたライダー達に何かあったのではと一瞬そんな考えが脳裏を過ぎった。

 

 

クアットロ「あらぁ?敵を目の前にしてよそ見なんて随分と余裕ね?」

 

 

『ッ!』

 

 

背後から聞こえて来た笑いを含んだ声にライダー達は慌てて振り返る。そこにはまだ数百を越えるレジェンドルガ達と、自分の配下であるレジェンドルガ達に守られて不気味に笑うクアットロの姿があった。

 

 

クアットロ「そろそろ諦めたらどう?どんなに足掻いた所で、貴方達みたいな虫けらに私達は絶対倒せないんだから」

 

 

トランス『ッ!そんな事はない!零君達がスカリエッティを倒せば、レジェンドルガ達も全部消えるよ!』

 

 

ディエンド(リン)『そうなれば私達の勝ちは決まっていますし、貴方を守る者もいなくなる。貴方の方こそ…そうなる前に降参でもしたらどうですの?』

 

 

ディケイド達がアークを倒せば、レジェンドルガ達は全て消え去る。そうなれば一人残る事になるクアットロに勝ち目などあるはずもない。そうなる前にライダー達はクアットロに降参しろと呼び掛けるが…

 

 

クアットロ「この私が降参?ありえないわね!何故私が虫けらなんかに頭を下げないといけないの?寧ろ、助けて下さいと平伏せて命乞いをするのは…貴方達の方よ!」

 

 

―パチッ!―

 

 

クアットロが高らかに叫びながら指を鳴らすと、地面から再び数え切れない数のレジェンドルガ達が現れ、数十秒もしない内にトランス達の周りには百体近くのレジェンドルガが出現していった。

 

 

クウガ(裕香)『くっ!まだこんな数のレジェンドルガが!』

 

 

聖王『っ…恐らく、こちら側の増援を呼んでいるのはあの人だと思います。だからあの人を倒せば…』

 

 

幽汽(俊介)『これ以上の増援はなくなるってか?だが俺達が動いたらゆたか達はどうなる?!俺達が此処から動けば、きっとコイツ等は真っ先にゆたか達を狙うぞ!』

 

 

ゆたか「みなみちゃん…皆さん…!」

 

 

今のトランス達の現状はゆたか達を守るように集団で固まりながら戦っている。そして増援を呼び出している肝心のクアットロは此処から離れた場所にいる上、上級クラスのレジェンドルガ達がすぐ傍にいる。

例え何人かにゆたか達の護衛をを任せてクアットロに向かって行っても傍にいる上級レジェンドルガを倒すには恐らく時間が掛かると思われるし、その間にレジェンドルガ達がゆたか達が襲い掛かれば、残ったライダー達だけでそれを止めるのは無理に等しいだろう。ライダー達は押し寄せて来るレジェンドルガの大群を睨みつけながらどうするべき必死に考えていた、その時…

 

 

 

 

―シュゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウッ!!!―

 

 

 

 

『…え?―ドッガアァァァァァァァァアンッ!!!―ウアァァァァァァァァァァァァアッ!?』

 

 

『グガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

クアットロ「ッ?!なっ?!何よこれ?!」

 

 

突然彼方から放たれて来た桜色の砲撃……Dナノハのディバインバスターが戦場の中心に直撃して巨大な爆発と衝撃波が辺りに巻き起こり、ライダー達とレジェンドルガの大群はそれに巻き込まれ吹っ飛ばされていった。

 

 

セカンド『………うっ……いったたた……な、なんなの一体?』

 

 

ガイア『…今の攻撃は…ディバインバスター?なのはちゃん!一体何したの?!』

 

 

トランス『え、えぇ?!わ、私は知らないよ?!というか私だって何がなにやら……!』

 

 

一体何が起きたのか分からずライダー達は辺りを見回して状況を確かめていく。辺りには大量のレジェンドルガの屍が転がっており、クアットロ達も何が起きたのか分からないといった表情を浮かべて呆然と立ち尽くしていた。するとそれを見たディエンド(リン)が左腰にあるホルダーから二枚のカードを取り出した。

 

 

ディエンド(リン)『何が起こったのか知りませんが、敵の陣形が乱れている…今がチャンスですね。一気に押し切りますよ!』

 

 

ディエンド(リン)はそう言って自分のドライバーに二枚のカードを装填しスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:KIVA! KAMENRIDE:HIBIKI!』

 

 

電子音声と共に引き金を引くと、ディエンド(リン)の目の前に法被の様な服装に鬼の角が付いたカチューシャを付けた姿をしたライダー少女と、黒を基調としたセクシーなドレスを着て銀色のマントを羽織り、頭にはコウモリ耳のカチューシャを付けたライダー少女、共通して目を覆い隠す黒いバイザーを身につけたキバと響鬼が現れたのだ。

 

 

トランス『ッ?!ライダーを召喚した?!』

 

 

セカンド『あれって…海斗さんと同じ能力?!』

 

 

ガイアと幽汽達を除いた全員が召喚されたキバと響鬼を見て驚愕し、キバと響鬼はレジェンドルガの大群に向かって突っ込んでいった。

 

 

クアットロ「ッ?!クッ!行きなさいレジェンドルガ!アイツ等を叩きのめすのよ!!」

 

 

向かって来るキバと響鬼を見て正気に戻ったクアットロはレジェンドルガの大群に向けて突撃命令を下し、レジェンドルガ達はそれに応えて一斉に駆け出していった。

 

 

聖王『リンさん…先程も思いましたが、貴方は一体?』

 

 

ディエンド(リン)『今は私の事はどうでもいいでしょう?それよりも、貴方達も早く準備をしてくれます?あの二人も長くは持ちそうにないですからね』

 

 

ディエンド(リン)が向ける視線の先にはレジェンドルガ達と戦うキバと響鬼の姿があるが、流石に二人だけではあの数を相手に仕切れないらしく少しずつ押され始めていた。

 

 

幽汽(俊介)『ッ…確かに、あのままじゃそう長くは持ちそうにないな……けど、準備って?』

 

 

ディエンド(リン)『…なのはさん?さっき貴方が手に入れたカード…それで行けますわね?』

 

 

トランス『…ッ!そっか…うん!分かった!』

 

 

『?』

 

 

何かに気づいたように頷くトランスだが、二人以外の全員が話の内容が分からず首を傾げていく。すると、トランスはライドブッカーから一枚のカード、先程絵柄の戻った内の一枚を取り出し直ぐにトランスドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:GA・GA・GA・GAIA!』

 

 

トランス『…シズクさん、ちょっとくすぐったいけど我慢して!』

 

 

ガイア『へ?…も、もしかして?!―ドンッ!―アウッ?!』

 

 

トランスはガイアの背後に回って扉を開くように両手を広げると、ガイアの身体が宙に浮きながら変化していき、その姿は巨大な黄金のハンマーを摸した姿、ガイアは『ガイアクラッシャー』へと超絶変形していったのだ。

 

 

幽汽(俊介)『シ、シズクがハンマーに変わった?!』

 

 

クウガ(裕香)『す、凄い…』

 

 

スバル「……な、何だろ…ちょっと複雑な気分…」

 

 

超絶変形したガイアクラッシャーを見て一同は驚き、スバルは違う世界の存在とは言え、自分が変形された事に少し複雑な心境になっていた。そしてトランスはガイアクラッシャーを手に持つと、ガイアクラッシャーのハンマーの部分が黄金の輝きを放っていく。

 

 

 

クアットロ「チッ!いつまでそんな雑魚達に手こずっているの?!さっさと始末しなさい!!」

 

 

中々倒れないキバと響鬼に苛立ちを感じ始めたクワットロがそう命じると、レジェンドルガ達が二人に向け一斉射撃を放った。が…

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!―

 

 

『グッ!ウ、ウアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドゴオォオオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

キバの前に響鬼が庇うように立ち塞がり、レジェンドルガの大群が撃ち放ったエネルギー弾を全て受けていったのだ。エネルギー弾を受けた響鬼は悲痛な悲鳴と共に爆発していき、キバはその爆発によって発生した爆風でトランス達の所まで吹っ飛ばされていった。

 

 

そしてレジェンドルガ達はキバに追撃を掛けようとするが、キバと入れ代わるようにガイアクラッシャーを持って突っ込んで来るトランスを見て全員が動きを止めた。

 

 

クアットロ「?!な、何よ…あの武器は一体?!」

 

 

トランス『ハアァァァァァァァァ…デアァァァァァッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァアンッ!!―

 

 

『グッ?!ウガアァァァァアッ!?』

 

 

トランスが勢いよく振り回したガイアクラッシャーがレジェンドルガ達に直撃し、それを受けたレジェンドルガ達が一斉に吹っ飛ばされていった。

 

 

ティアナ「す、凄い…!」

 

 

セッテ「あ、あれだけの数のレジェンドルガを一斉に…信じられない…」

 

 

トランスがレジェンドルガの大群をたったの一撃で吹っ飛ばしていく光景を見て一同は驚き、セッテに至っては信じられない物を見たかのような表情をしてトランスを見ていた。そして、ライダー達がトランスの下に駆け寄るとトランスは自分のライドブッカーからもう一枚のカードを取り出し、それをセカンドとディエンド(リン)に見せた。

 

 

トランス『こなたちゃん、リンさん、これで一気に決めよう!』

 

 

セカンド『…!なるほどね~♪面白そうだから乗った!』

 

 

ディエンド(リン)『まぁ、私は最初からそのつもりでしたけど』

 

 

『…??』

 

 

またまた自分達だけ分かったように頷く三人に、一同は話の意味が分からないといった表情で再び首を傾げている。すると、セカンドはライドブッカーから二枚のカードを取り出し、ディエンド(リン)は一枚のカードを取り出して自分達のドライバーに装填していき、トランスも取り出したカードをバックルに装填しスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

『FINALFORMRIDE:SU・SU・SU・SUBARU!TE・TE・TE・TEANA!』

 

『FINALFORMRIDE:KI・KI・KI・KIVA!』

 

 

ディエンド(リン)『痛みは一瞬ですわ!』

 

 

それぞれの電子音声が響くとディエンド(リン)はキバに向けていきなり発砲していった。すると、発砲されたキバの身体から以前零が変身させたのと同じキバアローが飛び出しキバはそれを持って構えた。

 

 

ゆたか「わあぁ?!な、何か出て来た?!」

 

 

幽汽(俊介)『うわ…やっぱり何度見ても見慣れないよなぁ…アレはっ……』

 

 

セカンド『まあまあ!それはそれとして……スバル、ティアナ?ちょっとだけ我慢してね?』

 

 

トランス『みなみちゃん、二度目になるけどちょっと我慢して?』

 

 

聖王『…え?―ドンッ!―ウアッ!?』

 

 

ティアナ「ッ?!ちょ、まさか?!―ドンッ!―やっぱりィィィィィィ!!」

 

 

スバル「えっ?えっ?ま、まさか私も?―ドンッ!―ひゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

 

トランスとセカンドは三人の背中を強く押すと、三人は宙に浮きながら姿を変えていき、聖王はセイオウセイヴァー、ティアナはティアナバレル、スバルの姿はマッハキャリバーを摸した巨大な篭手『スバルナックル』へと超絶変形していった。そして…

 

 

幽汽(俊介)『うわぁっ!?な、何だよ一体?!』

 

 

クウガ(裕香)『お…重い…ですぅ!』

 

 

セカンド『まあまあ、そう言わずに二人も手伝ってよ♪』

 

 

変形していったセイオウセイヴァーは幽汽に、スバルナックルはクウガに、そしてティアナバレルはセカンドの手に握られ、それを確認したトランスとセカンドとディエンド(リン)は更にカードを取り出して自分達のドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

『FINALATTACKRIDE:SU・SU・SU・SUBARU!TE・TE・TE・TEANA!』

 

『FINALATTACKRIDE:KI・KI・KI・KIVA!』

 

 

クアットロ「……ッ?!う、撃ちなさい!早くアイツ等を始末するのよ!!」

 

 

電子音声と共にセカンド達の持つ武器が激しく輝き出し、それを見たクアットロも流石にマズイと思ったのか急いでレジェンドルガ達に命令を出してそれを止めようとするが、セカンド達はエネルギー弾が自分達の周りに降り注いでいるにも関わらず自分達の武器に力溜めていく。そして…

 

 

ディエンド(リン)『…よし!一斉射撃ですわ!!行きなさい!!!』

 

 

―キバってぇ…行くぜぇ!―

 

 

セカンド『よぉぉぉぉし!いっけぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 

幽汽(俊介)『クッソォォ!こうなったらヤケクソだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

クウガ(裕香)『私だって…やる時は…やりまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!』

 

 

―シュゥゥ…ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーオンッ!!!!!―

 

 

『グッ!?ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

クアットロ「?!キャアァァァァァァァアッ!?」

 

 

ライダー達の武器から一斉に放たれた必殺技がレジェンドルガ達に直撃し、それを受けたレジェンドルガの大群は悲痛な悲鳴を上げて一斉に爆発していき、クアットロも爆発から発生した強烈な爆発により後方へと吹っ飛ばされていった。

 

 

クアットロ「うっ…クッ!に、人間の分際で…虫けらの分際で!よくも…ッ!?」

 

 

逆上したクアットロは起き上がりながらライダー達を殺気の篭った瞳で睨みつけるが、そこである事に気づいた。そこには一人、あの黄金のハンマーを持ったトランスの姿がいつの間にか消えている事に。

 

 

クアットロ「あ、あの悪魔が……いない?一体何処に『FINALATTACKRIDE:GA・GA・GA・GAIA』ッ?!」

 

 

不意にクアットロの言葉を遮る様に電子音声が響き、クアットロやレジェンドルガ達はそれが聞こえ来た方…爆煙に包まれた空を見上げた。すると、爆煙が徐々に消えていき空が見え始めていく。其処には…

 

 

 

―バチバチバチバチバチバチバチバチバチィッ!!―

 

 

 

クアットロ「……う…嘘…でしょ……何なのよ…何なのよ……アレ…」

 

 

信じられないといった表情で呆然と呟くクアットロの言葉に力はなかった。クアットロが見た物とは、満月を背にいつの間にか上空へと跳んでいたトランス、そしてそのトランスの右手に握られている黄金の鎚……ハンマーの部分が15メートルを越える程巨大化したガイアクラッシャーだったのだ。

 

 

クアットロ「…………は………早く……早くアイツを撃ち落としなさい!!クズグズしないで!!!早くッ!!!」

 

 

それを見たクアットロの表情には既に余裕なんてものは残されていない。ただ、上空からあんな化け物染みた武器を持って迫って来ているトランスを止める事しか頭にはなく、クアットロの表情は恐怖で歪んでいた。しかし、レジェンドルガ達が放つエネルギー弾は全てトランスに到達する前に見えない壁か何かに遮られるように掻き消されていき、トランスの進行を止める事は不可能だった。

 

 

セカンド『なのはさん!!いっけぇぇーーーッ!!』

 

 

幽汽(俊介)『何も遠慮しなくていい!!全部吹っ飛ばせぇぇぇぇーーー!!!』

 

 

 

 

 

 

 

トランス『…ナンバーズ…No.4…クアットロッ!!』

 

 

 

 

 

クアットロ「は、早く!!何をしているのッ!?早くアイツを墜として!!」

 

 

 

 

 

早くトランスを墜とすように命じるクアットロだが、レジェンドルガ達の抵抗も虚しく、トランスは降下しながら右手に持つガイアクラッシャーを大きく振りかぶっていく。その場には既に他のライダー達の姿はなく、レジェンドルガ達がトランスに意識を集中している間に遠くへと避難している為、何も遠慮する事はない。そして…

 

 

 

トランス『貴方達全員っ……光にぃ!!!なあぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーッッッ!!!!!!!』

 

 

 

クアットロ「ッ!!?」

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!!―

 

 

『グゥッ!?グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!』

 

 

──トランスのガイアクラッシャーがレジェンドルガ達に向かって勢いよく振り下ろされ、それを受けたレジェンドルガの大群は全て押し潰されながら光の粒子となって消滅していき、レジェンドルガ達は文字通り塵一つ残さず消滅していったのだった。

 

 

『うッ!くぅッ…!』

 

 

光の粒子が混じった強風が辺りに発生している中ライダー達はなんとかそれを耐え切り、吹っ飛ばされずに済んだ。そして強風が止み目の前に視線を向けると、其処にはレジェンドルガの姿は一つもなく、光の粒子が雪のように降り注いでいく戦場の中心で静かに佇むトランスとガイアの姿だけがあった。

 

 

スバル「…やった…やった!なのはさん!シズク!」

 

 

幽汽(俊介)『やったな!!とうとうアイツ等を倒したんだ!』

 

 

セッテ「…凄い…本当に…本当にあれだけの数の軍勢を倒して…」

 

 

セカンド『イヨシャーーーッ!!んじゃあまあ、勝利のド上げと行こうかァーーーッ!!』

 

 

ディエンド(リン)『…ハァ…浮かれるのはまだ早いでしょう?まだ肝心のアークが倒されていな……誰も聞いていませんわね』

 

 

漸くクアットロ達を倒したのだとライダー達やスバル達は喜びを露わに、少々ふざけ合いながら二人に駆け寄っていく。だが…

 

 

 

 

 

ガイア『…逃げられたみたいだね』

 

 

トランス『…うん』

 

 

そんな二人は悔しげに唇を噛み締め、先程までクアットロがいた場所……地面に開いた巨大な穴を見つめながらそう呟いていた。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界25

 

トランス達がクワットロ達との戦いを終えたその頃、肝心のアークと戦っていたディケイド達はと言うと…

 

 

 

―パアァァァァァァァッ―

 

 

カオス『ったく…要らん世話を掛けさせやがって…』

 

 

ガンナ『グッ…し、仕方ないだろう…あれは流石に…僕でもかわすのは無理だったんだから…』

 

 

ディロード『あ~、まあ…流石にあれはな……』

 

 

ディケイド(進)『まったく…ボケッとしてるからそんな目に合うんだぞ?少しは緊張感ってもんを持て』

 

 

ディケイド『…この野郎ォ…お前がそれを言うかぁ…』

 

 

『アハハハ……』

 

 

あの後、Dナノハのディバインバスターの巻き添いを喰らってしまったディケイドとガンナは今、カオスから回復魔法を掛けてもらい傷の治療を受けていた。

 

 

だがまあ、ライダーに変身していた為か、または運が良かったのか、怪我はそこまで酷いものではなかった為、治療はそんなに時間は掛からず直ぐに終わっていった。そして二人は治療を終えると起き上がってすぐに身体を軽く動かし、ライダー達は爆煙に包まれた場所……アークの居た場所を見据えた。

 

 

ディケイド(ツカサ)『…ねぇ、どう思う…?』

 

 

ガンナ『…多分皆も同じ事を考えてると思うけど…まだ生きてるだろうね』

 

 

ディロード『まあ、今までの流れからして大体そんな所だろうな―――』

 

 

 

―ズドオォォォォォオンッ!!―

 

 

 

ディロードが喋り終えたと同時に突然爆煙に包まれた場所から衝撃波が発生して周囲の爆煙が吹っ飛ばされ、爆煙の晴れた場所には、装甲のあらゆる箇所がひび割れた姿をしたアークが立っていた。

 

 

アーク『ハァ…!ハァ…!ハァ…!ま…まだだ…まだ私は……こんな所で敗れる訳にはいかないのだよ!』

 

 

ディケイド(進)『ちっ!さっきの攻撃でもまだ倒れないのか…あのコーカサスとかいうライダーより面倒臭いな…』

 

 

カオス『此処まで来ると逆に賞賛ものだな。俺達の攻撃を耐え切れる奴なんてそうそうはいないんだ…誇りに思った方がいいぞ?』

 

 

ライダー達は再び立ち上がったアークを見て若干ウンザリとした表情をしながらも戦闘態勢に入っていく。すると突然、アークは少しふらつきながら何かを持ち上げるように両手を頭上に掲げ、淡々と何かを語り出した。

 

 

アーク『王の叫びを聞け…無念にも滅び散った者達よ…蘇り、そして生まれ変わるのだ!レジェンドルガの魂達よ!!』

 

 

アークが言葉を紡ぎ終えると、突如あらゆる方向から数千をも越える光の球体が次々と飛んで現れ、それらは全てアークの背後に集束され何かを形作っていき、最後の一個の球体がそれに集まるとそれは激しく輝き出し、ライダー達は眩しさの余り目を背ける。そして光が止み始めライダー達が再び目の前に視線を向けると其処には……

 

 

 

『グウゥゥゥゥ…グガアァァァァァァァァァアーーーーーッ!!!』

 

 

 

ナンバーズ『ッ?!あ、あれは…?!』

 

 

ディケイド『おいおい……マジか?あんな隠し玉があるなんて聞いてねぇぞ…』

 

 

ライダー達が再び目の前に視線を向けると、アークの背後に一体の異形の姿をした巨大な龍…アークの巨体を更に越える、三つの首を持ったレジェンドドラゴンが出現していたのだ。

 

 

アーク『フッ…フフフッ…フハハハハッ!どうだね?!私の可愛いペットは?!これで君達もおしまいだ!私の計画を邪魔する者は…全てこのドラゴンの餌にしてくれよう!!』

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァァァァアッーーーー!!』

 

 

高笑いを上げながら叫ぶアークにレジェンドドラゴンもそれに応えるように辺りが揺れ動くような咆哮を上げた。そして、それを見たライダー達は……

 

 

ディロード『……アイツ、自分で自分の死亡フラグを加速させてるってわかんないのかなぁ……』

 

 

ディケイド(ツカサ)『だねぇ、あんなもので私達が負けるハズがないじゃん!』

 

 

ナンバーズ『うん、パパ達が一緒にいるから全然怖くなんてないよ!』

 

 

ガンナ『ハハッ、確かにね…あんなものを出せば僕達が怖じけづくと思って笑ってるアイツを見てると、逆にこっちが恥ずかしくなって来たよ』

 

 

ディケイド(進)『お前も中々言うな…まっ、確かにこっちが負ける要素なんて何もないしな……さっさと勝ちに行くとするか』

 

 

カオス『…零、コイツ等はこう言っているがお前はどうだ?』

 

 

ディケイド『決まってる…立ち塞がる物は何だろうと倒す、向かって来る物は全て薙ぎ倒す、それだけだ。仲間達も他の世界で俺達を待ってるしな…こんな所で易々と死ねるか!』

 

 

カオス『フッ…そうだな!』

 

 

ディケイドが自分の強い意志を篭めた言葉を告げると、それに応えるように突然ディケイドのライドブッカーが勝手に開き、其処から四枚のカードが飛び出してディケイドはそれらをキャッチした。すると消えていたカードの絵柄が全て浮かんでいき、それはカオスの力が秘められた三枚のカードと、見覚えのある黒いエンブレムだけが入ったファイナルアタックライドらしきカードとなっていったのだ。

 

 

ディケイド『このカードは……よし、ならこっちも竜で対抗するか、幸助!』

 

 

カオス『何?…成る程な……おし!なら行くか!』

 

 

何をしようとしているのか分かったのか、ディケイドはカオスが頷き返したのを確認すると、その絵柄の戻ったカードの中から一枚のカードを取り出しそれをディケイドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:C・C・C・CHAOS!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

カオス『おう!何時でも掛かってこ―ドンッ!―いっ?!』

 

 

ディケイドはカオスの背後に立ち、扉を開くように両手を広げるとクロノスは宙に浮いて身体のあらゆる箇所が変化していき、変化を終えたその姿は、巨大な黄金の身体を輝かせる翼を持った美しき翼竜、『カオススペリオル』へと超絶変形していったのだった。

 

 

ディケイド(進)『うおっ?!こ、幸助がドラゴンに…?というかデカァ?!』

 

 

『グルルルルルルル……』

 

 

ナンバーズ『わ~、綺麗~…』

 

 

ディケイド(ツカサ)『いやはや…久々に見たけどやっぱり迫力あるよね~♪』

 

 

ディロード『だよな~♪』

 

 

ガンナ『いやいや、和んでる場合じゃないから…』

 

 

カオスのファイナルフォームライドを初めて見るディケイド(進)は驚き、ナンバーズは光り輝くカオススペリオルを見て瞳を輝かせ、そんな二人と違って以前カオススペリオルを見た事のある三人は大して驚きはしなかった。

 

 

ディケイド『よし、準備は整ったな……進!ツカサ!智大!昌平!ヴィヴィオ!俺と幸助であのレジェンドルガを倒す!その間に皆はスカリエッティを頼む!』

 

 

ナンバーズ『うん、分かった!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『仕方ないな~、分かったよ!』

 

 

ガンナ『油断するなよ!あのレジェンドルガ、今までの奴等の比じゃないらしいからな!』

 

 

ディケイド(進)『ま、心配しなくてもお前達なら勝つって知ってるけどな』

 

 

ディロード『おしっ…そんじゃあ、行くとしますか!』

 

 

『グオォォォォォォォォォオーーーーッ!!!』

 

 

カオススペリオルが先頭に動き出したと共に、ディケイドとカオススペリオルがレジェンドドラゴンに向かっていき、ディケイド(進)とディケイド(ツカサ)、ガンナとディロード、そしてナンバーズはアークに向かって駆け出し攻撃を開始した。

 

 

 

『ガアァァァァァァァアーーーーーッ!!!』

 

 

『グオォォォォォォォォォオーーーーッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォオンッ!ドゴオォォォォオンッ!!ドオォォォォォオンッ!―

 

 

戦闘を開始したカオススペリオルとレジェンドドラゴンは何度も激しく激突し、双方がぶつかり合う度に辺りには衝撃波が発生し、周囲の空間が歪んでいた。

 

 

『グゥッ!オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーッ!!』

 

 

―ドシュンッ!ドシュンッ!ドシュンッ!―

 

 

格闘戦では分悪いと悟ったのか、レジェンドドラゴンは距離を離し、三つの首を竜達はカオススペリオルに向けて口から火弾を放った。

 

 

『グオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーッ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドッ!―

 

 

『ガッ?!グガアァァァアッ!!』

 

 

だが、カオススペリオルもそれに対抗して口からエネルギー弾を放ち、自分に向かって来る火弾を全て撃ち落とすとエネルギー弾はそのままレジェンドドラゴンに直撃し逆にレジェンドドラゴンにダメージを与えて吹っ飛ばしていった。

 

 

ディケイド『……凄い光景だな…怪獣映画でも見てるような気分だぞ…』

 

 

カオススペリオルとレジェンドドラゴンの激しい攻防を見て思わず感想を漏らすディケイド。すると、倒れたレジェンドドラゴンが激怒したのか、三頭の竜は咆哮を上げながら自分達の口に光が集めていき、それは巨大なエネルギー弾となって形作っていく。

 

 

『グルルル…(あの野郎、どうやらここ一帯を吹っ飛ばす気らしいな…)』

 

 

ディケイド『頭の血管がブチ切れて最早見境なしってワケか……だがそれが自分の死期を更に速めてるって事に全然気づいてないらしいな』

 

 

『グルルル…(違いねぇな。そんじゃ、そんな命知らずの雑魚にはとっとと退場してもらうとするか!)』

 

 

ディケイド『了解だ…!』

 

 

レジェンドドラゴンにとどめを刺す為、ディケイドはカオススペリオルの頭部へ飛び乗るとライドブッカーガンモードの銃口をレジェンドドラゴンに向けて先程絵柄の戻ったカードをもう一枚取り出し、ディケイドライバーに投げ入れてスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:C・C・C・CHAOS!』

 

 

電子音声が鳴ると、ディケイドのライドブッカーガンモードの銃口とカオススペリオルの口に光が集まりエネルギーへと変化していく。そして…

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーッ!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!―

 

 

『喰らえ!エンド・オブ・テラ…ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!!!』

 

 

―ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンーーーーーーッ!!!!―

 

 

『ギッ!?グッ、グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーッ!!?』

 

 

ディケイドとカオススペリオルから放たれた巨大な閃光がレジェンドドラゴンの放ったエネルギー弾を呑み込んでそのままレジェンドドラゴンに直撃し、レジェンドドラゴンの身体は光の中で徐々に灰となって完全に消え去っていった。

 

 

アーク『ッ?!ば、馬鹿な?!あのドラゴンを倒しただと?!』

 

 

ナンバーズ『よそ見なんてしてる暇はないよ!!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『貴方の相手は私達なんだから!!』

 

 

アークはレジェンドドラゴンを倒された事に動揺しているとナンバーズ達が連携を取りながらアークに攻撃していき、ディケイド、そしてカオススペリオルもカオスに戻ってアークに攻撃を仕掛けていく。そして、ディケイド、ガンナはそれぞれ一枚ずつカードを取り出し、カオスも一度アークとの距離を離した。

 

 

ディケイド『そろそろクライマックスだな。こっちもキバって行くぞ!変身ッ!』

 

 

ガンナ『こっちもパワーで押し切るとするか!変身ッ!』

 

 

カオス『二度と立てなくなるまで徹底的に痛めつけてやる!行くぜ!クリスタルフォーム!』

 

 

『KAMENRIDE:KIVA!』

 

『KAMENRIDE:TYRANNO!』

 

『CRYSTAL FORM!』

 

 

それぞれの電子音声が響くとディケイドは前の世界でワタルが変身したのと同じキバに、ガンナはティラノザウルスをモチーフにし、その手に巨大な剣を持ったライダー『ティラノ』に変身し、クロノスは身体中がクリスタルとなった姿をしたカオスの最強フォーム『クリスタルフォーム』へとフォームチェンジしていった。

 

 

アーク『ッ!やらせはしない…!これ以上はやらせるものかァッ!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!―

 

 

アークは姿の変わったディケイド達を見て焦りを浮かべ無差別にエネルギー弾を乱射していく。ライダー達は散開してそれらをかわすと炎の海を駆け抜けてアークに突っ込んでいった。

 

 

ディケイド(ツカサ)『今度は私達から行くよ!進!』

 

 

ディケイド(進)『ああ!分かっている!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

最初に炎の中から抜け出したディケイド達がカードをディケイドライバーに装填し、アークに向けてディメンジョンフィールドを展開しながら疾走する。

 

 

アーク『フッ、何をするかと思えば…そんな物は私に通用しない!』

 

 

何の援護もない直線的な攻撃。そんな攻撃は今のアークでも簡単に防ぐ事が出来る。アークは展開されたディメンジョンフィールドを見て鼻で笑ったその瞬間…

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

ディケイド達は走りながらまた別のカードをディケイドライバーにセットすると電子音声が響き、その瞬間ディケイド(進)とディケイド(ツカサ)は三人ずつ分身、計6人に分身して上空へと跳んだ。

 

 

アーク『ッ?!な、何だと?!』

 

 

『デアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドッゴオォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

アーク『グゥッ?!グアァッ!!!』

 

 

アークが分身したディケイド達を見て驚いている隙にディケイド達のディメンジョンキックがアークに全て直撃しアークは少し後退させられた、次の瞬間…

 

 

『Final Attack!Nove!』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーッ!!!』

 

 

アーク『ッ!?』

 

 

アークが怯んだ隙を突いて左右から黄色のウィングロード、『エアライナー』がアークを挟み撃ちにする様に展開され、右側からナンバーズ、左側からナンバーズに呼び出されたノーヴェの二人がエアライナーの上を走ってアークに渾身の拳を打ち込んだ。が、アークはそれにすぐに左右に両手を広げ、二人の拳を防いでしまう。

 

 

ナンバーズ『クッ?!ハアァァァァァァァァアーーーーーーーーーッ!!!!』

 

 

ノーヴェ「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!通りやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

アーク『チィ!舐めるなァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!!―

 

 

左右からの渾身の攻撃に、アークは少し押されながらも二人を何とか吹っ飛ばそうと両手に力を込めた、その時……

 

 

『FORMRIDE:KIVA!GARULU!』

 

『TIME CRASH!』

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

アーク『ッ?!なっ?!―ズバアァァァァァァァァアンッ!!―グアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

左右からの攻撃に集中していたアークの真上からクロノスとガルルフォームに変わったDキバの剣がアークの顔面を斬り裂き、アークはその攻撃で目をやられて悲痛な叫びを上げ、四人はその隙に後ろへと飛び退いた。その時…

 

 

『FINALATTACKRIDE:TY・TY・TY・TYRANNO!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DELOAD!』

 

 

Gティラノ『ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーッッ!!!』

 

 

ディロード『ウオリャアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッッ!!!』

 

 

―ドッゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォオンーーーーッッ!!!―

 

 

アーク『ウグッ!?ウアァァァァァァァァァアーーーーーーーッッ!!!』

 

 

爆煙から姿を現したGティラノとディロードが顔面を押さえて叫ぶアークの胸に向かって飛び込み、ディノファングクラッシュとディメンジョンゲイルを渾身の力を篭めて打ち込みアークは更に後方へと吹っ飛ばされていった。

そしてそれを見たDキバはライドブッカーから一枚のカード、クロノスのカードと混じっていた黒いエンブレムが描かれているカードを取り出し、それをディケイド(進)に向けて投げ渡した。

 

 

ディケイド(進)『ッ?!零?これは…?』

 

 

Dキバ『俺の力が秘められたカードだ。だが、どうやら俺やツカサ達では使えないらしい……それはお前が使え、進』

 

 

Dキバはディケイド(進)に指を向けながら言うと、ディケイド(進)は一度カードを眺めながら強く頷いた。

 

 

ディケイド(進)『分かった…なら有り難く使わせてもらうぞ!』

 

 

ディケイド(進)はそう言ってライドブッカーをソードモードに切り替え、手に持つカードをディケイドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!SPIRAL BREAKER!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイド(進)はライドブッカーソードモードを片手に持ち突きの構えを取る。するとライドブッカーの刀身に螺旋状の黒いエネルギーが集まっていき…

 

 

ディケイド(進)『ハアァァァァァ…ウリャアァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーッッ!!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!!―

 

 

アーク『アッ…グゥッ!?グアァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ディケイド(進)がライドブッカーの切っ先をアークに向けて勢いよく突きを放つとライドブッカーSモードの刃からドリルの様な巨大な漆黒の砲撃が放たれ、そのままアークの胸に直撃し再び吹っ飛ばしていった。

 

 

ディケイド(ツカサ)『ふぁ~…スッゴい威力だったねぇ…』

 

 

ディケイド(進)『そ、そうだな…これは流石に…威力がデカすぎないか…?』

 

 

Dキバ『そうか?……少なくとも、あの巨体を吹き飛ばすにはまだ力が足りてなかったみたいだ』

 

 

吹っ飛ばされたアークを見つめながら、先程の砲撃の威力に冷や汗を流す二人にそう言いながらDキバが振り返ると、其処には、吹っ飛ばされたアークがふらつきながら再び立ち上がる姿があった。

 

 

アーク『ウッ…ゴフッ…!何故だ…何故此処までの力を君達が……負けられない……もう私は!負けるワケにはいかないのだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

 

既に瀕死とも言える状態にも関わらず、ボロボロの姿をしたアークはディケイド達に向かって突っ込んで来た。

 

 

ガンナ『ちぃ!あれでもまだ倒れないのか!』

 

 

カオス『…いいや…既に危険な状態だ……あのまま戦い続ければアイツの身体は持たないぞ』

 

 

向かって来るアークを見つめながらカオスは冷静にそう判断する。すると、Dキバは黙って自分のライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ライダー達に向けて口を開いた。

 

 

Dキバ『……みんな、頼みがある。暫くアイツの足止めを頼んでもいいか?』

 

 

ディロード『…?どうする気だよ?』

 

 

Dキバ『決まってる。奴を止めるんだ…そして、奴との決着を付ける為に…』

 

 

Dキバはそう言いながら向かって来るアーク、そしてナンバーズを見つめる。

 

 

Dキバ『頼む皆……アイツを止める役は……奴とのケリは、俺達に付けさせてくれ……』

 

 

ディケイド(ツカサ)『……零……オッケー!分かった!私も協力するよ!』

 

 

ディケイド(進)『仕方ない…もう少しだけ付き合ってやるか』

 

 

ディロード『まっ、今更だしな。此処まで来たら何でも手伝うさ!』

 

 

ガンナ『確かにな…二人が奴と決着を付けたいなら、僕達もそれが出来るようにサポートする』

 

 

カオス『……そうだな。ただし一撃だ!一撃で決められなければ俺達が奴を片付ける!……いいな?』

 

 

カオスが念押しをする様に言うとライダー達は自分達の武器を構え、アークを足止めする為に一斉に駆け出していった。

 

 

Dキバ『皆……すまない…ヴィヴィオ!』

 

 

ナンバーズ『…うん!』

 

 

二人はアークと戦うライダー達に感謝しながらDキバは取り出したカードをディケイドライバーにセットし、ナンバーズはKナンバーを開き『000』と番号を入力すると最後にエンターキーを押してKナンバーを閉じた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:KI・KI・KI・KIVA!』

 

 

『Cord Up…Full Charge!』

 

 

それぞれの電子音声が響くと、Dキバの右足のヘルズゲートの鎖が解き放たれ、ナンバーズの両足は虹色の輝きを放ち、二人は上空へと高く跳んで自分達の足を前にそのままアークに向かって急降下していった。

 

 

カオス『……ッ!来たぞ皆!下がれッ!!』

 

 

二人の姿を確認したカオスが大声を上げながら他のライダー達と共に下がっていき、アークはそれに一瞬疑問を感じたが、上空から迫って来る二人に気づいて顔を歪めた。

 

 

アーク『ッ!私は敗れない……私の夢を!!君達などに二度も潰えさせてたまるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥ…ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!!!―

 

 

アークは大地を揺るがすような叫びと共に額から渾身の力を篭めた巨大なエネルギー砲を撃ち放ち、砲撃はそのまま降下してくる二人に猛スピードで向かっていった。そして…

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

『ウァァァァァッ!?』

 

 

二人のキックとアークの放った砲撃が激突した瞬間、とてつもない衝撃波と轟音が何処までも広がっていき、更地を囲む木々が次々と折れ曲がって吹っ飛ばされ、ライダー達も吹っ飛ばされないようにその場で踏ん張りをつけた。

 

 

Dキバ『……ッ……これで終わりだ…スカリエッティ……ヴィヴィオ!行くぞォッ!!!』

 

 

ナンバーズ『うんッ!!』

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーッッッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!―

 

 

アーク『ッ?!な…何ッ!?』

 

 

二人はアークの砲撃を脚で受け止めたまま、砲撃ごと押し返す様にアークに向かって急降下していく。アークは驚愕しながらも全力で砲撃を撃ち続けるが、少しずつ、二人は確実にアークとの距離を詰めていった。

 

 

アーク『そんな…馬鹿なっ……ありえない……ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!!!何なんだ!?君達は一体何なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!?』

 

 

信じられない、信じたくなんてない。また自分の夢が二度も彼等に妨げられてしまうことが信じられない。

 

 

残された力のすべてを注ぎ込んでもそれを打ち破らんとする彼等の強さに驚愕するアークの言葉に、Dキバは最後の一撃に全力を込めて答える。

 

 

 

 

 

 

Dキバ『通りすがりのっ、仮面ライダーだ……!!憶えておけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガッ…ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーンッッッ!!!!―

 

 

アーク『グッ……グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッッ!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

――アークの放った渾身の一撃は打ち破られ、Dキバのダークネスムーンブレイクとナンバーズのスターダストブレイクがアークに炸裂し、アークは悲痛な叫びを上げながら吹っ飛ばされ、遂にその巨体は地に落ち倒れていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、アークが倒れたと同時に闇夜に包まれた空に一筋の光が差し込む

 

 

長く辛い、戦いの終わりを告げる光

 

 

黒き王に支配された闇夜の空に朝が訪れる。

 

 

それは同時に黒き王の敗北を意味するものでもあった。

 

 



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第四章/魔界城の世界26

 

 

ナンバーズ『はぁっ、はぁっ…や…やったね……パパ…』

 

 

Dキバ『…ッ…ああ……遂に……やったな……』

 

 

Dキバとナンバーズの必殺技を受けたアークは吹っ飛ばされ、その衝撃によりアークの変身も解けてスカリエッティに戻っていった。地面に倒れ込むスカリエッティは口から血を吐き全く起き上がろうとする気配は見せず、そのすぐ近くには半壊したアークキバットが落ちている。Dキバはそれを見るとディケイドに戻っていき、二人も変身を解除しようとするが途中で膝の力が抜けて倒れ掛けた。その時…

 

 

―…ガシッ―

 

 

ディケイド『……?…進?…ツカサ…?』

 

 

進「ったく…お前も以外と無茶な事するだな」

 

 

ツカサ「ホントだよ…こっちはスッゴいヒヤヒヤしたんだからね!あんまり心配掛けさせないでよ!」

 

 

倒れ掛けたディケイドの身体を、呆れたような表情を浮かべる進と若干怒った口調で話すツカサが支えてくれた。ディケイドはそれに一瞬キョトンとしながらもナンバーズの方を見ると、智大と昌平が同じ様にナンバーズの身体を支え幸助が回復魔法を使って治療をしている。ディケイドはそれを見てホッと一息吐くと二人の肩を借りて何とか一人で立ち、倒れたスカリエッティに近づこうとする。

そこへ…

 

 

なのは「零君!ヴィヴィオ!皆!」

 

 

ディケイド『ッ!なのは……皆も無事か……!』

 

 

後ろから聞こえて来た声に一同は振り返る。そこにはクワットロ達との戦いを終えたなのは達が駆け寄って来る姿があったのだ。それを見たディケイド達もその場から駆け出そうとした。しかし…

 

 

―ブオォォォォオンッ…―

 

 

『……ッ?!』

 

 

ディケイド『な、何だ?!』

 

 

突然ディケイド達とスカリエッティを囲むように辺りが歪み出し、それが晴れるとスカリエッティの近くに数人のライダー達が立っていた。姿は違っていたが、そのライダー達は皆共通して黒いカラーが特徴の姿をしていた。

 

 

ディケイド『…?アイツ等は…?』

 

 

ツカサ「オォォォォオッ!?あれってダークキバにダークカブト、オーガじゃん!?」

 

 

こなた「それにリュウガとアナザーアギトに、幽汽・ハイジャックフォーム!?何であのライダー達が此処に!?」

 

 

幸助「…アイツ等は…」

 

 

突然現れた黒いライダー達……ダークライダーにディケイド達は戸惑う。すると、ダークライダーの一人がゆっくりと倒れるスカリエッティに近づき…

 

 

―…ドゴオォッ!!―

 

 

ジェイル「ガアァッ!?ガ、ガハ……ッ!」

 

 

『なッ!?』

 

 

なんと、いきなりスカリエッティの腹を思いっきり踏みつけたのであった。スカリエッティは更に大量の血を吐き、目は完全に白目を剥いてしまっている。

 

 

『全く…貴様という男はつくづく使えん奴だな…』

 

 

『僕らの計画を完成させよう!と息巻いといて、結局このザマか……まぁ、そんなに期待もしてなかったけど……』

 

 

『貴様の為にこの世界も、アークの力も提供した……なのに勝手にレジェンドルガ達を多元世界に進行させて…一体どれだけ我々の手を煩わせば気が済むのだ、貴様はァッ!』

 

 

―ドゴオォッ!!ドゴオォッ!!ドゴオォッ!!―

 

 

ジェイル「ガアッ!ウッ!グッ!あ…あぁ……ッ!」

 

 

裕香「う…ッ」

 

 

ゆたか「ひ、酷い…」

 

 

ティアナ「くっ…!」

 

 

ダークライダーはまるでゴミを踏みつけるかのようにスカリエッティの腹を蹴り続け、スカリエッティは更に大量の血を吐きだした。その光景にディケイド達も直視出来ず目を背けてしまう。

 

 

『最初から期待はしてなかったとはいえ、貴様には失望したよ、ジェイル……その責はここで償ってもらうぞ……』

 

 

ダークライダーのリーダー各らしきライダーが片手を上げた瞬間、一人のライダーがスカリエッティに近づき、その手に持つ武器をスカリエッティに向けて振り下ろした。が……

 

 

 

―ガキィイイイイイイッ!!―

 

 

 

『……何ッ?』

 

 

ディケイド『クッ!グッ…!』

 

 

『零 (さん) (君)!?』

 

 

なんと、ダークライダーが振り下ろした武器をディケイドが受け止めたのだ。予想外の展開になのは達は驚愕し、ダークライダー達はそんなディケイドを冷たい瞳で睨みつけた。

 

 

『貴様…一体何の真似だ?』

 

 

ディケイド『何だはっ…こっちの台詞だ!いきなり出て来てワケのわかんねぇ事してんじゃねぇよ!』

 

 

『そうは言われてもね……彼には今回の失敗の責任を取ってもらわなきゃなんだよ。こっちの都合を大分引っ掻き回してくれた訳だしさ』

 

 

『それにその男は凶悪な犯罪者。本来なら敵であるハズの貴様が身を呈してまで守る価値があるのか?此処で始末してしまえば、後腐れもなく全てが片付くだろうよ』

 

 

ディケイド『だから!テメェ等のその物言いが気に入らねぇんだよ!犯罪者とはいえ、コイツだって一人の人間だ!意味があるとかないとかの理由で殺していい訳じゃねぇだろッ!』

 

 

ディケイドはそう言いながらダークライダーを突き放し、距離を取って倒れたスカリエッティを背にライドブッカーSモードをダークライダー達に向けて構え、対峙する。そしてなのは達もスカリエッティを守ろうとするディケイドとスカリエッティを抹殺しようとするダークライダー達を見て状況に理解が追い付かず戸惑ってしまうが、その時…

 

 

 

 

 

アース『ドクターは…やらせんッ!!』

 

 

アースキバット「ウェイクアップ!」

 

 

 

『ッ!?』

 

 

セッテ「なっ…トーレ姉様!?」

 

 

突如茂みの中からアースが飛び出し、右手にある紫色のエネルギーの球体を構え頭上からディケイドとダークライダー達に向かって迫って来たのだ。そして…

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウアァァァァアッ!?』

 

 

アースはエネルギー球をディケイドとダークライダー達ではなく、地面に向けて打ち込み巨大な爆風を発生させたのだ。なのは達や、一番近くにいたディケイドはそれにより視界を遮られてしまう。そして、爆煙が少しずつ治まって視界が戻っていくと、そこにはスカリエッティとアースの姿がなく、あのダークライダー達の姿もいつの間にか消えていた。

 

 

智大「ッ!?スカリエッティがいない!?」

 

 

進「ッ!あの黒いライダー達もいないぞ!」

 

 

ディケイド『くっ…逃げられたか……ッ!』

 

 

苦労して漸く倒したスカリエッティやダークライダー達に逃げられた事にディケイド達は悔しげな表情を浮かべて拳を強く握った。

厳しい戦いを勝ち抜いた先にあったのは新たな謎。ディケイド達は釈然としない気持ちになり、暫くの間、その場には沈黙が流れていったのだった……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

あれから数時間後、零達は一同を連れて光写真館に戻って来ていた。色々合ったものの今は取り敢えず休まなければと、零達はあの場から一番近かった此処に集まっていたのだ。

 

 

幸助「ほお…中々興味深いもんが沢山あるな」

 

 

ツカサ「おぉぉぉぉ!見てみて俊介!裕香!シズク!私達の写真館と殆ど一緒だよ~~!!」

 

 

裕香「ちょ、ツカサ!」

 

 

シズク「勝手に弄ったりしたら駄目だよ…!」

 

 

俊介「はぁ…すみません、栄次郎さん。うちのツカサがまたバカを…」

 

 

栄次郎「いやいや、別に大丈夫だよ。それにしても…ツカサちゃんと進君の撮った写真は凄くいいね~!これはプロも顔負けだよ!」

 

 

進「そうか?そんな大した事はないと思うが…なんならこっちも見てみるか?」

 

 

栄次郎「んん?おぉ!これも中々の……」

 

 

昌平「何か…意気投合してるな…」

 

 

ゆたか「あはは…そうですね…」

 

 

こなた「だね、なんか進の表情がイキイキしてるように見えるよ……ん?何?私の顔に何か付いてる?」

 

 

優矢「……えっ?あ、いやいや!何でもない!別に何も付いてないぞ!うん!(…別世界のこなた達…何だよな。にしても…あっちのこなたまでオタクとは…」

 

 

みなみ「…?」

 

 

写真館へとやって来た一同は一度身体を休める為にと部屋に集まりそれぞれ寛いでいた。部屋にいるのは留守番をしていた栄次郎と優矢を始め、幸助とシズク、ツカサと俊介と裕香と昌平、進とこなたとゆたかとみなみ達であり、零と智大となのは達は零の身体に巻き付いた包帯やボロボロになった服を変えたりする為に違う部屋にいる。ちなみにリンはアークが倒されたのを知ると何処かへと去ってしまったらしい。

 

 

昌平「……それにしても、あのライダー達は一体何だったんだ?いきなり現れたと思ったらスカリエッティを始末しようとしていたが…スカリエッティとアイツ等は一体どういう関係なんだ?」

 

 

珍しく真剣な表情を浮かべる昌平が先程の戦いで起きた出来事を話すと先程までの穏やかな空気が一変して一同の間に重苦しい空気が流れる。そんな中で、幸助が静かに口を開いた。

 

 

幸助「恐らくこの世界は元々アイツ等の所有する世界の一つなんだろ。そこにスカリエッティの奴がこの世界に現れ、あのライダー達に最強のライダーを作るという条件でこの世界とアークの力を手に入れた…といった所なんだろ」

 

 

進「世界を所有している…だと?どういう事だ?お前はあのライダー達の事を…何か知っているのか?」

 

 

何かを知っているように話す幸助に疑問を持った進がそう問いかける。それは他の一同も同じらしく、皆の視線が幸助に集まっていく。

 

 

幸助「…知っていると言えば知っている。だが、これはお前達の物語にも関係する事だ。此処で話せばお前達の物語に何か影響を起こす可能性がある。だからすまないが、詳しく話す事は出来ない」

 

 

進「……そうか…分かった。ならこれ以上は何も聞かない」

 

 

真剣な表情で話す幸助から何か悟ったのか、進はそれ以上の事は何も聞かず他の皆も納得したのか幸助から視線を外していく。

 

 

シズク「……あっ、幸助。そろそろ私達も出た方がいいかも」

 

 

幸助「ん?……そうだな、そろそろ別の世界に行くか」

 

 

俊介「…?何だ、もう行くのか?随分と忙しないな」

 

 

幸助「ああ、今はちょっとこっちの方でも面倒な事が起きててな。先を急いでるんだ…」

 

 

シズク「他の世界に現れたレジェンドルガは全部消えたみたいだけど、私達の方の問題はまだ残ってるからね」

 

 

ツカサ「問題って…確か、破滅の神って奴が復活したんだっけ?」

 

 

幸助「そうなんだよ…あのヘタレのせいでな…」

 

 

進「ヘタレ…?」

 

 

幸助が怒りながら口にするヘタレという言葉に首を傾げる進達。ツカサ達と昌平はそれが誰なのか分かっているのか顔を引き攣らせながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

幸助「…はぁ…まあいいか。それより、零は今何処にいるんだ?一応別れの挨拶を済ませておきたいんだが…」

 

 

優矢「あ、今アイツはなのはさん達と一緒に別の部屋に…」

 

 

別れの挨拶をしたいと言う幸助に、優矢が零達のいる部屋を教えようとした。その時…

 

 

 

 

―ガシャンッ!!ガシャンッ!!ガシャンッ!!―

 

 

 

『やめろぉぉぉぉぉぉ!!よせぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 

『いいからジッとしててってば!ヴィータちゃん!そっち側押さえて!』

 

 

『あ、ああ…分かった』

 

 

『や、やめろ!!離せ!!何故だ!?何故着替えるだけでそんな服を着なければならないんだ!?というかそんな服一体どこから取り出した!?』

 

 

『ふふっ…実はこの時の為にとずっと隠し持ってました!』

 

 

『大丈夫ですよ!零さんならきっと似合いますって♪』

 

 

『そんなものを着て似合うと言われても嬉しくなんてないわッ!!というか何なんだそのフリフリの付いた黒いワンピースは!?何なんだそのウィッグは!?明らかに準備が良すぎるだろう!?…まさかお前等…最初からこれを狙って此処に来たのか!?』

 

 

『フフンッ♪中学の文化祭の時以来、こういう機会が中々なかったからねぇ~。因みにこの服は零君がその時に着てた物を私達なりにアレンジしたもので~す♪』

 

 

『で~す♪じゃないだろ?!なんでお前は俺のトラウマを掘り返すような事をするんだ!?母さんの影響を受け過ぎてるだろ!!大体俺がそんなの着たらヴィヴィオが泣くぞ!!』

 

 

『ヴィヴィオ~?パパの可愛いワンピース姿、見たいよね~?』

 

 

『んー……うん、見たい!』

 

 

『ヴィヴィオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!?』

 

 

『はい、ヴィヴィオもこう言ってるワケだし。スバル、ティアナ、こんな機会は滅多にないからね♪ちゃちゃっと脱がしちゃって♪』

 

 

『了解です!』

 

 

『よ、よせっ…止めろ!!俺に娘の前で裸になれというのか!?ヴィ、ヴィータ!智大!セッテ!』

 

 

『あ~…ワリィな零。こうなっちまったら流石にアタシでも止められんねーわ…』

 

 

『右に同じく』

 

 

『……すみません』

 

 

『寝返るのか貴様等ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!というか何故写メを撮る準備をして……はッ?!や、止めろ…!誰かァ!!誰かコイツ等を止めてくれ!!う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

離れの部屋から聞こえてきた絶叫。それを聞いた一同の間に沈黙が流れ、そして…

 

 

幸助「…いやいや…ちゃんと挨拶はしておかないといけないよな~♪」

 

 

昌平「そうだよな~♪というワケで俺も付いて行くぞ♪」

 

 

ツカサ「あ!だったら私も行くよ♪」

 

 

こなた「うんうん♪別れの挨拶は大事だからねぇ~♪」

 

 

進「はぁ…お前もどうせ別の目的だろ?…だがまあ、アイツの写真はまだ撮ってないからな。俺も行くか」

 

 

『(零(さん)……南無)』

 

 

零達のいる部屋に向かって行く幸助達の背中を見送りながら残った優矢達は心の中で合掌した。

 

 

 

ちなみに、幸助達が部屋に向かって暫くした後に巨大な爆発が起こったというのはまた別の話だ。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

先程の騒ぎから数十分後。あれこれと色々な騒ぎがあったものの、零達は写真館の前に集まり別れの挨拶を交わしていた。

 

 

 

零「―――じゃあ、やっぱり城には誰もいなかったんだな…」

 

 

幸助「あぁ。俺達も色々と気になってもう一度城に行ってみたんだが…予想通りもぬけの殻だった」

 

 

智大「恐らく、違う世界に逃げたんだと思うよ。多分あのダークライダー達から逃げる為にね」

 

 

昌平「暫く身を隠して力を蓄えるつもりなんだろ…。だから気をつけろよ?多分また、お前達を狙って来る可能性が高いからな」

 

 

零「あぁ、ありがとう…色々と世話になったな。お前達とはまた旅の途中で会える気がするよ」

 

 

智大「かもね…だからサヨナラは言わないよ」

 

 

昌平「また会えるって信じてるからな。その時にまた俺のマジックを披露するさ!」

 

 

進「あぁ、楽しみしてるよ」

 

 

ツカサ「二人も頑張ってね!」

 

 

昌平「ああ、お前達もな。っとそうだ……零!これ、お前にやるよ」

 

 

零「…なんだ?この紙切れは?」

 

 

昌平「困った時はそこに来ればいいさ。きっとお前達の助けになると思うからな」

 

 

零「…分かった。ありがとな、昌平」

 

 

幸助「気をつけてな。旅先でもタイムオーガが出る可能性があるから」

 

 

智大「分かった…じゃあ、僕達はもう行くよ」

 

 

昌平「また皆と会えるのを楽しみにしてるぞ!」

 

 

 

その言葉を最後に、智大と昌平も自分達の帰りを待つ場所…伽藍の洞へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

ツカサ「んじゃ、私達もそろそろ行くよ!」

 

 

零「あぁ…また会えるよな?」

 

 

俊介「当然だろ?俺達はまだ旅の途中なんだ。きっとまた何処かで巡り会えるさ」

 

 

スバル「じゃあ、その時にまた俊介さんの料理を食べさせてくださいね!」

 

 

ティアナ「アンタねぇ…」

 

 

シズク「アハハ…(私も同じ事言おうとしたのは黙っておこう…)」

 

 

裕香「その時が来るまで、お互いに頑張って旅を続けましょう!」

 

 

なのは「うん、そうだね!」

 

 

零「そうだな……じゃあなツカサ。次に会う時まで、元気でな」

 

 

進「お前達と一緒に戦えてよかったよ…身体には気をつけろよ?」

 

 

ツカサ「うん、零達もね!幸助、もし何かあったら私の事も呼んでね!」

 

 

幸助「すまんな、ツカサ。助かる」

 

 

ツカサ「うん、それじゃあ!またね~~!」

 

 

俊介「また会おう!皆!」

 

 

裕香「今度は是非、私達の写真館にも遊びに来てください!」

 

 

 

ツカサ達は零達に向けて手を振りながら、自分達の帰る場所である光写真館に向かってその場から歩き出したのだった。

 

 

 

 

幸助「さて、そろそろ俺達も行くかな」

 

 

零「そうか。本当に色々と助かったよ、ありがとうな幸助」

 

 

幸助「いや、気にするな。(コイツには黙っとけよシズク?」

 

 

シズク「なのはさんもこなたちゃんも元気でね(あのライダーの事でしょ?わかってるよ、ここからは…」

 

 

幸助「進も元気でな(零達の物語だ」

 

 

進「お前らもな」

 

 

こなた「また何時か、何処かで会おうね!」

 

 

スバル「バイバイ、別世界の私」

 

 

ティアナ「(やっぱり何度見ても思うけど…同一人物なのに性格が違いすぎよね…)」

 

 

幸助「んじゃ、ツカサたちも行ったみたいだし、俺らも転移するか」

 

 

シズク「うん」

 

 

幸助「また会おう、零、進」

 

 

零「またな幸助!シズク!」

 

 

進「また会おう!」

 

 

 

幾つか言葉を交わした後に、幸助とシズクはその場で転移魔法を使って別世界へと転移し、二人の姿も消えていったのだった。

 

 

 

 

進「…さて、後は俺達だけみたいだな」

 

 

零「…お前達にも、本当に色々と世話になったな。ありがとう…」

 

 

こなた「いいっていいって。そう面と向かって言われると何か恥ずかしいしさ♪」

 

 

なのは「ふふふっ、恥ずかしがる事はないよ。だって本当の事だし」

 

 

ゆたか「……きっとまた、会えますよね。私達…」

 

 

スバル「勿論!旅を続けていればきっと会えるよ」

 

 

ティアナ「だから、お互いに頑張っていきましょう。きっとまた会えると信じて…」

 

 

みなみ「……そうですね。また何処かで会える。そう信じていれば、また会えますよね」

 

 

進「そうだな…じゃあな、零。また何処かで」

 

 

零「あぁ…何処かで…必ずな」

 

 

 

 

進「じゃあな!いつかまた会おう!」

 

 

こなた「みんなと一緒にいて凄く楽しかったよ!」

 

 

ゆたか「今度は私達の家に遊びに来て下さいね!」

 

 

みなみ「いずれまた会いましょう!きっとまた会えると思いますから!」

 

 

 

最後に残った進達も、零達に手を振りながら自分達の家である泉家に向かってその場から歩き出していった。

 

 

零「……行っちまったな」

 

 

なのは「うん…でもやっぱり、ちょっと寂しいね…」

 

 

ティアナ「そうですね…」

 

 

去っていく進達の背中を見て、寂しげな表情を見せるなのは達。すると零は進達の背中を見送りながら懐から一枚の写真を取り出した。そこにはいつも通り歪に画が歪んでいるが、零達を始め、進達や幸助達、智大達とツカサ達の全員が集まって笑い合う姿が映っていた。

 

 

零「確かに別れは寂しいと思うが……これで最後ってワケじゃないだろ。さっきも言ったが、きっとまた会える。旅を続けている限り、きっとな」

 

 

なのは「…そうだね…また皆と会える日まで、私達もしっかり頑張らないと」

 

 

いつかまた会えると信じて…その思いを胸に秘め、零達は進達の背中が見えなくなったのを確認すると写真館の中へと戻っていった。

 

 

 



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第四章/魔界城の世界27

 

―???の世界―

 

 

とある世界の何処かにある廃棄ビルの地下。そこには薄暗い研究施設が広がっており、その施設にある一つの大きな部屋。そこには、生命ポットらしきものが複数立ち並び不気味な光を輝かせていた。そんな場所に一人の少女……あの魔界城の世界でなのは達から免れたクアットロの姿があった。

 

 

クアットロ「……それで、ドクターとトーレ姉様の回収は終わったのかしら?」

 

 

『ハッ、お二人の回収は無事終了いたしました!ですが、ロードの傷があまりにも深刻でしたので、今現在メディカルルームで治療を受け、ウーノ様は奴らからの追跡を振り切れたのか確認を、トーレ様はお身体に不具合が起きた為、今現在調整を受けておられます』

 

 

クアットロ「分かったわ…引き続き警戒体制を整えておきなさい。奴らが再び現れる可能性が消えたワケではありませんからね。いつでも出撃出来るようにしておきなさい」

 

 

『ハッ!』

 

 

そうして通信を終えると、クアットロは頭を抱えて脳裏にある人物達を思い浮かべる。それはあの忌まわしきライダー達となのは、そしてディケイドに変身するあの男の姿だ。

 

 

クアットロ「クッ…なんて事…ッ!この私が、一度ならず二度までも…あんな虫けら共にコケにされるなんて…ッ!」

 

 

彼等の事を思い出すだけで、クアットロの表情は怒りに染まり、悔しさのあまり下唇を噛み締め電子器具を何度も殴りつけていた。そんな時…

 

 

「……落ち着きなさいクアットロ。今はディケイド達の事よりも、奴らの追跡から逃れる事を最優先に考えないといけないわ。ドクターは何としても、私達の手で守らないと」

 

 

不意に部屋の扉が開き一人の女性が部屋の中に入って来て錯乱しているクアットロを落ち着かせた。腰まである金髪の髪に蟲惑的な顔立ちをした女性……それはJS事件の際、地上本部で騎士ゼストの槍により死んだハズの彼女だったのだ。

 

 

クアットロ「……そうでしたね。申し訳ありません、"ドゥーエ"姉様。まだ姉様も調整などが終わっていないというのに、私を助ける為に無理をなさって…」

 

 

ドゥーエ「別に気にする事はないわ。貴女は私の大事な妹ですもの…助けるのは当然でしょ?」

 

 

そう、彼女の正体はナンバーズのNo.2、JS事件の時に死んだハズの"ドゥーエ"だった。そしてあの時、トランスの放ったガイアクラッシャーからクワットロを救ったのも彼女だったのだ。クアットロはその事に対し申し訳なさそうに謝るが、ドゥーエは特に気にした様子は見せなかった。

 

 

クアットロ「そう言って頂けると助かります。ところで…姉様が生き返ってからもう一週間が経ちますが、身体の調子はどうですか?」

 

 

ドゥーエ「ええ、何の問題もないわ。レジェンドルガの力が思ったより良く働いてくれてるおかげか、身体の方も以前と同じくらいにまで回復したから」

 

 

身体の調子を尋ねてくるクアットロにドゥーエは手首などを軽く動かしながらそう告げた。

 

 

ドゥーエ「取りあえず、私も現場の指揮を取るわ。残ったレジェンドルガ達も少ないし、トーレも今はまともに戦う事が出来ないから、私が代わりに戦わないとね」

 

 

クアットロ「…わかりました。それではお願いしますね。…あぁそれと、もしもの時の為にトーレ姉様の所にいるキバットちゃんも連れて行ってください。必ず姉様のお力になると思いますので」

 

 

ドゥーエ「分かったわ。なら有り難く使わせてもらうわね……あ、そうだ。忘れる所だったわ」

 

 

ドゥーエは何かを思い出したように懐から何か…半壊したアークキバットを取り出し、それをクアットロに向けて投げ渡した。

 

 

ドゥーエ「その子の修理もお願いね。ドクターの夢を叶える為にもその子の力は必要不可欠なんだから。それじゃあ、後の事は頼んだわよ」

 

 

ドゥーエはそれだけを告げるとトーレの下にいるアースキバットを迎えにいく為に部屋を出ていった。そして、部屋に一人残されたクアットロは…

 

 

クアットロ「……ふふふっ…ええ、任せてください。今度こそ…あの虫けら達を消し去る為に……その為にキバットちゃん?貴方の力を貸してもらうわよ…」

 

 

部屋に残されたクアットロは手の中にあるアークキバットを見下ろしながら不気味な笑みを浮かべていた。もしかしたら、彼等が再び零達の前に立ち塞がる時が来るかもしれないが、それはまた別の話だ……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

零「……何だ…これは……?」

 

 

写真館へと戻って来た零達は部屋に入った瞬間、信じられないものを見たかのように目を見開き、顔を引き攣らせていた。そこには…

 

 

 

ウェンディ「…あっ!零!お帰りなさいッス!」

 

 

セイン「お別れはもう終わったんだよね?だったら早く次の世界に行こうよ!」

 

 

ノーヴェ「おい!うるせぇぞ二人共!もうちっと静かに食え!」

 

 

チンク「そういうお前も少し落ち着けノーヴェ。ウェンディ、セイン、お前達ももう少し静かにしろ」

 

 

『はーい(ッス)…』

 

 

ディエチ「零達もおいでよ。栄さんの作ったケーキ、凄く美味しいよ?」

 

 

 

零「……何の悪夢だ…これは…」

 

 

零達が部屋の中に入ると、そこには先程までいなかった筈のナンバーズ達がテーブルに付いて呑気にケーキを食べていたのだ。しかもヴィータまで一緒にだ。何故彼女達がここに?と一瞬疑問を感じたが、すぐにその原因に気づき、その原因と思われる人物…ウェンディとセインに挟まれてテーブルに座り、栄次郎の作ったケーキを頬張るヴィヴィオに視線を向けた。

 

 

なのは「ヴィ、ヴィヴィオ…?まさかお姉ちゃん達をこの携帯から出したのって…ヴィヴィオ?」

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

テーブルに置かれていたKナンバーを手に取って問いかけるなのはに笑顔で正直に答えるヴィヴィオ。それを聞いた零はガンッと柱に頭を付けながら深いため息を吐いた。

 

 

優矢「いや~すっごい大人数だなぁ…あの人達もお前の仲間なんだろ?」

 

 

零「……ああ……まあな……だが……最悪だぁ。よりにもよって全員が出て来るなんて…余計にうるさい奴等が増えたぞ…」

 

 

なのは「ま、まあまあ…そう言ったら可哀相だし、別にいいんじゃないかな?また賑やかになったって思えば」

 

 

零「お前はまだいいかもしれんがな……俺の場合だと……」

 

 

セイン「あ、零ー!座る前についでに飲み物のおかわり持ってきてー!」

 

 

ウェンディ「アタシもお願いするっス!氷もキンキンに入れて!」

 

 

零「……アイツら、俺に対する扱いが軽過ぎるんだよっ」

 

 

なのは「あー……うん、にゃはは……」

 

 

早速都合のいいパシリに扱われて頭を抱えてうなだれる零になのはが苦笑いを浮かべてしまう。するとそこへ、部屋の奥からエプロンを身につけたセッテがケーキを乗せたお盆を持って零達に近づいてきた。

 

 

セッテ「…あの…皆さんもどうですか?まだ皆さんの分のケーキが残っていますけど」

 

 

スバル「えっ?ホントに?!食べる食べる!ほらほら!ティアも零さん達も早く!」

 

 

ティアナ「ちょ、こらっ!引っ張るな!馬鹿スバル!」

 

 

ヴィータ「おーい!栄ちゃん!ケーキお代わり!」

 

 

チンク「栄次郎殿、私の方も頼む」

 

 

栄次郎「はいはい、もうちょっと待ってね~。オットーちゃん、ディードちゃん、悪いんだけどこのケーキをテーブルに運んでくれるかな?」

 

 

オットー「うん、分かった…」

 

 

ディード「では、栄次郎さんはコーヒーのお代わりをお願いしますね」

 

 

零「………あれだけの人数が増えても全く動じないとは…やっぱりただの者じゃないな、あの爺さん」

 

 

なのは「そ…そうだね」

 

 

何の戸惑いもせずに笑顔で対応しながらナンバーズ達にケーキを用意していく栄次郎を見て二人はそんな感心を抱く中、セッテが二人に近付いていく。

 

 

セッテ「あの…お二人もどうですか?もし良ければ今お持ちしますが…」

 

 

零「ん?あぁいや、俺は今大丈夫だ…それよりもセッテ。本当によかったのか?俺達に同行しなくても幸助達とかについていった方が色々と安全だと思ったんだが…」

 

 

零は自分の隣に立つセッテにそう問いかける。実は、零達は幸助達が写真館を出る前にセッテをどうするか話し合っていたのだ。一応は幸助達の誰かと共に別の世界に行くという案もあったのだが、本人の希望で零達と共に旅に加わる事となったのだ。

 

 

セッテ「いえ…心配はいりません。これは私が決めた事ですし、それに皆さんと旅をしていればドクター達がまた現れるかもしれない…その時には恐らくトーレ姉様も一緒だと思います。だから私は……」

 

 

零「…スカリエッティ達を追ってトーレを止める為に俺達の旅に同行したい…ってワケか」

 

 

零がそう言うと、セッテはそれに答える様にゆっくりと首を振った。その瞳は、出会った時の虚ろなものとは違い決意の込められた瞳だった。それを見た零は、一瞬仕方ないといった表情を浮かべたが、すぐにそんなセッテに手を差し延べて微かに微笑んだ。

 

 

零「……分かった。お前が決めた事なら俺もこれ以上何も言わない。これからはよろしく頼む、セッテ」

 

 

セッテ「…あっ…は、はい…」

 

 

セッテは手を差し延べて来る零を見て少し頬を赤らめながらもその手を握り返した。零もそんなセッテを見て照れているんだろうと思い自然と笑みを浮かべた。のだが……

 

 

―ドガァッ!―

 

 

零「ウごァァッ!?ぐっ…な、なのは…テメェ…ッ!何しやがるいきなりッ?!」

 

 

いきなり横からなのはに肘で脇腹をど突かれ、完全に不意打ちを食らった零は若干涙目になりながら脇腹を抱えてなのはを睨みつける。

 

 

なのは「新しい女の子が増えたからってデレデレしない。鼻の下なんて伸ばしただらしない顔なんてしてたら、スバル達に示しが付かないでしょ」

 

 

零「な、何が鼻の下だ……!そんなもの伸ばしていないし、デレデレもしていない!」

 

 

なのは「嘘ばっかり…セッテに手を握られてニヤニヤしてたのは一体誰だったかな~?」

 

 

零「ニヤニヤって、あれはそんなつもりでやったんじゃない!俺は単に―――!」

 

 

セイン「あちゃ、また始まっちゃったかぁ……」

 

 

スバル「最近は全然なかったのになぁ…」

 

 

セッテ「え?え?あ、あの…」

 

 

ウェンディ「セッテ~!こっちに来た方がいいっスよ~!今のその二人の近くにいたら巻き添い喰らうハメになるっスから!」

 

 

言い争う二人にどうしたらいいのか分からず戸惑っていたセッテをウェンディが呼び寄せる。どうやら一同はこの二人の言い争いを見慣れているらしく、二人の喧嘩を静観し放っておこうとしたのだが……

 

 

優矢「ちょ、二人共!喧嘩は止せって!取りあえず落ち着けよ!」

 

 

ヴィータ「あ!ば、馬鹿!今そいつ等に関わるなって!」

 

 

そんな二人を見兼ねた優矢が二人の間に飛び出して両成敗に入ろうとする。が…

 

 

優矢「ほらほら!二人共、離れなって!なっ!ここは喧嘩両成ば―ドゴオォッ!!―ゲフッ!?」

 

 

『邪魔っ!!』

 

 

ティアナ「ゆ、優矢さぁーんッ?!」

 

 

優矢は二人の間に入ろうとした瞬間、二人に思い切り吹っ飛ばされてしまったのだ。更に…

 

 

優矢「い、いたたたたっ…な、何なんだ―ドンッ!―え…?」

 

 

―ガチャッ!パラララララララッ…パアァァァァアッ…―

 

 

チンク「ッ?!な、なんだ?!これは…?!」

 

 

ヴィヴィオ「わあ~!綺麗~!」

 

 

突き飛ばされた衝撃で優矢はそのまま背景ロールに激突してしまい、その拍子で新しい背景ロールが降りて淡い光を放っていく。そう、つまり新しい世界に着いたという意味だ。

 

 

ヴィータ「お、やっと次の世界に着いたみてぇだな」

 

 

ウェンディ「?なんスか?この絵は…?」

 

 

スバル「…バッタ…?」

 

 

現れた絵には、近未来的な夜の街並みの中心にバッタのような姿をしたライダーが首の赤いマフラーを靡かせ、背中を見せるように凛々しく佇む姿が描かれていたのだった。

 

 

 

 

 

零「だから何度も言わせるな!やましい気持ちなんてないと言ってるだろ!」

 

 

なのは「絶対に嘘だね!鼻の下を伸ばしてデレデレしてた人の話なんて信じられませーん!」

 

 

──因みに、この二人は未だ言い争っていた為、スバル達から話されるまで自分達が新しい世界に着いた事に全然気付けなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章/魔界城の世界(後編)END

 



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第五章/firstの世界

 

 

魔界城の世界を旅立ち、新たな世界にやって来た零達一行。果たして、この世界で彼等を待ち受けるものとは……

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

次なる世界に着いての翌日の朝。昨日の魔界城での戦いで疲れていた為か、昨日の夜はグッスリと眠る事ができ零達のコンディションはすっかり回復していた。そして、そんな零達は部屋に集まりこの世界について知る為に朝食を取りながらテレビのニュースを見ていた。だが……

 

 

ティアナ「嘘…これって…」

 

 

なのは「ど…どういう事?なんで……」

 

 

テレビのニュースを見ていた一同は、その内容を見て食事の手を止め呆然としていた。そのテレビで流れているニュースの内容とは…

 

 

『――昨日、ミッドチルダの第3エリアで起こったショッカー達による襲撃事件。中には大量のガジェットドローンの集団も確認されましたが管理局所属の魔導師達によりこれを撃退。被害は最小限に抑えられ――』

 

 

ヴィータ「ミッドチルダに管理局…ガジェットだって?!」

 

 

スバル「ど、どういう事?なんで私達の世界が…?!」

 

 

テレビに流れている映像…管理局の地上本部やミッドチルダが映し出されているニュースを見て優矢を除いた一同は唖然とした表情をしていた。そんななのは達の様子を見た優矢は頭上に疑問府を浮かべながら一同に問い掛けてみた。

 

 

優矢「なぁ。管理局って確か、零達が旅をする前に働いていた所だったよな?」

 

 

なのは「う、うん。そうなんだけど……」

 

 

ティアナ「だ、だけど、何でミッドチルダや管理局がライダーの世界に…?」

 

 

何故この世界にミッドチルダがあり管理局が存在するのか。なのは達がテレビのニュースを見て困惑している中、零は味噌汁を啜りながら落ち着いた様子で語り出した。

 

 

零「…そこまで不思議がる事はないだろう。この世界は単に俺達の世界とそっくりというだけで、全く別の世界なんだから」

 

 

ディエチ「?別の世界って…なんでそんな事が分かるの、零?」

 

 

何故自分達の世界とは違う世界だと言い切れるのか。ディエチが思わず不思議そうに聞き返すと、零は納豆の入った容器を掻き回しながら答える。

 

 

零「この世には俺達の世界とそっくりな世界が幾つも存在するってのは、お前達も知ってるだろ?だからこの世界も多分そういった類に入る世界の一つなんだろうさ」

 

 

なのは「あ、そっか…別の世界のスバルであるシズクさんや進君達の言っていたナノハの世界とかもある訳だしね」

 

 

ヴィータ「じゃあ、つまりこの世界はアタシ等の世界にライダーが存在する……っていう世界な訳か?」

 

 

零「あぁ。そしてそのライダーと言うのが、おそらくコイツの事だろうな」

 

 

零はそう言いながらライドブッカーから一枚のカードを取り出し、なのは達に見せる。それは今までのカードと同じようにシルエットだけのカードだが、シルエットの下にはそのライダーの名が書かれている。そのライダーの名は…

 

 

スバル「…first?これがこのライダーの名前なんですか?」

 

 

零「あぁ。そしてコイツは、全ての世界に存在するライダー達の原点とも呼ばれる仮面ライダーらしい」

 

 

優矢「嘘?!マジで…?」

 

 

ウェンディ「ほぇ~、このfirstってライダー、そんなにスゴイ奴なんスね~」

 

 

セイン「全ライダーの原点かぁ…なんかその"原点"って部分に惹かれるものを感じるな~」

 

 

全てのライダーの原点とも呼べる存在。それを聞いた一同は食事の手を止めてシルエットだけとなっているfirstのカードを興味深そうに見つめている。

 

 

零「ま、取りあえずこの世界について後から調べてみた方がいいかもな。さっきニュースで話していたショッカーとやらや…この世界のライダーについてもな」

 

 

零はシルエットだけのカードを見つめながらそう呟きカードをライドブッカーに仕舞うと、再び食事の手を進めていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

そして数十分後。朝食を終えた零はスバル、ティアナ、ナンバーズ達とヴィヴィオに留守番を任せ、なのはと優矢とヴィータと共にこの世界について調べる為に写真館の外に出た。

 

 

優矢「うおぉ…これがミッドチルダか。すっげーな…まるでSFの世界に入り込んだみたいだぞ」

 

 

いの一番に外に出た優矢がミッドチルダの街並みを見て思わず感想を漏らした。零達も写真館の外に出て街を見渡すと、何処か懐かしげな表情を浮かべていた。

 

 

零「久しぶりだな、ミッドチルダ。違う世界とはいえ、やっぱりここはどの世界でも一緒なんだな」

 

 

ヴィータ「いや、どこも一緒つってもまだ此処しか知らねぇだろ?」

 

 

零「…お前は何でそう感動のムードをぶち壊すようような事を口にする…?」

 

 

なのは「にゃはは…あ、ところで零君。一つ聞きたいんだけど…私とヴィータちゃんが被ってるこれって何?」

 

 

なのはは自分の頭に被せている帽子の鍔を掴みながら不思議そうに首を傾げる。そう、なのはとヴィータは今、同じデザインをした帽子を頭に被せ顔が見えないようにしている。二人の被っている帽子は四人が写真館を出る前に零が持たせた物であり、二人はよく分からないままその帽子を被っていた。

 

 

零「念の為、お前達の正体を隠す為の物だ。この世界にも恐らくこの世界の住人であるなのは達が存在するハズだし、そんな所で顔を出したまま無闇に出歩いて他の人間にお前達の事が知れたら、何かしら騒ぎが起こるかもしれん」

 

 

なのは「あ、そっか。その為の帽子だったんだね」

 

 

ヴィータ「まぁ、確かにアタシ等も無駄な騒ぎを起こしたくはないしな…しょうがねぇから被っとくか」

 

 

零の説明を聞いて納得した二人は顔が見えないように帽子を深く被った。

 

 

零「それじゃ、ここは二手に別れてこの世界を調査するか。俺となのははミッドの中央区を調べるから、優矢とヴィータは他の場所を調べてみてくれ」

 

 

ヴィータ「おう、分かった。優矢!行くぞ!」

 

 

優矢「あ、ああ…!」

 

 

優矢とヴィータは零に言われた通り、零達とは別ルートでこの世界を調べる為にトライチェイサーに乗って走り去っていき、残った零となのはも二人の姿が見えなくなるのを確認してからディケイダーに乗ってミッドの中央区へと向かっていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

それから三時間後。街中を探索し情報収集などしていた零となのはは一度休憩の為に近くの公園に寄り、公園のベンチに座りながらこれまで集めた情報を整理していた。

 

 

零「しっかしまあ…大体は予想していたが、随分と俺達の世界とは違ったもんだな…」

 

 

なのは「うん。確か……ショッカーだっけ?その人達が今ミッドに攻撃を仕掛けて、しかも何故かガジェットがその人達に協力してるって話だしね」

 

 

二人は街中を調べて集めた情報を整理しながら、この世界に存在する組織、ショッカーについて話していた。

 

どうやらそのショッカーという組織はこのミッドチルダを含め、あらゆる管理世界を征服しようと活動しており、管理局もそのショッカーの対処に追われて頭を痛めているらしい。

 

 

更にそのショッカーがガジェットと共にミッドを襲撃を起こす事が何度か目撃されている為、スカリエッティがショッカーに加担しているかもしれないという話もあるようなのだ。

 

 

零「アイツの考えてる事が全く理解出来ないのはよく分かっているが…この世界のスカリエッティも何を考えてるのか理解出来んな」

 

 

なのは「まぁ、分かりたくもないけどね…」

 

 

溜め息混じりで呟く零に、なのはも苦笑いを向ける。

 

 

零「まぁ、取り敢えずショッカーとやらの事は大体分かったが、肝心のこの世界のライダーについては何も分からなかったな…」

 

 

なのは「うん。市民の皆を救うヒーロー……みたいな噂は聞くけど、それについての詳しい詳細とかは全然聞けなかったよね……」

 

 

二人も時間を掛けてこの世界のライダーについて調べようとしたが、その正体は全くといって不明。そのライダーが何処にいるのかも不明。言ってしまえば、何も分からないという事しか分からなかったのだ。

 

 

零「結局手掛かりは無しか……はぁ……なのは、取りあえず何か飲み物でも買ってくるから、此処でちょっと待ってろ。すぐに戻る」

 

 

なのは「え?あ、うん。分かった」

 

 

取りあえず喉を潤して一息でも吐こうと考えた零は手に付けていた手袋を外してなのはに投げ渡し、ベンチで待ってるように告げると飲み物を買いにその場から歩き出していった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

―…ピッ、ガタンッ!―

 

 

零「……この世界のライダーについての情報は0、か。これじゃあ探しようがねぇな。優矢達の方は何か分かっただろうか……」

 

 

溜め息を吐きながら自販機のボタンを押していき、これからどうするべきか零は悩んでいた。まずはライダーとの接触が一番の目的だと思うが、肝心のライダーの居場所は分からないし、今回は今までの世界のように服装が変わったりはしていない為にヒントもない。

 

 

こんな状況の中で自分達は一体どうすればいいのか分からず、零は再び溜め息を吐き取りあえず手に持った飲み物を抱えなのはの所に戻ろうと踵を返した。その時…

 

 

―ドンッ!―

 

 

零「うおっ?!」

 

 

「うぐっ?!」

 

 

振り返った際に誰かと衝突してしまい危うくバランスを崩しかけたが、二人は何とか態勢を立て直した為、倒れる事はなかった。

 

 

零「痛っ…すまない、大丈夫かっ?」

 

 

「…っ…ああ、大丈夫だ。そっちこそ怪我はなかったか?」

 

 

零「あぁ、大丈夫だ。本当にすまない、少し考え事をしていたから全然気づけなか……った……?」

 

 

ぶつかった青年に向けて謝罪しようとした零は青年の顔を見て、固まってしまった。

 

 

見た目は十代後半辺りの銀髪の青年。零は彼を見た途端、何処かで感じた事があるような形容し難い感覚を感じていた。すると、青年はそんな零を見て怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「…どうした?やっぱり何処か怪我でもしたのか?」

 

 

零「……は?あっ、いや、そうじゃないんだ、気にしないでくれ。…なあ?いきなりで悪いんだが……俺とアンタ、何処かで会った事ないか?」

 

 

それが零の気になっていた感覚。以前何処かで会ったような気がする。そう感じていた零は思い切って青年に聞いてみたが、青年はその問いに首を左右に振った。

 

 

「いいや。多分これが初対面だと思うぞ?人違いじゃないのか?」

 

 

零「そう…か。すまない、アンタの言う通りただの勘違いだったようだ」

 

 

「別に気にしなくてもいいさ……単にこうやって会うのが初めてって意味なんだからな」

 

 

零「……ん?今、何か言ったか?」

 

 

最後辺りの部分がよく聞き取れなかった零は青年に何を言ったのかもう一度尋ねた。しかし…

 

 

―ドゴオォォォォォォオンッ!!―

 

 

「ッ?!」

 

 

零「な、何だ…?!」

 

 

突然聞こえて来た爆音に零と青年は振り返った。二人の視線の先には、此処から離れた場所にある街の一角から爆煙が立ち上る光景と街の住民達が逃げ惑う姿があったのである。

 

 

なのは「はぁ…はぁ…あ、やっと見つけた…!零君!大変だよ!」

 

 

零「…ッ!なのはか!この騒ぎはなんだ?!一体なにが起きてんだ?!」

 

 

なのは「う、うん……!さっき街の人から聞いたんだけど、この近くにショッカーが現れてミッドを攻撃してるんだって!」

 

 

零「ショッカー…成る程、この世界の怪人達か…なのは!俺達も行くぞ!」

 

 

なのは「うん、分かった!」

 

 

違う世界とはいえど、自分達が知るミッドチルダと変わらぬ世界が好き勝手に襲われているのを黙って見てるワケにはいかない。

 

 

零となのはは急いで公園を出るとディケイダーに乗ってショッカーが現れたというミッドの第6エリアへと向かっていった。そして、公園に残された青年はというと……

 

 

「……まさか、魔界城から元の世界に帰ろうとしてfirstの世界に来ちまって、しかもディケイド達までこの世界に来ていたとはな……だが、別世界のディケイドがどれほどの力を持つのか……確かめるには絶好の機会かもな」

 

 

青年は不敵な笑みを浮かべながらそう呟くと、青年も何処かへ向かおうとその場から歩き出していった。

 

 

 



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第五章/firstの世界①

 

 

一方その頃、ミッドチルダ第6エリアでは…

 

 

―ドゴオォンッ!ドゴオォンッ!ドゴオォンッ!―

 

 

『ウ、ウアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『クハハハハッ!無駄無駄無駄ァ!貴様等管理局など我々ショッカーには敵いはせんのだ!!』

 

 

ミッドを襲撃するショッカーを食い止める為、管理局所属の魔導師部隊が防衛戦を行っていた。だが、ショッカーの造り出した改造人間であるラットと戦闘員達は魔導師達の攻撃を物ともせず、魔導師達はショッカーの戦闘員達に次々と重傷を負わされ、止むなく撤退していくしかなかったのであった。

 

 

『フンッ、口程にもない奴等だ。これで我々の邪魔をする者は誰もない…ライダーが現れないこの隙に、ミッドを我々の手中に納めるのだ!!』

 

 

『イーーーッ!!』

 

 

魔導師達の撤退を確認したラット達は、再びミッドへの攻撃を開始していった。戦闘員達が街への攻撃を開始した後に、ラットもその場から動き出そうとした。その時…

 

 

 

「…ッ…うっ…グスッ…」

 

 

 

『…ん?』

 

 

ラットがミッドへの攻撃を再開しようとしたその時、道の端にある瓦礫の影に一人の少女が隠れながら怯えている姿を見つけ、ラットは不気味な笑みを浮かべながらその少女に近づいていく。

 

 

「ヒッ…こ、来ないで…!」

 

 

『クハハハハッ…可哀相になぁ。親とはぐれて心細いんだろう?なら安心するといい…すぐに怖くなくなるからなァッ!!』

 

 

ラットは不気味な笑い声を上げながら、怯える少女に向けて右手を振りかざし、それを見た少女はもうダメだと涙ぐみながら目を固く閉じた、その時……

 

 

 

―ブオォォォォォォォォオンッ!―

 

 

 

『ッ?!な、何?!―ドゴオォッ!―ウグアァッ?!』

 

 

「………え…?」

 

 

少女に襲い掛かろうとしたラットは突然横から飛び出して来たバイクに激突され吹っ飛ばされていき、何が起きたのか分からない少女は顔を上げて目の前を見ると、其処にはラットを吹っ飛ばした本人であるディケイダーに乗った零となのはの姿があった。

 

 

零「…どうやら、ギリギリ間に合ったみたいだな…」

 

 

なのは「…大丈夫?何処か怪我してない?」

 

 

「え?あ…は、はい…」

 

 

突然現れたなのはの問いに少女は戸惑いながらも頷いた。すると、なのははディケイダーから降りゆっくりと少女に近づくと頭を撫でながら優しく微笑んだ。

 

 

なのは「そっか…よく頑張ったね。偉いよ」

 

 

「…あ…」

 

 

撫でられる手から感じた温もりに、怯えていた少女は安心したような表情を浮かべてなのはに抱き着いた。零はそんな二人の姿を横目に見ると、吹っ飛ばされたラットに話し掛けた。

 

 

零「おい!そこの……何だ……ネズミもどき!」

 

 

『グゥッ…だ、誰がネズミだ!俺はラット!偉大なるショッカーの一員だ!』

 

 

零「…結局ネズミなんじゃねえか。馬鹿かお前。自分が何の動物をモチーフにしてるのか分からないのか?」

 

 

『うっ……だ、黙れぇ!』

 

 

指摘されて言葉に詰まったラットはそう言い返す事しか出来ず、零はそんなラットを呆れたように見つめるとディケイダーから降り、懐からディケイドライバーを取り出した。

 

 

零「ま、別にお前の名前なんてどうでもいい…。これ以上、ミッドをお前達の好きにはさせない。なのは、行くぞ」

 

 

なのは「うん!さぁ、今の内に早く逃げて」

 

 

「は、はい…!」

 

 

なのはは少女を逃がすと、零の隣に立ち左腕に付いているKウォッチを操作し、画面にエンブレムを出現させるとそれをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

 

電子音声と共になのはの腰にトランスドライバーが現れ、零もディケイドライバーを腰に装着すると二人はライドブッカーからそれぞれカードを取り出した。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

二人は自分のドライバーにカードを装填すると零はディケイドに、なのははトランスに変身し腰にあるライドブッカーをソードモードに切り替えラット達に向け構えていく。

 

 

『ッ?!へ、変身しただと?!まさか貴様等…仮面ライダーか?!』

 

 

ディケイド『ほう?やはりライダーの事を知っていたか。なら、こっちとしては詳しく話を聞かせて欲しいんだが…』

 

 

『ッ…黙れ!ライダーは我々ショッカーの敵!貴様等がライダーというなら始末するだけだ!行けぇぇーーーッ!!』

 

 

『イーーーッ!!』

 

 

トランス『はぁ…結局こうなっちゃうんだね…』

 

 

ディケイド『ま、大体予想は付いていたけどな。まあいい、行くぞ!』

 

 

二人は向かって来る戦闘員達の攻撃をかわすとライドブッカーソードモードで斬りかかり戦闘員達にダメージを与えていく。そして、二人は戦闘員達から一度距離を離すとライドブッカーからそれぞれ一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『新しい力を試させてもらうぞ。変身ッ!』

 

 

トランス『私も行かせてもらうよ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:CHAOS!』

 

『KAMENRIDE:GAIA!』

 

 

ディケイドとトランスがバックルにカードをセットすると、電子音声と共にその姿を変えていった。ディケイドは前の世界で幸助が変身したのと同じカオスに、トランスはシズクが変身したのと同じガイアに姿を変えていった。

 

 

『?!す、姿を変えただと?!』

 

 

Dカオス『さあて、お前等を弄り倒すと行くか!』

 

 

Tガイア『にゃははは…零君、幸助さんに成り切ってるね』

 

 

ラット達が姿を変えた二人に驚いているのを他所に、DカオスとTガイアは再び戦闘員達と戦闘を開始し二人の猛攻に戦闘員達は徐々にその数を減らしていく。

 

 

『クッ…ふざけるなよライダー共!貴様等などに敗れてたまるかァ!!』

 

 

『イーーーッ!!!』

 

 

徐々に押され始めた事に焦りを感じたラットは戦闘員達に目で合図を送ると、戦闘員達は二人に向かって一斉に飛び掛かっていき、それに対しDカオスとTガイアは冷静にライドブッカーから一枚ずつカードを取り出してバックルに装填しスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

電子音声が響くと同時に、周りの時間の流れがゆっくりと流れ出し、戦闘員達は空中で止まったかのように動かなくなっていた。そして、その時間の流れの中で動ける二人は空中で止まっている戦闘員達をライドブッカーソードモードで一体一体斬り付けていく。

 

 

Tガイア『セイッ!ハァッ!…次でラスト、零君!決めるよ!』

 

 

Dカオス『ああ!行くぞなのは!』

 

 

最後の一体にとどめを刺す為、二人は再びライドブッカーから一枚ずつカードを取り出してバックルにセットしていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:C・C・C・CHAOS!』

 

『FINALATTACKRIDE:GA・GA・GA・GAIA!』

 

 

二人のバックルから電子音声が響くと、二人の右足が激しく輝き出しDカオスとTガイアは最後に残った戦闘員に向けて回し蹴りを放った。

 

 

『セエアァァァァアッ!!』

 

 

―ドッゴオォォォォオンッ!!―

 

 

『TIME OVER!』

 

 

『――…ッ?!イーーーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

DカオスとTガイアのダブルライダーキックが最後に残った戦闘員に直撃した瞬間、周りの時間の流れが元に戻り、それと同時に戦闘員達が一斉に爆発を起こして散っていく。それを確認したDカオスとTガイアもディケイドとトランスに戻っていった。

 

 

『――…ッ?!な、なんだ?!一体何が起きたんだ?!』

 

 

戦闘員達が爆発を起こして散った光景を見てラットは何が起きたのか分からず困惑し、その間にディケイドはライドブッカーからもう一枚のカードを取り出す。

 

 

『な、何なんだ?!貴様等は一体何者だ?!』

 

 

ディケイド『通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ディケイドはディケイドライバーにカードをセットすると電子音声が響き、それと共にディメンジョンフィールドがラットに向かって出現していき、ディケイドは上空へと跳んで右足を突き出しながらラットに向かってディメンジョンフィールドをくぐり抜けていく。

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『グ、グアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディケイドのディメンジョンキックが炸裂し、ラットは断末魔と共に吹っ飛ばされながら爆発していった。それを確認したディケイドは両手を払いながら一息吐き、トランスも変身を解除してなのはに戻りディケイドに駆け寄っていく。

 

 

なのは「やったね零君!」

 

 

ディケイド『あぁ、なんとかな。だが、結局この世界のライダーについては何も情報は得られなかったな……』

 

 

なのは「うん…まあ、仕方ないよ。話しが出来る状況じゃなかったし、ミッドを救えただけでも良かったと思うよ?」

 

 

ディケイド『…それもそうだな。ライダーについてはまた一から調べればいいか』

 

 

溜め息混じりでそう呟くとディケイドは変身を解除しようとディケイドライバーに手を掛けた。その時…

 

 

「世界の破壊者…ディケイド!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

突然ディケイドの名を呼ぶ男の声が響き、二人はその声が聞こえて来た方へと振り返った。そこには、こちらを見つめる二人の男の姿があり、その内の一人の男が敵意を込めた瞳でディケイドを睨みつけていた。

 

 

ディケイド『?何だアンタ達は…?』

 

 

ディケイドはその二人に向けて問い掛けるが、ディケイドを睨みつけていた男は何も答えずにジャケットを勢いよく広げた。すると男の腰にはベルトが出現し、ベルトの風車が回ると男は身体にダークグリーンのスーツを身に纏った。

 

 

なのは「ッ?!あれは…?!」

 

 

ディケイド『姿が、変わっただと?…まさか?!』

 

 

二人は男が身に纏うスーツを見て驚愕していると、男は何処からかマスクを取り出して顔に被り、最後にクラッシャー(顎)を装着するとマスクの瞳が輝き出した。

 

 

すべての変身を終えたその姿は、首元に赤いマフラーを身に付け、バッタを模した姿をしたダークグリーンのライダー。

 

 

そう、この姿が"始まり"の名を持つ仮面ライダー…

 

 

ディケイド『"first"…か』

 

 

first『世界を破壊する悪魔…ディケイド!この世界をお前の好きにはさせない!』

 

 

ディケイド『?!なんだと?―バキィッ!!―グアァッ!?』

 

 

なのは「ッ?!零君ッ!」

 

 

変身を終えた『first』は突然ディケイドに突っ込んで殴り掛り、不意を突かれたディケイドは反応出来ずに吹っ飛ばされてしまった。いきなりのfirstの強襲になのはも戸惑う中、firstは吹っ飛ばされたディケイドに追撃を仕掛けようとその場から駆け出して戦闘を開始していったのであった。

 

 

 



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第五章/firstの世界②

 

 

突然ディケイドを破壊者と呼んでいきなり襲い掛かって来たこの世界のライダー、first。ディケイドとfirstは先程の場所から近くにあった廃棄工場に場所を変え、激しい戦いを繰り広げていた。

 

 

first『デアッ!ハアァッ!』

 

 

ディケイド『チィ!止せ!俺はアンタと戦いに来た訳じゃない!』

 

 

first『ふぅ…ふぅ…お前の事は聞いているぞ…全ての世界を破壊する悪魔だとな!』

 

 

ディケイド『クッソッ……!こっちの話は聞く気無しかよ?!』

 

 

ディケイドはfirstの繰り出して来る拳を受け流し、こちらに戦意がない事を幾ら伝えてもfirstは問答無用でディケイドに攻撃していく。と其処へ、先程firstと一緒にいたもう一人の男がその場に駆け付け、ディケイドと戦うfirstを見て焦った表情を浮かべた。

 

 

「"滝"!無茶をするな!お前はまだ身体の怪我が…!」

 

 

first『邪魔をしないでくれ!コイツを倒さないと、スバル達のいるこの世界が破壊されるんだ!それだけは絶対やらせる訳にはいかない!』

 

 

ディケイド『(ッ?!スバルだと?まさか…コイツ…)…ガハッ?!』

 

 

firstがスバルの名を口にした事にディケイドは一瞬動揺してしまい、動きを止めたその隙をfirstに突かれて殴られ後方へと吹っ飛ばされてしまった。

 

 

ディケイド『っ、クッ…!仕方ねぇな…こっちは正当防衛なんだ!悪く思うなよ!』

 

 

態勢を立て直したディケイドはライドブッカーを開き、其処からカードを取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:KIVA!』

 

 

電子音声が響くと、ディケイドライバーから奇妙なメロディーが流れると同時にディケイドは異形の姿をしたコウモリのライダー、キバに変わっていった。

 

 

「な、なんだッ?!」

 

 

first『姿が、変わった…?』

 

 

Dキバ『ハアァァァァァァアッ!!』

 

 

いきなり姿を変えたディケイドを見て動揺するfirstに向かって、変身したDキバは一気にfirstとの距離を詰めて懐に入り、素早い打撃を放っていく。

 

 

 

Dキバの間断なく放たれる打撃技にfirstは反撃する暇がなく少しずつ押され始め、Dキバはライドブッカーからまた別のカードを取り出してディケイドライバーにセットした。

 

 

『FORMRIDE:KIVA!GARULU!』

 

 

電子音声と共にディケイドライバーの中枢核からガルルセイバーが飛び出し、Dキバがそれを手に取ると、Dキバの左腕と胸部に鎖が巻き付きガルルフォームへと変化した。

 

そしてフォームチェンジを終えたDキバは再びfirstに再び接近してガルルセイバーを巧みに扱い、鋭い斬撃の数々でfirstを徐々に追い詰めていく。

 

 

first『ウグアァッ!ク、クソッ!』

 

 

firstはDキバの放った斬撃を後方へと跳んで避け、再びDキバとの距離を詰め拳を振り上げて来た。それを見たDキバはライドブッカーを開き、そこからまた別のフォームライドのカードを取り出しディケイドライバーに装填した。

 

 

『FORMRIDE:KIVA!DOGGA!』

 

 

電子音声が響くと、ディケイドライバーの中枢核から拳のような形をした槌、ドッガハンマーが飛び出してそれを手にし、Dキバは紫の鋼の装甲を纏ったドッガフォームへと変わりfirstの放った拳を弾いた。

 

 

first『ガッ?!か、かってぇ~…!』

 

 

Dキバ『あぁ、そいつは悪かった…なぁッ!!』

 

 

―ブオォンッ!ドゴオォッ!ドゴオォッ!―

 

 

first『うぐぅっ?!クッ?!』

 

 

Dキバは右手を抑えて悶えるfirstに向けてドッガハンマーを振り回し、firstは次々と襲い掛かるドッガハンマーの拳を何度か受けながらもかろうじて避けていくが、その度に近くにある柱や壁などが木っ端微塵に砕かれていく。

 

 

Dキバ『ハアァッ!デアァッ!』

 

 

first『グゥッ!冗談じゃねぇ!これ以上はやらせるかァ!!』

 

 

―ドゴオォッ!―

 

 

Dキバ『ッ?!なっ?!』

 

 

このままではまずいと思ったfirstはDキバがドッガハンマーを振りかざした時を狙って足払いを掛けた。それによりDキバはバランスを崩してしまい、firstはその隙に足でドッガハンマーを弾きつつもう片方の足でDキバを蹴り飛ばした。

 

 

Dキバ『グゥッ!このッ!』

 

 

first『もらったぞ、ディケイド!ハァッ!』

 

 

地面に倒れたDキバを見て勝機を悟ったfirstは、右手に雷を纏わせDキバに向かって飛び掛かった。

 

 

first『喰らえ!雷パンチッ!ハアァァァァァ!!』

 

 

Dキバ『ッ…舐めるなッ!こっちにはまだコイツが残ってんだよ!』

 

 

迫り来るfirstを見据えながら、Dキバはライドブッカーからまた次のカードを取り出しディケイドライバーに装填した。

 

 

『FORMRIDE:KIVA!BASSHAA!』

 

 

Dキバ『ハァッ!』

 

 

―ダンッダンッダンッ!―

 

 

first『なっ?!グアァァアッ!!』

 

 

「ッ?!滝ッ!」

 

 

電子音声と共にバッシャーフォームに変わったDキバはディケイドライバーから出現したバッシャーマグナムを手にしながら即座に空中のfirstに銃口を向けて水弾を放ち、firstを撃ち落として体制を崩させた。そして、Dキバはゆっくりと起き上がりながら地面に倒れたfirstに向けバッシャーマグナムを突き付ける。

 

 

first『ッ…クッ…ソッ!コロコロ姿変えやがって…!』

 

 

Dキバ『それがコイツの持ち味なんでね。それで…どうするんだ?これ以上戦っても何の意味もないだろ。いい加減止めにしないか?』

 

 

Dキバはバッシャーマグナムをゆっくりと下ろしながら、firstに停戦を呼び掛ける。だが…

 

 

first『ッ…まだだっ…まだ俺は…戦える…!アイツ等は……アイツ等は!俺が守るんだあぁぁぁぁぁぁあ!!』

 

 

Dキバ『…ッ?!』

 

 

その叫びと共に、firstは再び立ち上がっていく。すると突然firstの腰のベルトのバックル中心の風車が回り始め、それに呼応する様にfirstの瞳が輝き出した。

 

 

first『喰らいやがれ…!スプレッドブレスト!!』

 

 

―ダンッダンッダンッ!!―

 

 

Dキバ『ッ?!何…?!』

 

 

firstは両手で拳を作り、Dキバに向けて拳を突き出した瞬間、なんとfirstの拳から水弾がいきなり飛び出しDキバに襲い掛かって来たのだ。Dキバは驚きと共にすぐにそれを防いだが、水弾を受けた反動で吹っ飛ばされてしまう。

 

 

Dキバ『グッ!(こっちの技をコピーした?!まさか…ラーニングか?!クソッ…!面倒な能力をッ!)』

 

 

first『セイッ!ハァッ!』

 

 

―ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!―

 

 

firstは再び右手を突き出して水弾を撃ち出し、態勢を立て直したDキバはその場から動かずにバッシャーマグナムで向かって来る水弾を次々に撃ち落とし、撃ち落とせなかった水弾は左腕で受け流して防いだりと対処していく。そして暫くそんな交戦が続いていると、突然firstは攻撃の手を止め、右手を地面に付けた。

 

 

Dキバ『?…何だ?一体何をする気だ…?』

 

 

突然不可解な行動を起こしたfirstにDキバも攻撃の手を止め、首を傾げた。と、その時…

 

 

 

―……バチッ…バチバチッ……バチィッ……―

 

 

 

Dキバ『……?』

 

 

耳元に届いた怪しげな音にDキバは思わず辺りを見回した。自分が立っている場所の周りには先程の水弾を防いでいる時に出来た水溜まりが広がっており、その水の上には幾つもの小さな電流が走っていた。

 

 

Dキバ『(…水に…電気?……ッ?!あの野郎、まさかッ!!)』

 

 

Dキバはそれを見てfirstが何をしようとしているのか気付き慌ててバッシャーマグナムの銃口をfirstに向ける。しかし、その行動は既に遅く……

 

 

first『コイツでっ…最後だッ!エレクトロファイヤアァァァァァァアッ!!』

 

 

―バチィッ…ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーーーンッ!!!―

 

 

Dキバ『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーッ!!!』

 

 

firstの放った強烈な電撃が水を通してDキバに襲い掛かり、大ダメージを与えたのだった。そのあまりの威力にDキバも流石に耐え切れずその衝撃でディケイドに戻り、その場で両膝をついて倒れてしまった。

 

 

ディケイド『アッ…グッ…クソッ……身体が…ッ!』

 

 

「チャンスだ!滝!」

 

 

first『ッ…あぁ!これでとどめだ、ディケイド!』

 

 

先程の電撃で身体が麻痺を起こし動けないディケイドに、firstがとどめを刺そうと駆け出した。だがその時…

 

 

「はぁ…はぁ…ま、待って!!」

 

 

『……?!』

 

 

突然ディケイドとfirstの間に何者かが飛び出し、firstの追撃を止めた。その人物……なのははディケイドを庇うように両手を広げながら、firstに呼び掛けた。

 

 

なのは「零君は破壊者なんかじゃないの!だから…お願いだからもう、ライダー同士で戦ったりしないで!」

 

 

first『…?ディケイドが…破壊者じゃない?なんだアンタは…?』

 

 

なのは「あ…その…私は…―ビュウゥゥゥゥゥ…!―あっ?!」

 

 

『ッ?!』

 

 

なのはが事情を説明しようとした時、突然工場の中に強風が入り込み、それによりなのはが被っていた帽子が風に吹かれ飛んでいってしまった。すると、何故かfirstと男は露わになったなのはの顔を見て目を見開いた。

 

 

first『お…お前は…?!』

 

 

「な、なんで…なんでお前が此処に…?!」

 

 

なのは「…え?…あ…あの…どうかしましたか…?」

 

 

自分を見て動揺するfirst達になのはは疑問に感じながら不安そうに問い掛けた。すると次の瞬間firstは予想外の言葉を口にする。

 

 

first『お前…こんな所で何やってんだ?!なのは!』

 

 

なのは「……え?」

 

 

firstはいきなりなのはの名を口にし、名を呼ばれたなのはは一瞬固まってしまうがすぐに困惑した表情を浮かべ動揺していた。

 

 

なのは「え?え?わ、私の事…知ってるんですか?」

 

 

first『知ってるんですか…って、お前は今日六課で新人達の模擬戦相手だろうが!』

 

 

「隊長自らサボってこんな所にいるとはな…呆れたもんだ」

 

 

なのは「え?え?えぇぇ!?な、なんで今私怒られたの?!」

 

 

firstにいきなり怒鳴られ、男に呆れられたなのははワケが分からず戸惑ってしまう。

 

 

ディケイド『(…スバルの事を知り、なのはの事も知っている…やはり、コイツ等は六課の人間だったか…)』

 

 

ディケイドは三人のやり取りを見つめながらそう考えると、ふらつきながら立ち上がり変身を解除して零に戻っていった。

 

 

「人間…?!」

 

 

first『…どういうつもりだ?』

 

 

零「どうもこうもない。さっきから言っているだろ。俺はお前と戦いに来たワケじゃないと」

 

 

なのは「私達はただこの世界について調べていただけなんです!それでさっきの怪人達がミッドを襲ってるって聞いて、それで…」

 

 

「調べていた…?お前…何言って…?」

 

 

男はなのはの説明にワケが分からないといった表情を浮かべているとfirstは何も答えずにマスクとクラッシャーを外し、身に纏っていた強化スーツを消していった。だが…

 

 

「そうか…お前は別世界の…なのはだったのか…」

 

 

なのは「ひっ?!」

 

 

零「お、おい!お前?!」

 

 

変身を解除したfirstの姿を見て、なのはは青ざめ、零は驚愕した表情を浮かべた。何故なら、変身を解いた男は身体のあらゆる箇所から大量の血を流し、体中が赤色に染まっていたからだ。

 

 

「ハハッ…どうやら…無駄な戦いだった…ようだな……すま…な……い……」

 

 

―ドサッ!!―

 

 

「お、おい?!滝!しっかりしろッ!!おいッ!!」

 

 

零「クソッ、一体何なんだ…!とにかく、早くコイツを写真館に運ぶぞッ!」

 

 

なのは「う、うん!」

 

 

男の状態を見て早く治療をしないと危険だと感じた零となのはは、混乱しながらも一先ず怪我を負って倒れた男ともう一人の男を連れてその場から離れ、写真館へと戻る事となったのだった。

 

 



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第五章/firstの世界③

 

 

firstとの戦いから数十分後。零となのはは写真館に戻る途中で合流した優矢とヴィータと共に写真館に戻り、firstに変身していた男…"本郷 滝"の怪我の治療を終えると一先ず空き部屋に寝かせ、スバルとティアナに滝の看病を任せた後に部屋に集まり、本郷滝の友人という"カツラ・ヨウラン"に自分達の事について説明していた。

 

 

カツラ「――では、お前達は自分達の世界と行方不明となったフェイト達を救う為に、此処とは違う別次元のミッドからこの世界に来た…という事か…?」

 

 

零「あぁ。ま、簡単に言えばそんな所だな」

 

 

怪訝な表情で問い掛けるカツラに、零がカメラの手入れをしながらそう答える。

 

 

因みに、今部屋にいるのは零とカツラを始めなのはとヴィータと優矢だけであり、ヴィヴィオとナンバーズ達は部屋の奥で栄次郎と遊んでいる。理由は言うまでもなくまだヴィヴィオ達の存在を知らないという二人にヴィヴィオ達の事を知られないようにする為だ。この世界にイレギュラーが起こらないようにする為に。

 

 

カメラ「違う世界のミッド……か。俄かには信じ難い話だな……」

 

 

零達からの説明を終えると、カツラは額に手を当て難しい表情を浮かべている。

 

 

ヴィータ「ま、確かにいきなり違う世界から来たつっても信じらんねぇよな」

 

 

なのは「だけど…本当の話なんです。私達は自分達の世界を救う為にライダーの世界を旅して、この世界のやって来たんです」

 

 

零「それでも信じられないと言うならお前達の六課に連絡でもしてみろ。それで俺達の言っている事が本当だと分かるハズだからな」

 

 

自分達の事を信じてもらおうと必死にカツラを説得するなのは達をフォローするように、今もきっとこの世界にいるであろうfirstの世界のなのは達への連絡を薦める零。それを聞いたカツラは何かを考えるように両手を組み、そして……

 

 

カツラ「………わかった。お前達の話を信じよう」

 

 

優矢「え、本当か?!」

 

 

カツラ「あぁ…俺には、お前達が嘘を言っているようには見えない。それに六課にいるハズのなのは達がここにいる時点で、信じないという方が無理な話だからな」

 

 

零「ほう。この世界のミッドにも物分かりのいい奴がいたもんだな。助かるよ……えーと……ヅラ?」

 

 

―ズドンッ!!―

 

 

なのは「わあぁぁぁ?!カ、カツラさん…?!」

 

 

カツラの名をパッと思い出せず、彼の名を最初に聞いた時に頭に思い浮かんでた印象の名を零が適当に口にした瞬間、突然カツラは盛大に椅子からズッコケてしまった。が、カツラはすぐさま立ち上がり物凄い形相で零に詰め寄った。

 

 

カツラ「ヅラじゃない!!カツラだ!!カァ!ツゥ!ラァッ!!カツラァ!!」

 

 

零「…別にどっちでもいいだろ?カツラでもヅラでも似たようなもんなんだし」

 

 

カツラ「ぜんぜん!!違ぁぁぁぁぁぁうッ!!!………ハァ…まさかこんな…滝みたいな事を言う奴が他の世界にもいたとは……」

 

 

優矢「いやあの…コイツの言ってる事はあんまり気にしない方がいいですよ…?」

 

 

ドヨヨ~ンとした雰囲気でテーブルにうなだれるカツラを何とか元気付けようとする優矢。それを見て零は特に気にした様子もなくカメラの手入れを続け、なのはは苦笑いをし、ヴィータはただ溜め息を吐くしか出来なかった。

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

その後、零達はカツラから滝についての今までの経緯を聞いた。滝がショッカーに捕まり、改造手術を受けて改造人間・ホッパーとなってしまった事。その後仮面ライダーと名を改め、自分の家族であるスバル達や、仲間であるはやて達を守る為にショッカーと戦っている事を……

 

 

 

零「…なるほどな、アイツの事は大体分かった。…それはそうと、あの滝って奴のあの怪我は一体どうしたんだ?アイツの怪我はどう見てもさっきの戦いで出来たものとは思えない…あの怪我もそのショッカーとの戦いで受けた怪我なのか?」

 

 

カツラ「…ん?……あっ…あれはその…何というべきか…」

 

 

『…?』

 

 

零が滝の怪我の事について聞くとカツラは何故か困った感じの顔になってしまい、零達はそんなカツラを見て首を傾げた。

 

 

零「……ま、話したくないなら無理に話さなくていいぞ。こっちもそこまでして聞きたいとは思わないからな」

 

 

カツラ「……すまないな、こればっかりはどうやって話せばいいものか…」

 

 

苦笑いを浮かべるカツラに対し零は「別にいいさ」と一言返し、イスからゆっくりと立ち上がった。

 

 

なのは「あれ?零君、何処か行くの?」

 

 

零「いや。単に昼食の準備でもしようかと思ってな。爺さんは今ヴィヴィオの相手をしてくれてるから手が離せないと思うし、たまには俺が作るよ」

 

 

優矢「え?!零って料理出来んのか?!うわぁ意外だ~…」

 

 

零「……お前は今まで俺をどういう風に見てたんだ……ったく……おいカツラ。ついでにお前も食っていけ。どうせ滝って奴が目を覚ますまで此処にいるつもりなんだろ?」

 

 

カツラ「え?あ…あぁ、そうだな。じゃあ、お言葉に甘えて頂くとするよ」

 

 

零「了解した……ついでにアイツの分も作っておくか」

 

 

零は一人そう呟くと、料理の準備をする為に部屋の奥にあるキッチンへと向かっていき、暫くした後に全員分の料理を作り終えると滝とスバル達の分の料理(滝のは別でお粥)を持ってなのはと共に滝の眠る部屋へと向かっていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

数十分後……

 

 

 

「…………ん、んん……?あ…あれ?此処は……?」

 

 

先程の零との戦いで倒れてしまった男…本郷 滝が意識を取り戻しゆっくりと瞼を開けていく。

 

 

スバル「あっ!目が覚めた!」

 

 

ティアナ「コラッ!怪我人の前で騒がない!」

 

 

滝「え……?」

 

 

何やら騒がしいので、滝は視線をそっちに移す。そこには滝の寝ているベッドの直ぐ横の椅子に座るスバルとティアナの姿があった。

 

 

スバル「ティアだって、さっきこの人の顔覗いてたじゃん?」

 

 

ティアナ「あ、あれは顔色を見てただけよ…!」

 

 

滝「……え~っと……俺の知ってるスバルとティアナ……じゃないよな、その口振りだと……って事はお前等、別の世界のスバルとティアナ……でいいのか?」

 

 

ティアナ「え?あ…はい!そうです」

 

 

不意に滝に話し掛けられ、ティアナは慌ててそう答えると滝はゆっくりと上半身を起こした。

 

 

滝「そうか……なぁ?さっきのディケイドって奴は?」

 

 

零「俺なら此処にいるぞ」

 

 

滝が二人にディケイドの事を聞こうとすると、それに応える声が聞こえ滝がその方に振り向く。其処には椅子に座ってカメラを弄る零の姿があった。

 

 

滝「お前が…ディケイドなのか?」

 

 

零「まあな。ところで、怪我の調子はどうだ?一応こっちの方で治療とかはしておいたんだが…」

 

 

滝「治療?……っ!本当だ……。すまないディケイド…本当ならこんな事をしてもらえる義理なんて…俺にはないのに…さっきは本当に悪かった」

 

 

包帯姿の自分の姿を見てスマナイと言った顔で頭を下げる滝だが、零は特に気にした様子もなく話を続けた。

 

 

零「別に気にしなくていい、カツラって奴から話は聞いているからな。それから俺の名は……黒月零だ」

 

 

滝「そうか…んじゃ改めて…悪かったな、黒月」

 

 

零「零でいい。名字で呼ばれるのはあまりないんでな…そっちの方が落ち着く」

 

 

滝「…分かった。だったら俺も滝でいいぞ」

 

 

そうして二人は改めて自己紹介を終えると、部屋の扉が開き、部屋の中に先程零が作ったお粥を温め直しに行っていたなのはがお粥を持って部屋の中に入って来た。

 

 

なのは「あ、目が覚めたみたいだね。良かったぁ♪」

 

 

滝「あ…えっと?アンタは…さっき俺達の戦いを止めようとしたなのは…でいいのか?」

 

 

なのは「あぁうん、そうだよ。それにしても…さっきは本当にビックリしたよ。いきなり血を出して倒れたんだもん。でも本当に良かったぁ、目が覚めて♪あ、それと…はい、これ」

 

 

なのはは滝の眠るベッドに近づくと、手に持っていたお粥を滝に手渡した。

 

 

滝「?これは…?」

 

 

零「霰粥だ、一応病み上がりにも食べやすいものを選んでみた。さっき温め直した所だから今は丁度いいと思う。食えなければ残してくれても構わない」

 

 

滝「あ、そうか。すまない、何から何まで…じゃあ、有り難く頂くよ」

 

 

滝はそう言って零からお盆を受け取り両手を合わせて一度拝むと、茶碗の蓋を開けレンゲで米を掬い口に入れた。

 

 

滝「旨いな……」

 

 

零「当然。不味い飯なんて食わせたら俺のプライドにも関わる」

 

 

滝「?もしかしてこれ、お前が作ったのか?」

 

 

零「まあな。……とは言え、残り物の材料で作ったものだから、正直何時もより味もイマイチかと思うが」

 

 

滝「いや、そんな事はないぞ?これは中々イケる!」

 

 

零「…ならいいんだがな。スバル、悪いんだが下にいるカツラを呼んできてくれないか?」

 

 

スバル「あ、はい!分かりました!じゃあ、ちょっと失礼しますね?」

 

 

スバルは零達に軽く頭を下げると、カツラを呼びにいく為に部屋を出ていった。

 

 

滝「?ヅラ…じゃなかった。カツラの奴も此処に来てたのか?」

 

 

零「あぁ、今は部屋の方で休んでもらっている…それはそうと、そろそろ教えてもらおうか?いきなり俺を襲ってきた理由を…」

 

 

なのは「ちょ、ちょっと零君…!」

 

 

ティアナ「そこまで露骨に聞かなくても……」

 

 

滝「…いいや…大丈夫だ。襲ったのは事実だしな…ちゃんと説明しないとお前達に悪い気がするから、正直に話すよ」

 

 

滝はそう言って、何故零を襲ったのかワケを話してくれた。

 

 

どうやら数日前、滝達の前に突然謎の男が現れ、ディケイドがこの世界を破壊しに現れると告げに来たらしく、滝は零がそのディケイドだと思い攻撃を仕掛けてきたらしい。

 

 

ティアナ「正体不明の男…もしかして、今までの世界で優矢さんやワタルに零さんと戦うように仕向けた人と同じ…?」

 

 

零「あぁ、今回も恐らくそんなところだろうな。というか、お前もそんな理由で俺と戦ったのかよ?そんなボロボロの体で…」

 

 

滝「お前にとってはそんな事でも、この世界は俺の家族がいる世界だ…破壊なんてされたら堪らないからな…」

 

 

なのは「そんな…この世界でも破壊者だなんて…」

 

 

この世界でも零は破壊者として扱われている。なのははその事実に辛そうな顔をしていたが、滝はなのはが呟いた言葉に首を横に振った。

 

 

滝「だけど…実際に零と話しをしてみて、今はお前が破壊者とは思えなくなってるよ」

 

 

零「俺が破壊者じゃない…ねぇ……何の根拠があってそんな事が言えるんだ?」

 

 

滝「何って、お前には…」

 

 

零が破壊者ではない。その事について滝が話をしようとした、その時……

 

 

―ガチャッ!!―

 

 

カツラ「滝ッ!やっと目が覚めたのか?!」

 

 

スバル「ちょ!カツラさん!落ち着いて下さいって!」

 

 

突然カツラとカツラを呼びに行ったスバルが部屋の中に押し寄せ、滝の言葉を遮って。

 

 

滝「ヅラ…!」

 

 

カツラ「ヅラじゃないカツラだ!……いやそうじゃなかった。目が覚めたなら帰るぞ。さっき六課から連絡があって、はやてがお怒りだそうだ」

 

 

滝「あー…そーいや、買い出しの途中だったからな~」

 

 

カツラ「お怒りの理由はそれだけじゃない…スバルとティアナがなのはとの模擬戦の最中に無茶をして、中止になったらしい」

 

 

滝「ッ!……やっぱなんかしでかしたか…アグスタの一件以降、様子が変だったからなぁ…」

 

 

二人は何やら深刻そうな顔をして何かを話している。だがなのはは、二人の会話の中にあった「模擬戦」というキーワードに「まさか…」といった表情をして二人に話し掛けた。

 

 

なのは「あ…あの、模擬戦って…」

 

 

滝「?あぁ、スマナイ、こっちの話だ。気にしなくてい……い……?」

 

 

気にしなくていいと言おうとした滝は、なのはの方に振り向いた瞬間、頭上に疑問符を浮かべた。何故なら…

 

 

 

ティアナ「もう無茶はしませんもう無茶はしませんもう無茶はしませんもう無茶はしませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい―――」

 

 

スバル「ティ、ティア!?だ、大丈夫だって!滝さん達の言ってるのは私達の事じゃなくて!この世界の…あれ?それって結局私達って事…?あれ…?えーと…えーと……」

 

 

なのは「にゃははは…」

 

 

なのはの背後の部屋の隅で、半泣き状態で怯えるティアナと冷や汗を流しながらも怯えるティアナを必死に落ち着かせようとするスバル、そしてその二人を見て苦笑いを浮かべるなのはの姿を見たからだ。

 

 

滝「?…お前達…もしかしてなんか知ってるのか?」

 

 

零「…気にするな。過去の過ちを嘆いているだけだ」

 

 

『…は?』

 

 

そんな三人の様子を横目に零は呆れた口調で話すが、滝とカツラはただ首を傾げる事しかなかった。

 

 

零「ま、俺から何か言える事があるとすれば、お前もこれから苦労の絶えない日々に頭を悩ませる…って事だな」

 

 

滝「苦労ね~…今でも十分してるんだけどな…」

 

 

零「ほう…例えば?」

 

 

滝「そうだな…あ、例えばこんな―――」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから一時間後……

 

 

 

 

 

滝「そうなんだよ!急にサンダーフォールで!」

 

 

零「いやぁ…俺も昔、いきなりディバインバスターで…」

 

 

滝「他にも女性局員と話してただけでいきなりシュベルトクロイツで突き刺してきたり!」

 

 

零「こっちも似たようなもんだ…俺の場合は問答無用で砲撃をぶっ放してきやがったがな…」

 

 

滝「三人掛かりでデバイス持って俺を殺そうとしやがるし……」

 

 

零「俺なんか、機動六課全メンバー(隊長陣+FW陣+ナンバーズ)からの全力全開集団リンチ模擬戦なんかを……」

 

 

 

……ちょっとした会話から、何故か二人はお互いの苦労話で話が盛り上がっていた。今の二人は端から見れば、どこぞの飲み屋で妻の愚痴を漏らす夫みたいな感じに見えている事だろう。

 

 

なのは「……なんか……」

 

 

スバル「すっかり意気投合しちゃってますね……」

 

 

カツラ「どっちも苦労してる様だからな……滝!そろそろ帰るぞ!」

 

 

滝「えぇ?もう帰んのか?…仕方ないな…」

 

 

零「滝…気をつけてな」

 

 

滝「帰る人間に不吉な事を言うなよな…」

 

 

先程のやり取りから意気投合したからか、妙に哀れみの篭もった零の言葉に冷や汗を流しながら、滝とカツラは部屋を出て写真館を後に六課へと戻っていき、部屋に残された零となのはは滝達が出ていた後の扉をジッと見つめていた。

 

 

なのは「滝さん達…大丈夫かな…?」

 

 

零「アイツ等なら大丈夫だろう。ここから先はアイツ等の物語…俺達の役割じゃない」

 

 

なのは「……そうだね。きっと大丈夫だよね。ほらティアナ!何時までもそうしてないで、早く部屋に戻るよ!」

 

 

若干不安げな表情を浮かべながらも、なのははそれを考えない様に未ださっきと同じ状態になっているティアナとスバルを連れて部屋を出ていき、零はそんな三人を見て小さく溜め息を吐きつつ彼女達に続いて部屋を出ようとした。その時…

 

 

 

―…………ザワッ…―

 

 

 

零「……ッ?!」

 

 

突如、零は背筋が凍るように感覚に見舞われたのだ。一瞬にして全身の毛が逆立ち、心臓の鼓動が一瞬止まったかのような感覚も感じた。零はすぐさま後ろに振り返り、この部屋の窓から見える向かい側に立つ高層ビルを睨み付けた。

 

 

零「……なんだ…今のは……?」

 

 

先程感じた殺気に近い感覚…零はその事に疑問を浮かべるが、窓から見えるビルには特にコレといった不審な所はない。零は暫くその事を考えていたが、とりあえず部屋を出ようと胸の中の疑問を掻き消せないまま部屋を出ていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その一方、零が見ていた高層ビルの屋上では、一人の青年がジッと静かに写真館を見下ろしていた。

 

 

「…俺の飛ばした気にいち早く気づくとは…中々やるな、アイツ」

 

 

青年は写真館を見下ろしながら口元に薄笑いを浮かべる。

 

 

高層ビルの屋上に強い風が吹き、青年の銀色の髪が風に揺れて踊る。昼間に零とぶつかった、あの青年だ。

 

 

「さて…次にディケイドはどんな行動を起こすのか…俺もアイツ等が動いた時に何時でも動けるようにしとかないとな…」

 

 

青年は静かにそう呟くと、踵を返して屋上にある扉に向かいその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

その頃、光写真館を出た滝とカツラは買い物袋を両手に持ちながら機動六課へと帰宅している途中だった。

 

 

滝「はぁ…しっかし、一体何があったんだろうな…スバルとティアナ…」

 

 

カツラ「さあな……詳しくは分からないが、アイツ等も何か考えがあってのアレだったんだろう……それが正しいのか間違っているのかは置いといてな……」

 

 

滝「…………」

 

 

帰宅途中の滝とカツラは、スバルとティアナが起こした模擬戦での問題について話し合っていた。

 

 

何故二人が、特にスバルがあんな事をしたのか。義妹の気持ちに気づいてやることが出来なかった自分への不甲斐なさを滝は心の中で感じていた。

 

 

カツラ「…滝、今此処で考えた所でどうにもならないぞ。今は急いで六課に帰っる事を…」

 

 

滝「…あぁ…そうだな。すまないヅ………ん?」

 

 

カツラ「……?滝…?」

 

 

カツラに謝ろうとした滝は突然その場で歩みを止め、後ろに振り返り何かを探すように辺りを見渡し始め、カツラは滝のその突然の行動に疑問を浮かべた。

 

 

カツラ「どうしたんだ滝?何か探し物か…?」

 

 

滝「……いや、今なんか、誰かに見られてたような気がしたんだけど……悪い、気のせいだったみたいだ」

 

 

カツラ「はぁ…まさか、まだ寝ぼけているのか?少しはシャキッとしろ」

 

 

滝「あ、あぁ…すまない…(可笑しいな…今ホントに誰かに見られてたのような気がしたんだが……本当に気のせいか?)」

 

 

再度振り返り辺りを見渡す滝だが、やはりコレといった不審な物や人物などは見当たらない。滝は釈然としないでいるが、とにかく今は六課に帰る事を最優先にしようと無理矢理その考えを捨て、先に行ったカツラの後を追いその場から歩き出していった。

 

 

 

 

そして、滝とカツラが去って暫くした後……

 

 

 

 

「──へぇ…やるじゃないかあのお兄さん。俺の気配に気づくとは…流石は始まりの名を持つ仮面ライダーってところかな?」

 

 

近くの建物の影からヒョイッと、軽快に姿を現したのは帽子を被った青年。

 

 

帽子で顔は見えないが、声の感じからして恐らく十代後半辺りの若者だろう。

 

 

「仮面ライダーfirst……そしてfirstが持つBLACKのとは違う『キングストーン』……中々興味深いな。俺が手にするに値するお宝かどうか、見極めさせてもらおうかな?」

 

 

青年は陽気な笑みを浮かべながらそう呟くと、滝とカツラの後を追う様にその場から歩き出し機動六課へと向かっていったのだった。

 

 

 



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第五章/firstの世界④

 

 

―光写真館―

 

 

 

ティアナ「…………」

 

 

その日の夜。とりあえずこの世界での一日目を終えた一行はそれぞれの部屋で寛いでいた。そんな中、ティアナは一人写真館の外に出て玄関にある柱に背中を預け、夜風に当たっていた。と、そこへ…

 

 

零「──いい加減中に戻らないと、風邪引くぞ?」

 

 

ティアナ「!…零さん?」

 

 

不意に話し掛けられティアナは一瞬驚き振り返ると、其処には写真館の扉から両手にコーヒーを持って出て来た零の姿があった。零は手に持っていたコーヒーをティアナに手渡すと、ティアナの隣に座りコーヒーを啜る。

 

 

零「こんな所で何してたんだ?……といっても、何となく予想は付いてるけどな」

 

 

ティアナ「あ、アハハ…やっぱり、分かってましたよね……」

 

 

ティアナは溜め息混じりで話す零に向けて苦笑いを浮かべ、手に持つコーヒーを一口啜り再び話し出した。

 

 

ティアナ「まぁ…別に変な方向に思い詰めたりはしてないんですけど、やっぱり色々と気になるというか…ううん…心配っていう方が、合ってるのかな…?」

 

 

零「…………」

 

 

苦笑を浮かべたまま話すティアナの言葉を零は黙って聞く。

 

 

彼女が今何を考えているのか既に気づいている。

 

 

それは恐らく……いや、十中八九、この世界の自分についての事だろう。

 

 

滝達も話していた模擬戦……自分達の世界でも以前、ティアナとスバルがなのはとの訓練の最中に問題を起こし、確執を起こした事があった。

 

 

あの模擬戦の後に自分が一体どんな事を考え、何をしたのか…それを一番良く知っているのはティアナ自身だ。

 

 

だからこそ、気にならないというのは無理な話だろう。すると、暫く黙ってティアナの話を聞いていた零はその場から立ち上がり、近くに停めておいたディケイダーに近づいていく。

 

 

ティアナ「…?零さん…?―ヒョイッ―…わっ?!」

 

 

零は突然ディケイダーに置いておいたヘルメットをティアナに投げ渡し、もう一つのヘルメットを自分の頭に被せていく。

 

 

ティアナ「あ、あの…零さん?一体何処に…?」

 

 

零「軽いドライブだ。お前もちょっと付き合え」

 

 

ティアナ「へ…?あ…は、はい…!」

 

 

突然ドライブに付き合えと言ってきた零に少々戸惑いながらも、ティアナは渡されたヘルメットを頭に被るとディケイダーの後ろに乗り、零はティアナの搭乗を確認するとディケイダーを走らせ何処かへと向かっていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

それから数十分後。ディケイダーに乗った二人はミッドにあるとある公園へと訪れた。此処は元々人通りがない為か、あるいはただ夜中というだけか、人々が行き交う姿は余り見られなかった。その公園に到着した二人は園内にあるベンチに座り、夜空に爛々と煌めく星々を見上げていた。

 

 

ティアナ「綺麗ですねぇ…」

 

 

零「そうだな…何だかあぁいうのを見ていると、俺達の世界が恋しくなってくるな…」

 

 

ティアナ「フフ…もしかして、ホームシックですか?」

 

 

零「さぁ?どうかな…」

 

 

星空を見上げながら他愛のない話で笑い合う二人。零はティアナの笑う姿を見て再び空を仰いだ。

 

 

零「どうだ?少しは気分転換になっただろう?」

 

 

ティアナ「…え?」

 

 

零の言葉にティアナは思わず首を傾げるが、零は気にせず言葉を続けた。

 

 

零「お前が気にする事はない、とまでは言えないから…せめて、気晴らしになるんじゃないかって思ったもんだからな」

 

 

ティアナ「…あの…もしかして、私は連れ出してくれたのって…その為に?」

 

 

零「…さぁ、どうだろうな…自分でも分からん」

 

 

はぐらかすような口調で目を逸らす零。そんな彼の横顔を見つめぽかんとしていたティアナも彼の意図を察すると共に「素直じゃないな~」と吹き出してしまう。

 

 

零「まぁだが、お前が心配しなくても、滝やこの世界のなのは達が何とかしてくれるさ……ま、滝の方は若干心配が残るけどな」

 

 

ティアナ「?どうしてですか?」

 

 

零「単純な話だ。何時も無茶をしているというアイツが同じように、無茶をしたお前達に気の利いた励ましが言えると思えるか…?今ごろは、自分は一体どんな言葉を掛けたらいいんだろうかと頭を悩ませているに違いない」

 

 

ティアナ「あぁ…何となく想像出来ますね…」

 

 

この世界のティアナをどうやって励まそうかと頭を抱える滝の姿が自然と思い浮かび、少々罪悪感を感じながらも苦笑を浮かべるティアナだった。

 

 

零「まぁ、この世界のお前にはなのは達が付いているから心配はないと思うが…その為に滝が無茶をし過ぎないか少し気になってな…」

 

 

ティアナ「…確かに、あれだけの怪我を負ってまで零さんと戦った人ですから、絶対無茶をするかもしれませんね…」

 

 

零「あぁ。アイツははやて達に負担を掛けないようにしているつもりかもしれないが、それが間違いだとまだ分かっていない……自分は大切な者を失わない様に戦っているつもりかもしれないが……それが逆にはやて達から大切なものを奪う事に繋がるという事を……」

 

 

ティアナ「……零さん」

 

 

星空を見上げる零の表情は何処か寂しげで思い詰めているように見える顔だと、ティアナはそう思った。

 

 

零「……なんてな。アイツなら多分昔の俺のような過ちは犯さないだろ。何せアイツは、俺ほど命知らずの馬鹿じゃないんだからな」

 

 

ティアナ「そんな…零さんだってそんな…!」

 

 

身を乗り出して零の言葉を否定しようとするティアナだが、零はただ苦笑いを浮かべて頬を掻いているだけだった。

 

 

零「…さて…そろそろ帰るとするか。あんまり遅いとなのはの説教を喰らうハメになるからな」

 

 

ティアナ「むぅ…私の話しはまだ終わっていませんよ!」

 

 

またもや話しをはぐらかそうとする零をティアナは口を尖らせジト目で睨みつけるが、零はそれをごまかそうと苦笑いを浮かべながらベンチから立ち上がった。だが、その時……

 

 

 

 

 

「漸く見つけたぞ…破壊者」

 

 

 

 

 

『……ッ?!』

 

 

不意にその場に響いた第三者の声。零とティアナは、突然聞こえてきた声に驚きその方を見ると、其処には一人の男がこちらにゆっくりと近づいてくる姿があった。

 

 

「お前か…世界の破壊者というのは…?」

 

 

零「…誰だ…お前は…?」

 

 

男に何者か問い掛ける零だがその表情は何処か険しいものとなっていた。その原因と言えるものは、あの男から放たれる異様な雰囲気…まるで飢えた獣に出くわしたかのような感覚を思わせるそれに、零は警戒心を強めティアナを自分の後ろに下がらせた。

 

 

「…なるほど…それなりの実力は持っているようだな。あの本郷と互角に渡り合ったという噂も…どうやらただのデマではなさそうだ」

 

 

零「本郷…滝の事か?何故お前が滝の事を知っている?一体誰だ、お前は…?」

 

 

再度男に何者か問い掛ける零だが、男はただ薄く笑みを浮かべながら自分が羽織っていた上着を勢いよく広げた。すると男の腰には赤いベルトが出現し、ベルトの風車が回ると男は自分の身体に滝が纏っていた強化スーツと酷似したスーツを身に纏っていった。

 

 

ティアナ「?!か、変わった…?!」

 

 

零「滝のと同じスーツ…?…まさか…?!」

 

 

二人が男の身に纏うスーツを見て驚愕していると、男は笑みを浮かべたまま何処からかマスクとクラッシャーを取り出した。

 

 

「俺の名は…"十文字隼人"…そしてまたの名を―――」

 

 

男……"十文字 隼人"はそう言って一度言葉を途切らせると、手に持っていたマスクとクラッシャーを顔と口元に装着して別の姿へと変わっていった。

 

 

黒を強調したスーツに、首元に赤いマフラーを身につけたその姿は滝のfirstと全く同じだが、firstと比べてマスク上半分はメタリックグリーンで、鼻に当たる部分から後頭部に掛けて白く塗り分けられ顎の部分がシルバーとなっていた。

 

 

second『――またの名を、本郷と同じ規格で造られた仮面ライダー…secondだ』

 

 

零「十文字…second…だと?」

 

 

突然二人の目の前で姿を変えたライダー…『second』は、名乗りを終えると共に未だ呆然としている零達に向かって駆け出して来た。

 

 

零「ティアナ!下がれッ!」

 

 

ティアナ「え?!は、はい!」

 

 

向かって来るsecondを見て零はすぐにティアナを避難させると、secondが振りかざして来た拳をかわしながら距離を離し、上着のポケットからディケイドライバーを取り出すと腰に装着しライドブッカーからディケイドのカードを取り出した。

 

 

second『フッ!ハァッ!』

 

 

零「クッ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

立て続けに繰り出されるsecondの拳をかわしつつ、零はsecondの背後に回り込んでその背中を蹴り付けながらディケイドライバーにカードをセットするとディケイドに変身し、そのまま腰にあるライドブッカーをガンモードに変えてsecondに乱射した。

 

 

―ズガガガガガガガッ!―

 

 

second『グゥッ!…フッ、中々やるじゃないか!』

 

 

ディケイド『そんなことはどうだっていい…!お前は一体何なんだ?!ショッカーの一員なのか?!』

 

 

second『質問の多い奴だ。だが悪いな、そのどの問いにも答えるつもりはない。俺はただ…お前との戦いを楽しみたいだけだからなァ!!』

 

 

ディケイド『クッ?!取り敢えず…お前がフェイト達と同じバトルマニアって事は大体分かったぜ!』

 

 

ディケイドは毒づきながら再び迫り来るsecondに向けライドブッカーガンモードを乱射するが、secondはそれを容易く避けながらあっという間にディケイドとの距離を詰めて鋭い拳を放っていき、ディケイドはそれを避けながら少しずつ後退していく。

 

 

ティアナ「零さん!」

 

 

second『どうしたァ?!お前の力はこんなものじゃないんだろう!早くお前の力を俺に見せてみろ!!』

 

 

ディケイド『チッ!これだからバトルマニアは苦手なんだ…!早めに決着を付ける方が最善だな!」

 

 

―ドンッ!ズガガガガガガガンッ!!―

 

 

second『ウグァッ!?』

 

 

ディケイドはsecondを足蹴で吹っ飛ばしつつライドブッカーで乱射して怯ませると、左腰に戻したライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーに装填した。

 

 

『KAMENRIDE:KUUGA!』

 

 

電子音声と共にディケイドは徐々に姿を変えてクウガに変身し、姿を変えたDクウガは更にカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『FOMARIDE:KUUGA!TAITAN!』

 

 

電子音声と共にDクウガは紫のラインが入った銀色の鎧姿、タイタンフォームにフォームチェンジする。更に近くに落ちていた木の棒を持ってタイタンソードに変えると、secondに向かって斬り掛かっていく。

 

 

Dクウガ『フッ!セエァッ!ハアァッ!』

 

 

second『ウグッ!…クク…そうだこれだ…これだぞ!この高揚感!俺が求めていたのはこの感覚だぁ!!』

 

 

ティアナ「あ、あの人…零さんに追い詰められてるのに…笑ってる…?」

 

 

secondはDクウガに追い詰められているにも関わらず何故か歓喜に満ちた様子でDクウガに反撃していき、Dクウガはタイタンソードでsecondの攻撃を防ぎ一度距離を離すと、元の赤い姿…マイティフォームへと戻りながらライドブッカーからクウガのファイナルアタックライドのカードを取り出した。

 

 

Dクウガ『お楽しみのところ悪いが、そろそろ決着を付けさせてもらうぞ、十文字ッ!』

 

 

second『フッ、いいだろう…受けて立つぞッ!』

 

 

互いに睨み合いながらそう告げると、Dクウガとsecondはそれぞれ最後の攻撃の準備に入ろうとする。だが、その時……

 

 

 

 

 

 

 

「…待ちな」

 

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

突然Dクウガでもsecondのものでもない声が聞こえ、その場にいた全員はその声が聞こえてきた方へと振り返った。すると其処には、公園の入口で一人佇む青年…昼間の時に零とぶつかった銀髪の青年の姿があったのだ。

 

 

Dクウガ『?アンタは……昼間の…?』

 

 

second『…何だお前は?』

 

 

突然現れた青年にDクウガは唖然とし、secondはDクウガとの戦いを邪魔された事に少々不機嫌な顔をして青年を鋭い視線で睨みつけた。そして青年は、静かに左手に持っていた機械の様な物を腹部に当てると、端からベルトが現れ青年の腰に巻き付きながら装着されていった。

 

 

ティアナ「ッ!あれは…?!」

 

 

Dクウガ『機械が…ベルトに?…まさか、アイツ?!』

 

 

ティアナとDクウガは青年が装着したベルトを見て驚愕していると、青年はそのベルトを装着した後両手を広げ、一度拳を握り締めた後再び手を開き、そして…

 

 

 

「…変身ッ!」

 

 

『VIVID!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

 

 

青年がベルトのバックル部分にあるボタンを叩くと、青年の回りに次々と赤い装甲が現れ、それらは一度に青年の身体に装着されていった。クウガの肩、アギトのボディ、龍騎の腕、電王の足等、平成ライダー達の一部を摸したようなライダースーツに、ライジングイクサとクウガを足して二で割った様な感じのマスク。そして、左手に装着されたパネルとボタンが付いた手甲が特徴のライダーに変身していった。

 

 

second『な、何…?!』

 

 

ティアナ「あれは…仮面ライダー…?」

 

 

Dクウガ『アイツは…まさか、スカリエッティとの戦いの時に現れたライダー?!』

 

 

そう…Dクウガの言う通りそのライダーは、前の世界でアークとの決戦の際に突如現れた赤い戦士だったのだ。赤い戦士は変身を終えるとゆっくりとsecondとDクウガに近づいていく。

 

 

second『お前は…一体何者だ…?!』

 

 

『……俺か?俺の名は……ヴィヴィッドだ』

 

 

Dクウガ『…ヴィヴィッド…?』

 

 

ヴィヴィッド『そう、それが俺の名だ。ディケイド…お前の力がどれほどの物なのか、試させてもらうぜ?』

 

 

Dクウガ『ッ?!何…?!』

 

 

突然現れた赤い戦士……『ヴィヴィッド』はDクウガに向けて静かにそう告げると、その場で踊る様に一回転しDクウガとsecondに指を差した。

 

 

ヴィヴィッド『さぁ、ステージの開演だ。その目に焼きつけろ!』

 

 

second『クッ…?!』

 

 

Dクウガ『クソッ!次から次へと!どうなってるんだ一体?!』

 

 

迫り来るヴィヴィッドを見据えながらDクウガとsecondは身構えると、それぞれ応戦してヴィヴィッドとの戦闘を開始していったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、機動六課に戻った滝は、一人六課のヘリポートに訪れて星空を仰いでいた。

 

 

滝「…ハァ…これからどうすっかな…全く…」

 

 

滝は何処か思い詰めたような表情を浮かべながら疲れたかと言うように溜め息を吐いた。その原因は勿論、スバルとティアナの事についてだ。

 

 

一体あの二人にどんな言葉を掛ければいいのか。零の予想してた通り、普段から無茶をしている滝はあの二人にどんな言葉を掛ければいいのか全く思い付かず悩んでいたのだ。

 

 

滝「…零ならこんな時…一体どうすんだろうなぁ…つか、アイツ等なら何か知ってんだろうな…」

 

 

滝は写真館にいた時のなのは達の訳知り顔な様子を思い出しながらそう呟くが、今はこんな事を考えても何の役にも立たないだろうと俯いてしまい、取り敢えず部屋に戻ってからまた考えようとその場から歩き出した、その時…

 

 

 

―……ズガガガガガガガガンッ!!―

 

 

 

滝「…ッ?!」

 

 

突然何処からか複数の銃弾が滝に襲い掛かり、咄嗟にそれに気づいた滝はすぐさま横に飛んでそれをギリギリでかわしていった。

 

 

滝「あ、あっぶねぇ~…?!何なんだ一体!誰だッ?!」

 

 

滝は今の銃弾が放たれてきた方に向かって怒鳴り声を上げると、ヘリポート入口の建物の影からゆっくりと何者かが現れた。

 

 

現れたそれの正体は、シアンと黒を基礎としたライダースーツに、顔の仮面部分に収まっている複数の黒いプレート。そして、その右手に独特の形をした銃…魔界城の世界で零達に協力してくれたリンが持つのと同じ銃を持ったシアンのライダーが滝の前に現れたのだ。

 

 

『へぇ…あれを避けるとは流石だねぇ。初代仮面ライダーの名は伊達じゃないって事かな?』

 

 

滝「ッ?!お前、誰だ?!どうやって六課に入って此処まで来た?!」

 

 

何故自分がライダーなのを知られているのか驚きつつ、警戒心を強めながら目の前に立つシアンのライダーに問い掛ける滝。シアンのライダーはその問いにフッと笑みを浮かべながら話し始めた。

 

 

『落ち着きたまえよ…俺はただ、君に会いに来たってだけなんだから』

 

 

滝「?…俺に?」

 

 

『そっ。まぁ、正確には君が持っているキングストーンの力にすこし興味がある…って言えば、大体予想が付くかな?』

 

 

滝「ッ?!キングストーンだと?!何故お前が其処まで…まさかお前、ショッカーの一員か!?」

 

 

『…ショッカー?そいつは心外だな。あんな奴らと俺を一緒にしないでくれないか?俺は単に、君の力に興味があるってだけなんだからね』

 

 

シアンのライダーは若干不機嫌そうに答えると、左腰に備え付けられたカードホルダーを開き、そこから二枚のカードを取り出して右手に持つ銃型のドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:KICKHOPPER! KAMENRIDE:PUNCHHOPPER!』

 

 

『さあて。君のお仲間のご登場だ』

 

 

シアンのライダーはそう言って滝に銃口を向けながら銃の引き金を引くと、辺りに複数のビジョンが駆け巡り、それぞれのビジョンが重なっていくと一瞬淡く輝く。

 

 

そして光が晴れると、なんとシアンのライダーの前に二人の戦士が現れたのだ。

 

 

一人は緑色の身体に赤い瞳をしたバッタのライダーと、もう一人は灰色に白い瞳をしたバッタのライダー。そう…そのライダー達は、クウガの世界で零と優矢を苦しめたキックホッパーとパンチホッパーだったのだ。

 

 

滝「な、何だコイツ等?!」

 

 

『バッタの相手にはバッタが丁度いいだろ?さぁ、君の持つキングストーンの力を見せてもらおうか?』

 

 

滝「…ッ…何だか知らねぇが、やるんだっていうなら相手になってやる!」

 

 

滝はシアンのライダー達を睨みながらジャケットを広げてベルトを露出させ、強化スーツを身に纏った後にマスクとクラッシャーを顔に装着するとfirstに変身していった。

 

 

『フッ、そうこなくっちゃ面白くない。さぁ、始めようか!』

 

 

『ウオォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

first『チィ!デアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

シアンのライダーがホッパー'sに指で指示すると、二人は同時にfirstに向かって走り出し、firstもシアンのライダー達に向かって突っ込み戦闘を開始したのだった。

 

 



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第五章/firstの世界⑤

 

突如現れ襲い掛かってきた謎のライダー、ヴィヴィッドに追い詰められていくディケイドとsecond。ヴィヴィッドの圧倒的とも言える戦闘力に二人は防戦一方となっていた。

 

 

second『ガハァッ!グッ!クソォッ!』

 

 

ヴィヴィッド『こんなものか?お前達の力というのは?…だとしたら期待ハズレだな』

 

 

ディケイド『クッ…どうかな?まだ勝敗は決まってねぇぞ!』

 

 

ディケイドはsecondと戦うヴィヴィッドから一度距離を離し、ライドブッカーから一枚のカードを取り出してディケイドライバーに装填した。

 

 

『KAMENRIDE:CHAOS!』

 

 

電子音声と共にディケイドはカオスへと変身していき、変身を終えると共にヴィヴィッドに向かって走り出し打撃を放って攻撃していく。

 

 

ヴィヴィッド『ほう、カオスの力か。だったらその力、俺にも使わせてもらうぜ?』

 

 

Dカオス『ッ!何…?』

 

 

Dカオスがヴィヴィッドの意味ありげな言葉に動揺していると、ヴィヴィッドはDカオスとsecondから距離を取り、左手にあるタッチパネルを操作し最後に手の甲にあるボタンを叩くように押していった。

 

 

『CHAOS!TIME QUICK!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

その電子音声と共にヴィヴィッドの隣にある一人のライダーの残像が姿を現していく。そのライダーは…

 

 

ティアナ「…え?あ、あれって?!」

 

 

Dカオス『カオスの…残像だと…?』

 

 

そう、残像の正体は今のDカオスと同じ姿をしたライダー、カオスだったのだ。現れたカオスの残像はヴィヴィッドへと徐々に重なり消えていこうとしている。

 

 

Dカオス『ッ?!不味い!』

 

 

Dカオスはそれを見て何かを感じ取り急いでライドブッカーからカードを取り出し、ディケイドライバーに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

電子音声と同時にDカオスは信じられないスピードで動き出してヴィヴィッドに向かって突っ込んだ。しかし、ヴィヴィッドはDカオスの放った拳を難無く避けて反撃していく。

 

 

Dカオス『ッ!どういう事だ!お前のその力は一体…?!』

 

 

ヴィヴィッド『戦闘中にベラベラ喋ってていいのか?舌を噛んでも知らねぇぞ!』

 

 

ヴィヴィッドはDカオスの問いに答えず拳を振りかざし、Dカオスもそれを防御しながらヴィヴィッドに蹴り技を打ち込んで反撃していく。そして二人が拳を振りかざした瞬間…

 

 

『TIME OVER!』

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

Dカオス『グウゥッ!』

 

 

ヴィヴィッド『ガハァッ!』

 

 

ティアナ「―――…ッ?!零さん!?」

 

 

second『―――…ッ!?な、何だ…今のは…?』

 

 

互いのクロスカウンターが炸裂し、二人が吹っ飛ばされたと同時に互いのタイムクイックが解け、Dカオスもディケイドに戻ってしまい二人はゆっくりと身体を起こしていく。

 

 

ディケイド『はぁ…はぁ…クソッ、本当にワケの分からない能力だな…!』

 

 

ヴィヴィッド『ッ…それが俺の力だからな。何だったら、コイツの力も見せてやるよ!』

 

 

ヴィヴィッドはそう言うと自分のベルトのバックル部分に手を伸ばし、なにかを念じるようにバックル部分にあるボタンを叩いて押していった。

 

 

『SAPHIRE BLUE!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

ヴィヴィッドのベルトから電子音声が響くと、ヴィヴィッドの身体が淡い光を放ちながらライダースーツの色が変わっていく。

 

 

完全に色が変わったその姿は全身が青く光輝く姿、ヴィヴィッドのもう一つの姿である『サファイアブルー』へとフォームチェンジしたのだ。

 

 

second『色が変わった?!』

 

 

ディケイド『ッ…フォームチェンジまで持ってるのか…今度は何をしでかすつもりだ?』

 

 

ディケイドとsecondは姿の変わったヴィヴィッドを警戒して身構え、フォームチェンジを終えたヴィヴィッドは再び左手のタッチパネルを操作し、手の甲のボタンを叩くように押した。

 

 

『SUBARU!GINGA!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

タッチパネルから電子音声が響くと、ヴィヴィッドの左右両側に残像のような物が現れ徐々に実体化していき、ディケイドとティアナは実体化したそれらを見て驚愕した表情を浮かべていた。

 

 

ディケイド『あれは…スバルだと?!』

 

 

ティアナ「それにあれって…まさかギンガさん?!何であの二人が?!」

 

 

そう、ヴィヴィッドの両側に現れたのはBJを身に纏ったスバルと、スバルの姉であり零達の仲間の一人であるギンガだったのだ。現れたスバルはディケイドに、ギンガはsecondに襲い掛かり攻撃を開始した。

 

 

second『チィ!一体何なんだコイツ等は?!』

 

 

ディケイド『グッ!クッ!コイツ等…ただの幻か…!だがッ…』

 

 

secondは問題なくギンガに反撃していくが、ディケイドはただの幻とは言えスバルに攻撃するという事に気が引けてしまい防御と回避を繰り返すしか出来ず次第に押され始め、ディケイドとsecondは二人によって殴り飛ばされてしまう。

 

 

second『ウグッ!…チィ!このままじゃ埒が明かない…ッ!』

 

 

ディケイド『はぁ…はぁ…全くその通りだな…というか…正直、正面から奴に向かって行っても勝てる気が全然しねぇな…』

 

 

スバルとギンガを従わせてゆっくりと歩み寄って来るヴィヴィッドを見て、ディケイドは思わず愚痴を漏らした。確かに、相手はあのアークを圧倒した程の力を持つライダーなのだ。真っ正面から何度向かって行こうとも返り討ちに合うのは既に分かり切っている。

 

 

ディケイド『…十文字…さっきから考えていた事なんだが…此処は一度休戦して手を組まないか?』

 

 

second『断る!…と本当は言いたいところだが、どうやらそうも言ってられない状況らしいからな…いいだろう。今はお前の考えに乗ってやる』

 

 

流石にsecondもそうする事でしかこの状況を切り抜けられないと分かっているのだろう。少々嫌悪感の篭った口調でそう告げると二人は態勢を立て直し、ヴィヴィッド達に向かって素早く突撃していった。

 

 

ヴィヴィッド『成る程な。そっちも手を組んで俺を倒そうというワケか……だがッ!』

 

 

突撃してくる二人に対抗し、ヴィヴィッドもスバルとギンガに指示を送って二人に向かわせる。するとディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

電子音声が響くとイリュージョンの効果でディケイドは二人の分身を生み出し、分身した二人のディケイド達はスバルとギンガに攻撃を仕掛け戦闘を開始した。

 

 

ティアナ「れ、零さんが…三人?!」

 

 

ヴィヴィッド『…そういう事か。上手く頭を使ったじゃねぇか!』

 

 

ディケイド『そいつはどうもなぁ!』

 

 

second『ハアァァァァァァァァアッ!』

 

 

スバルとギンガを分身したディケイド達に任せ、二人はヴィヴィッドに向かって攻撃を再開した。先程とは違い、連携を取った二人の攻撃に流石のヴィヴィッドも応えているのか二人の攻撃を回避や防御しながら後退し始めていた。

 

 

ヴィヴィッド『フッ!ハッ!…中々やるようになったな。なら、こっちもコイツで勝負だ!』

 

 

ヴィヴィッドは二人の攻撃をかわして後方へと跳ぶと、再び何かを念じながらベルトのバックル部分にあるボタンを押した。

 

 

『RUBY RED!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が鳴るとヴィヴィッドの身体が淡い光を放ちながら先程と同じ赤い姿をしたルビーレッドへと戻り、それと共にディケイド達と戦っていたスバルとギンガも消えていった。

 

 

そしてフォームチェンジを終えたヴィヴィッドは左手のパネルを操作し、最後に手の甲のボタンをタッチした。

 

 

『VIVID!RUBY RED!FINALTOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が響くと、それと同時に今度はヴィヴィッドの左右両側に幾つもの残像達…平成の歴代ライダー達の残像が次々と現れていった。

 

 

ティアナ「?!ラ、ライダーの残像があんなに…?!」

 

 

ディケイド『成る程…どうやらこれで決着を付けるつもりらしいな。十文字ッ!こっちも行くぞッ!』

 

 

second『言われなくても分かっている!!』

 

 

二人はそう呼び合いながらディケイドはライドブッカーからカードを取り出してディケイドライバーに装填し、secondはポーズを取るとベルトの風車が激しく回り始めた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ディケイドライバーから電子音声が鳴り響くと、ディケイドとヴィヴィッドの間にディメンジョンフィールドが展開されていき、secondの瞳が輝くと共に二人は上空へと跳んでヴィヴィッドに跳び蹴りを放ち、ヴィヴィッドも歴代ライダーの残像達と共に跳び残像を重ねながら二人に跳び蹴りを放った。そして…

 

 

ヴィヴィッド『ハアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ディケイド『セエアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

second『ライダアァァァァキィィィィィィクッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォーーーオンッ!!!―

 

 

ティアナ「うっ!キャアァァッ?!」

 

 

ディケイドとsecondのダブルライダーキックとヴィヴィッドの必殺技、ビジョン・ライダーキックがぶつかり合い辺りに強烈な爆発とけたたましい轟音が発生し、物陰に隠れていたティアナは爆発から発生した爆風に吹っ飛ばされないように何とか耐えていく。

 

 

 

そして爆煙が少しずつ晴れていくと、其処には地面に倒れるディケイドとsecondの姿があり、ヴィヴィッドの姿はいつの間にか消えていた。

 

 

second『…ッ?!奴がいない?!』

 

 

ディケイド『ッ…どさくさに紛れて逃げやがったか。しかも…勝ち逃げかよ…』

 

 

ディケイドはふらつきながら立ち上がり脇を押さえてそう呟くと、secondも怪我をした左腕を押さえながら立ち上がった。

 

 

ディケイド『…お前はどうするつもりだ十文字。その身体でまだ俺と戦うつもりか?』

 

 

ディケイドはsecondを睨みながら問い掛けると、secondは黙って首を左右に振った。

 

 

second『こんな状態ではお前とまともに戦えない。俺の望む戦いは万全の状態での一騎打ちだ。怪我を負った今のお前に勝ったとしても、それは俺のプライドが許さない…今日のところはこれで帰らせてもらう』

 

 

secondはディケイドにそう言ってフラフラとその場から歩き出し、公園の出口へと向かっていく。が、secondはその途中で何か思い出した様に立ち止まり、ディケイドに背中を見せながら口を開いた。

 

 

second『そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。お前…名は?』

 

 

ディケイド『…零。黒月零だ』

 

 

second『零……か。ならば零、いずれお前との決着は付ける。それまでその首、お前に預けておくぞ』

 

 

secondはその言葉を残して再び歩き出し、ディケイドもsecondの姿が見えなくなったのを確認すると変身を解除し零の姿に戻っていった。

 

 

ティアナ「零さん!大丈夫でしたか?!」

 

 

零が変身を解除し終えると、物陰に隠れていたティアナが小走りで零の下へと駆け寄ってきた。

 

 

零「ティアナ…あぁ、何とか無事だ。それにしても、あのヴィヴィッドとかいう奴は何だったんだ?この間は俺達の手助けをしてくれたのに、今日は敵になって仕掛けて来たし…」

 

 

ティアナ「え…?零さん、あのライダーの事知ってたんですか?」

 

 

零「まぁ…知っているとは言ってもアイツの力と名前ぐらいだけどな。俺の力を試すとか言っていたが、奴が何者で、何が目的でそうしたのか…そこら辺については全く分からないな」

 

 

結局、あのヴィヴィッドというライダーは一体何だったのか。その事を考える零だが、どんなに考えた所で今ある情報だけでそれが分かるハズもなく、取りあえず二人は一度写真館に戻ろうとその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

あれから数十分後、零達のいた場所から少し離れた森林の中では……

 

 

「…全く。いつまで経っても帰って来ないから迎えに来てみれば、一体何をしてたのかな…?」

 

 

「いやあの…何って言われてもな…」

 

 

其処では、竹刀を片手に持った十代後半辺りの金髪の女性と、先程零達と戦ったヴィヴィッドの変身者である銀髪の青年が何故かその女性の前で冷や汗を流しながら正座する姿があった。

 

 

「私と衛に何にも言わずに家を出ていったと思えば、知らない女の子と二人っきりで何処かに出掛けて、しかも別の世界のディケイドと戦っていたなんてねぇ。随分と良いご身分じゃない…?さぞかし楽しかったでしょ?"真矢"?」

 

 

真矢「…いやあの…決してそのような事は…というか何故そんな事を知っているんだ…」

 

 

明らかに作り笑いだと分かるそれを浮かべて問いかけてくる女性の前で、真矢と呼ばれた青年はダラダラと冷や汗を流しながらも何とか弁明しようと必死に思考を巡らませていた。

 

 

真矢「……そ、それより!何でお前がこの世界にいるんだよ"ヴィヴィオ"?!」

 

 

取りあえず何か話題を変えなければと考えた真矢は、ヴィヴィオと呼ばれる女性に何故この世界にいるのか問い掛けた。

 

 

ヴィヴィオ「そんなの簡単な話しだよ?真矢と一緒にいたあの女の子…海東さんだっけ?あの子に頼んでこの世界に連れて来てもらったの」

 

 

真矢「(アイツか!!あの女かぁ!!余計な事しやがってぇぇぇぇぇ!!)」

 

 

此処にはいないあのライダーオタクのお嬢様の姿を思い浮かべて内心恨み言を吐きまくる真矢。

 

 

ヴィヴィオ「さてと…そろそろ洗いざらい吐いてもらおうか、真矢?一体今まで何処で何をしていたのか…あぁそれと、あの海東って子との関係もね?」

 

 

真矢「いや…あ、余り帰りが遅くなると衛の奴に心配掛けるんじゃ…」

 

 

ヴィヴィオ「何か文句でもあるのッ!!?」

 

 

真矢「なにもありませんッ!!」

 

 

怒髪天とはまさにこの事か。最強(自称)のライダーである真矢と言えど彼女のその怒り様に流石に怯えざるを得ないらしく、結局その後、数時間に渡る説教をさせられ彼女に謝り倒したそうな。

 

 

 

因みに余談だが、写真館に戻った零も傷だらけのまま戻ったせいで真矢と同じように正座をさせられ、ティアナと二人で何処に行き、今度は何をやらかしたのかとなのはから説教を受けて怯えていたのは全く別の話だった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、六課のヘリポートではfirstと謎のシアンのライダー達が互いに一歩も引かない激戦を繰り広げていた。

 

 

first『食らいやがれッ!雷パァァァァンチッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

『グ、グアァァァァァァアッ!?』

 

 

そんな中、firstが雷を纏った拳でパンチホッパーを殴り飛ばし、パンチホッパーは断末魔と共に爆発を起こして散っていき、firstはそれを見て怯んだキックホッパーに向かって飛び掛かり、両足に雷を纏わせて跳び蹴りを放った。

 

 

first『雷轟!!稲妻蹴りぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

 

 

『ウッ、ウオォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

firstの跳び蹴りがキックホッパーに炸裂し、それを受けたキックホッパーは吹っ飛ばされながら爆散していった。firstはそれを確認すると、今度はシアンのライダーへと視線を移して身構えていく。

 

 

『ほう、中々やるじゃないか。流石はfirst…いや、キングストーンの力だね』

 

 

first『ッ…お前…何故キングストーンの事を知っている?というか、お前はこの石をどうするつもりだ?』

 

 

『…キングストーン…またの名を太陽の石。秘密結社ゴルゴムが世紀王の証として、仮面ライダーBLACKに与えたとても貴重なお宝だ』

 

 

first『…ゴルゴム?BLACK?世紀王?…お宝って何の事だ?』

 

 

『君が知る必要のない事さ。ただ、君の持っているキングストーンはBLACKのキングストーンよりも遥かに価値が大きい。だから俺は、君がキングストーンをどれほど扱えるのか試していた、といったところさ……だけど』

 

 

シアンのライダーはそこで一度言葉を途切ると、左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出す。firstはそれを見て警戒し、少し後退した。

 

 

『どうやら、君の持ってるキングストーンはまだ完全ではないようだ。君の持つキングストーンが完全に覚醒し、君が最強の力を手に入れたその時にまた来るよ。それまでそのお宝を誰にも渡さないでくれよ?』

 

 

first『キングストーンの…最強の力だと?どういう意味だそれは?!』

 

 

firstは意味ありげな言葉を言い放つシアンのライダーからその意味を聞き出そうとするが、シアンのライダーは何も答えず取り出したカードを銃型のドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『ATTACRIDE:INVISIBLE!』

 

 

電子音声と共に、シアンのライダーの姿が周りの景色に溶け込むように消えていった。

 

 

first『お、おい?!待てよ!まだ話は終わってねぇだろ!?』

 

 

姿の消えたシアンのライダーに向けて辺りを見回しながら叫ぶfirstだが、それに答える声は返ってこず、ただfirstの放った叫び声が建物に反射されて返って来るだけだった。

 

 

first『ッ…なんなんだアイツは…キングストーンの最強の力って…何だ?』

 

 

ヘリポートに一人残されたfirstはただ呆然と立ち尽くし、暫くの間、その場でシアンのライダーが残した言葉の意味を考えていた……。

 

 

 



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第五章/firstの世界⑥

 

―光写真館―

 

 

先程の出来事から数時間後、あれからなのはの説教という名の拷問を受けていた零は公園で起きた出来事を説明して何とか無事に事を治めた。そしてなのは達がそれぞれ部屋で休んだ後に、零は一人部屋に残っていた。

 

 

零「ハァ…全く、本当に容赦ねぇなアイツは…」

 

 

部屋に残った零は部屋の窓を開いて腰を掛け、疲れたように溜め息を吐きながら夜のミッドの街並みを眺めていた。すると、部屋の奥からリンゴを持ったチンクが姿を現し、零に歩み寄ってリンゴを投げ渡して来た。

 

 

チンク「随分と疲れているようだな。あまり溜め息ばかり吐いていると、幸せが逃げていくらしいぞ?」

 

 

零「チンク…まだ起きてたのか?…心配してもらって悪いが、今はそんな事を気に掛けてる余裕はないんでな…」

 

 

チンクから投げ渡されたリンゴを一口かじりながら再び溜め息混じりで話す零。チンクはそんな零の隣に腰を下ろすと、同じように窓からミッドを眺めた。

 

 

チンク「……どうも元気がないようだな。何か考え事か?」

 

 

零「…感が鋭いな…さっきの事がどうしても頭から離れないんだよ」

 

 

チンク「さっき?…どっちの方だ?高町なのはの説教か?それともお前に襲い掛かってきたヴィヴィッドというライダーの事か?」

 

 

零「……前者の方はあまり思い出したくないから出来れば触れないでくれ……あのヴィヴィッドって奴の事だ。アイツが一体何者なのかどうしても気になってな。ついでに、奴が敵か味方なのか…そこの所も気になってる…」

 

 

チンク「…まぁ、ドクターとの戦いで私達を助けてくれたのはそのライダーだからな…正直に言えば、私の方も少し気にはなっている…」

 

 

何処か複雑そうな表情をして呟くチンクの言葉を零は黙って聞きながらリンゴをかじる。チンクの言う通り、零達は前の世界での決戦であのライダーに助けられた。それが今度は敵として現れたとなると憂鬱な気分にもなってしまうだろう。二人はそんな事を考えながら窓の景色を眺めていると…

 

 

チンク「……ん?おい黒月。あれは一体何だ?」

 

 

零「?何だ?……あれは……煙りか?」

 

 

チンクが疑問げに言いながら指を差した方を見て、零は首を傾げた。二人の目に止まった光景とは、ミッドの街の一角から黒い煙りのようなものが発生していたものだった。二人はそれに疑問を浮かべ、気になってその煙りが発生している場所を確かめようと目を細めた。その時…

 

 

―………ドゴオォォォォオンッ!!ドゴオォォォォオンッ!!ズドオォォォォオンッ!!―

 

 

チンク「ッ?!なっ?!」

 

 

零「なんだ、あれは!?」

 

 

突如、街中で巨大な爆発が発生し、それと同時に街の住民達が悲鳴を上げた声が聞こえてきたのだ。二人はそれを見て思わず身を乗り出し、その光景に驚愕して呆然としていたのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一方その頃、機動六課では滝とこの世界のフェイトが食堂でコーヒーを飲みながら難しそうな顔である議題について話していた。その議題とは勿論、あの模擬戦の件についてである。

 

 

滝「――それで…なのはの方も元気がないのか?」

 

 

フェイト「うん…仕事してる時にも溜め息ばっかりだし…少し落ち込んでるようにも見えるんだよね…」

 

 

滝「そうか…どうしたもんかな…」

 

 

そこで会話が途切れると、二人の間に重苦しい空気が流れ出した。滝はどうやってなのは達を元気付けるか頭を悩ませ、フェイトも自分の親友をどうやって慰めるべきかいい考えが思い付かず暗い表情を浮かべていた。そんな時…

 

 

カツラ「滝!此処にいたのか!?」

 

 

滝「…ヅラ?どうしたんだよそんなに慌てて…?」

 

 

カツラ「ヅラじゃない!カツラだ!…ってそれどころじゃなかった。急いで出るぞ!ミッドの第4エリアにショッカーが出たらしい!」

 

 

滝「ッ!…分かった、出るぞヅラ!」

 

 

フェイト「え?!ま、待って滝!まだ身体の怪我が治ってないんでしょ?!そんな身体じゃ…!」

 

 

滝「少なくとも今の六課メンバーよりもマシだ!!」

 

 

フェイト「…ッ!」

 

 

怪我をした状態のまま出撃しようとする滝を止めようとするフェイトだが、滝に強気で言われて顔を俯かせてしまう。滝はそんなフェイトに近づき、肩に手を乗せ喋り出す。

 

 

滝「フェイトはなのはやスバル達を頼む…立ち直るには時間が掛かるだろうから…それまでは、俺が戦う!」

 

 

そう言ってフェイトの肩を軽く叩くと、滝はショッカーの現れたミッド第4エリアに向かう為に走り去っていった。

 

 

フェイト「…滝…」

 

 

残されたフェイトは走って行った滝の背中が見えなくなるまで、その場で立ち尽くしていた。

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

―光写真館―

 

 

滝が出撃してから数十分後。写真館では零とチンク、そして先程の爆音で目が覚めたなのは達は部屋に集まりテレビで中継されているニュースを見ていた。

 

 

『現在、ミッド第4エリアにてショッカーと管理局所属の魔導師部隊が戦闘を開始しました。付近の住民の皆さんは十分に気をつけ、すぐに避難を開始し――』

 

 

なのは「こんな時にまたショッカーが…!」

 

 

ディード「しかも、第4エリアと言うとこの写真館のすぐ近くですね…」

 

 

零「まったく…こんな夜中にいきなり攻め込んでくるとはな。少しは近所迷惑というのも考えてほしいぞ…」

 

 

チンク「全くだな」

 

 

スバル「いや、悪の組織の人達にそんな事言っても多分通用しないんじゃ…」

 

 

欠伸をしながら迷惑そうに愚痴る零とチンクにスバルが苦笑いをしながら真っ当な意見を口にする。その時…

 

 

―ガチャアァンッ!―

 

 

カツラ「零ッ!まだ起きているか!?」

 

 

突然撮影スタジアムの扉が勢いよく開き、カツラが焦った様子で部屋の中へと入って来た。

 

 

零「カツラ?どうしたんだ、そんなに血相を変えて?」

 

 

カツラ「はぁ…はぁ…お前に頼みがある!今すぐ俺と一緒に来てくれ!滝が一人でショッカーと戦いに行ってるんだ!」

 

 

ティアナ「えっ?!で、でも確か、まだ滝さんの怪我は完治してないハズじゃ…」

 

 

零「…なるほどな。大方、六課にいるなのは達が立ち直るまで自分が代わりに戦う…とでも言ったんだろ…あの馬鹿が…」

 

 

カツラの様子から何があったのかすぐに状況を理解し、零は頭を抱えたい衝動に駆られながらもソファーに置いておいたコートを手に取り部屋を出ようとする。

 

 

なのは「!待って零君ッ!行くんだったら私も行くよ!」

 

 

優矢「そうだ零ッ!俺達も何か手伝いを…!」

 

 

零「いや、お前達は此処に残れ。ショッカーがこの近くにいるのなら、こっち方面にも仕掛けて来る可能性が高い。その時に皆を守れるのはお前達だけだからな。写真館を頼む。……カツラ!道案内頼んだぞ!」

 

 

カツラ「分かった!こっちだ!」

 

 

零はなのは達にそう伝えると、カツラと共に光写真館を飛び出しミッド第4エリアへと向かって行った。

 

 

なのは「…零君…」

 

 

写真館に残った一同は零達が出ていった扉を心配そうに見つめると、テレビに今も流れるショッカーが街を破壊するニュース映像に不安げに視線を移した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

その頃、ミッド第4エリアにあるとあるビルの屋上では、真矢が地上で暴れ回っているショッカー達を静かに見下ろしていた。

 

 

真矢「随分ぞろぞろと出てきやがったな、ショッカーの奴ら。ヴィヴィオは民間人の避難をしてくれてるし、魔導師達はショッカーを押さえてくれてるが…肝心のディケイドとfirstはまだ来ていないのか?…仕方ないな」

 

 

真矢は街を破壊して回るショッカー達を眺めながら呟くと、左手に持つヴィヴィッドライバーを腰に装着し変身ポーズを構えた。

 

 

真矢「こっちはヴィヴィオに嫌ってほど絞られたし、聖王様がまたお怒りにならないように俺もマジで行かないとな…変身ッ!」

 

 

真矢は高らかに叫びながらベルトのボタンを押すと、周りに現れた赤いアーマーが真矢に装着されていき、真矢はヴィヴィッドに変身していった。そして、変身を完了したヴィヴィッドは一度右肩を二、三度回すと鉄製の手摺りを軽々と飛び越え、ビルの屋上から遥か地上へと降下していったのだった。

 

 

 

 

 



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第五章/firstの世界⑦

 

 

ヴィヴィッドが参戦したその頃、件のミッド第4エリアでは大量に現れたショッカーの戦闘員達が手当たり次第に街を破壊し、出撃した魔導師の小隊は何とかショッカーに対抗しようとするがやはりショッカーの戦闘力に及ぶ事が出来ず、せめて民間人の避難が完了するまではと防衛戦を行っていた。

 

 

「クッ……!民間人の避難はまだ終わらないのか?!」

 

 

「今のところはまだ、半分以上の住民がこのエリアに残されているようです!避難が完了までは、もう少し時間が掛かるかと…!」

 

 

「ッ…分かった…何としても奴らを此処で抑えるんだ!民間人の避難が完了するまで何がなんでも持ち堪えろ!」

 

 

『了解ッ!』

 

 

迫り来るショッカー達の進行に圧されながらも魔導師達は市民の避難が完了するまではと、デバイスを構えて戦闘員達に攻撃を繰り返していく。その時…

 

 

first『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおーーーー!!!』

 

 

―ブオォォォォォォオンッ!!ドゴオォォッ!!―

 

 

『イィーーーーッ!!?』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如、魔導師達の後ろから一台のバイクが飛び出し、魔導師達の迎撃を掻い潜り接近しようしていた前線のショッカーの戦闘員達を纏めて跳ね飛ばしていった。

 

 

そしてそのバイクに跨る戦士……firstに変身した滝は魔導師達に視線を向ける。

 

 

first『あんた達、全員無事か!?』

 

 

「か…仮面ライダー…?!」

 

 

first『…どうやら負傷者はいないみたいだな。まだ動けるなら、あんた達は下がって市民の避難を急いでくれ!此処は俺が受け持つ!』

 

 

「う、受け持つって…た、隊長…どうしますか…?」

 

 

 

firstからの申し出に隊員の一人が小隊のリーダーである魔導師に戸惑い気味に指示を仰ぐ。そして隊長と呼ばれた魔導師は何か考えるように顎に手を当て…

 

 

「……すまないライダー、此処は任せた……!我々は下がるぞ!取り残された住民の誘導、怪我人の発見及び救助を最優先だ!急げ!」

 

 

『ハッ!』

 

 

隊長の指示が響くと、隊員達は一斉にその場から動き出し、民間人の誘導と怪我人の発見の為に行動を開始した。firstはそれを確認すると、前方に視線を向けて次々と現れる戦闘員達を迎え撃とうとした。その時…

 

 

「…ほう…漸く現れたな、仮面ライダー」

 

 

first『?』

 

 

不意に戦闘員達の後ろから、亀の甲羅をモチーフにしたかのような強化スーツを身に纏った中年程の歳の男が現れfirstの前に立ちはだかった。

 

 

first『…お前か?コイツ等を従えてミッドを攻撃している怪人ってのは?』

 

 

「フフフ…そう、お前が来るのを待っていたぞ、仮面ライダー…今日こそお前のその命、我々ショッカーが頂かせてもらう!!」

 

 

first『はぁ……その台詞はもう聞き飽きてんだよ。ついでに今はお前達に構っている暇もない……悪いが、さっさと決着を付けさせてもらうぜ!!』

 

 

firstはそう言ってバイクのスロットルを回して男に向かって突っ込んでいく。だが、男は特に焦った様子を見せずに何処からか亀のような形をした重厚のマスクを取り出し頭に被ると、男は亀を模した改造人間、タートルとなるが、firstは構わず猛スピードのバイクでタートルに突撃しようとした。だが…

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

first『ッ!?な、何…!?』

 

 

『クックック…残念だったなぁ!!』

 

 

なんと、タートルはfirstのバイクによる突撃を正面から軽々と受け止めてしまったのだ。更にそれだけで終わらず、タートルは動揺するfirstを裏拳で殴り付けてバイクごと殴り飛ばしてしまった。

 

 

first『ガハッ!ク…クソッ!』

 

 

『クックックッ…無駄だ!その程度の衝撃では儂の甲羅は砕けんわ!』

 

 

first『ッ…ならコイツでどうだ!雷パァァァァンチッ!!』

 

 

firstは高笑いを上げるタートルに向かって飛び掛かり、雷の纏った拳でタートルに殴り掛かった。が…

 

 

―ガゴオォンッ!!―

 

 

first『グッ!?反された?!』

 

 

『だから無駄だと言っているだろう!!』

 

 

―ドゴオォォォォッ!!―

 

 

first『ウグァッ!?』

 

 

タートルは意図も容易くfirstの拳を跳ね退け、firstが怯んだ隙を突いてカウンターを打ち込みfirstを再び吹っ飛ばしていった。

 

 

first『グゥッ!ま、まだだ…こんな事で…!』

 

 

『フフフ…無駄な悪あがきをするな。お前がどれだけ足掻こうとも儂を倒せんし、例え儂を倒せたとしても、ミッドはどの道壊滅するのだからな』

 

 

first『…なに?どういう意味だそれは?!』

 

 

不気味な笑みと共に意味深な発言をするタートルに向かってfirstが問い詰めると、タートルは笑みを浮かべたまま答える。

 

 

『今回の作戦は今までとは一味違う。今ごろは、違うルートから儂等の仲間がミッドに攻撃を仕掛けているハズだ。お前が儂を倒そうとも、その頃には既にミッドは我々の手に落ちているであろう!』

 

 

first『なん…だと?!』

 

 

つまり今回のショッカーの作戦とは、物量による多方面からのミッド同時襲撃。タートルから告げられた作戦内容に、firstは愕然とした顔を浮かべ仮面越しに一筋の汗を流した。

 

 

『さぁ、此処からが本当のお楽しみだ!ミッドも、そしてお前の命も今日ここで終わるのだぁ!』

 

 

『イィーーーーッ!』

 

 

first『ッ!勝手に終わらせてんじゃねぇよっ、クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

タートルから聞かされた作戦に呆然としていたfirstだが、向かって来る戦闘員達の姿を視界に捉えて我に返り、とにかく早く決着を付けなければと焦りを感じながらもタートル達に向かって突っ込んで行ったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

零「はぁ…はぁ…おいヅラッ!本当に滝はこっちの方にいるのか?!」

 

 

カツラ「ヅラじゃないカツラだ!確かにさっきこの辺りで滝と別れた…こっちの方で間違いないハズだ!」

 

 

同時刻、第4エリアに到着した零とカツラは紅蓮の炎に包まれる街の中を駆け抜けていあ。辺りの建物は崩れ落ち、立ち込める煙りで目が染みるが、そんな事はお構い無しにと二人は全力疾走で滝の所に向かっていた。だが…

 

 

『イィーーーーッ!』

 

 

カツラ「ッ?!戦闘員?!」

 

 

突然二人の目の前に複数の戦闘員達が立ちはだかり、更に後ろの方にも戦闘員達が現れ四方八方を完全に防がれてしまい、戦闘員達はジリジリと二人に近づいて来る。

 

 

零「チィ!この急いでいる時に…邪魔をするな全身黒タイツの変態共が!」

 

 

カツラ「そう言ったところですんなり道を開ける連中ではないさ…来るぞ!」

 

 

『イィーーーーッ!』

 

 

カツラが自身のデバイス、スピリットを起動させたと同時に戦闘員達が一斉に襲い掛かって来た。カツラはスピリットで戦闘員を薙ぎ倒し、零は戦闘員達を殴り倒しながら懐からディケイドライバーを取り出し腰に装着しようとする。だが…

 

 

零「フッ!ハァッ!……?!おい、待てカツラ!あそこに人がいるぞ?!」

 

 

カツラ「ッ?!なに?!」

 

 

零がディケイドライバーを装着しようとした時に、偶然民間人と思われる十代ぐらいの女性が半壊した建物の壁にもたれ掛かっている姿を見つけた。零とカツラは慌てて戦闘員達を払い退けて、その女性の下に駆け寄った。

 

 

零「おい!しっかりしろ!無事か?!」

 

 

「!…あ、あなた達は…?」

 

 

カツラ「時空管理局の者です!何処かお怪我は?!」

 

 

「だ…大丈夫です…あの、私、シェルターに向かう途中にショッカーを見付けて隠れてて、それで…」

 

 

零「話しは後だ!取り敢えず、動けるなら早く走って逃げ『イーッ!』…ッ?!」

 

 

酷く怯えきった様子の女性に早く逃げるように促す零だが、それを許さんと言わんばかりに戦闘員達が零達を取り囲み、逃げ道を封じられてしまう。

 

 

カツラ「くっ!こっちは先を急いでいるんだ!邪魔をするんじゃない!」

 

 

零「…仕方ない…カツラ!俺がコイツ等を引き付ける!その間にお前はこの人を連れて写真館に……ん?」

 

 

零はカツラを横目に女性を連れて逃げるように指示しようとするが、目の前に視線を戻した時にあるものを発見した。

 

 

 

戦闘員達の一番後ろ……ボサホザの髪にボロボロの服を着た猫背の青年が顔を俯かせて、いつの間にかそこに立っていたのだ。

 

 

零「あれは……?」

 

 

カツラ「ッ?!まだ民間人が…!?そこの君!此処は今危険だ!早く逃げろッ!」

 

 

カツラは焦った様子で青年に早く逃げるように叫ぶが、青年はその場から一歩も動こうとせず、ただゆっくりと顔を上げ、虚ろな瞳で零達に喋り掛けた。

 

 

「…なァ…オれは一体…誰ナんだヨ…?」

 

 

零「……なに?」

 

 

カツラ「何を言っているんだ?いいから早く逃げろと―――!」

 

 

「ダから…教えテくレヨ…俺ハ…一体誰ナンだよォォォぉぉォォぉォォォォォぉおッ!!!?」

 

 

『ッ?!』

 

 

突如、青年は天を仰ぎながら叫び出し、それと共に青年から全身を突き刺すような禍禍しいオーラが放たれ、同時に発生した衝撃波に圧倒され零とカツラは思わず数歩後ずさった。

 

 

そして、獣のような雄叫びを上げ続ける青年の姿が徐々に変化し始め、まるでサーベルタイガーを思わせるかのような異形の姿へと変化していった。

 

 

『グオォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

「ヒッ…?!」

 

 

カツラ「な、なんだアイツは?!」

 

 

零「姿を変えた…?あれは…改造人間じゃない?!」

 

 

二人が姿を変えた怪人を見て驚いていると、怪人は獣のような雄叫びを上げならショッカーの戦闘員達の頭上を飛び越えて零達に襲い掛かり、鋭い爪を振りかざしてきた。

 

 

零「ッ!危ないッ!」

 

 

「キャアッ?!」

 

 

―ドゴオォォォッ!!―

 

 

零とカツラは女性を連れて怪人の爪を何とかかわし、目標から外れた爪はそのまま零達の後ろに建っていた建物の壁を突き破った。

 

 

『グゥゥゥッ!グオォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

―ズバアァンッ!ズバアァンッ!ズバアァアンッ!―

 

 

『イーーーーッ?!!』

 

 

カツラ「?!アイツ、戦闘員達を…!?」

 

 

零「チッ、どうなってるんだ!アイツはショッカーの仲間じゃないのか?!…とにかく、このまま奴を放っておく訳には行かねぇな…」

 

 

まるで八つ当たりのように、今度は戦闘員達を標的に獣のように飛び掛り次々斬り裂いていく怪人を睨みながら零はディケイドライバーを腰に装着し、ディケイドのカードを取り出して変身しようとする。だがその時…

 

 

 

―ブオォォォォォォオンッ!!―

 

 

 

『……ッ?!―ドゴオォッ!!―グオアァッ!?』

 

 

『!?』

 

 

突如何処から一台のバイクがその場に駆け付け、そのまま怪人に飛び掛かり跳ね飛ばしていったのだ。怪人はその衝撃で建物の壁際まで吹っ飛ばされ、零とカツラは突然の出来事に驚きながらも現れたバイクに乗っている人物に目を向けると、零はその人物を見て目を見開き再び驚いた。何故なら…

 

 

零「お、お前は…」

 

 

 

ヴィヴィッド『──よぉ、さっきぶりだなディケイド。また会うことになるなんて…奇遇だな?』

 

 

 

そう、零達の目の前に現れたのは零が戦ったあの赤い戦士…ヴィヴィッドだったのだ。ヴィヴィッドは零に向けて片手を上げなら軽く挨拶し、ゆっくりとバイクから降りると吹っ飛ばされた怪人に視線を移した。

 

 

『グウゥゥゥゥゥゥッ!』

 

 

ヴィヴィッド『なるほど…"リヴァーサス"か。まさかこの世界にまで来てたとはな。全く、この世界に来てからというもの予想外の事ばかり起きる…』

 

 

カツラ「…リヴァーサス?どういう事だ…あの怪人の事を知ってるのか?」

 

 

ヴィヴィッド『知ってるというか、まぁ、アイツは俺達の世界で好き勝手やってる人類の敵だ。ま、アンタんとこのショッカーみたいなもんって言えば、分かるか?』

 

 

目の前に立つ怪人……リヴァースについてのカツラの疑問に軽く説明するヴィヴィッドだが、零はリヴァースではなくヴィヴィッドを警戒し睨みつけていた。

 

 

零「お前…一体どういう風の吹き回しだ?」

 

 

ヴィヴィッド『別にどうもしない…俺はただある女に言われて街を襲うショッカー共を片付けてるだけだ。それ以外に目的なんてねぇよ』

 

 

零「その話しを信じろと?随分と虫がいいな…悪いが俺は、いきなり有無も言わさず襲ってくるような奴の話しを鵜呑みにする程お人好しじゃないぞ」

 

 

ヴィヴィッド『信じる信じないはお前が勝手に決めればいいさ。だが、コイツは俺が片付けさせてもらう…お前もさっさと自分の役目を果たしに行ったらどうだ?』

 

 

零「………」

 

 

背中を見せながら話すヴィヴィッドの言葉に零は口を閉ざし、一度何かを考え込むような仕種を見せると女性の方に振り返り……

 

 

零「……あんた、ここから一人で歩いて行けるか?」

 

 

カツラ「零…?」

 

 

「え?あの…はい、何とか…」

 

 

零「そうか……ならこの先に光写真館って名前の写真館がある。そこにいる奴らに、黒月零っていう奴に言われて此処に来たって言えば匿ってくれるハズだ。早く行け」

 

 

「あ、は、はい…!あの…ありがとうございました!」

 

 

女性は一度零達に向けて深々と頭を下げると零が指さした方角の光写真館に向かって走り出し、零はそれを確認するとその場からゆっくりと歩き出し…

 

 

零「……お前にはまだ言いたい事や聞きたい事が山ほどある。だから、礼は全部終わってからだ……行くぞカツラ!」

 

 

カツラ「あ、あぁ…!」

 

 

零はヴィヴィッドに向けてそう言うと、カツラと共に滝が戦っている場所へと向かっていき、ヴィヴィッドはそれを横目で確認すると「フッ…」と含み笑い、目の前のサーベルタイガーを思わせるリヴァース……サーベルリヴァーサスを鋭い視線で睨みつけた。

 

 

『グルルルルッ…!』

 

 

ヴィヴィッド『それじゃあ、こっちもヴィヴィオが戻って来る前に早く終わらせないとな!』

 

 

ヴィヴィッドはそう言ってその場で一回転し、サーベルリヴァーサスに向けて指を差した。

 

 

ヴィヴィッド『さぁ、ステージの開演だ。その目に焼きつけろ!』

 

 

『グウゥゥゥゥッ!グオォォォォォォォオッ!!!』

 

 

ヴィヴィッドがそう言うと共にサーベルリヴァーサスが先手必勝と言わんばかりにヴィヴィッドに向かって飛び掛かり、ヴィヴィッドはサーベルリヴァーサスの爪を足蹴で払い除けながら反撃を開始していったのだった。

 

 

 



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第五章/firstの世界⑧

 

 

―ドゴオォッ!ドゴオォッ!ドゴオォッ!―

 

 

first『ガハァッ!グアァッ!』

 

 

タートルとの戦闘を開始してから数十分が経った今、firstはタートルの強烈な打撃技を受け続け押され始めていた。攻撃を受け続けた為か、firstの強化スーツは所々ボロボロとなっており、マスクも既に傷だらけとなっている。だが、そんな状態になっているにも関わらずfirstは何度も立ち上がり怯む事なくタートルに立ち向かっていた。

 

 

first『はぁ……はぁ……まだだ…まだ…俺は…!』

 

 

『チッ、鬱陶しい奴め…!いい加減地獄に堕ちろおぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォオッ!!―

 

 

first『グアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

タートルはfirstを横殴りに殴り付け、firstはそれをかわす事も出来ずもろに受けてしまい、更にその衝撃でマスクが弾け飛び、変身も解けて吹っ飛ばされてしまった。

 

 

滝「うっ…ぐぅっ…!」

 

 

『ハハハハハハッ!これで貴様も終わりだな!所詮貴様のような裏切り者が、我々ショッカーに歯向かう事こそ無謀だったのだ!』

 

 

タートルは勝ち誇ったように高笑い、地面に倒れ込む滝にゆっくりと近づき、滝の首を掴んで建物の壁に押し付けると上へ上へと持ち上げ首を締めていく。

 

 

滝「アッ…ガアァッ!」

 

 

『ショッカーは裏切り者を決して許さない。だが、貴様がショッカーに戻ってくるというのなら命は助けてやる。我々の下に戻り、ショッカーの為にその身を捧げろ!』

 

 

タートルは滝に向けて自分達ショッカーの下に戻って来いと脅迫してくる。だが、滝がそんな事に首を振るハズもなく……

 

 

滝「こと…わるッ!前にも言ったハズだ…!俺は…俺から全てを奪ったショッカーを許さない!これ以上…お前達なんかに…俺の大切なものを奪われてたまるかぁ…!」

 

 

『…それがお前の答えか…ならば……死ねぇ!』

 

 

―ギリリ…ッ!―

 

 

滝「アッ…グッ…カハッ…!」

 

 

自分の与えた最後のチャンスを拒否されたタートルは、滝の首を掴む手に力を込めていく。首を締められ意識が朦朧とし始めてきた滝は、自分は此処で終わるのか?と一瞬諦めてしまい、心の中で自分の仲間や家族達に謝罪し、ゆっくりと瞼を閉じて意識を手放していく。その時……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガァッ!―

 

 

『っ?!グアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

滝「……ッ?!な、何だ…?」

 

 

突如、滝の首を掴んでいたタートルが真横からの銃弾を受けて吹っ飛んでいき、それによってタートルから解放された滝は何度か咳き込み、状況が理解出来ないままその銃弾が放たれた方を見た。そこには…

 

 

零「──やれやれ…また随分と無茶をしたな、滝」

 

 

滝「れ、零?!ヅラ?!お前等なんで?!」

 

 

滝の視線の先にいたのは、ライドブッカーGモードを持って構える零と、デバイスを構えて立つカツラだったのだ。滝が二人を見て驚いていると、零は自分の足下に落ちているマスクを拾い滝に歩み寄る。

 

 

零「ヅラが俺の所に来てな…滝を助けて欲しいって言って来たんだよ」

 

 

カツラ「ヅラじゃないカツラだ!今の滝では辛いだろうと思ってな…」

 

 

滝「お前等…すまない」

 

 

滝は零とカツラに感謝の意を込めて頭を下げる。が、その時吹っ飛ばされたタートルが立ち上がり、鋭い視線で零達を睨みつけてきた。

 

 

『グゥッ…ラットの残したデータにあったライダーか…だが、どんなに仲間を増やそうとも儂には勝てん!貴様等のような貧弱な奴らがどんなに集まろうが、我々ショッカーには決して敵わんのだ!』

 

 

タートルは自信に満ちた口調で高らかに叫ぶ。だが、零はそんなタートルを睨みながら口を開いた。

 

 

零「勘違いするな。俺の助けがなくとも、滝一人でも戦える。だが滝は…家族や仲間が悩んでいる事を一緒に背負っている…そして家族や仲間に考える時間を与える為に…悩んでいるそいつ等が答えを出すまで戦い続ける…自分の身に無茶をしてまでな」

 

 

『…なんだと…?』

 

 

零「それに、コイツは決して弱くなんてない。コイツは自分の身体をお前達に好き勝手に弄られ、自分の過去を失おうとも、誰かの為に必死に戦おうとしている!その決意を持つ滝は…誰よりも…俺よりも…お前達よりも強い最高のライダーだ!一番弱いのは…自分の意思で動かず、ただ言われるがまま組織の命令にしか従わないお前達の方だ!」

 

 

『き、貴様ぁ…ッ!』

 

 

滝「…零…」

 

 

零「そして、お前も忘れるなよ滝。お前もまた、心配される側の人間なんだからな」

 

 

カツラ「六課の人間に限らず、皆お前の心配をしているんだ。…その事を忘れるな?」

 

 

滝「…ああ…!」

 

 

零から投げ渡されたマスクを受け取りながら、滝は何処か吹っ切れた表情で頷いた。そしてそれに応えるかのように、零のライドブッカーからfirstの三枚のカードが飛び出し、零がそれらをキャッチすると、シルエットだけだったカードに絵柄が浮かび上がっていった。

 

 

『貴様、一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!滝、行くぞ!」

 

 

滝「おう!」

 

 

零は滝に呼び掛けながら取り出したディケイドライバーを腰に装着してディケイドのカードを構え、滝はジャケットを広げてベルトを露出させた。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

掛け声を重ね、零はディケイドライバーにディケイドのカードを装填してディケイドに変身し、滝は強化スーツを身に纏い、顔にマスクとクラッシャーを装着し、firstへと変身していった。

 

 

『チィ、小賢しい奴等め……!ならば貴様等纏めて捻り潰すまでだ!来い、戦闘員達よ!』

 

 

『イーーーーッ!』

 

 

タートルが高らかに叫ぶと、何処からか戦闘員達が現れディケイド達に向かって襲い掛かって来た。

 

 

カツラ「二人共、雑魚共を俺が片付ける!お前達は奴を頼んだ!」

 

 

first『あぁ、任せたぜヅラ!…零!』

 

 

ディケイド『分かってる、行くぞ!』

 

 

三人はそう呼び掛け合うとカツラは戦闘員達と、ディケイドとfirstはタートルに向かって突っ込み戦闘を開始していった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、サーベルリヴァーサスと戦闘を開始したヴィヴィッドは…

 

 

『グオォォォォォオッ!』

 

 

ヴィヴィッド『甘いんだよ!ハアァッ!』

 

 

サーベルリヴァーサスの放つ爪を軽々とかわし、打撃を放って反撃するヴィヴィッド。そしてある程度ダメージを与えたヴィヴィッドはサーベルリヴァーサスを蹴り飛ばし、左手のパネルを操作して最後に手の甲のボタンを叩くように押していった。

 

 

『FIRST!ELECTRO FIRE!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にヴィヴィッドの隣に一人のライダーの残像、滝が変身するのと同じfirstの残像が現れ、firstの残像がヴィヴィッドと重なって消えていくと、ヴィヴィッドの右手に雷が集束し始めた。

 

 

ヴィヴィッド『こいつは少し痺れるぜ?エレクトロファイヤアァァァァァァアッ!!』

 

 

―バチバチッ…ズドオォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『グッ?!グオォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

ヴィヴィッドが地面に拳を叩き付けた同時にサーベルリヴァーサスに強烈な電撃が襲い掛かり、サーベルリヴァーサスはそれを受けて身体が痺れてしまい満足に身体が動かなくなった。

 

 

ヴィヴィッド『まだ終わらねぇぞ?更に追撃だ!』

 

 

ヴィヴィッドはそう言って再び左手のタッチパネルを操作し、手の甲のボタンを叩いて押した。

 

 

『RYUKI!STRIKEVENT!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が響くと再びヴィヴィッドの隣にライダーの残像、龍騎の残像が現れ、ヴィヴィッドと重なって消えていく。それと共にヴィヴィッドの右手に龍騎の武器の一つ、ドラグクローが装着されてドラグクローの口に炎が集束されていく。

 

 

ヴィヴィッド『そら!丸焼きだぁ!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥウッ!!!―

 

 

『ウグアァァァァ!?』

 

 

突き出したドラグクローから放たれた火炎放射がサーベルリヴァーサスに直撃し、サーベルリヴァーサスはそれに耐え切れずに吹っ飛ばされ建物の壁に叩き付けられた。

 

 

『グゥ…!オ…オレ…オレハ…オレハイッタイ…オレハイッタイダレナンダアァァァァァァアッ!』

 

 

ヴィヴィッド『…自分が誰なのか忘れてるのか…お前の気持ちは分からないでもないが、だからと言って街を壊させるワケにはいかないんでな……悪いがこれで終わらせてもらう!』

 

 

ヴィヴィッドはそう言って左手のタッチパネルを再び操作し最後に手の甲のボタンをタッチして押していった。

 

 

『NMBERZU!STARDUST BRAKE!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が響くと、今度はヴィヴィッドの隣に一人の黒いライダー、魔界城の世界でヴィヴィオが変身したナンバーズの残像が現れ、残像がヴィヴィッドと重なって消えていくと共にヴィヴィットの両足が虹色に輝き出し、上空へと高々と跳んでサーベルリヴァーサスに飛び蹴りを放った。

 

 

ヴィヴィッド『デアァァァァァァァァァアーーーーッ!!!』

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォォォオーーーーッ!!?』

 

 

―ズドオォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ヴィヴィッドのスターダストブレイクがサーベルリヴァーサスに見事に決まり、サーベルリヴァーサスはそれを受けて吹っ飛ばされ身体から電流を噴き出しながら断末魔を上げ爆発していったのだった。

 

 

ヴィヴィッド『ふぅ。何とか片付いたか…にしても、何でfirstの世界にリヴァーサスがいたんだろうな……』

 

 

両手を払いながら爆煙を見つめて疑問そうに呟くヴィヴィッド。その時…

 

 

「…なるほど…やはり彼では力不足だったようですね」

 

 

ヴィヴィッド『ッ?!』

 

 

不意に背後から声が聞こえ、ヴィヴィッドはすぐさま後ろに振り返ると其処にはいつの間にか一人の人物がハイウェイの中心に立ってヴィヴィッドをジッと見つめていた。声や体格からして恐らく男かと思われる。ヴィヴィッドは突然現れた男を警戒し身構えていく。

 

 

ヴィヴィッド『お前…誰だ…?』

 

 

「フフフ…そんな警戒しないでください。私はただ、ディケイドの物語を壊しに来ただけ……まぁ、気軽に"シャドウ"とでも呼んで下さい」

 

 

ヴィヴィッド『シャドウ?…というか、今ディケイドの物語を壊しに来たって言ったな?どういう意味だ?』

 

 

ヴィヴィッドは鋭い視線でシャドウと名乗る男を睨むが、シャドウはただクスクスと怪しい笑みを浮かべているだけだった。

 

 

シャドウ「そのままの意味ですよ。私は彼の物語を壊しに来た…ですが、アナタというイレギュラーのせいでそれは失敗に終わってしまった。簡単に説明すればそんなところですね…」

 

 

ヴィヴィッド『…なるほど…リヴァーサスをこの世界に連れて来たのはお前という事か……なら、その事についてじっくり話を聞かせてもらおうか?』

 

 

ヴィヴィッドはそう言って態勢を低くし、シャドウに向かって身構える。だが、シャドウはそれを見ると口元の端を吊り上げゆっくりと口を開いた。

 

 

シャドウ「…私から話しを聞きたいのならいくらでもお話ししますよ?そうですね……例えば、君と一緒にいるあのヴィヴィオという少女。あの子の両親である"元道進"と"元道なのは"の居場所をお教えしましょうか?」

 

 

ヴィヴィッド『ッ?!なんだと!?』

 

 

シャドウの口から告げられた二つの名前を聞いてヴィヴィッドは動揺してしまい、その隙にシャドウは自分の背後の空間を捩曲げ一つの入り口を作り出した。

 

 

シャドウ「フフフ…では、私の方も色々と忙しいのでこれで失礼しますね。ごきげんよう、ヴィヴィッド…」

 

 

ヴィヴィッド『?!ま、待て!まだ話しは終わってねぇだろ!おいッ!!』

 

 

ヴィヴィッドはシャドウを引き止めようとするが、シャドウは怪しく微笑みながら空間の歪みに飛び込み、歪みと共に消えていってしまった。

 

 

ヴィヴィッド『クッ!アイツの両親の居場所だと…?あの男…一体何者だ…』

 

 

ヴィヴィッドはシャドウが消えた場所を見つめながらシャドウの残した言葉を頭の中で思い浮かべ呆然と呟いていた。とそこへ…

 

 

ヴィヴィオ「はぁ…はぁ…あっ!やっと見つけた…!真矢ーッ!」

 

 

ハイウェイで立ち尽くしていたヴィヴィッドの下に、民間人の避難をしていたヴィヴィオが走ってくる姿が視界に入り、呆然としていたヴィヴィッドはそれを見てすぐに正気を取り戻した。

 

 

ヴィヴィッド『あ、あぁ…ヴィヴィオか…。どうだ?街の住民の避難は終わったのか?』

 

 

ヴィヴィオ「うん、この辺りの人達は何とかね…って今はそれどころじゃないよ!さっき局員の人達が話してるところを聞いたんだけど、此処とは違う所にまたショッカーが現れたみたいなの!」

 

 

ヴィヴィッド『ショッカーが?…なるほどな。部隊を幾つかに別けてミッドを落とそうとしてるってワケか…よし、ヴィヴィオ!俺達も行くぜ!』

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

先程シャドウの言っていた事も気になるが、取り敢えず今はショッカーを倒す事だけを考えようとその事は頭の隅に追いやり、ヴィヴィッドはヴィヴィオを連れてバイクに乗ると、ショッカーが現れた場所に向かってバイクを走らせるのだった。

 



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第五章/firstの世界⑨

 

 

ディケイド『セアッ!ハァッ!』

 

 

first『デアッ!ヘアッ!』

 

 

『グアァッ!グゥッ?!お、おのれぇ!』

 

 

カツラに周囲の雑魚の掃討を任せ、タートルとの戦闘に専念するディケイドとfirstは交互に立ち回って攻撃を繰り返していき、タートルは二人の攻撃を弾きながら反撃するも二人の見事なコンビネーションに押され徐々に追い詰められ始めていた。

 

 

『チィ!貴様ッ…!儂等と戦い続けて、本当にショッカーを打ち破れるとでも思っているのか?!』

 

 

first『思っているさ!俺はこれからも戦い続ける!今も、アイツ等が立ち直るまでな!』

 

 

ディケイド『なら安心しろ、すぐに立ち直るさ…!』

 

 

自身の胸の内にある決意を告げるfirstに向けてディケイドはライドブッカーSモードの刀身を撫でながら言うとタートルに向かって突っ込み、firstもタートルに突っ込んで攻撃を再開する。

 

 

first『やっぱお前、なんか知ってるな?』

 

 

ディケイド『スバルは義妹なんだろ?なら信じてやれ…きっと本当の強さの意味に気がつくさ』

 

 

first『…やっぱり、お前は破壊者じゃないのかもな…家族や仲間思いのいい奴にしか思えないわ』

 

 

ディケイド『悪いな…生憎俺はそんなキャラじゃない!』

 

 

笑い掛けるfirstにディケイドは照れを隠しながら、タートルに斬撃を叩き込んで吹っ飛ばした。

 

 

『ウッ…グッ!クソォッ!舐めやがってぇ!』

 

 

そんな二人の呑気な会話を聞いていて完全に馬鹿にされていると思ったタートルは激怒し、突然自分のアーマーに手足を入れ何故か自分から無防備な状態となっていった。だがその時…

 

 

―シュンッ…シュンッ…シュンシュンシュンシュンシュンッ!!キュイィィィィィィィィィィィィンッ!!!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

『コイツでも喰らえぇぇ!ウオォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

アーマーに自分の手足を入れたタートルはその場で突然激しく回り始め、スピン回転をしながらディケイドとfirstに向かって激突し吹っ飛ばしていった。

 

 

ディケイド『ウグゥッ!いってぇ…』

 

 

first『いたたたっ…クソッ!あの亀野郎ッ!』

 

 

『フン!儂の甲羅は誰にも打ち破る事は出来ん!貴様等の負けは既に決まっているのだ、ライダー共!』

 

 

アーマーから再び手足を出し、タートルは自分の勝利を確信して二人と向き合う。だが、それでも二人は諦める事なく立ち上がり決意の込められた瞳でタートルを見据えた。

 

 

first『悪いが、そいつは無理な話しだぜ?』

 

 

ディケイド『俺はすべてを破壊する悪魔らしいからな…そんな安っぽい甲羅なんて簡単に壊せるさ』

 

 

『グッ…?!』

 

 

自信に満ちた口調で告げる二人にタートルは何か気迫ようなものを感じ取り思わず後ずさる。一見ただの強がりのように見えるが、そんなものではないとタートルはすぐに分かった。何かを隠し持っている。自分を打ち負かす事の出来る何かを。そう考えると次第に焦りや不安を感じ始めてきたタートルは…

 

 

『ヌゥ…強がりばかりを!ならばもう容赦はせん!!貴様等全員此処で死ぬがいい!!』

 

 

『イーーーーッ!!』

 

 

自身の中で覆われる焦りや不安を吹き飛ばすかのようにタートルが雄叫びを上げると、それに応えるように建物の陰から戦闘員達が続々と現れディケイドとfirstに襲い掛かって来た。それを見てfirstは身構え、ディケイドは落ち着いた様子でライドブッカーから先程絵柄の戻ったファイナルフォームライドのカードを取り出し、ディケイドライバーに投げ入れてスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:FIR・FIR・FIR・FIRST!』

 

 

ディケイド『滝、ちょっとくすぐったいぞ?』

 

 

first『え?―ドンッ!―うあぁっ!?』

 

 

ディケイドはfirstの背後に回り込みながら背中を開くような動作をすると、firstの背中からバイクのシートの様な物が現れ手足がタイヤに変形し、firstはバッタを模したダークグリーンのバイク、『ホッパーアクセル』へと超絶変形していった。

 

 

『な、なななな、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 

ディケイド『これが俺達の力だ。行くぞ!』

 

 

ディケイドはそう言って一度両手を払うと、ホッパーアクセルに跨がりスロットルを回し、アクセルを全開に戦闘員達に向かって突っ込んでいく。

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!ドゴオォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『イーーーーッ!!!』

 

 

カツラ「ッ?!滝が…バイクに変わった?!」

 

 

ホッパーアクセルを巧みに扱ったバイクアクションで次々と戦闘員達を跳ね飛ばしていくディケイドを見て、今まで戦闘員達との戦いに集中して事の経緯を見逃していたカツラは目の前の光景に自分の目を疑い驚愕していた。

 

 

『な、何なんだあの姿は?!あんなものがあるなど聞いていないぞ?!』

 

 

タートルも同じように超絶変形したfirstの姿を見て驚愕し、その隙にホッパーアクセルに乗ったディケイドは戦闘員達を跳ね退きながらライドブッカーSモードを構え、タートルに向けて進行を変えてホッパーアクセルと共にウィリーで飛び掛かった。

 

 

ディケイド『セアァァァァアッ!』

 

 

―ガキィィィィィィィインッ!!―

 

 

『グハアァァッ!!ぐっ!お、おのれえぇぇ!!』

 

 

ホッパーアクセルのウィリーを避けたタートルをライドブッカーによるすれ違い様の斬撃で斬り飛ばし、タートルが態勢を崩したと同時にホッパーアクセルの前輪を地面に着地させ、ディケイドは再びホッパーアクセルのスロットルを回しタートルに向かって一直線に走っていく。

 

 

『チィィィィ!!これ以上好きにやらせるものかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

向かってくるディケイド達を睨みつけながらよろよろと起き上がり、タートルは再び手足を甲羅に引っ込めて回転しディケイド達に向かって猛スピードで突撃してきた。

 

 

ディケイド『ならこっちも、そのご自慢の甲羅を打ち砕くだけだ!滝、行くぞ!!』

 

 

『お、おう!こうなったらドンッと派手にやっちまえッ!!』

 

 

若干やけっぱちなfirstの言葉に頷きつつ、ディケイドはライドブッカーからもう一枚のカードを取り出してディケイドライバーにセットしていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FIR・FIR・FIR・FIRST!』

 

 

電子音声が響くと、ディケイドはホッパーアクセルを走らせながらコマのようにスピン回転し、勢いを付けてそのまま迫ってくるタートルに向かって突っ込んでいく。そして…

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァアンッッッ!!!ズガガガガガガガガガガガッッッ!!!―

 

 

ホッパーアクセルとタートルがハイウェイの中心に到達したと同時に互い激しくぶつかり合い、激突したと共に辺りにけたたましい程の轟音が鳴り響いた。互いにぶつかり合ったままその場からイチミリも動かず、どちらも互角と言える勝負を繰り広げている。その時…

 

 

―…ピシィッ…ピシピシピシピシィッ!!―

 

 

『?!な、なんだとぉ?!』

 

 

ホッパーアクセルと激突していたタートルの甲羅に亀裂が入り、ところところが崩れ始め、それと同時にホッパーアクセルの勢いがタートルを押し始めていた。そして…

 

 

『これがッ!!俺達の力だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

『ば、馬鹿なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッッ!!!?』

 

 

―ガガガガガァッ…ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!―

 

 

ディケイドとホッパーアクセルが最後の力でタートルを押し切り、タートルは甲羅ごと粉々に砕け散り最後は爆発を起こしながら完全に消滅していったのだった。

 

 

 

そして爆発の中を駆け抜けながら回転を止めたディケイドはそれを確認すると、一息吐いてホッパーアクセルから下りる。するとそこへ、同じように戦いを終えたカツラがディケイドの下へと駆け寄ってきた。

 

 

カツラ「零!滝は?!」

 

 

ディケイド『あぁ、アイツなら…ほら』

 

 

firstの身を心配して聞いてきたカツラにディケイドは顎でホッパーアクセルをクイッと差すと、ホッパーアクセルが先程の変形の巻き戻しの様に変化を始め、元のfirstに戻りその場で倒れ込んでしまった。

 

 

first『あ~、目が回った~』

 

 

倒れながらフラフラと目を回して呟くfirstに、ディケイドが顔を覗き込んだ。

 

 

ディケイド『どうだ?いい経験だっただろ?』

 

 

first『どこがだ!?』

 

 

ディケイド『変形してしかも高速回転なんて、そうそうできない経験だったろ?』

 

 

first『できんでいいわ!!』

 

 

カツラ「はぁ…お前等という奴は…」

 

 

そんな二人の漫才じみたやりとり見ててカツラは溜め息を吐きながら頭を抑え、暫くその場でそんな談笑を語り合いながらディケイドとfirstは変身を解除し、零と滝に戻っていった。そしてその陰では…

 

 

ヴィヴィオ「……あ、あっちの方も終わったみたいだね」

 

 

真矢「みたいだな……どうやら、俺達の助けは必要なかったようだ」

 

 

そこには、ショッカーとの戦いを終えた真矢達が遠くから零達の様子を伺っている姿があった。どうやら会話から察するに、もしもの時の為に零達の助けに入ろうとしていたらしいがその必要はなかったのだと確認すると、真矢は近くに停めていた自分のバイクに近づき跨がった。

 

 

ヴィヴィオ「あれ?真矢、あの人達に何も言わないで行っちゃうの?」

 

 

真矢「あぁ。俺達の役目はもう終わったんだからその必要はないだろ。それよりも早く帰らないと衛が心配してると思うし、なにより、俺達もガンバライドを勝ち残ってお前の両親を探さないといけないんだからな…早く行くぞ」

 

 

ヴィヴィオ「…うん…そうだね」

 

 

ヴィヴィオはそう答えると真矢から渡されたヘルメットを被ってバイクの後部席に座り、真矢はバイクのエンジンを掛けると一度零達の方を振り返った。

 

 

真矢「…じゃあな、ディケイド。また縁があれば何処かで会おうぜ…」

 

 

そう言って真矢は前を向き、バイクのスロットルを回して走り出す。暫く走っていると真矢達が走っているハイウェイの先に銀色のオーロラが現れるが、真矢は構わずバイクを走らせ銀色のオーロラに突っ込むと、真矢達は銀色のオーロラと共に何処かへと姿を消したのだった。

 

 



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第五章/firstの世界⑩

 

 

タートルとの戦いが終わってから数十分後。零は、滝とカツラと共に写真館への帰宅路を歩いていた。あの戦いが終わった後、零はヴィヴィッドを探してミッドのあらゆる場所に行ってみたのだが、それらしい人物を見つける事が出来ず、ただただあの男に言いたかった事や聞きたかった事を言えず内心ちょっとモヤモヤとしていた。

 

 

滝「…なぁ零、本当に良かったのか?お前が探してる奴なら捜索届けでも出せば、管理局の方で見つけてくれるんじゃ…」

 

 

零「いや、多分それは無理だろうな…俺が探している奴っていうのは色々と普通じゃない奴だ。多分もうこのミッドからは姿を消しているだろ…」

 

 

そう、恐らくヴィヴィッドはこのミッド…いや、このfirstの世界の何処にもいないだろう。魔界城の世界でも見たが、ヴィヴィッドは何故か次元を越えて他の世界に行く事が出来る能力を持っている。これだけ探しても見つからないのなら、恐らく既にヴィヴィッドは他の世界へと移動してしまっているのだろう。

 

 

零「まぁ、アイツの事はこっちの方で探すから、お前が気にする必要なんてないさ」

 

 

滝「そうか?ならいいんだけど」

 

 

そこで二人の会話が途切れ無言のまま写真館への帰宅路を歩いていく。暫くそんな状態が続いていると、零が目の前を歩くカツラの背中から目線を外し、隣を歩く滝を見つめながら口を開いた。

 

 

零「滝、少し聞いてもいいか?」

 

 

滝「ん?何だ?」

 

 

不意に話し掛けられ、滝は怪訝な表情で首を傾げるが、零は一瞬何か考え込むような顔を浮かべた後、目線を下げて少し重く感じる口をゆっくりと開けた。

 

 

零「お前は、多分さっきの戦いでちゃんと分かっているのかもしれないが…これからの戦いで、俺の時やあの怪人のような無茶は―――」

 

 

滝「分かってるよ」

 

 

と、零が滝に向けてなにかを伝えようとするが、その前に滝が零の言葉を遮る。それを聞いた零は滝に視線を戻すと、滝は先程と同じように何かふっ切れたような表情で話しを始めた。

 

 

滝「俺はさ、アイツ等に何時も負担を掛けないように今まで戦ってきた…今日も、六課の皆が立ち直れるまで、一人でも戦うつもりだったんだ…けど…お前と一緒に戦っていて気づいたよ…俺は…アイツ等に心配を掛けて、むしろアイツ等の負担を増やしていただけなんだって…」

 

 

零「………」

 

 

真剣な表情で話しを続ける滝の言葉に、零は黙って耳を傾けて歩き続ける。

 

 

滝「アイツ等には、本当に悪いなって思ってる…でも俺は、俺の生き方を変えるつもりはない…だけど、今までみたいな無茶もしない…お前にも…そしてはやて達にも約束する…約束するよ」

 

 

零「…そうか…それがお前の決めた…お前の中で出した答えなんだな…」

 

 

滝の言葉を聞き終えた零の表情は、何処か安心した様な、穏やかな表情を浮かべていた。

 

 

この男は…自分とは違う。決して自分のような間違いは犯さず、あの少女達に涙を流させたりはしないだろう。

 

 

そんな事を思い浮かべながら彼は夜空を仰ぎ、懐かしそうな、だが悲しげな顔を浮かべながら、何処か遠くを見つめながらあの日の事を思い浮かべていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

それは数年前、とある任務であの白い少女が重傷を負い、辛いリハビリを終えて現場に復帰してから一年後の冬に起きた、あの『忌まわしい事件』

 

 

とある異世界にて発見されたS級ロストロギア。

 

 

少年達は彼等の上司であるクロノ・ハラオウンと、騎士カリムの依頼でそのロストロギアを回収するSランクの危険な任務にあたっていた。

 

 

だがその時、あってはならない最悪の出来事が起きてしまったのだ。

 

 

 

――古代遺物の暴走。

 

 

 

暴走したロストロギアは止まる事を知らず辺りを無差別に破壊し始め、遂にその矛先が少年達に向けられた時、少年は身を呈し、少女達を、仲間達を護る為に無茶をしてしまったのだ。

 

 

少女達の制止の言葉も振り切り、命令にも背いて単独で突っ込んだ結果、古代遺物の暴走を何とか抑える事が出来た。

 

 

――だがその無茶の代償として……少年は重傷の怪我を負ってしまったのだ。

 

 

聖王教会の医療施設に運び込まれた時には既に虫の息であり、どんなに治療を施しても助かる見込みがなかった。

 

 

その時……少年の死は確定したも同然だったのだ。

 

 

 

『…嫌…嫌やっ…お願いやからっ…お願いやから目を開けてぇっ!!!』

 

 

『逝かないでよっ…お願いだからっ…お願いだから!私達を置いて逝かないでぇっ!!!』

 

 

 

病室の中で響くのは、少女達の悲痛な叫び声。

 

 

少年はゆっくりと瞼を閉じていく中で、少女達が流す涙を見て酷く心を痛めた。

 

 

少年はただ、この少女達に笑っていて欲しかっただけだった。誰にも泣いて欲しくなかっただけだった。

 

 

あの白い少女が重傷の怪我を負った時……いや、もっと言えばそれ以前、"運命の名を与えらた少女の姉"と"初代の祝福の風"を救えなかった時から、少年は自分の不甲斐なさと無力さを恨み、嘆き、そして呪ってきた。

 

 

そんな屈折した想いが白い少女の件で遂にタガが壊れ、それから少年は二度後悔しないように、誰も失わないようにと、自分の事など二の次に少女達を守る事だけを誓ったのだ。

 

 

……その選択が、逆に少女達に深い悲しみを与え、ただ自分が後悔するだけの結果になってしまうという事に気づかず。

 

 

そして、少年が瞼を閉じると共に、心電図が止んだ停止音だけが病室内に響き渡った。

 

 

 

『いや…いやぁっ……嫌ァあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』

 

 

 

少女の悲痛な叫び。

 

 

無機質な停止音が鳴り響く病室内で少女達が少年の身体に縋りつき、泣き叫ぶ悲鳴が響き渡っていた──。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

滝「──零?どうしたんだ?急に黙ったりして」

 

 

零「…ん?…いや。何でもないさ」

 

 

滝「?」

 

 

微笑しながらそう答える零に、滝は不思議そうに首を傾げていた。

 

 

そうだ。自分が何も言わなくとも、この男はきっと自分のような後悔する生き方をしない。そう思った零は、それだけ言って他の事は何も口にしなかった。

 

 

そして、そんなやり取りをしている内に三人は目的地である光写真館の前に辿り着いた。

 

 

零「じゃあ、ここでお別れだな」

 

 

カツラ「もう行くのか?」

 

 

滝「世界や仲間を救う旅は、まだ途中で辞めるわけにはいかないもんな」

 

 

滝がそう言うと零はすこし笑いながら「あぁ」と小さく頷いた。

 

 

零「ま、本音を言えば滝やヅラとは気が合うから、まだこの世界にいたいんだけどな…」

 

 

滝「仲間を助けて世界を救ったらまた来ればいいさ。その時には、俺達も歓迎する」

 

 

零「…そうだな。そうするとしよう」

 

 

零はそう言って滝と握手を交わすと二人は機動六課へと向かっていき、零はそんな二人の後ろ姿をカメラに納め、光写真館の中に戻っていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

零「ただいまぁ…今帰った「あ!黒月さん!」ぞ?」

 

 

扉を開けて撮影スタジアムに入ると、突然聞き慣れない声が耳に届き、いきなり零の目の前の見知らぬ女性がやってきた。

 

 

「良かったぁ!無事だったんですね!」

 

 

零「?あ…えっと…あっ、もしかして街で俺とカツラが助けた…?」

 

 

いきなりで驚き戸惑ったが、よく見るとその女性の顔は先程街で零とカツラが助けた女性だった。

 

 

「はい!あの時は有り難うございました!本当に、何とお礼を申し上げたら…」

 

 

零「あ…いや…別にいいぞ?俺は別に大した事はしていないし…」

 

 

などと頬を掻きながら困ったように話す零だが、女性は「いいえ…」と首を横に振り、なんといきなり零の手を握ってきた。

 

 

「黒月さんが来てくれなければ、私はあそこで死んでいたと思います!ですから、本当に本当に、本当に有り難うございます!!」

 

 

零「あ…あぁ…そ、そうか…それなら、俺も嬉しい…ぞ?うん」

 

 

目を輝かせながら力説する女性に対し、零は余りの迫力に数歩後退る。

 

 

零「そ、それより、早く帰った方がいいんじゃないか?こんな夜遅く、家族の方達もきっと心配してると思うから」

 

 

「あ、そうですね…では、また後日お礼を申し上げに来ますね!それでは、失礼します♪」

 

 

「あぁうん…出来ればもう来ないでな~…」とそんな事を願いながら零は愛想笑いで女性を見送った。これで漸く休める。そんな事を思って肩の力を抜いた矢先…

 

 

なのは「…ふ~ん…随分お楽しみだったみたいだね~…零君?」

 

 

――背後から聞こえてきたブリザードすら切り裂けそうなドスの効いた低い声。背後からゾクゾクと伝わって来る殺気に体中から冷や汗が流れ、ゆっくりと後ろに振り返るとそこには……何故か撮影スタジアムのテーブルの椅子に腰掛け、頬杖を突いて鋭い眼差しで零を睨み付けるなのはの姿があった。

 

 

零「…な…なのは?何故にそんな…ご…ご立腹になっておられるのでしょうか…?」

 

 

なのは「んん?別に怒ってなんかいないよ♪ただすこーーし、お話しを聞かせて欲しいな~って思ってるだけだから♪」

 

 

嘘だ。嘘をつけ。ならばその無駄に背後から漂う怒りの炎と額に浮かぶ青筋はなんだというのか。

 

 

なのは「さっきのあの女の人から聞いた話しなんだけどね?スッゴく興味深いお話しをいっぱい聞かせてくれたんだよ♪」

 

 

零「興味……深い?」

 

 

なのは「何でも?「怪物に襲われそうになったときにお姫様だっこしてくれた」とか「抱き抱えられたときに胸をガッシリと掴まれた」………とか?」

 

 

零「待て待て待て待て待て!?何だそれは!?俺はそんな事をした覚えはないぞ!?何かの誤解……待てよ?確か、あの子を抱えた時に何か柔らかいものを握ったような…あぁ、あれってあの子の胸だったのか…」

 

 

―…ブチィッ!―

 

 

零「……ブチ……?」

 

 

なるほどなー、などと呑気に顎に手を添えながら右手をわきわきさせる零の耳に、気のせいか何かがブチ切れたような幻聴?が聞こえ、振り向けば、椅子に座っていたなのはが前髪で顔を隠しながらまるで幽霊のようにユラユラと立ち上がっていた。

 

 

なのは「人があんなに心配してたっていうに…あんな大変な事がミッドで起きてたのに…どさくさに紛れて女の人の胸を触った挙句?しかも責任も取れない癖してまた女の子誑かして……」

 

 

零「お、おい……おい待て!!落ち着け!!誤解だっ!!あれは不可抗力だったんだぞっ!?大体誑かすとかなんだっ?!お、おい!お前等もコイツに何とか言ってくれっ!!」

 

 

ジリッと後退しながら、部屋の奥でこちらの様子を伺っている優矢達に助けを求めるが、

 

 

『……………』

 

 

全員が一斉にプイッ、と目を反らした。

 

 

零「無視ッ!?」

 

 

なのは「ちょーーっとそこに正座してみようかー?だいじょーぶ、抵抗さえしなければこっちも最低限優しくするよ♪」

 

 

零「片手をゴキゴキ鳴らしながら笑顔で言う台詞じゃないだろうがっ!!説得力って言葉を辞書で引いてこいやぁっ!!」

 

 

なのは「問答無用」

 

 

零「ま、待て、まてっ……ならせめてどの技で来るのかだけ教えろっ!!クラッチかっ?!ヘッドロックかっ?!や、やめっ、あ、ああその技か久々に出やがったちくしょおぉぉぉァあああああああああああああああああああああっっ!!!?」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、六課に向かっていた滝とカツラの耳に悲痛な悲鳴が届き、二人は同時に振り向いて写真館の方角を見た。

 

 

カツラ「今、写真館の方から悲鳴が…」

 

 

滝「零も苦労してるな…」

 

 

心中で合掌し、滝とカツラは零の無事を祈りながら六課へと帰って行っていったのだった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

優矢「…お~い零~?生きてるか~?」

 

 

零「…ウッセーよ…」

 

 

あれから数十分後。なのはからみっちり制裁を食らった零は現在ソファーでグッタリと倒れ込んでいた。

 

 

なのは「ほらヴィヴィオ?栄次郎さんとなのはママ特製のキャラメルミルクだよ~♪」

 

 

ヴィヴィオ「わ~い♪」

 

 

ウェンディ「あっ!私も欲しいッス!♪」

 

 

ノーヴェ「あ!?ウェンディてめぇ!勝手に取ってんじゃねぇよ!」

 

 

キバーラ「いいじゃない、そんな細かいことは♪私にもちょう~だ~い♪」

 

 

その一方、あちらの方ではなのはと栄次郎が作ったキャラメルミルクを皆で仲良く頂いてました。誰も零の方を見ようとはしません。なのはに至ってはガン無視です。はい。

 

 

ティアナ「…あ…あの…なのはさん?そろそろ零さんと仲直りした方がいいんじゃ…」

 

 

と、そんな二人を見兼ねたティアナが仲直りをする様に促しそれを聞いたなのはは零の方を見て「う~ん」と首を少し傾げると…

 

 

なのは「…うん、いいよ。零君が謝ってくれるならね?」

 

 

零「…はあ?何故俺が謝らないといけないんだ!大体いきなりブチ切れてきたのはお前の方だろ!?」

 

 

チンク「お前がそんな事をされるようなことするからだろう?」

 

 

セッテ「確かに。女性の胸を触るなんて言語道断です」

 

 

ディード「しかもあの人、身を呈して救ってくれた貴方に少なからずただの感謝以上の気持ちを抱いていたかに思えます。その辺についてはどうお考え……いえ、責任を持つおつもりで?」

 

 

零「ああ……?何の話だ?」

 

 

セイン「うわっ、サイテーっ」

 

 

ウェンディ「これは問答無用でギルティっスね」

 

 

零「何でだァっ!!」

 

 

ナンバーズ達は揃って完全になのは派となってしまっている。唯一頼りになりそうな優矢、スバル、ティアナ、ヴィータ、栄次郎は中立の立場にいる為に擁護は期待出来そうになく、無論ヴィヴィオ、キバーラは戦力外。完全に孤立無援の状態である。

 

 

零「くっ……わ……悪かったっ……」

 

 

なのは「うんうん、分かればいいんだよ。じゃあ、はいこれ」

 

 

渋々ながらも零が頭を下げると、なのはは笑顔でそう応えて零の目の前のテーブルに零の分のキャラメルミルクを乗せ、ヴィヴィオ達のいるテーブルに戻っていった。

 

 

零「くぅ…何故俺ばかりが…理不尽すぎるっ…」

 

 

優矢「あー…えと…ま、まぁ元気だせよ!なっ!…あ、そういえばさぁ?この世界では結局、零達の探してる仲間は見つからなかったよな?」

 

 

零「あ?…あぁ、そういえばそうだな…」

 

 

優矢の一言で、零は旅の目的の一つである仲間達の事を思い出した。このfirstの世界にいる間、行方不明である仲間を見つける事は出来なかった。ならば恐らく、ここではない別の世界に飛ばされたのだろうと零は考える。

 

 

零「まぁ、ここじゃないのならまた別の世界を探せばいいだろう。…それより優矢。悪いが俺の代わりに背景ロールを動かしてくれないか?俺は今こんなだし…」

 

 

優矢「え?お…おう、分かった」

 

 

ソファーでうなだれる零の要求に一瞬戸惑う優矢だが、すぐに気を取り直して背景ロールに近づき、言われた通りに背景ロールを操作していく。そして…

 

 

―ガラララララッ!パアァァァァァアンッ―

 

 

零「…これは…」

 

 

新たに現れた背景ロールに、零やなのは達は視線を移していく。現れた背景ロールに描かれていたのは、とある街中の空で、赤い龍が飛んでいるというものであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、その世界の街中にある一つ建物。街で人々が交差する中、その建物のガラスに一人の赤いライダーが異形の姿をした者達と戦う姿が写し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

第5章/firstの世界END

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界

 

 

──とある出版社にある編集部。その応接室では、出版社の女性編集長である桐上と、一人の女性が一つのテーブルに席を着いて会話をしていた。

 

 

桐上「それじゃあ早速、貴女の知ってる仮面ライダーについて、お話しを聞かせてもらえるかな?」

 

 

「あ、は、はい。えっと…その…」

 

 

桐上が笑って話しかけると、女性は今の桐上の話に出てきたワード、仮面ライダーについて話しを始めようとするが、どうやって話そうかと少し言い淀んでしまう。

 

 

桐上「クス…そんなに緊張しなくていいわ。ケーキでも食べて、少し落ち着きましょう?」

 

 

「…はい。ありがとうございます」

 

 

桐上が優しく話すと、女性は少し緊張が解けた様に笑い、出されたケーキを頂こうとケーキに添えられているフォークを手に取った。その時…

 

 

―……グサアァッ!―

 

 

桐上「ウッ!?あ…ぐっ…」

 

 

―ドサアァッ!―

 

 

突如、室内に何かが突き刺さるような音が響き、それと同時に桐上が首を押さえながらゆっくりと崩れるように倒れてしまった。

 

 

「え?えぇっ…?」

 

 

突然の事に女性は困惑して思わず立ち上がり、慌てて桐上に駆け寄ろうとする。しかしその時、応接室の扉が開かれて一人の青年が現れ、床に倒れる桐上の姿を見た途端驚いた様子で桐上に駆け寄り、彼女の身体を揺らした。

 

 

「編集長…!?どうした!?しっかりしろ!編集長!」

 

 

青年は必死に桐上の身体を揺らし呼び掛け続けるが、桐上は何も答えず全く動こうとしない。青年は突然の出来事に困惑していると、呆然と立ち尽くしている女性が持つフォークを見て目付きを鋭くさせる。

 

 

「まさか…お前か…?編集長を殺したのは……」

 

 

「!?ち、違います…!私は…私はただ…!」

 

 

女性は青年の言葉を否定するようにフルフルと首を振りながら、その場に力無く座り込んでしまった。そして、暫くした後に現場に駆け付けた警官達により、女性は殺人容疑で現行犯逮捕されたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

──firstの世界を後にし、新たな世界に訪れた最初の朝。朝食を終えたなのは、スバル、ヴィータはこの世界について調べてくると一足先に出掛けており、今回は零達と共に行動すべく外で軽い運動をしていた優矢が写真館に戻ってきた。

 

 

優矢「今日から龍騎の世界かぁ…よし!頑張るとしますか!」

 

 

優矢は肩を回しながら頑張ろう!と自分に気合いを入れ、残った皆のいる撮影スタジアムに戻ろうとする。のだが…

 

 

―コケェッ!コッコッコケェッ!―

 

 

優矢「どわあぁっ?!な、なんだぁ?!」

 

 

栄次郎「待てぇーっ!漸く手に入れた地鶏ぃーっ!」

 

 

ヴィヴィオ「まてーっ!」

 

 

オットー「そっちに逃げた!左右に回り込んで捕獲して!」

 

 

ディエチ「簡単にっ!言わないでっ!」

 

 

セッテ「そっちです!今度はそっちに逃げました!」

 

 

ディード「大人しくして!痛くしたりしないから…!」

 

 

撮影スタジアムの扉を開けた途端、突然部屋の奥から一匹の鶏が勢いよく現れ、更にその鶏を追い掛けてきた栄次郎達がその鶏を捕まえようと必死に追い回し、いきなり巻き込まれる形になった優矢も戸惑いつつ取りあえず暴れ回る鶏を追っかけていく。

 

 

キバーラ「はいはーい!私におっ任せ~♪」

 

 

とその時、その場に飛んで現れたキバーラが暴れ回る鶏の頭に乗っかると、先程までの暴れようが嘘のように鶏が急に大人しくなった。

 

 

ヴィヴィオ「あっ!鶏さん、おとなしくなった!」

 

 

栄次郎「おぉ~!ありがとね~キバーラちゃん!」

 

 

キバーラ「ふふ~ん♪こんなの朝飯前ってね~♪」

 

 

ディエチ「ハァ…ハァ…もう…疲れたぁ~…」

 

 

ディード「本当ね…栄次郎さん。鶏も捕まえましたし、そろそろ調理場の方に…」

 

 

栄次郎「あっ、そうだね。じゃあ、ディードちゃん達もお手伝い、お願いね!」

 

 

オットー「うん、分かった」

 

 

優矢「ったく…一体何だったんだよ…」

 

 

鶏を捕まえた栄次郎は満足げな顔をしながらヴィヴィオと優矢を除いた全員と共に撮影スタジアムの奥の台所へ引っ込んでいき、残された優矢は肩で息をしながら呆然とそれを見送った。

 

 

―ガチャッ―

 

 

そんな時、栄次郎達と入れ違いにその場にいなかった二人組……零とティアナが撮影スタジアムの奥の部屋から出てきた。

 

 

しかしその姿はキバの世界以来変わっており、零はスーツ姿に眼鏡を掛け、ティアナもスーツ姿と眼鏡にいつものツインテールとは違って髪をストレートに下ろし、二人は共通して襟元に黄金のバッチを身につけていた。

 

 

優矢「れ、零?お前…何でスーツなんて着てんだよ?ティアナちゃんも同じ格好だし…」

 

 

零「知るか。外に出た途端こうなったんだよ」

 

 

ヴィヴィオ「わぁ~!パパとお姉ちゃん、かっこいい~♪」

 

 

ティアナ「あはは……多分ですけど、今回これが私と零さんのこの世界での役割って事なんじゃかいかと……」

 

 

優矢「はああ、なるほどねぇ……?」

 

 

関心の声と共にマジマジと二人の格好を眺める優矢を他所に、零はテーブルに着きながら適当に置かれていた週間雑誌を手に取り、ヴィヴィオも零と隣の席にとことことした足取りで腰を下ろした。

 

 

優矢「そういえば、なのはさん達はもう出ていってるのか?」

 

 

ティアナ「あ、はい。スバルとヴィータ副隊長と一緒にもう出ましたよ。私と零さんはこの世界での役割を果たさないといけないみたいなので、なのはさん達は行方不明になった皆を探しに……」

 

 

優矢「そっか……だとさ零!ほら、俺達も早く行こうぜ!」

 

 

零「忙しねぇ奴だな…そんな急がなくてもいいだろう?なのは達はなのは達で、こっちはこっちのペースでやればいいんだから…ん?」

 

 

そんな事を言いながら零は週間雑誌を開いていくと、雑誌に記載されている一つのページ……『今日の君の運勢!』とある、占いコーナーのページに目を止めた。

 

 

零(今日の運勢…ねぇ。週刊誌の占いなんてあまり信用は出来ないんだが…)

 

 

などと思いながらも、自然と自分の運勢が書かれてある部分を目で探した。零12月25日生まれ、という事になっている。高町家に拾われたのがちょうどその日で、高町夫妻に付けてもらったのがきっかけだ。

 

 

つまりやぎ座。そこに記載されてある文に目を通す。

 

 

 

 

『十二月二十二日から一月十九日生まれのやぎ座の貴方の今日の運勢は、恋愛運が最強運!素敵な恋が叶っちゃうかも!だけど、調子に乗って色んな女の子に手を出したら痛い目にあっちゃうから、気をつけてね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「いやそうは言うけどさ?ササッと行動した方が色々と情報が知れて効率がいいと思うし、そうすればこの世界での目的だってすぐに見つけられ……零?」

 

 

会話の途中で、週刊雑誌に目を向けたまま固まる零。優矢はそんな零に話し掛けるが返答はなく、ただティアナと顔を見合わせて頭上に疑問符を並べる。

 

 

ティアナ「零さん?どうしたんですか?急に黙ったりして」

 

 

零「……なんでもない。ただ占いにまで不吉は事を言われて少し気が滅入ってるだけだ」

 

 

『……は?』

 

 

零は週間雑誌をパタンと閉めて力無く呟くが、二人は意味が分からないといった様子で首を傾げていた。

 

 

優矢「ま、まあいいか……取りあえず、この世界について調べに行こうぜ!なっ?ほら、ティアナちゃんも!」

 

 

ティアナ「そ、そうですね!零さん、私達も早く行きましょう!」

 

 

零「…行きたくない…行きたくねぇけど……行くしかないか…」

 

 

外に出たら何か良からぬ事が起きそうで嫌なのだが、そうも言っていられるハズがないので零は諦めたようにそう呟き、優矢とティアナは零を椅子から立たせて背中を押しながら部屋から出ていき、ヴィヴィオ達に留守番を任せてこの世界について調べる為に写真館を出ていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

優矢「……にしても、これからどうする?あっちこち見て回ったけど、あんまり事件とか起こってる様子はないみたいだしさ…」

 

 

ティアナ「ですね。レジェンドルガや、ショッカーみたいな怪人もいないみたいだし…それにこの格好で一体何をすればいいのか…」

 

 

一先ず情報収集にと街にやってきた零達は街中を探索してはいたのだが、街には怪人が現れたり、人が変死体として見つかる……などといった、特別目立った奇妙な事件が起きている訳でなく、至って普通に街の人々が生活をしているという平穏な空気を感じさせる雰囲気が流れていた。

 

 

零「『フロンティアとギャラクシーの歌姫として知られる二大アイドル、シェリル・ノーム、ランカ・リーの夢のタッグライブ近日開催!』『出版社DEKARUCHA所属の期待の新星、カメラマン・早乙女アルトがまたもやスクープ賞を受賞』……なるほどな。大した事件は何もないようだ。これじゃあ俺達の役目も分からないだろうな」

 

 

優矢「お前なぁ…人事みたいに言ってる場合じゃないだろう?」

 

 

先程コンビニで買った雑誌を読みながらまるで他人事のように関心なく呟く零に溜め息を吐きつつ、優矢はあちらこちらを見て回り、集めた情報を頭の中で整理する。

 

 

まず、この街の名はフロンティアという都市らしく、このフロンティアの隣街にはギャラクシーという名の都市が存在する事や、この街と隣街のギャラクシーを席巻する程の人気を誇る歌姫達

……『シェリル・ノーム』と『ランカ・リー』というトップアイドルの存在などを知ったものの、零達のこの世界での役割や仮面ライダーについてはあまり関係しそうにない。

 

 

どうしたものかと零がため息を吐いた、そんな時……

 

 

『──番組の途中ですが、此処で、臨時ニュースをお伝えします。今朝未明、出版社DEKARUCHA編集長、桐上風花さんが編集部内で殺害されました』

 

 

一つのビルの巨大スクリーンに突然臨時ニュースが流れ始め、優矢とティアナはニュースが流れる巨大スクリーンを見上げる。

 

 

ティアナ「殺人事件…」

 

 

優矢「何か物騒だな…」

 

 

零「DEKARUCHAって…この雑誌にも載ってた出版社か…何処の世界でもあぁいう馬鹿をする奴はいるもんだな。全く、どんな凶悪犯なのか是非とも顔を拝んでみたいもんだ」

 

 

呆れた口調でそう言いながら、零は構わずカメラで辺りの風景を撮影し始めた。しかし…

 

 

 

 

 

 

『警察はこの時現場にいた、フェイト・T・ハラオウンを殺人容疑で現行犯逮捕しました。ハラオウン容疑者は容疑を否認しており、警視庁では被害者の桐上さんとハラオウン容疑者の関係性、犯行の動機を現在調査中です』

 

 

 

 

 

ティアナ「………へ?」

 

 

優矢「ん?」

 

 

零「………あ?」

 

 

 

 

 

……………………

 

 

………………

 

 

………

 

 

 

 

 

『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーッ!!?』

 

 

 

 

挙げられた容疑者の名が明かされた瞬間、零とティアナはこれでもかと大音量の絶叫を上げたのだった。

 

 

優矢「ちょ、え?え?ど、どうしたんだよ二人共?!」

 

 

ティアナ「あ、ああああ、あの、あの今、ニュースで殺人犯って出てた人…!私達の探している仲間の一人なんです!」

 

 

優矢「………はい?」

 

 

フェイトの顔写真が映された巨大スクリーンを指差しながら動揺した様子を浮かべるティアナの言葉に、優矢は一瞬何を言ってるのか分からないといった顔を浮かべた。

 

 

零「…フェイトが殺人犯…これはもう…あれだな…流石の俺も言葉が見つからないぞ……」

 

 

ティアナ「で、でもなんであんな事に?!フェイトさんは絶対、間違っても殺人なんて犯す人なんかじゃ…!」

 

 

零「そうだな…大体アイツは無闇に人を傷つけるような奴なんかじゃないし…」

 

 

あのフェイトが殺人など犯すハズがない。零はそう思いながら、脳裏にフェイトと共に過ごしてきた今までの記憶を思い返した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

なんでこんな事になったのだろうかと、零は脳をフル稼働させながらこんな状況になってしまった根源を模索していた。

 

 

 

場所は立体映像で生み出された廃墟と化した市街地のど真ん中……分かりやすく言えば、六課の訓練所である。

 

 

その中心に零は立ち、そこから十数メートル離れた先に今回自分が戦う相手である機動六課最強の部隊の隊長達、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの姿がある。

 

 

殺風景と呼ぶに相応しいこの空間でピリピリとした空気が漂っている。その原因は恐らく……いや十中八九、零が対峙するあの二人から放たれる殺気のせいであろう。

 

 

これは模擬戦。そう、ただの模擬戦のハズだ。なのに何故、あの二人はあんなに殺気立っているのだろう。

 

 

零は必死にその原因を探して、この模擬戦が起きる前の出来事を思い返してみる。

 

 

ここに来るまでは何も問題はなかったと思う。

 

 

では、朝食を取る為に食堂に行った時だろうか。

 

 

……いや、あの時も問題はなかったハズだ。食堂に着てから食堂を出るまで二人から殺気の篭った視線を受けていたの覚えているが。

 

 

どんなに考えても二人を怒らせた原因など分からない。

 

 

残っているのは、昨夜仕事に根を詰め過ぎてダウンしたはやてを部屋に運んだ際、そのまま彼女に離して貰えず共に床に就く羽目になり、そのまま朝を迎えて、やけに上機嫌な彼女に強引に腕を組まれながら食堂に向かった事だけだ。

 

 

―――うん、これも問題はなかったと思う。というかこれであの二人が怒る要素などまったく検討が付かない。

 

 

結局、二人を怒らせてしまった原因を突き止める事は出来なかった。

 

 

零「……あの、今日はちょっと体調が優れないので、棄け――」

 

 

『レディー、ゴーッ!!』

 

 

零「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 

AT『マスター…取りあえず、防護服は身に着けた方がよろしいかと…』

 

 

始まりの合図と共になのはとフェイトが地を踏み、瞬時に自分達のデバイスのカートリッジを排出する。

 

 

フェイトはバルディッシュをアサルトからハーケンフォームに変えて零に振りかざし、なのはは空中へと浮上すると共にアクセルシューターを八つを生成、零に向けて放つ。

 

 

対して零は最初から戦う気など更々なく、せめてダメージは抑えようとバリアジャケットだけは忘れず身に纏った。

 

 

 

結果、無抵抗のまま二人にフルボッコされ、シャマルの待つ医務室に運び込まれたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

──可笑しい、ロクな記憶が出てこない。しかも何だか目頭がやけに熱くなってきた。というか逆に、アイツなら殺人ぐらいならやりそうとか納得しそうになってるのは気のせいだろうか。

 

 

優矢「と、取りあえず、警察に行ってみよう!あの人から色々と話しを聞いた方が良さそうだし!」

 

 

ティアナ「そ、そうですね。とにかく、フェイトさんから事情を聞かないと……零さん!行きましょう!」

 

 

零「……あー……あぁ、そう、だな……」

 

 

一先ず、ニュースにも流れてる事件の詳細やフェイトの無事などを確認する為、二人はフェイトが連行されたという警察署に向かい、零も脳裏に繰り返し流れている記憶を強引に振り払い、二人に続いて歩き出していった。

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界①

 

 

零達が警察署に向かったその頃、裁判所では殺人容疑で連行されたフェイトが警備員に連れられ、被告席に立たされていた。

 

 

フェイトの立つ被告席の目の前には複数の仮面ライダーの写真がモニターに映し出されており、フェイトがそれを物珍しく眺めていると、裁判長が裁判の仕組みについて説明を始めた。

 

 

「君の裁判は、仮面ライダー裁判制度によって決まる」

 

 

フェイト「仮面ライダー…裁判?」

 

 

聞いた事のない裁判制度にフェイトは疑問そうに漏らし、裁判長は更に説明を続ける。

 

 

「仮面ライダーがそれぞれの意見を戦いという公判でぶつけ合うというものだ。この事件に関与する者達が仮面ライダーに選ばれ、ミラーワールドと呼ばれる鏡の世界で最後の一人になるまで戦い合う。検事と弁護士、事件の関係者が互いの意見を持ちながら戦い、最後に残った者が君に判決を下せる」

 

 

フェイト「そ、そんな…!そんな事で正しい裁判が出来るハズないじゃないですか?!」

 

 

今の段階で、フェイトの無罪を証明出来る証拠は何一つない。

 

 

無罪を証明できる物がない今、恐らく裁判長の言うミラーワールドで戦う仮面ライダーの中には無罪派より有罪派の方が圧倒的に多いハズ。これではどのライダーが勝ったとしても冤罪を着せられている自分に有罪が決まってしまう確率の方が大きい。それが我慢ならないフェイトは裁判長に反論するが、裁判長はただ淡々と説明を続ける。

 

 

「意見を持つ者が直接ぶつかり合い、勝ち残った者の意見が判決となる。仮面ライダー裁判制度はもっとも合理的で、且つ公正で公平なのだ」

 

 

フェイト「そんな…こんなの、裁判なんて呼べるものじゃない!弁護士…弁護士を呼んでください!」

 

 

こんな裁判で、自分の無実が証明出来るハズがない。そう思ったフェイトは裁判長に自分の弁護をしてくれる弁護士を要請した。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、人々が行き通る街中にある一つのビル。そのビルのガラスには、複数の仮面の戦士……仮面ライダー達がミラーワールドで入り乱れて戦う姿が映し出されていた。

 

 

『クッ!お前はどっちだ?!有罪か?!無罪か?!』

 

 

『確かにっ、立件した以上、有罪しか有り得ない!』

 

 

フェイトの判決は有罪か、無罪か。それぞれの意見を口にしながら、ライダー達は自分のベルトにあるカードケースからカードを引いて戦っていく。そんな時…

 

 

―ブオォオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

『ッ?!あれは…』

 

 

『またライダー…君も事件の関係者か?!』

 

 

『…………』

 

 

乱闘の最中、突然バイクに乗ってライダーバトルの中に乱入してきた騎士のような姿のライダーに他のライダー達は揃って身構えながら問い掛けるが、騎士のライダーは無言のままバイクから降り、腰にある剣を引き抜くとライダーバトルを開始していった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

──一方その頃、一度裁判所から警察署に戻ってきたフェイトは自分の要請した弁護士に会うため、接見室に来ていた。

 

 

どうか、自分を助けてくれる心強い弁護士に来て欲しい。そう強く願いながら弁護士の到着を待っていると、接見室の扉が開き、数人の男女達が中に入ってきた。

 

 

「失礼。貴方達は?」

 

 

零「あぁ、あのフェイト・T・ハラオウン容疑者の弁護に来た、弁護士の黒月零と…」

 

 

ティアナ「同じく、弁護士のティアナ・ランスターです。今回は、黒月弁護士の補佐を行う為に来ました」

 

 

優矢「あ、えっと…二人の助手の桜川 優矢です。俺の方は余り気にしないで下さい…」

 

 

「はっ!失礼しました!」

 

 

フェイト「……?零?ティアナ…?」

 

 

聞き覚えのある声と弁護士の名を聞いた途端、顔を俯かせていたフェイトは顔を上げて零達の方に振り返った。

 

 

零「よぉ、久しぶりだなフェイト。随分会わない内にとんでもない事になってるじゃないか」

 

 

フェイト「れ、零?!それにティアナも?!なんで二人がこんなところに…?!」

 

 

ティアナ「アハハっ。お久しぶりです、フェイトさん。取りあえず無事で安心しました…」

 

 

弁護士として現れた零達を見てフェイトは驚きを露わにし、ティアナは苦笑い、零はフェイトに近づいてその肩に手を回しながら語りかける。

 

 

零「それで?一体なにが起きたのか詳しく説明してくれますかな?"殺人犯"のフェイト"容疑者"さん?」

 

 

フェイト「さ、殺人犯?!」

 

 

優矢「お、おい零!」

 

 

"殺人犯"と"容疑者"の部分をわざと強調しながら事件の事を聞く零に、フェイトはギョッと目を丸くして激しく首を横に振った。

 

 

フェイト「ち、違うよ!私は人殺しなんてしてない!信じてよ、零ッ!」

 

 

零「どうだかなぁ?どうせお前の事だから、ちょっと間違ってサクッと殺っちまったんじゃないのかー?お前はそういうところがあるからなぁ…」

 

 

フェイト「だ、だから違うんだってばぁ〜~っっ!!!」

 

 

優矢「うわっ?!ば、馬鹿!何泣かせてんだよお前?!」

 

 

ティアナ(零さん…まさかこの機会を使って今までの怨みを晴らそうとか考えてるんじゃっ…)

 

 

明らかに棘のある言い方でフェイトを口撃していく零を見て微妙な顔でそう考えるティアナ。

 

 

フェイトはフェイトの方で零に殺人犯として認識されてしまったと本気で思ったのかその場で泣いてしまい、優矢に注意された零は仕方ないといった様子でフェイトを泣き止ませようとするが、その時、接見室に数人の男女が訪れてきた。

 

 

その中にいた青年と少女が警備を接見室の外に払うと、零達の元に近づいていく。

 

 

「おい、あんた。ちょっといいか?」

 

 

零「…うん?」

 

 

不意に話し掛けられ、零はその声を辿って振り返ると、其処には長い髪を一つに纏め、ポニーテールにした少女……いや、一目で少女と間違えそうなほど中性的な容姿をした一人の青年と、グラサンと帽子で顔を見えないように隠している金髪の少女と緑髪の少女の姿があった。

 

 

「あんたか?その人の弁護士っていうのは?」

 

 

零「そうだが…そういうアンタ等は誰だ?見たところ警察の人間じゃなさそうだが…」

 

 

「…俺は"早乙女アルト"。殺された桐上編集長の部下だったんだ」

 

 

零「早乙女…アルト?もしかしてあんた、期待の新星って言われてるあのカメラマンか?」

 

 

早乙女アルトという名を聞くと、零は何かを思い出したかの様に自分の荷物から先程コンビニで買った雑誌を取り出してアルトの写真が載ったページを見せるが、アルトはそれを見てうんざりとした表情をした。

 

 

アルト「そんなもん周りの連中が大袈裟に書いてるだけだっての。その記事のせいで色々と散々な目にあったし、こっちはいい迷惑してんだよ」

 

 

「迷惑ね~…本当のところはどうなのかしら?」

 

 

アルト「…どういう意味だよ、それ?」

 

 

「べっつに〜?」

 

 

「ま、まあまあ…!二人共、今は事件の事で話しをしないと…」

 

 

何だか含みのある言い方で可笑しそうに笑う金髪の少女をジト目で睨みつけるアルトを見て、小柄な方の緑髪の少女が慌ててそれを止めに入る。そんな少女達を交互に見て、零は更に疑問を感じていた。

 

 

零「というか、そっちの二人は誰だ?その二人もあんたの知り合いか?」

 

 

「へっ?あ、あの、私達は…えっと…その……」

 

 

零「?」

 

 

顔を俯かせて言いにくそうに小声で話す少女に、零は更に疑問を浮かべるが、金髪の少女は零の背後を覗き込み、

 

 

「ねぇ?どうでもいいかもしれないけど……あの人泣いちゃってるけど、放っておいていいワケ?」

 

 

零「え?……あっ、忘れてた」

 

 

優矢「忘れるな馬鹿ぁ!!」

 

 

フェイト「うわあぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 

ティアナ「フェ、フェイトさん!落ち着いて!零さんのあれはただの冗談であって、決して本気で言ったワケじゃ…!」

 

 

金髪の少女に指摘されて、未だに零に殺人犯扱いされて泣いてるフェイトをまだ泣き止めさせてない事を思い出し、優矢の罵倒を軽く流しながら零はフェイトに歩み寄り両肩にポンッと両手を乗せた。

 

 

零「あ~落ち着けフェイト。俺が悪かった、さっきの事は全部嘘だから…」

 

 

フェイト「ひぐっ…グス……嘘?……本当に…?」

 

 

零「本当だ本当…お前が殺人なんてするハズがないし、大体お前がそんな事するハズないってちゃんと分かってるって」

 

 

フェイト「グス……じゃあ……嫌いになったりしてない…?」

 

 

零「してないしてない…してないからもう泣くな、頼むから…」

 

 

これ以上泣かれたらこっちが悪いことをしてる感じがする。

 

 

いや、実際は悪いことをしてるんだろうがまさか此処まで泣かれるとは思いもしなかった。反省の意を込め謝り続けると、不意にフェイトが零の胸の中に飛び込んできた。

 

 

零「お、おい…だから泣くなって言って…!」

 

 

フェイト「うう……だって…漸く会えたのに…やっと会えたのにっ…零があんなこと言うからぁ…」

 

 

零「うっ……わ、悪かった…俺が悪かったからもう泣くな…なっ?」

 

 

フェイト「っ……うんっ」

 

 

胸の中で泣き続けるフェイトに戸惑いながらも、何とか落ち着かせようと右手で背中を摩り、左手で頭を撫でる。

 

 

フェイトはそんな零の仕草に一瞬頬を赤く染めるが、すぐに零の胸に顔を深く埋める。緑髪の少女はそんな二人を何故か瞳を輝かせながら見つめ、優矢はホッと一息、ティアナは若干いいなぁ…といった顔で二人を見ていた。が…

 

 

 

 

―…ゴゴゴゴゴゴゴッ―

 

 

 

ティアナ「……え?――――ヒィッ!?」

 

 

優矢「ん?どうし――――うおぉっ!?」

 

 

突然、零の背後に立つ二人が接見室の扉の方を見て妙な声を上げる。だが、フェイトを泣き止ませる事に必死になってる零はその声に全然気づいてはいない。

 

 

 

 

―カツッ…コツッ…カツッ…コツッ…カツッ…―

 

 

 

 

零「ほら、早く涙を拭け。これからお前のことで話し合わないといけないんだから」

 

 

フェイト「う、うん…ごめんね、零…?」

 

 

零「いや、俺の方こそすまなかったな」

 

 

 

 

―カツッ…コツッ…カツッ………チョンチョン―

 

 

 

 

零「っ、なんだ優矢っ?ちゃんとフェイトを慰めたんだし、これ以上のお小言は勘……べ……?」

 

 

 

不意に肩を叩かれ、零はその正体が優矢と思い込んで背後へ振り返った瞬間、固まってしまった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「は~い、早朝ぶりだね零君♪……フェイトちゃんと一体、なにしてるのかなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──無駄に甘ったるい声音が、より恐怖を引き立たせた。

 

 

背後にいたのは優矢ではなく、ベストスマイルを浮かべ背後からドス黒いオーラを噴き出しているなのはだったのだ。

 

 

零「な…な…なの…なの……」

 

 

フェイト「え?……えっ?!な、なのは?!どうして此処に

?!」

 

 

肩を叩いた人間の正体がなのはだと知るや否や、零は蛇に睨まれた蛙の如く固まり、フェイトはなのはの姿を見た途端驚き、慌てて零から離れた。

 

 

なのは「うん、久しぶりだねフェイトちゃん♪無事で良かったよぉ♪……さて?」

 

 

零「………………」

 

 

と、なのははフェイトから零に視線を移す。

 

 

そんな零は脱水症状を起こしてしまいそうな程の勢いで額から嫌な汗を大量に流し、なのはから視線を外して目を泳がせていると、なのはと共に写真館を出ていったスバルとヴィータが部屋の隅っこで体を抱き合わせガクガクと震えている姿を見つけた。

 

 

おそらく、なのはの一番近くにいたせいであのドス黒いオーラの被害を受けてしまったのだろう。気の毒にと思う。

 

 

優矢「え、えーと…な、なのはさん?なんでなのはさん達が此処に…?」

 

 

そんな光景を見ていた優矢はダラダラと流れる手汗を握り、勇気を振り絞ってなのはに疑問を投げ掛けた。

 

 

なのは「……私達も街を探索してた時に霊のニュースを見てね。だからフェイトちゃんから話しを聞こうと思って此処まで来てみたんだけど……これは一体どういう事かなぁ?」

 

 

零「……いや……これは…その……」

 

 

フェイト「ち、違うんだよなのは!?零はただ、泣いてた私を慰めようとしてねっ?あの、でも……えへへっ……」

 

 

などと顔を真っ赤にしながらフェイトは両手をパタパタ振って必死に言い訳をするが、その顔色や先程優しく抱き締められた嬉しさが滲み出てる綻んだ表情のせいで圧倒的に説得力を感じられない。

 

 

零も脳をフル稼動させて何とか上手い言い訳を考えようとし、優矢達やアルト達に至ってはこの緊迫感を漂わせる一触即発な空気のせいで一言も喋れない。がしかし、この空気を読めずにいる者がこの場に一人だけおり……

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか…お二人は本当はお知り合いで、実は恋人同士だったって事なんですね♪」

 

 

 

 

『なっ!?』

 

 

アルト「ばっ!?」

 

 

「ランカちゃんッ!?」

 

 

零「ッ!!?」

 

 

フェイト「ふぇ!?」

 

 

なのは「」

 

 

 

なのはの誤解を解こうとする前に、アルトの隣に立つ緑髪の少女が呟いた核爆弾並のKY発言がその場に響き渡り、室内は一瞬の内に氷河期を思わせるかの様な極寒地帯へと変わっていった。

 

 

 

どうやら彼女は、この場の空気に気づかないほど零とフェイトの関係について興味津々のご様子。その発言により、なのはの背後から先程よりも凄まじいオーラが噴き出し、優矢達やアルト達はそんななのはを見て絶句し、フェイトは湯気が出そうな勢いで顔を真っ赤に(しかし満更でもなさそう)、逆に零の表情はサァーと血の気が引いて真っ青になっていた。

 

 

―グワシッ!―

 

 

なのは「零君?少し…あっちでお話しようか…?」

 

 

零「ま、待てなのは……誤解だ!!誤解なんだ!!少しは俺の話しもき―――!!」

 

 

 

―バタンッ!!―

 

 

 

弁解しようとする前に、零はなのはに襟を掴まれ、無理矢理引きずられながら接見室を出てどこかに逝ってしまい、室内に残された優矢達の間には気まずい空気が流れていた。

 

 

「……あ、あれ?あの……も、もしかして私、なにか言ったらいけない事をいっちゃいましたか…?」

 

 

ティアナ「あ、い、いえ…気にしないで下さい。あれはいつもの事ですから…」

 

 

「いつもって…本当に大丈夫なの?あの弁護士…あのままあの人に殺されたりしないわよね?」

 

 

優矢「いえ、大丈夫です。ああいうのはもうウチでは日常茶飯事ですから…」

 

 

アルト「あれが日常茶飯事って……」

 

 

フェイト「こ、恋人だなんてそんな…!あっ、けどそういうのがやだってワケじゃないよ?!ただ私が言いたいのは―――!」

 

 

あんな身も凍るような恐怖を日常の一つとして受け入れているという優矢達にアルト達は顔を引き攣らせ、フェイトは先程の恋人発言で完全に自分の世界に入ってしまっていたのだった。

 

 

 

それから暫くした後、何処からか青年の悲痛な悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。まぁ、元を辿れば先にフェイトを泣かせた零の自業自得なのでと優矢達は気にしないでいた。

 

 

因みに、警察署の警官達がこれを事件か何かと勘違いし、悲鳴が発生した場所に向かったところ、何故か警官達全員が青い顔をしてなにもなかったかのように自分の執務に戻っていったらしい。

 

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界②

 

それから一時間後…

 

 

 

優矢「――さ、さて!それじゃあ早速、事件当時の事を詳しく聞かせてもらえますか?」

 

 

フェイト「……」

 

 

「え、えぇ……」

 

 

アルト「それは別にいいんだが……そっちのアンタは大丈夫なのか…?」

 

 

零「……モー……マン……タイ……だ……」

 

 

なのは「うぅ……」

 

 

なのはと共に接見室に戻ってきた零はテーブルでうつ伏せるようにグッタリとしながら、掠れ掠れの声で答える。口では問題ないと言ってはいるが、顔には死相が浮かび上がっており、何処からどう見ても大丈夫だとは思えない。

 

 

補足だが、なのはにはああなった経緯を説明して自分のはやとちりだったと今は猛省し、零にひとしきり謝罪した後は小さくなって顔を俯かせていた(零がフェイトを泣かした事に関しては別だが

 

 

ティアナ「えーと……と、ところで、アルトさんは殺された編集長の部下だったんですよね?なら、フェイトさんが編集長に手を掛けるところを目撃したんですか?」

 

 

アルト「…いや。俺が出社した時には、編集長はもう殺されていたんだ…」

 

 

アルトはそう言うと、社内で起きた事件当時の事を詳しく説明し始める。

 

 

アルト「原因は首元に鋭い刺し傷……現場にいたのは編集長と、その人の二人だけで完全な密室。その時、その人の手には凶器と思われるフォークが握られていたらしいって」

 

 

なのは「フォーク?…何でそんなものを持ってたの、フェイトちゃん?」

 

 

フェイト「あ、うん…実はその時にケーキが出されたんだ。それでケーキを食べようとしてフォークを持ってたんだけど………」

 

 

事件当時に自分がフォークを手にしてた理由を説明していくフェイト。そんな時、未だに机にうつ伏せている零の隣に座るティアナが何かを思い出した様にアルトの両側の席に座っている少女達へと視線を移した。

 

 

ティアナ「そういえば…そちらのお二人のお名前、まだ聞いていませんでしたよね?貴女達は?」

 

 

「え?!あ、えっと…私達は…」

 

 

アルト「あ、コイツ等の事は気にしないでくれ。この二人は俺の友人だから…」

 

 

「そ、そうそう!こっちのことは気にしないで。私達はただの友人なんだから」

 

 

ティアナ「…?」

 

 

少女達のことを聞いた途端、アルト達は何故さ挙動不審な態度を取り始める。あからさまに話をはぐらかそうとしている風にしか見えないそんなアルト達を見てティアナも怪訝そうに眉間に眉を寄せるが、その会話を聞いていた零が漸く復活し顔を上げて会話に参加する。

 

 

零「ティアナ、あまり深く聞かない方がいいぞ。アルト達の方にもいろいろと事情とかがあるんだろうし」

 

 

ティアナ「あっ…そ、そうですね、すみません」

 

 

「い、いえ!気にしないで下さい!全然大丈夫ですから!」

 

 

頭を下げて謝罪するティアナを見て、緑髪の少女が慌てて両手を振る。アルト達はなのは達に気づかれないように安息の溜め息を吐くが、零だけはその二人の仕草を見逃していなかった。しかし、零はただ溜め息を吐くだけで追求せず話しを進めていく。

 

 

零「まぁ、とにかくだ。話しを聞いた感じじゃまだ分からない事が色々とあるし、取りあえずその出版社に行ってみて現場を直接調べてみた方がいいだろう。アルト、悪いがその会社に案内してくれ」

 

 

アルト「え?あ、あぁ、分かった」

 

 

なのは「じゃあ、私達の方も別の出版社に行って何か情報が無いか調べてみるね?」

 

 

零「あぁ、頼む。フェイト、すまないがもう暫く此処で待っててくれ。必ず何か掴んで、お前の無実を証明してみせるから」

 

 

フェイト「うん…ごめんね、皆…私のせいで迷惑を…」

 

 

なのは「もう…フェイトちゃん、なに水臭い事言ってるの?」

 

 

零「なのはの言うとおりだ。お前も俺達の仲間なんだぞ?なら気にする事なく、黙って俺達に頼ってればいいんだ」

 

 

フェイト「…うん、ありがとう、みんな…」

 

 

少し涙ぐみながらも、零達に礼を言うフェイト。零となのははそんなフェイトに笑い掛けながら肩を叩き、優矢達はその光景を黙って微笑ましげに見守っていた。

 

 

そして、零とティアナと優矢はアルト達の案内で件の事件が発生した出版社に向かっていき、なのはとスバルとヴィータは他の出版社が事件についてそれらしい情報を掴んでいないかと二手に別れて行動を開始したのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

警察署から出た零達一行はアルト達の案内で出版社に向かって歩いていた。その途中、アルトは零の首に掛けられているカメラを見て話し掛けてきた。

 

 

アルト「もしかして…アンタも写真とか撮るのか?」

 

 

零「ん?あぁ、まあな。といっても、あんまり大した腕じゃない…そういうアルトこそ、名の知れたカメラマンなんだよな?」

 

 

アルト「ん?あぁ。けど、俺もそんな大したもんじゃないぞ」

 

 

アルトは写真を零に返すと自分の荷物から少し大きめなカメラを取り出した。

 

 

アルト「ただ社内ですこし写真を撮るのが上手いって評判が良いだけだ。俺はこのカメラで、この何処まで続く大空…まだ誰も見た事のない空を撮るのが夢なんだ」

 

 

アルトがそう言うと零達は関心するように頷き、アルトはそんな零達をカメラで撮影していく。

 

 

優矢「…そういえば、一応アルトも事件の関係者なんだよな?もしかして、アルトもライダーに?」

 

 

アルト「…あぁ、選ばれた。けど、バトルに参加するかは迷ってるんだ…」

 

 

アルトはそう言ってカメラをカバンに仕舞い、代わりに龍のエンブレムが描かれたカードケースを取り出しながらそう答えると、零達は疑問そうに首を傾げる。

 

 

ティアナ「どうしてですか?確か、ライダーに選ばれたならバトルに参加して判決を下せるハズじゃ…?」

 

 

「…そうなんだけどね。貴方達の知り合いの…フェイトさんだったかしら?直接話をしてみた感じ、あの人が犯人…人殺しをするような人とは思えなくて…」

 

 

零「(まぁ、人を半殺しにするような奴ではあるがな…)基本アイツは誰にでも優しいから無闇に人を傷つけるようなことはしない。…もしかして、お前等はフェイト以外の犯人に心当たりでもあるのか?」

 

 

零がそう問い掛けると、三人は何処か気まずげに顔を俯かせてしまう。するとアルトが少し眉間のシワを寄せながら口を開いた、その時だった…

 

 

―キイィィィィィィインッ…!―

 

 

優矢「ッ?!な、何だ、この音…?」

 

 

アルト「…ッ!あれは…!」

 

 

不意に聞こえてきた、耳鳴りのような音。零達が驚いていると、アルト達は近くに停めてある車の窓に視線を向け、零達もそれを追って車の窓を見遣る。其処には、車の窓を通してミラーワールドで戦うライダー達の姿が映し出されていた。

 

 

ティアナ「もしかして、あれが戦いの舞台っていう…?」

 

 

「はい。あれが鏡の世界、ミラーワールドです…」

 

 

ティアナが車の窓を見つめながら聞くと、緑髪の少女が答える。

 

 

零「成る程な……じゃあ、ちょっくら行ってくる」

 

 

優矢「え?行くって…お前行けんのかよ?」

 

 

零「当然。俺はフェイトの弁護士であり、仮面ライダーだからな」

 

 

零は車に近付きながら自信ありげにそう答えると車の前に立ち、懐からディケイドライバーを取り出して腰に装着し、左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構える。

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードを装填して電子音声が響くと、零はディケイドに変身して一度両手を払う。そして…

 

 

ディケイド『フッ!』

 

 

車の窓にダイブするように突っ込むと、ディケイドは車の窓に吸い込まれるようにしてミラーワールドに進入したのだった。

 

 

ティアナ「す、凄い!」

 

 

優矢「さっすがぁ!」

 

 

自信の通りあっさりとミラーワールドへ通過したディケイドに、ティアナと優矢は驚きながらもディケイドを誉めていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

一方その頃、ミラーワールド内にある無数の土管に囲まれた荒れ地では、先程ライダーバトルを行っていた内の一人のライダー、蟹型の『仮面ライダーシーザス』が先程ライダーバトルに乱入してきたコウモリ型の青い騎士、『仮面ライダーナイト』の容赦のない斬撃を受けて追い詰められていた。

 

 

シーザス『ウグアァッ!!ま、待て!分かった!じゃあ無罪ッ!無罪でいいッ!―ズバアァァアッ!―グアァァァァアッ!?』

 

 

ナイトの強さに怯え戦意を失ってしまったシーザスはナイトに必死に降参すると告げるが、ナイトは構わずに黒い長槍、ウィングランサーでシーザスに突きを与えて吹っ飛ばした。

 

 

ナイト『生憎だが…俺は、判決には興味はない』

 

 

シーザス『え?!な、なら!なんでこのライダーバトルに…?!』

 

 

判決には興味が無いのなら、わざわざライダーバトルに参加する理由なんてないハズ。しかしナイトは後退りするシザースの問いの問いには答えず無言でベルトのバックル部分に装填されているカードデッキからカードを一枚取り出し、ダークバイザーに装填してベントインする。

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

電子音声が響き、ナイトの上空から彼の契約ミラーモンスターのダークウィングが現れる。そしてナイトがウィングランサーを芯にしながら上空に飛ぶと、ダークウィングがナイトと一体化してマントになり、そのままマントをドリル状に変形させてシーザスに突撃していく。

 

 

ナイト『ハアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズドオォォンッ!!―

 

 

シーザス『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ナイトの必殺技、飛翔斬がシーザスの身体を貫通し、シーザスは断末魔を上げながら爆発を起こして消滅していったのだった。そしてナイトはシーザスのカードデッキから飛び出てた宙を舞うカード達を全て手に取っていく。そこへ…

 

 

―ブオォォォォオンッ!―

 

 

ナイト『………ん?』

 

 

ナイトの後ろからバイク音が響いて背後に振り返ると、其処にはディケイドがディケイダーに乗って近づいて来る姿があり、ディケイドはナイトの前でディケイダーを停めていく。

 

 

ディケイド『此処がミラーワールドか?案外悪い所でもないな』

 

 

ディケイドはそう言ってディケイダーから降りると、ナイトに向かってゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

ディケイド『なぁアンタ?弁護士としてすこし話しを聞かせて……くれそうにないか』

 

 

完全に戦闘態勢に入っているナイトを見て諦めたように呟くディケイド。そしてナイトは左腰に収めていたダークバイザーを引き抜きディケイドに向かって走り出し、ディケイドはそれに応戦しようとライドブッカーからカードを取り出した。が、ナイトはディケイドの取り出したカードを見た途端突然その場で止まってしまう。

 

 

ナイト『何だ、そのカードは…?』

 

 

ディケイド『ん?あぁ、悪いな。俺のはアンタ等のと違うみたいなんだよ』

 

 

ナイト『………フンッ…』

 

 

カードを見せながらディケイドがそう答えると、ナイトは鼻で笑いながらダークバイザーを腰に収め、何故かディケイドを無視して何処かへと向かって歩き出した。

 

 

ディケイド『お、おい…?何処に行く気だ?!』

 

 

突然自分を無視して歩き出したナイトを引き止めようとするディケイド。しかし…

 

 

『SHOOT VENT!』

 

 

―ドゴオォオンッ!ドゴオォオンッ!ドゴオォンッ!―

 

 

『……ッ?!グアァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

突如何処からか二人に向かって砲撃が放たれ、二人は足元に打ち込まれた爆発の余波を受けて吹っ飛ばされてしまった。

 

 

そしてディケイドとナイトは受け身をとって身を起こし、砲撃が放たれてきた方を見ると、其処には両肩に巨大な大砲のような装備を抱えたバッファロー型の『仮面ライダーゾルダ』が土管の上に立って二人を見据えていた。

 

 

ゾルダ『素人などに判決が下せるか!有罪だ有罪っ!フンッ!』

 

 

ゾルダは有罪を主張しながら再び二人に向けて砲撃し、ディケイドとナイトはゾルダの砲撃をかい潜りながら近くの土管の陰に飛び込み身を隠した。

 

 

ディケイド『グッ!何なんだアイツは?!』

 

 

ナイト『恐らく…立憲した検事だろう』

 

 

ディケイド『…なるほどな。見た感じ、遠距離戦闘に優れた銃撃タイプって所か…チッ、また面倒な奴が…って来やがった?!』

 

 

ナイト『チィ!』

 

 

―ドゴオォォォォォォオンッ!!バシュウッ!―

 

 

ゾルダの放った砲撃が二人の隠れていた土管を木っ端微塵に吹っ飛ばし、二人は爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされ、それによりディケイドはミラーワールドから弾かれてしまった。そしてミラーワールドから弾かれたディケイドは変身が解除され零に戻ってしまう。

 

 

零「グッ!あの牛もどき、なんて砲撃の威力だ…!」

 

 

優矢「零!」

 

 

ティアナ「大丈夫ですか?!」

 

 

ミラーワールドから弾かれ地面に倒れ込む零の下に、優矢とティアナが心配して駆け寄り零の身体を抱えて起こしていく。

 

 

零「心配するなっ、大したことはない。にしてもこのライダーバトル、やっぱりそう簡単に勝ち残れそうにないみたいだな……」

 

 

優矢「…そうか!それだよ零!ライダーバトルに参加し続けるんだ!お前がバトルに勝ち残れば、フェイトさんに無罪判決を下せる訳だし!」

 

 

零の背中を強めに叩きながらライダーバトルに参加することを進めつつ、優矢は更に閃いたように続ける。

 

 

優矢「それにフェイトさん以外の真犯人がいるなら……そいつもライダーバトルに参加してるかもしれないよな?!」

 

 

零「あぁ…恐らくな。犯人を捜すならこっちの方が手っ取り早いと思うし、例え犯人を見つけたとしてもそう簡単に事実を話してくれる相手とは限らないからな…絶対に見つけだして真実を吐かせてやるっ」

 

 

ティアナ「…零さん、何か目がギラギラしてますね」

 

 

腕の骨を鳴らしながら妙に生き生きとした顔を見せる零にティアナは思わず苦笑いを浮かべる。そんな中、アルトは零達から少し離れた場所でカードケースを片手に車の窓を睨みつけ、少女達はそんなアルトを不安げな表情で見つめていた。

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界③

 

 

その頃、零達と別れて警察署を出たなのは達は他の出版社がフェイトの無実を証明出来る様な情報を掴んでいないかと、手当たり次第に出版社を当たっていた。

 

 

だが、どの会社も既に新聞や雑誌に載っているような情報しか知らないらしく、何も情報を得られなかった。それからなのは達は何件か会社を回った後、取りあえず一度休息を取ろうと近くのレストランで休んでいた。

 

 

スバル「あぅ~…つ、疲れたぁ~」

 

 

ヴィータ「ったく…だらしねーな。もちっとしっかりしろ!」

 

 

なのは「にゃはは…仕方ないよ、警察署を出てから二時間近くも歩き回ってたんだから」

 

 

デーブルでうつ伏せるスバルに厳しく指摘するヴィータを宥めつつ、なのははポケットから今まで集めた情報が書かれたメモを取り出した。

 

 

なのは「ここまで回った出版社は5件……その中で見つけたフェイトちゃんの無罪を証明出来る証拠は0……か」

 

 

ヴィータ「…やっぱり、裁判でテスタロッサの無罪を証明するのは無理なんじゃねぇか?此処はやっぱり、ライダーバトルで勝ち残るしか手がないんじゃ…」

 

 

スバル「そう…ですよね。何処の出版社に行っても、みんな同じことばかりしか教えてくれないし…零さんがバトルで勝ち残るしかないのかな…」

 

 

証拠が何も見つけられない今、やはりライダーバトルで勝ち残ることでしかフェイトを救えないのか。スバルとヴィータは口を揃えてそう呟くが、なのはだけはそれに対し首を横に振った。

 

 

なのは「駄目だよ、それだけは……出来れば零君には、余りライダーバトルに参加して欲しくない」

 

 

スバル「だ、だけど…それしかフェイトさんを救える方法は…」

 

 

なのは「それでも諦める訳にはいかないよ。二人だって知ってるでしょ?あの夢の事を…」

 

 

ヴィータ「それ…は……」

 

 

なのはが口にしたあの夢というワードに二人は黙ってしまう。

 

 

あの夢……数え切れないライダー達とディケイドが戦うという、凄惨な光景。

 

 

もし零がライダーバトルに参加してライダーを倒し続けたら、何れあの夢のような出来事が現実に起きてしまうかもしれない。

 

 

それを恐れているなのはは、出来れば零が戦わずに済むようにと今も諦めず情報を集めているのだ。

 

 

なのは「あれが何か前触れだとしたら…放っておく訳にはいかない。私達は私達の方で、フェイトちゃんも、零君も助けられる方法を見つけたいの」

 

 

ヴィータ「けどよ…実際のところはどうすんだ?今でもそれらしい情報なんて掴めてねーのに…そんな方法がホントに見つかんのか?」

 

 

なのは「それは……」

 

 

ヴィータの言葉で今度はなのはが黙り込み、ヴィータもそんななのはを見て口を閉じてしまう。スバルはそんな二人を見てどうしたらいいか分からず困ってしまうが、その時…

 

 

―キイィィィィィィィインッ…!―

 

 

なのは「?!え…?」

 

 

ヴィータ「な、なんだ…この音?」

 

 

スバル「…!ふ、二人共!あそこ!」

 

 

突然その場に鳴り響いた耳鳴りのような音になのはとヴィータが驚いて周りを見回すと、スバルがなにかに気づいてその方を指差し、二人もその方向へと視線を向ける。其処には、一つのビルの窓ガラスに複数のライダー達が戦う姿が映し出されていた。

 

 

ヴィータ「な…何だありゃあ?!」

 

 

スバル「…もしかして、あれが鏡の世界、ミラーワールドと――――」

 

 

なのは「――――ライダーバトル………よしっ!」

 

 

ガラスに移るライダー達の戦いを見て、なのはは何かを決心した表情で椅子から立ち上がった。

 

 

スバル「なのはさん?あの…一体何を?」

 

 

なのは「うん、私もちょっと、あのバトルに参加してくる」

 

 

ヴィータ「ハァッ?!お前本気か?!てか弁護士や検事でもないのに参加していいのかよ?!」

 

 

なのは「大丈夫大丈夫!私も優矢君みたいに、黒月弁護士とランスター弁護士の"助手"っていうことにすればいいし、ライダーバトルに参加してる人達なら事件のことを何か知ってるかもしれないしね♪」

 

 

二人の助手としてライダーバトルに参加する。何とも無茶苦茶な理屈で戸惑うスバルとヴィータに向けて笑いながらそう言うと、なのははビルの窓の前に立ち、左手に装着しているKウォッチを操作する。

 

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

 

電子音声と共になのはの腰にトランスドライバーが現れ、ライドブッカーからトランスのカードを取り出して翳す。

 

 

なのは「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

電子音声と共になのははトランスに変身していき、変身を完了するとトランスは窓ガラスに向かってダイブし、そのまま窓に吸い込まれるようにミラーワールドへのゲートを通過した。

 

 

スバル「ま、窓ガラスの中に?!」

 

 

ヴィータ「…もうなんでもありだな、ライダーってのは…」

 

 

ミラーワールドにあっさり進入したトランスを見てスバルは唖然とし、ヴィータはトランスの行動に驚き半分呆れ半分といった感じで溜め息を吐いていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、ミラーワールド内のビルの駐車場付近ではエイ型の『仮面ライダーライア』とサイ型の『仮面ライダーガイ』、白虎型の『仮面ライダータイガ』とカメレオン型の『仮面ライダーベルデ』が未だ自分達の意見を述べながら、カードを用いた攻撃の応酬を繰り返しながら激戦を繰り広げていた。その時…

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズドドドドドドォッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突如ライダー達の足元に銃弾が放たれ、ライダー達は突然の襲撃に戦いを止めてその銃弾が放たれた方を見る。其処には銃口から煙りを立たせているライドブッカーGモードを構えたトランスが立っていた。

 

 

トランス『貴方達ですね?ライダーバトルに参加しているライダーは』

 

 

タイガ『?!誰だお前は?一体何者だ?』

 

 

トランス『私は弁護士助手の者です。今回の事件の容疑者であるフェイト・T・ハラオウン氏について、お話しを聞かせて欲しいのですが』

 

 

ベルデ『弁護士助手だと?フンッ、馬鹿馬鹿しい。あんな女を弁護する必要などない!あの女は有罪と決まっているだろう!』

 

 

弁護士助手と名乗るトランスにベルデが鼻で笑い、他のライダー達もトランスに向かって身構えていく。

 

 

トランス『ッ……他の方達も、同じ意見なんですか?』

 

 

ライア『当然だ。話を聞いた限り、あの女にしか犯行は不可解。証拠の凶器も既に見つかっている。これはもう判決は決まったも同然だろう。君の出番なんてないんだよ、弁護士助手君』

 

 

フェイトについて話しを聞かせて欲しいと呼び掛けても、ライダー達は有罪の一点張りでまるで話しを聞こうとしない。トランスは此処でも情報は無しかと落胆してライドブッカーを下ろし、溜め息を吐いた。

 

 

トランス『そうですか……なら、他の方達からお話しを聞く事にします。では、私はこれで……』

 

 

トランスはそう言って踵を返し別のライダーから話しを聞こうとその場から去ろうとする。だが、それを許さないかというようにトランスの前にタイガとガイが立ち塞がった。

 

 

ガイ『おっと。まさか、このまま帰れるとでも思ってるのか?』

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

タイガ『このライダーバトルは最後の一人になるまで戦わなければならない…それぐらいの事を知っているだろう?』

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

二人はそう言いながらカードをベントインさせてそれぞれ武器を装備していき、ベルデとライアもトランスを囲むようにして武器を構えていく。

 

 

トランス『やっぱり…戦わないと駄目なのかな…仕方ないか』

 

 

武器を構えるライダー達を見てトランスは仮面越しに一度瞳を閉じると、なにかを決心したように瞳を開き、ライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

トランス『そっちがその気なら、私も手加減しないよ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:SEIーO!』

 

 

電子音声が響くと共にトランスの身体に電王・プラットフォームが薄緑色にしたような外見のライダースーツが纏われ、更にその上からオーラアーマーが次々と出現してトランスの身体に装着されていく。それは魔界城の世界でみなみが変身したのと同じ、仮面ライダー聖王の姿だった。

 

 

ライア『か、変わった?!』

 

 

タイガ『だが、姿を変えた所で何になる!』

 

 

姿の変わったトランスを見てライダー達は驚くが、タイガは構わずに両手に装備するデストクローでT聖王に攻撃を仕掛ける。対してT聖王は瞬時に切り替えたライドブッカーSモードで攻撃を弾き、タイガにカウンターを喰らわせていく。

 

 

タイガ『グアァッ!?』

 

 

T聖王『まだまだ!次、行くよ!』

 

 

タイガに斬撃を与えて吹っ飛ばし、T聖王はその間にライドブッカーからカードを取り出してトランスドライバーにセットする。

 

 

『FORMRIDE:SEIーO!ANCIET!』

 

 

再度鳴り響く電子音声と共に、T聖王が身に纏うオーラアーマーが飛散してT聖王の周りを何度か回りながら変化し、再びT聖王の身体に装着されて全く違う姿へと変わった。

 

 

緑に統一された電王・ガンフォームのボディとロッドフォームの肩に酷似したオーラアーマー、そして天使の翼をイメージしたようなデンカメン……聖王のもう一つの姿であるエンシェントフォームである。

 

 

ベルデ『また変わった?!』

 

 

ガイ『チィ!コロコロと変わりやがって!』

 

 

ライア『だったらこっちもこれで!』

 

 

再び姿を変えたT聖王を見てベルデとタイガは驚き、ガイとライアはそんなT聖王を見てバックル部分にあるカードケースからカードを引き、ガイは左肩アーマー前部に取り付けられたメタルバイザーにカードを投げ入れ、ライアは左腕のエビルバイザーにカードを装填する。

 

 

『FINAL VENT!』

 

『FINAL VENT!』

 

 

電子音声が反響して響くと、ガイの下にサイ型のミラーモンスターのメタルゲラスが、ライアの下にはエイ型のミラーモンスターのエビルダイバーが現れた。そして、ガイはメタルゲラスの肩に乗り右手に装備するメタルホーンをT聖王に向けながらメタルゲラスと共に高速突進し、ライアはエビルダイバーの上に乗りT聖王に向かって突っ込んでいく。それを見たT聖王は焦った様子を見せずにライドブッカーからカードを出し、トランスドライバーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

 

電子音声と共にT聖王は上空へと高く飛び上がった。するとT聖王の背中から翼が生え、そのまま翼を身体に覆い、ドリルのように回転しながら二人に向かって突っ込んでいった。

 

 

T聖王『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガアァッ!!ズガガガガガガァッ…ズガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グッ……グアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

T聖王の放ったスパイラルセイバーが二人の必殺技を押し返し、T聖王の必殺技を受けた二人は断末魔を上げて自身の契約モンスター達と共に爆散していったのだった。それを確認したT聖王は地上に着地しながらトランスに戻って一息吐くが、しかし…

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グオォォォォォオッ!』

 

 

トランス『え?ウアァッ?!』

 

 

不意に電子音声が響き、それを聞いたトランスが振り返った瞬間二体のモンスター達がトランスに飛び掛かってきた。一体は白虎型のモンスターのデストワイルダー。もう一体はカメレオン型のモンスターのバイオグリーザである。トランスがモンスター達に応戦していると、残ったライダーであるベルデとタイガがトランスに近づいていく。

 

 

ベルデ『中々やるじゃないか…だが甘かったな。まだ俺達が残ってるのを忘れてもらっちゃ困る』

 

 

タイガ『さっきのように姿を変えさせなければ大したことはないだろう。これでお前に勝ち目はない!』

 

 

トランス『クッ!』

 

 

モンスター達の攻撃をかわしながら苦い表情を浮かべるトランス。ベルデとタイガはそんなトランスに追い打ちをかけるように攻撃を仕掛け、トランスはライダー達の攻撃を何とかかわすと近くの物陰に飛び込んで身を隠した。

 

 

トランス『ハァ…ハァ…どうしよう。このままじゃやられる…何か、他にカードは……あっ…』

 

 

トランスは何かライダー達に対抗出来るカードは無いかとライドブッカーから数枚のカードを取り出していると一枚のカードを見つけて固まってしまう。それは一枚のライダーカードだが、そのカードに描かれているライダーを見てトランスは額から冷や汗をタラリと流す。

 

 

そのライダーの名は―――『MAーO』

 

 

トランス『うぅっ…出来ればこのカードはあんまり使いたくはないんだけどっ…』

 

 

トランス自身、このライダーには余りいい思い出がない。

 

 

以前零達一行が訪れたカオスの世界。そこで魔界城の世界で共に戦った天満幸助に無理矢理特訓を受けさせられてしまい、その時なのはは異世界のとある少年達と共にカオスの世界のなのは……冥王から地獄ような特訓を受けてトラウマが出来てしまったのだ。

 

 

だからこのライダーを見ればその時のトラウマが蘇るし、このライダーの力は余りにも巨大過ぎるから使うのはあまり気が進まない。どうしようか…とトランスは暫く頭を悩ませていると…

 

 

トランス『…だけど、今はこれしか手がないし…仕方ない!』

 

 

と、トランスは決心したように叫びながら手の中にあるカード達の中から冥王のカードを取り出し、トランスドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:MAーO!』

 

 

電子音声が響くとトランスの姿がプラットフォームへと変わり、更にトランスの周りに白に統一されたオーラアーマーが現れトランスの身体に次々と装着されていく。そして最後にハートの形をしたデンカメンが後頭部から現れ、複眼部分に到達すると同時に装着されていった。

 

 

その姿は、ゼオライマーとなのはのバリアジャケットを足して二で割り、電王を足したような感じのオーラアーマー。そしてハートの形を模したデンカメンを輝かせるライダー…『冥王』へと変わっていったのだ。

 

 

T冥王『うわぁ…すごい力を感じる…これなら本当に世界一つを滅ぼせそうな気がしてきたよ…ってそれどころじゃなかった!』

 

 

自身の両手を見下ろして冥王の力を肌身に感じドン引きしてしまっていたが、本来の目的を忘れ掛け、T冥王は慌てて気を取り直すと再びライドブッカーからカードを取り出した。

 

 

T冥王『えーと、このカードは……?まあいいか。取りあえず使ってみよう!』

 

 

『FORMRIDE:MAーO!GENOCIDE!』

 

 

カードを装填したトランスドライバーから電子音声が響くと、T冥王の複眼部分にセットされていたハート型のデンカメンが外れて消え、変わりにWを模したデンカメンが後頭部から現れ複眼部分に装着されていった。

 

 

だが、フォームチェンジを終えた瞬間、何故かT冥王は小さく顔を俯かせてその場からピクリとも動かなくなってしまった。その時…

 

 

『グオォォォォォォオッ!』

 

 

運が悪くもミラーモンスター達に見つかってしまい、更に奥からT冥王を追ってきたベルデとタイガが姿を現した。

 

 

ベルデ『漸く見つけたぞ!』

 

 

タイガ『隠れんぼはもうおしまいだ…覚悟しろ!』

 

 

二人はそう言ってT冥王に向かって同時に襲い掛かり、ミラーモンスター達も二人に続いてT冥王に飛び掛かった。対して、先程までピクリとも動かなかったT冥王が漸く動き出し、ゆっくりと顔を上げていくと…

 

 

 

T冥王『……いやっほぉぉう!!天界から舞い降りた天使のように…ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

 

―ズドドドドドドドドドドッッッ!!!!―

 

 

『なっ?!グアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

突如、T冥王は意味不明な奇声を上げながら腰にあるライドブッカーを瞬時にGモードに切り替えてライダー達とモンスター達に向けて連射し、二人とモンスター達は纏めて吹っ飛ばされそのまま建物の壁を突き破っていった。

 

 

タイガ『ガハァッ!クッ……な、何だあれは……?!』

 

 

ベルデ『グッ!ふ、雰囲気が変わった?というかなんだ、あの力は?!』

 

 

いきなり強くなり出したT冥王を見て二人は驚きながら後退り、T冥王はライドブッカーを指で回転させながら破壊された壁の穴の向こうからゆっくりと二人に近づいていく。

 

 

T冥王『我は神の代理人、神罰の代行者。我が使命は…貴様らのように軟弱なぁ愚か者をぉ肉片すらも残さず消し去ることだぁ。貴様らもあの祐輔や稟とかいう小僧達のようにぃ…痛め付けてやるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

『ヒィ!?ウ、ウアァァァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!!』

 

 

T冥王から発せられるとてつもない迫力にベルデとタイガは完全に怯えて戦意を失い、その場から一目散に逃亡していった。

 

 

T冥王『逃げてんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 

だが今のT冥王がそんなライダー達を見逃すハズもなく、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しトランスドライバーに捩じ込むようにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:M・M・M・MAーO!』

 

 

電子音声が響くと同時にT冥王の背後に某機動戦士が使うミーティアのような形状をした巨大兵器が出現し、T冥王はそれに背中を合わせてドッキングすると逃亡するライダー達をマルチロックしていく。そして…

 

 

 

T冥王『冥王からは逃れられんぞぉ……木っ端微塵に吹き飛べえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえーーーーッ!!!!』

 

 

―カチッ…チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーンッッ!!!!!―

 

 

『ヒッ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーンッッッ!!!!!―

 

 

 

T冥王の放った凶悪とも言える一斉射撃がライダー達に次々とヒットし、ライダー達は断末魔を上げて一片残さず完全に消滅していった。更に目標から外れた流れ弾が市街地のビルなどに当たり次々と倒壊して炎に呑み込まれ、T冥王はライダー達が消滅したのを確認すると憑依していたワカモトイマジンがT冥王から抜け出し、それと同時にT冥王はその場で崩れるように倒れてトランスへと戻っていく。

 

 

トランス『……ん…んん……あ…あれ?…私…今まで何を…?』

 

 

意識を取り戻したトランスはゆっくりと身体を起こしていくが、自分が今までなにをしていたのか思い出せず、炎の海に包まれた街中でただ呆然と立ち尽くしていたのだった……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―…………ゾワァッ!―

 

 

零「ッ!!?」

 

 

ティアナ「…?零さん?どうかしましたか?」

 

 

零「…え?い、いや…なんでもない(何だ、今の悪寒は?凄く嫌な感じだったが……気のせいか?)」

 

 

アルト達の勤める出版社に向かってる途中、零は一瞬全身にとてつもない寒気を感じ取ったのだが、ただの気のせいか?とあまり気にしないことにして再び歩き出していったのだった。

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界④

 

 

編集長殺害の現場となった出版社DEKARUCHA。そこでは零達一行が事件の事を詳しく聞こうとアルトの勤める編集部に訪れ、副編集長と名乗る男と事件のことを話し合っていた。

 

 

「副編集長の鎌田です」

 

 

零「弁護士の黒月零だ。そしてこっちの二人は…」

 

 

ティアナ「同じく弁護士のティアナ・ランスターです。よろしくお願いします」

 

 

優矢「弁護士助手の桜川優矢です。早速ですが、事件のことについてお聞きしてもいいですか?」

 

 

零とティアナの肩をポンッと叩きながら、事件の詳細を尋ねる優矢。副編集長と名乗る鎌田はそれに少し顔を俯かせ、小さく頷きながら喋り始める。

 

 

鎌田「私は許せません…あの女は、仮面ライダーについて話しを聞きたいと言って編集長に近づき、その機を狙って編集長を殺したんです」

 

 

ティアナ「ですが、資料を読んだ時にはその時の現場を目撃した人は誰もいないと…」

 

 

鎌田「いえ、室内にいたのは編集長とあの女だけです。現場を目撃した第一発見者の証言でも、現場にいたのは編集長とあの女だけだったとか…」

 

 

鎌田はそう言いながら事件の詳細について書かれている一つの資料を零達に手渡し、零とティアナと優矢は資料に張り付けられた現場の写真などを一つ一つ読みながら黙々とページを進めていく。

 

 

零「……なるほどな、大体分かった。因みにアンタは事件が起きた時、何処にいたんだ?」

 

 

鎌田「私はこの会社の下にあるカフェにいましたよ。出社前に珈琲を飲むのが私のスタイルなんです…あんな事が起きてるとも知らずに…」

 

 

鎌田にはちゃんとしたアリバイがある。零とティアナはそれを聞くと怪訝そうに眉を寄せながら、再び視線を下ろし資料を何度か見直していく。

 

 

優矢「それじゃあ…最初に事件を確認したのはアルトってことでいいのか?」

 

 

アルト「…………」

 

 

「…アルト?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

優矢がアルトに視線を移しながら問うが、アルトは何故か何も答えず優矢から視線を外し、少女達はアルトの顔を心配そうに覗き込んだ。

 

 

鎌田「いや…事件の第一発見者はアルト君ではなく、"ブレラ・リー"です」

 

 

『…えッ?!』

 

 

零「…ブレラ?」

 

 

鎌田が告げたブレラという名に少女達……特に緑髪の少女が驚愕し、零は疑問そうに聞き返す。すると、アルトが鎌田の変わりに説明し始めた。

 

 

アルト「昔この会社で働いていたライターだ…余所の会社に引き抜かれて辞めたハズなのに…何故かあの朝会社に顔を出していた…」

 

 

「ちょ、ちょっとアルト!どういうことよそれ?!私達にはそんなこと一言も…!」

 

 

「…………」

 

 

淡々とブレラという人物のことを話すアルトに金髪の少女が詰め寄り、緑髪の少女は何やら暗い表情をして顔を俯かせてしまい、事情が呑み込めない零達はそんなアルト達の様子を見て首を傾げている。すると、鎌田が何かを思い出した様に再び口を開いた。

 

 

鎌田「そういえば、彼もこのライダーバトルに参加してると聞きましたよ?」

 

 

アルト「?!何だって?」

 

 

「お兄…ちゃんが…?」

 

 

ティアナ「…お兄ちゃん?」

 

 

ブレラがライダーバトルに参加している。それを聞いたアルト達は再び驚愕して思わず身を乗り出し、ティアナは緑髪の少女が小声で呟いた「お兄ちゃん」という言葉に反応して振り返った。そして鎌田は、そんなアルト達から視線を外して零を見据える。

 

 

鎌田「さて……私達もそろそろ始めましょうか?」

 

 

零「…その言葉、待ってたぜ」

 

 

優矢「……え?何を……?」

 

 

二人の会話の意図が読めず優矢が首を傾げる中、零は口端を上げながらディケイドライバーを出し、鎌田も自分のポケットから鮫のエンブレムが刻まれた水色のカードケースを出した。

 

 

ティアナ「!貴方もライダー?!」

 

 

鎌田「ええ。殺された編集長の為、この裁判は私が判決を下します」

 

 

零「…自信満々ってワケか。ならアンタのその自信をへし折ってやるよ」

 

 

零と鎌田はガラスの前に立つと、零はディケイドライバーを腰に装着してライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、鎌田はカードケースをガラスの前に翳して腰にライダーベルトを出現させる。

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

鎌田「変身」

 

 

電子音声が響くと零はディケイドに変身し、鎌田はカードケースをベルトのバックル部分にセットして鮫型モチーフのライダー、『仮面ライダーアビス』へと変身していった。

 

 

優矢「…勝てよ、零…」

 

 

真剣な眼差しを向ける優矢にディケイドは片手を軽く上げて答え、ディケイドとアビスはガラスをゲートにミラーワールドへと入っていった。

 

 

ティアナ「…あの、詳しく話を聞いてもいいですか?皆さんと…その、ブレラ・リーという人との関係を…」

 

 

ディケイドとアビスがミラーワールドに入ったのを見送った後、ティアナはアルト達の方に振り返りアルト達とブレラの関係を問い掛ける。アルト達はそれに少し言い淀んでしまうが、緑髪の少女は無言で自分が身に付けていた帽子とサングラスを外し、もう一人の金髪の少女もそれを見て何かを悟り同じように帽子とサングラスを外していく。

 

 

優矢「え?アンタ達は…」

 

 

アルト「お、おい?!お前等…?!」

 

 

「いいの、アルト君」

 

 

「そうよ。どうせこれから話すことでバレるんだから、今話しても同じことよ」

 

 

ティアナ「貴方達…もしかして…」

 

 

素顔を露わにした少女達を見て、ティアナと優矢は信じられないものを見たかのような顔を浮かべる。何故なら、彼女達の顔は街を歩いている時にビルのスクリーンや雑誌で何度も目にしていたからだ。

 

 

「じゃあ、先ずは私からね…私は銀河の妖精、"シェリル・ノーム"。歌手として芸能活動してるんだけど…まぁ、知ってるわよね」

 

 

「黙っててごめんなさい…私は"ランカ・リー"。シェリルさんと同じ歌手をしています。そして…ブレラ・リーは、私の兄なんです…」

 

 

ティアナ「…シェリル・ノーム…ランカ・リー…フロンティアとギャラクシーの歌姫…」

 

 

自分達の正体を表した少女達…シェリル・ノームとランカ・リーと名乗る二人を見て、ティアナは呆然とした表情で少女達の名を口にした。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方、ミラーワールドではディケイドとアビスが互い身構え対峙していた。ピリピリとした空気が二人の間に流れ、ディケイドとアビスはお互いの出方を伺いながら立ち回っていく。

 

 

アビス『先に言っておきますが、私に勝てるライダーは居ませんよ?』

 

 

ディケイド『あぁ…大抵の奴はみんなそう言って、結局は倒されるんだ…よっ!』

 

 

先に仕掛けたのはディケイド。腰にあるライドブッカーを瞬時にSモードに切り替えアビスに斬り掛かる。しかし、アビスはそれを軽々とかわしてバックル部分にあるカードケースからカードを引き、左腕に装着されているアビスバイザーにベントインする。

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

電子音声と共にアビスはアビスセイバーを取り出してディケイドに向かって振りかざし、ディケイドはライドブッカーSモードでそれを弾きながら反撃する。

 

 

アビス『ほう?中々やりますね』

 

 

ディケイド『当然…こっちはどこぞの神様に鍛えてもらったからな!』

 

 

ディケイドはそう言いながらアビスの剣を弾いて再び斬り掛かり、アビスは再度ベルトのカードケースからカード引き抜きアビスバイザーにセットする。

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グガアァァァァァアッ!!』

 

 

ディケイド『なっ、ウオッ?!』

 

 

電子音声が響くと同時に、ディケイドの背後からアビスの契約モンスターであるアビスハンマーとアビスラッシャーが不意打ちで襲い掛かり、ディケイドは反応が遅れて二体の突撃で吹き飛ばされてしまう。更にアビスはカードケースからカードを抜き、アビスバイザーにセットする。

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

電子音声と同時にアビスの上空からアビスラッシャーの頭を模した手甲、アビスクローが現れてアビスの右腕に装着し、アビスはディケイドに向けてアビスクローから水流弾を放った。だがそれに気づいたディケイドは自身が戦っていたアビスハンマーを掴み、自分の前に立たせる。

 

 

アビス『なっ?!』

 

 

―ズドドドドドォッ!!―

 

 

『グギャアッ!?』

 

 

ディケイド『フッ、残念だったな?ハアァッ!』

 

 

ディケイドはアビスハンマーを盾にしてアビスの攻撃を防ぎ、役目を果たしたアビスハンマーを蹴り飛ばすと、懐からパソコンのUSBのような形をした一つの紅いメモリ…『ガイアメモリ』を取り出してスイッチを押す。

 

 

『SOL!』

 

 

アビス『ッ?!』

 

 

ディケイド『さて、カイエのくれた贈り物…そろそろ試してみるか!』

 

 

そう言ってディケイドはガイアメモリをディケイドライバーの左側に取り付けられているスロットに装填し、インサートした。

 

 

『SOL DECADE!』

 

 

電子音声と共にディケイドライバーから豪快なメロディーが流れ出し、それと共にディケイドのボディーがマゼンタから赤へ、瞳の色も緑からオレンジへと変化していく。

 

 

これが以前、魔界城の世界で共に戦った智大と再会した際、彼の相棒であるカイエに改造してもらったドライバーと共にもらった『ソル』のガイアメモリを使ったディケイドの新たな姿、ディケイド・ソルフォームである。

 

 

アビス『なに…?!』

 

 

ディケイド『さあて…ここからが本番だ、行くぜ!』

 

 

ディケイドがライドブッカーの刃を片手で撫でると、それをなぞるようにして刃に炎が走る。そしてライドブッカーを構えてアビスハンマー達に突っ込み、火炎を纏った斬撃と打撃を打ち込んでアビスハンマー達にダメージを与え、アビスハンマー達はディケイドの猛攻に前に反撃も出来ず少しずつ圧され始めていた。

 

 

ディケイド『セエアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ボシュンッ!ボシュンッ!ドガアァァァァァアンッ!!―

 

 

『グギャアァァァァァアッ!?』

 

 

最後に放たれたディケイドの拳がアビスハンマー達を殴り付け、アビスハンマー達はアビスの下へと盛大に吹き飛んでいった。

 

 

ディケイド『さあ、そろそろ決めさせてもらうぞ!』

 

 

ディケイドはそう言いながらアビスハンマー達にとどめを刺そうと、ディケイドライバーにインサートされているガイアメモリを引き抜こうとする。しかし…

 

 

『ウオォォォォォォォオッ!!』

 

 

ディケイド『……ッ?!何?!』

 

 

トドメに入ろうとしたディケイドの後ろから、いきなり数体のミラーモンスター達とレイヨウ型の『仮面ライダーインペラー』が飛び掛かり、襲い掛かってきたのだ。ディケイドは突然の襲撃に戸惑いながらも応戦し、アビスはそんなディケイドを見て不敵な笑みを浮かべた。

 

 

アビス『残念でしたね?バトルに参加しているのは私だけではない。貴方の手の内…ジックリと見させて頂きますよ?』

 

 

ディケイド『ッ!おい待てっ…チィ!邪魔すんじゃねぇよ!!』

 

 

不気味に笑いながら歩き去っていくアビスをディケイドは何とか追跡しようとするが、インペラー達によって道を阻まれてそれも叶わず、ディケイドは毒づきながら仕方なくインペラー達との戦闘を開始していくのであった。

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑤

 

 

ディケイドがミラーワールドでライダーバトルを行っているその頃、ティアナ達は事件の第一発見者であるブレラに会う為、彼がいる他会社のブレンのオフィスに来ていた。

 

 

部屋の壁にはスクープや事件の事などが書かれたあらゆる記事が貼付けられており、ブレラは部屋の一角にあるテーブルに着いてパソコンと向き合いキーボードを打ち続けている。因みに部屋に居るのはティアナと優矢だけであり、アルト達はとある理由で此処にはいない。

 

 

ブレラ「…弁護士と弁護士助手?」

 

 

ティアナ「はい…ブレラ・リーさん。貴方が事件現場に居た理由についてお話しを聞かせて欲しいのですが…」

 

 

ブレラ「……桐上編集長に会いに行っただけだ。それ以外に理由はない」

 

 

優矢「だけど、桐上さんとはもう何年も会ってないんだよな?それなのに何故…?」

 

 

ブレラ「………」

 

 

桐上になんの用件があって会社に来ていたのか。それについて掘り下げようとするとブレラは急に黙り、淡々と無言でパソコンのキーボードを打ち続けていく。

 

 

ティアナと優矢はブレラのデスクに視線を下ろすと、其処には様々な記事が印刷されたプリントが広がっており、その中には満面の笑みを浮かべるアルトと小さく笑みを浮かべるブレラが互いに肩を組み合う写真が置かれていた。

 

 

優矢「…アルトとは…良いチームだったみたいだな」

 

 

ブレラ「…確かに、俺達は良いチームだった…アイツがカメラ、俺が記事。俺達の書いた記事は世間でも認められたもので、何度も賞も取った……俺達は最高のチームだった…」

 

 

ブレラはキーボードを打つ手を止めてデスクから立ち上がり、デスクの上に置かれた写真を手に取った。

 

 

ブレラ「…だが、俺がそれを壊した…壊してしまったんだ」

 

 

ティアナ「…それは…」

 

 

何処か悲しげな瞳で写真を見つめるブレラに、ティアナと優矢は口を閉じてしまう。だが、今はそんなことを気に掛けている場合ではない。そう思い、二人は再び自分達の疑問をブレラに追求しようとする。だがその時…

 

 

―キイィィィィィインッ……―

 

 

ブレラ「ッ!」

 

 

優矢「!この音…!」

 

 

ティアナ「…ッ?!あれは…零さん?!」

 

 

耳に届いた金属音を聞いて三人が近くに置いてある姿見の鏡に目を向けると、其処にはディケイドとインペラー達が戦う様子が映し出されていたのだ。インペラー達に翻弄されていくディケイドを見てティアナと優矢は焦り、ブレラは目付きを鋭くさせポケットからコウモリのエンブレムが刻まれたカードケースを取り出し自分も戦おうとする。だが其処へ…

 

 

―…ガチャッ―

 

 

アルト「…本当にライダーになってたんだな…ブレラ」

 

 

『ッ?!アルト(さん)?!』

 

 

ブレラ「…アルト…」

 

 

不意に部屋の扉が開き、其処から外で待っていたハズのアルトが険しい表情をして部屋に入ってきた。

 

 

アルト「…忘れたワケじゃねぇよな?三年前、大手の出版社に誘われたお前はチームの俺や、ランカになにも言わず姿を消した…お前は、俺達を裏切ったんだよ!」

 

 

ブレラ「ッ……」

 

 

怒りに満ちた表情で怒号を響かせるアルト。ティアナと優矢はそれを気まずそうに見つめるしか出来ないでいた。

 

 

此処に来る前に、二人はアルトからブレラの事を聞いている。

 

 

かつて、ブレラがチームメイトであるアルトや桐上、そして妹であるランカや、両親を亡くして身寄りを無くしたランカとブレラを引き取り今まで育ててくれたオズマ・リーに何の相談もせずに姿を消したこと。そのことに対し裏切られたと感じているアルトの怒りも大きく、今でもそれを忘れられないでいることを。

 

 

ティアナ達もそれを知ってしまい、出来ればアルトとブレラを会わせたくはないと思い外で待ってもらっていたのだが、アルトはそんな二人の心境に気づかず、ブレラの胸倉を乱暴に掴んだ。

 

 

アルト「答えろブレラッ!お前が編集長を殺したんだろ?!そしてその罪をあのフェイトっていう人に着せて、あの人を有罪にする為にバトルに参加してんだろ?!」

 

 

ブレラ「ッ…違う…俺は…」

 

 

ブレラはアルトの言葉を否定するように首を振るが、アルトは聞く耳を持たずブレラを突き放し、ポケットからカードケースを取り出してブレラの目の前に突き出す。

 

 

ブレラ「…アルト…」

 

 

アルト「…俺が此処に来たのはお前とのケリを付ける為だ。お前との因縁…いい加減終わらせてもらう…」

 

 

そう言ってアルトは鏡の前に立ってカードケースを翳し、ブレラもそれを見て一瞬躊躇した後にカードケースを鏡に翳す。すると二人の腰にVバックルが出現し、二人は同時に変身の構えを取る。

 

 

アルト「変身ッ!」

 

 

ブレラ「…変身!」

 

 

二人がカードケースをVバックルにセットすると、アルトは龍型の騎士のような姿をした『仮面ライダー龍騎』となり、ブレラはナイトへと変身していった。

 

 

―ガチャッ!!―

 

 

シェリル「アルト!!此処に居るの!?」

 

 

ティアナ「?!シェリルさん、ランカさん?!」

 

 

二人が変身を完了したと同時に部屋の扉が勢いよく開き、其処からアルトと共に外で待ってもらっていた筈のシェリルとランカが入り込んできた。どうやら二人の様子からしてアルトを止めようと追い掛けてきたらしい。だが、龍騎はそんな二人を気に止めず鏡に飛び込んでミラーワールドに入り、ナイトも龍騎を追ってミラーワールドに入ろうとする。

 

 

ランカ「待って!待ってよお兄ちゃん!!」

 

 

ナイト『っ……フッ!』

 

 

ランカに呼び止められ一瞬躊躇するナイトだがすぐにそれを振り切り、ナイトも鏡に飛び込んでミラーワールドに入っていった。それを見送るしかなかったランカは膝から崩れるように力無く床に座り込み、シェリルとティアナ達は慌ててランカに駆け寄った。

 

 

シェリル「ランカちゃん?!しっかりして!ランカちゃん!」

 

 

ランカ「…何で…どうしてっ……どうして二人がっ…こんな事っ…!」

 

 

ティアナ「ランカさん……ッ」

 

 

涙を流して嘆くランカを見て、優矢とシェリルはどんな言葉を掛けたらいいか分からず、ティアナはそんなランカになにもしてやれない自分をもどかしく感じ、ただ二人が消えた鏡をジッと見つめているしか出来ないでいた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ミラーワールドにやって来た龍騎とナイトは既に戦闘を開始し、龍騎はナイトに向けて拳を何度も放っていく。だがナイトはその攻撃を避けることも防ぐこともせず顔を俯かせたままただ黙ってそれを受けていき、手に持つダークバイザーも構えず立ち尽くしていた。

 

 

龍騎『クッ…!なんでだ…なんでやり返さないんだよ!?』

 

 

先程から反撃を返して来ないナイトに流石の龍騎も攻撃の手を止めてしまい、ナイトはそんな龍騎に目を向けて喋り出す。

 

 

ナイト『俺は…お前とは戦いたくない…それに…こんな戦い、ランカもきっと望んでいないだろう…』

 

 

龍騎『ッ!ふざけんな!!そのランカを放って勝手に消えたのは誰だッ?!お前なんかに、アイツのことを口にする権利なんてない!!』

 

 

龍騎はナイトの言葉に怒りその顔面を再び殴りつけていく。だがそれでもナイトは反撃せず、龍騎の放つ拳を全て受け続けていた。

 

 

ナイト『…否定はしない…お前やランカに辛い思いをさせたのは事実だ……すまなかった……』

 

 

龍騎『ッ……!!ふざけるなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

謝罪の言葉を口にするナイトに完全に怒りを爆発させた龍騎は先程よりも強く拳を握り、ナイトに向けて勢いよく放った。だが、その時…

 

 

 

 

―ドガアァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

龍騎『なっ?!』

 

 

ナイト『ッ?!』

 

 

突如二人の間を遮るように、何かが吹き飛んで来て龍騎の攻撃が止められてしまった。二人は突然の事態に驚きながらその何かが吹き飛んでいった方を見ると、其処にはディケイドと戦っていたハズのインペラーが身体から煙りを立たせてふらつきながら立ち上がる姿があった。更に…

 

 

ディケイドS『其処の二人!退けぇッ!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

そのインペラーを吹き飛ばした本人であるディケイドが猛スピードで二人の間を駆け抜け、ディケイドライバーからソルメモリを抜いてインペラーに突っ込んでいく。

 

 

ディケイドS『動くなよ!?動いたら承知しねぇぞ!』

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ディケイドはライドブッカーSモードにあるスロットにソルメモリをインサートすると、ライドブッカーSモードの先端が業火に包まれ、インペラーに向かって炎刃を振り下ろした。

 

 

ディケイドS『ソルスラッシャーッ!!セヤアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

インペラー『グッ?!グオォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

ディケイドの振り下ろした火炎の刃がインペラーを斬り裂き、インペラーは防御も出来ず悲痛な悲鳴を上げながら爆散していったのだった。

 

 

ディケイドS『っ…無駄に手間取らせやがって…しかしこれがガイアメモリの力か…強力ではあるがやっぱり強すぎるものだな…使い道には気をつけるか…』

 

 

ディケイドはライドブッカーからソルメモリを抜いて元の姿に戻り、メモリを仕舞ってライドブッカーを腰に戻すと、背後にいる龍騎とナイトの方に振り返る。

 

 

ナイト『お前は…あの時の…』

 

 

ディケイド『漸く会えたな。今度はちゃんと相手してもらうぞ?』

 

 

ディケイドはライドブッカーを開き、其処から一枚のカードを取り出して龍騎達へ見せるように目の前に翳す。

 

 

ディケイド『コイツの力も試してやる。変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:FIRST!』

 

 

ディケイドライバーにカードをセットすると電子音声が響き、それと同時にディケイドライバーから眩い光が放たれてディケイドの身体を包み込んだ。

 

 

そしてその光が徐々に晴れていくと、ディケイドは全身にダークグーリンの強化スーツを纏い、更に何処からか取り出したバッタを模した仮面とクラッシャーを顔と口元に装着し、異形のライダー……前の世界で滝が変身したのと同じ仮面ライダーfirstへと変わったのである。

 

 

ナイト『何…?!』

 

 

龍騎『姿が…変わったっ?』

 

 

Dfirst『原点にして頂点ってな。お前らの祖先の力…じっくりと見せてやるよ。ハアァッ!』

 

 

Dfirstはナイトに向かって走り出し、鋭い右ストレートの打撃を打ち込んでいく。ナイトはDfirstの放つ打撃をダークバイザーを使って何とか防ぐが、一撃一撃がとてつもなく重く次第に耐え切れなくなって近くの地下駐車場へと吹き飛び、Dfirstもナイトの後は追って地下駐車場へと向かっていく。

 

 

ナイト『グゥッ…!』

 

 

Dfirst『どうした?さっさとやり返してこいよ』

 

 

挑発するように人差し指を動かすと、ナイトは態勢を立て直してダークバイザーをDfirstに向けて振り下ろし、Dfirstはそれをかわして後退しながらディケイドライバーを開く。

 

 

ナイト『クッ!お前は本当に弁護士か?!お前みたいなライダー、取材でも聞いたことがない…!』

 

 

Dfirst『そうか?俺はお前達のことを知ってるぞ?仮面ライダーナイト、仮面ライダー龍騎!』

 

 

―ドゴオォッ!―

 

 

ナイト『ウグッ?!』

 

 

Dfirstはナイトの攻撃を弾きながらその腹を殴って後退させると、ライドブッカーを開いてカードを出し、ディケイドライバーにセットする。

 

 

『ATTACKRIDE:BURST HAMMER!』

 

 

電子音声が響くとDfirstの右手が炎に包まれて激しく燃え盛り、Dfirstはそれをナイトに向けて放っていく。

 

 

―ドゴオォッ!ドゴオォッ!ドゴオォォォオンッ!―

 

 

ナイト『ガハァッ?!』

 

 

Dfirst『まだ倒れるには早いぞ?』

 

 

吹き飛んだナイトを見据えながら、Dfirstはもう一枚のカードを取り出し、それをディケイドライバーに投げ入れスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:ELECTRO FIRE!』

 

 

ナイト『ウッ…グッ、ハアァァァァアッ!』

 

 

鳴り響く電子音声を聞いてナイトはすぐさま立ち上がりDfirstの行動を阻止しようとダークバイザーで斬り掛かった。が、Dfirstはそれを避けながらナイトの腹部へと自身の右手を押し当てる。

 

 

ナイト『ッ!しまっ…!』

 

 

Dfirst『エレクトレファイヤー…シュート』

 

 

―ズドオォォォォォオンッ!!―

 

 

ナイト『ウグアァァァァァァアッ!!』

 

 

Dfirstの右手から放たれた電流がナイトに襲い掛かり、ナイトはそのまま遠方へと吹き飛んで壁に激突しアスファルトの上に倒れ込む。

 

 

ナイト『ッ…クッ!』

 

 

ふらつきながらもなんとか態勢を立て直したナイトはバックルのカードケースからカードを抜き取り、ダークバイザーへと装填していく。

 

 

『TRICK VENT!』

 

 

電子音声が響くとナイトから三体の分身が現れ、分身達と共にナイトはDfirstに反撃を開始する。

 

 

Dfirst『クッ?!グッ!』

 

 

分身達に驚きながらも何とか応戦しようとするDfirstだが、ナイトと分身達による連携攻撃には手も足も出ず吹っ飛ばされ、地面を転がって叩き付けられたその衝撃でディケイドの姿に戻ってしまった。

 

 

ディケイド『クッ…なるほどな…だがそういうの、こっちにもあるんだよ!』

 

 

ディケイドはそう言って立ち上がり、ライドブッカーから新たに取り出したカードをディケイドライバーにセットする。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディケイドから二体の分身が出現し、それぞれのライドブッカーを構えてナイト達に向かって走り出した。ナイト達もディケイド達に反撃するが、ディケイド達の方が明らかに優勢であり、ナイト達は一人、また一人と吹っ飛ばされていく。そして最後の一人が吹き飛んだと同時にナイトは一人に戻り、ディケイドもそれを確認すると分身達を消してライドブッカーを腰に戻した。

 

 

ナイト『グッ…ゴフッ…!ハァ…ハァ……!』

 

 

龍騎『…いい様だな、ブレラ』

 

 

すこし離れた所で二人のその戦いを見ていた龍騎は、膝を付けて苦しむナイトを見て鼻で笑いながら呟いていた。

 

 

龍騎『お前は俺と桐上さんを…そしてランカを裏切った…当然の報いだ…』

 

 

顔を俯かせながら龍騎は独り言の様に呟き、ディケイドはナイトにとどめを刺そうとライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出していた。漸くあの男が倒される。漸くこの怒り憎しみから解放される。それは自分にとって喜ばしいことだ。なのに……

 

 

龍騎『ッ……俺は……』

 

 

あの男が倒される…そう考えると何かが引っ掛かり、何故かそれに納得出来ないでいる自分に龍騎は戸惑っていたのだった――――

 

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑥

 

 

ナイト『うっ…ぐぅ…』

 

 

ディケイドから受けたダメージに苦しみながらもダークバイザーを杖代わりにして立ち上がろうとするナイト。ディケイドはそのナイトにとどめを刺そうと取り出したファイナルアタックライドのカードをディケイドライバーにセットしようとする。だが…

 

 

『待て!』

 

 

ディケイド『…?』

 

 

突然ディケイドとナイトの間を遮るように龍騎が目の前に立ちはだかり、ディケイドはそれを見てカードを持つ手を止めた。

 

 

龍騎『コイツとの決着は…俺が付ける!』

 

 

ディケイド『お前…まさかアルトか?バトルには参加しないんじゃなかったのか』

 

 

龍騎『あぁ…だがコイツが教えてくれたよ。人間なんて所詮…皆ひとりぼっちで身勝手なんだってな。だから…俺のこの手でコイツにとどめを刺す!』

 

 

ディケイド『……お前』

 

 

龍騎の言葉にディケイドは仮面越しに眉間に皺を寄せ、龍騎はナイトにとどめを刺そうと振り返りカードケースからカードを抜こうとする。しかし…

 

 

―ズドオォンッ!ズドオォンッ!ズドオォンッ!―

 

 

龍騎『?!ウグッ?!』

 

 

ナイト『グッ?!』

 

 

ディケイド『ッ?!これは?!』

 

 

突如何処からか水弾が放たれ三人に襲い掛かり、三人は不意打ちを受けて吹き飛んでしまう。そして態勢を立て直した三人はその水弾が放たれてきた方向に目を向けると其処にはディケイドとの戦い以降姿を見せなかったアビスの姿があった。

 

 

アビス『お話の最中にすみませんね、皆さん。迅速に判決を下す事が今の裁判。貴方達には此処で脱落してもらいます』

 

 

アビスはそう言いながらバックルのカードケースからカードを抜き取り、アビスバイザーにセットした。

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

電子音声が響くとアビスの目の前で巨大な津波が発生し、その中から巨大な鮫型のミラーモンスターが姿を現した。そして…

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―スガガガガガガガガガガガガッ!!!ズドオォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

ミラーモンスターが撃ち放った射撃がディケイド達に直撃し、三人はその威力に押し負け近くのガラスから元の世界へと強制的に戻されてたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、現実世界では優矢はオフィス前に移動し切なげな表情を浮かべてアルトとブレラの写真を眺めていた。部屋の中ではティアナとシェリルがランカの気を落ち着かせようとしており、優矢は邪魔にならないようにと外に出て零達がミラーワールドから戻って来るのを待っていた。その時…

 

 

―バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!―

 

 

ディケイド『グッ!』

 

 

ナイト『クッ!』

 

 

龍騎『ウグッ!』

 

 

優矢「?!零!?アルト!?」

 

 

優矢の目の前にあるカーブミラーから突然ディケイド達が飛び出してきた。三人はそのまま地面に倒れると同時に変身が解除されていき、優矢は零達を心配して慌てて駆け寄っていく。

 

 

優矢「どうしたんだ一体!?大丈夫か!?」

 

 

零「痛ッ…あぁ、大した事はない。心配するな…」

 

 

優矢「そ…そうか…でも、バトルの方は決着が付かなかったみたいだな」

 

 

零の身体を起こしながら状況を察して呟く優矢に零は肯定の意味を込めて頷いて返す。二人がそんな会話をしている中、二人の隣にいたアルトが立ち上がり近くで倒れているブレラに近づいて胸倉を掴み、無理矢理身体を起こした。

 

 

アルト「答えろよブレラ!なんでライダーバトルに参加してんだ?!桐上さんを殺し、その罪をあの人に押し付ける為か?!」

 

 

ブレラ「…………」

 

 

胸倉を掴み引き寄せながらバトルに参加する理由を問いただそうとするアルトだが、ブレラは何も答えようとはせずアルトから顔を背けているだけだった。

 

 

アルト「クッ!まただんまりかよ…お前はまたそうやってッ…!!」

 

 

優矢「ッ?!アルト!!止せっ!!」

 

 

ブレラの態度を見て逆上したアルトはブレラに向けて拳を振りかぶり、それを見た優矢は慌ててそれを止めようとする。だがその時…

 

 

 

「止めてッ!!」

 

 

 

アルト「…ッ!?」

 

 

零「!…あの子は…」

 

 

不意に聞こえてきた悲痛な叫びにアルトの手が止まり、全員はその声が聞こえてきた方に目を向けると其処にはティアナとシェリル、そしてランカがオフィスから出て駆け寄って来る姿があった。

 

 

ブレラ「ランカ…」

 

 

ランカ「もう止めてアルト君!!こんなの間違ってる!!二人が争う理由なんてないんだよ!!」

 

 

アルト「何言ってんだ!!そいつは俺達を裏切り!お前を捨てて!挙げ句の果てには編集長を殺したんだぞ!?そんな奴を庇う理由こそ、お前にはないハズだろう!!」

 

 

ランカ「…違う…違うのアルト君!お兄ちゃんは本当は「ランカ!!」…ッ!?」

 

 

ランカが何かを告げようとした瞬間、ブレラがランカの肩を掴んで叫び、それを遮った。

 

 

ブレラ「止めろランカ…その事は言うんじゃない…」

 

 

ランカ「で、でも…!」

 

 

ブレラ「良いんだ…それで良いんだ……」

 

 

ブレラはそう言ってその場から歩き出し、足を引きずりながら覚束ない足取りで何処かへと去っていった。

 

 

アルト「おい待て!!話はまだ終わっ……!シェリル?」

 

 

シェリル「………」

 

 

ブレラを追い掛けようとするアルトだが、シェリルがアルトのコートを掴んでそれを引き止め追い掛けては駄目だと首を左右に振り、ランカや零達は歩き去っていくブレラの背中をただジッと見ているしか出来なかった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ブレラ「はぁ…はぁ…グッ…!」

 

 

アルト達と別れたブレラはボロボロとなった身体を引きずりながら近くの公園に訪れていた。しかし、零との戦闘が思ったより響いているのかブレラは瓦礫の山の前で倒れ込んでしまう。息を切らしながらもなんとか立ち上がろうと再び身体に力を入れるが、その時…

 

 

 

―キイィィィィィィインッ!―

 

 

ブレラ「…ッ!?」

 

 

突然ブレラの耳に金属音が届き、ブレラは近くにある瓦礫の山に捨ててあった割れた鏡に目を向ける。其処には、不死鳥型の仮面ライダー『オーディン』の姿が鏡に映し出されていた。

 

 

ブレラ「クッ…今度こそ…今度こそ絶対見つけてみせる…!」

 

 

鏡に映るオーディンの姿を見てブレラは無理矢理身体を起こし、ポケットからカードケースを取り出しそれを鏡に翳す。するとブレラの腰にVバックルが現れ、それと共にブレラは変身の構えを取る。

 

 

ブレラ「変身ッ…!」

 

 

ブレラがカードケースをVバックルにセットするとナイトに変身し、割れた鏡をゲートにミラーワールドに入っていった。そしてミラーワールド内に入ると其処にはまるでナイトを待っていたかと言うようにオーディンが腕を組みながら立ち構えており、ナイトは腰のダークバイザーを抜き戦闘を開始したのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、アルト達を招いて写真館に帰宅した零達は栄次郎の用意したローストチキンが置かれたテーブルに席を着いていた。栄次郎は一度ローストチキンの味見をすると、納得した味だったのか満足そうな顔を浮かべて台所に戻っていった。因みに今此処には零達を除いてヴィヴィオ、台所には栄次郎の手伝いをしているナンバーズ達が、なのは達は今フェイトのところに居る。

 

 

優矢「……なぁ。これってまさか……今朝の鶏?�」

 

 

ティアナ「さ…さぁ…どうでしょう…�」

 

 

ヴィヴィオ「ねぇパパ~?ニワトリさん、さっきいなくなっちゃったんだけどしらない?」

 

 

零「…ヴィヴィオ…鶏さんはな?お空に還っていったんたんだ…」

 

 

ヴィヴィオ「?」

 

 

鶏のことを聞いてくるヴィヴィオの問いに遠い目をして優しげに話す零。だが、ヴィヴィオは零の言っていることが理解出来ないのか不思議そうに首を傾げ、ティアナ達はそれを見てただ苦笑いをするしかなかった。そんなやり取りが隣で行われている中、料理を頂いていたアルトはテーブルの上に箸を置き、真剣な表情を浮かべながら口を開く。

 

 

アルト「…これでハッキリしたな。真犯人は…ブレラ・リーだ」

 

 

ランカ「…ッ」

 

 

ティアナ「…どうしてそう思うんですか?」

 

 

アルトの言葉にティアナの表情は真剣なものとなり、何故そう思うのか問い掛けると零がヴィヴィオの口に付いた汚れを拭き取りながら喋り出した。

 

 

零「確かに、会社を辞めたハズの人間が事件が起きた日に来るなんて偶然はない…疑いを掛けられても仕方ないだろうな」

 

 

優矢「け、けど…お前とは良いチームだったんだろう?!だったら…!」

 

 

アルト「確かに、何度も凄いネタを掴んで賞を受けたこともあった…だけどアイツは…俺達を裏切って捨てたんだ!今回もどうせ、編集長を殺して雑誌を乗っ取ろうと!」

 

 

アルトはドンッとテーブルを強く殴りながらブレラのことを語る。その様子からしてアルトがどれだけブレラに怒りを感じているのか悟ることが出来る。

 

 

零「…だったら、その事を警察署に行って話して来ればフェイトが無罪になるかもしれないな。試しに一度行ってみるか?」

 

 

アルト「そうだ…早くあの人を解放してやらないと!」

 

 

アルトはそう言って立ち上がり急いで警察署へと向かい、零達もアルトの後を追って写真館を出ていった。しかしその最中、ティアナと優矢は先程の話のことで納得出来ないといった表情を浮かべ、そしてランカとシェリルが何処か重苦しい表情を浮かべていたのをアルトは気づいていなかった。

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑦

 

その頃、牢屋に戻ったフェイトは何をするワケもなく冷たい牢屋の壁に背中を預け、先程なのは達から聞いた話しを思い返していた。

 

 

フェイト「零がディケイド…そして……零がライダーバトルに参加して…」

 

 

そう考えながら、フェイトは以前自分が見た夢を思い出していく。数え切れないライダー達とディケイドの戦い、あれが何を意味しているのかは未だ釈然として分からない。だが、あれが何かの前触れだとしたら、もし零があのバトルに参加すれば……そこまで考えるととてつもない不安に駆られフェイトは居ても立ってもいられなくなった。

 

 

フェイト「…もしそうだとしたら、こんなことしてる場合じゃない…!誰か!誰か居ませんか?!」

 

 

不安を抑えられなくなったフェイトは思わず牢屋の外に向かって、誰か来てくれと大声で叫び続ける。その時だった……

 

 

―ブオォォォォォォォオンッ―

 

 

フェイト「え…?」

 

 

突然フェイトの周りが歪み出し、フェイトはそれに呑み込まれていってしまう。そして歪みが徐々に消え去ると牢屋の中にいたハズのフェイトの姿が消えていた。

 

 

 

歪みに呑み込まれたフェイトは、いつの間にか何処かの街の一角に立っていた。これは一体何だ?となにが起きたのか分からず、フェイトは混乱して思わず辺りを見回していく。その時、フェイトの目の前に再び歪みが発生し、それが消えていくと其処には今まで幾度となく零達の邪魔をしてきた謎の男が立っていた。

 

 

フェイト「…貴方は…」

 

 

「この世界、この時代で会うのは初めてだな。フェイト・T・ハラオウン…」

 

 

フェイト「…ッ?!もしかして……貴方が……」

 

 

フェイトは目の前に現れた男を警戒し、少しだけ身構える。

 

 

「そんなに警戒する必要はない…私は預言者だ。ディケイドが世界を破壊する悪魔だという警鐘を鳴らす為の」

 

 

フェイト「預言者?…貴方の…目的はなんです…?」

 

 

「ディケイドは危険な存在だ…君を死なせるワケにはいかない。私なら、今すぐに君を自由に出来る…私と共に行こう」

 

 

フェイト「ッ…」

 

 

此処から自由にすると告げながら男はフェイトに手を差し延べて近づいていき、フェイトは男の放った言葉に少し迷ってしまう。此処から出る事は出来る。だが、この男はディケイドを…零を敵だと認識しているらしい。ならこの男について行くということは、零達を裏切るということになるのではないだろうか。そう考えフェイトの出した答えはたったの一つ……

 

 

フェイト「…お断りします。零が…零達がきっと助けに来てくれますから」

 

 

「君は分かっているのだろう。ディケイドはライダーバトルの中で悪魔に目覚めていくんだぞ?」

 

 

フェイト「違う!あんなもの…私が見たただの夢です!零は…零はいつも、私達の事を助けてくれた!そんな零が悪魔なワケない!それに…なのは達だっています!だから…!」

 

 

だから貴方とは行かない。フェイトは自身の胸に手を当てジッと男を見据えながらそう答えた。だが、そのフェイトの答えを予想していたのか、男は怒る訳ではなくただ怪しい笑みを浮かべていた。

 

 

「…まあいい。いずれこの世界もディケイドの手によって破壊されるのだから」

 

 

フェイト「ッ?!それってどういう―――!」

 

 

言葉の意味を問いただそうとするフェイトだが、再び辺りが歪み始め、それが晴れるとフェイトは牢屋の中に戻っていた。そして部屋の扉からノックが聞こえ、フェイトは慌てて返事を返して振り返ると扉が開いて看守が牢屋の中に入ってきた。

 

 

「面会だ。出ろ」

 

 

フェイト「は、はい…」

 

 

面会だと言われてフェイトは牢屋を出ようと歩き出すと一度振り返って牢屋の中を見回し、先程のことが気になりながらも接見室へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから数十分後。接見室にはフェイトと事件の関係者であるアルトと副編集長の鎌田、ランカとシェリル、そして零達が集まり会議を開いていた。

 

 

鎌田「わざわざ呼び出して何かと思えば…ブレラ・リーが真犯人?成る程、有りそうな話しだ」

 

 

アルト「だから警察と相談して一度ライダーバトルを中断してもらい、ブレラについての裁判を改めて開こうと思ってるんだ」

 

 

『………』

 

 

アルトはブレラについての裁判を行う事を申請するが、ティアナ達とシェリルとランカは未だに納得出来ないと言った表情で顔を俯かせていた。

 

 

フェイト「真犯人が見付かったなら…私は解放されるって事?!」

 

 

なのは「うん!良かったねフェイトちゃん♪」

 

 

ヴィータ「全く…一時はどうなるかと思ったけど、漸くこれで一件落着だな」

 

 

スバル「ですね!はぁ~、これでやっと事件も解決か~」

 

 

零「……アンタもそれでいいのか?」

 

 

鎌田「えぇ、私も構いませんよ」

 

 

鎌田もバトルを中断する事に承知しこれで漸くフェイトが自由になれる。その事をフェイトと共になのは達は喜びを露わにしていた。だが…

 

 

優矢「……いいや、それは駄目だ」

 

 

『…え?』

 

 

顔を俯かせていた優矢が顔を上げ、苦い表情をしながらその案を拒否する。そしてそれに賛同するようにティアナも頷き、なのは達はそれを聞いて唖然としてしまう。

 

 

ティアナ「私達には、ブレラさんが犯人だとは思えないんです…だから、その案を受け入れる事は出来ません」

 

 

アルト「?!何言ってんだ!お前等はブレラの事を何も知らないだろう!!」

 

 

シェリル「待ってアルト……私も…彼女達の意見には賛成よ」

 

 

アルト「ッ?!シェリル!?」

 

 

ティアナ達の意見に賛成すると告げるシェリルの言葉を聞き戸惑うアルト。更にその隣に座っていたランカもシェリルと同意見だと言うように小さく頷き、それを見たアルトは呆然としてしまう。

 

 

優矢「……ブレラは、自分が全てを壊したって言っていた。その時の顔が…俺達の知っている奴と似ていたんだ」

 

 

なのは「……優矢君」

 

 

零「…………」

 

 

真剣に話す優矢の言葉を聞いてなのはは思わず零の方を見つめる。零は瞳を閉じたままなにも言わないが、黙って優矢の言葉を聞いていた。

 

 

ティアナ「その人は…自分は破壊者だなんて言うけど…本当は優しくて、誰かを救いたいと思ってる良い人なんです。私達には、その人とブレラさんが同じように見えた…」

 

 

優矢「だから俺達は…あの人を信じてみたいと思うんだ」

 

 

懐から取り出した写真に映るブレラを見て、優矢とティアナは力強くアルト達に言い放った。

 

 

鎌田「犯人がブレラ・リーではない…ならば、本当の真犯人は一体誰だと言うのかね?」

 

 

アルト「それだけじゃない!お前等…バトルを続けると言う事が何を意味してるのか分かってんのか!?無実であるこの人が、また牢に入られるって事なんだぞ?!」

 

 

優矢「それ…は……」

 

 

フェイト「………」

 

 

反論するアルトの言葉に二人は何も言い返す事が出来ず、アルトはそんな二人を見て「もういい…」とだけ言ってカードケースを手に取り接見室を出ていってしまい、鎌田もカードケースを仕舞い接見室から出ていった。

 

 

優矢「…すまない…勝手なことをしてしまって…」

 

 

ティアナ「フェイトさん…本当にすみません…」

 

 

優矢とティアナは皆に罵倒される覚悟で頭を下げて皆に謝罪する。それを見た皆は…

 

 

フェイト「……ティアナ。ティアナが謝る必要なんてないよ。私は全然大丈夫だから」

 

 

ティアナ「…だけど、私のせいでフェイトさんが…」

 

 

フェイトは気にしてないと笑って答えてくれるが、自分達のせいでフェイトはまた牢屋に入れられる。優矢とティアナはその事で罪悪感を感じていたが、そんな二人に零はやれやれといった表情で溜め息を吐いていた。

 

 

零「お前達のことだから、どうせそうするだろうと思っていたさ。だから俺達も気にしてなんかいない…そんな事より、今はアルトを追い掛けた方がいいだろう。早く行くぞ」

 

 

優矢「零……あぁ!」

 

 

零はそう言ってアルトの後を追い掛けようとテーブルから立ち上がって扉に近づいていき、優矢とティアナも立ち上がって接見室から出て行こうとする。その時…

 

 

ランカ「…待って下さい!少しだけ…少しだけ!私の話を聞いてもらってもいいですか?!」

 

 

ティアナ「?…ランカさん?」

 

 

突然ランカがテーブルから立ち上がり、自分の話しを聞いて欲しいと零達を引き止めたのだ。零達はそれを聞くと怪訝そうな顔をしてランカの方に振り返り、シェリルもテーブルから立ち上がり口を開いた。

 

 

シェリル「…今から話す事は、貴方達に聞いて欲しい大事な話しなの。ブレラの…無実を証明する為に」

 

 

ランカ「兄が…兄が何故、突然会社を辞めてしまったのか…そのワケを…今からお話します」

 

 

優矢「ブレラが、会社を辞めた理由…?」

 

 

零「……詳しく聞かせてもらおうか?」

 

 

真剣な眼差しを向けてくる二人を見て、零は身に付けていた眼鏡を外しそう答えた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、ミラーワールドではナイトがダークバイザーを振り回しオーディンに攻撃を仕掛けていた。だが、オーディンは瞬間移動を用いてそれを避けながらナイトに攻撃していく。

 

 

ナイト『グッ!ハァ…ハァ…漸く見つけた…!お前のカードを寄越せッ!!』

 

 

ボロボロになりながらも、ナイトは再び立ち上がってカードケースからカードを一枚取り出しダークバイザーへと装填する。

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

ナイト『ハァ…ハァ…ウオォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

電子音声が響くと上空からダークウィングが現れ、ナイトはそのままダークウィングと一体化してオーディンに飛翔斬を放った。オーディンは抵抗もせず飛翔斬を受けて爆散し、辺りにはオーディンのカードケースから飛び出したカードが散らばっていき、ナイトはその中から一枚のカードを拾うとミラーワールドから出て変身を解除した。すると、ブレラを探してその場所を通り掛かったアルトがミラーワールドから出て来るブレラの姿を見つけ、それを見たアルトは怒りを滾らせブレラに駆け寄り胸倉を乱暴に掴んだ。

 

 

アルト「また戦っていたのかこの人殺しがッ!!」

 

 

ブレラ「ウッ…グッ…!」

 

 

優矢「止めるんだ!アルト!!」

 

 

その場にアルトを追い掛けてきた優矢が二人に駆け寄ってブレラからアルトを引き離し、体を抑えて苦しむブレラの身体を抱き起こしていく。

 

 

アルト「クッ!お前は甘すぎる!そんな奴を庇うなんて!」

 

 

優矢「そんなこと言ってる場合かよ!!しっかりしろブレラ!……ん?」

 

 

ブレラの身体を抱き抱えていた優矢はブレラの手に握られているカードの存在に気づいて首を傾げ、アルトもそれに気づいてブレラの手に握られているカードを見た。そのカードとは…

 

 

アルト「このカードは…まさか、タイムベント?!」

 

 

優矢「タイム、ベント…?何なんだ、そのカード?」

 

 

ブレラが持っている一つの時計が描かれたカード……タイムベントを見てアルトは驚愕し、カードのことを余り知らない優矢は頭上に疑問符を浮かべている。

 

 

ブレラ「ッ…昔、取材で聞いた事があった…過去に戻る事が出来るカードが存在すると言う話しを…」

 

 

優矢「…もしかして…アンタが今までバトルに参加していたのは、このカードを見付ける為に…?」

 

 

このカードを探して今までバトルに参加していたのか。優矢がそのことを聞くとブレラはそれに頷いて返した。

 

 

アルト「どういうことだ…何でそんな…」

 

 

ブレラ「……俺はあの日、大事な話しがあると言われて桐上編集長に呼ばれた。三年振りだった……だが、一足違いで編集長は…!だから聞きたかった!桐上編集長が…俺に何を伝えようとしたのかを!」

 

 

アルト「だが、戦闘以外でカードを使用すれば即ジャッジから外されるんだぞ?!」

 

 

ブレラ「…分かっている…だが、それでも知りたいんだ!その為に…俺は今まで戦って来たんだ…」

 

 

タイムベントのカードを強く握り締めながら自分の意思を告げるブレラ。その姿を見てブレラの本当の思い知ったアルトは怒りのままにブレラを犯人と決め付けていた自分に自己嫌悪していた。その時…

 

 

 

『フフフ…』

 

 

 

三人の近くに捨ててあった鏡から不気味な笑い声が響き、三人が鏡に目を向けた瞬間鏡の中からアビスが飛び出しブレラに襲い掛かろうとした。しかし…

 

 

優矢「今だ!零!!ティアナちゃん!!」

 

 

―バシュンッ!ガシッ!―

 

 

アビス『ッ?!な、何?!』

 

 

ディケイド『漸く姿を見せたな!!』

 

 

ヒート『もう逃がさないわよ!!』

 

 

優矢の掛け声と共にアビスが現れた鏡からディケイドに変身した零とヒートに変身したティアナが現れ、そのままアビスを掴んでミラーワールド内に引きずり込んだ。

 

 

アビス『グッ?!何故此処に?!』

 

 

ディケイド『優矢が言っていた。ブレラが真実を話そうとすれば口封じの為に犯人が現れ、ブレラに罪を着せようとする筈だと…な』

 

 

ヒート『そして、予想通り口封じをしようと犯人が現れた…真犯人は貴方ね?』

 

 

ヒートが指を向けながらアビスにそう問い掛けると、アビスはそれを否定する様に首を左右に振った。

 

 

アビス『…違う、私は犯人ではない。真犯人はブレラだ。その事を告白させようと此処に来ただけだ』

 

 

自分は犯人ではないと主張するアビス。だが、二人はアビスの言葉を信じてなどいなかった。

 

 

ディケイド『…生憎、俺は人を信じる事が出来ない。人の痛みを感じ取る事も…俺には出来ない。だから、俺はコイツ等が信じる事を信じるまでだ…コイツ等の言ってる事は大体間違っていない…それだけが唯一、俺が信じられることだからな』

 

 

ヒート『零さん…』

 

 

ディケイドの言葉を聞いてヒートは少しだけ嬉しそうに笑い、再びアビスと向き合っていく。

 

 

アビス『お前達は大事な事を忘れている。私はあの時、ビルから離れた場所で珈琲を飲んでいたんだぞ?ライダーにもなっていない私が、どうやって編集長を手に掛けたというのだ?』

 

 

そう、確かにそうだ。あの時鎌田は事件が起きた時には会社に居なかった。ライダーにも変身していない生身の人間なら、桐上を殺害する事は先ず無理な話だ。

 

 

ブレラ「だがその方法も…このカードで分かる…」

 

 

ブレラはタイムベントのカードを見てそう言うとナイトに変身しようとポケットからカードケースを取り出した。だが、アルトはブレラの手からカードを取り上げて鏡の前に立ち、カードケースを鏡に翳して腰にVバックルを出現させる。

 

 

ブレラ「!…アルト?」

 

 

アルト「…そんな身体じゃ無理だ。俺が代わりに行く……変身ッ!」

 

 

アルトはVバックルにカードケースをセットして龍騎に変身し、左腕のドラグバイザーを開いてタイムベントのカードをセットした。

 

 

『TIME VENT!』

 

 

電子音声が響いたと同時に龍騎の姿が消え、ミラーワールド内に居た三人も何処かへと消え去り、その一つの世界が事件が起きた"あの時"へと逆行していったのだった。

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑧

 

そうして時間が逆行した今…事件が起きる前の接見室。其処ではフェイトと桐上がまだ話をしている最中であった。

 

 

桐上「フェイト・T・ハラオウンさんね?電話で仮面ライダーの事を聞きたいって言った」

 

 

フェイト「はい、そうです」

 

 

桐上「じゃあ、教えてもらってもいいかな?貴方が知ってるかめ―――」

 

 

と、桐上がフェイトから仮面ライダーの話を聞こうとした瞬間……

 

 

―バシュゥゥゥゥゥゥンッ!!!―

 

 

アルト「ウアァァァァアッ!?」

 

 

零「ヌオォッ?!」

 

 

ティアナ「キャアァァァァアッ?!」

 

 

フェイト「ふぇ?フギュッ?!」

 

 

突然鏡の中から零とアルトとティアナが飛び出し、零とティアナはそのまま勢いよくフェイトに突撃しフェイトは気絶してしまった。

 

 

桐上「!?あ、貴方達!?ってアルト?!何で貴方がこんなところに…!?」

 

 

突然現れた三人を見て桐上は混乱の余り立ち上がって思わず声を上げる。だが零はそんな桐上を気に止めず窓から会社の下にあるカフェを見下ろした。其処には鎌田が左腕に風を集束させて風の刃を纏い、こちらを狙っている姿があった。

 

 

零「?!マズイッ!皆伏せろ!!」

 

 

桐上「え?」

 

 

零は全員に伏せるよう指示をすると倒れているフェイトとティアナの上に覆い被り、アルトも急いで桐上を下がらせる。そして鎌田は右腕に纏う風の刃を応接室に向けてブーメランのように放った。

 

 

―パリイィィィィンッ!!グサアァッ!!―

 

 

桐上「キャアァァァァアッ!?」

 

 

鎌田の放った刃が窓ガラスを破って桐上の座っていたソファー目掛けて放たれ、刃はそのまま向かいのソファーの一部に突き刺さって止まった。

 

 

アルト「これが…編集長を殺した凶器?!」

 

 

ソファーに刺さった風の刃を見てアルトが驚愕していると風の刃が空気のように消え去っていき、其処には傷の付いたソファーしか残されていなかった。

 

 

零「…そういうことだったのか…ティアナ!奴を追うぞ!」

 

 

ティアナ「了解!」

 

 

零とティアナは気を失ったフェイトをソファーに寝かせると鎌田を捕まえる為に接見室を飛び出し、二人とはすれ違いにブレラが部屋の中の入り中の荒れた状態を見て驚いていた。

 

 

ブレラ「編集長?!この騒ぎは一体……アルト?」

 

 

アルト「…ブレラ」

 

 

ブレラは桐上の隣にいるアルトを見て驚き、今起きた出来事に混乱していた桐上もブレラの姿を見た途端笑った表情を浮かべた。

 

 

桐上「あ、丁度良かったわ。ブレラ、アルト、実はね……」

 

 

アルト「ブレラに話したい事があるんですよね!それって一体!?」

 

 

ブレラ「ッ!?お前…なんでその事を…?」

 

 

自分が桐上に呼ばれた理由を知っているアルトにブレラは驚き、桐上もその事に唖然としながらも戸惑った様子で頷き返す。

 

 

桐上「え、えぇ、そうなの。実は……ブレラ、そろそろ戻って来てもいいんじゃないと思ってね」

 

 

『……え?』

 

 

桐上が告げた予想外の言葉にブレラとアルトは理解出来ず、今度は二人が唖然とした表情を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、会社の下にあるカフェでは桐上殺害の計画に失敗した鎌田が急いでその場から逃げようとしていた。だが、そんな鎌田の前に零とティアナが立ち塞がり鋭い視線で鎌田を睨みつけていた。

 

 

鎌田「な、何だお前達は!?何故俺の計画を…!?」

 

 

ティアナ「それはこっちの台詞よ!今のは明らかに人間技じゃない…アンタ一体何者!?」

 

 

零「一体どんなトリックを使ったのかずっと気になっていたが…成る程な。確かにこれは、"人間なら"不可能な犯行だ…直接その化けの皮を引きはがして正体を確かめてやる」

 

 

腕の骨を鳴らしながら低い声で告げる零の言葉に鎌田は後退り、零とティアナは鎌田を捕らえようと動き出した。しかし…

 

 

―ガシッ!―

 

 

ティアナ「え…ッ?!」

 

 

鎌田(現在)「…見たな?」

 

 

不意に二人の背後から腕を強く掴まれ、二人の腕を掴む人物…"もう一人の鎌田"が冷たい表情で二人を睨みつけていた。

 

 

零「チッ!お前もタイムベントの瞬間に一緒に飛んで来たのか?!」

 

 

鎌田(現在)「そうだ。私は人間のフリをしてこの世界に潜り込んだ。だが桐上に正体を気付かれそうになり、奴を殺した!殺したハズだった…!」

 

 

零「ッ…頼んでもないのにベラベラとどうもな!」

 

 

零とティアナは鎌田の腕を振り払って後退すると、鎌田はこの時間の鎌田の前に立って向き合う。

 

 

鎌田「お前…誰だ…?!」

 

 

鎌田(現在)「お前は…私だ」

 

 

鎌田はそう言ってこの時間の鎌田に近づくと、この時間の鎌田が突然悲痛な悲鳴を上げて光の粒子となり、光の粒子は鎌田に吸収されていった。

 

 

ティアナ「か、過去と未来の鎌田が一つに?!」

 

 

零「チィ!また面倒なことを!」

 

 

一人となった鎌田を見てティアナは驚き、零は顔をしかめて舌打ちする。そして鎌田はポケットからカードケースを取り出して腰にVバックルを出現させた。

 

 

鎌田「変身!」

 

 

鎌田はVバックルにケースをセットするとアビスに変身し、更にケースから一枚のカードを抜き取りアビスバイザーにセットする。

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グオォォォォォォォオッ!』

 

 

ティアナ「なっ?!ウアッ!」

 

 

零「ティアナ!グッ?!」

 

 

電子音声が響くと何処からかアビスラッシャーとアビスハンマーが現れて二人に襲い掛かり、二体はそのまま二人を捕らえ何処かへと連れて行ってしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

外でそんな出来事が起きている中、接見室では桐上がこの三年間の事をアルトとブレラに話していた。

 

 

桐上「実はね、編集部を出ればって勧めたのは私なの。ね、ブレラ」

 

 

アルト「え?そ、それって、どういう……?」

 

 

ブレラが編集部を出た理由は桐上にあった。その真実にアルトは理解が出来ず混乱し、そのことをブレラが代わりに説明し始める。

 

 

ブレラ「…あの頃の俺は、お前の撮る写真に嫉妬していた…俺がどんな記事を書いても、お前の写真一枚に負けている気がして…自分を見失っていた。そんな時に、編集長が他の会社に移ることを勧めてくれたんだ…」

 

 

桐上「その頃からブレラの様子が可笑しい事に気が付いてね。オズマさんやランカさんと相談して、ブレラ自身の為にもそうした方がいいんじゃないかと思ってそうしたのよ」

 

 

ブレラは始めから自分達を裏切ってなどいなかった。ただ見失い掛けた自分を見つめ直す為に、他の会社に移った。アルトはブレラ達の真意を知り、何も知らず今までブレラを恨んでいた事を恥ずかしく感じ、だが同時にかつて自分とブレラがチームでやって来た頃を思い出していた。

 

 

ブレラ「…そして外に出て分かった…俺の書く記事は、お前の写真があってこそ始めて意味があると…お前の写真があるからこそ、俺はやってこれたんだと…」

 

 

アルト「…俺も…俺だってそうだ…俺一人で賞なんか取っても…嬉しくなんてない…何も感じない…何かが足りない……それで始めて分かったんだ。やっぱり、お前とじゃないと駄目なんだって…お前となら、俺はもっと飛べるんだって!」

 

 

アルトは今まで心の内に仕舞い込んでいた本当の気持ちをブレラに打ち明ける。一人では駄目だと…二人でだからこそやって来れたんだと。アルトの正直な気持ちを聞いたブレラは小さく笑い、桐上はそんな二人を優しげに見守っていた。

 

 

桐上「それでね?実は今、新しいネタを追ってるの。この世界に、人間じゃない"何かが"紛れ込んでいる。副編集長の鎌田も、その一人かも」

 

 

桐上は真剣な口調で二人に今追っているネタについて説明していく。そんな中、零とティアナに突進されて気を失っていたフェイトが漸く目を覚まし、身体を起こしながら先程起きた出来事を思い出していく。

 

 

フェイト「あの…さっき私の上に降ってきたのって、零とティアナ…ですか?」

 

 

アルト「っ!そうだ…零!ティアナ!」

 

 

桐上「え?ちょ、アルト?!」

 

 

フェイトに言われて零達のことを思い出したアルトは慌てた様子で接見室から出ていき二人の後を追い掛けたのであった。

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑨

 

その頃、アビス達によって何処かの河原へと連れて来られた零とティアナはアビスラッシャー達の攻撃を避けながら反撃をしていた。

 

 

アビス『此処はミラーワールドではない。此処で負ければ、命はない。そんな戦いで俺に勝てるか?』

 

 

アビスラッシャー達の攻撃を必死にかわしていく二人を見てアビスは不敵に笑い、その戦いを見物していた。その時…

 

 

アルト「ウオォォォォォォォォォオッ!!」

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

『グギャアッ!?』

 

 

ティアナ「?!アルトさん!」

 

 

その場にアルトが駆け付け零達と戦っていたアビスラッシャーに目掛けて飛び蹴りを放ち、アビスラッシャーを二人から離れさせた。

 

 

零「いいタイミングだアルト!ついでにコイツもくれてやる!」

 

 

零はポケットから携帯型のガジェット『ビートルフォン』と擬似メモリの『ビートルメモリ』を取り出し、ビートルメモリをビートルフォンに装填する。

 

 

『BEETLE!』

 

 

電子音声が響くと零の手の平のビートルフォンが変形してカブトムシのような形となり、アビスハンマーに向かって零の手から飛んでいく。

 

 

―ズシャアッ!ズシャアッ!ズシャアッ!―

 

 

『ギギャアッ!?』

 

 

ダメージこそ少ないものだがビートルフォンの素早い突撃にアビスハンマーは翻弄されて上手く身動きが取れず、次第に耐え切れなくなってアビスの下まで後退させられていった。そして零はビートルフォンを戻すとアルトに目を向ける。

 

 

零「…漸く来たな」

 

 

アルト「…あぁ」

 

 

アルトは零とティアナに向けて力強い表情で頷く。その表情は何処か吹っ切れたように見え、零とティアナはアルトのその様子から何かを悟り小さく微笑んだ。だがそんな零達にアビスがアビスラッシャー達を引き連れて少しずつ歩み寄ってくる。

 

 

アビス『最も力の強い者が判決を下す。それがお前達の定めたことだろう?ならば私が、お前達に死刑を申し渡す!』

 

 

零達に向けて死刑宣告を下しながら近づいてくるアビス。それを聞いたアルトは力強い眼差しを向けて反論するように語り出す。

 

 

アルト「…俺は、一人で戦ってる訳じゃない!」

 

 

アビス『馬鹿め…人間など所詮、自分一人の為に戦うのだ!それがお前達の本当の姿だろう!』

 

 

アビスはアルトの言葉を否定するように鼻で笑うが、零とティアナもアルトに続いてそれに反論する。

 

 

零「確かに…俺達は時に、自分一人の為に戦うこともある。この手で……だが、この手で相手の手を握ることも出来る!」

 

 

ティアナ「その時私達は、どんなに愚かで…弱くても…一人じゃない!信じられる仲間が入れば、くじけずに何度も立ち上がることが出来る!」

 

 

アルト「そうだ。今は、俺達がチームだ!」

 

 

三人はそう言ってアビスと向き合い零とアルトはディケイドライバーとカードケースを取り出した。零は腰にディケイドライバーを装着してディケイドのカードをライドブッカーから取り出し、アルトは腰にVバックルを、そしてティアナは左腕のKウォッチを操作し画面のエンブレムをタッチしてヒートフォンとヒートギアを呼び出した。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOL HEAT!』

 

『Standing by…Complete!』

 

 

電子音声と共に零はディケイドに、アルトは龍騎に変身し、ティアナはヒートに変身した。そして変身を終えた三人はアビスラッシャー達に向かって走り出し、戦闘を開始した。

 

 

アビス『貴様…一体何者だ?!』

 

 

ディケイド『通りすがりの仮面ライダーだ…憶えておけ』

 

 

ディケイドはアビスに指を向けてそう答えると、次の瞬間ライドブッカーから三枚のカードが飛び出しディケイドはそれらをキャッチした。それは龍騎のカードを含む三枚のカードでありディケイドがそれらを手に取ると三枚のカードに絵柄が戻っていった。

 

 

ディケイド『…これからが本当の戦いだ。アルト』

 

 

龍騎『…あぁ!』

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

龍騎はディケイドの言葉に頷くとカードケースから取り出したカードをドラグバイザーにセットしてドラグセイバーを取り出し、三人は再びアビスラッシャーとの戦闘を再開する。

 

 

アビス『無駄な足掻きを…ならば貴様等を絶望の底へと叩き落としてやろう!』

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

アビスはケースから取り出したカードをアビスバイザーにセットすると、三人と戦っていたアビスラッシャー達が突然川に飛び込んで一体の鮫型の合体モンスターとなり、ディケイド達に向かって体当たりを仕掛けて来た。

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

龍騎『グアァッ!?』

 

 

ヒート『キャアァッ!?』

 

 

ディケイド『チィッ!』

 

 

三人は合体モンスターの体当たりを受けて吹っ飛ばされてしまい、何とか態勢を立て直すと龍騎の隣にいたディケイドがライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

龍騎『え?』

 

 

『FINALFORMRIDE:RYU・RYU・RYU・RYUKI!』

 

 

ディケイドがディケイドライバーにカードをセットすると電子音声が響き、それと同時に龍騎の両肩にドラグシールドが現れ、龍騎に装着されていった。

 

 

龍騎『?!お、おい!何だよこれ?!』

 

 

アビス『?…何をする気か知らんが、これで…死ねぇっ!!』

 

 

突然のことに戸惑う龍騎を他所にアビスはディケイド達に向けてアビスバイザーから水弾を撃ち出した。だがディケイドは龍騎を強く押してそれを回避し、龍騎はそのまま宙に浮きながら身体を変化させていく。

 

 

龍騎『こ、これは…?!』

 

 

龍騎が自分に起きた異変に驚く中、龍騎の姿が徐々に変化していく。その姿は、龍騎の契約モンスターであるドラグレッダーに酷似した赤き紅蓮の龍……龍騎は『リュウキドラグレッダー』へと超絶変形し、合体モンスターに向かって反撃を開始した。

 

 

ヒート『す、凄い……』

 

 

ディケイド『ぼーっとするなティアナ!俺達も行くぞ!』

 

 

ヒート『ッ!はい!』

 

 

リュウキドラグレッダーを見て呆然とするヒートに呼び掛けてディケイドはアビスに攻撃し、ヒートも気を取り直してアビスに攻撃を仕掛ける。

 

 

龍騎(D)『デリャアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ディケイド達の上空で合体モンスターと戦っていたリュウキドラグレッダーは尻尾であるドラグセイバーで合体モンスターを真っ二つに斬り裂き、合体モンスターは真っ二つされながら悲痛な悲鳴を上げて爆発し、リュウキドラグレッダーはそのままディケイド達の下に駆け付けて龍騎に戻り、ディケイド達と共にアビスに攻撃を仕掛ける。

 

 

アビス『グッ?!ば、馬鹿な?!こんな…?!』

 

 

ヒート『セエアァッ!』

 

 

龍騎『フッ!オリャアッ!』

 

 

三対一による戦況でアビスは反撃する余裕もなく徐々に追い詰められていき、ディケイドはアビスから距離を離しライドブッカーからまた一枚カードを取り出していく。

 

 

ディケイド『ティアナ!アルト!決めるぞ!』

 

 

ヒート『了解です!』

 

 

龍騎『分かった!』

 

 

ディケイドは二人に呼び掛けながらディケイドライバーにカードを装填してスライドさせ、ヒートも右腰から懐中電灯型アタッチメント『ヒートポインター』を取り出し、バックル部分にあるミッションメモリーをヒートポインターに装填して右足に装着するとバックル部分にあるヒートフォンを開き、エンターキーを押した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:RYU・RYU・RYU・RYUKI!』

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

龍騎『フッ!ハアァッ!』

 

 

アビス『ウグアァッ!?』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと龍騎は再びリュウキドラグレッダーとなって尻尾のドラグセイバーでアビスを吹き飛ばし、其処へヒートは吹き飛んだアビスに向けて右足を突き出すとヒートポインターから赤い円錐状の光が飛び出し、アビスの動きを封じた。

 

 

アビス『ッ?!こ、これはっ!?』

 

 

ヒート『零さん!アルトさん!今です!!』

 

 

ディケイド『あぁ!アルト、行くぞッ!!』

 

 

龍騎(D)『おう!!』

 

 

ディケイドは上空へと高くジャンプし、リュウキドラグレッダーもディケイドを追い掛けるように上空へと飛翔する。リュウキドラグレッダーが上空を舞うように飛ぶ中ディケイドは上空で態勢を変えてアビスに向かってキック態勢を取り、リュウキドラグレッダーはディケイドの後ろから火炎放射を放ってディケイドのキックを更に勢い付ける。そして、ヒートも上空へと飛ぶと空中回転してキック態勢に入りアビスに向かって飛び蹴りを放った。

 

 

ディケイド『デアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ヒート『ヤアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

アビス『ウ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーッ!!!?』

 

 

―ドッゴオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ディケイドと龍騎の必殺技、DCDD(ディケイドドラグーン)とヒートの必殺技、ヴァリアブルスマッシュがアビスに炸裂し、アビスは悲鳴を上げる間もなく吹っ飛ばされていった。そしてディケイドとヒートが地面に着地するとリュウキドラグレッダーも龍騎に戻って二人の下に着地し三人は変身を解除した。だが…

 

 

『……ッ?!なっ?!』

 

 

零「…な…なんだ…あれは…」

 

 

三人は目の前に立つ人物…三人の必殺技を受けて吹き飛んだ筈の鎌田を見て驚愕した。あれだけの攻撃を受けても尚立っているということに驚きだが、三人が一番驚いているのは其処ではない。三人が一番驚いているのは…鎌田の身体から流れる人間の赤い血ではない薄気味悪い黄緑色の液体。そして、鎌田の腰に巻かれたライダーのベルトではない不気味なベルトだったのだ。零達がそれを見て呆然としていると、鎌田の下に幾度となく零達を邪魔してきた謎の男が現れた。

 

 

零「ッ?!お前は…?!」

 

 

「…彼の名は、ハートのカテゴリーK。またの名を、パラドキサアンデット!」

 

 

ティアナ「アン…デット…?」

 

 

謎の男が告げる『アンデット』という名に零達は疑問そうに首を傾げ、男はそんな零達を気に止めず言葉を続ける。

 

 

「この世界での実験は終わりだ。そろそろ次の世界へ行くとしよう。ディケイド…この世界も、お前の手によって破壊されてしまった……フフフ…ハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

零「破壊された…?どういう意味だっ?!待てッ!」

 

 

零は男を引き止めようとするが、零達と男の間に突然歪みが発生し歪みが晴れると其処には男と鎌田の姿が消え去っていた。

 

 

零「クッ!この世界が破壊された…?どう意味だ…?それに、あの男の声…まさか…」

 

 

ティアナ「…零さん」

 

 

険しい表情をして先程の男の言葉を考える零にティアナはどう言葉を掛ければいいのか分からず顔を俯かせ、事情を知らないアルトはそんな二人に何もしてやれずただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 



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第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界⑩

 

 

それから数十分後。アビスとの戦いを終えた零達は編集部に訪れ、アルト達からチーム復活の報告を受けていた。

 

 

零「そうか…良かったじゃないか。チームが復活して」

 

 

アルト「あぁ。けど、お前達のチームには負けると思うけどな」

 

 

ティアナ「え?私達の…チーム?」

 

 

自分達のチームという言葉に零とティアナは何のことか分からず疑問符を浮かべ、アルトはそんな二人に苦笑いを浮かべると胸ポケットから一枚の写真を出して零達に渡す。

 

 

零「…これは」

 

 

アルト「プリントしておいたんだ…三人共、ホントに良い表情してるよな」

 

 

アルトから渡された写真には、迷惑そうな顔をする零と優矢が肩を組み、そんな二人を見て可笑しそうに笑うティアナの姿が写っていた。二人はそれを見て少し照れ臭さそうに頬を掻き、小さく笑う。だが…

 

 

―ガシッ!―

 

 

零「…へ?」

 

 

ティアナ「え?」

 

 

不意に後ろから二人の肩を何かが掴み、零とティアナは思わず背後に振り返った。其処には……

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴッ―

 

 

 

フェイト「…漸く帰って来たね~零、ティアナ♪」

 

 

零「………フェ、フェイ…ト…?」

 

 

…ニッコリスマイルで二人の肩を掴み何故か背後から阿修羅を浮かべるフェイトの姿があったのだ。それを見た途端二人の身体から嫌な汗が流れ出し、ガクガクと身体を震わせていた。

 

 

フェイト「さっきはよくも突き飛ばしてくれたね二人共?…ちょっとイロイロとお話したいんだけど?」

 

 

零「…………………………………………………………………逃げるぞティアナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

ティアナ「へ?キャアッ!?////」

 

 

フェイト「待ちなさっ…!ってなにどさくさに紛れてお姫様抱っこなんてしてるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!�」

 

 

零「こうでもしないとティアナを連れて逃げれんだろうがッ!!てかお前はお前で何手当たり次第に投げてきてって危ねえェぇぇぇぇッ!!?テメェ今カッター投げたなッ!?問答無用か見境無しか殺す気かッ!?というかカッターはちゃんと取り扱い説明書を良く読んでから使え!!人に向けて投げたり刺したりしたら駄目って書いてあるだろう!?そんなのが当たったら幾ら俺でも即死だぞ!?」

 

 

フェイト「いーいーかーらー止まりなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!!�」

 

 

零「ぬおぉぉぉぉぉッ!!スミマセンの精神は旺盛だが花畑で見知らぬジジイやババア共とご対面すんのは二度と御免だチキショオォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

フェイトの手を振り払った零はティアナをお姫様抱っこして全力で逃げ、フェイトはそれを見て余計に激怒し零を追い掛けながら辺りに置いてあるもの手当たり次第に掴みプロの野球選手顔負けの剛速球で零目掛けて全力で投げつけ、アルト達はそんな光景を見て苦笑いをしていたのだった。

 

 

 

 

因みにこの逃走劇の結果、椅子やらデスクやらを投げ付けられながらもなんとかティアナを守る事は出来たが、その儚い犠牲となった黒月零という青年が変死体となって血の海で倒れる姿が目撃され、正気を取り戻したフェイトが泣きながら零の身体を揺さ振りまくってたのは此処だけの話しだ……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

出版社での騒動を終えフェイト連れて写真館に戻って来た零達。それから数分ぐらい経った頃に外で運動をしていた優矢が写真館に戻ってきた。

 

 

優矢「今日から龍騎の世界かぁ…よし!頑張るとしますか!」

 

 

優矢は肩を回しながら頑張ろう!と自分に気合いを入れて皆のいる部屋に戻ろうとする。のだが…

 

 

なのは「え?龍騎の世界を後にする?」

 

 

優矢「………え?」

 

 

不意に聞こえてきたなのはの言葉に優矢は一瞬呆然としてしまい、正気に戻ると慌てて皆の集まる部屋に駆け込んだ。

 

 

スバル「どうしてですか?私達、まだこの世界で何もしてませんよ?」

 

 

優矢「そ、そうだよ!なのになんでいきなり?!」

 

 

零「……いや、この世界での役目ならもう終わったんだ」

 

 

テーブルに着いて珈琲を啜る零の言葉にティアナを除いた一同は首を傾げると、ふとテーブルに視線を下ろした優矢がその上に置かれている写真を見つけその中から一枚の写真を手に取った。

 

 

優矢「…?なぁ零、こんな写真…いつ撮ったけ?」

 

 

その写真に写っているのは零と優矢とティアナ、そしてアルトとランカとシェリルがカメラに向かって笑い合うという写真だったのだ。この写真を取った覚えのない優矢はそのことを零に問い掛ける。

 

 

零「……最高のチーム……って感じだろ?」

 

 

優矢「……フッ、なんだよそれ?」

 

 

顔を背けて答えを返す零を見て優矢は自然と笑みを浮かべ、その写真を再び見ると満更でもないといった顔をしていた。そんな時…

 

 

―コケェッ!コッコッコケェッ!―

 

 

優矢「うわあぁッ?!」

 

 

ヴィータ「な、なんだこの鶏?!」

 

 

栄次郎「待てぇーっ!漸く手に入れた地鶏ぃーっ!」

 

 

ヴィヴィオ「まてーっ!!」

 

ウェンディ「ああもうっ!大人しく捕まって欲しいっス!!�」

 

 

ノーヴェ「あ~クソォッ!いい加減ジッとしろ!!�」

 

 

チンク「落ち着けノーヴェ!鶏には絶対傷を付けるなっ!!」

 

 

突然部屋の中に鶏が暴れながら入り込み、その鶏を追い掛けて部屋に入ってきた栄次郎とヴィヴィオとナンバーズ達が鶏を追い掛け回し優矢達も慌てて鶏を追い掛けていく。

 

 

キバーラ「はいはーい、私におっ任せ~…ってわぁ?!」

 

 

キバーラが鶏の頭に止まって鶏を止めようとするが、その前に零が鶏を捕まえて窓から外へと逃がしていった。

 

 

零「ほら、さっさと逃げろ。じゃないとお前、ローストチキンにされて食われちまうぞ!」

 

 

栄次郎「え?なんで君がそれを―ガンッ!―あ痛ッ?!」

 

 

―ガラララララッ!パアァァァァァアッ―

 

 

栄次郎が背景ロールを操作する鎖が付いた柱に頭をぶつてしまい、その衝撃で背景ロールからまた新しい絵が描かれた背景ロールが現れた。

 

 

零「?この世界は…」

 

 

零達は新たに現れた背景ロールに視線を向けると、其処に描かれていた絵は数十枚の赤いカードが背景ロール一杯に広がっているというものであった。

 

 

 

 

 

その頃、何処かの薄暗い部屋で四人のライダー達が光が差し込む一点を見つめていた。このライダー達は何なのか?そして零達のこの世界での役目とは…?

 

 

 

 

 

第六章/龍騎×マクロスFRONTIERの世界END

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界

 

龍騎の世界での役目を終え、次なる世界へ訪れた零達一行。そんな零達が訪れた次の世界はブレイドの世界であった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―ズバアァッ!ズバアァッ!ズバアァッ!―

 

 

『フッ!ハァッ!』

 

 

『ギッ?!グガアァッ!!』

 

 

とある街の一角。高層ビルが建ち並ぶ市街地の中で、激しい戦いを繰り広げる二つの人影があった。一人は異形の姿をした怪物。もう一人はその怪物と戦う仮面付けた青い戦士……そう、仮面ライダーであった。青いライダーは手に持つ剣を巧みに扱い怪物を少しずつ追い詰めていく。そこへ…

 

 

「刹那、これ以上の長期戦は危険だ!奴を早く封印するんだ!」

 

 

『ッ!了解!』

 

 

青いライダー達から離れた場所に停めてある大型車の近くにいた長身の男が叫ぶと、青いライダーは怪物を斬り飛ばして距離を離し、手に持つ剣から二枚のカードを取り出してその二枚を剣に通す。

 

 

『KICK!TNDER!

 

『LIGHTNING BLAST!』

 

 

電子音声が響くと青いライダーは右足に雷を纏い、手に持つ剣を地面に突き立てると共に上空へと高く跳び怪物に向かって跳び蹴りを放った。

 

 

『デアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

青いライダーの放った跳び蹴りを受けて怪物は断末魔と共に吹き飛び、腰にあるベルトのようなものが二つに割れた。それを確認した青いライダーは剣から一枚のカードを取り出しそれを地面に倒れる怪物へと向けて投げ突き刺す。

 

 

―ザシュッ!シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウンッ―

 

 

『ウグッ?!ウ、ウオォォォォォォォォ…!』

 

 

カードが怪物の身体に突き刺さると、怪物が突然緑色の光を放ちながらカードに吸い込まれていき、怪物が完全に吸収されるとカードは風切り音を響かせながら青いライダーの手に戻り、それを遠くから見ていた二人の男達が青いライダーに駆け寄って行った。そして、その戦いを見ていた人物がもう一人…

 

 

零「……成る程な。あれがこの世界の仮面ライダー…ブレイドか」

 

 

その戦いを橋の上から見ていた零達一行。零はカメラでブレイド達を撮り、何枚か写真を取るとポケットから絵柄が消えてシルエットだけのブレイドのカードを取り出した。

 

 

零「…取り敢えず、この世界での役割を早く見つけないといけないな…前の世界であの男が言っていた事も気になるし…今回は出来る限り早く動いた方がいいかもしれない」

 

 

ヴィータ「…そうだな」

 

 

スバル「ですね…この世界での私達の役割…それを果たして、この世界の危機を救いましょう!」

 

 

零、ヴィータ、スバルの三人はいつも以上のやる気を見せ、この世界での役目を果たそうと意気込んでいた。しかし…

 

 

なのは「……えーと……そのぉ…」

 

 

フェイト「あ…あの…三人共……?」

 

 

優矢「…えと…何て言えばいいのかなぁ…?」

 

 

ティアナ「アハハハ…」

 

 

何故かその三人とは違い、なのは達は零達を見て何かを言おうとしているが、三人から放たれる何かを感じて何も言えず苦笑いを浮かべていた。すると、それを見ていた青年……"祐輔"がなのは達に代わって零に伝える。

 

 

祐輔「零さん…その格好でそんな意気込まれても何の説得力もありませんよ?」

 

 

ウェンディ(別)「確かに…あんま締まった感じがしないっスね」

 

 

零「グッ……仕方ないだろう?俺だって好きでこんな服着てんじゃないんだぞ…」

 

 

祐輔とウェンディ(別)からのダメ出しに若干ウンザリとした顔で自分の着ている服を摘む零。だが、それにツッコむなというのは無理な話しだろう。何故なら今の零とスバルとヴィータ、そして祐輔とウェンディは何故かコック姿となっていたのだ。理由は言わずもがな、この世界を調べようと外に出た途端にこの格好になってしまったのだ。

 

 

フェイト「話しでは聞いてたけど、本当に格好が変わったりするんだね…」

 

 

ティアナ「えぇ、どうやら、その世界によって服装や格好が変わる人物が違ってくるみたいなんですよ」

 

 

スバル「エヘヘ♪でも私は結構好きだなぁ~こういうの。普段じゃこういうのとか着る機会なんてないし♪」

 

 

ヴィータ「ったく。単純でいいよなぁ、お前は…」

 

 

祐輔「でもまさか、僕達までこんな格好になるなんて…」

 

 

ウェンディ(別)「単に配達で来ただけだったのに、まさかいきなりコックになるとは…」

 

 

零「俺に言われても仕方ないだろう。これに関しては俺にも全然分からないんだから…」

 

 

そう、実はこの二人は零達が頼んだケーキを配達する為にこのブレイドの世界へとやって来たのだが、何故かその時二人の服装も零達と同じように変わってしまい、それを見て二人にもこの世界での役割があるのではないかと判断した零は二人を連れて此処まで来ていたのだ。

 

 

零「まあ、せっかく来てくれて悪いが、お前達も少しだけ手伝ってくれ。お前達が居てくれたら俺達も色々と助かるし」

 

 

祐輔「はぁ…まぁ、それは別に構いませんよ?…ウェンディもこの件に関わる気満々みたいだし…」

 

 

ウェンディ(別)「勿論ッスよ!TVと同じディケイドの回る世界で役目を貰えるなんて機会、そうそうないっスからね♪」

 

 

ウェンディ(別)は上機嫌というように鼻歌を歌いながらカメラ(持参)で遠くにいるブレイドの写真を取っていく。

 

 

フェイト「アハハ…あっちの世界のウェンディは仮面ライダーが大好きなんだね」

 

 

なのは「うん…何か、祐輔君達の世界じゃディケイドがTV番組として放送されてるって言ってたし」

 

 

ティアナ「なんか…今考えても凄い世界ですよね…祐輔さん達の世界は…」

 

 

ヴィータ「だけどあれだろ?ライダーの世界とかが複数あるんなら、そういう世界もあっても不思議じゃないだろ」

 

 

そんな会話をしながら、零達は遠くからブレイド達の様子を観察していく。だがそこで、祐輔とウェンディ(別)はブレイドと一緒にいる男達を見てはて?と首を傾げていた。

 

 

祐輔「あれ?あの二人って……確か……」

 

 

優矢「?二人共、どうかしたのか?」

 

 

首を傾げて男達を見る祐輔達に疑問を持った優矢は二人にどうしたのかと聞いてみようとする。だがそこへ…

 

 

「あ!やっと見つけたですぅ!チーフ~!」

 

 

零「…あ?」

 

 

不意に零達の後ろから声が聞こえ、零達がそれが聞こえた方に振り返ると其処には零達のと同じコック服を着た一人の少女がこちらに手を振って駆け寄ってくる姿があった。

 

 

「もう!またこんなところでサボって、ダメじゃないですか!ほらほら、早くお仕事に戻るですよ!皆さんも早く早く!」

 

 

零「ちょ、おい?!」

 

 

スバル「ちょ、ちょっとぉ?!」

 

 

ヴィータ「な、なんなんだよ一体?!」

 

 

少女は半分拉致といった感じで零達を無理矢理車に押し込み、祐輔とウェンディ(別)も突然のことに戸惑いながらも言われた通り車に乗りそのまま零達を乗せた車は何処かに向かって走り去ってしまった。

 

 

優矢「………な、なんだったんだ今の?」

 

 

なのは「…さ、さぁ?」

 

 

その場に残された優矢達は突然の出来事に頭が付いていかず、走り去っていく車をただ呆然と見つめていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

五人が半端拉致されてから30分後。零達はあれからとある会社へと連れてこられ、五人を此処へ連れて来た少女、ミレイナ・ヴァスティの案内で社内を歩いていた。

 

 

零「なるほど、つまり俺達は此処の社員食堂で働くコックってワケか」

 

 

ミレイナ「はいですぅ!あ、それとこれ、皆さんの社員証です」

 

 

ミレイナは思い出したように自分のポケットを漁り、其処から社員証を出して零達に渡していく。だがその社員証は社員証というよりトランプに近いものとなっており、零達はその社員証を物珍しそうにひっくり返したりなどして眺めている。すると、ウェンディ(別)が自分の社員証を見て歓喜の声を上げた。

 

 

ウェンディ(別)「オォッ?!アタシはクローバーのQッス!♪」

 

 

祐輔「僕はクローバーのJみたいだね」

 

 

ヴィータ「…?QとJってなんのことだ?つーか何で社員証がトランプみたいになってんだよ?」

 

 

ミレイナ「うちの会社では社員のランクをトランプで表してるんですよ。最高ランクがA、最低ランクが2って感じになってるんですよ?」

 

 

ミレイナの説明を聞き零達は自分の首に下げている社員証のランクを確認する。零はスペードの2、スバルはダイヤのJ、ヴィータはダイヤのQとなっている。因みにミレイナのランクはスペードの8となっているようだ。

 

 

零「…よし待て。何故祐輔達はQやJなのに俺だけ2なんだ?!」

 

 

ミレイナ「……さぁ?」

 

 

口元に人差し指を当て可愛らしく小首を傾げるミレイナ。それを見た零は溜め息を吐いてまあいいと再び歩き出し、祐輔達もそんな零に苦笑いをしながら再び歩き出す。そうして社内ロビーにまで着くと、零達はロビーの中心部に置かれてある社員達の写真が張られた三角形の巨大なコーンを発見した。

 

 

零「…なんだこれ?」

 

 

ミレイナ「これは皆さんのランクが人目で分かる表みたいものですぅ。ランクが高ければ高い程、この表に張られてる写真も上に上がるんですよ」

 

 

スバル「へぇ~」

 

 

ミレイナの説明を聞きながら零達はコーンの周りを回ってそれを眺めていくが、其処であることに気づく。コーンにはスペード、ダイヤ、クローバーと表示された面があるのだが、何故かその中にハートの面だけがなかった。

 

 

零「?なんでハートがないんだ?」

 

 

ミレイナ「……さぁ?」

 

 

祐輔「…(まぁ、ないっていうか…なくて当然なんだけどねっ)」

 

 

ウェンディ(別)「…(けど、零達には話さない方が良いっスよね…)」

 

 

事情を知っている祐輔達は疑問そうにコーンを眺める零達を見て苦笑いを浮かべ、零達は府に落ちない顔をしながらもそこから離れて移動を開始し自分達の職場である社員食堂に向かったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ミレイナに案内され、零達は社員食堂の前までやって来ていた。中の様子をガラス張りの壁から確かめることができ、食堂内の広さは機動六課の食堂程ではないがまあまあの広さとなっているようだ。

 

 

零「此処か?俺達の職場っていうのは」

 

 

ミレイナ「そうですぅ!それでは、中へどうぞ~」

 

 

ミレイナは景気良く言いながら零達を社員食堂の中に案内する。零達も案内されるまま食堂に足を踏み入れると、目の前に飛び込んできたテーブルの数々に圧倒されて思わず声を漏らし、食堂内を見渡す。食堂内の一番右側には高級感を漂わせるようなテーブルと座椅子が三つほど用意されており、食堂内の丁度中心部には喫茶店などでよく見るようなテーブルと椅子が十脚以上並び、一番左側の方には安っぽいテーブルと椅子が奥までズラーと並んでいた。

 

 

祐輔「へぇ~、思ったより広いんだね」

 

 

ミレイナ「そうでしょう!うちの会社はなんと言っても、食堂の広さが自慢なんですぅ!」

 

 

零「……なあ。この場合、普通味の方を自慢するもんじゃないか?食堂が広いからって何の自慢になる?」

 

 

スバル「しぃっー!それは本人の前では言わないほうがいいですって!」

 

 

慌てた様子でミレイナに聞こえないように零の疑問を指摘するスバルだが、零はそれに全く意味が分からないといった感じで首を傾げている。そんな時…

 

 

「ミレイナー!」

 

 

ウェンディ(別)「…?え?あの人って…」

 

 

ミレイナ「あ!フェルトさん!」

 

 

食堂の奥にあるキッチンからやって来た女性…フェルト・グレイスをミレイナが手を振って迎え、祐輔とウェンディ(別)はフェルトを見て何処か驚いたような顔をしていた。

 

 

ミレイナ「フェルトさん。おサボりしていたチーフを無事確保しました!」

 

 

フェルト「ご苦労様ミレイナ。もう、駄目ですよチーフ?勝手に仕事を抜け出したりしたら」

 

 

零「いや、別にサボっていたとかじゃ……ん?」

 

 

フェルトに向けて言い訳しようとする零だが、何故か祐輔に服の裾を引っ張られ、零は疑問詞を頭上に上げながらも祐輔達に顔を近づけスバルとヴィータもそれが気になり顔を近づける。

 

 

零(何だ祐輔?なんか問題でもあったか?)

 

 

祐輔(大有りですよ!前の龍騎の世界といいこの世界といい、一体どうなってるですか?!)

 

 

ヴィータ(…?なにって、だから此処はブレイドの世界―――)

 

 

ウェンディ(別) (だからそういう意味じゃないんスよ!なんでブレイドの世界がガンダム00とごちゃまぜになってるんスか?!)

 

 

スバル(…ガンダム00?何それ?)

 

 

ウェンディ(別)が口にした言葉にスバルが疑問そうに聞き返すと、祐輔がそれに代わりに答える。

 

 

祐輔(僕達の世界で放送されてるアニメですよ。それに零さん達が前にいたクウガの世界はらきすた、龍騎の世界はマクロスFRONTIERっていうアニメと混ざってたし…)

 

 

スバル(あ、そういえば前に祐輔さん達からそういう話を聞いたってなのはさんが言ってたっけ?)

 

 

零(…成る程。つまり今回も、お前達の世界にあるアニメとライダーの世界が混ざり合ってしまってるって事か…だが、そんな大したことでもないだろう?どんな世界であろうと、俺達は俺達の役目を果たせばいいってだけの話なんだからな)

 

 

ウェンディ(別) (…零って…結構なんでもすんなりと受け入れるんスね…)

 

 

ヴィータ(まぁ、コイツの場合それに関して異常なところもあるんだけどな……)

 

 

あまりにも簡単に納得した様子を見せる零にちょっとだけ唖然とする祐輔達。そんな零達を見てフェルトは訝しげに眉を寄せて語り掛ける。

 

 

フェルト「あの…チーフ?どうかしましたか?」

 

 

零「ん?ああいや…なんでもない。それよりアンタは?」

 

 

フェルト「あ、はい。私はフェルト・グレイス。此処のマネージャーを勤めています、よろしくお願いします」

 

 

フェルトはそう言って零達に向けて軽く頭を下げる。因みにフェルトの首にはスペードの9と表示された社員証が下げられている。

 

 

零「マネージャーだったのか…まあいい。それより、あそこに立てられてるあれってなんだ?」

 

 

零は先程からなんとなく気になっていた案内ボードを指差す。案内ボードは二つあり、一つのボードにはA専用と右に矢印が表示されており、もう一つのボードはKQJ専用と上に矢印が、その下にはそれ以下と左に矢印が表示されている。

 

 

フェルト「この社員食堂では社員のランクによってランチが違ってくるんです。Aの方々の場合はAランチを」

 

 

ミレイナ「KQJランクの社員さん達は、このKQJランチをという事になってるですぅ!これがそのメニュー表です!」

 

 

フェルトとミレイナは何処からかメニュー表を取り出し、零達に見せるようテーブルの上に広げる。メニュー覧にはAランチとKQJランチの写真が貼り付けられており、Aランチは高級料理のフルコース、KQJランチは普通の洋食店にあるようなオシャレな感じの定食となっているようだ。

 

 

スバル「うわぁ~美味しそう~♪」

 

 

祐輔「ちょ、スバル!よだれ!よだれが垂れてる…ってヴィータもかい!!」

 

 

ヴィータ「ハッ?!ば、馬鹿言うな!誰がそんなもん垂らすか!」

 

 

零「思いっ切り隠さず垂らしてただろうが……因みに、それ以下ランチってのはどんな感じなんだ?」

 

 

ミレイナ「あ~…私達みたいにランクが低い社員は、このそれ以下ランチになってるですぅ~…」

 

 

ミレイナはまた別のメニュー覧を取り出しそれを零達の前に出して見せる。写真に写っているのはめざしが三本と少なめのご飯、そして具が少なめの味噌汁という定食であった。それを見せるミレイナも説明を終えると深い溜め息を吐き、フェルトは苦笑していた。

 

 

ヴィータ「オイオイ…流石にこりゃーねぇだろう…」

 

 

ウェンディ(別)「テレビで見たのよりも酷いっスね…明らかに手抜きッスよこれっ」

 

 

零「…差別の激しい縦社会な会社…最低最悪の会社だな…というかいっそ潰れてしまえばいい…」

 

 

祐輔「そこまでいいますかっ」

 

 

会社の仕組みが気に入らず低めな声で物騒なことを口にする零に顔を引き攣らせる祐輔。ミレイナはメニューを全て片付けると先程よりも大きい溜め息を吐いた。

 

 

ミレイナ「そう言われても仕方ないですけど…前まではこの会社もこんなんじゃなかったんですよ…」

 

 

スバル「…前までは?それってどういうこと?」

 

 

ミレイナの呟きが気になったスバルはそのことを聞くと零達もそれが気になるのかミレイナ達に注目していく。

 

 

ミレイナ「はい…前までこの会社を経営していたのはティエリア・アーデ前社長だったんですけど、その前社長が突然行方不明になってしまい、それから暫くした後に前社長から後任を任されたっていうリボンズ・アルマーク社長が現れて、今のこの会社を経営してるんですけど……」

 

 

フェルト「…その社長が来てからというもの、社内での規則がだんだんと厳しくなり始めて、遂にはそれに耐え切れなくなって会社を辞める社員も増えてきてるんです…」

 

 

ヴィータ「…そんなことがあったのか…」

 

 

零「行方不明となった前社長と突然現れた社長か…何か匂うな…」

 

 

祐輔(ていうか、ティエリア前社長とリボンズ社長って…)

 

 

ウェンディ(別) (なんか、アニメとも原作とも状況が違って来てるッスねっ)

 

 

暗い表情で今の会社の現状を説明していくフェルトとミレイナ。零達は真剣な顔でそれを聞き、祐輔とウェンディ(別)は原作やアニメとの状況の違いに戸惑っていた。そんな時…

 

 

「フェルトさ~ん、ミレイナさ~ん。お茶が出来上がりましたよ~?」

 

 

フェルト「あ、ご苦労様です」

 

 

ヴィータ「?何だ?まだ奥に誰かいんのか?」

 

 

ミレイナ「はいですぅ!最近入ったコックさんで、料理も上手、性格も良し、ルックスもスタイルも良しの皆からも評判のいい美人コックさんなんですぅ!」

 

 

零「ほ~…それはまた凄いものだな……」

 

 

祐輔「とか言っておきながらどうでもいいみたいな顔しないっ」

 

 

余り興味ないといった感じで適当に答える零に思わず注意する祐輔。そんなやりとりをしていると、奥のキッチンからコック服を着た一人の少女がお茶を乗せたお盆を持って零達の座るテーブルに歩み寄ってきた。

 

 

「あっ、もしかして、そちらの方が今日新しく入ったチーフですか?」

 

 

スバル(…あれ?この声…何処かで聞いたことが…)

 

 

零「ん?あぁ、俺が此処のチーフを任された黒月 れ………」

 

 

ヴィータ「ん?どうし……たっ……」

 

 

零は自己紹介をしようと顔を上げて少女の顔を見た途端何故か固まってしまい、スバルとヴィータも同じように顔を上げて少女の顔を見ると固まり、祐輔とウェンディ(別)はそれが気になって顔を上げると、三人のように固まりはしないが驚愕した顔をし、少女も零達を見て目を見開き危うく手に持つお茶をテーブルの上にぶちまけるところだった。そうして、零達はやっとの事で口を開き、その少女の名を力の限り叫んだ。

 

 

 

 

『ギ、ギンガァッ!!?』

 

 

スバル「ギ、ギン姉ぇ!?こんなところで何やってんのぉ!?」

 

 

ギンガ「ス、スバルッ!?それに零さんにヴィータ副隊長!?なんで皆が此処に!?」

 

 

そう…コック服を身に纏った少女の正体は、零達が探している行方不明となった仲間の一人であり、スバルの姉である"ギンガ・ナカジマ"だったのだ。しかも、彼女の首にはこの会社の社員の証であるスペードのQと表示された社員証まで下げられていた。

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界①

 

 

それから数十分後。社内のロビーでは一人の青年……ブレイドの装着者である刹那・F・セイエイが携帯電話を片手にロビー内を歩いていた。

 

 

『俺達の方は報告は終えてこれから社員食堂に行こうと思ってるんだが、お前もどうだ?』

 

 

刹那「いや、俺はさっきの出撃の時に中断した訓練に戻る。食事ならお前達だけで行ってこい」

 

 

『オイオイ…お前最近そればっかだろう?無理に止めろとは言わないが、休める時にはちゃんと休んどけよ?』

 

 

刹那「…善処する」

 

 

刹那はそう言って携帯の通話を切り、手に持つ数十万の札束が入った給料袋に視線を下ろすとそれを乱暴にポケットの中に捩込みその場から歩き出した。そしてその様子をロビーのベンチから見ていた人物達…零達を追い掛けてきた優矢達の姿があった。

 

 

フェイト「…あの人が仮面ライダーブレイド、刹那・F・セイエイ?」

 

 

ティアナ「みたいですね…現代に蘇った不死身の生命体、アンデッドを封印する会社、BOARD。そのBOARDのエース社員みたいです」

 

 

優矢「ってことは、仕事でライダーをやってる訳か…にしても、なんか見た感じ気難しそうな人に見えるな…�」

 

 

なのは「うん…あの雰囲気、何だか自分から人を遠ざけてるって感じがする…」

 

 

人を寄り付かせない独特な雰囲気を放って歩く刹那を見て苦笑する優矢とそんな刹那を何処か気になる様子で見つめるなのは。そこへ……

 

 

零「まぁ、あれがエースとしての威厳とかじゃないのか。そういうのも上の人間には必要なものだろうし」

 

 

社員食堂にいた零達がベンチに座る優矢達に近づき、ロビーを歩く刹那に視線を向けながら溜め息混じりに呟く零。(因みにギンガは食堂の手伝いがあるとの事で此処にはいない)

 

 

フェイト「あっ、零!皆!一体何処に行ってたの!?」

 

 

零「落ち着けって、単にこの世界での職場に行ってただけだ。にしても、まさかライダーが職業の一つとして扱われているとはな」

 

 

祐輔「まぁ、それがこのブレイドの世界だからね……そこに関しては原作と同じみたいだ」

 

 

ウェンディ(別)「そう…名付けるなら、仮面ライダーサラリーマン!って感じッスね♪」

 

 

優矢「いやいや、そんなの名付けなくていいから…�」

 

 

原作を真似たウェンディ(別)のボケに対し思わずツッコミを入れる優矢。そんな時…

 

 

 

 

―アンデッド出現、社員一丸となってアンデッドを封印しましょう。アンデッド出現……―

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突然社内全域に社内放送が流れ始め、それを聞いた社員達は一斉に自分の持ち場に向かって走り出し、刹那もそれを聞き急いで会社の外へと出ていった。

 

 

ヴィータ「アンデッド……確かこの世界に出る怪物だったか」

 

 

フェイト「これって、零も行った方がいいんじゃないかな?」

 

 

なのは「そうだね……ほら、零君!早くアンデッドを退治しに行かないと!」

 

 

零「ハァ……別に俺じゃなくてもエース様達が勝手にやるだろう?俺はそこら辺で写真でも撮って―――」

 

 

なの・フェ『いいから早く行きなさいッ!!!!』

 

 

零「………了解…」

 

 

祐輔(…零さん…なんだかフェイトが加わってから更に立場が弱くなってるような…�)

 

 

祐輔はなのはとフェイトに怒鳴られる零を気の毒そうに見つめ、余り締まらない感じになりながらも零達はアンデッド討伐の為に刹那の後を追い掛けたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、アンデッドが出現したという廃墟。そこでは既にエースチームの一員であるダイヤのK、ロックオン・ストラトスが廃棄工事内でアンデッドとの戦闘を行い、その廃棄工事の外では同じくエースチームの一員、クラブのK、アレルヤ・ハプティズムがパソコンを操作してアンデッドについての情報を調べていた。それから暫くすると、その場にバイクに乗った刹那が一足遅れて駆け付け、手短な場所にバイクを停めるとアレルヤの下に駆け寄る。

 

 

刹那「アレルヤ!アンデッドは?!」

 

 

アレルヤ「この工場の中にいる!数は二、既にロックオンが戦闘を開始してる筈だ!」

 

 

刹那「ッ!了解!」

 

 

アレルヤから今の現状を聞くと刹那は自分のポケットから箱の形をしたなにかと一枚のカードを取り出し、カードをその箱へとセットした。

 

 

ロックオン『刹那、承認が下りた!片方は俺が追い出す。お前はその後に奴を迎え撃て!』

 

 

刹那「了解!」

 

 

耳元に装着している通信機から聞こえてきたロックオンからの通信にそう答え、刹那はカードをセットした箱を自分の腰に当てていく。すると箱の端からカードが現れ、刹那の腰に巻き付きながら装着されてベルトのようなものとなっていった。そして……

 

 

刹那「変身ッ!」

 

 

『TURN UP!』

 

 

掛け声を上げると共にバックル横にあるレバーを引くと電子音声が響き、それと同時に刹那の目の前に巨大なカードのようなオーラ…カブトムシの紋章が入ったオリハルコンエレメントが現れ、それを潜り抜けると刹那は青い仮面ライダー…『ブレイド』に変身しすぐにその場から走り出していった。

 

 

ロックオン「刹那は変身したか…なら、こっちも早く始めねぇとな!」

 

 

工場内で戦っていたロックオンは二体のアンデッドの攻撃をかわしながら刹那のものと同じバックルを取り出し、それに一枚のカードをセットし腰に装着する。そして……

 

 

ロックオン「変身ッ!」

 

 

『TURN UP!』

 

 

電子音声が響くと、ロックオンの目の前にクワガタムシの紋章が入ったオリハルコンエレメントが出現し、それを潜り抜けるとロックオンの姿は赤いライダー…『ギャレン』へと変身しアンデッド達との戦闘を開始していった。

 

 

―ドゴオォッ!バギィッ!ドオォンッ!!―

 

 

『グガァッ?!』

 

 

ギャレン『フッ!ハァッ!刹那、行くぞ!』

 

 

ギャレンはアンデッド達を蹴り飛ばし、手に持つ銃…ギャレンラウザーから一枚のラウズカードを取り出しそれをギャレンラウザーにラウズした。

 

 

『BULLET!』

 

 

ギャレン『ロックオン・ストラトス―――』

 

 

電子音声が響くとギャレンはギャレンラウザーの銃口を一体のアンデッドに合わせ、引き金に手を掛ける。

 

 

ギャレン『目標を狙い撃つッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォオンッ!!―

 

 

『グガアァッ!?』

 

 

ギャレンラウザーから放たれた強烈な銃弾が一体のアンデッドへと直撃し、アンデッドはそれに耐え切れず工場の外まで盛大に吹っ飛ばされていった。そしてアンデッドは態勢を立て直そうとふらつきながら立ち上がっていくが、その時……

 

 

 

 

『刹那・F・セイエイ――――』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に頭上から声が聞こえアンデッドは慌てて空を見上げると、そこには工場の屋根から飛び降りその手に持つ剣……ブレイラウザーを振り上げて降下してくるブレイドの姿があった。

 

 

ブレイド『目標を駆逐するッ!!』

 

 

―ズバアァッ!ズバアァッ!ズバアァァァアッ!!―

 

 

『グギャアァァァァァァアッ!?』

 

 

ブレイドの振り下ろした剣を受けてアンデッドは吹っ飛ばされ、ブレイドは更に追撃を仕掛けてアンデッドを追い詰めていく。そしてある程度ダメージを与えたブレイドはアンデッドにとどめを刺す為、ブレイラウザーからラウズカードを取り出そうとする。だが……

 

 

 

 

「ウワアァァァァァァァァァァアーーーーッ!!」

 

 

 

 

ブレイド『ッ?!今の声……アレルヤか!?』

 

 

突如聞こえてきたアレルヤの悲鳴を聞き、ブレイドは目の前のアンデッドを放って走り出した。そしてアレルヤの下に駆け付けると、其処にはアレルヤが三体のアンデッドに襲われそうになっている光景があった。

 

 

ブレイド『チィ!ハアァッ!!』

 

 

―ズバアァッ!ズバアァッ!ズバアァッ!―

 

 

『ウグオォッ?!』

 

 

アレルヤ「?!刹那!?」

 

 

ブレイドはアンデッド達をアレルヤから離れさせる様にブレイラウザーでアンデッド達を斬り裂いていき、更にその場へと廃工場内で戦っていたギャレンがアンデッドと共に外へと飛び出してきた。しかし其処へ、先程ブレイドと戦っていたアンデッドが態勢を立て直してギャレンへと飛び掛かり襲い掛かってきた。

 

 

ギャレン『ウグッ!?クッ!なんでコイツが!?クソッ!刹那はどうした!?』

 

 

再び二体のアンデッド達と戦う事になったギャレンは思わず舌打ちしながら応戦し、ブレイドもアレルヤを守りながら三体のアンデッドと戦っていくが、現状は二対五。流石の二人も徐々に苦戦し始めていた。

 

 

スバル「ハァ…ハァ…あ、もう戦闘が始まってる!」

 

 

祐輔「やっぱり追い掛けてきて正解だったね。かなり追い込まれてるみたいだ…」

 

 

ブレイド達が苦戦する中、零達が漸く現場に到着し、アンデッド達と戦うブレイド達の姿を見て零は懐からディケイドライバーを取り出し、スバルと祐輔はポケットからKウォッチと一つの腕時計を取り出した。

 

 

零「まあ取り敢えず、俺達も行った方がいいのは確かだな………スバル、祐輔、行くぞ」

 

 

スバル「はい!」

 

 

祐輔「まさか、本当にアンデッドと戦うことになるなんてね…�まあ、余り自信はないけどやってみるよ」

 

 

零はディケイドライバーを腰に装着し、スバルと祐輔は左腕にKウォッチと腕時計を装着するとスバルはKウォッチを操作して画面のエンブレムをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL UTURIKI!』

 

 

Kウォッチから電子音声が響くとスバルの腰にベルト……ではなく、スバルの手に鬼の顔が刻まれた音叉のような物が現れた。

 

 

スバル「あ、あれ?これ…ベルトじゃない…?」

 

 

ウェンディ(別)「?もしかしてそれ…変身音叉じゃないッスか?響鬼に出てくる変身ツールの」

 

 

零「響鬼の?…ならスバルの変身するライダーは響鬼タイプって事か…スバル、行けるか?」

 

 

スバル「あ、はい!大丈夫です!いつでも行けます」

 

 

零「そうか…なら行くぞ!」

 

 

祐輔「はい!」

 

 

零はそう言ってライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、祐輔は腕時計のダイヤルを百八十度回し、スバルは音叉……変身音叉の先端部分を指で弾いて音を鳴らすと自身の額に翳す。するとスバルの額に鬼の顔のような紋章が浮かび上がり、それと共にスバルの身体が蒼炎に包まれていった。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

『ハアァァァ……破ぁ!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと零はディケイドに、祐輔は赤いマフラーに腰に刀、赤い瞳に和服のような白い羽織に黒い鎧、全体的に青いボディをした仮面ライダー『キャンセラー』に変身し、スバルは自身の身を包んでいた蒼炎を払うと、その姿は響鬼に酷似した薄青い鬼の姿をしたライダー……響鬼タイプのライダーである『移鬼』へと変身していった。

そして変身を終えたディケイド、キャンセラー、移鬼はブレイド達と戦うアンデッド達に向かって走り出していった。

 

 

ディケイド『フッ!ハアァッ!』

 

 

キャンセラー『セアァッ!ハッ!』

 

 

移鬼『ハアッ!ヤアァッ!』

 

 

三人は自身の戦うアンデッドと接触するとアンデッドを掴んで別々の方向に散り、それぞれ戦闘を開始していった。

 

 

ギャレン『ッ!?アイツ等は…?』

 

 

ブレイド『…何だ?』

 

 

ブレイド達は突然乱入してきたディケイド達を見て呆然とし、ディケイドはアンデッドを壁際まで吹き飛ばすとライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『新しい調理法だ。変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:RYUKI!』

 

 

電子音声が響くと、ディケイドに複数のシルエットが集まって一つに重なり、ディケイドの姿が前の世界でアルトが変身したのと同じ龍騎へと変わっていった。

 

 

ギャレン『変わった?!』

 

 

ウェンディ(別)「オォッ!ディケイドはああやって別のライダーに変身するんスね♪」

 

 

姿を変えたディケイドを見てギャレンは驚き、物陰に隠れていたウェンディ(別)は持参したカメラでD龍騎を撮っていく。そしてD龍騎はアンデッドを殴り付けてダメージを与えていくとライドブッカーからまた一枚のカードを取り出した。

 

 

D龍騎『さぁお客様?焼き加減はレア、ミディアム、ウエルダン……どれがよろしいでしょうか?』

 

 

『ATTACKRIDE:STRIKEVENT!』

 

 

電子音声が響くとD龍騎の頭上から龍の頭を摸した手甲…ドラグクローが現れD龍騎の右手に装着される。それを見たアンデッドは危機感を感じてD龍騎に向かって突撃し、D龍騎はアンデッドに狙いを定めながらドラグクローの口に炎を集束させていく。

 

 

D龍騎『リクエストがないなら……丸焼きで行かせてもらうぞッ!!』

 

 

D龍騎はドラグクローの口に集束させた炎をアンデッドに向けて撃ち放ち、アンデッドは断末魔を上げながら爆発を起こして散っていった。

 

 

移鬼『セイッ!デリヤァッ!』

 

 

『ウガアァァァッ!?』

 

 

一方移鬼は太鼓の撥のような形をした武器、音撃棒・真炎をアンデッドに打ち付けて攻撃していく。そして移鬼は真炎を二本とも右手に持ち、左手でバックル部分にある太鼓のようなものを取り出し、それをアンデッドに押し付けた。すると太鼓はみるみる内に巨大化してアンデッドの動きを封じ、移鬼は真炎を持ち直して大きく身構える。

 

 

移鬼『行くよッ!音撃打・業火一点の型!ハアァァァァァァ…ハアッ!!』

 

 

―ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドドンッ!ドドンッ!ドドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!―

 

 

移鬼は太鼓に向かって真炎で音撃を打ち込んでいき、身体全体を使って少しずつ真炎を打ち込む力とスピードを上げていく。アンデッドは音撃を受ける度に苦しげな声を上げ身体にヒビが入り始めていた。そして…

 

 

移鬼『ハアァァァァァァァ……破ぁッ!!!』

 

 

―ドオォンッ!!―

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッーーーーッ!!!』

 

 

移鬼の打ち込んだ最後の一打を受けアンデッドは断末魔と共に粉々に砕け散っていったのだった。

 

 

ウェンディ(別)「スバルも中々やるっスね~♪祐輔~!祐輔も二人に負けず頑張るッス~!」

 

 

キャンセラー『簡単に言ってくれるよ…!フッ!』

 

 

キャンセラーは自身の刀で素早くアンデッドを斬り付けていき、アンデッドはキャンセラーの剣撃を見切ることが出来ず壁際まで吹き飛んでいく。

 

 

キャンセラー『そろそろ終わらせてもらうよ?タイムクラッシュッ!』

 

 

『TIME CRASH!』

 

 

電子音声が響くとキャンセラーの刀にエネルギーが集束されていき、キャンセラーは地を蹴って一気にアンデッドとの距離を縮め刀を振りかざした。

 

 

キャンセラー『セヤアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『アガッ?!グアァァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

キャンセラーはアンデッドとすれ違う際にアンデッドを横一閃に斬り裂き、刀を腰に収めた瞬間アンデッドの身体は真っ二つとなって爆散していった。そして、残った二体のアンデッドはこのままでは不利になると感じどさくさに紛れて逃げて行った。

 

 

ブレイド『アイツ等は…一体?』

 

 

ギャレン『アンデッドを…封印しないで倒しただと?…お前等、一体何者だ?』

 

 

ブレイドとギャレンは変身を解除して刹那とロックオンに戻り、訝しげな表情をしながらD龍騎達に近づいていく。そしてD龍騎達も変身を解除して零達に戻り、その問いに答えた。

 

 

零「気にするな。たまたま通り掛かった、通りすがりのコックだ」

 

 

祐輔「いや意味分からないから、というかそれ何の答えにもなってないから�」

 

 

ロックオン「…その社員証…まさか、派遣のライダーか?お前等のランクは?」

 

 

ロックオンは零達が首に下ろしている社員証に気づいて派遣社員か何かだと思いそう問い掛ける。すると、それを待ってましたと言わんばかりにウェンディ(別)が物陰から飛び出し、零達の下に駆け寄って代わりに答える。

 

 

ウェンディ(別)「もちろんAに決まってるッス!いや…更にその上の…スーパーロイヤルAッスよ!」

 

 

『………は?』

 

 

自信満々に胸を張って答えるウェンディ(別)に対し、ロックオンや零達は唖然とした顔を浮かべ、祐輔に至っては頭を抱えて溜め息を吐いていた。

 

 

刹那「…いや、そいつ等のランクはダイヤとクローバーのQとJ、その男は最低ランクの2だ」

 

 

刹那が零達の社員証を一通り見回しそれをロックオンに報告する。それを聞いたウェンディ(別)はバレたか~と苦笑いを浮かべ、零は疲れたように深い溜め息を吐きながらその場から歩き出した。

 

 

ロックオン「ちょっと待て…今のは中々良い仕事ぶりだった。俺達から社長に言ってランクを上げてもらうように進言してやる」

 

 

零「…生憎だが、俺はサラリーマンになんて興味はない」

 

 

零は軽く手を振りながらそう言って廃棄工場を後にし、祐輔達も零の後を追ってその場から去っていったのであった。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界②

 

 

先程の戦闘から数十分後。BOARDの社長室では優矢達が社長のリボンズ・アルマークと対談していた。リボンズは優矢達から話を聞きながらデスクのパソコンを操作し一呼吸した後に口を開いた。

 

 

リボンズ「…つまり、世界の崩壊を防ぐ為に我々の力を貸して欲しい…ということかな?」

 

 

なのは「はい。今この世界にも、危機が迫ってるハズなんです」

 

 

優矢「だから、貴方達の力を俺達に貸して欲しいんです!」

 

 

なのはと優矢はリボンズに向けて頼むように頭を下げ、フェイトとティアナも二人と同じように頭を下げて頼み込む。それを見たリボンズは…

 

 

リボンズ「成る程…君達の事情は分かった。それで、君達の予算は?」

 

 

フェイト「へ?予算って…」

 

 

ティアナ「まさか、お金を取るんですか…?」

 

 

突然お金の話を切り出されて優矢達は戸惑ってしまうが、リボンズは構わず話を続ける。

 

 

リボンズ「君達は知らないのかい?我社は国家の安全を守る為に、国から予算を受けてアンデッドと戦っているんだ。我社の協力が欲しいのなら、それぐらいのことはしてもらわないと」

 

 

優矢「そ、それは…ライダーも同じなんですか?」

 

 

リボンズ「フッ、当然じゃないか。ライダーは我社の社員であり、ライダーシステムは我社の所有物だ。それを使いたいのなら、それなりの金額を用意してもらわないとね」

 

 

力を貸す代わりに大金を用意しろ。当然のように告げるリボンズの言葉に優矢達は唖然とし、ティアナに至ってはリボンズの物言いが気に入らず、不機嫌そうにソファーに座り込む。

 

 

ティアナ「なによ…世界が危険な状態なのにお金お金って…」

 

 

優矢「成る程ねぇ…」

 

 

ティアナ「って、なに普通に納得してるんですか!?」

 

 

優矢「いや、だって実際にないじゃんお金」

 

 

フェイト「そうだけど…でもだからって、このまま帰る訳にも行かないよ」

 

 

なのは「うん…どうしようか…」

 

 

実際今のなのは達にはそんな大金など所持してない。かと言って何の成果も無しにこのまま帰るのもどうかと思う。ならばどうしたものかとなのは達が頭を悩ませていると……

 

 

『失礼します』

 

 

社長室に刹那、ロックオン、アレルヤが訪れて社長室に入り、その後ろから零、スバル、ヴィータ、祐輔、ウェンディ(別)達が入ってきた。だが、何故かその中で零は一人不機嫌そうな顔をしている。

 

 

なのは「あれ?皆、どうして此処に?」

 

 

零「知るか…さっき仕事してたらいきなり社長から話があるって呼ばれたんだよ…調理中でいきなりだったからザックリと指切っちまったし」

 

 

フェイト「え、えぇッ?!だ、大丈夫だったの?!」

 

 

祐輔「ま、まぁ、ただちょこっと指を切ったってだけだからそんな大したことはないよ、うん(言えない…本当にザックリと行って大出血且つ大惨事になり、一時は救急車を呼びそうなったなんて…)」

 

 

怪我をした本人である零は大した事じゃないと言ってそれを断ったが、そんなことを話したらフェイトとかが無理矢理零を病院に連れて行こうとするかもしれない。包帯の巻かれた零の指を心配そうに見つめるフェイトを見て祐輔はそう思い、他のメンバーも同じことを考えているのか、二人のやり取りを見て苦笑いを浮かべていた。そんなやり取りが隣で行われている中、刹那達は社長用デスクの前に列び、リボンズは椅子に座りながらパソコンを弄り始める。

 

 

リボンズ「さて、君達を呼んだのは他でもない。この度の世界的不況を受け、我社の予算も大幅に削減される事が国から決定された。そんな中、刹那・F・セイエイ。君は先程の戦闘で身勝手な行動を取り、我社に損害をもたらした。よって君はAから7に降格、代わりにアレルヤ・ハプティズム、君をAに昇格。レンゲルの資格を与えよう」

 

 

アレルヤ「ッ?!ま、待って下さい社長!刹那はただ、僕を助けようとしただけで…!」

 

 

刹那の降格処分を聞いて反論するアレルヤだが、リボンズはそれを全く聞こうとせずパソコンを弄り続け、当の本人である刹那は降格処分を受けたにも関わらず全く気にした様子を見せなかった。

 

 

リボンズ「そして新入社員である黒月 零、スバル・ナカジマ、阿南 祐輔、君達の活躍は大変素晴らしいものだったよ。よって、君達三人はKに昇格だ。おめでとう」

 

 

祐輔「…どうも」

 

 

スバル「ありがとうございます…」

 

 

零「む…包帯が外れ掛けてる…巻き方が甘かったか」

 

 

Kに昇格出来たにも関わらず、三人はあまり喜んではいなかった。それもそうだろう、三人は最初からこの会社の制度をよく思ってはいないのだから。零に至っては本当にどうでもいいのか、Kへの昇格報告よりも指に巻いてる包帯の方を気にしていた。

 

 

リボンズ「さて、話は終わりだ。各自自分の持ち場に戻ってくれ…あぁ、それと刹那・F・セイエイ、君の転属先だが…」

 

 

リボンズはそう言いながらデスクから立ち上がり刹那に新しい職場を提示する。その新しい職場とは…

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―社員食堂・厨房内―

 

 

刹那「…今日からこの社員食堂で働く事になった刹那・F・セイエイだ。よろしく頼む」

 

 

刹那は新しく働く事になる職場…零がチーフを勤める社員食堂に来ていた。今の格好も私服からコック服へと変わっているが、刹那は特に気にした様子も見せずそれを着こなしていた。

 

 

零「こちらこそな。だが、本当に良かったのか?Aから降格されたっていうのにそんなすんなりと受け入れて…結局最後まで反論しなかっただろう?」

 

 

そう、降格処分を受けたというのに刹那はあれから一度もリボンズに反論も言い訳すらもしなかったのだ。零は正直、刹那はその事に納得出来ず反論し続けるかと思ってたのだが、予想とは違う刹那の反応に内心では驚いていた。

 

 

刹那「Aという地位に興味はない。…俺はただ…ブレイドで有れ続ければそれでいいだけだ」

 

 

零「…そうかい、なら俺もこれ以上は言わない。早速だが、お前はコイツの皮剥きでもしてくれ」

 

 

零はそう言って近くに置いてある野菜が入ったカゴを刹那に押し付けると、刹那はそれを受け取って「了解…」とだけ返し自分の持ち場へと向かっていった。

 

 

スバル「…刹那さん…大丈夫かな…」

 

 

零「本人がああ言ってるんだ。アイツはアイツで仕事をこなすだろう…それより、もうすぐ昼休みの時間だ。各自自分の持ち場に着いてランチの準備を始めろ!バリバリ働いてバリバリ稼ぐぞ!」

 

 

『はい、チーフ!』

 

 

厨房内に零の声が響くと、フェルトやミレイナを含むスタッフ達が一斉に自分達の持ち場で作業を始め、零は厨房内を回りながらスタッフ達に一つ一つ指示を送っていく。

 

 

ウェンディ(別)「零…何かノリノリっていうか…様になってるッスね…」

 

 

ヴィータ「あぁ。アイツ、前に無理矢理六課の厨房を任されたことがあったから一応経験はあんだよ…その時もあんな感じでコック達をこき使ってたからな…」

 

 

 

祐輔「……どういう経緯でそんな事になったのか大体予想出来るよ…」

 

 

恐らく、部隊長のはやてを何かしらの理由で怒らせたりしてそうなったのだろう…それが嫉妬などによる理不尽なものなのか零の自業自得なのか分からないが。そんな事を考えながら祐輔達も自分の作業を開始していった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから数分後。社員食堂の客席内は昼食を食べようと集まった社員達で埋め尽くされており、そこではギンガがスバルとヴィータに此処で行う自分達の仕事について詳しい説明をしていた。

 

 

ギンガ「じゃあ、今説明した通り、私はそれ以下ランクの客席の方を回るから、スバルとヴィータ副隊長はKQJランクの客席をお願いね?」

 

 

スバル「うん、分かった!」

 

 

ヴィータ「…つってもなぁ…これだけの席を回るのは少し骨に来そうだぞ…」

 

 

ヴィータはそう言ってKQJエリアとそれ以下エリアの客席の方を眺める。どちらのエリアの客席も社員達で満席となっており、特にそれ以下エリアの方は数え切れない社員達で埋め尽くされている。流石にこれはギンガだけではキツイのではないか、と何気なく思うヴィータ。だが…

 

 

「お~い!ギンガさ~ん!こっちの注文お願い!」

 

 

ギンガ「あ、はい!分かりました~!」

 

 

「ギンガさん、こっちの注文もお願いします」

 

 

ギンガ「あ、〇〇〇さん。また来て下さって有り難うございます!」

 

 

「ギンガ~!こっちこっち!こっちもおねが~い!」

 

 

ギンガ「あっ、〇〇〇!また来てくれて有り難う♪」

 

 

 

 

 

『……………………』

 

 

 

 

 

そんなヴィータの心配とは裏腹に、ギンガはそれ以下エリアの客席をきびきびとした動きで走り回っていた。その表情は何処か生き生きとして楽しそうに見え、辛い、疲れるといった感情を微塵も感じさせていなかった。

 

 

ヴィータ「…スゲーなアイツ…よくあんだけの客を一人一人相手に出来んな」

 

 

スバル「アハハハ…ま、まあ心配しなくても、ギン姉ならあれぐらい簡単にこなしちゃいますよ。それより、私達も早く行きましょう!」

 

 

そんなギンガに感心しながら、二人もKQJエリアの客席を回って自分達の仕事を始めたのであった。

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界③

 

あれから一時間後。社員達が客席で食事を楽しんでいる中、厨房では今もスタッフ達が忙しく動き回る姿が多く見られていた。

 

 

零「違う!そうじゃない!それじゃ味が濃くなるだろう?!此処はこうだ!分かったか?!」

 

 

「は、はいチーフ!」

 

 

零「駄目だ!味付けが薄い!そこにあるソースを片っ端から持ってこい!」

 

 

「はいチーフ!」

 

 

零「何をやってるんだお前は?!それじゃあ身が固くなるだろう?!火加減の微調整ぐらい気をつけろ!」

 

 

「す、すみませんチーフ!」

 

 

零「そこのコック!すまないが食材を取りに何人か連れて倉庫に行ってきてくれ!……そしてそこの二人!勝手に料理をつまみ食いするなッ!!」

 

 

ヴィータ「…ムグッ?!ば、馬鹿言うな!そんな事してねーよ!�」

 

 

スバル「そ、そうですよ!ちゃんとお仕事してましたよ?!�」

 

 

零「…なら何でデミグラスソースが口に付いてるんだ…」

 

 

『…ハッ?!』

 

 

ギンガ「もう、スバル!ヴィータ副隊長も!零さんやスタッフの皆が真剣にお仕事してるのに、しっかりしないと駄目でしょう!」

 

 

零「…………ギンガ、口にクリーム付いてるぞ…」

 

 

ギンガ「へ?…あっ?!///」

 

 

コック達が忙しく働く中、厨房内には零の怒鳴り声が多く響き渡っていた。当初はコック達に指示を送っていただけだったのだが、コック達の不手際を発見してからというものこの調子でありチーフ自らがキッチンに立つ姿が何度も見られ、問題点を指摘されるコック達は零の半分説教半分アドバイス?を受けて半泣きになりながらも零に言われた通り調理を続けていく。そして、別の厨房では祐輔がケーキセットを皿に盛り付けていた。

 

 

祐輔「あっ、コックさん。これも一緒にお願いします」

 

 

「は?あの、これは?」

 

 

祐輔「流石にあれだけじゃ社員の皆さんも満足出来ないでしょう?ですから一緒に持っていって下さい。僕からのオマケです」

 

 

「は、はぁ…分かりました」

 

 

コック達は祐輔から渡されたケーキを持ってそれ以下エリアの客席に向かい、祐輔は新しい材料を取り出して再び料理とケーキを作り始める。

 

 

―シャリッ、シャリッ…―

 

 

刹那「…………」

 

 

そしてその端では、刹那が黙々と野菜の皮を剥き続けていた。一箱の段ボールに入った野菜を取り出して皮を剥いていき、剥き終えた野菜を笊の中に入れてまた別の野菜の皮を向くと地道な作業を続けていく。そんな刹那の下に、零がKQJ用のランチを乗せた二つのトレーを持ってやって来た。

 

 

零「刹那、悪いがこれをKQJ用の客席に運んできてくれないか?他の奴等はどうも手が離せないみたいでな。頼めるか?」

 

 

刹那「…問題ない。行ってくる」

 

 

刹那はそう言って零からトレーを受け取ると、ランチを運ぶ為にKQJ用の客席へと向かって行った。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

KQJ用ランチを運ぶ刹那はKQJ用ランクのエリアに入り、ランチを注文した社員の待つ客席の下へ向かっていった。

 

 

刹那「KQJランチだ…」

 

 

と、一言だけ告げてランチを乗せたトレーをテーブルの上に乗せ、そのまま厨房へと引き返そうとする。だが…

 

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

 

厨房へと引き返そうとする刹那を客席に座っていた社員が呼び止め、呼び止められた刹那は無言のままそちらの方に振り返る。客席に座っているのは見た感じ柄の悪そうな二人組の社員。その二人の首にはスペードのJと表示された社員証が下げられていた。

 

 

「なんなんだよその接客?それが客に対する態度か?」

 

 

「ホントだよなぁ。もうAじゃなくなったっていうのにその無愛想な態度…まだA様気分でいるつもりかよ?」

 

 

嘲笑うかのような表情で刹那を見つめてくる二人組の社員。明らかな上から目線の言葉に近くのテーブルに座っている社員達も苛立ちを覚えるが、当の本人である刹那は全く気にした様子を見せず、取りあえずこの場を治めようと二人に謝罪する。

 

 

刹那「…何か気に障ったのなら謝る。すまなかった」

 

 

「だーかーらーその態度と言葉づかいが気に入らないつってんの。俺達はJ、お前は7……誰が上なのか分かってるよね?」

 

 

「ホントに悪いと思ってんならそこで土下座でもしてくれない?スミマセンでしたってさ」

 

 

刹那「……………」

 

 

くだらない。不意に刹那の脳内にそんな言葉が浮かび上がる。こんな輩の相手をしていても時間の無駄だ。そう思った刹那は二人を無視して厨房に戻ろうと歩き出す。

 

 

「おいおい、無視しちゃうワケ?上司の命令が聞けないのかよ?…てかそうか。そんなんだからAから降格されちまったのか?そりゃそうなるわなぁ♪」

 

 

刹那「……………」

 

 

わざとらしく刹那の悪口を口にする社員だが、刹那は無表情のままそれを無視して厨房に戻ろうとし、社員は刹那のその態度に苛立ちテーブルから勢いよく立ち上がった。

 

 

「テメェ…謝れって言ってんだろうが!こっち向けよっ!」

 

 

社員は怒号を響かせながら刹那を振り向かせようと肩を乱暴に掴んだ。だが……

 

 

 

刹那「ッ!俺にっ……俺に触るなあぁぁぁッ!!!」

 

 

―ドゴオォォッ!!―

 

 

「うがあぁぁぁっ!!?」

 

 

―ガシャアァァァァァァアンッ!!―

 

 

『キャアァァァァァァアッ!?』

 

 

なんと、刹那はいきなり社員を殴りつけてしまったのだ。殴られた社員はそのまま別の社員達が食事していたテーブルへと吹っ飛んでいき、テーブルの上に倒れたままピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

「っ?!て、テメェ!上司に手を上げやがったな!?」

 

 

刹那「…っ?!」

 

 

刹那はもう一人の社員の声を聞いて我に返り、自分がしてしまったことに始めて気づいた。上司に手を上げてしまった…。その事実が頭の中で何度も繰り返し流れ、刹那は社員を殴った自分の拳を呆然と見下ろしていた。

 

 

「この野郎ォ!もう許さねぇぞッ!!」

 

 

「あ、危ない!!」

 

 

刹那「ッ!」

 

 

悲鳴にも似た女性社員の声を聞いて刹那は目の前に視線を向けると、社員の放った拳が目の前にまで迫っていた。この距離では避けられない。刹那はそう思って歯を食いしばった。その時……

 

 

 

 

 

―パシッ!!―

 

 

「…ッ?!な、なに?!」

 

 

 

 

 

ロックオン「ったく…様子見に来てみりゃ、一体なにやってんだお前は?」

 

 

刹那「…?!ロックオン…アレルヤ…?!」

 

 

アレルヤ「大丈夫かい刹那?なにがどうなってるのかは……まぁ、この有様を見て大体予想出来たよ」

 

 

 

 

刹那の目の前に立つ二人の男性…ロックオンとアレルヤが社員の放った拳を受け止め、そのまま押し返すように社員の腕を払った。

 

 

「クッ!え、Aチームの…ロックオン・ストラトス…アレルヤ・ハプティズム…なんでここに?!」

 

 

ロックオン「何でって聞かれたら、飯を食いにとこの坊主の様子見ってところだ……んで?こいつに何か用があるってなら俺達が聞くぜ?」

 

 

アレルヤ「といっても、これ以上此処にいたら他の社員に迷惑が掛かる…話なら外で聞くけど?」

 

 

「うっ…ク、クソッ!覚えてろ?!この事は社長に報告するからなぁ!?」

 

 

そんな捨て台詞を言い残し、社員は気を失った社員を抱えその場から逃げ出すように社員食堂を飛び出していった。とそこへ……

 

 

ギンガ「刹那さん!どうしたんですか?!」

 

 

ウェンディ(別)「なんスか今の騒ぎは?!」

 

 

騒ぎを聞き付けたギンガとウェンディ(別)がその場に駆け付けると二人は客席内の惨状を見て絶句し、刹那はその場で身を屈めて床に広がった料理や皿の破片を広い集めていく。

 

 

アレルヤ「刹那、僕も手伝……っ!ロックオン?」

 

 

ロックオン「………」

 

 

刹那の作業を手伝おうと身を屈めるアレルヤだが、ロックオンがそれを制止し、刹那は床に散らばった料理と破片を拾い終えると厨房に戻っていき、その場に残されたギンガとウェンディ(別)は状況が理解出来ず、ただ呆然とその場で立ち尽くしていた。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界④

 

三十分後。刹那は今BOARDの社長室に呼ばれていた。理由は言わずもがな、先程の社員食堂での一件である。

 

 

リボンズ「君は7から最低ランクの2に降格。此処にブレイバックルを出すんだ」

 

 

刹那「ッ?!何故だ?!」

 

 

リボンズ「君に理由を話す必要はない。社長命令だ、早く出したまえ」

 

 

刹那「クッ…!」

 

 

平淡な口調のままブレイバックルを出すように告げるリボンズ。刹那は苦悶しながらもポケットからブレイバックルとラウズカードを出しデスクの上にゆっくりと置いていく。

 

 

リボンズ「本日限りで君はブレイドの資格を剥奪する。異論はないね?」

 

 

リボンズはそう言いながらブレイバックルとラウズカードに手を伸ばす。が、その手が届く前に刹那がブレイバックルとラウズカードを乱暴に掴み取った。

 

 

刹那「ッ…納得出来るか…こんなくだらない理由で、何故ブレイドの資格を剥奪されなければならない?!これは前社長が…!」

 

 

ブレイドの資格を剥奪されるのは流石に我慢ならないのか、刹那はAからの降格処分を受けた時よりも感情を露わにして叫ぶが、リボンズはそれにやれやれといった表情で溜め息を吐いた。

 

 

リボンズ「ふぅ…刹那・F・セイエイ…君のその行動が一体何を意味しているのか…分かっているかい?」

 

 

刹那「…何?」

 

 

リボンズの言葉に刹那は訝しげに眉を寄せ、リボンズはデスクから立ち上がると窓ガラスの向こうの景色を眺めながら口を開いた。

 

 

リボンズ「…君は幼少の頃、アンデッドに両親を殺され孤児となり、生きる気力を無くしていた…そんな君に手を差し延べアンデッドと戦う力であるブレイドの力を与えてくれた…BOARDの前社長であるティエリア・アーデ。僕はその前社長から後任を任されたんだ。僕の意志に背くということは、君の恩人である前社長の意志に背くということになるんじゃないかな?」

 

 

刹那「ッ!ふざけるな…俺は、俺は全てのアンデッドを封印すると前社長に誓った!ブレイバックルは渡さない…渡すものか!!」

 

 

刹那はそう言ってブレイバックルとラウズカードを懐に仕舞い、社長室から飛び出していった。リボンズは窓ガラスに映る鏡からそれを確かめると小さく笑みを浮かべる。

 

 

リボンズ「全く…しょうのない人間だ」

 

 

「人間とはそう言うものだ…自身の認めたくない事実から逃げ、現実から目を背けて苦しみ続ける弱い存在」

 

 

リボンズの物とは違う新たな声。リボンズがその声が聞こえてきた方に振り返ると、物陰から一人の男……龍騎の世界でアビスに変身し、零達の前に立ちはだかった鎌田がゆっくりと姿を現した。

 

 

鎌田「だが、その苦しみからも時機解き放たれるだろう。ライダーとアンデッドが手を組み、世界の統率者となるのだから……フフフッ…フハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

鎌田は不気味な笑みを浮かべながら社長室から出ていき、ブレイバックルを取り返す為に刹那の後を追い掛けていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、なのはとフェイトは零達の様子見の為に道中談笑しながらBOARDへと向かっていた。

 

 

フェイト「零達、今頃どうしてるかな?」

 

 

なのは「うーん。多分、今頃コックさん達にああだこうだって言ってる頃じゃないかな?零君、料理とかする時人が変わっちゃうし�」

 

 

フェイト「そう言えばそうだね…前に零を手伝おうとしてキッチンに入ったら凄く怒られたし�」

 

 

なのは「…というか、何か私達がキッチンに入ること事態許してくれないような気がするんだけど…何でかな?」

 

 

フェイト「んん……なんでだろ?」

 

 

互いに首を傾げながらそんな疑問を考えるなのはとフェイト。とその時、なのはの視界の端に見覚えのある物体が映った。

 

 

なのは「あれ?あれは……キバーラ?」

 

 

フェイト「え?」

 

 

なのはの視界の端に映ったなにか…写真館に居るハズのキバーラが何処かへと向かって飛んでいく姿を見つけた。こんな所で一体何をしているのか?気になった二人はキバーラの後を追いかけ近くのビルの路地裏に足を踏み込む。其処には…

 

 

キバーラ「…ディケイドは社員食堂で足止めにあってるみたいよ」

 

 

「そうか……今度こそ、私の実験の邪魔はさせんぞ、ディケイド…」

 

 

廃棄ビルの路地裏。其処にはキバーラと零達を幾度となく邪魔してきた謎の男が何かを話している姿があったのだ。なのはとフェイトはその事に驚きながらも顔を見合わせて何かを決心したように頷き、男の目の前に飛び出した。

 

 

キバーラ「ッ!貴女達…」

 

 

なのは「貴方…貴方は一体何者ですか?!何故零君の邪魔を…?!」

 

 

「………………」

 

 

男に向けて身構えながら問い掛けるなのはだが、男はそれに何も答えず不気味な笑みを浮かべて自分の背後に歪みを発生させ、男はその歪みと共に消えていってしまった。

 

 

フェイト「……キバーラ、貴女は一体?」

 

 

キバーラ「私はただの謎の女……フフフフッ♪」

 

 

残されたキバーラもフェイトの問い掛けを受け流し、怪しく微笑みながら何処かへと飛んでいってしまった。そしてその場に残されたなのはとフェイトは不吉な予感を感じ取り、急いでBOARDへと走り出した。

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑤

 

 

刹那「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

 

あれから数十分後。BOARDを飛び出した刹那はとある荒れ地へと訪れ何処かへと向かおうとしていた。だがそんな刹那の前に祐輔によって無理矢理病院に連れて行かれた零、そしてスバルと祐輔が現れ、刹那はその場で立ち止まり鋭い視線で三人を睨みつけた。

 

 

刹那「はぁ…はぁ……何の用だっ…」

 

 

零「いやなに、病院帰りに社長から連絡があってな。部下の暴走を止めにきただけだ」

 

 

刹那「ッ…お前には関係のないことだろうっ…!」

 

 

零「そうはいかない、お前がクビになると俺にも色々と不都合がある。社長には一緒に謝ってやるから、今すぐBOARDに引き返せ」

 

 

刹那「ふざけるな!お前の話など聞けるものか!」

 

 

刹那はそう言って零達とは反対側の方へと歩き出し、零は溜め息を吐きながらも刹那を引き止めようとする。だが…

 

 

「そこまでだ、刹那・F・セイエイ…ブレイバックルを渡してもらおう」

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に刹那と零達の背後から声が聞こえ、一同がそちらの方に振り返ると林の中から刹那を追い掛けてきた鎌田がこちらに歩み寄ってくる姿があった。

 

 

刹那「…何だお前は…?」

 

 

祐輔「(ッ…やっぱり出て来たか…)」

 

 

零「何だ…この前取り逃がした奴か」

 

 

近づいてくる鎌田を睨みながら零が呟くと、鎌田は不気味な笑みを浮かべながらその姿を異形の姿…バラドキサカマキリの祖先であるカテゴリーK、パラドキサアンデッドへと姿を変えて零達に歩み寄ってくる。

 

 

スバル「?!あれって…?!」

 

 

刹那「アンデッドッ…!」

 

 

鎌田が姿を変えたパラドキサアンデッドを見てスバルは驚き、刹那はパラドキサアンデッドに向かって走り出すとポケットからブレイバックルを取り出しラウズカードをセットして戦おうとする。だが、パラドキサアンデッドは右手から風のブーメランを放ち、刹那はそれを受けて吹き飛んでしまった。

 

 

刹那「ガハァッ!?クッ…ウッ…!」

 

 

スバル「刹那さんッ?!」

 

 

祐輔「ッ!取り敢えずあの人を止めた方がいいね!」

 

 

零「あぁ、今度こそ決着を付けてやる…行くぞ!」

 

 

零は懐からディケイドライバーを取り出して腰に装着するとライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、スバルは左手にあるKウォッチを操作してエンブレムをタッチすると変身音又を出現させ、祐輔は腕時計のダイヤルを百八十度回転させる。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOUL UTURIKI!』

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

 

三人はそれぞれの変身動作を行うと、零はディケイド、スバルは移鬼、祐輔はキャンセラーへと変身した。そしてディケイドは空手、移鬼は腰に下げている槍のような武器、音撃玄・真雷を取り出し、キャンセラーは腰にある刀を抜きパラドキサアンデッドへと向かって突っ込んでいく。

 

 

刹那「クッ…グッ…!」

 

 

一方でパラドキサアンデッドに吹き飛ばされた刹那は地面をはいずりながら近くに落ちているブレイバックルを手に取り、自身も変身してパラドキサアンデッドと戦おうとする。だがそこへ、刹那を追い掛けてきたロックオンとアレルヤが現れ刹那の下に駆け寄っていく。

 

 

ロックオン「刹那!何やってんだお前は?!早くブレイバックルをこっちに渡せ!」

 

 

アレルヤ「社長も今なら許してくれるって言ってる!手遅れになる前に、ブレイバックルを返すんだ!」

 

 

何処か必死な表情で刹那にブレイバックルを渡すように呼び掛ける二人。だが、刹那はその呼び掛けに答えず、二人を睨みつけながらゆっくりと立ち上がった。

 

 

刹那「ッ…ふざけるなっ…誰が渡すものかっ……俺は……俺がっ……!」

 

 

そう言いながら刹那はブレイバックルを腰に装着してバックル横のレバーに手を掛ける。そして…

 

 

刹那「俺がブレイドだッ!」

 

 

『TURN UP!』

 

 

電子音声が響くと、刹那は目の前に現れたオリハルコンエレメントを潜ってブレイドへと変身し、腰にあるブレイラウザーを取り出し二人に向けて身構えていった。

 

 

ロックオン「チッ!あの馬鹿…!アレルヤ、刹那を止めるぞ!」

 

 

アレルヤ「ッ…了解!」

 

 

ブレイドの暴走を止める為、二人も自身のバックルを取り出してラウズカードをセットし腰に装着していく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『TURN UP!』

 

『OPEN UP!』

 

 

電子音声と共に二人は目の前に出現したオリハルコンエレメントを潜り、ロックオンはギャレン、アレルヤは『レンゲル』に変身し、自身の武器を構えてブレイドと戦闘を開始していったのだった。

 

 

移鬼『?!ふ、二人共!刹那さん達が…!』

 

 

キャンセラー『クゥッ!あっちは気の済むようにやらせればいいよ!それより…』

 

 

ディケイド『あぁ、先ずはコイツを倒すのが先だっ!ハアァッ!』

 

 

ブレイド達が戦闘を開始した中、三人は連携を取りながらパラドキサアンデッドへと攻撃を仕掛けていく。だがその時、突然その場に前の戦闘で取り逃がしたアンデッド達が現れ、三人に襲い掛かってきた。

 

 

ディケイド『グッ?!チィ!こんな時に!』

 

 

キャンセラー『クッ!二人共!あのアンデッドは僕が抑える!二人はその間にそのアンデッド達を倒して!』

 

 

移鬼『ッ!分かりました!』

 

 

キャンセラーがパラドキサアンデッドを抑えてる内にディケイドと移鬼は新たに現れたアンデッド達と戦闘を開始した。ディケイドはその戦闘の最中に青いガイアメモリを取り出し、メモリのスイッチを押す。

 

 

『GLACIER!』

 

『GLACIER DECADE!』

 

 

ディケイドは青いガイアメモリ、『グレイシアメモリ』をディケイドライバーにインサートすると凍てつくようなメロディーが流れ、それと共にディケイドの姿がマゼンタから青、瞳の色も水色へと変わり、ディケイドはもう一つのフォームである『グレイシアフォーム』へと変わった。

 

 

ディケイド『よし、スバル!一気に決めるぞ!』

 

 

移鬼『はい!セアァッ!』

 

 

―ズバアァッ!―

 

 

『ギギャアァッ!?』

 

 

移鬼はディケイドの呼び掛けに答えると真雷の先端をアンデッドに突き刺し腰にあるバックルを真雷にセットすると真雷は槍形態からギターへと変わり、そしてディケイドもディケイドライバーからグレイシアメモリを抜いてライドブッカーのスロットにセットする。

 

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

移鬼『音撃斬・雷轟一震!ハァッ!』

 

 

電子音声が響くとディケイドはライドブッカーをガンモードに変えてアンデッドに向けて撃つ。すると銃弾を受けたアンデッドは凍り付けになって動かなくなり、ディケイドは凍り付けになったアンデッドに向かって走り出し回し蹴りを放った。そして移鬼はアンデッドに真雷を突き刺したまま過激に演奏していく。

 

 

ディケイド『グレイシアブロウクンッ!デアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ガシャアァァァァァァアンッ!!―

 

 

移鬼『フッ!ハッ!ハアァッ!!』

 

 

『ギャアァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディケイドと移鬼の必殺技がアンデッド達に決まり、凍り付けになったアンデッドは悲鳴も上げられず粉々に砕け散り、音撃を受けたアンデッドは移鬼の演奏が終わると同時に断末魔を上げて消滅していった。

 

 

ディケイド『……さぁ、後はお前だけだ』

 

 

『ヌウゥゥゥゥ…!』

 

 

再び三対一となった状況にパラドキサアンデッドは少したじろぎ、ディケイドとキャンセラーと移鬼はパラドキサアンデッドを包囲し一気に勝負を付けようと攻撃を仕掛けた。しかし…

 

 

 

 

 

 

―ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ッ?!なッ?!』

 

 

突如ディケイド達とブレイド達の周りに複数の砲撃が放たれ、突然の攻撃にディケイド達とブレイド達は思わず動きを止めそれが放たれてきた方向へと振り返った。そこには…

 

 

 

 

 

『……ハアァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

ブレイド『や、奴は…?!』

 

 

ディケイド達の視線の先。そこにはハートを摸した瞳をし刃を付けた弓のような武器を持って向かってくる一人の黒いライダーの姿があったのだ。ディケイド達がそれを見て呆然とする中、ギャレンとレンゲルが震える声で語り始める。

 

 

ギャレン『アイツが…伝説の仮面ライダー…』

 

 

レンゲル『…カリス?!』

 

 

キャンセラー『(ッ?!そうだ…あのライダーの存在を忘れてた…!)』

 

 

カリス『ハアァァァァァァアッ!ハァッ!』

 

 

新たに現れた黒いライダー…『カリス』の登場に一同が驚く中、カリスは弓のような武器、カリスアローでブレイド達に襲い掛かり、カリスはブレイドに何度か斬り掛かるとブレイドの腰に巻かれたブレイバックルを掴み、無理矢理バックルを引きはがしてブレイドを蹴り飛ばしていった。

 

 

ブレイド『グアァァァァァァァァァァッ?!!ウッ…アッ…』

 

 

カリスによってブレイバックルを奪われ、吹き飛んだブレイドは変身が解除され刹那に戻っていってしまい、カリスは倒れる刹那からギャレン達へと標的を変え再び走り出した。その時…

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガッ!―

 

 

カリス『ウグッ?!』

 

 

不意に何処からか電子音声が響き、そのすぐ後に複数の銃弾がカリスに直撃して怯ませた。そしてその銃弾を放った本人…ディケイドはカリスに歩み寄りながら問い掛けていく。

 

 

ディケイド『お前、何者だ?一体何処から来た?』

 

 

カリス『…成る程、君か?この世界を破壊するライダーというのは――』

 

 

ディケイド『…やれやれ…こっちの問い掛けは無視か?…だったら力ずくで聞き出してやるよ、ハートのライダーさん!』

 

 

ディケイドはそう言ってその場から走り出し、カリスもその場から走り出すと互いに距離を縮めて拳を勢い良く放ち戦闘を開始したのであった。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑥

 

 

ディケイドVSカリス、キャンセラー&移鬼VSパラドキサアンデッド。二つの戦いは段々と激戦化し、戦いの場である荒れ地も二つの戦いにより更に荒れ始めていた。

 

 

カリス『フッ!ハァッ!』

 

 

ディケイド『チィ!ハッ!』

 

 

カリスの繰り出す拳をかわして反撃していくディケイド。ギャレンとレンゲルはその戦いを呆然と見つめていると背後からキャンセラーと移鬼と戦っていたパラドキサアンデッドが不意打ちを仕掛け二人を吹き飛ばした。すると、それを見たカリスはディケイドから距離を離し腰にあるホルダーから一枚のラウズカードを取り出すとカリスアローにラウズした。

 

 

『BIO!』

 

 

電子音声が響くとカリスアローから触手が現れ、カリスはギャレンとレンゲルに向けてそれを放った。

 

 

ギャレン『ッ?!アレルヤ!下がれッ!』

 

 

レンゲル『?!ロックオッ…うわぁッ?!』

 

 

ギャレンはカリスの放った触手からレンゲルを庇って捕らえられ、カリスはそのままギャレンを引き寄せるとギャレンのバックルを掴み無理矢理奪い取った。

 

 

ロックオン「グアァッ!」

 

 

刹那「?!ロックオンッ?!」

 

 

レンゲル『クッ!ウオォォォォォオッ!!』

 

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ガキィンッ!―

 

 

カリス『ッ…フッ!』

 

 

バックルを奪われギャレンは変身が解けてロックオンに戻ってしまい、レンゲルはレンゲルラウザーを使ってカリスをロックオンから引き離すが、カリスはそれをカリスアローで弾いて反撃し、レンゲルを吹き飛ばして追撃しようとする。とその時…

 

 

 

 

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

「助けてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?」

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突如上空から謎の悲鳴が聞こえ、ディケイド達が上を見上げると、なんとそこには遥か上空から三人の青年達がこちらに向かって落ちて―――

 

 

 

 

『うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

 

キャンセラー『うわあぁッ?!』

 

 

ディケイド『?!なッ?!』

 

 

移鬼『な、何これ?!』

 

 

…落ちた。もの凄い勢いで戦場のど真ん中に落ちた。しかも勢いが良すぎたのか彼等が落ちた場所から衝撃破が発生し、ディケイド達は危うく吹き飛ばされそうになるが何とか堪えきり吹き飛ばずに済んだ。衝撃が止んで砂粒が辺りに舞う中、青年達が落ちた場所には巨大なクレーターが出来ており、ディケイド達やカリス達は突然の事に戸惑い、青年達が落ちた場所を呆然と見つめている。すると…

 

 

「…ぅ…ぐぅ…か、身体が…身体がぁぁ…」

 

 

「こ…幸助師匠ぇ…幾らなんでも…あんな場所に…転移させることはぁ……」

 

 

「フ…フフフ…師匠のことだから…どうせこんなことになるって予想してたよ……アハ…アハハ…」

 

 

…何かクレーターの中から必死に這い上がってくる三つの影が見えてきた。身体は所々がボロボロで全体の九割ぐらいが焦げてしまっている青年達。その三人を見て今まで呆然としていたディケイド達が驚愕の表情を浮かべた。何故なら…

 

 

ディケイド『ツ、ツトム?!』

 

 

キャンセラー『稟君?!それにクレフさん?!』

 

 

稟「へ?……って零さん?!祐輔さんも?!」

 

 

クレフ「よ、良かったぁ…運良く合流出来たね…�」

 

 

ツトム「…怪我の功名ってこういうことをいうのかな…?�」

 

 

そう、上空から落ちてきた青年達の正体は零と祐輔の知り合い……二人や滝と同じ『苦労人同盟』の一員である"土見 稟"、"クレフ・アンダーソン"、"ツトム・レオンハート"の三人だったのだ。

 

 

ディケイド『な、何でお前等が此処にいるんだ?!てかなんで空から?!』

 

 

ツトム「あ~えーと…その…何て言えばいいのかな…�」

 

 

何故三人がこんな所に…しかもよりによってあんな上空から落ちてきたのか。それが理解出来ないディケイドはいきなり乱入してきた三人に問い掛けるが、三人も突然の事に思考が付いていけないのか若干しどろもどろになっていた。そんな時…

 

 

刹那「ぐっ……な、なんだ…今のは…?」

 

 

レンゲル『痛っ…な、何が起きたんだ…?』

 

 

ロックオン「クソッ…一体何がどうなってんだ…!」

 

 

ディケイド達と稟達が会話をしていた中、先程の衝撃で吹っ飛ばされた刹那達が上半身を起こしながら先程の出来事を思い出していき、その刹那達の近くにいた稟はその声を辿って刹那達の方へと振り返った。

 

 

稟「…ッ?!ニ、ニールさん?!ど、どうして貴方が此処に?!」

 

 

ロックオン「…ッ?!な、なんだお前…何でお前がその名を?!」

 

 

稟は近くに倒れていたロックオンを見て驚愕し、ロックオンは初対面の人間からいきなり自分の本名を呼ばれて戸惑っていた。だが、そんな稟達の下にパラドキサアンデッドがゆっくりと近づいていき、稟達はそれに気づくと咄嗟に身構えていく。

 

 

ツトム「ッ!よくわかんないけど、どうやら戦闘中にお邪魔しちゃったみたいだね…!」

 

 

クレフ「みたいだな…まあいきなりで驚いたけど、取りあえず二人の手伝いをしておくか!」

 

 

稟「そこのライダー!ニールさん達を連れて早く此処から離れて下さい!」

 

 

レンゲル『え?…わ、分かった!』

 

 

レンゲルは稟の言葉に戸惑いながらも、言われた通り刹那とロックオンを抱えてその場から離れ、三人はそれを確認するとツトムは腰にベルトを出現させ、クレフはガンブレードのような武器と一枚のカード、稟は青と白銀のコウモリと小さな金色の龍を呼び出した。

 

 

クレフ「それじゃあ、行くぞ二人共!」

 

 

ツトム「はい!」

 

 

稟「行くぞ、エクト!グレイ!」

 

 

エクト「はい、マスター!かぷ!」

 

 

グレイ「行くッスよ兄貴~!変っ身!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『Rider Change Touga!』

 

 

『KAMENRIDE:SIVA!』

 

 

三人はそれぞれの変身動作を行うとツトムは白と赤いボディに赤い角、肩には赤い狼の顔、後頭部からおさげを下ろしているライダー『闘牙』に、クレフはナイトとfirstの世界で滝の前に現れたライダーを足して二で割ったような姿をしたライダー『シヴァ』に、稟は白銀と金色の鎧に背中に蒼いマント、右手に一つの剣……ライトブリンガーを握ったライダー『エクス・リリィフォーム』へと変身していった

 

 

『?!こいつ等もライダー?!』

 

 

カリス『ほう…中々興味深いね』

 

 

エクス『二人共!行くぞ!』

 

 

闘牙『うん!』

 

 

シヴァ『幸助師匠の特訓の成果を見せてやる。零!祐輔!事情は後で説明するから、君達はそのライダーを頼んだ!』

 

 

ディケイド『は?あ、あぁ、分かった…!』

 

 

ディケイドが戸惑いながら頷くとエクス達は自分達の武器を構えてパラドキサアンデッドに向かって走り出し戦闘を開始していく。パラドキサアンデッドもライダーに変身した三人に驚きながらも応戦するが、流石に三対一となると苦戦しているらしく、三人の攻撃を受け流すことで精一杯になっていた。

 

 

移鬼『あ…あの人達…凄い!』

 

 

キャンセラー『よくわかんないけど…取りあえずあのアンデッドは稟君達に任せても大丈夫そうだね』

 

 

ディケイド『ああ…とにかくアイツ等の話は後で聞くとして、俺達は奴を締め上げて色々と聞き出さないとな…!』

 

 

移鬼はパラドキサアンデッドと奮闘するエクス達を見て感心し、ディケイドはライドブッカーSモードを、キャンセラーは刀を構えてカリスを見据え、カリスもディケイド達へと視線を移しカリスアローを構える。そして、カリスが動き出したと共にディケイドも駆け出そうとした、その時…

 

 

 

―ブオォォォンッ…バシュウゥッ!―

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突然ディケイド達とカリスの間をなにかが過ぎ去り、その何かはディケイド達からすこし離れた場所で姿を現した。それの正体は鬼ような姿をした緑色のライダーであり、肩には槍のような武器を担いでディケイド達を見据えていた。

 

 

ディケイド『?あれは…』

 

 

移鬼『え?私と…同じ姿のライダー?』

 

 

キャンセラー『(あれは…轟鬼?…ということは!)』

 

 

突如現れた鬼のような姿のライダー…『轟鬼』を見てディケイド達は首を傾げ、戦闘を行っていたエクス達とパラドキサアンデッドも轟鬼を見て戦闘を止め、キャンセラーは何かを探すように辺りを見渡し始めた。その間に、轟鬼はバックルを槍のような武器にセットすると槍はギターのような形態となってそれを構えた。すると…

 

 

轟鬼『…音撃斬・雷電激震!ハアァッ!』

 

 

轟鬼はそう叫んで突然その場でギターを演奏し始めたのだ。それを見た刹那達やカリスやパラドキサアンデッドは轟鬼の不可解な行動に呆然とし、ディケイド達とエクス達はそれを見て轟鬼が次に取る行動を瞬時に理解し慌ててその場から離れた。そして…

 

 

轟鬼『フン…ヌウオォォォォォォォッ!!』

 

 

―ドンッ!ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グ、ウアァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

演奏を終えた轟鬼はギターを振り回して地面に思い切り突き刺した。それと同時に荒れ地の中央で巨大な爆発が巻き起こり、カリス達や近くにいた刹那達は爆発に巻き込まれて吹き飛び、ディケイド達は何とかそれに耐え切り吹っ飛ばずに済んだ。そしてディケイド達が目の前に視線を戻すと、そこには既に轟鬼の姿はなく、カリスとパラドキサアンデッドの姿もいつの間にか消えてしまっていた。

 

 

ディケイド『ッ…なんだったんだ…今のは…?それにアイツ等…どさくさに紛れて逃げたやがったかッ…』

 

 

キャンセラー『みたいだね…(…轟鬼が出たのなら、あのライダーが近くにいると思ったんだけど…もう逃げたのかな…)』

 

 

移鬼『二人共!とにかく今は刹那さん達を運ばないと!』

 

 

エクス『ッ!そうだ…ニールさん!』

 

 

闘牙『ちょ、稟君?!』

 

 

シヴァ『ま、待ってくれ二人共!』

 

 

移鬼は辺りを見回しているディケイドとキャンセンラーに呼び掛けると、変身を解除してスバルに戻り、エクスも変身を解除して稟に戻り、二人は刹那達の下に駆け寄っていった。それを見た闘牙とシヴァも変身を解除して慌てて二人の後を追い、ディケイドとキャンセラーも何度か辺りを見回した後に変身を解除し、スバルの後を追い掛けていった。そしてその陰では……

 

 

 

 

「…へぇ…あの少年、俺の事を探してたみたいだねぇ…firstといい、あの少年達といい…君の周りには面白い人間が集まるな…零」

 

 

林の陰で身を潜める一人の青年。零達の戦いを陰で見ていた青年は笑みを浮かべながらそう呟き、そのまま何処かへと向かって歩き出しその場を去っていった。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑦

 

カリスとパラドキサアンデッドとの戦いから数時間後。BOARDに戻った零と祐輔とスバル、刹那とロックオンとアレルヤはリボンズに呼ばれ社長室に来ていた。理由は勿論、先程の戦闘についてである。因みに稟達は優矢達に連れられ光写真館で休んでもらっている。

 

 

 

リボンズ「黒月君、ナカジマ君、阿南君、Kでありながらアンデッドを倒した君達の力は素晴らしいものだ!これは特別ボーナスだ。受け取りたまえ」

 

 

スバル「…ありがとうございます…」

 

 

零「……どうもな」

 

 

祐輔「…………」

 

 

感心したと言うように三人に給料の入った封筒を渡すリボンズ。だが三人は余り嬉しそうな表情を浮かべず、それを受け取るとソファーへと座り込んだ。

 

 

リボンズ「ロックオン・ストラトス、君はAから3へと降格。そしてアレルヤ・ハプティズム、君をAチームの隊長に任命する。おめでとう」

 

 

アレルヤ「…ありがとう…ございます…」

 

 

Aチームの隊長に任命されたアレルヤだが、その表情は複雑なものとなっておりあまり喜んでいるようには見えない。そしてAから3へと降格されたロックオンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

 

スバル「あ…あの…社長?その…刹那さんは……」

 

 

リボンズ「…あぁ、まだ居たのかい?君はクビだよ。理由は言わなくても分かってるね?早く荷物を纏めて出ていきたまえ」

 

 

刹那「…ッ!クッ…!」

 

 

パソコンを弄りながら冷たい口調で刹那にクビを告げるリボンズ。刹那はそれを聞いて悔しげに唇を噛み、そのまま社長室を飛び出してしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

社長室から飛び出した刹那は今、社員食堂のロッカールームに来て自分の荷物を纏めていた。自分の荷物を纏めていく刹那の下に、彼を追い掛けてきた零と先程なのは達と共にBOARDへと訪れ、零と合流した優矢がロッカールームにやって来た。

 

 

零「…根性のない奴だな。あんな事で簡単に出ていくのか?所詮お前はその程度の男か…」

 

 

刹那「ッ…お前に俺の何が分かる…知ったような口を聞くなっ…」

 

 

零「あぁ、別にお前みたいな奴を知りたいとも思わないさ…退社祝いだ、俺から最後のプレゼントをやろう」

 

 

零はそう言って刹那の社員証を強引に奪ってマジックで何かを書き込み、それを刹那に押し返した。返された社員証には……スペードの"0"という字が大きく書かれていた。

 

 

刹那「ッ!貴様ぁ…何処まで俺を馬鹿にすれば気が済むんだ!?」

 

 

零に馬鹿にされ今まで抑えていた怒りが遂に爆発し、刹那は零に殴り掛かろうとする。だが、優矢がそれを横から入って押し止めた。

 

 

優矢「落ち着け刹那!その数字の意味を良く考えるんだ!!」

 

 

刹那「数字の意味だと?!」

 

 

優矢「そうだ!お前は全てを失った!だから、それはもう一度0から始めろって意味なんだよ!」

 

 

刹那「ッ?!」

 

 

0と書かれた数字の意味。優矢から聞かされたそれの本当の意味を知って刹那の怒りは少しずつ治まり始めていく。零はそんな刹那を横目に見つめながら壁に背中を預け、ゆっくりと口を開いた。

 

 

零「…前に俺に言ったな?お前はブレイドで有れ続ければそれでいいと。だが、そのブレイドの資格をも無くした今のお前がこの会社を出たところで、一体どうなる?戦う事しか出来ないお前になにが出来る?……だから、そんな自分から変われ、刹那。その数字は…やり直すというだけではなく、新しいお前を見つける為の…俺からの最後のチャンスだ」

 

 

刹那「…0からやり直す…新しい…俺を見つける…」

 

 

零から渡された社員証をジッと見つめながら呟く刹那。ブレイドで有り続けること。確かにそれも一つの道かもしれないがそれだけで一体何が残る?会社をクビになった今でなくとも、アンデッドを全て封印すればブレイドとしての役目は終わる…そうなれば自分にはもう何も残らない。戦う事以外の新しい可能性を見つける為…そこまで考えて、この男はこれを…

 

 

刹那「……お前…」

 

 

零「…先に言っておくが、別にお前の為なんかじゃない。今お前に抜けられたら社員食堂の仕事がキツくなるからそうしただけだ……特別にバイトとして雇ってやるからさっさと着替えて食堂に来い、いいな?」

 

 

後半が少し早口になりながらそう言うと零はそのままロッカールームを出て社員食堂へと向かって行った。

 

 

優矢「ったく、ホント素直じゃないよな」

 

 

刹那「……フッ」

 

 

零が出て行った後に優矢は呆れたように笑い、刹那はそんな優矢につられるように微かに笑みを浮かべた。そして刹那はコックコートに着替えると優矢と共に社員食堂へと向かっていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

翌日……

 

 

時刻は昼前。もうすぐ昼休みが始まり社員食堂が開こうとする頃。刹那達が厨房内で仕込みをしてる中、零達は客席に集まりこの世界にやってきた稟達から事情を聞いていた。

因みになのは達は此処にはいない、理由は勿論……稟の冥王トラウマを再発させない為である。当の本人であるなのはがフェイト達に連れて行かれながら「私だって冥王の被害者なのにぃーーーッ!!!」と叫んでいたのは全くの余談だ。

 

 

零「なるほどな…また幸助達の仕業だったか…�」

 

 

クレフ「えぇまあ…師匠にいきなり「零達の手伝いに行ってこい」ってだけ言われていきなり転移を…�」

 

 

稟「俺もアテナに「時の神が弟子の二人をブレイドの世界に送るみたいだから稟も手伝って来なさい」っていきなり転移させられて…�」

 

 

祐輔「皆まで言わなくいいよ…今ので大体分かったから…�」

 

 

結論から言ってしまえば、幸助やアテナによって無理矢理こちらに来させられたということらしい。しかもよりによって転移した先が大気圏内ということらしく、三人は死ぬ気で大気圏を抜けてそのまま地上に落っこちて来たらしい。なんと気の毒な……零と祐輔は稟達に同情して深い溜め息を吐いた。

 

 

零「まあ、無事に生きててよかったじゃないか。これも幸助の修行の賜物だな」

 

 

祐輔「けど…それで人間らしさがなくなるのはちょっとね…�」

 

 

ツトム「そうですよね……ところで一つ聞きたいんだけど…僕達のこの格好って一体なんですか?�」

 

 

ツトムはそう言って自分が今来ている服…コックコートを見下ろしながら苦笑気味に問い掛けた。そう、何故か稟達はこのBOARDに来た途端服装が変わってしまい、全員零達と似たような格好になってしまったのだ。因みに三人の格好は全員コックコートであり、稟はスペードの5、クレフはスペードの6、ツトムはスペードの7となっている…実に中途半端な数字である。

 

 

零「あぁ…それは多分お前達のこの世界での役割なんだろう」

 

 

クレフ「役割?」

 

 

祐輔「そっ、零さんがこの社員食堂のチーフ。僕達はこの社員食堂で働くコックっていう感じで稟君達にも役割があるみたい」

 

 

稟「なるほど、つまり俺達もこの社員食堂で働くコックってことか…」

 

 

ツトム「まあ…師匠の特訓に比べたらこっちの方がまだマシですね…�」

 

 

それについては同感だ、と零と祐輔は内心苦笑しながら同意する。

 

 

祐輔「まあでも、正直来てもらって助かったよ。実はもうすぐ食堂を開かないといけないから人手が欲しかったんだ。もし良かったら皆も手伝ってくれない?」

 

 

ツトム「ええ、大丈夫ですよ」

 

 

クレフ「そういうことなら幾らでも手伝うよ」

 

 

稟「こういうのは得意分野ですし、良かったら厨房の方も見せてくれますか?それとついでに、この世界の事ももっと詳しく…」

 

 

零「ああ、分かった」

 

 

と、三人は祐輔に案内されて厨房に向かっていくが、何故か零は祐輔達の後を追おうとはせずその場に残り、無言のままポケットから四枚のカードを取り出しそれを眺めた。

 

 

零「…まさか、こんなカードまで出てくるとはな…アイツ等がこの世界に来たのと何か関係あるのか?」

 

 

零は自身の手に握られている絵柄の消えたシルエットだけのカード…キャンセラー、闘牙、エクス、シヴァのライダーカードを見つめながら疑問そうに呟いた。

 

 

零「むぅ…まあ、今考えたところで何か分かる訳でもないし…とにかく俺も仕事に戻るか」

 

 

零はそう言ってキャンセラー達のカードをポケットに仕舞って歩き出し、途中で会ったスタッフに食堂を開くように指示を送ると祐輔達が向かった厨房へと向かっていった。

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑧

 

数十分後…社員食堂。厨房には刹那を含んだスタッフ達が土台の上に乗る零の前に集まっていた。

 

 

零「よし、全員集まったな…本日より階級分けランチを廃止し安くて上手いランチに統一する。そして今日の目標はこの赤字経営からの脱出だ。その為にもお前達の力は必要不可欠だ……皆、頑張ってくれ!」

 

 

『はい、チーフ!』

 

 

一致団結したスタッフ達は一斉に返事を返していく。そんな彼等からものすごい気迫と迫力を感じ優矢達はすこし驚いてしまう。

 

 

優矢「…なぁ零?なんで…俺はホストの格好なんてさせられてんだ?」

 

 

ティアナ「私もコック服に着替えさせられてるし…」

 

 

なのは「私やフェイトちゃんなんて…メイド服だよ?」

 

 

フェイト「うぅ…スカートが短い…////」

 

 

そう、何故か零達の様子見に来ていた優矢はホスト風の服、なのはとフェイトはメイド服、ティアナはコックコートに着替えさせられていたのだ。

 

 

零「お前達は客寄せだ。優矢となのはとフェイトはチラシ配り、ギンガとスバルとクレフは他のスタッフと一緒にランチ運び、俺とヴィータと祐輔とウェンディと稟とツトムは厨房を回ってそれぞれスタッフ達を手伝う。そしてティアナ…(お前は仕事を手伝いながらなのはとフェイトが絶対厨房に入らないよう見張っておいてくれ。アイツ等が料理なんてすればこの社員食堂…いや、会社そのものが大火事で消え去るとも限らない)」

 

 

ティアナ「(いや、それは流石に言い過ぎじゃ……………分かりました)」

 

 

な・フェ『?』

 

 

厨房の端っこでコソコソと話す零とティアナ。なのはとフェイトはそんな二人を見て怪訝そうに首を傾げる。そして零は一度咳払いをし、再びスタッフ達の前に立った。

 

 

零「まぁ取り敢えずだ、この赤字経営から脱出すれば社員食堂の未来は明るい。スタッフ一同一致団結し、今日の売上で黒字を目指すぞ…スタッフ全員、全力で頑張ってくれ!」

 

 

『はい、チーフ!!』

 

 

スタッフ達はそう答え自分達の持ち場に着いていき、零達も自分の作業に入り、優矢達は流されるままチラシ配りに向かったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして昼休み。優矢達による客寄せの効果が効いたのか、客席は食堂が開いたと同時に満席になり、食堂の外も社員達の列で一杯となっていた。そしてそれにより、厨房内ではスタッフ達が一息吐く間もなく忙しなく動き回り調理を続ける姿があった。

 

 

ミレイナ「フェルトさん、これも一緒にお願いしますですぅ!」

 

 

フェルト「うん、分かった」

 

 

そんな中、フェルトがミレイナから受け取ったランチを客席に運ぼうとスタッフ達の間を急いで抜けて行く。だが…

 

 

―…ツルッ―

 

 

フェルト「あ…?!」

 

 

その途中、フェルトは足を滑らせてバランスを崩してしまい後ろから倒れそうになって思わず目を瞑った。その時…

 

 

―ガシッ―

 

 

フェルト「……え?」

 

 

何故か地面に倒れるような感覚は襲って来ず、代わりに何かによって背中を支えられ、宙に半分浮いているような感覚を感じる。一体何が?とフェルトは疑問を浮かべながらも瞑っていた瞳を開けて顔を上げた。そこには…

 

 

刹那「…大丈夫か、フェルト」

 

 

フェルト「せ、刹那?」

 

 

そう。フェルトを支えてくれたのは、後ろで皿洗いをしていた刹那だったのだ。刹那はフェルトの背中を支え、そのまま元の位置へと身体を戻してあげた。

 

 

フェルト「あ、ありがとう刹那」

 

 

刹那「いや、怪我がないのならいい……頑張れよ」

 

 

フェルト「あ…うん、ありがとう。刹那も、頑張ってね?」

 

 

最後にもう一度刹那に微笑と共に礼を言うと、フェルトは再び客席へと向かっていき、それを見送った刹那も再び自分の持ち場に戻り皿洗いを再開する。そこへ…

 

 

アレルヤ「――えーと……あ、いた。刹那!」

 

 

刹那「!……アレルヤ」

 

 

不意に呼び掛けられ刹那はその方に振り返ると、そこには厨房の出入口からアレルヤとロックオンが入って来る姿を見つけた。だが、刹那はそんな二人から顔を背けて皿洗いを再開し作業を行いながら口を開いた。

 

 

刹那「……何の用だ。今の俺を笑いにでも来たか?」

 

 

アレルヤ「いや、そんなんじゃないよ…実は、今から君とロックオンのバックルを取り返しにカリスを探しに行くんだ。それを君に伝えとこうと思って」

 

 

刹那「……だからなんだ。俺はAでなくなりブレイドの資格も剥奪された。だから、あれはもう俺の物じゃない。俺にはもう関係ないことだ」

 

 

Aとしてもライダーとしての資格も失った今の自分にはもう関係のない話だと。刹那はそう言って皿洗いを続けるがアレルヤはそれに首を左右に振った。

 

 

アレルヤ「そんな事はないさ、僕は今でも君を仲間だと思ってる…実は、もう一つ伝えておきたいことがあるんだ。もしもカリスからライダーシステムを取り戻せたら…僕は社長に、君とロックオンをもう一度Aにしてもらえないか掛け合ってみようと思ってるんだ」

 

 

刹那「…ッ?!」

 

 

アレルヤの放った予想外の言葉に驚愕し刹那は思わず作業の手を止め、アレルヤはそんな刹那に向けて更に話を続ける。

 

 

アレルヤ「あれから色々と考えたんだけど…やっぱり、このままじゃ駄目だと思うんだ。だから、Aの僕からの意向なら社長も聞いてくれるかもしれないし、今までのように二人とやって行きたいっていうのが僕の意思なんだ。必ずライダーシステムは取り戻す…だから、それまで待っていてくれ、刹那」

 

 

アレルヤはそう言い残して厨房から出ていき、ロックオンもアレルヤの後を追おうとするが、その前に刹那に向けて喋り始める。

 

 

ロックオン「…刹那。今の俺が言えたことじゃないと思うが、一応言っておく。例えお前がどんなに俺達を遠ざけようとも、立場が変わってしまおうとも…俺達はチームであり、仲間だ…そのことを忘れるな」

 

 

刹那「………………」

 

 

そう言ってロックオンも厨房内から出ていき、残された刹那はロックオンの出ていった入り口を呆然と見ていたが、すぐに自身の手に握られている皿に視線を戻し作業を再開した。

 

 

零「……あと一歩……まだ足りないか……」

 

 

その様子を物陰から覗いていた零は皿洗いを続ける刹那の背中を見て溜め息混じりにそう呟き、暫くその場で刹那を見続けていると、自身も仕事を再開する為に自分の持ち場へと戻っていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ロックオン「…チッ、やっぱり何の反応もねぇか…」

 

 

それから数十分後、街の海岸沿いではアレルヤとロックオンがアンデッドサーチャーを使いカリスを探しに来ていたが、サーチャーは何の反応も示さずただ時間ばかりが過ぎていく次第であった。

 

 

アレルヤ「ロックオン、サーチャーに何か反応は?」

 

 

ロックオン「…いいや、全く反応無しだ…やっぱり、コイツでカリスを探すのは無理なんじゃないか…?」

 

 

ロックオンの放った言葉にアレルヤは少し考え込むように顔を俯かせてしまう。確かにカリスがアンデッドでなければサーチャーでの探索は全くの無意味。このままこのやり方でカリスの探索を続けても時間だけが過ぎていってしまうだろう。ならば一体どうするべきか、二人がそう考えていると……

 

 

 

 

『…何処を見てるんだい?僕なら此処にいるよ』

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に背後から声が聞こえ二人は慌ててその方へと振り返った。そこには一人のライダー……刹那とロックオンからバックルを奪った本人であるカリスがゆっくりと二人に歩み寄ってきていた。

 

 

ロックオン「カリス…!」

 

 

アレルヤ「漸く見つけた…刹那達のバックルを返してもらうッ!変身ッ!」

 

 

『OPEN UP!』

 

 

アレルヤはカリスに向かって走り出し、ポケットから取り出したバックルを腰にセットして開くと目の前に出現したオリハルコンエレメントを潜ってレンゲルに変身する。

 

 

レンゲル『デエアァッ!』

 

 

カリス『フンッ!ハッ!』

 

 

変身したレンゲルはカリスに突っ込みラウザーを使って攻撃を仕掛けるが、カリスはそれを回避しカリスアローでレンゲルに斬り掛かり反撃していく。

 

 

レンゲル『うぐあぁっ…!ぐぅっ!』

 

 

カリスの反撃を受けレンゲルはバランスを崩して壁にもたれ掛かり、カリスはその隙にレンゲルへと追い撃ちを掛け、レンゲルの腰にあるバックルを掴んで引きはがした。しかし…

 

 

レンゲル『ぐっ?!うあぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

―ガキィィィィィンッ!―

 

 

カリス『なっ…?!』

 

 

レンゲルは最後の力を振り絞ってラウザーを振り回すとそれがカリスのバックルに命中してカリスのバックルが弾けて吹き飛び、互いにバックルを失った二人はバランスを崩しながら倒れ込むと変身が解除されていく。アレルヤは壁にもたれながらなんとか立ち上がろうとするが、その時、アレルヤとロックオンは変身の解けたカリスを見て驚愕する。何故なら…

 

 

 

 

リボンズ「ッ…フフ…中々やるじゃないか…アレルヤ・ハプティズム…」

 

 

 

ロックオン「?!しゃ…社長?!」

 

 

アレルヤ「な、なんで…なんで社長が此処に?!」

 

 

そう、カリスの変身者とは二人が働くBOARDの社長、リボンズだったのだ。予想もしなかったカリスの正体を知って二人が戸惑う中、リボンズは怪しく微笑みながら地面に落ちているバックルを拾い腰に装着する。

 

 

リボンズ「君達にはもう少し、我社繁栄の為に働いてもらうよ」

 

 

『CHANGE!』

 

 

リボンズはバックルにハートのエースをスライドさせて再度カリスに変身し、呆然と立ち尽くしているアレルヤに向けて右腕を出しエネルギー弾を放った。

 

 

―ズドオォォォォォオンッ!―

 

 

アレルヤ「ウグアァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

ロックオン「ッ?!アレルヤぁッ!!」

 

 

カリスの放ったエネルギーを受けてアレルヤは気絶してその場に倒れてしまい、ロックオンはそれを見てアレルヤを助け出そうと慌てて走り出した。しかし…

 

 

カリス『フッ…ハァッ!』

 

 

―ズドドドドドドドッ!―

 

 

ロックオン「グッ?!ウアァァァァァァアッ!!」

 

 

カリスはロックオンに向けて再びエネルギー弾を放ち、ロックオンはそれを受けて壁に叩き付けられ気を失ってしまう。そしてカリスは気絶した二人を背負い、何処へと向かって歩き出していった。

 

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑨

 

それから一時間後。昼休みも漸く終わり、仕事を終えた零達は客席で一休みしながら今日の売上を換算していた。

 

 

ウェンディ(別)「今日の売上はいつもの十倍!そして赤字から脱出して一気に黒字に!今回の作戦は大成功ッスね♪」

 

 

クレフ「ははは…そうだね…でも、結構疲れたよ…�」

 

 

優矢「…確かに…もう動けねぇよ…�」

 

 

ツトム「アハハ…お疲れ様です」

 

 

稟「残り物ですけど、俺と祐輔さんが作ったケーキがまだ沢山残ってるんで、よかったら優矢さんもどうぞ」

 

 

優矢「ん?オォッ!サンキュ~♪」

 

 

先程までグッタリとテーブルに俯つ伏せていた優矢は稟が運んできたケーキを貪るように食べ始め、稟達はそんな優矢の食いっぷりを見て若干苦笑している。そしてそんな優矢達が座るテーブルとは別のテーブルでは、優矢と同じく稟と祐輔の自作ケーキを口にするなのは達と珈琲を啜る零達の姿があった。

 

 

零「ハァ……今日の売上はかなり良かったが、流石に疲れるものは疲れるな…」

 

 

フェイト「フフ、確かに疲れたけど、でも結構楽しかったよ?」

 

 

なのは「うん、久々に接客とかしたからちょっと緊張したけど、皆喜んで帰ってくれたから良かったよ♪」

 

 

祐輔「(…多分…八割ぐらいの人達がなのは達や優矢さん達を目的にしてたんだと思うんだけど…言わない方がいいかな…)」

 

 

珈琲を啜りながら楽しそうに談笑するなのは達を見てそんなことを思う祐輔。そんな時…

 

 

 

―報告します。ロックオン・ストラトス、アレルヤ・ハプティズムが今日限りで依願退職しました―

 

 

 

ヴィータ「…ハァッ?!」

 

 

稟「ニールさん達が…依願退職?!」

 

 

刹那「馬鹿な…アイツ等が自分から会社を出ていく筈が…?!」

 

 

突然流れ始めた社内放送の内容に驚く一同。特に二人とは付き合いの長い刹那は彼等が自分から会社を辞めるとは到底思えなかった。

 

 

ミレイナ「ん~でも、これっていわゆるチャンスですよね?お二人が会社からいなくなったなら、セイエイさんがAに返り咲けやすくなるですよ!」

 

 

フェルト「ミ、ミレイナ�」

 

 

明るい口調で言い放ったミレイナの言葉を聞き、一同は少し顔を俯かせた。確かにあの二人がいなくなるのなら刹那がAに戻れるチャンスが増えるだろう。だが……

 

 

優矢「…でも、本当にそれでいいのか?!今まで一緒に働いてきた仲間なんだろう?!」

 

 

ツトム「そうですよ!刹那さん、貴方もホントにこのままでいいんですか?!」

 

 

刹那「ッ……俺は…」

 

 

立場が変わってしまってもあの二人は刹那の事を仲間だと変わらず接し、刹那の為にカリスを探し出そうとした。そんな二人が本当に会社を辞めてしまってもいいのか、優矢とツトムは刹那に意見を求めようとするが刹那は顔を背けてなにも言わない。それを見兼ねた零は大きな溜め息を吐いた。

 

 

零「…いいんじゃないか?所詮あの二人は、そいつの出世を邪魔するだけの存在だったんだから」

 

 

刹那「…ッ?!」

 

 

なのは「れ、零君…?!」

 

 

優矢「お前、いきなり何言ってんだ?!」

 

 

突然冷たく言い放った零の言葉になのはは驚き、優矢はそっけない言い方をする零に怒鳴り、祐輔達は黙ってそのやりとりを見守っていた。

 

 

零「そうだよな刹那?ミレイナの言ってた通り、あの二人がいなくなればお前はAとして返り咲いてブレイドの資格も取り戻しやすくなる…良かったじゃないか、邪魔者がいなくなって。これでお前の出世への道も安泰だ」

 

 

優矢「おい零!!」

 

 

余りの物言いに優矢は更に怒号を響きかせて零の肩を乱暴に掴んだ。その時…

 

 

刹那「…………違う…」

 

 

優矢「…!刹那?」

 

 

先程まで何も答えなかった刹那が何かを呟いてテーブルから立ち上がり、零を見据えながらゆっくりと口を開いた。

 

 

刹那「出世や…ブレイドの資格なんてどうでもいい。俺は…俺はアイツ等が居たから、今までアンデッドと戦えてこれたんだ!アイツ等は…アイツ等は俺の仲間だ!」

 

 

ギンガ「…刹那さん」

 

 

初めて自分の気持ちを打ち明けた刹那。一同はそんな刹那をジッと見つめ、零はやれやれといった感じで溜め息吐くと、すぐに真剣な顔つきで喋り出す。

 

 

零「……なら、今のお前がすべきことは一体何なのか…ちゃんと分かってるな?」

 

 

刹那「!…あぁ!」

 

 

刹那は零の言葉に力強く頷いて社員食堂から飛び出していった。

 

 

優矢「まさかお前…刹那にそのことを気づかせる為に……わざと?」

 

 

零「…さあな…全く。本当に世話の掛かる部下だ…」

 

 

稟「とか言っておきながら、結構面倒見がいいんですね」

 

 

零「……ほっとけ」

 

 

そっぽ向いてぶっきらぼうに言い放つ零に祐輔達は可笑しそうに笑い、優矢は零の真意に気づかず怒鳴ってしまったことを恥ずかしく思っていた。

 

 

零「チッ…ほら優矢!ボサッとしてないでさっさとアイツの後でも追い掛けろ!」

 

 

優矢「う、うおぉ?!わ、分かった!分かったから蹴んなって!�」

 

 

祐輔達に笑われてばつが悪いのか、零はそれを紛らわせるかのように優矢の背中を蹴って刹那の後を追うように促していった。

 

 

クレフ「ハハハ、零は以外と照れ屋なんだね」

 

 

祐輔「照れ隠しのつもりでも分かりやすいですよね…あ、そうだ。稟君、ツトム君、クレフさん、皆にもう一つして欲しい大事な仕事があるんだけど…」

 

 

ツトム「大事な仕事?」

 

 

突然祐輔から切り出された仕事の話に三人は疑問符を浮かべ、祐輔はそんな三人に仕事の内容を説明し始めた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

社員食堂から飛び出した刹那はロックオン達の退職を取り消してもらう為に社長室へとやって来ていた。だが社長室の扉は鍵が掛かっており、中に入ることが出来なかった。

 

 

刹那「クッ…社長!どこにいるんだ?!社長!」

 

 

刹那は無駄だと分かっていながらも社長室の扉をこじ開けようとしながら社長を呼び続ける。とそこへ、刹那を追い掛けてきた優矢とヴィータが刹那と合流した。

 

 

優矢「刹那!社長は理事長の研究室に向かったみたいだ!」

 

 

刹那「?…理事長の?」

 

 

優矢から聞かされた情報に刹那は疑問そうに呟き、何かを思い出したようにハッと息を拒んだ。

 

 

ヴィータ「なんだ?なんか知ってんのか?」

 

 

刹那「あぁ…確かBOARDの最高機密が保管されている場所だった筈だ……だが、何故そんな所に…?」

 

 

優矢「…とにかく、その研究室に言ってみよう!社長と早く話をしないと!」

 

 

刹那「…あぁ!」

 

 

優矢の言葉に二人は頷き、社長が向かったという研究室に向かう為に社長室を後にして会社から飛び出し、自分達のバイクに乗って研究室へと向かっていった。そして、社員食堂の窓際からそれを見ていた零達は…

 

 

スバル「零さん!私達も早く優矢さん達を追わないと!」

 

 

零「分かってる、これも上司の勤めだしな……祐輔、稟達は?」

 

 

祐輔「皆には仕事をしてもらってるよ、"大事な"仕事をね」

 

 

零「…そうか。なら俺達も行くぞ!」

 

 

祐輔の言葉を聞くと零達も優矢の後を追おうと社員食堂を出ようとする。だが……

 

 

 

 

「…これ、中々イケるね」

 

 

―ガシャンッ!―

 

 

零「…!」

 

 

不意に聞こえてきた声と音を聞いて零達は近くにあるテーブルに視線を向ける。するとそこには、いつの間にか帽子を被った一人の青年が座っていた。しかも、イケると言っておきながら零達の作ったランチを雑に扱っていた。

 

 

「でも、この世界にめぼしいものは…もうないかな」

 

 

零「…なんだ、お前?」

 

 

零は青年の座るテーブルに近づいて青年に何者か問い掛けるが、青年はただニヤニヤと笑いながら零の顔を見つめていた。

 

 

「…てか君、まだ食べられないの?ナ・マ・コ」

 

 

零「…何?」

 

 

全く答えになってない青年の言葉を聞いて零は険しい表情となり、その瞬間零は何かを思い出し掛けるが、それはすぐに脳裏から遠退いてしまった。

 

 

零「…お前は…」

 

 

「フッ…どうせまたすぐに会えるさ。じゃあね、零」

 

 

青年は馴れ馴れしくそう言ってテーブルから立ち上がり、零の肩をポンッと軽く叩いた後に社員食堂から出ていってしまった。

 

 

ティアナ「…何よアイツ」

 

 

ギンガ「零さん、あの人とお知り合いですか?」

 

 

零「…さあな。少なくとも、俺の知り合いに食い逃げをする様な奴はいねぇよ」

 

 

祐輔「…(あの人…もしかしてあの人が?)」

 

 

零達は青年の態度に苛立ちながらも優矢達の後を追う為に社員食堂から出ていき、祐輔も食堂から出ていった青年が気になりながらも零の後を追い掛けて食堂から出ていった。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑩

 

 

BOARD理事長の研究室。そこは薄暗く不気味な雰囲気を漂わせる異質な空間となっていた。そんな不気味な空間の隅に、先程リボンズによって連れ去られたロックオンとアレルヤと、その二人の間に一人の男が拘束されていた。その近くではロックオン達を連れ去ったリボンズと鎌田が何かを話していた。

 

 

リボンズ「"理事長"、レンゲルのライダーシステムです」

 

 

鎌田「そうか…これで、全てのカテゴリーのライダーシステムが揃ったワケだ」

 

 

リボンズから渡されたレンゲルのバックルを受けとって怪しく微笑む鎌田。そう、リボンズの言う理事長とは、パラドキサアンデットである鎌田のことだったのだ。鎌田はレンゲルのバックルを手にロックオン達と共に拘束されて意識の無い男に近づいていく。

 

 

リボンズ「Aのカードに封印されたアンデットの細胞と人間の細胞…そしてイノベイドの細胞を組み合わせた究極の実験」

 

 

鎌田「それがバトルファイト最強のアンデット…ジョーカーを生み出す!その実験に君も手伝ってもらうぞ…ティエリア・アーデ」

 

 

ティエリア「…………」

 

 

鎌田が視線を向ける男とは、刹那達の働くBOARDの前社長…数ヶ月前に行方不明となったティエリア・アーデだったのだ。鎌田は拘束されているティエリアから視線を外すと、ロックオン達を拘束する装置の前にレンゲルのバックルをセットしてスイッチを入れた。すると、ライダーシステムとロックオン達からとてつもない量のエネルギーが放出されていく。

 

 

ロックオン「グ、ガアァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

アレルヤ「ウアァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

ティエリア「グアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

ロックオン達はエネルギーを放出されてもがき叫ぶが鎌田達はそんなロックオン達に目もくれず、カリスのバックルを見て不気味に笑っていた。そしてカリスのバックルにエネルギーが溜まり、やがて一枚のカードが姿を現していった。

 

 

鎌田「フフフ…完成した…遂に!」

 

 

カリスのバックルに現れたカードを手に取り怪しく笑う鎌田とリボンズ。その時……

 

 

優矢「社長!一体何をやってるんだ?!」

 

 

刹那「…ッ?!ロックオン!アレルヤ!…前社長まで?!これは一体?!」

 

 

研究室の中に刹那と優矢、ヴィータが駆け込み、拘束されているロックオン達の姿を見て驚愕していた。

 

 

鎌田「チッ…邪魔をするなぁ!!」

 

 

研究室に入り込んだ刹那達を見て鎌田を舌打ちをしながらパラドキサアンデットとなり、刹那達に襲い掛かってきた。

 

 

刹那「グアァッ?!」

 

 

ヴィータ「ウアァッ!!」

 

 

優矢「刹那!ヴィータさん!ウグアァッ?!」

 

 

刹那とヴィータはリボンズによって研究室の外に吹き飛ばされてしまい、優矢は変身して二人を助け出そうとするもパラドキサアンデットに襲われ壁に叩き付けられてしまう。そして研究室の外に放り出された刹那とヴィータはゆっくりと近づいてくるリボンズを敵意の込めた目で睨みつけていた。

 

 

刹那「グッ…どういうコトだ…何故アイツ等や前社長が…?!」

 

 

リボンズ「…君達には分からないだろうね。僕達経営者の苦しみが」

 

 

ヴィータ「クッ…経営者の…苦しみ…?」

 

 

歩み寄ってくるリボンズの言葉に疑問を浮かべる刹那とヴィータ。今回の件にロックオン達と会社の経営になんの接点があるのか理解出来ないからだ。

 

 

リボンズ「我々BOARDはアンデッドを封印する為に組織された会社だ。だがアンデッドの脅威がなくなれば僕達BOARDの存在意義がなくなる…なのにティエリア・アーデは会社の存続よりもアンデッドの封印を優先にして動いてしまっていた…だから理事長は僕を送ったんだよ。ティエリアの代わりにBOARDを守る為…国からの予算を手に入れる為…更なるアンデッドの脅威を創る為にね!」

 

 

刹那「貴様ぁ…そんな事の為に前社長達をッ!」

 

 

全ては国からの予算を手に入れる為に。刹那はそんなくだらない目的の為にティエリア達をさらったリボンズに怒り掴み掛かるが、リボンズはそれを軽くあしらい、腰にカリスラウザーを装着しハートのAのラウズカード、そして先程完成したカードを取り出した。

 

 

リボンズ「恐怖と安心のバランスは僕が決める…」

 

 

『CHANGE!』

 

 

リボンズはカリスラウザーにハートのAをスライドさせカリスへと変身していく。そして…

 

 

カリス『伝説のライダー、カリスの力と…』

 

 

『JOKER!』

 

 

カリスはもう一枚のカードをカリスラウザーにスライドさせると、カリスの姿がシャドウフォースに包まれ変わっていく。その姿は、カミキリムシに酷似し黒と緑を基調とした身体と顔にバイザーの様なものを身に付けた異形の怪物……アンデッドへと変わっていったのだ。

 

 

『最強のアンデッド…ジョーカーの力を使ってね!』

 

 

刹那「な…んだと…?!」

 

 

ヴィータ「コイツ…ヤベェ…!逃げろ刹那ッ!!」

 

 

ヴィータはカリスの新たな姿……最強のアンデッドであるジョーカーの姿を見て直感的に危険だと感じ刹那に向かって逃げろと叫ぶが、ジョーカーはそれよりも早く刹那に襲い掛かった。だがその時……

 

 

 

―バシュウゥンッ!―

 

 

『でえぇいっ!!』

 

 

『な…?!ウグアァッ!?』

 

 

『ッ?!』

 

 

突然刹那達の近くに停めてあった車の窓から赤い影が飛び出し、そのまま勢い良くジョーカーを殴り飛ばし刹那達の隣に立った。その赤い影とは龍騎に変身したディケイド……そう、二人を追い掛けて来た零だったのだ。

 

 

ヴィータ「れ、零?!」

 

 

D龍騎『よお、無事だったみたいだな。ほら刹那、俺からのバイト代だ』

 

 

D龍騎はそう言って懐から何かを取り出し刹那に投げ渡した。その何かとは、カリスによって奪われた筈のブレイバックルであった。

 

 

刹那「ッ?!これはっ……」

 

 

D龍騎『…今のお前なら、そいつを扱う資格がある。それはお前が使え』

 

 

D龍騎から投げ渡されたブレイバックルを見て目を見開いて驚く刹那。すると吹き飛ばされたジョーカーと研究室から出て来たパラドキサアンデッドは刹那の持つブレイバックルを見て、刹那を変身させまいと三人に襲い掛かって来る。

 

 

D龍騎『フッ…俺の動きに着いてこれるか?』

 

 

向かってくるジョーカーとパラドキサアンデッドを見てD龍騎は余裕の笑みを浮かべると殴り掛かってきたジョーカーを蹴り飛ばしてパラドキサアンデッドを殴り付け、そのままパラドキサアンデッドの真上を飛び越え近くの車の窓に飛び込み、鏡の世界……ミラーワールドへと侵入した。

 

 

『ッ?!鏡の中に?!』

 

 

D龍騎『何処を見ている?俺は此処だッ!』

 

 

―バシュウゥンッ!―

 

 

『なっ?!ウグァッ!?』

 

 

D龍騎はパラドキサアンデッドの不意を突いてミラーワールドから飛び出しパラドキサアンデッドを吹き飛ばして再びミラーワールドに侵入する。それを何度も行いながらパラドキサアンデッドを翻弄し、パラドキサアンデッドはD龍騎の動きに追い付けずにいた。しかし……

 

 

―ガキイィィッ!!―

 

 

D龍騎『うぐあぁっ!?』

 

 

ミラーワールドから出て来たD龍騎がパラドキサアンデッドに打撃を打ち込もうとした瞬間別方向から攻撃が襲い掛かり、D龍騎は吹き飛ばされてしまう。そしてその攻撃を放ったジョーカーはパラドキサアンデッドと共にD龍騎へと追い打ちを掛けていく。

 

 

刹那「チーフッ?!」

 

 

ヴィータ「クソッ!二人掛かりなんて卑怯だぞ!」

 

 

二人掛かりでD龍騎を追い詰めていくジョーカー達を見てヴィータは苛立ち、刹那はD龍騎を助けようとブレイバックルにラウズカードをセットして腰に装着しようとする。だが、それに気づいたジョーカーは刹那に襲い掛かり、刹那は不意を突かれてブレイバックルを吹き飛ばされてしまう。

 

 

刹那「ッ!しまった…!」

 

 

ヴィータ「ッ?!刹那止せ!逃げろッ!!」

 

 

刹那「ッ?!」

 

 

ジョーカーに叩き落とされたブレイバックルを慌てて拾おうとした刹那だが、その瞬間ヴィータが声が響き目の前に視線を向けると、そこにはジョーカーが自分に向けてエネルギー弾を放って来ていた。今から避けようとしても間に合わない。そう思った刹那は回避する事を諦めすぐに防御態勢を取った、その時……

 

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!―

 

 

D龍騎『グ、ウグアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『…?!なッ?!』

 

 

刹那の目の前にいつの間にかD龍騎が立ち塞がり、刹那を庇ってジョーカーの攻撃を受けていったのだ。そしてエネルギー弾を受けたD龍騎は身体から煙を立たせながら変身が解けて零に戻ってしまい、その場で倒れてしまった。

 

 

ヴィータ「お、おい零ッ!しっかりしろよ!おい!」

 

 

刹那「チーフッ!チーフッ!!」

 

 

二人は直ぐさま倒れた零に駆け寄り零の身体を必死に揺さ振るが、ジョーカーが二人の首を掴んで壁へと無理矢理押しつけ首を締めていく。

 

 

刹那「グッ!ガァッ!」

 

 

ヴィータ「て、てめぇ!離しやがれっ!」

 

 

『ライダーとアンデッドが手を組み、世界の統率者となるのだ』

 

 

『君達も、その為に働いてもらおうか?』

 

 

助かりたければ、今までのように自分達の為に働けとジョーカー達は刹那達に向けて脅迫してくる。だが、二人がそんなことに首を振る筈がなく……

 

 

刹那「ッ…ふざ…けるな…誰が貴様等などにっ…!」

 

 

ヴィータ「そうだっ…!絶対に…お前等なんかの言う通りになるかっ…!」

 

 

『……本当に愚かな人間だ…なら、死ねぇっ!』

 

 

―ギリィィッ…!―

 

 

刹那「アグッ!グアッ…!」

 

 

ヴィータ「カハッ!アッ…!」

 

 

自分達の誘いを断られたジョーカーは刹那達の首を掴む腕に力を込めていく。二人は息が出来なくなりながらも必死に抵抗するが次第に意識が霞んできて抵抗する力が弱まっていく。最早此処までなのかと二人が諦め掛けた、その時……

 

 

 

 

零「…笑わせんな……金と名誉に目が眩んだ…成金野郎が…」

 

 

『……何?』

 

 

先程のジョーカーの攻撃により倒れていた零が近くに落ちていたブレイバックルを拾い、ゆっくりと立ち上がりながらジョーカーを睨みつける。ジョーカーは零の言葉を聞き掴んでいた二人の首から手を離し、零と向き合った。

 

 

『ならば君達は何だ?ライダーは所詮BOARDの社員…己のランクを上げ、給料を貰う為に働いているだけじゃないか』

 

 

零「違う!少なくともこの男が働くのは…金の為でも…ランクを上げる為でも…ましてや、社員同士の生存競争で仲間を蹴落とす為でもない!」

 

 

『なら、何の為に働くと言うんだ!』

 

 

金の為でもランクの為でもないなら何の為に働くと言うのか。それが理解出来ないジョーカーは苛立ちながら零に問い掛け、零は刹那を見た後にジョーカーに向けてその答えを返す。

 

 

零「進化だ。どれだけの失敗や成功をしても、共に働く仲間を励まし、共に助け合い、共に進化していく…その為にコイツは働いているんだ!!」

 

 

刹那「…チーフ」

 

 

力強く言い放つ零の言葉にジョーカー達は少したじろぎ、刹那は零の言葉を聞いてなにかを決意した力強い表情へと変わっていった。

 

 

「そう…現に刹那も進化している。今までは人との触れ合いを嫌っていた刹那が…自分の仲間を救う為に…必死になって此処まで来たんだから」

 

 

『ッ?!何…?!』

 

 

不意に聞こえてきた声にジョーカーとパラドキサアンデッドはそれが聞こえてきた方に振り返った。そこには、先程パラドキサアンデッドにやられた優矢や拘束されていたロックオン達を抱えて立つ祐輔、稟、ツトム、クレフ、スバルの姿があった。

 

 

ヴィータ「ゆ、祐輔?!スバル?!お前等なんで?!」

 

 

稟「いや、何でと言われても…�」

 

 

ツトム「僕達は祐輔さんに言われて此処に来ただけでして…�」

 

 

クレフ「僕達も詳しくは聞いてないから、状況が良く分からなかったんだけど…さっき祐輔から聞かされて漸く分かったよ�」

 

 

祐輔「アハハハ、言ったでしょ?稟君達に大事な仕事を任せてあるって」

 

 

零「一応この世界について一番詳しいのはアイツだからな……お前の為にも、アイツ等を助けようっていう話になって稟達にも動いてもらってたんだ」

 

 

刹那「…お前達…本当に何者なんだ…?」

 

 

アッサリと言い放つ零の言葉に刹那とヴィータは呆然とし、祐輔達はそんな二人を見て苦笑いを浮かべていた。

 

 

『なんなんだ君達は…一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ。憶えておけ!皆、行くぞ!!」

 

 

『(あぁ!) (はい!) (うん!)』

 

 

スバル「ヴィータ副隊長!此処はお願いします!」

 

 

―ブオォンッ!―

 

 

ヴィータ「っと!…おう!任せとけ!」

 

 

スバルはヴィータに向けてKウォッチを投げ渡すと気絶している優矢達を連れて物陰に隠れ、零達もそれぞれ自分の変身ツールを取り出して装着し、変身の構えを取る。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOUL TOUGA!』

 

『TURN UP!』

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

エクス「行きましょう、マスター!かぷっ!」

 

グレイ「オイラも全力で行くッスよ~!変っ身!!」

 

『Rider Change Touga!』

 

『KAMENRIDE:SIVA!』

 

 

それぞれ電子音声が響くと零はディケイド、刹那はブレイド、祐輔はキャンセラー、稟はエクス、ツトムは闘牙、クレフはシヴァに変身し、ヴィータは腰に現れたベルト…優矢のと同じクウガのベルトであるアークルに酷似した深紅のベルトの左側を軽く押すと、ヴィータの身体が徐々に変化していく。身長はヴィヴィオと同じくらい程しかなかったのが、今はディケイド並に大きくなり、変身を終えたその姿はクウガに酷似しているが、肩のアーマーとボディがキバ・ドッガフォームの物に近く、角の部分がクウガに比べて少し開いている。そう、この姿がこそがヴィータの変身するクウガタイプの仮面ライダー『トウガ』であった。そしてディケイド達はそれぞれ武器を構え、ジョーカーとパラドキサアンデッドに向かって戦闘を開始した。

 

 

トウガ『でえぇあッ!おらぁっ!』

 

 

―ドゴォッ!バキッ!ズガァァァンッ!!―

 

 

『ヌグアァッ!お、おのれぇぇぇ!!』

 

 

ディケイド達がジョーカーと戦う場所から離れた所では、トウガがパラドキサアンデッドに強烈な打撃を打ち込みパラドキサアンデッドを追い詰めていた。パラドキサアンデッドはトウガに追い込まれていくのに次第に焦りを感じ始め、トウガから距離を取り真空破を放つ。だが…

 

 

―ガキイィィィッ!!―

 

 

『…ッ?!な、なんだと?!』

 

 

トウガはパラドキサアンデッドの放った真空破を避けようとせず、そのままそれを受けてしまう。しかし、トウガは真空破を受けてもビクともせず、ボディにも傷一つ付いていなかった。

 

 

トウガ『ヘッ、こんなもん効くかよ!おら!次はこっちから行くぞ!』

 

 

トウガは肩を二・三回回した後、近くの建設中の建物から建物と建物を繋いでいた鉄の棒を拾う。すると、鉄の棒がヴィータのデバイスであるグラーフアイゼン・ギガントフォルムの形状に酷似した槌…トウガハンマーへと変化し、トウガはそれを構えパラドキサアンデッドへと向かって振りかざした。

 

 

―ドゴオォォンッ!!ドゴオォォンッ!!ドゴオォォンッ!!―

 

 

『ヌグアァァッ!?』

 

 

トウガ『でえりゃあぁ!!…そろそろ決めてやるよ、行くぞ!』

 

 

トウガはパラドキサアンデッドをトウガハンマーで殴り飛ばすとトウガハンマーを両手に持ち頭上に高く掲げた。すると、トウガハンマーのハンマー部分が徐々に巨大化していき、あっという間にトウガの全長を越えるほどの大きさとなっていった。

 

 

『な、何ッ?!』

 

 

トウガ『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ぶっ潰せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 

―ブオォンッ!!ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ヌ、ヌガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

トウガはパラドキサアンデッドを向けてトウガハンマーを思い切り振り下ろし、ハンマーに押し潰されたパラドキサアンデッドは断末魔を上げながら粉々に砕け散って消滅し、パラドキサアンデッドのいた場所にはクウガの紋章がクレーターのように地面に刻まれていた。そしてそれを確認したトウガは変身を解除してヴィータに戻り、物陰に隠れているスバル達の下へと向かって歩き出していった。

 

 



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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑪

 

 

一方その頃、ディケイド達は自身の武器を巧に扱い、連携を組んでジョーカーにダメージを与えていた。最強のアンデッドと言えど、現状は六対一。流石のジョーカーも六人の攻撃を一人一人見切ることが出来ず少しずつ追い詰められていく。そんな中、キャンセラーは刀を構え、エクスは自身の左腕にセットされているグレイの首を引っ張ってスロットを回し、シヴァは腰にあるホルダーから一枚のカードを取り出しシヴァドライバーにセットする。

 

 

『TIME CRASH!』

 

 

グレイ「エキストラ!ウェイクア~プッ!」

 

 

『ATTACKRIDE:ICE BLADE!』

 

 

『デアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

エクス『シャイニングッ!ブレイカアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァンッ!ズバアァァンッ!ズバアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『うぐあぁぁぁぁ!!?』

 

 

 

キャンセラーとエクスとシヴァの放った斬撃破がジョーカーを斬り裂き、それを受けたジョーカーは遠くまで地面を転がりながら吹き飛んでいった。

 

 

『グ…人間風情が!舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥ…ドガアァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

態勢を立て直したジョーカーは怒りを露わに胸部からエネルギー弾を無差別に放ち、ディケイド達はギリギリでそれを回避するが爆風に巻き込まれ近くの建物の壁際まで吹っ飛んでしまった。

 

 

エクス『グゥッ!中々やるな、アイツ…!』

 

 

ディケイド『…成る程な…最強のアンデッドの名は伊達じゃないってことか…』

 

 

キャンセラー『といっても、なんかだんだんと怪物っぽくなって来てるみたいだけど�』

 

 

ディケイド達は態勢を立て直しながらジョーカーに目を向けていく。ジョーカーには既に人間の時の面影がなく、天を仰ぎながら獣のような咆哮を上げていた。

 

 

ブレイド『だが、それでも負けるワケにはいかない!』

 

 

闘牙『確かに、こんな事で負けてたら師匠の地獄の特訓が待ち受けてると思うし…�』

 

 

シヴァ『いや…特訓というより…お仕置きじゃないかな…�』

 

 

ディケイド『…なんか本当にお前達が可哀相に思えてきたな…�此処は二人の為にも、さっさと奴を倒すか!』

 

 

ディケイドはそう言ってライドブッカーSモードを構え、ジョーカーに向かって走り出そうとした。その時…

 

 

―…ガチャッ、ブオォンッ!ブオォンッ!ブオォンッ!ブオォンッ!ブオォンッ!ブオォンッ!―

 

 

ディケイド『ッ?!な、なんだ?!』

 

 

ジョーカーに突っ込もうとした瞬間突然ディケイドのライドブッカーが開き、そこから数枚のカードが飛び出しディケイドは慌ててそれらをキャッチした。ディケイドの手の中に収まったそれとは、いつの間にか絵柄が戻ったキャンセラー、エクス、闘牙、シヴァのカードと、firstのカード、そして見たことのないフォームライドのカードであった。

 

 

ディケイド『?このカードは…』

 

 

ブレイド『チーフ!来るぞ!』

 

 

ディケイド『ッ!』

 

 

突然現れたカードに疑問を浮かべていたディケイドの耳にブレイドの声が届き、ディケイドは慌てて目の前に目を向けるとジョーカーがこちらに向かって突進して来ていた。キャンセラー達は自身の武器をジョーカーに向けて構えていき、ディケイドはカードとジョーカーを何度か交互に見た後キャンセラー達のカードを仕舞い、物は試しにと新たなフォームライドカードをディケイドライバーにセットした。

 

 

『FORMRIDE:DECADE!CLIMAX!』

 

 

ディケイド『…クライマックス?』

 

 

鳴り響いた電子音声にディケイドは首を傾げ、それと同時にディケイドの身体が光に包み込まれていく。光が晴れていくとディケイドの鎧がシンメトリーな鎧へと変わり、身体の色もソルフォームのような深紅へと変わっていた。だが、異変はそれだけではなく…

 

 

―シュウゥゥゥゥゥン!―

 

 

キャンセラー『…ッ?!えっ?!』

 

 

エクス『な、なんだ?!』

 

 

闘牙『か、身体が?!』

 

 

シヴァ『光に?!』

 

 

ディケイド『?!皆ッ?!』

 

 

突如ディケイドの近くにいたキャンセラー達がまばゆい光に包まれていき、その姿が身体のない仮面だけの姿…デンカメンへと変わってしまったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―firstの世界―

 

 

 

滝「んん~…はぁ。今日の仕事はこれで終わりかぁ~。思ったより早く終わっちまったなぁ~」

 

 

ブレイドの世界でディケイド達が激戦を繰り広げている中、仮面ライダーfirstこと本郷 滝は機動六課での雑務を終えてヴィヴィオと共に食堂へと訪れ、ヴィヴィオが美味しそうにケーキを頬張っている間にこれからどうしようかと悩んで暇を持て余していた。

 

 

滝「ん~…ミユやチンク達はグランナガンに買物に行っちまったし、真司もミユに引っ張られていないし、はやてやヅラ達もまだ仕事中みたいだし…弱ったな~」

 

 

本郷 滝……ただ今絶賛暇です。といった具合にテーブルの上にだしらしなく俯つ伏せる滝。そんな滝の姿に周囲の局員達がクスクスと可笑しそうに笑っているが当の本人である滝は全く気づいていない。そんな時…

 

 

ヴィヴィオ「んん~…あ、ねぇねぇパパ~…あ~ん!」

 

 

滝「……んあ?」

 

 

不意にヴィヴィオから呼ばれ、滝はゆっくりと顔を上げて自分の娘の顔を見る。そこには、自分の食べていたケーキをスプーンの上に乗せ、自分に向けて差し出して来るヴィヴィオの姿があった。どうやら、元気のない(ヴィヴィオから見て)滝を見て心配し、自分のケーキを分けてくれてるようだ。この…カワイイ奴め♪と若干ニヤニヤしていたのは秘密だ。

 

 

ヴィヴィオ「パパ、はい!あ~ん♪」

 

 

滝「ハハ、分かった分かった♪あーーん…」

 

 

自分の娘を愛おしく思いながらもヴィヴィオから差し出しされるケーキを頂こうと口を開く滝。だが…

 

 

 

―…バシュウンッ!―

 

 

ヴィヴィオ「あ~……あれ?…パパ…?」

 

 

ケーキまで後三センチ。だがそのケーキが食べられることはなく、ヴィヴィオの視界から突然滝の姿が忽然と消失してしまったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

場所は戻ってBOARDの研究所。そこでは姿の変わったディケイドとブレイドがデンカメンに変わってしまったキャンセラー達を見て慌てふためていた。そんな事をしている間に突然何もない空間からバッタを模したようなデンカメン…firstのデンカメンが現れ、それが現れると共にデンカメン達が一斉に行動を開始した。

 

 

ディケイド『な、何だ…?!一体何が起きてるんだ?!』

 

 

事態に付いていけないディケイドは自分の周りを飛び舞うデンカメン達を見て困惑し、デンカメン達はそんなディケイドの身体に次々と装着し始めていった。エクスのデンカメンはディケイドの左肩に、firstのデンカメンはディケイドの右肩に、闘牙のデンカメンはディケイドの胸部分に、シヴァのデンカメンはディケイドの背中に、そしてキャンセラーのデンカメンはディケイドの左腕に盾のように装着され、最後にディケイドの瞳が緑から虹色へと変化していった。これが、苦労人同盟の一員の力を結束(強制)させたディケイドの新たなフォーム…『ディケイド・Climaxフォーム』である。

 

 

ディケイドC『………は?…なんだコレえぇぇぇぇぇッ!!?』

 

 

D(デンカメン)キャンセラー『え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』

 

 

Dエクス『な、何だこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

 

D闘牙『ま、まさかこれ…師匠達のと同じ…ってかこのポジションなんか怖ぁっ!?祐樹さんの気持ちが今分かったぁ!!』

 

 

Dシヴァ『い、一体なにが起きてるんだ!?というか前が見えない!?』

 

 

Dfirst『あー♪……あ?………なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』

 

 

ディケイドC『うおぉッ?!ビックリしたぁ…って、お前滝か!?なにやってんだお前!?』

 

 

Dfirst『…え?…って零!?それに皆も!?何なんだよこれ!?何が起きてんだ!?ていうか此処何処ぉ!?』

 

 

ディケイドC『俺が知るか!!つかお前等も勝手に動くな!!てか気持ちワリィよこのフォーム!!』

 

 

ブレイド『………何をやってるんだお前達は…』

 

 

ディケイドC達は突然なってしまったてんこ盛りフォームにどよめき、ブレイドはそんなディケイドC達に呆れて深い溜め息を吐いていた。

 

 

『この、虚仮威しごときがあぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

ディケイドC『クッ!やかましい!!こうなればヤケクソだぁ!!』

 

 

最早どうにでもなれとディケイドCは勢いに任せてジョーカーを睨みつけながらライドブッカーを開き、そこから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと投げ入れた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

電子音声が響くとディケイドCの身体に装着されていたDfirstとDエクスが肩から外れてディケイドCの右足に装着され、DキャンセラーとDシヴァもディケイドCの身体から外れて左足に装着された。そして、ディケイドCの目の前にエクス、first、闘牙、シヴァ、キャンセラーのカメンライドカードを模したディメンジョンフィールドが出現し、それと共にDシヴァから氷の翼が現れディケイドCは上空へと高く飛び、ジョーカーに両足を向けながらディメンジョンフィールドを潜り抜けていく。

 

 

『俺達の必殺技ぁ!!苦労人同盟バージョオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!(最早ヤケクソ)』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グウゥ!?ウグアァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ディケイドCの放ったディメンジョンキックがジョーカーに直撃し、ジョーカーはそのまま十五メートル以上先まで盛大に吹っ飛ばされていった。

 

 

ブレイド『ッ?!…これが…チーフ達の力…?!』

 

 

ディケイドC『ハァ…ハァ…どうだコンチキショウッ!!』

 

 

Dエクス『オォッ、やりましたね零さん!』

 

 

ディケイドC『ウオォッ?!り、稟!勝手に動くなっ!!』

 

 

D闘牙『いや、そうはいいますけどこれ結構窮屈なんですよ~!�』

 

 

Dシヴァ『というかまだ前が見えない!�』

 

 

ディケイドC『どあぁ!?だから勝手に動くなって言ってっ!』

 

 

Dfirst『それよりも何が起きてんだ!?状況を説明してくれ!?』

 

 

ディケイドC『イタタタタタタタッ!?おとなしくしろ滝ッ!股の間接が外れるっ!!』

 

 

Dキャンセラー『やれやれ……ん?……ッ!皆ストップ!まだあのアンデッドが生きてるよ!』

 

 

ディケイドC『イタタタタタタタ!!…って何?』

 

 

すっかり勝利気分でいたディケイドC達はDキャンセラーの言葉を聞いてジョーカーが吹き飛んだ場所を見た。そこにはジョーカーがゆっくりとふらつきながら起き上がり、声になっていない叫び声を上げてディケイドC達の方へと向かって近づいて来ている姿があった。

 

 

ディケイドC『オイオイ…あれでまだ生きてるのか?しかもまるっきり怪物になっちまってるし…』

 

 

ブレイド『なら、倒すまで戦えばいいだけだ。俺は……いや…俺達は、ライダーなのだから!』

 

 

決意の込められた口調で強く言い放つブレイド。それを聞いたディケイドCはライドブッカーから絵柄のない三枚のカードを取り出すと、シルエットだけのブレイドのカードを含むそれらに消えていた絵柄が浮かび上がっていった。

 

 

ディケイドC『…そうだな。なら、俺も一緒に手伝うとしよう』

 

 

Dfirst『え?…お、おい!お前まさか!�』

 

 

ディケイドCの言葉を聞いてDfirstはなにかを悟るが、ディケイドCはそれに構わず絵柄の戻ったカードの中から一枚のカードを取り出しディケイドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:B・B・B・BLADE!』

 

 

ディケイドC『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

ブレイド『?どういう意味―ドンッ!―うあぁッ?!』

 

 

ディケイドCはブレイドの背中に回って背中に触れるとブレイドの背中にオープントレイのような物が出現し円を描くように展開されていく。するとブレイドの身体が宙に浮きながら徐々に変化していき、ブレイドは巨大な大剣のような姿…『ブレイドブレード』へと超絶変形していった。

 

 

Dエクス『で、デカアァッ!?』

 

 

Dfirst『…やっぱりこうなったか…�』

 

 

Dキャンセラー『うわぁ…生のファイナルフォームライドなんて始めてみたかも…�』

 

 

D闘牙『あぁ…僕は師匠からの話や別世界の人達がこうなるのを何度か…�』

 

 

Dシヴァ『うぅ…何も見えない…�』

 

 

ディケイドC『お喋りはそこまでだ!行くぞ!』

 

 

ディケイドCはDキャンセラー達に向けて一喝するとブレイドブレードを持って構え、ジョーカーに向かって走り出しブレイドブレードでジョーカーを横一閃に斬り飛ばしていった。

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

『グウアァァァァッ!!?グッ…な、何なんだあの姿は?!』

 

 

ディケイドC『これが、お前の知らないコイツの力だ!皆、決めるぞ!』

 

 

『応ッ!!』

 

 

ディケイドCは再びライドブッカーから一枚のカードを取り出し、それをディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:B・B・B・BLADE!』

 

 

電子音声が響くとブレイドブレードの刃が青白く輝き出し、ディケイドCはジョーカーに向けてブレイドブレードを大きく振り上げていく。そして…

 

 

ディケイドC『ハアァァァァァァァ……ウオリャアァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ドガアァンッ!トガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『そ、そんな?!ウ、ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!!?』

 

 

ディケイドCとブレイドの必殺技、DCDE(ディケイドエッジ)がジョーカーに炸裂し、ジョーカーは断末魔と共に吹っ飛ばされながら爆散していった。そして、それを確認したディケイドCはブレイドブレードを上空に投げ出すとブレイドブレードはブレイドへと戻っていく。

 

 

ブレイド『ぐぅっ?!うおぉぉっ?!』

 

 

突然元の姿に戻ってしまった為ブレイドはバランスを崩し、尻餅を付いて変身が解除された。そしてディケイドCも変身を解除して零に戻ると、零の周りにデンカメンから元の姿へ戻った祐輔達が地面に倒れ込み、零は祐輔達の姿を見て少し苦笑すると刹那に近づいて手を差し延べた。

 

 

零「…ほら、掴まれ」

 

 

刹那「!…すまない」

 

 

刹那は微笑しながら零の手に掴まって立ち上がり、祐輔達も立ち上がりながらそんな二人を見て満足そうに笑って見守り、滝は未だに現状が理解出来ず疑問符を浮かべている。そして一同は後から駆け付けたスバルとヴィータと共にロックオン達を病院へと連れていき、BOARDへと戻ったのだった。

 

 

 

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第七章/ブレイド×ガンダム00の世界⑫

 

ジョーカーを倒し、ロックオン達を病院へと連れていった零とヴィータは会社の前まで来ていた。あの三人を病院に連れて医者に見てもらった所、衰弱こそはしていたが命に別状がなく、一週間程入院すれば問題はないらしい。それを知った祐輔達は安心して一足先に写真館へと戻り、零とヴィータは会社に置き忘れた私物を取りに会社に戻り、今写真館に戻ろうとしていた。だが、零は手袋がないことに気づきポケットの中を探し始める。すると…

 

 

刹那「…忘れ物だぞ」

 

 

零「?…刹那」

 

 

二人の後ろから刹那が歩いて来て零が忘れた手袋を投げ渡して来た。零はそれを受け取ると若干苦笑しながら両手に嵌めていく。

 

 

刹那「もう…行ってしまうのか?」

 

 

零「あぁ。俺達のこの世界での使命はもう終わったからな」

 

 

刹那「…本当に不思議な奴だな、お前達は…一体何者なんだ?」

 

 

零「…俺はやがて、全ての世界を破壊する」

 

 

刹那「…なに?」

 

 

不意に真剣な口調で話す零の言葉を聞いて刹那は驚愕して困惑してしまう。

 

 

零「…らしいな」

 

 

刹那「…違うな…お前は破壊者などではない。お前のおかげで、このBOARDも、前社長達も、この世界も救われたのだから」

 

 

零「フッ…そういってくれれば、有り難いんだがな」

 

 

そう言って零とヴィータは微笑し、刹那は何処か柔らかい表情で二人を見つめていた。

 

 

刹那「…また、会えるか?」

 

 

ヴィータ「当然だろ?なぁ零?」

 

 

零「あぁ。旅を続けている限り、またいつか会える…きっとな」

 

 

刹那「…そうか」

 

 

零とヴィータの言葉に刹那は小さく笑い、零は刹那に向けて軽く手を降るとヴィータと共にディケイダーに乗って写真館へと戻っていった。

 

 

途中、「チーフ~!八神さ~ん!お仕事ですよ~!」と誰かに呼び止められた様な気がするが…きっと気のせいだろう。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから数十分後。写真館に戻った零は祐輔達の見送りの為に写真館の前で祐輔達と向き合っていた。

 

 

零「いや~今回は本当に助かったよ…色々な意味で�」

 

 

祐輔「ははは…でも、もうあれにはなりたくないです�」

 

 

稟「右に同じく…あれって結構窮屈ですし�」

 

 

ウェンディ(別)「?あれってなんの事ッスか?」

 

 

クレフ「いや…出来れば聞かないでくれ�」

 

 

お互いに苦笑しながらあれにはもうなりたくないと言う零達の言葉が理解出来ないウェンディ(別)は疑問符を浮かべ、零達はそんなウェンディ(別)の様子に更に苦笑する。

 

 

滝「ったく、最悪のタイミングで呼び出しやがって!せっかくヴィヴィオと親子水入らずのひと時を過ごしてたのに�」

 

 

零「だからスマンと言ってるだろう�俺もあれは予想外だったんだから�」

 

 

ツトム「確認したところ…あのカードは師匠がこっそり零さんのライドブッカーに仕込んだみたいですよ�その動機が…「何か面白そうだから♪」…だったとか�」

 

 

零「…だからこんな見覚えのないカードまで入ってたのか�」

 

 

そう言って零はライドブッカーから数枚のカードを取り出した。それらのカードには『SAMONRIDE』と表示されたカードやなにに使うのか分からないカードまで色々とある。

 

 

零「ハァ…だがまあ、今後一切あのてんこ盛りを使うことはないだろう……多分」

 

 

『いや、頼むから断言してくれ (下さい)�』

 

 

曖昧な答えを返す零に一斉に突っ込む一同。

 

 

零「ハハハ…�まぁ、出来る限り使わないよう善処するから心配しないでくれ�」

 

 

稟「本当かな~…�」

 

 

祐輔「まあ、あれになるのは嫌ですけど、それ以外のことでしたら何か力になりますので」

 

 

零「あぁ、すまんな。助かる」

 

 

滝「色々とあったが…まあいいか。零、今度また皆で飲みに行こうな」

 

 

零「あぁ、何とかなのは達の目を盗んで必ず行くよ」

 

 

稟「それ…バレたら血祭りに合うんじゃありません?�」

 

 

零「気にするな…今始まったことでもないんだから」

 

 

ツトム「そういう問題ですか…�」

 

 

クレフ「君も以外と前向きだよね�」

 

 

親指を立てながら言う零に苦笑してしまう一同。そして、祐輔とウェンディ(別)は自分の世界に帰るついでに滝を元の世界に送るとスクーターに乗って自分達の世界に戻り、稟は迎えに来たアテナに連れられ自分の世界に、ツトムとクレフも迎えに来た幸助に連れられ、何故か若干半泣きになりながら元の世界に帰っていった。

そんな二人を気の毒そうに見送った後、零も写真館の中へと戻っていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

栄次郎「ほぉ~零君、また一段と腕を上げたようだね」

 

 

なのは「うん、前より数段とね♪」

 

 

零「そうかい?俺にはいつも通りだと思うけど」

 

 

写真館の中に戻った零は、栄次郎や皆と共に現像した写真を眺めていた。その中には刹那が社員達と共に皿洗いをしているものや、苦労人同盟と共に取った写真などもある。

 

 

優矢「成る程なぁ…どんな仕事でも、仲間と働き、共に進化していくってことか…いいね~♪ってヴィータさん?!なにさりげなく人のケーキ取ってんスか?!」

 

 

ヴィータ「んだよ、さっきから一口も食ってねぇだろ?だからアタシが代わりに片付けてやろうと…」

 

 

優矢「後の楽しみにって取っておいたんですよ!ってあぁぁぁぁぁぁぁ!!俺のケーキがあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ティアナ「ま、まぁまぁ�ケーキならまだ幾らでもありますって�」

 

 

零「…ハァ…お前は相変わらずだな…」

 

 

零は祐輔達が置き土産にと残してくれたケーキで騒ぎ立てる優矢を見て溜め息を吐き、テーブルから立ち上がって背景ロールへと近いていく。

 

 

零「だが、あれであの社員食堂は救われただろうな…俺達も旅を続けるか。更なる進化の為に」

 

 

そう言って零は次の世界へと向かう為に背景ロールを弄り始める。そして…

 

 

―ガチャッ、ガラガラガラガラガラッ!パアァァァァァァァァァアッ!―

 

 

零「…この世界は」

 

 

キバーラ「フフフ♪零さん達御一行ごあんな~い♪」

 

 

零が背景ロール操作するとまた新たな背景ロールが現れ淡い光を放ち、それと共にキバーラが零の下に飛んで現れ怪しげに微笑む。新たに現れた背景ロールは縦に並ぶ赤いラインと、青い蝶とロボットが描かれているというものであった。

 

 

 

 

 

その頃、その世界の何処かにある一面真っ白の薄暗い部屋の中では、青い蝶達が金色の鱗紛を撒き散らせながら飛ぶ中、黒鉄の鎧を身に纏った金色の瞳のライダーが一人立っていた。果たして、この世界での零達の役目とは一体なんなのだろうか…?

 

 

 

 

 

第七章/ブレイド×ガンダム00の世界END

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界

 

ブレイドの力を取り戻し、次なる世界へと訪れた零達一行。そんな彼等が訪れたこの世界には、どんな困難が待ち受けているのか…?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零達がこの世界にやって来たその日の夜…

 

 

「…此処も以上は無しっと」

 

 

何処にでもあるような普通の高等学校。そこでは一人の警備員らしき男が校内を巡回していた。そして、警備員が校内の校庭を巡回しようとした、そんな時…

 

 

「…?あれ?あの子は…」

 

 

警備員が校庭へと足を踏み入れると、校庭のちょうど真ん中辺りに制服を着た女子生徒がポツンと一人佇んでいた。警備員はそれに気付くと女子生徒にゆっくりと近づいて話し掛ける。

 

 

「あのぉ…君、此処の生徒さんかな?」

 

 

「…私、この学園に入れなかったの…」

 

 

「入れな…かった?どうして…?」

 

 

警備員は何処か悲しげに呟く女子生徒を心配して更に近づいていく。だが、その選択は間違いだったのだ…

 

 

「…だって私……オルフェノクだから♪」

 

 

女子生徒はさっきまでの暗い雰囲気とは違い明るく言い放って顔を上げると、女子生徒の顔に奇妙な模様が浮かび上がり、女子生徒の姿が異形の姿をした灰色の怪人へと変わったのだった。

 

 

「?!う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!!?」

 

 

突然怪人となった女子生徒を見て警備員は驚き、腰を抜かして動けなくなってしまう。怪人はそんな警備員を見て怪しく微笑みながら少しずつ歩み寄り、警備員を引き裂こうと片手を振り上げる。その時…

 

 

―…ブオォォンッ…ザシュウゥンッ!!―

 

 

『ウグアァァアッ!?』

 

 

突如背後から赤い閃光と共に何かが現れ怪人の背中を斬り裂き、怪人はその衝撃で吹き飛び警備員はその隙に悲鳴を上げながら逃げ去っていった。吹き飛んだ怪人は先程まで自分が居た場所に目を向けると、そこには赤い輝き放つ剣を持った黒鉄の鎧の戦士が怪人を見据えて立っていた。

 

 

『?!ファ、ファイズ…?!』

 

 

ファイズ『……ハアァァァァァァ!!』

 

 

『ファイズ』と呼ばれた戦士は怪人に向かって走り出し、赤い光の剣で怪人に素早い斬撃を繰り出していく。そしてファイズは赤い光の剣のレバーを切り替え、バックル部分にある携帯を開きエンターキーを押す。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

電子音声が響くとファイズはバックル部分の携帯を閉じ、それと共にバックル部分からファイズの右腕に向けて赤い光が走り、右腕にまで到達するとファイズの剣が眩い光を放ち始める。

 

 

ファイズ『ウオォォォォォォォ!ハアァッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『キャアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!?』

 

 

ファイズの振りかざした剣が怪人の身体を斬り裂き、ファイズの斬撃を受けた怪人は身体中から青い炎を吹き出して爆散し、その場にФの紋章が浮かび上がって消えていった。ファイズはそれを確認すると剣を払って一息吐き、近くに停めておいたバイクに跨がりその場から去ろうとする。だが…

 

 

 

 

「漸く見つけた…ファイズのベルト!」

 

 

―バッ!!―

 

 

ファイズ『…ッ?!』

 

 

突如近くの建物の屋上から一人の青年が飛び出し、地上に着地すると共にファイズへと向かって来た。だがファイズはそれよりも早くバイクを走らせ、青年から逃げるようにその場から去っていき、ファイズを追っていた青年も追い付くのは無理だと諦めたのか走るのを止めてしまう。

 

 

「チッ!逃げ足の早い奴め!………ん?」

 

 

ファイズを捕らえられなかったことに舌打ちする青年だが、自分の足元に何かが落ちていることに気づきそれを拾う。青年が拾ったそれは写真らしく、そこには二人の男女が仲良く写っており、青年はそれを見るとファイズが走り去った方を見て口元を吊り上げていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから翌日…

 

 

 

零「イタタタッ…ったく、なんで朝からこんな目に合わないといけないんだ�」

 

 

零は二階から一階へと階段を降りながら自分の頭を抑えて愚痴る。その頭は若干膨れ上がっており、何故彼がこうなっているのかと言えば原因はやはり彼女達にあった。

実は今朝、何時もより早く起床してしまった零は時間つぶしにと外に干していた洗濯物などを取り込んでいたのだ。だが、零は男物(零・優矢・栄次郎)の下着だけでなくなのは達の下着まで一緒に取り込んでしまい、その現場を偶然にも洗濯物を取り込みに来たなのはとフェイトに見つかってしまい、顔を真っ赤にした二人に全力でぶん殴られたのだ。無論この男にそんな下心などがある筈もなく、ただ親切心でしただけだ。

 

 

零「ハァ……取りあえず、アイツ等がスバル達を起こしに行ってる間に朝食でも作っておくか…」

 

 

疲れたように溜め息を吐きながら、零は部屋の中へと入り皆の朝食を作ろうとキッチンに向かおうとする。しかし…

 

 

零「………………なんだ、これ…」

 

 

零が部屋の中へと入ると、目の前に飛び込んできた光景に思わず絶句して固まってしまう。零が目にしたものとは、何故かテーブル一杯に豪勢な料理が用意されているというものだったのだ。勿論これを作ったのは零ではない。かと言って他の者はまだ眠っているハズだし、栄次郎は朝の散歩にと写真館にはいないし、なのはとフェイトにこれだけの豪勢な料理が作れるハズもない。ならば一体誰が?と零が不思議そうに料理を眺めていると…

 

 

「やぁ、漸く起きたか?」

 

 

零「ッ?!」

 

 

不意に背後から聞き覚えのある…だが光写真館の住民ではない者の声が聞こえ、零は反射的に振り返り少し身構える。そこにいたのは…

 

 

零「…ッ?!お前は…?!」

 

 

「おいおい、そんなに身構えないでくれないか?今日は君の好物ばかりを用意したんだからね」

 

 

そこにいたのはブレイドの世界で零達の作ったランチを雑に扱い零に向けて謎めいた事を告げて去った蒼い瞳をした黒髪の青年だったのだ。何故この青年がこんな所にいるのか…零が青年を見て唖然としている間にスバル達を起こしに行ったなのはとフェイト、そしてその後ろからスバル達が眠たそうに目を摩りながらぞろぞろと部屋の中に入ってきた。

 

 

なのは「どうしたの零君?こんな朝から大声出して…って、あぁ?!」

 

 

フェイト「貴方は…あの時の食い逃げさん?!」

 

 

「随分な言われようだね…まあいいか。零がいつもお世話になってます。"海道大輝"といいます♪」

 

 

青年…"海道大輝"はそう言ってなのは達に向けて軽く頭を下げて挨拶し、なのは達もそれに釣られて思わず頭を下げて挨拶する。

 

 

優矢「あの、もしかして貴方は…零のお知り合いですか?」

 

 

零「ハッ。優矢、馬鹿げた冗談は止せ。誰がこんな奴と「えぇ、知り合いですよ。零が貴方達と知り合う、ずっとずっと昔からね」…何?」

 

 

なのは「私達と知り合う…ずっと昔から…?」

 

 

フェイト「それ…どういう事…?」

 

 

幼い頃からずっと零と一緒だったなのはとフェイトは零とは昔から知り合いと言う大輝の言葉を理解出来ず、そんな二人の様子を見て大輝は何も答えずただニヤニヤと笑っているだけだった。

 

 

チンク「黒月の知り合いということは…まさか、貴方もライダーの世界を?」

 

 

大輝「旅してますよ。というかそもそも、ライダーの世界を旅するのは俺の役目なんだ…零、君にはまだ早過ぎる。俺の後を追い掛けて来るのは止めてくれないか?」

 

 

零「お前を追い掛ける…?馬鹿言うな、誰かお前なんかを」

 

 

大輝「そうかい…けどこれだけは言っておくよ。君程度は俺の足元にも及ばない。せいぜい、俺の邪魔だけはしないでくれよ?」

 

 

零「…なんだと?」

 

 

自分の邪魔だけはしてくるなよと釘を打ってくる大輝の言葉が癇に障り、零は鋭い視線で大輝を睨みつけるが、大輝はそんな零を見てもただ鼻で笑うだけであり、なのは達はそんな二人のやり取りを見て止めるべきかと慌てていた。

 

 

大輝「…まあいいさ。今日は零がお世話になっているお詫びとして、朝食を作らせてもらいました。皆さんも良かったらどうぞ」

 

 

そう言って大輝は零を無視してなのは達をテーブルに招いていく。するとそこには、いつの間にかヴィータとスバルが先にテーブルに着いて料理を食べ始めていた。

 

 

ティアナ「ちょ、スバル!何勝手に食べてんのよ?!」

 

 

スバル「はうぅ~♪スッゴく美味しいよこれ~♪ほらほら、ティアも食べてみてよ!」

 

 

ヴィータ「ギガうま!これ結構イケるぞ!♪」

 

 

なのは「ヴィ、ヴィータちゃんまで…�」

 

 

セッテ「…ですが、これを食べたらお二人の気持ちにも共感出来ますね」

 

 

オットー「うん…この煮付けも美味しいし…味噌汁もダシがちょうど良く効いてて美味しい」

 

 

ディード「これは…私にも出せない味ですね…何だか悔しいです…」

 

 

ウェンディ「三人共…いつの間にそんな料理通になってたんスか?�」

 

 

大輝の用意した料理を口にして絶賛の感想を口にする一同。大輝はそれに満足したのか身に付けていたエプロンを外して畳みソファーに置き、ソファーに置いておいた革ジャンを羽織って写真館を出ようとする。

 

 

零「待て海道……お前……まさか俺の過去を知ってるのか?」

 

 

大輝「……零、まだナマコを食べれないのかい?」

 

 

零の質問に対し大輝はまたもや質問になっていない事を言い、零に向けて指鉄砲を向けた後写真館から出て行ってしまった。残された零はイライラとした表情で大輝が出ていった入口を睨むが、次第に馬鹿らしく感じて深い溜め息を吐き、なのは達と共に大輝の作った料理を食べることにした。

 

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界①

 

 

そして数十分後。朝食を終えた零達一行はこの世界を詳しく調べようと写真館の外へと出ていく。んで…

 

 

零「……毎度の事ながら、一体何処から用意されてるんだこの服は…�」

 

 

なのは「今回もまた…何か個性的な感じだね…�」

 

 

写真館から外に出た途端、いつものように零達の格好が変わっていたのだ。零の今の格好は白いシャツと中に黒い半袖のシャツ、首元には赤いネクタイと青い長ズボンとなっている。そして、今回零と同行するメンバーは……

 

 

ギンガ「今回は、私とフェイトさんが零さんに同行するみたいですね」

 

 

フェイト「でもこれって、どう見ても学校の制服だよね?�」

 

 

そう、今回同行するメンバーは零と同じく服装の変わったフェイトとギンガであった。ちなみに二人の今の格好は白いシャツに青いスカート、胸元には細長い赤のリボンと黒い靴下となっている。

 

 

優矢「なんか二人共…様になってるというか…似合い過ぎじゃねぇ?�」

 

 

ギンガ「そ、そうですか?///�」

 

 

フェイト「ね、ねぇ零…ど、どうかなぁ?似合ってる…かな…?」

 

 

零「?…あぁ、似合ってる…と思うぞ?(フェイトの格好…何か智大辺りが見たがりそうだな…後で写メでも撮って送っとくか?)」

 

 

フェイト「あ…ありがとう……///」

 

 

と顔を真っ赤にして俯いてしまうフェイト。はて…何か可笑しい事でも言っただろうか?…それに何故か、ギンガやなのは達の方から痛い視線が送られて来てるんだが……うん、何か恐いから無視しよう。

 

 

零「……取りあえず、この世界が何処の世界か調べないとな……ん?」

 

 

なのは達からの視線を無視して零は他に手掛かりはないかとポケットの中を漁っていると、ポケットの中に何があるのに気づきそれを取り出す。取り出したそれは小さな手帳らしく、零は中を開いてそれを調べ、なのは達もそれが気になったのか零を睨むのを止め手帳を覗き込む。

 

 

ギンガ「…私立光坂高等学校?」

 

 

ティアナ「…もしかして、そこに行くことが零さん達のこの世界での役割?」

 

 

零「かもしれないな…とにかく、この光坂高校とやらに行ってみるか。そうすればこの世界の事も詳しく分かるかもしれないからな」

 

 

フェイト「そうだね。それじゃあ早速…「待って!私も一緒に行く!」…え?」

 

 

早速光坂高校に向かおうとフェイトが切り出した瞬間、フェイトの声を遮り写真館の中から一人の少女が勢いよく飛び出してきた。その少女とは…

 

 

零「お…お前…?!」

 

 

なのは「ヴィ…ヴィヴィオ?!」

 

 

そう、写真館から出て来た人物とは写真館で留守番をしていた筈のヴィヴィオだったのだ。だが、その容姿は年端もいかない子供の姿ではなく、髪型はなのはのようなサイドポニーにし、身体は何故か十七~十八ほどの大人の女性の姿…聖王モードとなっていたのだ。しかも、服装はフェイトとギンガと同じ光坂高校の制服姿となっている。

 

 

フェイト「ど、どうしたのヴィヴィオ?!その姿は一体?!」

 

 

ヴィヴィオ「えへへへ~♪びっくりしたでしょ?何時も留守番ばっかりで嫌だったから、これなら一緒に行っても大丈夫かな~って思って♪」

 

 

一同が驚く中、ヴィヴィオはそう言ってその場で踊るように一回転する。その際に胸部の膨らみが揺れ優矢は慌てて視線を外し明後日の方を見た。

 

 

零「だ、大丈夫かな~って…というかその姿はどうしたんだ?!一体どうやって…?!」

 

 

ヴィヴィオ「えっ?これ?え~っとね……実は、これを使って大人になりました~♪」

 

 

なのは「?それって……Kナンバー?」

 

 

そう、ヴィヴィオが懐から取り出した物とは黒い携帯…ナンバーズの変身ツールであるKナンバーだったのだ。何故ヴィヴィオが聖王モードになれたのにKナンバーが関係するのか。イマイチ理解出来ない零達は疑問そうに首を傾げている。そんな時…

 

 

『それについては、私達が説明しよう』

 

 

『ッ?!え?!』

 

 

スバル「け、Kナンバーが…喋ったぁ!?」

 

 

突如Kナンバーから少女のような声が聞こえ、Kナンバーをジッと見つめていた零達は驚き思わず身を引いてしまう。だが、Kナンバーから聞こえてきた少女の声はそんな零達の様子に溜め息を吐いていた。

 

 

『ハァ…何を言ってるんだお前たちは?私だ、チンクだ』

 

 

スバル「…へ?チ、チンク?」

 

 

『勿論、アタシ等も一緒ッスよ♪』

 

 

ティアナ「?!ウェ、ウェンディ?!」

 

 

そう、Kナンバーから聞こえてきた声の正体とはヴィヴィオと共に写真館で留守番をしているチンク、そしてその他の姉妹達だったのだ。何故Kナンバーの中に再びチンク達が?なのは達がその事に戸惑う中、零は落ち着いた様子でKナンバーの中にいるチンク達に語りかける。

 

 

零「どういう事だ?何故またお前達がKナンバーに…というか、何故ヴィヴィオはこの姿になってる?」

 

 

チンク『うむ。実は…このKナンバーにはナンバーズに変身する機能以外に色々な機能があってな。ヴィヴィオはその中にある機能の一つ、聖王モードへのプロセス機能を使ってこの姿になったんだ』

 

 

なのは「聖王モードへの…プロセス機能?」

 

 

セイン『そ、簡単に言えばヴィヴィオを子供から大人に早送りするみたいな機能って事。でも、ヴィヴィオを子供から大人にする為に必要なプロセスのエネルギーまではこの携帯にはなかったんだよねぇ。だから、前にこの機能を見付けた時にもなんも出来なくてほっといたんだけど…』

 

 

ディエチ『私達がこの携帯に入れば、ヴィヴィオの聖王モードを維持する為に必要なエネルギーの代わりになれるかな?て思って実際にやってみたら、すんなりと出来たんだ』

 

 

優矢「そ、そんな事が出来んのかよ?!」

 

 

零「まあ…アイツ等ならそういうことも出来そうだな…というかあの馬鹿野郎、なんて機能まで付けてんだ…�」

 

 

ナンバーズ達からの説明を聞き、なのは達は信じられないといった表情でヴィヴィオを見つめ、零は脳裏にスカリエッティの姿を思い浮かべて青筋を浮かべていた。するとヴィヴィオはそんな零に近づき、零の右腕に突然絡み付いてきた。

 

 

ヴィヴィオ「ほらパパ!早くその学校に行ってみようよ♪」

 

 

零「は?ちょ、ヴィヴィオッ!?�」

 

 

フェイト「え、えぇッ!?ま、待ってよ二人共~!�」

 

 

ギンガ「お、置いていかないで下さいよ~!�」

 

 

ヴィヴィオに引っ張られる形で零達はこの世界のことを調べる為に光坂高校へと向かっていき、写真館の前に残されたなのは達はそんな零達の後ろ姿を呆然と見送ったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから更に十分後。光坂高校に着いた零達は辺りを見回しながら校舎へと向かっていた。辺りには零達のように学校に登校してくる生徒達や、朝練で校内を走り回る生徒達など姿がちらほらと映り、如何にも普通の学園だと認識させられる気分となっていた。

 

 

零「ほぉ…なんか懐かしいなぁ…こういうの」

 

 

フェイト「うん、中学の頃はよくなのはとはやての四人で学校に行って、アリサとすずかと一緒に勉強をしたりしたよね…」

 

 

自分達と同じく登校して来る生徒達の中を歩きながら昔のことを思い出して微笑する零とフェイト。そんな時…

 

 

 

「本当なんですよ!昨日の夜襲われたんです!あの化け物、オルフェノクに!」

 

 

「そうですか…分かりました。その件についてはこちらの方で何とかしてみます。夜の巡回の方は別の方達にお任せしますので、貴方は怪我の治療に専念して下さい。では…」

 

 

 

「おいおい…またかよ…」

 

 

「最近多いよなぁ…オルフェノクの事件。そういえばこの間のニュースでもさぁ…」

 

 

零達が校舎へと向かう途中、一同から離れた場所で腕にギブスを嵌めた男とこの学園の教師らしき男が何かを話し、それを聞いた生徒達も不安げな表情をして何かを話しながら校舎へと向かっていき、それらの会話に出てきたある単語にフェイト達は頭上に疑問符を浮かべていた。

 

 

零「オルフェノク…なるほど。此処はファイズの世界ということか…」

 

 

フェイト「…ねぇ零。オルフェノクって?」

 

 

零「ん?あぁ…確か、死んだ人間が生前より驚異的な力を手に入れた存在…人類の進化形とも呼ばれている怪人達だった筈だ」

 

 

ギンガ「死んだ人間が怪人に…何か不気味ですね…」

 

 

零「まあ、オルフェノクになれるのも一定の確率とも言われてるみたいだからな…それだけ、奴らの持つ力も驚異的みたいだ」

 

 

フェイトとギンガは死んだ人間の蘇った姿、オルフェノクという存在を不気味に感じ、零はライドブッカーから取り出したシルエットだけとなっているファイズのカードを見ながらそう呟いた。

 

 

ヴィヴィオ「ん~…オルフェノクとか良く分からないけど、取り敢えず学校に行ってみようよ♪私、ザンクトヒルデ以外の学校は始めてだから楽しみだな~♪」

 

 

零「……それもそうだな。とにかく今は、この学園の事を調べることが先決だ。先を急ぐか」

 

 

フェイト「そうだね。それじゃあ……えい!」

 

 

零「ん?うおぉっ?!」

 

 

ギンガ「なっ…!」

 

 

零が先を急ごうと歩き出すと、フェイトが突然零の右腕に絡み付いてきた。フェイトの突然の行動に零は驚き、ギンガはそんな光景に言葉を失っている。

 

 

零「…おいフェイト…一体何の真似だ」

 

 

フェイト「フフ♪だって、また零とこうして学校に行けるだなんて思ってなかったんだもん。何か嬉しくて♪」

 

 

零「嬉しいからって何故腕に絡み付く?離せ、周りの生徒が見ているだろう」

 

 

フェイト「気にしない気にしない♪」

 

 

むしろ見せびらかしてしまえ、といった感じでフェイトはより一層と零の腕に絡み付いてくる。何なんだコイツは…と零は内心溜め息を吐きながら呟く。こんな状態でこんな場所を歩くのはゴメンだ。周りの生徒達からもの凄く見られてるし……しかも、何故かギンガからももの凄い歪のオーラを感じる。

 

 

零「気にするだろう普通…いいから離れてくれ。動きずらいし歩きずらい」

 

 

こんな状態でいる時は決まって自分に被害が降り懸かって来る。また前のように肉体的にも精神的にもズタズタにされるのはゴメンだ。だから何とかフェイトを引き離そうと試みる。だが……

 

 

フェイト「……零は……私とくっつくのがそんなに嫌…?」

 

 

零「うっ………」

 

 

うるうると、まるで捨てられた子犬のような瞳でフェイトが見つめてきた。何故そうなるんだ…と零はそんなフェイトから少し目を外しながらそう思う。どうも自分はこういう目で見られるのが苦手だ。何と言うかこう……自分がまるで悪いことをしているような気分にさせられるのだ。こんな目で見られて嫌だと言えるハズもなく……

 

 

零「…………好きにしろ。俺はもう何も言わん…」

 

 

フェイト「うん♪じゃあ好きにするね♪」

 

 

零の言葉にフェイトの気分は一気に上機嫌。零の腕に絡み付きながら鼻歌を歌って校舎へと向かい、零は諦めたかのように深い溜め息を吐いてこれ以上はなにも起こらないようにと心の中で祈る。だが…

 

 

―ムギュッ…―

 

 

零「……は?」

 

 

不意に左腕に柔らかい何かが絡み付いてきた。突然の感覚に戸惑いながらも零はそちらの方に目を向ける。そこには…

 

 

ギンガ「む~……」

 

 

零「………ギンガ?」

 

 

零の腕に絡み付き、何故か頬を膨らまして零を睨んでくるギンガがいた。はて…これは一体どういう事か?イマイチ状況が理解出来ない零は怪訝そうな顔をしてギンガの以外な行動に少し戸惑っていた。

 

 

零「…あの…ギンガ?一体何を……?」

 

 

ギンガ「…零さん…フェイトさんにばかり甘いです…ズルイです…贔屓です…」

 

 

零「いやあの……一体何の話しだかサッパリなんだが……」

 

 

ヴィヴィオ「あぁっ!ギンガお姉ちゃんズルイ!私も一緒にくっつく~!」

 

 

零「…はッ?!ま、待てヴィヴィ…ウグゥッ?!」

 

 

ヴィヴィオの言葉に戸惑いながらも慌てて制止の言葉を放つが、ヴィヴィオはそれよりも早く零の背中にガッシリと引っ付いてきた。

 

 

零「ちょ、重っ?!は、離れろ!余計に動きずらいじゃないか!!」

 

 

ヴィヴィオ「わ~い♪パパの背中大きい~♪」

 

 

ギンガ「零さんの腕…以外と筋肉質でガッチリとしてるんですね~」

 

 

零「話聞いてねぇ!?」

 

 

フェイト「ほらほら、早く行こう?急がないと授業が始まっちゃう」

 

 

零「いやそれよりもコイツ等をどうにか…ってフェイト引っ張るなぁ!!ちょ、取りあえずお前等人の話を聞けぇ!!」

 

 

フェイト「ふふふ♪」

 

 

いくらなんでもこの状態で歩くのだけは嫌だ…というかこのことをなのは辺りに知られたら何をされるのか分かったもんじゃない。何とか離れてくれるようにと説得を試みるが失敗。結局零はこの状態のままフェイトに引っ張れて校舎の中へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「……ちょっと目を離した隙に…またフェイトちゃん達とイチャイチャとぉ~…�」

 

 

優矢「(ひ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!恐えぇ!!なのはさん恐ぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!(泣) )」

 

 

一方校門前。零達が気になってこっそりとついてきたなのはと優矢は物陰に隠れてその様子をしっかりと見ていた。その光景になのはからドス黒いオーラが噴出し、隣にいる優矢はそれにより失神寸前で半泣き。登校してくる生徒や警備員すらもそんな彼女が恐ろしく近づこうとしなかったとか……

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界②

 

数十分後…

 

 

―カシャッ―

 

 

「…よし、いい具合に撮れてるな」

 

 

校舎の中にある中庭では、一人の青髪の青年が即席カメラを使い目の前に立っている少女を撮影していた。そして青年はカメラから出てきた写真を取り出すと、青年が撮影していた少女が青年に駆け寄ってきた。

 

 

 

「岡崎さん、どうでしたか?何処か可笑しなところはありませんでした…?」

 

 

朋也「いいや、上出来だ。ちゃんと撮れてるから心配するな、渚」

 

 

渚「そうですか♪良かったです♪じゃあ、今度は私が岡崎さんを撮りますね」

 

 

朋也「おう、じゃあ任せるよ」

 

 

青髪の青年、岡崎 朋也は自分の持っていたカメラを渚と呼ばれた少女に手渡して渚の前に立ち、渚はそんな岡崎を見て嬉しそうに微笑みながらカメラで撮影しようとする。だが…

 

 

「キャアーー♪ラッキークローバーよーー♪」

 

 

「嘘?!どこに?!」

 

 

『?』

 

 

突然周りにいた生徒達が騒ぎ出して何処へと向かっていき、岡崎と渚はそれが気になりそちらの方を見た。するとそこには、三人の男子生徒と一人の女子生徒が険しい表情で二人の下に近づいてくる姿があり、その四人の周りに生徒達も集まってきていた。

 

 

「おいお前等、一体誰の許可を得て俺達の写真を取ってるんだ?」

 

 

「我々ラッキークローバーはアイドルではない…勝手に写真を取られては気分が悪いんだよ」

 

 

渚「え?い、いえ…私達はそんなこと…�」

 

 

「…あら?良くみたら貴方達、あの潰れ掛けの演劇部の部員じゃない?もしかして…演劇部はもう潰れて写真部にでもなったのかしら?」

 

 

渚「そ、そんな事ありません!このカメラはただの私物です!それに、演劇部は潰れ掛けてなんていません!ちゃんと一つの部活として活動してます…!」

 

 

「ハハハハハ!あんな廃部同然だった部活を再建したところですぐ潰れるだろう?いい加減廃部にでもしてしまえよ、ひ弱な部長さんよぉ?」

 

 

ラッキークローバーと名乗る四人の内三人の生徒達が嘲笑うかのような表情で渚の前に立ち、渚はラッキークローバー達の暴言を聞く度に表情が暗くなっていき、ラッキークローバーの一人がその隙に渚からカメラを取り上げようとする。だが…

 

 

―パシィッ!―

 

 

「ウグッ?!」

 

 

朋也「…………」

 

 

渚「?!岡崎さん…?!」

 

 

渚のカメラを取り上げようとした男子生徒の手を岡崎が横から割り込んで叩いて払い、渚を庇うように立ってラッキークローバー達と対峙した。

 

 

朋也「調子に乗るのもいい加減にしろよ…皆が皆お前達に憧れてると思うな!このカメラは、俺達の大事なものなんだ。そのカメラでお前達なんか撮ったりするかよ!」

 

 

岡崎は渚を守るように構えながらラッキークローバー達を睨みつけて強気で言い放つ。だがラッキークローバー達はそんな岡崎を見て馬鹿にするように笑い、もう一人の男子生徒が岡崎を睨みつけながら近づいてくる。

 

 

「お前みたいな不良が俺達に口答えするんじゃないよ、クズがッ!」

 

 

―ドゴォッ!―

 

 

朋也「ガハァッ!」

 

 

渚「ッ?!岡崎さんッ!」

 

 

岡崎は男子生徒の放った蹴りを受けてその場で崩れ落ち、それを見た渚は慌てて岡崎に駆け寄ろうとするが、他のメンバーにより抑え込まれてしまい男子生徒に無理矢理カメラを奪われてしまう。

 

 

渚「か、返してください!それは…!」

 

 

「口答えした罰だよ。これは没収だ……オラァ!」

 

 

―ブンッ!―

 

 

涙ぐみながら返してと頼み込む渚を他所に男子生徒はカメラを近くの壁に向けて勢いよく投げ付けた。岡崎と渚は何とかカメラを捉えようとするが、他のラッキークローバーに抑え込まれて身動きが出来ず、カメラはそのまま壁に衝突しようとした。その時…

 

 

―…バッ!ガシィッ!―

 

 

「…ッ?!なに?!」

 

 

『……え?』

 

 

カメラが壁に激突する寸前に騒ぎを聞き付けた零が飛び出し、壁に激突しようとしたカメラをキャッチしたのだ。突然乱入してきた零を見てラッキークローバーのリーダーを除く三人は零を睨みつけ、岡崎と渚は唖然とした顔で零を見ていた。

 

 

零「ほう…いいカメラじゃないか。見た目も綺麗で新品同然だし…確かにこんなカメラを乱暴に扱うお前等なんて、写真に収める価値もない。動物園の猿でも撮ってた方がマシだな」

 

 

「な、なんだと貴様…?!誰に向かってそんな口を聞いてるんだ?!」

 

 

零「知るかそんなの…取りあえず俺が言いたいのは、学園のアイドルだとチヤホヤされてるからといって図に乗るなということだ。お前等よりも凄い奴なんて、そこら中を探せば幾らでも居るんだからな…」

 

 

零は呆れたようにラッキークローバー達を睨みつけながら先程投げられたカメラを渚へと返す。するとその時、校舎側にある渡り廊下から大輝が現れ、険しげな表情で零に近づき腕を引っ張ってきた。

 

 

零「?!お前、海道?!」

 

 

大輝「……零、ちょっと来い」

 

 

零「はっ?いきなりなに言って、おい?!」

 

 

大輝は険しい顔付きのまま零の腕を無理矢理引っ張って何処かへ連れていき、その場に残されたラッキークローバーや岡崎達は呆然とそれを見送ったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

あれから数分後。大輝に無理矢理連れられて零は学園の屋上へと訪れていた。そして大輝は零の腕から手を離し、険しげな表情のまま零を見つめてきた。

 

 

大輝「最初に言った筈だろう。俺の邪魔はするなと…」

 

 

零「ハッ…俺がそんな事を言われて素直に聞くとでも思ったのか?それよりも、何故お前がこの学園にいる?…狙いはファイズか?」

 

 

大輝「ほぉ…察しがいいじゃないか。そう、ファイズは何故かこの学園を守っている。そこから考えられる答えはたった一つ…この中にファイズがいるという事だ。だから俺はファイズを見つけ出す……分かったらさっさとこの世界から去りたまえ」

 

 

少し低めな声でこの世界から去れと警告してくる大輝。しかし、零がそんな事に頷く筈もなく…

 

 

零「断る。お前に譲れないものがあるように、俺にも譲れないものがある。アイツ等の…なのは達の世界を救うという約束がな。だからファイズの正体は…俺の手で暴いてみせる!」

 

 

宣戦布告するように零は目つきを鋭くさせて大輝に指を指しながら告げるが、大輝はそんな零を見てもただ爽やかに微笑むだけであった。そんな時…

 

 

―ガチャッ―

 

 

フェイト「えぇと…あっ、零!やっと見つけた!」

 

 

零「ん?…フェイト?」

 

 

不意に屋上にある扉が開く音が聞こえ、零は大輝から視線を外してそちらの方に振り返る。そこには零を探しに来たフェイト達と先程ラッキークローバーに絡まれていた渚と朋也が小走りで駆け寄って来る姿があった。

 

 

零「アイツ等、確かさっきの?……?海道…?」

 

 

いつの間にか隣にいた筈の大輝の姿を消えてしまっており、それに気付いた零は辺りを見回してその姿を探すが、何処にも大輝の姿は見当たらない。どうやら、フェイト達に気が向いている間に何処かへと消えてしまったようだ。

 

 

零「(アイツいつの間に…というか奴は何者なんだ?ファイズを見つけて一体何を……いや、今はアイツのことより情報を集める方が先だな)」

 

 

消えてしまった大輝のことは一度脳裏から払い、零はフェイト達と合流して渚と岡崎から話を聞こうとその場から歩き出していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

屋上での出来事の後、フェイト達と合流した零は先程のお礼をしたいと言ってきた渚と岡崎に招かれ演劇部の部室へと来ていた。 そして後からやって来た残りの演劇部のメンバーも加え、零達は渚達と話しを始める。

 

 

渚「さっきは助けて頂いて本当にありがとうございました。私は古河 渚、この演劇部の部長です」

 

 

朋也「俺は岡崎 朋也、渚と同じ演劇部だ。よろしくな」

 

 

「あっ、わ、私は藤林 涼と言います。よろしくお願いします…」

 

 

「初めまして、一ノ瀬 ことみです。趣味はバイオリ「いやことみ、そこは名前だけでいいって�」…よろしくお願いしますなの」

 

 

「私は杏、藤林 杏。涼とは双子の姉よ。渚達の事、助けてくれてありがとね」

 

 

零「黒月 零だ。そしてコイツ等は俺の仲間達…ってな感じでよろしく頼む」

 

 

互いに自己紹介を終えた後、零は軽く一息吐き、渚達は先程のラッキークローバー達との件について話しを始めた。

 

 

渚「それであの、一つ質問なんですけど…どうしてさっき私達のことを助けてくれたんです?」

 

 

零「別に…単にあのラッキークローバーとかいう馬鹿共が気に喰わなかっただけだ。で、結果的にアンタ等を助けた形なったってところだな…」

 

 

杏「なぁんだ、話が分かるじゃない♪本当に嫌な奴等でしょ?オルフェノク並に大ッ嫌い」

 

 

朋也「ッ!…………」

 

 

杏が嫌悪そうにそう告げると渚の隣に座っていた岡崎の表情が何処か辛そうなもへと変わってしまう。だが零達はそんな岡崎の様子に気付かず、杏の放った言葉に疑問を持っていた。

 

 

零「随分オルフェノクを嫌ってるみたいだな…?」

 

 

ギンガ「もしかして、オルフェノクに何か恨みでもあるんですか?」

 

 

杏「別にそんなんじゃないわよ。誰だって嫌いでしょ?人間のフリをしてる怪物なんて。近くにいるってだけで最悪よ」

 

 

涼「そうだよね…この頃のニュースでもオルフェノクの事件が頻繁に起こってるって言ってたし…」

 

 

ことみ「オルフェノクは…沢山の人の命をいっぱい奪ってるの…私も嫌いなの…」

 

 

渚「私も杏ちゃん達と同じ意見ですね…最近じゃ小さな子供まで狙われてきてるみたいだし…どうしてあんな酷い事が出来るんでしょうか…」

 

 

朋也「………………」

 

 

渚達はオルフェノクの事を非難するようなことを言い放ち、それを聞いていく内に岡崎の表情が徐々に暗くなり始めていた。だが岡崎はそんな暗い雰囲気を払うように首を振り、若干苦笑しながら渚達に向けて話しを始める。

 

 

朋也「別にそんなの俺らが気にすることないだろ?この学園はファイズが守ってくれてんだからさ」

 

 

杏「ハァ…あんた、そんな馬鹿げた噂信じてるワケ?ファイズなんているワケないじゃない。あんなのただの噂よ、う・わ・さ!」

 

 

渚「そうでしょうか?私はいると思いますよ。きっとファイズは、影でこの学園のことを守ってくれてるんですよ♪」

 

 

涼「うん、何だかかっこいいよね。誰も知らない所で人の為に戦う戦士って感じで♪」

 

 

このみ「きっと、ファイズならオルフェノクをみんなやっつけてくれるの♪」

 

 

杏「…アンタ達ねぇ…�」

 

 

ファイズのことを熱弁する渚達の姿を見て杏は呆れて溜め息を吐き、フェイト達は苦笑し、零も中々ファイズの話しを詳しく聞けずこめかみを抑えて溜め息を吐いていた。すると、零達は机の端に置いてある写真に気付き、それを手に取って写真を眺めた。

 

 

フェイト「コレ…もしかして貴方達が撮った写真?」

 

 

渚「え?あっ、はい。そうですよ」

 

 

零「ほぅ、中々いい写真じゃないか……?ちょっと待て、お前達は確か演劇部なんだろ?なんで演劇部のお前達が写真なんか撮ってるんだ?」

 

 

杏「え?あぁ~、それは別に部活とか関係ないのよ。単に私達が好きでやってるってだけなんだから」

 

 

『……?』

 

 

写真を撮ることは演劇部の部活動とは全く関係ない。その意味が良く理解出来ない零達は不思議そうに首を傾げ、渚達はそんな零達に苦笑しながら語り出した。

 

 

渚「エヘヘ……実は私達、今年でこの学校を卒業するんです。進路もバラバラだから、こうしてみんなと楽しく過ごす日々も、後もうちょっとで終わるんです…」

 

 

杏「だからみんなで決めたのよ。卒業式までに腐る程の思い出を作って、写真も沢山撮って、演劇部だけのアルバムを作ろうってね」

 

 

零「…そういうことだったのか…良い話じゃないか」

 

 

ヴィヴィオ「うん、みんなで一緒に楽しい思い出を分かち合う…なんだか良いな~そういうの♪」

 

 

零達は机の上に置いてあったファイルを開いてそれを眺める。それには演劇部の活動風景や演劇部の部員達が仲良く映し出されている写真が数多く貼り付けられていた。

 

 

零「…どれもいい写真だな。表情がいきいきとしている」

 

 

朋也「そうだろう?…そういえば、アンタも写真を撮ったりするのか?首にカメラを掛けてるみたいだが…」

 

 

零「ん…?あぁ、一応な。このカメラでよく写真とか撮ることが結構ある」

 

 

杏「へぇ~。ねぇねぇ!もし良かったらさ、そのカメラもっと見せてくれない?」

 

 

涼「お、お姉ちゃん!いきなりそんなこと…�」

 

 

零「いや、別にいいぞ。ただ大事に扱ってくれよ?大事な物なんだから…」

 

 

そう言って零は首に掛けてあるカメラを外し、それを杏の手に手渡した。とその時…

 

 

―ガラガラガラッ―

 

 

「失礼する。少し良いだろうか?」

 

 

零「ん……?」

 

 

演劇部の扉が開き、銀色の長髪をした一人の少女が部室の中に入って来た。部室の中に入って来た少女の声を聞き零達はその方に振り返り、岡崎は疑問そうに首を傾げながら口を開いた。

 

 

朋也「どうした智代?何か俺達に用か?」

 

 

智代「あぁ。さっき、あのラッキークローバーとかいう奴等がまた騒ぎを起こしただろう?その時にお前達が奴らに絡まれたと聞いてな…少し気になって様子を見に来たんだ」

 

 

渚「あっ、私達なら大丈夫ですよ。この人達が助けてくれましたから♪」

 

 

智代「?この人達…?」

 

 

渚がそう言うと現れた銀髪の少女…智代は岡崎達の向かい座る零達に目を向ける。すると智代は零と目が合った途端眉を寄せ、ジーーッと観察するかの様に零の顔を見つめてきた。

 

 

零「………なんだよ?」

 

 

智代「…黒い髪に…赤い瞳…まさか、貴方か?あのラッキークローバーと張り合ったという生徒は?」

 

 

零「?あぁ…多分俺のことだと思うが…というかお前は誰だ?」

 

 

智代「あ、これは失礼した。私は坂上智代、この学校の生徒会長をしている。実は…先程ラッキークローバーと会って貴方を呼び出すようにと言われてな…貴方のことも探していたところなんだ」

 

 

朋也「?!アイツ等が…?!」

 

 

ラッキークローバーが零を探していると聞いて朋也は思わず机から立ち上がり、当の本人である零は溜め息を吐きながら口を開く。

 

 

零「なるほどな…さっきの仕返しということか。ちょうどいい、俺も奴らに聞きたい事があったところだ。こちらから出向くとしよう」

 

 

朋也「ッ?!オ、オイ!お前行く気か?!」

 

 

杏「止めときなさいって!アイツ等偉そうではあるけど、実際にアイツ等の実力は化け物並に凄いのよ?!敵いっこないわ!」

 

 

零「無問題だ。アイツ等程度に負ける気なんてこれっぽっちもないさ…で?奴らが呼び出した場所って何処だ?」

 

 

智代「あ…あぁ、確か、テニスコートで待っていると言っていたが…」

 

 

零「テニスコートか…分かった。すまないなわざわざ…皆、行くぞ」

 

 

フェイト「え?ま、待ってよ零!�」

 

 

智代からラッキークローバーの居場所を聞き出した零はフェイト達と共に演劇部を出てテニスコートへと向かい、部室に残された岡崎達は何も言葉が出ず呆然としていた。

 

 

涼「黒月さん達…大丈夫でしょうか…?」

 

 

ことみ「うん、凄く心配なの…」

 

 

渚「ですよね…あ、そういえば智代さん、春原さんを知りませんか?さっき智代さんのところに行くっていったっきり帰ってきてないんですが…」

 

 

智代「ん?あぁ、アイツのことなら心配ない。今頃はゴミの中で気持ち良く眠ってるハズだからな…多分当分は帰ってこれないと思う」

 

 

渚「…ゴミ?」

 

 

朋也「(まあ、確かに当分は帰ってこれないだろうな…二度もダストシュートから落とされた訳だし…)」

 

 

智代が春原という生徒の事を問い掛けてくる渚の問いにそう答えると渚は不思議そうに首を傾げ、岡崎は心底どうでもいいといった表情をしてそう考えていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―オマケ―

 

 

 

フェイト「…ねぇ零。本当に大丈夫なの?」

 

 

零「あぁ、心配するな。奴らに負けるようなヘマはしないから」

 

 

ギンガ「でも、本当に私が零さんのパートナーで良いんでしょうか…�」

 

 

ヴィヴィオ「大丈夫だよ、ギンガお姉ちゃん♪自分に自信を持って!お姉ちゃんならきっとやれるよ!」

 

 

演劇部を出た零達はラッキークローバーが待っているテニスコートに向かう為、校内の中庭を通って歩いていた。因みに今の零の格好は制服姿から黒のジャージ、ギンガは薄紫のジャージへと着替えており、二人の左手には先程テニス部から借りてきたラケットが入ったバッグを持っていた。

 

 

零「(さっきのあのラッキークローバーとか言う奴ら…気に喰わない奴らだが、かなりの手練れだと分かる身のこなしだった…もしかしたらあの中にファイズが……ん?)」

 

 

零は頭の中でラッキークローバーのメンバーの中にファイズがいるのではと予測しながらフェイト達の後ろを歩く。だがその途中、中庭の隅っこの方に何人もの生徒達(主に女子)が集まってきていることに気付き、それを見た零はその場で足を止めた。

 

 

零「(何だあれ…まさか、また何か問題事でも起きたのか?)」

 

 

人だかりが気になった零はその生徒達の奥に何があるのか確かめようと目を細めて人だかりの中を確認しようとする。そこにあったものは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザフィーラ「ワオン!ワオン!」

 

 

「ほらザフィーラ~ご飯ですよ~?」

 

 

ザフィーラ「ワオン!」

 

 

「あ、もうほら、ザフィーラ!ご飯こぼしたら駄目でしょう!」

 

 

ザフィーラ「クゥ~ン…」

 

 

「キャー♪垂れ耳ザフィーラ可愛い~♪」

 

 

「あぁ!ずるい!私だってザフィーラ抱っこしたいのよ?!」

 

 

ザフィーラ「ワオン!ワオン!」

 

 

「え?もっとご飯が欲しいの?それじゃあ…♪」

 

 

「こら!甘やかしたら駄目よ!」

 

 

「え~?だって可愛いから許してあげてもいいでしょう~?」

 

 

「それでもよ!そうやって甘やかしたら癖になっちゃうでしょ?!分かった?!」

 

 

「は~い…」

 

 

ザフィーラ「ワオン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…あれ?零~?どうしたの~?おいて行っちゃうよ~?」

 

 

零「…………あぁ、なんでもない。直ぐに行く…」

 

 

…どうやら幻覚を見ていたようだ。うん、きっと疲れているんだろう。そう思った零は今見た物を全て記憶からリセットし、フェイト達と共にテニスコートへと向かったのだった。

 

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第八章/ファイズ×CLANNADの世界③

 

 

数分後。目的地へと着いた零とギンガは校舎の離れにあるテニスコートに立っていた。勿論その対戦相手はあのラッキークローバーの男達である。

 

 

「ほぉ、我々からの勝負に逃げずに来るとは…」

 

 

「有り難く思えよ?我々がお前達みたいな落ちこぼれに勝負を挑んでやってるんだからなぁ」

 

 

零「…一々面倒くさい奴らだな…始めるならさっさとしてくれないか?こっちはお前等の遊びに付き合ってる暇はないんだよ」

 

 

零はラケットを肩に担ぎながら面倒臭そうに告げる。その物言いが気に入らなかったのか、男子生徒は零の顔面目掛けてボールを思いっ切り打つ。しかし、零はそんなボールを軽く返してラッキークローバー達から一点を奪った。

 

 

「な、なんだと…!?」

 

 

零「フンッ…この程度か?ラッキークローバーというのも案外大したものではないな。この程度の力量であんなに意気がるとは、笑いぐさだ」

 

 

「き、貴様ぁ…手を抜いてやればいい気になって…!最早手加減など無しだ!」

 

 

ラッキークローバーの実力を鼻で笑う零を見て激怒したのか、男子生徒達は先程の非にもならないショットを打ち始める。だが、零とギンガも負けじとそれらを打ち返していく。

 

 

ギンガ「クッ…!凄い力ですね…やっぱり、この中にファイズがいるんでしょうか?」

 

 

零「その可能性は高いな…だが今は、アイツ等を叩き潰す方が先だ」

 

 

ギンガ「……何か零さん、ノリノリじゃないですか?�」

 

 

相手から点を取っていく度に楽しそうに笑う零にギンガは苦笑し、零はこの中にファイズがいるのだと予測しながら男達が放つ並外れたショットを打ち返していく。だが対するラッキークローバー達も…

 

 

「コイツ等の力…やはりファイズか…!」

 

 

と、零達のことをファイズだと思い込み始めていたのだ。その為か、男達はラケットを振るう力に更に力を込め、ボールを打ち込む。するとボールは炎を纏い、そのまま零達に猛スピードで向かってきた。

 

 

ギンガ「ッ!?ボールが…燃えてる!?」

 

 

零「チッ…!下がれギンガ!ハアァッ!」

 

 

零は向かってきたボールが燃えている事に驚いていたギンガを下がらせ、ラケットを全力に振るってボールを受け止めた。そしてそれに少し押されながらも何とか男達の立つコートに向けて押し返し、一点を手に入れ勝利した。

 

 

零「(…今の並外れた力、やはりそうか。コイツ等の誰かがファイズ…!)」

 

 

零はあの人間離れしたショットでこのラッキークローバーの中にファイズがいると核心を得ていた。だが…

 

 

「クッ!とうとう我々の前に姿を現したな…ファイズ!」

 

 

零「…ファイズだと?」

 

 

零達に敗れたラッキークローバーの男達は零をファイズと呼び睨み付けていたのだ。そして…

 

 

「惚けるな!正体を現せ!ウオォォォォォ…!」

 

 

男達は雄叫びを上げると共にその姿を徐々に変えていき、灰色の姿をした怪人…オルフェノクへと変わっていったのだった。

 

 

フェイト「!?姿が変わった…!?」

 

 

ヴィヴィオ「もしかして、あれがオルフェノク!?」

 

 

零「そういう事か…どうりで気に喰わなかった筈だな。行くぞ、ギンガ」

 

 

ギンガ「はい!」

 

 

零とギンガは手に持っていたラケットを投げ捨て、零はポケットからディケイドライバーを腰に装着してディケイドのカードを構え、ギンガは左腕に装着しているKウォッチを操作し画面に浮かび上がったエンブレムをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL REISU!』

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

電子音声が響くと零はディケイドに、ギンガは腰に薄紫色のベルトが現れると共に変身の構えを取り、両側のボタン状の箇所を押すとエンジン音と共に光に包まれ薄紫色の装甲に青い瞳をした仮面ライダーに変わっていった。ギンガの変身したその姿はアギトに酷似しているが装甲などの至る所が響鬼のものに近いものとなっている。そう、これがギンガの変身するアギトタイプのライダー『レイス』である。

 

 

『ッ?!ファイズではない?!』

 

 

ディケイド『残念ながら…お互い検討外れをしてたようだな』

 

 

『チッ…!だがファイズで無かろうと、我々の正体を知った!絶対に生かしては帰さん!』

 

 

レイス『いや…先に正体を明かしたのはそちらの方でしょう…?�』

 

 

それはそうだ。だがそんなレイスの指摘も虚しく、オルフェノク達はディケイド達に向かって駆け出し攻撃を仕掛け、ディケイドとレイスはそれに呆れながらも反撃を開始した。

 

 

ディケイド『フッ!デェアッ!』

 

 

レイス『ヤアァッ!セイッ!』

 

 

ディケイドはオルフェノクの攻撃を弾きながら回し蹴りを放ってオルフェノクを怯ませ、レイスはオルフェノクに素早いラッシュ攻撃を仕掛けてオルフェノクを少しずつ後退させていた。そしてディケイドはオルフェノクを吹き飛ばしてライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出す。

 

 

ディケイド『どうせだ、演劇部の奴らの借りも返させてもらう。変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:BLADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると電子音声が響き、それと同時にディケイドの目の前にカブトムシの紋章が刻まれたオリハルコンエレメントが出現した。そしてディケイドがそれに向かって駆け出し潜り抜けると、ディケイドの姿が前の世界で刹那が変身したのと同じブレイドへと変わったのだった。

 

 

『す、姿が変わった?!』

 

 

『チィ!小賢しい奴め!』

 

 

オルフェノクはディケイドの姿が変わった事に驚いていたが、もう一体の方は構わずDブレイドに向かって攻撃を仕掛け、動揺していたオルフェノクも気を取り直し鞭のような武器を取り出してDブレイドに放った。だがDブレイドはライドブッカーをSモードに切り替えながら冷静にカードを出しディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:METAL!』

 

 

電子音声が響くとDブレイドの身体が鋼ような身体となり、襲い掛かってきた二体の攻撃を弾いてその隙にもう一体のオルフェノクにカウンターを仕掛けて怯ませる。

 

 

『ウグォッ!?』

 

 

Dブレイド『ここから反撃だ』

 

 

オルフェノクが怯んだ隙にDブレイドは再びライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:MACH!』

 

 

電子音声が響くと同時にDブレイドは物凄いスピードで動き出し、目で追えない斬撃を繰り出しオルフェノクを斬り飛ばしていく。そしてレイスも華麗な蹴り技でオルフェノクを蹴り飛ばし、Dブレイドが戦っていたオルフェノクの下へと吹き飛ばした。

 

 

『ガハアァッ!?』

 

 

『グゥッ?!な、なんなんだそのベルトは?!』

 

 

オルフェノク達はふらつきながら立ち上がりDブレイドとレイスの力に恐怖して怯えていた。そしてDブレイドはライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーに投げ入れ、レイスは体制を低くして身構える。

 

 

『FINALATTACKRIDE:B・B・B・BLADE!』

 

 

レイス『ハアァァァァァァ……』

 

 

―ジャギィッ!―

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDブレイドは右足に雷を纏い、レイスは大きく息を吐くと共にレイスの角、クロスホーンが開きレイスの足元にアギトの紋章が現れ、紋章は徐々にレイスの右足へと吸収されていく。そして二人は同時に上空へと跳び、オルフェノク達に向けて飛び蹴りを放った。

 

 

Dブレイド『デアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

レイス『ハアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グ、ヌアァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

Dブレイドとレイスのライダーキックがオルフェノク達に炸裂し、オルフェノク達は断末魔と共に吹き飛びながら青い炎を噴き出して爆発していった。そしてそれを確認したDブレイドもディケイドへと戻り、両手を払いながら一息吐く。その陰では……

 

 

「…見つけたぞディケイド…今日こそお前を…!」

 

 

テニスコートのフェンスの奥から零達の旅を妨害していた謎の男が現れ、険しい表情のまま、また何かをしようとディケイドに近づこうとする。だがその時…

 

 

―バッ!―

 

 

「ッ!?」

 

 

不意に男の頭上を何かが飛び越え、その何か…大輝は男の目の前に着地し、爽やかな笑みを浮かべながら男に指鉄砲を向けた。

 

 

大輝「やぁ、鳴滝さんじゃないですか」

 

 

「君は……」

 

 

大輝「…まさかとは思いますけど、貴方も俺の邪魔をするワケじゃないですよね?」

 

 

大輝は先程までの爽やかな笑みを消して低い声で問い掛ける。すると謎の男……"鳴滝"はそんな大輝から何かを感じ取ったのか、少し後退してしまう。そして…

 

 

鳴滝「…君の恐ろしさはよく知っている。今は止めておくよ…」

 

 

鳴滝はディケイドを見ながら悔しげに告げ、歪みの壁を発生させてそれと共に消えていった。そしてその場に残された大輝は再び笑みを浮かべながらディケイド達へと視線を移し、様子を伺っていく。

 

 

ディケイド『さあ、そろそろ吐いてもらおうか?一体この学園に潜り込んで何を……ん?』

 

 

ディケイドが残ったラッキークローバーからこの学園に潜り込む目的を聞き出そうとするが、ディケイド達の前にラッキークローバーのリーダー各が現れ、自身の姿を虎のような姿をしたオルフェノク…タイガーオルフェノクへと変えていき、青い炎を噴き出して倒れているオルフェノク達に向けて触手を伸ばすと、灰と化していたオルフェノク達が更なる力を得て復活していった。

 

 

ディケイド『ッ?!オルフェノクに…命を吹き込んだ?!』

 

 

『…貴様等が何者かは知らないが、我々の目的はファイズだけだ……消えてくれないか?』

 

 

タイガーオルフェノクがそう言うと残りのラッキークローバーもオルフェノクへと姿を変え、タイガーオルフェノク達と肩を並べてディケイド達と対峙する。

 

 

レイス『?!あの人もオルフェノクッ?!』

 

 

ディケイド『チッ…全員がオルフェノクだったワケか…お前等の目的はなんだ?この学園に潜り込んで何をする気だ?』

 

 

『…オルフェノクが人類を支配し、我々だけの楽園を作り上げる事…それが我々の目的だ。ハァッ!』

 

 

タイガーオルフェノクは高らかにそう告げると同時にディケイドとレイスに攻撃を仕掛けていく。不意による攻撃にディケイドとレイスは反応が送れ、タイガーオルフェノクの攻撃を防げず後退させられてしまう。そして…

 

 

『ヌンッ!ウオォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

ディケイド『クッ?!下がれギンガッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディケイド『ウグアァァァァァァァァッ!!』

 

 

レイス『?!零さんッ!?』

 

 

フェイト「零ッ!?」

 

 

ヴィヴィオ「パパッ!?」

 

 

ディケイドはタイガーオルフェノクの放った攻撃からレイスを庇い代わりにそれを受けて吹き飛んでいき、その衝撃で変身が解除されて零に戻ってしまった。それを見たレイス達は慌てて零に駆け寄り、零の身体を起こしていく。

 

 

レイス『零さん!しっかりして下さいッ!零さんッ!』

 

 

フェイト「…ッ?!れ、零!血がっ!」

 

 

零「グッ…お…俺の方はいい…それより、奴等は…?!」

 

 

額から流血しながら零は身体を起こして先程までオルフェノク達がいた場所に目を向けるが、そこには既に誰もいなかった。どうやらレイス達が零に意識が向いている間に姿を消してしまったらしい。

 

 

零「チッ!逃げられたか…まだ遠くには行ってない筈だ!早く後を…!」

 

 

フェイト「駄目ッ!零は今怪我してるんだよ?!今は治療の方が先!保健室に行こう?!」

 

 

零「ッ…こんなのどうってことはない!それより今は奴等を見つけないと、もし今逃がして学園の生徒が襲われてでもしたら…!」

 

 

レイス『そんな怪我で深追いしてどうするんです!?お願いですから言う通りにして下さい!』

 

 

ラッキークローバー達の後を追おうとする零を必死に食い止めようとするフェイト達。その表情から必死さが伝わり、どうしても行かせてはくれないという頑固さが伝わってくる。そんなフェイト達を見て零は少したじろぎ、次第に押され始めてしまう。そして…

 

 

零「……ハァ…分かった…これ以上深追いはしない…保健室に行こう…」

 

 

諦めたかのように溜め息を吐きながら零がそう言うと、フェイト達は安息の溜め息を吐いた。そしてレイスが変身を解除してギンガに戻ると、一同は零の怪我の治療の為に校舎の中へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻、人間体に戻ったラッキークローバーは学園内に戻り、何処かに向かって渡り廊下を歩いていた。その途中、そんな彼等の前に明らかにこの学園の生徒ではない青年…大輝が何かを持ちながら現れた。

 

 

「…貴方、誰?この学園の生徒じゃないわね?」

 

 

大輝「フッ、俺の事はいいだろう?それより…昨日の夜、落とし物を拾ったんだよねぇ」

 

 

大輝はそう言ってラッキークローバーのリーダー各にファイズの落とし物…一枚の写真をちらつかせるように見せる。他のメンバー達がそれを聞いて驚く中、リーダー各の男だけは怪しく微笑みながら大輝に近づいていく。

 

 

「…昨日の夜…つまりそれは、ファイズが落とした物だと……ッ!?」

 

 

男は大輝の手から写真を取り上げようとするが、大輝をそれ避けてリーダー各の男と向き合った。そして、大輝は爽やかな笑みを浮かべながらラッキークローバー達に告げる。

 

 

大輝「その前に一つ条件がある。俺を…ラッキークローバーに入れて欲しい♪」

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

それから数分後。先程の戦闘で怪我を負った零はフェイト達に引っ張られる形で保健室の前に来ていた。

 

 

フェイト「ほら、零。中に入ろう?早く怪我の治療をしないと」

 

 

零「…………出来れば此処には行きたくなかったんだよな………昔の古傷が疼くから………」

 

 

主になのはとかフェイトとかはやてとかその他諸々からの半殺しにより出来た傷がね。アースラや六課でよくお世話になった場所だから、周りから医務室と赤い糸で繋がってるんじゃないかと言われたほどだ。今思い出しても嫌な思い出だよ…ホントに…

 

 

―ガラガラガラッ―

 

 

ギンガ「すみませ~ん、誰かいませんか~?」

 

 

そんな零の心境など他所にフェイト達は保健室の扉を開けて中に入り、零も嫌々ながらも中へと入っていく。すると保健室の中にはデスクに座って何やら雑務をこなしていた先生らしき人物がおり、零達に気付いて振り返った。だが…

 

 

「は~い、どうしました?あっ…先に行っておきますけど、また心の病が~みたいな症状の方ならご遠……慮……」

 

 

と、先生らしき人物は零達の顔を見た途端固まってしまった。だがそれは零達も同じらしく、先生らしき人物の顔を見て石のように固まってしまう。何故ならその先生とは…

 

 

 

シャマル「れ、零君ッ!?それにテスタロッサさんにギンガにヴィヴィオちゃん!?どうして此処に!?」

 

 

零「シャ、シャマルッ!?こんなところで何をやってるんだ!?」

 

 

そう…その先生とは、自分達の世界で逸れた仲間の一人であり、ヴィータと同じヴォルケンリッターの泉の騎士である"シャマル"だったのだ。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

零「――なるほど…つまりお前とザフィーラはあの滅びの現象でこの世界へと飛ばされ、他に行く当てがなかった為にこの学園の先生として住み込みで働かせてもらってた…ってことか」

 

 

シャマル「えぇ。あれ以来デバイスも魔法も使えなくなって、元の世界に帰る方法も分からず仕方なく…ね�」

 

 

ザフィーラ「俺も何故か、あれ以来獣人化が出来なくなってしまってな。周りに怪しまれないようにとシャマルと二人でいる時以外はああやって……な……」

 

 

零「……やはり……あれは現実だったワケか…�」

 

 

ヴィヴィオ「…あれ?」

 

 

あれから時間が経ち、零は傷の治療を受けながらシャマルと先程呼び出したザフィーラからこれまでの経緯を聞いていた。二人が自分達の世界で滅びの現象に巻き込まれ、この世界に飛ばされたこと。魔法を使えなくなった二人がこれからどうしようかと途方に暮れていた時にこの学園の理事長と出会い、保健医の先生としてスカウトされたこと。そしてザフィーラが…この学園の生徒達に大層気に入られ、シャマルの住む場所が決まるまで特別に学園で"飼わせてもらう"事になったことなど……

 

 

零「…ザフィーラ…お前、狼としての誇りは何処に消えた?いくらなんでも、あれは流石に洒落にはならなかったぞ?�」

 

 

ザフィーラ「……………」

 

 

零の言うあれとは、テニスコートに向かう途中に見たあの光景。最初見た時には色んな意味で衝撃を受け、きっとザフィーラに似た犬だろうと思っていたが、やはり自分の仲間を見間違う筈がない。だから敢えて触れないようにいたが…やはりに聞かずにはいられない。零がそう問い掛けると、ザフィーラは零達に背中を見せながら話し始めた。

 

 

ザフィーラ「仕方ないではないか…他の生徒達から"犬"として扱われ…ああするしかなかったのだから……確かに今の俺は犬として振る舞っている…だがそれは…主達に会う為にとっ…主達に再び会う為にという一心の為にっ…俺はずっと恥を忍んでっ…狼としての誇りを内に仕舞い込んで…犬を演じてきたのだ…俺とて…俺とて好きでっ…あんな事をしてたのではないっ……う…うぅっ……」

 

 

零「………………………………えぇと……な、泣くなザフィーラ…お前はよく頑張ったよ、うん…アルフには黙っておくから…そんな気にするな……な?�」

 

 

悲壮感を漂わせながら静かに泣き始めたザフィーラが余りにも気の毒に思い、零はザフィーラの肩を叩きながら慰めていく。そんな光景にシャマルやフェイト達は顔を引き攣らせ、二人から顔を背けていたのだった。

 

 

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界④

 

翌日……

 

 

朋也「おい渚!ちょっと待てって!」

 

 

渚「でも、早くこのカメラを黒月さんに届けないと!きっと黒月さんもカメラが無くなって困ってます!」

 

 

渚と岡崎は古河パンを出てすぐ急いで学園へと向かっていた。その理由は渚の手に握られている零のカメラ。実は昨日、零は杏にカメラを貸したまま演劇部から出ていってカメラを忘れてしまい、渚はこうして零にカメラを返さなければと思い学園に急いでいたのだ。だが…

 

 

―ザッ…―

 

 

渚「え?…ラッキー…クローバー?……ッ!?」

 

 

渚達の目の前にラッキークローバーの一員である女子生徒が現れ、渚達の行く先に立ち塞がったのだ。だが渚達はそれより、女子生徒の足元に転がっている灰と化した人間の死体に驚き、それを見た渚は両手で口を覆い後ろへと下がっていく。だが、そんな渚達の背後からもラッキークローバーの一員である男子生徒が現れ二人に近づいていき、二人を挟み撃ちにしてしまう。そして…

 

 

「…フンッ!」

 

 

―バキィッ!―

 

 

朋也「グァッ!?」

 

 

渚「ッ!?岡崎さんッ!キャッ!?」

 

 

男子生徒はいきなり岡崎を殴り飛ばし、それを見た渚は慌てて岡崎に駆け寄ろうとするが、女子生徒に吹き飛ばされて地面に倒れ込んでしまう。そしてラッキークローバー達は険しい表情をしてゆっくりと渚に近づいていく。

 

 

「答えろ、古河渚…お前がファイズなんだろう?」

 

 

渚「ッ…ファ、ファイズ…?」

 

 

「惚けるつもり?この間の夜、ファイズがこれを落としていったそうよ。これは貴方の写真でしょ?」

 

 

女子生徒はそう言ってポケットから一枚の写真を取り出し渚に見せる。それには渚と朋也の二人が笑い合っている姿が写し出されており、それを見た渚の表情は驚愕の物へと変わっていった。

 

 

渚「ファ、ファイズが私の写真を!?どうして…!?」

 

 

「漸くだ…漸く仲間達の仇が討てるよ…」

 

 

「でもまさか、ファイズが貴方みたいな女だったなんてね…以外だったわ」

 

 

ファイズが自分の写真を持っていたという真実に渚が驚いている中、ラッキークローバーの二人は徐々にその姿を変えていき、男子生徒はセンチピートオルフェノク、女子生徒はロブスターオルフェノクへと姿を変えていった。

 

 

渚「ッ!?そ、そんな…オルフェノク!?」

 

 

突如オルフェノクへと姿を変えた二人を目の前にして渚は恐怖で固まり動けなくなってしまう。オルフェノク達はそんな渚に近づきながらそれぞれの武器を取り出し、渚に襲い掛かろうとしていた。

 

 

朋也「渚ッ…!クッ!」

 

 

渚がオルフェノク達に襲われそうになっている光景を目にして、岡崎は地面に落ちた自身のカバンから鉄製のベルトと携帯を取り出して立ち上がり、ベルトを腰に装着すると携帯を開いてすぐに5の番号を三回とエンターキーを押していく。

 

 

『Standing by…』

 

 

『!?貴様…そのベルトは?!』

 

 

オルフェノク達は岡崎の持つ携帯から聞こえてきた電子音声に気付き、岡崎の腰に巻かれているベルトを見て驚愕していた。そして、岡崎は携帯を閉じると携帯を持った手を頭上に高く突き上げ……

 

 

朋也「変身!」

 

 

『Complete!』

 

 

携帯をベルトのバックル部分にセットし、電子音声と共に岡崎の身体に赤い閃光が浮かび上がり、辺り一面が眩い赤い光に包まれていったのだ。その光の眩しさに耐えれず渚は目を閉じて顔を背け、光が治まると恐る恐る瞳を開けていく。そこには…

 

 

渚「…ッ?!お…岡崎…さん……?」

 

 

渚が目にしたものは…赤いラインの入った黒鉄の鎧に金色の瞳をしたライダー、ファイズへと変身した岡崎の姿だったのだ。突然の事に渚は自身の目を疑い、喉を震わせながら口を開いていく。

 

 

渚「そんな…岡崎さんが…ファイズ?!」

 

 

ファイズ『…ハアァッ!』

 

 

渚がファイズを見て驚いている中、ファイズに変身した岡崎はオルフェノク達に向かって突っ込み、渚からオルフェノク達を引き離して戦闘を開始したのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、光坂高校では…

 

 

零「来てない?!古河と岡崎が?!」

 

 

杏「えぇ…いつもならこの時間に登校してきてるハズなんだけどね…何かあったのかしら…?」

 

 

学園に登校してきた零達は渚達から昨日演劇部に置き忘れたカメラを返してもらおうと演劇部の前に来ていたのだが、杏からまだ渚達が来ていないと聞かされ、零達は教室へと戻る通路を歩きながら難しげな表情をしていた。

 

 

フェイト「ねぇ零…何だか変じゃない?」

 

 

零「あぁ…それになにか…妙な胸騒ぎもするしな…フェイト、俺とギンガとヴィヴィオでアイツ等を探して来る。お前は此処で待機して、アイツ等が来たら俺に連絡してくれ」

 

 

フェイト「あ…うん、分かった。気をつけてね!」

 

 

フェイトを連絡役として学園に残し、零とギンガとヴィヴィオの三人は渚と岡崎を探す為に校舎を出て外にあるバイクの駐車場に停めておいた自分達のバイクがある場所に向かい、零は自分のバイクの後ろにギンガを、ヴィヴィオはKナンバーを操作して目の前に魔法陣を展開させ、魔法陣の中から一台の黒いバイク……ナンバーズのバイクである『マシンカイゼラー』を呼び出しそれに乗り、それぞれバイクを発進させると学園から出て二人を探しに行こうとする。だがその時…

 

 

―ザッ…―

 

 

『おっと…何処に行こうと言うんだ?』

 

 

『ッ?!』

 

 

バイクを走らせていた零達の目の前に昨日のオルフェノク…ドラゴンオルフェノクが現れ、零達の行き先を阻むように立ち塞がった。それを見た零達も思わず自分達のバイクを止め、ドラゴンオルフェノクを睨みつける。

 

 

ギンガ「貴方…まだ私達の邪魔をするつもり?!今私達は先を急いでるの!そこをどいて!」

 

 

『そいつは出来ない相談だな。ファイズはもう見つけた!これ以上お前達に邪魔されるワケには行かないんだよ!』

 

 

零「ファイズを見つけた?……そういう事か。なら、なおさらお前を押し通らないとなぁ!!」

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『なっ?!―ドゴオォッ!―ウグオォォッ!?ま、待てお前等…!』

 

 

ヴィヴィオ「邪魔ッ!」

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『何ッ?!―ドゴオォン!―ヌグオォッ!?』

 

 

零とヴィヴィオはディケイダーとカイゼラーを再び走らせドラゴンオルフェノクに向かって突撃してドラゴンオルフェノクを跳ね飛ばしそのまま渚と岡崎を探しに向かったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

センチピートオルフェノクとロブスターオルフェノクと戦闘を開始したファイズは防戦一方となって苦戦していた。一対二という現状もあるがオルフェノク達とファイズには戦闘能力の差もあり、ファイズは二人の攻撃を受ける度に少しずつ追い詰められていた。

 

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ズバァッ!ドゴォッ!―

 

 

ファイズ『ウグッ!グッ!ハアァッ!』

 

 

渚「岡崎さん……頑張って岡崎さんッ!頑張って!」

 

 

物陰に隠れていた渚もオルフェノク達に追い詰められながら必死に反撃して戦うファイズに向かって精一杯の声援を送る。だが…

 

 

『フッ!ハアァッ!!』

 

 

―ズバアァッ!!―

 

 

ファイズ『うぐあぁ!?』

 

 

―ガシャアンッ!―

 

 

渚「!?岡崎さんっ!」

 

 

ロブスターオルフェノクの放ったレイピアを受けファイズは吹き飛ばされてしまい、その衝撃でファイズのベルト…ファイズギアが外れてしまいファイズは強制的に変身が解除され岡崎に戻ってしまう。そんな中、渚と岡崎を探しにやって来た零達がその騒ぎを聞き付けその場にやって来た。

 

 

ギンガ「…ッ!?零さんッ!あれって!?」

 

 

零「あれは…そうか、アイツがファイズだったのか…!」

 

 

ファイズの正体が岡崎だと知り零達が驚いている中、センチピートオルフェノクは地面に落ちたファイズギアを拾い、それをじっくりと眺めていく。

 

 

『ファイズのベルト…伝説の物だと思っていたが…』

 

 

零「!?マズイ…!そいつを返しやがれっ!」

 

 

センチピートオルフェノクの手に握られるファイズギアを見て、零達はファイズギアを取り返そうとオルフェノク達に向かって走り出した。だが…

 

 

『邪魔をするな!!』

 

 

―ブオォンッ!―

 

 

零「グッ!?チッ!またお前か…!」

 

 

ヴィヴィオ「もう!いい加減しつこいよっ!」

 

 

先程零達によって跳ね飛ばされたドラゴンオルフェノクがその場に現れ、零達を行かせまいと立ち塞がって来た。その間にもロブスターオルフェノクはレイピアの切っ先を岡崎に向けながら止めを刺そうと歩み寄り、零達はドラゴンオルフェノクによって足止めに合い岡崎の救援に行けない。絶体絶命のピンチだと思われた、その時……

 

 

 

 

 

―パチッパチッパチッパチッ…―

 

 

『…ん?』

 

 

何処からか拍手するような音が聞こえ、その場にいた全員がその音が聞こえて来た方に振り返った。するとそこには一人の青年…大輝が嬉しそうに微笑みながら近づいて来ていた。

 

 

零「アイツ…海道?」

 

 

大輝「…おめでとうございます!これで俺も、ラッキークローバーの一員ですね♪」

 

 

『フンッ…そういうことだな』

 

 

大輝が爽やかな笑みを浮かべながらそう言うとセンチピートオルフェノクも鼻で笑いながらそう返す。それを聞いた大輝は嬉しそうに笑みを浮かべて…

 

 

 

大輝「…だけど…ラッキークローバーに、五人も必要ない」

 

 

『ッ!?何ッ…!?』

 

 

大輝は先程までの笑みを消して冷たい表情へと変わり、何処からか銃のような物を取り出した。そして大輝はポケットから一枚のカードを取り出し、それを銃のようなものに装填してスライドさせ銃口を自身の頭上に向ける。そして…

 

 

 

 

大輝「…変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

 

大輝が引き金を引くと電子音声が響き、それと同時に上空に紋章のようなものが出現し大輝の周りにも三つの色のビジョンが現れ大輝を中心に辺りを駆け巡っていく。

 

 

零「ディエンド…だと?!」

 

 

零達が大輝を見て驚く中、辺りを駆け巡っていた三つのビジョンが大輝に重なるとそれはアーマーとなり、最後に大輝の上空に浮かんでいた紋章は複数のプレートのような物へと変化し、それらは全て大輝の仮面に収まっていく。そして全てのプレートが仮面に収まり終えると、大輝のアーマーの色が変わっていった。

シアンと黒を基礎としたライダースーツに顔の仮面部分に収まっている複数のプレート。そしてその右手に独特の形をした銃…そう、その姿とはfirstの世界で滝に襲い掛かって来たあのライダーだったのだ。

 

 

『零、よく見ていたまえ…これが俺の戦い方だ』

 

 

大輝の変身したライダー、『ディエンド』はそう言ってオルフェノク達に向かって走り出し戦闘を開始していった。ディエンドはオルフェノク達の懐に入ると共に素早く動き始め、身軽な動きでオルフェノク達に打撃を打ち込みすぐに素早く動き出す…ヒット&アウェイによる戦法でオルフェノク達を翻弄していく。

 

 

『ウグガアァッ!?』

 

 

ディエンド『フッ…そら、俺からの贈り物だ』

 

 

ディエンドはそう言って腰にあるホルダーを開き、そこから二枚のカードを取り出すと銃型のドライバー、ディエンドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:REY!KAMENRIDE:KABUKI!』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドがオルフェノク達に向けてディエンドライバーの引き金を引くと銃口から撃ち出された弾は先程ディエンドが変身した時に出現した物と同じ複数のビジョンとなり、辺りを駆け巡っていく。そしてそれらのビジョンがそれぞれに重なると一瞬淡く輝き出し、光が止むとディエンドの目の前に二人のライダーが姿を現していた。一人は両腕に何重もの鎖を巻き付けた青い瞳のライダー、もう一人は仮面の右側が緑、左側がオレンジ色という異形の姿をした鬼のようなライダーだった。

 

 

ギンガ「ラ、ライダーを呼び出した?!」

 

 

零「あの力…まさか、昌平と同じ能力か?!」

 

 

ギンガ達がディエンドの呼び出したライダー達を見て驚く中、零はディエンドと同じ力を持った自分の戦友…昌平の変身するディロードのことを思い出しながらディエンドを見ていた。

 

 

『チィッ!裏切り者めっ…こうなったらお前達だけでもぉ!!』

 

 

零「ッ!取りあえずアイツのことは後回しだ!ギンガ、ヴィヴィオ、行くぞ!」

 

 

ギンガ「はい!」

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

零達はドラゴンオルフェノクの攻撃を避け零はディケイドライバーを、ギンガはKウォッチを操作し、ヴィヴィオはKナンバーを操作して腰にベルトを出現させ三人はそれぞれ変身の構えを取った。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOUL REISU!』

 

『Cord…Set Up!』

 

 

電子音声と共に零はディケイド、ギンガはレイス、ヴィヴィオはナンバーズへと変身する。そしてレイスとナンバーズはドラゴンオルフェノクを押さえ込み、ディケイドは物陰に隠れている渚の方に振り返り叫び出す。

 

 

ディケイド『古河!岡崎を連れて逃げろ!急げ!』

 

 

渚「?!は、はい!」

 

 

ディケイドの言葉に頷き、渚は地面に倒れる岡崎の下に駆け寄り、力を振り絞って岡崎の身体を起こし遠くまで避難しようとその場から去っていく。それを確認したディケイドはレイスとナンバーズと共にドラゴンオルフェノクに突っ込み、戦闘を開始していった。

 

 

―ズドドドドドドッ!!―

 

 

『ウガアァァァァッ!!』

 

 

ディエンド『そのベルト…こっちに渡せ』

 

 

『グゥッ?!き、貴様ぁ…!最初からこれが目的で?!』

 

 

ディエンド『フッ…今さら気付いたのか?ハッ!』

 

 

―ズドドドドドドッ!!―

 

 

『ま、待て?!グアァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

ディエンドは自身の呼び出したライダー、『レイ』と『歌舞鬼』にロブスターオルフェノクの相手をさせ、ファイズギアを持つセンチピートオルフェノクに容赦ない銃撃を浴びせて吹っ飛ばした。そしてディエンドは腰にあるホルダーを開き一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

電子音声が響くと、ディエンドはディエンドライバーの銃口をセンチピートオルフェノクに向けて狙いを定める。するとディエンドライバーの銃口の周りに数十枚のオーラカードがゲートを表すかのように出現していく。すると…

 

 

『…ッ?!う、グッ!うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!?』

 

 

ロブスターオルフェノクと戦っていたレイと歌舞鬼が断末魔に似た悲痛な叫びを上げながらそのオーラカードに吸収されカードの一部となっていった。そして…

 

 

ディエンド『クス…じゃあね♪』

 

 

―カチッ…ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

『ヒッ?!ウ、ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!!?』

 

 

ディエンドライバーから放たれた巨大な砲撃がセンチピートオルフェノクに直撃し、センチピートオルフェノクは断末魔を上げながら青いに包まれ消滅していったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

ディエンドがセンチピートオルフェノクを倒し戦場が更に激戦と化していく中、戦場から離れた渚は岡崎の身体を支えながら公園の噴水近くにまで来ていた。

 

 

渚「はぁ……はぁ……だ、大丈夫ですか…岡崎さん…?」

 

 

朋也「ッ…あ、あぁ…悪い渚…」

 

 

息を乱しながらも、必死に岡崎の身体を支えて何処か休めるような場所はないかと辺りを見回す渚。岡崎はそんな渚の様子を見て罪悪感を感じ始め、一人で歩るけると渚に声を掛けようとする。だが…

 

 

「…ファイズ…仲間のオルフェノク達の仇…討たせてもらうぞ」

 

 

『ッ?!』

 

 

突如ラッキークローバーのリーダーである男子生徒が険しい表情をして二人の前に立ちはだかり、そのままタイガーオルフェノクへと姿を変え岡崎を殴り飛ばしてしまう。

 

 

朋也「グアァッ!」

 

 

渚「ッ?!お、岡崎さんッ!」

 

 

岡崎が殴り飛ばされ、それを見た渚は恐怖で固まりその場から一歩も動けなくなってしまう。タイガーオルフェノクはそんな渚へと一歩、また一歩とゆっくりと近づきながら片手を振り上げていく。

 

 

渚「あ…あぁ……」

 

 

『終わりだファイズ…死ねえぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

タイガーオルフェノクは腰を抜かして動けなくなった渚に向けて鋭い爪を振りかざし、渚は涙ぐみながら瞳を強く閉じて顔を背けた。しかし…

 

 

―ドゴォッ!―

 

 

渚「……え?」

 

 

何故かその場に鈍い音が響き、疑問を感じた渚はそれを確かめる為に恐る恐る目を開いていく。すると目の前には、なんとタイガーオルフェノクの振りかざした爪を左腕一つで受け止める岡崎の姿があったのだ。

 

 

渚「お…岡崎さん…?」

 

 

『こ…この力…まさか?!』

 

 

朋也「ぐぅ…うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

渚が岡崎の姿を見て戸惑う中、岡崎はタイガーオルフェノクの爪を受け止めたまま辺りに響き渡る程の叫び声を上げると、岡崎の姿が徐々に変わっていき、狼の姿をした灰色の怪人…そう、オルフェノクへと変わっていったのだ。

 

 

渚「ッ?!…い…いや……嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 

信じられない…信じたくなどない。目の前で起きた出来事を否定するように渚は首を左右に振りながら後退り、渚はオルフェノクへと姿を変えた岡崎を見て涙目になりながら驚愕の叫び声を上げたのだった。

 

 

レイス『…ッ?!零さん見て下さい!あそこ!』

 

 

ディケイド『…ッ?!あれは…オルフェノク?』

 

 

戦闘の最中だったディケイドはレイスが指差した方を見ると、其処にはタイガーオルフェノクと、渚を守りながら戦う狼のような姿をしたオルフェノク…ウルフオルフェノクの姿があった。何故オルフェノク同士が…しかももう一方は渚を守りながら戦っているのか?状況が把握出来ないディケイドがその疑問を考えていると自分の足元に先程消滅したセンチピートオルフェノクが持っていたファイズギアが落ちている事に気付きそれを拾っていく。と、其処へディケイドの後ろからディエンドがゆっくりと近づいてきた。

 

 

ディエンド『やぁ、それをこっちに渡してくれないか、零?』

 

 

ディケイド『……海道か…悪いがそれは出来ないな。お前にコイツは渡せない……』

 

 

ファイズギアを渡せと呼び掛けるディエンドの言葉を拒否し、ディケイドはライドブッカーをガンモードに切り替えてカードを一枚取り出し、それを見たディエンドも同じようにカードを取り出して二人は自身のドライバーへとカードを装填していく。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

電子音声が響くと二人は自分達の武器を互いに向けて引き金を引き銃弾を乱射してぶつかり合った。そんな二人が戦う陰では…

 

 

 

「まさか…転校初日の日にあの二人を見つけるなんて…まあ、どうせこうなるだろうとは思ってましたけど」

 

 

ディケイドとディエンドの戦いを陰で見ていた一人の少女…フェイト達が着ているのと同じ光坂高校の制服を身に纏った少女は溜め息混じりにそう呟いていた。そして…

 

 

『stand by…』

 

 

「まあ、取りあえず私も行っときますか…変身ッ!」

 

 

『GATE OPEN LUNATIC!』

 

 

少女の呟きと共に電子音声が響き、少女の姿が仮面の戦士…そう、仮面ライダーへと変わっていったのだ。そして変身を終えたライダーは手首を軽くスナップした後その場から歩き出し、ディケイド達の戦う戦場へと向かっていった。

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界⑤

 

 

ウルフオルフェノクへと姿を変え、渚を守りながらタイガーオルフェノクと戦う岡崎。タイガーオルフェノクは岡崎、ウルフオルフェノクの拳を弾きながら口を開いた。

 

 

『クッ!貴様、オルフェノクだったのか?!』

 

 

『グゥッ!渚!早く此処から逃げ……ッ?!』

 

 

ウルフオルフェノクは渚の方に振り返り逃げろと呼び掛けるが、渚は怯えた瞳でウルフオルフェノクを見つめていた。

 

 

渚「……嘘……岡崎さんが……オルフェノクだなんて……」

 

 

『……ッ!』

 

 

 

―誰だって嫌いでしょ?人間のフリをしてる怪物なんて。近くにいるってだけで最悪よ―

 

 

―オルフェノクは…沢山の人の命をいっぱい奪ってるの…私も嫌いなの…―

 

 

―最近じゃ小さな子供まで狙われてきてるみたいだし…どうしてあんな酷い事が出来るんでしょうか…―

 

 

 

怯えた瞳で自分を見つめてくる渚を見てウルフオルフェノクは昨日渚達の言っていた言葉を思い出して顔を俯かせてしまい、その隙をタイガーオルフェノクに突かれて吹き飛んでしまう。そしてその端では…

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ディエンド『へぇ、中々やれるようになったじゃないか、零!』

 

 

ディケイド『チィ!(これ以上押し切れない!しかも銃の狙いも俺の急所を確実に捉えてきてる上に連射の速度も速い…射撃の腕は奴の方が上か!)』

 

 

ファイズギアを奪い取ろうとするディエンドの銃撃を同じように銃撃で反撃するディケイド。だがそんな時、先程ディエンドと戦っていたロブスターオルフェノクが突然ディエンドに掴み掛かり動きを封じてきた。

 

 

『貴様!ラッキークローバーに入りたいと言っておきながら!』

 

 

ディエンド『オイオイ…まだ分かってないのか?俺の目的は最初っからあれだけさ。君達なんかに用はないんだよ!』

 

 

―ズガガガガガァンッ!―

 

 

『ウグァッ!?』

 

 

ディエンドは呆れたように言いながらロブスターオルフェノクの拘束を無理矢理払い、至近距離からディエンドライバーでロブスターオルフェノクに連射し吹き飛ばしていった。

 

 

ディケイド『お前、ファイズのベルトをどうするつもりだ?』

 

 

ディエンド『ファイズギア…かつてある企業によって開発された貴重なお宝さ』

 

 

ディケイド『…宝だと?』

 

 

ディエンド『世界には、俺達の想像を越える素晴らしいお宝が眠っている…俺はそれを全て、この手で手に入れたいのさ。さあ…分かったらそれも渡してくれないかな?』

 

 

ディエンドはディケイドに向けて手を差し延べ、ファイズギアを渡せと再度呼び掛けてくる。それを聞いたディケイドは一度溜め息を吐くと…

 

 

ディケイド『くだらない…要は泥棒だろう?ならお前にコイツを渡す理由なんて尚更ない…』

 

 

ディエンド『…ふぅ…そうかい。なら仕方ないね』

 

 

ディケイドの返答にディエンドは溜め息を吐き再びディエンドライバーを構え、ディケイドもライドブッカーGモードを構えて応戦しようとする。だが…

 

 

 

 

 

―カチッ…ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突如二人の間を遮るように何処からか巨大な砲撃が放たれ、二人はそれによって動きが止まってしまう。そして砲撃が止むと、二人の間には地面が削り取られたような巨大な焼け焦げた跡が残っており、二人はそれから視線を外し砲撃が放たれてきた方へと目を向ける。そこには…

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……―

 

 

『そこまでです…二人共、それ以上の戦闘は止めて下さい』

 

 

二人の視線の先…そこにいたのは、銃口から煙を立たせる巨大なライフルを構えた一人のライダーがこちらを見据えて立っていたのだ。それを見たディケイドは驚愕し、ディエンドは目を鋭くさせてそのライダーを睨み付けた。

 

 

ディエンド『ルナティック……"神那 紫"か。まさか、貴方がこの世界に来ていたとは…』

 

 

ルナティック『えぇ、ちょっとこの世界のディケイドに用がありましてね。でもまさか、この世界に来てるディエンドが貴方だったとは…予想外でした』

 

 

ディケイド『か…神那紫?!本当にお前なのか?!というかなんで此処に?!』

 

 

ルナティック『はい、お久しぶりです、零さん。ルーフェイさんのインタビュー以来ですね�』

 

 

突如現れた仮面ライダー…『ルナティック』の登場にディケイドが驚く中、ルナティックはそれに苦笑しながらディケイドにそう答えるとライフルを構え直し、ディエンドを見据える。

 

 

ルナティック『さて、取りあえず此処は引いてくれませんか大輝君?今は貴方に構ってる暇はないので』

 

 

ディエンド『それはこっちの台詞ですよ神那さん…俺も今は貴方に用はない。貴方にはコレの相手でもしててもらおう!』

 

 

ディエンドはそう言って腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出し、それをディエンドライバーへと装填しスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:CANCELA!KAMENRIDE:EXE!』

 

 

電子音声と共にディエンドがディエンドライバーの引き金を引くと辺りに残像が走り、それらがそれぞれ一つに重なると侍のような姿をしたライダーとかの騎士王を思わせるような姿をしたライダー…祐輔が変身する仮面ライダーキャンセラーと稟が変身する仮面ライダーエクスが現れ、それぞれ刀と剣を構えながらルナティックに向かって斬り掛かっていった。

 

 

ディケイド『キャンセラーとエクス?!あのカードまで持っているのか…?!』

 

 

ルナティック『…仕方ありませんね。なら私がお相手しましょう!』

 

 

ルナティックはライフルの照準をキャンセラーとエクスに向けて砲撃を放ち、キャンセラーとエクスは器用に立ち回ってそれを回避するとルナティックに向かって斬り掛かり、ルナティックはライフルでそれを弾きながら距離を取りライフルで再び反撃していく。

 

 

ディエンド『…さぁ、これで邪魔者はいなくなった。君もそれを渡してもらおうか!』

 

 

ディケイド『チィッ!』

 

 

ディエンドはディエンドライバーをディケイドに向けて再び連射し、ディケイドはそれをライドブッカーで防ぐとディエンドに向けてライドブッカーガンモードで反撃していく。

 

 

ナンバーズ『ッ?!パパ!』

 

 

レイス『待っててください!今行きます!』

 

 

ディエンドの銃撃に少しずつ圧され始めているディケイドを見て、ナンバーズとレイスはディケイドを援護しようと駆け出す。だが…

 

 

『ウガアァァァァァァァッ!!』

 

 

ナンバーズ『わあぁっ?!』

 

 

レイス『なっ?!』

 

 

突然二人の横から先程ディケイド達と共に戦っていたドラゴンオルフェノクが腕を振り上げて奇襲を掛け、レイスとナンバーズはそれをギリギリで回避すると、ドラゴンオルフェノクから距離を取って後退する。

 

 

レイス『クッ!邪魔をしないで!』

 

 

ナンバーズ『早くそこを退かないと、痛い目みるよ!』

 

 

『Style Change!Nove!』

 

 

ナンバーズはバックル部分にあるKナンバーを開いて操作すると電子音声が響き、それと共にナンバーズの右腕にノーヴェの固有武装であるガンナックルが装備され、レイスはベルトの両側のボタン状の箇所を同時に押すとベルトの中枢核から剣の柄のような物が出現しレイスはそれを抜くように取り出した。そしてナンバーズは右腕に装備されたガンナックルを、レイスはベルトから取り出した銃剣のような武器…レイスガンブレードを構え、ドラゴンオルフェノクに突っ込んでいった。

 

 

 

ディエンド『フッ!ハアァッ!』

 

 

ディケイド『チィ!クッ!』

 

 

レイスとナンバーズが戦う横ではディエンドがディケイドに格闘戦を持ち込み、激しい攻防戦を繰り広げていた。だが、ディエンドの得意とするヒット&アウェイによる戦法によりディケイドはディエンドの動きを上手く見切れず翻弄されていた。そして…

 

 

ディエンド『フン!ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ディケイド『グッ?!グアァァァァァァァァッ!!!』

 

 

ディエンドはディケイドから距離を離してディエンドライバーで乱射し、それを受けたディケイドは耐え切れずに吹き飛び変身が解除されてしまう。そして…

 

 

『ヌエェェェェェェェアッ!!』

 

 

―ズガアァァァァァアンッ!!―

 

 

『ウグアァァッ!』

 

 

タイガーオルフェノクと戦っていたウルフオルフェノクも零の目の前にまで吹き飛ばされてしまい、人間体の岡崎へと戻ってしまった。

 

 

零「…ッ?!お前、オルフェノクだったのか?!」

 

 

朋也「クッ…グゥッ!」

 

 

ウルフオルフェノクの正体が岡崎だと知り零は驚愕の表情を浮かべるが、岡崎はそれに構わず目の前に落ちているファイズギアを手に取りキーを入力をしていく。すると何処からか無人のバイクが走って現れ、無人のバイク…オートバジンは変形してロボットのような姿をしたバトルモードへと変わると左腕の前輪に仕込んだ銃…バスターホイールでタイガーオルフェノクを銃撃していく。

 

 

『グゥッ?!ウガアァッ?!』

 

 

オートバジンの銃撃を受けてタイガーオルフェノクは吹き飛び、それを確認したオートバジンは一人でに元のバイクの姿…ビークルモードへと戻り、岡崎はすぐさま起き上がってオートバジンへと駆け寄っていく。

 

 

朋也「渚ッ!早くコイツに乗れ!」

 

 

渚「え…?わ…私は……」

 

 

岡崎は渚にオートバジンに乗れと呼び掛けるが、渚は岡崎の正体を知りどうしたらいいのか分からず俯いてしまう。するとそれに痺れを切らした岡崎が渚の手を引いてオートバジンの後ろ側に乗せ、自身もオートバジンに跨がるとアクセルを踏んで何処かへと走り去っていった。

 

 

ディエンド『あっ?!待て!俺のお宝!』

 

 

零「止めろ海道!」

 

 

ファイズギアを持って走り去る岡崎達に向けてディエンドライバーを発砲させようとするディエンドだが、それを零が止めに入る。すると二人の周りをいつの間にかタイガーオルフェノクとラッキークローバー達が囲み、それぞれ自分の武器を構えながら二人にゆっくりと近づいて来ていた。

 

 

ディエンド『……どいつもこいつも……俺の邪魔をするなぁッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『ウグオォッ!?』

 

 

ディエンドはタイガーオルフェノク達に向けてディエンドライバーを乱射し、それを受けたタイガーオルフェノク達は勢い良く吹き飛ばされていった。そしてディエンドは左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出し、それをディエンドライバーへと装填しスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

電子音声が響くとディエンドの姿が周りの風景に溶け込むかのように徐々に消えていき、完全にその姿が消えてしまった。

 

 

零「ッ!消えた……海道の奴、逃げやがったのか…」

 

 

零は消えてしまったディエンドの姿を探すように辺りを見回していき、同時に先程吹き飛ばされたラッキークローバー達の姿がない事に気づき顔をしかめる。

 

 

零「アイツ等もどさくさに紛れて逃げたのか……いやそれより……何故オルフェノクであるアイツがファイズになってたんだ…?」

 

 

「それは多分…彼にも守りたいものがあったからだと思いますよ」

 

 

零「ッ!」

 

 

オルフェノクである岡崎が何故ファイズとなって仲間のオルフェノク達と戦っていたのか…その疑問を考えていた零の背後から少女の声が聞こえ、零はそれが聞こえてきた方に振り返る。すると其処には一人の少女がこちらに向かってゆっくりと歩いて来ていた。

 

 

零「…紫か…それは一体どういう意味だ?」

 

 

紫「言葉の通りですよ。彼は守りたいものを守る為、ファイズとして戦っていた…それだけの理由なんですよ、きっと」

 

 

まるで何かを知っているように話す"神那紫"の言葉に零は疑問そうに首を傾げ、紫はそんな零の様子に若干苦笑していた。そんな時…

 

 

ヴィヴィオ「パパ~!」

 

 

ギンガ「零さん!大丈夫でしたか?!」

 

 

紫と話をしていると変身を解除したヴィヴィオとギンガが零の下へと小走りで集まってきた。

 

 

零「ん?あぁ、何とかな…二人も怪我はないか?」

 

 

ヴィヴィオ「大丈夫大丈夫♪全然大した事ないよ♪」

 

 

ギンガ「…?あの、零さん?そちらの方は?」

 

 

お互いに怪我が無いことに安息する中、ギンガは零の隣に立つ紫の存在に気付いて一体誰なのか問い掛け、それを聞いた紫は一歩前に出るとギンガ達に向けて頭を軽く下げる。

 

 

紫「初めまして、こちらの世界のなのはさんと零さん以外の方は始めてですね…私は神那 紫。3代目深淵の神です」

 

 

ギンガ「?深淵の神って…確か…」

 

 

零「前に話しただろう?時の神と呼ばれる天満 幸助と七柱神のこと。紫はその七柱神の一人だった外史の2代目深淵の神の"エウレッタ・エルドラント"から神権を譲り受け、三代目の深淵の神となったらしい。んで、俺となのはは以前ルーフェイとか言う奴のインタビューを受けた時に紫と出会ったんだ」

 

 

紫「アハハ…あの時は本当に凄かったですよね…�」

 

 

まあ確かに、途中で乱入してきたなのはの砲撃を受けて吐血しまくったし…最後辺りは悲惨な目にあって体中包帯だらけになったし…思い出しただけでもその時の傷が疼くよ…

 

 

零「…まあそんな事は置いといて…何故お前がファイズの世界にいるんだ?しかもそんな制服まで着て…何かあったのか?」

 

 

紫「あぁいえ、そんな大した用事じゃないですよ?ただ皆さんのお手伝いとこの前渡しそびれた物を届けに来ただけですから」

 

 

零「渡しそびれた物…?」

 

 

紫の言う渡し物という言葉に零は不思議そうに聞き返し、紫はそれに頷いて返すとポケットから一枚のカードを取り出し零に見せる。紫の取り出したカードとは…『KAMENRIDE:LUNATIC』と書かれたカードであった…

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

一方その頃、ラッキークローバー達から逃れた岡崎は渚を古河パンに送る為オートバジンを走らせていた。しかし…

 

 

渚「……岡崎さん…止めて下さい……」

 

 

朋也「え…?なぎ……」

 

 

渚「お願い……します……止めて下さいっ……」

 

 

震えた口調で此処で止めて欲しいと言い出した渚。岡崎はそれに戸惑いながらも仕方なくオートバジンを止め、渚はオートバジンから下りると近くのフェイスに力無く寄り掛かった。

 

 

朋也「…な、渚?大丈…」

 

 

渚「ッ?!嫌っ!」

 

 

朋也「ッ!?」

 

 

フェイスに寄り掛かる渚を心配して近づく岡崎だが、渚は怯えた様子でそれを強く拒絶してしまい、それを見た岡崎はショックを受けて渚から数歩後ずさってしまう。渚はそんな岡崎の様子を見て自分が言ってはいけない事を口にした事に気付き、身体を震わせながらもなんとか謝ろうとする。

 

 

渚「……ごめん…なさい…ごめんなさい…岡崎さんっ……」

 

 

だが渚はどうやって謝ればいいのか分からず泣きながら岡崎に謝罪し、そんな渚の姿が逆に岡崎の胸を締め付けていた。

 

 

朋也「………仕方ないさ。俺……オルフェノクだからさ……当然だ……」

 

 

渚「っ……何時からっ……何時からっ……オルフェノクだったんですかっ…?」

 

 

朋也「…お前達と出会う前…学園に入る前から…」

 

 

渚「……どうして……どうして何も言ってくれなかったんですか!?どうして!」

 

 

あらゆる事が一度に起きてしまい、更には今まで自分と一緒に居てくれた岡崎が怪物というショックのせいか渚は混乱して涙でぐちゃぐちゃになり、それでも大声を上げて岡崎にそう問い掛ける。岡崎はそんな渚から背中を向けて弱々しい声で答えた。

 

 

朋也「……学園に居たかったんだ……どうしても……ごめんな……渚………」

 

 

渚「ひぐっ…うぐっ…岡崎…さんっ……」

 

 

渚は泣き崩れるようにその場に座り込み、岡崎は今にも泣き出してしまいそうな顔を浮かべてオートバジンに乗り、渚を残して何処かへと走り去ってしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

渚と別れた後、岡崎は一人茜色に染まった川が流れる橋の上に立っていた。岡崎はそこでファイズギアなどが入ったトランクケースを開き、悲しげな表情をしてそれを見つめている。

 

 

朋也「俺は…オルフェノクなんだ…だから…渚達の側には…もういられない……ならこんな物……もう意味なんてないんだ……」

 

 

トランクケースに仕舞われたファイズギア等を見ながら岡崎は悲しげに呟き、トランクケースを閉じる。そして…

 

 

―…ブンッ!バシャァンッ!―

 

 

岡崎はトランクケースを川に向けて力の限り投げ付け、そのまま何処かへと走り去ってしまった。

 

 

零「……チッ……一々面倒の掛かる奴だ……」

 

 

その様子を陰で見ていた零は舌打ちしながらそう呟き、羽織っていたコートを脱いでディケイダーに掛けると冷たい川の中へと足を踏み入れていった。

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界⑥

 

―光写真館―

 

 

渚「…これ…昨日演劇部に忘れたカメラです…」

 

 

零「あぁ、すまないな。わざわざ届けてもらって」

 

 

渚「あ、いえ…気にしないで下さい…」

 

 

ファイズギアの入ったトランクケースを回収した後、光写真館に戻った零は先程カメラを届けに来た渚を加え、岡崎の捨てたファイズギアを含むトランクケースをテーブルの上に広げ適当な布巾などでそれらを磨いていた。

 

 

優矢「いやぁ、でも勿体ないよねぇ~捨てちゃうなんてさぁ」

 

 

零「ハァ…本当にお気楽だなお前は…で?何でアイツはファイズに変身して、仲間であるオルフェノク達と戦っていたんだ?」

 

 

渚「…分かりません…私にも…分からないんです…」

 

 

岡崎のことを問い掛けると渚は辛そうな顔をして首を左右に振り、なのは達はそんな渚の様子を見てなんと言葉を掛けたらいいのか分からずにいる。すると渚は家から持ってきた分厚いアルバムを開き、そこにある岡崎の写真を眺め始めた。

 

 

ティアナ「この人が、岡崎朋也さんですか?」

 

 

渚「はい…そうです…」

 

 

スバル「へぇ~、良い顔で笑ってるね♪」

 

 

スバルとティアナは渚をなんとか元気付けようとアルバムに貼られている岡崎の写真を見て明るく言うが、逆に渚の表情は更に暗くなってしまう。

 

 

渚「……でも…これも全部……嘘だったんです……」

 

 

ディエチ「?…嘘?」

 

 

渚「…私…何も知りませんでした…岡崎さんがファイズで、オルフェノクだったってことも…岡崎さんは、あの演劇部の再建を一番に頑張ってくれた方なんです…私が何度もくじけそうになった時も…頑張れって、笑って元気付けてくれました…だけど…その笑顔も…この写真の笑顔も…全部嘘だったっ…私、ずっと岡崎さんと一緒にいたのにっ…岡崎さんの本当の顔を知りませんでしたっ…」

 

 

声を震わせ、瞳から大粒の涙を溢れさせながら渚は顔を俯かせてしまう。自分を支えてくれていた岡崎がオルフェノクだった…そんな辛い現実を突き付けられ、きっと渚もショックだったのだろう。そんな渚の姿になのは達はどうすることも出来ず、ただ辛そうに渚を見ているしか出来ないでいた。すると…

 

 

―…カシャッ―

 

 

渚「……え?」

 

 

不意に鳴り響いたカメラのシャッター音。それを耳にした渚は思わず顔を上げ、目の前にはカメラのレンズを渚に向けて写真を撮る零の姿があった。

 

 

零「……本当の顔なんて、誰にも写せやしないだろう…何百枚写真を撮っても、別の顔が写ってしまう。だから同じ顔は二度と撮れない…でもだからこそ、その時を大事だと思えるんだ。その時の一瞬、その人の顔を形にして残す為、俺達は写真を撮り続ける…そうだろう?」

 

 

渚「…岡崎さんの…顔…」

 

 

零の言葉を聞いて渚はアルバムに貼られている岡崎の写真に目を下ろした。渚の顔にはまだ迷いのようなものが見受けられるが、それでも先程のような暗い表情ではなくなっていた。

 

 

零「まぁ、俺からして見ればアイツがオルフェノクだろうと人間だろうと興味ないな。俺はただ…アイツの顔を撮ってみたいってだけなんだし」

 

 

優矢「って、お前この状況でそっち優先かよ?!」

 

 

零「フッ…当然だろ?忘れたか?俺はそういう奴なんだぞ?」

 

 

紫「あはは�零さんって、そういう細かい部分は気にしないんですね…�」

 

 

人間とオルフェノクの境目を興味ないの一言で片付け岡崎の写真を撮る事を優先とする零の発言に優矢は呆れ、紫やなのは達はそんな零に苦笑いを浮かべ、渚は一人何かを決意したような表情でジッと岡崎の写真を見つめていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

翌日…

 

 

学園から離れた場所にある高台。そこで岡崎は一人、淋しげな顔を浮かべながら其処から見える海を眺めていた。自分の正体を知られた以上渚のいる古河パンに帰る事も出来ないし、自分の家に帰る事も出来ない。今でも脳裏に浮かび上がるのは、怯えた瞳で自分を見つめる渚の姿…それを思い出しただけで胸が張り裂けそうになり、岡崎は堪らず顔を俯かせる。そんな時…

 

 

「…やっと見つけた。こんな所に居たのかい?」

 

 

朋也「………?」

 

 

不意に背後から声を掛けられ、岡崎は伏せていた顔を上げてそちらの方に振り返る。すると其処には大輝が何時もの爽やかな笑みを浮かべ岡崎に近づいて来た。

 

 

大輝「えぇっと、君の事はオルフェノク君でいいのかな?」

 

 

朋也「……岡崎朋也だ」

 

 

大輝「フッ…オルフェノクの分際で人間の真似かい?まあいい…それで、ファイズのベルトは何処にあるのかな?」

 

 

朋也「…知るかよ、あんなもの。もうこれ以上…俺に関わるな」

 

 

岡崎は鋭い視線で大輝を睨みながらそう告げると大輝を無視してその場から去ろうとする。だが…

 

 

大輝「悪魔で口を割らない…か。なら、ベルトをしたい気分にさせてあげるよ!」

 

 

大輝は何処からかディエンドライバーを取り出し岡崎に向けていきなり発砲し出した。だが岡崎はそれにいち早く反応してウルフオルフェノクへと変わり、ディエンドライバーから放たれた銃弾を弾いた。

 

 

大輝「違う違う!そんな姿じゃないんだよ!ファイズのベルトを…てうおっ?!」

 

 

ファイズになろうとしないウルフオルフェノクを見て大輝はファイズに変身するよう呼び掛けるが、ウルフオルフェノクはそれに構わず大輝に襲い掛かり、大輝はそれを避けながら少しずつ後退していく。

 

 

大輝「図に乗るなよ、たかがオルフェノクごときが、俺に勝てると思うなッ!」

 

 

―ドゴォッ!ズガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『ウアァッ!?』

 

 

大輝はウルフオルフェノクに蹴りを入れて怯ませ、その隙にウルフオルフェノクにディエンドライバーから連射を放ちウルフオルフェノクを吹き飛ばし高台から落とした。そして大輝もウルフオルフェノクを追い掛けて高台から飛び降りるとウルフオルフェノクは身体をゆっくりと起こしながら先程の問いに答えた。

 

 

『ハァ…ハァ…ベルトなら…昨日川に捨てた…』

 

 

大輝「捨てただって…?嘘をつくな!あれだけのお宝を…!」

 

 

「いいや…そいつの言ってる事は本当だ」

 

 

ファイズのベルトを出させようと大輝がウルフオルフェノクにディエンドライバーを突き付けるとその場に第三者の声が響き、その方から零とフェイトがファイズギア等の入ったトランクケースを担ぎながらその場に現れ、同時にウルフオルフェノクも岡崎へと戻っていった。

 

 

大輝「…何しに来た?まさかとは思うが、ファイズギアをそいつに返す気か?」

 

 

零「いいや…そいつはコレを捨てたんだ。それをわざわざ届ける程俺もお人よしじゃない。俺がここに来たのは…そいつの顔を撮りに来たってだけだ」

 

 

零はそう言って担いでいたトランクケースを見せ付けるように大輝の前に出し、大輝はそれを見て不愉快そうに顔をしかめる。

 

 

零「…それに、こいつにはこんなガラクタより、もっと大切なものがある。ファイズギアなんか到底足元に及ばない、ずっと大切な物が…それだけは捨てれないハズだ。そうだろう?」

 

 

朋也「ッ?!…………」

 

 

零は大輝から視線を外して岡崎にそう問い掛けると、岡崎はすこし驚きながらも徐々に真剣な顔つきへと変わり始める。

 

 

大輝「ファイズギアより価値があるもの?そんな物はない!出鱈目なことを言うな!」

 

 

フェイト「…大輝…貴方は可哀相だね…」

 

 

大輝「ッ?!可哀相…だと?俺が?」

 

 

フェイト「だって…そうでしょう…?貴方には仲間と呼べる存在も、頼れる存在もいない…だから零の言ってる言葉の意味も理解出来てないし理解しようともしない…可哀相だよ…」

 

 

大輝「クッ…ふざけるな!そんな哀みなんていらない!俺が欲しいのはファイズギアだけ…それをこっちに寄越せ!」

 

 

大輝はフェイトの言葉に怒り、ファイズギアを渡せと零とフェイトに向けてディエンドライバーを突き付ける。それを見た二人も大輝に対抗しようとバックルとライドブッカー、Kウォッチを懐から取り出すが…

 

 

―ドシュゥンッ!ドシュゥンッ!ドシュゥンッ!―

 

 

零「グッ?!」

 

 

フェイト「アゥッ?!」

 

 

大輝は零とフェイトを直接狙わず、ディエンドライバーを使って二人の持つライドブッカーとKウォッチを撃ち、宙に飛んだそれらをキャッチした。

 

 

大輝「大したお宝じゃないな…いや、こっちの腕時計はそれなりに価値があるか?」

 

 

零「チッ…!」

 

 

ライドブッカーとKウォッチを奪われた二人は変身が出来なくなってしまい、零はつまらなさそうにライドブッカーとKウォッチを眺める大輝を睨み付け思わず舌打ちする。だがその時…

 

 

―ブオォォォォォンッ…―

 

 

フェイト「?!えっ?!」

 

 

零「なっ…?!」

 

 

突如零達と大輝の間に歪みの壁が発生し、零とフェイトの二人はその歪みの中に閉じ込められてしまった。そしてその歪みの奥から一人の男…鳴滝が嬉しそうに笑いながら大輝の前に姿を現した。

 

 

大輝「鳴滝か…」

 

 

鳴滝「有り難うディエンド…君のお陰でディケイドを始末出来るよ…」

 

 

零『なっ?!ちょっと待て!おい!』

 

 

突如現れた鳴滝の言葉を聞いて零は歪みの壁を強く殴るがビクともせず、歪みの壁はそのまま鳴滝と零達を包み込んで完全に何処かへと消えていってしまった。

 

 

大輝「ッ?!しまった!ファイズのベルトが…!」

 

 

大輝は零達と一緒にファイズギアの入ったトランクケースまで消えてしまったことに気付き、焦った表情をして辺りを見回していく。とその時…

 

 

なのは「えぇっと…あっ、大輝君!」

 

 

不意に高台の方からなのはと紫が現れ、何やら焦った様子で大輝の下に駆け寄ってきた。突然現れたなのは達に驚きながらも大輝はすぐに平静を保ち、零達から奪ったライドブッカーとKウォッチを背中に隠した。

 

 

大輝「どうしたんですか?そんな切羽詰まって…何かありました?」

 

 

なのは「あ、うん…実は零君達を探してるんだけど、大輝君は二人を見なかった?」

 

 

零達の居場所を知らないかと聞いてくるなのはの問いに大輝は思考を巡らせ、ここは話をややこしくしない方がいいだろうとその問いに答える。

 

 

大輝「いいえ、俺は見てないですけどね…零達に何か大事な用でも?」

 

 

なのは「うん…実は写真館に泊まってた渚ちゃんが朝からいなくて、皆で手分けして色々な場所を探してるんだけど…まだ見付かってないから零君達にも知らせた方がいいかなって思って…�」

 

 

朋也「ッ?!渚が…?!…まさか!」

 

 

なのはから渚がいなくなったと聞き、岡崎は何か思い出したように立ち上がって何処かへと走り去っていった。

 

 

なのは「ちょっ、朋也君?!と、とにかく!二人を見掛けたらそう伝えておいてね!それじゃあ!�」

 

 

なのはは零とフェイトへの伝言を大輝に頼むと慌てて岡崎の後を追い掛けその場には大輝と、何故かなのはの後を追い掛けずその場に留まった紫が残された。

 

 

大輝「………まだなにか、俺に用でも?」

 

 

紫「私が何も知らないとでも思ったんですか?貴方がこれから何をする気なのかを……貴方と一緒なのは少々不本意ですが、私もあの二人を助けに行きます」

 

 

大輝「……何かもお見通しってワケですか…そんなんだから、俺は貴方達七柱神が嫌いなんですよ」

 

 

大輝は紫の言葉に溜め息を吐き、二人はある場所へと向かってその場から歩き出していったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、写真館を飛び出した渚は登校中の生徒達に紛れ、昨日ラッキークローバーに襲われた通学路に来ていた。理由は昨日、ラッキークローバーに襲われた時に自分のカメラを落としてしまいそれを探す為である。すると渚は近くの林の影に隠れているカメラを見付け、それに手を伸ばしてカメラを拾った。

 

 

渚「…よかったぁ…」

 

 

見付けたカメラを大事そうに胸に抱き、渚は安息の溜め息を吐いた。そして渚はカメラに付いた汚れを払うと岡崎が学校に来てないか確かめる為に学校へ急ごうとする。だが…

 

 

「…昨日の今日で学校に来るなんて、良い度胸ねぇ…古河渚?」

 

 

渚「ッ?!ラ、ラッキー…クローバー…」

 

 

渚の目の前からラッキークローバーの一員である女子生徒が怪しく微笑みながら近付いて来ていた。それを見た渚は胸に抱いてるカメラをギュッと抱きしめながら後退り、恐怖で震えながらも女子生徒に向けて口を開いた。

 

 

渚「…い…いいんですか?!私、此処で貴方達の正体を叫びますよ?!」

 

 

「私達の正体?…クス、どうぞご自由に?」

 

 

渚「……へ?」

 

 

渚はラッキークローバー達の正体をばらすと脅しを掛けるが、女子生徒は特に気にした様子を見せず、渚は予想とは違う反応に驚愕し戸惑ってしまう。その時だった…

 

 

『キャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

渚「ッ?!えっ?!」

 

 

突然学園の方から生徒達の悲痛な悲鳴が響き、状況が全く理解出来ない渚は更に驚き混乱してしまう。その学園内では…

 

 

「い、嫌アァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

「だ、誰か助けッ…!!」

 

 

『ククク…ウラァッ!』

 

 

―ドシュゥッ!ズサァァァァァァァァァァ…―

 

 

春原「ヒィッ!?す、すすすすんませぇん!!ごめんなさい!!色々とアンタ等の悪口いったの謝りますからどうか許し―バキィッ!―ベホォッ!?ってぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ殴られたぁぁぁぁぁ!!?灰になって死ぬぅぅぅぅぅ!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

学園内では残りラッキークローバーの一員である二人の男子生徒達が必死に逃げ惑う生徒達に殺戮の限りを尽くしていた。辺り一面には灰と化した生徒達と死体が頃がっており、ドラゴンオルフェノクはそんな死体を踏み付けながら生徒達を次々と襲っていた。…一人は何故か灰にならず生きているが…

 

 

「もうファイズはいない。今まで我々を排除し、追放してきた人間共に…我々の恐ろしさを思い知らせてやる…」

 

 

ラッキークローバー達は逃げ惑う生徒達と虫のように殺して灰へと変えていき、渚の目の前にいた女子生徒もロブスターオルフェノクへと変わり生徒達を襲い始め、それを見た渚は慌ててその場から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

学園がラッキークローバー達に襲われてる頃、鳴滝によって零とフェイトは何処かの海岸へと飛ばされていた。二人の目の前には鳴滝が嬉しそうに怪しげな笑みを浮かべて零達を見つめている。

 

 

鳴滝「漸くこの時が来たな…ディケイド…此処でお前の旅も終わる…」

 

 

零「…鳴滝、か。成る程な…お前の目的が、大体分かってきたぞ…」

 

 

フェイト「何故こんなことをするんですか?!私達が一体何を…?!」

 

 

鳴滝「フェイト・T・ハラオウンか…君には悪いが、ディケイドは此処で死ぬのだよ。私の用意した…この最強のライダー達の手によってね!」

 

 

鳴滝がそう告げると鳴滝の背後に歪みの壁が発生し、そこから龍騎に酷似した黒いライダーとカブトに酷似した黒いライダーが姿を現し二人にゆっくりと近付いて来た。

 

 

フェイト「?!黒い…ライダー?!」

 

 

零「…リュウガにダークカブト…チッ、真一郎の世界以来だな!」

 

 

目の前から近付いて来る二人の黒いライダー『ダークカブト』と『リュウガ』を目にしてフェイトは驚愕し、零は舌打ちした。二人は先程大輝によってライドブッカーとKウォッチを奪われた為、変身が出来なくなっている。だがリュウガとダークカブトはそんな二人の事情を他所に二人に襲い掛かっていったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして場所は戻り、学園内にある広場では今渚と演劇部のメンバーを含む生徒達がラッキークローバー達に囲まれていた。三方向から迫るオルフェノク達のせいで逃げ道が何処にもなく、学園の生徒会長である智代は集団で固まる生徒達を守るように構えながらオルフェノク達を睨みつけた。

 

 

智代「クッ!もうこれ以上生徒には手を出すな!こんな事をして一体何になると言うんだ?!」

 

 

「決まっているだろう?今まで僕達を怪物だと貶してきた人間達への報復さ。運が良ければ僕達のようにオルフェノクとなって蘇る…安心して死んでいくといい」

 

 

ことみ「う…うぅっ…」

 

 

涼「お…お姉ちゃん…」

 

 

杏「だ、大丈夫…アンタ達は私が守るから…!」

 

 

オルフェノク達が近付いて来る度に一カ所に追い詰められていく生徒達は恐怖で震え上がり、ラッキークローバーのリーダーがオルフェノク達に顎で合図を送るとドラゴンオルフェノクとロブスターオルフェノクは生徒達に襲い掛かろうとする。だがその時…

 

 

 

 

「止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

学園の校門側から岡崎が現れ、渚達を襲おうとするオルフェノク達に向かって走って来た。

 

 

渚「お…岡崎さん?!」

 

 

朋也「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 

他の生徒達がいるにも関わらず岡崎は走りながら咆哮を上げてウルフオルフェノクへと姿を変え、ドラゴンオルフェノクに向かって殴り掛かっていった。

 

 

智代「ッ?!お…岡崎…?!」

 

 

涼「そ、そんな……?!」

 

 

ことみ「と…朋也君が…」

 

 

杏「朋也が…オルフェノクッ?!」

 

 

「お、おい!どういうことだよ?!岡崎もオルフェノクッ?!」

 

 

「何なの?!アイツも化け物だったワケッ?!」

 

 

渚「…ッ!」

 

 

岡崎がウルフオルフェノクへと姿を変えた光景を見て渚以外の演劇部のメンバーはショックを受け、生徒達は更に騒ぎ出しその中には岡崎を非難するような声もあった。それを聞いた渚は胸が締め付けられるような感覚を感じ、それと同時に昨日の自分がオルフェノクとなった岡崎を見て怯えていた記憶を思い出し、更に強く胸が締め付けられるのを感じながらウルフオルフェノクの戦う姿を見ていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、光写真館では…

 

 

 

優矢「はぁ…はぁ…駄目だ…何処にもいねぇよ…」

 

 

渚を探しに行っていた優矢が疲れたように息を乱して写真館へと帰って来た。すると其処へ、優矢の帰りを待っていたキバーラが優矢の下へと飛んできた。

 

 

キバーラ「おっかえり優矢~♪」

 

 

優矢「キバーラ…!なのはさん達から何か連絡はないか?」

 

 

キバーラ「ううん、な~んにも無いわよ♪」

 

 

優矢「そっか…なら、俺はもう一度あの人を探しに…―ドガァッ!―ウグゥッ?!」

 

 

優矢とキバーラが話している中、突然何かが背後から優矢に手刀を打ち込み優矢を気絶させてしまった。その何かとは、先程なのはと別れた大輝と紫であった。

 

 

キバーラ「ちょ、な、何なのよ一体?!―ガシィッ!―ムギュッ?!」

 

 

大輝「静かにしてくれないか?余り騒ぎを大きくしたくない」

 

 

紫「貴方の正体はもう知っています。だからあの人の下に案内してくれませんか?…もし断れば…分かってますよね?」

 

 

紫はキバーラを手で掴み、低い声でそう言いながらその手に徐々に力を込めていく。キバーラは紫の手に覆われて上手く喋る事が出来ず、同時に紫から放たれる"何か"に怯え素直に身体を縦に振ったのだった。

 

 

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界⑥

 

 

そしてその頃…

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

フェイト「キャアァッ?!」

 

 

零「グッ?!こっちだフェイト!!」

 

 

海岸では、零とフェイトがリュウガとダークカブトの攻撃を必死にかわしながら逃げ回っていた。別に逃げ回らなくとも、幸助の修業を受けた今の零なら充分にあの二人と渡り合えるが、こちらにはフェイトがいる。いくら零が強くなってるとは言えフェイトにはそれだけの力はないのだ。だから零は戦わず、リュウガ達の攻撃からフェイトを庇いながら必死に逃げ回っているのだが、そんな事は鳴滝にとって零を仕留める最大のチャンスにしか過ぎなかった。

 

 

鳴滝「フフフ…さようならディケイド…最後くらいはせめて、君の大切な彼女と共にあの世へと送ってあげよう…」

 

 

フェイト「れ、零…!」

 

 

零「ハァ…ハァ…クソったれがぁっ…!」

 

 

勝ち誇った笑みを浮かべてリュウガ達を零に向かわせる鳴滝を見て零は思わず舌打ちをする。そして、鳴滝がリュウガ達に目で合図を送るとリュウガ達は零達に向かって襲い掛かり、零は咄嗟にフェイトを抱き寄せ自分を盾にするように背中を向けた。その時…

 

 

 

 

―ブオォォォォォンッ…―

 

 

『…ッ?!』

 

 

突如零達とリュウガ達の間に歪みの壁が出現し、それを見たリュウガとダークカブトは零達への攻撃を止めてしまう。そしてその歪みが徐々に薄れて消えていくと其処には大輝と紫が自分達のドライバーを構えリュウガ達の前に立っていた。

 

 

零「ッ?!海道?!紫?!」

 

 

紫「…行きますよ、大輝君?」

 

 

大輝「俺に指図しないで下さい…」

 

 

予想もしてなかった二人の登場に零とフェイトが驚く中、大輝と紫は互いに呼び掛け合うと自分のドライバーへとカードをセットしながらリュウガ達に向かって突っ込んでいく。

 

 

『KAMENRIDE…』

 

『stand by…』

 

 

『変身ッ!』

 

 

『DI-END!』

 

『GATE OPEN LUNATIC!』

 

 

二つの電子音声が響くと二人はディエンドとルナティックへと変身し、二人はそのままリュウガ達へと攻撃を仕掛けていった。

 

 

鳴滝「ッ!リュウガ!ダークカブト!」

 

 

思いもしなかったディエンドとルナティックの乱入に鳴滝は動揺と焦りを浮かべながらもリュウガ達に攻撃を仕掛ける様指示を送り、リュウガ達はそれを聞いてディエンド達へと攻撃を仕掛ける。

 

 

ディエンド『フッ!ハッ!』

 

 

『ATTACKGATE:SPADA!』

 

 

ルナティック『ハァッ!デェイッ!』

 

 

ディエンドは素早い動きでリュウガへと打撃を打ち込んでいき、ルナティックは両手に召喚した楼観剣と天叢雲剣を巧みに扱いダークカブトへ素早い斬撃を繰り出していく。すると態勢を立て直したリュウガはベルトのカードデッキから一枚のカードを取り出し、左腕に装備されているブラックドラグバイザーにカードをセットする。

 

 

『ADVENT!』

 

 

電子音声が響くとリュウガの上空から龍騎のドラグレッダーに酷似した黒い龍…ドラグブラッカーが現れ、ディエンドとルナティックに向かって突撃してきた。が、ディエンドとルナティックはそれを横へと跳んで回避し、態勢を立て直したディエンドは左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディエンド『フッ…化け物には化け物か』

 

 

そう言ってディエンドは取り出したカードをディエンドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:CLONOS!』

 

 

ディエンド『…ハッ!』

 

 

電子音声が響くと同時にディエンドが引き金を引くと辺りに残像が走り、それらが一つに重なると、それはなんと嘗て時の神であった天満 幸助の変身する仮面ライダークロノスとなり、右手に持つクロノスブレイドを構えながらリュウガへと走り出していった。

 

 

零「?!あれは、幸助のクロノス?!海道の奴…あのカードまで…?!」

 

 

ディエンドの召喚したクロノスを見て零が驚く中、ダークカブトと攻防戦を繰り広げるルナティックは二刀の刀でダークカブトを斬り飛ばし、その間にもう一枚のカードを取り出してバックルへと装填した。

 

 

『ATTACKGATE:BUSTER!』

 

 

電子音声が響くとルナティックの両手に握られた二本の刀が消え、変わりに巨大なライフル…ルナティックライフルがルナティックの手に召喚され、それの銃口をダークカブトへと向けて構える。

 

 

ルナティック『クロックアップを使われたら面倒ですからね…一気に決める!』

 

 

―ドシュゥンッ!ドシュゥンッ!ドシュゥンッ!ズガアァンッ!!―

 

 

ダークカブト『ウグァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

ルナティックライフルから放たれた高出力のエネルギー弾が直撃しダークカブトは溜まらず吹き飛んでいった。そしてディエンドに召喚されたクロノスは上空を飛び舞うドラグブラッカーの突撃を受けてディエンドの目の前にまで吹き飛ばされ、それを見たディエンドは至って冷静に腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへとセットした。

 

 

『FINALFORMRIDE:C・C・C・CLONOS!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

ディエンドはそう言ってディエンドライバーの銃口をクロノスに向け、いきなり発砲してクロノスの身体を撃ち抜いた。だが次の瞬間、身体を撃ち抜かれたクロノスは徐々にその姿を変えていき、以前ディケイドが変身させたのと同じクロノススペリオルへと超絶変形したのであった。

 

 

フェイト「え、えぇっ!?ライダーが…違う姿に?!」

 

 

零「ファイナルフォームライド…やはりアイツも使えたのか…」

 

 

超絶変形したクロノススペリオルを見てフェイトは驚愕し、零は予想通りディエンドもファイナルフォームライドを使える事を知って苦々しい表情をしていた。そしてそれを見たリュウガ達も焦りを感じ始め、それぞれ最後の攻撃の準備へと入っていく。

 

 

『FINAL VENT!』

 

『one!two!three! Rider Kick!』

 

 

それぞれの電子音声が響くとドラグブラッカーがリュウガにとぐろを巻き、その中心でリュウガは黒い炎を纏いながら宙に浮上していく。ダークカブトはベルトのダークカブトゼクターの上部のボタンを順に押した後ゼクターホーンを左へと起こし、再び右へとホーンを倒した後ルナティックに向けて飛び蹴りを放つ。ディエンドとルナティックはそれを見るとそれぞれ一枚ずつカードを取り出して自分達のドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:C・C・C・CLONOS!』

 

『FINAL FINISH LUNATIC RISE UP!』

 

 

それぞれのドライバーから電子音声が響くとディエンドはクロノススペリオルの頭部に乗ってディエンドライバーの照準を炎を纏わせ飛び蹴りを放って来るリュウガに向け、ルナティックもルナティックライフルの照準を同じように飛び蹴りを放って来るダークカブトへと向けるとルナティックライフルの銃口に様々な力を集束させていく。そして…

 

 

ディエンド『ハアァァァァ…エンド・オブ・テラ、ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ルナティック『是空陣・五重…木っ端微塵に消え去れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

ディエンドライバーとクロノススペリオルの口から放たれた巨大な砲撃がリュウガに向かって放たれ、ルナティックはライフルの銃口から五重の力が込められた最大出力の砲撃をダークカブトに向けて撃ち出していった。

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『グ、ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!?』

 

 

ディエンドとルナティックの放った必殺技がリュウガ達に直撃し、リュウガ達は断末魔の悲鳴を上げながら爆発を起こし完全に消滅していったのだった。そしてそれを確認したディエンドとルナティックはクロノススペリオルとルナティックライフルを消して構えを解くと、再びその場に歪みの壁が現れ、ディエンド達と零とフェイトを包み込み、共にその場から消え去っていった。

 

 

鳴滝「…フ…フフフ…フハハハハハハッ!!面白いぞディエンド!深淵の神!貴様等はディケイドと決して相容れぬ!やがて互いに滅ぼし合うだろう!」

 

 

その場に残された鳴滝はディエンド達の消えた場所を見据えながら不気味に高笑い、海岸には鳴滝の笑い声が何処までも響き渡っていた…

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

海岸での戦闘を終えた零達は先程の高台の近くに戻ってきていた。ディエンドとルナティックはいつの間にか変身を解いて大輝と紫に戻っており、大輝は直ぐ様零の手からトランクケースを奪い取り零達にライドブッカーとKウォッチを投げ渡す。

 

 

大輝「代金はそれで構わないだろう?ちゃんと君達を助けてやったんだからね」

 

 

零「……………」

 

 

大輝は何時のもの爽やかな笑みを浮かべてトランクケースを零に見せ付けるが、零とフェイトと紫はそれを無視して何処かへ向かおうと歩き出した。

 

 

大輝「?何処に行く気だ…?」

 

 

零「…言っただろ?そんなガラクタより、もっと大切で価値がある物があると…」

 

 

フェイト「私達はそれを守りに行くの…仲間達と一緒にね」

 

 

零は無愛想に告げて何処かへと歩き出し、フェイトも大輝に向けて微笑みながらそう言って零の後を追い掛けていった。

 

 

大輝「…ファイズギアよりも価値があるものだって?馬鹿な…そんなものがあるワケ…」

 

 

紫「そう言い切るのはまだ早いと思いますよ?彼等が言う…ファイズギアよりも価値のあるお宝。それを確かめてからでも…遅くはないと思いますが?」

 

 

ファイズのベルトより価値のある宝。紫からそう言われて大輝は押し黙り、紫は大輝に向けて薄く微笑んだ後二人の後を追い掛けていき、残された大輝はそれに面白くないといった表情でファイズギア等の入ったトランクケースを見下ろしていた。

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界⑦

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ガギャアァンッ!!―

 

 

『アグゥッ?!ウグアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

一方その頃、学園ではウルフオルフェノクが生徒達を守りながらラッキークローバー達と奮闘していたが、数や戦闘力に差がある上に生徒達を守りながら戦っている為苦戦し、遂にはドラゴンオルフェノクの攻撃を受けて吹き飛んでしまい、岡崎に戻ってしまう。

 

 

渚「ッ?!岡崎さんッ…!―ドンッ!―あッ?!」

 

 

ドラゴンオルフェノクに吹き飛ばされ人間体に戻った岡崎を見て渚は思わず身を乗り出すが、そこで他の生徒にぶつかってしまい手に持つカメラを落としてしまった。そしてドラゴンオルフェノクは吹き飛んだ岡崎から目を離して生徒達の方に向かって歩き出し、その歩く先にある渚が落としたカメラを踏み潰そうとする。

 

 

朋也「ッ…ッ?!止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

―ガシッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

岡崎は傷付いた身体を無理矢理起こしてドラゴンオルフェノクの下に走り出し、カメラを踏み潰そうとするドラゴンオルフェノクの足を力一杯両腕で止めた。

 

 

朋也「グッ!これは…このカメラには…渚達の思い出が詰まってるんだ…!」

 

 

渚「!…岡崎さん…」

 

 

朋也「クッ…俺はずっと…ずっと自分から逃げていた…オルフェノクの自分が嫌で…将来のことも見えない自分が嫌で…怖くて…いつも逃げていた…でも…アイツ等と一緒に居て…アイツ等との時間を一緒に過ごして…こんな俺でも変われるんだって…オルフェノクの俺でも人並みの幸せを手に入れられるんだって…そう思えたんだ…だから…今度は俺が守るんだ!アイツ等の思い出を…アイツ等が…これからも笑っていられるようにってっ…!」

 

 

正体がバレ、オルフェノクだと冷たい目で見られても守りたい物があった。この一年間の彼女達との思い出を守る為にと、彼女達が笑ってこの学園を去れるようにとファイズとして戦う事を決めた。それが…"岡崎朋也"の決めた決意であり…彼の正直な気持ちなのである。

岡崎の思いを知った演劇部のメンバーは先程まで岡崎をオルフェノクだと怖がっていた自分を嫌悪し、渚は一人瞳から涙を流していく。だがドラゴンオルフェノクはそんな岡崎を鼻で笑い岡崎を蹴り飛ばしてしまう。その時…

 

 

―ブオォォォォォォオンッ!―

 

 

朋也「ハァ……ハァ……お、お前等……」

 

 

零「……よぉ。どうやら、吹っ切れたみたいだな」

 

 

校門側の方から零とフェイトと紫と先程合流したヴィヴィオが自分達のバイクに乗って地面に倒れる岡崎の下に駆け付けてきた。すると、ラッキークローバーのリーダーは駆け付けてきた零達に見下すような眼差しを向けて語り出す。

 

 

「裏切り者のオルフェノクを庇うというのか?たかが人間ごときが」

 

 

零「…オルフェノクだの人間だの関係ない。コイツはただ、自分にとって大切な物を守ろうとしただけだ。自分と共に笑い…沢山の思い出を共に作った…仲間を守る為にな…」

 

 

『フッ…そんなちっぽけなものを…』

 

 

零の言葉にロブスターオルフェノクは馬鹿にするように鼻で笑うが、零は鋭い視線を向けてラッキークローバー達に告げる。

 

 

零「ちっぽけなものだから…守らないといけないんだろうッ!」

 

 

紫「そう…人には決して、無くしてはいけないものが沢山ある。なのに貴方達は、それを捨ててただの化け物に堕ちてしまった!そんな貴方達に、彼の思いを笑う資格なんて何処にもない!」

 

 

フェイト「だから、私達も彼と戦う!彼が守るものを奪おうとする貴方達と!」

 

 

ヴィヴィオ「うん…だから朋也さん、行こう?私達も一緒に戦うから!」

 

 

朋也「ッ!…あぁ…!」

 

 

零達の言葉に岡崎は力強く頷いて傷だらけの身体を起こし、ラッキークローバー達と対峙していく。それを見た零はライドブッカーから四枚のカードを取り出すとファイズを含んだ四枚のカードにシルエットだけだった絵柄が浮かび上がっていった。

 

 

「貴様…何者だ?」

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!」

 

 

零はそう言ってディケイドライバーを取り出して自分の腰に巻き、それに続く様に紫とヴィヴィオも自身の腰にベルトを装着し、フェイトも左腕のKウォッチを操作して画面のエンブレムをタッチする。

 

 

『RIDER SOUL BEET!』

 

 

電子音声が響くとフェイトの腰に鉄製のベルトが装着され、それと同時のフェイトの上空から黄色いラインの入った黒いカブトムシが現れ、フェイトの手に握られた。そして…

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Henshin!』

 

『Cord…Set Up!』

 

『GATE OPEN LUNATIC!』

 

 

電子音声が響くと、三人はディケイド、ナンバーズ、ルナティックへと変身し、フェイトは黒いカブトムシのような機械…ビートゼクターを腰のベルトにセットすると重厚な銀色の装甲、マスクドアーマーを纏ったアンダースーツに赤い瞳を輝かせるライダー…カブトタイプのライダーである『ビート』へと変身していったのである。そして岡崎も再びウルフオルフェノクへと姿を変え、オルフェノク達に向かって突っ込んでいった。

 

 

「裏切り者のオルフェノクに人間が数人…たったそれだけの数で、僕達に敵う筈がな「なら、俺もそのパーティーに参加させてもらおうかな?」…ッ?!」

 

 

不意にラッキークローバーのリーダーの言葉を遮るような第三者の声がその場に聞こえ、それが聞こえてきた方から先程零達と別れた大輝がゆっくりとした足取りでこちらに近づいて来ていた。

 

 

ディケイド『…?海道?』

 

 

大輝「…俺の旅の行き先は、俺だけが決める」

 

 

そう言って大輝は持っていたトランクケースを開け、その中からファイズギアを取り出しウルフオルフェノクに投げ渡した。ウルフオルフェノクはファイズギアを受け取ると岡崎に戻ってそれを腰に巻きながら大輝の隣に立ち、大輝も何処からかディエンドライバーとカードを取り出し、カードをディエンドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

朋也「変身ッ!」

 

 

大輝「…変身!」

 

 

『Standing by…Complete!』

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

 

岡崎はファイズフォンに変身コードを入力しバックルにセットするとファイズ、大輝はディエンドライバーの引き金を引くとディエンドに変身し、二人はそのままオルフェノク達へと向かって突っ込んでいった。

 

 

「クッ!ふざけるな人間共ッ!」

 

 

乱入してきたディエンドの登場にラッキークローバーのリーダーの表情は一変し、タイガーオルフェノクへと姿を変えて自身も戦闘に参加していく。

 

 

ディケイド『ッ!どういう風の吹き回しだ!海道!』

 

 

ディエンド『まだ見せてもらってないからな!ファイズギアよりも価値のあるものを!ハァッ!』

 

 

ディケイドとディエンドは互いにオルフェノクと戦いながら会話し、ディケイドはドラゴンオルフェノクをライドブッカーSモードで斬り飛ばし、ディエンドはディエンドライバーでタイガーオルフェノクを乱射し吹っ飛ばしていく。

 

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ガキィンッ!―

 

 

ビート『クッ!グゥッ!』

 

 

『フフフッ、どうしたの?貴方の力はこの程度?!』

 

 

一方、ディケイド達と同じくロブスターオルフェノクと戦闘を開始したビートであるが、ロブスターオルフェノクの繰り出してくるレイピアの嵐に苦戦し、取り出したクナイガンで対抗しようとするがこれも通じず吹き飛ばされてしまう。

 

 

『フフ…これで終わりね』

 

 

ロブスターオルフェノクは勝ち誇ったように微笑み、レイピアの切っ先を地面に倒れるビートに向けながら近づいていく。が…

 

 

ビート『…ハァ…やっぱり、この姿じゃ満足に戦えないね…そろそろ本気を出そうかな』

 

 

『…ッ!なんですって?』

 

 

意味深な言葉を放つビートにロブスターオルフェノクは思わず動き止め、ビートはその間にゆっくりと身体を起こしバックルのビートゼクターのゼクターホーンを少し起こさせる。すると、ビートが身に纏っているマスクドアーマーが少し浮き上がっていき、ビートはビートゼクターのホーンを掴んで小さく呟く。

 

 

ビート『…キャストオフ』

 

 

『Cast Off!』

 

 

―バシュゥゥ…ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!―

 

 

『なっ?!ウアァァッ!?』

 

 

ビートがゼクターホーンを反対側に倒すと電子音声が響き、それと同時にマスクドアーマーが四方へと勢いよく飛び散り、その一部がロブスターオルフェノクに直撃して吹っ飛んでいった。そして装甲が弾け飛んだビートは先程までの重厚な鎧姿とは打って変わってスマートな姿となり、顎部分にある大きめな角がビートの頭部へゆっくり起立していく。

 

 

『Change!Beetle!』

 

 

角がビートの頭部に到達すると共に電子音声が響き、ビートの瞳が一瞬淡く輝いた。黒と黄色のツートンカラーの装甲、赤く輝く瞳にカブトの角とは比べて少し大きいカブトホーン。そう…これがビートのもう一つの姿、マスクドアーマーをパージしたビート・ライダーフォームである。

 

 

『クッ…ッ?!装甲の下に…違う姿?!』

 

 

姿の変わったビートを見てロブスターオルフェノクは驚愕し、ビートはそれを他所にクナイガンのクナイフレームを取り去ってクナイモードに切り替え、ベルトの右腰にあるボタンを叩くように押しながら呟く。

 

 

ビート『クロックアップ…』

 

 

『Clock Up!』

 

 

電子音声が響くとビートを除く全ての物体がスローモーションとなり、クロックアップ空間を自由に動き回れるビートはクナイガンを逆手に構えロブスターオルフェノクに向かって走り出し、攻撃を開始していく。

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!―

 

 

ビート『フッ!ハァッ!』

 

 

クロックアップを使用したビートは目にも止まらぬスピードでロブスターオルフェノクをクナイガンで斬り飛ばし、吹っ飛ばされたロブスターオルフェノクはそのまま地面に落ちようとするが、ビートはその前にクナイガンでロブスターオルフェノクを斬り裂いて吹き飛ばし、それを何度も繰り返し続けていく。そして、ある程度ダメージを与えたと思ったビートはロブスターオルフェノクから背中を向け、ベルトにあるビートゼクターの上部のボタンを順に押していく。

 

 

『one!two!three!』

 

 

フルスロットルボタンを順に押していくとビートゼクターから電子音声が響き、ビートはビートゼクターのホーンを一度左側へと倒した。

 

 

ビート『ライダー…キック!』

 

 

『Rider kick!』

 

 

そう言い放つと共にビートはビートゼクターのホーンを掴んで再び右側へと起こしていき、タキシオン粒子がゼクターから頭部を伝い右足へと集束されていく。そして…

 

 

ビート『…ハアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『Clock Over!』

 

 

『―――…グッ!?ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ビートはエネルギーが集束された右足でロブスターオルフェノクに廻し蹴りを放ち、それと同時にクロックアップの効果が切れ、通常空間に戻ったと共にロブスターオルフェノクはなにが起きたのか分からないまま断末魔を上げて青い炎と共に爆散し、それを確認したビートは天を指し示すようなポーズを取りながら口を開いた。

 

 

ビート『…義母さんは言っていた…女は混ぜた納豆のように粘り強く生きろと。貴女もまた人間として生まれ変わったら、そういう風に生きてみなさい…』

 

 

まるで何処かの天の道を往く男のような言葉を残し、ビートは変身を解除してフェイトに戻るとその場から歩き出していった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、ディケイドとルナティックとナンバーズはコンビネーションを組みながらドラゴンオルフェノクと戦っていた。ドラゴンオルフェノクは三人の連携に成す術なく翻弄され、がむしゃらに両腕を振り回し反撃していく。

 

 

『ウグゥオッ!グッ…ウガアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ディケイド『チッ…ああなると少し厄介だな…此処はあの手で行くか。紫!こっちに来い!』

 

 

ルナティック『ハァッ!…へ?ちょ、一体何を?』

 

 

ディケイドはルナティックの腕を引っ張りながらドラゴンオルフェノクから離れ、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しそれをディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:LU・LU・LU・LUNATIC!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

ルナティック『…え?ま、まさか?!待ってください!まだ心の準備というものが―ドンッ!―ひぅッ?!ひ、んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

ディケイドが何をしようとしてるのか気付いたルナティックはディケイドから離れようとするが、ディケイドは構わずルナティックの背中を開き、ルナティックは少しヤバ気な声を上げながら宙に浮くとルナティックの身体から巨大な装甲が出現し、まるでドラゴンを思わせるかのような姿へと徐々に変化していった。そう、これがルナティックがファイナルフォームライドした姿、ルナティックは『ルナティックフィニッシャー』へと超絶変形したのである。

 

 

ディケイド『うぉッ…これがルナティックのファイナルフォームライドか…何か凄い迫力だな�』

 

 

ルナティック(F)『(れ~い~さ~ん~!�私はさっき待ってって言いましたよねぇ!?�)』

 

 

ディケイド『うっ…いや…だ、だって仕方ないだろう?�今はグズグズしてなんていられないんだから!�使える物はなんでも使わないと……すみません…�』

 

 

ルナティックフィニッシャーから発っせられる怒気にディケイドは冷や汗を流しながらたじろぎ、次第にそれに耐え切れなくなり謝罪の言葉を口にする。ルナティックフィニッシャーは暫くそんなディケイドをジト目で睨みつけると…

 

 

ルナティック(F)『(…まあいいでしょう。確かに今は決戦の最中ですからね……それに仕返しなら後ででも出来ますし……)』

 

 

ディケイド『…え?今何か言ったか?』

 

 

ルナティック(F)『(いえいえ、気にしないで下さい♪それより、早くキメちゃいましょう!)』

 

 

ディケイド『お…おう…?まあいいか…ヴィヴィオ!そろそろ決めるぞ!』

 

 

ナンバーズ『…ッ!うん!分かった!デェイッ!』

 

 

『ヌグオォッ?!』

 

 

ディケイドに呼ばれ、ナンバーズはドラゴンオルフェノクを遠くへと蹴り飛ばすとディケイドの隣に立ち、ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ナンバーズはKナンバーを開いて10の番号を押していく。

 

 

『SAMON!DIECI!…Set Up!』

 

 

電子音声と共にKナンバーを閉じるとナンバーズの隣に人型の残像が出現して徐々に実体化していき、それはBJを身に纏ったディエチとなってナンバーズの隣に現れた。そしてディケイドはライドブッカーをガンモードに切り替えた後取り出したカードをディケイドライバーに装填してスライドし、ナンバーズは再びKナンバーを開いて1010と番号を入力しエンターキーを押した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:LU・LU・LU・LUNATIC!』

 

 

『Final Attack!Dieci!』

 

 

電子音声が響くとディケイドはライドブッカーGモードをドラゴンオルフェノクに向けていくとルナティックフィニッシャーもそれに続くように口にエネルギーを集束させていき、ナンバーズとディエチもヘヴィバレルの銃口にエネルギーを集束させドラゴンオルフェノクに狙いを定める。そして…

 

 

『ハアァァァァ…ゲノム!ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァァァアァァーーーーーッ!!!!』

 

 

『チャージ完了…いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーンッ!!!!―

 

 

『なっ?!グ、ヌガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァッ!!?』

 

 

ディケイドとルナティックフィニッシャーの必殺技、ルナ・ヴァニティーズとナンバーズとディエチの放ったエネルギー砲がドラゴンオルフェノクを包み込み、ドラゴンオルフェノクは成す術なくそれを受け断末魔を上げながら木っ端微塵に爆発していった。

 

 

ディエンド『ハッ!フッ!』

 

 

『グゥッ?!ガアァッ!』

 

 

その端ではディエンドとタイガーオルフェノクが攻防入れ替えで激戦を繰り広げていた。そしてディエンドはタイガーオルフェノクを蹴り飛ばして距離を開き、左腰のカードホルダーからカードを取り出しディエンドライバーへとセットする。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディエンド『こういうのはどうだい?ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『アッ?!ガァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ディエンドの放った射撃を受けタイガーオルフェノクは遠方にまで吹き飛んでいき、それを見たディケイドはファイズの下に駆け出しライドブッカーから一枚のカードを取り出すとそれをディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

ファイズ『…え?ってわあぁ!?』

 

 

ディケイドがファイズの背中に触れると、ファイズの身体のラインが赤く輝き、そのまま宙に浮きながら身体を変化させていき、ファイズは巨大なレーザー砲…『ファイズブラスター』へと超絶変形していった。

 

 

『グウゥッ…舐めるな人間共おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!』

 

 

態勢を立て直したタイガーオルフェノクは分が悪いと焦りを浮かべ、近くにあった灰と化したオルフェノク達を蘇らせてディケイド達に向かって突っ込んでいく。ディケイドはそれを見て一度両手を払うとファイズブラスターを構えてオルフェノク達に一発放ち、オルフェノク達の動きを封じた。それを好機と思ったディエンドは腰のホルダーからカードを取り出そうとするが、ディケイドがそれを止める。

 

 

ディケイド『海道!後は俺達で決める!』

 

 

ディケイドはそう言いながらライドブッカーから再びカードを取り出し、それをディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

電子音声が響くとファイズブラスターの銃口にエネルギーが集束されていき、ディケイドはファイズブラスターの照準をオルフェノク達に定めていく。そして…

 

 

ディケイド『ハアァァァ…ハアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーンッ!!!―

 

 

『グッ?!ヌガアァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ディケイドとファイズの必殺技、DCDF(ディケイドフォトン)が見事に炸裂し、オルフェノク達はファイズブラスターから放たれた砲撃に呑み込まれ、青い炎に包まれて散りその場に巨大なФの紋章が浮かび上がって消えていった。オルフェノク達が消滅したのを確認したディケイドはファイズブラスターをファイズに戻し、ファイズはベルトを外して変身を解除するが、その姿は岡崎ではなくウルフオルフェノクの姿となっていた。

 

 

ディケイド『…岡崎…』

 

 

『………………』

 

 

ウルフオルフェノクはディケイドに背中を向けて歩き出し、地面に落ちていた渚のカメラを拾い渚へと近づいていく。周りの生徒達は脅えて校舎側の方へ逃げていくが、渚と演劇部のメンバーは怖がる様子を見せずにウルフオルフェノクを見つめている。そしてウルフオルフェノクは渚にカメラを手渡すと、何も言わずに振り返りその場から去ろうとする。

 

 

渚「…ッ!待ってください岡崎さん!何処に行くんですか?!」

 

 

『ッ……俺は…』

 

 

渚の言葉にウルフオルフェノクは顔を俯かせ、渚はウルフオルフェノクに駆け寄って恐る恐る手を伸ばし、ウルフオルフェノクの手を優しく握っていく。

 

 

渚「…何処にも行かないで下さい…岡崎さんの居場所は、私達が作ります…一緒に帰りましょう?これからも沢山思い出を作って…皆で胸を張って…一緒に卒業できるようにっ…」

 

 

『ッ?!……渚…』

 

 

ウルフオルフェノクは岡崎に戻って振り返り、渚は瞳に涙を浮かべながら小さく頷いて岡崎の手を握り、それを見ていた演劇部のメンバー達もいつもと変わらぬ笑みを浮かべて二人の下に駆け寄っていった。そして…

 

 

―…カシャッ―

 

 

零「…良い顔で笑うじゃないか…アイツ」

 

 

それを離れた場所で見ていた零は嬉しそうに笑う岡崎の姿を見て、自身も釣られるように微笑みながら岡崎達を写真に収めていた。そして零はフェイト達と共にその場から静かに去ろうとしたが…

 

 

零「……ん?あれは…海道?」

 

 

学園から出ようとした所で大輝が何処かに向かおうと歩いている姿を見つけ、それが気になった零はフェイト達に先に写真館に帰るように伝えて大輝の後を追い掛けていった。

 

 

 



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第八章/ファイズ×CLANNADの世界⑧

 

 

零「ッ…海道の奴…何処に行った…?」

 

 

大輝を追い掛けて来た零はファイズブラスターの砲撃によって破壊された学園の一部に来ていた。零が辺りを見回して大輝の姿を探していると、瓦礫の山の近くでベルトのような物を手に持ち何かをしている大輝の姿を見つけた。

 

 

零「ッ!海道!一体何をしてる?!」

 

 

大輝「…スッゲェ…スッゲェ!宝の山だよ此処!」

 

 

零「…?なんだと?」

 

 

ベルトを手にしながら嬉しそうに笑う大輝の言葉が理解出来ず零は疑問そうに首を傾げ、大輝はベルトを零に見せながら説明し始める。

 

 

大輝「嘗て、オルフェノクと戦う為に作られたベルトだ…その中でもこの帝王のベルト!これに比べたらファイズのベルトなんて!」

 

 

零「お前なぁ……」

 

 

大輝「ファイズのベルトより価値のあるもの…こういう意味だったんだな零♪」

 

 

零「ッ!違う!俺が言いたかったのは…!」

 

 

帝王のベルトを持って子供の様にはしゃぐ大輝に自分が伝えたかったことを伝えようとする零だが、大輝は背後に出現した歪みの壁を通りそれと共に消えていってしまった。

 

 

零「クッ…アイツ…!」

 

 

大輝を逃がしてしまった零は思わず舌打ちし、腑に落ちないような気分になりながらも、取り敢えず写真館に戻る事にしたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

それから数時間後、写真館に戻って来た零は先程撮った写真を現像し終え、それらをテーブルの上に広げて皆に見せていた。

 

 

栄次郎「オォ…零君のこの写真、中々いい感じに撮れてるじゃないかぁ」

 

 

なのは「そうだね…これからも朋也君達は、同じ物を見て行けるのかな?」

 

 

零「さぁな…それはアイツ等が決める事だ。これからの道をどうやって物語っていくのか…それはアイツ等次第なんだし」

 

 

優矢「とか言いながら本当は気になってるくせに~♪ってあ、そうだった…お前に渡してといて欲しい物があるってさっき海道さんと紫さんから預かったもんがあるんだけど?」

 

 

零「あの二人から?…ってか紫の奴、いつの間に帰ったんだ?�」

 

 

どうりで紫の姿がなかった筈だと納得しながら、零は優矢から一枚の紙を受け取りそれに目を通していく。そこに書かれていたのは…

 

 

 

―零へ、次の世界ではせいぜい邪魔だけはしないでくれよ?ナマコも食べれないクセに♪―

 

 

 

零「……海道の野郎ォ…!あからさまに喧嘩売ってるなぁ…�」

 

 

シャマル「ま、まあまあ!零君落ち着いて!�」

 

 

フェイト「そ、そうだよ�ほら、次は紫からの手紙も読まないと�」

 

 

紙に書かれた内容に零は苛立ちを露わにして紙を握り潰し、フェイトは気を取り直そうと今度は紫の書き置きを手に取ってそれを読んでいく。しかし…

 

 

フェイト「えぇっと、なになに?うんうん…………………………………………」

 

 

なのは「……?どうしたのフェイトちゃん?えーと………………………………………………………」

 

 

紫の手紙を目にした瞬間、フェイトやなのは、そしてそれが気になって手紙に目を通した者達はその手紙を読んだ途端イチミリも動かなくなり、何故かプルプルと震え出した。

 

 

零「?どうしたんだ皆…?いきなり震え出して…手紙にはなんて―――」

 

 

―…グシャァッ!―

 

 

零「……え?」

 

 

手紙の内容を聞き出そうと近づいた瞬間、フェイトが突然手に持っていた手紙を握り潰しなのは達は零に近づいて肩を掴んで来た。

 

 

零「へ?あの…一体どうし…?」

 

 

なのは「零君、ちょっとあっちでOHANASIしようか♪」

 

 

零「はっ?いやちょ、いきなり何言って…というか何か怒ってませんか!?何か目が恐い!?」

 

 

フェイト「大丈夫大丈夫♪いいからこっちに来ようか♪」

 

 

零「ちょ!まっ、待て!!全然話が見えな―――!?」

 

 

―バタンッ!!―

 

 

意味も分からぬまま零はなのは達に襟を掴まれ、無理矢理引きずられながら部屋を出て別の部屋へと逝ってしまい、室内に残された優矢等は気まずそうな顔を浮かべていた。…というか、何かデジャブを感じるのは気のせいだろうか?

 

 

栄次郎「いやぁ~なのはちゃん達は相変わらず元気でいいねぇ~」

 

 

優矢「いや…あれは元気の部類に入るかどうか…�というかいきなりどうしたんだなのはさん達…?」

 

 

手紙を読んだ途端に阿修羅モード(優矢命名)になってしまったようだが、手紙にはなんと書かれていたのだろうか?気になった優矢は床に落ちたくしゃくしゃの紙を広げてそれを読み始める。そこには…

 

 

 

―零さんへ、私は少し用事を思い出したので先に自分の世界に帰りますね。中々楽しかったです♪それと、ルナティックのカードは置いていきますのでご自由に使っちゃってください♪

 

それとなのはさん達へ、私は先程の戦闘の際に零さんに"セクハラ"されたので、今後一切こういう事が起きないようOHANASIしといて下さいね?それじゃ、またお会いしましょう~♪―

 

 

 

優矢「………………………………………………………………あれ?紫さんって…こういう人だったっけ?」

 

 

キバーラ「優矢が知らなかっただけでしょ?あの女…絶対"S"だわ…しかも多分無自覚っていう質の悪い…」

 

 

手紙に書かれていた内容に優矢はタラリと冷や汗を流し、キバーラはそれだけを告げると優矢から離れて栄次郎の下に飛んでいってしまった。とそんな時…

 

 

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?何故だ!?何故こんなことにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?』

 

 

『言いなさい!!紫さんに一体何をしたの!?�』

 

 

『知るかぁ!!俺は何も知らんぞ!?というか一体何の話しだぁ!?』

 

 

『悪魔でシラを切るつもり?�こっちには被害者からの証言もあるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!�』

 

 

『だから一体何の話…って待て待て待て待て待て!?それは流石にマズイっ!!本当にマズイって!?ちょ、―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

優矢「……さぁ!そろそろ次の世界に行きますか!�」

 

 

別室から聞こえてきた断末魔に近い悲鳴を振り切るように明るく振る舞いながら室内にある背景ロールへと近づいていく優矢。そうして背景ロールを操作する鎖を掴んで操作していくと…

 

 

―ガチャッ…ガラガラガラガラガラッ!パアァァァァァァァァァアァァンッ!―

 

 

優矢「お!降りた降りた!えーっと、この世界は…」

 

 

新たに降りてきた背景ロールを眺める為に優矢は一度背景ロールから離れそれを眺めた。新たに現れた背景ロールには、何処かの街の高速ビルの屋上から背中を見せて夜の町並みを眺める左右違う色の少女と、その少女の周りに六つのメモリが描かれているというものであった。果たして、この絵が意味するものとは何なのか?そして零は……

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

零「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!?紫ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!コイツ等に一体何を吹き込んだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

…世界を救う前に、無事に生きていられるのだろうか…?

 

 

 

 

 

その頃、何処かの街の一角にある高層ビルの屋上では、銀色のマフラーを靡かせる左右違う色の少女が背景ロールの絵と同じく夜の町並みを見下ろしていた。果たしてこの少女は何者なのだろうか?そして、零はこの少女とどう関わって行くのか…?

 

 

 

 

 

―???の世界―

 

 

 

クアットロ「…ディケイド達があの世界に?」

 

 

同時刻、薄暗い闇に包まれたとある一室では、クアットロが通信パネルに映った自分の部下から零達の動きについて報告を受けていた。そしてクアットロは通信パネルを閉じると顎に手を添えて何かを考え始める。

 

 

クアットロ「(可笑しいわね…ディケイドは本来あの世界には干渉しない筈なのに…まさか、外史のライダー達と関わったせいで本来の歴史とズレてきてる…?……まあでも、これはある意味良い機会かもしれないわね…)」

 

 

そこまで考えるとクアットロは妖しく微笑みながら振り返り、自分の背後に立つ少女達…銀髪の少女と金髪の少女と向き合った。

 

 

クアットロ「今から貴方達に任務を与えるわ。任務の内容はあのディケイドの向かった―――の世界に向かいディケイドの捕獲…出来なければそれでも構わない。ただし、あの男には必ず例の細工をしておくこと、そして間違っても殺しては駄目よ…いいわね?」

 

 

クアットロの説明する任務の内容を一つ一つ聞き逃さず頭の中に叩き込み、ちゃんと理解出来たか確認を取るクアットロに向けて頷く少女達。そうして少女達が部屋から出て行くと、クアットロは妖しく微笑みながら振り返り一枚のモニターを開いていく。

 

 

クアットロ「フフフ…中々面白い展開になって来たわね~♪ロストの力がディケイドに何処まで通用するのか、そしてあの二人を相手にディケイドがどう戦うのか…フフフ♪」

 

 

モニターに映っているのは零達の映像、それを見つめるクアットロの笑みは、ただ何処までも邪であり続けていた…

 

 

 

 

 

 

第八章/ファイズ×CLANNADの世界END

 

 





オリキャラ設定③


海道 大輝 (カイドウ ダイキ)

年齢:19歳

性別:男

容姿:深蒼の瞳に目に少し掛かるくらいの黒い髪。顔立ちは良く、どちらかと言えばイケメンの類に入る。


解説:零の前に突然現れた青年。零達一行と同じくライダーの世界を回っているらしいがその目的は不明、何処から来たのかも分からないすべてが謎に包まれた青年。


ディケイドと同系統のライダーである『仮面ライダーディエンド』の変身者であり、あらゆる世界に存在するお宝を手に入れようと旅をしているらしい。


零達と出会う前に断罪の神の天満幸助の弟子(強制)となり、その実力は零の実力を軽く上回っている。


ツルギさんのエレンさんとソウルさんのハルカさんとは旅の中で知り合い、今では一緒に飲みに行ったりする飲み仲間のようだ。


輝鬼さんの作品のヒロインの一人、ベール=ゼファーとは恋人同士。


以前何処かのドS神と共にとあるラーメン屋のマスターを鍛えた事があったらしく、現在はそのラーメン屋を風麺と改め屋台をしてるらしい。


以下、ツルギさんに送って頂いたオリジナル武器。



ディエンブレード

解説:煌一がメビウスの光の力で創った剣。刀身と柄の間にカードドライバーが組み込まれており、そこにカードを入れ横に一閃すると、ライダーを召喚したり出来る。ディエンブレードはメテオールとメビウス、アレス、フォルツァ、エヴォル、ディセイドを召喚するための物だが、他のライダー達の召喚も可能で、光の力により多少力が上がっている。そして、ライダー達の最強フォーム又は強化フォームも使え、コンプリートフォームと違い、自立的に行動させれるが実体化は5分~10分が限界でそれ以上はディエンブレードに負荷がかかる。




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番外編/世界から消えた存在、その名は…『ロスト』

 

 

何処かに存在するとある世界。そこに人の姿は一人もなく、辺りは深い霧に包まれ霧の中には廃墟と化した都市が存在している。深い霧に包まれ、瓦礫と化したその世界の中に、怪しくうごめく複数の影があった…

 

 

『グウゥゥゥゥッ……!』

 

 

霧に包まれた都市の中心に存在する影……それの正体とはライダーの世界に存在する様々な怪人達であった。グロンギ、アンノン、ミラーモンスター、オルフェノク、アンデッド、魔化網、ワーム、イマジン、ファンガイアなど、様々な世界に存在する怪人達が大量に群れを成してある一点を睨みつけていた。その視線の先にいるものとは…

 

 

「………………」

 

 

「………………」

 

 

この廃都市の中心、異質な空気を漂わせるその場所に、二人の少女達が背中合わせに立ち構えていた。一人は腰まである銀髪に赤い瞳をした黒服の少女。もう一人の少女は金色の髪に赤い瞳をした19歳程の少女…その容姿はフェイト・T・ハラオウンと全く瓜二つの姿をしていた。

 

 

『グルルルッ!ウグオォォォォォォォォ!!!』

 

 

『…………………』

 

 

少女達の周りを数百近くの怪人達が二人を包囲するように囲んでおり、何処にも逃げ道はない。だが少女達はそんな怪人達を見ても表情一つ変えず、銀髪の少女は懐から機械のようなものを取り出しそれを腹部に当てると、機械はベルトような物となって銀髪の少女の腰に巻き付いていき、それと共に金髪の少女の腰にも銀髪の少女が巻いているのと同じベルトが出現した。更に、銀髪の少女は懐から一本の黒のメモリースティックのような物を、金髪の少女も黒青いメモリースティックを取り出しボタンの部分を人差し指で押していく。

 

 

『FREEZE!』

 

『ACE!』

 

 

二つのメモリースティックから電子音声が響き、それが響くと共に二人は逆向きにメモリースティックを構えていく。そして…

 

 

『…変身!』

 

 

二人は同じタイミングで叫び、先に金髪の少女がメモリースティックをベルトのバックルの二つある差し込み口の右側にセットし、それに続くように銀髪の少女も自分の持っていたメモリースティックをバックルの空いている左側の差し込み口に装填し二人はほぼ同時にバックルをWの形に開いた。

 

 

『FREEZE!ACE!』

 

 

バックルから電子音声が響き、吹き荒れる風と共に二人の身体が互いに引き合うように重なり眩い光を放った。そうして光が止み始めると、そこには二人の少女の姿はなく、変わりに一人の戦士がその場に佇んでいた。赤い瞳に右半身は黒の掛かった青、左半身は黒という早瀬 智大が変身するツヴァイと同じアンシンメトリーな身体。そして首に黒色のマフラーを靡かせる二対の戦士……そう、仮面ライダーであった。

 

 

『グウゥゥゥゥ!ウガアァァァァァァァァ!!!』

 

 

ライダーの姿を見た怪人達は高い雄叫びを上げ、一斉にライダーへと飛び掛かって来た。ライダーは最初に襲い掛かって来た怪人を足蹴にして吹っ飛ばすと、華麗な動きで次々と怪人達を吹き飛ばしていき、怪人達はライダーの動きに上手く対処出来ず翻弄されていた。そしてライダーはバックルを元の位置に戻して両側のメモリを抜き、代わりに今度は紫色のメモリと鋼色のメモリを取り出しボタンの部分を人差し指で押す。

 

 

『GRAVITY!』

 

『SPEAR!』

 

 

メモリースティックから電子音声が鳴り響き、それと同時にライダーは紫と鋼色のメモリをベルトの両側の差し込み口にセットし、再びWの形に展開していく。

 

 

『GRAVITY!SPEAR!』

 

 

電子音声が響くとライダーの右半身が紫、左半身が鋼色へとそれぞれハーフチェンジしていった。そして、ライダーは背中にある身の丈を越える程の長さを持つ銀色の槍の様な武器を取り出し、バックルの左側にあるメモリを引き抜き槍に取り付けられているスロットへと装填する。

 

 

『SPEAR!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

電子音声が響くと同時に、ライダーは体制を低くして投擲の構えを取る。すると、周囲の重力が螺旋を描くように槍の先端へと徐々に集束されていき、ライダーは槍の先端の狙いを怪人達の群れへと定める。そして…

 

 

『…スピアグラビネイト』

 

 

―シュウゥゥゥゥ…ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーンッ!!!!―

 

 

『グ、ウ、ウガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?』

 

 

ライダーはそう呟くと共に槍を大きく振りかぶり、怪人達の群れに向かって思いっきり投げつけていった。ライダーが放った槍は全体に重力の螺旋を纏いながら猛スピードで怪人達の身体を貫いていき、怪人達の群れの中心に槍が突き刺さると、槍から巨大な衝撃破が発生し、周りにいた数百体以上の怪人達がその衝撃破に呑み込まれ一瞬の内に塵一つ残さず消滅していったのだった。

 

 

『……………………』

 

 

怪人達が消滅したのを確認すると、ライダーは構えを解きその場で佇んでいた。何もせず、全く動こうとしない。勝利の笑みも喜びも表そうとしない。ただ、まるで何かを待っているかのようにその場に立ち尽くしていた。そうして暫くすると、ライダーの前に一枚の通信パネルが現れた。

 

 

クアットロ『はぁ~い♪お疲れ様『ロスト』ちゃん♪今回のデータは十分に取れたから、次のシュミレーションまで休んでていいわよ~?』

 

 

『……………………』

 

 

通信パネルに表示された通信の相手は先の魔界城で零達と戦った少女…クアットロであった。その通信を聞いたロストと呼ばれたライダーはバックルから二つのメモリを抜き取りベルトを外すと変身が解除され、銀髪の少女と金髪の少女へと戻っていき、何処かへと向かって霧の中を歩いていったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―???―

 

 

クアットロ「んふふ♪中々良い具合に仕上がってるじゃない…二人で一人の仮面ライダー♪」

 

 

生命ポットらしき物が複数立ち並ぶ不気味な部屋。そこには先程ロストと呼ばれるライダーに通信を送っていたクアットロがモニターを見つめて上機嫌に微笑んでいた。そしてクアットロは近くのデスクの上に置いてある三つのベルトに目を向け、その中の一つを手に取って眺める。

 

 

クアットロ「…あのシャドウとかいう奴が持って来たダークライダーのベルトと早瀬智大の変身するツヴァイの戦闘データ…それらを元に開発した新たなライダーシステム。ふふ、予想以上の出来ね…本当に良いものを持ってきてくれたわ~シャドウの奴♪」

 

 

上機嫌のままクアットロはライダーベルトから視線を外し、今度は近くのモニターに映る二人の少女に目を向けて微笑んだ。

 

 

クアットロ「そしてあの二人…これからの戦力としても大いに期待出来そうねぇ…あの二人を使えば、あのディケイド達も簡単に倒せるかもしれない。特に、あのプロジェクトFの遺産と夜天の主がどんな反応を示すか…ふふふ、今から凄く楽しみ~♪」

 

 

甘ったるい口調でそう呟き、クアットロはモニターに映る銀髪の少女と金髪の少女の姿を見て邪な微笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 




仮面ライダーロスト

解説:クアットロがダークライダーのベルトとツヴァイのデータを元に開発したダブルタイプのライダー。本来のダブルのような一方が精神体になるというワケでなく二人の身体が融合し一人の仮面ライダーとなる。変身者はフェイトとはやてとは所縁が深い相手らしいが…?


所有ガイアメモリは以下の通り。

右半身の変身者所有ガイアメモリ

・フリーズ
・グラビティ
・ダーク

左半身の変身者所有ガイアメモリ

・エース
・スピア
・ショット




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番外編/黒月零の中学生日記

黒月零の中学生日記]

 

 

 

〇月×日

 

 

管理局での仕事があらかた片付き、今日もまたなのは達と共に学校へと行った。

 

最近では他の次元世界でも目立った事件は起きておらず、世界は概ね平和だ。

 

なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずか。アイツ等と共に学校に通い、今日もまた平和な一日を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリサ「こぉぉぉぉんの、バカチンがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!�」

 

 

―ガシャンッ!!ガシャンッ!!ドガシャアァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

零「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?何だッ!?何をそんなに怒ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

アリサ「あんたがまたバカなこと口走るからでしょうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!�」

 

 

零「ハァ!?なんのことだ!?俺はただ単に異性同士の性交とやらが何なのかを詳しく聞こうと…!!」

 

 

アリサ「だからそんなことデカイ声で叫ぶんじゃないわよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!////�」

 

 

零「な、何故だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………今日も……ある意味では………………………………平和だった…

 

 

 

 

 

 

〇月×日

 

 

 

今日は学校の同級生や後輩達などに呼び出され、突然付き合ってくれと言われた。

 

…何の用事に付き合えばいいのかと聞き返したら何故か泣いて走り去ってしまった……何故だ?

 

まぁ、別にどうでもいいので考えるのはすぐに止めて教室に戻った。

 

 

だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「………………」

 

 

フェイト「……………」

 

 

はやて「………………」

 

 

アリサ「………………」

 

 

すずか「………………」

 

 

零「……………………………………………………………………………………」

 

 

 

……何故か授業中、ずっと皆から睨まれた。しかもアイツ等からただならぬ殺気が溢れ出ていてクラスの奴らや担任までもが怯えていた…なにかアイツ等を怒らせるようなことをしただろうか……いや、思い当たる節などなにもない。まあ、その内勝手に機嫌を直すだろうと余り気にしないことにして授業に集中した。

 

 

 

……それからこの一週間。しつこくも色々な女子から付き合ってくれ付き合ってくれと言われ、なのは達からは殺気の込められた目で睨まれたり理不尽な暴力を受けたり、ついでにクラスの男子からも睨まれる始末、精神的にも肉体的にも疲れる散々な一週間だった。というか、本当に何に付き合えばいいんだ…買い物か?スポーツか?誰でも言いから教えてくれ…

 

 

 

 

 

 

〇月×日

 

 

今日は次元世界での任務を終え、俺やなのは達は任務帰りのアースラの艦内で休息を取った。

 

そんな中、俺はアースラのクルーの一人である少女からお茶をしないかと誘われた。特に断る理由もないので承知し、俺と彼女は茶を飲みながら話をした。

 

 

「それにしても、黒月さんってホントに凄いですよね~。あんな任務を簡単にこなしちゃうんだし」

 

 

零「む?…いや、あれはなのは達がいてくれたから何とかなったんだ。俺一人でこなしたワケじゃないさ」

 

 

「それでも凄いですよ。私なんて、ただ此処から見ているだけしか出来ないし、皆さんの役に立てる事なんて何一つ出来てないし…」

 

 

零「そんなことはないだろう?アンタだってこのアースラに必要な人材だ。俺達がこうして無事にいられるのも、アンタみたいな人が居てくれるからだ」

 

 

「い、いえ!そんな私なんて……恐縮です�」

 

 

若干縮こまりながら彼女は茶を一口飲み、俺も一口茶を口にする…うん、今日も平和だ。

 

 

「あ、そういえば一つ気になってたことがあるんですけど……」

 

 

零「?気になること…?」

 

 

「あ、はい…いきなりで失礼かもしれませんけど…黒月さんって、高町さん達の誰かと付き合ってるんですか?」

 

 

零「………………む?」

 

 

付き合う?付き合うというと……あぁ、この前クロノから聞いた男女の交際とやらか。前まではその意味がよく分からず本当に困って……いや違う、そんなことじゃないか。

 

 

零「ん……期待を裏切るかもしれんが、俺はなのは達とは付き合ってなんていないぞ?」

 

 

「えっ?!そうなんですか?!皆さんといつも一緒にいるからてっきりそうなんだと…」

 

 

零「ないない、ありえないから。第一あんな"理不尽"で"暴力的"で"危ない"奴等を恋人にするなんて正気じゃない。俺はもう少し優しげな……そうだな……アンタみたいな人の方がいい」

 

 

「え、えぇ?!///そ、そんな!私なんか…///�」

 

 

…む?冗談のつもりで言ったんだが…なんか顔を紅くして俯いてしまった…まあいいか。たまにはこういう冗談もアリかと残りの茶を飲み干しながらそんなことを思う。

 

 

そう…ただの冗談だ…冗談だったのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

零「ヌオォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

 

―ズババババババババババババババババッ!!―

 

 

零「危なぁっ!?」

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

零「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!?」

 

 

あれから数十分後。場所は変わってアースラの訓練スペース。そこで俺は無数の魔力弾やら斬撃やら砲撃やらを必死にかわして逃げ回っていた。…え?誰と訓練してるのかって?それは…

 

 

なのは「ホラホラ、逃げてばかりじゃ駄目でしょ?♪」

 

 

フェイト「ちゃんとやり返してこないと訓練にならないよ?♪」

 

 

はやて「やり返してこないなら、こっちからドンドン行くで?♪」

 

 

…そう、あれだ。上空から無慈悲なまでの魔法をぶっ放してくるあの魔神共だ。先程からあんな感じでニコニコと全く目が笑っていない笑顔を浮かべながら凶悪な攻撃を放ってきているのだ。

何故かって?そんなものは知らん。ただあの子と別れた後いきなりアイツ等が現れて此処まで無理矢理拉致られてきたんだ。で、訓練を始めた途端この有様……一体何がどうなってる?

 

 

零「グッ?!ちょ、ちょっと待てッ?!どうしたんだ!?何をそんなに怒ってるんだ?!俺が一体何をしたと言うんだ!?」

 

 

はやて「……なにをしたって…?」

 

 

フェイト「…それぐらい……」

 

 

なのは「自分で考えなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!�」

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

零「危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?なんだ!?なにをあんなに怒ってるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 

AT『はぁ…アナタって人は本当に…�』

 

 

なのは達の砲撃から逃げてる最中にアルティがなにかを呟いているが全く意味が分からない。とにかくアイツ等から逃げることだけを先決に…

 

 

なのは「全力全開ッ!!スタァァァァァライトォォォォォォォォ!!!�」

 

 

フェイト「疾風迅雷ッ!!スプライトザンバァァァァァァァァァァ!!!�」

 

 

はやて「響け!終焉の笛ッ!!ラグナロクッ!!!�」

 

 

零「なッ?!」

 

 

上空を見上げてみれば自分達の最強魔法を発動させようとしている魔神共の姿が。あんなものまで使うとは、それほどまでにお怒りだったのか!?

 

 

零「クッ!?アルティッ!カートリッジ全ロード!!」

 

 

AT『yes my Master』

 

 

アルティから今あるカートリッジが全て排出される。使うは己の最強の魔法。たかが訓練ぐらいで使うのは場違いではないのか?と思う人達もいるかもしれんがそれは違う。今、此処で、使わねば確実に"死ぬ"のだ。

 

 

零「燃えたぎれ黒炎ッ!!凍てつかせろ黒氷ッ!!鳴り響け黒雷ッ!!吹き荒れろ黒風ッ!!我が剣(つるぎ)へと集えッ!!開眼し、刮目せよッ!!我が剣は、万物をも斬り裂く破滅の刃ッ!!」

 

 

紡ぐ言葉に応えるように、アルティの刀身に膨大な魔力が集束されていき、アルティの刀身が黒く輝き出した。そして…

 

 

 

『ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!』

 

 

零「死んでたまるかっ…!俺はっ!明日を生きるんだあァぁぁぁぁぁぁッ!!!エンブラス・ジ・ディスキャリバアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 

―ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

 

迫りくる巨大な砲撃に向けて放たれた巨大な黒き閃光。それらが戦場の中央で激突した瞬間、訓練スペースがまばゆい光に包み込まれていった……

 

 

 

 

 

因みにこの戦いの後、訓練スペースは見るも無惨な程ボロボロの半壊。そして、その当の本人であるなのは達は奇跡的に軽傷だったが、俺だけは全治六ヶ月の重傷を負い、シャマルの城でお世話になる事となった。余談だが、半壊した訓練スペースの修理費を見てクロノが断末魔にも似た絶叫を上げていたとかなかったとか…

 

 

 

 

 

 

この日記もこのページで終わりのようだ。また日記を書く暇があれば、二冊目を買うとしよう…

 

 

by黒月 零

 

 



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番外編/黒月零の中学生日記②

黒月零の中学生日記②]

 

 

〇月×日

 

 

今日は学校が休日なので、なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかと共に街へとやって来た。

 

本当なら俺は家で大人しく休んでいようと思ってたのだが、『荷物運びが必要だからアンタも来なさい』とアリサに呼び付けられたのだ。

 

……はた迷惑な女め。

 

 

アリサ「…何か言った?」

 

 

…いや、何でもない。

 

とまあ、こんな一連のことがありながらも俺はなのは達と共に街へ訪れ、不本意ながらも買い物に付き合う事となった。

 

 

 

 

すずか「あっ、ねぇねぇ。こんなのとかフェイトちゃんにどうかな?」

 

 

フェイト「え?えぇっと…どうだろう?�」

 

 

はやて「いやいや、フェイトちゃんにはそれよりこっちの方がピッタリやと思うで?」

 

 

すずか「う~ん…でもそれはちょっと派手じゃないかな…ねぇフェイトちゃん、フェイトちゃんはどっちがいい?」

 

 

フェイト「え、えぇ?!わ、私は…えぇっと�」

 

 

アリサ「はぁ…ほら二人とも、その辺にしときなさいよ。フェイトが困ってるでしょ?�」

 

 

なのは「にゃははは…�」

 

 

…今俺達は、とある洋服店にて服を見ている。

 

まあ、殆どはやてとすずかがフェイトに一番似合う服が何かと話し込んでるだけなんだが…

 

というか暇だ…アイツ等が服で話題が盛り上がってる間、俺は一人何もしないで立ってるだけ。

 

このままでは立ち往生でもしてしまいそうだ。うん、暇は人類の敵だ……これはどんなにデカイ管理外世界の怪物よりも厄介だ。何故なら…暇は殺せない。

 

 

フェイト「…ね、ねぇ零?この服、どうかな?似合ってる…かな…?」

 

 

と、いきなりフェイトに話し掛けられ急いで思考を戻した。

 

目の前を見れば、いつの間にかはやて達の選んだ黒い洋服を着込んだフェイトが恥ずかしそうに俯きながら立っていた。

 

ふむ……取りあえず、可笑しな部分はないから無問題だろうとフェイトの格好を眺める。

 

フェイトは元から黒が似合うし。

 

全然大丈夫だ、お前に良く似合ってる…

 

 

フェイト「あ、ありがとう…////」

 

 

『む…』

 

 

…はて?何故か顔を赤くして更に俯いてしまった…

 

しかもなのは達がむっとした表情でこっちを見ているし…まさか…何か可笑しな事を口走ったのだろうか?

 

 

AT『(こぉんの鈍感野郎め…貴方はホントにどういう神経してんですか…)』

 

 

むぅ……やはり心当たりがない。一体何が悪かった?

 

…まあいい、考えたところで分かないし、どうせ大したことでもないだろう。

 

取りあえずこの後、何故かなのは達まで色々な服を着て俺に似合ってるかと聞いて来るようになった。

 

お陰で暇ではなくなかったが、今度は逆に疲れて参ってしまった。全く意味が分からない…一体何だったのだ?

 

 

まあその後は、なのは達が服を買ってからなのは達と共に次の店へと向かった。勿論荷物持ちは俺だが…

 

というか……服って以外と重っ…

 

 

なのは「零君…大丈夫?」

 

 

ん?あぁ…心配ない、この程度なら無問題だ。

 

 

なのは「でも何か重そうにしてるし…良かったら代わろうか?」

 

 

大丈夫だ…俺のことなら気にしなくていい。もし無理だと思ったら助けを求めるから、お前もフェイト達の所に戻れ。

 

 

なのは「…うん、分かった。じゃあ、もしキツイって思ったら直ぐ言ってね?」

 

 

あぁ、その時は頼む…

 

……全く、ホントにお節介な奴だ……

 

 

AT『(とかいいながら、貴方も十分お節介でしょう?なのはさんにはああ言っておきながら、ホントは代わる気なんて更々ないくせに…)』

 

 

…うるさい…ただ任された仕事を他人に押し付けるのが我慢ならんだけだ。

 

 

AT『(フフ…貴方は本当に変わりましたね。昔は他人と無駄な関係を作りたくないとか言って、あんなに人との触れ合いを嫌がってたのに…)』

 

 

チッ…また昔の話か…いい加減その話は止めろ。お前にそれを言われると何故か軽く殺意が沸く…

 

 

AT『(クス…はいはい♪マスターの機嫌を損ねたら怖いですからねぇ~♪)』

 

 

…ホントにスクラップしてやろうかコイツ…

 

可笑しそうに笑う自分のデバイスに軽く殺意を覚えながら歩いてると、いつの間にか次の目的地に着いていた。

 

今度の店は……ランジェリーショップらしい。恐らく下着でも買うのだろう。

 

そう推測しながら俺もなのは達を追って店の中に入ろうと……

 

 

アリサ「…って、ちょっと待ちなさい!アンタまさか、一緒に中に入る気?!」

 

 

と、何故か入り口前でアリサに止められてしまった。

 

何故止める?俺はお前達の連れなんだから付いて行っても問題ないだろう?

 

 

アリサ「大有りよ!!此処が何処だか分かってる!?ランジェリーショップよ!下着専門店なの!女性用の!」

 

 

?当たり前だろう?何をいきなり分かりきったことを言ってるんだ?

 

 

アリサ「っ…あ~もう!!だから!男のアンタは此処で大人しく待ってろって言ってんの!女性の下着を売ってる場所なんだからそれぐらい直ぐに分かるでしょう?!」

 

 

む…何故俺だけが店の外で留守番なんだ?理不尽じゃないか。第一、男性のお客様は入ってはいけない何て断りが表記されてないなら俺が入っても大丈夫だろ?

 

 

アリサ「だぁかぁらぁ…!そういう問題じゃないって言ってんでしょう!?エチケットよエチケットよ!!私達や他の女性客に対するエチケット!!それぐらい察しなさいよ!!」

 

 

……全く理解出来んな。

 

もう少しわかりやすく言ってくれないか?説明が下手だなお前は…

 

 

アリサ「だから…これでも分かりやすく説明してんのよーー!!!�」

 

 

はやて「ちょ?!ア、アリサちゃん落ち着いて!�」

 

 

また怒ったよコイツ…

 

お前この頃そればっかだな…カルシウムが足りないんじゃないか?

 

魚を食え魚を。さっきそこで買ったししゃもでも食うか?

 

本当に困った奴だ。

 

 

アリサ「原ぇ因のアンタがそれを言うなああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!�」

 

 

フェイト「ア、アリサ!!ストップストップ!�」

 

 

すずか「あ、あのね零君?私達は此処で日用に必要な……えと……し…下着……を買わないといけないから、あんまり男の人には見られたくないの�零君もその…女性の下着姿とか見るのはちょっと恥ずかしいって思うでしょう?」

 

 

恥ずかしい?…いや、女性の下着姿というなら、既になのは達のを見てるから大丈夫だ。

 

 

すずか「…………………………………へ?」

 

 

な・フェ・は『……あ�』

 

 

アリサ「ちょ…あ、アンタ…今、なんて…?」

 

 

?だから言ってるだろう。女性の下着姿ならなのは達ので見慣れてるから問題はないと。

 

 

すずか「み…見慣れてるって…それ、どういう…?」

 

 

な・フェ・は『………�』

 

 

どういう意味も何も…そのままの意味だぞ?

 

簡単に説明すれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不幸少年説明中………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言う意味だ。だから俺の事は気にしなくて大丈夫…………………ん?

 

 

すずか「………………………………(絶句)」

 

 

な・フェ・は『…………………………/////』

 

 

…?どうした皆?

 

 

アリサ「……どうした皆?じゃないわよ…こぉんのド変態がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!////�」

 

 

は?ちょ、何故いきなり怒っ…って待て待て待て待て待て!!?何故看板なんか持ち上げ―ガシャアアアァァァァァァァンッ!!!―グアァァァァァァァァァァァァァァッ!!?

 

 

アリサ「まったく…ほら!こんな奴ほっといてさっさと中に入るわよ!�」

 

 

『う、うん……�』

 

 

ゴフッ…クッ…い、一体何なんだ…何故アリサの奴はあんなに怒ってるんだ…

 

 

AT『(まあ…あんなセクハラに近い発言してれば当然の報いでしょう�)』

 

 

グッ…セク…?何の話だ?意味が分からんぞ?

 

 

AT『(…マスター…お願いですからもう少し女性の事を知って下さい…私は貴方の将来が不安です…)』

 

 

…?全然話が理解出来ん…

 

 

 

……それから数時間、俺は通りすがりの心優しい通行人に助けられるまで、看板の下敷きになっていたのは全くの余談だ。

 

 

 

 

 

そして、なのは達が店から出て来た後も暫く色々な所を見て回った。

 

ペットショップで小動物に囲まれ身動きが取れなくなったり、爬虫類をなのは達に見せたら悲鳴を上げて逃げたり、

 

ゲームセンターのパンチングマシンをちょっと本気で殴って破壊してしまい店の店員に怒られたり、

 

途中で買ったファーストフードを食べてる最中アリサの口に食べカスが付いてる事に気付き、俺がそれを取って口に入れたら顔を真っ赤にしたアリサから全力全開のドロップキックを喰らわされ海に落っこちたり、

 

恋占いとやらを受け、なのは達の占いの結果は良かったのに何故か俺だけ『いい加減思い人の気持ちに気付かないとぶっ殺されますYO~♪』とか軽い口調で不吉な事を言われたり、

 

その他諸々でも散々な目に合いかなり疲れた…

 

 

 

 

そして夕刻……

 

俺達は今帰路を歩いて自分達の家へと向かっていた。

 

 

はやて「いやぁ~、今日は楽しかったなぁ~♪」

 

 

なのは「うん♪久しぶりのお買い物だったから、良い物も沢山買えたしね~」

 

 

…呑気で良いなお前等は…俺は今日酷い目に合ってばっかりで疲れたぞ…

 

 

アリサ「その大半の原因がアンタでしょ?自業自得じゃない�」

 

 

…アリサ…お前は俺になにか恨みでもあるのか…?

 

 

すずか「ま、まあまあ!�零君も悪気があってやった訳じゃないんだから、その辺にしてあげよう?�」

 

 

フェイト「そ、そうだよ!零はただ運が悪くて何も分かんないってだけで、今までのこともワザとやってた訳じゃないよ�」

 

 

フェイト…それフォローになってないぞ………ん?

 

 

なのは「……?あれ、零君どうしたの?」

 

 

………いや、何でもない。それより早く帰るぞ。帰りが遅いと母さん達が心配するだろうし。

 

 

なのは「え?…あ、うん」

 

 

……アレはまた別の機会にしよう。今日はもう疲れたから大人しく休みたいし…

 

 

 

 

 

 

 

なのは「……ねぇ、皆気付いた?」

 

 

フェイト「うん…」

 

 

はやて「何や、この写真屋さんをジッと見てたな?」

 

 

すずか「……もしかして、これかな?零君の見てたのって」

 

 

アリサ「?これって…カメラ?」

 

 

なのは達が見つめる先にあるのは、写真屋のガラスの向こうで飾られてる小さなカメラ。おそらく零は先程コレを見ていたのだろう。

 

 

アリサ「なに?アイツもしかして写真とかに興味あるの?」

 

 

なのは「あ…そういえば、家で良く写真集とかカメラのチラシとか見てたよ?その時に「写真が好きなの?」って聞いたら「別に…」って素っ気なく返されちゃったけど�」

 

 

フェイト「ん~…もしかして…そういうのが好きなんだけど素直に好きって言えないのかな?」

 

 

はやて「まぁ…確かに零君は妙な所で恥ずかしがり屋さんやからな�」

 

 

すずか「……ねぇ皆?私、ちょっと良いこと考えたんだけど?」

 

 

なのは「あ、すずかちゃんも?実は私もなんだ♪」

 

 

フェイト「あっ…私も多分二人と一緒かも♪」

 

 

はやて「フフッ。皆考えてる事は一緒みたいやね♪」

 

 

アリサ「ハァ…皆ホントにお節介よね…まあ、私も人の事言えないけど」

 

 

お互いに微笑しながら、五人はガラスの向こうにある小さなカメラをジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

…それから数ヶ月後。このカメラがなのは達の手から贈られることになるとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

この日記もこれで終わりのようだ。また機会があれば、三冊目を買ってみよう…

 

 

by黒月 零

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界

 

 

 

ファイズの世界での役割を終え、次の世界へと訪れた零達一行。一行は前の世界での戦闘の疲れと、半殺しにされた零の傷を癒す為という理由で夜が明けるまでそれぞれ自室で休むことにしていた…

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

――――夢を見ている。

 

 

身体は軽く、何処かふわりとした浮遊感。辺り一面は薄暗く何もない無の空間。そんな場所に自分は一人、ポツリと佇みながら目の前を見つめている。目の前にあるのは…車椅子に座った一人の幼い少女と、腰まである美しい銀髪を持つ一人の女性の姿。

 

 

「名前をあげる…もう闇の書とか、呪われた魔道書なんて言わせへん…私が呼ばせへん…」

 

 

頬に手を添えて放つ少女の言葉を聞き、銀髪の女性の頬に涙がこぼれる。

 

 

自分はあの二人を知ってる…あの車椅子の少女は自分の幼なじみであり、今でも彼女を探して旅をしている。

 

 

あの銀髪の女性も知っている…彼女はかつて、あの車椅子の少女の為にこの世界から消えた初代・祝福の風……

 

 

今でも覚えてる…あの車椅子の少女の悲しむ顔を見たくはないという単純な理由で、あの女性をこの世界に留める方法を必死に考え、結局はそれも叶わず…あの女性が消えた後に自分の力のなさを痛感したことを…

 

 

そんな二人の姿をジッと見つめていると、急に目の前の景色がガラリと変わり、突然辺りに雨が降り始めた。

 

 

だが雨に打たれても冷たいという感覚はなくそんな事に何の興味も示さない。

 

 

ただ今は目の前にある光景…一本の木の下で雨宿りをする二人の少女の姿をこの目は捉えて離さなかった。

 

 

一人は先程の車椅子の少女と同じ自分の幼なじみである金髪の少女。

 

 

もう一人はその金髪の少女と瓜二つの姿をした少女…あの金髪の少女の姉であった存在だ。

 

 

「ありがとう…ごめんね…――――…」

 

 

「いいよ…私はフェイトのお姉さんだもん…待ってるんでしょ?優しくて、強い子達が…」

 

 

「…うん」

 

 

金髪の少女は頬に涙をこぼし、少女はそんな金髪の少女に優しげな微笑みを向ける。

 

 

彼女の事は良くは知らない。だが、彼女から感じられるものがある。

 

 

暖かくて…優しくて…純粋な思い…

 

 

彼女から伝わってくる様々な感情に、何時しか自分の心が温まっていくのを感じる。

 

 

こんなにも人の心を優しくしてくれるのは……きっと彼女がそれだけの優しさを持った女の子だったから…

 

 

だからあの金髪の少女も…そんな彼女との別れを惜しんだ…そんな気がする…

 

 

 

 

あの少女と、先程の女性を見ていて…今更思う。

 

 

あの二人を救う道は本当になかったのか…?

 

 

ただ単に…見落としていただけなのではないか…?

 

 

もしかしたら本当は…何か他の道があったのかもしれない…

 

 

彼女達を救う道が…本当は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿馬鹿しい…今更いなくなった奴のことを考えて何になる…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!……誰だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰だ…?くだらない質問は止めろ…俺が誰なのか…それはお前が良く知ってるハズだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を言ってる…意味が分からない…お前は…何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度も同じ事を言わせるな…俺とお前は互いの事を認識し合う必要なんてない…お前を俺を捨て…俺はお前に捨てられた…たったそれだけの関係だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が…お前を捨てた?

 

どういう意味だ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ…そこまで教えてやる義理なんてないさ…自分の過去を自分から捨てた、お前なんかにはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!俺が…自分から過去を捨てた…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだ?そこまで思い出してなかったのか?…だったら丁度いい…一つだけ教えてやるよ。お前は自分の過去を思い出せないんじゃない…お前が自分から思い出そうとしてないだけだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出そうとしてない…だと…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はただ自分の過去から逃げているだけさ…罪の意識から逃れ…罪を犯したという自分の記憶を捨てた…酷い話だ…今まで何千、何万という世界を壊して奪っておきながら…お前はそんな記憶も捨ててのうのうと生きている…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を…訳の分からないことを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ気が付かないのか?お前という存在があの高町なのは達にとってどれだけ邪魔な存在なのか…今見た彼女達ももしかしたら救えたかもしれない…もしかしたら共に生きる未来を築けたかもしれない…だがそれは出来なかった…お前の存在があったせいでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の…存在…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は世界に存在する物を万物問わずに破壊する…だから壊したんだよ…あの二人が助かるという道を…お前自身がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬鹿な…そんな話がある訳ない!

 

信じられるものか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうやってまた現実から目を背ける…信じたくないという理由で事実から目を逸らし、記憶も力も…なにもかも捨てて逃げ続ける…お前が"あの子"を殺したという現実からも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ…黙れ……黙れっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶を取り戻したくて旅をする?笑わせるな…お前はその記憶を取り戻したくないと心の何処かで思ってる…今のお前がお前でなくなるのが恐いからだ…例え記憶を取り戻した所でお前に幸せなんて訪れやしない…待っているのは果てしない絶望だけ…お前はそれに飲まれてすべてを破壊し…すべてを殺し尽くす…あの高町なのは達とかいう女達も例外なく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんなに否定しようが、所詮お前は殺戮者…お前の犯した罪は消えやしない…アイツ以外でお前に感情という物をくれた…"あの子"を殺したという事実も…な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もがくがいい…苦しむがいい…どんなに足掻こうが、お前は所詮変わらぬ運命の中で踊り続ける人形だ…そして忘れるな罪人…お前はいつか彼女達を殺し…旅の中で出会った友人達をも手に掛ける…お前のような破壊者が誰かを救うなんて…出来やしないのさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声を最後に、俺は再び意識を切り離した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

目が覚めると、始めに目にしたのは見慣れた天井。

それを見て、先程まで自分の見ていたものが夢だったと直ぐに理解できた。

 

 

零「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

酷く乱れた息、大量の汗が流れ出ているせいか、身体中はべとべとで寝間着に張り付いている。視界は朧げであり、どうやら自分は泣いていたらしい。

 

 

零「ッ…チッ…朝から夢見が悪いな…」

 

 

上半身をゆっくりと起こし瞳に溜まった涙を拭いながら呟く。自分のベッドに目を落としてみれば、いつもの状態とは打って変わってシーツが乱れていた。その有様から、自分がどれだけうなされていたのか悟る事が出来る。

 

 

零「……………」

 

 

今の夢は……一体何だったのだろうか?夢に出て来たあの二人の少女達。あれは確か十年前の………とそこまで考えた瞬間、突然零の左目に激痛が走った。

 

 

零「クッ?!…クソッ…まだ疲れでも残ってるのか…?朝から憂鬱だな…」

 

 

左目を抑えながらベッドから立ち上がり、額から流れる汗を拭き取って一息吐く。今日からこの世界について調べなければならないと言うのに朝からこんな調子でどうする?自分にそう言い聞かせながら気を引き締め、取りあえず着替えようとクローゼットから自分の私服を取り出していく。

 

 

零(…それにしても…何故今更になってあんな夢を見たんだ…もう十年も前の事なのに……それに何だか…妙な胸騒ぎもする…)

 

 

この言い知れぬ胸騒ぎ…まるで何かの前触れを訴えているようで気分が悪くなる。初代・祝福の風…運命の名を持つ少女の姉…彼女達があの夢に出て来たのは何を意味するのか。そして…あの声は一体……

 

 

零「……止めよう……考えたところで何も分からない……分かりたくもない…」

 

 

あんな夢を思い返した所で意味なんてない。今自分のすべきことはこの世界での役割を見つけ、バラバラに散った仲間達を見つけること。それだけを考えよう…今はそれだけを…

そして零は着替えを始めて部屋を出て行き、気分転換に朝食の準備でもしようと自室から出ていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「っ…まだ左目が痛むな…後でシャマルにでも見てもらった方がいいか…?」

 

 

自室を出た零はズキズキと痛む左目を抑えながら階段を下りていき、朝食の準備の為にキッチンへの入口がある部屋へと向かっていた。そして部屋の中に足を踏み入れようとすると…

 

 

―ガチャッ―

 

 

「えぇっと…すみませ~ん?誰かいませんか~?」

 

 

零「?何だ…こんな朝から客か?」

 

 

こんな朝早くにやって来た突然の来客に零は疑問そうに首を傾げ、取りあえず来客を出迎えようと写真館の玄関へと向かっていく。

 

 

零「すまない。写真館ならまだこの時間には開いてな……って、お前等?!」

 

 

玄関に足を運んだ零は、入り口の前に立つ二人の来客…見覚えのある男達を見て驚愕し目を見開いて固まってしまった。何故ならその二人とは…

 

 

 

カノン「あっ、零さん、お久しぶりです!」

 

 

智大「よぉ、おはようさん。朝から押しかけてすまんな」

 

 

零「カ、"カノン"?!智大?!お前等何で此処に?!」

 

 

そう…写真館に訪れた来客とは零の友人であり、嘗て魔界城の世界を共に戦い抜いた早瀬智大と、その智大の弟子である"カノン・フェルト"だったのだ。突然やって来た二人の来客に、零もただ驚きを隠せずにいた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数分後…

 

 

零「成る程…イノセンスとは別の敵…イリシッドねぇ…」

 

 

智大「あぁ。それと、そのイリシッドのメモリを売ってる組織の幹部…シャドウにも気をつけておいた方がいい。どうやら、魔界城で取り逃がしたクアットロの奴と何らかの繋がりがあるみたいなんだ」

 

 

零「…アイツ等…また強力な後ろ盾を手に入れてたのか…厄介な問題になって来たな…」

 

 

数分後、二人を写真館の中に招き入れた零は智大から彼等の世界の怪人…イリシッドについての情報を聞かされていた。そしてその中で知った新たな事実…智大の世界に存在する敵組織の幹部…シャドウという人物とクアットロが裏で手を組んでいるという話に、零の表情は険しいものとなっていた。

 

 

零「…それで、スカリエッティ達の逃げた先の世界とか、アイツ等の居場所に関する情報とかは何かないのか?」

 

 

智大「いや、そういう情報までは入ってない。…だが一つだけ断言出来るのは…アイツ等がシャドウと関わってから着実に力を蓄えて来てるという事だ。それも以前より数段と力を増してな」

 

 

零「魔界城で失った戦力を他の組織から蓄えて態勢を立て直してるか…ハァ…何かじり貧だな」

 

 

智大「それだけじゃない、どうやら他の世界の怪人達も集めて自分達の戦力にしてるそうだぞ。しかも噂では、真一郎の世界に現れたダークライダーのベルトも奴等が所持してるとか…」

 

 

零「…ますますじり貧じゃないか…�」

 

 

ただでさえ今朝の夢で憂鬱な気分になってるというのに、智大の口から次々と告げられる悪い知らせに頭が痛み出し、零は思わず深い溜め息を吐いて顔を俯かせてしまう。

 

 

智大「まあそう気を落とすな。俺も悪い知らせばかりじゃ何だろうと思って新しいメモリガジェットの『オウルスパイ』と『スパイダーウォッチ』をやろうと持って来たし、それに今回はカノンも貸してやろうと連れてきたから」

 

 

カノン「……え?ちょ、父さん!?何ですかそれ!?そんな話し聞いてませんよ!?」

 

 

智大「話してないんだから突然だろ?」

 

 

カノン「素で返された!?」

 

 

零「…止めておけカノン…智大がこう言ったらなにを言っても無駄だろう�」

 

 

反論した所で自分の決めた事を取り消したりはしないだろう。そう思った零は叫び出すカノンを宥め、カノンは諦めたようにがっくりとテーブルに俯せてしまった……哀れな子羊だ。

 

 

智大「まぁ、そういうワケだからコイツの事頼むわ。何か迷惑でも掛けたら遠慮なく連絡してくれよ?ちゃんと仕付けしとくから」

 

 

零「……分かった(こっちの智大の方が昔よりらしくなった気もするが…カノンの方も可哀相に思えてきたな�)」

 

 

写真館から出ていく智大の後ろ姿を見てそんなことを思い、室内に残された零はテーブルに俯せるカノンに近づき、ポンッと軽く肩を叩いた。

 

 

零「まぁ取りあえず、もうすぐなのは達も起きて来るから俺は朝食の準備でもしてくるよ。お前もそれまでゆっくり休んでおけ」

 

 

カノン「え…?あ、だったら僕もお手伝いしますよ。零さんだけにやらせるのも何だか悪いですし」

 

 

零「…そうか?そう言って貰えると有り難いが…じゃあ、頼んでもいいか?」

 

 

カノン「はい!任せてください!」

 

 

取りあえず今は朝食でも作ろうという話になり、零とカノンはなのは達が起きる前に朝食を作ろうとキッチンへと向かっていった。

 

そして数時間後、起きて来たなのは達を食卓に加えた後にカノンと智也がやって来た事を皆に説明し、二人の用意した朝食を大人数で美味しく頂いたのだった。

 



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第九章/ライダー少女Wの世界①

 

 

 

蒼い蒼い空に浮かぶ太陽が爛々と輝く。街の至る所には巨大な建造物である風車が風に吹かれて回り、街の風景も平凡を思わせるような賑わいを見せていた。

そんな街の中に建つ一件の写真館…光写真館の中から数人の男女達…朝食を終えた零達一行がぞろぞろと外に出て行き興味津々といった感じに街を眺めていく。

 

 

零「ほぉ、此処が次の世界か…?」

 

 

ヴィータ「ん~…どうやらまたどっかの街ん中みてぇだな」

 

 

優矢「…んで、今回もまた零の格好が変わってるって訳だよなぁ…ていうか、一体何だよその格好?�」

 

 

写真館から外へと出た零達一行。しかしやはりと言うべきか、最早恒例かと言うように零の格好が変わっていたのだ。零の現在の姿は…黒と赤を基礎としたスタイリッシュなスーツ、頭には『WIND SCALE』と書かれた帽子を被っているという良く分からない格好となっていた。

 

 

ヴィータ「また今回もスゲー格好だなぁ…�」

 

 

カノン「何だろう…何だか父さんに似た感じの格好ですよね…もしかして探偵とか?」

 

 

零「探偵ねぇ…そういうのはあまり俺には合わない気もするんだが…まぁ、そういう役割の方が何をしたらいいか分かりやすくていいかもしれないな」

 

 

取りあえず、探偵というのなら何かしらの事件を調べて解決に導いたりすればいいってだけなんだろう。零は簡単に頭の中でそう結論付けながらポケットの中から何か…名刺のような物を取り出してそれを眺めていく。

 

 

ギンガ「?何ですか、ソレ?」

 

 

優矢「名刺…みたいだな?えぇっとなになに…『どんな事件もハードボイルドに解決!!鳴海探偵事務所所属の名探偵 黒月零をよろしく~♪』……何だこりゃ?」

 

 

零「…俺が知るかよ…」

 

 

スバル「ていうか…なんかすっごいテンションの高い名刺ですね…�」

 

 

フェイト「というか、ハードボイルドって何?」

 

 

無駄にハイテンションに書かれた名刺らしくない名刺を目にして零達は唖然とし、フェイトだけは"ハードボイルド"というワードに疑問を持ち小首を傾げていた。

 

 

零「むぅ……む?というかこの鳴海探偵事務所って…どっかで聞いたことがあるような…?」

 

 

なのは「鳴海探偵事務所…あれ?それって確か、翔子ちゃん達が開いてる事務所の名前じゃなかった?」

 

 

零「翔子…?…あぁ、確か祐輔のクリスマスパーティーや智大が開いた千年城の宴に来てた奴らだったか?余り話した事はないが…」

 

 

なのはに言われ、あぁ…と思い出したように呟く零。自身の事をハードボイルドと呼ぶ女探偵"左 翔子"、その事務所の所長を勤める"鳴海 裕一"、翔子の相棒だという"フィリス"。確かこの三人の経営してる事務所の名が鳴海探偵事務所だった筈だが……

 

 

零「…あのずっこけ三人組の経営する探偵事務所か…となると此処は、ライダー少女の方のWの世界、ということになるな…」

 

 

ティアナ「…?だけど可笑しくありません?確か私達が旅する世界はライダーの世界の筈…なのになんで、ライダー少女の世界に?」

 

 

零「さあな…だが、俺達の旅する世界がライダーの世界だけとは限らないだろ。次の行き先が何処の世界かは俺達にも予想できない…なら、ライダー少女の世界に来れても可笑しくはないさ」

 

 

零の説明になのは達は微妙な気もするが納得したように頷く。

 

 

零「まぁ取りあえず、あの三人の探偵事務所に行ってみるか。そうすれば、この世界での役目も何か分かるかもしれな――――」

 

 

 

 

 

―ドッゴオオオォォォォォォォォォォォォォーーーンッッ!!!!―

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

 

零達一行が鳴海探偵事務所を行き先に動こうとした時、突然何処からか巨大な爆音が鳴り響きそれを耳にした一行は歩みを止め、それが響いてきた方へ目を向けていく。そこには街の一角から黒い煙が発生し、再び巨大な爆発が何度も巻き起こるという異常な出来事が起きていたのだった。

 

 

優矢「…なぁ…零?�」

 

 

零「あぁ…何で何時も俺達が来た途端、いきなり事件が起きるんだろうな…�」

 

 

これはもう何かのイジメだろうか?そう思わずにはいられない展開に零は思わず溜め息を吐き、取りあえずあの爆発が発生した場所に向かう事にしたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、風都の中央区街では事件が巻き起こっていた。先程までの穏やかな空気を漂わせる街の雰囲気は既に消え、街の住民は恐怖に染まった顔を浮かべながら一斉に必死に逃げていき、その街の中心では一体の鷲のような怪人が破壊活動を行っていた。

 

 

『ヌウウウゥゥゥゥオオオォォォォ…ウオオオォォォォォォォォォォォォォーーーーッッ!!!』

 

 

怪人が背中にある巨大な翼を大きく羽ばたかせると強風が発生して怪人の周りに建つ建物等が無惨に崩れていき、怪人は翼を羽ばたかせたまま歩みを進め何処に向かおうとする。そんな時…

 

 

 

 

「其処のドーパント、待ちなさい!」

 

 

『…?』

 

 

崩れ落ちた建物の瓦礫を避けてドーパントと呼ばれた怪人の前に立ち塞がる二人の少女。一人は茶色の髪を適度に伸ばし、黒いハットを被った少女。もう一人は首にピンクのトイカメラをぶら下げた茶髪の少女……そう、彼女はあの魔界城の世界を零と共に戦い抜いた少女…ライダー少女ディケイドである門矢 ツカサであった。

 

 

ツカサ「ッ…酷いね…此処まで手酷く壊しまくるなんてさ…」

 

 

『ヌグウウゥゥゥゥ…!』

 

 

「ッ…やっぱりメモリの力に呑まれてるみたいだね…でも止めてみせる。私が…いや、"私達"が!行くよ、ツカサ!」

 

 

ツカサ「OK…行くよ翔子!」

 

 

二人は互いに呼び掛け会うと、ツカサはポケットからディケイドライバーを取り出して腰に装着し、翔子と呼ばれた少女はポケットから機械のようなものを取り出してそれを腹部に当てると、ツカサのディケイドライバーの様にベルトとなって巻き付き、更に翔子は懐から黒いメモリースティック…零となのはが持つのと同じガイアメモリを取り出しボタン部分を人差し指で押していく。

 

 

『JOKER!』

 

 

『ッ?!』

 

 

翔子「行くよ、フィリス!」

 

 

ガイアメモリから響いた電子音声にドーパントは動揺して後退り、翔子は此処にはいない人物…自分の相棒である少女に向かって呼び掛けていった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

―鳴海探偵事務所―

 

 

「お~い、フィリ~ス?お茶が出来たんだが、お前も一緒に飲むか?」

 

 

フィリス「うん、貰うよ。ありがとう裕一…」

 

 

鳴海探偵事務所の奥にある隠し部屋。その室内にある巨大なボードの前で一冊の本を読むフィリスと呼ばれた銀髪の少女の下に裕一と呼ばれた青年がお茶を乗せたお盆を持って現れ、フィリスは読んでいた本を閉じ裕一の淹れたお茶を飲もうと手を伸ばした。その時…

 

 

―シュウゥゥゥゥ…パアァンッ!―

 

 

フィリス「…ん?」

 

 

フィリスの腹部に突然先程翔子が装着したベルトと同じものが現れ、それを見たフィリスは伸ばした手を止めて代わりに自分のポケットを漁っていく。

 

 

裕一「…何だ?もしかして出番か?」

 

 

フィリス「みたいだね…裕一、私の身体をお願い…」

 

 

裕一「あいよ…気をつけてな?」

 

 

裕一がそう言うとフィリスは小さく微笑みながら頷き、ポケットから翔子の持っていたのと色違いのガイアメモリを取り出しボタンを押した。

 

 

『CYCLON!』

 

 

ガイアメモリから電子音声が響くとフィリスはガイアメモリを構える。そしてドーパントと対峙していたツカサはライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構え、翔子もフィリスとは逆向きにガイアメモリを構えていく。そして…

 

 

『変身ッ!』

 

 

ツカサと翔子とフィリスは同じタイミングで叫び、フィリスがガイアメモリをベルトのバックルの二つある差し込み口の右側にセットすると、ガイアメモリはバックルから消え、更にフィリスは意識を失いそのまま床に向かって倒れようとした。

 

 

―ボフッ…―

 

 

裕一「ふぅ…取りあえず、俊介達の分のお茶はフィリスを運んでからだな」

 

 

倒れ掛けたフィリスの身体を裕一が抱き留め、裕一はフィリスの身体をお姫様抱っこしながら隠し部屋から出ていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてフィリスがバックルにガイアメモリをセットしてすぐの事。翔子のベルトのバックルの右側の差し込み口にフィリスがセットしたガイアメモリが現れ、翔子はそれをしっかりセットすると次に自分の持っていたガイアメモリをバックルの空いている左側の差し込み口に装填しバックルをWの形に開き、ツカサもそれに続くようにディケイドライバーにカードをセットしスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CYCLON!JOKER!』

 

 

二つの電子音声が重なって鳴り響き、ツカサはディケイドに、翔子の身体は吹き荒れる風と共に装甲に覆われて姿を変えていく。身体の右半身が緑、左半身が黒のバトルドレスを着用し、首には銀色のマフラーをしてW字の髪留めを着用したライダー少女へと姿を変えたのだった。

 

 

『ッ?!キ…キサマラ…ナニモノダ?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『通りすがりの仮面ライダー少女よ、覚えておきなさい!』

 

 

W(翔子)『右に同じく通りすがりの探偵よ♪…さぁ、お前の罪を数えろ!』

 

 

ディケイドに変身したツカサと左手を前に出しドーパントを指差して叫ぶ翔子…『ダブル』は自分達の決め台詞を叫ぶと、二人は鷲のような姿をしたドーパント…ガルーダドーパントに向かって突っ込んでいったのだった。

 



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第九章/ライダー少女Wの世界②

 

W(翔子)『でえぇいっ!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『セイッ!ヤァッ!』

 

 

『ヌウゥグッ!?』

 

 

ディケイド(ツカサ)の放つ打撃とダブル(翔子)の繰り出すミドルキックがガルーダドーパントに次々とヒットしていき、ガルーダドーパントは反撃する余地もなく二人の攻撃を避けながら後退していくことで手一杯の状態となっていた。だが…

 

 

『ヌウゥゥ…ヌアアアァァァァァァァーーーッ!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

このままでは自分が押される一方だと痺れを切らしたガルーダドーパントは二人の攻撃を回避して上空へと舞い上がり、そのまま二人の攻撃範囲外へと離れてしまう。

 

 

ディケイド(ツカサ)『ちょ、コラーッ!そんなところにいないで下りてきなさーいッ!』

 

 

『フンッ…』

 

 

子供のように両手をばたつかせながら上空に浮くガルーダドーパントに向けて叫ぶディケイド(ツカサ)だが、ガルーダドーパントはそんなディケイド(ツカサ)を鼻で笑い、背中の翼を上空で大きく広げていく。

 

 

W(翔子)『?アイツ…一体何を?』

 

 

W(フィリス)『…これは…ッ?!翔子!ツカサ!急いでそこから離れて!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ふぇ?それってどういう…』

 

 

不意に聞こえてきたダブルの左半身であるフィリスの張り詰めた声。ディケイド(ツカサ)とダブル(翔子)はそれの意味を理解できず首を傾げていると…

 

 

『ウオオオォォォォォアアアァァァァァァッ!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドオォッ!!!―

 

 

『なっ!?うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

ガルーダドーパントの翼から放たれた無数の羽の弾丸が二人に向かって降り注ぎ、二人はそれの爆風に巻き込まれながらも必死に飛び退いて回避していく。

 

 

ディケイド(ツカサ)『あ~~もう!これじゃあ全然近づけないじゃんッ!�』

 

 

W(フィリス)『…翔子、此処は私のメモリを変えようか?』

 

 

W(翔子)『クッ…了~解!じゃ、頼むよフィリス!』

 

 

ダブル(フィリス)の言葉にダブル(翔子)は首を振って承知し、右側のドライバーの差し込み口にあるメモリを抜いて懐から黄色のガイアメモリを取り出し、それを右側の差し込み口に装填して再びWの形にバックルを展開する。

 

 

『LUNA!JOKER!』

 

 

電子音声が響くと、ダブルの右半身のドレスが緑から黄色へと変化していった。そしてハーフチェンジを終えたダブルはなんと右腕の形状をゴムの様に伸ばして振り回し、ガルーダドーパントの撃ってくる羽の弾丸を次々と弾いていき、そのまま上空に浮かぶガルーダドーパントの下まで腕を伸ばして頭を掴み、地上へと勢い良く叩き落としていった。

 

 

『ヌガアアァァッ!?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ひゅ~、流石はW♪トリッキーな戦いはお手の物だね~♪』

 

 

W(フィリス)『フフ…まあね♪』

 

 

W(翔子)『此処から反撃開始ってね…行くよ!』

 

 

『CYCLON!JOKER!』

 

 

ガルーダドーパントは上空から地上に叩き落とされたダメージによりまとも動けず、ダブル(翔子)は先程のメモリをもう一度バックルにセットして先程の姿へと戻り、ディケイド(ツカサ)と共にガルーダドーパントに向かって反撃を開始した。そしてその影では…

 

 

―カシャッ―

 

 

零「……なるほど、あれがこの世界のライダー少女…Wか」

 

 

なのは「みたいだね。それにしても…まさかツカサちゃんまでこの世界に来てたなんて…�」

 

 

フェイト「?なのは…あの子の事知ってるの?」

 

 

優矢「いや知ってると言うより…まぁ、俺達にとっては目茶苦茶知り合いですね�」

 

 

カノン「僕は一応、父さんからの話で聞いたことがありますけど…」

 

 

先程の場所からやって来た零、なのは、フェイト、優矢、カノン達の五人が二人の戦いを影から見ていた。零は首に掛けているカメラで二人の戦い振りを収めていくが、自身も戦闘に参加しようという意志は見られない。

 

 

優矢「ていうか零、お前も一緒に戦わなくていいのかよ?」

 

 

零「…そんなの必要ないだろう。あの二人の今の調子なら俺が手助けしなくても勝手に勝つだろうし…俺は此処から二人の戦い振りを見学させてもらうさ」

 

 

なのは「そ、そういう問題じゃないでしょ�」

 

 

フェイト「もう、ホントにマイペースなんだから�」

 

 

カノン「アハハハ…�」

 

 

あくまでも手助けしようとしない零になのは達は呆れと深い溜め息を吐き、零はそんななのは達を他所に目の前の戦いをカメラに収めていく。そしてディケイド(ツカサ)とダブル(翔子)はガルーダドーパントを力強く殴りつけて建物の壁際まで吹っ飛ばし、完全に流れを掴み取っていた。

 

 

『ウグゴオォッ!!グゥッ…グッ…!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『もうそろそろかな…翔子!フィリス!』

 

 

W(翔子)『オーケー!じゃあ…メモリブレイク、行きますか!』

 

 

ダブルは片膝を付けるガルーダドーパントにトドメを刺そうとバックルの左側のガイアメモリを抜き取ろうと手を掛ける。しかし…

 

 

 

―ザアアアァァァァ…―

 

 

 

『?!えっ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)とダブル(翔子)の目の前に突如歪みの壁が発生し、突然現れたそれに二人は驚愕の声を上げ、影でその様子を見ていた零達も目を見開き驚いていた。そして出現した歪みの壁が徐々に薄れて消えていくと、そこから異形の姿をしたドーパントではない怪人達がゆっくりと姿を現してきた。

 

 

W(翔子)『なっ…なんなのコイツ等?!』

 

 

W(フィリス)『(あれは…ドーパントじゃない?確かあれは……)』

 

 

ディケイド(ツカサ)『コイツ等…嘘!レジェンドルガ?!何でコイツ等がこんなとこにいんの?!』

 

 

突然現れた怪人達にダブル達が戸惑う中、ディケイド(ツカサ)は目の前にいる怪人達…レジェンドルガを見て再び驚愕の声を上げていた。しかしレジェンドルガ達はそんな二人の反応を他所にいきなり襲い掛かり、態勢を立て直したガルーダドーパントもそれに便乗して二人に襲い掛かっていった。

 

 

優矢「お、おい!一体何がどうなってんだよ?!�」

 

 

なのは「ど、どうして…?!何でレジェンドルガがこの世界にいるの?!�」

 

 

零「…さあな。詳しいことは分からんが、奴らの登場で戦況が悪い方に転んじまったってことは言い切れるだろう」

 

 

なのは達はダブル達と戦うレジェンドルガ達を見て動揺し、零はレジェンドルガ達の攻撃を受け後退しつつある二人の姿を見て険しい表情を浮かべながらディケイドライバーを取り出して腰に巻き、カノンもゼロスドライバーを取り出し腰に装着する。

 

 

零「取りあえず、今はあの二人の援護をした方が良さそうだな…カノン、いくぞ!」

 

 

カノン「はい。変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:ZEROS!』

 

 

二人は直ぐに自分のベルトにカードをセットして変身し、零はディケイド、カノンは何処かディケイドに似た姿をした白と黒のライダー『ゼロス』へ変身した。そして二人はライドブッカーとゼロスブッカーをSモードに切り替えレジェンドルガに向かって飛び出し、その内の二体に斬り掛かった。

 

 

『グゴオォッ?!』

 

 

ダブル(翔子)『え…?だ、誰…?』

 

 

ディケイド『よう、ツカサ。久しぶりだな?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『えっ?その声……もしかして零?!な、何でこんな所に?!』

 

 

ディケイド『その話は後にしろ。今は奴らを叩く方が先だッ!』

 

 

突然乱入してきたディケイドとゼロスにダブル(翔子)ディケイド(ツカサ)、ガルーダドーパントも驚いて動きを止め、ディケイドとゼロスはレジェンドルガに斬撃を与えて吹き飛ばし、ディケイドはその内の一体にライドブッカーの剣先を向けながら口を開く。

 

 

ディケイド『お前等…まさかスカリエッティの所のレジェンドルガか?』

 

 

『ッ?!な、何故その事を…まさか貴様!黒月零か?!』

 

 

ディケイド『俺の事はどうだっていい…質問に答える気がないなら、さっさと消えろ。ハァッ!』

 

 

『グオォッ?!』

 

 

ディケイドはライドブッカーで次々とレジェンドルガを斬りつけ、ゼロスもレジェンドルガに斬撃を繰り出し吹き飛ばしていった。そして二人はそれぞれブッカーから一枚ずつカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『コイツの力を試すか。変身ッ!』

 

 

ゼロス『僕も行かせてもらうよ!』

 

 

『KAMENRIDE:CANCELER!』

 

『FORMRIDE:RIDER!』

 

 

電子音声が響くとディケイドは祐輔の変身するキャンセラーに、ゼロスは紫色のボディのライダーフォームへとフォームチェンジし、再びレジェンドルガ達に向かって突っ込んでいく。

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィンッ!―

 

 

『グゴォッ!?』

 

 

Dキャンセラー『フッ!ハッ!』

 

 

ゼロス『デリャアッ!』

 

 

『ヌゴオォッ!?』

 

 

Dキャンセラーはライドブッカーを巧みに扱いレジェンドルガ達を追い詰めていき、ゼロスはアルケミックチェーンを用いた格闘技でレジェンドルガにダメージを与えていく。そしてゼロスはレジェンドルガから一旦距離を離しゼロスブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ゼロス『さて、そろそろ決めさせてもらうよ!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:RIDER!』

 

 

電子音声が響くとゼロスの身体が宙に舞う様に浮き、右足に魔力を溜めていく。そしてゼロスはそのまま天馬の如く上空へと飛び上がり、レジェンドルガに向かって猛スピードで突っ込んでいった。

 

 

ゼロス『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!ベルレ!!』

 

 

ゼロスがレジェンドルガに突っ込みながら自身の技を叫ぼうとした瞬間、Dキャンセラーはライドブッカーから一枚のカードを取り出してディケイドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

電子音声が響くとDキャンセラーの周りがスローモーションのように遅くなり、ゼロスも空中で止まったかのように動かなくなった。そしてDキャンセラーは再びライドブッカーから一枚のカードを取り出し、それをディケイドライバーに投げ入れスライドさせる。

 

 

『FINALATTACKRIDE:CA・CA・CA・CANCELER!』

 

 

電子音声が流れた瞬間、Dキャンセラーの持つライドブッカーの刃が雷を纏ったかの様に激しく輝き出し、Dキャンセラーはそれを両手に構えるとレジェンドルガ達に向かって走り出し、レジェンドルガ達に向けてライドブッカーを振るっていく。

 

 

―ズバァンッ!!ズバァンッ!!ズバァンッ!!―

 

 

Dキャンセラー『1、2、3、そしてコイツで…ラストオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

―ズバアアアァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

『TIME OVER!』

 

 

ゼロス『―――…フオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオオオォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

Dキャンセラーのタイムクイックが切れると同時にDキャンセラーに斬られたレジェンドルガ達が一斉に爆発を起こして散り、それと共にゼロスのベルレフォーンがレジェンドルガに炸裂し爆発していった。そしてそれを確認したDキャンセラーもディケイドに戻り、一息吐きながら両手を払っていた。

 

 

W(翔子)『す…凄い…!』

 

 

W(フィリス)『ツカサとは違うディケイド…興味深いね。彼の事を考えるとムラムラするよ♪』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ちょ、フィリス?!その発言なんか別の意味に聞こえるから止め―ガアァッ!―…って!アンタもしつこいよ!」

 

 

レジェンドルガをあっさり倒したディケイド達を見て二人は唖然としてしまうが、ガルーダドーパントの奇襲を避けダブル(翔子)はガルーダドーパントから少し離れるとバックルから黒いガイアメモリを引き抜き右腰のスロットにガイアメモリーをインサートした。

 

 

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

 

 

電子音声と共にダブルを中心に風が渦巻いてダブルの身体が宙にある程度の高さまで浮かんでいく。そして…

 

 

W『ジョーカー・エクストリーム!』

 

 

ダブルはスロットのボタンを押すとガルーダドーパントに向かって両足を向けそのまま突っ込んでいき、途中でなんと身体が右半身と左半身に解れて更に加速し左、右の順番でガルーダドーパントに突っ込んでいった。

 

 

W『ヤアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

『グ、ウ…ウガアァァァァァァァァァァァァアーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

ダブルの必殺技、ジョーカーエクストリームが炸裂しガルーダドーパントは断末魔をあげながら爆発を起こした。そして爆発が晴れると…

 

 

ディケイド『……?あれは……男?』

 

 

そう、ガルーダドーパントが爆発した場所には、一人の男がボロボロの姿で倒れていたのだ。その男の近くには先程ダブルが使っていたガイアメモリと同じような物が砕けた状態で転がっていた。

 

 

W(翔子)『ふぅ…これで一件落着かな?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『うぅ…何か私、あんまり活躍出来なかったよぉ�』

 

 

W(翔子)『ま…まあまあ�取りあえず、予想外の事態は起きたけれどこれで事件は解決ね』

 

 

W(フィリス)『そうみたいだね……翔子、犯人の男を警察に引き渡したらそこにいるディケイドを事務所に連れてきて。彼の事を少し調べたい』

 

 

W(翔子)『へ…?あ、うん、分かった』

 

 

ダブル(フィリス)の言葉に少し戸惑いながらも頷き、ダブル(翔子)とディケイド(ツカサ)は変身を解除し翔子とツカサに戻っていった。そしてディケイド達の方は……

 

 

フェイト「二人共、やったね!」

 

 

優矢「あぁ、中々良い戦い方してたじゃん!」

 

 

カノン「あはは…あ、ありがとうございます�」

 

 

なのは「…ねぇ零君…今のレジェンドルガって…」

 

 

零「あぁ…どうやら、あのスカリエッティの配下だったようだな。俺を知ってるような口振りもしてたし…だが、何故アイツ等がこの世界に…?」

 

 

変身を解除した零とカノンはなのは達と合流し、優矢達とカノンが話してる隣で零となのはは何故レジェンドルガがこの世界に現れたのかと話し合っていた。とそんな時…

 

 

ツカサ「お~い!!零~~!!♪」

 

 

零「ん…?あぁ、ツカサ。久しぶり―ドゴオォッ!―ガハアァッ!?」

 

 

カノン「うわぁっ!?れ、零さん!?」

 

 

手を振って走り寄ってくるツカサに答えようと零が手を上げた瞬間、ツカサは勢いを付けてそのまま零に抱き着いてきた…溝に向かって。零はそのままツカサに抱き着かれたまま後ろ向きに倒れてしまい、なのは達は突然の事に驚いて唖然としてしまう。

 

 

ツカサ「久しぶり~♪みんな元気してた~?」

 

 

零「ゴフッ…ツ、ツカサ…テメェ…」

 

 

カノン「ちょ、零さん、大丈夫ですか!?」

 

 

ツカサ「…ん?君…もしかしてさっきディケイドみたいなライダーになって子?」

 

 

カノン「え…?あ、はい!カノン・フェルトと言います。よろし―ガシッ!―…え?」

 

 

ツカサ「うん、カノンくんね♪私は門矢 ツカサ♪んで…早速だけど、さっきのライダーの写真撮らせて♪ほら、零も行くよ!」

 

 

零「…は?なっ!ま、待てツカサッ!?」

 

 

カノン「え、えぇ!?ちょ、何なんですかいきなり!?」

 

 

零とカノンは意味も分からずツカサに襟を掴まれ引きずられ、ツカサは鼻歌を歌いながら二人を連れて何処か向かっていき、その場にはツカサの行動に唖然とする翔子となのは達が呆然と立ち尽くしていた。

 

 

翔子「………はっ!?ま、待ってよツカサ~!」

 

 

なのは「ちょ、置いていかないでよ二人共!」

 

 

フェイト「あ!?ま、待ってよなのは~!」

 

 

優矢「お、おい!皆待ってくれよ~!」

 

 

唖然と立ち尽くしてた翔子達も漸く正気に戻り、慌てた様子でツカサ達の後を追い掛けたのだった。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界③

 

―鳴海探偵事務所―

 

 

―ガチャッ……バタンッ―

 

 

翔子「裕一~、フィリス~、帰ったよ~!」

 

 

ツカサ「たっだいま~♪」

 

 

―ズルズルズルズル…―

 

 

カノン「……結局…ワケも分からないまま拉致られて来られましたね…�」

 

 

零「ふっ……俺はもうこう言う扱いを受けるのは慣れてるけどな…」

 

 

優矢「いや、別にそこはカッコつけて言う事でもねぇから�」

 

 

ツカサによって無理矢理連れられてから数十分後、零達は翔子達の経営する鳴海探偵事務所へと訪れ、ツカサは中に入ると同時に零を解放しカノンを強引に引っ張ったまま部屋の奥へ進んでいく。すると奥から数人の男女達が現れ、ツカサと翔子の下に集まってきた。

 

 

 

裕一「翔子、犯人の男は?」

 

 

翔子「問題ナッシング♪さっき刃野刑事に連絡しておいたから、多分今頃パトカーの中でしょ」

 

 

俊介「こぉらツカサぁ!!お前また裕香との買い出しすっぽかしてドーパントと戦いに行ってたなぁ!?」

 

 

ツカサ「いっ、いひゃひゃひゃひゃ!!�いひゃいよひゅんしゅけ~!!�」

 

 

零「……相変わらず賑やかだなコイツ等は�」

 

 

なのは「ま…まぁ、そこがツカサちゃん達の良い所でもあると思うけど�」

 

 

裕香「…あっ!皆さん!お久しぶりです!」

 

 

零達がツカサと俊介のやり取りを苦笑しながら見つめていると俊介を宥めていた裕香が零達に気付いて駆け寄ってきた。

 

 

なのは「あ、裕香ちゃん!久しぶり~♪元気にしてた?」

 

 

裕香「はい!皆さんも、お変わりないようですね♪」

 

 

零「あぁ、あれから全然変わってないぞ…俺がコイツ等に半殺しにされてる事も含めてな」

 

 

優矢「おぃ!�」

 

 

裕香「ア、アハハハ…�零さんも相変わらずですね�…あっ、そちらのフェイトさんは…もしかして零さん達が探してたっていう?」

 

 

フェイト「え?あ、うん�えっと……貴方は?」

 

 

裕香「あ、失礼しました。私は裕香、それであそこの二人がツカサと俊介君です」

 

 

フェイト「…あ、貴方達が零達の言っていたライダー少女ディケイドだったんだ…私はフェイト・T・ハラオウン、宜しくね裕香♪」

 

 

裕香「はい♪こちらこそ!」

 

 

二人は互いに軽い自己紹介をして握手し、零はそれを横目に見ると、未だぎゃあぎゃあと言い争うツカサと俊介の下に歩いて二人の間に割って入った。

 

 

零「ほら!お前等もその辺にしておけ!」

 

 

俊介「っと…零、ちょうど良かった!」

 

 

ツカサ「うぅ~零も何とか言ってよ!俊介、さっきから怒ってばっかなんだよぉ~!」

 

 

零「ハァ……どうせお前がまた俊介を怒らせるような事したんだろう?今のやり取りを聞いてたから大体分かった……10割ツカサが悪い」

 

 

ツカサ「容赦なく切り捨てられたぁ!?」

 

 

零に指摘されたのが思いの外効いたのかツカサは床にガクンと手足を付けて落ち込んでしまったが、零はそれを軽く流し俊介と裕一の方を見た。

 

 

零「さて…取りあえず久しぶりだな、俊介?」

 

 

俊介「あぁ、最後に会ったのは確か…あのGreen Cafeでのクリスマスパーティー以来だったか?」

 

 

零「ふむ、多分それぐらいだな…んでそっちの二人が……確か左翔子と鳴海裕一だったか?」

 

 

裕一「え、えぇ。えっと…貴方は確か、Green Cafeや千年城の宴にいた…?」

 

 

零「む?…そう言えばちゃんと自己紹介してなかったか。俺は黒月零、ツカサとは別のディケイドであり…通りすがりのハードボイルド探偵だ」

 

 

優矢「いや、最後の方だけ何か違うって…�」

 

 

翔子「む?!ハードボイルドって言うなら私だって負けてないよ!!」

 

 

裕一「お前まで対抗せんでいい!!」

 

 

冗談半分で告げた零の言葉に反応しズイッと前に出て胸を張る翔子に横からツッコミを入れる裕一……どうやら俊介と同じくツッコミの才能があると見た。

 

 

零「…ん?そういえば…お前達にはもう一人仲間が居たんじゃなかったか?確か…銀髪の…フィリスだったか?」

 

 

翔子「あ、うん。フィリスならこの奥の「私なら此処にいるよ」……え?」

 

 

フィリスの事を聞いて来る零に翔子が説明しようとするが、それを遮るように奥から声が聞こえ、一同はそれの聞こえてきた方へ振り返った。すると奥の隠し部屋に通じる扉が開き、そこから銀髪の長髪をした少女……フィリスが現れ翔子達の下へ歩いてきた。

 

 

裕一「お、フィリス。検索はもう終わったのか?」

 

 

フィリス「うん……彼が、ツカサとは別のディケイド…黒月零だね?」

 

 

零「?何だ、俺の事知ってたのか?」

 

 

フィリス「うん、そっちの人が裕香とは別のクウガに変身する桜川優矢…そっちの人がディケイドタイプのライダー、トランスに変身する高町なのは…そっちの人がカブトタイプのライダー、ビートに変身するフェイト・T・ハラオウン……でしょ?」

 

 

なのは「あ、当たってる…」

 

 

フェイト「な、名前はともかく…私達の変身するライダーの名前まで…?!」

 

 

優矢「ってか、初対面の俺まで知ってんのか?!」

 

 

なのは達はともかく初対面であるハズの優矢の事まで当てられ三人は動揺してしまうが、フィリスはそんな三人の様子を見てクスリと小さく微笑んだ。

 

 

フィリス「貴方達のことは既に地球の本棚で検索済みだよ。だから、私は貴方達の事は何でも知ってる」

 

 

フェイト「…?地球の…本棚って何?」

 

 

フィリスの口から話された地球の本棚と言うワードになのは達は首を傾げ、零はそれを聞くと顎に手を添えて何かを考え始めた。

 

 

裕一「フィリスの頭の中には地球の全てと言っていい程の知識が頭の中に詰まってるんだ。その中には人物についての情報もある…だからフィリスは、その地球の本棚でアンタ等についての情報も検索して分かったんだ」

 

 

零「…なるほどな…大体分かった。要はあのカイエの持つインデックスと同じ力と言うワケか」

 

 

裕一からの説明に納得したのか、零は頭に被る帽子の鍔を掴みながらそう呟き、なのは達はまだ全部は理解出来ていないようだが一応納得したように頷く。

 

 

フィリス「それで、今度はこちらから質問したいんだけど…さっきの戦いでいきなり乱入して来た怪人…あれはレジェンドルガだね?しかも、君達とツカサ達が魔界城の世界で倒したスカリエッティの配下の…」

 

 

零「…そこまで検索済みだったか……あぁ、その情報に偽りはないだろう。俺もさっきの戦闘で核心を得たところだ」

 

 

フィリス「そう…じゃあ、貴方達はスカリエッティが再び行動を起こしたと言う事実を知ったのは、遂さっきと言う事だね?」

 

 

零「あぁ…正直認めたくはないが…認めざるおえない事実だな…」

 

 

自分達があれほど苦労して倒したあのスカリエッティの配下…レジェンドルガが再び現れた。その事実を溜め息を吐きながら残念そうに呟く零の言葉になのは達や俊介達の表情も少し暗くなる。

 

 

翔子「…えぇっと…と、取りあえず!零達はこれから一体どうするの?」

 

 

零「ん…?あぁ、そうだな……取りあえず、迷惑じゃなければ暫く此処に残ろうと思う。この世界についてももう少し調べたいし」

 

 

裕一「そっか……ならこの辺で少しティータイムでも入れないか?特製のミルクココアでもご馳走するよ」

 

 

なのは「あ、ありがとうございます」

 

 

軽く頭を下げながら礼を口にするなのは達だが、裕一は気にするなと言うように片手を振りながらお茶を入れる準備を始める。するとその時、零は何となく部屋を見渡してた時にある事に気づき首を傾げた。

 

 

零「?……なぁ、そういえばツカサとカノンは何処に行ったんだ?姿が見当たらないようだが…」

 

 

フェイト「え?……あっ、ホントだ。さっきまで二人とも此処にいたハズだよね…?」

 

 

ツカサとカノンの姿がいつの間にか消えていることに気付いて零達は部屋の中を見回していくが、その時零が俊介と裕香が顔を引き攣らせていることに気が付きまさか…と眉をしかめた。

 

 

零「……二人とも…まさかとは思うが……ツカサの奴……」

 

 

裕香「……そのまさかです�」

 

 

俊介「…さっき俺達が話し込んでる間にカノンを連れて奥の隠し部屋に向かったらしいぞ�多分…カノンの変身するライダーの撮影で長時間篭ると思うが…�」

 

 

零「…カノン…気の毒に…�」

 

 

フィリス「フフフ…やはり彼女は超計算外な存在で面白いね♪彼女のあの破天荒な性格は何時も予想外の展開を作り出してくれる♪」

 

 

翔子「あ、あはは…それは褒めてるのかなぁ…�」

 

 

零はツカサとカノンが居るであろう奥の隠し部屋への扉を見つめながらそう呟き、翔子やなのは達は妖艶な笑みを浮かべるフィリスを見て苦笑していた。そんな時……

 

 

―ピンポーン♪―

 

 

なのは「あれ…?もしかしてお客さん?」

 

 

裕一「いいや…多分依頼者だろう。此処は探偵事務所だからそう珍しくはないが…」

 

 

翔子「そういう事~♪はいはい、今出ま~す!」

 

 

玄関の方から鳴り響いて来たインターホンの音を聞き翔子は元気よく玄関まで走り扉を開けた。すると扉の前には二人の男女と、その二人の回りに黒いスーツを着込んだボディーガードのような男性達がしかめた様な表情をして立っていた。

 

 

翔子「は…?え?これは…?」

 

 

「君、この探偵事務所の関係者かな?」

 

 

翔子「ふぇ?…あぁはい!そうですけど…そちらは?」

 

 

翔子は突然の大人数の来客に戸惑いながらも、目の前に立っていた男性に何とかそう問いを返した。すると男性はニヤけた笑みを浮かべながら女性の肩を抱いて抱き寄せながら口を開く。

 

 

「これは失礼。僕は信条 誠、それでこちらの女性は僕のフィアンセ…高山 望だ。宜しくね?」

 

 

望「…初めまして…」

 

 

翔子「信条…誠…高山 望……って!もしかして貴方達は―――!?」

 

 

―ガシャンッ!ドタドタドタドタッ!!―

 

 

裕一「もしかしてっ!あの大企業信条グループの次期社長と高山コーポレーションの御令嬢おぉ!?」

 

 

二人の名前を聞いて翔子がなにかを言い掛けた瞬間、奥でその会話を聞いていた裕一が慌てた様子で玄関まで駆け付け代わりに大声で叫び、名前を言い当てられた誠と言う男性は前髪を払いながら微笑み、望は何故か暗い表情をして翔子達から目を逸らしていた。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界④

 

突然翔子達の事務所に押しかけてきた大企業の跡取りである信条 誠と高山 望。翔子達は突然の大物の来客に驚きながらも、取りあえずボディーガードの男性達には外で待っててもらい、依頼の内容を聞こうと二人を事務所の中に入れて話しを聞いていた。その依頼の内容とは……

 

 

翔子「――結婚式のボディーガード?」

 

 

誠から聞かされた依頼の内容に翔子や裕一、近くで聞いていた零達も不思議そうに首を捻っていた。

 

 

誠「そっ、最近新聞やニュースで聞いてるだろ?近い内、うちの信条グループと高山コーポレーションが合併するって話。その為に僕と望の結婚式が数日後に開かれるから、君達にはそれのボディーガードを頼みたいんだよ」

 

 

裕一「ボディーガードですか…でも、何で俺達にそんな依頼を?ボディーガードっでだけなら、俺達じゃなくても外にいる黒服の人達だけで十分じゃ…?」

 

 

裕一は誠からの話を聞いていく内に感じた疑問を口にして問い掛けるが、誠はそれを聞いてこめかみを押さえた。

 

 

誠「あぁ、それだけなら君達に依頼する必要ないんだよ…でも、最近噂になってる事件の事を考えるとどうも不安になってね…」

 

 

俊介「?事件…?」

 

 

誠「ん…?君達は聞いてないのかい?一年前からちょくちょく世間で騒ぎになってる、謎の花嫁失踪事件のこと」

 

 

『花嫁失踪事件…?』

 

 

誠の口から語られた花嫁失踪事件と言う事件に零達や俊介達は口を揃えて疑問そうに呟き、対して翔子や裕一はそれを聞き何かを思い出したように顔を上げた。

 

 

翔子「花嫁失踪事件って…確か、結婚式を開いた翌日の日に花嫁が突然謎の失踪をしたって言う怪奇事件?」

 

 

優矢「?花嫁が失踪…?」

 

 

裕一「あぁ…なんでもある恋人が式を開いた日、教会の控室にいたハズの花嫁が突然消えたっていう事件が何件も起こってるらしいんだ。しかもその犯行の際に共通点が一つ…花嫁の座っていた椅子の上に赤いバラが添えられていたって言う話らしい…」

 

 

なのは「…花嫁が謎の失踪…何か不気味だね…」

 

 

フェイト「うん…」

 

 

翔子と裕一から次々と語られる事件の詳細を聞き、なのは達は薄気味悪さを感じたのか少し表情が引き攣っていた。

 

 

零「成る程…その話が本当なら、確かにそこら辺のボディーガードじゃ不安にもなるだろうな…」

 

 

誠「そういうことさ。折角僕と望の結婚式が開けるんだ…それを何処の誰とも分からない奴に邪魔されたくないんだよ。なぁ望?」

 

 

望「……はい…」

 

 

『…?』

 

 

ヘラヘラとした笑みを浮かべて問い掛ける誠に何処か浮かない顔をして答える誠。そんな望の反応に一同…特に女性陣が妙な違和感を感じていた。

 

 

誠「まぁとにかく、君達には僕達のボディーガード及び、その失踪事件を起こしてる犯人も一緒に捕まえて欲しいんだよ。この結婚式は僕達の未来、そして会社に未来に関わる重要な式だ…民衆の前で大恥を掻く訳にはいかないんだよ」

 

 

誠は足を組む姿勢のまま向かいの椅子に座る裕一達に告げ、裕一は顎に手を添えながら頭の中で考えを纏める。あの大企業の御曹司からの依頼なら報酬も高く付く可能性がある。

加えて今話された花嫁失踪事件。事件の詳細を聞くと不可解な点が多過ぎる。これはもしかすると、"アレ"が関わっている可能性も高い。ふと隣を見れば、翔子も同じ考えなのかこちらに向かって何かを訴えてきているような表情をしてる。それを見た裕一は深く息を吐いた後に……

 

 

裕一「……分かりました。では、式の日取りなど詳しく聞かせてもらっても構いませんか?こちらも何とかそちらに合わせるようにしますので」

 

 

と、裕一は詳しい式の日取りなどを教えてもらおうと誠と話し合い、零達はそれを離れた場所から見つめていた。

 

 

零「ほぉ……こうしてアイツ等を見てみると、此処が本当に探偵事務所なんだと実感出来るな」

 

 

俊介「そうだな……まぁ、ぶっちゃけて言えば普段の雰囲気のせいか時々此処が探偵事務所だって忘れる事も多くあるんだが…�」

 

 

零「あぁ…まあ、あのずっこけ三人組が経営してる探偵事務所ならそうなっても仕方ないだろう」

 

 

優矢「…お前、何気に酷いこと言ってるな�」

 

 

零と俊介は誠と話し合う翔子と裕一、そしてソファーで一人読者をしているフィリスを見てそんな会話をし、優矢は二人の会話を隣で聞いてて思わずツッコミを入れていた。その隅では……

 

 

フェイト「…ねぇなのは、裕香…」

 

 

なのは「うん…二人もやっぱり気付いた…?」

 

 

裕香「はい…あの望っていう人…やっぱり何か様子が可笑しいですよね…」

 

 

望「…………………」

 

 

零達が隣で会話してる中、なのは、フェイト、裕香の三人が誠の隣に座る望を怪訝そうな表情をして見つめていた。先程から望は何故か浮かない顔をして会話に参加しようとせず、三人はそれの事を疑問に思いずっと望が気になっていたのだ。そんな時…

 

 

―ガチャッ―

 

 

カノン「うぅ~…つ、疲れたあぁ…�」

 

 

ツカサ「いや~満足満足♪良い写真が一杯撮れたよ~♪」

 

 

「もう…あんまりカノン君を虐めたら駄目だよ、ツカサちゃん?」

 

 

『………………え?』

 

 

奥にある隠し部屋へと通じる扉からツカサとカノン、そして一人の少女が部屋の中に入って来た。その少女の聞き覚えのある声を聞いて零やなのは達はその少女を見て驚愕した。何故ならその少女は……

 

 

 

 

 

零「…ッ?!お、お前は?!」

 

 

なのは「す…すずかちゃん!?すずかちゃんなの!?」

 

 

すずか「…へ?…ってなのはちゃん!?それにフェイトちゃんに零君まで!?皆どうして!?」

 

 

そう…その少女とは零達の幼なじみであり、零達の世界の地球で普通の大学生として生活してる筈の"月村すずか"だったのだ……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてそれから数十分後…

 

 

―風麺―

 

 

―ズズズッ…ズルズルズルズルッ―

 

 

翔子「プハァ~♪やっぱ此処のラーメンは最高だねぇ~♪」

 

 

ツカサ「おじさん!ラーメンおかわり♪」

 

 

優矢「あっ!俺ももう一杯♪」

 

 

俊介「ってお前等まだ食う気かよ?!」

 

 

裕香「ふ、二人とも…今のでもう五杯目ですよ?�」

 

 

零「…なるとデケェ…」

 

 

カノン「ていうか…なるとがデカすぎて下の麺が見えませんねぇ…�」

 

 

誠から結婚式の日取りを聞き終えて二人が事務所から出ていった頃には既に昼時となり、一同は取りあえず昼食を取ろうと風都名物の一つである風麺に来ていた。だが零達は初めて食する風都ラーメン…に付いてるドデカイなるとに少々悪戦苦闘を強いられていた。

 

 

零「ズッズズズッ……それにしてもまさか……すずかまでライダーの世界に飛ばされていたとは驚いたぞ。しかも裕一と一緒にメモリガジェットの開発にまで関わっていたなんて…」

 

 

すずか「私もビックリしたよ。まさか零君達がこの世界に来るなんて夢にも思ってもなかったから�」

 

 

と麺を啜りながら呟く零にすずかが苦笑して答えた。先程の一件の後にすずかから詳しい話しを聞いた所、どうやら零達の世界の地球の方でも滅び現象が発生し、大学帰りだったアリサとすずかはその際に滅びの現象に巻き込まれ、すずかは気が付いたらこのライダー少女Wの世界に飛ばされていたらしく、偶然出会った翔子達に保護されて事務所で居候していたらしい。

 

 

なのは「…すずかちゃんも大変だったんだね…そんなことがあったなんて私全然知らなかったよ…」

 

 

すずか「うん、最初の頃は右も左も分からなくて途方に暮れてたんだけど…翔子ちゃん達に助けてもらってからはこの世界にも少しずつ馴染み始めてね。本当に見たことのないものばかりでビックリしたよ、仮面ライダーとかドーパントとか…�」

 

 

フェイト「そっか…でも、アリサまであの現象に巻き込まれたとなると…もしかしたらアリサも何処かのライダーの世界に飛ばされてるのかもしれないね…」

 

 

なのは「そうかもね……アリサちゃんとはやてちゃん、他に見付かってない皆も無事だと良いんだけど…」

 

 

零「ズズッズズズズッ……他の奴らはともかく、あの二人のことなら心配なんていらないだろう。どうせあの狸と鬼娘の事だからどんな世界でも上手くやってるに違いないさ。特にアリサは素手で怪人を潰してしまうほどの怪力を持っている実力者(化け物)だからな」

 

 

フェイト「Σえぇ?!アリサってそんなに強かったの?!」

 

 

カノン「こっちの世界のアリサさん凄いですね!?」

 

 

なのは「ふ、二人共…それ零君の冗談だから真に受けたら駄目だよ…?�」

 

 

すずか「あははは…零君は本当に相変わらずみたいだね�」

 

 

零の言葉を完全に鵜呑み仕掛けたフェイトとカノン、そしてそんな二人を尻目にラーメンを食べ進める零に苦笑しながらも少し懐かしむすずか。そんな時……

 

 

―キキイィィッ―

 

 

「おっ!師匠!出前ご苦労さんでした!」

 

 

「あぁ、俺がいない間に店の方は問題なかったか?」

 

 

「へいっ!今日も売り上げ良好で何時も通りですわ!」

 

 

屋台の裏側の方に一台の自転車が走って現れ、屋台のマスターは屋台から離れてその自転車に乗った師匠と呼ばれる人物の下に駆け寄り何かを話していた。

 

 

なのは「…?ねぇ翔子ちゃん、今の師匠って?」

 

 

翔子「ん?あ、皆は知らないんだっけ?実はこの風麺のマスターには師匠が居るんだよ。なんでもマスターが店を持つ前はその師匠と、その師匠の師匠からラーメンの作り方を徹底的に教え込まれてこのラーメンが完成したらしいよ?しかもその師匠は風都でも結構有名人だしね」

 

 

フェイト「へぇ~、凄い人なんだねその師匠って人」

 

 

零「ふむ…これほどのラーメンを作れる技量を持った人物か…興味あるな。一体どんな奴なんだ?」

 

 

優矢「う~ん…やっぱあれかね?丸坊主の頭にタオルを巻いて顔の所にデッケェ傷を付けた筋肉ゴツゴツの汗だくマッチョさん!」

 

 

カノン「いやでもそれだと何か…そんな人を見ながらラーメン食べるとか考えると食欲がなくなりますよ」

 

 

などと風都で有名な師匠の話題で零達が盛り上がってる所、その風麺のマスターの師匠が屋台に顔を出して零達の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

大輝「どうも皆さん♪今日も風麺をご利用頂きありがございます♪」

 

 

『ブフウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

 

…何故か大輝がいた。

 

しかもラーメン屋の店員が良く着る割烹着とディエンドマークの入った白い帽子と言う格好で普通の店員として。

 

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑤

 

零「ゴホッゲホッ!!クッ…か、海道っ!?」

 

 

大輝「…ん?あぁ何だ、君達か。こんな所で何をしてるんだい?」

 

 

零「それはこっちの台詞だっ!!お前こそこんな所で何をやっている!?」

 

 

零は涙目になって何度か咳込みながらも目の前で微笑む大輝に何をしているのかと問い掛ける。大輝の今の格好は何処からどう見てもラーメン屋の店員。自分の知り合い……しかもあの大輝がいきなりこんな格好で現れたら驚きもするだろう。

だが、その原因である大輝は何時もの爽やかな笑みを浮かべたままその問いに答える。

 

 

大輝「何をしているって言われてもねぇ~…別に此処は俺の店なんだからそんな可笑しいことはないと思うけど?」

 

 

零「……は?お前の…店?」

 

 

大輝「そ♪言ってなかったかな?この風麺を建てたの……俺だよ?」

 

 

『………え?えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっっ!!?』

 

 

大輝の口から発っせられた予想外の事実に一同は再び驚愕の声を張り上げた。詳しく話しを聞いてみれば、どうやら大輝はある用事でこの世界を通り掛かった際に此処のラーメンを口にしたらしいが、余りのまずさに激怒してしまい、此処のマスターを無理矢理一から徹底的に鍛え上げたというらしい。しかも、ここのラーメン屋も以前の名前から風麺へと変えたのも大輝の意向らしい。

 

 

大輝「それからと言うもの売り上げは大繁盛してね♪今では此処とは別の場所に店も出してるよ。因みに、無効化の青年の世界と具現化の少年の世界、firstの世界と智大の世界にクロノスの世界やその他諸々の世界でも店を出してるよ?」

 

 

カノン「ΣΣ僕達の世界にまでですか?!」

 

 

フェイト「なんていうか…目茶苦茶だね�」

 

 

優矢「海道さんあんた……まさかラーメン業界を乗っ取りでもする気かよ?�」

 

 

大輝「乗っ取り?失敬な…そんなちっこい目的の為にうちはこうして店をやってんじゃないよ…俺が目指すのは、風麺以外のラーメン屋の撲滅だ!!」

 

 

俊介「Σ余計に悪いわ?!」

 

 

拳にグッと力を込めながら己の野望を告白する大輝にすかさずツッコミを入れてしまう俊介。そんな状況になのは達も苦笑して何とも言えぬような表情をし、ツカサや翔子は気にせずラーメンをお代わりして食べ続けていた。しかし…

 

 

―ガシッ―

 

 

大輝「…ん?」

 

 

零「海道…ちょっとこっちに来い」

 

 

屋台に座っていた零が険しい表情でいきなり大輝を無理矢理引っ張って歩き出し、屋台から少し離れた場所にまで来て大輝を放し向き合った。

 

 

大輝「何かな?俺は君と話す事なんてないんだけど?」

 

 

零「そっちには無くともこっちにはあるんだよ。お前…今度は一体何をする気だ?目的は何だ?」

 

 

大輝「目的…?そんな物はないよ。俺はただ風麺の様子を見に来ただけさ」

 

 

零「そんな話を信じるとでも思うか?たかだかお前がラーメン屋なんぞの様子見だけでこの世界へ来るハズがない……また盗みが目的か?」

 

 

零は笑って話しをはぐらかそうとする大輝に鋭い目付きを向けながら大輝の真の目的を問い質そうとする。そして大輝はそれを聞くと一度溜め息を吐きながら零に背中を向け、今度は先程と打って変わって冷たい表情を浮かべながら零の方へと振り返る。

 

 

大輝「……流石に勘だけはいいな?そうさ、俺が此処に来たのは風麺の様子見なんかじゃない……ガイアメモリさ」

 

 

零「ッ?!ガイアメモリ…だと?!」

 

 

大輝「そう、ガイアメモリ…それら一つ一つのメモリにはそれぞれ星の記憶という力が封じ込められてる。それには普通の人間を怪人に変える力を持ってるけど…俺が欲しいのは裏で流通されてる一般のメモリじゃない。普通の人間が使う事の出来ないガイアメモリ……例えばそう……あそこにいる翔子って子が持ってるメモリみたいなね」

 

 

大輝は笑いながらそう言って屋台でラーメンを食べている翔子の方を顎で刺す。それを聞いた零は更に目付きを鋭くさせ、ズイッと大輝に詰め寄る。

 

 

零「ふざけるのも大概にしろ…お前は盗みの為ならあんな子にまで手を出すつもりか…?」

 

 

大輝「フッ。だから"例え"だって言っているだろう?今はそんな予定はないけど…まあ、目的の物が手に入らなければどうするか分からないけどね?」

 

 

零「…そんな事してみろ…そうなったら今度こそお前を此処で倒して行くぞ?」

 

 

目的のガイアメモリが手に入らなければ翔子のガイアメモリを奪い取ると告げる大輝に零は怒り、低い口調でそう言いながら懐からディケイドライバーを取り出し大輝の前に見せ付けるように出すが、大輝はそんな零を見ても笑みを浮かべたまま言う。

 

 

大輝「君が俺に勝てると思ってるのかい?前の世界で徹底的に負かしてあげたのに……君も案外学習能力がないみたいだね?」

 

 

零「ほお…あれだけの戦いでもう勝ったつもりでいるのか?だとしたらお前も脳天気な奴だな。こっちにはまだ奥の手が残ってるんだ…そうなったら今度は負けはしない…」

 

 

二人は互いに強烈な殺気を放ちながら自分の変身ツールを構えて睨み合い、今にも変身して激突してしまいそうな一触即発な状態となっていた。そんな時…

 

 

優矢「お~い零~!そろそろ行くぞ~!」

 

 

翔子「これからまた事件の事について話し合わないといけないんだから!事務所に戻るよ~!」

 

 

遠くの方から不意に声が聞こえ、二人がそちらの方に目を向けるといつの間にか会計を終えた優矢達が零が戻ってくるのを待っていた。それを見た零は一度大輝を見ると今まで放っていた殺気を消してディケイドライバーをポケットに仕舞い、そのまま大輝を無視して戻ろうとする零に大輝が最後に告げる。

 

 

大輝「一応断っとくけど、俺の邪魔だけはしないでくれよ?無事にお宝をゲット出来たら風麺のラーメンをサービスしてやるから」

 

 

零「お断りだな。盗っ人に手を貸して犯罪者になるくらいなら、お前の邪魔でもして警察から感謝状でも貰った方がまだいい…」

 

 

邪魔をするなと釘を打ってくる大輝に零はそう応えながら優矢達と合流して風麺から去っていき、それを最後まで見送った大輝はディエンドライバーを仕舞い、今度はゴツゴツとしたディエンドカラーの携帯と一つのメモリースティックを取り出していく。

 

 

大輝「…まあ、君の許しなんてなくても勝手にやらせてもらうけどね。でも邪魔されるのは面倒だから監視はさせてもらうよ?」

 

 

『STAG!』

 

 

大輝は笑みを浮かべたまま自分の手に握られている携帯……『スタッグフォン』に擬似メモリを装填するとスタッグフォンは変形してクワガタの形をしたメカへと変わり、そのまま零達が去った方向へと飛翔して飛んでいった。そして大輝はそれを確認すると屋台へと戻ってラーメンの仕込みを開始する。そこへ……

 

 

―バサッ―

 

 

「失礼、ラーメンを四つ頼んでもいいか?」

 

 

大輝「へいらっしゃっ……おや?今日は珍しいお客様が良く来るね?今日は何か特別な日だったかな?」

 

 

屋台に訪れて来た男女四人組の客。その四人の顔を見た大輝は若干驚いたような表情をし、その内の一人の男性がテーブルに腰を下ろしながら大輝の顔を見て口を開く。

 

 

「…お前か?あのディケイド達に付き纏っているディエンドと言うのは?」

 

 

大輝「へぇ~…俺も以外と有名人になってるんだ?まさかアンタ達にまで知られてるとは思いもしなかったよ」

 

 

「それなりにはな…お前の噂は尽きなくて退屈しないぜ?中々面白い話ばかりでこっちも楽しめる」

 

 

大輝「そいつは光栄だ……だけど一つ訂正。俺は別に零達に付き纏ってなんていないよ。向こうが勝手にやってくるのさ」

 

 

「ほお?そうか、そいつは悪かったな……まあそれはそうと、今日はお前に頼みたいことがあって来た。聞いてくれるか?」

 

 

大輝「…頼みたいこと?」

 

 

男性の言った言葉に大輝は頭上に疑問符を浮かべ、男性は自分の隣にいる女性にアイコンタクトを送ると女性は何処からか黒いケースを取り出してテーブルの上に置き、ケースを開いていく。その中身は…

 

 

大輝「…ッ!?これは……ガイアメモリ?」

 

 

そう、その黒いケースの中身には九本のガイアメモリが横一列に並んで入っていたのだ。それを見た大輝は驚愕の表情を浮かべるが、男性はそんな大輝の反応を気にせず話を進める。

 

 

「KUUGAからKIVAまでの力が封じられたガイアメモリだ。今回俺達は、お前への依頼の為にコレを用意した」

 

 

大輝「…依頼だと?」

 

 

「そう、依頼だ…出来ればお前にも手伝ってもらたいんだよ。勿論タダってワケでもない、依頼を引き受けてくれる変わりに報酬としてコイツをお前にやる……どうだ?」

 

 

大輝「…………………」

 

 

男性からの突然の申し出に驚きながらもケースの中に入ったガイアメモリから目を離さない大輝。そして暫く頭の中でどうするべきかと考えを纏めていくと……

 

 

大輝「………いいだろう、アンタからの申し出と言うのも面白そうだ。その依頼とやら、聞かせてもらうか?」

 

 

「フッ…そうこなくっちゃ面白くない…」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―園咲家・テラス―

 

 

園咲家。それはこの風都を影から操る園咲ファミリーの拠点と言ってもいい場所。普通の屋敷の五倍ぐらいに大きく、金持ちだからという理由もあってか領地もやはり広々としている。そんな園咲家の屋敷のテラスにあるテーブルで一台パソコンと向き合う女性………園咲家の一員である"園咲霧奈"がパソコンに移る女性……クアットロと何かを話していた。

 

 

霧奈「…いきなりこちらの回線に入って来たかと思えば……私を手伝ってくれるですって?」

 

 

クアットロ『えぇ♪貴方も知りたいと思ってるんでしょう?あの仮面ライダーの秘密を。だから私達がそれを手伝って差し上げますわ♪』

 

 

霧奈「…それは有り難い申し出ね。けど、一体どうすると言うの?あの仮面ライダーはかなりの手練れだわ。それに貴方の情報が確かなら、あの子以外の仮面ライダーがこの世界に来てるかもしれないんでしょう?」

 

 

クアットロ『そうなんですよねぇ~。私達もその仮面ライダーの一人に用があるんですけど、他のライダーに邪魔されるのは御免なんですよ…だから、貴方にはこれから話す作戦の通りに動いて欲しいワケ』

 

 

霧奈「作戦?」

 

 

クアットロの言う作戦とやらに霧奈は疑問そうに首を捻り、クアットロは更に言葉を続ける。

 

 

クアットロ『簡単な作戦ですよ♪ただあの仮面ライダー達が行動を起こしてからじゃないといけないんだけど……それでも私と貴方が目的にしてる仮面ライダーに会える可能性は高いですよ?どうします?』

 

 

霧奈「……興味あるわね。その作戦とやらを聞かせてくれるかしら、クアットロ?」

 

 

クアットロ『喜んで~♪』

 

 

作戦の内容を聞いてくる霧奈にクアットロは上機嫌にそう応え、霧奈に自分がプランした作戦の内容を説明していく。そしてその隅では……

 

 

 

??「…………………」

 

 

??「…………………」

 

 

霧奈とクアットロが話してるテラスの隅には、クアットロが放ったロストの変身者である銀髪の女性と金髪の女性が空に浮かび上がる月を眺めてる。そして金髪の女性の手にはビー玉ほどの大きさをした一つの玉……禍禍しい輝きを放つ黒い玉が握られていたのであった。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑥

 

 

風麺を出てから数十分後、現在零はすずかとカノンと優矢の三人で連続花嫁誘拐事件について調べる為風都の街中を歩いていた。因みに翔子とツカサ達となのは達は翔子の知り合いである刑事から事件の情報を聞く為に警察署に行っている。

 

 

零「ふむ…取りあえず色々な情報を集めてはみたが…どうも不可解な点が多すぎるな」

 

 

すずか「そうだね…花嫁を誘拐してる犯人は今までの犯行の手口から見て多分同一犯だと思うけど…先ずそれ以前に動機がはっきりとしないし…」

 

 

カノン「えぇ、花婿や誘拐された花嫁やその家族などは皆特にコレといった地位を持っているワケでもお金持ちというワケでもない…犯行が行われた後も身代金の要求などがあったケースは今のところ無し…」

 

 

優矢「警察の方にもかなりの数の捜索届けが出されてるみたいだけど、花嫁達や犯人の足取りも掴めておらず捜査は難航してる…みたいだしな」

 

 

零「唯一手掛かりになりそうなものは現場に残された一本の赤いバラだけ…これだけじゃ流石に捜査の進展がないのも無理はないか…」

 

 

今まで集めた情報が書かれたメモ帳を目にしながら一同は溜め息を吐く。街の噂や事件の被害者である花婿やその家族から話を聞いても大した情報は掴めず、犯人の詳細については何も掴めていない。どうしたものかと一同が途方に暮れていると……

 

 

零「………ん?」

 

 

カノン「…?零さん、どうしました?」

 

 

零「…すまない、ちょっと手洗いに行ってくる。お前等は先に帰っててくれ!」

 

 

優矢「は?お、おい零?!」

 

 

突然零は優矢達に此処で待つように言って何処かへと走り出し、優矢がそれを呼び止めようと零の名を叫ぶが零はそれを聞かずに走り去ってしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―風都・港区―

 

 

 

望「…………………」

 

 

零達の居た場所から少し離れた先にある風都の港区。辺りに全く人気のないその場所には、先程鳴海探偵事務所に誠と共に訪れて来た望が何やら浮かない表情で青い海を眺めている姿があった。

 

 

望「…………………」

 

 

だが、海を眺めるその瞳には生気が全く感じられず、まるで人形を思わせるかのような無機質な瞳となっている。そして、望は一歩、また一歩とフラフラとした足取りで海の方へと歩いていき、遂にその足がアスファルトもなにもない、海の真上にと向けられた、その時……

 

 

―ガシィッ!―

 

 

望「ッ!………ぇ?」

 

 

突然後ろから誰かに手を掴まれて後ろの方へと引き戻され、望はいきなりのことに思考が追い付いていけず反射的に後ろの方を見た。そこには……

 

 

零「…こんな季節にスイミングとは随分と物好きな女だな。だが、今日は一段と冷えるから止めておけ…風邪引くぞ…」

 

 

望「………貴方……さっきの探偵さん……?」

 

 

そう、望の手を掴んでいたのはスタイリッシュな探偵の格好をした男性……先程優矢達と別れた零だったのだ。そして零は掴んでいた望を手を離すと、望は閥が悪いといった表情をして零から顔を逸らしてしまう。

 

 

望「…どうして…探偵さんがこんな所に……?」

 

 

零「何、ただ事件のことを調べてる最中に通り掛かっただけだ。単なる偶然だから気にするな…」

 

 

望「……そうでしたか……ご苦労様です。では、私はこれで失礼しますね…捜査の方、頑張ってください……」

 

 

零が自分が此処に理由を話すと望は顔を逸らしたままそう言ってまるで逃げるかのようにその場から去ろうとする。が、零は望が去ろうとする前に次の言葉を口にする。

 

 

零「…極寒の海に飛び込んで凍死ねぇ…だが、そんな事じゃまた邪魔が入るかもしれんぞ?死に場所ぐらいもう少し考えろ」

 

 

望「ッ!?」

 

 

不意に零が言った言葉に望は驚愕したような顔をして足を止めた。そしてそれを見た零は無表情のまま望から視線を外して海を眺め、それ以上の事は何も言おうとしない。

 

 

望「…聞かないんですか?どうして…私がこんなことをしたのか……」

 

 

零「…別に、自分から命を投げ出そうとする奴の事情になんて興味ない…聞いて欲しいというのなら聞くが?」

 

 

望「…いえ…別にそういうワケでは……」

 

 

淡々とした口調でそう答える零に望は気まずそうに顔を俯かせてしまい、そんな望の様子を見兼ねた零は小さく溜め息を吐いた後に別の話題を切り出そうと口を開く。

 

 

零「ところで一つ聞きたいことがあるんだが…聞いても構わないか?」

 

 

望「え…?あ、はい。何でしょうか…?」

 

 

零「…アンタ…本当にあの男と結婚したいと思ってるのか?…いやそれ以前に…アンタあの男を愛してなんていないだろう?」

 

 

望「ッ!」

 

 

本当は信条誠のことを愛していないのだろうと聞いてくる零に望は驚いたように顔を上げて零の方へと振り向いた。

 

 

望「な…なんでそんなこと聞くんですか…?」

 

 

零「…さっきの事務所でのアンタの様子を見てれば感のいい奴は直ぐに気付く。それに……アンタの身体の所々にある"ソレ"を見たら…大体そう予想も付くさ」

 

 

望「え?………ッ!」

 

 

望を指を指してそう告げる零に望は疑問そうに自分の身体を見下ろすと、何かに気付き慌てて自分の身体を隠した。望の身体にあるのは所々服の下から見えてるもの……明らかに誰かから暴行を受けた証である痣が複数存在していたのだ。

 

 

零「…その様子からして、俺の予想は大体合ってるみたいだな……所謂DVとやらか?」

 

 

望「ち、違います!これはその…た、ただ転んで出来たんです!そんな…暴行なんて……!」

 

 

零「隠すつもりならもう少しマシな嘘を付け…そんなんじゃ説得力のカケラもないぞ」

 

 

望「ッ……」

 

 

呆れたように言う零の言葉に望はどんな顔をしたらいいか分からず顔を俯かせてしまう。そして望は暫くそんな状態でいると最早隠すのは無理だと思ったのか、言い難くそうに口を開いて語り出した。

 

 

望「…お願いします…この事は誰にも言わないでください…この事が世間に知れれてしまえば…私は…」

 

 

零「最初に言った筈だぞ?俺は他人の内輪揉めになんて興味ない…ただ一つだけハッキリさせろ。アンタ、何故あんな男と婚約なんて交わした?それだけの仕打ちを受けているにも関わらず、何故あんな男の言いなりになってるんだ?それだけがどうも理解できない」

 

 

と怪訝な顔つきをして望に問い掛ける零。そんな零からの問いに望は少し戸惑いと迷いを見せながらも少し考える仕草を見せ、恐る恐る口を開いて語り出す。

 

 

望「……仕方ないんですよ…これは私の両親が決めた婚約……だからそれを断るなんて私には出来ないし…両親の決定に抗うだけの力なんて…私にはありませんから……」

 

 

零「…両親の決めた婚約…つまり、結婚相手の会社を引き込む為の政略結婚か。なら今のアンタが受けてる仕打ちを両親に話せばいいだろう?そうすればアンタがあんな男と無理矢理婚約する必要なんてない」

 

 

確かに、自分の娘が相手の男から暴行を受けていると告白すれば、婚約の話しを白紙に戻す事が出来るかもしれない。そのことを両親に告白してみてはと零は薦めてみるが、望はそれに首を左右に振った。

 

 

望「そんな簡単に済む話しではないんです…そもそもこの結婚は、両親の会社とあの人の会社の合併を目的としての婚約なんです……それに今回の合併がなくなれば、両親の会社にも多大な損害をもたらす事もあります…だから、私の都合でそれをなかったことにするワケにはいきません…」

 

 

零「…くだらんな…会社の為に自分の人生を捧げると言うのか?俺は恋愛感情というのはよく理解出来ないが、それでも好きでもない奴と結婚したいなんて思わない」

 

 

望「っ……」

 

 

零「アンタだって、本当は自分が愛して愛してくれる人間と人生を共にしたいと思うだろう?だったら自分の本音を両親にちゃんと…「……貴方には分かりませんよ……」……ん?」

 

 

会社の為に好きでもない男と婚約するのだと告げる望の意志を理解出来ず、何時になく反論して考えを改めさせようとする零。だが、望はそんな零の言葉を聞いて何処か思い詰めたような表情をして顔を俯かせた。

 

 

望「……貴方に私の気持ちなんて分かりませんよ……経営者の娘として生まれ…会社の後継ぎとして幼い頃から教育させられ…生きるも死ぬも最初から決められ…未来永劫ずっと会社の為に生かされていく…それが私の人生なんですよ!!」

 

 

零「………………」

 

 

望「私にだって……私にだって、心から愛せる人が居ました!いつかは…いつかは共に幸せな家庭を築こうって…将来の約束だってしましたよ!でもそんな幸せを望む事すら許してくれなかった!ただの花屋である彼と…社長令嬢なんていう私じゃ…立場も住む世界も違う…だから両親は…そんな私達を…!!」

 

 

積もりに積もった思いをさらけ出すかのように叫び出した望。零はそんな望の変わりように少々驚きながらも黙って耳を傾け、望はその途中ハッと気付いたように自分の口元に手を当てていく。

 

 

望「ご、ごめんなさい……いきなり叫んだりして……びっくりしましたよね…」

 

 

 

零「いや…気にしなくていい、俺も深く聴き入り過ぎたようだ……だが、今の話に出て来た花屋の彼というのは?」

 

 

望「………………あの人と婚約する前に付き合っていた……将来を共にしようと約束した彼です……でも、一年前に両親から結婚を反対され…無理矢理引き離されました…それからはもう彼と連絡が取れなくなって…彼が今何をしているのかも分かりません…」

 

 

零「…成る程な…そんな裏事情があったのか…」

 

 

望から話された事実に零は帽子の鍔を持ち上げながら納得したようにそう呟いて望を見ると、望の首にある一つの装飾品…赤いバラをモチーフにしたネックレスを身に付けてる事に気付いた。

 

 

零「…?なあアンタ、そのネックレスは……?」

 

 

望「え?…あ、これですか?これは彼と付き合っていた頃に初めて貰ったプレゼントなんです」

 

 

零「プレゼント…?」

 

 

望「はい…昔は彼の花屋に行くと、いつも特別に赤いバラを一輪だけくれてたんです。それがいつも楽しみで、彼の花屋に毎日通ってたこともありました。このネックレスは、それを意識して彼がプレゼントしてくれた物なんです…」

 

 

望は自分の首に掛けているネックレスを大事そうに握り締めながら何処か懐かしげに話していき、それを聞いた零は険しい顔付きで何か考えるような仕草を見せる。

 

 

望「…あ…す、すみません!何だか私ばっかり話してしまって…�」

 

 

零「ん…?ああいや、気にしなくていい。俺は別に大丈夫だから…」

 

 

望「そ、そうですか…でも…何だか話を聞いてもらって少しスッキリしました…ありがとうございます」

 

 

零「いや、力になれたのなら幸いだ。また何か困った事でもあれば探偵事務所に来るといい…二度と身投げでもしないのと言うのならな」

 

 

望「…フフフッ、変わった探偵さんですね……でも、おかげで少し元気が出ました。もう少し……頑張ってみることにします」

 

 

そう言って望は一度零に頭を下げ、そのすぐ後に此処から近くに停めてあるというリムジンの場所まで歩き去っていった。そしてその場に残った零は帽子を深く被り直し、此処から見える海を眺めながらポツリと呟く。

 

 

零「…依頼者を助けなければ裕一達に迷惑が掛かる…だが依頼を果たしてしまえば…彼女はずっとあの男と共に生きていかなければならない……やり切れない物だな…どうも…」

 

 

この世界での自分の役割は探偵。ならば自分は全力で今回の依頼を達成させなければならない。だが…その依頼を果たしてしまえばあの女性から幸せを奪ってしまうことになる。一体自分はどうしたらいいのか……その答えが見付からず、彼はただモヤモヤとした感情に浸って思い悩むしか出来ないでいた。

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑦

 

―鳴海探偵事務所―

 

 

時刻は深夜の十二時過ぎ。なのは達やツカサ達が眠りに付いている頃、鳴海探偵事務所にある隠し部屋には今フェリス、翔子、裕一、そして零の四人がそこに集まっていた。

 

 

翔子「どうだったフィリス?何か分かった?」

 

 

フェリス「まあね。君達に頼まれた信条誠の情報はある程度分かったよ」

 

 

翔子の言葉にそう答えながらフィリスは手に持った分厚い本を開き、そこに書かれている内容を読み上げていく。

 

 

フィリス「どうやら彼は、今回を除いて三回式を挙げてるみたいだね。けどそのどれもが彼からの一方的な家庭内暴力が原因で三回も離婚。一度はそれが原因で裁判ざたになったこともあったみたいだけど、多額のワイロで不問にされたみたいだ。そして今回の高山望との結婚も恐らく、相手の会社を引き込むのが目的での結婚なんだろうね」

 

 

裕一「…成る程…つまり、あの社長は新婦さんを愛してなんかいない…ただ単に相手の会社が目的での政略結婚ってワケか…零の言ってたことはホントだったみたいだな」

 

 

翔子「みたいだね…ハァ…ガイアメモリが関係してなきゃそんな奴の依頼なんて引き受けなかったのにぃ~�」

 

 

裕一「いや、今更ああだこうだって言っても仕方ないだろう�」

 

 

頭をワシャワシャと掻きむしる翔子を見て裕一は苦笑し、フィリスはそんな二人を見つめながら読み上げた本をパタンと閉じて喋り出す。

 

 

フィリス「信条誠の詳細はこんなところかな……調べがいのないつまらない検索だったよ」

 

 

零「…あぁ、そいつは悪かったな。だがあともう一つだけ……お前にまだ調べて欲しいことがある」

 

 

フェリス「…調べて欲しいこと?」

 

 

険しげに答える零にフェリスは不思議そうに首を傾げる。すると翔子はフェリスに近づきながら一つのメモをポケットから取り出してそれを見せる。

 

 

翔子「もう一回地球の本棚に入ってフェリス。そして此処に書かれてるKeywordを一つずつ調べて欲しいの」

 

 

フェリス「…成る程。その様子だと、どうやら犯人についての手掛かりを掴んだみたいだね?」

 

 

翔子「まあね…刃野刑事やエリザベス達からの情報源だから間違いないと思うよ。でも最後のKeywordは零からの情報を元にしたんだけど」

 

 

そう言いながら翔子は零の方へと振り返ると、零は壁に寄り掛かりながら頭に被る帽子を深く被っており、その表情が良く見えなくなっている。

 

 

フェリス「成る程…中々に興味深いね。では、さっそく始めよう」

 

 

妖艶な笑みを浮かべたままフェリスはそう言って瞳を閉じ、本を片手に右腕を横に上げる。そしてフェリスが再び目を開けると、目の前にはまるで巨大な図書館の如く真っ白な空間に本棚が何処までも並んでいた。

 

 

フェリス「検索を始めよう……最初のKeywordは?」

 

 

フェリスがそう聞くと翔子は手に持つメモを見ながらKeywordを口にする。

 

 

翔子「一つ目のKeywordは……結婚式」

 

 

翔子が一つ目のwordを口にするとそれに呼応するように地球の本棚がパズルのように動き始めて減っていく。

 

 

翔子「二つ目に誘拐…三つ目に赤いバラって続けて入れてみて」

 

 

更に翔子が続けてKeywordを口にすると、本棚も段々と減っていき、残りはあと数十個までとなった。

 

 

フェリス「あともう少しみたいだね…次のKeywordは?」

 

 

フェリスが次のKeywordを求めると翔子と裕一は零の方へと振り返る。そして、それに気付いた零は帽子を深く被りながら応える。

 

 

零「四つ目のKeywordは…赤いバラのネックレスだ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

―風都・結婚式教会―

 

 

あれから翌日。風都にあるとある教会では今、誠と望の結婚式が開かれようとしていた。そして最近噂となってる事件を意識してか、教会の中にはやはり何十人もの黒服を纏ったボディーガードや警備員の集団が教会内を見回りや警備をしている姿が見られる。

 

 

俊介「遂に式が開かれるか……けど、何か穏やかな空気じゃないよなぁ�」

 

 

裕一「仕方ないさ、例の誘拐事件の事もあるし…今回の式も双方の会社にとっては大事なことなんだ。これぐらいの警備でもまだ足りないくらいだよ」

 

 

カノン「…でもやっぱり…お祝い事をやるにしては何かピリピリし過ぎですよ�」

 

 

優矢「だよなぁ…�」

 

 

零「…………………」

 

 

ボディーガードの男性達があちらこちらで見回りをしている中、男性陣の零、優矢、カノン、俊介、裕一の五人は新婦専用の控室の前に集まっていた。因みに中の方ではツカサ達となのは達と翔子が望に付き添って護衛をしている。

 

 

裕一「……なぁ、皆はどう思う?今回の式…犯人が来ると思うか?」

 

 

カノン「う~ん…これまでの事件から見て、やっぱり来るんじゃないでしょうか?根拠はないけど…」

 

 

優矢「俺もカノンと一緒かな…?犯人が花嫁を狙って結婚式を襲ってるなら可能性は高いし、今まで風都で行われた結婚式も全部抜け目なく襲われてるみたいだしな」

 

 

俊介「だから今回も例外なく現れるかもしれないな…だが今回はそう簡単に行かないだろう。警備も万全だし、花嫁の方にもツカサ達が付いてるんだ。犯人の方だってそう簡単に動けねぇだろ」

 

 

裕一(…そうだな…これだけの警備なら犯人も簡単には動けない。だけど…この犯行にアレが関係してるとなると話しが変わるんだがな…)

 

 

自分の考えをそれぞれ口にするカノン達に裕一はそう考えながら望と翔子達がいるであろう控室の扉を無言で見つめる。そんな時……

 

 

誠「やぁ、探偵の諸君!良く来てくれたね!」

 

 

俊介「あれ、信条さん?」

 

 

零「!…………………」

 

 

曲がり角の方から白いタキシードを着込んだ誠が笑いながら現れ、それを見た裕一達は少し驚きながら誠に視線を向けていくが、零だけは顔を少し上げて誠を見ると被っていた帽子を深く被り直して俯いた。

 

 

誠「いや~嬉しいよ。君達にまで祝ってもらえるなんてねぇ」

 

 

カノン「はい。ご結婚おめでとうございます…所で、新郎さんはどうして此処に?」

 

 

誠「んん?僕が此処に来るのは可笑しいかい?ただ単に望が無事か様子見に来ただけだよ」

 

 

裕一「あぁ…そうでしたか。安心して下さい、新婦さんはちゃんと我々が護衛しておりますので…」

 

 

誠「そうじゃなきゃ困るんだよぉ。望は大事な婚約者だからねぇ~、彼女の身が心配で仕方ないんだよ」

 

 

優矢「ア、アハハハ…新婦さんのこと、ホントに大事に想ってるんですね�」

 

 

誠「当然じゃないか。彼女は僕の命より大事な人なんだからねぇ♪」

 

 

零(…心にもない事をぬけぬけと…良くそんなことが言えたものだな…)

 

 

ヘラヘラとした表情で望が大事だと言う誠に零は思わず苛立ちを覚えるが、なんとか堪えて落ち着きを取り戻していく。

 

 

誠「…おや?そこの彼は何だか暗いねぇ?一体どうしたんだい?」

 

 

零「……………………」

 

 

誠「ん?どうしたのかな?何処か体調でも悪いなら、医者でも呼んで上げようか?」

 

 

零「……………………」

 

 

何度も話し掛けて来る誠に零は帽子を深く被ったまま無視を続ける。そんな零の態度がカンに障ったのか、誠は眉を寄せて表情をしかめた。

 

 

誠「おい…僕がわざわざ君の身を案じてやってんだぞ?それをだんまりなんて僕に失礼じゃないか…?」

 

 

零「………あぁ、こいつは失敬?何やら鬱陶しい羽虫がしつこく鳴いていると思ったら……貴方でしたか。気が付かなくて申し訳ない」

 

『っ!!?』

 

 

誠「なっ……!」

 

 

優矢「ちょ?!おい零?!」

 

 

急に喧嘩を吹っ掛けるような言葉を放った零に優矢達は驚愕の表情を浮かべ、それを聞いた誠は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 

誠「は、羽虫だと!?この僕を…信条グループの時期社長である僕を羽虫呼ばわりだと!?」

 

 

零「そうだが?いや、羽虫は立派過ぎるか…せいぜいゲス野郎かペテン師ぐらいがアンタには丁度良いな」

 

 

誠「なっ……お、お前えぇぇぇぇッ!!」

 

 

カノン「ちょ!落ち着いて下さい新郎さん!�」

 

 

優矢「す、すみません!�コイツ昨日から徹夜で事件の事を調べてたからちょっと不機嫌なんです!�どうか許してやって下さい!」

 

 

鼻で笑いながらそう告げた零に誠は怒って思わず零を殴り付けようとするが、それを横からカノンと優矢が止めに入った。そして誠は二人から乱暴に離れると、未だ怒りを治められないまま乱れたタキシードを直しながら告げる。

 

 

誠「くっ…覚えてろよ探偵…僕を侮辱したことを絶対に後悔させてやる!覚悟しておけ!!」

 

 

そう言いながら誠は自分の控室へと戻っていき、優矢達はそれを確認すると肩の力を抜いて零の方へと振り返った。

 

 

優矢「ったく、お前いきなり何言い出すんだよ?!時期社長に向かってあんなこと言うなんて!」

 

 

カノン「そうですよ�一体どうしたんですか?いつもの零さんらしくないですよ…何かあったんですか?」

 

 

零「別にそんなんじゃない……ただ……」

 

 

優矢「…ただ?」

 

 

零「ただ……あのヘラヘラとした笑い顔が気に入らなかった……それだけだ」

 

 

『…?』

 

 

何処か様子がおかしい零に優矢達は疑問を感じ、零はそんな優矢達から背中を向けてそのまま何処かへと歩き出した。

 

 

俊介「お、おい零!何処に行くんだ?!」

 

 

零「ただの手洗いだ。直ぐに戻る…」

 

 

呼び止めた俊介にそれだけ言って零は早足で再び歩き出し、残された優矢達はただ呆然とそんな零の背中を見つめているしか出来ずにいたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「…………………」

 

 

優矢達と別れてから数分後。零は一人手洗い室の近くにある休憩所の窓から外の景色を眺めている。先程の自分はどうかしていたようだ。先程のカノンの言葉でそれをさっき自覚し、今は頭の中でその言葉を何度もリピートさせて自身を落ち着かせている。

暫くそうしていると、不意に零のポケットからブブブッと振動が伝わり、それに気付いた零はポケットからその振動を起こしている物…ビートルフォンを取り戻して通話ボタンを押し耳に当てる。

 

 

零「…もしもし?」

 

 

フェリス『やあ零、私だよ。そっちの調子は今どうかな?』

 

 

ビートルフォンから聞こえてきた少女の声…フェリスからの電話に零は若干驚いたという表情をするが直ぐにまた無表情へと変わってそれに答える。

 

 

零「フェリスか。調子は…そうだな…警備の方は万全だし、花嫁もまだ無事のようだ。万事首尾良くいっているが?」

 

 

フェリス『私が聞いてるのはそんなことではないよ、君の方を聞いてるんだ』

 

 

零「…どういう意味だ?」

 

 

意味が分からないと言わんばかりに零は怪訝に眉を寄せながら言い、フェリスは更に続けて言葉を紡ぐ。

 

 

フェリス『昨日の晩、君と翔子はKeywordを当てて既に犯人の正体を掴んだ。だけど君達は犯人を捕まえることに戸惑いを覚えている……そうだろう?』

 

 

零「……流石と言うべきか……いや、そんな簡単に考えを掴まれるような態度を見せていたのは俺か……」

 

 

今回の事件の犯人を捕まえる事に躊躇している。それを言い当てられた零は溜め息を吐きながらポツリと呟く。

 

 

零「確かに…昨日は犯人の正体を知って戸惑いはしたが、今は特に問題はない。もし犯人が現れてもすぐ様捕まえるだけだ」

 

 

フェリス『成る程…君は既に割り切ってるというワケか。けど、翔子の方はどうだろうね?』

 

 

零「アイツはアイツで勝手にやるだろう。アイツだって探偵の端くれ……ハードボイルドなんだろう?」

 

 

フェリス『まあね……でもまだ情に流され安い半熟…ハーフボイルドなんだけど』

 

 

零「あぁ…そうだったか。まあそれより、今は犯人の動きに気を配るべきだろ。犯人が本当にお前等の予想通りの力を持つなら…どんなトリックを使ってくるか分からないんだからな」

 

 

フェリス『…そうだね、君の声を聞いて安心したよ。どうやら私が心配する必要はなかったみたいだ。花嫁の護衛、頑張って』

 

 

フェリスがそう言うと通話が切れ、ビートルフォンからは通話の切れた音だけが聞こえてきた。

 

 

零「頑張って…か。それは俺じゃなくて、翔子に掛けてやるべきだと思うんだが………ん?」

 

 

ビートルフォンをポケットに仕舞いながら窓の外へと目を向けていくと、教会の外からやってくる招待客達の姿が零の目に止まる。

 

 

零「…ものすごい数だな…まあ、結婚式っていうのも基本一生に一回しかない大イベントだというし、これだけの招待客が来ても可笑しくはな………い……」

 

 

教会にやって来る招待客を眺めながらそう呟いていると、零はある招待客の姿を見た途端目を見開いて固まってしまった。零の視線の先には、他の招待客と談笑する赤い点の付いたスカーフを首に巻いた女性の後ろにいる二人の少女。

一人は黒いドレスを身に纏った銀髪の少女、もう一人は白いドレスを着込んだ金髪の少女。その二人を見た零は我が目を疑い、絶句していた。

 

 

零「……………そんな………馬鹿……な……」

 

 

ありえない、そんなハズがない。零には目の前の現実をどうしても受け入れることが出来なかった。信じられるはずがない。何故なら彼女達は、自分達の世界で十年前に消えた筈"だった"のだから。視界に映る二人を凝視しながらそんな訳がないと何度も自分に言い聞かせ、思わず窓に身を乗り出した、その時……

 

 

 

 

―また…全てが終わってしまった…一体幾つ…こんな悲しみを繰り返すのか…―

 

 

―優しい人だったんだよ…優しかったから壊れたんだ…死んじゃった私を生き返らせる為に…―

 

 

 

 

零「―――っっ!!!」

 

 

突然脳裏に一瞬だけ映った映像…フラッシュバックというものだろうか。まるで今朝見た夢の様にそれがいきなり映った。そんな映像が何故今流れたのか?あの二人は何者か?そんな疑問を考える前に、彼はいつの間にか教会の外に向かって全力で走っていた。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑧

 

 

零「おい、アンタ?!」

 

 

「キャッ?!な、なんですかいきなり?!」

 

 

零「ッ…また違う…!」

 

 

教会の外へと出ると同時に行き交じる招待客達の間を抜けて目的の人物を懸命に探す零。その目的の人物とは勿論、教会の窓から見つけたあの少女達である。

 

 

零「ハァ…ハァ…何処だ…一体何処にっ…」

 

 

招待客の顔をひとりひとり確認しながら探していく。だが、どんなに辺りを探し回ってもあの二人の影すら見付ける事も出来ない。

 

 

零「くっ…何処にいるんだ…?確かこの辺にいたはずなのに…!」

 

 

一通りこの辺りを全部見て回ったが、どこを探してもそれらしき人物は見られなかった。そうなると、既に教会の中か別の場所にでも移動したのだろうか―――いや、それ以前に……

 

 

零「はぁ……はぁ……ま…まさか……ただの……人、違い……?」

 

 

力無くそう呟きながら零は動かしていた足を止めた。冷静に考えてみれば此処は平行世界なのだ。自分達の世界で消えた筈の彼女達が生きて、しかもこんな場所にいる訳がない。

教会の中から見た女性達も、もしかしたらあの二人に似た別人だったのかもしれない。落ち着きを取り戻してそう考えてみると、今の自分を見て笑いが込み上げてきた。

 

 

零「…ハ…ハハハ…馬鹿か俺は…?もっと冷静に考えれば直ぐに分かることを……死んだ女の面影を追ってこれとは…滑稽だな…」

 

 

恐らく、今朝の夢の影響であの二人と招待客の姿を無意識の内に重ねてしまったのだろう。よりによって、あの二人が生きてるかもしれないなどと馬鹿げた妄想に突き動かされるとは……今日の自分はホントに可笑しいようだ。

 

 

零「…そうだ…ありえない…あの二人は死んだんだ…そして俺は……あの二人を救えなかった…フェイトとはやての為にと馬鹿みたいに必死に考えたくせに……結局……何もしてやれなかったんだ……」

 

 

あの時の後悔が今になって蘇ってくる。なのはの時にも感じたことだが、あの時もっと力があれば彼女達を救えてたかもしれない――しかし、そんな事は現実に考えて無理な話しだ。

 

一人は自分達と出会う前に既にこの世から去り、一人ははやてを助ける為に自ら消滅の道を選んでしまったのだから。

 

幸助達のように特別な力を持たない自分が何をしようが、結局そんな考えは無駄でしかない。そして…今も…

 

 

零「…今も…目の前で苦しんでる人がいるのに…俺は何もしてやれない……これじゃ昔と変わらないじゃないか…」

 

 

誰かに助けて欲しいと願っている望と、あの二人の姿がどうしても重なって見えてしまう。

 

何とか助けてやりたい…だが今の自分の立場ではそれは許されない。

 

そうしてまたあの時のように、自分は何も出来ずただ見てるだけだ。

 

今朝の夢のせいもあって…そんな自分が余計に腹立たしく感じていた。

 

助けたい、でも助けられない。自分の中でせめぎ合う二つの感情にいつしか苛立ちが生まれ、先程は思わず誠にその苛立ちをぶつけてしまった。

 

 

零「……もう、止めよう…今更何になると言うんだ…彼女達はもういない…それだけの話だろう?」

 

 

今更ウジウジ考えたところで何かが変わるワケでもない。まるで自分に言い聞かせるかのようにポツリと呟き、零は教会の方へと足を向け優矢達の待つ控室へと戻ろうとする。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドガアアァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

零「――っっ!?なっ?!」

 

 

教会の方から突然聞こえてきた巨大な爆音。それが耳に届いたと共に顔を上げると、教会の一角から巨大な爆煙が立ち込めているのが視界に映った。

 

 

零「爆発…だと?……っ!まさかっ!?」

 

 

脳裏を横切った予想に零は慌てて走り出し、ざわめく招待客の間を抜けて教会の中へと乗り込んでいった。

 

 

 

 

霧奈「…フフフ。どうやら上手く行ったみたいね……さぁ、私達も行きますよ」

 

 

??「………………」

 

 

??「………………」

 

 

そしてその影では、豪華なドレスを身に纏った三人の女性が空に向かって立ち上る黒煙を見つめ、その内の一人である園咲霧奈は二人の少女を連れて教会の外へと出ていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―教会内・花嫁控室―

 

 

 

優矢「この野郎ォ!」

 

 

カノン「くそっ!」

 

 

『チッ!邪魔するなぁ!』

 

 

―ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!―

 

 

けむ苦しい煙が漂い、ズタボロとなった花嫁控室の室内では今、気を失った望を抱えるバラの様な姿をした怪人…ローズドーパントと優矢達が奮闘していた。

だが、ローズドーパントの身体から放たれる棘を模した弾丸の雨により思うように動けず、優矢達は室内にあった机を盾にしてそれを防ぐが、同時に動くこともままならないでいた。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガァ!!!―

 

 

ツカサ「あぁ~もう!これじゃあ全然近づけないじゃんっ!�」

 

 

カノン「ど、どうしよう…望さんだって捕まったままなのに!�」

 

 

翔子「クッ!こうなったら…正面から突っ込んで奴を押さえ込むしか…!」

 

 

裕一「バカッ!それじゃあ飛び出した瞬間直ぐやられちまうだろう!」

 

 

なのは「で、でもこのままこうしてても何時かやられちゃうよ!�」

 

 

優矢「ちくしょう!こんな非常事態って時に…何やってんだよ零っ!!」

 

 

何とか反撃の機会を伺って敵の隙を突こうとする一同だがドーパントは全く攻撃の手を止めようとはせず、一同は身動きひとつ出来ず机の影に隠れているしか出来ないでいた。そんな時……

 

 

 

 

『BEETLE!』

 

 

―ビュウンッ!ズシャァッ!ズシャァッ!―

 

 

『グァッ?!』

 

 

『…っ!?』

 

 

不意に入り口の方からビートルフォンが飛来しローズドーパントに突貫して吹き飛ばしたのだ。そしてそれと同時に零が息を切らしながら部屋の中へと入って来た。

 

 

零「皆!無事かっ?!」

 

 

翔子「っ!零!」

 

 

優矢「おせぇよ馬鹿っ!!何やってたんだ!?」

 

 

零「説教なら後で聞く!今はこっちが優先だ!」

 

 

そう言いながら零は手元に戻って来たビートルフォンを回収して仕舞い、一同も机の影から飛び出して吹き飛んだローズドーパントに向かって身構えていく。

 

 

『クッ…!まだ仲間がいたのか…!』

 

 

翔子「……貴方だね?最近噂になってる連続花嫁誘拐事件の犯人は?」

 

 

『ふんっ…だったらなんだと言うんだ?』

 

 

零「回りくどい言い方は無しで単刀直入に言わせてもらう…その女性とさらった花嫁達を解放し、メモリを捨てろ」

 

 

『…そいつはお断りだ……花嫁は……望は誰にも渡さない!渡してなるものかあああぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『クッ!?』

 

 

ローズドーパントの身体から放たれた棘の弾丸の雨を紙一重で避け一気に畳み掛けようと態勢を立て直していくが、その時にはもうローズドーパントは望は抱えたまま壊れた窓を飛び越え外へ飛び出していた。

 

 

カノン「し、しまったっ!望さんが!?」

 

 

優矢「お、おい!どうすんだよ一体!?」

 

 

零「ちっ……とにかく奴を追うぞ!今から追えばまだ追い付ける!」

 

 

翔子「っ!分かった!裕一、後の事はよろしく!」

 

 

裕一「あぁ、任せろ!」

 

 

ツカサ「それじゃ、俊介と裕香も裕一の手伝いお願いね!」

 

 

俊介「…ハァ?!ちょ、待ってってツカサ?!」

 

 

裕香「勝手に決めて行かないでよぉ!?」

 

 

逃げ去ったローズドーパントを追う為、裕一達に後のことを任せて教会の外へと向かう翔子とツカサ。そしてそれを見た零も…

 

 

零「っ…とにかく俺達も行くぞ!なのは、お前は写真館に連絡してシャマルや人手になりそうな奴らを呼んでおいてくれ!此処に来るまで何人か負傷者を見つけたし、救急車が病院から此処に着くまで時間も掛かる筈だからな。お前はそっちを頼む…!」

 

 

なのは「うん、分かった!こっちは任せて!」

 

 

零「頼んだ…行くぞ優矢!カノン!フェイト!」

 

 

カノン「はい!」

 

 

フェイト「うん!」

 

 

優矢「え?お、おう!」

 

 

なのはにシャマル達を呼ぶように告げると零は優矢とカノンとフェイトと共に部屋を飛び出し、残されたなのは達はそれを見ると零に言われた通りシャマル達を呼ぶため写真館へ連絡する事にしたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

教会を出ると共に、零達は建物の屋上等を渡って逃走するローズドーパントを辿って道を全力で駆けていた。しかし、こちら側の方は人ゴミを避けながら進んでいる為中々速く進めず、ローズドーパントとの距離も徐々に開き始めていた。

 

 

優矢「くっ!やべえ…このままじゃ犯人に追い付けねぇぞ!」

 

 

ツカサ「ねぇ翔子!なんか他の道とかないの?!こう、近道的な物とかさぁ!�」

 

 

翔子「他の道……っ!確かこの辺りに裏道があった筈だよ!それを使えばアイツの行き先にまで近道できるし、上手く行けばアイツを回り込めるかも!」

 

 

零「!そうか…よし!なら二手に別れて奴を追うぞ!ツカサとカノンとフェイトはこのまま奴を追ってくれ!俺と翔子と優矢はその道を通って奴を回り込む!」

 

 

カノン「分かりました!」

 

 

フェイト「三人とも、気をつけてね!」

 

 

零「そっちもな…!翔子、その裏道は?!」

 

 

翔子「えぇっと、確かこの辺……あった!あれだよ!二人とも付いて来て!」

 

 

言いながら翔子はビルとビルの間にある路地裏までの道を駆けていき、零と優矢もそれを追って走り出し、残った三人はそのままローズドーパントの追跡に向かった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

路地裏に入り込めば、そこには複雑に入り組んだ道が何処までも続いており、三人は何とか走るスピードを落とさずその道を走り抜けていく。

 

 

零「クッ!走り難いなこの路地裏っ!」

 

 

翔子「まぁ普段は誰も使わない道だからね…でもその分さっきの道よりかは速く先に進めるよ!」

 

 

優矢「そうかもしんないけどさぁ…�Σてかクセェ!臭過ぎるよここ!?」

 

 

零「それぐらい耐えろっ!我慢できない臭いでもないだろう!」

 

 

路地裏を充満しているドブの臭いが鼻を突きながらも足は止めず、ただこの路地裏を一早く抜ける事を優先に周りの障害物にぶつからぬよう意識を集中させる。

 

 

優矢「ハァ、ハァ、なぁ!そういえば一つ気になってることがあんだけどさ!」

 

 

零「なんだこんな時に?!」

 

 

優矢「いやほら、さっきのドーパント!逃げる前に最後言ってたよな?!『望は誰にも渡さない』って!」

 

 

翔子「ハァ、ハァ、それがどうかしたの?!」

 

 

優矢「いや、だってなんか可笑しくないか?!なんであのドーパント…望さんの事知ってたんだろうって!」

 

 

翔子「…!それ…は…」

 

 

優矢「あのドーパント……もしかしたら望さんと何か関係があるんじゃ…」

 

 

『……ッ』

 

 

難しげな表情で呟いた優矢の言葉に零と翔子は暗い表情を浮かべて顔を俯かせてしまい、三人の間に重苦しい沈黙が流れ始める。

 

 

翔子「……と、ともかく!今は速くあのドーパントに追い付く事だけ考えよう!ほら、もうすぐ路地裏を抜けるし!�」

 

 

零「……そうだな。考えるだけ後でいくらでも出来る……とにかく今はこっちを優先するぞ!」

 

 

優矢「あ、あぁ!」

 

 

此処から数十メートル先にある路地裏の出口を指差した翔子に二人も一気に出口まで辿り着こう走るスピードを速めていき、もうすぐ路地裏を抜けようと―――

 

 

 

 

 

 

―ドゴォン!ドゴォン!ドゴォン!!―

 

 

『ッ?!なっ?!』

 

 

――した瞬間、突如三人の真上から青い光弾が放たれ零達の動きがストップしてしまった。そして零達がそれの放たれてきた真上に目を向けると、空から何かが降りて三人の目の前に立ち塞がった。

 

 

『…ふふふ…残念だったわね。此処から先は通行止めよ』

 

 

翔子「なっ…!」

 

 

零「っ!何だお前は…?」

 

 

三人の目の前に立ち塞がった物は水色のボディスーツの上に青いアーマーを着込み、銃と一体化した様な形をした剣を右手に持ち、顔にバイザーを付けて口元が見えている青いドーパントであった。声や体格からしてどうやら女性のようだが、それから放たれる雰囲気は明らかに『敵』を思わせるモノである。

 

 

『ふふ…暫くぶりねライダー少女?また貴方に会えるなんて嬉しいわ』

 

 

翔子「くっ!まさか…貴方がこんな場面に出て来るなんてねっ…!」

 

 

零「…?翔子、お前アイツと知り合いか?」

 

 

翔子「まあね……正直知り合いたくもなかったんだけど!」

 

 

言いながら翔子はポケットからダブルドライバーを取り出し、それに応じて零も優矢も目の前にいる相手が敵なんだと再確認して自分のドライバーを取り出そうとするが……

 

 

―バッ!!―

 

 

『ヌアァァァッ!!』

 

 

―ブオォンッ!―

 

 

翔子「うわぁっ?!」

 

 

優矢「うお?!な、何だ?!」

 

 

零「っ?!コイツ等…レジェンドルガ?!」

 

 

突如周りの物陰やビルの屋上から異形の怪人達…レジェンドルガ達が飛び出して三人に襲い掛かって来たのだ。突然の奇襲に驚きながらも三人は必死にレジェンドルガ達の攻撃をかわしていき、そんな様子を見物していたドーパント…ナスカドーパントは怪しく微笑みながら言う。

 

 

『今回は何時ものようには行きませんよ?今日の私には、心強いクライアントが付いているんですからねぇ』

 

 

翔子「クッ!クライアント…?!」

 

 

零「レジェンドルガに関係するクライアント…まさか、スカリエッティか?!」

 

 

ナスカドーパントが言ったクライアントという人物がスカリエッティだと予測した零が問い掛けるように叫ぶが、ナスカドーパントはただ微笑みながら手に持つ剣を撫でるだけであった。

 

 

『フフ。今日この時をどれだけ待ったことか……今日こそ決着を付けてあげるわ…ライダー少女!』

 

 

優矢「って!狙いが翔子なら俺達関係ないじゃん!」

 

 

翔子「っ…本当なら望む所なんだけど、今日は遠慮させてもらうよ!フィリス!」

 

 

フィリス『漸く出番だね?待ちくたびれたよ』

 

 

零「そっちの事情は知らんが…こっちは先を急いでるんだ!無理矢理にでもそこを通らせてもらう!」

 

 

言いながら零と優矢はレジェンドルガを吹き飛ばして自分の腰にベルトを巻き、翔子が腰にダブルドライバーを装着すると探偵事務所で留守番していたフィリスの腰にもダブルドライバーが現れ、零と翔子達はそれぞれカードとガイアメモリを取り出し構えていく。

 

 

『変身ッ!』

 

 

叫びながら優矢はベルトの左腰のボタンを押し、零と翔子達も掛け声と共にカードとメモリをバックルへと装填し、フィリスのメモリが翔子のダブルドライバーへと転送されると翔子はバックルをWの形に開いていく。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CYCLONE!JOKER!』

 

 

電子音声が響くと零はディケイド、優矢はクウガ、翔子はダブルへと変身し、探偵事務所にいたフィリスは精神が抜けてその場に倒れた。そしてダブルとクウガはそれぞれレジェンドルガを殴り付け、ディケイドはライドブッカーSモードを構えてナスカドーパントに突っ込んでいく。

 

 

ディケイド『ハアアアァァァァーーーーーっ!!』

 

 

『まずは貴方が相手ね……良いわ、返り討ちにしてあげる!』

 

 

ナスカドーパントは剣を水平に構え、片手突きの構えを取る。そしてディケイドも勢いを付けたままライドブッカーSモードを両手で握り、ナスカドーパントが勢いよく剣を横薙ぎに払った瞬間……

 

 

ディケイド『―――掛かったなぁ!』

 

 

―ブォンッ!バッ!―

 

 

『…っ?!なっ?!』

 

 

ナスカドーパントが剣を横に振った瞬間、ディケイドは態勢を低くしてナスカドーパントの放った斬撃をかわし、そのままバネのようにジャンプしてナスカドーパントの真上を飛び越え、地面に着地すると同時にそのまま出口へと突き進んでいく。

 

 

『チッ?!そうはさせな『CYCLONE!METAL!』ッ?!』

 

 

ナスカドーパントがディケイドを止めようと右手から光弾を放とうとした瞬間背後から電子音声が響き、ナスカドーパントは直ぐさま身体ごとひねって背後に剣を振るう。

 

 

―ガキイィィィィンッ!―

 

 

『グッ!?』

 

 

W(翔子)『貴方の相手は私達だよ!零には手を出させないっ!』

 

 

振り返った先にいたのは、左半身が先程の黒ではなく銀色へと変化し両手に銀色のロッド…メタルシャフトを構えたダブル・サイクロン・メタルの姿があった。そしてダブル(翔子)はメタルシャフトでナスカドーパントと激突し、クウガは一人ディケイドを追撃しようとするレジェンドルガ達を足止めしている。

 

 

ディケイド『っ…すまない三人共、此処は任せた!』

 

 

仲間を置いていくのは心苦しいが、今自分達のすべき事は望とローズドーパントに追い付くこと。ダブル達の作ってくれた機会を無下にはしない為にも、ディケイドは一直線に出口へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SHOT!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

『―――ショット、アルザードブラスター…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『――っ!?』

 

 

刹那、背後から突き刺さる様に感じた無機質な殺気。それに気付いて振り向いた時には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W(翔子)『――――え?』

 

 

クウガ『なっ…れ、零イイイィィィィィィィィィーーーーーーーー!!!!』

 

 

それに気づいた時には、ディケイドはもう爆発の中に飲み込まれていた。

 

 



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番外編/とある少女の恋の始まり・運命の名を持つ少女編

 

 

――全てが始まったのは…十年前のあの日。

 

私が彼と出会ったのも十年前…私がまだ九歳の頃だ。

 

その頃の私は、ただ母さんに言われてジュエルシードを集める事に必死だった。

 

母さんが望むなら私は何も反論しなかったし、ジュエルシードさえ手に入れば、きっと母さんも昔みたいに笑ってくれる……私もそう信じて戦っていた。

 

だから私はどんな手段も使ったし、それを邪魔する敵は容赦なく倒した。

 

そんな中で私は……彼と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…誰?貴方もジュエルシードの探索者?」

 

 

零「ジュエルシード?あんな石ころに興味ない。ただ…人の周りをウロチョロするのは止めてもらおうか?目障りだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の私達は今とは立場が違い、最初に出会った時は敵同士だった。

 

その時の彼の第一印象は…とにかく変わった子だと思った。

 

人形のように無表情で人を突き放す様な冷たい口調。

 

周りのモノに関心や興味も持たない無愛想な性格。

 

昔の自分より暗く、何処か悲しみに満ちた冷たい瞳。

 

そんな彼を最初に見た時から、何故か彼のことばかり考えるようになった。

 

何故あんなにも悲しい目をしているのか…

 

何故一度も人間らしい表情を見せてくれないのか…

 

一度考えたら止まらず、気付けば、彼をもっと知りたいと思う自分がいた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…記憶喪失?」

 

 

零「あぁ…ここ数年の記憶が俺にはない…だから本当の親も知らないし…本当の自分も知らない…知らないんだよ…」

 

 

フェイト「……そう…だったんだ……」

 

 

零「…だから正直…そんなお前が羨ましく思う…大事な母親の為に何かをしようとする……お前がな…」

 

 

フェイト「……あ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何度か刃を交えた後に漸く知った彼の境遇。

 

それを話した時の彼の表情はいつものような無表情だったけど…何処か泣きそうに見えた。

 

そんな彼の表情を見るだけで、心が酷く痛んだ。

 

そんな顔をしないで欲しいと…

 

自分に何かが出来るなら、彼を救い、支えてあげたいと…

 

敵であるにも関わらず、そんな感情が込み上げた。

 

何故…敵である彼にこんな感情を抱いたのか…

 

この感情が一体何なのか…この時の私にはそれがわからなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴォォォォォォォン!ドゴオォォォォォォン!―

 

 

アルフ「フェイト!!フェイトォォォォォォォォォォォォっっ!!!」

 

 

崩れ墜ちていく楽園、私は落下してきた瓦礫によってアルフと離れ離れになってしまった。

 

 

フェイト「…はぁ…はぁ…はぁ……アル……フ……」

 

 

周りは既に瓦礫によって支配され、足場はかなり悪くなっている。此処まで来るのに体力も魔力も使い果たした今の私には、もう空を飛べるだけの余力は残されていない。そしてとうとう力尽き、地面に力無く倒れた瞬間……

 

 

 

 

―ドゴオオオォォォォォォォォンッ!!―

 

 

フェイト「……ぁ…」

 

 

空から落下してきた瓦礫。それは雨の様に降り注ぎ、私を踏み潰そうと容赦なく向かってきた。

 

 

フェイト「…………」

 

 

……此処で死んじゃうんだ……私……

 

でも、それもいいかもしれない。

 

私なんかが生きてたって、何も良い事はないんだから…

 

ただ…もう一度…あともう一度で良いから…あの白い服の女の子と…黒い服の男の子と…話しをしたかったな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴオオオォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピチャ…ピチャ…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「………?」

 

 

 

 

…可笑しい。瓦礫は落ちてきてる筈なのに、何時まで経っても痛みは襲い掛かって来ない。

 

代わりに感じできたのは、頬を伝う生暖かい液体の様なモノ。

 

何が起きたのかと上を見上げてみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピチャ……ピチャ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「………嘘…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ…ちっ…まさか俺がこんな事をする嵌めになるとは…俺も…高町の甘さに毒されたか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に居たのは、私の上に覆いかぶさるような態勢で瓦礫を背中で受けて止める少年…紛れも無い、あの黒い服の少年だった。

 

そしてあの瓦礫から私を庇ったせいか、彼の額からは大量の赤い液体が流れ出ている。

 

 

フェイト「ど…どうして…此処に…?」

 

 

零「……高町とスクライアとハラオウンとはぐれた。それで取りあえず近くから感じた魔力を辿って此処に来てみれば、コレに押し潰されそうになってたお前を見つけた……それだけだ」

 

 

彼はいつものように愛想のない口調で言いながら背中の瓦礫を退かしていく。

 

 

フェイト「…っ!?」

 

 

その時……私は見た。彼の背中に大小の瓦礫が突き刺さり、そこから赤い液体が大量に流れ出ているのを。

 

多分…さっき私を庇ったせいで、あんな……

 

 

フェイト「どう…して…?」

 

 

零「…?」

 

 

フェイト「どうして…私なんか助けたの…?私なんか生きてたって…」

 

 

―ゴンッ!!―

 

 

フェイト「Σはぅっ!?」

 

 

全部言い切る前に、黒い服の少年に頭を殴られた。しかもグーで思いっきり…

 

 

零「こんな状況で何を言い出すのかと思えば…自分には生きる価値がないだと?此処まで来てお前が見つけた答えが、そんなふざけたことなのか…?」

 

 

フェイト「そ…そういう訳じゃないけど…」

 

 

零「だったらそんなくだらない事二度と口にするな…聞いていて虫酸が走る」

 

 

フェイト「うぅ……」

 

 

明らかに怒ってると分かるぐらいの雰囲気を放つ黒い服の少年を見て何も言えなくなる。

 

すると黒い服の少年は一度深い溜め息を吐いた後、尻餅を付いてる私を持ち上げて抱え、空へ飛び出した。

 

 

零「……フェイト・テスタロッサ……お前に一つだけ伝えておく……」

 

 

フェイト「……何?」

 

 

零「此処に来て俺が決めたことだ……お前の死の権利は俺が奪い取る…それだけだ」

 

 

――つまり、私は自分から死を選べないと言う事だろうか。それは何と言う……

 

 

フェイト「…自分勝手な…発言だね…」

 

 

零「…それが俺だからな。嫌いになったなら嫌えばいい、恨みたければ恨めばいい。だが…俺はお前に何と言われようが自分のやり方を変える気はない……俺や高町が絶対……お前が自分から今を生きてて良かったと思えるようにしてみせる…それまでお前を死なせるつもりはない」

 

 

フェイト「………でも……でも…私は……」

 

 

零「…………お前はまだ、ちゃんとこの世界を見ていない…まだホントの意味で"生きて"はいないだろう?俺から見たら、お前が普通の人間だろうが人造魔導師だろうがどうでもいいし、興味もない。俺の命とお前の命は何処も変わらない、ただ生まれ方が特別だった……たったそれだけのくだらん話だろう。お前の命に価値や意味を付けるなんて考えるだけでも時間の無駄だ。今を生きたいと望む…それだけで十分、お前がこの世界で生きていい理由になる」

 

 

フェイト「…………」

 

 

零「それでもまだ生きる事に戸惑いや不安を感じるのなら…俺が一生を掛けてでもお前を支えて守る。だから今からでも遅くはない…今度は誰かからの命令ではなく、自分の意志で、自分を信じて生きてみろ…フェイト・テスタロッサ。お前が存在してはいけない理由なんて…何処にもないんだから…」

 

 

フェイト「………あ…」

 

 

不意に呟かれた彼の言葉に…胸が響いた。

 

私を守ってくれると…

 

私は生きていいのだと…

 

その言葉に…私は思わずとめどない涙を流してしまった。

 

 

零「…?何故泣く…?」

 

 

フェイト「ぐす…だって…だってぇ…」

 

 

零「……?」

 

 

母さんに拒まれ…母さんに私という存在を否定され…

 

私は存在してはならないのだと…私の存在は許されないのだと…

 

心の何処かでそう思い…私は自分の存在に自信が持てなかった…

 

でも…

 

 

フェイト(……でも…彼は認めてくれた……私は……私は生きていいんだって…そう言ってくれた…)

 

 

その言葉で、どれだけ私の心が救われたことか…

 

その優しさで、どれだけ私が勇気付けられたことか…

 

そして…今のでやっと気づいた…

 

ずっと気になっていたこの不思議な気持ち…

 

彼のことが頭から離れず、彼と一緒にいるだけで満たされるこの気持ち…

 

顔を見上げれば、すぐそこに彼の顔がある…

 

そんな彼の表情を見るだけで、不思議と胸が熱くなる…

 

 

フェイト(……そうだ……そうだったんだ……私は……彼の事が……)

 

 

自分を救ってくれた彼に対する感謝の気持ち…

 

今まで気付けなかったこの暖かな気持ち…

 

それらが合わさって…漸く気付けた…

 

そう……これが……

 

 

 

 

フェイト(……彼の事が……好きになったんだ……)

 

 

 

 

 

…これが…私が彼を好きになったキッカケだった…

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「………んっ…」

 

 

ふと目が覚め、瞼を開けた先には見慣れた天井が目に映った。

それからここが写真館にある自分の部屋なんだと理解するのに時間は掛からなかったが、何故か身体がだるく、頭がズキズキと酷く痛む。

 

 

フェイト「あ……れ…?私……なんで……」

 

 

「…よ、目が覚めたか?」

 

 

フェイト「……え?」

 

 

不意に隣から声が聞こえ、それに少し驚きながらそちらに目を向ける。そこに居たのは見慣れた顔の青年…カメラの手入れをしながらこちらを見つめる零の姿があった。

 

 

フェイト「れ…零…?どうして…此処に…?」

 

 

零「?どうしてって…お前まさか、今朝のこと覚えていないのか?」

 

 

フェイト「?…今朝…?」

 

 

怪訝そうに問い掛けてきた零に私はズキズキと痛む頭で必死に今朝のことを思い出す。だけど頭痛のせいで上手く思考が働かず、どうしても思い出すことが出来ない。

 

 

零「…はぁ…本当に覚えていないのか?お前、今朝の朝食の時に熱出して倒れたんだぞ?」

 

 

フェイト「え?………あ」

 

 

そうだ…思い出した。そういえば今朝起きた時、何だか頭が熱くてフラフラしていた。それで何とかみんなが集まる部屋にまで辿り着いたんだけど…そこからの記憶がまったくない。恐らく…今零が言った通り熱で倒れてしまったんだろう。

 

 

零「…漸く思い出したか?全く…いきなりだったからみんな驚いていたぞ。此処まで運ぶのも大変だったし、ヴィヴィオなんか倒れたお前を見て大泣きしてたし……」

 

 

フェイト「そ、そうだったんだ…ごめんね…みんなにまで迷惑掛けて…」

 

 

零「謝る位なら日頃の体調管理に気をつけろ。お前に何かあれば皆も心配するんだ…分かったな?」

 

 

フェイト「うっ…面目ないです�」

 

 

零の言う通り、もっと日頃の体調管理に気を配っていればこんな事にならなかっただろう。そう考えると、心配掛けてしまったなのは達や零には本当に悪いことしたな……

 

 

フェイト「…そういえば…なのは達はどうしてる?」

 

 

零「ん…?アイツ等なら下の方で昼食を作ってるぞ。そう言えば…確かお前の分のお粥もあったはずだな…今から取りに行って来る」

 

 

と、そう言って零は座っていた椅子から立ち上がり扉に向かおうとする。

 

…だけど…彼が此処からいなくなってしまうと考えると凄く心細くなってしまう。だから…

 

 

―グイッ―

 

 

零「……ん?」

 

 

だから遂……そんな彼の手を掴んで引き止めてしまった。

 

 

零「?フェイト…?」

 

 

フェイト「あっ…えっと……お…お粥は後で良いよ…だからその……今はもう少しだけ……傍にいて…//」

 

 

あんな夢を見た影響だろうか…自分の中から沸き上がる欲望に歯止めが効かず、自分でも大胆だと思う発言をしてしまった。

 

そのせいか、自分でも分かるぐらい顔が物凄く熱くなってしまってる。

 

 

零「?…良く分からんが…傍に居ればいいんだな?」

 

 

フェイト「う…うん…いい…かな…?//」

 

 

零「あぁ…別に大丈夫だ。俺はちゃんと此処にいるから、お前ももう少し休んでろ…」

 

 

フェイト「…うん…ありがとう…//」

 

 

そして私は、眠りに付く間彼に手を握っててもらい、心地好い安心感に身を任せているとまた眠気が押し寄せてきた。

 

 

フェイト(…私…負けないよ…なのはやはやて達にも……絶対……)

 

 

意識を手放していく中で、此処にいない親友達にそう宣戦布告し、私は布団の中で握る彼の手を強く握り締めながら瞼を閉じた。

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑨

 

 

 

―ゴオオオオオォォォォォォォォォォ……―

 

 

 

W(翔子)『あ……あぁ……そ……そんな……』

 

 

クウガ『零っ……零ィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーっっ!!!』

 

 

 

轟々と燃え盛る紅蓮の炎。路地裏の出口とは反対側にあるビルの屋上から放たれた黒い閃光はディケイドに直撃し、その姿は燃え上がる炎によって飲み込まれてしまった。そしてそれを見たダブルとクウガの表情はどんどんと青ざめていき、ナスカドーパントはそんな二人に微笑みながら言う。

 

 

『クス…言ったでしょう?今日の私には心強いクライアントがいる…とね?』

 

 

クウガ『ッ!てめぇ…まだ何か隠し持ってんのか!?零に一体何しやがった!?』

 

 

『安心しなさい、ちゃんと手加減はしてるはずだから死んではいないでしょう。何てったって…彼は彼女達が欲しているライダーなんですからね』

 

 

そう言いながらナスカドーパントは二人から視線を外してビルの屋上から飛び降りてきた一人の仮面の戦士……左半身が青、右半身が漆黒となってる身体に右手に青い銃を持ったライダーに目を向け、それを見たクウガとダブルは目を見開き驚愕した。

 

 

クウガ『ア…アイツは…?』

 

 

『ふふ…紹介してあげるわ。これが、貴方達に対して用意した秘密兵器……仮面ライダー『ロスト』よ』

 

 

ロスト『――――――』

 

 

W(翔子)『か、仮面ライダー…ロスト?どういう事…それにあの姿って…?!』

 

 

W(フィリス)(…あの姿…そしてあのドライバーとメモリ…私達や智大達のモノと酷似し過ぎている…あれは一体…?)

 

 

突如として二人の前に姿を現したライダー『ロスト』の登場にクウガは驚愕し、ダブルはロストの姿を見て戸惑いを隠せずにいた。それもその筈、ロストの姿と腰に巻いてるベルトは翔子達のダブルドライバーと似ているのだ。まさか、敵側に自分達と同じタイプの仮面ライダーがいるなど予想もしていなかっただろう。

 

 

『フフフ……どう?自分と同じ姿をした敵とご対面した感想は?』

 

 

W(翔子)『ッ…正直あまり良い気分じゃないね…それも貴方達組織が作り上げたってワケ?』

 

 

『いいえ…残念だけどコレを造ったのは我社ではないわ…一応私達も興味本意があって調べたいとは思ったんだけど…クライアントが機密事項だからって触らせてもくれないのよ』

 

 

W(フィリス)『組織の人間以外が作り上げたダブル?……スカリエッティはもうそこまでの技術力を持っていたのか…?』

 

 

目の前に立ち塞がるロストとナスカドーパントに向けて身構えながら、精神体であるフィリスは一人考える。だがそんな時間すら与えてはしないと言うように、ロストとナスカドーパントはそれぞれ武器を構えながらレジェンドルガを連れ、二人へと近づいていく。

 

 

『さぁ……これでチェックメイトよ。痛い目にあいたくなければ私達の言う通りに従いなさい…』

 

 

W(翔子)『っ…寝言は寝て言えって聞いたことない?私達はまだ負けてなんかいないよ!』

 

 

『…ふぅ…まだ状況が見えていないの?たった二人でこれだけの数と私達を相手に出来るワケないでしょう?無駄な悪あがきは止めなさい!』

 

 

クウガ『クッ…!』

 

 

徐々に押し寄せて来るレジェンドルガ達にクウガは思わず舌打ちし、ダブルは何とかこの状況の打開策を考えながらメタルシャフトを構える。そして…ロストとナスカドーパント、レジェンドルガが一斉に動き出した。その時……

 

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:STRIKE VENT!』

 

 

『ハアァァァァァァァ……デェアアアァァァァァァァーーーーーーっっ!!!』

 

 

―ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーっっ!!!―

 

 

ロスト『――――!』

 

 

『…え?キャアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーッ!!?』

 

 

『グ、ヌガアアアァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

『っ!?』

 

 

突如ロストとナスカドーパントの近くにあった鏡から巨大な火炎放射が放たれ、それにいち早く反応したロストは後方へと飛んで回避するが、ナスカドーパントはそれを受けて吹き飛び近くの建物の壁に激突し、レジェンドルガの大半もそれを受けて爆散した。そしてそれが放たれた鏡の中から一人の仮面の戦士が飛び出して姿を現した。それは…

 

 

 

 

 

D龍騎『ちっ…今のを避けるとはな…反応速度も中々じゃないか』

 

 

クウガ『っ?!れ、零っ?!』

 

 

そう……鏡から現れた仮面の戦士とは、先程の攻撃で爆発に飲み込まれたハズのライダー…龍騎に変身したディケイドだったのだ。

鏡から出て来たのがD龍騎だと知ったクウガとダブルは驚愕し、ナスカドーパントは傷付いた身体を起こしてD龍騎を睨みつける。

 

 

『クッ?!ば、馬鹿な…何故貴方が此処に?!』

 

 

D龍騎『?あぁ…さっきのあれか?確かにあれは危なかったが…残念だったな?こっちにはその場で起きた状況に合わせての打開策って色々あるんだよ。例えばそう…あのミラーワールドのようなな』

 

 

『ミ…ミラーワールド?』

 

 

両手を払いながら告げたディケイドの言葉にナスカドーパントは疑問の声を上げる。そう…実はディケイドはあの時、ロストの砲撃が当たる直前に龍騎へと変身し、咄嗟にミラーワールドへと逃げ込んであの砲撃をやり過ごしたのだ。

流石にミラーワールドの存在までは知らないナスカドーパントは疑問を浮かべるだけであり、D龍騎はその間に左腰にあるライドブッカーをSモードに切り替えロストに切っ先を向ける。

 

 

W(翔子)『?!ちょ、ちょっと待ってよ零!まさか…零も戦う気なの?!』

 

 

D龍騎『当然だろう?コイツにはさっきの借りだってあるんだ。それにコイツの力は危険過ぎる…このまま野放しにしておくわけにはいかないだろう』

 

 

クウガ『な、何言ってんだよ?!今俺達がやるべきことは望さんの救出と犯人を捕まえる事だろう?!無事だったなら、どさくさに紛れて犯人を追い掛ければ良かったじゃないか?!』

 

 

D龍騎『俺もそこまで考えたさ…だが、コイツの相手はお前達だけじゃ手に負えそうにない。犯人の方にはカノン達が付いてるんだ…アイツ等がきっと何とかしてくれるさ。それに……』

 

 

ロスト『――――――』

 

 

D龍騎(それにコイツ…何だか妙だ…覇気を感じないというか…戦意を感じない…まるで人形のような……それに何処かで会った事があるような…懐かしいような…何だこの感覚…?)

 

 

実を言えば、先程の攻撃を受けそうになった時にも同じ感覚を感じていた。いつかの時に味わった事があるような気がする…以前何処かで会った事があるような気がする。そんな妙な感覚が胸の中で引っ掛かり、それがどうしても気になって此処に残ってしまったというのも理由の一つだ。

そうして思考を巡らませていると、ロストはベルトの左側にあるメモリを抜いて何処からか銀色のメモリを取り出し、それをベルトにセットしてWの形に展開する。

 

 

『SPEAR!』

 

『DARK!SPEAR!』

 

 

電子音声が響くとロストの左半身が銀色へと変わっていき、背中には身の丈を越える銀の槍…スピアグレイブが装備されていた。

 

 

W(翔子)『っ?!色が…変わった?!』

 

 

W(フィリス)『…成る程…メモリで能力を変えて戦うというスタイルも、私達と全く同じみたいだね…』

 

 

フォームチェンジしたロストを見てダブル達はそれぞれ感想を漏らし、ロストは背中のスピアグレイブを取り出してD龍騎に構えた。

 

 

D龍騎『ほぉ……その構え……どうやら中々の使い手のようだな?やはり此処に残って正解だったか……なら手加減無しで行くぞ!』

 

 

ロスト『――――!』

 

 

―ガキィィィィィィン!!ガキィィィィィィン!!―

 

 

最初に踏み出したD龍騎が一瞬で間合いを詰めライドブッカーをロストに向けて右斜めに振りかざした。

だがロストもそれを読んでいたかと言うように軽々とライドブッカーを弾き、瞬時に黒い闇を纏ったスピアグレイブで高速突きを放つが、D龍騎も負けじとそれらを全てライドブッカーで防ぎながら後方へと跳び、再び地を蹴って一気に距離を詰めロストと激しく切り合っていった。

 

 

クウガ『…す…スゲー�』

 

 

W(フィリス)『こうなれば仕方ないね……私達も零に加勢するとしよう』

 

 

W(翔子)『はぁ…しょうがないな…分かったよ!だった早く終わらせて犯人を『そうはさせない!』っ?!』

 

 

ロストと激突するD龍騎に加勢しようとするダブルとクウガだが、先程D龍騎に吹き飛ばされたナスカドーパントとレジェンドルガの大群が現れダブル達を包囲してしまった。

 

 

『はぁ…はぁ……これ以上好きにはさせないわ!貴方との決着は……此処で付けさせてもらう!!』

 

 

クウガ『オイオイ!しつこいにも程があるだろう?!』

 

 

W(フィリス)『…どうやら…犯人の追跡はもう少し掛かりそうだね、翔子?』

 

 

W(翔子)『……あぁーもう怒ったぁ!!だったら全員相手にしてあげるよ!何処からでも掛かってこいやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!�』

 

 

『HEAT!METAL!』

 

 

クウガ『Σうわぁ!?ま、待てよ翔子!?冷静になれって!?ちょ、翔子さぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!?』

 

 

次々と邪魔に入って来るナスカドーパントにダブルはついに怒りの雄叫びを上げ、また別のメモリを取り出してベルトにセットすると電子音声が響き、それと共にダブルの右半身が赤く染まった姿…ダブル・ヒート・メタルへと姿を変えた。そしてダブルはがむしゃらにメタルシャフトを振り回してナスカドーパント達に突進し、クウガは慌ててそんなダブルの後を追い掛けていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、風都公園・広場…

 

 

 

ディケイド(ツカサ)『エェイっ!!』

 

 

ビート『ハアァッ!』

 

 

『ぐぅっ!嘗めるなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

―ガキイィィィィンッ!!ガキィィィィィンッ!!―

 

 

ビート『アグゥッ!?』

 

 

ゼロス『グゥっ!!』

 

 

ディケイド達がロスト達と激戦を繰り広げている頃、ローズドーパントに追い付いたツカサ達は変身して既にローズドーパントと戦闘に入っていた。だが三人の攻撃はローズドーパントの猛攻の前に通用せず、ローズドーパントの背後にある時計塔の下で眠る望に近づく事も出来ないでいた。

 

 

ゼロス『ハァ…ハァ…コ、コイツ…強すぎる…!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『っ…!流石はドーパントって所かな…?でも、このままじゃラチが明かないねっ…』

 

 

ビート『ハァ…ハァ…なら……私がクロックアップを使って望さんだけでも救出を…!』

 

 

『ゴチャゴチャと話してる暇があるのか!ハァッ!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドッ!!―

 

 

『クッ!?』

 

 

この状況をどうするべきかと三人が考えていると、ローズドーパントが身体から棘の弾丸を乱射し、三人は直ぐさま散開してそれを避けていく。そしてディケイド(ツカサ)とゼロスは態勢を立て直すと同時にカードを取り出しそれぞれドライバーへとセットする。

 

 

『KAMENRIDE:KABUTO!』

 

『FOMARIDE:BERSERKER!』

 

 

電子音声が響くとディケイド(ツカサ)の姿が仮面ライダー少女カブトへと変わり、ゼロスは黒を基礎とした姿に右手に巨大な斧を持った姿…バーサーカーフォームへとフォームチェンジした。

 

 

『っ?!か…変わった?!』

 

 

ゼロスB『これ以上は時間を掛けられない……一気に決めさせてもらうよ!』

 

 

『チィ!調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

ゼロスは巨大な斧…ブレイキングアックスを構えながらローズドーパントに突進し、ローズドーパントは直ぐさま棘の弾丸をゼロスに向けて放っていくが、ゼロスはそれをものともせずブレイキングアックスを構えながら突っ込んでいく。

 

 

『な、何だと!?』

 

 

ゼロスB『デェアアアァァァァァァァーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズバババババババババババンッ!!―

 

 

『イッギャアアアァァァァァァァァーーーーーーっっ!!?』

 

 

ゼロスの振り下ろしたブレイキングアックスがローズドーパントを正面から斬り裂き、想像以上のダメージを受けたローズドーパントは悲痛な悲鳴を上げながら吹っ飛んでいった。そしてそれを見たDカブトはライドブッカーから一枚カードを取り出してビートに呼び掛ける。

 

 

Dカブト『よし、フェイト!速攻で決めるよ!』

 

 

ビート『分かった!クロックアップッ!』

 

 

『Clock Up!』

 

『ATTACKRIDE:CLOCK UP!』

 

 

二つの電子音声が響くと共にDカブトとビートは目にも見えないスピードで動き出し、DカブトはライドブッカーSモード、ビートはクナイガンを構えてローズドーパントに斬り掛かっていく。

 

 

―ズバァンッ!ズバァンッ!ズバァンッ!ズバァンッ!―

 

 

『アグゥッ!?な、何なんだ一体!?』

 

 

ゼロスB『そろそろかな…コレで終わらせてもらうよ!』

 

 

高速で動く赤い閃光と黒い閃光に吹き飛ばされていくローズドーパントを見てゼロスは一枚カードを取り出してドライバーへと装填し、Dカブトとビートもローズドーパントの背後に回り込みそれぞれ最後の攻撃の準備に入る。

 

 

『FINALATTACKRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

『one!two!three!』

 

 

ビート『ライダーキック!』

 

『Rider Kick!』

 

 

『ハアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッッ!!!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:BERSERKER!』

 

 

ゼロスB『アックスハンマーッ!!砕け散れえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!』

 

 

『ウ、ウアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーっっ!!?』

 

 

―ドッガアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーンッ!!!―

 

 

Dカブトとビートの放ったクロスライダーキックと、ゼロスの放ったアックスハンマーがローズドーパントに炸裂し、ローズドーパントは数十メートル先まで吹っ飛ばされながら爆発していった。そして爆発が晴れていくと……

 

 

ゼロスB『……ッ!なっ?!』

 

 

Dカブト『あれは…!』

 

 

爆発が晴れていくと、そこには変身が解けたローズドーパントの人間体…二十代ぐらい男性がふらつきながら身体を起こしていく姿があったのだ。しかもその手には、先程使っていたかと思われる深紅のガイアメモリが握られていた。

 

 

ゼロスB『クッ…やっぱりメモリまでは破壊出来てないか…!』

 

 

「はぁ…はぁ…まだ…だ…まだ俺は…こんな所で…!」

 

 

ビート『っ!マズイ…あの人またメモリを使う気だ!』

 

 

Dカブト『やば…早くあの人を止めないと!�』

 

 

再びガイアメモリを身体にインサートしようとする男性を阻止しようと、三人は急いでその場から走り出し男性の下へと急いでいく。だが…

 

 

 

 

 

 

―ザアァァァァァァ!!―

 

 

『…ッ?!えっ?!』

 

 

突如前触れもなく三人と男性の間を遮るように歪みの壁が出現し、その場にいた者全員がそれを見て動きを止めてしまう。そしてその歪みの中から、突然何十体ものレジェンドルガの大群が飛び出して三人に襲い掛かってきた。

 

 

ビート『な…何?!』

 

 

ゼロスB『こ、こいつ等…レジェンドルガっ!?』

 

 

Dカブト『ちょ、何でこのタイミングでこいつ等が出て来るわけ!?』

 

 

突如現れたレジェンドルガの大群に驚きながら何とか攻撃を避けていき、三人は訳も分からないままレジェンドルガ達と戦闘を開始していく。

 

 

「…な…何だ?一体なにが…?」

 

 

それを見ていた男性も何が起きているのか分からないといった表情でそれを見ていたが、そんな男性の前に突如小型の通信パネルが現れた。

 

 

『はぁ~い♪こんにちは~小神 修二さん♪』

 

 

修二「っ!?な…何だ…?!誰だお前…?!」

 

 

『そんなに警戒しなくても大丈夫ですよぉ?私は貴方の味方なんですから♪』

 

 

修二「み…味方…だって?」

 

 

突然自分の味方だと言ってきた通信パネルに映る女性の言葉に男性……小神修二は戸惑いを隠せず、そんな修二の反応など構わず女性は更に続けて言う。

 

 

『だからこの場は私達が受け持ちますので、貴方は早く逃げて下さい♪』

 

 

修二「だ、だけど…望が!望を助けないと!俺はその為にずっと…!」

 

 

『だからこそですよ…貴方が此処で倒れたら、誰があの人を救うんですか?機会なら後で幾らでも出来ます。さぁ、早く!』

 

 

修二「くっ……分かった……なら此処は任せる…!」

 

 

修二は悔しげに唇を噛み締めながら女性にそう答えると、ガイアメモリを握り締めながらふらついた足取りでその場から去っていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

「………ふぅ、全く。本当に面倒臭いわよねぇ~人間って。大切な誰かを救いたいんだ!とか言っちゃって……馬鹿らしくて欠伸が出ちゃうわぁ」

 

 

一方、ビート達とレジェンドルガが奮闘する戦場から離れた場所に建つビルの屋上には、二人の少女の姿があった。一人はキャロと同じぐらいの年代かと思われる紫色の長髪をした小柄な少女。そしてもう一人は、白いマントを纏った眼鏡を掛けた少女……そう、クアットロであった。

 

 

クアットロ「さて、ロストちゃんもディケイドと接触したようですし…そろそろ出番ですよ、お嬢様♪」

 

 

「………う……ん……」

 

 

クアットロが隣に立つ少女にそう呼び掛けると、少女は虚ろな瞳で頷きポケットから紫色のカードケースを出し目の前に突き出した。すると少女の腰にベルトが装着され、それを確認した少女は小声で呟く。

 

 

「…へん……しん……」

 

 

少女はそう呟きながら腰のベルトにある窪みにカードケースをセットすると鏡が割れるような音と共に複数のシルエットが現れ少女に重なり、その姿が別のモノへと変わっていった。

首には赤いマフラーを靡かせ、薄紫色のアンダースーツの上に忍者を連想させるようなドレス系の黒い鎧を纏い、身長も先程までとは違ってクアットロと同じ程となっている。

 

 

クアットロ「フフフ♪リュウガのカードデッキを改造しただけはあって、変身は上手く行きましたね♪さあお嬢様……いいえガリュウちゃん♪貴方の力をアイツ等に見せてあげちゃって下さい♪』

 

 

ガリュウ『…うん…行こう…ガリュー…ドラグブラッカー…』

 

 

少女が変身したライダー…『ガリュウ』がそう呟くと近くの鏡に映る黒い外装を纏った忍者のような姿をした怪物と黒い龍が咆哮を上げ、ガリュウはそれを聞くと屋上から飛び降りビート達の下へ向かっていった。

 

 

クアットロ「うふふ♪思い知らせてあげるわディケイド…貴方の言う仲間がどれだけ邪魔な存在で、どれだけ脆いモノなのかをね……アハハハハハっ♪」

 

 

去っていくガリュウの背中を見つめながらクアットロは怪しく微笑み、目の前に二つの電子パネルを出現させる。そこには…それぞれ奮闘を繰り広げるD龍騎達とビート達の姿が映し出されていた。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑩

 

 

―ガキイィィィィンッ!!ガキイィィィィンッ!!―

 

 

D龍騎『グッ!チィッ!』

 

 

ロスト『――――』

 

 

場所は変わって近くの廃墟ビルの地下に存在する地下駐車場。

暗闇に包まれた空間の中で激突する剣と槍。D龍騎はロストの槍捌きに圧されながらもライドブッカーを振るう手を緩めない…いや、緩む事が出来ないと言った方が正しい。

少しでも気を抜けば、その瞬間あの槍は自分の身体を意図も容易く貫く。そんな予感を、D龍騎はロストのスピアグレイブを弾きながら確信していた。

 

 

D龍騎『(くっ…こんな事してても埒が明かない…!一気に勝負を決めないと…こっちがやられる!)』

 

 

剣を交えてみて分かったが、このライダーは実力的に自分を遥かに上回ってる。恐らく…あの海道大輝すら上回るかもしれない。

そんな敵とこのままこんなせめぎ合いを続けていてもこちらが不利になる一方だし、このまま押し切られてしまう可能性も大いに高い。

そうなる前に早々に決着を着けなければと、D龍騎はロストから距離を離しながらライドブッカーを腰に戻し、そこからカードを取り出してディケイドライバーに装填する。

 

 

『ATTACKRIDE:STRIKE VENT!』

 

 

電子音声が響くとD龍騎の上空からドラグクローが現れD龍騎の右腕に装着された。そしてD龍騎はドラグクローの口に炎を収束させロストに狙いを定める。

 

 

D龍騎『ハアァァァァ……デアアァァァァァァァァァァーーーーーッッ!!!』

 

 

D龍騎のドラグクローの口から業火の炎が勢い良く放たれ、そのままロストを飲み込もうと向かっていく。だが、ロストはそれを見ても冷静にドライバーの左側にあるメモリを抜いて別のメモリをセットする。

 

 

『DARK!SHOT!』

 

 

―ズガガガガガガガァッ!バシュゥゥゥゥゥンッ!―

 

 

D龍騎『なっ?!―ズガガガガガガガガガガァッ!!―く、ガハアァッ!!』

 

 

ロストがメモリをドライバーにセットすると左半身が青へ変わり、ロストは右手に現れた青い銃…ショットマグナムを乱射してD龍騎の放った火炎を打ち消し、D龍騎は残った銃弾を受けて後方へと吹き飛ぶが、何とか受け身を取って態勢を立て直す。

 

 

D龍騎『グゥッ?!チィ!そういえば奴もメモリで能力を変えてくるんだったか…―ズガガガガガガガガガガガガァッ!―クッ?!』

 

 

D龍騎はロストのフォームチェンジ能力に厄介だと毒づくが、ロストはそんな事も構わずショットマグナムをD龍騎に向けて連射し、D龍騎は周りの障害物を利用してそれらを避けながらカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:CLONOS!』

 

 

電子音声が響くとD龍騎はDクロノスへと姿を変え、そのまま一本の柱の背後に飛び込み一度身を隠すと、再びライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーへと装填する。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

Dクロノス『フッ!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

ロスト『―――!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

電子音声が響くと同時にDクロノスは柱から飛び出し、向かって来る銃弾を高速で避けながらロストの懐に入り込もうと接近していく。しかし、ロストは連射を行いながら両側のメモリを抜き、また別のメモリを取り出してドライバーに装填しWの形に展開する。

 

 

『FREEZE!ACE!』

 

 

Dクロノス『ハアアアァァァァァァァァァッ!!』

 

 

電子音声が響くとロストの右半身がダークブルー、左半身が黒へとハーフチェンジするが、Dクロノスは構わず真っ正面からロストの顔面目掛けて右拳を放った。しかし……

 

 

―……ガシッ!ギギギギギギギギギギ…―

 

 

Dクロノス『……っ?!な、何…?!』

 

 

ロスト『――――』

 

 

なんと、ロストは超高速で動くDクロノスの拳を意図も容易く受け止めたのだ。Dクロノスは予想外のことに動揺してしまい、ロストはその隙にDクロノスの拳を掴んだまま引き寄せてDクロノスを殴り付け、更に奥にある廃棄物ゴミ捨て場に向けてDクロノスを放り投げてしまう。

 

 

―ドシャァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

Dクロノス『ガハアァッ!クッ…ア、アイツっ…まさかガイアメモリで高速移動も『DARK!SHOT!』っ?!』

 

 

態勢を立て直してる最中のDクロノスの言葉を遮る様に電子音声が響き、Dクロノスは慌てて目の前に視線を向けると、そこには既にロスト・ダーク・ショットがショットマグナムの銃口をこちらに向けて立ち構えていた。

 

 

Dクロノス『しまっ…!?』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドォッ!!ドガアアアァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

咄嗟に回避行動を取ろうとしたDクロノスだが、それも間に合わずロストの放った漆黒の銃弾が全て直撃してしまい、Dクロノスは廃棄物の山もろとも爆発に飲み込まれていった―――

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

クアットロ「あらら…思ったり早く決着が着いちゃいましたねぇ~。あーあ……本当なら此処からが見所だったのになぁ~」

 

 

電子モニターでDクロノスとロストの戦闘を見ていたクアットロは心底残念そうに呟くが、すぐにまた怪しげな笑みを浮かべて遠くにある広場に目を向けた。

 

 

クアットロ「…まあでも、まだコッチのショーがあるからいいでしょう。ロストちゃんの分まで活躍して下さいよ、お嬢様♪」

 

 

邪な笑みを浮かべるクアットロが見つめる先…そこでは今、ビート達がレジェンドルガの大群を相手に奮闘している姿があった。

 

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ガキィンッ!―

 

 

『ヌゴオォッ!?』

 

 

『ウォォォォォォォ!!』

 

 

ビート『ハァ…ハァ…中々数が減らないね…�』

 

 

ディケイド(ツカサ)『もう嫌だ~�これじゃあ魔界城の時の二の舞じゃん!!』

 

 

ゼロス『そんなこと言ったって仕方ないでしょう!�今はとにかく、コイツ等を倒して望さんを連れ帰らないと!ハァッ!』

 

 

次々と沸いて来るレジェンドルガの大群に苦戦しながらも望を守って戦う三人。だがどれだけの数を倒してもレジェンドルガの数が減ることはなく、三人の表情にも疲労の影が見え始めていた。そしてレジェンドルガ達はそんな三人へと押し寄せ、三人は徐々に後退しながら今の現状の打開策を考えていた、その瞬間…

 

 

 

 

『ADVENT!』

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーッ!!!』

 

 

―ドゴオォンッ!ドゴオォンッ!ドゴオォォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

『グ?!ヌガアァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

『?!な、ウワアァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

突如何処からか電子音声が響き、それと共に近くの鏡から突然黒い龍が飛び出しビート達とレジェンドルガの大群に向かって突進してきた。それを受けたレジェンドルガの大半は吹き飛びながら爆発を起こして消滅し、三人はそれの直撃を何とか免れるが、それの爆発に巻き込まれて吹き飛んでしまった。

 

 

ゼロス『うっ…くっ?!な、何なんだ今の?!』

 

 

『ギャオオォォォォォォォォォォォーーーーーーッッ!!!』

 

 

ビート『っ?!……あの黒い龍……確か…!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『オォォォォ!?ドラグブラッカーだ~♪』

 

 

吹き飛んだ三人はふらつきながら立ち上がり、上空を飛び舞う黒い龍……ドラグブラッカーを見てビートとゼロスは目を見開いて驚愕し、ディケイド(ツカサ)は一人ハイテンションとなって叫んでいた。だが…

 

 

―バッ!―

 

 

『グオォォォォォォ!!』

 

 

ゼロス『…ッ?!フェイトさん危ないっ!!』

 

 

ビート『え…っ!?』

 

 

ビートの背後から突然数体のレジェンドルガ達が襲い掛かり、それに気付いたゼロスが叫びながら走り出すが既に間に合わない。そして一体のレジェンドルガの爪がビートを斬り裂こうとした瞬間……

 

 

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

『……邪魔…』

 

 

―ガキイィィィンッ!!―

 

 

『ギッ?!ギャアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーっっ!!?』

 

 

―ドゴオオオォォォォォォォォォォォンッッ!!!―

 

 

『っ?!……え?』

 

 

レジェンドルガ達の背後から不意に電子音声と低い声が聞こえ、その直後レジェンドルガ達は背後から何者かによって身体を斬り裂かれ爆発していった。突然のそれにビート達が困惑する中、爆煙が徐々に晴れていくとその先には一人の戦士……黒いドラグセイバーを片手に持った仮面ライダーの姿があった。

 

 

ビート『っ?!だ、誰…?』

 

 

ゼロス『黒い…ライダー…?』

 

 

ディケイド(ツカサ)『おぉ?!また見た事ないライダーだ?!しかも……フムフム……私の直感からみて女性ライダーと見たZE☆』

 

 

ゼロス『いやあの…普通に見た目で分かるでしょ�鎧がドレスなんだから…�』

 

 

突然現れた黒いライダーをビシッと指差しながら叫ぶディケイド(ツカサ)にゼロスが横から促す。そんなやり取りが隣で行われてる中、ビートはゆっくりとその場から立ち上がって黒い仮面ライダー……ガリュウに近づいて話し掛ける。

 

 

ビート『あの…助けてくれてありがとう。えっと……貴方は?』

 

 

ガリュウ『……………』

 

 

ビートがお礼を言いながらそう問い掛けるとガリュウは歩みを止め、少し俯かせていた顔を上げビートの顔を見つめながら口を開く。

 

 

ガリュウ『…仮面ライダービート……フェイト・T・ハラオウン……攻撃対象の一人……排除…開始…』

 

 

ビート『え?―ガキィィン!!―キャアァァッ!?』

 

 

『ッ!?なっ!?』

 

 

ガリュウは何かを呟いたと共に突然ドラグセイバーでビートを斬り裂き、完全に油断していたビートはそれをモロに受け地面を転がりながら吹き飛んでしまった。そしてそれを見たディケイド(ツカサ)とゼロスは突然の出来事に息を呑み、慌ててビートの下へと駆け寄っていく。

 

 

ビート『くっ…うぅっ…』

 

 

ゼロス『フェ、フェイトさん!しっかりして下さい!フェイトさん!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ちょ、いきなり何すんの?!私達のこと、助けてくれたんじゃなかったわけ?!』

 

 

ガリュウ『…………』

 

 

ゼロスは慌ててビートの身体を起こしていき、それを見たディケイド(ツカサ)は怒りを露わにしてガリュウに叫ぶが、ガリュウは無言のままバックルのカードケースからカードを抜き取り、左腕に装備された黒い盾…ガリューバイザーに装填しベントインする。

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

電子音声が響くとガリュウの近くにある鏡から黒い爪のような武器……ガリュークローが飛び出しガリュウの両腕に装備されガリュウはそれをディケイド達に向けて構えていく。

 

 

ディケイド(ツカサ)『っ……成る程ね。大体分かったよ……取りあえず貴方が敵だって事がね!』

 

 

ディケイド(ツカサ)はガリュウに向けてそう言いながらライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーへとセットする。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

 

電子音声が響くとディケイド(ツカサ)の身体に赤い閃光が浮かんで一瞬淡く輝き、それが晴れるとディケイド(ツカサ)は仮面ライダー少女ファイズへと姿を変え、ライドブッカーSモードをガリュウに向けて構える。そして…

 

 

Dファイズ『ハアアアァァァァーーーーーッ!!!』

 

 

ガリュウ『…!』

 

 

―ガキイィィィィンッ!!ガキイィィィィンッ!!―

 

 

Dファイズとガリュウは同時にその場から動き出し、自分達の武器を構え相手に向かって振りかざしたのだった。

 

 

クアットロ「アハハハハ!流っ石お嬢様♪やることがスムーズで助かりますね~♪それじゃあこの隙に……ロストちゃん、聞こえる?」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

場所は戻って廃墟ビル地下駐車場。其処ではDクロノスを撃退したロストがジッと燃え上がる炎を見つめながら立ち尽くしている姿があった。するとそこへクアットロからの通信が届き、ロストはそれに反応して顔を少し上げる。

 

 

クアットロ『聞こえるかしらロストちゃん?こっちの方は予定通りに進んでるから、ロストちゃんは一足先にディケイドを回収してアジトに戻ってくれる?』

 

 

ロスト『………(コクッ)』

 

 

クアットロから伝えられた指示にロストは小さく頷き返し、命令通りにディケイドを回収しようと未だ燃え上がる廃棄物の山に向かって歩いていく。

 

 

クアットロ『(それにしても…あのディケイドがこんなにも容易く倒されるなんてね…何だか少し違和感を感じるけど…まあいいわ。これで漸くあの男と"アレ"に関する実験が出来るのだから……フフフ)』

 

 

ロストがディケイドを回収しに向かう中、クアットロは心の中で零を連れ帰った後の事を想像し表情を歪めていく。そしてロストが炎の中へと足を踏み入れた、その時……

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

クアットロ『っ?!なっ?!』

 

 

ロスト『―――!?』

 

 

―ズドオオォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

突然炎の向こうから火炎を纏った銃弾が放たれ、突然の事態にロストは驚きながらとっさに防御態勢を取りダメージを半減させるが、衝撃までは和らげず後方へと後退させられてしまう。そして、ロストは身体から煙を立たせながら目の前に視線を戻していくと……

 

 

 

 

『―――なるほどな。そのロストとか言うライダーはお前の差し金だったわけか……クアットロ』

 

 

『っ!?』

 

 

炎の向こうからゆっくりと歩いて来る一つの影。徐々に見えてきたそれの特徴は深紅の身体にオレンジ色の瞳をした戦士………そう、それの正体とは先程の攻撃で倒されたと思われていたディケイド・ソルフォームだったのだ。

 

 

クアットロ『ッ……あら、あれだけの攻撃でまだ動けるなんてね?思ったよりしぶといじゃない?』

 

 

ディケイドS『ハッ…あの程度の攻撃、なのは達からの制裁に比べれば痒いモノだ。そんな事より……良く俺の前に出て来れたなクアットロ?てっきりなのはのアレで未だビクビク震えてたのかと思ったぞ』

 

 

ディケイドSはライドブッカーの切っ先をロストに向けながら馬鹿にするように笑うが、それを聞いたクアットロはただ怪しげに微笑みながら言い放つ。

 

 

クアットロ『フフフ…確かにあの時の屈辱は耐え難いモノでした………だけど、その恥を忍んで耐えたかいがありましたよ。おかげで最高の力を手に入れたんですからねぇ♪』

 

 

ディケイドS『最高の力?まさか…その訳の分からない人形みたいな奴がか?』

 

 

クアットロ『えぇ、このロストちゃんは貴方達なんかとは比べモノにならない力を秘めてますからね。この最高傑作の前にどんな敵も……ましてや貴方みたいな虫けらに、私のロストちゃんが敗れることはまず有り得ないわ…フフフ』

 

 

ディケイドS『…自信大有りと言うことか…なら良いだろう。その自慢の人形をさっさと倒してお前を引きずり出してやる』

 

 

クアットロ『ふふふ♪貴方に出来るのかしらねぇ~?私のロストちゃん…ましてやこの子の"正体"を知っても尚、そんな大口が叩けるのかしら?』

 

 

『正体』という部分を強調しながら自信ありげに言い放つクアットロだが、それを聞いたディケイドSは鼻で笑いながら答える。

 

 

ディケイドS『そんな奴の正体なんか知ったことか。それよりお前達にはヴィヴィオやナンバーズ、セッテの時の借りだってある。それを返す為にも……ソイツごとお前を叩き潰す!』

 

 

ディケイドSはそう言いながらライドブッカーからカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

電子音声が響くとディケイドSは次々に分身を生み出し、合計10人のディケイドS達が横一列に肩を並べ、ディケイドS達はそれぞれライドブッカーを構えながらロストに突っ込んでいった。

 

 

『ハアアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

クアットロ『一対一じゃ勝てないから数で勝負しようというの?安易な戦法ね…虫けらがどんなに数を揃えようが同じ事よ!』

 

 

クアットロの嘲笑うかの様な声が響くとロストは左側のメモリを抜いて今度は銀色のメモリを取り出しドライバーにセットしてWの形に展開する。

 

 

『DARK!SPEAR!』

 

 

電子音声が響くとロストはダーク・スピアへと変わり背中のスピアグレイブを取り出して構え、ディケイドS達はそれぞれライドブッカーを振りかざしロストへと向かっていく。だが…

 

 

ロスト『―――!』

 

 

―ガキイィンッ!ガキイィンッ!ズガアァンッ!―

 

 

『グウゥッ!?』

 

 

『ウグアァッ!!』

 

 

ディケイドS達はライドブッカーで斬り掛かりロストに挑んでいくが、ロストはそれらを全て上体を動かしながら避けカウンターを喰らわせていき、ディケイドS達はロストのカウンターを受けて吹き飛んでいってしまう。

 

 

―ガキイィンッ!ガキイィンッ!ガキイィンッ!―

 

 

『ウグゥッ!!』

 

 

『グッ!?』

 

 

クアットロ『アハハハハハ!どうしたのディケイド?!そんな事じゃロストちゃんを倒す所か、傷一つすら付けられないわよ?!』

 

 

次々に吹き飛んでいくディケイドS達を見てクアットロは愉快そうに笑い、ディケイドS達は何度吹き飛ばされようと食い下がるようにロストへと斬り掛かっていき、その内の三人はライドブッカーをGモードに切り替えロストの近くにあるパイプラインを狙い撃った。

 

 

―ズガガガガガガガァッ!プシュゥゥゥゥゥッ!!―

 

 

ロスト『―――!?』

 

 

クアットロ『…っ?!ガス?!目くらましのつもり…?!』

 

 

横から噴き出してきたガスにロストは一瞬視界を遮られてしまい、ディケイドS達はその隙を見逃さずライドブッカーを構えロストに斬り掛かった。

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

 

―ガキイィィンッ!ガキイィィンッ!ガキイィィンッ!!―

 

 

ロスト『―――っ!!?』

 

 

ディケイドS達の全身全霊を込めた一撃一撃がロストに炸裂し、ロストは回避が間に合わずそれを受けて後方へと吹っ飛んでいった。そしてディケイドS達はそのままロストに向かって走りながら一人へと戻っていき、バックルにインサートされているソルメモリを引き抜く。

 

 

ディケイドS『これで終わりだ!クアットロっ!!』

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ロスト『ッ……ッ!』

 

 

ロストに向かっていきながらメモリをライドブッカーに装填するとライドブッカーの刀身が炎に包まれていき、ディケイドSはそれを構えながらロストへと突進していく。

 

 

ディケイドS『ソルスラッシャーッ!!くたばれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!』

 

 

ロスト『―――!?』

 

 

ディケイドSは炎に包まれたライドブッカーの刃をロストに向けて振り下ろし、未だ態勢を立て直せていないロストにそれを回避することは不可能。この勝負はもらった、ディケイドSがそう勝利を核心してライドブッカーでロストを斬り裂こうとした瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クアットロ『……クス♪』

 

 

―パアァァァァァアンッ―

 

 

ディケイドS『…ッ?!』

 

 

ライドブッカーの刃があと数cmと言うところまで迫った瞬間、突然ロストの身体が光に包まれたのだ。それを見たディケイドSは何かの罠かと思い、思わず動きを止めて身構える。そして、ロストを包んでいた光が徐々に薄れていくと…

 

 

ディケイドS『………………………………え…?』

 

 

力無く、思わずそんな声を漏らしてしまった。

 

光が消えて目の前に映るのは、先程まで自分が戦ってロストではなく、二人の少女達……

 

 

ディケイドS『……そん…な……ばか…な……』

 

 

それを目にした彼は信じられないモノを見たかというように目を見開き、我が目を疑った。

 

何故此処に…?

 

何故こんな所に…?

 

様々な言葉が頭の中を過ぎるが、困惑する思考によりそれらを上手く口にする事が出来ない。

 

それでも彼は、彼女達から目を離そうとはしなかった……

 

 

ディケイドS『……嘘だ…なんで…なんで此処に……なんで……お前達が……』

 

 

あからさまに分かるぐらいの動揺を浮かべ、ディケイドSはヨロヨロと後退りながら目の前の少女達の姿を隅々まで確かめる。

 

 

銀髪の長髪に赤い目をした黒服の少女。

 

自分の幼なじみと瓜二つの姿をした金髪の少女。

 

見間違う筈がない。

 

見間違える筈がない。

 

何故なら彼女達は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドS『…なんで…なんで此処にいるんだ……アリシア・テスタロッサ…リインフォース!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリシア「――――」

 

 

リインⅠ「――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら彼女達は…過去に自分が助けたいと思ったその人達なのだから―――

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑪

 

 

 

ディケイドとロストが激闘を繰り広げているその頃…

 

 

 

 

―ガキイィィンッ!ガキイィィンッ!―

 

 

W(翔子)『ヤアァッ!』

 

 

クウガ『オラァッ!』

 

 

『クッ?!このっ!』

 

 

廃墟ビルの外の路地裏ではダブル・ヒート・メタルとクウガ・ドラゴンフォームがそれぞれの持つロッドでナスカドーパントと激突し合っていた。流石に二人掛かりとなると苦しいのか、ナスカドーパントは反撃もままならない状態で後退し始めている。そしてダブルとクウガはナスカドーパントを蹴り飛ばして一度距離を開き、上空へと高く跳躍してナスカドーパントへと飛び掛かる。

 

 

『デェアアァァァァァァァァァァァァーーーーーっっ!!!』

 

 

『くぅっ!調子に乗るなぁ!!』

 

 

―シュゥゥゥゥ…バシュンバシュンバシュン!!―

 

 

ロッドを構えながら向かって来るダブルとクウガを見てナスカドーパントはすかさず左手から複数の青い光弾を放ち、二人を撃ち落とそうとするが……

 

 

―ガンガンガンガンガン!ガキィィィィィィン!!―

 

 

『でぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!』

 

 

『なっ?!―ズガアァン!!―ぐ、ウアアァァァァァァァァァっっ!!?』

 

 

ダブルとクウガはロッドを巧みに扱って光弾を弾き、そのままナスカドーパントに向かって渾身の突きを打ち込みナスカドーパントを吹っ飛ばした。そして二人は地面に着地するとナスカドーパントに向かって構え、ナスカドーパントは剣を杖代わりにして身体を起こしていく。

 

 

W(翔子)『っ…まだやる気なの?いい加減諦めて帰ってくれないかな…?』

 

 

『ハァ…ハァ…残念だけど…それは出来ないわ…今日こそ貴方との決着を付けるつもりで来たんですもの…尻尾を巻いて逃げるなんて…そんなの私のプライドが許さない!』

 

 

クウガ『チッ!だからこっちはアンタと関わってる暇はないっての!�』

 

 

あくまでも退こうとはしないナスカドーパントにクウガは呆れたように叫ぶが、ナスカドーパントは構わず再び二人に身構えていく。そしてそれを見たダブルとクウガも咄嗟にロッドを構え、再び激突しようと双方が走り出した瞬間……

 

 

 

 

 

―ドガシャァァァァァァァァァァァァァァン!!!―

 

 

『…っ!?』

 

 

W(翔子)『っ?!えっ…?!』

 

 

クウガ『な、何だ…?!』

 

 

不意にナスカドーパントの背後でビルの中から何かが壁を突き破って飛び出し、そのまま向かいのビルの壁に叩き付けられた。その音に三人は思わず動きを止め、飛び出したソレが叩き付けられた壁を見た。そこには……

 

 

 

 

ディケイド『…アッ…グッ…うっ……』

 

 

W(翔子)『なっ……』

 

 

クウガ『れ、零っ?!』

 

 

そう、壁に叩き付けられたモノの正体とは、装甲の至る所が窪みボロボロとなったディケイドだったのだ。それを見たダブルとクウガが我が目を疑い驚愕の声を上げていると、ディケイドが突き破ったビルの壁から一つの影…スピアグレイブを片手に悠然と歩いて来るロストがビルの中から出て来た。

 

 

クアットロ『アハハハハ♪無様な姿ねぇディケイド?ロストちゃんの正体を明かしたぐらいでその様なんて、やっぱりこの二人を出して正解だったわ~♪』

 

 

ディケイド『くっ…クアットロ……貴様ぁぁぁぁ…』

 

 

クアットロ『うふふ…どうでした?このクアットロの脚本したシナリオは?かつて自分が救えなかった人達が突然敵として現れ、容赦なく痛め付けられていく…これ以上にない最高のシチュエーションだったでしょう?♪』

 

 

ディケイド『黙れ……』

 

 

クアットロ『うふふ、それにしても…本当に馬鹿な男よね?たかだかこの子達の正体を知ったぐらいで攻撃してこなくなるんですもの…仲間なんて馬鹿げたモノに縛られてるからそんな目に合うのよ?』

 

 

ディケイド『ッ…黙れ…』

 

 

クアットロ『でも、最高に面白い見世物でしたよぉ?今度はあのプロジェクトFの遺産と夜天の主にも試してみようかしらぁ?最初は二人が生きてた事を喜ばせておいて、後から敵であることを明かしてショックを与える……んふふ♪きっと絶望に染まった良い表情で泣いてくれるでしょうね~♪』

 

 

―……ブチッ―

 

 

愉快そうに笑いながら言い放ったクアットロの一言。その言葉が完全に、彼の中の何かを弾けさせた……

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

ディケイド『貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!何処までっ!!!何処までアイツ等の思いを弄べば気が済んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

 

あの二人が…どれだけその二人を大事に思っていた事か。

 

その二人が…どれだけあの二人を大事に思っていた事か。

 

そしてあの二人が……どれだけその二人と共に過ごす日々を夢みた事か。

 

それを知る彼だからこそ、クアットロの行ったことを許すことが出来なかった。ブチブチと体中から血管が切れるような音が聞こえながらも身体を強引に起こしてディケイドは飛び出し、怒りの咆哮を上げながらロストの顔面目掛けて右拳を放つ。だが…

 

 

 

 

―じゃあ、行ってらっしゃい……フェイト―

 

 

―……うん―

 

 

―…現実でも…こんな風にいたかったなぁ……―

 

 

―……なんで…これから………ひっく…やっと同じ……ぅ……これから…うーんと幸せにしてあげなあかんのにぃ!!―

 

 

―…大丈夫です…私はもう…世界で一番幸福な魔導書ですから…―

 

 

―ッ…リインフォースっ…―

 

 

 

 

ディケイド『…っ!!?』

 

 

ロストに殴り掛かろうとした瞬間脳裏に流れた映像。それを見たディケイドは思わず動きが止まり攻撃がストップしてしまう。だが、ロストはその隙を見逃さずドライバーの左側にあるメモリを抜き取り別のメモリをセットした。

 

 

『DARK!SHOT!』

 

 

クアットロ『クス…ホントに馬鹿な男…』

 

 

ディケイド『…ハ?!―ズガガガガガガガガァッ!!―ウグアアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

クウガ『れ、零っ!?』

 

 

電子音声が響くとロストはダーク・ショットへと変わり、至近距離からショットマグナムを連射してディケイドを吹っ飛ばし、それを受けたディケイドは壁に叩き付けられ地面に倒れてしまう。

 

 

ディケイド『ぅ……ぁ…っ…』

 

 

クアットロ『うふふ♪いい加減学習したら?仲間とか友人とか、そんなモノ全部捨ててしまえば楽になるのよ?』

 

 

ディケイド『はぁ…はぁ…だ…だま……れっ……』

 

 

蔑むような口調で言い放つクアットロの声にディケイドはそう答えながらフラフラと身体を起こしていき、それを見たクアットロはやれやれと首を左右に振って見せた。

 

 

クアットロ『はぁ~…どうやらまだ痛め付けないと分からないみたいですねぇ……ロストちゃん?』

 

 

ロスト『………(コクッ)』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

ディケイド『ぐ、グアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

W(翔子)『零ぃっ!!!』

 

 

クウガ『クソッ!何やってんだよアイツッ!?』

 

 

ロストの攻撃を無抵抗で受けていくディケイドを見てダブルとクウガは急いでその場から走り出し、ディケイドを助け出そうとする。だが…

 

 

―ガキイィィィィィンッ!―

 

 

クウガ『ッ?!何?!』

 

 

『グウゥゥゥゥゥ!』

 

 

『言った筈でしょ…貴方達の相手は私だとねぇ!』

 

 

W(翔子)『クッ…!だから邪魔しないでって言ってんでしょう!?』

 

 

ディケイドの下へ向かおうとする二人の前にナスカドーパントとレジェンドルガの大群が立ち塞がり、二人は仕方なくナスカドーパント達と再び戦闘になってしまう。その間にもロストは無抵抗のディケイドを容赦なく攻撃していき、ディケイドは遂にそれに耐え切れなくなり変身が解除され零に戻ってしまった。

 

 

零「ぅ……くっ…ぁ…」

 

 

ロスト『――――』

 

 

―ガシッ…グイッ!―

 

 

零「グッ…!」

 

 

ボロボロの身体になりながらも再び変身して戦おうとする零だが、ロストはそんな零に近寄り胸倉を乱暴に掴んで持ち上げていく。

 

 

零「ぅ…くッ…止め…ろ…アリ…シア…リイン…フォース…」

 

 

ロスト『―――――』

 

 

クアットロ『無~駄♪その子達の精神は私の制御下にあるのよ?貴方の声なんか届きこっないわぁ♪』

 

 

零「ッ……クソ…がぁ…」

 

 

悔しい…情けない…一瞬の気の迷いがこんな結果を招いてしまった。それがとても腹立たしく、自分で自分を殴りたい気分だった。

だが実際そんな体力はもう残されておらず、腕を動かす事すらキツイ。

だからせめてもの抵抗にとロストを目一杯睨みつけるが、ロストはそれに臆する事なく何処からか禍禍しい輝きを放つ黒い玉を取り出した。

 

 

零「っ…なん…だ…?」

 

 

クアットロ『ふふん…喜びなさいディケイド。今から貴方が捨てた"力"を返してあげるんですからねぇ』

 

 

零「…ちか…ら…?」

 

 

クアットロ『…それすらも忘れてるのね……いいわ、特別に少し教えてあげる。これは貴方が記憶を失う前に持っていた力よ。万物を破壊し、世界を破壊する力を秘めた因子(ファクター)……』

 

 

零「…因子(ファクター)…だと…?」

 

 

クアットロ『えぇ、だから感謝しなさい。運がよければ、失った力の一部を取り戻せるのだから♪…まあ…その前に人間の身体で何処まで持つのか分からないけど……フフフ♪』

 

 

怪しく微笑むクアットロの声が響くと、ロストはおもむろに片手に持つ黒い石を零の左目の前に翳す。

 

 

零「ッ?!まさ…か……は、離せ!止めろぉ!!離せ!離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

ロストのその行動で何かに気付いた零はロストから離れようと暴れるが、ロストはしっかりと零の胸倉を掴んで離さず左目を無理矢理こじ開けて黒い石を近づけていく。そして…

 

 

クアットロ『はぁ~い♪ご返却~♪』

 

 

―…ギチィ…ギチギチギチ……グシャアァッ!!!―

 

 

零「ッッッッッ!!!!?イッ…がっ…うあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!?」

 

 

―――文字通り、零の左目の眼球へと"捩り込んだ"のだった……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―風都公園・広場―

 

 

 

―ガキィィィィンッ!!―

 

 

ゼロス『うわぁっ!!』

 

 

Dファイズ『カノンっ!!くっ…!』

 

 

ガリュウ『………』

 

 

一方、Dファイズとゼロスはガリュウに圧されて苦戦してる最中であった。

連携を組みながら向かって来る二人に対しガリュウは二人の動きを丁寧に見極め最低限の動きで回避と反撃を行う。

その為か、疲れたように肩で息をする二人とは対照的にガリュウは息一つ乱してはいなかった。

 

 

ビート『っ…二人共っ…』

 

 

そんな二人の戦う姿を端から見ていたビートは何とか身体を起こして自分も戦いに加わろうとしていた。だが先程の一撃が思ったより効いたせいか身体は思ったように動かず、ただ二人が追い詰められていく姿を見ているしか出来ない。するとガリュウはバックル部分のカードケースからカードを引き、ガリューバイザーへとセットしてベントインする。

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

電子音声が響くとガリュウの近くにある鏡からドラグブラッカーの頭を模した篭手……ドラグクローが飛び出しガリュウの右腕に装備された。そしてガリュウはドラグクローの口に黒炎を集束させて二人に狙いを定める。

 

 

ガリュウ『ハアァァァァ…ハアァァッ!!』

 

 

―バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

ガリュウの放った昇竜突破が二人に向かって炸裂し、Dファイズとゼロスはそれを受けて吹き飛びDファイズもディケイドへと戻ってしまった。更にガリュウはバックルのカードケースからすかさずカードを引き、ガリューバイザーへセットする。

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

電子音声が響くとガリュウの近くにある鏡からドラグブラッカーが飛び出し、ガリュウを中心にとぐろを巻いていくとガリュウは黒炎を纏いながら空中へと浮上していく。

 

 

ゼロス『うっ…ツ、ツカサさん……くっ…』

 

 

ディケイド(ツカサ)『うっ…こ、これって……ちょっとヤバい…かな…』

 

 

空中へと浮いていくガリュウの姿を見て二人は急いで身体を起こそうとするが、先程の昇竜突破のダメージにより身体が麻痺を起こしまともに動けないでいた。

 

 

ビート『くっ…!お願い…動いて!一度でいいから…お願いだから…!』

 

 

このままでは二人がやられてしまう。倒れる二人を見てそう思ったビートは傷付いた身体を無理矢理起こしていき、その間にガリュウはある程度の高さまで浮上して二人に左足を向けていく。そして……

 

 

ガリュウ『……これで……終わり……ハアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

『ギャオオォォォォォォォォォォォーーーーッ!!』

 

 

『…っ!!』

 

 

ガリュウは地面に倒れる二人に向けてドラゴンライダーキックを発動させ、左足に黒炎を纏いながら二人に向かっていく。それを見た二人も回避も防御も無理だと悟ったのか、襲い掛かる痛みに備えて目を瞑った。その時だった……

 

 

 

 

『Clock Up!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

『………え?』

 

 

背後から聞こえてきた電子音声。それを耳にしたディケイド(ツカサ)とゼロスは閉じていた瞳を開けて振り返るとそれと同時に二人の間を何かが過ぎ去り、それに気付いた二人は慌てて目の前に視線を戻した。そこにいたのは…

 

 

 

 

『Clock Over!』

 

 

ガリュウ『ハアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ドッゴオオォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

ビート『クッ!キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

『なっ…!?』

 

 

目の前に視線を戻すとそこには二人を庇ってガリュウのキックを受け悲痛な叫び声を上げるビートの姿があったのだ。

ガリュウのキックを受けたビートは二人の頭上を飛び越えて吹っ飛び、転がる様に地面に倒れ込みフェイトへと戻ってしまい、それを見た二人は傷付いた身体を無理矢理起こし慌ててフェイトの下へと走り寄っていく。

 

 

ディケイド(ツカサ)『フェ、フェイト!?しっかりしてよ!!フェイトっ!!』

 

 

フェイト「…っ……ぅ…」

 

 

ゼロス『フェイトさんっ!…クッ…クソッ!』

 

 

傷だらけとなったフェイトの身体を抱えてディケイド(ツカサ)は必死に呼び掛け、ゼロスはそんなフェイトの姿を見て悔しげに奥歯を噛み締める。だがガリュウは更に追撃しようとそんな三人に近づいていき、それに気付いたゼロスはフェイトとディケイド(ツカサ)の前に立って身構えた。

 

 

ディケイド(ツカサ)『?!カ、カノン……?』

 

 

ゼロス『……ツカサさん…アイツは僕は押さえます…だからツカサさんはその隙にフェイトさんと望さんを連れて先に逃げて下さい…』

 

 

ディケイド(ツカサ)『はぁ?!な、何言ってんのカノン?!あんな奴と一人で戦うなんて無茶だよ!�』

 

 

ゼロス『でも!このままじゃどの道全滅するのがオチですよ!!僕は大丈夫ですから、ツカサさん達は先に逃げて下さい!!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『そ、そうかもしれないけど…だけど!�』

 

 

ゼロスだけを残して逃げるのが心苦しいのか、ディケイド(ツカサ)は中々決心が付かずどうしたらいいのか迷っていた。ゼロスはそんなディケイド(ツカサ)を横目に冷や汗を流しながらゼロスブッカーから一枚のカードを取り出し、それを眺めていく。

 

 

ゼロス『(…もうこれしか手がない…父さんの許可はないけど…扱え切れるか…ヘブンズフォームを…)』

 

 

ゼロスはまるで敵を睨みつけるかの様に手元のカードを見つめると今度はガリュウに視線を変えて睨みつける。そしてガリュウは一気に勝負を決めようとゼロス達に向かって走り出し、それを見たゼロスも決心して手元のカードをドライバーにセットしようとした瞬間……

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ガリュウ『ッ?!グッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如何処からかガリュウに向かって弾丸が複数放たれ、不意打ちを受けたガリュウは右側へと勢いよく吹き飛ばされていった。そしてそれを見たゼロスとディケイド(ツカサ)は思わず呆気に取られるが、そんな二人の下に一人の男性が近づいてきた。

 

 

「やれやれ…監視を付けておいて正解だったね。此処まで来るのに時間が掛かったよ」

 

 

ディケイド(ツカサ)『…へ?』

 

 

ゼロス『…あ…貴方は…』

 

 

「…やぁ。また会ったね、お二人さん?」

 

 

目の前に現れた男性を見て二人は唖然とした表情を浮かべた。ラーメン屋の店員が着るような割烹着を身に纏い、片手に独特の形をした青い銃を持った男性……そう、海道 大輝だったのだ。

 

 

ディケイド(ツカサ)『ふ、風麺のマスター?!何でこんな所にいるの?!』

 

 

大輝「別に気にしなくていいよ。たまたま出前の途中で通り掛かっただけだからね。それより…少年君?」

 

 

ゼロス『…え?ぼ、僕ですか?』

 

 

大輝「そっ、君。忠告しておくけど、自分でも扱え切れない力を無理して使わない方がいいよ?それで自滅なんかしたら笑い話にもならないからね」

 

 

ゼロス『…っ?!』

 

 

笑いながら告げた大輝の言葉にゼロスは驚愕するが、その時吹っ飛ばされたガリュウが起き上がって大輝達の下へ近づいていき、それに気付いた大輝はポケットからカードを取り出しディエンドライバーへとセットしてスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

大輝「さてと、じゃあそろそろ依頼を果たしますか…変身っ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

大輝はディエンドライバーの引き金を引くとディエンドに変身し、そのままガリュウに向かってディエンドライバーを乱射しながら突っ込み戦闘を開始したのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして丁度同じ頃……

 

 

 

クアットロ『……どういうこと?何故貴方達がこんなところにいるのかしら?』

 

 

何処か焦ったような、余裕のないクアットロの声が路地裏に響いた。ロスト達の視線の先にいるのは、状況が理解できてないといったように唖然とするダブルとクウガ、その二人の前に立つ黒い服を身に纏った三人の人物達。そしてその内の一人に抱えられ、左目から大量の血を流して気絶している零の姿があった。

 

 

クアットロ『……どういうつもり?何故貴方がその男を庇ったりするの?』

 

 

「フッ…決まってるだろう?コイツにはまだ個人的な貸しがあるんだ。それを返してもらうまで死んでもらっちゃ困るし、まだ力を取り戻されても困るんだよ」

 

 

クアットロ「…なるほど…こっちに現れたディエンドも貴方の差し金というわけね…」

 

 

怪訝そうに問い掛けて来るクアットロの声に黒い服を纏った男が笑いながら応え、それを聞いたクアットロは不快そうに表情を歪めていた。すると、零を抱えていた男はクウガの方に振り返り、零の身体をクウガに預けていく。

 

 

「早く左目の出血を止めた方がいいぞ。思ったより傷が深いからな…」

 

 

クウガ『…えっ?あ…あぁ…!』

 

 

W(翔子)『あ…貴方達……誰なの?一体…?』

 

 

クウガは男から零の身体を預かって左目の止血を始め、ダブルは疑問そうに三人にそう問い掛けた。すると二人の男達はポケットからそれぞれ機械のようなモノを取り出して腰に装着するとベルトとなり、男の隣にいた女性の腰にも同じベルトが出現した。そしてその二人はポケットから見覚えのあるメモリースティックを取り出し、それぞれ人差し指でスイッチを押す。

 

 

『CYCLONE!』

 

『JOKER!』

 

 

W(翔子)『っ?!そ、それは!?』

 

 

W(フィリス)『私達のと同じ…ガイアメモリ…?』

 

 

二人が手に持つメモリ……サイクロンメモリとジョーカーメモリを見てダブル達は驚愕の声を上げ、三人はそれを他所にそれぞれ変身の構えを取る。そして…

 

 

『変身っ!!』

 

 

男性と女性は掛け声と共にメモリをバックルへと装填し、女性のメモリが男性のドライバーへと転送されると男性はバックルをWの形に開いていき、もう一人の男性は自身のベルトに付いてるボタンを叩くように押した。

 

 

 

『VIVID!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

『CYCLONE!JOKER!』

 

 

 

電子音声が響くと女性は突然その場に倒れ込み、二人の男達の姿が別の姿へと変わっていった。一人は赤い瞳に右半身が緑、左半身が黒となっているライダー。もう一人は所々の鎧が平成ライダー達の鎧に酷似した赤いライダー………そう、以前firstの世界で零と十文字が戦った仮面ライダーヴィヴィッドだったのだ。

 

 

クウガ『っ?!な、何だ?!』

 

 

W(翔子)『あ……あれは……ダブル……?』

 

 

『馬鹿な……ダブルですって?!貴方達、一体何者?!』

 

 

ヴィヴィッドの隣に立つもう一人のダブルを見てナスカドーパントは驚愕した様に問い掛け、それを聞いたヴィヴィッドは小さく笑いながらそれに答えた。

 

 

ヴィヴィッド『俺達か?俺達は最強のタッグライダー…仮面ライダーヴィヴィッドと仮面ライダーダブルさ!行くぜ、勇樹!美希!』

 

 

W(美希)『オッケー♪』

 

 

W(勇樹)『任せとけ。さぁ、お前達の罪を数えろ!』

 

 

W(翔子)『Σちょっ?!それ私の台詞だよぉ!?』

 

 

W(フィリス)『…そんな事言ってる場合ではないと思うけどね…』

 

 

クアットロ『チッ……また面倒な奴が……まあいいわ。ロストちゃん!アイツ等も叩き潰しちゃいなさい!』

 

 

ロスト『―――!』

 

 

『くっ…もう一人のダブルなんて関係ないわ!勝負の邪魔をするなら、貴方達も一緒に真っ二つにしてあげる!』

 

 

ヴィヴィッド『フッ…行くぜクアットロ?さぁ、スペシャルステージの開演だ。その目に焼き付けろ!』

 

 

ヴィヴィッドがロスト達を指差しながらそう叫ぶと、ヴィヴィッドとダブル(勇樹)はロスト達に向かって突っ込み、ロストとナスカドーパントもレジェンドルガの大群を呼び出しながら突っ込んでいった

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑫

 

 

―風都公園・広場―

 

 

 

ディエンド『フッ!ハッ!』

 

 

―バキィッ!ドゴォンッ!ドゴォッ!―

 

 

ガリュウ『クッ…!』

 

 

その頃、ガリュウと戦っていたディエンドは素早い動きでガリュウを翻弄しながら打撃を打ち込んでいき、そしてある程度ダメージを与えるとガリュウから距離を離して腰のホルダーからカードを取り出し、ディエンドライバーへとセットする。

 

 

ディエンド『忍者が相手ならこっちも忍者だ』

 

 

『KAMENRIDE:REIYA!』

 

 

ディエンドがドライバーをスライドさせて引き金を引くと辺りに残像が走り、それらが一つに重なると黒のボディに忍者のような姿のライダー…ミユ・ナカジマが変身するレイヤが現れ、レイヤはムラサメを構えてガリュウに斬り掛かっていく。そしてレイヤがガリュウと戦ってる間にディエンドは再びカードを取り出しディエンドライバーに装填する。

 

 

『FINALFORMRIDE:RE・RE・RE・REIYA!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

レイヤ『…?ウアァッ?!』

 

 

電子音声と共にディエンドがレイヤに目掛けて発砲するとレイヤは手足が巨大な刃となりながら宙に浮いていき、漆黒の巨大な手裏剣『レイヤハリケーン』へと超絶変形したのである。

 

 

ゼロス『レ、レイヤが……変形した?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『オォォォッ!カッコイイ~!�』

 

 

超絶変形したレイヤハリケーンを見てゼロスとディケイド(ツカサ)がそれぞれ感想を漏らす中、ディエンドはホルダーから再びカードを取り出しディエンドライバーにセットしてスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:RE・RE・RE・REIYA!』

 

 

電子音声と共にディエンドがレイヤハリケーンを手に持つとディエンドはなんと四人へと分身し、それぞれレイヤハリケーンを構えガリュウに向かって飛び出していく。

 

 

『ツオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

―ズバンズバンズバンズバンズバンズバンズバン!!ズババババババババババババババババァッ!!!―

 

 

ガリュウ『ッ!くっ?!』

 

 

四人のディエンド達はあらゆる方向から疾風の如くとも言える速さで舞いを踊るかのようにガリュウに斬り掛かっていく。そしてディエンド達はガリュウを包囲するように四方に散ると、それぞれの持つレイヤハリケーンが炎、水、雷、風を纏いディエンド達はそれを構えながら叫ぶ。

 

 

『炎神!』

 

『水神!』

 

『雷神!』

 

『風神!』

 

 

『超忍法・四重神爆裂!!でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっっ!!!』

 

 

―バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!―

 

 

ガリュウ『―――あっ…』

 

 

―ドゴオオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディエンド達はガリュウに向けてレイヤハリケーンを投げ付け、レイヤハリケーンはそのまま回転しながら猛スピードでガリュウに向かっていき、先程の攻撃で怯んだガリュウは回避行動が間に合わず直撃を受けていった。

そしてそれを確認したディエンド達は爆発の中から飛び出してきたレイヤハリケーンをキャッチして一人へと戻っていき、レイヤハリケーンを消していった。

 

 

ゼロス『ッ!や…やったのか…?』

 

 

ディエンド『……いいや、まだだ』

 

 

ディケイド(ツカサ)『…え?』

 

 

爆煙を見つめながら呟いたゼロスの言葉にディエンドはそう返しながら別の場所に視線を移し、二人はそれに疑問を浮かべながらディエンドが見つめる先………電灯の上に立ちディエンドの必殺技を受けたと思われたガリュウを抱える黒い物体に目を向け、驚愕した。

 

 

ディケイド(ツカサ)『…ッ?!そんな…あれって…?!』

 

 

ゼロス『……ガ…ガリュー……?』

 

 

ガリュー「…………」

 

 

電灯の上に立つ黒い物体…ガリューを見た二人は驚愕の表情を浮かべ、それを見たディエンドも難しい表情で呟く。

 

 

ディエンド『なるほどね、あの怪物君が彼女の本当の使い魔と言うわけか…』

 

 

ゼロス『っ?!彼…女?そ、それってどういう…?』

 

 

ガリュウ『ッ…ガ…ガリュー……』

 

 

ガリュー「……(コクッ)」

 

 

ディエンドの言葉にゼロスが反応して疑問そうに問い掛けるとガリューはガリュウを抱えながら近くのビルの屋上へと飛び移り何処かへ逃げていき、それを見たディエンドは小さく舌打ちしながら走り出した。

 

 

ゼロス『ちょ、大輝さん?!』

 

 

ディエンド『…悪いね。俺もまだやらないといけない事があるから、またね♪』

 

 

ディケイド(ツカサ)『ちょ、ちょっとぉ?!』

 

 

引き留めようとする二人にディエンドは軽い口調で言いながらガリュウ達の後を追い掛けていき、残されたゼロスとディケイド(ツカサ)は唖然としながらその方向を見つめて語り出す。

 

 

ゼロス『何で…ガリューが………まさか……』

 

 

ディケイド(ツカサ)『…あの仮面ライダーって……もしかして……そんな……』

 

 

ゼロスとディケイド(ツカサ)は何かに気付いたように呆然と呟きその場で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

―ドゴオォッ!ズドォッ!ドゴオォンッ!―

 

 

ヴィヴィッド『ハッ!オラァッ!』

 

 

『アグゥッ!グッ?!』

 

 

『CYCLONE!TRIGA!』

 

『FREEZE!SHOT!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

W(勇樹)『チィッ!』

 

 

ロスト『――――』

 

 

そして場所は戻り路地裏ではヴィヴィットとナスカドーパント、ダブル(勇樹)とロストが攻防入れ替えて激戦を繰り広げていた。ヴィヴィッドの方は問題なくナスカドーパントを追い詰めていくが、ダブル(勇樹)はロストに若干圧されて苦戦しているようだ。

 

 

W(美希)『クッ!勇樹、コイツって…!』

 

 

W(勇樹)『あぁっ…俺達と同じタイプのライダーみたいだな…しかもかなり強い…!』

 

 

ロスト『――――』

 

 

ダブル(勇樹)はロストの放つ氷を纏った弾丸をトリガーマグナムで相殺しながら精神体のダブル(美樹)と会話をし、ロストはダブル(勇樹)と徐々に距離を詰めながら両側のメモリを抜き取り別のメモリをセットしていく。

 

 

『GRAVITY!SPEAR!』

 

 

W(勇樹・美樹)『っ!?』

 

 

電子音声が響くとロストの右半身が黒のラインの入った紫、左半身が銀色へと変わり背中のスピアグレイブを引き抜いてダブル(勇樹)の弾丸を弾きながら接近していく。

 

 

W(勇樹)『こ、コイツ…?!―ガキィィンッ!!―グアァァァァァァァァッ!?』

 

 

ヴィヴィッド『?!勇樹!』

 

 

ロストの斬撃を受けて吹き飛んでいくダブル(勇樹)を見てヴィヴィッドは直ぐさま駆け付けようとするが、そんなヴィヴィッドを囲むようにレジェンドルガの大群が立ち塞がった。

 

 

ヴィヴィッド『チッ!邪魔すんじゃねぇよ!』

 

 

『W LUNA JOKER!LUNAMEMORI!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

ヴィヴィッドは立ち塞がるレジェンドルガの大群に舌打ちしながら左腕のタッチパネルを操作すると、隣にダブル ルナ・ジョーカーの幻影が現れヴィヴィッドに重なるように消えていく。そして…

 

 

ヴィヴィッド『フッ!ウオリャアァァァァァッ!!』

 

 

―ブォンッ!バシィンバシィンバシィンバシィィィィィィィンッ!!―

 

 

『グッ?!ヌ、ヌオアァァァァァァァァァァァッ!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

ヴィヴィッドがジャンプしながら回し蹴りを放つと、右足がゴムのように伸びてレジェンドルガの大群を横殴りに弾いていき、レジェンドルガの大群は全て爆発を起こしながら吹っ飛んでいった。そして地面に着地したヴィヴィッドはそのままダブル(勇樹)の下に向かおうとするが……

 

 

―ガキイィィンッ!!―

 

 

ヴィヴィッド『グッ?!クッ……何?!』

 

 

不意に背後から誰かに斬り付けられ、ヴィヴィッドはそれに怯みながら後ろへと振り返ると、そこには剣の刀身を撫でるナスカドーパントの姿があった。

 

 

『何処に行こうというんです?貴方の相手は…この私でしょう!』

 

 

ヴィヴィッド『チィ!コイツ…!』

 

 

ナスカドーパントが振りかざす剣を避けながらヴィヴィッドは毒づき、その間にもロストはダブル(勇樹)を射撃で追い詰め吹き飛ばしていった。

 

 

ダブル(勇樹)『ウグァッ?!クッ…クソッ…!』

 

 

ロスト『――――』

 

 

吹き飛んだダブル(勇樹)は壁にもたれながら身体を起こしていき、ロストはそんなダブル(勇樹)にトドメを刺そうとショットマグナムを構えながらダブル(勇樹)に近づいていく。その時…

 

 

 

 

『HEAT!TRIGA!』

 

 

W(翔子)『ハアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!―

 

 

ロスト『―――ッ!?』

 

 

突然横から飛び掛かってきたダブル ヒート・トリガーの火炎弾が上空から降り注ぎ、ロストはそれを防御しながら後退しダブルはその間にダブル(勇樹)の下へと歩み寄っていく。

 

 

W(勇樹)『ッ…お…お前…ライダー少女…?』

 

 

W(翔子)『状況はまだよく分からないけど…取りあえず手助けするよ。アイツ等を追い払わないと零を病院に連れて行けないしね…』

 

 

ダブルは物陰に隠れて零の左目を止血している優矢に目を向けながら話し、それを聞いたダブル(勇樹)は少し笑いながら首を縦に振った。

 

 

W(勇樹)『いいぜ…手伝ってもらえるなら、こっちも助かるからな』

 

 

W(美希)『ふふ…んじゃ、此処からはWWのタッグと行きますか♪』

 

 

W(フィリス)『……WW?…ネーミングセンスが全く感じられないね…』

 

 

W(美希)『ΣΣヒドッ!?それ初対面の人間言う台詞じゃないよね!?』

 

 

ダブルからの申し出にダブル(勇樹)は微笑し、ダブル(フィリス)とダブル(美希)は漫才のような会話をしていた。そんな中、後退したロストはレジェンドルガの大群を自分の周りに呼び寄せダブル達に向けて放っていき、それに気付いたダブル(勇樹)達は別のメモリを取り出していく。

 

 

ダブル(勇樹)『まあ、取りあえずアイツ等にはご退場してもらうとするか…一気にキメるぞ美希!』

 

 

ダブル(美希)『うん!』

 

 

二人はそう呼び掛け合いながらドライバーに装填されてる両側のメモリを抜き、また新たなメモリをドライバーにセットしていく。

 

 

『THUNDER!SABER!』

 

 

電子音声が鳴り響くとダブルの右半身が緑色から金色のラインが入った白、左半身が青から薄い緑の身体に背中に一本の剣が現れた別の姿…サンダーセイバーへと変わったのである。

 

 

W(翔子)『Σオォッ?!私の知らないメモリまで持ってんの?!』

 

 

W(フィリス)『なるほど…興味深いね、別世界に存在するメモリというのも』

 

 

W(勇樹)『それも含めて、話しは全部後だ。今は奴等を蹴散らすぞ!』

 

 

W(翔子)『へ?あっ…う、うん!�』

 

 

ダブルは見たことのない姿に変わったダブル(勇樹)に少々戸惑いながらも、二人はドライバーの左側にあるメモリを抜いてそれぞれの武器にインサートする。

 

 

『TRIGA!MAXIMUM DRIVE!』

 

『SABER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

それぞれの電子音声が鳴り響くと、ダブルはトリガーマグナムの銃口をレジェンドルガの大群に向け、ダブル(勇樹)はセイバーブレードの刀身に電流を纏わせると、ダブルの周りに幾つもの刃の形をした雷が現れていく。そして…

 

 

W『トリガー!エクスプロージョンッ!!』

 

 

W(勇樹・美樹)『セイバーヴァイザードッ!でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!』

 

 

『ウ、ウオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーッ!!!?』

 

 

―シュウゥゥゥゥ…ドゴオォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ロスト『―――ッ!?』

 

 

ダブル達の放ったそれぞれの必殺技がレジェンドルガの大群に炸裂し、レジェンドルガ達は一片も残らず全て爆発していった。そしてロストは爆発から発生した爆風により吹き飛んでしまい、それを見たヴィヴィッドはナスカドーパントをロストの下へ蹴り飛ばし左腕のタッチパネルを操作する。

 

 

『W LUNA TRIGA!TRIGAFULLBURST!TOUCH!TOUCH!TOUCH!』

 

 

電子音声が響くとヴィヴィッドの隣にダブル ルナ・トリガーの幻影が現れヴィヴィッドに重なるように消えていき、右手にダブルの武器であるトリガーマグナムが握られていた。そしてヴィヴィッドはトリガーマグナムの銃口をロストとナスカドーパントに向けながら構えていく。そして……

 

 

ヴィヴィッド『さぁ、コイツでキメだ……トリガー!フルバーストッ!!』

 

 

―シュゥゥゥゥ……ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

ロスト『―――!』

 

 

『なっ?!クッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

ヴィヴィッドのトリガーマグナムから放たれた複数の金色の光弾がそれぞれ複雑に軌道を変えながらロストとナスカドーパントに向かっていった。が、ロストとナスカドーパントはそれらが直撃する前に真上に向かって跳躍し、そのままビルの屋上に飛び移って何処かへと逃げてしまった。

 

 

ヴィヴィッド『チッ!逃がすかよ!勇樹、美希、奴らを追うぞ!』

 

 

W(美希)『分かった!』

 

 

W(勇樹)『おう!ライダー少女、お前達は先にディケイドを病院に連れていけ。俺達はあの二人を追う!』

 

 

W(翔子)『えっ…?ちょ、ちょっと?!�』

 

 

ロスト達を追跡すると告げるヴィヴィッド達を慌てて引き留めようとするダブルだが、ヴィヴィッドとダブル(勇樹)はそれに構わず、美希の体を抱えてロスト達の後を追い掛けていった。

 

 

W(翔子)『もーっ!なんで勝手に行っちゃうのかな?!まだ聞きたいことが山ほどあったのにぃーーっ!!』

 

 

W(フィリス)『まあ、後の事は彼等に任せよう。それより今は……』

 

 

W(翔子)『…っ!そうだ……零っ!』

 

 

ダブル(フィリス)の言葉でダブル(翔子)は思い出したように慌てて変身を解くと、急いで零を抱える優矢の下へと走り寄っていく。

 

 

翔子「優矢っ!零は?!」

 

 

優矢「くっ…駄目だ…出血も止まらないし眼球も完全にイカれちまってる…このままじゃ零が…!」

 

 

翔子「っ…取りあえず病院に急ごう?!このままじゃ、ホントに手遅れになっちゃうよ!」

 

 

優矢「っ!分かった!」

 

 

取りあえず今は急いで零を病院に連れていかなければと思い、翔子と優矢は未だ左目から大量の血を流す零を抱え病院へと向かっていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―風都・高層ビル屋上―

 

 

先程の戦いから数十分後。とある高層ビルの屋上にはヴィヴィッド達とディエンドから逃れてきたロストとガリュウとガリュー、そして悔しげに唇を噛み締めるクアットロの姿があった。

 

 

クアットロ「くっ!後一歩という所だったのに…またあんな訳の分からない奴に邪魔されるなんてっ!!」

 

 

苛立ちをぶつける様にフェンスを殴り付けるが、それでも怒りは治まりそうにはない。するとそんなクアットロの目の前に一つの通信パネル…先程別れたナスカドーパントの人間体である園咲霧奈の姿が映った映像が現れた。

 

 

クアットロ「…あら、霧奈さんじゃありませんか」

 

 

霧奈『ハァ…ハァ……どういうことなのクアットロ…あんなライダー達がいるだなんて聞いてないわ!一体何がどうなってるの?!』

 

 

通信パネルに映し出された霧奈は怒りに染まった表情で吐き捨てる様に叫ぶが、それを聞いたクアットロは眉間にシワを寄せながら淡々と語り出した。

 

 

クアットロ「私だって何も知りませんでしたよ?あんな奴らがいると分かっていたなら、作戦を説明してる時に伝えていましたからね」

 

 

霧奈『そんなの理由にはならないわっ!これならあのライダー少女に勝つことが出来ると、貴女が提案した作戦だったじゃない?!ちゃんと一から説明して!』

 

 

クアットロ「(ッ…本当に面倒な人ですね……ガイアメモリのデータはほとんど手に入れてるからもう用もないし……これならさっさと始末しておけば良かったわ…)」

 

 

先程現れたヴィヴィッド達について説明を要求してくる霧奈を見て早く始末しておけば良かったと内心後悔するクアットロ。だがそんな時……

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『っ!?』

 

 

突然聞こえてきた電子音声と共に背後から複数のホーミング弾が放たれ、それに気付いたロストとガリュウはクアットロを抱えてその場から飛び退くが、その内の一つが通信パネルに直撃しパネルが消えてしまった。

 

 

クアットロ「クッ?!い、今のは…?」

 

 

『やっと見つけたよ。本当に逃げ足だけは俺と同じ位速いよねぇ~…クアットロさん?』

 

 

クアットロ「……っ?!あ、貴方達は……」

 

 

クアットロ達がその愉快げな声が聞こえてきた方へと振り返ると、そこには屋上の扉の前でクアットロ達に向けて武器を構えるディエンド、そしてヴィヴィッドとダブル(勇樹)の姿があったのだ。

 

 

クアットロ「くっ…!な、何故この場所が?!」

 

 

ディエンド『ん?あぁ…実は零達に付けておいた監視に君達の追跡を任せてね?それを辿って此処まで来てみれば、簡単に君達の居場所を捜し当てたってところさ』

 

 

そう言いながらディエンドが手を突き出すと上空からシアン色のクワガタムシ…スタッグフォンが飛来して現れディエンドの手の平に乗り携帯へと戻っていく。

 

 

W(勇樹)『そういう事だ…観念するんだなクアットロ。もうお前に逃げ場はないぜ?』

 

 

ヴィヴィッド『捕らえた暁には、色々と話しを聞かせてもらうぞ?お前と、あのシャドウとか言う奴の関係もな?』

 

 

ディエンド『ま、俺は別にどうだっていいんだけど…依頼だから仕方ないんだよねぇ♪』

 

 

クアットロ「くっ…!」

 

 

徐々に押し寄せてくるヴィヴィッド達にクアットロは冷や汗を流しながら後ろへと下がっていき、ロスト達もクアットロを守るように身構えていく。そしてヴィヴィッド達は一気に畳み掛けようとクアットロ達に向かって走り出し、ロスト達もそれぞれ武器を構えながらそれを迎え撃とうとした瞬間……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥ……ズドドドドドドドドドドッ!!ドッガアァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

『っ?!な、ウアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

『…ッ!?』

 

 

突如ヴィヴィッド達の上空から金色のエネルギー弾が複数降り注ぎ、突然の攻撃にヴィヴィッド達は無防備の状態で受け吹き飛んでしまった。そしてクアットロが突然のそれに唖然とする中、クアットロの前に一人の仮面の戦士……金色の鎧を身に纏ったアースが上空から下りてきた。

 

 

アース『全く…調子に乗りすぎたわねクアットロ…?様子見に来ておいて正解だったわ』

 

 

クアットロ「?!ドゥ、ドゥーエ姉様?!」

 

 

やれやれと言ったように首を振るうアースを見てクアットロは驚愕の声を上げていると、先程の攻撃で吹っ飛ばされたヴィヴィッド達が態勢を立て直してアースを睨みつける。

 

 

アース『…あら、あの攻撃でまだ生きてるなんてね…流石はライダーってところかしら?』

 

 

ヴィヴィッド『ッ…何なんだお前はっ…お前もクアットロの仲間か?!』

 

 

アース『生憎だけど、人間と話すことは何もないわ。クアットロ……此処は一度引くわよ、良いわね?』

 

 

クアットロ「っ…はい…分かりました」

 

 

アースからの問い掛けにクアットロは気まずそうな顔をしながら頷き、それを聞いたアースは左腰の笛の中から金色の笛を取り出し、それをベルトの止まり木に止まっているアースキバットに吹かせる。

 

 

アースキバット「ウェイクアップ!」

 

 

鳴り響くメロディーと共にアースキバットがそう叫ぶと、アースの胸に何重にも巻かれている鎖が弾けその下から巨大な宝石のようなモノが露出していた。そしてアースは胸部分の宝石に金色のエネルギーを集束させていく。

 

 

ヴィヴィッド『ッ!?ヤベェ!』

 

 

ディエンド『チィ!』

 

 

直感的に危険を感じ取ったヴィヴィッド達は攻撃から逃れるようにアースから距離を離そうとする。が、既に時は遅く……

 

 

アース『ハアァァァァ……ハアァァァァッ!!』

 

 

―ガシャンッ!ズバババババババババババババッ!!ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『グ、グアアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

アースの胸部分の宝石から放たれた巨大な金色の閃光が真っすぐヴィヴィッド達に向かって直撃し、その衝撃でヴィヴィッド達は吹っ飛び壁に叩き付けられてしまった。

 

 

W(勇樹)『グゥッ…クッ…チクショウォ…!』

 

 

ヴィヴィッド『ハァ…ハァ…や、奴等は…?!』

 

 

ディエンド『ッ…逃げられた…みたいだね…』

 

 

ふらつきながら立ち上がったヴィヴィッド達が目の前に視線を戻すと、そこには既にアースとクアットロ達の姿は何処にもなく、まんまと逃げられてしまったのであった。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑬

 

 

何もない白い世界…

 

 

辺り一面真っ白な空間…

 

その空間の中心に彼―――黒月零は其処にいた。

 

 

零「……ここは……」

 

 

此処が何処だか分からない。

 

だが、何故かその光景には見覚えはあった。

 

そんな妙な違和感を感じながら辺りを見回していると急に景色がガラリと変わり、今度は深い霧に包まれた海が見える丘へと景色が変わった。

 

 

零「?何だ………ん?」

 

 

突然変わった景色に戸惑って辺りを見回していると、そこであるモノの存在に気付いた。霧に包まれた丘の一番向こうにある一本の大きな大樹、そしてその大樹の下にある石……いや、石で作られた小さな墓石だ。

 

 

零「……墓…?」

 

 

疑問を口にしながらゆっくりと歩き出し、大樹の下にある墓石の前にまで来て屈み込む。墓石は全体に汚れを被っており、誰の墓なのか確認出来ない。取りあえず被った汚れを手で払ってみると、汚れの下に名前らしきモノが刻まれており、それを見て自然とその名を口にする。

 

 

零「――――リィル…アルテスタ…?」

 

 

所々文字が削られていて読みづらいが、墓には確かにそう刻まられていた。名前からして女性のモノだと思うが、そこで一つの疑問が覚えた。

 

 

零「……なんで…こんな所に墓があるんだ…?」

 

 

ここら辺一帯に人の気配など感じられないし、見渡す限り近くに町があるようには見えない。何故こんな人気のない場所にこんな墓が立てられているのか、そんな疑問を考えていると……

 

 

―…ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

零「…ッ!?グッ!?な、何っ…!?」

 

 

突如何の前触れもなく襲い掛かってきた激しい頭痛と脳裏に流れるノイズ。突然のそれに零は頭を抱えその場に膝を付いて苦しみ出した。そして……

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『もう!いきなりぶつかっておいてその態度はないんじゃない!?』

 

 

 

 

零「っ?!な…に…?」

 

 

 

 

激しく掻き乱れるノイズと共に流れた妙な光景。突然のそれに零は思わず頭を抱えながら顔を上げるが、そこにあるのはリィル・アルテスタと名が刻まれた墓石しかない。

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『へぇ~零も剣術とか出来るんだ…実は私もちょっとカジってるんだよ?まぁ、腕前とかは全然なんだけどね�』

 

 

 

 

零「くっ…な…ん……」

 

 

 

 

そうしてる間にも頭に流れる映像は止まる事なく流れ続ける。ノイズと共に流れる映像に映るのは、銀髪の長髪をした十代位だと思われる少女。だが、ノイズに邪魔されて顔までは分からずその少女が誰なのか確認できない。

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『もぉ~またそんな言い方して……ちょっとは人を思いやる気持ちも学ばないとダメだよ?』

 

 

 

 

零「アッ…ガッ…!」

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『え?零って料理出来ないの?しょーがないなぁ……じゃあ、私が特別に教えてあげる♪』

 

 

 

 

零「グッ…クッ…!」

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『村の皆に神子だとか聖女だとか色々言われてるけど……私だって普通の女の子なんだよ?皆みたいに笑ったり泣いたりだってするし、村の女の子達みたいにお買い物したり美味しい物を食べに行ったり…恋だってしたいし…//』

 

 

 

 

零「ッ…止めろ…止めっ……」

 

 

 

 

頭にのしかかる頭痛に苦しむ中、次々と脳裏に流れる少女の映像。

 

この映像が何なのか分からない、この少女が誰なのか分からない、ワカラナイ。

 

なのに……

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!―

 

 

『私?私はリィル・アルテスタ。よろしくね、零♪』

 

 

 

 

零「止めろっ…止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」

 

 

 

 

なのに何故…こんなにも…胸が張り裂けそうになるのだろうか……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

零「ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!ッ……ハァ…ハァ…ハァ………え…?」

 

 

飛び起きるようにベッドから起き上がり、最初に目にしたのは光が差し込む見慣れない窓。荒れた息を整えながら呆然と辺りを見回していくと、どうやら此処は何処かの病院の病室のようだ。

 

 

零「…?病室…?なんで…こんなところに…」

 

 

頭上に疑問符を浮かべながら辺りを見回していると、ベッドの隣に置いてある机の上の鏡に目が止まった。そこに写るのは頭から左目に掛けて包帯を巻き付け、身体中にも痛々しく包帯を巻いた自分の姿だった。

 

 

零「……そうか……俺は……あの時……」

 

 

左目に巻いた包帯に触れながら小さく呟き、徐々に今までの事を思い出していく。望を誘拐したドーパントを追っていたこと、ロストとの戦いのこと、ロストの正体のこと、そして……

 

 

零「……そうだ……負けたんだな……俺は……」

 

 

自分の姿を鏡で見つめながらポツリと呟き、窓の方へと視線を移していくと様々な疑問が生まれてくる。望は無事に取り戻せたのか、ロストは一体どうなったのか、自分が倒れた後、皆はどうなったのか。そして…

 

 

零「…リィル…アルテスタ…何なんだあれは…」

 

 

先程自分が見た夢、その中に出て来た少女の名が自分の心を掴んで離さなかった。

 

あの少女は一体何者なのか……

 

あの映像は何なのか……

 

何故あの少女は自分の名を知っていたのか……

 

そしてあの場所と墓石は何なのか……

 

そんな疑問が次々と絶える事なく浮かんでくる。そんな時……

 

 

 

 

「…………パパ…?」

 

 

零「……ん…?」

 

 

不意に聞こえた声。それを耳にした零は意識を戻して病室の入り口の方へと振り向くと、そこにいたのは何かに驚いたように目を見開き両手に花束を持った自分の愛娘。

 

 

零「…ヴィヴィ…オ…?」

 

 

ヴィヴィオ「……パパ……グスッ……パパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

零「え?ちょ?!―ガバァ!―ガハアァッ!?」

 

 

突然両手の花束から手を離して零の胸元に泣きながら飛び込んできたヴィヴィオ。零はいきなりの行動に驚きながらも何とかヴィヴィオを受け止めるがその衝撃が傷付いた身体に響き、思わず涙目になってしまう。

 

 

ヴィヴィオ「ヒグッ、うっ…パパ…パパァ…!」

 

 

零「ゴフッ、クッ…ヴィ、ヴィヴィオ…ちょっと待て…!傷っ!傷がぁ!!�」

 

 

ギュゥゥゥ!と抱き着いたまま胸元で泣き出したヴィヴィオだが流石に今の状態ではそれがかなり効いてるらしく、零は青い表情をしながら必死にヴィヴィオにタップを掛ける。そんな時……

 

 

―ガラガラガラッ―

 

 

なのは「もう、ヴィヴィオ~?病院じゃ静かにしないと駄目だっ……よ…」

 

 

フェイト「まあまあ。ヴィヴィオだって零に早く会いたかったんだから、そんなに怒らなっ………」

 

 

すずか「?どうしたの二人とっ……も…」

 

 

零「………あっ…」

 

 

不意に入り口の扉をくぐって現れたのは三人の幼なじみ。だが零の姿を見た途端何故か硬直してしまうが、それに気付く余裕がない零は慌てて三人に呼び掛けた。

 

 

零「ちょ、丁度良かった!三人とも!悪いがヴィヴィオをベッドから下ろし――――」

 

 

フェイト「…れ…い?………うっ……零ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

 

すずか「零君…目が覚めっ……ヒクッ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!」

 

 

零「…へ?」

 

 

なのは「…目が…目が覚めたんだね……グスッ……良かったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

零「Σちょ?!ちょっと待て!?止まれ!?来るな!?ストップっ!!これ以上は本当にま―ガバアァッ!!!―ΣΣオアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

 

零の必死な制止も振り切り突然泣き出したかと思えば先程のヴィヴィオのように抱き着いてきた三人。その直後、青年の悲痛な悲鳴と共にメキバキボキィッ!!と言う何かが折れるような音が病室から響き渡ったらしい。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

零「……………」

 

 

フェイト「あ…あの…えーっと…�」

 

 

すずか「ご、ごめんね零君?嬉しくて…つい…�」

 

 

零「…心配してくれるのは嬉しいが…もう少し自重してくれないか?じゃないと…流石に俺でも死ぬ…」

 

 

なのは「ご、ごめんなさい…�」

 

 

ベッドの上に横たわりながらジト目でなのは達を睨みつける零。先程のは流石にまずかった、何せ三人が気付いた時にはもう意識はなかったし。二度目に目が覚めた時に『沈丁花が綺麗に咲き乱れる道を歩いていた』と告げて正に危険な状態だったらしい。因みにヴィヴィオは先程病院の一階にある売店に飲み物を買いに行って今はいない。

 

 

零「…ところで…本当なのか?俺が丸一日眠ってたっていうのは?」

 

 

なのは「あ、うん……翔子ちゃんと優矢君が病院に運んでからすぐに緊急手術をしたんだけど……それからはずっと……」

 

 

零「……そうだったのか…じゃあ…俺の左目は…」

 

 

フェイト「うん………外部から侵入した異物が眼球を完全に潰しちゃってるから…それにその異物も眼球の奥まで入り込んで取り出すのは難しいみたいで…多分…もう左目は二度と機能しないだろうって……」

 

 

零「……そうか……」

 

 

まぁ、左目の感覚がないから薄々気付いてはいたが…実際に言葉にして聞かされると少しショックだ。だがまぁ、右目が残ってれば特に問題はないか。

 

 

すずか「あ…で、でも安心して?昨日大輝さんって人が、零君の左目を治せる方法を知ってる人を紹介してくれるって言ってたから�」

 

 

零「…?海道だと?」

 

 

すずか「うん、詳しい事は聞かされてないけど…その人に任せておけば心配ないから安心していいって…」

 

 

零(……海道の奴が……どういうことだ?)

 

 

何故大輝が自分の左目を直せる人物を知ってるのか…いやそれ以前に、何故あの大輝が自分の左目を治してくれるのに協力してくれるのか。零はその不可解な点がどうしても引っ掛かっていた。

 

 

零「…まあ、詳しい話しは海道の奴から直接聞くとして…取りあえず、昨日何が起きたのか教えてくれないか?出来る限り詳しく」

 

 

なのは「え?あ…う、うん」

 

 

とにかく今は昨日何が起きたのか、そして自分が眠っている間に何がどうなったのか、現状を知る為に説明を要求したのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「―――いきなり現れた黒いライダーに…翔子とは別のダブル…そして、ヴィヴィッド…か」

 

 

フェイト「うん……あと望さんもこの病院に搬送されて別の病室にいるけど、特に目立った外傷はないから明日辺りにでも退院出来るかもって」

 

 

零「まあ、誘拐されたってだけなら特に問題はないだろうが…やっぱり会社の方じゃかなり騒がれてるみたいだな」

 

 

なのは「それと、今日の夜あの御曹司さんが来るみたいだよ?昨日のことで話があるとか言って」

 

 

零「あぁ、あの社長がか。ハァ、また面倒な事になりそうだ……」

 

 

そう言いながら溜め息を吐くと、零は先程すずかから貰った新聞の見出しに目を向ける。そこには、先日の結婚式で起きた事件のことや二人の父親である会社の社長からのコメントなどが大きく書かれていた。

 

 

零「成る程…大体のことは分かったが、そのもう一人のダブルとヴィヴィッドはその後どうしたんだ?」

 

 

フェイト「それが…私達も優矢や翔子から聞かされただけで詳しくは知らないの…だからその後の行方とかまでは…」

 

 

零「…そう、か……ハァ…またアイツに借りを作ってしまったな……」

 

 

魔界城の世界といいfirstの世界といい、一体何処まで借りを作らなくてはならないのか。複雑そうな表情を浮かべて溜め息を吐く零だが、そこでふとある事を思い出した。

 

 

零「――なぁ、そういえばフェイト達の方にもライダーが現れたんだろう?聞いたところだと龍騎系統のライダーみたいだが……一体どんな奴なんだ?」

 

 

先程なのは達から聞かされた黒いライダー…ガリュウの話を思い出し、その事が気になった零はなのは達にそう問い掛けた。だが…

 

 

『……………』

 

 

零「…?おい、どうした?」

 

 

何故かガリュウの事を聞いた途端なのは達は気まずそうに顔を俯かせ、零はそれに疑問そうに首を傾げた。するとなのはは俯かせていた顔を少し上げ…

 

 

なのは「…あ…あのね…?そのライダーのことなんだけど……落ち着いて聞いて欲しいの……」

 

 

零「?どうしたんだ…?」

 

 

重苦しい表情で何処か言い難そうに話すなのはに零は更に疑問符を浮かべ、そこへフェイトが代わりに話し始めた。

 

 

フェイト「その、ツカサとカノンが言ってたんだ……そのライダーが大輝に倒されそうになった時…ガリューが現れたんだって…」

 

 

零「ッ?!ガリュー…だと?!」

 

 

フェイトの口から告げられた事実に零は驚愕し耳を疑った。ガリューと言えば、あのルーテシア・アルピーノの召喚獣だったはずだ。そのガリューが何故この世界に、それも敵であるライダーを助けたりしたのか。それが理解出来ない零は少しだけ困惑するが、その時一つの可能性に辿り着いた。

 

 

零「まさか……」

 

 

なのは「うん、もしかしたら多分そのライダーは……ルーテシア……かもしれないって……」

 

 

零「っ!!」

 

 

告げられた名前に零は目を見開き驚愕した。ガリューがこの世界にいる理由やガリュウを助けた理由などそれしか考えられない。そして彼女がライダーとなって、自分達の前に敵として現れた理由は……

 

 

零(クッ…クアットロめ…あの二人だけじゃなくあの子までっ…!)

 

 

彼女がライダーとなってこの世界にいたのは、恐らくクアットロが絡んでいるのだろう。現にロストの事もあるし、それに智大からの情報でも以前零達が戦ったダークライダーのベルトもクアットロが所持していると言っていた。

多分ルーテシアが使っていたベルトもそれが関係しているのかもしれない。そこまで考えると零は顔を俯かせてベッドのシーツを力の限り握り締めた。

 

 

フェイト「…零?大丈夫?何か、顔色が悪いよ…?」

 

 

零「…っ!い、嫌…何でもない…ちょっと左目が疼いただけだ…」

 

 

フェイト「…?」

 

 

不意に覗き込んできたフェイトの顔を見て零は思わず顔を背け、そんな零の反応にフェイトは首を傾げた。

 

 

零(…言えるわけがない…ルーテシアの事だってあるのに…コイツ等に…フェイトにロストのことを話すなんて…)

 

 

ルーテシアが敵になったという事実だけでもショックなのに、あの二人までが敵になって現れたなど言えるはずがない。そんなことを話せば…フェイトがどんな顔をするか。それがとても恐ろしく、零は本当の事を話せずにいた。

 

 

なのは「…やっぱり…ショックだよね…ルーテシアがまたスカリエッティと一緒にいるだなんて…信じられないもん…」

 

 

零「…いや…ルーテシアは多分アイツ等に操られてるだけだろう。じゃなきゃ、ルーテシアがアイツ等と一緒にいる理由なんて考えられないさ…」

 

 

フェイト「そう…だよね。なら早くアイツ等の本拠地を見つけて…今度こそ捕まえないと…今度こそ…」

 

 

フェイトは難しげな表情を浮かべながら拳に力を込めてそう告げる。自分が長い間追っていて漸く捕まえたスカリエッティがまた何かを企んでいると言うのだ。その事にフェイトも思う所があるのだろう。それを隣で見ていたなのははフェイトの拳に自分の手を重ね、フェイトはそれに少し驚いた表情を見せながらなのはに視線を向けた。

 

 

フェイト「なのは…?」

 

 

なのは「大丈夫。フェイトちゃんの気持ちもちゃんと分かってるよ。今度は私達も一緒に戦うから、だから絶対にスカリエッティ達の居場所を見付けて、今度こそ決着を付けよう?そしてルーテシアも絶対助け出す……ね?」

 

 

フェイト「……うん!」

 

 

零「…………」

 

 

なのはの言葉にフェイトは微笑みながら頷き、すずかもそんな二人を見守るように微笑んでいた。そんな中、零はなのは達から視線を反らして一人考え込む。

 

 

零(……今は…今は黙っておこう…せめてはやて達が全員見付かるまで…それまでは…)

 

 

正直に言えば、どうやってあの二人のことを伝えたらいいのか分からない、それに無闇に事実を伝えて彼女達を悲しませるような真似はしたくない。

だから今は黙っておこう。時が来ればその時に話そうと、零は自分が知る真実を胸の内に仕舞い込んだのであった。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑭

 

 

その日の夜、医者から退院の許可を貰った零はなのは達と共に病院を出て鳴海探偵事務所に戻って来ていた。そして探偵事務所の前にやって来ると扉を開けて中に入ろうとした。だが…

 

 

―ドシャァァンッ!!―

 

 

裕一「ガハァッ!!」

 

 

翔子「裕一!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

突然事務所の中からけたたましい物音と共に聞こえて来た悲鳴。それを聞いた零達は慌てて事務所の扉を開けて中に入ると、そこには顔中青アザだらけになった裕一の胸倉を掴む誠の姿があったのだ。

 

 

裕一「うっ…くっ…」

 

 

優矢「裕一さん!!」

 

 

ツカサ「ちょっと!?いきなりやって来て何すんのさっ!?」

 

 

誠「煩い!!僕は言ったよな?今回の結婚式はとても重要な式なんだって。なのに望は誘拐され、結婚式は目茶苦茶…オマケに僕まで民主の前で大恥を掻いたんだぞ?金払って雇ったって言うのに…お前達は一体何やってたんだ!?えぇ!?」

 

 

裕一「アグッ!ウッ…」

 

 

翔子「止めてよ!!依頼をこなせなかったのは私のせいなんだよ!?裕一は何も関係ないよ!!」

 

 

誠「あ?なら尚更この所長さんに責任取って貰わないといけないだろう?部下の失敗は上司の責任……お前みたいなクズ探偵の失敗はコイツの責任だろうが!?」

 

 

翔子「ッ…そ…それは…」

 

 

物凄い剣幕で怒鳴り付ける誠に翔子は押し黙ってしまうが、そこへ裕一が胸倉を掴まれたまま誠の腕を掴んで口を開いた。

 

 

裕一「ッ…依頼をこなせなかったのは謝ります…ですが、今の言葉は取り消して下さい!翔子だって必死に犯人を追って戦ったんだ!その翔子がっ…そんな風に言われる覚えなんてありません!」

 

 

翔子「…裕一」

 

 

誠「ハッ、何が必死に戦っただ?仕事もロクにこなせないクセに…意気がった事言うなぁ!!」

 

 

裕一「くっ!」

 

 

俊介「っ!止せぇ!」

 

 

カノン「裕一さん!」

 

 

誠は再び裕一を殴り付けようと腕を振り上げ、それを見た俊介達は慌てて誠を止めに入ろうとする。その時……

 

 

―ガシッ!―

 

 

誠「…っ?!何?!」

 

 

『っ?!』

 

 

突然誠の背後から何かが腕を掴み、突然のそれに誠や裕一達は驚きながらそれを見た。それは……

 

 

零「…そこまでだ。それ以上俺の友人に手を出すのは止めてもらおうか?」

 

 

誠「?!お、お前は…?!」

 

 

優矢「れ、零っ?!」

 

 

誠の腕を掴んだ人物…零は鋭い視線で誠を睨みながら低い声でそう言い放ち、そんな零を見た誠と裕一達は驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

誠「お、お前は…あの時の探偵?!なんで此処に?!」

 

 

零「何をそんなに驚くんだ?俺は此処の探偵なんだ…なら此処にいても可笑しくはないだろう?」

 

 

優矢「れ、零!お前…もう怪我は大丈夫なのか?!」

 

 

零「取りあえずはな。一応退院の許可をもらってるから特に問題はないだろ……さて?」

 

 

零は優矢からの問いにそう答えると、誠から腕を離し鋭い視線のまま誠と向き合った。

 

 

零「取りあえず此処はお引き取り願おうか?今からアンタの婚約者をさらおうとした犯人について話し合わないといけなんだからな」

 

 

誠「な、何だと?!まだ僕の話しは終わっていないんだぞ?!」

 

 

零「その件なら後にしてくれないか?生憎、こっちはお坊ちゃまの我が儘を聞いてる暇はないんでね」

 

 

誠「なっ…お、お前ぇ…」

 

 

零「そういうわけだ…関係ない奴は早く帰れ。会議の邪魔だ」

 

 

そう言いながら零は誠の横を通り過ぎてソファーに座り込むとカメラの手入れを始め、そんな零の態度を見た誠は悔しげな表情をしながら言い放つ。

 

 

誠「くそ…依頼なんてもう取り消しだ!!覚えてろよクズ探偵共!!こんなオンボロ事務所……僕のパパに言い付けて取り潰してやるからな!!」

 

 

そんな捨て台詞を残すと誠は乱暴に扉を開けて事務所から出ていき、それを見た零は呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

零「捨て台詞もイマイチな奴だな…今度来る時はもう少しまともであって欲しいもんだ」

 

 

優矢「いや、気にする所はそこじゃないだろ�」

 

 

翔子「裕一…大丈夫?」

 

 

裕一「ッ…あ、あぁ…全然大丈夫だ…こんなの…」

 

 

ソファーに座り込む零がカメラの手入れをしてる中、翔子は裕一の身体を起こして近くにある椅子に座らせるとすずかと裕香が救急箱を持って裕一に駆け寄り傷の治療を始めた。

 

 

ツカサ「全く、それにしても何なのかなあの次期社長は!?」

 

 

俊介「仕方ないだろ?依頼をこなせなかったこっちに非があるんだ…何を言われようが文句は言えないさ」

 

 

カノン「でもだからって…あんな言い方しなくてもいいじゃないですか…」

 

 

先程の誠の物言いツカサとカノンは不満を口にし、それを聞いていた零はカメラの手入れをしたまま口を開いた。

 

 

零「まあ、あの次期社長の事はほっといていいだろ。それより今は、あの犯人の話が先だ」

 

 

フェイト「犯人って…あのバラみたいなドーパントのこと?」

 

 

俊介「だけど、犯人についてはまだ何も分かってないんだろ?それに犯人の目的だってまだ分かってないのに、どうやって「犯人の事なら既に大体分かってるよ」…え?」

 

 

零の言葉に俊介が難しげな表情でそう答えると、奥の隠し部屋から出て来たフィリスがそれを遮りながら喋り出した。

 

 

フィリス「彼の持つメモリの名はROSE。そして犯人の目的は高山 望と信条 誠の結婚式を潰す事さ」

 

 

翔子「ッ!フィリス…!」

 

 

ツカサ「…え?それって…どう言うこと?」

 

 

フィリスから話された犯人の目的を聞きツカサが首を傾げていると、そこへ零が言葉を紡ぐ。

 

 

零「ROSEのメモリ保持者の名は小神 修二……高山 望の元婚約者だった男だ」

 

 

『…えっ?!』

 

 

翔子「ちょ、零っ?!」

 

 

零「…遅かれ早かれ事実を知ることになるんだ。なら今話した所で何も変わらんだろう?」

 

 

翔子「っ……」

 

 

特に気にした様子もなくカメラの手入れを続ける零に翔子は何も言えなくなり、そこへすずかが未だ驚いた様子で口を開いた。

 

 

すずか「ど、どういう事?望さんの…元婚約者って…」

 

 

零「…そのままの意味だ…小神 修二はROSEのメモリを使い風都で行われていた結婚式を襲撃し花嫁を誘拐していた。その目的は恐らく、遠回しに高山望と信条誠が事件を恐れて式を取り消すよう仕向ける事だったんだろ。ま、結局はそれも失敗に終わって誘拐する事になったんだが…」

 

 

翔子「…犯行が始めて行われた時期もあの二人が婚約発表を行って一週間経った頃からだったしね……まず間違いないと思うよ」

 

 

カノン「そんな…零さん達は知ってたんですか?!あのドーパントの正体を?!」

 

 

零「…別に隠すつもりはなかったさ。だが正直、俺達も真実を知った時は動揺した…だからどうやって説明すればいいのか分からなかったんだよ」

 

 

何処か悲しげな表情で零がそう言うと翔子と裕一は顔を俯かせ、それを見た一同はそれ以上言えなくなってしまう。

 

 

なのは「…でもそれじゃ…もしあのドーパントを倒したとしても…」

 

 

零「…連続誘拐の上に負傷者も多く出てる…倒した後は間違いなく警察行きだな。こればっかりはどうしようもない」

 

 

すずか「そんな……」

 

 

断言するように言い放った零の言葉に一同の表情は暗くなってしまい、それを横目に見た零は一度手を止めて口を開いた。

 

 

零「…取りあえず…俺達が出来る事は奴を止めてこれ以上罪を重ねないようにするだけだ。それが多分この世界での俺の役目だと思うしな」

 

 

優矢「止めるって…具体的にはどうするんだよ?犯人の居場所なんてまだ分からないし、居場所を突き止める手掛かりだってないんだぞ?」

 

 

確かに…犯人の居場所が分からない以上、犯人がいつ動き出すのか不明…だから犯人が犯行を起こした時に動き出すしかない。つまり後手に回るしかないと言うことだ。だがそれではまた犯人を逃がしてしまう可能性は高いし、もし取り逃がせば小神 修二はまた罪を重ねることになる。ならばどうすればいいのかと一同が考えていると……

 

 

零「…いや、一つだけある。先回りして犯人を抑える事ができる方法が…」

 

 

『…え?』

 

 

ソファーに背中を預けていた零が閃いたというように人差し指を掲げながら喋り出し、それを聞いた全員が零に注目していく。

 

 

零「今回小神の目的は最初から高山望だけだ。そして幸いにも小神は今日の結婚式で高山望を誘拐しそびれてしまった……それに今日病院から出る時に受付から聞いた話じゃ高山望は入院中ボディーガードは付けておらず、明日の迎えの車も病院に付くまで一時間以上間があるらしい…つまり…」

 

 

優矢「?つまり…えっと……?」

 

 

ツカサ「…あ、そっか!」

 

 

零「そう、小神が高山 望を誘拐する機会を伺っているのなら……明日は絶好のチャンスという事だ…」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

探偵事務所で零達が会議を行ってる頃、事務所を出た誠は自分専用のリムジンが停まってある駐車場まで夜道を歩いていた。

 

 

誠「クソッ!あのクズ探偵め…絶対に許さないぞっ!僕をコケにしやがってっ!」

 

 

誠はまるで苛立ちをぶつけるかのように道行くモノを蹴り付けていき、その道を通る通行人もよそよそしく誠を避けていた。

 

 

誠「どいつもこいつもっ…僕の事をまるで認めようとしない!何故僕の邪魔ばかりするんだ!!」

 

 

誠は怒りで歪んだ表情をしながら爪を噛んで歩いていると、そんな誠の背後から一人の男が近づき始めた。

 

 

「――なら、消してしまえばどうでしょうか?貴方に逆らうモノを全て…ね?」

 

 

誠「っ?!な、何だよお前?!誰だ一体…?!」

 

 

「クス…そんな警戒しないで下さい、私はただのしがない商売人ですよ。そんな事より今日は、貴方に是非買って頂きたいモノがあります」

 

 

驚いた表情で身構える誠を他所に男は手に持っていたトランクを誠の前に出して開けた。そして誠は警戒心を強めながら恐る恐るトランクの中身を覗き込むと、トランクの中には無数のメモリで埋め尽くされていた。

 

 

誠「こ、これは…?」

 

 

「フフフ…貴方の力となるメモリですよ。どうです?これなら、貴方に逆らう者を全て消し去る事が出来ます」

 

 

誠「……アンタ…一体何者なんだ?」

 

 

誠はトランクの中から一つのメモリを手に取りながら男に何者かと問い掛けると……

 

 

 

「フフ、言ったでしょう?私はただのしがない商売人…まあ、気軽にシャドウとでも呼んで下さい…」

 

 

月下の下で男…シャドウはそう言いながら誠に怪しく微笑んで見せるのであった。

 

 

 



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番外編/墜チタ破壊者

 

 

 

 

 

俺はただ……俺達の世界を救いたかっただけだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はただ……アイツ等とのくだらない日常を取り戻したかっただけだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はただ……アイツ等と一緒にいたかっただけだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに……何故……こんなことに……なってしまったんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴオォォォォォォオンッ!!!ドゴオォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

容赦なく襲い掛かる攻撃。身体中は既にボロボロになって血に染まり、上手く立ち上がることも出来ない。身体が痛い…心が痛い…何もかもが痛い…何故…こんなことになったんだろう…

 

 

『貴方は全てのライダーを破壊しなければならなかった…だが仲間にしてしまった…貴方の旅は間違っていました』

 

 

『ディケイド…お前の仲間であるあの子達はもういない…後はお前を倒すだけだ』

 

 

目の前から歩いてくる九人のライダー達…俺達の旅は間違っていたと…俺達達のしてきたことは間違っていたと…すべてを否定され…アイツ等まで奪われ…俺はもう…戦うことも……立ち上がることも出来ない……

 

 

『これで終わりだ…ディケイド。此処で…お前の旅を終えろ』

 

 

視界がぼやける中、目の前に見えるのは俺に向けて銃を構えるライダー。此処で死ぬのか……俺は……それもいいだろう…アイツ等を失った俺に……生きる目的なんてないのだから…

 

 

―ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!―

 

 

銃声と共に向かってくる細長い砲撃が…俺の命を刈り取ろうと向かってくる……来るなら早く来い……俺を早く……アイツ等の下に…連れていってくれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズドオオオォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ…?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…?…痛みも何も感じない…代わりに聞こえてきたのは奴らが息を呑む声と…何が貫かれるような音…一体何が…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ピチャッ…ピチャッ…ピチャッ…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こふっ……だ…大丈夫……だっ…た…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?!なっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞳を開けた先にあった光景は…死んだと思っていた俺の大切な人…腹部に風穴が開いているにも関わらず…口元から血を流しながら俺に微笑む彼女の姿があった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかっ…た…無事…だった…みたい…だ……ね…」

 

 

 

「ッ?!―――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

微笑む彼女は俺に笑い掛けながらグラリとその身体が揺れ…俺は咄嗟に彼女の身体を抱き留めた…暖かい…彼女の身体から感じるのは温かな感覚…しかし…その温もりが…徐々に彼女の身体から失われるのが肌から伝わってきた…

 

 

「しっかりしろ!―――!なんで…なんでこんな!!なんで俺を!!?」

 

 

「…こふっ…ごめっ…んね…でもっ…―――が無事で…良かっ…た……よ…」

 

 

「喋るな!!クソッ!クソッ!止まれ!!止まってくれ!!頼むからぁ!!!」

 

 

必死に彼女から溢れる赤い液体を止めようとしても、それは止まることなく流れ出ていく。なのに、彼女は苦しげな顔を見せず、俺に心配を掛けまいと笑みを浮かべていた。

 

 

 

「…もう…いいよ…私なんか…放って…早く…逃げ…て…」

 

 

「?!馬鹿言うな!!お前を置いていくなんて出来るハズないだろう!?」

 

 

「いいの…私はもう…助からない…だから…―――だけでも……」

 

 

「ッ…出来ない…出来る筈ない…!」

 

 

 

まただ…また俺は…コイツを守れなかったっ…守ると誓ったハズなのにっ…命を捨ててでも守ると誓ったのにっ…俺は…俺はっ…!!

 

 

 

 

 

 

 

「…大…丈夫…だよ…?―――は…なにも…悪くない…んだから…」

 

 

 

だが、彼女は優しく…微笑みながらそう言って…俺の頬に手を差し延べてきた。冷たい…彼女の手からはもう温もりを感じない…視界が涙で滲む中…俺は震える手で彼女を手を掴んだ…

 

 

 

「ゴメン…ね…一緒に帰るって…皆と一緒に帰ろうって…言ったのに……約束…守れ……なくてっ……」

 

 

「違う…違う!!お前が…謝る必要なんてない!謝るのは俺だ!お前を守るって約束したのに!お前達の世界を救って一緒に帰ろうって約束したのに!俺は…俺はっ…!!」

 

 

 

優しく微笑む彼女の頬に彼の涙が伝う…彼女を守れなかった…彼女を傷つけた…そんな後悔の念が止まることなく溢れてくる…だが、彼女はそんな俺に大丈夫だと告げてきた…

 

 

 

「泣かないで…嘆かないで…私は…後悔なんてしてないよ…私達の旅は間違っていなかったって…そう信じてるから…―――と一緒にいられて…良かったって…思ってるから……約束は…守れなかった…けど…最後に…これだけは…伝えさせて…?」

 

 

「ッ?!―――!?―――ッ!!?」

 

 

 

彼女の瞳から光が消えていき、瞼が徐々に力なく閉じていく…俺はただ叫ぶことしか出来ず…彼女は最後に…優しく微笑みながら小さな声で…俺に告げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「…私は……零君のことが……好き……だった………よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ!!?なのはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に見た彼女の笑顔は…最も綺麗で…最も美しく…最も…愛おしく感じるものだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………また…か」

 

 

何処かにあるとある世界。

 

そこには何もない…人も…建物も…何も存在しない。

 

霧に包まれたこの世界にあるのは―――墓。

 

無数の墓だけがこの世界に広がっていた。

 

そしてその墓達に囲まれる一つの大樹…それに背中を預けて眠っていた彼が目を覚まし、上半身をゆっくりと起こしていく。

 

 

「……また…あの夢を見ることになるとは……あの女…ディケイドに会ったせいだろうか…」

 

 

彼の脳裏に浮かぶのは魔界城の世界で出会ったライダー少女…ディケイド。

 

その名前が浮かび上がると彼は不愉快げに舌打ちし、大樹に再び背中を預けた。

 

 

「…天満 シズク…アイツの邪魔さえなければあの女を仕留められた…仕留められたハズだった…」

 

 

顔をしかめながら悔しげに唇を噛み締め、懐から一つのネックレス……赤い宝玉の付いたネックレスを取り出した。

 

 

「分かっているさ…どんなに後悔しても…今更アイツの気持ちに応えてやれない…お前の想いに…応えてやれないんだ…」

 

 

何処か悲しげな表情で赤い宝玉の付いたネックレスを見つめながら語る。

 

まるで、未だに未練を断ち切れない自分に言い聞かせるように……

 

 

「…あぁ…分かってるさ…だから俺は戦う…ライダーを全て滅ぼす…それが…今の俺に出来る…お前達への贖罪だ…」

 

 

そう言って彼は赤い宝玉のネックレスを仕舞い、再び大樹にその身体を預けた。

 

 

「その為にも……奴を……レイを見つけないといけない……そして……もう一つの因子を……全ての世界を……0から―――――」

 

 

その言葉を最後に彼は再び深い眠りにつき、その世界も再び深い霧に覆われていったのであった。

 

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑮

 

 

翌日……

 

 

 

望「……………」

 

 

病院内にある花園。そこでは望が一人淋しげな表情を浮かべながらそこの花壇に植えれている薔薇の花を眺めていた。

 

 

望「…修二さん…教えて下さい…私は…私は一体どうすればいいんですか…」

 

 

望は消え入りそうな声で呟きながら花壇の薔薇の花を見つめ、首元にあるバラのネックレスを手に取った。

 

 

望「父や母、会社の為にも私はあの人と結ばれなければならない……でも……私は……」

 

 

自分の選んだこの選択は本当に正しかったのか?本当は何処か間違っているのではないだろうか?一体何が正しく何が間違っているのか、それが分からなくなった望は頭の中がゴチャゴチャになってしまい顔を俯かせてしまう。

 

 

望「私はもう、どうすればいいのか分からないんです…ただ私は…貴方といられたらそれで良かったのに…なのに…」

 

 

「―――なら、俺と一緒に行こう…望」

 

 

望「……え?」

 

 

思い詰めたように望がそう呟いていたその時、不意に背後から男の声が聞こえそれを聞いた望は思わず背後へと振り返ると、そこには一人の男性が優しげな顔で立っており、その男性を見た望は驚愕の表情を浮かべた。何故なら…

 

 

望「しゅ、修二…さん…?!」

 

 

修二「うん…久しぶりだね…望」

 

 

そう、その男性とは一年前行方不明となり音信不通となっていた望の元婚約者…小神修二だったのだ。何故此処にその修二がいるのか?望はそんな疑問を抱えて信じられないといった顔で修二を見つめ、修二は優しげな表情のまま望へゆっくり歩み寄っていく。

 

 

望「…修二さん…ホントに…ホントにあの修二さん、なんですか…?」

 

 

修二「当たり前じゃないか。もしかして俺の顔、忘れちゃったのか?」

 

 

望「い、いえ!そんな事は!で、でもどうして…どうして修二さんが此処に…?!」

 

 

驚愕と動揺を隠せないまま望は修二にそう問い掛けると、修二は少し暗い表情を浮かべてゆっくりと喋り出した。

 

 

修二「勿論、君を迎えに来たんだ。君を助ける為に…君を自由にする為にだ」

 

 

望「…私を…自由に…?」

 

 

修二「そうだ…その為に俺は、この一年間を過ごして来たんだ。君を助け出したいという思いから…」

 

 

望「……修二さん」

 

 

修二は俯かせていた顔を上げると望に向けて手を差し延べながら近づいていく。

 

 

修二「望、一緒に行こう?君は俺が守る…これからは、ずっと一緒だ」

 

 

望「…ずっと…一緒に…」

 

 

優しげに微笑む修二の言葉に望は瞳に涙を浮かべ、まるで引き寄せられるように修二へ手を差し延べていく。だが……

 

 

 

 

「――――君を助けたい?君を自由にしたいだって?アハハハ!笑わせてくれるじゃないか!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

突然その場に二人の物ではない声が響き、修二と望はそれが聞こえてきた方へと振り向いた。するとそこには一人の男……ニヤついた表情で近づいてくる誠の姿があったのだ。

 

 

望「あ…貴方は…?!」

 

 

修二「…信条…誠っ…」

 

 

誠「なぁにヒーローぶった台詞を吐いてんのかなぁ?どんなにそれっぽいことを言った所で、君の行いは許される物じゃないんだよ?それは君が良く分かってることじゃないか?」

 

 

修二「ッ…」

 

 

望「…修二さん?」

 

 

ニヤついた表情で言い放つ誠の言葉に修二は何も言えず顔を俯かせてしまい、それを見た望は頭上に疑問符を浮かべ、誠は更に言葉を続けた。

 

 

誠「よぉく聞きなよ望…?最近街で噂になってる連続花嫁誘拐事件…その犯人はそこのソイツなんだよ!」

 

 

望「…え?」

 

 

誠「ソイツは君の為にこの一年間風都で行われていた結婚式を襲い、花嫁を誘拐し続けていた!そしてこの間の結婚式で君を誘拐しようとした化け物の正体も、そこの彼なのさ!」

 

 

修二「…………」

 

 

高らかに叫ぶ誠に修二は何も言い返すことが出来ず、ただ暗い表情で望から顔を反らし、そんな修二の様子を見た望は声を震わせながら問い掛けた。

 

 

望「…嘘…ですよね?修二さんが…誘拐事件の…犯人だなんて…」

 

 

修二「………本当だ。全部……紛れも無い事実だ」

 

 

望「っ?!…そん…なっ…」

 

 

悲痛な表情で告白した修二の言葉を聞き望は首をふるふると振りながら涙を流し、誠はそんな二人を見てニヤニヤと笑みを浮かべたままポケットから黒のメモリを取り出した。

 

 

望「安心しなよ望…そんな犯罪者はこの僕が消してやるから。この、最強の力を使ってねぇ!」

 

 

『NEBIROSU!』

 

 

誠はそう言いながらメモリのスイッチを人差し指で押すと電子音声が響き、そのメモリを首筋に差し込むとメモリは首筋に取り込まれていく。すると誠の姿は紅いボロボロのロープを巻き付け、体中に不気味な人形を身に付けて右手に杖を持った骸骨のような怪人……ネビロスイリシットへと姿を変えたのだ。そして変身を終えたネビロスイリシットは手に持つ杖の先を修二に向けながら近づていく。

 

 

望「ヒッ…?!か、怪物?!」

 

 

修二「ッ!望ッ!早く此処から離れるんだ!」

 

 

『ROSE!』

 

 

ネビロスイリシットを見て脅える望にそう言うと修二は険しい顔付きのまますぐにメモリを取り出し、腕に差し込んでローズドーパントに変身しネビロスイリシットに挑んでいく。

 

 

―ガキイィッ!!ガキイィッ!!―

 

 

『ウガアァッ!クッ…クソ!』

 

 

『アハハハハ!!そぉら!もっと踊ってみろよ!そんなんじゃ僕は満足出来ないぞ?!』

 

 

ローズドーパントはがむしゃらにネビロスイリシットに何度も殴り掛かっていくが、ネビロスイリシットはそれを軽々と避けて杖で斬り掛かりローズドーパントにダメージを与えていく。そして…

 

 

『クク…ハアァァッ!!』

 

 

―バチバチバチィッ…ズガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

『ウ、ウグアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

望「修二さんっ!?」

 

 

ネビロスイリシットが杖を天高く突き上げると杖の先端から雷が発生してローズドーパントを中心に周りの施設や病院に雷が直撃し、ローズドーパントはその衝撃で体内からメモリが飛び出し変身が解除され修二に戻ってしまった。

 

 

『ハハハハハ!!最高だよこの力!これで僕の邪魔をする奴は誰もいない!僕に逆らう奴だっていなくなるんだ!アハハハハ!!』

 

 

修二「ぐぅっ…うっ…!」

 

 

変身が解除されてしまった修二は傷付いた身体を引きずりながらメモリを手に取ろうとするが、ネビロスイリシットは愉快げに笑いながらそんな修二にトドメを刺そうと杖の先端を向けて歩み寄っていく。だが…

 

 

―…バッ!―

 

 

『……あ?』

 

 

望「…もう…もう止めて下さい…!」

 

 

修二「…ッ?!望ッ?!」

 

 

突然ネビロスイリシットの前に望が飛び出し、修二を守るように立ちはだかったのだ。それを見たネビロスイリシットは歩みを止めて口を開いた。

 

 

『…何の真似かな望?ソイツは僕達の結婚式を台なしにした犯罪者なんだぞ?』

 

 

望「ッ…分かってますっ…だけど、だけどこの人は!私の為に罪を犯してしまったんです!だから責めるなら……私を責めて下さい!この人には手を出さないで!」

 

 

修二「ッ…の…望っ…」

 

 

恐怖で身体を震わせながらも望は修二を守ろうと両手を広げながらネビロスイリシットにそう告げる。それを聞いたネビロスイリシットは少し顔を俯かせて……

 

 

『……ククク…そうかい、君は僕よりそんな奴を選ぶんだな?だったら君なんてもういらないよ…そいつと一緒に死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっっ!!!』

 

 

望「っ!?」

 

 

修二「や、止めろ!逃げろ望!!望ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーっっ!!!!」

 

 

あくまで修二を庇おうとする望の意思が気に喰わないネビロスイリシットは杖を振りかざして望に斬り掛かり、望は力強く目を瞑ぶり襲い掛かる痛むに耐えようとする。その時……

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォンッ!!キィィィィィィッ!!!―

 

 

『…っ?!なっ?!―ドゴオォォォォォォンッ!―ウグァァァァァァァッ!!?』

 

 

『ッ?!』

 

 

斬り掛かろうとするネビロスイリシットの横から突然戦車のような巨大な車……リボルギャリーが突っ込みネビロスイリシットを跳ね飛ばしていったのである。それを見た望と修二は突然の事態に驚愕し、その間にリボルギャリーのハッチが開きそこから二人の男女が降りてきた。それは…

 

 

零「…よう、どうやら間に合ったみたいだな」

 

 

翔子「うんうん、読み通りだったみたいだね♪」

 

 

望「っ?!あ、貴方達は……探偵さん?!」

 

 

リボルギャリーから出て来た二人組の男女…零と翔子は望の目の前に降り立つと軽い口調でそう呼び掛け、それに続くようにハッチからなのはとカノンとツカサが降りて来た。

 

 

零「予想通り、高山望をさらいに直接病院に現れたか…小神修二」

 

 

修二「…アンタ達は…?」

 

 

零「お前を捕まえにやって来たただの探偵……と言いたい所だが、どうやらそれ所じゃないらしい」

 

 

修二からの問い掛けにそう答えると零は修二から目を反らして吹き飛んだネビロスイリシットへと視線を移し、リボルギャリーに跳ね飛ばされたネビロスイリシットは態勢を立て直すと物凄い殺気を撒き散らしながら零達を睨みつけてきた。

 

 

『お前等ぁぁぁぁぁぁ!!よくもっ!よくもやってくれたなぁッ!!?』

 

 

零「…遂に堕ちる所まで堕ちたみたいだな次期社長。そんなモノにまで手を出し…挙げ句の果てには、自分の婚約者を手に掛けようとするとは」

 

 

『黙れ!!僕を認めようとしない奴…僕に逆らおうとする奴なんていらないんだよ!その女や今まで結婚してきた女達だってそうだ!ソイツ等の為に高価な宝石や指輪、ブランド物だって山ほど与えてやったさ!!だけど皆…僕を愛そうとはしなかった!誰一人として僕を認めようとはしなかった!ならそんな奴等…僕が愛する資格なんてないんだよ!!』

 

 

怒りを露わにしたまま吐き捨てるように叫ぶネビロスイリシット。するとそれを聞いた零達は……

 

 

零「成る程…つまらない男だとは思っていたが…想像以上につまらん男だったみたいだな」

 

 

カノン「みたいですね…」

 

 

なのは「だね…もう掛ける言葉すら思い付かないよ」

 

 

『な、なんだとッ…?!』

 

 

零達は呆れたように溜め息を吐きそんな態度を見せる零達にネビロスイリシットは更に怒りを剥き出しにする。

 

 

翔子「確かに、人の愛なんて物は理解し難い物だよ。互いの心が目に見えず…時には悩み…時には恐れ…時には傷付き合うことだってある」

 

 

ツカサ「だけど…どんなに傷付き合おうと、それを乗り越えてこそ人と人は通じ合いそこに愛が生まれる。どんなに高価な宝石を贈られようが…どんなにお金を積み込まれようが…それで人の心を手に入れる事なんて出来ない!そんなじゃ、誰も貴方を愛そうだなんて思わないよ!」

 

 

『くっ…お前等ぁ…!』

 

 

零「そして…この男も馬鹿な奴だ。間違った力に手を出し、惚れた女を守ろうと自分の手を汚し、自分の人生まで捨てた。本当に救い様のない馬鹿だ……だが」

 

 

零はそこで一度言葉を切ると、背後で望に抱き抱えられている修二に目を向けながら口を開く。

 

 

零「…そんな馬鹿な男でも…惚れた女への愛を貫き通したんだ。犯罪者であっても……この男の高山望への愛はお前の安っぽい愛よりずっと強い!!」

 

 

修二「……アンタ…」

 

 

望「探偵さん……」

 

 

『ッ…偉そうなことをベラベラと!何なんだよ…お前達は何なんだ!?』

 

 

ネビロスイリシットは苛付いた様子で零達にそう問い掛けると零とツカサとカノンは腰にバックルを巻いてそれぞれカードを構え、なのはは左腕のKウォッチを操作し、翔子は腰にダブルドライバーを装着しメモリを構えていく。

 

 

カノン「通りすがりの仮面ライダーと…」

 

 

ツカサ「通りすがりのライダー少女!そして…」

 

 

翔子「通りすがりの探偵だよ!」

 

 

零「憶えておけ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

『KAMENRIDE:ZEROS!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CYCLONE!JOKER!』

 

 

電子音声と共に五人はディケイド、トランス、ゼロス、ディケイド(ツカサ)、ダブルへと変身し、それぞれ構えた後ネビロスイリシットへと突っ込んでいった。

 

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑯

 

 

そして戦いの場所は病院の外にある広場へと変わり、ディケイド達はそれぞれ武器を構えながらネビロスイリシットへと突っ込んでいき、ネビロスイリシットは杖を振り回してそれに応戦していくが五人の攻撃に圧され苦戦していた。

 

 

『ウガアァッ!グッ…チクショウ!どいつもこいつも…僕の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

―ヒュンヒュンヒュンッ!ドガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『グッ!?ウアァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

痺れを切らしたネビロスイリシットは怒りの咆哮を上げながら杖から強烈な衝撃波を幾つも放ち、ディケイド達はそれを回避し切れず散らばるように吹っ飛んでしまう。

 

 

ゼロス『クッ!さっきより強くなってる…?!』

 

 

ディケイド『ッ…おそらくメモリの力に飲まれ掛けてるんだろう!厄介なことになる前にさっさと倒さないと……ん?」

 

 

態勢を立て直したディケイドとゼロスは再び身構えていき、辺り一帯を破壊し始めたネビロスイリシットに向かって突っ込もうとするが、そんな中ディケイドとゼロスに周りに異形の姿をした怪人達……レジェンドルガが現れたのだ。

 

 

ゼロス『?!レ、レジェンドルガ?!何でこんな所にまで?!』

 

 

ディケイド『チッ…どうせまたクアットロの使いだろ!こんな時に…―ブオォンッ!―…ん?』

 

 

周りを囲むレジェンドルガの大群にディケイドが舌打ちしているとディケイドのライドブッカーから一枚のカードが飛び出しディケイドはそれをキャッチした。そのカードはディケイドの身体に複数のデンカメンが装着された姿が描かれたカード…ディケイドが二度と使いたくはないと思っていたカードである。

 

 

ディケイド『な、何でこのタイミングでコレが出て来るんだ?!まさか…使えってか?!冗談じゃな『グオアァッ!』チィッ?!』

 

 

ディケイドは飛び出してきたカードを見て戸惑うが、レジェンドルガの大群はそんなことはお構いなしにとディケイドとゼロスに襲い掛かり、二人はすぐにそれをかわして後退していく。

 

 

ディケイド『クッ…!もうやけくそだ!どうなっても知らないぞ!』

 

 

『FORMRIDE:DECADE!CLIMAX!』

 

 

ディケイドは少し迷った後自棄になり、そのカードをディケイドライバーに装填すると電子音声が響き、それと共にディケイドの姿が深紅のシンメトリーな鎧にオレンジ色の瞳へと変化していった。

 

 

 

 

 

 

―キャンセラーの世界―

 

 

 

祐輔「無理!!無理ですって!!ギャリーにはもう乗りたくない!!」

 

 

智大「いいから来いって!長い時間乗ってればその内慣れるから!」

 

 

祐輔「いいですよ別に慣れなくても!!ていうか何でそんなにギャリーに乗せたがるんですか!?」

 

 

智大「なんでって……別にカノンがいなくて暇だから代わりに祐輔を弄ろうだなんて考えていないぞ?」

 

 

祐輔「ΣΣ今のが明らかに本音だよね!?嫌だぁ!!絶対に乗りたくないっ!!誰か助け―――!!」

 

 

―バシュゥンッ!―

 

 

智大「―――!?祐輔が…消えた…?」

 

 

 

 

 

―クロノスの世界―

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

闘牙『ΣΣぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!!?死ぬ!!今度こそホントに死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーっ!!!?』

 

 

シヴァ『…やっと皆に会えたと思ったら…なんでよりによってこんな所にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!!?』

 

 

『Full Charge!』

 

 

冥王『ほーらほら…口より先に手を動かさないと、気を抜いたら真っ先に"死"なの♪エンド・オブ・ワールド……ブレイカアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーっ!!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

『ΣΣ嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!?』

 

 

―ドゴオオォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!……バシュゥンッ!―

 

 

冥王『……あれ?…消えた?』

 

 

 

 

 

―エクスの世界―

 

 

 

はやて「稟ちゃんの……ドアホォォォォォォォォォォーーーーっっ!!!�」

 

 

―ズガァンッ!!!!―

 

 

稟「ΣΣうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!?ちょ、はやてさん!?シュベルツクロイツは危ないですってホント!?ていうか何故そんなお怒りに!?」

 

 

はやて「稟ちゃんが悪いんやで?!さっきの女性局員とあんな楽しげに話して……しかもかなりの巨乳!�」

 

 

稟「Σいや違いますって!あれはただ仕事の件を話してただけでそれ以上の意味は全く…!!�」

 

 

はやて「問答無用ーーーーーーーーっ!!!!�」

 

 

稟「ΣΣちょ!?ストップストップストップ!!ちょっと待ってホントに待っ―――!!」

 

 

―バシュゥンッ!―

 

 

はやて「ッ!…え?…稟…ちゃん?」

 

 

 

 

 

―firstの世界―

 

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドォッ!!!!!―

 

 

滝「ΣΣうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっ!!!?」

 

 

はやて「滝君!!今日こそ絶対にユルサヘンヨ!!!�」

 

 

フェイト「朝からギンガとイチャイチャイチャイチャ!!少し頭を冷やしなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!�」

 

 

滝「これじゃあ冷やす所か頭ぶっ飛ぶだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!?」

 

 

―…ヒュンッ!ズガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

滝「Σちょ?!危なぁっ!?って…チ、チンク!?」

 

 

チンク「おやおや…避けては駄目だろう滝殿?それでは上手く当てられないではないか♪」

 

 

滝「お、お前もか!?ていうか挟み撃ち!?」

 

 

フェイト「追い詰めた!!サンダァァァァ!!スマッシャアァァァァァァァァァァァーーーーっっ!!!!�」

 

 

チンク「チェックメイトだ、滝殿……IS!ランブルデトネイターッ!!!!」

 

 

はやて「これで詰めや!!来よ、白銀の風!!天よりそそぐ矢羽となれ!!フレースヴェルグッ!!!�」

 

 

―ズドオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

滝「……あ、終わったっ…(涙)」

 

 

―…バシュゥンッ!ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

チンク「……む?」

 

 

はやて「……あれ?」

 

 

フェイト「……え?…滝?」

 

 

 

 

 

―ライダー少女Wの世界―

 

 

 

そして場所は戻ってライダー少女Wの世界。ディケイドの姿が変わったと同時にディケイドの周りに歪みが発生しそこから複数のデンカメンが現れディケイドの鎧に装着されていくと、ディケイドはディケイド・Climaxフォームへとフォームチェンジしていった。

 

 

ゼロス『?!変わった…?!』

 

 

D闘牙『―――…あれ?』

 

 

Dエクス『こ、此処は…?』

 

 

ディケイドC『うっ…暫くぶりとは言え…やっぱり気持ち悪い�』

 

 

ディケイドCは身体に装着されているデンカメン達を見て身体が疼痒く感じ、呼び出されたデンカメン達は自分の状態や周りの風景を見て少し困惑していた。

 

 

Dシヴァ『さ、さっきまで訓練所にいた筈なんだけど…それにこの姿って……』

 

 

Dキャンセラー『これってもしかして…まさかClimaxフォーム?!』

 

 

Dfirst『てことは…零!お前が呼んだのか!?』

 

 

ディケイドC『あぁ…すまないな皆�嫌だとは思うんだが、悪いがもう一度力を貸してく―――』

 

 

『―――ベストタイミング!!ありがとうっ!!!!(大泣)』

 

 

ディケイドC『……へ?』

 

 

何故か全員揃っていきなり泣きながらお礼を言い出したデンカメン達にディケイドCは訳が分からず唖然となってしまうが、そんな中レジェンドルガの大群が再びディケイドCとゼロスに向かって突っ込んできた。

 

 

ディケイドC『…ッ!と、取りあえず奴らを蹴散らすぞ!カノン、皆、行くぞ!』

 

 

ゼロス『あ、はい!』

 

 

『応っ!!!』

 

 

まだ少し戸惑った様子を見せながらもディケイドCはライドブッカーをSモードに展開しレジェンドルガ達に突っ込み、ゼロスはゼロスブッカーから一枚カードを取り出しドライバーへとセットしていく。

 

 

『FORMRIDE:SABER!』

 

 

電子音声が響くとゼロスの姿が青と銀を基礎にした姿……セイバーフォームへと変わり、手に握られた剣…ナイトブレードを構えディケイドCと共にレジェンドルガ達へと向かっていく。

 

 

『セェアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ザシャァッ!ズバアァッ!ザシュウゥゥッ!!―

 

 

『ウグオォォッ!!?』

 

 

ゼロスS『ヤアァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ズバァッ!ドオォンッ!ズシャアァァッ!!―

 

 

『ヌアァァッ!!?』

 

 

ディケイドCはデンカメン達と息の合った動きで巧みな剣捌きをレジェンドルガ達に繰り出し、ゼロスSも負けじと目にも止まらぬ速さの太刀筋でレジェンドルガ達を斬り飛ばしていく。

 

 

ディケイドC『ハアァッ!よし…今だ!行くぞ皆!』

 

 

『(あぁ) (はい)!!』

 

 

ゼロスS『はい!』

 

 

ディケイドCとゼロスSはブッカーからそれぞれカードを一枚ずつ取り出し自分達のドライバーに装填するとスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EXE!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:SABER!』

 

 

電子音声が響くとディケイドCの身体に装着されていたDエクス、Dキャンセラー、Dシヴァ、DfirstがディケイドCの両腕に装着されていき、それと同時にデンカメン達からエネルギーが放出されライドブッカーの刀身が黄金の光を放ち出し、ゼロスSの持つ剣も黄金の光に包まれていく。そして……

 

 

『ハアアァァァァァッ……シャイニングッ!!』

 

 

ゼロスS『エクスッ!!』

 

 

『カリバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!!!』

 

 

『ウ、ウガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!!?』

 

 

―ズバァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!ドゴオォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

ディケイドCとゼロスSの放った黄金の斬撃波が一つの閃光となってレジェンドルガの達に炸裂し、レジェンドルガ達は断末魔と共に爆発に飲み込まれ跡形もなく消滅した。そしてそれを確認したディケイドCは元の姿へと戻り、デンカメン達もそれぞれ自分達の世界へと戻っていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方、トランスとディケイド(ツカサ)とダブルはネビロスイリシットの攻撃を防ぎながら反撃していた。だがネビロスイリシットの猛攻は止まらず、痺れを切らしたトランスは懐から白銀のメモリを取り出しトランスドライバーへとインサートした。

 

 

『LUMINA!』

 

『LUMINA TRASC!』

 

 

電子音声が響くと煌めく様なメロディーと共にトランスの姿がオレンジから白銀となり、瞳の色も黄色へと変わっていく。これがルミナのメモリを使ったトランスのフォーム……トランス・ルミナフォームである。そしてトランスLはライドブッカーをGモードに切り替えると、銃口をネビロスイリシットに向けて構えていく。

 

 

トランスL『さぁ!此処からキツイの、ドンドン行くよ!シュートッ!!』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュンバシュン!!―

 

 

『ッ?!なッ?!ウグアァァッ!!?』

 

 

トランスLのライドブッカーから複数放たれた白銀の砲撃がそれぞれ軌道を変えながらネビロスイリシットに直撃し、ネビロスイリシットはそれらの動きに対処が間に合わず大ダメージを受けて吹っ飛んでいった。そしてそれを見たディケイド(ツカサ)は直ぐさまダブルの背後に回り、ライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーへとセットした。

 

 

『FINALFORMRIDE:D・D・D・DOUBLE!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『翔子、ちょっとくすぐったいよ』

 

 

W(翔子)『え…?ちょっ?!もしかして?!―ドンッ!―ウアァァッ!?』

 

 

ディケイド(ツカサ)が何をしようとしているのか理解したダブルは慌てて背中を隠そうとするが、ディケイド(ツカサ)は構わずダブルに背を向けさせて背中を開いていき、ディケイド(ツカサ)はダブルの背中に手を突っ込むと緑を基礎とした姿をしたダブル…『Wサイクロン・サイクロン』を引っ張り出し、更にダブル(翔子)は黒を基礎とした姿『Wジョーカー・ジョーカー』へと超絶変形したのであった。

 

 

トランスL『え……えぇ?!翔子ちゃんの中から…もう一人のダブル?!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『お~!おめでとう!元気な女の子ですよ~♪』

 

 

W(C)『…バブ~』

 

 

W(J)『うぅ…またこんな羞恥プレイをさせられるなんて…ていうかフィリスもそれいらないよ!!』

 

 

W(C)『…そう?私は結構気に入ってるんだけど』

 

 

ファイナルフォームライドをされた事に涙目になって叫ぶW(J)だが、それとは対照的にW(C)は楽しげに微笑んでいた。そして四人がそんな会話をしていると、ディケイド(ツカサ)とW達に吹っ飛ばされたネビロスイリシットがうねり声を上げながら近づいてきた。

 

 

W(J)『さぁて、こっからが本番だよ!』

 

 

『お前等ぁぁ!何処までも僕をコケにする気か?!』

 

 

W(C)『コケにするとかしないとか、そんな事にこだわってる辺りで器量が小さいと思うけど?』

 

 

トランスL『依頼者だからってずっと押さえてきたけど…もう手加減はしないからね!』

 

 

ディケイド(ツカサ)『そゆ事♪だから速めにケリを付けさせてもらうよ!』

 

 

ディケイド(ツカサ)はネビロスイリシットに向けてそう言うとライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーへとセットしてスライドさせ、それに続くようにトランスLもトランスドライバーにインサートされているメモリを引き抜きライドブッカーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:D・D・D・DOUBLE!』

 

『LUMINA!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

電子音声が響くと共にトランスはライドブッカーGモードの銃口をネビロスイリシットに向けていき、ディケイド(ツカサ)とW達は同時に上空へと高く跳び上がりネビロスイリシットに向けてキック態勢に入っていく。

 

 

『グゥ…そうさせるかぁっ!!』

 

 

ネビロスイリシットは上空から向かって来るディケイド(ツカサ)とW達に杖を向け迎撃しようとするが…

 

 

トランスL『やらせない!ルミナ、シャイニングブレイカアァァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥ…ズガアアァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

『な…ヌグアァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

トランスLはライドブッカーGモードを構えネビロスイリシットに巨大な白銀の閃光を放ってネビロスイリシットを怯ませ、その隙にディケイド(ツカサ)とW達はネビロスイリシットに跳び蹴りを放っていく。

 

 

『ヤアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

『ウ…ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーっっ!!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

ディケイド(ツカサ)とW達の必殺技、トリプルエクストリームがネビロスイリシットに炸裂し、ネビロスイリシットは断末魔を上げながら爆発に飲み込まれ爆発が晴れると変身が解除された誠が地面に倒れており、その近くには粉々に砕け散ったメモリが転がっていた。そしてそれを確認した四人は変身を解除したのであった。

 

 



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第九章/ライダー少女Wの世界⑰

 

―事件後、信条誠は警察に逮捕された。この事は大きなスキャンダルとして世間に広がり、それにより信条グループの株も一気に下がってしまい、近い内会社も潰れる予定となるらしく、高山望との婚約も取り消しとなった。

そして…今回の事件の犯人である小神 修二は警察に自首した。どうやら零達の言葉に彼自身の中で動かされるモノがあったらしく、メモリの力に頼らず今度は自分の力で彼女の隣に立つ為、罪を償おうと思ったらしい。そして、彼が今までさらった花嫁達は全て風都公園の中ある小屋の中に監禁されていたらしく、彼女達は無事警察に保護された。

そして高山望は自身の会社である高山コーポレーションを継いで社長となり、これからは自分の力で会社を経営していくつもりらしい。何時か帰ってくる彼を…今度は自分が守れるようになる為にと。 作成者 左 翔子―

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

―鳴海探偵事務所―

 

 

 

それから数十分後、戦いを終えた一同は探偵事務所の前に集まり翔子達はなのは達の見送りに来ていた。

 

 

翔子「…じゃあ、もう行っちゃうの?」

 

 

なのは「うん、まだ私達にはやる事が沢山あるからね」

 

 

カノン「僕もさっき父さんから連絡がありましたからね。何故かイライラしてるようでしたけど…�」

 

 

俊介「……それ、帰ったら弄られる可能性が高いんじゃないか?�」

 

 

裕香「…弄られますね、間違いなく�」

 

 

優矢「苦労人って不憫だよな…ホントに�」

 

 

何処かゲッソリとしているカノンの様子に思わず同情してしまう俊介と裕香と優矢。そしてすずかは翔子とフィリスと裕一と向き合い話をしていた。

 

 

フィリス「じゃあ…すずかも零達と一緒に行くんだね」

 

 

すずか「うん…翔子ちゃん…フィリスちゃん…裕一君…ホントに、今までありがとうございました…」

 

 

裕一「気にするな、俺達は仲間だろう?それは何処に居ても変わらないさ」

 

 

翔子「そうそう!だから何時でも帰ってきなよ♪此処はすずかの帰る場所の一つなんだから♪」

 

 

すずか「うん…うん!本当に…本当にありがとうっ」

 

 

優しげな表情を浮かべて見送る三人の言葉にすずかは顔を俯かせて涙を流し、三人はそんなすずかの背中を優しく撫でていく。そんな中、一同の写真をトイカメラで撮っていたツカサがある事に気付き、一同の顔を見回して疑問符を浮かべた。

 

 

ツカサ「…あれ?ねぇ皆、零はどうしたの?」

 

 

フェイト「え?…あ、そういえば…何処に行ったんだろう?」

 

 

カノン「あ、零さんなら先に写真館に戻ったみたいですよ?何だか別の用事が出来たとか言って…」

 

 

なのは「別の用事?もう、せっかく翔子ちゃん達が見送ってくれてるのにぃ…」

 

 

何も言わず勝手に写真館に帰った零になのはは不機嫌そうに頬を膨らませ、そんななのはの様子に優矢達は苦笑していたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

なのは達が鳴海探偵事務所にいる頃、先に写真館に帰った零は背景ロールのある部屋の中で何故か大輝と向き合い何かを話していた。

 

 

零「…それで?今度は一体何を企んでるんだ?」

 

 

大輝「あれ…?なのはさん達から聞いてないのか?君のその左目を治してくれる人を連れて来るってさ」

 

 

零「そんな事を聞いてるんじゃない!何故お前が俺の目を直すのに協力しようだなんて言い出しのか聞いてるんだ!」

 

 

相変わらず笑みを浮かべたまま話をはぐらかそうとする大輝に零は睨みをきかせながら叫ぶが、大輝は気にした様子もなく喋り出す。

 

 

大輝「別に君の手助けをするつもりなんてこれっぽっちもないさ。だけど…今の君のそれを放置していたら俺的にも都合が悪くなるからね。仕方なくやっているだけさ」

 

 

零「…?お前の都合が悪くなる…だと?」

 

 

大輝「そっ…意味が分からないって言うならその包帯取って自分で確かめなよ。それが答えになるから」

 

 

指鉄砲で零の左目を向けて来た大輝の言葉に零の表情は険しくなり、半信半疑に思いながらもおもむろに左目に巻いてる包帯を取ってみた。その時…

 

 

―……ズキィンッ!!!―

 

 

零「…ッッッッ!!!!?イッ…アッ!?なっ!?」

 

 

包帯を取り外した途端左目にとてつもない痛みが走り、零は思わず左目を抑えてその場に膝を付いた。その時……

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

『本当に馬鹿な男ね…人間の女に心を許したりしなければ、そんなに苦しむ事もなかったのに…』

 

 

 

 

零「…ッ?!これ…は?!」

 

 

不意に脳裏に浮かんだ映像とノイズ……それはあの時の夢で見たモノと同じ現象だった。だが今流れた映像に出たのは、リィル・アルテスタという少女とは違う別の女性であった。

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

『自分の役割を忘れた貴方に生きる価値なんてない…死になさい、零…』

 

 

 

 

零「ウッ…アッ…!」

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

『ッ…フフ…忘れたの…?私と貴方が消えれば世界のバランスが崩れる…いずれこの世界は滅びへと向かう…貴方のこの選択が…全ての世界を滅ぼすのよ!』

 

 

 

零「グッ…ガァッ…!」

 

 

脳裏に流れる映像の数々。頭の中がパンクしてしまいそうな膨大な情報の数に零は頭を抑えて悶え苦しみ、大輝は何処からか手鏡を取り出して零の前に歩み寄り手鏡を見せた。

 

 

大輝「ほら、良く見てみなよ。君の左目が今どうなっているのか…」

 

 

零「グッ!な…に…?」

 

 

大輝の言葉に零は左目の痛みに耐えながら顔を上げていき、目の前に突き出された手鏡に目を向けていく。そこには…

 

 

零「………………え?」

 

 

手鏡に写った自分の顔を見ると零は呆然とそう呟いた。手鏡に写っているのは、何故か潰れた筈の眼球が元に戻っており、傷も完全になくなっている左目だったのだ。だが、零が驚いたのはそれだけではなく…

 

 

零「……何だ…コレ…」

 

 

鏡に写った自分の左目の瞳を見て驚愕の表情を浮かべる零。鏡に写る自分の左目の瞳の色は本来の真紅の瞳ではなく、"禍禍しい光を放つ紫の瞳"だったのだ。

 

 

零「…何なんだコレ…俺の左目、一体どうなってるんだ…」

 

 

大輝「…それは無理矢理に因子(ファクター)を取り戻した影響だ。そのまま放置していたらいずれ君は力を押さえ込めず、暴走して全てを破壊し続ける化け物になってしまう…だから俺は、ソレを直せる人物を連れて来たんだよ」

 

 

大輝はそう言って部屋の入り口の方に目を向けると、入り口の方から二人組の男女が部屋の中へと入って来た。

 

 

零「ッ?!お、お前は…?!」

 

 

真矢「…よぉ、久しぶりだなディケイド。また面倒な目に合ってるみたいじゃないか?噂通りの苦労人だな…」

 

 

ヴィヴィオ「もう真矢っ!失礼な事言わないの!この人はパパの友達なんだからね?!」

 

 

部屋に入って来た二人組の男女…それは以前firstの世界で出会った仮面ライダーヴィヴィッドの変身者、天来真矢と別世界のヴィヴィオだったのだ。

 

 

零「ッ…!どういう事だ…何故お前が此処にいる?!それにそのヴィヴィオは…いやそれ以前に、何故お前と海道が?!」

 

 

真矢「…相変わらず質問が多い奴だな。だが悪いな、こっちはお前の質問に答える気はない。俺達が此処に来たのは…コレを渡しに来たってだけなんだから」

 

 

真矢は質問を投げ掛けて来る零にそう答えると、自分のポケットから小さな箱と一枚のカードを取り出してそれを零に投げ渡した。

 

 

零「…?コレは…?」

 

 

真矢「その箱の中には特殊な力が秘められたレンズが入ってる。それを目に入れておけばお前に埋め込まれた因子の力を押さえ込めるハズだ。そしてそのカードは……いずれお前に必要となるカードだ」

 

 

真矢がそう説明すると零は恐る恐る箱を開き、そこに入ってるコンタクトレンズを険しげに見つめると今度は受け取ったカードに目を向ける。そのカードは零が持っているライダーカードと同じシルエットだけとなったカード。そのライダーの名は……

 

 

零「……Wのカメンライドカード?」

 

 

真矢「どっかの悪魔から聞いてるだろう?お前がいずれ出会う事になるW…その時にそのカードは力を取り戻すハズだ。だからその時までソレを持っておけ」

 

 

シルエットとだけとなっているWのカメンライドカードを不思議そうに見つめる零にそう言うと突然真矢達の背後に歪みの壁が現れ、真矢達はそれを通り抜けようと歩き出した。

 

 

零「…ッ?!オイ待て!何故だ…何故お前が俺にこんな事を?!」

 

 

真矢「…言っただろ?質問に答える気はないと。だが一つだけ教えられるとしたら…firstの世界でお前と戦ったのはお前が何処まで記憶を取り戻しているのか試しただけだ。全ての記憶を取り戻したその時…お前はその罪に溺れて破壊者に墜ちるのかどうか…見届けさせてもらうぞ?」

 

 

ヴィヴィオ「でも、私達は信じてるよ?貴方ならきっとそれを乗り越えられるって思ってるから♪」

 

 

大輝「ま、俺は別にお宝を手に入れるのを邪魔さえされなければどうでもいいんだけどね。そんじゃ…またな零♪」

 

 

自分の過去を知っているのかと問い掛ける零に三人はそう答え、歪みの壁と共にその場から消えてしまったのであった。

 

 

零「クッ!一体何なんだ…俺の罪?因子(ファクター)?リィル・アルテスタ?…分からない……俺は……俺は一体……誰なんだっ…」

 

 

その場に残された零は三人が消えた場所を見つめながら呆然と呟き、未だ禍禍しい紫色の輝きを放つ左目を押さえ込んでいた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてそれから数十分後、翔子達とツカサ達と別れたなのは達は真っすぐ写真館に戻り、カノンは写真館の前で待っていた智大に連れられ自分の世界へと帰っていき、なのは達は先に部屋の中で待っていた零の説教をしている最中であった。

 

 

なのは「もう、なんで先に帰ったりするの!折角翔子ちゃん達が見送りをしてくれたのに!」

 

 

零「…だからさっきから言ってるだろう。海道の奴に左目の件で呼び出されたんだって…」

 

 

フェイト「ならせめて一言言ってよ、いきなりいなくなったら心配するから…」

 

 

零「…分かった。今度から気を付ける…」

 

 

『……?』

 

 

カメラの手入れをしながらそう答える零だが、何処か何時もの様子とは違う零になのはとフェイトは違和感を感じていた。だが、零はそんな二人の様子に気付かず本来の真紅の瞳に戻った左目に触れながら思考する。

 

 

零(…アイツからもらったレンズで左目の輝きも痛みも消えた…だが、一体何なんだ…あの時クアットロが埋め込んだあの石は?それにあの墓とあの映像…俺は…俺は一体…?)

 

 

消えた筈のアリシア・テスタロッサとリインフォース、そしてルーテシアが敵として自分の前に現れた事。

 

クアットロが自分の左目に埋め込んだ因子(ファクター)と称していた謎の黒い石の事。

 

夢に出てきたリィル・アルテスタという少女の映像のとその少女の墓の事。

 

そして自分が失った過去を知るヴィヴィット達の事。

 

この世界に来てから起きた様々な出来事にワケが分からなくなり、零は一体何から考えればいいのか分からなくなっていた。そんな中で頭に浮かび上がるのは、この世界に来て始めて見たあの夢の声……

 

 

 

―どんなに否定しようが、所詮お前は殺戮者…お前の犯した罪は消えやしない…アイツ以外でお前に感情という物をくれた…"あの子"を殺したという事実も…な?―

 

 

 

零(…あの夢で聞こえた声やヴィヴィットは…俺には罪があると言った…俺の…罪…あの子を殺したって…何の事だ…)

 

 

自分の過去に一体何が起きたのか…以前の自分はどんな人間であり罪とは何の事なのか…そしてあの少女は一体何者だったのか。どんなに考えても何一つ分からない。遂にはもう、自分が何者なのかすら分からなくなって来た。

 

 

「―――零君?…零君!」

 

 

零「―――ッ?!…なのは?どうした?」

 

 

なのは「もぉ…どうした?じゃないよ!さっきから呼んでるのに全然答えてくれないし…ホントにどうしたの?何だか変だよ?」

 

 

零「……いや、たださっきの戦闘で疲れてるだけだ。気にするな…」

 

 

なのは「むぅ……」

 

 

淡々とした口調で何でもないと告げる零だが、なのはは納得出来てないのか腑に落ちないような表情で零を見つめる。そんな時、別のテーブルでスバル達と共に絵かきをしていたヴィヴィオが数枚の絵を持って零達に近づいてきた。

 

 

ヴィヴィオ「パパ~!ママ~!見てみて!上手に描けたよ~♪」

 

 

なのは「ん?…あっ、ホントだ♪凄いねヴィヴィオ、上手に出来てるよ♪」

 

 

ヴィヴィオ「えへへ~♪ねぇパパ、パパも見て!」

 

 

なのはに絵を褒められたヴィヴィオは嬉しそうに笑いながら零に自分が持って来た絵を見せていく。紙に書かれているのはディケイドやトランスにビート、零達の似顔絵等様々な絵が上手に描かれていた。

 

 

零「おっ…凄いなヴィヴィオ、上手に描けてるじゃないか。良く出来たな」

 

 

ヴィヴィオ「えへへ♪」

 

 

ヴィヴィオの描いた絵達を見て零はヴィヴィオの頭を撫で、零に褒められたヴィヴィオは満面の笑顔を浮かべていく。しかし、そんなヴィヴィオの笑顔を見ていく内に零の中で一つの不安が沸き上がってくる。

 

 

零(もし…もし俺が全てを思い出して…自分の正体を知ったら…俺はその時この子と…コイツ等と一緒に…いられるのか…?)

 

 

もしも自分がヴィヴィオやなのは達の身に危険をもたらす存在だというのなら、そんな自分は彼女達と共にいられるのか。そんな不安が零の胸の中を駆け巡り、その表情も段々と曇り始めていく。

 

 

ヴィヴィオ「……?パパ?どうしたの?」

 

 

零「…ん?…いいや、何でもないさ」

 

 

ヴィヴィオ「?」

 

 

不思議そうに顔を覗き込んできたヴィヴィオに苦笑しながら零はヴィヴィオを膝元に座らせ頭を撫でていく。

 

 

零(…止めよう…今の俺がすべき事ははやて達と俺達の世界を救う事だ。だから……だからコイツ等に余計な心配を掛けては駄目なんだ……)

 

 

なのは「ほらヴィヴィオ、さっきディード達が作ってくれたクッキーだよ~♪」

 

 

ヴィヴィオ「わーい♪クッキーだぁ~♪」

 

 

零(…そうだ…例え俺が…道を踏み外してコイツ等を危険な目に合わせたとしても…稟や滝達がいるんだ。アイツ等ならきっと……きっと俺を……)

 

 

自分が一体何者なのか依然として分からない。だが、自分の正体が何であれ今やるべき事ははやて達と自分達の世界を救う事。だから今はその役割を果たすことだけを考えればいい。例えその役目を果たした先で…自分が消えることになろうとも。

 

 

―ガチャッ―

 

 

栄次郎「零君、君が撮ってきた写真の現像終わったよ。今回も中々の上出来だったね♪」

 

 

優矢「おっ!待ってました♪」

 

 

ギンガ「えぇっと…あっ、本当だ!今回も良く取れてますね♪」

 

 

スバル「うん!特にこれとかね♪」

 

 

部屋へと入ってきた栄次郎が持って来た写真の中からスバルが一枚の写真を抜き取る。それには鳴海探偵事務所の前で翔子達が笑顔で写る姿が写っていた。

 

 

ザフィーラ「成る程…また腕を上げたようだな、黒月?」

 

 

零「…そうか?自分で見ても良く分からないんだが…まあ、そう言われて嬉しくないって事はないな。それより…さっさと次の世界に行くぞ」

 

 

シャマル「あっ、それじゃあ私が背景ロールを降ろしますね?」

 

 

次の世界に向かう為椅子から立ち上がろうとする零にシャマルが名乗りを上げ、背景ロールに近づき操作し始める。すると…

 

 

―ガチャッ、ガラガラガラガラッ…パアァァァァァァァァァァアンッ!―

 

 

ヴィータ「おっ、また次の世界に着いたのか?」

 

 

零「みたいだな。この世界は……」

 

 

ティアナ「これは…壁画?」

 

 

シャマルが操作して現れた新たな絵には、まるで何かの神殿等で描かれていそうな神秘的な雰囲気を思わせる壁画のような絵であった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―???の世界―

 

 

 

一方その頃、ライダー少女Wの世界でヴィヴィッド達からまぬがれたクアットロは暗い部屋の中で一人の男……同じくライダー少女Wの世界に現れたシャドウと何やら怪しげな会話をしている姿があった。

 

 

シャドウ「……ではクアットロ、作戦についてはまた後日連絡しますので」

 

 

クアットロ「えぇ、楽しみにしてますわ♪」

 

 

シャドウはクアットロにそれだけ伝えると部屋から出ていき、それと同時にクアットロの背後の暗闇から一人の女性…ドゥーエが険しい表情を浮かべながら現れた。

 

 

ドゥーエ「クアットロ…またあのシャドウとかいう男が来たの?」

 

 

クアットロ「えぇ、何でもあのディケイド達を徹底的に潰す作戦を考えて下さったみたいですよ?流石は、あのイリシット達を総でる男と言うべきかしら」

 

 

ドゥーエ「そう…でも私は嫌いだけどね。あの男、一体何を考えているのか分からないもの」

 

 

クアットロ「まあ…確かに完全には信用出来ない男ですけど、今の私達には頼りになる存在だと思いますよ?何せ、魔界城の世界で戦力を失った私達が此処まで立て直せたのも彼等のお陰ですし、傷がまだ完治していないドクターが目覚めるまではと協力を申し出てくれたんですから」

 

 

ドゥーエ「…そうね…それについては認める。彼等は優秀で力のある組織だけど…それとは別に私はあの男が好きになれない…」

 

 

シャドウに対して嫌悪感を口にして壁にもたれ掛かるドゥーエだが、そこでふとある事を思い出しパネルを操作しているクアットロに話し掛けた。

 

 

ドゥーエ「…そういえばクアットロ、あれは一体どうなったの?確か…ロストの第七のメモリとかいうあのガジェットの件」

 

 

クアットロ「ガジェット?…あぁ、レジェンドメモリのことですか?実はその件について色々と厄介な事になってるんですよね~」

 

 

ドゥーエ「?厄介な事?」

 

 

クアットロ「えぇ。ダブルのファング・ジョーカーを匹敵する力を持ったレジェンドメモリ……作ったのはまあいいんですけど、その後はぜ~んぜん言うことを聞いてくれないんですよ。だから今は地下にある部屋に閉じ込めてるところなんですけどぉ…何がいけないんですかねぇ?」

 

 

困ったように顎に手を添えるクアットロだが、すぐに気にを取り直し懐から二枚のカードを取り出した。

 

 

クアットロ「まぁ、レジェンドの制御は時間を掛ければなんとかなるでしょう。その間、お嬢様にはこれを使ってもっとパワーアップしてもらう予定ですけどね♪」

 

 

ドゥーエ「!それは…サバイブ―獄風―と―獄炎―?!もう完成していたの?!」

 

 

クアットロ「えぇ♪シャドウの持って来たデータを元にしましてね、これでもしディエンドやヴィヴィッドが現れたとしても返り討ちですよ♪」

 

 

ドゥーエ(っ…シャドウ…ロストやガリュウ、ガイアメモリの件もそうだけど、何故ここまで私達に協力するというの?あの男の目的は一体……厄介事になる前に、一度奴等について調べてみた方がいいかもしれないわね)

 

 

此処まで自分達に協力してくるシャドウの考えが逆に怪しく思い始めたドゥーエはシャドウ達について調べようと部屋を出ていき、それを横目で確認したクアットロは電子パネルを操作し一つのモニターを映し出した。

 

 

クアットロ「フフフ…ディケイドの左目に埋め込んだ因子が完全に覚醒した時、あの男は破壊者…いいえ、破壊者をも越えた破壊者として目覚める。そうなればディケイドが関わった世界は全て破壊される事になる…ライダー大戦が始まる」

 

 

クアットロが見つめる電子モニターに映るのは零達が今まで関わったライダー達の世界。その中には優矢の世界を始め、滝や稟、祐輔や智大達の世界等も含まれていた。

 

 

クアットロ「ディケイドの因子が目覚めライダー大戦が起こった時、創造の因子を持つあのライダーが必ず現れる筈…そうなれば一気に二つの因子を手に入れることが出来る。フフ…その為にもせいぜい友人同士で戦ってもらいましょうか、ディケイド?」

 

 

モニターに映る映像を見つめ怪しく微笑み出すクアットロ。そして再びパネルを操作して出た映像には画面一杯に赤い文字で一文字……『DEREYDE』と浮き出ていた。

 

 

 

 

 

 

第九章/仮面ライダー少女Wの世界END

 

 

 





仮面ライダーガリュウ


解説:クアットロがシャドウの持ってきたリュウガのカードデッキを改造して作り上げたルーテシア専用の龍騎系ライダー。
外見は薄紫色のアンダースーツの上にガリューの姿に似たドレス系の黒い装甲を纏っている。改造前がリュウガのカードデッキということもあって、ドラグブラッカーも契約モンスターに含まれている。


召喚機甲・ガリュウバイザー

解説:外見はナイトサバイブのダークバイザーツバイを紫に染めたような感じでガリューの頭部を模している。


ADVENT:ガリューを召喚する。

STRIKE VENT:ガリューの爪を模したガリュークローを装備する。

TRICK VENT:ナイトと同じく分身を発生させる。

SONIC VENT:クロックアップ並のスピードで移動する。

FINAL VENT:ガリューを召喚し、目にも見えない素早い動きで敵を殴り付け最後に相手を掴んでガリュウに向かって突進し、そこへガリュウがガリュークローで向かって来た相手の腹部を貫通する技。

ADVENT:ドラグブラッカーを召喚する。

SWORD VENT:ドラグセイバーを装備する。

GUARD VENT:ドラグシールドを装備する。

STRIKE VENT:ドラグクローを装備する。

FINAL VENT:ドラゴンライダーキックを発動する。

パワーアップカードとしてサバイブ―獄風―と―獄炎―のカードが存在するらしいが、詳細は不明。



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界

 

 

 

ライダー少女W、元時の神の世界での役目を終え次の世界に旅立った零達一行。次の世界にやって来たその日の朝、一行はこの世界について知る為に今朝届いた朝刊や週刊誌を読んでいた。そんな時、朝刊を読んでいた優矢とスバルはある見出しに目が止まり我が目を疑った。何故なら…

 

 

優矢「未確認…生命体…?学者はグロンギと呼んでいるだって?!」

 

 

スバル「未確認生命体って…そんな、どうして?!」

 

 

そう、朝刊に書かれていた内容とは未確認生命体……クウガの世界の怪人であるグロンギについて書かれていたのだ。優矢とスバルがその内容を見て驚く中、奥から珈琲を持って現れた栄次郎が席に座りテレビの電源を入れた。

 

 

『あっ、たった今警視庁の特殊対策班とアンチスキルが到着しました!これから未確認生命体との戦闘が始まります!まだ付近に残っている住民は速やかに避難を始め――』

 

 

なのは「ッ!この怪人って…まさか…?!」

 

 

栄次郎「あれ?これどっかで見た事あるね?」

 

 

零「…グロンギ…未確認生命体…か」

 

 

テレビに流れる映像…警察とグロンギが戦う真っ最中の中継を見て優矢、なのは、スバル、ティアナの四人は困惑し零は椅子にもたれながらそのニュースを見続けていた。

 

 

ギンガ「…あの、グロンギって何なんですか?」

 

 

なのは「…ゲゲルっていう殺人ゲームで人を襲っていた古代から蘇った戦闘種族。以前零君と優矢君がクウガの世界で戦って倒した…筈なんだけど…」

 

 

スバル「…もしかして私達…クウガの世界に逆戻りしちゃったのかな…?」

 

 

零「さぁ…だがまあ、心配する必要はないんじゃないか?此処が本当にクウガの世界なら未確認生命体4号…クウガがいるだろ?」

 

 

優矢「いやクウガは俺だろ!ったく………ん?」

 

 

からかうように笑いながら言った零に優矢は慌ててそう言うと再びテレビの中継に視線を戻していくが、テレビに映るある物に気付き呆気に取られてしまった。それは……

 

 

優矢「……………なんじゃありゃ……」

 

 

優矢が見た物……それは青い重厚な装甲を身に纏った赤い瞳のロボットのようなライダーであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

場所はテレビの映っていた警察とグロンギが戦う中継場所に移り、そこでは青いロボットライダーが若干ふらつきながらグロンギに向かって歩いていた。だが、何故か周りの警官達はその青いロボットライダーを見た途端ざわめき始め、中にはその青いロボットライダーから離れていく警官達の姿もあった。

 

 

「ちょ、あれって…G3-X?!アレを出したの?!」

 

 

「ぜ、全員アレから離れろ!巻き添いを喰らったらおしまいだぞ!」

 

 

現場に現れた青いロボットライダー…G3-Xを見た警官の一人が他の警官達にそう叫んで現場から下がらせていき、その中にいた肩まである茶色い髪の少女はげっと顔を引き攣らせていた。そしてG3-Xはグロンギに向かって前に進もうとするのだが、その途中足をふらつかせてしまい近くにあったパトカーに手を掛けようとするが…G3-Xの手が触れた瞬間パトカーは吹っ飛んでしまった。

 

 

『ウアアァァッ!!?』

 

 

「ゴラアァァァァァッ!!何やってんだぁ!?」

 

 

G3-X『ヒッ?!す、すんません!パワーが抑えられなくて…!』

 

 

怒鳴られたG3-Xはビクッと身体を震わせながらすぐに態勢を直し慌てて周りの警官達に向かって頭を下げていく。だが…

 

 

『言い訳なんてするな青髪ピアス!前を見なさいっ!前を!!』

 

 

G3-X『ッ?!は、班長?!』

 

 

G3-Xの通信機から怒鳴り声が響き、それを聞いたG3-Xは震えながら言われた通りグロンギの方へと振り向いていく。

 

 

G3-X『ほ、ホンマにええんですか?!前回だって上の方からこっぴどく叱られて…!�』

 

 

『口より先に手を動かせ!G3-Xが最高傑作だって事を証明するの!良いわね?!』

 

 

G3-X『は、はいぃ!!』

 

 

まるで鼓膜を破ってしまいそうな勢いで聞こえてきた通信機からの怒鳴り声にG3-Xは恐怖の余り思わず敬礼し、すぐにグロンギに身構えていく。

 

 

『リントゲ…バクラセゲゲルンジャラボ!(人間め…あくまでゲゲルの邪魔を!)』

 

 

グロンギは怒りで身体を震わせながらG3-Xを睨みつけ、G3-Xは腕に巨大なナイフを装備したアームを装着してグロンギに斬り掛かっていく。だが、動きが鈍い上にふらついているせいか刃はグロンギに当たろうとはせず、攻撃は次々とかわされる一方であった。

 

 

『GX-05、使用許可』

 

 

G3-X『うえぇ?!いいんですかホントに?!どうなっても知りませんよぉ!』

 

 

最早どうにでもなれとG3-Xは自棄になりながら何処からかアタッシュケースの様な物を取り出すと、それを大型銃に組み替えグロンギに向けて乱射していく。

 

 

G3-X『オリャアァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!―

 

 

『ウ、ウオアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドゴオオォォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

GX-05から放たれた強力な連射弾を受けたグロンギは大爆発を起こして消滅していくが、パワーの歯止めが効かず近くに停めてあったパトカー等にまで弾が直撃してしまい爆発を起こしてしまった。

 

 

「キャアァッ!?」

 

 

「た、退避だ!!退避ぃーーーーーーっ!!!」

 

 

G3-X『あわわ…す、すんません!ホンマにすんません!すんません!』

 

 

戦いが終わり、グロンギは倒したものの…先程の爆発による被害はグロンギによる物より大きく、その原因であるG3-Xは周りに向かって必死に頭を下げ続けその場にへたれ込んでしまった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして場所は光写真館に戻り、G3-Xとグロンギの戦いを中継で見ていた優矢達は唖然としていた。

 

 

ディエチ「これは…なんていうか…�」

 

 

オットー「…戦い方が目茶苦茶過ぎる…�」

 

 

チンク「そうだな…見た所驚異的なパワーを持っているようだが、それを完全に制御出来ていないようだ…�」

 

 

零「成る程、確かにこれならクウガは必要ないか…」

 

 

優矢「な、何なんだよコレ…俺の世界ならグロンギは全部消えたハズだし、こんな変なロボットだっていなかったぜ?!………ん?」

 

 

自分の世界と似ている様で違う点が所々あるこの世界に優矢は混乱してしまうが、中継が何処かの警視庁に変わり一人の女性がマスコミに叩かれている光景が映された。それを見た優矢は信じられない物を見たかのように目を見開き、それを一緒に見ていたスバルも同じような表情をしていた。

 

 

スバル「そんな…まさか、あれって…?!」

 

 

優矢「……姐…さん…?」

 

 

そう、テレビに映ったその女性とは以前クウガの世界で優矢をサポートし優矢の支えでもあった綾瀬だったのだ。そしてマスコミからの質問攻めを無視して歩いていた綾瀬だが、遂に辛抱出来なくなったのかマスコミに向かって大声で怒鳴り出した。

 

 

綾瀬『もういい加減にして下さい!!ご覧の通りG3-Xは完璧なんです!!問題など何一つありません!!』

 

 

『ですが!G3-Xによる被害は日に日に大きくなってるんですよ?!グロンギ相手にあれだけの過剰なパワーが本当に必要なんですか?!』

 

 

綾瀬『グロンギもパワーアップしています!それに、いつグロンギを越える敵が現れるか分かりません!!どんなに反論されようが、G3-Xはこれからも実戦投入していきます!!話はそれだけです!!』

 

 

綾瀬はマスコミに向かって怒鳴りながらそう叫ぶと再び速足で歩き出し、記者達はまだ納得出来ないのかそんな綾瀬の後を追っていく。

 

 

優矢「…姐さん…綾瀬の姐さんだ!」

 

 

キバーラ「姐さんって?誰よ?ねぇ優矢~?」

 

 

優矢「…うるさい!」

 

 

キバーラ「きゃうっ?!」

 

 

姐さんと呼ばれる綾瀬の事を聞こうと優矢に近づいて何度も問い掛けるキバーラだが、優矢は邪魔だと言わんばかりにキバーラを手で払いのけ綾瀬が映るテレビを食い入るように見つめ、なのはは壁に激突したキバーラを手の平に乗せて語り出す。

 

 

なのは「…綾瀬刑事…優矢君の大切な人だったんだ。でも、亡くなったの…グロンギとの戦いで…」

 

 

『……え?』

 

 

なのはから語られた事実にキバーラだけではなくフェイト達も衝撃を受けたように声を漏らし、事情を知るスバルとティアナも暗い表情で顔を俯かせてしまう。そんな中で零はテレビから視線を外し椅子にもたれながら口を開く。

 

 

零「だが、これでハッキリしたな。此処はお前のいた世界と似ているが、全くの別世界という訳だ。だから死んだ筈の綾瀬刑事も生きている」

 

 

優矢「…それでも…姐さんは姐さんだよ…」

 

 

優矢はそう言って嬉しそうに綾瀬が映るテレビを見つめた後部屋から飛び出して写真館を出ていった。

 

 

ギンガ「ちょ、優矢君っ?!何処に行くの?!」

 

 

零「ほっとけ…どうせ綾瀬刑事がいる警視庁だろう?一々行動パターンが判りやすい奴だ」

 

 

写真館から飛び出して行った優矢を気にかけるなのは達だが、零は特に気にした様子もなく栄次郎の容れた珈琲を口に流し込んでいく。そんな時…

 

 

―ガチャッ―

 

 

「……此処か?零達の居る光写真館と言うのは?」

 

 

「みたいだね。それにしても…結構オシャレな写真館だよね~」

 

 

零「ん?…ッ?!お前等は?!」

 

 

突然部屋の中へと入り中を見渡す見慣れない二人組を見て零は目を見開いて驚愕し、なのは達もその二人を見て呆気に取られていた。何故ならその二人組とは…

 

 

幸村「…中はどうやら騒がしいようだな」

 

 

なのは(幸)「噂で聞いてたけど…本当に大人数だね�」

 

 

零「お前等…"真田幸村"に幸村の所のなのは?!」

 

 

そう、写真館に訪れたその二人組とは平行世界の住人である"真田幸村"、そして幸村の世界の高町なのはだったのだ。予想外の来客に零は驚きを隠せないまま二人の元に歩み寄っていく。

 

 

零「どうしたんだお前等?稟や祐輔の所はともかく俺の所に来るなんて…しかもこんな朝っぱらから。何か用事か?」

 

 

幸村「いや、事情なら後で説明する。取りあえず今は…この少女をそこのソファーに寝かせてもらっていいか?」

 

 

零「…?少女?」

 

 

自身の背中を見つめながら言った幸村の言葉に困惑しながら零は幸村の背中に視線を移すと、そこには幸村の背中に抱えられて眠るシスターのような格好をした銀髪の少女の姿があった。

 

 

零「…あぁ…成る程…また厄介事か…」

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてそれから暫くして、取りあえず銀髪のシスターをソファーに横にさせた後幸村となのは(幸)から話を聞く事にし、零達は二人にケーキと珈琲(栄次郎作)を出して話を聞いていた。

 

 

零「―――つまり、お前達は自分の世界のユーノと少しでも和解出来る方法が何かないかと俺の所に訪れ、あのシスターもどきは此処に来る際にそこの庭の前で行き倒れていた所を見つけ此処まで運んで来たって事か…」

 

 

幸村「あぁ…滝や祐輔達にも相談に乗ってもらったんだが、お前の意見も聞きたかったんだ。お前も祐輔と同じスクライアと長い付き合いで幼なじみらしいからな…」

 

 

零「……そうだな……俺も祐輔達から話しは聞いていたが…あまり深くは考えていなかったなぁ…」

 

 

幸村の世界のユーノについては前々から話しを聞いていた零だが、祐輔や滝等のアドバイスを受けていたらしいから余り気には留めていなかったらしい。そしてその問いを持ち掛けられた零はカメラを弄りながら少し考えると…

 

 

零「ふむ…まあ確かに色々と面倒な展開だな。そっちの世界のユーノは真田幸村という人間性を"殺人鬼"という名目でしか認識していない。だからお前のことを庇う機動六課の皆やそこのなのはから孤立してしまい自分を見失ってしまったんだろう?」

 

 

幸村「あぁ…その事は祐輔達と話して良く分かった。だから、俺はスクライアと正面から全力でぶつかり合いアイツを連れ戻す。その後にアイツと話し合って…」

 

 

零「戦いの後に話し合うか…まあ確かにそれが良いだろうが、俺はそれだけじゃユーノの怒りと憎しみを癒せないと思うな…」

 

 

なのは(幸)「え…?」

 

 

幸村「何…?」

 

 

フィルターを覗いて幸村達の写真をカメラに納めながら呟いた零の言葉に幸村となのは(幸)は疑問の声を漏らし、零は更に言葉を続ける。

 

 

零「お前等も知ってる通り今のユーノは幸村に対しての憎しみと怒りに囚われているんだ。その憎しみもきっと深いものに違いない…もしアイツに勝って六課に戻させて話し合ったとしても、アイツの憎しみまでは言葉だけで癒せるとは思えない」

 

 

なのは(幸)「そ、そんな…でもユーノ君だって、ユキくんと話せばちゃんと分かってくれるかもしれないし!�」

 

 

零「……人の感情は言葉で完全に理解出来る程上手く出来ちゃいない。しかも、そっちのユーノは感情的に動き過ぎてるようだしな…例え話し合って納得は出来たとしても、コイツに対する憎しみや怒りまでは心の何処かに残ってしまう可能性はある。何せそっちのユーノはお前達に見離された事を除いて、幸村にお前を取られた事を根に持ってるみたいだし…」

 

 

なのは(幸)「そんな…それじゃあ…私達は一体どうしたら…」

 

 

幸村「………」

 

 

零の言葉を聞いて二人の表情は段々と雲っていき、それを見た零は一度溜め息を吐くと再び口を開いていく。

 

 

零「まあ…確かにただ戦うだけならアイツは完全には納得出来ないかもしれないが…アイツの憎しみと怒りを受け止めて戦えば状況は違って来るかもしれないぞ?」

 

 

幸村「…?スクライアの憎しみと怒りを…受け止める?」

 

 

零「あぁ…ただ止めるってだけじゃ効果はあまり望めないが、アイツの心も理解してやればお前達の思いも届くかもしれない。人って言うのは互いを理解し合って始めて繋がりを得る事が出来る…幸村のことだけを理解してもらうんじゃなく、ユーノの思いも理解してやらないと駄目だ。アイツのアレは元々、なのは達の身を心配してからのモノだったに違いない。だがそれをお前達に理解してもらえず、皆から見離されて一人になってしまった…それが歪んでああなってしまったんだろうからな」

 

 

なのは(幸)「うん…それは良く分かってる…」

 

 

零「なら…ユーノの気持ちもちゃんと理解してやれ。そしてそれをちゃんと受け止めた上でユーノと戦え。お互いの言いたい事を全力でぶつけ合えば、ユーノの奴だってきっと満足するだろう。アイツは根は優しい奴だし…きっとお前達の事も認めてくれると思うぞ」

 

 

幸村「スクライアの憎しみを理解し、全力で受け止める…か。出来るだろうか…俺に…」

 

 

零「いいや…これはお前にしか出来ない事だ。お前の兄…真田信幸と戦ったお前にしかな」

 

 

幸村「…ッ!?何故兄さんの事を!?…そうか…祐輔から聞いたんだな?」

 

 

零「大体の話しは聞いてる…お前の兄はきっと、嘗てのお前の憎しみを受け止めた上でお前と戦ったに違いない…その役目が、今度はお前に回ってきたんだと俺は思うんだがな」

 

 

幸村「…兄さんが俺の憎しみを受け止めてくれたように…俺もスクライアの憎しみを受け止める…か」

 

 

なのは(幸)「…ユキくん」

 

 

零から伝えられた言葉を口にする幸村。なのは(幸)はそんな幸村の様子を横からジッと見守っていた。

 

 

零「まぁ、俺から伝えられる事は此処までだ。祐輔達のようにちゃんとしたアドバイスは何も出来なかったと思うが…」

 

 

幸村「…いや、十分参考になった。ありがとう…」

 

 

なのは(幸)「ありがとうございます、零さん」

 

 

零「別に礼を言われるような事は何も言ってないさ…それより、お前達が連れて来たあのシスターだが…」

 

 

零はそう言って一度幸村達との会話を切るとソファーで眠っている銀髪のシスターに近づいていき、その隣で銀髪のシスターの看病をしていたシャマル達に話し掛けた。

 

 

零「どうだ、そいつ目を覚ましたか?」

 

 

シャマル「いいえ…何だかさっきからうなされるてるみたいなんですけど、まだ目が覚めるような気配はなくて…」

 

 

零「そうか…全く、それにしても何なんだコイツは?庭で行き倒れるシスターなんて聞いた事ないぞ?」

 

 

幸村「さあな……だがその少女、何処かで見た事あるような気が…?」

 

 

呆れたような視線を銀髪のシスターに向ける零の隣で幸村はそのシスターに見覚えがあるらしく、まじまじと銀髪のシスターを眺めていくが……

 

 

なのは(幸)「むぅ…ユキくん…そんなにその子が気になるの…?」

 

 

幸村「ん?…何だ、もしかして妬いてるのか?」

 

 

なのは(幸)「だって…ユキくんにはあまり私以外の女の子を見て欲しくないんだもん…//」

 

 

幸村「フッ……馬鹿だな。そんな事気にしなくても、俺はお前一筋に決まってるだろう?」

 

 

―ナデナデナデ…―

 

 

なのは(幸)「うにゃ~//」

 

 

『(うわぁ…あ、甘いっ)』

 

 

幸村に頭を撫でられて幸せそうに微笑むなのは(幸)を見て思わずたじろぐなのは達。そんな中、ソファーで眠るシスターをどうやって起こそうかと考えていた零はテーブルの上に置いてある今朝採った野菜が入ったダンボールを見つけ、その中から大きな芋を取り出し銀髪のシスターの鼻の上にまで持っていく。

 

 

フェイト「…?零?何してるの?」

 

 

零「ん?いやなに…もしかしたらこのシスター、腹を空かせてあそこに倒れてたんじゃないかと思ってな…試しにコイツの匂いを嗅がせれば飛び起きるんじゃないかと思ったんだが…」

 

 

フェイト「…それってもしかして…この子は食い倒れてあそこにいたって事?流石にそれはないんじゃないかな?というかその芋、土だらけだよ?」

 

 

零「ハハ…分かってるさ、単なる思い付きだから本気にするな。第一こんな馬鹿みたいなことで起きるなら苦労はしな―ガブッ!!―……………は…?」

 

 

『……………あっ…』

 

 

心配そうに問い掛けてきたフェイトに冗談だと笑いながら告げた零だが、不意に自分の右手が不自然な感覚に包まれその表情から笑みが消え去り、それを見ていたなのは達も呆気に取られたような表情を浮かべていた。そして、零は不可解な感覚に包まれる右手に視線を向けていくと……

 

 

「モゴモゴモゴモゴ~♪」

 

 

………先程まで眠っていた筈の銀髪のシスターがいつの間にか目を覚まし、モゴモゴと可愛らしく両頬に……零の右手をまるごと口に入れて喰っていた。

 

 

零「………………………………うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!?シスターがぁ!?シスターが俺の手をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!?」

 

 

「おいひぃ~♪」

 

 

なのは「ちょ?!ちょっと何やってるのぉ!?」

 

 

フェイト「こ、こら!早く零から離れなさ~~~いっ!!」

 

 

「ング?!ング~!ング~!」

 

 

零「痛たたたたたたたたたたたたたたたっ!!?馬鹿止せフェイト!!それ以上引っ張ったら右手まで一緒に持ってかれ――――って更に顎の力をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 

 

ティアナ「何か余計に悪化してるぅ!?」

 

 

スバル「ど、どどどどどうしよう!?」

 

 

ギンガ「と、とにかく早く何か食べ物!!キッチンから何か持って来て!!」

 

 

セイン「あ…そ、そっか!きっとお腹空かせてるんだよね!�」

 

 

チンク「そういう事か…ならキッチンからありったけの食べ物を持って来い!!あのシスターの興味を黒月から無くす程だ!!」

 

 

ディード「わ、分かりまし―――!�」

 

 

 

―モゴモゴモゴ♪…ゴキッ!ボキッ!バキィッ!!―

 

 

 

シャマル「―――へ?い、今の音って…?」

 

 

セッテ「……まさか」

 

 

「モグモグ…んむ?…は、ほれほねだ♪」

 

 

零「ほわあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?」

 

 

なのは(幸)「うにゃあ~♪ユキくぅ~ん♪」

 

 

幸村「よしよし……」

 

 

零は右手に噛み付いた銀髪のシスターを引き離そうと右手を必死に振り回し、なのは達は慌てて零から銀髪のシスターを引き離そうと奮闘し、そしてそんな事を他所に幸村となのは(幸)は甘い雰囲気を漂わせイチャついていたのであった。

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界①

 

 

そして約数十分後、零の手から銀髪のシスターを離れさせた幸村達は栄次郎作の料理を"インデックス"と名乗るシスターに食べさせながら話を聞いてる所であった。(因みに零はインデックスに噛まれた右手をシャマルに治療してもらった)。

 

 

なのは「…つまり、インデックスちゃんは数ヶ月前にいなくなった大事な人を探して街中を捜し回っていたんだけど、捜す事に夢中になり過ぎたせいで道に迷ってしまい、あっちこっちさ迷ってる間に此処で行き倒れてしまった…って事?」

 

 

インデックス「うん…だからなのは達のおかげで助かったよ♪あのままだったら空腹でお腹と背中がくっついちゃうかもって、焦ったからね♪」

 

 

セイン「いや…普通焦るとこはそこじゃないでしょ�」

 

 

零「……というか、空腹の余り人間の手まで食おうとするなんてシスターのやることじゃないだろ……」

 

 

すずか「ま、まあまあ…!インデックスちゃんも悪気があってやった訳じゃないんだし�」

 

 

インデックス「そーだよれい?あんまりカリカリしてると短気だと思われるから気をつけた方がいいかも」

 

 

零「今お前にソレを言われたくない!!」

 

 

スバル「れ、零さん!落ち着いて!」

 

 

インデックス「そうそう、怒ってもあまりいい事なんてないんだから♪…それにしても…お腹空いたなぁ…」

 

 

ティアナ「…って、今料理を食べた直後じゃないのアンタ!?」

 

 

包帯を巻いた右手を摩りながら怒る零を尻目にテーブルに俯き伏せるインデックスの言葉に反射的に叫ぶティアナ。そしてインデックスはテーブルに伏せながら何か期待するような瞳で零の顔を見上げていく。

 

 

零「………言っておくが、これ以上お代わりはやらんぞ」

 

 

インデックス「えぇ?!何で?!どうしてぇ?!」

 

 

零「どう考えても食い過ぎだからだ!!第一さっきからどれだけ食ってると思ってる!?これ以上食われたらうちの食い物が全部無くなるだろう!?」

 

 

インデックス「ぶぅ~……なら出前ならいい?このチラシのGreen Cafeっていう喫茶店♪」

 

 

零「だから取りあえず食う事から離れろ!!というか少しは自重しろ!!」

 

 

なのは「ま、まあまあ!�零君も落ち着こう!ね?ね?�」

 

 

先程から食べる事しか口にしないインデックスに零は思わず怒りの叫びを上げ、なのはが横からそんな零を宥めていく。そしてインデックスは少し不満そうに頬を膨らませた後仕方ないと言ったように溜め息を吐きながら椅子から立ち上がり、そのまま部屋から出て行こうとするが、幸村がインデックスの肩を掴んで引き留めた。

 

 

幸村「待て……お前、これから何処に行く気だ?」

 

 

インデックス「?何処って……勿論人探しだよ?早くあの人を見つけないといけないし…何か色々迷惑掛けちゃったけど、ごはんありがとうね♪」

 

 

スバル「ちょ、待ってって!行くアテなんてあるの?!事情は良く分かんないけど、行くアテがないなら此処に残った方がいいよ!�」

 

 

写真館から出ていくと言うインデックスを何とか引き止めようとするスバルだが、インデックスはそれに首を左右に振った。

 

 

インデックス「駄目だよ…だって私"追われてる"んだもん。だから此処にいたられい達やゆきむら達まで巻き込んじゃう…」

 

 

幸村「?追われてるだと?誰にだ…?」

 

 

インデックス「それは…言えない。でも此処にいたらいつアイツ等が襲って来るかわかんない。だから此処には残れないの…」

 

 

零「…?アイツ等だとか追われてるだとかは知らないが、取りあえずお前は今危険な目に合ってるってことなんだろ?だったら尚更、危険な目に遭うと分かっててお前を外に放り出せる訳ないだろう」

 

 

インデックス「…ッ?!」

 

 

疲れた様に溜め息を吐いてそう答えた零の言葉にインデックスは驚いた表情を見せる。だが、インデックスはすぐに優しげに微笑みながら両手を後ろに回すと…

 

 

インデックス「――じゃあ…私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

 

 

『……え?』

 

 

零「…何?」

 

 

意味深な言葉を言い放つインデックスに零や幸村達は疑問そうな表情を浮かべ、そんな零達の表情を見たインデックスは若干苦笑した後部屋から飛び出した。

 

 

零「なっ、おい待て!お前これからどうするつもりだ?!」

 

 

インデックス「だいじょーぶ!街に行けばこもえっていう知り合いがいるから何とかなるよ!それと…いきなり噛んだり迷惑掛けたりしてごめんね、れい!」

 

 

玄関までの通路に飛び出したインデックスは零にそう言いながら手を振り、そのまま扉を開けて外へと出ていってしまった。

 

 

零「お、おい!……ハァ…優矢といいアイツといい、何でこう勝手な奴ばかり…」

 

 

幸村「今更どうこう言っていても仕方ないだろう……それで、どうするつもりなんだ?」

 

 

零「…まあ優矢の事もあるし、インデックスのことも放っておく訳にはいかないだろう。俺達も行くぞ」

 

 

フェイト「へ?あ、うん!」

 

 

取りあえず優矢とインデックスをこのまま放っておくワケにもいかないと思い、零達は栄次郎とキバーラ達に留守番を任せこの世界の事を調べる事も兼ねて外へと出ていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「…………んで、これが俺達のこの世界での役目というワケか…」

 

 

なのは「みたいだね……というかコレは�」

 

 

幸村「なんというべきか…ハッキリと役割が分けられているな…」

 

 

写真館を出た瞬間、零達の服装がまたもや変わっていた。今回服装が変わったのは零となのはとすずかとスバルに幸村となのは(幸)が郵便局員、そしてヴィータとシャマルとティアナが婦警というモノであった。

 

 

零「まさか…俺が郵便局員なんて役割をする羽目になろうとはな…」

 

 

すずか「ア…アハハハ…�で、でも幸村さんとあっちのなのはちゃんは結構喜んでるみたいだよ?�」

 

 

なのは(幸)「ユキくん、どうかな?似合ってる?//�」

 

 

幸村「似合ってるに決まってるだろう?お前に似合わない服なんてこの世に存在する筈がないさ…」

 

 

なのは(幸)「ユキくん…//」

 

 

零「…………悪いすずか…生憎俺はあんな風には喜べない……」

 

 

すずか「…あの…えっと…ごめんなさい…�」

 

 

『…(いいなぁ…)』

 

 

幸せ臭全開でイチャつく幸村となのは(幸)を見て零はウンザリしたように言い、すずかはそんな零に思わず謝ってしまい、なのは達は幸村達のラブッぷりに何処か羨むような顔をしていた。

 

 

ティアナ「…それにしても、私達のこの格好は何なんですかね?」

 

 

シャマル「うーん…見た感じ…婦警って所かしら?」

 

 

零「婦警か…もしかしてあのG3-Xとかいうロボットと何か関係してるんじゃないのか?………ん?」

 

 

ティアナ達の婦警の格好について考えていると、零は自分のポケットに何かが入っているのに気付き、ポケットから取り出して見るとそれは一通の転居先不明と書かれた手紙であり不思議そうにそれを眺めた後名前を確認する。

 

 

零「上条当麻……成る程、どうやらコレを届けろって事らしいな」

 

 

スバル「?でもこの手紙…転居先不明ってなってますよ?」

 

 

なのは「うん、これじゃあどうやって届けたらいいのか分からないよね…」

 

 

転居先不明と書かれた上条当麻という人物に宛てての手紙を見つめながら困った表情を見せる一同。すると零はその手紙をポケットに仕舞いながら口を開いた。

 

 

零「まあ、確かにこの世界についてはまだ分からないことだらけだが…一つだけ分かった事があるぞ」

 

 

フェイト「?何が分かったの?」

 

 

零「…このアギトの世界と混ざったもう一つの世界の方だ。この世界は恐らく…とある魔術の禁書目録とかいうアニメが混ざった世界なんだろう」

 

 

なのは「とある魔術の禁書目録……あれ?でも、どうしてライダーの世界と混ざった世界まで分かるの?私達まだこの世界に来たばかりだよね?」

 

 

零「さっきのインデックスを覚えているだろう?それにこの手紙に書かれている上条当麻とかいう奴…この二人はそのアニメの一番中心に立つ人物らしい。だからアイツの名前とこの手紙の名前を見てすぐに検討が付いたんだよ……祐輔からもらったDVDがなければ全く分からなかったがな…」

 

 

何処か遠い目をして明日の方を見つめる零。ライダーの世界と繋がっている世界についてちゃんと分かる様、祐輔からもらったDVDを全て一夜で見終えた甲斐があったようだ……ぶっ通しで見たから内容は全く覚えていないが。

 

 

零「…まあ取りあえず、此処からは別行動で動くぞ。俺と幸村達はこの上条当麻を探しに行くから、ティアナ達は警視庁に向かってくれ。きっと優矢もそこに向かったと思うし…それと、他の奴らはインデックスを探しに行ってくれ」

 

 

ギンガ「?インデックスをって…どうしてですか?」

 

 

零「…アイツが行っていた追われているという言葉がどうも気になる…それに、アイツなら上条当麻の居場所を知ってるかもしれないだろう?どうやらあの二人は知り合いみたいだし……それに街に向かう道中また腹を空かせて食い倒れる可能性だってあるしな?」

 

 

ウェンディ「いや、それは流石に………ありそうッスね�」

 

 

溜め息を吐きながら呟いた零の言葉に何名かが有り得そうだと苦笑していた。どうやら彼女達も零と同じくアニメを見ていたらしく、インデックスという少女についても知っていたらしい………特に"大食い"という部分について。

 

 

スバル「……え?あれ?」

 

 

ヴィータ「な、何で皆してこっち見んだよ…?」

 

 

ギンガ「…?!わ、私は大食いなんかじゃありませんよ!?ホントですよ!?�」

 

 

セッテ「いえ…特に何も言っていませんが�」

 

 

なのは(幸)「……焦ってる辺り、それなりに自覚は合ったって事かな�」

 

 

零「…まあいいか…じゃあ此処からはさっき言った通りに動くぞ。何かあったら必ず連絡しろ、いいな?」

 

 

ティアナ「了解です!」

 

 

フェイト「あ、うん…分かった!」

 

 

取りあえず動かなければ何も始まらない。そう思った零はティアナ達に優矢、フェイト達にはインデックスの捜索を任せると幸村達と共に上条当麻という人物を探す為、バイクを走らせて街へ向かったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零達が写真館を出てから数十分後。この世界の舞台である学園都市へとやって来たティアナ達は先程出ていった優矢となんとか合流を果たし、優矢と共に警視庁へとやって来ていた。そして優矢達はバイクを押しながら警視庁の入口にやって来ると優矢は門の前にいた警備員に近づき声を掛ける。

 

 

優矢「あの!未確認生命体対策本部って、此処にもありますか?」

 

 

「?…さあ、知らない」

 

 

優矢の質問に対し警備員は意味が分からないという様に首を傾げてそう答え、警備員のその態度を見て優矢達は疑問そうに首を傾げるが、取りあえず中に入ってみようと思い未確認生命体対策本部を探すため警視庁へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

そして優矢達は警視庁地下駐車場へと訪れ警視庁への入口を探して辺りを見回しながら歩いていた。

するとそんな時、奥の方から一人の青年が怯えた様子で早歩きしてくる姿があり、その後ろから先程テレビに映っていた女性…綾瀬が険しげな表情で青年を追い掛け、更にその後ろからは先程のグロンギとの戦いの現場にいた中学生位の茶髪の短髪に『未確認生命体対策委員』という腕章を右腕に付けた少女が小走りで綾瀬達を追い掛ける姿があった。

 

 

優矢「あれは……姐さん!姐さんだ!」

 

 

シャマル「え?じゃああの人が、さっきテレビに映っていた…?」

 

 

ティアナ「…ホントに綾瀬刑事と似てる…って、平行世界の私達もいるんだから珍しくないか�」

 

 

綾瀬を見つけて嬉しそうに叫ぶ優矢にシャマル達は綾瀬の姿を目で追い、綾瀬は逃げる青年に追い付き襟を掴んで無理矢理引き止めようとする。

 

 

綾瀬「コラァッ!待てって言ってるでしょ青髪ピアス!G3-Xの装着員を辞めるってどういう事よ?!」

 

 

青髪ピアス「も、もう堪忍して下さいよ班長!グロンギは倒せても被害は大きいしマスコミには叩かれるし、もう装着員なんてゴリゴリです!すんません!!」

 

 

綾瀬「ちょ、ちょっと待ちなさい!!コラアァァーーっ!!」

 

 

逃げ去っていく青髪ピアスに向かって力の限り怒鳴り叫ぶ綾瀬だが、青髪ピアスはそれを無視して信じられないスピードでその場から走り去ってしまった。そしてそれを見た綾瀬は悔しげに地面を蹴り付けてガクリと肩を落とし、それを隣で見ていた少女は若干苦笑しながら綾瀬に近づいて声を掛ける。

 

 

「あの、綾瀬刑事…やっぱりG3-Xは見送りましょうよ?別にアレがなくてもグロンギとは私みたいな能力者や神経断裂弾があれば充分に戦えるわけだし…」

 

 

綾瀬「…美琴さん…G3-Xは必要よ。それにグロンギの強靭な戦闘力に対抗出来る能力者なんて学園都市には極少数しかいないわ。たださえレベル5である貴女の超電磁砲(レールガン)でもダメージを与えられるのがやっとなんだから…」

 

 

美琴「だけど!G3-Xによる被害はグロンギによる被害より大きいんですよ?!それに、今警察やアンチスキルの中にG3-Xの装着員になれる人は他にはいないし…」

 

 

綾瀬「…装着員についてはこちらで新たに募集するわ。警察やアンチスキルだけに限らず、一般からも広く…ね」

 

 

美琴「綾瀬刑事…!」

 

 

美琴と呼ばれた少女はG3-Xを見送るべきだと綾瀬に訴えるが、綾瀬は頑なにそれを認めようとはせず逆にいなくなってしまったG3-Xの装着員の代わりを集めると告げ上に上がろうとする。そんな時…

 

 

優矢「あ…あの!だったらそれ、俺が応募します!」

 

 

『…へ?』

 

 

突然背後から声が聞こえ、二人はそれが聞こえきた方へと振り向くとそこには今の会話を聞いて走り寄って来る優矢達の姿があった。

 

 

綾瀬「?君達は…?」

 

 

優矢「あ、えっと…さっきたまたま通り掛かって今の話を……じゃなくて!その装着員の募集って奴、俺に受けさせて下さい!お願いします!」

 

 

ティアナ「優矢さん……私達からもお願いです!優矢さんにやらせてあげて下さい!お願いします!」

 

 

美琴「そ、装着員をやりたいって……どうします?」

 

 

頭を下げて頼み込む優矢とティアナの姿を見て美琴は戸惑いがちに綾瀬に耳打ちする。そしてそんな二人を見た綾瀬は何かを感じたのか、顎に手を添えて少し考える様な仕草を見せると…

 

 

綾瀬「………分かったわ。事情は良く分からないけど、装着員候補が増えるのはこちらに取っても有り難い事だしね」

 

 

優矢「っ!あ、ありがとうございます!姐さ……綾瀬刑事!」

 

 

微笑みながら応募に承諾してくれた綾瀬に優矢は嬉しそうに頭を下げ、それを隣で聞いたティアナ達もまるで自分の事のように喜びを見せていた。そして綾瀬は優矢達を手招きし、美琴と共に四人を連れて上へと向かっていった。

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界②

 

 

それから数時間後……

 

 

 

綾瀬「さぁ皆!その調子で頑張ってーっ!」

 

 

優矢「ハァっ…ハァっ…は、はい!」

 

 

綾瀬に連れられて警視庁に設備されてるスポーツジムへと連れて来られた優矢は他の警察官やアンチスキル、一般から募集した学生達と共にランニングマシンで体力測定を行なっていた。そんな中、綾瀬は体力測定に参加してる全員のデータを見比べながら語り出す。

 

 

綾瀬「……未確認生命体、グロンギと唯一対等に渡り合えるボディーアーマー…G3-X。その装着員に選ばれるという事は、正しく人類の救世主と呼ぶに相応しい人物……ってそこ!ちゃんと人の話聞いてるの?!」

 

 

「ゼェ…ゼェ…キ、キツ過ぎて…もう、無理ぃ…」

 

 

「こ、こんなのっ…クリア出来る奴なんている訳ねぇよぉ…」

 

 

G3-Xについて熱弁する綾瀬を他所に他の参加者達は次々とギブアップしていき、残った候補者は優矢ともう一人、見覚えのある人物の二人だけとなっていた。

 

 

美琴「あ、綾瀬刑事…初っ端からいきなり飛ばし過ぎじゃないですか…?�」

 

 

綾瀬「…この程度じゃ駄目よ。これくらい、あの子なら簡単に……」

 

 

『……?』

 

 

綾瀬が一瞬見せた切なげな表情に気づいたティアナ達は怪訝そうな表情を浮かべ、優矢もそれが視界の端に映って気になり首を動かし綾瀬の方を少し見る。だが……

 

 

「――スミマセーン!もうちょっとスピード出してもらえませんかー?」

 

 

優矢「…え?」

 

 

優矢の隣で走っていた人物がいきなりスピードを上げろと言い出し優矢は綾瀬に向けようとした目を思わずそっちの方に向けた。そして、優矢と近くで見学していたティアナ達はその人物が誰なのか今気付き、驚愕した。

 

 

大輝「――やぁ♪ライダー少女の世界以来だね、桜川君♪」

 

 

優矢「?!か、海道さん?!」

 

 

ヴィータ「なっ?!あ、アイツ…こんなとこで何やってんだ?!」

 

 

そう、優矢の隣で走っていた人物とはライダー少女Wの世界でもあった謎の青年…海道 大輝だったのだ。そして優矢とティアナ達が驚いた様子で大輝を見る中、綾瀬は一瞬戸惑いながらも大輝のランニングマシンのスピードを上げていく。

 

 

大輝「うん、これぐらいが丁度いいかな♪」

 

 

優矢「クッ?!…お、俺も!もっとスピード出してください!」

 

 

綾瀬「え?え、えぇ…」

 

 

ランニングマシンのスピードを上げたにも関わらず爽やかとした表情で走る大輝を見た優矢も対抗心が芽生え、綾瀬にスピードを上げるようにお願いする。そして綾瀬は少々驚きながらも優矢のランニングマシンのスピードを上げ、かなりのスピードになったランニングマシンに優矢は苦しげに顔を歪めながらもなんとか耐え抜き必死に走り続けたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一時間後、綾瀬による体力測定を一通り終えた優矢と大輝は更衣室で次の測定に使う服に着替え汗を拭いていた。そして先に着替えを終えた優矢は取り敢えず何故大輝が此処にいるのかを聞こうと大輝に近寄り話しかける。

 

 

優矢「あの海道さん、何故貴方が此処に……」

 

 

大輝「…桜川優矢君、ようこそ♪アギトの世界へ♪」

 

 

優矢「?アギトの…世界?」

 

 

大輝は優矢の質問を片手で遮りいつもの爽やかな笑みを浮かべながら優矢の手を取り握手を交わす。そして大輝に教えられたこの世界の名…アギトの世界といきなり聞かされた優矢は唖然となるが、大輝は構わず笑いながら話を促す。

 

 

大輝「キツイ訓練だけど、お互いに頑張っていこう♪でも…俺の邪魔だけはしないでくれよ?」

 

 

優矢「は、はぁ……」

 

 

笑いながら言い放つも何処か壁を感じる大輝の言葉に優矢は質問が出来なくなり、取りあえず気を取り直す為適当なロッカーに自分の普段着をしまおうとする。だがその時…

 

 

―プシュゥゥゥゥ…―

 

 

美琴「スミマセーン、次の測定についての説明を………ッ?!ちょ、ちょっと待って!」

 

 

優矢「…え?」

 

 

突然更衣室に美琴が書類の束を持って入って来るが、優矢がシャツやジャージを入れようとしたロッカーを見た途端慌て出し、ロッカーから優矢の普段着を取り出して別のロッカーに押し込んでいく。

 

 

優矢「ど、どうしたのいきなり?」

 

 

美琴「あっ…えぇっと……ア、アハハ�じ、実はこのロッカー、ちょっと問題があって使用禁止になってるんですよ!だからこっちを使って下さい、ね?�」

 

 

優矢「は、はぁ…」

 

 

美琴は何処かしどろもどろになりながらもそう言って優矢の衣類をロッカーへと仕舞い込むと不自然な態度のまま大輝に次の測定について説明を始める。そして優矢は美琴のその態度を不審に思いながらそのロッカーに何があるのか気になりつつも、美琴から次の測定についての説明を受けたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして更に数十分後、優矢はG3-Xを装着した状態でトレーニングルームに入ろうとしていた。次の測定内容はG3-Xを装着した状態での個人データ収集なのだが、予想以上にアーマーが重いせいか優矢の動きは鈍く、足をふらつかせながら歩いている。

 

 

G3-X『グッ…ハァ…ハァ…!』

 

 

綾瀬「ちょ、桜川君!無理しないで!」

 

 

ティアナ「そ、そうですよ!無理ならもうリタイアした方が…!�」

 

 

G3-X『ッ…ま、まだまだ…これぐらいでっ…』

 

 

息を乱しながら歩く優矢に綾瀬とティアナは心配して近づくが、優矢は綾瀬の顔を見ると無理矢理やり身体を動かしそのままトレーニングルームの中心まで歩るこうとする。だが、やはり耐えきれなかったのか優矢は途中でバランスを崩して倒れてしまいそのまま床に寝っ転がってしまった。

 

 

シャマル「優矢君?!」

 

 

ヴィータ「お、おい優矢!しっかりしろ!」

 

 

倒れた優矢を見てシャマルとヴィータはすぐに優矢へと駆け寄り身体を起こしていく。そしてそれを近くで見ていた大輝は身体を支えられる優矢に近づきG3-Xの仮面を外していく。

 

 

大輝「うん、よくやったね桜川君。君はもう休んでていいよ?」

 

 

綾瀬「……そうね。桜川君は休んでて、次は海道君にやってもらうから」

 

 

優矢「ッ…分かりました…」

 

 

交代の指示を送られた優矢は未だ納得出来ていないという顔でしぶしぶとアーマーを外していき、綾瀬へと渡していく。そして綾瀬は優矢から受け取ったアーマーを大輝に装着させていき、アーマーを装着した大輝から少し離れると…

 

 

G3-X『………ハッ!』

 

 

―シュシュシュブォンッ!ザザァッ!シュウンッ!―

 

 

G3-Xを装着した状態にも関わらず大輝は関係ないと言わんばかりに俊敏な動きで得意のボクシングスタイルを披露し、最後には空中で一回転し綺麗に着地して見せたのだ。それを見た綾瀬や優矢達も呆気に取られたような表情で呆然としてしまう。

 

 

綾瀬「す、凄い……」

 

 

美琴「た、確かに凄い……これなら装着員はあの人で決まりですね!」

 

 

優矢「…ッ?!」

 

 

嬉しそうに言う美琴の言葉を聞いた優矢は内心かなり動揺し、このままでは大輝に負けてしまうと焦ってしまう。そして…

 

 

優矢「お、お願いします!もう一回やらせて下さい!お願いします!」

 

 

と、もう一度テストを受けさせてもらうよう綾瀬に頭を下げて必死に頼み込む。そんな優矢の熱意が通じたのか、綾瀬は少し考えた後もう一度優矢にテストをやらせてみる事にした。

 

 

ティアナ「――優矢さん、大丈夫でしょうか…?」

 

 

ヴィータ「さーな…けど、今は本人が満足するまでやらせるのが一番だろ…」

 

 

シャマル「そうね……今の優矢君は綾瀬さんの力になりたいっていう意思が強いから、多分何を言っても聞かないだろうし…」

 

 

トレーニングルームで必死になりながらG3-Xを使いこなそうと努力する優矢の近くで、ティアナやヴィータ達は静かに見守っていた。そんな時……

 

 

―プシュウゥゥゥゥ…―

 

 

「お~い綾瀬ー!頼まれたデータの収集終わったぞ!」

 

 

綾瀬「…ん?あ、ご苦労様二人共。ごめんなさいね、二人も忙しいのに無理に手伝わせちゃって……」

 

 

「いや、私達も丁度調べ事があったからな…ついでになった程度だから気にするな」

 

 

『……へ?』

 

 

不意にトレーニングルームの扉が開き、そこから二人の女性と少女が書類の束を抱えながら入って来た。そしてその聞き覚えのある声を聞いたティアナ達が振り返ると、その二人を見て驚愕してしまうのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

零「……成る程、此処か」

 

 

転勤先不明の手紙の宛先である上条当麻を探していた零達は街の学生などの情報から得た手がかりを元にとある学生寮に訪れ、以前上条当麻が住んでいたという部屋の前にやって来ていた。

 

 

零「どうやら此処が…上条当麻っていう奴が住んでいた部屋らしいな」

 

 

スバル「でも、転居先不明なら此処にはもういないんじゃないですか…?」

 

 

…そう、零達がやって来たのは上条当麻が以前住んでいたという学生寮だったのだ。情報によるとどうやら上条当麻は数ヶ月前に突然失踪して行方が掴めておらず、今現在も警察とアンチスキルによる探索が続けられているらしい。ならスバルの言う通り転勤先不明という事は此処にはいない筈なのだが……

 

 

零「まぁ、取りあえず上条当麻が居そうな場所をしらみ潰しで探すしかないだろ?今のところ大した手がかりなんて何もないんだから……邪魔するぞー!」

 

 

なのは「…って、勝手に入っちゃっていいの?!」

 

 

幸村「気にする必死はないだろう。俺達はただ手紙を届けに来ただけなんだからな……邪魔するぞ」

 

 

零と幸村は特に気にする事なく先程寮の管理人から受け取った鍵で扉を開けると上条が住んでいた部屋の中へと入り、なのは達も慌ててその後を追い部屋の中に入っていく。

 

 

零「上条さーん、上条当麻さーん?」

 

 

幸村「……留守…か」

 

 

すずか「……ね、ねぇ二人共、やっぱり此処にはいないんじゃないかな…?」

 

 

なのは(幸)「…うん、何か私もそんな感じがしてきたよ……」

 

 

勝手に部屋の中へと入っていく零と幸村の後を追ってきたなのは達は部屋の中を見て薄気味悪く感じていた。その理由は、部屋の中の家具が全て目茶苦茶に荒らされており部屋中には蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされていたからだ。明らかにこの数ヶ月、部屋の主がいないことを証明している証拠である。

 

 

なのは「もしかして…何か事故でもあったのかな…」

 

 

幸村「……さぁな。だが、もし何かがあったとしたらただ事ではなさそうだ…」

 

 

スバル「…へ?それって、どういう…?」

 

 

幸村の言葉を聞いてスバルは疑問そうに聞き返すが、幸村は何も答えず無言のまま床に落ちていたあるモノを手に取りそれをスバルに投げ渡した。そのあるモノとは……

 

 

スバル「…ッ?!な、何これ?!」

 

 

なのは(幸)「林檎が…捻れてる?!」

 

 

そう、幸村に渡されたモノとは、常識なら絶対にあり得ない捻れた林檎だったのだ。その捻れ曲がった林檎を見てスバルとなのは(幸)は有り得ないものを見たというような表情を浮かべ更にこの部屋に薄気味悪さを感じていた。その時…

 

 

 

 

―…ビュウオォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

すずか「ッ!?な…なにこの風?!」

 

 

零「ッ!この力は…?!」

 

 

突然部屋の中に凄まじい風が吹き荒れ、零達は突然の事態に困惑しながらも思わず壁に背をつけてしまう。そして風が止み、零が次に目を開けて辺りを見回すと先程まで誰もいなかった筈の玄関のところにボロボロの服を着て壁にもたれ掛かる青年の姿を見つけた。

 

 

幸村「…?お前は……」

 

 

「……何で此処に人がいる?」

 

 

零「……成る程…お前が、上条当麻か?」

 

 

零は身体を起こしながら目の前にいる青年にそう問い掛けて名前を確認しようとするが、青年は質問に答えようとはせず俯かせていた顔を上げ零を睨んで来た。

 

 

「…俺に…近づくな…」

 

 

青年はそう言うと視線を鋭くさせながら殺気を放ち、それを見たなのは達は思わず後退りしてしまうが、零と幸村は特に気にした様子もなくその青年に歩み寄ろうとする。だがそんな時…

 

 

 

 

―…ガタガタァッ!―

 

 

『グウゥゥゥゥゥ……』

 

 

 

 

「…ッ…またお前等か…」

 

 

『…え?』

 

 

不意に何処からか聞こえてきた唸り声と物音に青年は零達から視線を外してベランダの方を睨み、零達もその視線を追ってベランダを見ると、そこには黒い身体を持つ二体の謎の怪人が唸り声を上げながら部屋の中へと入ってきていた。

 

 

なのは「あ、あれって…?!」

 

 

スバル「グ、グロンギ?!」

 

 

なのは達は部屋に入ってきたその怪人達をグロンギと判断して少し後退しながら身構えていき、零と幸村は冷静に自分達のドライバーを腰に巻いていく。

 

 

幸村「零、さっさと片付けるぞ…遅れるな」

 

 

零「分かってる、お前こそ遅れるなよ?」

 

 

零はディケイドライバーを開きながら幸村にそう答えるとライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、幸村も変身の構えを取っていく。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『GATE UP!EDEN!』

 

 

電子音声と共に零はディケイド、幸村はベルトの両側を押すと響いた電子音声と共に姿を変えていく。その姿は電王ライナーフォームに酷似し背中から片翼の翼が生えたライダー『エデン』に変身にしたのであった。そしてディケイドとエデンはグロンギ?に掴み掛かり、そのままベランダから外へと飛び出していった。

 

 

「…アレは、変身か…?」

 

 

その様子を見ていた青年は静かにそう呟きディケイドとエデンを追って部屋の外へと飛び出ていった。

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界③

 

一方、グロンギ?を川原付近に連れ出したディケイドとエデンはそれぞれ戦闘を開始し、ディケイドはその中でグロンギ?を殴り飛ばしながら語り掛ける。

 

 

ディケイド『ゴンゾバドギグゲゲルゾ?ボギゲセブセロ(今度はどういうゲゲルだ?教えてくれよ)』

 

 

なのは(幸)「…?!あのグロンギとかいう怪人と会話してる?!」

 

 

スバル「…クウガの世界の時と同じだ…でも、なんで零さんが…?」

 

 

ディケイドはグロンギ?と会話しようとクウガの世界の時と同じグロンギ語で喋り掛けグロンギ?の目的を探ろうとし、ディケイド達に追い付いたスバルは何故ディケイドがグロンギ語を喋れるのか疑問を感じていた。だが……

 

 

『グウゥゥゥゥ…キシャァァァァッ!!』

 

 

ディケイド『ッ?!何?!』

 

 

グロンギ?はディケイドの言葉に何の反応も示さずそのままディケイドへと殴り掛かってきたのだ。予想とは違う反応にディケイドは一瞬驚きながらグロンギ?の攻撃を避けていくと、エデンがもう一体のグロンギ?を斬りながらディケイドに向かって叫ぶ。

 

 

エデン『…そうか…零っ!コイツ等はグロンギじゃない!全く別の怪人だ!』

 

 

ディケイド『ッ!何だと?』

 

 

なのは「グロンギじゃないって…じゃあ、あの怪人は一体?!」

 

 

目の前にいる怪人はグロンギではない。エデンから聞かされたソレにディケイドは疑問を浮かべながら怪人の攻撃を素手で弾いていくと突如怪人の頭上に光の輪が出現し、其処から小型の斧が現れ怪人はそれを手にするとディケイドに向かって乱暴に振り回していく。

 

 

ディケイド『光の輪…そうか、確かアンノウンだったか!』

 

 

スバル「アンノウン…?」

 

 

アンノウンと呼ばれた怪人はディケイドに向かって斧をがむしゃらに振り回していくが、ディケイドはそれを紙一重で避けながら足蹴でアンノウンを怯ませ少し後退しながら瞬時にライドブッカーをGモードに切り替えてアンノウンに撃ち出す。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ギガァッ?!』

 

 

至近距離から放たれたライドブッカーの銃弾を受けてアンノウンは吹っ飛んでいき、ディケイドは直ぐさまライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出しながらエデンに呼び掛ける。

 

 

ディケイド『まあこの際なんでもいい…取りあえず倒しておくか!幸村!』

 

 

エデン『あぁ!フンッ!』

 

 

―ブオォン…ズバアァンッ!―

 

 

『ギボァッ?!』

 

 

エデンはディケイドにそう答えながらその手に持つ刀…妖刀・正宗でアンノウンを一度宙に上げてそのまま勢いよく斬り飛ばすと静かに正宗を構えて力を溜めていき、ディケイドも取り出したカードをディケイドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

エデン『いくぞ…ライダースラッシュ!』

 

 

『Rider Slash!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くとディケイドとアンノウンの間にディメンションフィールドが展開されディケイドはそれに向かってライドブッカーGモードを構え、エデンは正宗を構えながら少し身を屈めると正宗の刀身が激しく輝き出していく。そして…

 

 

ディケイド『……ハッ!』

 

 

―ズドオォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ヌッ?!グオォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

エデン『ハアァァァァァ…ハァッ!!』

 

 

―フッ…ズババババババァッ!!ズバアァァァァンッ!!―

 

 

『ギッ?!ギャアァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

ディケイドはライドブッカーGモードの引金を引いて一発の弾を撃ち出しディメンションフィールドを潜らせアンノウンへと命中させ、エデンはその場から駆け出すと共に一瞬でアンノウンの目の前にまで距離を詰め、素早く正宗を振るうとアンノウンに七度の斬撃を放って斬り裂いた。そして二人の必殺技を受けたアンノウン達は唸り声をあげながら頭上に光の輪を出現させ爆発を起こして散っていき、それを確認したディケイドとエデンも変身を解き零と幸村へと戻っていく。

 

 

なのは(幸)「やった!」

 

 

スバル「やりましたね二人共!」

 

 

幸村「あぁ、何とかな」

 

 

零「まあ…グロンギじゃなかったのが少し予想外だったが、取りあえずこんな所だろう……ん?」

 

 

アンノウンを倒した零達がなのは達と共に先程の上条当麻の部屋へ戻ろうとしたその時、先程の青年が険しい表情をしたまま零達の下へと走り寄ってきた。

 

 

「たかが二匹倒したところで何になる?奴等に目を付けられたらこんなもんじゃすまねぇぞ。さっさと消えろ…」

 

 

零「…ハァ…何をそんなに殺気立ってるか知らないが、俺達はただお前にこれを届けにきただけだ。ホラ」

 

 

そう言いながら零は懐からあの手紙を取り出し青年に突き出した。そして青年は名前を確認するとその手紙を手に取り険しい顔で眺めていく。手紙の名前を確認してから受け取ったところを見ると、どうやらこの青年が上条当麻で間違いないようである。

 

 

当麻「…数ヵ月前の消印?今更なんだ…」

 

 

―ビリッ!―

 

 

『あっ……』

 

 

だが上条は手紙を読もうともせず破ってしまい、それを零に押し返しながら睨みつけて来る。

 

 

当麻「二度と俺に近づくな。さもないと…―シュウゥゥゥゥン―…ッ?!」

 

 

―ヒュンッ…ドゴオォォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

零「っ?!なッ!?」

 

 

幸村「何っ?!」

 

 

『キャアァァッ!!』

 

 

上条が零達に何かを言いかけた瞬間突然上空から光の十字架が現れ、上条と零達に向かって落下し大爆発を起こした。そしてなんとかそれを避けた零は爆煙に包まれながら目を開いていくと……

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

零(…っ?!あれは……)

 

 

零が目にしたのは橋の上に立つ異形の者…三又の杖を持った一体のアンノウンの姿だったのだ。そのアンノウンは自身の頭上に光の輪を出現させ何処かへと消えていってしまい、そして零はそれを見て困惑しながら辺りを見回していくと、その場には既に上条の姿はなく自分と幸村達しか残っていなかったのであった

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

インデックス「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」

 

 

一方その頃。学園都市の中にある人通りの少ない広場では、先程光写真館を出たインデックスが何かを捜すように辺りを見回しながら走っていた。だが、長い間走っていたせいかインデックスは肩で息をしながらその場に立ち止まってしまい、建物の壁に手を付きながら乱れた呼吸を整えていく。

 

 

インデックス「ハァ…ハァ…とうま…何処行っちゃったの……こんなに心配掛けてるんだから…見付けたら一杯文句言ってやるんだからね……」

 

 

そう言いながらもインデックスは何処となく寂しげな顔を見せるが、すぐにまた真剣な表情へと変わり俯かせていた顔を上げそこから歩き出そうとする。だが…

 

 

 

 

―グルルルルルルル…―

 

 

 

 

インデックス「…ッ?!」

 

 

インデックスがその場から歩き出したその時、不意に後ろから不気味な唸り声が聞こえそれに気付いたインデックスは慌てて背後へと振り返る。するとそこには、先程零と幸村が戦ったのと同じ怪人…アントロード達がじりじりとインデックスに近づいて来ていた。

 

 

『グウゥゥゥゥ……』

 

 

インデックス「ま、また…なんで?なんで私を追ってくるの?!」

 

 

インデックスは脅えた様子でアントロード達にそう問い掛けるが、アントロード達はただ唸り声を上げながらインデックスに近づいていき、インデックスはどうにかこの場から逃れようと少しずつ後退していく。が……

 

 

―バッ!―

 

 

『キシャアァッ!!』

 

 

インデックス「え?―ドゴオォッ!―キャアァ!?」

 

 

突如インデックスの死角にあった物陰からアントロードが一体現れインデックスを殴り飛ばしてしまい、インデックスは壁に激突してその場に倒れ込んでしまう。そしてその場に倒れてしまったインデックスは何とか身体を起こして逃げようとするが、その間にも物陰から次々とアントロード達が現れ両手でサインを切りながらインデックスを包囲していく。

 

 

『シャアァァァァ……』

 

 

インデックス「ひっ?!……た、助けてっ……とうまっ……とうまあァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!!」

 

 

『キシャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

複数のアントロードの姿を見たインデックスは涙ぐみながら恐怖の悲鳴を上げ、それと同時にアントロード達が一斉にインデックスへと襲い掛かった。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

『SAMON CINQUE!Set Up!』

 

 

「――IS!ランブルデトネイターッ!!」

 

 

 

 

 

―ヒュンッ……ズバババババババババァンッ!!!―

 

 

『ギ?!ギャアァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

インデックス「……へ?」

 

 

突如アントロード達の横から複数のナイフが飛来し、それが直撃すると同時にアントロード達は悲痛な悲鳴を上げながら爆発を起こして消滅していった。そしてそれを見たインデックスは一瞬何が起きたのか分からず呆然としてると、インデックスの目の前に黒い戦士と銀髪の少女…ナンバーズに変身したヴィヴィオとチンクが現れた。

 

 

ナンバーズ『インデックス!無事?!』

 

 

インデックス「…え?その声…もしかして、ヴィヴィオなの?!」

 

 

チンク「事情なら後で説明する!今はコイツ等を倒すのが先だ!」

 

 

ナンバーズを見て驚愕するインデックスにチンクは手に持つスティンガーを構えながら叫びアントロード達に向けて投げ付けていく。そしてナンバーズはインデックスに襲い掛かろうとするアントロード達を殴り飛ばしながらインデックスに叫ぶ。

 

 

ナンバーズ『インデックス!此処にフェイトママ達も向かってるはずだから、今は此処から逃げてフェイトママ達の所までいって!』

 

 

インデックス「へ…?う、うん!分かった!�」

 

 

インデックスはナンバーズの言葉に一瞬戸惑いながらも言う通りにフェイト達がいる所まで走り出し、それに気付いたアントロード達はインデックスを追跡しようとするがアントロード達の前にナンバーズとチンクが立ち塞がった。

 

 

チンク「生憎だが、此処から先には行かせん!!」

 

 

ナンバーズ『そういう事。どうしても通りたいなら、私達を倒してから行ってよね!』

 

 

『グウゥゥゥゥ…キシャアァァァァァァァァッ!!』

 

 

身構えながら言い放ったナンバーズとチンクを見て自分達の障害になると認識したのか、アントロード達は頭上に光の輪を出現させそこからそれぞれ武器を取り出すと二人に襲い掛かり、ナンバーズとチンクもそれを見て反撃を開始した。

 

 

チンク「フッ!ハァ!!」

 

 

―ヒュンッ…ドゴオォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

『ギギャアァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ナンバーズ『ハッ!デェアッ!!』

 

 

『ギボォッ!?』

 

 

チンクは次々と両手にスティンガーを出現させアントロードの群れに投げ付けていき、ナンバーズは華麗な足技で襲い来るアントロード達を蹴り飛ばし建物の壁に叩き付けていく。そして粗方片付いたところでナンバーズはバックステップでチンクの隣にまで下がり、バックル部分のKナンバーを開き555と番号を入力しエンターキーを押した。

 

 

『Final Attack!Cinque!』

 

 

電子音声と共にナンバーズがKナンバーを閉じると、ナンバーズとチンクは同じモーションを取り始めおもむろに右手を掲げていく。するとアントロードの大群の周りに次々とスティンガーが出現していき、遂には百を越えるほどの数のスティンガーがアントロード達を包囲した。そしてそれを見たナンバーズとチンクはアントロード達に背を向けながら呟く。

 

 

『―――the、end…』

 

 

―ピキッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『ヌ、ヌアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

ナンバーズとチンクがそう呟きながら指を鳴らすと、無数のスティンガー達は一斉にアントロード達へ降り注いで串刺しにしていき、最後は爆発を起こして跡形もなく消え去っていった。そしてそれを確認したチンクは光球となってKナンバーへと戻り、ナンバーズも一息吐いて構えを解いた。

 

 

オットー『お疲れ様です、何とか無事に終わりましたね』

 

 

ナンバーズ『うん、有り難うオットー……それにしても、さっきの怪人達はなんだったんだろう?何だかインデックスを狙ってたみたいだけど…』

 

 

チンク『さあな。恐らくこの世界の怪人だと思うが、黒月達から聞かされたグロンギという怪人とは何処か違う雰囲気をしていたな…』

 

 

セイン『あ、それ私も思ってた』

 

 

ノーヴェ『そうかぁ?私にはおんなじにしか見えたけどな…』

 

 

セッテ『ですがもし、本当にさっきのがグロンギとは違う別の敵だったとしたら…この世界にはグロンギとさっきの怪人達との二種類がいる…という事ですか?』

 

 

ディード『断言は出来ないけど、状況証拠から見たらその可能性も捨て切れませんね…』

 

 

ウェンディ『うえぇ…グロンギだけでも気持ち悪いのにまだあんな気味の悪いのがいるんスかぁ…』

 

 

ディエチ『まあ、あくまで仮説だから……』

 

 

ナンバーズ『…良く分からないけど、取りあえず今はフェイトママ達の所に戻ろう?インデックスもちゃんと逃げ切れたか確かめないといけないしね』

 

 

先程のアントロード達について話し合うナンバーズとチンク達だが、今此処で考えても答えが分かるはずもない。そう考えたナンバーズは取りあえずインデックスの安否を確かめる為フェイト達の所に戻ろうとその場から歩き出した。その時…

 

 

ナンバーズ『………ん?』

 

 

セイン『…?ヴィヴィオ?どうかした?』

 

 

ナンバーズ『……ううん、なんでもないよ(…何だろ…今誰かに見られてた様な…気のせいかな?)』

 

 

ナンバーズは頭上に疑問符を浮かべながらそう考えるとベルトからKナンバーを外して変身を解き、その場から走り去っていった。そしてその場から誰もいなくなると、そのタイミングを待っていたかのように近くの物陰から一人の男が姿を現した。

 

 

「―――なるほど。あれが零の娘か……何か予想してた以上に強そうだなぁ…」

 

 

現れた男はヴィヴィオが走り去った方向を見て苦笑しながらそう言うと建物の壁に背中を預け、真上の空を見上げていく。

 

 

「しっかし、因子を取り戻したって聞いて響鬼の世界から駆け付けたけど…どうやら記憶までは取り戻してないみたいだな。まあもしそうなってたなら俺が来る前にこの世界が無事だったかどうか……」

 

 

男は溜め息を吐きながら懐からタバコを取り出し、それを口に加えて火を付けると肺に溜まった紫煙を大きく吐き出し再びぼんやりと空を眺める。そして暫くそうしてると、男はおもむろにポケットから何かを取り出していく。

 

 

「――一応大輝の奴に頼まれたところの修理は済ませたけど、やっぱ再起動するのはまだまだ先になりそうだな………取りあえず後で大輝の奴に届けておくか」

 

 

AT『――――――――』

 

 

男は自分の手に握られている黒と赤のツートンカラーのネックレス…零のデバイスであるアルティを見つめながらそう呟くとアルティを仕舞ってタバコを加えながら歩き出し、その場から去っていった。

 

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界④

 

その日の夜、それぞれ別行動を終え光写真館に帰って来た零達は夕食を食し、昼間に助けたインデックスはアントロードから受けた傷の治療と夕食を終え二階の部屋で休んでいた。しかしそんな中、優矢は一人何も食べず自分の荷物を全て鞄に纏めていた

 

 

キバーラ「…優矢、本当に出ていくの…?」

 

 

優矢「あぁ、皆には世話になったけど…G3-Xの装着員に選抜されたからさ」

 

 

零「…ま、何時出番が来るかも分からない"補欠"だけどな」

 

 

フェイト「れ、零!�」

 

 

明るげに答える優矢に零は茶化すように言い、それを聞いたフェイトが慌てて零に注意するが優矢は気にした様子もなく相変わらずだと苦笑しながら語り出す。

 

 

優矢「…俺さ、分かった気がするんだ。俺がこうして旅に出たのは、もう一度姉さんに会う為だったんだって。だから多分、此処が終点……俺の居場所だったんだよ」

 

 

零「…綾瀬の為、この世界に残る…か」

 

 

スバル「…ずっと一緒に、旅をするんだって思ってました…」

 

 

優矢の言葉にスバルは暗い表情で顔を俯かせてしまい、他のメンバーも同じ気持ちなのかその表情が曇っていた。そして荷造りを終えた優矢は部屋を出ていこうとする前に零達一人一人の顔を見ていく。

 

 

優矢「…零、皆。今まで、ありがとう……お世話になりました」

 

 

優矢はそう言いながら零達に向けて深く頭を下げていき、部屋から出ていった。そして優矢が立ち去った後、なのは達は最後まで優矢を見送ろうと窓からバイクに乗って走り去る優矢を見送ったのであった。

 

 

なのは「…行っちゃったね…優矢君…」

 

 

零「……好きにやらせておけばいいだろう。これがアイツの物語だと言うなら、俺達がそれを止める資格なんてないさ」

 

 

そう言いながら零は栄次郎の作った野菜スティックを口に入れていくが、その目は何処か寂しげに見えた。それに気付いたなのは達も何も言えなくなって黙り込んでしまい、その場に重苦しい空気が流れ始めていた。そんな時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

栄次郎「…あれ?もう部屋の模様変え終わったの?」

 

 

「あぁ、持って来た荷物も少なかったから、そんなに時間も掛からなかったよ」

 

 

「ですがすみません…いきなり転がり込んだ上に部屋まで用意してもらって」

 

 

『……え?』

 

 

突然聞き覚えのある声と共に二人の女性と少女が部屋の中へと入っていき、それを聞いた一同は疑問そうにその声が聞こえてきた方へ目を向けた。そこにいたのは長い髪をポニーテールに纏めた長身の女性とヴィヴィオと同じくらいの身長の赤毛の少女であり、それを見た零達は呆気に取られたような表情を浮かべ唖然としていた。何故なら…

 

 

零「お…お前等は!?」

 

 

フェイト「シ、"シグナム"!?"アギト"!?」

 

 

シグナム「…む?なんだ、もう帰ってきてたのか?」

 

アギト「あー!?もう晩飯食ってるよ!?あたし等がまだなのにズリーぞ!!」

 

 

そう、部屋に入って来たのは零達の世界で行方不明になった仲間の二人…ヴィータとシャマルとザフィーラと同じヴォルケンリッターの将である"シグナム"とそのシグナムのユニゾンデバイスである"アギト"だったのだ。

 

 

スバル「ど、どういう事?!なんでシグナム副隊長達が此処に…?!」

 

 

シャマル「あっ…そういえばまだ皆には話してなかったわね�」

 

 

零「…何?一体どういう事だ?」

 

 

慌てた様子を見せるシャマルの言葉を聞いて零は怪訝そうな顔でシャマルに問い掛けると、それを代わりにティアナが答える。

 

 

ティアナ「実はその…二人は私達が向かった警視庁でG3-Xのサポーターを担当してたらしくて、その時偶然鉢合わせになったんですよ�」

 

 

シャマル「それで一応二人を連れて帰ってきたんだけど、その時にはまだ誰も帰ってなかったから先に二人には部屋を用意していた、って事だったの�」

 

 

なのは「…そういう事だったんだ…ならそれならそうと早く教えてよ、いきなりだったから心臓が止まるかと思ったよ�」

 

 

ヴィータ「まあほら…優矢の事とかインデックスの事とかあったしさ、色々あり過ぎて忘れてたんだよ�」

 

 

アギト「ちょ!?ヒデーよヴィータの姐御!あたし等の事忘れてたのか!?」

 

 

シグナム「落ち着けアギト…とにかく、詳しい事情はヴィータ達から聞いている。今日から私達も合流させてもらうが、構わないか?」

 

 

フェイト「そういう事なら…こちらこそよろしくお願いします、シグナム」

 

 

シグナムとアギトが帰って来た事になのは達は安心した表情を見せるが、零だけはそれを尻目に昼間上条が破り捨てた手紙の中身を開きその内容を読んで険しい表情を浮かべていた。

 

 

幸村「…零?どうかしたのか?」

 

 

零「…………………あぁ、大体分かった…」

 

 

幸村「……?」

 

 

隣に座っていた幸村が零の様子に気付いて話しかけるが、零は淡々とした口調でそう言いながら手に持っていた手紙を幸村に渡し部屋を出てインデックスが休む部屋に向かっていった。そしてそれを見た幸村は疑問を抱きながらその手紙を開いて読んでいくと……

 

 

幸村「…………なるほどな……そういう事か…」

 

 

と、先程の零と同じ険しい表情を浮かべ手紙を閉じたのであった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

一方その頃、部屋を出た零はインデックスの休む部屋に訪れベッドで休むインデックスと話をしていた。

 

 

零「…という事はつまり、お前が探していた行方不明の人物というのが上条当麻であり、数ヶ月前に失踪したアイツを探して街中を探し回ってた…という事か」

 

 

インデックス「……うん…とうまがいなくなった最初の朝、私が起きたらコレがテーブルの上に置いてあったの…」

 

 

インデックスは暗い表情でそう言って懐から一枚の紙切れを取り出し、零はそれを受け取って中身を開きそれの内容に目を通す。

 

 

―ゴメン…インデックス、俺はもうお前と一緒にいられない。だからお前は小萌先生の所に行け、あの人ならきっとお前を匿ってくれるはずだ。長いようで短い付き合いだったけど…お前と一緒に過ごせた日々は凄く楽しかった。どうかもう…俺のことは忘れて幸せになってくれ。身体には気をつけてな……じゃあな。

上条 当麻―

 

 

そこに綴られていたのは、上条当麻からインデックスに宛てられた別れの言葉であった。零は険しげな表情でその手紙を何度も読み返してみるが、やはりそこに書かれてるのは小萌という人物の下へ行けという言葉とインデックスへの別れの言葉だけであり、上条本人に関する詳しい事情などは書かれていなかった。それを確認した零は溜め息を吐きながら手紙を閉じ、暗い表情で俯くインデックスに目を向けていく。

 

 

零「…成る程、お前の事情は大体分かった。それで?なんで上条当麻はお前の前から姿を消したんだ?」

 

 

インデックス「…そんなのわかんないよ…何でとうまがいなくなっちゃったのかも…何であんな奴らに追われているのかも…全然わかんない…」

 

 

零からの質問にそう答えるとインデックスは更に表情を曇らせてしまい、それを聞いた零は「そうか…」と短く答えながら手元にある手紙に目を下ろし口を開く。

 

 

零「…とにかく、上条当麻についての事情は本人から直接聞き出すしかないようだな……なら取りあえず、この部屋を貸してやるからお前は今日此処に残れ」

 

 

インデックス「…え?の、残れって……?」

 

 

零「お前、まだ奴らから受けた傷は完全に直ってないだろう?そんな身体で外に出て、もしまた奴らに襲われでもしたら逃げ切れるはずがない。そうなったら、みすみすお前を帰した俺まで夢見が悪くなる。だからお前は今日此処で寝ろ、この小萌とかいう人には俺が連絡しておく」

 

 

そう言いながら零は手紙をベッドの隣にあるテーブルの上に置いて椅子から立ち上がり、それを見たインデックスは慌てて零に叫ぶ。

 

 

インデックス「で、でも!私が此処にいたら危険なんだよ?!何時アイツ等が此処を襲って来るのかもわかんないし、そうなったられい達も危険な目に…!」

 

 

零「余計なお世話だ…いいから大人しく此処で寝てろ。明日になったらお前に手伝ってもらわないといけない事があるんだ…上条当麻を見付ける為にな」

 

 

インデックス「……へ?」

 

 

無愛想な口調で呟いた零の言葉を聞きインデックスは呆然とした表情になってしまうが、零は特に気にせず話を進める。

 

 

零「俺も上条当麻に用がある……だが生憎、アイツを探そうにも居場所を突き止める手掛かりも何もない。だから、アイツと一番付き合いの長いお前にはアイツの行きそう場所とか案内してもらわないと困るんだよ」

 

 

インデックス「…それってもしかして…とうまを一緒に探してくれるって事…?」

 

 

零「………………言い方を変えればそうなるな。だが勘違いするなよ?あくまでアイツを探すのは俺の用事の為であり、別にお前の為じゃない。探す相手が同じだから一緒に行動した方が効率が言いと思ったからだ、分かったな?」

 

 

何処か言い訳くさい言い方でインデックスにそう説明すると零はそのまま部屋を出ようと扉に近づきドアノブに手を掛けようとする。が、その前にインデックスが零を呼び止めた。

 

 

インデックス「れい!ちょっと待ってっ!」

 

 

零「……今度は何だ?」

 

 

インデックス「……その…ごめんね?れい達には関係ない事なのにまた迷惑掛けちゃって……ごめんね…」

 

 

そう言いながらインデックスは申し訳なさそうに零に頭を下げ、それを見た零は頬を掻きながら溜め息を吐いて語り出す。

 

 

零「…別に迷惑だと思った事もないし、そういうのに巻き込まれるのはもう慣れてる………それに―――」

 

 

零はそこまで口にすると一度言葉を呑み、インデックスの方へと振り返りながら再び口を開いた。

 

 

零「――――それに…生憎俺は会ったばかりの誰かと地獄に行くつもりはない。だからお前も上条当麻も…俺達が地獄の底から引きずり上げてやる」

 

 

インデックス「……っ?!」

 

 

そう言い放った零の言葉を聞いてインデックスは息を呑むように驚愕の表情を浮かべ、そんなインデックスの様子を見た零は頬を掻きながらその場から逃げる様に部屋から出ていった。そして部屋の中に残されたインデックスは……

 

 

インデックス「……ホント……ホントに似てるよね…とうまとれいは…」

 

 

此処にはいない一人の少年の姿を脳裏に浮かべながら穏やかに微笑んでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

零「…盗み聞きなんて趣味が悪いじゃないか」

 

 

幸村「別にそんなつもりはなかったさ。だが、俺達の部屋がそこの向かいのせいか聞きたくなくても聞こえてしまうんだよ…」

 

 

一方、インデックスの部屋を出た零は向かいの部屋の扉の前にいた幸村とバッタリ会っていた。先程の会話を聞かれていた事にバツが悪そうな表情を浮かべる零だが、幸村は至って真剣な表情で零に話し掛ける。

 

 

幸村「それで、どうするんだ?…やるのか?」

 

 

零「…………事情を知ったからにはやるしかないだろう。あんな子供が危険な目に合っているのに何もしないで見てるなんて…大人が廃るだろ?」

 

 

幸村「……そうか。なら、俺も出来る限りの事に協力しよう」

 

 

零「…何?」

 

 

幸村の言葉に零は予想外というような表情を浮かべて思わずそう聞き返し、幸村は胸ポケットから先程零から受け取ったあの手紙を取り出して零に見せる。

 

 

幸村「大方、お前は此処に書かれていることも理由の一つとして上条当麻を追うんだろう?」

 

 

零「………あくまで理由の一つだけどな。お節介な奴だと笑うか?」

 

 

幸村「いいや、俺も事情を知っておきながら見て見ぬフリをするなんて出来ない……お前がお節介な奴だと言うなら、そんなお前に手を貸す俺も…お節介という奴なんだろう」

 

 

零「………ハッ…お前には勝てそうにないな…」

 

 

零は若干苦笑しながらそう言うとその場から歩き出してなのは達のいる部屋へと向かっていき、幸村もその後を追い部屋に戻ったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

翌日……

 

 

 

『緊急通報!未確認生命体48号、49号と思われし生物を第七学区付近にて目撃したとの110番通報を入電!尚、捜索にあたる場合付近の学生の避難を絶対優先とし……』

 

 

警視庁では未確認生命体が出現したとの通報が入り、それを聞いた綾瀬は大輝に出動命令を出していた。

 

 

綾瀬「海道 大輝、G3-Xを装着。現場へと急行し直ちにグロンギを討伐」

 

 

大輝「了解…」

 

 

出動命令を受けた大輝は綾瀬にそう言うとG3-Xを装着していくが、その時何かを探すような不審な態度を見せていたのを誰も気付いていなかった。そして優矢は……

 

 

綾瀬「桜川 優矢、貴方も現場に向かい海道 大輝の実戦を見学。戦い方を勉強しなさい」

 

 

優矢「は…え?勉強?」

 

 

綾瀬から戦い方を勉強しろと言われた優矢は一瞬呆気に取られた様な表情を浮かべ、意識を取り戻すと内心不満が生まれつつ命令には従わないといけない為支度を始めるのであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

そしてその頃、グロンギが出現した第七学区の近くにある地下トンネルの中では上条が苦しそうに息を乱しながら足を引きずり、まるで何かから逃げるかのように歩いていた。そんな時、上条の目の前に零となのはとスバルとすずか、そして幸村となのは(幸)が現れ上条の前へとやって来た。

 

 

零「…探したぞ、上条当麻」

 

 

当麻「…近づくなと言った筈だぞ」

 

 

零「…そんなに殺気を剥き出しにするな。今日は……お前に会いたいという奴に連れてきたんだからな」

 

 

零はそう言いながらその場から退くように一歩後ろへと下がると、後ろから零達の間を抜けて一人の少女…インデックスが上条の前にやって来た。

 

 

当麻「…ッ?!イン…デックス?」

 

 

インデックス「…とうま……グスッ……とうまぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

インデックスを見た上条は信じられないモノを見たかのように目を見開き、インデックスは上条の姿を見るとその瞳に涙を浮かべながら上条に駆け寄り抱き着いていった。

 

 

当麻「イ、インデックス……」

 

 

インデックス「ひぐっ……グスッ……なんでっ…なんで何にも言わないで勝手にいなくなったの!?探してたんだよっ…ずっとずっと探してたんだよ!?心配だってっ……一杯したんだからぁ……」

 

 

上条の胸でインデックスはとめどない涙を流して泣き始め、そんなインデックスの様子になのは達は安心したような表情を浮かべて微笑んでいた。だが……

 

 

 

 

当麻「ッ……クッ!」

 

 

―……バッ!―

 

 

インデックス「……え?」

 

 

『っ?!』

 

 

上条は突然インデックスから身を退くように離れてしまい、上条の突然の行動にインデックスは呆然としてしまう。そして上条は拳を強く握り声を震わせながら口を開いていく。

 

 

当麻「………なんでだよ…なんでお前が此処にいるだよ?!もう俺には関わるなって手紙に書いただろうが?!小萌先生の所に行って、俺の事も忘れて幸せになれって…そう書いてあったじゃねぇか?!」

 

 

インデックス「…と、とうま…だってっ…!」

 

 

当麻「だっても何もない!もう俺の前に現れるな……俺に近づくなっ!!」

 

 

スバル「ちょ、ちょっと!何もそんな言い方しなくていいじゃないですか?!」

 

 

なのは(幸)「インデックスはずっと貴方を探してたんだよ!?それなのにそんな態度…!」

 

 

インデックスを怒鳴る上条を見てスバルとなのは(幸)が怒りの声を叫ぶが、上条はそれを無視し呆然と立ち尽くすインデックスから背を向けそのまま立ち去ろうとする。

 

 

零「まあ待て、まだお前には話がある…」

 

 

当麻「…俺はお前達と話す事なんてない…インデックスを連れてさっさと消えろっ…」

 

 

幸村「そういう訳には行かない。何せ今日から…俺と零がお前とインデックスを守ってやるんだからな」

 

 

『……え?!』

 

 

いきなりの幸村の言葉になのは達は我が耳を疑い驚いてしまう。何故二人が会って間もないあの男を守ると言うのか、その訳が分からないからだ。だが……

 

 

 

 

 

当麻「…俺を…守る?…ふざけるなぁッ!」

 

 

―グアァァァァァァァァァァァァアァッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

幸村の言葉を聞いた上条は怒りの声を叫びながら振り返り左手を出すと、服の間から赤い触手が伸び零達へ襲い掛かった。零達は咄嗟にその場から飛び退きそれを何とかかわすが、なのはは反応が遅れて間に合わずその触手に捕まり上条の元に引き寄せられてしまった。

 

 

なのは「あ、ぐッ…?!」

 

 

すずか「な、なのはちゃん?!」

 

 

零「オイオイ…止めておいた方がいいぞ?そいつ怒らせるとかなり怖いからな…後から砲撃の雨の十倍返しなんて喰らっても知らないぞ?」

 

 

なのは(幸)「って!そんな呑気な事言ってる場合じゃないでしょう!?」

 

 

なのはが捕まったにも関わらず冗談っぽく言い放った零になのは(幸)がツッコムが、上条はただならぬ殺気を放ちながら零達を睨みつけて叫ぶ。

 

 

当麻「俺を守るだって…この化物を!ガアァァァァァァァァァァァアッ!!!」

 

 

インデックス「ッ?!と、とうま…?!」

 

 

上条はなのはを突き放すと獣のような叫び声をあげながらその姿を変えていき、それを見たインデックスは目を見開き言葉を失ってしまう。上条が変わった姿…それは緑色の身体を持ち、体中に鋭い爪のようなモノが生えた装甲と赤い触手を持った赤い瞳の異形の者…仮面ライダーであった……

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑤

 

 

その頃、G3-Xを装着し現場へやって来た大輝はバイクを全速力で走らせグロンギ達に突っ込もうとしていた。だが、グロンギはG3-Xのバイクを片腕で軽々と受け止め、G3-Xを殴ってバイクから引きずり降ろして攻撃し、G3-Xはそれらをかわしながら銃を出しグロンギ達を狙い撃っていく。

 

 

―ダンッダンッダンッダンッ!!―

 

 

『ヌンッ!ヌアァァァァッ!!』

 

 

G3-X『ッ?!―バキィッ!―グッ?!』

 

 

だが、グロンギ達はG3-Xの射撃にビクともせず、再びG3-Xに容赦なく殴り掛かり吹き飛ばしてしまう。そしてG3-X…大輝は態勢を立て直して立ち上がると、なんと自らアーマーを外し地面に脱ぎ捨ててしまった。

 

 

優矢「か、海道さん?!一体何を…?!」

 

 

今現場に着いた優矢はいきなりグロンギの目の前でG3-Xを脱ぎ捨てた大輝を見て困惑してしまうが、大輝は無言のまま変身ツール……ディエンドライバーを取り出し、カードをセットしてスライドさせそれを空へと掲げていく。

 

 

大輝「…変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

 

大輝がディエンドライバーの引金を引くと電子音声が鳴り響き、大輝はディエンドへと変身していく。そして大輝の変身を初めて見た優矢は突然のことに驚愕し唖然としてしまっていた。

 

 

ディエンド『うん、こっちの方が一番しっくり来る♪』

 

 

ディエンドはスッキリした様に言いながら腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出しそれをドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:DRAKE!KAMENRIDE:DELTA!』

 

 

『ッ?!ヌオアァァッ!!』

 

 

ディエンド『…フッ!』

 

 

電子音声が響くとグロンギ達はソレを危険を感じたのかディエンドへと突っ込んでいき、ディエンドはそれをあしらいながら後退してディエンドライバーの引金を引くと辺りにビジョンが走り、それがそれぞれ重なるとディエンドの前にトンボをモチーフにしたライダー『ドレイク』とギリシャ文字のΔをモチーフにしたライダー『デルタ』が姿をを現した。

 

 

ディエンド『さっきのお返しだ…ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!―

 

 

『ヌ、ヌアァァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

ディエンドがそう呟くとディエンド、ドレイク、デルタはそれぞれの武器を構えグロンギの一体に向かって一斉射撃を放ち、一斉射撃を受けたグロンギは悲痛な叫び声を上げながら爆発し跡形もなく散っていった。

 

 

優矢「これは…海道さん!これは一体…『現場!一体どうなってるの?!状況は?!』…ッ?!」

 

 

グロンギを倒したディエンドに優矢がどういう事なのか訳を問い問いただそうとするが、そんな優矢の言葉を遮るかの様に大輝が地面に捨てたG3-Xのマスクの通信機から綾瀬の声が聞こえ、ディエンドはマスクを手に取り状況を説明する。

 

 

ディエンド『おそらく接触不良ですね、現在グロンギを確実に殲滅中です』

 

 

優矢「海道さんっ…これは一体どういうことなんだ?!貴方は一体?!」

 

 

ディエンド『…黙っていてくれるね?別に誰かが損するワケじゃないし。それにホラ、もう終わりだ』

 

 

怒りを見せて詰め寄る優矢にディエンドはそう言って残ったもう一体のグロンギを指鉄砲で指差す。すると、何処からかグロンギとは違うアリの様な姿の怪人…アントロードが集団で現れグロンギを始末していた。

 

 

優矢「…グロンギ?いや、違う…なんだあいつ等?!」

 

 

まだアンノウンの存在を知らない優矢は突然現れたアントロード達を見て困惑してしまい、グロンギを始末したアントロード達は次にディエンド達に標的を変え、ディエンド達に襲い掛かっていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、謎のライダーに変身した上条を止める為に零と幸村は自分達のドライバーを装着し、零はドライバーにカードを装填してスライドさせ幸村はベルトの両側のボタンを叩くように押していく。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『GATE UP!EDEN!』

 

 

電子音声が鳴り響くと零はディケイド、幸村はエデンへと変身し、二人は上条に歩み寄りながら語り掛けていく。

 

 

ディケイド『俺達はお前と戦いに来たんじゃない…』

 

 

『黙れっ!俺は…―キイィィィィン―…ッ?!ウ…ア…ガアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

『ッ?!』

 

 

上条が敵意を剥き出しにして叫ぼうとした瞬間、上条は突然頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げて苦しみ出し、それを見たディケイド達も思わず動きを止めてしまう。

 

 

『や、止めろ…呼ぶなっ…俺を呼ぶなァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!!』

 

 

インデックス「と、とうまっ!?」

 

 

エデン『チィ!零っ!!』

 

 

ディケイド『分かってるっ!!』

 

 

頭を抱えて暴れ出した上条を見てディケイドとエデンは直ぐさま上条に向かって駆け出し上条を抑え付けようとするが、上条は二人を放り投げ全く取り付く島もない状態となっていた。

 

 

『ウ、ガ…ウアァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!ガギャアンッ!!―

 

 

エデン『グッ!チィ!手の付けようがないとはこの事かっ!!』

 

 

ディケイド『仕方ないっ…異形には異形と行くか!』

 

 

全く寄り付く事が出来ない上条にエデンは思わず舌打ちし、ディケイドはライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:FIRST!』

 

 

電子音声が響くとディケイドはDfirstへと変身し、Dfirstは更にライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーに装填していく。

 

 

『ATTACKRIDE:ELECTRO FIRE!』

 

 

Dfirst『悪いが少し痺れててもらうぞ!ハアァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

―バチバチィ!ズガアァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

Dfirstはそう言いながらバチバチと青白い火花を散らせる左手を上条に向けて突き出すと、左手から青い雷撃が放たれ上条に向かって襲い掛かった。だが……

 

 

『グッ!ガアァァァァアッ!!』

 

 

―バシュゥゥゥゥン!!―

 

 

『なッ?!』

 

 

Dfirst『なっ…雷撃を…無効化した?!』

 

 

エデン『…幻想殺し(イマジンブレイカー)…馬鹿な!あれが健在してる状態でライダーに変身したのか?!』

 

 

Dfirstの放ったエレクトロファイヤーが上条の右手に触れた瞬間、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)が発動し雷撃を無効化してしまい、それを見たエデンは信じられないものを見たかのような表情を浮かべていた。

それもその筈……本来幻想殺し(イマジンブレイカー)とはあらゆる異能の力を無効化してしまうモノだ。だが上条は変身能力が無効化されることなくライダーへと変身し、更には変身した状態のままソレを発動させたのだから当然の反応だろう。

そしてエデンが上条のソレに驚愕しているとDfirstは属性攻撃が通用しないと理解して小さく舌打ちしながら上条へと駆け出し拳を振りかざしていく。

 

 

Dfirst『デアァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!ドゴオォッ!!ドゴォンッ!!―

 

 

『ガァッ?!ヌアァァッ!!』

 

 

―ズガアァンッ!!ドゴォドゴォッ!!ドガアァンッ!!―

 

 

Dfirst『グッ?!チィ!!』

 

 

駆け出したDfirstは上条にダメージを与えて大人しくさせようと殴り掛かっていくが、上条はそれを受けながら両腕の爪でDfirstを殴り付け、Dfirstは上条のパワーに圧されがらも何とか反撃しエデンもすぐにその戦いに加わり背後から上条に掴み掛かり動きを封じようとする。だが……

 

 

―キイィィィィィンッ!―

 

 

『ッ!?ガ、ア…グアァァァァァァァァァアーーーーーーーーッ!!?』

 

 

エデン『?!何?―バキッ!―グッ?!』

 

 

Dfirst『幸村?!―ドガァッ!―グゥッ?!』

 

 

上条は悲痛の叫び声をあげながらDfirstとエデンを突き飛ばし、そのまま苦しそうに頭を抱えながら何処かへと走り去っていった。そして上条が走り去ったのを確認したDfirstもディケイドへと戻りディケイドとエデンはなのは達の下へと歩み寄っていく。

 

 

ディケイド『…大丈夫か、なのは?』

 

 

なのは「う、うん、なんとか大丈夫……けど、さっき私が捕まった時に言ってたアレはどう言う意味なのかな…?」

 

 

ディケイド『は?……あ、いや勘違いするな?あれは単なる言葉の絢であって…特別深い意味とかは…�』

 

 

スバル「ま…まあまあ!�…それより零さん…あれもライダーなんですか…?」

 

 

スバルはジト目でディケイドを睨むなのはを宥めながらディケイドにそう言うとトンネルの外に向かって走り去る上条の後ろ姿を見つめ、ディケイドはすずかに支えられながらその姿を呆然と見つめるインデックスに視線を移す。

 

 

インデックス「……とうま……どうしてっ……」

 

 

ディケイド『…すずか、スバル、先にインデックスを連れて写真館に戻ってくれ。どうやらショックが大き過ぎて混乱してるようだ…』

 

 

すずか「え?う、うん…」

 

 

なのは「けど、零君はどうするの?…やっぱりあの子を…?」

 

 

ディケイド『あぁ、アイツをこのままほっとくワケにはいかないからな…幸村』

 

 

エデン『あぁ…急いで奴を追いかけるぞ』

 

 

上条をこのまま放って置く訳にはいかないと判断し、ディケイドとエデンはインデックスをなのは達に任せると上条を追いかける為にトンネルの外へ出ていき、二手に別れて上条を探しに向かったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして場所は先程の場所に変わり、そこでは今ディエンド達とアントロード達が攻防を入れ替えながら戦いを行なっていた。ディエンド達は自分の武器を使ってアントロード達の攻撃を防ぎながら反撃を繰り返し、徐々に追い込まれ始めている事に気付いたアントロード達は少し焦りを浮かべていた。そんな時……

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如その場に先程ディケイド達と別れた上条が現れ、アントロード達に背後から強襲を仕掛けてまるで獣のような戦い方でアントロード達を力任せに殴り飛ばしていく。

 

 

優矢「あ、あれは…?」

 

 

ディエンド『あれは…ギルスだ』

 

 

優矢「…ギルス?」

 

 

ディエンド『そう…アギトになれなかった者さ』

 

 

ディエンドは目の前でアントロード達と戦う上条……『ギルス』について優矢に説明しながらドレイクとデルタと共に後退し、ギルスの戦いを観戦するかの様にジッと眺めていく。そしてギルスは両足の踵に生えた鋭い刃でアントロード達に回し蹴りを放って倒していき、最後のアントロードに踵落としを喰らわせて倒し跡形もなく消滅させた。そしてアントロード達を倒したギルスはディエンド達に気付いて振り返り、優矢はギルスに向けて銃を構えていく。しかし…

 

 

『待て!』

 

 

優矢「…え?」

 

 

その場に突然制止の声が響き、その方からギルスの後を追ってきたディケイドがディケイダーに乗って現れギルスを庇うようにギルスの目の前に停まり、ディケイダーから降りてディエンド達と対峙していく。

 

 

優矢「れ、零…?」

 

 

ディエンド『…なんの真似かな、零?』

 

 

ディケイド『悪いが、こいつはお前にやらせない。俺はこいつを守る』

 

 

優矢「ッ?!何言ってんだよ零?!なんで?!」

 

 

突然ギルスを守ると告げるディケイドに優矢は意味が分からず困惑し、ディエンドは険しげに繭を寄せながらディケイドにディエンドライバーを向けていく。

 

 

ディエンド『そこを退きたまえ、零。俺の邪魔はしないでくれないか?』

 

 

ディケイド『ほぉ?それは丁度いいな。こいつを守る事がお前の邪魔をする事に繋がるなら、俺は喜んでこいつを守ろう…』

 

 

ディエンド『……ふぅ……そうかい。なら、こっちも遠慮はしないよ?』

 

 

あくまでも引こうとしないディケイドにディエンドは深い溜め息を吐きながらまた新しいカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填しスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:CROSSATTACK!』

 

 

電子音声が響くとドレイク、デルタは自分達の武器にエネルギーを溜めディケイドへと向けていく。対するディケイドもライドブッカーを開き、カードを出してディエンド達に対抗しようとするが……

 

 

ギルス『…フンッ!』

 

 

―ガシッ!バッ!カシャァァァァンッ!―

 

 

零「っ?!お、おい?!お前何を…?!」

 

 

なんと、ギルスがいきなりディケイドの腰からディケイドライバーを奪ってしまい、ディケイドは強制的に変身が解除され零に戻ってしまったのだ。そしてそれと同時にデルタの銃から放たれたエネルギー弾が零を捕らえてしまい動きを封じてしまった。

 

 

零「ぐッ?!し、しま…ッ!」

 

 

デルタ『フンッ!ハアァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!!』

 

 

優矢「ッ?!れ、零ぃ!!」

 

 

ディエンドの目の前にいたデルタはエネルギー弾が零を捕らえた事を確認すると上空へと跳んで生身の零に向かって飛び蹴りを放ち、それを見た優矢は動き封じられた零に向けて悲痛な叫び声を上げたのであった…

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑥

 

 

ギルスを守ると告げディエンドに立ち向かおうとしたディケイド。だが、ギルスによってディケイドライバーを奪われ変身が解けてしまった零はディエンド達の一斉攻撃を受けそうになり絶対絶滅のピンチに陥ていた。

 

 

デルタ『ハアァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!!』

 

 

零「クッ!!?」

 

 

優矢「れ、零ぃ!!」

 

 

なのは「はぁ…はぁ…っ?!零君ッ!?」

 

 

デルタの必殺技、ルシファーズハンマーが生身の零を捉らえ零の身体を貫こうと跳び蹴りを放ち、優矢と零を追い掛けてきたなのははその光景を見て急いで零を助けようとその場から駆け出すが此処からでは距離があり過ぎて間に合わない。最早万事休すかと誰もがそう思った、その時……

 

 

 

 

 

 

―…バッ!―

 

 

幸村「魔術回路接続…武装・召喚(アームズ・サモン)……熾天を覆う七つの盾『ローアイアス』!!」

 

 

零「…ッ?!幸村!?」

 

 

突如零の前に幸村が飛び出し、幸村は目の前に右手を突き出しながら叫ぶと幸村の右手に七枚の花弁が展開され、真っ正面からデルタの必殺技とぶつかり合う。そしてデルタの跳び蹴りが花弁とぶつかり合い火花を散らせて花弁が一枚、また一枚と破られていくが花弁が残り四枚になったところで押し切る事が出来なくなってしまう。そして……

 

 

幸村「フン……ハッ!!」

 

 

―バシャアァァァァァンッ!!―

 

 

デルタ『ッ!?ヌアァァァァァァッ!!?』

 

 

ディエンド『ッ!…へぇ?中々やるじゃないか』

 

 

幸村が更に花弁に魔力を込めるとデルタは悲痛な声を漏らしながらディエンド達の方へと弾き飛ばされ地面を転がりながら倒れ込み、それを見ていたディエンドは一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐに感心したような声を漏らして幸村を見つめていた。そしてその間に優矢となのはは地面に倒れる零に駆け寄り身体を起こしていく。

 

 

優矢「零ッ!無事か?!しっかりしろ?!」

 

 

なのは「大丈夫ッ?!何処か怪我とかしてない?!」

 

 

零「ッ…あぁ、大丈夫だ…それにすまない幸村、助かった…でも良く此処が分かったな?」

 

 

幸村「さっきこの辺から爆音が聞こえてな。もしかしたらと思って様子を見に来たんだが、まさかこんな事になっていたとは…一体何があった?」

 

 

零「まあ色々と訳ありだ…それより、おい上条当麻!バックルを返せ!」

 

 

ギルス『…………』

 

 

零は幸村にそう答えながら立ち上がりバックルとライドブッカーを持ってディエンド達に身構えるギルスに向けて叫ぶが、ギルスはそれを無視してディエンド達に構え突っ込もうとする。だがその時……

 

 

 

―キイィィィィィンッ!―

 

 

 

ギルス『ッ!?ウ、ガッ?!お、お前等全員逃げろ!!奴だ!!奴が来るッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

突如ギルスは頭を抱え苦しみながら零達に早く逃げるように促し、それを聞いた零達は言葉の意味が分からず一瞬困惑してしまうが、背後の方からとてつもなく大きい巨大な『何か』を感じ取り全員が振り返ると、そこには近くの橋の上に光の輪が現れ、其処から数体のアンノウンが姿を現していたのだ。そしてそのアンノウン達の最前に立つ三又の杖を持ったアンノウンはギルスと零達に向けて静かに語り出す。

 

 

『……人間よ、そんな力に惑わされてはいけない。人はただ……人であれば良いのだ!』

 

 

―シュンッ!ブオォンッ!ズガアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『なっ…ウアァァァァァァァァァァァァッ!!?』

 

 

三又の杖を持ったアンノウン…バッファローロードはそう言うと三又の杖の先端から光の十字架を出現させ、それをギルスを中心に振り下ろし大爆発を起こしてギルスと零達を吹っ飛ばしてしまい、ディエンドの喚び出したドレイクとデルタはそれの直撃を受け完全に消滅してしまった。

 

 

零「グッ…!なんだあの牛もどき…!」

 

 

幸村「ちぃ…なんて馬鹿げた威力だ…!」

 

 

当麻「アガッ…ガハッ…」

 

 

バッファローロードの攻撃を受けて吹き飛んだ零達は地面に叩きつけられてしまいダメージで身体が傷付きながらバッファローロードを睨みつけ、ギルスは攻撃の衝撃で変身が解け上条に戻ってしまう。その時……

 

 

 

 

 

 

『…上条…君?上条君なの?!返事して上条君!!』

 

 

当麻「ッ!?クッ…!」

 

 

上条の近くに転がっていたG3-Xのマスクから綾瀬の声が響き、それを聞いた上条は慌てて立ち上がるとその場から逃げ出してしまう。そして上条がいなくなったのを確認したバッファローロード達は再び頭上に光の輪を出現させ、ソレを潜りその場から消えてしまったのであった。

 

 

幸村「…行ったか…」

 

 

零「みたいだな……くっ!」

 

 

バッファローロード達が消えた橋の上を見つめる幸村を尻目に零は傷付いた身体を押さえて立ち上がり歩き出そうとする。

 

 

優矢「ま、待てよ零!そんな身体で動くなって!」

 

 

なのは「そ、そうだよ!早く怪我の治療を…!」

 

 

零「ッ…こんなのただのかすり傷だ…それはそうと…」

 

 

心配して駆け付けた優矢となのはにそう答えると零は目の前に目を向け、目の前から先程零達と対峙していた大輝が変身を解除して近づいてきた。

 

 

大輝「やぁ。さっきは悪かったね、零?」

 

 

零「…海道…」

 

 

優矢「海道さんッ…さっきのは一体どういうつもりですか?!幸村さんが来てくれなきゃ、今頃零は死んでましたよ?!」

 

 

大輝「だから悪かったって、あの時は別に零を狙った訳じゃないんだよ?」

 

 

先程変身解除した零に攻撃しようとしたことに優矢は怒りの表情を浮かべるが、大輝は詫びれた様子もなく笑いながら零に指鉄砲を向けて告げる。

 

 

大輝「けどまぁ、これに懲りたらジッとしていてくれよ?そしたら最高のナマコをご馳走してやるから♪」

 

 

零「…………」

 

 

指鉄砲を向けながら笑って言葉を放つ大輝だが、零は何も喋らずふらつきながら大輝の横を通り過ぎ何処かへ向かおうとする。

 

 

優矢「お、おい零?!何処に行くんだよ!?」

 

 

零「…………あいつを…………守る……それだけだ………」

 

 

『ッ?!』

 

 

優矢達の方へと振り返りながら零はそう答えると、それを聞いた優矢となのはは驚愕した。あれだけの仕打ちを受けても尚、何故上条を守ろうとするのか?それが理解出来ない優矢となのははただ呆然とするが、零は二人に構わず幸村にアイコンタクトを送り、幸村がそれに気付いて頷くと零はそのまま上条が向かった方へ向かいその場から去っていってしまった。

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

それから数十分後、上条を追って廃棄ビルへとやって来た零は壁にもたれ掛かった上条の姿を見つけ、若干ふらついた足取りで上条にゆっくりと近づいていく。

 

 

当麻「……コイツを返して欲しいのか?もうお前には戦う力はない……いい加減俺の前から消えろ!」

 

 

上条は零から奪ったディケイドライバーをちらつかせながら殺気の込めた視線で零を睨み自分に関わるなと脅してくる。だが……

 

 

零「…悪いが俺は聞き分けが悪い…だから例えお前に何をされようと…俺はお前を守る…そう言っただろ」

 

 

当麻「ッ?!いい加減にしろよっ…さっさと俺の前から消えろっ!!」

 

 

―キイィィィィィィンッ!ドグオォォォォォンッ!―

 

 

零「グッ!?」

 

 

それでも尚上条を守ると告げる零に上条は怒りに満ちた表情を浮かべ、左手を零に突き出し不可視の衝撃波を放って零を壁に叩き付けてしまう。だが、それでも零は諦める事なく傷付いた身体を抑えて壁にもたれながら身体を起こし、上条を見つめる。

 

 

零「ッ…そうしてお前は…これからも一人孤独で居続けるつもりか…?他人の…インデックス達の為に……」

 

 

当麻「ッ?!な、何…?」

 

 

零「…お前は…お前だって本当は帰りたいと思ってるんじゃないのか…?お前を思って…お前の帰りを待ってくれてる人達の下にっ…だからっ……」

 

 

当麻「だ、黙れ…黙れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーッ!!!」

 

 

―ドゴォンッ!!―

 

 

零「グゥッ!!」

 

 

零の言葉を聞いて上条は悲痛な叫び声を上げながら零に向かって駆け出し素手で殴りつけていき、零を苦痛で表情を歪めながら吹き飛び地面に叩き付けられてしまう。そしてそれと同時に零を追ってきたなのはがその場に到着し、その光景を見て驚愕した。

 

 

なのは「ッ!?れ、零君!?しっかりして!零君!!」

 

 

当麻「ハァ…ハァ…くっ…!」

 

 

なのはは地面に倒れていた零に駆け寄り必死に身体を揺さ振って呼び掛けるが、気を失っているのか返事が返ってこない。そしてその様子を尻目に上条はディケイドライバーを持ったまま何処かへと走り去ってしまった。

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑦

 

―警視庁・未確認生命体対策本部―

 

 

 

一時間後、先程の場所から警視庁の未確認対策本部に戻って来た大輝と優矢は、先程の戦闘で起きた経緯を綾瀬と美琴、そして対策本部に残って先の戦闘の様子を映像で見ていたティアナ達に報告していた。

 

 

美琴「スゴイじゃないですか海道さん!あのグロンギを二体も倒すなんて!」

 

 

大輝「まあね…でも、新しい敵には全く敵いませんでした」

 

 

綾瀬「…新しい敵?」

 

 

大輝「えぇ、俺がグロンギを倒した後、グロンギとは全く別の新しい敵が現れたんです。なぁ?桜川君?」

 

 

優矢「は、はい…」

 

 

大輝は先程の戦闘の経緯を綾瀬に報告して優矢に振ると突然話を振られて優矢は一瞬戸惑うも同意を込めて頷いた。そして大輝からの報告を聞いた綾瀬は思わず小声で呟く。

 

 

綾瀬「…アンノウン、ね」

 

 

優矢「…アンノウン?なんですかソレ?」

 

 

綾瀬が呟いたアンノウンという聞き慣れない名に優矢が雪野に問い返すと、綾瀬と美琴は一度顔を見合わせた後それに答える。

 

 

綾瀬「…私達はそう呼んでるのよ。未確認生命体との区別をつける為にね…」

 

 

美琴「今までも何度か学園都市で目撃されてはいたんですが…その対象の全ては学園都市の生徒である能力者達や武器を持った警察とアンチスキル、そしてグロンギだけなんです。だけどそれとは逆に、非武装員や無能力者などが襲われた事は全くといってないんですよ…」

 

 

ヴィータ「って事はつまり…そのアンノウンって奴等は力や武器を持ってる奴は襲うけど、何の力も持たない民間人には手を出さない…って事か?」

 

 

シャマル「…でもそれってどういう事?それじゃまるで……」

 

 

シグナム「あぁ、まるで力のない者を護ってるみたいに思える…と言うんだろう?私達も同じ事を考えていたんだ」

 

 

アギト「だけど、アイツ等滅多に姿を現さないからな…アイツ等に関する資料も全くないから調べるのに結構時間掛かったよ」

 

 

ティアナ「……力ある者を駆除する怪人、アンノウン…その目的って一体……」

 

 

何故アンノウンは力を持たぬ者は襲わず、逆に持つ者を襲うのか。不可解な動きを示すアンノウンの行動が理解出来ず優矢達は怪訝な表情を浮かべるばかりだが、そんな中で綾瀬は険しい表情で口を開いていく。

 

 

綾瀬「…けど、奴等による被害が出ているのは事実よ。学園都市の学生達にこれ以上被害が及ばない為にも、アンノウンへの対抗作も考えているわ」

 

 

大輝「なるほど。つまり、G3-Xの更なるバージョンアップ…という事ですね?」

 

 

アギト「っ?!マ、マジかよ綾瀬刑事…?!」

 

 

綾瀬「……えぇ、本気よ。奴等に対抗する為にもG3-Xのパワーアップは必要不可欠……せめて今現在も出没しているグロンギをすべて倒せる程にはね……」

 

 

シグナム「そんな…ただでさえパワーが問題視されているのに、そんな事をすれば上層部が黙ってはいないぞ!?」

 

 

綾瀬「…それでもやるしかないのよ…奴等を倒す為には…どうしてもね…」

 

 

美琴「………………」

 

 

綾瀬はシグナムやアギトの意見も聞かずG3-Xのパワーアップを行う事を告げると何故か美琴は暗い表情で顔を俯かせてしまい、綾瀬は用件だけを告げると作戦室から出ていってしまった。そして残された一同は口を閉ざしたまま何も語らなくなってしまい、このままこうしていても仕方ないと思い今日の所は解散する事にしたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして対策本部で解散してから一時間後、時刻は既に夕刻となり、ロッカールームで着替えを終えた優矢は外で待つティアナ達の下に戻ろうとロッカールームを出ようとしていた。そして優矢がロッカールームの扉前に辿り着いた、その時…

 

 

「…グスッ…うっ……」

 

 

優矢「……ん?」

 

 

近くで少女の泣き声らしき声が聞こえ、優矢はそれに気付くとその声が聞こえたロッカーの一角の方を覗き込む。すると其処には一つのロッカーの前で涙を流しながら俯いている少女……美琴の姿があったのだ。

 

 

優矢(……御坂さん?)

 

 

美琴「っ…何やってんのよアンタは……勝手にいなくなって…綾瀬刑事にも心配掛けて……私だってっ…」

 

 

ロッカーの前で涙を流して俯く美琴を見て優矢は疑問そうに首を傾げ、そのロッカーに書かれている名前に目を向ける。そこには……

 

 

優矢「…上条…当麻?」

 

 

そう、ロッカーに書かれていた名前は零が今守ろうとしているギルスの変身者、上条の名前だった。優矢も零やなのは達から少しだけ話しは聞いていたが、何故上条のロッカーが警視庁ににあり、美琴がその上条のロッカーの前で涙を流しているのか分からなかった。そんな時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

優矢「……え?」

 

 

不意にロッカールームの扉が開き優矢はロッカーの陰に隠れて扉の方を見ると、其処から大輝が堂々と姿を現し、大輝はそのまま美琴の前に悠然と立つと妖しい笑みを浮かべる。

 

 

美琴「海道…さん?」

 

 

大輝「…どうやら、大切なものはそこに仕舞ってる様だね♪」

 

 

美琴「…へ?―ドンッ!―キャッ?!」

 

 

何時もと変わらぬ笑みを浮かべながら言い放った大輝の言葉の意味が分からず、美琴は思わず呆然と大輝に聞き返すが、大輝はいきなりロッカーの前から美琴を押し出し上条のロッカーを開いて中を漁り出した。そして大輝は中を調べていると何かを見つけたのか満足げに笑い、それをロッカーから取り出し手に取って眺める。

 

 

美琴「そ、それは…!」

 

 

大輝「やっと見つけたよ…G4チップ♪やっぱり完成してたみたいだね?」

 

 

上条のロッカーから出したG4チップと呼ばれる小さなクリアーケースを手に取り大輝は嬉しそうに笑うが、その様子を見ていた優矢はロッカーの陰から飛び出し美琴の前に立って大輝に叫ぶ。

 

 

優矢「海道さん?!貴方何を…!?」

 

 

大輝「フッ…悪いね桜川君?俺はこの辺で抜けさせてもらうよ!」

 

 

―スチャッ、ズガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

美琴「なっ?!」

 

 

優矢「ッ?!危ないっ!!」

 

 

優矢に見付かった大輝は笑いながらそう言うと直ぐに冷たい表情へと一変しディエンドライバーをいきなり二人に向かって発砲し出したのだ。それを見た優矢は直ぐさま美琴を屈めて銃弾を避けていくが、大輝はその隙にロッカールームから逃げ去っていった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

その頃、なのはの手により写真館に運ばれた零は傷の治療を済ませ今はなのは達に看病されソファーで眠っていた。その隣では、ヴィヴィオが零の手を取り包帯だらけとなった零を心配そうに見ている。

 

 

ヴィヴィオ「……パパ…」

 

 

すずか「…大丈夫だよヴィヴィオちゃん。零君はただ眠ってるだけだから、きっとすぐ目を覚ますからね」

 

 

ヴィヴィオ「…うん」

 

 

すずかは不安げに表情を曇らせるヴィヴィオを安心させようと頭を撫で、ヴィヴィオも少しだけ元気を取り戻しすずかに頷き返した。そしてその隣ではなのはが零の額に乗せてあるタオルを取って桶の水に付けると零の額に再び乗せていく。

 

 

フェイト「…まだ…目を覚まさないね、零…」

 

 

なのは「うん…でも大丈夫だよ…零君なら絶対大丈夫…心配ないよ」

 

 

なのは(幸)(…信頼してるんだね…こっちの私は彼の事を…)

 

 

幸村(あぁ、それがコイツ等の…零達の強さでもあるからな…)

 

 

ソファーで眠る零の手を強く握り、零が目覚めるのを待つなのは達を見てふとそう思う幸村となのは(幸)。そんな時……

 

 

零「………ッ…うっ…」

 

 

ヴィヴィオ「…ッ!パパ!」

 

 

なのは「零君!目が覚めた!?」

 

 

気を失っていた零が漸く意識を取り戻し、額を抑えながら起き上がって辺りを見回していく。そしてそれを見たなのは達も安心したというような表情になりホッと一息吐いていた。

 

 

零「っ……俺は……そうか……あの時……」

 

 

フェイト「う、うん…気分はどう?何処か痛まない?」

 

 

零「……あぁ、特に問題はない……だが、また心配掛けたみたいだな……すまない」

 

 

すずか「い、いいよ謝らなくても!零君が無事だっただけで十分だから…」

 

 

頭を下げて謝罪する零を見てすずかは慌ててそう答えると零は小さく頷き返してなのは達から視線を外し、何かを探すかのように辺りを見回し始める。

 

 

零「…?そういえば…インデックスはどうした?姿が見えないようだが?」

 

 

なのは「え?あ…そ、それが…その…」

 

 

零「……?」

 

 

インデックスの姿が見当たらない事に気付きなのは達に問い掛ける零だが、その質問を受けたなのは達は急に黙り込んでしまい気まずそうに顔を俯かせてしまう。そんななのは達の様子を見た零は更に訝しげに眉を寄せて首を傾げていると、その様子を見兼ねた幸村が代わり答える。

 

 

幸村「…インデックスは今此処にいない…というよりは、また行方不明になっているといった方が正しいか」

 

 

零「…ッ?!行方不明だと?!どういう事だ…?!」

 

 

幸村「…俺達が上条当麻を追跡する為インデックスをなのは達に任せた後、インデックスは写真館に戻ろうとした最中突然いなくなったそうだ。恐らく上条当麻を探しに向かったのだと思うが……アイツを探しに向かったスバルとギンガ、ナンバーズの連中から一度も連絡が来てない辺り、まだ見付かっていないんだろう」

 

 

零「っ……そうか…なら、インデックスの事はスバル達に任せるしかないな…」

 

 

今の現状を説明する幸村の言葉を聞いて零は顔を俯かせるがすぐに決心した様な表情へと変わり、ソファーから立ち上がって若干ふらつきながら部屋から出て行こうとする。

 

 

なのは「ちょ、ちょっと待って!何処に行くの?!」

 

 

零「……行かなくちゃいけない……アイツを……守らないとっ……」

 

 

『…ッ?!』

 

 

上条を守られなければいけない。零のその言葉になのは達は驚愕し呆然としてしまうが、すぐに正気に戻ったフェイトは零の目の前に立ち部屋から出ていこうとするのを止めた。

 

 

零「…フェイト…そこをどいてくれ…」

 

 

フェイト「出来ないよっ!そんなボロボロになってるのに、なんでそこまでしてあの人を守ろうとするの?!お願いだからっ…これ以上無茶しないで!」

 

 

零「………………」

 

 

零の言葉も聞かず、フェイトは悲痛な表情を浮かべて上条の下へ向かおうとする零を止めようとする。それもその筈、零はあの上条のせいで危うく死に掛け更にはこんな怪我まで負わされてしまったのだ。また上条の下に行けば、今度はこれぐらいでは済まないかもしれない…フェイトはそれが心配で零を行かせたくないのだ。

だが零はそんなフェイトを見て仕方ないといった表情を浮かべるとポケットから一通の破れた手紙……あの上条宛ての手紙を取り出しフェイトに見せ、なのは達はそれを見て疑問を浮かべながらも横からそれを覗き込み、その手紙の差出人の名前が書かれた所を見た。其処に書かれていた名前は……

 

 

なのは「…ッ?!この手紙の差出人…綾瀬刑事?!」

 

 

すずか「…これって一体…どういう事?」

 

 

そう…その手紙の差出人の名は未確認生命体対策本部の刑事であり、優矢が今守ろうとしている綾瀬だったのだ。

一体何故綾瀬は上条に宛てて手紙を送ったのか?綾瀬と上条…この二人に一体何の関係があるというのか?それが理解出来ないなのは達は困惑するばかりだが、その真実を知る為に意を決し、その手紙を開いたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

丁度その頃、警視庁の地下駐車場ではG4チップを手に入れた大輝がソレを手にして子供のように笑いながらチップを眺め、大輝を追ってきた優矢はそんな大輝を睨みながら身構えていた。

 

 

大輝「やはり素晴らしい!このG4チップは人間の脳の神経と肉体をダイレクトリンクさせる、まさに最高のお宝だ!」

 

 

優矢「お宝…?海道さん、貴方は一体…!?」

 

 

大輝「ん…?零から聞いて無いのかい?俺が興味あるのは、世界に眠るお宝だけなのさ」

 

 

優矢の質問に対し大輝は相変わらずといった感じで笑いながら答え、それを聞いた優矢は大輝の目的が最初からあのG4チップだけなんだと理解し大輝を睨む目を更に鋭くさせていく。

 

 

優矢「返せ…それは姐さん達の物だ!」

 

 

大輝「……はぁ…君は何か大きな勘違いをしてるんじゃないのかい?あの人は君の姐さんなんかじゃない…別世界の住人なんだよ?」

 

 

優矢「…そんなの関係ない。俺はただ、姐さんの悲しむ顔を二度と見たくないだけだ!」

 

 

優矢は力強く叫びながらクウガに変身しようと構えるが、それよりも早く大輝はディエンドライバーの銃口を優矢の顔に向けてそれを阻止した。

 

 

大輝「俺の旅の行き先は、俺自身が決める…」

 

 

優矢「…旅の…行き先?」

 

 

大輝「君の旅は此処で終わりのようだけど…俺は違う。ソレを君に邪魔される筋合いなんてない」

 

 

大輝は先程までの感じとは違い冷たい表情でディエンドライバーを優矢の目の前に突きつけ、変身を封じられた優矢は額から汗を伝わせながら鋭い視線で大輝を睨みそんな状態が暫く続いていた、その時……

 

 

―ズキュゥンッ!ズキュゥンッ!バチィィィッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突如優矢と大輝の間に数発の銃弾と青白い雷撃が放たれ、二人は思わず互いから離れて距離を離した。そしてその銃弾が撃たれてきた方には、いつの間にか銃を構えた綾瀬とティアナと、前髪から肩へと青白い火花を飛び散らせ大輝を睨み付ける美琴の姿があった。

 

 

美琴「さっきは良くもやってくれたわねぇ?この盗っ人!!」

 

 

ティアナ「零さんから話は聞いてはいたけど、まさかホントにそんな人だったなんてね……幻滅しましたよ大輝さん!」

 

 

大輝「チッ!もう追い付いて来たのか…!」

 

 

銃を構える綾瀬とティアナ、そして今にも超電磁砲を撃ってきそうな勢いを見せる美琴を見て自分に分が悪いと判断したのか、大輝は直ぐさまディエンドライバーを仕舞いその場から逃げようと走り出す。だが…

 

 

優矢「ッ!待ちやがれ!」

 

 

―ガバァッ!―

 

 

大輝「うぉッ?!」

 

 

―ガシャンッ!―

 

 

逃げようとする大輝に優矢は直ぐさま背後から飛び掛かって態勢を崩させ、その拍子で大輝は手に持っていたG4チップを地面に落としてしまい、それを見た綾瀬は瞬時にG4チップに狙いを定めた。

 

 

―ズキュゥンッ!パリィンッ!―

 

 

大輝「…ッ!?お、俺のお宝が…!」

 

 

綾瀬はG4チップに目掛けて銃弾を発砲しチップを粉々に砕いてしまい、粉々に砕けたG4チップを見て大輝は悔しそうな表情を浮かべるが、綾瀬は今度は大輝に銃を向け淡々と告げる。

 

 

綾瀬「勘違いしないでくれる?それは貴方のモノなんかじゃないわ」

 

 

大輝「クッ!ホントに困った人だな…大切な物の価値が分からないなんて…」

 

 

美琴「うっさいわよ!いいからさっさと消えなさい!さもないと…!」

 

 

悔しげに毒づく大輝に美琴は怒りの表情を浮かべながら前髪から火花を散らせ、それを見た大輝は舌打ちしながらその場から逃げるように去っていった。

 

 

ティアナ「…優矢さん!大丈夫でしたか?!」

 

 

優矢「あ、あぁ、なんとか…だけど、なんで皆が此処に…?」

 

 

美琴「あ、私が綾瀬刑事達に知らせたんですよ。あの人がG4チップを勝手に持ち出して、桜川さんがそれを追っていったって…」

 

 

優矢からの問い掛けに美琴はそう答えると綾瀬の方へ顔を向け、綾瀬はそれに頷きながら優矢の下に近づいていく。

 

 

優矢「…だけどすみません…俺がもっと早く捕まえてれば…G4チップを…」

 

 

綾瀬「…いいのよ。あれは、本当に大切なものを守る為に作ったんだから…でも…」

 

 

優矢「……でも?」

 

 

言葉を放つ途中で言い淀んでしまった綾瀬に優矢は思わず聞き返すが、綾瀬は何も答えないで歩き出し警視庁の中へと戻ってしまい、美琴も去っていく綾瀬から優矢達に一度視線を向けるとすぐに綾瀬の後を追ってその場から去っていった。そしてその影では……

 

 

大輝「――G4チップより、大切なものだって?」

 

 

先程逃げ去ったと思われた大輝が駐車場の柱の影から今の会話を盗み聞き、何やら嬉しそうに笑いながら今度こそ外へと出ていったのであった。

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑧

 

 

翌日……

 

 

 

当麻「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

昨日からずっとアンノウン達から逃げ続けていた上条は人気のない場所を走り、何処か隠れられる場所はないかと辺りを見回しながら先を進んでいた。だが、一つの建物の屋上からその様子を見ていたバッファローロードは杖の矛先を上条に向け光の十字架による攻撃を放つ。その時……

 

 

零「危ないっ!!」

 

 

―ガバァッ!―

 

 

当麻「な…ッ?!」

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

バッファローロードの攻撃が目前まで迫った瞬間零となのは、幸村となのは(幸)が現れ上条と共にその場から飛び退きバッファローロードの攻撃をかわしたのだ。そして零達は攻撃を免れた後、上条を連れて近くの建物の中に身を隠した。

 

 

当麻「…何故だ…何故其処までして俺を守る?!」

 

 

幸村「…言った筈だろう?お前は俺達が守ると…それに…」

 

 

零「お前が死ねば…インデックスや綾瀬達が悲しむ…」

 

 

当麻「…ッ!?」

 

 

零から聞かされた綾瀬の名を聞いた瞬間、上条は目を見開き驚愕の表情を浮かべた。インデックスの事はともかく何故零達が綾瀬達の事まで知ってるのか?何故零達は自分達の身を危険に曝してまで赤の他人である自分を守ろうとするのか?それが理解出来ない上条はただ困惑するばかりであった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

一方その頃、警視庁の入口付近では優矢とティアナ、そしてヴィータとシャマルが対策本部に出社しようとバイクを押しながら中に入ろうとしていた。だが……

 

 

フェイト「ハァ…ハァ……優矢!」

 

 

優矢「え?…フェイトさん?」

 

 

入口付近の近くにあった地下鉄への階段からフェイトが走って現れ、優矢はフェイトに気付いて疑問の声を漏らしているとフェイトは優矢に向かって慌てた様子で話し始めた。

 

 

フェイト「優矢、お願い!零達を助けてあげて!」

 

 

優矢「え?零をって…っていうかアイツどうしちゃったんですか?急に化物みたいな奴を守るとか言い出して…」

 

 

フェイト「…化物じゃない。彼は上条当麻…G3の最初の装着員であり、綾瀬刑事達にとって大切な人だったんだよ」

 

 

『…なッ?!』

 

 

フェイトから話された事実に一同は驚愕してしまう。上条の名前だけなら聞いていた優矢も上条が警視庁と何らかの関係があるのではと予想していたが、まさか上条がG3の装着員だったとは予想もしていなかったのだ。そしてフェイトはポケットからあの破れた手紙を取り出すと、それを優矢へと渡して見せた。その手紙には……

 

 

 

 

―上条君へ

 

貴方が私達の前から消えてしまってから、数ヶ月が経ちました。もしかしたら、前の家に戻って来ることがあるかもしれないと期待しこの手紙を出します。私達にだって、貴方を守る事は出来ます!G3をより強化したG3-Xなら、あの怪物達とも対等に戦う事が出来る筈です!どうか…どうかもう一度帰って来て下さい!私にも美琴さんにも…貴方が必要です!

 

綾瀬翔子―

 

 

 

 

優矢「…………これが……姐さんの達……願い……」

 

 

その手紙に書かれていた事…綾瀬や美琴が上条を守りたいという気持ち、そして上条に帰って来てほしいという強い願いが込められた言葉が綴られたモノであった。それを見た優矢は手紙をゆっくりと閉じ、そして何かを決意したかのような真剣な目付きで対策本部へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

―警視庁・未確認生命体対策本部―

 

 

そして対策本部へとやって来た優矢は部屋に入ってすぐにG3-Xのアーマーを手に取っていき、それを見ていた綾瀬と美琴は一瞬驚きながらも慌てて優矢に呼び掛けた。

 

 

綾瀬「ま、待ちなさい桜川君!出撃命令は出して「…連れてきます」…え…?」

 

優矢「…俺が連れてきます。G3-Xの…本当の装着者を…」

 

 

決意の込められた目付きで二人にそう告げると優矢はアーマーを装着し始め、それを聞いた綾瀬と美琴はただ呆然とした表情で立ち尽くしているしか出来ないでいた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

その頃、零達と上条はアンノウン達からの攻撃を逃れつつアンノウンからの追跡をやり過ごそうと建物の中に隠れていた。ずっとアンノウンから逃げて続けていたせいか一同は息絶え絶えといった感じに呼吸をし、特に幸村はアンノウンからの攻撃に対し能力をかなり使ったせいか一人その場でしゃがみ込み、なのは(幸)に支えられている。そんな時、今まで口を閉じていた上条がポツリと喋り出した。

 

 

当麻「…一年と少し前…俺と御坂と綾瀬班長は、G3の完成を間近にしていた。だがそんなある日、俺の身体に異変が起きた…俺の中で不思議な力が目覚めたんだ…」

 

 

上条はこれまで自分の身に起きた出来事を零達に告白していく。ある日突然ギルスの力が覚醒し、アンノウンから狙われるようになってしまった事、そして綾瀬や美琴、インデックスを巻き込まない為に彼女達の前から姿を消した事を……

 

 

当麻「…怖かったんだよ…俺のせいで、関係のない誰かが傷付いてしまう事が…だから俺は逃げ出してしまった……なのにアイツは、インデックスは俺を探し続けた…そのせいで、アイツまで危険に曝しちまったんだ…」

 

 

『……………』

 

 

上条は壁に額を当てながら後悔するかのように唇を噛み締め、上条の話を聞いた零達は何も言わず、ただ全てを知って納得したかのような表情で上条を見つめていた。だがその時……

 

 

―バッ!―

 

 

『キシャアァッ!!』

 

 

当麻「ッ?!―ドゴォッ!―ガッ?!」

 

 

なのは(幸)「ッ?!上条君ッ!?」

 

 

零「クッ?!もう此処が見付かったのか?!」

 

 

突如建物の奥からアンノウン達が飛び出して上条へと殴り掛かって吹っ飛ばし、上条はその拍子に零から奪ったディケイドライバーとライドブッカーを地面に落とした。そして更に奥からバッファローロードが現れ上条に杖を向けながら近づき、零達は上条を守ろうと戦闘態勢に入っていくが…

 

 

当麻「クッ…今の内に早く逃げろ!グアァァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

上条は直ぐさま零達の前に立つと吠えるように叫びながらギルスへと変身し、バッファローロード達へと殴り掛かってそのまま何処かへと消えていった。そしてそれとはすれ違いにG3-Xを装着した優矢がバイクに乗ってサイレンを鳴らしながら零達の元へとやって来た。

 

 

零「…よぉ、やっと見つけた居場所の居心地はどうだ?気に入っただろう?」

 

 

なのは「れ、零君!そんな言い方…!�」

 

 

少し皮肉げに言う零になのはが横から止めに入るが、優矢は何も答えずマスクを外して静かに呟く。

 

 

優矢「…手紙を見た。上条当麻が…綾瀬さんや御坂さんにとってどういう人なのか…」

 

 

零「…そうか…」

 

 

優矢「……でも、どうしてお前があの人を守るんだ?お前は何も関係ない筈じゃ…」

 

 

優矢は疑問の表情を浮かべながらそう問い掛けるが、そう思うのも無理はない。確かに上条は綾瀬達にとって大事な人だが、無関係な筈の零が何故そんなにボロボロになってまで上条を守ろうとするのか?その問いに対し零は顔を反らしながら答えた。

 

 

零「………どこぞの人食いシスターがアイツに会いたがっていたから仕方なくだ…それにアイツが死ねば、そのシスターも御坂美琴も…綾瀬も笑顔を失う…綾瀬の笑顔を守るのが…お前の望みじゃなかったのか?」

 

 

優矢「え……?じ、じゃあまさか……俺の為に…?」

 

 

優矢は零が上条を守ろうとした理由を聞いて唖然としてしまうが、そんな優矢の反応を見た零はバツが悪そうに舌打ちしながら優矢の肩を叩いた。

 

 

零「ほら、ボヤッとしてないでさっさと行け!アンノウンがアイツを追ってるんだ!」

 

 

優矢「え?あ、あぁ……」

 

 

零は照れを隠す様に優矢に怒鳴ってに先を急ぐように促し、優矢もそれに戸惑いながらマスクを再び装着しギルスを追いかけるようにバイクを発進させていった。

 

 

零「……ハァ…ホントに何やってんだろうな…俺は…」

 

 

幸村「…お前も意外と素直じゃないんだな?」

 

 

なのは(幸)「そうだね、私的にはもっと素直になっていいと思うけどなぁ♪」

 

 

零「……俺はいつでも素直に生きてるつもりだが?」

 

 

幸村となのはの言葉に対し零は頬を掻きながら答える。そしてなのははそんな零の態度に苦笑してると地面に落ちたディケイドライバーとライドブッカーに気付いて拾い、零に差し出す。

 

 

なのは「それじゃ、私達も早く行こう?優矢君が今度こそ……綾瀬さんの笑顔を守れるように」

 

 

なのはは力強く零にそう呼び掛けると、幸村となのは(幸)も同意するように頷き、零はライドブッカーからシルエットだけのアギトのカードを取り出すとなのは達に向けて小さく頷いた。

 

 

零「あぁ…あの馬鹿の願いを手助け出来るのは…俺達しかいないからな」

 

 

零は苦笑しながらアギトのカードを仕舞うとなのは達と共にギルスとG3-X…上条と優矢を追いかけその場から駆け出したのであった。

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑨

 

 

そしてその頃、ギルスの元へ辿り着いたG3-Xはバイクから降り、未だ他者を寄り付けようとしないオーラを放ち続けるギルスにゆっくりと近づいてく。

 

 

G3-X『見付けたぞ上条当麻…俺と一緒に来い!』

 

 

ギルス『ッ…何処へだ?!』

 

 

G3-X『そんなの決まってる……G3ユニット、そこがアンタの帰るべき場所だ!』

 

 

ギルス『ッ!ふさげるな!俺はもう帰れない…こんな化物に居場所なんてないんだ!』

 

 

ギルスはG3-Xの説得も聞かずいきなり襲い掛かり、G3-Xはそれを防いでいきながらギルスへと掴み掛かっていく。

 

 

G3-X『そうやって…何かも自分から離れさせようとするな!綾瀬さんも御坂さんも…アンタの帰りをずっと待っているんだ!!』

 

 

ギルス『グッ…黙れっ……黙れぇぇぇぇぇっ!!!』

 

 

ギルスは拒絶するかのようにG3-Xを突き飛ばしていくが、G3-Xはそれでも諦めず何度もギルスに掴み掛かり必死に説得を続けていく。その様子をモニター越しで見ていた綾瀬と美琴は、G3-Xとギルスの戦いを見守りながら上条に戻って来てほしいという願いを込めてただ祈り続けていた。そしてG3-Xはギルスに掴み掛かって押し出し、ギルスとG3-Xは浅瀬の河に落ち再び対峙していく。

 

 

G3-X『アンタはっ…自分がアンノウンに追われている事を知って、姐さん達の前から姿を消した!あの人達を巻き込まない為に…!』

 

 

ギルス『ッ!…それしか…それしか方法がなかったんだ!!アイツ等を守る為にはっ…そうするしか!!』

 

 

G3-X『…分かっていたよ…姐さんも御坂さんも…アンタが消えた理由にとっくに気づいてた…』

 

 

ギルス『…?!な、に…?』

 

 

G3-Xの言葉にギルスは驚愕して一瞬全身の力が抜けるが、其処へ再びアンノウン達が現れギルスに向かって襲い掛かろうとし、それを見たG3-Xは直ぐさまGX-05を構えアンノウン達を乱れ撃ちアンノウン達は悲鳴を上げながら散っていった。

 

 

ギルス『ッ!この力は…!?』

 

 

G3-X『…姐さん達は…この力をもっと強くしようとしている。何故か?…アンノウンを倒し、アンタを守る為だ!』

 

 

G3-Xはそう言ってギルスにあの手紙を渡すとギルスは上条に戻りその手紙を受け取って手紙を読み、そこに書かれてあったあの二人の気持ちを知り手紙を強く握り締めた。

 

 

G3-X『姐さんも御坂さんも強いんだよ…俺やアンタが思っているよりもずっと…な』

 

 

当麻「………御坂……綾瀬班長……」

 

 

上条は綾瀬と御坂の名を呟きながら手紙を強く握り締めていく。そんな時……

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…とうまっ!とうまあぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

 

 

当麻「…ッ?!」

 

 

G3-X『え…?』

 

 

突然橋の上から少女の声が響き、G3-Xと上条はその声が聞こえてきた真上を見上げた。するとそこには肩で息をしながら上条を見つめる少女……昨日行方不明となっていたインデックスがうっすらと涙目になりながら橋の上に立っていた。

 

 

G3-X『あの子…確か零達が言ってた…?』

 

 

インデックス「ハァ…ハァ……とうまっ……ごめんね……ごめんねとうま!私、ずっととうまの傍にいた癖に…全然とうまの事分かってなかった!何時も助けてもらってるのにっ…とうまが苦しんで、悩んでいたのにっ…全然気付いてあげられなかったっ!!」

 

 

当麻「…インデックス…」

 

 

インデックス「私も…私も頑張るから!!私もとうまが、とうまがもう苦しまずに済むように守るから!!だからもうっ…一人で悩まないでっ…抱え込もうとしないでっ……今度は私が!とうまを地獄の底から救い出してみせるからっ!!」

 

 

当麻「っ…!」

 

 

泣きながら必死に自分の思いを告げるインデックスの姿を見て上条は思わず顔を俯かせて泣き出してしまい、G3-Xはそんな上条をただ黙って見守っていた。だが……

 

 

 

『キシャアァァァァ…』

 

 

 

G3-X『…ッ?!あ、危ない!後ろっ!!』

 

 

インデックス「え…?」

 

 

G3-Xがインデックスの背後を見て慌てて叫び、それを聞いたインデックスは疑問そうに呟きながら背後へと振り返ると、そこにはいつの間にかアンノウン達の群れがインデックスを包囲し迫ってきていた。

 

 

『シャアァァァァ…!』

 

 

インデックス「あ…あ……」

 

 

当麻「ッ?!イ、インデックスッ!!」

 

 

G3-X『クッ?!マズイ!此処からじゃ間に合わない!!』

 

 

橋の上でアンノウンの群れに囲まれるインデックスを見て焦りを浮かべるG3-Xと上条だが、その間にもアンノウン達はインデックスに迫り両手で殺しのサインを切りながら襲い掛かろうとした。そんな時……

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ギッ?!ギシャアアァァァァァァァァッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

インデックスを包囲していたアンノウン達の背後から無数の銃弾が放たれアンノウン達に直撃し、一体のアンノウンが爆発を起こして散ると残りのアンノウン達はその爆発に巻き込まれ橋の下へと落ちていった。そして橋の上で起きた爆発の中から何か……ディエンドに変身した大輝が脇にインデックスを抱えながら飛び出し二人の前に着地した。

 

 

当麻「ッ!インデックス!」

 

 

インデックス「…あ、あれ?…とうま?」

 

 

G3-X『か、海道さん?!どうして貴方が…?!』

 

 

ディエンド『勘違いしないでくれよ?俺はただ、そこの彼が持ってるG4チップより価値のあるお宝とやらが見たいだけさ』

 

 

G3-X『…お宝?』

 

 

ディエンドの言葉にG3-Xは思わず首を傾げるが、その時橋の下に落ちたアンノウン達が一斉にディエンド達へと襲い掛かり、それを見たディエンドはインデックスを離して瞬時に一本の剣…ディエンブレードを取り出してアンノウン達を斬り伏せ、左腰のホルダーからカードを一枚取り出しディエンブレードに装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

ディエンド『新しいカードの威力を見たまえ…ハッ!』

 

 

―ズババババババババババババババァ!!―

 

 

『ギゴオォッ!?』

 

 

電子音声と共にディエンドがディエンブレードを横殴りに振るうと青い斬撃破が複数放たれアンノウン達を吹き飛ばしていく。そしてその間にディエンドは腰のホルダーからカードを取り出し、ディエンドライバーにセットした。

 

 

『KAMENRIDE:SEIーO!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

電子音声と共にディエンドが引金を引くとディエンドの前にビジョンが駆け巡り、それが重なると薄緑色の姿をしたライダー…聖王が現れアンノウン達に向かって突っ込んでいく。そして聖王がアンノウン達を押していく間にディエンドはカードを取り出しディエンドライバーにセットしてスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

―ドシュウンッ!―

 

 

聖王『アウッ?!』

 

 

電子音声が響くとディエンドが引金を引き聖王を撃ち抜き、聖王は宙に浮かびその姿を巨大な剣…セイオウセイヴァーへと超絶変形させ、ディエンドは更にカードを取り出してディエンドライバーへとセットしスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SEIーO!』

 

 

電子音声と共にディエンドがセイオウセイヴァーを手に収めると、セイオウセイヴァーの刀身に辺りの風が集束して激しく輝き出し、ディエンドはセイオウセイヴァーをアンノウン達に向けて大きく振り上げていった。

 

 

ディエンド『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァアッ!!ズバアァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『ヌオアァァァァァァ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディエンドはセイオウセイヴァーを振り降ろしそれを受けたアンノウン達は悲痛な悲鳴と共に爆発を起こし完全に散っていった。それを確認したディエンドはセイオウセイヴァーを消して上条とインデックス、G3-Xの下に歩み寄っていく。

 

 

ディエンド『さぁ、助けてやったぞ。報酬としてG4チップよりも大切なお宝、見せてくれないかな?』

 

 

当麻「お、お宝…?」

 

 

G3-X『か、海道さん…さっきから一体何を…?』

 

 

突然G4チップよりも大切なお宝を見せろと言ってくるディエンドにG3-Xと上条は何の事が分からず唖然としてしまい、それを見ていたインデックスも話が見えない為頭上に疑問符ばかりを浮かべていた。だがその時……

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ……ドガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

G3-X達の頭上に突如光の十字架が現れ、その十字架が中心に振り降りると爆発を起こしG3-X達を吹っ飛ばしていった。G3-Xはふらつきながら立ち上がり吹っ飛ばされた上条とインデックスを起こしていくが、河の奥からとてつもない力を放つアンノウン……クイーンアントロード達を引き連れたバッファローロードが姿を現した。

 

 

『…人は力を得れば、必ず間違った道を選ぶ。何故なら!』

 

 

零「…何故なら、人は愚かだから…か」

 

 

バッファローロードがG3-X達に向けて淡々と語る中、G3-X達の目の前に零達が現れバッファローロードの言葉に続いた。

 

 

『そうだ!この都市に存在する人間達も、その男の持つ力も、そしてその少女が持つ十万三千の魔道の書はこの世界を歪める!そんなモノを持つ人間など、存在してはならないのだ!』

 

 

インデックス「ッ!」

 

 

当麻「てめぇ…何勝手な!」

 

 

インデックスに杖を向けるバッファローロードに上条はインデックスを庇うように立ちながら睨み付けるが、バッファローロードは臆する事なく上条達に近づいていく。

 

 

『人は我々が守る…力など必要ない!』

 

 

零「あぁ、確かに愚かさ…死んだ女の面影を追って、全てを捨ようとしてみたり…」

 

 

なのは「大切な人を巻き込まない為に、自分一人逃げ続けたり…ね」

 

 

G3-X『…友達を守る為に、身体を張ってみたり…な?』

 

 

零となのはが語った後にG3-Xも続けて語り、それを聞いた零は微笑した後バッファローロード達と対峙していく。

 

 

幸村「愚かだから、転んで怪我してみなければ分からないんだ」

 

 

なのは(幸)「時には道に迷い…間違えたとしても…それでも旅を続ける」

 

 

零「その旅路を…お前に道案内される必要はない!」

 

 

幸村となのは(幸)、そして零がそう言うと上条…当麻は零の隣に立ち腰にベルトを出現させる。だがそれはギルスのモノではなく黄金色に輝くベルト。それを見た零はライドブッカーから三枚のカードを出すと、シルエットだけだったアギトのカードを含むそれ等のカードに絵柄が浮かび上がっていく。そしてバッファローロードとインデックスは当麻の腰に出現した黄金のベルトを見て驚愕の表情を浮かべた。

 

 

インデックス「お、黄金のベルト……オルタリング?!まさか?!」

 

 

『馬鹿な…アギトだと?!』

 

 

零「…当麻、これがお前の本当の力だ」

 

 

当麻「…あぁ」

 

 

『ッ!貴様、一体何者だ?!』

 

 

バッファローロードが動揺した様子で零に問いかけると零となのははバックルを装着してカードを構え、幸村となのは(幸)はベルトを腰に出現させ、上条は変身の構えを取っていく。

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!変身ッ!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

『GATE UP!EDEN!』

 

『GATE UP!FEATHER!』

 

 

電子音声と共に零となのははディケイドとトランス、幸村はエデンへと変身し、なのは(幸)は純白の装甲を纏い、エデンとは逆方向に翼を生やした片翼の天使、エデンと対を成すライダー『フェザー』へと変身し、当麻はベルトの左右両側のボタン状の箇所を叩くように押しエンジン音のような音と共に光りに包まれ金色の鎧に赤い瞳のライダー、『アギト』へと変身した。

 

 

インデックス「…龍の仮面を被りし、神へと進化せし伝説の戦士…アギト…」

 

 

アギト『…インデックス!今の内に早く隠れろ!』

 

 

インデックス「ッ!う、うん!」

 

 

ディケイド『優矢、行くぞ!』

 

 

G3-X『あぁ!守ってみせる…俺も!』

 

 

アギトはインデックスに隠れるように伝えるとインデックスは言われた通り物影に隠れ、G3-Xもディケイドに答えながら自身に気合いを入れ、六人はそれぞれ構えた後バッファローロード達へ突っ込んでいった。

 

 

ディエンド『…確かに大したお宝だけど、あれは持って帰れないな…』

 

 

バッファローロード達との戦闘が始まる中、ディエンドは当麻の変身したアギトを見て諦めたような事を言いながらその場から去っていった。

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑩

 

 

一方その頃、戦いの場所は何処かの廃墟工場へと移りトランスとフェザーはアントロードの大群と、ディケイドとエデンとG3-Xはクイーンアントロードと戦い、アギトはバッファローロードを相手に戦い激戦を繰り広げていた。

 

 

『アギト…許されない、人が神に近づくなど!』

 

 

―ガギャアァンッ!ガアァンッ!ガアァンッ!ガアァァンッ!!―

 

 

アギト『グゥッ!違う!俺はただの人間だ!!』

 

 

アギトはバッファローロードの攻撃を受けながらそう叫ぶとバッファローロードへと殴り掛かって反撃し、その端ではトランスとフェザーがアントロードの大群に対抗しフェザーは片手に持つツインバスターライフルを構え、トランスは取り出したカードをドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:DIVINE BUSTER!』

 

 

トランス『ディバインバスターッ!!』

 

 

フェザー『ツインバスターライフルッ!!』

 

 

『シューーーートッ!!』

 

 

―バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!―

 

 

『ヌグオォッ!!?』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

トランスとフェザーの放った極太の砲撃は一直線にアントロードの半数以上を飲み込み跡形もなく消滅させた。だがその直後、辺りの物影や地面の下からアントロードの大群が現れ二人を包囲していき、トランスとフェザーは互いに背中合わせアントロード達に対処していく。

 

 

トランス『クッ…!倒しても倒してもキリがない!』

 

 

フェザー『ッ!こんな狭い空間で大火力の砲撃なんか撃ったら絶対に崩れるよね…ちょっとやりにくいかな…!』

 

 

絶える事なく溢れ出て来るアントロードにトランスとフェザーは少々苦戦をしいられながらも攻撃の手だけは止めず、少しずつだが諦める事なくアントロード達を撃ち抜き数を減らしていく。

 

 

フェザー『ッ…だけど、こんな事でへばってたら駄目だよね!私達が…あの子達を守らないと行けないんだから!』

 

 

トランス『…うん、インデックスがあんなに頑張っていたんだから…私達が諦める訳には絶対にいかない!』

 

 

そう呼び交わす二人の脳裏には、アンノウンに追われているという危険も省みず当麻を追い続けたインデックスの姿が浮かび上がっていた。

あの子はアンノウンと戦う術を持っていないにも関わらず当麻に会いたいという願いの為だけに今まで必死に頑張り、その願いが今漸く叶おうとしているのだ。その願いを叶えさせる為にも諦める訳にはいかない。二人が強くそう思ったその時、それに呼応するかの様にトランスのライドブッカーから三枚のカードが飛び出し、トランスの手にそれが収まるとシルエットだけのカードに絵柄が浮かび上がり、フェザーを含む三枚のカードとなっていった。

 

 

トランス『これは……よし!』

 

 

そのカードを見たトランスは決心が付いたかのような表情で頷くと三枚のカードの中から一枚のカードを取り出し、それをトランスドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:FE・FE・FE・FEATHER!』

 

 

トランス『少しくすぐったいけど、我慢して!』

 

 

フェザー『え?―ドンッ!―ふにゃあッ?!』

 

 

トランスはフェザーの背中に手を伸ばしそのまま扉を開くような動作を行っていくと、フェザーの背中から天使の羽根を模したようなパーツが現れ、フェザーはそのまま宙に浮かびながら姿を変えていくとフェザーは純白の六対の翼を持った巨大機動兵器、『フェザーミーティア』に超絶変形しトランスの背中に装備された。

 

 

フェザー(M)『こ、この姿は…?』

 

 

トランス『これが私達の力だよ。さぁ、行こう!』

 

 

自身の姿に少し驚き戸惑うフェザーミーティアだが、トランスは気にする事なく両手に握られたツインバスターライフルを構え上空へと飛翔し、それを見たアントロード達は何かを感じたのか卯なり声をあげながらトランスへと突っ込むが、トランスは構わずアントロードの大群に向かって飛び込んでいく。

 

 

トランス『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドォッ!!―

 

 

『ギガアァァッ!?』

 

 

トランスはまるで上空を舞うように飛びながら両手のツインバスターライフルとフェザーミーティアに搭載されたレールガンやビーム砲で次々とアントロードの大群を撃ち抜いて撃破していくが、その時近くのコンテナの上から数体のアントロードが飛び掛かりトランスに奇襲を仕掛けた。だが……

 

 

トランス『――――それで奇襲のつもり…?行って!ドラグーンッ!!』

 

 

―カシュンカシュンカシュンッ!!ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『ッ?!ギャアァァァァァァァァァァァアッ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

トランスはまるで最初から分かっていたかの様に冷静な表情で叫ぶと、フェザーミーティアのウィングが飛翔しアントロード達を撃ち抜き爆散させたのだった。そしてフェザーミーティアのウィング…ドラグーンを周りに展開させながらトランスはライドブッカーからカードを取り出していく。

 

 

トランス『残念だけど、今の私は貴方達の動きが手に取るように分かるよ。何故なら…貴方達の未来が私には見えてるんだから!』

 

 

そう、それがフェザーミーティアの能力の一つ…フェザーの能力である未来予知をトランス自身も使えるようになれる事なのだ。先程の奇襲も未来予知で見ていた為あらかじめ分かっていたのである。そして、トランスはそれをアントロード達に告げながら取り出したカードをトランスドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FE・FE・FE・FEATHER!』

 

 

トランス『決めるよ!なのは!』

 

 

フェザー(M)『えぇッ?!…ああもう!なら一気に決めちゃおう!ド派手にドカンって!』

 

 

フェザーミーティアは少し自棄になりながらそう叫ぶと、トランスはそれに頷き返しながら両手のツインバスターライフル、フェザーミーティアの全砲門、周りに展開されたドラグーンにエネルギーを溜めアントロードの群れをマルチロックしていく。そして……

 

 

トランス・フェザー(M)『当たれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ……ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ッ?!ガ、ガアァァァァァァァァァァアーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

トランスとフェザーの必殺技、TRB(トランスブレイカー)がアントロード達の急所を正確に狙って撃ち抜いていき、それを受けたアントロード達は断末魔を上げ、一斉に爆発を起こしながら跡形もなく消滅していった。そしてそれを確認したトランスはただ無言のまま宙に浮上し、その姿は正に純白の天使を思わせる姿を見せていた……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方、ディケイドとアギトとエデンとG3-Xはバッファローロードとクイーンアントロードの攻撃を防ぎながら反撃していくが、二体のとてつもない威力の攻撃に若干圧され気味となっていた。そして……

 

 

―ガキイィィィィンッ!―

 

 

ディケイド『クッ!?』

 

 

『ハッ!ハァアッ!!』

 

 

G3-X『ッ?!零!危ない!』

 

 

―ガシャアァァンッ!!―

 

 

ディケイドが怯んだ隙にクイーンアントロードは自身の持っていた杖をディケイドに向かって振り、それを見たG3-Xは自らディケイドの盾になって代わりに攻撃を受けてしまい、マスクの右目の部分が破損して剥き出しとなり地面に倒れ込んでしまう。

 

 

ディケイド『優矢ッ?!』

 

 

G3-X『うっ…グッ…』

 

 

エデン『チィッ!ハッ!』

 

 

―ガアァンッ!ガギィッ!ギギギギィッ…ガアァァンッ!!―

 

 

『グゥッ!?』

 

 

倒れたG3-Xを見たディケイドはG3-Xの身体を起こしていきエデンはクイーンアントロードに斬り掛かり二人から離れさせようと押し出していく。そして、その隣ではアギトがバッファローロードの容赦ない猛攻を受けて吹っ飛ばされていき、ふらつきながら起き上がったアギトはその場で態勢を低く構えていく。

 

 

アギト『ハアァァァァァァァァァァア……』

 

 

―ジャギィッ!―

 

 

アギトが深く息を吐くとアギトの角、クロスホーンが開いて足元にアギトの紋章が現れ、その紋章はアギトの右足へと徐々に吸収されていく。

 

 

―ダッ!―

 

 

『ッ!?』

 

 

アギト『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

アギトは紋章を吸収し終えると同時に上空へ高く跳び、バッファローロードへと向かって跳び蹴りを放っていく。バッファローアントロードはそれに一瞬驚いてその場で固まってしまい、気付いた時には既に回避が出来ないくらいの距離まで縮まっていた。だが……

 

 

―…バッ!―

 

 

ディケイド・エデン『なっ!?』

 

 

アギト『何っ?!』

 

 

―ドゴオォンッ!!―

 

 

『ギッ…ギャアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

アギトのライダーキックがバッファローロードに届く直前、ディケイドとエデンが戦っていたクイーンアントロードが突然間に入り、バッファローロードの身代わりとなってライダーキックを受け断末魔と共に爆発していったのだった。

 

 

『ヌウゥゥゥゥ…ヌアァッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ……ドガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

クイーンアントロードを倒されたバッファローロードは怒りで身体を震わせ、杖から巨大な紋章を出現させディケイド達へと放っていき、ディケイドとエデンとアギトはその衝撃に巻き込まれ廃墟工場の外へと放り出されてしまう。

 

 

『ヌウゥゥゥゥ……』

 

 

エデン『チッ…!』

 

 

アギト『クッ…!』

 

 

外へと出てきたバッファローロードは杖の先端を三人に向けながら近づいていき、エデンとアギトもそれに対して構えるが、その隣でディケイドはライドブッカーから三枚の絵柄の消えたカードを取り出すと絵柄が消えていた三枚に絵柄が浮かび上がっていき、エデンを含むカードとなっていった。そしてその中から一枚カードを取り出すとディケイドライバーに装填しスライドさせていく。

 

 

『FINALFORMRIDE:E・E・E・EDEN!』

 

 

ディケイド『幸村、ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

エデン『何…?―ドンッ!―グッ?!』

 

 

ディケイドはエデンの背後に回って背中を開いていくと、エデンの背中から青と白のパーツが現れエデンはそのまま宙に浮きながら姿を変えていき、数本の剣と緑色の粒子を放つユニットを装備した青と白の戦闘機のような姿、『エデンオーライザー』へと超絶変形しディケイドの背中に装備にされた。

 

 

アギト『ッ?!変わった…?』

 

 

エデン(O)『…この姿は?』

 

 

ディケイド『行くぞ幸村?黒月零、真田幸村…目標を駆逐するっ!』

 

 

以前とある世界で出会ったライダーの台詞を真似ながらディケイドはエデンオーライザーに装備された剣…ライザーソードを取り出して頭上に掲げると、ライザーソードの刀身にエネルギーが集束され巨大な刃を形作り、四メートルを越える程の巨大なエネルギー刃となっていった。

そしてそれを見たバッファローロードは危機感を感じたのか、すぐさま残ったアンノウン達を目の前に呼び出しディケイドに向けて放っていくが……

 

 

ディケイド『ハアァァァァ…デエェェェェェェェェェェェェェイッ!!』

 

 

―ブオォンッ…ズガガガガガガガガガガガガァッ!!ズガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グッ?!グギャアァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ヌウゥッ?!』

 

 

アギト『…す、すげぇ…』

 

 

ディケイドがアンノウン達に向けてライザーソードを振り下ろすとアンノウン達はエネルギー刃に飲み込まれ消滅し、バッファローロードはそれの衝撃に巻き込まれ後方へと吹き飛ばされていった。そしてアギトがその威力に驚き呆然とする中、ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを出しディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FINALFORMRIDE:A・A・A・AGITO!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

アギト『え…?お、おい!お前俺に何を―ガシィッ!―うぉッ?!』

 

 

背後に回ったディケイドにアギトは慌てふてめくが、ディケイドは構わずアギトの背中を開いていく。するとアギトの背中から巨大なパーツが現れ、アギトはその場でジャンプすると同時にエアボードのような姿、『アギトトルネイダー』へと超絶変形していった。そしてディケイドは一度両手を払った後アギトトルネイダーに飛び乗り、バッファローロードへと突っ込んでいく。

 

 

『な…何ッ?!』

 

 

ディケイド『ハアァァァ…ハアァッ!!』

 

 

アギトトルネイダーはバッファローロードへと接近するとバッファローロードの目の前でUターンしマフラー部分から青い炎を吹き出してバッファローロードを吹き飛ばすと今度は逆方向に進んでいく。

 

 

G3-X『……あれが零達の力………ん?』

 

 

ディケイドとアギトトルネイダーの力を見て関心していたG3-Xだが、その時G3-Xは妙な疑問を感じた。気のせいか………ディケイドが乗っているアギトトルネイダーが自分に向かって飛んで来ているような気が――いや訂正しよう、間違いななく自分に向かって飛んで来ていた。

 

 

G3-X『って!おいちょっと待て零!?こっちくんな…ってうおぉぉぉぉッ!?』

 

 

G3-Xは必死に手を振りながら制止するように呼びかけるが、ディケイド達は止まらずそのままG3-Xに突っ込んでいき、ディケイドはG3-Xの目の前を過ぎ去る際に手を引っ張ってアギトトルネイダーの後ろへと乗せ、再びUターンしてバッファローロードへと突っ込んでいく。

 

 

ディケイド『行くぞ、優矢』

 

 

G3-X『…おう!』

 

 

ディケイドとG3-Xの乗ったアギトトルネイダーは再びバッファローロードへと突っ込み、バッファローロードは三又の杖から無数の十字架を放って反撃するが、アギトトルネイダーはそれをかわし、かわし切れない攻撃はディケイドがライザーソードで斬り伏せながら進み、G3-XはGX-05でバッファローロードに無数の銃弾を放って怯ませバッファローロードから距離を取っていく。

 

 

G3-X『今だ零!幸村さん!当麻!』

 

 

ディケイド『あぁ!』

 

 

エデン(O)『一気に決めるぞ!』

 

 

アギト(T)『おう!』

 

 

ディケイドはG3-Xからの呼び掛けに答えながらライドブッカーから二枚のカードを取り出し、それをディケイドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:A・A・A・AGITO!E・E・E・EDEN!』

 

 

電子音声が響くとアギトトルネイダーの前にアギトの紋章が浮かび上がり、ディケイドの背中に装備されたエデンオーライザーも粒子が激しく噴き出すと同時にディケイドの身体が赤く輝き出し、ディケイドはアギトトルネイダーを更に加速させバッファローロードへと突っ込んでいく。

 

 

『ヌウゥゥゥゥ!ウオォォォォォォォォオッ!!』

 

 

このままではこちらがやられると悟ったバッファローロードは突っ込んでくるアギトトルネイダーに向けて杖から無数の紋章を放ち、あらゆる方向からアギトトルネイダーへと襲い掛かった、その時……

 

 

ディケイド『…フッ!』

 

 

―シュパアァァァァァァン!―

 

 

『…ッ?!な、何?!』

 

 

なんと、光の紋章が当たる直前にアギトトルネイダーとディケイド達は緑の粒子となって消え、バッファローロードの目の前から忽然と消失してしまったのである。

 

 

『き、消えた…?何処だ?!何処に―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!―ヌグアァッ!?』

 

 

バッファローロードが突然の事態に驚き辺りを見渡していた中、突如バッファローロードの真上から無数の銃弾が降り注ぎバッファローロードを怯ませた。そしてその銃弾が放たれてきたバッファローロードの頭上からは、G3-Xがバッファローロードに向けてGX-05を乱射させ、身体を赤く輝かせるディケイドがライザーソードとライドブッカーSモードを構えながらアギトトルネイダーで迫ってくる姿があった。

 

 

『ッ?!ば、馬鹿――!?』

 

 

ディケイド『ハアァァァァ…セヤアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『ヌ、ヌアァァァァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディケイドとアギトとエデンの必殺技、DCDT(ディケイドトルネード)とDCDR(ディケイドライザー)がバッファローロードに炸裂し、バッファローロードは断末魔の叫びと共に爆発して散っていった。

そしてディケイドとG3-Xがアギトトルネイダーから降りると、アギトトルネイダーとエデンオーライザーは宙を飛び交じりながら元のアギトとエデンへと戻っていったのだった。

 

 

 



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第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界⑪

 

 

バッファローロードとの戦いから数時間後、警視庁の対策本部へ戻ってきた優矢達は写真館から持ってきた荷物を纏め綾瀬と美琴と話をしていた。

 

綾瀬「…旅に…出る?」

 

 

優矢「はい。俺…まだ何か分かってないんですけど、俺が出来る事…それを探す旅の途中でした。此処で立ち止まってたら……怒られちゃうんです。その、それを約束した人に…」

 

 

綾瀬「…………そう、分かったわ」

 

 

美琴「で、でも、だったらG3-Xはどうなるんですか?装着員がいなくなってしまったら、グロンギやアンノウンには…」

 

 

装着員がいなくなってしまえば、またG3-Xの候補者を一から探さなければいけない。優矢がいなくなった後の事を考え心配を口にする美琴だが…

 

 

―ガチャッ―

 

 

零「…その心配はない」

 

 

『え……?』

 

 

対策本部の扉が開いて零が部屋の中へと入っていき、その後ろにはインデックスと手紙を持った当麻が顔を少し俯かせながら部屋の中に入ってきた。

 

 

美琴「ッ!?あ、アンタ…?!」

 

 

綾瀬「…上条…君?」

 

 

当麻「………………」

 

 

零「…もうG3-Xは必要ない。この世界は、この世界の仮面ライダーが守っていくんだからな」

 

 

美琴「え?それって、どういう…?」

 

 

零の言葉に美琴は疑問そうに聞き返すが、優矢は綾瀬と美琴の手を取り当麻の目の前へと連れ、当麻の手とインデックスの手、そして二人の手を合わせていく。優矢のいきなりの行動に一瞬驚く当麻達だが、すぐにその表情は和らいで微笑んでいき、零はそれを見ると自分のカメラを構えシャッターを押した。そして零と優矢は静かにその場から去ろうとするが、それを見た綾瀬とインデックスは慌てて二人を引き止めた。

 

 

綾瀬「待って!また…またいつか…会えるわよね?」

 

 

優矢「……はい。いつか、何処かで…」

 

 

インデックス「れい…本当にありがとね」

 

 

零「別に、お前からの謝礼が目的でやった訳じゃない……これからもちゃんと、アイツを支えてやれよ?」

 

 

インデックス「うん…また…また会おうね?絶対だからね!」

 

 

零と優矢はそれぞれ別れを済ませると、二人は警視庁を後にし写真館へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

それから一時間後、写真館に戻ってきた零達は今幸村となのはの見送る為、写真館の前で向き合っていた。

 

 

零「もう帰るのか?」

 

 

幸村「あぁ…いつゼノン達が動き出すか分からないからな。あまりゆっくりしていられないんだ」

 

 

零「…お前等も色々と忙しないんだな」

 

 

なのは(幸)「まあね�でも私達は戦い続けないといけないから…ユーノ君と分かり合う為にも」

 

 

零「…そうか…」

 

 

決意が込められた目で言い放ったなのは(幸)に零は何も言わず、自分のカメラを構え幸村となのは(幸)の姿をカメラに収めた。

 

 

零「まあ、もし何かあれば呼んでくれ。何時でも駆け付ける………あぁそれと、もし結婚式を挙げたら呼んでくれ。俺が写真撮ってやるよ」

 

 

なのは(幸)「ふにゃあ!?け、けけけ結婚!?///」

 

 

なのは「ちょ?!れ、零君?!それはちょっといきなり過ぎじゃ…!�」

 

 

幸村「ほう……それは有り難いな、ならその時は是非頼むとしよう」

 

 

思わず呟いた零の言葉になのは達は慌て、なのは(幸)は幸村との"結婚"という部分に反応して顔を真っ赤にしてしまうが、幸村は特に顔色を変えずにそう返す。

 

 

零「まあ取りあえず…早くユーノと和解出来るのを祈ってるよ」

 

 

幸村「あぁ、本当に色々世話になった…また会おう。なのは、行くぞ」

 

 

なのは(幸)「にゃあぁ~//これで四人目だねぇ~//」

 

 

零「…………そいつ大丈夫か?�」

 

 

幸村「気にするな…いつもの事だ」

 

 

『(…やっぱりいいなぁ…)』

 

 

頭の中で妄想を広げるなのは(幸)を見て零は苦笑し、そんななのは(幸)を見てなのは達はやはり何処か羨むような表情を浮かべ、幸村はなのは(幸)を抱えて自分達の世界へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数十分後、先程撮った写真を現像した零はテーブルの上に並べ、それを見た栄次郎はその中から一枚の写真を手に取り眺めていく。

 

 

栄次郎「ほお…なかなか男らしい面構えになったじゃないか、優矢君」

 

 

優矢「へへッ、当然ですよ♪」

 

 

零「…調子に乗りすぎだ、馬鹿」

 

 

優矢「Σウグッ!相変わらず無愛想なことで…�」

 

 

栄次郎が手に取った写真…優矢と当麻とインデックス、そして綾瀬と美琴の五人が写った写真を褒められ誇らしげに胸を張る優矢に冷たく返す零。一同はそんなやり取りを相変わらずだといった感じに見つめ苦笑していた。

 

 

スバル「…でも、綾瀬さんの事は良かったんですか?」

 

 

優矢「ん?あぁ、いいんだよ。それにさ…やっぱ此処が一番だしな♪」

 

 

キバーラ「うんうん、キバーラが一番、っだよね♪」

 

 

優矢「…いや、それは何か違う気が…�」

 

 

優矢が戻ってきた事に上機嫌なキバーラの言葉に優矢は苦笑しながらそう呟き、テーブルの上に置いてある写真を整理している零に近づき腕を少し上げていく。

 

 

優矢「行こうぜ、零!またよろしくな♪」

 

 

零「……フッ、仕方ない…またよろしくしてやるよ」

 

 

口ではそう言いながらも何処か嬉しそうに見える表情を浮かべながら零はテーブルから立ち上がり、優矢と少し強めのハイタッチを交わした。その時……

 

 

―ガチャッ!ガラララララララララッ!パアァァァッ!―

 

 

ギンガ「…ッ!背景ロールが…?!」

 

 

シグナム「…確か、これで次の世界に移るんだったな?」

 

 

ティアナ「でもこれって…電車?」

 

 

零「…電王の世界か……」

 

 

部屋の中にある背景ロールが突然降りていき、写真館はまた新たな世界へと移ったのである。現れた新たな絵は、空にオーロラが浮かぶ広野。そしてその場所を走る赤と白の電車という絵であった。

 

 

 

 

 

一方その頃、辺り一面広野が広がる世界を一台の白い電車が汽笛を鳴らしながら走っていた。果たして、この世界で一行を待つライダーとは……

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

一方、零達が後にしたアギトの世界では屋台に腰を掛ける大輝と、一人の青年が向き合って会話を行っていた。

 

 

「ほら、頼まれたもん持ってきたぜ」

 

 

大輝「あぁ、ご苦労様♪やっぱり君に頼んで正解だったみたいだね」

 

 

大輝は青年から受け取った黒いネックレス…アルティを眺めながら礼を言うと、青年は懐からタバコを取り出して口にくわえ、タバコに火を付けていく。

 

 

「…それにしても、本当にそんなもんが必要なのか?別にそれがなくてもアイツ等なら大丈夫だろ?」

 

 

大輝「…確かにこの調子で旅を続ければコレがなくても大丈夫だと思うけど…奴が何時零の前に現れか分からないからね。そうなればコレが必要になると思うし」

 

 

「……創造の因子を持ったライダーか……確かに奴が何時動き出すか分からないからな……」

 

 

青年は紫煙を吐き出しながらそう呟くと、大輝はアルティを仕舞い屋台から腰を上げた。

 

 

大輝「さてと…じゃあ俺はそろそろ行くよ。君は引き続き大ショッカーの動きを調べておいてくれるかな?」

 

 

「ふぅ…りょーかい。何か分かったらまた連絡するわ」

 

 

青年は溜め息を吐きながらそう答えるとその場から踵を返して歩き出し、目の前に出現した歪みの壁を潜り何処かへと消えていった。そして、その場に残された大輝は屋台を引いてその場から歩き出していく。

 

 

大輝「破壊と創造の因子…そして君が捨てた過去…いつまで彼女の事から逃げる続けるつもりかな、零?」

 

 

その呟きは風と共に流れて消え去り、大輝は屋台を引きながらその場から去っていったのであった。

 

 

 

 

 

第十章/アギト×とある魔術の禁書目録の世界END

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界

 

 

 

アギトの世界を後にし新たな世界へとやって来た零達一行。そして一同は新たな世界を調べる為写真館から外へと出て辺りを見渡していた。

 

 

零「漸く着いたな、電王の世界に」

 

 

フェイト「みたいだね………でも零、一体何なのその格好?�」

 

 

写真館から外へと出た零達だが、フェイトは零の格好を見て怪訝な表情を浮かべてしまう。零の姿…それは片手に砂時計を持っていたり古びた革製のトランクを持ってたり茶色いロングコートを羽織っていたりなどと、よく分からない格好になっていたのだ。

 

 

なのは「うーん…あ、分かった!探偵でしょ?」

 

 

優矢「いやいや、葬儀屋とかだろ?」

 

 

零「んな訳あるか…………………ん?」

 

 

なのはと優矢は零の格好を見て職業を当てていこうとするが、零は呆れたように一掃しコートのポケットに何かが入っている事に気付きそれを取り出していく。その何かとは、以前魔界城で出会ったみなみや幸助の所の良太郎やなのはが変身する時に使うのと同じ黒いパスケースと一枚のカードのようなモノだった。

 

 

ティアナ「…?それって、幸助さんの所の良太郎さんやなのはさんが変身する時に使うケースですよね?」

 

 

零「あぁ…チケットだな、時の列車…デンライナーの」

 

 

すずか「デンライナー?」

 

 

パスケースとカードを見つめながら呟いた零の言葉になのは達はお互いに顔を見合わせ、疑問符を浮かべた。

 

 

ヴィータ「なんなんだよ?そのデン…ライナー?って奴?」

 

 

零「…デンライナーは時間を越える列車。過去や未来、そして現在を走る列車の事だ」

 

 

零はデンライナーについて自分が知っている事を全て教えていく。デンライナーに乗る為にはこのチケットかパスが必要な事、そのデンライナーに乗って時間を守る戦士が電王である事など。

 

 

ギンガ「でも、何で零さんがそんな事詳しく知ってるんですか?」

 

 

零「前に幸助の世界にいた電王に変身する良太郎からちょっと聞いた事があってな。その時にこのチケットやパス、電王の話を聞いてたんだよ……まあ、何処でそのデンライナーに乗るのかまでは聞いてなかったけどな」

 

 

優矢「って、何で肝心な所を聞いてねぇだよ!それだけじゃ全然分かんないだろ!�」

 

 

零「…その辺を探せば何とかなるんじゃないか?とにかく電車と言えばやっぱり……駅が相場と決まってるだろ?なら手当たり次第に駅を探してみればいいさ」

 

 

シャマル「そ、そんな投げやりでいいのかしら…�」

 

 

その辺りを探していれば見つかるんじゃないかと適当に答える零になのは達は溜め息を吐き、零は時の列車…デンライナーを探す為にこの世界の街へと向かおうとする。だがその時……

 

 

 

 

―ヒュウゥンッ……バシュウゥッ!!―

 

 

 

 

『…えッ?!』

 

 

突然街へと向かおうとした零の身体に空から飛来した光の球体が入り込み、それと同時に零の身体から大量の砂が零れ落ち、髪型は逆立ち前髪の一部に赤いメッシュが入り、瞳も何時もより強く真っ赤になっていった。そして零は険しい表情を浮かべたかと思いきや、目の前を通り掛かった駅員の胸ぐらにいきなり掴み掛かった。

 

 

零『……出てこいよ!そん中にいるのは分かってんだ!!』

 

 

「へ?ってわあぁッ!?」

 

 

なのは「ちょ?!れ、零君?!」

 

 

優矢「ど、どうしたんだよ零?!落ち着『邪魔だ!!』ゴフゥッ!?」

 

 

ティアナ「ゆ、優矢さん?!」

 

 

突然の零の行動になのは達は驚愕して戸惑い、優矢は零を止めようと間に入るが零に吹っ飛ばされ地面に倒れ込んでしまい、それを見たティアナが慌てて優矢に駆け寄っていく。

 

 

すずか「お、落ち着いて零君!!いきなりどうしたの!?」

 

 

零『うるせぇっ!邪魔すんじゃねぇよ!さあさっさと出てこい!!それとも引きずり出してやろうか!?』

 

 

なのは達の制止も聞かず零は駅員の胸ぐらを乱暴に掴み脅していくが、胸ぐらを掴まれて怯えていた駅員は次第に不気味な笑みを浮かべていく。

 

 

「ク、ククク……アッハハハハハハハァ!!随分と鼻が効くんだな?」

 

 

―ザザァ…ザアァァァァァァァァァアッ!―

 

 

『なッ…?!』

 

 

駅員は笑いながら零の腕を振り払って後退すると、その身体から大量の砂が吹き出し、その砂から至るところが装甲に覆われた怪人が現れ駅員は糸の切れた人形のように地面に倒れ込んでていった。

 

 

零『ヘッ!思ったとおり、間抜けそうな野郎だな!』

 

 

砂から現れた怪人…モールイマジンを見て零は笑いながらディケイドライバーとは違うベルトを腰に巻いていき、バックル横の赤いボタンを押して先程のパスを構えていく。そして…

 

 

零『変身ッ!』

 

 

『Sword form!』

 

 

電子音声と共に零の身体に黒いアーマーが装着され、その上から更に赤いオーラアーマーとマスク部分の上から赤いデンカメンが装着されていった。そして変身が完了した零は片腕を何度か回すとモールイマジンと対峙していく。

 

 

『…俺!参上ッ!!』

 

 

変身した零は決め台詞の様なものを叫びながらポーズを取ると、腰にある四本のツールを組み合わせて剣に組み替えていく。

 

 

なのは「も、もしかしてあれが…?!」

 

 

ティアナ「この世界の仮面ライダー…電王?!」

 

 

電王『うおっしゃあ!いくぜいくぜいくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!!』

 

 

ディケイドではない別のライダーに変身した零を見てなのは達は驚愕し、変身した零…『電王』は組み立てた武器、デンガッシャーを振り回しながらモールイマジンへと突っ込み斬り掛かっていった。

 

 

電王『そらぁっ!へあっ!オラオラオラァッ!!』

 

 

―ガギャアンッ!ガギャアンッ!ガギャアンッ!―

 

 

『ヌオォッ?!』

 

 

戦闘を開始した電王はデンガッシャーを振り回しながらモールイマジンを圧していくが、その戦い方は喧嘩のように力押しで剣を叩き込んでいた。そして電王はモールイマジンを蹴り飛ばすと再びパスケースを取り出しそれをバックル部分へと当てていく。

 

 

電王『いくぞモグラ野郎!』

 

 

『Full Charge!』

 

 

電子音声が響くと電王はパスを投げ捨てデンガッシャーを構えていき、その刃先を飛ばしモールイマジンへと向けてデンガッシャーを力強く振っていく。

 

 

電王『必殺!俺の必殺技!』

 

 

―ザシュウゥッ!ザシュウゥッ!ズガアァッ!―

 

 

『ヌゥッ?!グアァッ!』

 

 

電王『…コンチクショオォーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『グ、ヌアァァァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!?』

 

 

まるで鬱憤を吐き出すかのように叫びながら電王はデンガッシャーを上段から思いっきり振り下ろし、電王の荒れた必殺技を受けたモールイマジンは断末魔と共に爆発を起こし散っていった。だが……

 

 

電王『チィッ……あぁもうつまんねぇッ!!どうなってんだよちくしょう!!』

 

 

モールイマジンを倒したというのに電王はまだ荒れたまま地面を蹴り付け変身を解いて零に戻り、そのまま何処かへと歩き出した。そして先程までの電王の戦いを見て唖然としていたなのは達も意識を取り戻し何処かへ行こうとする零を見て慌てて追い掛けていく。

 

 

フェイト「ね、ねぇ待ってよ零!零だよね?!」

 

 

スバル「どうしちゃったんですか零さん?!」

 

 

零『チッ!ウルセーなぁ!触んじゃねぇよ!!』

 

 

なのは「ま、待ってってば零君!零君ってば!」

 

 

なのは達は必死に零を引き留めようとするも零はそれに一切応じず、イライラを感じさせながら先へ進んでいく。

 

 

優矢「ど、どうしちゃったんだよ零の奴…?!」

 

 

シグナム「クッ!こうなれば仕方ない……ヴィータ!黒月を押さえ込むぞ!」

 

 

ヴィータ「お、おう!」

 

 

―バッ……ガシィッ!―

 

 

零『Σうぉ?!な、何だぁ?!』

 

 

このままでは埒が明かないと思ったシグナムは背後から零を羽交い締め、ヴィータは前から零の腰にしがみつき零の動きを封じて大人しくさせようとする。

 

 

零『お、おいコラ!テメェ等何しやがんだ!?離せ!』

 

 

ティアナ「お、落ち着いて下さい零さん!�」

 

 

フェイト「ど、どうしよう…どうすれば元の零に戻るのかな?!�」

 

 

ヴィータ「ちぃ!その辺の石ころで殴ってればいいだろ!今のコイツにはそれぐらいがちょうどいいだろうからな!」

 

 

フェイト「い、石ころっ?!…本当にいいのかなぁ…」

 

 

零を押さえ込もうとするのに集中し適当に答えたヴィータの言葉を聞いて辺りを見渡し始めたフェイト。いつもの彼女なら本気にしたりしないだろうが、事態が事態のせいか冷静な判断が出来なくなっているようであり、実際今の零にはそれぐらいが必要なのかもと思い込んでるらしい。

 

 

零『離せ!離せって言ってんだろうがぁ!!』

 

 

フェイト「えと…石ころ…石ころ…」

 

 

シグナム「クッ?!何だこの力は…本当にコイツは黒月か?!」

 

 

ヴィータ「グッ!シグナムもっと押さえ付けろ!このままじゃこっちが持ちそうにねぇ!」

 

 

フェイト「石ころ…石ころ……あ、あった」

 

 

零『てめぇ等、いい加減にしろよ!?痛い目みる前にさっさとどけぇ!!』

 

 

シグナム「グアァッ!」

 

 

ヴィータ「ウアァッ?!」

 

 

シャマル「シ、シグナム!ヴィータちゃん!」

 

 

とうとう業を煮やした零は自身を押さえ込んでいたシグナムとヴィータを吹き飛ばしてしまい、そのまま先へと進み今度こそその場から去ろうとした瞬間……

 

 

 

フェイト「んしょ…んしょ……れ、零!」

 

 

 

零『あぁ!?今度は何だ……………………ヨ?』

 

 

『…………え?』

 

 

 

再び呼び止められ零は不機嫌になりながら振り返るが、そこにあったモノを見た途端何故か硬直してしまいそれを見たなのは達も同じ反応をしてしまう。何故なら……

 

 

 

フェイト「んしょ…んしょ…んしょ…�」

 

 

 

―――何故なら、フェイトが自分の頭の一回り以上大きい石を担いで零の背後に立っていたのだから。

 

 

なのは「Σフェ、フェイトちゃん待っ―――!?」

 

 

フェイト「零っ……歯を……食いしばってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

零『ΣΣちょっ?!ちょっと待っ―バギャアァッ!!―ΣΣごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?』

 

 

『ΣΣええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?』

 

 

慌ててソレを止めようとしたなのはの制止も間に合わず、それよりも早くフェイトの振り下ろした石が零の頭を殴り飛ばしてしまったのだ。だがその瞬間、殴られた零の身体から光の球体のようなものが弾けるように飛び出し、一同の頭上を飛び回っていく。

 

 

『イッテェ~…この女ぁ!いきなり何しやがんだ!』

 

 

フェイト「わっ?!な、なにコレ?!」

 

 

スバル「しゃ、喋る人魂?!」

 

 

零の身体から出てきた光の球体を見て驚き後退る一同だが、その時地面に倒れていた零が頭を抑えてふらつきながら起き上がり、その光の球体の正体を語り出した。

 

 

零「ッ…そいつはさっきの怪物と同じ、イマジンっていう怪人だ」

 

 

ギンガ「イ、イマジン?…って零さん?!起きて大丈夫なんですか?!」

 

 

零「あぁ…だが、もう少しまともな助け方は出来なかったのか…?」

 

 

フェイト「あぅ…ご、ごめんなさい�」

 

 

頭を抑えながら若干涙目になってる零がフェイトにそう呟くとフェイトは気まずそうに顔を反らして謝罪し、そんなフェイトを見た零は深い溜め息を吐きながら光の球体…イマジンを見上げる。

 

 

ティアナ「で、でもさっきの怪人と同じって…何だかさっきと全然印象が違いますけど?」

 

 

零「あぁ、どうやら誰かに取り付いていないと実体を保てないらしいからな……そうだろう?」

 

 

『う、うるせぇこの野郎!もう一度その身体貸してもらうからなぁ!』

 

 

イマジンはそう叫びながら再び零の身体を乗っ取ろうと零に向かって突っ込んでいく。しかし……

 

 

―ガシッ!―

 

 

優矢「……へ?」

 

 

零「悪いな?また石でぶん殴られるのはゴメンなんだ…だから代わりに逝け♪」

 

 

優矢「Σちょ?!ていうか何か違っ?!―ブオォンッ!―っておわあぁッ?!」

 

 

零は隣にいた優矢の首元を掴み球体のイマジンに向かって勢いよく投げ出した。そしてそうなれば当然…

 

 

 

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

 

 

 

優矢『………勝手な事してくれるじゃねぇか、この野郎ぉ!』

 

 

シャマル「え、えぇッ!?」

 

 

フェイト「ゆ、優矢が…?!」

 

 

優矢と球体のイマジンが正面から衝突し、球体のイマジンは優矢の中へと入り込んでしまい優矢は先程の零のような髪型と瞳になってしまっていた。そんな優矢を見たなのは達は再び呆気に取られたような表情を浮かべてしまう。

 

 

零「いいや、今のこいつはイマジンだ。取り憑かれると…こうなるらしいな?」

 

 

優矢『うるせぇ!解説なんかしてんじゃねぇよ!』

 

 

零「荒れてんなぁ……ま、取りあえずお茶でもしないか?この世界について話を聞きたいし、近くに上手い珈琲を出す店がある…なんなら美味いケーキとかも出してやるぞ?」

 

 

優矢『ん?………だったらプリンだ!プリンを出すんなら話してやってもいいぜ?』

 

 

優矢に憑いた球体のイマジン(以後I優矢)は零にプリンを要求しながら迫り、零はそれに呆れながらI優矢を連れて写真館に戻ったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零達がI優矢が連れ写真館に戻ったその頃、この世界に存在する街の中心地帯に数人の男女達の姿が存在していた。

 

 

「はぁ……まさか、零達に写真館に転移しようとして色んな世界に回る羽目になるとはな�」

 

 

「しゃーないやん…転移しようとした矢先、いきなり奇襲を受けて転移座標がズレてもうたんやから」

 

 

「確かにな…でも何だったんだ、あのピエロみたいなライダーは?いきなり現れたかと思ったら突然攻撃してきやがって…」

 

 

「…だがどうする?そのせいで訳が分からない場所に転移してしまったし…此処が何処の世界かも分からないだろう」

 

 

三人の青年と女性はそんな会話をしながら街中を歩いていると、二人の後ろを歩いていた少女がその会話に割り込んできた。

 

 

「……あ、あの宗介さん、シグナムさん、海人さん、慧さん?それで私達…元の世界に帰れるんでしょうか?」

 

 

宗介「ん?ああ、悪いな光…それはもう少し待ってくれ。俺達もこの世界にいる友人に用があるからさ、そっちの件が終わったら元の世界に送るから」

 

 

光「そ、そんなぁ…私達、前にいた世界に写真館と祖父を置いてきたままなんですよ?!早く帰らないといけないのに…!」

 

 

光と呼ばれた少女は青年…零の友人の一人である宗介の言葉を聞いて肩を落しながら叫ぶと、光の隣を歩いていた少年は苦笑しながらそんな光を宥めていく。

 

 

「まあまあ…宗介さん達にだって都合っていうものがあるんだし…我が儘言うのは良くないよ光」

 

 

光「もう!何呑気な事言ってるの紫苑君?!私達、あの変なピエロの攻撃に巻き込まれてこうなったんだよ?!もっと危機感っていうものを抱いてよね?!」

 

 

紫苑「そ、そんな事言われたって…�」

 

 

紫苑と呼ばれた少年は怒気を浮かべる光に圧されて押し黙り、そんな二人を見た二人の青年…宗介と同じく零の友人である如月海人と崎本慧は溜め息を吐きながら前に進んでいく。

 

 

海人「それで、これから一体どうすんだよ?零達を探そうにも此処が何処の世界か分からないし…何処に零達の写真館があるか分からないだろう?」

 

 

慧「せやな…ていうかウチ等が今どの辺にいるのかも分からんし、どうしたもんかなぁ」

 

 

シグナム(宗)「…取りあえずこの街の人に話を聞いてみるのはどうだ?もしかしたらその写真館の事を知ってる人がいるかもしれないだろう?」

 

 

宗介「……それしか手はないか……よし、ならそうと決まれば行動あるのみだ。行こう」

 

 

とにかくこの世界の事が分からない以上、この世界の住人から話を聞くしかないだろうと思った一同はその場から歩き出し、零達の写真館の捜索を開始しようとした。その時だった……

 

 

 

 

―ファアァァァンッ!―

 

 

 

 

『……………え?』

 

 

その場に突然汽笛のような音が響き、それを耳にした一同は思わずその場で足を止め空を見上げた。そして一同は上空を走るソレを見て目を丸くし、驚愕していたのであった。

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界①

 

 

それから一時間後、I優矢を写真館に招き入れた零達は背景ロールのある部屋に皆と集まり、先程栄次郎が作った特製プリンを食べるI優矢からこの世界の事、そして今まで何があったのかを聞き出していた。

 

 

なのは「……つまり、貴方達イマジンは人のイメージを使って実体化する。だけど数日前に異変が起きて貴方は実体が保てなくなってしまった……それで人から人へ乗り移っていったってワケだね?あの人魂みたいな姿で」

 

 

I優矢『人魂言うな!こっちはお化けじゃねぇんだぞ?!』

 

 

零「まあお前の事情は大体分かった…で、元はどんな姿だったんだ?」

 

 

I優矢『何だかもうワケが分かんねぇし思い出せねぇよ!どうせ元に戻る事も出来なくなったんだし……俺は俺をなくしちまった…』

 

 

イライラとした顔を浮かべながら怒鳴るI優矢だが、鏡に写った自分の姿を見ると寂しげな表情を見せる。零はそんなI優矢の表情をカメラに収めるが、I優矢はその表情をすぐに険しいものへと変えそのまま部屋から出ていこうとする。

 

 

ヴィータ「お、おいお前!何処に行くんだよ?!」

 

 

I優矢『決まってんだろ!あっちこっちにいるモグラ野郎共をぶっ潰す!こうなったのも全部、アイツ等のせいに決まってんだ!』

 

 

ティアナ「あの怪人のせいって…何処にそんな根拠があるのよ?」

 

 

I優矢『あ?…………………………………感だ!!』

 

 

つまり、根拠はないがあのイマジン達にストレスをぶつけたいだけなのだろう。I優矢はそう怒鳴りながら部屋を飛び出し写真館から出ていってしまった。

 

 

ウェンディ「ありゃあ……完全に自棄になってるぽいッスね�」

 

 

セイン「ていうか…もう思いっきりなってるでしょ、アレ�」

 

 

零「全く…考えもなく出ていってどうするって言うんだ?皆、いくぞ」

 

 

フェイト「う、うん」

 

 

荒れた状態で出ていってしまったI優矢に対し零は呆れたように溜め息を吐き、取り敢えず一同はI優矢の後を追うように再び街へと向かう事にしたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数十分後、写真館を出た零はなのは、フェイト、すずか、スバル、ティアナ、ギンガ、ヴィヴィオ(大)と共にこの世界の街へとやって来ていた。しかし、街には異変と言えるようモノは特に起きてはおらず、普通に人が街の中を行き交う光景だけが広がっていた。

 

 

スバル「…それにしても、優矢さん大丈夫かな…?」

 

 

零「アイツならあの人魂に貸しておけばいいだろう?脳細胞が足りない似た者同士なんだし、以外と相性がいいかもしれないぞ?」

 

 

なのは「そ、それはちょっと言い過ぎじゃないかな�」

 

 

I優矢について全く気にした様子もなくただ街の風景をカメラで撮り続ける零になのは達は思わず苦笑してしまう。そして零は何枚か写真を取り終えると今度は胸ポケットから先程のパスとチケットを取り出し、それを眺めながら街中を歩いていく。

 

 

零「とにかく俺達は、このデンライナーとかいう奴が乗れる場所を探すのを優先にするべきだろう。それがこの世界での俺達の役目だと思うしな」

 

 

ギンガ「確かにそうですけど…でも当てもなく探してて見付かるんですか?その時を越える列車が何処にあるのかも分からないのに」

 

 

零「心配しなくてもすぐに見付かるだろ?この世界での俺達の役目がそれならな…取りあえず駅らしき場所を片っ端から探していけば見付けられるかもしれないだろう」

 

 

フェイト「…そんなものかなぁ?」

 

 

パスとチケットを仕舞ってまた写真撮影を始めた零の言葉になのは達は不安げな表情を浮かべ、取りあえず言われた通り駅らしきモノが何処かにないかと辺りを見渡していく。だがそんな中、一同の後ろから怪しげな男が近づいてきて突然なのは達に声を掛けて来た。

 

 

「こんにちは~♪いやぁスッゴく可愛いね君達!実は探してたんだよねぇ~♪君達みたいに気品のありそうな可愛い系の女性を~♪」

 

 

すずか「え、え?」

 

 

なのは「な、なんですかいきなり…?!」

 

 

突然馴れ馴れしく話しかけてきた男になのは達はどう対応したらいいか分からず戸惑ってしまい、そんな事を他所に男はなのは達の周りをウロチョロとしながら「君達事務所とか入ってる?」とか「もしよかったらうちでモデルとかやってみない?」などと一人で勝手に話を進めていく。

 

 

スバル「…何あれ?」

 

 

ティアナ「あー、多分俗に言うスカウトって奴じゃない?ミッドとかでもよくそういう奴とか見掛けた覚えがあるし」

 

 

ヴィヴィオ「スカウト……って何?」

 

 

零「そうだな…簡単に言えば芸能人になれそうな人にテレビや雑誌に出てみないかというお誘いみたいな物だ。だが、あの男も女を見る目がないな?うちのアレは見た目が良くても中身が狂暴だって言うのに、あのなのは達が気品ある可愛い系?……プッ」

 

 

ギンガ「れ、零さん!�」

 

 

変な男にスカウトされているなのは達をティアナは呆れた様子で見て、零はなのは達が気品がある可愛い系と呼ばれた事に思わず吹き出しギンガに注意されていた。そんな時…

 

 

 

 

『……見付けた♪』

 

 

―ヒュウゥッ……バシュウッ!!―

 

 

零「…ウッ?!」

 

 

ギンガ「?零さん……?」

 

 

零の身体に突然空から飛来した何かが入り込み、零を注意していたギンガがその異変に気づくも零はギンガ達の間を抜け男にスカウトされているなのは達の元へとゆっくりと進んでいく。そして……

 

 

―…グィッ!ググググ!―

 

 

「グエ?!イテテテテッ?!」

 

 

零?『…あぁ、人だったんだ?失礼、てっきり彼女達にゴミがついているのかと思ってね♪』

 

 

なのは「…え?」

 

 

すずか「れ、零…君?」

 

 

零はいきなり何処からかステッキを取り出し男の首元にステッキの手元を引っかけてそのままなのは達から離れさせると適当に地面に投げ捨ていった。だがその格好はいつもの服装とは違い、真っ白なスーツに真っ白なシルクハット、髪の一部には青いメッシュが入っており、瞳の色も青く眼鏡を掛けている。

 

 

零?『ああいう相手は色々としつこく聞いてくるから一切口を開いたらダメ、分かった?』

 

 

なのは「ど、どうしちゃったの零君?!それにその格好は…?!」

 

 

零?『フフッ……そんな事より、良かったら色々話しを聞かせてくれないかな?お茶でも飲みながら…ゆっくりと…ね?』

 

 

なのは「へ…ちょ、えぇぇぇぇッ!!?////」

 

 

零?は驚き戸惑うなのはの腰を抱きながら身体を密着させ、互いの吐息が触れる程の距離まで顔を近付けさせた。なのはも突然の事態に頭が付いていけず、少しでも動けば唇が触れてしまいそうな距離から妖艶な瞳で見つめてくる零?に顔が爆発したみたいに真っ赤になり思わず俯いてしまう。そして隣でそれを見ていたフェイトとすずかはドス黒いオーラを放ち、スバル達は呆気に取られたような顔をし、ヴィヴィオは突然変わってしまった零?を見てオドオドしていた。その時……

 

 

『何しとんねん!よいしょっ!』

 

 

―バシュウッ!!―

 

 

零?の後ろにまた光の球体現れ、光は零の身体に入り込むとなのはから離れていき、今度は時代劇に出てきそうな黄色い和服に髪に金色のメッシュが入っているというド派手な姿になっていった。

 

 

―ドシィンッ!!―

 

 

零?『ふんっ!俺等が用があるのはディケイドやっ!この男やろが!何でお前はすぐ色気出すんや?!』

 

 

スバル「え、えぇっ?!ま、また変わっちゃった?!」

 

 

ティアナ「ま、まさかこれって…?!」

 

 

ギンガ「あの時と同じ…イマジン?!」

 

 

スバル達は再び姿と口調を変えた零?を唖然としながら見つめ、零?はまた白いスーツ姿になると杖を回転させながらなのは達に近づきニヒルな笑みを浮かべていく。

 

 

零?『だけどキンちゃん?この娘達ディケイドと関係あるみたいだし、異変の事を知ってないか色々と話を聞いてみないと…ね♪』

 

 

フェイト「わっ、わっ、な、ななななな?!////」

 

 

そう言いながら零?はフェイトの手を握って顎に手を添え顔を近づけていき、またもや大体な行動を起こした零?にフェイトも焦って顔を真っ赤にしてしまう。だがそんな時……

 

 

『もぉーめんどくさいな!えいっ!』

 

 

―バシュウッ!!―

 

 

零?の後ろにまもたや光の球体が現れ、光が零の身体に入ると今度は紫色のシャツに黒と紫の帽子、茶色いジャケットとジーンズという格好となり髪型は紫色のメッシュに前髪がウェーブが掛かっているという姿に変わっていた。そして零?はまるでダンスでもしてるかのような軽快な動きをしながらなのは達から離れていく。

 

 

零?『ヘヘッ♪ディケイドやっつけようよ!僕がやるけどいいよね?答えは聞いてない!』

 

 

なのは「ちょ、ちょっと待って!いきなり出て来てなんなの?!とにかく話を…というか零君を返して!」

 

 

零?『だ~め♪だってコイツのせいでおかしなことが起きちゃってるんでしょ?ああいうのとか』

 

 

『……え?』

 

 

零?はその場で踊るようにターンをすると遠くにあるビルを指差す。その時突然、零?が指を差したビルは粒子化して跡形もなく消滅していった。

 

 

『なっ……』

 

 

零?『それにホラ、ああいうのとか♪』

 

 

零?がまた軽快にステップを踏みながら別のビルを指差すと、先程と同じくビルは粒子と化して完全に消滅してしまった。その光景になのは達は言葉も失い呆然としてしまう。

 

 

ティアナ「び、ビルが消えた…?!」

 

 

零?『ねぇ?おかしな事が起きてる…僕達も困ってるんだよねぇ♪』

 

 

零?はいつの間にか白いスーツ姿に戻り呆然とビルが消えた場所を見つめるなのは達に歩み寄っていく。

 

 

ギンガ「これも零さんの…ディケイドのせいだっていうんですか?!」

 

 

零?『さあね?そうかもしれないって可能性の話なんだけど、僕達も困ってるんだよね。悪魔だって…所詮噂だから♪』

 

 

零?は妖しく微笑んでそう言うとなのは達にゆっくり迫っていき、その雰囲気から危険を感じたなのは達はすぐにその場から逃げる様に走り去っていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして同じ頃……

 

 

I優矢『チィッ!一体何がどうなってやがんだ?!俺にもサッパリ分かんねぇ!』

 

 

とある高層ビルの屋上ではI優矢が粒子化して消えていくビルを舌打ちしながら眺めていた。そしてI優矢は街の様子を確かめる為に屋上から降りようと慌てて階段を下りていくが…

 

 

「やぁ、待ってたよ♪」

 

 

I優矢『…あ?』

 

 

I優矢が階段を下りていくと、その途中で一人の青年……大輝がI優矢を待っていたかのように壁に背中を預けて立っており、I優矢の目の前にまで歩み寄っていく。

 

 

I優矢『何だよテメェ?』

 

 

大輝「なぁに、ただ電王に興味があってね?きっと、デンライナーにファイナルフォームライドしてくれると思うんだ」

 

 

I優矢『あぁ?デンライナーにファイナルフォー…フェ、ファイ…フォム……?なんだソレ?!』

 

 

突然現れたかと思えばいきなりワケの分からない事を言ってきた大輝にI優矢はワケが分からず困惑してしまう。しかし…

 

 

大輝「そんな難しい話じゃないさ。ただデンライナーをくれっていう意味なんだしね」

 

 

I優矢『?!なんだとッ!?』

 

 

大輝「実体を無くした君には丁度いい話だろ?だから、デンライナーをくれ♪」

 

 

I優矢『…ふざけんなぁ!誰がテメェなんかにやるか!!』

 

 

失礼な言い方の上にデンライナーを寄越せと言ってきた大輝にI優矢は堪忍袋の緒が切れ、溜まらず大輝を押し飛ばした。だが、押し飛ばされた大輝は笑みを浮かべていた表情から冷たい表情へと代わり、I優矢に鋭い視線を向けていく。

 

 

大輝「ま、確かにそう簡単には手に入らないだろうな?」

 

 

I優矢『ゴチャゴチャうるせぇんだよ!文句があるなら力付くで奪ってみやがれってんだ!!』

 

 

大輝「ほぉ?確かに君の言う通りだ…ならそうさせてもらおうかな?」

 

 

I優矢『…あ?』

 

 

イライラをぶつけるように怒鳴るI優矢だが、大輝の言葉に思わず間抜けな声を漏らし、それを他所に大輝は腰からディエンドライバーを取り出しディエンドのカードをディエンドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

I優矢『んお?』

 

 

―ドシュウゥンッ!―

 

 

I優矢『ぬおぉッ?!』

 

 

大輝「後で後悔しても知らないぞ?変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

大輝はディエンドライバーの引金を引いてディエンドへと変身し、ディエンドに変身するまでの大輝のアクションの一つ一つを見てI優矢は大袈裟なリアクションをしながら驚いていた。

 

 

I優矢『うおぉッ?!やる気かこの野郎!?上等だ!!』

 

 

I優矢はディエンドに変身した大輝を見て驚きながらもすぐにデンオウベルトを取り出し腰に巻いてパスを取り出す。

 

 

I優矢『変身ッ!』

 

 

『Sword form!』

 

 

電王『俺参上!うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

パスをデンオウベルトにセタッチするとI優矢は電王へ変身し、すぐに決め台詞とポーズを取りながらディエンドに向かって突っ込んでいった。

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界②

 

 

そしてその頃、なのは達はイマジン達に取り憑かれた零?から逃れて街中を無我夢中で走り続け、気が付けばいつの間にか写真館の前まで戻ってきていた。

 

 

ティアナ「ハァ、ハァ…な…何とか、撒きましたかね…?」

 

 

なのは「ハァ、ハァ…多分ね…此処までくれば……」

 

 

『…もう大丈夫、とか思っちゃった?』

 

 

『…ッ?!』

 

 

写真館の前までやって来て漸く一安心出来るかと思った矢先、不意に背後から声が聞こえ慌てて振り返るとそこには白いスーツ姿の零が涼しい顔で悠然と立っていた。

 

 

スバル「い、いつの間に…?!」

 

 

零?『フフッ…別にそんなに逃げなくても襲ったりはしないよ?ま、君達にその気があるなら僕は構わないけど♪』

 

 

フェイト「ッ…零!聞こえてるんでしょ?!お願いだから早く目を覚まして!!」

 

 

零?『残念だけど、それは無理だと思………あれ?』

 

 

零?は自身の中にいる零の意識に呼び掛けるフェイトに意味はないと答えようとするが、その身体は急に止まって動かなくなってしまい、零?本人も突然の事態に驚愕し困惑していた。そして…

 

 

『………お前等、人の身体を好き勝手使いやがって…さっさと出ていけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!�』

 

 

『う、嘘ッ?!』

 

 

『ぬぉッ?!』

 

 

『え?!ちょ、うわぁ?!』

 

 

零?は突然壊れた人形のような動きをしながらなのは達の周りを動き周り、暫くすると零の身体から青、金、紫の光が飛び出して零は地面に膝を付いて元に戻り、光達は地面に落下すると上半身と下半身が逆の砂の姿をしたイマジン達が姿を現した。

 

 

『あ~あ、ほら早くやらないからぁ!』

 

 

『いやぁ~俺等を追い出すとは、中々やなぁ!』

 

 

『流石は、ディケイドってとこ?』

 

 

零の身体から出たイマジン達は愉快げに色々と喋り、零はそんなイマジン達の態度を見て片眉を器用に動かしながらゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

零「フ、フフフッ…お前ら…よくも人の身体を使ってあれこれしてくれたなぁ?取りあえず…殴らせろ♪」

 

 

ギンガ「れ、零さん冷静に!落ち着いて下さい!�」

 

 

『いいよ?こっちもそのつもりだったし♪』

 

 

『せやけどまず、今のこの状態をなんとかせなアカンなぁ?』

 

 

『その為にはまず……身体が必要だね♪』

 

 

なのは「……………へ?」

 

 

拳を震わせて怒りの表情を浮かべる零を尻目にイマジン達は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと零の隣にいるなのはに目を向け、なのははその視線に気付いて嫌な予感を感じ若干後退する。そして…

 

 

『わぁ~~~~~~♪♪』

 

 

なのは「ちょ、ちょっと来なっ…?!」

 

 

―バシュウッ!バシュウッ!バシュウッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

イマジン達はなのはに向かって突っ込んでいき、それを見たなのははすぐにイマジン達から逃げようとするも間に合わず、イマジン達はそのままなのはの身体に入り込んでしまった。そして零達はイマジン達の突然の行動に驚き慌ててなのはに駆け寄ろうとするが…

 

 

Iなのは『…ごめんねぇ♪女の子に憑くのは、趣味じゃないんだけど♪』

 

 

『ッ?!』

 

 

フェイト「な、なのは?!」

 

 

ヴィヴィオ「マ、ママ?!」

 

 

なのはの姿は黒いスーツ姿と黒いストッキングに、先程の零と同じ眼鏡を掛け髪の一部に青いメッシュが入った姿となってしまっていた。しかもその胸元のシャツは第三ボタンまで大きく開いてしまっており、それを見た零は……

 

 

零「…………ん?アイツ、なんかまた胸大きくなってないか?―ドゴオォッ!―ΣΣゴフゥッ?!ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ……�」

 

 

首を傾げながら思わずそう呟いた瞬間、両側に立っていたフェイトとすずかから肘で溝を打ち込まれ腹を抑えながらその場でしゃがみ込んでしまう。それを心配したヴィヴィオ達が慌てて駆け寄り労りの言葉を掛け、その優しさがちゃっかり身に染みていたようだ。そしてなのはは眼鏡を外し、妖艶な笑みを浮かべながらその場で一回転すると…

 

 

―ドッスゥン!―

 

 

Iなのは『ちょっとだけ辛抱したってや!フンッ!―ゴキッ!―泣けるわよ!』

 

 

スバル「ま、また格好が変わった…?!�」

 

 

零「……和服?アイツ前にあれ着たら胸が苦しいって―――いやなんでもない…はい�」

 

 

なのはは今度は芸者みたいな格好に和傘という純和風な姿になり、髪型はちょんまげみたいに縛り髪の一部に金色のメッシュが入っていた。因みにその格好を見た零が再び何かを言おうとしたらフェイト達に睨まれていた。そしてなのはは更にその場で一回転すると…

 

 

Iなのは『イェーイ♪じゃあ僕から行くね~♪』

 

 

ティアナ「ブッ?!ま、またなんて格好に?!�」

 

 

フェイト達『……………………………』

 

 

零「………………あの……もう何も言わないからそんな睨まないでくれ……頼むから�」

 

 

なのはは今度は薄紫色の半袖短パンに身体中にウサギやクマなどの人形を付けた服、前髪はウェーブの掛かった紫のメッシュが入った姿となり、そしてそれを見た零が何かを語ろうとした前にフェイト達に睨まれ押し黙っていた。そしてなのはは何処からかデンオウベルトを取り出し、ソレを腰に巻き付けパスを構える。

 

 

Iなのは『じゃあいくよ~?変身ッ♪』

 

 

『Gun form!』

 

 

なのははパスをバックルにセタッチすると黒いライダースーツが装着され、そして紫が基準のオーラアーマーに龍をイメージしたデンカメンが装着されていき、なのはは電王ガンフォーム(以後電王G)へと変身していったのであった。

 

 

電王G『ハハッ♪お前倒すけどいいよね?答えは聞いてない!』

 

 

零「…悪いが答えるつもりもないし、答える気力もない…変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

決め台詞を叫ぶ電王Gに対し零は疲れたように言いながらディケイドライバーを装着してカードをセットするとディケイドに変身し、変身を完了すると電王Gに向けて人差し指を向けながら対峙していく。

 

 

ディケイド『最初に言っておくぞ?痛い目見る前にソイツの身体を返せ!』

 

 

電王G『や~だね♪それぇー♪』

 

 

なのはを返すように要求するディケイドの言葉を拒否し、電王Gは両腰の四本のツールを銃を組み替えディケイドに向けて発砲するとディケイドはそれをかい潜りながら電王Gに向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

一方その頃、ディエンドと戦っていた電王はディエンドに掴み掛かり銃を発砲させまいとディエンドの手からディエンドライバーを叩き落とそうとするが、ディエンドはそんな電王の相手をするのに疲れたのか電王を至近距離から発砲して吹き飛ばし、カードホルダーから一枚のカードを取り出しディエンドライバーへと装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:EDEN!』

 

 

ディエンド『君の相手にはコレが丁度いい、フッ!』

 

 

ディエンドがディエンドライバーの引金を引くと辺りに残像が走り、それが一つに重なると片手に長剣を持ち背中に片翼を持った仮面ライダー、幸村が変身するライダーと同じエデンが現れ、エデンは正宗を構えながら電王に向かって斬りかかっていった。

 

 

電王『ヘッ!面白ぇ!何が丁度いいのか見せてもらおうかぁ!いくぜいくぜいくぜぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 

吹っ飛ばされた電王は突然現れたエデンに一瞬驚くが、すぐにデンガッシャーを構えて立ち上がりエデンに向かって突進し反撃していくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そして場所は戻り、写真館の近くにある公園の広場ではディケイドと電王Gが取っ組み合いを繰り返し激戦を繰り広げていた。だが、ディケイドは電王Gの軽快なステップを踏みながらの戦い方に翻弄され、それに加え戦っている相手の身体がなのはだという事に戸惑い攻撃する事に躊躇してしまう。

 

 

ディケイド『チィッ!止せなのは!俺の声が聞こえるんだろ?!目を覚ませ!!』

 

 

電王G『無~駄♪それぇー!』

 

 

―バンバンバンッ!!―

 

 

ディケイド『ガハアァッ?!』

 

 

ディケイドはなのはに何度も呼び掛けていくが、電王Gは構わずデンガッシャーガンモードをディケイドに連射して吹き飛ばし、ディケイドは一度舌打ちしながら起き上がりライドブッカーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『仕方ないっ…なのは!絶対助け出すから少し我慢しろ!』

 

 

電王G『しつこいなぁ~、だから無駄だって言ってるじゃん!』

 

 

懲りもなくなのはに呼び掛けるディケイドに電王Gは痺れを切らしデンガッシャーを発砲していき、ディケイドはそれを避けながらディケイドライバーにカードを装填してスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:AGITO!』

 

 

電子音声が響くとディケイドの身体はバイクのエンジン音の音と共に波紋が広がっていき、黄金のボディをしたライダー、前の世界で当麻が変身したアギトへと変身し電王Gの射撃を潜り抜け反撃していく。

 

 

―ドゴオォッ!ドガアァッ!ドゴオンッ!―

 

 

電王G『うわぁッ?!イッタタタタ…もう!お前ばっか変わってズルイぞ!』

 

 

『リュウタ!交代や!』

 

 

電王G『え?―バシュウゥッ!―ウアァッ?!』

 

 

『Ax form!』

 

 

姿を変えたDアギトを見て不公平だと口にする電王Gだが、その時背後から金色の光が現れ電王Gの身体に入り、紫の光が弾き出たと同時に電王は金色が基準のオーラアーマーにマサカリをイメージしたデンカメンが装着され、電王アックスフォーム(以後電王A)へとフォームチェンジした。

 

 

電王A『俺の強さにお前が泣いた!俺の強さは泣けるでぇ!』

 

 

電王Aは決め台詞のようなモノを叫びながらデンガッシャーを斧のような形態、デンガッシャーアックスモードに組み替えDアギトへと向かって駆け出し反撃を開始して斬りかかっていく。

 

 

―ガキイィッ!!ガキイィッ!!―

 

 

電王A『フンッ!どうしたどうしたぁ?!その程度じゃ俺には勝てへんぞ!』

 

 

Dアギト『チィッ!馬鹿みたいに固い身体して良く言う…!』

 

 

Dアギトは電王Aの斬撃を受けて圧されながらも何とか反撃して殴り掛かるが、その攻撃は全て電王Aの強固なボディによって弾き返されてしまい、Dアギトは電王Aの攻撃を受けながら距離を離すとカードを一枚取り出しディケイドライバーに装填しスライドさせていく。

 

 

『FORMRIDE:AGITO!FLAME!』

 

 

電子音声と共にDアギトに再び波紋が広がり、波紋が収まるとDアギトは赤い身体に剣のような武器、フレイムセイバーを構えたフレイムフォームへと変身し、Dアギトはフレイムセイバーを構えながら電王Aへと斬りかかっていく。

 

 

電王A『ぬぉッ?!また変わりおった?!』

 

 

Dアギト『悪いな?こっちも変幻自在なんだよ!ハアァッ!』

 

 

―ガアァンッ!ガアァンッ!ガギイィッ!!―

 

 

Dアギトは電王Aの反応を他所にフレイムセイバーで斬りかかっていき、電王Aも負けじとデンガッシャーアックスモードを振りかざしDアギトのフレイムセイバーと火花を散らせながら何度も衝突していく。だがその時…

 

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

二人が戦う場所から近くにある広場から突然悲鳴が聞こえ、Dアギトと電王Aがその悲鳴が聞こえた方を見ると、其処には数人の男性が異形の姿をした怪人達に襲われ荷物を奪われている光景があった。そしてその荷物の中身を手に入れ喜ぶ怪人達の下に怪人達の親玉らしき銀色の身体をした謎の異形が巨大な鉄棍棒を肩に抱えながら近づいていた。

 

 

なのは『な、なにあれ……あれもイマジン?』

 

 

イマジンに身体を乗っ取られているなのはも怪人達を見て驚愕するが、電王AはすぐにDアギトへと視線を戻し、Dアギトもフレイムセイバーを構え互いにぶつかり合いながら写真館の前にまで場所を変え、Dアギトは電王Aから一旦離れるとライドブッカーから一枚カードを取り出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FORMRIDE:AGITO!STORM!』

 

 

電子音声と共にDアギトに再び波紋が広がり、波紋が消えるとDアギトは青い身体にロッドのような武器、ストームハルバートを構えたストームフォームへと姿を変え、Dアギトはストームハルバートを構えながら電王Aへと激突していく。

 

 

―ギィンッ!ガアァンッ!ガガガァッ…ギィンッ!―

 

 

電王A『ぬおぉッ!グッ!中々やるようになってきおったなコイツっ…!』

 

 

『なら、此処は僕がやろうか?』

 

 

電王A『ぬぅ……スマン、任せた!―バシュウゥッ!―うおぉッ?!』

 

 

『Rod form!』

 

 

フォームチェンジした今のDアギトでは自分に分が悪いと感じ、電王Aは飛来してきた青い光に後を任せると青い光は電王Aの身体に入り込み、金色の光が身体から弾き出されると電王は青を基準としたオーラアーマーと亀の甲羅をイメージしたデンカメンを装着し、電王ロッドフォーム(以後電王R)へとフォームチェンジしていった。

 

 

電王R『お前、僕に釣られてみる?』

 

 

Dアギト『チッ!また変わりやがったか…!』

 

 

フォームチェンジした電王Rを見てDアギトは舌打ちしながらストームハルバートを構え直していき、電王Rもデンガッシャーを槍のような形態、ロッドモードへと組み替えDアギトへと勢いよく疾走した。

 

 

―ガギィンッ!ガアァンッ!ガアァンッ!―

 

 

電王R『へぇ、思ったよりやるね?少しは楽しめそうだよ!』

 

 

Dアギト『そうかいっ…!こっちはいい加減締めたい気分だけどなぁ!ハッ!』

 

 

そう答えながらDアギトはストームハルバートを横薙ぎに振るい、電王Rはデンガッシャーを縦にしてそれを受け止めて弾くとデンガッシャーを振り回しながら突きを放ち、それでDアギトを自分から離れさせ間合いを作って対峙していく。そして間合いを取った二人は相手の動きを伺って立ち回っていき、互いに向かって再びぶつかろうとした。その時……

 

 

 

 

―ボオォォォォォォォーーーーン!!―

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突如その場に古い時計の音が響き渡り、Dアギト達が近くにあった時計に視線を向けると、そこには狂ったように針が凄いスピードで何度も回り続ける時計台があった。そして次の瞬間…

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!―

 

 

 

 

『なッ……?!』

 

 

二人がいた周りの風景が丸ごと歪みに包まれていき、その歪みが晴れると辺りは一面荒野が広がり、写真館を始めとする周りにあった建物などは全て消え去り、先程の時計と近くの物影に隠れていたフェイト達以外には何も残っていなかった。

 

 

ギンガ「こ、これは…?!」

 

 

フェイト「しゃ、写真館が…一体何が起きたの…?!」

 

 

なのは『そんな……私達、この世界に取り残されて………?』

 

 

電王R『…何が起きてるのか分かんないけど…フッ!』

 

 

Dアギト『チッ…ハッ!』

 

 

突如起きてしまった現象に一同は戸惑い呆然としてしまうが、電王Rはすぐにデンガッシャーを構え直しDアギトへと向かっていき、Dアギトも先ずは電王Rをどうにかする事を優先にし戦闘を再開して電王Rと激突していくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、ディエンドの喚び出したエデンと戦っていた電王は荒っぽい戦い方ではありながらも少しずつエデンを圧して戦いの流れ掴んできていた。だが、ディエンドは背中を見せる電王を見て更にカードを取り出しディエンドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:FEATHER!』

 

 

ディエンド『ホラ、頑張る君にプレゼントだ』

 

 

ディエンドはそう言いながら引金を引くと辺りに残像が走り残像が重なっていくと、純白の鎧にエデンとは逆方向に翼の生えた片翼の仮面ライダー、幸村の世界のなのはが変身するのと同じフェザーが現れ、無防備に背中に見せる電王に向かって容赦なく奇襲を仕掛けていった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

電王『ぐおぉッ?!グッ!チクショウォッ!』

 

 

更に増えた増援により今度は電王が不利な状況に立たされてしまうが、電王は諦めずエデンとフェザーを相手にデンガッシャーを振るい反撃していく。そしてその戦いを少し離れたビルから見る一人の男…鳴滝の姿とピエロのような姿の異形がそこに存在していた。

 

 

『おやおや…どうやら流石の電王氏も大輝氏の足元に及ばないようですねぇ?』

 

 

鳴滝「そうだ、彼の力は元時の神によってディケイドを遥かに越えている…だがディケイドが真の破壊者として目覚めてしまえば、例え彼が全力を出したとしても奴に勝てる見込みはないだろう…」

 

 

『なるほど…確かに零氏の持つ因子の力は万物や神々の存在すら破壊せしモノ。もしそれが完全に覚醒などしてしまえば…我々ショッカーにとっても大きな障害となるでしょうね』

 

 

鳴滝の隣に立つ異形は手に持つトランプのジョーカーを見つめながらそう呟くと、トランプを仕舞い電王とディエンド達の戦いに視線を戻していく。

 

 

『まあ、私が興味あるのは零氏がこれから歩むドラマだけなのですがね。例えその旅の終わりが喜劇だろうと悲劇だろうと……私は彼の生き様を見てみたいだけですよ』

 

 

鳴滝「道化師め…やはり他の世界のライダー達を呼び寄せたのは貴様個人の娯楽の為か…」

 

 

『おや、それは少し人聞きが悪いですよ鳴滝氏?私が此処にいるのはショッカーの為でもあるのですから…まあ、私の個人的な楽しみを優先させて頂いてるのは確かに事実ですがね』

 

 

険しい表情を浮かべる鳴滝を尻目に異形はただジッと電王達の戦いを見つめていき、暫くその戦いを観戦していると異形はそこから一歩足を踏み出していく。

 

 

『さて、では私もそろそろ挨拶しにいきしましょうか』

 

 

鳴滝「クラウン、くれぐれも彼を刺激して来るなよ?彼がもし本気を出した時には…貴様の命も危ういだろうからな」

 

 

クラウン『ご心配には及びませんよ、ただ大輝氏に私の名を覚えてきてもらうだけですから……絶対に忘れられないようね』

 

 

鳴滝の言葉に異形…『クラウン』はそう返すと一瞬でその場から消え去ってしまい、残された鳴滝は険しい表情で電王達の戦いを見つめていく。

 

 

鳴滝「……崩壊する、この電王の世界も……ディケイド、やはりお前の存在は破滅をもたらす」

 

 

鳴滝がそう呟くように言うと、鳴滝のいたビルも消滅し消え去ってしまう。だが鳴滝はビルが消えてもその場所から落ちる事なく、宙に浮きながら電王の戦いを眺めているのであった。

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界③

 

 

―ガアァンッ!!ガアァンッ!!ガギイィィッ!!―

 

 

Dアギト『チィッ!デェアァッ!!』

 

 

電王R『グゥッ!ハッ!!』

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

そして場所は戻り、先程の荒野ではDアギトと電王Rが互いにロッドを振り回してぶつけ合い、激しく激突していた。二人の持つ武器が火花を散らせてぶつかり合い激戦と化していく中、その戦いを電王Rの視界から見ていたなのはやフェイト達は力無く座り込み、ただ呆然と二人の戦いを見ているしか出来ずにいた。

 

 

なのは『…もう…この世界は…終わってるんだね……』

 

 

フェイト「…これじゃあ…あの時と同じだよ……」

 

 

『………………』

 

 

仲間達も帰るべき場所も消えてしまい、激しさだけが増していく戦いになのは達は既に立ち上がる気力さえなくなり、あの時の光景…夢に見たディケイドと無数のライダー達の戦いだけがなのは達の脳裏を埋め尽くしていた。そしてDアギトは電王Rから距離を離しながら元のグランドフォームへと戻り、二人はそれぞれ最後を決める為にDアギトはカードを、電王Rはパスを取り出しバックルへとセット&セタッチしていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:A・A・A・AGITO!』

 

『Full Charge!』

 

 

二つの電子音声が響くと共に双方は最後の攻撃の構えを取り、Dアギトと電王Rは同時に上空へ高く跳ぶと互いに向けて全力の跳び蹴りを放っていった。そして…

 

 

 

 

Dアギト『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

電王R『デエェェェェェェェェェェェェェイッ!!』

 

 

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーアンッ!!!!―

 

 

 

 

『グ、ウアァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーッ!!?』

 

 

 

 

双方の必殺技の激突により巨大な爆発と轟音が巻き起こり、二人は反発し合って吹っ飛ばされてしまった。そしてそれと同時に…荒野の中心に置かれた時計の針が12時丁度を指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「………間に合わなかった……………あれ?」

 

 

零「グッ……な…なのは…?」

 

 

すずか「な、なのはちゃん!零君!」

 

 

ヴィヴィオ「パパー!ママー!」

 

 

必殺技同士がぶつかり合ったショックで二人の変身が解け、零はふらつきながら倒れているなのはの下へと駆け寄ると身体を起こしていき、ヴィヴィオ達もそれを見て小走りで零となのはの下に駆けつけていった。そしてその時……

 

 

 

 

―ファアァァァァンッ!―

 

 

 

 

『…………え?』

 

 

零「…?あれは……」

 

 

突如上空から電車の汽笛のような音が響き渡り、零達は上空を見上げると呆然としてしまった。何故なら、上空から一台の白い電車が汽笛を鳴らしながら走ってくるという常識ならあり得ない光景が目に映ったのだから。そしてその間に電車は徐々に地上へと降下していき、零達の目の前へ着くと次第に停車していったのであった。

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

『フンッ!ハアァッ!!』

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

電王『グアァァァッ!!』

 

 

そしてその頃、ディエンドの喚び出したライダー達と戦っていた電王はエデンとフェザーのコンビネーションに翻弄され、二人の攻撃を受け地面に叩き付けられてしまっていた。そしてその戦いをただ見ているだけで飽きてきたのか、ディエンドは何やらつまらなそうに電王へ語りかけていく。

 

 

ディエンド『いい加減諦めたらどうだい?これ以上やっても君が苦しむだけだ。さ、さっさとデンライナーにファイナルフォームライドしてみせてくれ』

 

 

電王『グッ!うるせぇんだよこの野郎っ!さっきから聞いてりゃワケ分かんねぇ事ばかり言いやがって!それにな…テメェのその口の聞き方ムカつくんだよ!』

 

 

ディエンド『あぁ、そいつは悪かった。けどこれは、生まれつきなんでね♪』

 

 

電王『ヘッ!そいつは可哀想になぁ!!』

 

 

余裕を感じさせるディエンドの口調に電王は苛立ち、再びその場から立ち上がってデンガッシャーを構え、エデン達に向かって斬りかかっていくのであった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

そして同じ頃、白い電車へと乗車した零達は取り敢えず奥の車両へと進んでいた。そして乗客室へ入ると、いきなり奇抜な格好をした女性が笑顔で出迎えてきた。

 

 

「御乗車、有り難うございます♪デンライナーへようこそー♪」

 

 

ティアナ「デ、デンライナー?」

 

 

「はい♪ささ、奥へどうぞどうぞ~♪」

 

 

零「ちょ、お、おい?!押すな!」

 

 

女性は明るげにそう言って未だ戸惑う零達を奥の方へと押し出しながら案内していく。そして女性に流されるまま奥へ入っていくと…

 

 

「零、くーーーーーん!!」

 

 

『え…?』

 

 

零「へ?―ドゴシャアァッ!!―Σガハァッ?!」

 

 

奥の部屋へ足を踏み込んだと同時に突然奥から現れた少女がロケットの如く飛び出し、突然の不意打ちに零は対応が遅れ、その何かを身体の上に乗せながら地面に叩きつけられた。そして突然の事態に驚き固まっていたなのは達だが、零の上に乗る少女を見てその表情が驚愕のモノに変わっていく。

 

 

「う~ん♪久々の零君の匂いと体温や~♪」

 

 

零「ゲホッ!ゴホッ!な、何だいきなり……ッ?!お、お前?!」

 

 

フェイト「は、はやて…?はやてなの?!」

 

 

はやて「うん♪久しぶりやな♪皆♪」

 

 

そう、零に飛び付いてきた少女とは零達の仲間の一人…零達の世界の機動六課の部隊長である八神 はやてだったのだ。はやての突然の登場に唖然となる一同だが、そこへ更にもう一人の少女がはやての下へと駆け寄っていく。

 

 

「は、はやてちゃん!いきなり飛び付いたりしたら危ないですよ~�」

 

 

はやて「あ、アハハ�ごめんな?漸く皆と会えたから、つい嬉しくて…�」

 

 

奥の方から現れた小学生程の体型の少女の言葉にはやては苦笑しながら零の上から退き、その少女を見た零達は再び唖然とした表情になってしまう。

 

 

はやて「ホンマにごめんな零君?ちょっとやりすぎてもうたわ�」

 

 

零「い、いや…別にそれはいいんだが……というか!なんでお前とリインが此処にいるんだ?!」

 

 

リイン「あ、え~と…確かにいきなり出てきたら混乱しちゃいますよね�」

 

 

はやての手を借りて身体を起こしながら零は困惑した表情を浮かべながらはやてとはやてのユニゾンデバイスであり、アギトと同じように子供位の大きさとなっているリインフォースⅡに目を向け、この場にいる一同の疑問を代弁するように問い掛ける。そしてその問いを受けたはやてとリインは若干苦笑しながらどう説明しようかと考えていると……

 

 

「――彼女達は、時の砂漠をさ迷っていたところを私達が保護したんです」

 

 

『…………え?』

 

 

奥から聞こえてきた少女の声がはやてとリインに代わって答え、零達はその声が聞こえてきた奥の部屋へと顔を向ける。其処には先程なのはに憑いたのと同じイマジンが実体化しており、その中にいた銀髪のロングヘアーの少女がイマジン達に包帯を巻きながら零達を見つめていた。

 

 

「よく来てくれましたね、貴方が世界を旅するライダー…ディケイドですね?」

 

 

零「?一応そうだが…アンタは…?」

 

 

「ああ、申し遅れました。私はフェリ・ロス、このデンライナーの乗客です」

 

 

フェイト「デンライナーって…この電車が?」

 

 

「そぉ、これがデンライナー…時を越える列車です」

 

 

フェリと名乗る少女が言葉にしたデンライナーという単語にフェイトが反応して呟くと、零達が入って来た扉とは反対の扉から一人のただならぬ雰囲気を放つ中年男性が姿を現した。

 

 

「どぉやら、大変な事が起きてるよぅです。ディケイドの世界も…我々、電王の世界も。早く、なんっとかしなくては……!」

 

 

現れた中年男性は意味深な言葉を放ちながら零を見つめ、それを聞いたなのは達は思わず息を呑み、零は目を鋭くさせ中年男性を見つめていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

エデン『フッ!ハァッ!』

 

 

フェザー『ハァッ!』

 

 

―ズバアァンッ!!ガギィンガギィンッ!!ズドドドドドドドドドンッ!!―

 

 

電王『ガアァッ?!ウグアァッ!!』

 

 

一方その頃、ディエンドとエデンとフェザーと戦っていた電王はデンガッシャーをがむしゃらに振り回しながら反撃していくが、やはり数で圧倒されているせいか勝ち目がなく追い詰められていた。そしてディエンドも電王にトドメを刺す為に最後のカードをディエンドライバーに装填しスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

電子音声と共にディエンドライバーの銃口の周りにディメンションフィールドが展開し、ディエンドが銃口を電王に向けながら引金を引くと強力なエネルギー弾が放たれ、その軌道上にいたエデンとフェザーも銃弾に吸収され電王へと突っ込んでいく。そして…

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

電王『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!?』

 

 

ディエンドの必殺技、ディメンジョンシュートは電王に直撃して爆発を起こし、電王はそのまま緊張感のない悲鳴を上げながらビルから放り出されるように遥か地上へと落ちていってしまったのだった。

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界④

 

 

ディエンドのディメンジョンシュートによってビルから落とされてしまった電王。だが、頑丈なアーマーを身に纏っていた為か奇跡的に無事であった。そして、ビルの上にいたディエンドもその後を追いかけビルの下へと降りてきた。

 

 

ディエンド『…どうかな?そろそろ俺の物になる気になった?』

 

 

電王『グッ…誰がなるかッ!!』

 

 

電王は地面に倒れたままディエンドに足払いを掛けディエンドへと反撃しようとするが、ディエンドの攻撃とビルからの落下せいで力を思うように発揮する事が出来ず意図もたやすくディエンドにかわされてしまう。

 

 

ディエンド『ふぅ……仕方ない。今日は何だか機嫌が悪いみようだし、一旦引き上げるとしよう』

 

 

電王『ッ?!逃がすよこの野郎ォッ!』

 

 

何処かへ去ろうとするディエンドを止めようと電王は体中に走る痛みにも構わず立ち上がってディエンドへと突進していき、それを見たディエンドは仕方ないといった感じに溜め息を吐きながらディエンドライバーの銃口を電王の足元に向け動きを止めようする。しかし…

 

 

 

 

―………カランッ…ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァアァンッ!!!―

 

 

電王『なっ…?!ぐわあぁッ!!?』

 

 

ディエンド『ッ?!』

 

 

突然何処からか電王とディエンドの間にボールのようなモノが投げ込まれいきなり爆発を起こし、ボールの近くにいた電王はその爆発に巻き込まれ吹っ飛んでしまい、ディエンドも突然の出来事に困惑と驚愕の表情を浮かべた。そして爆発から発生した爆煙が晴れていくと、先程ボールが爆発した場所に一人の異形…先程鳴滝と一緒にいたクラウンが悠然とした様子でそこに立っていた。

 

 

電王『ぐぅ……ッ?!な、なんだてめぇは!?』

 

 

クラウン『フフフ…駄目ではないですか電王氏?その身体は貴方のモノではない…下手に無茶などしてしまえば、その身体の持ち主は壊れてしまいますよ?』

 

 

電王『ッ!んだと…?!』

 

 

突然現れたクラウンの言葉に電王は驚愕の表情を浮かべながらフラフラと身体を起こしていき、クラウンはそんな電王に背を向けディエンドと向き合っていく。

 

 

クラウン『こうして会うのは始めましてですね、海道大輝氏?』

 

 

ディエンド『…誰かな君は?俺は君みたいな奴に名を名乗った覚えはないけど?』

 

 

クラウン『あぁ、いきなり失礼しました……私の名はクラウン。firstの世界のショッカーに造られたダークライダーです。以後お見知りおきを…』

 

 

ディエンド『firstの世界のダークライダー?…そのライダー君が、一体何の用かな?』

 

 

警戒するディエンドに対しクラウンは紳士的な態度で名を名乗りながら頭を少し下げていくが、ディエンドは一切警戒を解かずにクラウンにそう問い掛けると、クラウンは頭を上げながらそれに答えていく。

 

 

クラウン『いえいえ、特に大した用事ではありませんよ。ただ私の名を貴方にも覚えてもらおうと思い、こうして挨拶に訪れただけですからね』

 

 

ディエンド『挨拶…?』

 

 

クラウン『えぇ…私は人を観察するのが楽しみでしてね?零氏と同様に、貴方にも興味があるのですよ……特に、貴方がこうしてお宝集めに没頭する訳である……"兄"の事とか……』

 

 

ディエンド『ッ!!?』

 

 

怪しげに微笑むクラウンが放った言葉にディエンドは驚愕の表情を浮かべて動揺し、ディエンドのその反応を見たクラウンは仮面越しに満足げに微笑みながら話を続ける。

 

 

クラウン『貴方の事は良く知ってますよ……ホントに可哀相な方だ……正しいと思いずっと信じ続けていたモノから裏切られ…挙げ句の果てにはそのせいで大切な人まで失ってしまった……本当に気の毒な―――』

 

 

―フッ………ドガシャアァッ!!!―

 

 

クラウン『ッ?!ガッ?!』

 

 

クラウンが最後に何かを言いかけたその瞬間、なんと突然目の前にいた筈のディエンドが一瞬でクラウンの目の前に現れ、クラウンの顔面を思いっきり投げつけていった。突然の攻撃にクラウンは後ろへと倒れるように吹っ飛ばされるが、ディエンドは関係無いと言わんばかりにクラウンの強化スーツの襟を握り締め、全力で殴り続ける。

 

 

―ドゴォンッ!!!ドゴォンッ!!!バギャアバギャアバギャアァッ!!!!―

 

 

クラウン『ガハッ!?』

 

 

ディエンド『死ね…道化師風情が…』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!ドグオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

クラウンを殴り続けていたディエンドはクラウンの襟から手を放すと、今度は手に持っていたディエンドライバーをクラウンの腹部に押し当て容赦なく銃弾を放ち続けていく。そしてクラウンは銃弾に吹き飛ばされビルの壁に激突していき、それを確認したディエンドはクラウンにトドメを刺そうとホルダーからカードを取り出そうとする。が……

 

 

 

 

『――――成る程、それが貴方の本当の力…という訳ですか』

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

ディエンドと電王の背後から聞こえてくるはずのない声が聞こえ、二人は背後に振り返ってその声が聞こえてきた方を見ると、そこにはディエンドの攻撃を受け吹っ飛ばされたハズのクラウンが無傷の状態で電柱の上に立っていた。

 

 

電王『なっ?!ど、どうなってんだ…オメェさっきこいつにやられてただろうが?!』

 

 

クラウン『フフッ…そんなに驚く程の事ではありませんよ。私はこう見えて手品が得意でしてね…ちょっとしたマジックを使っただけです』

 

 

電王『マジック…?』

 

 

クラウンがそう言うと電王は先程クラウンが吹き飛んだビルの壁に視線を向ける。そこには、半壊したビルの壁に埋もれるクラウンに似た人形があった。

 

 

クラウン『ですが今の攻撃は本当に危なかったですよ…もしも私があれを受けていたら、冗談抜きで致命的なダメージを受けていたでしょうね。しかもあれでまだ一割だけの力と言うのだから、尚の事恐ろしい……フフフフ』

 

 

ディエンド『っ…お前ッ!』

 

 

紳士的な態度でありながら何処か挑発的に見えるクラウンを見てディエンドは険しい表情でディエンドライバーを構え、今度こそクラウンを仕留めようと引き金に手を掛けた。その時……

 

 

 

 

「ΣΣうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?またかアテナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

上空から聞こえてきた悲痛に似た悲鳴。その声はその場にいた全員の耳に届き、ディエンド達がソレの聞こえてきた上空へと顔を上げると……

 

 

 

 

稟「どいてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!?」

 

 

 

 

電王『な、何だありゃ?!』

 

 

ディエンド『あれは…具現化の少年?』

 

 

―ドガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

いきなり空から降ってきた少年…稟を見た一同が呆然としている間に稟は地上へと落下し、そのままコンクリートの地面に向かって叩き付けられ巨大なクレーターを作り上げていった。

いきなりの事態にディエンドも電王も後がついていけないといった状態になりながらピクリとも動かず地面に倒れる稟を見るが、クラウンは一人仮面越しに微笑みながら落下してきた稟を見つめていた。

 

 

クラウン『おやおや、また新たな来訪者がこの世界へ訪れてくれたようですね?フフフ…これはまた楽しみが一つ増えましたよ』

 

 

ディエンド『何?…まさか…これはお前の仕業か?!』

 

 

クラウン『いえいえ…彼はどうやら自分からこの世界へとやってきたようです。私は何も余計な事はしていませんよ』

 

 

クレーターの中で倒れ込む稟を顎で指しながら問い掛けるディエンドにクラウンは両手を広げながら首を左右に振って否定する。そしてクラウンはおもむろに数枚のトランプを取り出し、それを手の中で上手く切りながら口を開く。

 

 

クラウン『それでは…挨拶はこのくらいにして、私はそろそろこの辺で失礼させて頂きます。また次のステージでお会いしましょう、大輝氏、電王氏……トランプフェイド!』

 

 

クラウンはそう言いながら取り出したトランプを空に投げ出すとトランプはクラウンの身体を包むかのようにクラウンの周りを舞う。そして一度クラウンの姿がトランプに隠れてトランプが全て地に落ちていくと、そこには既にクラウンの姿は無くなっていた。

 

 

ディエンド『チッ!逃がすか…!』

 

 

電王『なっ…お、おい待ちやがれ?!』

 

 

ディエンド『……今は君を見逃すけど、俺がまた来る時まで良く考えときなよ?今の君は実体の無い、何者でもないって事をね』

 

 

電王『ッ?!なんだとテメェ…!!』

 

 

ディエンドは逃げ去ったクラウンの後を追って電王の下から去っていき、電王もそれを追いかけようとするがダメージが響いて身体の自由が利かず、ディエンドを逃してしまった。そしてディエンドを逃してしまった電王は苛つきながら変身を解き、I優矢へと戻ってクレーターの中で倒れる稟に駆け寄っていく。

 

 

I優矢『おい!おい坊主!しっかりしろ!おい!』

 

 

稟「…………」

 

 

倒れる稟の身体を抱えて呼び掛けるI優矢だが、当たり所が悪かったのかどうやら気絶してるようだ。取りあえずこのまま放っておくワケにもいかないと思い、I優矢は小さく舌打ちしながら稟を抱えて近くのベンチに寝かせ、此処から見える街の景色を険しげに見つめる。

 

 

I優矢『クソッ…なんなんだよ一体……どうやったら戻るんだよ……俺は……俺は何処だァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

I優矢は腹の底から声を出して力の限り叫ぶが、それに答えてくれる者は何処にもおらず、I優矢の叫び声はただ虚しく街中に響くだけであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、電王との戦いを終えデンライナーに乗車した零達は各自テーブルに着きながら奇抜な格好をした女性、ナオミからコーヒーを貰って休憩していた。だがナオミの出したコーヒーはどれもグロテスクな見た目をしており、なのは達は誰一人としてコーヒーには手を付けておらず、零に至ってはさりげなくなのはの方にコーヒーを移動させていた。

 

 

リィル「……と、一応此処までなんですが、大体の事は分かって頂けましたか?」

 

 

スバル「あー…え~っと…まあ大体の事は…�」

 

 

零「いや、良く分かった…あっちのオッサンが、デンライナーのオーナー。それと客室乗務員のナオミちゃん。そしてなのはに憑いてくれたこのイマジン達を纏めているのがお前、フェリ・ロス。そして、はやてとリインは以前あの時の砂漠とかいう場所で倒れていた所を偶然見つけてお前達が保護した……だろ?」

 

 

まだ現状がよく呑み込めていないなのは達とは別に、事情を把握した零はそう言いながら周りにいるメンバーの写真をカメラに納めていく。だが何故かその写真にオーナーが入ってくるが、零はそれを綺麗にスルーしながらメンバーの写真を撮り続ける。

 

 

なのは「でも、どうして二人はあんな砂漠で倒れてたの?」

 

 

はやて「ん~……それが、私等にもよくわからへんのや�気が付いたらあそこに倒れてて、また目を覚ました時にはいつの間にかデンライナーの中に……」

 

 

オーナー「…彼女達はこの世界のじゅぅにんではありませんからねぇ~。彼女達を知る人間はこの世界にはそぉんざいしない…だからお二人はあそこにいたのでしょうねぇ?」

 

 

すずか「え?それって……どういう意味ですか?」

 

 

意味深な言葉を口にするオーナーにすずかが思わず聞き返すと、オーナーは表情を変えずに再び語り出す。

 

 

オーナー「我々電王の世界では、じかぁんときぉくが人の存在を成り立てていますからねぇ~。この世界の誰の記憶にもいない彼女達は一時的ではありましたがこの世界から弾き出され、あの砂漠に倒れていたのでしょう」

 

 

零「…一時的?」

 

 

オーナー「ええ、一時的にこの世界から弾き出されてしまった彼女達ですがぁ、彼女達との記憶を持つ君達がこの世界に訪れたことによりぃ、彼女達はこの世界での"時間"を手に入れた…といった所です」

 

 

炒飯を食べながら言い放つオーナーの説明になのは達は分かったような分からないような微妙な表情を浮かべ、零は大体分かったような表情を浮かべながら撮影を続けていく。そして零はカメラで撮影していると、近くにいたイマジン…ウラタロス、キンタロス、リュウタロスに視線を向け目を細めていく。

 

 

零「………それはそうと、さっきはよくもやってくれたじゃないか?お前等のおかげでこっちは仲間にまで殴られるわ、お前達には撃たれるわ斬られるわで散々な目に合ったぞ」

 

 

ウラタロス『ああ、それについては謝るよ。だけど、君だって話し合いもなしに僕達と戦ったでしょ?ならそれでおあいこだよね♪』

 

 

零「全く詫びれた様子も無しか?随分と自分勝手というか…ああ、そんなんだから俺にボロ負けしたんだろうな?」

 

 

キンタロス『んん?それはちょっと納得いかへんな?言うなればせいぜい、五分五分と言ったところやろ』

 

 

リュウタロス『そうそう!でももう一度やれば絶対に僕達が勝つよ!やる?』

 

 

零「ほぉ?随分と面白い冗談じゃないか…」

 

 

フェイト「だ、駄目だよ零!こんなところでやったら電車が壊れちゃう!�」

 

 

全く悪そびれた感じもなく挑発してくるタローズ達に、零も対峙しようと一歩前に出ていこうとする。だが……

 

 

リィル「いい加減にして下さい!時間が歪んでしまった原因はディケイドのせいではなかったのに、それを貴方達はなのはさんに憑いた挙げ句黒月さんを襲ったりして…!」

 

 

ウラタロス『い、いやでもねフェリちゃん?―ゲシッ!―Σノウッ?!』

 

 

フェリ「言い訳なんて聞きません!ちょっと外に出て反省でもしていなさい!」

 

 

フェリは全く謝る様子を見せないタローズ達に怒鳴りながらウラタロスのスネを蹴り、タローズ全員を纏めて押し出し乗客室から追い出そうとする。しかし……

 

 

ナオミ「あ、でもフェリさん?そっちは今写真館になってますよぉ?」

 

 

『…………へ?』

 

 

作業をしていたナオミから聞かされた言葉に、フェリだけでなく零達も一瞬唖然としてしまう。そしてすぐ立ち直った零達はすぐさまその隣の車両に繋がる扉を開けて奥を見ると……

 

 

 

 

 

栄次郎「――おぉ!ちょうど良かった零君!ホラホラ!いきなり景色が歪んだかと思ったら列車の中に移動しちゃったみたいだよ!いいねいいねぇ~♪」

 

 

宗介「そら、革命!」

 

 

光「えぇっ!?」

 

 

ヴィータ「何っ!?」

 

 

アギト「マ、マジか!?」

 

 

海人「何だってっ!?」

 

 

慧「何でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

シグナム「そう来るか……ならこれでどうだ?」

 

 

シグナム(宗)「ほお?中々良い手を使ってきたな…」

 

 

シャマル「えーっと、次はコレを鍋に…」

 

 

紫苑「Σちょ?!シャマルさんそこは違いますって!?それじゃ甘くなっちゃいますよ!?」

 

 

ザフィーラ「…もう手遅れのようだぞ�」

 

 

 

 

 

零「………何だコレ……」

 

 

ナオミ「なんか、気が付いたらいつの間にかオープンしてたんですよね~♪で、さっき宗介ちゃん達に事情聴取しに行ってもらったんですけど…すっかり居着いちゃったみたいです♪」

 

 

なのは「そ…宗介ちゃん達…って�」

 

 

はやて「シ、シグナム!ヴィータ!シャマル!ザフィーラ!」

 

 

シャマル「え?………は、はやてちゃん?!」

 

 

シグナム「ッ?!あ、主はやて?!」

 

 

ザフィーラ「あ、主?!」

 

 

ヴィータ「は、はやて!それにリインも?!」

 

 

隣の車両に出来た写真館…それは先程消えてしまった筈の零達の居場所、光写真館だったのだ。突然の消滅に先程まで心配していたのに、クマのぬいぐるみを抱きながら窓の外を見てはしゃぐ栄次郎や何故かトランプや将棋、料理などをしてくつろいでいる宗介達を見て零は思わず溜め息を吐きながら頭を抱えてしまい、それを他所にはやて達は守護騎士達との再開に喜んでいた。

 

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界⑤

 

 

そして数十分後、漸く落ち着きを取り戻した一同はオーナーを除いたデンライナーメンバーと共に写真館の部屋に場所を移し、なのは達はフェリからこれまでの経緯を、零は宗介達から話を聞いていた。

 

 

零「――つまり、お前達はこっちに転移して来る時にいきなり変なライダーに襲われてしまい、そのせいで間違って別の世界へと転移してしまった。それで漸くこの世界に着いて俺達の写真館を探そうとした矢先、デンライナーが現れて成り行きで乗る事になった……って事か?」

 

 

宗介「まあ、大体はそんな感じだな」

 

 

零「成る程……だが、何でお前達がデンライナーに乗れたんだ?確かこれに乗るにはパスかチケットが必要だったハズだが…」

 

 

海人「それはほら、慧の奴が持ってるだろ?シャイニングに変身する時に使ってるアレ」

 

 

零「……あぁ、そういう事か」

 

 

海人の説明に出たアレという言葉に納得して頷く零。確か慧の変身するライダーシャイニングは変身時に零の持つのと同じパスを使っていた筈だ。恐らく彼等がデンライナーに乗れたのはソレがあったのお陰なのだろう。零はそう考えながらカメラの手入れをしていると、奥のキッチンの方からエプロンを身につけた紫苑が零達の下へやってきた。

 

 

紫苑「あ、あのー…ちょっといいですか?」

 

 

零「…ん?お前は…?」

 

 

紫苑「あっ、始めまして、僕は風間紫苑といいます、それであっちにいるのが僕の仲間である光。零さんと同じくライダーの世界を旅しています」

 

 

零「ライダーの世界を…?じゃあ、お前もディケイドなのか?」

 

 

紫苑「はい、零さんの事は宗介さん達から聞いています。零さんも自分達の世界を救うために旅をしているって」

 

 

海人「紫苑とは、俺達が別世界に飛ばされた時に知り合ってな。だけどその時にまたあのピエロライダーに襲われて一緒にこっちに飛ばされちまったんだよ」

 

 

零「そういう事か……なら悪いが、元の世界に帰るのはもう少し辛抱してくれ。今はちょっとそれどころじゃないらしいからな…」

 

 

零はそう言いながら紫苑達から視線を外し、テーブルの方でフェリから今までの経緯を聞いているなのは達へと視線を移した。

 

 

なのは「…話を纏めると、建物や人が消えたのは過去が変えられたからってことだよね?イマジンが過去で暴れているから」

 

 

フェリ「えぇ…数日前からイマジンのボスみたいなのが現れて、仲間のイマジンを過去に送り込んでいるみたいなんです」

 

 

零「…成る程な。それってつまり、イマジン達も時を越える列車とやらを持ってるって事か?」

 

 

フェリ達の会話を聞いていた零はカメラの手入れを終えてフェリに尋ねてみるが、フェリは首を横に振って否定する。

 

 

フェリ「イマジンは人の記憶を使って過去へ跳ぶんです。人の記憶を、過去へと繋がる道にして……過去が変われば、今も変わってしまう。それが積み重なっていけば、時間は歪んでしまう……」

 

 

フェイト「それってつまり…歴史が変わってしまうって事?」

 

 

フェリ「…簡潔に言えばそういう事です。実は、私達の仲間にも影響が出ていて……」

 

 

―キイィィィィィィィ…ゴゴゴゴゴゴォ……ッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

フェリが途中まで何かを言い掛けたその時、デンライナー全体が突然大きく揺れだし、全員がバランスを崩して倒れてしまった。因みにどうでもいい話だが、この揺れでオーナーの食べていた炒飯に刺さっていた旗が倒れてしまい、オーナーはかなりショックを受けていたらしい。

 

 

はやて「イッタタ……な、なんや今の揺れ?!」

 

 

零「くッ…どうやら、この列車にも影響が起き始めてるみたいだな…」

 

 

宗介「なあフェリ、そのイマジンのボスとかいう奴がどこにいるのか分からないのか?」

 

 

フェリ「いえ、それが中々見付けられなくて……イマジンは人から人へ乗り移っていきますから……目印になるのは、身体から出る砂だけなんです」

 

 

なのは「…身体から出る砂…………あっ?!」

 

 

フェリの言った目印を聞きなのはは何か思い出した様に立ち上がった。先程キンタロスに憑かれ零と戦っていた時に現れた怪人達……その怪人達の影で砂を吹き出しながらモールイマジンと共にその場を去っていく警官の姿があった事を……

 

 

なのは「そうだ…それなら私も見たよ!さっき戦ってた時に見たお巡りさんが砂を落としながら歩いてたし…モグラのイマジンと一緒だったよ!」

 

 

フェリ「ッ!それです!」

 

 

零「成る程な、この世界でするべき事が大体分かってきた…先ずはそのイマジンを叩く!」

 

 

海人「あ、おい零?!ちょっと待てよ!」

 

 

今街で暴れているイマジンのボスを倒す。それがこの世界での自分が果たすべき役目だと思った零はイマジンのボスを探す為デンライナーから降りて街へと出ていき、それを見たなのは達とシグナムとフェリ、そして宗介達とヴィヴィオ(小)とナンバーズ達も慌てて後を追いかけていった。

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

デンライナーを降りてから数十分、とある繁華街の港区から出てきた零達はイマジンのボスを探す為に動き出していた。しかし、あの警備員が何処にいるのか分からない為、零達は取りあえず街へと足を向けながら何処を探そうかと考え込んでいた。

 

 

シグナム「だが、これからどうするんだ?そのイマジンとやら取り憑いた警備員を探そうにも、手掛かりはないんだろう?」

 

 

慧「うーん…街の何処かにいるんは間違いないみたいやけどなぁ……」

 

 

海人「やっぱあれか?街ん中片っ端から探していくしか……」

 

 

紫苑「いや、それも結構無理があると思いますよ?�」

 

 

ウェンディ「そうッスよ、こんな広い街中から警備員一人探すなんて…�」

 

 

チンク「確かにな。それにグズグズしていたら、そのイマジンも過去へと跳んでしまう可能性だってある…あまり郵貯な事はしていられないぞ」

 

 

宗介「…それもそうだな…なあ零?お前はなんか良い考えとかはな……い……のか…?」

 

 

どうやってイマジンのボスを探すべきか考えが浮かばない宗介は零の考えを聞こうと振り返るが、そこにあった光景を見て固まってしまう。そしてそれに気付いた海人達も頭上に疑問符を浮かべながら背後へと振り返ると……

 

 

 

はやて「ふふふ♪」

 

 

ヴィヴィオ「~♪」

 

 

なのは「………………」

 

 

フェイト「……………」

 

 

零「…………………�」

 

 

右腕をはやてに抱きつかれ、左手でヴィヴィオの手を繋ぎ、背後を歩くなのはとフェイトに睨まれる零の姿がありました、はい。

 

 

零「……あの……はやて?少し離れてもらえないかと……」

 

 

はやて「いやや♪」

 

 

零「いや…嫌とかそういう問題じゃなくて…この状態は少し歩きにく――」

 

 

はやて「いやや♪私もリインもずっと列車の中におったんやで?久々に外に出てこれたんやし、ちょっとくらいはしゃいだってええやろ?」

 

 

零「…何故ちょっとはしゃぐ事が俺に腕に絡み付く事になるんだ……?」

 

 

はやて「気にしたら負けや♪」

 

 

零「いや気にしろよ…」

 

 

先程からどれだけ離れろと言っても全く離れてくれようとはしないはやてに内心泣きたい気分になる零。デンライナーから出て上機嫌となった彼女は何を血迷ったか、いきなり零の腕に抱き着いては離れないようになってしまっていたのだ。しかも背後にいる阿修羅姫の二人から睨まれてるせいか体中から嫌な汗がとめどなく溢れてくる……これは本当に精神的にツライ。

 

 

零「はやて…本当に頼むから離してくれ…このままだと流石に俺もキツイし…それに早くイマジン達も探さないといけないだろ?�」

 

 

はやて「む~…」

 

 

この後自分の身に一体何が起きるか安易に予想出来た零は何とかしてはやてに離れてもらうように説得を試みる。イマジンを見つける前に、また理不尽な暴力で致命的なダメージを負わされるのはゴメンだ。そう思い零は心を鬼にしてはやてから少し強引に腕を抜き、はやては不満そうにジト目で零を睨んでくる。助かった、安息の溜め息を吐きながらそう思った矢先……

 

 

はやて「…それやったら、手を繋ぐ位はええんやろ?別に腕に抱き着く訳やないんやし♪」

 

 

零「…………ハ?」

 

 

何言ってんだコイツ?意味が分からないといった表情を浮かべる零だが、それを他所にはやては零の手を握りヴィヴィオと共に鼻歌を歌いながら歩いていく。そしてそれと同時に…阿修羅姫達から放たれるドス黒いオーラがレベルアップしました。

 

 

なのは「ふ~ん…良かったね零君?はやてちゃんに手を握ってもらえて♪」

 

 

零「………………あの……何故そんなお怒りになってるんでしょうか…?」

 

 

フェイト「やだなぁ零♪別に怒ってなんかいないよ♪ただはやてと良い雰囲気になれて良かったねって言ってるだけなんだから♪」

 

 

零「……………完全に目が笑ってないじゃないか…」

 

 

 

 

海人「あー……また始まっちゃったか�」

 

 

紫苑「な…なんかなのはさん達が怖いです�」

 

 

宗介「関わらない方が身の為だぞ?アレの巻き添いを喰らったら一たまりもないからな」

 

 

ディエチ「うん…こうなったらもう止められないしね�」

 

 

セッテ(…?何故でしょう…何だか胸がモヤモヤする…)

 

 

自分達の背後で静かに繰り広げられる修羅場的光景に宗介達は苦笑し、取りあえず零達は放っておいてこれからどうするべきかもう一度考えていく。

 

 

宗介「…取りあえず、そのイマジンが憑いた警備員がいそうな場所を片っ端から探してみるしかないだろ。今の段階じゃ他に手立てもないんだしな」

 

 

慧「せやな…やっぱそれしかないかぁ~」

 

 

フェリ「そうですね…こんな時、モモがいてくれれば…」

 

 

『…モモ?』

 

 

フェリの呟いたモモという名前を聞いて宗介達は首を傾げながらフェリに聞き返し、それを聞いた零達も目の前に視線を戻した。

 

 

フェリ「はい。モモタロスといって、仲間のイマジンの一人なんです。ですが、時間の歪みのせいで実体が保てなくなってしまったみたいで……何処かに消えてしまったんです……」

 

 

フェイト「実体が保てなくなったイマジン……それってまさか、ちょっと乱暴な感じで、プリンとかが好きな?」

 

 

フェリ「ッ!知ってるんですか?!」

 

 

零「ああ、俺の身体に取り憑いて電王に変身してくれたからな…よく知ってる」

 

 

驚いて問いかけるフェリに対し零はウンザリとした顔を浮かべ、優矢に取り憑いたあのイマジンの事を思い出す。

 

 

フェリ「そうですか…本当は電王に変身する青年がいるんですが、今別のルートで時間の歪みを調べてて…それで、モモタロスの様子はどうでした?」

 

 

セイン「どんなって言ったら、かなり苛ついてたよね?」

 

 

ウェンディ「それに…なんかへこんでたッス」

 

 

フェリ「そうでしたか……イマジン達にとって、人のイメージで手に入れた姿はとても大切な物ですからね……怪物みたいですけど、それが彼等にとって全てですから」

 

 

零「成る程…それで自棄になってるって事か…」

 

 

フェリの話したモモタロスというイマジンについて聞くと、零は溜め息を吐きながら呟く。

 

 

零「なら取り敢えず、そのイマジンから先に探した方が良さそうだな。手当たり次第モグラのイマジン達をぶっ潰すとか言っていたし」

 

 

フェリ「はぁ…全く、本当に馬鹿ですね」

 

 

零「ああ、確かに馬鹿だな……だが、自分を無くしてまうっていう気持ちは分かる……戻れるものなら戻りたいだろうしな……」

 

 

なのは「…零君」

 

 

零ははやてとヴィヴィオから手を離すとポケットからライダーパスを取り出し、何処か哀しげな表情でパスを眺める。自分も高町家に拾われる前の記憶がない、本当の自分がどうだったのかも分からない。だから零も自分を無くしてしまったモモタロスの気持ちが良く分っていた。

 

 

零「…とにかく、そいつを探した方がイマジン見つける早いだろう。なんたって、馬鹿は目立つからな」

 

 

宗介「そうだな……よし、ならまずそのモモタロスに取り憑かれた優矢から探すぞ!」

 

 

紫苑「あ、はい!」

 

 

笑いながらそう言って街へと向かう零の後を追い、宗介達もモモタロスの憑いた優矢を探しに街の頻繁街に向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃……

 

 

 

M優矢『待ちやがれこのモグラ野郎ぉ!!そこにいるのは分かってんだ!!』

 

 

「ヒ、ヒイィィィィィィィィィィィッ!!?」

 

 

稟「あっ?!逃げた?!」

 

 

M優矢『逃がすか!行くぞ坊主!!』

 

 

稟「はい!」

 

 

零達が向かった街の中心部に存在する通行道路。そこで渋滞する車達の中でモモタロスの憑いた優矢(以後M優矢)と稟が、一人の男を必死に追い掛け回す姿が存在していたのであった。

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界⑥

 

 

そして数十分後、M優矢は街の中にある桜通りの道で一人の男をイライラとした表情をしながら追いかけまわしていた。

 

 

M優矢『待ちやがれこの野郎ッ!!』

 

 

「ハァ、ハァ…クソッ!い、いい加減しつこいぞ?!」

 

 

M優矢『ウッセェ!しつこいのは生まれつきなんだよ!いい加減鬼ごっこは止めて出てきやがれ!』

 

 

「くぅっ…?!」

 

 

鬼のように追いかけ回してくるM優矢に男…いや、男に憑いていたモールイマジンは男から抜け出し、男をその場に残してそのままM優矢から逃げようとする。だが…

 

 

―……バッ!―

 

 

稟「残念!此処からは通行止めだ!」

 

 

『な、何ッ?!』

 

 

M優矢『でかした坊主ッ!変身ッ!』

 

 

『Sword form!』

 

 

目の前に飛び出し道を阻んできた稟にモールイマジンは思わず動きを止め、その隙にM優矢はベルトにパスをセタッチして電王に変身するとデンガッシャーを組み立てモールイマジンに斬りかかっていく。

 

 

―ガキィンッ!ガキィンッ!ドスッ!!―

 

 

『グゴォッ?!』

 

 

電王『一瞬で決めてやる!必殺!俺の必殺技!!』

 

 

『Full Charge!』

 

 

電王はデンガッシャーの刃をモールイマジンに突き刺したままバックルにパスをセタッチし、全エネルギーを溜めたデンガッシャーでモールイマジンを斬りつけモールイマジンを消滅させたのであった。そしてそれを確認した電王はベルトを外してM優矢へと戻り、稟も戦闘を終えたのを確認してM優矢へと駆け寄っていく。

 

 

稟「よし!やりましたね優矢さん!」

 

 

M優矢『ヘッ、あれぐらいどうって事………ん?』

 

 

稟「?どうしまし………………あっ」

 

 

一瞬表情を歪めた後腕を捲ったM優矢を見て稟は疑問を感じながらM優矢の腕を見てみると、其処には浅いが切傷が出来て血が少し流れてしまっていた。それを見たM優矢は稟と共に急いで近くにある公園の水道に移動し、稟が飲み物を買いに行ってる間に暫く切傷が出来た方の腕を水に晒して冷やしていく。すると其処に……

 

 

「―――ほらな。やっぱり簡単に見つかった…」

 

 

M優矢『ん?テメェは…』

 

 

M優矢を探しにやってきた零達がM優矢の下へと歩み寄っていき、M優矢は零達を見ると小さく舌打ちしながら顔を逸らす。更にそこへ…

 

 

稟「…あ、零さん?!それに皆も!」

 

 

宗介「ん?……って、稟?!」

 

 

そこへちょうどさっき飲み物を買いに行っていた稟が現れM優矢に近づく零達の下に駆け寄っていき、突然現れた稟を見て一同も驚愕の表情を浮かべた。

 

 

海人「おま…何で此処に?!お前もこっちに来てたのか?!」

 

 

稟「あ、ああ!皆もこっちに来てたんだな…良かったぁ…こっちに来たのはいいけど、この世界の事はあまり知らないから一人でどうしようかと困ってたから…取りあえず優矢さんと一緒にイマジン退治してたんだよっ」

 

 

零「…?こっちに来たのはいいって……お前、まさか自分からこの世界に来たのか?」

 

 

稟「はい……大輝の奴……菫の写真を一枚勝手に取って逃げたみたいなんですよ……しかも最高に可愛い奴の方をですよ?!許すまじ…海道大輝ぃ……!」

 

 

宗介「ア…アハハ…相変わらずの親バカだな…」

 

 

フェイト(…ねぇ零?大輝が菫の写真を盗んだって…もしかして…)

 

 

零(ああ…どうせまたアテナの奴が余計な事でも吹き込んだんだろう?アイツがお宝でもないただの写真を盗む筈がない…)

 

 

片手に持つジュースを握り潰しながら怒りに震える稟に宗介達は思わず苦笑し、零は稟に余計な嘘を吹き込んだと思われるアテナの姿を思い浮かべながら溜め息を吐いた。すると、M優矢はそんな零達を無視し何処かへと去ろうとする。

 

 

なのは「あ、ちょっと待って!あの…そろそろ優矢君の身体、返してもらえないかな?」

 

 

M優矢『……そいつは出来ねぇ相談だな。まだモグラ野郎共は残ってんだ、それが終わったら返してやる』

 

 

優矢を返してくれないかと呼びかけるなのはにM優矢は一度立ち止まって一言だけ返し、再びその場から歩き出し今度こそ何処かへと去ろうとする。だが……

 

 

零「……お前、本当の馬鹿だな」

 

 

M優矢『…ッ!?なんだとテメェ!』

 

 

零は近くのベンチに座って鼻で笑いながら挑発するように呟き、それに対してキレたM優矢は零に詰め寄って睨みつけていくが、零は動じる様子もなくただ真剣な表情で語る。

 

 

零「あんな雑魚共を片付けて…それで本当になんとかなると思ってるのか?今のお前は取られた玩具を取り返そうと泣きわめいている子供と一緒だ…少しはその頭を使ってよく考えてみろ。それとも、脳細胞が全部消えちまって何も考えられないか?」

 

 

紫苑「れ、零さん!それはちょっと言い過ぎじゃ…!」

 

 

M優矢『テメェ……黙って聞いてれば!!……ん?!』

 

 

零の態度を見て堪忍袋の尾が完全に切れたM優矢は零を殴ろうとするが、M優矢は何かを感じたかのようにその手を止め辺りを見回していく。

 

 

稟「?どうしたんですか?」

 

 

M優矢『…匂う…イマジンだ。それも大物だ!』

 

 

シグナム(宗)「何?!」

 

 

はやて「イ、イマジンって…この辺りにか?!」

 

 

慧「ど、何処におるんや?!」

 

 

険しい表情で言ったM優矢の言葉に一同は驚愕しながらM優矢と共に辺りを見回していくと……林の茂みの影からこちらを見て不気味に笑う警官の姿があった。そしてその身体からは大量の砂が吹き出している。

 

 

M優矢『ッ!奴だ!』

 

 

フェイト「えっ…あのお巡りさんが?」

 

 

なのは「…ッ?!あれだよ!私が見たのと同じお巡りさん!」

 

 

零「成る程な…奴が今回の騒ぎを起こした犯人か!」

 

 

なのはの証言からあの警官にイマジンのボスが憑いているのだと核心し、零達はそれぞれ変身ツールを取り出して身構えていく。が、警官は変身ツールを取り出した一同を見た途端、直ぐ様走って何処かへ逃げ出していった。

 

 

M優奴『あっ、待ちやがれこの野郎!』

 

 

宗介「お、おい!ちょっと待てよ!」

 

 

零「チッ…あの馬鹿…なのは!お前はフェイト達と先にデンライナーに戻ってろ!」

 

 

なのは「え?ちょ、れ、零君?!」

 

 

走って逃げ出した警官を見たM優矢はすぐに走り出して警官の後を追いかけ、零はなのは達にデンライナーに先に戻るように伝えると宗介達と共に走り去っていくM優矢と警官の後を追いかけていった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

そして数分後、警官を追いかけて住宅マンションへとやって来た零達は何処かに隠れてしまった警官を探して辺りを見回していた。

 

 

M優矢『クソッ!何処だ?!何処いきやがった?!』

 

 

零「全く、ちゃんと見とけよな…」

 

 

海人「んな事言ってないで早く探せよ!……ん?」

 

 

海人が呆れて溜め息を吐く零にそう言ってると、零とM優矢の目の前を自転車に乗った少年が横切っていった。特に大して変わらない普通の少年だが………その少年の身体から先程の警官のように砂が零れ落ちていたのだ。

 

 

海人「お、おい!もしかしてあれじゃないか?!」

 

 

M優矢『あの野郎ぉ!乗り換えやがったな!待てッ!―グイィッ!―グェッ?!』

 

 

零「落ち着け!このまま追い掛けてもいたちごっこにしかならないだろう!宗介!お前はこいつと海人達と一緒に奴を回り込め!」

 

 

宗介「分かった!」

 

 

M優矢『ゲフッ…クソッ!つうかなんでオメェが命令してんだよ?!』

 

 

このままでは埒が明かないと悟った零は宗介達に支持を送り、宗介達はM優矢と共に少年を先回りをする為別ルートへと向かっていく。そして零も稟とシグナム達と共に急いで少年の後を追いかけていった。そして少年はマンションの地下を抜け外へ逃げようとするが、M優矢と宗介達が先回りして少年の前に立ちはだかりそれを阻止し、少年は急ブレーキを掛け動きを止めていく。

 

 

M優矢『残念ッ!へっへ~♪』

 

 

稟「どうする?此処なら乗り換えも出来ないだろ?」

 

 

シグナム「観念して、大人しく出てきたらどうだ?」

 

 

「……クッ………ウッ?!」

 

 

零達に挟み撃ちにされた少年は焦りを浮かべて零達を睨みつけると、突然身体から砂が大量に吹き出し、その砂は人型となっていきワニのような姿のイマジン、アリゲーターイマジンへと実体化し怒りで身体を震わせていく。

 

 

『貴様等ぁ…!』

 

 

慧「漸くお出ましみたいやなぁ!」

 

 

紫苑「零さん、行きましょう!」

 

 

零「あぁ…皆、いくぞ!」

 

 

チンク「うむ、ヴィヴィオ!」

 

 

ヴィヴィオ「うん!」

 

 

稟「行くぞ、エクト!」

 

 

エクト「はい、マスター!かぷっ!」

 

 

シグナム「今回は私も行かせてもらうぞ!」

 

 

『RIDER SOUL SAVER!』

 

 

少年の身体から現れたアリゲーターイマジンを確認した零達はすぐに変身ツールを装着していき、ヴィヴィオはKナンバーを操作するとチンク達は光球となってKナンバーに吸い込まれ、シグナムもKウォッチを操作して現れたエンブレムをタッチすると、それと共にシグナムの両手に箱のような形をしたバックルと一枚のカードが現れ、シグナムはそのカードをバックルにセットして腰に装着し変身の構えを取る。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Cord Set Up!』

 

『OPEN UP!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

ベルトを装着した零達はそれぞれ変身動作を行い、零はディケイド、ヴィヴィオはナンバーズ、稟はエクス、紫苑はディケイド(紫苑)に変身していき、シグナムはバックルを開いて目の前に現れた薄紫色のオリハルコンエレメントを潜ると、ブレイドとギャレンを足して二で割り、紫で統一したアーマーを身につけ、左腰にブレイラウザーとレヴァンティンの特徴を合わせた一本の剣を刺したライダー…ブレイドタイプのライダーである『セイヴァー』へと変身していく。そして向かい側にいるM優矢と宗介達も変身ツールを装着し、それぞれカードとパスとメモリを取り出していく。

 

 

『EXCEED!』

 

『変身ッ!』

 

『Sword form!』

 

『KAMENRIDE:DIMENSION!』

 

『Shot form!』

 

『EXCEED!』

 

 

バックルにカードとパスとメモリをセット&セタッチし電子音声が鳴り響くと、M優矢は電王、海人はディメンション、慧はシャイニングへと変身し、シグナム(宗)は取り出した剣の刃とグリップの間にある剣型の窪みに剣のアクセサリーを嵌めて円の部分を90度に回すと炎を纏い、赤いアーマーを身につけたライダー『シュバリエ』に、宗介はメモリをベルトにセットして右に押し倒すとベルトからラインが現れ宗介の体を伝っていき、銀色のボディに緑の瞳を持ったライダー、『エクシード』へと変身した。そして変身を完了した電王はすぐにアリゲーターイマジンに向かって突っ込んでいく。

 

 

電王『喰らえぇ!うおりゃあぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

『……フンッ』

 

 

―ガッ―

 

 

電王『どおぉッ?!』

 

 

電王はアリゲーターイマジンに向かって殴り掛かっていくがアリゲーターイマジンは鼻で笑いながら電王の足を引っかけ、電王はそのまま地面に転んでしまいディケイド達の元まで滑っていく。それを見たディケイド達は思わず呆れて溜め息を吐いてしまうが、次の瞬間ディケイド達の下にモールイマジン達が集団で現れ襲い掛かり、ディケイド達は仕方なくモールイマジン達と戦闘を開始していく。

 

 

電王『チィ!邪魔すんじゃねぇよ!』

 

 

ディケイド(紫苑)『クッ!流石に数が多すぎる!』

 

 

ディケイド『チッ…仕方ない、一気に片付けるか…』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

電王達がモールイマジン達と戦い毒づく中、ディケイドは冷静にライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーへと装填すると、ライドブッカーをGモードにしモールイマジン達へと銃口を向けていく。

 

 

ディケイド『おい、退け』

 

 

電王『おりゃあッ!…あ?ってぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

ディケイド(紫苑)『てやぁッ!…え?ってわあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ヌアァァァァァァァァァァァアーーーーッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディケイドの前で戦っていた電王とディケイド(紫苑)はライドブッカーを構えるディケイドを見て慌ててその場でしゃがみ、そのタイミングでディケイドはライドブッカーをモールイマジン達に向けて乱射しモールイマジン達を撃退していった。そしてディケイドがモールイマジンを倒したのを見た電王はすぐ起き上がり喧嘩腰でディケイドに詰め寄っていく。

 

 

電王『この野郎ぉ…オメェ危ねぇだろう!?』

 

 

エクス『お、落ち着いて下さい!別に零さんもわざとやったワケじゃ……』

 

 

ディケイド『ああ、ちゃんと言っただろ?退けって』

 

 

電王『んなもんで分かるかぁ!!』

 

 

ディケイド(紫苑)『ハ、ハハハ…零さんってスッゴい目茶苦茶だ…』

 

 

ディケイド(紫苑)はその場で尻餅を付きながら乾いた笑い声を漏らし、巻き添えを喰らいそうになった電王はディケイドに文句を言うがディケイドは特に気にした様子もなく聞き流し、エクスが横から割り込みそれを必死に落ち着かせようとする。しかし……

 

 

エクシード『おい何やってんだお前等?!あのイマジンが跳ぶぞ!』

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

反対側でモールイマジンと戦っていたエクシードに呼ばれてディケイド達がアリゲーターイマジンの方に目を向けると、アリゲーターイマジンは先程の子供の身体を開きその中へと飛び込もうとしていた。

 

 

セイヴァー『マズイッ…!過去へ跳ぶ気だぞ?!』

 

 

ディメンジョン『チィッ!跳ばせてたまるかよ!』

 

 

シュバリエ『まだ間に合う!急いで止めろ!!』

 

 

モールイマジンと戦っていたエクシード達はモールイマジンを殴り飛ばし過去へ跳ぼうとするアリゲーターイマジンを食い止めようと走り出し、ディケイド達もそれを見てすぐにアリゲーターイマジンへと向かって走り出していく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

―ブオォンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!!―

 

 

ナンバーズ『え…?』

 

 

ディケイド『なっ…』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァアァァンッ!!―

 

 

『ウアァァァァァァァァァァァァアァッ!!?』

 

 

突如ディケイド達の横から真空波のようなモノが飛んで現れ、真空波はディケイド達とエクシード達に直撃し吹き飛ばしていってしまった。そしてそれを見ていたアリゲーターイマジンは一瞬動きを止めてソレが撃たれてきた方を見ると…

 

 

『クククク…いるいるぅ…殺してくれって顔してる奴らがわんさかいるぜぇ…』

 

 

『成る程、異世界の仮面ラーイダがこんなに集まっているとは…中々戦いがいがありそうだ』

 

 

『ッ?!』

 

 

その場に聞こえてきた二つの声。吹き飛ばされたディケイド達はそれが聞こえてきた方へと目を向けていくと、そこには仮面を身につけ肩に巨大な大剣を担いだ異形と、赤い服の上から鎧と蠍をモチーフした兜を身につけ、蠍の絵が刻まれた盾を持ったドイツ人がこちらに向かってゆっくり歩み寄ってきていた。

 

 

ディケイド『クッ…なんだお前等は…?!』

 

 

『お?お前知ってるぜぇ…確か世界の破壊者とか呼ばれてるディケイドだったよなぁ?ヒャハハハハハハハ!コイツはいい!メビウス並に殺しがいのある奴を見つけたぜぇ!!』

 

 

ナンバーズ『ひっ…!』

 

 

シャイニング『な、なんやねんコイツ?!』

 

 

エクス『メ、メビウス…?まさか、煌一の事か?!何でコイツが煌一の事を…?!』

 

 

手を広げながら狂気の笑みを浮かべる異形にディケイド達は思わず身構えながら後退りしてしまう。そして異形はクツクツと笑いながら肩に担いでいた大剣を大きく振り上げ、もう一体の異形も身構えてディケイド達に再び攻撃しようとするが……

 

 

 

 

『――――そこまでです、ベリアル、ドクトルG。まだ彼等に手を出してはいけません』

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

『ッ!チッ……』

 

 

『…フンッ』

 

 

突然何処からか別の声が聞こえ、それを聞いた二人の異形…仮面ライダー『ベリアル』とドクトルGは構えを解いて背後に振り変えると、二人の目の前に歪みの壁が現れそこからピエロのような姿のライダー…クラウンが姿を現していった。

 

 

クラウン『フフフ…始めまして、黒月零氏。漸く挨拶に出向く事が出来ました』

 

 

ディケイド『ッ…何だお前は?』

 

 

クラウン『ああ、いきなり失礼しました。私の名はクラウン…firstの世界のショッカーに造られたダークライダーです。以後お見知りおきを』

 

 

ディケイド『?滝の世界の…ダークライダー?』

 

 

いきなり現れ紳士的な態度で挨拶するクラウンにディケイド達は一瞬呆気に取られてしまうが、クラウンはそれを他所にアリゲーターイマジンの方へと振り向いていく。

 

 

クラウン『さあイマジン、早く過去へと跳びなさい…そして存分に暴れて過去を変えてきなさい』

 

 

『なっ…?!』

 

 

『ほぉ?一体何のつもりかは知らんが……そうさせてもらおうか!』

 

 

クラウンはアリゲーターイマジンに過去へと行くように進め、アリゲーターイマジンはそんなクラウンを可笑しく思いながらも地面に倒れる少年に近づいていく。

 

 

エクス『チィッ!そうはさせるかよ!!』

 

 

ディメンション『勝手な事はさせるか!!』

 

 

シュバリエ『過去へは絶対に跳ばさせん!!』

 

 

エクスとディメンションとシュバリエはすぐに立ち上がりそれぞれ武器を構え、子供に向かって歩み寄っていくアリゲーターイマジンに斬り掛かろうと走り出した、が……

 

 

 

 

 

―ガギイィィィィッ!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

ベリアル『クククク…』

 

 

アリゲーターイマジンに向けて振り下ろした三人の剣はアリゲーターイマジンには届かず、ベリアルの大剣により全て阻まれてしまったのだ。

 

 

ベリアル『余計な事はしない方がいいぜ?まあ最も…死に急ぎたいなら別に構わねぇがなァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ディケイド『ッ?!稟?!』

 

 

シャイニング『海人ッ?!』

 

 

エクシード『シグナム!!』

 

 

ベリアルは大剣を大きく横殴りに振って三人を吹き飛ばしてしまい、それを見たディケイド達は慌てて三人の下へ駆け寄り身体を起こしていく。そしてその間にアリゲーターイマジンは少年の身体を開いて入り消えてしまったのであった。

 

 

電王『あッ!?あの野郎過去へ跳びやがった!』

 

 

クラウン『フフフ…さあ、早く彼を止めに行かなければ世界は消滅してしまいますよ、零氏?』

 

 

ディケイド『お前っ…一体何なんだ?!何が目的だ?!』

 

 

クラウン『目的…?そんなものは特にありせん。私はただこの混沌とした物語をもっと盛り上げたいですよ……さて、では次のステージでお会いしましょう、皆さん?』

 

 

クラウンはディケイド達に向けて頭を下げていくと、クラウンとベリアルとドクトルGの周りが歪みに包まれていき、歪みが晴れると三人の姿は消えてしまっていたのであった。

 

 

ディメンション『お、おい待て!…クソッ!アイツ等逃げやがった!』

 

 

エクシード『そんな事より今はあのイマジンだ!早く追わないと過去が変えられちまうぞ?!』

 

 

電王『言われなくても分かってんだよ!クソッ、チケット、チケット…!』

 

 

エクシードにそう言いながら電王は慌てて倒れている少年に近づき何かを探すかのように自分の身体の至るところを調べていく。それを見たディケイドは電王の代わりに少年の前に立ち、この世界に来た時に持っていたチケットを少年に翳すと何も描かれていなかったチケットには先程のアリゲーターイマジンの絵と2008.12.30という日付が浮かび上がっていく。

 

 

ディケイド『これが奴の跳んだ日付か…いくぞ』

 

 

電王『って何なんだよお前はさっきからずっと!人の出番奪って仕切ってんじゃねぇぞ?!』

 

 

ディメンション『お、落ち着けって!今はそれどころじゃねぇだろ?!』

 

 

先程から自分の出番を横取りして邪魔ばかりしてくるディケイドに電王は苛立ち文句を口にするが、ディメンション達が電王をディケイドから離れさせ何とか落ち着かせていく。

 

 

ディケイド(紫苑)『とにかく早く行きましょう!このままこうしていても仕方ないですよ!�』

 

 

ナンバーズ『うん!早くしないと手遅れなっちゃうよ!』

 

 

ディケイド『確かにな…文句なら後でいくらでも聞いてやるから、今はイマジンだ。さっさと行くぞ!』

 

 

電王『クソッ…仕方ねぇな!』

 

 

ディケイド(紫苑)とナンバーズの説得により電王は未だ苛立ってはいるが何とか落ち着きを取り戻し、後ろから現れたデンライナーへと乗り込み過去へと向かっていく。そしてそんな中、柱の影に隠れていた一人の人影がどさくさに紛れてデンライナーに乗り込んでいった事を誰も気づいてはいなかった―――

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界⑦

 

―2008年12月30日―

 

 

そしてアリゲーターイマジンが跳んだ2008年12月30日では、先程ディケイド達が戦ってたのと同じ住宅マンションの下を少年が自転車で走っていた。だが、少年は突然苦しそうな表情を浮かべていきなり自転車ごとその場に倒れると、少年の身体から大量の砂が吹き出し其処からアリゲーターイマジンが不気味な笑い声をあげながら姿を現し、更にアリゲーターイマジンの後ろに歪みの壁が現れクラウン達が姿を現し、アリゲーターイマジンへと近づいていく。

 

 

クラウン『さあイマジン…好きなだけ暴れて過去を変えなさい。貴方を縛るものなど、最早存在しないのですからね』

 

 

『フッ、いいだろう。今日で完全に世界を消し去ってやる……ヌァッ!』

 

 

―バシュンッ!ドゴオォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

実体化したアリゲーターイマジンはすぐに辺りにあるビルにエネルギー球を撃ち放って破壊し過去を変え始めてしまい、クラウン達はそんな光景をただ不気味に笑いながら眺めていた。するとそんな時、デンライナーに乗ったディケイド達が漸くその場に到着し、アリゲーターイマジン達と対峙していく。

 

 

クラウン『おや?思ったより到着が早かったですね?』

 

 

『こんなところまで追ってくるとは…ご苦労なことだなぁ?』

 

 

ディケイド『チッ、コイツ等まで一緒だったかっ…』

 

 

到着したディケイドはアリゲーターイマジンと一緒にいるクラウン達を見て表情を険しくさせていき、電王は近くて倒れてる少年を見て慌てて駆け寄っていく。

 

 

電王『お、おい坊主?!しっかりしろ!おい!…テメェ等…こんな子供まで使いやがって!』

 

 

『フンッ、そんな子供一人どうなろうが我々には関係ない事だ』

 

 

ベリアル『ククク…さあ!早く始めようぜぇ?最高に楽しい祭をよぉ!!』

 

 

電王『ッ!ふざけんなぁッ!!』

 

 

ぐったりと倒れ込む少年を見ても何の罪悪感も感じていないアリゲーターイマジン達に電王は怒りを露わにアリゲーターイマジンへと殴り掛かっていくが、アリゲーターイマジンはそれを軽くかわして反撃し、それに続くようにディケイドもアリゲーターイマジンに、エクシード達はクラウン、ベリアル、ドクトルGへと攻撃を繰り出していくがそれらも全て簡単にかわされカウンターを受けてしまい、ディケイドとディメンションとディケイド(紫苑)は一度アリゲーターイマジン達から離れてブッカーからカードを一枚ずつ取り出しそれぞれのドライバーへと装填しスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:TOUGA!』

 

『KAMENRIDE:KIVA!』

 

『KAMENRIDE:BLADE!』

 

 

電子音声と共にディケイドはD闘牙に、ディメンションはD・キバ、ディケイド(紫苑)はDブレイドへ変身し、再びアリゲーターイマジン達へと向かって突っ込んでいく。

 

 

D闘牙『セアァッ!』

 

 

『ムンッ!ハアァッ!』

 

 

―ガギャアァンッ!ガギャアァンッ!―

 

 

エクシード『ガァッ!?』

 

 

エクス『クッ?!クソッ!』

 

 

ベリアル『オラオラオラオラアァッ!!休んでる暇はねぇぞぉ!!』

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

―ガガガガガガガァッ!!ガアァァァァアンッ!!―

 

 

セイヴァー『グアァッ!!』

 

 

Dブレイド『ウアァッ!?』

 

 

だがどんなに連携を組みながら挑んでもアリゲーターイマジン達にはどれも通用せず、ただ攻撃が弾き返され返り討ちに合うばかりであった。

 

 

ベリアル『ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!ほらどうしたぁ?!もっと絶望に染まった悲鳴を上げて苦しんでみせろォッ!!』

 

 

『ヌンッ!ハアァッ!!』

 

 

『ヌアァッ!!』

 

 

―ガギャアンッ!!ガギャアンッ!!ズガアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ベリアルとドクトルGとアリゲーターイマジンからの猛攻に圧倒されD闘牙達は吹っ飛ばされてしまい、そのショックによりD闘牙とD・キバとDブレイドは元の姿へ戻ってしまう。だがベリアル達は問答無用と言わんばかりにエクス達へと掴みかかって更に追撃していき、アリゲーターイマジンはふらつく電王へと近づいていく。

 

 

電王『グッ!野郎ぉ!ウオリャアァッ!!』

 

 

『ヌンッ!!』

 

 

―ガギャアァンッ!!ズガアァンッ!!ズガアァンッ!!―

 

 

電王『グアァァッ!?』

 

 

電王も何とかデンガッシャーでアリゲーターイマジンへと反撃していくが、アリゲーターイマジンはそれを片手で簡単に受け止め電王の手からデンガッシャーを奪い取り、更に渾身を篭めた拳で電王を殴り付け吹っ飛ばしていってしまった。

 

 

電王『ぐッ…グゥッ…クッソォ…!』

 

 

『…ヌンッ!』

 

 

―ガギャアァンッ!ガギャアァン!ガアァンッ!!―

 

 

電王『があぁッ!?あっ…ぐぅっ…』

 

 

ダメージでボロボロになりながらも電王はアリゲーターイマジンに殴り掛かっていくが、やはりダメージが効いてるせいか電王の力のない攻撃はアリゲーターイマジンには通用せず、アリゲーターイマジンはそんな電王に容赦なくデンガッシャーで斬り飛ばしていき、電王も遂に力無く地面へと倒れてしまった。

 

 

電王『クソォッ…此処までかよ……元の姿に戻れないままでっ……』

 

 

『フフフ……ヌアァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

ダメージの影響で身体は既に満足に動かず、最早此処までなのかと電王は地面に倒れながら諦めかけてしまいアリゲーターイマジンはそんな電王にトドメを刺そうと勢い良くデンガッシャーを振り下ろしていった。その時……

 

 

 

 

 

 

―ガギイィィィィィィンッ!!―

 

 

『…ヌッ?!』

 

 

ディケイド『グゥッ!』

 

 

電王『…っ?!』

 

 

電王へと斬りかかろうとするアリゲーターイマジンの目の前にディケイドが飛び出し、ライドブッカーを盾にしてアリゲーターイマジンの攻撃から電王を庇ったのである。

 

 

ディケイド『クッ!何呑気に寝てるんだ?!子供だって欲しい物の為ならもう少し粘るぞ!!』

 

 

電王『お前ッ…!』

 

 

『チィッ!邪魔だぁッ!』

 

 

―ガギャアァンッ!!―

 

 

ディケイド『グゥッ!』

 

 

アリゲーターイマジンの剣を受け止めながらディケイドは電王に叫ぶが、アリゲーターイマジンはディケイドを斬り飛ばして電王へと歩み寄る。が、ディケイドはすぐに立ち上がってアリゲーターイマジンへと再び斬りかかり、剣をせめぎ合わせながらアリゲーターイマジンを電王から引き離していく。

 

 

『チッ?!コイツッ…!』

 

 

ディケイド『グッ!実体が保てないなら、自分でその実体をイメージしろ!たったそれだけの話だろう!!』

 

 

電王『そんな事、出来る訳が…!』

 

 

ディケイド『やりもしないで簡単に諦めるな!!最初は人のイメージでも、お前の中にちゃんとお前がいる筈だ!"お前"は最初から、"此処"にいるだろう!?』

 

 

『くだらん話をしてる余裕があるのかァッ!!』

 

 

―バキイィッ!―

 

 

ディケイド『グッ?!』

 

 

電王へと必死に呼び掛けるディケイドの言葉をくだらないの一言で切り捨て、アリゲーターイマジンはデンガッシャーでディケイドを殴り飛ばし電王の元に吹っ飛ばしていく。更に…

 

 

ベリアル『そらッ!!ぶっ飛べえぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 

『ヌンッ!!』

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

エクシード『グアァッ!!』

 

 

ナンバーズ『アウゥッ!』

 

 

電王『ッ?!お、お前等ッ…!』

 

 

ベリアルとドクトルG達と戦っていたエクシード達もディケイドと電王の下へと吹っ飛ばされ、ディケイド達は何とか態勢を立て直しジリジリと歩み寄ってくるアリゲーターイマジンとベリアルとドクトルGに向けて構えていく。その時……

 

 

 

 

 

 

『KAMENRIDE:RIOTROOPEA!SHOCKERRIDER!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如何処からか電子音声が鳴り響き、それと共に複数の同じ姿をしたライダー達、『ライオトルーパー』とショッカーライダーが現れアリゲーターイマジン達に向かって襲い掛かり、アリゲーターイマジン達と共に外へと出ていってしまった。

 

 

シュバリエ『あ、あれは…?』

 

 

ディメンション『ライオトルーパーにショッカーライダー?……まさか!』

 

 

ディケイド『あぁ…あんなのが此処に現れる理由なんて一つしかないっ…』

 

 

突如現れたライオトルーパーとショッカーライダーを見てディケイドはそう言いながら外へと出ていったアリゲーターイマジン達を追い、電王とエクス達もその後を追いかけ外に出ていった。そしてディケイド達が外の広場へ出ると、其処にはアリゲーターイマジン達と奮闘するライオトルーパーとショッカーライダー達を眺めるディエンドの姿があった。

 

 

エクシード『大輝っ…!』

 

 

ディケイド『…こんな所にまで現れるなんてな…今度は何のつもりだ海道』

 

 

ディエンド『…電王をそろそろ貰おうかと思ってね。別に君達を助け『大輝ィィィィィィィィィィッ!!』……ん?』

 

 

ディエンドがディケイドに向けて何かを言いかけたその時、後ろから物凄いスピードでやってきたエクスがディケイドの前に立ってディエンドに詰め寄り、いきなり胸倉を掴んできた。

 

 

ディケイド(紫苑)『り、稟さん?!』

 

 

エクス『大輝ィッ!!お前菫の写真を何処にやったぁ!?出せ!今すぐこの場に出して見せろぉ!!』

 

 

ディケイド『お、お前…こんな時に娘の写真って�』

 

 

ディエンド『写真?…ああ…もしかしてコレの事か?』

 

 

物凄い剣幕で菫の写真を出せと叫ぶエクスにディエンドは何か思い出したのか懐を漁りそこから一枚の写真……カメラに向かって微笑する菫の写真を出してエクスに見せた。というか目茶苦茶写り具合が良いような気がする……

 

 

ディエンド『身に覚えもないのに何でこんなものが混じってたかと思えば……やっぱり君のだったわけか。ホラ、返すよ』

 

 

―ヒョイッ―

 

 

エクス『Σあぁっ?!待て!待ってくれ菫ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 

エクシード『いや、菫じゃないから…�』

 

 

シャイニング『つーか、娘の写真にまで親バカって…�』

 

 

ディエンドは手に持っていた写真をエクスにではなくその辺に放り投げ、エクスは風に吹かれて飛んでいく写真を必死に追い掛けていく。そんな光景にエクシード達は苦笑と呆れたような溜め息を漏らすが、ディエンドは構わずディケイドと向き合う。

 

 

ディエンド『…とにかく、電王はそろそろ俺が貰うよ?実体なんか取り戻す必要なんかない…こいつは俺のお宝になるんだからね』

 

 

電王『何だとテメェッ?!』

 

 

電王のファイナルフォームライドのカードを見せながら言ったディエンドの言葉に電王は怒りを見せてディエンドに詰め寄るが、ディエンドは声音を少し強くしながら告げる。

 

 

ディエンド『もう我が侭は止めるんだ!ただのイマジンから、最高のお宝に変われるんだぞ?素晴らしい話じゃないか?』

 

 

電王『ただのイマジン…だと?』

 

 

ディエンド『そう、実体が無ければ存在してるかどうか怪しい…ただのイマジンだ』

 

 

電王『ッ!この野郎ぉ!』

 

 

冷たく言い放つディエンドの言葉に電王は完全にキレてしまいディエンドに殴り掛かろうとするが、それをディケイドが横から割り込みディエンドの手からカードを奪い取る。

 

 

ディケイド『海道!こいつはただのイマジンじゃない!こいつは…こいつは!!』

 

 

電王『ッ!』

 

 

『………………』

 

 

ディケイド『………ただの馬鹿だ』

 

 

『ΣΣうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいッ!!?』

 

 

電王を庇う発言でもするのかと思いきや溜め息混じりに呟いたディケイドの言葉に電王とエクシード達は思わず突っ込んでしまった…うん、ナイス。

 

 

ディケイド『…だが、そんな馬鹿でも案外優しい一面もある。取り憑いた人間の身体に気を遣うくらいには……な』

 

 

電王『あ?……………………………………あッ!』

 

 

微笑しながら口にしたディケイドの言葉に電王は一瞬呆気に取られてしまうが、先程優矢の身体を傷つけてしまった時、公園で少し雑ではあったが応急措置をした事を思い出し電王は照れ臭そうに鼻の下を擦る。

 

 

ディケイド『それに実体なんか無くてもこいつはちゃんと存在している、こいつがこいつである事も変わらない。なんたって、俺達が知ってるんだからな………………モモタロス』

 

 

電王『………ッ?!』

 

 

ディケイドに呼ばれた名前、その名で呼ばれた電王は忘れていた本当の自分の姿を脳裏に思い出していく。そしてディケイドはライドブッカーから三枚のカードを取り出すと、シルエットだけだったそれらのカードに絵柄が浮かび上がり、更にファイナルフォームライドに描かれていたデンライナーの絵柄は赤い鬼のような姿へと変わっていったのであった。

 

 

ディケイド『いくぞ、皆!』

 

 

セイヴァー『あぁ!』

 

 

ナンバーズ『うん!』

 

 

ディケイド(紫苑)『はい!』

 

 

シャイニング『よっしゃあッ!やったるで!』

 

 

エクシード『シグナム!稟!俺達もいくぞ!』

 

 

シュバリエ『ああ!』

 

 

エクス『ゼェ…ゼェ…え?』

 

 

ディメンション『いくぜ、モモタロス!』

 

 

電王『おうッ!ヘッ、あばよ!』

 

 

電王はディエンドにそう言うとディケイドと共にアリゲーターイマジンの下へと突っ込み、エクシード達はベリアルとドクトルGへと向かっていくのであった。

 

 

ディエンド『……お宝よりイマジンか。全く、あんなモノの何処が良いんだろうね…』

 

 

走り去っていくディケイド達を見つめながら、カチンと指でディエンドライバーを叩き思わずそう呟くディエンド。そしてディエンドは一度深い溜め息を吐くと、ゆっくりと背後に振り返り背後に立つ"ソレ"を睨みつけた。

 

 

ディエンド『……で?わざわざ零達との戦いに参加しなかったのは何でかな?』

 

 

『フフフ、その問いは少し愚問ではないですか?私がこうして貴方の前にいる…それだけで既に分かっているのでしょう?』

 

 

ディエンド『……ああ……やっぱりダメだね……そのスカした口調とふざけた顔を見たらどうしてもぶっ潰したくなるよ………この糞ピエロッ!!』

 

 

ディエンドはそう吐き捨てながら零達にすら見せた事のない殺気と殺意の込められた視線をソレ…さっきの戦いの中でいつの間にか姿を消していたクラウンに向けて身構えた。そしてそれを見たクラウンは涼しげに微笑みながら両手に複数のナイフを出現させる。

 

 

クラウン『さあ……早く幕を開けましょうか大輝氏?この電王の世界……最後のステージをねぇ!!』

 

 

ディエンド『良いだろう…そのムカつく仮面を徹底的に潰してやるよッ!!』

 

 

そう言い合いながらディエンドはクラウンに向かってディエンドライバーを乱射し、クラウンはそれを後方へと跳んで避けながら両手のナイフをディエンドへと投げつけ戦闘を開始したのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、ディケイド達が戦う場所から離れた所にある高層ビルの屋上では、一人の女性がビルの下を見下ろしていた。

 

 

「うふふ♪漸く電王の世界に到~着♪さ~て、さっさと大輝君を拉致ってお仕置きTIMEなの♪」

 

 

女性はそんな物騒な事を言いながら腰にベルトを巻き付け、パスを取り出し構えていく。

 

 

「変身ッ!なの♪」

 

『Mei-o Form!』

 

 

ベルトにパスをセタッチすると電子音声が鳴り響き、それと同時に女性の身体を純白のライダースーツが纏い、更にその上からオーラアーマーとデンカメンが現れ装着されていき、仮面ライダーへと変身していくのであった。

 

 

『うふふ~♪悲鳴のオーケストラ、開催なの♪』

 

 

ライダーは腰にある四本のツールを組み立てて構えると上空へと飛び、ディケイド達の気配がする方角へと向かっていく。海道大輝という哀れな羊を捕らえる為に……

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界⑧

 

 

エクス『ハアァッ!!』

 

 

エクシード『オラァッ!』

 

 

シュバリエ『フッ!!』

 

 

―ドゴォッ!!バキッ!!ズザアァァァァンッ!!―

 

 

ベリアル『ヌグアァッ!?ク、クソォッ!!』

 

 

そしてその頃、戦闘を開始したエクシード、シュバリエ、エクスがベリアルへと突っ込み攻撃してダメージを与えていき、ベリアルも大剣を振り回し何とか反撃していくが既にベリアルの動きを見切ったエクシード達にはまったく通用せず、巧みな連携を繰り出す三人に少しずつ追い詰められていた。

 

 

ベリアル『グッ!ふざけんじゃねぇぞガキ共っ…この俺様が!テメェ等なんかにコケにされてたまるかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

―ブオォンッ!ズババババババババババァッ!!!―

 

 

エクス『ウァッ?!あっぶな?!』

 

 

シュバリエ『チィッ!まだこれだけの力を隠し持っていたのか…!』

 

 

エクシード『なら、此処は俺達の出番だ…いくぞシグナム!』

 

 

シュバリエ『ああ、任せろ!』

 

 

怒りで半ば自棄になりながら新たに取り出した大鎌をがむしゃらに振るい鎌鼬を放つベリアルに対し、エクシードはシュバリエに呼び掛けながら一本のメモリを取り出し右腕にセットしていく。

 

 

『ARMS!』

 

 

電子音声が響くとエクシードの右腕が蒼い剣へと変化し、シュバリエも剣の刀身に炎を纏わせエクシードと共にベリアルへと向かって突っ込んでいく。

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

ベリアル『しゃらくせぇっ!全員纏めて消えろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガアァッ!!―

 

 

向かって来るエクシードとシュバリエに向けてベリアルは大鎌から大量の魔力球を放ち、魔力球は全て二人へと真っすぐ向かっていく。しかし……

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドォッ!!―

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァアァッ!!』

 

 

ベリアル『ッ?!な、何!?―ズバアァッ!!―ウグアァッ!?』

 

 

なんとエクシードとシュバリエは魔力球を身体で受けながらも構わず疾走し、ベリアルの身体に剣を突き刺し動きを封じていったのである。

 

 

ベリアル『ガハアァッ!?テ、テメェ等あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 

エクシード『稟!今だ!』

 

 

エクス『ッ!おう!』

 

 

エクシードはシュバリエと共にベリアルの動きを止めながらエクスに呼び掛け、エクスはその隙に腰のフエッスルの中からウェイクアップフエッスルを取り出し、ベルトの止まり木に止まっているエクトキバットに吹かせていく。

 

 

エクトキバット「ウェイクアップッ!」

 

 

掛け声と共に笛の音が響くとエクスは一度カリバーンをアヴァロンに納め封印を解き、カリバーンをエクスカリバーへと変えていく。そしてエクスはエクスカリバーを両手で握り締めベリアルへと向かって勢いよく駆け出した。

 

 

エクス『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ベリアル『グッ?!は、離せお前等!来るな!!来るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

エクス『エクスッ!!カリバアァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ベリアル『グアァァァァァァァァァァァァアッ!?』

 

 

動きを封じられたベリアルはエクシードとシュバリエからなんとか逃れようとするも間に合わず、エクスはベリアルに向けて上段からエクスカリバーを勢いよく振り下ろしベリアルを後方へと吹っ飛ばしていった。

 

 

『なッ?!ベリアル!?』

 

 

ディメンション『よそ見なんてしてる場合かよ!』

 

 

セイヴァー『貴様の相手は私達だ!』

 

 

『クッ?!』

 

 

一方、隣でディメンション達と戦っていたドクトルGは吹き飛ばされたベリアルを見て動揺してしまうが、ディメンション達はその隙にドクトルGへと攻撃し、ディメンションとディケイド(紫苑)は自分のブッカーをGモードに替えながらドクトルGから距離を離すとそれぞれカードを一枚ずつ取り出し、シャイニングもパスを取り出してバックルへとセット&セタッチする。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DIMENSION!』

 

『Full Charge!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

『…ハァッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ヌッ?!』

 

 

電子音声が響くとディメンションとディケイド(紫苑)はドクトルGとの間に現れたディメンジョンフィールドに向けてブッカーの引き金を引き、シャイニングもパスを投げ捨てデンガッシャーGモードの銃口をドクトルGに向けて引き金を引き砲撃を放った。しかし、それに気付いたドクトルGはすぐに盾を構えて三人の砲撃を受け止め、そのまま足を引きずりながら後方へと後退していく。

 

 

―ガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『ヌッ…!!こんなっ……モノでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 

ディメンション『今だシグナム!ヴィヴィオ!』

 

 

セイヴァー『ああ!ヴィヴィオ、行くぞ!』

 

 

ナンバーズ『はい!』

 

 

ドクトルGが三人の砲撃の処理で身動き出来ない間にセイヴァーは右手に持った紅い剣…セイヴァーラウザーを開いて二枚のカードを取り出すとセイヴァーラウザーにラウズし、ナンバーズはバックルのKナンバーに000と番号を入力してエンターキーを押した。

 

 

『KICK!FIRE!――BURNING BLAST!』

 

 

『Cord Up!Full Charge!』

 

 

それぞれの電子音声が響くとセイヴァーはラウザーを地面に突き立て右足に炎を纏いながら跳び、ナンバーズも両足に虹色の光を纏いセイヴァーと共にドクトルGへと跳び蹴りを放った。そして……

 

 

セイヴァー『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ナンバーズ『デエェェェェェェェェェェェイッ!!』

 

 

『ヌ、ヌオォォォォォォォーーーーーーッ!?』

 

 

―ズガァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

セイヴァーとナンバーズのダブルキックが炸裂し、三人の砲撃により回避が出来なかったドクトルGは爆発を起こしながら吹き飛ばされていったのだった。

 

 

―ズガァンッ!!ズガァンッ!!ズガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ディエンド『グゥッ!』

 

 

クラウン『フフフ、どうしました大輝氏?ただ避けてるだけでは私に勝てませんよ!!』

 

 

一方その頃、クラウンとの戦闘を開始したディエンドはクラウンの投げ放つナイフ攻撃に圧され防戦一方となっており、クラウンはそんなディエンドに容赦なくナイフを投げ続けていく。そしてその内の一本の直撃を受けたディエンドは後方へと転がるように吹っ飛ばされ、クラウンは不気味に微笑みながらナイフをディエンドに向けて歩み寄っていく。しかし…

 

 

ディエンド『―――成る程ね……どうやら、君には零のように手加減する必要はなかったみたいだ…』

 

 

クラウン『…ん?』

 

 

ディエンドはそう言ってふらつく身体を起こしながら近づいてくるクラウンを睨みつけると懐を漁り出し、そこから一本のメモリを取り出すと人差し指でボタン部分を押す。

 

 

『WIND!』

 

 

クラウン『…ッ?!そ、そのメモリは?!』

 

 

ディエンド『とある世界で受けた依頼の報酬としてもらったモノさ。光栄に思いたまえ…コレを見せるのは君が最初なんだからね!』

 

 

ディエンドはそう言いながらメモリをディエンドライバーの上部分に取り付けられたスロットにインサートし、ドライバーをスライドさせて引き金を引いていった。

 

 

『WIND DI-END!』

 

 

電子音声が響くと風を切り裂くようなメロディーが辺りに響き渡り、それと共にディエンドの身体が薄緑と白のツートンカラーを持った姿……ディエンド・ウィンドフォームへとフォームチェンジしたのであった。

 

 

クラウン『っ?!姿が……変わった?!』

 

 

ディエンドW『君には特別に見せてあげよう…俺の力の一端をねぇ!』

 

 

姿を変えたディエンドを見て驚愕するクラウンだが、ディエンドWはそんな事はお構いなしにとディエンドライバーを一回スライドさせながらクラウンへと突進していく。

 

 

『WIND SHOT!』

 

 

ディエンドW『ハァッ!』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュンッ!!―

 

 

クラウン『ッ?!クッ!!』

 

 

電子音声と共にディエンドMがドライバーの引き金を引くと風を纏った複数の弾丸が物凄い速さでクラウンへと襲い掛かり、クラウンは一瞬驚愕しながらそれを紙一重で避け再びナイフを放つ。が、ディエンドWはドライバーを使ってナイフを全て弾き、今度はドライバーを二回スライドさせていく。

 

 

『SKY WIND!』

 

 

再び電子音声が鳴り響くと今度はディエンドWの背中に四枚の羽根が現れ、ディエンドWはディエンブレードを取り出しながら羽根を羽ばたかせて上空へと飛翔し、クラウンに向かって突っ込みながらディエンドライバーを連射させていく。

 

 

ディエンドW『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!ガギイィィィィィンッ!!!―

 

 

クラウン『グゥッ?!アァァァァァアッ?!』

 

 

クラウンの周りに向かって撃ち出される銃弾によってクラウンはその場から動く事が出来ず、ディエンドWはそのまま銃を乱射させながら突っ込みクラウンをディエンブレードで斬り飛ばしていった。そしてそれを見たディエンドWはすかさずドライバーを三回スライドさせ最後の攻撃に入る。

 

 

『WIND!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

鳴り響く電子音声と共にディエンドWは上空へと高く飛翔し、クラウンに向けてディエンドライバーの銃口を構えエネルギーを溜めていく。そして……

 

 

ディエンドW『これで終わりだ……ウィンド!ファイナルバーストッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ…ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

クラウン『クッ?!ツアァァァァァァァァアァッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディエンドライバーの銃口から巨大な緑の閃光が放たれ、クラウンはすぐに防御態勢を取るが勢いを殺す事が出来ず吹き飛ばされた。そしてクラウンは身体から煙を立たせふらつきながらディエンドWと向き合っていく。

 

 

クラウン『ッ…なるほど…中々…やりますね…まさか此処までの力を持っていたとはっ…』

 

 

ディエンドW『ッ!チッ…そっちも中々しぶといじゃないか…あれだけの攻撃を受けてまだ立てるなんて』

 

 

クラウン『フフフ、まだ私も倒れる訳にはいきませんからね……さて、本当なら最後に零氏へ挨拶しに行きたかったのですが、どうやらそれどころでは無くなったようです…』

 

 

そう言いながらクラウンは背後へと視線を向け地面に倒れるベリアルとドクトルGが歪みの壁に回収されて消えていくのを確認すると、ディエンドWへと視線を戻し懐から数枚のトランプを取り出す。

 

 

クラウン『…ベリアル氏とドクトルG氏も戦闘不能のようですからね。私もコレで失礼させて頂きましょうか…?』

 

 

ディエンドW『ッ!逃がすか!!』

 

 

―ドシュウゥンッ!ドシュウゥンッ!―

 

 

手元にあるトランプを広げて見せるクラウンに対し、ディエンドWはディエンドライバーを乱射させてそれを阻止しようとするもクラウンはトランプを上空へと放り投げ、トランプに包まれてそこから消えていってしまった。

 

 

―またお会いしましょう…大輝氏。次はfirstの世界で零氏の因子を賭けて、ね。フフフフ…―

 

 

ディエンドW『クッ!あの糞ピエロがっ…』

 

 

何処からか聞こえてくるクラウンの声を聞きながら辺りを見渡してクラウンの姿を探すディエンドWだが、その声も次第に聞こえなくなってしまう。おそらく既に逃げてしまったのだろうと予想したディエンドWは舌打ちしながらドライバーからメモリを抜いて元の姿へと戻り、それと同時にエクシード達がディエンドの下に駆け寄っていく。

 

 

エクシード『大輝!あのピエロライダーは?!』

 

 

ディエンド『…逃げられたよ。ホント、腹が立つぐらい逃げ足が早い奴だ』

 

 

ディメンション『そうか…クソッ!アイツ等にはまだ聞きたい事が山ほどあったのに!』

 

 

クラウン達に逃げられてしまった事にディメンションは毒づいてしまい、他のメンバーも同じなのか肩を落として腑に落ちないような様子を見せる。そしてディエンドはそんなメンバーを横目に見るとそのまま何処かへと去ろうとする。

 

 

ディメンション『お、おい大輝!何処にいく気だ?!』

 

 

ディエンド『…そんなの決まってるだろう?この世界にはもうめぼしいお宝はないみたいだし、次の世界にでも行ってまたお宝でも探す……………ん?!』

 

 

引き止めるディメンションに何かを言いかけた瞬間、ディエンドは突然その場に立ち止まり何かを探すように辺りを見渡していく。

 

 

ディケイド(紫苑)『?どうしたんですか?』

 

 

ディエンド『……こ…この気配は……まさか…そんな馬鹿な…?!』

 

 

ディメンション『?何いきなりワケの分からないこと言って………って、稟?』

 

 

エクス『う、嘘だ……あ、ああああああの人がこんな所にいる訳が!?』

 

 

エクシード『お、おい稟?!どうしたんだよいきなり?!』

 

 

何故かいきなり震え出したディエンドとエクスを見てエクシード達は困惑してしまうが、とにかく二人を落ち着かせようと何とか宥めていく。だがその時……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッ!!!!!!!!―

 

 

『…え?』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

『ΣΣウアァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!?』

 

 

突如彼方から降り注いできた桜色の閃光。突然のソレはメンバーの周りに直撃して巨大な爆発を起こし、メンバーは全員それに巻き込まれ吹き飛ばされてしまった。そしてソレが撃ち出された方から危険な雰囲気をビンビンに感じさせる一人のライダーが現れメンバーの前に降り立った。其処に現われたのは語るも恐怖の仮面ライダー…幸助の世界から跳んできた冥王であった。

 

 

冥王『うふふ~♪大輝くんみ~つけたぁ♪』

 

 

ディエンド『め、めめめめめめめ冥王ォッ!!?』

 

 

エクシード『な、何で冥王がこんな所にッ!!?』

 

 

ディケイド(紫苑)『えっと……誰?』

 

 

エクス『冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い……』

 

 

ナンバーズ『Σ稟さん?!』

 

 

ディメンション『ΣΣあぁ?!稟のトラウマが再発した?!』

 

 

予想もしていなかった冥王の突然の登場にパニックに陥るメンバー……というか約一名は既に失神寸前だ。

 

 

ディエンド『な、なななななんで…あ、貴方がこんな所に?!』

 

 

冥王『んふふ♪大輝くん?確か君はこの世界の電王をファイナルフォームライドさせてデンライナーを手に入れようとしたでしょ?』

 

 

ディエンド『な、何故その事を?!』

 

 

冥王『私達に知らない事はないの♪それでそれを見てた幸助君が「お願いの仕方がなってない、的確に脅さないと駄目だろ。ってことで今から拉致してフルボッ……もとい修行して鍛えなおさないとな」だって♪』

 

 

ディエンド『ΣΣ理由が目茶苦茶理不尽すぎる?!というか今言い直してましたよね?!』

 

 

冥王『うふふ~♪帰ったら全員で一時間模擬戦なの♪だ・か・ら、大輝くん強制連行~♪』

 

 

『Full Charge!』

 

 

天使のような笑顔で言いながらパスをベルトにセタッチするとメイオウガッシャーに膨大なエネルギーが溜まっていき、そして……

 

 

冥王『エンドオブワールド!ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディエンド『ΣΣう、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

エクシード『ΣΣって何で俺達までえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?』

巻き添えその1

 

 

エクス『ΣΣうぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

巻き添えその2

 

 

ディメンション『ΣΣうわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

巻き添えその3

 

 

シャイニング『ΣΣぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?』

巻き添えその4

 

 

ディケイド(紫苑)『ΣΣ嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

巻き添えその5

 

 

冥王の放った凶悪な砲撃に飲み込まれたディエンド+巻き添え五人。そしてその場には変身が解除され黒焦げとなった六人の屍?が転がり、冥王は大輝の屍?を拾い幸助達の待つ世界へと戻っていき、その端っこでは身体を寄せてその光景に震えるナンバーズ達の姿があったとか……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、ディケイドと電王はライオトルーパーとショッカーライダー達と共にアリゲーターイマジンと奮闘していた。だが、アリゲーターイマジンの猛攻は止まることを知らず、ライオトルーパーとショッカーライダーはアリゲーターイマジンの斬撃を受けて爆発し散ってしまった。

 

 

電王『チィッ…!あのワニ野郎!』

 

 

全く衰える様子がないアリゲーターイマジンの猛攻に電王は思わず舌打ちしてしまうが、ディケイドは冷静にライドブッカーから一枚カードを取り出しディケイドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『FINALFORMRIDE:DE・DE・DE・DEN-O!』

 

 

ディケイド『モモタロス、ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

電王『…んお?』

 

 

ディケイドの発言に電王は間抜けな声を漏らしてしまうが、ディケイドは構わず電王の背後に回って頭を抑え、そして…

 

 

ディケイド『そらっ!』

 

 

―ガゴンッ!―

 

 

電王『んごぁ?!』

 

 

―スポォーーーンッ!!―

 

 

優矢「ΣΣぬおぉーーーー?!」

 

 

なんとディケイドは電王の頭をいきなり後ろに引き、それと同時に電王の身体から優矢が飛び出し、電王の身体は徐々に赤い身体へと変化していく。そしてディケイドが電王の頭部を元の位置に戻すと、電王の頭は身体と同じ赤色の鬼のような顔となった。これが電王の本来の自分であり、電王がファイナルフォームライドした姿…『デンオウモモタロス』へと超絶変形したのであった。

 

 

モモタロス『ウォッシャアッ!俺、参上!!』

 

 

ディケイド『……どうやら取り戻したらしいな?』

 

 

モモタロス『ヘヘ…あぁ、ちょっとは恩に着るってとこか。お前、名前は?』

 

 

ディケイド『通りすがりの仮面ライダーだ…憶えなくていい』

 

 

モモタロス『ヘッ、なら聞かねぇよ』

 

 

モモタロスはディケイドにそう返しながら目の前に目を向けると、アリゲーターイマジンがデンガッシャーを振り回しながらディケイド達の下に近づいてきた。

 

 

モモタロス『よぉ!待たせたなぁ!こっからが本番だ!』

 

 

『貴様等ぁ…!何処までも邪魔をする気か?!』

 

 

ディケイド『当たり前だ、俺達が世界を救う前に全部消されちゃ堪らないんだよ』

 

 

モモタロス『いいかワニ野郎?俺は最初から最後までクライマックスなんだ。途中で泣き言は聞かねぇぜ!いくぜいくぜいくぜぇぇぇぇぇぇぇぇーーーー!!』

 

 

モモタロスはアリゲーターイマジンにそう言いながら自身の武器である赤色の刀、モモタロスォードを振り回しながらアリゲーターイマジンに突っ込んでいく。そしてそれを見たディケイドも近くに倒れている優矢に声を掛けていく。

 

 

ディケイド『おい、お前も何時まで寝てるんだ?』

 

 

優矢「ん………はぇ?此処何処?」

 

 

ディケイドに起こされた優矢は寝ぼけてるかのように身体を起こし目を開くと、目の前でアリゲーターイマジンとモモタロスが剣と剣をぶつけ合い戦ってる光景が目に移った。

 

 

優矢「…ッ!変身ッ!」

 

 

それを見た優矢は意識を完全に覚醒させてすぐ立ち上がり、腰にアークルを出現させてクウガへと変身していった。

 

 

ディケイド『よし、いくぞ!』

 

 

クウガ『あぁ…状況は大体分かった!ハァッ!』

 

 

クウガはディケイドにそう言いながら高く飛んでそのまま跳び蹴りを放ち、ディケイドと共に二人へと突っ込んでいく。そして…

 

 

 

クウガ『ウオリャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ゴキャアァッ!!―

 

 

『ΣΣんがぁ?!』

 

 

 

クウガの跳び蹴りは見事に炸裂したのであった――――――何故かモモタロスの頭へと。

 

 

クウガ『よし!『って馬鹿?!こいつは敵じゃない!』…………へ?え嘘ぉッ?!』

 

 

モモタロス『……何やってんだよこの野郎ぉ……俺は主役だぞぉぉぉぉ……』

 

 

『貴様等ぁ……ふざけるなあぁ!!』

 

 

余りにも間抜けなその光景にアリゲーターイマジンは痺れを切らして思わず怒鳴り、ディケイドは溜め息を吐いた後モモタロスの肩を軽く叩く。

 

 

ディケイド『しっかりしろモモタロス、同時に攻撃しろ!』

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

―ドガアァッ!!―

 

 

『ガハアァッ?!』

 

 

ディケイドの合図で三人はアリゲーターイマジンを同時に蹴り飛ばしそれと共にモモタロスはアリゲーターイマジンから奪われていたデンガッシャーを取り戻していき、その首が曲がったままディケイドと向き合っていく。

 

 

モモタロス『わ、悪りぃけどよ?この頭どうにかしてくんねぇか?―ゴキッ!―ヨイショ……何処に目ぇつけてんだこの野郎ぉ!?』

 

 

クウガ『う、うわぁ!ご、ごめんなさい!ごめんなさいって!』

 

 

モモタロスはディケイドに曲がった首を治してもらうとクウガへ詰め寄って文句を言い出し、クウガもモモタロスへと何度も平謝りしていく。そしてディケイドはそんな二人を他所にライドブッカーから一枚カードを取り出しディケイドライバーへと装填する。

 

 

『FINALFORMRIDE:KU・KU・KU・KUUGA!』

 

 

電子音声が響くとモモタロスに平謝りしていたクウガはクウガゴウラムへと超絶変形し、クウガゴウラムはアリゲーターイマジンへと突撃した後ディケイド達の上空へと飛んでいく。

 

 

モモタロス『あぁ?なんだありゃあ?』

 

 

変形して上空を飛ぶクウガゴウラムを不思議そうに見上げるモモタロスだが、ディケイドはライドブッカーから更にカードを取り出しディケイドライバーへ装填してスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DEN-O!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

モモタロス『ΣΣうおぉッ?!』

 

 

電子音声が響くと共にモモタロスの持っていたデンガッシャーの刃が突然飛び出し、そして…

 

 

―ガギャアァンッ!!―

 

 

クウガ(G)『Σへぅッ?!』

 

 

アリゲーターイマジンへと突撃しようとしたクウガゴウラムの尻に突き刺さっていったのであった。

 

 

モモタロス『必殺……俺の必殺技!!』

 

 

―ズガァンッ!ズガァンッ!ズギャアァンッ!!―

 

 

『ぐおぉッ?!ウガァッ?!』

 

 

クウガ(G)『ゲフゥッ!?ちょ、止めっ…!?』

 

 

モモタロスは高らかに叫びながらデンガッシャーを力強く振り回し、それと共にデンガッシャーの刃が尻に刺さったクウガゴウラムも振り回されアリゲーターイマジンを叩きつけていく。そして…

 

 

モモタロス『ディケイドバァーーーーージョーーーーーーーンッ!!!』

 

 

クウガ(G)『ΣΣ嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!!?』

 

 

『ΣΣヌアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディケイドとモモタロスの必殺技、DCDR(ディケイドライナー)が炸裂し、アリゲーターイマジンは断末魔と共に爆発を起こし跡形もなく消滅していった。そしてそれに巻き込まれた優矢は目を回しながら気絶し、大の字になって倒れてしまったのであった。

 

 

モモタロス『ふぅ~、一丁上がりっと!ヘヘッ♪』

 

 

そんな優矢の事も気に止めず、モモタロスは満足したように身体を伸ばしディケイドの肩を叩いていた。

 

 

 



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第十一章/電王×鋼毅のレギオスの世界⑨

 

 

そしてそれから数十分後、アリゲーターイマジン達との戦いを終えた一同はデンライナーへと戻り、モモタロス達は仲間達とはしゃぎ回っていた。その様子を零は写真館の窓から見て微笑しながらカメラのシャッターを切っていく。

 

 

なのは「でも良かったね、これで時間の歪みも戻ったみたいだし」

 

 

零「そうだな……だが…」

 

 

隣で微笑しながらデンライナーの乗客室を見るなのはにそう返しながら零は部屋の中へと目を向ける。そこには……

 

 

 

 

優矢「うぅ…尻が…尻がぁぁぁぁぁぁ……�」

 

 

宗介「冥王…なんて奴だ……ガクッ…」

 

 

シグナム「宗介?!しっかりしろ宗介!宗介!!」

 

 

稟「冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い冥王怖い―――」

 

 

海人「冥王がぁ…冥王が来るぅぅぅぅ……」

 

 

慧「あんなん…無茶苦茶やないかぁぁぁ……」

 

 

紫苑「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」

 

 

光「し、紫苑君?!どうしたの紫苑君?!」

 

 

 

 

零「………こっちは物凄い惨状になってるがな…」

 

 

はやて「ア、アハハ…�」

 

 

先程の戦闘で現れた冥王による被害を受けて体中包帯だらけとなった宗介達や優矢を見て零は若干顔を引き攣りながら呟き、はやてやなのは達はそんな光景に若干苦笑していた。

 

 

すずか「で、でも!これで電王の世界での役目も終わったんだし、一件落着だよね�」

 

 

栄次郎「……いいや、まだ終わってないかもしれませんよ?」

 

 

『……え?』

 

 

電王の世界での役目を終え、これでこの世界も救われる。そう思って一安心していた一同に栄次郎はリュウタロスに落書きされた背景ロールを拭きながら呟き、それを聞いた零はまさかと思いデンライナーの乗客室に視線を戻すと、デンライナーに二人の青年が慌てた様子で乗車してきた。

 

 

「皆!時間の歪みの原因が分かったよ!」

 

 

フェリ「あ、レイフォンにライ。その件でしたらもうこちらで解決して……」

 

 

ライ「そんな筈ないじゃん!街にはまだ鬼の一族がうろうろしてるんだ!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

デンライナーに乗って来た青年達、レイフォンとライがそう言うとさっきまではしゃいでいたモモタロス達は驚愕の表情を浮かべながら静かになっていく。

 

 

モモタロス『お、おい!本当なのかレイフォン?!ライ?!』

 

 

レイフォン「うん、異変はまだ続いてる!―ギギイィィィィッ!―うわぁッ?!」

 

 

モモタロス『ッ?!な、何だ?!―バチィッ!―があぁッ?!』

 

 

『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 

モモタロスからの問いにレイフォンが焦りを浮かべた様子でそう言ったその時、デンライナーが突然大きく揺れだし、その際に倒れたモモタロス達は光に包まれ何処かに消えてしまったのであった。

 

 

レイフォン「モ、モモタロス達が消えた…?!」

 

 

ライ「これはっ…父さん!オーナー!」

 

 

オーナー「えぇ…どぉやら、時間の歪みの本当の原因は別にあるよぉですねぇ。また、旅にでなければなりません……時間の旅に…」

 

 

突如消えてしまったモモタロス達、時間の歪みの本当の原因、鬼の一族、そしてオーナーのこの言葉の意味とは一体なんなのか?この先にレイフォン達を待ち受けている試練とは……?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

はやて「そ、そんな…まだ異変が続いてたやなんて?!」

 

 

フェイト「ど、どうしよう零?!」

 

 

零「…別にどうもしない。後はアイツ等の物語なんだ…それを続けるか続けないかもアイツ等次第だろう」

 

 

まだこの世界の異変が解決していなかったことに焦るフェイト達だが、零はただデンライナーの車内で撮った写真を眺めながら後の事は彼等に任せるべきだと告げる。そしてその時……

 

 

―ガチャ!ガララララララッ…パアァァァァァァァアンッ!―

 

 

栄次郎「おっと?!これは…?」

 

 

ティアナ「あ、背景ロールがまた…?!」

 

 

なのは「?これって……緑の鳥?」

 

 

部屋にあった背景ロールが突然降りていき、写真館はまた新たな世界へと移っていったのだ。新たに現れたその絵は銀色の羽根を羽ばたかせ空を舞う緑の鳥に、その鳥に向かって手を差し伸ばす少女達の絵だった。その世界の名は……

 

 

零「……ホルスの世界か」

 

 

フェイト「ホルスの…世界……?」

 

 

ホルスの世界……零が口にしたその名を聞いたなのは達は背景ロールの前に集まっていく。だがその時…

 

 

―ファサアァッ!―

 

 

『降臨!此処が何処か…分からぬままに!』

 

 

皇牙「や、やっと出てくれたっ…�」

 

 

零「ッ?!」

 

 

宗介「な、何だコレ?!」

 

 

ヴィヴィオ「わぁ~!おっきな鳥さんだ~♪」

 

 

突如部屋の中に白い鳥のような姿の怪人と疲労を浮かべる青年が現れ、突然現れたソレに零達は驚愕し唖然となってしてしまう。

 

 

『うん?此処は、デンライナーではないのか?』

 

 

紫苑「い、いえ…此処は写真館ですけど…�」

 

 

零「チィッ!はやて!このイマジンあいつ等のだ!今すぐ返してこい!!」

 

 

はやて「そ、そんなん言われたって~!!�」

 

 

海人「お、おいお前!しっかりしろ!大丈夫か?!」

 

 

皇牙「み、水…誰か水をぉ…�」

 

 

稟「み、水だな?!栄次郎さん水ください!!�」

 

 

『ほお!写真館であったか!では思う存分、私の姿を撮るがいい!!』

 

 

零「いいからさっさと出ていけえぇ!!�」

 

 

部屋に現れた白い鳥の怪人…ジークは部屋の中を自らの白い羽で散らかしていき、稟達はジークと共に現れた青年…皇牙の看病などでかなり疲労してしまうハメになってしまう。だがその時、部屋の片隅に落ちてた見覚えのない古い絵に何故かモモタロスの姿が浮かび上がっていたのだが、この時一同はジークや皇牙の事で手が一杯だったため誰も気づいていなかった……

 

 

 

 

 

 

その頃、とある高層ビルの屋上から何処かの街並みを見下ろす槍を持った緑のライダーの姿があった。果たして、このライダーは零達一行とどう関わっていくのだろうか?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃、とある平行世界に存在する廃墟の中では電王の世界から逃れたクラウン達の姿があった。

 

 

―ガシャアァンッ!!―

 

 

ベリアル『クソがあぁ!!なんでこの俺があんなガキ共にやられなきゃならねぇんだよッ!!』

 

 

『落ち着けベリアル!冷静になれ!!』

 

 

ベリアル『うるせぇっ!!あのクソガキ共っ…今度は絶対にぶっ殺してやる!!』

 

 

ベリアルを宥めようと呼び掛けるドクトルGの言葉も聞かず、ベリアルは苛立ちをぶつけるかのように大剣を振り回し周りの物に八つ当たりしていく。しかし、クラウンはそんなベリアルに対し冷静に声を掛ける。

 

 

クラウン『落ち着きなさいベリアル氏…そんな事をしても見苦しいだけですよ?』

 

 

ベリアル『ッ!んだとテメェッ……』

 

 

クラウンの言葉にベリアルは苛立ちクラウンの首元に大剣を突き付ける。だが、クラウンはそれに対しても動揺する事なく片手で大剣を退けベリアルの横を通り過ぎながら語る。

 

 

クラウン『確かに、我々は彼等に敗れてしまいました……ですがそれは、我々が彼等の力を侮ってしまった事が原因でもあります』

 

 

ベリアル『…ケッ、あんなガキ共がなんだってんだ…古代の闇の力を持つ俺様なら、あんなガキ共がいくら集まった所で…!』

 

 

クラウン『えぇ…確かに彼等一人一人の力に対してなら貴方だけの力で戦えるでしょう。ですが彼等はあのように力を合わせて戦い、更に御友人達から貰った力で日々力を上げてきている……ならば、我々もそれに勝る力を持った方達から力を貸りましょう』

 

 

『…?どういう意味だ?』

 

 

怪しげに微笑みながら呟いたクラウンの言葉にドクトルGが疑問そうに聞き返すが、クラウンはそれに答えず廃墟の入り口の方に目を向けていく。そこには…

 

 

 

 

―カツッ…コツッ…カツッ…コツッ……―

 

 

 

 

『…ッ!あれは……』

 

 

ベリアル『…クッ…ククッ…なるほどなぁ…面白そうな展開になりそうじゃねぇかぁ…』

 

 

入り口の方から現れた数人の人影。それを見たドクトルGは驚愕の表情を、ベリアルは狂気の笑みを浮かべながら大剣を肩に担いでいく。そしてクラウンはその人物達のリーダーらしき男の下へと近づき頭を下げていく。

 

 

「……お前か?俺達を呼び出したクラウンとかいうのは?」

 

 

クラウン『えぇ…本日は足を運んで頂き、ありがとうございます。ダークライダーの皆様』

 

 

「挨拶はいい…それより、貴様が言っていた事は本当だろうな?破壊の因子を持つ者が、あの黒月零だというのは……」

 

 

クラウン『はい…ですから貴方方のお力を貸して頂きたいのです。零氏達の中学時代の御友人である、貴方達のお力をね…』

 

 

「…いいだろう。アイツには魔界城の時の借りもある……話を聞かせてもらおうか?」

 

 

リーダーらしき男は冷たい表情でクラウンにそう答え、クラウンは下げていた頭を上げると男と男の仲間達と話を始めるのであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界

 

 

 

様々なトラブルに見舞われながらも何とか電王の世界を旅立った零達一行。果たして、この世界で彼等を待ち受ける役目とは……?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

――――夢…また夢を見ている。

 

何処までも暗く…何処までも深い闇が包み込む…一筋の光も射さないあの場所。

 

あの時と同じ…あの時見た夢と同じ場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――よぉ、久しぶりだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ……またお前かっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、なんて随分な挨拶だな…そこまで俺は嫌われてるのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれだけの事を言われて……好きになれると逆に思うか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ……俺はただ事実を述べたまでさ……いつまでも逃げ続ける……臆病者な破壊者様に……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ……それで、今度は一体何の用だ…?

 

用がないならさっさと消えろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分な扱いだな……まあいいさ。それより、漸く力を取り戻したみたいじゃないか?どうだ?久々に戻った力の感覚は…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!力……まさか、左目のコレの事か?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以外に何があるっていうんだ?…全てを滅ぼす破壊の源…神々すらもその存在を恐れる究極の兵器……因子(ファクター)……それがそいつの名さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…神々すら恐れる…究極の兵器…因子(ファクター)…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっ…でも驚いたなぁ?まさかその力を取り戻す日がこうして拝めるなんて…それで?またその力で人を殺すのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!な…何を言って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また殺すんだろう?その力を使って……アリを踏み殺すように戸惑いもなく、次から次へと何度も何度も……ククク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くっ…いい加減にしろっ…俺はそんな殺戮マシーンみたいな事はしない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…してたじゃないか……何の躊躇もなく……大切な家族を守ろうとお前と戦った人間達を虫の様に殺し……子供だけは助けてくれと悲願してきた母と子を剣で引き裂いて……嘗ては父と母だった肉片に縋りついて泣いていた子供をバラバラに斬り刻んで……ククク…それでもお前は心を痛めてなんていなかったなよなぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

な…何をっ……ワケの分からない事を!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……力を取り戻した今、お前が全てを破壊し続ける殺戮者に戻る日は近いだろう……そうなれば、お前はまた孤独になる……何処へ行っても……お前を受け入れてくれる世界なんて存在しなくなる……お前だってとっくに気付いてるんだろう?もし自分が本当に危険な存在なら…アイツ等の傍にいるべきではないのかもしれない…自分の存在がアイツ等に危害を与えるかもしれないと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………っ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クククッ…図星か?だがそれは間違っちゃいないさ……お前はアイツ等の傍にいてはいけない……だけどお前も馬鹿な奴だよな……アイツ等に心を許したりしなければ……いやそもそも、お前みたいな殺戮マシーンが『感情』なんかを持った事こそが間違いだったんだ……そんなモノを持たずにいれば……あの女に心を許したりしなければ……そんなに苦しむ事もなかったのになぁ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ…黙れっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうやってまた耳を塞いで…目を閉じて…アイツ等の世界に逃げ込む。あの女の面影を持ったアイツ等を必死に守って、あの日の事もなかった事にする気か……人殺しが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ!?ち…違っ…俺はっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「破壊者…殺戮者…悪魔…化け物が…お前みたいな奴が生きていい世界なんてこの世の何処にもない…お前は所詮破壊する為だけに生まれてきた殺戮兵器なんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う…違うっ…俺はっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はアイツ等の手を握る資格も、触れる事も許されない…何故か?お前の手は血で染まってるからさ。その手でどれだけの命を奪ってきた?どれだけの世界を壊してきた?人の命を奪う事になんの戸惑いもしなかったお前が……人並みの幸せを手に入れていいと本当に思っているのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…っ…それっ…はっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい訳ないよなぁ?お前さえいなければ…お前さえ生まれてこなければ…誰も死なないで済んだんだ…お前みたいな破壊者さえ存在しなければ……アイツも死なずに済んだんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめろっ…違うんだっ…俺はっ……俺がっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィル『零♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が殺したんじゃないんだああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ…もっとだ…もっと苦しめ…もっと歎け…その感情が俺の目覚めを早くする…そうすれば俺の力が…お前に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

零「ぐっ…うぁっ……」

 

 

はやて「零君!零君!」

 

 

零「っ……はっ!!ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」

 

 

激しく肩を揺さ振られ、カッと目を開けば最初に感じたのは頬を伝う汗の感覚。動悸が激しく高鳴るのを感じながらけだるく頭を起こすと、目の前にはベッドに腰を掛け、心配そうな表情を浮かべて自分を見下ろすパジャマ姿のはやての姿があった。

 

 

零「っ…はや…て…?」

 

 

はやて「うん、私や…大丈夫か?なんやうなされてたみたいやけど…」

 

 

零「あ、あぁ…大丈夫だ…ちょっと…寝覚めが悪かっただけだ……」

 

 

はやて「そっか…せやけどあんま無理せんといてな?悩みとかあるなら、私等も相談に乗るさかい…」

 

 

零「…ああ…すまない…」

 

 

心配そうに呟いたはやてにそう言いながら零は身体を起こしていくが、そこである違和感に気付いた。何故か自分ははやてのベッドに身体を預けるような態勢で寝ており、服は昨日着ていた私服のままだ。はて?と首を傾げながら昨夜の記憶を掘り返していくと、近くに置いてある水の入った桶を見て漸く思い出していく。

 

 

零「(…ああ、そうか…)…はやて、身体の調子はどうだ?」

 

 

はやて「へ?ああ、それやったらもう平気や♪昨日よりかは調子も戻ってきたみたいやし♪」

 

 

零「そうか…皆で看病した甲斐があったみたいだな…」

 

 

はやて「うん……せやけどごめんな?私のせいで皆に迷惑を……」

 

 

と、はやては申し訳なさそうに顔を俯かせて頭を下げる。実は昨日の夜中、皆の目の前ではやてが突然熱を出して倒れてしまい大騒ぎになったのだ。そして零達は急いではやてを自室へと運んで交代で看病をし、零は看病してる最中で寝オチてしまったようだ。

 

 

零「別に迷惑かけられたなんて思っていない…仲間なんだから当然の事だろう?それにお前が元気になったなら看病した甲斐もある…だから気にするな」

 

 

はやて「…うん…零君もなのはちゃん達も、ホンマにありがとうな♪」

 

 

零の言葉を聞いたはやては明るげに微笑み返し、零はそんなはやてに釣られる様に微笑しながらはやての前髪を掻き分けようと手を伸ばしていく。だが…

 

 

 

 

―お前はアイツ等の手を握る資格も、触れる事も許されない……何故か?お前の手は血で染まってるからさ…―

 

 

 

 

零「…ッ?!」

 

 

はやて「…?零君?」

 

 

零「…へ?あ、いや…なんでもない…」

 

 

不自然に動きを止めた零を見てはやてを怪訝そうに聞き返すが、零は平静を保ちながら差し伸ばしていた手を背中に引っ込めた。

 

 

零「そ、それより、お前昨日の夜何も食ってないだろ?待ってろ、今何か作ってきてやるから�」

 

 

はやて「え?ちょ、れ、零君?!」

 

 

突然踵を返して部屋から出ていこうとする零を慌てて呼び止めるはやてだが、零はそれを聞かずまるで逃げ出すかのように部屋から出ていってしまい、扉に背中を預けていく。

 

 

零「…っ……何をやってるんだ……俺はっ……」

 

 

今の自分の行動に対し零は右手で顔を覆い隠しながらポツリと呟いた。はやてはまだ病み上がりだというのに、あんな挙動不審な態度を見せては余計な心配をかけてしまうではないか。そんな自分の軽率な行動に舌打ちしながら零は溜め息を吐き、右手を見つめて握り締める。

 

 

零「…そうだ…俺の過去に何があろうと関係ない…俺は俺なんだ…それ以上でもそれ以下でもない…なのは達を守る……その為に、俺は在るんだろう……」

 

 

右手を見つめながら自分に言い聞かせるように呟く。そしてもう一度深い溜め息を吐くと、はやての朝食でも作ろうとキッチンへと向かうのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一時間後………

 

 

 

はやて「…なあ零君、本当になんもあらへんの?」

 

 

零「だからなんでもないと言ってるだろう?いい加減しつこいぞ…」

 

 

はやて「むぅ…せやけど、零君いつもそうやって隠し事するやんか。ほら、昔も良く体調不良を隠して任務を……」

 

 

零「…昔は昔…今は今だ。お前が気にする事じゃない…」

 

 

はやて「む~……」

 

 

先程からそっけなく返してくる零にはやては若干ジト目で睨みながら唸る。どうやらはやては先程部屋から出ていた時の零の様子が気になってるらしく、はやてのその様子を見た零は内心先程の自分に対し苛立ちを感じていた。

 

 

零「…ほら、いいから早く食って薬を飲め。まだ風邪は治ってないんだろう?」

 

 

はやて「……いやや」

 

 

零「は?」

 

 

はやて「私の質問に答えてくれへんなら何も食べへん…薬も飲まへんよ」

 

 

零「……お前なぁ…�」

 

 

ツーンと口先を尖らせながらそっぽを向くはやてに頭を抱える零。流石に料理と薬を口にしてくれないのは困る。もしもそれで風邪が悪化などしてしまえば自分の責任になってしまうからだ。それだけは絶対に避けなければならない……

 

 

零「……はやて、頼むからワガママは止めてくれ…�風邪が悪化したら、後から困るのはお前なんだぞ?」

 

 

はやて「ふーんだ…」

 

 

零「………�」

 

 

聞く耳を持たないとはこの事だろうか。全く言う事を聞こうとしないはやてに零は疲れたように溜め息を吐くと、何処からか一冊の本を取り出しそれに目を通していく。そして……

 

 

零「…………仕方ないな…こんなやり方はしたくなかったんだが……これもお前の為だ」

 

 

はやて「…へ?―ガバァッ!―Σひょわぁっ?!」

 

 

意味深な発言を口にする零にはやては思わず顔を向けてしまうが、その時なんと零がはやてを押し倒してしまったのだ。

 

 

はやて「な、なっ?!//い、いきなり何すんの零君?!//」

 

 

零「決まってるだろ?飯を食わせて、薬を飲ませる。また風邪なんか引いたりしたらどうする気だ…」

 

 

はやて「そ、そんなん言われたって…///って!ち、近い近い!零君顔が近いて!!?�////」

 

 

真剣な目付きで顔を近づけてくる零にはやては耳まで顔を真っ赤にし、目を合わせる事すら出来ない状態となっている。だが今の状況を良く考えてみよう?今零は顔を真っ赤にしたはやてをベッドに押し倒しており、しかも押し倒したショックのせいかはやての着てるパジャマが乱れて若干肩の部分が見え、下着も少し見えている。もしこんな状況を誰かに見られでもしたら……

 

 

―ガチャッ―

 

 

なのは「はやてちゃーん!お見舞いに来た………よ………」

 

 

フェイト「はやて大丈夫?具合はど…………う……」

 

 

はやて「……あっ//」

 

 

零「……ん?」

 

 

―ドサドサドサッ……―

 

 

不意に現れた高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。だがはやてを押し倒す零と零に押し倒され服が乱れてるはやてを見て固まってしまい、その手に持っていたお見舞いの品を落としていく。

 

 

なのは「…れ、零…くん?」

 

 

フェイト「な、なに…してるのかな…一体?」

 

 

あからさまに分かるぐらいの動揺と怒りで問い掛けてくる二人。いつもの彼女達なら言い訳も聞かず直ぐに零へと制裁するのであるが、なんとか冷静を保ち問い掛ける。こうして怒りを抑えて話しを聞こうとしてる辺り、祐輔や智大の世界のフェイトからのアドバイスが効いているのであろう。だが……

 

 

零「?なにをしてるって…見れば分かるだろ?はやてを押し倒してるんだ」

 

 

―…ブチィッ!!―

 

 

……この男の紛らわしい発言のせいで、それも無駄に終わるのであった……

 

 

―ガシィッ!―

 

 

零「…え?」

 

 

なのは「にゃはは♪そうだよねぇ♪わざわざ聞く必要なんてなかったよね~♪」

 

 

フェイト「うん♪聞くだけ無駄だったみたいだね♪」

 

 

零「え……え……?な、何で二人共怒ってるんだ?俺はなにもしてないぞ!?俺はただはやてに風邪薬を…ちょ、何故!?なん―――!?」

 

 

―バタンッ!!―

 

 

……結局、毎度の事ながら阿修羅を浮かべるなのは達によって連れ出され、この数十分後に彼の悲鳴が写真館の中に響き渡るのは言うまでもない。

 

 

はやて「………はぁ…せやけどまさか、零君があんな大胆な事するやなんて…//だけどちょっと惜しかったなぁ…//なのはちゃん達が来なければ…今ごろ…///」

 

 

そんな彼が血祭りに上げられてる一方で、はやては零に押し倒された時のことを思い出しながら自分の身体を両手で抱きしめ、顔を真っ赤にしてプルプル震えたり、ボーっとしたりしながら自分の世界に入り込んでいた。

 

 

 

 

因みに先程零が読んでいた本……『アテナ&ノア特製の女性攻略マニュアル』が部屋の片隅に放置されていたのを、この時はやては気付いていなかった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界①

 

 

阿修羅と化したなのは達の制裁を受けてから一時間後、何とか誤解を解いて許してもらった零は守護騎士達にはやての事を任せ、この世界のライダーを調べる為にこの世界のミッドチルダへと訪れていた。そして光写真館を出た零は優矢達と二手に別れ、現在なのはを連れて情報収集の為に街を歩いていた。

 

 

零「成る程な。この世界のライダーも別世界のミッドチルダで戦ってるってワケか」

 

 

なのは「みたいだね…でも何処にいるんだろう?この世界のライダーのホルスって」

 

 

零「さあな…今回はあまり手掛かりもないし、取りあえず最近起きた事件とか調べてみた方がいいだろう」

 

 

なのは「そうだね。じゃあまず…その辺りにある売店の雑誌とか見てみようか?」

 

 

零「……そうだな、そっちの方が人に聞くより詳しく分かるだろう」

 

 

街中を歩きながら零となのははこの世界のライダーであるホルスや何か変わった事件が起きてないか調べる為、その辺の売店で売ってある雑誌や新聞などを買い近くのベンチに座りながら暫くそれらを読んでいく。だが……

 

 

零「…………………ッ?!な、なんだ……これ……」

 

 

なのは「…これって…どういう事……?」

 

 

雑誌と新聞に目を通した零となのはは其処に書かれていた見出しを目にし、我が目を疑った。新聞や雑誌に書かれている記事……それは、この世界のライダーであるホルスが次元犯罪者として指名手配されているという内容だったのだ。

 

 

零「…どういう事だ…何でこの世界のライダーが次元犯罪者なんて……」

 

 

なのは「こっちも…これも……ぜ、全部ホルスが指名手配されてる内容ばっかりだよ?!」

 

 

新聞に載ったホルスの写真を険しげに見つめる零の隣で、なのはは残った雑誌や新聞などからホルスに関係する記事を見付けていく。しかし、どれだけ調べても新聞や雑誌に載ってるのはホルスが指名手配されてる記事とホルスが今まで犯した犯罪経歴などしかない。しかも、ホルスが今まで行ってきた罪歴も全て、真っ当な人間が出来るとは思えないモノばかりであった。

 

 

零「ッ…何の冗談だこれは…この世界のライダーが、本当にこんな事をしてるのか…?」

 

 

なのは「こ、こっちなんてもっと酷いよ……管理局が保有してた研究施設を襲撃した上に研究員達を一人残らず殺害した……って」

 

 

零「ああ、こっちにもそれと似たような記事が載ってる…しかも十や二十なんて数じゃないぞコレはっ…」

 

 

次々に出てくるホルスの犯してきた非道な罪歴に二人は渋い表情を浮かべ、遂にはソレを見ることすら耐え切れず零は新聞をベンチに叩き付けるように置き顔を俯かせてしまう。

 

 

零「ッ…一体何なんだこの世界は…今まで旅してきたライダーの世界とあまりにも質が違いすぎるっ…」

 

 

なのは「うん…ライダーが人殺しなんて…どう考えても可笑しいよっ…」

 

 

今まで旅して出会ってきたライダー達と余りにもギャップが違いすぎるこの世界のライダーに、二人は戸惑いを隠せずにいた。一行が出会ってきたライダー達はどれも人を守る為に戦っていたのに、ホルスはその力で数え切れない人達を殺しているというのだから無理もないだろう。そして暫くそうしてると、零は険しげな表情のまま静かにベンチから立ち上がっていく。

 

 

なのは「…?零君?」

 

 

零「…もう少し、ホルスについて調べてみた方がいいかもしれない。この記事に載ってる事が全部真実とは限らないしな……いくぞ」

 

 

なのは「え?…ちょ?!ま、待ってよ零君?!�」

 

 

此処に載ってる情報が全て真実とは限らない。そう考えた零はもう少しホルスについて調べてみようとその場から歩き出し、それを見てなのはは慌ててベンチから立ち上がり小走りで零の後を追っていく。そんな時だった……

 

 

 

 

―キイィィィィィン!キイィィィィィィン!―

 

 

 

 

なのは「……え?」

 

 

零「…ッ!」

 

 

突然二人の耳に聞き覚えのある金切音が届き、それを聞いた二人は思わず辺りを見渡していく。

 

 

 

 

―キイィィィィィン!キイィィィィィィン!―

 

 

 

 

なのは「この音は……ッ?!れ、零君!まさかこれって?!」

 

 

零「ッ…ああ、間違いない!龍騎の世界で聞いたのと同じ奴だっ!」

 

 

そう、二人が耳にしたその音の正体とは、以前一行が訪れた龍騎の世界で聞いたのと同じ鏡の世界・ミラーワールドから聞こえてくる金切音だったのだ。そしてその音の正体にすぐに気付いた二人は一度顔を見合わせて頷き、それが聞こえてくる近くの路地裏へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―クラナガン・路地裏―

 

 

一方その頃、二人が向かった薄暗い路地裏では一人の女性が複数の同じ姿をした怪人達…シアゴースト達に囲まれ襲われ掛けていた。

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

「い、いや!来ないで!!」

 

 

女性は恐怖で怯えた表情で必死に叫びながら後退りしていくが、シアゴースト達は関係ないと言わんばかりに口を開きながら女性を喰らおうと迫っていき、遂に女性を捕食しようと動き出した。その時……

 

 

「デェアァッ!」

 

 

―ドゴォッ!!―

 

 

『ウオォッ!?』

 

 

「……え?」

 

 

突然横から飛び出してきた青年が勢いをつけた蹴りをシアゴーストに食らわし、吹っ飛ばしていったのだ。そして女性が突然目の前に現れた青年…零を見て唖然とする中、零と共に駆け付けたなのはがその場に現れ女性の下に駆け寄っていく。

 

 

零「何とか間に合ったか…アンタ、大丈夫か?」

 

 

「は、はい…あの、貴方達は?」

 

 

なのは「ごめんなさい、今は事情を説明してる暇はないの。とにかく、今は早く此処から離れて!」

 

 

「わ、分かりました!あの…助けて頂いて、本当に有り難うございます!」

 

 

女性は零となのはに向けて頭を下げて礼を言うとすぐに街の方へと逃げていき、それを確認したなのはは零の隣に立ちシアゴースト達と対峙していく。

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

零「チッ…流石にあれだけじゃ大人しく帰ってはくれないか」

 

 

なのは「零君、この怪人達って、もしかしてっ…!」

 

 

零「ああ、間違いないな。コイツ等はミラーワールドの『ウェアッ!』クッ!」

 

 

シアゴースト達を警戒しながら質問して来たなのはに何かを言いかけた零だが、その時シアゴースト達が一斉に二人へと飛び掛かり、二人はそれを避けると零はディケイドライバーを取り出していく。

 

 

零「チッ!取りあえず今はコイツ等を叩く方が先だ!いくぞなのは!」

 

 

なのは「ッ!うん!」

 

 

『RIDER SOUL TRANS!』

 

 

零は襲い来るシアゴーストを足蹴で吹っ飛ばしながらディケイドライバーを腰に巻いてライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、なのはもKウォッチを操作して腰にトランスドライバーを出現させ、ライドブッカーからトランスのカードを取り出していく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

カードをバックルにセットしてスライドさせると二人はディケイドとトランスへと変身し、変身を完了したディケイドは直ぐにライドブッカーから一枚カードを取り出し構えていく。

 

 

ディケイド『さあて、蒼翼天魔の力を見せてやるか…変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:EXE!』

 

 

そう言いながらディケイドがバックルにカードを装填すると電子音声が響き、それと共に奇妙なメロディーが流れるとDエクスに変身していく。そしてDエクスは軽く両手を払った後再びライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:CALIBURN!』

 

 

電子音声が響くとエクスの左手に黄金の鞘とその鞘に収まった一本の剣、エクスの武器であるアヴァロンとカリバーンが現れDエクスはアヴァロンからカリバーンを引き抜きシアゴースト達に切っ先を向けていく。

 

 

Dエクス『さて、それじゃさっさと終わらせてもらうぞ………フッ!』

 

 

―フッ……ズババババババババババババァッ!!―

 

 

『ウェアァッ?!』

 

 

Dエクスはカリバーンを構えながらそう言った瞬間、一瞬でシアゴースト達の懐に入ってカリバーンを素早く振るいシアゴースト達の十体近くを一撃で撃破していった。そしてトランスもシアゴーストの攻撃を退けながらライドブッカーからカードを取り出し、トランスドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

トランス『シグナムさん、力を借りるよ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:SHEVALIER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にトランスの身体が炎に包まれていき、炎が晴れるとトランスは紅いアーマーを纏った戦士、宗介の世界のシグナムが変身するシュバリエへと変わっていったのである。そしてTシュバリエはライドブッカーから更に一枚カードを取り出し、トランスドライバーに投げ入れスライドさせる。

 

 

『ATTACKRIDE:LAEVATEIN!』

 

 

再び電子音声が鳴り響くとTシュバリエは腰の後ろに手を回し其処から一本の剣、シュバリエの武器であるレーバテインを取り出し、シアゴースト達に向けてそれを構え刃に炎を纏わせていく。

 

 

Tシュバリエ『これはちょっと効くよ?ヤアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァアンッ!!―

 

 

『ウオォッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

Tシュバリエはレーバテインを横殴りに振るい刃から炎の斬撃波を撃ち出し、それの直撃を受けたシアゴースト達の大半は炎に包まれながら爆発を起こし散っていった。そしてDエクスとTシュバリエは最後の攻撃に入ろうとシアゴースト達から離れ、それぞれ一枚ずつカードを取り出しドライバーへと装填していった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EXE!』

 

『FINALATTACKRIDE:SH・SH・SH・SHEVALIER!』

 

 

電子音声が響くとDエクスはカリバーンをアヴァロンに納めてエクスカリバーに変えていき、Tシュバリエもレーバテインの刃に炎を纏わせ力を溜めていく。そして……

 

 

Dエクス『エクスッ…カリバアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

Tシュバリエ『奥義!爆竜一閃ッ!!』

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ウ、ウェアッ!?』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!ドガアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

DエクスとTシュバリエの必殺技、エクスカリバーと爆竜一閃が見事に炸裂し、シアゴースト達は黄金と炎の閃光に飲み込まれ跡形も残さず消滅していったのであった。そしてそれを確認したDエクスとTシュバリエも構えを解きディケイドとトランスに戻っていく。

 

 

ディケイド『漸く片付いたか』

 

 

トランス『…ねえ、さっきのって確か龍騎の世界のモンスターだよね?零君』

 

 

ディケイド『あぁ、どうやらこの世界にいるライダーは龍騎の世界と同様、ミラーライダーの世界みたいだな…』

 

 

トランス『…そうなんだ』

 

 

先程戦ったシアゴースト達の事を思い出しながらディケイドはトランスに頷いて返し、それを見たトランスはシアゴースト達が爆発して散った場所を見つめながら納得したように呟く。そして二人は取りあえず先程中断したホルスの情報収集を再開しなければと思い、変身を解除して戻り路地裏を抜けて街に戻っていくと……

 

 

なのは「………あれ?」

 

 

零「…?どうしたなのは?」

 

 

なのは「……う、ううん!何でもないよ!気にしないで!�」

 

 

零「?」

 

 

急に立ち止まったかと思えばすぐに両手を振りながら何でもないと告げたなのはに零は思わず首を傾げてしまうが、本人が何でもないと言ってるのだから大丈夫だろうと思い気にせず先に進んでいく。そしてそんな零を見たなのははホッと一息吐くと、先程自分が見た方向に目を向け何かを探すかのように行き交じる人々の顔を見ていく。

 

 

なのは(……さっき、あの辺りにヴィヴィオとリインフォースさんに似た女の人がいたような気がしたんだけど……それに、なんだか私にそっくりな女の人もいたような……やっぱり気のせいかな?)

 

 

なのははそんな疑問を考えながら怪訝な表情を浮かべていき、やはり自分の見間違いだったのだろうと思い零の後を追っていったのであった。そしてその端では……

 

 

「―――あぁ~もう!一体何処にいんのよ?!その世界の破壊者って奴は!!」

 

 

「う~ん、此処まで来るのにそれっぽい奴なんて見つからなかったしね…」

 

 

「…お二人共、やはり此処は帰った方がよろしいのでは?」

 

 

「うん、あんな怪しい男の人の言葉を鵜呑みにするのはやっぱり危険じゃないかなぁ……」

 

 

「冗談!こっちはあの泥棒猫のせいでストレス溜まりまくってんのよ!?せっかくストレスの捌け口を見付けたんだから、その世界の破壊者って奴をぶちのめさないと気が済まないわ!」

 

 

「うん、私もセリア姉さんに賛成ー!」

 

 

(…何だか…世界の破壊者とやらが気の毒に思えてきましたね……)

 

 

(ア、アハハ……�)

 

 

零となのはから離れた所にあるベンチ。其処に座っていた黒髪の女性と金髪の女性は険しげな表情をしながらベンチから立ち上がって何処かへと向かっていき、その二人の付き添いと思われる二人の女性も若干苦笑しながら黒髪の女性と金髪の女性の後を追っていくのであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界②

 

それから約二時間後、ある程度この世界について情報を集めた零達は一旦写真館へと戻り、それぞれが集めた情報を交換しながら話をしていた。だが……

 

 

零「…如何やら、この世界のライダーであるホルスが犯罪者である事は間違いないようだな」

 

 

フェイト「ッ…一体何を考えているの!?この世界のライダーは!?」

 

 

ヴィータ「確かにな……幾らなんでもこれは酷過ぎだぜっ…」

 

 

なのは「うん、数百人以上の人を殺してるなんて酷過ぎるよ!」

 

 

それぞれが集めてきた情報を交換しながらなのは達はこの世界のライダーであるホルスに対し怒りを覚えていた。

最初の頃は何かの間違いでホルスが犯罪者にされてるのではないかと思いホルスの情報を徹底的に探していた一同であったが、見つかったのはやはりホルスが数百を超える人間を殺害したというものばかりであり、その情報がすべて事実だと知ったなのは達はホルスに対し怒りを押さえ込む事が出来ないでいたのだ。だがそんな中で、ティアナだけは冷静に自分が調べた情報を皆に話していく。

 

 

ティアナ「…それについてなんですけど、どうも様子がおかしいんですよ」

 

 

スバル「え?おかしいって、何がなのティア?」

 

 

ティアナ「この世界の六課についてよ……この世界の私達は何度かホルスと接触してるみたいなんですが、そのホルスを捕まえる素振りすらしていないらしいんですよ。それに私達の世界とは決定的に違う所が在るんです……居ないんですよ、この世界の六課にフェイトさんが」

 

 

『…ッ!?』

 

 

難しげな表情で告げたティアナの言葉に零達は驚愕してしまう。それもそのはずだろう。自分達の世界では当たり前だが、祐輔の世界や稟の世界、滝の世界などの平行世界にある機動六課にはどれもフェイトは所属している。だがこの世界のフェイトは親友である筈のなのはやはやてがいる六課に所属してないとだと言うのだから当然の反応だ。

 

 

フェイト「……ティアナ、それ本当なの?この世界の私が六課に居ないって言うのは?」

 

 

ティアナ「はい、間違いありません。私も最初は信じられなくて何度も調べましたから」

 

 

なのは「……どう言う事なの?フェイトちゃんが六課にいない上に、この世界の私達が犯罪者を捕まえようとしないなんて……」

 

 

零「……さあな。それについてはまだ分からないが、今は先ずホルスを探してみるのが一番だろ。事の真相は全てホルスが知っている筈だからな」

 

 

フェイト「…うん…そうだね。先ずはホルスを探そうか」

 

 

このまま此処でこうしていても仕方ない。そう思った零は全ての真相を知ってると思われるホルスを探す事を提案し、なのは達もそれに同意すると一行は写真館を出て再び街へと飛び出していくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

それから数十分後、ホルスを探して写真館を出た零は優矢とヴィヴィオとチンク達と別行動を取り、帽子を深く被ったなのはとフェイトを連れて街中を歩き情報を集めていた。だがどんなに探し回っても大した情報は何も得られず、三人は疲れた表情を浮かべて一休みしていた。

 

 

零「…駄目だな。ホルスの情報は愚か、この世界のフェイトの所在すら全く分からない」

 

 

フェイト「そうだね…」

 

 

なのは「でも、どう言う事だろう?ホルスの情報はともかく、フェイトちゃんの情報まで分からないなんて…」

 

 

零「全く、今までの世界と勝手が違うからどうもやり難いな…どうしたものか…」

 

 

ホルスは愚か、この世界のフェイトの情報すら見付からず零達は途方に暮れてしまい、これからどうしようかと街中を行き交じる人達をぼんやり見つめていた。そんな時……

 

 

「――随分と困ってるようじゃないか、零?」

 

 

『…ッ?!』

 

 

背後から突然聞き覚えのある声が聞こえ、三人はそれを聞くと慌てて意識を戻し背後へと振り返っていく。其処にいたのは……

 

 

大輝「やぁ零、それになのはさんとフェイトさんも」

 

 

零「ッ?!お前…海道?!何でこの世界に居るんだ?!」

 

 

そう、其処にいたのはポケットに手を入れながら三人にいつもの爽やかな笑みを向ける海道大輝だったのだ。突然現れた大輝に零達は驚愕して思わず問い掛けるが大輝は笑みを浮かべたまま告げる。

 

 

大輝「ふふふ、簡単さ。この世界には最高のお宝が在る…そのお宝は他の君達に似た世界では既に失われているのさ。だから俺は必ずそれを手に入れる!」

 

 

零「また泥棒か?そんな事を許すと思っているのか!」

 

 

ただでさえまだこの世界について分からない事だらけなのに、これ以上場を引っ掻き回されるわけにはいかない。そう思った零はポケットからディケイドライバーを取り出し変身しようとするが大輝は笑みを止めずに零に告げる。

 

 

大輝「そんなに戦いたいならこっちは構わないけど、俺なんかを相手にしてて良いのかな?そのお宝は君の娘を殺せる物だぞ?」

 

 

零「…っ?!」

 

 

なのは「娘って……まさかヴィヴィオ!?」

 

 

フェイト「そんな…在り得ないよ!?ヴィヴィオには聖王の鎧があるんだよ!?」

 

 

大輝「簡単さ、そのお宝は聖王の鎧を無効化することが出来るんだよ。何せ、そのお宝は"聖王を断罪する為に作られた物"だからね」

 

 

『ッ!!?』

 

 

大輝の告げた衝撃的な事実に零達は驚愕してしまう。まさかあの聖王の鎧を無効化出来る上に、聖王を殺す事まで出来る物が存在していたとは思っても見なかったからだ。その事実に驚愕する零達を見た大輝は怪しげに微笑むと、更に言葉を続ける。

 

 

大輝「そして、そのお宝は現在はホルスが所持しているそうだ。この世界に生まれた…"二人の聖王"を殺す為にね」

 

 

零「っ?!な、何だと?!」

 

 

なのは「この世界の聖王が二人いる?!それってどう言う事なの?!」

 

 

大輝「さあね?其処までは知らないけど、分かっているのはホルスが聖王を殺そうしていると言う事だけだ。そして今、君の娘は桜川君達と一緒に街を探索している……もしホルスに見付かったらどうなるかな?」

 

 

零「ッ!?」

 

 

大輝「しっかりと娘をホルスから護るんだな、零」

 

 

大輝は零達に指鉄砲を向けながら告げると歪みの壁の中に姿を消してしまった。そしてそれを見た零は険しげな表情を浮かべながらなのは達と顔を見合わせる。

 

 

零「クソッ!なのは!フェイト!二手に別れてヴィヴィオを探すぞ!絶対にホルスから護るんだ!」

 

 

なのは「う、うん!!」

 

 

フェイト「うん!急ごう!?」

 

 

三人はそう叫び合うとなのはとフェイトはすぐにヴィヴィオを探す為に街に向かって走り出し、零は近くの鏡の前に立ちディケイドライバーを装着してカードを取り出していく。

 

 

零「ヴィヴィオッ…待ってろよ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身し、更にライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:RYUKI!』

 

 

電子音声と共にディケイドはD龍騎へと変身し、すぐに鏡の中に飛び込みミラーワールドへ入るとヴィヴィオを探しに向かった。そしてそれを影に隠れて見ていた大輝は寄り笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

大輝「計画通りだ…流石にホルスが相手となると俺でもやばいからね。零、しっかりとホルスを疲弊させてくれよ?そして俺はその隙にホルスからあのカードを奪って俺の物にしてやるさ……"聖王の剣"をね」

 

 

大輝はそう呟くと再び歪みの壁に飲み込まれ何処かへと消えてしまったのであった。果たして、大輝が狙う聖王の剣とは一体……?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―クラナガン・ミラーワールド内―

 

 

D龍騎『ハァ……ハァ……クソッ!何処だっ…何処にいるだヴィヴィオ!?』

 

 

ミラーワールドに侵入したD龍騎は鏡の中のクラナガンの街中を駆けながらヴィヴィオの姿を探していた。ミラーワールドの中からならなんの障害もなく自由に動き回ってヴィヴィオ達を探せるが、やはりそう簡単に見つける事は出来ない。

 

 

D龍騎『ハァ、ハァ…聖王を…ヴィヴィオを、殺す?…ふざけるな…ふざけるなよホルスッ!!』

 

 

だが、それでもD龍騎は諦める事なくヴィヴィオの姿を探していく。彼が此処まで焦っているのも、やはり自分の娘が危機に陥ているという事もあると思うが、それだけではない。

 

 

D龍騎『殺させてたまるか……失ってたまるか……そんな事……二度とっ!』

 

 

ヴィヴィオを探して街の中を疾走しながら、D龍騎の脳裏に様々な映像が流れ出ていた。

 

 

救いたいと強く願い、それでも結局は救うことが出来なかったアリシアとリインフォース。

 

 

数年前に傍にいておきながら守れず、重傷の怪我を負わせてしまったなのは。

 

 

その一年後に、自分の無茶のせいで涙を流させてしまった少女達。そして……

 

 

 

 

『零♪』

 

 

 

 

……優しげな声で自分の名を呼ぶ銀髪の少女。何故かは分からないが、その少女の声を聞くだけで彼の中で渦巻く不安は更に大きくなり、余計に彼を焦り立たせていく。

 

 

D龍騎『クッ……ヴィヴィオ!何処だ!何処にいるんだ!?ヴィヴィオッ!!』

 

 

その不安に押し潰されてしまいそうになり、D龍騎は不安を吹き飛ばすかの様にヴィヴィオの名を叫びながら辺りを駆け回っていく。だがその時……

 

 

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ…』

 

 

―バッ!バッ!バッ!―

 

 

D龍騎『…ッ?!何?!』

 

 

突如D龍騎の目の前にシアゴーストの大群がぞろぞろと現れ立ち塞がり、それを見たD龍騎はすぐに足を止めて立ち止まった。

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ…』

 

 

D龍騎『チィッ!邪魔するな!こっちは先を急いでるんだ!』

 

 

群がるシアゴーストの大群を見てD龍騎は舌打ちしながらすぐにライドブッカーから一枚のカードを出し、ディケイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:ADVENT!』

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!!』

 

 

―ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドオォンッ!!―

 

 

『ウオォッ!?』

 

 

電子音声と共にD龍騎の上空から紅蓮の龍……ドラグレッターが口から火球弾を放ちながら現れ、火球球を受けたシアゴーストの大半は爆発を起こしながら消滅していき、D龍騎は残ったシアゴーストの大群に一気にトドメを刺そうとライドブッカーから再びカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:RYU・RYU・RYU・RYUKI!』

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!!』

 

 

D龍騎『フッ!ハアァァァァァァァァァ………』

 

 

電子音声が響くと同時にD龍騎は中国拳法の様な構えを取りながら態勢を低くしていく。そしてドラグレッターと共に高く跳ぶと上空で態勢を変えてキック態勢に入り、ドラグレッダーは背後から火炎弾を撃ち出しD龍騎のキックを更に勢い付けていった。

 

 

D龍騎『ハアァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!』

 

 

―ドグオォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウエアァッ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

D龍騎の必殺技、ドラゴンライダーキックを受けたシアゴーストの大群は断末魔を上げる間もなく爆発して完全に消滅していったのであった。そしてそれを見たD龍騎は若干ふらつきながら歩き出すが、すぐにその場に膝を付いてしまう。

 

 

D龍騎『ハァ…ハァ…ハァ…クソッ…いきなり飛ばし過ぎたかっ………ん?』

 

 

肩で息をしながらなんとか立ち上がったD龍騎だが、その時目の前にある建物の窓を見て思わず動きを止めた。目の前の鏡……それには見慣れた黒い戦士と赤い戦士…ナンバーズとクウガの姿が映っていたのだ。

 

 

D龍騎『ッ!ヴィヴィオ!良かった、まだ無事だった……ッ?!』

 

 

ナンバーズの姿を確認したD龍騎はホッと一息吐きながら鏡に近づいていくが、其処である事に気付き目を見開いていく。ナンバーズとクウガの近くにもう一人の戦士…銀と緑のボディを持った仮面ライダーがいたのだ。そのライダーは……

 

 

D龍騎『あれは……ッ!?ホルス!?』

 

 

そう、そのライダーの正体はこの世界の仮面ライダーであり聖王を殺そうと動いているライダー『ホルス』だったのだ。それに気付いたD龍騎は思わず後退りしてしまうが、その間にホルスはナンバーズとクウガに歩み寄っていき、それを見たD龍騎は直ぐさま鏡を抜けてディケイドへと戻るとライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ホルス『ッ!?何!?』

 

 

ナンバーズ『パパ?!』

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァァァーーーーーッ!!』

 

 

電子音声と共にホルスに向かってディメンジョンフィールドが展開され、ディケイドはホルスに向かって跳び蹴りを放っていく。が、それを見たホルスは瞬時にベルトのデッキからカードを取り出し槍のような武器にセットする。

 

 

『FREEZE VENT!』

 

 

―パキイィィィィィインッ!!―

 

 

ディケイド『チッ!無効化されたか!』

 

 

電子音声が響くとディケイドの前に展開されたディメンジョンフィールドが消失し、必殺技を不発に終わらされたディケイドは舌打ちしながら着地する。そしてそれを見たホルスは疑問そうにディケイドへと問い掛ける。

 

 

ホルス『いきなり攻撃される覚えは無いのだがなディケイド?』

 

 

ディケイド『…そっちには無くてもこっちに在るんだよ、ホルス』

 

 

ホルス『む?私と貴様が会うのは今日が初めてのはずだが?』

 

 

ディケイド『ああ、確かにそうだな。だがな…こっちはお前が俺の娘を殺そうとしてるんだって聞いてるんだよ』

 

 

ホルス『なに?お前の娘をだと?何故私がそんな事をしなくてはならない?』

 

 

ディケイド『何故だと…?お前はこの世界の聖王達を殺そうとしているんだろう!!』

 

 

ホルス『ッ!!?』

 

 

ディケイドは怒りを込めてホルスに向けて叫び、それを聞いたホルスは一瞬息を拒みながら驚愕の表情を浮かべてしまう。

 

 

ホルス『私があの二人を殺すだと!?誰だ!そんな嘘を言ったのは!?』

 

 

ディケイド『嘘だと?なら何故お前は聖王を殺せる物なんて所持しているんだ!』

 

 

ナンバーズ『え?私を殺せる物?』

 

 

ディケイドとホルスの会話をクウガの隣で聞いていたナンバーズは首を傾げながら疑問の声を漏らすと、ナンバーズとクウガの背後になのはとフェイトが現れてナンバーズに叫ぶ。

 

 

なのは「そうだよヴィヴィオ!早くそいつから離れて!!」

 

 

フェイト「そいつはこの世界の聖王を殺す為に聖王を殺せる物を手に入れているんだよ!!」

 

 

ナンバーズ『えっ?でもさっき……』

 

 

クウガ『お、おい、それって本当なのか?』

 

 

なのはとフェイトから聞かされた話を聞くとナンバーズとクウガはそれが本当なのか確かめようとホルスに問い掛けるが、ディケイドは気にせずにライドブッカーをSモードに展開し切っ先をホルスに向けていく。

 

 

ディケイド『聖王を殺せる物とやら渡せ……そいつは俺が破壊する!』

 

 

ホルス『ッ!?アレを破壊するだと!?させん!絶対にさせんぞ!!』

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

聖王を殺せる物を破壊すると告げるディケイドの言葉を聞いたホルスは怒りの表情を浮かべながらカードを槍のような武器…ファルバイザーにベントインすると電子音声が響き、それと共に鏡からドラグセイバーが飛び出しホルスの手に握られディケイドに構える。そして其れを見たディケイドはすぐさまライドブッカーから一枚カードを取り出しディケイドライバーに装填していく。

 

 

ディケイド『そっちがその気なら…こっちも本気でいくぞ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:SKEITH!』

 

 

電子音声が鳴り響くとディケイドの身体に紋様が浮かび上がり、ハ長調ラ音と共にディケイドの身体全体が歪んでいく。そして歪みが晴れていくとディケイドは怪しく光る赤い三つの目を持った黒い異形のライダー……以前一行が訪れたスケィスの世界でハセヲが変身したスケィスに変わったのであった。そして変身を完了したDスケィスはライドブッカーを構え、ホルスもドラグセイバーを構えながら立ち回り、そして……

 

 

 

 

Dスケィス『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ホルス『オォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィン!!―

 

 

互いに同時に走り出し剣と剣をぶつけ合い戦闘を開始したのであった。

 

 

 



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番外編/染まる闇・消えた光

 

 

 

―――俺はずっと…分かったつもりでいて、まったく分かっていなかったのかもしれない。

 

どんなに向き合っても、向き合いきれてないものがある。

 

どんなに逃げても、逃げ切れないものがある。

 

それは恐らく、俺の…いや…俺達のソレを示しているのだと思う。

 

どんなに逃げても…どんな方法で忘れようとも…俺達の罪が一生消える事はない。

 

そうだろう………レイ?

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

――――地獄。

 

今の状況を表すならそれが一番当て嵌まるだろう。

 

辺り一面に燃え上がる炎の壁…

 

炎で崩れ落ちた建物達…

 

焼け焦げた黒い肉片達…

 

そんな異常窮まりない光景の中に悠然と立つ、黒いフードの男…

 

その男の手の中には、この世界のライダーの絵柄が描かれたカードが握られていた。

 

 

「――この世界のライダーも……この世界も……これで終わりか」

 

 

回りに広がる異常な光景にすらどうでもいいといったように興味も向けず、ただ手の中にあるカードだけを見つめて淡々と語る。

 

そしてそのカードを左腰のホルダーに仕舞うと、地面に転がる遺体すら踏み付け何処かへ歩き出していく。

 

 

 

 

「―――…人殺し!!!」

 

 

 

 

「………………」

 

 

後ろから響き渡った幼い声。

 

その声に応えるかのように彼はゆっくりと背後に振り返っていく。

 

振り返った先にいたのは、両手で一回り大きい鉄の棒を握り締めてこちらを睨みつける、ボロボロになった服を着た幼い少年。

 

こちらを見つめるその少年の瞳は…深い怒りと憎しみで染まりきっていた。

 

 

「ッ…お前が…お前が殺したんだっ!!父さんを…母さんを……マユをっ!!」

 

 

「………………」

 

 

「なんでだよっ……なんでマユ達が死なないといけなかったんだよっ!!なにもしていないのにっ…なにも悪いコトなんてしてないのにっ……なんでマユ達が死ななくちゃいけなかったんだっ!!」

 

 

泣きながら、ボロボロの身体で棒を引きずりながら彼へと近づいていく。

 

だが、そんな少年の姿にすら何も感じていないのか

 

彼はただ無機質な瞳で少年を見つめながら告げる。

 

 

「……それがどうした?」

 

 

「……え?」

 

 

「俺の目的は最初からこの世界のライダーだけだ……この世界の人間達が、お前の家族がどうなろうと俺の知った事ではない……」

 

 

「…知った…事じゃない?」

 

 

自分の家族の死なんて知ったコトではない。

 

無機質に告げられたその言葉に、少年は無意識に手に持つ得物を強く握った。

 

 

「…マユは…マユは今日…誕生日だったんだぞ?今日でマユは…七歳になるはずだったんだぞ?」

 

 

「………………」

 

 

「母さんと一緒にケーキを作って……父さんと一緒にプレゼントを買って……アイツを驚かそうと頑張ったんだ……父さんと母さんと一緒に、誕生日おめでとうって……アイツに言おうと思って「だからなんだ?」…ッ?!」

 

 

「お前の家族の死など俺には関係ない…どうでもいい話だ」

 

 

「どうでも…いい?」

 

 

「そうだ。それにこの世界の守護者であるライダーが倒れた今、遅かれ早かれこの世界も消滅する。お前の家族もこの世界の人間達も、ただそれが少し速かっただけ……たったそれだけの話だろう?」

 

 

「…あ……あぁ……あ…」

 

 

何処までも……何処までも無機質な声だった。

 

これだけの人が死んで…

 

これだけの人を殺して…

 

その張本人である彼はどうでもいいと……たった一言で片付けたのだ。

 

たったその一言…それだけで少年の理性は完全に吹き飛んだ。

 

 

「……ふざけん…なよ……返せよ……返してくれよ…父さんと母さんを……マユをっ……返せぇええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!」

 

 

気がつけば、いつの間にか駆け出していた。

 

両手で得物を振りかぶって、鼓膜を突き破るような獣染みた声で叫びながら

 

ただこの憎しみと怒りと悲しみをぶつけるために

 

目の前に立つ彼に向かって得物を振り下ろした

 

 

 

 

 

 

 

―ザシュッ……―

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

だが、振り下ろした得物はただ風を切り

 

何故か肩から右腰にかけて大きな刀傷ができて、血が流れていた

 

今、何が起きたのか分からない

 

自分の身に何が起きたのか頭が付いていけない。

 

力無く地面に倒れてく中、呆然と後ろに顔だけ向けると……

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

―――目の前にいたはずの彼が、血の付いた剣を片手に自分を見下ろしていた。

 

 

「…あっ……とう…さ……かあさ……マ……ユ……」

 

 

カランと、手に持っていた得物は虚しく地面に転がり

 

少年は家族の名を呼びながら力無く地面に倒れ、その幼き命を此処に絶ったのであった……

 

 

「……許してくれなんて言わない…恨みたければ恨めばいい…憎みたければ憎めばいい…それも全て…俺が背負っていこう」

 

 

その呟きと共に、刃についた血を払って剣を仕舞い、彼は少年の亡骸に背を向け再び歩き出した。

 

 

「……創造は破壊からしか生まれない……全てを壊す事で……また新しいモノを創る……それが、俺の存在異議……最初から……これしか道はなかったんだ…」

 

 

誰にも聞こえない、小さな呟きだった。

 

轟々と辺りに燃え盛る炎によって、その口から紡がれる言葉も全て掻き消されてしまう。

 

 

「……もう帰れない…もう戻れない…なら…何処までも堕ちていくしかない……それしかもう……俺には残されていない……」

 

 

血で染まった手の平を見下ろし、強く握り締める。

 

そして黒煙に染まった空を見上げ、緑色に輝く右目を悲しげに細めていく。

 

 

「リィル…お前が見せてくれた世界は…やっぱり俺には眩しかった…お前がくれた光も……なのは達がくれた光も……俺にはもう……見えないよ……」

 

 

全てが終焉へと消えていくこの世界で、彼はただ一人告げる。

 

そして彼は目の前に現れた歪みに飲まれて何処かへと消えていき

 

その数時間後……彼のいたその世界は光に包まれ無へと消え去っていった―――

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

――あと何度、こんな事を繰り返せばいいのだろう

 

心を棄てたつもりでも、アイツ等からもらったソレは何時までも俺の中にしがみついてくる

 

だからツライ…だから痛い

 

心が悲鳴を上げて…気を抜けばすぐ泣きそうになる

 

……だが、それでもやめるワケにはいかない

 

誓ったのだ。あの時、彼女の亡骸の前で……

 

ライダー達への復讐…それだけが、今の俺に残された道だ

 

だから全てを破壊する

 

立ち塞がる者も全て消す

 

全てを壊し、全てを創る

 

それが…俺の決めた道なのだから

 

だから必ず…お前を見つけ出してみせる、レイ

 

お前の因子を…必ずこの手に――――

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界③

 

 

―ガキイィンッ!!ガッ!ギギギギィッ…ギイィィィィィィンッ!!―

 

 

ホルス『むう!』

 

 

Dスケィス『ッ!思ったよりやるな!ハアァッ!』

 

 

戦闘を開始したDスケィスは左右上下から剣を振りかざしホルスに斬り掛かっていく。が、ホルスはドラグセイバーを巧みに扱い斬撃を全て弾き返してしまう。

 

 

ホルス『(チッ!一体何処のどいつだ!?ディケイドに偽りの情報を与えたのは!?とにかく、急いで決着を着けてこの場を離れなければ!)』

 

 

ホルスはDスケィスの斬撃を防ぎながら内心で叫んでいると、Dスケィスはこのまま斬り合っていても埓が明かないと思い、ホルスから一旦距離を離すとライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーへと装填する。

 

 

『ATTACKRIDE:AKTABNE!』

 

 

電子音声が響くとDスケィスは腰の後ろに手を回し、骨のような刃を持った二本の双剣、双剣・芥骨を取り出して構えホルスに向かって駆け出した。

 

 

ホルス『ッ!双剣か!』

 

 

Dスケィス『ハァァァァァァァァァァァァッ!!疾風滅双刃ッ!!』

 

 

―ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!ガキイィィィンッ!!!―

 

 

ホルス『ヌゥッ!?グゥッ!!』

 

 

ホルスの懐へと入り込んだDスケィスは双剣を素早くホルスへと連続で叩き込んでいき、ホルスを一瞬それに驚きながらもドラグセイバーでなんとか防いでいく。だが、連続で叩き込まれる重い一撃一撃に遂に耐え切れなくなり、ホルスはDスケィスの連撃に押し切られる前にドラグセイバーを破棄して背後へと勢いよく跳び、カードをバイザーにセットしベントインする。

 

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

ホルス『ムンッ!…流石はディケイドだな…まさかここまで手こずらせるとは思わなかったぞ』

 

 

Dスケィス『ッ…成る程、そっちも臨機応変ってコトかっ』

 

 

電子音声と共に近くの鏡から飛び出しホルスの両腕に装備された巨大な爪のような武器、タイガークローを見たDスケィスは芥骨を腰後に戻し、ライドブッカーから再びカードを取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:OOMUKADE!』

 

 

電子音声と共にDスケィスは背中に右手を回すと其処からチェーンソーの様な刃を持った巨大な大剣、大剣・大百足を取り出し、Dスケィスとホルスは同時に走り出し再び激突していく。

 

 

―ガガガガガガガガァンッ!!ガンガンガンガキイィィィィィィインッ!!―

 

 

Dスケィス『チィッ…!』

 

 

ホルス『フンッ!どうやら選び抜いた武器を誤ったようだな?それではパワーがあっても、攻撃の後の隙が大きく出るぞ!』

 

 

Dスケィス『………勘違いするなよホルス?コイツを選んだのはお前とのぶつかり合いが目的じゃない!』

 

 

ホルス『なに?』

 

 

ホルスの攻撃を弾きながら答えたDスケィスの言葉にホルスが聞き返した瞬間、Dスケィスはホルスの振りかざしたタイガークローを踏み台に利用してホルスの真上へと飛び、そのまま大百足を両手で握りながら真下にいるホルスに向かって降下していく。

 

 

ホルス『これは……まさか先程の技と同じ?!』

 

 

Dスケィス『奥義!甲冑割!!でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!』

 

 

―ガアァァァァアンッ!!ギンギンギンギンギンッ…ガシャアァァァァァアンッ!!―

 

 

上空から大百足を振り上げながら落下してくるDスケィスを見たホルスはすぐに左腕のタイガークローを盾にするように構えて攻撃に備えるが、Dスケィスは勢いよく大百足を振り下ろしホルスのタイガークローを木っ端微塵に打ち砕いた。だが……

 

 

ホルス『グゥッ!させんぞディケイドォッ!!』

 

 

Dスケィス『ッ!?』

 

 

―ガギイィィィィィインッ!!―

 

 

地面に着地したDスケィスを見たホルスは瞬時に粉々に砕け散って宙を舞う破片を抜けてもう片方のタイガークローを勢いよくDスケィスへと突き出していく。が、それに早く反応したDスケィスはすぐに大百足を引き戻して防御態勢を取りホルスの一撃を受け止め、そのままバックステップでホルスから距離を離していく。

 

 

Dスケィス『ッ…やるじゃないか…ホルス』

 

 

ホルス『貴様も……な』

 

 

そう言いながらホルスは片方のタイガークローを棄ててファルバイザーを構え、Dスケィスも大百足を構え直し相手の出方を伺いながら次の手を思考する。

 

 

Dスケィス(奴が最初に使った武器と次に使った武器は別の契約モンスターの…という事は、まだあれ以外にも契約モンスターがいる可能性がある…もし他に力を隠しているなら長期戦に持ち込むのは危険か。なら!)

 

 

ホルス(奴が変身したライダーは私の知らないライダー…つまりどんな能力と力を持っているのかも不明ということ。また先程のような想定外の力を使われてはこちらが不利になるかもしれん。ならば!)

 

 

Dスケィスとホルスは同時にブッカーとデッキから一枚ずつカードを取り出し、それぞれドライバーとバイザーにセット&ベントインしていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:S・S・S・SKEITH!』

 

『FINAL VENT!』

 

 

『全力の一撃で!一気に決める!!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと共にDスケィスの手の平に瞳のような紋様が浮かびDスケィスの腕に巻き付くように展開され、ホルスは両手に握られた二本の剣、ファルブレードを構えると鏡から飛び出した緑の鳥…ウインドファルコンがホルスの上空に現れDスケィスに向けて羽根を羽ばたかせていく。

 

 

ホルス『これで決めさせてもらうぞ…ディケイド!』

 

 

Dスケィス『いいだろう…受けて立つぞ!ホルス!』

 

 

Dスケィスはそう言うと手の平をホルスに向けてエネルギーを溜めていき、ホルスもファルブレードの刃を合わせて身を屈め、最高の一撃を互いにぶつけようと動き出した。だが……

 

 

 

 

 

 

―ドガァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!―

 

 

Dスケィス『ッ?!なっ?!』

 

 

なのは「えっ?!」

 

 

突如Dスケィスとホルスの間にあったビルが爆発して爆煙を巻き起こし、突然のソレによりDスケィスとホルスの必殺技が中断されてしまったのだ。

 

 

クウガ『な、なんなんだよこの砲撃ッ?!』

 

 

フェイト・ナンバーズ『…………何処かで見たような気がする……』

 

 

ホルス『……来てしまったか……』

 

 

突然起こった事態にクウガが驚愕しているとフェイトとナンバーズは何故か身体を震わせ、ホルスは両手で頭を抱えながら顔を俯かせていた。そして、爆発して巻き起こった爆煙の中から一人の人影……片手に杖を持った黒髪黒目の女性が姿を現していく。

 

 

「クスクス…漸く見付けたわよ世界の破壊者」

 

 

Dスケィス『なっ?!』

 

 

なのは「う、嘘?!私?!」

 

 

爆煙の中から不吉な笑みを浮かべながら出てきた女性。その女性の顔を見たDスケィスとなのはは驚愕の声を上げてしまった。何故なら…目の前に現れた女性の容姿は黒髪と黒い目以外、高町なのはと瓜二つの姿をしていたのだ。

 

 

Dスケィス『お前は…誰だ?!何故なのはと同じ姿をしている?!』

 

 

「そんなのこれから死ぬアナタには関係のないことでしょう?……でもそうね…冥土の土産として教えて上げるわ。私は神野セリア、高町なのはのクローンとして生まれた存在よ……ムカつく事にね」

 

 

フェイト「えっ?!」

 

 

なのは「わ、私の…クローン?!」

 

 

不機嫌そうに自分をなのはのクローンと告げた女性、"セリア"と名乗る女性の言葉にDスケィス達が驚愕していると、セリアはその間に腰からカードを一枚引き右手の杖…バイザーに装填していく。

 

 

セリア「それじゃあ、さようなら」

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

『モオォォォォォォォォォォォォオーーーーッ!!』

 

 

『なっ…?!』

 

 

電子音声が響くとセリアの前方に牛のような姿をした緑色のミラーモンスター、マグナギガが叫び声を上げながら姿を現し、セリアはマグナギガの背中にバイザーをセットしていく。

 

 

Dスケィス『お、おい!ちょっと待て!?』

 

 

なのは「こ、こんな街中でそんなモノ撃ったらどうなると思ってるの!?」

 

 

セリア「くすくす…なにか勘違いしているみたいね?別に私は他人がどうなろうと知った事無いわ。私は唯……ストレス解消がしたいだけなのよ!!!」

 

 

クウガ『ΣΣえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?なんですかその自分勝手な発言?!』

 

 

ドンッ!という効果音が聞こえてきそうな勢いで叫んだセリアにクウガが思わず突っ込んでしまうが、セリアはそれに構わずマグナギガの武装の照準をDスケィス達に向けていき、それを見たDスケィスは仕方ないといった顔を浮かべながらライドブッカーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

Dスケィス『仕方ないっ…ならこっちも全力で止めさせてもらうぞ!変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DEN-O!』

 

 

カードをバックルに装填し電子音声が響くとDスケィスの姿は列車の警告音と共に黒いライダースーツへと変わり、更にその上から赤いオーラアーマーとデンカメンが現れライダースーツに装着されていった。全ての変身を終えたその姿は、一行が前の世界に訪れた時に出会ったライダー…そう、電王へと変身したのだ。

 

 

セリア「ッ?!変わった?」

 

 

ホルス『あれは……電王?……よ、止せディケイド?!そいつは!!』

 

 

D電王『さあ、手始めに…コレだ』

 

 

Dスケィスの変身にセリアは一瞬驚いて動きを止め、ホルスは電王へと変身したDスケィスを見て何かを叫ぼうとするが、D電王はそれに気付かずライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填していく。

 

 

『ATTACKRIDE:ORE SANJOU!』

 

 

電子音声が鳴り響くと、D電王は一度両手を叩くように払って……

 

 

 

 

 

 

D電王『…俺、参上!!』

 

 

 

 

 

 

セリア「…………………」

 

 

『……………………』

 

 

ホルス『………………』

 

 

と、両手を大きく広げるようなポーズを取り決め台詞を叫んだのだが………それ以外には何も起きる様子はなかった。

 

 

セリア「……ねぇ、それが一体何だっていうのよ?」

 

 

D電王『…………………………あ……………いや……その………ゴホンッ!い、今のは単なる小手調べだ!次は本気でいくぞ!』

 

 

冷たい視線を送ってくるセリアにD電王は冷や汗を流しながら一度咳ばらいすると、ライドブッカーから再びカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BOKU NI TSURARETMIRU?』

 

 

電子音声が鳴り響くと今度はD電王に亀を模したデンカメンと青のオーラアーマーを装着され、電王ロッドフォームへと変わったのである。そしてフォームチェンジを終えると共にD電王はその場で華麗にターンをして……

 

 

 

 

 

 

D電王『…僕に、釣られてみる?♪』

 

 

 

 

 

 

セリア「………………」

 

 

『………………………』

 

 

ホルス『……………やってしまった……』

 

 

ホストのような恰好を取りながらキザッたしい台詞を口にしたD電王になのは達は唖然とし、セリアは苛立っているのか片眉を器用に動かし、ホルスは両手で頭を抱えていた。

 

 

セリア「……ディケイド?一応聞くけど…それは私に対する挑発と取ってもいいのかしら?�」

 

 

D電王『……い…いや……別にこれはそういう意味では…………まさか?!』

 

 

明らかに私怒っています、みたいなオーラを漂わせるセリアからの問いにD電王は若干混乱しながら答えるが、その時何かに気づいたのか慌ててライドブッカーから残りのカードを取り出してソレを確認すると……

 

 

 

 

『NAKERUDE!(泣けるで!)』

 

『KOTAEWA KITENAI!(答えは聞いてない!)』

 

『KOURIN MANWO JISHITE!(降臨 満を持して!)』

 

 

 

 

D電王『……………………………フ…フフフフフ……あんのバカ共がぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!�』

 

 

なのは「Σちょっ?!ど、どうしたの零君?!」

 

 

クウガ『お、おい落ち着けって?!どうしたんだよいきなり?!』

 

 

突然叫び出したかと思えばいきなりカード達を地面に叩きつけたD電王になのは達は一瞬ビビってしまうが、怒り狂うD電王を落ち着かせようと慌てて駆け寄っていく。だが、先程からふざけているようにしか見えないD電王にセリアは苛立ちを抑え切れずバイザーの引き金に指を掛ける。

 

 

セリア「フフフ…いい加減終わりにしましょう?このくだらない茶番を�」

 

 

クウガ『Σい、いや!ちょっと待て!?』

 

 

なのは「ま、まず話し合おうよ!?ね!?�」

 

 

セリア「さよう『止めんかこの馬鹿!』グエッ?!」

 

 

なのは達の制止の言葉も聞かずセリアは笑みを浮かべながらバイザーの引き金を引こうするが、その直前にホルスがセリアの後方に現れ頭を殴りセリアは悲鳴を上げて頭を抑えてしまう。

 

 

ホルス『馬鹿かお前は!?こんな所でエンド・オブ・ザワールドなんて放つな!!』

 

 

セリア「うっさい!唯でさえ最近撃ててないのよ!?それに破壊者を滅ぼすんだから別に良いでしょ!?」

 

 

ホルス『良い訳が在るか!それにお前の事だから、どうせ世界の為よりも自分のストレスを解消したいだけだろうが!?』

 

 

セリア「Σうっ!……そ、それは……�」

 

 

ホルスの言葉に対しセリアは言葉を詰まらせてホルスから目を逸らしていく。その瞬間……

 

 

―シュンッ!―

 

 

オーディン『遅れてすまない。他のメンバーの説得は終わったぞ』

 

 

突然ホルスとセリアの隣に金色の羽を撒き散らす黄金のライダー、龍騎の世界でも現れたオーディンが転移して現れ、オーディンは抱いていた少女を地面に下ろすとその少女はセリアに近づていく。

 

 

「セリアママ?何しているのかな?」

 

 

セリア「ラ、ラピリ!?オーディン!アンタ!?」

 

 

オーディンが連れてきた少女、"ラピリ"がジト目を向けながらセリアに言うと、セリアは驚愕してオーディンを睨むがオーディンは気にした様子もなく告げる。

 

 

オーディン『お前やヴィヴィオを抑えるのにはラピリが一番だからな。既にヴィヴィオはラピリによって説得済みだ』

 

 

ラピリ「パパをまた困らせてたんだよね?前にも言ったでしょ!パパを困らせちゃ駄目って!?」

 

 

セリア「Σヒィ!ご、ごめんなさい!もうしないから許してラピリ!!」

 

 

怒った表情を見せるラピリを見てセリアはすぐさま頭を下げて謝るが、ラピリは許しませんと言わんばかりにセリアからプイッと顔を逸らしてしまい、それを見たセリアは更に頭を下げて謝り続ける。そんな光景にD電王達を唖然としてしまうが、ホルスはD電王達に近づていく。

 

 

ホルス『すまない、うちの者が失礼した』

 

 

D電王『……いや、こっちこそ焦って状況が見えていなかった…すまない。それはそうと、この世界とアンタについて話を聞かせてもらえないか?』

 

 

ホルス『……良いだろう。だが覚悟だけはしておけ?この世界の真実は酷く残酷で…辛いモノだぞ』

 

 

『…?』

 

 

重苦しい雰囲気を放ちながら警告してくるホルスだが、まだそれの意味が分からないD電王達はただ首を傾げるばかりであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界④

 

 

―光写真館―

 

 

あれから写真館へと戻った零達は先程戦ったホルスの装着者である"神野 鷹"とセリア、そして二人の仲間であるこの世界のフェイトとリインフォースを写真館に招き入れ事情を説明していた。

 

 

鷹「成る程…貴方達は自分の世界を救う為に他の世界を渡っていると言う事ですね、零君?」

 

 

零「ああ、そうだ…それで、何でアンタは沢山の人を殺して犯罪者になっているんだ?ライダーは本来、人を護る存在の筈だろう?」

 

 

鷹「…確かにその通りですね。ですが、私の殺してきた連中の九割以上は死んで当然の奴らですよ!」

 

 

『ッ?!』

 

 

零からの問いに鷹は怒りに染まった表情で返し、それを聞いた零達は思わず圧倒されてしまうが鷹は怒りを滲ませた声で告げる。

 

 

鷹「全ては十年前に起きた事件から始まったんです……いや、違いますね。その前から悲劇は起きていたのです」

 

 

フェイト「どう言う事ですか!?死んで当然って…死んで良い人間なんて居る筈が無いですよ!?」

 

 

フェイト(鷹)「確かにそうだね……私も少し前まではそう思っていたよ。だけど、その甘さが更なる悲劇を生み出したんだよ!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

怒りの表情を浮かべながら叫んだ鷹の世界のフェイトの言葉にフェイトと零達は驚愕した。それも当然だ…自分達の世界のフェイトやあらゆる異世界で出会ってきたフェイト達も命を大切にしているのに、この世界のフェイトはそれを違うのだと告げたのだから。そんな零達の反応を見た鷹は更に告げる。

 

 

鷹「はっきり言います…この世界の悲劇の元凶は全て管理局にあるんですよ」

 

 

なのは「……それってどう言う事ですか?悲劇の元凶が管理局にあると言うのは?」

 

 

鷹「其方の世界では分かりませんが、此方の世界ではあるデータが回収されたのです。そのデータから…人造魔導師の悲劇は始まりました」

 

 

フェイト「ッ?!人造魔導師の悲劇って…一体何が?!」

 

 

鷹「……数え切れないほどの人造魔導師は生み出され、そして人造魔導師同士で殺し合いを行わせたのです…より完璧な人造魔導師を生み出す為にね」

 

 

『ッ!?』

 

 

最高の人造魔導師を完成させる為に人造魔導師同士で殺し合いをさせた。そんな衝撃的な事実を渋い表情でが告げた鷹に零達は一瞬息を拒み再び驚愕した。

 

 

鷹「信じられないのは分かりますが…全て事実です。そしてその非道を行わせた組織が管理局なんですよ」

 

 

零「……それが本当に事実だとしたら、とんでもない話だな」

 

 

セリア「残念だけど…鷹が言ったように全て事実よ」

 

 

ヴィヴィオ「そうだよ……現に私とセリア姉さんは、姉と呼べる人達をこの手で殺して生き延びたんだからね」

 

 

なのは「ッ!…そんな…」

 

 

予想を遥かに越えた非道な事実に零もなのは達も悲痛な表情を浮かべて顔を俯かせてしまう。異世界とはいえ自分達が大切にしている娘と同じ存在がそんな非道な仕打ちをされていたのだと言うのだから、その反応も当然だろう。

 

 

鷹「ついでに言いますと、これはこの世界の管理局の非道の一部ですよ。管理局は更なる大罪を行っていますからね……どうします?それでも聞きますか?」

 

 

零「…此処まで来たら全てを教えて貰いたい。そうしなければ行けない気がするんだ」

 

 

鷹「…分かりました。では全てを話しましょう」

 

 

冷静さを取り戻した零は鷹に話の続きを促し、鷹はそれに頷くと再び真剣な表情で話を始める。

 

 

鷹「先ずは我々の世界の管理局が行った許されざる大罪…それは滅ぼしたんですよ。世界をね」

 

 

『ッ?!』

 

 

零「管理局が…世界を?」

 

 

世界を護る筈の存在である管理局が世界を滅ぼした。それを耳にしたなのは達は驚愕し、零は険しげに聞き返す。

 

 

零「………確かなのか?」

 

 

鷹「ええ、事実です。この世界の管理局は世界を滅ぼす物…『オメガ』を所持しています。そしてその『オメガ』により全世界に滅びの危機が迫っているのです」

 

 

なのは「…その危機って、一体なんですか?」

 

 

鷹「……『オメガ』の内には、あらゆるものを終焉に導く獣が封印されているんです。そしてその封印が、管理局のせいで破られようとしているんです」

 

 

『なっ…?!』

 

 

世界を終焉へと導く存在が封印された物……オメガ。それの存在を鷹の口から伝えられた零達は言葉を失い絶句してしまう。もし鷹の言っている事が本当なら、そんな存在の封印が解かれたら世界はどうなるだろうか?…そう考えるだけでもゾッとしてしまう。

 

 

フェイト「だから私は管理局を裏切り、鷹達に協力しているんだよ。この世界を護る為にね」

 

 

零「…そうか…事情は大体分かった。だがそれとは別に疑問が在る。あのモンスターは何だ?この世界の敵が管理局なら、モンスターは存在しない筈だろう?」

 

 

零はホルスについて調べていた最中に戦ったモンスター、シアゴーストのコトを思い出しながら鷹に問いかけると、鷹は溜め息を吐きながら答える。

 

 

鷹「……アレはボケた科学者が生み出したんですよ。オリジナルと呼べるモンスターを参考にしてね」

 

 

零「…ああ…この世界でもボケているのか。スカリエッティは?」

 

 

鷹から返ってきた答えに、零は魔界城の世界で戦ったスカリエッティ達の事を思い出しながら呆れたように聞き返し、鷹はそれに頷きながら語る。

 

 

鷹「ええ。スカリエッティの所にも契約者が存在していましてね、その契約モンスターを参考に生み出したんですよ」

 

 

チンク「成る程な…だが、何故あのモンスターは我等を襲ったのだ?」

 

 

鷹「簡単ですよ。この世界のチンク、セイン、ウエンディ、ディエチはスカリエッティ達を裏切りましたからね。おそらく裏切り者を排除する為にモンスターに命じていたんでしょう」

 

 

ノーヴェ「…あれ?なあ、この世界の私はどうしたんだよ?チンク姉達と一緒じゃないのか?」

 

 

鷹が口にした名前の中に自分の名前が入っていない事に気付いたノーヴェはこの世界の自分について問うと、鷹達は何故か渋い表情を浮かべてしまう。

 

 

零「……何かあったのか?この世界のノーヴェに?」

 

 

鷹「……………この世界のノーヴェなんですよ、スカリエッティの所に居た契約者はね」

 

 

スバル「えっ?!じゃあこの世界のノーヴェは…まさかスカリエッティの所に居るんですか?!」

 

 

鷹「いいえ……ノーヴェもスカリエッティを裏切ってはいるんですが、チンク達に会わせる顔が無いんですよ……なにせこの世界のノーヴェは、チンク達は愚かルーテシアにアギトまで殺そうとしましたからね」

 

 

『なっ!?』

 

 

この世界のノーヴェがチンク達を殺そうとした。そう答えた鷹に対し一同…特にノーヴェとナンバーズ達は驚愕し信じられないと言った表情を浮かべた。

 

 

ノーヴェ「……嘘だ!例え世界が違っても、アタシがチンク姉達を殺そうとするハズがねぇ!!」

 

 

鷹「ええ、普通ならそうなんですけどね…この世界のノーヴェは契約モンスターの中でも最も凶悪なベノスネーカーと契約した上に、ジェノサイダーまで召喚出来てしまいましたからね」

 

 

零「ッ!?ジェノサイダーまでだと!?」

 

 

フェイト「?ねぇ零、なんなの?そのジェノサイダーって?」

 

 

零「……ジェノサイダーはミラーライダーでオーディンが契約しているモンスター以外では最強のモンスターだ。その力なら…大都市の二つや三つは消滅させる事も可能だろうな」

 

 

『ッ!?』

 

 

その言葉にメンバーの何人かから息を拒む声が聞こえた。それほどの強大な力を持つモンスターなら、この世界のノーヴェは何のデメリットも無しに契約出来たのだろうか?だが、鷹達のこの反応を見る限り……

 

 

零「…力に飲み込まれたんだな、この世界のノーヴェは?」

 

 

鷹「…えぇ、それも原因の一つなんですが、もう一つ在るんですよ」

 

 

なのは「え?もう一つの原因って…何なんですかそれは?」

 

 

力に飲み込まれた以外にこの世界のノーヴェがチンク達を殺そうとした理由があるのだろうか?それが思い付かないなのはは疑問そうに問い返すと、鷹の後ろに居たアインスが前に出て代わりに答えた。

 

 

リインⅠ(鷹)「原因は……この世界の闇の書です」

 

 

シグナム「ッ?!な、なんだと?!」

 

 

シャマル「や、闇の書ですって?!」

 

 

アインスの口から語られたその名に守護騎士達と零達は驚愕した。闇の書と言えば、零達の世界でも十年前に起きた闇の書事件の起因となった物である。十年前に消滅した筈のソレとこの世界のノーヴェがチンク達を殺そうとした理由に一体何の関わりがあるというのだろうか?

 

 

リインⅠ(鷹)「異世界のフェイト達と守護騎士達……疑問に思いませんでしたか?何故十年前に消えた筈の私が存在しているのかを」

 

 

なのは「確かに疑問には思っていましたけど、それはこの世界の私達がリインフォースさんを救えたからだと思っていたから……もしかして違うんですか?」

 

 

リインⅠ(鷹)「はい…私は一度消滅しました。ですがその時に、僅かに残っていた防御プログラムの破片に回収され守護騎士として蘇ったのです」

 

 

ヴィータ「しゅ、守護騎士って、アタシ等と同じ存在になったって事かよ?!それに防御プログラムってまさか……」

 

 

零「成る程な…その残った防御プログラムが闇の書として復活したのか。そしてそれを鷹達が倒してリインフォースを救出したんだな?」

 

 

リインⅠ(鷹)「正解です。ですがその時に闇の書は完全には消滅していなかったのです。生き残った闇の書は我々に復讐する為に戦技達と同じ契約者を探し力に飲み込まれ掛けているノーヴェを見つけ、自身の手駒にしたのです」

 

 

フェイト「じゃあ…今でもこの世界のノーヴェは闇の書の手先なんですか?」

 

 

ノーヴェがチンク達の下に帰ってこないのは、まだ闇の書の呪縛から解けていないからなのか?そう思ったフェイトは不安そうに質問するが、リインⅠ(鷹)は笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

 

アインス「安心してください。既に闇の書は鷹の手により完全に消滅しましたから」

 

 

零「そうか…ならこの世界のノーヴェが自分を許せるようになれば、この世界のチンク達の下に戻るんだな?」

 

 

鷹「ええ、彼女もそう言っていましたよ。それで他に質問はありますか?」

 

 

ノーヴェが無事だと告げられ安心するなのは達とは別に、鷹から他に質問はないかと聞かれた零は再び表情を真剣なモノに変えて質問する。

 

 

零「…なら最後の質問だ。何で鷹は聖王を殺せる物を所持しているんだ?鷹に取ってもこの世界のヴィヴィオやラピリって子は大切な存在の筈だ…それなのに、どうしてあの子達にとって危険な物を所持しているんだ!?」

 

 

そう、先程の戦闘の根本的な原因はそれだ。鷹が本当にこの世界のヴィヴィオとラピリを大切に思うのなら、彼女達を殺す事が出来るモノを破壊せずに所持しているなど可笑し過ぎる。零がその事について鷹に問いただそうとした、その時…

 

 

「――これはまた、随分な言いわれようですね?」

 

 

『…ッ!?』

 

 

不意に何処からか聞き慣れない声が響き、零達がソレに驚愕しながら声を聞こえた方に目を向けると、其処にはいつの間にかカップを持ちながらテーブルに座る一人の女性がいたのだ。すると、その女性を見た守護騎士達は信じられない物を見たような表情を浮かべていく。

 

 

シグナム「そ…そんな馬鹿な……」

 

 

ヴィータ「あ…有り得ねぇ……」

 

 

シャマル「ま…まさか…そんな……」

 

 

ザフィーラ「な…何故……アレが……」

 

 

零「?おい、どうした?」

 

 

鷹「…一体何時から居たんですか、レティア?」

 

 

レティア「クスクス…ほぼ最初からですよ鷹様。それにしても、栄次郎さんの入れてくれた珈琲は美味しいですねぇ」

 

 

セリア「随分と悪趣味ね、泥棒猫」

 

 

ヴィヴィオ「そうだね、盗み聞きなんてね」

 

 

何の前触れもなく居着いている"レティア"と呼ばれた女性にセリアとヴィヴィオは殺気を放ちながら睨みつけ、レティアも目を鋭くさせて告げる。

 

 

レティア「そう言う貴女達も八つ当たりの為に彼らを襲い掛かろうとしたみたいではないですか?」

 

 

セリア「ふん、アンタには関係ないでしょ?」

 

 

レティア「確かにその通りですが、彼らは私を破壊しようとしている様ですしね。その人物たちが何故私を破壊しようとするのか気になりますから」

 

 

レティアとセリアはそう言い合いながら部屋中に殺気を振り撒き、それを聞いていた零は驚愕しながら鷹に聞く。

 

 

零「…今聞こえた事は本当なのか?あの女が聖王を殺せる物だと言うのは……」

 

 

鷹「……………ええ、事実なんですよ。彼女の名前はレティア。古代ベルカ時代に聖王専用に生み出された融合騎であると共に、聖王が大罪を犯した時には断罪する役目を与えられた融合騎です」

 

 

『なっ?!』

 

 

聖王を殺せるモノの正体が融合騎。ソレを鷹から告げられた零達は驚愕しながらシグナム達の方に振り向くと、四人も未だ動揺を浮かべたまま肯定の意味を込めて頷き返した。そしてそんな中、セリア達とレティアの口喧嘩は更にデッドヒートしていき……

 

 

セリア「もう良いわ!!今すぐに私達がアンタの事を消滅させてやる!!」

 

 

ヴィヴィオ「今日こそは絶対許さないんだから!!」

 

 

優矢「って?!ちょ、写真館の中でなにやろうとしてんだよ!?」

 

 

セリアとヴィヴィオは自身のバイザーを構えながらレティアと対峙していき、それを見た優矢は慌てて止めに入ろうとするがレティアは構えもせずに冷静に告げる。

 

 

レティア「クスクス、まだ気付かないのですか?もう勝負は付いているんですよ……ラピリちゃん!セリアママとヴィヴィオママがまた鷹様を困らせていますよ!?」

 

 

『Σなっ!?』

 

 

レティアが叫んだ瞬間にセリアとヴィヴィオは驚愕し慌ててバイザーを仕舞おうするが……

 

 

―ガチャン!―

 

 

ラピリ「………………」

 

 

別室でヴィヴィオと仲良く遊んでいたラピリが勢いよく扉を開けてセリアとヴィヴィオを睨みつけ、そんなラピリから放たれる威圧感に零達は思わずたじろいでしまう。

 

 

セリア「ラ、ラピリ!………何でも無いのよ?異世界のヴィヴィオと遊んでいなさい」

 

 

ヴィヴィオ「そ、そうだよラピリ。ほら異世界の私と遊んでなさい」

 

 

セリアとヴィヴィオは冷や汗を流しながらラピリにそう言うが、ラピリは怒りの表情を浮かべて叫ぶ。

 

 

ラピリ「……もうママって呼んであげない!レティアママだけ呼ぶ!!」

 

 

―バタンッ!!―

 

 

ラピリはそう叫ぶと勢いよく扉を閉めてヴィヴィオの下に向かっていき、それを見たセリアとヴィヴィオは慌ててラピリを追い掛けながら叫ぶ。

 

 

セリア「ΣΣま、待ってラピリィィィィィィィ!?」

 

 

ヴィヴィオ「ΣΣお願いだから!!それだけは許してぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

レティア「クスクス…ちゃんとラピリちゃんに許して貰って来なさい。栄次郎さん、珈琲のお代わり頂けませんか?」

 

 

栄次郎「はい、分かりました~♪」

 

 

零達のいる部屋にまで響き渡る程の大音量で叫びながらセリアとヴィヴィオはラピリを追い掛けていき、レティアはそう呟きながら栄次郎に珈琲のお代わりを頼んでいた。そしてそれを見ていた零達は……

 

 

零「………俺ももし、ヴィヴィオにあんな事言われたら――――」

 

 

なのは「私もヴィヴィオにママって呼ばれなくなったら――――」

 

 

フェイト「私も――――」

 

 

『もう二度と立ち直れない!!!』

 

 

優矢「……お前等なぁ�」

 

 

零となのはとフェイトは同時に悲痛な表情を浮かべて叫び、それを見たいた鷹は冷や汗を流しながら言う。

 

 

鷹「…まあ、今日はこの辺りで止めときましょうか。情報を整理する時間も必要でしょうしね」

 

 

零「ん…確かにそうだな。この世界の事は良く分かったが…正直色々知りすぎて混乱しているし、すまないが今日は泊まっててくれないか?(…それにもう一つ確かめないといけない事があるし)」

 

 

鷹「構いませんよ。ラピリも喜ぶでしょうからね」

 

 

零「助かる。それじゃあ、爺さん!すまないが鷹達の分の部屋を用意してやってくれないか?」

 

 

栄次郎「ん?鷹君達も泊まるのかい?だったらどうぞどうぞ!人が多いほどうちも賑やかになるからね」

 

 

鷹「ありがとうございます、栄次郎さん」

 

 

栄次郎は部屋がある場所へ鷹達を案内していき、鷹達はその後を追って部屋から出ていこうとする。だがその前に、シグナムが部屋を出ていこうとするリインⅠ(鷹)を引き留めた。

 

 

シグナム「リインフォース!待ってくれ!」

 

 

リインⅠ(鷹)「…?私に用ですか、烈火の将?」

 

 

シグナム「ああ。いきなりですまないと思うのだが、どうしても折り入って頼みたい事がある」

 

 

リインⅠ(鷹)「頼みたい事…?」

 

 

シグナムからの突然の申し出にリインⅠ(鷹)は疑問げに聞き返し、シグナムはそれに頷きながら答える。

 

 

シグナム「…今此処とは別の部屋に、我々の世界の主はやてがいるのだ……だから一度、一度だけでいい、主はやてに会ってもらえないか?」

 

 

リインⅠ(鷹)「ッ!貴方達の世界の…主はやてに?」

 

 

シグナムからの頼みを聞いたリインⅠ(鷹)は一瞬驚愕の表情を浮かべ、それを傍で聞いていたたヴィータ達もリインⅠ(鷹)の目の前に駆け付けていく。

 

 

ヴィータ「ア、アタシ等からも頼むよ!」

 

 

シャマル「私からもお願い!はやてちゃんに会ってあげて!」

 

 

ザフィーラ「頼む!」

 

 

リインⅠ(鷹)「…………」

 

 

頭を下げて頼み込むシグナム達を見てリインⅠ(鷹)はどうするべきか分からず迷ってしまうが、その時部屋の入口で待っていた戦技が仕方がないといった表情で頷いた。

 

 

リインⅠ(鷹)「……分かりました。異世界とはいえ、主はやてが私の主である事に変わりありませんからね」

 

 

微笑しながらリインⅠ(鷹)がそう言うとシグナム達の表情は明るくなり、四人は早速リインⅠ(鷹)を連れてはやてがいる部屋へと向かっていくのだが、その後ろ姿を何処か思い詰めた表情で見つめる零がいたのを、この時誰も気付いてはいなかった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑤

 

―はやて&リインの自室―

 

 

 

はやて「はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

 

 

リイン「…はやてちゃん」

 

 

その頃、はやてとリインの自室では風邪を振り返し息苦しそうに呼吸をするはやてをリインが必死に看病していた。

 

 

はやて「はぁっ…はぁっ……り、リイン……?」

 

 

リイン「ッ!はやてちゃん、目が覚めましたか?!」

 

 

はやて「はぁっ…はぁっ…そ、そうか……私……あれからずっと、眠っとったんやね……」

 

 

リイン「は、はいですぅ…あ、お腹すいてないですか?何か食べたい物とかありますか?�」

 

 

はやて「だ、大丈夫や……ごめんな……皆に……迷惑ばっか掛けて……」

 

 

リイン「そ、そんな事ないですよぉ!リインはぜ~んぜん平気ですぅ!」

 

 

はやて「アハハっ……そか……それやったら……ええねんけどっ……」

 

 

苦しげでありながらも笑顔を浮かべるはやてにリインの表情は段々と暗くなってしまう。そんな時……

 

 

―ガチャッ……ギィィィィィィィ―

 

 

リイン「………え?」

 

 

不意に部屋の扉が開いて誰かが部屋の中に入り、いきなり部屋の中へと入ってきた人物を見たリインは呆然と声を漏らしてしまうが、その人物……リインⅠ(鷹)は音を立てずにベッドで横たわるはやてへと近づいていく。

 

 

リインⅠ(鷹)「……主」

 

 

はやて「はぁ……はぁ……あれ?……今の……声って……」

 

 

リインⅠ(鷹)「主はやて…気をしっかりお持ち下さい……」

 

 

リインⅠ(鷹)はベッドに横たわるはやての手を両手で包みながら優しい声で励まし、それを聞いたはやては苦しげに苦笑しながら呟く。

 

 

はやて「はぁ……はぁ……アハハ……私……相当参ってるみたいやね……こんな時に……あの子の幻聴を聞くやなんてっ……」

 

 

リインⅠ(鷹)「…主」

 

 

はやて「っ……せやけど……今は嬉しい……かな……幻聴でも……またこうして……あの子の声……聞けたん……やし……」

 

 

そう言いながら、はやては何処か穏やかそうに微笑みながら再び眠りについていき、それを見ていたリインはまさかと言った表情を浮かべてリインⅠ(鷹)の顔を見つめていく。

 

 

リイン「あ、あの…貴方はもしかして――――」

 

 

リインⅠ(鷹)「……………主はやての事……頼みますね……私の後継騎……」

 

 

リイン「ッ!は、はい……はい!!」

 

 

リインⅠ(鷹)がそう言うとリインは嬉しそうに何度も頷き返し、それを見たリインⅠ(鷹)は微笑しながら穏やかに眠るはやてへと視線を移していき、入口の方ではシグナム達がその様子を優しげに見守っていたのであった。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

一方その頃、空き部屋へと案内された鷹と戦技は零を交えて話をしていた。

 

 

零「どうしても聞きたい事がある。十年前にこの世界の管理局が手に入れたデータとはなんだ?お前たちは意図的に隠していたようだが……」

 

 

鷹「…話すのは構いませんが、その変わり約束して下さい。絶対に他の者達には言わないと」

 

 

戦技「特に、お前の世界のフェイトには絶対に伝えるな。もし知れば例え世界が違ってもフェイトは自分を責め続けるだろうからな」

 

 

零「……………分かった。誓おう」

 

 

暗い表情で告げる二人を見てよっぽど深刻な話なんだと理解した零はそう言いながら頷き、鷹は戦技に目をやり戦技が話し始めた。

 

 

戦技「……プレシア・テスタロッサのプロジェクトFの研究データだ。回収したのはクロノ・ハラオウン、そしてデータを提出したのはリンディ・ハラオウンだ。最もリンディ・ハラオウンがデータを提出したのは脅されてだがな」

 

 

零「ッ!!……そうだな。確かにこのコトを知れば、例え世界が違ってもフェイトは傷つく……分かった。絶対に皆には話さない」

 

 

零が真剣な表情でそう言うと鷹と戦技は安心した表情を浮かべる。だが逆に、零は顔に辛そうな表情を浮かべて呟く。

 

 

零「……だが、思ったよりキツイな。覚悟していたつもりだが、この世界の真実は正直辛すぎる…」

 

 

鷹「……そうでしょうね。管理局を信じている者からすれば、この世界は地獄のような世界でしょうから」

 

 

零「ああ…だが、俺も別にそこまで管理局を信じてた訳じゃない。巨大な組織には必ず裏があると分かってはいたし……それに元々俺が管理局に所属したのも、アイツ等を護る為だけだったしな」

 

 

鷹「………そうでしたか。君は強いんですね」

 

 

零「……いや……ただ鈍いだけだよ……」

 

 

鷹の言葉に零が首を横に振りながらそう呟くと、戦技が零に声を掛ける。

 

 

戦技「黒月零…いやディケイド。私と神野 鷹はお前を倒すつもりは無い。我々もある意味ではお前と同じ様に、世界を壊そうとしているからな」

 

 

鷹「そうですね。少なくとも我々は貴方に味方しますよ」

 

 

零「ッ!……ありがとな」

 

 

戦技と鷹の言葉に一瞬驚く零だが、すぐにその表情に笑みを浮かべて二人に礼を言うのであった。

 

 

零「……それにしても鷹?お前、随分と苦労してるみたいだな?」

 

 

鷹「うぅぅ…分かってくれますか零君?毎日、毎日、あの三人の争いに巻き込まれる苦労をっ…」

 

 

零「………いや、凄く分かるぞ。俺もなのはとフェイト、それにはやてに地獄を味合わされているからな」

 

 

鷹「そう言えばそんな感じですね。しかし、異世界でもフェイトは嫉妬深いんでしょかね戦技?」

 

 

戦技「むう、だとしたらフェイトの嫉妬深さは元々持っていた物だというのか?」

 

 

零「…おい、それ本当か?この世界のフェイトも嫉妬深いって言うのは?」

 

 

鷹「……事実ですよ。前に戦技が女性を助けた事があるんですが。その時は気絶するまで蹴られ続けましたからね」

 

 

零「……マジか?いや俺も女性関係でなのは達に酷い目に合わされ続けているけど、まさかこの世界でもフェイトがそんな事をしていたとは思っても見なかったな……滝や祐輔達ともお前等と気が合いそうだ」

 

 

鷹「ん?誰ですか?その滝と祐輔という人物は?」

 

 

零「俺達が旅の中で出会った異世界の仲間達…苦労人同盟のメンバーの事だ」

 

 

それから三人は自身の女性関係での苦労話や異世界の仲間達である苦労人同盟の事など夜遅くまで語り続け、全て終わった頃には名前を呼び捨てで呼べる関係になっていたらしく、最後に零は苦労人同盟の皆がよく集まるgreen cafeの場所を鷹に教えていたとか……

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

一時間後……

 

 

 

零「…思ったより話が盛り上がったな……」

 

 

あの後、話を終えて鷹達の部屋を出た零は背景ロールのある部屋に訪れこの世界のミッドの町並みを窓から見下ろしていた。

 

 

零「…………………」

 

 

零はその町並みを見下ろしながら鷹達の事を思い浮かべていく。彼等はこの世界で犯罪者と呼ばれて貶されながらも、数多くの人間を殺して罪を背負いながらも、この世界のために戦っているのだと。

 

 

零「…罪人と呼ばれながらも…大切な人達の為に戦い続ける…か」

 

 

「罪人って誰が?」

 

 

零「……は?」

 

 

ぼんやりとそう呟いていると背後から女性の声が聞こえ、それが聞こえてきた方へと振り返ると、其処には両手に湯気を漂わせる珈琲を持ってこちらを見つめるなのはの姿があった。

 

 

零「なのは…?まだ起きてたのか?」

 

 

なのは「あ、うん。何だか眠れなくてね�…そういう零君は?」

 

 

零「…俺も似たような感じ…だな」

 

 

なのは「そっか…あ、はいこれ。栄次郎さんみたいに上手くはないと思うけど」

 

 

零「ん…ああ、すまない」

 

 

なのはから珈琲を受け取りながら礼を言うと零は再び窓からミッドの町並みを見下ろしていき、なのはは零の隣に座りミッドの町並みを眺めながら珈琲を口にする。

 

 

なのは「…綺麗だね。私達の世界でも、こうしてミッドの街を眺めたりとか良くしたよね」

 

 

零「……ああ」

 

 

なのは「普段は見慣れた景色だったけど……こうして旅に出てもう一度見てみると、なんだか懐かしい気分になるね」

 

 

零「まあ、長いのか短いのか分からないが、旅に出て随分経つからな。そう思うのも無理はないだろう…」

 

 

なのは「うん……だね」

 

 

ぼんやりと、そんな会話をしながら街を眺め続ける。何の意味もない会話ではあるが、こうして二人でいる時間が不思議と落ち着けて心地好い。そう思いながら、二人は時間も忘れて暫くミッドの町並みを窓から眺めていく。

 

 

零「…………なのは…少し聞いていいか?」

 

 

なのは「ん……何?」

 

 

あれからどのくらい経ったか、時刻も深夜となった頃にふと彼は口を開いて質問し、なのはは少しウトウトしながら零に聞き返す。そんななのはを見た零は一度顔を俯かせると、再び顔を上げてミッドを眺めながら問う。

 

 

零「……もし……もし俺が、過去の記憶をすべて取り戻して…それで今の俺が俺じゃなくなったら……お前はどうする?」

 

 

なのは「…………え?」

 

 

突然問い掛けられた予想外な質問。あまりにも突然過ぎたのか、その質問を問い掛けられたなのはは眠気を吹っ飛ばされてしまい、目を見開いて零の横顔を見つめる。

 

 

零「…最近良く考える事がある……俺は一体何者なのか、何故破壊者と呼ばれるのか……とかな」

 

 

なのは「…それは…単に鳴滝さんが零君の邪魔しようと広めた噂じゃ?」

 

 

零「………だがもし、俺の過去がソレと関係していると言うのなら……俺はそれを否定出来ない」

 

 

なのは「……………」

 

 

いつもの表情で淡々と語り続ける零だが、何故だかなのはには、月に照らされるその表情が何処か哀しげに見えた。

 

 

零「もしこの旅の中で、俺が記憶を取り戻すような事があれば……その時今の俺はどうなるのか、って思う事がある……今こうしてる自分を無くすんじゃないのかと」

 

 

なのは「…………」

 

 

零「もしそうなら、俺は記憶を取り戻すべきではないのかもしれない……だが、何か思い出さなければいけない気もする……その二つの間で、正直迷ってる」

 

 

なのは「……………」

 

 

淡々と話していく零の隣で、なのはは何も言わない。ただ湯気の経つ珈琲を両手で包みながら、ジッと零の横顔を見つめていた。

 

 

零「………いや、やっぱり忘れてくれ。ちょっとした小言だっ「それでも……」……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「………それでも、私は絶対に傍にいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「貴方の過去に何があっても…貴方が貴方でなくなったとしても…そんなの関係ない。だってそうでしょう?例え貴方が何者だろうと、貴方が貴方である事に…何一つ間違いなんてないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「なのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真摯でありながら、美しく思える微笑みだった。窓から差し込む柔らかい月の光に照らされながら彼女は彼に微笑み掛け、その幻想的な姿に彼は不覚にも目を奪われてしまった。

 

 

なのは「ねぇ零君…」

 

 

零「ん…?」

 

 

なのは「…お願いだから…一人で無理しないで」

 

 

零「無理?いや、俺は別に無理なんか…」

 

 

なのは「嘘、私知ってるよ?零君、いつも私達の知らないの所で無茶してる…私達に話してない事だって、沢山あるんでしょ?」

 

 

そう言って、なのははゆっくりと零の頬に両手を添えて目を合わせていく。

 

そんな大胆な行動、いつもの彼女なら恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまうのだが、今はそんな素振りを見せない。

 

今はそれより、何処か儚げに見える彼を助けたいと思う気持ちが一番に強かった。

 

 

なのは「私もフェイトちゃんもはやてちゃんも皆も…貴方を支えてあげることは出来る…悲しいことも辛いことにも力になりたいって…私達皆が思ってる…」

 

 

零「…………」

 

 

なのは「例え貴方が全てを思い出して…私達の前からいなくなったとしても……私達は絶対貴方を追いかけるから」

 

 

零「っ………」

 

 

なのは「何処へ消えても、皆と一緒に何処までも追い続ける…例え貴方に拒まれても、何度でも手を伸ばす…だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「貴方と私達の間にある絆は…絶対に壊れる事なんてないんだから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……なのは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんななのはの言葉は、そんな彼女の優しさは、確かに彼の心に響いていた。

 

今でも綺麗な月光に照らされる彼女の笑顔は、悩んでいた彼の心に深く刻み込まれていた。

 

 

零「ありがとう…でも本当に大丈夫だから…」

 

 

だが、それでも彼は話そうとはしない。

 

あの夢のことも、リィルという少女のことも、因子のことも。

 

安易に話してなのはに心配を掛けたくなかったから。

 

けれど、彼女の言葉である決心が付いたのも事実だ。

 

 

なのは「やっぱり…話してくれないんだね…」

 

 

零「…すまない…だけど、何時かは話す。だからもう少し時間をくれ…俺自身がちゃんと向き合えたら……ちゃんと話すから…」

 

 

この手に掴もうと追いかけながら、心の何処かで背を向けていた過去。

 

まだ自分は、それとちゃんと向き合ってなどいない。

 

だからまだ話せない、全てを話すのは…自分が本当の意味で強くなってからだ。

 

 

なのは「そっか……うん、わかった♪」

 

 

そんな彼から何かを感じたのか、彼女はそれ以上は言わずゆっくりと零から離れていく。

 

 

なのは「なら、待ってる。何時かちゃんと話してくれまで……待ってるから♪」

 

 

零「…………」

 

 

腰に両手を回し、いつもと変わらぬ元気な笑みを浮かべるなのは。そんな彼女を、零はそっと自分の方へと抱き寄せた。

 

 

なのは「ふぇ?!ど、どうしたの零君?!」

 

 

零「うん?いや何…ちょっと夜風が当たって寒いと思ってな。こうしてれば暖かいだろう?」

 

 

なのは「そ、それなら窓閉めたらいいのに…」

 

 

零「窓を閉めたらミッドが見えないし、窓を開けたままにしたら夜風が当たって寒い。だから我慢しろ、そして俺を温めろ」

 

 

なのは「うぅぅぅぅ……零君の馬鹿ぁ……」

 

 

口ではそう言いながらも、顔を真っ赤にしながら零の胸に顔を埋めるなのは。

 

そんな彼女の反応に意地悪な笑みを浮かべながら、彼はゆっくりと口を開く。

 

 

零「…………ありがとう…………なのは…………」

 

 

静かに、彼女にすら聞こえない声でそっと呟き、月の光に照らされながら彼女を強く抱きしめていた………

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑥

 

―光写真館―

 

 

なのは「…………(ポ~」

 

 

スバル「…?なのはさん?なのはさーん?」

 

 

なのは「………ふぇっ?!な、何スバル?」

 

 

スバル「いえ、何かなのはさんの様子が可笑しかったから声掛けただけなんですけど…大丈夫ですか?」

 

 

なのは「へ?……あっ、う、うん!なんでもないよ?!大丈夫!うん!�///」

 

 

スバル「?」

 

 

セリア「………………」

 

 

ヴィヴィオ(鷹)「………………」

 

 

それから翌日。起床した鷹達となのは達は部屋に集まって朝食を待ち、キッチンの方では栄次郎とディードとオットーにセッテ、零が朝食の準備をしている最中だった。だが部屋で朝食を待つメンバーの中で、なのはは何故かボーッとしたり時々顔を赤くしたり様子が可笑しく、それとは反対にこれ以上に無いほどの絶望の空気を放つセリアとヴィヴィオ(鷹)の姿が存在していた。

 

 

鷹「…その様子ではラピリに許して貰えなかったようですね?」

 

 

『………………コクッ』

 

 

最早喋る気力さえないのか、セリアとヴィヴィオ(鷹)は鷹の質問に対しこの世の終わりといった表情で頷き返した。そしてそれを見た鷹は溜め息を吐いて難しい表情を浮かべながら考える。

 

 

鷹(一度怒られたのにすぐに同じ事をしたセリアとヴィヴィオに、流石にラピリも御冠ですか…不味いですね。このままだと二人ともこの状態のままだと言う事に成るかも知れませんし、如何したものか……)

 

 

二人がこんな状態ではまともに戦う事すら出来ないかもしれないし、悪くて日常生活に支障など出ればそれこそ一大事だ。どうやってこの二人とラピリを仲直りさせるべきかと考えていると、キッチンから出てきた零が鷹に近づき質問する。

 

 

零「…その様子だと仲直り出来なかった様だな?」

 

 

鷹「ええ、そのようです」

 

 

セリア達の様子を見て零がそう聞くと鷹は難しい表情のまま頷く。やはり、自分の愛娘に嫌われるとなると此処までへこむのも無理はないと思う。もし知り合いである親バカ約二名が同じ事になったら……冗談抜きで首を吊りかねないだろう。そんな光景を思い浮かべて溜め息を吐いていると、零は自分の世界のヴィヴィオから聞いた情報を思い出し鷹に伝え始めた。

 

 

零「そういえば、俺の世界のヴィヴィオから聞いたんだが……どうやらラピリは他の世界のライダーを見て見たいそうだぞ?だから、仲直りの印として他の世界のライダーでも見せてみたらどうだ?」

 

 

鷹「……確かにいい案だと思うんですが、どうやって会わせろと言うんですか?我々も流石に他の平行世界に渡る方法など持っていませんよ?」

 

 

零の提案に鷹が怪訝そうに聞き返すと零は笑みを浮かべながら自分の考えていたもう一つの提案を告げる。

 

 

零「その点なら心配ない、実は今この世界にディエンドって言うライダーがいる。そのライダーは他の世界のライダーを召喚できる能力を持ってるんだ。だからディエンドの変身ツールを奪って鷹達が使えば、ラピリに他の世界のライダーを見せてやる事が出来るぞ」

 

 

鷹「ディエンドが?何故この世界に奴が居るんですか?この世界に奴が喜ぶ様な宝は無い筈ですがね…」

 

 

零「ッ!ディエンドを知っているのか?!」

 

 

ディエンドの事を口にした鷹に零は驚いてしまうが、鷹はそれに頷きながら言葉を続ける。

 

 

鷹「私は元いた世界で他のオリジナルライダーについて知っていましてね。その関係でディエンドやディケイドについて知っていたんですよ」

 

 

零「成る程、だから鳴滝の言葉に踊らされなかったて言う事か……話は戻るが、奴の狙いは恐らくレティアだ」

 

 

鷹「……成る程。どうしてこの世界に来て日が浅い筈の零達がレティアの存在を知っていたのか疑問に思っていましたが、ディエンドからの情報でしたか」

 

 

零「ああ、俺達はその情報で鷹がレティアを所持している事を知ったんだ。だがまさか、それが融合騎だとは思ってもみなかったがな」

 

 

鷹「………恐らくですが、ディエンドはこのカードを手に入れる為に私と零を戦わせたんでしょうね」

 

 

零の話を聞いた鷹は懐からデッキを取り出し、其処から一枚のカードを抜き取り零に見せながら呟くとそのカードを見た零は疑問そうに首を傾げた。

 

 

零「?そのカードは何だ?見たことも無いが……」

 

 

鷹「このカードは融合騎と契約してその力を使える様にする為のカードです。このカードを使えば例え相性が悪くても百%の力を使えますからね」

 

 

零「ッ!…成る程な。どうして海道の奴が俺と鷹を戦わせようとしたのかずっと疑問だったが、最初からそのカードを奪う為だったのか。クソッ、海道の奴!随分と親切に情報を教えたと思っていたがそう言う理由だったのか!」

 

 

鷹の言葉で零は大輝の真の目的に気が付き怒りの表情を浮かべ、必ず借りを返してやろうと胸の中で誓っていた。そして鷹は零から聞いた情報をセリア達に説明していき、それを聞いたセリア達は……

 

 

セリア「必ず手に入れてラピリと仲直りするわよヴィヴィオ!!」

 

 

ヴィヴィオ(鷹)「うん!セリア姉さん!!」

 

 

先程の様子とは打って変わり、テーブルから勢いよく立ち上がってラピリの為にディエンドライバーを手に入れる事を宣言していたのであった。

 

 

零(……あれはなのは達の制裁並にキツイことになりそうだな……俺はもう知らないぞ海道?)

 

 

瞳をギラギラさせて意気込むセリアとヴィヴィオ(鷹)を見て零は大輝の死期を悟るが、それも自業自得だと思いながらキッチンへと戻っていったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

―……ゾワァッ!―

 

 

大輝「ッ!…気のせいか?何か今とてつもない悪寒が……いやそれより、どうしたものかな?零とホルスは結局戦い合わなかったし、やっぱ俺が戦うしかないかな?」

 

 

一瞬感じた悪寒には気に止めず、大輝はどうやってホルスからレティアを手に入れようかと考えながら街中を歩いていく。だが、その背後から一人の男性が現れ大輝に歩み寄っていく。

 

 

「――貴様だな?つい先日、地上本部からロストロギアを盗んだのは?」

 

 

大輝「…ッ!これは驚いたね?まさか貴方直々で俺を捕まえに来るとは思っても見なかったよ。地上本部のトップ…レジアス・ゲイズ中将?」

 

 

大輝は目の前に現れた男性に一瞬驚愕の表情を浮かべるがすぐに何時もの笑みを浮かべていき、大輝のその態度を見た男性…レジアスは怒りの表情を浮かべて告げる。

 

 

レジアス「フン、映像で貴様の変身する姿を見てな。地上では私しか貴様とは戦えないと思って来たのだ。それで盗んだロストロギアは何処にある?アレは危険な物なのだぞ」

 

 

大輝「ああ、アレですか?大したお宝じゃ無かったので捨ててしまいましたよ」

 

 

レジアス「なっ…捨てた、だと?!貴様!アレがどれ程危険な物か分かっているのか!?」

 

 

手を振りながら軽く答えた大輝にレジアスは鬼の形相を浮かべて叫ぶが、大輝は関係ないと言わんばかりに腰からディエンドライバーとディエンドのカードを取り出し、ディエンドライバーにカードを装填して銃口を自身の真上に向ける。

 

 

大輝「変身ッ!」

 

『KAMENRIDE:DE-END!』

 

 

引き金を引くと電子音声と共に大輝はディエンドへと変身していき、それを見たレジアスもポケットからデッキを取り出し目の前に突き出すと腰にベルトが出現していく。そしてレジアスはデッキを頭上に投げながら叫ぶ。

 

 

レジアス「変身ッ!!」

 

 

レジアスは高らかに叫ぶと共に頭上から落ちてきたデッキを掴みベルトへと装填し、黒いボディが特徴のライダー『オルタナティブ』に姿を変えた。そして変身を完了したオルタナティブはデッキからカードを引き、右手の機械・スラッシュバイザーにカードをスラッシュする。

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

オルタナティブ『貴様は地上の平和を乱した。絶対に許さん!!』

 

 

ディエンド『フッ、俺には関係ないね』

 

 

電子音声と共に近くの鏡からスラッシュダガーが飛び出しオルタナティブの手に握られるとオルタナティブはディエンドに向かって駆け出していき、ディエンドはそれに鼻で笑いながらディエンドライバーでオルタナティブを狙い撃っていく。だが……

 

 

―キキキキキキンッ!!―

 

 

ディエンド『なっ?!』

 

 

オルタナティブ『私を舐めるなぁ!!』

 

 

―ガギィィィィィンッ!!―

 

 

ディエンド『グッ!?』

 

 

オルタナティブはディエンドの連射した銃弾を全て弾き飛ばしながらディエンドへと接近してスラッシュダガーで一閃し、ディエンドを壁に叩き付けていった。そして壁に叩き付けられたディエンドはふらつきながら立ち上がりオルタナティブに目を向ける。

 

 

ディエンド『ッ…アンタ、本当にレジアス・ゲイズなのか?そこら辺の敵よりも遥かに強いんだけど?』

 

 

オルタナティブ『ふん、私はこの力を手に入れる前から…いやホルスと出会ってから過酷な管理外世界に休日は行き、鍛錬に鍛錬を重ねたのだ。全ては自身の罪を償う為、そしてこの手でスカリエッティを捕まえ今度こそ間違わずに地上の平和を護る為だ!』

 

 

ディエンド(……とんでもないオジサンに力を与えてくれたものだな、ホルス)

 

 

力強く自身の決意を告げるオルタナティブにディエンドは内心冷汗を流しながら立ち上がると腰のホルダーから二枚のカードを取り出し、ディエンドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:BLADE!KAMENRIDE:RYUKI!』

 

 

電子音声と共にディエンドはオルタナティブに向けて引き金を引くと辺りをビジョンが駆け巡り、それがそれぞれ重なるとディエンドの目の前にブレイドと龍騎が現れオルタナティブに向かって駆け出していった。

 

 

―ガガンッ!ギイィンッ!ガキィィィィンッ!!―

 

 

ディエンド『………化け物か、あのオジサンは?』

 

 

だがオルタナティブは二人を相手に怯まず、逆にブレイドと龍騎を圧倒さえしていた。そしてそれを見ていたディエンドは信じられないと言った表情を浮かべて唖然となるが、すぐに立ち直って左腰のホルダーから更に三枚のカードを取り出した。

 

 

ディエンド『仕方ないな…此処は彼女からもらった力を使わせてもらおう』

 

 

目の前で繰り広げられる戦いを眺めながらディエンドは取り出したカードをディエンドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『HACKRIDE:KITE!SYAKUGNRIDE:SYANA!INDXRIDE:MIKOTO!』

 

 

ディエンド『さあ、特別ゲストの登場だ』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドライバーの引き金を引くとディエンドの目の前を複数の残像が駆け巡り、それらがそれぞれ重なると一つはツギハギの身体に両手に不気味な双剣を構えたゾンビのような姿をした戦士、一つは片手に刀を構えた制服姿の赤い髪を持った少女、一つは青白い電流を身体から散らせるオレンジ色の髪の少女となって姿を現し、オルタナティブへと襲い掛かっていった。

 

 

オルタナティブ『ッ!な、何だコイツ等は?!ライダーではない?!』

 

 

ディエンド『俺が呼び出せるのがライダーだけとは限らないよ?ま、ソレが相手だと流石の貴方も戦い難いかな?』

 

 

オルタナティブ『クッ?!』

 

 

ディエンドが呼び出した三人の戦士、.hack//G.U.に出てくる双剣士のカイト、灼眼のシャナのヒロインであるシャナ、アギトの世界でG3ユニットの一員だった御坂美琴はブレイドと龍騎と共にオルタナティブへと攻撃を加えていき、オルタナティブも五対一と不利な戦況となって追い詰められ始め、その戦いを見ていたディエンドはそろそろ頃合いだと思いオルタナティブにトドメを刺そうとファイナルアタックライドのカードを取り出しドライバーに装填しようとする。が……

 

 

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

 

 

デェエンド『……え?』

 

 

ディエンドの後ろから電子音声が響き、それを聞いたディエンドは思わず疑問の声を漏らしながら背後へと振り返ると……

 

 

 

 

スバル(鷹)「城戸さんに何をしたぁあああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

ディエンド『ΣΣウソオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

突然現れたこの世界のスバルがディエンドに向かってドラゴンライダーキックを放ち、ディエンドは突然の事態に反応が遅れドラゴンライダーキックを喰らい爆発を起こしながら吹き飛んでいった。そしてその瞬間にオルタナティブと戦っていたブレイド達は消失し、吹き飛んだディエンドは変身が解除され大輝へと戻り地面に倒れていた。

 

 

大輝「…な、何で、こんな目に……ガクッ」

 

 

―ガシッ!―

 

 

スバル(鷹)「コラアァァァァァァァァッ!!起きろ!城戸さんに何をした!?」

 

 

変身が解けた大輝は意識を手放して気絶してしまうが、スバル(鷹)は関係ないと言わんばかりに大輝の襟を掴み上げ身体を前後に激しく揺さ振るが、大輝は完全に気絶している為にまったく答える様子が無かった。そんな中、オルタナティブはスバル達の下へ駆け寄りスバルの肩を叩く。

 

 

オルタナティブ『良くやってくれたナカジマ局員!協力感謝する!』

 

 

スバル(鷹)「…へっ?」

 

 

オルタナティブが礼を言うとスバルはその意味が分からず疑問の声を上げるが、オルタナティブは変身を解いてレジアスへと戻り大輝を抱えてその場から去っていき、スバルもそれに気付くと慌ててレジアスの後を追っていくのであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑥

 

 

そしてその頃、写真館では朝食を終えた零達がセリア達とラピリの仲直りをさせる為にディエンドライバーを手に入れる方法を考える為、鷹達に大輝について話をしていた。

 

 

鷹「成る程…どうやら私の知るディエンドよりも実力は上の様ですね。その海道大輝という人物は」

 

 

零「ああ、認めたくないが…奴は実力だけは確かだ」

 

 

セリア「けどソイツがどんなに強くたって、私達全員で掛かればイチコロでしょ?死なない程度に痛め付けてそのドライバーとやらをぶん取ってやるわ……フフフフ」

 

 

優矢「いや…それ軽くあの人を殺すって言ってるようなもんだから�」

 

 

零と鷹の会話を隣で聞いていたセリアは危ない笑みを浮かべながらバキボキと腕を鳴らし、それを見た優矢は顔を引き攣りながら苦笑していた。するとそんな中、TVを見ていたヴィヴィオとラピリの会話がメンバーの耳に届いてきた。

 

 

ヴィヴィオ「…アレ?ねえラピリちゃん?この人って海道って言う人だよね?」

 

 

ラピリ「うん、そう読めるよ」

 

 

『…………はっ?』

 

 

ヴィヴィオとラピリの会話に一同が疑問の声を上げ、二人が見ていたTVへ視線を移すと……

 

 

 

 

『臨時ニュースを申し上げます。先日地上本部に強盗に入った犯人…海道大輝、十九歳が先程、地上本部トップ、レジアス中将と機動六課局員、スバル・ナカジマにより逮捕されました。ですが盗んだロストロギアは発見できず、現在地上本部が総出を担って探索している模様です』

 

 

 

 

零「……………海道だ」

 

 

鷹「………よりにもよって地上本部に在るなんて…」

 

 

ボロボロの姿になってTVに移る大輝を見て零や他のメンバーは唖然となり、鷹は頭を抱えて事の難しさを悩んでいるとセリアとヴィヴィオ(鷹)は立ち上がり部屋を出ようとする。そしてそれを見た戦技達は慌てて二人を止めようとする。

 

 

戦技「止めんか!今はまだ不味いぞ!?」

 

 

フェイト(鷹)「そうだよ!事の重大さを考えて!?」

 

 

アインス「とにかく落ち着いてください!」

 

 

セリア「離せ!!ラピリの為にも手に入れないと行けないのよ!!」

 

 

ヴィヴィオ(鷹)「そうだよ!このまま他人みたいに振舞われるのは嫌だ!!」

 

 

戦技達が地上本部に向かおうとするセリア達を止めるとセリアとヴィヴィオ(鷹)はそれを振り切ろうと暴れ出し何とか地上本部に向かおうとするが、それを見ていたなのは達も加わりセリア達を押さえ込んでいった。そしてその間に零と鷹は話を続けていく。

 

 

零「それにしても、レジアスが捕まえたってどう言うコトだ?幾らなんでもあのオッサンに海道が負けるとは思えないんだが…」

 

 

鷹「あ~非常に言い難いんですが……実はこの世界のレジアスは強いんですよ。で、これがこの世界のレジアスの写真です」

 

 

疑問符を浮かべる零に鷹は苦笑しながら胸ポケットから一枚の写真を取り出し、零は鷹の手からそれを受け取り写真を見てみるが……

 

 

零「………………………………………………誰だ?」

 

 

なのは「零君?レジアス中将がどうかした……………………………………誰?」

 

 

フェイト「二人ともどうし………………………………………誰この人?」

 

 

鷹から渡された写真を見た零達は我が目を疑い何度も瞬きをしていた。だって、どう見ても可笑しいのだ。自分達の知るレジアスは普通の中年親父なのに写真に写っているのは見るからに鍛えてます!と言う感じの男性が写っていたのだから。

 

 

鷹「いや…その人ですよ?この世界のレジアス・ゲイズは」

 

 

『……………ハァッ!?』

 

 

苦笑いを浮かべながら告げた鷹の言葉に零達は信じられないと言う表情を浮かべて驚愕し、再びまじまじと手元の写真に目を向けていく。

 

 

鷹「いや~色々とありましてね�」

 

 

零「いや…如何見ても別人だぞこれは?一体何をどうすればこんな…�」

 

 

鷹「まあ、気にしないでください�それより今はどうやってディエンドライバーを手に入れるか考えなければいけません」

 

 

零「…それもそうだな…だが流石に地上本部に乗り込む訳には行かないし、さてどうしたものか……」

 

 

地上本部で捕まってる大輝からどうやってディエンドライバーを手に入れるか。その上手い方法が浮かばない零と鷹は難しげな表情を浮かべて考えていると、スバルが何かに気付いたかのように二人へ話し掛ける。

 

 

スバル「あの、確か今地上本部にはこの世界の私がいるんですよね?だったらこの世界の私に連絡して頼んでみるっていうのはどうでしょう?」

 

 

鷹「ッ!確かにそれは良い手ですね……よし、それで行きましょう」

 

 

零「いや、でもそれ以前にどうやってこの世界のスバルに連絡するんだ?」

 

 

鷹「その点なら心配ありません、こちらにはちゃんと秘策がありますから」

 

 

『…?』

 

 

零の質問に対し鷹は意味ありげな笑みを浮かべながらそう答え、その笑みの意味が分からない零達はただ首を傾げていた。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

そして約三時間後……

 

 

 

―バシュンッ!―

 

 

スバル(鷹)「到着です!」

 

 

『んなっ!?』

 

 

部屋の中にある鏡から突如この世界のスバルが現れ、それを見た零達は驚愕して思わず後退りした。だがこの世界のスバルはそれに気付かず、唖然とした表情を浮かべるスバルを見つけて自己紹介をする。

 

 

スバル(鷹)「始めまして異世界の私!この世界の私だよ♪」

 

 

スバル「い、いやちょっと待ってよ!?どうして私が異世界から来た事を知っているの!?こうして会うのが初めてでしょ!?」

 

 

鷹「あぁ、貴方達についての事情はモンスター経由で既に教えているんですよ」

 

 

『……ハッ?!』

 

 

いきなり自分が異世界から来た事を言い当てられ戸惑うスバルに鷹が冷静に事情を説明し、それを聞いた零達は再び唖然とした表情を浮かべてしまう。

 

 

零「ちょ、ちょっと待て!この世界のスバルもモンスターの契約者なのか?!」

 

 

鷹「えぇ、スバルだけじゃないですよ?ティアナとシグナムも契約者です」

 

 

シグナム「な、何っ?!」

 

 

ティアナ「わ、私もですか?!」

 

 

優矢「ど、どんだけ異色なんだよこの世界は…�」

 

 

冷静に事情を説明していく鷹に優矢達は呆然としてしまい、この世界の異色さを改めて感じさせられ思わず頭を抱えてしまう。

 

 

鷹「で、先程伝えたモノは持ってこられましたか?」

 

 

スバル(滝)「はい!あっ、それと海道って言う人ですけどね?これを借りる代わりに出所しましたよ。レジアス中将もデータ取りは終わったから好きにして良いそうです」

 

 

零「アイツ出られたのか?…チッ…そのまま死ぬまで入っていれば良かったモノを…」

 

 

優矢「はい其処!!隠れて怖い事言わない!!�」

 

 

スバル(鷹)「いやぁ~流石に異世界の人間まで面倒見切れないそうですよ�唯でさえ地上は大騒ぎですからね…」

 

 

なのは「えっ?大騒ぎって何が?」

 

 

苦笑気味に答えたこの世界のスバルの言葉になのはが疑問そうに聞き返すと、スバル(鷹)は表情を変え深刻そうに答える。

 

 

スバル(鷹)「実は盗まれたロストロギア何ですけど…かなり不味い物なんですよ。そのロストロギアは生物に取り付いてその生物を変異させ、強力にする事が出来るモノだったみたいで…」

 

 

『なっ…?!』

 

 

スバル(鷹)「しかもそれが何処にあるか分かってない状況ですから…地上は総力を持って探してるのが現在の状況なんです」

 

 

零「クッ!海道の奴…何でよりによってそんな物を盗んだんだ!?」

 

 

スバル(鷹)が説明した現状に零は頭を抱えながら大輝の姿を思い浮かべ舌打ちしてしまう。そんな時……

 

 

ヴィヴィオ「…………ねえパパ?これってもしかしてこの世界のモンスターだよね?」

 

 

『…………は?』

 

 

TVを見ていたヴィヴィオが零に声を掛けながらTVを指差しそれを聞いた全員はTVの画面へと目を向けていくが、その表情は次第に驚愕のものへと変わっていった。何故なら今TVには巨大なミラーモンスター…ハイドラグーンがとあるビルの屋上に留まっている姿が映っていたのだ。

 

 

鷹「…………最悪ですね、どうやらそのロストロギアはあのハイドラグーンに寄生したようです…」

 

 

零「…………らしいな、というか不味いぞ?あの巨体で高速移動されたらクラナガンの街が消し飛ぶ…」

 

 

零と鷹は互いに冷汗を流しながらTVに映ったハイドラグーンを見るが、鷹はすぐに立ち直りセリア達の方に目を向け頷くとポケットからデッキを取り出し、腰に現れたベルトに装填してホルスへと変身する。

 

 

ホルス『行くぞ』

 

 

『了解ッ!』

 

 

変身を完了したホルスはセリア達にそう言うとセリア達はそれぞれのバイザーを取り出して頷き返した。

 

 

なのは「ま、待って!行くってまさか…あそこに?!」

 

 

フェイト「無茶だよ?!あそこには事情を知らない局員が沢山居るんだよ?!そんな所へ行ったら貴方達が…」

 

 

そう、現在ハイドラグーンが留まっているビルの周りには沢山の時空管理局員が出動しているだ。其処に犯罪者であるホルス達が向かうのはまさに捕まりに行く様なものだ。だがホルスはそれに気にせずバイザーを取り出して告げる。

 

 

ホルス『確かにそうかもしれんが、我々は行かなければならない……この世界を護る為にな。確かに我々は多くの人を殺しているが、好きで殺している訳ではない。この世界を平和にしたいからだ』

 

 

零「…だがそれでも、罪は背負うぞ?」

 

 

ホルス『フ、覚悟は出来てるさ。地獄に落ちる覚悟も…殺される覚悟もな?』

 

 

『DIMENSION VENT!』

 

 

ホルスは零にそう宣言するとバイザーにカードをベントインし、電子音声と共にホルス達の周りに光が集まり光が消えるとホルス達の姿は消えてしまっていたのだった。

 

 

スバル「行っちゃった…」

 

 

フェイト「…零、どうするの?」

 

 

ホルス達が消えるのを見たフェイトは心配そうな表情を浮かべて零に問い掛けると零はライドブッカーからシルエットだけのホルスのカードを取り出し、ソレを見下ろしながら呟く。

 

 

零「罪を背負う覚悟…殺される覚悟……そうだな……そうだったよ、ホルス…」

 

 

なのは「零君……」

 

 

零「…いくぞ。ホルス達の…鷹達の覚悟を阻む奴は、俺が破壊するっ!」

 

 

なのは「…うん!」

 

 

零はホルスのカードを眺めた後、それをライドブッカーに戻すと決意の込められた瞳で力強く告げ、なのはと共に写真館を飛び出していった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―クラナガン・とあるビルの屋上―

 

 

一方その頃、巨大なハイドラグーンが留まったビルの周りに続々と局員達が集結していく中、その向かいのビルの屋上ではその様子をジッと眺める一人の青年の姿があった。

 

 

「…どうやら零のこの世界での役割も、終わりが見えてきたようだな…」

 

 

黒いコートを風に靡かせながら、青年は向かいのビルの屋上に留まった巨大なハイドラグーンをただジッと見つめ続ける。するとそんな青年の周りを一匹の黒いコウモリのような物が飛び回り青年に問う。

 

 

「それで、これからどうするつもりだ?」

 

 

「愚問だな…何故この俺がわざわざ出て来てやったと思う?あのピエロが言っていた……奴が持つ因子の力を試す為だ……行くぞ」

 

 

「あぁ…」

 

 

黒いコウモリが青年にそう答えると、青年は黒いコウモリを掴み自分の左手に近づけていく。そして……

 

 

「ガブリッ!」

 

 

なんと、黒いコウモリはいきなり青年の左手に噛み付いたのだ。すると噛み付かれた青年の顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がり、青年の腰に何重もの鎖が巻き付くと鎖は黒いベルトとなっていった。

 

 

「…変身」

 

 

青年はそう呟くと共に手に持っていた黒いコウモリをベルトの止まり木にセットし、その姿を徐々に変化していった。赤と黒のボディに背中には黒いマントを身に付け、何処かキバに酷似した姿をした緑の瞳の異形……そう、仮面ライダーへと。

 

 

『…まずは…この辺をうろつく邪魔な局員共から潰す……いくぞ』

 

 

青年の変身したライダーはそう呟くと、まずはビルの下に見える局員達から片付けようとその場から歩き出していく。だが……

 

 

 

 

 

 

「――おいおい、勝手に場を引っ掻き回すのはやめてくれないか?」

 

 

『…!』

 

 

ライダーの背後から不意に男の声が響き、それを耳にしたライダーはピタリと足を止めた。

 

 

「お前を行かせるワケにはいかねぇんだよ。まだお前とアイツを会わせるワケには…な」

 

 

『フン…異世界のライダーである貴様等には関係あるまい』

 

 

「それでもだ。こっちにはこっちの都合って物があるんだからな……」

 

 

その声と共にカチャッと鉄のような音が響き、それを聞いたライダーはゆっくりとした動作で背後へと振り返っていく。振り返った其の先には二人の人物……腰に別々のバックルを身に付け、片手には不思議な形をしたアイテムと白いパスを手に持った二人の青年の姿があった。

 

 

『偽物と泥棒風情が…またディエンドとヴィヴィッドの使いでもしてるのか?』

 

 

「いや、今回は俺達の独断さ。お前の動きに気付いてすぐに動いたから、アイツ等に連絡する暇はなかったけどな」

 

 

『…成る程…余程俺達はお前達に危険視されてるようだな…そんなに俺達と零が出会うのを避けたい訳か』

 

 

「そういうワケだ…だからお前をまだ行かせる訳にはいかねぇんだよ、"追跡者"さん」

 

 

二人はライダーにそう言うと黒髪の青年は手に持っていたアイテムは鍵のような形に変形させるとそれをベルトにセットして勢いよく回転させ、もう一人の青年もパスを構えてバックルにセタッチした。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『OPEN-FAKE!』

 

『Blood Form!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと黒髪の青年の身体は白と黒のシンプルなカラーリングをしたライダーに、もう一人の青年は紅いスーツを身に纏うとその上から更に紅いオーラアーマーとデンカメンが装着されて変身していった。すべての変身を完了した二人のライダー…『フェイク』と『零王』はそれぞれ武器を取り出して構えライダーと対峙していき、そんな二人を見たライダーは笑みを浮かべながら自身のマントを翻した。

 

 

『…いいだろう、少しだけ戯れてやる…来い』

 

 

ライダーが余裕の笑みを浮かべて挑発するかのように両手を広げると、それと同時にフェイクと零王は自分達の武器を構えてライダーに突っ込み戦闘を開始していくのであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑦

 

 

―クラナガン・巨体ハイドラグーン現場―

 

 

その頃、クラナガンに出現した巨体ハイドラグーンの周りには地上の部隊が多く出撃し、ハイドラグーンの周りを包囲していた。が、ハイドラグーンの留まっていたビルの屋上には大量の卵が植え付けられ、其の中から大量のシアゴースト達が出現し局員達とレジアスの変身したオルタナティブ、そしてこの世界の六課がそれと応戦していた。

 

 

―ブザァンッブザァンッ!ブザアァァンッ!!―

 

 

『ウエアァッ!?』

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

オルタナティブ『怯むな!此処を押し切られては街の人々に危害が及ぶ!!我々の意地を見せてやれ!!』

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

前線で戦っていたオルタナティブはシアゴースト達を斬り伏せながら局員達へと呼び掛け、それに触発された局員達は士気を高めデバイスを構えながらシアゴースト達へと突っ込んでいった。

 

 

なのは(鷹)「エクセリオン、バスタァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

はやて(鷹)「来よ、白銀の風!天より注ぐ矢羽となれ!フレースヴェルグッ!!」

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『ウエアァッ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

上空の方では隊長陣であるなのはとはやてが上空から砲撃を放ち、シアゴーストの群れを確実に殲滅してる最中であった。

 

 

はやて(鷹)「これでやっと六十七…大分片付いてきたな」

 

 

なのは(鷹)「うん、でもまだまだいるみたいだし…後どれぐらい残ってるんだろ?」

 

 

はやて(鷹)「わからへんけど…このままモンスター達の進行を許すワケにもいかへん。何とか住民の避難が完了するまで持ちこたえんと!」

 

 

二人は地上でうごめくシアゴースト達を険しい表情で見下ろしながら会話をし、未だ逃げ切れていない人々が避難を終えるまで持ちこたえなければと、自分達のデバイスを再び構えて応戦しようとする。だが……

 

 

―……シュパアァァァァ!シュルルルルッ、ガシッ!―

 

 

なのは(鷹)「なっ!?」

 

 

はやて(鷹)「こ、これはっ!?」

 

 

二人の四角から突如糸の様な物が放たれ二人の身体に巻き付いていき、突然の事に二人は反応が遅れ糸に捕われてしまった。その糸が放たれてきた方には、ビルの屋上から二人に向かって口から糸を放つシアゴースト達の姿があった。

 

 

はやて(鷹)「くっ?!油断したっ…!?」

 

 

なのは(鷹)「このっ!は、外れないっ!!」

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

糸に捕われてしまった二人は何とか糸を外そうともがくが糸はビクともせず、シアゴースト達はそんな二人を嘲笑うかのように自分達の方へと二人を引き寄せていき、二人の表情にも次第に焦りが浮かび始めていく。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ウエアァァァァッ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『……えっ?』

 

 

突如上空から複数の弾丸が降り注ぎ、ビルの屋上にいたシアゴースト達はそれを受けて断末魔と共に爆発し散っていった。それにより二人は糸から脱出し突然の事態に唖然としていると、二人の上空からトランスに変身したなのはがウィング・ガードを装備したディケイダーに乗ってその場に現れた。

 

 

トランス『間に合ったみたいだね…大丈夫?』

 

 

なのは(鷹)「え…?あっ、は、はい。あの…貴方は?」

 

 

トランス『気にしないで、ただの通りすがりだから』

 

 

はやて(鷹)「と、通りすがり…?」

 

 

目の前に現れたトランスを見て二人は戸惑ってしまうが、トランスは気にせずにライドブッカーから一枚のカードを取り出しトランスドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

トランス『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:FEATHER!』

 

 

バックルをスライドさせて電子音声が響くとトランスの周りに光の粒子が現れ、トランスの身体を包み込むとトランスは幸村の世界のなのはが変身するのと同じフェザーへと変身したのであった。

 

 

なのは(鷹)「か、変わった!?」

 

 

はやて(鷹)「な、なんやのアレ!?」

 

 

Tフェザー『さてと…じゃあそろそろ始めようか?』

 

 

トランスがTフェザーへと変身したのに二人は驚き、Tフェザーは上空へ浮くと懐から取り出したビートルフォンを操作してディケイダーを戦線から離脱させ、それを確認するとライドブッカーから一枚のカードを取り出しトランスドライバーへとセットしていく。

 

 

『ATTACKRIDE:TWIN BUSTER RIFLE!』

 

 

電子音声が響くとTフェザーは何処からか巨大なライフル、フェザーの武器であるツインバスターライフルを取り出して構え、照準を地上のシアゴーストの群れに向けて銃口にエネルギーを溜めていく。そして……

 

 

Tフェザー『ターゲット、ロックオン……ツインバスターライフル!!シュウーーーーーーートッ!!!』

 

 

―カチッ…ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ウオォッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Tフェザーのライフルから放たれた巨大なエネルギー砲が見事に炸裂し、地上にいたシアゴーストの大群の半数以上はそれに飲み込まれ跡形もなく消滅していったのであった。

 

 

なのは(鷹)「す、凄い…」

 

 

はやて(鷹)「な、なんやねんこの目茶苦茶な力……って、あれ?」

 

 

Tフェザーの力を間近で見ていた二人は驚き唖然としてしまうが、その時目の前にいた筈のTフェザーの姿がない事に気づき辺りを見渡すと、二人の周りに撒き散らされた白い羽だけが残されていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

一方その頃、オルタナティブ達が戦うビルの向かいにあるビルの屋上では、フェイクと零王が黒いライダーと一進一退の戦いを繰り広げていた。

 

 

フェイク『デァアアアアアアッ!!』

 

 

『フッ!どうした?そんな生温い攻撃では俺には勝てんぞ?』

 

 

零王『野郎ぉッ!』

 

 

黒いライダーはフェイクと零王の繰り出す攻撃を全て涼しく避けていき、それがカンに障るのかフェイクと零王も無意識に武器を振るう力を強めていく。だが、黒いライダーはそれを軽く蹴りで弾きながらフェイクと零王を殴り飛ばして距離を開き、両手に赤黒く輝くエネルギー光を収束させていく。

 

 

『ヌウゥゥゥゥ……ハアァアアアアアアッ!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『クッ?!』

 

 

黒いライダーはエネルギー光を収束させた両手を二人に向けて突き出すと巨大なエネルギー砲となって放たれ、フェイクと零王はそれを横へと跳び退け紙一重で回避すると態勢を立て直し、すぐに黒いライダーへと一直線に向かっていく。

 

 

『ほぉ…アレを避けたか…ならば…』

 

 

黒いライダーは攻撃を避けられた事に動揺もせず右手にエネルギーを集束させ、勢いよく右手を地面に叩き付け二人に向けて衝撃波を放った。

 

 

フェイク『チッ!また来たかっ!』

 

 

零王『そんな直線的な攻撃なんか受けるかよっ!』

 

 

フェイクと零王はすぐさま左右へと移動して衝撃波を少し掠りながらも回避し、再び迎撃態勢を取って黒いライダーへと向かっていく。が……

 

 

零王『…………え?』

 

 

フェイク『!……いない?』

 

 

二人が突っ込んだ先にはあの黒いライダーの姿はなく忽然と消えてしまっていたのだ。突然消えてしまった黒いライダーに二人は驚きつつもその姿を探して辺りを見渡していく。その時…

 

 

 

 

『―――何処を見ている?俺は此処だ…』

 

 

 

 

『ッ?!―ガシッ!!―グッ!?』

 

 

二人の背後から突然声が聞こえ直ぐさま振り返ると、それと同時に二人の背後に何時の間にか回り込んでいた黒いライダーがフェイクと零王の首を掴み、宙吊りにして締め上げていく。

 

 

フェイク『グッ?!コ、コイツっ…!!』

 

 

『どうした?こんな事では俺が楽しめんだろ…もっと抗ってみせろ』

 

 

―バチィッ……ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

零王『グッ!ガアァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

黒いライダーはフェイクと零王の首を締め上げたまま両手からエネルギーを放出していき、それ受けた二人は身体から無数の火花を散らせながら黒いライダーによって吹き飛ばされ壁に叩き付けられていった。

 

 

零王『ガッ…グッ!な、何だよ…このデタラメな強さはッ…!』

 

 

『フン、当然だ…俺は貴様等のようにライダーの力に頼り切っている訳ではないのだからな…』

 

 

フェイク『ッ…なんだとっ…?』

 

 

歩み寄ってくる黒いライダーの言葉にフェイクと零王はふらつきながら立ち上がり、黒いライダーは両手を広げながら歩みを止めずに告げる。

 

 

『そもそもライダーの力など、装着者が元から持つ力を爆発的に上げて発揮するだけの道具にしか過ぎない。そんなシステムを頼りに戦っている貴様等などが、元々の能力で戦っているこの俺に勝てる筈がない…』

 

 

フェイク『チッ…言ってくれるじゃねぇか…』

 

 

零王『だったらその自信…俺達がへし折ってやる!!』

 

 

余裕の態度を崩さない黒いライダーを見たフェイクと零王は直ぐに武器を構え直し、フェイクは自身の武器であるフェイクブレイドのダイヤルを回して銃のような形態に切り替えると身体の色が緑へ変化し、それと同時にベルトから鍵を外しフェイクブレイドへと装填していき、零王は懐から取り出したパスをバックルにセタッチしていく。

 

 

『OPEN BRAKE!』

 

『Full Charge!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くとフェイクはフェイクブレイドの銃口にエネルギーを溜めて黒いライダーに照準を合わせ、零王はパスを投げ捨てると右手に持つ剣にエネルギーを溜めていき、必殺技の発射態勢に入った二人を見た黒いライダーは一瞬鼻で笑いながら両手に再びエネルギーを溜めていく。そして……

 

 

フェイク『喰らいやがれ…フェイクデトネーションッ!!』

 

 

零王『鮮血を散らせろッ!ブラッディヘルズッ!!』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『…眠るがいい…永遠の闇へと…』

 

 

―シュウゥゥゥゥ…ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

フェイクと零王が同時に放った巨大なエネルギー砲と鮮血の斬撃波、そして黒いライダーが両手から放ったエネルギー弾が中心で激突し合い、そして……

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!―

 

 

技と技のぶつかり合いにより、三人のいた屋上は巨大な爆発と爆煙に飲み込まれていったのだった……。

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

そしてその頃、セリア達と別れたホルスは別の場所でシアゴースト達と戦っていた。だが、そんなホルスの目の前に上層部側の局員が立ち塞がりデバイスの矛先をホルスに向けて対峙していた。

 

 

ホルス『やれやれ、今は私を捕まえる時では無いと思うんだがな…上層部側の局員?』

 

 

「フン、悪いが貴様等を捕まえろと言う命令は受けていない!貴様らを発見したら抹殺しろと命令されているのだ!!」

 

 

ホルス『この状況でか…?モンスター達を倒さなければミッドが滅びると言うのに?』

 

 

「関係ないな…たかが世界の一つではないか。管理局さえあれば世界など幾らでも管理できる」

 

 

要は、目の前の犯罪者を捕まえる為なら数千人以上の命などどうでもいいという事だ。鼻で笑いながらそう告げた上層部側の局員にホルスの表情は険しくなっていき、局員はそれに気付かずホルスにデバイスを突き出していく。そんな時……

 

 

 

 

「……成る程。話に聞いていたが、此処の管理局は骨の髄まで腐っているようだな?」

 

 

 

 

「ッ!誰だ!?」

 

 

局員の背後から不意に男の声が聞こえ、局員はホルスにデバイスを突き付けたまま背後に振り返ると其の先から一人の青年……ホルスを追ってきた零がゆっくりと姿を現し局員と対峙していく。

 

 

ホルス『零か…何故此処にいる?』

 

 

零「この問題を引き起こしたのは海道だ。なら、それを黙って見るわけにはいかないだろう?」

 

 

ホルスからの質問に零は微笑しながら答えると、局員はホルスに向けていたデバイスを零に構え質問する。

 

 

「貴様っ…貴様もホルスの仲間か!?」

 

 

零「…だとしたらどうするんだ?」

 

 

「ホルスの仲間だと言うのなら犯罪者だ!ホルス共々抹殺する!!」

 

 

局員はそう言いながらデバイスに魔力を込め魔力弾を放とうとするが、零は気にせず冷静に語り出す。

 

 

零「確かにホルスは数多くの人を殺してきた…だが、少なくともそれはお前達の様な私利私欲の為に殺してるわけじゃない!この世界の平和を作る為、コイツ等は様々な汚名を着せられながらも戦い続けている!それを犯罪者だとお前達が断言する資格は無い!」

 

 

「黙れ!!管理局の正義に逆らう者は全て犯罪者だ!管理局に逆らうホルスもお前も、我々が管理する世界に必要などない!!」

 

 

局員は零の言葉を一切受け付けようとはせずデバイスに魔力を溜め続け、局員のその言葉に零は目付き鋭くさせながら告げる。

 

 

零「まだ分からないのか?この世界に必要なのは管理なんかじゃない……全ての人々が平等に暮らせる平和な世界だ!お前達が無慈悲にも殺してきた人造魔導師達は、自由も…幸せも…人の優しさにすら触れる事もなく死んでいった!ホルスはこれからも、そんな子供達の無念を晴らす為に数え切れない罪を背負って戦い続ける!本当に必要がないのは…自分達の欲の為に人の命を弄び、罪の意識すら持とうともしない貴様等の方だ!!」

 

 

「なっ……」

 

 

ホルス『…零…』

 

 

零の気迫を感じさせる言葉に局員は思わずたじろぎ、それを聞いていたホルスは仮面越しに決意の込められた表情へと変わっていく。それと共に零は三枚の絵柄の消えたカードを取り出すと、シルエットだけだった絵柄が浮かび上がりホルスを含んだ三枚のカードとなっていった。

 

 

「き、貴様…一体何者だ?!」

 

 

局員が零に何者かと聞くと零は無言のままポケットからディケイドライバーを取り出して腰に装着し、ライドブッカーからディケイドのカードを取り出し構えていく。

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

バックルにカードをセットすると電子音声が響き、零はそれと共に零はディケイドへと変身していった。そして変身を完了したディケイドは局員へと歩み寄っていき、局員はデバイスを構えたままディケイドから後退りしていく。

 

 

「ク、クソッ!これでもくら『邪魔だ。消えろ』なっ!?」

 

 

―ドゴォンッ!―

 

 

局員がディケイドの向けて魔法を放とうとした瞬間、ホルスが局員の目の前に現れ局員を近くのビルの壁へと殴り飛ばしていった。そしてそれを見たディケイドは腰に手を当てながら問い掛ける。

 

 

ディケイド『殺したのか?』

 

 

ホルス『ふん、私が殺さずとも奴に待ってるのは地獄だ。今の会話は全て地上のトップの送られていた……ミッドの平和をどうでもいいと言った奴をアイツは許しはしないだろう。例え生き残ったとしても、待つの地獄だけだ』

 

 

ディケイド『成る程…ご愁傷様だな』

 

 

壁際で倒れて気絶する局員の末路を想像してディケイドはそう呟くが、すぐにそれから視線を逸らし巨大なハイドラグーンへと視線を移していく。

 

 

ディケイド『さて、さっさとアイツを片付けるとするか。ホルス!』

 

 

ホルス『そうだな、ディケイド!』

 

 

二人は互いに顔を見合わせて頷き合い、ディケイドは両手を叩くように払った後ホルスと共に巨大なハイドラグーンが留まる場所へと走り出していった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑧

 

 

―クラナガン・巨体ハイドラグーン現場―

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

『SWORD VENT!』

 

 

『ハアァァァァァッ!!』

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!ガギィィィィンッ!!―

 

 

『ウエァッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォォンッ!!―

 

 

ディケイドとホルスは現在巨大ハイドラグーンの留まったビルの屋上を目指してビルの階段を駆け上がり、その途中に待ち伏せていたシアゴーストの群れを斬り伏せながら先へと進んでいた。そして残りの階段が後半分近くになったところまで来ると、ホルスはディケイドの隣を走りながら口を開いた。

 

 

ホルス『ディケイド、何やら昨日とは様子が違うな?』

 

 

ディケイド『そうか?別に何処も悪くない筈だが……ハァッ!』

 

 

ホルスからの問いにディケイドはシアゴーストを斬り伏せながら答え、ホルスもドラグセイバーでシアゴーストを斬り落としながら先へと進む。

 

 

ホルス『いや、寧ろその逆だ。昨日お前と戦った時、お前の攻撃には何処か迷いを感じた…だが、今のお前からはそれが感じられない。何かあったのか?』

 

 

ディケイド『…………』

 

 

ホルスがそう聞くとディケイドは一瞬昨夜のなのはとの会話を思い出し、ホルスに気付かれないように小さく笑った。

 

 

ディケイド『…そうだな…今までずっと引きずってた物が、何処のお節介の言葉で軽くなった…ってところだ』

 

 

ホルス『?』

 

 

ディケイドは微笑しながらそう答えるが、ホルスにはその意味がよく分からず首を傾げてしまう。ディケイドはそんなホルスの反応を見て思わず苦笑してしまうが、すぐに階段を駆け登り屋上まで疾走し屋上に出ると、其処には巨大なハイドラグーンを守るように立ち塞がるシアゴーストの群れが存在していた。

 

 

ディケイド『チッ…あくまでも通すつもりはないって訳か…』

 

 

ホルス『ならば、倒して先へと進むのみ…だろう?』

 

 

ディケイド『あぁ……ならやるか!』

 

 

ディケイドはホルスに頷くとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にディケイドの身体に赤いラインが延びて一瞬輝き、輝きが晴れるとディケイドは岡崎が変身するのと同じDファイズへと変身した。そしてDファイズは両手を払いながらライドブッカーからもう一枚カードを取り出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

『FORMRIDE:FAIZ!AXEL!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDファイズの胸部のアーマーが展開し、肩の定位置に収まるとボディの色が銀と黒、そして瞳の色が赤色へと変わった姿、高速戦闘を得意としたファイズ・アクセルフォームへとフォームチェンジしたのである。そしてフォームチェンジしたDファイズは左腕に装着された腕時計、ファイズアクセルのボタンを押し、ホルスもデッキから取り出したカードをバイザーにセットしベントインする。

 

 

『START UP!』

 

『FINAL VENT!』

 

 

『キエェェェェェェーーーーーーッ!!』

 

 

Dファイズ『フッ!』

 

 

ホルス『ハァッ!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くとDファイズは風を切り裂きながら高速でモンスターの群れへと突っ込み殴り掛かっていき、ホルスは両手にファルブレードを構えると近くの鏡からウインドファルコンが姿を現し、モンスター達に向かって竜巻を放った。そして……

 

 

Dファイズ『ハアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!』

 

 

『Three…Tsu…Wan…』

 

 

『キエェェェェェェーーーーーーーーッ!!』

 

 

ホルス『ムンッ!ウオォォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!ズギャアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ウエアァァァァッ!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『TIME OUT!』

 

 

Dファイズはモンスター達に回し蹴りを放って怯ませていき、その隙にホルスは両手に握られたファルブレードを構えながら竜巻の中に飛び込み自身の必殺技……旋風斬をモンスター達に向かって放つとモンスター達は断末魔と共に爆発し、Dファイズは爆炎の中を駆け抜け電子音声と共にディケイドへと戻っていった。

 

 

ディケイド『なんとか全部片付いたな…』

 

 

ホルス『あぁ、後はコイツをどうにかするだけだ』

 

 

ディケイドとホルスはモンスター達が爆発して起こした炎から目の前にいる巨大なハイドラグーンへと視線を移していく。だが、ホルスは難しげな表情でハイドラグーンを見つめながら腕を組んで考える。

 

 

ホルス(さて、此処からどうする?ジェノデストロイドを召喚して倒すにもあの大きさではな…)

 

 

ホルスは腕を組んだままハイドラグーンを倒す方法を頭の中で考えていると、隣に立っていたディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:HO・HO・HO・HORUSU!』

 

 

―シュンッ…カシャン!―

 

 

ホルス『何!?』

 

 

電子音声が響くとホルスの腕にデストクロー、背中の部分にはファルブレード、そして仮面の前にはドラグクローが浮かび装着されていった。それを見たホルスが驚愕して戸惑っているとディケイドはホルスの背中に触れながら話し掛ける。

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

ホルス『な、待て!?これは不味――!?』

 

 

ディケイドが何をしようとしてるのか気付いたホルスは慌ててディケイドから離れようとするが、ディケイドはそのままホルスの背中を勢いよく押していった。すると背中を押されたホルスは宙に浮きながら身体から様々なパーツを出現させて巨大化していき、巨大な鳥のような姿……『ホルスデストロイド』に超絶変形しハイドラグーンへと突っ込んでいった。

 

 

『グギャアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ…ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『ブウンッ?!』

 

 

―ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!―

 

 

ディケイド『…………ん?あれ?もしかしてコレ……不味い事したか?』

 

 

ホルスデストロイドはハイドラグーンに向かって巨大な閃光を複数放ち、それを受けたハイドラグーンは勢いよくビルの屋上から落とされ近くのビルに向かって弾き飛ばされ、その光景を間近で見ていたディケイドは仮面の奥で冷や汗を流していた。そしてその間にもホルスデストロイドはハイドラグーンに向かって飛び立ち容赦ない攻撃を放ち始め、その近くにあるビル達はホルスデストロイドの攻撃の巻き添いを喰らい音を立てて崩れ去っていた。

 

 

ディケイド『…………………どうみても理性が消えてるよな……アレ�』

 

 

そんな大怪獣バトルを眺めながらディケイドが冷汗を流したまま頬を掻いていると、上空からシアゴースト達を掃討していたTフェザーがディケイドのいるビルの屋上へと降り、トランスに戻りながらディケイドに駆け寄っていく。

 

 

トランス『ちょ、零君一体何したの!?鷹さんどうみても理性が消えちゃってるよ!?』

 

 

ディケイド『いや、ただ鷹にファイナルフォームライドを使っただけぞ?…まああんな風になるとは予想外だったが…』

 

 

トランス『と、とにかく早く何とかしてよ!?このままじゃあのモンスターよりも、鷹さんがミッドを滅ぼしちゃうでしょ!?�』

 

 

トランスが血相変えてそう叫び、それを聞いたディケイドは目の前に視線を戻していく。確かにホルスデストロイドの攻撃によってハイドラグーンの周りは壊滅状態に近い。このままでは地上でモンスターと戦っている局員達まで巻き込まれるのは時間の問題だろう。其処まで考えたディケイドは仕方ないといった表情を浮かべながらライドブッカーからカードを一枚取り出していく。

 

 

ディケイド『そうだな……ならそろそろ決めるとするか』

 

 

『FINALATTACKRIDE:HO・HO・HO・HORUSU!』

 

 

『グギャアァァァァァァァァァァーーーーーー!!』

 

 

バックルにカードをセットしてスライドさせると電子音声が響き、それと同時にホルスデストロイドはいきなり自身の腹を食い破り腹に穴を出現させ、それを確認したディケイドはビルの屋上から跳び出しハイドラグーンに向かって身体を捻りながら蹴りを放っていった。そして……

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァ……デェアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

『ブウンッ!!?』

 

 

―ブザアァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グギャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ディケイドとホルスの必殺技、DOD(ディメンジョン・オブ・ディ)が見事に炸裂し、ディケイドの蹴りを喰らったハイドラグーンはそのまま吹き飛ばされホルスデストロイドの腹に吸い込まれていった。そしてホルスデストロイドは歓喜の叫び声を上げながら腹を閉じるとホルスへと戻っていく。

 

 

ホルス『ハァ…ハァ…ハァ……グッ?!』

 

 

ディケイド『ッ?!どうしたホルス?!』

 

 

元に戻ったホルスは地上に降りると腹を抑えながら膝を付き、それを見たディケイドとビルの屋上から降りてきたトランスはホルスを心配して駆け寄り、ホルスは腹を抑えたまま苦しげに答える。

 

 

ホルス『ッ………覚えてはいないのだが、何やらとんでもないものを腹に入れたような気がする……』

 

 

ディケイド『うっ……あーまあ気にするな�それよりも早く此処から離れるぞ。何時局員達が此処にやってくるか分からない』

 

 

ホルス『む、それもそうだな…ならば早くセリア達と合流しよう』

 

 

トランス『ア、アハハ�』

 

 

ディケイドは先程の出来事についてごまかすとホルスに肩を貸して身体を起こさせ、三人は局員達が来る前にセリア達と合流しようとその場から去っていった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

そして同じ頃……

 

 

 

『……チッ…もう片付けたのか……』

 

 

フェイクと零王と戦っていた黒いライダーはディケイドがハイドラグーンを倒す様子を見て舌打ちし、ボロボロになりながらもこちらに身構えるフェイクと零王に視線を移していく。

 

 

零王『ハァ…ハァ……残念だったな?これでお前が出る幕は無くなった訳だ…』

 

 

『…その様だな…ならば、もうこの世界に留まる必要もなくなった訳だ…』

 

 

フェイク『ッ!逃げるつもりかっ!?』

 

 

戦意を喪失したかのように両手を下ろした黒いライダーを見たフェイクは次に起こす行動を予測し、そうはさせまいと瞬時に零王と共に黒いライダーへと向かって駆け出し武器を振り下ろした。が、黒いライダーはそれをかわすように二人の頭上を飛び越え空中で態勢を立て直し、二人の背後に着地した。

 

 

『まったく、本当にうっとうしい奴らだ。貴様等さえいなければ、今頃作戦通りに事が進んでいた物を…』

 

 

零王『ウルセェ!そうはさせねぇって何度も言ってんだろう!』

 

 

『ギャンギャン良く吠える犬だ……まあいい、今回は元々様子見が目的だった訳だからな。機会は幾らでもある…』

 

 

黒いライダーがそう言うと周りの風景が歪みに包まれていき、それを見た二人は直ぐさま黒いライダーへと走り出すが、黒いライダーとの間に歪みの壁が発生し道を遮られてしまう。

 

 

『一応忠告はしておく……これ以上俺達の邪魔はしない事だ。貴様等が何度立ち塞がろう俺達は奴等を追い続ける。奴等が持つ二つの因子と、魔界城でジェイル・スカリエッティが作り上げた最強のライダーを手に入れる為に…な』

 

 

黒いライダーはそう呟くと周りの歪みが濃くなって黒いライダーを包み込んでいき、歪みが晴れると其処には既に黒いライダーの姿はなくなっていたのだった。

 

 

フェイク『チッ!逃げられたかっ…』

 

 

零王『反応も完全にロスト…これじゃあ後を追うのも無理そうだな…』

 

 

黒いライダーが消えたのを確認したフェイクと零王は腑に落ちない表情を浮かべながらベルトを外して変身を解除し、先程ホルスデストロイドとハイドラグーンが戦っていた場所を眺めていく。

 

 

「あっちもかなり大変な事になってるみたいだな……あの辺りのビルとかもうほとんどねぇぞ?」

 

 

「それだけホルスのファイナルフォームライドが強力だったって事だろ……それよりどうする?奴が動き出したって事は…恐らく…」

 

 

「ああ、遂に奴の組織……他の追跡者達も動き出したって事なんだろ。早くコイツを写真館に届けてアイツ等に知らせねぇとな…」

 

 

青年は険しい表情のまま手に握る封筒を見つめると、黒髪の青年と共に目の前に現れた歪みの壁を通り抜け何処かへと消えていったのであった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

事件解決から一時間後……

 

 

「ハァ……ハァ……お、おのれホルスめ!絶対に許さんぞ!この借りは必ず…!」

 

 

事件が終了した現場では、先程ホルスに殴り飛ばされた局員が壁にもたれながらホルスに向かって怨嗟の叫びを上げ、ホルスへの報復を決意していた。しかしそんな時、モンスター達との戦闘を終えたオルタナティブがその場に現れ背後から局員に近づいていく。

 

 

オルタナティブ『まだ生存者はいたのだな…』

 

 

「ッ!中将!?は、はい、自分は無事です!」

 

 

オルタティブ『そうか…それは良かった。今回の事件では局員にも多数の犠牲者が出たからな』

 

 

「そ、そうですね…では、自分は部隊に戻ります」

 

 

局員はそう言ってその場を去ろうとオルタナティブに背を向けて部隊に戻ろうと歩き出していく。だが次の瞬間、オルタナティブは顔を俯かせながら小声で呟く。

 

 

オルタティブ『…残念だ…更に死亡者の名前が記されるとはな』

 

 

「……え?」

 

 

オルタナティブの言葉を耳にした局員はその場で足を止め、思わず背後へと振り返った瞬間……

 

 

 

 

―…バシュン!ガシッ!―

 

 

『キキィイ!!』

 

 

「ヒッ!?な、何だコイツは!?ちゅ、中将!助けてください!?」

 

 

局員の背後にあった鏡から突然オルタナティブの契約モンスター…サイコローグが飛び出し局員を捕まえ、局員は恐怖に染まった表情でオルタナティブに助けを求めるがオルタナティブは背を向けながら局員に告げる。

 

 

オルタナティブ『ミッドの平和などどうでもいいと言ったのだ……お前に人々を護る資格など無い。せめてサイコローグの糧になるがいい…』

 

 

「そ、そんな?!ヒッ…!ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

 

オルタナティブが静かに告げると、事件現場の一角で何かが喰われる音と一人の局員の断末魔の声が響き渡ったのであった。

 

 

 



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第十二章/ホルスの世界⑨

 

 

それから数時間後……

 

 

 

『KAMENRIDE:KIVA!KAMENRIDE:RTUKI!』

 

 

ラピリ「わ~い♪他の世界のライダーだ!すごいすご~い♪」

 

 

モンスター達との戦闘を終え、写真館へと戻ってきた零達は大輝から借りたディエンドライバーを使って他の世界のライダー達を喚び出し、其れを見たラピリは喜びの声を上げてライダー達を見つめていた。そしてそれを隣のテーブルで見ていた零と鷹は静かに微笑していた。

 

 

鷹「どうやらラピリの機嫌は直ったようですね」

 

 

零「そうだな。これであの二人とも仲直り出来るだろう」

 

 

鷹「そうですね。ああ、それと手を貸して貰ってありがとうございます」

 

 

零「いや、気にするな。元々の原因は海道にあったんだからな」

 

 

そう言いながら零は栄次郎の煎れた珈琲を口にするが、すぐに真剣な表情で鷹に質問する。

 

 

零「それで、すべてが終わったら…お前達はどうするつまりだ?」

 

 

鷹「…終わった後も戦う事になるでしょうね。管理局が無くなった後には、必ず犯罪組織が動くでしょうから。我々はそれを食い止めますよ」

 

 

零「そうか…お前達の戦いは、これからも終わる事はない訳か」

 

 

鷹「えぇ、それが私達の決めた道……全てが終わった後も、罪を背負いながら生き続けますよ。例えその先に待つものが、地獄だったとしてもね」

 

 

鷹は決意の込めた表情で零に頷き返すとラピリと楽しげに遊ぶセリア達に視線を移して穏やかに微笑み、零はそんな鷹の表情をカメラに収めていく。

 

 

零「…それがお前の決めた道なら、俺も止めはしない……頑張れよ、鷹」

 

 

鷹「…ええ、零達も絶対に自分達の世界を救ってくださいね」

 

 

零「ああ、勿論だ」

 

 

零と鷹は微笑みながらそう言い合うと静かに握手を交し合い、それから暫くして鷹はラピリ達を連れ写真館を出ていったのだった。

 

 

なのは「…鷹さん達…これからもこの世界で戦い続けるんだね……」

 

 

零「あぁ…だから俺達も、アイツ等に負けないように頑張らないとな。でないと…アイツ等に笑われてしまう」

 

 

なのはが鷹達が出ていった入口を見つめながら呟くと零は先程現像したこの世界で撮った写真をテーブルの上に置き、その中から鷹とセリア達と撮った写真を手に取る。

 

 

零「この世界は…この世界の仮面ライダーが守っていく。アイツ等がいる限り、この世界が終わる事なんてないさ」

 

 

なのは「…うん…そうだね」

 

 

零の言葉になのはは満足げに笑って頷き、零もソレに釣られるように頬を緩めていく。そんな時……

 

 

はやて「ジャジャーン♪皆さん!大変長らくお待たせしました!八神 はやて、完全復活で~す♪」

 

 

フェイト「あ、はやてっ!」

 

 

すずか「はやてちゃんっ!」

 

 

今まで自室で寝込んでいたはやてが部屋の中へと入り元気よく叫び、それに気付いた一同ははやての下へと集まっていく。

 

 

なのは「良かったぁ!もう動けるようになったんだね!」

 

 

零「気分はどうだ?何処も可笑しい所はないか?」

 

 

はやて「モーマンタイや♪…それにしても、ホンマにごめんな?皆にも沢山心配掛けて…」

 

 

フェイト「もう…何言ってるのはやて?友達何だからそんなコト気にしない!」

 

 

零「だな……お前が元気になったならそれでいいさ。その代わり、その分の遅れはちゃんと返してもらうぞ?」

 

 

はやて「…うん、りょーかいや♪」

 

 

零達の言葉にはやては明るい表情を浮かべ、いつもの元気な様子で頷き返した。するとその時、はやては急に何かを思い出したかの様に自身のポケットの中から何かを取り出した。

 

 

はやて「そういえば……零君、さっきこんなのが届いとったよ?何や零君宛ての手紙みたいやけど…」

 

 

零「…?俺宛てに?」

 

 

はやてから差し出された物……薄い封筒のようなモノを見て零や他のメンバーは疑問符を浮かべ零ははやてから封筒を受け取り差出人を見てみるが、黒月零へという宛先以外は何も書かれていなかった。それに対し不審に思いながらも、零は封筒の中から一枚の手紙を取り出しソレを読む。その内容とは……

 

 

―黒月零、恐れていた事が遂に起きてしまった。ライダーの世界を巡るお前達の旅の前に立ち塞がる新たな敵が動き出してしまった。きっと奴らはお前達の前に幾度となく現れる。だが、どうか諦める事なく旅を続けて欲しい。役に立つかは分からないが、奴らへの対抗手段としてライダーのカードを同封しておく。お前達の旅の、武運を祈っている―

 

 

零「俺達の前に立ち塞がる新たな敵……だと?」

 

 

手紙に書かれていた内容はあまりにも衝撃的だった。自分達がライダーの世界で戦っている間にまた新たな敵が動き出したというのだから当然だろう。

 

 

スバル「これって…どういう意味なんですか?新たな敵って…」

 

 

ティアナ「というか、何でそんなことがこの手紙に?この手紙の差出人は一体…」

 

 

零「さあな…これはばかりは俺にも分からない…それと、これがそのライダーのカードか…」

 

 

零は手紙に同封されていたカードを取り出してソレを確認する。ソレは紅い姿のライダーの絵柄が描かれたカードとそのライダーのファイナルアタックライドのカードの二枚であり、そのライダーの名は絵柄の下に描かれていた。

 

 

零「仮面ライダー零王…か。まったく、一体この手紙の差出人は何者なんだ?」

 

 

新たな敵が動き出したという知らせとライダーカードを送り付けてきた差出人の意図が分からず零は疑問を抱くばかりであり、まるで敵を睨みつけるかのように何度も手紙を読み返していく。そんな時……

 

 

―ガチャ、ガララララララッ…パアァァァァァァァアンッ!―

 

 

零「…っ?!」

 

 

なのは「あ、背景ロールがまた…?!」

 

 

不意に背景ロールが降りていき、また新たな世界へと移っていったのである。新たに現れたその絵は、巨大な山とその山の周りを走るパトカー達の絵であった。

 

 

 

 

 

 

そして同じ頃、とある街の中を数台のパトカーと共にバイクで駆け抜ける一人の戦士の姿があった。果たして、一行はこのライダーとどう関わっていくのだろうか……?

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―とある平行世界―

 

 

 

何処かの世界に存在する薄暗い建造物の中。そんな建造物の中を、先程ホルスの世界でフェイクと零王と戦っていた黒いライダーが歩いていく姿があった。

 

 

『チッ…わざわざ俺が出ていった意味がなくなってしまったな…』

 

 

「仕方あるまい。奴らという障害がいつ何処で現れるか予測出来ないのだからな」

 

 

『…フンッ』

 

 

そんなやり取りを終えると共にベルトの止まり木に止まっていた黒いコウモリがベルトから外れて何処かへと飛び去っていき、それと同時に変身が解除され一人の青年へと戻っていった。そして、青年は通路の奥にある巨大な扉を押して中へと入ると広い空間に出ていき、青年はその空間の奥にある玉座へと腰を沈める。

 

 

「ふぅ……綾、いるか?」

 

 

―シュンッ!―

 

 

「はい、此処に……」

 

 

青年が虚空に向けて呼び掛けると共に青年の目の前に緑色の髪を持った少女が現れ、青年の座る玉座の前に膝を付いていく。

 

 

「"揺り篭"の改修作業は何処まで進んでいる?」

 

 

「はい、此処一ヶ月間改修を続けた結果……全体の約四十六%は改修が済みました。ですが、やはりコアユニットの方は色々と問題がありまして…改修は恐らく無理かと」

 

 

「いや…その点についてはこちらで解決するから心配はない。それより、裕司達はどうした…?」

 

 

「裕司さん達でしたら、先程揺り篭の改修に必要なパーツと食料の補給の為に別世界へと向かいましたが…彼等に何か用でも?」

 

 

「ああ…大至急真也と麻衣に連絡を入れろ。あの二人にはこれから重要な任務…零達の向かったライダーの世界に向かってもらう」

 

 

「ッ!零さん達の…?まさか……」

 

 

「そう……俺達が表舞台に立つ時が来たという事だ。大至急あの二人に連絡を入れて任務を伝えろ、急げ」

 

 

「……分かりました、終夜様」

 

 

終夜と呼ばれた青年がそう伝えると少女は音も立てずに何処かへと消えていき、残された終夜は玉座に着いたまま一つの電子パネルを開いていく。

 

 

終夜「…漸くだ…漸く俺達の悲願を果たす時が来たのだ。それを必ず果たす為にも……零、お前にも働いてもらうぞ」

 

 

言いながら終夜は顎に手を添えて電子パネルを見つめる目を細めていき、彼の見つめるパネルの映像…それには三人の人物。黒月零と返り血を浴びた黒いフードの人物、そして零となのはに抱えられ笑顔を浮かべるヴィヴィオの姿が映っていたのであった……

 

 

 

 

第十二章/ホルスの世界END

 

 

 



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番外編/排除!仕向けられた最凶?の敵!

 

―とある平行世界―

 

 

鳴滝「……完成だ……とうとう完成したぞ!」

 

 

とある世界に存在する廃墟。その中では零達一行の旅を邪魔してくる鳴滝が目の前にあるポットを見て笑っていた。

 

 

鳴滝「フフフッ…コイツの力を持ってすれば……ディケイド!今度こそ貴様の旅は終わりを告げるだろう!フフフッ…フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

目の前にあるポットの中で眠る一人の少女を見つめながら、鳴滝は不気味な笑い声を廃墟の中に響き渡らせていたのだった……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―とある世界・禅寺―

 

 

 

―ゴォーン…ゴォーン…―

 

 

 

…皆さんこんにちは、黒月零です。

 

只今私はとある平行世界にある禅寺で座禅を組んでいます。

 

何故こんな所で座禅なんか組んでるのかと言うと……

 

 

最近…うちの女共に半殺しにされる回数が増えて肉体的にも精神的にもキツく、このままではいかんと思いその二つを鍛え直す為こうして禅寺に来た訳です。

 

 

まあ本音を言えば……たまにはこうして一人の時間を過ごしたいと思ってるだけなのですが

 

初心に帰るという感じで、こうして訓練時代を思い出しながら辛い修行に励むのも、悪くないかもしれないと思った訳です。

 

 

「それじゃあ黒月君、次は滝行に移ろうか?」

 

 

零「あ、はい…分かりました」

 

 

今回はなのは達もいない訳だし、きっと何も起こらず平和に終わるだろう。

 

この時はそう思っていました……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………目標を確認…仮面ライダーディケイド…黒月零……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、"この時"までは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ゴオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

 

 

 

 

零「…ッ?!な、何?!」

 

 

突然上空から目の前の庭に落下してきた"何か"

 

落下の衝撃により辺りには巨大な風が吹き荒れ、近くにあった木々などが危うく吹き飛ばされそうになる。

 

そして、目の前で巻き起こった煙が徐々に晴れていくと……

 

 

 

 

―バサアァッ!!―

 

 

「…………………」

 

 

 

 

零「なっ……」

 

 

煙の中から姿を現したのはは巨大な純白の片翼を羽ばたかせ、白い服を身に纏い腰まで伸びた金髪の髪を靡かせる一人の少女。

 

だがこちらを見つめる少女の瞳は敵意に満ち、その腰にはまばゆい黄金のベルトを身に付けていた。

 

 

零「ベルト…?…ま、まさか?!」

 

 

「……変ッ…身ッ!」

 

 

『CHANGE UP!ASTRAEA!』

 

 

少女の叫びと共に電子音声が響き、少女の身体が黄金の光に包まれていく。

 

そして光が晴れると、其処には聖騎士を思わせるかの様な純白の鎧を身に纏い、右手には黄金に輝く剣を、左手には深蒼の盾を持ち、背中には変身前と変わらず片翼を広げる仮面の戦士……そう、仮面ライダーへとなったのである。

 

 

零「変身した……だと?!」

 

 

『黒月零……貴方を、排除します!』

 

 

零「ッ!?」

 

 

変身を終えると共に、剣を振り上げる白いライダー。

 

マズイ…バックルとカードはさっき着替えと一緒に置いてきてしまった…

 

このままでは…やられる!

 

 

『世界の破壊者…覚悟ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!』

 

 

零「クッ!!」

 

 

勢いよく振り下ろされ完全に自分を捉えた剣。

 

既に回避出来ない距離まで迫ったソレから目を逸らし

 

無駄だと分かっていながらもすぐに両腕で自分の顔を隠すようにし、襲い掛かる痛みを堪えようと両目を強く瞑っ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ガッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ふぇ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ビダアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――たが……ライダーは何故か足を引っ掛け、いきなり盛大にすっころんだのであった……。

 

 

『…………………………』

 

 

零「………………………」

 

 

『…うっ…あふぅ…ふぅ…ふっ…ふぁふぅ~~(泣)』

 

 

零「………………………」

 

 

…………え?何コイツ?

 

黒月 零は目の前の光景にただただ呆然とするしかなかった。

 

だってそうだろう?

 

いきなり現れて……

 

いきなり変身して……

 

いきなり襲い掛かってきたと思えば、いきなり盛大にすっころんで仮面の下から鼻血を流して泣くライダーにどんな反応をしろというのだ?

 

 

『ふぅ…ふっ…ふぅぅ~~!!』

 

 

零「(…あぁ…なんかまためんどくさそうなのが来ちゃったなぁ……)」

 

 

そんな目の前のライダーの姿を見て、またトラブルの種が増えたなと零も盛大に溜め息を吐くしかなかったのだった。

 

 

「…えっと…黒月君?とりあえず次、滝行やろうか?」

 

 

零「あ、は…はい……」

 

 

先程までの経緯をしっかり近くで見ていた住職もそれには関わるまいと決めたのか、未だに鼻血を垂らして泣くライダーを無視して零を次の修行場所へと案内していく。だが……

 

 

『ッ!ハイハイハーイ!!私も!私もやります!ハイハイハーイ!!』

 

 

『…………は?』

 

 

先程までダウンしていたライダーは直ぐさま復活して右手を大きく上げ、いきなり自分も修行に参加すると告げてきたのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―禅寺・滝―

 

 

 

―ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ―

 

 

『……………』

 

 

それから数十分後、滝壺へと場所を変えた零とライダーに変身して襲い掛かってきた少女、"ルミナ"は一緒に滝に打たれていた。

 

 

零「(ハァ……一体何しに来たんだコイツ?トラブル臭がスッゴいしてくるんだが……嫌だなぁ……関わりたくないなぁ……)」

 

 

恐らく自分を狙ってきたのだと思うが、その彼女がこんななら多分変身しないでも逃げられると思う。

 

だが、この少女がトラブルの元である事に変わりはない。

 

滝に打たれながら隣にいる少女を見るが、すぐに現実逃避でもするかのように目を閉じ別の事を考える事にする。その一方で、ルミナは得意げに微笑みながらチラッと零を盗み見た。

 

 

ルミナ「(流石世界の破壊者…一筋縄ではいかないようね…やっぱりここは暫く行動を友にして油断を誘うのが得策……)」

 

 

そんな計画を頭の中で立てながら修行に集中する零を見つめ、ニヤリと頬を緩ませる。

 

 

ルミナ「(フフ…自分を殺しに来たとも知らないで呑気な男……さあもっと油断しなさい?さぁ…さぁさぁさぁさぁさ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さ…さぶううぅぅぅぅぅぅぅぅ~っっ!!!!)」

 

 

―ザパアァァァァァアンッ!!―

 

 

零「ッ?!オ、オイッ?!どうした?!しっかりしろっ!ちょ、住職さーん?!住職さーーーーん!!?」

 

 

滝行に耐え切れなくなったルミナは突然倒れて目を回しながら気絶してしまい、零はルミナの身体を抱き抱えながら叫ぶのであった。

 

…その際、彼は自分の手が彼女の豊富な胸に当たっていたのにまったく気付いていなかったが……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数分後……雑巾拭き。

 

 

 

ルミナ「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ!!」

 

 

―タタタタタタタタッ!―

 

 

ルミナ「ふっ!はっ!」

 

 

―タタタタタタタタタッ…ガシャアァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

ルミナ「きゃあっ?!バ、バケツが…水がぁ~~!!」

 

 

零「………………………」

 

 

雑巾拭きの結果、ルミナがバケツに突っ込み、廊下が水浸し+ルミナが水を被ってびしょ濡れになり、肌も下着も透けて見えていた……。

 

 

 

 

 

 

更に数分後……座禅。

 

 

 

「渇っ!」

 

 

―ペシーンッ!―

 

 

ルミナ「あ…んっ…!」

 

 

零「……………」

 

 

―ペシーンッ!ペシーンッ!―

 

 

ルミナ「ぅあっ…ひゃっ…やぁ……」

 

 

零「…………………」

 

 

―ペシーンッ!ペシーンッ!―

 

 

ルミナ「ひぅ…やっ…あぁん……」

 

 

零「(……コイツ……絶対喧嘩売ってるだろっ…)」

 

 

座禅の結果、ルミナの艶めかしい声のせいで座禅に集中出来なかった……。

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

それから数時間後……

 

 

 

零「………………………」

 

 

アレから様々な修行を全て終えた零は、現在寺の近くにある木の下に力無く座り込んでいた。

 

というか……その表情には生気が感じられなかった。

 

その原因はもちろん…あの少女である。

 

 

零「…何なんだあの女は…次から次へと邪魔ばっかりしてきやがって……」

 

 

今思い出しても目眩を起こしそうだ…。

 

庭の掃除をしていれば足を滑らせて池に落ち、その際に手を掴まれ一緒にずぶ濡れになるわ…。

 

焚きを集めてる最中にまた転んで寺の壁に突っ込み、大きな穴を空けて住職さんに怒られるわ…。

 

そんな感じに次から次へとトラブルを起こしては巻き込まれ、散々な目にあってばかりであった……。

 

 

ルミナ「え~っと……あ、いたいた♪お~い♪」

 

 

…………噂をすれば…またコイツか。

 

 

零「……今度は一体何の用だ……」

 

 

ルミナ「これよこれ、ジューショクさんがごはんもってけだって」

 

 

零「…あぁ…なんだ飯か…わざわざすまないな……」

 

 

ただ飯を届けにきただけなのかと零は内心ホッと一息吐くとルミナから飯を乗せたお盆を受け取り、箸を使って飯を口へと運んでいく。だが……

 

 

ルミナ「(…フフフッ…かかった!!)」

 

 

飯を口にする零を見てルミナはニッと勝ち誇った笑みを浮かべてながら、懐から小さなビンを取り出した。

 

 

ルミナ「(遂に油断したわねこの破壊者め!!そのごはんは毒入りよ!!そう、この猛毒をたーーっぷりと……入れる"予定"だった毒入りごはん………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミナ「(入れ忘れたっ!!?)ちょ、ちょっと待って!返して返してっ!!」

 

 

零「は…?ちょ、何なんだいきなり?!押すな!押すなって…うおぉっ?!」

 

 

今になって毒を入れ忘れた事に気付きルミナは零の手から飯を奪い取ろうと取っ組み合いになり、そして……

 

 

―ドシャアァンッ!!―

 

 

……倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

なのは「え~っと……あ、此処みたいだね?」

 

 

ヴィヴィオ「わぁ~おっきい~♪」

 

 

フェイト「本当、すっごく立派なお寺だね…」

 

 

はやて「えっと?この上を上がって行けば、零君のいる禅寺に着くみたいやね」

 

 

そして丁度その時、禅寺にいった零の様子見にやってきたなのは、ヴィヴィオ、フェイト、はやての四人が禅寺へと続く大階段の前に到着し、寺を目指して階段を登り始めていた。

 

 

フェイト「でも、大丈夫かな?勝手に上がり込んだりしたら迷惑なんじゃ…」

 

 

なのは「それなら大丈夫だよ?さっき此処のパンフレット見たけど、この時間にはもう終わってるみたいだから」

 

 

はやて「それにちょうどお昼やし、せっかくやから皆でお弁当でも食べて帰ろうや♪なぁヴィヴィオ♪」

 

 

ヴィヴィオ「なぁ~♪」

 

 

全員分のお弁当を片手にはやてとヴィヴィオは鼻歌を歌いながら手を繋いで階段を登っていき、なのはとフェイトも顔を見合わせて微笑すると二人の後を追って階段を登っていく。そして階段を登った先には……

 

 

 

 

 

 

ルミナに押し倒され、その豊富な胸に顔を埋めた零の姿があった……。

 

 

 

 

 

 

なのは「…………」

 

 

フェイト「…………」

 

 

はやて「…………」

 

 

ヴィヴィオ「???」

 

 

硬直。その光景を見た瞬間三人はピシッと音を立てて動かなくなってしまうが、その数秒後にフルフルと静かに身体を震わせていく。

 

因みに運が良かったのか、三人の後ろにいた事でヴィヴィオにはその光景は見えていなかった……。

 

 

ルミナ「イッタタタ…もぉ…何でこんな事にぃ…�」

 

 

零「……お…ま…え…は……いい加減しろぉ!!さっさと退けぇッ!!」

 

 

ルミナ「ひょわぁっ?!」

 

 

零は身体の上に乗っかるルミナを強引に押し退け、なんとか今の状態からの脱出に成功する。

 

 

零「クソッ…さっきから何がしたいんだお前は?!お前の目的が全然分からん!」

 

 

ルミナ「え、えっと…その…えっと…�(ま、まずい…このままじゃ計画がばれちゃう!)」

 

 

零「大体さっきから邪魔ばかり…一体何なんだ?!滝に打たれてる途中でいきなり気絶したり!バケツに突っ込んで廊下を水浸しにしたり!座禅してる隣で妙に艶めかしい声を漏らし「へぇ…何が艶めかしいのかなぁ?」だから!それはコイツの…………………ん?」

 

 

遂に我慢の限界となって不満を叫ぶ中、その場に聞こえたのはドスの聞いた低い声…。

 

………いや待て……激しく待て…そんな筈がない…。

 

だって此処には、俺と目の前にいる女しかいない筈だ…。

 

だからそんな事ない。ありえないと否定しながら恐る恐る背後へ振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………ニッコリ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…すんごい笑顔でこちらを見る魔神様達がいました…

 

すんごい笑顔で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「にゃははは♪零君ってば…珍しくお寺にいくなんて言うから何があるのかと思えば、また知らない女の子にセクハラしてたなんてねぇ~♪」

 

 

零「……お…おおおお前等……な、何で……?」

 

 

フェイト「せっかくこうしてお弁当を持って来てあげたのに…随分と良いご身分だね♪零?」

 

 

零「い、いや違う、誤解だ!コレには、コレにはとてもふっっっかい訳が!!」

 

 

はやて「ふ~ん…一体どんな訳なんかな?詳しく聞かせてもらいたいなぁ~♪」

 

 

…はやて?顔と声音と動作がまったく合ってないぞ?

 

頼むから……笑顔でハート付けながら腕をバキボキ鳴らすのは止めてくれ

 

 

零「だ、だからその……お、おい!お前も何とか言え!?」

 

 

ルミナ「え?わ、わたし?―ギロッ!―Σヒィッ!?」

 

 

自分だけの弁解では誤解が解けないと悟った零はルミナに救援を求めるも、彼女も三大魔神の殺気の込められた瞳で見つめられ恐怖で固まってしまう。

 

こんな状況で事実(黒月零の抹殺)など話せば自分の命がどうなるか分からない。

 

そーいうわけで……

 

 

ルミナ「わ、わたしは……わたしは!あの男に色んなとこ障られましたっ!!」

 

 

零「そう!俺はあの女の色んなとこさわ……ってオイィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!?」

 

 

思わぬ裏切りの上に自爆。

 

それと共に、彼女達から膨れ上がる黒いナニかが一気に増大していく…。

 

此処に……黒月 零の死亡フラグが完全に成立したのであった。

 

 

―グワシッ!―

 

 

なのは「被害者からの証言も出たし……言い訳を聞く必要もないよね?早速逝こうか♪」

 

 

零「い、いや待て?!本気で待て!というか何か違うだろう!?…あれ?なんでお前ベルト巻いてるんだ?殺る気?殺る気なのか!?またこのパターンなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

三人に寺の裏へと引きずられながら虚しく叫ぶ。

 

それでも内心、十年も繰り返されてるこの展開にいい加減慣れつつある自分を恐ろしく感じる黒月零であった…。

 

 

ルミナ「…………うっ……うぅっ……ご、ごわがっだよ"ぉぉぉぉぉ…(泣)」

 

 

ヴィヴィオ「よしよし」

 

 

そんな彼等が去った後、その場には小さな子供に頭を撫でられ慰められるルミナの姿があったとか…。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

数日後……風麺。

 

 

 

大輝「やぁ零♪来て早々いきなりだけど、君にも紹介しておこう。今日から住み込みでうちで働いてもらうバイト君だ♪」

 

 

ルミナ「どうも~♪今日から大輝師匠の下で働かせてもらうルミナで~す♪」

 

 

零「帰れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」

 

 

……何故か、自分の使命を忘れてとある盗っ人の屋台で働く彼女の姿があったとか……。

 

 

 

 

 

 

鳴滝「フフフ…これで貴様も終わりだ、ディケイド。もうすぐ聞こえてくるぞ…貴様の悲鳴が!フフフッ…フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

その一方で、何処かの預言者は自分の仕向けた刺客が寝返ったとも知らず、虚しく笑い声を響かせていたとかなかったとか……

 

 

 




オリキャラ設定④

ルミナ

性別:女

年齢:不明 (見た目は十八か十九歳)

イメージCV:福原 香織

容姿:腰まで伸びた金髪の長髪に水色の瞳を持った美少女。背中には純白の片翼を生やし、普段は服の下に隠している。


解説:鳴滝がディケイド抹殺を目的として作り上げた人造人間。其の戦闘能力は変身無しでも怪人と互角と戦える力を持っている。が、戦闘能力を優先に機能を積んでいる為、性格は底無しのバカ。その性格が仇となり、自身が持つ驚異的な戦闘能力を満足に発揮出来ないでいる。現在は黒月零の抹殺という使命を忘れ、風麺で住み込みでバイトをしている。



仮面ライダーアストレア


解説:見た目は聖騎士を模した鎧姿に青い瞳を持ち、変身前と変わらず背中に白い片翼を生やしている。スペックだけならディケイドやディエンドを圧倒してるが、装着者の性格のせいでソレを完全に発揮出来ないでいる。



『セイントセイバー』


解説:聖光の輝きを刀身に纏った聖剣。其の一振りだけでビルを真っ二つに出来る程の威力を持っている。必殺技は刀身を激しく輝かせ、巨大な光の閃光を放つ『破魔天来剣』。



『ミラーアイギス』


解説:あらゆる攻撃を鏡の如く跳ね返す盾。ある程度の技ならこれだけで反射でき、盾の角度を調節すれば別方向に攻撃を跳ね返す事も出来る。



アストドライバー


解説:見た目は黄金の装飾を纏った白いベルト。変身方法は変身の掛け声と共に電子音声が鳴り響き、光の結晶を身体に身に纏いアストレアに変身する。



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第十三章/セイガの世界

 

ホルスの世界に別れを告げ次なる世界へと訪れた零達一行。零達は早速この世界について調べる為、写真館を出て街中を歩いていた。

 

 

零「…どうやら、また九つのライダーの世界じゃない外史のライダーの世界みたいだな」

 

 

はやて「みたいやね……やっぱり、この世界でも滅びの現象が起き始めてるって事なんかな?」

 

 

零「かもしれんな。或いはこの世界に訪れなければいけない理由でもあるのか…まあ、どっちにしろ俺達のやる事に変わりはないハズだが」

 

 

自分達の世界と同じ海鳴市の中にある交通道路を様々な車が行き交う中、零達は本来の正史の世界ではないこの外史のライダーの世界について考えながら街を歩いていた。因みに現在零と行動を共にしているメンバーははやてとリインと優矢の三人だけとなっている。その理由は一つ、写真館から外に出たメンバーの中で服装が変わったのがこの三人だけだったからであり、その格好というのが零は警官、はやてとリインは婦警の格好という物であった。

 

 

 

優矢「にしても、また今回もスッゲェ格好だよなぁ…てか、こんな街中でそんなの着て歩いてたらかなり目立つだろ?�」

 

 

零「ほっとけ……というか、コレはどうみてもお前の世界の使いまわしじゃないか……」

 

 

隣を歩く優矢が苦笑気味に呟くと、零は街の風景をカメラに納めながら溜め息混じりに呟き返す。確かに今の零の格好は優矢の世界…クウガの世界で着ていた物と全く同じ物となっている。そして今の優矢の言葉の通り、先程から道を行き通る通行人のほとんどが一体何事?と言った表情で四人を二度見してきていた。

 

 

はやて「あはは�やっぱりこないな格好で歩いてたら、目立ってもしょーがないか…�」

 

 

リイン「うぅ~//何だか今になって恥ずかしくなって来たですぅ~//�」

 

 

零「……いや……多分目立ってるのは俺達じゃなくて、きっとアレだと思うぞ」

 

 

優矢「…?アレ…?」

 

 

通行人に自分達の格好を見られてる事を意識して恥ずかしがるはやてとリインを見た零は落ち着いた様子で自分達の来た道を指差し、優矢達はその指先を視線で追っていく。其処には……

 

 

 

 

ルミナ「ムグムグムグムグ♪……Σングッ?!ん~!!ん~!!�」

 

 

 

 

……四人から四メートル程離れた先にある電柱の陰。其処には茶色い長めのコートと茶色い帽子を身に纏い黒いサングラスを掛け、両腕に大量の肉まんの入った包みを抱えながらこちらを見て慌てふためくルミナの姿があったのである。

 

 

はやて「ル、ルミナさん?何してんのやあの人?�」

 

 

零「さあ…?多分尾行でもしてるつもりなんじゃないか?」

 

 

優矢「び、尾行って…何でそんなこと?」

 

 

零「多分海道の奴の差し金だろう。大方、自分の邪魔をしてこないようにアイツに俺達を見張らせてるとかそんな所じゃないか?」

 

 

リイン「で、でもあれって……全然尾行になってないですよぉ?�」

 

 

呆れたように言いながらカメラで撮影を続ける零にリインは何とも言えない表情で後方にいるルミナに目を向ける。……何処からどうみても不審者にしか見えない怪しげな格好、こちらが後ろへ振り返ると肉まんを口に加えたまま物陰に隠れる挙動不審な態度……全然尾行にもなっていないし、あれなら通行人が二度見して来るのも頷けるだろう。

 

 

優矢「な、なるほど…て事は…写真館を出た辺りからあんな尾行紛いなコトしてたって訳か�」

 

 

零「らしいな……まあ取りあえず、アイツの事はノータッチでやり過ごせ。下手に関わればバカが移りかねん…」

 

 

はやて「あ、あはは…零君も結構遠慮無いんやね�」

 

 

後ろからついて来るルミナ(バカ)に関わればまた面倒な事になりかねない。そう考えた零はルミナは無視して街中の風景を撮影し続けていき、優矢達はそんな零に苦笑しながら歩き出し、ルミナも零達に気付かれないようにと肉まんをくわえながら四人の後を忍び足で追っていく。そんな時……

 

 

 

 

『港区付近の廃棄工場に未確認生命体11号、12号、13号が出現。付近の警官は速やかに現場に急行して下さい』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

零とはやてとリインの通信機から突然通信が届き、それを聞いた四人はピタッと足を止めて驚いてしまう。だが四人が一番驚いたのは、その送られてきた通信の内容である。

 

 

優矢「み、未確認生命体…だって?!」

 

 

はやて「な、なぁ零君…今の未確認生命体って…確か…」

 

 

通信から届いた内容に優矢は呆然とした顔で固まり、はやては動揺を浮かべながら零に視線を向けると零は真剣な表情でそれに頷く。

 

 

零「あぁ…どうやら今回の世界も色々とありそうだな…取りあえず、俺達もその現場に向かうぞ!」

 

 

優矢「…え?ちょっ、お、おい零っ?!」

 

 

未だ呆然と立ち尽くす優矢達を置いて零は先程の通信で未確認生命体が出現したという港区へと向かって走り出し、優矢達はそれに少し遅れながらも慌てて零の後を追っていった。

 

 

 

 

ルミナ「オォ~!大判焼きおいしそぉ~♪」

 

 

「そーだろうそーだろう♪なんなら買っていくかい?今なら特別にサービスするよ~?」

 

 

ルミナ「ホントに?!わーい♪ありがとうオジサーン♪………………あれ?」

 

 

その一方、四人を尾行していたルミナは途中で呼び止められた大判焼き屋の亭主に大判焼きをサービスしてもらい、目の前に視線を戻した時には既に四人の姿はなかったのであった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

―海鳴市・港区廃棄工場―

 

 

 

零達のいる海鳴市から離れた地区にある港区。その中にある使われなくなった廃棄工場の中に、一人の男性が苦痛の表情を浮かべて吹き飛ばされてきた。

 

 

「がっ?!ハァ!ハァ!だ…誰か!誰か助けてくれぇっ!?」

 

 

男性は怪我を負っているのか、左腕を右手で抱えながら目の前からくる何かから逃れようと尻餅をついたまま後退りしていく。そして男性が吹き飛ばされてきた廃棄工場の入り口の方から、三体の異形がゆっくりと姿を現していく。

 

 

『ギャゲルゾ、ガグルゾンババクンバ』

 

 

『ジレゼラス、ウゲルバンゼゼルンガ』

 

 

『ゾゲルバ、ゼゼガボガルンガ』

 

 

三体の異形は理解出来ない言葉でなにかを話し合いながら男性へと歩み寄っていき、男性は呼吸を乱しながら後退り壁際へと下がっていく。

 

 

『ゲジサスゾ、グゴガギレゾゾンバ?』

 

 

『ギゲルバ、イメゼガゾンババウバ』

 

 

「ひっ?!く、来るな!!来ないでくれっ!!誰か、誰かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

せめてものの抵抗にと男性は自分の周りに落ちている石や何かが壊れた破片などを異形達に投げつけていくが、異形達はそんなものに怯みもせず男性に近づき、そして獲物を逃がさない様にと逃げ道を塞ぐかのように男性を包囲していく。その時だった……

 

 

 

 

 

 

―……ゥゥウウウウウンッ!ガシャアァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『ッ!?』

 

 

突如、工場の入口の方から何かを突き破るような轟音が鳴り響き、男性や異形達はそれの響いてきた方へとすぐさま振り返った。異形達が向けた視線の先、其処から一台のバイクに乗った青年が猛スピードで突っ込み異形達を男性から離れさせ、青年は男性の前でバイクを止めて降り男性に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか?!早く此処から逃げて下さい!!」

 

 

「え……は、はい!」

 

 

駆け寄ってきた青年の言葉に男性は一瞬唖然となってしまうが、すぐにその言葉の意味に気付き慌てて工場から走り去っていった。そしてそれを確認すると青年は異形達へと視線を移動させ、異形達は態勢を立て直しながら青年に身構えていく。

 

 

『ヌウゥゥゥゥ…ギグレザングゴルゲ!ググバンザイヌマッ!』

 

 

男性を逃がされた事に腹を立てているのか、異形の内の一体は身体を震わせながら青年を睨みつけていく。だが、青年はそれに億する事なく異形達と向き合い、腹部に両手を添えてベルトを出現させ構えていく。そして……

 

 

「……変身ッ!」

 

 

青年の叫びと共にベルトの中心が朱く輝き出し、それと同時に青年の身体が徐々に変化していく。すべての変化を終えたその姿は朱色のボディアーマーを身体に身に纏い、朱色のナックルガードに白色の手甲、更に朱色の脚絆を身に付けた仮面の戦士となったのである。

 

 

『ッ?!セイガッ…?!』

 

 

セイガ『…フッ!ハァッ!』

 

 

青年の変身した仮面の戦士…『セイガ』を見た異形達は恐怖の含まれた声で叫びながら一瞬後退り、セイガは異形達に身構えながら突っ込み戦闘を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、やっと出てきたみてぇだな♪この世界のライダーの……え~っと……なんつったけ?」

 

 

「……セイガ…」

 

 

「おっ!そーそー、セイガだセイガ!」

 

 

セイガと異形達が戦闘を開始したその頃、工場の外にある建物の屋上からセイガ達の戦いを傍観する二人の人物の姿があった。一人は黒の掛かった赤髪に陽気な笑みを浮かべる青年。もう一人は透き通るような青色の長髪に翡翠の瞳を持ち、無表情を浮かべる15歳位の少女であった。

 

 

「にしても、終夜も人使いわりぃよなぁ?買い物から帰ってきたばっかなのに、いきなり任務なんてさぁ」

 

 

「命令…だから…仕方ない……よ…」

 

 

「まあそーだけどさぁ……こっちとしてはちっと休ませて欲しいもんだよ。てか何だってあんなピエロ野郎と危ない戦闘狂のライダーと一緒に任務しなきゃなんねぇのさ?お前だってこんな任務不満だろ、麻衣?」

 

 

赤髪の青年は肩を落としてやれやれといった表情で溜め息を吐きながら問い掛けると、麻衣と呼ばれた青髪の少女は無表情のまま首をフルフルと振った。

 

 

麻衣「私は…いい…終夜のお願いなら…聞く……零に会えるなら…いい…」

 

 

「あぁ…さいですか�」

 

 

麻衣「…真也は?真也は零と…会いたくない?」

 

 

「ん…………?」

 

 

麻衣は小首を傾げながらそんな質問を投げ掛けると、真也と呼ばれた青年は一瞬意外そうな表情を浮かべた後に「ん~」と唸りながら何かを考え……

 

 

真也「……そーだな……俺はやっぱり……」

 

 

麻衣「…………」

 

 

真也「俺はやっぱり………フェイトに会えるならそれでいいかなぁ♪俺中学の頃からアイツのコト狙ってたんだよねぇ~♪」

 

 

麻衣「……………真也……やっぱり……変態……」

 

 

鼻の下を伸ばして笑う真也に麻衣は軽蔑の視線を向けながらそう呟くが、真也はそれを聞いてもただ陽気な笑みを浮かべ続けるだけであった。

 

 

真也「まあそれについては後でボチボチ話すとして、今はこっから離れっぞ。ほら、何かめんどくせぇのがドンドン集まって来てるみてぇだし」

 

 

麻衣「?」

 

 

真也が顎で下を指しながらそう言うと、麻衣は不思議そうに首を傾げながら下を見てみる。すると其処にはセイガと異形達が戦う場所を囲むように集まってくる数台のパトカー達の姿があった。

 

 

麻衣「…この世界の…警察…」

 

 

真也「巻き込まれない内にさっさとトンズラしちまった方が吉だろ。多分あのいけ好かねぇピエロ野郎達も準備を終わらせてるだろうし……早く行こうぜ、麻衣」

 

 

麻衣「ん…………」

 

 

このままこうしていればセイガと異形達と警察の戦いに巻き込まれるかもしれない。そう思った真也と麻衣は自身の背後に歪みの壁を出現させ、それを通り抜け何処かへと消えていってしまったのだった。

 

 



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第十三章/セイガの世界①

 

 

―海鳴市港区・工場の外―

 

 

セイガ『ダァッ!ハッ!』

 

 

―バキィッ!ドゴォッ!―

 

 

『グゴォッ?!』

 

 

戦闘を開始したセイガは前後左右から襲いくる異形達の攻撃を避けながら力強く拳を叩き込み、一見一対三という不利な状況に見える反面、三体の異形達と互角の戦いを繰り広げていた。そしてそんなセイガと異形達の周りを取り囲むように配置する警官達の中で、一人の中年刑事が銃を構えながら隣に立つ刑事に呼びかける。

 

 

「お、おい関島!4号までいるぞ?!どうする?!」

 

 

海音「…未確認生命体4号が人間の味方をしているのは確かです。後方から4号の援護をしつつ後退、前面の戦闘は4号に任せましょう!」

 

 

中年刑事からの呼びかけに刑事…"関島 海音"は冷静に自身の考えた判断を刑事と警官達に伝え、それを聞いた周りの警官達は頷くと異形達に拳銃の銃口を向けて一斉に発砲していく。

 

 

―ダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!!―

 

 

『ヌグゥッ?!グッ!ギゼラバズズグンネ!グバランゼゼゼグッ!ヌアァァァァァァーーーーーーッ!!』

 

 

―バチッ…!ズガァアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

『ウ、ウアァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

セイガと戦っていた異形の一体は警官達の一斉射撃を受けるがまったくダメージを受けつけず、異形は警官達に逆上して身体から黄色い火花を散らせて警官達に雷撃を放ち、海音を含んだ警官達を一斉に吹き飛ばしていった。

 

 

セイガ『なっ……クッ!』

 

 

その光景を見たセイガは今まで戦っていた異形を殴り飛ばして三体から距離を開いていき、警官達に向けて雷撃を放った異形を見据えて走り出していく。そしてそのまま勢いよく上空へと跳び、空中で回転し異形に向かって跳び蹴りを放っていった。

 

 

セイガ『オリャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『?!―ドシャアァッ!!―ウオォッ?!ガッ…グッ…グォォォォッ…』

 

 

セイガの跳び蹴りは異形の腹部へと見事にヒットし、異形は後方へと吹っ飛ばされていった。そして異形は腹部に出現した紋章を片手で抑えながら立ち上がるとそのまま覚束ない足取りで何処かへと去っていき、それを見た残りの二体はすぐさまセイガへと襲い掛かり戦闘を再開していった。その陰では……

 

 

零「……あれがこの世界の仮面ライダー、セイガか。成る程…中々に良い戦いをするな」

 

 

先程の場所からやって来た零達がその場に到着し、陰からセイガと異形達の戦闘をジッと見つめていた。零はセイガの戦いをカメラで撮影し、優矢は異形達と戦うセイガを呆然とした表情で見ていた。

 

 

優矢「あの仮面ライダー…クウガに似てる……それにあの怪人達もグロンギに……一体どうなってんだこの世界は?!」

 

 

零「其処まで驚く必要なんてないだろう?あのライダーはクウガと同じタイプのライダーであり、この世界の状況もお前の世界と似ているだけだ。要はアギトの世界と同じ感じだと思えば簡単だろう」

 

 

はやて「で、でもあのライダー…何か苦戦し始めてるみたいやで?」

 

 

撮影を続けながら説明する零の隣ではやてはセイガと異形達の戦いを見て焦りを浮かべていく。確かにセイガは異形達と奮闘しているが、二体の連携に圧されて徐々に後退しつつあった。それを見た零は何枚か写真を撮ると撮影を止め、ポケットからディケイドライバーを取り出していく。

 

 

零「確かに…このまま見てる訳にもいかなそうだな。はやて、いくぞ」

 

 

はやて「あ、う、うん!」

 

 

零がそう言うと、はやても初の戦闘前で緊張気味に頷きながら左腕に装着したKウォッチを操作し、画面に現れたエンブレムを人差し指でタッチした。

 

 

『RIDER SOUL RIEN!』

 

 

はやて「いくで、リイン!」

 

 

リイン「はいですぅ!」

 

 

電子音声と共にはやてがリインに呼びかけるとリインはその場でジャンプし光に包まれていく。そして光が弾けるように散ると、リインの姿は青と白のツートンカラーのコウモリ……リインキバットへと姿を変え、はやてはリインキバットを掴み自身の左手に近づける。そして…

 

 

リインキバット「かぷりっ!ですぅ~!」

 

 

可愛らしい口調と共にリインキバットははやての左手に噛み付き、それと同時にはやての顔にステンドグラスのような模様が浮かび上がっていく。そしてはやての腰に何重もの鎖が巻き付き白いベルトとなっていき、零もディケイドライバーを装着しライドブッカーからディケイドのカードを取り出していく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

零はディケイドライバーにカードをセットしスライドさせるとディケイドに変身し、はやては手に持っていたリインキバットをベルトの止まり木にセットするとその姿を徐々に変化させていく。はやてが変身したその姿はキバの鎧に酷似し、鎧の所々に月のエンブレムが刻まれ両足に鎖(カテナ)が巻き付けられていた。そう、これがはやての変身するキバタイプの仮面ライダー『リイン』である。そして、変身を完了したディケイドとリインはすぐに駆け出すとセイガ達を囲む警官達の頭を飛び越え異形達に突っ込んでいった。

 

 

ディケイド『フッ!』

 

 

リイン『ヤアァッ!』

 

 

―ドガアァッ!!―

 

 

『ヌグオォッ?!』

 

 

セイガ『…え?』

 

 

海音「な、なんだ…?」

 

 

殴り付けられた異形達は勢いよく壁際へと吹っ飛ばされていき、セイガや警官達は突如現れたディケイドとリインを呆然と見ていた。が、ディケイドとリインはそれに構う事なく吹っ飛ばされた異形達に突っ込んでいき、ディケイドは異形の一体を見据えて呼びかける。

 

 

ディケイド『ギグゼ、ベリアスダザ?オゴゼログゴゼベガンガ?(お前等、ベリアスだな?お前達の目的はなんだ?)』

 

 

セイガ『なっ…?!』

 

 

海音「み、未確認と会話をしてる?!」

 

 

ディケイドが異形…ベリアスと同じ言葉で喋り出した事にセイガと海音達は驚愕してしまう。それはベリアスも同じらしく、動揺しているかのようにジリジリと後退りをしていた。

 

 

『ベクガ…バギガゴゲル?!(貴様…何者だ?!)』

 

 

ディケイド『ゼゼラゼクドゴヅボダダ、ダズザググゲルザバルバ(質問してるのはこっちだ。答える気がないなら消えろ)ハァッ!』

 

 

『グガアァッ!?』

 

 

ディケイドはベリアスの懐に詰めると容赦無く打撃技を繰り出して吹き飛ばしていき、ある程度ダメージを与えるとライドブッカーからカードを一枚取り出していく。

 

 

ディケイド『コイツの力を見せてやる…変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:HORUSU!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディケイドの身体に複数のシルエットが重なっていき、ディケイドは緑のボディを持ったライダー…そう、前の世界で鷹が変身したのと同じホルスへと変身したのであった。

 

 

『ヌッ?!』

 

 

セイガ『か、変わった?!』

 

 

ホルスに変身したディケイドを見てベリアスとセイガ達は再び驚愕し、Dホルスはライドブッカーを開くと其処からカードを一枚取り出しベリアスに見せびらかすようにカードをちらつかせる。

 

 

Dホルス『コイツの威力に耐え切れるかどうか…試してやるよ』

 

 

そう言いながらDホルスは取り出したカードをディケイドライバーに投げ入れ、スライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:SHOOTVENT!』

 

 

電子音声が響くとDホルスの上空からホルスの契約モンスターであるウィンドファルコンの頭を模した篭手…ファルアローが現れ、Dホルスの右手に装着されていった。そしてそれを確認したDホルスはファルアローの口に風を収集させベリアスに狙いを定めていく。

 

 

Dホルス『ハアァァァァ…デェアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―バシュウゥゥゥゥゥゥンッ!!―

 

 

『ヌ、ヌアァァァァァァァァァァァァーーーーーーアッ!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dホルスのファルアローから放たれた風の弾丸がベリアスの腹部を貫通して貫いていき、ベリアスは断末魔の悲鳴をあげながら爆発し跡形もなく消滅していったのだった。

 

 

リイン『ふぁ~、零君も容赦ないなぁ……なら、私もそろそろキメようかっ!』

 

 

―ドゴオォッ!―

 

 

『グオォッ?!』

 

 

同じくベリアスと戦っていたリインはDホルスの戦いを見て苦笑してしまうが、すぐに気を取り直してベリアスを壁際まで蹴り飛ばし、右腰の笛の中から白い笛を取り出すとベルトの止まり木に止まったリインキバットに吹かせていく。

 

 

リインキバット「ウェイクアップ1!ですぅ~♪」

 

 

リインキバットが白い笛……ウェイクアップフエッスルを吹くと奇妙なメロディーと共に空が闇に閉ざされ満月が出現し、リインの右足のカテナが解放されベリアスの上空に向かってジャンプしていく。そして満月を背にリインの右足にエネルギーが溜まり激しく輝き出し、そのまま踵落しの態勢でベリアスへと垂直落下していった。

 

 

リイン『フッ!ヤアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドグオォォォォォォンッ!!―

 

 

『ウ、ウオォォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

リインの必殺技……フルムーン・ラグナロクが見事に炸裂し、ベリアスは悲痛な悲鳴を上げながら真っ二つに裂け粉々に散っていき、リインが足をめり込ませる地面にはキバの紋章が刻まれていたのであった。そしてそれを見たDホルスはディケイドへと戻って両手を払い、リインの下に歩み寄っていく。

 

 

リイン『ふう…もう少し歯ごたえがあるんかと思ったけど、案外アッサリやったね?』

 

 

ディケイド『だな…だが、今はそんな事より優先する事がある』

 

 

そう言いながらディケイドはリインから呆然とこちらを見つめるセイガへと視線を変え、一歩踏み出しながらセイガへと呼びかける。

 

 

ディケイド『お前がこの世界のライダー、セイガで間違いないな?』

 

 

セイガ『え?えっと…あ、貴方は…?』

 

 

ディケイド『俺か?俺は通りすがりの「零ぃッ!!」ッ?!』

 

 

名前を問い掛けられそれに答えようとしたディケイドの言葉を遮るように優矢の声が響き、それが聞こえてきた方へ振り向くと何故か警官達がディケイドとリインに向けて拳銃を構えていた。

 

 

セイガ『海音さんっ?!』

 

 

海音「こちら現場っ!未確認生命体14号と15号が新たに出現した!至急応援を頼むっ!」

 

 

リイン『え?じゅ、14号と15号って…もしかして私等の事っ!?』

 

 

ディケイド『チッ…そういえばクウガの世界でも同じような事があったか…また面倒な事にっ』

 

 

拳銃を向けてくる警官達を見てリインは慌てふためき、ディケイドはクウガの世界で警察に未確認と称された事を思い出して舌打ちしてしまう。そして海音はディケイドに拳銃を突き付けながら問い掛ける。

 

 

海音「お前、言葉が喋れるな?ならば大人しく武器を捨てて、こちらの指示に従え。さもなければ……」

 

 

ディケイド『ほう……断ると言ったら?』

 

 

海音「……やむえないな。構えろっ!!」

 

 

海音は大人しく投降する事をディケイド達に呼びかけるが、ディケイドがそれを断った瞬間海音と警官達はディケイドとリインに向けて拳銃を構えていく。それを見たディケイドとリインもさすがに人間を相手に手を出すのは気が引けるらしく徐々に後退りしていき、その様子を陰で見ていた優矢もどうするべきかと頭を悩ませていた。その時……

 

 

 

 

 

 

「―――ったく、一体なにやってんだよお前等?」

 

 

 

 

 

リイン『……え?』

 

 

ディケイド『何…?』

 

 

ディケイドとリインの耳に届いた聞き慣れない声。それを聞いた二人が思わず辺りを見渡した、その瞬間……

 

 

 

 

―ブオォォォォォオンッ―

 

 

 

 

『なっ…?!』

 

 

突如ディケイド達と海音達の間の空間が捻れるように曲がっていき、捻れが治まると、其処には藍色の髪を持った青年がディケイドとリインを庇うように海音達と対峙していた。

 

 

セイガ『あ、あれは…?』

 

 

海音「人間…だと?!」

 

 

何もない空間から突如出現した青年にセイガや海音達もざわめき始めるが、ディケイドとリインは違う意味でその青年を見て驚愕していた。

 

 

「よぉ零、暫くぶりだな?滝の所のカラオケ大会以来だったか」

 

 

ディケイド『お、お前は…竜胆っ?!龍宮 竜胆か?!』

 

 

そう、目の前に現れた人物は以前滝の世界で開かれたカラオケ大会で知り合った青年……仮面ライダーケイオスの装着者である"龍宮 竜胆"だったのだ。

 

 

ディケイド『どういう事だ…何でお前が此処に?!』

 

 

竜胆「事情なら後で説明する、今は此処から逃げる方が先決だ」

 

 

突然現れた竜胆にディケイドは動揺を浮かべたまま問いかけるが、竜胆はディケイドにそう答えておもむろに片手を上げ軽く指を鳴らした。その時……

 

 

―……ブォンッ!―

 

 

ディケイド『は…?―――Σってヌオォォォォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

リン『れ、零君ッ?!―ブォンッ!―へ?―――Σってひょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?』

 

 

優矢「零ッ?!はやてさん?!―ブォンッ!―え?―――Σってギャアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?」

 

 

竜胆が指を鳴らした瞬間、ディケイドとリンと優矢の足元に人間が一人入れるほどの大きさの穴が出現し、三人はその穴の中に落ちていってしまったのだった。そして三人が穴に落ちたのを確認した竜胆は穴を閉じ、自身の周りに歪みを発生させて何処かへと消えてしまった。

 

 

海音「……な、何だったんだ……今のは……」

 

 

セイガ『…緑の瞳を持った悪魔……もしかして、あれがディケイド?』

 

 

そして現場に残されたセイガと海音達は突然の事態に思考がついていけず、ただ呆然とディケイド達と竜胆が消えた場所を見つめていたのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

その頃……

 

 

『ギッ…グゥッ…オォォォォォォォォッ…!』

 

 

現場から離れた場所にある路地裏。この場所に、先程セイガの蹴りを喰らい現場から逃げ去ったベリアスが腹を抱えて苦しげな声をあげていた。

 

 

『グッ…ヌゥッ…!ダゼバゼググッ…オノムギャレゼザッ…セイガァァァァ…』

 

 

ベリアスの腹部に浮かび上がる紋章からはビビのような物が発生して身体全体に広がっており、既に身体の殆どを侵食し切っていた。そして遂に歩く気力すら無くなったのか、ベリアスは力無く壁に背中を付き地面に座り込んでいく。そんな時……

 

 

『やっと見つけたぜ』

 

 

『……ヌッ…?』

 

 

路地裏の奥の方から不意に声が響き、ベリアスはけだるそうにそれが聞こえてきた方へと首を向けていく。すると其処には漆黒の仮面を身につけたライダー……以前電王の世界で零達と戦ったベリアルがゆっくりと姿を現し、ベリアスに近づいてきていた。

 

 

ベリアル『いい感じにやられちまってるじゃねぇか…情けねぇヤロウだなぁ。それでもあの古代人を苦しめてきたベリアスかよ?』

 

 

『ッ!グゼバジズルグ…ゴワザゲゲザゾッ?!』

 

 

ベリアル『まあそう喚くなや…お前にはまだ利用価値がある。こんな所で死なれてもらっちゃ困るんだよ』

 

 

歩み寄ってくるベリアルに驚愕して後ずさるベリアスだが、ベリアルは関係ないと言わんばかりに歩み寄り右手から闇が溢れ炎の様に揺らめく。そして……

 

 

ベリアル『安心しろ、また俺がチャンスを与えてやるよ。あの胸糞わりぃ古代戦士をぶっ潰す……力をなっ!!』

 

 

―ドゴォンッ!!―

 

 

『グオォォッ?!』

 

 

なんと、ベリアルはいきなり紋章が浮かび上がるベリアスの腹に右手を突き刺していったのだ。すると右手が突き刺さった腹から黒く染まっていき、ベリアスの身体も徐々に禍々しく変化していく。

 

 

ベリアル『ククク…思ったよりも良い出来になりそうだな。今度こそぶっ殺せよ?あの死にぞこないのセイガと…クウガをなぁっ!』

 

 

『ガッ!アッ!?グルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ベリアルは愉快げに笑いながら、悲痛な悲鳴をあげるベリアスの腹に右手を深く差し込み、誰もいない路地裏に獣染みた叫びと黒い雷が鳴り響いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに……

 

 

 

 

ルミナ「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~んっっ!!!師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~っっ!!!ここ何処なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~っっ!!?(泣)」

 

 

尾行対象の零達を見失ってから一時間が経ち、街中には風麺への帰り道が分からなくなったルミナが両手に肉まんと大判焼きの入った包みを抱えて大泣きする姿があったとか……。

 

 

 

 

 



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第十三章/セイガの世界②

第十三章/セイガの世界③]

 

―光写真館―

 

 

零「………つまり、お前はこのチラシを届けに写真館に来た訳が、俺達がいないことをなのは達から教えられ、わざわざ俺達を探しに現場までやってきたって事か……」

 

 

竜胆「あぁ、簡単にいえばそんなところだな。それに何か嫌な予感もあったし、気になって探しに来てみれば予感通り、お前等が警察に囲まれてたから咄嗟に助けに入ったって訳だ」

 

 

零「成る程…大体分かった」

 

 

あれから一時間後、竜胆の助けにより写真館の前まで転移してきた零達は部屋の中に場所を移動し、竜胆から事情を聞いている最中であった。どうやら竜胆は、今度自身の世界の行われる『麻帆良祭』のことを知らせる為にこの世界へ訪れたというらしい。そして一通りの事情を説明した竜胆は先程栄次郎が容れてくれた珈琲を口にした後零に問い掛ける。

 

 

竜胆「にしても、一体何があったんだ?現場に着いてみればいきなり警察に囲まれて銃なんか向けられてたみたいだし……またなんかやらかしたか?」

 

 

零「またって何だまたって……別に警察に睨まれる様なことはしちゃいないさ。ただこの世界の怪人を片付けただけだぞ」

 

 

竜胆「?この世界の怪人っていうと……ベリアスか?なら何でだ?お前達はただそいつ等を倒しただけなんだろう?」

 

 

優矢「え~っと…そうなんですけど…どうやら、零とはやてさんを未確認生命体と勘違いしたみたいなんですよね�それで――」

 

 

竜胆「…二人を攻撃しようとしたって訳か。成る程、お前等も不憫だな�」

 

 

はやて「ホンマ失礼や!せっかく助けに入ったのに、あんな怪人と一緒にさせられやなんて!�」

 

 

すずか「ま、まあまあ!�仕方ないよ、この世界じゃ仮面ライダーは怪人と同じ存在だって思われてるみたいだし�」

 

 

優矢「…まあ…俺も最初の頃はグロンギと同じだって思われてたから、気持ちは分かるけど�」

 

 

同情の眼差しを向けてくる竜胆の言葉にはやても頬を膨らませながら怒り出し、そんなはやてを隣のすずかが宥めていく。そして零はそんなはやて達の様子を横目に、竜胆から受け取ったチラシをテーブルの上に置き竜胆に問い掛ける。

 

 

零「それで、お前はこれからどうするんだ?チラシはこうして届けたわけだし、もう自分の世界に帰るのか?」

 

 

竜胆「そうだな……いや、もうちっとこの世界に残るわ。別にそんな急ぎの用でもないし、出来ればお前達と一緒にいさせてもらってもいいか?」

 

 

零「そうか……分かった、そういうことなら歓迎する。正直そうしてもらえるとこっちも助かるよ」

 

 

行動を共にさせて欲しいと提案してきた竜胆に零は頷いて返すが、それを隣で見ていた優矢は何やら難しげな表情で零に聞いていく。

 

 

優矢「けど、これからどうすんだ?さっきテレビ見たけど、今街ん中じゃ俺達のせいで大騒ぎになってるみたいだぞ?これじゃ気軽に外にも出られないだろ?」

 

 

スバル「あ、そっか。じゃあ何か対策とか考えないといけないのかな…?」

 

 

ティアナ「そうね……今の現状だと好き勝手に動き回るのも危険だと思うし、あまり目立った行動は控えた方がいいかもね……」

 

 

そう、先程の戦闘で零とはやてを未確認生命体として扱われた今、警察は零達を警戒して街中を動き回っているだろう。ならばその辺に対し、何かしらの対策を考えてから行動するべきだと一同は考えていくが……

 

 

零「ふむ……まあ、あまり心配する必要はないんじゃないか?実際警察に顔を見られたのは竜胆と変身した俺とはやてだけなんだし、竜胆の事を気をつけながら街を散策すれば問題はないだろう?」

 

 

優矢「いや、そんな簡単に片付けられる問題か…?�」

 

 

なのは「もぉ…またそんなマイペースなこと言うんだから�」

 

 

余り焦った様子もなく呑気にカメラの手に入れをする零になのは達は呆れて溜め息を吐いてしまう。だが、そんななのは達の気も知らず、零はカメラの手入れを終えるとソレを首に下げてテーブルから立ち上がっていく。

 

 

零「まあ、取りあえずこの世界のライダーとの接触も済ませた訳だし、早いとここの世界での役目でも見つけに行くか」

 

 

ヴィータ「ハ?行くって…何処にだよ?どっかいく当てでもあんのか?」

 

 

零「ん?うむ………………………………………いや、感だ」

 

 

と、ヴィータからの質問に対し零はあやふやな返答をして部屋から出ていってしまい、優矢達はそんな零の言葉に唖然とした後、すぐに立ち直り慌てて零の後を追いかけていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―海鳴市・風麺―

 

 

それから数分後、様々な人が行き交う海鳴市のとあるショッピングモール。その場所に位置する一つの屋台では、他の客達と混じってお茶をする二人の少女の姿があった。

 

 

「――全く、海斗の身勝手さにもいい加減呆れるわ。スケィスの世界の時もそうだったけど、この世界にめぼしいお宝がないからってまた勝手に次の世界に行くし…振り回されるこっちの身にもなって欲しいわよ」

 

 

「まあ、男なんて皆そんな物でしょう?一々気にしてたらこっちの身がもたないんだから、適当に受け流してればいいのよ」

 

 

「それが出来たら、こんな場所で貴方に話してなんかいないでしょ…」

 

 

誰に対しての愚痴なのか、二人の少女はそんな会話を行いながら茶を啜り、一息吐いていく。するとそんな時、この屋台の主……海道大輝がそんな二人の座るテーブルの上に巨大なナルトを乗せた二つのラーメンを置いて声を掛ける。

 

 

大輝「こんな昼間から相変わらずだね?また相棒の陰口でも言いにきたのかい、やまと?」

 

 

やまと「あら、それは少し人聞きが悪いわね大輝。これは陰口ではなく愚痴よ?その辺りを間違えてもらったら困るわ」

 

 

大輝「俺からして見れば同じにしか見えないけど……君も気の毒だなベル?彼女の愚痴を延々と聞かされるのも骨にくるだろう?」

 

 

ベル「いいえ…これだけ聞かされればいい加減慣れても来るわ。それに私も愚痴を聞いてもらってるんだから、お互い様よ」

 

 

二人の少女……進の世界のディエンドである天竜海斗の相棒である"永森やまと"と、ガンダムディケイドの世界の住人である"ベール=ゼルファー"は出されたラーメンを食しながら大輝にそう言うと、大輝は苦笑しながらそれに言い返す。

 

 

大輝「愚痴を言うのは別に構わないんだけど、少しは時と場所を考えて欲しいんだよね。ほら、うちも他にお客さんがいるからさ」

 

 

やまと「…ふう…アンタも相変わらずうるさい男ね」

 

 

ベル「……だったら、それについてはコレで大目に見てくれないかしら?」

 

 

溜め息を吐くやまとの隣でベルはニヤリと不敵な笑みを浮かべ後、自分の荷物の中から何やら籠手と具足のようなモノを取り出してテーブルの上に起き、それを見た大輝は目を見開き驚愕の表情を浮かべた。

 

 

大輝「そ、それは…まさかっ?!」

 

 

ベル「そう、とある世界のお宝の一つ……ベオウルフと呼ばれる魔具よ。しかもサービスとして、ブレイブカードやヒロインカードも付けてあげるわ」

 

 

大輝「っ?!………い、いいのか?」

 

 

ベル「フフッ♪そ・の・か・わ・り……分かってるわよね?」

 

 

テーブルの上に置かれた篭手と具足とカード達を見て驚愕する大輝にベルは妖艶な笑みを浮かべながらそう聞くと、大輝はババババッ!とテーブルの上に置いてあったベオウルフとカード達を一瞬で両腕に抱え……

 

 

大輝「……ごゆっくり♪」

 

 

と爽やかな笑みを浮かべながら告げて屋台の奥へと戻っていったであった。

 

 

やまと「…アンタ、本当にアイツ使うの上手よね?」

 

 

ベル「フフッ♪男の惑わし方なんてお手の物よ。特に大輝はお宝(餌)さえ与えれば大人しく言う事を聞いてくれるしね♪」

 

 

やまと「……海斗もそうだけど、アイツも少しは男としてのプライドを身につけて欲しいモノね……」

 

 

上機嫌に微笑むベルを見て、やまとは大輝と此処にはいない相棒の姿を思い浮かべながらそう呟きラーメンを食していく。そしてそれから暫く経つと、ラーメンを食べ終えた二人の前に、先程屋台の奥に消えた大輝が何やら古びた紙を持って姿を現した。

 

 

ベル「……?今度は何よ?言っとくけどお宝ならもう持ってないわよ?」

 

 

大輝「それぐらい分かってるさ。ただ、お礼として俺が狙ってるお宝を君達にも教えてあげようと思ってね」

 

 

やまと「?貴方が狙ってるお宝?」

 

 

大輝の言葉にやまとが疑問そうに聞き返すと、大輝はそれに頷き返しながら手に持っていた紙をテーブルの上に広げていく。其処にはこの海鳴市の郊外にある森と、森の中心に立つ巨大な山の絵が描かれていた。

 

 

ベル「……?これって郊外にある山よね?これが一体なんなのよ?」

 

 

大輝「フッ…実は此処だけの話なんだけど、この山にはこの世界の古代人が遺したお宝が眠ってるんだよ。しかもそのお宝には、あらゆる平行世界を支配する事の出来る力が秘められてるみたいなんだ」

 

 

やまと「ッ!あらゆる平行世界を……支配する?」

 

 

あらゆる平行世界を支配するだけの力を秘めたお宝。それを聞いた二人もそのお宝に興味を示したのか、まじまじと紙に描かれた山の絵を凝視していく。

 

 

やまと「…それ本当なの?そんなお宝がこんな山にあるだなんて…」

 

 

大輝「間違いないさ。コレを盗ってきた研究所の資料も全部見てきたし、あの山にそのお宝が眠ってるのは確認済みだ」

 

 

ベル「…ホント、そういう事に関しては抜かりないわよね、アンタ」

 

 

お宝の為なら其処までするのかと、ベルは内心呆れを通り越して尊敬の意を大輝に感じていた。そして大輝は山の絵をトントンと人差し指で叩きながら二人に聞いていく。

 

 

大輝「それで、どうする二人共?この話に乗るかい?ま、乗らないなら乗らないで別に構わないけどね」

 

 

大輝は不敵な笑みを浮かべながら二人にそう聞くと、やまととベルは互いに顔を見合わせてなにか考え込むかのように黙ってしまう。そして……

 

 

やまと「………乗ったわ。どうせ他にやるコトなくて退屈してたし」

 

 

ベル「…そうね…私も構わないわ。そのお宝とやらにも興味あるし、このまま手ぶらで帰るのも癪だしね」

 

 

大輝「フッ……それじゃ、決まりだ♪」

 

 

お宝探しに乗ると告げる二人に大輝は満足げに笑い、取りあえず屋台が閉まる前に音信不通となったルミナを探しに二人を向かわせたのであった。

 

 

 

 

 



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第十三章/セイガの世界③

 

―海鳴市・河原―

 

 

それから数十分後、写真館を出た一行はこの世界での役目を探す為に街へと飛び出し、零、竜胆、はやての三人と優矢、スバル、ティアナ、ギンガ、ヴィヴィオの五人の二手に別れ街の中を散策する事にした。

 

 

優矢「ったく…何でアイツはあんなマイペースになれんだよ?最近まではどっか難しそうな顔して大人しかったクセに…」

 

 

スバル「ハハハ…仕方ないですよ。零さん、何時もはあんな感じですし」

 

 

ギンガ「寧ろ、最近までの零さんの方が何時もらしくなくて可笑しかったですから、ああいう方が逆に安心出来ますよ」

 

 

優矢「ん~……そんなもんかぁ?」

 

 

海鳴市の何処かにある河原付近で優矢達はそんな会話をしながら歩いていき、この世界での自分達の役目に関するヒントが何かないかとあらゆる場所を歩き回っていた。しかし、どんなに探し回ってもそれらしき物を発見出来ず、ただ時間と体力を無駄に消費していくばかりであった。

 

 

スバル「あう"ぅぅぅぅ…全然見つかんないよぉぉぉぉ~~」

 

 

ヴィヴィオ「もぉ疲れたぁ~…」

 

 

ティアナ「そうね……優矢さん、一度どこかで休憩しませんか?正直私もきつくなってきましたし……」

 

 

優矢「ん…そうだな。じゃあどっかその辺で休憩でもするか?」

 

 

ティアナとギンガの後ろを歩くスバルとヴィヴィオを見てそろそろ休憩を挟もうかと思い、優矢は何処か休める場所がないかと辺りを見回した。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突如優矢達の反対側にある橋の下の方から少女の悲鳴が響き渡り、それを聞いた五人は足を止めそれが聞こえてきた橋の方へと振り向いた。

 

 

ギンガ「い、今のは?!」

 

 

スバル「悲鳴……だよね?あの橋の方から?」

 

 

優矢「…まさか、零の言ってたベリアス?!」

 

 

ティアナ「え?……って!ちょ、優矢さん?!」

 

 

聞こえてきた悲鳴にスバル達が動揺する中、優矢は先程零から聞いたこの世界の怪人であるベリアスの事を思い出し橋の下へと向かっていき、それを見たスバル達も慌てて優矢の後を追いかけていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

『ヌウゥゥゥゥゥゥ……』

 

 

「い、いやっ…誰か…誰か助けてっ……」

 

 

そしてその一方、橋の下にある河原では一人の少女が異形に襲われかけていた。脅える少女に異形…全身を黒く染め、身体の至る所から刃の様に尖った角を生やしたベリアスがゆっくりと歩み寄り、恐怖で動けない少女を引き裂こうと右腕を振りかざした。その時……

 

 

 

 

「――変身ッ!」

 

 

『…ッ?!―バギィッ!―ヌグオォッ?!』

 

 

「……え?」

 

 

突然横から飛び出してきた一人の赤い戦士がベリアスを殴り付けて河の近くへと吹き飛ばしていき、少女は目の前に現れた赤い戦士…クウガに変身した優矢を呆然と見つめていた。

 

 

クウガ『よし、間に合ったか…!』

 

 

「………お…お兄ちゃん?練次お兄ちゃん…なの?」

 

 

クウガ『え?お兄ちゃんって………ッ?!』

 

 

呆然と少女が言葉にクウガは疑問符を浮かべて少女の方へと顔を向けるが、その少女を見た途端その表情が驚愕のものへと変わった。何故ならその少女は……

 

 

クウガ『な、なのはさん?!何やってんだこんなところで?!』

 

 

なのは?「……へ?」

 

 

そう、クウガが助けた少女は茶髪の髪をポニーテールに纏めた見覚えのある少女…自分の仲間であるなのはと同じ顔をしていたのだ。何故こんな場所になのはがいるのかと動揺してしまうクウガだが、その時クウガに殴り飛ばされたベリアスが起き上がりクウガを襲い始め、クウガはそれを受け止めるとなのは?から離れるようにその場から走り出しベリアスに殴り掛かる。

 

 

クウガ『ダァッ!ハッ!』

 

 

―ドグォッ!!ドシャアァッ!!―

 

 

『グゥッ?!……バズガゼネグ、ゼズダババルクウガッ!』

 

 

クウガ『!クウガだって?!―ドゴオォッ!!―ガッ?!』

 

 

クウガの名を口にしたベリアスにクウガは一瞬攻撃の手を止めてしまい、ベリアスはその隙を突いてクウガを柱へと蹴り飛ばしてしまう。そしてちょうどその時、優矢を追ってきたスバル達が漸くその場に到着し、ベリアスに吹っ飛ばされたクウガを見て驚愕の表情を浮かべた。

 

 

ティアナ「優矢さん?!」

 

 

クウガ『グゥッ!皆!俺がアイツを引き付けるから、その隙になのはさんを頼むっ!』

 

 

ヴィヴィオ「え?なのはママ?」

 

 

その場に到着したばかりで状況が飲み込めないスバル達だが、クウガはなのはを頼むとだけ告げると地面に落ちていた木の棒を拾い、ベリアスと再び対峙する。

 

 

クウガ『(力はアイツの方が上だ…正面から殴り合っても意味はない…なら!)超変身ッ!』

 

 

ベルトに片手を添えて叫ぶとクウガは銀色の鎧に紫のラインが入った姿……タイタンフォームへとフォームチェンジし、右手に持った木の棒もタイタンソードへと変化してそれを構える。そしてそれを見たベリアスは一瞬鼻で笑うとクウガに向かって走り出し、クウガもそれを迎え撃とうとタイタンソードを両手で構えていく。そして……

 

 

『ヌアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

クウガ『フッ!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 

―ズガアァァァァァアンッ!!―

 

 

『グゥッ?!』

 

 

クウガは態勢を屈めてベリアスの拳をかわすと、ベリアスの腹にタイタンソードを突き刺しカラミティタイタンを炸裂させ、ベリアスは拳を突き出したまま動かなくなってしまった。

 

 

クウガ『よしっ…!』

 

 

スバル「やったっ!」

 

 

ギンガ「優矢君の勝ちね!」

 

 

なのは?「…す…凄い…」

 

 

動かなくなったベリアスにクウガは確かな手応えを感じて勝利を核心し、スバル達もクウガが勝ったのだと喜びを露わにする。が……

 

 

『……………………フッ』

 

 

―ガシッ!ググググッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

クウガ『な、何ッ?!』

 

 

倒したと思われたベリアスはタイタンソードを腹部に刺したまま突然動き出し、それを見たクウガとスバル達は驚愕の表情を浮かべた。そしてその間にベリアスは自身の腹に刺さったタイタンソードを掴むと、タイタンソードは灰と化し風に吹かれて消え去ってしまう。

 

 

クウガ『なっ―ガシッ!―ガッ?!』

 

 

『フン、グネベザギギガ、ガズデマブルズッ!』

 

 

タイタンソードが灰と化して消えてしまったのを見て驚愕してしまうクウガだが、ベリアスは関係ないと言わんばかりにクウガの首を掴んで締め上げて投げ飛ばし、クウガはそのショックで元のマイティフォームへと戻ってしまった。

 

 

クウガ『ガハァッ!!ガッ…ぐッ…!』

 

 

ギンガ「ッ!優矢君ッ!」

 

 

ティアナ「そんなっ…優矢さんの攻撃が通じないなんて?!」

 

 

必殺技も通用せず、吹っ飛ばされてしまったクウガを見てギンガとティアナ達は信じられない物を見たような表情を浮かべ、ベリアスはそんなクウガから興味をなくしたように視線を逸らしてスバル達と向き合っていく。

 

 

『ベベザダヂルザ、ゴルゼジズバグ……オォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

―…バチッ…バチバチバチバチバチバチィッ!!!―

 

 

ベリアスは唸り声をあげながら右手を掲げると全身に生えた角から黒い雷が発生し、ベリアスの右手にエネルギーを集束させると黒く輝き出していく。

 

 

ギンガ「ッ!あ、あれはっ…?!」

 

 

ティアナ「…まさか…私達を狙ってる?!スバル!ギンガさん!なのはさんとヴィヴィオを連れて此処から離れるわよ!!」

 

 

スバル「う、うん!!」

 

 

ベリアスの標的が自分達だと気付いたティアナ達は、未だ恐怖で動けないなのは?とヴィヴィオを連れてその場から走り出した。が、右手にエネルギーを溜め終えたベリアスは走り去っていくスバル達に向けて右手を翳していく。そして……

 

 

『ゼジゼベルガグ…ヌアァッ!!』

 

 

―ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

ベリアスの手の平から黒い雷撃が発生し、スバル達へと向かって黒い閃光が撃ち出されていったのだった。そして黒い閃光は信じられないスピードでスバル達との距離を一瞬で詰め、それを避けられないと悟ったスバル達は自身の身体で壁を作ってなのは?とヴィヴィオだけでも守ろうとする。だが…

 

 

 

 

 

 

―ズババババババババババババババババァッ!!!―

 

 

クウガ『グゥッ!!ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『…なっ?!』

 

 

五人の前にクウガが立ち塞がり、スバル達を庇うようにベリアスの放った閃光を受けていったのであった。そして閃光を受けたクウガは身体から煙を立たせながら力無く地面に倒れ込んでしまった。

 

 

ギンガ「ゆ、優矢君?!しっかして優矢君ッ!!」

 

 

ティアナ「目を覚まして下さい!優矢さんッ!」

 

 

クウガ『……………』

 

 

ギンガ達はすぐさまクウガへと駆け寄り必死に身体を揺らさぶっていくが、クウガからは何も返事が返ってくる様子はなかった。するとその様子を見ていたベリアスは不気味な笑い声を漏らしていく。

 

 

『ゼガボギレ、オンドルドザクウガ……フンッ!』

 

 

―ザパアァッ!!―

 

 

スバル「あ、逃げた?!」

 

 

ティアナ「今はほっときなさい!ヴィヴィオ、早くKナンバーで零さん達に連絡して!」

 

 

ヴィヴィオ「う、うん!」

 

 

ベリアスは河へと飛び込んで何処かへと逃げ出してしまうが、ティアナは一刻も早く零達に連絡をしなければと思い、ヴィヴィオに頼んでKナンバーで連絡させようとする。とその時……

 

 

クウガ『…………………………………ッ……ウッ…………アッ……』

 

 

スバル「…ッ?!優矢さん!」

 

 

ギンガ「良かったっ…気が付いたのね!」

 

 

息苦しそうに声を漏らしたクウガにスバル達は安心したように吐息を吐き、張り詰めていた肩を落とした。しかし……

 

 

クウガ『……アッ……ガッ……アァァァァッ……!』

 

 

ティアナ「?優矢さん?」

 

 

スバル「あの、どうしたんですか?」

 

 

何故かクウガは自分の肩を抱きしめながら苦痛の声を漏らし、スバル達はそんなクウガを心配して手を伸ばしていく。が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

―………ドグンッ!―

 

 

クウガ『…ッ?!グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?』

 

 

―バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

クウガは突然断末魔にも似た叫び声をあげながら身体をのけ反り、それと同時にクウガの身体から黒い衝撃波が噴き出しスバル達を吹っ飛ばしていった。そしてクウガは黒いオーラを溢れさせながらその姿を徐々に変えていき、全く別の姿へと変化していったのである。

 

 

スバル「…ッ?!ゆ、優矢…さん?」

 

 

ティアナ「…な…なんなのよ……アレっ……」

 

 

クウガ『ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!?』

 

 

黒い衝撃波が辺りに巻き起こる中、スバル達は姿を変えて咆哮をあげるクウガに呆然とした表情を浮かべてしまう。赤い装甲から黒と金の装甲となり、両足には金の足甲を纏い両手の手甲に『雷』の古代文字を刻み、ベルト部に金の装甲を身に付けまがまがしい黒い瞳を持った姿…アメイジングマイティフォームとなった姿を見て―――

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―海鳴市・市街地―

 

 

零「ハァ…この辺には何もなさそうだな……」

 

 

竜胆「みたいだな…」

 

 

一方その頃、優矢達とは別ルートでこの世界の海鳴市を探索していた零達だが、やはりこちらでもヒントらしきものは見つからず悪戦苦闘してる最中であった。

 

 

はやて「もう、一体何処にあるんやろう?私等がこの世界で果たすべき使命って…」

 

 

零「さあな。それが分かればこんな苦労せずに済むんだが…そう簡単に見つかる訳もないか…」

 

 

竜胆「やっぱ、地道に探し回るしかないよなぁ……」

 

 

長い事街の中を歩き回っている三人だが、ヒントどころか手掛かりらしき手掛かりすらも見つからず、三人のモチベーションも段々と下がり始めていた。だがそんな時、竜胆があるコトに気付き零とはやてに話し掛ける。

 

 

竜胆「…なあ、お前等が今まで果たしてきた役目ってその世界のライダーが殆ど関係してんだろう?なら、今回もこの世界のライダーであるセイガが関係してるんじゃないか?」

 

 

そう、一行が今まで旅してきたライダーの世界の殆どの役割がそのライダー達に関係している。ならばこの世界のライダーであるセイガを捜せば、この世界での役目を見付けられるのではと竜胆は口にするが……

 

 

零「あぁ、俺も最初はそう思ったんだが……その肝心のセイガに変身する人間が何者か分からないんだ。多分優矢のように警察に協力している人物だと思うんだが、それが一体どんな人物なのかも分からない…」

 

 

はやて「うん…唯一確実に接触出来るんはベリアスが現れた時だけなんやけど、私等は警察に目ぇ付けられとるやろ?だから……」

 

 

竜胆「例え現場に現れたとしても、警察がいるんじゃやすやすと姿を現す訳にはいかないか……思ったより難しい問題だな…」

 

 

セイガが変身する人間が誰でどんな人物なのか。それが分からない以上、セイガと接触するにはベリアスが現れのを待つしかない。しかも警察に攻撃されるのを覚悟してだ。中々良い方法が浮かばない三人は難しげな表情を浮かべながら考え込んでしまう。とそんな時……

 

 

―PPPP…PPPP…PPPP…―

 

 

竜胆「ん?何の音だ?」

 

 

零「…?あ、俺のビートルフォンか?」

 

 

零のポケットに仕舞っていたビートルフォンが不意に鳴り出し、零はすぐにポケットからビートルフォンを取り出し通話ボタンを押して耳に当てる。

 

 

零「もしもし?黒月だが…『零さんっ!!零さんですかっ?!』ッ!その声……ティアナか?」

 

 

ビートルフォンから大音量で聞こえてきた声…三人とは別行動を取っていたティアナの声だったのだ。だがその声には何処か余裕がなく、何かに追い詰められている様な切羽詰まっているような感じがした。

 

 

ティアナ『今何処にいますかっ!?お願いです!早くこっちに来て下さいっ!!優矢さんが!優矢さんがっ!!』

 

 

零「ッ?!お、おい落ち着けティアナッ!優矢が何だ?!一体どうしたんだ!?」

 

 

ティアナ『わ、私にも分からないんですっ!優矢さんが突然『ウアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』ッ!?スバルッ!!』

 

 

―ブツンッ!ツー…ツー…ツー…―

 

 

零「お、おいティアナ!?スバルがどうした!?ティアナ!ティアナ!!…クソッ!」

 

 

ティアナからの通話が切れ零はビートルフォンを乱暴に閉じて毒づき、そのまま近くに停めておいたディケイダーへと駆け寄り跨がっていく。

 

 

はやて「ちょ、零君どないしたんや?!ティアナに何かあったんか?!」

 

 

零「俺にも分からん!だがアイツ等の身に何かあったらしいっ…とにかく今はアイツ等の所に向かうぞ!」

 

 

竜胆「あ、あぁ!分かった!」

 

 

余裕のない表情を浮かべる零を見て余程マズイ状況なのだと悟った竜胆はディケイダーの隣に停めておいた自身のバイクに跨がり、はやてもディケイダーの後ろに乗っていく。そして零と竜胆は自身のバイクを発進させ、ティアナ達を探しに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

真也「…へぇ?思ったより良い仕事してくれるじゃん、あの黒いライダー。まさかクウガを古代の闇の力で暴走させるなんてさ」

 

 

そして零達が走り去った後、近くの建物の陰から先程セイガが戦う現場の近くにいた真也と麻衣がゆっくりと姿を現し、真也は陽気な笑みを浮かべながら零達が走り去った方を見つめていた。

 

 

真也「さてと…奴が動いたとなると、そろそろ俺達の出番かもな?」

 

 

麻衣「………やっぱり……戦うの?零達と……」

 

 

真也「しゃーねぇさ、任務を遂行しねぇと終夜の奴が後からこぇーし……それにアイツ等を足止めするだけなんだから、俺達が手加減してやれば大丈夫さ。いくぜ、麻衣?」

 

 

麻衣「………分かった…」

 

 

麻衣は真也にそう言うと懐から白いカードケースの様な物を取り出して目の前に突き出すと麻衣の腰にベルトが出現し、真也もそれに続くようにコートを翻すと腰に装着したベルトを露出させ、ポケットから取り出した黒い携帯を開き000と番号を入力した後エンターキーを押した。

 

 

『Standing by…』

 

 

真也「変身ッ!」

 

 

麻衣「…変身」

 

 

『Complete!』

 

 

携帯を閉じてベルトにセットすると電子音声が響き、それと同時に真也の身体に黄金の閃光が浮かび、麻衣も変身の構えと共にケースをバックルにセットすると姿を変えていった。真也は黄金の閃光が晴れるとギリシャ文字のΩを模した姿をした黒いライダー『オーガ』へと変身し、麻衣は白いマントを翻し、白鳥を模した姿をした白い女ライダー『ファム』へと変身したのであった。

 

 

オーガ『んじゃ、ちょっくら突いてくるとしますか…麻衣?』

 

 

ファム『うん……いく』

 

 

変身を完了した二人は互いに顔を見合わせて頷くと、背後から出現した歪みの壁に飲まれて何処かへと消えていってしまった。

 

 



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第十三章/セイガの世界④

 

 

―海鳴市・河原付近―

 

 

零「クッ!一体何処にいるんだアイツ等?!」

 

 

竜胆「チィ!おいはやて!ホントにこっちで合ってんのか?!」

 

 

はやて「うん!ヴィヴィオが持っているKナンバーのGPSの反応はこの先や!」

 

 

ティアナからの通話が途絶えてからしばらく経ち、零達はティアナ達と共にいるヴィヴィオが持っているKナンバーのGPSの反応を頼りにバイクを走らせ、その反応のあった河原の近くにまで来ていた。そして河原沿いで暫くバイクを走らせいた、その時……

 

 

はやて「……っ!ふ、二人とも!あれっ!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

ディケイダーの後ろに乗っていたはやてが何かを発見してある方向に指を指し、零と竜胆はその指先を目で追いかける。其処には数十メートル先にある橋…その橋の下で火花のような物が何度も点滅するように輝いていた。

 

 

はやて「っ!間違いない!GPSの反応はあの橋の下からや!」

 

 

零「よしっ…竜胆っ!」

 

 

竜胆「おう!!」

 

 

あの橋の下から反応があると告げたはやての言葉に、零と竜胆はすぐに自分達のバイクを全速力で走らせ橋の下まで一気に向かっていく。だが……

 

 

―ブオォォォォォォッ……キイィィィィィッ!!―

 

 

はやて「…えッ?!」

 

 

零と竜胆は突然バイクを止めてしまい、何故かその場で急停止してしまったのであった。

 

 

はやて「ちょ、何してねん二人共?!なんで急に止まるんや?!はよせんとスバル達がっ…!」

 

 

零「…そうしたいのは山々なんだが、奴は俺達を通す気はないらしい…」

 

 

はやて「へ…?」

 

 

何処か敵意に満ちた表情で何かを睨みつける零と竜胆を見てはやては疑問符を浮かべてしまうが、すぐに二人の視線を追って目の前に目を向ける。其処には……

 

 

鳴滝「――やぁ。ごきげんよう、ディケイド」

 

 

はやて「…ッ!鳴滝さん?!」

 

 

そう、其処にいたのは三人の目の前に立ちはだかるように立つ一人の男…いつも零達のいく先の世界で邪魔をしてくる鳴滝の姿があったのだ。

 

 

零「今度は一体何の用だ?こっちは今先を急いでるんだが…」

 

 

鳴滝「おや、それは失礼したね。だが私はお前に用があるのだよ……此処で貴様を仕留めるという用が!」

 

 

零「チッ…また懲りもなくそれか……というか、何だその姿は?」

 

 

またかと嫌気を刺した表情を浮かべながら、零は鳴滝の姿を見て疑問そうに問いかけた。今の鳴滝の姿は…何故か身体の至る所に包帯を巻き、顔にも絆創膏などを付けて痛々しい姿をしていたのである。

 

 

零「……今回は一体なんのつもりだ?まさか、同情を誘って俺を倒そうなんて馬鹿な策略を考えてるんじゃないだろうな?」

 

 

鳴滝「そんな訳があるか!これはその男のせいで付けられた傷だ!!」

 

 

呆れたように聞く零に鳴滝は激怒しながら零の隣……何故か冷たい視線を鳴滝に送る竜胆を指差し、それを聞いた零は更に疑問符を浮かべていく。

 

 

零「竜胆?…なんで竜胆がお前の怪我なんかと関係している?」

 

 

鳴滝「この怪我を負わせた張本人はその男だ!ソイツはいきなり私をサンドバックのように容赦なく殴りつけ!挙げ句の果てにはアイアンメイデンの刑までしてきたのだ!私はただディケイドを倒すように警告しに来ただけなのに!!」

 

 

竜胆「知るか!自分は何もしない癖に、他力本願してばっかのお前にはその位ヤッても問題ないだろ!!」

 

 

はやて「いや…流石に生身の人間にそれはキツイやろ�」

 

 

詫びれる様子もなく堂々と言い切った竜胆にはやては冷や汗を流しながら思わず苦笑してしまい、零は呆れて深い溜め息吐いていた。

 

 

鳴滝「クッ…とにかくだ!貴様をこれ以上好き勝手に動かす訳にはいかん!貴様のせいで、クウガは古代の闇の力に飲まれ破壊の戦士となってしまったのだからなっ!」

 

 

零「…ッ?!クウガが破壊の戦士になった…だと?」

 

 

はやて「ど、どういうことや?まさか…優矢君に何かあったんか?!」

 

 

意味深な言葉を放つ鳴滝に零と竜胆の表情は更に鋭くなり、はやては優矢の身に何か起きたのではと焦った表情で鳴滝に聞き返した。だが鳴滝はそれに答える事なく、零達を睨みつけながら自身の背後に歪みの壁を発生させた。

 

 

鳴滝「貴様の存在はやはり世界を滅ぼす……今日こそ貴様の息の根を止めてくれるぞ、ディケイド!」

 

 

鳴滝がそう言うと歪みの壁から同じ姿をした数十体のライダー達と青い瞳に黒い機械的な装甲のライダーが姿を現し、零達と対峙していく。

 

 

竜胆「ッ!コイツ等…!」

 

 

零「……滝の世界の量産型ホッパーのプロトタイプ、ローカストとアギトの世界の仮面ライダー…G4か」

 

 

零達は歪みの壁から現れたライダー達、本郷滝の仮面ライダーfirstの姿と酷似した『ローカスト』達と、アギトの世界のライダーである『G4』を警戒して身構えていき、G4はぎこちない機械的な動きで戦闘態勢に入っていく。

 

 

零「チッ!大人しくどいてくれそうにもないかっ…」

 

 

鳴滝「フフフッ…今日こそ終わりだディケイド!此処で貴様の旅を終わらせるがいい!」

 

 

毒づく零に向けて鳴滝は不気味な笑みを浮かべながら歪みの壁に入り、何処かへと消えていってしまった。そしてそれを見た零と竜胆もバイクから降りると自分達のドライバーを取り出しG4達と対峙していく。

 

 

竜胆「零、いくぜ!」

 

 

零「あぁ…はやて、お前は隠れてろ」

 

 

はやて「う、うん…!」

 

 

零がそう言うとはやてはディケイダーから降りて近くの物陰へと避難し、それを確認した零と竜胆は自分のドライバーを装着しそれぞれカードを取り出して構えていく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『stand up chaos!』

 

 

カードをバックルにセットすると電子音声と共に零はディケイド、竜胆は重厚でありながらもしなやかさを持つ黒と金の装甲のライダー…『ケイオス』へと変身していったのであった。そして変身を完了したディケイドはライドブッカーをSモードに展開し、ケイオスは空手のままG4とローカスト達に向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

クウガAM『ウオォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!!!』

 

 

―ズガガガガガガァッ!!ガンガンガンガァンッ!!ズガシャアァァッ!!!―

 

 

移鬼『ウアァッ!!』

 

 

ナンバーズ『アゥッ!!』

 

 

ギンガ「優矢君ッ!止めてッ!!」

 

 

ティアナ「目を覚まして下さいッ!優矢さんッ!!」

 

 

ベリアスの攻撃よって突如変異してしまったクウガAMは移鬼とナンバーズに変身したスバルとヴィヴィオに容赦ない攻撃を繰り出して吹っ飛ばし、ギンガとティアナはクウガAMを止めようと必死に呼び掛けていく。だがそんな二人の声も届かず、クウガAMは追い打ちと言わんばかりに二人へと突っ込み殴り掛かっていく。

 

 

クウガAM『アアァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ウアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ギンガ「スバルッ?!」

 

 

ティアナ「ヴィヴィオッ!!」

 

 

クウガAMの渾身の拳をモロに喰らった移鬼とナンバーズは勢いよく吹っ飛ばされ壁に叩きつけられてしまったのだった。吹っ飛ばされた移鬼とナンバーズはその衝撃で身体が麻痺を起こして動かず、ティアナとギンガはすぐに移鬼とナンバーズへと駆け寄り身体を起こしていき、クウガAMも標的を変え今度はなのは?へと近づいていく。

 

 

なのは?「い、嫌っ……」

 

 

ティアナ「ッ?!マズイ!」

 

 

ギンガ「駄目ッ!!止めて優矢君ッ!!」

 

 

クウガAM『グウゥゥゥゥ…グゥアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ギンガはクウガAMに向かって制止の叫びをあげるが、クウガAMはそれを聞かず右手を振り上げながらなのは?へと襲い掛かり、なのは?は涙ぐみながらそれから顔を逸らした、その瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!ドゴォンッ!!―

 

 

クウガAM『グォッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突然その場に一台のバイクに乗った青年が現れ、なのは?に襲い掛かろうとしたクウガAMを跳ね飛ばしていったのである。そして青年はなのは?の前でバイクを停めてヘルメットを外すとバイクから降りてなのは?に駆け寄っていく。

 

 

「なのはっ!無事か?!」

 

 

なのは?「ッ!れ、練次お兄ちゃん…?」

 

 

練次と呼ばれた青年は慌てた様子でなのは?の無事を確かめるが、なのは?は涙目になりながら練次に抱き着いた。

 

 

練次「な、なのは…?」

 

 

なのは?「ヒグッ…ウグッ…怖かった…怖かったよぉっ…」

 

 

涙声になりながらなのは?は練次に抱き着いたまま泣き出し、練次はそんななのは?を慰めるように頭を撫でていく。が、その時吹っ飛ばされたクウガAMが再び立ち上がって練次達に近づいていき、それを見た練次はなのは?から離れるとクウガAMの前に立ちふさがり両手を腰に沿え、ベルトを出現させて構えていく。そして……

 

 

練次「…変身ッ!」

 

 

その掛け声と共にベルトの中心が朱く輝き出し練次の姿が徐々に変化していき、朱い仮面ライダー…セイガへと変身したのであった。

 

 

ギンガ「あ、あれは…?!」

 

 

ティアナ「もしかして、あれがこの世界のライダー…セイガ?!」

 

 

クウガAM『グウゥゥゥゥ…グゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!』

 

 

セイガ『フッ!ハアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

セイガへと変身した練次を見てギンガとティアナは戸惑ってしまうが、クウガAMは獣の様な雄叫びをあげながらセイガに向かって襲い掛かり、セイガも正面からクウガAMと殴り合っていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてその頃、河原沿いに場所を変えたディケイドとケイオスはそれぞれ戦闘を開始し、ディケイドはG4、ケイオスはローカスト達と激戦を行っていた。

 

 

G4『……………ピピッ』

 

 

―キュウイィィィィ…ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

ディケイド『チッ!動きは鈍い癖に火力だけは大したもんだな!』

 

 

ディケイドはG4の放つ銃弾をライドブッカーで防ぎながらそう言うと、ライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーへと装填してスライドしていった。

 

 

『FORMRIDE:DEN-O!GAN!』

 

 

電子音声が響くとディケイドの周りに出現した銀色の破片がディケイドの身体に集まり黒いライダースーツへと変化し、更にその上から龍をイメージした紫色のデンカメンとオーラアーマーが出現しスーツに装着され、ディケイドはD電王・ガンフォームへと変身したのであった。そしてD電王は軽快なステップを踏んで銃弾を避けながら、変身と同時に生成されたデンガッシャー・ガンモードでG4に乱射していく。

 

 

―ドシュンッ!ドシュンッ!ドシュンッ!!―

 

 

G4『…………ッ?!!』

 

 

D電王『フッ…どうした?そんな事じゃ俺を消すなんて到底無理だぞ?』

 

 

乱射を受けて吹っ飛んだG4にD電王は挑発するように人差し指を動かし、それを見たG4はぎこちない動きで立ち上がり、そして……

 

 

―キュウイィィィィ……ガチャッ!―

 

 

D電王『…………は?』

 

 

G4は態勢を立て直すと共に何処からか新たな武装を取り出し、D電王はその武装を見た途端唖然としてしまう。何故ならG4が取り出したその武装…ギガントには四基の小型ミサイルを積んで―――

 

 

D電王『って!おい待て!そんな物こんな所で撃ったら!?』

 

 

―ガチャッ!ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!―

 

 

D電王はギガントを構えるG4の行動を止めようと叫ぶが、G4は構わず引き金を引きD電王に向けて小型ミサイルを撃ち出してしまったのだ。それを見たD電王は軽く舌打ちした後、慌ててデンガッシャーを連射させ小型ミサイルの軌道を上手く逸らし、そして……

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥゥ…―

 

 

ケイオス『ハァッ!…ん?ΣΣってうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

D電王が逸らしたミサイルはケイオスと戦っていたローカスト達の中心へと着弾して巨大な爆発を起こし、ローカスト達は爆発に飲み込まれて散り、ケイオスも爆風に巻き込まれて吹き飛ばされてしまったのだった。そしてそれを見たD電王はディケイドへと戻りながら慌ててケイオスの下へと駆け寄っていく。

 

 

ディケイド『お、おい竜胆!無事か?!』

 

 

ケイオス『うっ…グゥッ…な、何なんだ今のは…何が起きたんだ一体……?』

 

 

ディケイド『うっ……そ、それより早く立て!また奴らが来るぞ!』

 

 

ディケイドは今の小型ミサイルの飛来について呟くケイオスに一瞬冷や汗を流すが、すぐにケイオスの身体を起こし立ち上がらせていく。そしてその間にもG4は銃を構えながらディケイドとケイオスに近づき、ローカストの大群も二人の周りを取り囲み近づいていく。

 

 

ケイオス『チッ…おいどうする?!このままじゃキリがないぞ?!』

 

 

ディケイド『確かになっ…これ以上時間を掛ける訳にもいかないし…こうなったら、一気に蹴散らすぞ!』

 

 

こうしてる間にもスバル達の身に危険が迫ってるかもしれない。そう思ったディケイドは一気に勝負をキメようとライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出し、ケイオスもそれに頷くと必殺技の発射準備に入ろうと構えを取った、その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザアァァァァァァァアッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…ッ?!』

 

 

ケイオス『?!な、何だ?!』

 

 

突如ディケイド達とG4達の周りが灰色の歪みに包まれていき、突然の事にその場にいた全員は動きを止めてしまった。そして歪みが徐々に薄れて消えていくと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォーーーーーーーーーーッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なッ?!』

 

 

歪みが完全に消え去ると、其処には同じ姿をした大量のライダー達……信じられない数のライオトルーパーの大部隊が姿を現したのであった。ディケイドとケイオスは突如現れた大部隊を見て唖然としてしまうが、その間にライオトルーパーの大群の奥から三人の人影……オーガとファムに変身した真也と麻衣、そして一人の紳士的な男性がゆっくりと姿を現した。

 

 

オーガ『ひゅ~♪漸く追いついたなぁ…ってありゃ?なんか知らねぇ顔が揃ってんじゃん?』

 

 

ファム『……多分……あの預言者とかいう男の差し金……かも』

 

 

オーガ『あ~、あのディケイドが破壊者とか警告してきたあのオッサン?ったく、まぁだアイツの周りウロチョロしてたのかよ…少しは限度ってもんを知らねぇと、しつけー男は女に嫌われるぜ?』

 

 

オーガは呆れたように言いながら深い溜め息を吐き、ファムもそれに同意する様に何度も頷いている。その隣では、紳士的なスーツを纏った男性が呆然としてるディケイドを怪しげに微笑みながら見つめていた。

 

 

「成る程…彼ですか?あの破壊神の因子を持つディケイドというのは?」

 

 

オーガ『あぁ。んで、今回の任務がアイツの持ってる因子の覚醒率を調べることなんだとさ』

 

 

「フフッ…面白いですね。では私も混ぜさせて頂きましょうか?彼の身体の特別診断をね……ジュルッ!」

 

 

男性は不気味に舌を舐めずりながらポケットから一本のメモリを取り出し、ボタン部分を人差し指で押していく。

 

 

『WEATHER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと男性は右耳にメモリを突き刺し、メモリが完全に身体の中に入ると男性の身体は爆発的なエネルギーに包まれながら姿を変えていき、何処か和風な意匠をした異形…ウェザーイリシットへと姿を変えていったのである。

 

 

ケイオス『?!アイツ…怪人に変身したッ?!』

 

 

ディケイド『あのメモリ…まさかイリシット?!なんで智大達の世界の怪人が?!』

 

 

ディケイドとケイオスは目の前でウェザーイリシットへと変身した男性を見て思わず身構えて後退りしてしまう。そしてオーガは変身を完了したウェザーイリシットを横目に一本の短剣…オーガストランザーにミッションメモリーを装填して長剣に切り替え、剣の矛先をディケイド達へと向けていく。

 

 

オーガ『さぁて…お前の力を試させてもらうぜ、零。……行けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!』

 

 

『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

オーガの号令が響くと共にライオトルーパーの大部隊はそれぞれの武器とマシンを繰り出してディケイドとケイオスへと突っ込んでいき、G4もローカストの大部隊を引き連れディケイド達へと突っ込んできた。

 

 

ケイオス『クソッ!!何なんだよ次から次へと?!』

 

 

ディケイド『チッ!こっちは先を急いでるって言ってるだろうッ!邪魔をするなッ!!』

 

 

前方からは今まで対決していたG4が率いるローカストの大部隊。そして後方からは突如現れた謎のライダーであるオーガ、ファムが率いて突っ込んでくるライオトルーパーの大部隊に焦るケイオスだが、ディケイドは怯む事なくライドブッカーを構え直して大部隊へと突っ込んでいき、ケイオスもその後を追って大部隊と戦闘を開始するのであった。

 

 



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第十三章/セイガの世界⑤

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズドドドドドドドッ!!バシュバシュバシュバシュバシュバシュッ!!ドガアァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディケイド『グッ!ハアァッ!!』

 

 

ケイオス『デェアッ!ダアァッ!!』

 

 

ローカストとライオトルーパーの大部隊と戦闘を開始したディケイドとケイオスは次々に襲いかかる攻撃を避けながら大部隊と戦っていた。だがやはり数が違いすぎるのか、大部隊の一斉攻撃やマシンによる突撃などで徐々に追い詰められていた。そして更に、オーガとWイリシット(ウェザーイリシット)がディケイドに、G4とファムがケイオスへと襲い掛かっていく。

 

 

―ガガァンッ!ガギィッ!ドゴオォンッ!!―

 

 

ケイオス『チッ!この人形ヤロウッ!』

 

 

G4『……………ピピッ』

 

 

ケイオスはG4の繰り出す拳をガードしながら反撃していき、G4も負けじとケイオスの拳を身体で受け止めながら殴り合っていく。だが、そんなケイオスの背後でファムはバックルのデッキから一枚のカードを抜き、左腰に下げたサーベル状の武器…ブランバイザーの柄にカードをセットしてベントインする。

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

電子音声が響くとファムは上空から現れた一本の薙刀…ウィングスラッシャーを手に取って構え、ケイオスの無防備な背中に向かって容赦なく斬り掛かっていった。

 

 

―ガギャアァァッ!ガギイィィィィンッ!!―

 

 

ケイオス『ガッ?!グッ!コイツッ…!』

 

 

ファム『…私のこと…忘れないで……フッ!』

 

 

―ガアァンッ!ギギィッ!グガアァァンッ!!―

 

 

ファムは背中を斬られて怯むケイオスに問答無用と言わんばかりに斬りかかり、G4もそれを機にとケイオスに追い打ちをかけて殴り掛かっていく。このままではこちらが追い込まれる。そう思ったケイオスは二人の攻撃をバックステップで避けて後退し、二人から距離を離していく。

 

 

ケイオス『ッ!これ以上お前等とのお遊びに付き合うつもりはないっ…さっさとケリをつけさせてもらうぞ!リボルケインッ!』

 

 

そう言いながらケイオスがバックルの中心部に右手を近づけると、バックルの中心部から剣の柄のような物が出現し、ケイオスがそれを抜き取ると刃に青い閃光を纏った一本の剣…リボルケインが現れケイオスの手に握られた。そしてそれと同時にライオトルーパーとローカスト達がケイオスへと襲い掛かり、G4もそれに続いてケイオスに向かっていく。

 

 

ケイオス『ヘッ、コイツの威力を嘗めんなよ?オリャアァァッ!!』

 

 

―ズバアァッ!ギィンッ!ズバアァァァァアンッ!!―

 

 

『グアァッ?!』

 

 

『ガアァッ!!』

 

 

G4『……………ッ?!』

 

 

ケイオスは襲い来るライオトルーパーとローカスト達をリボルケインで斬り捨てながらG4へと突っ込み斬りかかっていき、G4はその威力に圧され斬撃を受ける度に徐々に後退していた。しかし、ファムはそれを見ても冷静さを崩さずにデッキから一枚のカードを抜き取り、バイザーに装填しベントインしていった。

 

 

『STEAL VENT!』

 

 

―……シュンッ!カシャアァァンッ!―

 

 

ケイオス『…ッ?!何ッ?!』

 

 

電子音声が響くとケイオスの手に握られていたリボルケインが突然消えてしまい、なんとファムの左手に握られリボルケインを奪われてしまったのであった。

 

 

ファム『…リボルケイン…ゲット……フッ!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

ケイオス『なっ…―ガギャアァァンッ!!―グアァァァァァァアッ?!』

 

 

突然の事に戸惑うケイオスを他所にファムは両手に握られたウィングスラッシャーとリボルケインを構えて一瞬でケイオスの前に現れ、二振りの剣を大きく振りかぶりケイオスを斬り飛ばしてしまったのであった。そして先程までケイオスに圧されていたG4も、ローカストとライオトルーパー達と共に吹っ飛ばされたケイオスへと追撃していく。

 

 

ディケイド『ッ!竜胆?!』

 

 

オーガ『他人の心配してる場合かよ!!』

 

 

―ガギィィィィンッ!!―

 

 

ディケイド『グッ!!』

 

 

その一方、オーガと剣をせめぎ合わせていたディケイドはファムに斬り飛ばされたケイオスを見て一瞬意識が削がれてしまい、オーガはお構い無しにとその隙を突いて斬り掛かっていく。ディケイドはそれをライドブッカーで防ぎながら後方へと大きく跳びオーガから距離を離し、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:STRIKE!』

 

 

電子音声が鳴り響くとディケイドの身体は吹き荒れる風と共に装甲に覆われていく。赤い複眼に黒い身体、両手に独特な双剣を持ったライダー……以前閉ざされた世界で出会ったジェノスが変身したのと同じストライクへと変身したのであった。オーガはストライクに変身したディケイドを見て興味深そうな声を漏らし、Dストライクはライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへとセットしていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:S・S・S・STRIKE!』

 

 

Dストライク『コイツで終わらせてもらうっ…ストライクノヴァッ!ハアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDストライクは両手に持つ双剣をクロスさせるように構え、その態勢のままオーガへと突っ込み双剣を振りかざしていった。が……

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dストライク『…なっ?!』

 

 

オーガへ双剣を叩き込んでいったDストライクだが、目の前の光景を見た瞬間その表情は驚愕のモノへと変わり絶句していた。何故なら……

 

 

オーガ『―――へぇ、中々良い攻撃だなぁ?……で?次は何が起きんだ?』

 

 

双剣はオーガに届いておらず、オーガは余裕な態度でDストライクの振りかざした双剣を"左手一本"で掴み止めていたのだ。

 

 

Dストライク『ッ!コイツ…化け物かっ…?!』

 

 

オーガ『オイオイ、化け物とは心外だなぁ?単にお前の攻撃が…弱ぇだけだろうがぁっ!!』

 

 

―ガギャアァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dストライク『グッ?!』

 

 

オーガは驚愕するDストライクに渾身の一撃を叩き込んで勢いよく吹き飛ばしていき、Dストライクは地面を転がりながらディケイドへと戻ってしまった。そしてオーガはそんなディケイドを見てつまらなさそうに剣を振り回しながらディケイドへと近づいていく。

 

 

オーガ『オーイ?まさかとは思うけど…実はその程度の力しかありませんでした~♪…なんて拍子抜けた事言うんじゃねぇだろうなぁ?』

 

 

ディケイド『クッ…!(コイツ、ふざけた態度とは別にかなりの実力を持ってるのか……なら生半可な攻撃じゃダメージなんて与えられない…全力の技を連続で叩き込むしかっ…!)』

 

 

ディケイドは身体を起こしながらそう判断すると直ぐ様ライドブッカーを開き、其処からエデンのカードを取り出しディケイドライバーへと装填しようとする。だが……

 

 

 

 

 

 

『――――おやおや、私の存在を忘れてもらっては困りますねぇ?』

 

 

―シュンッ……ガシィッ!ズバババババババババババババババババァッ!!!―

 

 

ディケイド『っ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ディケイドの背後から何かが飛来してディケイドの首に巻き付き、強力な雷撃がディケイドへと流れ無数の火花を散らせていったのである。そしてディケイドはその場に片膝を付きながら背後へと振り返ると、其処にはチェーンのような武器をディケイドの首に巻き付けて不気味に微笑むWイリシットの姿があった。

 

 

『フフ、君と戦ってるのは彼だけはありませんよ?私とも遊んでくれなきゃ…』

 

 

ディケイド『グゥッ!コ、コイツ等ぁっ…!』

 

 

オーガ『ほれ、もうちっと粘れよ?じゃなきゃ……俺達が任務を果たせねぇからなぁっ!!』

 

 

オーガはWイリシットの武器に首を捕らえられるディケイドに向けてそう言うとオーガストランザーを構えながらライオトルーパー達と共にディケイドへと襲い掛かり、ディケイドは何とかWイリシットの武器を首から外すとライドブッカーでオーガ達に応戦していき、Wイリシットも武器を仕舞うとディケイドへと殴り掛かっていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

クウガAM『ガアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズガガガガガガンッ!!ドオォンッ!ドガアァッ!ズガアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

セイガ『グッ?!ダァッ!』

 

 

そしてその頃、橋の下ではセイガが正面からクウガAMと激しく殴り合っていた。しかし、やはりスペック的に上であることに加え暴走状態による力の制御が出来なくなったクウガAMがセイガを押していき、セイガはクウガAMの打撃を受ける度に徐々に後退していた。そしてセイガとクウガAMが間合いを離すとセイガは右足にエネルギーを、クウガAMは両足にエネルギーを矯めて構えていく。

 

 

セイガ『ハァ…ハァ…ハァ……ハアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

クウガAM『グウゥゥゥ……グオアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

セイガとクウガAMは同時に高く飛び上がって空中回転し、互いに向けてライダーキックを放っていった。そして……

 

 

 

 

 

 

セイガ『オリャアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

クウガAM『ウオォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グ、グアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

 

 

 

 

互いに向けて放った渾身の必殺技は双方に炸裂し、互いの必殺技を受けた二人は勢いよく吹き飛んでいってしまった。そしてセイガは地面に倒れ込むとその衝撃で練次に戻ってしまう。

 

 

なのは?「ッ?!練次お兄ちゃんッ!」

 

 

ティアナ「ま、待って下さい!なのはさんッ!」

 

 

なのは?は変身が解除され傷だらけとなった練次を見て血相を変え、ティアナの制止を振り払い慌てて練次に駆け寄ろうとする。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

―……………ザッ―

 

 

クウガAM『ハアァァァ……』

 

 

 

 

 

 

 

『ッ?!なッ…?!』

 

 

移鬼『ゆ、優矢さんッ?!』

 

 

セイガの必殺技を受けた筈のクウガAMがふらつきながら立ち上がり、それを見たなのは?達は驚愕の表情を浮かべて立ち止まってしまう。まさかセイガの渾身の一撃を受けてまだ立ち上がれるとは思っていなかったのだから当然の反応だろう。なのは?達がクウガAMを見て呆然と立ち尽くす中、クウガAMはそんななのは?達を他所に倒れる練次へとゆっくりと近づき……

 

 

―……ガシッ!ググッ!―

 

 

練次「がっ?!カハッ…!」

 

 

『ッ?!』

 

 

クウガAMは動けない練次の襟首を持ち上げて首を締めあげていき、トドメを刺さんと言わんばかりにおもむろに片手を上げていく。

 

 

ギンガ「ゆ、優矢君!!」

 

 

ティアナ「止めて下さい優矢さん!優矢さんッ!!」

 

 

ナンバーズ『クッ!ダメっ…身体っ…動かないっ!』

 

 

移鬼『動いてよっ…お願いだからっ!』

 

 

ギンガとティアナは練次にトドメを刺そうとするクウガAMを必死に呼び止め、移鬼とナンバーズもクウガAMを止める為になんとか身体を起こそうとするが、先程クウガAMから受けたダメージが響いてるせいか身体に上手く力が入らなかった。その時……

 

 

なのは?「………めて……止めて……止めてっ!練次お兄ちゃんっ!!」

 

 

移鬼『ッ?!待って!なのはさんッ!!』

 

 

最早見ていられなくなったのかなのは?は練次を助けようとクウガAMに向かって走り出し、それと共にクウガAMは練次の胸を貫こうと片手を大きく振りかぶっていくのだった……。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

『ムンッ!ヌアァッ!!』

 

 

ファム『ハッ!!』

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『ウアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

そして場所は戻り、河原ではディケイドとケイオスがオーガ達の容赦ない連続攻撃と連携攻撃を受けて追い詰められ、Wイリシットとファムの一撃を受け吹き飛ばされてしまっていた。そしてふらつきながらも何とか立ち上がろうとするディケイドとケイオスの下に、オーガ達はローカストとライオトルーパーの大群を連れて歩み寄ってくる。

 

 

オーガ『……因子の覚醒率12%……どういうことだ?九人のライダーの内の七人の力を取り戻して、しかも外史のライダー達の力まで手に入れてたったこれだけの数値なんて……』

 

 

ファム『……もしかしたら……因子の力を押さえ込んでる……のかも』

 

 

オーガ『ハァ?ソイツはさすがにねぇだろう?アイツはまだアレの力を制御すら出来てないのに、それを押さえ込める筈が………まてよ?』

 

 

ファムの言葉にオーガは呆れながら否定しようとするが、その時脳裏の中にある可能性が浮かび上がり、口を閉じて何かを考えるように顔を俯かせる。

 

 

オーガ『……そうか、奴らか。確かにアイツ等なら力を押さえ込む術を持ってる筈だよな……チッ、めんどくせぇ事しやがって』

 

 

『ほう…では彼の持ってる力を無理矢理引き出させてみてはどうです?例えばそう…………彼を死の一歩手前まで追い詰めてみるとか…ね』

 

 

オーガ『…成る程な。なら力加減には気をつけろよ?アイツを殺しちまったら元も子もねぇんだからな……構えろ』

 

 

オーガはそう言うとオーガストランザーの切っ先を二人に向けていき、それと共にライオトルーパーの大群は自分達の持つ武器を銃のような形態に切り替えて構え、G4もギガントを取り出しディケイドとケイオスに狙いを定める。そしてそれを見たWイリシットも人差し指を空に掲げると、ディケイドとケイオスの上空が暗雲に包まれ雷轟が鳴り響く。そして……

 

 

オーガ『――撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 

 

『ムンッ…ハアァッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!ズドオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディケイド『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ケイオス『ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

はやて「ハァ、ハァ…ッ?!れっ、零君ッ!!竜胆君ッ!!」

 

 

ディケイドとケイオスはWイリシット達の放った一斉射撃を喰らい巨大な爆発の中へと飲まれていき、その場に駆け付けたはやてはその光景を目にし悲痛な叫び声を上げたのであった……

 

 



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第十三章/セイガの世界⑥

 

ベリアスの放った闇の力に飲まれて暴走し、セイガや仲間達に襲い掛かるクウガ。更にそんな仲間達の下へ駆けつけようとした零達の前に突然現れた鳴滝の刺客と謎の集団。そのどちらの戦いも乱戦となって激しさを増し、そんな中クウガAMは変身が解除された練次にトドメを刺そうとしていたのだった。

 

 

練次「クッ…ぁっ……!」

 

 

クウガAM『グゥゥゥゥ……アァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』

 

 

なのは?「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

 

ティアナ「待ってなのはさんッ!駄目ぇッ!!」

 

 

練次にトドメを刺そうと片手を振りかぶるクウガAMを止めようとなのは?が駆け付け、ティアナ達はそんななのは?を引き留めようと慌てて走り出し、クウガAMは関係ないと言わんばかりに練次の胸を貫こうとした。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

 

 

 

 

クウガAM『ッ?!ウグアァッ?!』

 

 

『……えっ…?』

 

 

突如クウガAMの背中に無数の銃弾を撃ち込まれ、そのショックでクウガAMは練次から手を放し吹っ飛ばされていったのだ。突然の事になのは?達は訳が分からず呆然と立ち尽くしてしまい、それが放れてきた方へと振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「―――ふ~ん…何だか面白そうな事してるじゃない?」

 

 

ギンガ「……え?」

 

 

ナンバーズ『だ、誰…?』

 

 

其処にいたのは面白そうなな物を見つけた子供のような笑顔を浮かべる見知らぬ銀髪の少女……そう、先程音信不通となったルミナを探してその場を通り掛かり、大輝のディエンドライバーと同じ銃を構えたベルの姿があったのだ。

 

 

ベル「古代の戦士クウガ…成る程、どうやら闇に堕ちて自我を失ってるみたいね?」

 

 

クウガAM『グッガァッ……ガアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

ベル「ま、アルティメットフォームになってないだけでもマシってところかしら……その姿で何処までの力を持っているのか、試してあげるわ」

 

 

咆哮するクウガAMを見据えながらそう言うと、ベルはポケットから一枚のカードを取り出して銃に装填し、スライドさせていく。

 

 

『BRAVE/HEROINERIDE――』

 

 

移鬼『ッ?!あ、あれって…?!』

 

 

ティアナ「大輝さんの…ドライバー?…まさか?!」

 

 

移鬼やティアナ達はベルが持つ銃を見て驚愕の表情を浮かべ、ベルは電子音声と共に銃の銃口を自身の上空に掲げていく。そして……

 

 

ベル「…変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

ベルが引き金を引くと再度電子音声が鳴り響き、それと同時に三つのビジョンが出現しベルを中心に辺りを駆け巡っていく。そしてビジョンが全てベルに重なると灰色のアーマーとなり、最後に上空に現れた紋章が複数のプレートへと変わりベルの頭部にあるリボンに収まっていく。そして全てのプレートが収まり終えると灰色のアーマーはシアンへと変化していったのだった。

 

 

ギンガ「へ、変身した?!」

 

 

移鬼『あれって…ディエンド?!でも姿が…?』

 

 

いきなりディエンドに似た戦士に変身したベルに一同は驚愕して戸惑ってしまい、そんな一同を他所に変身したベル……深淵の守護者ディエンドは左腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出し、手に持った銃……ディエンドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『BRAVERIDE:ROCKMAN G!HEROINERIDE:ZEKS VALKYRIE!』

 

 

ディエンド(ベル)『貴方の相手はコレよ……フッ!』

 

 

―バシュウッ!―

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディエンドライバーの引き金を引くと、辺りに複数の残像達が出現し駆け巡っていく。そして残像達がそれぞれ重なるとそれらは黒い姿をしたライダーではない戦士と少女となっていったのであった。

 

 

クウガAM『ッ?!』

 

 

ナンバーズ『な、なにあれ…?』

 

 

ティアナ「ライダー…?違う…何なのアレ?!」

 

 

ディエンド(ベル)が喚び出したライダーではない戦士達にクウガAMやティアナ達は困惑してしまい、ディエンド(ベル)はそれに構わずクウガAMを指差すと二人の戦士…『ロックマンG』と『ゼクスヴァルキリィ』はクウガAMへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

オーガ『――撃てえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 

 

『ムンッ…ハアァッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!ズドオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ディケイド『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ケイオス『ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

はやて「ハァ、ハァ…ッ?!れっ、零君ッ!!竜胆君ッ!!」

 

 

その一方、Wイリシット達の一斉攻撃を喰らいディケイドとケイオスは爆発に飲み込まれて吹き飛ばされてしまい、その場に駆け付けたはやては慌てて吹っ飛ばされた二人の下へと走り寄っていく。

 

 

はやて「ふ、二人共しっかりしてッ!しっかり!!」

 

 

ケイオス『ッ…くっ……は、はやてかっ……?』

 

 

ディケイド『ッ…ば、馬鹿っ……なんでこんなところにっ…!』

 

 

はやての必死な呼び掛けで失いかけた意識を取り戻し、ディケイドとケイオスは両腕に力を篭めてボロボロの身体を何とか起こそうとする。しかし、そんなディケイド達を見たオーガ達は苛立ちを篭めて舌打ちしていた。

 

 

オーガ『チッ……あれでもまだ数値に変化無しかよ…相変わらずしぶとい奴だな…』

 

 

『ふむ…どうやら力を抑えすぎた様ですね。もう一度試してみますか?』

 

 

オーガ『いいや、これ以上やったらマジで死んじまう…クソッ…どうすっかな?正直あれに賭けてたから他に手がねぇぞ…』

 

 

未だ何の変化も示さないディケイドにオーガは思わず毒づき、他の手がなくなった事に内心焦りを浮かべていた。だが、Wイリシットはそんな様子を見せずディケイド達に寄り添うはやてを怪しげに見つめていた。

 

 

『……他に手がないなら、彼女を使ってみるのはどうでしょう?どうやら彼女はあの破壊者にとって大切なモノのようですし……もしかしたらということもあるかもしれません』

 

 

ファム『ッ!ダメ!はやてだけは絶対ダメッ!!』

 

 

ディケイドがなにかしらの反応を示しそうなはやてを使ってみないかと呟いたWイリシットの言葉にファムが珍しく叫び出し、大声で猛抗議しながらWイリシットへと詰め寄ろうとする。が、オーガはそんなファムを片手で制止して止めてしまう。

 

 

オーガ『……一応聞くが、殺しはしないだろうな?』

 

 

ファム『ッ?!真也!!』

 

 

『…フフッ…勿論ですよ。私とて無抵抗の女性を手に掛けるのは気が引ける……せいぜい凍り付けにして動けなくさせるだけです』

 

 

Wイリシットは不気味な笑みを浮かべながらオーガにそう答えると、両手に凄まじい冷気を集束させて一歩前に踏み出していく。それを見たファムは直ぐさまWイリシットへと掴み掛かろうとするが、オーガが目の前に立ちはだかりファムを押さえ込んだ。

 

 

ファム『ッ!離して真也ッ!!はやてはダメ!!絶対ダメッ!!』

 

 

オーガ『…いい加減にしろ麻衣。これは任務なんだぞ?なのにお前は……自分の私情でそれを潰すつもりか…?』

 

 

ファム『ッ?!…………ッ』

 

 

低い声で囁いたオーガの言葉にファムは抵抗を止めてしまい、ダランと力無く両腕を降ろしてしまった。Wイリシットはそんな二人の様子を横目に二人に気付かれないように鼻で笑う。

 

 

『(本当に甘い御方達だ…因子を早く目覚めさせたいなら、破壊者の心を壊して見境を無くしてしまえばいいのです―――そう、彼女の『死』というショックを与えてねぇ……フフッ)』

 

 

Wイリシットは歪な笑みを浮かべながら両手に力を篭めてディケイド達を見据え、それに気づいたはやてはディケイドとケイオスの前に立ちはだかっていく。

 

 

ケイオス『ッ?!お、おい!何やってんだっ!?』

 

 

はやて「ッ…わ、私かて…私かて二人を守れるっ!!魔法が使えんでもっ…身体さえあれば盾にっ…!」

 

 

ディケイド『ッ?!何言ってるんだ馬鹿!!早く逃げろ!!お前まで殺されるぞッ!!』

 

 

両手を広げてWイリシット達の前に立ちはだかるはやてだが、その身体は僅かに震えている。そんなはやての姿を見たディケイドとケイオスは無理矢理傷ついた身体を起こそうとするが、先程の一斉攻撃によるダメージが響いてるせいでまともに動けずにいた。そして……

 

 

『ほう?身を呈して彼等を守ろうというわけですか…大した勇気だ。ならばその勇気に免じて………一思いに逝かせてあげましょうっ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ……ドバアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Wイリシットは冷気を集束させた両手をはやてに向かって突き出し、それと同時にWイリシットの両手から凄まじい冷気が放たれていった。放たれた冷気は地面を凍てつかせながら物凄い勢いではやてに迫り、はやては涙ぐみながら両目を強く瞑った。その時……

 

 

 

 

ディケイド『――グッ!!アァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!!』

 

 

『…なッ?!』

 

 

ケイオス『ッ?!零ッ!!』

 

 

―ガバァッ!!―

 

 

はやて「…ッ?!零君ッ?!」

 

 

冷気がはやての目前にまで迫った瞬間、ディケイドは残った力を振り絞って傷ついた身体を無理矢理起こし、はやてを全力で抱き留め自身を盾にするように冷気から背中を向けていったのだった。ディケイドのその予想外の行動にオーガ達やWイリシットは思わず身を乗り出し、冷気がディケイドとはやてを包み込もうとした、その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:FIRE WALL!』

 

 

―ボアァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

ケイオス『なっ……』

 

 

ディケイド『……?』

 

 

はやて「……え?」

 

 

突然何処からか電子音声が響き、その直後ディケイドとはやての目の前に炎の壁が出現し冷気を防いでいったのだ。いきなりの事態に状況が呑み込めない一同は冷気とぶつかり合う炎の壁を見て呆然としていると…

 

 

 

 

『――全く、何時までボーッとしてるのよ?いい加減シャキッとしなさい』

 

 

『…ッ?!』

 

 

ディケイド達の背後からいきなり少女の声が聞こえ、それを聞いたディケイド達は直ぐさま立ち直り背後へと振り返った。すると其処には仮面を身につけた二人の人物……一人は白に近い灰色のスーツを纏いディエンドライバーと酷似した銃を持ち、一人は赤に近い姿に右腕にタッチパネルを装着した見慣れないライダーがこちらへと歩み寄ってきていた。

 

 

ディケイド『ッ?!お前は…ディサイド?!永森 やまとか?!』

 

 

ディサイド『えぇ、久しぶりね別世界のディケイド?変わりないようで安心したわ……色んな意味でね』

 

 

そう、其処にいたライダーの一人は以前零達が訪れたスケィスの世界で出会ったやまとが変身するライダー……『ディサイド』だったのだ。

 

 

ディケイド『お前、どうしてこんなところに…?!』

 

 

ディサイド『私もちょうどこの世界に来てて大輝の店でお茶してたのよ。まあ、今は大輝に頼まれて迷子を探してた途中なんだけど……それでこの辺に来てみたら、アンタ達がソイツ等とやり合ってる現場を見付けたってワケ』

 

 

呆然と問いかけてきたディケイドにディサイドは表情一つ変えずにそう答え、その間にもう一人のライダーは軽い足取りでディケイド達の間を通りすぎ、オーガ達と対峙していく。

 

 

『ほぉ~…あれが例の追跡者っていう奴等とイリシットとかいう奴か。想像してたのと少し違うなぁ…』

 

 

ディサイド『でしょうね。私もこうしてアイツ等の姿を拝むのは始めてだし……まぁ、今まで表には出ないように動き回ってみたいだから、無理もないけど…』

 

 

そう言いながらディサイドは手に持った銃を指で回転させながらライダーの隣に立ち、オーガ達と対峙していく。そしてその二人を見たオーガはバツが悪そうな表情を浮かべながら舌打ちしていた。

 

 

オーガ『チッ!ディサイドに爆裂者だと……何であの悪魔野郎がこんなとこにいんだよっ?!』

 

 

『…?爆裂者……あぁ、確か混沌の世界に住むという悪魔のライダーでしたか。噂では聞いていましたが、まさか本当に実在していたとは…』

 

 

オーガ『呑気な事言ってる場合じゃねぇだろ!クソがっ…全軍突っ込めっ!奴が能力を使う前に何がなんでも任務を果たせっ!!』

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

オーガがオーガストランザーの切っ先をディケイド達に向けるとライオトルーパーとローカストの大部隊はディケイド達へと突進し、G4も大群と共にディケイド達へと突っ込んでいく。

 

 

ケイオス『お、おい!また来やがったぞ?!』

 

 

ディケイド『チィッ…!』

 

 

ディサイド『……グレイ、出番よ』

 

 

『あ~いよ。んじゃ、身の程知らずの馬鹿共にお灸を添えてやるか』

 

 

G4達に向けて身構えていくディケイドとケイオスだが、ディサイドはそんな様子を見せずにライダーに呼び掛け、ライダーはヘラヘラとした態度でそれに答えながら右腕のタッチパネルを操作し手の甲のボタンを押していった。

 

 

『G4!LOCASTO!RIOTROOPEA!DELETE!』

 

 

電子音声が響くとライダーの左右両側に三つの残像が出現していく。その残像とは……

 

 

ディケイド『…ッ!あれは…?!』

 

 

ケイオス『G4にローカストとライオトルーパー…だと?!』

 

 

そう、ライダーの左右両側に現れた残像の正体は自分達が戦っている敵と同じライダー…G4、ローカスト、ライオトルーパーの残像達だったのだ。だが、三つの残像達は現れてすぐ粉々に砕け散って消えてしまい、その次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

―……ジジィッ…ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

G4『…………ッ?!!』

 

 

『ッ?!ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

オーガ『?!なッ…?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイド達に襲い掛かろうとしたG4、ローカスト、ライオトルーパー達の足元にそれぞれのシンボルである巨大な紋章が出現し、G4達はそれに捕らえられたように動かなくなり戦闘不能になっていったのだ。そしてそれを見たディサイドは左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出し、手に持った銃…ディサイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-SIDE!』

 

 

電子音声と共にディサイドがドライバーの銃口をG4達に向けると、銃口の周りから数十枚のディメンジョンフィールドが出現していく。そして……

 

 

ディサイド『…ハァッ!』

 

 

―カチッ…ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『グ、ヌアァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーッッ!!?』

 

 

G4『……ッ??!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディサイドが引き金を引くと同時にドライバーの銃口から巨大なエネルギー弾が撃ち出され、G4と大部隊の半分はそれを受けて爆発し跡形も残さず消滅していったのであった。

 

 

はやて「す、凄い…�」

 

 

ディサイド『ホラ、何時までノンビリしてるつもりよ?此処は引き受けてあげるから、早く二人を連れて行きなさい』

 

 

はやて「へ…?連れてけって……私一人で?!無理や!いくら私でも二人纏めては無理やって?!�」

 

 

ディサイド『…ハァ、仕方ないわね…』

 

 

流石に女一人の手で男二人を抱えていくのは無理があるのだろう。両手を振って無理ッ!と断言するはやてにディサイドは呆れたように溜め息を吐き、おもむろに左腰のホルダーから五枚のカードを取り出しディサイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『LYRICALRIDE:FATE!SIGNUM!CARO!』

 

 

ディサイド『あの化け物達にはコレで……』

 

 

『SUMONRIDE:SHOU!JENOS!』

 

 

ディサイド『周りの雑魚達にはコレね……フッ!』

 

 

ディサイドがそう言って引き金を引くと、ディサイドの目の前に複数の残像が走りそれぞれ重なっていき、一つは黒い斧を持った金髪の女性、一つは剣を持ったピンクの髪の騎士、一つは薄いピンク色のローブを纏った桃色の髪の少女となって姿を現し、オーガ達に向かって突っ込んでいった。

 

 

はやて「?!フェ、フェイトちゃん?!それにシグナムにキャロまで…?!」

 

 

ディケイド『…いや、あれは本物じゃない。ディエンドがライダーを呼び出すのと同じただの幻影だ…』

 

 

ケイオス『………じゃあ、あの二人もただの幻影なのか?』

 

 

ディケイド・はやて『…………え?』

 

 

オーガ達と戦うフェイトとシグナムとキャロを見つめるディケイド達の隣でケイオスは別方向を指差し、二人がその指先を目で追っていくと……

 

 

 

 

 

 

 

 

翔「ΣΣここ何処ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっっ?!!」

 

 

ジェノス「ΣΣなんでいきなりこんなトコにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーっっ?!!」

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…………………………………』

 

 

はやて「………………………………………」

 

 

ライオトルーパーとローカストの大群の中心。其処には先程のサモンライドで喚び出され、半ば混乱しながら大部隊と戦う知り合い達の姿があったのだった……

 

 

ケイオス『……なぁ、あの二人って』

 

 

ディケイド『え?誰かいたか竜胆?俺にはナニも見えないし聞こえないぞ?』

 

 

ケイオス『…はやて?』

 

 

はやて「キバッてや三人共!!零君と竜胆君の無念を晴らすんやぁーーっ!!」

 

 

あの二人について質問してくるケイオスに対し、明後日の方を見るディケイドとフェイト達を全力で応援するはやて。……どうやら、何も見なかった事にするつもりのようだ。

 

 

ディサイド『雑魚達の駆除はあの二人に任せておけばいいでしょ……三分経てば勝手に元の世界に戻るし。それじゃあグレイ、あとはお願いね』

 

 

『あいよ。適当に戦ったらすぐ切り上げるから、後で風麺で合流なぁ~』

 

 

ライダーは片手を軽くぶらぶらさせながら答えるとWイリシットへと突っ込んで殴り掛かっていき、それを確認したディサイドはケイオスに歩み寄り身体を起こさせていく。

 

 

ディサイド『さぁ、いきましょう?こうしてる間にも貴方達の仲間も大変な目に合ってるみたいだし…』

 

 

はやて「…ッ!そやった!零君、竜胆君、急がんとティアナ達が!�」

 

 

ディケイド『ッ…そうだな…此処はアイツ等に任せて、急ぐぞっ…!』

 

 

ディケイドはオーガ達と戦うライダーと翔達を見つめながらはやての肩を借りて立ち上がり、変身を解いてティアナ達の元へと向かっていくのであった。

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑦

 

その一方、クウガAMは獣の如く激しい猛攻でロックマンGとゼクスヴァルキリィを圧倒していき、二人はクウガAMの猛攻に圧され追い詰められていた。そしてクウガAMは二人から一旦距離を離すと両足に力を溜め、勢いよく走り出すと空高く飛び上がり、そして……

 

 

クウガAM『ハアァァァァ…ウオォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

『グッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

クウガAMの放った跳び蹴りが二人に炸裂し、それを受けた二人は断末魔を上げながら吹っ飛ばされ爆発していったのだった。

 

 

ディエンド(ベル)『へー…思ったよりやるじゃない?以外と楽しめそうな展開になってきたわね』

 

 

クウガAM『ハァ…ハァ…ハァ……ウゥゥゥゥオォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

ロックマンG達を容易く倒したクウガAMに感心したように言うディエンド(ベル)だが、クウガAMはお構い無しにと今度はディエンド(ベル)に標的を変え走り出していき、それを見たディエンド(ベル)も応戦しようとドライバーの銃口をクウガAMに向けた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

移鬼『もう止めて下さい!優矢さんがそんなことする姿なんてっ……きっと綾瀬さんだって望んでませんよっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

クウガAM『…ッ?!ウッ…ァ…ガッ……!』

 

 

移鬼が必死の思いでそう叫んだ瞬間、それを聞いたクウガAMはディエンド(ベル)に突っ込むのを止め、突然頭を抑えながら苦しげに膝を付いていった。

 

 

ティアナ「…え?ゆ、優矢さん…?」

 

 

ディエンド(ベル)『…なんだ。思ったより早く意識が戻りそうね……もう少し遊べると思ったんだけど』

 

 

移鬼『…え?』

 

 

ガッカリしたというように肩を落とすディエンド(ベル)の言葉に移鬼は思わず聞き返してしまうが、その一方でクウガAMは何かからもがくかのように頭を抑えて苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 

―…私の笑顔の為に、あんなに強いなら…世界中の人の笑顔の為なら、貴方はもっと強くなれる…―

 

 

 

 

 

 

クウガAM『ァ…グッ!…アァァァァッ……!』

 

 

 

 

 

 

脳裏に鳴り響く声。クウガAMは頭を抱えたまま地面を何度も転がり苦しげな声をあげていく。そして……

 

 

 

 

 

 

―私に見せて…優矢…あなたの力を…―

 

 

 

 

 

 

クウガAM『…ッ!!ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

―シュゥゥゥゥ……シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

クウガAMは身体をのけ反りながら悲痛な叫びをあげ、それと共にクウガAMの身体から黒いオーラが噴き出し辺りに拡散していったのだった。そしてソレが徐々に収まって視界が晴れていくと……

 

 

 

 

優矢「……………」

 

 

 

 

ギンガ「ッ!優矢君!!」

 

 

其処には変身が解け、地面に倒れ伏せて気絶する優矢の姿があったのだ。それを見たティアナとギンガは直ぐさま優矢へと駆け寄って優矢の身体を抱え、移鬼とナンバーズも変身を解除し二人の後を追っていった。

 

 

スバル「しっかりして下さい優矢さん!優矢さんっ!」

 

 

優矢「……ぅ……ぁ……」

 

 

ティアナ「ッ!…大丈夫、ちゃんと意識はあるみたい…」

 

 

微かに息を零した優矢を見てティアナは安心したように吐息を漏らし、スバル達も安心からか気が抜けたようにその場に座り込んでしまう。

 

 

ディエンド(ベル)『(ふーん…僅かに残った自我で心を染めかけた闇を打ち払った訳か……大した精神力の強さね)』

 

 

ディエンド(ベル)はそんな様子見つめながら一人そう思い、変身を解除しベルへと戻っていく。そんな中、橋の外の方からそれぞれのバイクに乗った零とはやて、竜胆とやまとがティアナ達を追いかけて現場にやって来た。

 

 

ギンガ「…ッ!あれは…零さん!」

 

 

ヴィヴィオ「パパッ!」

 

 

現場にやって来た零を見たギンガ達は漸く合流出来た喜びからか落ち着いた表情になっていき、零達もすぐにバイクから降りギンガ達の下に駆け寄っていく。

 

 

竜胆「ワリィ皆!少し遅れた…!大丈夫か?!」

 

 

ティアナ「あっ、私達なら大丈夫です。大した怪我もありませんし…」

 

 

零「…そうか…良かった。だが、なんなんだこれは?一体何があった?」

 

 

ティアナ達の無事を知って一安心する零達だが、ティアナ達に抱えられる優矢やなのは?の支えられる練次の姿を見て状況が掴めず戸惑っていた。

 

 

ギンガ「それが…私達にも分からないんです。あそこにいるなのはさんがベリアスに襲われかけたのを優矢君が助けに入ったんですが…優矢君はベリアスの攻撃から私達を庇って、そのせいで様子が可笑しくなって暴走を……」

 

 

はやて「暴…走…?」

 

 

ティアナ「はい…それで、優矢さんに襲われたところをあの人がセイガになって助けてくれたんです」

 

 

零「ッ!セイガだと…?!」

 

 

セイガに助けられたと練次を指差すティアナに零達は驚愕の表情を浮かべて練次へと目を向けていく。まさかこんなトコロにセイガが現れ、しかもティアナ達の危機を救ってくれるとは思ってもいなかったのだから当然の反応だろう。

 

 

竜胆「…なぁ、本当なのか?アイツがセイガになったっていうのは…?」

 

 

ギンガ「あ、はい。私達もちゃんとこの目で見ましたから、間違いありません」

 

 

零「…そうか…ならお前達は優矢を連れて先に写真館に戻れ。俺は少しアイツに話しがある」

 

 

スバル「え…?は、はい」

 

 

スバル達は戸惑いながら零の言葉に頷くと優矢を抱えながら歩き出し、零はそれ確認すると練次となのは?の下に歩み寄っていく。

 

 

零「おい、大丈夫か?」

 

 

練次「ッ…アナタは…?」

 

 

零「俺は黒月零。それと、アイツは桜川優矢……俺の仲間だ。いろいろワケあってああなったみたいだが、許してやってくれ。アイツも正気じゃなかったみたいなんだ…」

 

 

練次「あっ、いいんです。俺も気にしてないし…それにあの子達を見てて大体の事情は分かりましたから」

 

 

練次は笑いながらそう言って優矢を抱えて歩いていくスバル達を見つめ、練次の言葉を聞いた零も「そうか」と安心したように吐息を漏らした。

 

 

零「…取りあえず、俺達の写真館に場所を移さないか?そっちも怪我してるみたいだし、聞きたい事も山程ある」

 

 

練次「……分かりました。なのは、いこう」

 

 

なのは?「え…?う、うん」

 

 

練次は零の提案に頷くとなのは?の肩を借りてその場から歩き出し、それを見た零は目を細めて先程自分達が戦っていた場所の方向へと目を向けていく。

 

 

零「……あのライダー達とイリシット……一体何者だったんだ?それに何か……何処かで会った事あるような……」

 

 

零は未だ聞こえてくる爆音を聞きながら険しげにそう呟くと、練次達とスバル達の後を追いその場から歩き出していった。そしてその端では……

 

 

ベル「―――そっちの方も面倒事に巻き込まれてたみたいね、やまと?」

 

 

やまと「えぇ…まあしょうがないでしょ。一度は一緒に戦った仲なんだし、あのまま見捨ててたら目覚めが悪くなるしね」

 

 

ベルとやまとは橋の柱に身を隠しながら零達が去っていく姿を見送り、そんなやり取りを交わしていた。するとそんな中、ベルの懐に仕舞っていた携帯が不意に鳴り出し、それに気付いたベルは懐から携帯を出してそれに出ていった。

 

 

ベル「もしもし?……ああ何だ、大輝か」

 

 

大輝『何だなんて酷い言い方だなぁ…いつまで経っても帰ってこないから、心配して連絡したのに』

 

 

ベルの携帯から聞こえてきた青年の声…大輝はベルのつれない言葉に思わず苦笑してしまい、ベルはそれを聞くと深く息を吐きながら大輝に聞き返していく。

 

 

ベル「それで、一体なんの用よ?アンタの事だから、どうせそれだけで連絡してきたんじゃないんでしょ?」

 

 

大輝『…フッ…半分は本当に君達を心配してさ。もう半分は……そろそろ宝探しに向かおうと思うから早く帰ってきて欲しいんだよ』

 

 

ベル「?宝探しって…あの子はどうするのよ?まだ街中で迷子になってるんじゃなかったの?」

 

 

宝探しに向かおうと告げた大輝にベルは自分とやまとが探している迷子…ルミナの事を思い出しながら疑問げに聞くが、大輝は何時の様子で『心配ないさ』と答えた。

 

 

大輝『彼女なら屋台のすぐ近くで見つけたよ。まあ、何故かゴミ捨て場でベソかきながら野良犬や猫と遊んでたんだけどね……』

 

 

ベル「……ハァ…あの子らしいと言えばあの子らしいわね�」

 

 

大輝から教えられたルミナを発見した状況が頭の中で簡単に想像でき、ベルは呆れたように深い溜め息を吐いていた。

 

 

大輝『まあそういうワケだから、彼女も見付かったし早く帰って来てくれ。こっちも屋台を閉めたらすぐに例の山に向かうからさ♪』

 

 

ベル「はいはい……じゃあすぐに戻るから、それまでちゃんと待ってなさいよ?」

 

 

ベルは早く帰って来てくれと子供のように促す大輝に呆れながらそう答えると、通話を切って携帯をポケットに仕舞い、やまとに今の会話の事を伝えると風麺に戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃……

 

 

 

翔「雑魚が群がるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!」

 

 

ストライク『ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!!』

 

 

―ドガガガガガガガッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ヌアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

河原沿いの土手ではサモンライドで喚び出された翔とジェノスの変身したストライクがライオトルーパーとローカストの大群を蹴散らしていた。そして最後の一体が爆発して散り、それを確認した二人は背中合わせにそれぞれの武器を払っていた。

 

 

ストライク『おしっ!なんとか片付いたか』

 

 

翔「ふっ、あんな雑魚共、師匠の修行に比べればどうって事ないな」

 

 

翔とストライクは大部隊の残骸を見下ろしながら得意げに微笑み、上機嫌にハイタッチを交わした。が……

 

 

 

 

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

―ブォンッ……ズガガガガガガガガガガガガッ!!!ズバアァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!―

 

 

『…ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

 

突如鳴り響いた電子音声と二人の背後から巨大な黄金のエネルギー刃が襲い掛かり、翔とストライクはそれを受けて吹き飛ばされてしまった。そしてそんな二人の下にオーガが剣を担ぎながら近づいて来ていた。

 

 

オーガ『雑魚共が……いきなり割り込んで来て邪魔してんじゃねぇよ…』

 

 

ストライク『グッ…グゥ…!』

 

 

翔「くっ…アイツッ…!」

 

 

吹き飛ばされたストライクと翔はふらつきながら立ち上がりオーガを睨みつけ、オーガはそんな二人を忌ま忌ましげに睨みながらバックル部分の携帯を開き、エンターキーを押した。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

電子音声が響くとオーガはバックル部分の携帯を閉じ、それと共にバックル部分からオーガの右腕に向けて金の光が走り、右腕にまで到達するとオーガストランザーの刀身が二十メートル以上の巨大なエネルギー刃となっていった。

 

 

オーガ『今度こそ消えろ…雑魚共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

―ブォンッ!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『クッ…!!』

 

 

オーガは翔とストライクに自身の必殺技、オーガストラッシュを発動させて刃を振りかざし、それを見た翔とストライクはすぐに自分達の武器を構え直してそれを迎え撃とうとする。だがその時……

 

 

 

 

 

―……シュン…カシャアァァァァアン!―

 

 

 

 

 

オーガ『…ッ!何ッ?!』

 

 

オーガの剣が二人の目前にまで迫った瞬間、突如二人の身体が複数の残像となって何処かに消えてしまい、オーガの剣はただ虚しく空を斬ったのだった。そしてWイリシットと戦いながらその光景を見たライダーはニヤリと口元を緩めた。

 

 

『へっ…残念だったなぁ?どうやらきっかり三分……時間切れらしいぜ?』

 

 

オーガ『チッ!…だが、まだテメェが残ってんだろ!邪魔してくれた礼をきっちり払ってやるから覚悟しやがれっ!!』

 

 

ニヤつくライダーの態度に腹が立ったのか、オーガは荒々しく剣を振ってライダーを睨みつけ、フェイト達を倒したファムとWイリシットもライダーを三方向から囲みながら徐々に迫っていく。だが……

 

 

 

 

 

 

―ザアァァァァァ……!―

 

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突如ライダーとオーガ達の周りに歪みが発生して辺りを包み込んでいったのだ。そしてそれが徐々に晴れて消えていくとオーガの目の前に一人のライダー……牙のようなものが印象的な汚れた黒い鎧。首元には電車のレールのようなマフラーらしき物を巻き付つけた黒いライダー……幽汽・ハイジャックフォームが悠然と立っていたのだ。

 

 

オーガ『ッ?!お、お前?!』

 

 

ファム『……裕司…』

 

 

『ッ!コイツは…?!』

 

 

突如目の前に現れた幽汽に驚愕して後退りしてしまうオーガとライダーだが、幽汽はそれに気に留めた様子もなくライダーを見つめながら腰にある四つのツールを剣に組み替えていく。

 

 

幽汽『……綾からの報告で様子見に来てみれば……やはりこういうことになっていたか……』

 

 

『ッ…まさか…組織のNo.3がわざわざ足を運んでくれるなんてなっ…流石の俺も予想外だったぜ…』

 

 

幽汽『それはこちらも同じだ。何故貴様が我々の邪魔をする?爆裂者……いや、エクスプロード』

 

 

幽汽は難しい表情で組み替えた剣の切っ先をライダー……『エクスプロード』に向けながら問い掛け、エクスプロードはそれに鼻で笑いながら答える。

 

 

エクスプロード『別に理由なんてないさ。まあ敢えて言うなら…ただお前達との遊びが面白そうだったから、ってところだな』

 

 

幽汽『フン…好奇心のままに動くだけの悪魔が。我々は貴様とのくだらん遊戯に付き合うつもりはない……真也、麻衣、黒霧、先に戻れ。後の事はクラウンとベリアルに任せる』

 

 

オーガ『なっ…ま、待ってくれよ裕司ッ!まだ任務は完遂してねぇんだ!帰るならせめてそれを終えてからでもっ…!』

 

 

帰還しろと言い渡された事にオーガは身を乗り出して反論するが、それを聞いた幽汽は凄まじい殺気を放ちながらゆっくりとした動作でオーガの方へと振り返った。

 

 

幽汽『……貴様…俺に反論する気か…?』

 

 

オーガ『っ!い、嫌…別にそういう意味じゃなくて…俺はただ…!』

 

 

幽汽『…………………』

 

 

オーガ『ッ……ああもう!わぁーったよ!帰りゃいいんだろう帰ったら!!�』

 

 

無言で殺気を放ちながら睨みつけてくる幽汽の視線に押されてしまい、オーガは諦めたように言い剣を下ろしてしまう。そしてそんな二人のやり取りを見ていたWイリシットは感心した様な声を漏らしていた。

 

 

『(ほう…流石は組織のNo.3ですね。とても深い闇を抱え込んでいる……フフ…やはり彼等は興味深い素材だ……)』

 

 

Wイリシットは歪な笑みを浮かべながら幽汽を見つめた後、オーガと共に背後に出現した歪みの壁を通り抜け消えていってしまった。そしてファムもそれに続こうと歩き出すが、すぐに足を止めて零達が去った方向へと振り返った。

 

 

ファム『(……はやて……ゴメンね……私は……)』

 

 

ファムは仮面越しに思い詰めた表情を浮かべながら俯くと、すぐに逃げ出すかのように歪みの壁を通り抜け何処かへと消えていってしまった。そしてそれを確認した幽汽は剣を下ろし、そのままエクスプロードから背を向けて歪みを通り抜けようとする。

 

 

エクスプロード『ッ!おい待て!逃げる気か?!』

 

 

幽汽『……逃げる?勘違いするな。今回は見逃してやるから次からは邪魔をするなと言ってる……貴様など、その気になれば何時でも消せるのだからな』

 

 

幽汽は吐き捨てるように言いながらエクスプロードを無視して歩き出し、そのまま歪みの壁を通り抜けようとする。

 

 

エクスプロード『お、おい待て!』

 

 

幽汽『…フンッ!』

 

 

―ドゴオォォォォンッ!!―

 

 

エクスプロード『ウオッ?!』

 

 

エクスプロードは去ろうとする幽汽を止めようとするが、幽汽は剣を地面に叩き付けて衝撃波を巻き起こし、衝撃が晴れると其処には既に幽汽の姿と歪みは消えてしまっていた。エクスプロードはそれを確認すると腰に巻いていたベルトを外して変身を解除し、オールバックの黒髪の青年へと戻っていった。

 

 

「チッ…馬鹿にしてくれるよな、アイツ。人をそこらの雑魚と一緒にしやがって…」

 

 

幽汽に馬鹿にされたコトに青年は腹を立てるが、今はそれどころではないと思いやまと達が走り去った方へと振り向いていく。

 

 

「…取りあえず、風麺に向かった方が良さそうだな…このコトを早く伝えないといけねぇし…」

 

 

青年は静かにそう呟くと、やまと達と合流しようとその場から歩き出していくのだった。

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑧

 

―光写真館―

 

 

一時間後、写真館に戻った零達は先程の戦闘で負った怪我の治療を終えて優矢を自室で寝かせた後、錬次とこの世界のなのはに事情を説明していた。

 

 

錬次「――つまり、貴方達は自分達の世界を救う為に世界を旅している…と?」

 

 

零「あぁ、簡単に言えばそんなところだな」

 

 

なのは(錬次)「…信じられない…私達と似た世界が他にもあるなんて�」

 

 

竜胆「そう思うのも仕方がないが、信じてもらうしかない。実際こうして実在するワケなんだからな」

 

 

なのは「まぁ、私達も最初の頃は戸惑いはしたけど�」

 

 

確かに、いきなり自分達の世界に似た世界が複数存在すると言われても混乱するのは仕方ないだろう。未だ困惑気味のなのは(錬次)になのはは苦笑してしまい、零はそれを横目にカメラで錬次を撮影していく。

 

 

零「とまあ、俺達の事はこんな所だ……次は、そっちの話を聞かせてくれないか?」

 

 

錬次「………はい、分かりました」

 

 

錬次は一度深く考え込んだ後、何かを決意したような表情を浮かべて話を始めていった。以前北の県で発見された謎の遺跡。そこから発見されたミイラとそれに付けられたベルトに宝玉が埋め込まれた物体。ベルトが外された直後に現れた謎の未確認生命体…ベリアス。そしてベリアスに襲われたこの世界のカリムを救う為、錬次がベルトを身につけセイガとなった事を……

 

 

零「…成る程…じゃあお前はカリムを救う為だけに、自分からセイガになったっていう事か…」

 

 

錬次「はい。だけど、別に後悔なんてしてませんよ?成り行きではあったけど…この力なら、アイツ等からなのは達や色々な人達を守る事が出来る。もうアイツ等の為に、誰かが涙を流す姿なんて見たくないから…だから俺はセイガとして戦うって、決めましたから」

 

 

なのは(錬次)「……錬次お兄ちゃん…」

 

 

何の迷いもない笑みを浮かべながら力強く答えた錬次になのは(錬次)は何処か不安げに呟き、そんな錬次を見た零は脳裏にある人物達の顔を思い浮かべていた。

 

 

零「(…成る程…似てるな…稟や滝達と…他人の為に自分の身すら投げ出しそうな所とか……それに…)」

 

 

其処で一度なのは(錬次)へと視線を動かし、やはりかと言った感じに深い溜め息を吐いた。

 

 

零「(…大事に思ってる人に心配を掛けるところとかも、アイツ等ソックリだな……いや、俺が言えたことじゃないか…)」

 

 

友人達の事を考えてる途中で自分の事を思い出し、今の発言は自分にも当て嵌まるかと苦笑いをこぼしてしまう零。するとそんな中、錬次がそんな零にある疑問を投げ掛けてきた。

 

 

錬次「ところであの…彼の方は大丈夫なんですか?」

 

 

零「?彼って…もしかして優矢の事か?」

 

 

錬次「はい。彼と戦った時に、何となく感じたんですけど……とても深い暗闇に囚われて苦しがっている…みたいな感覚がしたんです…」

 

 

シグナム「深い暗闇に…囚われている?」

 

 

零「…本当にそんな感覚を感じたのか?」

 

 

錬次「…はい…何となく、頭の中にそんなイメージがしましたから…」

 

 

竜胆「……(まさか、古代戦士同士の戦いで心が共鳴していたとでもいうのか?…クウガとセイガ…その力は酷似している部分もあるからそういうのもありえるかもしれんが…二人の戦士の間に何か関係が?)」

 

 

零達と錬次の会話を聞いていた竜胆はクウガとセイガの間に何か関係があるのかと推測するが、やはりどう考えても答えは見つからない。そして隣に座っていた零も同じ事を考えているのか、顎に手を添えながら何かを考え込んでいると……

 

 

零「――だったら、自分の目で確かめにいくか?その方が俺から伝えるより良いと思うし」

 

 

錬次「………そうですね、お願いします」

 

 

錬次が零の提案に頷くと、零達は優矢の様子を確かめる為に錬次を連れて部屋から出ていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数分後、錬次を連れて部屋を出た零達は優矢の自室へと訪れていた。

 

 

オットー「あ、零、竜胆」

 

 

零「よっ。どうだ、優矢の様子は?」

 

 

ディード「…それが…全然目を覚ます様子がなくて…」

 

 

シャマル「多分安静にしていれば直に目覚めると思うんだけど……スバル達から聞いた黒い雷の影響が残っているかもしれないから、取りあえず様子を見てみないと……」

 

 

竜胆「……そうか」

 

 

優矢の看病をしていたシャマルがそう言うと零と竜胆はベッドで眠る優矢へと目を向けていき、二人の後ろにいた錬次はベッドの隣へと歩み寄り優矢を見つめる。

 

 

錬次「……こんな少年が…俺みたいにあんな怪物達と戦ってるんですね…」

 

 

零「まあな。実際ソイツはまだ高校生だし…ベルトを手に入れてなければ、今頃友達と楽しく過ごしていて……ライダーとして戦う事もなく……あんな思いもせずに済んだのかもしれないな……」

 

 

零は静かに眠る優矢を見つめながら以前グロンギとの戦いの中で亡くなった綾瀬と、綾瀬の死に涙を流していた優矢の顔を思い出し、何処か哀しげな表情を浮かべていた。錬次はそんな零の表情から何かを読み取ったのか一瞬切なそうな表情を浮かべた後、零に微笑を向けていく。

 

 

錬次「……大丈夫ですよ。確かに彼は辛い経験をしてきたと思いますけど、それを乗り越えて零さん達みたいな仲間に会えたんです。きっと彼も…それを良かったと思ってくれてますよ」

 

 

零「……だといいんだがな」

 

 

錬次の励ましの言葉に零は思わず苦笑をこぼし、錬次は微笑を浮かべたまま眠り続ける優矢の手を取った、その時……

 

 

 

 

 

―……キィィィィィィンッ!―

 

 

 

 

 

錬次「―――ッ?!」

 

 

突如鳴り響いた耳鳴りと共に錬次の脳裏に奇妙な映像が流れ出したのだった。

 

 

 

 

――辺りを埋め尽くす無数の異形達。そしてその異形達を全て薙ぎ倒し、互いに向き合い視線をぶつけ合う金で縁取りされた赤い戦士と朱い戦士の姿が……

 

 

 

 

零「―――錬次?」

 

 

錬次「……ッ?!え…?」

 

 

その映像に意識を奪われていた錬次だが、不思議そうに呼び掛けてきた零の声に反応しすぐに現実へと呼び戻された。そして、そんな錬次の反応を見た零や竜胆達は頭上に疑問符を並べていた。

 

 

竜胆「どうしたんだ?いきなりボーッとして?」

 

 

錬次「え…あ…いや…その…�」

 

 

『……?』

 

 

竜胆に問わられた錬次は今見た映像についてどう説明したらいいか分からずしどろもどろになってしまい、零達はそんな錬次の様子に怪訝な表情を浮かべた。その時……

 

 

―ガチャッ!!―

 

 

フェイト「零ッ!竜胆ッ!大変だよっ!!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

突然部屋の扉が勢いよく開かれ、其処から血相を変えたフェイトが慌てて部屋の中へと駆け込んできたのだ。

 

 

竜胆「な、何だフェイト!此処には病人がいるんだから静かに…!」

 

 

フェイト「あ…ご、ごめん……ってそうじゃなくて!今大変な事になってるの!早く下に来て!!�」

 

 

零「は?ちょ、何だ!?腕引っ張るなって?!うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ?!!」

 

 

フェイトは無理矢理零の腕を引っ張って下の部屋へと戻っていき、竜胆や錬次、シャマル達はそんなフェイトの様子に首を傾げながらも二人の後を追っていくのだった。そして全員が部屋を出ていった後……

 

 

 

 

 

―………………バチッ……バチバチィッ……!―

 

 

優矢「……………………」

 

 

ベッドの上で眠る優矢の身体から、無数の黄色い火花が散っていたのだった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

フェイト「零早く!ほら、アレ!�」

 

 

零「痛ッ…だから何なんだ?!ちゃんと説明してくれないと分からな………ッ?!」

 

 

零を強引に部屋へと戻って来させたフェイトはなのは達が見るTVのニュースを指差し、零はフェイトが指差したニュースを見て驚愕の表情を浮かべ、二人の後を追いかけてきた竜胆と錬次達もそのニュースを見て同じように驚愕していた。その理由は……

 

 

『現在、警視庁特殊班が未確認生命体13号との戦闘を開始しました!付近の住民は十分に気をつけ、速やかに避難を……!』

 

 

零「あれは……」

 

 

錬次「未確認っ…!」

 

 

そう、ニュースに流れていたのは未確認生命体…ベリアスが黒い雷を放ち警察と戦っている真っ只中の中継だったのだ。そして中継を見ていたスバルやティアナ達は警察と戦うベリアスを見て驚愕していた。

 

 

スバル「こ、この怪人って…?!」

 

 

ティアナ「ッ!コイツです!この世界のなのはさんを襲って、優矢さんを可笑しくさせたベリアスは!」

 

 

竜胆「ッ?!なんだと?!」

 

 

零「…そうか…アイツが…」

 

 

ティアナから優矢の暴走の原因があのベリアスだと聞かされた竜胆達は再び驚愕し、零は険しい表情を浮かべてニュースに映るベリアスを睨みつけていた。そしてその時、ニュースを見ていた錬次は慌てて部屋を出ていこうとし、それに気付いた竜胆は咄嗟に錬次の腕を掴んで引き止めた。

 

 

竜胆「おい待てっ!何処にいく気だ?!」

 

 

錬次「ッ!決まってるじゃないですか!俺も現場に向かいます!」

 

 

シャマル「む、無茶よっ!まだ貴方の怪我は完治してないのよ?!そんな体で戦うなんて無謀過ぎるっ!�」

 

 

怪我を負っているにも関わらずベリアスと警察が戦っている現場へと向かおうとする錬次を引き止める竜胆達だが、錬次はそれに首を振りながら言い返す。

 

 

錬次「……俺は…決めたんです。今こうしている間にも彼処で泣いている人達がいる…その人達を守る為に戦う…もう誰にも涙を流させないって……だから!」

 

 

竜胆「……お前…」

 

 

錬次「…なのはを、お願いします」

 

 

なのは(錬次)「ッ!待ってお兄ちゃん!錬次お兄ちゃんっ!!」

 

 

なのは(錬次)は錬次を呼び止めようとするも、錬次はそれを聞かずに竜胆の腕を振り払い写真館から飛び出していった。

 

 

なのは(錬次)「……錬次…お兄ちゃん……」

 

 

すずか「…なのはちゃん」

 

 

はやて「…零君、これからどないするんや…?」

 

 

顔を俯かせて立ち尽くすなのは(錬次)を見たはやてが零にそう問い掛けると、零は中継を見つめたまま深い溜め息を吐いていた。

 

 

零「…本当に似ているな…アイツ等や俺と…特に周りを見ていない所とか……」

 

 

フェイト「……零?」

 

 

誰にも聞こえない小声で何かを呟いた零に怪訝そうに聞き返すフェイトだが、零はそれに答えずテーブルの椅子に掛けていたコートを手に取って羽織り、なのは(錬次)に近づいて頭を軽く手刀で叩いた。

 

 

なのは(錬次)「ッ?!な、なんですか…?」

 

 

零「……そんな顔するな。アイツにはちゃんと俺達が気付かせてやる……お前の心をな」

 

 

なのは(錬次)「…え?」

 

 

真剣な表情で言い放った零の言葉に一瞬唖然としてしまうなのは(錬次)だが、零はそれに構わず部屋を出て写真館から出ていき、竜胆とはやてとリインは慌てて零の後を追って外へと出ていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

そしてその頃……市街地。

 

 

 

『ヌゥゥゥゥゥゥゥオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

―バチバチッ!ズガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ウワアァァッ?!』

 

 

海音「クッ…!各小隊は未確認を包囲して迎撃!市街地への被害だけは何として阻止するんだ!!」

 

 

『了解ッ!』

 

 

中継で放送されていた現場では、海音が特殊班の部隊に的確な指示を送り市街地に現れたベリアスを凌いでいた。しかし、ベリアスは身体から無数の黒い雷撃を無差別に放ちながら警察に反撃していき、徐々に海音達を追い詰めていた。その近くのビルの屋上では……

 

 

ベリアル『――クックク…いいぜぇベリアス。もっとだ、もっと暴れ回れっ!!そしてあの忌ま忌ましいセイガをおびき出せぇ!』

 

 

ベリアスに闇の力を分け与えた本人である漆黒の仮面のライダー……ベリアルが海音達を追い詰めていくベリアスを愉快げに眺めていたのだった。とその時……

 

 

―……キイィィィィィィィィィィィィンッ!―

 

 

ベリアル『ッ!……ほう…漸く見付けたか、クラウン』

 

 

何かを反応したベリアルはゆっくり自身の背後………街の外れにある山の方へと振り返り、その山の山頂付近を見て不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

ベリアル『ククク……ならそろそろ俺も動いていいよなぁ?やっとあの古代戦士がお出ましなんだ…』

 

 

ベリアルは笑みを浮かべたまま山から視線を外して下を見下ろすと、此処から少し離れた場所に朱い戦士……セイガに変身した錬次がバイクに乗って現場に向かっていく姿があった。それを見たベリアルは右手に闇の粒子を集め、粒子は巨大な大剣を形成していく。

 

 

ベリアル『クウガは仕留めそこなったみてぇだが……まあいいさ。まずはテメェから跡形もなく消し去ってやるよ…古代戦士ッ!!』

 

 

形成した大剣を握って一度大きく振り、ベリアルはその場から飛び降りベリアスと警察が戦う現場へと向かっていくのだった。

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑨

 

 

海音「撃てぇぇぇぇーーーーーーーっっ!!!」

 

 

―ババババババババババババババンッ!!―

 

 

『ヌウゥゥゥゥ……』

 

 

海音の号令と共に警官達の銃弾がベリアスに降り注いでいくが、ベリアスはそれをものともせず警官達へと歩みを進めていく。

 

 

「クッ…!駄目です!やはりこちらの弾は一切効いていませんっ!!」

 

 

海音「ッ…まだだ!まだ諦めるな!此処で引けば街の住人達に被害が及ぶっ……せめて住人の避難が完了するまで持ちこたえろ!!」

 

 

「りょ、了解っ!」

 

 

まったく攻撃を寄せ付けようとしないベリアスに弱気になる警官達だが、海音の呼び掛けで再度ベリアスへと発砲しようと拳銃を構えた。その時……

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『…ヌウゥッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如ベリアスと警官達の間に一台のバイクが飛び出して現れ、ベリアスの目の前に立ちはだかった。そしてバイクに乗った朱い戦士……セイガに変身した錬次は海音達へと目を向けていく。

 

 

「よ、4号ッ?!」

 

 

「よ、4号だ!4号が出たぞっ!」

 

 

現れたセイガを見て警官達からはざわめきが広がっていくが、海音だけはセイガの視線に気付き深く頷くと警官達に呼び掛けていく。

 

 

海音「全員後方まで下がれ!此処は4号に任せるっ!我々は怪我人と取り残された住人達の救助に向かう!」

 

 

「え?で、ですが…!」

 

 

海音「反論は一切聞かん!これは命令だ!急げ!!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

海音の命令に戸惑いながらも警官達は全員後方へと下がっていき、海音は現場に残るセイガを見つめながら後方に下がっていった。そしてそれを確認したセイガはバイクから下り、ベリアスに向けて身構えていく。

 

 

『フン。ゼアザベベル、グギャザゼゼゾベボルンガ…』

 

 

セイガ『ッ…ハアァッ!』

 

 

―ドガァッ!!バキィッ!ドゴオォッ!!―

 

 

セイガは先手必勝と言わんばかりにベリアスへと走り出して渾身の拳を叩き込んでいく。が、ベリアスは身構えもせずにそれらを全て身体で受け止め、にも関わらず全くダメージを受けている仕種を見せないでいた。

 

 

セイガ『ッ…!効いていない?!』

 

 

『…ボバザゼデル、グゴランザギャギャル……ヌオォォォォォォォオッ!!』

 

 

―ドオォンッ!!ドオォンッ!!ドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

セイガ『グアァッ?!』

 

 

ベリアスはセイガの拳を弾くとセイガに殴り掛かっていき、打撃が直撃する度にビリビリと辺りの空気が震えていく。そしてベリアスが最後の攻撃を打ち込むとセイガは勢いよく吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられてしまう。

 

 

セイガ『ガハァッ!グッ…グゥッ…!』

 

 

『フッ、ドゴレルガ…グバレンゼバザググゲルゴ?』

 

 

セイガ『ッ…クッ…!』

 

 

ベリアスは倒れるセイガに向けて挑発していき、それを見たセイガはふらつきながら立ち上がり両手を広げて構えると、右足に力を溜めていく。そして……

 

 

セイガ『ハアァァァァ……オリャアァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

『ッ!』

 

 

セイガは上空に高く跳ぶとベリアスに向かってライダーキックを放っていき、それを見たベリアスは身体に力を篭めてセイガの必殺技を迎え撃とうとする。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シャババババババババババババババァッ!!!―

 

 

セイガ『ッ?!なっ…ウアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

『ッ?!』

 

 

突如セイガの上空から無数の黒い弾が降り注ぎ、それを受けたセイガは地面に叩き付けられ必殺技を中断させられてしまう。目の前で起きた突然の事態に驚くベリアスだが、その隣に一人のライダー……ベリアルが愉快げに笑いながら下り立ち、大剣の切っ先をセイガに向けていく。

 

 

ベリアル『クッハハハッ!久しぶりだなぁセイガぁ?随分見ねぇ内にやわな姿になったじゃねぇか?』

 

 

セイガ『ッ…な、何…?』

 

 

セイガはふらつきながら立ち上がるといきなり現れて馴れ馴れしく話し掛けてきたベリアルを警戒して身構えていき、ベリアルは隣に立つベリアスの肩に手を乗せていく。

 

 

セイガ『お前は…誰だ?!』

 

 

ベリアル『ん?俺か?俺の名はベリアル……かつて、セイガと古代戦士達によって封印された闇の古代戦士さ…』

 

 

セイガ『ッ?!セイガに封印された……古代戦士…?』

 

 

自身の名を告げたベリアルの言葉にセイガは驚き思わず構えを解いてしまうが、ベリアルは不気味な笑みを浮かべたままベリアスに目を向けながら話す。

 

 

ベリアル『それよりどうだ?コイツの力も中々のモノだろう?何せ…この俺の力を特別に分け与えてやったんだからなぁ』

 

 

セイガ『ッ?!力を分け与えたって……じゃあまさか…未確認のその姿は…?!』

 

 

ベリアル『そう…全てこの俺の策略の為だった訳さ!テメェとクウガを同士討ちさせる為になぁ!!』

 

 

セイガ『ッ!』

 

 

古代戦士であるセイガとクウガを同士討ちさせる。それがベリアルによって仕組まれた策略だったのだと知ったセイガは敵意を篭めた目でベリアルを睨みつけ、ベリアルはそんなセイガを見て歪な笑みを浮かべる。

 

 

ベリアル『クク、いい目で睨むじゃねぇか。いいぜ…同士討ちは失敗に終わったみてぇだが、どうせテメェとクウガは深手を負ってるんだ。古代時代の時に受けた屈辱……此処で晴らしてやるよっ!!』

 

 

セイガ『クッ…!』

 

 

ベリアルは大剣を振り回しながらベリアスと共にセイガへと襲い掛かり、セイガも焦りを浮かべつつもベリアル達に応戦していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃……郊外の山の山頂付近。

 

 

 

―ズガガガガガガガァッ!ドガアァァァァァァァァアッ!!―

 

 

大輝「……ふむ…どうやら中はかなり広いみたいだ」

 

 

やまと「みたいね…というか、扉をいきなり発砲してぶち壊すなんて流石にどうかと思うけど…?」

 

 

ベル「いいんじゃない?別に扉には何の価値がある訳でもないんだし」

 

 

大輝「そうそう、大事なのはお宝だけなんだしさ♪」

 

 

やまと「……私にはアンタ達の価値観が分からないわね……まあ、海斗と付き合ってる内に慣れたけど」

 

 

ベリアスが街で暴れる中、大輝とベルとやまとの三人は、目的のお宝が眠る山の山頂付近にある洞窟へと訪れていた。中へと侵入した三人は奥へと続く一本道を大輝を先頭に進み、辺りに罠がないかと警戒しながら先を急いでいく。そして…

 

 

大輝「―――――――ッ!見付けた!」

 

 

一時間弱掛けて先へと進み続けると、奥には古代文字が刻まれた石造りの巨大な扉があったのである。大輝はポケットから取り出した一枚の紙切れと扉を交互に見ると、不敵な笑みを浮かべていく。

 

 

大輝「間違いない…目的のお宝はこの中だ!」

 

 

やまと「やっと着いたの?全く…いつまで経っても着かないからいい加減帰ろうかと思ったわ…」

 

 

ベル「私も同じよ……さ、さっさと中にあるお宝を手に入れて帰りましょ…」

 

 

大輝「了~解っと」

 

 

疲れた顔を浮かべる二人とは対照に大輝は余裕の表情を浮かべながらポケットからディエンドライバーを取り出し、ドライバーの銃口を扉に向けて発砲した。

 

 

―ズガガガガガガガァ!!ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

大輝「よし…じゃあ早く中に入りますか♪」

 

 

やまと「……やっぱり扉は壊す訳ね……」

 

 

ベル「この際何だっていいわよ……ほら、早く行きましょう」

 

 

意気揚々と中に入っていく大輝に続いてやまととベルも扉の奥へと入っていき、しばらく通路を進むと洞窟の最深部と思われる広場へと出ていった。しかし……

 

 

大輝「……………なっ?!」

 

 

やまと「…?どうしたのよ大輝……………ッ!」

 

 

ベル「?ちょっと、何で急に立ち止まって…………………ッ?!」

 

 

漸く最深部である広場へと出た三人であったが、三人は広場の一番奥……祭壇と思われる建造物の上に立つ一人の人物を見て驚愕してしまう。何故ならその人物とは……

 

 

 

 

クラウン『……おや、遅かったですね大輝氏?アナタならもっと早く辿り着くと思ってたのですが』

 

 

大輝「ッ!お前はっ…クラウン?!」

 

 

そう、祭壇に立つ人物とは以前電王の世界で零や大輝達と戦った仮面ライダー…firstの世界のダークライダーであるクラウンだったのだ。

 

 

大輝「ッ…どういう事かな?何で君が此処にいる?」

 

 

クラウン『フッ…私はただベリアル氏に頼まれたモノを取りに来ただけですよ。何でもこの石には、かつて古代時代に災厄をもたらした強大な力が秘められていると言うらしいので…』

 

 

そう言いながらクラウンは手に持つ一つの石……白色の輝きを放つ宝石のような石を眺め、それを見た大輝は目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

 

大輝「そ、その石は?!」

 

 

クラウン『フフ……そう、これが『地の石』と対になる力を秘めた石…『天の石』です。貴方もこれが目的で此処まで来たのでしょう?』

 

 

大輝「クッ…!」

 

 

クラウンは手に持つ石…天の石と呼ばれた石を大輝に見せびらかすように見せ、それを見た大輝は険しい顔でポケットからディエンドのカードを取り出し、やまととベルもそれぞれドライバーとカードを取り出していく。

 

 

大輝「それは俺のお宝だ!横取りなんてさせるモノかっ!」

 

 

やまと「同感ね…せっかく苦労して此処まで来たのに、そんなのは私もゴメンよ」

 

 

クラウン『ほう…ではどうすると?』

 

 

ベル「決まってるでしょ?…力付くでアンタの手から奪ってやるわ!」

 

 

ベルはそう言うと自身のドライバーにカードをセットしてスライドさせ、大輝とやまとも自身のドライバーにカードを装填してスライドさせ銃口を上空に向けていく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

『KAMENRIDE:DI-SIDE!』

 

『BRAVE/HEROINERIDE:DI-END!』

 

 

引き金を引くと電子音声と共に大輝とやまととベルはディエンドとディサイドとディエンド(ベル)へと変身していき、変身したディサイドとディエンド(ベル)はクラウンに向けて連射を、ディエンドはディエンブレードを構えてクラウンに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

一方その頃……光写真館。

 

 

スバル「――零さんと八神部隊長達…大丈夫かな…」

 

 

ティアナ「……分からないけど…今は信じて待つしかないでしょ。今の私達にはそれしか出来ないんだし…」

 

 

スバル「うん…だよね…」

 

 

零達が写真館を出ていってから数十分が経ち、スバルとティアナは優矢の様子の為に優矢の自室へと向かっていた。だが、やはり零達が心配なのか二人の表情は浮かない物となっている。

 

 

ティアナ「……ほら、いい加減こんな雰囲気に流されるのは止め!このままだと鬱病にでも成り兼ねないでしょ!」

 

 

スバル「…そうだね。あ、じゃあさじゃあさ!優矢さんが起きたら復帰祝いのパーティーでもしない?皆で久しぶりにパ~って!」

 

 

ティアナ「アンタね…どうせ単に自分が飲み食いしたいだけなんでしょ?」

 

 

スバル「え~そんな事ないよぉ!」

 

 

ティアナ「ふーん…じゃあアンタだけお代わり制限しても問題ないわよね?別に飲み食いが目的じゃないんだし」

 

 

スバル「え、えぇっ?!そ、それとこれとは話が別でしょ?!ちょ、待ってよティア~!�」

 

 

不安な雰囲気を払うように明るげな話題で盛り上がりながら二人は優矢の自室へと向かっていき、自室の前に着くと一応ノックをしてから中へと入っていく。

 

 

ティアナ「失礼します。優矢さん、具合の方は………………………………え?」

 

 

スバル「?どーしたのティア……………………へ?」

 

 

部屋の中へと足を踏み入れたスバルとティアナだが、二人は部屋の中を見た途端その場で固まったように動かなくなってしまう。何故ならベッドの上……其処には二人が会いに来た優矢の姿はなく、更にベッドの近くにある窓が全開に開かれ風が流れ込んできていたのだから…………

 

 



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第十三章/セイガの世界⑩

 

ベリアル『そらそらそらそらぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!』

 

 

『オォォォォォォォォォォォォォォーーーーっっ!!』

 

 

―ドガアァンッ!!ドガアァンッ!!ドガガガガガガガガガガガガガガァッ!!ズガシャアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

セイガ『グゥッ?!グアァッ!!』

 

 

そして場所は戻り、セイガが戦う市街地ではベリアルがセイガに向けて大剣を、ベリアスは黒い雷を纏った両手でセイガへと殴り掛かっていた。セイガはそれに圧されながらも何とか反撃していくが、二人の猛攻の前にそれも通用せず、ベリアルとベリアスの同時攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

 

セイガ『グッ…うっ…まだ…だっ…!』

 

 

ベリアル『ほう、なかなか持つじゃねぇか?だったら…コイツでどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!』

 

 

―ブォンッ!ドガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

セイガ『ッ?!ウアァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

ベリアルは大剣を勢いよく振るって黒い斬撃破を複数撃ち放ち、セイガはそれをモロに受けて吹き飛ばされ壁に激突して変身が解けてしまった。

 

 

ベリアル『ハッハハハハハハハハハッ!どうしたぁ?もう終わりかぁ?』

 

 

錬次「ッ…くっ…ぐぅっ…!」

 

 

ベリアルは高らかに笑いながら錬次を見下ろし、錬次はボロボロになっているにも関わらず壁に手をつけながら立ち上がっていく。

 

 

ベリアル『ほぉ、良く立ったなぁ?あれだけやられてまだ立てるとは、しぶとさだけは一人前ってワケか…』

 

 

錬次「ハァ…ハァ…ハァ…決め……たんだっ……もう誰にも……涙を流させない……皆の笑顔を……守るんだって……だからっ…!!」

 

 

ベリアル『あ?笑顔だぁ?…クッハハハハハハハッ!なんだそりゃあ?!まさかそんなくだらねぇコトの為にセイガの力を引き継いだってのかぁ?!なぁるほど…今の古代戦士は皆バカって訳か!クッハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

皆の笑顔を守りたい。その為に戦う錬次の決意をくだらないの一言で吐き捨て、ベリアルは嘲笑うかのように笑いながら錬次に近づき殴り飛ばしてしまう。

 

 

錬次「がっ!ぐぅっ…!」

 

 

ベリアル『笑顔を守りたい?誰にも涙を流させない?笑わせてくれるよなぁ……そんなくだらねぇモノの為に命張るなんてよぉ!ああそうかぁ…だからテメェは弱ぇんだろうなぁ?笑顔なんてくだらねぇモノを守ろうとするテメェは……ただ一人前の口を吐くだけの甘ちゃんなんだよっ!!』

 

 

倒れる錬次に向けてベリアルは蔑むかのように高らかに叫び、トドメを刺そうと大剣の切っ先を錬次に向けながらゆっくりと歩み寄っていく。とその時……

 

 

―ブオォォォォォォォォオンッ!キイィィッ!!―

 

 

ベリアル『………あ?』

 

 

錬次「…ッ?!」

 

 

ベリアルが錬次へと歩み寄ろうとした中、道路の奥からディケイダーに乗った零とはやて、バイクに乗った竜胆とリインがその場に駆け付け錬次とベリアルの間に停まっていった。

 

 

零「…また随分と無茶したようだな…錬次」

 

 

錬次「み、皆…?!どうして此処に…?!」

 

 

竜胆「どうしても何もねぇだろ?俺達はもう仲間だ、仲間のピンチに駆け付けるのは当然だろう?」

 

 

はやて「そや、だからあんまり無茶したらアカンよ?錬次君が一人で飛び出していったの、みんなも心配しとったんやから…」

 

 

錬次「……そうだったんだ……すみません…そうとは知らずに…」

 

 

零「謝るのは後だ。今はまず……」

 

 

零はディケイダーから降りながらヘルメットを脱ぐと、錬次から視線を外し大剣を肩に担いでこちらを見つめるベリアルへと目を向けていく。

 

 

ベリアル『ククク…誰かと思えば、何時かの時に会った破壊者じゃねぇか?』

 

 

零「…成る程…今回の件で裏で手を引いていたのはお前だったわけか。また懲りもせずに…呆れた奴だよ」

 

 

ベリアル『ハッ、言っていろ雑魚が!だがテメェ等は今度こそ俺の手で死ぬっ!あの破片を喰って新たな力を手に入れたこの俺の前にテメェ等が、ましてや皆の笑顔を守りたいだとか吐かしやがるそこの雑魚に負ける筈がねぇんだよ!!』

 

 

両手を広げながら自信に満ちた声で語るベリアル。だが、それを聞いた零は呆れたように深い溜め息を吐きながら首を左右に振っていた。

 

 

零「……成る程な……確かにこんな奴が煌一や過去の古代戦士達に勝てるはずもない……哀れな奴だ」

 

 

ベリアル『ッ!なんだと?!』

 

 

呆れた様子で溜め息を吐く零にベリアルは殺意を剥き出しにするが、零はそれに臆する事なくベリアルを見据えながら告げる。

 

 

零「お前はコイツと戦って何を見ていた?何を感じていた?こんなにもボロボロになりながらも、コイツは決して挫けるようなことはしなかった。何故か?それは大切な人達の……笑顔を守る為にだ」

 

 

ベリアル『ハッ、また笑顔か?くだらねぇなぁ…そういうのを無駄な努力っていうんだよ!』

 

 

零「…確かに、一人で全ての人を笑顔にするのは無理かもしれない…時には一人では無理な難関が待ち受けてるかもしれない…だが、だからこそコイツにも必要なんだ!共に助け合い、一緒に信じ合える―――」

 

 

―ブオォォォォォォォオンッ!キイィィッ!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

零「―――仲間がな」

 

 

零がベリアルに向けて語る中、零達の背後に一台のバイクに乗った人物が走ってやって来た。そして零がゆっくりとバイクの方へと振り返ると、バイクに乗った人物は頭に被っていたヘルメットを外し素顔を表していく。その人物とは……

 

 

 

 

優矢「………………」

 

 

竜胆「ッ?!お、お前…?!」

 

 

はやて「ゆ、優矢君?!」

 

 

そう、その人物の正体とは写真館で今も眠り続けているハズの優矢だったのだ。優矢の予想外の登場に驚き戸惑う竜胆達だが、優矢はそれに構わず力強い表情を浮かべながら零達の下へと歩み寄っていく。

 

 

ベリアル『ば、馬鹿なっ…ありえねぇ!テメェはまだ闇の雷の影響で昏睡してる筈じゃっ…?!』

 

 

リイン「ゆ、優矢さんっ!もう起きて大丈夫なんですか?!」

 

 

優矢「ああ…もう大丈夫だ。けどゴメンな、ちょっと遅れちまった�」

 

 

零「……フッ…大遅刻だ、馬鹿が」

 

 

頭を掻いて苦笑しながら詫びる優矢に零は微かに微笑すると、優矢の登場に驚愕するベリアルを力強く見据えていく。

 

 

零「心を闇で染めたお前にコイツ等の強さは決して分からないだろう……コイツ等はどんなに深い闇に堕ちようとも、それに呑まれる事なく誰かを笑顔にしたいと信じて戦い続ける!その思いはお前の策略ごときで壊れるほど、脆弱な物じゃない!」

 

 

ベリアル『テメェ…!』

 

 

零「コイツ等はこれからも戦うという重みを背負い、自分の命を削りながら戦っていく…誰かの笑顔を守る為に。その決意を踏みにじり、くだらないと吐き捨てる権利は誰にもないっ!」

 

 

錬次「……零さん…」

 

 

零「……だが、お前ももう少し周りを見てやれ。お前がそうして無茶をすれば、心配する奴だっているんだからな…」

 

 

錬次「え?…………あっ」

 

 

零の言葉を聞いた錬次は、写真館を出ていく時に見たなのは(錬次)の不安げな顔を思い出し、何かに気が付いたように顔を上げてベリアル達を見据えながら立ち上がっていく。それを見た零は絵柄の消えたセイガを含む三枚のカードを取り出すと、シルエットだけだった三枚のカードに絵柄が浮かび上がっていった。

 

 

ベリアル『ッ!何なんだ…何なんだよ?!テメェ、一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!」

 

 

動揺を浮かべるベリアルにそう答えると、零と竜胆はバックルを腰に装着してそれぞれカードを取り出し、はやてはKウォッチの画面をタッチするとリインキバットに変身したリインを掴み左手を噛ませ、錬次と優矢も互いに顔を見合わせて頷くと錬次は腰にベルトを、優矢はバックルの中央部に金の装甲を身につけたアークルを出現させ変身の構えを取っていく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『stand up chaos!』

 

リインキバット「かぷりっ!ですぅ~!」

 

 

電子音声と共に零と錬次はディケイドとセイガ、竜胆とはやてはケイオスとリインに変身し、優矢は身体からスパークを放ちながら徐々に金で縁取りされた姿……以前日乃森 シオンの力を借りて変身したのと同じ金の力でパワーアップした姿……『クウガ・ライジングマイティ』(以後クウガRM)へと変身したのだった。

 

 

ベリアル『チッ!上等だっ…テメェ等全員此処でぶっ殺してやるっ!!』

 

 

ディケイド『そう簡単には行かないさ…皆、いくぞっ!』

 

 

セイガ『はいっ!』

 

 

クウガRM『あぁっ!』

 

 

ケイオス/リイン『(おうっ!) (うんっ!)』

 

 

変身を完了したディケイドはライドブッカーをソードモードに切り替えて構え、四人もそれぞれ構えた後ベリアルとベリアスへと突っ込んでいった。

 

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑪

 

 

その頃、郊外の山の付近にある荒野では洞窟から天の石を持って逃げ出したクラウン、そのクラウンを追って来たディエンドとディサイドとディエンド(ベル)がそれぞれのドライバーでクラウンに銃弾の雨を降り注がせていた。

 

 

ディエンド(ベル)『待ちなさい!この道化っ!!』

 

 

―ドシュンッ!ドシュンッ!ドシュンッ!!―

 

 

クラウン『おっと!残念、今のは少し惜しかったですねぇ?』

 

 

ディエンド『チィッ!』

 

 

ディサイド『こいつっ!』

 

 

降り注ぐ銃弾の雨を余裕でかわしながら逃げ続けるクラウンに思わず舌打ちするディエンド達。このままではまんまと逃げられてしまう。そう悟ったディエンド達は射撃を止め、直ぐさま左腰のカードホルダーからディエンドとディサイドは一枚ずつカードを、ディエンド(ベル)は二枚取り出しそれぞれのドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

『LYRICALRIDE:TEANA!』

 

『BRAVERIDE:GREGA!HEROINERIDE:NIGHT FARUZA!』

 

 

『フッ!』

 

 

―バシュウッ!―

 

 

電子音声が鳴り響くと共にドライバーの引き金を引くと残像が辺りを駆け巡り、その残像が四ヶ所で重なると一つは黒鉄の装甲を持つライダーであるファイズに、一つはオレンジ色のツイテールの髪を持った少女であるティアナ、最後の二つはライオンのような姿をした戦士と騎士のような姿をした戦士……『グレイガ』と『ナイトファルザー』となって姿を現した。

 

 

クラウン『おやおや…一気に七対一になってしまいましたか。これは少し私に分が悪いでしょうかね?』

 

 

ディエンド『そうやって余裕でいられるのも今の内だ…!』

 

 

ディエンドがそう言いながらクラウンを指鉄砲で指差すと三人の喚び出した戦士達はそれぞれ武器を構え、クラウンへと突っ込み攻撃を仕掛けようとする。だがその一方で、不利な状況に立たされてる筈のクラウンは何故か足を止めて振り返り、仮面越しに不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

クラウン『フフッ…すみませんが、貴方達三人を相手にしても私では勝てませんからね……助っ人を呼ばせて頂きますよ?』

 

 

―ザアァァァァァァ…!―

 

 

『ッ?!』

 

 

実に愉快そうに笑いを浮かべるクラウンの前に前触れもなく歪みの壁が出現し、突然のそれを見たファイズ達は思わず動きを止めて後退りをしてしまう。そして歪みが消え去ると其処には複数の同じ姿をしたライダー達……ローカストとライオトルーパーの軍勢がそれぞれの武器を構えて立ち構えていたのだ。

 

 

ディサイド『ッ?!コイツ等は…?!』

 

 

クラウン『とある方達から頂いた贈り物の一部ですよ。あなた方の足止めにはこれぐらいがちょうどいいでしょうからね……ではそろそろ時間も迫っていますので、私はこの辺で』

 

 

クラウンは不敵な笑いを浮かべたまま天の石を手の中で遊ばせながらローカストとライオトルーパーの軍勢を残してこの場から離脱しようと動き出した。だが、それをみすみすと見逃す程この三人が甘いハズがない……

 

 

ディエンド(ベル)『舐められたモノね…私達から逃げ切れると思ってるの?』

 

 

ディエンド『そう…狙ったお宝は逃がさないさ!』

 

 

軍勢には目もくれずディエンドとディサイドはホルダーから一枚ずつカードを、ディエンド(ベル)は二枚のカードを取り出しドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

『FINALFORMRIDE:TE・TE・TE・TEANA!』

 

『FINALFORMRIDE:G・G・G・GREGA!N・N・N・NIGHT FARUZA!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

ディサイド『少し我慢しなさい』

 

 

ディエンド(ベル)『苦痛は一瞬よ』

 

 

―ズキュウンッ!―

 

 

『ウグッ?!』

 

 

電子音声と共に引金を引きファイズとティアナとグレイガとナイトファルザーを撃ち抜くと、四人は悲痛の声をあげながら宙に浮かびその姿を変えていった。ファイズはファイズブラスターに、ティアナはティアナバレル、グレイガとナイトファルザーは巨大なパーツに変形して互いに連携して合体し、巨大なキャノン砲……『グレイガサテライトキャノン』へと超絶変形しディエンド達の手に収められていった。そして三人は更にカードを取り出しドライバーへとセットしてスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

『FINALATTACKRIDE:TE・TE・TE・TEANA!』

 

『FINALATTACKRIDE:G・G・G・GREGA!N・N・N・NIGHT FARUZA!』

 

 

電子音声が響くとファイズブラスターとティアナバレル、グレイガサテライトキャノンの銃口にエネルギーが集束していき、その銃口を向かってくる軍勢と背中を見せて逃げるクラウンに向けていく。そして……

 

 

『ハアァァァァ……ハアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーンッ!!!!―

 

 

『グッ?!グガアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

クラウン『…ッ!フッ!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーンッ!!!!―

 

 

ディエンドとディサイドとディエンド(ベル)の撃ち出した高エネルギー弾が軍勢を一人残らず吹き飛ばしながらクラウンへと向かっていった。だが、クラウンはエネルギー弾が直撃する前に身体から闇を溢れさせて身体に纏い上空へと跳躍し、三人の一斉射撃を軽々とかわしてしまった。

 

 

ディエンド(ベル)『っ…!かわされた?!』

 

 

クラウン『残念でしたね?今のは確かに良い攻撃でしたが、当たらなければどうという事はありませんよ!』

 

 

ディサイド『チッ…!』

 

 

勝ち誇った笑いを浮かべながら宙に浮くクラウンに苛立ちを見せるディサイドとディエンド(ベル)。そんな二人を見下ろしながらクラウンは何処からか複数のナイフを右手の指の間に挟みながら取り出した。

 

 

クラウン『流石のあなた方でも空を飛ぶことまでは出来ないでしょう?いい加減追いかけっこも飽きてきましたし……そろそろこの辺で終わらせましょうかね?』

 

 

『クッ…!』

 

 

クラウンの言う通り、この二人には空を飛ぶ能力など持ってはいない。それとは対照にベリアルから古代の闇の力を授かり飛行能力を持つクラウンが圧倒的に有利であろうし、自在に空を飛び回れるなら二人の攻撃も安易に回避する事も出来る。故に彼女達が彼を追い詰める事はそう簡単には出来ないだろう。そう……

 

 

 

 

 

 

『あぁ…君が先に俺を仕留めていれば、それも叶っただろうね』

 

 

クラウン『!?』

 

 

 

 

 

 

彼の力を失念していなければの話だが

 

 

『BRIONAC!』

 

 

クラウン『後ろ?!』

 

 

電子音声と共に背後にある気配をしっかり感じ取ったクラウン。直ぐに振り向きながら指に挟んだナイフをすべて投げ放っていくが、ナイフが放たれた先にいた人物……ウィングメモリを使いクラウンの背後に飛翔していたディエンドWはドライバーでナイフを撃ち落とし、左手に持った冷気を纏うディエンドブレードをクラウン目掛けて振るう。しかし、クラウンはディエンドブレードの刃を紙一重で回避して距離を取るが、冷気に触れてしまった為かクラウンの左肩から肘部分までが凍り付けになっていた。

 

 

クラウン『なっ…凍ったっ!?』

 

 

ディエンドW『ウオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーっっ!!』

 

 

凍りついた自身の体を見て戸惑い一瞬硬直してしまうクラウンだが、ディエンドWはその隙を逃さず追撃を仕掛けようと背中の羽根を羽ばたかせ、クラウンへと突進していく。

 

 

クラウン『クッ…!何時かの時のようにはいきませんよ、大輝氏ぃ!!』

 

 

―ブォンッ!シュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンシュンッ!!―

 

 

ディエンドW『!』

 

 

しかしそうはさせまいと、クラウンは空いた右手を真横に振るいディエンドWの周りに存在する無空間から無数のナイフを生成し展開していく。その数……約数百以上。

 

 

クラウン『残念ですが大輝氏。これでGAME OVERです!!』

 

 

―パチッ!……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

ディエンドW『ッ!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『大輝ッ?!』

 

 

クラウンが指を鳴らすと共に無数のナイフ達は一斉にディエンドWへと降り注ぎ、ディエンドWは爆発の中へと飲み込まれ姿を消していった。その光景を地上から見上げていたディサイドとディエンド(ベル)も思わず身を乗り出してしまう。

 

 

クラウン『…フフッ…残念ですよ大輝氏。貴方の事は嫌いではなかったのですが……貴方が予想以上にしつこいせいで手に掛けてしまいましたよ』

 

 

自分の技は確かに彼に直撃した。無数のナイフに四方から襲い掛かれれば流石の彼も逃れられる筈もない。これで後は問題もなくベリアルと合流出来そうだと。安心しきったその時……

 

 

 

 

 

 

『BRIONAC!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

 

 

 

 

クラウン『?!』

 

 

聞こえてくる筈のない電子音声。真下から確かに聞こえてきたソレにクラウンは顔色を変えながら真下へと顔を向ける。其処には……

 

 

 

 

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

ディエンドW『…………』

 

 

 

 

 

 

背後に巨大な氷結の龍を従わせ、クラウンを真下から睨みつけるディエンドWが静かに宙に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

クラウン『ばっ――!?』

 

 

 

 

 

ディエンドW『――ブリューナク、アイスデッドクラッシュッ!!!』

 

 

 

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

 

 

 

―ドガッアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!カシャアァンッ!!!―

 

 

 

 

 

ディエンドWがディエンブレードの切っ先をクラウンに向けると共に、氷結の龍はそれに従うようにクラウンへと突っ込み突撃したのであった。そしてクラウンと龍が衝突すると同時に氷色の爆煙が上空に広がり、煙が晴れると其処には巨大な氷の塊が静かに宙に浮遊していた。

 

 

ディエンドW『……最後の最後で油断したのが君の非だ、クラウン。君との因縁も……いい加減終わらせてもらったよ』

 

 

宙に浮遊する氷の塊を見つめながらポツリと呟くディエンドW。技が直撃したのならクラウンとて無事では済まないだろうが、天の石には恐らく大した支障などはないだろう。上空で浮遊し続ける氷の塊を見上げながらそう思った、その時……

 

 

―………………ピシッ……ガシャアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディエンドW『?!』

 

 

氷の塊は突如真っ二つになって砕け散り、空中で氷の粉と化して消え去ってしまったのである。そして氷の中から飛び出てきた人物…クラウンが両手にナイフを構えながら物凄いスピードでディエンドWの下へ降下してきていた。

 

 

ディエンドW『クラウンッ?!』

 

 

クラウン『詰めが甘かったですねぇ大輝氏!凍り付けにする程度では私を倒す事など出来ませんよッ!!』

 

 

ディエンドW『クッ!コイツッ!!』

 

 

物凄い勢いで急降下してくるクラウンに向けてすぐにディエンドライバーを連射していくディエンドW。だがクラウンは僅かに軌道を変えてそれを回避し進行を止める事はせず距離を詰めナイフを振りかざし、射撃では無駄だと悟ったディエンドWはディエンブレードを構えクラウンを向かい入れようとする。だが……

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-SIDE!』

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!―

 

 

クラウン『…っ?!ぐぅっ!ツアァァァァァアッ!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディエンドW『!』

 

 

刹那、電子音声と共に背後から放たれた二つの閃光がディエンドWの左右を通り過ぎクラウンに向かっていき、完全に不意を突かれたクラウンは強引に態勢を変えて一発目を回避するが、その直後に襲い掛かった二発目を受け地上へと落とされていった。そして閃光を放った二人……ディサイドとディエンド(ベル)は地上に落下したクラウンにドライバーの銃口を向けながら歩み寄っていく。

 

 

ディエンド(ベル)『私達の事も忘れないでもらえる?アンタと戦ってるのは大輝だけじゃないんだから』

 

 

クラウン『グッ…!そうでしたねっ…貴女方のことをすっかり失念していましたよ……貴女方は今の攻撃の機会を伺っていたワケですか……?』

 

 

ディサイド『えぇ。アンタが大輝との戦いに集中してこっちの射程距離まで下りてきてくれれば後はこっちのもの……大輝にしか注意を払わなかったのはアンタの落ち度よ、クラウン?』

 

 

クラウン『ッ…なるほどっ……どうやら貴女方が大した脅威にはならないと油断したのは間違いだったようですねっ…』

 

 

傷付いた身体を抑えながら近づいてくる二人から後退りしていくクラウン。先程のディエンドWの技はギリギリ致命傷には至らなかったがかなりの深手を負っている。加えて、今の砲撃を受けたのだからこれ以上の戦闘は禁物だろう。だが今の状況は未だ三対一と不利なままである。逃げ道のないこの状況をどう切り抜けるべきかとクラウンが仮面越しに冷や汗を流しながら思考に浸っていると……

 

 

―…………………パキッ…ピシピシピシッ…!―

 

 

クラウン『…!?』

 

 

ディエンドW『…え?』

 

 

一瞬静粛していたその場にひび割れる音が響く。クラウンがその音を辿って自身の手を見下ろすと……手に握られている天の石に亀裂の線が走っていた。そして……

 

 

―ピシピシッ……パキッ…パリイィィィィィィインッ!!―

 

 

『なっ…?!』

 

 

天の石は真っ二つに割れた後粉々に砕け散り、それと同時に石から白色の光が粒となって飛び出し、空へと上がって消えていったのであった。

 

 

ディサイド『い、石が…?!』

 

 

ディエンド(ベル)『そ、そんなっ…?!』

 

 

ディエンドW『おっ、俺のお宝あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!?』

 

 

無惨にも砕け散った天の石を見たディサイドとディエンド(ベル)は驚愕の表情を浮かべ、ディエンドWは頭を抱えて絶望したーーっ!といった感じに悲痛な悲鳴を上げている……どうやらそこまでのショックを受けるほどあの石には価値があったようだ。

 

 

クラウン『クッ…!やはりあれだけの衝撃を受ければ石本体も持ちませんか……仕方ありませんね、一度引きましょう…』

 

 

ディサイド『ッ!待ちなさいっ!!』

 

 

目の前に歪みの壁を発生させて逃げようとするクラウン。それを見たディサイドは直ぐにドライバーを連射しながら走り出すが、銃弾は歪みの壁の前に遮られてしまい、クラウンは歪みの壁に包まれ何処かへと消えていってしまった。

 

 

ディサイド『ッ…逃げられたみたいねっ…』

 

 

ディエンド(ベル)『らしいわね……さて』

 

 

クラウンに逃げられた事に悔しげな表情を見せるディサイド。だが、ディエンド(ベル)は興味なさそうに答えながら地面に落ちた天の石の破片に近づき破片を手に取って眺める。が、ディエンド(ベル)は破片を暫く眺めた後ガッカリしたように溜め息を吐きながら破片を投げ捨ててしまう。

 

 

ディサイド『…どうやら、ソレは貴女の探し物じゃなかったみたいね』

 

 

ディエンド(ベル)『えぇ。確かにお宝としては価値の高い物だけど、私には必要ないわね………でも、あの道化士もどきは何が目的でコレを持ち帰ろうとしたのかしら?』

 

 

ディサイド『さあ?なんかベリアルがどうとか言っていたけど、別に興味ないわね……まあ、お宝に関しては大輝には悪いけど』

 

 

そう言いながらディサイドは背後へと首を回し、ディエンド(ベル)もそれを追うように背後へと視線を向けていく。其処には……

 

 

ディエンドW『お、お宝……俺の……俺のお宝がぁぁぁぁ……』

 

 

…ディエンドWががっくりと肩を落として座り込み、影を落としながら落ち込む姿があったのだった……。

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑫

 

―海鳴市・市街地―

 

 

一方、市街地ではケイオスとリンがベリアスと、ディケイドとセイガとクウガRMはベリアルと戦闘を開始しほぼ互角に渡り合い激戦を繰り広げていた。

 

 

セイガ『ダアァッ!』

 

 

ディケイド『ハッ!』

 

 

―ガキィッ!ドゴォンッ!ギィィィィィンッ!!―

 

 

ベリアル『グウゥッ?!ヤロウッ…調子に乗ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』

 

 

―ブオォンッ…ドオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

クウガRM『ッ?!』

 

 

ディケイド達の連携に圧されていたベリアルは三人の攻撃を受けつつも距離を離し、身体からまがまがしい闇のオーラを噴き出し身体に身に纏っていく。それを見たディケイド達は思わず警戒して身構えていき、闇のオーラを纏ったベリアルはゆっくりと腰を屈めていく。そして……

 

 

―ドオォォンッ!!!―

 

 

ベリアル『ラアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドオォンッ!!ドオォンッ!!ドグオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

セイガ『ウワァッ?!』

 

 

クウガRM『グアァッ?!』

 

 

ベリアルは勢いよく地面を蹴り付けると共にセイガとクウガRMの目の前に一瞬で現れ、二人に渾身の拳を叩き込みビルの壁へと吹き飛ばしていった。

 

 

ディケイド『練次ッ?!優矢ッ?!クソッ!』

 

 

吹き飛ばされた二人を見たディケイドは直ぐ様ライドブッカーをガンモードへと切り替え、一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『フッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガァンッ!!ドガアァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

電子音声と共にディケイドはベリアルに向けてライドブッカーを乱射し、銃弾はすべてベリアルへと直撃しその姿は爆煙に包まれ消えていった。が……

 

 

―……シュンッ!!―

 

 

ベリアル『ハッハハァ!!』

 

 

ディケイド『…なっ?!』

 

 

目の前の視界が一瞬ブレたかと思いきや、ディケイドの乱射を受けたハズのベリアルがディケイドの目の前まで接近し大剣を振りかざしていたのである。

 

 

ベリアル『んな攻撃で、このダークネスオーラに傷が付くか…よぉっ!!』

 

 

ディケイド『クッ!―ガシャアァァァァァァァァァァアンッ!!―グアァッ?!』

 

 

大きく振り回して叩き付けられた大剣をディケイドは瞬時にライドブッカーを盾にして防御する。しかし、闇の力によって強化された大剣はディケイドの防御を簡単に押し切り、ディケイドをクウガRMとセイガの下まで軽々と吹き飛ばしてしまう。

 

 

セイガ『クッ…ッ?!零さんっ?!』

 

 

クウガRM『れ、零っ!無事かっ?!』

 

 

ディケイド『クッ…!アイツっ…前に会った時より強くなってるんだろう…!』

 

 

クウガRMとセイガに支えられてふらつきながらも何とか立ち上がるディケイド。そして闇のオーラを纏ったベリアルは大剣を肩に担ぎながらゆっくりとした足取りでディケイド達の下へと歩み寄り、それを見た三人は直ぐさま身構えていく。

 

 

クウガRM『ッ?!何なんだよ、アイツのあれ?!』

 

 

ディケイド『……あの鎧の様なオーラ……ダークネスオーラとか言ったか?どうやらあれを纏っている限り、こっちの攻撃は通りそうにないみたいだな…』

 

 

セイガ『そ、そんな?!ならどうすれば…?!』

 

 

相手は闇の力を用いて身体能力を極限まで上げてきている。その上に、こちらの攻撃が通らないのならどうやっても勝ち目はない。ならば一体どうするべきかとセイガが焦りを浮かべながら問い掛けると、ディケイドは冷静にライドブッカーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『なに、難しく考える必要はない。攻撃が通らないとは言ってもアレにだって限度があるはずだ……なら、全力の技を叩き込んで壊せばいい!』

 

 

『KAMENRIDE:MBIUS!』

 

 

カードをドライバーに装填してスライドさせると電子音声が鳴り響き、それと共にディケイドの身体が光に包まれていく。そして光が徐々に晴れていくと、ディケイドの姿は紅い瞳を持つライダー……煌一が変身するのと同じメビウスに変身したのであった。

 

 

ベリアル『なっ…メビウスだと?!』

 

 

Dメビウス『…全力の同時攻撃だ。いくぞ!』

 

 

セイガ『ッ!はい!』

 

 

クウガRM『あぁ!』

 

 

メビウスに変身したディケイドはセイガとクウガRMに呼び掛けるとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:M・M・M・MBIUS!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にDメビウスの右手に光が集束して激しく輝き出していき、セイガは右足にエネルギーを、クウガRMは右足に装着した金の装甲……マイティアンクレットを通して右足に力を溜めていく。

 

 

ベリアル『ハッハ!面白ぇじゃねぇか?いいぜぇ……来いよ、テメェ等の技全部跳ね返してやる!!』

 

 

必殺技の発射態勢に入ったDメビウス達に向けて自信ありげに叫ぶと、ベリアルは自身の身を纏うオーラを更に強めていく。そして力を溜め終えたDメビウスとセイガとクウガRMは同時に勢いよく走り出し、上空へと高く跳ぶと共にベリアルに向かってそれぞれの必殺技を放っていった。

 

 

Dメビウス『ハアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

クウガRM『ダアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

セイガ『オリャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!ガガガガガガガガガガガァッ……ドッグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ベリアル『っ?!グガァッ…ガアァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!?』

 

 

Dメビウスの必殺技であるライダーパンチと、セイガとクウガRMのダブルライダーキックが見事に炸裂し、ベリアルの纏っていた闇のオーラを打ち消しベリアルを勢いよく吹っ飛ばしていったのだった。

 

 

―バチィッ…バチバチッ!パァンッ!―

 

 

ベリアル『アガッ…ガッ?!な、何故だっ…何故ぇ……闇の力がぁぁぁぁっ…?!』

 

 

Dメビウス『……これが…お前が認めなかった…人の思いの力だ、ベリアル…』

 

 

ベリアル『グゥッ?!人の…思いだぁ?ふざけんなっ…闇の力がっ…たかがそんな物にぃぃぃぃ…!』

 

 

未だ自分の敗北が認められないのか、ベリアルは身体から無数の火花を噴き出しながら再び立ち上がろうとする。だがその時……

 

 

―…………キイィィィィィィィィィンッ!―

 

 

ベリアル『…ッ?!クラウン?……なんだと?!』

 

 

『…?』

 

 

ベリアルは突然動きを止めたかと思えば、驚愕の表情を浮かべて郊外の山の方へと目を向けていく。そんなベリアルを見たDメビウス達は疑問そうに首を傾げるが、ベリアルは小さく舌打ちするとふらつきながら立ち上がっていく。

 

 

ベリアル『クソがっ…まあいいさ。あのNo.3とかいう奴から聞いてやった頼みは果たしてやったんだ……俺は抜けさせてもらうぜっ』

 

 

ベリアルはそう言うと背後に出現した歪みの壁を通り抜けて何処かへと消えていってしまい、それを見たDメビウスはディケイドへと戻っていった。

 

 

ディケイド『…どうしたんだ…アイツ?』

 

 

クウガRM『さ、さぁ?……って、こんな事してる場合じゃねぇって!今はあのベリアスをどうにかしねぇと!�』

 

 

セイガ『あっ!そ、そうだったっ…!�』

 

 

突然引いてしまったベリアルを不審に思いながらも、今は取りあえずベリアスをどうにかせねばと思い三人はケイオスとリンと合流しようとその場から走り出していった。そしてその近くにあるビルの屋上では……

 

 

幽汽『……どうやら、俺が与えた任務を忠実に熟せたようですね…』

 

 

『…そうか…やはり奴らに任せておいて正解だったようだな……真也達に任せたのは俺の人選ミスだったか……』

 

 

先程の河原での戦いの中で現れて消えたはずの幽汽と、幽汽の目の前に出現した電子パネルに映る青年……終夜が何やら怪しげな会話を行う姿があった。

 

 

幽汽『確かに奴は任務を優先して行動する奴ですが…やはりまだ未熟な部分が目に付きます』

 

 

終夜『ああ……今回の任務もアイツの単なる履き違えのせいで支障をもたらす所だった……黒霧を同行させたのもその原因の一つかもしれんな……』

 

 

幽汽『…だから俺は反対したんですよ。あの男はただの興味本位できっと余計な行動を起こすと……』

 

 

終夜『まあそう言ってやるな……あれがあの男の本質なのだから、それも仕方がない……』

 

 

険しげに呟く幽汽に向けてそう言う終夜だが、幽汽は未だ納得出来ないのか仮面超しに不満げな顔を浮かべており、そんな幽汽の様子を見た終夜は軽く溜め息を吐きながら口を開く。

 

 

終夜『だがこれで、後は零があの怪人を倒してくれれば今回の任務は無事に終了するだろう…』

 

 

幽汽『……ですが、これで本当に奴の因子が覚醒するのでしょうか?奴の因子の覚醒率もまだ低いままの様ですし、ただ敵を倒すだけでそうなるとは俺には到底思えないのですが…』

 

 

終夜『……目に見えるモノだけで物事を決め付けるのは愚者のすることだ。奴はただ因子の力を抑えているだけであり、因子の進化までは抑えてはいない………このまま戦いを続けて奴が成長していけば、いずれ力も抑えつけられなくなる。その時こそが、俺達が奴を手に入れる瞬間だ……』

 

 

低い声で終夜がそう呟くと、幽汽は何も言わずにディケイド達が去った方を見つめていく。そして暫くすると、幽汽は背後に出現した歪みの壁を通り何処かへと消えていってしまった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

ケイオス『ウオリャアァッ!!』

 

 

リイン『ヤァッ!ハァッ!』

 

 

―ドゴオォッ!ドグォッ!ドガアァッ!!―

 

 

『グボオォッ?!』

 

 

そしてその頃、ケイオスとリンは見事なまでの連携を組みながらベリアスに攻撃を打ち込んでいき、そして二人の同時攻撃である蹴りを受けたベリアスは後方へと勢いよく吹っ飛ばされていった。

 

 

ケイオス『よし、キメるぞはやて!』

 

 

リイン『うん!』

 

 

倒れたベリアスを見据えながらケイオスは自身の右足に力を溜め、リインは左腰のフエッスルの中からウェイクアップフエッスルを取り出し、ベルトの止まり木に止まったリインキバットに吹かせる。

 

 

リインキバット「ウェイクアップ2!ですぅ~♪」

 

 

リインキバットの掛け声と共にリンの両足に巻き付かれたカテナが解放され、力を溜め終えたケイオスとリインは上空へと高く跳び上がりベリアスへと跳び蹴りを放っていった。

 

 

ケイオス『デヤアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

リイン『セヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!!―

 

 

『ヌ、ヌオォォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ケイオスの必殺技、アキシオンキックとリインの必殺技の一つ、ダークネスムーンラグナロクが炸裂し、ベリアスは断末魔を上げながら吹き飛ばされ跡形も残さず消滅していったのだった。そして二人が爆発によって発生した爆炎を見つめていると、ベリアルと戦っていたディケイド達がその場に駆け付けてきた。

 

 

リイン『あっ、みんな!』

 

 

ディケイド『竜胆、はやて!無事か?!』

 

 

ケイオス『おう、こっちはもう片付いたぜ?ほら』

 

 

駆け付けてきたディケイド達にケイオスは爆炎を指差しながらそう言い、三人もそれを目で追って爆炎を見つめ二人が本当にベリアスを倒したのだと確認する。

 

 

クウガRM『じゃあ…勝ったんだよな?!俺達!』

 

 

セイガ『あぁ!これで漸くなのはに……』

 

 

ディケイド『フッ…お前も帰ったらいろいろ大変そうだ……………?』

 

 

漸く終わった戦いに喜びを露わにするメンバーだが、ディケイドだけはベリアスが爆散した場所を見て怪訝な表情を浮かべていた。

何故ならベリアスが散った場所で轟々と燃え盛る炎…その中で、黒い光の粒子が一カ所に集まり巨大な何かを形成していたのである。

 

 

ディケイド『あれは…………………ッ?!皆構えろっ!奴がまた来るぞ!!』

 

 

『……え?』

 

 

黒い粒子を見て何かに気付いたディケイドは余裕のない声で叫び声を上げ、それ聞いたメンバーはいきなりの事に訳が分からず疑問符を浮かべた、その時……

 

 

 

 

 

―シュゥゥゥゥ……シュパアァァアンッ!!―

 

 

『グゥルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアッ!!!!』

 

 

―ズシィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

『なッ……?!』

 

 

爆炎から一つの巨大な影が勢いよく飛び出し、ディケイド達に向けて全身を突き刺すような雄叫びを上げのであった。高層ビル半分程はある黒い巨体にサイの様な姿をした怪獣……ライノーベリアスは角の部分から黒い火花を散らし、敵意を篭めた瞳でディケイド達を睨みつけていた。

 

 

リイン『な、なんやのアレッ?!』

 

 

クウガRM『か、怪獣ッ?!』

 

 

ケイオス『…コレは…まさか!』

 

 

ディケイド『…暴走…か』

 

 

暴走して目の前に立ち塞がるライノーベリアスに驚愕して後退りするディケイド達。だがライノーベリアスは関係ないと言わんばかりに獣染みた雄叫びを上げ、そして……

 

 

『グルゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!!』

 

 

―ズドオォンッ!!ズドオォンッ!!ドグオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ライノーベリアスは地響きを響かせながらその巨体からは考えられない物凄いスピードでディケイド達へと突っ込んで突撃し、ディケイド達を三十メートル付近まで軽々と吹き飛ばしていってしまった。

 

 

ケイオス『ガハァッ!ク、クソッ…!』

 

 

セイガ『クッ!あんなの…一体どうすれば…?!』

 

 

桁違いな巨体をしたライノーベリアスに怯んでしまうメンバーだが、セイガの隣にいたディケイドは態勢を立て直すとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FINALFORMRIDE:S・S・S・SEIGA!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

セイガ『…え?―ドンッ!―うわぁっ?!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にディケイドがセイガの背中を強めに押すと、セイガは宙に浮きながら身体から巨大な装甲を出現させてその姿を変えていき、セイガは蒼と白に分けられた身体に朱い瞳を輝かせる巨大な龍…『セイガドラグーン』へと超絶変形し上空を舞うように飛翔しながらライノーベリアスへと突っ込んでいった。

 

 

セイガ(D)『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―ドゴオォッ!!ズガガガガガガガガッ!!ドグオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ググオォッ?!』

 

 

セイガドラグーンは勢いをつけながらライノーベリアスへと突撃を繰り返し、ライノーベリアスは耐え切れず後方まで吹き飛ばされていった。そしてそれを見たディケイドはライドブッカーから更にもう一枚カードを出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:S・S・S・SEIGA!』

 

 

セイガ(S)『グゥオォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

電子音声と共にセイガドラグーンはライノーベリアスに向けて口から蒼い炎を撃ち出し、蒼い炎はライノーベリアスに直撃すると共に固まりライノーベリアスを行動不能にさせた。そしてディケイドは上空を飛ぶセイガドラグーンに向かって跳ぶとセイガドラグーンはセイガへと戻り、二人はライノーベリアスに向かってキック態勢に入っていく。そして……

 

 

『ハアァァァァ……オリャアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ヌ、ルグオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディケイドとセイガのダブルキックがライノーベリアスの身体を貫通していき、ライノーベリアスは断末魔と共に爆発して跡形もなく消え去っていった。そしてライノーベリアスが完全に消滅したのを確認したディケイド達は変身を解除し、零達へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑬

 

先程の戦いから二時間後。写真館へと戻ってきた零達は練次となのは(練次)の見送りの為、写真館の前の道路沿いで二人と向き合っていた。因みになのは(練次)は写真館へと戻った練次を見た途端、よほど心配だったのか練次に抱き着いて大泣きした為に目が少し赤くなっている。

 

 

練次「…今回の事、本当にありがとうございました」

 

 

零「別に礼を言われるような事はしていない…俺達はただ横からしゃしゃり出ただけだ」

 

 

練次「それでも、今回の事で色々と気付かされた事もありましたから……ですから本当に、ありがとうございます」

 

 

練次はカメラのフィルターを覗き込む零に向けて深く頭を下げて礼を良い、それを見た零は照れ臭そうに頬を掻きながら明後日の方へと目を向けていた。

 

 

竜胆「んで、お前はこれからどうするんだ?」

 

 

練次「…帰ったら、なのはと色々話そうと思ってます。これからどうしていくかも…俺が決めた思い…ちゃんと」

 

 

なのは(練次)「……練次お兄ちゃん…」

 

 

竜胆の言葉に対し力強い瞳をしながら答える練次。なのは(練次)はそんな練次を隣で見て優しい微笑みを浮かべ、竜胆も「そうか」と納得したように頷き返していた。そして練次は零の隣に立って顔を俯かせる優矢と向き合い笑みを浮かべていく。

 

 

練次「零さん達から話しを聞いていたよ。君も、誰かの笑顔の為に戦っているんだろう?」

 

 

優矢「…はい…でもすみませんでした…俺のせいで、練次さんに迷惑を……」

 

 

練次「いいや、いいんだよそんな事。それに君だって、闇に飲まれる事なく自分を取り戻した……それは、誰かを笑顔にしたいと信じ続ける君の強さがそうさせたんだ。正直、俺は君のその強さが羨ましいよ」

 

 

優矢「……練次さん…」

 

 

練次の穏やかな言葉に優矢は俯かせていた顔を上げ、練次はそんな優矢に向けてサムズアップしていく。

 

 

練次「また遊びにおいでよ。君にも中々見込みがあるところがあるし、その時には俺が色々と教えてあげるからさ」

 

 

優矢「…はいっ!」

 

 

優矢は笑顔を浮かべながら練次に向けてサムズアップを返し、そんな優矢の表情を見た練次は満足げに笑いながらなのは(練次)と共に自身のバイクに跨がり、家への家路を走っていったのだった。

 

 

竜胆「…んじゃ、俺もそろそろいくとしますか」

 

 

零「…?もう帰るのか?」

 

竜胆「あぁ、また他の世界に行ってチラシをくばんなきゃいけねぇし、祭の準備とかも色々あるからさ」

 

 

竜胆は笑ってそう言いながら表に停めておいたバイクに跨がり、頭にヘルメットを被って零達に目を向けていく。

 

 

竜胆「それじゃあな!祭には絶対来てくれよ?」

 

 

零「あぁ、必ず行く。楽しみにしているから、期待を裏切らないでくれよ?」

 

 

竜胆「おう!お前達の期待を越えた祭にして待ってるから、安心して祭に来い。じゃな!」

 

 

竜胆は零達に向けて軽く手を振るとバイクを発進させ道路を走っていき、道路の先に出現した歪みの壁を潜り抜けてまた別の世界へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

 

それから数十分後。練次達と竜胆と別れを済ませた零達は写真館へと戻り、自室に戻った零は現在はやてに怪我の治療をしてもらっていた。

 

 

零「痛ッ!そ、其処はもう少しそっとやってくれ!」

 

 

はやて「えぇからジッとして!全く、傷が開いていたのを無視して戦おうてたやなんて……無茶し過ぎやろ……」

 

 

零「むぅ……だが、なんでお前が俺の傷の治療をする必要があるんだ?シャマルもいるんだし、お前がそんな事する必要は……」

 

 

はやて「……私よりシャマルの方がええんか…?」

 

 

零「Σッ?!イ、イヤ…メッソウモナイ…」

 

 

ジト目で睨んできたはやてを見て冷や汗を流しながら視線を逸らしてしまう零。はやてはそんな零に一度深い溜め息を吐くと、治療に使ったガーゼや消毒液を救急箱の中に仕舞っていく。

 

 

はやて「全く……ホンマに無茶ばっかりするんやから……少しは心配するこっちの身にもなって欲しいで」

 

 

零「むぅ…別に俺だって好きで無茶してる訳じゃない。ただそうしなければいけないという状況に合うから仕方なく…」

 

 

はやて「それでも無茶していい事としたらいけない事があるやんか!零君は少し周りの人の気持ちを考えなあかんよ?!」

 

 

零「グッ…それはそうかもしれんが…だけど…」

 

 

はやて「だけどもへったくれもあらへん!今度からは絶対こんな無茶はせんこと!もしまたこんな事したら許さへんからな?!」

 

 

零「ウグッ…と、というかお前は何をそんな必死になってるんだ!俺なんかお前を怒らせるような事したか?!」

 

 

何処か必死になって身を乗り出し、無茶をするなと怒鳴ってくるはやてに思わず後退りをしながら聞き返す零。そんな零の言葉を聞いたはやては何故か顔を曇らせて俯いてしまい、それを見た零は頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

零「……はやて?」

 

 

はやて「……だって…そう言わんと……零君また無茶ばっかするやんか……あのライダー達との戦いの時みたいに……」

 

 

零「…………」

 

 

顔を少しだけ上げて不安げな表情で見つめてくるはやての言葉に零は口を閉ざしてしまう。はやてが言っているのは、おそらくスバル達を助けに向かおうとした途中で襲い掛かってきた謎のライダー達と戦い、その中ではやてを庇おうした時の事だろう。

 

 

零「……あれはどちらかと言えば、お前の方が無茶しただろう?ライダーにもならずに生身で飛び出してくるなんて…」

 

 

はやて「それは……反省しとるよ……二人を助ける事ばかり考えて飛び出して、逆に迷惑掛けてしもうたし……せやけど……せやけどな……」

 

 

はやてはそこで一度言葉を区切ると、おもむろに零の手を両手で包みながら再び語り出す。

 

 

はやて「―――怖いんよ……こんな無茶ばっかして……零君が……またあの時みたいにいなくなるんやないかってっ……」

 

 

零「…ッ!」

 

 

切なげに呟いたはやてに零は思わず息を拒み、あの時の事件が脳裏に過ぎった。数年前に起きた…あの忌まわしきロストロギア事件。彼はその事件で命を落とし掛け、彼女は傷付いた彼を見て涙を流した。彼にとっても彼女にとっても、あの時の事件は決して忘れる事の出来ない記憶となっている。

 

 

はやて「あの頃からずっと……私は零君が無茶するのが怖く感じるようになったんや……私だけやない……なのはちゃんもフェイトちゃん達も、きっと同じ事を思ってると思う……」

 

 

零「…………」

 

 

あの時の事件は、アースラのクルー達にとって二度と忘れられない事件となった。その中にいた彼女もその事件でなんらかのトラウマを心に抱え込んでしまっている。そのトラウマがなんなのかまでは彼には分からないが、それが過去の自分が生み出してしまった業の一つであることは分かっている。

 

 

零「……あの頃の俺は必死だったんだ……もうあんな思いをしないように……誰も失わないように……力を求めて……求め続けた……誰も守れない自分が許せなかったから……だから」

 

 

はやて「うん、分かっとる……零君が、私の為にリインフォースを留める方法を探してくれたり……なのはちゃんがあの事件で大怪我を負った事に負い目を感じとった事も……」

 

 

零「…………」

 

 

はやて「…せけど…それは零君が責任を感じる必要なんてあらへん。前にも言うたと思うけど…それは私等の責任でもあるんや…私等のせいで、零君を其処まで追い詰めてしもうたんやから……」

 

 

零「…ッ?!それは違う!俺はただっ…!」

 

 

罪悪感を感じさせるはやての言葉を慌てて否定する零だが、その後にどんな言葉を紡げばいいか分からず黙り込んでしまう。否定したくても、実際過去の自分のあの行動がはやてやなのは達に関係しているのは事実だ。だからハッキリと否定することは出来ない。否定してしまえば、それは彼女達の為に強くなろうとした自分がしてきた事も、彼女達を守ろうとした自分をも否定する事になるのだから…。頭の中で必死に言葉を探す零を見たはやては一瞬辛そうな表情を見せ、零の頬に手を差し延べた。

 

 

零「!…はやて…?」

 

 

はやて「……私等は別に、零君に何も求めてへん……ただ一緒にいてくれるだけでええんや……たったそれだけで…ええんやから…」

 

 

切なげな表情で小さく呟きながら、はやては俯かせていた顔を上げ零の顔をジッと見つめていく。

 

 

はやて「(……零君は自分では壊れんけど……私たちのせいで壊してしまう事はありえへん話やないんや…せやから私が……私達が傍におらんと……そやないと……)」

 

 

零「……はやて?」

 

 

はやて「(そやないと零君は……いつか必ず壊れてしまう……)」

 

 

鳴滝の言葉を信じている訳ではない。だがもしも、彼が本当に世界の破壊者になってしまうとしたら……それは自分達が原因でそうなってしまうかもしれない。だから決して、彼から離れてはいけない。彼を隣で支えていけるのは……自分達しかいないのだから。

 

 

零「……おい、どうした?いきなり黙ったりして?」

 

 

はやて「……ううん、何もあらへんよ♪さ、はよ下に戻ろう?早く次の世界に向かわんとあかんしな♪」

 

 

零「は?…あ、あぁ」

 

 

だから今は彼を信じ、彼を支えて共に歩んでいこう。それだけがきっと……この旅の中で自分達が彼にしてあげられる事だと思うから。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・郊外の山―

 

 

 

ベリアル『ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!』

 

 

その頃、先程ディエンド達とクラウンが戦っていた郊外の山の付近にある荒地では、ディケイド達との戦いで逃げたはずのベリアルがふらつきながら歩いていた。

 

 

ベリアル『…ハァ…ハァ…思いの力?人の思いだぁ?ふざけやがってっ…そんなものが闇の力に敵うはずがねぇだろうがっ…!』

 

 

先程の戦いでディケイドが言っていた言葉を思い出し何度もそれを否定しながら歩み進めていくベリアル。そして暫くすると、ベリアルは破片のような物が落ちている場所……粉々に砕け散った天の石の破片がある場所に着き、破片を全て手に取っていく。

 

 

ベリアル『…コイツかぁ…こんだけ無惨に砕け散ってもまだ微かに力は残ってるみてぇだな……クククッ…こんだけありゃ十分か…』

 

 

微かに白色の光を放つ破片に不気味な笑みを浮かべていき、ベリアルはそのまま破片を全て"喰らって"いってしまう。そして……

 

 

―…ドオォンッ!!!!―

 

 

破片を全て喰らった瞬間、ベリアルの身体から凄まじいエネルギーが溢れ出し、ベリアルが立っていた地面はその衝撃でひび割れ沈没してしまったのだった。

 

 

ベリアル『ハアァァァァ…次会った時には教えてやるよ破壊者…闇の力は絶対だ!人の思いなんてものは、それの前じゃ無力だって事をなぁっ!!』

 

 

高らかに叫ぶとベリアルは背後から出現した歪みの壁を通り抜けて消えていってしまい、後に残されたのはベリアルから噴出した力の影響で無惨な姿となった大地だけであった……

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

―風麺―

 

 

 

やまと「……それで、奴らは結局そのまま帰ったわけ?」

 

 

「まあな…どうやらアイツ等が任務内容にはない行動をした事でNo.3が出てきたらしい。ディケイドに深手を負わせちまえば任務に支障が出る……そう判断してあの三人を引かせたんだろう」

 

 

ベル「成る程……完全にはメンバー達を統率しきれてはいないって訳ね、あちら側のボスは」

 

 

夕暮れ時となった海鳴市の街中に存在する風麺と呼ばれる一台の屋台。そこでは今、クラウンとの戦いを終えたベルとやまと、そしてエクスプロードに変身して謎のライダー達と戦っていた青年が難しげ表情で会話をする姿があった。

 

 

やまと「……まぁ取りあえず、この話はここまでにしましょう。いい加減アレとの戦いや山登りとかの疲れて喋るのもしんどくなってきたし」

 

 

ベル「……それもそうね。こんな話いつまで続けても埒が明かないし……取りあえず何か食べましょうか?大輝!ラーメン三つお願い――――――大輝?」

 

 

取りあえず今は何か食べようと大輝にラーメンを注文するベルだが、大輝からは何の返事も返って来ない。ベルはそれに疑問符を浮かべながらテーブルから立ち上がり、屋台の奥を覗いてみると……

 

 

 

 

大輝「俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝俺のお宝―――――」

 

 

ルミナ「し、師匠?!どうしたんですか?!…ハッ!まさか悪い物食べちゃったんですか?!お腹痛いんですか?!バ〇ァリン飲みますか?!�」

 

 

ベル「…………………」

 

 

……屋台の陰で体育座りをしながらブツブツと何かを呟く大輝と、そんな大輝に何故かバファ〇ンを差し出しながら涙目になっているルミナの姿があったのだった。

 

 

やまと「……ベル、まさかまだ?」

 

 

ベル「…えぇ、まだあの石のこと引きずってるみたいね……でもまさか此処まで落ち込むなんて、よっぽどあの石が欲しかったって事かしら?」

 

 

「んー、そーいやさっき調べたんだけどさ?あの天の石とかいうの、どうやらこのセイガの世界にしか存在しないレアなお宝だったらしいぜ?他の平行世界には存在しないお宝らしいし、だからそんなに落ち込んでんじゃねぇの?」

 

 

青年が軽くそう説明するとベルとやまとは納得したかのような声を漏らしながら頷いていく。それ程のお宝だったなら彼があそこまで落ち込むのも納得出来る。しかもそれ程レアなお宝を自分の手で壊してしまったとなればそうなっても仕方がないだろう。そう思ったベルは一度深い溜め息を吐くと屋台の奥へと足を踏み入れ、大輝を宥めるルミナを退けて大輝に耳打ちしていく。

 

 

ベル「―――――――――――、―――――――?」

 

 

大輝「――ッ?!……マジ?」

 

 

ベル「マジよ、だからさっさと元気出してラーメン作んなさい。さもないと……今の約束はなかったことにするわよ?」

 

 

大輝「!!!」

 

 

妖艶な笑みを浮かべながらベルがそう呟くと、大輝は直ぐさま立ち上がり目にも止まらぬスピードでラーメン作りを始めていった。

 

 

ルミナ「し、師匠?!…ス、スゴイですよベルさんっ!一体どうやって師匠を復活させたんですか?!」

 

 

ベル「クス、別に大した事はしてないわ。ただすこ~し…アイツに魔法の呪文を掛けてやっただけよ」

 

 

ルミナ「Σ魔法っ?!ベルさん魔法使いだったんですか?!凄いです!憧れちゃいます!!」

 

 

ベルの言葉にルミナは尊敬の眼差しをベルに向けながら興奮している。そんなルミナの反応に満足したのかベルは笑みを浮かべながらテーブルへと戻っていき、そんな光景にやまとと青年は呆れたように深い溜め息を吐いていたのであった。

 

 

 

 

そしてそれから数十分後、三人とルミナは完全に機嫌を取り戻した大輝の作ったラーメンを食した後、軽い雑談をしてからそれぞれの世界へと戻っていったのであった……

 

 

 



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第十三章/セイガの世界⑭

 

 

―光写真館―

 

 

 

そしてそれから数十分後。自室ではやてからの治療を受けた零ははやてと共に皆が待つ部屋へと戻り、先程現像したこの世界で撮った写真をテーブルに並べていた。すると優矢は、その中にあった一枚の写真を手に取り眺めていく。

 

 

優矢「おっ!これなんか良く撮れてるじゃんか?」

 

 

栄次郎「う~ん、笑顔を守る戦士かぁ……確かに中々良い写真だね」

 

 

零「あぁ、この世界はアイツに任せておけば大丈夫だろう…」

 

 

零は優矢と栄次郎が絶賛する写真……笑顔でサムズアップする練次の写真を見つめながら微笑し、栄次郎の煎れてくれた珈琲を飲んでいく。

 

 

はやて「……そういえば、結局あのライダー達とイリシットは何もんやったんやろ?」

 

 

なのは「?それって確か…はやてちゃん達の前に現れたっていう謎のライダー達のこと?」

 

 

はやての一言で零達の視線がはやてへと集まり、その中で事情を知る零はあの時現れたオーガ達の事を思い出していく。突然自分達の前に現れ、圧倒的な兵力と力を見せて自分と竜胆を追い詰めた彼等は何者だったのか?あの時はスバル達の助けに向かう事で大して考えていなかったが、彼等は一体何の目的で自分達の前に現れたのだろうか?一度考えたら、次々に絶える事なく疑問が生まれてくる。

 

 

零「…アイツ等が何者かは分からないが、今考えてもそれが分かる訳じゃない。それについては別の機会で考えた方がいいだろう」

 

 

今の所、あのライダー達については何も情報はない。そんな中で考えても答えが見つかる訳ではないのだから、その件については取りあえず保留しようと決めながら零はカメラの手入れを始める。そんな時……

 

 

「邪魔するぞ~」

 

 

零「………ん?」

 

 

部屋の扉が不意に開き、其処から見覚えのある黒髪の青年が部屋の中へと入ってきた。その青年とは……

 

 

幸助「――よぉ零、今回も無事に役目を終えたみたいだな?」

 

 

零「ッ!幸助?!」

 

 

そう、その青年とはこの前電王の世界で鬼の一族との戦いに手を貸してもらった青年…天満幸助だったのである。

 

 

零「……今回は何の用だ?また修行か…?」

 

 

幸助「いいや、今日は花見の誘いに来ただけだ」

 

 

フェイト「花見?」

 

 

若干警戒気味の零の隣でフェイトが疑問げな声を漏らし、幸助はそれに軽く答えながらポケットから招待状を取り出し零に差し出した。

 

 

幸助「近々バンデニウムで俺らの主催の花見が開かれるから、こうして招待状を持ってきたわけだ。因みに七柱神に苦労人同盟、他の世界のメンバー達も集まる予定だからな」

 

 

零「…成る程な、大体わかった」

 

 

幸助「ちなみに大輝は強制と伝えとけ」

 

 

零「オッケー(…アイツも強制ということは…まさかまた良からぬことを考えているのか?…いや、ただの考え過ぎかもな)」

 

 

他のメンバーもくるのなら今回ばかりは何も起きないだろう。そう思いながら、零は幸助の手から招待状を受け取っていく…………後からその考えが甘かったと後悔する事も知らずに。

 

 

幸助「んじゃ、場所と日時は今言ったとおりだから、絶対に来いよ?」

 

 

零「あぁ、分かったよ(…というか、行かなかったらまた弄られる可能性が高いから行くしかないんだが�)」

 

 

零は念押ししてくる幸助を見て内心苦笑を浮かべ、なのは達も同じことを考えているのか、若干苦笑いを浮かべながら部屋を後にする幸助に向けて手を振っていた。

 

 

セッテ「…用件だけ言って帰ってしまいましたね…」

 

 

なのは「まぁ、仕方ないんじゃないかな?多分別世界の人達にも招待状を渡しに向かったんだろうし」

 

 

セイン「それに、あの人はああいう人だしね~�」

 

 

用件だけを伝えて去ってしまった幸助に一同は苦笑しながら会話をし、零は竜胆からもらったチラシと幸助から受け取った招待状を手に取って眺めていく。

 

 

零「祭と花見の誘いが一気に来るとはな………まぁ、最近ノンビリする事も余りなかったし、たまには羽を伸ばして休むのもいいかもしれないな」

 

 

だが何故か妙に嫌な予感もするのだが……楽しみにしているのは違いはないので余り気にしないでおこう。そう思いながら零がチラシと招待状をテーブルに置いた瞬間……

 

 

―ガチャッ!ガララララララララッ……パアァァァァァァァアンッ!―

 

 

また背景ロールが独りでに下り、新たな絵が現れ別の世界に移ったのであった。その世界とは……

 

 

フェイト「あれ?これって確か……」

 

 

ギンガ「…green cafe?」

 

 

零「…キャンセラー…祐輔の世界か?」

 

 

新たに現れた絵に描かれていたのは、とある街の中に建つ一軒の喫茶店だけが描かれているという物だったのだ。果たして、この世界で零達を待つ試練とは…?

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―とある平行世界―

 

 

 

真也「一体どうつもりだよ!終夜っ!?」

 

 

終夜「………………」

 

 

とある世界の建造物内にある玉座の間。その中には、先程の戦闘中に帰還命令を出されたことに納得が出来ないと叫ぶ真也と、冷静な態度で玉座に座る終夜。そして真也の後ろに立つ一人の青年……先程幽汽に変身していた裕司の姿があったのである。

 

 

真也「まだ任務を完遂してなかったのにいきなり帰還命令なんて!しかもあんなピエロ野郎達に後の任務を引き継がせるなんてよ……一体何考えてんだ!?」

 

 

裕司「口を慎め真也っ!誰に向かって物を言っている!」

 

 

真也「テメェは黙ってろ!俺をアイツと話してんだ!…さあ…どういう事なのかさっさと説明しろよ!!」

 

 

怒りを抑え切れず裕司の言葉にも耳を貸さないで終夜に怒鳴る真也だが、終夜は落ち着いた態度のまま口を開いていく。

 

 

終夜「…真也、俺が与えた今回の任務の内容を言ってみろ」

 

 

真也「ハァ…?何だよいきなり?」

 

 

終夜「いいから、言ってみろ」

 

 

いきなり本題と外れた内容を出してきた終夜に意味が分からないといった表情を浮かべる真也だが、取りあえず言われた通りに渋々と答えていく。

 

 

真也「…黒月零の持つ因子の覚醒率を調べ、目標にセイガの世界での役目を完遂させること…だろ?」

 

 

終夜「そうだ、俺は確かにそう言った。そしてもう一度聞くが……俺はお前に、一度でも因子の覚醒率を上げてこいと命令を出したか?」

 

 

真也「…………あっ…」

 

 

冷たい視線を送りながら言い放った終夜の言葉に真也は「しまった…」とバツが悪そうな表情をしながら顔を逸らしてしまう。

 

 

終夜「任務内容以外の勝手な行動…更には重要な目標に深手を負わせ任務に障害を齎そうとした事……これは立派な命令違反だ」

 

 

真也「ッ!け、けど俺は!後々の任務の為にそうした方が良いと思ったから!」

 

 

終夜「……それで?お前のその勝手な行動で覚醒率は少しでも上がったのか?」

 

 

真也「うっ……い…いや……それは……」

 

 

更に鋭い視線を向けてくる終夜に真也は言葉が詰まって何も言えなくなり、真也の背後に立つ裕司も小さく溜め息を吐いていた。そして終夜は、玉座から少し身を乗り出しながら口を開く。

 

 

終夜「今回の任務の一任はお前に任せていた。当然、処罰はお前が受けなければならない…」

 

 

真也「ッ…………」

 

 

終夜「命令に背いた貴様にはそれなりの処罰を与える…………が、今回は特別にチャンスをやろう」

 

 

真也「…?チャンス…?」

 

 

終夜「そう…お前にはもう一度ある世界に向かってもらう。其処での任務を果たせたのなら、今回の件は不問にしてやろう」

 

 

そう言うと、終夜は何処からか一枚の写真を取り出しそれを真也に向けて投げ渡した。

 

 

真也「ッ!……コイツは、確か…?」

 

 

終夜「阿南祐輔。現無効化の神であり、仮面ライダーキャンセラーの装着者でもある男だ」

 

 

終夜は写真に写った青年…祐輔の顔写真を見る真也に向けて軽く説明していき、それを聞いた真也は写真を軽く揺らせながら聞き返していく。

 

 

真也「んで、この無効化の神さんがどーしたってんだよ?」

 

 

終夜「…その男の持つ無効化の能力は実に使えるものだ。そいつをこの揺り篭に生体ユニットとして組み込めば、揺り篭は魔力を持つ攻撃を全て無効化する能力を身に付ける事が出来る…だから―――」

 

 

真也「―――成る程。ようはコイツを捕獲してくればいいって訳か……捕獲方法は何でもいいのか?」

 

 

終夜「あぁ、だが油断するなよ?相手は仮にも神なのだ……一筋縄ではいかない相手に違いない」

 

 

真也「へぇ……なら、手加減はいらねぇよな?」

 

 

終夜「……どうせ死にはしないのだ。手足を引きちぎろうが、両目を潰そうがどんな手を使っても構わん。捕獲が無理ならデータだけ取ってきても良し…ついでに奴の因子の覚醒率を上げてくれば更に良しだ」

 

 

任務内容を詳しく説明していくと、真也は口元を緩めながら終夜から背を向け、その場から歩き出し何処かへと向かっていった。

 

 

裕司「……いいのですか?アイツにあのような任務を任せても……」

 

 

終夜「…成果は大して期待しとらんさ。だが、今回の任務で奴も少しは成長してくるかもしれん……それを期待して待てばいいさ」

 

 

裕司からの問い掛けにそう答えると終夜は再び玉座に背を付け足を組んでいく。そんな時……

 

 

 

 

『――全く、お前にも以外と甘い所があるんだな……終夜?』

 

 

 

 

裕司「…ッ?!」

 

 

終夜「――ヴェクタスか…もう任務を終えたのか?」

 

 

玉座の間の入口から現れた一人の仮面の人物……赤と黒のアンダースーツに薄い装甲、顔を覆い隠すように身につけた黒い仮面が特徴の戦士……『ヴェクタス』と呼ばれたライダーが終夜の座る玉座の前まで歩み寄っていく。

 

 

ヴェクタス『あの程度の任務に掛ける時間なんてないさ。そんな事より、あんな奴等に奴のおもりをさせても時間の無駄だぞ…?』

 

 

終夜「…確かに色々と問題の多い奴らだが、アイツ等の実力は本物だ。それに俺自身もアイツ等を信頼している……問題はないさ」

 

 

ヴェクタス『フンッ、またお得いの仲良しごっこか?くだらないなぁ……』

 

 

ヴェクタスは鼻で笑いながらそう言うと、終夜から背を向けてその場から去ろうとする。

 

 

裕司「待てヴェクタスッ!何処に行くつもりだ?!」

 

 

ヴェクタス『…あんな奴らに任せっきりにしておくのもいい加減退屈だ。俺が奴を直々に鍛えてやる……』

 

 

裕司「なっ?!ま、待てヴェクタス…「いいだろう」…ッ?!終夜?!」

 

 

歩き去っていくヴェクタスを引き留めようとする裕司。だがそれを終夜が横から止めに入り、終夜は口の端を吊り上げながら語る。

 

 

終夜「奴はお前の『器』となる存在だ……品定めをするぐらいは許してやらんとな」

 

 

ヴェクタス『…フッ…相変わらず話が分かる奴だ…』

 

 

終夜の言葉に満足したのか、ヴェクタスは不気味な笑みを漏らしながら目の前に黒い歪みの壁を発生させ、それを通り抜けて何処かへと消えていってしまった。

 

 

裕司「ッ…終夜、本当にいいのですか?!アイツを向かわせるのはまだ早いんじゃ…?!」

 

 

終夜「……遅かれ早かれ顔を合わせる事になるんだ。零がアイツを倒せたのなら因子を更に進化させられる。仮に倒されるようなら、黒月零の実力は其処までのものだった、というだけだ」

 

 

ヴェクタスについて全く気に留めた様子もなく、寧ろ面白い物を見つけたような表情を浮かべる終夜。そんな終夜の様子を見た裕司もこれ以上言っても無駄だと思ったのか、深い溜め息を吐きながら玉座の間を後にした。

 

 

終夜「…旅を続け…自分の役目を果たし続けろ、零。それが因子の覚醒に繋がり…俺達の…悲願を果たす事に繋がるのだから」

 

 

一人玉座の間に残った終夜は瞳を閉じながら静かに呟き、玉座の間に再び静寂が訪れたのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―謎の建造物内・麻衣の自室―

 

 

 

その頃、終夜達が根城する謎の建造物内にある一つの個室。其の部屋に置かれたベットの上では、任務から帰った麻衣が力無くベットの上に座り込んでいた。

 

 

麻衣「…………はやて…」

 

 

喋る気力すらないのか、麻衣は覇気のない声ではやての名を呟くと首に下ろしていた白い羽の装飾が入ったペンダントを手に取り、ペンダントを開いて中に入っていた一枚の写真を眺めていく。

 

 

麻衣「……ごめんねはやて……私達はもう……あの頃には戻れないの……だからもう……」

 

 

何処か悲しみに満ちた声でそう呟き、麻衣は無表情を浮かべたまま天井を見上げていた。そして麻衣が持つペンダントの中に入った一枚の写真、それには……

 

 

 

 

――三人は、ずっと友達♪

 

 

 

 

と大きく堂々とした文字が書かれ、無表情だが何処かビックリしたというような表情を浮かべる小学生位の青髪の少女、めんどくさそうな表情を浮かべる漆黒の髪をした中学生の少年。そして二人の肩と首に手を回し、笑顔を浮かべる茶髪の中学生位の少女の姿が写し出されていた……。

 

 

 

 

第十三章/セイガの世界END

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界

 

 

セイガの世界から次なる世界にやって来た零達一行。次の世界に到着した零達は早速写真館から外へと出ていき、此処から見える海鳴市の町並みを眺めていた。

 

 

零「それにしても、まさか次の世界が祐輔の世界とはな…こればっかりは予想外だった」

 

 

なのは「だよね、この世界は平和そのものの筈なんだけど…」

 

 

フェイト「うん。確かこの世界じゃ怪人はいないはずなのに……やっぱり、この世界にも滅びの現象が?」

 

 

シグナム「それについては分からんが……それより…その格好は一体何なんだ、テスタロッサ?」

 

 

何故怪人もいない筈の平穏な世界に訪れたのか?その事について深く考える零となのはとフェイトだが、シグナムはフェイトの格好を見て訝しげな表情を浮かべていた。何故なら零とフェイト、更になのはとはやての格好はエプロンを身につけた制服のような姿になっていたからである。

 

 

なのは「これって確か……Green Cafeの制服だよね?」

 

 

はやて「そやな…せやけどどういう事やろ?怪人もいない世界で、喫茶店の制服……こないな格好でなにをしたらええんや?」

 

 

ウェンディ「うーん…あ、もしかしてあれッスかね?そのgreen cafeでケーキとか作って皆で食べればいいとか♪」

 

 

ティアナ「そんなわけないでしょ、バカ�」

 

 

制服姿に変わった自分達の格好を見てイマイチ役割が分からないなのはとはやてだが、気の抜けた予想を口にするウェンディにティアナが呆れたように溜め息を吐いた。だが……

 

 

零「……いや、その可能性は否定出来ないぞ」

 

 

スバル「…へ?どういう事ですか?」

 

 

顎に手を添えながら呟いた零の言葉にスバルが疑問げに聞き返し、その問いを受けた零はゆっくりと口を開いて語り出した。

 

 

零「さっきも言った通り、この世界に怪人と呼べる敵は存在しない。つまり戦うべき敵がこの世界には存在しないという事だ。だから今回は平和的にこの世界のライダーである祐輔の手助け…つまり仕事を手伝い、green cafeを大繁盛させればいいと言う結論になる」

 

 

すずか「そ、そうなの……かな?�」

 

 

ディート「なんだか、酷く色々と掛け離れているような気が……�」

 

 

零「……じゃなきゃ他に考えられないだろう?こんな平穏な世界で何をすればいいのかも分からないし……まあ取りあえず、祐輔の所に行って訳を説明するぞ。話はそれからだ」

 

 

なのは「え?…ま、待ってよ零君っ!�」

 

 

とにかく祐輔に事情を説明しなければと、一人で勝手に海鳴市の街へと歩き出した零を追ってなのはとフェイトとはやても慌てて駆け出し、残ったメンバーはそんな三人の後ろ姿を見て思わず苦笑いを漏らしていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―喫茶店・Green Cafe―

 

 

 

祐輔「――――で、何故か次の世界が僕の世界だった……と�」

 

 

零「あぁ…何故か、な�」

 

 

数時間後。あの後、街へと出た零達は祐輔が経営するGreen Cafeに訪れ、副店長である祐輔と祐輔の彼女である"ミナ"、ウェンディ(祐輔)を交えて事情を説明していた。そして一通りの事情を説明した後、やはりというべきか祐輔達もかなり戸惑っていた。

 

 

ミナ「けど、どうして私達の世界なんですか?こっちの世界じゃ特に大した異変なんて起きてないし…怪人だっていませんよ?」

 

 

なのは「うん。実際の所、私達もそこが気になってるんだよね…」

 

 

フェイト「零はこの世界での役目がGreen Cafeを繁盛させる事って言ってたけど……本当にそうなのかちょっと微妙なんだ�」

 

 

ウェンディ(祐輔)「うーん……でももしかしたら、零の言ってる事の方が合ってるかもしれないッスよ?前にツカサ達がこの世界に来た時も特別大した事件は起きなかったし。今回零達が来たのも別に物騒な事件が起きるから、って訳じゃないかもしれないッスよ?」

 

 

はやて「ふむ…ちゅう事は零君の意見は正しい、って事になるんかなぁ?」

 

 

祐輔が煎れてくれた珈琲を口にしながらそれぞれ話し合う女性陣。それを隣で聞きながら、零と祐輔も話を促していく。

 

 

祐輔「それで、零さん達はこれからどうするんですか?」

 

 

零「…そうだな…出来れば暫く此処で働かせて欲しい。特に何も起きないだろうが、もしかしたらって事もあるかもしれない……それに異変が起きてすぐ動く為にも、写真館よりこっちの方が良さそうだしな」

 

 

正直なところ、平穏なこの世界にそんな大それた異変が起きるとは思えないが、同時に戦いとは掛け離れたこの世界にどんな異変が起きるのかも想像付かない。もしも異変が起きて、その異変が今までの非にもならない災厄であるなら後手に回るのは余り好ましくない。その時に備えて、すぐに現場に駆け付けられるような場所に身を置いておくのが一番だろうと思ったのである。写真館は街の外れにある公園の前にあるし……

 

 

祐輔「成る程……分かりました。そういう事情なら構いませんよ」

 

 

零「すまない、迷惑掛けるな…」

 

 

祐輔「いいですよ気にしなくて、もう慣れっこですし�それにもし事件が起きるなら……その時は僕も手伝います」

 

 

零「!いや、お前まで戦う必要はないんだぞ?異変を解決するのが俺達の役目な訳だし、お前まで巻き込むのは……」

 

 

祐輔「大丈夫ですよ。僕は一応この世界のライダーなワケだし、実戦経験だって十分あります。それに自分がいる世界が危険なことになってるのに、それを見てみぬ振りなんて出来ませんから」

 

 

零「…………」

 

 

力強く、迷いを感じない瞳で真剣に答える祐輔。その瞳を見た零は心の中でどうしたものかと困りながら頬を掻く。彼がこういう目をした時には何を言おうが梃でも動かない。付き合いが長いせいか、それだけで彼の事が分かってしまうようになったらしい。全く……こんな頑固な若者なんて今の世の中そうそういないぞ?などと年寄り臭いことを考えながら深い溜め息を吐いた後……

 

 

零「――一応言っとくが、あんまり無理はしないでくれよ?お前にもしものことがあれば、巻き込んだ俺がお前の母親に何をされるか分からん…」

 

 

祐輔「アハハハ�はい、分かりました」

 

 

祐輔の母親……"阿南佐知"に言葉では言えないような悲惨な目に合っている自分の姿を思い浮かべ、表情を青くする零を見て苦笑を浮かべながら頷く祐輔。こうして、零となのはとフェイトとはやての四人は異変が起こるまでの間Green Cafeでバイトする事になったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・ビルの屋上―

 

 

 

海鳴市に並ぶ市街地。その中に存在する一つのビルの屋上では、黒いスーツを身に纏った二人の青年と一人の少女が街を見下ろす姿があった。その中にいる青年の一人と少女…真也と麻衣は目を深く瞑りながら口を開く。

 

 

真也「北東にでかい気が三つ……一つはロストロギアか?もう一つは零として……もう一つがターゲットの反応だな。そしてその周りに小さな反応が複数、か」

 

 

麻衣「……他にもある……此処からずっと南に比べ物にならない気が一つ……」

 

 

真也「ん?……おいおい、まさかデータにあったターゲットの母親か?また化け物染みた気を�……まぁ、アレは動きを警戒しておけば特に問題は起きねぇだろ、多分」

 

 

そんな会話をしながら二人はゆっくりと瞳を開いていくが、真也はフェンスに腰を掛けながらケーキを頬張る青年の姿を見つけ「なっ…」と一瞬驚きながら青年に声を掛ける。

 

 

真也「おいコラ京平!お前そんなところでなにやってんだよ?!」

 

 

恭平「あ~……あえ?なにって、見て分かんないか?ケーキ食ってんの♪」

 

 

真也に怒鳴られた青年……恭平と呼ばれた青年はヘラヘラと笑いながら手に持っているケーキを真也に見せそのままケーキを口の中に放り込み、そんな恭平の姿に真也は額に青スジを浮かべながら怒鳴り出した。

 

 

真也「んなもん見りゃ分かんだよっ!俺が言いてぇのはなんでまだ此処にいるのかって聞いてんだ!お前にはさっき別行動を取るように指示を出しただろ?!」

 

 

恭平「……んむ?んー……そうだっけ?」

 

 

覚えてないなぁ?と小首を傾げながらケーキを食べ続ける恭平。それを見た真也はワナワナと拳を震わせ、隣でそれを見ていた麻衣はどうでもいいのかまったくの別方向を見つめていた。

 

 

真也「こ、この野郎ぉ……とにかく!いつまでも呑気にケーキなんか食ってねぇで、さっさと例の喫茶店に行ってターゲット見張って来い!!」

 

 

恭平「うぇ~?もう行かなきゃダメかぁ?……ならせめてコレ全部平らげてから―――」

 

 

真也「い・い・か・ら!!さっさと行けぇ!!!�」

 

 

恭平「……ウィ~ッス」

 

 

未だ呑気なことを口にする恭平に痺れを切らした真也がガーッ!と物凄い剣幕で怒鳴りつけ、それを聞いた恭平は不満げに口を尖らせながら渋々と立ち上がり、背後から現れた歪みの壁を通って何処かへと消えていった。

 

 

真也「……はぁ…ホント、アイツと話してると色んな意味で疲れてくる�」

 

 

麻衣「……真也……ドンマイ?」

 

 

真也「…そんな可愛そうな物をみるような目で見ないでくれ…�」

 

 

何時もは無表情なのにこんな時だけ哀れむような目で見つめてくる麻衣に、真也は本気で泣きたい気持ちになる。だがそんな隙もないのですぐに動かなければと思い、真也は思考を切り替えて麻衣と共に動き出そうとする。とそんな時……

 

 

 

 

―ザアァァァァァ……!―

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

突如真也と麻衣の周りが黒い歪みに包まれ、それを見た二人は思わず後退りしながら身構えていく。そして歪みが徐々に薄れて消えていくと、歪みの中から黒いライダー……ヴェクタスがゆっくりと二人の目の前に姿を現したのである。

 

 

真也「ッ?!お、お前…?!」

 

 

麻衣「ヴェクタス…?!」

 

 

ヴェクタス『―――よぉ、暫くぶりだなぁ二人共?』

 

 

突如姿を現したヴェクタスを見て真也と麻衣は驚愕の表情を浮かべながら後退り、ヴェクタスはそんな二人の反応を他所に軽く挨拶しながら二人へと歩み寄っていく。

 

 

真也「な、何でお前がこの世界にいんだよ?!確か別の任務の為に他の平行世界に向かってたんじゃ…?!」

 

 

ヴェクタス『そっちは既に終えている……だからこうして此処に来たのさ。奴を鍛える為にな』

 

 

麻衣「奴って……まさか、零を?」

 

 

未だ驚愕の表情を浮かべる真也の隣で麻衣が落ち着いた表情で聞き返し、ヴェクタスはそれに肯定の意味を込めて頷いた。

 

 

ヴェクタス『お前等のやり方は甘すぎる……そんな事じゃ、いつまで経っても奴の因子を覚醒させるなんて無理な話だ。だから、こうして俺が出て来たんだよ』

 

 

真也「…ッ!言ってくれるじゃねぇかよ……そこまで言うなら、お前は奴の因子を覚醒させられるんだろうな?!」

 

 

ヴェクタス『さあなぁ?それはアイツ次第だ。まぁ…そういうワケだから俺は奴と戦わせてもらう。お前はせいぜい手柄を立てて終夜の機嫌を取ることだな』

 

 

真也「クッ…!」

 

 

ヴェクタスは見下すような口調でそう言うと二人から背を向けて歩き出し、真也はそんなヴェクタスを睨みつけながら悔しげな表情を浮かべる。がその時、ヴェクタスは何かを思い出したかのように立ち止まり二人の方へと振り返った。

 

 

ヴェクタス『あぁそれと、お前達のターゲットの母親…阿南佐知とか言ったか?もしアイツと戦う時には手を出すなよ?あの女は俺が相手をする』

 

 

真也「はぁ?……まさかとは思うが、てめぇ…あんな化け物を倒すとか言い出すんじゃねぇだろうな?」

 

 

阿南佐知とは自分が戦う。そんな事を言い出したヴェクタスに訝しげな顔をしながら問い掛ける真也だが、それを聞いたヴェクタスはクツクツと仮面の奥で笑っていた。

 

 

ヴェクタス『ククク…倒すだと?馬鹿な事を言う……あれだけの力を持った人間を無に帰すなど、もったいないじゃないか?』

 

 

真也「……なんだと?」

 

 

ヴェクタス『あの女は人間とは思えない強靭な身体と神をも圧倒する力を持っている……しかも中々面白い力を秘めているようだ……"使い捨て"にするのももったいないぐらいに……とは思わないかぁ?』

 

 

愉快、実に愉快だと言わんばかりに不気味な笑い声を漏らすヴェクタス。そんな彼から放たれる薄気味悪い雰囲気を肌で感じ、真也と麻衣は額から冷や汗を流していた。

 

 

真也「……またそれかよ。お前のソレもいい加減趣味がわりぃぜ……てか、その前にあの女に消されねぇように気をつけねぇとやべぇだろ?」

 

 

ヴェクタス『ハッハハッ!そいつは面白そうだなぁ?だがどんなに殺されようが……"死ぬのは俺ではなくコイツ等だ"。"ストック"は充分にあるから安心しな……』

 

 

ヴェクタスは自分の胸を叩きながら真也にそう言うと再び二人から背を向けて歩き出し、目の前に出現した黒い歪みの壁を通って何処かへと消えてしまった。そしてそれを見た真也は溜め息を吐きながらヴェクタスが消えた場所から目を逸らし、海鳴市の街を見下ろしていく。

 

 

真也「何であんなのが組織に居んだろうな……今でも納得出来ねぇぞ、俺」

 

 

麻衣「……仕方ないよ……ヴェクタスがいないと……揺り篭が真の力を発揮した時困るんだから……」

 

 

真也「そりゃそうだけどさ……俺、多分どんなに長く付き合ってもアイツだけは好きになれねぇわ……」

 

 

何だか酷く疲れたと言うように真也は何度目か分からない溜め息を吐き、麻衣はそんな真也に向けて哀れみの目を向けていたのだった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界①

 

 

―喫茶店・Green Cafe―

 

 

その後、Green Cafeでバイトを始めた零達はそれぞれの仕事を受け持って自分達の作業を行っていき、客足の絶えない喫茶店の仕事を数時間熟した。そして休憩時間、作業を一通り終えた零は店内のテーブルの一つに座って休んでいた。

 

 

零「ふぅ……思ったより疲れたな……」

 

 

テーブルの上に顔を俯せ伏せながら疲れた声を漏らす零。因みに現在なのは達はケーキ作りの為に必要な材料を切らしたという事で、ミナとウェンディ(祐輔)と共に商店街へと買い出しに行ってる。その間に少しでも体力を回復させておこうと零はこうして休んでいるのだが、なんだか客のいない店内にポツンと一人で居ても妙に寂しい気がする。そんな事を思っていると、店の奥から祐輔が現れ零の座るテーブルの向かいに腰を下ろした。

 

 

零「ん?お…よぉ、祐輔。お疲れさん」

 

 

祐輔「お疲れ様、どうでした?仕事の方は?」

 

 

零「むぅ…やっぱり、久々の喫茶店の仕事は少し骨に来るな……俺ももう年か?」

 

 

祐輔「いや、零さんもまだ十代でしょ�」

 

 

肩を軽く叩きながらそう呟いた零に祐輔は思わず苦笑を漏らしてしまう。そして零は今度は片腕を軽く回しながら何と無しに店内を見回すと、カウンターの近くの壁に張り付けられた写真に気付いた。

 

 

零「…?あれは……」

 

 

祐輔「え?……あぁ、あの写真ですか?あれは随分前に撮った家族写真ですよ」

 

 

零「ほぉ?そういえば皆で話している時にもああいうのが視界の端に映ってた気がするが……成る程、家族写真か」

 

 

そう言いながら零はテーブルからゆっくり立ち上がるとカウンターの近くの壁に張り付けられた写真に近付き間近で眺めていく。幼い祐輔と佐知とこの世界のなのはが一緒に笑って撮った写真や、祐輔と佐知と佐知の妹である"真知"が一緒に写った写真、そして六歳の頃の祐輔が父親である"阿南和彦"に肩車される写真など様々な物がある。

 

 

零「………いい写真だな。家族の良さとか、暖かみとか…そういうのを感じる」

 

 

祐輔「んな大袈裟な�そういう零さんにだって、家族写真の一枚や二枚は持ってるでしょ?」

 

 

零「…家族…あぁ、高町家の皆で撮った写真とか色々あるな―――――何枚かは破り捨ててしまいたい物があったが…」

 

 

祐輔(と、遠い目をしてる…�何かあったのかな�)

 

 

何処か遠くを見るような目でフッと笑う零を見て祐輔は思わず苦笑してしまい、零はすぐに気を取り直して再び写真へと目を向ける。

 

 

零「まあ俺の方はともかく……こういう写真はいい物だな……みんな良い顔している」

 

 

祐輔「そんなまじまじと見られながら言われると照れるけどね�……まぁでも、確かにコレは全部大切な思い出だよ。こういう家族や仲間との思い出が沢山出来て積み重なっていったから、今の僕がある訳だし」

 

 

零「成る程…(家族や仲間の思い出が積み重なって……か)」

 

 

零は祐輔の言葉に耳を傾けながら自分が高町家に拾われた時のこと、そしてそれからなのは達と共に作ってきた思い出を思い出し少し苦笑を漏らす。が、そこで零はある疑問を思い浮かべていく。

 

 

零「(……そういえば……俺の家族ってどんな人達なんだ?母親…父親…兄弟…そんなのが俺にもいたのか?)」

 

 

もしそうなら、自分の家族は今どうしているんだろうか?阿南家の家族が写った写真を見ながらそんな疑問が生まれ、零は少し複雑な心境になってしまう。するとそんな時、祐輔は何かを思い出したかのように店の奥へと戻っていき、暫くした後何やら古めかしそうなカメラを持って零の下へと戻ってきた。

 

 

零「?何だ、そのカメラ?」

 

 

祐輔「これ、父さんが昔使ってたカメラなんですよ。父さん……零さんみたいに写真撮るの好きでしたからね。良くこのカメラで僕や母さんを撮ってくれてたんです」

 

 

零「ほぉ…阿南家の思い出のカメラ、って事か」

 

 

ならこの写真のほとんども祐輔の父親が撮った写真ということなのだろう。零はそう思いながら祐輔の手からカメラを受け取ってそれを眺めていき、感心の声を漏らしていく。

 

 

零「ほう、良いカメラだな…しかもかなりの年代物のようだし、お前の親父さんも中々やるじゃないか?」

 

 

祐輔「いや、別にそんな凄かったってわけじゃないですよ?�ただ人並みに写真を撮るのが上手かったってだけですから�」

 

 

零「それでもだ。こんな年代物のカメラを使ってお前達の写真をずっと撮っていたんだから、お前の親父さんも中々凄いぞ?さすがの俺でもコレを扱え切れるかどうか……」

 

 

そう言って零は興味深そうにまじまじとカメラを眺めていき、そんな零の姿を見た祐輔はホントに写真とかカメラが好きなんだと苦笑いを浮かべた後、何か思い付いたように口を開いた。

 

 

祐輔「…もし良かったら、ちょっとそのカメラ使ってみます?」

 

 

零「…ッ!いいのか?このカメラ、大事なカメラなんだろう?」

 

 

祐輔「構いませんよ。正直父さんが死んでからあまり使っていなかったし、このまま使わないで放って埃塗れにするのもなんだか悪いですから。それに零さんならカメラの扱いとか大丈夫そうだし、貸しても問題ないかなって思ったから」

 

 

腰に手を当てながら明るげに言う祐輔に零はカメラを見つめながらむーっ、と唸り声を上げている。そして暫く考えた末……

 

 

零「………なら、ちょっとだけその辺の風景を撮って来てもいいか?」

 

 

祐輔「えぇ、いいですよ」

 

 

零「すまない…直ぐに終えて帰ってくる!」

 

 

零はそう言うと意気揚々と店を出て此処から一番近い海鳴臨海公園へと向かって走っていった。そんな零を見送った祐輔は苦笑すると、時間潰しにテーブルでも吹こうかと椅子から立ち上がりふきんを取りに行こうとする。が、祐輔はそこである事を思い出しピタリと止まってしまった。

 

 

祐輔「……そういえば、母さん遅いなぁ?朝出ていった時には昼前に戻ってくるとか行ってたのに…?」

 

 

ふと自分の母親である佐知が朝早く出ていった時の事を思い出して祐輔が時間を確認すると、時計は1時半を刺しており既に昼を迎えてしまっている。こんなに遅いとなると何か仕事関係に関する事件でも起きたか……それとももしや……母の身に何か起きたとか?

 

 

祐輔「―――って、母さんに限ってそれは流石にないか�んー、でも一体何処で何してるんだろ?……まだ時間はあるんだし、たまには探しにでもいきますかな」

 

 

仕事関係の事ならばそれを確認してから邪魔をしないように帰ればいいし、別に何もないならそれはそれでいいだろう。などと考えながら祐輔はエプロンを外して畳みカウンターに置くと皆が帰ってきた時に心配させないようにとメモを書いていく。そしてメモを書き残すと店の外へと出て準備中の看板を置き、街へと足を向けて歩き出していった。そしてその陰では……

 

 

 

 

 

 

恭平「…テステステ~ス。こちらNo.8、今度はターゲットが店の外へと出てきたみたいでーす」

 

 

真也『よし…ならそのままターゲットを追え。零の方はヴェクタスに任せてあるから、俺達はこのまま作戦通りに動くぞ』

 

 

恭平「りょ~か~い」

 

 

Green Cafeの向かいにあるビルの影で祐輔が店から出たのを確認した恭平が真也と通信を交わし、そのままビルの影から飛び出し気配を消しながら祐輔を追跡していく。

 

 

恭平「……ところでさぁ?あんま任務とは関係ないんだけど…ヴェクタスの奴はこのままほっといても良いのか?」

 

 

真也『?何だよいきなり?てかどういう意味だ…?』

 

 

恭平「んー…なんつーか、ビミョーに嫌な予感がするんだよねぇ~。良く分かんないだけどさ~」

 

 

祐輔を見失わないよう一定の距離を保ちながら緊張感のない調子で話す恭平だが、真也は恭平のその言葉に電話越しに険しい表情を浮かべていた。

 

 

恭平「アイツって時々何しでかすか分かんねぇ時あんじゃん?だから、このままほっといてもいいのかなぁ~ってさ」

 

 

真也『……確かに俺もアイツのことは信用はしてねぇけど、アイツにだって何か考えがあるんだろ。俺等みたいな凡人には分かんねぇ考えが』

 

 

目の前を歩く祐輔が曲がり角を曲がる。恭平もそれを追って曲がり角を曲がり、再び一定の距離を保ちながら真也の声に耳を傾ける。

 

 

真也『ターゲットの母親を狙うのは多分…因子を覚醒させた零と対等にやり合うためとかじゃないか?もし奴が力を使って暴走でもすれば洒落になんねぇし……それを止める為にあの女が持つ『戦神』の力が必要なだけかもしんねぇだろ』

 

 

恭平「うーん……ホントにそうなのかねぇ~?」

 

 

真也『そうだよきっと……アイツだって一応は俺等の仲間なんだし、俺等の世界の住人じゃない部外者に任務以外の事で関わるわけにはいかねぇって分かってんだろ』

 

 

恭平「ううむ……けどそれ言うならさ?お前と麻衣とあの変態医者が戦ったケイオスとか爆裂者はどうなるワケ?あの二人も一応他の世界の部外者になんだろ?」

 

 

真也『あれは必然的にそうなっただけだっての…ケイオスは零と一緒にいたからどうしてもアイツの敵である俺達と戦う事になるし、爆裂者は俺らの邪魔をしたから戦う事になった。要は任務の邪魔になる奴は問答無用で排除する……たったそれだけの話だ』

 

 

説明するのもめんどくさいと溜め息を吐く真也の言葉に、恭平は祐輔の姿を見失わないように後を付けながら成る程ねぇ、と納得したように答える。

 

 

真也『とにかくだ。アイツだってあの女の事使い捨てとか言ってたし、任務を終えれば直ぐあの女は解放される筈だろ。そうなればターゲットを捕獲する絶好のチャンスが消える。だからその間にこっちはこっちの任務を終わらせる、いらん心配はするな。いいな?』

 

 

恭平「……りょ~かい」

 

 

真也の言葉に軽い調子で答えると恭平は通信を切って祐輔の後を追っていくが、その顔は先程までとは違い真面目な顔付きとなっていた。

 

 

恭平「……やっぱヴェクタスの事は警戒しておいた方が良さそうだな……あんだけの力を持った奴が終夜の下にいるのも怪しいし……取りあえず今は、奴に怪しまれないように動くしかねえか……」

 

 

真剣な口調でそう呟くと、恭平は一度祐輔から視線を逸らして青空を仰ぎ、すぐにまた祐輔へと目を戻して歩き出していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・高層ビル屋上―

 

 

 

佐知「…………………」

 

 

同時刻。海鳴市内にあるとある高層ビルの屋上では、真剣な表情で海鳴市の空を見上げる阿南 佐知の姿があった。

 

 

佐知「……やっぱり妙ね……零達がこの世界に来る前に強い気配がしたと思えばすぐ消えた。しかもその内の一つは危険な感じがしたし……何だか今日は雲行きが怪しいわね……」

 

 

空を仰ぎながら真剣な口調で呟く佐知。そして今度は自身の身体を見下ろすと、拳を握って開くと同じ動作を繰り返していく。

 

 

佐知「取りあえず……何があっても祐輔達だけは守らないとね。もし祐輔達の身に危害を加えるような奴が現れたら……ソイツは絶対に生かして帰さない。死よりも苦しい地獄を味わせて―――」

 

 

 

 

 

 

『――へぇ、随分頼もしいじゃないか?さすがはあの無効化の神の母親ってところかぁ』

 

 

 

 

 

 

佐知「……ッ?!」

 

 

背後から聞こえてきた嘲笑が交じった声。それを聞いた佐知はすぐさま背後へと振り返りながら懐に忍ばせておいた刀を取り出し構えていく。その刀が向けられる先には一人の仮面の戦士……先程真也と麻衣と別れたヴェクタスがいつの間にか悠然と立っていた。

 

 

ヴェクタス『おぉー、怖い怖い。初対面の人間にいきなり刀を突き付けるなんてとんだ挨拶だなぁ?』

 

 

佐知「………貴方、何者?その仮面と姿から察するに………貴方も仮面ライダーかしら?」

 

 

わざとらしく怖がった態度を見せるヴェクタスだが、佐知は警戒を解かずに刀を突き付けたままヴェクタスにそう問い掛け、その問いを受けたヴェクタスはわざとらしい態度を止めて怪しげな笑みを浮かべていく。

 

 

ヴェクタス『クククッ……大した洞察力じゃないか?ごっ察しの通り俺もライダーだ……まぁ、気軽にヴェクタスとでも呼んでくれ』

 

 

佐知「ヴェクタス……ね。それで、そのライダーさんが私に何の用?こっちは今忙しいんだけど?」

 

 

刀を突き付けたままめんどくさそうに言う佐知だが、ヴェクタスはそれに答えずただ佐知の身体を足元から頭の部分まで舐めずるように眺めていく。

 

 

ヴェクタス『…やはりな…思った通り素晴らしい身体をしてる。その強靭な肉体と巨大な力……ククッ……『器』を手に入れるまでの代わりとしては充分だ……』

 

 

佐知「代わり?……何の話か知らないけど、用がないなら帰らせてもらうわよ?こっちだって暇じゃないんだから」

 

 

不気味に笑うヴェクタスに向けてそう言うと佐知は苛立った表情を浮かべながら刀を下ろして歩き出し、ヴェクタスの横を通り屋上を後にしようとする。だが…

 

 

ヴェクタス『…それは困るな……まだこっちの用件は終わってないんだから』

 

 

―ブオォォォォォォォオンッ!!―

 

 

佐知「…ッ!」

 

 

ヴェクタスの呟きと共に突如佐知の目の前に黒い歪みの壁が出現し、更に二人の周りを歪みが包囲して逃げ道をなくしてしまった。

 

 

佐知「…何の真似かしら、コレは?」

 

 

ヴェクタス『言っただろ?まだこっちの用件は終わっていない……勝手に帰ってもらわれたら困るんだよ』

 

 

佐知「…ハァ…私も言ったはずよ?こっちは今忙しいってね。これ以上邪魔するなら、いい加減私も怒るわよ…」

 

 

少し声音を低くさせながら怒気を感じさせる佐知だが、それを見たヴェクタスは怯える様子もなく不気味な笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ。

 

 

ヴェクタス『そんなに帰りたいなら帰らせてやってもいいぞ…………まぁ、お前の息子である阿南 祐輔がどうなっても良いならな?』

 

 

佐知「ッ!!」

 

 

不意に出された祐輔の名を聞いた佐知は一瞬息を呑み、そんな佐知の様子に気付いたヴェクタスは予想通りと口元を歪ませながら更に続ける。

 

 

ヴェクタス『このまま去るならそれでもいい、俺も今度はお前の息子を狙うだけだからな。奴の力はお前のその力に劣るが、それでも神の力を秘めている……品としては少し下がるが、この際どちらでもいいだろ。息子がどうなってもいいと言うなら、俺は別に構わんぞ…?』

 

 

佐知「………………」

 

 

クツクツと笑い声を漏らしながら佐知の背中を見つめて語るヴェクタス。そしてその一方で、佐知はとてつもない殺気のオーラを放ちながらゆっくりと振り返り、懐から二振りの刀を取り出しヴェクタスを睨みつけてきた。

 

 

佐知「……気が変わったわ。貴方みたいな害虫はこのまま生かしておくのは間違いのようね……私の前に現れた事、後悔させてあげるわ……」

 

 

凍りつく、それこそ正に凍えるような殺意を秘めた瞳をしながら佐知は二振りの刀をヴェクタスに向けて構えていく。そんな佐知の姿を見たヴェクタスは―――

 

 

ヴェクタス『……そうだ……もっとだ……もっと怒れ……もっと憎め……そうすれば……クククッ……』

 

 

――ただ不気味に、不気味な笑みを浮かべながら誰にも聞こえない声でそう呟き、佐知を見据えていたのであった……

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界②

 

 

 

―ガギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!!ズガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハッ!!やるじゃないか?!オマエ本当に人間かぁ?!』

 

 

佐知「よく言われるけど、れっきとした人間よ!!」

 

 

戦闘が始まってから一時間弱が経った頃。ヴェクタスは自身の愛剣であるデトラインペルで佐知へと何度も斬りかかり、佐知は余裕を持ってそれを回避しながらヴェクタスの隙を突いて刀を振りかざす。だが、ヴェクタスは佐知の刀を剣で軽く弾きながら一気に間合いを詰めて剣を振りかざし、佐知は瞬時に身体全体を後ろへと持っていくように飛び退きながら剣を回避して距離を作っていく。

 

 

ヴェクタス『ハッ!そんな逃げてばかりで、本当に俺をやれるとでも思ってるのかぁ!?』

 

 

ヴェクタスは佐知の行動に鼻で笑うと佐知との距離を詰めていき、佐知はすぐに左手の刀を投げ捨てコートから一丁の銃を取り出してヴェクタスを迎え撃った。

 

 

―ダンダンダンダンダンダンッ!!ガギィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

ヴェクタス『へぇ、そんなものまで扱えるのか?』

 

 

佐知「えぇ…主に刀しか扱わないから、こういうのはあんまり使わないんだけど……ねっ!!」

 

 

―ガアァンッ!!ギィンッ!!ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

刀と剣をせめぎ合わせていた二人は一旦距離を離したと共に再びぶつかり合い、激しく火花を散らせながら激突していく。その中で、佐知はコートの中から札のようなモノを貼付けた数本の短刀を取り出しヴェクタスに向けて投げつけた。

 

 

ヴェクタス『ハッ、そんなものでぇ!!』

 

 

が、ヴェクタスは鼻で笑いながら剣を一振りしただけで短刀を全て弾き落とし、再び佐知へと突っ込もうと腰を屈める。しかし……

 

 

―…………ボッ!!―

 

 

ヴェクタス『…ッ?!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ヴェクタスが弾き落とした短刀に貼り付けられていた札に灯が灯り、それと同時に短刀が全て爆発してヴェクタスを飲み込んでいったのだった。そしてそれを見た佐知は乱れた息を整えながら剣を地面に突き刺し、先程使った銃の弾を交換していく。

 

 

佐知「(……今の起爆札はなのはちゃんのシールドすら軽く壊せる特色なもの……これで少しはダメージを与えられた筈……今の持ち合わせで何処まで通じるかはわからないけど……このまま押し切る事が出来れば倒せない相手じゃない!)」

 

 

弾の交換を終えると共に剣を抜き取り、左手に剣、右手に銃を構えながらヴェクタスが消えていった爆煙を睨みつける佐知。さすがにライダーとは言え、今のをもろに受けたからには無事で済むとは思えない。倒せてはいないだろうが、あれだけの爆発に巻き込まれたからにはなにかしらの傷を負ったはず。それならあの力を使わずとも倒せるだろう。そう考えた佐知は敵の姿が見えれば直ぐに動けるよう腰を徐々に屈めていく。だが……

 

 

 

 

―…………………………………ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

 

 

佐知「…ッ?!」

 

 

爆煙の中心から突如衝撃波が巻き起こり、佐知は衝撃波と共に流れてくる爆煙により視界を遮られ硬直してしまう。そして徐々に視界が戻って爆煙も晴れていくと、目の前には黒いオーラを身に包んだヴェクタスが静かに宙に浮いていた。しかもその身体には目立った外傷も何もない……全くの無傷だった。

 

 

佐知「なっ……無傷……ですって……?」

 

 

ヴェクタス『……ククッ…アッハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!やはり面白いなお前!!?この力を使うのは終夜以外でお前が初めてだよ!!!アッハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

目を見開いて驚愕する佐知を他所に、狂った笑い声をあげながら身体をのけ反るヴェクタス。そして……

 

 

ヴェクタス『クククッ……この力を使わせた褒美だ。お前も……闇に墜ちろォッ!!!!』

 

 

ヴェクタスは身体から黒いオーラを勢いよく噴出させながら自身の足元にある影へと飛び込み、影の中へと姿を消していった。

 

 

佐知「?!影に……潜った?!」

 

 

影の中へと姿を消していったたヴェクタスを見て佐知は思わず身を乗り出すが、その直後……

 

 

―……………ブォンッ……ザバアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ヴェクタス『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

佐知『…ッ?!!』

 

 

突如佐知の足元にある影からヴェクタスが姿を現して飛び出し、下から剣を突き出して佐知へと不意打ちを仕掛けたのであった。

 

 

佐知「クッ!!そんなことでぇ!!」

 

 

だが、佐知は直ぐに身体の重心を後ろへと傾けてヴェクタスの剣をギリギリ回避し、態勢を整えて右手の刀でヴェクタスの身体を勢いよく横一文字に斬り払っていった。しかし……

 

 

―ザバアァァッ!!!………………ブォンッ…―

 

 

佐知「?!…消え…た?」

 

 

そう、確かな歯ごたえを感じたにも関わらず、佐知の刀がヴェクタスの身体を真っ二つした瞬間、ヴェクタスは固まったように動かなくなったかと思えば幻のように消え去ったのである。その瞬間……

 

 

『……見切ったッ!!』

 

 

佐知「?!」

 

 

背後から聞こえた声と確かに感じ取った気配。それを感じ取った佐知は直感に任せてその場から飛び退くと、何もない上空からヴェクタスが降下しながら現れ、佐知がいた場所に勢いよく剣を振り下ろして地面を沈没させてしまった。

 

 

佐知「ッ!!残念だったわね!その首っ……もらった!!」

 

 

そしてその攻撃を回避した佐知は直ぐさま刀を握り直し、地を蹴って未だ剣を振り下ろしたままのヴェクタスへと走りヴェクタスの首を刈るように刀を斜めに振るった。が……

 

 

―ズバアァァッ!!!………………ブォンッ―

 

 

佐知「…?!また幻影?!」

 

 

佐知が斬ったヴェクタスは再び幻となって消え、またも歯ごたえを感じて倒したと思った佐知はそれを見て一瞬動きを止めてしまった、その時……

 

 

 

 

『―――闇龍拳(あんりゅうけん)』

 

 

 

 

佐知「?!クッ!!」

 

 

再び背後から聞こえた声。それを聞いた佐知はすぐに片手に持つ銃を投げ捨て、振り返りながら刀を盾にするように構えたその瞬間……

 

 

―ドッグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

佐知「グゥッ!!」

 

 

不意に襲い掛かった巨大な衝撃と共にビリビリと感じる両手の痺れ。刀と、刀とぶつかり合った何かが衝突したと同時に佐知の身体を衝撃波が突き抜け、思わず後退りをする佐知。そして刀とぶつかり合ったモノの正体は……紅い炎を纏ったただの拳。その拳を突き出した本人……先程佐知の刀で消え去ったハズのヴェクタスは、動きを止めた佐知へと更に追撃を仕掛けた。

 

 

ヴェクタス『ダアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!―

 

 

佐知「クッ!グッ!!!」

 

 

目にも見えない速さ…それこそ正に音速を越えた速さで次々に拳を繰り出すヴェクタス。あらゆる武道を身につけ戦い慣れした彼女ならこのぐらいのスピードの拳は直感だけで問題なく刀で防げるが、後手に回ったせいか反撃する間もなく、ただ隙もなく襲い掛かる拳を防ぐのが手一杯であった。そして……

 

 

 

 

―………………ピシッ……パキィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

佐知「…ッ!?」

 

 

最早何十もの拳を防いだかわからなくなった頃、佐知の持つ刀はヴェクタスの拳を受け止めたと同時に音を立てて砕け散った。それを見た佐知は直ぐさま折れた刀から手を離しコートから新たな武器を取り出そうとするが、ヴェクタスはそんな隙は与えまいと無防備になった佐知の腹目掛けて拳を放った。

 

 

ヴェクタス『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァ!!!!!!―

 

 

佐知「ぐっ―――ごふっ!」

 

 

武器を取り出す暇も、回避する暇すら与えない。ヴェクタスは神速を越えた拳の嵐を佐知の腹へと問答無用で打ち込んで吹き飛ばし、ヴェクタスはそのまま吹っ飛ばされる佐知へと突っ込みながら両手で玉を包み込むような形を作ると、その中に黒い炎の玉を形成し、そして……

 

 

ヴェクタス『―――黒龍咬(こくりゅうこう)……』

 

 

―シュンッ…………ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

佐知「がはっ……!!」

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ヴェクタスは佐知との間合いを一瞬で詰めると同時に両手で包んだ炎の玉を佐知の腹部へと押し付け、玉は風船のように膨らんで弾けると共に爆発し、佐知はその衝撃で後方へと更に吹き飛び屋上の壁に叩き付けられていった。

 

 

佐知「ぐっ―――こふっ…」

 

 

壁に叩き付けられズルズルと地面に座り込むと同時に佐知は口から吐血し、顔を俯かせたまま動かなくなってしまう。そしてそんな佐知へとゆっくりと歩み寄るヴェクタスだが、何故か不機嫌な口調で語り出した。

 

 

ヴェクタス『……おい、いつまでそうして手加減してるつもりだ?こっちはお前の力を確かめたくて戦っているっていうのに、お前がそんなんじゃ意味がないだろう?さっさと見せろよ…『戦神』の力を!!!』

 

 

佐知「……………………」

 

 

顔を俯かせる佐知に向けて怒りを露わにして叫ぶヴェクタス。その声がちゃんと届いていたのか、佐知はめんどくさいといった感じに溜め息を吐いて口から流れる血を拭き取り、おもむろに立ち上がっていく。

 

 

佐知「……ハァ、やっぱり気付いてたわけか……私が手加減してたの」

 

 

ヴェクタス『当然だろ…?さぁ、早く俺に見せろ!!『戦神』の力を!!!』

 

 

佐知「ふぅ……何でそんなにあの力にこだわってるかは知らないけど、いいわ。手加減してたとは言え、私に此処までのダメージを与えたんだから……ご褒美として見せてあげる。貴方が見たがっていた、『戦神』の力を……」

 

 

前髪を掻き分けながらそう言うと、佐知は一歩前に出ながらヴェクタスを軽く睨みつける。

 

 

佐知「先に言っとくけど、力を出すのは少しだけよ。余り出し過ぎるとこっちも疲れるんだから、文句は言わないでよ?」

 

 

ヴェクタス『……フンッ、良いだろう。此処まで来たからには、この際どちらでもいい……早く見せろ』

 

 

佐知「そう……なら、後で後悔しても知らないわよ?この力……冥土の土産に見せてあげる!!」

 

 

足幅を開き、瞳をつぶりながら全身に力を込めていく佐知。するとその直後、佐知の身体からオーラのようなモノが徐々に溢れ出していき、佐知とヴェクタスの周りを包み込んでいった。

 

 

―…………ゾワァッ!!―

 

 

ヴェクタス『ッ?!(これは……これが戦神の力!!ほんの一部しか発揮していないというのにこれだけの力を……ククッ……やはり素晴らしい……この力さえあれば!!)』

 

 

全身に突き刺さる寒気を感じながらも内心では歓喜に震えるヴェクタス。そして、身体からオーラを放ちながら佐知が深く息を吐いたその瞬間……

 

 

 

 

―…………フッ…―

 

 

 

 

ヴェクタス『ッ!?―ドグオォンッ!!!―ガッ?!』

 

 

佐知の姿がそよ風のように消えた瞬間、ヴェクタスの顎に突然衝撃が走り上空へと吹き飛ばされていったのである。そしてその衝撃を与えた人物……いつの間にかヴェクタスが立っていた場所でアッパー気味に腕を上げていた佐知はコートの中から一本の長剣を取り出し、上空に投げ出されたヴェクタスに向かって勢いよく跳んだ。

 

 

佐知「でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!!」

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!ドオォンッ!!ドオォンッ!!ズバアァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ヴェクタス『グガッ!!?グッ!!ガハァッ!!!』

 

 

次々に繰り出される打撃と剣撃の嵐。放たれる拳、蹴り上げられる足、疾風の如く振られる剣。正に一種の演舞にも見えるその光景を第三者が見れば間違いなく見とれるものだろう。その嵐を受け続けるヴェクタスも身体の至る所を破損させながら更に上空へと上がり、佐知も一瞬でヴェクタスの真上へと移動しコートを勢いよく広げる。その瞬間佐知のコートの中から無数のナイフが一斉に放たれてヴェクタスへと降り注ぎ、そして……

 

 

―ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!!!!!!!!!―

 

 

ヴェクタス『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーっっ!!!!!!』

 

 

雨の如く降り注いだナイフはヴェクタスの身体に突き刺さっていき、ヴェクタスはナイフの雨を受けながら地上へと叩き付けられる様に落下していったのだった。そしてそれを見た佐知はゆっくりと地上へと降りていき、肩で息をしながら仰向けに倒れるヴェクタスへと近寄っていく。

 

 

佐知「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……終わった…みたいね……」

 

 

ヴェクタス『――――――――――――』

 

 

息を乱しながらも、佐知はヴェクタスの姿を見て安心したように気を抜いた。赤い液体の海の中に沈む斬り傷が目立つボディ、腕や足に胴体などに突き刺さり、更に人間にとって致命傷である心臓がある左胸に複数突き刺さるナイフ。更には仮面部分にナイフが深く刺さっている辺り、ヴェクタスは間違いなく―――死んでいた。

 

 

佐知「ハァ…ハァ…それにしても、ちょっと力を使っただけでこんなに疲れるなんてね……いい加減コレに慣れる特訓でもした方がいいかしら?」

 

 

地面に倒れる死体にすら目も向けず、額から汗を流しながらパタパタと手で顔を扇ぐ佐知。そしてそのまま死体から背を向けて歩き出すが、一度足を止めて首だけを動かし仰向けに倒れるヴェクタスだったモノに目を向ける。

 

 

佐知「……貴方が何をしたかったのか知らないけど、私は貴方を殺した事に後悔はないわ。私の家族に手を出そうとするモノはすべて排除する……それが、私の決めた生き方なんだからね」

 

 

冷たい風に当たりながらも静かに呟く佐知だが、既に彼には聞こえていないだろう。そう思いながら佐知は再び歩き出し、今度こそこの場を去ろうと歩き出していった。が…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――ククッ……アハッ……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!』

 

 

 

 

佐知「…?!!?!」

 

 

背後から聞こえたのは聞こえてくるはずのない狂った笑い声。……ありえない。佐知の脳裏にその五文字が浮かび、ゆっくりと背後へ振り返っていった。其処には……

 

 

 

 

 

 

ヴェクタス『クククッ……ハハッ……アハハハハッ……アハハハハハッ……』

 

 

 

 

 

……体中にナイフを突き刺したまま、血を流しながら立ち上がって笑うヴェクタスの姿があったのだった。

 

 

佐知「なっ……あ……」

 

 

ヴェクタス『…いぃ…いぃじゃないかぁ……その力ぁ……その身体ぁぁぁぁ……アハッ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!』

 

 

目の前に映ったそのありえない光景に佐知もただ言葉を失うばかりだった。

体中に、それも心臓や頭部などにナイフを刺したまま平然と立って笑うヴェクタスのその姿は余りにも異常過ぎる。何故生きている?何故あれだけの姿になりながらも生きて平然と笑ってる?脳裏に疑問を浮かべながら佐知が硬直する中、ヴェクタスは不気味に笑いながら身体に刺さるナイフをすべて抜き取っていく。すると、ヴェクタスが抜いたナイフが刺さっていた箇所は赤い火花を散らせながら徐々に復元されていた。

 

 

佐知「?!傷が消えて……まさか、貴方も不老不死っ?!」

 

 

ヴェクタス『――あ?ふろうふしぃ?……あぁ、あの永遠の命と若さがって奴か……残念だがそんな大それたモノじゃないさ。まあ…似たようなものではあるがなぁ…』

 

 

気を取り直した佐知からの問いにそう答えながらヴェクタスは最後の一本を抜き取り、完全に身体を復元させたヴェクタスはゴキッと首を鳴らしながら佐知へと歩み寄っていく。

 

 

ヴェクタス『そんな事より、やはり俺の目は間違っていなかったようだなぁ……ククククッ……お前は合格だよ……阿南佐知ィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!』

 

 

佐知『!!クッ!!』

 

 

ヴェクタスは歓喜の叫びを上げながら佐知へと勢いよく走り出し、佐知は直ぐにコートの中から残ったナイフを全て取り出しヴェクタスへと投げつける。が……

 

 

―ザシュザシュザシュザュシザュシザュシザシュザシュザシュザシュッ!!!!―

 

 

ヴェクタス『アハハハハハハハハハハハハハッ!!!ほらどうしたぁ?!もっと殺せぇっ!!殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロセぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!!!』

 

 

佐知「クッ?!こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

胴体、肩、腕、そして急所である心臓や頭部にナイフが刺されているにも関わらず、狂った笑みを止めずに佐知へと拳を突き出すヴェクタス。佐知はそんな彼の姿に戸惑いながらも身体を屈めて拳をかわすと、ヴェクタスに向けて右拳を叩き込んだ。しかし……

 

 

―ブォン…ゴボォッ!!―

 

 

佐知「…ッ!なっ?!」

 

 

なんと、佐知の拳はヴェクタスの身体に触れると共に飲み込まれてしまい、そのまま腕ごと飲み込まれヴェクタスの身体から抜けなくなってしまったのである。そしてヴェクタスは自身の身体に飲み込んだ佐知の腕を逃がさないように左手で抑えながら不気味に笑う。

 

 

ヴェクタス『捕まえたぁ…もう逃がしはしないッ!!』

 

 

佐知「クッ!このっ…離しなさいッ!!」

 

 

片腕を飲まれた佐知は残った左腕でヴェクタスを全力で殴り付けるが、その左腕もヴェクタスの身体に触れると共に飲み込まれてしまい、それを見た佐知はすぐに両腕を抜こうとするも両腕はまるで泥に捕われたかのようにビクともしない。そしてヴェクタスは捕らえた左腕を右手で抑えると共に、身体から闇を溢れさせ佐知と自身の周りを包み込ませていく。

 

 

佐知「ッ!?これは…貴方、一体何を!?」

 

 

ヴェクタス『フッ……俺ではどうやってもお前には勝てない……だが、俺は最初からお前に勝つ気なんてなかったんだよ……俺の目的はただ一つ―――』

 

 

そう呟きながらヴェクタスは佐知の首を掴み、そのまま佐知の顔を自身に近付けさせて不気味に語る。

 

 

ヴェクタス『―――お前の身体に秘められたその戦神の力を手に入れる事…それが俺の目的だったのさ』

 

 

佐知「グッ!戦神のっ……力をっ…?」

 

 

ヴェクタス『そう…だからその為に、お前の中の闇を浮き出させる必要があった……何故なら――』

 

 

其処で一度言葉を区切るとヴェクタスは佐知の胸部に目を向けると、佐知の胸に浮かぶ小さな闇の灯に向けて右手を振り上げていき、そして……

 

 

―……ドシュウッ!!!―

 

 

佐知「ッ?!!アッ…なっ…?!」

 

 

ヴェクタス『―――お前のその闇が、我が器となるのだからなぁ!!』

 

 

ヴェクタスが佐知の胸に浮かぶ闇に向けて右手を突き出すとヴェクタスの右手は佐知の胸の中へと飲まれていき、それと同時に周りに発生した闇が佐知とヴェクタスを包み込んでいった。そして闇が薄れて徐々に消えていくと……

 

 

 

 

 

 

 

 

佐知『…………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

其処にはヴェクタスの姿はなく、瞳を閉じて顔を俯かせる佐知の姿だけがあったのである。そして佐知は俯かせていた顔を上げながらゆっくりと瞳を開いていくが、その瞳は怪しく輝く金色の瞳となっており、佐知は自分の身体を見下ろすと口の端を吊り上げ不気味な笑みを浮かべていく。

 

 

佐知『……クッ……ククッ……やっとだ……やっと手に入れた!戦神の力を秘めた身体を!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

不気味な笑い声を上げながら佐知……否、佐知と融合したヴェクタスは両手を広げながら歓喜に震え、クツクツと笑みを浮かべたまま腰にまがまがしい形状をした赤黒いベルトを出現させていく。そして……

 

 

佐知?『変っ……身ッ!』

 

 

『DARKNES FORM!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時に佐知?の身体を闇が包み込んでいった。そして闇が弾けるように消え去ると、佐知?は赤と黒のアンダースーツと黒い仮面を身につけたライダー……ヴェクタスへと変身したのだった。そして変身を終えたヴェクタスは右手に剣を出現させて歩き出し、ビルの屋上から海鳴市の街を見下ろしていく。

 

 

ヴェクタス『……南北の方に真也のターゲットの気と恭平の気が二つ、その先に真也と麻衣の反応。そして東の方に――零の反応か。ククッ……ちょうどいい、新しい身体の調節も兼ねて奴を鍛えてやるかぁ……』

 

 

ゴキッと首の骨を鳴らしながら不気味に笑い、ヴェクタスは前方から現れた黒い歪みの壁を通り何処かへと消え去っていった。そしてヴェクタスが去ったビルの屋上には、二人が戦った後と佐知が使っていた武器が無造作に転がっていたのであった……

 

 



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番外編/平行する世界。疾風と切り札の物語

 

 

 

街の至る所に風車が建てられた街。零達一行が訪れたライダー少女Wの世界と全く同じ光景が広がるこの街……風都。この街は今、ある事件が勃発して混乱に陥ている最中であった。それは……

 

 

―ドゴオォッ!ドゴオォッ!ドゴオォォォォォォオンッ!!―

 

 

『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!?』

 

 

街の大通りの中で宙に舞う無数の車達。中にはビルに激突して大破するものや、道路の真ん中に落ち爆発を起こすものなどがあった。その場に居合わせた者達も混乱状態になりながら逃げようと必死になる中、道路の奥には深紅色の鎧甲冑のような姿をした怪人が破壊活動を行なっていた。

 

 

『…消えろっ…全部燃えて消え去ってしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!!!』

 

 

怪人は身体から深紅の炎を噴き出させて街を焼き払い、身体に炎を纏わせたまま更に街の奥へと進んでいく。そんな時……

 

 

 

 

「――其処のドーパント、待ちな」

 

 

『……ッ!』

 

 

燃え上がる大通りの奥から一人の影が現れ、ドーパントと呼ばれる怪人の前に立ち塞がった。WIND SCALEと刻まれた黒い帽子を被り、スタイリッシュなスーツを着込んだ青年。青年は何処かカッコつけた態度を見せながら怪人へと歩み寄っていく。

 

 

「これ以上街で暴れ回るのは、止めてもらおうか?」

 

 

『ッ!何だお前は?!』

 

 

突然現れた青年にドーパントは苛立ちを浮かべながら問い掛け、青年は頭に被る帽子に手を添えながらその問いに答える。

 

 

「俺はこの街を愛するただの探偵さ。この街を泣かせる者は誰だって許せねぇ。例えそれが……力に溺れた悪魔だろうと、な?」

 

 

俯き加減にドーパントを見据えながら青年はそう強く答え、ドーパントはそんな青年から何かを感じたのか少し後退りしてしまう。のだが……

 

 

「(ヨッシャー!今度こそ決まったぜハードボイルドによ!今の俺ってめちゃくちゃイケてるだろ?!)」

 

 

……当の本人である青年は心の中で今の自分の台詞に痺れていた。しかしそんな青年の心境も知らずドーパントは身体から深紅の炎を波のように噴き出し青年へと襲い掛かり、青年はすぐに地面を転がるようにそれを回避するとポケットから機械のような物を取り出していく。

 

 

「チッ、やっぱもうメモリの力に飲まれてるみてぇだな……ならお前を止めてやる。俺が……いや、"俺達"が!」

 

 

青年はそう言って持っていた機械を腹部に当てると、機械はドライバーのようにベルトとなって腰に巻き付いていき、青年は更にコートから一本の黒いメモリースティックのような物……翔子が持つのと同じガイアメモリを取り出し、ボタンの部分を人差し指で押していく。

 

 

『JOKER!』

 

 

「いくぜ、"アイリス"!」

 

 

ガイアメモリから電子音声が鳴り響くと、青年は誰かに向けて呼び掛けながらガイアメモリを構えていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同時刻、とある事務所の隠し部屋……

 

 

 

「―――検索完了、今回も中々興味深い内容だったわ…」

 

 

薄暗い部屋で文字がびっしりと書かれたボードの前に立つ分厚い本を持った凜とした顔付きの美少女。白銀のロングヘアーの髪を靡かせながら少女はその場から歩き出し、部屋に備え付けられたソファーに腰を降ろそうとした。その時……

 

 

―シュウゥゥゥゥ…パアァンッ!―

 

 

「ッ!…どうやら、出番が来たみたいね」

 

 

少女の腹部に突然先程青年が装着したベルトと同じ物が現れ、少女は急な出来事に一瞬驚きながらもすぐに事態を把握し、ポケットから緑色のガイアメモリを取り出してボタンを押した。

 

 

『CYCLONE!』

 

 

ガイアメモリから電子音声が鳴り響くと少女は真剣な表情となりながらメモリを構えていく。そしてドーパントと向き合っていた青年も少女とは逆向きにメモリを構え、そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

二人は同じタイミングで叫ぶと、少女は先にメモリをベルトのバックル部分の右側にセットする。するとメモリはバックルから消え、それと同時に少女は意識を失いソファーに倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、青年のベルトのバックルの右側の差し込み口に少女がセットしたメモリが現れ、青年はそれをしっかりセットすると次に自分の持っていたメモリをバックルの左側の差し込み口に装填しバックルをWの形に開いた。

 

 

『CYCLON!JOKER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと青年の身体は吹き荒れる風と共に装甲に覆われ、赤い瞳に右側は緑、左側は黒というアンシンメトリーな身体。右側に銀色のマフラーを靡かせる仮面の戦士……以前零達一行が訪れたライダー少女Wの世界に現れた勇樹が変身したのと同じ仮面ライダー、ダブルへと姿を変えていったのであった。そして変身したダブルは左手を前に出し、驚愕して戸惑うドーパントへと指差していく。

 

 

ダブル『さぁ、お前の罪を数えろ!』

 

 

青年と少女が重なった声で決め台詞を叫ぶと、ダブルは直ぐに走り出しドーパントへと突っ込んでいった。

 

 

ダブル『ダァ!オラァッ!』

 

 

―バキィッ!ドゴォッ!!―

 

 

『ヌグゥッ?!グッ!』

 

 

ダブルは華麗な動きで連続キックをドーパントに打ち込んでいき、ドーパントはダブルの動きに翻弄されて吹き飛ばされた。しかし、態勢を立て直したドーパントは身体から溢れさせた炎をダブルに向けて弾丸の如く放っていき、ダブルはそれをなんとかかわしながら後退していく。

 

 

ダブル『ッ!クソッ!マグマの時みてぇな攻撃してきやがって!』

 

 

ダブル(少女)『めんどくさいわね……翔一、長引く前にさっさと倒すわよ!』

 

 

ダブル『クッ!仕方ねぇな…ならやるか!』

 

 

ドーパントから放たれる炎を蹴りで弾きながら後方へ下がると、ダブルはダブルドライバーからサイクロンメモリを抜いて金色のメモリを取り出し、ドライバーに装填してWの形へと展開した。

 

 

『SHINING!JOKER!』

 

 

電子音声が響くとダブルの右半身が白いラインの入った金色のボディーとなった姿、シャイニングジョーカーへとハーフチェンジしたのである。そしてダブルは身体全体に金色のオーラを纏って炎を弾き返し、そのままドーパントへと勢いよく走り出した。

 

 

ダブル『ハアァァァァァ…オラアァッ!!』

 

 

―シャバババババババババババババババッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ギガアァッ?!』

 

 

炎の雨をかい潜ったダブルがドーパントへと左手を突き出した瞬間、左手から放たれた金色のオーラがドーパントの身体を包み込み、ドーパントは身体から無数の火花を散らせながら吹き飛んでいった。だが……

 

 

『ヌ、ヌウゥゥゥゥゥ……ハッ!』

 

 

―バサアァッ!!―

 

 

ダブル『ッ?!なに?!』

 

 

このまま戦っても自分に分が悪いと感じたのか。ドーパントは突如背の部分から二対の炎の翼を生やし、そのまま翼を羽ばたかせるとジェット機の如く上空へと飛んで逃げ出してしまったのである。

 

 

ダブル『お、おいコラっ?!逃げんなこの野郎ッ!!』

 

 

ダブル(少女)『マズイわね…このままだと確実に逃げられるわ。しかもあそこまで距離を離されたらトリガーでも届かないっ…』

 

 

ダブル『チッ!それなら…コイツの出番だ!』

 

 

このままでは逃げられてしまうと聞いたダブルは直ぐさまダブルドライバーからジョーカーメモリを抜き取り、今度は薄い赤色のメモリを取り出してドライバーへと装填し、Wの形に展開した。

 

 

『SHINING!ARCHER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時に今度はダブルの左半身が薄い赤色の身体と、右手に薄赤色と黒の混じった巨大な弓を持った姿……シャイニングアーチャーへと姿を変えていった。そしてダブルはダブルドライバーからアーチャーメモリを抜き、アーチャーアローへと装填していく。

 

 

『ARCHER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

電子音声が響くとダブルはアーチャーアローの矢の先を上空へと向けながら弓を引いていくと、アーチャーアローに金色の光が集まり巨大な矢を形成していく。そして完全な矢の形に形成されるとダブルはアーチャーアローの照準を空へと逃げ去るドーパントに向けていき、そして……

 

 

ダブル『アーチャーレイドオルタァッ!ハッ!!』

 

 

―ググッ…ドゥシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッ!!!―

 

 

『ッ?!グ、グオォォォォォォォォォオーーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

アーチャーアローから撃ち出された金色の矢は音速を越えた閃光となって遥か上空へと逃げたドーパントに迫っていき、ドーパントの身体を貫き爆発していったのだった。そしてドーパントが爆発して起きた爆煙の中から粉々に砕け散ったメモリが飛び出して地上へと落ち、その近くにあるビルの屋上の柵にはドーパントに変身していたと思われる男性がぶら下がっていた。

 

 

ダブル『ヘッ、キマッたぜ…』

 

 

ダブル(少女)『みたいね…後の事は警察に任せておけば大丈夫でしょう』

 

 

ダブル『あぁ。そんじゃ、警察が来る前にさっさとトンズラしますか』

 

 

右半身に宿る少女の精神と会話しながらダブルは変身を解除しようとダブルドライバーに装填されたメモリを抜き取ろうとし、バックルに装填されたメモリに手を伸ばしていく。だが……

 

 

ダブル『…っと、そうだった。お前に伝言があったの忘れてたぜ』

 

 

ダブル(少女)『…?伝言?』

 

 

ダブルは突然何かを思い出したかのように声を上げ、それを聞いたダブル(少女)は疑問そうにダブルに聞き返していく。

 

 

ダブル『あぁ。ワリィけど、これからちょっと用事があるんだ。だから多分帰り遅くなると思うから事務所の留守番頼むわ』

 

 

ダブル(少女)『…?だから何なのよ、その用事って?まだ他に依頼でもあるの?』

 

 

ダブル『いや、実はこれから明日葉との買い物に付き合わなきゃいけねぇんだよ』

 

 

ダブル(少女)『……は?』

 

 

明日葉との買い物に付き合わなきゃいけない。ダブルのその言葉にダブル(少女)は訳が分からないといったように疑問の声を上げ、ダブルはそれに気付かず更に続ける。

 

 

ダブル『さっき調査の途中に明日葉から電話があってな?これから買い物に付き合って欲しいって頼まれちまったんだよ。いやぁー、モテる男はツライねぇ~♪なんつって』

 

 

ダブル(少女)『…………』

 

 

冗談っぽく言いながら頭を掻くダブルだが、ダブル(少女)は何も言わずにただ無言でいた。そして右半身は何処からか『調子に乗んじゃねぇー鈍感野郎!』と刻まれた緑色のスリッパを取り出し、ダブルの左半身をぶん殴った。

 

 

―パコォンッ!!―

 

 

ダブル『ってぇ?!な、何すんだよいきなり?!』

 

 

ダブル(少女)『……フン。そんなに明日葉との買い物が嬉しいなら、そのまま明日葉の家に泊まりにでも行けば?多分その方が明日葉も喜ぶんじゃないかしら?』

 

 

ダブル『…は?何言ってんだお前?』

 

 

いきなりスリッパで殴られた上に訳が分からない事を言われダブルは意味が分からないと言った顔を浮かべるが、ダブル(少女)は構わず冷たい口調で言い返す。

 

 

ダブル(少女)『なんなら、そのまま帰ってこなくてもいいわよ?別に私には関係ない事だし……じゃあね』

 

 

ダブル『あ?……お、おいアイリス?アイリスッ?!』

 

 

ダブル(少女)が言いたい事だけ言って最後にそう言うとダブルは変身が強制的に解除されて青年へと戻り、青年は自分の姿を見て困惑の表情を浮かべた。

 

 

「ちょ、何なんだよ一体?!何でいきなり怒ってだよォォォォォォォォォーーーーーーーーっっ!!?」

 

 

何故自分の相棒がいきなり不機嫌になったのか分からない青年は自分の本心を全力で叫び、風が吹く風都に彼の虚しい叫びが木霊したのであった。てか、ハードボイルドは何処いった……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平行世界のW。遠い未来、彼等が世界の破壊者と物語を交える日が来るとは……まだ誰も知らない。

 



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第十四章/キャンセラーの世界③

 

 

その頃……

 

 

 

祐輔「うーん……一体何処行ったんだろ、母さん…」

 

 

佐知を探しに街に出た祐輔は辺りを見回しながら佐知が行きそうな場所を手当たり次第に歩き回っていた。だがどれだけ探しても佐知は見つからず、次は何処を探したらいいのか分からず困り果てていた。

 

 

祐輔「知ってそうな人達にも全員聞いて回ったけど誰も見てないって言うし……ハァ、一体何処ほっつき回ってるんだろ?」

 

 

佐知が行きそうな場所は自分が知ってる限り全て見て回った筈だ。それでも見つからないとなると次は何処を探すべきかと頭を悩ませていると、祐輔はそこである事を思い浮かべる。

 

 

祐輔「もしかして……もう店に帰って来てるのかな?」

 

 

これだけ探し回ってもいないとなると、もうそれしか考え付かない。なら一度店に戻って確かめた方がいいかもしれないと思った祐輔はその場で踵を返し、店に戻ろうと先程来た道を戻ろうとする。だが……

 

 

祐輔「…………あれ?」

 

 

大通りを歩いてる中、祐輔は其処である違和感に気が付いた。自分が歩いているこの大通りは普段人が多く通り、いつも絶える事なく賑わっている。だが、何故か今は自分以外人っ子一人いない。まるで自分だけがこの世界に取り残されたような、そんな奇怪な雰囲気が漂っていた。

 

 

祐輔「これって……まさか人払いの結界……?」

 

 

その異様な空間の本質に気が付いた祐輔は疑問げに首を傾げながら呟き、辺りを見渡していく。そんな時…

 

 

―……ザッ―

 

 

祐輔「……え?」

 

 

誰もいない筈のない空間の中で祐輔の前に黒いスーツを着込んだ青年……恭平が現れ、祐輔の行く先に立ち塞がったのである。そして恭平は身につけていたサングラスを外し、ヘラヘラとした笑みを祐輔に向けながら口を開く。

 

 

恭平「こんちわ~♪あんたが阿南祐輔……だよね?」

 

 

祐輔「へ?え、えぇ…そうですけど、何か?」

 

 

恭平「なはは♪別に大した用事はねぇよ?たださ……黙って俺達についてきて欲しいんだよね~♪」

 

 

祐輔「…は?」

 

 

いきなり訳の分からない事を言われて唖然とした表情を浮かべてしまう祐輔。だがそんなやり取りをしてる間に、祐輔の背後から二人の男女…真也と麻衣が現れ祐輔を挟み撃ちにしてしまう。

 

 

祐輔「…ッ!…何ですか…貴方達は…?」

 

 

二人に気付いた祐輔は背後に振り返り真也達に向けて身構えていき、真也と麻衣はサングラスを外して祐輔と対峙していく。

 

 

真也「阿南祐輔……成る程、確かに神としては大した力を持ってるようだな……終夜が欲しがるのも納得できる」

 

 

祐輔「?何を言ってるんですか?貴方達は一体…」

 

 

真也「お前に説明する義理なんてねぇよ。お前はただ黙って俺達についてくればいいんだ……さぁ、さっさと一緒に来てもらうか?」

 

 

黙って自分達についてこい。それだけ言いながら真也は祐輔に向けて手を差し延べながら歩み寄っていく。だが、祐輔がそんなことに頷く筈もなく……

 

 

祐輔「お断りします。貴方達についていく理由なんてないし、それこそ僕に義理なんてない……だからお断りします」

 

 

真也「……そうかよ…なら仕方ねぇ」

 

 

誘いを断られた真也は一度溜め息を吐くと、鋭い視線を祐輔に向けながらスーツを翻し腰に装着したベルトを露出させ、懐からオーガフォンを取り出して番号を入力していく。

 

 

真也「そっちがその気なら……こっちも力付くでお前を連れてくまでだ……変身ッ!」

 

 

『Complete!』

 

 

オーガフォンをバックルに装填すると真也は電子音声と共にオーガへと変身し、更に自身の背後に歪みの壁を発生させ其処からライオトルーパーの軍隊を呼び出し、それを見た祐輔は驚愕したように後退りをしていく。そして麻衣はポケットから取り出したデッキを目の前に突き出してベルトを装着し、恭平も構えを取ると腰に銀色のベルトを出現させていく。そして……

 

 

『変身!』

 

 

麻衣はデッキをバックルにセットするとファムに変身していき、恭平は変身の構えを取りながら叫ぶと波紋が広がり、波紋が収まると恭平は赤い瞳に緑色の身体をしたライダー…『アナザーアギト』へと変身したのであった。

 

 

祐輔「ッ!誰かは知らないけど……やるって言うなら仕方ないね……変身ッ!」

 

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

 

変身した真也達を見た祐輔は腕に装着した腕時計を回してキャンセラーへと変身し、腰に収めた刀を抜いてオーガ達に向けて身構えていく。それを見たオーガも剣を構えるとファムとアナザーアギトに目を向け念話を送る。

 

 

オーガ(麻衣、恭平、今回は最初から"あの力"を使うぞ…魔力や気を無効化する奴にはアレしかない。いいな?)

 

 

ファム(分かった……)

 

 

アナザーアギト(了~解。まぁ神様相手に何処まで通じるかは分かんねぇけど、取りあえずやってみますかねぇ…)

 

 

ファムとアナザーアギトはオーガにそう答えるとそれぞれ身構えていく。そしてライオトルーパーの軍隊が一斉に動き出したと同時にキャンセラーも刀を握って走り出し、正面からぶつかり合っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―海鳴市・臨海公園―

 

 

 

―カシャッ!―

 

 

零「…ふむ…やはりいいな。年代物となると色々と変わってくるし、何より写真にも味が出る……」

 

 

一方その頃、Green Cafeを出て海鳴市の臨海公園へとやって来た零は、祐輔から借りたカメラを使い周りの風景を撮影しているところであった。そして零は祐輔から借りたカメラを眺めた後、今度は此処から見える海を撮ろうとカメラのファインダーを覗いていく。とその時……

 

 

「……あれ?零?」

 

 

零「ん?」

 

 

後ろから聞こえてきた聞き慣れた声を聞いて零はファインダーから顔を離し、後ろに振り返っていく。其処には公園の入り口から両腕に包みを抱えてこちらに駆け寄ってくる女性……先程なのはやミナ達と共に買い出しに行ったフェイトの姿があったのである。

 

 

零「フェイト…?何してるんだこんなところで?確かなのは達と一緒に買い出しに行ってたんじゃ…」

 

 

フェイト「あ、うん。そうなんだけど……実は買い物帰りの途中で買い忘れてたモノがあったのを思い出して、こっちまで来てたんだ」

 

 

零「買い忘れ?また珍しい…仕事慣れしたミナやウェンディが一緒に居たのに誰も気付かなかったのか?」

 

 

フェイト「うん…買い物しながら皆と色々話してたからね、多分盛り上がってたせいで気付けなかったんだと思う。それでなのは達には先に帰っててもらって、今ちょうど買い物が終わって帰ろうとしたら零を見つけて声掛けたんだけど……そういう零はこんな所で何してるの?お店は?」

 

 

零「あぁ…俺はちょっとコイツを弄ってみたくなったから、店の方は祐輔に任せてきたんだ」

 

 

フェイトの質問に対し零は手に持つカメラをフェイトに見せ、それを見たフェイトはカメラをまじまじと眺めながら小首を傾げる。

 

 

フェイト「何そのカメラ?どうしたの?」

 

 

零「祐輔から借りたカメラだ。何でも祐輔の親父さんが生前使っていた思い出のカメラらしい」

 

 

フェイト「へぇ~……ってえぇ?!だ、駄目だよそんな大事な物使ったりしちゃ?!」

 

 

零「その点なら心配ない。祐輔には許可は取ってあるし、扱いにもちゃんと気を付けてる。それに大事な物だってことは分かってるんだが…やはりこういう稀少なカメラを手に取る機会なんてそうそうないし、つい興味本位の方が強く出てしまうんだよな……困った事に…」

 

 

うむうむと頷きながら零はフィルターを覗いてフェイトを撮影していき、そんな零にフェイトは思わず苦笑を浮かべてしまう。そして暫くフェイトを撮影していた零は近くにある花壇に気付いてそちらに目を向け、それに気付いたフェイトも花壇に近付き身を屈める。

 

 

フェイト「わぁ~…綺麗…」

 

 

零「ん…確かこの時期だとこの辺りの花が満開になる頃だったな。俺達の世界と同じなら…」

 

 

フェイト「え?そうなの?私全然知らなかった…」

 

 

零「知らない方が多分当然だと思うぞ?俺も小さい頃に何度かこの辺りを散歩して、それで漸く気付いたんだし」

 

 

そう言いながら零はフェイトの隣に屈んで花壇に咲く花をカメラで撮っていき、フェイトもそんな零を見ると花壇の花に指先を近付けて花に軽く触れていく。

 

 

フェイト「フフッ……でも何だか、この場所に来ると色んな事を思い出すよね」

 

 

零「……そうだな。小さい頃この場所で、お前と戦ったり、なのはと一緒にお前との再会を約束したり……本当に色々あった。お前も昔に比べて随分変わったしな…」

 

 

フェイト「うん……でも私的には、今の零の変わり様に驚きかな?昔の零って…何だか冷たかっていうか、子供っぽくなかったから。今みたいになったのはちょっと意外♪」

 

 

零「む……悪かったな……どうせ昔の俺は冷たくて子供っぽくない小学生だったよ」

 

 

そのぐらい自分だって自覚している、と若干不機嫌になりながら零は花の撮影を再開し、フェイトもそんな零を見て可笑しそうに笑いながら花へと視線を戻していく。

 

 

フェイト「でも……そんな零やなのはに出会えたから、私も救われたのかもしれないな……」

 

 

零「む?」

 

 

フェイトの小さな呟きに零は首を傾げながら思わず聞き返し、フェイトはそんな零に苦笑しながらも言葉を続ける。

 

 

フェイト「昔わたしに言ってくれたよね?今度は誰かからの命令ではなく、自分の意思で、自分を信じて生きてみろって。その言葉を聞いて…私はもう一度自分の意思で生きてみようって思ったの。だからなのはが何度も私に呼び掛けてくれたことや、零のその言葉があったお陰で……私は今もこうして皆といられるんだなって」

 

 

零「…なのははともかく、俺は別に何もしていない。ただ言いたい事だけ言っただけだ……だから今のお前があるのは、お前が自分の意思を貫き通した結果だ」

 

 

フェイト「そんな事ないよ?零やなのはがいたから、私はもう一度生きようって思えたんだから……私一人の力じゃ……ここまで来る事なんて出来なかった」

 

 

そう言ってフェイトはおもむろに立ち上がり、金色の髪を風で靡かせながら此処から見える海を眺めていく。

 

 

フェイト「…だから尚更、私達の世界を救いたいって強く思うの。今の私がこうして変われたのはあの世界があったから。あの世界で感じてきた思いや時間は、何処の世界にもない……私や零やなのは達が積み上げてきた思い出は……あそこにしかないから」

 

 

零「…………」

 

 

確かに自分達と似た世界は幾つも存在する。だがその世界で作り上げられた思い出や時間は決して同じものではない、他では絶対に手に入らないものだ。それはこの祐輔の世界も、自分達の世界も然りである。零はそう思いながらファインダーを覗き、海を背にしたフェイトの写真を撮っていく。

 

 

零「そう思っているのは俺達も同じだ……だからその為に、俺達はこうして旅をしてるんだろう?あの世界はお前達や俺にとっても……失ってはならない大事な物なんだから」

 

 

フェイト「うん、だね…」

 

 

フェイトは零の言葉に頷きながら微笑し蒼い空を仰いでいく。とその時、空を見上げていたフェイトは何か思い付いたような表情を浮かべ、零へと視線を向けていく。

 

 

フェイト「……ねぇ零?その、ちょっとお願い聞いてもらってもいいかな…?」

 

 

零「…?お願い?」

 

 

お願いを聞いて欲しいと告げてきたフェイトの言葉に零は疑問そうに聞き返し、フェイトは何処か気恥ずかしそうに頷きながら言葉を紡ぐ。

 

 

フェイト「えっと……もし……もしもだよ?もし私達の世界を救って帰ってこれたら……その……もう一度この場所で写真撮ってくれる…?」

 

 

零「?写真って…お前のをか?」

 

 

フェイト「う、うん……出来ればでいいんだけど……ダメ……かな?」

 

 

頬を紅く染めながら顔を俯かせて呟くフェイトだが、零はそれに気付かず顎に手を添えながら考える仕草を見せると……

 

 

零「……別にいいぞ?そういう事なら問題ない」

 

 

フェイト「!ホ、ホントに!?」

 

 

零のその言葉にフェイトは思わずズイッと零へと詰め寄り、その気迫に圧されて少し後退る零。

 

 

零「あ、あぁ…しかし、俺の撮る写真はお前も知ってる通りピンぼけばかりだぞっ?」

 

 

フェイト「それでもいいよ!零が撮ってくれるなら、どんな写真だって…じゃあ約束!指切り!」

 

 

零「は…?いや、別に其処までしなくても……」

 

 

フェイト「いいから!はい!」

 

 

そう言いながらフェイトは小指を出し、それを見た零は何を言っても無駄だろうと諦め溜め息を吐きながら小指を絡める。

 

 

フェイト「ふふっ♪ちゃんと約束したからね?嘘ついたらダメだよ?」

 

 

零「分かっている……全く、本当に心配性だなお前は……」

 

 

フェイト「だってこうでもしないと、零はすぐに忘れちゃうでしょ?」

 

 

いや、だからってそこまでする必要あるか?と思いながら溜め息を吐く零だが、嬉しそうに微笑みながら指を絡めた手を包むフェイトを見て思わず微笑を漏らしていく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんな約束したところで意味なんてない……お前はどうせ、此処で消えるんだからなぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

不意にその場に響いた不気味な声。それが聞こえたと同時に周囲の景色が色が抜けたように灰色に変わり、自分達以外の人の気配が完全に消え去ったのである。

 

 

フェイト「これは…?!」

 

 

零「結界…?……ッ?!」

 

 

突然の事態に驚愕して辺りを見渡す二人だが、その時何かに気が付いた零はフェイトを自身の背後に下がらせある方向を睨みつける。

 

 

フェイト「れ、零?どうしたの?……ッ?!」

 

 

フェイトは零の突然の行動に戸惑うが、零が睨みつける方向を目で追いかけ再び驚愕した。其処には、この灰色の世界をものともせずこちらへと歩み寄ってくる黒いライダー……ヴェクタスの姿があったのである。

 

 

零「…お前、誰だ…?」

 

 

ヴェクタス『……フンッ…随分と弱々しい姿になったものだな……どうだ?少しはそんなでも力を使いこなせるようになったか?』

 

 

零「ッ!なんだと…?」

 

 

問い掛けには何も答えず、零の身体を眺めながら呟いたヴェクタスの言葉に零は一瞬驚愕しながらも警戒心を強めてヴェクタスを睨みつけるが、ヴェクタスは悠々と零達へと近付いていく。

 

 

ヴェクタス『感謝しろよ?お前を鍛えてやる為にこうして来てやったんだ。だから、少しでもあの力を使いこなしてもらわないと困る』

 

 

零「ッ…!」

 

 

フェイト「?あの力…?」

 

 

ヴェクタスの言葉に険しい表情を浮かべる零だが、会話を聞いていたフェイトは話の内容が理解出来ず疑問符を浮かべる。そしてヴェクタスは歩みを止めると、自身の右手に剣を出現させながら再び語り出す。

 

 

ヴェクタス『だがその前に、必要のないゴミを片付けないといけない……まず……そこの出来損ないのクローンからだ』

 

 

フェイト「…ッ?!」

 

 

ヴェクタスは冷たい口調で言いながら剣の切っ先を零の背後にいるフェイトへと向け、それを見た零はフェイトを庇うように身構えてヴェクタスと対峙する。

 

 

零「お前が誰かは知らないが……お前の目的は俺なんだろ!ならコイツは関係ないはずだ!」

 

 

ヴェクタス『いいや、関係ならあるさ……そいつ等はお前が力を使わない原因の一つだ。だから邪魔な要素は全て消すんだよ……お前の大事な大事な仲間も……居場所も……そして、お前の本性をせき止める物もな』

 

 

零「クッ!」

 

 

フェイトに切っ先を向けたまま不気味に微笑むヴェクタス。零はすぐにコートの中からディケイドライバーを取り出して腰に装着し、ライドブッカーからカードを取り出していく。

 

 

ヴェクタス『無駄なことを……その女は此処で死ぬ。そしてそれを見たお前は、自分の無力さを悔やみ自らの力に溺れる事となる……お前は誰も守れやしないのさ』

 

 

零「ッ…黙れっ…これ以上、お前の戯れ事を聞く気はない!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身した。そして変身を終えたディケイドはフェイトをある程度下がらせると、ライドブッカーをSモードに切り替えてヴェクタスと対峙していく。

 

 

ヴェクタス『いいだろう。新しい身体の力……見せてやるよ……』

 

 

そんなディケイドに対してヴェクタスは不気味に笑いながら剣を構え、双方同時に駆け出し公園の中心で剣と剣をぶつけ合っていったのだった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界④

 

 

場所は戻り、キャンセラーに変身した祐輔は襲い来るライオトルーパーの軍団を次々に刀で斬り捨て確実に数を減らしていた。しかしライオトルーパーの軍団もそれに負けじと集団を利用した連携攻撃でキャンセラーへと何度も襲い掛かり、先方に立って軍団を指揮するオーガとアナザーアギトも、それぞれが得意とする戦法を用いてキャンセラーと激突していた。

 

 

アナザーアギト『ハッ!ラアァッ!』

 

 

キャンセラー『クッ!ハアァ!!』

 

 

―ギギイィンッ!!ガァンッ!グガアァンッ!!―

 

 

オーガ『ハッ、やるじゃねぇか!無効化の神って名は伊達じゃねぇみたいだな!』

 

 

キャンセラー『そりゃどう……もっ!!』

 

 

アナザーアギトの打撃技をかわしながらオーガと剣をせめぎ合わせていたキャンセラーは刀を勢い良く振りかざし、オーガとアナザーアギトはそれを紙一重でかわしキャンセラーから距離を離して後方にいるファムの下まで下がっていった。

 

 

キャンセラー『(今だッ!)ライダースラッシュ!』

 

 

『Rider Slash!』

 

 

二人が離れたのを確認したキャンセラーが刀を握り直しながら叫ぶと電子音声が鳴り響き、それと共に刀の刃にエネルギーが集束され激しく輝き出す。そして…

 

 

キャンセラー『ダアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ブォンッ!ズバババババババババババババババァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ヌ、ヌオォォォォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

キャンセラーは周りに溢れ変えるライオトルーパーの軍団に向けて複数の斬撃破を放ち、それを受けたライオトルーパーの軍団は一斉に爆発を起こし一人残らず消え去っていったのだった。

 

 

アナザーアギト『へぇ~、やるじゃんか?あんだけの数の軍団をたった一回の技で全滅させるなんてさ?』

 

 

キャンセラー『……そんな大した事じゃないよ。それよりどうする?君達の部下は全部消えたし、これ以上戦っても意味はないと思うけど?』

 

 

爆炎の中に立ちながら刀の切っ先を向けて警告するように告げるキャンセラー。だがそれを聞いたオーガはまるで小馬鹿にするように鼻で笑いながら、剣を肩に担いで口を開く。

 

 

オーガ『冗談…こんな事で簡単に引き下がる俺らじゃないんだよ。それにアイツ等を使ったぐらいでお前を追い込めるとは思ってもいない………本番は此処からだ』

 

 

オーガはそう言いながら剣を両手で握り締めて構えていき、ファムとアナザーアギトもそれに続くかのようにそれぞれの構えを取っていく。そして……

 

 

オーガ『……羅刹……解放……』

 

 

アナザーアギト『羅刹……解放……』

 

 

ファム『……戦姫……解放……』

 

 

三人はそれぞれの構えを取りながらそう呟くと三人の身体からオーラが放たれ、オーガは金色のオーラを、アナザーアギトは緑色のオーラ、ファムは白色のオーラを放ち身体に身に纏っていった。そして、アナザーアギトは構えを取りながら身を屈めていくと……

 

 

 

 

アナザーアギト『……フッ!』

 

 

―ヒュンッ……ドガアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラー『ッ?!ウワァッ?!』

 

 

アナザーアギトは一息吐くと同時に消え、一瞬でキャンセラーの懐まで入りキャンセラーにミドルキックを打ち込み勢い良く吹き飛ばしてしまったのであった。

 

 

キャンセラー『グッ!い、今の攻撃っ……魔力や気を使った攻撃じゃない?!』

 

 

オーガ『…いくぜ…恭平』

 

 

アナザーアギト『あ~いよ……ハアァッ!!』

 

 

今のアナザーアギトの攻撃について困惑しながら立ち上がるキャンセラーだが、オーガとアナザーアギトはそんな事はお構い無しにとキャンセラーへと駆け出し再び攻撃しようとする。

 

 

キャンセラー『くッ!タイムクイックッ!』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

襲い掛かって来るオーガとアナザーアギトを見たキャンセラーはすぐさま自分の時を早め、刀を握り直すと超高速でオーガに突っ込み刀を振りかざした。しかし……

 

 

アナザーアギト『……甘ぇな……羅刹の七、電光石火!』

 

 

―シュンッ……ガギャアァンッ!!―

 

 

キャンセラー『ッ?!な…?!』

 

 

キャンセラーがオーガに向けて刀を振り下ろそうとした瞬間、アナザーアギトも突如超高速で動き出しキャンセラーの刀を片腕で受け止めてしまったのだ。

 

 

キャンセラー『そんなっ…アギトタイプのライダーがタイムクイックについて来るなんて?!』

 

 

アナザーアギト『ハッ…俺らの力がライダーだけの物とは限らねぇぜ?オラァッ!!』

 

 

―ガギィッ!ガギィッ!ガガアァンッ!グガアァンッ!!―

 

 

アナザーアギトはそう言うと再び超高速で動き出してキャンセラーに素早い蹴り技を繰り出し、キャンセラーもアナザーアギトの能力に驚愕しつつも得意の剣撃で蹴りを弾きながらアナザーアギトへと反撃していく。だが……

 

 

 

 

 

 

オーガ『…羅刹の二十七、瞬斬……』

 

 

 

 

 

 

キャンセラー『ッ!クッ?!』

 

 

背後からとてつもない殺気と悪寒を感じ取り、それに気付いたキャンセラーは直ぐさまアナザーアギトを刀で吹き飛ばしその場から跳び退く。その瞬間……

 

 

―シュンッ……スパアァンッ!!ゴゴゴゴッ……ドガアァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

オーガがキャンセラーに向けて剣を勢い良く振るった瞬間、剣の刃から金色の風を纏った斬撃破が放たれ、キャンセラーが立っていた場所の背後にあったビルが真っ二つに斬り裂かれてしまった。

 

 

キャンセラー『ビルがッ?!あんなのまともに喰らったら…『……そう……貴方でもおだぶつ……』…ッ?!』

 

 

音を立てながら崩れていくビルを見て今の攻撃の威力に唖然となるキャンセラーだが、その直後背後から少女の声が響き、キャンセラーはすぐに背後へと振り返りながら後方へと跳んだ。その瞬間……

 

 

 

 

 

ファム『……戦姫二ノ太刀……華乱れっ!!』

 

 

―シュバババババババババババババババババッ!!!ズザアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラー『グッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

いつの間にかキャンセラーの背後に立っていたファムが居合いの構えを取って剣を抜き振るい、それと同時に花びらを纏った複数の風の刃がキャンセラーへと襲い掛かり、キャンセラーは瞬時にガード態勢を取るもすぐに押し切られ吹っ飛ばされてしまった。そしてそれを見たオーガは吹っ飛ばされるキャンセラーに向かってすかさず右手を向け、手の平に金色の光を集束させていき、そして……

 

 

オーガ『……羅刹の十九……爆王!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ……ズガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラー『……ッ?!タイムクイックッ!』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

―シュンッ……ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

オーガの手の平から放たれた金色の閃光、爆王は吹っ飛ばされるキャンセラーに向かって真っすぐ撃ち出され、キャンセラーは爆王の直撃を受ける直前にタイムクイックを発動させ爆王を紙一重で回避した。が……

 

 

アナザーアギト『――羅刹の二十一……業炎脚!!』

 

 

キャンセラー『…ッ?!』

 

 

キャンセラーが移動した先にアナザーアギトが構えを取りながら待ち構え、緑色の炎を纏った右足でキャンセラーに回し蹴りを放って吹き飛ばしてしまったのである。そしてキャンセラーは何とか態勢を立て直そうと吹き飛ばされながら体勢を整えようとするが……

 

 

 

 

ファム『……戦姫四ノ太刀……風神華……』

 

 

キャンセラー『…なッ?!』

 

 

キャンセラーが吹き飛ばされる先にファムが回り込み、サーベルの刃に風を纏わせて立っていたのだ。それに気付いたキャンセラーは強引に体勢を変えてファムの攻撃に備えようとするも、時は既に遅く……

 

 

ファム『……散りなさい……ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ビュオォォォォッ……!ザバアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラー『ッ!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ファムが剣を勢い良く振るうと巨大な真空波が放たれ、真空波はキャンセラーへと直撃し巨大な爆発を起こしていったのだった。それを確認したファムはゆっくりと剣を下ろし、オーガとアナザーアギトもファムの下まで歩み寄っていく。

 

 

ファム『……やった?』

 

 

アナザーアギト『いんや、このくらいでギブするようなら苦労しねぇだろ?』

 

 

オーガ『あぁ……奴はまだ……きっと来る』

 

 

三人はキャンセラーが消えた爆煙を見つめながらまだキャンセラーは倒れてないだろうと思い、いつでも動けるように警戒して構えていく。その時……

 

 

 

 

 

 

『CANCELER SHOOTING!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

爆煙の中から突如電子音声が鳴り響くと同時に巨大な砲撃が三人に向かって撃ち出され、三人は突然のそれに驚愕しながらもなんとか砲撃を回避して爆煙の方へと視線を戻す。すると其処には爆煙が晴れて完全に姿を現したキャンセラー……全身が白色に変わり右腕に腕輪を装着して騎士のような姿となった『キャンセラー・エデンズフォーム』の姿があったのである。

 

 

オーガ『ッ……ほう?そんなもんまで出してくるとは、案外そっちもやる気じゃねぇか?』

 

 

キャンセラーE's『違う。これ以上こんな戦いを続けて街への被害を大きくしたくないだけだ……だから、いい加減終わらせてもらうよ!』

 

 

キャンセラーE'sは強気な口調でそう言いながら三人に向けて銃を構えていき、それを見たオーガはそんなキャンセラーE'sから何かを感じたのか、何処からか鉄製のトランクケースのような物を取り出しゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

オーガ『……麻衣、恭平、俺が先陣を切って奴に突っ込む。お前達はその後に続いて援護してくれ』

 

 

ファム『……うん』

 

 

アナザーアギト『オイオイ、あんまし無茶すんなよ?羅刹を使ったせいで俺らの身体は……』

 

 

オーガ『わぁーってるよ、そんな何度も言わなくてもな……』

 

 

オーガはめんどくさそうに言いながらバックル部分のオーガフォンを取り外し、左手に持つトランクケース型のツールにセットして000と変身コードを再入力していく。

 

 

『Awakening!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にオーガの身体がまばゆい光を放って輝き出し、光が徐々に収まるとオーガは重厚ながらもしなやかさを持つ金色の装甲に全身に青色に染まったローブを纏った姿……『オーガ・セイバーフォーム』へと変わったのである。そして更にオーガSはトランクケース型のツール……オーガセイバーに143とコードを入力してエンターキーを押した。

 

 

『Blade Mode!』

 

 

電子音声が鳴り響きと同時にオーガセイバーは巨大な大剣のような形態へと変形し、オーガSはそれを構えながらキャンセラーE'sと対峙していく。そして……

 

 

キャンセラーE's『ダアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

オーガS『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

キャンセラーE'sとオーガSはほぼ同時に地を蹴って互いに突っ込み、道路の中心で剣と大剣をぶつけ合い巨大な衝撃波を辺りに巻き起こしていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして臨海公園ではディケイドとヴェクタスが互いに武器をぶつけ合い鉄の音を辺りに響かせていた。一見互角にも見えるがディケイドとヴェクタス戦いだが、ディケイドのライドブッカーとヴェクタスのデトラインペルがぶつかる度にディケイドのライドブッカーが若干ぶれている。明らかにディケイドが打ち負けている証拠だ。

 

 

ヴェクタス『ハッハァッ!どうした!!そんなんじゃこの俺に勝つなんて到底出来んぞ!?』

 

 

ディケイド『チィッ!』

 

 

アクロバットな動きと共に信じられない力で剣撃を繰り出してくるヴェクタスにディケイドは思わず舌打ちすると、ヴェクタスから一旦離れライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『KAMENRIDE:BLADE!』

 

 

電子音声が響くとディケイドの目の前にオリハルコンエレメントが展開され、ディケイドはそれをくぐり抜けるとDブレイドへと変身してヴェクタスに斬り掛かっていった。

 

 

ヴェクタス『ハッ、お得意の変身能力か?それが何処まで通じるかなぁ?!』

 

 

Dブレイド『ッ…!それは自分の力で確かめろッ!』

 

 

―グガァンッ!ガギィッ!ギギギギィッ…!ガギイィィィィィィインッ!!―

 

 

Dブレイドが得意の剣撃を見せてヴェクタスと激しくぶつかり合うが、ヴェクタスはそれらを鼻で笑いながら簡単に弾き返し、Dブレイドが振るった斬撃を後方へと跳びながら回避し距離を離していく。それを好機と思ったDブレイドはすぐにライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:THUNDER!』

 

 

電子音声が響くとDブレイドの持つライドブッカーの刃が青白い雷を纏い、Dブレイドはそれを握り締めて後方へと跳んでいる最中のヴェクタスに向かって走り出した。

 

 

Dブレイド『ハアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ヴェクタス『……フッ…―ガギャアァァッ!!―グゥッ!!』

 

 

Dブレイドはヴェクタスが着地する瞬間を狙って勢い良くライドブッカーを振るうが、ヴェクタスはそれに対して何故か防御も行わずDブレイドの斬撃を受けて吹っ飛ばされていった。そしてDブレイドはすかさずライドブッカーからもう一枚カードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:MACH!』

 

 

電子音声が響くと同時にDブレイドのスピードが早くなり、素早い剣撃で何度もヴェクタスへと斬り掛かり再び吹き飛ばしていった。だが……

 

 

ヴェクタス『ッ……ククッ……そうだ……もっとだ……もっと叩き込んでこい……そうすればっ……』

 

 

吹っ飛ばされたヴェクタスは何故か不気味な笑い声を漏らしながらユラリと立ち上がり、Dブレイドはヴェクタスにトドメを刺すべくバックルを開き、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへとセットしてスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:B・B・B・BLADE!』

 

 

電子音声と共にDブレイドは右足に雷を纏い、上空へと高く跳んでヴェクタスに向かって跳び蹴りを放っていく。そして……

 

 

Dブレイド『セヤアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!!―

 

 

フェイト「ッ!入った!」

 

 

Dブレイドの放ったライトニングブレストがヴェクタスの腹へと見事に炸裂し、林の陰でその様子を見ていたフェイトもDブレイドの勝利を核心して喜びの表情を露わにする。しかし……

 

 

 

 

―……バチッ……シュウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!―

 

 

 

 

フェイト「……え?」

 

 

Dブレイド『ッ!何…?』

 

 

ヴェクタスが受けたライトニングブレイドは突如無数の青色の粒子へと変化し、青色の粒子はまるでヴェクタスに吸収されるかのようにヴェクタスの身体に取り込まれていった。

 

 

ヴェクタス『ハァァァァ……ククッ……ブレイドの力……確かに頂いたぁ……』

 

 

Dブレイド『ッ?!』

 

 

Dブレイドの必殺技を受けたにも関わらず、不気味に微笑みながら両手を広げるヴェクタスにDブレイドは思わず身構えながら後退りをしてしまう。そしてヴェクタスは愉快げに笑い声を上げながら右足に青白い雷を纏い、上空へと高く跳び上がりDブレイドに向かって跳び蹴りを放った。

 

 

ヴェクタス『ハアァァァァァァァァァァアーーーーーーーッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dブレイド『グッ?!グアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

フェイト「ッ?!零ッ!!」

 

 

ヴェクタスの放ったライトニングブレストがDブレイドへと炸裂し、それを受けたDブレイドは勢い良く吹っ飛ばされ地面を転がりながらディケイドへと戻ってしまった。

 

 

ヴェクタス『ほぉ…?この身体が馴染むまでの間にと代用の力を収集しようとしたのだが……成る程、中々面白いな?』

 

 

ディケイド『グッ…!……何故だ……何故こっちの技がっ……!』

 

 

吹っ飛ばされたディケイドは自分の放った技をコピーされた事に疑問を抱えながら何とか立ち上がると再びヴェクタスに向けて身構えていき、ヴェクタスはそんなディケイドを見据えながらおもむろに右手に持つデトラインペルを肩に担いでいく。

 

 

ヴェクタス『さて…これで少しは手を考えられるようになっただろ?ハンデとしてこっちの札の一枚を見せてやったんだ、感謝しろよ?』

 

 

ディケイド『ッ…ハンデ、だと…?』

 

 

ヴェクタス『そう、だからお前も少しは期待に応えろよ?こっちはまだ準備運動すら出来てないんだ……そう簡単に壊れてもらったら困る』

 

 

ディケイド『ッ!言ってくれるじゃな―ズキィッ―……ッ?!』

 

 

挑発的な態度を見せるヴェクタスに向けて何か言い返そうとした瞬間、突然左目に激痛が走りディケイドは左目を抑えて黙り込んでしまう。そんなディケイドの様子に気付いたヴェクタスは興味深そうな声を漏らしながら口の端を歪めていく。

 

 

ヴェクタス『ほぉ…お前のソレも少しは危機感を抱いてくれてるようだな?それともただ暴れたいだけなのか……まぁどちらにしても、目覚めまであともう少しといった所か……』

 

 

ディケイド『ッ…なんっ…だとっ……グゥッ!?』

 

 

フェイト「!れ、零…?」

 

 

左目を抑えて激痛に耐えようとするディケイドだが、二度目に襲い掛かった激痛に思わず地面に膝を付いてしまう。そんなディケイドの姿にフェイトは不安げな表情を浮かべて林の陰から思わず飛び出しそうになるが、それに気付いたディケイドはふらつきながらではあるも直ぐに何でもなかったように立ち上がってヴェクタスと対峙していく。

 

 

ヴェクタス『おやおや…?大事な女に格好悪いところを見せたくないのか?それとも……お前のソレをあの女に知られるのが恐いのかなぁ?』

 

 

ディケイド『ッ!貴様っ…!』

 

 

ヴェクタス『ハッハハハハハハハハハハッ!!そんな無駄な心配してる暇があるなら、自分の身を案じたらどうだ?もしかしたらこの日が……"お前"が消える日になるかもしれないんだからなぁ!!?』

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディケイド『グッ!!』

 

 

ヴェクタスは愉快げに笑いながら未だ左目を抑えるディケイドに向かって剣を振りかざし、ディケイドは片腕でライドブッカーを使いなんとかそれを受け止め、そのままヴェクタスと戦闘を再開させたのであった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑤

 

 

キャンセラーE's『セヤァッ!!』

 

 

オーガS『フッ!ハアァッ!!』

 

 

―ガギィッ!!ガギャアァンッ!!ガンガングガアァンッ!!―

 

 

一方、互いに強化形態へとパワーアップしたキャンセラーE'sとオーガSは武器をぶつけ合い一歩も譲らずの激戦を繰り広げていた。そしてキャンセラーE'sとオーガSは間合いを離すとキャンセラーE'sは片手に持つ銃を構えて引き金を引き、オーガSは右手の手の平から金色の閃光を撃ち出した。

 

 

―ドゴオォッ!!!ジジジジジジジジィッ……ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

キャンセラーE's『ウワァッ?!』

 

 

オーガS『グッ!!』

 

 

双方から撃ち出された閃光と閃光は互いの中心で衝突してぶつかり合い、風船のように膨らんで巨大な爆発を巻き起こし二人を吹っ飛ばしてしまう。がその時、その様子を離れて見ていたファムはブランバイザーを逆手に取り、バイザーの刃を地面に向けていく。

 

 

ファム『…戦姫三ノ太刀…乱王滅花!!』

 

 

―ザシュッ!……ズザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

キャンセラーE's『ッ!』

 

 

ファムがバイザーの刃を地に勢い良く突き刺した瞬間、それと同時にキャンセラーE'sの足元から無数の刃が飛び出し襲い掛かってきた。だが、いち早くそれに気付いたキャンセラーE'sはすぐさまその場から跳び退き上空へと飛び上がっていった。しかし……

 

 

―シュンッ!―

 

 

アナザーアギト『羅刹の三十四…天来甲冑割り!!』

 

 

キャンセラーE's『…っ?!後ろ?!』

 

 

アナザーアギトがキャンセラーE'sの背後へと瞬時に回り込み、渾身の力が篭められた踵落としが放たれたのだ。キャンセラーE'sはそれに驚きつつも直ぐに剣を盾にして蹴りを防ぐが、衝撃に圧され地上へと落とされてしまう。更にそれを見たオーガSは大剣を構え直し、刀身に赤いオーラを纏わせていく。

 

 

オーガS『羅刹の十八……血達磨ぁ!!』

 

 

―ズザンッ!ズサンッ!ズザアァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラーE's『ッ!クッ!!』

 

 

オーガSは刃が紅く染まったオーガセイバーをキャンセラーE'sに向けて振るうと三つの紅い斬撃波が放たれ、それを見たキャンセラーE'sは動きを止めて銃を構え斬撃を全て撃ち落としていく。だがその直後……

 

 

 

 

―シュンッ!―

 

 

ファム『戦姫六ノ太刀……風王迅剣!!』

 

 

アナザーアギト『羅刹の二十五……轟風雷滅拳!!』

 

 

キャンセラーE's『っ?!』

 

 

斬撃に意識が向いて動きを止めたキャンセラーE'sの左右からファムとアナザーアギトが突如襲い掛かり、ファムは暴風を纏った剣、アナザーアギトは雷を纏った右拳をキャンセラーE'sへと振りかぶっていくが、キャンセラーE'sは両手に持った剣と銃を使い左右からの攻撃をギリギリ防いでいった。だが……

 

 

―ガシッ!!―

 

 

キャンセラーE's『…ッ?!えッ?!』

 

 

ファム『……捕まえた』

 

 

アナザーアギト『今だ真也!やれぇ!!』

 

 

アナザーアギトとファムはキャンセラーE'sの両腕を掴んで動きを封じ、それを見たオーガSは深く頷きながら大剣の切っ先をキャンセラーE'sに向けていく。そして……

 

 

オーガS『残念だったな神様…?アンタは此処で……終わりだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

 

キャンセラーE's『クッ?!』

 

 

オーガSはそう言いながら大剣を両手で構えてキャンセラーE'sへと猛スピードで突進していき、それを見たキャンセラーE'sはすぐに回避しようとするが二人に両腕を取られてしまっているせいで行動出来ない。そしてオーガSの大剣が目前まで迫り、キャンセラーE'sを無慈悲にも斬り裂こうとした。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

―ズババババババババババババババババッ!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

オーガS『何?!』

 

 

キャンセラーE's『…え?』

 

 

キャンセラーE'sとオーガS達の上空から突如無数の斬撃波が降り注ぎ、それを見た三人は直ぐさまそれを回避するようにその場から跳び退きキャンセラーE'sから距離を離していった。そしてその光景に唖然とするキャンセラーE'sの目の前に二人の青年が現れ、キャンセラーE'sを庇うように立ちながらオーガS達と対峙していく。

 

 

「よし、何とか間に合ったみたいだな」

 

 

「だな……祐輔さん、大丈夫か?」

 

 

キャンセラーE's『…ッ?!君達は…?!』

 

 

オーガS『ッ……テメェ等……何もんだ?』

 

 

キャンセラーE'sは目の前に現れた二人の青年を見て驚愕の表情を浮かべ、一方でオーガSは邪魔をされて気に入らないのか苛立った口調で青年達へと問い掛けていく。そして質問された青年達はオーガS達を睨みつけながらそれぞれ箱の様な物とペンダントを取り出していく。

 

 

「祐輔の友人さ……悪いが、此処からは俺等も相手してもらうぞ?」

 

 

「祐輔さんを此処まで痛め付けてくれた礼もある……最初からマジでいくぞ!」

 

 

二人の青年……"紫凰響"と"影宮皇牙"は強気な口調でそう言うと響はポケットから一枚のカードを取り出して箱のような物にセットし、腹部に当てると箱の端から無数のカードが腰に巻き付くように現れバックルになっていき、皇牙は取り出したペンダントを空に掲げていく。そして……

 

 

響「変身ッ!」

 

 

『TURN UP!』

 

 

皇牙「アルト、セットアップッ!」

 

 

AT『Set UP!』

 

 

響がバックル横のレバーを引くと電子音声と共に光のゲートが目の前に出現し、それを潜ると響はブレイドに酷似した青と黄色の仮面ライダー……『ゼファー』へと変身し、皇牙は全身に赤い重厚な装甲を身に纏い、まるでロボットのような姿へと変わっていったのである。そしてその様子を見ていたキャンセラーE'sも漸く気を取り直し、二人と肩を並べて剣を構えていく。

 

 

ファム『……変なのが増えた……』

 

 

アナザーアギト『ちっ……おいどうするよ?ターゲット以外の部外者が来ちまったぜ?』

 

 

オーガS『……問題ねぇよ。言っただろ?任務の邪魔する奴は全員ぶっ潰す……お前等はあの二人をやれ、いいな?』

 

 

オーガSはめんどくさそうに言いながら大剣を構え、ファムとアナザーアギトもそれに頷くとそれぞれ構えていく。そして……

 

 

 

 

 

―…………バッ!―

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ガギイィッ!!ドゴォッ!バギィッ!!ドガァアンッ!!―

 

 

 

 

 

双方が動き出した瞬間、互いの武器や拳が激突し合い激しい戦いが始まったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ディケイドS『ソルスラッシャーッ!ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ソルフォームへとフォームチェンジしたディケイドはマキシマムドライブを発動させ、業火の炎を纏わせたライドブッカーSモードをヴェクタスへと振るい斬り飛ばしていた。しかし……

 

 

―バチバチッ……シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!―

 

 

ディケイドS『ッ?!くっ…またか?!』

 

 

ディケイドSの放ったソルスラッシャーは赤い粒子へと変化し、粒子はそのままヴェクタスの身体へと吸収されて取り込まれてしまったのである。そして粒子を取り込んだヴェクタスは愉快げに笑いながら立ち上がり、右手に持つ剣の刀身に炎を纏わせてディケイドSに突っ込んだ。そして……

 

 

ヴェクタス『ハァァァァ…ソルスラッシャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ディケイドS『クッ!グアァァッ!!』

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

フェイト「ッ!零ッ!!」

 

 

ヴェクタスの放ったソルスラッシャーにディケイドSは瞬時にライドブッカーを盾にするが、それも容易く破れられ近くに捨てられていた廃棄物の山に吹き飛ばされてしまい、ソルフォームから元の姿へと戻ってしまった。そしてそんなディケイドを見たヴェクタスはつまらなそうな表情を浮かべながらディケイドの下へと歩み寄っていく。

 

 

ヴェクタス『やれやれ……いい加減力を使ったらどうだ?どうせ今のお前では俺には勝てないんだからな』

 

 

ディケイド『クッ…!誰が……そんな事っ……!』

 

 

ヴェクタス『往生際の悪い奴め……それは元々お前の一部なんだぞ?それさえ使えばお前はかつてのお前に戻る事が出来る……世界を破壊と混沌に導いた本当のお前に戻れるんだ!さぁ、さっさと因子を使え!!』

 

 

ディケイド『……お断りだ……こんな物は使わない。俺はそう決めたんだッ!』

 

 

余裕の態度を見せるヴェクタスに対し強気な口調で答えるディケイドだが、内心ではこの状況をどう打破するべきかと焦りを浮かべていた。こちらが技を放ったところで全て取り込まれ逆に相手を強くしてしまうし、純粋な力勝負をしたところでこちらが打ち負けてしまうのは目に見えている。ならばヴェクタスが言うようにこの因子とやらを使うしか道はないのだが、これがどんな力を持っているのかは未知数だ。もしこれが自分の手に負えないような物なら、何が起きるか分からない。そうなれば近くにいるフェイトまで……

 

 

ヴェクタス『――そうか……なら、お前の役目は此処までだ』

 

 

ディケイド『…ッ?!』

 

 

冷めきった口調で呟かれたヴェクタスの言葉が響き、それを聞いたディケイドは意識を目の前の敵へと戻していく。すると其処には剣を両手で握り、頭上に掲げて剣の先にエネルギーを凝縮させるヴェクタスの姿があった。

 

 

ディケイド『なっ……!』

 

 

ヴェクタス『命令には背く事になるが……力を使う気がないならお前に価値なんてない。必要なのは因子だけなんだからな……お前は、此処で消えろ!!』

 

 

フェイト「ッ!駄目っ……逃げて零!!」

 

 

剣の切っ先にエネルギーを凝縮させていくヴェクタスを見て危険を感じたのか、フェイトは血相を変えながらディケイドに逃げるように叫ぶ。だが、それよりも早くエネルギーを凝縮し終えたヴェクタスは剣の先に溜まったエネルギーを巨大な球体へと変化させ、そして……

 

 

ヴェクタス『ハァァァァ…ハァッ!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!―

 

 

ヴェクタスが剣の切っ先をディケイドに向けた瞬間、エネルギー球はディケイドに向かって猛スピードで放たれていったのであった。それを見たディケイドは舌打ちしながらライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:BARRIER!』

 

 

―ドシュウッ!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

ヴェクタス『ッ?!何ッ?!』

 

 

電子音声と共にディケイドの目の前にマゼンタに輝く壁が出現し、ヴェクタスの放ったエネルギー球を防いでいったのだ。それを見たヴェクタスは一瞬驚愕してたじろぐが、ディケイドはその隙にライドブッカーから二枚のカードを取り出し連続でディケイドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

ディケイド『(ッ…!もうこれしか手はないか…!)変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:FIRST!』

 

『FINALATTACKRIDE:FIR・FIR・FIR・FIRST!』

 

 

電子音声が響くとディケイドはDfirstへと変身し、そのまま右足に雷を纏いながらバリアを飛び越えヴェクタスに跳び蹴りを放っていった。

 

 

Dfirst『セヤアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ヴェクタス『ッ!―ドゴォンッ!!―グゥッ!!』

 

 

Dfirstの放ったライダーキックがヴェクタスの胸部に直撃し、正面からそれをまともに受けたヴェクタスは勢い良く後方へと吹っ飛ばされていった。しかし、ヴェクタスの受けたライダーキックは無数の黄色い粒子へと変化してヴェクタスに取り込まれていき、それを見たDfirstはすぐさまライドブッカーから二枚のカードを取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:EXE!』

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EXE!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDfirstは瞬時にDエクスへと変身し、ライドブッカーをSモードに切り替えながら粒子を取り込んでいるヴェクタスへと突っ込んでいき、そして……

 

 

Dエクス『エクス!!カリバアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

ヴェクタス『ヌグッ?!』

 

 

Dエクスは距離を詰めると共にヴェクタスに向かってライドブッカーを振りかざし、ヴェクタスを再び吹き飛ばしていった。だがやはり、ヴェクタスの受けたエクスカリバーも金色の粒子となって黄色い粒子と共にヴェクタスへと吸収されていき、Dエクスも休む間もなく更に二枚のカードを取り出してディケイドライバーへとセットした。

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

電子音声が響くとDエクスの身体に紅いラインが浮き上がり、DエクスはDファイズへと変身していった。そして変身を完了すると共にDファイズが右足を突き出すと紅いポインターマーカーが発射され、ヴェクタスの目の前に円錐状に展開されてヴェクタスの身体を拘束し、それを確認したDファイズは上空へと高く飛び上がり跳び蹴りを放っていった。そして……

 

 

Dファイズ『デヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガァッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

跳び蹴りを放ったDファイズがマーカーに突入すると同時にマーカーはドリルのようにヴェクタスの身体に突き刺さり、Dファイズがヴェクタスの背後に着地すると共にヴェクタスの身体に紅いφの紋章が刻まれたのであった。

 

 

フェイト「……や、やった?やったよ零ッ!」

 

 

Dファイズ『ハァ…ハァ…ハァ……あぁ……どうだ?これなら…!』

 

 

奴が粒子を取り込む前にこれだけの技を叩き込めば、流石のヴェクタスとて無事では済まないだろうし粒子も吸収出来ないだろう。そう思いながらDファイズは息を乱したままヴェクタスの方へと振り返っていく。がしかし……

 

 

 

 

 

 

―…………バチバチッ……シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!―

 

 

 

 

 

 

Dファイズ『…なっ?!』

 

 

フェイト「ッ?!そ、そんな……?!」

 

 

ヴェクタスの身体に刻まれたφの紋章は紅い粒子へと分解され、そのままヴェクタスの身体に取り込まれてしまったのである。それを見たDファイズとフェイトは信じられない物を見た様な表情を浮かべて絶句するが、それとは対称的にヴェクタスは愉快げに笑いながら自分の身体を見下ろしていく。

 

 

ヴェクタス『クククッ……無駄な事を……言ったろ?お前ではどうやっても俺には勝てないとなぁ?』

 

 

Dファイズ『クッ…化け物がっ…!』

 

 

ヴェクタス『ハッハハハハハハハハハハッ!だが一応感謝はしておこうか?お前のお陰でソルとfirstとエクス、ファイズの力まで手に入った……そして今度こそ分かっただろう?お前がどんなに足掻こうが、俺には絶対勝てんとなぁ!』

 

 

ヴェクタスが不気味に笑いながらDファイズに向けて右足を勢い良く突き出すと紅いポインターマーカーが発射され、マーカーはDファイズの目の前に円錐状に展開されDファイズを捉えてしまった。

 

 

Dファイズ『グッ?!これはッ…?!』

 

 

ヴェクタス『クククッ……お前の役目は終わりだ……だから……死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

フェイト「ッ!?駄目っ…止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 

ヴェクタスはDファイズを捉えるマーカーに向かって跳び蹴りを放ち、木の陰に隠れていたフェイトも思わずその場から飛び出しDファイズの下に向かって走り出し、Dファイズは自分の死を覚悟してヴェクタスを鋭い視線で見据えた。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――貫け、グングニルッ!!!』

 

 

ヴェクタス『……ッ?!』

 

 

―シュンッ……ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

ヴェクタスがマーカーに突入しようとしたその直後、突如何処からか一方の槍のようなものが猛スピードで飛来してヴェクタスに直撃し、大爆発を起こしていったのだった。その光景にDファイズとフェイトは驚愕して唖然となるが、すぐにその槍が放たれた方へ振り返っていく。其処には……

 

 

 

 

『……ふぅ、なんとか間に合ったか』

 

 

「みたいね」

 

 

「えぇ、でもちょっとギリギリだったけどね……大丈夫、零?」

 

 

Dファイズ『ッ?!お、お前等は……翔?!式 閃華?!』

 

 

そう、其処にいたのは茶色いボディと黄色い瞳をして赤いスカーフを巻き付けたライダー……前のセイガの世界でディサイドに喚び出された翔が変身するライダー『バロン』と響の師匠である"式 閃華"、そして鬼のように頭に二角を生やした女性と銀と赤の身体をしたライダーの姿があったのである。

 

 

Dファイズ『お前等…どうして此処に…?!』

 

 

バロン『師匠から話を聞いて駆け付けたんだよ、俺達の世界から嫌な気を感じるって。それで一番近くから感じたお前の気配を辿って此処まで来たら、この三人と鉢合わせになったんだ』

 

 

閃華「私達も佐知に会いにこの世界に来たんだけど、なんだか嫌な気配を感じて此処まで来たのよ。その途中で煌一君から同じ気配を感じたって連絡があって、このガイアが送られてきたの」

 

 

閃華はそう言うともう一人のライダー……『ガイア』に目を向けると、ガイアはそれに肯定するように頷きながらDファイズに歩み寄り、フェイトと共にDファイズの身体を抱き起こしていく。

 

 

バロン『取りあえず無事で良かったよ。それで、一体何があったんだ?』

 

 

Dファイズ『ッ……あぁ、実は―――』

 

 

状況説明を求めるバロンにDファイズは若干ふらつきながらもこれまであった出来事を何とか説明しようとする。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――潰せ、グングニル……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ズザアァッ!!!―

 

 

ガイア『……ッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ヴェクタスが消えた爆煙の中から突如物凄い勢いで何かが放たれガイアの身体を安易く貫通し、ガイアは跡形も残さず爆発して散ってしまったのである。そしてそれの爆発に巻き込まれてDファイズ達は吹き飛ばされてしまい、Dファイズはその衝撃でディケイドへと戻ってしまった。

 

 

バロン『グッ!い、今のは……グングニルッ?!』

 

 

ディケイド『ッ…クソッ…アイツ、バロンの力まで取り込んだのかっ…!』

 

 

吹っ飛ばされたバロンは何とか立ち上がってガイアが倒された武器が自分の武器、グングニルだと気付いて驚愕し、ディケイドは今の攻撃を放った人物の正体に気付いて爆煙の方に目を向ける。其処には……

 

 

 

 

 

ヴェクタス『―――いち、にぃ、さん……なるほど。お仲間のご登場というわけか?クククッ…少しは楽しめそうになってきたな…』

 

 

爆煙が完全に晴れて消えると、其処にはバロンの武器であるグングニルで肩を叩きながら不気味に笑うヴェクタスの姿があったのだ。そしてヴェクタスはグングニルを消すとディケイド達へと歩み寄りながら自身の背後に歪みの壁を発生させ、其処から無数のライオトルーパー達を呼び出した。

 

 

閃華「ッ!……翔、貴方はあのライダー達をお願い。アイツとは私達がやるわ」

 

 

バロン『ッ!そんな、それだったら俺も…!』

 

 

閃華「いいから聞きなさい!アイツは嫌な感じがして危険よ……それに多分、貴方や零とじゃアイツと相性が悪過ぎる……」

 

 

ヴェクタス『ほう…?中々見る目があるなぁ?そう、ソイツや零では俺を殺す事なんて出来ない……良く分かってるじゃないか』

 

 

ヴェクタスは右手に出現させた剣を担ぎながら閃華の言葉に満足げに笑い、閃華と女性はそんなヴェクタスの態度に目を鋭くさせていく。そしてそんな二人から何かを悟ったのか、バロンは諦めたように渋々と頷きながらライオトルーパーの軍勢に向けて身構えていく。

 

 

ヴェクタス『作戦会議は終わりか?ならそろそろ……始めようかぁ!!』

 

 

それぞれ構える閃華達を見たヴェクタスは歓喜の笑みを浮かべながら人差し指を閃華達に向け、ライオトルーパーの軍勢はそれに応えるように閃華達へと雪崩の如く突っ込んでいく。

 

 

閃華「(アイツから感じる微かな気……やっぱり間違いない。何としても正体も確かめないと……)姫華、いくわよ!!」

 

 

姫華「えぇ……ハァッ!」

 

 

閃華はヴェクタスを見据えながら隣に立つ女性…姫華に呼び掛けると二人はライオトルーパーの軍勢を退けながらヴェクタスへと突っ込んでいった。そしてバロンは何処からか弓のような武器……バロンアローを取り出して構えながらライオトルーパー達の攻撃に備えるが、そこへディケイドもふらつきながらバロンの隣に立った。

 

 

バロン『ッ?!おい、何やってんだ零?!お前もフェイトと一緒に下がってろ!』

 

 

ディケイド『ッ……悪いが……それは無理だっ……アイツ等の目的はどうやら俺らしい……だからフェイトと一緒にいれば、アイツまで危険な目にっ…!』

 

 

バロン『そんな怪我してるのに何言ってるんだ?!いいから早く下がって『ウオォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!!』チッ!』

 

 

怪我を負っているにも関わらず、フェイトを巻き込まないように自分も前に出て戦おうとするディケイドを何とか下がらせようとするバロンだが、既にライオトルーパーの軍勢が目前まで迫り、ディケイドとバロンはそれぞれの武器を構えてライオトルーパーの軍勢とぶつかり合っていくのだった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑥

 

 

―海鳴市・市街地―

 

 

 

アナザーアギト『羅刹の十三……雷鳴拳!!』

 

 

皇牙『アルト!!』

 

 

AT『revolving・stick』

 

 

戦闘開始の合図と共に皇牙とアナザーアギトが同時に地を踏み、アナザーアギトは右腕に雷を纏わせ、皇牙は瞬時に自身のデバイスであるアルトからカートリッジを一発排出する。そして響く電子音声と共に皇牙の右腕の杭とアナザーアギトの右拳が大きく振り上げられ、互いに目掛けて勢い良く放たれていった。

 

 

―ドゴオォォォォォォンッ!!!―

 

 

皇牙『ッ!へぇ、中々良い拳してるじゃねぇか…!』

 

 

アナザーアギト『てめぇもなっ……まさかこんなやり甲斐のある奴と出会えるだなんて思いもしなかったよ!!』

 

 

杭と拳をぶつけ合いながら、楽しいと言わんばかりに自然と歓喜の笑みを漏らす二人。最初は任務の邪魔をされて不愉快と思っていたアナザーアギトも、目の前の相手と拳を交えていく内に言葉では言い表せない程の高揚感を感じていた。そして皇牙は一度アナザーアギトから距離を離すと左腕に装備されたガトリングを乱射させながら空へと浮上し、アナザーアギトはビルの壁を器用に駆け登りながら銃弾を回避して皇牙の後を追っていった。

 

 

―ガギィッ!!ガァン!!ギィィンッ!!―

 

 

ゼファー『セヤァッ!!』

 

 

ファム『フッ…!』

 

 

その隣では、互いに自分の愛剣をぶつけ合い激突するゼファーとファムの姿があった。そして剣を交えていた二人は間合いを離すようにバックステップして後方へと下がると、ゼファーは自身の愛剣である覇翔剣に闘気を込め、ファムはバイザーの刃に白いオーラを纏わせ、双方は同時に地を蹴り互いに向かって剣を振りかざした。

 

 

ゼファー『砕けろ!!ブレイ・クラッシュッ!!』

 

 

ファム『戦姫八ノ太刀、白神烈火!!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

ゼファーの剣とファムの剣が激突した瞬間、その衝撃によって二人の周りにあるビルの窓が全て砕けて硝子の雨となり、地上へと降り注いでいった。だが二人はそんな事は関係ないと言わんばかりに距離を離して再びぶつかり合い、その場に何度も巨大な轟音が鳴り響いていたのだった。

 

 

―ズガガガガガガガァ!!ガギィン!ガギィン!―

 

 

オーガS『オラァ!!』

 

 

キャンセラーE's『グッ!ハアァ!!』

 

 

そしてその二人が戦う場所から離れた先には、キャンセラーE'sがオーガSの剣を必死に防ぎながら無数の銃弾を乱射させて攻撃する姿があった。そして何度目か剣を交えた頃、キャンセラーE'sは先程から自分が感じていた疑問を聞き出す為にオーガSと剣を交えたまま口を開いた。

 

 

キャンセラーE's『君達の目的は一体なんなんだ!?何故僕を狙う!?』

 

 

オーガS『行っただろ!!てめぇに話す義理なんてねぇ!!お前はただ、黙って俺達についてくりゃいいんだよ!!』

 

 

オーガSはキャンセラーE'sからの問い掛けには答えず、再び大剣を繰り出してキャンセラーE'sへと斬り掛かっていく。だがキャンセラーE'sはそれを何とか受け流し、バックステップでオーガSから距離を離しオーガSを見据える。

 

 

キャンセラーE's『……なら僕が勝てば、話を聞かせてくれるかな?』

 

 

剣の切っ先をオーガSに向けながら真剣な口調で語るキャンセラーE's。そんな彼から言い知れぬ気迫を感じ取ったオーガSは一瞬たじろいでしまうが、直ぐに立ち直って大剣を構えていく。

 

 

オーガS『あぁ…いいぜ?やれるものなら、やってみろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっ!!!』

 

 

大剣を持ち直したと同時にオーガSは大剣を大きく振るい、巨大な斬撃波を放ち牽制を仕掛けた。それを見たキャンセラーE'sは瞬時に真横へと跳びながら銃を乱射させてオーガSを狙い撃っていくが、オーガSは大剣でそれを防ぎながらキャンセラーE'sへと突進し斬り掛かっていった。

 

 

オーガS『オォォォォォォォォォォオーーーーーーッ!!!』

 

 

―ガギィィィンッ!!ガアァンッ!!―

 

 

キャンセラーE's『フッ!ハアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!』

 

 

―ギンギンギンギンギンギングガアァンッ!!!―

 

 

オーガSの振り下ろした刃をキャンセラーE'sは左手に持つ銃で受け止め、右手に構える剣でオーガSへと斬り掛かっていく。しかしオーガSも負けじと大剣で攻防を切り替えながら応戦していき、一度距離を作るとキャンセラーE'sに向けて左手を翳す。

 

 

オーガS『羅刹の十九……爆王!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ……ズガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

オーガSの左手から先程とは比べものにならない大きさの金色の閃光が放たれ、閃光は驚異的なスピードでキャンセラーE'sに向かっていった。だがキャンセラーE'sはそれに対して慌てる事なく、剣を軽く構えながら閃光を見据え……

 

 

キャンセラーE's『……その攻撃はもう……見切った!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

オーガS『ッ?!何ッ?!』

 

 

閃光はキャンセラーE'sの持つ剣によって真っ二つに斬り裂かれてしまい、二つに分かれた閃光はキャンセラーE'sの真横を通り背後で爆発していった。

 

 

オーガS『クッ!羅刹の二十七、瞬――!!』

 

 

キャンセラーE's『遅いッ!!!』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

―シュンッ……ガギイィインッ!!!―

 

 

オーガS『グッ?!グオォッ!!』

 

 

大剣を構え直して次の技を放とうするオーガSだが、その様子を見たキャンセラーE'sは一瞬でオーガSの目の前に現れ、剣を抜き放ちオーガSをビルの壁際まで吹っ飛ばしていったのである。そしてキャンセラーE'sは追い撃ちと言わんばかりに吹っ飛されたオーガSに向けて銃弾を連射していくが、オーガSは直ぐにその場から跳び退いて銃弾を避けていく。

 

 

オーガS(クッ!どうなってんだ?!さっきとはまるで動きが違う!!)

 

 

銃弾を撃ち続けるキャンセラーE'sを見ながら先程までとは動きが変わった事に戸惑うオーガS。どうなっているのか分からないが、このままではこちらが押し切られてしまう。そう判断したオーガSは銃弾を弾きながらキャンセラーE'sと向き合い、勝負を決めようとオーガセイバーにコードを入力してエンターキーを押していった。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

電子音声と共にオーガSの持つオーガセイバーの刀身が金色のまばゆい輝きを放っていき、オーガSはそれを構えながらキャンセラーE'sへと突っ込んでいく。そしてキャンセラーE'sもそれを迎え撃とうと左手に構える銃の銃口をオーガSへと向けながら呟く。

 

 

キャンセラーE's『キャンセラーシューティング…』

 

 

『CANCELER SHOOTING!』

 

 

電子音声が響くと共に銃にエネルギーが集束されていき、キャンセラーE'sの銃の照準をオーガSに合わせながら構えていく。そして……

 

 

キャンセラーE's『照準固定……シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーートッ!!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

オーガS『グゥッ!!ウオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーッ!!!!』

 

 

キャンセラーE'sが引き金を引くと共に銃口から巨大な閃光が放たれ、オーガSへと向かって発射されたのだった。そしてオーガSは向かってきた閃光に対して回避もせず、真っ正面から大剣で受け止めてぶつかり合っていったのである。

 

 

―ギガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

オーガS『グッ!まだっ…だ!!こんな事でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……ッ!!!』

 

 

大剣で閃光を受け止めて何とか耐えて見せるオーガSだが、次第に閃光の勢いに押され後方へと下がりつつあった。そんなオーガSを見たキャンセラーE'sはマスク越しに瞳を閉じると、真剣な表情を浮かべながら引き金に力を込めて瞳を開いた。

 

 

キャンセラーE's『……これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!!!』

 

 

―ガガガガガガガガッ…!ドガアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

オーガS『グッ!?グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

キャンセラーE'sが引き金を強く引くと閃光の勢いが更に増し、閃光と正面から激突し合っていたオーガSを飲み込み数十メートル先まで吹っ飛ばしていったのであった。

 

 

キャンセラーE's『……僕の……勝ちだ』

 

 

オーガS『ガハッ!!クッ……クソッ……こんなっ……馬鹿なぁ……!』

 

 

構えを解いて静かに呟いたキャンセラーE'sに対してオーガSは未だ自分の敗北が信じられず起き上がろうとし、キャンセラーE'sはそんなオーガSへとゆっくり歩み寄っていく。

 

 

キャンセラーE's『さぁ、約束通り話を聞かせてもらうよ?君達は一体―カチャッ―……ん?』

 

 

話を聞き出そうとオーガSへと歩み寄っていくキャンセラーE'sだが、その途中で足元に何かが当たり自分の足元に視線を下ろすと、そこには水色のペンダントのような物が落ちていたのだ。それを見たキャンセラーE'sは疑問符を浮かべながら身を屈めてペンダントを拾って眺めると、裏側に写真が入っている事に気付きペンダントの裏を見た。

 

 

キャンセラーE's『…ッ?!こ、これは?!』

 

 

ペンダントの裏を見たキャンセラーE'sは、その写真に写った三人の人物を見て驚愕の表情を浮かべた。

写真に写る一人は目の前にいるオーガに変身した真也と思われる十四歳くらいの少年。

もう一人は漆黒の髪に真紅の瞳をした中学生くらいの少年。

そして最後の一人はその二人の間に立って満面の笑みを浮かべる黒髪の小学生くらいの少女。

真也と少女の二人と一緒に写る少年……それは間違いなく自分が良く知る人物、黒月零だった。

 

 

キャンセラーE's『な、なんで…零さんが…?!』

 

 

オーガS『……ッ!それに障るなぁッ!!』

 

 

―ブォンッ!ズバアァァッ!!!―

 

 

キャンセラーE's『ッ?!ウワァッ!』

 

 

ペンダントの写真に写る零を見て驚愕していたキャンセラーE'sだが、オーガSの放った斬撃波の不意打ちを受けてペンダントを宙に放り投げてしまい、オーガSは宙に投げられたペンダントを何とかキャッチしてキャンセラーE'sを睨みつける。

 

 

オーガS『ッ!テメェっ…見やがったなっ…!』

 

 

キャンセラーE's『ッ……ど、どういう事?なんで君と零さんが……?』

 

 

オーガS『テメェには関係ねぇ!!こいつを見たからには、テメェをこのままにしておくわけには……くっ……かはっ!?』

 

 

キャンセラーE's『ッ?!』

 

 

ペンダントの写真を見られた事に激怒して再び立ち上がろうとするオーガSだが、オーガSは突如仮面の下から大量の血を吐いて膝を付いてしまい、変身が解除されて地面に力無く倒れ込んでしまった。

 

 

キャンセラーE's『なっ?!』

 

 

アナザーアギト『ッ?!真也?!』

 

 

ファム『真也!!』

 

 

突然血を吐いて倒れた真也を見てキャンセラーE'sは状況が理解出来ず唖然としてしまい、それを見たアナザーアギトとファムは自分達と戦っていたゼファーと皇牙から背を向けて真也へと駆け出し、真也の身体を抱き起こしていく。

 

 

ファム『真也!真也!!』

 

 

真也「がっ……くそっ……こんな時にっ……ごふッ!」

 

 

アナザーアギト『馬鹿!!羅刹を使い過ぎだ!!麻衣、此処は一旦引き上げるぞ!!』

 

 

ファム『ッ!うん…!』

 

 

ゼファー『なッ…!おい!待ちやがれ!!』

 

 

口から血を吐き出す真也を抱えて逃げようとするアナザーアギトとファムを見たゼファーはそうはさせまいと剣を構え直し二人に突っ込もうとする。だがそれを見たファムは右手を掲げてゼファーとファム達の間に歪みの壁が発生させ、そこから大量のライオトルーパーを呼び出してゼファーを止めてしまう。そして三人はその隙に背後から現れた歪みの壁を通り抜け、何処かへと消えていってしまった。

 

 

ゼファー『チッ!逃げられたっ…!』

 

 

皇牙『逃げた奴の事なんかほっとけ!今はそれより、コイツ等をどうにかしねぇと…!』

 

 

ゼファーはファム達に逃げられた事に悔しげな表情を浮かべるが、皇牙はそんな事より今は自分達の周りを包囲するライオトルーパーの大群をどうにかせねばと思い身構えていく。そしてキャンセラーE'sもそれに同意する様に頷き銃を構えていくが、突然脇腹を抑えながらその場で膝を付いてしまう。

 

 

ゼファー『ッ?!祐輔?!』

 

 

キャンセラーE's『ッ…!ゴメン……ちょっと、ダメージ受けすぎたかな?何かもう限界みたい…�』

 

 

そう言いながら笑ってごまかすキャンセラーE'sだが、実際今の彼はかなりのダメージを蓄積してしまっている。この二人が来るまでたった一人でオーガS達と戦い、驚異的な威力を持つ技をあれだけ受けたのだから無理もないだろう。そんなキャンセラーE'sを見た二人はキャンセラーE'sを守るように構え、未だ増え続けるライオトルーパーの大群と対峙していく。

 

 

キャンセラーE's『…ッ?!な、何してるんだ二人共?!僕のことはいいから、早く逃げて!!』

 

 

皇牙『冗談!アンタを放って逃げられる訳ないだろ?!』

 

 

ゼファー『あぁ、この程度の雑魚共……お前を守りながらでも5分で片付けられるさ!』

 

 

そう言いながら二人はそれぞれ武器を構えていくが、ライオトルーパーの大群はまだまだ増え続けてあっという間に三人の周りを埋め尽くしてしまう。これだけの数を相手にしながらキャンセラーE'sを守れるか?と問われれば、やはり少し難しいかもしれない。そう思いつつも二人は武器を握る手を緩めず、ライオトルーパーの大群は徐々に三人へと押し寄せていく。その時……

 

 

 

 

 

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

―シュンッ……シュパァッ!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

突如その場に電子音声が鳴り響き、それと共に何処からか黄色いポインターマーカーが発射され、ライオトルーパーの大群の一角の前に円錐状に展開されライオトルーパー達の身体を拘束していったのだ。それを見た三人は突然の事に驚愕してしまい、更に……

 

 

 

 

 

 

『デヤアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォオーーーーーーーッ!?』

 

 

―シュンッ!ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

上空から現れた謎の人物がマーカーへと突入してライオトルーパーの大群に跳び蹴りを放ち、大群の一角は断末魔を上げながら爆発して散っていったのだった。その光景を見た三人は状況が理解出来ず唖然としてしまうが、その間にも大群が爆発して起きた爆煙が少しずつ晴れて視界が回復していく。其処にいたのは……

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 

 

 

皇牙『…ッ?!あれは?!』

 

 

ゼファー『……カイザ……だと?』

 

 

そう、其処にいたのは以前キバの世界で零となのはに襲い掛かったライダーと同じ紫の瞳を輝かせる戦士…カイザだったのだ。三人は目の前に立つカイザを見て思わず身構えながら後退りをしていくが、ライオトルーパーの大群はそんな事は関係ないと言わんばかりに三人の背後から奇襲を仕掛けようと飛び掛かった。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『グッ?!ウワアァァァァァァァァァアーーーーーーッ!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ッ!?』

 

 

先程の物とは違う別の電子音声が響き、それと同時に上空から青い弾丸が雨の様に降り注ぎライオトルーパー達を撃退していったのである。そしてそれに気付いた三人がライオトルーパー達が爆散した場所の方へと振り返ると、爆煙の奥から一人のライダーがゆっくりと現れ、三人の目の前に姿を現した。

 

 

 

 

ディエンド『…やぁ♪暫くぶりだね無効化の青年君?元気にしてたかい?』

 

 

皇牙『ッ!お前…!?』

 

 

キャンセラーE's『だ、大輝さん!?』

 

 

そう、キャンセラーE's達の目の前に現れたライダーとは零達が旅する世界の先で現れる青年、海道大輝が変身したディエンドだったのである。

 

 

ゼファー『お、お前…どうして此処に?!』

 

 

ディエンド『俺もたまたまこの世界に来てただけさ。それと一応言っとくけど、別に君達二人を助けに来たわけじゃないよ?無効化の青年は俺が頂くんだからね、それを横取りされないように彼を守りに来ただけさ♪』

 

 

皇牙『……はぁ……相変わらずだなお前�』

 

 

キャンセラーE'sに指鉄砲を向けながら爽やかに笑うディエンドにゼファーと皇牙は相変わらずだと呆れたように溜め息を吐き、キャンセラーE'sもどう言えば分からず苦笑を漏らしてしまう。

 

 

ゼファー『……それじゃ、あのカイザはお前が呼び出したのか?』

 

 

ディエンド『いいや、あの人達は別世界からの助っ人さ。今回ばかりは少しヤバそうな気配がしたからね、一応連絡して来てもらったんだよ』

 

 

キャンセラーE's『……?あの人達……?』

 

 

ディエンドの説明に何か引っ掛かる部分があったのか、キャンセラーE'sは疑問げに呟きながら首を傾げてこちらを見つめるカイザに視線を向けるが、ディエンドは三人の目の前に立ってライオトルーパー達と対峙していく。

 

 

ディエンド『さてと、それじゃあお供その一君とその二君?何だか青年君は怪我をしてるみたいだし、早く青年君を安全な場所まで運んでいってくれるかな?』

 

 

皇牙『Σ誰がお供だ!?』

 

 

ゼファー『いいからいくぞ皇牙!早く手を貸せ!!』

 

 

皇牙『ぐっ……わ、分かったよ�』

 

 

お供と呼ばれた事に不満げな叫びを上げる皇牙だが、ゼファーに早く手を貸す様に促されてそれ以上言えなくなり、渋々とキャンセラーE'sの肩を担ぐとGreen Cafeに戻る為この場を後にした。

 

 

ディエンド『……後はあの二人に任せておけば大丈夫かな……それじゃ、後始末の手伝いお願いしますね。お二人さん?』

 

 

カイザ『――ふぅ……残り物の処分なんて余り気が乗らないが、一度引き受けた依頼を無下にするのは紳士的じゃないか……』

 

 

『なら早く片付けちゃえば問題ないわ……行くわよ、ゼウス?』

 

 

カイザ『あぁ、了解だクライシス!』

 

 

カイザはベルトから聞こえてきた女性らしき声にそう答えながら右腰に装備したカイザブレイガンを取り出し、バックル部分の携帯にあるメモリーを抜き取ってカイザブレイガンに装填していき、ディエンドは左腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出してディエンドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『Ready!』

 

 

ディエンド『此処は、彼女から貰ったカードの出番かな?』

 

 

『BRAVERIDE:GREGA!HEROINERIDE:NIGHT FARUZA!』

 

 

二つの電子音声が響くと、カイザの持つカイザブレイガンに黄色の輝きを放つ刃が現れ剣に切り替り、ディエンドはディエンドライバーの引き金を引くと辺りに複数の残像が駆けて二ヵ所に重なっていき、一つはグレイガ、もう一つはナイトファルザーとなって姿を現していった。そしてディエンドとカイザ、グレイガとナイトファルザーはそれぞれの武器を構えてライオトルーパー達へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・路地裏―

 

 

 

そしてその頃、街中にあるとあるビルの路地裏では、先程戦場から逃げて変身を解除した恭平と麻衣が未だ吐血し続ける真也に付き添う姿があった。

 

 

真也「グッ…ゲホッゲホッ!!ハァ…ハァ…!!」

 

 

麻衣「真也!しっかりして真也!!」

 

 

麻衣は口から血を吐く真也の手を力強く握りながら必死に呼び掛け、恭平は慌てた様子で自分のスーツの中を漁っていくと一本の液体のような物が入ったビンを取り出し、蓋を開けてビンの飲み口を真也の口へと近づける。

 

 

恭平「ほら薬だ!早く飲め真也!!早くッ!!」

 

 

真也「ぁ……ぐっ……んぐっ……ぐっ……」

 

 

真也は朧げな瞳をしたまま差し出されたビンをくわえ、中身の液体を少しずつ飲み干していく。そして液体を飲んでから暫く経つと、真也の表情はだんだんと落ち着きを取り戻して吐血も止まり、恭平と麻衣はそれを見て安心したようにホッと一息吐いた。

 

 

恭平「よし、間に合ったみたいだな。後は少し休ませておけばもう大丈夫だろ」

 

 

麻衣「うん……良かった……ホントに……」

 

 

真也「ッ……悪い恭平……麻衣……俺のせいで……お前等に迷惑掛けてっ……」

 

 

恭平「全くだぜ…この借りはケーキで返してくれよ?それもとびっきりの高級な奴な?」

 

 

真也「あぁ……わぁーてるよ……」

 

 

いつものように冗談っぽく言いながら笑う恭平に真也は苦しげではあるも苦笑いを浮かべる。そして恭平はそんな真也の調子を見て後は大丈夫だろうと判断し、真也に付き添う麻衣に目を向ける。

 

 

恭平「麻衣、お前は此処で真也に付いててやってくれ。俺はそこらのコンビニで何か買ってくっからさ……お前何がいい?」

 

 

麻衣「……何でもいいよ……恭平に任せる……」

 

 

恭平「そっか……んじゃ、適当に何か買ってくっから此処で待ってろよ?」

 

 

麻衣「うん……気をつけてね……」

 

 

麻衣がそう言うと恭平は背中を向けて軽く手を振り、路地裏を抜けてコンビニを探しに何処かへと向かっていった。麻衣はそれを見るとスーツの中からハンカチを取り出し、真也の口に付いた血を拭き取っていく。

 

 

麻衣「真也……もう痛いところ……ない?」

 

 

真也「ッ……あぁ……けど、情けねぇよなぁ……力を使いすぎたってだけで……こんなザマになるなんてさぁ……」

 

 

麻衣「……仕方ないよ……羅刹は副作用が多い危険な力だって綾も言ってたし、私の戦姫みたいに突然変異が起きれば……真也と恭平ももっと楽になるのに……」

 

 

真也「……んな辛気臭い顔すんなって……これは俺等が望んで選んだ力なんだ……だからお前が気にする事なんて、何もねぇよ……」

 

 

真也は暗い表情を浮かべて顔を俯かせる麻衣の頭をポンと弱々しく叩き、麻衣も少しは元気を取り戻したのか微かに微笑を浮かべる。そして真也はそんな麻衣の表情を見て安心したように笑うが、すぐに身体を壁に預けて眠たげに瞼を何度も開閉させる。

 

 

真也「ッ……ワリィ麻衣……ちょっち眠くなってきた……少し、寝かせてもらっていいか……?」

 

 

麻衣「……うん……恭平が帰って来たら起こすから……寝てていいよ……」

 

 

真也「あぁ……ワリィな……じゃあちょっとだけ……寝かせてもらうわ………」

 

 

真也は眠たげにそう言うとゆっくりと瞼を閉じて眠りに付き、麻衣は真也が眠ったのを確認すると真也の手の中に握られるペンダントに入った写真を見て静かに呟く。

 

 

麻衣「大丈夫……因子を手に入れて……封印を壊して……揺り篭が動けば……私達の願いは叶う……瑠璃も……お父さんとお母さんも……皆生き返る……皆……幸せだった頃に戻れる……だから、大丈夫……」

 

 

麻衣は切ない表情で水色のペンダントに写る少女……瑠璃を見つめながらそう呟き、血に濡れた真也の手を優しく握り締めていた。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑦

 

―海鳴市・臨海公園―

 

 

 

バロン『デヤァッ!ハアァッ!』

 

 

―ガキィンッ!ドゴォッ!バキィッ!―

 

 

『ガハァッ!』

 

 

ディケイド『セッ!ハッ!セヤァッ!!』

 

 

―ズシャッ!ズバッ!ザシャァンッ!―

 

 

『ギャアァッ!?』

 

 

一方その頃、臨海公園ではディケイドとバロンが周りに群がるライオトルーパーの軍勢に対しそれぞれ抗戦し、ディケイドの巧みな剣捌き、バロンの素早い剣撃にライオトルーパーの群れは何も出来ず追い詰められ、そして……

 

 

『ハアァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズシャアァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

二人のライダーのトドメの一撃により、ライオトルーパー達は断末魔と共に爆発し散っていったのであった。だが、大群を倒した二人の前にライオトルーパーの群れが再び現れ立ち塞がり、それを見たディケイドとバロンは背中合わせに立ちながら武器を構え直す。

 

 

バロン『チィッ!一体何体いるんだよコイツ等?!』

 

 

ディケイド『ッ!こういう戦いはレジェンドルガの時に慣れたつもりだったが、やはり何度やっても骨に来るなっ…!』

 

 

辺りに群がって来るライオトルーパーの大群に思わず毒づいてしまうディケイドとバロンだが、そうしてる間にも大群は更に数を増して二人の目の前に立ち塞がり、ディケイドは先に先陣を切ろうとライドブッカーSモードを振り上げて掛け出そうとした。しかし……

 

 

―…………ドグンッ!!―

 

 

ディケイド『…ッッ?!!アッ……ガッ?!』

 

 

バロン『…ッ!零?!』

 

 

フェイト「ッ?!零ッ!」

 

 

大群に斬り掛かろうとしたディケイドは突然左目を抑えながらその場に膝を付いて悶え出し、バロンやその様子を離れて見ていたフェイトは慌ててディケイドの傍へと駆け寄っていく。

 

 

バロン『オイ、どうした?!大丈夫か?!』

 

 

ディケイド『ッ……問題、ない……少し張り切り過ぎただけだっ……気にするな……!』

 

 

フェイト「き、気にするなって…!」

 

 

ディケイドは左目を抑えたまま心配そうに声を掛けてきたバロンとフェイトに何でもないと答えると、ふらつきながら立ち上がりライドブッカーを振り上げながらライオトルーパー達へと突っ込んでいった。

 

 

フェイト「ま、待ってよ!零!!」

 

 

バロン『おい馬鹿!いくなフェイト!!』

 

 

フェイトは大群に突っ込むディケイドを引き止めようと走り出すがバロンに引き止められてしまい、それを見た大群はあらゆる方向からバロンとフェイトに襲い掛かり、バロンは軽く舌打ちしながらフェイトを後ろに下げ大群に抗戦していったのだった。

 

 

―……ドグンッ……ドグンッ……ドグンッ……!―

 

 

ディケイド『グゥッ!ハァ……ハァ……ハァ……ハアァァァァァァァァアーーーーーーッ!!!』

 

 

―ズシャァッ!ズバァッ!ガギィンッ!!―

 

 

『グアァッ!』

 

 

『ガァッ?!』

 

 

その一方で、ディケイドは左目から感じる激しい激痛に耐えながらライドブッカーを必死に振るい、ライオトルーパーの群れを確実に減らしていた。だが、その間にも左目に埋め込まれたソレはまるで心臓のように気持ち悪く鼓動を響かせ、その不快感のせいからとてつもない吐き気と頭痛に襲われてしまい、ディケイドの動きも次第に勢いを失い始めていた。そして……

 

 

―……ドグンッ……ドグンッ……ドグンッ…!―

 

 

ディケイド『グッ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……!!』

 

 

―……ドグンッ……ドグンッ……ドグンッ…!―

 

 

ディケイド『うっ……ぐっ……グゥッ!』

 

 

―ドシャッ!―

 

 

バロン『ハァッ!……ッ?!零ッ?!』

 

 

フェイト「零ッ!」

 

 

ディケイドは痛みに耐え切れず左目を抑えながら地面に膝を付いてしまったのである。それを見たバロンはライオトルーパー達を斬り伏せながらフェイトと共に慌ててディケイドへと駆け寄ろうとするも、辺りに群がる軍勢のせいで思うように先に進めないでいた。

 

 

―……ドグンッ……ドグンッ……ドグンッ!!―

 

 

ディケイド『クッ……いいからっ……いいから黙っていろ!!お前の力なんていらない!!俺の中から出て来るなッ!!』

 

 

時間が経つ毎に痛みを増し、まるで力を使えとでも訴え掛けてくる左目のソレにディケイドは思わず怒号を響かせる。そしてディケイドは覚束ない足取りで立ち上がると、その苛立ちをぶつけるかのようにライオトルーパー達に向けてライドブッカーを振り上げ走り出そうとした。だが……

 

 

 

 

 

 

―ヒュンッ……ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

『ッ?!!』

 

 

ディケイドの真横を何かが通りすぎ、次の瞬間、その何かはディケイドの背後にあったベンチに衝突し爆発を起こしたのである。突然の出来事にディケイドや近くにいたバロンとフェイトも思わず動きがストップしてしまい、一瞬硬直して動かなくなってしまった。

 

 

ディケイド『……ッ?!な、何だ今の…?』

 

 

バロン『な、何かが飛ばされてきたみたいだが……』

 

 

一瞬驚きながらもすぐに我を取り戻したディケイドとバロンとフェイトは瓦礫が吹っ飛んだ場所へと振り返っていく。其処には……

 

 

 

 

 

姫華「う、うぅ……」

 

 

ディケイド『…ッ?!アンタは?!』

 

 

其処にいたのは閃華と共にヴェクタスと戦っていた筈だった異形の姿をした女性……姫華だったのである。その身体にはところどころに深い傷が刻まれて血を流しており、それを見たディケイドとバロンとフェイトは慌てて姫華の下へと駆け寄り身体を抱き起こしていく。

 

 

ディケイド『おい!おいしっかりしろ!大丈夫か?!』

 

 

フェイト「傷が酷いっ……早く治療しないと!!」

 

 

姫華「ッ……わ、私の事はいいからっ……それより、閃華を手伝ってあげてっ……アイツが……ヴェクタスがっ……!」

 

 

バロン『……え?』

 

 

姫華はボロボロになりながらも必死に二人へ何かを伝えようとライオトルーパーの群れの向こうを指差し、ディケイド達はそれを視線で追ってその方向へと振り向く。其処には……

 

 

 

 

ヴェクタス『クククッ…』

 

 

閃華「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……!」

 

 

バロン『ッ?!閃華さん?!』

 

 

そう、ライオトルーパーの大群の向こうには、互いに向き合って対峙し合う閃華とヴェクタスの姿があったのだ。だが、閃華の身体は姫華のようにところどころがボロボロとなって血を流しており、それとは対称にヴェクタスはまったく傷を負っておらず、余裕そうに剣で肩を叩きながら不気味に笑っていた。

 

 

ヴェクタス『ほら、どーしたぁ?俺はまだまだ本気も出しちゃいないのに、お前等がそんなんでどーする?』

 

 

閃華「ッ!良く言うわよ…こっちの技を全部取り込む上に…その身体を盾にしてる卑怯者が!」

 

 

ヴェクタス『クッハハハハハハハッ!それを言うなら頭脳的って言って欲しいねぇ?それに俺から言わせてもらえば、仲間だの友人だのくだらない物に囚われてるから、そんなボロボロになってんじゃないのかぁ?あぁ?』

 

 

閃華「ッ…戯れ事を!!」

 

 

嘲笑うように語るヴェクタスに激怒したのか、閃華は右手に構える純白の刀……神刀・白夜を振りかざしてヴェクタスに斬り掛かろうと信じられないスピードで突っ込んだ。だがしかし、ヴェクタスは閃華の振り下ろした白夜をアクロバットな動きで回避しながら後方へと跳び、地面に着地すると同時に閃華の足元に巨大な魔法陣のような物を出現させ、其処から呼び出した無数の黒い鎖で閃華の手足を拘束し身動きを封じてしまった。

 

 

閃華「!?これは…!?」

 

 

ヴェクタス『安心しろ……お前とあの女はこの身体の真の力を発揮した時に使う実験体だ、簡単には殺さんさ』

 

 

閃華「くっ…!」

 

 

拘束されてしまった閃華は身体全体を動かして無数の鎖から逃れようとするが鎖はまったくビクともせず、寧ろ抵抗する度に鎖の強度が増して更に壊れ難くなっていた。

 

 

ヴェクタス『止めておけ、そいつは特殊な加工で創られた一級品の品だ。暴れたところで更に逃げられなくなるだけさ』

 

 

閃華「チッ…!」

 

 

ヴェクタス『其処で大人しくしていろ、お前とあの女は後でジックリと料理してやる……先ずは――』

 

 

ヴェクタスは抵抗を続ける閃華から視線を外すと今度はライオトルーパーの大群に囲まれるディケイドに目を向け、右手に持った剣の切っ先をディケイドに向けながら近づいていく。

 

 

ヴェクタス『――先ずは、当初の目的から果たさせてもらおうかぁ…?』

 

 

バロン『ッ……零』

 

 

ディケイド『あぁ、分かっている……フェイト、この人と一緒に下がれ……』

 

 

フェイト「え……う、うん」

 

 

ディケイドとバロンは姫華をフェイトに任せて後ろに下がらせると、それぞれの武器を構えながらヴェクタスと対峙していき、ヴェクタスも足を止めると大群を下がらせ剣を構えていく。そしてヴェクタスと対峙していたディケイドとバロンは同時に地を蹴って飛び出し、ヴェクタスに向かってそれぞれの武器を振りかざしていった。

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!』

 

 

バロン『デヤアァァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!』

 

 

ヴェクタス『フッ……ハァッ!!』

 

 

―ガギイィィィィィインッ!!―

 

 

ヴェクタスは二人の放った武器を剣で受け流すと共に後方へと距離を離しながら左手から無数の黒い炎弾を放ち、ディケイドとバロンは横へと飛び退いてそれを回避すると直ぐさま態勢を立て直してヴェクタスへと再び走り出し武器を振りかざしていった。だが、二人の放つ攻撃はすべてヴェクタスに軽々と避けられてしまい、更にディケイドの方は左目の激痛を抱えている為に素早く剣を振るう事が出来なくなっていた。

 

 

ヴェクタス『ハッハァッ!どうしたんだ零?!もうバテたのか?!それとも、左目のせいでまともに剣も振るえないのかなぁ!?』

 

 

ディケイド『クッ!黙れッ!!』

 

 

左目の事を指しながら挑発的な態度を見せてくるヴェクタスにディケイドはそう言って大きくライドブッカーを振りかざすが、ヴェクタスは空中を回転しながらそれすらも避けてしまう。それを見たバロンはすかさずバロンアローから複数の魔力矢を放ってヴェクタスに追撃し、ディケイドもふらつきつつもライドブッカーをブッカーモードに切り替えて左腰に戻し、一枚のカードを取り出してディケイドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:AGITO!』

 

 

電子音声が鳴るとディケイドは鳴り響くエンジン音と共にDアギトへと変身し、Dアギトは更にもう一枚のカードを取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせる。

 

 

『FORMRIDE:AGITO!BURNING!』

 

 

再び電子音声が響くと共にDアギトの身体が激しく燃え上がり、炎が治まるとDアギトの身体は溶岩のように赤熱とした肉体的な赤いボディに赤色に染まって開かれたクロスホーン、オレンジの瞳を持った姿であるアギト・バーニングフォームへとフォームライドしたのであった。そしてDアギトは何処からか薙刀に近い形状をした武器……シャイニングカリバー・シングルモードを取り出しヴェクタスへと斬り掛かった。

 

 

Dアギト『フッ!セアッ!ハァッ!!』

 

 

―ガギィッ!ガギャンッ!ググググッ…ギギャアァンッ!グガァンッ!!―

 

 

ヴェクタス『ハッ!パワーだけは大したもんだなぁ?だが動きが鈍いぞぉッ!!』

 

 

Dアギト『チィッ!』

 

 

破壊的な威力を持った一撃を何度も繰り出して攻め続けるDアギトだが、ヴェクタスは直撃を受けないように敏感な動きで回避をしながら反撃していき、二人の戦いを見ていたバロンはバロンアローの照準をヴェクタスの背中に向けていく。そして……

 

 

ヴェクタス『フンッ!ハアァァァァアーーーーーーッ!!』

 

 

バロン『…そこだッ!!』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュンッ!!―

 

 

ヴェクタス『…ッ?!グオォッ!!?』

 

 

バロンはヴェクタスが剣を振り上げた瞬間を狙って魔力矢を撃ち放ち、不意打ちを受けたヴェクタスは態勢を崩して怯み、大きな隙が生まれたのである。

 

 

バロン『よし…!今だ零!やれ!!』

 

 

Dアギト『ッ!ナイスだ翔!もらったッ!!』

 

 

バロンの作ってくれた好機を利用してDアギトは瞬時にヴェクタスの背後へと回り込み、シャイニングカリバー・Sモードを大きく振り上げヴェクタスに斬り掛かろうとした。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェクタス『……フッ』

 

 

―パアァァァァァァアンッ―

 

 

Dアギト『…ッ?!』

 

 

バロン『なッ……?!』

 

 

フェイト「えッ…?!」

 

 

『ッ!』

 

 

Dアギトのシャイニングカリバーがヴェクタスの目前まで迫った瞬間、ヴェクタスは突然変身を解除し一人の女性へと戻ったのである。Dアギトとバロン、その戦いを離れて見ていたフェイトもヴェクタスに変身していた女性を見て信じられないものを見たように驚愕し、閃華と姫華は苦々しい表情を浮かべて女性を睨み付けている。そしてDアギトとバロンは驚愕の表情を浮かべたまま女性に向けて口を開いた。

 

 

Dアギト『ア、アンタは……?!』

 

 

バロン『……さ、佐知……さん……?』

 

 

佐知?『…………』

 

 

Dアギトとバロンはヴェクタスに変身していた女性…佐知?に向けて呆然と語りかけるが、佐知?は不気味な笑みを浮かべながら手に持っていた剣でDアギトに斬り掛かった。

 

 

Dアギト『グアァッ!!』

 

 

バロン『零ッ?!』

 

 

佐知?『余所見してる場合か?』

 

 

佐知?の不意打ちを受けて吹っ飛ばされたDアギトを見て動揺してしまうバロンだが、その横から佐知?がバロンを容赦なく斬りつけてしまう。

 

 

バロン『ガハァッ!!』

 

 

閃華「翔ッ!!」

 

 

佐知?『クククッ…こんな単純な手に引っ掻かるなんてなぁ?本当に馬鹿な奴等だ……』

 

 

フェイト「さ、佐知さん?!何でこんな事を?!」

 

 

倒れるDアギトとバロンを見下しながら愉快げに笑う佐知?にフェイトは驚愕しながら問い掛けるが、鎖に縛られた閃華は敵意に満ちた瞳で佐知?を睨みながらそれを否定した。

 

 

閃華「違うわフェイト!!そいつは佐知なんかじゃない!!」

 

 

フェイト「……え?」

 

 

Dアギト『ッ……どういう事だっ…?』

 

 

閃華の言葉にDアギトは顔を上げながら疑問げに聞き返すと、姫華はふらつきながら身体を起こし佐知?を睨みつけたまま語る。

 

 

姫華「ッ……奴は佐知ではなく、佐知と融合したヴェクタス……つまりヴェクタスが佐知の身体を取り込んで自分の物にしてしまったのよっ……佐知の中に秘められた力、戦神の力を手に入れる為に!」

 

 

バロン『ッ?!何だって…?!』

 

 

目の前にいる佐知は佐知の身体を乗っ取ったヴェクタス。それを知ったバロンは驚愕の表情を浮かべながら佐知を取り込んだヴェクタス(以後B佐知)を見ると、B佐知は薄気味悪く微笑みながら語り出した。

 

 

B佐知『クククッ…そう、この戦神の力は神の力さえ凌駕する最強の力だ。この力さえあれば、俺は無敵の戦士となる!そしてこの力を完全に使いこなしたその時こそ、俺は最強のライダーとして君臨するのだ!!』

 

 

Dアギト『ッ!何を勝手な事を…!』

 

 

バロン『そうだ!佐知さんの身体を返せッ!!』

 

 

Dアギトとバロンは直ぐ様立ち上がってB佐知を押さえ込もうとするが、B佐知はそれよりも早くヴェクタスへと変身して二人を斬り伏せてしまい、その衝撃でDアギトはディケイドへと戻ってしまった。

 

 

バロン『ウグァッ!!』

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハッ!!無駄だ無駄ぁ!!今の俺の戦闘力はこの女の身体能力をそのまま反映してる!!戦神の力はまだ使えんが、お前等雑魚が幾ら集まろうが俺には勝てんのだぁ!!』

 

 

ディケイド『ッ…貴様ぁ!―ドグンッ!!―……ッ?!アッ……ガァッ?!』

 

 

フェイト「ッ!れ、零?!」

 

 

佐知の身体を道具のように扱うヴェクタスに激怒してもう一度立ち上がろうとするディケイドだが、左目に走った突然の激痛に悶えて再び倒れ込んでしまう。

 

 

ディケイド『(な、何だ?!左目の痛みがっ……さっきより激しくっ?!)』

 

 

ヴェクタス『ククッ…そうだ、それでいい!もっと怒れ!もっと憎め!その負の感情がお前の因子の覚醒を早める!そしてその因子は……今此処で俺の物となる!!』

 

 

ヴェクタスは狂気の笑みを浮かべながら左目を抑えて苦しむディケイドに剣の切っ先を向けながらゆっくりと歩み寄っていくが、ディケイドは痛みを増していく左目のせいで周りに意識が向けられないでいた。

 

 

バロン『や、止めろッ!!クソッ!動けっ…!動けって言ってんだ!!』

 

 

閃華「クッ!後少しでっ…外れるのに!!」

 

 

姫華「零!早く逃げなさい!!零!!」

 

 

ディケイドへと近づいていくヴェクタスを見てバロンと姫華は何とか起き上がろうとするもダメージを受け過ぎたせいか全く動かず、閃華は全身に力を込めもうすぐ鎖がちぎれかけるが、その間にヴェクタスはディケイドの目前まで迫り剣を突き付け、そして……

 

 

ヴェクタス『残念だったな零……お前は此処で、終わりだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!』

 

 

ディケイド『……ぁ…』

 

 

『零ィッ!!!!』

 

 

ヴェクタスはディケイドに向けて剣を突き放ち、ディケイドは朦朧とする意識の中で漸く今の状況に気付くも既に回避は間に合わず、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドシュウゥッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェクタス『……なん……だと……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが突き刺さる音が確かに聞こえてきた。だがディケイドには想像した痛みはいつまで経ってもやって来ず、次に聞こえてきたのはバロン達と目の前のライダーが息を呑む声だけだった。そして状況が理解出来ないまま、ディケイドがゆっくりと顔を上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピチャッ……ピチャッ……ピチャッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『………………………………ぇ…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に映った光景。それを目にしたディケイドは一瞬何が起きてるのか分からないという表情を浮かべるが、朦朧とする意識が段々とクリアになって目の前の光景がハッキリしていく。そして意識が完全に戻ったディケイドは目の前の光景を再び目にして瞳を大きく見開き、絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピチャッ……ピチャッ……ピチャッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…………………………フェ………イト………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「ッ………………………良かっ…………た……………間に合った………みたい………だね………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして彼は、震える声で、自分に向けられた筈の刃を腹に深く突き刺され、おびただしく血を流す少女の名を呟いたのだった……

 

 

 

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑧

 

 

 

 

ディケイド『…………………………フェ………イト………?』

 

 

 

 

彼の目に映るのは、ヴェクタスの剣によって貫かれ、おびただしい量の血を流すフェイトの姿。その光景に彼はただ呆然と少女の名を呟く事しか出来ず、目の前の光景に目を疑うしか出来なかった。

 

 

バロン『…そん、な……』

 

 

姫華「ぁ……あぁ……」

 

 

閃華「フェイ……ト……」

 

 

周りから聞こえてくるのは息を拒み、絶句して言葉を失ってしまうバロン達の声。それで今見ている光景が自分の錯覚ではないのだと気付かされ更に目を見開くディケイドだが、フェイトは腹を突き刺されているにも関わらずディケイドの姿を見て安心したように微笑んでいた。

 

 

フェイト「ッ………………………良かっ…………た……………間に合った………みたい………だね………」

 

 

ディケイド『……ァ………ぁ…………アッ………』

 

 

口元から吐血し、それでも優しげに微笑むフェイトの姿を見て脳裏に激しく血が流れ、熱く沸騰していくのが分かる。そんなディケイドにフェイトはゆっくりと手を伸ばし、まるで彼の温もりを求めるように頬に触れようする。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ブザァッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ……!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「ぁ……………………………………れ………………………………………ぃ…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドサッ…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『………………………………ぇ…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトの手がディケイドに届く前に、ヴェクタスが強引にフェイトの腹部から剣を抜き取ったのであった。そしてフェイトの手は彼に触れる事なく宙を切り、先程よりおびただしい量の血を流しながら崩れ落ち、ディケイドの胸の中へと倒れていったのだった……。

 

 

ディケイド『…………………………………フェイ………………ト………?』

 

 

バロン『………フェ、フェイトォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!』

 

 

閃華「フェイトォッ!!!!!!」

 

 

姫華「フェイトさんッ!!!!!!」

 

 

フェイト「………………………………………ぅ………………ぁ…………」

 

 

ディケイド『………………………フェ……イト?……………………………………………………フェイトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!』

 

 

傷口から大量に血を流すフェイトの身体を抱え悲痛な悲鳴を上げるディケイド。そして、フェイトを突き刺した本人であるヴェクタスはつまらなげに剣に付いた血を払っていた。

 

 

ヴェクタス『チッ……出来損ないの分際で余計な事を……まあいい。これで漸く邪魔者がいなくなって因子が手に入るのだから、問題はないか……』

 

 

ディケイド『フェイト!!フェイトッ!!しっかしろおいッ!!!フェイトォッ!!!!』

 

 

フェイト「………ぁ……………………ぅ…………」

 

 

ディケイドはフェイトの腹部から大量に溢れる血を抑えながら必死にフェイトに呼び掛けていき、ヴェクタスは今度こそ因子を手に入れようと剣の切っ先をディケイドに向けながらゆっくり歩み寄ろうとした。その時……

 

 

 

 

バロン『―――それ以上っ……やらせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!』

 

 

『Phoenix Form!』

 

 

ヴェクタス『…ッ!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

背後から聞こえてきた叫びと電子音声。それを聞いたヴェクタスが背後へと振り返った瞬間、先程とは違う別の姿に変わったバロンが剣を振りかぶりヴェクタスを吹っ飛ばしていった。そしてそれを確認したバロン……巨大な赤い羽根を背中に生やし、西洋風の剣を構えた姿となった『バロン・フェニックスフォーム』はディケイドとフェイトの下へと急いで駆け寄っていく。

 

 

フェイト「…………ぁ……………………ぅ……」

 

 

ディケイド『フェイト!!目を開けろフェイトッ!!頼むから目を開けてくれッ!!!』

 

 

バロンP『落ち着け零!!今俺が治療する!!今ならまだコイツの聖なる炎で直ぐに…!!』

 

 

バロンPはディケイドを宥めながらフェニックスカリバーの刃に暖かな炎を纏わせ、剣の切っ先をフェイトの腹部の傷口に向けようとする。だが……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ………ガシィッ!!―

 

 

バロンP『ッ?!何ッ?!』

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

フェイトに向けられようとしたフェニックスカリバーは突如何処からか飛んできた鎖によって捉えられてしまい、バロンPはそのまま鎖に引っ張られて二人から引き離されてしまう。そしてその鎖を放った本人……バロンPに吹っ飛ばされたヴェクタスが左手に持つ鎖でフェニックスカリバーを引き寄せていた。

 

 

バロンP『グッ!お前!!』

 

 

ヴェクタス『余計な真似はしないでもらおうか?その女には此処で死んでもらわなきゃ、こっちが困るんだよ!!』

 

 

―ジャラァッ!!ガギィンッ!ガギィンッ!ガギャアァンッ!!―

 

 

バロンP『グッ?!ガアァッ!!』

 

 

ディケイド『翔ッ?!』

 

 

ヴェクタスはフェニックスカリバーを捉えた鎖でバロンPを強引に引き寄せてしまい、更に剣で斬り付けて地面に叩きつけ追い撃ちを掛けていく。ディケイドはその光景に険しい表情を浮かべ、直ぐさまバロンPの助けに入るため動き出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

フェイト「……………………れ…………ぃ………」

 

 

ディケイド『…ッ?!フェイト?!』

 

 

ディケイドが動き出そうとしたその瞬間、腕の中に抱かれていたフェイトが漸く瞳を開き、途切れ途切れで呼吸を行いながらか細い声で零の名を口にしたのである。そしてフェイトは何度か吐血した後、虚ろな瞳でディケイドを見上げていく。

 

 

フェイト「こふっ…………ごめん…………ね…………迷惑掛けちゃ…………って…………私が…………こんなん…………じゃ…………なのはや…………零の…………事…………言えない………よね…………」

 

 

ディケイド『ッ…いいから喋るな!!クソッ!どうする…!?どうすればっ?!』

 

 

溢れ出る血を必死に抑えながらこの傷を治療する方法を思考するが、フェイトは腹部の傷を抑えるディケイドの手に自分の手を重ねていく。しかし、フェイトは自身の手にベットリと付いた紅い液体を見て一瞬何かを悟ったような顔を浮かべ、ゆっくりと顔を上げ蒼い空を見上げていく。

 

 

フェイト「…………この空…………子供の頃に見た…………時と一緒…………だね…………なのはや…………零と…………もう一度会おう…………って…………約束した時と…………同じ…………」

 

 

ディケイド『ッ!そんな事は今どうだっていいだろう?!いいからもう喋るなッ!!』

 

 

口から血を流しながら喋り続けるフェイトにディケイドは悲痛な声を上げて叫ぶが、フェイトは微笑を浮かべながら再び口を開く。

 

 

フェイト「…………ふふ…………けど…………なんか…………変な偶然…………だよね………?」

 

 

ディケイド『……え?』

 

 

フェイト「だって…………ほら…………この場所で…………零…………に…………こうして見送って…………もらえる…………なんて…………変な偶然…………でしょ…………?」

 

 

ディケイド『……ッ?!な、何言って……フェイト…?おいフェイトッ?!』

 

 

儚げに微笑むフェイトから一瞬嫌な予感を感じ取り、それを振り払うかのように何度もフェイトの名を呼び掛けるディケイド。そして、フェイトはディケイドに向けてゆっくりと手を差し延べ、ディケイドは震える手でその手を掴んだ。

 

 

フェイト「…………けど…………少し…………心残りがある…………かな…………皆ともっと旅を…………して…………一緒に…………私達の…………世界を…………救いたかっ…………た…………」

 

 

ディケイド『ッ!何馬鹿を言ってる?!勝手に諦めるな!お前は必ず助かる!!だからっ…!!』

 

 

フェイトの言葉を否定するようにディケイドは何度も首を振って強く言い放つが、フェイトの表情から次第に生気がなくなり始め、フェイトはディケイドの手を離さないように強く握り締めていく。

 

 

フェイト「…………零…………私達の…………世界と…………まだ見付かって…………ない…………エリオと……………キャロを…………私の代わり…………に…………救ってあげて…………私には…………もう…………出来そうにない…………から…………」

 

 

ディケイド『ッ?!お、おいっ……ふざけるなっ……勝手な事を言うな!!お前がやらなきゃいけない事はまだ山ほど残ってるんだぞ!?こんなところで寝てる場合じゃないだろう!!だから諦めるな!!頼むからっ!!フェイト!!!』

 

 

彼女の瞳から徐々に光が失われつつある事に気付いたディケイドは必死になって何度もフェイトに呼び掛けながら手を強く握り締める。それを見たフェイトは瞳に涙を浮かべながら握られた手を強く握り返し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…………ごめん…………ね…………れ……………ぃ…………わた…………し…………なに…………も…………してあげられ…………なく…………て…………」

 

 

ディケイド『ッ?!フェイ、ト……?』

 

 

フェイト「…………………………わ…………たし……………………を………………許し…………………て………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を紡いだと共に、フェイトは瞳を閉じながら一筋の涙を流し、彼女の手はディケイドの手からスルリと抜け落ち地面に落ちていった……

 

 

ディケイド『……………………………フェ…………………イト…………?』

 

 

フェイト「……………」

 

 

ディケイド『…………………おい…………こんな時になんの冗談だ?……………そんなの………笑えない、ぞ………?』

 

 

フェイト「……………」

 

 

ディケイド『冗談…………だろ?だって………さっき約束しただろう?元の世界に帰ったら…………お前の写真撮ってやるって……』

 

 

フェイト「……………」

 

 

ディケイド『なぁ…………嘘…なんだろ?からかってるんだろ?お前が約束破るなんてっ………有り得ないん………だからっ………』

 

 

フェイト「……………」

 

 

ディケイド『だ……からっ…………だから早くっ…………目を開けろっ…………頼むから開けてくれっ…………嘘っ…………だとっ…………ッ?!』

 

 

瞳を閉じたフェイトの身体を力無く揺さぶるディケイドだが、その時、彼女の身体に触れた手からヌルリとした感触を感じた。触れた手は真っ赤な液体に色塗られ、それを見た瞬間、彼の視界が紅色に染まったのであった。

 

 

ディケイド『ァ…………ぁ…………ア………』

 

 

閃華「ッ…!零ッ!!フェイトッ!!」

 

 

姫華「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

 

その時、漸くその場に鎖の拘束から逃れた閃華とボロボロの身体を引きずってやって来た姫華が到着した。だが二人はディケイドの腕に抱かれるフェイトを見て表情を一変させ、すぐさまフェイトへと駆け寄り彼女の状態を確認し、更に表情を険しくさせた。

 

 

閃華「ッ!マズイわっ……姫華ッ!!貴方の残ってる気や魔力を彼女に与えてあげてッ!!私は何とかして傷の治療をする!!」

 

 

姫華「けど、私の力は殆どヴェクタスに吸収されてるっ!今の力だけで足りるかどうか…!!」

 

 

閃華「それでもやるしかないわ!!このままだと本当に手遅れになる!!急いで!!」

 

 

姫華「ッ…!分かった!!」

 

 

姫華はそう言うとフェイトの手を握って自分の中に残った全ての気や魔力をフェイトへと送り、閃華はフェイトの腹部に手を押し当て傷の治療を開始していく。

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

ディケイド『ぁ……………………アッ……』

 

 

その二人の背後では、ディケイドが自分の両手に色塗られた赤い液体を見て呆然としていた。目に映るモノ全てが紅く染まり、全身がまるで沸騰しているかの様に熱くなり、左目の鼓動が先程の比にもならない早さで響いていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

ディケイドside

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『昔わたしに言ってくれたよね?今度は誰かからの命令ではなく、自分の意思で、自分を信じて生きてみろって。その言葉を聞いて…私はもう一度自分の意思で生きてみようって思ったの。だからなのはが何度も私に呼び掛けてくれたことや、零のその言葉があったお陰で……私は今も、こうして皆といられるんだなって』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『そんな事ないよ?零やなのはがいたから、私はもう一度生きようって思えたんだから……私一人の力じゃ……ここまで来る事なんて出来なかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『…だから尚更、私達の世界を救いたいって強く思うの。今の私がこうして変われたのはあの世界があったから。あの世界で感じてきた思いや時間は、何処の世界にもない……私や零やなのは達が積み上げてきた思い出は……あそこにしかないから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『ホントに!?じゃあ約束!指切り!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――何故だ

 

 

何故アイツが傷付いてる?

 

 

何故アイツが血を流してる?

 

 

何故アイツが涙を流してる?

 

 

何故――――

 

 

なぜ――――

 

 

ナゼ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガギャアァンッ!!ガギャアァンッ!!ガギャアァンッ!!―

 

 

バロンP『ウグアァッ!!ガハァッ!!』

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハッ!!!!ほらどーしたぁ?!もっとやり返せよ?!じゃなきゃあの失敗作みたいにあの世逝きだぞぉ?!アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――ナゼ、オマエガワラッテイルッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『ふふっ♪ちゃんと約束したからね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィル『だから、嘘ついたらダメだよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト/リィル『約束だよ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ…ドグンッ………ピシィッッッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『―――貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドside End

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―ガギャアァッ!!ギィンッ!!グガアァンッ!!!―

 

 

バロンP『グゥッ!!クッ……ガハッ!!』

 

 

ヴェクタスと刃を交えて激しくぶつかり合うバロンPだが、愛剣であるフェニックスカリバーは激突の中で地面に叩き落とされてしまい、ヴェクタスに首を締め上げられ電灯の下に抑え付けられていた。そしてヴェクタスはバロンPを締め付けたまま背後へと視線を向け、閃華と姫華に治療されるフェイトを見て不気味な笑みを浮かべていく。

 

 

ヴェクタス『おやおや……どうやらあの出来損ないは死んでしまったようだなぁ?』

 

 

バロンP『ッ?!なんッ…だと…?!』

 

 

ヴェクタスの言葉にバロンPは信じられないといった表情を浮かべながらフェイトに視線を向け、ヴェクタスは嘲笑いを浮かべながらバロンPの首を更に強く締め上げていく。

 

 

バロンP『グッ?!アガァッ…!』

 

 

ヴェクタス『さぁて、次はお前の番だが……その前にお前の力を頂こうか?』

 

 

バロンP『ッ……な、に……?』

 

 

意味深な発言をするヴェクタスにバロンPは険しげに聞き返すが、ヴェクタスは何も答えないままバロンPを掴む右腕に赤黒いオーラを纏い、バロンPからエネルギーを吸収していく。

 

 

バロンP『ウアッ…?!グアァッ?!』

 

 

ヴェクタス『お前のその力は中々面白い物だ……特にお前が持つ癒しの炎は中々興味深い……その力、俺が貰おうッ!!』

 

 

ヴェクタスは高らかに笑いながらバロンPを掴む腕に力を入れ、バロンPは苦しげにもがきながらも何とかそれから逃れようとするが、ヴェクタスの力が強すぎる為にそれも叶う事が出来ない。そしてある程度力を吸収したヴェクタスは左手に剣を出現させておもむろに掲げ、トドメを刺そうと剣を振りかぶった。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『―――貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!!!!―

 

 

『ッ?!!!』

 

 

背後から鳴り響いた怒りの叫びと地震にすら近い巨大な地響き。それと共に発生した巨大な衝撃波がこの場にいる者全員が立つコンクリートの地面全体に巨大な皹を入れ、周りにある木々は地面ごとえぐり取られるように次々と吹っ飛ばされていく。だが、衝撃波によって巻き起こる土煙により視界が遮られ、何が起きているのか確認出来ない。

 

 

バロンP『な、何なんだ…これはッ?!』

 

 

ヴェクタス『……これは……そうか……やっとか……やっと……クククッ……』

 

 

突然起こった事態にバロンPは状況が飲み込めず驚愕し、ヴェクタスだけはその中で平然と立ち構え、何も見えない衝撃波の向こうを見つめて狂気に満ちた笑みを浮かべていた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

ヴェクタス『ッ?!!グアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!?』

 

 

バロンP『ッ?!』

 

 

突如衝撃波の向こうから信じられないスピードで現れたディケイドがヴェクタスの顔面を殴り飛ばし、不意打ちを受けたヴェクタスはそのまま数十メートル先にある森林の奥まで木々を倒しながら勢い良く吹っ飛ばされていった。

 

 

ディケイド『ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!!!』

 

 

バロンP『……ッ?!れ、零……?』

 

 

驚愕するバロンPは目の前立つディケイドを見て呆然と呟くが、目の前のディケイドの姿に戸惑いを隠せずにいた。禍禍しい形状へと変化した紫色に輝く複眼、ディケイドの身体から溢れ出る黒いオーラ……目の前にいるディケイドは、彼が知る姿とは全く別の姿へと変わっていたのであった。そしてフェイトの治療をしていた閃華と姫華もバロンP同様、驚愕の表情を浮かべてディケイドを見つめていた。

 

 

姫華「あ、あの姿は…?!」

 

 

閃華「(……あの力……響と同じ破壊の力?……いえ違う……響の破壊よりも特化して……もっと禍禍しい……これは……!)」

 

 

驚愕する姫華の隣で閃華はディケイドから何かを感じ取り険しい表情を浮かべていく。そしてその間に森林の奥からディケイドに吹っ飛ばされたヴェクタスが姿を現すが、ディケイドに殴られた箇所である仮面部分が崩れ落ち、不気味に笑うB佐知の顔が露出していた。

 

 

ヴェクタス『――ククッ……漸く"芽"を出したみたいだなぁ…?やはり、あの女を殺しておいて正解だったかぁ』

 

 

ディケイド『ッ!!貴様ぁ……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハハッ!!!なにをそんなに怒る必要がある?!あんなモノは所詮、プレシア・テスタロッサが娘を無くした哀しみを慰める為に造ったただの玩具だ!!造られた役目も果たせなかった欠陥品を処分してやったんだから、寧ろ感謝して欲しいねぇ!!?』

 

 

ディケイド『ッ!!!!』

 

 

蔑むように笑いながらそう告げたヴェクタスの言葉に、ディケイドは脳裏に涙を流して自分に謝るフェイトの顔を思い出し、それと共に自分の内からとてつもなく大きい何かが込み上げてくるのを感じた。

 

フェイトを傷付けただけでなく、フェイトの存在までも愚弄した……

 

こんな奴のせいで……こんな奴が……

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『―――――て……やる……し……る……殺してやる……殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッッ!!!!!!貴様だけはァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

怒りの咆哮と共にディケイドの瞳が紫色に輝き出し、それに呼応するかのように大地が……世界が激しく震える。まるで、憎悪と殺意に支配された彼を恐れるかのように――――

 

 

 

 

 

 

世界の破壊者、ディケイド…………覚醒。

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑨

 

 

ディケイド『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!―

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハハハッ!!ほら何処を狙ってる?!そんなんじゃすぐに俺に殺されるぞ?!あの女みたいになぁ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

ディケイド『貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!』

 

 

完全に憎悪と殺意に正気を囚われたディケイドは闇雲に力を振るうってヴェクタスに攻撃していくが、ヴェクタスは軽々とそれを避けながら距離を離し、目標から外れたディケイドの攻撃は数十メートル以上の巨大なクレーターや百本を越える数の木々を壊し尽くし、臨海公園は元の原型を保たない無惨な姿へと変わっていた。

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!!!―

 

 

姫華「クッ!!な、なんて力なの…?!」

 

 

閃華「……これが……零の破壊者としての力……」

 

 

フェイトの治療をしながらディケイドとヴェクタスの戦いを離れて見ていた姫華と閃華も破壊者として覚醒したディケイドの力に驚愕し、戸惑いを隠せないでいた。すると其処へ、先程までヴェクタスと戦っていたバロンPがボロボロの身体を引きずりながら二人の下へと駆け寄ってきた。

 

 

閃華「ッ…!翔ッ!!」

 

 

バロンP『ッ…二人とも!フェイトの様子は?!』

 

 

姫華「駄目っ……さっきから残ってる気や魔力を全部与えてるんだけど、やっぱり力が足りないっ!さっきヴェクタスに力をほとんど吸収されたからっ…!」

 

 

バロンP『クッ…!』

 

 

二人からフェイトの容態を聞いたバロンPは険しい顔を浮かべ、フェイトに向けてフェニックスカリバーを構え直し、刃に聖なる炎を纏わせていく。

 

 

姫華「翔ッ?!」

 

 

バロンP『手伝います!!俺も殆ど力は残ってないけどっ……それでも息を吹き返させるくらいは出来る筈だ!!』

 

 

閃華「ッ……悪いわねっ……フェイト!!早く戻ってきなさい!!絶対にそっちに逝っては駄目よ!!」

 

 

フェイト「……………」

 

 

閃華は腹部の傷に手を当てながら必死にフェイトに呼び掛けるが、フェイトからは何も返って来なかった。そしてその間にも、ディケイドは形振り構わず周りの物を破壊しながらヴェクタスへと攻撃していき、それでも攻撃が当たらない事に業を煮やしたディケイドは右手に黒いエネルギー光を集束させ、そして……

 

 

ディケイド『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!』

 

 

―バシュウゥッッ!!!―

 

 

ヴェクタス『(ッ?!あれは……)チィッ!!』

 

 

ヴェクタスはディケイドが放ったエネルギー弾に顔色を変えて直ぐさま上空へと逃げていくが、エネルギー弾はヴェクタスを追尾して上空へと向かっていき、それを見たヴェクタスは上空から地上へと瞬間移動してエネルギー弾を回避した。そしてエネルギー弾は上空に到達すると同時に……

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーンッッッッ!!!!!!!!!!!―

 

 

『なっ……ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

上空に到達したエネルギー弾は風船のように爆発し、爆発から発生した黒い極光がこの場にいる全員の鼓膜を突き破るかのような轟音と巨大な地響きを響かせながら臨海公園上空全体へと広がっていったのだった。そして極光と地響きが止み、バロンP達が上空を見上げると……

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォォ……!!―

 

 

 

 

姫華「――――なっ……」

 

 

バロンP『……なんだ……コレは……』

 

 

臨海公園の上空を見上げたバロンP達は驚愕の表情を浮かべ、絶句してしまう。何故なら三人が見上げる空には先程までの晴れ晴れとした蒼い空はなく、公園の上空全体が硝子が砕けた様に割れて次元の向こう側が見えてしまっているという異常な光景が広がっていたのだ。そして公園の地面の至る所には青空だった物と思われる硝子の破片の様な物が落ちており、それを見たヴェクタスはクツクツと薄気味悪い笑い声を漏らしていた。

 

 

ヴェクタス『絶対破壊能力……成る程。まだ微塵の力しか覚醒していないというのに、空間すらも破壊出来るようになったか……これは思ったより期待出来そうだなぁ……』

 

 

ディケイド『ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!!ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!!』

 

 

ヴェクタスは空手のまま息を乱すディケイドを見つめ、ディケイドは身体から黒いオーラを溢れさせながら再びヴェクタスに攻撃しようと右手に黒いエネルギー光を集束させていく。だが……

 

 

 

 

―……ドグンッッ!!!―

 

 

 

 

ディケイド『…ッッ?!!アッ……なっ……?!』

 

 

バロンP『ッ?!零ッ?!』

 

 

ディケイドは突然攻撃の手を止めて地面に膝を付き、左目を激しく輝かせながら呻き出したのだ。そんなディケイドを見たバロンPは思わず身を乗り出し、ヴェクタスもディケイドに向けて口を開いていく。

 

 

ヴェクタス『……やはり、人の身となったお前に因子の力は耐えられないようだな……馬鹿な奴だ』

 

 

バロンP『…ッ?!何だと?どういう意味だ?!』

 

 

ヴェクタス『簡単な話だ。コイツの持つ因子は万物すら破壊する力……覚醒したばかりのそれを惜しみ無く使い続けて奴自身が耐えられる筈がない。次第に奴の精神は因子に蝕まれて破壊され、後に残るのは覚醒した因子を宿した奴の抜け殻(身体)だけだ……』

 

 

『ッ?!』

 

 

ただの人である零は因子の力に蝕まれ精神を破壊される。それを聞いたバロンP達は驚愕の表情を浮かべ、ヴェクタスは愉快げに笑いながら両手を広げて高らかに叫ぶ。

 

 

ヴェクタス『さぁ!もっと怒れ!!憎しみに身を委ねて力を使え!!そして貴様自身を壊すといい!!俺は残った貴様の身体を手に入れ、破壊の因子を手に入れるのだ!!ククククッ……アハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

ディケイド『グゥッ…!!ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!』

 

 

バロンP『ッ!止せ零!!それ以上戦うなッ!!零ィッ!!!』

 

 

これ以上因子の力を使えば黒月零の精神は破壊されてしまう。それを知ったバロンPはディケイドに力を使うなと呼び止めるが、既に負の感情と因子の力に飲まれて正気を失っているディケイドにその声は届かず、ディケイドは体中から黒い火花を散らせながら両手にエネルギー光を集束させて放とうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュババババババババババババババババババッ!!バチバチバチバチバチバチバチバチバチィッ!!!―

 

 

ディケイド『ッ!!?グッ……グアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

ヴェクタス『ッ?!何ッ?!』

 

 

突如何処からかディケイドを囲むように無数のナイフが地面に突き刺さり、それと同時にナイフから電力が流れディケイドの動きを封じていったのである。突然のそれにバロンP達とヴェクタスは驚愕し、ナイフが放れてきた方へと振り向いていく。其処には……

 

 

 

 

クラウン『―――成る程、まさかこれ程の力を発揮するとは……流石の私も予想外でしたよ』

 

 

閃華「ッ!あれは…?!」

 

 

ヴェクタス『クラウン?!』

 

 

そう、四人が振り向いた先にあった電灯の上……其処にセイガの世界でも大輝達の前に立ちはだかった仮面ライダークラウンがいたのであった。ナイフを使ってディケイドの動きを止めたのがクラウンだと知った一同は再び驚愕し、ヴェクタスは苛立ちを浮かべながらクラウンを睨み付けていた。

 

 

ヴェクタス『貴様……一体何の真似だ……?』

 

 

クラウン『それはこちらの台詞ですよヴェクタス氏。今の零氏は覚醒したのではなく、ただ闇雲に暴走しているだけです。貴方はこの世界……いいえ、全ての平行世界を零氏に破壊させるつもりですか?』

 

 

ヴェクタス『フン……世界など知ったことか。俺は俺の望みの為にやっているだけに過ぎん。これ以上邪魔立てするのなら、貴様とて容赦はせんぞ?』

 

 

ヴェクタスは警告するかのように言いながら鋭い視線をクラウンへと向けて睨みつけていくが、クラウンはただ溜め息を吐きながら口を開いていく。

 

 

クラウン『全く、終夜氏にちゃんと言っておかなければいけませんね……貴方は因子の事になると目の前の結果ばかりに目を向けてしまう……』

 

 

ヴェクタス『ッ!何だと…?』

 

 

クラウン『もう一度冷静になって周りの気に意識を向けてみなさい。先程零氏が放った負の感情のせいで、余計な増援がこの世界に来てしまいましたよ』

 

 

ヴェクタス『……増援?』

 

 

クラウンの言葉にヴェクタスは疑問そうに聞き返し、その意味を問いただそうと再び口を開こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

ヴェクタスの上空から突如無数の剣や槍などが現れ、ヴェクタスを串刺しにせんと言わんばかりに降り注いできたのだ。それに反応したヴェクタスは直ぐに背後へと跳んでそれらを避け、気配を辿ってそれを放ったと思われる人物の方へ振り返った。其処には……

 

 

 

 

『――ふむ、奇妙な気配を感じ取って来てみれば……なにやら妙な珍客が揃っておるな?』

 

 

姫華「……え?」

 

 

バロンP『あ、あれは……』

 

 

一同が目を向けた先にいたのは、金色に輝く鎧と額にアギトのような金色の角の付いた黒いマスクに赤い瞳を輝かせる金一色のライダーが立っていたのだ。更にその背後には蒼と銀の鎧に白い仮面を身につけたライダー、青い鎧に角の付いた仮面を身につけたライダーが立っており、その三人を見た一同は驚愕の表情を浮かべていく。そしてその中で、ヴェクタスは険しげに舌打ちしながら三人のライダー達を睨み付ける。

 

 

ヴェクタス『英雄王ギルガメッシュに騎士王アーサー、赤枝の騎士クーフーリンだと?何故奴等が…!』

 

 

ギルガメッシュ『ほぉ?貴様のような雑種でも、我等の高名を知っていようとはな……それに関しては褒めてやろう』

 

 

三人の仮面ライダー……『ギルガメッシュ』と『アーサー』、『クーフーリン』の突然の登場に疑問を浮かべるヴェクタスだが、ギルガメッシュは腕を組みながら愉快げに笑い声を漏らしていく。そしてギルガメッシュは無数のナイフに囲まれて身動きを封じられたディケイド、呆然とこちらを見つめるバロンP達、そして腹部からおびただしく血を流してバロンP達に抱えられるフェイトの姿を見てヴェクタスに目を向ける。

 

 

ギルガメッシュ『……成る程、大体の事情は察した。この惨状は貴様の手による物だな?』

 

 

ヴェクタス『……フンッ、だったらどうしたっていうんだ?』

 

 

質問するギルガメッシュに対してヴェクタスは平然と笑いながら聞き返し、それを聞いたギルガメッシュは左腕を掲げて自身の背後の空間から無数の剣や槍……宝具を展開していく。

 

 

ギルガメッシュ『だとするなら、貴様のような雑種は生かしてはおけんな……。不快な物を見せてこの我の目を汚したのもそうだが、貴様は存在事態がそもそも不快だ。我を不快にさせる物など、この世に在ってはならん』

 

 

ヴェクタス『ッ!ほぉ……コイツは驚いた。まさか、お前のような英雄王がそんな連中より俺を仇にするとは……一体どういう風の吹き回しだ?』

 

 

ギルガメッシュ『勘違いするな、其処の雑種共の味方をする訳ではない。我は我が不快と思う物を赦さぬだけだ。それともう一つ……其処で寝ている女は、我の女の旧友だ。別世界の人間とは言え、我の女の目にその友の骸を見せたことが何より赦せん。ゆくぞ、なのは、ノーヴェ』

 

 

クーフーリン『おう!』

 

 

アーサー『うん。別世界とは言え……フェイトちゃんを殺したアイツは私も許せない!!』

 

 

ギルガメッシュからの呼び掛けにクーフーリンとアーサーはそう答えると自分達の武器を構えていき、ギルガメッシュもいつでも宝具を放てるように指を合わせて構えていく。

 

 

ヴェクタス『チッ……まあいいだろう。貴様等が幾ら集まろうが、この俺に勝てる筈が―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―……ッ?!』

 

 

ギルガメッシュ達に向けて構えようとしたヴェクタスだが、突如何処からか無数の閃光が降り注ぎヴェクタスは突然の不意打ちに驚愕しながらも後方へと跳んでそれを回避していく。そしてその閃光が放たれてきた方へと振り返ると……

 

 

 

 

 

 

ディエンド『―――やぁ、話の途中に横槍入れてすまないね?』

 

 

フェザー『…………』

 

 

ヴェクタス『ッ?!貴様等は…?!』

 

 

先程の閃光が放れたきた方へと振り返ると、其処にはカイザと共に市街地でライオトルーパー達と戦っていた筈のディエンドと、無言でヴェクタスを睨みつけるライダー……以前アギトの世界で零一行と共に戦った幸村の世界のなのはが変身するフェザーがそれぞれ銃を構えて立っていたのである。

 

 

ギルガメッシュ『ほう?誰かと思えば、風の噂で聞いた盗っ人と真田の世界のなのはではないか。まさか、我の宝を狙ってこんな所まで嗅ぎ付けてきたのか?』

 

 

ディエンド『いいや……確かに君のお宝は狙っているけど、今回は別の用件で来ただけさ……どうやらそこにいる彼が余計な事をしてくれたみたいだからね』

 

 

ヴェクタス『ッ!何故だ…何故貴様等まで此処に?!』

 

 

フェザー『ちょっと祐輔君の世界から私達の世界まで物凄い殺気を感じてね、気になって様子見に来ただけだよ。因みに、此処に来たのは私だけじゃないよ?』

 

 

ヴェクタス『……何?』

 

 

未だ武器を構えるフェザーの言葉にヴェクタスは疑問げに聞き返した。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――固有結界『永遠の楽園(エターナルエデン)』………』

 

 

『コスモフォース……』

 

 

「クライシス、ラジエルフォーム」

 

 

「イエス、マイバディー」

 

 

 

 

ヴェクタス『…ッ?!』

 

 

その場に聞こえてきた四人の男女の声。それと同時に突然周りの風景が青空と花畑に包まれた空間へと変わっていき、それを見たヴェクタスは驚愕の表情を浮かべながらその声が聞こえてきた方へと振り返った。

すると其処には、フェイトとバロンP達に暖かな光を浴びせる二人のライダーと一人の矛を持った男性……幸村が変身するエデンと煌一が変身する『コスモス』、そして先程カイザに変身していたゼウスの姿があったのである。

 

 

ヴェクタス『なっ……楽園の神に古代神、デバイスの祖だと?!何故奴らまで?!』

 

 

ディエンド『君が零を怒らせてしまったせいさ。あれだけの禍々しい負の感情を全世界に放たれて気付かない方が可笑しい……多分、他の皆も気付いてこっちに来てるんじゃないかな?』

 

 

ヴェクタス『チィ!!余計な真似をっ……あの女には此処で消えてもらわなきゃ、こっちが困るんだよォォォォォォォォォォォォッッ!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

三人に治療されるフェイトを見たヴェクタスは、勢い良く地を蹴ってフェイト達へと猛スピードで突撃し、それを見たディエンド達はすぐさまそれを止めようと自分達の武器を構えた。その時……

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

『FINALSPELL:R・R・R・RAIGA!』

 

 

『ダアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ヴェクタス『…ッ?!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

フェイトの治療を阻止しようとしたヴェクタスの上空から二つの影が現れ、それにいち早く気付いたヴェクタスは直ぐに進行を止めて背後へと飛び退き、それと同時にヴェクタスが立っていた場所が爆発に包まれていったのだ。そして爆発から発生した爆煙が徐々に晴れていくと、其処には剣を構えた黄金と純白の鎧に両肩に龍の頭と背中に真紅の翼が生やした戦士と獅子をモチーフにしたような姿をした黄色いライダー………『ガンダムディケイド・ロードナイトフォーム』と、『雷牙』の姿があったのである。

 

 

ヴェクタス『チィッ?!また邪魔者が!!』

 

 

Gディケイド『悪いな…?此処から先には通すなって言われてるんだよ』

 

 

雷牙『どうしても通りたいっていうなら、先ずは俺達を倒してから行きな』

 

 

ヴェクタスの前に立ちはだかったGディケイドと雷牙はそう言いながらそれぞれの武器を構えていき、ディエンド達とギルガメッシュ達もヴェクタスを包囲してそれぞれの武器をヴェクタスに向けていく。

 

 

クラウン『さてさて、どうしますヴェクタス氏?このままでは、流石の貴方でもマズイのでは?』

 

 

ヴェクタス『ッ……虫けら共が揃いに揃って……いいだろう……こうなればもう加減は無しだ……貴様等全員皆殺しにしてやるッ!!』

 

 

完全に自分の計画を狂わされてしまったヴェクタスは怒りに満ちた表情を浮かべ、何故か自分の胸に両手を構えて胸を開こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『―――ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーーーーーーーーンッッッ!!!!!!―

 

 

『ッ?!ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

突如ナイフに囲まれて動きを封じられていたディケイドが怒りの咆哮を上げ、それと同時に巨大な衝撃波が巻き起こりディエンド達とヴェクタスを吹っ飛ばしてしまったのであった。

 

 

クーフーリン『グッ!な、何だよこりゃ?!』

 

 

クラウン『ッ!やはりあの程度の拘束では、簡単に破られてしまいますか…!』

 

 

ギルガメッシュ『クッ…!なるほどっ……破壊者の力……まさかこれ程の物とは……!』

 

 

衝撃波によって吹っ飛ばされてしまったライダー達はなんとか態勢を立て直していき、ナイフからの拘束を免れたディケイドがヴェクタスを見据えていると突然ライドブッカーから一枚の赤い火花を散らせる黒いカードが飛び出し、ディケイドはそれをキャッチしていった。その黒いカードには一つの地球が崩壊していく絵が描かれたカード………『WORLD ENDRIDE:CANCELA』と刻まれていた。

 

 

Gディケイド『…ッ?!何だ…あのカードは…?!』

 

 

ヴェクタス『……WORLDENDRIDE……ククッ……アハハハハハハハハハハハッ!!まさかそのカードまで持ち出すとはなぁ?!完全に因子の力に飲み込まれたか!!』

 

 

アーサー『……?ワールドエンドライド……?』

 

 

ディケイドが持つ黒いカードが何なのか分からず疑問を浮かべるライダー達だが、その中でクラウンが立ち上がり代わりに説明していく。

 

 

クラウン『WORLDENDRIDE。文字通り【世界の終わり】を意味するカード……あれを使われてしまえば、このキャンセラーの世界は崩壊を起こし………それこそ正に塵も残さず破壊されるでしょうね』

 

 

『……ッ?!』

 

 

クラウンの説明にライダー達は目を見開き再び驚愕してしまう。世界を終わりへと導くカード……そんなカードが存在するとは予想にもしていなかったのだから当然の反応だろう。そしてディケイドは火花を散らせるワールドエンドライドのカードをおもむろにディケイドライバーへと近付けていく。

 

 

コスモス『ッ?!止めるんだ零!!そのカードは使うなっ!!』

 

 

Gディケイド『チッ!こうなったら、力ずくで止めるしか!!』

 

 

ギルガメッシュ『この世界を破壊させるわけにはいかん……しばらくの間眠っていろ!!』

 

 

ワールドエンドライドのカードを使おうとするディケイドを止める為、GディケイドはライドブッカーをGモードに切り替えてディケイドに乱射し、ギルガメッシュは背後に展開した宝具を全てディケイドへと放っていった。がしかし……

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドッ!!ガシャアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

なんと、Gディケイドの放った弾丸とギルガメッシュの宝具はディケイドに触れた瞬間硝子のように無惨にも砕け散ってしまい、ディケイド自身も全く傷を負っていなかったのだった。

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハハハッ!!無駄だ無駄ぁ!!そいつが触れた物、そいつに触れた物はすべて例外なく破壊される!!そいつの絶対破壊能力は悪魔の力!殺戮者の力なんだからなぁ!!』

 

 

雷牙『ッ!貴様っ!』

 

 

ヴェクタス『クククッ……俺なんかに構ってていいのかぁ?早くしないと、奴がこのキャンセラーの世界を破壊してしまうぞ?』

 

 

エデン『チィッ…皆!俺達はフェイト達の治療を続ける!!皆は何としても零を止めるんだ!!』

 

 

ゼウス「ッ!了解だ!!」

 

 

ディエンド『不本意だが、仕方ないか』

 

 

フェザー『うん!!』

 

 

クーフーリン『チッ!しゃーねぇなぁ!!』

 

 

エデンはライダー達に呼び掛けるとコスモスとゼウスと共にフェイト達の治療を再開し、ギルガメッシュ達はワールドエンドライドのカードを使おうとするディケイドを止めようとそれぞれ必殺技の準備を始める。そしてディケイドがワールドエンドライドのカードをディケイドライバーに装填しようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……大丈夫だよ?零は私が……守るから……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………え?』

 

 

不意にエデン達の心の中に優しげな少女の声が響き、それを聞いたライダー達は思わず動きを止めてしまった。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

ディケイド『…ッ?!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドの身体から突然純白の光が溢れ出し、臨海公園全体を優しい光が包み込んでいったのだった……

 

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑩(前編)

 

 

 

不気味な暗闇に包まれた無の世界……

 

 

一筋の光すら射さない闇と静寂に支配された空間……

 

 

その場所に彼……黒月零は一人佇んでいた。

 

 

零「…………此処………………は…………」

 

 

漸く気付いたというように虚ろな瞳で自分が立つ場所を呆然と見渡すが、其処が何処なのかは分からない。

 

 

そもそも、何故自分がこんな闇に包まれた世界にいるのかすら覚えていない。

 

 

零「……………なんで……こんなところに……」

 

 

思わず今一番自分が感じている疑問を口にしてしまう零だが、それに答えてくれる人物は何処にもいない。

 

 

微塵の風すら感じない世界を暫く呆然と立ち尽くしていた零だが、ふと自分の手に感じたヌルリとした感触に思わず自分の体を見下ろし、胸と両手にネットリと付いた紅い液体を見て自然と様々なことを思い出していく。

 

 

零「…………あぁ…………そうか…………俺は…………因子を使ってしまったんだったな…………」

 

 

両手に付いた紅い液体を見下ろしながら、悲痛な表情を浮かべてポツリと呟き、今まで起きた出来事を思い出していく。

 

 

ヴェクタスとの戦い

 

苦戦していた中で駆け付けてきた翔達

 

ヴェクタスに佐知の身体を乗っ取られた衝撃的な事実

 

因子を埋め込まれた左目の激痛

 

 

そして……

 

 

 

零「…………そうだ…………俺はフェイトを…………見殺しにしてしまったんだ…………」

 

 

 

自分の腕の中で泣きながら息を引き取ったフェイト。

 

 

それによって自分の理性が消え、使わないと決めていた因子を使ってしまった事も思い出していくが、それ以上の事は思い出せない。

 

 

恐らく因子を使っていく内に、因子の力に飲まれて意識を失ってしまったのだろう。

 

 

だとすれば……此処にいる自分は多分、因子に飲み込まれてしまった自分の自我なのだろう。

 

 

零「………ハハ…………何をやっているんだ俺は…………使わないと決めた力を使って暴走なんかして…………フェイトも助けられず見殺しにして…………俺は…………何をしてるんだ…………」

 

 

今の自分の有様に嘲笑を浮かべるが、その顔から生気を感じられずまるで死人のように無気力な表情をしていた。

 

 

今でも目に浮かぶのは、血に濡れて涙を流すフェイトの顔……。

 

 

それを思い出す度に、今にでも泣きたい衝動に駆られてしまう。

 

 

零「…………また…………守ってやれなかったっ…………俺が隙を見せたせいで………フェイトを殺してしまったんだっ…………」

 

 

あの時ヴェクタスの前で膝を付いたりしなければ、こんな事にはならなかった。

 

 

フェイトが自分を庇って、犠牲になる必要なんかなかった筈だ。

 

 

全ては、自分の愚かさ故に生み出してしまった結果。

 

 

どんなに悔いても、既に遅い。

 

 

例えヴェクタスを倒して彼女の仇を討ったとしても、彼女は二度と戻っては来ない。

 

 

その事実に零は深い絶望に打ち付けられ、その場に力無く膝を付いてしまう。

 

 

零「…………どうしてだ…………何で俺はっ…………同じ過ちばかりを繰り返すんだっ…………アリシアも…………リインフォースも…………フェイトも…………アイツも…………守ると言っておきながら…………結局誰も守れていないじゃないかッッ!!!」

 

 

悲痛な叫びを上げながら、血の付いた拳で地面を殴り付けた。

 

 

何度も何度も、自分の無力さを悔いるように……

 

 

だがそんな事にすら次第に虚しさを覚え、零は顔を俯かせながら唇を噛み締める。

 

 

零「…………もう誰も失わない為に…………アイツ等の為にこの力や過去と向き合って、戦うと決めて…………それでも結局…………フェイトを守れず死なせてしまった…………俺の覚悟なんて…………この程度の物だったのかっ…………」

 

 

力無く、それこそ正に死人のような表情を浮かべて、闇に包まれた虚空を見つめる零。

 

 

そしてそんな時、突如この世界を支配する闇が零の体を足元から包み込んでいき、徐々に身体全体を浸蝕していく。

 

 

まるで、零を完全に取り込んでしまおうとするように……

 

 

零「…………そうか…………そういうことか…………なら…………このまま闇に解けてしまうのも…………いいかもな…………」

 

 

自身の身体を包み込んでいく闇から何かを感じ取ったのか、零は力無く笑いながら闇に身を委ねていく。

 

 

零「……フェイト……許してもらわないといけないのは俺の方だ……こんなことでしか……お前に謝れない俺を……許してくれ……」

 

 

そう言いながら零はゆっくりと瞳を閉じ、全身の力を抜いて完全に闇に身を委ねていく。

 

 

そしてそれを合図だと言う様に、闇が零の身体を包み込もうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――ダメだよ。因子の力に……自分に負けてはダメ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………ぇ?」

 

 

 

 

 

 

暗闇を突き抜けるように聞こえてきた暖かな声。

 

その声に反応した零は閉じていた瞳を開き、目の前に広がる闇の世界を見つめた。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

零「…ッ?!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如闇の向こうから、まばゆく暖かな一筋縄の光が溢れ出し、零を包み込もうとした闇を打ち消していったのである。

 

 

そして一筋縄の光は零を照らし、まるで彼を導くように闇の奥で輝いていた。

 

 

 

 

 

 

零「……あの光は……」

 

 

 

 

 

 

『さぁ、行って。あの光が……貴方を出口まで導いてくれるから』

 

 

 

 

 

 

零「ッ!……誰だ?何処にいる……?」

 

 

 

 

 

 

『私の事はいいから………さぁ、早く行って。あの光を辿っていけば、この世界から抜け出せる……』

 

 

 

 

 

 

零「…………」

 

 

 

 

 

 

光を辿ってこの世界を出ろと告げる少女の声に、零はジッと自身を照らす一筋縄の光を見つめる。

 

 

だが、何故か零はそこから一歩も歩き出そうとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

『?……どうしたの?』

 

 

 

 

 

 

零「………戻る……なんて……そんなの出来るわけがないだろう……」

 

 

 

 

 

 

『え……?』

 

 

 

 

 

 

零「……俺は……俺はフェイトを見殺しにしてしまったんだぞ……そんな俺が……どうして一人だけ助かるなんて出来る?……アイツを守ってやれなかった……こんな俺が……」

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

フェイトを助けられなかった自分だけ、何故のこのこ助かるなんて出来るのか。

 

 

それが許せない零はこの世界から抜け出す事を拒み、此処に残ってその罰を受けようとしていたのである。

 

 

そんな零の真意を知った声は何も答えず、突然零の目の前に光のオーロラを出現させていく。

 

 

 

 

 

 

零「…!何だ…?」

 

 

 

 

 

 

『良く見て?貴方のその目で……外の世界にいる彼等と……彼女の姿を……』

 

 

 

 

 

 

零「……え?」

 

 

 

 

 

 

声の言葉に零は思わず疑問げに聞き返すが、声はただ光のオーロラを見ろと告げるばかりで何も言わず、零は言われるがままにおそるおそるオーロラを覗いていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コスモス『グッ!グゥッ!』

 

 

ゼウス『クッ!クライシス!!もっとだ!もっと力を上げろ!!』

 

 

クライシス『分かってるわ!!』

 

 

エデン『ッ…!フェイト、戻って来い!!此処だ!!お前が帰るべき場所は此処にある!!』

 

 

閃華『フェイト!!』

 

 

フェイト『…………………………………………ッ……………………………』

 

 

姫華『…ッ?!フェイト?!』

 

 

バロンP『ッ!よしっ…!もう少しっ……もう少しだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…ッ?!みんな……フェイト?!」

 

 

 

 

 

 

そう、光のオーロラには、平行世界の仲間達と仲間達に治療されて今にも息を吹き返そうとしてるフェイトの姿が映し出されていたのであった。

 

 

それを見た零は驚愕の表情を浮かべながら思わず身を乗り出し、そんな零の様子を見た声は優しげな微笑みを漏らしながら語る。

 

 

 

 

 

 

『今この時も、貴方の仲間とあの子は必死に頑張っているの。だから貴方も……こんなところで諦めたりしないで。あの子達との約束を……守るんでしょ?』

 

 

 

 

 

 

零「ッ……お前は…一体?―ドンッ!―っ?!」

 

 

 

 

 

 

自分を導く声は何者なのか。そう言いかけた零の背中を不意に誰かが押して足を進ませ、再び少女の優しげな声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

『もう、自分を見失ったらダメだよ?そして忘れないで……例え貴方が破壊者になったとしても……それで貴方の居場所がなくなったりしない………繋がる絆がある限り……そこが貴方の居場所になり、力になるんだから……』

 

 

 

 

 

 

零「…………繋がる絆が…………俺の居場所…………俺の力…………」

 

 

 

 

 

 

声の言葉を心に染み渡らせるように、ポツリと小さく呟いた零。

 

 

そして、一筋縄の光が闇の世界と零を覆い、暖かな光が辺りを包み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫……貴方はもう、誰かの人形なんかじゃない……私にしてあげられなかった事を……あの子達に……してあげて?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………おまえ………………は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『約束だよ―――零』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………リィ…………………ル……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――広がっていく光。闇を照らす光の先で、いつかの少女の笑顔が在った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑩(後編)

 

 

 

 

―シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

 

 

その一方、暴走したディケイドの身体から突然溢れた暖かな光が臨海公園を包み込み、ライダー達はあまりの眩しさに光から目を背けていた。

 

 

Gディケイド『クッ?!何だ……この光は?!』

 

 

クーフーリン『な、なんも見えねぇぞ?!』

 

 

閃華「………だけどこの光………とても暖かい……」

 

 

フェザー『うん……それに凄く……優しく感じる……』

 

 

クラウン『……これは……まさか……』

 

 

ディエンド『……成る程……彼女の力か……』

 

 

溢れ出した光に包まれながらも、それぞれ言葉を口にするライダー達。そして、光が徐々に晴れて視界が戻っていくと……

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…………』

 

 

 

 

 

 

バロンP『……ッ?!零ッ!…………って、あれ?』

 

 

姫華「こ、これは……?」

 

 

アーサー『……公園が……直ってる……?』

 

 

そう、光が完全に晴れた先には体中に先程公園を包んだ光を纏い呆然と立ち尽くすディケイドの姿があり、更に暴走したディケイドによって破壊された筈の公園と青空が元の姿へと完全に修復されていたのである。それを見たライダー達が驚き戸惑っていると、ディケイドの身体がぐらりと揺れて倒れそうになり、それに気付いたライダー達が咄嗟に走り出そうとした。その時……

 

 

 

 

―……ドサッ―

 

 

クラウン『…………』

 

 

 

 

ディエンド『ッ!クラウン……?』

 

 

そう、クラウンがいつの間にかディケイドの傍にまで移動し、何故か倒れるディケイドの身体を抱き留めたのであった。そして、クラウンは白色に煌めくディケイドの左胸を見つめながらポツリと呟いていく。

 

 

クラウン『……成る程……貴女は今でも……零氏を守っているのですね……』

 

 

雷牙『……何?』

 

 

ディケイドの左胸の煌めきを見つめながら呟いたクラウンの言葉にライダー達は疑問げに首を傾げてしまうが、ヴェクタスは今の光に驚愕し後退りしていた。

 

 

ヴェクタス(ば、馬鹿な……今の光は再生の?!そんな馬鹿なっ!!)

 

 

ありえない。頭の中で何度もその言葉を並べ、目の前で起こった現象を首を左右に振りながら否定していくヴェクタス。

 

 

ヴェクタス(そうだ…ありえない!アレはあの女と共に消滅した筈だ!それがこんな所に、それも奴が持っている筈が……いや、待てよ……)

 

 

今の出来事を認められないと否定し続けていたヴェクタスの脳裏にふとある可能性が思い浮かび、ヴェクタスは一度冷静になって深く思考に浸っていく。

 

 

ヴェクタス(……そうだ……今考えれば不自然だ……確か奴は破壊の因子を捨てただの人間となったはずだ……なら何故、奴は因子を取り戻す前もあんな驚異的な回復能力を持っていた?過去のロストロギア事件の時もそうだ……何故ただの人となっていたアイツがあれだけの致命傷を負っていながら、それで死ななかった?普通の人間なら死んで当たり前だという傷を負っていながら……)

 

 

今起きた出来事と過去の零の身に起きた今までの出来事を合わせながら思考していくと、ヴェクタスはそれである核心を得て忌ま忌ましげに拳を握り締める。

 

 

ヴェクタス(………そうか……それなら今までの事にもつじつまが会う……奴の驚異的な回復能力……あのロストロギア事件でアイツが一命を取り留めた理由も……そうか……そういう事だったのかッ!!)

 

 

―バッ!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

ヴェクタスは全てを理解したと同時に突然地を蹴って勢い良く駆け出し、右手に剣を出現させながらクラウンに抱えられるディケイドに向けて大きく剣を振りかぶった。

 

 

クラウン『ヴェクタス氏ッ?!』

 

 

ヴェクタス『"またか"!!またそうやって邪魔をするのかッ!!この魔女があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

コスモス『なっ…止めろぉッ!!!』

 

 

エデン『チィッ…!!』

 

 

ギルガメッシュ『チッ!!これ以上我の前で好き勝手にはさせんぞ!!』

 

 

怒りの咆哮を上げながら剣を振り上げるヴェクタスにライダー達はすぐに自分達の武器をヴェクタスに放とうとし、ディケイドを抱えるクラウンもそれを迎え撃とうと咄嗟にナイフを取り出した。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェクタス『な……なに……?』

 

 

 

 

 

 

 

公園中に鳴り響いた金属音。ディケイドに向けて振り下ろされた剣の先を見て、ライダー達とヴェクタスまでも驚愕の表情を浮かべていく。何故ならその剣が振り下ろされた先には……

 

 

 

 

 

 

メモリー『―――どうやら、ギリ間に合ったみてぇだな』

 

 

エデン『なっ……お前?!』

 

 

ギルガメッシュ『幸助?!』

 

 

そう、其処にはクロノスの姿に酷似し騎士が身に付けているようなマントを背中に羽織った一人のライダー……天満 幸助が変身した『メモリー』がメモリブレイドでヴェクタスの振りかざした剣を受け止めていたのだった。

 

 

ヴェクタス『な、何故だ……何故貴様が此処に?!』

 

 

メモリー『零の世界のフェイトの気が薄れ始めていたのに気付いてな……ちょいと様子見に来てみたんだが、まさかこんなことになっていたなんて……なっ!』

 

 

―ギィンッ!ガギャアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ヴェクタス『グッ?!グアァッ!!』

 

 

メモリーはそう言いながら受け止めていた剣を弾いてヴェクタスに斬り掛かり、ヴェクタスは直ぐに背後へと跳ぶが完全に回避し切れず、数メートル先まで地を転がるように吹っ飛ばされていった。それを確認したメモリーはクラウンに抱えられるディケイドに視線を向け、左胸の煌めきを見て少し口を閉ざした。

 

 

メモリー『―――――成る程な……やはりそういう事か……』

 

 

メモリーはディケイドの左胸の光を見て何か納得したように呟き、ディケイドに向けて左手を翳していく。するとメモリーの左手から光のようなモノが放たれてディケイドを包んでいき、ディケイドの身体を纏っていた光が消えて瞳の形状も元の緑色の複眼へと戻っていった。メモリーはそれを確認して一息吐くと、再びヴェクタスに視線を向けて剣の切っ先を向けていく。

 

 

メモリー『さぁて……次はテメェの話を聞かせてもらおうか?お前の中から感じる佐知の事とか……お前がそん中に入れている"ソイツ等"の正体とかな』

 

 

ヴェクタス『……フン、答えろと言われて答える馬鹿がいるとでも?』

 

 

メモリー『……確かにな。なら……肉体言語と逝こうか?』

 

 

あくまで質問に答えようとしないヴェクタスにメモリーはメモリブレイドを構え、ディエンド達もヴェクタスを包囲して完全に退路を断っていく。

 

 

ヴェクタス(チッ…まさか断罪の神まで出て来るとはな……どうする?この女と融合しているせいでアレは使えないし、リミッターはまだLEVEL1までしか外せない……やむをえん、アレを使うか)

 

 

自分を包囲するライダー達を見て内心舌打ちしながら立ち上がり、ヴェクタスは何かをしようと立ち上がった。その時……

 

 

―……ドグンッ!!―

 

 

ヴェクタス『……ッ?!!なっ……にっ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

ヴェクタスは突然自分の胸を抑えながら苦しみ出し、身体から微かな光を溢れさせて震えながら後退りしていた。更にその瞬間……

 

 

 

 

―……ない……させない……これ以上は…!―

 

 

雷牙『えっ……こ、この声は…?』

 

 

姫華「これは……まさか……!」

 

 

頭に響くように聞こえてきた聞き慣れた声に、一同は思わず反応してしまう。そして……

 

 

―みん、な……聞こえて……る……?―

 

 

閃華「ッ!この声は……やっぱり!」

 

 

バロンP『さ、佐知さん?佐知さんなのか?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

そう、その声の正体はヴェクタスに取り込まれた佐知の声だったのだ。しかも聞こえてきたのはヴェクタスの身体からである。

 

 

ヴェクタス『ば、馬鹿なっ……何故だ?!"怨念の檻"に封じていた筈なのに何故……ッ!そうかっ……さっきのあの光か?!』

 

 

―ッ……そう、よ……あの子がっ……私をあそこから出してっ………導いてくれたのよっ…!『零達を助けて欲しい』って、お願いしてきてね…!―

 

 

ヴェクタス『チッ!!』

 

 

動きを止めたヴェクタスは佐知の言葉に思わず舌打ちし、身体から溢れる光を抑えながら自身の背後に黒い歪みを出現させた。

 

 

クーフーリン『ッ!アイツ……まさか逃げる気か?!』

 

 

ヴェクタス『ッ…フフフ…まあいいさ……因子の力は解放させた……当初の目的は果たせたのだから問題はない……ついでにあの三人の手伝いでもしてやるか……』

 

 

バロンP『なっ…おい待て!佐知さんを返せ!!』

 

 

不気味な笑みを浮かべながら歪みに包まれていくヴェクタスを見て直ぐさま引き留めようと走り出すライダー達だが、その前にヴェクタスは歪みを通って何処かに消えていってしまった。

 

 

エデン『チッ…!逃げられたか!』

 

 

ギルガメッシュ『フン……流石は雑種、といったところか……逃げ足だけは特別速い』

 

 

コスモス『関心してる場合じゃないだろう?!まだ佐知さんの身体が乗っ取られたままなんだぞ?!』

 

 

ディエンド『落ち着きたまえ。恐らく奴は、まだこの世界を出てはいないはずだ………アイツ等を手伝うと言っていたから、多分この世界にいる仲間の下に逃げただけなんだろう……それより』

 

 

ライダー達と話し合っていたディエンドは話を切ってその場から歩き出し、ディケイドを抱えるクラウンの下に歩み寄っていく。

 

 

ディエンド『……どういうつもりかな?君が零の暴走を止めるのを手伝ってくれるなんて?』

 

 

クラウン『……フフフッ、別に深い意味はありませんよ。ただ我々ショッカーの目的は世界制服ですからね。我々が世界を手に入れる前に世界を破壊されては、我々が困ってしまいますから』

 

 

ディエンド『…またお得意のおぶさけか。そうやって真意を話さずはぐらかすから、君は気に入らないんだよ』

 

 

クラウン『それはそれは…失礼しましたね。今度からは気をつけておきましょう。では、私はこの辺で失礼させて頂きます。どうやら零氏も……彼女のおかげで大事にはならなかったようですからね』

 

 

クラウンはそう言ってディケイドをディエンドに預けて軽く挨拶し、ディエンドから背を向けて背後に出現した歪みの壁を通り何処かへと消えていった。

 

 

ディエンド『……君は必ず俺が倒す……それまで他の奴に倒されるのは許さないからな……』

 

 

メモリー(……クラウンか……中々面白い奴じゃないか……気に入った……)

 

 

ディエンドとクラウンの話を見ていたメモリーは一人そんな事を思いながら仮面の奥で不敵に笑い、転移の準備を始める。

 

 

Gディケイド『……?もう行くのか?』

 

 

メモリー『あぁ、此処に来たのはただの様子見だったからな……うっちゃんからちゃんとした許可が出ないと俺は動けん。だがまだ奴らはこの世界に残っているようだし……後で増援を送っておこう。あれなら充分過ぎるくらい戦力になる筈だからな……んじゃ、後は頼んだ』

 

 

メモリーはそう言うと転移を開始してその場から消えていき、バンデニウムへと戻っていった。その直後……

 

 

フェイト「………………………………ッ………………………あ…………れ?………此処………は………」

 

 

姫華「ッ!フェイト?!皆!フェイトが目を覚ました!」

 

 

バロンP『ッ?!フェイトが?!』

 

 

無事に治療を終え、姫華に抱き抱えられていたフェイトが漸く意識を取り戻したのである。そしてフェイトは姫華に支えられながら上半身をゆっくりと起こしていき、頭を抑えて辺りを見回していく。

 

 

フェイト「……此処……は……」

 

 

閃華「フェイト!大丈夫?!何処か痛まない?!」

 

 

フェイト「え…………あ、はい…………けど私、一体何を…………」

 

 

意識が混乱しているせいで自分が一体何をしていたのか思い出せないフェイトだが、落ち着きを取り戻していく内に徐々に全てを思い出していく。

 

 

フェイト「……そうだ……私ッ!あ…あの!零は?!零はどうなったんですか?!」

 

 

姫華「お、落ち着いて!零は大丈夫だからっ!ホラ、あそこ」

 

 

姫華は必死に零の安否を聞いてくるフェイトを宥めながらディエンドに抱えられるディケイドを指差し、それを見たフェイトは慌てて立ち上がりディケイドへと駆け寄っていく。

 

 

フェイト「れ、零?!大丈夫?!零ッ?!」

 

 

ディエンド『安心したまえ、単に気絶してるだけだ。放っておいても時期に目を覚ますだろう』

 

 

フェイト「!そ、そっか……良かったっ……本当にっ……」

 

 

ディエンドからディケイドの安否を聞いて安心したのか、フェイトはその場に力無く座り込み、それを見たバロンPはそんなフェイトを心配して駆け寄っていく。そんな様子を安心し切った表情で見ていたフェザーだが、そこである事に気付き何かを探すように辺りを見渡していく。

 

 

フェザー『……あれ?ねぇ、あの男の人は何処いったの?さっきフェイトちゃんを一緒に治療してた人』

 

 

クーフーリン『あ?……そーいや姿が見えねぇな……何処行ったんだあの野郎?』

 

 

共にフェイトの治療をしてくれた男性…ゼウスの姿がいつの間にか消えている事に気付いたフェザーとクーフーリンは辺りを見渡していくが、彼の影すらも見つからない。それに疑問を浮かべる二人だが、エデンとギルガメッシュに呼ばれて仕方なく捜索を打ち切り、他のライダー達と共に公園を後にした。そしてその影では……

 

 

ゼウス「……後は、アイツ等に任せとけば大丈夫そうだな」

 

 

クライシス「みたいね……じゃ、私達は帰りましょうか?」

 

 

ゼウス「ああ。此処から先は、俺らは必要なさそうだしな…」

 

 

林の影から公園を後にするライダー達を見ていたゼウスとクライシスはそんな会話をし、目の前に出現した歪みの壁を通って元の世界へと帰っていった。そしてその近くでは……

 

 

 

 

鳴滝「…ディケイド。これで分かっただろう?貴様という存在が、どれだけ許されない物なのかを!」

 

 

林の陰に身を潜めていた男……いつも零達の前に現れる鳴滝は険しい表情でそう呟き、ライダー達が去った場所を睨みつけながら背後に出現した歪みの壁を通り、何処かへと消えていったのだった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑪(前編)

 

 

―???―

 

 

 

―――其処は、何処にでもあるような何の変哲もない花畑に囲まれた丘の上。

 

 

白い雲が流れる青い空の下で、広々とした海が見える綺麗な丘。

 

 

そんな丘の上に立つ一本の大樹の前で、一組の男女がその場所から見える海原を眺めていた。

 

 

一人は腰まで伸ばした銀色の髪を靡かせる少女。

 

 

一人は漆黒の髪を目元まで伸ばした青年。

 

 

銀髪の少女は楽しげに柵に身を乗り出しながら海原を眺め、そんな少女の様子に青年は呆れたような表情を浮かべていた。

 

 

『……分からんな……ただの海なんか見て何がそんなに楽しいんだ?』

 

 

『――フフ♪楽しいに決まってるよ。この場所で――と一緒に海が見られる……それだけで嬉しくて、つい笑っちゃうんだから♪』

 

 

『……なんで俺と一緒で嬉しく感じるんだ?それこそ理解出来ん……』

 

 

『その内分かるようになりますよ♪』

 

 

怪訝な表情を浮かべる青年の隣で銀髪の少女は上機嫌に微笑みながらそう返し、青年はそんな少女の言葉に若干ムッとした表情を浮かべていく。

 

 

そして少女はそんな青年の反応にクスッと笑みを漏らしながら再び海原へと視線を向け、柔らかげな表情を浮かべながら口を開いた。

 

 

『……ねぇ、何だか本当に面白いな~って思わない?私達が住む世界って』

 

 

『……?何だいきなり?』

 

 

少女の唐突な質問に青年は疑問げに小首を傾げ、少女は何処か遠くを見つめながら語り続ける。

 

 

『当たり前の事なんだけど…世の中には色んな人達が沢山いるでしょ?例えば、私みたいな神子や――みたいな"外の世界"から来た人とかもそう。私達が住んでる世界には、まだまだ想像も出来ないような凄い人達が沢山いるかもしれない。もしかしたら、そんな人達とこの先出会えるかもしれない……って思うとさ、何だか感動しない?世界の壁を超えて、色んな人と出会っていけるんだもん♪』

 

 

銀髪の髪を潮風で靡かせながら、子供のような笑みを浮かべて楽しげに話す少女。

 

青年はそんな少女に半ば呆れたような表情で溜め息を吐いた。

 

 

『本当にお気楽な奴だな……どうしてそんな子供染みた事が平然と言えるんだ、お前は?』

 

 

『フフフ…だってそれが、私だからね♪』

 

 

『……またそれか……』

 

 

いつもの台詞を口にして微笑む少女に青年は肩を竦めながら深い溜め息を吐き、少女は腰に両手を回しながらそんな青年と向き合っていく。

 

 

『………ねぇ――?――もいつかは此処を出て、自分が生まれ育った世界に帰っちゃうの……?』

 

 

『?俺が生まれ育った……世界……?』

 

 

『うん………だってほら、――が村に来てから随分経つでしょ?だからいつか……――も自分の世界に帰っちゃうのかな、って……』

 

 

『…………』

 

 

何処か不安げな顔で恐る恐る質問してくる少女。

 

その質問を受けた青年は一度間を置いて口を閉ざした後、ゆっくりと口を開いていく。

 

 

『……俺が此処に来たのはある用事があったからだ。それを果たせば、俺は俺の意思とは関係なく帰らなければいけない』

 

 

『……そっか……そうだよね……――にだってきっと、家族がいるもんね……』

 

 

淡々と感情の篭っていない口調で告げた青年の言葉に少女は暗い表情を浮かべて青年から背を向けてしまい、青年はそんな少女の背中を見つめたまま黙り込んでしまう。

 

 

そんな状態が長く続き、もうどのくらい時間が経ったか分からなくなった頃に、突然少女は『うん…決めた!』と力強く叫びながら、子供のような笑みを浮かべて青年の方へと振り返った。

 

 

『だったら私、いつかこの世界を出て旅に出る!』

 

 

『……旅?』

 

 

『うん、旅!沢山の世界を回って、沢山の人達と出会って仲間を作っていくの♪そうすれば、いつか――の世界にだって行けるでしょ?……だから……』

 

 

少女はそう言いながら青年に向けておもむろに手を差し出し、優しげな笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

 

『―――もしまたその時に会えたら……私と一緒に、旅をしてくれないかな?』

 

 

『…………』

 

 

期待と不安が篭められた瞳で手を伸ばし、少女は青年の答えを待つ。

 

そして青年はそんな少女の手をジッと見つめながら何かを考えた後……

 

 

『……別にいいぞ……お前が本当に俺の世界に来られたらな』

 

 

『ッ!ホントに?!』

 

 

『あぁ……だがその前に―――』

 

 

青年の答えに喜びを露わにする少女だが、青年は無表情のまま少女へと歩み寄り少女の頭から足元までを見下ろしていく。

 

 

『な、なに?』

 

 

『―――取りあえず、最近その腹に増えた余計な肉を落として来るんだな……話はそれからだ』

 

 

『へ?…………ッ?!』

 

 

青年の言葉に一瞬キョトンとする少女だが、その意味に気付いて顔を真っ赤にし咄嗟に腹を両手で隠した。青年はそんな少女の反応に意地悪な笑みを浮かべながら歩き出し、少女の横を通り過ぎる際にポンッと軽く肩を叩いた。

 

 

『……悪いな、逆だった。寧ろもう少し肉を付けろ。そんなひ弱な身体じゃ、旅に出てもすぐに倒れるぞ』

 

 

『え?…………って、またからかったの?!もぉ!何でこんな時にそんなデリカシーのない事言うのかなッ?!』

 

 

『フッ……だってそれが、俺だからな?』

 

 

『それは私の台詞でしょ?!いつもこういう事があると私の真似ばっかりするんだからぁぁぁぁーーーーー!!』

 

 

完全にからかわれたことに気が付いた少女は顔を紅く染めながらポカポカと青年の胸を叩き、青年はそれを受けつつも意地悪な笑みを浮かべ続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

―――そう、これが遠い日の記憶。あの頃の俺が……俺達が……本当に幸せだった頃の記憶だ……

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑪(後編)

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

 

フェイト「……………」

 

 

写真館の中にある零の自室。この部屋の主である零はあの戦闘以降一度も目覚めず、自室のベッドで眠りに付いたままだった。そんな彼が眠るベッドの隣には、備え付けの椅子に座り心配そうに彼を見つめるフェイトの姿があった。

 

 

フェイト「……零……早く目を覚ましてよ……」

 

 

零「…………」

 

 

眠りに付く彼の寝顔を見てか細い声で呟くフェイト。彼の身に一体何があったのか、それは既に大輝や他の平行世界のライダー達から説明され彼女もなのは達も知っている。自分がヴェクタスの刃によって倒れた後、零が破壊者となり掛けて暴走しこの世界を破壊しようとした事を。その事に関して、彼女自身も少なからず罪悪感を抱いていた。

 

 

フェイト「……私のせいだ……私のせいで……零がこんな事になっちゃったんだ……」

 

 

彼は自分の命より、仲間の安全を守ろうとするような人間だ。それを知っておきながら、自分は彼を守る為に命を投げ出そうとした。その選択が、逆に彼を苦しめる事になるとも予想だにせず……。その事で思い詰める彼女を気を使ってか、なのはや優矢達も零の事はフェイトに任せ下のリビングで待ってくれてる。幼いヴィヴィオまでもがそんな彼女に気を使っていたのだから、今の彼女は余程悲愴感に満ちているのだろう。

 

 

フェイト「どうしよう……もしこのまま……零が目を覚まさなかったから……私どうしたら…!!」

 

 

遂にはそんな最悪の展開を想像してオロオロし出してしまい、やはりシャマルを呼ぶべきか、それとも翔の家に滞在してる平行世界の皆を呼んでくるべきかと焦りを浮かべてしまう。その時だった……

 

 

零「…………………ぅ…………ぁ…………」

 

 

フェイト「…ッ?!れ、零?!」

 

 

眠っていた零が息苦しそうに息を漏らし、それに気付いたフェイトは零の傍まで近寄り顔を覗いた。そしてそんな状態が暫く続いた後、漸く零はゆっくりと瞼を開いて意識を取り戻したのであった。

 

 

フェイト「ッ!零っ!良かった……気が付いたんだっ……!」

 

 

零「ッ……………………………フェイ…………ト?…………………ッ?!!」

 

 

―ガバッ!!ガシッ!―

 

 

フェイト「わッ?!れ、零?!」

 

 

意識を取り戻した零はぼんやりとした意識の中で自分の顔を覗き込む人物がフェイトだと理解した瞬間、直ぐさまベッドから起き上がりフェイトの肩を掴んだ。

 

 

零「フェイトッ?!!お前どうして?!怪我はどうしたんだ?!身体は大丈夫なのか?!」

 

 

フェイト「お、落ち着いて!!私は大丈夫だから!!ほら、ねっ?」

 

 

フェイトが生きている事に驚愕して思わずフェイトに詰め寄る零だが、フェイトは零の頬に両手を添えながら自分が無事であると確かめさせて零を宥めていく。そして零もそれで目の前にいる少女が本当にフェイトなんだと理解して落ち着きを取り戻していき、ベッドに腰掛けていく。

 

 

零「そ、そうか……だが、何でだ?お前は確か、あの時俺を庇って……」

 

 

フェイト「うん……その筈だったんだけど……姫華さん達が助けてくれたんだ。他の世界の皆も駆け付けてくれて、皆で私を治療して助けてくれたの」

 

 

零「翔達……が?」

 

 

翔達がフェイトを治療して助けてくれた。そう説明してくれたフェイトの言葉で零はあの闇の世界の事……あの時聞こえた声が見せてくれた光のオーロラの映像を脳裏に思い出していく。

 

 

零(……まさか……あれがその時の映像だったのか?……だとしたら……あの時聞こえた声は……)

 

 

因子の暴走によって自我を飲まれ掛け、全てを諦めかけた時に聞こえてきた少女の声。もしもあれが夢ではなかったとすれば、あの声は……

 

 

フェイト「――――零…?どうかした?」

 

 

零「……ッ!あ、いや……なんでもない……気にするな」

 

 

フェイト「?そう…?」

 

 

フェイトの声で意識を呼び戻された零は一瞬驚きつつも平静を整えながら答え、フェイトも疑問符を浮かべながらも一応納得して椅子に腰掛ける。

 

 

フェイト「えと……それで、零は大丈夫なの?何処か変なところとかない?」

 

 

零「あぁ……身体(左目)に少し違和感を感じるが、それ以外は特にないな……」

 

 

フェイト「そ、そっか……大事がなくて良かったね?」

 

 

零「あぁ、そうだな……」

 

 

フェイト「…………」

 

 

零「…………」

 

 

其処で会話が長く続かず途切れてしまい、二人の間に沈黙が流れていく。そしてどちらからも口を開く事なく、暫くそんな状態が続いて妙に気まずくなってきた頃……

 

 

フェイト「――――零……ごめんね……」

 

 

零「……は?」

 

 

ずっと口を閉ざしていたフェイトはいきなり申し訳なさそうに謝り、零に向けて頭を下げたのであった。それを見た零も予想すらしてなかったフェイトの行動に思わず唖然となってしまう。

 

 

零「ごめんって……なんでお前が謝るんだ?」

 

 

フェイト「……だって……私があんな事したせいで、零は破壊者になりかけたんでしょ…?それで……この世界を破壊しようとしたって……」

 

 

零「ッ……!」

 

 

頭を下げたまま暗い表情で呟いたフェイトの言葉に零は驚愕してつい閥が悪そうにフェイトから顔を逸らしてしまうが、一度瞳を閉ざして何かを考えた後フェイトに視線を戻した。

 

 

零「……それは違う。お前が謝る事なんて何一つない……寧ろ、謝らないといけないのは俺の方だ……お前をあんな目に合わせたのに……それなのに俺は何もしてやれず、ただ勝手に暴走して世界を壊そうとしたんだ……本当に、すまなかった……」

 

 

フェイト「ッ?!ち、違う!零は何も悪くなんてない!悪いのは私の方だよ!勝手に戦場に飛び出して、それで勝手な事して死にかけて……零達に……迷惑掛けて……」

 

 

頭を下げる零にフェイトは慌てて否定するも、次第に何を言えばいいのか分からなくなり顔を俯かせて黙り込んでしまう。そして再び二人の間に沈黙が流れると、零は包帯を巻いた両手でフェイトの手を握り締めていく。

 

 

フェイト「!……零…?」

 

 

零「……なんか、少しだけお前達の気持ちが分かった気がするな……」

 

 

フェイト「え?」

 

 

フェイトの手を握りながら苦笑いを浮かべる零の言葉にフェイトは思わず小首を傾げ、零はそんなフェイトに苦笑したまま口を開く。

 

 

零「覚えてるか?昔、俺が無茶をしたせいで一度死に掛けたこと」

 

 

フェイト「!……うん……覚えてる、っていうか……忘れる訳ないよ……あんな事件……」

 

 

フェイトは零が持ち出した話題に暗い表情を浮かべ、零はそんなフェイトの顔を見つめながら再び語る。

 

 

零「……俺はあの時……血に濡れたお前を抱えてた時に、凄く怖いって思ったんだ……お前がいなくなってしまうのが怖いって……その時に思ったんだ。あの時俺が同じ目に合った時も……お前達も、こんな風に思っていたのかなって……」

 

 

フェイト「……零…」

 

 

零「……馬鹿だよな。お前達にこんな思いをさせておきながら、俺はそれを知らずに平気で無茶ばかりしていた……最低だな、俺は」

 

 

フェイト「そ、そんなことない!零がそうやって戦うのも、私達を思ってだから…!―グイッ―……え?」

 

 

苦笑しながら言い放った零の言葉を否定しようとするフェイトだが、その前に零がフェイトを引き寄せ強く抱き締めていた。

 

 

フェイト「れ……い…?」

 

 

零「……俺もまだまだ未熟だな……お前達がどんなに辛かったのか漸く分かったのに……今でもそれをどうしたらいいのか分からないままだ……すまない……」

 

 

フェイト「……ううん……私も、零やなのはみたいに無茶をしたから……多分、おあいこかな……」

 

 

フェイトはそう言いながら苦笑を浮かべ、零の背中に両腕を回し強く抱きしめていく。そしてゆっくりと顔を上げ、零の顔を見上げながら口を開いた。

 

 

フェイト「……だけど……零の事だから多分、きっとまた無茶しちゃうでしょ?そういうところ、中々治らないし」

 

 

零「……多分な……怒ったか?」

 

 

フェイト「ううん……そうなったら少し怖いけど……信じてるから。零は絶対、私達を置いていかないって……約束があるから」

 

 

零「……あぁ……今度こそ守る……絶対に……」

 

 

苦笑を浮かべつつも、必ずと守ると強く断言する零。そんな彼の答えに安心したのか、フェイトは優しげに微笑みながら深く頷き、零はそんな彼女の表情に微笑を浮かべながらあることを思う。

 

 

零(……リィル……お前が誰なのかは、まだ全部は思い出せない。だがお前が言っていた通り、コイツ等は絶対に守る……だからもう少し待ってくれ……お前の事も……俺の過去も……必ず思い出してみせるから)

 

 

腕の中で微笑むフェイトを見つめながら、静かな決意を胸の内に秘める。守るべき物がまた一つ、彼の中で生まれた瞬間だった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・路地裏―

 

 

 

そしてその頃、街中にあるとあるビルの路地裏では、完全に体調が回復して身体の調子を調べる真也。そしてその真也の様子を離れて確認する恭平と麻衣の姿があった。

 

 

真也「……うしっ!身体はもう大丈夫そうだな」

 

 

恭平「だな。こっちでも特に目立った問題があるようには見えなかったし、正に完全復活だな♪」

 

 

麻衣「……だな」

 

 

恭平は調子の戻った真也を見てヘラヘラとした笑みを浮かべ、麻衣も安心してかいつもの無表情ではあるも少し緩んでように見える。真也もそんな二人に向けて微笑を浮かべながらスーツの乱れを直し、すぐにまた真剣な表情を浮かべる。

 

 

真也「さて……そんじゃあそろそろ本題に入るぞ?あの無効化の神にどうやって対抗するかをな」

 

 

恭平「つってもなぁ~……お前さっきアイツに負けたばっかじゃねぇーか?しかもお仲間さんまでご到着しちまったし……もうこっちには殆ど勝機はねぇぞ?」

 

 

麻衣「うん……今度は多分、フルボッコ……かも」

 

 

真也「……確かにな。もう真っ正面から向かっていくのは無謀なだけだと思うし、羅刹ももう使えねぇ……どーしたもんか」

 

 

祐輔に敗北し、更には平行世界の仲間達までこの世界に集結した以上、このまま正面から向かっていくのは命を捨てにいくようなものだ。ならば此処からはどう動くべきかと考えていると、恭平が何かを思い付いたようにポンッと手の平を叩いた。

 

 

恭平「じゃあさじゃあさ!こういうのはどうだ?!古典的な罠で、落とし穴~♪」

 

 

真也「却下だ…そんな幼稚な罠に引っ掛かるわけねぇだろ!!」

 

 

麻衣「じゃあ……これで足を滑らせて頭を強打させ、気絶したところを連れ去る……」

 

 

真也「ΣΣバナナの皮なんかで足が滑るか!!というかそんなん真顔でいうもんでもねぇぞ?!」

 

 

恭平「そんじゃあこれだ!道迷った通行人のフリして一人にさせる!んで、後ろからこのハンマーでガツ~ンっと♪」

 

 

真也「……俺ら全員顔見られてんだろ?」

 

 

麻衣「じゃあ…………お色気?」

 

 

真也「ハ?……プッ!アッハハハハハハハハハハハハハハッ!!おいおい、お前みたいな幼児体型の何処にお色気なんか…………イヤスマンセン、アナタモジュウブンミリョクテキデス、ハイ�」

 

 

麻衣の作戦を笑いながら否定しようとする真也だが、ズモモモモッ…と無表情のまま威圧感を漂わせてカードデッキを取り出す麻衣に即座に土下座。隣でそれを見てた恭平ですら若干顔を引き攣らせていた。

 

 

真也「ん……ゴホンッ!!と、とにかくもっとちゃんとした作戦じゃないとダメだ。あっちは大人数に対し、こっちはたったの三人。迂闊に仕掛けらんねぇんだから、機転の効いた作戦とかじゃねぇと……」

 

 

恭平「うーん……機転の効いた作戦ねぇ?」

 

 

そうは言っても、そう簡単に考え付くなら苦労はしないだろう。どんなに考えても中々良いアイデアは思い浮かばず、完全に途方に暮れていた。その時……

 

 

 

 

 

 

『――――フン、様子見に来てやってみれば……どうやら何の結果も残せていないようだな』

 

 

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

路地裏に鳴り響いた不気味な含み笑い。三人はすぐにそれが聞こえてきた路地裏の奥の方へと振り返ると、奥からゆっくりと一人の黒いライダー……先程ライダー達から免れたヴェクタスが姿を現したのであった。

 

 

真也「ヴェクタスッ?!」

 

 

ヴェクタス『……ぶざまな姿だなぁ?まさか、ただやられてきただけで何も出来なかったのか?情けない奴らめ……』

 

 

真也「っ……うっせーよ。てか、そういうお前はどうなんだよ?此処にまだ残ってるってことは、てめぇも失敗して来たんじゃねぇのか?」

 

 

相変わらず見下すような口調で言い放つヴェクタスに真也は睨みを効かせながらそう言い返すが、ヴェクタスはビルの壁に背中を預けながらそれに鼻で笑う。

 

 

ヴェクタス『お前達なんかと一緒にするな。予想外のアクシデントこそ多かったが、ちゃんと奴に力は使わせておいた。恐らく覚醒率も上がってる筈だろう』

 

 

『ッ…?!』

 

 

平然とした態度で言い返してきたヴェクタスの言葉に三人は驚愕の表情を浮かべた。前の世界で真也と麻衣が出来なかった事を果たしたというのだから、それも当然だろう。そしてヴェクタスは腕を組みながら再び口を開いていく。

 

 

ヴェクタス『それで?そっちの状況は一体どうなってるんだ?詳しく聞かせろ』

 

 

真也「ッ……麻衣」

 

 

麻衣「……分かった」

 

 

状況説明を要求してくるヴェクタスに真也は悔しげな表情を浮かべながら麻衣に説明を頼み、麻衣は渋々と自分達の方で起こった状況を詳しく説明する。

 

 

ヴェクタス『……情けないにも程があるな……結局はお前が足を引っ張ったせいで状況が悪化したという事だろう?使えない奴め』

 

 

真也「ッ……」

 

 

麻衣「ッ!真也をこれ以上を侮辱しないで!!」

 

 

真也「止せ麻衣!奴の言ってることは確かだ……今こんな状況になっちまったのも、全部俺が原因なんだからよ……」

 

 

麻衣「ッ……真也っ」

 

 

恭平「…………」

 

 

思い詰めた表情を浮かべてそう告げる真也に、麻衣も何処か悲しげな顔を浮かべながら真也の顔を見上げ、恭平は無表情のままそんなやり取りを見つめていた。そしてヴェクタスは一度間を置いて何かを思考すると、三人と向き合って口を開いた。

 

 

ヴェクタス『……いいだろう。今から俺が、お前達に手を貸してやるよ』

 

 

恭平「…?手を貸す?」

 

 

ヴェクタス『あぁ、今から俺の考えたプランの通りに動け。そうすれば間違いなく、無効化の神は俺達の手に落ちるだろう』

 

 

真也「……お前が考えたプラン?」

 

 

ヴェクタスが言うプランとやらに真也達は怪訝そうに小首を傾げ、ヴェクタスは不敵な笑みを浮かべながら自身が考えたプランを真也達に説明していく。

 

 

真也「――――ッ?!なん……だって?」

 

 

恭平「…おい…それマジで言ってんのか?」

 

 

ヴェクタス『当然だろう?これなら奴とて簡単に手は出せないはずだ。そうすればお前達の任務は無事完遂出来る。良い話だろ?』

 

 

麻衣「…………」

 

 

ヴェクタスの話したプランに真也は驚愕したような顔を浮かべ、恭平と麻衣は気に入らない物を見るような目で静かにヴェクタスを睨みつけていた。そして気を取り直した真也も二人と同じような目付きでヴェクタスを睨みながら叫んだ。

 

 

真也「ふざけんなよっ……何でそんなきたねぇ真似しなきゃいけねぇんだ?!第一ターゲットは一人だけだ!それ以外の別世界の人間には必要以上に干渉しねぇのがルールだろ?!」

 

 

ヴェクタス『ほう……ではお前は、それ以外になにか良い作戦でもあるというのか?』

 

 

真也「ッ!それ…は…」

 

 

真也はヴェクタスの言葉に何も言い返せず口を閉ざしてしまい、ヴェクタスはそれに構わず更に続ける。

 

 

ヴェクタス『よく考えてみろ……お前達にはどうしても叶えたい望みがあるんだろう?それを叶える為に、自分の手を汚さないなんて甘い考えが通るとでも思っているのか?あぁ?』

 

 

真也「ッ…!」

 

 

麻衣「っ………」

 

 

恭平「…………」

 

 

ヴェクタス『クククッ……分かったらさっさといけ。俺や終夜の命令を聞いてれば、揺り篭はお前等の願いを聞き入れてくれる……必ずな』

 

 

ヴェクタスが不気味な笑みを浮かべながらそう告げると、真也達は険しい表情のまま路地裏を出て何処かへと向かっていった。そしてそれを確認したヴェクタスはビルの壁に背中を預け、先程の戦いで突然起きた光の現象を思い出していく。

 

 

ヴェクタス『……ホントに驚いたよ。まさか今になってまでお前に邪魔されるなんてなぁ……何処までもうっとうしい女だ……』

 

 

忌ま忌ましげに舌打ちしながら毒づくヴェクタスだが、すぐに不気味な笑い声を漏らしていく。

 

 

ヴェクタス『―――三つ目の因子……"再生の因子"。まさか、自分の"心臓"を零に移植していたとはなぁ?だからあの時、奴は死ななかった訳か……成る程……中々味な真似をしてくれるじゃないか、リィル・アルテスタ?……クククッ……ハハッ……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

ヴェクタスは狂気に満ちた笑い声を上げながら路地裏の奥へと歩き出し、目の前に出現した黒い歪みの壁を潜って何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・市街地―

 

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「~♪」

 

 

その頃。市街地にある商店街では、このキャンセラーの世界のヴィヴィオが聖祥大附属小学校の授業を終えてGreen Cafeへと帰宅している最中であった。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「えへへ♪にい達、これ見たら喜んでくれるかなぁ~♪」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)は上機嫌に手に持つ画用紙……学校の友達と一緒に書いた祐輔達の似顔絵とGreen Cafeの絵が書かれた紙を見て微笑みを漏らしていた。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「ふふ、早くにい達に見せてあげよ~♪」

 

 

自分の絵を見た祐輔達の顔を想像して自然と足取りも速くなっていき、早く祐輔達に見せてあげたいと一心でいつの間にか小走りになっていた。そして、目的地であるGreen Cafeが肉眼で見えるところまでやって来た。その時……

 

 

 

 

―………ガバァッ!!―

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「…?!んっ?!んんっ?!!」

 

 

背後から突然誰かにハンカチで口を塞がれてしまい、ヴィヴィオ(祐輔)は突然のそれに驚いてしまうがハンカチについた眠り薬によって気を失ってしまったのであった。そしてヴィヴィオ(祐輔)を眠らせた人物とは……

 

 

真也「……………」

 

 

黒いスーツを身体に纏った男性……先程ヴェクタスに命令されて路地裏を出た筈の真也だった。そして真也はヴィヴィオ(祐輔)を腕の中に抱き、そんな真也の下に影で様子を見ていた麻衣と恭平も歩み寄っていく。

 

 

恭平「……真也、どうだ?」

 

 

真也「……あぁ……ぐっすり眠ってるよ…………けどさ……」

 

 

真也は恭平にそう答えながら腕の中に抱くヴィヴィオ(祐輔)に目を向けていくが、その顔は何処か悲痛な物のように見えた。

 

 

真也「……なんで……なんでこんな小さいガキまで、巻き込まなきゃいけねぇんだよ……俺達の世界の住人でも、任務とも全然関係ない……こんなガキが……」

 

 

麻衣「……真也」

 

 

真也「……あぁ……分かってるさ……俺達が歩む道は外道の道……アイツのためならなんだってするし……すべてを捨ててみせる……俺は……そう決めて組織に入ったんだ……」

 

 

恭平「…………」

 

 

真也は腕の中で眠るヴィヴィオ(祐輔)を見つめながらまるで自分に言い聞かせるように呟き、ヴィヴィオ(祐輔)の髪を軽く撫でながら口を開いた。

 

 

真也「……ごめんな?全部終わったらちゃんと帰すから……ちょっとだけ怖いの我慢してくれ……」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「………………」

 

 

恭平「……真也、いくぞ」

 

 

真也「……あぁ」

 

 

真也はヴィヴィオ(祐輔)をちゃんと抱えると、恭平と麻衣と共に背後に出現した歪みの壁を通り、何処かへと消えていったのだった。

 

 

 



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番外編/お誕生日大作戦!!

 

 

恭平「――さぁ祭りじゃあぁあぁ!!本日は瑠璃ちゃん生誕祭じゃああぁぁ!!略して瑠璃タン!!さぁみんなもご一緒にぃ!!」

 

 

慎二「瑠璃タンッ!!」

 

 

一樹「瑠璃タンッ!!」

 

 

零「瑠璃……タン?」

 

 

真也「うるせぇー!!てか人の妹の名前でキモい略し方すんなぁッ!!」

 

 

海鳴市にある高町家。其処ではリビングに集まって何やら会議を行う数人の少年達………聖祥大附属中学の授業を終えて集まった零達の姿があった。そしてその中にいる黒髪の糸目をした少年……"市道一樹"は楽しげに真也の方へと振り返りながら口を開いた。

 

 

一樹「それにしても、今日が瑠璃ちゃんの誕生日だったんッスね?俺ら全然知らなかったッスよ♪」

 

 

真也「ん?あ、あぁ……まあな。せっかくのアイツの誕生日だし、どうせなら皆で祝った方がアイツも喜ぶかと思ってさ」

 

 

苦笑いを浮かべながら頭を掻いて笑う真也。そもそも何故こうして皆が集まったかと言うと、実は今日真也の妹である"荒井 瑠璃"の誕生日なのだ。それで真也は最愛の妹である瑠璃の誕生日を盛大に祝ってやりたいと零やなのは達に頼み込み、こういう事になっていたのである。因みに零達は瑠璃の誕生会のための飾り付けの為にこのメンバーが残り、その間になのは達は瑠璃の気を引くために外に出て買い物に行っているのだが……

 

 

零「なに言ってるんだ……お前今日まで瑠璃の誕生日だって事、すっかり忘れてたじゃないか」

 

 

慎二「……へ?」

 

 

真也「うわっ!ばっかお前!!それ黙っててくれって言っただろ?!」

 

 

恭平「……ほっほぉ~?それは中々興味深い内容ですなぁ真也殿ぉ?」

 

 

零の発言にあわてふためく真也を見て恭平はニヤニヤと口元を緩ませ、一同の視線は真也へと集中していく。

 

 

真也「うっ……しゃ、しゃーねだろ?!最近期末テストとかが立て込んでたせいでうっかりしてたんだよ!」

 

 

慎二「あー……そういえば真也先輩、テスト期間中は零先輩や終夜先輩のとこに行ったり来たりしてましたよね、確か」

 

 

気弱な外見をして零達より一つ年下に見える少年……"天野慎二"は真也がテスト期間の最中、必死に零や終夜から勉強を教えられてたことを思い出して苦笑いを浮かべていく。

 

 

零「まったく……授業中に居眠りばかりしているからそうなるんだ。恭平なんか見てみろ、こんなんでも一応学年中位だぞ?」

 

 

真也「うぅ……だってよ~、先生の授業って聞いてる最中どーしても眠くなっちまうんだぜぇ?てか聞いてても全然意味分かんねぇーし……だから寝るのさ!」

 

 

慎二「いや、そこは頑張って授業受けましょうよ」

 

 

恭平「……つーか零っち?なんか俺の事さりげなくこんなんとか言わなかった?つか言ったよね?」

 

 

零「気にするな。事実だ」

 

 

恭平「ガビーン?!俺様ショーーック!!あぁ……最近の零っちは冷たくて俺様寂しいよぉ~」

 

 

ヨヨヨヨッ…っと嘘泣きしながら泣き崩れる演技を見せる恭平だが、零は完全に無視を決め込みながら真也の方へと顔を向けて言葉を紡ぐ。

 

 

零「それで、瑠璃へのプレゼントは一体どうする気だ?どうせお前の事だから、まだ何も買えていないんだろう?」

 

 

一樹「へ?…マジッスか?!マズイッスよそれ!だったら高町達が外で瑠璃ちゃんの気をそらしている間に決めないと?!」

 

 

真也「う……そりゃ分かってるんだけどさ……朝いきなりだったから全然思い付かねぇんだよ……それに、今時の女の子が喜ぶプレゼントなんて俺知らねぇしっ」

 

 

恭平「あぁ~~、真也は女にプレゼントあげた事とか全然ないもんな~♪」

 

 

真也「余計なお世話だっ!!てか、そういうお前は何か良い案とかあんのかよ?!」

 

 

恭平「ムッフフフ~、当然だろぉ?俺様は此処に来る前からバッチリ決めてあんだぜ♪」

 

 

一樹「へぇ~以外ッスね?どんなプレゼントッスか?」

 

 

一樹は恭平の用意した案に興味津々と言った感じに身を乗り出しながら質問し、恭平は不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

恭平「フッフッフッ…真也にはワリィけどさ?実は俺様、瑠璃ちゃんからいつも恭平お兄ちゃん大好き~♪って言われてるんだぜぇ?驚いただろぉ~♪」

 

 

慎二「いや……それ普通に僕等も言われてますけど」

 

 

零「止めておけ慎二。コイツは一度調子に乗ると他の奴の言葉は聞かん……ある程度は聞き流せ」

 

 

一樹「そうッスね……」

 

 

得意げに胸を張る恭平の隅でそんなやり取りが行われるも、恭平はそれに全く気付かず更に言葉を続ける。

 

 

恭平「だから俺の考えた案とは、そんな瑠璃ちゃんの純粋な思いに対する感謝の気持ちが込められたプランという訳さ!!」

 

 

真也「お、おぉ!何か珍しく恭平がまともな事を言ってる?!で、そのプランって一体何なんだ?!」

 

 

恭平「フッフッフッ…聞いて驚くんじゃねぇぞ?俺の考えたプレゼントとは――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭平「――『瑠璃ちゃんに、捧げてもいい、この肉体』きょう・へい」

 

 

真也「きしょいわぁああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあッ!!!!!!」

 

 

―バギイィッ!!!―

 

 

恭平「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 

背景にピンクの花柄を浮かばせながら告白した恭平の案にすぐさま拳一発を放った真也……以外と良い音が鳴りました。

 

 

真也「珍しくまともな発言したと思えば結局それかっ?!つか小学生にそんなプレゼントとかアングラすぎんだろボケェッ!!」

 

 

恭平「お、おぅぅ……最近の子はおマセなのね……」

 

 

真也「テメーがおマセなんだよッ!!」

 

 

何処を探したら自分の友人を妹の誕生日プレゼントに送る兄貴がいるか!と激怒しながら恭平を怒鳴る真也。だが、そんなやり取りを見ていた零は顎に手を添えながら何やら思考に浸っていた。

 

 

零「………いや、意外性を突くならそういうのもアリかもしれんな」

 

 

真也「…………はい?」

 

 

一樹「確かにそうッスね…よし!んじゃ、プレゼントはそれでいってみましょうか!」

 

 

真也「は?いやちょ……」

 

 

零「…恭平…お前の身体、瑠璃の為に借してもらうぞ」

 

 

恭平「へ?マジで俺の肉体捧げちゃうの?イヤ~ン♪自分で言っときながら今更恥ずかしくなってきたぁ~ん♪」

 

 

真也「逃げろ瑠璃ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!」

 

 

自分を置いて勝手に話が進んでいく中、真也の悲痛な叫び声が翠屋に響き渡ったのであった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

1時間後……

 

 

 

零「……ふむ、意外と良い出来だな」

 

 

一樹「そうッスね♪」

 

 

慎二「カワイイですよ恭平先輩♪」

 

 

真也「……………」

 

 

ややあってわいわいと騒ぎ立てて一時間後。零達三人は裁縫箱を閉めながら視線の先にある物体を見て大層満足そうな表情を浮かべ、真也はその物体を見て何処か哀れむような表情をしていた。何故なら四人の視線の先には……

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

 

シャララ~ンと効果音が聞こえてきそうな可愛らしい装飾で着飾ったジャックフロ〇ト……の着ぐるみを着た恭平が呆然と立ち尽くしていたのであった。

 

 

『…あの、皆さん?これは一体何なんでしょうか?』

 

 

一樹「ん?だって恭平さんが言ったじゃないッスか?自分を瑠璃ちゃんに捧げる~って♪」

 

 

『いや、確かにそう言ったけど……これは何か違うっていうか……つか、この着ぐるみどっから持って来たん?』

 

 

零「それは俺のだ。ほら、最近町内で子供受けを狙ったマスコットキャラを集めたお祭りが開かれただろ?その時にケーキを配達しに行った時に貰ったんだ。それ、色んなとこが破損してたから捨てようとしてたみたいだったから」

 

 

慎二「で、僕が破損した部分を布でカバーしつつ可愛らしく装飾したって事です♪これだけ派手におめかしすれば瑠璃ちゃんも喜ぶと思うし♪」

 

 

『…………』

 

 

何か色々とズレた事を言う三人に恭平も思わず額から汗を流す。ふと視界の端に映る真也に目を向ければ、無言のまま目をそらされてしまった……。

 

 

『……ま、まぁどっちみちこれで瑠璃ちゃんのハートは俺様の一人占めって事だよなぁ~♪これはこれでいっか♪』

 

 

真也「すっげーポジティブ精神だな……でもまぁ……確かにインパクトもあるし、これでもうよしと……」

 

 

零「いやまだだ。お楽しみはこれからだ」

 

 

真也「するか………って、なに…?」

 

 

真也の言葉に割って入った零の声。それに対して疑問げな声を漏らす真也の端で、零は何処からかパンパンに詰まった買い物袋を取り出して無造作にテーブルの上に撒き散らした。テーブルの上に広がった大量のそれには、『プリンの素』とある。

 

 

慎二「何ですか、これ?」

 

 

零「ちょっと前に瑠璃から好きなデザートは何か?って聞いたらプリンと言われてな。だから今回は、瑠璃へのプレゼントとして人生初のバケツプリンに挑戦してみようかと」

 

 

真也「ば、バケツプリンって…お前そんなの作れんのかよ?!」

 

 

零「問題ない。普段から母さんの手伝いをしてるせいか一通りのデザートは作れるようになった……だが……」

 

 

と零はいきなりガクリと肩を落とし、テーブルの上に広がる大量のプリンの素を見下ろしながら再び言葉を紡ぐ。

 

 

零「……ちょっとゴタゴタしてたせいで、バケツプリン調理用のバケツを買うのをうっかり忘れてしまったんだ……」

 

 

慎二「えぇ?!それじゃあ、バケツプリン作れないじゃないですか?!」

 

 

一樹「な、なら今から買いに行って作れば間に合うんじゃ!」

 

 

零「いや、そんな事してる間になのは達が帰ってきてしまう……だからどうにかして、バケツの代わりになるモノを見つけないといけない……」

 

 

真也「ば、バケツの代わりって、そんないきなり言われても………………ん?」

 

 

どうにかしてバケツの代わりになる物を見つけなければいけない。そう言われてあわてふためく一同だが、その中で一人を除いた一同の視線がある物体……ジャックフ〇ストの着ぐるみを着た恭平へと集まった。

 

 

零「………………」

 

 

真也「………………」

 

 

慎二「………………」

 

 

一樹「………………」

 

 

『…………ん?え?なに?―ガシッ―………へ?』

 

 

四人に一斉に見られて若干戸惑って後退りしてしまう恭平だが、いきなり慎二と一樹に両脇を捕まれ動きを封じられてしまった。

 

 

『え?ちょ、何?!何なの?!いきなりなん――!』

 

 

真也「―――恭平、ワリィな……」

 

 

零「……悪く思うな。これも瑠璃の為だ」

 

 

『へ?ちょ、あっやめ!?あっ―――――アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

零と真也は恭平へと徐々に迫って恭平が被るジャック〇ロストの頭を取り外し、それと同時に恭平の悲痛な悲鳴が鳴り響いたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―…ガチャッ!―

 

 

 

なのは「ただいまー」

 

 

『お邪魔しまーす!』

 

 

瑠璃「お邪魔しま~す♪」

 

 

そして数時間後。長い時間外に出掛けていたなのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかに麻衣や綾達、そして小学生四年生くらいの赤い長髪をした一人の少女……真也の妹である瑠璃が家の扉を開けて漸く帰ってきた。すると奥から一人の女性……零となのはの母親である高町桃子がひょいっと顔を出した。

 

 

桃子「あら、お帰りなさいみんな」

 

 

フェイト「あ、お邪魔してます」

 

 

麻衣「……こんにちは」

 

 

なのは「ただいまお母さん、零君達は?」

 

 

桃子「みんな奥にいるわよ?もう準備も終わってるみたいだから、早く行ってあげなさい♪」

 

 

なのは「うん♪じゃあ瑠璃ちゃん、みんな、奥に行こっか?」

 

 

すずか「うん。早く瑠璃ちゃんのお祝いをしないとだし、ね?」

 

 

瑠璃「うん♪」

 

 

すずかに頭を撫でられながら瑠璃は年相応の笑みを浮かべながら頷き、なのは達はそんな瑠璃の手を引きながら家の中に入ろうとするが……

 

 

桃子「……あ、そうそう。何だか零君達、すごく面白そうなもの作ってたわよ♪」

 

 

綾「……へ?」

 

 

アリサ「面白そうな…もの?」

 

 

はやて「なんですか、それ?」

 

 

笑顔を浮かべる桃子の言葉になのは達は疑問符を浮かべて思わず立ち止まって振り返るが、桃子は「行ってみれば分かるわ♪」とだけ告げてそれ以上は教えてくれなかった。そんな桃子になのは達は更に疑問符を浮かべながら家の奥へと入っていた。そしてリビングへと足を踏み入れると……

 

 

瑠璃「――わぁ~♪」

 

 

すずか「可愛い~♪」

 

 

アリサ「へぇ、結構凝ってるじゃない?」

 

 

なのは達がリビングに入ると、其処には様々な折り紙で飾られたリビングと豪勢な料理が並べられたテーブルを囲んで座る零達の姿があったのだった。

 

 

零「よ、やっと帰ったきたか。どうだ、結構らしくはなってるだろう?」

 

 

綾「えぇ、スッゴく素敵な飾り付けです♪」

 

 

フェイト「あ、でもごめんね?準備とか全部任せちゃったみたいで」

 

 

一樹「良いッスよそんなの♪俺らも皆楽しかったッスから♪」

 

 

申し訳なさそうに謝るフェイトに一樹は手をブラブラと振りながら笑うが、其処で慎二はある事に気付いて頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

慎二「……あれ?そういえば他の皆さんは?」

 

 

はやて「あ、終夜君と裕司君やったら、まだ生徒会の仕事があるから後で来るゆうとったよ?総一君は実家の歌舞伎の稽古があって、椋君は病院のお母さんのお見舞いでこれへんかもって……」

 

 

零「そうか……まぁ終夜と裕司はともかく、あの二人の場合は仕方ないか……」

 

 

瑠璃「真也お兄ちゃ~ん!」

 

 

はやてから他のメンバーの事情を聞いて納得する零と慎二。その隣では、瑠璃が明るい笑みを浮かべて真也の下へと駆け寄ってきていた。

 

 

真也「おかえり瑠璃、楽しかったか?」

 

 

瑠璃「うん♪あのね?なのはお姉ちゃん達が一杯プレゼントくれたんだよ♪」

 

 

真也「そっかそっか、けどな?まだプレゼントがもう一つ残ってんだぞ~♪」

 

 

瑠璃「え?」

 

 

そう言って真也はニカッと笑いながら瑠璃の頭を撫で、瑠璃は真也の言葉にキョトンとした顔を浮かべて首を傾げる。するとその時、そのタイミングを待っていたかのように部屋の奥からジャックフ〇ストの格好した恭平が出て来た。

 

 

『ハァーイ!瑠璃ちゃん、HAPPY BIRTHDAY~♪』

 

 

瑠璃「わっ?!その声……恭平お兄ちゃん?!」

 

 

アリサ「ちょ、アンタなんて格好してんのよ?!」

 

 

真也「良いから良いから…実はこん中に、俺等からのプレゼントがあんだよ」

 

 

瑠璃「本当?!あけていい?」

 

 

真也「おうよ!」

 

 

真也は期待を込めた瞳で見上げてくる瑠璃に向けて頷きながらサムズアップし、瑠璃は緊張しつつも恭平へとゆっくり歩み寄り、恭平が被るジャック〇ロストの頭を両手で掴んで、勢いよく開いた。其処には……

 

 

―……プルンッ♪―

 

 

瑠璃「……え?」

 

 

『…………へ?』

 

 

ジャックフロ〇トの頭を外した中身には、プルンッと大きく揺れる巨大なプリンがあった。のだが……何故か、着ぐるみを着てる恭平の頭までもプリンと一緒になっていたのだった。

 

 

『…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!!!!?』

 

 

恭平「は~い♪瑠璃ちゃーん!」

 

 

瑠璃「す、すごいすごい!恭平お兄ちゃんがプリンになってる?!」

 

 

なのは「待って待って待って?!おかしいでしょ?!プリンはともかく何で中の人も一緒?!」

 

 

零「いや、実はバケツプリン作る為のバケツを買うのを忘れてしまってな?代わりにコイツの着ぐるみを使ったんだが………せっかくだから入れてみた」

 

 

アリサ「どんなせっかくよ?!てかアンタ達も少しは止められることは出来たでしょ?!」

 

 

慎二「いや、その…」

 

 

一樹「何というか……好奇心が勝ったていうか…」

 

 

真也「せっかくの機会だったんで……つい」

 

 

はやて「だからどんなせっかくやねん?!」

 

 

プリンに人入れるってどんだけだよ?!っと男性陣に詰め寄っていく女性陳だが、瑠璃は恭平プリンを見て物凄いはしゃぎようで零達の下へと駆け寄ってきた。

 

 

瑠璃「すごいよすごい!!瑠璃、あんなおっきいプリンはじめて見た!!みんな本当にありがとう!!」

 

 

フェイト「あ……瑠璃はご満悦……みたいだね」

 

 

綾「まあ……あんな巨大なプリン……確かにそうそう見れるような物じゃないですからね」

 

 

零「……まあ取りあえず、皆で食うか?」

 

 

なのは「……ふふ、そうだね。あんな大っきなプリン、瑠璃ちゃんだけじゃ食べ切れないもんね♪」

 

 

はしゃいで喜ぶ瑠璃を見て零達は思わず笑みを零し、一同もそれぞれテーブルからスプーンを取って恭平プリンを食べる事にしたのであった。

 

 

一樹「……Σんん?!結構イケるッスよこれ?!」

 

 

慎二「ホントだ、美味しい~!」

 

 

なのは「うん、ホントに美味しい♪」

 

 

フェイト「でも、ちょっと大き過ぎるかな……」

 

 

はやて「あ、そやったら私小皿でも取ってくるわ♪」

 

 

麻衣「……瑠璃、美味しい?」

 

 

瑠璃「うん!スッゴく美味しいよ♪麻衣お姉ちゃんも美味しい?」

 

 

麻衣「……うん……美味しいよ……中身がこれじゃなかったら……もっと良かったんだけど……」

 

 

恭平「ハァ、ハァ、ハァ…食べられちゃう!!恭平皆に突かれながら食べられちゃ~~う!!!VVvvV」

 

 

アリサ「ΣΣきしょく悪いわ!!いいからアンタは黙って私達に食べられてなさい!!�」

 

 

綾「ア、アリサさん?その発言もちょっと……問題あるような�」

 

 

すずか「アハハ……�」

 

 

そんなやり取りが行われながらも和気あいあいと恭平プリンを一同みんなで食していき、テーブルに座ってそんな様子を見ていた零と真也も思わず笑みを漏らしていた。

 

 

零「……いいのか?瑠璃と一緒に食べなくて」

 

 

真也「あんな人面プリン食えるかよ。そういうお前はどーなんだ?」

 

 

零「……右に同じだ」

 

 

零は苦笑しながらそう言うとコップに注いだ飲み物を喉に流し込んでいき、真也は恭平プリンを食べる瑠璃を見つめながら口を開いた。

 

 

真也「………ありがとな?瑠璃の誕生祝いの相談受けてくれて」

 

 

零「……瑠璃の為なら仕方ないだろう。それに、この問題はお前一人で解決出来るとは思えなかったし」

 

 

真也「うわっひっでーな?……でもそうだな……俺だけじゃどうする事も出来なかった……こういう時に限って、両親がいないと不便だよ」

 

 

零「…………」

 

 

そう呟いた真也の表情は、何処か寂しげなものに見えた。以前真也から聞いた話では、真也と瑠璃の両親は既に不運の事故で他界してしまってる。それから二人は親戚中の間で邪魔物のように扱われ、何度も転校を繰り返してこの海鳴市へと辿り着いたらしい。そして今は、親戚からの仕送りで二人だけで生活している。だから真也にとって、瑠璃はたった一人の家族とも言えるのである。

 

 

零「……だが、お前はお前で頑張ってるじゃないか?妹の為に此処までしてやれる兄なんて、きっと何処を探してもお前だけだろう」

 

 

真也「んな大したもんじゃねぇよ�俺はただ、瑠璃の為にしてやれる事をしてるだけだぞ」

 

 

零「それでもだ……お前のその妹思いなところは……きっと瑠璃にだって伝わってる筈だろう」

 

 

真也「ハハ、だったら良いんだけどな……」

 

 

そう言って真也は苦笑いを浮かべながら頬を掻き、零も微笑を浮かべながら真也へと顔を向ける。

 

 

零「――これからもちゃんと、瑠璃を守ってやれよ?」

 

 

真也「……おう、当たり前だっ」

 

 

二人はそう言いながら拳を合わせて微笑し、恭平プリンを食べるなのは達を見て笑みを浮かべ続けていた。そして、生徒会の仕事を終えて後からやって来た終夜と裕司も交え、なのは達と共に瑠璃の誕生日を大いに祝っていったのだった――

 

 

 

 



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番外編小説/復讐へと墜ちた破壊者。その名は―――

 

 

 

深い霧に支配されたとある平行世界。その世界に唯一存在する無数の墓達。その墓達の中にある一つの墓石の前に、黒いコートを全身に覆った一人の青年の姿があった。

 

 

「………………」

 

 

黒いコートの青年は墓石の前に立ったまま何もせず、ただジッと静かに目の前に建てられた墓を見つめていた。すると、そんな青年の背後から一人の老人が現れ、老人は青年に向けて話し掛けていく。

 

 

「―――まだこんなところにおったのか……」

 

 

「……ジンか。何の用だ」

 

 

「なに。珍しくお前さんが長いこと其処におるから、少し気になっただけじゃよ」

 

 

ジンと呼ばれた老人はそう言うと左手に持ったランプで辺りを照らしながら歩き出し、青年の隣に立って同じように墓を見下ろしていく。

 

 

ジン「……はてさて。お前さんがこの世界を破壊してから、一体どれだけの年月が経ったのかの……」

 

 

「……さあ……もう覚えていない……その時の事も……アイツ等と過ごした記憶も……アイツ等の顔も……もう朧げにしか思い出せないよ……」

 

 

青年は何処か寂しげに言いながら墓に刻まれた名前を見つめ、そんな青年を見たジンは深い溜め息を吐きながら再び語り出した。

 

 

ジン「そんなに辛いのなら、ライダー達への復讐など止めればいい……きっとこのお嬢さんも、お前さんにそんなことして欲しいとは願っておらんだろう」

 

 

「――だろうな。コイツは本当に人が良すぎる……きっと今の俺を見たら、身を呈してでも俺を止めようとしただろう……俺がやってる事は、決して正しいことじゃない……」

 

 

ジン「其処まで分かっておるなら―――」

 

 

何故続けようとする?ジンは青年にそう告げようとするも、黒いコートの隙間から見えた青年の表情を見て口を閉ざしてしまう。そんなジンの様子を横目で見た青年は悲しげな表情で笑みを浮かべ、何処からか零のデバイスであるアルティに酷似した一本の剣を取り出しそれを眺めていく。

 

 

「――もう遅いんだよ……俺は戻れない……俺が帰る場所は何処にもない……今の俺に残されたのはライダー達への復讐心と、全ての世界を破壊するという使命だけ……昔の俺は、もう死んだんだ……」

 

 

ジン「だから墜ちると…?因子の力を得て神となり、数え切れない命を奪ってその手を鮮血に染め上げ……其処までして、お前さんは何を望むのだ?」

 

 

「…………」

 

 

ジンの問い掛けに青年は口を閉ざしてなにも答えず、ただ無言のままコートの懐から赤い宝玉のようなものが付いたネックレスを取り出した。

 

 

「…俺の望みはただ一つ。因子の真の力を覚醒させ、ライダー達が存在する世界をなくし新たな世界を創造する……それだけだ」

 

 

ジン「因子の最終進化形態……か。あんな禁忌の力にまで手を出そうとするとは……本気なのか……?」

 

 

「…………」

 

 

青年は何処か悲しげに聞き返してくるジンの言葉を黙って受け止め、墓から視線を外し霧に覆われた空を見上げていく。

 

 

「自己満足だってことは分かってるさ……だがどんなに理屈で分かっていても、心を支配するこの憎しみから逃れる事が出来ない……可笑しいだろう?もう暑いのも寒いのも感じなくなって、何も食べる必要も眠る必要もなくなって、涙を流すことも出来ない身体になったのに……この憎みだけは消えない……消えてくれないんだ……」

 

 

ジン「……そうか……」

 

 

ポツリポツリと言葉を紡ぐ青年に、ジンはただそれだけしか言えなかった。今のこの青年の心の淵には深い悲しみと憎しみしか存在しない。今にも泣きたいはずなのに、涙を流すことさえ出来ない。そんな青年にどんな言葉を掛けるべきなのか、この老人には何も思い付けなかったのだ。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ザアァァァァァァァァァァァァアッ……!!―

 

 

ジン「……ッ!」

 

 

突如青年とジンの周りを歪みが包み込み、ジンは突然のそれに驚愕して後退りをし、青年は全く動じた様子を見せず冷静な態度で別の方向へと振り向いていく。其処には歪みの中から次々と姿を現していく、無数のライダー達の姿があったのだった。

 

 

ジン「……また来おったか……命知らずのライダー達が……」

 

 

「…………」

 

 

ジンは悲しむように言いながら顔を俯かせ、隣に立つ青年は憎しみの篭った瞳でライダー達を睨みつけながらネックレスを仕舞い、ジンの目の前に立ち構えると懐から一枚のカードを取り出していく。

 

 

「……ジン、俺はもう迷ったりはしない……」

 

 

ジン「…………」

 

 

「例えアイツ等が望まなくても……この生き地獄から永遠に抜け出せなくても……アイツ等の無念を晴らす為なら、何処までも墜ちてやる……奴らを全て、破壊してやる……」

 

 

青年は背後にいるジンに向けてそう言いながらカードを右手に持つ剣へと装填し、スライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:DIREED!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時に青年の周りに無数のシルエットが出現し、シルエットは青年に重なると灰色のライダースーツに変化し、更に剣から十枚のプレートが飛び出し青年が身に付ける仮面へと収り、それと共に灰色のライダースーツは禍々しい赤黒色へと変化していった。すべての変身を終えたその姿はディケイドに何処となく酷似したマスクと薄緑に輝く瞳に赤黒い刺々しい鎧、そして右手には不気味なオーラを漂わせる剣を持った姿……そう、そのライダーとは以前魔界城の世界でツカサ達に襲い掛かってきた謎のライダーだったのだ。

 

 

『――サあ、来ルならコい……ヒトり残らズハカイしテやル……』

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーッッ!!!!』

 

 

謎のライダーがそう言うとライダー達はそれぞれが持つ武器やマシンを繰り出して謎のライダーへと突っ込んでいき、謎のライダーは一瞬でその場から消え去りライダー達へと向かっていった。一人目のライダーは首を跳ね、二人目は心臓を突き刺し、三人目は背中を踏み付けて砕くなど、なんの容赦もないダーティーな戦法で次々とライダー達を倒していくその姿は、正に悪魔と呼ぶに相応しかった。

 

 

ジン「……わしではもう、お前さんを救う事は出来んようだな……ディレイド」

 

 

ジンは悲しげな表情を浮かべながら次々とライダー達を倒していく謎のライダー……『ディレイド』を見つめ、背後にある墓の方へと振り向いていく。

 

 

ジン「……神よ……貴方はどうして、こんなにも残酷な運命をあの子に与えるのです……嘗ての自分を失い……幸せを感じる事も……誰かの温もりを感じる事も出来なくなったあの子から……今度は何を奪うつもりですか……」

 

 

歎き悲しむようにジンがそう呟いた瞬間、不意に墓石から一滴の雫が流れ落ちた。まるで憎悪を叩き付けるようにライダー達を倒していくディレイドを見て悲しむ様に…………その墓――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――"高町なのは、此処に眠る"と刻まれた墓は、今でも涙を流すかのように雫を流していた――――

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑫

 

 

―Green cafe―

 

 

祐輔「痛っ…!」

 

 

ミナ「あ、ジッとしてて!ちゃんと消毒しないといけないんだから…!」

 

 

ユウ「……でも酷いな……此処まで手酷く傷を負わせるなんて……」

 

 

響と皇牙に助けられてなんとか店へと戻ってきた祐輔は、今現在ミナと"ユウ"に怪我の治療をしてもらっている最中であった。だが、あの激戦で受けた傷はどれも深いものばかりであり、しかもその量が想像以上に多いせいで治療は中々終わらず時間が掛かっていた。するとそんな時、店の入り口が開いて其処から二人の青年……響と皇牙が現れ、店の中へと入ってきた。

 

 

祐輔「…ッ!二人共!どうだった?!」

 

 

響「ッ……それが…その……」

 

 

皇牙「……悪い。翔達にも手伝ってもらってんだけど、まだ何も……」

 

 

祐輔「ッ……そう……」

 

 

言いにくそうに報告する響と皇牙の言葉を聞いて祐輔はガクリと肩を落としながら椅子に座り込み、ミナとユウも暗い表情を浮かべて顔を俯かせてしまう。

 

 

響「そ、そんな落ち込むなって!きっとその内帰ってくるさ!�」

 

 

ミナ「……でも、もう学校終わってからかなり経ってるんですよ?学校や友達の家に連絡してもいないって言うし……なら、一体何処に行っちゃったんですか……」

 

 

皇牙「それは……」

 

 

ユウ「…………」

 

 

顔を俯かせながら重苦しい雰囲気で呟くミナの言葉に響と皇牙も言葉が浮かばず口を閉ざしてしまい、ユウも更に表情を暗くさせてしまう。実は数時間前、学校がもう終わってる時間にも関わらずヴィヴィオ(祐輔)がまだ帰って来ないことに疑問を感じたミナ達は翔達にも協力してもらい、ヴィヴィオ(祐輔)の捜索に当たっていたのだ。だが学校やヴィヴィオ(祐輔)の友達の家、そして彼女が行きそうな場所をどんなに捜索しても一向に見つからず、こうして今も発見出来ないでいたのだ。

 

 

ミナ「どうしよう……まさか、何か事故に巻き込まれたとか?!それとも誘拐?!」

 

 

ユウ「ミ、ミナ!落ち着いて!」

 

 

響「翔達ならきっとすぐ見付けてくれるって!だから冷静になれ!」

 

 

ミナ「ッ……でも……だけど……」

 

 

きっとヴィヴィオ(祐輔)は無事だからと安心させようとする響達だが、胸の不安を取り除けないミナは涙目になりながら顔を俯かせてしまう。そうして店内に重苦しい空気が流れ続ける、そんな時……

 

 

 

 

―カランカラーンッ―

 

 

ルミナ「こんにちわ~♪」

 

 

大輝「ちょっと邪魔するよ~」

 

 

響「…!お前等?!」

 

 

ミナ「だ、大輝さん…?!」

 

 

店の扉が不意に開き、其処から先程祐輔達を助けてくれた大輝とルミナが店の中へと入ってきたのである。突然の二人の来店に思わず驚いてしまうミナ達だが、皇牙は険しい表情で大輝に話し掛ける。

 

 

皇牙「何だよお前等?今度は一体何の用だ?」

 

 

大輝「つれないなぁ。一応君達を助けてあげた恩人なのに、そんな言い方ないんじゃない?」

 

 

響「良く言うよ……お前が助けたかったのは祐輔だけだろ?……それで、一体何の用だ?」

 

 

大輝「別に君達に用はないさ。俺はただ、無効化の青年君に渡す物があって届けにきただけだ」

 

 

祐輔「…?僕に?」

 

 

祐輔に渡す物があると告げる大輝に祐輔達は疑問げに首を傾げてしまい、大輝はそんな一同の反応を他所に胸ポケットから一通の手紙を取り出しそれを祐輔へと投げ付けていった。そして祐輔はそれを受け取ると、手紙を開いて中の文章に目を通していく。其処には…

 

 

 

 

 

―この世界の聖王とお前の母親を預かった。返して欲しければ、一人で町外れにある廃棄工事に来い。さもなければ……お前の大事な家族の命はない―

 

 

 

 

 

祐輔「ッ?!これ……は…」

 

 

手紙に書かれていた内容とは、この世界の聖王と祐輔の母親を預かったという文章だったのだ。それを見た祐輔が表情を険しくさせていく中、隣で祐輔の様子を見ていたミナ達も手紙を横から覗き込み、その文章を読んで驚愕の表情を浮かべた。

 

 

皇牙「こ、これは…?!」

 

 

ユウ「この世界の聖王と母親って………もしかして、ヴィヴィオと佐知さんのこと?!」

 

 

ミナ「そ、そんなっ…一体誰がこんなこと?!」

 

 

響「ッ!お前っ…どうしてこの手紙を?!」

 

 

大輝「俺の店に変な使い人がやって来てそれを置いてったのさ。手紙の内容からして犯人は間違いなく……君達と零達を襲った例のライダー達だろうね。おそらく君達平行世界の住人達が現れた事に焦りを感じて、あっちも強行手段に出たって所だろう」

 

 

祐輔「…………」

 

 

手紙の内容に驚愕するミナ達の隣で、大輝は何でもないように言いながら近くのテーブルの椅子に腰を下ろしていく。そして、祐輔は前髪で目元を隠しながら手に持つ手紙をクシャッと握り潰し、それを乱暴に投げ捨てて椅子から立ち上がりそのまま店を出ようと歩き出した。

 

 

ミナ「ゆ、祐輔?!」

 

 

皇牙「お、おい待て!何処に行く気だ?!」

 

 

祐輔「………決まってるでしょ……二人のとこにいく……」

 

 

皇牙「なっ…馬鹿言うな?!どう考えても罠って分かってんだろ?!」

 

 

響「それにお前もまだ怪我が治ってないだろう?!あの二人のことなら俺達が助けるから、お前は此処で大人しくしてろ!」

 

 

怪我の治療もまだ終わっていないのに手紙で指定された場所にいくと告げる祐輔を引き留めようと、響は慌てて祐輔へと駆け寄り肩を掴んだ。しかし……

 

 

 

 

 

 

祐輔「―――――邪魔……しないでよ……」

 

 

―………ゾワァッ!!!―

 

 

響「……ッ!!?」

 

 

凍てついた一言と共に祐輔から殺気染みたオーラが放たれ、それを感じ取った響は恐怖のあまり思わず手を離し後退りをしてしまい、背後にいたミナ達もそれを感じ取ったのか恐怖で顔を引き攣らせながら祐輔を見ていた。

 

 

皇牙「お、おい…祐輔さん…?」

 

 

祐輔「―――ジッとしてるなんて、無理に決まってるでしょ……僕だけ狙って来るなら別に構わないよ……だけど、関係ないはずの母さんとヴィヴィオまで利用してきたんだ……それを黙って見てるなんて……出来るはずないじゃない……」

 

 

ミナ「ゆ…祐輔……」

 

 

淡々と感情の篭っていない言葉を紡ぎながら信じられない殺気を放ち続ける祐輔に、ミナ達は恐怖のあまり声を出すことすらままならないでいた。そして祐輔はそんなミナ達を無視して店の扉を開き、外へ飛び出すと手紙で指定された場所である廃棄工事へと向かっていった。

 

 

皇牙「……い、今の…………ホントに祐輔さん…………なのか……?」

 

 

 

響「っ……なんて殺気なんだ……身体の震えが止まんねぇっ……」

 

 

ミナ「…………あ、あそこまで怒った祐輔………私も初めて見た………」

 

 

ルミナ「あわ、あわわわわわ……」

 

 

祐輔が出ていった後もミナ達は祐輔の放った殺気に当てられたせいでガクガクと身体の震えが全く止まらず、大輝も若干顔を引き攣らせながら祐輔が出ていった扉を見つめていた。

 

 

大輝「これは驚いたな……普段の彼を見てるせいか、流石の俺もあんな青年君には恐怖を感じたよ……」

 

 

響「……って、呑気なこと言ってる場合じゃねぇだろ?!どうすんだよ!お前のせいで祐輔が行っちまったじゃないか!!」

 

 

大輝「そんなこと言われてもねぇ……手紙には青年君一人で来いって書かれてたんだから、どっちみち彼に見せないといけないだろ?……それとも、君はあのままあの二人が殺されても良かったと?」

 

 

響「っ……そうじゃないけど、それでも祐輔に見せる前に俺らでどうにか出来たかもしんないだろ?!」

 

 

大輝「それでも結局は同じだよ。彼等はあの青年君にあれだけの深手を負わせた手練れなんだ。例えどんな小細工を用意しておこうが、それを使う前に簡単に見破られて二人が殺されるだけさ」

 

 

響「っ…!」

 

 

冷静にそう告げる大輝に響は言葉を飲み込んで黙ってしまい、大輝はそんな響を見ると椅子からゆっくりと立ち上がり、店の中を歩き回りながら再び口を開く。

 

 

大輝「取りあえず今は、青年君とあの二人を救い出す方が先なんじゃないかな?……そうだろ、零?」

 

 

『……え?』

 

 

店の窓から外を眺めながら大輝が呟いた名前にミナ達は思わず疑問そうな声を漏らし、それと同時に店の扉が開いて其処から零とフェイトが入ってきた。

 

 

皇牙「れ、零?!」

 

 

響「お前等…いつから其処に?!」

 

 

零「……そこの二人が店に入ってきたところからだ。取りあえず大体の話は、外の方で聞かせてもらった」

 

 

大輝「あらら……立ち聞きなんて流石の俺でも感心しないよ、零?」

 

 

零「誰のせいだ!お前達が先に店に入ったせいで、こっちは入るタイミングが掴めなかったんだだろう!」

 

 

フェイト「ちょっ、零!今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ?!�」

 

 

爽やかに微笑む大輝の言葉に零は思わず食いついてしまうが、フェイトに宥められて何とか気を取り直し、一度咳払いをしながら再び口を開いた。

 

 

零「…とにかく今は、祐輔とあの二人をどうにかするべきだろう。流石の祐輔とはいえ、母親と妹を人質に取られていてはまずいだろうし……なにより、もしもあのライダーが出て来るとなると厄介だ」

 

 

大輝「―――仮面ライダーヴェクタスか。確かにあの青年君でも、アレの相手は少々手こずるだろうね」

 

 

ミナ「…?どういう事ですか?そのヴェクタスって、そんなに強いんですか?」

 

 

二人揃って険しい表情を浮かべる零と大輝に、ミナは二人が厄介だというヴェクタスについて疑問そうに聞き出す。だが、それを聞いた零は驚愕の表情を浮かべながらミナの方に顔を向けた。

 

 

零「お前等……まさか、翔達から何も聞いてないのか?」

 

 

ミナ「え?あ、いえ。そのヴェクタスっていうライダーと零さん達が戦ったことは聞いていたんですけど、詳しく聞く前にヴィヴィオの学校から連絡があって聞きそびれちゃって……あの、もしかして何かあったんですか?」

 

 

零の表情から何か良からぬ事を感じ取ったミナは真剣な口調で聞き返すが、零とフェイトはどう説明するべきかと迷ってしまう。すると、そんな二人を見兼ねた大輝は肩を竦めながら口を開いた。

 

 

大輝「そのヴェクタスっていうライダーに変身してるのは……敵さんに捕われた佐知さんなんだよ」

 

 

『……え?』

 

 

フェイト「ッ!ちょ、大輝?!」

 

 

大輝の口から告げられた予想外の人物の名にミナ達は思考が停止して呆然としてしまい、いち早く気を取り直したユウは血相を変えて口を開いた。

 

 

ユウ「ど、どういうこと?!佐知さんが敵のライダーって?!」

 

 

大輝「言葉通りの意味さ。ヴェクタスは佐知さんの体を取り込んで自分のものにしてしまったんだよ。それに今もまだ佐知さんは奴に捕われたままだし……この手紙を送り付けて来たのも、多分奴だろうね」

 

 

ミナ「そ、そんなっ…?!それじゃあ?!」

 

 

大輝「―――間違いなく、指定された場所に佐知さんの身体を使うヴェクタスが待ち伏せていて、青年君はそいつと戦うことになるだろうね」

 

 

『ッ?!』

 

 

真剣な口調でそう言い放った大輝の言葉に、ミナ達は驚愕のあまり息を拒んでしまう。佐知とヴィヴィオが敵に捕われてるだけでなく、敵は佐知の身体を使って祐輔と戦おうとしている。家族を自身の命より大事にしている祐輔からすれば、自分の母親を相手にするならいざ知らず、母親を本気で倒せる筈がない。もしもそんな戦いの中で、ヴェクタスが佐知の身体を人質にして祐輔を戦えなくさせてしまったら……

 

 

―ガシッ!―

 

 

零「ッ?!」

 

 

ミナ「お、お願いします!佐知さんとヴィヴィオを!祐輔を助けて下さい!!」

 

 

ユウ「ミ、ミナ!」

 

 

響「お、おいミナ!落ち着けって!!」

 

 

最悪の展開を想像してしまったミナは、いきなり零の両腕を掴んで必死に祐輔達を助けてくれと頼み込み、それを見たユウと響は慌ててミナを零から引き離そうとするも、ミナは一向に零から離れようとせず泣きながら顔を俯かせてしまう。

 

 

零「……ミナ?」

 

 

ミナ「お願いしますっ……祐輔にとってっ……二人は……家族はっ……ホントに大事な存在なんですっ!!だからもしかすると、あの二人の為に命を投げ出す事だってあるかもしれない……万が一、本当にそんな事が起きて祐輔に何かあったら……私っ……わたしっ……!!」

 

 

ユウ「……ミナ…」

 

 

大粒の涙を流しながら、それでも必死に祐輔達を助けて欲しいと頼むミナにユウ達も何も言えなくなる。そして零はそんなミナを見た後、自分の首に下げられた祐輔の父親のカメラに目を向けて瞳を閉じると、ミナを離れさせてユウに預けていく。

 

 

ミナ「ッ…零さん…?」

 

 

零「……この店は、俺達にとっても大事な居場所だ。様々な世界からやって来た奴らが此処で色んな奴らと出会い、絆を作り、繋がりを手に入れる………だから―――」

 

 

其処で一度言葉を区切り、零は首に掛けるカメラを手に持ちながら……

 

 

零「――――その居場所がなくなってしまうような事は、俺達が絶対にさせはしない」

 

 

真摯の篭められた瞳で、確かに力強くそう答えたのであった――。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―海鳴市・市街地―

 

 

そしてその頃、ヴィヴィオ(祐輔)の捜索で街へと出ていた閃華と姫華はユウからの連絡を受け、祐輔が単独で向かったという町外れの廃棄工場に向かってビルの屋上から屋上へと駆け抜けていた。

 

 

閃華「まったく……あの子も以外と無茶なことするわね……!」

 

 

姫華「仕方ないわよ。大切な家族を人質に捕られてしまったら、私だってきっとそうするもの……それが煌一だったら塵も残さず消し去ってやるけど……」

 

 

閃華「……貴方のそういうところに関しては、佐知や祐輔に匹敵するわね�」

 

 

若干ドス黒いオーラを噴き出す姫華に閃華も思わず冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。そして十個目のビルの屋上を通りすぎた後で、姫華はふとある疑問を思い浮かべて口を開いた。

 

 

姫華「……ねぇ閃華?あのヴェクタスっていう奴……何だか少し気にならない?」

 

 

閃華「……えぇ、私もよ。何だかアイツ……他の世界のライダー達や、ダークライダーとかいう奴等とは別の感じがするのよね」

 

 

姫華「それだけじゃないわ……覚えてる?零の暴走が治まった時に起こった光を見た時の、アイツの言葉……『またそうやって邪魔をするのか』……って」

 

 

閃華「えぇ……それにアイツが言っていた、『魔女』っていうのも気になるわね……あれは一体、誰の事を指していたのかしら?」

 

 

零に関して意味深な言動を見せたヴェクタスについてそれぞれの疑問を口にする二人だが、ビルを駆け抜けていく最中で、閃華はある可能性に気付いて口を開いた。

 

 

閃華「……一応これは仮説なんだけど……もしかするとあのヴェクタスっていうライダーは、零と何か関係があるんじゃないかしら?」

 

 

姫華「…?零との、関係?」

 

 

閃華「えぇ……例えば何だけど……もしかしたらヴェクタスは、記憶を失う前の零と何か関わりを持っていたんじゃないかって…」

 

 

姫華「ッ!」

 

 

ヴェクタスは、記憶を失う前の零に出会っていたのではないか?そんな予想を口にする閃華に姫華も思わず息を呑み、それを口にした閃華も険しい表情を浮かべていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォオンッ…―

 

 

『ッ?!』

 

 

十八個目のビルの屋上へと降り立った瞬間、突如二人の目の前に歪みの壁が出現し、それを見た二人は驚きつつもその場で立ち止まり警戒して身構えていく。そして歪みが徐々に晴れていくと……

 

 

 

 

 

 

鳴滝「――やぁ。こんにちは、式 閃華に御薙 姫華」

 

 

閃華「ッ?!貴方は…?!」

 

 

姫華「鳴滝っ…!」

 

 

そう、二人の目の前に姿を現したのは、先程臨海公園にも現れて姿を消した筈の鳴滝だったのである。鳴滝の突然の登場に二人も驚愕してしまうが、鳴滝はそれに構わず二人に歩み寄っていく。

 

 

鳴滝「今日は君達に大事な話があってきた。少し時間を頂いてもよろしいかな?」

 

 

閃華「……姫華、貴方は先に行きなさい。此処には私が残るわ」

 

 

姫華「ッ?!でも閃華…!」

 

 

閃華「私なら大丈夫よ……それにコイツと話してる間にも祐輔の身に危機が迫ってるかもしれない。だから今は、祐輔の方を優先しなければいけないわ。それは貴女も分かってるでしょ?」

 

 

姫華「ッ……わかったわ…気をつけてね?」

 

 

鳴滝が現れた事も気になるが、今は祐輔の方を優先にしなければいけない。閃華にそう促された姫華は一瞬迷いを見せるもすぐに決心して頷き、鳴滝の真横を通りすぎて先に目的地へと向かっていた。そしてそれを確認した閃華は、めんどくさそうに深い溜め息を吐きながら鳴滝へと目を向けていく。

 

 

閃華「それで、話って何かしら?……まあどうせディケイド、零がどうとかって話でしょうけど……」

 

 

鳴滝「そうだ、話が早くて助かるよ。あの悪魔を……ディケイドを倒すには君達の力が必要なのだ!だから君達の力で、あの悪魔をこの世界から消し去って欲しい!全ての世界の為にも!」

 

 

ディケイドを倒して欲しいと両手を広げながら高らかに叫ぶ鳴滝。そんな鳴滝を見た閃華は両腕を組みながら肩を竦め、前髪を片手で払いながら再び口を開いていく。

 

 

閃華「そうね……でも悪いけど、私は零を消すつもりなんてこれっぽっちもないわ」

 

 

鳴滝「ッ?!何故だ?!君達も見ただろう?!あの破壊本能に目覚めた悪魔の姿を!!あれこそが奴の本性なのだ!!奴が完全に力を取り戻してしまえば、君達の世界も奴に破壊されてしまうのだぞッ?!」

 

 

鳴滝は閃華の返答に予想外だと言う表情を浮かべながら必死に説得を試みるが、閃華は聞く耳持ちませんといった態度を取りながら鳴滝の隣を通りすぎていく。

 

 

閃華「……もしそうなってしまったら、私や響達が零を止めてみせるわ……絶対にあの子を破壊者になんてさせない」

 

 

鳴滝「ッ!馬鹿な……何故其処までして奴を庇い立てする?!奴は所詮、ただ全てを破壊する事しか出来ない化けも―バギイィッ!!―ヌグゥッ?!」

 

 

零を庇う閃華に鳴滝は苛立ちを浮かべながらなにかを叫ぼうとするが、その前に閃華が鳴滝を裏拳で殴りつけ吹っ飛ばしていった。

 

 

閃華「口には気をつける事ね……あの子が何者であろうと、あの子はれっきとした人間よ。例え貴方の言うように零が破壊者になったとしても、あの子を信じる仲間達が零を救ってくれるわ……絶対にね」

 

 

閃華は怒りに満ちた目付きで鳴滝を見下ろしながらそう告げると、鳴滝から背を向け姫華の後を追うようにビルの屋上から飛び出していった。そして一人残された鳴滝は、閃華に殴られた箇所を抑えながらゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

鳴滝「愚かなっ……君達は何も分かっていないっ……奴は世界を破壊する事しか出来ない殺戮者だ……奴と君達が分かり合う事など、決して出来はしないっ!」

 

 

鳴滝は閃華が去った方向を見つめながら吐き捨てるように告げると、目の前から現れた歪みの壁を通り何処かへと消えていったのだった。

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑬(前編)

 

 

―海鳴市・廃棄工場―

 

 

一方その頃、ヴェクタスが祐輔に来るように指定した廃棄工場では、上の階にある一本の鉄骨に鎖で巻き付かれたヴィヴィオ(祐輔)と彼女の側に立つオーガ達と複数のライオトルーパー、そして下には祐輔の到着を待つB佐知の姿があったのである。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)『ひぐっ……ぐすっ……にぃっ……ミナぁ……』

 

 

オーガ『ッ………』

 

 

ファム『……真也…』

 

 

アナザーアギト『チッ……おいヴェクタスっ!いつになったらターゲットは来るんだよ?!』

 

 

涙を流して怯えるヴィヴィオ(祐輔)にオーガが悲痛な表情を浮かべるのを見たアナザーアギトは、若干苛立ちを込めた口調でB佐知へとそう問い掛ける。それを聞いたB佐知は口元を歪めながら三人の方へと顔を上げていく。

 

 

B佐知『まあそう急かすな。この女とその小娘は、ターゲットにとって大事な物らしいからな…嫌でも来るに決まってる』

 

 

オーガ『……なら、その女だけで十分じゃなかったのか?なんでこんなガキまで巻き込む必要があんだよ……』

 

 

B佐知『奴が確実に一人で来るにはその必要があったからだ。その小娘が人質となっていると分かれば、他のライダー共もおいそれと動けないだろう?なんせ、アイツ等は正義感しか頭にない馬鹿共だからなぁ』

 

 

B佐知はそう言って両腕を組みながら愉快げに笑い声を漏らすが、オーガ達はそんなB佐知を険しい顔付きで睨みつけていた。

 

 

B佐知『……ん?何だその目は?言っておくが、これはお前達の為にしてることなんだぞ?』

 

 

オーガ『ッ……別にお前の力なんか借りなくたって、俺らだけでどうにか出来たさ!お前が横からしゃしゃり出て来なければっ…!』

 

 

B佐知『だが、実際お前等には他に手立てはなかったのだろう?それとも、あのまま俺の手を借りずに任務が失敗しても構わなかったとでも言うのか?そうなれば、お前達の願いは叶えられないというのに…』

 

 

オーガ『…ッ!』

 

 

B佐知のその言葉にオーガは口を閉ざして何も言わなくなってしまい、B佐知はそんなオーガを見た後何かに気付いたように入り口の方へと振り返り、口の端を歪めながらオーガ達の方へと顔を向ける。

 

 

B佐知『…とにかくお前等は、黙ってその娘のお守りでもしてろ。お前等が倒せなかった無効化の神は、この俺が潰してやる…』

 

 

『クッ…!』

 

 

自信ありげに笑うB佐知を見てオーガ達は更に表情を険しくさせ、B佐知はそれに構わず工場の入り口の方へと向き合っていく。そして入り口の扉が独りでに開いていき、其処には……

 

 

祐輔「…………」

 

 

険しい顔付きをした祐輔が静かに立ち構え、ゆっくりと工場の中へと入って来ていたのであった。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「ッ…!にぃ!!」

 

 

祐輔「…ッ?!ヴィヴィオッ!!」

 

 

祐輔が工場の中へと歩いて来る姿を見付けたヴィヴィオ(祐輔)は泣きながら祐輔を呼び、それを聞いた祐輔は鎖で縛られるヴィヴィオ(祐輔)の姿を見てすぐさま走り出そうとするが、そうはさせまいと祐輔の目の前にB佐知が立ち塞がってしまう。

 

 

祐輔「ッ?!か、母さん?!」

 

 

B佐知『オイオイ……折角パーティーに招いてやった本人を無視するなんて、少し失礼じゃないかぁ?』

 

 

祐輔「ッ!……違う……母さんじゃない……君は一体……?」

 

 

不気味に笑うB佐知を見て自分が知る佐知ではないと感じ取った祐輔は、敵意を込めた目でB佐知を睨みつけながら身構えていき、それを見たB佐知は口元を歪めながら口を開く。

 

 

B佐知『俺の名はヴェクタス……まぁ、あそこにいる奴らの上司みたいな物だ』

 

 

祐輔「ヴェクタス…?まさか……翔兄達が言っていたライダーって……」

 

 

B佐知『ほぉ……奴らから事前に聞いていたか?まあその様子だと、俺がお前の母親の身体を使ってるってことは聞いてなかったようだな……』

 

 

祐輔「ッ?!」

 

 

B佐知がそう言うと、祐輔は目を見開いて驚愕の表情を浮かべてしまう。手紙の内容から佐知が捕われてしまった事は知ったが、まさか佐知の身体が敵に利用されているとは予想もしてなかったのだから当然の反応だろう。そしてそんな祐輔の反応を見たB佐知は再び薄気味悪い笑みを浮かべて語り出す。

 

 

B佐知『まあそう心配するなよ。お前の母親は、これからも俺が大事にしながら有効に使わせてもらうからさ……まぁ、飽きたら捨てるかもしれんがなぁ?アッハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

祐輔「…………」

 

 

顔を片手で覆い隠しながら愉快げに笑うB佐知を見て祐輔は更に表情を険しくさせ、全身から先程の非にもならない殺気を撒き散らしていく。それを見た周りのライオトルーパーの軍勢も恐怖のあまり思わず後退りをしていく。

 

 

B佐知『ほう……中々良い殺気じゃないか?クククッ……成る程。この女の知能から知ったが、阿南の戦闘本能とやらも中々興味深い。流石のお前でもその血には逆らえんようだなぁ?』

 

 

祐輔「…………煩い…」

 

 

『――相棒、俺に行かせろよ……俺がコイツ等全員、皆殺しにしてやるッ!!』

 

 

怒りで完全に正気を失った祐輔の心の中に響いた怒気の篭った声……祐輔のもう一つの人格である"祐闇"はそう言って表に出ていこうとする。だが、それに気付いたB佐知は素早く左手を上げ、それに応えるようにヴィヴィオ(祐輔)の両脇に立つライオトルーパー達はそれぞれの武器をヴィヴィオ(祐輔)の首に突き付けた。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「ひっ……!」

 

 

祐輔「…ッ?!」

 

 

B佐知『おっと……その中の奴は出すんじゃないぞ?ソイツに出て来られたら色々と面倒だからな……もしも出したら、その瞬間あのガキの首を跳ねてやるから覚悟しとけ?』

 

 

祐闇『ッ!野郎ッ…!』

 

 

祐闇を表に出した瞬間ヴィヴィオ(祐闇)を殺す。そう告げられた祐闇は迂闊に表に出る事が出来なくなって舌打ちしてしまい、B佐知は祐闇が出て来る気配が消えたことに気付くとほくそ笑み、腰にベルトを出現させていく。

 

 

B佐知『安心しろ、別にあれを使ってお前を潰そうとは思っていないさ……もし俺との一騎打ちに勝てば、この女とあのガキを解放してやってもいい……ゲームはフェアじゃないと面白くないからなぁ。俺、優しいだろぉ?』

 

 

祐輔「…………」

 

 

薄気味悪い笑みを浮かべて言い放ったB佐知の言葉に祐輔は何も答えず、無言のまま腕に巻いた腕時計に手を掛け、そして……

 

 

祐輔「……変身…」

 

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

『TIME QUICK!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

祐輔はキャンセラーに変身したと同時に物凄い速さで動き出し、オーガ達の視界から一瞬で消えてしまったのだった。そして、タイムクイックを発動させたキャンセラーはライオトルーパー達の間をもの凄い速さで駆け抜け、一気に上の階にいるヴィヴィオ(祐輔)の下まで向かおうとした。だが……

 

 

 

 

『――やはりな。青二才の考えることは分かりやすい…』

 

 

キャンセラー『…ッ?!』

 

 

嘲笑うような声と共に頭上からしっかりと感じ取った寒気。キャンセラーは直感でそれ感じ取り咄嗟にその場から離れるように後ろへと跳んだ。その瞬間……

 

 

―シャバババババババババババババババババババァッ!!!!ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

キャンセラーが立っていた場所に巨大な四つの閃光が降り注ぎ、轟音を響かせながら大爆発を巻き起こしていったのである。キャンセラーは爆風に吹っ飛ばされないように耐えながら右手に持つ刀を力任せに振るい、周りを覆う爆煙を払って視界をクリアーにさせる。その時……

 

 

―ブォンッ……ザバアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ヴェクタス『ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

キャンセラー『ッ?!』

 

 

爆煙が晴れた瞬間にキャンセラーの足元の影から突如ヴェクタスが飛び出し、剣を突き出してキャンセラーへと不意打ちを仕掛けた。だが、いち早くそれに気付いたキャンセラーは直ぐに後ろへとジャンプしてそれを回避し、勢いよく地を蹴ってヴェクタスへと斬り掛かっていった。

 

 

―ガギイィッ!グガァンッ!ガァンッ!ギギィッ…!ガギャアァンッ!!―

 

 

ヴェクタス『ハッ!どうしたッ?!もっと見せてみろ!お前の血、阿南の戦闘本能とやらをなぁ!?』

 

 

キャンセラー『ッ……煩い!!』

 

 

―ギギギギッ……シュババババババババババババババババババババッ!!!!!ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!―

 

 

ヴェクタス『!!グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!?』

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

キャンセラーはカッ!!と両目を見開くと同時に自身の刀とせめぎ合わせていたヴェクタスの剣を力任せに押し切り、それと共に信じられない速さの斬撃でヴェクタスの身体を何度も容赦無く斬り刻み、最後には隅にある廃棄物の山へと勢い良く吹っ飛ばしていったのだった。

 

 

ヴェクタス『ッ……成る程……まさか……これほどとはっ……』

 

 

キャンセラー『ハアァァァァァァァァァァアーーーーーーーッ!!』

 

 

廃棄物の山に埋もれたヴェクタスは全身から血を流しながら苦痛に満ちた様子でそう呟き、そんなヴェクタスから好機を感じたキャンセラーは刀を両手で構えヴェクタスへと突っ込み、トドメを刺さんと言わんばかりに上段から勢いよく刀を振り下ろしていった。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……カシュッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B佐知『―――祐輔、助けてっ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンセラー『ッ?!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェクタスは自分の顔ギリギリの所でキャンセラーの刃が振り下ろされた瞬間、突然仮面を開いて苦しげに涙を流すB佐知の顔をキャンセラーへと見せたのである。それを見たキャンセラーは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガギャアァンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンセラー『…ッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B佐知『……祐輔……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンセラーが振り下ろした刀はB佐知には当たらず、B佐知の顔の横ギリギリの壁へと突き刺さったのであった。キャンセラーは刀を握る手を震わせながらB佐知を見下ろし、B佐知は優しげな笑みを浮かべながらそんなキャンセラーへと手を伸ばし……

 

 

 

 

 

 

B佐知『……馬鹿め…』

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥ……ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

 

 

 

 

キャンセラー『ッ!!ウアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「ッ?!にぃッ!!!」

 

 

B佐知は右手の手の平をキャンセラーの腹へと翳し、左手から巨大な黒い閃光を放ってキャンセラーを吹っ飛ばしてしまい、そのショックでキャンセラーは変身が解除され祐輔へと戻ってしまったのであった。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「にぃ!にぃ!!しっかりしてにぃ!!」

 

 

祐輔「ッ……あ……れ…?僕っ……何をっ……」

 

 

変身が解けてしまった祐輔はヴィヴィオ(祐輔)の声を聞いてゆっくりと顔をあげていくが、怒りで我を忘れてしまっていたために何故自分が地面に転がっているのか分からずにいた。そしてそんな祐輔を見たB佐知は仮面を展開し、再びヴェクタスへと戻ると身体の傷を再生させながら祐輔へと歩み寄っていく。

 

 

ヴェクタス『フンッ。どうやら阿南の血を引いてるとは言え、お前はまだ家族への情を捨て切れてないようだな……殺しとは掛け離れた世界で平凡に育ったとはいえ、暴走してもこんな物ではこの女より優れてるとは言えんな……』

 

 

祐輔「ッ!暴……走……?―ドゴオォッ!―アグッ?!ウアッ…!」

 

 

ヴィヴィオ「にぃっ?!」

 

 

ヴェクタスが口にした暴走という言葉に反応し呆然と顔を上げる祐輔だが、ヴェクタスは高らかに笑いながら祐輔へと近付き、地面に倒れる祐輔の背中を踏み付けてしまう。

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑬(後編)

 

 

ヴェクタス『知ってるか?お前が引いてる阿南の血は俺が知る中でも殺しに長けた上質の血筋だ。その血を引いていながら家族だの親だの……そんな物に惑わされる甘ちゃんが裏世界で生きていける訳がないよなぁ?所詮お前は価値のある血を持て余し、平凡な世界でのうのうと生きてる…そこら辺の劣悪種と同じってことだッ!!』

 

 

―ギリギリギリィッ…!―

 

 

祐輔「グッ!!ウアァァァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「やっ、やめて!!もうやめてよぉッ!!」

 

 

オーガ『ッ……』

 

 

ファム『真也……』

 

 

オーガ『……分かってる……この任務を失敗したら、終夜の信頼を失う事になる……そうすれば俺の望みは叶わなくなる……けど……だけどっ……』

 

 

アナザーアギト『………』

 

 

任務を果たしたい、だけどその為にこんな幼い子供を苦しませていいのか。ヴェクタスが愉快げに祐輔を踏み躙る光景を目にして泣き叫ぶヴィヴィオ(祐輔)を見て、オーガは割り切れない思いを抱えて思い詰めた表情を浮かべ、ファムとアナザーアギトもそんなオーガを切なげな表情で見つめていた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――劣悪種はお前の方だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ッ?!』

 

 

不意に何処からかその場にいた全員の耳に声が届き、祐輔やヴェクタス達はそれが聞こえてきた方へと振り向いていく。其処には光が差し込む工場の入り口の奥から祐輔を追ってきた零とフェイト、響と皇牙が歩いてくる姿があったのだった。

 

 

ヴェクタス『貴様等…』

 

 

祐輔「ッ……零さん……みんな……なんでっ……」

 

 

皇牙「悪いな、祐輔さん」

 

 

響「やっぱり、ほっとくなんて出来なかったからさ」

 

 

一同の登場に祐輔が驚く中、皇牙や響は苦笑しながら頭を掻きヴェクタスは一同を睨みつけながら口を開いた。

 

 

ヴェクタス『どういうつもりだ?手紙にはコイツ一人で来いと書いてあったはずだろう?』

 

 

零「…そいつ一人をおびき寄せるのに人質まで使って、その上これだけの大人数を用意しておいてよく言う」

 

 

ヴェクタス『フン……俺はただ、客人を迎えるのにそれ相応の対応をしたまでさ。なんせ相手は超ビッグな神様なんだからな?』

 

 

ヴェクタスは鋭い目で睨みつけてくる零の視線を軽く受け流しながら鼻で笑い、足で踏み付ける祐輔を見下ろしながら不気味な微笑みを浮かべていく。

 

 

ヴェクタス『だがまぁ……今更お前達が来たぐらいでどうこうなる訳じゃない。噂で最強と謳われた無効化の神は、肉親の情とやらに惑わされてこのザマだ。情けない姿だろ?阿南の戦闘本能を引き継いでおきながら母親も殺せず、こうやってみっともなく土を舐めてるって訳なんだからなぁッ!!』

 

 

ヴェクタスは見下すような目で祐輔を見下ろしながら可笑しそうに笑い声を上げていく。それを聞いていた祐輔は唇を噛み締めながら右手を握り締め、フェイト達は険しげに眉を寄せていき、そして……

 

 

零「……本当に馬鹿な奴だ。そこら辺の猿程度の知能しかないんじゃないか、お前?」

 

 

ヴェクタス『……あぁ?』

 

 

嘲笑うように笑みを漏らした零の言葉にヴェクタスは笑いを止めて殺気を込めた目で零を睨みつけるが、零は気にした様子を見せずに構わず続ける。

 

 

零「分からないか?何故そいつがお前の誘いに乗ったと思う?きっとそいつも、自分の家族を使って自分を罠に嵌めてくるかもしれない……それを分かった上で此処へきた筈だ。何故か?それは家族を………大事な妹と、たった一人の母親を守る為だ!」

 

 

ヴェクタス『ハッ、だから馬鹿だと言ってるんじゃないか?コイツは阿南の血を引いていながら肉親という理由だけでそれすらも殺せないでいる。親という存在がそれを妨げ、息子を危険な目に合わせているんだぞ?そんなもの、守る意味が何処に……』

 

 

零「守る意味なら十分ある……佐知さんは昔大切な人を亡くし、それでも悲しみに堪えて女手一つで祐輔を此処まで育ててきた………血に濡れた手で、それでも自身が歩んできた暗殺者の世界とは掛け離れた世界で幸せになって欲しいと願いながら……そんな親の愛情があったから、祐輔は祐輔として今を生きてる。そして祐輔はそんな佐知さんやミナ達………家族を大事に思い、今もそれを守ろうとしている!祐輔が戦闘本能に飲まれた中で佐知さんを手に掛けれなかったのも、佐知さんを助けたいという血に負けない思いと優しさがあったからだ!」

 

 

祐輔「ッ…!」

 

 

オーガ『……家族を……守りたい……』

 

 

零の言葉を聞いた祐輔はその表情に力強さを取り戻していき、オーガも何処からか水色のペンダントを取り出し、その中にある写真に写った少女をジッと見つめていた。

 

 

零「例えどんな血を引いていようと、コイツは自分の血に負けて暴走し、家族を手に掛けるようなことはしない!そいつは俺とは違い、それに負けない心の強さと優しさ……そして決して断ち切れない、家族との絆を持っているから……」

 

 

ヴェクタス『ッ!ほざけ!そんなくだらないものが…―シュババババババババババッ!!―……ッ?!』

 

 

ヴェクタスが苛立ちを込めながら叫ぼうとした瞬間、突如ヴェクタスの真横から無数の魔力弾が降り注ぎ、ヴェクタスは思わずバックステップしてかわしそれが放れてきた方へと振り返ると、其処には別の入り口の方からヴェクタスに向けて右手を構える一人の少年の姿があった。

 

 

「……なんとか、間に合ったみたいだな?」

 

 

零「ッ!お前…」

 

 

祐輔「れ、煉さん?!」

 

 

零達の目の前に現れた少年……それは以前、零が優星の世界で共に戦った時に知り合った"赤坂 煉"だったのである。煉の登場に一同が驚く中、煉は構えを解くと祐輔へと歩み寄り祐輔を抱き起こしていく。

 

 

煉「話しは此処へ来る前にユウ達から聞いたよ。なんだかまた面倒事に巻き込まれてるみたいだし、頼りないかもだけど手を貸しにきた」

 

 

零「……いや、来てくれて助かった。それで来て早々悪いが、早速力を貸してもらってもいいか?」

 

 

煉「あぁ、任せてくれ」

 

 

煉はそう言ってポケットからカードケースを取り出し微笑を浮かべ、零も同じ様に微笑を浮かべると祐輔へと近付き祐輔の父親の形見であるカメラを差し出した。

 

 

祐輔「!これ……」

 

 

零「今度は俺達も……お前の父親も付いてる……まだやれるだろう?」

 

 

祐輔「……うん」

 

 

祐輔は力強い表情で頷くと零の手からカメラを受け取り、煉や響達も二人の隣に並びヴェクタスと対峙していく。

 

 

ヴェクタス『フッ……一人増えたからと言ってなんになるんだ?そいつも纏めて…「誰が一人だけって言ったのかな?」…ッ!』

 

 

ヴェクタスの言葉を遮る様に突然青年の言葉が工事に響き、ヴェクタスはそれが聞こえてきた方へと振り向いた。其処には煉がやって入り口とは反対側の入り口の前に立つ人物達……大輝とルミナ、翔と幸村と雄介達の姿があったのだった。

 

 

祐輔「ッ!みんな!」

 

 

大輝「青年君を頂くのは俺だからね。大事なお宝を奪われる前に君達を倒させてもらうよ♪」

 

 

ルミナ「今回は私も殺っちゃいますよ~♪」

 

 

翔「やられっぱなしなんて性に合わないからな」

 

 

雷「あぁ、今度は勝たせてもらう!」

 

 

煌一「義母さんが世話になった礼……たっぷり受けてもらうぞ!」

 

 

幸村「前回は逃したが……次は逃がさん!」

 

 

雄介「我が友に土を舐めさせたその罪、万死に値する!覚悟しろ道化!」

 

 

ヴェクタス『チッ…ゴミ共がぞろぞろと!分かってるんだろうな?!こちらの条件を破ったからにはまずあのガキを『グアァッ?!』…?!』

 

 

次々と現れるメンバー達に苛立ったヴェクタスはヴィヴィオ(祐輔)を消そうとライオトルーパー達に命令しようとするが、ヴィヴィオ(祐輔)を見張っていた筈のライオトルーパー達が突然上の階から落下してきたのである。そのライオトルーパー達が落ちてきた上の階では……

 

 

 

 

―ガシャンッ!ジャラァッ……―

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「…え?」

 

 

オーガ『…………』

 

 

何故かオーガがヴィヴィオ(祐輔)を束縛していた鎖を斬り裂き、呆然とした表情でオーガ達を見上げるヴィヴィオ(祐輔)を解放していたのだった。

 

 

ヴェクタス『ッ?!貴様……一体何の真似だ!!』

 

 

オーガ『……よくよく考えてみりゃあさ、俺等の任務は無効化の神に負けた時点で失敗してんだよ。なら、これ以上続けたって意味はねぇだろ?』

 

 

ヴェクタス『なっ……ふざけるな!分かってるのか?!終夜に任務が失敗したことが知れれば、お前の望みは叶わなくなるかもしれんのだぞ!!』

 

 

オーガ『それについては何とか許してもらうさ……罰を受けるなりなんなりしてな。俺は俺のやり方でやる……これ以上、てめぇの胸クソわりぃ作戦に付き合う気はねぇよ』

 

 

アナザーアギト『そーいう事だ。俺らは先に抜けさせてもらうぜ~♪』

 

 

アナザーアギトがそう言うとファムも同意するように頷き、ヴィヴィオ(祐輔)は未だ戸惑った様子で三人を見上げていく。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「あっ、あの……」

 

 

オーガ『…別に逃げるとこを後ろから斬り掛かったりしねぇよ。気が変わる前にさっさと消えろ……』

 

 

ファム『……ごめんね……怖かったよね?ほら、早くお兄ちゃん達の所に行って?』

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「あ……は、はい!あの……たすけてくれて、ありがとうございます」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)は戸惑いがちに頭を軽く下げてお礼を言うと大輝達の下へ走り寄っていき、三人はそれを確認すると背後に出現した歪みの壁を潜り何処かへと消えていったのだった。

 

 

ヴェクタス『クッ…!役立たずどもが!!』

 

 

零「…どうやら、あっちはお前より利口らしいな」

 

 

雷「残ったのはお前だけだ……どうする?」

 

 

ヴェクタス『……フンッ、あんなクズ共がいなくなろうが問題などない。お前達のようなゴミ共には、コイツ等で十分だ!』

 

 

機嫌を悪くしたヴェクタスが右腕を掲げると共に周りの物影から無数の数のライオトルーパーが現れ、瞬く間に零達を囲んでいった。それを見た零は上着のポケットからディケイドライバーを取り出して装着し、それに応えるように祐輔達もそれぞれのツールを取り出し装着していく。

 

 

零「悪いが、倒されるのはお前の方だ。俺達はもう、お前に負けはしない」

 

 

ヴェクタス『ッ!減らず口ばかりを……何なんだお前は?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!変身ッ!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

皇牙「アルト!セットアップ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『GATE UP!CANCELER!』

 

『RIDER SOUL BEAT!』

 

『Henshin!』

 

『TURN UP!』

 

AT『Set UP!』

 

 

零はそう叫ぶと共にカードをバックルに装填してディケイドへと変身し、祐輔とフェイトと響と煉もそれに続くように変身動作を行いキャンセラーとビートとゼファー、煉は紫の球が体中に身に付けた龍騎系統のライダーである『インフェルノ』に変身し、皇牙もBJを身に纏い戦闘態勢に入っていく。そして……

 

 

大輝「俺達もいかせてもらうよ?変身ッ!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

『CHANGE UP!ASTRAEA!』

 

『GATE UP!BARON!』

 

『GATE UP!EDEN!』

 

『GATE UP!FEATHER!』

 

『CHANGE RAIGA!』

 

 

大輝達もそれぞれ変身動作を行い大輝とルミナはディエンドとアストレア、幸村となのは(幸村)はエデンとフェザーに、雄介となのは(雄介)とノーヴェ(雄介)はギルガメッシュとアーサーとクーフーリン、翔と雷はバロンと雷牙、煌一は装甲を纏った銀色の身体を持つライダー『インフィニティ』へと変身していった。そしてディエンド達はディケイド達の横に立ち並び、それぞれの武器を構えていく。

 

 

ヴェクタス『…どうやら、直接痛め付けないと分からんようだな……いいだろう、貴様等全員地獄へと叩き落としてやる!』

 

 

クーフーリン『その言葉、そのままそっくり返してやるよ!』

 

 

フェザー『ヴィヴィオ、危ないから其処に隠れててね!』

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)『う、うん!』

 

 

バロン『零!祐輔!雑魚共は俺達に任せろ!お前達は佐知さんを!』

 

 

キャンセラー『分かった!零さん!!』

 

 

ディケイド『あぁ…いくぞみんな!!』

 

 

『応ッ!!』

 

 

ライダー達はそれぞれ武器を構えて迫り来るライオトルーパー達へと突っ込んでいき、ディケイドとキャンセラーもヴェクタスへと突っ込んでいくのであった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑭

 

 

インフィニティ『フッ!!ハァッ!!』

 

 

雷牙『デリャアァッ!!』

 

 

『グガアァッ?!』

 

 

ギルガメッシュ『消え去れ雑種共ッ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオンッ!!!!―

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォォオッ?!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディケイドとキャンセラーに佐知救出を任せたライダー達は、それぞれ散開してライオトルーパーの軍団と戦闘を開始していた。今も尚ライオトルーパーの軍団は数を増やしてライダー達へと襲い掛かって来るが、ライダー達はそんなものは関係ないと言わんばかりの無双っぷりを発揮し、圧倒的な数を見せるライオトルーパー達を逆に圧していたのだった。

 

 

クーフーリン『セアッ!!……チッ、全然減りもしないなコイツ等っ!!』

 

 

バロン『あぁ、数だけは大したもんだ……フェイト、ノーヴェ、お前等高速戦って出来るか?』

 

 

ビートR『え?……あぁ、成る程。大体分かった♪』

 

 

クーフーリン『へっ、勿論得意中の得意だ!』

 

 

バロンの言葉の意味に気付いたビートとクーフーリンは微笑を浮かべながら頷き返し、ライオトルーパー達は構わずそんな三人へと襲い掛かっていくが、三人は冷静にそれを見据えながら身構え……

 

 

バロン『よし、いくぞッ!アクセルアップ!!』

 

 

『AXEL UP!』

 

 

ビートR『クロックアップッ!!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

クーフーリン『よっしゃ!いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 

―シュンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

三人は信じられない速さで向かって来るライオトルーパーの軍団へと突っ込んでいき、三人が駆け抜けた後には次々とライオトルーパー達が爆発を起こし跡形も残さず消え去っていったのだった。その近くで戦っていたインフェルノはバックル部分のカードケースから一枚のカードを抜き取り、右手の手甲型バイザー……ヘルバイザーへとベントインした。

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にインフェルノの近くに落ちていた割れた鏡から巨大なドラゴン……インフェルノの契約モンスターであるワンハンドレッド・アイ・ドラゴンが現れ、インフェルノの背後へと降り立った。

 

 

インフェルノ『さて、食い放題だワンハンドレッド・アイ・ドラゴン。雑魚どもを食い尽くしちまいな!』

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

インフェルノの号令にワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは歓喜の咆哮を上げながらライオトルーパー達へと飛び立ち、襲い掛かって来るライオトルーパー達を片っ端から喰らっていったのであった。

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『ギ、ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―グシャアァッ!バキィッ!ボキャアァッ!グチィッグチャアァッ!!―

 

 

ゼファー『ウオォォォ……かなりエグイぞあれ�』

 

 

皇牙『煉も結構容赦無いな�』

 

 

アストレア『ド、ドラゴンさ~ん!!そんなの食べたらお腹壊しちゃいますよぉ~?!�』

 

 

エデン『………いや、気にするところは其処か?』

 

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンが容赦無くライオトルーパー達を喰らってく光景にライダー達は思わず引いてしまうが、アストレアはそれよりもライオトルーパーを喰らうドラゴンの方を気に掛けていた。だがその時……

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

 

 

『ッ!?』

 

 

不意にエデン達の背後から少女の悲鳴が響き、それを耳にしたエデン達は慌てて背後へと振り返った。すると其処には、物陰に隠れながら怯えた表情を浮かべるヴィヴィオ(祐輔)と、そのヴィヴィオ(祐輔)へと近づいていく数体のライオトルーパー達の姿があったのである。

 

 

アーサー『ヴィヴィオ?!』

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「い、いや…来ないでぇ…!」

 

 

エデン『チィッ!!』

 

 

皇牙『や、やめろ!!その子には手を出すな!!』

 

 

今にもヴィヴィオ(祐輔)へと襲い掛かろうとするライオトルーパー達を見て一同は一瞬背筋が凍り、慌ててライオトルーパー達を止めようと動き出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……バシュバシュバシュバシュバシュバシュッ!!!―

 

 

『ッ?!ヌアァァァァァァァァァァァァァァァアァッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「……?あ、あれ?」

 

 

フェザー『?い、今の攻撃は……?』

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)に襲い掛かろうとしたライオトルーパー達に突如無数の銃弾が降り注ぎ、ライオトルーパー達は断末魔と共に爆発し跡形も残さず消えていったのだった。突然降り注いだ銃弾に一同は驚愕の表情を浮かべてしまうが、その時ヴィヴィオ(祐輔)の背後にある入り口の奥から一人の女性と少年が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「――ギリギリだったけど、何とか間に合ったみたいね」

 

 

エデン『ッ!お前等…!』

 

 

ゼファー『ア、アテナ?!それに稟も?!』

 

 

一同の目の前に現れたのは見覚えのある女性と少年……アテナと稟だったのだ。稟は怯えて涙目になるヴィヴィオ(祐輔)の頭を優しく撫で、アテナはいつもの笑みを浮かべながら一同の下へと歩み寄っていく。

 

 

皇牙『お前等っ……なんでこんなところに?!』

 

 

アテナ「断罪の神から話を聞いたのよ。今回は貴方達に任せておこうと思ったんだけど、なんだか居ても立ってもいられなくてね……やっぱり来ちゃった♪」

 

 

ゼファー『き、来ちゃったって……アンタなぁ…�』

 

 

軽いノリで微笑むアテナにゼファーは思わず頭を抱えてしまうが、アテナは構わず何処からか黒いリボルバー式の二丁拳銃……オリュンポスを取り出しながら告げる。

 

 

アテナ「取りあえず、ヴィヴィオはこっちで保護しておくわ。ボディーガードは完璧だから安心よ♪」

 

 

アーサー『えっ?ボディー……ガード?』

 

 

アテナの告げたボディーガードという言葉に女性陣は疑問げに首を傾げてしまうが、男性陣は納得したような表情を浮かべてアテナの後ろにいる稟とヴィヴィオ(祐輔)の方へと目を向けていく。すると……

 

 

稟「もう大丈夫だからな……具現【インバディ】!αモード!!」

 

 

稟が自身の能力である具現【インバディ】を発動させ、ヴィヴィオ(祐輔)の周りに複数の巨大機動兵器……ガンダムを具現していったのだった。

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「わぁ~!すごぉ~い♪」

 

 

皇牙『…………こ、こんなのってアリか?�』

 

 

ゼファー『等身大の……ストフリにゴッドにマスターにアルティメットにファーストにダブルオーライザーにダブルエックス……ガンダムの城だな、まるで�』

 

 

稟「菫の友人を傷つける訳にはいかないからな。これぐらいがちょうどいいさ」

 

 

アテナ「これなら敵も易々とヴィヴィオに手を出せないでしょ?ていうか、手を出した瞬間瞬殺よ♪」

 

 

ディエンド『なるほど……具現化の少年だから成せる技、という事か』

 

 

確かにこれだけの精鋭機が揃えば安心して戦いに集中出来る。そう考えたディエンドは納得した様に頷き、ガンダム達の具現を完了した稟は上空から現れたエクトを掴み、左手に近づけていく。

 

 

アテナ「さて、じゃあ稟?さっきも言った通り、奥で零と祐輔が戦ってる奴には手を出したら駄目よ?それ以外は好きにしていいから♪」

 

 

稟「あぁ、分かってる。菫の大事な友達に手を出した罪、騎士王の名において断罪してやる!いくぞエクト!変身ッ!!」

 

 

エクト「はいマスター!かぷっ!」

 

 

エクトは稟の呼び掛けに応えながら稟の左手に噛み付き、それと同時に稟の腰に何重もの鎖が巻き付いてベルトとなり、稟はベルトの止まり木にエクトをセットしてエクスへと変身した。そしてエクスとアテナはそれぞれの武器を構えながらライオトルーパーの大群へと突っ込んでいき、ライダー達もそれに続くようにライオトルーパー達へと突進していった。

 

 

ディケイド『ハッ!セアッ!!』

 

 

キャンセラー『ハアァッ!テアァッ!!』

 

 

ヴェクタス『ヌンッ!ヌアァッ!!』

 

 

その一方、工場の奥の方ではバロン達にライオトルーパーの軍団を任せヴェクタスと戦闘を開始したディケイドとキャンセラーが激戦を繰り広げていた。しかし佐知の戦闘力をそのまま引き出しているというせいか、ヴェクタスの無駄の無い動きにより二人の攻撃は当たらずただ反撃されるばかりであった。

 

 

ヴェクタス『ヌンッ!ハッ!!』

 

 

―ガギィンッ!グオォンッ!ガギャアァンッ!!―

 

 

キャンセラー『グッ?!クッ…ケタが違いすぎる…!』

 

 

ディケイド『チッ!流石は佐知さんだな……やっぱり一筋縄ではいかない…!』

 

 

ヴェクタス『フッ……漸く思い出したか?どんなに抗おうが、俺には決して敵わないとなぁ!!』

 

 

『AXEL UP!』

 

 

ヴェクタスは高らかに笑いながらバロンの能力であるアクセルアップを発動させ、信じられないスピードでディケイドとキャンセラーへと突っ込み斬り掛かっていき、二人はそのまま勢いよく吹っ飛ばされ壁に叩き付けられてしまう。

 

 

ディケイド『グゥ!!クソッ…!』

 

 

ヴェクタス『ククッ…どうした?もう終わりかぁ?』

 

 

キャンセラー『ハァ…ハァ…ハァ…!』

 

 

挑発的な態度で二人を見つめてくるヴェクタスを見てディケイドはライドブッカーSモードを杖代わりにして立ち上がろうとし、キャンセラーは父親の形見であるカメラを取り出し胸に当てていく。

 

 

キャンセラー『ッ……父さん……母さん……ミナ……皆……力を貸してっ…!』

 

 

ヴェクタスに囚われた佐知、今も自分達の帰りを待つミナ達、そして今亡き和彦に向け万感の思いを込めて強く願うキャンセラー。その時……

 

 

 

 

―…………………ブゥンッ……シュパアァァァァァァァァァアッ―

 

 

キャンセラー『……え?』

 

 

『…ッ?!』

 

 

カメラから一瞬淡い輝きが放たれ、その光に呼応するかのようにキャンセラーの持つ刀が瞬く輝く青白い光を纏っていったのである。突然のソレにディケイドやヴェクタスも驚きを見せるが、キャンセラーはその光から懐かしいような不思議な感覚を感じ取っていた。

 

 

キャンセラー『これは…………父……さん……?』

 

 

ディケイド『ッ!何…?』

 

 

その光から感じ取った懐かしい感覚にキャンセラーは思わずそう呟き、その呟きに応えるように刀を纏う光が一瞬強く輝いた。それを見たキャンセラーは一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに力強い表情へと変わって立ち上がり、光を纏った刀を構えながらヴェクタスへと突進していった。

 

 

ディケイド『祐輔?!』

 

 

キャンセラー『ウォオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーッッ!!!!』

 

 

ヴェクタス『馬鹿が。何度やっても同じだぁッ!!』

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

刀を構えて正面から向かってくるキャンセラーにヴェクタスは嘲笑いを浮かべて剣を勢いよく振りかざし、キャンセラーの刀と激しく激突していった。だがヴェクタスの剣とせめぎ合う内にキャンセラーはだんだんと押され始め、徐々に足が後退していたのだった。

 

 

ディケイド『祐輔!!』

 

 

キャンセラー『クッグゥッ…!!』

 

 

ヴェクタス『クククッ……終わりだ無効化の神。母親の手で、あの世へと逝くがいい!!』

 

 

ヴェクタスはそう言って力負けして徐々に押されていくキャンセラーにトドメを刺すべく、自身の剣に力を込めてキャンセラーの刀を押し切ろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

キャンセラー『ッ……まだだっ……僕がっ……僕達が母さんをっ……助け出すんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!』

 

 

―ギギッ……ギギギギィッ………ピシィッ!!―

 

 

ヴェクタス『ッ?!なっ?!』

 

 

覇気を感じさせる叫びと共にキャンセラーが全身に力を込めた瞬間、キャンセラーの刀とせめぎ合っていたヴェクタスの剣に皹が入り始めたのだ。それを見たヴェクタスは動揺して剣を握る手を緩めてしまい、キャンセラーはその隙を逃さずヴェクタスの剣を弾き、そして……

 

 

キャンセラー『デェアァァァァァァァァァアーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

ヴェクタス『クッ?!―ズザアァァァァァァッ!!―グウゥゥゥゥゥゥッ!!?』

 

 

キャンセラーは下から振り上げるように刀を振るい、ヴェクタスは咄嗟に重心を後ろへと傾けてそれの直撃を免れるが、刀の切っ先が右肩を掠っていった。キャンセラーの斬撃を回避したヴェクタスは右肩を抑えながら距離を離すように後方へと跳び、刀を振り上げたまま息を乱すキャンセラーを睨みつけていく。

 

 

ヴェクタス『クッ!やってくれるじゃないか……だが無駄な努力だったな?この程度の傷、すぐに再生して貴様を血祭りに―――!!』

 

 

ヴェクタスはキャンセラーを鋭く睨みつけながら右肩から手を離し、肩に負った傷を再生して元の状態へと修復しようとする。だが、何故か肩に負った傷は一向に修復される様子を見せず、寧ろその傷を中心に装甲が徐々に劣化し始めていたのだった。

 

 

ヴェクタス『ッ?!な、何故だ?何故修復出来ない?!この程度の傷がなんで…………まさか…………』

 

 

修復されない右肩の傷を見てヴェクタスは驚愕してしまうが、その時何かに気が付いたようにキャンセラーの刀を纏う青白い光に目を向けていく。

 

 

ヴェクタス『(あの光……まさか俺の再生能力を無効化してる?!そんな馬鹿な!……いやだが……もしあれが本当に俺の能力を無効化する力だとすれば……俺の吸収能力………いや、下手したらこの女との融合までもが――?!)クッ!!』

 

 

あの光の危険性に気付いたヴェクタスは内心焦りを浮かべながら忌ま忌ましげに舌打ちし、一度キャンセラーから距離を離して右手に持つ剣を地面に突き刺し、自身の胸に両手を近づけていく。

 

 

ディケイド『?アイツ……何を…?』

 

 

ヴェクタス『……このまま俺だけで戦うのはこちらが分が悪い……奥の手を使わせてもらうぞ…!』

 

 

いきなり不可解な行動を取り始めたヴェクタスにディケイドは疑問を浮かべてしまうが、ヴェクタスは構わず自身の胸に両手を掛け、そして……

 

 

 

 

 

 

ヴェクタス『―――グッ!ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!』

 

 

―ギチッ……ギチギチギチギチギチッ!グシャアァッ!!―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『ルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

 

 

 

 

『なっ……』

 

 

なんと、ヴェクタスは突然自分の胸を左右へと開いていったのであった。そしてそれと共にヴェクタスの胸の奥から二体の異形の姿をした人型の怪物が鼓膜を突き破るような咆哮をあげながら、はいずるように出て来たのである。

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァアァッ!!』

 

 

『ルオォォォォォォォォォォォォオォッ!!』

 

 

ディケイド『な、何だ……コイツ等……』

 

 

キャンセラー『あ、あれって……まさか……人間の……顔……?』

 

 

ヴェクタスの中から突如現れた二体の異形達。一体は黒い仮面を身につけ体中に鎖を巻き付けた長刀を持つ異形。もう一体は白い仮面を身につけて両手に大剣を構えた異形。その二体は共通して全身にあるもの……【人間の顔】が浮き出ていたのである。更にその幾つかが苦しげに唸り声をあげている辺り、それらは間違いなく"生きていた"。

 

 

 

 

『――――――イタイ―――――イタイヨ―――――イタイ、イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイダイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!!!!!』

 

 

『――――タス―――ケテ―――タスケテェ――タスケ―――テェ―――ダレカタスケテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

キャンセラー『ッ…!』

 

 

ディケイド『クッ!お前っ……何なんだコレは?!この人間達は一体?!』

 

 

ヴェクタス『ふぅ……質問に答える気はないなぁ。まあ、お陰でまたストックが減る事になった訳だが……いいだろう。やれキュクロプス、ヘカトンケイル……奴らもお前達の一部にしてしまえ!!』

 

 

『ルオォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

キャンセラー『なっ…?!―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―ウワァッ?!』

 

 

ディケイド『祐輔?!―ドゴォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―グアァッ?!』

 

 

ヴェクタスの号令が響くと同時に黒い仮面を身につけた異形……キュクロプスは物凄いスピードでディケイドとキャンセラーへと突進し、二人はキュクロプスの突進を受けて思いっきり吹っ飛ばされ工場の壁を突き破りながら外へと吹き飛ばされてしまったのだった。そしてヴェクタスとキュクロプスは外へと放り出された二人を追うように外へと出ていってしまう。

 

 

インフィニティ『ッ?!零!祐輔!?』

 

 

雷牙『チッ!俺達もいくぞ!!』

 

 

エデン『ッ!待てお前等!行くなっ!』

 

 

ライオトルーパーの軍勢と戦っていた最中、ディケイドとキャンセラーが工場の外へと吹っ飛ばされた光景を目にしたインフィニティと雷牙は慌てて二人の後を追おうとし、エデンはそれを引き留めようと二人の後を追っていく。しかし……

 

 

 

 

 

 

―フッ……ガギィンッ!!ガギィンッ!!―

 

 

インフィニティ『ッ?!グアァッ?!』

 

 

雷牙『ウワァッ?!』

 

 

エデン『ッ?!煌一!雷!』

 

 

突如二人の目の前を高速で動く何かが過ぎ去り、二人はそれが放った斬撃を受け吹き飛ばされてしまったのである。それと共に二人の目の前に高速で動いていたと思われる白い仮面を身につけた異形が姿を見せ、それを見たエデンはすぐさま二人を庇うように出て異形に向けて身構えていく。

 

 

『グルルルゥ……』

 

 

雷牙『クッ!な、何なんだコイツ…?!』

 

 

インフィニティ『ッ……あれは……怪人…?』

 

 

エデン『いや、外見はそれに近いが………これは……人の、命…?』

 

 

『グルルゥ……グルガアァァァァァァァアッ!!!』

 

 

グロテスクな外見を形取る異形に三人は戸惑いを見せるが、異形……ヘカトンケイルは両手に構える二振りの大剣を振りかぶり、三人へと襲い掛かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、ディケイド達が戦う工場の外にある建物の屋上では、三人の青年と一人のライダー…クラウンが工場を見下ろす姿があった。

 

 

「……あそこに零兄ぃ達がいるのか?」

 

 

クラウン『えぇ。今の戦況は、ヴェクタス氏が出した奥の手で五分五分といったところです……少し零氏と祐輔氏達の方がマズイかもしれませんね』

 

 

「成る程な……師匠や未来の零兄に言われて来たのは正解だったようだ。二人共、準備はいいか?」

 

 

「あぁ、いつでもOKだ」

 

 

「エクストリームもいつでも使える。問題はないよ」

 

 

二人組の青年はそう言うとそれぞれ色違いのメモリを一本ずつ取り出し、それを見た青年は微笑を浮かべながらジャケットを翻し腰に巻いた鉄製のベルトを露出させ、上空から現れた蛍のような機械を掴んで構えていく。そして……

 

 

「変身ッ!」

 

『Henshin!』

 

『CYCLONE!』

 

『JOKER!』

 

『変身ッ!』

 

 

青年が蛍のような機械を腰に巻いたベルトにセットすると電子音声が響き、それと同時にベルトから全身に向けて六角形の物質が広がり、青年は黒と銀の重厚な装甲と赤い瞳を持った仮面ライダーへと変身した。そして二人組の青年は掛け声と共にメモリを腰に巻いていたバックルへと装填し、片方の青年のメモリがもう片方の青年のドライバーへと転送されると青年はバックルをWの形に開いていく。

 

 

『CYCLONE!JOKER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと片方の青年は右側が緑、左側が黒の身体に赤い瞳を持った仮面ライダー…ダブルへと変身し、片方の青年はその場に倒れていった。

 

 

『さて……翔兄達の方にはなの姉達が向かってるはずだ。俺達は零兄と祐輔さんの方にいくぞ』

 

 

『あぁ、任せてくれ』

 

 

『アレンさん、僕の身体を頼みます』

 

 

クラウン『えぇ、分かりました』

 

 

ダブルの右半身の瞳が点滅しながらクラウンにそう言うと、クラウンは地面に倒れた青年の身体を起こしながら頷き返し、それを見たダブルと赤い瞳のライダー……『ホタル』は屋上から飛び降りて廃棄工場へと向かっていったのだった。

 

 

クラウン『……後は彼等に任せておけば大丈夫そうですね……頼みましたよ』

 

 

クラウンは二人が飛び降りた方を見つめながらそう呟くと、青年の身体を安全な場所まで運んでいくのであった。

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑮(前編)

 

 

―海鳴市・廃棄工場―

 

 

エクス『ソラソラソラソラッ!!』

 

 

バロンP『ハッ!!』

 

 

アテナ「撃って撃って撃ちまくる!!」

 

 

ディエンド『フッ!!』

 

 

―ガギィンッ!!ガギィンッ!!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!―

 

 

『ヌアァッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

インフェルノS『でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!』

 

 

ビートR『ヤアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

フェザーSF『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

『ウアァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

勢いが衰う様子を全く見せず、凄まじい猛攻で次々とライオトルーパーの大群を打ち倒してその数を確実に減らしていくライダー達。強化変身や必殺技を用いて戦うライダー達の前に勝機があるわけもなくライオトルーパーの軍勢は無抵抗のまま倒されていき、そして……

 

 

ゼファー『コイツ等で!!』

 

 

クーフーリン『終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

最後に陣形を取りながら向かって来たライオトルーパーの大群も何の抵抗も出来ないまま倒され、ライオトルーパーは一人残らず完全に全滅したのであった。

 

 

皇牙『うっし!これで全部片付いたな』

 

 

ギルガメッシュ『フンッ、他愛もない奴らだ……所詮は群れる事しか出来ん烏合の衆という事か』

 

 

アーサー『こっちはもう終わったから……後は零君と祐輔君が佐知さんを助け出すだけだね』

 

 

ライオトルーパー達が全滅したのを確認したライダー達はそれぞれ構えを解いて武器を下ろしていき、ライオトルーパーの残骸の上を歩きながら一箇所に集まっていく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルオォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガアンッ!!ドゴオォンッ!ドゴオォンッ!ドガアァンッ!!―

 

 

雷牙『グアァッ!!』

 

 

インフィニティ『グゥ!!』

 

 

エデン『グッ!!』

 

 

 

 

 

 

ギルガメッシュ『む?!』

 

 

ゼファー『な、何だ?!』

 

 

フェザーSF『ユキくん?!』

 

 

戦闘を終えたライダー達の耳に轟音が届き、それと共に雷牙とインフィニティとエデンがライダー達の下へと吹っ飛ばされてきたのである。それを見たライダー達はすぐさま三人の下へと駆け寄っていくが、其処へ三人を吹き飛ばした異形…ヘカトンケイルが唸り声をあげながら近付いて来た。

 

 

『グルルルルゥッ…!!』

 

 

クーフーリン『ッ?!な、なんだ……あの化け物?!』

 

 

アーサー『ぜ、全身に……人の顔が…?!』

 

 

こちらへと近付いてくるヘカトンケイルの全身に浮かぶ人間の顔のようなものを見たライダー達は驚愕したように後退りしていくが、突然皇牙のデバイスであるアルトが焦った様子で皇牙に語り掛けてきた。

 

 

AT『あ、相棒!あの怪物の身体に浮かぶ顔の一つ一つから、人間の生命反応が出てるぜ!』

 

 

皇牙『ッ?!何?!』

 

 

バロンP『人間の生命反応って……まさか……』

 

 

ゼファー『まさかあの怪物の身体にある顔……あれが全部人間だってのか?!』

 

 

アルトから聞かされた衝撃的な言葉に、ライダー達は驚愕の表情を浮かべながらヘカトンケイルへと視線を向け、その間にもヘカトンケイルは両手の大剣を構えながらライダー達へと歩み寄っていき、ヘカトンケイルの全身に浮かぶ顔達も苦しげな声をあげていく。

 

 

 

 

『―――クル―――シイ―――クルシ――イィ―――クルシイィ――クルシイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!!!!!』

 

 

『――シニ――タ――クナイ――シ――ニタク――ナイ―――シニタクナイ――シニタクナイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!!!!!』

 

 

 

 

インフィニティ『クッ…!醜悪にもほどがあるだろう…!』

 

 

エクス『ッ……アテナっ!どうにかして、あの人達を救う事は?!』

 

 

アテナ「――残念だけど、それは無理ね。彼等は既に人の形を失ってしまってる………あそこにあるのは、嘗て人だった者達の意思しか存在しないわ」

 

 

ディエンド『つまり、彼等を救える方法はたった一つ……楽に逝かせてあげるしかないって事さ』

 

 

フェザーSF『そんな…!』

 

 

『グルルルゥ……グガアァァァァァァァァアッ!!』

 

 

今も苦しみ、必死に助けを求める彼等を助け出す方法はない。それを聞かされたライダー達は悲痛な表情を浮かべてヘカトンケイルの身体に浮かぶ顔達を見つめていくが、ヘカトンケイルはそんなのは関係ないと言わんばかりに二振りの大剣を振りかざしながらライダー達へと突っ込んできた。

 

 

皇牙『チィ!とにかくやるしかない!!いくぞ!!』

 

 

AT『revolving・stick』

 

 

ゼファー『クソッ!でやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 

雷牙『ッ!待て!!迂闊に近づくな!!』

 

 

ヘカトンケイルへと突っ込んでいく皇牙達を咄嗟に止めようとする雷牙だが、既にそれも間に合わずライダー達はそれぞれの武器を用いてヘカトンケイルへと挑んでいき、フェザーとディエンドもライダー達を援護しようと遠距離からヘカトンケイルへと連射していく。しかし……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!ガギィンッ!!ドオォンッ!!―

 

 

『グルルルルゥッ…!』

 

 

皇牙『…ッ?!なに?!―ガギャアァァンッ!!―グアァッ?!』

 

 

バロンP『皇牙?!―ガギャアァンッ!!―ウグアァッ?!』

 

 

―ガギャアァンッ!!ガギャアァンッ!!グガアァンッ!!―

 

 

エクス『グアァッ?!』

 

 

アストレア『キャア?!』

 

 

ビートR『ウアァッ?!』

 

 

ヘカトンケイルはライダー達の射撃や攻撃にまったくビクともせず、大剣を振りかぶって次々とライダー達を吹っ飛ばしながら突進してきたのだった。それでもライダー達はなんとか態勢を整えて反撃しダメージを与えようとするも、ヘカトンケイルの強硬なボディはそれを全く寄せつけずただ反撃されるばかりであった。そしてヘカトンケイルはライダー達から一旦距離を離し、全身に浮かぶ顔の口に物凄い量のエネルギーを集束させ……

 

 

『グウゥ……グルガアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

全身に浮かぶ顔の口から無数の黒い閃光がライダー達に向かって一斉に放たれ、ライダー達はそれの直撃を受けて吹っ飛ばされ地面を何度も転がりながら倒れ込んでしまったのだった。

 

 

ギルガメッシュ『ガハッ!クッ……己ッ…!』

 

 

エデン『ッ!なのはっ……無事かっ…?』

 

 

フェザーSF『ッ……う、うんっ……何とかっ……』

 

 

インフェルノS『グッ…!目茶苦茶過ぎるだろう……アイツッ!』

 

 

『ヌウゥゥゥゥゥッ……』

 

 

大剣の切っ先を向けながらゆっくりと歩み寄って来るヘカトンケイルにライダー達は思わず後退りしていき、そんなライダー達にトドメを刺そうとヘカトンケイルは両手の大剣を大きく振りかざしライダー達に斬り掛かろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!―

 

 

『ッ?!ルオォォォォォォォォォォォオッ?!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

何処からか突然無数の閃光がヘカトンケイルに向けて降り注ぎ、ヘカトンケイルは無数の火花を散らせながら悲痛な悲鳴をあげて吹き飛んでいった。突然のそれにライダー達は驚愕の表情を浮かべ、その攻撃が撃たれてきた方へと振り返った。其処には上空から薙刀のような武器の切っ先を向けて構える白いライダーと、獅子をモチーフにした姿をしたライダー、そして黒と白のツートンカラーに金をプラスしたダブルのようなライダーとシャイニングフォームのボディーに稲妻の文様が広がった白と黄色を基調させるアギトの姿があったのだ。

 

 

『ウフフ♪遅刻しちゃったけど、ギリギリ間に合ったの♪』

 

 

『いや、中に入っていきなりアクセルはどうかと思うけど�』

 

 

『そうか?流石は冥王だと思うぞ?可憐さがあって俺は好きだ』

 

 

『可憐って�』

 

 

皇牙『ッ!アンタ達は?!』

 

 

ディエンド『シ、シズクさん?!なのはさん?!』

 

 

エデン『智大に裕己?!何故こんなところに?!』

 

 

ライダー達の目の前に現れた四人組……それは冥王とジェネシックに変身した不破なのはとシズク、そして『仮面ライダーツヴァイ・クラスターパンドラ』とアギト・サンダーフォームへと変身した早瀬智大と大輝や翔と同じ幸助の弟子である"小野裕己"だったのだ。四人は驚愕する一同の下へと駆け寄っていき、倒れ込んだヘカトンケイルと対峙しながら話を促す。

 

 

ジェネシック『幸助から皆のところへ援軍に行くように言われて来たの。少し色々あったせいで遅れちゃったけど、何とか間に合って良かったよ』

 

 

バロンP『あ、そっか……確か公園で別れる時に師匠が援軍を贈るって言ってたっけ。って事は裕己も?』

 

 

アギトS『はい、俺も行かせてくれって師匠に我が儘言って同行させてもらったんです。俺も皆さんの力になりたかったから』

 

 

エクス『そっか、助けに来てくれたなら有り難いけど…………何故に冥王と智大さんまで一緒……?』

 

 

今にも冥王トラウマが再発しそうになるのを必死に堪えながらエクスは二人へと問いかけ、冥王は笑みを浮かべながらサムズアップして答えていく。

 

 

冥王『気にする事ないの。ただ佐知さんへのリベンジを邪魔する愚者どもの頭を冷やしに来ただけなの♪』

 

 

ツヴァイCP『俺はただ幸助からの頼みで来ただけだ……まぁ、まさか過去からの依頼とは俺も予想外だったがな』

 

 

インフィニティ『…?過去から…?』

 

 

冥王はともかく、ツヴァイの意味深なその発言が理解出来ずインフィニティや他のライダー達は疑問げに小首を傾げていくが、その時冥王のアクセルで吹っ飛ばされたヘカトンケイルが起き上がり唸り声をあげながら近付いてきた。

 

 

インフェルノS『ッ!おい!アイツまた来たぞ?!』

 

 

冥王『チッ……手加減してたとは言え、街一つ消せるぐらいの威力でぶち込んだのにしぶといの!』

 

 

皇牙『ΣΣいやなんつーもんぶち込んでくれてんのアンタ?!』

 

 

何かさりげなく物騒な事を口走った冥王に思わず血相を変えて突っ込んでしまう皇牙だが、ツヴァイはそれに構わず何処からか自身の武器であるパンドラビッカーを取り出し、パンドラソードとパンドラシールドに分離させヘカトンケイルと対峙していく。

 

 

ツヴァイCP『だがまぁ、それを喰らってまだピンピンしてるってことはそれだけしぶといってわけだろ……全員散開して技の準備に入れ!!奴に連続攻撃を叩き込むぞ!!』

 

 

エデン『……それしか手はなさそうだな』

 

 

ギルガメッシュ『フン……後からノコノコ来た分際で勝手に指揮りおって…!』

 

 

雷牙『よし……やってやるさ!』

 

 

ツヴァイの指揮でライダー達はそれぞれ散開してヘカトンケイルを包囲し、最高の一撃をぶつける為にそれぞれ最後の攻撃準備に入っていく。

 

 

皇牙『まずは俺達からだ…いくぜ!!』

 

 

ディエンド『悪く思わないでくれよ!』

 

 

ギルガメッシュ『あのような雑種に一級品を使うのは忍びないが……仕方あるまい!』

 

 

フェザーSF『ごめんね……今助け出すから!!』

 

 

AT『square・claymore!』

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!―

 

 

『ッ?!グガァッ?!』

 

 

先陣を切った皇牙は両肩のアーマーから無数の弾丸を撃ち出してヘカトンケイルの足を止め、それに続く様にギルガメッシュの無数の宝具、ディエンドとフェザーの放った閃光がヘカトンケイルを怯ませていく。そしてその隙にヘカトンケイルの背後へと回り込んだゼファーとアギト、エクスとアーサーはそれぞれが持つ剣を構えながらヘカトンケイルへと突っ込んでいく。

 

 

ゼファー『喰らいやがれ!ブレイクラッシュッ!!』

 

 

アギトS『でえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!』

 

 

―ズバアァッ!!!ズバアァッ!!!―

 

 

『グゴオォッ?!』

 

 

エクス『いきますよなのはさん!!』

 

 

アーサー『稟君もね!……エクスッ!!』

 

 

エクス『カリバアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『グオォッ?!!』

 

 

背後からヘカトンケイルへと突進して放ったゼファーとアギトの斬撃とエクスとアーサーのエクスカリバーが炸裂し、不意を突かれたヘカトンケイルはその衝撃で思わず動きを止めて硬直してしまう。その隙を逃さまいとバロンとクーフーリンは上空へと跳び上がり、グングニルとゲイボルクで投擲の構えを取っていく。

 

 

バロンP『コイツから逃れられないぜ!貫け、グングニルッ!!』

 

 

クーフーリン『その命……貰い受ける!ゲイ・ボルクッ!!』

 

 

―ブオォンッ!ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!―

 

 

『ッ?!―ズギャアァァァァァァァァァアンッ!!―ガアァッ?!』

 

 

バロンとクーフーリンの投げ放った二本の槍は稲妻の如くヘカトンケイルの体を貫通し、防御も出来ずそれの直撃を受けたヘカトンケイルはふらつきながら後退していく。更に態勢を立て直す暇すら与えないと言わんばかりにインフェルノはカードケースからカードを一枚取り出しバイザーへと装填し、インフィニティは両手を十字に組んでエネルギーを溜めていく。

 

 

『FINALVENT!』

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にインフェルノの目の前にワンハンドレッド・アイ・ドラゴンに地縛神Wiraqocha Rascaが合体したような姿をしたモンスター………地縛竜ウィラコチャラスカが現れた。そしてインフェルノがウィラコンチャラスカの背中に飛び乗った瞬間ウィラコンチャラスカの姿がバイクのような形態へと変形しながら地面を駆け、一羽のコンドルとなってクチバシに闇の力を一点集中して螺旋回転しながらヘカトンケイルへと突っ込んでいき、エネルギーを溜め終えたインフィニティもヘカトンケイルへと身構え、そして……

 

 

インフィニティ『ハアァァァァ……クロスレイ!シュトロォォォォォォォォォォォォォォォムッ!!!』

 

 

インフェルノS『出し惜しみはしない!!ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!ズガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ギギャアァァッ?!!』

 

 

インフィニティが先に撃ち放った光線がヘカトンケイルの動きを封じて怯ませ、その隙にインフェルノがフルスピードで突っ込みヘカトンケイルの身体を貫通し大剣を叩き壊していったのだった。連続で叩き込まれた必殺技の嵐にヘカトンケイルの身体もボロボロになり、それでも何とか反撃しようと全身の顔の口にエネルギーを溜めようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

『Rider Slash!』

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

『ATTACKSPELL:RAIGA CLAW!』

 

『TORNADO!MAXIMUMDRIVE!』

 

『LIGHTNING!MAXIMUMDRIVE!』

 

『SHADOW!MAXIMUMDRIVE!』

 

『BLAZE!MAXIMUMDRIVE!』

 

『FANG!MAXIMUMDRIVE!』

 

『GROUND!MAXIMUMDRIVE!』

 

『SNIPER!MAXIMUMDRIVE!』

 

『PANDORA!MAXIMUMDRIVE!』

 

『TIME CRASH!』

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

何処からか無数に鳴り響いた電子音声。不意に鳴り響いたそれにヘカトンケイルが驚愕し動きを止めた瞬間、右から巨大な爪のような武器を構えた雷牙と正宗を振り上げるエデン、左から剣を振りかざすアストレアにクナイガンを構えたビート、そして前後から右手に破壊の力、左手に護りの力を集め合わせたジェネシックとパンドラソードを振り上げるツヴァイがヘカトンケイルへと突っ込んできたのだ。それを見たヘカトンケイルは直ぐさまその場から離れようとするが……

 

 

雷牙『逃がすかぁ!!』

 

 

エデン『フッ!!』

 

 

アストレア『セアァッ!!』

 

 

ビートR『ハァッ!!』

 

 

―ズザアァッ!!!!―

 

 

『グギャアァッ?!!』

 

 

雷牙達の振り下ろした武器がヘカトンケイルの身体を突き刺していき、逃げようとしたヘカトンケイルの動きを封じていったのだった。そして……

 

 

ジェネシック『ゲルギムガンゴーグフォ……ふんっ!ウィィィィィィィィタァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

ツヴァイCP『パンドラエクストリームッ!!デヤアァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズザアァァァッ!!!!ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!―

 

 

『グゴオォッ?!!!』

 

 

背後からツヴァイの放った金色の刃がヘカトンケイルの背中を突き刺し、それと共に正面から突進してきたジェネシックの拳がヘカトンケイルの腹部を貫通していったのだった。だがそれでもヘカトンケイルは息を引き取る様子を見せず、今もボロボロになった右腕を振り上げライダー達を攻撃しようとしていた。

 

 

ビートR『ッ!まだ息があるの?!』

 

 

雷牙『くっ!しぶといにも程があるだろ?!』

 

 

ツヴァイCP『心配するなっ……今だアテナッ!!』

 

 

ジェネシック『決めて!!なのはちゃんッ!!』

 

 

ツヴァイとジェネシックは剣と拳を突き刺したまま自分達の上空に浮遊する二人……メイオウガッシャーとオンリュンポスに物凄い量のエネルギーを集束させて必殺技の発射態勢に入った冥王とアテナに向けて合図を出した。

 

 

冥王『――きっとこの後、幸助君が貴方達を転生させてくれる。だから今は我慢してなの……エンド・オブ・ワールド――――!!』

 

 

アテナ「……貴方達を救えない私を……許してね……星神アテナが命じる!彼の者を滅せよ!!ジャスティス――――!!』

 

 

冥王とアテナは大量のエネルギーを集めたそれぞれの武器の先端をヘカトンケイルに向けていき、それを見たジェネシック達は直ぐ様ヘカトンケイルから武器を抜き取りその場から離れていく。そして……

 

 

 

 

 

 

『ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

『ッ?!ギ、ギギ…ギギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!!!!?』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

冥王のエンド・オブ・ワールドブレイカーとアテナのジャスティスブレイカーがヘカトンケイルへと見事に炸裂し、ボロボロの身体でそれを避けることが出来る筈もなくヘカトンケイルは無抵抗のまま閃光へと飲み込まれていったのだった。そして光が晴れていくと、其処にはヘカトンケイルの姿は微塵もなく、代わりに深さ数十メートル程はある巨大なクレーターが形成されていたのであった。

 

 

ゼファー『ハァ……ハァ……勝った……な……』

 

 

インフェルノS『ッ……あぁ……やっとなっ……』

 

 

アストレア『や、やりましたよ師匠!!私達勝ちましたぁ~!!』

 

 

ディエンド『みたいだね。ホント、無駄な体力を使っちゃったよ……………ん?智大?』

 

 

エデン『…?シズク?裕己?』

 

 

アテナ『…?なのはちゃん?』

 

 

ヘカトンケイルが消滅したのを確認したライダー達は肩で息をしながらその場に倒れ込んでいき、この場の戦いが終わった事に安心し切っていたが、その中にいた何人かはジェネシックと冥王、ツヴァイとアギトがいつの間にかいなくなっていることに気付き疑問符を浮かべていたのだった。

 

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑮(中編)

 

 

そして丁度その頃、工場の外ではディケイドとキャンセラーがヴェクタスとキュクロプスと剣を交えて激戦を繰り広げていた。しかしキャンセラーの力に危機感を感じたヴェクタスはキュクロプスにキャンセラーの相手をさせ、自身はディケイドと剣を交え二人を徐々に追い詰めていた。

 

 

『ルアァッ!!』

 

 

―ガギィンガギィィッ!!ドゴォッ!!ガギィィィィィィィィンッ!!―

 

 

キャンセラー『グァッ!!』

 

 

ディケイド『ッ!祐輔!!』

 

 

ヴェクタス『よそ見をするなぁ!!』

 

 

―ガギイィィィィィッ!!―

 

 

ディケイド『クッ?!』

 

 

キュクロプスの剣撃に圧されるキャンセラーが視界に入り一瞬意識を削がれてしまうディケイドだが、ヴェクタスはお構い無しにと剣を叩き付けてディケイドを怯ませてしまう。その一方で、キャンセラーは先程の戦闘で受けた傷がまだ癒えていない為に動きが鈍く、今では反撃することもままならないでいた。

 

 

ディケイド『クッ…!クソ…!』

 

 

ヴェクタス『ふん……奴のあの力は確かに脅威だが、俺に向けられなければどうという事はない!!』

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

キャンセラー『ウアッ?!』

 

 

ディケイド『グゥッ!!』

 

 

蓄積されたダメージで身体をふらつかせながらもディケイドとキャンセラーは何とか反撃しようとするが、ヴェクタスとキュクロプスは剣と刀を勢いよく振るい二人を数メートル先まで吹っ飛ばしてしまい、ディケイドとキャンセラーは武器を杖にしてふらつきながら立ち上がっていく。

 

 

ディケイド『ッ…祐輔っ…無事かっ…?』

 

 

キャンセラー『ッ……なんとかっ……でもっ……状況はちょっとマズイよねっ……』

 

 

二人は片膝をつきながらゆっくりと態勢を立て直し、不気味に笑いながら剣の切っ先を向けて近付いてくるヴェクタスとキュクロプスに目を向けていく。そして、ディケイドはおもむろにライドブッカーを構え直しながら頭の中で思考していく。

 

 

ディケイド『(ッ……どうする?佐知さんを奴から引き離すには祐輔の力が必要不可欠だ……あの怪物を奴から引き離して祐輔を戦わせるのが理想的だが、今の祐輔の状態を考えれば一人で戦わせるのは危険だ……かと言ってアイツ等纏めて倒すのはこちらの分が悪い……クソ、どうする?!)』

 

 

ヴェクタス『クククッ……どうした?そっちが来ないなら、こっちからいくぞぉッ!!』

 

 

キャンセラー『クッ!』

 

 

態勢を立て直したディケイドがなんとか打開策を考えようとする中、ヴェクタスは不気味な笑い声を響かせながらキュクロプスと共に剣を振りかざして二人へと襲い掛かっていき、ディケイドは咄嗟にキャンセラーを庇うように前に出ながらライドブッカーSモードを構えていった。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――キャストオフ…』

 

 

 

 

『Cast Off!』

 

 

 

 

―バシュウゥゥ……ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!―

 

 

 

 

ヴェクタス『…ッ?!ウグアァッ?!』

 

 

 

 

『ギ、ガアァッ?!』

 

 

 

 

キャンセラー『…え?』

 

 

 

 

ディケイド『……なんだ、今の…?』

 

 

 

 

突然何処からかヴェクタスとキュクロプスに向かって無数のなにかが降り注ぎ、二人はそのまま勢い良く吹っ飛ばされていったのだ。突然の展開にディケイドとキャンセラーは思考がついていけず呆然としてしまうが、その時二人を吹き飛ばしたなにかが飛んできた方から二人の仮面の戦士……一人は黒と赤が基礎の装甲を纏ったスタイリッシュな外形のライダー、もう一人は右側が緑、左側が黒というアンシンメトリーの外形をしたライダーがゆっくりと歩み寄ってきた。

 

 

『change firefly!』

 

 

『――成る程。師匠や零兄が俺達を向かわせたのも何となく理解出来るな……』

 

 

『あぁ、どうやら一筋縄ではいかない相手のようだ……やはり僕達の力が必要なようだね』

 

 

キャンセラー『…ッ!あ、あれって…?!』

 

 

ディケイド『……ダブル?それにアレは……蛍の仮面ライダー……?』

 

 

突如目の前に姿を現した二人のライダー……ホタルとダブルの登場にディケイドとキャンセラーは唖然とした顔で動かなくなってしまうが、ホタルは至って冷静な態度でそんな二人に話し掛けていく。

 

 

ホタル『あの怪物は俺達が引き受けよう…アンタ達はあのライダーの相手をしてくれ』

 

 

ディケイド『ッ!どういう事だ?お前達は一体…?』

 

 

ダブル『すまないが説明している時間はない……君達には助けなければいけない人がいるんだろう?なら今は、そっちを優先するべきじゃないか?』

 

 

ディケイド『…………』

 

 

いきなり現れてあの怪物の相手を引き受けると告げたホタルとダブルにディケイドは一瞬戸惑ってしまうが、彼等があの怪物を抑えててくれるなら佐知を救い出す事が出来る。そう判断したディケイドは考え込む様に俯かせていた顔を上げて……

 

 

ディケイド『―――誰かは知らないが、頼む…………いくぞ祐輔!』

 

 

キャンセラー『え…………うん!』

 

 

ヴェクタス『クッグゥ……何なんだっ……どいつもこいつも邪魔ばかりを!!』

 

 

ディケイドの言葉にキャンセラーは一瞬戸惑いながらもすぐに力強く頷き返し、それを見たディケイドはライドブッカーを構えてキャンセラーと共にヴェクタスへと突っ込んでいった。その時吹っ飛ばされたキュクロプスがふらつきながら起き上がり、ヴェクタスの下へと向かおうとする二人を止めようと慌てて動き出すが、ホタルとダブルがそれを阻むようにキュクロプスの前に立ちはだかった。

 

 

ホタル『何処にいく気だ?お前の相手は……俺達だ』

 

 

ダブル『これ以上、君達を苦しませる訳にはいかない……止めてみせるよ。僕が……いや、僕達がな』

 

 

ダブル(青年)『あぁ、僕達三人が……ね?』

 

 

『グウゥゥ……グルオォォォォォォォォオッ!!』

 

 

立ち塞がる二人を敵と判断したのか、キュクロプスは獣染みた雄叫びをあげながら駆け出し右手に持つ刀で二人へと斬り掛かっていった。ホタルとダブルは左右へと跳んでそれをギリギリ回避し、二人は態勢を立て直すと同時にキュクロプスへと殴り掛かっていった。

 

 

ダブル『セアッ!!』

 

 

ホタル『ふん!!ハッ!!』

 

 

―ドガァ!!バキャ!!―

 

 

『グウゥッ?!グッ…!!ガアァッ!!』

 

 

先に仕掛けたダブルの蹴り技がキュクロプスの頭部を捉えて蹴り飛ばしていき、キュクロプスはそれに怯みながらも刀を振りかざして二人へと斬りかかっていくが容易くかわされただ風を斬り裂くだけであり、ホタルのカウンターを主体にした打撃技に圧されていくばかりであった。そしてホタルはカウンター主体の攻撃から大胆に攻めるスタイルへと変わってキュクロプスの目を引き、ダブルがその隙に二人から距離を離すと上空から黒と黄色を基礎とした鳥のような機械が飛来して現れ、ダブルはそれを手に取ってダブルドライバーに合体させ翼部分を左右に開きX字に展開していった。

 

 

『EXTREME!』

 

 

鳥型の機械……エクストリームメモリから電子音声が鳴り響いた瞬間、ダブルの身体がクリスタルのように輝く無数の虹色の粒子に包まれていったのだ。そしてダブルの身体中央から粒子が全て消え去っていくと、其処には緑の右半身と黒の右半身の間に透明な銀色のラインが大きく取り入れられた三色の姿にXに形取られた複眼をしたダブル……ダブルの最強フォームである『サイクロンジョーカーエクストリーム』へと姿を変えたダブルが立ち構えていたのであった。

 

 

ダブルCJX『よし…いくぞユーノ!』

 

 

ダブル(ユーノ)『あぁ!いつでもOKだ、クロノ!』

 

 

『プリズムビッカー!!』

 

 

二人の青年……クロノとユーノが同時に叫ぶと同時にダブルの身体の中央に入ったクリアシルバーの部分が一瞬淡い虹色の輝きを放ち、其処から剣と盾が合わさった武器……プリズムブッカーが出現してダブルの手に握られていった。そしてダブルは何処からか黄緑色のメモリを取り出し、スイッチの部分を人差し指で押していく。

 

 

『PRISM!』

 

 

メモリから電子音声が響くとダブルはプリズムメモリをプリズムビッカーに収められた剣…プリズムソードの柄の末端に取り付けられたスロットへと装填し、剣を抜刀してホタルと戦うキュクロプスへと突っ込んでいった。

 

 

ダブルCJX『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!デリャアァッ!!』

 

 

―ガギィンッ!!ガギィンッ!!ズザアァッ!!―

 

 

『ッ?!グガアァッ!!』

 

 

ダブルの振りかざしたプリズムソードがキュクロプスの刀を容易く弾いて斬撃を打ち込んでいき、そのとてつもない威力にキュクロプスは溜まらず盛大に吹っ飛ばされていった。それを見たホタルとダブルは互いに顔を見合わせて頷くと、ダブルは一度プリズムビッカーに剣を収めてサイクロンメモリを取り出しプリズムビッカーの末端に取り付けられたスロットへと装填し、それに続くようにヒートメモリ、ルナメモリ、ジョーカーメモリを順にプリズムビッカーのスロットへと装填していく。

 

 

『CYCLONE!MAXIMUMDRIVE!』

 

『HEAT!MAXIMUMDRIVE!』

 

『LUNA!MAXIMUMDRIVE!』

 

『JOKER!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

連続で鳴り響いた電子音声と共に、ダブルはプリズムビッカーからソードを抜刀しながら力強く地を蹴ってキュクロプスへと勢いよく走り出し、プリズムソードの刀身に緑、赤、黄、紫の光を纏わせながらキュクロプスへとソードを振りかざしていき、そして……

 

 

ダブルCJX『ビッカー!!チャージブレイクッ!!!ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『グ、ガアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ダブルの必殺技…ビッカーチャージブレイクが見事に決まり、キュクロプスは悲痛な叫びをあげながら後方数十メートル先まで盛大に吹っ飛ばされていったのであった。それを見たホタルはすかさずベルトの右側のボタンを叩くように押していく。

 

 

ホタル『クロックアップ…』

 

 

『Clock Up!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にホタルが立つ周りの風景がまるで止まったかのようにスローモーションに流れ始め、ダブルの必殺技で吹っ飛ばされたキュクロプスも空中で止まったかのように停止している。ホタルは瞬時にそんなキュクロプスの背後へと移動し、バックルにセットされたゼクターのスイッチ・フルスロットルを三回連続で押していく。

 

 

『one!two!three!』

 

 

ゼクターから音声が流れると共にホタルは一旦ゼクターホーンをマスクドフォーム時の位置へと倒していき、そして……

 

 

ホタル『……哀れな魂達よ……安らかに眠れ……ファイヤー、キック』

 

 

『Fire Kick!』

 

 

その呟きと共にホタルがゼクターホーンを元の位置へと戻すと電子音声が響き、ホタルの右足に炎が纏われていく。そして……

 

 

ホタル『……ハアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『Clock Over!』

 

 

『――ッ?!グ、グギャアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

炎を纏ったホタルの回し蹴りがキュクロプスの頭部を捉えて蹴り飛ばし、それと共にクロックアップの効果が切れキュクロプスは悲痛な断末魔をあげながら爆散して跡形もなく消え去っていった。そしてそれを確認したホタルは変身を解除して青年へと戻り、ダブルも変身を解除して二人の青年…クロノとユーノに戻ってホタルに変身していた青年の下へと駆け寄っていく。

 

 

クロノ「――何とか無事に終わったな、刹那」

 

 

「あぁ。後は零兄と祐輔さんが、奴を倒せば終わりだ」

 

 

刹那と呼ばれた青年は此処から離れた先でヴェクタスと戦うディケイドとキャンセラーに視線を向けながら呟き、ユーノはその戦いを眺めながら口を開いていく。

 

 

ユーノ「それで、どうするんだい刹那?このまま僕達も参戦するのか?」

 

 

刹那「……いや、此処からはあの二人の戦いだ。俺達が出る幕じゃない……それに」

 

 

刹那は其処で一旦言葉を区切り、上着のポケットから携帯を取り出すといつの間にか一通のメールが届いていた。刹那はそのメールを開いて内容を読み上げると、二人に顔を向けながら語り出す。

 

 

刹那「……そろそろ俺達の時代に戻らなければいけないって、シズ姉から連絡が来てる。早く戻るぞ」

 

 

クロノ「……ふぅ……仕方がないな……」

 

 

ユーノ「此処は彼等に任せるしかなさそうだね………でも、本当に大丈夫なのかな?」

 

 

刹那「心配する必要はない……あの人達なら、きっとやってくれるさ」

 

 

このまま二人だけに任せていいのかと心配するユーノに刹那は微笑を浮かべながら力強く答え、その場から歩き出して目の前に現れた歪みの壁を潜っていった。それを見たクロノとユーノは一度顔を見合わせてディケイド達の方へ目を向けると、刹那の後を追うように歪みの壁を潜って何処かへと消えていったのだった。

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑮(後編)

 

 

 

キャンセラー『ハァッ!!ダアァッ!!』

 

 

ディケイド『フッ!セイッ!!』

 

 

―ガギンガギイィィッ!!ガギャアァンッ!!―

 

 

ヴェクタス『グアァッ?!グゥッ!!』

 

 

一方、ディケイドはキャンセラーの一撃が入りやすくなるようにキャンセラーをフォローし、キャンセラーは光を纏った刀を振るって確実にヴェクタスへとダメージを与えていた。キャンセラーの剣撃を受けたヴェクタスの身体は所々に皹が入り始め、既に全身の半分以上に皹が広がっている。

 

 

ヴェクタス『クッ!何故だ?!この身体は戦神の力を秘めた最強の身体の筈だ!なのに、何故こんな虫けら共に?!』

 

 

キャンセラー『他人の力にばかり頼って、卑怯な手段しか使わないお前には分からないさ!!』

 

 

ディケイド『これがお前が嘲笑った、人の絆と思いの力だ……ヴェクタス。人の想いを甘く見過ぎたのが、お前の敗因だ!』

 

 

ヴェクタス『ッ!!ほざくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

ディケイドとキャンセラーのその言葉に激怒したのか、ヴェクタスは力任せに剣を振るって巨大な衝撃波を放つが、ディケイドとキャンセラーはその場から飛び退いて何とか衝撃波を回避していく。

 

 

ディケイド『チッ…完全に見境がなくなってるか…』

 

 

キャンセラー『ッ……でも絶対倒して、母さんを助け出すよ……今は、父さんもついててくれるから!』

 

 

キャンセラーが力強い表情でそう呟いた瞬間、キャンセラーの刀を纏う光がそれに応えるように一瞬淡く輝いた。それと共に突然ディケイドの左腰にあるライドブッカーが勝手に開いて中から一枚の黄色いカードが飛び出し、ディケイドがそれを手に取った瞬間絵柄が消えていたカードにキャンセラーと黒いキャンセラーの絵柄が浮かび上がり、キャンセラーのファイナルフォームライドのカードとなっていったのだった。

 

 

ディケイド『……そうだな。なら、俺も力を貸そう』

 

 

ディケイドはそう言いながらバックルを開き、カードをディケイドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:CA・CA・CA・CANCELER!』

 

 

ディケイド『祐輔、ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

キャンセラー『…へ?え、ちょ、まさかっ?!』

 

 

ディケイドの言葉でなにかに気付いたキャンセラーは慌ててディケイドから離れようとするが、ディケイドは構わずキャンセラーに背を向けさせて頭を抑え、そして……

 

 

ディケイド『そら!』

 

 

―ガゴンッ!―

 

 

キャンセラー『うわぁ?!』

 

 

ディケイドはキャンセラーの頭を掴むとキャンセラーの頭をレバーのように後ろへと勢い良く引き、それと同時にキャンセラーの身体は徐々に変化して黒い鎧へと変化していき、ディケイドがキャンセラーの頭を元に戻すと、キャンセラーの頭は身体と同じ黒く染まった仮面となっていたのだった。そう、キャンセラーは自分のもう一つの姿…自身の内側に存在するもう一つの人格である祐闇を表へと出した『キャンセラーサイドダーク』へと超絶変形したのだった。

 

 

Dキャンセラー『痛ってぇ……首が曲がっちゃいけない方向に曲がったぞ今……って、何じゃこりゃ?!』

 

 

祐輔『ちょ、なにこれ?!どうなってんの?!』

 

 

ディケイド『これが、お前達二人の力だ』

 

 

超絶変形した自分達の姿に祐闇……ダークキャンセラーと祐輔は戸惑った様子を浮かべるが、ディケイドは冷静にそう言いながら目の前に向けていく。其処には苛立った様子で剣を振り回しながら近付いてくるヴェクタスの姿があった。

 

 

ヴェクタス『貴様等ぁ……どこまでも俺をコケにする気か!!』

 

 

ディケイド『フッ…なにを言ってる?今までの事を考えたら、まだまだ足りないぐらいだろう?さ、此処からがクライマックスだ……やれるか祐闇?』

 

 

Dキャンセラー『…ッ!…ヘッ、ったりめぇだ!今まで受けた借り、此処で全部きっちり返してやるよっ!いくぜぇ!!』

 

 

Dキャンセラーはそう意気込みながらディケイドに目を向け、ディケイドはそれに頷きながらライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:CA・CA・CA・CANCELER!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドとDキャンセラーが同じモーションで腰を屈めて身構えた瞬間、ディケイドとDキャンセラーが四人から六人、六人から九人へと次々と分身していき、遂にはヴェクタスの周りを埋め尽くす程の数にまで分身していったのだった。

 

 

ヴェクタス『こ、これは…?!』

 

 

『さぁ、これだけの数の攻撃……お前は何処まで耐え切れるかな?フッ!!』

 

 

―シュンッ……ズバァ!!ズバァ!!ズバズバズバズズバスバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバスバズバァッ!!!!!!―

 

 

ヴェクタス『ッ?!グッ!ウグアァッ?!グアァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

最初に二人のディケイドとDキャンセラーの斬り掛かってきた瞬間、それを合図だというように周りを囲むディケイドとDキャンセラー達が素早くヴェクタスへと斬り掛かってコンボを打ち込んでいき、まったく隙を見せない斬撃の嵐にヴェクタスの装甲も徐々に削れ始めていた。そして最後の二人が斬り掛かった瞬間、突如ヴェクタスの足元から魔法陳のようなものが展開されてヴェクタスの身体を拘束し、前方からディケイド、後方から光を纏った刀を構えるDキャンセラーが動きを封じられたヴェクタスへと向かってきていた。

 

 

ヴェクタス『ッ!クッ…!小賢しい真似を!!こんなモノで、この俺を捕らえられるとでも…!』

 

 

迫り来る二人を見たヴェクタスは咄嗟に全身に力を込め、動きを封じるこの陳を砕こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―………ブォン……パアァァァァァァァァアッ……―

 

 

ヴェクタス『……ッ?!な、何?!』

 

 

不意にヴェクタスの体から暖かな光が溢れ出し、陳を破壊しようとしたヴェクタスの動きを封じていったのだ。その光は間違いなく、あの公園でも自分の邪魔をした忌ま忌ましい光……

 

 

 

 

 

 

―……私がやられたままでいる訳ないでしょ……化け物さん……?―

 

 

 

 

ヴェクタス『ッ!!!この女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

ディケイド『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

Dキャンセラー『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ヴェクタス『?!グ、グ…グアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーアッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ディケイドとキャンセラーの必殺技……ディケイドキャンセルブレイクが見事に炸裂し、ヴェクタスは断末魔の悲鳴をあげながら爆発を起こして跡形もなく消滅していったのだった。それを確認したDキャンセラーはキャンセラーへと戻って慌ててヴェクタスが爆発した場所に視線を向けると、其処にはヴェクタスとの融合が無効化され、地面に横たわる佐知の姿があったのだった。

 

 

キャンセラー『ッ!母さん!』

 

 

佐知の姿を見たキャンセラーはすぐに変身を解除して祐輔へと戻り、佐知の下へと駆け寄り身体を抱き起こしていく。

 

 

祐輔「母さん!母さん!!しっかりして!!」

 

 

佐知「………………ッ…………………ゆう………すけ………?」

 

 

祐輔「ッ!母さん…!良かった……無事だった……」

 

 

祐輔が必死に佐知の身体を揺さ振り呼び掛け続けると、佐知はおもむろに瞼を開いて漸く意識を取り戻したのである。それを見た祐輔はホッと胸を撫で下ろすが、佐知はそんな祐輔の顔を見上げながら複雑そうな顔を浮かべていた。

 

 

佐知「……そう……か……私……みんなに迷惑……掛けちゃったみたいね………ふふふ……何やってるのかしら……私は……」

 

 

祐輔「……母さん…」

 

 

佐知「……祐輔達を守る……つもりで戦った筈なのに……逆に助けられちゃって……死ぬ覚悟だってしていたのに……情けなく助けられた……ホント、元暗殺者が聞いて呆れる……ぶざまな姿だわ……」

 

 

祐輔「っ!違うよ母さん、それは…!」

 

 

祐輔に抱き抱えられる自分の姿を自嘲するように佐知は笑みを浮かべ、祐輔はそんな佐知に何かを告げようと口を開くが、其処へ変身を解除した零が怪我をした顔でゆっくりと二人の下へ歩み寄ってきた。

 

 

零「……其処まで気にする必要はないんじゃないか?今回の原因は全てあのライダーにあるんだ。アンタが其処まで思い詰める要素は何もないだろう……」

 

 

佐知「………要素なら充分あるわ………私が油断して身体を乗っ取られたせいで、貴方やフェイトちゃんにも……祐輔達にも酷い事をしたのよ…?守られなければいけない家族にまで手を出して……私なんかを助ける為に祐輔に迷惑を掛けてしまった……それを気にしないなんて無理があるじゃない……」

 

 

零「別にアンタ自身が俺達を傷付けた訳じゃないし、俺達だってアンタのせいだと非難する気もいない……ただアイツの力が色々と規格外だっただけだ……それに」

 

 

零は一度言葉を区切ると、祐輔の方を見た後深く息を吐きながら再び口を開いていく。

 

 

零「―――家族を守ってるのはアンタだけじゃない。祐輔やミナ達だって、家族を守る為に戦う事が出来る……今回だって、祐輔達はただ大事な母親と妹を助けようとしただけだ……」

 

 

佐知「…………」

 

 

零「アンタは祐輔にとって、この世界にたった一人しかいない母親……暗殺者としての自分を捨ててまで、祐輔を此処まで育て上げた立派な母親だ。どんな罪を背負っていようと、祐輔にとってそれに変わりはない………理由なんかそれだけでいいじゃないか。家族を助けるのに一々理由なんかつける必要はないし、それを迷惑だなんて思うわけもない……それが、家族の絆って奴じゃないのか?」

 

 

佐知「………甘いわね……ホントに甘い……私みたいな罪人にそんな言葉を掛けるようじゃ、この先の旅で早死にするわよ、貴方…」

 

 

零「……あぁ……自分でもそう思うよ。嫌に思うくらいに……だが、それでいいんだ」

 

 

自嘲するように笑いながら零はそう呟き、あの光景……あの遠い日の記憶で垣間見た少女の言葉を思い出していく。

 

 

零「―――どんなに甘いと言われようが……それが俺だから、な」

 

 

佐知「……はぁ……祐輔といい貴方といい……ホントに最近の子は非常になれない甘い子達しかいないのかしら……」

 

 

はっきりと告げた零に佐知は呆れたような溜め息を吐くが、すぐに苦笑いを浮かべながら祐輔の首に掛けられた和彦のカメラを眺めていく。

 

 

佐知「……全く、貴方達がそんなんじゃ先に逝く事も出来ないわね……このままあの人の所へ逝っても……なんで祐輔達を置いて来たんだって、多分怒られるだけだと思うし……まだ当分、和君の所へは逝けそうにないわ……」

 

 

祐輔「……母さん」

 

 

溜め息混じりで苦笑しながら呟いた佐知に祐輔も苦笑を浮かべ、二人は互いの手で和彦の形見であるカメラを大事そうに包み込んでいき、零は額に付いた汚れを手で拭いながら首に掛けたカメラを構え、二人のその姿をカメラに収めていったのだった。そして数分後、後から遅れて到着した閃華と姫華の手を借りて佐知を先にGreen Cafeへと運んでてもらい、零と祐輔はそれを見送ると翔達の下へと向かっていったのだった。

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑯

 

 

戦いが終わってから半日が経ち、翔達と合流した零と祐輔は皆と共にGreen Cafeへと戻ってきていた。先に佐知を店へと運んだ閃華と姫華達から佐知の容態を聞いた所、衰弱こそはしていたが命に別状はなく、数日も経てばいつもの生活に戻れるらしい。それを知った零達は安心し、店の中ではお礼として祐輔達が煎れてくれたコーヒーとケーキを貰った平行世界の皆がそれぞれ盛り上がっていた。(因みに閃華と姫華は佐知の看病の為に店の奥にいる)

 

 

祐輔「ホントにいろいろ助かったよ、コレも零さんやみんなのお陰だ」

 

 

零「いや……元を辿れば、俺の問題にお前や佐知さん達を巻き込んでしまったんだ……それに俺のせいで皆にも迷惑掛けたし……俺には礼を言われる権利なんてない」

 

 

祐輔「…でも、そんな怪我してまで母さんやヴィヴィオを助けてくれたじゃない。それに今回の件は零さんが原因ってわけじゃないんだから、あんまり気にする事ないと思う」

 

 

ミナ「そうですよ。零さんや皆さんがいたから今回の事件も解決出来たんだし、私達も零さんにはホントに感謝してます」

 

 

フェイト「二人の言う通りだよ。だから、零がそんな責任を感じる必要なんてないと思う」

 

 

零「……そう言ってくれるなら、俺も少しは気が楽になるが……」

 

 

祐輔達の言葉に零は苦笑いを浮かべながら珈琲を手に取って口へと運び、珈琲のカップをテーブルの上に置くと背後へと振り返っていく。其処には……

 

 

 

 

雷「……ん、やっぱり祐輔の煎れてくれた珈琲は最高だな」

 

 

雄介「フ、当然であろう?なにせこの我の舌が認めた珈琲なのだ。旨いに決まっている」

 

 

響「いや、なんでお前が威張るんだよ�」

 

 

煉「だが確かに、戦いが終わった後に飲む珈琲はまた格別だな」

 

 

なのは(雄介)「すみませ~ん!珈琲のお代わり下さ~い♪」

 

 

ノーヴェ(雄介)「アタシはケーキのお代わりな~!」

 

 

ユウ「はいはい!ちょっと待ってて下さいね!�」

 

 

なのは(幸村)「はい、ユキくんあ~ん♪」

 

 

幸村「あ~………ん。ほらなのは、あ~ん」

 

 

なのは(幸村)「うん♪あ~ん♪」

 

 

翔「……ユウ、俺にも珈琲を頼む……」

 

 

皇牙「俺にも頼む……とびっきりの苦い奴な……」

 

 

ウェンディ(祐輔)「ア、アハハハ…�」

 

 

菫「……はいこれ……カップケーキ……持ってきた……」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「わぁ~、ありがとう菫ちゃん♪あ、ハネジローも来てくれたんだ~♪」

 

 

ハネジロー『パムー♪』

 

 

―パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャッ―

 

 

稟「いいぞ菫!!友達の為にケーキを作ってあげるその優しさ!!流石は父さんの娘だ!!」

 

 

煌一「……相変わらずの親バカだな、お前も�」

 

 

 

 

其処にはそれぞれテーブルに着いて祐輔達が煎れてくれた珈琲やケーキを食べながら盛り上がり、穏やかな雰囲気を漂わせる平行世界のメンバー達の姿があったのだ。零はそんなメンバー達の様子を見て微笑を浮かべながらゆっくりと口を開いていく。

 

 

零「……やっぱり、この店にはこの空気が合っているな」

 

 

フェイト「うん……とても平凡で、それでいて物凄く安心出来る」

 

 

祐輔「そんな大した物じゃないよ�……でも確かに、こういう雰囲気の方がウチらしいよね」

 

 

ミナ「うん。やっぱりウチは、こういう平凡さの方が一番らしくてシックリ来る……ホント、守れて良かったって思える」

 

 

戦いとは掛け離れ、平凡で穏やかな雰囲気が流れる店内の様子に自然と微笑みを漏らしていく零達。そんな時、メンバー達の様子を見ていた祐輔が不意に何かを思い出したようにエプロンのポケットから何かを包み込んだ一枚の紙切れを取り出した。

 

 

祐輔「そうだ……零さん、大輝さんからの預かり物があるんだけど?」

 

 

零「…?海道から?」

 

 

祐輔「そ、なんか大切な物だから必ず渡してくれって言われたんだけど……」

 

 

そう言って祐輔は紙切れを零へと渡していき、それを受け取った零は不思議そうに紙を眺めた後紙を開き、フェイトも隣から紙の中を覗き込んでいく。其処には……

 

 

フェイト「…ッ?!こ、これって……」

 

 

零「…………アル……ティ…………?」

 

 

AT『―――――』

 

 

そう、紙の中に入っていた物とは、零が滅びの現象で滅びかけている元の世界へと置いてきてしまった自身のデバイス………アルティだったのだ。それを見た零とフェイトは信じられない物を見たような表情を浮かべてしまうが、アルティを包み込んでいた紙に何かが書かれている事に気付いてそれに目を通していく。

 

 

 

 

―君の大事な相棒は返しておくよ、これ以上邪魔されたら面倒だからね。せいぜい相棒の力を借りて自分に負けないように頑張りたまえよ?ナマコもまだ食べられないんだからね♪―

 

 

 

 

零「……海道の奴……何処までも人を馬鹿にする気か�」

 

 

フェイト「お、落ち着いて零!�今はそれより、アルティを…!」

 

 

零「ッ!そうだ……おい!聞こえるかアルティ?!アルティ!!」

 

 

AT『――――』

 

 

零はアルティを手に取って何度もアルティへと呼び掛けていくが、アルティからは何の返事も返ってこず、AIが起動している様子すら見られなかった。

 

 

零「ッ……やっぱりダメか……」

 

 

フェイト「…もしかして、バルディッシュやレイジングハートみたいに……アルティも……?」

 

 

零「……かもしれんな……クソッ……やっぱり俺達の世界を救うしか、アルティ達を目覚めさせる方法はないみたいだなっ……祐輔、海道はお前にコレを渡した後どうした?」

 

 

祐輔「…?大輝さんならそれを預けた後、次の世界に向かうとか言って出ていっちゃったけど…」

 

 

零「……そうか……海道の奴、次に会った時にはこれを何処で手に入れたか聞き出してやるっ……」

 

 

そう言って零はAIが起動しなくなったアルティを握り締めながら唇を噛み締め、アルティを首に掛け服の中へと仕舞うとフェイトと共に椅子からゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

ミナ「?もう行っちゃうんですか?」

 

 

零「あぁ、先を急がないといけない用が出来てしまったからな…………そうだ、祐輔?ちょっといいか?」

 

 

祐輔「?何ですか?」

 

 

何か思い出したように声をあげた零に祐輔は疑問符を浮かべ、零はフェイトに見えないようにポケットから取り出したライドブッカーを開き、中から数枚の黒いカードの束……公園で因子の力が暴走した時に手に入れたワールドエンドライドのカードを取り出し祐輔に手渡していく。

 

 

祐輔「…これは?」

 

 

零「お前にこれを預かってて欲しいんだ。このカードの力は危険すぎる……俺が持っていれば、また何時か暴走した時に使ってしまう恐れがある。だからこれは、お前が持っていてくれれば安心出来る……頼まれてくれるか?」

 

 

祐輔「……分かりました。じゃあこれは、責任を持って預かっておくよ」

 

 

零「あぁ、助かる」

 

 

カードを預かってくれると告げた祐輔に零は安心したように一息吐き、椅子に掛けておいた自身のコートと祐輔達からもらった写真館で待つメンバー達の分のケーキが入った箱を手に取っていく。

 

 

零「……じゃあ、そろそろ行くとするか」

 

 

祐輔「零さん、今回はホントにありがとうね」

 

 

零「いいや、気にするな。俺はただ……気軽に愚痴を言いに来れる場所を守っただけだけだ」

 

 

ミナ「あはは…�フェイトさん、OHANASHIする前にちゃんと零さんの話も聞いてあげてくださいよ?」

 

 

フェイト「うっ……気をつけます�」

 

 

店を出る前にそんな会話を行い、零とフェイトは他の皆に一声掛けてから店を後にし写真館へと戻っていった。その道中、祐輔に何を渡したのかとフェイトから質問攻めされ、零は何とか話をごまかしながら写真館へと戻ったのである。そしてGreen Cafeでは……

 

 

祐輔「……あれ?」

 

 

ミナ「?どうしたの祐輔?」

 

 

祐輔「うん……なんか大事な事忘れているような気がするんだけど……何だっけ?」

 

 

ケーキのお代わりを用意している最中、祐輔は何か零に聞かなければいけない事があったようなことを思い出し首を傾げるが、取りあえず今はケーキを運ばなければいけないと思いケーキを運んでいったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

Green Cafeを後にし、写真館へと戻ってきた零とフェイト。そしてリビングでは、和彦のカメラを互いの手で包む祐輔と佐知が写った写真を見て微笑みを浮かべる優矢達の姿があった。

 

 

栄次郎「ほぉ……親と子の写真かぁ、良く撮れているじゃないか?」

 

 

優矢「ですね。それにこれでまた、この世界も平凡な日常を取り戻せたんだし♪」

 

 

スバル「うんうん♪私も一瞬、あそこのケーキがもう食べられないんじゃないかってヒヤヒヤしてたからね。ホントに良かったよぉ~♪」

 

 

ティアナ「…ハァ、アンタ結局食べ物の心配しかしてなかったわけね……」

 

 

スバル「え?…って!そ、そんなわけないじゃん!?ちゃんと祐輔さん達の事も心配してたよ?!�」

 

 

ティアナ「『も』って事はついで程度にしか考えてなかったって訳でしょ?全くアンタって奴は……」

 

 

ティアナは呆れたように溜め息を吐きながらテーブルに腰を掛けていき、スバルも両手を振りながら慌てて弁明しようとティアナへと詰め寄っていく。優矢はそんな二人に相変わらず仲がいいなぁ~っと思いながら栄次郎を手伝うように写真をアルバムへと仕舞っていき、写真を見ていたギンガとシャマルはその中の数枚を手に取りながら口を開いていく。

 

 

ギンガ「でも、本当に何者だったんでしょう?その前の世界にも現れたライダー達って……」

 

 

シャマル「今回の世界にも現れたとなると……もしかして、彼等もライダーの世界を旅してるのかしら?」

 

 

シグナム「……いや、そうとは言い切れんな。私達の周りをコソコソ嗅ぎ回っている辺り、奴らの目的は別にあるのかもしれん」

 

 

ティアナ「?別の目的って……どういう意味ですか?」

 

 

ヴィータ「……確証がないから断言は出来ねぇが……もしかしたら奴等は、アタシ等の旅を邪魔しようとしてんのかもしれねぇって訳だ」

 

 

スバル「邪魔って…世界の崩壊を止める事をですか?」

 

 

優矢「まさか、それを邪魔して何か意味でもあるんですか?世界を救う邪魔したって、アイツ等に得なんてないんじゃ……」

 

 

ザフィーラ「かもしれないが、そうではないかもしれないな。我々が世界を救う邪魔すれば、奴等に何らかの利益を与える事になるのかもしれん……或は、我々が奴らの目的に関係する何かを持っているのか……」

 

 

優矢「それが何のか定かではないってわけか……何か歯痒いなぁ�なぁ零、お前はどう思…………う?」

 

 

どんなに考えても納得出来る考えが纏まらない優矢は零の意見も聞こうとするが、零の方へ振り返った瞬間そこにあった光景を目にして固まってしまった。何故なら其処には……

 

 

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ…!!―

 

 

なのは「…………」

 

 

はやて「…………」

 

 

零「…………………」

 

 

フェイト「…………�」

 

 

 

 

……何故か背後に阿修羅を浮かべ、目の前で正座する零を冷たい視線で見下ろすなのはとはやて、そしてその間には椅子に座って苦笑を浮かべるフェイトの姿があったのだった。

 

 

零「…………あの、何故俺は帰ってきていきなり正座なんかさせられているんでしょうか……?」

 

 

はやて「……何故?自分の胸に手ぇ当ててよう考えてみい…?」

 

 

零「……いや、全く身に覚えにないから聞いているんだが……」

 

 

なのは「ふーん……じゃあ聞くけど……零君、さっき部屋でフェイトちゃんと二人でいた時……一体何してたの?」

 

 

零「…?何って、フェイトに看病してもらってただけだぞ?それ以外にはなにもない」

 

 

はやて「なにもない…か。そやったら、コレは一体何やろうなぁ?」

 

 

零の返答を聞いたはやては片繭を器用に動かしながら胸ポケットから一枚の写真のようなものを取り出し、零の前に突き出した。

 

 

フェイト「……Σあっ?!」

 

 

零「………あっ……」

 

 

はやて「何にもないなら、何でこないな状況になってもうたんか………詳しく聞かせてもらいたいんやけどなぁ?」

 

 

はやてが突き出した写真、其処には……零とフェイトの二人がベッドの上で抱き合う姿が写し出されていたのである。それを見た零は口を開いて唖然とし、フェイトは顔を真っ赤にしながら慌ててはやての手から写真を奪い、はやてとなのはは二人のその様子を見て更に目付きを鋭くさせた。

 

 

フェイト「な、ななななな何で?!///どうして二人がこの写真持ってるの?!///」

 

 

なのは「二人が帰ってくる前に大輝君とルミナちゃんが訪ねて来てね……面白い写真があるからってそれをくれたんだよ」

 

 

零「……ハ、ハハハハ……そうか………アイツッ……また面白半分で人を嵌めやがったのか……というかいつの間にこんなものを盗み撮ったんだ……」

 

 

また余計な事をしてくれたなと頭の中で爽やかに笑う大輝の顔を思い浮かべ、零は軽く殺気を覚えていた。

 

 

はやて「さぁて……詳しく聞かせてもらおうか?若い【男女】が部屋で二人きり、【ベッドの上で抱き合って】何をしてたんかな?」

 

 

零「いや、何をしてたって………………」

 

 

ジト目で睨みつけてくるはやての問いを受けた零は顎に手を添えながら暫く思考に浸っていく。そして暫く時間を掛け、漸く零は考えが纏まった表情で顔をあげて二人を見つめながら……

 

 

 

 

 

 

零「――俺はただ、フェイトを(心配させてしまったから慰めようと)抱いただけだぞ?」

 

 

 

 

―ピシィッ!!!―

 

 

 

 

『ΣΣブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!?』

 

 

 

 

フェイト「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ?!!////」

 

 

 

 

零のその一言で二人の空気に皹が入り始め、フェイトは耳まで真っ赤になりながら奇声をあげ、他のメンバーは口に含んでいた珈琲を一斉に吹き出してしまったのだった。

 

 

なのは「……へ、へぇ……そうなんだ……零君とフェイトちゃん……私達の知らないところで大人の階段登っちゃったんだ……?」

 

 

零「む?むぅ………うん、お互い(の気持ちが分かって精神的にまた一歩大人になれた気がするし)良い感じに登れたな」

 

 

―ピシィッ!!!―

 

 

零のその一言で、またもや皹が入ってしまった二人の空気。気のせいか、何故か風もないのに二人の後ろ髪がユラユラと揺れているように見える。

 

 

はやて「そうかそうか……良かったなぁ零君?どやった?フェイトちゃんの胸、中々良かったやろぉ♪」

 

 

フェイト「は、はやて?!///」

 

 

零「ん?……あぁ、(抱き締めた時に少し当たっただけだったが)思ったよりも柔らかかったぞ?」

 

 

フェイト「なっ…?!///」

 

 

―……ブチィッ!!―

 

 

……はい。こうしてまたも懲りもせず、血の雨フラグを立たせた我等の主人公君なのでした……

 

 

―ガッ!!―

 

 

零「………おう?」

 

 

なのは「うふふふ………良かったねぇ零君?フェイトちゃんにいっぱい良い思いさせてもらって♪」

 

 

はやて「その辺の話をじっくり聞かせてもらおうか♪奥で、私等だけで、ゆっくりと♪」

 

 

零「は?奥でって……ん?あれ?なんだそのベルト?なんだそのシュベルトクロイツにそっくりな模造品?あ、また殺る気?殺る気なのか?そうかそうかハハハハハハハハハハッ…………ΣΣ誰かコイツ等を止めてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!?」

 

 

素晴らしいエガオを浮かべる二人に写真館の奥へと連れられていく際、零は悲痛な叫び声をあげながら助けを求めるも結局は無駄に終わり、写真館の奥へと姿を消していったのだった。

 

 

優矢「………ハァ、アイツのアレって何時になったら直んのかな…?�」

 

 

シグナム「いいや、無駄な期待はしない方がいい……何せアイツは、十年間あの調子で今まで生きてきたのだからな……」

 

 

アギト「てか、よくアレで十年間生きてこられたよな?」

 

 

シャマル「私もずっと不思議に思ってるのよね………アレ全部致命傷のはずなのに�」

 

 

フェイト「わ、私が零に抱かっ……大人の階段……の……のぼっ……ぁ……ぁぅ……ぁぅぅぅぅ……///」

 

 

リイン「フェ、フェイトさん?!戻ってきてくださ~い!フェイトさ~ん?!�」

 

 

スバル「え、えぇっと……取りあえず早く次の世界に向かいましょう!ね?ね?」

 

 

耳まで真っ赤に染まった顔から湯気に出すフェイトを正気に戻そうとするリインを横目に、スバルは取りあえず場の雰囲気を変えようと背景ロールへと近づいてレバーを操作していく。そして……

 

 

―……ガチャッ!ガララララララッ…パアァァァァァァァァァアンッ―

 

 

新たな背景ロールが降りて淡い光を放ち、光が治まると、新たな背景ロールには一本の赤い東京タワーと天に向かって指差す右手が描かれていたのであった。果たして、次の世界で彼等を待つライダーとは…?

 

 

 



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第十四章/キャンセラーの世界⑰

 

 

同時刻、とある平行世界の謎の建造内・玉座の間……

 

 

 

裕司「―――以上が、この三人がキャンセラーの世界で行った作戦行動です」

 

 

終夜「……そうか…」

 

 

真也「…………」

 

 

恭平「…………」

 

 

麻衣「…………」

 

 

とある平行世界の建造物内にある玉座の間。其処では今、キャンセラーの世界から戻ってきた真也達が終夜の座る玉座の前に立っており、終夜は裕司が読み上げた報告書の内容を耳にして無表情を浮かべていた。

 

 

終夜「……キャンセラーとの戦闘に敗北し、データも殆ど取る事が出来ず、あまつさえNo.2のヴェクタスを置いて敵前逃亡……無効化の神の実力については眼中に入れていたとは言え、まさか組織の内の三人を向かわせた結果が……これとはな」

 

 

真也「ッ……ワリィ……俺がドジ踏んじまったせいでこうなっちまったんだ……本当にすまねぇ……」

 

 

裕司「謝って済む問題だと思っているのか…?作戦に失敗しただけでなく、お前は自分の正体に繋がる証拠を敵に見られたんだ………もしそれで我々の正体まで知られでもしたら、どうやって責任を取るつもりだっ?!」

 

 

真也「ッ……本当に……すまねぇ……」

 

 

怒りに満ちた目付きで睨みつけてくる裕司に真也もただ頭を下げるばかりであり、真也の後ろに立つ恭平と麻衣もどんな言い訳をするべきか思いつかず口を閉ざしていた。

 

 

裕司「ハァ……終夜、任務の一任を全て任せていたのはコイツです。処分はいかがしますか?」

 

 

恭平「!待ってくれ!責任なら俺らにだって「貴様は黙っていろ」クッ…!」

 

 

どのような処分を真也へと下すかと終夜に問う裕司に思わず抗議する恭平だが、裕司の冷たい一言でそれを口にする隙も与えられず口を閉ざしてしまう。そして終夜は無表情のまま恭平と麻衣を交互に見つめ、最後に真也を見て口を開いた。

 

 

終夜「――真也、何か言いたい事はあるか?」

 

 

真也「………今回の任務が失敗したのは俺のミスだ、この二人は関係ねぇ。処罰は俺だけで受けるよ……」

 

 

麻衣「真也…!」

 

 

終夜「……そうか……良い覚悟だ、ならば心置きなく告げよう。お前に下す処罰は『お待ちください、終夜氏』……ん?」

 

 

真也「……え?」

 

 

終夜が真也へと今回の処罰を下そうとした瞬間、突然それを遮るかのように扉の方から声が響き、其処から一人の人物……キャンセラーの世界にも幾度となく現れたクラウンがゆっくりと歩いてきたのであった。

 

 

真也「お前は…?!」

 

 

終夜「クラウンか……一体何用だ?こちらは今取り込み中だぞ」

 

 

クラウン『あぁ、それは大変失礼しました……ですが終夜氏、どうか真也氏への処罰は大目に見てあげてくれませんかね?』

 

 

『?!』

 

 

終夜「……随分といきなりな発言だな。どういう意味だ?」

 

 

真也への処罰を大目に見て欲しいと告げてきたクラウンに終夜は目を細めながらそう聞き返すと、クラウンは何処からかデータチップのような物を取り出し終夜へと投げ渡した。

 

 

終夜「……これは?」

 

 

クラウン『キャンセラーの世界で真也氏達と戦った時に得た祐輔氏の戦闘データですよ』

 

 

真也「なっ……」

 

 

終夜「ほぉ……わざわざこんな物を寄越して来るとは……一体何が望みだ?」

 

 

クラウン『いえいえ、ただ真也達への感謝の気持ちですよ。結果的に敗北したとは言え、我々ショッカーでも迂闊に手を出せない祐輔氏に深手を負わせ、更には戦闘データまで取らせてくれたのです。我々がそれを手に入れられたのは真也氏達の活躍のお陰ですから、どうか彼等を許してあげて下さい』

 

 

麻衣「……クラウン…」

 

 

クラウン『それに終夜氏?貴方の部下は今別々の任務でほとんどが出払っています。此処で部下の数を減らしてしまえば、今後の任務に支障をもたらしてしまうかもしれません……それは貴方にとってもマイナスになるのではないですか?』

 

 

裕司「ッ!図に乗るな道化ごときが!貴様に我々の事で口を出す権利など「いいだろう」…ッ?!終夜?!」

 

 

真也達を弁解するクラウンに裕司は咄嗟に食いかかろうとするが、終夜は落ち着いた様子でそれを遮ってしまう。

 

 

終夜「確かにこの状況で、メンバーの数を減らすのは余り宜しくはない……それで任務に支障が出てしまえば、今回のように失敗するケースが多くなる可能性もある……我々の任務は失敗が許されない任務が殆どだからな……クラウンの言葉にも一理ある……」

 

 

真也「しゅ、終夜……」

 

 

恭平「それって、もしかして…?」

 

 

終夜「…………その道化に感謝しろ。だが次に失敗した場合は、容赦はせんから覚悟しておけ……」

 

 

淡々とした口調でそう言うと終夜は玉座に背中を付けて座り込み、それと同時に恭平が気が抜けたように立ち尽くす真也へと抱き着き大いに喜んでいたのであった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数分後、玉座の間を後にしたクラウンは建造物内にある長い廊下を歩いていた。するとそんな時、クラウンが歩く廊下の先から一人の青年……真也が姿を現しクラウンの目の前に立ち止まった。

 

 

クラウン『…おや、真也氏ではありませんか?』

 

 

真也「……一体なんの真似だよ?俺を庇ったりするなんて……どういうつもりだ?」

 

 

クラウン『どういう、ですか……そうですね。強いていうならば、貴方方を気にいったから……ってところですね』

 

 

真也「……気にいった?」

 

 

クラウンの言葉に真也は訳が分からず首を傾げるが、クラウンは構わず更に続けて語り出す。

 

 

クラウン『貴方達は祐輔氏の世界のヴィヴィオ嬢を傷付ける事なく、命令違反だと分かっていながら彼女を解放した……そんな貴方達の情が気にいっただけですよ』

 

 

真也「……別に、俺はただ好き勝手にやっただけだ……そんな大それたもんじゃねぇし……そんな情なんてとっくの昔に捨てちまったよ……」

 

 

そう言って真也は何処か寂しげな表情を浮かべながら壁に背中を預け、何処からか水色のペンダントを取り出し中に入った写真を眺めていく。

 

 

クラウン『………妹さんの写真ですか』

 

 

真也「あぁ……瑠璃って言ってな……俺のたった一人の家族だ……」

 

 

クラウン『―――成る程。その妹さんが、貴方が組織に入った理由という訳ですか……零氏達と敵対してまで取り戻したいもの……』

 

 

水色のペンダントに入った写真に写る少女……瑠璃を見つめながらクラウンがそう呟くと、真也はペンダントを閉ざして仕舞い天井を見上げていく。

 

 

真也「…こういうのを等価交換って言うんかな……アイツ等との絆を保ったまま瑠璃を取り戻すなんて出来ない……だから、すべてを犠牲にしなければいけないんだ……俺にはアイツしかいないから……」

 

 

クラウン『友人達との絆より、たった一人の家族の為に…ですか。そんなことをしても、貴方は明るい未来を手に入れる事は出来ないのでは?』

 

 

真也「……俺はもう、未来なんて欲しくはねぇんだよ……ただ瑠璃を取り戻せればそれでいい。その為だったら、こんな命だってくれてやるさ……」

 

 

真也はそう言い残すとクラウンから背を向けてその場から去っていき、残されたクラウンは真也が去っていった方を見つめながら口を開いた。

 

 

クラウン『―――真也氏、貴方のその生き方は零氏達にも、妹さんにも悲しみを与えるだけです……ですが、全てを捨てる覚悟で戦う彼の意志は……生半可な物ではありませんね。悲しいくらいに』

 

 

クラウンはそう言うと真也が去っていった方とは逆の方向へと歩いていき、出現した歪みの壁を潜って何処かへと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

丁度同じ頃、キャンセラーの世界で決戦の地となった廃棄工場も夕暮れ色に染まり、普段から感じられない人気も完全になくなり静まり返っていた。しかし……

 

 

―……………………………………ザッ…………ザザッ……ザアァァァァァァァァァァァアッ―

 

 

工場の外のあっちこちに転がる何かのカケラのようなものが突然独りでに動き出し、そのまま一カ所に集まり出したのである。そしてカケラ達は独りで集まると赤い火花を巻き散しながら足、胴体、腕と人の形をしたなにかを形作っていき、最後に仮面のようなものを被った頭を再構築して完全に人の形を作り上げていったのだった。その正体は、先程この場所でディケイドとキャンセラーによって倒されたハズの人物……仮面ライダーヴェクタスだったのだ。

 

 

ヴェクタス『――――どうやら、僅かにストックを残しておいたのは正解だったようだな……まったく、俺も馬鹿な事をした物だ……自ら死期を早めるような事をするとは……』

 

 

そう言いながら身体の調子を確かめるように身体全体を軽く動かすヴェクタスだが、その雰囲気は先程までの狂気に満ちた物ではなく、何処か落ち着いた大人びた物へと変わっていた。

 

 

ヴェクタス『……『死の淵から蘇る事で、更なる力と思考を手に入れて成長する身体』……全く、能力を上げるには度々死ななければいけないなんて、あの女も面倒な身体に作ってくれたものだ』

 

 

誰かに向けてそう愚痴りながらヴェクタスは全身に力を込め、突然足元から溢れ出した闇で身体を包み込んでいってしまった。そして闇が晴れて完全に消え去ると、其処には鎧甲冑に似た禍々しい鎧と鋭い角のような装飾が施された黒い仮面、そして背中には身の丈を越える鎖を巻き付けた巨大な大剣が担がれていた。

 

 

ヴェクタス『―――これが新しい姿か……悪くはない……だが―――』

 

 

ヴェクタスは一度言葉を区切ると左手で背中に背負った大剣の柄を掴み、そのまま大剣を持ち上げると視界に入った工場に向けて軽く振るっていく。その時……

 

 

 

 

 

―……………ピシィッ……ドガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

大剣から放れたそよ風程度の風が工場に触れた瞬間、工場の建物全体に皹が入り始めそのまま音を立てて崩れ去っていったのである。

 

 

ヴェクタス『………やはりまだ、手に入れたばかりの力が身に染みていないようだな……慣れるには時間が掛かるか』

 

 

ヴェクタスは崩れた工場の後を他人事のように見つめながら大剣を背中に戻し、目の前に一枚の電子パネルを出現させた。其処には謎の建造物内にいる筈の青年……終夜の顔が映し出されいた。

 

 

終夜『――ヴェクタスか。もう身体の再生は終わったのか…?』

 

 

ヴェクタス『あぁ、お蔭様でな……以外と死んでみるのも悪くはない……まぁ、実際死んでいるのは俺ではなくストックの方だが』

 

 

終夜『そうか、それはなによりだ……だがお前の今回の行動は問題が多過ぎる。重要な目標にまで手に掛けようとしたみたいじゃないか』

 

 

ヴェクタス『あぁ……それについては素直に謝ろう。前の俺は感情的になり易い部分が多過ぎて問題があった……まぁ、人間で言えばまだ子供だったわけだから仕方がないさ』

 

 

軽く睨み付けてくる終夜にヴェクタスは肩を竦みながらそう言うと、終夜は軽く息を吐いた後再び語り出した。

 

 

終夜『まあいいだろう……お前と奴には因縁がある。そうなるかもしれないとは大体予想はついていた……それで、奴はどうだった?』

 

 

ヴェクタス『まずまず、といったところだな……力を一時的に解放した事で因子の覚醒が早まっているとは思うが、それはアイツ次第だろう』

 

 

終夜『―――成る程、暫くは様子を見ていた方が良さそうだな……今回の件が我々にとって吉と出るか凶と出るか、見極める為にも』

 

 

ヴェクタス『となると……暫くは奴等を放っておくのか?』

 

 

終夜『奴の因子の状態が確認出来なければやすやすとは動けない……奴等が九つの世界を回り切るまで様子を見た方がいいかもしれんからな。その時に奴自身にも何らかの変化が起きる可能性は高い。それにお前が送ってきたデータにあった内容…奴が【二つの因子】を所持しているという件も気になる』

 

 

ヴェクタス『その件については俺の方で調べておこう。お前達にはまだ揺り篭の改修とスカリエッティ一味の発見が残っているのだろう?』

 

 

終夜『……あぁ。揺り篭はまだ当分修復が完了しそうにないし、スカリエッティが持ち去ったアークキバットも回収せねばならない。やることはまだ山ほどあるからな……すまないが頼めるか?』

 

 

ヴェクタス『了解した……どうせまたストックを集めに他の平行世界を回らなければいけないからな。調べた情報については追ってそちらに連絡する。ではな』

 

 

そう言ってヴェクタスは通信を切ってパネルを消し、軽く首を鳴らしながらその場から歩き出していく。

 

 

ヴェクタス『……黒月 零、リィル・アルテスタ……何処までも俺の邪魔ばかりする奴らだ。お前達から受けた屈辱……必ず晴らしてやる……必ずな』

 

 

何処か怒りを含んだ口調でそう呟くと、ヴェクタスは目の前から現れた黒い歪みを潜って何処かへと消え、ヴェクタスがいなくなったその場には無惨にも崩れ去った工場の瓦礫が残されていたのだった。

 

 

 

 

 

 

第十四章/キャンセラーの世界END

 

 




謎の組織・人物一覧]
闇無 終夜 (アンム シュウヤ)


解説:『追跡者』と呼ばれる組織のトップ。数年前は零やなのは達と同じ同期生であり、零を親友として認めていた。性格はクールで何事にも動揺する事なく、自身が興味を示す事以外には冷めている。現在は自身と同じ中学時代の同期生を集めた組織を従い、ある目的の為に零の因子とヴィヴィオを狙っている。変身するライダーは仮面ライダーダークキバ。



仮面ライダーヴェクタス


解説:終夜が率いる組織に属するNo.2。残忍な性格をしており、目的の為ならどんな手も使う非情な部分を持っている。
過去の零と何らかの関係があるらしく、零を憎悪するような描写が見られる。
鎧甲冑に似た禍々しい鎧と鋭い角のような装飾が施された黒い仮面が特徴であり、普段からライダーの姿のままでいる。
攻撃してきた相手の必殺技を受ける事で技を吸収し、その能力を自分の物にすることが出来る。
更に体内には自身が取り込んだ様々な人間の命をストックとして持っており、例え倒されてもストックの数だけ蘇生してしまう能力が存在し、死の淵から蘇る事で更なる力を身につける。武器は背中に担いだ身の丈を越える鎖を巻き付けた巨大な大剣……『デトラインペルⅡ』



本条 裕司 (ホンジョウ ユウジ)


解説:組織に属するNo.3。零達と同じ中学に入学し、学年で一・二位を争う程の学力を持っていた。テストの際にはアリサと良く競い合っていた事もあったらしい。普段は誰も引き寄せないオーラを放ち、自分の意に従わないモノには決して容赦しない。変身するライダーは仮面ライダー幽汽。



荒井 真也(アライ シンヤ)


解説:組織のNo.6。零とは中学時代悪友だった青年。普段は陽気な性格をしているが、与えられた仕事を果たす為なら非情にすらなる部分がある。変身するライダーは仮面ライダーオーガ。



睦月 麻衣(ムツキ マイ)


解説:組織のNo.7。零達とは小学生の時に知り合い、その時に優しくしてくれたはやてを姉のように慕っていた。無口で表情の変化が乏しく感情表現が苦手。変身するライダーは仮面ライダーファム。



新藤 恭平 (シンドウ キョウヘイ)


解説:組織のNo.8。中学時代、零や真也達と悪友だった仲。好奇心旺盛でどんな事にも興味を示しては首を突っ込むが、実際は裏で終夜の傍に付くヴェクタスを密かに警戒している。現在はある目的の為に、終夜の率いる組織に所属している。変身するライダーは仮面ライダーアナザーアギト。



伊里野 綾(イリノ アヤ)


解説:組織に属する科学者。零達と同じく中学生時代の同級生であり、機械弄りが好きという事からすずかとは特別仲が良かったらしい。普段は建造物内の奥にある開発室に篭っているが、どうやら揺り篭と呼ばれる物の改修作業を行っているらしい。



他にもメンバーが存在するが、別任務で違う世界へと向かっているらしい。




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第十五章/カブト×コードギアスの世界

 

 

 

色々あったものの、何とか無事にキャンセラーの世界を旅立った零達一行。新たな世界に訪れた零達は前の世界での戦闘の疲労を癒す為、次の世界に訪れた初日は疲れた身体を休める為にそれぞれ自室で休むことにしていた。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

 

零「かー……くー……」

 

 

新たな世界に訪れた始めての朝。写真館にある一室では零が自室のベッドで静かに寝息を立てながら眠っていた。そんな零の自室の扉がゆっくりと開き、其処から一人の人物が現れベッドで眠る零に近づき顔を覗き込んでいく。

 

 

零「すぅ……すぅ……」

 

 

『ふむ……安らかに眠っていますね』

 

 

零の寝顔を眺める人物……滝の世界のダークライダーであるクラウンは微笑を浮かべ、零の左目を見つめながら口を開く。

 

 

クラウン『祐輔氏の世界で因子の力による暴走……少し心配しましたが……彼女の力で、なんとか治まりましたね……』

 

 

何処となく安心したようにクラウンはそう呟き、零の顔を見つめながら再び語り出す。

 

 

クラウン『まったく……因果なものですね……零氏が望もうが望むまいが彼は運命に巻き込まれて行く……『運命とは地獄の歯車である』……過去の偉人が言った事は馬鹿に出来ませんね。彼の運命は、まるで地獄の誰かが定めた様に彼を苦しめる……』

 

 

まるで遠くを見つめるように語りながらクラウンは懐から一枚のカードを取り出し、机の上に置いて有ったライドブッカーを手に取って開いていく。

 

 

クラウン『これは私からの選別です。アナタなら扱えるかも知れませんからね……昔の私の力を……』

 

 

クラウンはそう言ってライドブッカーに一枚のカード……『priest』と書かれたライダーカードを入れるとライドブッカーを机の上に戻し、そのまま踵を返して自室の扉を開いていく。

 

 

クラウン『…まあ、暫くは使えないカードでしょうがね……私自身が使えない力ですから……』

 

 

零の方に振り返って少し寂しそうに呟き、クラウンは零の部屋を出て扉を閉めていった。そして零の部屋を出た同時に……

 

 

 

 

 

なのは「――ッ?!な……なななっ!?」

 

 

優矢「クラウン!?」

 

 

クラウンが部屋を出たと共に丁度零を起こしにやって来たなのはと優矢とバッタリ鉢合わせ、零の部屋から出てきたクラウンに二人も驚愕して後退りした。

 

 

クラウン『しー、静かにして下さい。零氏が起きてしまいますよ?』

 

 

クラウンは指を口元に這わせてそう言うと、漸く正気を取り戻した優矢はクラウンを睨みつけながら身構えていく。

 

 

優矢「ショッカーが一体何の用だ?!」

 

 

クラウン『ですから、静かにして下さい。話は彼方で……』

 

 

 

クラウンはそう言って二人に手招きをすると下の階へと続く階段を下りていき、優矢となのはは一度顔を見合わせるとクラウンを追うように階段を下りていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

場所は変わって写真館のリビング。其処には椅子に腰掛けるクラウンと向き合い、警戒して身構える優矢となのはの姿があった。

 

 

優矢「それで、ショッカーが何の用なんだ?まさか零を狙って……」

 

 

クラウンと向き合った優矢は何時でもクウガに変身出来るように警戒心を全開にしながらそう問い掛けるが、クラウンは首を左右に振ってそれを否定した。

 

 

クラウン『いえ、違いますよ……そうですね……しいて言うなら、お見舞いですね』

 

 

なのは「……へ?」

 

 

クラウンの予想外な言葉になのはは思わず目を丸くしてポカンとした表情になり、隣に立つ優矢も唖然とした表情で固まっていた。そんな二人の反応にクラウンは微笑を浮かべ更に言葉を続ける。

 

 

クラウン『先日の祐輔氏の世界で零氏は暴走しましたからね。力の流出による副作用が零氏を蝕むと心配していたんですが……』

 

 

優矢「副作用!?そんなのが有るのか!?」

 

 

クラウン『えぇ、ですがご心配無く。特に副作用に苦しんでいる様子は見受けられませんでしたから、心配には及びません。(恐らく、彼女の力のお陰でしょうね)』

 

 

クラウンは二人を安心させるように告げると、ゆっくりと椅子から立ち上がっていく。

 

 

クラウン『さて、私はこれでお暇しますね。次の世界へ行かねばならないので……ああそれと、優矢氏にはコレを』

 

 

なにかを思い出したようにそう呟くとクラウンは何処からかに一枚の写真を取り出し、優矢へと渡していく。

 

 

優矢「?なんだよコレ――っ?!こ、これって……」

 

 

クラウンから渡された写真を怪訝そうに受け取ると、優矢はその写真を見て驚愕した。何故ならその写真とは優矢の世界の友人達……こなた、かがみ、つかさ、みゆきの四人が写っている写真だったのだ。

 

 

クラウン『優矢氏が突然居なくなったので心配していた様ですよ。ご友人は大切にした方がいいでしょう』

 

 

クラウンは驚愕した様子で写真を見つめる優矢にそう言うと、二人から背を向け写真館から出ようとするが……

 

 

なのは「あ、あの!」

 

 

写真館を出ようとしたクラウンをなのはが呼び止め、呼び止められたクラウンは頭上に疑問符を浮かべながら振り返っていく。

 

 

クラウン『何でしょうか、なのは嬢?』

 

 

なのは「あ、その……ありがとうございました」

 

 

質問してきたクラウンになのはは深く頭を下げて礼を言い、そんななのはの行動にクラウンは小首を傾げていく。

 

 

クラウン『おや?私は礼を言われる事をしましたか?』

 

 

なのは「………他の世界のライダーの人達から聞いたんです………祐輔君の世界で零君が暴走した時、最初に零君を止めてくれたのはクラウンさん……アナタだったって……」

 

 

クラウン『あぁ、それで私に礼を?……フフフ』

 

 

真剣な雰囲気で礼を告げたなのはにクラウンは思わず笑みを漏らし、クラウンに笑われたなのはは思わず頭を上げ恥ずかしそうにクラウンを睨んだ。

 

 

なのは「な、何が可笑しいんですか!?」

 

 

クラウン『フフ……いえ、幾ら止めたのが私とは言えど……まさか礼を言われるとは思わなかったので……失礼しました。零氏の件はお気になさらず……私としても、あの様な形で世界が消えるのは嫌だった物ですから』

 

 

クラウンは微笑を浮かべてそう言うとなのはから背を向けて写真館を出ていこうと歩き出すが、一度足を止めてなのは達の方へと顔を向け……

 

 

クラウン『ああそう言えば……私達が話している間に、すずか嬢が零氏の部屋に入った様です。今頃は……クスクス……』

 

 

なのは「え?――っ!!」

 

 

―ガタン!!バタバタバタバタッ……!!―

 

 

クラウンの言葉になのはは一瞬首を傾げるが、すぐにその意味に気づいて慌ててクラウンの横を通りすぎ零の部屋に向かっていった。

 

 

優矢「………………お前、解ってて言っただろ」

 

 

クラウン『クスクス…さて、なんの事でしょう?』

 

 

部屋から出ていったなのはに優矢は冷や汗を流しながらクラウンを見つめるが、クラウンは特に詫びれた様子もなく笑みを押し殺していた。すると其処へ、キッチンの奥から珈琲を乗せたお盆を持った栄次郎が奥から顔を出した。

 

 

栄次郎「あれ?クラウン君、もう帰っちゃうのかい?」

 

 

クラウン『えぇ、私も先を急ぐ用がありますからね。すみません栄次郎氏』

 

 

優矢「…………って、お前栄次郎さんと知り合いなのか?!」

 

 

クラウン『えぇ、栄次郎氏の煎れてくれる珈琲は一度飲むと癖になりますからね。時々貴方達が留守の時に足を運ばせてもらってます。さて、それでは巻き添えを食う前に私は失礼させて頂きます……栄次郎氏、今度来る時にはお土産をお持ちして来ますね』

 

 

栄次郎「はいよ、楽しみに待ってるからね」

 

 

栄次郎は笑みを浮かべながらそう言って手を振り、クラウンもそれに見送られて今度こそ写真館を出ていったのだった。

 

 

優矢「……何か、アイツの性格が良く分かんなくなってきたよ、俺�」

 

 

栄次郎「そうかな?私はクラウン君は良い人だと思うよ。良く美味いお酒を持ってウチに飲みにも来るし♪」

 

 

優矢「あ、そうなんスか……」

 

 

クラウンと意外な関係を持つ栄次郎に優矢も思わず苦笑いを漏らし、栄次郎が奥に戻ると先程クラウンから受け取ったこなた達の写真に視線を落としていく。

 

 

優矢「敵のくせに変な奴だったけど……今度会った時にはちゃんと礼を言っておかないとな……」

 

 

優矢は写真に写るこなた達を見つめながら静かに笑みを浮かべ、写真をポケットに仕舞い栄次郎の手伝いでもしようかとキッチンへと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに…………

 

 

 

トランス『零君のえっちスケベ変態!!!馬鹿ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!』

 

 

零「何故だッ?!俺はただすずかの胸がお前より大きかったという事実を言っただけであってそれ意外に他意はなぐわァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!?」

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

……クラウンが写真館から去ったと共に零の自室から桜色の閃光が撃ち出され、写真館内に青年の断末魔の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない……

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界①

 

 

クラウンが写真館を去ってから数時間後。シャマルの治療のお陰で漸く復活を果たした零は他のメンバーと共に写真館の外へと出て、この世界の街を眺めていた。

 

 

零「カブトの世界か………結構回り道はしたが、漸く八人目のライダーの世界にやって来れたな」

 

 

アギト「今まで回ってきた世界を外史ライダーの世界を除いて数えたら……此処と合わせてあと二つってとこだよな?」

 

 

フェイト「うん、この世界とあと一つの世界……それを回り切れば私達の世界は救われるってこと」

 

 

シグナム「つまり、あと少しでこの旅も終わるという事か……それはそうと黒月、私達のこの恰好は一体なんだ?」

 

 

漸くこの旅も終わりが近づいてきたと話す中で、シグナムは自分と零達の恰好を交互に見て思わず首を傾げていた。今回このカブトの世界を回るメンバーである零とフェイトとシグナムとアギトの現在の恰好は……ボディアーマーを身につけた全身黒のユニフォームのような服装と、アリの頭を思わせるような黒ずくめのヘルメットという良く分からない恰好になっていたのだった。

 

 

フェイト「何ていうか……今回は特別飛び抜けた恰好だよね�」

 

 

零「あー……全員の服装がこれって事は……あれか?滝の所のショッカーみたいにどっかの秘密組織の戦闘員でもやれって事か?」

 

 

アギト「うえ……もしそうならアタシは嫌だぞ�あんなのと同じ事するなんて…�」

 

 

シグナム「同感だな…」

 

 

ショッカーの戦闘員達の事を脳裏に思い出したアギトとシグナムはテンションが下がったように肩を竦め、それを言った本人である零も同じ事を想像したのか嫌そうな顔を浮かべていき、そんな三人の様子にフェイトは一人苦笑いを浮かべていた。その時……

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォ……キイィィィィッ!!―

 

 

シグナム「……む?」

 

 

フェイト「え?」

 

 

零「……何だ?」

 

 

四人の後ろからブレーキ音が響きそれを聞いた四人が背後に振り返ると、其処には一台の黒い大型車が四人の目の前で停まっていたのである。四人がそれを見て思わず不思議そうに小首を傾げていると、車の中から零達と同じ恰好をした茶髪の青年が現れ四人の下へと駆け寄ってきた。

 

 

「君達!ZECTの隊員がこんな所で何をしてるんだ?!」

 

 

シグナム「…ZECT?」

 

 

フェイト「隊員って…もしかして私達の事ですか?」

 

 

「?他に誰がいるんだ?とにかくホラ!早く乗って!」

 

 

アギト「お、おい!ちょっと?!」

 

 

零「……なんか、ブレイドの世界でも似たような事があった気がするな……」

 

 

茶髪の青年は有無言わせずといった感じに険しげに眉根を寄せる零と突然の展開に困惑するフェイト達を半ば強引に大型車へと乗せていき、そのまま四人を乗せた車は何処かへと走り去っていったのだった。そして車が去った後、光写真館の前では……

 

 

 

 

 

 

零?「………………」

 

 

 

 

 

 

零達と同じ黒ずくめの姿をし、零と全く瓜二つの顔をした人物が車が走り去った方向を見て笑みを浮かべていたのだった。そんな時、零達の様子を見に写真館から出て来たはやてとすずかが零?を見付けて近づいてきた。

 

 

すずか「れ、零君?今度は何、その恰好?」

 

 

零?「……さぁな?俺にも分からん」

 

 

はやて「うわぁ……今まで色んな恰好見て来たけど、此処まで個性的なんは始めてやね�」

 

 

そう言ってはやては物珍しそうに零?の服装を眺めていくが、そこである事に気付き辺りを見渡していく。

 

 

はやて「…あれ?そういえばフェイトちゃん達はどうしたん?一緒やないの?」

 

 

零?「あぁ、アイツ等ならその辺りを少し見てくるってどっかに行ったぞ。ま、ほっといてもその内帰ってくるだろ…」

 

 

『…?』

 

 

零?はそう言いながら軽い足取りで写真館へと入っていき、はやてとすずかはそんな零?から流れる雰囲気に若干違和感を感じて首を傾げるが、多分気のせいかと片付けて後を追うように写真館へと戻っていった。その影では……

 

 

 

 

 

 

鳴滝「――残る世界も少なくなってきた……だが今度こそ、このカブトの世界で!ディケイド、お前の旅は終わりを告げるだろう……フフフフッ……」

 

 

写真館の近くにあるカーブミラーの影で、キャンセラーの世界にも現れた鳴滝が不気味な笑みを浮かべながら静かに写真館を見つめていたのであった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから約数十分後、訳も聞かされぬまま四人が乗せられた大型車が漸く目的地と思われる港区に到着し、車が到着すると同時に四人と一緒に乗っていた黒ずくめの隊員と白ずくめの隊員……ゼクトルーパーとブライトルーパーの集団が一斉に車から降りて何処かへと向かっていき、零達も車から降りて隊員達の後を追い掛けていく。其処にあったのは……

 

 

 

 

 

 

「ひぃ?!な、何だよ?!止めろ!止めてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

零「…なッ?!」

 

 

フェイト「あ、あれは?!」

 

 

アギト「アイツ等っ…なにやってんだ?!」

 

 

其処にはなんと、隊員達が怯える一般人の男性を包囲し銃を突き付けているという光景があったのだった。フェイトとアギトはその光景に驚愕し、零とシグナムもそれに驚きつつもすぐに男性の下へと走り出し男性を庇うように隊員達と対峙していく。

 

 

『ッ?!お前達なんのつもりだ?!そこをどけ!』

 

 

シグナム「それはこちらの台詞だ!丸腰の一般人に銃を突き付けるなど、貴様等こそ何を考えてる?!」

 

 

『何を言ってるッ?!いいから早くそいつから離れろ!さもなければ…!』

 

 

零「全く、問答無用って訳か?なんでこんな事をするのか話くらい――――」

 

 

隊員達は男性を庇おうとする零とシグナムを退かそうに銃を付け、それを見た零は男性を庇うように立ちながら何故こんな事をするのか聞きだそうとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

『キシャアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

零「…ッ?!」

 

 

シグナム「何?!」

 

 

零とシグナムが庇っていた男性が突然緑色の身体を持つ異形へと変わっていき、二人へと襲い掛かってきたのであった。零とシグナムは突然のそれに驚きながらも異形の奇襲を避けながら地面を転がって距離を離していき、それと同時に隊員達が異形に向けて一斉射撃を開始していった。

 

 

アギト「シ、シグナム!!零!!無事か?!」

 

 

シグナム「ッ……あぁ……だが、コイツは一体…?」

 

 

零「――成る程……ワームか……」

 

 

フェイト「?ワーム…?」

 

 

零は目を細めて緑色の身体を持つ異形……ワームの名を呟き、フェイトはその名を聞いて思わずワームへと視線を向けていく。するとその時、隊員達の一斉射撃を受けていたワームの身体が突然赤く蒸発し出したかと思えば身体が砕けていき、その中から虫のような姿をした黒いワームが姿を現していった。

 

 

『クッ?!脱皮したぞ!』

 

 

『怯むな!迎撃を続けろ!撃てぇ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『グルルルゥ……グオォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

脱皮したワームに動揺しながらも銃撃を続ける隊員達だが、ワームはそんな攻撃にビクともせず、隊員達へと襲い掛かり殴り飛ばしていってしまう。そんな中、零達が乗ってきた大型車から右目に眼帯を身につけた青年と先程零達を無理矢理車に押し込んで連れてきた茶髪の青年が現れ、隊員達を襲うワームを見て険しい表情を浮かべていく。

 

 

「成虫体に脱皮した…!」

 

 

「……仕方ない。いくぞ、スザク」

 

 

スザク「ッ!あぁ、いこうルルーシュ」

 

 

眼帯をつけた青年……ルルーシュがスザクと呼ばれた茶髪の青年と共にワームへと向かっていくと、ワームに近づいていく二人の下にスズメバチとクワガタの姿をした黄色と青の機械……ザビーゼクターとガタックゼクターが上空から飛来し、二人はそれをキャッチして構えていく。そして……

 

 

ルルーシュ「変身ッ!」

 

 

スザク「変身ッ!」

 

 

『Henshin!』

 

『Henshin!』

 

 

ルルーシュとスザクが腕と腰に装着したブレスレットとベルトにゼクターをセットすると電子音声が響き、それと同時に二人は徐々にその姿を変えていった。ルルーシュは蜂の巣を模した複眼に黄色と銀色の装甲を纏ったライダー、スザクは両肩にバルカンを装備した青と銀色の装甲を身に付けたライダー……『ザビー』と『ガタック』へと変身し、変身を完了すると同時に二人はそれぞれのゼクターウィングとホーンを回転させていく。

 

 

『キャストオフッ!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Cast Off!』

 

 

電子音声が響くと共に二人が身に纏う装甲……マスクドアーマーが微かに浮き、次の瞬間マスクドアーマーが勢いよく弾け飛び、装甲の下に隠された別の姿へと変わっていった。

 

 

『Change Wasp!』

 

『Change Stag Beetle!』

 

 

アーマーをパージした直後に鳴り響いた電子音声と共に、ザビーはスズメバチをモチーフにした黒と黄色を基礎とした姿、ガタックはクワガタをモチーフにした青いボディと両肩に二本の曲剣を装備した赤い複眼の姿……マスクドフォームからザビー・ライダーフォームとガタック・ライダーフォームへと変わっていったのである。

 

 

アギト「ッ?!な、なんだありゃ?!」

 

 

フェイト「ッ!あの人……確かさっきの…?」

 

 

零「……成る程……マスクドライダーシステム…か」

 

 

ザビーとガタックがパージしたマスクドアーマーを避けながらフェイト達がそれぞれ反応する中、零は静かに呟きながらカメラを構えザビーとガタックの写真を撮影していく。がその時、変身したザビーとガタックを見たワームは隊員達を殴り飛ばし、突如信じられないスピードでザビー達へと突っ込んできた。

 

 

ガタックR『ッ!ルルーシュ!』

 

 

ザビーR『あぁ!』

 

 

『クロックアップ!』

 

 

『Clock Up!』

 

『Clock Up!』

 

 

二人が同時に叫ぶと電子音声が響き、それと共に零達や上空へと吹っ飛ばされた隊員達の動きがまるでスローモーションのように流れ始めた。そして超高速移動……クロックアップを発動させたザビーとガタックはクロックアップ空間を素早く駆け抜けてワームに突っ込んでいくが、二人の繰り出す攻撃は全てワームには通じずただ攻撃が跳ね返されるだけであり、逆にカウンターを喰らわされ圧されてしまっていた。

 

 

『グルアァッ!!』

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!ガギャアンッ!!―

 

 

ザビーR『ガハアァッ!!』

 

 

ガタックR『グアァッ!!』

 

 

『Clock Over!』

 

 

ワームの猛攻撃に圧されてザビーとガタックは吹っ飛ばされ地面を転がり、そのショックでクロックアップの効果が切れてしまった。それと共にゆっくりと流れていた時間の流れも元へと戻り、上空で止まっていた隊員達も次々と零達の目の前に落下していった。

 

 

シグナム「ッ?!今のは…?」

 

 

フェイト「もしかして今の…クロックアップ?!」

 

 

零「どうやらそのようだな…だが、驚いてる暇はなさそうだぞ!」

 

 

落下してきた隊員達を見て驚愕するフェイト達にそう告げると、零は目の前へと目を向けていく。其処には地面に倒れるザビーとガタックにトドメを刺そうと歩み寄るワームの姿があり、それを見た零とシグナムはすぐにディケイドライバーとKウォッチを取り出して変身しようとする。がその時……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギィッ!ガギィッ!ガギィンッ!!―

 

 

『…ッ?!グボォッ?!ギギャアァッ!!』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

零「ッ!…何だ?」

 

 

突如何処からか信じられないスピードで動く赤い閃光がその場に現れ、ザビーとガタックに襲いかかろうとしたワームに何度も激突し吹っ飛ばしていったのだ。突然のそれに零とシグナムは驚き思わず変身を止めてしまうが、ザビーはすぐに立ち上がり、左腕のザビーゼクターのニードル上部のボタンを押しながら叫ぶ。

 

 

ザビーR『ライダースティングッ!』

 

 

『Rider Sting!』

 

 

電子音声が響くと同時にザビーの左腕にセットされたザビーゼクターのニードルにありったけのエネルギーが込められていき、ザビーはワームに向かって突っ込み左腕を振り上げ、そして……

 

 

ザビーR『ハアァッ!!』

 

 

―ドシュウゥンッ!!―

 

 

『ッ?!ガ、ガギャアァァァァァァァァァアーーーーーーーッ!!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ザビーの必殺技、ライダースティングが地面に倒れるワームの胸に突き刺さり、ワームは断末魔と共に爆発し跡形もなく消滅していったのだった。そしてワームの消滅を確認したザビーとガタックは変身を解除すると、何かを探すかのように辺りを見渡していく。

 

 

スザク「……今のは……」

 

 

『……カ、カブト…?』

 

 

『カブトだ……』

 

 

『カブトが……カブトが出たんだ……』

 

 

シグナム「…カブト?」

 

 

フェイト「カブトって……確かこの世界の仮面ライダーっていう?」

 

 

零「…………」

 

 

先程現れた赤い閃光がこの世界の仮面ライダーであるカブトだと告げる隊員達にフェイト達も思わず辺りを見渡していくが、零は目を細めてある人物……カブトに危機を助けられたにも関わらず、何故かカブトの名を聞いて怒りの表情を浮かべるルルーシュを見つめていた。

 

 

ルルーシュ「……カブトめ……撤収するぞ!」

 

 

『…ッ!ハッ!』

 

 

スザク「……あ、あぁ…」

 

 

ルルーシュは隊員達に撤収するように指示を出すと車へと向かっていき、スザクも何度か辺りを見渡した後他の隊員達と共に引き上げようと歩き出すが、零が後ろからスザクの肩を掴みそれを引き止めていった。

 

 

スザク「ッ!……君達は……確かさっきの…?」

 

 

零「今のがカブトか?それにクロックアップシステム……あれは元々、お前達が開発した物なんだよな?」

 

 

スザク「?君達……まさかZECTの隊員じゃないのか?」

 

 

アギト「まあーな。だから色々聞かせて欲しいんだよ、この世界の事とかさ」

 

 

スザク「……は?」

 

 

アギトがそう言うと零達も同意の意味を込めて頷いていき、スザクはこの世界や先程現れたカブトについて教えて欲しいと告げる四人の言葉の意味がよく分からず、怪訝そうに首を傾げていたのだった。

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界②

 

 

そして約一時間後、スザクを連れて写真館へと戻ってきた零達は互いに軽く自己紹介を済ませた後、スザクに自分達の事について説明をしていた。

 

 

スザク「……別の世界から来た?」

 

 

はやて「はい、私等は色んな世界を旅してるんです。世界を救う為に」

 

 

優矢「だから、この世界について教えて欲しいんです。少しでもこの世界の情報が欲しいから」

 

 

はやて達から事情を聞いたスザクは信じられないといった表情ではやて達を見つめるが、真剣な表情を浮かべるはやて達が嘘を言っているように思えず、一度何かを考えるように間を置くとこの世界について語り出した。

 

 

スザク「……僕達の世界には、ワームという生命体が存在するんだ」

 

 

フェイト「ワームって……さっき貴方達が戦っていた怪物の事ですか?」

 

 

スザク「そう。そしてワームには厄介な能力があり、人間に擬態する力を持っているんだ」

 

 

ヴィータ「擬態…?」

 

 

ワームは人間に擬態する。その言葉の意味が良く分からない一同は疑問そうに小首を傾げ、スザクはそれに苦笑を浮かべるとすぐに険しげな表情を浮かべながらその意味を語り出した。

 

 

スザク「簡単に説明すると、奴らは適当な人間を選んでは姿形や記憶までもコピーし、その人間に成り代わって日常生活に溶け込むんだ……擬態した人間を影で殺してね」

 

 

険しげにワームについて語るスザクになのは達も思わず息を拒んでしまう。人間に擬態してその人間を影で殺し、擬態した人間に成り代わって人間社会に溶け込む。そんな不気味な存在が今もこの世界の街を何食わぬ顔で歩き回ってるのだと想像した一同は一瞬寒気を感じて身震いをするが、零は特に気にした様子もなくこの世界で撮った写真をテーブルに並べていく。

 

 

零「成る程な……だがもしそんなのに出会ったとしても、さっさと倒してしまえば問題はないだろう?」

 

 

零?「あぁ、例えワームに擬態されたとしても倒してしまえば話は簡単だろ」

 

 

シグナム「しかし、どうやってその擬態したワームを見分けるつもりだ?倒すにしても、向こうから来てもらわなければ話にならんだろう?」

 

 

すずか「うん、話を聞いた限りそう簡単にはいかなそうだもんね……………………………………あれ?」

 

 

ワームについての対抗策を考えていた中、一同はその会話の中である違和感を感じて頭上に疑問符を浮かべていき、ゆっくりと零の方へと顔を向けていく。其処には…………

 

 

 

 

 

 

 

 

零「む……これを少し写りが悪いな」

 

 

零?「こっちもだ……少しピンぼけしてしまってるぞ」

 

 

 

 

 

 

…………何故か、"二人"の零がテーブルに並べられた写りの良い写真と悪い写真を分けている姿があったのだった。

 

 

ノーヴェ「…………なぁ気のせいか?あたしの目には零が二人いるように見えんだけど……」

 

 

ディエチ「うん、私にも見える……」

 

 

スバル「えっと……もしかして、疲れてるのかな?」

 

 

優矢「……あ、そういえば……確かワームは人に擬態してそっくりな姿になる……って言ってたよな?」

 

 

はやて「…あぁ!そんならアレはワームが零君に擬態してるっちゅう事やな♪」

 

 

なのは「あっ、なぁんだ♪ワームだったんだぁ♪」

 

 

『アッハハハハハハハァッ♪』

 

 

 

 

 

 

……………………

 

……………

 

………

 

 

 

 

 

 

『―――ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!?』

 

 

言葉に出して漸く目の前の事態を理解した一同は勢いよく"二人の零"へと顔を向け、それを聞いた零と零?は互いを睨みつけていく。

 

 

零「そういう事か……何か変だと思ったら……お前、ワームだな?」

 

 

零?「ハッ、何言ってる?お前こそワームだろう?」

 

 

零「誰がワームだ!お前がワームだろう!」

 

 

優矢「ちょ、どっちがワームなんだよ?!」

 

 

ティアナ「ス、スザクさん!ワームと本物を見分ける方法は?!」

 

 

スザク「ッ……ごめん……僕にもそれは分からないんだ……」

 

 

フェイト「そんな?!」

 

 

どっちが本物の零でワームなのか見分ける方法がないと言われ、なのは達は思わず頭を抱えて動揺を浮かべてしまう。そしてその間にも零と零?は互いから距離を離し、今にもぶつかり合いそうな雰囲気を漂わせていた。

 

 

零?「上等だ……どっちが本物か此処でハッキリさせようじゃないか!」

 

 

零「いいだろう……俺に成り代わろうとした事を後悔させてやる!」

 

 

優矢「ま、待てって!こんなとこでやり合ったら写真館が目茶苦茶になるだろう?!」

 

 

セイン「そ、そうだよっ!此処は一旦落ち着いて冷静に…!」

 

 

ギンガ「で、でもどうするんですか?!なんとかして零さんとワームを見分けないと…!」

 

 

チンク「見分ける方法……と言われてもな……」

 

 

優矢とセインが写真館の中で激突しようとする二人の零を押さえてる間に打開策を考えようと提案するギンガだが、スザクすら分からない擬態を見分ける方法などそうそう簡単に思い付く訳がない。どうしたらいいのかと途方に暮れかけた、その時……

 

 

 

 

 

 

栄次郎「うーん……事情は良く分からないけど、勝負がしたいならこういうのはどうだい?」

 

 

『……え?』

 

 

部屋の奥から出てきた栄次郎が手に持つ一冊の本を一同に見せながらそう言い、一同は思わず栄次郎の方へと振り向きその本に目を向けていく。それは……

 

 

フェイト「……クイズ?」

 

 

栄次郎が見せた一冊の本……クイズ本を見たフェイトは思わずそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

色々とゴタゴタは合ったものの、こうして零と零?による戦いが始まったのである。因みに現在は二人は、背景ロールを背にして立つなのはの前に座って勝負の説明を受けている。

 

 

零「……で?結局俺達は何で勝負すればいいんだ?」

 

 

なのは「えぇっと……今回は栄次郎さんの提案により、二人にはクイズで勝負をしてもらいたいと思います」

 

 

『……クイズ?』

 

 

何処となく意気揚々とした雰囲気を放つなのはに呆れ半分で聞き返す二人だが、なのはは特に気にした様子もなく説明を続ける。

 

 

なのは「ルールは簡単。二人にはこれから出す問題を同時に答えていってもらいます。クイズのジャンルは私達に関係する問題……どちらか一方が一問でも答えられなければ、答えなかったその人がワームという事になります……平和的で分かりやすい勝負でしょ?」

 

 

零?「成る程……確かに分かりやすくて手っ取り早い方法だ。偽物なら、俺達しか知らないことも答えられない筈だからな?」

 

 

零「それはこっちの台詞だ。それで、問題を出す人間はどいつだ?」

 

 

零がそう言うと、部屋の奥から良くTVのクイズ番組などで見かける司会者のような格好した優矢とセインがフリップを持って出てきた。

 

 

セイン「問題は私と優矢で出させてもらうよ♪」

 

 

優矢「んでジャンルはさっき説明した通り、本物の零が知っているなのはさん達に関係する問題だ。いいか?」

 

 

優矢がフリップを軽く指で叩きながら確認すると、零と零?は同時に頷いていく。

 

 

セイン「オーケー♪じゃあ早速、第一問!」

 

 

優矢「なのはさんの実家で開いている喫茶店の名前は?」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

問題を聞き終えると同時にいつの間にか目の前に置かれていた机のボタンを押す二人。

 

 

セイン「はい、では同時にどうぞ!」

 

 

『翠屋!』

 

 

優矢「正解!」

 

 

なのは「うん、こんなのは常識だよね♪」

 

 

セイン「では第二問!」

 

 

優矢「零やなのはさん達が所属する八神はやてが設立した部隊の正式名称は?」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

セイン「はい、どうぞ!」

 

 

『古代遺失物管理部・機動六課!』

 

 

優矢「正解です!」

 

 

はやて「これも常識やね♪」

 

 

セイン「では次の問題!」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

……とまあなんやかんやで問題も順調に進み、二人は此処まで一問も間違える事なく全問正解を果たしていた。

 

 

シグナム「ふむ……なかなか良い勝負だな」

 

 

ティアナ「どっちも引けを取りませんね……」

 

 

ヴィータ「……てかこれ、すぐに終わりそうにないぞ」

 

 

シャマル「まぁ、長期戦は覚悟しておいた方が良さそうねっ」

 

 

スザク「……あの、ちょっといいかな?」

 

 

離れた場所から零と零?の戦いを観戦していた一同にスザクが手を挙げながら立ち上がり、一同は零達からスザクへと目を向けていく。

 

 

スザク「あの、さ……さっき言ったと思うんだけど、ワームが人間そっくりの姿になるってことは説明したよね?」

 

 

ギンガ「?えぇ、ワームは擬態した人間の記憶や力もコピーするっていう話ですよね?」

 

 

ウェンディ「それがどうかしたんスか?」

 

 

スザク「いやその……このクイズの問題って、確か彼と君達しか知らない内容のモノばかりなんだよね?」

 

 

シャマル「そうだけど……それが何か?」

 

 

質問の意図が分からないといったように怪訝な表情を浮かべていく一同だが、スザクはそんな一同に苦笑いを浮かべながら告げていく。

 

 

スザク「その……擬態したワームは彼の記憶もそのまま引き継いでるんだから、多分ワームも問題の正解を全部分かってるんじゃないかな……」

 

 

『……………………………………………………あっ』

 

 

スザクのその言葉で漸く気が付いた、といったように呆然と口を開く一同。だがそんな一同を他所に二人は次々と問題を答えていき、遂に問題も残り少なくなっていた。

 

 

零「ハァ…ハァ…ハァ…!クソッ!いい加減しつこいぞお前!?」

 

 

零?「それはこっちの台詞だ!二人共、早く次の問題を!」

 

 

セイン「う、うん……(ど、どうしよう優矢?!問題もあとちょっとしかないよ?!)」

 

 

優矢「(クッ……仕方ない!こうなったらやれるとこまで仕掛けるぞ!)」

 

 

セイン「(りょ、理解っ!)で、では次の問題!」

 

 

互いにアイコンタクトを送った優矢とセインは問題を進め、零達も身を乗り出していく。

 

 

優矢「第四十六問!零だけが知るフェイトさんが隠してる秘密とは?!」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

セイン「はい!どうぞ!」

 

 

『最近体重が三キロ増えた!!』

 

 

優矢「正解!!」

 

 

 

 

フェイト「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?ちょ、っていうか何で零がそれ知ってるの?!!」

 

 

なのは「…………フェイトちゃん……」

 

 

ヴィータ「あー………もしかして、この前栄ちゃんが作ってくれたケーキのせいか?」

 

 

フェイト「うっ!?……うっ……うぅ……」

 

 

哀れみの目を向けるなのは達に膝をついてうなだれるフェイト。だがそんなのはお構い無しにと問題は更に進んでいく。

 

 

セイン「では第四十七問!」

 

 

優矢「以前零がセッテにあげたプレゼントとは一体何?」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

『桜の装飾が付いたブレスレット!』

 

 

優矢「はい正解!」

 

 

 

 

チンク「ブレスレット?」

 

 

オットー「………あ。もしかして、今右腕に付けてるソレのこと?」

 

 

セッテ「あ、いえ……その……コレは……」

 

 

キバーラ「へぇ~、綺麗なブレスレットじゃない♪こんなの何時もらったの?」

 

 

セッテ「あっ……その……この前買い出しに付き合ってもらった時に……」

 

 

ウェンディ「ほほぉ~、良かったじゃないッスかセッテ♪このこの~♪」

 

 

セッテ「……////」

 

 

『むぅ…………』

 

 

頬を染めて顔を俯かせるセッテに少し羨ましそうに頬を膨らませるなのは達。だがそんな事もお構い無しにと(以下省略)

 

 

セイン「続いて第四十八問!」

 

 

優矢「烈火の将ことシグナムさんの特徴を捉えた二つ名とは何?」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

『おっぱい魔人!!』

 

 

優矢「はい正解!!」

 

 

 

 

『OPEN UP!』

 

 

セイヴァー『ほぉ…そんなに我が剣の錆になりたかったとはな…全然知らなかった』

 

 

シャマル「シ、シグナム?!お、落ち着いて!!」

 

 

なのは「これはただのクイズなんですから!!此処は穏便に…!」

 

 

 

 

セイン「第四十九問!」

 

 

優矢「なのはさんの二つ名とは一体なに?」

 

 

―ピンポーン!―

 

 

『管理局の白い魔王!!』

 

 

優矢「正解!!」

 

 

 

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

『ATTACKRIDE:DIVINE BUSTER!』

 

 

トランス『少し……頭冷やそうか……』

 

 

はやて「なのはちゃん?!バ、バスターはあかん!!バスターはあかんよ?!」

 

 

シグナム「落ち着け高町ッ!!これはただのクイズだろ?!此処は冷静に…!!」

 

 

クイズで戦う二人の背後で繰り広げられるもう一つの戦い。だがそんな事(以下省略)

 

 

セイン「さぁ!遂に最後となりました第五十問目!」

 

 

『ッ!』

 

 

最後の問題。セインの口から出たその言葉に零と零?はより一層気を引き締めて身構えていき、自然とボタンの上に乗せる手が汗でべたついていく。そして……

 

 

セイン「―――では行きます!ラスト問題!!」

 

 

優矢「最後はこれ!はやてさんの一番の特徴とはなに?!」

 

 

はやて「……へ?」

 

 

零(ッ?!これは!)

 

 

零?(もらったぁ!!)

 

 

―ピンポーン!―

 

 

勝利を核心した二人の手がボタンを叩き、ほぼ同時にランプが点いた。

 

 

優矢「これもまた同時?!」

 

 

セイン「しょーがないね、さぁ!答えをどうぞ!!」

 

 

零「フンッ……そんな問題、簡単過ぎて欠伸が出る!はやての一番の特徴………それは!!」

 

 

零?「それは!!」

 

 

はやて「そ、それは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(なのは達に比べて比較的)貧乳だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!』

 

 

セイン「おぉ?!」

 

 

優矢「だ、大正解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?」

 

 

はやて「なにが大正解じゃドアホォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」

 

 

―ベギャアァッ!!!!―

 

 

零「ガハアァッ?!!」

 

 

零?「ゴアァッ?!!」

 

 

優矢の雄叫びが響いたと同時にはやてがバットの如く振り回したシュベルトクロイツ(レプリカ)が二人の後頭部へと突き刺さり、零と零?は後頭部から血を流しながらぶっ飛んでいった。

 

 

シャマル「は、はやてちゃん?!」

 

 

はやて「ちょっと期待したかと思えばやっぱり胸かッ?!私には胸しか特徴ないんか?!っていうかそんな二人一緒に自信満々になって貧乳て叫ぶなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

フェイト「は、はやてストップ!!落ち着いて?!」

 

 

なのは「こ、此処は冷静に!!はやてちゃん?!」

 

 

泣きながらシュベルトクロイツ(レプリカ)を振り回すはやてを何とか押さえ付けようとするなのは達一同。がしかし……

 

 

 

 

 

零「ゴフッ……な、何をそんなムキになってるんだ?別に其処まで気にする程の大した胸でもないだろ…?」

 

 

 

 

 

―ブチィッ!!―

 

 

 

 

 

はやて「天・誅ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!!!!!」

 

 

零「な!?ちょ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!?」

 

 

本気で疑問そうに聞き返してきた零に完全にぶちギレたはやてがシュベルトクロイツ(レプリカ)を振り上げながら零へと飛び掛かり、直後、何かを殴る鈍い音と青年の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもなかった……

 

 

セイン「うわぁ……こりゃエグイ……」

 

 

スザク「……えっと……彼、助けなくていいの?」

 

 

優矢「あ、大丈夫ッスよ。こんなのもう日常茶飯事だし……………………………………………ってあれ?」

 

 

鮮血が飛び散る光景に顔を引き攣らせるスザクにそう答える優矢だが、其処である人物……はやてにぶっ飛ばされたはずの零?の姿が消えている事に気付き辺りを見渡していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

零?「ハァ…ハァ…ハァ…クソッ…!」

 

 

それから数十分後、どさくさに紛れて写真館から抜け出した零?は後頭部を抑えながら公園を走っていた。その時、そんな零?の目の前に零?を追ってきたなのは達と頭に何重にも包帯を巻いた零がゆっくりと歩きながら現れた。

 

 

零「残念だったな?俺に成り済ますなんて、十年早い」

 

 

零?「ッ!ハッ……本当にお前が本物か?」

 

 

なのは「当たり前でしょ!こっちの零君が本物の零君だよ!」

 

 

零?「フン、そんな証拠が一体何処にあるんだ?」

 

 

フェイト「しょ、証拠って……それは……」

 

 

鼻で笑いながらそう告げた零?になのは達は思わず口を閉ざしてしまい、不安げな瞳で零を見つめていく。それを見た零は不敵な笑みを浮かべると、腰にディケイドライバーを巻いてディケイドのカードを零?に見せ付けるように翳していく。

 

 

零「すぐに証明してやるさ……変身!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身していった。変身したディケイドを見たなのは達は安心したように一息吐き、零?も一瞬険しげな表情を浮かべるもすぐに不気味に微笑みながらディケイドへと近づいていく。

 

 

零?「フフフッ……自分で自分を、殴れないだろ?」

 

 

ディケイド『……フッ』

 

 

零?「え?―バキィ!!―ガハアァッ?!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイドは自分で自分を殴れないだろうと挑発してきた零?に不敵な笑みを浮かべた瞬間、なんと零?の顔面を全力で殴り付け吹っ飛ばしていったのだ。流石のなのは達も驚きを隠せず唖然とした顔でディケイドを見るが、ディケイドはバキボキと手を鳴らしながら零?を見下ろしていく。

 

 

ディケイド『人の顔をしてニヤニヤ笑うな……虫酸が走る……』

 

 

なのは「れ、零君…?」

 

 

アギト「うわっ…零の奴、完全にキレてるぞっ」

 

 

零?「グゥッ?!クソッ!覚えていろぉ!!」

 

 

静かな怒りを見せるディケイドを見て分が悪いと感じたのか、零?はサナギ体のワームへと姿を変えディケイドから逃れようとする。だがその時、ワームは突然何かを見つけたように立ち上がってディケイド達の間をすり抜け、そのまま公園を歩いていた一人の少女の下へと向かっていった。

 

 

アギト「なっ?!あいつ?!」

 

 

シグナム「まさか、今度はあの子に擬態するつもりか?!」

 

 

ディケイド『チッ!往生際が悪いにも程があるだろう!!』

 

 

少女に襲い掛かろうとするワームを見たディケイドはそれを阻止しようと慌ててワームへと向かっていこうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギィッ!ガギィッ!ガギィンッ!!―

 

 

『ガアァッ?!ギギャアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイド『ッ!何?』

 

 

突如信じられないスピードで赤い閃光……港での戦いにも現れたカブトが現れて少女に襲いかかろうとしたワームに激突し、ワームは断末魔をあげながら緑色の爆発を起こして跡形もなく散っていったのだ。そしてワームが消滅し、カブトが再びいなくなったのを確認したディケイドは変身を解いて元の姿に戻っていき、なのはは呆然とした様子でワームが爆散した場所を見つめていた。

 

 

なのは「い、今のって…?」

 

 

零「……またカブトか」

 

 

なのは「ッ!カブト?今のが?」

 

 

シグナム「あぁ、早過ぎて見えないが……あれがこの世界のライダーらしい」

 

 

呆然とするなのはにシグナムがそう説明していくと、零もそれを促すように頷きながらポケットから絵柄の消えたカブトのカードを取り出しそれを眺めていく。

 

 

アギト「けど、何でカブトがこんなとこに現れたんだ?」

 

 

フェイト「……なんだか、あの子を守ったように見えたけど……?」

 

 

零「…………」

 

 

何故こんな場所にカブトが現れたのかとフェイトやアギトが考えている中、零はカードを仕舞ってカブトが助けた少女へと視線を向けていき、その視線に気付いた少女は足を止めて零達の方へと振り返り不思議そうに首を傾げていたのだった。

 

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界③

 

 

それから約一時間後、先程カブトが助けた少女がカブトと何らかの関係を持っていると予想した零達はカブトが助けた少女……ナナリーと接触し、彼女の案内でナナリー達が経営しているというおでん屋の前に来ていた。

 

 

零「…此処か?ナナリー達が開いてるという店は?」

 

 

ナナリー「はい、よろしければ皆さんも食べていって下さい。うちのおでんは美味しいですから♪」

 

 

フェイト「あ、うん。じゃあせっかくだし……食べていこうかな」

 

 

少し控え目な笑みを浮かべながらフェイトがそう言うと、ナナリーは嬉しそうな笑顔を浮かべて「はい♪」と頷き、店の扉を開けて中へと入っていく。そして店の中へと入ると、中にはライトグリーンの長髪をした一人の少女がおでん等が入った鍋の前で何やら調理のようなものをしていた。

 

 

「――ん?あぁ、帰ったのかナナリー」

 

 

ナナリー「はい!ただいまです、C.C.さん。では、そちらのテーブルどうぞ」

 

 

緑色の髪の少女……C.C.に一言挨拶すると、ナナリーは零達を入り口のすぐ近くにある席へと案内して水を用意しようと奥に向かっていく。そして零達は席に着くと早速何か頼もうとするが、テーブルの隅まで見渡してもメニューらしき物は見つからなかった。

 

 

なのは「…あれ?メニューは置いてないの?」

 

 

ナナリー「あ、はい。うちのメニューはおでんだけですから。C.C.さん!おでん五人前、お願いします♪」

 

 

C.C.「ん…またか?今日はやけに客が多いな……いい加減私もくたびれたぞ」

 

 

ナナリー「ふふ、お客さんが多いのは良い事ですよ?頑張って下さい♪」

 

 

C.C.「……ふぅ…分かったよ、ナナリー」

 

 

口では疲れたと告げるも、何処か穏やかそうに笑いながら鍋のおでんをおたまで掬い器に移していくC.C.。そんな時……

 

 

 

 

『たった今入ったニュースです。渋谷区で原因不明の爆発事故が発生し、当局はカブトによって引き起こされた可能性が高いと調査を進めています』

 

 

 

 

店内にあるテレビに突然臨時ニュースが流れ、零達は全員そのニュースへと視線を向けていく。

 

 

『カブトはクロックアップという機能を使い、異なる時間の流れの中を超高速で移動している為にその姿を目で見る事も出来ず、その正体も目的も不明のままです。これまでも様々な事件を引き起こしているカブトに対応の手をこまねている政府に、市民の不安も増すばかりです――』

 

 

フェイト「カ、カブトって……?!」

 

 

なのは「ど、どういう事?カブトが事件を起こしてるって…?!」

 

 

シグナム「……さあな。詳しくは分からないが、どうやらカブトが市民の生活を脅かしている……という事になってるらしいな……」

 

 

ナナリー「……カブト…」

 

 

零「………?」

 

 

カブトが様々な事件を引き起こし、市民の生活を脅かしている。テレビに流れた臨時ニュースの内容になのは達も動揺を隠せずにいるが、ナナリーはテレビ画面に浮き出るカブトという名を見て険しげに眉を寄せていき、それに気付いた零は怪訝そうな表情を浮かべてナナリーを見つめていた。その時……

 

 

C.C.「……何処かの口うるさい婆さんが言っていた。世の中には慌てて飲み込んではいけない物が二つある……テレビの言うことと、正月の餅だとな」

 

 

『……へ?』

 

 

台所から出てきたC.C.が五人前のおでんを乗せたおぼんを持って零達の下へと近づきながらそう言い、零達の座るテーブルの上におでんを乗せていく。

 

 

C.C.「さ、あんなニュースで無駄口叩く前にさっさと食え。食べ物は、出てきた瞬間が一番上手いのだからな」

 

 

シグナム「…あ、あぁ…」

 

 

フェイト「え、えっと……じゃあ、いただきますっ」

 

 

天を指し示した指を向けてくるC.C.から言い知れぬ迫力を感じ、それに押されるようにフェイト達はそそくさと箸を取っておでんに手を付けていくが、零は自分やなのは達の器に入ったおでんを見て小首を傾げていく。

 

 

零「……がんもにたまごに大根?おい、具はこれしかないのか?」

 

 

C.C.「あぁ、うちのおでんはそれで全部と決まってるからな。不満なら他の店にいけ……それとも、特別裏メニューのピザでも出してやろうか?」

 

 

なのは「ピ、ピザ?」

 

 

アギト「ま、まさか……おでんにか?」

 

 

C.C.「決まっているだろ?うちはおでん屋なのだからな。それで、どうするんだ?」

 

 

零「……いや、断固拒否させてもらう……」

 

 

おでんにピザをいれるなどとんでもない事を口走ったC.C.に流石の零も顔を引き攣らせながらそれを拒否し、それを聞いたC.C.は「つまらん男だ」と言って台所へと戻っていった。

 

 

零「……とんでもない女だな……おでんにピザって……」

 

 

ナナリー「ふふふ♪確かに余り良いイメージはしないですけど、以外と美味しいんですよ?C.C.さんが作ってくれるおでんのピザ♪」

 

 

フェイト「……え?も、もしかしてナナリー、食べた事あるの?その……おでんに入ったピザ…?」

 

 

ナナリー「はい♪亡くなったお婆様は「そんなものをおでんに入れるなんて邪道だ!」って嫌っていたんですけど、いざ食べてみたら今まで食べた事のない味がして凄く良かったんです♪それからも何度かC.C.さんと一緒に食べていました♪」

 

 

純粋な笑みを浮かべながらおでんのピザは美味だと告げるナナリーだが、零達はおでんにピザという異色な組合せに、何とも言えない表情をして思わずタラリと汗を流していく。とそんな時……

 

 

 

 

 

 

―ガラガラガラッ―

 

 

「ただいま戻りました~」

 

 

「C.C.さん、ナナリー、出前終わりました!」

 

 

ナナリー「あっ、お帰りなさい二人共!」

 

 

C.C.「あぁ、すまないな二人共。面倒事を任せてしまって」

 

 

零「………は?」

 

 

フェイト「………へ?」

 

 

零達の席のすぐ近くにある扉が開き、其処から割烹着のような服装をした二人の少年と少女が店の中へと入って来たのだ。扉から近くの席にいた零達はその二人を見た途端思わず硬直して固まってしまい、ナナリーはそれに気づかず二人の下へと駆け寄っていく。

 

 

ナナリー「お疲れ様です、思ったり遠出だったから疲れたでしょ?今水を持ってきますから待ってて下さい」

 

 

「あっ、そんな気を使わなくていいよナナリー。ただ僕達が好きでやってるだけなんだから」

 

 

「うん、私達もただ此処に泊めてもらってるお礼を返したいから、こうして二人のお手伝いをしてるだけなんだし」

 

 

C.C.「何を言ってる?子供なのだからそう遠慮するな。水なら私が持ってきてやるから、其処で待っていろ」

 

 

そう言ってC.C.は二人に水を用意しようと台所の奥にある冷蔵庫を開いて水の入ったペットボトルとコップを二つ取り出していき、二人はC.C.に言われた通りに近くの席に座ろうと歩き出すが……

 

 

零「…お、おい待て!其処の二人!!」

 

 

『……へ?』

 

 

漸く正気に戻った零が勢いよく椅子から立ち上がって二人を呼び止め、呼び止められた少年と少女は零の方へと振り返ると、零達の顔を見て目を丸くし驚愕の顔を浮かべていた。何故ならその二人とは……

 

 

 

 

 

 

 

零「――やっぱり……こんなところで何をしてるんだ?!エリオにキャロ!」

 

 

エリオ「れ、零さんっ?!フェイトさん?!」

 

 

キャロ「なのはさんにシグナム副隊長達まで?!ど、どうして此処に?!」

 

 

フェイト「エ、エリオ!!キャロォ~ッ!!」

 

 

そう、その少年と少女とは異世界へと飛ばされた行方不明の仲間……"エリオ・モンディアル"と"キャロ・ル・ルシエ"だったのだ。思いもしなかった仲間との再開に動揺と驚愕を隠せない零達とエリオとキャロだが、フェイトはすぐさま席から立ち上がり泣きながら二人へと抱き着いていったのであった。

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界④

 

 

―光写真館―

 

 

それから三時間後、エリオとキャロに抱き着いて泣きじゃくるフェイトを宥めさせた零達はおでん屋の仕事が一段落するのを待ち、仕事を終えたナナリーとエリオとキャロを写真館に招き二人から話を聞いていた。

 

 

なのは「…そっか。二人はこの世界に飛ばされた後、ナナリーちゃん達の家に住ませてもらってたんだ」

 

 

キャロ「はい、最初は私達が知ってる地球とは別世界に飛ばされたんだって知った時は途方に暮れましたし、皆さんと連絡出来ない上に魔法やデバイスが使えない事に不安を感じてましたけど……」

 

 

エリオ「住む場所がなくて困ってた僕達を、ナナリーやC.C.さんが保護してくれたんです。そのおかげで、なんとか今日までやって来れましたっ」

 

 

零「そういうことだったか……すまないなナナリー、お前達のお陰で無事に仲間を見つけられたよ」

 

 

ナナリー「あ、いえ、私達も二人がお店を手伝ってくれて助かってましたから。そんな大した事は何も……」

 

 

フェイト「ううん!!全然大した事あるよ!!本当の本当にありがとうナナリィー!!」

 

 

ナナリー「あ、い、いえ…そんな…」

 

 

零「……フェイト……二人と再会出来て喜ぶ気持ちは分かるが、取りあえず泣きながらナナリーに詰め寄るのは止せ。ナナリーが引いてるぞ」

 

 

ナナリーの手を掴んで泣きながら礼を言うフェイトに零が呆れたように言うと、フェイトは苦笑いを浮かべるナナリーやなのは達を見渡して慌ててナナリーから離れ恥ずかしそうに顔を俯かせていた。そしてスバルはエリオとキャロへと歩み寄り、二人の肩を抱き寄せていく。

 

 

スバル「でも本当に良かったぁ~、二人が無事に見つかってぇ~」

 

 

キャロ「あ、すみませんでした。お二人にもご心配をお掛けして……」

 

 

ティアナ「ううん、二人が無事でなによりよ。それにこれで漸くFWメンバー全員が揃ったんだし、改めてよろしく頼むわよ、二人共?」

 

 

エリオ「……はい!」

 

 

微笑を浮かべるティアナにエリオは力強く頷き返し、スバルとキャロも互いに顔を見合わせて微笑みを浮かべていた。そしてFWメンバーが再会を喜んでいる中、ナナリーは写真館の中を物珍しそうに見渡していき、それに気付いた零は小首を傾げながらナナリーに声を掛けていく。

 

 

零「……もしかして、写真館とかに来るのは初めてか?」

 

 

ナナリー「…え?あ、はい。こういう写真関係の場所に来る機会は余りありませんでしたから、何だか新鮮に思えて」

 

 

アギト「?写真関係って…ナナリーって写真撮った事とかないのか…?」

 

 

ナナリー「あ、いえ。写真なら昔撮ったのが幾つかありますけど……最近お店のお仕事が多いから、中々そういう機会がなくて……」

 

 

零「…………ふむ…」

 

 

少し淋しそうな表情をするナナリーの話を聞いた零は顎に手を添え、何かを考え込むような仕草を見せる。そして……

 

 

零「――そうだな……二人が世話になった礼もあるし……此処で撮ってみるか、写真?」

 

 

『……へ?』

 

 

ナナリー「え?」

 

 

突然の零の提案にナナリーは思わず疑問そうに聞き返し、なのは達もキョトンとした表情で零の方へと顔を向けたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

―カシャッ!―

 

 

栄次郎「うん、凄くいいよナナリーちゃん」

 

 

ナナリー「そ、そうでしょうか?」

 

 

リイン「はい!とっても似合ってるですよナナリーさん♪」

 

 

零「おいリイン、カメラのファインダーからはみ出てるぞ!キャロとアギトはもうちょっとナナリーの方に寄ってくれるか?」

 

 

キャロ「こ、こうですか?」

 

 

アギト「うぅー…この衣装動き難いな」

 

 

先程の零の提案で始まったナナリーの写真撮影。それから数十分後、ナナリーはリインやキャロとアギトと共に栄次郎が用意した衣装に着替え零に写真撮影をしてもらっていた。

 

 

ナナリー「で、でも本当に良いんですか?お金も払わないで、こんな事してもらって……」

 

 

零「ん?気にするな。コレは単に俺達からの礼なんだし」

 

 

優矢「そうそう!ま、コイツの写真がお礼になるのかどうかは微妙だけどさ?」

 

 

零「…おい、どーいう意味だソレは?」

 

 

零の肩に片腕を乗せながら笑う優矢に不機嫌そうに眉を寄せる零だが、ナナリーはお金を払わずに写真を撮らせてもらう事に少し申し訳ない気持ちになって顔を俯かせていき、それに気付いたキャロは優しげな笑みを浮かべてナナリーの顔を覗き込んだ。

 

 

ナナリー「…!キャロさん?」

 

 

キャロ「ナナリーちゃん?そんな顔してたら、せっかくの衣装が台なしだよ?」

 

 

ナナリー「あっ…で、でもやっぱり、お金も払わないでこんな…」

 

 

リイン「もぉ~、まだそんな事言って!ナナリーさん意外と頑固者ですぅ!」

 

 

アギト「ってか、そんな細かい事気にするだけ無駄だと思うぞ?此処にいる奴らって、そういうのあんま気にしないのばっかだし」

 

 

エリオ「それに零さん達もナナリーに御礼がしたくてやってるんだし、ナナリーがそこまで気にする必要はないと思うよ?」

 

 

エリオはそう言って証明の調整でああだこうだと揉める零と優矢、次にナナリー達に着せる衣装について楽しげに話し合うなのは達に視線を向けていき、キャロもそれに頷きながら再び語り出す。

 

 

キャロ「それにね?私達もちょうど良い機会かなって思ってた所だから」

 

 

ナナリー「?何がですか?」

 

 

キャロ「ん?えっと、ほら…ナナリーちゃんとお友達になれた記念を形で残せるなぁって」

 

 

ナナリー「……え?」

 

 

少し照れくさそうに告げたキャロの言葉にナナリーは思わず首を傾げ、それを見たエリオはキャロに代わって語り出した。

 

 

エリオ「実は、僕達も何かナナリーにお世話になったお礼をしようって密かに考えてたんだ。でも、どんなお礼にしようか結局考えが纏まらなくて」

 

 

キャロ「だから良い機会だし、写真なんてどうかな?って思って。今までお世話になったお礼と、ナナリーちゃんとお友達になれた記念として♪」

 

 

ナナリー「……エリオさん……キャロさん……」

 

 

リイン「はぁーい!リインもナナリーさんとお友達ですぅ~♪アギトも同じですよね?」

 

 

アギト「おうよ♪こういう事なら別に良いだろ?友情に金の話なんて無しだ!」

 

 

ナナリー「……はい!本当にありがとうございます、皆さん♪」

 

 

キャロ達のそれぞれの言葉にナナリーは思わず涙ぐみながらキャロ達へとお礼を言い、それを見た零は微笑を漏らしながらカメラのファインダーをナナリー達に向けて構えていく。

 

 

零「…ほら、次の写真いくぞ!エリオ、今度はお前も入れ。キャロの隣だ」

 

 

エリオ「…えっ?あ、は、はい!」

 

 

エリオは零のいきなりの指示に戸惑いながらも、言われた通りにキャロの隣に立っていく。それを確認した零はカメラのファインダーをナナリー達へとしっかり合わせ、シャッターに指を掛ける。

 

 

零「よし、じゃあいくぞー」

 

 

ファインダーを合わせたと共に零が合図を送ると、ナナリー達はカメラに向けて笑顔を浮かべ、それを見た零がシャッターを下ろそうとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……お兄ちゃん♪―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……ッ?!」

 

 

零の脳裏に何故か一瞬だけ笑い掛ける女の子の映像が浮かび上がり、零はそれに驚きつつもその光景に懐かしさを感じて動揺してしまい、シャッターを下ろそうとした指を止めてしまった。

 

 

キャロ「……?零さん?」

 

 

優矢「?おい零、どうしたんだよ?」

 

 

零「……え?あ、いや……なんでもない……」

 

 

優矢に声を掛けられて漸く意識が戻った零は半ば動揺を浮かべたまま何でもないと返し、ナナリー達の写真撮影を再開していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

数時間後、撮影を終えた頃には外はすっかり夕暮れに染まっていた。こんな時間にナナリーを一人で家まで帰すのは危険だと思ったなのはとはやてはナナリーを家まで送る事にし、三人は夕暮れに染まった橋の上を歩きながら会話をしていた。

 

 

ナナリー「すみません、写真を撮らせてもらった上に送ってもらって……」

 

 

なのは「良いよそんなの♪こんな時間に女の子一人帰らせるなんて危ないでしょ?」

 

 

はやて「そや、それにこんな時間まで引き止めたんはわたし等なんやし、ナナリーちゃんが気にする事なんてあらへんよ♪」

 

 

申し訳なさそうに謝るナナリーになのはとはやては気にしないでと笑い返し、それを見たナナリーは微笑を浮かべながら顔を少し俯かせた。

 

 

ナナリー「………皆さん、本当にお優しいんですね。キャロさんもエリオさんも写真館の皆さんも。それに零さんは……なんだか、私のお兄様にそっくりです」

 

 

はやて「?ナナリーちゃん、お兄さんがおったんか?」

 

 

懐かしそうに自分の兄の事を呟いたナナリーにはやてが思わず聞いていき、ナナリーは軽く頷き返しながら自分の兄について話し始めた。

 

 

ナナリー「……凄く優しくて、私の言うこと何でも聞いてくれて、ちょっと運動音痴なところがあったんですけど、それでも私が困っていた時には何時も助けてくれたんです……それに、C.C.さんと一緒にいた時のお兄様はなんだか凄く楽しそうで、私もそんなお兄様を見て自然と嬉しい気持ちになれたんです」

 

 

なのは「へぇ…C.C.さんとナナリーちゃんのお兄さんて、仲が良かったんだ?」

 

 

ナナリー「はい。だってお兄様とC.C.さんは、将来を約束した仲ですから♪」

 

 

はやて「へぇ~、ナナリーちゃんのお兄さんとC.C.さんが――――」

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

 

はやて「――って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」

 

 

なのは「シ、C.C.さんって……婚約してたの?!」

 

 

ナナリー「?はい、今でも左手の薬指に指輪をしてますけど……気付きませんでしたか?」

 

 

不思議そうに小首を傾げるナナリーの言葉でなのははおでん屋にいた時の記憶を思い出していく。

 

 

……………あった。確かにあった。何かおでんを運んできた時にそれっぽいものがチラッと薬指に。

 

 

なのは「(う、嘘……C.C.さんって、見た目からして私達より年下だよね?なのに、こ、婚約…?私なんてまだちゃんとした恋愛経験ないのに?)」

 

 

はやて「(な、何やろ……この言い知れぬ敗北感は……)」

 

 

なんか女としてのプライドに色々と突き刺さる感じがして深く落ち込んでしまうなのはとはやて。ナナリーはそんな二人に苦笑いを浮かべつつ、また懐かしそうに口を開いていった。

 

 

ナナリー「でも、お兄様はお仕事の事は何も教えてくれませんでした……人を守る仕事だって事しか教えてくれなくて…………そして…………」

 

 

なのは「…………ナナリーちゃん?」

 

 

楽しげに兄の事を話す中、ナナリーは突然暗い表情を浮かべて立ち止まり夕暮れを眺めていき、落ち込んでいたなのはとはやてもそれを見て足を止め、首を傾げていく。

 

 

ナナリー「――――お兄様は……殺されたんです……カブトに……」

 

 

『……え?』

 

 

ナナリーの告げた耳を疑うような言葉になのはとはやては思わず呆然とした表情を浮かべ、ナナリーは手の平を強く握り締めながら口を開いた。

 

 

ナナリー「私、この目で見たんです……去年の冬……カブトが……お兄様を手に掛ける所を……」

 

 

なのは「カブトが……そ、そんな……」

 

 

はやて「ど、どういう事や?カブトが、ナナリーちゃんのお兄さんを…?」

 

 

この世界のライダーであるカブトがナナリーの兄を殺した。その事実を聞かされたなのはとはやては驚愕の余り言葉を失い、ナナリーは沈んでいく夕日を見据えながら口を開いていく。

 

 

ナナリー「……私は、絶対にカブトを許しません……お兄様を殺したカブトを……絶対にっ……」

 

 

ナナリーはカブトに対しての怒りと悔しさを込めてそう呟き、そんなナナリーの思いを知ったなのはとはやてはナナリーに掛ける言葉が見つからずただ口を閉ざしていたのだった。そして……

 

 

 

 

 

 

零「………………」

 

 

それを物陰で見ていた零は切なげな表情でシルエットだけとなっているカブトのカードを見つめ、なにかを決意した瞳でその場から歩き去っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

ZECTの地下指令室。薄暗いこの部屋ではZECTの隊員達や研究員達が一台の機械の回りで忙しなく動き回り、その部屋の片隅では、写真館から戻ってきたスザクがルルーシュからある書類を受け取っていた。

 

 

スザク「…カブト捕獲計画?」

 

 

ルルーシュ「そうだ。開発中のシステムが間もなく完成する……そうすれば、カブトは我々の手に落ちるだろう」

 

 

スザク「…けど、どうしてカブトを?」

 

 

ルルーシュ「決まっているだろう?クロックアップの世界にいるカブトを市民は恐れてる。その不安を取り除くのも、俺達ZECTの指命だ」

 

 

スザク「……でも、僕にはカブトが噂されているような悪魔とは思えないよ。カブトは何度も僕達を救って―バキィッ!―グッ?!」

 

 

カブトは噂されているような悪魔ではないのかもしれない。カブトを捕獲する事に納得出来ずそう告げようとしたスザクだが、それを聞いたルルーシュは怒りに満ちた表情でスザクをいきなり殴り飛ばしてしまう。

 

 

スザク「ッ……ル、ルルーシュ…?」

 

 

ルルーシュ「黙れ…カブトは俺達の敵だ。だからお前は奴を捕らえる事だけを考えてれば……ッ!」

 

 

ルルーシュは殴り飛ばしたスザクを見下ろして何かを告げようとするが、突然右目の眼帯を抑えながら苦痛に満ちた表情で顔を歪めていってしまう。

 

 

ルルーシュ「ッ!……俺は……カブトを許さんっ……絶対にだっ……」

 

 

スザク「…………」

 

 

ルルーシュは憎悪を込めてそう呟くと右目の眼帯を抑えながら開発中のシステムの下へと歩き出していき、スザクはそんなルルーシュの背中からカブト捕獲計画の書類に目を落とし何処か思い詰めた表情を浮かべていたのだった。

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑤

 

 

それから翌日、今朝の朝食を終えて零達が写真館を出ていった後、今回この世界で待機となったなのは達は栄次郎の手伝いとして週に二回はある写真館の大掃除をしていた。

 

 

なのは「――ナナリーちゃんのおでん屋を手伝いに?」

 

 

優矢「えぇ、何かナナリーちゃんとC.C.さんだけじゃ大変だろうって」

 

 

ヴィータ「へぇ、珍しい事もあるもんだな?アイツが自分から人助けしようだなんて、明日は槍でも降るんじゃねーか?」

 

 

スバル「いや、そこまで珍しくもないと思いますけどっ」

 

 

優矢「うーん、なんか良く分かんないんですけど……妹がいたような気がするって言うんですよ、アイツ」

 

 

なのは「妹?」

 

 

床や窓を雑巾で拭きながらそんな会話をしていた中、優矢のふとした言葉になのは達が反応して振り返っていく。

 

 

優矢「えぇ、なんかナナリーちゃんみたいな妹がいたような気がするって言ってましたけど……」

 

 

ティアナ「気がするって、もしかして零さん……何か記憶に関する事を思い出したんですか?」

 

 

優矢「いや、ただ気がするっていうだけで何も思い出させてないみたいなんだけど……もしかしたらアイツ、記憶を取り戻すキッカケを見付けたとかでも思ってるんじゃないんかな?だからナナリーちゃんのおでん屋を手伝ってるとか……」

 

 

ノーヴェ「なぁんだ、ようは結局自分の為って事か?やっぱそこんとこはアイツらしいな、ホントに」

 

 

シャマル「アハハハ…まあでも、ナナリーちゃん達の為になにかしたいって言う気持ちは嘘じゃないと思うけど…」

 

 

なのは「…………」

 

 

呆れたように溜め息を吐くノーヴェにシャマルがフォローを入れる中、なのはは背景ロールの絵についた汚れを雑巾で拭いながら脳裏にあの言葉……ホルスの世界での零の言葉を思い出していく。

 

 

 

 

―もしこの旅の中で、俺が記憶を取り戻すような事があれば……その時今の俺はどうなるのかって思う事がある……今こうしてる自分を無くすんじゃないのかと―

 

 

 

 

なのは(……もしも本当に、それがキッカケになって零君の記憶が戻ったら……ううん、大丈夫だよね……きっと大丈夫……)

 

 

なのははホルスの世界での会話を思い出して一瞬不安に駆られてしまうが、彼ならきっと大丈夫だろうと信じ気を取り直して掃除を続けていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、写真館を出てナナリーのおでん屋へと訪れた零達はそれぞれ仕事服に着替え、おでん屋の仕事を手伝っていた。フェイト達は店内を掃除していき、その間に零はナナリーと共にキッチンに立ち、お客に出すおでんの仕込みをしている最中であった。

 

 

ナナリー「―――美味しい…味付けもとても良い感じです!」

 

 

零「だろう?これなら客に出しても問題はないだろうし。まぁ、俺に出来ない事なんて何もないのさ」

 

 

冗談っぽく言いながら零が軽く胸を張るとナナリーはそんな零に思わずクスクスと笑みを零し、ナナリーのその表情を見て零は微笑ましそうに笑みを浮かべていた。そんな時……

 

 

C.C.「……ん?何をしてるんだ?」

 

 

ナナリー「あ、C.C.さん…!」

 

 

店の奥から訝しげな表情をしたC.C.が現れ、キッチンで仕込みをしてる零とナナリーの下へと歩み寄り鍋の中を覗き込んでいく。

 

 

C.C.「……これは?」

 

 

零「昆布巻きだ。それにもちきんちゃくに牛すじ、静岡産の黒はんぺんも足してみた。やっぱりどう見ても店のメニューが少なすぎるし、品は豊富な方が良いだろうと思ってな」

 

 

C.C.「………ほぉ」

 

 

目を細めて鍋の中を覗き込み、関心するような声を漏らすC.C.から好感触を得たと感じた零は台所に置いておいた他の材料を手に取っていく。

 

 

零「後は他の材料を足し、つゆの味を変えれば完成だ。これならいつも以上に客足も―ザアァァァァ……―………ん?」

 

 

早速おでんの完成に取り組もうかと意気込んだその時、何かを流すような水音が聞こえそちらの方へと振り返ると、其処にはなんとC.C.が零とナナリーが仕込みをしていたおでんを流し台に捨てていたのだ。

 

 

零「なっ……待て!なにをやってる?!」

 

 

C.C.「………確かに悪くはない。だが、私はこれを店に出すつもりはない」

 

 

零「……何?」

 

 

その言葉に零が訝しげに眉を寄せて疑問げに聞き返すと、C.C.は鍋を見下ろしながらポツリと語り出す。

 

 

C.C.「種を増やしたらつゆの味が変わってしまうだろう?うちはこの場所で、このままでいる事が大切なんだ……だから余計なことはするな……私は、この味を変えるつもりはない」

 

 

零「…………」

 

 

まるで警告でもするように真剣な表情を浮かべて睨みつけてくるC.C.に零も思わず口を閉ざし、フェイト達も作業の手を止めてそんな以外な一面を見せるC.C.に驚いたといった表情を浮かべていた。

 

 

C.C.「……すまないな……私らしくなかった……ナナリー、悪いが代わりに片付けておいてくれ」

 

 

ナナリー「あ、は、はい…」

 

 

C.C.は肩を竦めて深い溜め息を吐くとナナリーに後片付けを頼んで店の奥へと戻っていき、呆然としていた零やフェイト達も何処となく気まずい雰囲気を漂わせつつもナナリーの手伝いをしていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

それから一時間後、片付けを終えた零達とナナリーは先程仕込みをしていた時に使ってしまった材料を調達をする為に街へと出掛け、今買い物を終えておでん屋に帰ろうとしていた。

 

 

ナナリー「…すみません。私がちゃんと前もって言っておけば、こんなことにはならなかったのに……」

 

 

零「いいや、どうやら俺が余計な事をしてしまった様だ……でもまさか、あの女があんな事言うなんて以外だったな」

 

 

フェイト「うん、なんだか意外な一面を見られたって感じかな?C.C.さんがあそこまでにおでんにこだわってたなんて知らなかったよ」

 

 

キャロ「私達も長い事あの家でお世話になってましたけど……C.C.さんのあんな顔、初めて見ました……」

 

 

そう言いながら零達は先程のC.C.の真剣な表情を思い出していき、ナナリーは歩みを進めながら暗い表情を浮かべていく。

 

 

ナナリー「……前に決めてたんです……がんもに大根、たまご……家族が好きな物だけにしようって……私とお祖母様とC.C.さん……それにお兄様で……」

 

 

零「……兄……か……」

 

 

兄という単語を耳にした零はナナリーを見つめながら何処か遠い目をしていき、ナナリーは顔を上げて再び語り出していく。

 

 

ナナリー「もしかしたら、C.C.さんは信じてるのかもしれません……お兄様が生きてるって……」

 

 

フェイト「……ナナリー…」

 

 

シグナム「…………」

 

 

切なげにそう呟くナナリーにフェイト達もどんな言葉を掛けるべきか分からず顔を俯かせていき、暫く一同の間に気まずい沈黙が流れていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

『グゥルルルル………』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突如一同の目の前から一体の緑色の身体をした異形の怪人……サナギ体のワームが不気味な唸り声をあげながら現れ、一同の目の前に立ちはだかったのである。

 

 

ナナリー「ワ、ワーム…!」

 

 

零「チッ…フェイト、いくぞ!」

 

 

フェイト「うん!シグナム、アギト、ナナリーとエリオ達を安全な場所に…!」

 

 

シグナム「了解だ!」

 

 

アギト「あぁ!任せろ!」

 

 

シグナムとアギトは二人に向けて頷きながらそう言うとナナリー達を連れてこの場から離れていき、それを確認した後零はディケイドライバーを腰に装着するとカードを取り出して構え、フェイトは左腕のKウォッチを操作してベルトを装着し、上空から現れたビートゼクターを掴み取って構えていく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『RIDER SOUL BEET!』

 

『Henshin!』

 

 

電子音声が鳴り響く共に零とフェイトはディケイドとビートへと変身していき、それと同時にワームは脱皮して二人へと襲い掛かり、二人はワームの腕を掴みそのままその場から走り出していった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

そしてワームを近くの廃墟工事内へと引き寄せた二人はワームへと力強い打撃を打ち込んでいき、ディケイドは一旦ワームから離れるとライドブッカーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『虫相手なら、こっちも虫だ!』

 

 

『KAMENRIDE:KUUGA!』

 

 

ドライバーにカードを装填するとディケイドはクウガへと変身し、ビートと共にワームへと突っ込み攻撃を再開していった。

 

 

Dクウガ『フッ!セァ!!』

 

 

ビートM『デェイ!ハァッ!!』

 

 

―ドゴォ!!バキィ!!―

 

 

『キボォッ?!』

 

 

Dクウガとビートの素早いブローにワームも反撃がままならず勢いよく吹っ飛ばされて壁へと叩き付けられていく。だがワームは身体を起こすと同時に突然物凄いスピードで動き出し、二人へと突っ込んで突進攻撃を仕掛けてきたのだった。

 

 

―ドガァッ!!ドガァッ!!ドグオンッ!!―

 

 

Dクウガ『グッ!!クッ!クロックアップを使ってきたか…!』

 

 

ビートM『ッ!零、だったら此処はクロックアップを使える私が…!』

 

 

Dクウガ『……いいや、別に速さで対抗する必要はない。対抗する手ならコイツにもある!』

 

 

ワームの突進を受けて吹っ飛ばされたDクウガはそう言うとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『FORMRIDE:KUUGA!PEGASUS!』

 

 

電子音声が響くとDクウガの姿が緑色の身体と右手に黄色のラインの入ったボウガンを持った姿、感覚神経が極限まで強化されたペガサスフォームへとフォームライドしていき、Dクウガはペガサスボウガンを構えながら顔を俯かせて神経を研ぎ澄ませていく。

 

 

 

 

 

 

Dクウガ『…………』

 

 

 

 

 

 

―……………………―

 

 

 

 

 

 

Dクウガ『……………』

 

 

 

 

 

 

―………………フッ…―

 

 

 

 

 

 

Dクウガ『ッ!!其処かッ!!』

 

 

―ギギギッ……ドシュウンッ!!―

 

 

『ッ?!ギッ、ギギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

神経を研ぎ澄ませてワームの動きを捕らえたDクウガのペガサスボウガンが撃ち出され、ボウガンが撃ち出された方向にいたワームの身体を貫通しワームは赤い爆発に飲み込まれて完全に消滅していったのだった。それを確認したDクウガはディケイドへと戻りながら立ち上がり、その様子を見ていたビートはディケイドの下へと駆け寄っていく。

 

 

ビートM『やったね零!今の凄かったよ!』

 

 

ディケイド『あぁ、まあこんな所だろうな……』

 

 

ディケイドはそう言いながら両手を軽く払っていき、ナナリー達と合流する為にその場から歩き出そうとする。しかし……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ビートM『ッ?!』

 

 

ディケイド『……あ?』

 

 

突如ディケイドとビートの足元に無数の銃弾が放たれ、二人はそれが放たれてきた方へと顔を向けていく。其処にはこちらに向けて銃を向けてくるZECTの隊員達とザビーとガタックに変身したルルーシュとスザクが歩み寄ってきていた。

 

 

ビートM『あ、貴方達は…?!』

 

 

ザビーM『貴様等、ZECTの隊員ではないな?……ディケイドか?』

 

 

ディケイド『ほぉ……光栄だな?こんな世界にまで俺の名が知られてるとは』

 

 

ザビーM『茶化すな!お前の事は聞いてる、この世界を破壊する悪魔だとな!』

 

 

ビートM『ま、待って下さい!それは…!』

 

 

ディケイドを悪魔だと罵るザビーにビートが反論しようようと前に出ていくが、ディケイドはそんなビートを自分の後ろへと下がらせザビー達と対峙していく。

 

 

ディケイド『やれやれ……有名人は辛いなぁ?何処に行っても注目を浴びる』

 

 

ビートM『れ、零?!』

 

 

ザビーM『何を…!スザク、いくぞ!』

 

 

ガタックM『あ、あぁ!』

 

 

まるで挑発でもするかのように冗談っぽく告げたディケイドが勘に触ったのか、ザビーはガタックを従わせてディケイドへと突っ込んで殴り掛かっていき、ディケイドはそれをかわしながら二人から距離を離し一枚のカードをライドブッカーから取り出していく。

 

 

ディケイド『ちょうどいい……まだ使ってないカードを試させてもらおうか……変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DEN-O!』

 

 

カードをバックルにセットすると電子音声が鳴り響き、それと共にディケイドの身体に電王と同じプラットスーツが装着され、更にその上から銀色の装甲が装着されていく。そして鮮やかな赤いマントが背中に展開され、最後に王冠を模したオブジェが仮面後頭部から現れ展開されていく。そう、ディケイドは以前鬼退治の時に手を貸してもらったシズマ・カミシロが変身するライダー、電皇へと変身したのである。

 

 

ガタックM『なっ…?!』

 

 

ザビーM『変わった…?!』

 

 

D電皇『まずは挨拶代わりに……コイツだ』

 

 

変身を完了したD電皇は左腰のライドブッカーを開き、其処から一枚のカードを取り出してバックルに装填しスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:SAISHONIITTEOK!KIBATTENAKINAGARAKOURINSITABOKUNITSURARETEMIRU?KOTAEWA KITENAIORE SANJOU!』

 

 

何だから偉く長い電子音声が鳴り響くと共にD電皇は独特なポーズを取りながら……

 

 

 

 

 

 

D電皇『最初に言っておく!キバって泣きながら降臨した僕に釣られてみる?答えは聞いてない俺!参上っ!!』

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 

と、どっかで聞いたような決め台詞をくっつけたような台詞と共に流れるようにポーズを決めたD電皇だが…………それ以外には何も起きなかった……

 

 

ガタックM『…………え、えぇっと……』

 

 

ザビーM『……それがどうしたというんだ?!』

 

 

D電皇『……………………………フ、フンッ……ならコイツだ!』

 

 

何処となくデジャヴュを感じつつも気のせいだと言い聞かせ、D電皇は咳ばらいをしながら新しいカードを取り出してディケイドライバーへとセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:SAISHONIITTEOK!OBAACHANGAITTEITA!NAKINAGARAKIBATTEKOURINSITABOKUNITSURARETEMIRU?KOTAEWA KITENAIOTTEKAOSITERUARE SANJOU!MAA、TUYOSAHABEKKAKUDAGANA?TO、KOKORONONAKADEHASOUOMOTTERU!A、COFFEEIKAGADESUKA?』

 

 

と又もや長ったらしい電子音声が鳴り響くと同時にD電皇は再びポーズを取り……

 

 

 

 

 

 

D電皇『最初に言っておく!お婆ちゃんが言っていた!泣きながらキバって降臨した僕に、釣られてみる?答えは聞いてないって顔してる俺、参上!まあ、強さは別格だがな?と、心の中ではそう思っている!あ、コーヒーいかがですか?』

 

 

 

 

 

 

ザビーM『……………』

 

 

ガタックM『…………』

 

 

ビートM『…………』

 

 

『…………………』

 

 

 

 

……と先程より長くなった決め台詞を高らかに叫んだD電皇だが……やはりそれ以外には何も起こらず、代わりにザビーとガタックの背後に立つ隊員達がざわめき出した。

 

 

『なぁ、俺達コーヒー頼んだか…?』

 

 

『いや、別に頼んでないけど…?』

 

 

『頼んでねぇよなぁ……』

 

 

ガタックM『……ど、どういう意味なんだ?!』

 

 

D電皇『…………あ、ああああのヘタレ神がぁぁ……俺に聞くなぁッ!!!』

 

 

やっぱりデジャヴュだぁ!と泣きたい衝動に駆られながらも精一杯の思いを込めて叫ぶと、D電皇は次こそはと最後の願いを込めてライドブッカーからカードを取り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:OPPAI!OPPAI!((_゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D電皇『…………………………………………………………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

撃沈。ふとそんな言葉が彼の脳裏を走った。そしてD電皇はゆっくりとカードから目を逸らしてザビー達の方へと振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

D電皇『…………あの……もう一回やり直してもいいか……?』

 

 

ザビーM『ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Change Wasp!』

 

『Change Stag Beetle!』

 

『Clock Up!』

 

 

D電皇『ちょ?!―ドグオォォンッ!!―グアァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

ビートM『れ、零ィ!!?』

 

 

万感の願いも虚しく、瞬時にキャストオフとクロックアップを行ったザビーとガタックの猛攻撃によりD電皇のフルボッコTIMEが開始されていったのだった……

 

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑥

 

 

一方その頃……

 

 

 

『グゥルルルル……』

 

 

エリオ「はぁ…はぁ…はぁ…ま、まだ追ってくる?!」

 

 

アギト「チキショウ!いい加減しつけーぞアイツ等ッ!?」

 

 

先程ディケイド達と別れてワームから逃れていたシグナム達。だがおでん屋へと向かっていた最中、又もやシグナム達の目の前に数匹のワームが現れて突如襲い掛かり、シグナムとアギトはナナリー達を連れて逃げ回っていた中で自然とディケイド達が戦ってる廃工場の近くにまで逃げ延びていた。

 

 

ナナリー「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

 

キャロ「ッ!ナ、ナナリーちゃん?!大丈夫?!」

 

 

ナナリー「ハァ…ハァ…ハァ……は、はい……私なら大丈夫です…!」

 

 

アギト「クッ!どうすんだよシグナム!このままじゃいつか捕まっちまうぞ?!」

 

 

シグナム「分かっている!今考えている所だ!」

 

 

背後へと振り向いて今も尚追ってくるワーム達を睨みながらアギトがそう言うと、シグナムは疾走したまま辺りを見渡していく。するとその時、一カ所だけ扉が半開きで開いている廃工場がシグナムの目に止まり、シグナムはすぐさま半開きの扉へと駆け寄り扉を強引に開いていく。

 

 

シグナム「こっちだ!この中に逃げ込め!急げ!!」

 

 

キャロ「は、はい!」

 

 

エリオ「ナナリー!こっちだ!」

 

 

ナナリー「は、はい…!」

 

 

シグナムに促されてエリオとキャロはナナリーを支えながら廃工場の中へと逃げ込み、最後にアギトが中に入ったのを確認するとシグナムも中へと逃げ込んで工場の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、工場内でザビーとガタックと戦っていたD電皇は二人にフルボッコされたせいでディケイドへと戻ってしまい、ビートと共にクロックアップを用いた二人の攻撃を何とか回避し続けていた。

 

 

ビートM『ク…ッ!ダメ!こんな隙もなく攻撃されてたら、キャストオフも出来ないッ!!』

 

 

ディケイド『ッ……こっちはもういいようにボコボコにされてボロボロだっ……あのヘタレ神!!今度会った時には覚えてろ?!』

 

 

幸助の修行のお陰か、それとも長年の経験が活かされているのか。二人はザビーとガタックの気配を辿って何とか攻撃を回避しているが、隙もなく攻撃され続けられるせいで反撃もままならないでいた。このままではいつかやられてしまうと、内心焦りを浮かべつつも次々と襲い掛かる攻撃の嵐をギリギリで回避していくディケイドとビートだが、その様子を静かに観戦する一人の人物の姿があった。

 

 

 

 

 

大輝「――――この世界のライダーが持つ、クロックアップシステム……正にお宝だ♪」

 

 

二階の展望台からディケイド達の戦いを観戦する人物……幾度となく零達の前に現れる大輝が子供のような笑みを浮かべながらディエンドライバーを回転させながら取り出し、ポケットから取り出したカードをディエンドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE―――』

 

 

大輝「…変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

銃口を上空に向けて引き金を引くと電子音声が響き、それと同時に大輝はディエンドへと変身していった。そしてその間にもザビーとガタックは一気に勝負を決めようと方向を変えてディケイドとビートへと超高速で突進した、その時……

 

 

―バッ!!―

 

 

ディエンド『ハァッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

ザビーR『なっ?!グオォッ?!』

 

 

ガタックR『ウアァッ?!』

 

 

『Clock Over!』

 

 

『ッ?!』

 

 

変身を完了したディエンドは展望台からディケイド達の目の前へと飛び降りザビー達にディエンドライバーを乱射し、突然の不意打ちを受けたザビーとガタックは勢いよく吹っ飛ばされクロックアップも解除されてしまった。

 

 

ビートM『だ、大輝ッ?!』

 

 

ディエンド『勘違いするなよ?俺はこの世界のお宝が欲しいだけさ♪』

 

 

ディケイド『………ハァ、また懲りもせずに泥棒か?本当に呆れる奴だ……』

 

 

ビートがディエンドの突然の登場に驚いてるのを他所にディケイドは呆れたように溜め息を吐くが、その時ディエンドに吹っ飛ばされたガタックが態勢を立て直して二本の曲剣、ガタックダブルカリバーを構えてディエンドへと振りかざすが、ディエンドはそれを受け止めて反撃していく。

 

 

ガタックR『クッ!君もライダーなのか?!』

 

 

ディエンド『ご覧の通りさ。君は俺がお相手しよう、クワガタ君!』

 

 

ディケイド『……あっちは海道にでも任せておくか……フェイト!』

 

 

ビートM『うん、此処から反撃だよね?キャストオフッ!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Change Beetle!』

 

 

戦闘を開始したディエンドとガタックの戦いを横目にディケイドがビートに呼び掛けると、ビートはそれに頷きながらビートゼクターのゼクターホーンを回転させてマスクドアーマーをパージしライダーフォームとなり、ディケイドとビートもザビーに突っ込んで殴りかかり戦闘を再開していったのだった。

 

 

―ガギィ!!ガギィッ!!ガギィンッ!!―

 

 

ガタックR『ハァ!!セイッ!!』

 

 

ディエンド『グゥ?!』

 

 

ディケイド達が戦闘を再開したその一方、ディエンドはガタックが繰り出す剣撃の嵐に押されて反撃もままならず徐々に後退し始めていた。そして……

 

 

―ダッ!!―

 

 

ガタックR『ハアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ディエンド『…ッ?!―ドガァッ!!―ガハァ?!』

 

 

ガタックは突如勢いよく地を蹴ってディエンドに向けて跳んだかと思えば身体を勢いよく半回転させ、そのまま空中半回転蹴りをディエンドの頭部に打ち込み吹っ飛ばしていってしまう。そしてディエンドは地面を転がりながら態勢を立て直すと、左腰のホルダーから二枚のカードを取り出していく。

 

 

ディエンド『ッ!使うか、俺の兵隊さん達を……よろしく♪』

 

 

そう言いながらディエンドはドライバーへとカードを装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:RIOTROOPEA!SHOCKERRIDER!』

 

 

ディエンド『フッ!』

 

 

電子音声と共にディエンドが引き金を引くと目の前に無数のビジョンが出現し、それらがそれぞれ重なるとディエンドの目の前に六体のライオトルーパーとショッカーライダーが姿を現し、ガタックに向かって武器を構えながら突進していく。だが……

 

 

ガタックR『クロックアップッ!!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

―シュンッ……ガギィ!!ガギィ!!ガギィ!!ガギィ!!ガギィ!!ガギイィィィィィィィインッ!!―

 

 

『グッ?!ウグアァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ガタックはガタックダブルカリバーを構えながら瞬時にクロックアップを使い、青い閃光となってライオトルーパーとショッカーライダーに突っ込んで斬りかかり、六体は反撃も出来ないまま跡形もなく消滅してしまったのだった。

 

 

ディエンド『やはり素晴らしい!絶対に頂くよ、その力!』

 

 

ライオトルーパー達が倒されたにも関わらず、ディエンドはガタックのクロックアップシステムを目にして嬉しそうに笑いながら左腰のホルダーから再びカードを取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE――』

 

 

ガタックR『ッ!クロックアップ!!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

ディエンドライバーからの電子音声を耳にしたガタックは直ぐさまクロックアップを使用し、何かをしようとしているディエンドを止めようと超高速で突っ込みダブルカリバーを振りかざしていくが……

 

 

『INVISIBLE!』

 

 

―シュウゥゥゥゥ……シュパアァンッ!!―

 

 

ガタックR『…ッ?!なっ?!』

 

 

ディエンドがドライバーの引き金を引くとディエンドの身体が無数のビジョンと化して姿を消し、ガタックの振りかざしたダブルカリバーは何もない空間を斬り裂いていったのだ。

 

 

『見えない敵は、倒せないだろう…?』

 

 

ガタックR『そんなっ……何処に?!』

 

 

突如消えてしまったディエンドの声だけが工事内に鳴り響き、ガタックは動揺しながらもディエンドの姿を探して周りを見渡していたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして同じ頃、シグナム達はワーム達から逃れて工事の地下にある巨大な柱が立ち並ぶ地下空間へと逃げていたが、今までシグナム達を追っていたワームの集団が先回りしシグナム達の前に立ちはだかっていた。

 

 

『グゥルルルル……』

 

 

ナナリー「ひっ…!」

 

 

キャロ「も、もう追いついてきたの?!」

 

 

アギト「クソッ!しつこさだけはホントに一人前だな?!」

 

 

シグナム「チッ!」

 

 

ワーム達に先回りされてしまったシグナムとアギトは思わず舌打ちするとナナリー達を背後に下がらせながら後退していき、ワーム達はそんなシグナム達を徐々に壁際へと追い詰めながら迫っていく。その端では……

 

 

 

 

ディケイド『ハッ!!フッ!!』

 

 

ビートR『ヤァッ!!』

 

 

―ドガァ!!バキィ!!―

 

 

ザビーR『フンッ!!ハァッ!!』

 

 

同じく地下へと戦いの場を移したディケイド&ビートが得意の連携攻撃でザビーへと仕掛けていくが、二対一という一見不利な状況でもザビーは全く引けを取らない動きで二人へと反撃していき、互いに距離を離して対峙していく。

 

 

ザビーR『フン。その女はともかく、クロックアップ出来ないお前など……俺の敵ではない!』

 

 

ディケイド『フッ……どうかな?そうと決めつけるのはまだ早いぞ?』

 

 

ディケイドは軽く鼻で笑いながらそう言うとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、そのままディケイドライバーへと投げ入れスライドさせる。

 

 

『FORMRIDE:CHAOS!CELSIUS!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドの身体を何処からか現れた凍える吹雪が包み込み、吹雪が徐々に晴れるとディケイドの姿は青い身体と水色の瞳に両腕に銀色の手甲が装備されたカオス……カオス・セルシウスフォームへとフォームライドしていったのだ。そして変身したDカオスは両手を払いながらライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出していく。

 

 

Dカオス『見せてやるよ、時を操る神の力を!』

 

 

Dカオスはそう言いながら再びディケイドライバーのバックルを開き、取り出したカードをディケイドライバーへとセットした。

 

 

『ATTACKRIDE……』

 

 

Dカオス『…………』

 

 

ビートR『…………』

 

 

ザビーR『…………』

 

 

アタックライドの電子音声が鳴り響くとDカオスはバックルに片手を添えながらゆっくりと身を屈めていき、ビートとザビーもおもむろにベルトへと手を掛けていく。そして……

 

 

 

 

『TIME QUICK!』

 

『Clock Up!』

 

『Clock Up!』

 

 

『フッ!!』

 

 

―シュンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!―

 

 

電子音声が鳴り響くと共に三人の周りに流れる時間がスローモーションと化し、それと同時に三人は超高速で駆け出し地下空間を駆け巡りながら互いに激突していったのだった。

 

 

―ズガンズガンズガンズガンズガンッ!!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!!―

 

 

Dカオス『ダアァッ!!ハアァッ!!』

 

 

ビートR『ハッ!!セイッ!!』

 

 

ザビーR『フンッ!!セアッ!!』

 

 

地下空間内の柱の壁を突き抜け、辺りに無数の瓦礫が飛び散る中でDカオス&ビートとザビーは超高速の世界で激しく激突し合い、双方一進一退の激戦を繰り広げていた。しかし……

 

 

ザビーR『ハッ!!セアッ!!』

 

 

―ドゴオォッ!!バキァッ!!―

 

 

ビートR『グゥッ!!……?あれは……?』

 

 

ザビーのボディーラッシュを受けて吹っ飛ばされてしまったビートが身体を起き上がらせようとしたその時、視界の端に移ったある物を見てビートは思わず動きを止めてしまった。何故ならビートが見付けた物……それは壁際へと追い詰められて逃げ場を失い、今にもワームの集団に襲われそうになっているシグナム達とエリオ達、そしてナナリーの姿があったからである。

 

 

ビートR『ッ?!エリオッ?!キャロ!!皆ッ!!』

 

 

Dカオス『クッ!ッ?!フェイトッ?!』

 

 

ザビーR『逃げるなッ!!ハァッ!!』

 

 

―シュバババババババババババァッ!!―

 

 

ワームの集団に襲われそうになっているナナリー達を見たビートは直ぐさま一同を助けようと走り出すが、それを見たザビーは背中を向けるビートに向かって左腕のザビーゼクターから無数のニードル弾を乱射し、それに気付いたビートが慌てて背後に振り返ろうとした、その時……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

Dカオス『グゥッ!!ウグアァッ!!』

 

 

ビートR『?!零ッ?!』

 

 

なんとDカオスがビートの目の前に瞬時に移動し、ビートに打ち込まれようとしたニードル弾を代わりに受けて地面に崩れ落ちてしまったのだ。ビートは慌ててDカオスの身体を支えていくが、残った流れ弾が二人の背後……ナナリー達の方へと向かっていってしまった。

 

 

Dカオス『グゥッ!し、しまった!?ナナリー!!シグナム!!アギトォ!!』

 

 

ビートR『エ、エリオ!!キャロォ!!』

 

 

ニードル弾が完全にナナリー達を捉えた直撃コース。それに気付いた二人は直ぐさま動き出そうとするが、既にナナリー達とニードル弾の距離はほんの僅かしかなく、この距離からニードル弾に追いついて全て叩き落とすのは不可能だ。最早万事休すかと誰もが思った、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギィ!!ガギィ!!ガギィ!!―

 

 

『フッ…!ハァッ!!』

 

 

―ガギィィィィィンッ!!ドグオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

 

 

 

『なっ…?!』

 

 

 

 

突如何処からかナナリー達の目の前に赤い影が超高速で現れ、その手に持つクナイのような武器でナナリー達に襲い掛かろうとした全てのニードル弾とワーム達を斬り裂き一瞬で撃退していったのであった。そしてナナリー達を救った赤い影……赤いボディと青い瞳を持ったカブトムシのような姿をしたライダーは、ゆっくりとDクロノス達の方へと俯いた顔を振り向かせていく。

 

 

Dカオス『ま、まさか……!』

 

 

ビートR『もしかして……あれがこの世界のライダー――?!』

 

 

ザビーR『ッ!!カブトォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

Dカオスとビートが呆然とした表情で赤いライダー……『カブト』を見つめる中、ザビーは怒りに満ちた表情でカブトへと突っ込み拳を振り抜いた。だが……

 

 

―ガシッ!!―

 

 

ザビーR『なっ?!―ガギィィィィィィインッ!!―ウグアァッ?!』

 

 

カブトはザビーの放った拳を片手で簡単に受け止め、クナイのよう武器でカウンターを仕掛けザビーを斬り飛ばしていったのだった。そしてそれと同時にタイムクイックとクロックアップの効果が切れて周りに浮遊していた瓦礫が一斉に地面へと落下していき、Dクロノスとビートも変身を解除して零とフェイトに戻っていった。

 

 

エリオ「――――……え?あ、あれ?」

 

 

キャロ「ワームが……消えた?」

 

 

シグナム「……それに……これは一体……どうなってる…?」

 

 

クロックアップが解けたと同時にシグナム達は目の前にいた筈のワームの集団が消えた事や辺りに散らばまれた瓦礫の山を見て動揺してしまうが、ナナリーは目の前に立つカブトを見て目を見開いていく。

 

 

ナナリー「カ……カブ……ト……」

 

 

カブトR『…………』

 

 

カブトを目にしたナナリーは呆然とした表情を浮かべながら自然と身体を強張らせていくが、カブトはゆっくりとナナリーの方へ顔を向けると……

 

 

 

 

『Clock Up!』

 

 

―シュンッ!!―

 

 

ナナリー「…ッ!ま、待ちなさい!待ってッ!!」

 

 

カブトは直ぐさまクロックアップを使用して超高速でナナリーの視界から姿を消し、それを見たナナリーは慌ててカブトを引き止めようとするも既に間に合わず、カブトは何処かへと消えていってしまったのだった。

 

 

ナナリー「ッ……カブトっ……」

 

 

アギト「……ナナリー…」

 

 

零「………………」

 

 

何故自分の兄を殺したのか。それを聞きたかったナナリーはカブトに逃げられた事に悔しげに顔を俯かせ、アギトやエリオ達も心配げな表情でナナリーを見つめ、遠くでそれを見ていた零も何も語らないまま静かにナナリーから目を逸らしていく。その影では……

 

 

ディエンド『―――やはり素晴らしい……スッゴく欲しいよ、クロックアップシステム♪』

 

 

物陰からカブトの登場を一部始終見ていたディエンドは爽やかな笑みを浮かべながらカブトが走り去った方を指鉄砲で狙い撃ち、そのまま零達に気付かれない様にその場から去っていった。そんな時……

 

 

ザビーR『ハァ……ハァ……ハァ……カブトめぇ……』

 

 

先程カブトのカウンターを受けて吹っ飛ばされたザビーがカブトに対して殺気を放ちながら傷ついた身体を起こしていき、左腕のブレスレットに装着されたザビーゼクターが独りでにブレスレットから離れてルルーシュに戻っていく。だが、その時……

 

 

ナナリー「……ッ?!お、お兄様?!」

 

 

ルルーシュ「…ッ?!」

 

 

『……え?』

 

 

変身が解けたルルーシュを見たナナリーは信じられないものを見たような目をし、ナナリーの叫びを聞いたルルーシュの方も目を丸くしナナリーを見た。

 

 

フェイト「お、お兄様って……まさか…?!」

 

 

零「アイツが……ナナリーの兄さん……?」

 

 

ナナリー「…………」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

死んだ筈のナナリーの兄がルルーシュで、更にその兄が生きてナナリーの目の前にいる。最愛の兄との突然の再会に信じられないといった表情をするナナリーに零達も戸惑ってしまい、その場には静かな沈黙が流れていくのであった……

 

 

 



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番外編/幼き日の約束

 

 

 

 

―――あれは十年前……

 

 

まだPT事件の真っ最中だった頃……

 

 

忘れたくても忘れる事が出来ない……なのはとフェイトも知らない……あの闇の中での偶然の出会い……

 

 

俺は―――一人の少女との出会いを果たしていた……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

 

零「ッ……………此処…………は……?」

 

 

瞳を開けた先にあったのは、何処までも暗闇が続く真っ暗な空間。

 

 

一筋縄の光も射さない暗闇の中で、黒月零は目を覚ました。

 

 

零「……此処は一体……俺は確か……海上で高町とテスタロッサとJSを同時封印していて……」

 

 

そうだ……確かその直後、上空からの紫色の雷光を受けて海へと落ちてしまって……それから?

 

 

零「……思い出せない……もしかして……あの後気を失ったのか……?」

 

 

思わずそう口にし、現状を理解した所で軽く舌打ちをしてしまう。

 

 

そんな自分の情けない姿を高町達の前で曝したという自分に対しての苛立ちだ。

 

 

だが取りあえず今はそんな事はどうでもいいと頭を左右に振って思考を切り替えると、顔を動かして辺りを見回していく。

 

 

零「それにしても……此処は一体何処だ?何故こんな何もない場所に……」

 

 

現状を理解したのはいい、しかしだとすればこの場所は何なのだろうか?

 

 

あの後回収されたにしても此処がアースラの艦内という感じには思えないし、何より雰囲気が違い過ぎる。

 

 

まさかアースラに回収される直前にまた何らかの異常が発生し異空間にでも飛ばされたか?などと我ながら阿呆らしい展開を想像してみたりして思考を働かせていくが、やはりこの場所の正体は掴めない。

 

 

ならば此処は無駄に考えるよりも行動で確かめた方が早いだろうと判断して薄い溜め息を吐き、零が足を一歩踏み出した、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ダメ!其処から先に進んじゃダメ!!』

 

 

 

 

 

零「――ッ?!」

 

 

 

 

突如空間全体に悲痛な叫び声が鳴り響き、零はその声に驚愕しつつも思わず声に従うように足を戻し、辺りを警戒して見渡していく。

 

 

零「ッ!誰だ?!誰かいるのか?!」

 

 

『……あれ?もしかして、わたしの声聞こえた?……良かったぁ~!もう、何度叫んでも全然聞こえてないみたいだったからちょっと焦っちゃったよー�』

 

 

零「何一人でブツブツ言ってる?!質問に答えろ!!お前は誰だ?!」

 

 

『ちょ、そんな怒鳴らなくてもいいでしょう?!せっかく助けてあげたんだから感謝してよねー?!』

 

 

ブーブーとブーイングして来る少女の声に若干イラッとしながらも警戒を解かずに身構える零だが、其処で一つある疑問に気付き頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

零「……おい、取りあえずお前の事は後ででいい……今俺を助けたと言ったな?それはどういう意味だ?」

 

 

『んー?言葉通りの意味だよ?このままわたしが止めてなかったら、君間違いなく死んでたよ?』

 

 

零「死んで……いた?どういう事だ?この先になにかあるのか…?」

 

 

少女の声が言い放った言葉に戸惑いながら暗闇の先を見据えると、少女の声は声のトーンを少し落としながら語り出す。

 

 

『やっぱり知らなかったんだ……此処はね?生と死の狭間とも呼べる場所なの』

 

 

零「……生と死の……狭間?」

 

 

『そう。簡単にいえば……現実の世界で巻き込まれた事故かなにかのショックで一時的に身体から意識が離れてしまった人がごくたまーに迷い込む場所……って言えば大体分かるかな?』

 

 

零「意識が迷い込む場所?」

 

 

少女の声から話を聞いて更に疑問符を並べながら首を傾げていく零だが、ふと目の前へと視線を向ければ、暗闇の向こうから悍ましいうめき声のような物がとぎれとぎれに聞こえてくる。

 

 

零「……意味は良く分からないが……今までの話から察するに……まさかこの先にあるのは……」

 

 

『うん……この先に進んでしまえば二度と現実の世界に戻って来れない『死』が待ってる……だからわたしが止めなかったら、君は何も知らないまま先に進んで死んでいたってわけ』

 

 

サラサラとした口調で告げられた事実に零は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

 

 

この声が止めてくれなければ、自分はなにも知らずにあの世へと逝っていた。

 

 

それを漸く頭で理解した所で額からも冷たい汗が流れていき、それを手の甲でおもむろに拭っていく。

 

 

零「そういう事か……なら一応感謝はしておかないとな……助かった……」

 

 

『どういたしましてー♪』

 

 

零「……随分と元気が良い奴だな……まあいい。それで、お前は一体誰なんだ?出来れば名前を聞かせて欲しいんだが……」

 

 

『わたし?わたしはアリシアっていうの。そーいう君は?』

 

 

零「……黒月零……ただのしがない小学生だ……」

 

 

アリシア『プッ、何それ?なんかおじさんみたーい♪』

 

 

零「うるさい!」

 

 

可笑しそうに笑うアリシアの声に我も忘れて怒鳴ってしまい、それで我を取り戻した零は一つ咳払いをして心を落ち着かせる。

 

 

零「…それで?お前はどうしてこんな所にいるんだ?お前も俺みたいに、此処に迷い込んだのか?」

 

 

アリシア『んー……ちょっと違う……かな?現実のわたしはもう四年くらい前に死んじゃってるんだけど、あっちの世界にまだわたしの身体があるからこっち側に逝けない……って感じなのかな?』

 

 

零「身体が?…じゃあお前は、自分の身体が消えないと完全あの世に逝くことも出来ないのか?だから此処にいるっていうのか?」

 

 

アリシア『うーん……どうだろ?本当にそうなのかもちょっとあやふやで分かんないし、難しい話もわたしには分かんないけど……でもわたしが此処にいるのは、何か特別な意味があるからじゃないかな?多分だけど』

 

 

零「特別な……意味…?」

 

 

アリシア『そっ!たとえば…………えーっと…………んーっと…………』

 

 

声だけしか聞こえないが、もし身体も見えてれば腕を組んで子供のように悩んでるのではないだろうか?

 

 

そんなくだらない事を考えながら暫く彼女の返答を待っていると……

 

 

アリシア『――あっ!そうそう!零とわたしが出会う為とか♪』

 

 

零「……馬鹿かお前……何で今日知り合ったばかりの男と出会う為に此処に四年も縛られてるんだ……」

 

 

アリシア『えー?だめぇ~?だってこれしか考えつかなかったんだもん……』

 

 

呆れたように肩を竦める零にアリシアも不満の声を上げてシュンッとなってしまい、そんなアリシアの様子に零は頭を抱えながら溜め息を吐いて答えた。

 

 

零「ハァ……分かった……そういう事にしておこう……もし本当にそうだというなら、お前と引き合わせてくれた運命の女神とやらに感謝感激だな……」

 

 

アリシア『そーそー♪零とわたしの出会いは女神様が引き合わせてくれた運命なんだよー♪』

 

 

自分が素直に認めたことで気分を良くしたのか、アリシアはそれこそ子供のような微笑みを漏らして喜び、そんなアリシアを能天気な奴だと思いながら零も自然と微笑を浮かべていく。

 

 

アリシア『……あ、やっと笑った♪』

 

 

零「…………え?」

 

 

アリシア『零、此処に来てからずーっとブスッとした顔ばっかなんだもん。でも今やっと笑った……そっちの方がずっと良いと思うよ?わたしは』

 

 

零「……………」

 

 

アリシアに言われてソッと口端に手を当て、それで漸く自分が笑っているのだと気付く零。

 

 

久しぶりに笑った……最後に笑ったのは一体何時だったか……そんな事を一々考えるのも馬鹿らしくなり、零は目を伏せて再び微笑を浮かべていく。

 

 

零「……なんだか……お前には色々と借りを作られてばかりだな……」

 

 

アリシア『ほぇ?』

 

 

アリシアはポツリと呟いた零の言葉に不思議そうに間抜けな声を漏らし、そんなアリシアの様子に零は思わず噴き出しそうになり笑いを押し殺していく。

 

 

零「……そうだ……助けてくれた礼と言うのもなんだが、何か叶えて欲しい願いとかないか?」

 

 

アリシア『え?わたしの……願い?』

 

 

零「あぁ、このまま借りを作られたままというのも何だか癪だからな……なにかお前の願いを叶えてやる。俺に出来る範囲ならなんでもするぞ?」

 

 

アリシア『………………』

 

 

突然の零の提案に一瞬呆然として言葉を詰まらせてしまうアリシアだが、一度口を閉ざして黙り込むと……

 

 

アリシア『…………おかあさん…………』

 

 

零「ん?」

 

 

アリシア『………わたしのおかあさんを………助けてあげてほしいの………』

 

 

切なげな、それでも切実な願いをアリシアはソッと口にしたのだった。

 

 

零「お前の……母親?」

 

 

アリシア『うん……わたしのおかあさんはね……わたしが死んでしまったせいで可笑しくなって……わたしを生き返らせようと苦しんでるの……そして今も沢山の人達を傷つけて……自分まで傷つけてる……』

 

 

零「………………」

 

 

アリシア『だから零……お願い……もし……もし本当にわたしの願いをなんでも聞いてくれるなら……おかあさんを助けてあげて……これ以上……わたしのせいでおかあさんを苦しませたくないの……お願い……』

 

 

先程までの明るい印象とは打って変わり、悲しげに、涙声になりながら願いを告げたアリシア。

 

 

それを聞いた零は一度顔を俯かせて暫く口を閉ざすと、力強い表情で虚空を見上げた。

 

 

零「……了解だ……それがお前の願いだというなら、俺がそれを叶えよう」

 

 

アリシア『ッ!え……ホ、ホントに…?』

 

 

零「あぁ、助けてもらった恩は返さないといけないからな……で、お前の母親の名はなんていうんだ?」

 

 

アリシア『え……えーっと……プレシア……』

 

 

零「プレシア…か。了解した、お前の母親は必ず俺が救ってみせる。これで文句ないだろう?」

 

 

アリシア『………うん……うん!ありがとう!ホントにありがとう!』

 

 

いや、願いはまだ叶えていないんだから礼を言うのは早いだろう?と心の中でそう思い口にしようとするが、こんなにも喜んでくれているのだから別にいいかと言葉を飲み込む零。

 

 

零「……さて、それじゃあさっさと現実の世界に戻らないとな……」

 

 

アリシア『……え?もう…行っちゃうの?』

 

 

零「あぁ、お前の願いを叶えてやらないといけないからな。現実世界に戻らないと話にならんだろう?」

 

 

アリシア『……うん……そう、だよね……』

 

 

零が現実の世界に戻ると告げるとアリシアは途端と寂しげな声を漏らし、そんなアリシアにどうしたのかと首を傾げた零はあることに気付く。

 

 

此処で自分がいなくなれば、アリシアはこの暗闇しかない世界でひとりぼっちになってしまう。

 

 

原因はわからないが彼女は何らかの理由でこの狭間の世界に縛られており、それを究明しなければ此処から抜け出せないのだ。

 

 

つまりこの世界でまた……彼女は一人になってしまう。

 

 

そこまで考えた零は一度どうするべきかと悩んで顔を俯かせると、右手で頭を軽く掻きながら……

 

 

零「……………あれだ……帰る前にもう一つ、お前に約束してやる……」

 

 

アリシア『……え?』

 

 

言いにくそうに呟いた零の言葉にアリシアも疑問げな声で聞き返し、零は背後に振り返りながら再び口を開いた。

 

 

零「…………だからあれだ…………ついでにこの世界がお前を縛りつける原因を俺が探し出して…………この暗闇しかない世界からお前を解放してやる…………だから此処で大人しく待っていろ…………俺がお前を…………その…………助け出してやるから…………そんな気を落とすな……」

 

 

アリシア『…………』

 

 

プイッと顔を逸らしながら淡々とした口調でそう言い放った零。そんな零の言葉が予想外だったのか、アリシアは一瞬息を呑みながら唖然となってしまうも直ぐに可笑しそうにクスクスと笑い出した。

 

 

零「な…何だ?何を笑ってるんだ……?」

 

 

アリシア『ふふ♪ううん、ありがとね零?あまり期待しないで待ってる♪』

 

 

零「ッ…………チッ………ならもう行かせてもらうぞ……あっちが死に繋がっているっていうなら、逆方向に行けば現実世界に戻れるんだろう?」

 

 

アリシア『あ、うん。そのまま真っすぐ行けば光が見えてくるから、それを潜れば外に出られるよー♪』

 

 

らしくない事をしたと自己嫌悪する零は一度アリシアに確認を取ると、そのまま何も語らず先程自分が向かおうとした死の道とは逆方向へと早足で歩いていく。そうして暫く闇の中を歩いていると、暗闇の向こうからまばゆい光が溢れ出し、漸くこれで出られると零が光の中に足を踏み込んだ、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリシア『零っー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ…!今度は何だ…?先に言っておくがこれ以上約束とかはし―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しない、と苛立ちを込めて叫ぼうと背後へと勢いよく振り返った。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―………フワァッ…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「(――――は…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ肌に感じた優しい風と、唇に重なった暖かで柔らかい何かの感触。

 

 

それが何なのか分からないまま呆然と光の中で瞬きをしていると、目の前の視界に移ったのは白い光に包まれた一人の少女――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリシア「――――いってらっしゃい♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が光に包まれて消えていく中、最後に垣間見たのは頬を紅く染めて子供のように笑う金髪の少女の笑顔だった――――

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――そうして俺はあの世界から抜け出し、次に目覚めたのはアースラの医務室のベッドの上だった。

 

 

それから今まで俺に付き添っていた高町が泣きじゃくりながら抱き着いてきたり、リンディ・ハラオウンに説教されたりなど面倒な事が続いた……

 

 

しかし事件が終盤を迎えた直後……俺は信じられない事実を知ってしまった。

 

 

この事件の大元でフェイト・テスタロッサの母親であるプレシア・テスタロッサ……彼女が夢の中で出会ったアリシア・テスタロッサの母親であること……

 

 

アリシア・テスタロッサの遺体が時の庭園にあること……

 

 

そして……フェイト・テスタロッサがアリシア・テスタロッサのクローンであることを……

 

 

 

 

 

 

 

そして事件の終盤……時の庭園が崩壊し始めた時……

 

 

俺はある二つの選択肢を迫られてしまった……

 

 

虚数空間に落ちていくプレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサが入ったポット……

 

 

無数の瓦礫の下敷きになり掛けているフェイト・テスタロッサ……

 

 

どちらかを救うには、どちらかを切り捨てなければいけない……

 

 

アリシアとの約束か、新たな決意を決めたフェイトか……

 

 

九歳の子供に迫られたその選択肢は……あまりにも酷過ぎるものだった……

 

 

時は一刻を争い、悩んでる時間など到底なかった……

 

 

そんな俺が苦渋して選んで助け出したのは……新たな決意をしたフェイトだった……

 

 

アイツはまだ、誰かと笑い合って生きるということを知らない。

 

 

アイツの未来は、これから始まるんだと。

 

 

だから俺は……フェイトを救う事を選んだ……

 

 

……アリシアとの約束を……切り捨ててしまったんだ……

 

 

PT事件が解決した後も、俺はそのことに対し罪悪感を拭う事が出来なかった……

 

 

部屋に一人篭っては何度もそれに押し潰されそうになり、自分を責めては思わず泣きそうにもなった……

 

 

別にフェイトを助けた事を後悔してる訳じゃない……

 

 

ただ……ただ自分の無力さに嫌気がさしたのだ……

 

 

魔法が使えても、戦える力を持っていても……

 

 

誰かを切り捨てる事でしか誰かを救えない……自分はこんなにも弱い人間なんだと……

 

 

悔しくて……情けなくて……

 

 

事件が解決した後も、俺はなのは達の前ではいつも通りの自分を保ちながら自分を痛め付けるように鍛練に励んだ……

 

 

もう……誰も救えない自分が嫌だから……

 

 

だからこれからも……俺は剣を握り続けると誓った……

 

 

果たす事の出来なかった約束を胸に……誰かを守る為に戦い続ける事を――――

 

 

 



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番外編/揺り篭を求める者達

 

 

 

―――零達一行がカブトの世界を訪れてる頃、とある平行世界に存在する廃墟と化した都市。其処では今、人知れず大きな戦いが巻き起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!』

 

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

都市の中心で、轟音に近い雄叫びを上げながら激しくぶつかり合う二つの軍勢。一方は不気味な姿を形取る異形達によって形成された軍勢……かつて魔界城での戦いで零達一行により半数以上の数が倒されたレジェンドルガ。もう一方は同じ姿の仮面の戦士達によって形成された軍勢……セイガやキャンセラーの世界でも零達一行に襲い掛かってきたライオトルーパー。廃墟となった都市の中で無数の光弾と爆発が飛び舞う中、双方の軍勢の戦いは段々とその激しさを増していた。

 

 

―ガギィン!ガギィン!ガギイィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォオッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

都市内に展開されたレジェンドルガの軍勢の西陣内。無数の異形達によって埋め尽くされたその場所では、Aをモチーフにした金色の仮面ライダーがレジェンドルガの軍勢をたった一人で薙ぎ倒していた。そして金色のライダーはレジェンドルガ達を斬り付けていた剣のオープントレイを開き、一枚のカードを取り出して剣に通していく。

 

 

『MIGHTY!』

 

 

『ハアァァァァァァァ……ハアァッ!!』

 

 

―ズザアァンッ!!―

 

 

『グガァッ?!ギ、ギガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

電子音声が鳴り響くと共に金色のライダーは残ったレジェンドルガ達に向けて流れるように剣を振りかざし、斬りつけられたレジェンドルガ達は断末魔の悲鳴と共に一斉に爆発を起こし散っていったのであった。

 

 

『……フンッ……他愛ない連中だ……』

 

 

レジェンドルガ達が爆散した後金色のライダーはつまらなそうに言いながら剣を払い、未だ一進一退の交戦が続くレジェンドルガ達とライオトルーパー達の戦いを眺めながらある人物へと通信を繋ぐ。

 

 

―ジジッ…ジジジィッ…―

 

 

綾『――はい。こちら作戦本部……と、椋さんでしたか』

 

 

『あぁ、俺だ。こちらの方は粗方片付いた。他の奴らは今どうなってる?』

 

 

金色のライダーは通信が繋がって聞こえてきた一人の少女の声……綾から状況の説明を要求し、要求を受けた綾は平たい口調で状況の説明を始めた。

 

 

綾『戦況は今の所、こちらが少し有利ですね。慎二さんの部隊は右翼の敵部隊と交戦中、一樹さんは単独で中央の敵部隊を突破しつつ敵部隊の本陣へと前進中、総一さんは一樹さんのフォローをしつつ同じく敵本陣へと前進中……といったところです』

 

 

『……チッ……慎二はともかく、一樹と総一は前に出過ぎてるな……漸く奴らの足を掴んだ事に少し浮かれているか……』

 

 

綾『恐らくそんな所でしょうね。ずっと彼等を追って様々な世界を回っていましたし、戦闘が始まる前も何処か張り切っていたように見えました……何か不都合でもありましたら、私の方からお二人に連絡して呼び戻しますが……』

 

 

『………いや、今のタイミングで下がらせたら返ってあの二人が危険になるだけだ……そうなればこちらが一気に押し返される可能性が高い……それに敵陣への突貫はアイツ等の得意分野だ。勝手にやらせておけばいいだろう』

 

 

疲れたように溜め息を吐きながらそう言ってると背後からライオトルーパーの部隊がやってきて金色のライダーと合流していき、それを見た金色のライダーは目の前へと視線を向けながら再び話し出す。

 

 

『取りあえず俺はこのまま部隊を連れて前進する。お前は本部の守りを固めつつこちらからの指示を待て。いいな?』

 

 

綾『了解しました……ご武運をお祈りします』

 

 

最後にその言葉を耳にすると金色のライダーは通信を切り、ライオトルーパーの軍勢を率いて前進を開始していったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―廃墟・レジェンドルガ軍右翼―

 

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォオン!!―

 

 

左翼にいる金色のライダーが前進を開始したのと同じ頃、レジェンドルガ軍右翼ではレジェンドルガの軍勢とライオトルーパーの軍勢が未だ激しい戦いを繰り広げている最中であった。そして右翼のレジェンドルガ部隊を率いる一人の仮面の戦士……トーレが変身したアースは向かい来るライオトルーパー達を薙ぎ伏せながら指示を出していく。

 

 

アース『前衛部隊は前面から押し寄せる敵を抑えろ!後衛部隊は前衛部隊のフォローに回りつつ後方射撃で前面からの敵を撃退!これ以上奴らの進行を許すな!』

 

 

レジェンドルガ軍に指示を送ると同時に最後の一体を撃退し、アースは前面からまるで雪崩のように押し寄せてくるライオトルーパーの軍勢を睨みつけながら思わず舌打ちする。

 

 

アース(チッ…!まさか、新たに開発したライダーシステムの稼動実験の最中に奴らに見つかるとはっ……このままアジトがある世界に戻ってしまえばドクターの居場所を奴らに教えてしまう事になる!それだけは何としても避けねば…!)

 

 

ギリッ!と奥歯を噛み締めながらそう考えるとアースは目前の敵を見据え、自身も前線に向かおうとその場から走り出そうとする。しかし……

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

アース『?!なっ…?!』

 

 

背後から鳴り響いた突然の巨大な轟音。その爆発音と衝撃波だけで思わず身体が浮き、アースは驚愕混じりにバッと勢いよく背後へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

『……………』

 

 

 

 

 

 

無数のレジェンドルガ達の屍の山を踏み付け、背後に巨大な黒き龍を従わせて立つ黒いライダーの姿が其処にあったのだ。そのライダーを目にしたアースは両目を見開き、思わず後退りをしながら口を開いた。

 

 

アース『リュ、リュウガ……No.5……天野慎二か?!』

 

 

リュウガ『…………』

 

 

驚愕と恐怖の混じった声で叫ぶアースだが、黒いライダー……リュウガはそれに何も答えず、ただ顔を少し俯かせてレジェンドルガの屍を見下ろしていた。何故こちらの軍の背後に奴がいるのかと驚愕して戸惑っていると、アースはリュウガの近くに落ちている割れた鏡を発見した。

 

 

アース(そうか……ミラーワールドか?!ちぃっ!!何故よりにもよってコイツがこっちに…!!)

 

 

割れた鏡を見てすぐにその謎を理解したアースは驚愕の表情から何処か追い詰められたような表情へと変わり、左腰にあるフエッスルの中から真紫のフエッスルを取り出しベルトに止まったアースキバットへと吹かせていった。

 

 

アースキバット「ウェイクアップッ!」

 

 

アースキバットの掛け声が響くとアースの右手に大量のエネルギーが集約されて球状へと形成されていき、アースは勢いよくリュウガへと突っ込み右手のエネルギー球をリュウガに向けて放った。が……

 

 

―……ガシッ!!シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ……―

 

 

アース『ッ?!な、何ッ?!』

 

 

なんとリュウガはアースの放った右手をたったの左手一本で受け止めてしまい、そのままエネルギー球を握り潰して打ち消していってしまったのだ。

 

 

アース『そんな…馬鹿な…?!』

 

 

リュウガ『……フンッ……ウオォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―バキィ!!ドガアァ!!ドゴオォ!!―

 

 

アース『ガッ?!ウグアァッ!!』

 

 

リュウガは驚愕するアースを押し返して回し蹴りを放ち、最後にアースの腹部にミドルキックを打ち込んで吹っ飛ばすとバックル部分のカードデッキから一枚のカードを抜き取り、左腕のダークドラグバイザーに装填しベントインした。

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

電子音声が響くと共に黒き龍……ドラグブラッカーがリュウガにとぐろを巻き、その中心でリュウガは黒い炎を纏いながら宙に浮上していく。そして……

 

 

リュウガ『ハアァァァァァ……ハアァッ!!』

 

 

『ギャオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!』

 

 

アース『グッ…?!』

 

 

『ッ?!ウ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ?!!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

リュウガは自身の必殺技…ドラゴンライダーキックを発動してアースに跳び蹴りを放っていくが、アースは直ぐさまその場から飛び退いてリュウガの跳び蹴りを回避し、リュウガのキックはその背後にいた無数のレジェンドルガの軍勢に炸裂し、レジェンドルガの軍勢は断末魔をあげながら跡形もなく消え去っていったのだった。

 

 

アース『…ッ!馬鹿な……たったの一撃で……全滅だと……?』

 

 

リュウガ『……………』

 

 

たった一瞬であれだけの数のレジェンドルガ達を消し去ったリュウガにアースは信じられないといった表情を浮かべて呆然となり、リュウガは紅蓮の炎を背にそんなアースの方へと顔を向けていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―廃墟・レジェンドルガ軍本陣―

 

 

その頃、金色のライダーとリュウガが敵対するレジェンドルガ軍の本陣。其処は他の部隊より多くのレジェンドルガ達によって形成され守りを固められており、本陣の中心には一人の女性……ドゥーエが一体のレジェンドルガと話している姿があった。

 

 

ドゥーエ「―――それで、状況は?」

 

 

『……左翼は完全に崩され、右翼はトーレ様を除く兵がたった今全滅されたと……』

 

 

ドゥーエ「ッ……流石は組織のメンバーね……本気でこちらを潰しに掛かってきてる……最早問答は無用って事かしら……」

 

 

表面では冷静さを保つも、内心ではこの状況に焦燥を覚えて呟くドゥーエ。このままでは全滅させられるのも時間の問題だろう。そうなれば自分かトーレが捕まりドクターの居場所を無理矢理にでも吐かされるかもしれない。拷問は勿論、洗脳や催眠だって奴らにはお手の物なのだから。そんな仕打ちを受ける光景を思い浮かべたドゥーエはそんな考えが過ぎった頭を左右に振り、気を引き締めて顔を上げた。

 

 

ドゥーエ「とにかく、この状況が続くのはあまりよろしくない……陣の第三から第六部隊を前面に押し出しなさい!残った部隊は砲撃準備を整いつつ周囲を警戒!敵影を確認次第反撃を――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゥーエ「――ッ?!こ、これは…?!」

 

 

レジェンドルガ達に指示を出そうとした中、突如鳴り響いた爆発音。それを耳にしたドゥーエや周りのレジェンドルガ達は動揺を浮かべながら辺りを見渡していくと、其処へドゥーエの下に通信が入ってきた。

 

 

『ドゥ、ドゥーエ様!!敵が、敵がこの本陣に突っ込んできました!!』

 

 

ドゥーエ「なっ……敵?!数は?!」

 

 

『か、数は二……奴らです!!あの黒カブトと鬼が―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―ウ、ウワアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

ドゥーエ「?!ど、どうしたの?!応答しなさい!!何が起きたの?!」

 

 

通信の向こうから聞こえてきた爆音と悲鳴を耳にしたドゥーエは慌てて応答を求めるが、聞こえてくるのはザザザザァッというノイズの不愉快な音しか流れて来なかった。

 

 

ドゥーエ「……敵はたった二人?それに黒カブトと鬼って……まさか……」

 

 

通信で知らされたその二つの名にドゥーエは思わずグッと手を握り締め、額からも嫌な汗が流れて地面へと落ちた。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

突然、何かを打ち破る爆発音が目の前から炸裂した。その爆発音と衝撃波だけでドゥーエは思わず身体を投げ出されそうになり、背後にいたレジェンドルガ達がそんな彼女の身体を支えてドゥーエを守るように構えていく。爆発は外部からの衝撃で発生した物らしい。突然の展開に呆然としつつも瞬時に頭でそう理解したドゥーエは目の前に視線を向けると、目の前の爆煙の向こうから二つの影が姿を現した。

 

 

『――あれ?もしかして、もう敵の本陣に着いちゃったんスか?』

 

 

『らしいな……まぁ、あんだけ馬鹿みたいなスピードで突っ込んでいけばそりゃあっという間に着いちまうだろうよ』

 

 

『ナッハハハ♪そんな馬鹿みたいなスピードに軽々とついてきてたアンタが言えるッスかぁ?』

 

 

爆煙の向こうから姿を見せた二つの人影。一人は黒いカブトムシをモチーフにした姿のライダー。もう一つはもう一人は右側が緑、左側がオレンジ色のアンシンメトリーな鬼。その二人を見たドゥーエは震える声で呟く。

 

 

ドゥーエ「ッ……組織のNo.9、No.10……ダークカブトと歌舞鬼……市道一樹と成宮総一っ……」

 

 

二人のライダーを見据えながら苦痛を噛み締めるような表情で言ったドゥーエ。そんなドゥーエを見つけた黒いライダー……ダークカブトは口元を緩めながら喋り出した。

 

 

ダークカブト『お久しぶりッスねぇ、ドゥーエさん?まさかアンタ等が裏切るとは俺も予想してなかったッスよ』

 

 

ドゥーエ「……白々しい男ね……私達が貴方達を利用していたって事ぐらい分かっていたんでしょう?そして貴方達も私達を利用していた……あの揺り篭を動かす為に必要な聖王専用のライダーを作らせる為に……」

 

 

ダークカブト『ありゃりゃ……気付かれてましたぁ?参ったなぁ~、そう思われないように頑張ってたんッスけどねぇ?』

 

 

ナッハハハハ、と場違いな笑い声を上げるダークカブトにドゥーエは視線を鋭くさせてダークカブトを睨みつけると、ダークカブトは笑みを浮かべたまま再び口を開いた。

 

 

ダークカブト『でもまぁ、先に裏切ったのはそっちの方ッスからね?開発段階で聖王専用のライダーが想像以上の出来になったからって独り占めしようとした上に、破壊の因子を手に入れた事を俺等に黙っていた。平行世界を手に入れようとか馬鹿な考えを持つようになったのがそもそも原因なんスから』

 

 

ドゥーエ「………確かに、貴方達から見れば馬鹿な事に思えるでしょうね……でもそれを可能にする方法を貴方達が持ってるじゃない。揺り篭っていう方法をね……」

 

 

歌舞鬼『だから俺等に従った振りをして、密かに考えてたって訳か?クーデターを』

 

 

ドゥーエ「それを実行する前に計画は大きく狂ってしまったけどね。ディケイド達があの世界に現れたというイレギュラーさえ起きなければ、アークとレジェンドルガ、そして聖王の力を使って貴方達から揺り篭を奪うという計画を遂行出来たのに……」

 

 

ダークカブト『だけどそれはディケイド達の介入により失敗してしまった。そうなる前に手を打とうとしてたみたいッスね?ディケイドを仲間に引き込んで因子を与え、それを使って俺等を討とうと考えてたらしいッスけど』

 

 

ドゥーエ「ドクターはそれを好機と取ったらしいわ。彼をこちら側に引き込めば、貴方達を確実に倒せる筈だと考えて……でもそれも失敗に終わった。彼の意思が予想以上に強かったから」

 

 

歌舞鬼『そしてお前等は、因子を奴に渡した……俺等という邪魔物をディケイドに倒させて、揺り篭を手に入れる為に』

 

 

ドゥーエ「貴方達さえ消えれば揺り篭を手に入れるのは簡単ですからね。貴方達の揺り篭、そしてもしもの為の保険である二つの因子を手に入れ、ドクターの新たな夢を叶える……だからそれまで捕まる訳にはいかないのよ……絶対にね」

 

 

ダークカブトと歌舞鬼を見据えながらそう告げると、ドゥーエの下に三本の角を持った黒と金のゼクターが飛来し、ドゥーエはそれを掴み取り身構える。

 

 

ドゥーエ「新たなライダーシステムの力……貴方達で試させてもらうわ……変身」

 

 

『Henshin!』

 

 

そう言いながらドゥーエがゼクターを腰に巻いていたベルトにセットすると電子音声が鳴り響き、ドゥーエはその姿を徐々に変化させていったのだった。

 

 

『Change Beetle!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に変身を完了させ、ドゥーエは三本の角を持った仮面に金と黒のボディを纏い、右腕に三叉の爪のような手甲を装備した翠の複眼の戦士……仮面ライダーへと変身したのである。

 

 

歌舞鬼『ほぉ……ソイツがお前のライダーか?』

 

 

『えぇ。貴方達に対抗する為に造られたライダー……アトラス。これが私の力よ』

 

 

そう言って変身したドゥーエ……『アトラス』は右腕に装備したアトラスクローをおもむろに構えていき、ダークカブトと歌舞鬼もそれぞれクナイガンと鳴刀・音叉剣を構えていく。そして……

 

 

 

 

 

 

 

―………ザッ―

 

 

『………ハアァッ!!』

 

 

―ガキィンッ!ドガァッ!ギギィッ!!ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

 

 

 

 

双方が動き出した瞬間、互いの武器が激突し激しい戦いが始まったのだった。そしてそれを合図だと言う様にダークカブトと歌舞鬼に続いてきたライオトルーパーの軍勢が本陣へと攻め込みレジェンドルガの軍勢とぶつかり合い、戦いは遂に終盤を迎えようとしていたのだった……

 

 




仮面ライダーアトラス

装着者:ドゥーエ


解説:クアットロがシャドウが持参したダークカブトゼクターに改造を施したドゥーエ専用の仮面ライダー。アトラスオオカブトをモチーフとしており、三本の角を特徴に金と黒を基礎としたスタイリッシュなボディをしている。マクスドフォームは開発段階で破棄された為に存在せず、直接ライダーフォームへと変身する。使用武器は右腕に装備した巨大な三又の爪のような手甲……アトラスクローを使用して戦う。
必殺技はアトラスゼクターのフルスロットルボタンを順に押してタキシオン粒子をアトラスクローに集約させ、敵に突きを放つライダースティングとダークカブトと同じライダーキックの二つ。



アトラスゼクター


解説:クアットロがダークカブトゼクターに改造を施したアトラスオオカブトがモチーフの改造ゼクター。三本の角が特徴で黒と金のカラーリングを基礎とし、上記の通りマクスドフォーム事態は開発段階で破棄された為、ライダーベルトへとセットする事でライダーフォームへと直接変身する。




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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑦

 

 

ZECTのライダーであるザビーとガタックと激戦を繰り広げるディケイド達。だがその最中、ワームの集団とザビーの攻撃によって危機に瀕したナナリー達を守るように姿を現したカブト。そしてカブトに敗北したザビーはかつてカブトに殺された筈のナナリーの兄……ルルーシュ・ランペルージだったのである。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

先程の戦闘から数時間後。あのあとルルーシュは何故かナナリーに何も告げずに走り去ってしまい、零達も困惑しつつも取りあえず半ば混乱していたナナリーをおでん屋へと送ってから写真館に戻り、なのは達に今までの経緯を話していた。

 

 

はやて「…ナナリーちゃんのお兄さんやて?!」

 

 

シグナム「えぇ、ZECTのライダーを見てそう言っていました」

 

 

優矢「って事は……生きてたって事だよな?!良かったじゃんか!」

 

 

すずか「うん!ナナリーちゃんも落ち着いたら、きっと喜ぶと思う♪」

 

 

零「……………」

 

 

ナナリーの兄が生きていたと知った一同は喜びを露わにしていくが、窓際に腰に下ろした零は先程オットーからもらった林檎をかじりながら何処か納得いかないような表情で外の景色を眺めていた。

 

 

零(…本当に奴がナナリーの兄さんなのか?なら何故……あの時ワームに襲われそうになってたナナリーを助けようとしなかった?)

 

 

しかもルルーシュは自身の攻撃でナナリー達を危険に曝したにも関わらず、まるで気にも留めていないように真っ先にカブトへと向かっていた。そこに疑問を感じていた零は険しげに眉を寄せながら黙って林檎をかじっていく。

 

 

なのは「でも、どうしてナナリーちゃん達のおでん屋に帰ってこないんだろ?」

 

 

スバル「うーん……何か家に帰られない事情があるとか?」

 

 

キャロ「でも、C.C.さん達に何も言わないまま姿を消すなんて可笑しくないですか?」

 

 

ティアナ「……もしかしたら、カブトにやられた時のショックで記憶を無くしてしまったとか?」

 

 

何故ルルーシュはナナリー達の下に帰って来ないのか。その事についてそれぞれ意見を言い合いながら考えていくなのは達だが、零は薄い溜め息を吐きながら窓際から立ち上がって近くにいたウェンディに林檎を投げ渡し、そのまま部屋から出て行こうとする。

 

 

フェイト「あ、零?何処か行くの?」

 

 

零「……取りあえず、ZECTについて調べればナナリーの兄さんの事が分かるかも知れないだろう。これからちょっと情報収集にでも出掛けてくる……」

 

 

なのは「へ?…ちょ、一人で勝手に行かないでよ?!」

 

 

淡々とした口調で簡潔に伝えると零はそのまま部屋を出て写真館から出ていってしまい、なのは達も慌てて零を追うように写真館から出てナナリーの兄について調べる為に街へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同時刻、ZECTの地下指令室。先の戦いからZECTの本部へと何とか戻ってきたルルーシュは施設の一角に置かれた一台の装置……数人の研究員達がなにやら厳重に調整を行う機械を見つめていた。

 

 

ルルーシュ「……クロックダウンシステム。このシステムが完成すれば……カブトはクロックアップの世界から引きずり出される事になる……フフフッ……」

 

 

スザク「…………」

 

 

研究員達が調整のような物を行うクロックダウンシステムと呼ばれた一台の装置を見てルルーシュは怪しげな笑みを浮かべていき、奥のデスクでパソコンと向き合っていたスザクはそんなルルーシュを見て何処か複雑そうな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

そしてその頃、おでん屋に戻ってきたナナリーは漸く落ち着きを取り戻し、台所で調理をするC.C.と何やら話しをしていた。その内容は勿論、先程の戦闘の時に再会した自身の兄についてである。

 

 

ナナリー「間違いありません!あの人は、絶対にお兄様でした!」

 

 

C.C.「あぁ、そうか。良かったな」

 

 

ナナリー「…え?そ、それだけですか?お兄様が生きていたんですよ?!」

 

 

C.C.「だったらそれでいいじゃないか?」

 

 

ナナリー「そんな……C.C.さんは、お兄様に帰ってきて欲しくないんですか…?」

 

 

ルルーシュが生きていたと教えても特に気にした様子もなく調理を続けるC.C.。そんなそっけない態度を取るC.C.にナナリーも悲しそうに眉を寄せながらそう問うと、C.C.は漸く調理の手を止めて口を開いた。

 

 

C.C.「……アイツが生きていたとして、それでも此処に帰って来ないとしたら、その理由は一つしかない……」

 

 

ナナリー「り、理由って……何ですか?」

 

 

真剣味を帯びた口調でそう呟くC.C.にナナリーも息を呑んで恐る恐る問い返すと、C.C.はニヤリと不敵な笑みを浮かべながらナナリーに視線を向けて一言。

 

 

C.C.「―――戻って来られない訳があるんだろう?」

 

 

ナナリー「………もういいです……私だけでもお兄様を探して来ます!」

 

 

余裕の表情でニヤリと笑うC.C.に漸くからかわれたと気付いたナナリーはムッと可愛らしく眉を寄せながらルルーシュについて調べる為に店を飛び出してしまった。

 

 

C.C.「……フフッ……全く、変なところでお前とあの子は似ているな……なぁ。お前もそう思うだろ、ルルーシュ?」

 

 

ナナリーが店を出ていった後、店に一人残されたC.C.は何処となく寂しげな微笑みを浮かべながら何もない天井を仰ぎ、静かにそう呟いていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、写真館を出て取りあえず街に出た零達はルルーシュについて少しでも情報を得る為に別行動を取り、ZECTに関係していそうな施設をそれぞれ手当たり次第に当たっていた。そんな中、零達と別れてZECTについて調べていたなのはは同じくルルーシュを探して公園を歩いていたナナリーと偶然会い、一緒に公園の中を歩いていた。

 

 

なのは「……そっかぁ……ナナリーちゃんもお兄さんを探してたんだ」

 

 

ナナリー「はい……でも何処を探せばいいのか分からなくて……」

 

 

なのは「私達も今手当たり次第当たってる所なんだけど、ZECTって組織ホントに秘密みたいで……連絡先も全然分からないの……」

 

 

ルルーシュについて調べ様にも、肝心の彼が所属していると思われるZECTの本部が何処かにあるのか分からない。その事について話すとナナリーは「そうですか……」と落胆したように肩を落として顔を俯かせ、そんなナナリーの様子になのはも何か明るくなれるような話題はないかと慌てて頭の中で考えていく。

だがその時、二人はベンチに座っていたくたびれたスーツを着込んだ男の前を通り過ぎると男は二人を見てベンチから立ち上がり……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥンッ…―

 

 

『キシャアァァァァァァアッ!!』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

なんと男は異形の怪物……身体の至る所に分厚い甲羅のような鎧を纏ったワームへと姿を変えていき、突如二人に襲い掛かってきたのであった。

 

 

ナナリー「ワ、ワーム?!」

 

 

なのは「ッ!こんな時にっ……ナナリーちゃん、こっち!」

 

 

今はKウォッチを持っていない為にトランスに変身は出来ない。タイミングの悪さに慌てつつも、なのははナナリーの手を取りワームから逃げるように走り出していった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そして数分後、ワームから逃れる為に必死に街の中を駆け回っていたなのはとナナリーはとある潰れたビルの中へと逃げ込み、ワームが追ってきていないか背後に振り返って確認すると乱れた息を整えようとする。だが……

 

 

 

 

「……気が付いた事が二つあってね」

 

 

 

 

『……え?』

 

 

不意に建物の中に聞き慣れた声が響き渡り、なのはとナナリーはその声が聞こえた方へと思わず振り返っていく。すると其処には柱の影に背中を預けて腕を組む青年……大輝の姿があった。

 

 

なのは「だ、大輝君ッ?!」

 

 

大輝「……まず、その子は何故かワームに狙われている」

 

 

『キシャアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

大輝が自分が気が付いたということを淡々とした口調で告げた瞬間、それと共にビルの物陰や入り口の方から複数のサナギ体のワームと成虫体のワームが奇声をあげながら現れ、瞬く間になのはとナナリーを包囲していってしまった。だが、大輝はそんな光景を見ても二人を助けようとする素振りを全く見せなかった。

 

 

なのは「だ、大輝君お願い!助けて!!」

 

 

大輝「悪いけど、俺の獲物はワームじゃない。それと……もう一つ気が付いたのが―――」

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギィ!!ガギィ!!ガギィ!!―

 

 

『ギ、ギシャアァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

『?!』

 

 

大輝が最後に何かを告げようとする前に、それを遮るかのように何処からか赤い閃光が信じられないスピードで現れなのはとナナリーを包囲していたサナギ体のワーム達に突進し、サナギ体のワーム達は断末魔をあげる間もなく一瞬で爆散していった。

 

 

なのは「カ、カブト…?」

 

 

ナナリー「……え?」

 

 

大輝「やっぱりね♪何故かその子をカブトが守っている」

 

 

現れたカブトを見て大輝は予想が当たったと愉快げに笑いながら胸ポケットからディエンドのカードとディエンドライバーを回転させながら取り出し、カードをディエンドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

大輝「変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

銃口を真上に向けて引き金を引くと大輝はディエンドへと変身していき、それを見たなのはは今の内にとナナリーの手を引いてビルの中から脱出していった。そして成虫体のワームは二人を追おうと慌てて立ち上がり走り出していくが、それを遮るかのようにカブトが超高速で何度もワームへと激突し吹っ飛ばしていく。

 

 

『グエアァッ?!』

 

 

ディエンド『なるほど……見た所、アンタのクロックアップシステムが一番速そうだ』

 

 

変身を完了したディエンドはそう言いながらホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填してスライドさせていく。

 

 

ディエンド『どうせ頂戴するなら、性能が良い方がいい♪』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『ウゴォッ?!』

 

 

カブトR『ッ?!』

 

 

そう言いながらディエンドが銃口を真上に向けて引き金を引くと、銃口から撃ち出された銃弾は天井を反射し軌道を変えながらワームとカブトに直撃していき、特にワームよりも集中的に狙われたカブトはそのショックでスピードが減速しクロックアップ空間から戻されてしまう。だがそれでもカブトはふらつきながら何とか堪え、ベルトの左側のボタンを叩くように押していく。

 

 

『Clock Up!』

 

 

―シュンッ!!―

 

 

ディエンド『…フッ、狙った獲物は逃がさないよ?』

 

 

再びクロックアップを発動させて突っ込んできたカブトの攻撃を避けながらそう言うと、ディエンドは二枚のカードをホルダーから取り出しディエンドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:EXAM!LAMBDA!』

 

 

ディエンド『どぉーぞ』

 

 

―バシュウッ!―

 

 

電子音声と同時に引き金を引くとディエンドの目の前に複数の残像が出現し辺りを駆け巡っていき、残像がそれぞれ重なるとディエンドの前にカリスとイクサを足したような姿をした灰色のライダー『エグザム』とギリシャ文字のΛをモチーフにしたライダー『ラムダ』が姿を現していった。

 

 

エグザム『その命……神に返しなさい!』

 

 

ラムダ『It's,Show time!』

 

 

ディエンドに喚び出されたエグザムとラムダはそれぞれ決め台詞のようなモノを叫んで身構えていき、牽制するように超高速でビルの中を駆け抜けていくカブトの動きをサーチ機能で追尾していく。

 

 

―…………ピピピッ!―

 

 

エグザム『……ッ!待ちなさい!』

 

 

ラムダ『Enjoy!』

 

 

―ズギャギャギャギャギャギャギャギャンッ!!―

 

 

サーチ機能でカブトの動きを捉えたエグザムとラムダはそれぞれ武器を構えて一斉射撃を開始し、クロックアップしたカブトの動きを読んだ銃撃でカブトを怯ませていく。そして……

 

 

エグザム『ひざまづきなさい……』

 

 

―ズギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャンッ!!!―

 

 

カブトR『クッ?!グゥッ!!』

 

 

『Clock Over!』

 

 

エグザムとラムダの銃撃に耐え切れなくなったカブトはクロックアップを強制的に解除されて地面に倒れてしまい、エグザムとラムダはその好機を逃すまいとそれぞれ武器を構えてカブトに襲い掛かっていく。が、カブトも負けじとすぐさま態勢を立て直しクナイの様な武器を構えて二人に反撃していくのだった。

 

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑧

 

一方その頃……

 

 

ナナリー「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

 

なのは「頑張ってナナリーちゃん…!写真館に着けば大丈夫だから!」

 

 

ナナリー「ッ…は、はい!」

 

 

ディエンドとカブトの戦いが始まった頃、廃ビルから脱出したなのはとナナリーは一度写真館に避難しようと考え、なのはは隣で走るナナリーを労りながら写真館に向かって急いで走っていた。しかし……

 

 

 

 

 

 

―バッ!!―

 

 

『グゥルルルルゥ……』

 

 

 

 

『……なっ!?』

 

 

突如目の前から先程なのは達を追ってきていたワームが現れ、写真館に向かおうとしていた二人の行き先を阻むように立ち塞がったのである。突然現れたワームに二人も思わず足を止めてしまうが、ワームは構わずナナリーの前に立つなのはを問答無用で突き飛ばしてしまう。

 

 

なのは「キャアァッ!」

 

 

ナナリー「な、なのはさん?!」

 

 

ワームに突き飛ばされたなのはを見てナナリーは慌ててなのはに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するかのようにワームが腕を向けてナナリーへと迫っていき、ナナリーを建物の壁際へと追い詰めていってしまう。

 

 

『グゥルルルルゥ……』

 

 

ナナリー「ぁ……あ……」

 

 

なのは「ッ!ナ、ナナリーちゃんっ…!」

 

 

徐々にワームによって追い詰められていくナナリーを目にしたなのはは直ぐさま身体を起こし、ナナリーを助け出そうと破れかぶれでワームに体当たりしようとした。が、その時……

 

 

 

 

 

 

―…………シュパアァァァァァァァァアァッ!―

 

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

なのは「……え?な、なに?!」

 

 

突如ワームに追い詰められたナナリーの身体が緑白色の輝きを放ち出し、ナナリーに襲い掛かろうとしたワームも突然の事態に驚愕し動揺していた。とその時、先程なのはから連絡を受けた零とエリオとキャロがその場に現れ、身体から緑白色の輝きを放つナナリーを目の当たりにし驚愕した。

 

 

エリオ「ナ、ナナリー?!」

 

 

キャロ「こ、これって一体?!」

 

 

『ウッ……アギィ……ガァッ……?!』

 

 

零「……ッ?!!なのはッ!!」

 

 

なのは「……へ?キャアァッ?!」

 

 

緑白色の光を放つナナリーを見てなのは達が驚愕する中、零はその光を浴びて何やらもがき苦しむワームを見ていち早く何かに気付き、直ぐ様なのはをナナリーとワームから離れさせた、その瞬間……

 

 

『ギ、アガ……ギガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!ウワアァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ワームは緑色の火花を散らせながら断末魔と共に爆発して散っていき、その近くにいた零達は爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされ地面に叩き付けられてしまった。そして零達は何が起きたのか理解出来ないままふらつきながら起き上がり、ナナリーの方へと視線を向けていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………え……………ぁ………えっ……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……ッ?!ナ、ナナ…リー…?」

 

 

 

 

其処にいたのは、背中から四枚の羽根を生やしたカゲロウのような姿の異形へと姿を変えたナナリーが呆然と立ち尽くしていたのだ。それを見た零は呆然とした表情を浮かべ、なのは達は信じられない物を見るような目で異形へと姿を変えたナナリーを見つめていた。

 

 

なのは「う、嘘っ……」

 

 

エリオ「ナナリーがっ……ワーム?!」

 

 

『……あっ……あぁ……』

 

 

カゲロウのような姿の異形……ワームへと姿を変えたナナリーを見てなのは達が驚愕の声をあげる中、ナナリーはワームとなった自分の姿を見下ろして戸惑いと動揺を浮かべながら自分を見て驚愕している零達の方を見つめ……

 

 

『――いや……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

キャロ「ッ?!ナ、ナナリーちゃん!!」

 

 

零「待て?!ナナリィーッ!!」

 

 

ナナリーは悲痛な悲鳴をあげながらクロックアップを発動させて零達から逃げるように何処かへと走り去り、それを見た零達は慌ててナナリーを追おうとするも見失ってしまい、ナナリーが走り去った方を見つめて呆然と立ち尽くしていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、廃ビルでカブトと戦っていたディエンドはエグザムとラムダを一瞬の内に倒されてしまい、クロックアップを使ったカブトの動きに翻弄され圧されていた。

 

 

―シュウゥン……ガキィッ!!―

 

 

ディエンド『グゥッ?!クッ……何なんだっ……これは一体ッ……―ガギィ!!―ウグアァッ?!』

 

 

ディエンドはカブトの動きを追い迎撃をしようとするも、それよりも早くカブトの攻撃がディエンドを吹っ飛ばしていき、そんなディエンドの目の前にクロックアップを解除したカブトが漸く姿を現した。

 

 

ディエンド『ッ!馬鹿な……何なんだ、この強さはっ……!』

 

 

カブトR『…………』

 

 

予想外だと言うようにディエンドは後退りしながら目の前に立つカブトを見上げ、カブトはそんなディエンドを無言のまま見つめると再びクロックアップを使用しそのまま何処かへと走り去っていった。

 

 

ディエンド『まっ?!……クソッ!!どうしても……手に入れたいっ……』

 

 

カブトに逃げられたことにディエンドは悔しげに地面を蹴り付け、カブトが走り去った方をジッと睨みつけていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、零達の下から逃げるように去ったナナリーはとある高層ビルの螺旋階段の上にまで逃げ込み、人間体に戻ると信じられないような表情で呆然と立ち尽くしていた。

 

 

ナナリー「……うそっ……わ、わたし……わたしが……ワームっ……?」

 

 

自分でそう口にすると身体の力が抜けた様にナナリーは力無く地面に座り込み、顔を俯かせていく。自分がワームである上に、自分のそんな姿を零やエリオ達に見られてしまった。きっと彼等はこんな自分を軽蔑してしまったに違いないし、自分がワームだと知ってしまった以上家に帰る事など出来ない。動揺と戸惑いが未だに落ち着かないまま、友達や家族、帰る場所までも失ってしまったとナナリーは顔を俯かせながら瞳から涙を流していく。そんな時……

 

 

 

 

 

 

「……俺と一緒にいこう、ナナリー」

 

 

 

 

 

 

ナナリー「……え…?」

 

 

顔を俯かせて涙を流していたナナリーの耳に聞き慣れた、だけど何処か懐かしいような声が届きナナリーは思わず顔を上げた。すると目の前の階段の下から右目に眼帯を付けた一人の青年……ルルーシュがゆっくりと上がってきた。

 

 

ナナリー「ッ?!お兄……様……?」

 

 

ルルーシュ「…さぁおいで、ナナリー。俺ならお前を受け入れてやれる……俺も……」

 

 

突然姿を見せたルルーシュにナナリーが動揺する中、ルルーシュは優しげな笑みでナナリーに手を差し延べながら近付きそう言うと、その姿を葡萄根アブラムシに酷似した怪人……フィロキセラワームへと変化させていった。

 

 

ナナリー「ッ?!お、お兄様…?!」

 

 

『一緒にいこう。大丈夫、俺はお前を拒絶したりしないよ、ナナリー』

 

 

フィロキセラワームへと姿を変えたルルーシュを見たナナリーは驚愕したように後退りしていき、フィロキセラワームはルルーシュへと戻りながらそんなナナリーに手を差し延べて近付いていくと、ナナリーはルルーシュの右目に付けられた眼帯を見て目を見開いた。

 

 

ナナリー「そ、その傷……もしかして……」

 

 

ルルーシュ「え?……あぁ……あの時の……カブトに付けられた傷だ」

 

 

右目の眼帯について問い掛けられたルルーシュはそう言って眼帯に触れていき、再びナナリーに向けて手を差し延べながら語る。

 

 

ルルーシュ「だけど、俺はこうして生きている。本当にすまない、ナナリー……今までお前の下に帰ってこなかったのは、今の俺をお前に拒絶されるのが怖かったからなんだ……こんな俺を受け入れてくれるのか、怖かったから……」

 

 

ナナリー「…………」

 

 

ルルーシュ「……だけど今なら、今のお前となら一緒にいられる。だからいこう?また昔みたいに……これからはずっと、俺がお前の傍にいる」

 

 

ナナリー「……ずっと……傍に……?」

 

 

こんな自分を受け入れてくれる。そう言って優しげに手を差し延べてくれるルルーシュの言葉にナナリーは希望を見出だしてしまい、その手をゆっくりと掴んでいったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

丁度同じ頃、零達は廃ビル近くからおでん屋にやって来ていた。その理由はC.C.に先程の出来事……ナナリーがワームだったという事を伝える為だった。

 

 

エリオ「……あ、あの……C.C.さん……」

 

 

C.C.「…ん?なんだお前達か。今度は何の用だ?」

 

 

なのは「いえ……その……実はナナリーちゃんが……えっと……」

 

 

C.C.「…………」

 

 

ナナリーについてどう説明するべきかとなのは達はしどろもどろになって表情を暗くさせていってしまい、C.C.はそんななのは達からなにかを悟ったような表情を浮かべながら止めていたテーブル拭きの手を再び動かし、そんなC.C.の様子を見た零は両目を細めてC.C.に近づいていく。

 

 

零「――お前、もしかして全部知ってたな?」

 

 

C.C.「……あぁ、ナナリーがワームだという事だろ?最初から知っていたが、それがどうかしたか?」

 

 

『……えっ?!』

 

 

ナナリーがワームだと最初から知っていた。C.C.の口から出たその言葉になのは達は思わず驚愕の声を上げてしまうが、C.C.は特に気に止めた様子もなく台所へと戻っていく。

 

 

C.C.「ワームだろうがなんだろうが関係ない、あの子はこの家の家族だ。あの婆さんが生きてた頃から……ルルーシュと一緒に暮らしていた頃からな」

 

 

零「……ルルーシュ……ナナリーの兄さんか」

 

 

零がそう聞き返すとC.C.は「あぁ」と軽く頷き返し、何処か遠くを見つめるような目をしながら再び話し出した。

 

 

C.C.「昔、あの婆さんが死んだ時、私はアイツとある契約を交わした。もし自分の身に何かあった時には、その時はあの子を頼むと……自分の代わりにあの子の帰る場所になってくれ、とな……」

 

 

零「……もしかして、気付いていたのか?ナナリーの兄さんも」

 

 

C.C.「恐らくな……アイツは優し過ぎる奴だ。だからアイツは自分が護りたいと思う物の為に……それだけの為に戦い続けて……一人孤独の世界へと取り残されてしまった」

 

 

そう言いながらC.C.は指に嵌めた指輪へと視線を落としていき、なのは達は指輪を見つめるそんなC.C.の顔が何処となく淋しげに見えていた。

 

 

なのは「……後悔、してるんですか?その人を好きになったこと……」

 

 

C.C.「――いいや。アイツやあの子の傍にいてやると決めたんだ……この選択をした事に後悔などしていないし、してやるつもりなどサラサラない」

 

 

零「……強い女なんだな、お前は」

 

 

C.C.「そうとも。私はC.C.だからな」

 

 

そう言ってC.C.は零達に向けてニヤリと不敵な笑みを向けていき、それを見た零達は一瞬唖然となりつつも思わず笑みを漏らしていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、ナナリーはルルーシュに連れられZECTの本部へと続く地下駐車場を歩いていた。初めて訪れた兄の仕事場にナナリーが物珍しそうに辺りを見渡していく中、ルルーシュは突然ピタリと足を止めてしまった。

 

 

ナナリー「…?お兄様?」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

不意に足を止めたルルーシュにナナリーは不思議そうに首を傾げながらどうかしたかのかとルルーシュに呼びかけるが、ルルーシュはそれに何も答えないままおもむろに片腕を上げて指を鳴らし、それと共に奥から数人のZECTの隊員が現れてナナリーを拘束し出したのである。

 

 

ナナリー「ッ?!お、お兄様!これは一体?!」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

突然拘束された事にナナリーは動揺しながらルルーシュに呼びかけるが、ルルーシュはそれに答えず無言のまま本部へと戻ろうと歩き出した。その時……

 

 

「ルルーシュッ!!」

 

 

ルルーシュ「……ん?」

 

 

ナナリー「…!ス、スザクさん?!」

 

 

怒鳴り声に近い声を響かせながら地下駐車場の奥から青年……スザクが現れ、隊員達に拘束されるナナリーを見て険しい表情を浮かべながらルルーシュへと詰め寄っていく。

 

 

スザク「ルルーシュっ…これは一体何のつもりだ?!」

 

 

ルルーシュ「何のつもり?決まってるだろう、これもカブト捕獲作戦の為だ」

 

 

スザク「そんなっ…そんな作戦今すぐ中止するんだ!カブトは何度も僕達を助けてくれたし、そんな作戦の為にナナリーを使うなんて間違ってる!君は間違っても、こんな事をするような奴じゃなかった筈だ!」

 

 

ルルーシュ「…作戦は決定事項だ、予定通り行う」

 

 

作戦を止めさせようと必死に説得するスザクの言葉にも耳を貸さず、ルルーシュは冷たい表情でそう告げると共に隊員達にアイコンタクトを送り、スザクまでも拘束していってしまう。

 

 

スザク「なっ?!は、離せ!まだ話は終わっていない!ルルーシュ!!ルルーシュゥッ!!!」

 

 

ナナリー「スザクさん!!は、離して下さい!!お兄様!お兄様ぁッ!!」

 

 

隊員達に連れてかれる中でスザクとナナリーは必死に抵抗をしながらルルーシュを呼び続けるが、ルルーシュはそんな二人に対してただ鼻で笑い、スザクはそのまま駐車場の外へ、ナナリーは本部へと連行されてしまった。

 

 

ルルーシュ「………これで"餌"は手に入った……後は……フフフフッ……」

 

 

スザクとナナリーが連行された後、ルルーシュは静かにそう呟きながら口の端を吊り上げて不気味に笑うとナナリーが連行された本部へと戻っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

それから数時間後、写真館へと戻ってきた零達は行方を眩ませたナナリーをどうやって探そうかと皆で対策を練っていた。がしかし、零達は作戦会議の最中丁度テレビで流れていたニュースを見て驚愕してしまっていた。その理由は……

 

 

 

 

 

 

『全国の皆さん、皆さんはもうカブトの影に怯える事はありません。異なる時間の流れの中から我々の生活を脅かしていたカブトですが、当局は遂にカブト捕獲作戦を実行します。クロックアップで高速移動を続けるカブトを断固として許さないという当局の決定により――――』

 

 

 

 

シャマル「そ、そんな?!」

 

 

優矢「カ、カブトを捕まえるだって…?!」

 

 

そう、テレビに流れていたのはカブトを捕獲するというZECTからの臨時ニュースだったのだ。テレビに流れるその内容になのは達は驚いてしまい、零も栄次郎が煎れてくれた珈琲を飲みながら両目を細めてニュースを見ていた。その時……

 

 

―ガチャッ!!―

 

 

セイン「ちょ、みんな大変だよ!!」

 

 

突然セインが焦った様子で部屋の扉を勢いよく開けて中へと駆け込み、今までテレビを見ていた零達全員の視線もセインへと集まっていく。

 

 

チンク「セイン?どうした、何かあったのか?」

 

 

セイン「あったもあった!なんか良くわかんないけど写真館の外に人が倒れてたんだよ!しかもなんか傷だらけになってるし!」

 

 

シグナム「なに?」

 

 

全身傷だらけになった人が写真館の外に倒れていた。半ばテンパりながらそう告げたセインの言葉に一同の表情も自然と険しくなっていき、その時扉の方からノーヴェが誰かを抱えて部屋の中へと入ってきた。

 

 

ノーヴェ「ほら着いたぞ!しっかりしろ!」

 

 

スザク「……うっ……ぐっ……」

 

 

優矢「ッ!ア、アンタ?!」

 

 

ノーヴェが抱えて連れてきた傷だらけの人物、それはルルーシュと同じくZECTのライダーであるスザクだったのだ。何故ZECTの一員であるスザクがこんな怪我を負って写真館の外に倒れていたのか?疑問に思う一同を他所にシャマルは慌ててスザクへと駆け寄り、全身の怪我の具合を見て眉を険しく寄せていく。

 

 

シャマル「酷い怪我っ……早く治療しないと!誰か、救急箱を持ってきて!」

 

 

ディード「は、はい!」

 

 

スザク「ッ……ぼ、僕の事はいいんですっ……それより、ディケイドは何処にっ……?」

 

 

零「……ほぉ、俺に用があって来たのか?」

 

 

ディケイドは何処かと質問してきたスザクに零はそう言いながらテーブルからおもむろに立ち上がってスザクへと近づいていき、スザクは零を見つめて傷が疼く身体を抑えながら喋り出した。

 

 

スザク「お願いだディケイドっ……ルルーシュを止めてくれ!アイツは普通じゃないっ……カブトを捕まえる為にっ……自分の妹まで利用してっ……」

 

 

はやて「妹って……まさか、ナナリーちゃんの事か?!」

 

 

零「……どうやってカブトを捕まえるつもりだ?」

 

 

カブト捕獲の為に妹であるナナリーまでも利用しようとしている。そう聞かされたなのは達は驚愕し、零は微かに眉根を寄せながらどうやってカブトを捕まえるつもりなのかと聞き返していく。

 

 

スザク「ZECTはっ……クロックアップを無効化する為のクロックダウンシステムを開発したっ……システムが稼動すれば……カブトはクロックアップ能力を失う……」

 

 

零「……そういうことか。確かにそんなシステムを使えばカブトの動きは止まるだろうな……勿論、お前達ライダーも例外なく」

 

 

『……え?』

 

 

スザク「ッ…!な、なんだってっ…?」

 

 

零の意味深な言葉にスザクだけでなくなのは達も疑問を思い浮かべていくが、零はそれ以上語らずソファーに掛けておいたコートを手に取りスザクの方へと振り返る。

 

 

零「――――奴の居場所を教えろ。あの子は俺が……いや、"俺達"が救い出す」

 

 

そう言って零は両目を鋭く細めながら真剣な目つきでスザクを見据え、ナナリーが捕われているというZECTの居場所を問いただしていくのだった。

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑨

 

 

そしてその頃、ZECTの地下の本部ではZECTの隊員達が巨大な装置……カブト捕獲作戦に使用するクロックダウンシステムの稼動準備を開始していた。システム稼動の為に隊員達が忙しく動き回る中、隊員の一人がルルーシュの下へと駆け寄り報告していく。

 

 

「準備完了しました!」

 

 

ルルーシュ「よし、ご苦労」

 

 

「…カブトは、本当に来るんでしょうか?」

 

 

カブトは本当に此処へやって来るのか。それが心配なのか隊員が不安げにルルーシュに問い掛けていくと、ルルーシュは本部の一角にあるパイプ管に両腕を鎖で繋いだナナリーへと視線を向け、口元を歪めていく。

 

 

ルルーシュ「……餌がある限り、奴は必ず来る。間違いなくな」

 

 

ナナリー「ッ……お兄様っ……―ドゴオォンッ!!―……ッ?!」

 

 

ナナリーがルルーシュを睨みつけながら何かを喋ろうとしたその時、突然轟音のような音がその場に響き、ナナリーやルルーシュ達は突然聞こえてきたそれに驚きながら入り口の方へと振り向いた。すると其処には入り口である鉄製の扉が何らかの衝撃を外から受けて窪みだし、何かによって今にも扉が壊されそうになっていたのである。それを見た隊員達は思わず後退りしてしまうが、ルルーシュだけは扉を見て口の端を歪めていた。

 

 

ルルーシュ「フッ……フハハハハハハハハッ!飛んで火に入るとはこの事か……システムを作動させろ!」

 

 

「ッ!は、はい!」

 

 

ルルーシュの指示を受けた隊員達は慌てて装置を作動させていき、最終確認の為のスイッチを押していった。するとクロックダウンシステムから大量のエネルギーが放出されていき、本部全体を行き来している無数のパイプを通って本部の外に建設されたタワーから街全体へとエネルギーを拡散させていった。そしてそれと同時に扉が壊され、奥から現れた赤い閃光が目にも止まらぬ速さで隊員達の間を通り抜けナナリーの下に向かおうとする。が……

 

 

 

 

 

 

―シュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ……バチバチッ……バチイィッ!!―

 

 

カブトR『……ッ?!アッ……グウゥッ?!』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

ナナリーの下に向かおうとした赤い閃光……クロックアップを使用したカブトのスピードが突如下がっていき、ナナリー達の目の前にその姿を現し片膝を付いていったのであった。

 

 

ナナリー「カ、カブト…?!」

 

 

カブトR『ウッ……クッ……グッ!!』

 

 

ルルーシュ「漸く会えたな、カブト……捕えろ」

 

 

『ハッ!』

 

 

ルルーシュはそう言って膝をついて未だ立ち上がろうとするカブトに顎を向けると、周りの隊員達はそれに応えるようにカブトを捕えルルーシュと向き合わせていく。

 

 

ルルーシュ「……フッ……フフフッ……フハハハハハハハハハハハハッ!!遂に捕らえたぞ、カブトォ!!俺の、勝ちだ……フフッ……フハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

捕らえたカブトを見据えながら勝利を核心したようにルルーシュは高らかに笑い出し、それと共に、なんとカブトを捕える隊員や他の隊員達が突如無数のワームの集団へと姿を変えて他の隊員達へと襲い掛かっていった。

 

 

『キシャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!?」

 

 

ルルーシュ「フン……全てのライダーのクロックアップは無力化された。クロックアップ出来ない貴様など……我々の敵ではない……フンッ!」

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

カブトR『ウグァッ!』

 

 

隊員達がワームに襲われていく光景を尻目に、ルルーシュはそう言ってカブトに近づき蹴り飛ばしていってしまった。そして蹴り飛ばされたカブトは力無く地面に倒れ込み、そのショックでカブトゼクターがベルトから離れ変身が解除されてある人物へと戻っていく。その人物とは……

 

 

 

 

ナナリー「……ッ?!!!お、お兄……様……?」

 

 

ルルーシュ?「クゥッ…!グッ!」

 

 

そう、カブトの正体とは、目の前の眼帯を身に付けたルルーシュと全く同じ顔をした人物……ルルーシュ・ランペルージだったのだ。地面に倒れるルルーシュ?を見てナナリーが信じられない物を見たような表情を浮かべる中、ルルーシュは怪しげな笑みを浮かべながらゆっくりとルルーシュ?に歩み寄っていく。

 

 

ルルーシュ「久しぶりだなぁ、もう一人の俺……フンッ!」

 

 

―ドゴォッ!―

 

 

ルルーシュ?「アグッ?!グアッ…!」

 

 

ナナリー「?!」

 

 

ルルーシュはそう言いながら片足でルルーシュ?の胸を踏み付けていき、苦しむルルーシュ?を見下ろして邪な笑みを浮かべていく。

 

 

ルルーシュ「この世に二人の俺はいらない……消えろぉ!!」

 

 

―ギリギリギリィッ!!―

 

 

ルルーシュ?「ウグァッ?!グアァァァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

ルルーシュは片足に力を込めてルルーシュ?をゴミのように踏みにじり、ルルーシュ?が苦痛に満ちた悲鳴をあげる姿を見て愉快げに笑っていく。その一方で、ナナリーは目の前の状況が未だ飲み込めず困惑に満ちた表情で呆然としていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――消えるのはお前の方だ」

 

 

 

 

 

ルルーシュ「…ッ?!」

 

 

ナナリー「……え?」

 

 

緊迫とした空気を切り裂く声が響いた。今まで愉快げにルルーシュ?を踏みにじっていたルルーシュは驚いたように、ナナリーは呆然と声がした入り口の方へと振り向いた。するとカブトが破壊した入り口の奥から二人の男女……零とシグナムがゆっくりと姿を現していったのである。

 

 

ルルーシュ「…貴様等ぁ」

 

 

ナナリー「れ、零さん?!シグナムさん?!」

 

 

現れた零とシグナムを見てルルーシュは不快げに眉を寄せ、ナナリーは呆然とした表情から驚愕の表情へと変わって二人を見つめていた。そして零はおもむろに右手を上げ、天を指し示すようなポーズを取りながらゆっくりと語り出す。

 

 

零「おばあちゃんが言っていた。つゆの味は目で見ただけでは分からないってな……見掛けに騙されるな、ナナリー」

 

 

ナナリー「で、でも私、この目で見たんです!お兄様が、カブトに殺されそうになったのを…!」

 

 

シグナム「いや、ナナリーが見たのはランペルージに擬態したワーム……つまり其処にいる眼帯の男の方であり、本物はカブトに変身していた方だ。カブト……お前の兄は、自分に擬態したワームを倒そうとしただけだ」

 

 

ナナリー「…ッ?!」

 

 

自分を餌と呼んで捕らえた兄はワームが擬態していた偽物で、今まで自分の危機を救ってくれていたカブトが本物の兄だった。そう告げられたナナリーは驚愕した表情で地面に倒れる本物のルルーシュに目を向け、ルルーシュは身体を抑えながらゆっくりと起き上がっていく。

 

 

ルルーシュ「……その戦いの後、俺はクロックアップの世界から戻れなくなった……けどナナリー、お前は戻れる……あの家に」

 

 

ナナリー「……で…でも私……私はっ……」

 

 

ルルーシュ(擬態)「そう、コイツはワームだぞ?今更帰る場所などない!」

 

 

ナナリー「…ッ!」

 

 

そう、ナナリーは人間ではなく異形の怪人……ワームなのだ。ルルーシュ(擬態)にそれを指されたナナリーは思い詰めた表情で顔を俯かせてしまう。だが……

 

 

零「違うな……間違っているぞ」

 

 

ルルーシュ(擬態)「…何?」

 

 

ルルーシュ(擬態)の言葉を否定するように力強く告げた零。それを聞いたルルーシュ(擬態)は険しげに零へと聞き返すと、零とシグナムはルルーシュ達へと歩み寄りながら語り出す。

 

 

シグナム「この世に一カ所だけ、例え世界の全てを敵に回しても……家族の帰りを待ってる場所がある」

 

 

零「そしてこの世に一人だけ……例え世界の全てを敵に回しても……家族の為に戦う男がいる」

 

 

ナナリー「ッ!……………………お兄様………」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

シグナムと零が続けて語るとナナリーはルルーシュへと目を向けて兄の名を呟き、それを聞いたルルーシュ(擬態)は苛立ちをぶつけるように柱を蹴り付けた。

 

 

ルルーシュ(擬態)「くだらん事をゴチャゴチャとっ……身を寄せ合うのは弱い者同士がする事だッ!!」

 

 

零「それも違うな……この男は誰にも声が届かない世界で、孤独に耐えながら、皆を守ってきた。お前達の流した偽りで、世界から悪だと忌み嫌われながらも、皆の為に戦い続けた……誰より強い男だ!」

 

 

ルルーシュ「…ッ!」

 

 

零の力強い言葉に呼応されたかのようにルルーシュの表情も徐々に力強さを取り戻していき、それに続くようにシグナムもルルーシュ(擬態)を睨みつけながら語り出す。

 

 

シグナム「同じ顔をしているが、お前はこの男の足元にも及ばない……ただの虫けらだ」

 

 

ルルーシュ(擬態)「クッ!黙れ!!最早クロックアップは無力化された!!この世界は俺の物だ!フフッ…フハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 

ルルーシュ(擬態)は自信に満ちた笑い声を上げながらフィロキセラワームへと姿を変えていき、自身の周りにワームの大群を呼び集め戦闘態勢に入っていった。しかし零はそれを見ても臆する様子を見せず、不敵に笑いながらシグナムの隣に立ち並んでいく。

 

 

零「どうかな?俺は全てを破壊する……無論、お前の野望すらもな」

 

 

『ッ!貴様ぁ……一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ」

 

 

不敵な笑みを浮かべながらフィロキセラワームからの問いにそう答えると、それが癪に障ったのかフィロキセラワームは怒りの雄叫びを上げながら零とシグナムにワーム達を放ち、二人はワーム達の攻撃を避けながら応戦していった。その間にルルーシュはふらつきながら立ち上がり、ナナリーへと近づき両腕を拘束する鎖を外していく。

 

 

ナナリー「……どうして私を守ってくれるんですか?だって、私は……」

 

 

ルルーシュ「――お前は俺の妹だ。そして俺は?」

 

 

ナナリー「え?……お兄様……です」

 

 

ルルーシュからの問いかけにナナリーが戸惑いがちにそう答えると、ルルーシュは優しげな笑みを浮かべながら頷きナナリーの肩に手を置いていく。

 

 

ルルーシュ「大切な真実はそれだけだ……これからも俺が、お前を守る」

 

 

ナナリー「ッ!……はい」

 

 

優しく、それでいて何処か力強い笑みを浮かべてそう答えたルルーシュにナナリーは安心したように微笑み返し、ルルーシュもそれに頷き返すとナナリーを安全な場所に下がらせワームの大群と戦う零とシグナムの下へと駆け寄っていく。

 

 

零「フッ!ハアァッ!……いくぞ?」

 

 

ルルーシュ「…あぁ」

 

 

零の呼びかけに対してルルーシュは力強く頷き返し、それを見た零はディケイドライバーを装着してディケイドのカードを構え、シグナムは事前にKウォッチで呼び出していたバックルにカードを装填して腰に巻き、ルルーシュはワーム達を吹っ飛ばしながら飛来してきたカブトゼクターを手に取って構える。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Henshin!』

 

『OPEN UP!』

 

 

それぞれ電子音声が響くと零はディケイド、シグナムはセイヴァー、ルルーシュはカブト・マスクドフォームへと変身していき、変身を完了したカブトはカブトゼクターのゼクターホーンを掴みながら叫ぶ。

 

 

カブトM『キャストオフッ!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Change Beetle!』

 

 

ゼクターホーンを反対側に倒すと共に再び電子音声が響き、それと同時にカブトが身に纏っていたマスクドアーマーが四方へと飛び散りカブト・ライダーフォームへと変わっていったのである。そして三人はワームの大群に向かって突っ込み、それぞれ戦闘を開始していった。

 

 

―ガキィ!!ガキィン!!ガキィッ!!―

 

 

『ギシャアァッ?!』

 

 

カブトR『フンッ!ハァッ!!』

 

 

クロックダウンシステムにより動きが鈍くなっているものの、カブトはそんな素振りを見せないような動きでワーム達をクナイガンで斬り付けダメージを与えていき、其処へディケイドとセイヴァーがカードを一枚ずつ取り出してバックルとラウザーにセット&スラッシュさせながら突っ込んできた。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

『SLASH!』

 

 

『ハアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ガキィンッ!!ガキィンッ!!ガキイィィィィィィィィインッ!!―

 

 

『ギ、ギシャアァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

二つの電子音声が響くと共にディケイドとセイヴァーが振るったライドブッカーSモードとラウザーの斬撃がワームの大群を一瞬の内に斬り伏せ、ワームの大群は断末魔をあげながら爆散していったのであった。そして二人はワームを一掃して一息吐くとカブトと合流していくが、其処へフィロキセラワームが唸り声をあげながら三人へと近づいてきた。

 

 

『ヌウゥ……無駄な足掻きを!クロックアップを封じられた貴様等など、俺に勝てるかぁ!!』

 

 

フィロキセラワームは自信に満ちたように叫ぶと共にクロックアップを発動し、超高速を用いた高速攻撃でディケイドとカブトとセイヴァーを殴り付け吹っ飛ばしていってしまった。

 

 

カブトR『クッ!!』

 

 

ディケイド『ッ……確かに速いな……が、残念だったな?どんなに速く動こうが、お前の攻撃パターンは既に見切った!』

 

 

態勢を立て直したディケイドはそう言いながらライドブッカーから一枚のカードを取り出し、フィロキセラワームが再びカブトへと突っ込んできたタイミングを狙いカードをバックルへとセットしていった。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドから出現した分身がフィロキセラワームの背後に回り込んで実体化しライドブッカーで背中を斬り付けた。そして斬撃を受けて怯んだフィロキセラワームが今度はディケイドに標的を移して突っ込んできたと共に、再びディケイドから出現した分身がフィロキセラワームの死角に回り込んで実体化し、ライドブッカーでフィロキセラワームを斬り付けていく。

 

 

『ハァッ!!ダァッ!!』

 

 

―ガキィンッ!!ガキィンッ!!ガキィンッ!!―

 

 

『ヌガアァッ?!グゥッ!お、おのれぇぇぇぇっ……フンッ!』

 

 

―ドゴォンッ!!―

 

 

ディケイド達の分身攻撃で吹っ飛ばされたフィロキセラワームはよろめきながら立ち上がるが、クロックアップを牽制されて分が悪いと感じたのか背中の羽根を広げて飛び上がり、そのまま天井を突き破り地上へと逃げ出してしまう。それを見たディケイドは直ぐさまライドブッカーからカブトの力を宿した三枚のカードを取り出すとカードに絵柄が浮き上がり、その中から一枚のカードを抜き取るとディケイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

カブトR『何?―ドン!―うあぁ?!』

 

 

電子音声と共にディケイドがそう言ってカブトに歩み寄り背中を強く押し出すと、カブトはそのまま身体を変形させてカブトゼクターに酷似した巨大なカブトムシのような姿…『ゼクターカブト』へと超絶変形し、ゼクターカブトはそのまま飛翔すると頭部のゼクターホーンで建物の天井を突き破り地上までの道を作り出していく。そしてディケイドとセイヴァーも互いに顔を見合わせて頷くと、ゼクターカブトが作り出した地上までの道を通りフィロキセラワームを追っていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方、地下本部から地上へと逃げ出したフィロキセラワームはそのまま上空まで高く飛び上がり、タワーの傍にまで飛翔して地上を見下ろしていた。その直後、地上に向けて地下から道を作っていたゼクターカブトが地面を突き破って姿を現し、それに続くようにゼクターカブトが突き破った穴からディケイドとセイヴァーが飛び出し、ゼクターカブトはカブトに戻り二人の間に立ってタワーを見上げていく。

 

 

『ヌウゥ……もうシステムは止められない!』

 

 

セイヴァー『……システムを破壊すれば、お前はまた永遠の孤独に戻る事になる……いいのか?』

 

 

カブトR『…………』

 

 

カブトはクロックアップの暴走によりクロックアップの世界から戻れなくなり、今はクロックダウンシステムの影響により現実の世界へと戻って来られている。此処でシステムを破壊してしまえば、彼はもうナナリーやC.C.に永遠に会えないかもしれない。その意味を込めてセイヴァーがカブトに問い掛けると、カブトは右手で天を指し示しながら答えた。

 

 

カブトR『何時でも帰れる場所がある……だから俺は、離れていられるんだ』

 

 

ディケイド『―――それがお前達の絆……か』

 

 

迷いがない、強い決意が込められたその言葉を聞いたディケイドとセイヴァーは笑みを漏らし、三人は今度こそ迷いのない力強い瞳でフィロキセラワームとタワーを見上げていった。

 

 

『この世界は、俺が支配するのだぁ!ヌハハハハハハハハハハハァッ!!』

 

 

完全に勝利を核心しているのかフィロキセラワームはタワーの傍を浮遊しながら高らかに笑い出すが、セイヴァーはラウザーのオープントレイを開いて三枚のカードを取り出し、ディケイドはカブトを見た後ライドブッカーから一枚のカードを取り出しタワーを見上げながら告げる。

 

 

ディケイド『残念だがこの一家がいる限り……それは不可能だ!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

『KICK!FIRE!MACH!BURNING SONIC!』

 

 

カブトR『フッ!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと同時にカブトはその場でジャンプすると再びゼクターカブトへと変形し、そのまま回転しながら上空へと飛翔すると頭部のゼクターホーンでフィロキセラワームを捕らえていった。

 

 

『な、なに?!―ドシャアァァァァァァァァァァアンッ!!―ヌオォッ?!』

 

 

捕らえられたフィロキセラワームはそのままゼクターカブトによってタワーへと思いっきり叩き付けられていき、そしてフィロキセラワームをタワーへと叩き付けたゼクターカブトはそのままカブトへと戻りながら地上に着地すると、ベルトにセットしたカブトゼクターのフルスロットルボタンを順に押していく。

 

 

『one!two!three!』

 

 

カブトR『ライダー…キックッ!』

 

 

カブトはカブトゼクターのフルスロットルボタンを順に押してゼクターホーンを反対側へと倒し、それと共にディケイドとセイヴァーが上空へと高く飛び上がると同時に三人はクロックアップ空間へと突入し、ディケイドとセイヴァーはカブトの下へと落下していくフィロキセラワームに向けて跳び蹴りを放っていった。そして……

 

 

『ハアァァァァァァァ……デリャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『Rider Kick!』

 

 

カブトR『…ハァッ!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ヌ、ガ…ヌガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァーーーーーーッ!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ディケイドとカブトの必殺技、ディケイドメテオとセイヴァーのバーニングソニックが見事に炸裂し、三人の必殺技を受けたフィロキセラワームは断末魔の悲鳴をあげながら倒壊していくタワーと共に跡形も残さず消滅していったのだった。そしてフィロキセラワームとタワーの消滅を確認した三人は変身を解除して元の姿に戻り、零はルルーシュに目を向けて問いかける。

 

 

零「……なにか、婚約者に伝える事はあるか?」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

何かあれば代わりに伝えておくがと言った風に聞いていく零だが、ルルーシュは少し考える仕草を見せると……

 

 

ルルーシュ「―――いや、ないな。あの魔女はなんでも見通している……特に、俺に関してはな」

 

 

零「……フッ……なるほどな」

 

 

確かにあの女ならなんでも見通しているに違いない。微笑を浮かべながらそう告げたルルーシュに零も納得したように笑みを漏らし、隣に立つシグナムも目を伏せて小さな笑みを浮かべていた。そしてそんな会話をしていると、三人の近くにある地下本部へと続く階段から息を乱したナナリーがゆっくりと上がってきた。

 

 

零「…ナナリー…」

 

 

ナナリー「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

ルルーシュ「…………」

 

 

ナナリーは階段を上がると乱れた呼吸を整えながらルルーシュをジッと見つめるが、其処から何を話したらいいのか分からず唇を閉ざしてしまう。そんなナナリーの無事を確かめたルルーシュは安心したように一息吐くと、突然ルルーシュの身体が淡い光に包まれ周りの風景に溶け込む様に徐々に消え始めていく。

 

 

ナナリー「っ?!……ッ……」

 

 

消えていくルルーシュを目にしたナナリーは両目を見開き身を乗り出していく。今まで守ってくれてありがとうと、何も知らなかったとは言え恨んでしまってごめんなさいと、伝えたい事や謝りたい事も沢山ある。その中で今伝えたいのは、今一番に伝えなければいけない事は…………

 

 

ナナリー「――――待って……います……」

 

 

ルルーシュ「……え?」

 

 

ナナリー「……ずっと……待っていますから……C.C.さんと一緒にあの家で……お兄様の帰りをずっと……ずっとっ…!」

 

 

ルルーシュ「……!」

 

 

溢れそうになる涙を必死に堪え、精一杯の笑顔でそう告げたのであった。それを聞いたルルーシュは少し驚いたように僅かに両目を見開くとナナリーに優しげな微笑みを見せ、それと共にルルーシュの身体が徐々に薄れていき、最後はカブトへと姿を変えて風のように静かに消え去っていったのだった。

 

 

ナナリー「…………ッ…………お兄…………様っ…………ぅ…………うっ…………ぁ…………」

 

 

零「……ナナリー…」

 

 

シグナム「…………」

 

 

ルルーシュの姿が完全に消えてしまったのを見届け、ナナリーはずっと堪えてた涙をぼろぼろと流し、それを隠すように両手で顔を覆いながら静かに泣き出していく。そんなナナリーの姿に零は切なげな表情を浮かべながらゆっくりとナナリーへと近づいて背中を摩り、ルルーシュが消えていった場所をジッと見つめていくのであった……。

 

 

 



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第十五章/カブト×コードギアスの世界⑩

 

 

戦いが終わってから半日後、ZECTの本部を後にした零とシグナムはナナリーを連れておでん屋の前に戻って来ていた。そしておでん屋に帰ってきたナナリーは店の扉に恐る恐る手を伸ばし、扉を開けて店の中へと入っていく。

 

 

ナナリー「……ただいま、です……」

 

 

C.C.「…ん?あぁ、お帰りナナリー」

 

 

ナナリー「は、はい……」

 

 

少し緊張気味にナナリーがそう言うと台所でおでんを作っていたC.C.は何時もと変わらぬ様子でそう答え、無言のまま皿におでんを移しテーブルの上へと置いていく。

 

 

ナナリー「!C.C.…さん?」

 

 

C.C.「…………」

 

 

ナナリーはC.C.が用意してくれたおでんを見てC.C.に目を向けると、C.C.は何も言わないまま優しげに微笑んで頷いていき、それを見たナナリーは一瞬驚きつつも笑顔で頷き返してテーブルに着き、おでんを一口食べていく。

 

 

ナナリー「………お兄様も……何時か帰って来れるでしょうか……」

 

 

C.C.「……ルルーシュは……アイツは何時だって此処にいるさ……私達が変わらない限り、な……」

 

 

だからきっと大丈夫だと、C.C.はそう言ってナナリーに優しげな微笑みを見せ、ナナリーもC.C.の顔を見て笑顔で頷き返すとおでんを食べていく。そしてそれを見ていた零とシグナムも穏やかな笑みで二人を見つめていると、零はカメラを構えてナナリーとC.C.を写していく。そんな時……

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……ナナリーちゃん!」

 

 

 

 

ナナリー「…え?」

 

 

シグナム「キャロ?エリオ?」

 

 

店の入り口から二人の少女と少年……キャロとエリオが肩で息をしながら現れたのである。そしてキャロはナナリーへとゆっくりと歩み寄り、ポケットから一枚の写真を取り出しナナリーに差し出していく。それは写真館で撮影した時の写真……ナナリー、キャロ、エリオ、リイン、アギト達の五人が笑い合う姿が写った写真だった。

 

 

ナナリー「コレ……」

 

 

キャロ「……私達、零さん達と一緒に旅に出ちゃうけど……でも忘れないから。二人の事は、絶対に」

 

 

エリオ「きっとまた、何処で会える。だからその時は、また皆で写真を撮ろう?今度は零さん達やC.C.さん……ナナリーのお兄さんも、一緒に」

 

 

ナナリー「!……はい!」

 

 

ナナリーはキャロから渡された写真を両手で大事そうに胸に抱きながら笑顔で頷き、キャロとエリオも明るい笑顔でナナリーに頷き返していった。そしてそんな三人を優しげに見守っていた零やシグナムはエリオとキャロを連れておでん屋を後にし、写真館へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

そしてそれから数時間後、零達が写真館に戻ってきた後なのは達は零がこの世界で撮った写真をテーブルに並べて眺めていた。そして栄次郎の手にはこの世界で撮った写真の中でも一番の出来……いつもの様に写真自体は歪んでいるが、ナナリーとC.C.が笑顔で微笑み、そしてそんな二人を見守るようにカブトの姿が映る写真が握られていた。

 

 

栄次郎「うん、なかなか良い写真じゃないか」

 

 

ディエチ「うん、二人とも良い顔してる」

 

 

なのは「……だけどナナリーちゃんのお兄さんは……何時か二人の下に帰って来れるかな?」

 

 

零「………帰ってくるさ。生きている限り、あの一家の絆が絶たれない限り……きっと……必ずな」

 

 

すずか「……うん、そうだよね♪」

 

 

きっとルルーシュは、あの二人の下に帰って来れる。なのは達もそう信じて頷くと写真をアルバムへと仕舞っていくが、いつの間にか部屋の扉の前に立っていた大輝はそんなメンバー達を見て暗いオーラを漂わせながら、深い溜め息を吐いていた。

 

 

大輝「君達は呑気で良いね……俺は結局、お宝を手に入れられなかった……」

 

 

零「……ふぅ……まあそう落ち込むな。そんなお前に、代わりにコイツをやろう」

 

 

大輝「…?なんだい?」

 

 

シャキンッ!とコートの中から何かを取り出した零に大輝が怪訝そうに聞き返すと、零は取り出した何かを大輝へと投げ渡した。それは何やらコショウみたいなモノが入った古っぽいビンであり、それを見た大輝は険しげに眉を寄せていくが、零は至って真剣な表情で高らかに語り出した。

 

 

零「そいつは大航海時代!かのバスコダガマが命懸けで捜し求め、金と同じ値段で取り引きされたという……伝説のスパイスだ!」

 

 

大輝「ッ?!……い、良いのか?そんなお宝を貰って?」

 

 

零「フッ……お前にはアルティを届けてもらった恩がある……持っていけ」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら零が指を向けてそう告げると、大輝はビンを見つめてニヤリと笑いそのまま部屋から出ていった……零達には見えないところで静かにガッツポーズを取っていたのは誰も気付いていなかったが。

 

 

ディード「――あの、今の確か……うちのキッチンに置いてあったコショウじゃ……」

 

 

零「……言ってやるな……ただでさえお宝を手に入れられなくて落ち込んでるのに、更にあんな地獄を待ち受けていると考えたら流石に哀れだろう……気休めぐらい許してやれ」

 

 

フェイト「……へ?」

 

 

気の毒そうに首を振る零になのは達は意味が分からないと言ったように疑問符を浮かべ、それはどういう事なのかと質問しようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よぉ、大輝』

 

 

『なッ?!な、なんで貴方が此処に?!!』

 

 

『何、お前と零達の様子見に来ていただけだ。しかしそれにしても……クロックアップを使われたぐらいで負けるとは情けない……これからまたみっちり修行だな♪』

 

 

『嫌だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………』

 

 

外から聞こえてきた青年の絶叫。なのは達はそれを耳にして納得したのか質問するのを止めて苦笑いを浮かべていき、零も外から聞こえてきた悲鳴に関しては敢えて触れず溜め息を吐いていった。

 

 

零「まぁ、気にしなくてもどうせまた勝手に現れるだろう。海道だし」

 

 

なのは「にゃはは……まぁ、何だかちょっと同情しちゃうけどね…………あ、そういえば零君。実は写真館の掃除してた時に、こんなの見つけたんだけど」

 

 

零「ん?」

 

 

大輝に関して余り気に止めた様子を見せていた零に苦笑いを浮かべていたなのはだが、ふと何かを思い出したようにポケットから銀色のカブトムシのような姿をした機械……以前魔界城の世界で戦ったコーカサスから奪ったハイパーゼクターを取り出し零に見せていく。

 

 

零「お、これって確か…」

 

 

なのは「うん、私の部屋を掃除してた時に机の引き出しから見つけたの。懐かしいよねぇ♪」

 

 

零「だな。まあどっちかって言えば……お前達や進があの金色にフルボッコされた記憶が一番印象的だったがな。にしても、ホントに懐かしいなぁ」

 

 

零はそう言いながらなのはの手からハイパーゼクターを受け取り、懐かしそうにハイパーゼクターをペチペチと叩きながら笑みを浮かべていく。

 

 

なのは「ちょ、そんな乱暴に扱って大丈夫なのっ?」

 

 

零「心配ないだろ?第一、コイツだけで一体何が出来るって言うんだ?せいぜい単体で空間を跳ぶ事しか出来んだろうし……というか、コレまだ使えるのか?」

 

 

心配げに聞いてきたなのはに微笑しながらそう告げると、零はハイパーゼクターを天井に向けて軽く投げてキャッチ、また軽く投げてはキャッチするとハイパーゼクターをキャッチボールのように扱い遊んでいく。がしかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………………バチッ………バチバチィッ……―

 

 

 

 

なのは「……ヘ?」

 

 

零「……ハ?」

 

 

なにやら耳に届いた不審な音。それを聞いたなのはは目を点にして呆然となり、零も手を止めてゆっくりと手に持ったハイパーゼクターへと視線を向けていく。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………バチッ…………シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

零「ッ?!なっ?!」

 

 

『えッ?!』

 

 

なのは「な、何コレ?!」

 

 

突如零の手に握られていたハイパーゼクターから無数の火花が散り、それと共にハイパーゼクターから眩い光りが放たれていったのである。

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

スバル「ちょっ、ど、どうなってるのコレ?!」

 

 

はやて「れ、零君!!一体何したんや?!」

 

 

零「俺が知るか?!というか寧ろ俺が聞きたい!」

 

 

優矢「と、とにかくソイツを早く捨てろって!!何かヤバそうだぜ?!」

 

 

ハイパーゼクターから放たれた輝きに一同が動揺する中、とにかく今はハイパーゼクターをどうにかせねばと思い優矢は慌てて零へと駆け寄りハイパーゼクターを掴んだ。がしかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Hyper Clock Up!』

 

 

 

 

 

 

零「なッ?!」

 

 

優矢「へ?――ウ、ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!」

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『っ?!』

 

 

優矢がハイパーゼクターに触れると共にハイパーゼクターから電子音声が響き、それと同時に輝きも激しさを増し零と優矢を包み込んでいったのだ。そして徐々に光が薄れて視界が戻っていくと……

 

 

なのは「―――ッ?!れ、零……君?」

 

 

ティアナ「ゆ、優矢……さん?」

 

 

フェイト「ふ、二人が……消えた……?」

 

 

光が晴れた先には先程まで目の前にいた筈の零と優矢の姿が何処にもなく、二人は突如光写真館から姿を消したのであった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―とある平行世界―

 

 

零と優矢が写真館から姿を消したその頃、以前ルミナが造られた場所である廃墟では鳴滝が悔しげな表情を浮かべていた。

 

 

鳴滝「チッ!またも世界がディケイドによって破壊されてしまった……このままでは、次の世界も奴の手によって破壊されてしまう!」

 

 

忌ま忌ましげに言いながら鳴滝は背後へと振り返り、目の前に置かれたもの……ルミナが造られた時に使用されたポットの隣に置かれた、もう一つのポットへと目を向けていく。

 

 

鳴滝「……前回は戦闘能力と感情制御を重視し過ぎたせいで失敗してしまったが、今度はそうはいかん。今度こそ貴様の最後だ、ディケイド!」

 

 

そう言って鳴滝の表情は鬼の形相から不気味な笑みへと変わっていき、ポットの中で眠る一人の少女をジッと見つめていくのであった――――

 

 

 

 

 

第十五章/カブト×コードギアスの世界 END

 

 



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番外編/黒月零、結婚します?!

 

 

―光写真館―

 

 

 

優矢「……んで?まぁーた懲りもせずになのはさんを怒らせた訳か?」

 

 

零「あぁ……ちょっと用があって部屋に入ったら着替えの最中だったらしくてな……そしたらいきなり問答無用でバスターを撃ち込まれた……」

 

 

エリオ「アハハハ……やっぱり其処は相変わらずなんですね」

 

 

とある光写真館の午前中。優矢とエリオはテーブルに向かいに座る黒焦げの零に向けて苦笑いを浮かべていき、零は疲れたように溜め息を吐きながらテーブルに俯伏せになっていた。因みに零が黒焦げになっている理由は今話した通り、着替え中のなのはと部屋で遭遇しバスターを撃ち込まれたからである。

 

 

優矢「で、なのはさんの方はどうなんだ?やっぱ不機嫌なのか…?」

 

 

零「多分な……部屋から全く出て来てくれないんだ……どうしたものか……」

 

 

エリオ「やっぱり、謝った方がいいじゃないですか?流石に今回はなのはさんが怒るのも当然だと思いますし……」

 

 

零「……それしかないか」

 

 

とにかくエリオの言う通り、早めになのはに謝って許してもらった方が無難だろう。そう思った零は部屋にいるなのはに謝りに行こうと椅子から立ち上がろうとした。そんな時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

大輝「それは流石に甘いんじゃないかなぁ?」

 

 

零「ッ!海道?!」

 

 

部屋の扉から青年……大輝が何時もの笑みを浮かべながら現れ、なのはの下に向かおうとする零の前に立ちはだかったのである。

 

 

優矢「アンタ、今度は一体何の用だよ?!」

 

 

大輝「たまたま通りかかったから寄っただけさ………それより、話しは聞かせてもらったよ。君もまだまだ甘いねぇ?」

 

 

零「…なんだと?どういう意味だ?」

 

 

大輝「言葉通りの意味さ。女の人の着替えを見たという最低な行為を犯しておいて、ただ謝るだけで許してもらおうなんて誠意が足りないんじゃないかい?」

 

 

零「…!それ……は……」

 

 

確かに大輝の言葉にも一理ある。女性の着替えを見るなんて男して最低な行為だと、幼い頃からなのは達や母親と姉である高町桃子と高町美由希から散々教わってきている………それでも度々そういう事故に遭遇してしまうのは運が悪いというべきか何というか……

 

 

零「……なら、一体どうすればいいんだ?」

 

 

大輝「そんなのは簡単さ、謝罪を込めたお詫びを用意すればいいんだよ」

 

 

零「お詫び?」

 

 

疑問そうに聞き返しながら小首を傾げる零だが、大輝はそれに答えないで代わりに何処からか釣竿を取り出し、零へと押し付けていく。

 

 

大輝「君の得意分野は料理だろう?なら、謝罪の意味を込めて豪勢な魚料理でも振る舞えばいい、彼女の為にね。ちょうど近くには川もあるし」

 

 

零「……確かにお前の言う通りだな……よし。今日はお詫びとして、アイツに豪勢な魚料理でも振る舞うとしよう」

 

 

受け取った釣竿を力強く握り締めながらそう呟くと、零は何時もより張り切った様子で写真館から飛び出していった。

 

 

エリオ「……でも、珍しいですね?海道さんが零さんにアドバイスするなんて」

 

 

大輝「ん?アドバイスー?そんな訳ないじゃないか♪俺がそんなことする人間に見えるかい?」

 

 

優矢「…は?ど、どういう意味だよソレ?」

 

 

先程のがアドバイスではないと言うなら、一体何の為にあんな事を言ったのか?それが分からない優矢が怪訝そうに聞き返すと、大輝は何処からか零に渡したのと同じ釣竿を二本取り出し優矢とエリオに押し付けていく。

 

 

エリオ「こ、これは?」

 

 

大輝「実は風麺で魚類系のラーメンも始めてみようかなぁって思ってさ。どうせなら新鮮な魚を使いたいから、彼にも手伝ってもらおうと思ってねぇ♪」

 

 

優矢「って自分の店の為かよっ?!つか、まさか俺達にも手伝えっていうんじゃ……」

 

 

大輝「もちろんさ。出来るだけ大漁に欲しいからね、別に構わないだろ?どうせ君等も暇だろうし」

 

 

勝手に決めんなよ!と叫びそうになるが、残念な事に事実なので否定しようがない。なので優矢とエリオも半ば強制的に風麺で使う魚を釣りに向かうハメになるのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

 

 

大輝「――む?!またまたフィィィィィィィィシュッ!!!」

 

 

優矢「ウッセェ!!アンタもうちょっと静かに釣り出来ねぇのか?!魚が逃げちまうだろう?!」

 

 

零「お前のツッコミも十分うるさいだろう……」

 

 

エリオ「アハハ……」

 

 

光写真館から徒歩10分の所にある綺麗な川。其処へやって来た零達はそれぞれ釣竿を構えて順調に魚を釣り上げていた。因みに零は十六匹、優矢は八匹、エリオは五匹、大輝は三十七匹と大漁に釣っており大収穫となっている。

 

 

零「………っと、もうそろそろいいんじゃないか?」

 

 

エリオ「ですね、もう十分過ぎるくらい魚も捕れましたし」

 

 

大輝「ま、これ以上釣っても持って帰るのが面倒になるからね……明日に持ち越すとしよう♪」

 

 

優矢「いや明日もやる気なのかよ……」

 

 

大漁の魚が入ったバケツとケースを見てもうそろそろ良いだろうと思い、四人はそれぞれ帰る準備を始めていく。そんな時……

 

 

零「ん?………おい海道、この大きい魚貰ってもいいか?コイツで刺身料理を作りたいんだが……」

 

 

大輝「んー?……まあそれぐらい良いか。勝手に持っていけば?」

 

 

釣竿を仕舞う大輝から了承を得ると零は大輝が持参したケースの中から少し大きめの魚を両手で抱え、自分のバケツの方へと移動させようとする。その時……

 

 

―…………ポロッ―

 

 

エリオ「よいっしょ………アレ?零さん、その魚、今口から何か出しましたよ?」

 

 

零「……ん?」

 

 

零が抱える魚が口から何かを吐き出したのに気付いたエリオがそう告げると、零は両手に抱えた魚をバケツに移動させて地面に落ちている魚が吐き出した何かを手に取っていく。それは……

 

 

零「…………指輪?」

 

 

そう、魚が吐き出した物の正体とは、一見高そうな白い宝石がついた指輪だったのだ。指輪を見て思わず零がそう呟くと、他の三人が零へと近づいて指輪を覗き込んでいく。

 

 

エリオ「うわぁ……それってもしかして指輪ですか?」

 

 

零「あぁ、みたいだな……だがなんでこんなモノを魚が?」

 

 

エリオ「んー、たまたま川に落ちてた物を餌と間違えて食べちゃったんでしょうか?」

 

 

優矢「てかそれしか考えらんないよな……にしても、玩具とかにしちゃなんか高そうだよなぁ?アクセサリーか?それとももしかしてダイヤモンドとか?ってんな高価なもんが川に落ちてる訳ねぇか」

 

 

大輝「……いや……これは………………ニヤリ……」

 

 

零と優矢とエリオが指輪を眺めながら会話を行う中、両目を細めて指輪を眺めていた大輝は何やらいたずらを思いついたような笑みを浮かべて零の肩に腕を回していく。

 

 

大輝「良かったじゃないか零!!思わぬ収穫だよ♪」

 

 

零「?何がだ?」

 

 

大輝「何がじゃないさっ!なのはさんに良い手土産が出来たんだぞ?これでなのはさんの機嫌も良くなるに違いない♪」

 

 

零「なのはの……?」

 

 

何処となく楽しげにそう言う大輝だが、何故この指輪がなのはの機嫌に繋がるのかイマイチ理解出来ない零は疑問げに指輪を睨みつけていく。

 

 

大輝「……本当にそういうのに関してはイマイチ鈍いよね君は……いいかい?女性というのはこういう指輪やアクセサリーなどを貰うと大いに喜ぶものなんだ。なのはさんだってもちろん、そういうのを貰って喜ばない筈がない!」

 

 

零「……あぁ、つまりコレをなのはに渡せば……」

 

 

大輝「そう、コレを渡せばなのはさんは必ず君を許してくれるに違いないという訳さ♪」

 

 

漸く大輝が言いたいことを理解した零は納得したように頷き、ジィーッと指輪を見つめていく。そしてそんな零の様子に大輝は予想通りと笑みを浮かべながら、零に耳打ちする。

 

 

大輝「なんだったら、俺が女性の喜ぶ指輪のはめ方を教えてやろうか?」

 

 

零「ッ?!そ、そんなモノがあるのか…?」

 

 

大輝「あるとも♪どうする?なのはさんを喜ばせてあげたいなら、俺も協力を惜しまないけど?」

 

 

零「……………………………………どうやるんだ?」

 

 

結局、零はなのはと仲直りしたいが為に悪魔の囁きに耳を傾けてしまったのであった。そしてそんな会話を行われているとも知らず、優矢とエリオは隅っこで話をしている二人に疑問を抱きつつ片付けを進めていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

なのは「……はぁ……どうしようかな……」

 

 

そしてその頃、高町なのはは自室のベッドに腰掛けながら深い溜め息を吐いていた。その溜め息の理由は、先程零に着替えを見られてしまった件である。

 

 

なのは「……着替えを見られたからって、流石にバスターはやり過ぎたよね……やっぱりあそこは平手打ちの方が良かったかも……」

 

 

………まあその方が普段の制裁に比べればずっっっとマシな方だろう。とにかく先程の件は自分も悪かったかも、と軽く後悔しながらなのははベッドに横たわっていく。

 

 

なのは「それに、いい加減こういうも止めた方が良いよねぇ……シズクさんや祐輔君にもそのことで散々叱られてるし……」

 

 

どちらの説教もかなり怖く、アレが嫌でもうやらないと何度も決心したが、それでもやってしまうのはあの青年にも原因はある。超が十を越えるほど付く鈍感だし、デリカシーはないし、女心を何も分かっていないし、恋愛についても全く関心がないし、すぐ他の女の子と知り合ってはイチャイチャしてるし、セクハラなこと言うし、無自覚でエッチだし、どれだけアプローチし続けても「…は?」の一言で返されるだけだし………本当に、何故あんな青年に好意を持ってしまったのか自分でも不思議でならない。

 

 

なのは「だけど……好きになっちゃったんだよね……」

 

 

十数年も前、母や兄や姉が怪我を負った父に代わって働き詰めな日々を過ごしていた中、まだ幼かった自分は皆に迷惑掛けないようにと寂しさを堪え出来るだけ笑顔でいるようにした。幸いにも家族は皆そんな自分を変だと思ってはいなかったみたいだし、自分でも簡単には見抜かれないように笑っていたつもりだが……あの青年だけは違った。

 

 

なのは「………気付いてたんだよね……私が無理して笑うようなった頃から……ずっと……」

 

 

普段は鈍感なくせに、そういうところに関しては妙に鋭い。何故そういうところを他のところに回せないのかと何度不思議に思ったことか……

 

 

なのは「……確か昔の人が言ってたっけ……『恋愛は惚れた方が負け』って」

 

 

確かに色んな意味で負けてるような気がする。どんなアプローチをしても結局は空回り。やはり祐輔が言うように直接好きだと言った方が早いのだが……

 

 

なのは「うぅ……やっぱり恥ずかしいんだよねぇ……」

 

 

いざ告白しようと思うと、顔が真っ赤になる上に頭が真っ白になって何も考えられなくなる。恥ずかしい、という気持ちもあるのだが、告白出来ない理由がもう一つある。それは……

 

 

なのは「もし仮に告白したとしても………零君にその意味が通じるかどうか……」

 

 

彼の鈍感さはホントに酷すぎる。中学の頃なんか色んな女子に告白されていたが、どうやら付き合うという事を『買い物や遊びに付き合って欲しいと』いう風に考えていたらしい。今では大分マシになったかもしれないが、そこの所もマシになっているのか全然判断がつかない。もし仮に告白しても……

 

 

 

 

 

 

―付き合う?何に付き合えばいいんだ?買い物か?―

 

 

―あぁ、俺もお前や皆の事は好きだぞ?当然だろ?―

 

 

 

 

 

 

などと言われても不思議ではない。それにもし本当にそんなこと言われたら……立ち直れる自信が全然ない……

 

 

なのは「……あぁーもう!どうして零君はあんな鈍感なのかな?!もうギネスに登録されても不思議じゃないと思うよ私は?!何だったらナノナノ動画とかにもあの鈍感なところを撮った動画を載せちゃおうか?!一緒に寝てるところとかアーンされてるところとかキスをねだられても全然相手の気持ちに気づかないところとかその他諸々!きっとあの鈍感は罪だって皆が共感するよ?!特に好きな人に気持ちを気付いてもらえない人達には!!」

 

 

不満爆発。ベッドに置いてあった枕を抱きながらゴロゴロゴロゴロゴロと激しくベッドの上を転がり不満を叫び続けるなのはだが、そんな時……

 

 

―コンコンコンッ…―

 

 

『なのは、ちょっといいか……?』

 

 

なのは「ひょわい?!え、れ、零……君?」

 

 

いきなり扉から聞こえてきたノックと青年の声に反応してビクッ!とベッドから立ち上がり、思わず奇声をあげてしまったなのは。そんな声をあげてしまった事に内心恥ずかしがりながらも、扉の方へと呆然と振り返る。

 

 

『ちょっと用があるんだが良いか?良かったら開けて入るが……』

 

 

なのは「え……ま、待って!!ちょっとだけ待ってっ?!」

 

 

いきなり訪問してきた零に戸惑いつつも慌てて部屋の中に入るのを待ってもらい、備え付けの化粧台で服装や髪が可笑しくないか十分に確認していく。

 

 

なのは「だ、大丈夫だよね……は、入っていいよ?」

 

 

格好を確認して大丈夫だと判断するとなのはは扉の方へと呼びかけ、入室の許可を得た零はゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入っていく。

 

 

なのは「ど、どうしたの?何か用事?」

 

 

零「あー……いや……ほら……さっきの事について、ちゃんと謝った方が良いかと思ってな……」

 

 

なのは「さっきの…事?」

 

 

さっきの事と言われて一瞬ポカンとなってしまうが、直ぐにあの着替えの件の事だと気付いていく。

 

 

なのは「あ、あのことなら気にしなくていいよ。私も悪い事したかなって思ってたし……」

 

 

零「いや、元を辿れば俺の不注意が招いたことだ……本当にすまなかった……」

 

 

なのは「あ、謝らなくていいってば!こちらこそ……ごめんなさい……」

 

 

頭を軽く下げて謝ってきた零に向けて自分も頭を下げ、先程の件について謝っていく。これでもうこの件についてはお互い気にせずに済むだろう。

 

 

なのは「えぇっと……此処にきたのって、それだけを伝える為に?」

 

 

零「ん?まあそうだが……実はまだちょっと、な」

 

 

零は少し顔を逸らしながら手の中を覗き、何やら考え込むように両目を伏せると軽く息を吐いてなのはを見つめる。

 

 

零「……今日のお詫びとして、ちょっと贈りたい物があるんだが……悪いが少し目をつぶっててもらってもいいか?」

 

 

なのは「へ?あ、うん、別にいいけど……」

 

 

贈り物ってなんだろう?とちょっと気になりつつも、なのはは小首を傾げながら言われた通り両目をつぶっていく。すると不意に左手を捕まれて持っていかれるような感覚と、指に何かを嵌め込まれるようなものを感じ、その不可解な感覚になのはの脳内は疑問符で埋め尽くされていく。

 

 

零「――これでいいのか?……もう開けていいぞ」

 

 

なのは「ん……」

 

 

最初の一言が何か気になるが、とにかく今は先程から気になってる不可解な感覚の正体を確かめたい。そう思いながらなのはは両目を開き、左手を自分の視界へと持ってきて目の前の青年に嵌められたモノの正体を確かめた。

 

 

なのは「………………………………………へ?」

 

 

確かめて、言葉を失ってしまった。自分の左手の薬指に嵌められた物の正体……それは白く美しい輝きを放つダイヤモンドという宝石をつけた指輪だったのだ。コレはなんだ?と頭の中で何度も連呼する中、目の前の青年は頭を掻きながら言いにくそうに告げる。

 

 

零「まぁ、あれだ……お前にはいろいろと迷惑掛けてばっかりだったからな……今日ぐらいちゃんと、自分に素直になっても良いかなって思ったんだ……」

 

 

なのは「…………………………………………え?」

 

 

状況がまだ飲み込めない。だがそんな事はお構いなしにと、青年は照れ臭さそうにそっぽを向きながら告げる。

 

 

零「――今まですまなかった、なのは……これからもずっと……俺と一緒にいてくれるか?」

 

 

なのは「え…………えっ…………へ…………?」

 

 

何処となく不器用な笑みを浮かべながらそう告げた零に、なのははただ言葉にもならない声を漏らして呆然と零を見上げていく。左手の薬指に嵌められた指輪を見て、青年を見上げて、今の言葉を脳裏で再生して何とか状況を飲み込もうとする。そして……

 

 

なのは「……ッ!!!!」

 

 

漸くその意味に気が付き、なのはは瞳から大粒の涙を流して口に手を当てながら静かに泣き出したのであった。

 

 

零「お、おい……なのは?どうした?」

 

 

なのは「っ…………ずるいよぉ…………こんなっ…………こんないきなりっ……………ぅ…………ひぐっ…………」

 

 

零「…?」

 

 

何故いきなりなのはが泣き出したのか。意味が分からないといったように小首を傾げる零だが、なのはは涙を流したまま零を見上げて告げる。

 

 

なのは「グズッ……一緒にっ……一緒にいますっ……これからもずっと……傍にいさせて下さいっ…!」

 

 

零「は?……あ、あぁ……よろしく頼む……?」

 

 

顔をあげて泣きながらそう告げたなのはに若干戸惑いがちに後退りしながら頷き返すと、なのはは再び泣き出しながら左手を大事そうに右手で包み込んでいく。

 

 

なのは(ッ……全然違ってたっ……零君は鈍感だって思ってたけどっ……相手の気持ちにはちゃんと気付けていたんだっ……ごめんね……本当にごめんなさいっ……)

 

 

先程まで不満を口にしていた自分に自己嫌悪しつつも、左手の薬指に嵌めた指輪を見つめながら、これからの人生を共に歩む彼のことをもっと理解していこうと泣きながら心に誓うなのはであった。そして零は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零(……………………………………えぇっと…………そんなに指輪が嬉しかったのか?流石指輪パワーだな……これなら俺が買っても良かったかもしれないが、まあなのはの機嫌も治ったみたいだし……良かった良かった……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ッッッッッッッッッッッッッッ(中略)ッッッッッッッッ然関係ねぇこと考えてホッと一安心していたのであった。

 

 

 

とんでもない思い込みをしてしまったなのはと、ただのアクセサリーだと勘違いし何も知らないままなのはに指輪を贈ってしまった零。

 

 

 

そして後日、これが原因で彼がとんでない苦労をしてしまうハメになるとは……この時はまだ誰一人として気付いていなかった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

それから翌日。メンバーがそれぞれ有意義な時間を過ごしている中、写真館の庭ではスバル、ティアナ、キャロの三人がボール遊びをしている姿があった。因みにエリオは優矢と共に昨日の釣りの続きとして昨日の川へと行っている。

 

 

スバル「――ねぇティア~、キャロ~、昨日のなのはさんってなんか変じゃなかったぁー?」

 

 

ティアナ「んー?何が……よっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「なんていうか……ずっと上の空みたいな感じだった気がするんだよね。夕飯の時もずっと上の空で、時たまに幸せそうに笑ってたりと……かっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

キャロ「あ、それ私も気になってました。何だか何時ものなのはさんらしくなかったから、具合でも悪いんじゃないかなってシャマル先生に相談してみたんですけ……どっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「シャマル先生、なのはさんのことでなんか言って……たっ?!」

 

 

―トンッ!―

 

 

キャロ「いえ、今朝なのはさんの健康診断をしてみたみたいなんですけど、身体には特別異常は見られなかって言ってました……よっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

ティアナ「ほら、やっぱり気のせいなんじゃないの?どうせまたアンタの見間違いだったと……かっ!」

 

 

―トンッ!―

 

 

スバル「うーん……でも確かにそう見えたんだけど……なっ!!」

 

 

―ドシュンッ!!―

 

 

ティアナ「あっ?!馬鹿!どこ打ってんのよ?!」

 

 

スバル「あ、ご、ゴメンっ?!」

 

 

会話に集中し過ぎたせいか、スバルは思った以上の力を込めてボールを打ち込んでしまいボールはそのままティアナの頭上を勢いよく飛び越えてしまった。そしてティアナの頭上を飛び越えてしまったボールは……

 

 

なのは「…………(ポ~」

 

 

キャロ「ッ?!な、なのはさん?!」

 

 

スバル・ティアナ『えぇっ?!』

 

 

猛スピードのボールはそのまま写真館の中に入ろうとしていたなのはに向かっていたのである。だがなのはは自分目掛けて跳んできているボールの存在にまだ気づいてはいない。

 

 

ティアナ「な、なのはさん危ない!!避けて!!」

 

 

なのは「…………………………………ふぇ?」

 

 

ティアナの必死な叫び声が届いたのか、ボーッとしていたなのはの表情がいつも通りに戻りスバル達の方へと振り向いた。だが、時は既に遅く……

 

 

 

 

―シュウゥ……ドガシャアァッ!!―

 

 

 

 

『あっ?!!』

 

 

 

 

ボールはそのまま止まる事なく、辺りに鈍い音を響かせながらなのはの顔面へと打ち込まれてしまったのであった。そしてボールはなのはの顔から剥がれるかのように地面へと落ちて何度かバウンドし、なのはは何も言わず顔を俯かせながらボールを拾い三人へと歩み寄っていく。

 

 

なのは「……スバル……ティアナ……キャロ……」

 

 

ティアナ「す、すすすすみません!!このバカがバカやったせいで!!ほ、ほら!!アンタも早く?!」

 

 

スバル「ひぃ?!ご、ごごごごごごめんなさい!!」

 

 

キャロ「す、すみませんでしたぁ!!」

 

 

ガタガタと全身を震わせながらなのはに向けて頭を下げていくスバル達。それを見たなのはは無言のまま何も言わず、ゆっくりと俯かせていた顔を上げて……

 

 

 

 

 

 

なのは「――――もぉー♪ダメだよぉ?ちゃんと周りを見てやらないと危ないでしょー♪」

 

 

『…………………………………………………は?』

 

 

…………目茶苦茶良い笑顔でそう告げたのであった。言われた本人である三人は耳を疑うかのように思わず頭を上げていくが、目の前にはやはり邪気のない目茶苦茶良い笑顔をしたなのはさんしかおらんかった…。

 

 

なのは「はい♪次からはちゃんと周りに気をつけて遊ばないとダメだよぉ?約束だからねぇ~♪バイバ~イ♪」

 

 

そんな呆然とするスバルにボールを返すと、なのはは上機嫌のままスキップしそうな勢いで歩き出し写真館の中へと戻っていったのであった。そしてなのはがいなくなった後、その場にはありえない生物を見たように固まる三人の少女の姿が残されていたとか……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃、写真館を出た優矢とエリオは昨日釣りをした川に向かおうと土手を歩いていた。因みに何故川に向かっているのかと聞かれたら、どっかのエセ怪盗に強引に向かわされたからである。

 

 

優矢「はぁ~まったくよ、なんで俺等がまた釣りをしに行かなきゃなんないんだっての」

 

 

エリオ「仕方ないですよ、どうせそう言ってもまた暇なんだろう?って言われるだけでしょうからっ」

 

 

優矢「チキショウ……次の世界で邪魔して来たら絶対一発ぶん殴ってやるぞあのエセ怪盗め……」

 

 

拳にグッと力を込めながらそんな事を誓っていると、いつの間にか目的地である川へと到着した。そうして川へと到着した二人は釣りの準備をしようと土手から川に下りようとするが……

 

 

エリオ「……あれ?」

 

 

優矢「ん?どうしたエリオ?」

 

 

エリオ「いえ、あそこに何か人がいるんですけど……あの人なんか様子が変じゃないですか?」

 

 

釣りの準備を始めようとしたエリオが何かを発見してその方へと指差し、優矢はそれを追ってエリオが指差す方を見つめていく。すると二人から少し離れた先に黒いスーツの男性が川を見つめて立っており、男性は何処か思い詰めた様な表情で服も靴も脱がずにそのまま川の中へと足を……

 

 

優矢「―――って待て待て待て待て待てぇ!!?早まるなぁお兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!?」

 

 

「…え?う、うわあぁ?!」

 

 

―バッシャアァンッ!!―

 

 

男性の様子と服を着たまま川に入るという行動で良からぬ事を想像してしまい、優矢は血相を変えて慌てて男性へと抱き着き二人はそのまま川の中へと落っこちてしまったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

エリオ「……じゃあ、貴方はただ川の中に間違えて捨ててしまった物を探す為に?」

 

 

「そう……とても大事な物なんだ。それに余り時間も掛けられないから、直接川に入って探そうかと思ってね……」

 

 

優矢「な、なんだ……そういう事だったんスね�」

 

 

優矢が良からぬことを想像して止めに入ったこの男性……事情を聞いたところによると、どうやらある勘違いで大事な物をこの川に捨ててしまったというらしい。そしてその大事な物を探そうとして、川に入って直接それを探そうとしていたみたいだが……

 

 

エリオ「だけど、そんなに大事な物ならどうして川に捨ててしまったんですか?」

 

 

「……実は……僕には付き合い始めて四年になる女性がいてね……僕はその人にプロポーズしようと必死に働いて買った婚約指輪をこの間のお祭りで贈ろうとしたんだけど、彼女が見知らぬ男と仲よさげにお祭りを見て回ってる現場を見てしまって、裏切られたと思ったんだ。そして悲しみの余り、僕は指輪をこの川に捨ててしまった……けど、それは僕の勘違いだったんだ」

 

 

優矢「勘違い?」

 

 

「そう、どうやらその男は彼女のいとこだったらしいんだ……事実を知った僕は焦ったよ。彼女は僕がプロポーズしてくれるのを心待ちにしてるみたいなんだけど、肝心の指輪はこの川の中なんだ!だからもうどうしたらいいのか僕には分からなくて…!」

 

 

エリオ「……因みにですけど、その指輪ってどんな?」

 

 

「え?えっと……これぐらいの大きさのダイヤモンドをつけたエンゲージリングなんだけど……」

 

 

優矢「ダイヤモンド?……あっ?!」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

零「……指輪?」

 

 

エリオ「はい、あの指輪、どうやらある人が間違えて川に捨ててしまったものみたいなんですよ」

 

 

優矢「確かあの指輪って、お前が持って帰った筈だよな?あれどうした?」

 

 

男性から事情を聞いた優矢とエリオは指輪に心当たりがあると一度釣りを中断して写真館へと戻り、零から昨日持って帰ってきた指輪の場所を聞き出していた。だが……

 

 

零「…あぁ、あの指輪ならもうなのはにあげてしまったぞ?」

 

 

エリオ「へ?…………あ、あげた?!」

 

 

優矢「なのはさんにあげたって……エンゲージリングをか?!」

 

 

零「えんげーじりんぐ?そういう名前の指輪なのか?アクセサリーにしてはなんか高そうだと思ったけど、やっぱりそこそこ根が張る指輪なのか?」

 

 

あの指輪をなのはにあげてしまった。更にエンゲージリングと聞いて首を傾げながら疑問げに言う零に優矢とエリオは全身から嫌な汗を流しまくり、まさかと思いながら口を開いた。

 

 

エリオ「あ、あの零さん?エンゲージリングってどういう物か分かってますか?」

 

 

零「む?…………ちょっと高そうなアクセサリー?」

 

 

優矢「んな訳あるか!!エンゲージの意味すら分かってないなんてお前マジでどんだけぇ?!」

 

 

エリオ「ま、まぁまぁ!ただあげたっていうだけならまだ焦る範囲じゃないですよ」

 

 

そう、ただ贈っただけだというなら事情を話して返してもらえばいいだけの話だ。それに零のこの様子ならエンゲージリングのちゃんとした渡し方も分かっていないだろうし、きっとそんなややこしい事にはならないだろう。だが……

 

 

優矢「ゼェ……ゼェ……と、とにかく……お前はただなのはさんに指輪を渡しただけなんだな?」

 

 

零「?あぁ渡したぞ。ちゃんと指に嵌めてな」

 

 

『…………………………………………………は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ユビニハメテワタシタ?

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「……………………………お、おい………お前、どの指にリングを嵌めたんだ?」

 

 

零「ん?どのって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「薬指に決まってるだろ?女性に指輪を贈る時には薬指に嵌めるのが常識だって聞いたぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「……………………」

 

 

エリオ「…………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!?』

 

 

 

 

何言ってんのこの人ぉ?!これでもかという様な絶叫をあげながら本気でそう思う二人だが、零は両耳を抑えながら怪訝そうな表情を浮かべて困惑していた。

 

 

零「な、なんだ一体?どうしたんだ?」

 

 

優矢「お前バカかぁ?!!なんでエンゲージリングの意味も分かってねぇくせにそこんところはちゃっかりしてるわけぇ?!!」

 

 

零「?何がだ?なんでそんな必死になってるんだ?」

 

 

エリオ「い、良いですか零さん?零さんがなのはさんに贈ったエンゲージリングっていうのは、婚約指輪って意味なんですよ?!」

 

 

零「婚約指輪って……あの男が女にプロポーズする時に贈る奴か?」

 

 

優矢「そうだよ!!だからお前は、知らず内になのはさんにプロポーズしちまったて事なんだぞ?!」

 

 

零「…………は?誰が…………誰に?」

 

 

優矢「だからぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「お前が!!なのはさんに結婚を申し込んだってことになってんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!?」

 

 

 

 

 

 

写真館内に響いた二度目の絶叫。それは、とある青年がやっと自分の立場を理解したという意味の込められたものであった……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―風麺―

 

 

 

 

零「どういう事か説明しろ海道ぉ!!!!」

 

 

大輝「ん?珍しくそっちから来たかと思えば……いきなり何の話だい?」

 

 

零「惚けるな!!昨日お前に教わった女性が喜ぶ指輪の嵌め方とかいうやつ!!最初から分かってて騙してたなぁ!!?」

 

 

写真館での絶叫から数十分後、あのあと暫く真っ白となって燃え尽きかけていた零は優矢達と共に写真館を飛び出し風麺へと殴り込みに来ていた。その理由はもちろん、昨日大輝に教わった指輪の嵌め方についてである。

 

 

大輝「まぁ、これでも俺はトレジャーハンターだからねぇ?あの指輪や宝石がどんなものなのかぐらい一目で分かったよ♪」

 

 

零「ふざけんな!!こっちはお前のせいでとんでもないことになってんだぞ?!どうにかしろ!!」

 

 

大輝「無理無理♪だいたいこうなったのは、君がちゃんと指輪や薬指の事を理解していなかったのが悪いんじゃないのかい?一応俺はこれぐらいの事は君でも分かってるんだと思ってダメ元で教えたのに……まさか君がこんな事も知らなかったなんて、流石の俺も予想外だったんだから」

 

 

零「うぐっ……?!」

 

 

大輝「だいたい指輪渡す前に、どうして桜川君辺りにちゃんと確かめてもらわなかったんだい?今まで散々俺に騙されてきたくせに、もしかしたら今回もって思わなかったのか?」

 

 

零「ぐっ……くっ……」

 

 

優矢「……完全に押されてるな……」

 

 

エリオ「ですね……」

 

 

確かに今回の件は大輝に騙されただけが重要でなく、婚約指輪と薬指の事について理解していなかった零にも責任はある。そのことを突き付けられた零は何も言い返す事が出来ずガクンと肩を落としてしまった。

 

 

エリオ「けど、本当にどうしましょう?なのはさん、完全に零さんにプロポーズされたって勘違いしてますよね?」

 

 

優矢「恐らくな……だけどあの人の事もあるし、此処はやっぱり事情を説明して素直に返してもらうしかないんじゃないか?」

 

 

零「無理だっ……アイツ、指輪を貰った時に泣いて喜んでたんだぞ?それなのにあれは間違いだったから返してくれ、なんて今さら言える訳ないだろうっ……」

 

 

大輝「やれやれ……着替えを見ただけでなく次は婚約破棄かい?君ってホントに最低だね?」

 

 

零「元を辿ればお前のせいだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

優矢「おおお落ち着けって?!とにかく今はどうやってなのはさんから指輪を取り返すか考えなきゃだろっ?!」

 

 

そう、今重要なのはどうやってなのはから指輪を取り戻すかという事だ。指輪は今もなのはの薬指に嵌められているだろうし、泣いて喜んでいたというなら事情を説明して落胆させるのも気が引ける。しかも相手もあのエースオブエースが相手なわけだから一筋縄ではいかないだろう。一番良いのはなのはが指輪を外した隙に指輪を取り返すという方法が最適なのだが、果たしてなのはが自分から指輪を外す機会があるのかどうか……

 

 

大輝「―――全く、君達はもう少し頭を使ったらどうだい?」

 

 

優矢「…?どういう意味だよ?」

 

 

大輝「指輪を取り戻す方法なんて幾らでもあるって事さ。彼女の近くにいる君達にしか出来ない方法が、ね」

 

 

零「…は?」

 

 

不敵な笑みを浮かべながらそう告げる大輝だが、そんな大輝の考えが読めない三人はただ頭上に疑問符を並べながら首を傾げていたのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

 

なのは「んー……掃除も終わりっと♪」

 

 

それから数十分後、今まで自室の掃除をしていたなのはは二階から一階へと続く階段を降りてリビングへと向かっていた。そしてリビングの扉を開ける前に左手の薬指に嵌めた指輪が視界に入ると、何やら幸せそうに笑いながら扉を開けてリビングへと入っていった。とその時……

 

 

優矢「あ、なのはさん!」

 

 

なのは「…あれ?優矢君?って、零君に大輝君にエリオも?」

 

 

零「……よぉ」

 

 

大輝「お邪魔してま~す」

 

 

エリオ「アハハ…」

 

 

なのはがリビングに入ると、其処にはリビングのテーブルに集まって席に座っている零達の姿があったのである。

 

 

優矢「丁度良かった、今なのはさんも呼びに行こうとしてたところなんですよ」

 

 

なのは「え?私?ていうかどうしたの皆で集まって?」

 

 

優矢「それはほら、コレですよコレ」

 

 

そう言いながら優矢がテーブルの上を指差すとなのははそれを追ってテーブルに目を向ける。するとそこにはテーブルの真ん中にズッシリと置かれたある物……おはぎの山が其処にあったのである。

 

 

なのは「わっ、これってもしかしておはぎ?」

 

 

優矢「えぇ、久しぶりに食べたくなって張り切って作ったんですけど、ちょっと作り過ぎちゃったんですよね」

 

 

なのは「え?これ優矢君が作ったの?!」

 

 

優矢「えぇまあ……あっ、なのはさんもどうですか?」

 

 

なのは「え、いいの?……えへへ、実は私もちょっとお腹空いてたんだよね」

 

 

優矢「あぁ、だったらどうぞ。沢山ありますから遠慮しないで下さい」

 

 

なのは「じゃ、じゃあ……有り難くいただきます」

 

 

そう言ってなのははおはぎに左手を伸ばしていくが、薬指に嵌められた指輪を見た途端ピタリと手を止めてしまった。そしてその様子を見た優矢は心の中で不敵な笑みを浮かべていく。

 

 

優矢(よし、やっぱ思った通りだ!なのはさんの利き手は左手!つまり指輪を嵌めてる手!いくら食べ物でも、貰ったばかりの指輪を汚すような真似は絶対出来ない筈だ!!)

 

 

なのは「…………」

 

 

これできっと指輪を外すはずだ!そう核心した優矢はゴクッと唾を呑みながらなのはの様子を伺い、零達も真剣な表情でなのはの顔を見つめる。そしてなのはは薬指の指輪をしばらくジッと見つめると……

 

 

なのは「――うん、やっぱりこっちで食べよう♪」

 

 

と、なのはは迷うことなくおはぎを手に取りおはぎを食べ始めたのであった……右手で。

 

 

エリオ(なっ?!)

 

 

優矢(し、しまったぁ!!?その手があったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっっ!!?)

 

 

零(あぁ……コイツ馬鹿だぁぁ………)

 

 

大輝(…っていうか、作戦考える前に気付くだろう、普通)

 

 

おはぎ作戦失敗。大輝を除いたメンバーがガクリと肩を落とす中、なのははそんな事に気付かず美味しそうにおはぎを食べていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館・入浴場―

 

 

 

なのは「にゃ~癒される~♪」

 

 

おばきを食べ終えた後、なのはは掃除した時にかいた汗を流そうと風呂に入っていた。そしてなのはが風呂に入る中、浴室では……

 

 

優矢「――よし……今の内だな……いこう」

 

 

エリオ「うぅ……」

 

 

浴室の方では、なのはが風呂に入っている隙に優矢とエリオが忍び足で忍び込んできていた。そして二人は、なのはが脱いだ衣服が入ったカゴの前へと恐る恐る立っていく。

 

 

エリオ(ほ、ホントにやる気ですか?!)

 

 

優矢(しょーがないだろ!ジャンケンに負けちまったのは俺等だし、指輪を取り返すには今しかチャンスはないんだから!)

 

 

エリオ(で、でも……幾らなんでも女の人の服を漁るなんて……)

 

 

優矢(俺だって嫌だよ……というわけでエリオ、よろしく頼む)

 

 

エリオ(え、えぇ?!僕がやるんですか?!嫌ですよそんなの優矢さんがやって下さいよ!!)

 

 

優矢(大丈夫だって!俺がやったら犯罪になるけど、エリオがやるならまだギリギリOKだろ!というわけでがんばれ!)

 

 

エリオ(なにがというわけなんですか?!嫌ですよそんな犯罪に手を染めるような行為は!!)

 

 

優矢(だから大丈夫だって!これも大人の男になる為の道だと思えばなんの苦難にも……)

 

 

エリオ(そんな大人になるくらいなら僕は子供のままで良いです!!)

 

 

となのはが浴場にいるにも関わらず、なのはが脱いだ衣服の前でギャーギャーと騒ぎまくる優矢とエリオ。がそんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――何してるんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

優矢・エリオ『?!!』

 

 

 

 

背後から聞こえてきたドスの聞いた声。それを耳にした二人はビクッ!!と肩を震わせながらブリキ人形のようにギギギ、と首だけを動かして背後を見た。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

ティアナ「――こんな所で……何してるんですか?」

 

 

スバル「アハハ……どうも~」

 

 

キャロ「……エリオ君」

 

 

優矢「ス、スバル?!ティアナ?!」

 

 

エリオ「キャ、キャロ?!」

 

 

其処には、冷ややかな目で二人を見つめるティアナとキャロ、そしてその二人の背後で苦笑を浮かべるスバルの姿があったのだった。因みにスバルの手には洗濯物などを入れる為に使われる大きめなカゴが握られており、おそらく三人は浴室に備え付けられた洗濯機に入った洗濯物を取りにきたのだろう。

 

 

ティアナ「……その手に持ってるの……確か今お風呂に入ってるなのはさんが脱いだ服ですよね?」

 

 

優矢「へ?……い、いやいやいやいや違うんだよ?!誤解だ!!これにはとても深い訳が?!」

 

 

キャロ「エリオ君っ……」

 

 

エリオ「ご、誤解しないでキャロ?!これは違うんだ!!僕達にもいろいろと訳があって?!」

 

 

ティアナ「……優矢さんはそんなことしない人だって思っていたのに……」

 

 

キャロ「信じてたのに……エリオ君の……エリオ君のっ……」

 

 

エリオ「キャ、キャロ?!」

 

 

優矢「いやいやいやいやいやいや先ず落ち着こう?!今すべき事は何故こんなことになってしまったのかをじっくり落ち着いてお話する事であって不毛な争いは止めて皆で手を取り合うのが一番だと思うのですがどうでしょうこの平和的解決策はダメですかダメですねごめんなさぁああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「――遅いねぇ、あの二人?」

 

 

零「だな……出来れば無事に帰ってきて欲しいものだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「――無理だったようだね?」

 

 

零「………………………………………………」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

 

なのは「すぅ……すぅ……」

 

 

入浴後、なのはは写真館のリビングに備え付けられているソファーで横になり、静かな寝息を立てながら眠っていた。そんななのはが眠るソファーへと歩み寄る人影が一つ……

 

 

零(――よし……良い感じに眠ってるな……この隙に指輪を…!)

 

 

人影……零は忍者のように身を屈めながらゆっくりとなのはが眠るソファーへと近づいていき、なのはが起きる様子がないことを確認すると早速指輪を外そうと試みるが……

 

 

なのは「……うにゃあ……うにゅぅ……」

 

 

零(なッ?!コイツ……何て面倒な態勢を…!?)

 

 

婚約指輪が嵌められた左手はもう片方の右手によって大事そうに包まれており、婚約指輪を外す事が出来ない状態になっていたのである。

 

 

なのは「……にゃはは……零くぅん……」

 

 

零(チィ!なんて幸せそうな顔して眠ってるんだ?!こっちは一刻を争うというのにっ……仕方ない……)

 

 

此処はやはり、なのはが起きないように慎重に右手を退かして指輪を外すしかないだろう。そう思いながら先ずは左手を覆い隠す右手から退かそうとなのはの右手に触れる零。しかし……

 

 

なのは「…………んー………………んん……?」

 

 

零(?!し、しまった?!)

 

 

なのはの右手に触れた瞬間、なんと静かな寝息を立てて眠っていたなのはがゆっくりと瞼を開けて目を覚ましてしまったのだ。それを見た零は慌ててなのはから離れ、なのはは眠たそうに目を擦りながら零の方へと視線を向けていく。

 

 

なのは「んうー……?」

 

 

零「……よ、よぉ……おはよう……なのはっ……」

 

 

なのは「んー……にゃあ~……零君だぁ~……」

 

 

零「…は?―ドサァッ!―ヌオォッ?!」

 

 

なのはは寝ぼけたまま上体を起こして零に抱き着き、零はいきなり抱き着かれたせいではバランスを崩してしまいなのはと共に床へと倒れ込んでしまった。

 

 

零「痛っ……おいコラ?!なんだいきなり?!」

 

 

なのは「にゃあ~……零君の匂いだぁ……」

 

 

零「聞こえてない?!というか、さっさと退け!重い!聞いてるのか?!おい!」

 

 

首に両腕を回して離れようとしないなのはをなんとか退かそうと試みるが、上にのしかかられてるせいか上手く逃れる事が出来ない。そしてジタバタと暴れる零に機嫌を悪くしたのか、なのはは寝ぼけたまま眉間に皺を寄せて零を睨みつけていく。

 

 

なのは「むぅ~……往生際が悪いよぉ零くぅん……」

 

 

零「クッ!いいからさっさと退け!いつまで夢の中にいるつもりだお前は?!」

 

 

なのは「ゆめぇ?……あ~そっかぁ~……これ夢なんだぁ~……じゃあ……」

 

 

―パチッ……パチッ……―

 

 

零「…………おう?」

 

 

そう言ってなのはは何処となく妖艶な笑みを浮かべると、なんと零に馬乗りしたまま胸元のボタンを外して胸元を露わにし出したのである。

 

 

零「……おいコラ……何のつもりだっ……?」

 

 

なのは「むふふ……夢の中ならぁ~……何しても良いよねぇ~……例えばぁ……現実じゃ恥ずかしくて出来ない事とかもぉ~……」

 

 

零「は?いや全く意味が分からな……というか何故服を脱ごうとしてる?!」

 

 

いきなり大胆な行動に出たなのはに流石の零も顔を引き攣らせて後退りしようとするが、生憎なのはに馬乗りされてるせいか動くことすら叶わない。そして胸元のボタンを外していたなのははトロンとした目で零を見つめながら頬に手を添えてきた。

 

 

なのは「えへへぇ……どうせ夫婦になるんだしぃ……今からでも……いいよねぇ……?」

 

 

零「何が?って何故俺の服まで脱がそうとしてる?!離せこの馬鹿ッ?!」

 

 

いつの間にか自分の胸元のボタンまで外され掛けている事に気づいた零は慌ててなのはを止めようと試みるが、未だ寝ぼけているのかなのはは零の服を脱がそうと夢中になって止まる気配がない。そうしてなのははゆっくりと身を乗り出し零に向けて顔を近づけてきた、その瞬間……

 

 

零「ッ!!このっ……いい加減に目を覚ませ馬鹿なのはぁッ!!」

 

 

―ガバァッ!!―

 

 

最早我慢の限界となった零は怒りの咆哮をあげながら馬乗りするなのはを押し倒し、なのはに覆いかぶさるような態勢になりながらなのはの両腕を押さえ込んだ。

 

 

零「いい加減大人しくしてろ!!こっちはただ指輪を返してくれればそれで……………なのは?」

 

 

両腕を押さえながらなのはに向けて叫んでいた零だが、何故かなのはからは何も返事が返ってこない。まさか、押し倒した時に頭でも打ったか?と心配になって様子を伺おうとなのはに顔を近づけると……

 

 

なのは「……すぅ……すぅ……すぅ……」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

……まぁーた呑気に寝てやがりましたよコイツ。静かな寝息を立てて再び眠りについたなのはに、零もドッと疲れが襲い掛かりガクリと肩を落としてしまった。

 

 

零「クソッ……余計な手間を取らせやがって……まあいい……とにかくこれで指輪を取り返せるな……」

 

 

なのはが眠った以上、これで安全に指輪を外すことが出来る。そう思いながら零はなのはの寝顔を見つめると左手の薬指に嵌められた指輪に触れた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とにかくこれで、何を取り返せるんや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………は?」

 

 

 

 

背後から聞こえてきた空気を斬り裂くような冷たい声……あれ?なのはは今目の前で眠ってるはずだろう?ならばこの声は誰の物だ?疑問げにそう思うが考えるより先に身体が勝手に背後へと振り向いてしまった。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

はやて「……こんな真っ昼間から何しとんのや、零君?」

 

 

 

 

零「ッ?!は、はやて?!」

 

 

そう、背後に立っていたのはブリザードよりも冷たい目で零を睨みつけるはやてだったのだ。予想外の人物の登場に零も思わず驚きの声をあげてしまうが、はやては零が覆いかぶさっているなのはを見てピクッと眉を動かした。

 

 

はやて「……これは一体どーいう事なんかなぁ?キッチリ説明して欲しいんやけど?」

 

 

因みにはやての視点からは、零がなのはに覆いかぶさってる+熟睡中のなのはの胸元のボタンが外され谷間が露わになってる=眠っているなのはが零に寝込みを襲われそうになっている様に見えてしまっていた。

 

 

零「は?いや……その……こっちにも色々あるんですよ?なんというか死活問題というか俺の人生とかその他色々な物が掛かってるんですよこの行動に?!」

 

 

はやて「ほぉ……つまり、今すぐにでもなのはちゃんを襲わんと……零君の人生が大変な事になるっちゅうことやなぁ?」

 

 

零「お、おそ…?襲うって何だ?というかおもむろにシュベルトクロイツ(レプリカ)を構えるのは止めて頂けませんか?!」

 

 

はやて「あぁこっちの事は気にせんでええよ♪さぁ、なんでこないな事しようと思ったんか詳しく聞かせてもらおうかぁ……?」

 

 

トン、トンとシュベルトクロイツ(レプリカ)で手の平を叩きながらニッコリと微笑みかけるはやて。そんなはやてから生命の危機を感じ取った零はダラダラダラダラと大量の汗を流しながら思考する。

 

 

零(クッ!!まさかこんな伏兵が潜んでいようとは?!何故怒ってるのか知らんが何か、何かごまかさないとマズイぞ?!幸い指輪のことはまだ知られていないみたいだが……知られたら本気でこの世とオサラバするハメになりそうだと思うのは俺の気のせいか?)

 

 

いや今重要なのはそんな事じゃない!この状況をどうやって切り抜けるかって事だ!何か場を和ませるような、何かアメリカンジョーク的なもので…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

零「―――その……あれだ……そう!実は最近なのはが『もうちょっと胸が大きくならないかなぁ?』って悩んでるようだったからコイツが寝ている間に揉んで大きくしてやろうとしてただけとですよ!起きた時には胸が大きくなってて本人もビックリ仰天、俺も昇天!なーんて……」

 

 

はやて「………………………………………………」

 

 

零「なーん……あれ?……な、なーんて……な……」

 

 

はやて「………………………………………………………………………………」

 

 

零「なーん……なっ……なん……なっ……なっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「―――零の奴、まだ手こずってんのか?」

 

 

大輝「さぁ?ま、余り期待しない方がいいんじゃない?」

 

 

優矢「だ、大丈夫だって!指輪を取りに行くぐらいアイツにだって――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『判決!!死刑!!』

 

 

『なぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!?』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「…………………………………………」

 

 

大輝「ほら、だから言っただろう?期待するだけ無駄だって♪」

 

 

エリオ「キャロォ……キャロォォォォ……」

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―――数時間後……

 

 

 

―アホー、アホー……―

 

 

『………………』

 

 

時刻は夕方。あれから様々な作戦を用いてなのはから指輪を取り戻そうとした零達であったが、結局は全敗。成す術を失ってしまった零達は心身ボロボロになりながら、川が流れる土手で体育座りをして夕日を眺めていた。(ちなみにティアナ達に関しては作戦途中で何とか誤解を解き、その後の作戦でフォローに回ってもらっていた)

 

 

零「……あれもダメ……これもダメ……考えつく手段は全部試してみたが……」

 

 

エリオ「全部失敗……でしたね……」

 

 

大輝「やれやれ。作戦事態は悪くなかったのに、君達は本当に鈍臭いねぇ?っていうか使えないね?」

 

 

優矢「アンタは結局なにもしてなかったじゃねぇかよ?!」

 

 

結局、今回の作戦に一度も参加してなかったのにやれやれといった感じに溜め息を吐く大輝に食ってかかる優矢だが、何かそんなことを叫ぶのも虚しく感じ再び体育座りをしていく。

 

 

大輝「あーあ……こうなった以上、もうなのはさんに直接土下座して指輪を返してもらうしかないんじゃない?」

 

 

エリオ「で、でも……今回は流石に素直に謝っただけで許してもらえるかどうか……」

 

 

優矢「だよな……ぶっちゃけ命すら危う気がするし……」

 

 

零「…………フッ…………フフッ…………年貢の納め時が遂に来たって訳か…………思えば、俺も良く此処まで生きられたよなぁ…………」

 

 

優矢「こっちはもう諦めモードに突入してる?!」

 

 

既に自分の死期を悟ったのか、虚ろな瞳で呆然と夕日を眺める零。そんな青年に掛けるべき言葉が見つからず、優矢達はただ哀れみの目を零に向けることしか出来なかった。そんな時……

 

 

 

 

「あ、あのぉ……」

 

 

零「……む…?」

 

 

優矢「…あ、アンタは?」

 

 

黄昏れてた四人(正確には三人)の背後から誰かが声を掛け、四人が振り向くと其処には一人の男性………昼間に優矢とエリオが会った指輪の持ち主である男性が立っていたのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

優矢「――別れる?!」

 

 

「あぁ……指輪が見つからない以上、そうするしかないと思ってね……」

 

 

エリオ「そ、そんな……」

 

 

思い詰めたような表情を浮かべながら男性がそう言うと、優矢とエリオは表情を曇らせ顔を俯かせてしまう。どうやらこの男性は指輪を無くしたことをすっかりへこんでしまい、彼女へのプロポーズを諦め別れようと思っているらしい。

 

 

優矢「だ、だけど、指輪を無くしたからって別に別れなくても…!」

 

 

「……あの指輪は……以前彼女が僕にプロポーズされる時に贈られたいと言ってくれたものなんだ……そんな高価な物ではないけど、アレには彼女を思う僕の気持ちが込められているんだ……勘違いだったとはいえ、それを無くしてしまった僕に彼女と一緒になる資格なんてないよ……」

 

 

零「……指輪に込められた……思い……」

 

 

「そういう事で悪いけど、ごめんね……僕の為に関係ない君達まで巻き込んでしまって……それじゃあ…」

 

 

エリオ「あっ……」

 

 

男性はそれだけ言うと四人に背中を向けて歩き出し、そのまま何処かへと去ろうとする。だが……

 

 

 

 

―ガシッ!―

 

 

「……え?」

 

 

零「………………」

 

 

何処かへ去ろうとした男性の手を零が後ろから掴み、男性を引き止めたのである。

 

 

「君…?」

 

 

零「……アンタがそんな事する必要はない……俺に任せろ……」

 

 

優矢「ま、任せろって……お前まさか?!」

 

 

零が何を言ってるのか気付いた優矢は思わず身を乗り出して叫ぶが、零は何も言わないまま男性の横を通りすぎ何処かへと向かおうとする。

 

 

エリオ「れ、零さん?何処に行くんですか?!」

 

 

零「……今回の件は、俺の勘違いのせいで招いたことだ……だから受けるべき罰は……俺一人で受ける」

 

 

優矢「そ、そんな……お前死ぬ気か?!」

 

 

零「……すまない……巻き込んだ本人である俺が言えたことじゃないが……骨は拾ってくれ……」

 

 

大輝「はいは~い、安心して逝ってらっしゃ~い♪」

 

 

優矢「いや縁起でもない事言うなよつかアンタはもうちょっと自重しろぉ!!」

 

 

零が死亡フラグ立たせまくりな振る舞いを見せているにも関わらず何時も通りの笑みで見送る大輝に優矢が食ってかかるが、零はそれに構わず写真館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

 

―ガチャッ―

 

 

なのは「――あ、おかえり零君♪」

 

 

零「……あ、あぁ……」

 

 

写真館に戻ってきた零を迎えたのは、私幸せです♪的な満面の笑顔を浮かべながら夕食の準備をするなのはの姿だった。そんななのはの姿に思わず決意が揺らいでしまうが、頬を叩いて気持ちを切り替え、テーブルに皿を並べるなのはにゆっくりと近づいていく。

 

 

零「……なのは……ちょっといいか……?」

 

 

なのは「んー?なぁにー?」

 

 

零「いや……その……実はな……」

 

 

なのは「…あ、でもその前にちょっと待って?」

 

 

どう説明するかと言い淀む零にそう言うと、なのはは零へと駆け寄ってスカートのポケットからハンカチを取り出し、零の口端に出来た怪我(はやてのOHANASHIで出来た怪我)に優しく当てていく。

 

 

なのは「もう、またこんな怪我出来てるのに放っておいて……菌が入って悪化でもしたらどうするの?」

 

 

零「あ……あぁ……その、ちょっと色々立て込んでたから治療する時間がなくてな(主にどうやって指輪を取り返そうという作戦会議などで)だから目立つ物にしか包帯が巻けなくて……」

 

 

なのは「だからって放置していい訳じゃないでしょ?ホントにそういうところは横着なんだから……」

 

 

零「…………すまん……」

 

 

なのは「………でも、これからは私がそういうところも含めて支えなきゃだよね……その……ふ、夫婦になるんだし……//」

 

 

零「は?あ、いや……それは……」

 

 

なのは「…もうほら!早く夕食の準備手伝って!ヴィヴィオ達が帰ってくる前に終わせなきゃ…!」

 

 

自分で言ってて恥ずかしくなったのか、なのはは顔を赤くしながらグイーッと零にハンカチを押し付けて夕食の準備を再開していく。そしてハンカチを押し付けられた零はそんななのはの背中を呆然と見つめながら額から嫌な汗を流していく。

 

 

零(ッ!何故今日に限ってこんな気持ち悪いぐらい優しいんだっ……余計に言いにくいっ……いや……駄目だ……このままだと他人の人生を壊す事になるし……それにホントになのはの事を思っているなら……事実を伝えなければ……!)

 

 

押し付けられたハンカチを握り締めながら刹那にそう思う零。そして……

 

 

零「――なのはっ……」

 

 

なのは「ん?何ー?」

 

 

零「……そのっ……ッ……本当にすまない!!!」

 

 

死を決意し、地べたに両腕を付けて全力で頭を下げたのであった。

 

 

なのは「へ?え?ど、どうしたのいきなり?」

 

 

零「いや……その……実は……実はなっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「――一応様子見に来たけど、アイツ大丈夫かな?」

 

 

大輝「とかなんとか言っておきながら、全然中に入ろうとしないじゃないか?」

 

 

優矢「今回は程度が予想出来ないから入るのが怖いんだよ!仕方ないだろ?!」

 

 

エリオ「だ、だけど写真館はまだ無事みたいですし、事情が事情ですからなのはさんだってきっと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バカバカバカバカ!!!零君のバカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァ!!!!!!ドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドガァンドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!―

 

 

『うぐぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?』

 

 

『全力全開!!!!!スタアァァァァライトオォォォォォォォォ!!!!!』

 

 

『ちょ……まっ……』

 

 

『ブレイカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!』

 

 

『ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「………………」

 

 

エリオ「……………」

 

 

大輝「………………」

 

 

優矢「……エリオ……黙祷しよう……」

 

 

エリオ「……はい……」

 

 

大輝「零、君のことは忘れないよ……三秒ぐらい」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

 

―――結論から言えばあの後、何故か酒や食材を差し入れに来てくれたクラウンが仲裁してくれたお陰で指輪は取り返すことができ、例の落とし主はプロポーズに成功した。指輪を貰った女性も涙を流しながら喜び、あの二人は見事ハッピーエンドを迎えることが出来た

 

………………一人の青年の犠牲もあって。

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ……ゼェ……ゼェ……ゼェ……なんとかっ……今日も生きながらえる事が出来たっ……」

 

 

優矢「だな……てかホントに良くあれで生きていられたよな?お前首でも斬り落とさなきゃ死なねぇんじゃの?」

 

 

エリオ「アハハハ…でも良かったですね、あの人もプロポーズが成功して、零さんも何とか無事で……」

 

 

零「……正直、今にも意識を失いそうだけどな……それにまだなのはのことが終わっていないし……」

 

 

時刻は夜。あの男性のプロポーズを影で見届けた後、零と優矢とエリオの三人は写真館への帰路を歩いていた。因みに現在の零は全身の至る所に何重にも包帯を巻き、トンファーのように現代的な杖(クラウン持参)を右手についてフラフラと覚束ない足取りで街中を歩いている。

 

 

優矢「因みに、なのはさんは今どうしてるって?」

 

 

零「……やけ酒ならぬやけ食いをしているようだ……さっきオットーからSOSが来たぞ……」

 

 

エリオ「うわぁ……今回は相当頭にキてるみたいですね……」

 

 

優矢「まあプロポーズされたかと思えば実は勘違いだった、なんて言われたら当然だよな……糠喜びも良いとこだし」

 

 

零「……もういろんな意味で覚悟は出来るがな……後はもうなるようになるしか………………ん?」

 

 

帰った後の事を考えて気が滅入っていた零だが、ある店の前にまでやって来て足を止め店をジッと見つめていく。

 

 

優矢「……ん?どうした、零?」

 

 

零「…………」

 

 

足を止めて立ち止まった零に優矢が小首を傾げながら聞いてくるが、零はそれに答えず、代わりにポケットから先程なのはに押し付けられたハンカチを取り出しそれを眺めていく。

 

 

零「……悪い……ちょっと此処で待っててくれ」

 

 

エリオ「え?ちょ、零さん?!」

 

 

零は二人にそう言うとハンカチをポケットに仕舞い、そのまま二人の返答も待たずに店の中へと入っていったのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

 

 

なのは「おかわり!」

 

 

オットー「あ、あの……もうその辺にした方がいいんじゃ」

 

 

ディード「もう十人前はおかわりしてますし……」

 

 

なのは「おかわり!!」

 

 

そしてその頃、写真館ではなのはがテーブルに並んだ料理(昨日川で釣ってきた魚やクラウンが持ってきた食材も含まれてる)をやけ食いしていた。数十枚も重ねられた皿を見て、流石にもう止めた方がいいかもと思いなのはに説得を試みるオットーとディードだが、なのはから発せられるただらぬ覇気に押されて説得も失敗に終わっていた。

 

 

セイン「ありゃ~……相当お冠みたいだよ、アレ……」

 

 

ウェンディ「まぁーた零がニブチン発言でもして怒らせたんスかねぇ?」

 

 

チンク「可能性としては一番高そうだが……いつもと比べたらあれは少し異常だな……?」

 

 

部屋の外から室内の様子を覗いていたセインとウェンディはやけ食いするなのはを見て顔を引き攣り、チンクは何処か何時もと怒り方が違うと疑問に思い小首を傾げている。そんな時……

 

 

優矢「たっだいまぁ~」

 

 

零「…………」

 

 

セイン「あっ、零!優矢!エリオ!」

 

 

出掛けていた零達が玄関を開いて中へと入っていき、それを見たチンク達は駆け足で三人の下へと近づいていく。

 

 

セイン「遅いよ三人共!今まで何処に行ってたのさ?!」

 

 

優矢「悪い悪い、ちょっと野暮用があって遅くなっちまったっ」

 

 

エリオ「えっと……それで、なのはさんは今どうしてます?」

 

 

ウェンディ「あー……なんというか……かーなーりお怒りッスね……」

 

 

チンク「黒月、また何かしたのか?あの怒り方は何時もと少し違うように見えるのだが……」

 

 

零「……まぁそんなところだ……とにかく、なのはは今奥にいるんだろう?」

 

 

セイン「え?あ、うん」

 

 

零「そうか……なら、お前等は部屋に戻ってろ……」

 

 

優矢「は?お、おい、零?」

 

 

零はチンク達に部屋に戻るように伝えると、そのままチンク達の間を通り抜けてリビングへと向かっていく。

 

 

―ガチャッ―

 

 

オットー「……あ、零」

 

 

なのは「……む」

 

 

零「…………」

 

 

部屋の中へと入ってきた零を見てやけ食いをしていたなのはは不機嫌そうに眉を寄せながらそっぽを向き、零はそんななのはに溜め息を吐くとオットーとディードに部屋を出るようにアイコンタクトを送り、二人はそれを見てそそくさと部屋の外へと出ていった。

 

 

零「……なのは……」

 

 

なのは「……今度はなに?私は何も話す事なんてないよ」

 

 

零「…………」

 

 

やっぱり不機嫌だ、と想像通りの反応を見せるなのはに零もバツが悪そうに顔を逸らし、一度溜め息を吐くとなのはに向けて頭を下げた。

 

 

零「……すまなかった……今回の件は本当に俺のせいだ……俺のせいで、お前に嫌な思いをさせてしまったようだ……本当に……すまない……」

 

 

なのは「…………」

 

 

なのははそっぽを向いたまま何も答えない。だが、零はそれでも頭を下げたまま続ける。

 

 

零「知らなかったとはいえ、今回は完全に俺に責任がある……言い訳はしない。だが一つだけ信じて欲しい……アレをお前に贈ったのは、お前を喜ばせたかったからなんだ……」

 

 

なのは「…………」

 

 

零「許してくれとはいない……ただそれだけは信じて欲しい……お前を喜ばせたいという気持ちに嘘偽りはなかった……だが結局は、お前に嫌な思いをさせてしまっただけだった……本当に……すまなかった……」

 

 

そう言って零は深々と頭を下げ続ける。今回の件は、謝って済む問題ではないと分かってる。女性にとってプロポーズや結婚などがどれだけ重要な物かぐらいこんな自分でも知っている。それを自分の勘違いのせいで、なのはの人生初のプロポーズを勘違いという嫌な思いをさせて終わらせてしまった。あれだけの制裁を受けて死ぬ思いをしても、なのはからしてみればまだまだ足りないぐらいだろう。だから謝り続ける。例え一生許されなかったとしても、それだけの事を自分はしてしまったのだから仕方ない。しかし……

 

 

なのは「………………もういいよ」

 

 

零「…………は?」

 

 

返ってきたのは、予想とは違う言葉だった。それを耳にした零が思わず顔をあげると、其処には仕方ないといった感じに溜め息を吐くなのはの顔が目に映った。

 

 

なのは「……よくよく考えてみれば、零君が何の前触れもなく婚約指輪なんか渡す筈ないもんね……大方、また大輝君にでも騙されたんでしょ?」

 

 

零「なっ……なんで分かった?」

 

 

なのは「ただの勘。何年も一緒にいれば、そういうのはちょっと考えれば予想は付くもん……まぁさっきのは勘違いだったって言われたのより……そんな一般的な流儀も分からないまま、指輪を贈ってきたんだっていう事実にムカッて来ちゃったんだよね。私なんか、精一杯の決心を込めて一緒になるって言ったのに……言ってきた本人は全然違うこと思ってたんだもん」

 

 

零「……すまない……そういう事に関してはまったくの勉強不足だった……本当にすまない……」

 

 

なのは「だからもういいよ……寧ろ、一人浮かれて変な期待してた私の方が悪いんだし」

 

 

だからもう気にしないで、と自嘲するように笑い掛けるなのは。そんななのはの姿に零も内心胸を痛めるが、なのははそれに気付かず席を立っていく。

 

 

なのは「さてと……じゃあこの話はもうおしまいね?なんか私のせいで他の皆も部屋に入れなかったみたいだし……私、ちょっと皆を呼んでくるね?」

 

 

もうこの話題には触れないでおこうと、なのはは笑いながら零の横を通りすぎ、自室で休んでると思われる他のメンバーを呼びにいくためリビングから出ようとする。が……

 

 

―パシッ―

 

 

なのは「へ?……零君?」

 

 

零「…………」

 

 

リビングから出ていこうとしたなのはの手を零が後ろから掴み、それを引き止めたのだ。なのはは怪訝そうに小首を傾げながら掴まれた手と零を交互に見つめるが、零はその視線から逃れるようにそっぽ向けながらポケットから包みのような物を取り出し、それを無言のままなのはの手に押し付けた。

 

 

なのは「?なに、コレ?」

 

 

零「…………開けてみれば分かる……………」

 

 

なのは「…?」

 

 

たった一言だけ告げてそれ以上の事は何も教えてくれない零。そんな零に疑問符を浮かべつつ、なのはは手渡された包みを開けて中身を取り出していく。

 

 

なのは「……これ……」

 

 

包みの中から出て来たのは箱に入ったアクセサリー、桜の花びらを形取った指輪だったのである。それを見たなのはは思わず零の顔を見上げるが、零はそっぽを向いたまま淡々と語る。

 

 

零「……此処に帰ってくる途中で買った……あの指輪に比べたら安い物だが……一応お前に似合うと思った物を選んでみた……気に入らないなら他の奴にやるか捨てればいい……」

 

 

なのは「あ、ううん、別に気に入らないなんて言ってないけど……なんで急にこんなもの?」

 

 

零「……別にそんな他意はない。ただアレは俺が選んで買ったものじゃないし、指輪のデザインだって正直お前に似合っていなかった……それに……」

 

 

なのは「…?それに?」

 

 

此処に来て初めて口ごもる零になのはが疑問げに聞き返すと、零は何やら言いにくそうに頬を掻きながら目を伏せて告げる。

 

 

零「……アレを贈った本人の俺に言えた事じゃないが……他の男が選んで買った物を付けて嬉しいと言われても……あまり嬉しくないというか……寧ろ面白くない……」

 

 

なのは「……え?えっと、それってどういう……」

 

 

零「…だってそうだろう?幼い頃からお前と一緒にいたが……あんな嬉しそうな顔……今まで見せてくれたことなかったし……させてやることも出来なかった……俺は一度も……」

 

 

なのは「……あ」

 

 

其処まで言われて漸く気が付いた。要は嫉妬してるのだ、彼は。

別にそれは恋愛感情的な物ではなく、恐らく『今まで親友と思っていた友達が、自分と遊ぶより他の友達と遊んでいる時の方が楽しそうに見えた』的なものなのだろう。

会ったこともない他の人が選んで買ったアクセサリーを貰ってこれ以上にないくらい嬉しそうだった、という風に彼は見えていたようだが、どうやら彼から指輪を貰ってプロポーズされたことにこれ以上にないくらい幸せそうに笑っていた、という風には解釈していなかったらしい。

 

 

なのは(はぁ……此処まで自分でも分かりやすい反応してるのに……どうして気付いてくれないのかなぁ……)

 

 

零「…?どうした?」

 

 

なのは「別に……ただ零君がどれだけ鈍いのか改めて再確認されただけだから……」

 

 

零「は…?」

 

 

やっぱり気付いてないようだ。疑問の声を漏らす零になのはは思わず深い溜め息を吐いてしまうが、それでも口元が緩んでしまうのは嬉しいと思うせいだろう。いつもは彼に嫉妬『する』方の自分が、嫉妬『される』方になれたのだから。

 

 

なのは(ちょっと自惚れって思われるかな?……でもたまにはいいよね、こういうのも)

 

 

そう思いながら貰った指輪を見てクスッと微笑みを浮かべるなのは。その一方で零は……

 

 

零(……何故溜め息吐いたと思ったらまた笑い出す?やっぱり指輪はまずかった?だが手持ちの所持金じゃコレが限界だったし……やはり他のを選ぶべきだったか……?)

 

 

やはり指輪をチョイスしたのは間違いだったか?と内心かなり不安になっていたのであった。そしてそんな心配をする零を他所になのはは暫く指輪を眺めていると、零に指輪を差し出してきた。

 

 

零「ッ!なんだ?やっぱり気に入らなかったか…?」

 

 

なのは「ううん、そうじゃなくて……昨日みたいに、零君の方から嵌めてくれない?」

 

 

零「は?何故だ…?」

 

 

なのは「いいから!はい!」

 

 

零「……何なんだ一体…」

 

 

意味が分からないと溜め息を吐きつつも、取りあえず言われた通りにしようとなのはの手から指輪を受け取り、左手の中指へと指輪を嵌めていく。思いの外、指輪はなのはの指にピッタリと嵌まった。

 

 

なのは「あれ……サイズが合ってる?」

 

 

零「当たり前だろう?何年一緒にいると思ってるんだ…お前の指のサイズぐらいちゃんと分かってる」

 

 

なのは「……そっか……知ってたんだ……ふふ」

 

 

零「…?何笑ってるんだ?」

 

 

なのは「……ううん、なんでもない♪」

 

 

零「?可笑しな奴だな…」

 

 

何故嬉しそうに笑ってるのかと、意味が分からず怪訝な顔を浮かべてしまう零。なのははそんな零に今度は苦笑を浮かべつつも、指に嵌めてもらった指輪を眺めていく。

 

 

なのは(まぁ、まだ当分の間はコレでいいかな……)

 

 

本物を貰える日が何時来るのかは分からないが、取りあえず今はこのままでいいだろうと、今度こそ彼から贈ってもらった指輪をジッと眺めながらそう思うなのはであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―オマケ―

 

 

 

それから翌日……

 

 

はやて「―――さぁて……じっくりお話を聞かせてもらおうか、零君?」

 

 

零「……いやあの……取りあえず聞きたいのだが……何故俺は朝っぱらから全身を縛られながら正座させられてるんだろうか?」

 

 

フェイト「何故?そんなの……コレを見たら直ぐに分かると思うよ?」

 

 

零「……コレ?」

 

 

縄で縛り上げられた零が疑問げにそう聞き返すと、フェイトは何処からか一枚のカードを取り出して開き、それを零へと見せていく。それは……

 

 

『黒月零様・高町なのは様、ご結婚おめでとうございまぁ~す♪ ルミナより』

 

 

…とお祝いの言葉が書かれたメッセージカードだったのである。

 

 

零「あのバカ女なにをしてるんだ?!というかなんだそのカード?!」

 

 

はやて「今朝ルミナさんが花束を持って届けに来てくれたんよ。『結婚式って言えば豪勢な料理がたくさん並ぶんですよね?!絶対に呼んで下さいよぉ~♪』って言って……」

 

 

フェイト「どういう事なのかな?零となのはが"結婚"って……」

 

 

零「い、いや待て……先ずは落ち着いて話し合おう?これにはイロイロと事情というモノがっ…!」

 

 

はやて「事情?なんでいきなり幼なじみから夫婦へとランクアップしたかっていう事情か?」

 

 

零「そういう訳じゃない!えっと……そうだ!海道に聞けばいい!アレはきっとアイツがいつもの悪ふざけで送ってきた刺客に違いない!」

 

 

フェイト「私達もそう思ってさっき確認したよ?でも『ルミナ君なら朝一に出ていったまま帰って来ないけど?…何処に?さぁ?彼女が前触れなくいなくなるのは珍しいことじゃないし、その内帰ってくるじゃない?』って、全然知らなかったみたいだけど?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

はやて「黙秘するっちゅうことは……認めたと取ってもええんやな?」

 

 

零「いやいや違う!これは本当に違う!な、ならアレだ!なのはに聞けばいい!きっとアイツも違うと証言して…!」

 

 

フェイト「なのはなら今朝優矢達と一緒に出掛けたからいないよ、釣りに行ったんだって」

 

 

零「コンチキショオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

はやて「さて……そろそろ覚悟は決まったか?」

 

 

零「い、いや待て落ち着け?!良く見ろこの状態を!こんなケチョンケチョンな状態で今コロコロされたら流石の俺でも死んでしまう?!!というか耐え切れるモノか?!!」

 

 

フェイト「大丈夫大丈夫♪そうならないように間を挟んでシャマルが治療してくれるから♪」

 

 

零「あ、そうなのか?なら大丈夫……いや大丈夫でもなんでもない?!というか間を挟む?!それはつまりコロコロが連続で続くって訳か?!無理だ耐えられない本気で死ぬ?!」

 

 

はやて「大丈夫大丈夫♪加減はちゃ~んとするから……でもちょっと加減間違えたらゴメンなぁ?」

 

 

零「加減する気ぜんっぜんないだろ明らかに?!」

 

 

それぞれのデバイス(レプリカ)を撫でるはやて達に向けて必死に叫び続ける零だが、はやて達は聞く耳を持たないといった感じにデバイス(レプリカ)を構えながら徐々に迫ってくる。

 

 

零(クッ!仕方ないっ……こうなったらカブトかキャンセラーに変身して逃げるしか……って、バックルとカードがない?!)

 

 

クロックアップかタイムクイックを使って逃亡を謀る零だが、ポケットに入れておいたディケイドライバーとライドブッカーがいつの間にかなくなってることに気付き慌てて辺りを見渡していく。すると、はやてとフェイトの背後に目的の物を持ったある人物の姿が目に入った。

 

 

すずか「ふふ♪零君が探してる物って……これ?」

 

 

零「バックルとカード?!いつの間にというか何故お前が持ってるすずか?!」

 

 

すずか「零君のことだからコレを使って逃げるんじゃないかなぁって思って、縄で縛る時にさりげなく没収しておいたの♪それに私にもなのはちゃんとの婚約について…………じっくり、ゆっくり、聞かせて欲しいなぁ♪」

 

 

零「なんかすずかが恐い?!」

 

 

はやて「さぁ……零君?」

 

 

フェイト「覚悟は……出来た?」

 

 

零「い、いいいや待て?!もう少し待て?!というか落ち着いて聞いて欲しい!確かに俺は婚約指輪をなのはに渡したしプロポーズっぽい事も言ったぞ?!だがそれはぐぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ?!!!」

 

 

 

 

…最後まで言い切る前に、はやて達は一斉にデバイス(レプリカ)を構えて零へと勢いよく飛び掛かっていったのだった。

 

 

 

因みにこの後、零は回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→回復→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→GYAKUSATSU→ULTIMATE GYAKUSATSUをエンドレスに繰り返され、いつも以上にボロボロになった零が写真館でぶっ倒れていたのを確認されたとか。

 

 

因みに本人曰く『あと一歩で川の向こう岸へと完全に渡り切るところだった…』らしい

 

 



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第十六章/???の世界

 

 

カブトの世界での役目を終え、着実にライダーの世界を巡り続ける零達。しかし、突然ハイパーゼクターのハイパークロックアップにより何処かへと飛ばされてしまった零と優矢。果たして、彼等が次に向かう世界とは……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―???の世界・ミッドチルダ―

 

 

 

とある別世界に存在するミッドチルダ。様々な人達が街の中を行き交う一方で、街角にある小汚い路地裏には全くといって人気がなかった。やはり誰しもが好き好んでこんな薄暗い場所に来るハズもなく、そんな物好きがいるとすれば人目を避けたいという目的で来るカツアゲとその被害者しかいないだろう。しかし……

 

 

 

 

 

―……キイィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

 

 

 

誰もいない路地裏の上空に突如まばゆい光りが集まり始め、薄暗い路地裏を緑色の輝きで光り照らしていく。突然起きた不可解な現象に路地裏の片隅にあるゴミ箱の上に乗っていた野良猫は驚きのあまり何処かへと逃げていき、そして……

 

 

 

 

 

 

―キィィィィィィィィィィィィンッ……カッ!!―

 

 

零「うおぉ!!?」

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

緑色の光が徐々に収まって消えていくと、光の中から出て来た一人の青年………ハイパークロックアップによって何処かに飛ばされてしまった零が上空から落下し、そのまま路地裏の一角に置かれていたゴミの山へと落ちてしまった。

 

 

零「ぐっ……くっ……な、何なんだ一体……何が起きたんだ……」

 

 

ゴミの山に埋もれながら零は後頭部を摩り、状況が理解出来ないままふらつきながら起き上がって周囲を見渡していく……頭にバナナの皮が乗っかっているのに気付いてないようだが。

 

 

零「……?此処は……もしかしてミッドチルダか?」

 

 

零は周囲を見渡し、路地裏の壁に貼られてるボロボロのチラシや何処となく自分が良く知る雰囲気から此処がミッドチルダだと気付いた。そして零は何故自分が此処にいるのかと疑問げに首を傾げ、腕を組みながら此処へ訪れる前の記憶を掘り起こしていく。

 

 

零「俺は確か……そうだ、確かあの時ハイパーゼクターがいきなり暴走し出してハイパークロックアップが……まさか、あれのせいで強制的に異世界に飛ばされたのか?」

 

 

記憶を掘り返して徐々に今までの事を思い出していくと、零は険しげにそう呟きながら再び辺りを見渡していく。

 

 

零「……見たところ、此処に飛ばされたのは俺だけみたいだな……クソッ!何で俺はこう毎回毎回面倒事に巻き込まれるんだ…?」

 

 

なんか本当に嫌なものでも憑いてるんじゃないのか?と片手で軽く背中を払いながら愚痴る零だが、次第にそんな事をしてる自分を虚しく感じ溜め息を吐いた。

 

 

零「はぁ……とりあえず、今は写真館があるカブトの世界に帰る方法を見つける方が先だな……」

 

 

こんな路地裏で溜め息なんか吐いてる場合じゃない。そう思いながら、零は服のポケットの中に入っているモノを全て取り出し自分の持ち合わせを確認する。

 

 

零「バックルにカード……それにカメラと財布に智大から貰ったメモリガジェットに……風麺のサービス券?」

 

 

……取りあえず必要な物は一通り揃っているようだ。それを確認した零は取り出したモノを再びポケットの中へと仕舞っていく。

 

 

零「………とにかく、今はこの世界について調べないとな。写真館に戻る方法を早く探さないといけないし……とりあえず、この世界に誰か知り合いがいないか探してみるか」

 

 

幾ら単体で次元を越える力を持っていようと、何処かも分からない見知らぬ世界から転移すれば何処に跳ぶか分からない。ただでさえ自分で行き先を決める事が出来ないのだから尚更だ。取りあえずこの世界のミッドチルダが知り合いがいる世界だと祈って街に出ようと足を進めた、その時……

 

 

―……カチャッ―

 

 

零「……む?」

 

 

不意に零の足先に何かが当たり、その不自然な感触に零も僅かに眉を寄せて視線を下ろし足元を見た。すると足元には、何やら銀色のカブトムシのような姿をした機械……この世界に零を飛ばした原因であるハイパーゼクターが転がっていたのである。

 

 

零「コイツ……まさか一緒に跳んできたのか?全く、よくもまあ厄介事に巻き込んでくれたモノだな」

 

 

呆れたように溜め息を吐きながらそう言うと、零は足元に転がっていたハイパーゼクターを乱暴に掴み取りジト目でハイパーゼクターを睨みつける。が、其処で零の脳裏にある考えが思い浮かんだ。

 

 

零「待てよ?……確かコレのハイパークロックアップでこの世界に飛ばされた訳だから……コイツを使えば元の世界に帰れるんじゃないのか?」

 

 

…………………有り得る。其処まで考えた零は早速というようにハイパーゼクターを弄くり始めていった。

 

 

零「此処か?此処を押すのか?それとも此処か?……ええい!フェイトがいればビートに変身してもらってハイパークロックアップを使ってもらうってだけで話は済むのにー!!」

 

 

こうなればカブトにカメンライドして自分が使うか?とまで考えるが、それ以前にベルトが別物な以上どう考えてもそれは不可解だろう。分かってるよちょっと考えてみただけだヨー!と半ば自棄になりつつも零はハイパーゼクターを弄くりまくる。しかし……

 

 

 

 

 

 

―………………バチッ……バチバチィッ……―

 

 

 

 

零「……………おう?」

 

 

 

 

…………なーんか目茶苦茶聞き覚えのある不自然な音が聞こえた。『何だ何だ?今度は何が起きんだぁ?』と周りの野良猫達の視線が集まってくる中、零はゆっくりと自分の手に視線を向けていく。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

『Hyper Clock Up!』

 

 

 

 

零「ッ?!」

 

 

やっぱり目茶苦茶聞き覚えのある電子音声がハイパーゼクターから鳴り響いたのであった。それを聞いた零が慌ててハイパーゼクターから手を離すと、ハイパーゼクターは地面に落ちると同時にまばゆい輝きを放ち始めていく。

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

零「ま、まさかっ……またハイパークロックアップの暴走か?!」

 

 

冗談じゃない!これ以上訳の分からない世界に飛ばされてたまるモノか!と零はまばゆい輝きを放ち続けるハイパーゼクターから慌てて距離を離して身構えていき、周りにいる野良猫達も『何だ何だぁー?!』と慌てて路地裏から逃げ出していった。そして……

 

 

 

 

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………バチバチィッ……―

 

 

 

 

 

 

零「…………?何だ?」

 

 

 

 

ハイパーゼクターから放たれていた光が何故か徐々に弱まり、何事もなかったかのように収まっていったのだ。だが、変化が全くないのかといえばそうではない。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―………チリンッ―

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

零「……おん……な…?」

 

 

 

 

何故か地面に転がっているハイパーゼクターの隣には先程まで其処にいなかったはずの人物……首に鈴の付いた首輪のようなモノを身に付けた、碧銀の髪の少女が静かに眠っていたのだから――――

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

零が訪れた世界の何処かにある薄暗い部屋。其処には二人の男性が向き合い話をしている最中だった。その二人の内の一人……デスクに腰を掛けた男性はデスクに膝を付きながら口を開いていく。

 

 

「ほぉう……世界の破壊者ですか」

 

 

鳴滝「そう、奴は次にこの世界を破壊しようとするだろう。そうなる前に君の手で、奴を消し去って欲しいのだよ」

 

 

「ふむ……成る程、確かにその破壊者とやらには興味ありますね。それに、この世界を破壊されるのは私にとっても都合が悪い」

 

 

鳴滝「だから私もそうなる前に、私が造り出した人造人間に奴の抹殺に向かわせている。それにこの世界のライダー達にも奴を倒す様に伝えてはあるが……あの反応を見る限り、余り期待出来そうにない」

 

 

男性……鳴滝は忌ま忌ましげに告げると、もう一人の男性は顎に手を沿えながら答えていく。

 

 

「……良いでしょう。私もその破壊者とやらには興味がある。貴方の頼みを聞きましょう」

 

 

鳴滝「そうか、それを聞いて安心したよ。ではよろしく頼む」

 

 

男性の返答に満足したのか、鳴滝は妖しげな笑みを浮かべながら背後に出現した歪みの壁を通り何処かへと消えていった。そして部屋に残された男性はフゥ、と軽く息を吐くとデスクにあるパソコンと向き合っていく。

 

 

「――全く、あの預言者は思ったより使い物にはなりそうにないですね。協力を頼んできておいて、自分は人造人間一体を放つだけとは」

 

 

『あの男はそういう男だ。奴の力は頼りにならんさ』

 

 

「どうやらそうらしいですね……ああそうだ。それより、貴方から提供して頂いた戦力については感謝していますよ。終夜殿」

 

 

男性は妖しげな笑みを浮かべながらパソコンの画面に映る青年……終夜にそう告げると、終夜は表情一つ変えないまま口を開く。

 

 

終夜『貴様から提供してもらったアレの借りを返しただけだ。貴様から礼を言われる筋合いなどない』

 

 

「フフ、相変わらず警戒心がお強いですね……貴方達から頂いたライオアクセルとフライングアタッカー。有効に使わせて頂きますよ」

 

 

終夜『勝手にすればいい。それより、奴には必要以上に手を出すなよ?もし余計な事をするようなら……』

 

 

「ご心配には及びませんよ。貴方達の恐ろしさは良く分かっていますからね……私もまだまだ死にたくないですから」

 

 

終夜『……フンッ……本当に裏が見えん男だな、貴様は……』

 

 

気に入らないというようにそう告げると共に終夜の顔はパソコンの画面から消え、男性はパソコンの画面を見つめながらゆっくりと語り出す。

 

 

「……私から見れば、貴方も十分裏が読めませんよ。終夜殿」

 

 

男性は最後にそう呟くとデスクからゆっくりと立ち上がり、そのまま部屋を出て何処かへと向かっていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

その頃、とある平行世界にある建造物内・玉座の間。其処には男性との通信を終えた終夜が、無表情のまま玉座に座っていた。

 

 

終夜「これで準備は整ったか……後は奴があの世界での役目を終えてくれれば、問題はない」

 

 

『――まぁ、その前に奴があの預言者とやらに消されなければの話だがな』

 

 

終夜の呟きに答えるように入り口から聞こえてきた声……以前零と祐輔によって倒されたヴェクタスがゆっくりと暗闇の中から姿を現し、終夜が腰を降ろす玉座の前にまで歩み寄っていく。

 

 

終夜「ヴェクタスか……どうだ、椋達と奴らは?」

 

 

ヴェクタス『聞くまでもないだろう?戦況は完全にこちらが圧倒している、向こうが崩れ落ちるのも時間の問題だろうさ』

 

 

終夜「なら戦闘機人の二人は生かしておけよ?奴らからはスカリエッティの居場所を聞き出さなければならないからな……これ以上、この件を面倒にさせたくはない」

 

 

ヴェクタス『裏切り者の無限の欲望には死を、か……容赦ないな。せめて女子供にくらい優しくしてやったらどうだ?』

 

 

終夜「ハラオウンを手に掛け、キャンセラーの世界の聖王のクローンを誘拐させた貴様に言えたことではないだろう」

 

 

ヴェクタス『おっと、そういえばそういう事もあったか。まぁ、過ぎた事を一々気にしてても仕方ないだろ?』

 

 

そういう問題ではない、と全く詫びれた様子もなく肩を竦めるヴェクタスに終夜も静かに溜め息を吐いていく。

 

 

ヴェクタス『そんな事より……さっきのはまた例の奴か?』

 

 

終夜「……あぁ、以前提供してもらったアレの借りを返しにな。それ以上の事は何もない」

 

 

ヴェクタス『随分と信用していないんだな……まぁ、お前はそういう奴だからな。仕方がないか』

 

 

終夜「我々に必要なのは、組織の役に立つかどうかのたったそれだけだ。異世界の組織など、信用する価値はない」

 

 

ヴェクタス『利用するだけ利用して、価値がなくなればすぐに捨てるか。そして組織に敵対、またはこちらに危害が及ぶをような動きを見せるなら――』

 

 

終夜「面倒事に発展する前にすぐに殺す……後腐れが残らないようにな……」

 

 

ヴェクタス『容赦ないねぇ……まあいいさ。それでこそお前だと言えるからな、俺がどうこう言うつもりはない』

 

 

終夜「…………」

 

 

茶化すような口調でそう告げるヴェクタスだが、終夜はそれに構わず王座から立ち上がりそのままヴェクタスの横を通り過ぎていく。

 

 

ヴェクタス『――それと、どうだ最近は?闇のキバの力の影響に関しては?』

 

 

終夜「……問題ない。くだらない事で一々呼び止めるな」

 

 

ヴェクタス『一応これでも心配してるのさ。ファンガイアでもないただの人間が、闇のキバの力に耐え切れている事に今でも信じられないんだからな』

 

 

終夜「…………」

 

 

妖しげな笑みを漏らすヴェクタスに終夜は無表情のまま何も答えようとはせず、そのまま王座の間から出ていった。

 

 

ヴェクタス『……ホントに面白い奴だよ、お前は……やはり使えるな……』

 

 

終夜が出ていった入り口の方を見つめながらそう呟くと、ヴェクタスは目の前から現れた黒い歪みの壁を通り何処かへと消えていったのであった。

 

 

 



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第十六章/???の世界①

 

 

―クラナガン・カフェ―

 

 

数十分後、取りあえず零はハイパークロックアップの暴走によって現れた少女が目覚めるのを待って街中のベンチに少女を寝かせて待機し、一時間ほどしてようやく目覚めた少女から事情を聞こうと近くのカフェへと訪れていた。

 

因みに零はアイスコーヒー、少女……自己紹介した時に名乗った"アズサ"はオレンジジュースを頼みながら話しをしている。

 

 

零「―――つまり、お前は自分の名前以外の事は何も覚えていない……という事か?」

 

 

アズサ「うん……名前だけはなんとか思い出せた……けど、それ以外の事が何も思い出せない……」

 

 

零「じゃあ、自分が今まで何処にいたのかも、家族のこととかも?」

 

 

アズサ「……ん」

 

 

最初目覚め時には半ば混乱していたようだが、今の所は落ち着いているようだ。コクン、とストローを加えながら零に小さく頷き返すアズサを見ながらそう思うが、アズサから事情を聞いた零はガクンと肩を落としながら深い溜め息を吐いていく。

 

 

零(はぁ……何処から来たのか分からない……家族はいるのかも分からない……住んでた場所も分からない……となると……これはやはり、アレで決まりか……)

 

 

詳しい事情を聞いたところ、どうやら目の前の彼女は何らかの原因で記憶を失ってしまった人間……所謂、記憶喪失という奴らしい。分かりやすく言えば自分と同じ人間、という訳である。

 

 

零(……くそっ……何かしらの面倒事に巻き込まれるのは覚悟していたつもりだが……まさかいきなりこんな厄介事に遭遇する事になるとは……皆とははぐれ、何処かも分からない世界に飛ばされた挙げ句――)

 

 

アズサ「ちゅー……ちゅー……」

 

 

零(――こんな変なの拾うハメになるとは……)

 

 

チラッとアズサの方を盗み見れば、アズサは無表情の無言のままストローでオレンジジュースを飲んでる。そんなアズサの様子に零はまた深い溜め息を吐いた。

 

 

零(こういう明らかに口数少なそうな奴は扱いに困るんだが……さて、どうするか……)

 

 

アズサ「ちゅー……ちゅー……」

 

 

此処はやはり、相手が困らない程度の質問をして事情を聞くのが一番であろう。しかし、こういう明らかに無口系というような少女にはどんな質問が最適か良く分からない。何かこのような状況に関して参考になりそうな知識は…………自分が高町家に拾わされた日、高町士郎と高町桃子にされた質問ぐらいだろうか。

 

 

零(むぅ……あの時と今では状況が違い過ぎるような気がするが……だが他には考えられないしな……)

 

 

アズサ「…?どうかした?」

 

 

零「……別に……俺のことは気にしなくていいから、さっさとソイツを飲み干せ」

 

 

アズサ「ん……分かった」

 

 

零「…………」

 

 

どうも自分は相手のことを思いやるという事に関してはさっぱりなようだ。その辺りの事は幼なじみであるなのは達から散々言われて来ている事だが、どうにも定着してしまってるせいか自分ではそれを治せそうにないし治そうとも思った事がない。だから自分が疑問に思った事は相手の心境も考えずバンバン聞いていくのだが……

 

 

零(……こういうタイプの奴にはなんかそういうのしずらいというか……調子が狂うというか……それに何より……)

 

 

アズサ「……?」

 

 

零(―――自分と同じ目に合っている人間だと考えると、どうもな……)

 

 

自分も彼女と同じ境遇に合っているから、どんな心境か分かってるからつい同情が生まれてしまう。勿論、自分が思っていた事と彼女が今思っている事は全然違うかもしれないと分かってはいるが、それでもなにかしら共感してしまうというか……

 

 

零(――バカバカしい……幾ら似ていると言っても、何で会ったばかりの人間にそんな感情抱かないといけないんだ。しっかりしろ、黒月零……)

 

 

アズサ「……?どうかしたの?」

 

 

零「……いや、何でもない、気にするな……それよりお前に聞きたい事があるんだが、構わないか?」

 

 

アズサ「?構わないけど、聞きたい事って……?」

 

 

いつもの調子に戻ろうと口を開いた零の言葉にアズサは不思議そうに小首を傾げながら聞き返し、零は軽く息を吐いた後アズサに問い掛けていく。

 

 

零「なら聞くが……お前は俺に拾われる前の事を他に覚えていないか?」

 

 

アズサ「他って……例えばどんな?」

 

 

零「例えば……そう、こんな街中を歩いていたようなとか、ああいうビルを見たことあるような気がするとか……朧げでもいいから、何かそういう景色とかでも思い出せないか?その朧げな記憶を頼りにそれっぽいところとか探して歩き回れば、なにか思い出す可能性があるかもしれないだろう?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

もしもアズサがミッド出身ならば、このミッドチルダを見て回れば見覚えのある景色を見て記憶を取り戻す可能性がある。それならば自分がいなくても、管理局に彼女を預けて後を任せれば勝手に記憶探しを手伝ってくれるだろう………この世界の管理局が鷹や煉の所のように余り歪んでいなければの話だが。しかし……

 

 

アズサ「…………光り」

 

 

零「…?光り?」

 

 

アズサ「うん、光り……他に何か覚えていないかと聞かれたら……それしか思い付かない」

 

 

零「…………」

 

 

……どんなリアクションを取ったらいいのかサッパリ分からない。何か覚えてることはないのかと質問して返ってきた答えが光り……なんて返されても、ハ?としか思えないだろう。全く意味が分からない。

 

 

零「……ハァ……ならそれでいいか。じゃあ他に、その光りに関して特別な特徴とかないのか?何色に輝いてたぁーとか……」

 

 

アズサ「何色……そういえば朧げにだけど、緑色に輝いていたような気がする」

 

 

零「緑色ね……………………………緑色の光り?記憶を失う前にそれを見たのか?」

 

 

アズサ「多分……それに何だか、それに引っ張られるような感覚も覚えてる……何か強い力に引っ張られて光りに飲み込まれたような感じは覚えているんだけど……それ以外のことは殆ど覚えていないの」

 

 

零「……………………」

 

 

何と無しに聞いたその質問で、零は頭にある可能性を思い浮かべていく。そして零はゆっくりとアズサから目を逸らし、テーブルの隅に置かれたハイパーゼクターに視線を向ける。

 

 

零(…………確かハイパークロックアップが暴走した時に放っていた光りは緑色だったような…………それに強い力で引っ張られる様な感じって…………)

 

 

確か自分がハイパークロックアップに巻き込まれた時も、そんな感じがしたような気がする。何か強い力で引っ張られるようなそんな感覚が確かに……

 

 

零(ということは……いや、あの時の状況から見ればコイツがハイパークロックアップで飛ばされてきたっていうのは分かってる。けどコイツが記憶を無くす前にハイパークロックアップに巻き込まれるのを覚えていて、俺のところに飛ばされてきた時には既に記憶を全部失っていたという事を考えたら――――)

 

 

と其処まで考えたところで、零の頭にあの時の場面が鮮明に蘇っていく……先程、ハイパーゼクターをあれよこれよと弄りくり回してハイパークロックアップが暴走してしまった事を。

 

 

零(…………えっと…………なんだ…………つまり…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパーゼクターを勝手に弄り回した黒月零。

そのせい?でハイパーゼクターが暴走しハイパークロックアップが強制発動。

零のせいで発動してしまったハイパークロックアップにアズサが巻き込まれ零の下へと強制転移。

強制的に飛ばされたショックでアズサが記憶喪失。

つまり、アズサを記憶喪失にしてしまった張本人というのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ヤバい……いやホントに冗談抜きでヤバい……

 

 

アズサ「―――?大丈夫?スゴい汗よ?」

 

 

零「……へ?ああいや……うん、問題ない……元々汗をかきやすい体質なんだよ俺はうん、という訳で心配は全く無用だ……」

 

 

アズサ「?」

 

 

目を泳がせながらアズサから視線を逸らす零に不思議そうな表情をするアズサ。そんなアズサから視線を逸らした零はガラス越しに外の景色を眺めながら考えていく。

 

 

零(―――ヤバい……もし本当にそうなら完全に俺のせいじゃないかっ……例えこの世界の管理局にコイツを預けても、もしコイツの記憶がどうやっても見つからなかったら……いやそれ以前に……)

 

 

アズサ「……?」

 

 

零(俺のせいで記憶喪失になったのかもしれないのに他人に任せるなんて出来る訳ないじゃないかっ……)

 

 

目の前の少女が記憶喪失になった原因が自分かもしれないという可能性が浮き上がってしまった以上、このままアズサを管理局に預けて自分ははい、サヨウナラなんて出来る筈がない。

 

 

零(ッ……なんて馬鹿な事をしたんだ俺はっ……見ず知らずの他人を巻き込んだ上に記憶喪失?ぜんっぜん笑えんぞこの展開っ…!)

 

 

アズサを管理局に預けるという選択肢は早くも消えてしまった。となれば、後は必然的に自分が彼女を保護しなければいけないという流れになる訳だが……

 

 

零「――――一応聞くが、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

 

 

アズサ「どうするって……何が?」

 

 

零「いや何って……記憶がない以上、お前は行く場所がないだろう?だからお前はこれから一体どうするのかって一応聞いておきたいんだが……」

 

 

アズサ「…………」

 

 

保護するしないより先に、先ずはアズサの意見を聞かなければいけない。もしも彼女にこれからどうしたいという意見があるのなら、彼女の意思を尊重しなければいけないだろうから。零がその意味を込めて真剣に質問すると、アズサは少し顔を俯かせながらポツリと呟き出す。

 

 

アズサ「私……私は、自分の記憶を探したい……自分が誰なのかを知りたいの」

 

 

零「……まぁ、確かにそう思うのが普通だな。だが、どうやって探すつもりなんだ?」

 

 

アズサ「……わからない。だけど探してみる。さっき貴方が言っていたように、この街を歩き回って記憶の手掛かりになるようなモノを探してみる」

 

 

零「……もし、手掛かりが見付からなかったら?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

もし手掛かりが見付からず記憶が戻らなかった場合はどうするのか。当事者からすれば余り聞きたくはないが、それでも一応聞いておかなければいけない。その質問を受けたアズサは表情を曇らせながらゆっくりと口を開いていく。

 

 

アズサ「……もし手掛かりが見つからなかったら……その時はもう諦める」

 

 

零「諦めるって……じゃあその後はどうする気なんだ?記憶が戻らないまま一人で生きていくつもりか?」

 

 

アズサ「そうなっても仕方ないと思う……記憶を無くしたのも、きっと私の運が悪かったせいだと思うから……だからもし記憶が戻らなかったとしても、それは仕方ないわ……だから私を知っている誰かが探しに来てくれる事を信じて、それまで一人で生きていくしか―ガタンッ!!―……?」

 

 

アズサが最後まで言い切る前に、何やら鈍い音と共にアズサが座っているテーブルが僅かに揺れてアズサの言葉を遮ってしまった。そして思わず目の前へと視線を向ければ、何故か向かいの席に座る零がテーブルの上におでこを打ち付けてうなだれていた。

 

 

アズサ「どうしたの?」

 

 

零「……いいやっ……ただお前のその健気さを見せられて自分がどんな間違いを犯したのか改めて再確認されただけだっ……」

 

 

アズサ「?」

 

 

言っている意味が良く分からないのかアズサは頭上に無数の疑問符が並んでいくが、零はそんなアズサに気付かずおでこをテーブルに付けたまま思う。

 

 

零(駄目だ……余計にコイツを一人に出来なくなってきてしまった……あぁ……これはもう何時帰れるか分からなくなってきたなぁ……)

 

 

もし記憶を取り戻せなかったら、本当にいるのかさえ分からない知り合いが来てくれる事を祈って一人で生きていく。そんな健気な事を告げるこの少女を放って写真館に帰る事など、どう考えても出来る筈がない。彼女を巻き込んでしまった張本人としても、今自分がすべき事はやはり一つだけだろう。

 

 

零「――あぁ……分かった……なら、俺もお前に付き合うとしよう」

 

 

アズサ「?何を?」

 

 

零「何って……お前の記憶探しに決まってるだろう?此処まで事情を知ってしまった以上、このままお前を放っておく訳にはいかないからな」

 

 

アズサ「……でも貴方、私と初対面でしょう?なのになんで……」

 

 

零「乗り掛かった船という奴だ……それに……俺にも責任はないとは言えんからな……」

 

 

アズサ「…?」

 

 

最後の部分だけ何やら言いにくそうに呟きながら顔を逸らした零にアズサは小首を傾げるが、取りあえず彼が自分の記憶探しを手伝ってくれるのだと理解したのだろう。アズサは零を見つめたまま少し不器用そうに微笑みながら……

 

 

アズサ「良く分からないけど……手伝ってくれるならすごく助かる。正直一人だけじゃ不安だったから……ありがとう」

 

 

零「…ッ!」

 

 

事実を知らない純粋無垢な笑顔と瞳を向けながら零に向けてお礼の言葉を口にしたアズサ。それを告げられた本人は……

 

 

零(や、止めろっ……そんな純粋な笑顔と瞳を向けて礼なんか言うんじゃないっ……今の俺はお前が思っているような良い人間なんかじゃないんだぁっ!!)

 

 

照れる……というよりは、寧ろ罪悪感という無数の針が彼の良心をこれでもかと言うようにザックザックと突き刺し、心の中で頭を抱えながら悶え苦しんでいたのだった……

 

 

 

 

 

 

とまあこんな一連のことがありつつも、アズサの記憶を探しながらこの世界について調べようと二人が外に出たのはそれから一時間後ぐらいだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン・高速ビル屋上―

 

 

 

零とアズサがカフェを出てクラナガンを歩き回る頃、とある高速ビルの屋上では二人の奇妙な格好の女性が街を見下ろす姿があった。一人は右耳にピアスをつけた黒いローブの女性。もう一人は左耳に同じピアスをつけ、足の周りのスカートを縦に引き裂き白い太股を露出させた女性であった。

 

 

「―――駄目ね。この辺りにも気配はないわ」

 

 

「えぇー?また空振りぃ?これでもう七回目よ姉さ~ん」

 

 

水平に手の平を構える黒いローブの女性の言葉に太股を露出させた女性はくたびれたように言いながら屈み込み、黒いローブの女性はそんな女性に呆れたような溜め息を吐きながら女性と向き合っていく。

 

 

「しょうがないでしょう?あの預言者が放った人造人間が突然行方不明になったっていうんだから」

 

 

「だからって、なんで私達が動かないといけないの?あの方と終夜様の命令だから仕方なくやってるけど、こんなの下っ端にでもやらせておけばいいじゃない。あんな胡散臭い預言者の為に動いたってなんのメリットもないでしょう?」

 

 

黒いローブの女性を見上げながらめんどくさそうに呟き返す女性だが、黒いローブの女性は腕を組みながら口を開く。

 

 

「そういうワケにはいかないのよ。どうやら例の人造人間には破壊者を倒す為の切り札を積んでいるらしいわ。だからもしもの為に、私達が駆り出されたのよ。貴方だってそう聞かされたでしょ?」

 

 

「そりゃ聞かされたけど…切り札ねぇ?あの預言者、破壊者の抹殺に何度も失敗してるんでしょう?どうせまた使えないモノでも積んでるんじゃない?」

 

 

「そうかもしれないけど、もしホントに破壊者を倒せる程の物ならほっとけないわ。今はまだ破壊者を消される訳にはいかないもの。だからあの預言者の目を盗んで例の人造人間を密かに回収する……それが今回、あの方と終夜様から与えられた任務なんだから」

 

 

「因子を覚醒させた破壊者捕獲の為の切り札にするってワケでしょ……ホントにその人造人間が使えるのかあまり期待出来ないけど、地道に捜すのも飽きて来たしね……そろそろ真面目にお仕事しますか」

 

 

「……そうね……余り時間は掛けられないし、やり方を変えましょうか」

 

 

黒いローブの女性がそう言うと、屈み込んでいた女性はおもむろに立ち上がって指を鳴らしていく。すると二人の背後の空間が捻れるように歪み、其処から無数の異形達が現れあっという間に二人の背後を埋め尽くしていった。

 

 

「先ずは、適当に騒ぎを起こして破壊者からあぶり出すわよ」

 

 

「騒ぎを起こせばこの世界に飛んだ破壊者が出てくるだろうし、そうすれば破壊者を抹殺しようと例の人造人間も出て来るはずだろうしねぇ」

 

 

「そういうこと……さぁ、行きなさい」

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

黒いローブの女性がビルの下を顎で軽く指すと、二人の背後に立っていた異形達はそれに応えるように一斉にビルから飛び出し、遥か地上へと落下していった。そしてそれを確認した二人の女性は互いに顔を見合わせて頷くと、別のビルへと飛び移って何かを捜すように街の様子を観察していくのだった。

 

 



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第十六章/???の世界②

 

 

時刻は昼前。アズサの記憶探しの為にカフェから外に出た零とアズサの二人は、取りあえずアズサが心当たりがあると思うような場所を探してクラナガンを適当に徘徊していた。のだが……

 

 

零「…………………何だ、それは……?」

 

 

『うにゃー』

 

 

クラナガンの街角の一角、両手にコーヒーとジュースの入ったストロー付きの紙コップを持った零は訝しげにそう言った。そしてそれを聞かれたアズサは両手に抱いた黒い毛をなびかせる生物……世間一般的には猫と呼ばれる生き物を零へと突き出しながら一言。

 

 

アズサ「猫」

 

 

零「……いやそんなのは見れば分かる。俺が聞きたいのは、何故俺がジュースを買いに行って戻ってくるまでの三分間の間にお前は猫なんぞ持っとるんだ?」

 

 

アズサ「拾ったの」

 

 

零「何処で?」

 

 

アズサ「其処の道端で」

 

 

零「何時?」

 

 

アズサ「さっき」

 

 

零「……で、俺にどうしろと?」

 

 

アズサ「飼って」

 

 

零「何を?」

 

 

アズサ「この子を」

 

 

零「何故だ?」

 

 

アズサ「欲しい」

 

 

零「それが?」

 

 

アズサ「うん」

 

 

零「何故?」

 

 

アズサ「この子に一目惚れした」

 

 

 

 

零「………………」

 

 

アズサ「………………」

 

 

 

 

会話終了。二人の間に沈黙が流れる中、アズサは無言のまま飼ってくれと主張するように黒猫を突き出してくる。零は両目を細めながらそんなアズサの手に抱かれる黒猫を睨むと、ガクリッと肩を落しながら呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

零「……お前な、今自分が置かれてる状況を分かってるか?お前の記憶を探す為にこうやって街の中を歩き回ってるんだぞ?」

 

 

アズサ「うん、知ってる」

 

 

零「だったら分かるだろ?今はそんなの飼ってる場合じゃないんだ。それに今の俺の持ち合わせじゃ、その猫の面倒を見るだけの余裕はない……お前だって金はないんだろう?」

 

 

アズサ「……お金……」

 

 

そう、実際の所、今の零の所持金ではアズサの分も足してホテルに三日ほど泊まれる程度しか持ち合わせていないのだ。そんな状況で猫一匹買えば、餌代などが掛かってホテルに泊まれるほどの余裕すらなくなってしまう。その意味を込めて零が告げると、アズサは猫を胸に抱きながら何かを探すかのように辺りをキョロキョロと見渡し、此処から少し離れた所にある銀行を見つけて指差した。

 

 

アズサ「あそこに行けば、お金を下ろせる」

 

 

零「………生憎だが、俺は今銀行から金を下ろす為に必要な物を忘れてきてるんだ(正確にはちゃんとした方法でこの世界に来たわけじゃないから下ろせない)。だから、あそこに行っても金は下ろせないんだよ。残念ながら……」

 

 

アズサ「お金、下ろせない………………………………………なら、強盗する?」

 

 

零「無表情でサラリと怖いこと言うなバカタレ!」

 

 

何処を探せば猫を飼う為に銀行強盗する奴がいるかッ?!と内心叫びそうになる零だが、目の前の少女は首を傾げながら零を見上げ、これでは恐らく何を言っても無駄だろうと叫び掛けた言葉を飲み込んだ。

 

 

零「はぁ……とにかく、今はその猫を飼うだけの余裕はないんだ。元の場所に返してこい」

 

 

アズサ「……どうしても、駄目?」

 

 

零「駄目だ」

 

 

アズサ「…………」

 

 

飼うのは無理だから帰してこい。そう告げられてアズサはシュンッと落ち込んだように顔を俯かせてしまい、そんなアズサの両腕に抱かれた黒猫は『にゃ~』と鳴きながらアズサの顔を見上げていく。

 

 

零「そんな顔しても無理な物は無理だ。返してこい」

 

 

アズサ「…………」

 

 

こんな状況がいつまで続くか分からない以上、あまり無駄な出費を掛けるわけにはいかない。だから此処は心を鬼にしなければと、零は目を伏せて返してこいの一点張りを通そうとする。だが……

 

 

アズサ「……家族……」

 

 

零「……ん?」

 

 

アズサ「……私はただ……家族が欲しいと思っただけ……家族の記憶がないから……一人だから……この子を家族にしたいって思ったの……この子も一人で……淋しそうだったから……」

 

 

『にゃー……』

 

 

零「…………………………………………………」

 

 

家族の記憶がなくて淋しいから、この猫を家族にしたかった。シュンッとした顔で猫を見下ろしながら淋しそうに告げたアズサに零も思わず動揺してしまうが、直ぐにハッとなっていかんいかんと頭を左右に振った。

 

 

零(馬鹿か俺は?あんなの猫を飼いたいが為の口実に決まってるだろ。騙されるなっ……今財布を握ってるのは俺なんだっ………………だが…………)

 

 

―チラッ―

 

 

アズサ「…………」

 

 

アズサの方を盗み見れば、アズサは淋しげな顔を浮かべながら胸に抱いた黒猫の耳を軽く撫でていた。その姿を見た零は強引にアズサから視線を逸らして自分の意思を必死に保とうとするが……結局は無駄だった。

 

 

零「…………チッ…………世話…………」

 

 

アズサ「…?」

 

 

零「……出来るだけ出費が掛からないように世話するというなら……勝手に飼えばいい……」

 

 

アズサ「!……うん、ありがとう」

 

 

『にゃー』

 

 

猫を飼う事を許可すれば、アズサは無表情のまま何処となく明るげに言いながら胸に抱いた黒猫の喉を軽く撫でていく。そんなアズサの姿に零は疲れた溜め息を吐きながら頭を抑えた。

 

 

零(クソッ、予想外の食いぶちが増えてしまった……まあいい、俺が昼食を抜けばまだ余裕が出来るだろう……)

 

 

アズサ「?どうかした?」

 

 

零「……別に……それより、そいつ飼うなら名前ぐらいつけてやれよ?」

 

 

アズサ「……名前?」

 

 

頭を抑えながら溜め息混じりでそう告げた零であるが、アズサは猫を抱いたままその意味が分からないように小首を傾げた。

 

 

零「名前だ名前、そいつ呼ぶ時に必要だろう?猫ってそのまま呼ぶわけにもいかないんだから、お前が責任持ってつけろ」

 

 

アズサ「……名前……」

 

 

名前をつけろと言われて、アズサは両手で黒猫を掴みながらジッと感情の読めない目で猫を見つめる。そして……

 

 

アズサ「……猫じゃらし」

 

 

零「……は?」

 

 

アズサ「猫じゃらし、この子の名前「却下だ!」…?どうして?」

 

 

零「どうしてもなにもあるか!なんだ猫じゃらしって?!そんなの名前でもなんでもないだろう?!というか絶対適当に考えて付けただろ?!」

 

 

アズサ「そんなことない、ちゃんと『猫』ってついてる。ダメなら猫舌、猫被り、猫背、猫まんまとかイロイロ……」

 

 

零「名前に猫をつける必要はないと言ってるんだっ!とにかく却下!」

 

 

アズサ「猫じゃらし、ダメ……なら、どん兵衛」

 

 

零「何処のインスタント食品だソイツは……頼むからもっとマシな名前を考えてくれ!」

 

 

アズサ「じゃあ………ヘルメス・トリスメギストス」

 

 

零「なんかいきなり伝説的な錬金術師の名前言い出したぞコイツ?!てか長いし言いにくいだろ猫の名前にしては?!却下だ!」

 

 

アズサ「これもダメ?頭良さそうなのに………なら、キャット」

 

 

零「もうそのまま猫って言い出した?!というかもう絶対に投げやりだろう?!却下だ!」

 

 

アズサ「また却下……貴方さっきからそればっかり」

 

 

零「お前のネーミングセンスが最悪だからだ!!」

 

 

もうなんなんだこの女?!と思わず頭を抱えたい衝動に駆られてしまう零だが、アズサは猫をジッと見つめながら黙々と猫の名前を考えていた。しかし、アズサはそこで何かを思い付いたように顔を上げ、零の方へと振り返った。

 

 

アズサ「だったら……貴方も何か考えて」

 

 

零「…は?何で俺が?」

 

 

アズサ「私じゃ良い名前が思い付かない……だから、貴方にも何か候補を考えて欲しい」

 

 

零「……めんどくさい」

 

 

思わずそう愚痴りつつも、このままこの猫が変な名前を付けられるよりかはマシだろう。ならば此処はちゃんとした名前か、それまでの代用の名前でもつけるかと考える零であった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――――んで…………

 

 

 

 

 

アズサ「―――稟、そんなに私のペロペロ舐めて……私の足、そんなに好き?」

 

 

『にゃ~』

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「こらツトム、アリなんか食べたらお腹壊すよ?」

 

 

『にゃー』

 

 

零「………………」

 

 

アズサ「……そうだ滝……お前の首輪を買わないとね?ペットショップに行けば買えるかな?」

 

 

『うにゃ~』

 

 

零「……………………」

 

 

アズサ「んぁあ……や……祐輔……そんなに胸に顔を埋めたら……くすぐったいっ……」

 

 

『にゃー』

 

 

零「………………………」

 

 

アズサ「そうだ……煉……ホテルにチェックインしたら、一緒にお風呂入ろうか?私がゴシゴシしてあげる……」

 

 

『うにゃー』

 

 

零「……………………………………………」

 

 

アズサ「あっ、ダメ智大。そんな所でおしっこ――」

 

 

零「もう止せ!!俺が悪かった!!だからそんな知り合いに聞かれたら誤解されそうな名前でそいつを呼ぶなっ!!」

 

 

アズサ「……?」

 

 

コロコロと名前を変えて猫を呼ぶアズサに遂に耐え切れなくなったのか、黙々とコーヒーを飲んでいた零はアズサの両肩を掴んで若干焦ったようにそれを制止した。

 

 

アズサ「これもダメなの?だって、貴方がちゃんとした名前を考えるまでの代用にすれば良いっていったのに……」

 

 

零「あぁ言った、確かにそうは言ったがっ……相手が猫だという事をもっと良く考えるべきだったっ……」

 

 

アズサ「?」

 

 

この少女には恐らく悪気はないのだろう。それは分かっているのだが……知り合いの名前を勝手に猫につけるのは止めておいた方が良さそうだ。主に彼等の名誉とかイロイロな物に傷が付きそうだし……

 

 

零「…とにかく、もう簡単に一般的な名前にでもしたらどうだ?見た目が黒だからクロとか、タマとかいろいろあるだろう?」

 

 

アズサ「ん……何か捻りがない」

 

 

零「悪かったなっ……取りあえずもうそんな感じにしておけ。あまり変な名前にしてもソイツが不憫なだけだろう?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

もう名前を考えるのが面倒くさくなったのか、少し投げやりに言いながらこの話を終わらせようとする零。そしてアズサは鳴き声をあげる黒猫の毛を撫でながら口を開いた。

 

 

アズサ「決まった………………………………シロ」

 

 

零「……は?」

 

 

アズサ「この子の名前……シロにけってい。にゃあ」

 

 

『にゃー』

 

 

零「…………待て…………ちょっとソイツ見せてみろ」

 

 

アズサ「?」

 

 

猫にシロと命名したアズサに、零は険しげに眉を寄せながら猫を寄越せとジェスチャーし、アズサはそんな零に訝しげな顔をしながら黙って猫を渡した。そして零は受け取った猫の体中を眺めていくが……全身真っ黒……シロと呼べるような要素は何一つない。

 

 

零「……お前……コレ完全に黒猫だろう?なのに何故シロ?」

 

 

アズサ「?だってクロじゃ捻りがないから……それにシロの方が明るそうで良いと思うから」

 

 

『うにゃー』

 

 

零「……………」

 

 

……ホントにコイツはどういう思考回路をしてるのだろうか?そこのところを疑いたくなるアズサの考えに零も唖然としてしまうが、アズサは特に気にした様子もなく零の手から黒猫……シロを奪って抱っこしていく。

 

 

アズサ「今日からお前はシロだよ。シロ……にゃー」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

零「……もう好きにしてくれ……」

 

 

黒猫と戯れ出したアズサを見てドッと疲れが襲い掛かり、もう好きなようにさせておこうと零は疲れた表情を浮かべながらカメラを構え、ファインダーを除いて街中を行き交う人達の写真を撮影していく。

 

 

零「……それで?この辺を歩いてみて、何か思い出した事はあったか?」

 

 

アズサ「?……ううん……まだ何も思い出せない」

 

 

零「そうか……一応この辺一帯は大体歩いてみたが、お前の記憶に関係する場所はなかったみたいだな」

 

 

だったら今度は別の場所に行ってみるかとファインダーを覗いたままアズサの方へと振り返るが、アズサは何故か曇った表情で顔を俯かせていた。

 

 

零「?どうした?その猫を飼うのは許可しただろう?まだ何かあるのか?」

 

 

アズサ「………ううん……ただ、本当に記憶が見つかるのかどうか……ちょっと不安になっただけ」

 

 

零「…どういう意味だ?」

 

 

アズサの言葉に零が思わず怪訝そうに眉を寄せながら聞き返すと、アズサはシロを抱きながらクラナガンの町並みや街の中を行き交う人達を眺めながら語り出した。

 

 

アズサ「正直に言うと……私、本当にこの街に住んでいたのか不安になってきた……暫くこの街を歩いてみたけど、この街を見て懐かしいとか知っているような気がするとか……そういう感情は全く感じなかった。寧ろ、この街の全部が目新しく感じてた……」

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「もしかしたら……私はこの街の住人じゃないのかもしれない……けどもしそうなら、私は一体―カシャッ!―……?」

 

 

暗い雰囲気を漂わせながら何かを語ろうとするアズサの言葉をシャッター音が遮り、それを聞いたアズサが思わず振り返ると、其処にはアズサに向けてカメラを構える零の姿があった。

 

 

零「……そんなくだらん事を考えてる暇があるなら、さっさと次に行くぞ。お前がどう思おうが知らんが、記憶探しを手伝うと申し出たのはこっちなんだからな」

 

 

アズサ「……でも……それが無駄だったとしたら?私がこの街に住んでいたっていう確証はないし……」

 

 

零「確かにそういう可能性もあるかもしれんが、本当にそうだという確証もないし、手掛かりがないという確証もない。そんなの気にしてる暇があるなら、実際に動いて確かめればいいだろう?さっさといくぞ」

 

 

アズサ「……うん」

 

 

そんな事を不安に思ってる暇があるなら次にいくぞと促す零だが、アズサはまだ不安を拭い切れていないのか、変わらず無表情ではあるも若干元気がなくなったように歩き出した。それを見た零も思わず溜め息を吐いてしまうが、取りあえず先を急ごうとアズサの後を追おうとする。がそんな時……

 

 

 

 

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウワァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!』

 

 

 

 

 

 

アズサ「……え?」

 

 

零「……あ?」

 

 

突然二人の背後から叫び声と爆発音が鳴り響き、零達がその方向を見ると、其処には今まで賑やかな雰囲気を漂わせていた街の雰囲気が一変し、街中を歩いていた人々が悲痛な悲鳴をあげながら何かから逃れようとするかのように逃げ惑っていた。そしてそんな人々が逃げてきた方向へと視線を向けると、其処には無数の異形達がクラナガンで暴れ回る姿があった。

 

 

『シャアァァァァァ!!』

 

 

アズサ「!……あれは?」

 

 

零「ッ!あれは……ワーム?いや、だが姿が少し違う?」

 

 

クラナガンで暴れ回る無数の異形達……それは、零が前のカブトの世界で戦った怪人である成虫体とサナギ体のワーム達だったのだ。だが、街の破壊活動を行うワーム達の姿は零が知る物とは何処となく違い、特にサナギ体は零が知るサナギ体と比べたら鋭い角と爪が生えており、更にボディもごつごつとかどばっていた。

 

 

零「チッ!別世界に飛ばされた先でもこれとはな……取りあえず倒しておくか」

 

 

疑問は残るが、取りあえずこのままワーム達にクラナガンを破壊させるワケにはいかないと零はディケイドのカードを取り出して変身しようとする。その時……

 

 

 

 

 

 

「――アクセルシューター……シュゥゥゥゥゥトッ!」

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガァッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

 

零「ッ?!今のは……?」

 

 

 

 

不意に零の上空から無数のスフィアが降り注ぎ、クラナガンで破壊活動を行っていたワーム達へと直撃していったのだ。その見覚えのある攻撃に零が思わず目を見開いていると、零の前に上空から見覚えのある少女と少年達が降りていた。

 

 

「時空管理局です!大丈夫ですか?!」

 

 

零(ッ!なのはとヴィータに、フェイトとシグナム?それにFWも?)

 

 

零の目の前に現れた人物達……それは、それぞれBJを身に纏いデバイスを構えたなのはとヴィータ、フェイトとシグナム、そして見知らぬメンバーを加えたFW陣だったのだ。いきなり現れたなのは達に零も内心驚いていたが、なのは達はそれに気付かないまま目の前の爆煙へと視線を向けながらデバイスを構え直していく。すると、爆煙の中からなのはの攻撃を受けたはずのワーム達がまったくの無傷のまま現れた。

 

 

なのは「!やっぱり効いてないみたいだね……」

 

 

フェイト「うん、やっぱり二人が来るまで此処を死守するしかないね。みんな、いくよ!」

 

 

『はい!』

 

 

零(……成る程な……この世界のなのは達というワケか……通りで見慣れない顔がいると思ったら……)

 

 

それぞれワーム達と戦闘を開始したこの世界のなのは達を見て、零はそう思いながらFWと連携してワーム達と戦う三人の少年達に目を向けていく。

 

 

零(……取りあえず此処は様子見でもしておくか……それにワームが出たという事は、恐らく……)

 

 

ヴィータ(別)「オリャアァァァァァァァアッ!!」

 

 

フェイト(別)「ハアァァッ!!」

 

 

なのは(別)「ディバイィィィィィィン……バスタアァァァァァァァァッ!!」

 

 

シグナム(別)「ハッ!!」

 

 

『ギシャアァァァァァァァァアッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

取りあえずなのは(別)達の戦いを様子見しておこうと零が黙視する中、ワームの大群と戦闘を開始したなのは(別)達はそれぞれ連携を取りながらワーム達に攻撃していく。だが、ワーム達はなのは(別)達の連携攻撃を喰らっても余りダメージを受けておらず、今も倒せているのはほんの数匹程度だけだった。

 

 

ギンガ(別)「クッ!やっぱり強い!」

 

 

スバル(別)「っていうか、なんかちょっと前より強くなってない?!�」

 

 

「確かにっ……でも、あの人達が来るまで何とか持ちこたえないと!」

 

 

ワーム達の戦闘力に圧されつつも、まるで何かの到着を待つかのように粘り続けるなのは(別)達。だが……

 

 

『グウゥゥゥゥゥゥゥ……キシャアァッ!!』

 

 

―シュンッ……バキイィッ!!―

 

 

エリオ(別)「?!うあぁっ?!」

 

 

ティアナ(別)「エリオ?!」

 

 

『ッ?!』

 

 

ワーム達の親玉と思われる成虫体がクロックアップを使い、そのまま猛スピードで別のワームと戦っていたエリオ(別)へと突っ込んで殴り飛ばしてしまったのだ。そして成虫体はトドメを刺さんと言わんばかりに胸にエネルギーを収束させ、エリオ(別)に向けて巨大なエネルギー弾を放った。

 

 

エリオ(別)「あっ……」

 

 

フェイト(別)「エ、エリオォッ!!!」

 

 

キャロ(別)「エリオ君ッ!!!」

 

 

零(完全に直撃コース……あの距離からじゃ回避も間に合わないな……当たれば確実に死ぬか……)

 

 

成虫体の放ったエネルギー弾がエリオ(別)のすぐ間近まで迫り、フェイト(別)達の悲痛な叫びが辺りに響き渡る中、零はそんな光景を間近に見てるにも関わらず冷静にそう考えながら両目を伏せてポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

零「――まぁ、"当たれば"の話だが……な」

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ズバアァッ!!―

 

 

エリオ(別)「……え?」

 

 

―シュンッ……ガキィ!!ガキィ!!―

 

 

『グガァッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

零が誰にも聞こえないようにそう呟くと同時に、突如エリオ(別)の目の前に現れた何かがエリオ(別)に直撃しようとしたエネルギー弾を綺麗に真っ二つへと斬り裂き、更になのは(別)達と戦っていた数匹のワーム達が何かに斬られて爆散していったのだ。そして爆発が晴れ、エリオ(別)となのは(別)達の前に姿を現したのは二人の戦士……

 

 

『――なんとか間に合ったようだな』

 

 

『だな、悪い皆!ちょいと遅れちまった!�』

 

 

フェイト(別)「あ、光!」

 

 

なのは(別)「勇司君!」

 

 

姿を現した二人の戦士……一方は赤いボディに青い瞳を持った光と呼ばれたカブトムシのような姿の戦士。もう一方は青いボディに赤い瞳を持った勇司と呼ばれたクワガタムシのような姿の戦士。二人の戦士の登場になのは(別)達が安心したような表情を浮かべる中、二人の戦士は肩を並べてワームの大群と対峙していく。

 

 

『今回はどうやら数が多いようだな。勇司、散開して戦うぞ。いいな?』

 

 

『OKだ、そっちは任せたぜ光!』

 

 

二人の戦士は軽く呼びかけ合うとワーム達に向かってそれぞれ突っ込み、戦闘を開始していった。そして零は伏せていた目を僅かに開き、ワーム達と戦う二人の戦士を見つめながら呟く。

 

 

零「――NXカブトの世界……か」

 

 

零はそう呟きながら二人の戦士………『NXカブト』と『NXガタック』を見つめ、二人の戦いをジッと観戦していくのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界③(前編)

 

カブトR『フンッ!ハァッ!!』

 

 

ガタックR『ウオォォォォォォオッ!!』

 

 

―ザシュンッ!ザシュンッ!ジャキィィンッ!!―

 

 

『ギシャアァッ?!』

 

 

カブトはワーム達の振りかざす爪を最小の動きで回避しながらクナイガンKモードでワーム達を斬り裂き、ガタックはワーム達に突進しながらダブルカリバーでワーム達を斬り伏せダメージを与えていた。

 

 

フェイト(別)「ハーケン、セイバー!!」

 

 

ヴィータ(別)「ラケーテン、ハンマァァァァァ!!」

 

 

ギンガ(別)「リボルバァァァァァ……シュウゥゥゥゥゥゥゥトッ!!」

 

 

スバル(別)「デリャアァァァァァァァアッ!!」

 

 

その一方でなのは(別)達もそれぞれワーム達へと攻撃していき、ワームの大群に突っ込むカブトとガタックのフォローに回っている。そしてワームの大群を斬り伏せていたカブトとガタックはそれぞれワームを一体ずつ斬り倒すと、ベルトを操作していく。

 

 

『クロックアップ!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

―シュンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『シャアァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

電子音声が響くと同時にカブトとガタックはクロックアップ空間へと突入し、猛スピードでワームの大群へと突っ込みそれぞれの武器でワームの大群を撃破していった。

 

 

『Clock Over!』

 

 

ガタックR『っと、サナギ体はこれで粗方片付いたな?』

 

 

カブトR『あぁ、後は残りのサナギ体と奴を倒せば終わりだ……』

 

 

『グルルルルゥ……!』

 

 

クロックアップを解除したカブトとガタックは残ったワーム達を見渡しながらそう言い合い、二人はクナイガンKモードとダブルカリバーの切っ先を成虫体へと向けながら一気に畳み掛けようと身構えていく。だがしかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

カブトR『ッ?!』

 

 

フェイト(別)「えっ?な、何?!」

 

 

突如カブト達の周りにいたサナギ体のワーム達が一斉に奇声を上げ始め、成虫体を警戒していたカブト達は慌てて周りにいるサナギ体のワーム達へと目を向けていく。それと同時にサナギ体のワーム達が一斉に脱皮を始め、なんと残った全てのサナギ体達が成虫体へと変わっていったのである。

 

 

ガタックR『なっ…サナギ体が全部脱皮した?!』

 

 

なのは(別)「そ、そんな!一同にこんな数も?!それに何でこのタイミングで?!」

 

 

『グゥルルル……シャアァッ!!』

 

 

突如成虫体へと脱皮してしまったワーム達に動揺を隠せない一同だが、ワーム達は成虫体に脱皮したと同時に一斉にクロックアップを発動させてカブト達に襲い掛かってきた。

 

 

カブトR『チッ!勇司!』

 

 

ガタックR『分かってる!クロックアップ!!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

クロックアップを発動したワーム達を見てカブトとガタックも直ぐさまクロックアップを発動し、超高速で襲い掛かるワーム達の攻撃を武器で弾きながら何とか反撃していく。だが……

 

 

『キシャアァッ!!』

 

 

―シュルルルゥ……ガシィッ!!―

 

 

ガタックR『アグッ?!なっ?!』

 

 

カブトR『何ッ?!』

 

 

二人と戦っていた成虫体の一体が背中から無数の触手を伸ばしてカブトとガタックの背後から首と両腕に絡み付き、動きを拘束してしまったのだ。そして拘束されてしまった二人は触手に驚きつつもなんとか触手を払い除けようと身体に力を入れていくが……

 

 

ガタックR『……ッ?!な、何だ?身体に力が入らねぇ?!』

 

 

カブトR『ッ!まさかこの触手……俺達のエネルギーを吸収している?!』

 

 

『グルルルルゥ……!』

 

 

何故か身体に上手く力が入らない事にガタックは驚愕して戸惑ってしまうが、カブトは自分の体に絡み付く触手が自分達のエネルギーを吸収してると気付き慌てて触手を払おうともがいていく。が、他の成虫体達はその隙を逃すまいと触手に拘束されるカブトとガタックへと一斉に襲い掛かっていった。

 

 

『シャアァッ!!』

 

 

―ガキィッ!!バキィ!!ガギャアァンッ!!―

 

 

ガタックR『グアァッ?!ガッ!』

 

 

カブトR『グゥッ!』

 

 

『Clock Over!』

 

 

フェイト(別)「――…?!あ、光ッ?!」

 

 

なのは(別)「ゆ、勇司君ッ?!」

 

 

ワーム達の猛攻を受け続けている間にクロックアップの効力が切れてしまい、それと共になのは(別)達の目にワームに拘束され一方的に痛め付けられるカブトとガタックの姿が目に映って顔色を変え、二人を救出しようと走り出そうとした。その時……

 

 

「はいはーい、ちょっと失礼するぞー」

 

 

『……え?』

 

 

不意になのは(別)達の背後から聞き慣れない声が聞こえ、それを聞いたメンバーは二人の下に向かおうとした足を止めて背後へと振り返っていく。すると一同の背後から一人の青年……零がなのは(別)達の間を擦り抜けて一同の前へと出ていき、カメラを構えてカブトとガタック、そしてワーム達を撮影していく。

 

 

零「ほぉ……あれが魔力の影響を受けて突然変異したワーム達……ジェノサイドワームか。そして、あっちのカブトとガタックがジェノサイドワームと戦うこの世界のライダー達……か」

 

 

なのは(別)「ちょ、何ですかアナタ?!」

 

 

シグナム(別)「民間人か?とにかく早く避難しろっ!此処は今危険だ!!」

 

 

零「はいはい……あ、一枚貰うぞ?はいチーズ」

 

 

フェイト(別)「…ってそうじゃなくて!今はアナタに構ってる場合じゃないんです!いいから早く避難して―――って、危ない?!」

 

 

シグナム(別)の怒声を軽く聞き流し今度はなのは(別)達をカメラで撮影していく零にフェイト(別)が焦ったように言うが、その時零の背後からクロックアップを使用したワームが迫ってきていることに気付き慌てて零を庇おうと動き出した。が……

 

 

零「――フンッ!!」

 

 

―バキャアァァンッ!!―

 

 

『ギギャアァッ?!』

 

 

―ガシャアァァァァアンッ!!―

 

 

零を振り返らないまま身体をコマのように回転させ、そのまま回転を利用した上段回し蹴りをワームの頭に打ち込み、近くの建物の窓ガラスへとワームを吹っ飛ばしていった。

 

 

フェイト(別)「なっ?!」

 

 

スバル(別)「ク、クロックアップを使ってたワームを……」

 

 

ティアナ(別)「ただの蹴りで……」

 

 

『吹っ飛ばした?!』

 

 

零「……あ、しまった……窓ガラス壊してしまった……これって器物破損になるのか?」

 

 

肉眼でも見えないスピードで襲ってきたワームをただの回し蹴りで吹っ飛ばしたという有り得ない業を為した零に驚愕するこの世界のなのは達だが、当の本人の零はワームを蹴り飛ばしたせいで窓ガラスを壊してしまったことに対し、建物に謝るように両手を合わせていた。

 

 

零「あー……まあいいか、金を下ろせるようになったら修理代は払おう。取りあえず、今はあっちか」

 

 

なのは(別)「あ……あの……」

 

 

零「む?」

 

 

フェイト(別)「何者、なんですか……アナタは……」

 

 

ワームを蹴り飛ばした零になのは(別)達は驚いた様子のまま聞くと、零は軽く手を振りながら答える。

 

 

零「気にするな、ただの通行人だ」

 

 

「つ、通行人…?」

 

 

零「そう、通りすがりのな……変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

零はそう言うと取り出したディケイドのカードを構えながら叫び、腰に巻いていたディケイドライバーへと装填してディケイドに変身していった。

 

 

なのは(別)「えっ?!」

 

 

ギンガ(別)「な、なに!?あの姿!?」

 

 

シグナム(別)「変身した……だと?!」

 

 

ヴィータ(別)「コイツ……まさか仮面ライダー?!」

 

 

アズサ「……ディケイ……ド?」

 

 

零が変身したディケイドを見て驚愕の表情を浮かべるなのは(別)達と、ディケイドの名を聞いて何処か聞き覚えがあるような顔を浮かべるアズサ。ディケイドは特に気にした様子も見せずに両手を叩くように払い、左腰のライドブッカーをSモードへと展開しながらカブトとガタックを拘束する触手とワームへと駆け出し斬り付けていった。

 

 

『アガアァッ?!』

 

 

ガタックR『クッ?!ゲホッゲホッ!ハァ……ハァ……ッ?!お、おい光!アイツって?!』

 

 

カブトR『……ッ?!あのライダーは……まさか?!』

 

 

ワームの触手から解放されたカブトとガタックは何度か咳込みながらワーム達を斬り飛ばしていくディケイドを見て驚愕して戸惑い、ワーム達をライドブッカーで斬り付けていたディケイドはライドブッカーを左腰に収め一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『とっととカタを付けてやる……』

 

 

『KAMENRIDE:FIRST!』

 

 

カードをバックルにセットしてスライドさせるとディケイドライバーから光りが放たれ、ディケイドは光りに包まれるとDfirstへと変身していった。

 

 

スバル(別)「変わった?!」

 

 

ティアナ(別)「な、何なのよアイツ?!」

 

 

ガタックR『あれって……初代一号?!』

 

 

カブトR『いや、あれは滝のfirst…?ということは……まさか奴が……?』

 

 

Dfirstに変身したディケイドを見てガタックとなのは(別)達が再び驚愕する中、カブトだけは何かを思い出したように仮面の下で眉を寄せていた。そして変身したDfirstはワーム達の攻撃を退けながら鋭い脚技でワーム達を吹っ飛ばし、ライドブッカーからカードを取り出していく。

 

 

Dfirst『この前カードを整理してた時に見つけた新しいカード……お前等に見せてやるよ』

 

 

Dfirstはカードの角を軽く叩きながらそう言うと、ディケイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『AMAZINGATTACKRIDE:FIR・FIR・FIR・FIRST!』

 

 

Dfirst『フッ!ハアァァァァァァァアッ……!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にDfirstは右手に風を、左手に雷を、右脚に氷を、左脚に炎を纏わせながら腰を屈めていく。そして四肢のエレメントをドライバーに集約し全身にエネルギーを覆わせ、Dfirstは上空へと高く飛び上がりワーム達に向けて跳び蹴りを放っていった。

 

 

Dfirst『セアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『アガッ?!ガ…ギギャアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Dfirstの必殺技、first Extreme shotがワーム達の内の一体に炸裂すると共に巨大な爆発が発生し、周りにいたワーム達すらも飲み込んで跡形も残さず完全に消滅していったのであった。そしてそれを確認したDfirstはディケイドへと戻り、両手を軽く払いながら奇跡的に生き残った一体のワームを見据えていく。

 

 

ディケイド『さて、残ったのはお前だけのようだな?次は……どうする?』

 

 

『グウゥゥゥゥゥ……シャアァッ!!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

このまま正面から突っ込んでも勝機はないと悟ったのか、ワームは悔しげに唸り声を上げながらクロックアップを発動させて牽制でもするかのようにディケイドの周りを超高速を移動していく。それを見たディケイドはガッカリしたとでもというように肩を竦めながら更にカードを取り出した。

 

 

ディケイド『やれやれ……考えた結果がそれか?幻滅だな。その選択をした先に待っているのは……』

 

 

『KAMENRIDE:KABUTO!』

 

 

そう言いながらディケイドがバックルにカードを装填すると電子音声が鳴り響き、それと同時にディケイドの姿が赤いボディと青い瞳を持ったカブトムシに酷似したライダー……前の世界でルルーシュが変身したのと同じカブトへと変わっていった。

 

 

エリオ(別)「?!あ、あれって?!」

 

 

フェイト(別)「光と同じ……カブト?!」

 

 

カブトに変身したディケイドを見て信じられないものを見たような顔を浮かべる六課の面々だが、Dカブトはライドブッカーから更にカードを取り出しディケイドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:CLOCK UP!』

 

 

Dカブト『…フッ!』

 

 

電子音声が響くと同時にDカブトはクロックアップの効力により肉眼では捉えられない超スピードで動き出し、牽制を仕掛けていたワームの背後へと一瞬で回り込みながら一枚のカードを取り出しバックルに装填した。

 

 

Dカブト『――the・end…だ』

 

 

『FINALATTACKRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に背後から響いた電子音声にワームは驚愕しつつも慌てて振り返っていくが、時は既に遅く……

 

 

Dカブト『…ハァッ!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!―

 

 

『アギッ?!ガ…アガ……ガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Dカブトの上段回し蹴り、ライダーキックがワームの頭部を捉えて蹴り飛ばし、ワームは数歩後退りながら断末魔の悲鳴を上げて爆散していったのだった。そしてそれを確認したDカブトはディケイドへと戻っていき、それと同時にクロックアップの効力も切れて周りの時間の流れも正常に戻っていったのであった。

 

 



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第十六章/NXカブトの世界③(後編)

 

 

キャロ(別)「……す、凄い……」

 

 

なのは(別)「あ、あの仮面ライダー……一体何者なの?」

 

 

フェイト(別)「いきなりバッタみたいなライダーに変身したと思えば、今度は光のカブトになって……アレは一体……?」

 

 

ワームの大群をたった一人で倒したディケイドに六課メンバーは驚きを通り越して唖然としていたが、ディケイドはただ無言で足元に転がっているワームの残骸を足で弄っていた。

 

 

ディケイド(成る程な……確かにコイツ等、カブトの世界のワームより戦闘力が上だ……チッ……また面倒な世界に飛ばされたモノだな。さっさとアズサの記憶を見つけてカブトの世界に『おい、ディケイド』……あ?)

 

 

ワームの残骸を見下ろして内心めんどくさそうに舌打ちしていたディケイドだが、その時誰かに呼ばれて顔だけを振り向かせていく。すると其処には、フェイトとなのはに身体を支えられながらこちらを見据えてくるカブトとガタックの姿があった。

 

 

ディケイド『なんだ?助けた礼ならいらないぞ?別にそんなの欲しくないし、男から貰われても嬉しくない』

 

 

カブトR『そうじゃない、助けてもらった事に関しては礼を言う。だがその前にこちらの質問に幾つか答えろ……お前、門矢士か?』

 

 

ディケイド『かどやつかさ?……誰の事を言ってるのか知らんが俺はそんな名前じゃないし、そんな奴の名前も知らんな』

 

 

ガタックR(な、何だ……士じゃねぇのかよ……)

 

 

ディケイドの返答を聞いて何故か何処となくガッカリしたように肩を落とすガタックだが、カブトはそれを横目に見ただけで何も言わず再びディケイドに質問する。

 

 

カブトR『ならば二つ目だ……さっきお前が変身したライダー……あれはfirstだろう?お前、滝を知ってるのか?』

 

 

ディケイド『へぇ?アイツの事を知ってるのか?中々有名人になってるじゃないか、アイツも』

 

 

カブトR『…御託はいい、質問に答えろ』

 

 

ディケイド『……確かに知ってるぞ……何せ、アイツとは命懸けで殴り合った仲でもあるからな』

 

 

カブトR『?!命を掛けて……だと?お前、まさか滝を襲ったのか?』

 

 

ディケイド『あ?』

 

 

カブトの言葉にディケイドは思わず間抜けな声で聞き返してしまうが、其処で間を置いて少し考えていく。

 

 

このカブトはどうやら滝のことを知っているらしい。つまりは滝の性格も知っているという事だ。だから恐らく命懸けで戦ったと聞いてこんな質問をして来たのだろう。

 

 

滝は自分から命を掛けてまで相手に喧嘩を売るような真似をする性格ではない。あるとすれば、それは滝の世界のはやて達や仲間達の身が危機に曝された時などしかない。

 

 

だから必然的に自分から何かをした、という風に思われてしまってるのだろう。

 

 

ディケイド(……やれやれ……原因は滝の方にもあるんだが、我ながら信用がないな……全く、随分と素敵な信頼関係を築き上げたな滝?ホントに素晴らし過ぎてこっちはものすごく迷惑してるんだが……)

 

 

それを差し引いても此処まで信用がないのだろうか、自分は?と溜め息を吐いてカブトの方を見れば、後ろにいるなのは達まで自分を警戒するような目で見つめている。恐らく滝と戦ったと聞いて自分を敵ではないかと疑い始めているのだろう。

 

 

ディケイド(……チッ……この世界でも厄介者扱いか……俺は……)

 

 

今までの世界でもそうだったが、それは何時も傍に居てくれたなのは達がいたから気にしなくても済んだ。だが今は自分一人だけ……自分を庇ってくれる仲間など存在しない。だから自分の仲間と同じ存在であるこの世界のなのは達にあんな目で見られるのは、正直心にかなりきていた。まるで仲間にまで否定されているような錯覚を感じてしまうから。だから居心地が悪すぎる。

 

 

ディケイド『……ま、俺と戦ってアイツが死に掛けたっていうのは、確かに事実だが?』

 

 

『なっ…?!』

 

 

カブトR『貴様……滝を傷付けたという事か?』

 

 

ディケイド『そうだな……それに関しても別に嘘じゃない。現にアイツに怪我を負わせたのは事実だしな』

 

 

カブトR『…………』

 

 

何でもないようにそう告げたディケイドにカブト達がディケイドに向ける敵意も更に増した。別にこれに関しては嘘は言っていない。現に自分と戦ったせいで滝は事前に負っていた傷が開き少しばかり死に掛けたし、自分から攻撃して滝に怪我を負わせたのも事実だ。ただ、わざと挑発するように言ったせいか少々誤解されてしまったようだが。

 

 

カブトR『……以前鳴滝が来た時にはお前と戦う気はなかったが……気が変わった』

 

 

ディケイド『ほぉ、やはり奴から俺の話を聞いていたか?』

 

 

カブトR『あぁ……そして今お前と話して分かった。お前は門矢士とは違う……鳴滝の言う通り破壊者だとな』

 

 

ディケイド『またその名前か……誰のことを言ってるのか知らんがいいだろう。俺とやろうって言うなら、相手になるぞ?』

 

 

そう言いながらディケイドは二枚のカードを取り出しカブトに見せように構え、カブトもディケイドに向けてクナイガンKモードを構えていき、それを見ていたガタックはディケイドとカブトを交互に見てどうするべきかと焦っていた。そしてディケイドはカブトを見据えながらライドブッカーから取り出したカオスのカードと相手の時を止めるカード……クロックアップやハイパークロックアップなど時に関するものを例外なく止めてしまうタイムストップのカードをバックルに装填しようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

『うにゃー!』

 

 

ディケイド『…は?―ガバッ!―ウオォッ?!』

 

 

『……へ?』

 

 

 

 

突如カブトとガタックの間を黒い何かが擦り抜け、そのままディケイドの仮面にへばり付いていったのだ。突然の事態にディケイドも思わずバランスを崩し地面に倒れてしまい、その衝撃で変身が解除されてしまった。そして零は訳も分からないまま視界を阻む何かの背中と思われる部分を掴み、それを確かめるのに十分な距離までそれを離した。それは……

 

 

零「……シロ?」

 

 

シロ『にゃー!』

 

 

零の顔にへばり付いた物の正体、それは先程アズサに拾われた黒猫のシロだったのだ。黒猫が零に捕まれて鳴く中、アズサがカブト達の背後から現れ零の下へと駆け寄っていく。

 

 

アズサ「零、大丈夫?」

 

 

零「ッ……アズサ……お前自分の猫ぐらいちゃんと見てろ…!」

 

 

アズサ「……ごめんなさい……でも、零も喧嘩は良くないと思う」

 

 

零「…何?」

 

 

アズサの言葉に零が思わず訝しげに聞き返すとアズサは零から離したシロを胸に抱きながら屈み、零の目を見つめながら話し出した。

 

 

アズサ「零、悲しそうな目をしてる。でもだからって、自棄になってわざと悪者になっちゃ駄目……そんな事しても、零が苦しいだけだから」

 

 

零「…!」

 

 

変わらず無表情のままではあるが、まるで自分の心を見透かしたようなことを告げたアズサに零は思わず息を呑んだ。が、零は直ぐに舌打ちしながらアズサから目を逸らした。

 

 

零「別にお前には関係ないだろう……俺は破壊者……悪魔なんだからな。別に悲しいなんて「嘘」…は?」

 

 

アズサ「破壊者って言われた時、あの人達に睨まれてた時の零……凄く傷ついてた。なのに零はそれを否定しなかった……どうして?」

 

 

零「……どうせ俺の言葉なんて聞くワケないだろう?優矢もワタルも滝もそう、初めは俺が破壊者じゃないと言っても誰も信じてはくれなかった……なのは達が違うと否定してくれるまではな……なら今回も同じに決まってる。それなら最初から破壊者と思われて戦った方が楽だ」

 

 

アズサ「…………」

 

 

誤解から始まった自分とライダーの戦いを止めてくれたのは何時もなのは達だった。だがそのなのは達がいない今、どうせ自分が何を言っても信じてはくれないだろう。そう勝手に解釈して喧嘩を買った方があまり傷付かずに済む。だが……

 

 

アズサ「……じゃあ、私が違うってあの人達に説明する。零は破壊者なんかじゃないって」

 

 

零「は?………って待て!いきなり何いってるんだ?!大体、お前は俺の事情なんて何も知らないし関係もないだろう?!」

 

 

アズサ「うん。事情は知らないし、関係ないけど大体分かった……零が破壊者や悪魔なんかじゃない、優しい人だってこと」

 

 

零「なっ……」

 

 

コイツは何を言ってるんだろうか?当然のようにそう言い放ったアズサに零も開いた口が塞がらず呆然とした表情になってしまうが、アズサはシロを抱いたままカブト達の方へと駆け寄り事情を説明し出した。

 

 

零(……何を考えてるんだあの女は?会ったばかりの俺が優しい人間だと?何故根拠もないのにそんな風に思えるんだ……)

 

 

別に自分はそんな優しい人間でもないと思うし、今回のアズサの記憶探しだって結局は自分の失態にアイツを巻き込んだという責任感から生まれた物。別にあの女を助けたいから、という善意の為の行動じゃない。なのに……

 

 

零(……なのになんで……あそこまで必死になっているんだ……)

 

 

アズサの方を見れば、口数の少ない言葉でカブト達に自分が悪人ではないと何処か必死になりながら説明している姿が目に映った。

 

 

零(……クソッ……本当に面倒な女を拾ってしまったなっ……)

 

 

内心そう思いながら思わず舌打ちしてしまう零だが、取りあえず事情を詳しくは知らないアズサだけにこのままカブト達の説得をやらせる訳にはいかない。そう思いながら零はゆっくりと立ち上がり、事情を説明しようとアズサとカブト達の下へと歩き出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ねぇ姉さん……アレが例のやつ?」

 

 

「えぇ、首に身につけた鈴のついた首輪……間違いないわ」

 

 

その一方、一つの建物の影では零達の様子を盗み見る妖しい二つの人影があった。それは先程ビルの屋上で何かを話し合い、街に向けてワームの大群を放った張本人である二人の女性であった。

 

 

「それにしても、まさか私達の放ったワームが倒されちゃうなんてねぇ?せっかく脱皮の時期を見計らって放ったっていうのに」

 

 

「それについては大体予想通りよ……でも、予想外な展開が一つだけあったわね」

 

 

「あの子が破壊者と一緒にいるっていう事でしょう?っていうかなにやってんのあの子?もしかして自分の使命を忘れちゃってる?」

 

 

「さぁね……作戦の為に彼に近づいたという可能性も捨て切れないけど……もし何らかの事故で全てを忘れているなら、チャンスよ」

 

 

「もうパクっちゃう?でもあの胡散臭い預言者に見つかったら何言われるか分かんないよ?」

 

 

「あぁ、あの預言者に関してはもうどうでもいいそうよ。何でもあの方があの男には利用価値がないらしいから、もう目を盗む必要はないそうよ」

 

 

「そうなの?じゃあなんだもう簡単じゃない、それならもうアイツ捕まえて良いんでしょう?」

 

 

「いいえ、まだ駄目よ……今はまだ破壊者とカブトとガタックに六課メンバーがいる……十分に捕獲出来る状況になってからじゃないと駄目よ」

 

 

「ちぇ、じゃあまだお預け?つまんないのぉ~」

 

 

まだ今はその時ではない。そう言われた太股を開いた女性はつまらなげに口先を尖らせながら路地裏の方へと歩き出し、零達を観察していた黒いローブの女性もそれを追うように歩き出した。そして二人の行き先に歪みが出現し、二人はそれを潜り抜けて何処かへと消えていっていったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界④(前編)

 

 

―機動六課・食堂―

 

 

あれから数時間後、アズサの協力もあって何とか誤解を解く事に成功した零は、カブトとガタックの変身者……天道光と輝神勇司の提案でこの世界の機動六課へと訪れ、食堂に場所を移し事情を説明していた。

 

 

光「………つまり、お前はカブトの世界での役目を終えて次の世界に向かおうとした時にハイパーゼクターの暴走で強制的に飛ばされ、この世界に迷い込んだという事か?」

 

 

零「あぁ、簡単に言えばそんなところだな」

 

 

今まで受けた説明を纏めて聞いてきた光に零がカメラの手入れをしながら答え、テーブルに置いてある珈琲を手に取って口の中に流し込んでいく。

 

 

なのは(別)「でもちょっと実感ないな…異世界の私達が色んなライダーの世界を旅してるなんてυυ」

 

 

零「ま、そう思うのも無理はないだろう。俺達も最初は戸惑った物だからな…」

 

 

はやて(別)「んー…まぁ、光君が平行世界の私等に会ったっていう話しもある訳やしなぁ……なら、あの子も零君の連れなんか?」

 

 

そう言いながらはやて(別)は別のテーブルでこの世界のスバル達と三人の少年達……ライルとリオンとアッシュに黒猫を触らせているアズサに目を向けるが、零は「いいや」と首を左右に振って否定した。

 

 

零「アレはちょっと事情があって拾っただけだ…どうやら記憶喪失という奴で、自分の名前以外は思い出せないらしい」

 

 

フェイト(別)「記憶喪失?あの子、事故にでもあったの?それとも何か精神的なショックを受けたとか?」

 

 

零「…まぁ、イロイロあってな…だからアイツの記憶を探しに街中を歩き回っていたんだが……残念な事に収穫は無しだ」

 

 

はやて(別)「そっかぁ……そんなら、シャマルに見せてもらったらどうや?一度検査してもらえば、記憶を取り戻す治療法とかもなんか掴めるかもしれへんし」

 

 

シャマル(別)「そうですね…良かったら私の方であの子を診察しますけど、どうします?」

 

 

零「……そうだな……出来たらそうしてもらえると助かる……正直、俺だけじゃ限界があるし」

 

 

ホントならアズサを巻き込んだ本人である自分がやらなければいけない事だが、自分の力だけではアズサの記憶を確実に取り戻せそうにない。ならば此処は専門家に任せるべきだろうと考えて首を縦に振ると、今度は勇司が苦笑いを浮かべながら零を見つめてきた。

 

 

勇司「にしても、お前も口下手だよな?さっきのは光にも原因はあるけど、お前もあんな言い方すれば誤解だってされるぜ?υυ」

 

 

零「それについてはちゃんと謝っただろう?それに、先に疑いを掛けてきたのはそっちなんだ……だから俺もそれ相応の態度を取っただけに過ぎん。文句を言うなら、ちゃんと説明してなかった滝に言え」

 

 

光「……確かにな、帰る前に滝からちゃんと話を聞くべきだった。そう言われても仕方ないが……お前にも原因はあるぞ?何故怪我のことも、滝が誤解してお前と戦うことになったと言わなかった?」

 

 

門矢士ではないディケイドが、本当にこの世界を破壊する悪魔ではないかと警戒していた光にも原因はあるが、誤解されるような言い方をした零にもその原因はある。光が何故あの時弁解しなかったのかと質問すると、零は深い溜め息を吐きながら告げる。

 

 

零「……生憎今までの経験のせいか、破壊者と疑われたら弁解は無駄だと認知してるんでね。違うと言っても意味はないと思った……それだけだ」

 

 

なのは(別)「今までの経験って、そんなに今まで誤解されてたの?破壊者って」

 

 

零「あぁ…何度違うと言ってもどいつもこいつも悪魔だとか破壊者だとか言って問答無用で殴り掛かってくるし、変な中年おやじには刺客を送られて何度も殺されそうになるし、ワケの分からないライダー達には狙われるし、なのは達には半殺しにされる毎日だし……軽く人間不信になり掛けてるんだよ……」

 

 

フェイト(別)「あ、あはは……苦労してるんだねυυ」

 

 

光(成る程、色んな意味で滝に似てるな……いや……寧ろ滝より酷いかυυ)

 

 

聞いただけでもかなり凄そうな生活を送っている零の話に若干引いてしまうフェイト(別)となのは(別)達。そんな一同から同情の視線を送られて気まずくなったのか、零は思わず一同から顔を逸らしてしまう。

 

 

勇司「え、えっと……そうだ!確か零は色んなライダーの世界を回って旅してるんだろ?今までどんな世界を巡ってきたんだ?」

 

 

なのは(別)「あ、それ私もちょっと聞きたいかも」

 

 

零「ん?今まで回ってきた世界か……取りあえず今巡った世界はこれだけだな」

 

 

零はそう言ってテーブルにクウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、カブト、電王、キバのカードや、先程変身して見せたfirstやエクスにキャンセラー、七柱神のカードなど外史のライダー達のカードを並べていき、光達はそれを手に取りまじまじと眺める。

 

 

はやて(別)「ほえぇ…仮面ライダーってこんなに沢山おるんやな?」

 

 

フェイト(別)「カブトもあるし、こっちのfirstってさっきも零が変身してた奴だよね?」

 

 

シグナム(別)「ブレイド、剣のライダーか……これは少し興味があるな」

 

 

勇司「キャンセラーにベルクロスにホルスか……俺らの知らないライダーも結構あるんだな」

 

 

光「それもそうだが………このCLIMAX FORMとはなんだ?」

 

 

零「?あぁ、それはディケイドのクライマックスフォームになれるフォームライドカードだ。簡単に言えば電王のてんこ盛りみたいな奴」

 

 

勇司「ディケイドのクライマックスフォームっ?!」

 

 

光「……なら、このサモンライドとやらは?」

 

 

零「ライダーの変身者をそのまま強制的に呼び出せるカード。もちろん幻影じゃなく本物をだが」

 

 

光「……人権無視というか、軽くチートじゃないか?それ」

 

 

零「俺に言うな、作った奴(幸助)に言え」

 

 

あのチートオブチートが作るものはどれも目茶苦茶過ぎるんだ、と内心冷や汗を流しながら珈琲を啜る零。がその時、零はテーブルに並べた絵柄の消えた一枚のカードを見付けて険しげに眉を寄せた。

 

 

零(…?何だこれ?こんなカード、前に整理した時にあったか?)

 

 

零は疑問げにそう思いながらテーブルに並べられた見覚えのないシルエットだけのカード……『PRIEST』と書かれたライダーカードを手に取って眺めていくが、やはりこんなカードに見覚えはない。いつの間に紛れ込んでいたんだ?と、零は不思議そうに首を傾げながらカードをジッと見つめていた。そんな時……

 

 

―トントンッ―

 

 

アズサ「零、零…」

 

 

零「…?アズサ?どうした、何かあったの―――」

 

 

不意に背後からアズサに肩を叩かれ、カードから視線を逸らして思わず背後へと振り返る零。しかし、何故か零は背後に立つアズサを見た途端固まってしまい、カードを眺めていた光達もアズサを見て固まってしまった。何故なら……

 

 

零「――――おい……頭についてるそれは何だ?」

 

 

アズサ「?……耳」

 

 

零「……何の耳?」

 

 

アズサ「猫の耳、通称ネコミミ」

 

 

シロ『にゃー!』

 

 

その言葉を肯定するかのように、少女の胸に抱かれた黒猫が鳴いた。零の目の前に立っていたのはアズサ、アズサなのだが……何故かその頭には黒猫と同じフサフサとした黒い耳、世間ではネコミミと呼ばれる耳が付けられていた。なんですかそれは?的な目で零と光達がアズサを見つめる中、先程までアズサと話をしていたスバル達がアズサの両肩を叩いた。

 

 

スバル(別)「どうですか皆さん!アズサさん、かなりカワイイでしょ~♪」

 

 

勇司「……いや、あの……っていうかそれどうしたの?υυ」

 

 

アズサ「…スバル達と一緒に作った。シロとお揃い」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

リオン「えぇっと……実はさっきアズサさんの猫の話題で盛り上がってた時に、アズサさんがいきなり『シロとのお揃いが欲しい』って言い出したんですよυυ」

 

 

ギンガ(別)「それでちょっと流れ的に作ってようか?みたいな感じになっちゃって…υυ」

 

 

零「…お前な、少しは他の人の迷惑とか考えろ…」

 

 

アズサ「?……変?」

 

 

なのは(別)「あ、ううん、そんなことないよ?全然似合ってるよ♪」

 

 

はやて(別)「せやな♪その子とお揃いっちゅう事は、アズサちゃんのそれも黒猫の?」

 

 

アズサ「うん……発情期のネコ」

 

 

『…………へ?///』

 

 

一同硬直。アズサの言葉の意味が分からず一瞬固まってしまうなのは(別)達だが、直ぐにその意味に気付き思わず顔を赤くしてしまう。

 

 

零「それを言うなら"成長期"だろうっ…!」

 

 

アズサ「?………そーとも言う」

 

 

零「そうとしか言わん!」

 

 

アズサ「……シロ、お前とお揃いだよ。にゃあ」

 

 

シロ『にゃー』

 

 

零「……無視?無視か?人にツッコミさせといて無視かお前」

 

 

アズサ「にゃー」

 

 

シロ『うにゃ~』

 

 

零「……なぁ、知ってるかアズサ?テレビで言っていたが、無視って虐めに繋がるんだぞ?」

 

 

アズサ「シロ、お腹空いてる?何か食べる?」

 

 

シロ『にゃー!』

 

 

零「………………………………すまん……珈琲のお代わりもらっていいか…?」

 

 

『ア、アハハハ…υυ』

 

 

アズサに話を聞いてもらえず、変わりに珈琲のお代わりを求める零。そんな零とアズサのやり取りに勇司達は思わず苦笑いを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―機動六課・屋上―

 

 

数時間後、あの後食堂での会話はお開きになり、零は六課の屋上へと訪れ爛々と星が輝く夜空を見上げていた。因みにアズサはシャマル(別)の診察を受ける為に医務室に足を運んでおり、今此処にはいない。

 

 

零「……そういえば、こうして六課の屋上から夜空を眺めるのも久しぶりだな……」

 

 

少しばかり自分の世界が恋しくなりながらそう呟き、零はポケットからハイパーゼクターを取り出し金色に輝く月に翳すようにそれを眺める。

 

 

零「……アズサの記憶探しもいいが、どうやって帰るかな……コイツを使おうにも役に立ちそうにないし」

 

 

今すぐとまでは言わないが、アズサの記憶を見付けた後の事を考えたら少し焦ってしまう。この世界に海道がいるなら、アイツを締め上げて光写真館まで連れていってもらうという方法もあるにはあるが、アイツがこの世界にいるという確証もない。考えれば考えるほど方法が見つからなくなってしまい、零は暗くなる考えは止めようと頭を左右に振ってハイパーゼクターをポケットに押し込んだ。そんな時……

 

 

「……此処にいたのか」

 

 

零「ん?」

 

 

後ろから声を掛けられ、零は思わず背後へと振り返った。すると其処には屋上の扉を開けてこちらへと歩み寄ってくる青年……光の姿があった。

 

 

零「何だ?俺に何か用か?」

 

 

光「いいや、ただお前の姿が見えないのが気になって探してただけだ」

 

 

零「恋人を放ってか?以外と暇な奴だな、お前」

 

 

光「フェイトには後で嫌と言うほど構ってやるさ……其処の所に抜け目はない」

 

 

零「……そうかい、甲斐性がある奴で安心したよ。別世界の幼なじみとして」

 

 

そう言うと零は再び夜空を見上げていき、光も零の隣にまで歩み寄り夜空を見上げていく。

 

 

光「……やはり似ているな、お前と滝は」

 

 

零「…?何がだ?」

 

 

光「俺がfirstの世界に飛ばされた先でも、滝はこうやって六課の屋上から夜空を見上げて、俺はアイツを探して此処にやって来た。此処に来るまで、アイツとお前は考えてる事が似てるんじゃないか?と思った」

 

 

零「……いや、俺とアイツは似てなんかないさ……」

 

 

光「…?何故だ?」

 

 

首を左右に振って否定した零に光が疑問げに聞くと、零は星空を見上げたまま呟いた。

 

 

零「決まってる。アイツは馬鹿みたいに優しくて誰かとの約束を守る奴だが……俺は他人に優しくはなれないし、約束を守れない……そしてアイツは自分が守りたいと思うものを必ず守るが、俺は守りたいと思うものを守れた試しがない…」

 

 

光「…………」

 

 

零「……アイツと戦って、アイツが人造人間になってからの生き方を聞いて思ったよ……『あぁ、このままじゃコイツ、絶対後悔するな』って。昔の自分を見てるようだった……自分の命を投げ出す覚悟で戦って、周りの人間が悲しんでいるのにも関わらず戦い続けている……その結果、どんな悲劇が待っているのか……嫌と言うほど簡単に予想出来た」

 

 

光「…………昔のお前も、滝のような生き方をしていたのか?」

 

 

零「…………」

 

 

険しげに聞かれた問いに、零は口を閉ざした。そして暫く二人の間に沈黙が流れると、零は漸くゆっくりと口を開いた。

 

 

零「…………助けたかった二人がいた……だけど、俺はその二人を救えず見殺しにした……そして今度は、目の前でなのはが討たれたのを黙って見てるしか出来なかった……」

 

 

光「…………」

 

 

零「…悔しくて……自分の無力さを何度も呪った……力がある癖に、守ると誓った癖に……ただ見てるしか出来なかった。そんな無力な自分が嫌で、何も守れない自分が嫌で、死ぬ思いで強くなろうと努力した…」

 

 

それが正しいのだと信じていた。力さえあれば、強くなれば誰かを守れる。もう誰も失わない、もう誰も涙を流す事なんてないと。

 

 

零「無理しないでくれと、アイツ等にも何度も止められた。だが俺がもっと強くなればコイツ等をちゃんと守れる、もう涙を流させる事はないんだと信じて……そう自分に言い聞かせて……俺はアイツ等の手を振り払った……」

 

 

光「…………」

 

 

零「アイツ等は必死に俺を止めようとしたのに、俺はそれを聞かず無理を続けて……その結果……逆にアイツ等に深い悲しみを与え、ただ自分が後悔するだけの結果が残ってしまっただけだった」

 

 

守る事と、無茶をする事は全くの別物だ。守るというのは、相手や自分をも守れて初めてそう言えるのだ。無茶をして誰かを守ったとしても、誰も喜んだりはしない。ただ自分が守れたと思って自己満足するだけの独善にしか過ぎない。滝と出会った時、自分を顧みず無茶して誰かを守ろうとする滝を見て、嘗ての自分もこうだったんだと初めて思えた。

 

 

零「……俺は後悔ばかりの人生を歩んできた……だがアイツはまだ間に合うし、そんな馬鹿な真似はしないと信じてる。俺みたいに道を踏み外す事はないと……大事な人を泣かせる馬鹿なんて、俺だけで充分だからな」

 

 

光「…………」

 

 

まるで自分を自嘲するように笑う零に、光は何も言わない。

 

あの時の少年も、ただ純粋に大事な人達を守りたいが為に走り続けただけだった。だが行き過ぎたのだ。

 

周りを見ないで走り続け、何時しか道を踏み外し、踏み外した事にすら気付かず走り続け、辿り着いた先で後悔し、自滅した。

 

誰も救われない、自分すらも救われない結末で終わってしまった。

 

だからそんな生き方を滝に……いや、誰にもしないで欲しいと零は願っている。今でも……

 

 

零「…………辛気臭い話をしたな……忘れてくれ」

 

 

我ながら馬鹿な話をしてしまったと内心後悔しながらそう言うと、零はそのまま屋上から出て行こうと早足で歩き出した。が……

 

 

光「…………確かに……」

 

 

零「……?」

 

 

その歩みを止めたのは光の呟きだった。零は扉の前で立ち止まったまま振り返ろうとせず、光も夜空を見上げながら続ける。

 

 

光「……確かにお前は……間違えたのかもしれない。だが、お前が誰かを守りたいと願った思いまでは……間違っていなかった筈だ」

 

 

零「…………」

 

 

光「やり方はどうだったにしても、お前がなのは達を思う気持ちに嘘偽りはない。それを分かっているから、お前の世界のなのは達も……アズサもお前を慕っているんだろう」

 

 

零「……アズサ?」

 

 

光の口から出た名前に零は思わず首を傾げながら聞き返し、光は零の方へと振り向きながら語る。

 

 

光「お前を破壊者だと誤解した時、アズサは必死にお前を庇っていたんだ。『零は悪魔じゃない』、『零は良い人』とかな……」

 

 

零「……アイツが……そんなことを……」

 

 

光「此処まで慕われているんだから、お前もアズサを大事にしてやれ……今のアイツの居場所は、お前しかいないんだから」

 

 

零「…?俺が……アイツの居場所?」

 

 

光「記憶喪失という事は、アズサの居場所は何処にもないということだ。何処に行けばいいのか、これからどうしたらいいのか分からない。そんな今のアズサの居場所になってやれるのは……お前しかいないだろう?」

 

 

零「…………」

 

 

そうだ。記憶がない今、アズサはきっとこれからの事で不安になっているに違いない。何時も無表情でいるせいで少々分かり難いが、アズサからすれば見るもの全てが始めてなのだ。そんな彼女の支えになれるのは、アズサを最初に拾い、記憶失ってから初めて親しくなった自分しかいない。

 

 

零「……そうだな……分かった……記憶を見つけるまでの間、出来る限りアイツから離れないようにする」

 

 

光「そうしてやれ、アズサもきっと喜ぶだろう」

 

 

零「……フッ……こんな俺でもそう思ってくれるなら、俺も少しは気が楽になるんだがな」

 

 

零が何処か寂しげな笑みを浮かべてそう言うと、光は真剣な表情で背中を見せる零を見据えながら語る。

 

 

光「零…こんなこと俺には言えた立場ではないだろうが、一つだけ言っておく」

 

 

零「…………」

 

 

光「お前は誰も守れないと言ったが、それはお前の思い違いだ。お前はちゃんと誰かを守れている……現にアズサも、俺や勇司もお前に助けられた。お前は……お前自身が思っているより強いと、俺はそう思っている」

 

 

零「…………」

 

 

一度も振り返らないまま、ただ光の言葉に耳を傾ける零。そして零は一度溜め息を吐くと、屋上の扉のドアノブに手を掛けながら口を開いた。

 

 

零「それは買い被り過ぎだ………俺は別に強くなんてない、弱い人間だ。俺より強い人間なんか他にいるぐらい、お前だって知ってるだろう?」

 

 

光「…………」

 

 

零「俺はただ、自分が後悔するような生き方は二度としないと、そう誓った……弱い自分なりに、俺は俺のやり方でアイツ等を守ると……今までの自分とは違うやり方で守り抜くと、そう決めたんだ…」

 

 

何処か力強い決心が込められた口調でそう告げると、零は扉を開き屋上を後にしたのだった。そして屋上に一人残された光は零が出ていった扉から視線を外し、零が見ていた金色の月を見上げていく。

 

 

光「……いいや……お前は充分強いよ、零……」

 

 

誰かに向けられたモノなのか、或いは単なる独り言なのか。その呟きは夜空へと吸い込まれように消えていき、星は今も尚爛々と輝いていたのだった。

 

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界④(後編)

 

 

それから数時間後……

 

 

 

アズサ「…………ん…………………?」

 

 

時刻は0時。日付が変わり、ミッドチルダが漆黒の闇と静寂に包まれている中、此処機動六課のとある一室に備え付けられたベッドで眠っていた少女……アズサが眠たそうに瞼を摩りながら何故か目を覚ました。

 

 

アズサ「……………………………此処は………」

 

 

見慣れない部屋。まだ意識が完全に覚醒していないままキョロキョロと辺りを見渡し、最初にそう思った。何故こんな所にいるのかと一瞬疑問に思って首を傾げてしまうアズサだが、部屋を見回していく内に徐々に思い出していく。

確か医務室でシャマル(別)の診察を終えた後、スバル達に案内されてこの部屋にやって来たのだが、疲れが溜まっていたのか部屋に入って直ぐにベッドに寝転がりおそらくそのまま眠ってしまったのだろう。

 

 

シロ『にゃー』

 

 

アズサ「?……シロ?」

 

 

漸く状況を理解したところで不意に猫の鳴き声が耳に届き、アズサは思わずそれが聞こえてきた方へと視線を落とした。其処には自分の飼い猫である黒猫がベッドの上で丸まりながら自分を見上げてきており、それを見たアズサは黒猫を抱えて膝の上に乗せていく。

 

 

アズサ「どうしたの…お前も眠れない?」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

耳を軽く撫でながら問い掛ければ、気持ち良さそうに両目を細めながら鳴き声を上げた。そんな黒猫に思わず微笑を浮かべると、アズサは顔を上げて再び部屋の中を見渡していく。

 

 

アズサ「……静か……だね……」

 

 

カーテンの隙間から射す月の光りに照らされながら、ポツリと呟くアズサ。おそらく殆どの局員が眠りに付いているからだろう。先程まで部屋の外から聞こえてきていた声や物音も、今は何一つ聞こえては来ない。

 

 

アズサ「……………此処にいるのは……………私だけ……………誰も……………いない……………」

 

 

部屋を見回して思わずそう呟き、表情を少し曇らせて顔を俯かせてしまうアズサ。こういう静かな雰囲気は一人でいる時には余り好きではない。それに知っている人が近くにいないというのは、正直不安だ。始めてくる場所というのもあるが、なにより記憶喪失のせいというのもある。此処で出会った人達は優しくて親切な人達ばかりだが、やはり見たことのない見ず知らずの場所に一人だけというのは心細い。

 

 

アズサ「…………」

 

 

寂しい。ふとそんな言葉が脳裏を横切り、その感情が心の中を埋め尽くしていく。更に周りを支配する暗闇と静寂がその感情を余計に駆り立てさせる。まるで自分だけが知らない世界に取り残されたような……そんな錯覚を感じ、自然と膝に乗せていた黒猫をキュッと抱きしめていた。

 

 

アズサ「…………」

 

 

そんな辺りに漂う静けさが次第に不気味に思えてきたのか、アズサは黒猫を胸に抱いてベッドから降り、そのまま扉を開けて部屋から出ていってしまった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そしてその頃、零は光達が用意してくれた部屋の机に座ってある資料を目に通していた。それは先程アズサの診断をしてくれたシャマル(別)が届けてくれた資料とカルテ……アズサの脳に関する内容が書かれた資料だった。

 

 

零(……やはり、何らかの強いショックを脳に受けたのが原因で記憶喪失になっているようだな。その強いショックとやらが暴走したハイパークロックアップによる強制転移だと考えるのが妥当か……)

 

 

そう考えながら資料を一枚一枚めくり、流れるような視線でカルテの内容を確認していく零。そして資料から一旦視線を外し、机の隅に置かれたハイパーゼクターを手に取って資料と交互にそれを見つめていく。

 

 

零(だが一番の疑問は……何故ハイパーゼクターがアズサを俺の下に転移させたのかっていうことだが……いや……それは俺にも言えたことか。何故コレは俺をいきなりこの世界に飛ばした?……まさか、アズサと引き合わせる為とでも?)

 

 

……いや、それこそまさかだろう。何故なんの接点もないアズサと自分を引き合わせる必要性がある?それこそ正に意味不明だ。だがそれ以外に特にコレといった要因など思い浮かばない。一体コイツは自分に何をさせたいのだろうかと暫くハイパーゼクターを睨む零だが……

 

 

零「…………止めよう……今考えても何も分からないし、取りあえず明日も早いんだから……寝るか」

 

 

これ以上予測だけで考えても時間の無駄だ。明日は引き続きアズサの記憶探しにクラナガンに向かわねばいけないのだから早く休もうと、零は机から立ち上がりベッドに畳んであった光達が用意してくれた服に着替えベッドに入ろうとした。そんな時……

 

 

―………コンコンッ―

 

 

零「……ん?」

 

 

なんの前触れもなく扉の方からノック音が響き、零はベッドに入ろうとするのを止め扉の方へと振り返っていく。

 

 

零(客?こんな真夜中に?……一体誰だ?)

 

 

こんな真夜中に訪問してくるなんて一体誰だろうか?と首を傾げつつも、流石に無視する訳にはいかないので扉へと歩み寄り、ドアノブに手を掛けて扉を開いていった。

 

 

―ガチャッ―

 

 

零「誰だ?こんな夜遅くに…………って、お前……」

 

 

 

 

シロ『にゃー』

 

 

アズサ「…………」

 

 

 

 

扉を開けた先に立っていたのは何故か一匹の黒猫を胸に抱いたパジャマ姿の碧銀の髪の少女………アズサがポツンと部屋の前に立っていたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

数分後……

 

 

 

零「……此処に泊めて欲しい?」

 

 

アズサ「……うん」

 

 

取りあえずアズサを部屋の中に入れた零は、アズサから事情を聞いて怪訝な表情を浮かべていた。アズサが此処に来たのは、どうやら自分の部屋に泊めて欲しいというなんだか良く分からない理由の為らしい。

 

 

零「泊めて欲しいって……お前、確かスバル達に用意された部屋があるだろう?」

 

 

アズサ「うん」

 

 

零「なら何故そんなことを言う?部屋でなにかあったのか?」

 

 

アズサ「……ううん」

 

 

零「なにもない?なら此処に泊まる必要なんかないだろう?自分の部屋に戻って寝ればいいじゃないか」

 

 

アズサ「…………」

 

 

何の問題もないなら、何故わざわざ此処に泊まる必要がある?そう言ってめんどくさそうな表情を浮かべながら聞き返す零だが、アズサは黒猫を抱いて顔を俯かせながらポツリと呟く。

 

 

アズサ「…………………………………寂しい……」

 

 

零「……なに?」

 

 

アズサ「……一人でいるの……心細い……だから……此処にいたい……」

 

 

零「………ハァ……ガキかお前は…?」

 

 

一人で寝るのが怖いからここで寝かせて欲しい。そんな子供みたいなことを告げてきたアズサに零は思わず瞼を抑えながら溜め息を吐いてしまう。が……

 

 

零(……いや……そう思うのも無理はないか?コイツは今記憶がなくて何もかもが始めてな状態なわけだし……心細いと思うのも無理はないか。実際コイツにはそんな事を打ち解けるまで親しい知り合いなんていないんだし……)

 

 

そういえば、自分も高町家に拾われた最初の頃は似たような経験をした事があった気がする。なにもかもが始めてで内心では戸惑い、でもそれを打ち解けるだけの親しい知り合いは誰もいなかった…………まぁ、いなかったというよりは自分から作らなかっただけで、別にアズサみたいに不安に思った事はない。寧ろ周りの人間が信じられず、高町家や同じ学校に通うクラスメイト達を警戒して敵意を剥き出してたような……

 

 

零(…今思えば…我ながら子供らしくない学生生活を送ってたな……俺……)

 

 

アズサ「…どうしたの?」

 

 

零「……ん?あ、いや……ちょっと昔を思い出してただけだ」

 

 

不思議そうな表情で聞いてきたアズサの声で現実に戻り、何でもないと首を降る零。そして零は顎に手を添えながら何かを考えるような仕種を見せると、少し小さめな溜め息を吐きながら告げる。

 

 

零「分かった……シャマルにお前への考慮を伝え忘れた俺にも責任はある。勝手に何でも使えばいい……」

 

 

アズサ「!…いいの?」

 

 

零「駄目だと言って落ち落ち込まれながら帰られても、逆に気になってこっちが眠れんだろう。そうなると迷惑だから言ってるんだ、勘違いするな…」

 

 

アズサ「………ん、ありがとう」

 

 

シロ『にゃ~』

 

 

相も変わらず無表情で礼を言うと胸に抱いた黒猫も一鳴きし、アズサはそのまま先程零が使おうとしたベッドに近寄るとシロをベッドの下に寝かせ自身もベッドに入っていく。零はそんなアズサにやれやれと疲れたように軽く溜め息を吐くと、部屋の隅に備え付けられているソファーへと近づいていく。

 

 

アズサ「……?何処行くの?」

 

 

零「ん?何処って、ベッドはお前が使うんだろう…?だから俺は其処のソファーで寝るんだ。別に何処にも行かない」

 

 

アズサ「…………」

 

 

不安げに聞いてきたアズサにソファーを指差しながら何処にも行かないと告げる零。それを聞いたアズサはジッと感情の篭らない瞳でソファーを暫く見つめると、何故かベッドの中でモゾモゾと動き出しもう一人分入れるぐらいのスペースを作っていく。

 

 

零「?おい、何をしてる?」

 

 

アズサ「……貴方がそんな事する必要はない……此処は元々貴方の為に用意された部屋。だから私の事を気にする必要もない」

 

 

アズサは平坦な口調でそう言いながらモゾモゾと動いてもう一人分のスペースを作り、零を見上げながら空いたスペースをポンポンと叩いた。

 

 

アズサ「…一緒に寝よ?」

 

 

零「…………………………………………………は?」

 

 

シロ『にゃー』

 

 

やはり平坦な口調でそう告げたアズサ。零はその言葉の意味が分からず何ですと?的な顔を思わず浮かべ、二人の間にいる黒猫の鳴き声が静穏に包まれた部屋に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

結論から言えばあの後、零は安眠を邪魔されるのが嫌だからと言ってアズサからの提案を断りソファーで眠ろうとしたが、提案を断られたアズサに悲しそうな顔をされたのが原因で敢え無く折れてしまい、結局は同じベッドで眠る事にしていたのだった。

 

 

零(……クソッ……本当にめんどくさい女だなコイツは……こういうタイプの女はどう対処していいのかも分からないから尚更めんどくさいっ……)

 

 

とか何とか言っておきながら結局はアズサの言う通りになってる我らが主人公。もうお前完全に尻に敷かれてね?と思う方もいると想うがそこは敢えて言わないであげて欲しい。これでも一応プライドはあるのですよ、『一応』は……大事な事なので二回言いました。

 

 

アズサ「………零、起きてる?」

 

 

零「……あぁ、後ろに気配を感じるせいで全く眠れない。誰かのせいでな」

 

 

背後から聞こえてきたアズサの声に若干不機嫌そうに答える零。因みにアズサは普通に天井を見つめるような態勢で眠っており、零はアズサから背を向けるような態勢で腕を枕にしながら眠っている。アズサはそんな零を見る事なく、天井に視線を向けたままゆっくりと口を開いた。

 

 

アズサ「………今日は……ありがとう……」

 

 

零「…?何がだ?」

 

 

アズサ「記憶探しの事……正直、貴方が此処までしてくれるなんて思ってもいなかった……だから、ホントにありがとう」

 

 

零「……別に……礼なんかしてもらいたくてやってるんじゃない。俺は俺の為にやってるだけだ」

 

 

主にお前の記憶喪失の原因は俺だし、と心の中で付け足しながらさっさと眠ろうと瞼を閉じていく零だが、アズサは天井を見つめたままポツリと呟いた。

 

 

アズサ「……此処までしてもらえば……例え記憶が見つからなかったとしても、私も後悔はないと想う……きっと」

 

 

零「…!なに?」

 

 

アズサのその言葉に反応して瞼を開き、思わずアズサの方へと振り返った。其処には変わらず無表情で天井を見つめるアズサの顔が目に映ったが、その雰囲気は何処か儚いように見えた。

 

 

零「……どういう意味だ?まさか、記憶探しを諦めるとでも言うのか?」

 

 

アズサ「ううん、そうじゃない……ただ……もしも手掛かりが何も掴めなくて、記憶が取り戻せなかったとしても……零達に此処までしてもらえたから、もうどんな結果になっても悔いはないってこと……」

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「私は……あのまま零に助けられなかったら、きっと何処に行けばいいのかも分からず今もさ迷ってたと思う。そう考えたら、零に出会えたのは私の一番の幸運だった思う……」

 

 

零「……大袈裟だろう……というか寧ろ、俺に関わって運が悪いの間違いかもしれないぞ?こう見えて、俺はイロイロと厄介事を呼び寄せるみたいだからな」

 

 

実際これまでもそういうトラブルを呼び寄せることが度々あったし、その原因の殆どが自分絡みというのも多かった。特に今回の件も自分が大きく関係したトラブルだ。ならばアズサが零に拾われたのも幸運ではなく不運と呼ぶべきかも知れないと告げるが、アズサはそれを否定するように首を振った。

 

 

アズサ「……もしホントにそう思うなら、私はこんな気持ちにはならなかった。だから私は零に関わったのを不幸なんて思わないし、もしホントに不幸だったとしても……私はその不幸に感謝したい」

 

 

零「………………」

 

 

予想に反したその言葉に、零は思わず呆然としてしまう。何故この女はそんな事を何の戸惑いもなく言えるのか。それが理解出来ないし、その言葉を聞いただけで余計にこの少女を巻き込んだことに罪悪感を感じてしまう。ならそんな少女に何をしてやれるのか、自分が出来る事は…………

 

 

零「……分かった……そうまで言うなら、俺もひとつお前に誓おう」

 

 

アズサ「…?誓い?」

 

 

零「あぁ、誓いだ……お前が記憶を取り戻すまでの間、お前は俺が守る。そして必ずお前の記憶を見付けてやる。此処まで来たら意地だからな」

 

 

アズサ「…………」

 

 

自分がこの少女にしてやれる事なんてそれしかない。この少女が自分を此処まで思ってくれる以上、それに応えてやれるにはそれしか。その意味を込めてアズサにそう告げるとアズサは口を閉ざし、零の目を見つめながらおもむろに小指を差し出してきた。

 

 

零「…?なんだ?」

 

 

アズサ「約束」

 

 

零「約束?」

 

 

アズサ「うん……ちゃんと守るって約束……駄目?」

 

 

零「……………」

 

 

零は小首を傾げながらアズサが差し出してくる小指をジッと見つめると、おもむろに布団の中から手を出し小指を絡めようとするが、不意にある言葉が脳裏を横切り手の動きを止めてしまう。

 

 

 

 

―俺は誰にも優しくなんかなれないし、約束を守れた試しがない……―

 

 

 

 

零「……………」

 

 

アズサ「?どうしたの?」

 

 

零「……いいや、なんでもない。約束だ」

 

 

脳裏を横切った言葉を振り払うようにそう言うと、零はアズサの小指に自分の指を絡めていった。そしてアズサは互いの小指を絡めた手を見て無表情のままコクッと頷くと、そのままモゾモゾと零の懐へと距離を縮めてきた。

 

 

零「ッ!おいコラ、なんの真似だ…?」

 

 

アズサ「ん……此処が一番ぬくぬくする……ゴロゴロー……」

 

 

零「猫かおんどれはっ…」

 

 

アズサ「にゃあ……」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

零「……………もう勝手にしてくれ……」

 

 

もう相手にするだけ疲れると、密着してくるアズサを見て何度か分からない深い溜め息を吐く零。そしてそんな零の様子にも気付かず、アズサは零の胸元に頭を預けながら何処か安心したような表情で眠りについていったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同時刻、機動六課の近くにある土手。深夜という時間帯の為に人影が全く見当たらない中、その場から機動六課の隊舎を険しげに見つめる一人の男性……鳴滝の姿が其処にあった。

 

 

鳴滝「ちっ……行方不明と聞いて捜しに来てみれば、まさか記憶を失って奴と共にいるとはな……」

 

 

そう言いながら険しげな顔で六課の隊舎を睨みつけていく鳴滝だが、その表情は何故か次第に不気味な笑みへと変わっていく。

 

 

鳴滝「まあいいだろう……記憶に関してはさほど問題ではない。寧ろ奴に警戒されることなく近づき、奴も情を移し始めたことに関しては嬉しい誤算と言うべきか」

 

 

ソレが何を示して言ってるのか未だ分からない。ただ鳴滝は六課の隊舎を見つめながら不気味に微笑んでいく。

 

 

鳴滝「以前のαの時のような失敗は繰り返さん。ディケイド…今度こそこの世界が貴様の墓場となるのだ。βの……シュロウガの手によって……フフッ……フフフフフフッ」

 

 

鳴滝は薄気味悪い笑い声を漏らしながらそう言うと、背後に現れた灰色の歪みを通って何処かへと消えていってしまったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑤

 

 

―機動六課・食堂―

 

 

それから三日後の朝、あれから光達の力を借りては街に出てアズサに関する情報を探し回っていた零だが、それらしい情報はまだ一つも得られてなかった。そして今はクラナガンに向かう前に皆で食堂に集まり食事を取っている最中だった。

 

 

はやて(別)「――んでぇ、どや?なんかアズサちゃんについて分かったか?」

 

 

零「いいや、全然……」

 

 

勇司「色んなとこ回ってはいるんだけど、それらしいもんはまだ見付からないんだよ……やっぱ情報が少な過ぎるからさυυ」

 

 

フェイト(別)「まぁ、今のところ手掛かりになるのは名前だけだもんね……アズサはどう?何か思い出した?」

 

 

食事をしていたフェイトは手を止めてアズサになにか思い出したかと聞いていくが、アズサは無言のまま首を左右に振ってその問いに答えた。

 

 

なのは(別)「そっかぁ……やっぱり、そう簡単に思い出せる筈ないよね……」

 

 

アズサ「……ごめんなさい……私の為に、皆が必死に頑張ってるのに……」

 

 

ギンガ(別)「あ、謝る事なんてないですよ!一番大変なのはアズサさんなんですから、そんな気にしないで下さいっ」

 

 

アズサ「……でも……」

 

 

零「…………」

 

 

この三日間、皆が自分の為に記憶探しを手伝ってくれているのに自分は何もしてやれない。その事に対して罪悪感を感じてしまってるアズサは表情を曇らせながら俯き、隣でそれを聞いていた零は目を細め、何も言わずに自分のおかずを一つアズサの皿に移していく。

 

 

アズサ「……?零?」

 

 

零「……悪いと思っているなら早く食って街にいくぞ。今日は昨日より捜索範囲を広げるからハードになる……倒れられても困るからそれ食って力でも付けとけ」

 

 

アズサ「………ん。ありがとう」

 

 

零の言葉に一瞬呆然としてしまうアズサだが、それが彼なりに元気づけているのだと気付きコクッと小さめに頷いた。零はそれを横目で見ると再び視線を落として料理を食べようとフォークを動かすが、はやて達がニヤニヤと笑いながら自分を見ている事に気付き目を細めた。

 

 

零「……何だ?」

 

 

はやて(別)「んー?べっつにぃ~♪ただ零君、アズサちゃんに対しては妙に優しいんやなぁ~と思って♪」

 

 

零「は?」

 

 

スバル(別)「そうそう♪前までは迷惑がってたのに、最近は何て言うかこう……二人の間に私達じゃ分からない絆?があるみたいな♪」

 

 

アズサ「…?」

 

 

はやて達の言ってることが良く分かっていないのか、不思議そうに小首を傾げるアズサ。隣に座る零もその意味は余り分かっていないが、何となくからかわれている事は分かり片眉を器用に動かしていた。

 

 

零「一応聞きたいんだが、それは俺をからかっていると取ってもいいのか…?」

 

 

スバル(別)「まっさかー♪そんな事ないですよ?ですよねぇ、八神部隊長♪」

 

 

はやて(別)「せや♪単純に二人が仲良くなって喜んどるだけやで?ムフフフ♪」

 

 

零「…………………」

 

 

勇司「え、えーっと…と、とにかく食おうぜ?なっ!早くしねぇとアズサの記憶探しも出来ないし!υυ」

 

 

明らかに自分達を見て面白がっているスバルとはやてをジト目で睨みつける零を見て流石にマズイと思ったのか、すかさず間に入って話題を逸らそうと必死になる勇司。が、そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ビー!ビー!ビー!!―

 

 

『緊急事態!緊急事態!市街地にてワームが出現しました!数は現在40~50!更に増え続けている模様!』

 

 

『…ッ?!』

 

 

突如食堂内にアラートと共にワーム出現の警報が鳴り響き、その内容に零達は思わず驚愕してしまう。

 

 

なのは(別)「またワームっ…?!」

 

 

光「チッ…勇司、いくぞ!」

 

 

勇司「分かった!ワリィ零、アズサの記憶探しは後だ!お前は此処でアズサと待ってて……」

 

 

零「いいや、俺も一緒に行かせてもらう」

 

 

勇司は零にアズサと一緒に此処で待っているように言おうとするが、零はそれに対して自分も一緒に行くと告げながら席から立ち上がっていく。

 

 

勇司「で、でもよ……」

 

 

零「ライダーなら多いに越した事はないだろう?それにワームが早く片付かないとコイツの記憶探しにも行けない。邪魔になるつもりはないから安心しろ」

 

 

光「……分かった。だが、無理はするなよ?」

 

 

光は零の同行を許可すると勇司と共に食堂を出て市街地へと向かっていき、零もすぐに二人の後を追おうとするが……

 

 

―……キュッ―

 

 

零「……ん?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

食堂から出ていこうとする零の服の袖をアズサが掴み、それを引き止めていったのだ。零はいきなり引き止められた事に対し訝しげな表情をしながらアズサの方へと顔を向けると、アズサは何処か不安げな瞳で零を見上げてきていた。

 

 

零「お前……?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

そんな目を向けてくるアズサに零は更に訝しげに眉を寄せるが、その目には何処か見覚えがあった。それは以前、自分が強くなろうと良く無茶ばかりしていた時……疲労で倒れそうな身体で任務に向かおうとした時に仲間達から向けられた目に何処となく似ていた。

 

 

零(……チッ……めんどくさいなホントに……)

 

 

おそらくこの少女は不安なのだろう。もしもこのまま自分が帰って来なかったら、と。そんなアズサの心境に気づいた零は内心舌打ちしながら軽く溜め息を吐くと、首に掛けていたカメラを外してアズサの首に掛けていく。

 

 

アズサ「?何…?」

 

 

零「……ちょっと出てくるから預かってろ。帰ってきた時に返してもらうから、傷なんか付けるなよ?大事な物なんだからな」

 

 

アズサ「…………」

 

 

そう言いながら指を指してくる零にアズサは何も言わず、無言のまま首に掛けられたカメラを手に取った。おそらく彼がこのカメラを預けてきたのは……『絶対に帰ってくる』……という意思表示のつもりなのだろう。その意味に気付いたアズサは小さく頷き、再び零を見上げていく。

 

 

アズサ「――分かった……大事に預かってる。だから……早く帰ってきて」

 

 

零「……あぁ、言われなくてもそのつもりだ……」

 

 

軽く頬を掻きながらそう言うと、零はアズサから背中を向けて今度こそ食堂から出ていき、それを見送ったアズサは預けられたカメラをギュッと大事そうに片手で握り締めていく。

 

 

シャマル(別)「……アズサちゃん。此処は少し騒がしくなるから、一度部屋に戻りましょう?」

 

 

アズサ「……うん」

 

 

周囲を見渡してみれば、今まで食事をしていたハズのなのは達を含む局員が全員いなくなっている。恐らくワームの出現に伴い自分達の持ち場に向かったのだろう。ならば此処にいても他の局員の邪魔になるだけだとすぐに分かり、アズサはシャマルの言う通り部屋に戻ろうと席から立ち上がっていく。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……キイィィィィィィィィィィィィィィイン!!―

 

 

 

 

アズサ「――ッ?!!ぅっ……ぁ……!」

 

 

―ドサッ!!―

 

 

シャマル(別)「…え?ア、アズサちゃん?!」

 

 

突然アズサの耳に耳鳴りに似た不愉快な音が届き、それを聞いたアズサは両手で頭を抱えて悶え苦しみながら膝を付いていったのだ。

 

 

―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

アズサ「ぁ……ぁあ……うあぁ!」

 

 

シャマル(別)「ど、どうしたのアズサちゃん?!しっかりして!アズサちゃん!」

 

 

突然膝を付いて苦しみ出したアズサを見てシャマルは慌ててアズサに駆け寄って必死に呼び掛けていくが、アズサはただ両手で頭を抱えながら耳鳴りに似た不快な音に苦しんでいた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――時は来た……』

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ(ッ!だ……れ…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

『茶番は終わりだ……自らの役目に戻れ、β。お前の宿命は……お前が造られた意味は――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

―キイィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「――ッッ?!!!ぁ……あぁ……うっ………あああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?」

 

 

シャマル(別)「?!アズサちゃん?!」

 

 

より一層激しく鳴り響いた耳鳴り。それと共にアズサは断末魔にも似た悲鳴を上げながらその場にうずくまり、次第に悲鳴も止まってピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

シャマル(別)「……ア……アズサ……ちゃん……?」

 

 

アズサ「……………」

 

 

うずくまったまま動かなくなったアズサにシャマルが心配そうに恐る恐る呼び掛けると、アズサはゆったりとした動きで上体を持ち上げていき、閉ざしていた瞳を開いていく。だが、その目は先程までの赤い瞳ではなく、妖しげな輝きを放つ金色の瞳へと変化していた。

 

 

シャマル(別)「ア、アズサちゃん?大丈夫なの…?」

 

 

アズサ「…………私の宿命…………私の造られた意味…………私の存在意義…………それは…………」

 

 

シャマル(別)「え……ってアズサちゃん?何処に行くの?!待ってアズサちゃんっ!」

 

 

アズサは機械のような淡々とした口調でボソボソと何かを呟くと共に立ち上がり、そのままシャマルの静止も聞かずに食堂から飛び出し何処かへと走り去っていってしまった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そしてその頃……

 

 

 

光「――これは……」

 

 

零「……また随分と大勢の団体さんでいらっしゃったな……」

 

 

ワーム出現の警報を聞き、ワームが出現した区域へとやって来た零達。勇司は別の区域に現れたワーム達の討伐の為に二人と別れ、零と光は市街地を埋め尽くすほどの数で押し寄せてくるワームの集団と対峙していた。

 

 

零「……んで、どうする?どうやらまだ増殖し続けてるみたいだぞ、コイツ等」

 

 

光「のようだな……なら、コイツ等を纏めている親を倒せばいい。それでコイツ等の進行や増殖も止まる筈だ」

 

 

零「成る程、わかりやすくて気に入った……そういうことだ!隠れてないで出て来たらどうだ?」

 

 

光の提案に頷きながら零がワームの群れに向かって叫ぶと、それと共にワーム達の中から一人の女性が現れた。黒いローブを身に纏い、耳にピアスを身に付けた女性……それは、数日前にもミッドに大量のワーム達を放った二人の女性の内の一人だった。

 

 

「あらあら、随分と安く見られたものね?私がそんな簡単に倒されるような女に見えるのかしら?」

 

 

光「……お前か?コイツ等を纏めている親は?」

 

 

「えぇ、ご察しの通りよ。私の名はカラフィナ。以後お見知りおきを、カブトに世界の破壊者様?」

 

 

零「…?俺達を知ってるのか?」

 

 

この世界の住人である光はともかく、自分の名前まで知られているとは思ってもいなかったのだろう。零が怪訝な表情でそう聞き返すと、カラフィナと名乗った女性はクスッと笑いながら告げた。

 

 

カラフィナ「えぇ、貴方のことも良く知ってるわよ。世界を破壊する存在、ディケイド…それが貴方の本性だという事もね」

 

 

零「初対面の人間に随分な言い草だな……まあいい。それで、お前の目的はなんなんだ?これだけのワームを動かして、一体何を企んでる?」

 

 

カラフィナ「企む?別に何も企んでなんかないわよ?ただそう……少し手に入れたい物があってね。それを探しに来ただけよ」

 

 

光「手に入れたい物……だと?」

 

 

どういう意味だ?と訝しげな表情を浮かべてカラフィナを見つめる零と光だが、カラフィナはそれ以上答える様子もなく軽く手を上げていく。

 

 

カラフィナ「さて、お話は此処までよ。そろそろ始めましょうか?例の物を見つける為にも、貴方達にはどいてもらわなければ困るのだから」

 

 

カラフィナは薄い笑みを浮かべながらそう告げると共に、その姿を徐々に変化させていった。背中に二枚の羽根を持ったクロアゲハのような姿をした異形の怪人……アゲハワームは上げていた手を二人に向けて振り下ろし、それと共にワームの大群が二人に向かって突っ込んで来た。

 

 

光「チッ!零、いくぞ!」

 

 

零「あぁ、了解だ!」

 

 

二人は向かってくるワームの攻撃を退けながら後退し、零はディケイドライバーを腰に巻いてディケイドのカードを構え、光はジャケットを翻して腰のベルトを露出させると上空から飛来してきたカブトゼクターを掴み取った。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Henshin!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと同時に零はディケイド、光はカブトへと変身していき、カブトはベルトに装填したカブトゼクターのゼクターホーンを掴みながら叫ぶ。

 

 

カブトM『キャストオフ!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Change Beetle!』

 

 

ゼクターホーンを反対側に倒すと共に再び電子音声が響き、それと同時にカブトのマスクドアーマーが飛び散りライダーフォームへと変わっていったのである。そしてディケイドは左腰のライドブッカーをSモードに展開し、カブトはクナイガンを構えながらワームの大群に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

ガタックR『オリャアァ!セアァッ!!』

 

 

―ガキィ!!ガキィン!!ガギャアァンッ!!―

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

零と光と別れた勇司は既にワームが出現したという別の区域へと到着し、ガタックに変身してワームの群れと戦闘を開始していた。そしてその様子を眺める一人の女性……カラフィナと共に行動していたスカートを縦に破って太股を露出させた女性はガタックを眺めたまま口を開いた。

 

 

「へぇ~、中々頑張るじゃない?でもどんなに頑張ったってこの数を前にしたら無謀としか言えないでしょ?やられちゃう前にさっさと逃げちゃえば?」

 

 

ガタックR『デェアァ!!……へ、悪いな?生憎俺はそこまでビビリじゃないんだよ。お前こそ、さっさと尻尾巻いて帰ったらどう、だぁ!!』

 

 

「ムカッ……お前じゃないわ!私にはリリスって名前があんのよ!もうあったまキたぁ……いいわ、先ずはアンタから潰してあげるわよ!」

 

 

馬鹿にするかのように叫んだガタックの言葉に女性、リリスは苛立ちを露わにしながらその姿を徐々に変化させ、蛾のような姿をした怪人……モスラワームへと姿を変えてガタックに襲い掛かろうとする。だが……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『え……キャアァ?!』

 

 

ガタックR『?!何?』

 

 

ガタックに襲い掛かろうとしたモスラワームに突如無数の弾丸が降り注ぎ、突然の不意打ちに対応が送れてモスラワームは防御も出来ずに吹っ飛ばされていったのだ。ガタックは吹っ飛んだモスラワームを見て唖然となりつつも弾丸が放れてきた方に振り返ると、建物の物陰から銃を構えた青年がゆっくりと現れた。

 

 

ガタックR『?!そ、その銃……お前まさか?!』

 

 

大輝「――クロックアップシステムに加え、他のゼクターの技が使えるコンバインシステムやフォームチェンジまで搭載された、NEXTマスクドライダーシステム……最高のお宝だ。カブトの世界で頂き損ねたお宝、此処で頂こうかな?」

 

 

ガタックが青年の持つ銃を見て驚愕する中、青年……大輝はニヤリと不敵な笑みを浮かべながらポケットから取り出したディエンドのカードをドライバーに装填し、スライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

大輝「…変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

ドライバーの銃口を頭上に向けて引き金を引くと電子音声が響き、それと同時に大輝はディエンドへと変身していった。そして変身を完了すると共にディエンドは左腰のホルダーから二枚のカードを取り出しディエンドライバーにセットしてスライドさせていく。

 

 

ガタックR『や、やっぱりディエンドかよ?!』

 

 

『く、ぐぅ…な、何なのよアンタは?!』

 

 

ディエンド『あぁ、いきなり割り込んですまないねお嬢さん?でもそのクワガタ君は俺の獲物だから、君はコレと遊んでてくれないかな?』

 

 

『TOUHOURIDE:FRANCDOLL!SAKUYA!』

 

 

ディエンド『フッ!』

 

 

電子音声と共にドライバーの引き金を引くとディエンドの目の前を無数の残像が駆け巡り、それらがそれぞれ重なると一つは金髪の髪に幼さが残る顔立ちをした少女。もう一つはメイド服を身に纏った銀髪の少女となって姿を現していった。

 

 

『?!な、何よコイツ等っ?!』

 

 

ガタックR『ラ、ライダー以外の戦士を……呼び出しただと?!』

 

 

ディエンド『おっと、まだまだ終わりじゃないよ?更に……』

 

 

『ATTACKRIDE:TRANS!』

 

 

ディエンドが召喚した二人の少女……フランドールと咲夜を見てガタックとモスラワームが驚愕してる中、ディエンドは構わず新たなカードを装填すると同時にもう二枚のカードをディエンドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『TRANSRIDE:KIVA!KABUTO!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

『ウグッ?!』

 

 

そう言いながらディエンドが二人に向けて発砲すると、撃たれたフランと咲夜の腰にそれぞれ赤いベルトと鉄製のベルトが現れ、それと共にフランの元に黄金のコウモリ、咲夜の元に赤いカブトムシが飛来し、フランは黄金のコウモリに左手を噛ませて構えていく。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『Henshin!』

 

 

同時に叫ぶと共にフランと咲夜が黄金のコウモリと赤いカブトムシをそれぞれのベルトにセットすると、フランは黄色の瞳に赤い鎧を纏った戦士、咲夜は青い瞳と赤いボディを持った戦士……キバとカブトに変身していったのであった。

 

 

『なっ…?!』

 

 

ガタックR『キ、キバとカブトに……変身した?!』

 

 

ディエンド『ふふん。何、そんな驚くことじゃない。ただなのはさんのトランスの本来の力を使っただけなんだからね。まぁ、本来のトランスみたいな力じゃないから十五分しか持たないのが欠点だけど……それでも元々の身体能力にライダーの力をプラスさせたからかなり強いよ?』

 

 

そう言いながらディエンドがモスラワームとワームの群れに指鉄砲を向けて指示を出すと、フランと咲夜が変身したキバとカブトはモスラワーム達に向かって突っ込んでいった。

 

 

ディエンド『さてと、それじゃあ君には俺のお相手を願おうかな?異世界のクワガタ君!』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュン!!―

 

 

ガタックR『ッ!クソッ!何なんだ次から次へと?!てかもうチートだろうこのディエンド?!』

 

 

ライダー以外の戦士を呼び出し、更にその戦士を仮面ライダーに変身させたりなど目茶苦茶なことをやって見せたディエンドに思わず絶叫するガタック。しかしそんなのは関係ないと言わんばかりに、ディエンドは連射を続けながらガタックに突進していったのであった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑥

 

 

―ザシュン!!ザシュ!!ズシャアァッ!!―

 

 

カブトR(咲夜)『フンッ!ハッ!!』

 

 

キバ(フラン)『あははは!いっくよ~♪ギュッとしてドカーン!』

 

 

『ギ、ギギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『クッ?!な、なんなのよあの二人?!とんだ化け物じゃない?!』

 

 

断末魔と共に散るワーム達が起こす爆発と爆風に耐えながら、モスラワームは思わず毒づいた。彼女が引き連れたワームの群れはディエンドが召喚したフランと咲夜が変身したキバとカブトの二人によって次々と倒されていき、完全に流れを向こう側に掴まれていた。

 

 

『(目茶苦茶過ぎる!一体何なの?!あの二人の力は?!)』

 

 

カブトは無数のナイフとクナイガンを用いてワームの大群をあっという間に消し去っていき、キバに至っては手の平を握って離すという動作だけで大量のワーム達を倒していた。あまりの無双ぶりに冷や汗が止まらないモスラワームだが、それも仕方ない。ただでさえ元々の彼女達の戦闘能力はライダーを越えてるというのに、更にそれにライダーの力をプラスさせたのだ。これだけ圧倒的な力を身につけられても仕方がない。その一方……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

ガタックR『あっぶな?!クソッ!』

 

 

ディエンド『中々やるね?なら、これはどうだい!』

 

 

ガタックは自身の武器である槍……エクスハルバートを巧みに扱ってディエンドの連射を弾き返していき、ドライバーを乱射させていたディエンドもただの射撃では意味はないと悟ったのか、左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出しディエンドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:BAINDO!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

―バシュウゥッ……ガシィ!!―

 

 

ガタックR『…ッ?!な、なに?!』

 

 

電子音声と同時に引き金を引くと銃口から一発の弾がガタックに向けて放たれ、そのままガタックの身体に縄のように縛り付いていったのだ。身体を拘束されたガタックが身体に巻き付いたバインドに驚愕する中、ディエンドはドライバーの銃口をガタックに向けながら告げる。

 

 

ディエンド『どうやら此処までのようだね?どうする?まだやるかい?』

 

 

ガタックR『グッ!クソッたれめっ…!』

 

 

身体に巻き付くバインドを外そうと試みながらディエンドを睨みつけるガタックだが、思ったより頑丈なのかバインドは中々外れそうにない。そんなガタックの態度から大人しくゼクターを渡してくれそうにないと悟って軽く溜め息を吐き、ディエンドはホルダーから再びカードを取り出そうとする。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

キバ(フラン)『ウアァッ?!』

 

 

カブトR(咲夜)『キャアァッ!!』

 

 

 

 

ディエンド『…ッ?!』

 

 

ガタックR『な、何だ?!』

 

 

突如、二人の下にワーム達と戦っていた筈のキバとカブトが地面をバウンドしながら吹っ飛んできたのだ。それを見たディエンドとガタックは思わず動きを止めて二人が吹っ飛ばされてきた方へと振り返ると、其処には両腕から刃のように伸ばした針をこちらに向けながら近づいてくるモスラワームの姿があった。

 

 

『…あまり調子に乗らない事ね?私が本気を出せば、アンタ達なんて直ぐに潰せるんだから!』

 

 

ディエンド『へぇ…コイツは驚いた。君、ただの上級ワームじゃなかったのか?まさかハイパークロックアップを使えるなんてね…』

 

 

ガタックR『…ッ?!ハ、ハイパークロックアップだと?!』

 

 

ハイパークロックアップ。以前この世界のJS事件の際に現れた二体のワーム達が使っていたものと同じ力。それを目の前のワームも使えると聞かされたガタックは驚愕を隠せない様子でモスラワームを見つめ、ディエンドはめんどくさそうに溜め息を吐きながら口を開いた。

 

 

ディエンド『参ったなぁ、まさか君がそんな力を使えたなんてねぇ?…で、次はどうする気なのかな?』

 

 

『決まってんでしょ?そこのガタックもアンタも、私の手で捻り潰してやるわ…コイツ等を使ってねぇ!』

 

 

そう言ってモスラワームは左腕を勢いよく振り上げ、それと同時にモスラワームの背後に歪みの壁が出現していく。そして歪みが薄れて消えていくと、其処にはモスラワームの背後や上空を埋め尽くす数のライダー達……ファイズアクセルとフライングアタッカーをそれぞれ装備したライオトルーパーの大群が存在していたのだ。

 

 

ガタックR『なっ……ラ、ライオトルーパー?!』

 

 

ディエンド『……チッ……どうやらこの世界の黒幕さんも、既に組織と繋がりを持っていたようだね……』

 

 

『ふふふ、そう。分かったでしょ?貴方達がどんなに足掻こうとも、結局は私達の前に敗れる運命だってねぇ!!』

 

 

『START UP!』

 

 

ディエンドとガタックに向けてモスラワームが高らかに叫ぶと同時に、地上のライオトルーパーはファイズアクセルのボタンを押すと共に超スピードで二人へと突っ込み、空中を浮遊するライオトルーパー達もフライングアタッカーを操縦し上空から二人へと突っ込んでいった。それを見たディエンドは軽く舌打ちしながら左腰のホルダーからカードを取り出そうとし、ガタックは身体を巻き付けるバインドが未だ外せず焦っていた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!グ、グアァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

ライオトルーパー達がディエンドとガタックに襲い掛かろうとしたその時、突如上空から無数の砲撃が降り注ぎライオトルーパー達を一瞬の内に撃退していったのである。突然の事に驚き他のライオトルーパー達は思わず動きを止めてしまうが、それに構わず上空からは無数の砲撃の雨が降り注ぎ続けていた。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『な、何なのこれ?!どうなってんのよ?!』

 

 

ガタックR『な、なんだ?何が起きてんだ?』

 

 

ディエンド(……この攻撃……この魔力……そうか、アテナさんか!やってくれるな、絶好のベストタイミングだ!)

 

 

ガタックとモスラワームが上空から降り注ぐ砲撃の雨に驚愕し動揺する中、ディエンドは砲撃が放たれてくる上空を見上げながら笑みを浮かべ、左腰のホルダーから二枚のカードを取り出しディエンドライバーへとセットしてスライドさせていった。

 

 

『FINALTRANSRIDE:KIVA!KABUTO!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

『グッ?!』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドがキバとカブトに向けて発砲すると、撃たれたキバとカブトの下に二つの何かが現れていったのだ。キバの下には黄金の龍……魔皇龍タツロットが飛来し、カブトの下には銀色のカブトムシのような機械……ハイパーゼクターが空間を跳躍してカブトの手に握られていた。そして……

 

 

カブトR(咲夜)『ハイパーキャストオフ……』

 

 

『Hyper Cast Off!』

 

『Change Hyper Beetle!』

 

 

タツロット「びゅんびゅーん!いきますよぉ~?へんっしん!」

 

 

カブトがハイパーゼクターを左腰に装着して稼動させると同時に電子音声が鳴り響き、一回り大きくなった角と銀と赤に輝くボディに変わった姿……最強形態であるハイパーフォームへとフォームチェンジし、キバは左腕にタツロットを装着させると共に全身から金色の輝きを放ち、金と赤色に輝くボディに赤い瞳、背中に赤いマントを靡かせる姿……キバの最強形態であるエンペラーフォームへと変わっていったのであった。

 

 

ガタックR『ハ、ハイパーカブトにエンペラーフォーム?!上位変身まで出来るのか?!』

 

 

ディエンド『……クワガタ君、君はそこでジッとしていたまえ。アレを片付けたら、君の相手もしてあげるからさ♪』

 

 

ディエンドはガタックに指鉄砲を向けて撃ちながらそう言うと、上空から降り注ぐ砲撃の雨をかい潜りながらHカブトとキバEを連れてライオトルーパーの軍勢へと突っ込んでいった。

 

 

ガタックR『クッ……ジッとしてろだと?んなこと、出来る訳ねぇだろうが!』

 

 

全身を高速するバインドを外そうと力を込めながらそう叫ぶと、突如ガタックの左腰に何処からかハイパーゼクターが空間を跳躍して出現し、そのままガタックの左腰に装着されていった。

 

 

『Hyper Cast Off!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にガタックの姿が徐々に変化していく。変化を終えたその姿は、ガタックホーンが大型化して胸部のプレートが赤く変化したボディ……ガタック・ハイパーフォームへと強化変身していったのだ。

 

 

『Change Hyper Stag Beetle!』

 

 

Hガタック『っしゃあッ!こっから反撃だぜ!フンッ!!』

 

 

強化変身を完了すると共にHガタックは全身を拘束していたバインドを無理矢理引きちぎり、地面に落ちていたエクスハルバートを拾って上空からの砲撃に注意しながらライオトルーパーの大群へと突進していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

ディケイド『フッ!ハッ!セヤァッ!!』

 

 

カブトR『フン!ハッ!』

 

 

―ズシャッ!!ズバッ!!ザシャアァッ!!―

 

 

『ギシャアァッ?!』

 

 

場所は移り、ディケイドとカブトはライドブッカーとエクスブレードでワームの大群を斬り伏せ撃退を繰り返していた。だがどれだけ倒してもワーム達は一向に減る事はなく、毟ろ増殖を続けて数を増やすばかりであった。

 

 

『ふふ、どうしたの?早く私を倒さないと、ワームは一向に増えていくばかりよ?』

 

 

ディケイド『チッ!傍観者気取りやがって…!』

 

 

カブトR『ッ!だがあまり時間は掛けられないっ……一気に行くぞ!』

 

 

親であるアゲハワームを倒さない限り、ワームの増殖は止まる事はない。そう考えたディケイドとカブトはそれぞれ戦っていたワームを蹴散らし、ディケイドはライドブッカーをガンモードに切り替えながら一枚のカードをディケイドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『ハァ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ヌ、ヌガアァァァァァァァァァアーーーッ!!?』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

カブトR『クロックアップッ!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

ディケイドは周りを埋め尽くすワームの大群に向けてライドブッカーGモードを乱射させて撃破していき、それと同時にカブトは腰のボタンを叩くように押して超高速の世界へと突入し、緑色の爆発の中を駆け抜けアゲハワームへと一直線に突っ込んでいく。が……

 

 

 

 

『……フフ』

 

 

―シュンッ!―

 

 

 

 

カブトR『…?!なに?!―バキィッ!!―ウグアァ?!』

 

 

『Clock Over!』

 

 

ディケイド『――?!光ッ?!』

 

 

アゲハワームは突っ込んできたカブトRの目の前から突然消え去り、そのままカブトを上回る超スピードでカブトを吹っ飛ばしていってしまったのだ。吹っ飛ばされたカブトはその衝撃でクロックアップが解除され地面を転がっていき、それを見たディケイドは慌ててカブトへと駆け寄り身体を起こしていく。

 

 

『フフ、どうしたのカブト?その程度の速さじゃ、私を倒すことなんて出来ないわよ?』

 

 

カブトR『クッ!今の異常な速さ……まさか…?!』

 

 

先程アゲハワームが使ったクロックアップに心当たりがあるのか、カブトは何かに気付いたかのような表情でアゲハワームを見据え、アゲハワームはそんなカブトの様子にクスリと笑って返した。

 

 

『えぇ、貴方が今予想した通り……以前貴方とガタックが倒したガルドとゼアスが使っていたのと同じ力、ハイパークロックアップよ』

 

 

カブトR『ッ!』

 

 

ディケイド『?!ハイパークロックアップ…だと?』

 

 

ハイパークロックアップと言えば、魔界城の世界でのコーカサスとの戦いや自分やアズサがこの世界に飛ばされた時に身を持って体験したあの力だ。それを目の前で使ってみせたワームにディケイドとカブトも一瞬驚くが、すぐさま気を引き締め直しそれぞれの武器を構え直していく。

 

 

『…あら、以外と冷静ね?私の力のことを知れば多少は動揺するのかと思ってたんだけど』

 

 

ディケイド『あぁ、そいつは悪いな…?生憎こっちにはクロックアップ系に対抗する手なんて幾らでもあるから、そんな事じゃ驚きもしないんだよ』

 

 

カブトR『俺達も日々進化している。ハイパークロックアップだろうがそれ以上のクロックアップだろうが、俺には通用せんさ…』

 

 

『へぇ…随分と自信があるのねぇ?だったらその自信が嘘か真か……確かめてあげるわ!』

 

 

二人の返答に怒るどころか寧ろ期待を持ったのか、アゲハワームは満足げに笑いながらワームの大群と共に二人へと駆け出し、ディケイドとカブトもそれを迎え撃とうとライドブッカーとエクスブレードを握る手に力を込めていく。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォオンッ……!!―

 

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

ディケイド『ッ!これは…?!』

 

 

今正に双方が激突しようとした瞬間、突如ディケイド達の周りを灰色の歪みが包み込んでいったのだ。突然の事態に一同は思わず立ち止まって辺りを見渡していくが、その時ディケイドとカブトの背後に歪みの壁が出現して一人の中年男性…鳴滝が姿を現した。

 

 

カブトR『…ッ!貴様……鳴滝!』

 

 

鳴滝「ごきげようディケイド……元気そうで何よりだよ」

 

 

ディケイド『……はぁ……またお前か?いい加減しつこいにも程があるぞ?今度は何の用だ?』

 

 

鳴滝「決まってる、お前を今度こそ消し去りにきたのだ……お前にこれ以上世界を破壊させる訳にはいかん!」

 

 

ディケイド『またか………毎度毎度懲りもせずにご苦労だなぁ?で、どうせまた俺を消そうと刺客でも用意したんだろう?今度はなんだ?』

 

 

また別世界のライダーでも連れてきたんだろうと予想しながら呆れたように鳴滝に聞いていくディケイドだが、鳴滝は無言で不気味な笑みを浮かべながらその場から退くように下がった。すると鳴滝が立ってた場所の背後に一人の少女……碧銀の髪に虚ろな金色の瞳をし、首からカメラを下げた少女が立ち尽くしており、その少女を見たディケイドとカブトは驚愕したように両目を見開いた。

 

 

カブトR『お、お前は……?!』

 

 

ディケイド『……ア、アズサ……?』

 

 

アズサ「……………」

 

 

そう、その人物とは六課でディケイド達の帰りを待っている筈の少女……アズサだったのだ。しかしアズサは虚ろな瞳でディケイドとカブトを見つめるだけで何も言わず、アズサの様子が可笑しい事に気付いたディケイドは敵意を込めた目で鳴滝を睨みつけた。

 

 

ディケイド『貴様っ……何の真似だ!!アズサに一体何をした?!』

 

 

鳴滝「フフフ……何をしただと?何もしていないさ。ただ彼女には、自らの役目に戻ってもらっただけだ」

 

 

カブトR『?自らの役目…だと?』

 

 

一体何を言っているんだ?と言った表情を浮かべながら鳴滝を睨むディケイドとカブトだが、鳴滝はそれを無視して妖しげな笑みを浮かべたままアズサの方へと振り返っていく。

 

 

鳴滝「さぁ、出番だβ」

 

 

アズサ「……はい……分かりました……」

 

 

アズサは機械のような淡々とした口調で鳴滝に応えながら鳴滝の目の前に立つと、腰に無数の粒子が集まり漆黒のベルトとなっていった。

 

 

カブトR『ッ?!あれは…ライダーベルト?!』

 

 

ディケイド『……そんな……まさか……?!』

 

 

アズサ「……魔装転神……」

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

電子音声が響くとアズサの身体を漆黒のスーツが纏い、更にアズサの周りに無数の装甲が現れ次々とアズサのスーツに装着されていく。すべての装甲が装着されたその姿は二枚の機械的な漆黒の大翼を持ち、漆黒と金の装甲を身に纏い赤い瞳を持った仮面の戦士……そう、仮面ライダーへと変身したのであった。

 

 

カブトR『何っ…?!』

 

 

ディケイド『……ア、アズ……サ……?』

 

 

『…………』

 

 

突如ライダーへと変身したアズサを見てディケイドとカブトは驚愕してしまい、鳴滝はそんな二人の様子に不敵な笑みを浮かべながら高らかに告げる。

 

 

鳴滝「…彼女は以前貴様に向けて放ったアストレアの後継機であり、貴様を消す為に私が放った刺客………シュロウガだ!」

 

 

カブトR『シュロウガ……刺客だと……』

 

 

シュロウガ『……魔神剣……』

 

 

高らかにそう告げた鳴滝にディケイドとカブトは呆然とアズサ…『シュロウガ』を見つめていき、シュロウガは左腕に漆黒の魔力を注ぎ込んで手の平の前に展開された魔法陣から紅い刀身の剣を取り出していった。

 

 

鳴滝「さぁ、やれシュロウガ!世界を破壊する悪魔、ディケイドをその手で抹殺するのだ!」

 

 

シュロウガ『……了解しました……マスター……』

 

 

―シュンッ!!―

 

 

ディケイド『?!―ドガアァァァァァァァァァアンッ!!―グッ?!グアァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

カブトR『なっ……零?!アズサ?!』

 

 

シュロウガは鳴滝の命令に応えると同時に一瞬でディケイド達の視界から消え、そのまま目にも見えない猛スピードでディケイドを吹っ飛ばしていったのだった。カブトはそれを見て直ぐさまシュロウガを止めようとするが、それを邪魔するかのようにワームの大群とアゲハワームがカブトの前に立ちはだかった。

 

 

カブトR『ッ!貴様!』

 

 

『ふふ、ごめんなさいね?私もあの子の力を確認しておきたいのよ……私達の目的に役立つかどうかをねぇっ!!』

 

 

カブトR『チィッ!!』

 

 

アゲハワームはワーム達と共にカブトへと一斉に襲い掛かり、カブトは舌打ちしながらエクスブレードを構えてアゲハワーム達に対処していく。そしてその様子を横目に、鳴滝はシュロウガに追い詰められるディケイドを見てほくそ笑んでいた。

 

 

鳴滝「フフッ、君がβを預かってて都合が良かったよディケイド……βに情など移したお前に彼女を倒せるはずもない。お前は守ろうと決めた大切な存在の手によって、今度こそ消え去るのだ!フフッ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

―ズシャアァッ!!ズシャアァッ!!ズシャアァンッ!!―

 

 

ディケイド『グッ?!止せアズサ!!俺だ!零だ!!分からないのかッ?!!』

 

 

シュロウガ『……死になさい、破壊者……貴方の存在は……許されない……』

 

 

ディケイド『ッ!アズサァッ!!!』

 

 

シュロウガ……アズサを止めようと必死に呼び掛けるディケイドの悲痛な叫びも虚しく、無慈悲にも振り下ろされる紅い刃。

 

 

ディケイドを消し去ろうと静かな殺意と敵意を放つシュロウガのその姿に、彼が知る少女の面影など何処にもなかった……

 

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑦(前編)

 

 

その頃、ミッドの別区域ではモスラワームと激突するHガタックとキバE、そして地上と空中から襲い来るライオトルーパーの大群と戦うディエンドとHカブトの姿があった。モスラワームと激突するHガタックとキバEはエクスハルバートとザンバットソードを巧みに扱いながらモスラワームへと攻撃し、ディエンドとHカブトは空中のライオトルーパーをアテナの砲撃に任せて地上部隊を迎え撃っていた。

 

 

Hガタック『オリャアァ!デェアァッ!!』

 

 

キバE(フラン)『ハアァッ!ハッ!!』

 

 

―ズシャアァッ!!ガキィッ!!ズバァッ!!―

 

 

『アグゥッ?!クッ…!?こんのぉ!!』

 

 

Hガタックが振りかざすエクスハルバートがモスラワームの腕を弾いて隙を作り、その隙を付くかのようにキバEのザンバットソードが縦一文字にモスラワームのボディを斬り裂き徐々に追い詰めていく。そしてある程度ダメージを与えたと思ったHガタックはエクスハルバートを腰に仕舞い、ハイパーゼクターを稼動させてガタックゼクターのフルスロットルボタンを押していき、それを横目で見たディエンドも左腰のホルダーから徐に三枚のカードを取り出してドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『Maximum Rider Power!』

 

『one!two!three!』

 

『FINALATTACKRIDE:SA・SA・SA・SAKUYA!KI・KI・KI・KIVA!KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

Hガタックはガタックゼクターのフルスロットルボタンを押していくとゼクターホーンを回転させ、ディエンドライバーから電子音声が鳴り響くと共にキバEはザンバットソードの根元に噛み付く黄金のコウモリ…ザンバットバットからフエッスルを取り外しベルトの止まり木に止まるキバットへと吹かせていった。

 

 

キバット「ウェイクアップッ!」

 

 

Hガタック『ハイパーキックッ!』

 

 

『Rider Kick!』

 

 

キバットの掛け声と電子音声が響くと、Hガタックは右足にエネルギーを溜め、キバEはザンバットバットを掴んでザンバットソードの剣先までスライドさせるとザンバットソードの刀身が紅く染まり、剣先まで辿り着いたザンバットバットを再び剣の根元まで戻すと共にモスラワームへと突進し、そして……

 

 

キバE(フラン)『ハアァァァァァァ……ヤアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『ウグアァァッ?!ガッ…?!』

 

 

Hガタック『オォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

ザンバットソードから放たれた必殺技、ファイナルザンバット斬がモスラワームの身体を斜め一閃に斬り裂いて怯ませ、更に追撃を仕掛けるようにHガタックがキバEの頭上を飛び越えモスラワームに飛び回し蹴りを打ち込もうとした、その瞬間……

 

 

 

 

―…………ピシッ!―

 

 

 

 

文字通り、時が止まった。今までディエンド達が対処していたライオトルーパーの大群、ザンバットソードを振り下ろしたキバE、そのキバEの必殺技を受けて怯んだモスラワーム、そんなモスラワームにトドメの一撃を打ち込もうと上空で固まったHガタックの動きも。

青空の雲の流れすら止まってしまったその異常な空間の中で、その『時を止める程度の能力』を発動させたHカブトは何事もないかのように上空から飛んできた一本の剣……パーフェクトゼクターを掴み取り、何処からか現れたスズメバチとトンボとサソリの姿を模したゼクター達がパーフェクトゼクターに装着されるのを確認した後、パーフェクトゼクターのボタンを押していく。

 

 

『KABUTOPOWER!THEBEEPOWER!DRAKEPOWER!SASWORDPOWER! ALL ZECTOR COMBINE!』

 

 

パーフェクトゼクターの四つのボタンを全て押していくと電子音声が鳴り響き、Hカブトはそれを確認するとパーフェクトゼクターの先端をライオトルーパーの大群に向けて構えていく。そして……

 

 

Hカブト(咲夜)『マキシマムハイパーサイクロン…』

 

 

『MAXIMUMHYPER CYCLONE!』

 

 

Hカブト(咲夜)『ハアァッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Hカブトが引き金を引くと共にパーフェクトゼクターから放たれた必殺技、マキシマムハイパーサイクロンが地上と上空のライオトルーパーの大群をまるごと飲み込んでいき、そして……

 

 

 

 

―……ゴーン!ゴーン!―

 

 

 

 

Hガタック『――…リャアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドグオォンッ!!―

 

 

『ウアァッ?!!』

 

 

『ウッ?!グ、ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Hカブトが止めていた時が再び動き出し、それと同時にHカブトの放ったマキシマムハイパーサイクロンに飲まれたライオトルーパーの大群が粉々に散って全滅していき、更に空中で固まっていたHガタックの飛び回し蹴りがモスラワームに直撃し吹っ飛ばしていったのだった。がしかし……

 

 

―バチッ…バチィッ……―

 

 

『グッ!クッ…中々…やってくれるじゃないっ…!』

 

 

Hガタックの必殺技を受けたモスラワームはまだ倒れることなく身体から無数の火花を散らせながらHガタックを睨みつけ、そのまま身体を起こして再び戦おうとするも途中でふらついて片膝を付いてしまう。

 

 

『ッ!どうやらここいらが潮時のようねっ……今は引いてあげるけど、次は必ずぶっ潰してあげるから首を洗って待ってなさい!』

 

 

Hガタック『ッ!コイツ、逃げる気か?!』

 

 

Hガタックはモスラワームが逃走を謀ろうとしている事にいち早く気付いて直ぐさまモスラワームへと走り出すが、それより早くモスラワームは背後から出現した歪みの壁に呑まれて何処かへと消えていってしまった。

 

 

Hガタック『クッ!クソ、逃げられたっ…!』

 

 

後一歩という所まで追い詰めたのにまんまと逃げられてしまい、モスラワームが消えた虚空を睨みながら悔しげに地面を蹴り付けるHガタック。ディエンドはそんなHガタックを尻目にHカブトとキバEを消していき、そのままもう用はないと言うようにHガタックから背を向けて歩き出す。

 

 

Hガタック『……ッ!お、おい待て!何処に行く気だ?!』

 

 

Hガタックは何処かへ去ろうとするディエンドを見て慌てて引き止めようと叫び、呼び止められたディエンドは足を止めてゆっくりとHガタックの方へと振り返りながら告げる。

 

 

ディエンド『悪いけど、君に構ってる暇は無くなったみたいでね。これから調べないといけないことがあるから、俺はこれで帰らせてもらうよ』

 

 

Hガタック『か、帰るって……お前、俺のマスクドライダーシステムを狙って来たんじゃねぇのか?!』

 

 

ディエンド『あぁ、もちろんゼクターはいずれ頂くさ。でもそれより優先しなければいけないことが出来たし、あんな雑魚の駆除もさせられて興ざめもしたから帰らせてもらうよ(というか、此処で彼に何かしたらアテナさんが何してくるか分からないし)』

 

 

恐らくまだこちらの様子を見ているだろうと視線だけ動かして空を眺め、軽く息を吐きながら左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出していく。

 

 

ディエンド『まぁそういう訳だから、これで失礼させてもらうよ。じゃあねぇ~♪』

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

そう言ってディエンドがドライバーに一枚のカードを装填してスライドさせると電子音声が響き、それと共にディエンドの身体は無数のビジョンと化して何処かへと消えていってしまった。

 

 

Hガタック『ま、待てよおい!……クソッ!ワームには逃げられるし、アイツは気を消してどっか消えちまったし……何なんだよ一体っ…!』

 

 

ワームに続いてディエンドにまで逃げられてしまったことに更に腹を立たせてしまうHガタックだが、今は先ず光と零のところに向かわねばと思考を切り替え、近くに止めておいた自身のバイクに跨がりその場から走り去っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同時刻……

 

 

 

―ズシャアァッ!ガキィ!ザシュウゥッ!!―

 

 

『フンッ!ハアァッ!』

 

 

カブトR『グッ?!チィッ!』

 

 

Hガタックが戦いを終えてディケイドとカブトの下へと向かっている頃、カブトはアゲハワームとワームの大群に周りを囲まれて四方からの攻撃に襲われつつも、エクスブレードを用いてそれらを迎撃し続けていた。しかしカブトのその動きは何処となくキレがなく、時折何かを気にするかのようにアゲハワームやワームの大群とは違う方へと視線を向けることが多い。何故なら……

 

 

『……フフッ……そんなに気になるのかしら?ディケイドとあの人造人間の戦いが』

 

 

カブトR『…ッ!』

 

 

そう、カブトが時折視線を向ける先にあるのは、ディケイドがシュロウガに追い詰められながらも必死に止めろと叫び掛ける光景があったのだ。それを見抜かれたカブトは目を鋭くさせてアゲハワームを睨みつけ、エクスブレードの切っ先をアゲハワームに向けながら話し出す。

 

 

カブトR『貴様、確かさっき言っていたな?あの子が私達の目的に役立つかどうかとか……つまり、お前達が探していたのはアズサという事か?』

 

 

『あはっ!思ったより頭の回転が早いじゃない?そ、あの子は私達……ていうか、私達の上司の目的に有効活用させてもらおうと思ってね。その為にも、あの子の力が使えるかどうか今見極めているってわけよ』

 

 

カブトR『アズサの力を?どういう意味だ?アイツには何か特別な力でもあるというのか?』

 

 

『さぁ?そこまで詳しい事は知らないけど、使える物なら回収しようと思ってるわけよ……でも、結構使えそうなモノをあの子は既に持ってるみたいねぇ』

 

 

カブトR『何?』

 

 

思わず疑問げに呟くと、アゲハワームはニヤリと笑いながらある方へと視線を向けた。其処にはシュロウガに反撃もせず攻撃を受け続けているディケイドの姿があり、それを見て何かに気付いたようにカブトはアゲハワームを睨みつけた。

 

 

カブトR『まさか……貴様!!』

 

 

『フフ、そうよ。破壊者はどんなに痛めつけられてもあの子に手を出してない。それはおそらく、破壊者にとってあの子はそれだけの存在という事……もし私達があの子を回収して破壊者に当てたら、破壊者はあの子に勝てるのかしら?勿論心の問題として♪』

 

 

カブトR『貴様はっ……零の心を弄ぶ気か?!』

 

 

『アハハハハ!何をそんなムキになってるの?あの子を作った預言者は既にそれを実行してるのよ?それに私達は、目的の為ならなんでも利用するわ。例えあの子だろうと破壊者の仲間だろうと結局は同じ事。所詮あれは世界の異物でしかない破壊者でしょう?』

 

 

だから零の心を利用するのも厭わないと、何でもないように笑って告げたアゲハワーム。それを聞いたカブトは自身の意思とは関係なく全身から殺気を漏らしながらアゲハワームを睨みつけ、エクスブレードを握る手に力を込める。コイツに絶対アズサを渡してはならないのと。

 

 

『んー?何?少しはこっちの方にも集中してくれるようになってくれたぁ?』

 

 

カブトR『あぁ…貴様だけは生かしてはおかん。貴様の存在だけは……俺が許さん!』

 

 

『あはっ!カッコイイ台詞を吐いてくれるじゃない?でも私から言っておいて何だけど、私達に構ってる暇はないんじゃない?破壊者の方はあの調子だと、すぐに潰れるわよ?』

 

 

そう言いながら顎でクイッとディケイドとシュロウガの方を指すアゲハワームに、カブトは仮面越しに思わず眉を寄せた。ディケイドはシュロウガの攻撃で既にボロボロであり、何時やられても可笑しくはない状態だ。加えてこちらは未だ増殖を続けるワームの大群を倒しながらアゲハワームを倒せねばならないが、その前にディケイドが倒される可能性もない訳ではない。

 

 

カブトR(チィッ!勇司がいればまだなんとかなったかもしれないが……仕方ない……ハイパーフォームで一気に片付けるかっ…!)

 

 

最悪の展開になる前に切り札を切るしかない。カブトはそう考えながらワーム達を一気に殲滅する為に左手を掲げてハイパーゼクターを喚び出そうとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『…ッ!なっ?!―ドゴオォンッ!!―ウァッ?!』

 

 

『ギシャアァッ?!』

 

 

カブトR『ッ?!何…?』

 

 

突如アゲハワーム達の背後から一台の戦車のような巨大な車が走って現れ、そのままカブトを包囲していたアゲハワーム達を弾いて吹っ飛ばしていったのだった。そしてアゲハワーム達を跳ね飛ばした謎の車は徐々に速度を落とし、カブトの前で急停止して止まっていった。

 

 

カブトR『ッ!これは……リボルギャリー?』

 

 

目の前で急停止した謎の車を見上げながらそう呟くと、謎の巨大な車のハッチが展開されゆっくりと開き、其処から一人のライダーが姿を現した。

 

 

『よし、やっと着いたな。NXカブトの世界に』

 

 

『……せやけど……なんか着いて早々いきなり戦場に飛び出したみたいやで?υυ』

 

 

カブトR『?!今の声……まさか、はやて?!』

 

 

突如現れた車を呆然と見上げていたカブトはライダーから聞こえてきた少女の声が自分が良く知る人物……はやての物だと気付き驚愕の声をあげ、その間に謎の車に跳ね飛ばされたアゲハワームは殺気を放ちながら立ち上がり二人を睨みつけていく。

 

 

『クッ!な、何なのよアンタは?!』

 

 

「ん?あぁ、悪いな?生憎こっちにはお前達に名乗る名前なんて持ち合わせてないんだよ……カブト、アンタは早く零の所に向かってくれ」

 

 

カブトR『何?どういう事だ?お前達は一体……』

 

 

『説明してる時間はない、アンタは早く零君のところに向かうんや!』

 

 

二人の言葉に疑問を持って思わず聞き返したカブトにライダーから聞こえてきたはやて?の声は早くディケイドの下に向かえと促し、カブトはディケイド達の方へと視線を向けてなにかを考え込むかのように顔を俯かせると……

 

 

カブトR『……分かった。誰かは知らんが、此処は任せる!』

 

 

そう言ってカブトはライダーにこの場を任せてディケイド達の下へと向かい、それを見たワーム達はすぐにカブトを追おうとするが、そうはさせまいと言うかのようにライダーがワーム達の前に立ちはだかった。

 

 

『おっと!悪いな?お前達には俺達の相手をしてもらうぜ』

 

 

『ッ!何なのよアンタは?!さっきから邪魔ばかり!』

 

 

先程から邪魔ばかりしてくるライダーに遂に堪忍袋の緒が切れたのか、苛立ちを込めた口調でライダーに何者かと聞くアゲハワーム。それを聞かれたライダーは軽く手首をスナップしながらアゲハワーム達を指差していく。

 

 

『そんなに知りたいなら教えてやるよ……俺達は仮面ライダーストライク!零の友人さ!』

 

 

ライダー……ストライクは力強い口調で叫ぶと共に勢いよくその場から走り出し、アゲハワーム達へと突っ込んでいったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑦(後編)

 

 

―バキィッ!ドガアァッ!ガギャアァンッ!!―

 

 

ディケイド『グッ?!止せアズサ!!目を覚ませ!!アズサァッ!!』

 

 

シュロウガ『…………』

 

 

一方、ディケイドはアズサが変身したシュロウガからの容赦ない斬撃を受けながら必死に止めろと呼び掛けていくが、シュロウガはそれに応えることなくディケイドに剣を振りかざしていく。既にディケイドの方はボディの所々が深い斬り傷で傷付き、特に最初の一撃を受けた左胸の部分は大きな窪みが出来てへこんでしまっていた。

 

 

ディケイド(クッ!どうすればいい?!どうしたらアズサを止められる?!考えろ!何か方法がある筈だ…!)

 

 

それだけ痛々しい姿になるまでボロボロにされながらも、ディケイドは未だシュロウガと戦う事を考えずにどうやってシュロウガを止めるべきかと思考をフルに使って方法を考えていた。しかしそんなディケイドの思いを嘲笑うかのように、シュロウガは両肩と両腰に膨大なエネルギーを集約させていく。そして……

 

 

シュロウガ『……トラジック・ジェノサイダー……』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……バシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュンバシュンッ!!!―

 

 

ディケイド『なっ…?!』

 

 

シュロウガの両肩と両腰の宝球から無数に撃ち出された紅いスフィアの群。それらは変則的な動きでディケイドへと一斉に襲い掛かり、ディケイドは慌ててそれを避けるに横へと転がる。がしかし、ディケイドがやり過ごした紅いスフィア達は突如一斉に方向を変え、そのままディケイドの方へと再び引き返してきた。

 

 

ディケイド『(ッ?!この攻撃……まさか誘導型かッ?!)クソッ!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

向かってくるスフィアの群を見たディケイドは直ぐさま一枚のカードをバックルに装填し、ライドブッカーGモードの照準をスフィアの群へと合わせて引き金を引いていった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

ライドブッカーの銃口から撃ち出された弾がスフィアに直撃し、次々に爆発を起こして辺りが灰色の粉塵に覆われていく。粉塵の向こうから追撃が来る様子はない。無事に全部撃ち落としたのだろうと予測したディケイドはおもむろにライドブッカーを下ろしていく。が……

 

 

 

 

 

 

シュロウガ『ラスター・エッジ……ジェノサイドシフト……』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!―

 

 

 

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

 

 

背後から感じた静かな殺気と共に聞こえた冷たい声。ディケイドはそれに気付くと共に直ぐさま振り返るが、その先にはベースボールほどの大きさの弾丸が無数に降り注いできていた。

 

 

ディケイド(しまっ…?!)

 

 

既に弾丸の一つが目と鼻の先まで迫っていた。回避はもう間に合わない。瞬時にそう理解したディケイドは回避を諦めて両手をクロスさせ、何とか弾丸を防ごうと考えた。その時……

 

 

 

 

 

 

『Clock Up!』

 

 

―ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンッ!!!―

 

 

 

 

ディケイド『……?何…?』

 

 

 

 

不意に何処からか聞こえてきた電子音声。それと同時に正面から襲い掛かってきた無数の弾丸が、ディケイドの目の前に現れた赤い影によって弾かれ周囲に撒き散らされていった。突然の思いもしない展開にディケイドは構えを解きながら、呆然と目の前に視線を向けると……

 

 

 

 

『Clock Over!』

 

 

 

 

カブトR『――よし。零、無事か?』

 

 

ディケイド『ッ!光?!』

 

 

そう、今の弾丸を全て弾き返した赤い影の正体はクロックアップを使ったカブトだったのだ。ディケイドがカブトを見て驚愕する中、カブトは目の前から剣を片手に歩み寄ってくるシュロウガに目を向けてクナイガンを取り出していく。

 

 

カブトR『零、早く構えろ。アズサを此処で食い止めるぞ…』

 

 

ディケイド『ッ……』

 

 

アズサを食い止める。それは目の前にいるシュロウガと……アズサと戦うという事だ。アズサを傷つけなければいけない。その事実にディケイドの心の中に迷いが生じ、思い詰めた表情を浮かべながら拳を握り締めていく。

 

 

カブトR『早くしろ零!!まだアズサは救える筈だ!此処で戦わなければ、アズサを取り返すことは出来ないんだぞ!!』

 

 

ディケイド『ッ!………分かった……』

 

 

カブトの言う通り、此処で戦わなければアズサを取り返すことなんて出来ない。その為にも今は自分の気持ちを押し殺さなければと、ディケイドはゆっくりと立ち上がりながらライドブッカーから一枚のカードを取り出してシュロウガを見据えていく。

 

 

カブトR『同時攻撃だ……いくぞ!』

 

 

ディケイド『あぁ…!』

 

 

『FORMRIDE:FAIZ!AXEL!』

 

 

カブトの呼びかけに応えながらカードをバックルへと装填し、電子音声と同時にディケイドはDファイズ・アクセルフォームへと変身していった。そして変身を終えると共にDファイズは左腕のファイズアクセルのボタンを押し、カブトはベルトのボタンを叩くように押していく。

 

 

『START UP!』

 

 

カブトR『クロックアップッ!』

 

 

『Clock Up!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと共にDファイズとカブトは超高速の世界へと突入し、風を切り裂くように空間を駆け抜けながらシュロウガの左右へと一気に回り込んで渾身の蹴りと拳をシュロウガに放っていった。がしかし……

 

 

シュロウガ『……障壁……全包囲に展開……』

 

 

―ブオォォォォォォオ……ピキィィィィィィィィィィィィィィィインッ!―

 

 

Dファイズ『?!なっ?!』

 

 

カブトR『バリアだと?!』

 

 

シュロウガが何かを呟いたと共に何処からか漆黒に輝く粒子がシュロウガの周りに集まり、三角形のバリアへと変化してシュロウガを包み込み二人の蹴りと拳からシュロウガを守ったのであった。そして攻撃を弾かれてしまった二人はそれに驚きつつもシュロウガから一度距離を離し、Dファイズはすぐにライドブッカーから一枚のカードを取り出しドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

―シュウゥンッ……バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュッ!!―

 

 

シュロウガ『…!』

 

 

電子音声が響くと三角形のバリアを展開したシュロウガの上空に無数の赤いポインターが出現してシュロウガをロックしていき、それを確認したDファイズは銀色の閃光と化して上空へと飛び上がり、そして……

 

 

Dファイズ『フッ!ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dファイズの放った必殺技、アクセルクリムゾンスマッシュがシュロウガが展開したバリアへと連続で打ち込まれ、最後の一撃が打ち込まれると同時にバリアは硝子のように割れ爆発していったのだった。そしてDファイズは地上に着地すると同時に素早く走り出し、シュロウガを押さえ込もうと試みるが……

 

 

Dファイズ『…?!アズサが……消えた…?!』

 

 

カブト『何?!』

 

 

そう、バリアの中心地点に立っていた筈のシュロウガの姿が何処にもなく、二人の目の前からいつの間にか消えてしまっていたのだ。突然消えてしまったシュロウガに二人も驚きを隠せず、粉塵に覆われた周囲を見渡してシュロウガを探していた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

『…エンブラス・ジ・インフェルノ……』

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

まるでそよ風のように聞こえてきた冷たい少女の声。確かに頭上から聞こえてきたが、二人は振り返るより先に全身に鳥肌が立ち、それで直感的にヤバいと感じ取った。二人は振り返らないままカブトは瞬時に気のバリアを張り、Dファイズはライドブッカーから一枚のカードを取り出してディケイドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BARRIER!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『グゥッ?!!』

 

 

Dファイズがバリアを発動させたと同時に、上空から突如漆黒の獄炎が放たれて二人のバリアを易々と飲み込んでいってしまったのであった。バリア越しに上空を見上げてみれば、いつの間にかシュロウガが上空で両手を広げながら全身から漆黒の炎を放っている姿がある。漆黒の獄炎は二人の他に周囲の木々や車などを吹っ飛ばし、ビル等は漆黒の炎に包まれながら音を立てて崩れ去り、更に……

 

 

―……ピシッ……ピシピシィッ!―

 

 

Dファイズ『なっ?!』

 

 

カブトR『バリアが?!』

 

 

二人が張ったバリアが獄炎に耐え切れず、全体に皹を入れ始めたのであった。そして……

 

 

―ピシピシッ……ドグオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『グ、グアァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

『TIME OUT!』

 

『Clock Over!』

 

 

バリアは獄炎に押し負けて砕け散り、二人はそのまま炎に包まれて吹っ飛び変身が解除されて零と光に戻ってしまったのだった。そしてシュロウガはゆっくりと地上に降り立ち、鎧の音を辺りに響き渡らせながら零に歩み寄り胸を踏み付けてしまう。

 

 

零「がはぁ!がっ……ぐっ……」

 

 

光「くっ…!れ、零…!」

 

 

シュロウガに踏み付けられる零を見て光はすぐに助けに入ろうと身体を起こすが、先の攻撃のダメージが響いてるせいか上手く立ち上がれない。そしてその様子を離れて観戦していた鳴滝はこれ以上にない笑みを浮かべながら叫び出す。

 

 

鳴滝「そうだ、やれシュロウガ!お前の手で、今度こそディケイドを消し去るのだ!」

 

 

シュロウガ『…………』

 

 

鳴滝が嬉々とした笑みを浮かべながらそう命じると、シュロウガは鳴滝の命令を遂行しようと剣の切っ先を零の額に向けていく。

 

 

光「ッ!よ、止せ!止めろアズサ!!」

 

 

シュロウガ『…………』

 

 

零「っ……ア……アズ……サッ……」

 

 

光は零にトドメを刺そうとするシュロウガを止めようと必死に叫ぶが、シュロウガはそれを聞かずに剣を振り上げ、そのまま刃を零の額に目掛けて振り下ろしていった。もう手遅れなのかと、零は襲い来る刃から目を逸らすように瞼を閉じて諦め掛けた。が……

 

 

 

 

零「…………………………………………………?」

 

 

 

 

何故か、いつまで経っても刃が突き刺さるような感覚は襲って来なかった。一体どうなってる?とワケが分からないままゆっくりと瞼を開いていくと、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

シュロウガ『ッ……ウッ………ッ……!』

 

 

 

 

零「…ッ!アズ……サ?」

 

 

 

 

其処には、零のこめかみにまであと数センチという所で剣の切っ先を止めているシュロウガの姿があったのだった。剣を掴む手を震わせ、まるで何かからもがくような様子を見せるシュロウガに零や光は呆然となり、鳴滝も予想外というような表情を浮かべていた。

 

 

鳴滝「な、何をしてるシュロウガ?!早くディケイドを消せ!!」

 

 

シュロウガ『ッ……………………いやっ………』

 

 

鳴滝「…何?」

 

 

シュロウガ『……私……私はっ……そんなことっ……望んでないっ……!』

 

 

鳴滝「?!」

 

 

絞り出すように叫んだシュロウガの言葉を聞いて鳴滝は驚愕の表情を浮かべ、シュロウガは剣を投げ捨てながらふらついた足取りで零から離れていく。

 

 

零「ッ!ア、アズ『来ないで!』…?!」

 

 

自分から離れていくシュロウガを見てアズサが意識を取り戻したのだと思った零はシュロウガに駆け寄ろうと慌てて身体を起こすが、それより先にシュロウガが来るなと零に怒鳴ってそれを止めてしまう。

 

 

シュロウガ『ッ……来ないで……お願いだから……私に近寄らないでっ……』

 

 

零「な、何言ってる?待ってろ!今お前を助け―バシュンッ!―……ッ?!」

 

 

苦しげに体をくの字に折り曲げ、頭を抱えながら来るなと告げてきたシュロウガの言葉を無視してシュロウガに駆け寄ろうとする零だが、それと共に零の頬を物凄いで速さで何かが掠めた。見れば自分の背後にあった電柱が何かの攻撃を受けて吹き飛んでおり、目の前に目を向ければシュロウガがこちらに向けて手の平を翳していた。

 

 

零「ア、アズサ…?」

 

 

シュロウガ『ッ……やっと思い出した……私が取り戻したかった記憶……やっと取り戻した本当の自分……でも……それは私が望んだものじゃなかったっ……』

 

 

零「……え?」

 

 

シュロウガ『私は……私は人間じゃない……私はただ……貴方を殺す為だけに造られた存在……ただの……殺人兵器だった……』

 

 

零「ッ!」

 

 

絞り出すように呟いたシュロウガの言葉に零は思わず口を閉ざしてしまう。今の言葉で彼女が今何を思っているのか分かってしまったからだ。

 

 

シュロウガ『こんなの……こんなの違う……私が取り戻したかった記憶……私が取り戻したいと望んだ自分は……こんな物じゃなかったのにっ!!』

 

 

零「…アズサ…」

 

 

あれだけ取り戻したいと願っていた記憶と本当の自分。だがそれは、零達との絆を築いた今のアズサを絶望へと堕とすだけの物でしかなかった。

人間ではなく、人造人間として造られた自分。そしてその造られた理由が、記憶喪失となった自分を支えてきてくれた零を殺すという事。その事実を知った今のシュロウガの心には喜びや希望など微塵もなく、ただ深い絶望と悲しみ、そして記憶を取り戻したことに対しての後悔しか存在していなかったのだ。

 

 

零「だったら……だったら止めてしまえばいいだろう!お前自身に俺を殺す理由がないのなら、お前が戦う必要もない筈だ!だから!」

 

 

戻って来いと、シュロウガに向けて手を差し伸ばす零。だが……

 

 

シュロウガ『……駄目……私はもう……貴方の所には帰れない……』

 

 

シュロウガは首を左右に振り、その手を掴む事を拒んだのであった。

 

 

零「帰れない……だって?」

 

 

シュロウガ『……今の私はもう……自分で自分を抑える事が出来ない……次第に私の意思は消えて……貴方を殺すまで戦い続ける人形になる……貴方の傍にいれば……何時か貴方を殺してしまう……だからもう……零と一緒にいられない…』

 

 

零「……そんな……馬鹿な……」

 

 

シュロウガ『……だから……お願い……そうなる前に……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュロウガ『……私を……殺して……零……』

 

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

誰かを殺してしまう前に、自分を殺してくれと。自らの死を零に望んだシュロウガに零達は驚愕してしまう。

 

 

零「殺してくれ……だと……?」

 

 

シュロウガ『……私は……もう零達が知ってるアズサに戻れない……今の私は、誰かを殺すまで止まらない殺人人形になってしまった……でも私は……零を殺したくなんかない……だから……』

 

 

殺してと、ただそれだけを彼に望み続けるシュロウガ。だが、零がそれに首を縦に振るはずもない。

 

 

零「……ふざけるなっ……出来る訳がないだろう?!お前を殺して!それでお前を殺した俺にどうやってこれからを生きていけと言うんだ?!」

 

 

シュロウガ『…………』

 

 

零「約束しただろうっ?!記憶を取り戻すまでとは言ったが、お前を守ると!!そうお前に言ったじゃないか!だから!!」

 

 

傷付いた身体の事も忘れ、零は必死になりながら叫び続ける。そんなことを言い放った零にシュロウガも仮面越しに何処か驚いたような顔を浮かべ、ゆっくりと顔を俯かせていく。

 

 

シュロウガ『……やっぱり……零は破壊者なんかじゃないね……』

 

 

零「……え?」

 

 

シュロウガ『何時もぶっきらぼうで……素直じゃないけど……本当は優しくて……何時も誰かのことを気にかけてる甘い人……でもだからこそ……そんな零を傷付けたくない……守りたい……』

 

 

零「……アズサ…?」

 

 

何かを呟いてるようだが、此処からでは何を言ってるのか分からない。声を聞き取ろうと零が怪訝な表情でシュロウガに歩み寄ろうとしたその時、シュロウガの背後に突如歪みの壁が発生した。

 

 

零「ッ?!アズサ…?!」

 

 

シュロウガ『…………』

 

 

歪みの壁を見て零は思わず叫ぶが、シュロウガは何も答えないまま変身を解き、アズサに戻って顔を上げると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「……ありがとう、零……貴方に出会えて……ホントに良かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ッ?!!待てっ……アズサァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

零が目にしたのは、綺麗な赤い瞳から涙を零しながら微笑むアズサの顔。まるで永訣を連想させるその笑みに、零はいつの間にか駆け出してアズサに手を伸ばしていた。がそれより先に、アズサは背後から歪みの壁に飲まれて何処かへと消え去り、零の伸ばした手は宙を切りそのまま力無く倒れてしまった。

 

 

光「ッ!れ、零っ…!」

 

 

倒れた零を見て光はふらつきながら起き上がり、身体を抑えながら零へと近づき身体を起こさせていく。

 

 

光「大丈夫か零?しっかりしろっ…!」

 

 

零「ッ……何でだ……どうして……こんな事にっ……」

 

 

光「…………」

 

 

身体を起こさせてみれば、零は悔しげに唇を噛み締めて額を抑えていた。そんな零の姿を見て光も顔を曇らせるが、とにかく今は傷の治療をせねばと思い零の肩を担いで歩き出そうとするが……

 

 

鳴滝「チッ…さっさとディケイドを倒せば良かった物を。使えない人形だ……」

 

 

光「…!鳴滝…!」

 

 

二人の前に今までの戦いを観戦していた鳴滝が立ち塞がり、それを見た光は鳴滝を睨みつけながら身構えていく。だが鳴滝はそんな光に興味を向けず、光に担がれる零を見て不敵な笑みを浮かべた。

 

 

鳴滝「まあ良いだろう……心配せずともβはまたお前の前に現れる。その時が来たら、β共々貴様をあの世に送ってやる」

 

 

零「…ッ?!」

 

 

光「アズサ共々……だと?どういう意味だ?!」

 

 

意味深な発言をした鳴滝に光は内心動揺しつつも思わず聞き返し、鳴滝は笑みを浮かべたままそれに答えていく。

 

 

鳴滝「βにはディケイドを倒す為のと、以前のαの時のような裏切りをしない為の二重の意味を込めた自爆装置を積んであるのだよ。もし貴様に敗れた時、或はβが私を裏切った時に起動する仕組みになっている。貴様を道連れにする為にな」

 

 

光「なっ……」

 

 

零「自爆……装置だと?!」

 

 

もしもの時の対策として、アズサには自爆装置を積んである。そう聞かされた零と光は絶句して言葉を失ってしまうが、その時二人の脳裏に先程のアズサの顔が横切った。

 

 

光「まさかっ……アズサは最初からそれを知ってて…?!」

 

 

鳴滝「当然だ。恐らくは、どうせ死ぬならそこの悪魔の手で死にたいと望んだのだろう。全く、抹殺対象にそんなことを望むなど……呆れた物だ」

 

 

零「てめぇっ……どうしてそんな事が出来る?!俺を消す為なら、他人の命まで犠牲にするのか?!アズサはなにも関係ないだろうッ!!」

 

 

鳴滝「βやαが生まれたのは、元を辿れば貴様のせいだ!貴様という異物が存在するから、彼女達のような者が生まれる!既に九つの世界もあと一つだけになり、世界の崩壊も間近となった!世界を破壊する貴様を倒せない欠陥品など必要はないし、世界を救う為なら人造人間の命一つや二つなど安いものだ!」

 

 

零「ッ!!?ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

世界の危機を救えるなら、アズサの命など安いもの。何の罪悪感もなくそう告げた鳴滝に零も我慢の限界を越えて鳴滝に殴り掛かろうとするが、そんな鳴滝の前に歪みの壁が出現し、零の拳は歪みの壁によって遮られてしまった。

 

 

鳴滝「βを死なせたくないのなら、貴様が消えろ!貴様という存在がある限り、βのような不幸な存在が絶える事なく生まれてくる。貴様は全ての災いの元なのだからな…」

 

 

鳴滝は歪みの壁に拳を打ち付ける零にそう告げると、歪みの壁に呑まれて何処かへと消えていってしまった。そしてそれと共に、零は力無く地面に両腕と両膝を付いてうなだれてしまう。

 

 

光「……零…」

 

 

零「くそっ……くそっ……クソォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 

アズサが自分を消さなければアズサは死んでしまう。

 

使命を捨てて鳴滝を裏切っても、アズサは死ぬ。

 

例えアズサと戦って勝ったとしても、自分を道連れにする為にアズサが犠牲になる。

 

どうやってもアズサを救えないという事実を突き付けられた零は悔しさのあまりアスファルトの地面を殴りつけ、別れを告げて消えてしまったアズサの泣き顔を思い浮かべて悲痛な叫びを木霊させたのであった……

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑧

 

 

―機動六課・食堂―

 

 

時刻は夜中。アズサと鳴滝が消えたあの後、零と光は先程合流した勇司とアゲハワーム達を退けてくれたストライク……ジェノスの手によって六課へと運ばれ、シャマルの治療を受けた光は食堂に集まった勇司達にアズサと鳴滝について話をしていた。

 

 

はやて(別)「――ア、アズサちゃんが?!」

 

 

フェイト(別)「…ほ、本当なの?それ……」

 

 

光「……あぁ……事実だ。アズサは鳴滝という男が零を抹殺する為に造り上げた人造人間であり、真実を知ったアズサは……零を殺したくないと告げて何処かに消えてしまった……」

 

 

なのは(別)「そ、そんなっ……」

 

 

光の口から語られた衝撃的な事実に一同は思わず絶句してしまう。アズサが零を抹殺する為に造られた命であり、しかも零を消す為に自爆装置まで積んである。加えてアズサは零を殺したくないが為に自ら行方をくらましてしまった。全ての話を聞かされた一同の間に重苦しい空気が流れ、それを破るかのように勇司が怒りに満ちた表情でテーブルに拳を打ち付けた。

 

 

勇司「ふざけんじゃねぇぞ…それって零を消す為に、アズサを捨て石にするって事だろう?!鳴滝の野郎っ……命をなんだと思ってんだッ!!!」

 

 

フェイト(別)「許せないっ……零とアズサの思いを利用して、しかも自分の都合で造り出したアズサをなんの戸惑いもなく犠牲にするなんてっ…!!」

 

 

まるでアズサを人間として扱おうとしていない鳴滝にそれぞれ怒りの感情を露わにしていく一同だが、光だけは至って冷静な様子で口を開いた。

 

 

光「皆、お前達の気持ちは良く分かる……だが、今は落ち着くんだ」

 

 

ヴィータ(別)「これが落ち着いていられっかよッ!!鳴滝って奴の身勝手な目的のせいで、アズサはなんの意味もない犠牲にされそうになってんだぞ?!」

 

 

なのは(別)「何で光君はそんな冷静でいられるの?!アズサちゃんは無意味な事の為に殺されそうになっているのに、光君は何も感じないの?!悔しいって思わないの?!」

 

 

光「思わない訳がないだろうッ!!!」

 

 

『…ッ?!』

 

 

それぞれのメンバーが鳴滝に対しての怒りで我を忘れる中、光の怒号が食堂内に響き渡った。普段はクールで誰よりも冷静な光が自分の感情を露わにして叫んだのだ。それだけで勇司達は口を閉ざして黙り込み、光は瞳を伏せてぽつりと呟き出す。

 

 

光「思わない訳がないだろう……あの時、二人の近くにいたのは俺なんだぞ……なのに何も出来なかった。泣いて別れを告げたアズサを引き止める事も、鳴滝を殴る事も……何も……」

 

 

フェイト「……光……」

 

 

光「それに……俺達がこんなんでどうする?今アズサの事で一番辛いのは……零の奴なんだぞ」

 

 

『……あっ…』

 

 

そう、この状況に一番苦しんでいるのはこのメンバーの誰よりも付き合いが長く、アズサに一番信頼されていた零なのだ。加えて零はアズサを守ると約束を交わしていたのにそれを守る事が出来ず、更に自分を殺す為だけにアズサが犠牲にされそうになってると知ったのだ。それでショックを受けない方が可笑しい。

 

 

シグナム(別)「…それで、黒月は今どうしてるんだ?」

 

 

勇司「……それが……部屋に篭ったまま出て来ないんだよアイツ。今ジェノスの奴が様子見に行ってるんだけど……」

 

 

なのは(別)「ジェノスって……確かさっきの戦闘の中で現れたライダーっていう?」

 

 

光「あぁ、どうやらアイツも平行世界の住人らしい。事情によると渡したい物があって、それを届ける為に零の気配を感じたこの世界に訪れたのだと言っていたが……まぁ、さっきの戦闘はアイツのお陰で助かったというのは事実だ」

 

 

はやて(別)「そっかぁ……そんなら暫くの間、ジェノス君に戦力として加わってもらえんか頼めへんかな?さっきラウルとリオンとアッシュの三人が空士第47部隊に呼び戻された今、あの三人の穴埋めとしても申し分ないし」

 

 

光「……その方がこちらとしても助かるな。あの上級ワーム達はまだ残っているし、鳴滝がまた何かを仕掛けてくる可能性もある……戦力は多いに越したことはないだろう」

 

 

実際の所、今の六課面々…特に零は未だアズサの事を引きずっている。光と勇司はまだ何とかなりそうだが、こんな状況の中で一番まともに戦えそうなのはジェノスしかいない。その事を考慮すればジェノスに戦力として加わってもらうのが一番の得策だろうと、光はそう考えながら珈琲を飲んでいく。とそんな時、零の様子見に向かっていたジェノスが食堂内へと入って来た。

 

 

勇司「ッ!ジェノス!どうだ、零は…?」

 

 

ジェノス「……ダメだ……何度呼び掛けても応答がない……」

 

 

フェイト(別)「そんな……まさか、このまま部屋から出て来ないつもりじゃ…」

 

 

ヴィータ(別)「クソッ!何やってんだよアイツは?!今はそんなことしてる場合じゃねぇって事ぐらい分かってんだろ…!」

 

 

光「…………」

 

 

返答もなく部屋からも一切出て来ない零に一同はざわめき出し、ジェノスから話を聞いた光は何も言わないまま残った珈琲を全て飲み干していたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン・路地裏―

 

 

其処は照明のない真っ暗闇な空間に包まれた路地裏。繁華街からの光りで多少は周りが見えるが、路地裏の奥は深い闇に包まれ不気味な雰囲気を漂わせていた。そんな場所に……

 

 

 

 

アズサ「……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 

 

先の戦いで零に別れを告げ、行方をくらましたアズサが其処にいた。夜風で飛ばされて足元に絡み付く紙屑にも目も向けず、まるで何かに取り憑かれたように苦しげに歩き続けるアズサ。だが既に体力の限界なのか、アズサは路地裏の壁に背を付けて背中を引きずりながら地べたに腰を下ろしていく。

 

 

アズサ「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

地べたに腰を下ろし、乱れた呼吸を整えようと深呼吸を繰り返していくアズサだが、それも数回までしか続かず呼吸が止まった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!―

 

 

『……消せ……ディケイドを消せ……ディケイドを……』

 

 

 

 

 

アズサ「うぁ……あぁ……ぁあ……!」

 

 

 

 

脳に直接聞こえてくる声。それが聞こえてきたと共にアズサは両手で頭を抱えながら苦しみ出し、その声に逆らうかのように頭を左右に降り続ける。

 

 

 

 

『殺せ……ディケイドを殺せ……それがお前の造られた意味……お前の存在異議……』

 

 

 

 

アズサ「ッ!違うっ……私は……私は零を殺さない…殺したくっ……ないっ…」

 

 

 

 

必死に声に抗うように呟きながら、アズサは首に巻かれた機械的な首輪を両手で掴みそれを外そうとする。

 

 

――自爆装置。

 

 

鳴滝が零達に言っていた物の正体はこれだった。首輪の中央に付けられた丸いランプが赤く点滅し、その度にアズサは苦しげな声を漏らして身体をくの字に折り曲げていく。

その首輪には一度に二つの機能が備え付けられているのだ。一つは鳴滝が言っていた零の抹殺の為と裏切りを防ぐ為の自爆システム。もう一つはアズサの意志を捩曲げ、必要とあらば彼女の精神を壊してでも鳴滝の支配下に置かせるマインドコントロールシステム。絶対に自分の支配下からは逃れられないようにと、鳴滝が以前の失敗を踏んで作り上げたのがそれだったのだ。

 

 

 

 

『殺せ……殺せ……殺せ…ディケイドを抹殺しろ!』

 

 

 

 

アズサ「ッ……止めて……私……私は……そんな事……望んでないっ……!!」

 

 

 

 

見えない何かに飲み込まれそうになる意志を必死に保ちながら、聞こえてくる声に抗い首輪を外そうとするアズサ。だがどんなにやっても頑丈な首輪はアズサの首から外れることはなく、アズサは諦めたように首輪からゆっくりと両手を下ろしていく。

 

 

アズサ「ッ……何でっ……どうしてこうなったんだろうっ……」

 

 

声はもう聞こえて来ない。恐らくアズサの抵抗が予想以上に強いから一度引いたのだと思うが、それも一時の間だけだろう。またディケイドを殺せと命じてくるに違いない。また何時来るか分からない声に怯えながら、アズサはガチガチと震える両手で首に掛けられたカメラを包み込んでいく。

 

 

アズサ「……私……やっぱり……生きてちゃいけないのかな……私がいるせいで……皆にも……零にも……迷惑掛けてばかりで……」

 

 

前髪で顔が隠れている為にどんな表情をしているのかは分からないが、アズサは震える声でポツリとそう呟いた。それと共に、アズサの両手に包まれたカメラにポツポツと小さな粒が落ちて弾けていく。

 

 

アズサ「っ……死にたく……ないっ……死にたくなんかない……生きたい……もっとみんなと……零と一緒にいたい……それだけなのにっ……どうして……どうしてっ……」

 

 

望むべきではないと自分でもわかってる。そんな望みは叶わないのだと、ちゃんと自覚もしている。

だがそれでも……それでも死を受け入れるなんて出来るワケがない。彼女だって生きているのだ。造られた命でも、皆と何処も変わらない普通の人間の女の子。死ぬのは怖い。そんな当たり前の感情を彼女も持っているのに……もうすぐ彼女は、ある男の目的の為に死ななければいけない。自分の意志とは関係なく。

 

 

アズサ「……零を殺したくない……だから一緒にいられない……離れないといけない……私は消えなくちゃいけない……なのに……」

 

 

顔は上げない。ただ顔を俯かせたままカメラを大事そうに握り締めるアズサの頬から、小さな粒が幾つも流れて落ちていく。

 

 

アズサ「……なのに……どうして?どうして一緒にいたいと思うの……離れたくないって……死にたくないなんて……そんなこと……思っちゃいけないのに……」

 

 

零を傷付けない為にも彼の前から消えなければいけないのに、離れたくないと、彼と共に居たいと望んでしまってる自分がいる。矛盾しているにもほどがある。自分はこんな望みを抱いていい人間ではないのだ。なのに……

 

 

 

 

 

―何って…お前の記憶探しに決まってるだろう?此処まで事情を知ってしまった以上、このままお前を放っておく訳にはいかないからな―

 

 

―あぁ、誓いだ……お前が記憶を取り戻すまでの間、お前は俺が守る。そして必ずお前の記憶を見付けてやる。此処まで来たら意地だからな―

 

 

―……ちょっと出てくるから預かってろ。帰ってきた時に返してもらうから、傷なんか付けるなよ?大事な物なんだからな―

 

 

 

 

 

アズサ「……忘れなきゃいけないのに……傍にいたらいけないのに……何で……どうしてっ……?」

 

 

 

 

望む事は許されない願い。どんなに願っても手に入らない未来。それを誰よりも分かっている癖に、それを捨て切れない自分がいる。死ぬ定めなのに、生きていたいと望んでいる自分。離れなければいけないのに、彼と一緒にいたいと思っている自分。もう頭の中がゴチャゴチャで、自分でも何を望んでいるのか分からなくなっていた。

 

 

アズサ「っ……もう分からない……誰か……誰でもいいから……助けてっ……」

 

 

ゆっくりとカメラを胸に当て、抱きしめるようにギュッと握り締める。頬を滴り落ちる涙の線を手の甲で拭いながら、アズサはその場から立ち上がり覚束ない足取りで路地裏の奥へと消えていった。

 

 

何時起爆するか分からない爆弾……

 

 

何時消えてしまうか分からない自分の心……

 

 

それらの恐怖心に押し潰されそうになりながらも、誰もいない、この爆弾の被害にならない場所を目指して歩き続ける……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そしてその頃、シュロウガとの戦闘で受けた傷をシャマルに治療してもらった零は六課で用意された部屋に一人篭っていた。ベッドに腰掛け、包帯が巻かれた両手を見つめながら零は唇を噛み締める。

 

 

零(……考えろ……なにかある筈なんだ……鳴滝の下からアイツを解放する方法が……何か…!)

 

 

アズサを鳴滝の下から解放する方法。思考をフルに使ってその方法を考えていくが、その途中で零は両手で頭を掻きむしりながら顔を俯かせてしまう。

 

 

零(駄目だ……どの手段を使ってもアズサを助け出すことなんて出来ないっ…!仮に光達の力を借りても、アズサの爆弾をどうにかしなければ意味はない…!)

 

 

既に何十何百という方法を考えたが、どの手段を使ってもアズサを救い出す事は出来ない。完全に手詰まりとなった状況に零が思わず頭を抱えていると、不意に先程の鳴滝の言葉が脳裏を横切った。

 

 

零(……やはり……アイツの言う通り消えるしかないのか……俺がいる限り……アズサは俺を消す為の犠牲になる……だが……)

 

 

自分が消えれば、なのは達は一体どうなる?アイツ等の世界を救うと約束したのに、それを裏切る事になる。だが自分が消えなければアズサは……?

 

 

零(っ……どうしたらいい……俺は一体……どうしたらいいんだっ……)

 

 

自分のせいで無意味な犠牲になろうとしてるアズサ。世界を救うと約束を交わしたなのは達。天秤に掛けられたその二つに零は悲痛な表情を浮かべて黙り込み、暫くの間部屋に静穏が流れていた。その時……

 

 

 

 

 

『みゃあ~』

 

 

 

 

 

零「………?」

 

 

 

 

足元から不意に聞こえてきた一つの鳴き声。それを聞いた零は俯かせていた顔を上げ、ゆっくりと足元に目を下ろしていく。其処には……

 

 

 

 

 

シロ『にゃあ~』

 

 

 

 

 

零「……シロ?」

 

 

そう、零の足元で鳴き声を上げていたのはアズサの飼い猫であるシロだったのだ。今日初めて見たシロに零も少し驚いて僅かに目を見開いてしまうが、シロは構わず零のひざ元まで跳んで零の顔を見上げていく。

 

 

シロ『みゃあー』

 

 

零「…………」

 

 

気が抜けるような声で一声鳴きしながら顔を見上げてくるシロだが、その瞳はなにやら別物のように思えた。まるで『何を勝手に諦めてんだ?』とでも訴えてきているような……

 

 

シロ『にゃあ~』

 

 

零「…………」

 

 

何もせず、ただ零の顔を見上げながら鳴き続けるシロ。そんなシロを見た零は閉ざしていた口を僅かに開いて薄い息を吐き、ひざ元に乗った黒猫の両脇を掴んで持ち上げていく。

 

 

零「分かってるよ……お前だって飼い主様に逢いたいんだろう?助けたいと思ってるんだろう?」

 

 

シロ『うにゃあ~』

 

 

零「あぁ……分かってるよ……でも……どうしたらいいのか分からないんだ……アイツを……アズサを救い出す方法が……」

 

 

どうすればアズサを救えるのか。その方法が思い付かず落ち込んだ表情を浮かべてシロの瞳を見つめていくと、シロの瞳に自分の間抜けな顔が映っているのが見えた。その時……

 

 

零「……………ッ?!!!待て……待てよ……いや……もしかしたら……」

 

 

シロ『?』

 

 

シロの瞳に映った自分を見た瞬間、零は何かを思い付いたようにベッドから勢い良く立ち上がった。そんな青年の様子に両手に抱かれた黒猫の頭上に疑問符が浮かび上がる。

 

 

零「……いやダメだっ……この方法は確実じゃない!一歩間違えば俺やアズサが共倒れする可能性がっ……ッ!そうだ……」

 

 

一瞬苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた零だが、その時なにかを思い出したような声を上げながらシロを片手で抱き、テーブルに近づいてその上に置いてあったライドブッカーを手に取って開き中身のカードを取り出していく。

 

 

零(あのカードの力とアレを合わせれば、もしかしたらこの条件をクリアー出来るかもしれない…!アレは確か…………あった…!)

 

 

ライドブッカーから取り出したカードの束から見つけたシルエットだけのカード……手に入れた覚えのない『PRIEST』と書かれたライダーカードを手に取って眺めていく。

 

 

零(……やはりそうだ……このカードの力とアレを合わせれば、いけるかもしれない……!)

 

 

絵柄が消えた『PRIEST』のカードを強く握り締めながらそう考えると、零は取り出したカードの束をライドブッカーへと戻してポケットに仕舞い、シロを抱えたまま部屋から飛び出していく。とそんな時……

 

 

光「…っ!零?」

 

 

零「ッ?!光…!」

 

 

部屋から飛び出して通路を走っていた中、通路の向こうからやって来た光とバッタリ遭遇したのであった。光も零を見て一瞬驚いたような表情を浮かべるが、胸に抱いた黒猫と顔付きが変わった零の顔を見て何かを悟ったような顔を浮かべていく。

 

 

光「……行くのか?」

 

 

零「……あぁ……アイツを迎えに行くのは、俺の役目だ」

 

 

光「だがどうするつもりだ?分かっていると思うが、ただアズサのところに行くだけではアズサの命が危険になるだけだ。無論、お前も……」

 

 

零「…………」

 

 

真剣な表情でそう質問してきた光に零も一度口を閉ざし、無言のまま光の隣を通り過ぎてから再び口を開いた。

 

 

零「考えはちゃんとある。確実に助けられるか?と聞かれたら自信はないが……アズサを奴の呪縛から解放出来る可能性は高い。だがあまり安全とも言える方法じゃないから、お前や皆は此処で待っててくれ。正直、他の人間を巻き込まない自信がない……」

 

 

光「……分かった……正直不本意だが、仕方ないな」

 

 

零「すまん……それと……お前に少し頼みがある」

 

 

光「…頼み?」

 

 

頼みがあると言ってきた零に光は不思議そうな表情を浮かべながら振り返り、零は一度間を置くと少し暗い表情を浮かべながら喋り出した。

 

 

零「……アズサは必ず救い出す。だが、今回は自分のことにまで手が回りそうにない。だからもし俺の身に何かあった時には、アズサを「止めろ」……?」

 

 

零が光に向けて何かを言いかけるが、光の呟いた言葉がそれを遮った。思わず光の方に振り返れば、何処か呆れたような表情を浮かべる光の顔が目に映った。

 

 

光「全く……そんな戯れ事を気く気はない。この前も言っただろう?アズサの居場所になってやれるのは、お前しかいないんだぞ?」

 

 

零「……だが……」

 

 

光「安心しろ。何かあった時には、俺がお前を助ける……俺は天の道を往く男だからな。お前ぐらい助ける事など造作もない」

 

 

零「……フッ……成る程、それは頼もしいな?」

 

 

天を指差すポーズを取りながら強気にそう答えた光に零も思わず微笑を浮かべ、光から背を向けていく。

 

 

光「……死ぬなよ、零」

 

 

零「……あぁ、そう簡単にはくたばらんさ」

 

 

光の言葉にそう答えると、零は黒猫を抱え直し一度も振り返る事なく走り出していったのだった。光が見つめる零の背中、其処に一切の迷いは感じられなかった……

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑨(前編)

 

 

―ミッド郊外・鉄橋―

 

 

時刻は11時半。もうすぐ日付が変わろうとしている事もあってか、ミッドからの明かりも少しずつ消え始めてミッド郊外周辺もすっかり暗闇に包まれていた。空は分厚い雲に覆われて星も見えず、ザーザーと強い雨滴が降りしきる。

 

 

アズサ「…………」

 

 

そんな雨滴の中、大きな川にかかるミッドと郊外を繋ぐ鉄橋の上では、アズサが寂しげな顔をしながら此処から僅かに見えるミッドの街を眺める姿があった。傘などは差していない為、碧銀の髪や服もびしょびしょに濡れて肌に張り付いてしまってる。

 

 

アズサ(……この辺りなら……誰にも邪魔されない……)

 

 

だがそんな事にも関心を向けず、此処から僅かに見えるミッドの街と鉄橋周辺を眺めながらそう考えると、アズサはふらつきながら雨で濡れた地面に腰を下ろして座り込み、赤いランプが点滅する首輪にソッと手を当てていく。

 

 

アズサ「……何も望んではいけない……私は……存在してはならない命なのだから……」

 

 

感情の篭らない口調だが、何処か悲しげにも聞こえる声でそう呟きながらゆっくりと首に掛けてたカメラを外し、傍らに置いていく。そしてアズサはゆっくりとその場から立ち上がり、鉄橋の手摺りに手を掛けて橋の下を見下ろした。

土砂降りが影響しているのか、眼下の暗い川は増水していて、濁った水が鈍い音を立てていた。

 

 

アズサ「……これで終わる……もう誰も……傷付かずに済むんだ……」

 

 

土砂降りの雨に打たれながらそう呟き、両目を伏せるアズサ。そして暫く伏せていた両目をゆっくりと開き、両足に履いてた靴を脱いで手摺りの上に片膝を乗せようとした。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『にゃあー』

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「………え?」

 

 

 

 

 

 

何処からか聞こえてきた聞き慣れた鳴き声。それを聞いたアズサはピタリと動きを止め、手摺りに乗せようとした片膝を下ろしてそれが聞こえてきた方へと振り返った。其処には雨に打たれながらこちらにゆっくりと歩み寄ってくる黒い毛の猫……シロの姿があった。

 

 

アズサ「…シ、ロ…?」

 

 

シロ『にゃあー!』

 

 

アズサが呆然と猫の名前を呼べば、黒猫はそれに応えるようにまた鳴いた。何故こんなところにシロが?とアズサが疑問を隠し切れない中、シロの後ろからまた一つ人影が現れ、アズサの表情が再び驚愕のものへと変わっていく。

 

 

アズサ「……れ……い…?」

 

 

零「…………」

 

 

シロの背後から現れた人影……真剣な顔付きで佇む零を見たアズサは震える声でその人物の名を呟き、信じられないものを見たような表情で数歩後退りしていく。

 

 

アズサ「何で…どうして、此処に……」

 

 

零「…………」

 

 

零は動揺を浮かべるアズサに何も言わず、アズサに歩み寄ろうと一歩踏み出そうとするが……

 

 

アズサ「来ないでっ!」

 

 

零「…ッ!」

 

 

アズサに歩み寄ろうとした零にアズサが拒絶するように叫び、零は思わず足を止めて立ち止まってしまう。アズサはそんな零から視線を逸らすように顔を俯かせ、胸元に当てた手をギュッと握り締めた。

 

 

零「……アズサ……」

 

 

アズサ「っ……どうして?どうして来たの?やっと…やっと覚悟を決められたのにっ……なんでっ……」

 

 

零「…………」

 

 

前髪で顔を隠し、震える声でぽつぽつと呟くアズサ。零はそんなアズサから視線だけ逸らして手摺りの近くに視線を向けると、其処に置かれてある自分のカメラとアズサが脱いだ靴を発見して眉を寄せた。

 

 

零「……お前……一体何をする気だったんだ?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

零「消えるつもりだったのか?俺や……他の人間が傷付かないように……自分を犠牲にして……」

 

 

アズサ「っ…………」

 

 

真剣な口調でそう告げた零にアズサは思わず拳を更に強く握り締め、顔を俯かせたまま口を開いた。

 

 

アズサ「……だって……それしか方法はないの……もう私には、自分で自分を止める事は出来ない……手遅れになる前に……自分の手で全部終わらせるしかない……」

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「それに……どうせ私は死ぬ事を前提に造られた命だから……だから死んで当然の命なの……寧ろ、それが当たり前なの……」

 

 

零「っ……」

 

 

最初から捨て石にする為に造られた命だから、死んでも問題はない。そう告げたアズサに零は唇を噛み締め、手の平を鉄のように握り締めていく。

 

 

零「――ふざけるな……」

 

 

アズサ「………え?」

 

 

零「…ふざけるなと言ってるんだっ!!」

 

 

アズサ「っ?!」

 

 

まるで雨水を吹き飛ばしてしまいそうな勢いで怒号を響かせた零。そんな零からの気迫に思わず肩をビクッと震わせるアズサだが、零は構わず叫ぶ。

 

 

零「死んで当然?死ぬのが当たり前の命?…そんな命がある訳がないだろう!!確かにお前は造られた命かもしれないっ……けどお前の命もっ!俺や光達と何も変わらないっ!たった一つしかない命だろうが!!」

 

 

アズサ「…………」

 

 

零「それしか方法はない?何でお前が全部一人で抱え込んで死ななきゃならないんだ!お前だって気付いているんだろう?!こんな方法じゃ誰も救われない!お前が死んで俺達が助かったとしても、それで俺達がお前に感謝するとでも思ってるのか?!そんな事して助けられても俺達が……俺が……喜ぶ筈がないだろう…!」

 

 

アズサ「…………」

 

 

悲痛な表情で必死にアズサへと叫び続ける零。アズサはそんな零の言葉に悲しげに眉を寄せ、顔を俯かせながら再び呟く。

 

 

アズサ「だけど……仕方がないことなの。どの道此処で死ななかったとしても、私の意思はもうすぐ消えてただの操り人形になる……どうせ消えるなら……私のままで「消させない」……え?」

 

 

どうせ消えるのなら自分のままで消えたいと、そう告げようとしたアズサの言葉を遮った零。俯かせていた顔を上げれば、目の前には真剣な顔付きのまま言葉を紡ぐ零の姿があった。

 

 

零「俺がお前を消させないし、絶対に死なせない……俺はその為に……此処に立っているんだ」

 

 

アズサ「……そんなの無理……これは零にはどうにも出来ない……」

 

 

零「無理かどうかなんて、お前が決める事じゃない!……俺が決める事だ」

 

 

既に諦め切ってしまってるアズサに叫び、再び歩みを進めていく零。それに気付いたアズサはハッと俯かせていた顔を上げ、歩み寄ってくる零を見て怯えるように数歩後退りしていく。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――わざわざ自分から死に来たか……ディケイド」

 

 

 

 

 

 

 

『?!』

 

 

 

 

 

何処からか聞こえてきた第三者の声。不意に響き渡ったそれに零やアズサも驚愕して思わず振り返っていくと、其処にはトレンチコートを雨風で靡かせる一人の男性……鳴滝が不敵な笑みを浮かべながら零の背後に立っていたのだ。

 

 

零「鳴滝っ…!」

 

 

鳴滝「フフ、丁度いいタイミングで来てくれたねディケイド。まさかβの最後を見に来てくれるとは……ホントにタイミングが良い」

 

 

零「アズサの…最後?どういう意味だ?!」

 

 

鳴滝「言葉のままの意味だ。やはりβに感情など持たせるべきではなかったようだからな……今からβの心を壊し、完全に私の支配下に置かせるのだよ!」

 

 

そう言って鳴滝はコートの懐から四角い形状をした何かのスイッチのような物を取り出し、上下レバー式のスイッチを操作していく。その瞬間……

 

 

 

 

―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

 

 

アズサ「――ッッ?!!!ぁ……あぁ……うっ………あああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

 

 

零「ッ?!アズサッ!!」

 

 

突如アズサの首輪から大量のエネルギーが電流のように流れ出し、それと同時にアズサは頭を抱えて絶叫を上げながら苦しみ出したのであった。そんなアズサを見た零は思わず身を乗り出し、鳴滝は零を見て不気味な笑みを浮かべていく。

 

 

鳴滝「これで貴様も終わりだ、ディケイド!βの手によって、今度こそ貴様の旅を終わらせるがいい!フフッ……フハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

そう言って鳴滝は背後から現れた灰色の歪みの壁に呑まれて何処かへと消えてしまい、それを見た零は一度舌打ちしながら頭を抱えて苦しむアズサと向き合っていく。

 

 

アズサ「うっ……ぐっ……零っ……」

 

 

零「アズサ……」

 

 

アズサ「っ……お願いっ……私を……消してっ……このままじゃ……本当に零を殺してしまうっ……だから……お願いだからっ……」

 

 

零「…………」

 

 

頭を抱えて苦しみながらも、必死に自分を消してくれと零に望み続けるアズサ。そんなアズサに零は何も言わずに両目を伏せ、無言のまま何処からか取り出したディケイドライバーを腰に装着していく。

 

 

アズサ「零……」

 

 

零「……アズサ、お前確か言ったな?お前を救う方法はない、俺には無理な話だと」

 

 

アズサ「……え?」

 

 

ドライバーを腰に巻いた零を見て一瞬安心したように微笑むアズサだが、静かに呟いた零の言葉を聞いてその微笑みもすぐに消えた。そして零はそんなアズサの反応に構わず、伏せていた両目を見開きアズサを見据えていく。

 

 

零「俺はお前を諦めるつもりはない……方法がないなら、俺がこの手で切り開くだけだ。お前も俺も消えない、誰も傷付かない方法を……」

 

 

アズサ「ッ!そんな……そんな方法なんかっ…!」

 

 

零「ないなんて言わせない……なくても創るだけだ。俺は、諦めが悪い男だからな」

 

 

零は悲痛な表情を浮かべるアズサとは対称的に場違いな笑みを浮かべながらそう言い返すと、優しげな眼差しをアズサに向けながら口を開く。

 

 

零「……もう、一人で全部背負わなくていいんだ……お前の苦しみも悲しみも……俺が一緒に背負う……お前がその重みに潰されないように……俺がお前を支え続ける……」

 

 

アズサ「ッ……零っ……」

 

 

零「どんな事が起きようと……お前はこれからも……俺が守り続ける……傍にいる……約束だ」

 

 

アズサ「っ!!」

 

 

優しげな、それでいて何処か力強さを感じさせるその言葉にアズサは思わず息を呑んだ。

 

 

何も望んではいけない、誰の傍にも居てはならない、自分は誰かを傷付けてしまう存在なのだ。

 

 

何度も心の中で必死にそう言い聞かせるアズサだが、心の内から溢れてくる思いは止まらない。

 

 

もし本当に、この苦しみを彼が一緒に背ってくれるのなら。

 

 

もし本当に、彼がこんな自分を受け入れてくれるなら。

 

 

許されないと分かってる、そんなのは都合のいい甘えだと言うのも。

 

 

だがそれでも、彼女は自分の望みを口にする事を止められなかった。

 

 

アズサ「……私……私は……誰も傷付けたくない……誰も……殺したくなんかないっ…」

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「死ぬのが怖いっ……死にたくないっ……もっとっ……もっと生きていたいっ……でも、私にはそれを叶える力がないっ……だからっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「お願いっ……助けて……零っ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「あぁ……その願い……確かに聞き入れた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の内に仕舞い込んでいた、本当の思いを聞かせてくれたアズサにそう応えると共に、零は左目のコンタクトを外した。

 

 

――破壊の因子。すべてを破壊する悪魔の力。

 

 

その力を自ら解放する共に零の左目が妖しげに輝く紫色へと変わり、体の内から信じられない程の巨大な力が溢れてくる。だが……

 

 

―キイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

アズサ「ッ?!うっ…あっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

零「ッ!アズサっ!」

 

 

零が因子を解放させると共にアズサの耳に鳴り響いていた耳鳴りが激しくなり、腰に現れたベルトから電子音声が響くと共にアズサはシュロウガへと変身した。まるで因子の解放を感知したような、そんな不自然なタイミングで。

 

 

零「成る程……余程この力を危険視しているってことか……鳴滝の奴……」

 

 

シュロウガ『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……あああああああああああああああああああああああっ!!!!』

 

 

零が紫色に輝く左目に触れながらそう呟くと、シュロウガの首に巻かれた首輪のランプが何度か赤く点滅し、シュロウガはそれに応えるように左腕に魔力を注ぎ込んで手の平の前に出現した魔法陣から剣を取り出し戦闘態勢に入っていく。

 

 

零「チッ!最早容赦は無しって事かっ…」

 

 

シュロウガ『くっ…うっ…あぁ…!』

 

 

零「……待ってろアズサ、お前との約束……今度こそ守ってみせる」

 

 

まるで何かにもがき苦しむような様子を見せるシュロウガに向けてそう言うと、零は左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構えを取る。そして……

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身していき、変身を完了すると共にライドブッカーから一枚のカード……絵柄の消えた『PRIEST』のカードを取り出していく。

 

 

ディケイド『……この方法が正しいのか間違っているのか、俺には分からない。だが、今はお前の力が必要なんだ……アイツを縛り付ける呪縛から解放する為にも……お前の力を貸してくれ……』

 

 

アズサを苦しめる呪縛から解放する力を貸して欲しいと、カードを握り締めながらそう強く望むディケイド。すると、その願いに呼応するかのようにカードのシルエットに白いライダーの絵柄が浮かび上がり、それを見たディケイドは仮面越しに穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

ディケイド『……有り難う……変身ッ!』

 

 

絵柄が蘇ったカードに一度礼を告げると、ディケイドはディケイドライバーを開きカードを装填してスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:PRIEST!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディケイドの背中から白い翼が広げられ、ディケイドの体を包み込むように優しく覆っていく。そして翼が再度広げられると共に無数の白い羽が辺りに舞い散り、ディケイドの姿は赤い瞳と因子の力を解放した証である紫の瞳を持った聖職者のような姿をしたライダー……プリーストへと変身していったのだった。

 

 

シュロウガ『くっ!うっ…あぁ…!』

 

 

Dプリースト『アズサ……少し辛抱してくれ……今、お前を解放してやる』

 

 

シュロウガ『グッ!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!』

 

 

シュロウガは首輪のランプが何度か点滅すると同時に苦しみに満ちた叫び声を上げ、地面を爆発させる勢いで蹴ってDプリーストへと突っ込んでいった。そしてそれとは対称にDプリーストは焦った様子も見せずにその場から一歩も動かず、冷静にライドブッカーをSモードへと切り替えて右手に構える。

 

 

シュロウガ『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!』

 

 

Dプリースト『――救われぬ者には救いの手を……迷いし者には導きの手を……ってな』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

超スピードで突っ込んできたシュロウガの紅い剣がDプリーストに向けて上段から勢いよく振りかざされ、それに反撃するようにDプリーストはライドブッカーSモードを横薙ぎに払い、大粒の雨が激しく降る鉄橋に甲高い鉄の音が鳴り響いていったのであった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑨(中編)

 

 

 

シュロウガ『うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!』

 

 

Dプリースト『クッ!ハアァッ!!』

 

 

―ガギィッ!!ドゴォッ!グガアァッ!!―

 

 

正面から突っ込んできたシュロウガが上下左右にと力任せに振りかざしてくる剣を、ライドブッカーの刃で受け流し距離を離していくDプリースト。シュロウガはそれを見て背中の機械的な翼を広げて上空に飛び、両肩と両腰にエネルギーを集約させていく。

 

 

Dプリースト『ッ?!あれは……またあの誘導攻撃かっ!』

 

 

シュロウガが放とうとしている攻撃の正体に気付いたDプリーストはすぐさまライドブッカーからカードを一枚取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:AGNISH WATTAS!』

 

 

Dプリースト『ハァッ!』

 

 

シュロウガ『ああああああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にDプリーストが全身に身に纏った炎から無数の火炎が撃ち出され、それと共にシュロウガの両肩と両腰から放たれた無数のスフィアがDプリーストの放った火炎と正面からぶつかり合い、そして……

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Dプリーストのアグニッシュワッタスとシュロウガのトラジック・ジェノサイダーが激突して巨大な爆発を起こし、周囲に爆風が巻き起こり雨粒の方向がほんの数秒だけ乱れた。だが二人はそれに見向きもせずに、爆風の中を駆け抜けて互いに突っ込んでいった。

 

 

シュロウガ『あああああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

 

―ガギイィィィィンッ!!ドガアァッ!!ドグオォンッ!!―

 

 

Dプリースト『はぁっ!!(ちっ!暴走しているとは言えやはり強いっ……が、今なら遅れを取りはしないっ!!)』

 

 

プリーストと破壊の因子。この二つの巨大な力を同時に使った今なら、驚異的な戦闘能力を持つシュロウガに遅れを取ることはない。これならアズサを救い出せる筈だ。だが……

 

 

Dプリースト『……ッ?!くっ……がはぁ?!』

 

 

ごぼっ、という水っぽい音がDプリーストの仮面の下から響き渡った。見れば、Dプリーストの仮面の下の隙間から雨水に混じって重たい血がこぼれていた。

 

 

Dプリースト『ぐっ!ぁ……クソッたれめっ……もう限界が近づいてきたのかっ……!』

 

 

体の内側からの痛みと寒気に震えながら、どろりとした血液を口から吐き出して舌打ちするDプリースト。

 

 

この異常の原因は彼も理解している。

 

 

今ディケイドが使っているプリーストの能力は、聖に取り巻く邪を伐つ力。属性で例えるなら光だ。

 

 

そしてそれと同時に使っている破壊の因子は、負の感情により進化していく悪魔の力。属性で言うのなら闇と例えてもいい。

 

 

光と闇。相反する巨大な力を同時に使えば、何らかの拒絶反応が起こっても不思議ではない。

 

 

既にそれが原因でDプリーストの身体は限界が近く、体内の血液は逆流して吐血が止まらない状態になっていた。

 

 

そんな状態で、双方の力をフルに扱える筈もない。

 

 

だが、それこそが零の狙いだったのだ。

 

 

Dプリースト(っ……まだだ……せめてっ……せめてアズサを救い出すまではっ……持ってくれ…!!)

 

 

因子の力は強大過ぎるモノだ。一歩間違えて暴走してしまえばこのNXカブトの世界を滅ぼしてしまう可能性もあるが、今はプリーストの力との拒絶反応により力を完全に発揮出来ないでいる。

 

 

今プリーストの力に抑えられた因子で使える力は、僅か10%の力しかない絶対破壊能力だけ。

 

 

そして同じく破壊の因子によって力を抑えられたプリーストの力は、聖に取り巻く邪を伐つ力だけ。

 

 

それだけの力しか使えない現状だが、今の零に必要な力はそれだけだった。何故なら……

 

 

シュロウガ『うあああああああああああああああああああああッッ!!!』

 

 

―ガギィッ!ガギンッ!!ドグオォンッ!!―

 

 

Dプリースト(っ!今必要なのはアズサの自爆装置を破壊する力と、因子の力を極限にまで抑え、アズサを傷付けずに装置だけを破壊する能力を持ったライダーの力!このプリーストの力なら、それを可能に出来る筈なんだ…!)

 

 

そう、それが零の考えた策だった。

 

 

因子だけではアズサごと自爆装置を破壊してしまうかもしれないし、プリーストの力だけでも首輪を確実に破壊出来る確証もない。

 

 

だから極限まで抑えた因子の絶対破壊能力をプリーストに上乗せさせ、プリーストの能力で聖(アズサ)に取り巻く邪(ディケイドを抹殺しようとする鳴滝の悪意が込められた自爆装置)を破壊する。

 

 

身体に掛かる負担やリスクは大きいが、アズサを犠牲にせず、自爆システムだけを取り除くにはそれしか手はなかったのだ。

 

 

―ガギインッ!!グガアァンッ!!バキィッ!!ズガアァッ!!―

 

 

Dプリースト『グゥッ!!(幸いにもさっきの鳴滝の行動で、あの首輪がアズサを操っている原因であり、自爆装置だということも大体は分かった……後はあの首輪を破壊すれば良いだけの話だがっ……!)』

 

 

シュロウガ『ハアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

剣撃の嵐を防ぎながら思考を巡らませていたDプリーストだが、その時シュロウガが背中の翼を広げて上空へと高く飛び上がり、超スピードでDプリーストへと突っ込んできた。

 

 

―ズザァッ!ザシュウッ!ズザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!!―

 

 

Dプリースト『チッ!先ずはコイツの動きの速さをどうにかしないと話にならんかっ……』

 

 

自爆装置をどうこうする前に、肉眼でも捉えられないスピードで動かれては攻撃も出来ない。先ずはシュロウガの動きを封じねばと考えたDプリーストは地面を転がってシュロウガの攻撃を避けながらライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

電子音声が響くと共にDプリーストは一人から三人へと分身していき、更に分身された二人のDプリーストはライドブッカーからそれぞれ一枚ずつカードを取り出しドライバーへとセットしてスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:REVERSE DERRINGER!』

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!ガシィッ!!―

 

 

シュロウガ『…?!』

 

 

電子音声が響くと共に二人のDプリーストがある方向に向けて拳を突き出すと雷が放たれ、その方向にいたシュロウガの両足を捕えていったのだ。不意に両足に襲い掛かった負荷にシュロウガの動きが一瞬止まった、その瞬間……

 

 

 

 

 

Dプリースト『セアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ザシュウゥッ!!―

 

 

シュロウガ『?!!』

 

 

シュロウガの上空へと一瞬で移動したDプリーストが降下を利用してシュロウガの片翼をライドブッカーで斬り落とし、それと同時にシュロウガの両足を拘束していた雷が消えていった。そしてその瞬間、片方の翼を失ったシュロウガはバランス感覚を失って地上へと落下し、地面を滑るようにして地上へと激突していったのだった。

 

 

シュロウガ『くっ……ぅ……ぐっ……』

 

 

Dプリースト『ゲホッゲホッ!はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……これでもう、ご自慢の速さで動けなくなったな……?』

 

 

仮面の下から血の塊を吐き出しながらそう言うと、DプリーストはけだるそうにライドブッカーSモードを構え直していく。それを見たシュロウガも若干ふらつきながら身体を起こし、剣を片手にDプリーストを見据える。

 

 

Dプリースト(っ……これでやっとフェアな戦いが出来る訳だが……クソッ……こっちはもう限界かっ…)

 

 

心の中で毒づきながら左目に触れてみれば、Dプリーストの仮面が左目からひび割れ始めていた。おそらくもう限界が近いのだろうとDプリーストは軽く舌打ちし、疲れている様子を全く見せないシュロウガを見つめていく。

 

 

Dプリースト(これ以上時間を掛ければ因子もプリーストの力も使えなくなってしまうっ……もう少し弱らせてからキメるつもりだったがっ……やるしかないっ!)

 

 

最早賭けるしか手はないとDプリーストは危うく吐き出しそうになった血の塊を飲み込みながらそう考え、ライドブッカーから一枚のカードを取り出してディケイドライバーへと装填し、それに気付いたシュロウガも剣の刀身にエネルギーを集束させていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE…』

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

『……………』

 

 

二つの電子音声が鳴り響き、それと共にDプリーストとシュロウガは相手の出方を伺いながら自身の武器を構えてゆっくりと身を屈めていく。そして……

 

 

 

 

 

―ダッ!!―

 

 

Dプリースト『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

シュロウガ『ああああああああああああああああああああああああッ!!!』

 

 

どちらからでもなく、ほぼ同時に地面を蹴って互いに走り出したDプリーストとシュロウガ。互いが鉄橋の中心地点にまで迫るとシュロウガは青い火花を散らせる紅い剣をDプリーストに向けて振りかざし、Dプリーストは下段からライドブッカーを持ち上げるように振り上げ、そして……

 

 

―ガギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dプリースト『ぐぅ!!』

 

 

シュロウガ『ッ!!』

 

 

すれ違い様に鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音を響かせながら二つの刃が激突し、Dプリーストの手からライドブッカーが弾けて上空へと投げ出されてしまった。そしてシュロウガは武器を失ったDプリーストの背中に向けて剣を勢いよく突き出し、Dプリーストはそれに振り返らずにバックルをスライドさせた。

 

 

『――P・P・P・PRIEST!』

 

 

Dプリースト『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDプリーストの右腕がまばゆい白光と禍々しい紫色の光を纏い、Dプリーストは血まみれの唇を噛み締めながら振り向き様に右腕を振り上げた。

 

 

目の前から迫るのは剣の切っ先を突き出してくるシュロウガ。

 

 

だがDプリーストは怯む事なく、輝く手の平を鋼鉄のように握り締めて更に一歩踏み出し、ゴォッ!という轟音と共にシュロウガの首目掛けて拳を飛ばせた。

 

 

Dプリースト『届けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!』

 

 

シュロウガ『うああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!!』

 

 

Dプリーストとシュロウガは叫び、拳と剣は雨粒を砕きながら互いに交わることなく交差し、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄橋の中心で巨大な爆発が巻き起こり、二人の視界が黒い粉塵で覆われていったのであった。

 

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑨(後編)

 

 

Dプリースト『………………………………………』

 

 

シュロウガ『…………………………………………』

 

 

粉塵が周囲を覆い隠す中、二人はその中でイチミリも動かなかった。互いに必殺の一撃を放った態勢のまま呼吸をする音も響かせず、ただただ沈黙で有り続けていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―…………ピキッ……ピシピシィッ……バリィンッ!―

 

 

 

 

 

 

粉塵の中で、何かが壊れる音がした。空気中の粉塵が雨水で流れて視界が徐々に戻っていくと、その正体がすぐに分かった。

 

 

Dプリーストと向き合うシュロウガの首元にはDプリーストの拳が僅かに触れ、その足元には真っ二つに割れた機械の首輪が転がっていたのだ。

 

 

つまりそれが意味するのは……………成功したのだ。黒月 零が賭けた、たった一つの秘策が。

 

 

シュロウガ『……………………………………っ…………………?此処…………は…………』

 

 

そんな中、最初に声を出したのはシュロウガだった。朝目覚めたばかりのようにシュロウガが呆然と意識を取り戻すと同時に、Dプリーストがディケイドの姿へと戻っていった。

 

 

シュロウガ『ッ!……れ……い……?』

 

 

ディケイド『…………』

 

 

元の姿に戻ったディケイドを見て完全に正気に戻り、呆然と零の名を呟くシュロウガ。だがディケイドは顔を俯かせたまま何も答えず、シュロウガの首に突き出していた拳を開きゆっくりとシュロウガの頭の上へと乗せていく。

 

 

ディケイド『……約束……ちゃんと守ったぞ……これでもう……お前が消える必要なんてなくなった……』

 

 

シュロウガ『え………………………………あ……』

 

 

ディケイドの言葉を聞いて一瞬呆然としてしまうシュロウガだが、その時自分を今まで苦しめていた首輪がなくなっている事に気付き、ディケイドを見つめる。

 

 

シュロウガ『助けて……くれたの?私を……?』

 

 

ディケイド『……言った筈だ……お前を消させないし……死なせないと……守ると……約束もしたし……な……』

 

 

シュロウガ『っ…!』

 

 

苦笑いを浮かべながらそう告げたディケイドに、シュロウガは両目を僅かに見開き思わず息を呑んだ。

 

 

絶対不可能だと思っていたことを可能にしてくれた。

 

 

生きたいという自分の願いを叶えてくれた。

 

 

あの時の約束を守る為に、全部を諦めずに此処までしてくれたのだと。

 

 

シュロウガはそんなディケイドの思いに、堪らなく嬉しく思えていた。

 

 

シュロウガ『っ……零……ありが―――』

 

 

だからシュロウガは、泣きそうになるのを堪えてディケイドにお礼を言おうと口を開いた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『――くっ……ぅ……ガハァッ?!』

 

 

―ビシャアァッ!!―

 

 

シュロウガ『――え…?』

 

 

 

 

ディケイドは仮面の下から血の塊を吐き出し、吐き出された血液はシュロウガの胸元に飛び散り血の色に染まっていったのであった。突然のことにシュロウガが呆然と固まる中、ディケイドは変身が解除されて零へと戻り、そのまま止まる事なく血を吐き出し続ける。

 

 

零「ゲホッゲホッ!!ぁ……がっ……ガハァ!!」

 

 

シュロウガ『?!れ、零?どうし………ッ?!!!』

 

 

血液を流し続ける零を見て漸く正気に戻ったシュロウガは慌てて零を支えながらどうしたのか聞こうとするが、その時あるモノを見て驚愕に染まり、血の気が引いた。何故なら……

 

 

 

 

 

先程シュロウガが突き立てた紅い剣が零の腹を深々と貫き、完全に貫通していたのだから……

 

 

 

 

シュロウガ『あ……ぁ……れ……れ、い…?』

 

 

零「ゲホッガハッ!!はぁっ……はぁっ……何を……そんな間抜けな声を……出してんだっ……」

 

 

そう言って零はゆっくりと顔を上げて笑うが、その顔も既に血で染まり切っていた。

 

 

禍々しい光を放つ左目から頬を伝うおびただしい量の赤い液体……

 

 

吐血したせいで口元から流れる血液……

 

 

更に加えれば、剣が貫通した腹部からも止まる事なく大量の血が溢れている。

 

 

出血多量。明らかに血を流し過ぎているが、それも当然と言えば当然だ。

 

 

プリーストと破壊の因子の拒絶反応で体がボロボロになっていくのを無視し続け、最後の一撃も回避と防御を捨てて放った一か八かの捨て身技だったのだ。

 

 

それがこのような結果を招いたとしても、仕方がないことだろう。

 

 

零はそんな事を思いながら腹に刺さった剣の柄を掴んでゆっくりと引き抜き剣を投げ捨てるが、剣を抜いたせいで腹部から流れる血の量が更に増した。

 

 

シュロウガ『っ?!!れ、零っ……』

 

 

零「っ……だから……そんな声出すな……って言ってるだろうっ……漸くお前は……救われたん……だから……もっと喜べ……」

 

 

震える声で呆然と呟くシュロウガにそう言うと、零は血が溢れ出る腹の傷を抑えながらシュロウガから離れていく。視界がぐらついて身体のバランスが保てず足がふらつくが、零はそれに構わず口を開いた。

 

 

零「…………もう…………お前は…………誰かを殺す為にだけ…………生きなくていい…………お前はもう…………自由…………だ…………」

 

 

シュロウガ『………ぁ……ぁぁ……』

 

 

零「…………だからもう…………泣く必要も…………ない…………これからは…………笑って生きろ…………何処かのバカみたいに…………な…………」

 

 

腹部からおびただしい量の赤い液体が流れ出し、雨に濡れた路面に新たな赤い色が散っていく。零は赤い液体が溢れる腹を片手で抑えながら後退り、青白くなった顔で薄く微笑んだ。

 

 

零「……これからは宿命の……為なんかじゃ…………なく………自分の為………に………お前が生きたいように………生きろ………お前を縛るもの………なんて………もう……ないん……だから………」

 

 

そう言った零の瞳から徐々に光が失われていき、後ろに下がっていた零の足に何かが引っ掛かり後ろへと倒れていく。その先には……

 

 

 

 

………手摺りを越えた先、其処には遥か下にごうごうと音を立てて流れる黒い川が存在していた。

 

 

 

 

シュロウガ『?!れっ――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「ハハッ……これじゃあ俺も……人の事は言えない……………な………」

 

 

 

 

視界の向こうで、手を伸ばして走り寄ってくるシュロウガの姿が見えた。だがそれも一瞬で見えなくなり、身体が宙に浮くような感覚が襲った。それが何なのか理解する前に……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザパアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

……黒月零は、鉄橋の遥か下の黒い川の中へと姿を消していったのだった。

 

 

シュロウガ『――?!!!い…嫌ああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!』

 

 

鉄橋から落ちていった零。それを見たシュロウガは悲痛な悲鳴を上げながら雨が降る上空へと飛び上がっていった。

 

 

シュロウガ『零!零っ!!零ィッ!!!』

 

 

黒い川の上空を飛び回り、零の姿を捜して必死に名前を叫び続けるシュロウガ。だが川は雨のせいでかなり増水しており、其処から人ひとりを見つける事なんて到底出来る筈もなかった。

 

 

シュロウガ『ぁ……あぁ……ぁあ……!』

 

 

零が消えた黒い川の上空で、シュロウガは呆然と雨に打たれながら自分の手を眺めた。其処にはベッタリと血まみれになった手の平……黒月零の血がこびりついていた。

 

 

シュロウガ『…わ、私……私が……零を……』

 

 

――殺した。そう口にして全てを理解した瞬間、シュロウガの精神は限界超え、そして……

 

 

 

 

 

 

シュロウガ『あ…あぁ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

轟雨が降り注ぎ、荒れ狂う黒い川の上で少女の悲痛な悲鳴が響き渡ったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、騒ぎを聞き付けて鉄橋へとやって来た光達が零のカメラを抱えて錯乱していたアズサを発見したのは、それから数十分程経った後だった。

 

 

そして天候が回復した後、保護したアズサの証言を元に零の捜索を開始した機動六課だったが……黒月零が川から発見されることはなかった――――

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑩

 

 

 

零が消息不明となってから翌日。六課のとある一室では光と勇司、そして部屋の中心には片手を広げて瞳を閉じながら立つジェノスの姿があった。因みに、光達以外の六課メンバーは零の捜索の為に川へと向かってるため隊舎にはいない。

 

 

ジェノス「検索世界設定NXカブト……零の行方を調べる……キーワードは『ディケイド』『黒月零』『ストライクのカード』……そして『鈍感』と『朴念仁』……」

 

 

勇司「おいおい、そんなんでいいのかよ……」

 

 

光「勇司、静かにしろ……それで、どうだ?」

 

 

光は勇司に一言告げると、険しい表情で検索モードに入ったジェノスに質問していく。だが、暫く瞳を閉ざしていたジェノスはゆっくりと瞳を開き、その問いに首を左右に振った。

 

 

ジェノス「ダメだ……どのキーワードにも全く引っ掛からない……」

 

 

勇司「マ、マジかよ……!ジェノスでも分からないのか?!」

 

 

ジェノス「すまん……マテリアルサーチなら平行世界の全てを検索出来る筈なのに、それでも見付からないなんて……」

 

 

光「そうか……ジェノスのマテリアルサーチでも零の居場所が分からないとなると……やはり、人海戦術で捜すしかないか」

 

 

ジェノスの検索でも見つけられないなら、やはり足を使って零を探すしかないかと顎に手を添えて呟く光。しかし……

 

 

勇司「……だけど、それで本当に見付かるのか?昨日だって零の気を辿って川を探したけど零の気は感じられなかったし、ジェノスの検索でもアイツの居場所が分からないなら……なら、アイツは一体何処に行っちまったんだよ?」

 

 

『…………』

 

 

そう、勇司の言う通り昨日の捜索でも光達は零の気を頼りに川を捜索しようとしたのだが、何故か零の気は忽然と消えていて零を見つける事が出来なかったのだ。

 

 

光と勇司の気を感じ取る力にジェノスのマテリアルサーチ。

 

 

これだけの方法を使っても見付からないとなると、零は一体何処に行ってしまったのか?それが分からない勇司とジェノスは暗い表情を浮かべてしまうが……

 

 

光「…だが、それでも捜すしかないだろう。アイツは今重傷を負っていて、しかもそのまま濁流に流されてしまったんだ。そんな状態のまま今も流されているとなると、アイツの身が危険だ……」

 

 

勇司「そりゃそうだけどさ……」

 

 

光「それに、もしこのまま零が見付からなければ……アズサはずっとあのままなんだぞ」

 

 

ジェノス「あっ……」

 

 

光の口から告げられた名前を聞くと勇司とジェノスは口を閉ざし、今のアズサの状態を思い出して気まずそうに顔を俯かせてしまった。

 

 

光「零は命を懸けてアズサを守った……自分のやるべき事を果たしたんだ。なら俺達も、俺達がやるべき事をやるだけだ。そうだろう?」

 

 

勇司「……だな。今アイツを助けてやれるのは、俺達しかいないもんな?」

 

 

ジェノス「よし……なら俺も今から現場に行ってくる!ストライクスプラッシュなら、小回りも聞いて捜し易いからな」

 

 

勇司とジェノスは光の言葉に力強く頷くと、ジェノスは先に零が行方不明となった現場である川に向かおうと部屋から飛び出していった。そして光と勇司もそれを追いかけるように部屋から出て行こうとしたその時、二人の前に通信パネルが現れた。

 

 

はやて(別)『光君、勇司君、ちょっとええかな?』

 

 

光「?はやて…?」

 

 

勇司「どうしたんだ?……まさか、何か捜索に進展があったのか?!」

 

 

いきなり出現したパネルに光が隣で疑問げに首を傾げる中、勇司は何か手掛かりになるようなものが見付かったのではと期待が込められた目で身を乗り出すが、はやてはその問いに首を左右に振った。

 

 

はやて『ううん、そっちはまだ進展ないみたいなんや……今は何処かに流れ着いてそうな可能性が高い下流を調べとるんやけど、まだなんとも……』

 

 

勇司「そ、そうなのか……じゃあ、何か別の用事でもあんのか?」

 

 

はやて『あぁうん……実は光君達に会いたいって言うお客さんが来とるんよ。何でも別の世界から来たとか何とか……』

 

 

光「別の世界から?」

 

 

異世界からの来客。そう聞かされた光と勇司は互いに顔を見合わせて首を傾げ、取りあえずその客に会ってみようと部屋から出ていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数分後、光と勇司は別世界からやって来たという客を待たせてる応接室の前に訪れていた。そして二人が応接室に入ると、其処には二人の青年と一体の異形が備え付けのソファーに座っていた。

 

 

勇司(?!お、おい光……アイツの隣にいるのってっ?!)

 

 

光(あぁ……間違いないな……)

 

 

部屋に入って一番最初に目に付いた異形を見て、何やら慌てふてめく勇司と冷静な態度で頷く光。すると、光と勇司が部屋の中に入って来たのを見た二人の青年の内の一人がソファーから立ち上がった。

 

 

「アンタ達か?この世界のライダーっていう、カブトとガタックは?」

 

 

光「そうだが……お前達は誰だ?うちの部隊長の話では、別の世界から来たと聞いたが……」

 

 

「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は刃山翔、別世界の住人でアンタ達と同じ仮面ライダーだ。それでこっちが……」

 

 

青年……翔が自己紹介してソファーに座っているもう一人の青年の方に振り返ると、青年と異形もソファーから立ち上がり自己紹介していく。

 

 

「俺の名は遠野総一。翔と同じ別世界の住人で、仮面ライダーNEW電王の装着者だ。よろしくな?」

 

 

『……テディだ。よろしく頼む』

 

 

勇司(や、やっぱりテディだ!おいおい光!本物だぜ?!本物のテディだよ?!しかもNEW電王もだってさ?!)

 

光(分かってる…一々騒ぐな……)

 

 

軽い自己紹介をした青年と紳士的な態度で深々とお辞儀した異形……"遠野総一"とテディを見て光に念話を送りながらはしゃぐ勇司だが、光はそんな勇司に呆れた様子で念話を返しながら三人に向けて口を開いた。

 

 

光「それで、別世界の住人のお前達がこの世界に何の用だ?……このタイミングで来たとなると、お前達も零の知り合いか?」

 

 

勇司「……え?」

 

 

何かを察したような目つきで翔と総一を見つめながらそう告げた光に勇司は思わず声を上げ、質問をされた翔と総一は関心したように頷いていた。

 

 

翔「大した洞察力だな……流石はカブトの装着者ってところか」

 

 

勇司「へ?じゃあ、アンタ等もジェノスと同じで…?」

 

 

総一「あぁ、零が行方不明になったって聞いて駆け付けたんだよ。零にはコイツが消えた時に世話になったからな……その恩返しがしたくて来たんだ」

 

 

光(テディが消えた時?…まさか、エピソードブルーのあれの事か?)

 

 

総一の話を聞いて一人何かを考える光だが、今はそれより優先すべき事があると思考を切り替えて口を開いた。

 

 

光「とにかく、零の捜索を手伝いに来てくれたなら助かる。正直、こっちも人手が欲しかった所だからな」

 

 

総一「?何だ、もしかしてあんまり進展してないのか?」

 

 

勇司「まあな……こっちも色んな方法を使ってアイツを捜してるんだけど、未だ手掛かりは何も……」

 

 

翔「そうなのか……分かった、こっちでも何か手掛かりがないか調べてみるよ」

 

 

光「助かる……まずは現場にいるジェノスとなのは達と合流してくれ。現場の詳しい状況はアイツ等が説明してくれる筈だ。俺達も用を済ませたらすぐそっちと合流する」

 

 

総一「あぁ、了解だ!」

 

 

光の指示を受けた翔と総一とテディは深く頷いて部屋から出ていき、ジェノスが向かった鉄橋付近の川へと向かっていったのだった。そして部屋に残された光と勇司は……

 

 

光「行ったか………勇司、俺達はラルクの所に行くぞ」

 

 

勇司「へ?……あ、そっか!アイツなら零の居場所を一発で見付けられるかもしんないしな?!」

 

 

光「そういうことだ、とにかく今は少しでも情報が欲しいからな。アイツに聞けば何らかの手掛かりが手に入るかもしれん…行くぞ」

 

 

ラルクという人物になら、何か零に関する情報が手に入るかもしれない。そう考えた光は勇司と共に応接室を後にし何処かに向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―機動六課・医務室―

 

 

一方その頃、六課の医務室には二人の人影があった。一人はこの医務室という城の城主で、一つのベッドの隣で困ったような表情を浮かべるシャマル。もう一人はそのベッドの上に座り込み、生気を失った瞳で手に持ったカメラを眺める少女……アズサであった。

 

 

シャマル(別)「えっと……アズサちゃん?その…そろそろお昼の時間だし、何か食べようか?」

 

 

アズサ「……………」

 

 

シャマル(別)「ほら、アズサちゃん昨日から何も食べてないでしょう?何かお腹に入れとかないと、身体がどんどん弱っていくわよ?」

 

 

アズサ「……………」

 

 

気を使ってアズサに話し掛けるシャマルだが、アズサは死人のような目でカメラを見つめたまま何も答えない。そんなアズサの様子にシャマルも暗い表情を浮かべて口を閉ざしてしまう。

 

 

シャマル(別)「……アズサちゃん。零君のことは、今六課の皆が必死に捜してくれてるの。きっとすぐ見付かる筈だから、元気出して?ね?」

 

 

アズサ「……………」

 

 

シャマル(別)「大丈夫……今回の件はアズサちゃんのせいなんかじゃない。零君もきっと生きてる筈だから……だから、アズサちゃんが自分を責める必要なんてないのよ?」

 

 

アズサ「……………」

 

 

シャマルはアズサを元気付けようと優しく言葉を掛けていくが、先程と変わらずアズサからはなんの反応も返って来ない。やはり自分が零を殺してしまったという精神的なショックが大きいのだろうと、シャマルは暗い表情でアズサの頭を優しく撫でていく。

 

 

シャマル(別)「…じゃあ、ちょっと食堂に行って何か持ってくるわね?少し出てくるけど、すぐ戻って来るから」

 

 

とにかく今はアズサに何か食べさせないといけないと、シャマルはアズサにそう告げて食堂から食事を持って来ようと医務室から出ていった。そして部屋に一人残されたアズサはピクリとも動かず、ただ生気のない瞳でカメラを眺めていた。そんな時……

 

 

『――こんにちは、アズサちゃん』

 

 

アズサ「…………?」

 

 

静穏に包まれた医務室に響き渡った声。今までピクリとも動かなかったアズサは其処で初めて顔を動かし、声が聞こえてきた方へと顔を向けた。するとアズサの目の前に突然歪みが現れ、其処から一人の銀髪の髪の男性がゆっくりと姿を現した。

 

 

アズサ「……誰……?」

 

 

「?あぁ、これはいきなり失礼しました……私の名はアレン。零君の知り合いですよ」

 

 

アズサ「零の……知り合い……?」

 

 

アレン「えぇ、と言っても……零君は『この姿の私』を知りませんけどね」

 

 

アズサ「………?」

 

 

銀髪の男性……"アレン"はそう言って苦笑いを浮かべるが、アズサはその意味が良く分からず小首を傾げてしまう。アレンはそんなアズサの様子にまた苦笑いを零しながらベッドの隣に置かれた椅子に腰に下ろし、何処からかフルーツ盛りを取り出してアズサに差し出した。

 

 

アズサ「果物……?」

 

 

アレン「此処に来る前に聞きましたが、貴方が昨日から何も食べていないと聞きましてね。これは私からのお見舞いの品です」

 

 

アズサ「……いらない……」

 

 

スッとフルーツ盛りを差し出して来るアレンだが、アズサはそれに対しいらないと力無く首を振って顔を俯かせてしまう。

 

 

アレン「何か食べないと、いつまで経っても元気にはなれませんよ?此処の皆さんも貴方の体調を心配しているようですし、せめて少しだけでも食べてみては?」

 

 

アズサ「…………」

 

 

アレンはアズサになにかを食べた方が良いと促すが、アズサは口を閉ざしたまま何も答えない。そんなアズサの様子にアレンは一度瞳を伏せると、フルーツ盛りを適当な場所に置きながら口を開いた。

 

 

アレン「……零君のこと、自分のせいだと思っているのですか?自分が零君を殺してしまった、と」

 

 

アズサ「っ…!」

 

 

アレンの言葉にアズサは顔を俯かせたまま小さく息を拒み、それに気付いたアレンは伏せていた目を開いて更に言葉を続けていく。

 

 

アレン「アズサちゃん……零君のことは貴方のせいではありません。今回の件は、貴方を利用して零君を消そうとした鳴滝さんが原因なんですよ」

 

 

アズサ「……でも……私が……私がいなければ……零がこんな目に合うことはなかった……私に関わったせいで……今も零は……」

 

 

アレン「…………」

 

 

アズサはアレンにそう言いながらカメラから手を離し、手の平を眺めながら生気を失った瞳を悲しげに細めていく。

 

 

アズサ「記憶はないけど……今でもこの手が覚えてる……零を突き刺した感触を……」

 

 

アレン「…………」

 

 

アズサ「誰かのせいになんて出来ない……操られていたとしても……実際に零を手に掛けたのは……私だものっ……」

 

 

確かにアズサは鳴滝に操られて零と戦ったが、実際に零を手に掛けてしまったのは自分なのだ。だから全部の事を鳴滝のせいには出来ないと、アズサは手の平にポツポツと小さな粒が落としながらそう告げた。それを聞いたアレンは口を閉ざし、無言のままアズサの頭の上に手の平を置いていく。

 

 

アレン「アズサちゃん……零君が君に言った言葉、今でも覚えていますか?」

 

 

アズサ「…?零の……言葉……?」

 

 

アレン「そう……君はなにもかも一人で抱え込んでしまうクセがあります。零君も言っていたでしょう?『何でお前が全部一人で抱え込んで死ななきゃならないんだ』と……」

 

 

アズサ「っ!……どうして……それを?」

 

 

今のは確かに零に言われた言葉だが、あの時は確か零と自分しかいなかったハズだ。それを何故アレンが知っているのかと不思議に思うが、アレンは「まぁ、元ですが私も神父ですからね。迷える子羊のことは何でも知っているのですよ」と何だか良く分からない言葉で返されてしまった。

 

 

アレン「アズサちゃん、確かに人は時に罪を犯します……その罪を犯したことに罪悪を感じる事も間違いではありません……ですが、何かも自分のせいだと思ってはいけませんよ?貴方のソレは他人の罪まで自分の罪だと思い、背負い過ぎてしまってる。それではいつか潰れてしまいます」

 

 

アズサ「…………」

 

 

アレン「それに君には、それより他にすべき事があります」

 

 

アズサ「……?私の……すべき事……?」

 

 

アレン「そう、君が今すべき事は自分を責める事でも、此処で大人しく眠ってる事でもありません……零君の帰りを待っててあげる事です」

 

 

アズサ「え…?」

 

 

零の帰りを待っててあげること。アレンの口から告げられたその言葉にアズサは思わず疑問げな声を漏らし、アレンは優しく微笑みながら更に続けた。

 

 

アレン「零君は必ず生きています。確かに無茶ばかりする子ではありますが……帰りを待っててくれる人達の下には必ず帰ってくる子なんです。ですから君は、彼が帰ってくるのを待っててあげなくてはいけません……零君が帰って来た時、彼が安心出来るようにね」

 

 

アズサ「……私が……零の帰りを……」

 

 

アレンの言葉を聞いたアズサはそう呟くと、ひざ元に置いた零のカメラを見下ろしていく。

 

 

アズサ「……私……待ってていいの?零の帰りを……」

 

 

アレン「えぇ、これは君にしか出来ない事です」

 

 

アズサ「……でも私は……零を傷付けて……」

 

 

アレン「さっきも言ったでしょう?それは君自身の罪ではありません。もしそれを君の罪などと言ってくる輩がいるのなら、私が零君に代わってその輩を黙らせてあげます。君は私や……此処にいる方々が守りますから」

 

 

アズサ「…………っ…………ぅ…………うっ……」

 

 

零を傷付けた自分が、彼の帰りを待っててもいいのだと。アレンのその言葉で少なからず心を許されたアズサはずっと堪えていた涙を瞳からとめどなく溢れさせ、アレンはそんなアズサをソッと抱き締めていく。

 

 

アレン「泣いていいんですよ?涙を流せるのは、アズサちゃんが優しい心を持っている証拠です……」

 

 

アズサ「っ!うっ…ぁ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っっ!!!」

 

 

アレンのその言葉でアズサの中の箍が完全に外れ、アレンの胸の中で泣きじゃくるアズサ。アレンは子供をあやすような仕草でアズサの頭を優しく撫でながら、静かに穏やかな笑みを浮かべていく。

 

 

アレン(零君、君が守りたかった者は私達が守ります……だから早く帰って来て上げなさい。アズサちゃんの心を救ってあげられるのは……君しかいないんですから……)

 

 

アレンは胸の中で泣きじゃくるアズサの頭を撫でながらそう思い、ただ零が早く帰ってくることを強く願い続けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその後、翔や総一の協力を得て捜索範囲を広げた機動六課であったが……未だ黒月零が発見される事はなかった……

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑪

 

―機動六課・食堂―

 

 

零が消息不明となってから一週間後。あれから噂を聞き付けて様々な平行世界からやって来た仲間達の協力を得て零の捜索をしていた一同だが、未だ零が発見される事がなかった。そして午後の捜索を他のメンバーに任せた光達は、食堂に集まって捜索状況を報告しあっていた。

 

 

光「――やはり、そっちもダメだったか…」

 

 

翔「あぁ……フェニックスとケルベロス、それに四神と四霊にも手伝ってもらったんだけど……結果は同じだった……」

 

 

総一「右に同じく……」

 

 

ジェノス「俺も何度か検索し直したけど……やっぱりダメだ。零の居場所は全く掴めない……」

 

 

勇司「そっか……」

 

 

翔達から話を聞いた光達は肩を落として顔を俯かせ、翔達も溜め息を吐きながら肩を落としてしまう。この一週間、様々な平行世界からやって来た住人達の力を借りて零の捜索を続けてきたが、結果は一週前と何も変わっていなかった。

 

 

勇司「こっちも相変わらず零の気は感じられないし、この前捜索を頼んだラルクの方もそれらしい人物はまだ発見出来ていないらしい……」

 

 

総一「クソッ……ホントに何処行っちまったんだよ、あいつっ……」

 

 

ジェノス「これだけ探して見つからないとなると……やっぱりもう……」

 

 

翔「縁起でもないこと言うな!アイツがそんな簡単にくたばる訳ないだろう?!」

 

 

勇司「……けどさ……こんだけ探しても手掛かりも何も見つかんねぇんだぜ?そう思うのも無理ねぇって……」

 

 

光「…………」

 

 

平行世界から来た仲間達の特殊能力も加え、既に考えられる手段は全て使った。神に頼んで探してもらっても、それでも零は見つからないのだ。濁流に飲まれてそのまま海に流されたかもしれないという可能性も考えて海の方も捜索してみたが、それでも見つからない。

 

此処まで探しても見つからないとなると、もしかしたら見知らぬ誰かに拾われて何処で静養しているのか、それとも最悪……

 

 

ジェノス「……そ、そういえばさ?アズサの方はどうなんだ?」

 

 

勇司「へ?あ、あぁ。アイツならほら、彼処だよ」

 

 

なんだか暗いムードになり始めた所で話題を変えようとジェノスが勇司にアズサのことを問い、勇司は一瞬戸惑いながらも食堂の厨房の方を指差し、全員がその方へと振り向いた。其処には……

 

 

 

 

神夜「――じゃあアズサ、次はそっちの食材の皮剥き、お願い出来る?」

 

 

アズサ「……うん……分かった……」

 

 

 

 

厨房では他のコック達と共に二人の女性と少女……アズサの護衛の為に紫凰響の世界からやって来た"紫凰神夜"とアズサが調理をしている姿があった。神夜は手慣れた手つきで手際良く調理していき、アズサも何処か危なげではあるも食材の皮剥きや完成した料理を器に盛りつけていくなど、そんな二人の姿に総一達は若干目を見開いて呆然とした顔を作っていた。

 

 

翔「な、何やってんだアズサの奴?」

 

 

勇司「いや、その……実はこの前、自分にも何か仕事をやらせて欲しいって俺達に言って来たんだよ、アイツ」

 

 

総一「言ってきたって……アズサから?」

 

 

勇司「そっ。んで、はやて達とも相談して厨房の手伝いでも任せてみようかって決めたんだ。アズサが自分から何かをしようと言ってきたのも元気になってきた証拠だろうし、神夜さんも護衛に付いててくれるから安心だろうから、やらせて見ても良いんじゃないかって」

 

 

もちろんちゃんとシャマルの診断を受けさせて、仕事をやらせても大丈夫かどうかを確認してから決めた事だ。因みに診断では精神面もある程度安定してきてるようだから誰かが付いててあげれば心配ないだろうし、仕事していく内に自然と元気も取り戻せていくかもしれないから、寧ろ手伝わせてあげた方が良いかもとの事だった。

 

 

ジェノス「そっか……まあ確かにこの前までのアズサと比べたら、ちょっと元気も取り戻して来てるよな」

 

 

勇司の話を聞きながら厨房で神夜の手伝いをしているアズサを見て少しだけ安心した顔を見せるメンバー達。数日前までのアズサはまるで死人のように誰とも口を聞かなかった状態だったが、此処最近は少しだけ元気を取り戻してきている。ここまで来れば、後は零を見付けてくればまた以前のように元気になるだろうと思い、少し諦め気味だった一同にもやる気が出始めていた。その時、一人の人物が一同の座るテーブルに近づいてきた。

 

 

はやて(別)「……光君……勇司君……皆……ちょっとええかな?」

 

 

翔「ん?」

 

 

勇司「?はやて?どうかしたのか?」

 

 

一同が座るテーブルに近づいてきた人物……はやてが何やら暗い表情を受かべながら少し時間良いだろうかと一同に問い掛け、一同はそんなはやての様子に首を傾げながら取りあえず同席を許可し、はやてを空いている席に座らせた。

 

 

ジェノス「で、どうかしたのかはやて?っていうかなんでそんな暗い顔してんだよ?」

 

 

はやて(別)「う、うん……ちょっとな……それより、皆にちょっと伝えなあかんことがあるんやけど……」

 

 

総一「伝えないといけないこと?」

 

 

口ごもりながらそう告げたはやての言葉に一同は疑問符を受かべ、はやては更に言葉を紡いでいく。

 

 

はやて(別)「実は……な……さっき捜索メンバーから連絡あったんやけど、どうやら見付かったらしいんよ……」

 

 

勇司「え?見付かったって…………もしかして?!」

 

 

はやて(別)「うん……零君と思われる人が下流から見付かったて……さっき連絡が来たんよ……」

 

 

『ッ?!』

 

 

零が見付かった。そう聞かされた一同の表情は驚愕に染まり、その表情も段々と言葉の意味を理解していく内に喜びへと変化していった。

 

 

ジェノス「れ、零が見付かったって……ホントなのかそれっ?!」

 

 

はやて(別)「う、うん……現場の写真も一緒に送られてきたから……間違いあらへん……」

 

 

翔「や、やったぁ!!本当なんだな?!本当に零が見付かったんだな?!」

 

 

何度もはやてに確認を取り、零が発見されたと聞いて喜びを露わにしていく翔達。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

はやて(別)「うん……零君と思われる……『遺体』が下流から見付かったって……さっき報告があった……」

 

 

『…………………………………………………え?』

 

 

 

 

 

 

 

次に告げられた事実により、その喜びもすぐに消えてしまったのであった……

 

 

総一「……お、おい……?今、なんだって……?」

 

 

はやて(別)「…………」

 

 

勇司「零の遺体って………ど、どういう意味だよ……それ……」

 

 

未だはやての言ってる事が理解出来てないのか、戸惑った様子で恐る恐るはやてに問い掛けていく勇司達。その質問を受けたはやても暗い顔を俯かせたまま、ゆっくりと口を開いた。

 

 

はやて(別)「……零君が落ちた鉄橋から大分離れた所の川辺で……成人男性の物と思われる遺体が発見されたらしいんよ……顔は原型を保ってなかったらしいから本人かどうかは分からへんけど……」

 

 

総一「そ、そんな…?!」

 

 

翔「で、でも顔は原型を保ってなかったんだろう?!だったら別人っていう可能性だって…?!」

 

 

否定するように、きっと何かの間違いだと言うように叫んで別の人物の遺体ではないかと予測する翔だが、はやては辛そうに両目を伏せて重たい口を開いた。

 

 

はやて(別)「私も最初はそう思って何度も確認を取ってもらった……せやけど……身体の体格は零君に近い感じやったみたいやし、着ていた服も当時零君が着てた服と酷似してる部分があったって言うとったから……本人である可能性は高いって……」

 

 

勇司「そん……な……」

 

 

ジェノス「嘘だ……そんなの嘘に決まってる!!もう一度ちゃんと調べ直してくれ!!その遺体が……本当に零の遺体なのかどうかを確かめ―ガシャアァンッ!―……え?」

 

 

ジェノスが本当に零の遺体なのかもう一度確認し直してくれとはやてに頼もうとした瞬間、何かが割れる音が食堂内に響き渡った。その音に驚きながらもそれが聞こえてきた方に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「……零の……遺体……?」

 

 

 

 

 

 

光「ッ!アズサッ…!?」

 

 

そう、其処には絶望に染まり切った表情で呆然と立ち尽くすアズサの姿があったのである。アズサの足元には先程の音の正体と思われる粉々に砕け散ったコップが四散されて床が濡れており、恐らく水のお代わりを頼んだ局員の下に届けようしていたのだろう。しかしそんなことにすら意識が向かず、アズサはグラグラと揺れる瞳で光達を見つめていた。

 

 

アズサ「零の……遺体……?……零が……死ん……だ……?」

 

 

はやて(別)「ア、アズサちゃん?!」

 

 

勇司「お、落ち着けアズサ!これはっ…!」

 

 

アズサ「私の……せいで?……あ……ぁ……うあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

勇司達が違うと否定する前に、アズサは悲痛な悲鳴をあげながら食堂から飛び出していってしまった。周りでただ食事していた局員達もその声を聞いて何だ?と辺りを見渡し、今まで調理をしていた神夜も声を聞き付けて驚いたように厨房から顔を出した。

 

 

神夜「ア、アズサ?!」

 

 

光「ちっ!」

 

 

勇司「あ、光?!待てっておい!!」

 

 

翔「クソッ!俺達も追うぞ!!」

 

 

総一「あ、あぁ!」

 

 

食堂から飛び出したアズサを追うように光がテーブルから立ち上がって食堂から飛び出し、それを追うように勇司達も次々とテーブルから立ち上がって食堂から飛び出していった。そしてその端では……

 

 

「――どうやら、上手くいったみたいね……」

 

 

「えぇ、行きましょうか?姉さん……」

 

 

食堂の端のテーブルで食事をしていた二人の女性局員はその様子を見て妖しげに微笑み合い、静かにテーブルから立ち上がって食堂を後にしていったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑫

 

 

アズサ「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

 

食堂を飛び出し、機動六課を出たアズサが訪れたのは六課から少し離れた場所に位置する土手だった。

 

 

アズサは底の浅い河原の前で足を止めると、苦しげに肩で息をしながら遠くを見つめ、そのまま足元から崩れ落ちるように芝生に膝を付いてしまう。

 

 

アズサ「っ……どうして……どうしてこんなっ……」

 

 

全てに絶望したかのように、大粒の涙を瞳から落としながら嘆くアズサ。

 

 

零の遺体。食堂ではやて達が話していた中で出たその単語を思い出すと、アズサは芝生の草を握り締めて顔を俯かせ、再び声を出して泣き出してしまう。

 

 

アズサ「生きてるって信じて……待つって決めたのに……私も頑張るって決めたのに……私のせいでっ……私のっ……」

 

 

アレンの言葉の通り、零の帰りを待つと決めた。

 

 

それを希望にして、皆にも心配をかけないようにと、少しでも元気を取り戻そうと仕事をしようと思った。

 

 

なのに……

 

 

アズサ「……ごめんなさい……ごめんなさい零っ……ごめんなさいっ……」

 

 

その零も、今はもうこの世にはいない。

 

 

自分の命を救ってくれた彼は、どんなに待ってももう帰って来ないのだと。

 

 

その事実を突き付けられたアズサは土で汚れた両手で顔を覆い、何度も彼に謝るように泣きながら謝罪の言葉を口にする。その時……

 

 

「……辛いでしょうね……大切な人を失った悲しみというものは……」

 

 

アズサ「っ……?」

 

 

不意に、背後から聞き慣れない女の声が聞こえた。

 

 

俯かせていた顔を上げて振り返ると、其処には局員の格好をした二人の女性がゆっくりと歩み寄ってくる姿があり、それを見たアズサは頬を伝った涙の線を拭って口を開いた。

 

 

アズサ「貴方達…誰…?」

 

 

「怯えなくてもいいわ……私達はただ、貴方を救いに来ただけなんだから」

 

 

アズサ「救いに…来た…?」

 

 

救うとはどういう意味なのか?アズサは女性の言葉の意図が読めず疑問げに聞き返し、女性は黙ってそれに頷きアズサに手を差し延べていく。

 

 

「辛いのでしょう?大切な人を失った悲しみで押し潰されそうなんでしょう?でも安心していいわ……私達と一緒に来れば、その悲しみは私達が癒してあげる」

 

 

アズサ「…………」

 

 

「大丈夫…貴方は何も心配しなくていいのよ。さぁ、行きましょう?貴方の新しい居場所を……私達が作ってあげるわ」

 

 

女性は笑みを浮かべてそう告げると、アズサに手を差し延べながらゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

その一方で、アズサは虚ろな瞳のまま動こうとする素振りを全く見せず顔を俯かせてしまい、そんなアズサの様子を見た二人は妖しげな微笑みを浮かべていく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「――魔装転神…」

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

『ッ?!なっ…?!』

 

 

 

 

アズサは突如腰にベルトを出現させてシュロウガへと変身し、ゆっくりと立ち上がって右手に出現させた剣の切っ先を二人に向けていったのだった。対して二人はアズサの予想外な行動に驚きを隠せないでいた。

 

 

「アンタ、一体何のつもり?!」

 

 

シュロウガ『……それで、人間の振りでもしているつもりなの?ワーム……』

 

 

「ッ!……気付いてたの……私達の正体を?」

 

 

シュロウガに切っ先を向けられながら二人の女性局員……カラフィナとリリスはシュロウガを睨み、シュロウガは感情の篭らない口調で淡々と話し出した。

 

 

シュロウガ『見た目で正体を隠せても……貴方達から発せられる禍々しい気配までは隠せていないから……だからワームだって直ぐに分かった……』

 

 

リリス「へぇ…人間か怪人かも見分けられるんだぁ?人形の癖に中々使えるじゃない?流石は破壊者抹殺の為に造られた殺人兵器ってところかしら」

 

 

シュロウガ『っ!違う……私は人形でも……殺人兵器でもない……零だって殺さないっ……!』

 

 

カラフィナ「殺さない?……ふふふ……可笑しな事を言うわね、貴方?」

 

 

シュロウガ『……え…?』

 

 

零を殺さない。カラフィナはそう強く断言したシュロウガを嘲笑うように笑みを零し、それを聞いたシュロウガは思わず疑問げな声をあげてしまう。

 

 

カラフィナ「だってそうでしょう?殺さないと言っておきながら、貴方は既に殺してるじゃない?その手で……世界の破壊者を……」

 

 

シュロウガ『ッ?!』

 

 

カラフィナ「自分は人形でも、殺人兵器でもないですって?笑わせないでちょうだい。貴方は予言者の操り人形になって、破壊者をその手で殺めたのよ?そんな貴方が人形ではないなんて……ホントにそう言い切れるの?」

 

 

シュロウガ『ッ……それ……は……』

 

 

言い切れる筈がない。全て目の前の女の言う通りなのだ。

 

 

自分は鳴滝の操り人形となり、零と戦い、傷付け、そして殺してしまった。

 

 

そんな自分が人形でも殺人兵器でもないと言うなら、一体何だと言うのだ?

 

 

それを指摘されたシュロウガは何も言い返す事が出来ず顔を俯かせ、カラフィナはほくそ笑みながらゆっくりと語り出す。

 

 

カラフィナ「所詮、貴方は人殺しの為に生み出された道具。さっきの言葉、そのまま貴方にお返しするわ……『それで人間の振りでもしているつもりなの?』お人形さん?」

 

 

シュロウガ「っ!!」

 

 

カラフィナのその言葉がトドメとなったのか、シュロウガは息を呑んで二人に向けていた剣を力無く下ろし構えを解いてしまった。そしてそれを見たカラフィナはリリスにアイコンタクトを送り、リリスはそれに応えるように指を鳴らした。その瞬間……

 

 

 

 

『シャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

シュロウガ『……ッ?!!―ガシッ!―ウァッ!』

 

 

シュロウガの背後から突如無数のサナギ体のワーム達が現れてシュロウガの両腕を拘束し、動きを封じてしまったのであった。それを見たカラフィナとリリスは勝ち誇ったような笑みを浮かべながらシュロウガへと近づいていく。

 

 

リリス「アッハハハハハ♪まんまと引っ掛かったわねぇ、お人形さん?」

 

 

シュロウガ『っ!は、離して!』

 

 

カラフィナ「いいからジッとしてなさい。リリス」

 

 

リリス「はぁーい姉さん…フンッ!」

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!―

 

 

シュロウガ『ッ?!ウアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

リリスは手の平をシュロウガに向けて至近距離からエネルギー弾を無数に放ち、全弾直撃してしまったシュロウガは勢い良く吹っ飛ばされて地面を転がり、変身が解けてアズサへと戻ってしまった。そしてサナギ体のワーム達はアズサが逃げられないようにと包囲し、リリスもボロボロになって倒れるアズサに近付き背中を踏み付けてしまう。

 

 

リリス「クスクス、本当に馬鹿な人形よね?最初から大人しく付いてくれば、こんな痛い目に合わずに済んだのに」

 

 

アズサ「っ……ぅ……」

 

 

リリス「ん?……アハハハハハ!見てよ姉さん!この子泣いてるわよ?!人形の癖に泣いてるなんておっかしい~!アハハハハハ♪」

 

 

カラフィナ「それだけ精巧に造られてるって事でしょう?まあでも、私達が使うには必要のない機能ね……連れて帰ったら不要な機能は取り除くわよ。さっさと動けないように痛めつけなさい」

 

 

リリス「はぁーい」

 

 

リリスはカラフィナにそう応えながらモスラワームへと姿を変え、アズサを踏み付けたまま手を伸ばし、そのまま服の下に隠れていたアズサの背中の純白の翼を掴み取った。

 

 

アズサ「……っ!そ、それはっ…!?」

 

 

『私ねぇ?こーいう綺麗な色をした物って虫ずが走るくらい大嫌いなのよ。だから……"毟り取って"あげる♪』

 

 

アズサ「?!い、いやっ……やだっ……それだけはっ!!」

 

 

楽しげに笑いながら告げたモスラワームの言葉で恐怖に駆られ必死に逃げようともがくアズサだが、モスラワームは逃げられないようにアズサの背中を強く踏み付け、怯えるアズサを嘲笑いながら翼を掴む手に力を込め、そして……

 

 

 

 

 

―メリメリメリィッ……!ブチブチブチィッ!!!―

 

 

アズサ「い、いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

背中から白い翼を無理矢理引きちぎり、それと同時にアズサの絶叫が木霊したのだった。

翼を無理矢理毟り取られ、背中から夥しく血を流して痛みに震えるアズサを見たモスラワームはニヤニヤと笑いながらもぎ取った翼を投げ捨て、両手を払っていく。

 

 

『どう?少しは言う事聞く気になったぁ?』

 

 

アズサ「ぅ……ぁ……」

 

 

カラフィナ「これ以上痛め付けられたくなかったら、大人しく私達について来なさい。貴方は戦う為だけに造られた人形……ただ与えられた役割を果たしてさえいればそれでいいのよ」

 

 

これ以上痛め付けられたくなかったら大人しくついて来いと、翼を毟り取られた痛みで涙を流すアズサに容赦なく告げるカラフィナとモスラワーム。だが……

 

 

アズサ「……いや……だ……」

 

 

『……あ?なんですって?』

 

 

絞り出すようにポツリと呟いたアズサの言葉にモスラワームは険しげに聞き返し、アズサは泣きながら拳を強く握り締めていく。

 

 

 

 

 

 

―……これからは宿命の……為なんかじゃ…………なく………自分の為………に………お前が生きたいように………生きろ………お前を縛るもの………なんて………もう……ないん……だから………―

 

 

 

 

 

 

アズサ「いやだっ……私はもうっ……誰も傷付けたくないっ……傷付けたく……ないっ……!」

 

 

カラフィナ「ちっ……人形風情が……リリス」

 

 

『はぁーい』

 

 

誘いを断ったアズサにカラフィナは苛立ちを込めて舌打ちしながらモスラワームに呼びかけ、モスラワームはそれに応えながらアズサの背中のもう片方の翼を掴み取った。

 

 

『じゃあ、もう片方の翼も毟っておこうかぁ♪』

 

 

アズサ「っ!いやだっ……もうやめてっ!!いやっ…―メリメリメリィッ!!―いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

『アハハハハハハハハ!!叫んでも無駄よ?だぁーれもアンタみたいな人形を守ってくれる奴なんていないんだからねぇっ!!』

 

 

モスラワームは痛みで泣き叫ぶアズサを嘲笑いながら翼を掴む手に更に力を込め、また先程のように翼を毟り取ろうと腕を引こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『SPELLRIDE:MUSOUFUUIN!』

 

 

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ッ?!ギ、ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

突如何処からか電子音声が鳴り響き、それと共に無数の弾幕が飛来してアズサを包囲するサナギ体のワーム達を一瞬の内に全滅していったのだった。

 

 

カラフィナ「こ、これはっ?!」

 

 

『な、何?なにが起きたの?!』

 

 

突然の攻撃で一瞬で全滅させられたワーム達にカラフィナとモスラワームは驚きを隠せず動きを止め、二人は今の爆発で発生した黒煙の中で動揺を浮かべながら辺りを見渡した。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『……え?―ドゴオォンッ!!―グッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!?』

 

 

カラフィナ「っ?!リリス?!」

 

 

 

不意を突くように突如黒煙の向こうから何かが飛び出し、そのままアズサを踏み付けていたモスラワームをカラフィナの下まで思いっきり吹っ飛ばしていったのだった。そして自分の下にまで吹き飛んできたモスラワームを見たカラフィナは慌てて目の前へ視線を戻すと、辺りを覆っていた黒煙が晴れて徐々に視界が戻っていく。其処にいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『……………』

 

 

 

 

『?!あ、アンタは?!』

 

 

カラフィナ「ディ、ディケイ……ド?!」

 

 

そう、其処にいたのはアズサを庇うように立ち構える一人の戦士……ディケイドが立っていたのであった。目の前に現れたディケイドを見てカラフィナとモスラワームが驚愕する中、ディケイドはバックルを開いて変身を解除していく。その正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――これ以上……コイツに触れるなっ……」

 

 

 

 

 

 

アズサ「……れ……い……?」

 

 

 

 

全身や顔に血の滲んだ包帯を巻いた青年……零は怒気の篭った瞳でカラフィナ達を睨みつけながらそう告げ、アズサを守るように片腕を広げたのであった。

 

 

 






トウホウライド


大輝がカメンライドと共に好んで使う、東方Projectのキャラ達を喚び出す大輝専用のライドカード。


ディエンドライバーで喚び出される事によって各キャラの戦闘力はライダー以上の物となっており、怪人や仮面ライダーとも引けを取らない力を備えている。


カード事態は八雲 紫等が大輝の持つライダーカードを参考に作り、後に幻想郷に住む東方キャラ達と戦ったことで力を手に入れた。(勝敗は関わらず……といっても引き分けか、相手によっては大輝が返り討ちに合ったのがほとんどだったが)


ちなみに他の人間が幻想郷の住人の力を悪用するのを防ぐ為、トウホウライドは大輝にしか使えないように仕組みされている。


何故大輝が使えるのかって?……以前幻影郷のあちらこちらに盗みに入って色々な人物にボコられながらも、くじけずに宝探しを続けた大輝の度胸を気に入って八雲紫が贈ったらしい。


主なカードは……


・博麗霊夢
・霧雨魔里沙
・八雲紫(何故か自我持ち)
・射命丸文
・レミリア・スカーレット
・フランドール・スカーレット
・十六夜咲夜
・パチュリー・ノーレッジ
・蓬莱山輝夜
・八意永琳
・アリス・マーガトロイド・魂魄妖夢
・西行寺幽々子
・風見幽香


など、上記も含めて数十枚以上のカードを持参。


因みに大輝が幻想郷に訪れた際、喚び出されたキャラから勝手に召喚された事で苦情やら報復等が度々あるそうな……




スペルライド


零が大輝から送られた新たな零専用のライドカード。


本来東方キャラしか使えないスペルカードをディケイドライバー仕様のカードに創られている。因みに個々のカードに秘められた力はどれも強大なモノであり、カードを奪われて力が悪用されるのを防ぐ為に零以外の人間にはスペルライドが使えない仕組みになっている。


主なカードは……


・霊符『夢想封印』
・恋符『マスタースパーク』
・神槍『スピア・ザ・グングニル』
・禁忌『レーヴァテイン』
・禁忌『フォーオブアカインド』


など、上記のカードも含めて百枚以上のカードを持参している。


カード制作には上記のトウホウライドと同じく八雲紫や博麗霊夢等が関わったらしい。


因みに大輝が零にカードを贈った理由は……自分では使えないし持ってても邪魔なるから、とのこと。




クロスライド


零が旅した9つのライダーの世界の変身者の本当の能力を使えるライドカード。


コードギアスならギアスかナイトメア、00ならガンダムエクシア、禁書目録なら幻想殺し、マクロスFならバルキリーなどに変身や能力の使用が可能。




トウホウライドは神楽さん、スペルライドとクロスライドはゼルガーさんのネタ提供です!ありがとうございます!



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第十六章/NXカブトの世界⑬

 

 

カラフィナ「馬鹿なっ……ディケイドですって……」

 

 

『くっ!どうしてアイツがこんな所に?!』

 

 

零「…………」

 

 

突如現れた零にカラフィナとモスラワームは驚きが隠せず動揺し、対して零はカラフィナ達を睨みつけていた視線を背後のアズサへと移していく。

 

 

アズサ「……れ……い……?」

 

 

零「…………」

 

 

背後に振り向いた零の目に映ったのは、痛々しい姿で地面に倒れて見上げてくるアズサの顔。

 

 

全身傷と泥だらけの身体……

 

 

翼を毟り取られ、背中から夥しく流れる赤い血……

 

 

自分の姿が映る瞳から頬を伝って流れる大粒の涙……

 

 

そんな痛ましい姿となったアズサを見て零の中の怒りが更に込み上げ、血が噴き出しそうな程手の平を握り締めながらカラフィナ達を睨みつけていく。そんな零の視線を受けて思わず怯む二人だが、先に落ち着きを取り戻したカラフィナは笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

カラフィナ「驚いたわ……まさかあの濁流に飲まれて生きていたなんてねぇ?」

 

 

零「あぁ、生憎あの程度で死ぬような身体はしてないんでな……そう簡単にはくたばらんさ」

 

 

そう言って零は二人を睨む目付きを更に鋭くさせていくが、完全に落ち着きを取り戻したカラフィナはそれに臆する事なく余裕の表情を浮かべながら零に向けて身構えていく。

 

 

アズサ「……零……なの……本当に……?」

 

 

その一方で、アズサは未だ我が目を疑うかのような顔で零を見上げながら呟き、零は僅かに顔だけ動かして口を開いた。

 

 

零「あぁ……帰りが遅れてすまなかったな、アズサ……」

 

 

アズサ「……本当……に?本当に零……なの…?」

 

 

詫びるように謝る零の声を聞き、目の前の零が幻ではなく本物だと、本当に帰ってきてくれたのだと理解したアズサは不覚にもまた涙を流していく。だが、其処でふとアズサの脳裏にある疑問が思い浮かんだ。

 

 

アズサ「でも…どうして零が此処に?だって、さっき食堂ではやてが零の遺体をって「あれはただの偽物だ」……え?」

 

 

先程食堂ではやてが発見したと言っていた零の遺体について疑問を口にしようとしたアズサだが、それを遮るように声が響き渡った。一同がその声が聞こえてきた方に振り返ると、其処には一人の青年……光が歩み寄ってくる姿があった。

 

 

『ッ!お前はっ……カブト?!』

 

 

零「光……」

 

 

光「……零、生きてたなら何故連絡してこなかった?みんな心配してずっとお前を探していたんだぞ?」

 

 

零「あぁ……すまない……ちょっと此処最近まで昏睡していたらしくてな。昨日やっと目を覚ましたんだが……まあ詳しい話しは後で探す。今は……アイツ等をどうにかしないとな」

 

 

そう言って零はカラフィナとモスラワームを見据えて視線を鋭くさせ、光も零の背後で倒れるアズサの姿を見て状況を察し、カラフィナ達を睨みながら零の隣に立っていく。

 

 

アズサ「光……どういう事……はやてが言ってた零の遺体が偽物って……」

 

 

光「言葉の通りの意味だ。アレは零の遺体等ではなく、コイツ等が用意した別の人物の遺体……お前を機動六課の外に誘い出す為の罠だったんだ」

 

 

アズサ「え……?」

 

 

何かを見抜くように二人を睨みながら光がそう告げるとアズサは呆然となり、モスラワームは驚いたように息を呑んだが、カラフィナは冷静な態度を一切崩さなかった。

 

 

光「妙だと思ったんだ。俺達が一週間掛けて零の捜索をしていたにも関わらず、何故川辺なんて簡単な場所で見付かった?あれだけの日数と捜索メンバーが持つ能力を使っても、遺体の影すら掴めなかったのに……」

 

 

カラフィナ「…………」

 

 

光「そして遺体の特徴についてもそうだ。はやてからは遺体の特徴が成人男性である事と服装が零のものと酷似している部分があるとの事だったが……アズサに刺されたという腹の刺し傷については何も聞かされなかった。それだけあれば零と思われる遺体でなく、零の遺体だという確かな証拠になるのにだ」

 

 

『っ…!』

 

 

光がカラフィナ達を睨みながらそう告げると、モスラワームが息を拒んで僅かに後退りした。そんな反応を見せたモスラワームを見て光が言っていることが本当なんだと、アズサは驚いた表情を浮かべていく。

 

 

アズサ「じゃあ……はやてが言っていた遺体は?アレは一体……」

 

 

光「アレはワームに擬態されて殺された本局の管理局員らしい。本局になら訓練で鍛えられた魔導師達が手に余る程いる……其処から零と体格が近い魔導師を見つけるのも不可能ではないだろう……後は影で局員を殺して顔を潰し、コイツの服装に近い服を遺体に着させればダミーの出来上がりという事だ。局員の方は擬態したワームを入れ変えさせておけば、誰もその局員が死んだなんて思う筈ないしな」

 

 

『なっ…何でアンタがそんな事まで知ってるのよ?!アレは私と姉さんしか知らない筈じゃ?!』

 

 

光「此処に来る前に、此処の場所を教えてくれた怪盗から話を聞いただけだ……因みにあの局員に擬態したワームもそいつが既に片付けたらしいぞ?」

 

 

カラフィナ「なっ……」

 

 

零(……海道の奴……また恩着せがましいことを……昨日は風麺の一週間タダ働きを命じてきた癖に、次は何を言ってくる気だ?)

 

 

光の言葉でカラフィナとモスラワームが絶句する中、零は爽やかな笑みを浮かべる大輝の顔を思い浮かべながら呆れたような表情を浮かべるが、すぐに真剣な顔付きに戻っていく。

 

 

光「お前達はあの遺体を零だと偽装して俺達を混乱させ、その隙にアズサを手に入れようとしたみたいだが……残念だったな?お前達の策は失敗だ」

 

 

零「これ以上、コイツには指一本触れさせはしない。アズサを傷付けただけでなく、関係ない筈の人間を殺してその遺骸まで利用した……お前達の行った行為を許しはしない」

 

 

そう言って零と光はアズサを庇うように構えてカラフィナとモスラワームと対峙していく。だが……

 

 

カラフィナ「――愚かね。貴方達、自分が何を守ろうとしているのかちゃんと分かってるの?」

 

 

零「……なんだと?」

 

 

カラフィナが零と光の背後で倒れるアズサを見て可笑しそうに笑い、それを聞いた零と光は眉間に皺を寄せていく。

 

 

カラフィナ「その子はあの預言者の手によって貴方を殺す為に造られた人造人間……生まれながらにして、人を殺す運命を背負ったただの道具なのよ?つまり、貴方は何時自分を殺すか分からない道具を守ってるってこと」

 

 

アズサ「っ…!」

 

 

カラフィナ「今は貴方の手によって無力化されているけど、何時また貴方を殺しに掛かるか分からない……そんな物を守ってもなんの価値もないでしょ?どうせその子は存在する価値のない造られた生命……生きる価値すらもないのだから」

 

 

カラフィナは嘲るように笑いながらアゲハワームへと姿を変え、モスラワームと肩を並べながら零達に近付こうとする。だが……

 

 

 

 

零「――生きる価値のない命なんか、そんなもの何処にも在りはしないっ!」

 

 

『……なに?』

 

 

零と光はアゲハワーム達を強く睨みつけながら身構え、零のその言葉を聞いたアゲハワームとモスラワームは思わず足を止めた。

 

 

零「コイツは確かに造られた存在だ……だがそれが何だ?コイツの命は俺達と何処も変わらない、同じ尊いものだ!何かに喜び、何かに悲しみ、喜びで笑う事も、悲しみで涙を流す事も、俺達と何処も変わらない。ただの人間だ!」

 

 

『…ハッ、なにを言い出すかと思えばくだらない……それも所詮はプログラムでしょう?何をそんなムキに……』

 

 

光「それも違うな。コイツは自分の正体を知っても、与えられた使命を果たそうとせず、零を守る為に自分から消えようとした。やり方は関心出来るものではなかったが……コイツが誰かを守ろうとした心は本物の筈だ!」

 

 

零「何時か俺を殺すかもしれない?上等だ、その時はまた俺が止める。俺はコイツの居場所になると決めたんだ……だから絶対に見捨たりはしない。何故ならコイツは……アズサは!俺の仲間だからだ!!」

 

 

アズサ「っ!…零…光…」

 

 

零と光が力強くそう告げるとアズサは思わず息を呑み、泥だらけとなった自分の手の平を見つめて拳を握り締めると、ふらつきながら身体を起こし零と光の間に立っていく。

 

 

光「…っ!アズサ?」

 

 

アズサ「……私も……戦う……誰かを傷付ける為じゃない……零や光、私の大切な物を守る為に……この力を使う……!」

 

 

零「…フッ…生意気なこと言いやがって…」

 

 

迷いのない瞳でそう告げたアズサに零と光は微笑すると、零はライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構え、光は上着を翻して腰に巻いたベルトを露出させ空から飛んできたカブトゼクターを掴み取り身構える。そしてアズサは腰にベルトを出現させるが、それはシュロウガのモノとは違う白とピンクを基礎に金の装飾を纏ったベルトとなっていった。

 

 

『っ!偉そうなことばかり……貴方達、何なのよ?』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーと……」

 

 

光「天の道を往き、全てを司る男だ」

 

 

『憶えておけ!変身ッ!』

 

 

アズサ「変身っ…!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Henshin!』

 

『Cast Off!Change Beetle!』

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

 

電子音声と共に零はディケイド、光はカブト、アズサはベルトから放たれた純白の光りに包まれてピンクと金で彩られた鎧と緑の瞳を持ち、背中に天使のような純白の翼を持ったライダー……『アンジュルグ』へと変身していった。

 

 

『生意気なっ……姉さん、もうコイツ等全員潰しちゃおう!』

 

 

『えぇ、格の違いという物を思い知らせてあげるわ…覚悟なさい!』

 

 

ディケイド『それはこっちの台詞だ……光、アズサ、いくぞ!』

 

 

カブトR『あぁ!』

 

 

アンジュルグ『うん…!』

 

 

ディケイドはカブトとアンジュルグに呼び掛けながら両手を叩くように払い、二人と共に無数のサナギ体のワーム達を呼び出して身構えるアゲハワームとモスラワーム達に向かって突っ込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

 

鳴滝「くっ!まだしぶとく生き長らえていたのか……おのれディケイドっ!」

 

 

近くの大橋の上からディケイド達が戦う光景を忌ま忌ましげに見つめる男性……鳴滝はそう呟き、険しげに眉を寄せていた。

 

 

鳴滝「ちっ!こうなれば、βを影で回収してもう一度―ストンッ!―…ッ?!」

 

 

鳴滝はワーム達と戦うアンジュルグを眺めながらもう一度アズサを回収しようと企むが、それと共に鳴滝の足元に一本のナイフが飛来して地面に突き刺さった。驚く鳴滝がそれが放たれてきた方に振り返ると、其処には銀髪の男性……アレンが悠然と佇む姿があった。

 

 

鳴滝「なっ…貴様は?!」

 

 

アレン「……また、零君を消す為にアズサちゃんを利用するつもりですか?鳴滝さん」

 

 

鳴滝「っ……当然だ、アレは元々その為に生み出したのだ!それに命と引き換えにディケイドを消せば、βは世界を救った英雄にもなれるのだぞ?!ディケイドを倒す為に死ねるのなら、βも本望だろう?!」

 

 

アレン「……そうですか……貴方の考えが良く分かりましたよ……」

 

 

例え死んでも、ディケイドを倒した英雄となれるのだからアズサも本望だろうと。高らかにそう告げた鳴滝にアレンも瞳を伏せながらポツリと呟き、何処からかナイフを取り出して鳴滝に切っ先を向けていく。

 

 

鳴滝「っ?!き、貴様……なんの真似だ?!」

 

 

アレン「鳴滝さん……貴方が行ってきた行為、陰ながら見させて頂きましたよ。だからはっきりと言わせて頂きますが……貴方に零君を破壊者と非難する資格も、アズサちゃんの命を弄ぶ資格も到底ありません」

 

 

鳴滝「な、なに?」

 

 

アレンの言葉が予想外だったのか、鳴滝は若干戸惑ったように後退りしていく。対してアレンは以前アズサに向けていた優しげな瞳を微塵も感じさせない、冷たい目付きで鳴滝を見据えながらもう片方の手で仮面を取り出した。

 

 

アレン「貴方がまたアズサちゃんを利用し、あの子をこれ以上苦しめると言うならば……私は全力でそれを阻止し、あの子を守ります」

 

 

そう言ってアレンは片方の手で持っていた仮面を頭に被っていき、鳴滝は後退りをしながら動揺した様子で口を開いた。

 

 

鳴滝「貴様っ……とうとう狂ったか?!クラウン!」

 

 

クラウン『――いいえ……私は元々狂っていますよ。ですが、今回ばかりは貴方を制裁しなければ気が済みません。元神父ですが……貴方を裁かせて頂きます、鳴滝氏』

 

 

仮面を被ったアレン……クラウンは低い声で告げると共に何処からか数本ナイフを取り出して両手の指の間に挟み、未だ戸惑う鳴滝と対峙していった。

 

 

鳴滝「くっ!道化師めっ……ならば貴様はコイツ等の相手でもしていろ!!」

 

 

鳴滝はクラウンから後退りしながら目の前に歪みの壁を出現させ、其処から二人のライダーを呼び出した。一人は両手にギロチンの様な巨大な武器を装備し黄色いラインの入った緑の鎧と赤い瞳を持ったライダー。もう一人は全身傷だらけとなり、肩に巨大なハンマーを担いだ黒いライダーだった。

 

 

クラウン『!彼等は……』

 

 

鳴滝「αとβの先行試作型として作り出したライダーだ。問題点が多すぎる為に封印していたが……貴様が相手となれば仕方あるまい。いけ!コルニクス、ゴーマ!」

 

 

コルニクス『アッハハハ!ピエロさん、君はグチャグチャに斬り刻んで肉片にしてあげるよ♪』

 

 

ゴーマ『命令だ……死んでもらう……』

 

 

クラウン『……最後まで他人頼りという訳ですか……良いでしょう。そちらのお二人も、私がお相手して差し上げます』

 

 

クラウンは鳴滝が呼び出した二人の仮面ライダー……『コルニクス』と『ゴーマ』を見据えながらそう告げると、両手のナイフを構えながら戦闘態勢に入った。そしてそれを合図にコルニクスとゴーマはそれぞれの武器を構えながらクラウンに飛び掛かり、武器を振り下ろそうとした。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

コルニクス『ウワァッ?!』

 

 

ゴーマ『ヌッ?!』

 

 

鳴滝「っ?!何?!」

 

 

クラウン『ッ!この攻撃は……』

 

 

クラウンに襲い掛かろうとしたコルニクスとゴーマに突如無数の青い銃弾が降り注ぎ、二人を吹っ飛ばしていったのだ。突然の展開にクラウンと鳴滝は驚愕し、それが撃たれてきた方へと振り返っていく。其処には……

 

 

 

 

 

ディエンド『…………』

 

 

鳴滝「なっ…貴様は?!」

 

 

クラウン『!…大輝氏?』

 

 

そう、其処にはディエンドライバーの銃口をコルニクス達に向けるディエンドに変身した大輝が悠然と佇んでいたのだった。

 

 

クラウン『大輝氏……貴方は……』

 

 

ディエンド『勘違いしないでもらおうかな?別に君に手を貸す訳じゃない。此処で零を殺されたら彼の因子が暴走する可能性が高いからね。そうなったらこっちの都合が悪くなるから……仕方なくさ』

 

 

ディエンドは嫌々とそう応えながら吹っ飛ばされたコルニクス達の目の前まで近付いて二人と対峙していき、コルニクスとゴーマもふらつきながら起き上がっていく。

 

 

コルニクス『イッタタ……もう!よくもやったなぁ?!お前もそいつと一緒に斬り刻んでやる!!』

 

 

ディエンド『あぁ悪いね?生憎そんな趣味は持ち合わせていないんだ……だから、返り討ちにさせてもらうよ?』

 

 

ゴーマ『増援……だが任務に支障はない……戦闘を続行する……』

 

 

コルニクスは突然乱入してきたディエンドに怒りながら両手のギロチンを構え直し、対してゴーマは淡々とした態度でハンマーを肩に担ぎ直していく。そしてクラウンはディエンドの隣にまで歩み寄り、ディエンドと肩を並べてコルニクス達と対峙する。

 

 

クラウン『まさか、貴方とこうして共に戦う日が来ようとは……流石の私も予想していませんでしたね』

 

 

ディエンド『俺としては虫ずが走る展開だけどね……不本意ながら、目的が一緒らしいからこんな事になったけど……』

 

 

クラウン『フフッ……では行きますよ、大輝氏!』

 

 

ディエンド『君の指図は受けないよ!』

 

 

ディエンドとクラウンは軽くそう言い合いながら同時に地を蹴ってコルニクスとゴーマへと突っ込み、二人に向けて銃弾とナイフを放っていったのであった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑭(前編)

 

 

そしてその頃、土手で大量のサナギ体のワーム達の群れと戦うディケイド達だが、戦況はかなり不利になっていた。最初は60程度の数だった筈のワームが途中から増援を呼ばれて瞬く間に押されていき、加えてディケイドは怪我を負っている為に動きが鈍く、ワーム達の攻撃をかわしきれないでいた。

 

 

―バキィッ!ドガァ!!―

 

 

ディケイド『ぐあぁッ!』

 

 

『うふふ…まだ怪我が完全に完治していないよねぇ?そんな身体で戦場に出てくるなんて、本当に馬鹿な男っ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ズドオオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディケイド『くっ…?!』

 

 

アゲハワームは吹っ飛ばされたディケイドにそう言いながら背中の羽根を広げ、羽根に集束させたエネルギー砲をディケイドに放っていった。それを見たディケイドは直ぐさま態勢を立て直し、砲撃を防ごうと防御態勢に入った。その時……

 

 

 

 

―シュンッ……ガキィィィィィィンッ!!―

 

 

 

 

『?!何?!』

 

 

砲撃がディケイドに直撃しようとした瞬間、突如何かが高速でディケイドの前に出現し砲撃を防いでいったのだった。その何かとは、身体の前に障壁のような物を展開して今の攻撃を弾いたライダー…アンジュルグであった。

 

 

ディケイド『っ?!アズサ…!』

 

 

アンジュルグ『…零は…やらせない…』

 

 

『くっ!人形ごときがっ…邪魔よっ!!』

 

 

ディケイドを庇うように立ち塞がるアンジュルグを見てアゲハワームは自身の目の前に大量のワームを呼び出し、一斉にアンジュルグに向けて放っていった。対してアンジュルグは迫ってくるワームの大群を見ても冷静さを崩さず、両腕に内蔵された二本の刃のない柄を取り出し両手に構える。

 

 

アンジュルグ『…敵戦力の行動パターン…予測…ミラージュ・ソード…Eモードに展開……攻撃開始……』

 

 

ワームの大群を見据えながら呟くと、アンジュルグの両手に持つ柄にエネルギーの刃が展開されて二本の剣となり、それと同時にアンジュルグの姿がワーム達の視界から消えていった。そしてワーム達が姿を消したアンジュルグに戸惑い動きを止めた、次の瞬間……

 

 

 

 

 

―ズバババババババババババババババババババババババババッ!!!!―

 

 

『グ、グギャアァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

 

 

 

ワームの大群が一瞬の内に斬り裂かれ、断末魔をあげながら緑色の爆発に飲み込まれていったのだ。それと同時にアンジュルグが爆発を背に姿を現し、右腕に弓のような武器を出現させて構え、左手にエネルギーの矢を生成して弓につがわせていく。そして……

 

 

アンジュルグ『イリュージョン・アロー……シュート……』

 

 

―バシュウンッ!!―

 

 

『っ?!ちぃっ!!』

 

 

アンジュルグの放った矢…イリュージョン・アローは雷の如き速さでアゲハワームへと一直線に向かっていき、アゲハワームはそれに驚愕しつつも上体を逸らして矢を回避し、瞬時にハイパークロックアップを使用してアンジュルグの背後に回り込み殴り掛かろうとする。が……

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

アンジュルグ『ライダー…キック…』

 

 

『っ?!なっ―ドッガアァンッ!!―キャアァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ハイパークロックアップを使用されてるにも関わらず、アンジュルグは最初から分かっていたかのように右足にエネルギーを溜め、振り向き様に回し蹴りを放ちアゲハワームの頭を捉えて蹴り飛ばしていったのだった。

 

 

『ぐっ…くっ!馬鹿な……たかが人形の分際でハイパークロックアップを?!』

 

 

アンジュルグ『……貴方の能力や行動パターンは既に分析済み。だからどんなに速く動いても、私にはもう通用しない……』

 

 

『コイツッ!―ズガガガガガガガガガガガァッ!!―うわぁッ?!』

 

 

冷静な態度で呟くアンジュルグに苛立つアゲハワームだが、その時無数の銃弾がアゲハワームに降り注ぎ吹っ飛ばしていった。その銃弾を放った本人……ライドブッカーGモードを構えたディケイドはアンジュルグの隣に立っていく。

 

 

ディケイド『俺の存在を忘れないでもらおうか?お前と戦ってるのはアズサだけじゃないんだぞ』

 

 

『っ!ちぃ…!』

 

 

ライドブッカーGモードを向けてくるディケイドを見て分が悪いと感じたのか、アゲハワームは舌打ちしながら同じくカブトに押されるモスラワームの下まで下がって合流し、ディケイドとアンジュルグもカブトと合流して二人と対峙していく。

 

 

『ちっ…あの人形が本来の力を取り戻したせいか、こちらが少し分が悪いみたいね……』

 

 

『ッ!姉さん、此処はアレを使って…!』

 

 

『えぇ…それしか手はないみたいね…』

 

 

アゲハワームはモスラワームの提案に頷きながら片手を上げると、それと同時に二人の背後に歪みが出現しそこから無数のライダー達……勇司との戦いの時にも現れたライオトルーパーの大群が出現した。

 

 

カブトR『あれは…勇司が言っていたライオトルーパーの軍隊か?!』

 

 

『アハハハ!覚悟しなさいよ?これだけの数さえ揃えば、アンタ達なんか簡単に潰せるんだから!』

 

 

『この一体一体はノーマルファイズと同スペック……それに加速能力と飛行能力を加えたこの軍隊に、貴方達とて無事では済まないでしょう!行きなさい!!』

 

 

ディケイド『チッ…!』

 

 

アゲハワームが指示を出すと共にライオトルーパーの群れはファイズアクセルやフライングアタッカーを用いてディケイド達へと突進していき、ディケイド達はそれぞれ武器を構え直してそれを迎え撃とうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッッ!!!―

 

 

『ッ?!ウ、ウオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ?!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『えっ?!』

 

 

ディケイド『ッ!何だ?』

 

 

カブトR『今の攻撃は……まさか?!』

 

 

突然ライオトルーパー達に無数の銃弾と魔力弾が降り注ぎライオトルーパー達を怯ませ、それを見た三人がそれが撃たれた方角に振り返ると……

 

 

 

 

 

ガタックM『…ほう、中々やるようになったじゃんか、三人共?』

 

 

アッシュ「ハッハハ、伊達に光さん達に鍛えられてませんよ」

 

 

ラウル「でもまあ、何とか間に合いましたね」

 

 

ストライクM『あぁ、メインイベントにな』

 

 

カブトR『ッ?!勇司?!それにラウルとアッシュにリオン?!』

 

 

ディケイド『ジェノス達もか?!』

 

 

そう、其処にはライオトルーパーの大群に攻撃を放った本人であるライダー達と少年達……勇司が変身したガタックと前の部隊に戻っている筈のラウルとリオンとアッシュの三人、そしてジェノスと翔と総一と神夜が変身したライダーである『ストライク・マテリアルフォーム』とバロン・フェニックスフォームと『NEW電王・NEXTフォーム』、『ライオ』と見知らぬ白いライダーが立っていたのだ。

 

 

アンジュルグ『神夜お姉ちゃん……みんな……どうして此処に……?』

 

 

NEW電王N『決まってるだろ?いきなり六課を飛び出した誰かを探してたんだよ』

 

 

バロンP『んで、その最中に騒ぎを聞き付けて此処までやって来たって事さ』

 

 

カブトR『そうか…だが、何故ラウル達まで此処にいる?確か前の部隊に戻っていたんじゃないのか?』

 

 

ガタックM『あぁ、それに関してはもう終わったらしいんだよ。で、俺達が此処に来る前に六課に戻ろうとしてたコイツ等を拾って此処まで来た、って訳だ』

 

 

ガタックはカブトの疑問にそう答えながら微笑を浮かべてラウル達を親指で指し、ラウル達はそれに肯定するように頷いていく。

 

 

アンジュルグ『じゃあ……そっちの人は?』

 

 

ライオ『あぁ、彼は此処へ来る前にワーム達と戦っていた所を拾ってきたの』

 

 

『初めましてだな?俺はカイト・ハザマ。仮面ライダーシーフだ、よろしく頼むよ』

 

 

そう言って白いライダー、『シーフ』は何処からかナイフのような武器を回転させながら取り出し刃を撫でていく。そしてストライクはディケイド達とアゲハワーム達を交互に見た後、アンジュルグの隣に立つディケイドを見て眉間に皺を寄せて口を開いた。

 

 

ストライクM『にしても…光やアズサはともかく、なんで零が此処にいるんだ?つかお前、一体今まで何処に行ってたんだよ?!』

 

 

ディケイド『あー……それに関しては後で説明する、今は取りあえずアイツ等からだ!』

 

 

軽く怒った口調で質問してきたストライクに苦笑いを浮かべながらディケイドが目の前に視線を向けると、カブト達もその視線の先に目を向けていく。其処には今のガタックとラウル達の一斉射撃を受けて吹っ飛ばされたライオトルーパーの大群と、援軍で現れたガタック達を睨みつけるアゲハワームとモスラワームの姿があった。

 

 

『あのクワガタはこの前の……アンタ、また邪魔しに来たわけ?!』

 

 

ガタックM『当たり前だろう?この世界のライダーとして、お前等ワームを好き勝手にやらせる訳にはいかないからな!いくぜ皆!』

 

 

『応ッ!!』

 

 

『Cast Off!』

 

『Change Stag Beetle!』

 

 

ガタックはラウル達にそう呼び掛けると共にライダーフォームへとキャストオフし、皆と共にアゲハワーム達へと突っ込んでいった。そしてディケイドとカブトとアンジュルグもそれに続くようにアゲハワーム達に向かって突進していったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑭(中編)

 

その頃……

 

 

 

―ズシャアァッ!!ズシュウゥッ!!ズバァッ!!―

 

 

クラウン『ハァッ!!』

 

 

ゴーマ『ヌグォッ?!』

 

 

コルニクス『くっ!な、何なんだよコイツ?!』

 

 

ディケイド達がワーム達と戦う土手から離れた場所では、クラウンがコルニクスとゴーマを相手に圧倒的な戦闘力を見せ付けていた。襲い掛かる二人の同時攻撃を易々とかわしながら両手のナイフを振るい、華麗な舞いを見せる。その動きには、普段のようなふざけた態度など微塵も感じられなかった。

 

 

ディエンド『……今回は彼も本気と言う事か。なら、こちらも少しは本気を見せないとフェアじゃないね』

 

 

後方からクラウンの援護をしていたディエンドはクラウンの戦いを見つめながらそう呟くと、何処からか青と黒のタッチパネルのような端末を取り出してそれに一枚の黒いカードを装填し、人差し指で画面に浮かび上がった無数の紋章をタッチしていく。

 

 

『CLONOS!CANCELA!FIRST!TOUGA&SIVA!EDEN!HOTARU!MA-O!EXE!STRIKE!』

 

 

タッチパネルを操作していくと電子音声が順に鳴り、それぞれの紋章をタッチし終えるとディエンドは最後に残った自身のシンボルであるディエンドの紋章をタッチしていく。

 

 

『FINALKAMENRIDE:DI-END!』

 

 

再度電子音声が鳴り響くとディエンドのカードが何処からか現れ、ディエンドの頭部へと収められていった。そしてそれと共に新たな黒と銀のアーマーが形成されて胸の部分にライダーのカードが並べられていき、最後にバックル部分に端末をセットすると、ディエンドは胸の部分にクロノス、キャンセラー、first、闘牙、シヴァ、エデン、ホタル、冥王、エクス、ストライクのカードを身に付けた黒と銀のボディを持つ最強フォーム…『ディエンド・コンプリートフォーム』へと強化変身したのだった。

 

 

ゴーマ『…ムッ?!』

 

 

コルニクス『?!な、何だよアレ?!』

 

 

クラウン『ッ!大輝氏……その姿は……?』

 

 

クラウン達が姿が変わったディエンドを見て驚愕する中、ディエンドはそれに構わず左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:C・C・C・CROWN!』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドの胸部分……ヒストリーオーナメントのカードが全てクラウンのライダーカードへと変わっていき、それと同時にディエンドはクラウンの隣に立ってディエンドライバーを構えていく。

 

 

ディエンドC『いくぞクラウン……タイミングを俺に合わせるんだ』

 

 

クラウン『!……えぇ……私の力、貴方に預けます』

 

 

ディエンドとクラウンはそう言い合うと、同じモーションを取りながらディエンドライバーの銃口と手の平をコルニクス達へと向けていく。するとディエンドのドライバーの銃口とクラウンの手の平の前に巨大な漆黒の魔法陣のようなものが無数に重なり合うように浮かび、二人の魔法陣に膨大なエネルギーが収束され、そして……

 

 

『ハアァァァァァァァ……ハアァッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『?!グ、グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ドライバーと手の平の前に浮かび上がった魔法陣から二つの巨大な漆黒の閃光が同時に放たれ、コルニクスとゴーマはディエンドとクラウンの必殺技をモロに受けて数十メートル先まで吹き飛んでいったのだった。だが、コルニクスとゴーマは体から煙を立たせながら武器を杖代わりにして起き上がっていく。

 

 

コルニクス『ぐっ…ぁ…!な、何なんだよクソッ…!よくもっ……よくもやったなァ?!!』

 

 

ゴーマ『っ…損傷率85%…だが…まだやれる…!』

 

 

クラウン『っ!まだ動けますか……』

 

 

ディエンドC『……下がっていたまえクラウン……後は俺がやろう』

 

 

ふらつきながら起き上がるコルニクスとゴーマを見てクラウンが再びナイフを構えようとした中、ディエンドは落ち着いた様子でそう言いながらクラウンの前に出て来き、バックル部分の端末を取り外して画面を切り替え、画面に浮かぶキャンセラーの紋章をタッチした後Kのマークをタッチしていく。

 

 

『CANCELA!FINALKAMENRIDE:ALPHA!』

 

 

電子音声と共に再び端末をバックル部分にセットすると、再びディエンドの胸のヒストリーオーナメントのカードが全て別のカードへと変わっていき、カードが変わり終えると共にディエンドの姿が徐々に変わっていく。その姿とは……

 

 

クラウン『っ!……あれは……祐輔氏のキャンセラーの強化形態?』

 

 

そう、ディエンドが変身したのは阿南祐輔が変身するキャンセラーの最強フォームである『キャンセラー・αフォーム』だったのだ。クラウンはキャンセラーに変身したディエンドを見て驚愕するが、コルニクスとゴーマはそれに構わずディエンドが変身したキャンセラー……DIキャンセラーへと突っ込んでいく。

 

 

コルニクス『コロコロ変わって変な奴!先ずはお前から消えちゃえ!!』

 

 

ゴーマ『おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!』

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

電子音声と共に二人はそれぞれの武器に膨大なエネルギーを集束させておもむろに武器を振り上げていくが、DIキャンセラーは敵が来ているにも関わらず未だ身構えようとしない。

 

 

クラウン『大輝氏?!』

 

 

コルニクス『アハハハ!!消えちゃえ!!フォールドソンバイザアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ゴーマ『デッド・オブ・ブレェェェェェェェェイクッ!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

二人はDIキャンセラーに向けて勢い良く武器を振りかざし、DIキャンセラーは回避することなく二人の必殺技の直撃を受けて巨大な爆発の中へと姿を消していったのであった。

 

 

クラウン『なっ……大輝氏!!』

 

 

ゴーマ『……目標を一つ、排除完了……』

 

 

コルニクス『アハハハ!!なぁーんだ、全然呆気ないじゃん?期待外れだよ、弱っちいのぉ~!アハハハハハハハ!!』

 

 

必殺技の直撃を受けたDIキャンセラーを見てコルニクスは勝利を核心して愉快げに笑うが、ゴーマは勝利に喜ぶ隙もなく次の目標をクラウンに合わせて武器を構えていき、クラウンも内心毒づきながら慌ててナイフを構え直していく。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――そうかい……じゃ、もう少しご期待にお応えした方がいいかもね』

 

 

 

 

 

 

コルニクス『……え?』

 

 

『?!』

 

 

 

 

 

何処からか響き渡ったDIキャンセラーの声。それを聞いたクラウン達は慌てて爆発の方を見るが、其処には爆煙も完全に消えて誰の姿もなかった。

 

 

コルニクス『き、消えたっ?!』

 

 

ゴーマ『っ!レーダーでも居場所の特定は不可能……完全に消えた?!』

 

 

先程自分達の技を受けた筈のDIキャンセラーがいつの間にか消えてしまった。コルニクスとゴーマはその事実に驚きながら辺りを見渡していくが、それらしい人物も気配すらも感じない。一体何処に?と困惑しながらDIキャンセラーの姿を捜し続けていると……

 

 

『FINALATTACKRIDE:CA・CA・CA・CANCELA!』

 

 

『ッ?!!』

 

 

何処からか電子音声が響き渡り、それを耳にしたコルニクスとゴーマは慌ててそれが聞こえてきた方向へと振り返っていく。が、それと同時に突如辺り一面がまばゆい白い光に包まれていき、コルニクス達の視界が真っ白に染まっていった。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハアァァァァァァァ……セアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

コルニクス『ッ?!!う、うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!?』

 

 

ゴーマ『グ、グオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!?』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

クラウン『なっ?!ぐぅっ?!』

 

 

 

 

突如光の中で巨大な爆発が起こり、クラウンの耳にコルニクスとゴーマの断末魔の悲鳴が届いた。

 

 

それと共に巨大な爆風が襲い掛かり、クラウンはまるで巨大なハンマーで殴りつけられたような衝撃を受けて身体を宙に投げ出されてしまう。

 

 

そしてクラウンが宙で態勢を立て直すと同時に辺りを包み込んでいた光が徐々に収まっていき、クラウンはゆっくりと目を見開いて何が起きたのか確かめようとする。其処には……

 

 

 

 

 

 

DIキャンセラーα『………………』

 

 

 

 

 

 

クラウン『―――なっ……これ……は……』

 

 

 

 

 

 

クラウンは目の前の光景を目にし、思わず両目を見開いて驚愕してしまう。何故ならクラウンの瞳に映ったのは……DIキャンセラーが立ってる場所から数百メートル先までの地上が巨大なクレーターへと変わり、地形が変わってしまってるという異常な光景が広がっていたからだ。

 

 

クラウン『これは……これが……大輝氏の切り札の威力……』

 

 

DIキャンセラーα『……一割程度の力を出してこの威力か……全く……やっぱりそう簡単に使うもんじゃないね、この力は……』

 

 

クラウンがDIキャンセラーの力に驚愕している中、DIキャンセラーは呆れたように軽く息を吐きながら右手に持つ王龍剣を背中に仕舞うと共にコンプリートフォームへと戻っていき、クレーターの向こう側へと視線を向けていく。其処にはコルニクスとゴーマを倒されて動揺を浮かべる鳴滝の姿があった。

 

 

鳴滝「ば、馬鹿な……あの二人がこうも簡単に?!」

 

 

ディエンドC『残念だったねぇ、鳴滝?これでもう君を守る駒はいないけど……どうする?』

 

 

鳴滝「くっ?!こうなれば、一度態勢を立て直してっ…―ドンッ!―がっ?!」

 

 

このままでは分が悪いと感じた鳴滝は一度態勢を立て直そうとこの場から逃げようとするが、不意に誰かに後ろ首を殴られて気絶していった。そして鳴滝を気絶させた人物……いつの間にか鳴滝の背後へと移動したクラウンは気絶した鳴滝を肩に抱えていく。

 

 

クラウン『全く……余計な手間を掛けさせてくれましたね、鳴滝氏』

 

 

ディエンドC『クラウン……彼をどうする気だ?』

 

 

クラウン『鳴滝氏は私の方で死なない程度に制裁しておきます。今回の彼の行いは、流石の私も堪忍袋の尾が切れましたからね……』

 

 

ディエンドC『そうかい…だったら好きにすればいいさ。俺にはもう関係ないしね』

 

 

ディエンドはもう興味がないと言いながらバックルにセットされた端末を外して通常フォームへと戻っていき、クレーターから抜け出して何処かに向かおうと歩き出していく。

 

 

クラウン『大輝氏?何処に行くのです?』

 

 

ディエンド『なに、ちょっとばっかし零達の方も突っついて来ようかと思ってね。どうせ彼のことだから、怪我のせいで足手まといになっていそうだし』

 

 

クラウン『零氏達の手助けですか……零氏を救出してくれたこともそうですが、何故彼等にそこまで?』

 

 

ディエンド『最初に言っただろう?零に何かあれば、彼の因子がまた暴走する可能性がある…無効化の青年君の世界での暴走が目じゃないぐらいにね。それに彼を助けておけば、後で恩を高く売れるだろうし』

 

 

クラウン『……成る程……貴方らしいと言えば貴方らしいですね……』

 

 

ディエンド『そういう事さ……今は君との決着は預けておくけど、次に会った時は敵同士だ。覚えておきたまえ』

 

 

ディエンドはクラウンに指鉄砲を向けながらそう言うとクラウンから背を向け、ディケイド達とワーム達が戦うに土手に向かって歩き出していった。

 

 

クラウン『……零氏とアズサ嬢の事……頼みますよ、大輝氏』

 

 

クラウンは遠ざかっていくディエンドの背中を見つめながらそう呟くと、鳴滝をしっかりと肩に担いで目の前に歪みの壁を発生させ、それを潜って元の世界へと戻っていったのだった。

 

 

 






ディエンド・コンプリートフォーム


解説:大輝が天満幸助の弟子となった際に託されたディエンド専用のケータッチを使用して変身するディエンド専用の最強フォーム。ケータッチは劇場版の電王トリロジーと同じディエンドカラーとなってる為、色は青と黒。
外見は胸のカード以外電王トリロジーのディエンド・コンプリートフォームと同じ黒と銀が基礎となった姿となっているが、スペックはオリジナルのディエンド・コンプリートフォームを遥かに凌駕し、原典と対決しても軽く秒殺出来るとか。本人曰く、『あまりにもチート過ぎるから本気の時以外には使わない』らしい。


原作通りの召喚も含め、更にヒストリーオーナメントの外史ライダーの最強フォームに変身も可能であり、そのライダーの力や能力を100%実現出来る。


しかし、カオスと冥王の最強フォームだけはやはり強力過ぎる為、変身しても5分が限界らしい。(今でも天満幸助との修行で限界時間を延ばそうとしているらしいが、やはり難しいとか)


因みにこの形態でいる時には他のライダーの特殊能力(カードや必殺技等による能力封じや瞬殺能力等)を一切受け付けないフルブロック能力が備え付けられている。(ただし例外はあり、七柱神の能力や阿南祐輔の無効化等はブロック出来ない)


だがコンプリートフォーム事態の力にまだ大輝の身体が付いていけず、特に一回のファイナルカメンライドで全身が筋肉痛になったりするというデメリットがある。(原作通りの最強フォームの召喚なら無問題)


ディエンド・コンプリートフォームのヒストリーオーナメントは、左から……



エデン
ホタル
冥王
エクス
ストライク
カオス
キャンセラー
first
闘牙
シヴァ



それぞれのライダーの最強形態としては……



エクス・エクストラフォーム


解説:土見稟が自身の闇を認め、光と闇の心を一つにしたエクスの最強フォーム。全体の色が深紅へと変化しており、特殊な技はなく戦闘力が数十倍以上に跳ね上がっている。



キャンセラー・αフォーム


解説:外見はエデンズフォームのような騎士の姿だが、黒いボディに金の装飾で彩られているキャンセラーの最強フォーム。モデルはデジモンのアルファモン。ファイナルカメンライドした際には光と闇の両方を使いこなし、全ての神の力やライダーの力など全てのエネルギーを無効化する力を持っている。使用する武器は巨大な大剣である王龍剣。


因みにキャンセラーにファイナルカメンライドした際に大輝は『ますます無効化の青年君が欲しくなって来たね』とコメントしてる。



first・ZERO drive


解説:腰のベルトがBLACKのベルトに酷似した感じになり、瞳のライトが常に輝き首のマフラーが伸びて逆立った姿に変化したfirstの最強フォーム。ファイナルカメンライドした際にはオリジナルと同様にラーニングで覚えた技が全て使えるようになっている。


必殺技は全身に赤いオーラを纏い、目標の真下まで飛び上がり赤い閃光と化して跳び蹴りを放つ『閃光ライダーキック』



カオス・FINALフォーム


解説:銀色のボディと金色の翼を背中に持ったクロノスの最強フォーム。かつてのチートオブチートの最強形態という事もあってか殆どの能力がチートであり、それが原因でファイナルカメンライドは5分が限界。因みに力も強大過ぎる為に一割程度のパワーしか使わないようにしており、もしも間違ってフルパワーを出せば…………下手すれば数千億以上の平行世界を簡単に消滅出来るとか……?


補足だが、始めてカオスにファイナルカメンライドした際に大輝は『……これもうチートなんてレベルじゃないよね?何これ?嫌だよ俺は?こんなの扱える化け物になるなんて』とコメントしている。


必殺技はクロノスブレイドが進化した剣、ファイナルブレイドに収縮された世界を破壊させる程のエネルギーを一気に放つ『エンド・オブ・ファイナル』。



冥王・オメガフォーム


解説:冥王がパンデモニウムの最奥地で限界を超え、究極の神となった姿である冥王の最強フォーム。白いボディーが銀色に変わり、デンカメンもΩに変化している。
クロノスの最強フォームをも凌駕するチート級のパワーを秘めてるが、やはり力が強大過ぎるせいでファイナルカメンライドは5分が限界。
クロノスの最強フォームと同じくパワーは一割程度に抑えており、もしもフルパワーを出せば……上記のクロノス・FINALフォームを参照。


因みに始めて冥王にファイナルカメンライドした際の大輝は『……メイオウサマバンザーイ、バンザーイ……』とコメントしてる。



闘牙+シヴァ・デスペラード


解説:闘牙とシヴァがジョグレスエヴォリューションした二人の最強フォーム。モデルはデジモンアドベンチャー02のパイルドラモンをモチーフにしている為、攻撃方法が殆ど同じ。


必殺技は火と水を融合した砲撃である『メドローアブラスター』



ホタル・マスターフォーム


解説:カブトゼクター、ガタックゼクター、ザビーゼクター、ドレイクゼクター、サソードゼクター、ホッパーゼクター、ケタロスゼクター、ヘラクスゼクター、コーカサスゼクター、ダークカブトゼクター、ハイパーゼクター、パーフェクトゼクターを全てアーマーに分解して装着された黄金のボディと赤い瞳、黄金と炎の羽を持ったホタル最強フォーム。クロックアップ系で最強のクロックアップである『マスタークロックアップ』を使用することが可能であり、ハイパークロックアップの数十万倍かそれ以上の速さで動くことが出来る。


因みに零が使用した場合、カブトがハイパーゼクターとマスターゼクターを使用した形態である最終フォームも使えるらしいが……詳しい詳細は不明とされている。


必殺技は白熱に燃える炎を足に纏い、目標に飛び蹴りを放つ『マスターキック』や、カブト、ガタック、ザビー、ドレイク、サソード、二機のホッパー、ケタロス、ヘラクス、コーカサス、ダークカブト、ハイパー、パーフェクトゼクターをコンバインさせたパーフェクトゼクターを超える黄金と炎に包まれた剣…『パーフェクトマスターゼクター』から放つ『マキシマム・パーフェクトマスター・サイクロン』と『マキシマム・パーフェクトマスター・タイフーン』



エデン・ダブルオーフォーム


解説:天満幸助が開発した仮面ライダーエデンの追加新フォーム。
外見はエクシアフォームと同様に白とスカイブルー。武器は7つの剣・セブンソードから変化した2本の剣・GNソードⅡ。
エクシアフォームに比べて武器の数こそ減っているがパワー、スピード共に格段に上がっており、武器の攻撃力も上がっている。
エクシアフォームと同様に未来を見ることができる。GNソードⅡは実体剣の他にビームライフルモードによる射撃や実体剣からビームサーベルを展開する事もできる。
数秒間無敵状態になれる『トランザムシステム』の使用が可能だが負担が大きい。
必殺技はビームサーベルを展開した2本のGNソードⅡで十字に切り裂く『クロスソードブレイク』



ストライク・マテリアルフォーム


解説:全てのステータスが限界まで向上しているストライクの最強フォーム。ファイナルカメンライドした際にはオリジナルと同様に並行世界全てのデータとリンクし、瞬時に敵の情報や能力の全てを理解する事が出来る上に、全てのガイアメモリの力を無効化出来る。


必殺技は『ビッカー・マテリアル・バースト』、『マテリアル・チャージ・ブレイク』、『マテリアル・ストーム』など様々。





ちなみに大輝にはまだトウホウライドのコンプリートカードを使った別のコンプリートフォーム、更にディエンドとトウホウライドのコンプリートカードを合わせた真に最強のコンプリートフォームがあるらしいが、詳細は後々明かされる。



補足だが、このフォームや他のコンプリートフォームは大輝が切り札として隠してる為、大輝を鍛えた天満幸助やシズク、不破なのはやレイ以外には余り知られていない。



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第十六章/NXカブトの世界⑭(後編)

 

 

 

シーフ『セアァッ!!』

 

 

NEW電王N『デェイ!!』

 

 

ラウル「ライジングセイバーッ!!」

 

 

『ウグアァッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

丁度同じ頃、ディケイド達はそれぞれ散開してアゲハワーム達と激戦を繰り広げていた。圧倒的な数で迫り来るライオトルーパー達とモスラワームとはストライク達とラウル達が、アゲハワームとはディケイドとカブトが中心になって戦っていた。

 

 

ライオ『ハァッ!!ラァッ!!』

 

 

―バキィ!!ドガァ!!―

 

 

『アグッ?!グゥッ?!』

 

 

ストライク達がライオトルーパーの大群と戦っている中、ライオはモスラワームを相手に華麗な回し蹴りを打ち込んでいた。ライオの蹴りを主体とした打撃技に翻弄されてモスラワームは反撃がままならず、徐々に圧されて防戦一方となっている。

 

 

『ぐっ?!くっ!何なのよアンタ達?!なんであんな出来損ないのクズ人形の為にそこまで――!』

 

 

ライオ『ッ!!』

 

 

―バキィッ!!!―

 

 

『ウアァッ?!』

 

 

ライオの蹴りを受けていたモスラワームがアズサを罵るような発言をした瞬間、ライオは一瞬でモスラワームの懐まで詰め寄りミドルキックを放って吹き飛ばしていった。

 

 

ライオ『……それ以上、アズサを悪く言うなら容赦しないわよ……ワーム』

 

 

『クッ!な、なによ?私は本当の事を言っただけじゃない!何をそんなムキになってるわけ?!』

 

 

困惑したように叫びながらライオに蹴られた箇所を手で抑えて立ち上がるモスラワームだが、ライオは構わず追い撃ちと言わんばかりに再び蹴り技を打ち込んでいく。

 

 

ライオ『あの子はね!自分の大切な物を守るためなら自分だって犠牲に出来る優しい子なの!そんなあの子の思いを踏みにじり、更にはあの子の羽根を毟って楽しんでたアンタを……私は絶対に許しはしない!!』

 

 

『っ…!ハッ!バッカじゃないの?あんな預言者の操り人形なんかをそんなマジになって庇うなんて、ウザったいのよ!!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドォンッ!!―

 

 

ライオ『?!グッ?!』

 

 

モスラワームはライオの蹴りを屈んでかわすと、そのまま下から無数のエネルギー弾を放ってライオを吹っ飛ばしていってしまった。そしてライオが地面に倒れると同時に、モスラワームは更に追撃を仕掛けようとライオに襲い掛かろうとするが……

 

 

バロンP『そうはさせねぇ!!』

 

 

シーフ『セアァッ!!』

 

 

―ズザァンッ!!ズザァンッ!!―

 

 

『なっ…ウァッ?!』

 

 

バロンとシーフがライオの背後から飛び出してモスラワームへと斬り掛かっていき、ライオに襲い掛かろうとしたモスラワームを吹っ飛ばしていったのだ。そしてそれを見たライオは若干ふらつきながら起き上がり、バロンの隣に立っていく。

 

 

バロンP『よし、スティール!神夜!いくぞ!』

 

 

ST『任せな相棒!』

 

 

ライオ『えぇ!ハアァァァァァァ……』

 

 

バロンの呼びかけに対して翔のデバイス…スティールとライオがそう応えると、スティールはバロンの右足へと徐々に雷を纏わせていき、ライオも腰を落として同じように右足に雷を纏わせると共に上空へと跳び、シーフと戦うモスラワームへと急降下し、そして……

 

 

バロンP『いくぜ……スーパー!』

 

 

ST『イナズマ!』

 

 

『キィィィィィィィィィィィィィィックッ!!』

 

 

ライオ『ヤアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『…ッ?!―ドガアァァァァアンッ!!―ウアァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

バロンとライオのダブルライダーキックがモスラワームへと炸裂し、モスラワームはそのまま悲痛な悲鳴を上げながら再び吹っ飛ばされていったのだった。

 

 

『なっ…リリス!!』

 

 

ガタックR『よそ見してる暇はねぇぜ!!』

 

 

アンジュルグ『ハッ!』

 

 

ライオ達の必殺技を受けて吹っ飛ぶモスラワームを見て一瞬動きを止めたアゲハワームにディケイドとアンジュルグ、カブトとガタックがそれぞれの武器を振りかざしていく。

流石に四人掛かりとなると不利に思えたのか、アゲハワームはディケイドの一撃をかわしながら後方に高く跳び、自身の前にサナギ体とライオトルーパーの大群を呼び出しディケイド達に放っていった。

 

 

カブトR『っ!まだこれだけの数が……!』

 

 

ガタックR『くそっ!これじゃあキリがないぞ!?』

 

 

ディケイド『……仕方ない……此処はアレを使うか……』

 

 

迫り来る大群の数を見てカブト達が毒づく中、ディケイドはそう言うとカードを一枚ライドブッカーから取り出し、ライオトルーパーの大群と戦うストライクの背後へと回りカードをディケイドライバーへとセットした。

 

 

『FINALFORMRIDE:S・S・S・STRIKE!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

ストライクM『…は?―ドンッ!―ウオォ?!』

 

 

ディケイドはストライクの返答を待たずにストライクの背中を開くような動作を行い、それと共にストライクの身体が宙に浮きながら変化していき、ストライクは黒と白を基調とし、12個の金のレリーフが付いた盾を身につけた透き通った蒼い刃の大剣……『マテリアル・ストライク』へと超絶変形してディケイドの手に収められていった。

 

 

ディケイド『上手くいったか……総一、同時攻撃だ。いくぞ!』

 

 

NEW電王N『ん?……そういうことか……了解だ!』

 

 

NEW電王はディケイドの手に握られたマテリアル・ストライクを見てすぐにディケイドの言葉の意味を悟り、近くのワームを追い払ってディケイドの隣に立つとベルトにセットされたNEWケータロスを操作する。

 

 

『AGITO:SHINING DARKNESS!』

 

 

電子音声と共にNEW電王の隣りに残像が出現して徐々に実体化していき、一人の戦士……小野 裕己と咢が変身するアギト・シャイニング・ダークネスフォームとなって召還されていく。そしてディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出しディケイドライバーへと装填し、NEW電王もアギトと同じモーションを取りながらバックルにパスをセタッチしていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:S・S・S・STRIKE!』

 

 

『full Charge!』

 

 

二つの電子音声が響くと、マテリアル・ストライクの刃に全てのメモリのエネルギーが収束されて蒼く輝き出し、NEW電王とアギトはそれぞれの武器にありったけのエネルギーを溜めていく。そして……

 

 

『ハアァァァァァァァ……ダリャアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ッ?!グ、グギャアァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウワアァッ?!』

 

 

ディケイドとマテリアル・ストライクの必殺技、マテリアル・ストリーム・ザンバーとNEW電王&アギトの斬撃波が同時に放たれ、サナギ体とライオトルーパーの大群は身体を真っ二つに斬り裂かれて一斉に爆発していったのだった。アゲハワームはその爆発に巻き込まれて吹っ飛び、ライオ達に吹き飛ばされたモスラワームの下まで転がっていく。

 

 

『くぁっ……くっ……まさか……アイツ等にこんな力があったなんてっ……!』

 

 

『っ!リリス、此処は一旦退くわよ!このまま戦っても、こちらがやられるのは目に見えてるわっ!』

 

 

『わ、分かったっ…!』

 

 

このままでは自分達がやられてしまう。そう悟ったアゲハワームは態勢を立て直そうとモスラワームと共に羽根を広げて上空へと飛び上がり、そのままディケイド達の手の届かない場所へ逃げようとする。

 

 

シーフ『ッ!アイツ等……逃げる気か?!』

 

 

ディケイド『っ…此処まできて、そう簡単に逃がしてたまるかっ…!』

 

 

上空の彼方へと逃げようとするアゲハワーム達を見たディケイドはマテリアル・ストライクをストライクへと戻し、若干ふらつきながらライドブッカーから三枚のカブトのカードと絵柄の消えたカードを取り出すと、カブトとクロックアップの背景の絵が赤へと変わり、更にシルエットだけのカードに絵柄が浮かび上がりガタックのファイナルフォームライドのカードとなっていった。

そしてディケイドが二枚のカードをドライバーにセットしようとするが、横からいきなり誰かにガタックのファイナルフォームライドを取られてしまった。その人物とは……

 

 

ディケイド『…ッ!お前、海道?!』

 

 

ディエンド『やぁ零?勝手に抜け出したかと思えば、こんな所にいたなんてね』

 

 

ディケイドからカードを奪った人物……先程クラウンと別れたディエンドはそう言いながら奪ったカードをディケイドに見せつけ、それを見たディケイドは険しげに眉を寄せた。

 

 

ディケイド『一体何しにきた?まさか、邪魔しに来たのか?』

 

 

ディエンド『いいや、今回はもう一つ君に借りを作っておこうと思ってね?どうせ君も、そんな体じゃコレを扱え切れないだろ?』

 

 

そう言ってディエンドは手に持つカードをディエンドライバーへと装填してスライドさせ、それを見たディケイドは軽く舌打ちしながらディケイドライバーへとカードを装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

『FINALFORMRIDE:GA・GA・GA・GATACK!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

カブトR『…何?おい待て?!まさかっ―ドンッ!―ウオッ?!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

ガタックR『え?―バシュウンッ!―ウグッ?!』

 

 

電子音声と共にディケイドはカブトの背後に移動して背中を押す動作をすると、カブトはそのまま宙に浮くと同時に変形してカブトゼクターとなり、ディエンドはガタックの背中を発砲すると共にガタックは徐々にその姿を変え、巨大な二本の角を持ったクワガタのような姿……『ガタックエクステンダー』へと超絶変形し、そのまま上空へと飛翔してアゲハワーム達を追跡していく。

 

 

『ッ?!あ、あれは?!』

 

 

『カブトとガタックっ?!マズイ!早く遠くに?!』

 

 

背後から追跡してくるカブトゼクターとガタックエクステンダーの存在に気付いたアゲハワーム達は焦りを浮かべ、何とか二人の追跡を逃れようとスピードをあげるが……

 

 

カブト(Z)『逃がさん!!』

 

 

ガタック(E)『ハァッ!!』

 

 

『アグッ?!』

 

 

『な、何ッ?!』

 

 

後ろから追いかけきたカブトゼクターとガタックエクステンダーがそれ以上のスピードで追いついてアゲハワーム達を補足し、先程まで戦っていた場所へと戻っていく。それを見たディケイドとディエンドもそれぞれ一枚ずつカードを取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:KA・KA・KA・KABUTO!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:GA・GA・GA・GATACK!』

 

 

二つの電子音声が響くと共にカブトゼクターは角で捕らえていたアゲハワームを地上に投げ、そのまますぐに先回りしてカブトに戻り地上に着地し、バックルのカブトゼクターのフルスロットルボタンを順に押していく。

 

 

『one!two!three!』

 

 

カブトR『ライダー…キックッ!』

 

 

『Rider Kick!』

 

 

カブトはカブトゼクターのフルスロットルボタンを順に押してゼクターホーンを反対側へと倒し、それと共にガタックエクステンダーがモスラワームを地上へと叩き付けていった。それを見たディケイドとディエンドが同時に上空へと跳び上がると共に四人はクロックアップ空間に突入し、そして……

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァ……ダリャアァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

カブトR『…ハッ!!』

 

 

―ドゴオォンッ!!―

 

 

『ウグアァッ?!!』

 

 

ディエンド『フッ!セリャアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『グッ…ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ディケイドとカブトの必殺技……ディケイドメテオとディエンドが杭を打ち込む様にガタックエクステンダーにキックを放った必殺技……ディエンドインパクトが見事に炸裂し、アゲハワームとモスラワームは悲痛な悲鳴を上げながら吹っ飛ばされ地面を転がりながら倒れていった。ディケイドは地上に着地にしてそれを見ると、アンジュルグへと振り返って呼びかける。

 

 

ディケイド『アズサ、お前が決めろ!』

 

 

アンジュルグ『っ!…うん…!』

 

 

アンジュルグはディケイドの呼びかけに力強く頷いて応えると、背中の白い翼を大きく広げて無数の純白の羽を空に撒き散らしながら上空へと飛翔する。そして右手に金色の弓を出現させ、左手にありったけのエネルギーを込めて矢を生成していく。

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

アンジュルグ『最大出力…照準セット…!』

 

 

バックルから電子音声が鳴り響くと共にアンジュルグは生成した矢に更にエネルギーを集中させ、黄金の弓に矢をつがわせて照準をアゲハワーム達へと合わせていき、そして……

 

 

 

 

アンジュルグ『――コード入力……ファントムフェニックスッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥ……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『くっ……っ?!なっ……そんなっ?!』

 

 

『わ、私達姉妹がっ……あんな傀儡人形ごときに?!アッ…ガッ…キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

―シュウゥ……ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

 

 

アンジュルグの必殺技……ファントムフェニックスがアゲハワームとモスラワームへと直撃し、二人は鳳凰と化したエネルギーの塊に飲み込まれながらそのまま川の上へと吹っ飛ばされ、川の中心で巨大な爆発を起こして吹っ飛んでいったのであった。

 

 

アンジュルグ『……終わっ……た……』

 

 

上空から水面が炎上する川を眺めながら力が抜けた様に呟くと、アンジュルグはゆっくりと地上に降りていく。其処には既に変身を解除した光達と、先程の戦いでより一層ボロボロになった零がアンジュルグが降りてくるのを待っていた。

 

 

零「……アズサ……」

 

 

アンジュルグ『…………』

 

 

地上に降りたアンジュルグは零へと歩み寄って互いに向き合うと、変身を解除してアズサへと戻っていき、ゆっくりと首に掛けていたカメラを外し零へと差し出していく。

 

 

零「……持っててくれたんだな……それ……」

 

 

アズサ「うん……絶対に帰ってくるって……約束の……証だったから……」

 

 

零「……そうか……」

 

 

アズサの言葉に零は穏やかな笑みを浮かべてアズサの手からカメラを受け取り、アズサの顔を見つめながら口を開いた。

 

 

零「――ただいま……アズサ……」

 

 

アズサ「っ……うんっ……おかえり……零……」

 

 

ただいまと、そう口にした零にアズサはまた瞳からポツポツと大粒の涙を流しながらそう告げて泣き出してしまい、零はそんなアズサに苦笑を浮かべながら子供をあやすように頭を撫でていったのだった。

 

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑮(前編)

 

 

―機動六課・食堂―

 

 

土手での戦いが終わり、戦闘事後処理を済ませて他の探索メンバーに零の無事を伝えてそれぞれの世界に帰らせると、光達はこの世界のなのは達と共に食堂に集まり、大輝から話を聞いていた。その内容はもちろん、あの濁流に飲まれてから行方知れずになっていた零についてである。

 

 

勇司「――別の世界に……だって?」

 

 

大輝「そ、あの時川に流された零を拾い上げた後、俺はそのままパンデモニウムに彼を連れていったのさ。彼の治療をしにね」

 

 

翔「師匠のところに?!」

 

 

大輝が面倒そうに説明する中、パンデモニウムという単語が出た途端翔達は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

大輝の話しによると、どうやらアズサとの戦いで重傷を負って濁流に流された零を助けたのは大輝らしく、そのままパンデモニウムに零を連れていったのも大輝の仕業だったらしい。

 

 

あの時の零はプリーストと因子の力を同時に使ったせいで身体は既にボロボロであり、更にアズサに腹部を刺されたせいで死んでも可笑しくない状態だった。

 

 

特に因子による影響でボロボロになった身体は普通の治療で治すのは不可能な為、治療に詳しいと思われる幸助の下に訪れたらしい。

 

 

ジェノス「そういうことか……じゃあ、俺の検索で零の居場所が分からなかったのは……」

 

 

大輝「そう、君は検索設定をNXカブトの世界だけに絞って零を探していた……それで見付からないのは当たり前さ。この世界の何処にもいない人物をこの世界から見つけられるハズないからね」

 

 

総一「成る程な……てか、そういう事なら何でもっと早く教えに来てくれなかったんだよ?!」

 

 

なのは(別)「そ、そうだよ!私達この一週間、ずっと必死になって零君を探してたのに……!」

 

 

大輝「おいおい、なんで俺が其処までしてやらなきゃいけないんだい?今回俺が零に手助けしてやったのは別に零や君達に善意で手を貸してやった訳じゃない。此処で零に死なれたら俺の都合が悪くなる……だから助けてやっただけさ。別に君達に零の安否を教えても、俺にはなんのメリットもないだろ?勝手に探してたのはそっちなんだし」

 

 

ヴィータ(別)「な、なんだそりゃ?!」

 

 

翔「止めとけ、そいつはそういう奴なんだよ……一々突っ掛かってたらキリがない」

 

 

余りにも非協力的な態度を取る大輝になのは達は不満げな表情を浮かべるが、翔達はそれにもう慣れたのか溜め息を吐いただけでそれ以上は何も言わなかった。

 

 

大輝(…ま、ホントは幸助さん達も零の看病に加えて何度か暴走し掛けてた因子を抑えたり、クロスライドの開発や刹那達の御守りとかでそんな暇がなかっただけなんだけどね。俺もコンプリートフォームの修行とかあったし……まぁ彼等にはこの程度の説明で十分だろう。一から説明するのもめんどくさいし)

 

 

なのは達の不満げな視線を浴びながらそう考えると、大輝は背中を付けていた壁から離れてそのまま食堂の入り口へと向かっていく。

 

 

大輝「ま、彼は届けたんだから俺はこれで失礼させてもらうよ。零には精々次の世界では俺の邪魔をしないようにと伝えておいてくれ。んじゃね♪」

 

 

軽く手を振りながら光達にそう告げると、大輝はそのまま食堂を出て機動六課を後にしたのだった。

 

 

勇司「アイツ…海東大樹並に食えない奴だな……いや、もしかしたらそれ以上か?(汗)」

 

 

光「だが、実際アイツの手によって零が助けられたのは事実だ。さっきの戦闘で助けられたのもな」

 

 

総一「……それが余計に癪なんだよなぁ……(汗)」

 

 

神夜「まあいいじゃない、零もアズサも無事だったんだし。それより今は零達の回復するのを待って、二人を写真館のある世界に届けないと「それなら私がやるわ」……え?」

 

 

零とアズサの二人を写真館に送り届ける話を切り出したと共に、何処からか女性の声が聞こえてきた。その声が聞こえてきた方に振り返ると、其処には何もない空間から一人の女性が転移してきていた。

 

 

勇司「ラルク?!」

 

 

ラルク「彼等を送り届ける役目、私にやらせてもらえないかしら?」

 

 

光「?何故だ?」

 

 

ラルクと呼ばれた女性が零とアズサを送り届ける役目に名乗り出た事に光は疑問げな表情を浮かべると、ラルクは若干苦笑いを浮かべながら口を開いた。

 

 

ラルク「今回、私は余り光や勇司の力になってあげられなかったからね。だからせめて、あの二人を送り届けるくらいの事はやらせて欲しいのよ。この世界に降り懸かろうとしてた滅びを浄化してくれたお礼も含めてね」

 

 

光「成る程……」

 

 

勇司「そういうことか……じゃあ、零とアズサを送るのはラルクに任せるよ。他の皆もそれでいいか?」

 

 

ラルクからの頼みに勇司も納得して他のメンバーへと質問すると、ジェノス達も別に構わないと応えるように頷いたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その頃、医務室では先程の戦闘の後にジェノスや翔達に治療されてベッドで休む零と、ベッドの脇に置かれた椅子に座って黒猫を胸に抱くアズサの姿があった。

 

 

零「―――じゃあ、背中の傷はアテナが?」

 

 

アズサ「うん……さっき会ってすぐに『私に任せておけばもう大丈夫よ♪』って言って、背中の傷を治療してくれたの……」

 

 

そう言ってアズサは零に背を向けて上に羽織っていたパーカーを脱ぐと、さっきモスラワームに毟り取られた純白の翼が綺麗に元通りとなっていた。

 

 

零「そうか……だが、ただ治してもらうだけで良かったのか?アテナに頼めば、その翼を外してもらうことだって出来ただろう?」

 

 

アズサ「……うん……アテナって人にもそう言われた……でもいいの……」

 

 

あのままもう片方の翼を外してしまっても良かったのでは?と質問してくる零にそう応えると、アズサは肩の上に手を置きながら再び語り出す。

 

 

アズサ「零や光達と過ごして、やっと分かったの……例え私がどんな生まれ方をしてどんな姿をしていても、私が私である事に変わりはない……人を殺す為に作られても、誰かとの繋がりを作っていけるんだって……だから外すんじゃなくて、治してもらったの……人とは違っていても、これは私が私である証だから……」

 

 

零「…………」

 

 

アズサの言葉に黙って耳を傾け、零は「そうか……」と微笑を浮かべながらそれ以上は何も言わなかった。彼女は彼女なりに自分に対しての答えを見付けている。それならもう自分がとやかくいう資格はないだろうと思ったからだ。

 

 

零(自分で自分自身の答えを見付けるか……ちょっと見ない内に、いつの間にかアズサに追い越されてしまったな……俺……)

 

 

アズサ「…?どうしたの?」

 

 

零「……ん?ああいや……なんでもない」

 

 

不思議そうに小首を傾げながら質問してきたアズサに零は苦笑いを浮かべながらなんでもないと答えると、自分の手の平を眺めて拳を握ったり開いたりしていく。

 

 

零「……そろそろ体の調子が戻ってきたな……アズサ、悪いが俺の部屋から荷物を持ってきてくれないか?そろそろ写真館に戻ろうと思ってるんだが、頼めるか?」

 

 

アズサ「……ん……分かった……」

 

 

そろそろ写真館に帰る支度をした方が良いだろうと思いアズサにそう告げると、アズサは静かに頷いて椅子から立ち上がって部屋から出ていこうとする。とその前に、アズサは何かを思い出したように足を止めて、ポケットから二枚のカードと足元に置かれたカゴの中からキャンディーのような物を取り出して零に差し出してきた。

 

 

零「?何だそれ?」

 

 

アズサ「こっちのカードはさっきジェノスから零に渡して欲しいって言われたカード、これは侑斗って人が来た時にくれた飴……」

 

 

零「ジェノスと……侑斗?」

 

 

アズサ「うん、岡崎侑斗…総一の友達だって言ってたけど…」

 

 

首を傾げながら疑問そうに聞き返してきた零にそう応えると、アズサは零にキャンディーとカードを手渡していく。そして零はアズサから渡されたキャンディーとストライクのフォームライドカードを訝しげに眺めていると、キャンディーに印刷されたキャラクターの顔…………目茶苦茶見覚えのあるイマジンの顔を見て固まってしまった。

 

 

零「……………………」

 

 

アズサ「?どうしたの?」

 

 

零「……いや……ちょっと以前会ったバカ共のことを思い出しただけだ……」

 

 

アズサ「……?」

 

 

何処か遠くを見つめながらハハハッと乾いた笑い声を漏らす零だが、アズサにはその意味が良く分からず不思議そうに首を傾げていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数時間後、身体の調子を完全に取り戻した零は写真館に戻る為の支度を終えアズサと共に機動六課の玄関前にまでやって来ていた。其処では二人の見送りをする為に光と勇司、そしてこの世界のなのは達も集まってきていた。

(因みに翔達は零の世界のなのは達へ事情を説明しに先に光写真館へと行っている)

 

 

零「何か、長いこと世話になってしまったな」

 

 

光「気にするな。俺達も、お前と過ごせてイロイロと楽しめたしな」

 

 

勇司「また遊びに来てくれよ?それと、もし何かあったら呼んでくれよ?すぐに駆け付けるからさ♪」

 

 

零「あぁ、その時は頼りにさせてもらうよ」

 

 

フェイト(別)「アズサも元気でね?」

 

 

シャマル(別)「体には気をつけてね?また遊びに来るの待ってるから♪」

 

 

アズサ「うん……ありがとう……みんな……」

 

 

ラルク「それじゃあ、そろそろ向こうのカブトの世界と繋げるわね?」

 

 

零達と光達がそれぞれ別れを済ませると、ラルクは何もない場所に向けて右手を伸ばし虹色に輝くゲートの様な物を出現させていく。それを見た零は足元に置いてあった自身の荷物を肩に掛けてゲートに近づくが、途中で足を止めてポケットの中に入っていたハイパーゼクターを取り出し、そして……

 

 

零「……光!」

 

 

―ブンッ!―

 

 

光「っ?!」

 

 

―パシィッ!―

 

 

零は振り向き様にハイパーゼクターを光に向けて投げ、光は一瞬それに驚きつつもハイパーゼクターをキャッチした。

 

 

光「…ハイパーゼクター?」

 

 

零「それはお前が持ってろ……多分、そいつはお前達に出会う為に俺をこの世界に呼び寄せたのかもしれない……だからお前が持っていた方が良い気がする」

 

 

光「っ!いいのか?」

 

 

零「あぁ、俺が持ってても意味はなさそうだしな……代わりにお前達が使ってやってくれ」

 

 

光「……分かった……なら、コイツは大事に使わせてもらう」

 

 

そう言って光は零から受け取ったハイパーゼクターを零に見せ、零はそれに頷きながら笑みを浮かべた。

 

 

零「じゃ、俺達はそろそろ帰るよ」

 

 

勇司「……また、すぐに会えるよな?」

 

 

零「あぁ、旅を続けている限り……きっとな」

 

 

光「またいつか、何処で会おう。必ず」

 

 

零「あぁ、いつか……必ずな」

 

 

零は微笑しながらそう告げるとアズサと共に光達から背を向けて歩き出し、片手を上げながらゲートの奥へと足を踏み入れ姿を消していったのだった。

 

 

勇司「……行っちまったな……」

 

 

光「あぁ……だがきっと、また会えるだろう……」

 

 

勇司「……そうだよな……きっと……」

 

 

勇司はそう呟きながら徐々に小さくなって消えていくゲートを眺め、光も零から受け取ったハイパーゼクターを力強く握り締めながらゲートを見つめていた。そしてゲートがあと少しで消え始めたところで、光達が六課に戻ろうとゲートから背を向けた、その時……

 

 

 

 

 

 

―…………バチッ……バチバチバチッ……―

 

 

 

 

 

 

ラルク「……え?」

 

 

勇司「……ん?どうした、ラルク?」

 

 

ラルク「……あ、いえ……なんでもないわ……(今の感じ……何?何か一瞬嫌な予感がしたような……気のせいかしら?)」

 

 

 

 

 

一瞬嫌な予感を感じ取ったラルクはゲートの方に振り返り首を傾げるが、ゲートには特に異常は見られず、きっと自分の気のせいだと思い光達と共に機動六課へと戻っていったのだった。

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑮(中編)

 

 

時刻は深夜、ミッドチルダのとある高層ビルの屋上ではボロボロの格好した一人の女性……先程の土手での戦いでディケイド達に敗れたカラフィナがふらつきながら歩いていた。

 

 

カラフィナ「はぁ…はぁ…はぁ……私が……私達が……あんな人形ごときに……敗れるなんてっ……」

 

 

カラフィナは忌ま忌ましげに唇を噛み締めながら此処から見えるミッドの街を睨みつけ、脳裏に先程の戦闘で戦ったアンジュルグの姿を思い浮かべていく。

 

 

カラフィナ「次はっ……次は必ず殺してやるっ……あの出来損ないの人形を……リリスの仇を……必ず!!」

 

 

ボロボロになった拳を血が滲むほど握り締め、次こそはアズサを消し去ってやるとアズサへの復讐を心に誓うカラフィナ。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いいや……もうお前に……次はない……」

 

 

 

 

 

 

カラフィナ「?!!」

 

 

 

 

 

 

背後から聞こえてきた背筋が凍るほど冷たい声。それを聞いたカラフィナは一瞬心臓が止まったような錯覚を感じ、体を震わせながら背後へと振り返っていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終夜「――一週間ぶりだな……カラフィナ……」

 

 

 

 

 

 

カラフィナ「?!!しゅ…終夜……様……?!!」

 

 

 

 

 

 

そう、背後に立っていたのはカラフィナ達に今回の任務を与えた人物の一人である青年……闇無終夜が感情の感じられない瞳でカラフィナを見つめて佇んでいたのだ。声の正体が終夜だと知ったカラフィナは恐怖に染まった表情で後退りしていく。

 

 

カラフィナ「なっ…何故…何故貴方がっ……この世界に?!!」

 

 

終夜「……俺の部下は重要な任務の為に全て出払っていてな……だから仕方なく、俺が直々に出て来る事になったという訳だ……」

 

 

カラフィナからの問い掛けに何処までも冷たく、殺気すら感じられる口調で淡々と語る終夜。

 

 

終夜「そんなことより……一度ならず二度までも……奴らに敗北したようだな、カラフィナ?」

 

 

カラフィナ「も、申し訳ありません!!思いもしないトラブルが続いた上に、ディケイド達の邪魔があったせいで任務が思いの他上手く行かず!!」

 

 

終夜「ほぉ……それで?」

 

 

カラフィナ「で、ですが!あと一歩!!あと一歩というところまでは上手く行っていたのです?!ですからどうか!!もう一度チャンスを!!」

 

 

終夜「……もう一度……だと……?」

 

 

もう一度チャンスを与えて欲しい。そう告げてきたカラフィナの言葉に終夜の声がより一層低くなり、前髪で表情を隠していく。

 

 

終夜「―――カラフィナよ……貴様……それを誰に向かって言っているのか……分かっているのか……?」

 

 

―ゾワアァッ!!!!!―

 

 

カラフィナ「っっ?!!!あっ……ぁあ……しゅ……終夜……様……?」

 

 

終夜「最初に言ったはずだ……我々組織に失敗は許されない……我々組織の悲願を確実に達成する為にも……足枷となる物は全て排除する……とな……」

 

 

感情の感じられない口調でそう告げると共に、何処からか銀色の円盤のような姿をした物体が現れて終夜の周りを飛び回り、そのままゆっくりと終夜の腰に付いてバックル部分と思われる箇所の両端からベルトが現れて終夜の腰に装着されていき、終夜は何処からかリコーダーのような形状をした武器を取り出していく。

 

 

終夜「せめてもの手向けだ……俺が直々に……貴様を処分してやろう……変身……」

 

 

サガーク「ヘンシン」

 

 

終夜がリコーダーのような形状の武器……ジャコーダーをバックル横のスロットへと突き刺すと、円盤の様な姿をした銀色の物体……サガークの掛け声と共にその姿を徐々に変化させていき、チェスの駒のキングのような姿をした青い複眼のライダー……『サガ』へと変身したのであった。

 

 

カラフィナ「ぁ……あぁ……おっ……お許しをっ……終夜様っ……どうか命だけはっっ!!」

 

 

サガ『カラフィナ……お前はもう用済みだ……お前を送り付けてきたカイルからも、既にお前の処分の許可を得ている……』

 

 

カラフィナ「っっ?!!!カ、カイル様が……そんな……?!!」

 

 

カイルという人物からも既に処分の許可を得ている。サガの口から告げられたその言葉でカラフィナの表情は絶望へと染まり、サガはそんなカラフィナへとゆっくりと歩み寄っていく。そのサガから感じられるのは……絶対的な【死】

 

 

カラフィナ「い……いやっ……私はっ……私はまだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!?」

 

 

迫り来るサガを見てカラフィナの意識は限界を越え、恐怖と絶望に染まった悲鳴を上げながらアゲハワームへと姿を変えると共にハイパークロックアップを使用し、そのまま悲鳴を上げながら屋上から飛び降りていってしまった。

 

 

サガ『……無駄な事を……』

 

 

アゲハワームが飛び降りた場所を見つめながらそう呟くと、サガはゆっくりと白いフエッスルを取り出しサガークへと吹かせていく。

 

 

サガーク「ウェイクアップ」

 

 

サガークの掛け声と共に不気味な笛の音が辺りに響き渡ると、サガが右手に持つジャコーダービュートの鞭部分が怪しげな紅い輝きに包まれていき、ゆっくりとビュートの先を遥か下の街へと向け、そして……

 

 

―シュウゥゥゥ……バシュウゥッ!!!―

 

 

ジャコーダービュートの鞭部分が伸び出し、ミッドの街へと向かっていったのだった。その先には……

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っっ?!!!!そ、そんなっ?!!!どうして?!!!どうしてぇ?!!!!!!』

 

 

 

 

 

ジャコーダービュートの向かった先……其処にはサガから逃れようとハイパークロックアップを使って必死にミッドの街を駆け抜けるアゲハワームの姿があったのだった。

 

 

サガのいる高層ビルの屋上から蛇のように追い掛けてくる紅いビュートを見てアゲハワームの中の恐怖が更に高まり、何とかビュートの追跡を振り切ろうと全力で走り出していく。しかし……

 

 

『――――な、何でっ………どうしてまだ追ってくるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!?』

 

 

何処まで遠くへと逃げても、どれだけ速く走っても、既に高層ビルから10キロ以上も離れているというのに、紅い蛇は何処まで追い掛けてくる。

 

 

時折追跡を免れようと複雑な構造をした路地裏に逃げ込んでも、紅い蛇は止まることなくアゲハワームの姿を捉えて逃がさない。

 

 

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!!!!!

 

 

逃げなければ死ぬ!!逃げ切らなければ死ぬ!!最早格好など構わず情けない姿で走り続け、また路地裏へと逃げ込み、途中で汚れたごみ箱を押し倒しながら路地裏の奥へと逃げる。だが……

 

 

 

 

 

 

『…………ぁ…………そん…………な…………』

 

 

 

 

 

 

路地裏の一番奥。其処にあったのは、アゲハワームの行く先を阻むように立ちはだかる巨大な壁だった。

 

 

壁の向こう側以外に道などない、此処まではずっと一本道だった。

 

 

つまりそれが意味するのは……

 

 

『い、いやっ…いやぁ?!まだ死にたくないッ!!!私はまだ死にたくないッ!!!誰かあぁッ!!!誰か助けッ!!!―ガタンッ……―……ぁ……?』

 

 

背後から響き渡った、不自然な物音。それを耳にした瞬間呼吸が止まり、アゲハワームがゆっくりと背後へと首を動かした瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅い蛇がすぐ目の前にまで迫っていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嫌ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、人気のない路地裏から女の断末魔の叫びと何かが何度も突き刺さるような音が響き渡ったのは、そのすぐ後だった……

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

サガ『……終わったか』

 

 

ジャコーダーから何かを突き刺すような手応えを感じ取り、それを確認したサガは伸びたビュートを元の形態へと戻して変身を解除し終夜へと戻っていく。その時……

 

 

 

 

裕司『――終夜、少しよろしいでしょうか?』

 

 

終夜「……裕司か……どうだ?零達の方は……」

 

 

不意に終夜の隣に出現した一枚の通信パネル。其処には無表情の裕司の顔が映っており、終夜はミッドの町並みを眺めたまま裕司へと質問していく。

 

 

裕司『予定通り、カブトの世界に戻ろうとした零達を例の世界へと誘い込みました。同時に空間も遮断しておきましたので、そちらの世界にも現れたライダー共が零を追う事は出来ません』

 

 

終夜「そうか……漸く次の舞台に上がったか……」

 

 

裕司『…しかし、よろしいのですか?奴をあの世界に向かわせても……』

 

 

終夜「何、元々あの世界のアレは我々が処分するハズだったんだ……それを零が片付ければ、零はまた俺達と対等に渡り合える程の力を身に付け、因子の覚醒も早まるだろう……既に誰か、奴に監視を付けておいたか?」

 

 

裕司『えぇ……一応慎二を監視に付けておきました。奴なら真也達よりかは、任務を忠実に熟してくれると思いましたので』

 

 

終夜「慎二を?……例の戦闘機人達はどうなった?」

 

 

裕司『あれなら既に終えています。結果は我々の完全勝利……トーレは逃がしましたが、No.2 ドゥーエは捕獲に成功しました』

 

 

終夜「……そうか……それだけでも上出来と言うべきか……分かった。俺もすぐそちらに戻る」

 

 

それだけ伝えると裕司は小さく頷いて通信パネルは消えていき、それを確認した終夜はミッドの街を眺めながらポツリと呟き出す。

 

 

終夜「……すべてはお前を中心に回ってる……戦え、零……戦い続けろ……」

 

 

ミッドチルダを見下ろしながらそう呟くと、終夜は背後から現れた歪みの壁に呑まれて姿を消し、自分達のアジトへと戻っていったのだった。

 

 

 

 



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第十六章/NXカブトの世界⑮(後編)

 

 

―???の世界―

 

 

 

―……バチッ……バチバチバチィッ……シュバアァンッ!!―

 

 

零「ウオォ?!」

 

 

―バッシャアァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

そしてその頃、何処かのとある世界にある建物の中。其処のとある一室の天井に淡い光が集まり、其処からNXカブトの世界を後にした筈の零が突如現れ、そのまま何故か下にあったお湯が溜まった場所へと落ちてしまった。

 

 

零「―――ブハァッ!ゲホゲホッ!クッ……な、何なんだ一体……何が起きたんだ……?」

 

 

湯の中から顔を出し、頭を何度か振って水滴を辺りに撒き散らしながら何が起きたのか確かめようと手探りで片手を動かしていく零。がその時……

 

 

―……ムニュッ―

 

 

零「…………あ?」

 

 

……何か、片手が柔らかくて大きい物を掴んだ。その感触に零は思わず訝しげに首を傾げ、片手で濡れた顔を拭い、目の前へと視線を向けた。其処には……

 

 

 

 

 

 

「…………/////」

 

 

零「…………………」

 

 

 

 

 

 

……何故か、お湯に浸かった見知らぬ裸の女性が顔を真っ赤にしている姿が彼の目に映った。

 

 

そしてさっき柔らかい感触が感じた片手に視線を落としてみれば……女性の胸を直に揉んでしまってる自分の手が其処にあった。

 

 

「あ……あ……あ……////」

 

 

零「……あっ……いや……その……ち、違うんですよ?こ、これは何かの間違いというか……というか此処は一体――――」

 

 

何処なんだ?!と叫ぼうとした零だが、その言葉が次に出る事はなかった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

『………………………』

 

 

 

 

 

 

零「……………………」

 

 

 

 

 

……零と女性の周り。其処には零が胸を掴んでしまっている女性と同じように、何も羽織っていない全裸の女性達が困惑した顔で零を見つめてくる光景があったのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「――此処……どこ?」

 

 

シロ『にゃ~』

 

 

同時刻、零と共にカブトの世界に向かおうとしていたアズサとシロはとある街中で呆然と立ち尽くしていた。

 

 

アズサ「此処は……?零がいない……?」

 

 

シロ『うにゃー!』

 

 

何処かも分からない場所に出てしまって半ば困惑していたアズサは先程まで隣にいた筈の零がいなくなっている事に気付き、周囲を見渡して零の姿を探していた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!/////』

 

 

『ち、違う誤解だ?!俺は決して怪しい者なんかじゃないっ?!というか此処はカブトの世界じゃないのかってぬうおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!?』

 

 

 

 

 

 

アズサ「っ!今の声……零?」

 

 

 

 

 

背後から聞こえてきた無数の女性の悲鳴と零の悲鳴。それを聞いたアズサが背後にある建物に振り返ると、建物の看板を見て首を傾げた。

 

 

アズサ「?……銭湯?」

 

 

シロ『んにゃ?』

 

 

アズサとシロの瞳に映ったのはちょっとボロボロで、中から未だに零と女性達の悲鳴が聞こえてくる古めかしい銭湯だった。

 

 

アズサ「此処は……カブトの世界じゃない……?」

 

 

悲鳴が聞こえてくる銭湯から視線を逸らし、アズサは此処から見える神社がある山を眺めてポツリと呟いていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

とある平行世界に存在する風都。その街の中にあるとある探偵事務所では、黒い帽子を被った一人の青年がデスクに腰掛けながら優雅に珈琲を飲む姿があった。

 

 

「――今日もまた、何処からかこの街に風が吹く……そしてその風と共に、事件がこの事務所に流れてくる……フッ……ハードボイルドな探偵に休みはないってこったなぁ―パコンッ!―ってえぇ?!な、なにしやがんだ涼子?!」

 

 

涼子「翔一君がまたクッサイ台詞言ってるからでしょう!っていうか、聞いてるこっちが恥ずかしいんですけどぉ~?」

 

 

翔一「んだとゴラァ?!」

 

 

翔一と呼ばれた青年の頭をスリッパで殴った少女……この鳴海探偵事務所の所長である"鳴海涼子"は翔一の睨みに億する事なく、正面から翔一と睨み合っていく。そんな時……

 

 

「――二人共、またやってるの?」

 

 

涼子「…ん?あ、アイリスちゃん」

 

 

翔一の外出用の帽子が掛けられた扉が開き、そこから現れた銀色に輝く髪を持つ少女……"アイリス"は口喧嘩してる翔一と涼子を見て呆れたように深い溜め息を吐き、近くのソファーに腰を降ろしていく。

 

 

アイリス「全く、よくもまあ毎日毎日飽きもしないで喧嘩ばかりしていられるわね?」

 

 

翔一「別に好きで喧嘩してる訳じゃねぇよっ。てかそんなことより、今日も全然依頼来ねぇなぁ……」

 

 

涼子「ホントよねぇ……これでもう一週間依頼無しだし……てな訳で翔一君?今からペット探しの依頼でも探してきてくれない?」

 

 

翔一「はぁ?ふざけたこと言ってんな!なんでハードボイルドな探偵がペット探しなんかやらなきゃいけないんだよ?!」

 

 

涼子「でもこのままじゃ事務所は赤字なのよあ・か・じ!また今日もご飯抜きになってもいいわけ?!」

 

 

翔一「ぬぐぅ…!」

 

 

流石にご飯抜きは嫌なのか、翔一は人差し指を向けてくる涼子に圧されて後退りしていく。アイリスはそんな二人のやり取りを傍観し決着が着いたなと内心思い、手に持っていた本を開いて本を読もうとするが……

 

 

翔一「―――ん?おいアイリス?お前その指の怪我、どうしたんだ?」

 

 

アイリス「え?……あぁ、さっき新しいメモリガジェットの製作をしてたのよ。その時にちょっとね……」

 

 

アイリスはそう言って右手の中指に出来た切り傷を眺めていき、それを見た翔一は険しげに眉を寄せながらアイリスに近付きアイリスの右手を掴み寄せた。

 

 

アイリス「?!ちょ、翔一?」

 

 

翔一「うわっ……結構深いじゃんか……ったく、ちゃんと絆創膏かなんかくらい貼っとけ!傷が残っちまったらどうすんだ?!そんなんだからほっとけないんだよお前は……」

 

 

アイリス「なっ、べ、別にそんな大した傷じゃない!一々大袈裟なのよアンタは!」

 

 

翔一「バーロー!お前この前も怪我してたのにずっと放置してただろう?!お前も女の子なんだから、検索ばっかじゃなくて自分の事も大切にしろ!」

 

 

アイリス「っ!お、女の…子…?//」

 

 

涼子(うっわぁー……まぁた出たよ翔一君とアイリスちゃんの無意識バカップル……こりゃ明日葉ちゃんと夏目ちゃん達、早く翔一君射止めないとマズイんじゃないかなぁ?)

 

 

真剣な顔付きで何処からか取り出した絆創膏をアイリスの右手の指の切り傷に貼る翔一と、翔一に女の子と扱われて若干顔を紅くしながら顔を反らすアイリスを見て苦笑いを浮かべる涼子。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ピンポーン!―

 

 

 

 

 

翔一「ん?」

 

 

涼子「おぉ?!依頼人?!久々の依頼人かな?!はいはい今出まぁーす!」

 

 

 

 

事務所内にインターホンが響き、それを聞いた涼子は嬉々とした表情を浮かべながら事務所の扉へと駆け寄り扉を開いた。すると其処には一人の女性が立っており、女性は涼子に一礼しながら事務所の中へと入っていく。

 

 

「……此処が鳴海探偵事務所……で、間違いないですか?」

 

 

涼子「はいはーい!ペット探しからドーパンド絡みの事件でも何でも引き受けて解決しちゃいます鳴海探偵事務所は此処でぇーす♪」

 

 

翔一「おい涼子?!ペット探しはしねぇってさっきも言っただろうがっ!!」

 

 

アイリス「あっ……」

 

 

どんな依頼でも引き受けると言った涼子に翔一は思わず反論してソファーから立ち上がり、アイリスは自分の手を握っていた翔一の手が離れたことに対して若干名残惜しそうな声を上げ、不満げな表情を浮かべてしまう。

 

 

「そう、じゃあ私の依頼もギリギリ引き受けてくれそうですね……」

 

 

翔一「あっ、あぁまあ……依頼によるっちゃよるけどさ……んで、アンタは?」

 

 

「あぁ、申し遅れました。私は紫音冥華といいます、よろしく」

 

 

そう言って女性……冥華はソファーへと座っていき、翔一と涼子も冥華から依頼を聞こうと向かいのソファーに腰を降ろしていく。

 

 

涼子「で、冥華さんの依頼っていうのは?」

 

 

冥華「……実は、私はこれから行かなければいけないところがあるんです。其処で、貴方達の力を私に貸して欲しいんです」

 

 

翔「?俺達の力を?」

 

 

冥華「はい。異形の怪人・ドーパンドと戦うこの世界の仮面ライダー……ダブルである貴方達の力を」

 

 

『っ?!』

 

 

真っすぐと翔一とアイリスを交互に見つめながら冥華は真剣な口調でそう呟き、冥華の言葉を聞いた翔一達は驚愕の余りソファーから立ち上がってしまう。

 

 

翔一「あ、アンタっ、どうしてその事を?!」

 

 

アイリス「まさか貴方……組織のメンバー?!」

 

 

冥華「いえ、私は貴方達の師を殺した奴らの仲間ではありません。寧ろ、貴方達と同じく彼等のような存在と戦う者です」

 

 

涼子「へ?それってもしかして……冥華さんも仮面ライダーなの?!」

 

 

冥華「あ、いえ、そうではないんですが……と、そろそろ時間が迫ってますね……」

 

 

未だに驚き戸惑う翔一達に説明しようとした冥華だが、ふと自身の腕に巻いた腕時計の針を見て眉間に皺を寄せてそう呟き、ソファーから立ち上がって翔一に近づき翔一の腕を掴んで立ち上がらせていく。

 

 

翔一「あ?え、何?」

 

 

冥華「一から説明する時間がなくなってしまいました……このままでは、彼等が空間を完全に遮断してあの世界にいけなくなる。そうなる前に私と一緒に来て下さい」

 

 

翔一「は?行くって、何処に?」

 

 

冥華「……そうですね……まっ、ちょっと平行世界にです♪」

 

 

『……はい?』

 

 

何か素敵な笑顔でそう答えた冥華に翔一達は思わず間抜けな声を上げてしまい、冥華はそんな翔一達の反応に構わないで自身と翔一の周りに歪みを出現させていく。

 

 

翔一「っ?!ちょ、なんだこりゃ?!」

 

 

涼子「しょ、翔一君?!」

 

 

アイリス「ま、待ちなさい紫音冥華!貴方何を?!」

 

 

冥華「ん?さっきも行ったじゃないですか?ちょっと平行世界に行くと。じゃ、ちょっと彼を借りていきますから。では♪」

 

 

翔一「ちょ、待てって?!少しぐらい話をおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ?!!!」

 

 

翔一が冥華に説明を求めようと叫ぶが、それより早く冥華と翔一を包み込んでいた歪みの色が濃くなっていき、次第に二人を飲み込んでいってしまった。そして歪みが徐々に晴れていくと……

 

 

アイリス「……?!しょ、翔一……?」

 

 

涼子「しょ、翔一君が……消えちゃった?」

 

 

二人の目の前にいたハズの翔一と冥香の姿が何処にもなく、二人は忽然と鳴海探偵事務所から姿を消してしまったのであった―――

 

 

 

 

 

 

第十六章/NXカブトの世界END。

 

 

 






アズサ

性別:女

年齢:約十六~十八歳

イメージCV:竹達 彩奈

容姿:腰まで伸ばした碧銀の長髪の先をゴムで纏め、ルビーのように輝く赤い瞳を持った少女。背中にはルミナと同じく純白の翼を生やしており、普段は服の下に隠している。


解説:鳴滝がディケイド抹殺を目的として作り上げた人造人間二号であり、事実上ルミナの妹機。戦闘能力と感情制御を多く積んだルミナとは逆に戦闘能力と電算能力を偏らせている為、無口で表情の変化が乏しく感情表現が苦手。
戦闘能力はルミナの方が上だが、電算能力は多く積んでいる為にルミナの頭脳と比べたら正に天と地の差。


イメージキャラは迷い猫オーバーランの霧谷 希





仮面ライダーシュロウガ


解説:全身を漆黒に染め、機械的な翼を持った騎士のような姿をしたライダー。外見のイメージはスパロボZのシュロウガをライダー化した姿。
パワーはアストレアを少し下回るが、機動性能はアストレアを遥かに上回っている。更にアズサの身体能力をプラスさせればクロックアップとも対等、フルパワーならばハイパークロックアップ以上の機動力を発揮する事が可能らしい。



武装一覧


ラスター・エッジ


解説:額のクリスタルから放たれるビーム兵器。威力は他の武装に比べても最低ランクに入るが、それでも下級の怪人軍団を一撃で粉砕出来る威力を誇っている。


魔神剣・デスディペル

解説:鮮血で染め上げたような紅い刀身を持った両刃の片手剣。腕に魔力を染み込ませて手の平から召喚し、主にこの剣を主体にして戦う。


トラジック・ジェノサイダー

解説:両肩・両腰に埋め込まれた紅い宝玉から無数の紅いスフィアを撃ち出し、目標に直接ダメージを与える誘導攻撃。更に貫通能力も備え、目標が展開したバリアや盾すらも易々と貫通してしまう。


エンブラス・ジ・インフェルノ

解説:身体から獄炎を広範囲に放出する殲滅武装。最大パワーで都市の半分以上を破壊する事も可能。


ランブリング・デスディペル


解説:デスディペルを敵に突き刺して空中に持ち上げ、乱舞攻撃で斬り裂く技。最後は敵を斬り裂いて飛び散った闇で魔法陣を形成して敵を捕らえ、爆発させて消滅させてしまう。


レイ・バスター


解説:シュロウガの武装の中でも最強と呼ばれている技だが、詳しい詳細は不明とされている。




仮面ライダーアンジュルグ


解説:翼の生えた騎士のような出て立ちをしており、白をベースにピンクや金で彩られた天使の姿にも似たライダー。外見のイメージはスパロボのアンジュルグをライダー化した姿。シュロウガに引けを取らない機動性能と飛行能力を備えており、分身能力や幻影、障壁等も持っている為に守備力が固い。
更にハッキング能力を備えており、敵をアナライズして一瞬で弱点を見抜く事も出来る。



シャドウランサー


解説:右腕から槍状のエネルギーを無数に放つ中距離武器。状況に応じて敵単体に向けて放つシングルモードと集団に向けてのジェノサイドモードの二つに切り替える事が出来る。


ミラージュ・ソード


解説:右腕と左腕に内蔵された剣。エネルギーソードと実体剣の二つのモードを持っており、アズサは主にエネルギーソードを好んで使用する。


イリュージョン・アロー


解説:弓を出現させ、強力なエネルギー矢を敵に向けて放つアンジュルグの主要武装。遠距離の敵を狙い撃つ事が可能であり、バリアや防御力の高い装甲も簡単に貫通出来る威力を誇っている。


ミラージュ・サイン


解説:ミラージュ・ソードを用いた連続技。瞬間転移して相手を上空へと斬り上げながら魔法陣で拘束し、頭上からトドメの一撃である突きを放って攻撃する。


ライダーキック


解説:アンジュルグの持つ必殺技の一つ。右足に純白のエネルギーを纏い、標的に向けて上段回し蹴りを打ち込む技。


ファントムフェニックス


解説:アンジュルグの最強武装。イリュージョン・アローに使用する弓を出現させ、左腕から高出力のエネルギーの矢を発生させて射る事で、鳳凰を摸したエネルギーの塊を敵にぶつける必殺技。




ちなみに戦闘の最中にアンジュルグからシュロウガ、シュロウガからアンジュルグへとチェンジすることが可能であり、シュロウガの場合はアンジュルグの変身音声、アンジュルグの場合はシュロウガの変身音声でフォームチェンジする。




オリキャラ設定(W組)


左 翔一

年齢:十九歳

容姿:茶色い髪に翡翠の瞳を持ち、端正な顔立ちをした青年。


解説:Wの世界の主人公であり、仮面ライダーWの装着者。
私立探偵で『鳴海探偵事務所』に所属し、一年前のビギンズナイトで亡くした師である鳴海 荘吉の意志と看板を継いでいる。
師匠の鳴海荘吉に感化されてハードボイルドな探偵を目指しており、それを意識してかハンフリー・ボガードばりのソフト帽を愛用している。
立ち振る舞いなども常にハードボイルドを心がけているが、中身はよくも悪くもお人良しの三枚目である。その為些細なことで冷静さを失ってしまい中々ハードボイルドになりきれず、アイリスや涼子等からハーフボイルドと未熟者呼ばわりされる事が多い。
そんな性格のために物事に熱くなりすぎて無茶する事が多いが、そんな彼の姿に惹かれた女性達にフラグを乱立させることも少なくはない。
因みにアイリスに関しては鳴海荘吉に任された事から大事な相棒かつ掛け替えのない存在となっており、何かと彼女を気にかける場面が多い。



アイリス

年齢:不明(見た目は十八歳ほど)

容姿:腰まで伸ばした銀色のロングヘアーに紅い瞳を持った少女。


解説:Wの世界のもう一人の主人公であり、ヒロインの一人。十年前にミュージアムによって全ての記憶を消された上で、組織に幽閉されながらガイアメモリの開発に関わっていたが、一年前にビギンズナイトで翔一と荘吉に救出される。
アイリスという名は荘吉に助けられた際に付けられた名であり、同時に荘吉から生き方を教わった事により、翔一と共に二人で一人の私立探偵、そして仮面ライダーを務める。
『地球(ほし)の本棚』に検索して様々な知識や体術、技術などを習得する特殊能力を持っており、それを用いて翔一の探偵業をサポートする。
性格はクールで若干ツンデレっぽい部分が含まれているが、地球の本棚で検索をした際にはフィリップの様に検索馬鹿になってしまう。
ビギンズナイトで翔一達に救われて探偵事務所に住み始めた頃から翔一に何かと(特に女の子として)気にかけられ、不器用ながらも自分を大事に思ってくれる翔一に何時しか心惹かれるようになる。(涼子曰く、翔一フラグの一番の被害者)

しかし当の本人である翔一がドーパンドの事件で知り合った一部の女性キャラ達に次々とフラグを立てていくことから嫉妬が続く日々が多く、よく涼子仕込みのスリッパで翔一をぶん殴ることが多い。



鳴海涼子

年齢:十九歳

容姿:肩まで伸ばした黒い髪に黒い瞳を持った少女。


解説:自称鳴海探偵事務所所長。当初は翔一らを事務所から追い出そうとしたが、ドーパンド絡みの事件の一件に巻き込まれてからは考えを変え、勝手に探偵事務所所長を名乗って事務所に居座っている。
予想外の出来事が起きた時の「私、聞いてない!」が口癖。また、常時携帯するスリッパで相手(ドーパンド含む)を問わずに突っ込みを入れる。
因みに翔一のフラグ被害者ではなく、別の人物に好意を寄せているらしい。




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第十七章/桜ノ神の世界

 

 

 

NXカブトの世界を旅立ちカブトの世界へと戻ろうとした零とアズサ。しかし、二人が行き着いた世界はカブトの世界ではなく、全く別の見知らぬ世界であった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

此処は桜ノ町、周りを海と山に囲まれた街。

 

 

何処となく田舎な雰囲気を漂わせるも、様々な人々が行き交うこの街に飛ばされてしまった零とアズサは、取りあえず現状を整理するために落ち着ける場所を探して近くのカフェに訪れていた。のだが……

 

 

 

 

零「…………………………………………………」

 

 

アズサ「零、大丈夫?」

 

 

零「……モーマンタイ……だ……心配するな……」

 

 

今にも泣きそうな声でそう言ってテーブルの上に頭を打ち付ける零だが、どう見ても大丈夫そうには見えなかった。

 

 

何故なら彼の顔中には引っ掻き傷のようものがあり、両頬には赤い手形のようなものが出来ているからである。

 

 

何故こんな顔になってしまっているのかというと、実は先程彼が転移した先である銭湯の女湯が原因だった。

 

 

NXカブトの世界から運悪くそこへ転移してしまった零はあの場にいた女性客達から変態扱いされてしまい、危うく警察に突き出されそうになったところを必死になって逃げてきたのだ。

 

 

顔の傷はその時、逃げる零を捕まえようとした勇敢な女性客達の手によって付けられたものだった。

 

 

顔を引っ掻かれ、本気のビンタを喰らわされ、挙げ句の果てには誰かに背中からドロップキックを打ち込まれてぶっ飛ばされたりなど……肉体的にも精神的にも色んな意味でボロボロになりながら此処まで逃げてきたのである。

 

 

零「何故だ……何故アズサは普通に転移したのに……俺だけっ……俺だけ銭湯の女湯なんかにっ……!」

 

 

余りの理不尽な展開にテーブルにゴンゴンッ!と何度も頭を打ち付けながら血の涙を流す零だが、今はこんな事してる場合ではない。そう思いながら先程の事は早い内に脳裏から消し去り、テーブルから顔を上げてアズサと向き合う。

 

 

零「……取りあえず、今はこの世界について少しでも情報は集めなきゃなんだが……お前の方はこの世界について何か知ってるか?」

 

 

アズサ「?うん、この世界についてはある程度分かるけど……詳しい事までは分からないよ……?」

 

 

零「……まぁ、情報がないよりかはマシだろうな……教えてもらっていいか?」

 

 

またも訳の分からない世界に飛ばされた今、少しでもこの世界についての情報を知らなければならない。そう思いながら零がアズサに問うと、アズサはコクンと頷きながら口を開いた。

 

 

アズサ「まず最初に、この世界の名は……『桜ノ神の世界』」

 

 

零「桜ノ……神?」

 

 

アズサ「うん……アテナやラルク達のように、かつてこの世界を司っていた女神の世界……けど、桜ノ神は大昔にこの世界から消えたみたい……」

 

 

零「消えた?何故だ?」

 

 

アズサ「……分からない……ただ、桜ノ神がこの世界から消える以前にこの世界の人間達を苦しめていた異形の怪物達がいたっていうデータはある……だからもしかしたら、桜ノ神が消えたのはその怪物達が関係しているのかもしれないっていう話もあるけど……」

 

 

零「……桜ノ神に……異形の怪物ねぇ……」

 

 

なんだかまたとんでもない世界に飛ばされてしまったなと内心疲れたように溜め息を吐いてしまうが、其処で零はある疑問を浮かべて訝しげに眉を寄せた。

 

 

零「……ちょっと待て……桜ノ神だとか異形の怪物達だとか色々聞かされたが、この世界はライダーの世界じゃないのか?」

 

 

そう、気になったのは其処だ。桜ノ神や異形の怪物達についての情報は分かったが、ライダーに関する情報は何も出てこなかった。

 

 

ならばこの世界にライダーはいないのか?という意味を込めてアズサに聞き返すと、アズサは若干微妙そうな顔を浮かべながら首を傾げた。

 

 

アズサ「ううん、この世界にもライダーはいると思うけど……其処までの情報は私にも分からない。此処は九つの世界や外史のライダーの世界と余り深く関係していないようだから、あの人も念入りには調べていなかったんだと思う……」

 

 

零「ふむ……」

 

 

どうやらこの世界にも仮面ライダーはいるらしいが、どんなライダーがいるのかまではアズサにも分からないらしい。ならば此処からは自分の足で探すしかないだろうと考え、零はさっき頼んだドリンクを飲み干してテーブルから立ち上がっていく。

 

 

零「取りあえず、もう少しこの世界についての情報を集めてみるとするか……いくぞアズサ」

 

 

アズサ「うん……」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

とにかく今は少しでもこの世界の情報を集める方が先だろうと、零は勘定を済ませてアズサと共にカフェを出て街へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

 

 

―バッシャアァンッ!!―

 

 

零「ぶはあぁっ?!」

 

 

「――あ……ご、ごめんなさい?!大丈夫ですか?!」

 

 

零「……いや……気にしないで下さい……」

 

 

二人が情報収集の為に街へと出てから暫く経った頃、零は街の中で一人の女性が道路に巻いていたバケツの水を被って水浸しになっていた。

そうして何度も平謝りしてクリーニング代を払うと告げてくる女性に気にしないでくれと告げると、零は水浸しの身体を適当に払いながらアズサと共に街中を歩いていく。

 

 

アズサ「……零、ホントに大丈夫?」

 

 

零「あぁ……大丈夫だから気にしないでくれ……何かそんな優しい言葉を掛けられると余計に泣きそうになるか―ドガアァァッ!!―ガハアァッ?!」

 

 

背後から心配して声を掛けてくるアズサに気にするなと告げようとする零だが、その直後、突如二人が通りかかった公園からベースボールが飛んできて零の頭部へと見事に直撃し零をぶっ飛ばしていってしまった。

 

 

そしてそれと共に公園からボールの持ち主と思われる野球のユニフォームを着た女性が二人の下へと駆け寄ってきた。

 

 

「す、すみませーん!大丈夫ですかぁー?!」

 

 

零「ごおぉぉぉぉぉっ……ぐっ……ハ、ハハハハ……大丈夫大丈夫……この程度なんともっ……」

 

 

アズサ「……そんな今にも泣きそうな顔で言われても説得力ないと思う……」

 

 

シロ『んにゃー』

 

 

女性にボールを返しながら今にも泣きそうな表情を見せる零を見て一言告げるアズサ。

 

 

どうやら今の女性はソフトボールの練習をしていたらしく、零からボールを受け取って戻っていく公園には同じユニフォームを着た女性達が何人か見られた。

 

 

恐らく何処かの女子ソフトボール部かなんかだろうか?と何となく予想しながら零はふらつきながら立ち上がり、肩を落として再び街の中を歩いていく。

 

 

零「クソッ!何故だ?ただ街を歩いているだけで何故こんなトラブルばかりに巻き込まれるんだ…!」

 

 

アズサ「今までのトラブル……特に女性関係のものは今ので五回目……前に光達の世界で見たコントみたい」

 

 

零「だが殆ど現実にやったら普通に死ぬようなもんばっかりじゃないかっ……特に三回目辺りは本気で死ぬかと思ったぞっ……」

 

 

カフェを出てからというもの、零は此処までずっと誰かに仕組まれたかのようなトラブルに外れることなく巻き込まれてばかりだった。

 

 

一回目は自転車に乗った女の子に轢かれたり、二回目はたまたま通りかかった公園で女の子が蹴ったサッカーボールが溝に打ち込まれたり、三回目はマンションの上から女性が手入れしていた花瓶が落ちてきて危うく頭に激突しそうになったりなど……段々と命の危機に瀕するようなレベルへと上がってきているような気がする。

 

 

しかもその全部が女性絡みというから尚のことタチが悪い。

 

 

零「マズイぞっ……なんか段々と死が近づいてきてるような気がするのは俺の気のせいか?」

 

 

アズサ「ん……だったら、さっき聞いた神社に言ってみる?あそこに行ってお賽銭をあげたら、厄を払って幸運を呼び寄せてくれるって聞いたし……」

 

 

零「……?神社って、例の桜ノ神を讃えてるっていう桜ノ神社か?情報収集している時にも何度か聞いたが、確か彼処は評判が悪いんじゃなかったか?」

 

 

桜ノ神社というのは街の奥にある山の上に立つ神社らしく、先程カフェでアズサから聞いた桜ノ神を讃える場所でもあるらしい。

 

 

一種のパワースポットとしても有名らしいが、この街の住民はその神社を毛嫌いしてるようだ。

 

 

その理由というのが、桜ノ神社が讃えている桜ノ神が原因だとか。街の住民に話しを聞いたところによると――

 

 

 

 

 

『桜ノ神は昔、大勢の怪物達をこの地に招いて災厄を齎した疫病神なんだ。だからアンタ等もあんな場所でお参りなんてしない方がいいよ?桜ノ神に呪われたくなきゃな』

 

 

『お参り?いいえ、あんな神社にお参りしに行った事なんてないわ。だって気味悪いでしょう?今でも何かあそこに怪物が現れるって噂があるし、それに疫病神なんかに入れるおさい銭だってないしね』

 

 

 

 

 

などと、街の住民の桜ノ神や神社に対する印象は最悪だった。なのであの神社に行くのは少々気が引けるのだが、アズサは此処から見える神社が建つ山を眺めて口を開いた。

 

 

アズサ「でも、私はあそこに行ってみたい……少し気になる事もあるから」

 

 

零「?気になる事?」

 

 

アズサ「うん……何だか、あの山の周りに普通とは違う気配を感じるの……神々しいけど、何処か寂しさを感じるみたいな……」

 

 

零「…………」

 

 

山を眺めながらそう告げたアズサの言葉を聞いて零も山の方へと振り返って山を眺めていく。確かに普通とは違う神々しい気配を感じるが、アズサが言うような寂しさなどは感じられない。もっと近くに行かなければ分からないのだろうか?と怪訝そうな顔をすると、溜め息を吐きながらアズサの方へと顔を戻す。

 

 

零「…ま、どの道あの神社も調べる予定だったしな…お参りついでに行ってみるか?」

 

 

アズサ「!いいの?」

 

 

零「あぁ、それにあそこに行けばその桜ノ神とやらについて何か分かるかもしれないし……行ってみて損はないだろうからな」

 

 

アズサ「……うん、分かった」

 

 

噂の事はともかく、桜ノ神の世界と言うようだから、その神様と関わりがあるあの神社に行けばもっと多くの情報が得られるかもしれない。そう考えた零はアズサと共に桜ノ神社がある山に向かおうと歩き出した、その時……

 

 

 

 

 

―ドサッ!―

 

 

 

 

 

アズサ「……え?」

 

 

零「……ん?」

 

 

不意に背後から何かが倒れるような音が聞こえ、それを耳にした零とアズサは思わず足を止めて背後に振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

「うっ……うぅ……」

 

 

 

 

 

 

零「……なっ?!」

 

 

其処には、一人の青い髪をした女性が全身傷だらけの姿で地面に倒れている光景があったのだ。それを見た零は一瞬呆然となってしまうが、すぐさま正気に戻り女性の下に駆け寄って身体を起こしていく。

 

 

零「おいっ!どうした?!しっかりしろおい!」

 

 

「くっ……ぅ……」

 

 

アズサ「傷が酷い……早くちゃんとした治療をしないと……!」

 

 

零「チッ!次から次へと何なんだ……アズサ、お前はコイツを安静に出来る場所に連れていけ!俺は必要な薬と包帯を買ってくる!」

 

 

アズサ「っ!うん…!」

 

 

女性の容態を見てマズイと悟った零はアズサに女性を任せ、必要な薬と包帯を買いに此処から二百メートルほど離れた先にある薬局に向かって走り出し、アズサも女性を抱えて近くのベンチに女性を寝かせていったのだった。

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界①

 

 

数十分後……

 

 

 

零「―――んで、どうだ?怪我の調子は?」

 

 

「……えぇ、おかげさまで大分楽になったわ……ありがとう……」

 

 

零「別に礼を言われるような事はしてない。たまたま通り掛かってお節介を焼いただけだしな……」

 

 

あれから薬局で必要な薬と包帯を買って戻ってきた零は怪我を負っていた女性を治療をし、今は助けた女性……"土御門桜香"から事情を聞こうとしているところだった。

 

 

零「それで聞きたいんだが、何故お前はあんな傷だらけの格好で倒れていたんだ?というか、あの怪我は一体どうしたんだ?」

 

 

桜香「……別に何でもないわ……ただちょっと転んだだけよ」

 

 

アズサ「転んだって……」

 

 

零「そんな訳ないだろう?あんな怪我、転んだだけで出来るものじゃない。それに中には刀傷みたいな傷もあったし……一体何があったんだ?」

 

 

桜香「…………」

 

 

腕を組みながら桜香に何があったのか問い掛けていく零だが、桜香は何も答えずに包帯を巻いた片腕を抱きながら閥が悪そうな表情で顔を逸らした。そんな桜香を見た零は深い溜め息を吐きながらやれやれといった表情を浮かべていく。

 

 

零「……分かった……話したくないなら無理に話さなくていいぞ。こっちもそこまでして聞きたいとは思わないからな」

 

 

桜香「……そう……そうしてもらえると助かるわ……正直、余り人に話せるような話じゃないから……」

 

 

零「……?」

 

 

ボソッと小さく呟いた桜香に零は思わず眉を寄せて首を傾げるが、桜香は近くにある時計台の針が視界に入った途端ベンチからふらつきながら立ち上がり、そのまま零の隣を通り過ぎて何処かに向かおうとするも零に腕を掴まれて引き留められてしまう。

 

 

零「おい待て、何処に行く気だ?」

 

 

桜香「っ……別に何処だって良いでしょ?貴方達には関係ないんだからほっといてよっ……」

 

 

零「ほっといてって……確かにそんな関係はないが、お前を助けた身としてはほっとくわけにはいかないんだよ。お前の怪我の治療は単なる応急処置をしただけだから、ちょっとした動きで傷が開く可能性もある。そうなる前にちゃんとした病院に行って診てもらえ」

 

 

桜香「余計なお世話よ……いいから私のことはほっといて!」

 

 

零「っ!分からない奴だな……お前の怪我は決して軽いものじゃないんだ!このまま行かせて勝手にくたばられたら、助けたこっちが気持ち悪いだろう?!少しは言う事を聞け!」

 

 

桜香「そんな心配ならいらないわっ、いいから離して!私は行かないといけないところがあるの!」

 

 

零「悪いがそれだけはお断りだ……何処に行きたいのかまでは聞かないが、行くならちゃんと病院に行ってから行け!」

 

 

実際のところ、桜香の怪我は余り軽いものではない。中にはちゃんとした治療をしないと完治出来ないもの等があり、放っておけば傷が残る可能性だってある。そうなれば女である桜香が不憫な事になるだろうからと気にかけているだけなのだが、桜香にはその意味が通じていないようだ。

それでも助けた側としてはこのまま見てみぬ振りをする訳にもいかないのでと、零は自分の手から逃れようとする桜香の手を引っ張って病院に連れていこうと歩き出すが……

 

 

 

 

 

 

桜香「――キャアァァァァァァァァァァァアッ!!!誰かぁ!!この人痴漢です!!誰か助けてぇっ!!」

 

 

零「…………は?」

 

 

 

 

桜香は突然大音量の悲鳴を上げて叫び出し、零はそれを聞いて唖然とした表情を浮かべてしまう。それと共に今まで道路を行き来していた通行人達が険しい顔付きで零達の周りに集まっていき、周りを囲まれた零が慌てて辺りを見渡していると、桜香はその隙に強引に零の手を振り払って野次馬の中へと消えてしまった。

 

 

アズサ「あ、桜香っ…!」

 

 

零「お、おい待て!桜香っ!!」

 

 

「テメェこそ待ちやがれこの痴漢野郎っ!!」

 

 

零「……え?―ドガアァッ!!―ガハアァッ?!」

 

 

野次馬の中に消えてしまった桜香を追おうとした零であるが、その時野次馬から飛び出してきた誰がいきなり零の背中を蹴り飛ばしてしまった。

 

 

アズサ「零?!」

 

 

「この痴漢野郎が、嫌がる女の子に乱暴なんかしてんじゃねぇよ!」

 

 

零「ぐっ……くっ……乱暴ってなんだ乱暴ってっ……というか誰だいきなり?!」

 

 

蹴られた背中を摩りながら、零は自分を蹴り飛ばした人物と思われる青年を睨みつけていき、零を蹴り飛ばした黒い帽子を被った青年……翔一は頭の帽子に手を添えながら零を見据えて口を開いた。

 

 

翔一「生憎痴漢野郎に名乗る名前なんて持ち合わせていないんでな。此処いらで大人しく尾縄を頂戴しな!」

 

 

零「っ!誰が痴漢だ!俺は痴漢なんかじゃない!俺はただアイツを病院に連れていこうと……っ?!」

 

 

何とか自分が痴漢ではないと弁解しようとする零だが、その時騒ぎを聞き付けてどんどん集まって来る野次馬や、携帯で警察に通報している通行人達を見てヤバいと感じ取りすぐさま立ち上がっていく。

 

 

零「(ちっ!これじゃ誤解を解くのは少し無理か!)……アズサ!いくぞ!」

 

 

アズサ「っ!うん…!」

 

 

このままでは誤解を解く前に警察が来て連行されるのがオチだ。そう悟った零はアズサを連れて走り出し、野次馬の中へと姿を消していった。

 

 

翔一「あっ?!おい待ちやがれコラッ!!―ガシッ!―……って、え?」

 

 

逃げていく零とアズサを見てすぐさま二人を追おうとする翔一だが、その時背後から誰かに腕を掴まれて引き留められてしまう。その誰かとは呆れたような表情で翔一を見つめる女性……冥華であった。

 

 

翔一「冥華さん?!」

 

 

冥華「全く、急に走り出したかと思えば……一体何をしてるの翔一君?」

 

 

翔一「いや何って、今痴漢を取っ捕まえようとしてて……!!」

 

 

冥華「痴漢?」

 

 

零とアズサが走り去った方を指差しながら冥華に状況を説明しようとする翔一だが、冥華が翔一が指差す方を見ても既に零達の姿は見えず、冥華は周りで警察に通報している通行人達を見てから軽く溜め息を吐いて翔一をジト目で睨みつけた。

 

 

冥華「それなら後は警察に任せておけば良いでしょう?この様子じゃどうせその痴漢もすぐに捕まるでしょうし……とにかく今はこの世界にいる私の仲間と合流する方が先よ。ほら、行きましょう」

 

 

翔一「え?ちょ、待ってくれって冥華さん!?ちょっとぉ!?」

 

 

翔一が必死になにかを伝えようと叫び続けるが、冥華はそれを聞かずに翔一の襟を掴みながらそのまま何処かへと向かっていってしまった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―桜ノ町・桜ノ神社前―

 

 

数分後、何とかあの場から逃げ延びた零とアズサは目的地の桜ノ神社がある山の石階段の前までやって来ていた。

 

 

零「ゼェ、ゼェ……クソッ……銭湯で変態扱いされた次は痴漢扱いって……何の虐めだこれはっ……!」

 

 

アズサ「……だけど、桜香はどうしよう?さっきどさくさに紛れて何処かに行っちゃったけど……」

 

 

零「……アイツが自分からほっとけって言ったんだ。だったら好きにさせておけばいいだろう。それに……」

 

 

一度言葉を切ると零は乱れた呼吸を整えて顔を上げ、長い石階段を見上げていく。どうやら此処から自分達の目的地である桜ノ神社に着けるらしく、一番上には入り口である赤い鳥居が見える。

 

 

零「逃げるのに夢中になってる間に目的地に着いたみたいだし、取りあえず先に情報収集と賽銭を済ませるか?それからあの女を探せばいいだろうし……」

 

 

アズサ「…?やっぱり零も気になってるんだ、桜香のこと」

 

 

零「っ!……別にそんなんじゃない。ただ、一度助けたからにはほっとく訳にもいかんだろう?またどっかで倒られて勝手に死なれたら気分が悪いしな」

 

 

アズサ「……素直じゃないね……」

 

 

シロ『にゃあー』

 

 

そっぽを向きながらぶっきらぼうに告げる零にアズサは微かに笑みを浮かべ、零はそれに閥が悪そうな顔をしながら無言で神社に続く石段を登り始めていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

二人が長い石段を登った先にあったのは、ごく普通の何処にでも見られるような神社の光景だった。奥には一見汚れ一つのない神社があり、その両脇には御神籤や引いた御神籤が結ばれた木等がある。

 

 

零「ほぉ?神社と言うようだからもうちょっとオンボロな感じを想像していたんだが……案外綺麗なんだな?」

 

 

奥にある神社へと近づいて神社を隅々まで眺めながらそんな感想を漏らし、次に辺りを見渡すように頭を動かしていく。先程アズサはこの神社から神々しい雰囲気とは別に寂しい感じがすると言っていたが、やはり此処に来てもそれらしい物は感じられない。

 

 

零「ふむ……アズサ、お前がさっき言っていた寂しさって今も感じるのか?」

 

 

アズサ「……うん……私も光達の世界に来る前に色んな世界を回って、その時に色々な神社を見たこともあったけど、それと比べたら……此処のは少し違和感を感じる……」

 

 

零「違和感ねぇ……まぁ、それも後で調べてみれば良いだろう?さっさと賽銭を終わらせて此処の人間に話を聞くぞ」

 

 

寧ろそっちが本命だと言うように零は懐からサイフを取り出して中から百円玉を二枚出し、一枚をアズサに渡してから賽銭箱に小銭を投げて両手を合わせた。

 

 

零(これ以上女絡みのトラブルに巻き込まれませんように……あぁ後、写真館に戻ってもなのは達の制裁で死にませんように……)

 

 

……なんか聞いてるだけで切なくなる望みを強く願うと、零は手の平の百円玉をジッと見つめるアズサの方に振り返って歩み寄り賽銭箱に近付かせていく。

 

 

零「ほら、お前も此処まで来たんだからなんか頼み事でもしてみろ」

 

 

アズサ「?私も…?」

 

 

零「その為に小銭を渡したんだろう?ほら、やってみろ」

 

 

アズサ「…………」

 

 

零に促されてアズサは手の平の小銭と零を交互に見た後、シロをゆっくりと地面に降ろして小銭を賽銭箱に投げ両手を合わせていく。そして暫くそうしてると、アズサはシロを抱えて零に歩み寄っていった。

 

 

アズサ「終わった……」

 

 

零「?もういいのか?」

 

 

アズサ「うん……神様にお願いする事なんてあまりなかったから……今思ってる事をそのまま言ってきた」

 

 

零「ほう……んで、なにをお願いしてきたんだ?」

 

 

アズサ「ん……秘密……」

 

 

零「はっ?……まあいいか……じゃ、さっさと此処の人間見つけて話しでも聞くか」

 

 

その後に桜香の奴を探しに行けばいいしと内心付け足すと、零は此処で働いてる人間を探そうと歩き出し、アズサもその後を追うように歩き出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

アズサ「っ?!」

 

 

零「?!今のは…?」

 

 

不意に神社の裏側の方から大きな音が聞こえ、それを聞いた零とアズサは思わず足を止め神社の裏の方へと振り返り、二人は互いに顔を見合わせた後神社の裏側へと向かった。すると其処には、地面に尻餅を付いた巫女服を着た女性が戦国時代に出てきそうな足軽の姿をしたグロテスクな怪人達に襲われる光景があった。

 

 

「い、嫌っ……来ないでっ……!」

 

 

『シャアァァァァァァァァァァアッ……』

 

 

アズサ「ッ!あれは……」

 

 

零「まさか……あれがこの世界の怪人か?とにかく、このままにしておく訳にはいかないか……アズサ、下がってろ」

 

 

零はそう言ってアズサを下がらせるとコートの中からディケイドライバーを取り出して腰に装着し、ライドブッカーからディケイドのカードを取り出して構えていき、そして……

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

電子音声が響くと零はディケイドへと変身し、変身を完了すると共に女性に襲い掛かろうとした怪人の一体に飛び掛かって怪人を殴りつけていった。

 

 

ディケイド『セアァッ!』

 

 

―バキィッ!!―

 

 

『ブギャアァッ?!』

 

 

「……へ?だ、誰?」

 

 

殴り飛ばされた怪人はもう一体の怪人の下まで吹っ飛ばされていき、女性は突如現れたディケイドを見て呆然とした表情を浮かべてしまうが、ディケイドは女性に構わず怪人達と対峙していく。

 

 

ディケイド『……その姿と武器……成る程……お前等、幻魔か?』

 

 

『キシイィィィィィッ……シャアァッ!!』

 

 

ディケイドが両手を払って怪人、幻魔達にそう問い掛けるが、幻魔達はその問いに答えずに不気味な奇声を上げながら刀を振りかざしディケイドへと襲い掛かってきた。

 

 

ディケイド『やれやれ、言葉が通じないのか?なら、これ以上話しても無駄だなッ!』

 

 

―ドゴオォッ!―

 

 

『グアァッ?!』

 

 

ディケイドは刀をかわしながらディケイドライバーを開いて幻魔の一体に蹴りを打ち込んで怯ませ、ライドブッカーから一枚のカードを出してバックルにセットしていく。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドはライドブッカーをSモードに切り替え、それと同時に背後から襲い掛かってきた幻魔の一体を振り向き様に斬りつけていった。

 

 

ディケイド『ハッ!!』

 

 

―ガキイィンッ!!―

 

 

『グバアァッ?!ガッ……ギシャアァァァァァァァァァァァァァアーーーーーッ?!!』

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディケイドの斬撃を受けた幻魔は全身から火花を散らせながら断末魔と共に爆発して消滅していき、それを見たもう一体の幻魔は分が悪いと感じたのかこの場から逃げ出そうと走り出した。

 

 

ディケイド『逃げる気か?悪いが、増援を呼ばれたりしたら厄介なんでな……逃がしはしない!』

 

 

逃げようとする幻魔を見たディケイドはそう言いながらライドブッカーを左腰に戻して一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーへと投げ入れてスライドさせていった。

 

 

『SPELLRIDE:SPEAR THE GUNGNIR!』

 

 

電子音声が鳴り響くとディケイドの右手に膨大な量のエネルギーが集まり、紅い閃光のような槍となって具現化されディケイドの右手に握られた。そしてディケイドは紅い槍を構えて投擲の態勢を取り……

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァ……デリャアァッ!!』

 

 

―バシュウゥンッ!!―

 

 

『ッ?!グ、グギャアァァァァァァァァァァァアーーーーーーッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディケイドの投げ放った紅い槍……スピア・ザ・グングニルが幻魔の背中を貫いて貫通し、紅い槍に貫かれた幻魔は断末魔と共に爆散して跡形も残さず消滅していったのだった。

 

 

ディケイド『やっと片付いたか。全く、何だったんだアイツ等は……?』

 

 

幻魔の全滅を確認したディケイドは軽く溜め息を吐きながら両手を払い、影から出てきたアズサと共に尻餅を付いている巫女服を着た女性へと近付いていく。

 

 

ディケイド『おい、大丈夫か?』

 

 

「え?あ、は、はい。ちょっと腕を切られた程度ですから、特に大した事は……」

 

 

アズサ「腕?……ちょっと見せて……」

 

 

アズサはそう言って女性が右手で抑える左腕を自分に見えるところまで持っていき、なにかで切られたせいで破れた箇所から傷の具合を確かめていく。

 

 

アズサ「……大丈夫……傷はそんなに深くない……今持ってる薬と包帯を使えば何とかなる……」

 

 

ディケイド『そうか、じゃあ傷の治療はお前に任せてもいいか?』

 

 

アズサ「うん……分かった……」

 

 

「あ、すみません。助けてもらっただけでなく、傷の手当てまで……」

 

 

ディケイド『別に気にしなくていいさ……そういえば、アンタの名前「絢香様ぁ!!」……ん?』

 

 

ディケイドが女性に名前を聞こうとするが、それを遮るように女の声が響き渡り、ディケイド達はそれが聞こえてきた方へと振り返った。すると其処には、袴のような服の上に武士の鎧のような物を身に付け、黒い長髪をポニーテールに纏めた女性が買い物袋を片手にこちらを睨みつけていた。

 

 

ディケイド『?誰だ?』

 

 

「さ、紗耶香さん?!」

 

 

こちらを睨んでくるポニーテールの女性……紗耶香と呼ばれた女性は尻餅を付いている女性の腕の切り傷を見て息を呑むと、敵意を込めた目でディケイドを睨み付けていく。

 

 

紗耶香「貴様っ……貴様か?!絢香様に傷を負わせたのは?!」

 

 

ディケイド『……は?』

 

 

「ち、違うんです紗耶香さん?!この人は私を…!」

 

 

紗耶香「許さんっ……許さんぞ幻魔!!絢香様を傷付けた貴様だけはぁ!!」

 

 

紗耶香は女性の言葉に耳を貸さず、怒り狂ったように何処からか奇妙な形をした紅い籠手のような物を取り出して右腕へと装着していき、そして……

 

 

紗耶香「変身ッ!」

 

 

高らかに叫ぶと同時に籠手から紅い炎が勢いよく噴き出し、紗耶香の身体を包み込んでいった。そして炎に包まれていた紗耶香が右手で炎を払うような動作をすると、紗耶香は龍を象ったような紅い鎧と緑色の瞳、腰に紅い刀のような武器を刺した戦士……仮面ライダーへと姿を変えていたのであった。

 

 

アズサ「ッ!あれは…?」

 

 

ディケイド『……ちょっと待て……まさかこの展開ってっ……』

 

 

変身した紗耶香を見てアズサは驚いたように微かに息を拒み、ディケイドはこの後に起きる展開を予想して仮面の下で冷や汗を流し始めていた。そして紗耶香が変身したライダーは腰に刺した刀を取り出して両手に構えていく。

 

 

『我が名は龍王!桜ノ巫女である絢香様の剣!!絢香様を傷付けた罪……その命で償え幻魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

ディケイド『……あぁ……また変な女に絡まれてしまった……』

 

 

てかお賽銭全然効いてねぇぇぇぇぇぇっ!!とディケイドが内心頭を抱えながら叫ぶ中、紗耶香が変身したライダー……『龍王』は刀を振りかぶりディケイドに向かって斬り掛かっていったのだった。

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界②

 

 

先程幻魔から救出した女性を自分に傷付けられたと勘違いし、突如変身して襲い掛かってきた龍王。戦いの場所を神社の参道に変えたディケイドは、龍王が振りかざしてくる刀を紙一重でかわしながら説得していた。

 

 

ディケイド『クッ?!止せ!俺はあの女に何もしていない!誤解だ!!』

 

 

龍王『そんな言葉に騙される物か!!よくも!!よくも絢香様を傷物にしてくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?』

 

 

ディケイド『Σ誤解を招くようなことを言うな?!俺はただ―ズバアァッ!!―グアァッ?!』

 

 

何とか説得して事を済ませようとするディケイドだが、龍王は聞く耳持たないというように刀を横薙ぎに振るいディケイドを斬り飛ばしてしまい、ディケイドは受け身を取って態勢を立て直すと一度舌打ちしながらライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『クソッ…一度頭を冷やさせないと分からないようだな?変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:EDEN!』

 

 

カードをバックルにセットしてスライドさせ、ディケイドは電子音声が響くと共に幸村の変身するエデンへと姿を変えていった。

 

 

龍王『っ?!な、何だ?』

 

 

Dエデン『剣士には剣士ってな……此処からは手加減無しだ!』

 

 

龍王はエデンに姿を変えたディケイドを見て驚愕したように動きを止め、それを他所にDエデンは瞬時にライドブッカーをSモードに切り替えて龍王へと斬り掛かっていった。

 

 

―ガキィンッ!ガアァンッ!!グガアァンッ!!―

 

 

龍王『クッ?!なんだこの太刀筋はっ……貴様!ただの幻魔ではないのか?!』

 

 

Dエデン『生憎俺は幻魔なんかじゃない……って言っても、どうせ今のアンタになにを言っても無駄だろうなぁ!!』

 

 

―ガキイィンッ!!―

 

 

龍王『ぐぅっ?!』

 

 

Dエデンは無駄な動きの無い素早い剣技を繰り出して龍王を斬り飛ばし、瞬時にライドブッカーから一枚のカードを取り出しバックルへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FORMRIDE:EDEN!EXIA!』

 

 

電子音声が響くとDエデンの姿が淡い光を放ちながら徐々に変化していき、純白とスカイブルーのボディに右腕に巨大な剣が装備され、両腰や肩に合計7本の剣……セブンソードが装備されたエクシアフォームへとフォームライドした。

 

 

龍王『くっ?!また変わった?!』

 

 

Dエデン『今度は手数で勝負だ。先手は取らせてもらう!』

 

 

Dエデンはそう言いながら何処からかビームダガーを取り出し龍王へと投擲して動きを止めさせ、更にそのまま突進しながら右腕の剣を展開し龍王へと振りかざしていった。

 

 

Dエデン『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ガギイィンッ!!ギンッ!グガアァアンッ!!―

 

 

龍王『ぐぅっ?!さっきと動きが違う?そっちがそう来るなら!!』

 

 

パワーとスピードが遥かに上がったDエデンの猛攻に圧されて龍王は剣をかわしながら後方へと跳んで距離を離し、亀のような紋章が入った緑色の宝玉を取り出していく。

 

 

龍王『来い!玄武!』

 

 

そう言って龍王がベルトのバックル部分の窪みに宝玉をセットすると歌のような音色が響き渡り、それと共に龍王の上空に何かが出現した。それは……

 

 

Dエデン『ッ!あれは……足の長い亀?いやだが、蛇の尻尾が付いている?……まさか、四神の玄武?!』

 

 

そう、龍王の頭上に現れたのは四神として有名な亀と蛇を合成したような姿をした聖獣、玄武だったのだ。そして玄武が龍王に重なるように消えていくと、龍王は緑色のボディと蛇を模したような尻尾、右手に槍のような武器を持った姿……龍王神・玄武へとフォームチェンジしたのだ。

 

 

Dエデン『なっ…奴もフォームチェンジ出来るのかっ?!』

 

 

龍王・玄『今度はこちらの番だ!氷輪玄武波!!』

 

 

フォームチェンジした龍王を見てDエデンが驚愕するのを他所に、龍王は右手の槍の矛先をDエデンに突き出していった。すると槍の矛先から極寒の吹雪が噴き出し、それを見たDエデンは直ぐさま防御態勢を取るように右腕の剣を盾にしていく。だが……

 

 

―……ピシッ……ピシピシピシピシィッ!!―

 

 

Dエデン『…ッ?!なにっ?!』

 

 

突如吹雪を受けたDエデンの身体が足元から凍り付けになっていき、更に吹雪を防いでいた剣も凍り付けとなり始めていたのだ。氷で覆われていく自身の身体を見て動揺しつつもなんとか脱出しようとするDエデンだが、龍王はそんな様子を見て槍の先から吹雪を放ちながら不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

龍王・玄『無駄な抵抗は止めておけ。玄武の吹雪は何者も凍てつかせる……この攻撃から逃れる事など出来はしない!』

 

 

Dエデン『ッ!玄武の吹雪?まさかこれは……神気を使った攻撃か?!』

 

 

龍王・玄『ほぉ?気を感じる力まで持っているのか?だが、それが分かったところで貴様にはどうする事も出来ん……永遠に氷の中で眠り続けろ!!』

 

 

Dエデン『……ハッ、生憎だが遠慮させてもらうぜ?俺は、寒いのは苦手なんでねぇ!』

 

 

Dエデンは笑いながらそう言うと震える手で何処からかソルメモリを取り出し、そのままバックルの左側にあるスロットへとインサートしていった。

 

 

『SOL EDEN!』

 

 

電子音声が響くとDエデンのボディが豪快なメロディと共に深紅へと変わっていき、それと同時に全身から炎を噴き出して身体を覆っていた氷を溶かしていっていった。

 

 

龍王・玄『何っ?!』

 

 

Dエデン『残念だったな?こっちにはそういう対策を幾つも持ってるんだよ!』

 

 

氷から脱出したDエデンはそう言うと右腕の剣を再度展開して刃にオレンジ色の灯を灯し、勢いよく地面を蹴って猛スピードで龍王に突っ込み斬り掛かっていった。

 

 

吹雪による攻撃が効かないと分かった龍王は顔を歪めながら槍を使って斬撃をかわしていき、かわされた剣は宙でオレンジ色の線を描いていく。

 

 

しかし段々と避けるのが難しくなってきたのか、徐々に龍王の動きが鈍り始めて剣が掠り始め、遂に一撃が当たって龍王を吹っ飛ばし通常フォームへと戻っていった。

 

 

龍王・玄『がはぁ!くっ…?!白虎!お前だ!』

 

 

龍王は地面で受け身を取りながら虎の紋章が入った白い宝玉を取り出し、ベルトにセットされていた玄武の宝玉を外し窪みへとセットしていった。すると今度は龍王の頭上に白い虎、四神の白虎が出現して龍王へと重なるように消えていき、武士を象ったような白いボディと両手に白い刃の刀を持った姿……龍王神・白虎へとフォームチェンジしていったのだ。

 

 

龍王・白『行くぞ!ハアァッ!!』

 

 

―ジャキィンッ!!ガンガンガンガンガンガンッ!!ジャキイィンッ!!―

 

 

Dエデン『チィッ!今度はスピードに特化したタイプかっ……面倒なモノだなぁ!』

 

 

白い線を描きながら次々に刃を振りかざしてくる龍王にDエデンは軽く舌打ちしながら後方へと跳び、一旦距離を離してディケイドライバーからソルメモリを引き抜きライドブッカーへと装填していく。

 

 

『SOL!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

龍王・白『(ッ!決着を着けるつもりか?ならば!)ハアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ライドブッカーから響いた電子音声を聞いた龍王は両手の刀を構え直しながら腰を落とし、二本の刀の刃に膨大な神気を込めていく。それを見たDエデンもマキシマムドライブの発射準備に入ったままライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルに装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EDEN!』

 

 

電子音声が響くと同時にDエデンの右腕の剣の刃へと強大なエネルギーが集約されて激しく輝き出し、それと共にDエデンと龍王は地を蹴って勢いよく走り出し互いに向かって突っ込んでいき、そして……

 

 

 

 

 

Dエデン『セアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

龍王・白『白虎乱剣!風牙雷神剣ッ!!』

 

 

 

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーァアンッ!!!!―

 

 

 

 

 

双方の必殺技が激突して巨大な爆発が起こり、二人の視界が黒い粉塵に包まれていった。そして二人を包み込んでいた黒い粉塵が風に流され徐々に消えていき、互いの姿が見え始めていく。しかし……

 

 

Dエデン『……っ?!』

 

 

龍王・白『な、何?』

 

 

粉塵が完全に消え去ると、Dエデンと龍王は目の前の光景を目にして驚愕した。二人の身体に傷はまったくなく、先程の戦いで出来た傷を除けば無傷と言ってもいい。何故なら……

 

 

 

 

 

 

シュロウガ『――二人とも……其処まで……』

 

 

Dエデン『ア、アズサ?!』

 

 

 

 

そう、何故なら二人の間にはいつの間にかDエデンと龍王の武器を二振りの剣で受け止める漆黒のライダー……シュロウガに変身したアズサが立っていたからだ。

自分達の放った必殺技を受け止めるシュロウガを見たDエデンと龍王は戸惑いがちにシュロウガから武器を離し、それを他所にシュロウガは落ち着いた様子で腰からベルトを外してアズサへと戻り、Dエデンも変身を解いて零へと戻っていった。

 

 

零「お前、何をしてるんだ?!戦場にいきなり飛び出してくるなんて…!」

 

 

アズサ「……でも……私が止めてなかったら、二人共相打ちになって重傷を負ってた……それにそもそも……二人が戦う理由もないでしょう?」

 

 

零「いや、それは……」

 

 

龍王・白『戦う理由がないだと?ふざけるな!そいつは絢香様に傷を負わせて「違うんです紗耶香さん!」……っ?!絢香様?!」

 

 

刀の切っ先を向ける龍王を止めるようにその場に先程ディケイドが助けた巫女服を着た女性……絢香と呼ばれた女性が駆け寄っていき、それを見た龍王は慌てて変身を解除し紗耶香に戻っていった。

 

 

紗耶香「い、いけません絢香様?!傷を負ったお身体でそのように走り回っては……!」

 

 

絢香「はぁ、はぁ……だ、大丈夫です……その人達が助けてくれたお陰で、大した怪我なんてしていませんから……」

 

 

紗耶香「……は?その人達が……助け?」

 

 

絢香「はい、その人は幻魔などではありません。彼は、幻魔に襲われていた私を助けてくれたんです…」

 

 

紗耶香「…………は?」

 

 

肩で息をしながらそう告げた絢香の言葉を聞き紗耶香は目を点とし、困惑した顔で零達と絢香を交互に見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その一方、零達が話し合う桜ノ神社の影では、零達の様子を影から見つめる一人の黒いスーツを着た青年が立っていた。その青年の隣には一枚の通信パネル……裕司の顔が映ったパネルが浮かび上がっていた。

 

 

裕司『それで、どうだ?今の奴らの様子は……』

 

 

「無事に彼女達と接触したみたいですよ。事は順調に進んでいるようです」

 

 

裕司『そうか…ならば引き続き、奴の監視を続けろ。くれぐれも奴には気付かれるなよ?』

 

 

「分かってますよ……ああそれと……」

 

 

青年は一度零達から視線を逸らすと、此処から見える桜ノ町の町並みを眺めながら口を開いた。

 

 

「……どうやら空間を遮断する前に、"余計な虫"が入り込んだみたいですが……そちらの方はどうします?」

 

 

裕司『そっちの処理はお前に任せる。どうやら中にはまだデータにない奴がいるようだからな……必要なデータを採取すれば後はお前が好きにすればいい』

 

 

「成る程……可能なら殺しても構わない……と?」

 

 

裕司『後の計画の障害になると判断したなら、な……とにかくお前に任せる……頼んだぞ、慎二』

 

 

裕司は青年……零達の後輩である天野慎二にそう告げると共に通信を切り、慎二は町から目を離して零達に視線を戻していく。

 

 

慎二「……再会はまだまだ先になりそうだなぁ……まあいいや……その時まで、もっともっと強くなって下さいね、零先輩?フフフッ……」

 

 

慎二は零を見つめながら不気味な笑みを浮かべてそう告げると、その場から歩き出して何処かに向かっていったのだった。

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界③(前編)

 

 

一時間後、桜ノ神社内……

 

 

 

紗耶香「――その……本当にすまなかった……」

 

 

絢香「すみません、ちゃんと私が説明してればこんなことには……」

 

 

零「いや、別にそんな気にしていないからいいが……というかもう頭上げてくれないか?別にそこまでして謝ってくれとは言ってないぞ(汗)」

 

 

取りあえず紗耶香の誤解を解いて神社の中に移動した後、零達はこの神社の巫女である"姫野絢香"と彼女の守護者である"紅刃紗耶香"から改まって謝罪を受けていた。

 

 

因みに絢香が軽く頭を下げて謝罪しているのに対し、紗耶香は畳の上におでこを押し付けながら土下座して謝罪している。

 

 

流石にそこまでされると逆に自分が悪い事をしているような気がしてならない零は、自分はもう気にしていないと告げて二人に頭を上げさせていく。

 

 

絢香「ホントにすみません……でも、なんだか信じられません。貴方達が、別の世界からやって来たなんて……」

 

 

零「まぁ、確かにそう思うのも仕方ないが事実だ……さっき戦ってた時の俺達の姿を見ただろう?」

 

 

絢香「……そうですね……零さん達が本来この世界に二人しかいない聖者になれた所を見ると、そう納得するしかありませんね」

 

 

そう言って瞳を伏せながら小さく頷いて零の話に納得する絢香。因みに聖者とはこの世界での仮面ライダーの総称であり、かつてこの世界に存在していた桜ノ神に幻魔と戦う者として選ばれた戦士としてそう呼ばれるようになったらしい。

 

 

零「……それで聞きたいんだが、絢香だったか?何故お前はさっき幻魔の連中に襲われていたんだ?」

 

 

絢香「え?えっと……それは……というか、零さんは幻魔の事を知ってるんですか?」

 

 

零「…まあな…ある程度のことは大体分かってる」

 

 

先程絢香を襲おうとした怪人……幻魔について知っていると告げながら、零は正座していた足をゆっくりと崩して再び語り出した。

 

 

零「――かつて戦国の世に突如現れた怪人・幻魔……どうやら人の世を手に入れようと大勢の人間達を襲いまくってるみたいだが、詳しい事まではまだ分かっていない……悪いが教えてもらってもいいか?」

 

 

そう言いながら零が絢香を見据えると、絢香は一瞬驚いた表情を浮かべるもすぐに冷静に戻ってそれに頷き返した。

 

 

絢香「……かつて、幻魔は幻魔界と呼ばれる魔界からこの世に現れ、私達人間が住む人の世を自分達の物にする為に大勢の人間を殺戮していました……その時に幻魔達を従えていたのが、全ての幻魔を従える幻魔界の神……幻魔神」

 

 

アズサ「……幻魔神……」

 

 

嘗て大勢の幻魔達を従えて人間達を殺戮しようとしていた幻魔達の神、幻魔神。零の隣で話しを聞いていたアズサは思わずその名を口にし、紗耶香は絢香の話を促すように口を開く。

 

 

紗耶香「幻魔神はかつて、多くの人間達に自らの力を与えて幻魔へと豹変させ、この世を支配しようとしていた……かつて天下統一を野望としていた織田信長もその一人だった」

 

 

零「織田信長?!……また凄い男を味方に引き入れた物だな、その幻魔神とやらは……(汗)」

 

 

絢香「幻魔神の力はそれ程までに強大なのです。信長もその力に魅入られて幻魔に付き、幻魔の力を使って自らの野望を果たそうとしました……ですがこの世界の神……桜ノ神様がそれを阻止するだけの力を与えて下さったのです」

 

 

零「っ!桜ノ神が…?」

 

 

桜ノ神が幻魔達に対抗する力を人間達に与えた。それを聞いた零は思わず身を乗り出しながら絢香に聞き返すと、絢香はそれに頷きながら紗耶香へと目を向け、紗耶香は無言で先程龍王に変身した時に使った籠手を取り出した。

 

 

紗耶香「それがこの籠手、龍王の籠手と此処にはないもう一つの籠手……鬼王の籠手だ」

 

 

絢香「この籠手を授かった二人の聖者は籠手の力を使って本能寺で織田信長を討ち、幻魔神にも挑みましたが……やはり外道とは言え相手は神。強大な力を持つ幻魔神に二人の聖者は勝つことは出来ませんでした。しかし……」

 

 

紗耶香「その時に桜ノ神様が現れ、自らのお力を使って幻魔神と全ての幻魔達を封印されたのだ……そしてそれと共に……桜ノ神様はこの世界から姿を消してしまった……」

 

 

零(……成る程、桜ノ神が消えたのにはそういう経緯があったのか……)

 

 

アズサからあらかじめ大体の話しを聞いていたために納得した表情を浮かべる零だが、そこで一つ疑問が浮かび上がった。

 

 

零「――ちょっと待て……桜ノ神が幻魔達を封印したなら、何故今幻魔達がこの世界にいるんだ?」

 

 

そう、気になったのはそれだ。桜ノ神が幻魔達を封印したのなら、何故今も幻魔達が暴れているのか?零がその事を疑問げに質問すると、絢香は少し暗い表情を浮かべながら顔を俯かせてしまう。

 

 

絢香「……実は一人だけ、桜ノ神様の封印を免れていた幻魔、ギルデンスタンという幻魔がいたんです」

 

 

アズサ「ギルデンスタン?」

 

 

紗耶香「幻魔界の科学者だ……桜ノ神様の封印を免れた奴は幻魔界に戻り、長い時間を掛けて大量の人造幻魔達を造り出し、再びこの世界に攻め込んできた」

 

 

絢香「私達はなんとかギルデンスタンと彼が引き連れてきた人造幻魔達を倒しました……しかし、彼は私達との戦いの中で桜ノ神様が封印していた幻魔神以外の幻魔達の封印を解き、再びこの世に放ってしまったのです……」

 

 

零「……はた迷惑な幻魔だな、そのギルデンスタンとやらは……」

 

 

厄介事を残して自分は先に死んでいくとは、どれだけはた迷惑な奴なんだ?と、零は呆れたような深い溜め息を吐いてしまい、絢香はそんな零の様子に苦笑しながらゆっくりと立ち上がると部屋の奥にある仏壇へと近づき、仏像の下に置かれた小さな黒いつぼを持って元の場所に腰を下ろした。

 

 

絢香「そしてこれが、おそらく私が幻魔達に襲われた原因……かつて桜ノ神様が幻魔神を封印したツボです」

 

 

零「?幻魔神を封印したって……まさか?!」

 

 

絢香「はい。全ての幻魔達を統べる者……幻魔神は今もこのツボの中に封印されています」

 

 

そう言って絢香は幻魔神が封印されているという黒いツボを零達の前に置いていき、零は若干驚いた表情のままツボを手に取ってそれを眺めていく。

 

 

零「……そういう事か……つまり、幻魔達はコレを狙ってさっきお前を襲ってきた訳か?その幻魔神とやらを復活させるために……」

 

 

絢香「えぇ、簡潔にいえばそんな感じですね」

 

 

零「成る程……んで、アンタは俺がこのツボを狙って絢香を襲いに来た幻魔だと勘違いしたって事か」

 

 

紗耶香「だ、だからすまないと言っているだろう?!それにあの時は……絢香様が幻魔に殺されているだろうと言われて私も焦っていたんだ……」

 

 

絢香「……え?言われてって、どういう事ですか?」

 

 

紗耶香の言葉に怪訝そうに聞き返すと、その問いを受けた紗耶香は少し言い淀みながら再び口を開いた。

 

 

紗耶香「……実は、町へ買い出しに行ってる時に会ったんです……奴と」

 

 

絢香「?奴って……まさか?!」

 

 

紗耶香「はい……町の中でいきなり仕掛けてきたので何とか撃退したのですが、奴が去り際に言っていたんです……『今頃絢香は幻魔に殺されてツボを奪われているでしょうね』……と」

 

 

絢香「……そん……な……じゃあ、さっきの幻魔達を差し向けたのは……あの人……?」

 

 

零「……?あの人?」

 

 

思い詰めた表情でポツリと呟いた絢香の言葉に、疑問げに首を傾げる零。そんな零の様子に気付いた絢香は言うべきかどうか迷って口ごもるが、紗耶香が険しい表情で代わりに話し出した。

 

 

紗耶香「……さっき話しただろう?私が持つのとは別の籠手、鬼王の籠手のことを」

 

 

零「?あぁ、龍王とは別のライダー……じゃないか、もう一人の聖者が使うって奴だろう?」

 

 

紗耶香「そう、その籠手を使う人間はかつて私達と共にギルデンスタンと戦った仲間……仲間だった……」

 

 

アズサ「……だった?」

 

 

何故か過去形で話す紗耶香に零とアズサは首を傾げて疑問げに小首を傾げると、暗い表情で顔を俯かせていた絢香がゆっくりと顔を上げながら喋り出した。

 

 

絢香「……その人は、ギルデンスタンとの戦いの後に姿を消し……また私達の前に現れたんです……幻魔達を連れて……」

 

 

零「?!それは……まさか……」

 

 

紗耶香「そう……そいつは寝返ったんだ……幻魔側にな」

 

 

『ッ?!』

 

 

絢香と紗耶香の仲間が幻魔に寝返った。それを聞いた零達は驚きを隠せず息を呑み、零は険しい顔付きのまま口を開いた。

 

 

零「何故だ?そいつはお前達の仲間だったんだろう?なのになんで幻魔なんかと……」

 

 

紗耶香「…さあな…理由を聞こうとしても何も話しもしない……だから私も既に見限った。奴はもう仲間でもなんでもない……ただの裏切り者だとな……」

 

 

絢香「…………」

 

 

そう言って紗耶香は怒りに満ちた表情で拳を強く握り締め、絢香も暗い雰囲気を漂わせながら再び顔を俯かせてしまう。そんな二人を見て零達も掛ける言葉が見つからず口を閉ざしてしまうが、重い空気が流れ始めたところで絢香が笑みを浮かべながら声を上げた。

 

 

絢香「そ、そうだ!零さん達はこれからどうするんですか?」

 

 

零「ん?あぁ、そうだな……今日は適当に宿でも見つけて泊まろうかと考えてるが……」

 

 

絢香「それなら、今日はうちの神社に泊まっていってくれませんか?先程助けてもらったご恩もお返ししたいですし」

 

 

零「いいのか?……なら、お言葉に甘えさせてもらっていいか?正直に言えば、今の有り金を考えるとその方が助かる」

 

 

絢香「はい、喜んで♪それに零さん達にまだ紹介していない人達がいますからこの際……ってあれ?紗耶香さん、お二人はどうしたんです?確か一緒に買い出しに行った筈じゃ……」

 

 

紗耶香「は?……ハッ?!しまった?!すっかり忘れてました?!」

 

 

絢香「へ?……ちょ、もしかして置いてきたんですか?!」

 

 

紗耶香「す、すみません!何分急いでいましたので、ついすっかり……!」

 

 

絢香「うっかりではありません!あの二人はまだこの町に慣れていないんですよ?!と、とにかく早く探しに行かないと…!!」

 

 

零「……何なんだ一体?」

 

 

アズサ「さぁ…?」

 

 

何やら騒々しく辺りを駆け回る絢香と紗耶香に零達は不思議そうに首を傾げるが、取りあえず紗耶香が誰かを町に置いてきぼりにして今から探しにいこうとしてるらしい。ならば自分達も行った方がいいかと絢香に声を掛けようとした。その時……

 

 

 

 

 

―……ガラァッ!!ドタドタドタドタッ……!!―

 

 

 

 

 

アズサ「……?誰か来た?」

 

 

紗耶香「玄関から?……もしかしてあの二人か?!」

 

 

絢香「よ、良かったぁ……無事に帰ってきたんですね(汗)」

 

 

零「例の二人という奴か?……それにしてもバタバタと騒がしいな……もう少し静かに出来ないのか?」

 

 

玄関からこちらに向かって誰かが走ってくるような音に零は呆れるように溜め息を吐きながら言うと、先程絢香が出してくれたお茶をズズズッと口の中に流し込でいく。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドタドタドタドタッ……バンッ!!!!―

 

 

シャッハ「ハァ…ハァ……見付けましたよ紗耶香!!」

 

 

カリム「酷いじゃないですか?!私達を置いてきぼりにするだなんて!」

 

 

紗耶香「す、すまない!!ホントに悪かったカリム!シャッハ!υυ」

 

 

零「ブフウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ?!!!!」

 

 

シロ『うにゃあ?!』

 

 

アズサ「あっ……零がお茶噴き出した……」

 

 

襖を勢いよく開けて現れた絢香と同じく巫女服を着た二人の女性……"カリム・グラシア"と"シャッハ・ヌエラ"を目にした瞬間、零は口の中に流し込んでいたお茶を勢いよく噴き出していったのだった……

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界③(後編)

 

 

 

数十分後……

 

 

 

零「――なるほど…つまり俺達の世界を滅び現象が襲った時に聖王教会にも怪人が現れ、お前達は他の教会のシスター達と共に避難している最中にこの世界へと飛ばされてしまい、神社の庭で倒れてるところを絢香に助けられた…ってことか」

 

 

カリム「え、えぇ……まあそんな感じで……」

 

 

あれから暫く時間が経ち、零はカリムとシャッハからこれまでの経緯を聞いていた。どうやら二人も自分達の世界で滅びの現象に巻き込まれ、この世界に飛ばされて絢香達に保護されたらしい。(因みに話しを聞く前にアズサの事を紹介した際、何故かカリムに軽く睨まれたのは別の話)

 

 

零「成る程、大体の事情は分かった……だが……」

 

 

ある程度話しを聞いた零はそう言いながら軽く溜め息を吐き、両目を細めながらカリムとシャッハの格好を見つめていく。

 

 

零「……何故お前等二人はそんな格好をしとるんだ?しかもよりによって巫女服って」

 

 

カリム「え?あ、こ、これはそのぉ……」

 

 

零に巫女服について指摘されたカリムは急に慌て出してしまい、人差し指をクルクルと回しながら何か思い付いたように語り出した。

 

 

カリム「ほ、ほら!此処はミッドじゃなくて地球ですし、街を歩くにしても騎士服で居たら色々と目立つでしょう?それに神社であの騎士服はあまり似つかないですしっ」

 

 

零「……まぁ、確かにそれに関しては一理あるが……お前、ホントにそれだけか?」

 

 

カリム「……は?え、ど、どういう意味かしら…?」

 

 

零「さっきのお前……なんだか聖王教会に居た時より妙に生き生きしていた気がするんだが……それに、別に巫女服じゃなくてももっと色々な服がある筈だろう?お前、そんな格好してるのは他に理由があるんじゃないか?」

 

 

カリム「うっ?!うっ……うぅ……」

 

 

ジト目で軽く睨みつけながらそう問いかけてきた零にカリムは思わずたじろぎ、目を泳がせて両手の人差し指の先をツンツンと合わせながら呟く。

 

 

カリム「――その……こういう服ってミッドじゃ余り見られないから、つい珍しくて着てみたくなったというか……好奇心に押されたというか……」

 

 

零「………おいシャッハ……まさかお前もそんな理由で……?」

 

 

シャッハ「ち、違います!私はただ此処に住まわせてもらってる以上、何か仕事をお手伝いしようと思って着ているだけです!」

 

 

零「……本当かお前?」

 

 

シャッハ「本当です!ご、ごうにはごうに従えと言うじゃないですか?!シスターの格好のまま神社で働いていたら怪しまれるでしょうっ?!だからですよ!」

 

 

零「…………」

 

 

ホントか嘘か判断しずらい反応を見せるシャッハに零も疑わしい目付きでシャッハを見つめるが、まあいいかと溜め息を吐いて絢香と向き合っていく。

 

 

零「……とにかく、二人を保護してもらってすまないな絢香?ありがとう……」

 

 

絢香「い、いえそんな…!でも驚きましたよ、まさかカリムさん達が零さん達のお知り合いだったなんて…」

 

 

零「あぁ、正直俺も驚いてるよ……というより、何故こんなトラブルだらけの世界にコイツ等がいるんだと本気で神を恨みたくなってきたぞっ……」

 

 

絢香「……は?」

 

 

顔を俯かせて拳を震わせながら呟く零に怪訝そうに聞き返す絢香だが、零は気にしないでくれとだけ告げて再び溜め息を吐いた。

 

 

零「取りあえず……悪いが部屋に案内してもらってもいいか?此処に来るまで色々あって疲れてな……正直もう休みたい(汗)」

 

 

絢香「あ、そうですね……分かりました、今からご案内しますね?カリムさん、アズサさんに部屋の案内をしてもらってもいいですか?」

 

 

カリム「へ?……あっ……うっ……分かりました……」

 

 

何処か渋々といった感じに頷いたカリムの返答を聞くと、絢香は部屋の案内の為に零と共に部屋から出て行き、シャッハも紗耶香と共にお茶でも容れようかと台所の方に向かっていった。そして部屋に残されたカリムは軽く溜め息を吐き、アズサはそんなカリムを見て首を傾げながら声を掛けた。

 

 

アズサ「カリム……どうかしたの……?」

 

 

カリム「…え?い、いえ、何でもないですよ?(焦)」

 

 

アズサ「……もしかして、カリムは零と一緒が良かった?」

 

 

カリム「…へっ?!そ、そんな事ないですよ?!ほ、ほらっ、私達も早く行きましょう!」

 

 

アズサ「……図星?」

 

 

シロ『うにゃ?』

 

 

顔を紅潮させて両手を振りながら否定するカリムを見てアズサは首を傾げながらそう呟き、アズサの腕に抱かれる黒猫も片耳を動かしながら鳴き声を上げていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃、絢香に案内されて零が行き着いたのは如何にも和風の雰囲気を漂わせる和室だった。そして絢香と共に室内に足を踏み入れた零は部屋の中を見渡しながら関心の声を漏らした。

 

 

零「おぉ……如何にもって感じの部屋だな?」

 

 

絢香「アハハ……そんな大した部屋でもないですよ。それに最近忙しくて、此処は余り掃除していませんでしたし……(汗)」

 

 

零「いや、別にそんなの気にしないぞ?部屋を貸してもらうだけでも有り難いしな……気になる所があったら自分で掃除するし」

 

 

絢香「あ、じゃあ掃除用具の場所も教えておきますね?確か、こっちの襖の方に……」

 

 

そう言って絢香は何かを思い出すように顎に手を添えながら部屋の隅にある襖へと近づいていき、襖の戸を勢いよく開けた瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

―ガラァッ……ドシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

絢香「ふぇ?…ってうきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーっっ?!!!!!!」

 

 

零「っ?!お、おい!絢香っ?!」

 

 

戸を開けた瞬間、それと共に襖の奥から大量の布団と毛布が雪崩のように落ちて絢香を飲み込んでいってしまったのだ。布団の雪崩が起きた衝撃で埃が辺りに蔓延する中、零は慌てて布団の山に埋もれた絢香に呼び掛けると、布団の中からモゾッと頭にシーツを被った絢香が姿を現した。

 

 

絢香「イッタタタタッ……あっ?!だ、大丈夫でしたか零さん?!」

 

 

零「あ、あぁ……俺は別になんともないが……というかお前こそ大丈夫か?」

 

 

絢香「は、はい何とか……でもすみません、お見苦しいところを見せてしまって……(汗)」

 

 

零「いや、別に構わないが……だがこれ……布団しかなくないか?」

 

 

絢香「へ?」

 

 

絢香は零の言葉に間抜けな声を上げると、自分を飲み込んだ布団の山を見渡していく。辺り一面には布団や毛布等しかなく、掃除用具や他の道具などは何処にも見当たらない。

 

 

絢香「あ、あれ?可笑しいな?どうして……あ、そうだ……この前の大掃除の時に違う場所に仕舞ったんでした?!私ちょっと見てきますね!」

 

 

零「は…?お、おい絢香!ちょっと待て?!」

 

 

布団から立ち上がって掃除用具を仕舞った場所に向かおうとする絢香を呼び止める零だが、絢香はそれを聞かずにシーツを被ったまま部屋から飛び出していってしまった。

 

 

零「……はぁ……アイツは……というかコレどうしたらいいんだ……?」

 

 

そう言って零は畳み一面に錯乱した布団の山に視線を下ろして溜め息を吐き、取りあえず布団を片付けようと一枚のシーツを掴んだ、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーっっ!!!!?』

 

 

―ドシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

 

 

零「……アイツ……またか……」

 

 

 

 

何処か遠くの部屋から聞こえてきた絢香の悲鳴と巨大な轟音。それを聞いた零は天井を仰ぎ、疲れたように何度目か分からない溜め息を吐いて部屋から出ていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

絢香「――す、すみません……何から何まで、ご迷惑をお掛けして……」

 

 

零「いや、別に治療と片付けぐらいで迷惑とは思わんが……」

 

 

あれから数十分後、別室でまたも瓦礫の山に埋もれていた絢香を救出した零だが、どうやら絢香が瓦礫の山に埋もれた時に足を切ってしまったらしく、ひとまず治療ついでに休憩をしようと縁側で絢香の足の治療をしていた。

 

 

零「ほら、終わったぞ……それにしても、お前いつもあんな感じなのか?」

 

 

絢香「あ、あはは……恥ずかしながら……私って結構落ち着きがないですから、何時もあんな目に合っては怪我して、周りにも迷惑掛けてばかりで……(汗)」

 

 

零(……成る程……コイツも不幸体質って事か?……いや、それとも単にドジなだけか?)

 

 

苦笑しながら見上げてくる絢香を見つめながらそんなことを思い、軽く息を吐きながら絢香の隣に腰をかける零。そしてぼんやりと庭を眺めていると、零は此処から見える花壇の花を見つけて首を傾げた。

 

 

零「……?あれは……」

 

 

絢香「え?……あぁ、あれはうちの花壇ですね。結構色んな花がありますよ」

 

 

絢香が花壇を見て小首を傾げる零にそう説明すると、零はゆっくりと縁側から腰を上げて花壇へと近づき花を眺めていく。すると、零は様々な種類の花の中から一つの花……白、赤、黄、紫など様々な色を彩った花を見てポツリと呟く。

 

 

零「これは……ヒャクニチソウか」

 

 

絢香「?零さん、お花に詳しいんですか?」

 

 

零「まぁ少しはな……それにしても立派だな。これ、お前が育てたのか?」

 

 

絢香「え……あ、いえ……それは……」

 

 

ヒャクニチソウの花を見て問いかけてきた零に絢香は何故か急に言い難そうに口ごもり、そんな絢香の様子に零も頭上に疑問符を浮かべてしまう。そして絢香は暫くそんな様子でいると、ヒャクニチソウを見つめながら口を開いた。

 

 

絢香「……その花は……私じゃなくて、あの人が育ててたんです……」

 

 

零「?あの人って……もしかして……」

 

 

絢香「はい……先程もお話した……鬼王の籠手を持つ聖者……私達の仲間だった人です……」

 

 

そう言った絢香の顔は何処か悲しげなものに見えた。鬼王の籠手を持つ聖者と言えば、先程紗耶香からも聞かされたかつての絢香達の仲間であり、二人を裏切った人物の事だ。それを聞いた零は険しげに眉を寄せ、絢香はヒャクニチソウの花を見つめながら語り出す。

 

 

絢香「――あの人と最初に出会ったのは、ギルデンスタンとの戦いの中でした。人造幻魔達に紗耶香さんが追い詰められて、ホントにもう終わりだって思った時に……あの人が現れて助けてくれたんです」

 

 

零「……………」

 

 

絢香「最初は私達と一緒に戦うことを拒んで、いつも一人で幻魔達と戦う一匹狼みたいな人でした。だけど戦いの中で、あの人ととも次第に和解して、漸く仲間になれた………その花も、あの人が此処に住み始めてから育て始めた花なんです」

 

 

そう言って絢香はゆっくりと花壇の前で腰を下ろし、ヒャクニチソウの花に指で触れていく。

 

 

絢香「あの頃は、ホントに楽しかった……此処であの人と一緒にお花の手入れをしたり……あの人と紗耶香さんの稽古を見て応援したり……一緒に町に出掛けたりして……本当に楽しくて幸せな毎日でした……なのに……」

 

 

途中で言葉を区切り、静かにヒャクニチソウから指を離して膝を抱え、顔を俯かせてしまう絢香。

 

 

絢香「……なのにあの人は……今は私達の敵になってしまった……そしてさっきも、あの人は私を殺そうと幻魔達を差し向けてきたんです……」

 

 

零「……絢香」

 

 

絢香「あはは……どうしてこうなっちゃったんでしょ……私達は同じ物を見て、いつも笑い合っていたのに……あの人は敵になってしまった……ホント、神様って意地悪ですよね?巫女の私がそれ言ったらおしまいですけど……そう思いたくもなりますよ……」

 

 

泣きそうになるのを必死に堪えるように苦笑して呟く絢香。それを隣で聞いていた零は一度空を仰ぐと、首に掛けたカメラのレンズをヒャクニチソウに向けながらシャッターを切った。

 

 

零「――絢香……お前は今でも、ソイツを信じたいと思っているのか?」

 

 

絢香「……信じたいですよ……あの人は今でも仲間だと思ってますから……だから私を殺そうとしたのも、何かの間違いだと思いたい……けど……」

 

 

零「……そうか……お前がそう思うなら、もう少し信じてみたらどうだ?」

 

 

絢香「……え?」

 

 

零のその言葉を聞き絢香は思わず顔を上げて零に聞き返し、零はファインダーから目を離してヒャクニチソウを見つめる。

 

 

零「俺も上手くは言えんが……前に俺の幼なじみが言っていたんだ……例え俺が何処へ消えても、皆と一緒に何処までも追い続ける。例え俺に拒まれても、何度でも手を伸ばす……とな」

 

 

絢香「…………」

 

 

零「この言葉を言われる前、俺も色々と迷ってた事があってな……このまま戦い続ければ、いつかはアイツ等の敵になってアイツ等を傷付けるかもしれない……そう思ってた俺にアイツが言ったんだ。例え俺が皆の前から消えても……自分達との絆は壊れる事はないと……アイツはこんな俺を信じてくれてるんだ。だから俺も、そんなアイツの思いを応えようと思った」

 

 

絢香「……信頼し合ってるんですね。零さんとその人は」

 

 

零「仲間だからな……信じ合えなきゃそれで終わりだろう?」

 

 

そう言いながら零は苦笑いを浮かべると、ヒャクニチソウの花に手を伸ばし花に触れていく。

 

 

零「絢香……お前、ヒャクニチソウの花言葉って知ってるか?」

 

 

絢香「?ヒャクニチソウの花言葉……ですか?」

 

 

ヒャクニチソウの花言葉。それを問われた絢香は少し首を捻らすが、分からないと首を左右に振った。零はそれを見ると苦笑したまま立ち上がり、ヒャクニチソウの花達を眺めながらポツリと呟く。

 

 

零「―――幸福、不在の友を思う、友への思い……そして、絆……だそうだ」

 

 

絢香「……絆……」

 

 

零「…この花は、ソイツが此処に住み始めてから育て始めたんだろう?だからきっと、ソイツもその頃からお前達の事を大切に思っていたんだろ……多分な」

 

 

そう言うと零はヒャクニチソウから視線を逸らし、隣にいる絢香の顔を見つめながら再び語り出す。

 

 

零「こんな花を此処まで育てるような奴が、何の理由も無しにお前等を裏切る筈もない……きっと何かあるんだろう。だからお前も、諦めずに信じてみたらどうだ?お前がまだ、ソイツを仲間だと思えるなら……ソイツとの絆がまだ壊れていないと信じられるなら」

 

 

絢香「……零さん……」

 

 

まだその聖者のことを仲間と思えるなら、信じ続けてみろと。そう言われた絢香はそよ風に揺れるヒャクニチソウをジッと見つめた後、何かを決心したかのように深く頷きながら立ち上がり零と向き合っていく。

 

 

絢香「――分かりました、信じてみます……そして、もう一度あの人に会って話してみます。あの人は私の……私達の、大切な仲間ですから」

 

 

零「あぁ、そうしてみろ。諦めさえしなければ、ソイツもきっとお前の思いに応えてくれる……きっとな」

 

 

絢香「はい!」

 

 

まるで子を見守る父のように穏やかな笑みを浮かべる零に、先程の暗い雰囲気を一切感じさせない笑顔で頷く絢香。そんな絢香の顔を見た零も小さく頷くと、首に掛けたカメラを構え絢香の写真を撮っていく。

 

 

零「――思った通り、良い顔で笑うじゃないか」

 

 

絢香「へ?……あ……も、もしかして変でした?」

 

 

零「む?いいや、そんな事ないぞ?寧ろこう……うん……綺麗だと思うが?」

 

 

絢香「ッ?!き、綺麗?!」

 

 

首を傾げながらそう告げた零に絢香は驚愕の顔を浮かべ、みるみる内に顔も紅くなって真っ赤になっていった。

 

 

絢香「も、もう!からかわないで下さいよ!き、綺麗とかそんなこと…!!」

 

 

零「……は?別にからかったつもりはないぞ?お前が本当に綺麗な顔で笑うから綺麗だと言っただけなんだし……」

 

 

絢香「ッ?!」

 

 

怪訝そうに眉を寄せながらそんなことを口にした零にボンッ!と顔から湯気を出してしまう絢香。元々この神社で女仲間といることが多く男に関わってこなかったせいか、異性から綺麗などと言われたことがない為に動揺を隠せない絢香なのだが、この超絶鈍感馬鹿がそんな事に気付く筈もない……

 

 

零「お、おい、大丈夫か?顔真っ赤だぞ……?」

 

 

絢香「……へ?い、いえ!何でもないですよはい!!気にしないで下さい!全然大丈夫ですから!!」

 

 

零「?……まあお前がそう言うなら気にしないが……まだ外は暑いから日射病になることもあるだろうし、そうなる前に早く中に戻れよ」

 

 

顔が紅いまま両手を全力で振って必死に大丈夫だと叫ぶ絢香に疑問を覚えつつも、取りあえず零はアズサとカリム達の様子でも見て来ようと絢香の頭をポンッと軽く叩いた後に神社の中に戻っていった。そして庭に残された絢香は……

 

 

絢香「――うぅ……まだ顔が熱いっ……何やってるんだろう私っ……」

 

 

真っ赤になった頬に両手を添えながら、零の前で何という醜態を晒してしまったのかと恥ずかしさのあまり自己嫌悪になっていた。そして絢香は深い溜め息を吐くと、先程零に触れられた頭にソッと手で触れていき……

 

 

絢香「……でも……あの人に頭を触れられたのは……嫌じゃなかったかな……」

 

 

顔を紅潮させながら頭に手を添えて、クスッと小さく微笑みを漏らしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに零は……

 

 

 

 

零「………………………………………はて……………此処は一体何処だ……?」

 

 

アズサ達のいる部屋までの場所が分からず、神社内で迷子になっていたのだった。因みに何度も迷走を続けてあちらこちらを行ったり来たりして迷った結果、約一時間弱掛けて漸く部屋に辿り着いたそうな……

 

 

 

 



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番外編/ルミナのトラックツアー

 

 

―風麺―

 

 

零「―――全く、いきなり呼び出すなんて何の用だ?あの女は……」

 

 

とある昼下がり。写真館でゆっくりくつろいでいた零は何故か風麺のアルバイトであるルミナに呼び出されて風麺にやって来ていた。

 

 

なんでも見せたい物があると電話で言っていたが……一体何なのだろうか?

 

 

零「ふむ……まあ実物を見られば何か分かる筈だが、アイツ一体何処だ?」

 

 

風麺に着いて早々ルミナを探して辺りを見渡す零だが、肝心のルミナも店主の大輝の姿も見当たらない。

 

 

ルミナはともかく、大輝は多分出前でいないのだろう。そんな事を思いながら首を動かして周りを見回していると……

 

 

ルミナ「――ああ来た来た、おーい!こっちこっち~!!」

 

 

屋台の裏の方からひょいっとルミナが顔を出し、零を見付けて手招きしてきたのだった。零もそんなルミナを見てめんどくさそうに溜め息を吐きながらルミナに歩み寄っていく。

 

 

零「いきなり呼び出してなんだ?なんか見せたい物があるとか言っていたが…」

 

 

ルミナ「えぇ、さっき出前の途中で見かけてね。師匠に見せる前にアンタから見せてあげようと思って♪」

 

 

零「……?何をだ?」

 

 

イマイチ話が見えない零は思わず首を傾げて聞き返してしまうが、ルミナはそれに答えずに胸を張りながら屋台の裏に回っていった。

 

 

零「お、おい!……ったく、何なんだアイツは……」

 

 

何も話ささずに屋台の裏に行ってしまったルミナに零は早くも疲れた様子を浮かべてしまうが、取りあえずルミナの後を追おうと歩き出そうとするが……

 

 

 

 

―……ギギギギギギッ!!ブルゥンッ!!ドドドドドドドドドドッ……!!―

 

 

零「……は?何だ?」

 

 

いきなり屋台の裏から何かのエンジンが掛かるような轟音が響き渡り、零はその音に思わずたじろぎながらも屋台の裏に回っていく。

 

 

零「おい!お前一体なにをやっ…………て…………」

 

 

屋台の裏に回り一体なにをしているのかとルミナから問い正そうとした零だが、屋台の裏に存在するソレを見て硬直してしまった。

 

 

 

 

圧倒的な存在感を感じさせる巨体……

 

 

青色にきらめくボディ……

 

 

そしてその巨体の中から顔を出すルミナ……

 

 

ルミナ「どうどう?かなり良いでしょ?出前の時っていつも徒歩だったから正直めんどくさかったんだけど、これなら楽々で出前だって行けるでしょう♪」

 

 

零「………………………」

 

 

ルミナ「ホントなら自転車とかの方が良いんだろうけど、こっちの方が断絶速いし荷台もあるでしょ?これならラーメン何十人分も楽チンで運べちゃうし♪」

 

 

零「………………………………そういう問題じゃないだろうっ……なんで……なんで……」

 

 

楽しそうに喋るルミナを余所に零は顔を俯かせ、体中をフルフルと震わせていく。そして……

 

 

 

 

 

 

零「――なんで……なんでこんなとこにトラックなんぞがあるんだっっ?!!」

 

 

腹の底から大声を出しながら目の前の巨体……ルミナが運転席から顔を出すトラックをビシィッ!!と指差したのであった。

 

 

ルミナ「あれ?良くなかったこれ?」

 

 

零「良いとか悪いとか聞いてるんじゃない!!というかどっから持ってきたこんなものっ?!」

 

 

ルミナ「道に落ちてた♪」

 

 

零「嘘つけぇっ!!!」

 

 

 

普通に道に落ちてるようなものではないだろう明らかに!

 

 

零「それ絶対に持ち主いるから!早く元の所に帰してこい!!」

 

 

ルミナ「略奪なら師匠もやってるから私も好むところよ?」

 

 

零「お前のはもう単なる窃盗だろうがっ!!」

 

 

ルミナ「分かってないわねディケイド……考えてみなさいよ。私ってライダーだけどバイクみたいな乗り物とか持ってないでしょう?そんなんでライダーとか名乗るのは可笑しいじゃない」

 

 

零(……それ言ったらお前の師匠の海道はどうなるんだと口にするのは野暮なんだろうか……)

 

 

ルミナ「でも今さらバイクに乗るのも何か違うと思ったの。もっと他に威厳さを感じさせるマシンはないのかと……そう思ってた時にこれと出会ったのよ!見なさないこの照り輝く青の車体!正に瑠璃の華を連想させるじゃない!!」

 

 

零「……トラックを瑠璃に例えた人類はたぶんお前が初めてだろうな……」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

とまあそんな一連の出来事がありつつも、取りあえずルミナが一番最初にトラックに乗せてあげるということで乗せてもらったわけだが……

 

 

 

 

 

―グオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーッッ!!!!―

 

 

零「――何故こうなったああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 

ルミナ「イエーイ!爽快爽快~♪」

 

 

ただ今時速制限を無視して全速力で道路を走り、何故こうなったのかと絶叫していました…………トラックの荷台で。

 

 

零「おおおおぉぉぉい?!どうして俺が荷台なんだぁ?!!」

 

 

ルミナ「えー?仕方ないでしょー?業者台は一人しか乗れない構造だって聞いたし」

 

 

零「そこは普通二人乗れるんだよ馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

全速力で走るトラックから投げ出されないように必死にしがみつきながら叫ぶ零であるが、そこで一つある疑問が浮かび上がった。

 

 

零「……ちょっと待て……お前、免許証持ってるのか?」

 

 

ルミナ「メンコショウ?」

 

 

零「聞いた俺が馬鹿だったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!」

 

 

そうだよ!!この馬鹿がそんなの持ってる筈ない!!

 

何故乗る前に気付かなかったんだ俺はっ!!

 

 

零「いいか耳をかっぽじって良く聞け?!公道を走るには資格がいるんだよ!!自動車に乗る時には!!」

 

 

ルミナ「……ディケイド、私を馬鹿だと思って甘くみないでよね」

 

 

零「……なに?」

 

 

突然ルミナは先程とは違いキリッとした表情へと一変し、ハンドルを操作しながら前を見据えていく。

 

 

ルミナ「資格なんかなくても、ハンドルさえ握ればどんな乗り物だって乗りこなしてみせる……私だって腐ってもライダーの一人よ?安心しなさい」

 

 

零「……!」

 

 

確かに―――コイツだってライダーなのだから、乗用機械を乗りこなすぐらいのことは出来る筈だ。

 

 

それにコイツは元々、俺を殺す為に鳴滝が送り付けてきた刺客。

 

 

ならばそれぐらいの知識や技術等は鳴滝によって組み込まれてるに違いない。

 

 

現に今、コイツは扱いの難しい大型自動車を軽々と乗りこなして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴滝「クッ!またディケイドによって世界が破壊されてしまったっ……だが今度こそ!次の世界こそが貴様の墓場だディケ―ドゴオォッ!!!!―ぐべばあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!!!!?」

 

 

零「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっっ?!!!!」

 

 

はい、横断歩道を渡っていた人を全速力で思いっ切しぶっ飛ばしていったのでした…………ぶっ飛ばしたのが鳴滝とは気付いていませんが。

 

 

ルミナ「あれ?なんか当たった?」

 

 

零「轢いた!!轢いた!!今人轢いたぞお前ぇ?!!」

 

 

ルミナ「え?ホントッ?!………………まあいいか」

 

 

零「良くねぇよッ?!クソッ!!なにが腐ってもライダーだ!!コイツ等には交通ルールの一つも教えていないのか鳴滝?!今度会った時には絶対ぶっ飛ばしてやるっ!!!」

 

 

※もうぶっ飛んでます。

 

 

ルミナ「もぉー、さっきからうるさ…………ん?」

 

 

荷台で鳴滝を殴り飛ばしてやると誓って叫ぶ零に一言文句を言ってやろうとするルミナだが、前ガラスにべったりと赤い液体がこびりついてる事に気付いて首を傾げた。

 

 

ルミナ「あれ?何か視界が悪くなってる?」

 

 

零「……血だ……絶対に血だそれ……」

 

 

ルミナ「むぅー……邪魔で見えずらいなぁ……この仕切り取っ払っちゃおうか?」

 

 

そう言ってルミナは険しげに眉を寄せながら仕切りをガシリッと掴んで……

 

 

零「って止めろ馬鹿っ?!ワイパー動かせワイパーッ!!」

 

 

ルミナ「?わいぱあ?」

 

 

零「ハンドルの周りにあるだろう?!何かレバー的な物が…!」

 

 

ルミナ「んー?……あっ、これのこと?」

 

 

零の説明で何かを発見したのか、ルミナはハンドルの周りに見つけたそれを操作していった。その時……

 

 

 

 

 

 

―……ガコンッ!ウイィィィィィィィィィィ……!―

 

 

零「…………は?」

 

 

ルミナがソレを操作したと同時に不意に零の身体全体が一瞬揺れ、そのまま荷台が上へ上へと上がり始めたのだ。

 

 

そして上部最端まで荷台が辿り着くと共に、零の視界に目の前から迫ってくる歩道橋が映って……

 

 

零「――って危ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ?!!!」

 

 

歩道橋が額を掠った瞬間に零は直ぐさま荷台からトラックの左側面にある運転席のドアにへばり付き、ギリギリで歩道橋を回避したのであった。

 

 

零「おぉっ、お前はなにをやってるんだッ?!」

 

 

ルミナ「へぇ~、こういう仕掛けもあるのね?面白い~♪」

 

 

零「ふざけるな!!こっちは死ぬかと思ったわッ!!ええいもういいッ!!」

 

 

呑気に笑いながらトラックを全速力で走らせるルミナに痺れを切らし、零はドアの窓から手を伸ばしルミナの手からハンドルを奪おうとするが、それを止めるようにルミナが零の手を掴んだ。

 

 

ルミナ「ちょ、ちょっと!いきなり何するの?!」

 

 

零「やかましい!これ以上お前に好き勝手させられるか!!ハンドル貸せ!!俺が運転する!!」

 

 

ルミナ「何言ってんの?!これは私のマシンなんだから私が運転するの!!」

 

 

零「これ以上お前に運転させてたらこっちの身がもたんだろう!!いいからハンドル寄越せっ!!」

 

 

このままコイツにトラックを走らせたらこっちの命が危ないし、また先程みたいに誰かを轢いてしまう可能性が高い。

 

 

そうなる前になんとしてもトラックを止めなければと必死にハンドルに手を伸ばすが……

 

 

ルミナ「もぉ……分かったわよ……ちょっとだけね?」

 

 

―バキッ!!―

 

 

ルミナ「はい、ハンドル」

 

 

零「………………………………………………は?」

 

 

諦め半分でそう言いながら、ルミナは渋々とハンドルを寄越してくれました。

 

 

……ハンドル"だけ"をもぎ取って。

 

 

 

 

 

 

零「――――誰がハンドルもぎって寄越せと言ったかああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!!」

 

 

―キキイィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

腹の底から零が全力全開の絶叫を上げると共に、コントロールを失ったトラックはそのままビルの一角へと激突して無事?に暴走を止めたのであった…………

 

 

 

 

 

因みにこの後、零は打ち所が悪かったために救急車で病院に運ばれたが、ルミナは持ち前の頑丈さから全くの無傷だったらしい。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

それから数日後、風麺では……

 

 

 

ルミナ「ジャジャーン!!今日からまた新しいマシンを用意しましたぁー♪ショベルカーでぇーす♪」

 

 

零「返してこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっっ!!!」

 

 

――あんな目に合いながら懲りもせず、またもや何処からかマシンを盗ってきていたのであった……

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界④

 

 

 

数時間後、アズサ達の様子を見終えた零は取りあえず休息を取ろうと絢香に用意された部屋に戻り、畳の上でねっころがっていた。

 

 

零「はぁ……今日は色々ありすぎて疲れたぁ……」

 

 

もうクタクタで動けないといった調子で呟きながら、零は寝返りを打って仰向けになっていく。そして午前中の様々な不運に巻き込まれた疲れからか、だんだんと眠気がさしてゆっくりと瞼を閉じようとした。その時……

 

 

 

 

 

―ガラァッ―

 

 

カリム「……零、少し良い?」

 

 

零「……?カリム?」

 

 

不意にカリムが部屋の襖を開けて現れ、零は閉じかけていた瞼を開いて身体をけだるそうに起こしていく。

 

 

カリム「あ、もしかして休んでた?なら時間を改めて来るけど……」

 

 

零「いや、別にいいぞ……それで何だ?何か大事な用でもあるのか?」

 

 

カリム「いいえ、そんな大した用じゃないんけど……ちょっと貴方とお話したくなって……」

 

 

そう言いながらゆっくりと襖を閉め、何処かソワソワとした様子で零の前に正座して座り込むカリム。零はそんなカリムの様子に首を傾げつつも、同じように座り込んでカリムと向き合っていく。

 

 

零「それで、話ってなんだ、カリム?」

 

 

カリム「少しね……零達はずっと色々な世界を旅していたと聞いたから、ちょっと話を聞いてみたくなって」

 

 

零「ああ、成る程……だけど別にそんな大した事なんてしていないぞ?ただその世界のライダー達にお節介を焼いたりとか、そんなことしかやっていないし……まぁ、元の世界じゃ出来ない色んな体験が出来たっていうのもあるが」

 

 

カリム「そう、私やシャッハも似たような感じね……最初は平行世界と聞いて驚いたり戸惑ったりもしたけど、絢香さん達のおかげで此処の生活にも慣れたし。聖王教会にいた時にはできなかった貴重な体験も出来たから………そういえば、はやて達も元気にしてるの?」

 

 

零「あぁ、元気だぞ……寧ろ元気過ぎて、こっちは毎日死ぬような思いをしているがな……」

 

 

カリム「……そっちも相変わらずみたいね…」

 

 

遠い目をしながら明後日の方を見つめる零を見て何か悟ったのか、思わず苦笑をこぼしてしまうカリム。

 

 

零「……そういえば、お前はずっと神社の仕事をしながら此処に住んでいたんだろう?どんな仕事をしてたんだ?」

 

 

カリム「ん……そうね……けど殆どの仕事はシャッハや絢香さん達がしてくれていたから、私は余り手伝いと言える事はしていないわ。単にお庭の掃除やお花のお手入れぐらいしか出来る事はなかったし……」

 

 

零「ほぉ……だがまあ、元の世界じゃ事務とかの仕事が殆どだったし、こういう雑務をやってみるのも悪くはないだろう?」

 

 

カリム「そうね……最初はあまり慣れなかったけど、やっていく内に段々慣れて楽しくなってきたし、案外こういう仕事も向いてるのかもしれないわね」

 

 

カリムはそう言ってクスッと小さく微笑み、零もそんなカリムに釣られるように思わず笑みを漏らした。

 

 

カリム「ふふ……なんだかこうして話してると、貴方と教会を抜け出した時の事を思い出すわね……」

 

 

零「…あぁ、なのは達から逃げて教会にやって来た時のあれか?」

 

 

カリム「そっ、貴方がいきなり私の執務室の窓から現れた時のあれ……あの時は本当に驚きましたよ。しかもそのすぐ後にミッドに連れていかれるし」

 

 

零「あぁ、あの時は一人で逃げるのもあれだからとお前を巻き込んでしまったんだよな……そのせいでお前と俺はシャッハに怒られるし、その後結局なのは達に捕まった上にお前と何をしてたのかと問いただされてOHANASHIされるし……何かホントに悪かったな?」

 

 

カリム「い、いえ……私も結構楽しめましたし、それに……良い思い出にもなりましたから……」

 

 

零「……はい?」

 

 

最後の方だけ小声で呟いたカリムの声が聞き取れず、零が思わず怪訝そうに聞き返した。その時……

 

 

 

 

 

 

―ガランガラァンッ!!―

 

 

『……ッ?!!』

 

 

 

 

不意に何処からか鐘の音が響き、零とカリムは突然のそれに驚愕して思わず立ち上がってしまう。

 

 

零「今の音は…?!」

 

 

カリム「今のは確か、神社の敷地に見知らぬ人間が入ってきた時に鳴る警鐘の音……まさか、侵入者?!」

 

 

零「ってことは、幻魔達が攻めてきたのか?!カリム!」

 

 

カリム「ッ!はい!」

 

 

警鐘の音で幻魔達が攻め込んできたと予想した二人は互いに顔を見合わせて頷き、急いで幻魔神が封印されたツボがある部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数分後、二人はツボのある部屋へと向かっている最中に同じく騒ぎを聞き付けた絢香、紗耶香、シャッハ、アズサ達と合流を果たし、ツボのある部屋の前にまでやって来ていた。

 

 

零「此処だな……みんな、注意しろ」

 

 

アズサ「うん…!」

 

 

シャッハ「騎士カリムは私にお任せを…!」

 

 

紗耶香「絢香様、下がっててください……」

 

 

絢香「はい……紗耶香さんも気をつけて……」

 

 

零達は何時でも変身出来るようにベルトと籠手を装着し、非戦闘員である絢香とカリムはシャッハの背後にまで下がらせている。それを確認した零と紗耶香は襖の両側に立って互いにアイコンタクトで合図を送り、襖を勢いよく開けて中へと踏み込んでいった。其処にいたのは……

 

 

 

 

 

 

 

大輝「――おや、来るのが少し遅かったなぁ。零?」

 

 

ルミナ「――あれ?アズサじゃない!久しぶり~♪」

 

 

零「ッ?!お前は……海道?!」

 

 

アズサ「ルミナ……お姉ちゃん?」

 

 

 

 

そう、其処にいたのは二人の男女……大輝とルミナだったのだ。大輝達を見た零とアズサは驚愕の表情を浮かべてしまい、そんな二人の反応を見た絢香達は頭上に疑問符を浮かべていた。

 

 

絢香「零さん?お知り合いなんですか…?」

 

 

零「……別に知り合いと呼べる仲ではないが……てか、侵入者はお前等だったのか?こんなところで何をしてる?」

 

 

大輝「あぁ、ちょっと気になる物があってね?それを頂こうと思って参上したってところさ」

 

 

ジト目で睨みつけてくる零の視線を軽く受け流しながらそう言うと、大輝は片手に持ったある物……幻魔神が封印されている黒いツボを零達に見せ付けていく。

 

 

絢香「そ、それはっ…幻魔神を封印したツボ?!」

 

 

大輝「世界全体を震撼させる災いを招いた幻魔神が封印されたツボ……興味深いじゃないか。神が封印されているっていうのも中々の品物だし、コレは頂いていくよ♪」

 

 

紗耶香「なっ?!ふざけるな!それがどういうものなのか分かっているのか?!ツボを返せっ!!」

 

 

ツボを頂くと告げた大輝に紗耶香は怒りの表情を浮かべ、腰に納めていた真剣を鞘から引き抜き大輝とルミナへと斬り掛かっていく。だが、大輝はルミナと共にそれを軽く受け流して紗耶香から距離を取り、何処からかディエンドライバーを回転させながら取り出した。

 

 

大輝「返せと言われて大人しく返すほど俺は優しくないんでね。この辺で失礼させてもらうよ。じゃあね♪」

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

大輝は爽やかな笑みを浮かべながら天井に向けてディエンドライバーを乱射し、天井を破壊して零達を怯ませてしまう。その隙に大輝とルミナは部屋の窓をぶち破って脱出し、神社から抜け出していったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、神社を抜け出した大輝とルミナは近くの公園の中に逃げ込んでいた。大輝は自分達が逃げてきた道を振り返り零達が追ってきていないことを確認すると、一息吐いてベンチに腰掛けていく。

 

 

大輝「ふぅ……何とか巻いたみたいだね」

 

 

ルミナ「やりましたね師匠!今度こそお宝GETですね♪」

 

 

大輝「ま、幻魔対策の結界もそんな大したものじゃなかったし、今回は結構簡単だったな」

 

 

お宝GETしたことに対してルミナは明るい笑顔で大いに喜び、大輝も笑みを浮かべながら黒いツボをボールのように扱って遊んでいた。そんな時……

 

 

 

 

 

「――そう思ってるところで悪いが、それもすぐぬか喜びになるだろうな……」

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

突如横から聞こえてきた聞き覚えのある声。逃げ切れたと安心し切っていた二人が慌ててそれが聞こえてきた方へと振り返ると、其処にはいつの間にか大輝達を追ってきた零とアズサの姿があり、更にその反対の方には紗耶香と絢香、カリムとシャッハが立って大輝達を挟み撃ちにしていた。

 

 

ルミナ「か、囲まれちゃってる?!」

 

 

大輝「へぇ、良く此処が分かったねぇ?」

 

 

零「甘くみるなよ?お前がどんな行動を起こすかぐらい大体予想出来てたんだ。だからお前が天井を壊してすぐ、ソイツを付けさせてもらったよ」

 

 

大輝「?」

 

 

悪戯っ子のような笑みを浮かべて自分の靴の側面をトントンと叩く零に怪訝な顔を浮かべつつも、自身の靴の側面に視線を下ろす大輝。すると其処には淡い点滅を繰り返すマーカーのようなモノ……零のスパイダーウォッチの追跡用マーカーがいつの間にか大輝の靴の側面に付いていたのであった。

 

 

大輝「成る程、君も中々頭が回るようになったって事か」

 

 

零「そういうことだ。さ、さっさとそのツボを返してもらおうか?」

 

 

絢香「それは本当に危険なモノなんです!もし幻魔神の封印が解けてしまえば、世界は大変なことになってしまう!お願いだから返して下さい!」

 

 

大輝「おいおい、さっきも言っただろう?返せと言われて返すほど、俺は優しくないってね。どうしても返して欲しいなら……力付くで奪ってみろ!」

 

 

そう言いながら大輝とルミナはディエンドライバーとベルトを出して戦闘態勢に入り、それを見た零達も仕方がないとベルトと籠手を取り出して装着し、五人が変身して激突し合おうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズダダダダダダダダダダダダダダダンッ!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

突如何処からか無数のエネルギー弾が放たれ、零達の足元に撃ち込まれていったのだ。そして突然のそれに零達が驚愕して思わず辺りを見回していくと、一同の周りには足軽のような姿をした不気味な異形達の軍団……幻魔達が一同を囲んでいたのであった。

 

 

シャッハ「幻魔?!しかもこんな数が……?!」

 

 

絢香「な、なんでこんな時にこれだけの幻魔が?!」

 

 

大輝「ふむ……参ったな。まさかこっちの騒ぎに便乗して奇襲を掛けてくるなんてね」

 

 

零「…なに?どういう意味だ「そうね、貴方が騒ぎを起こしてくれたおかげで、こちらも動きやすくなったわ。監視を付けておいたのも無駄じゃなかったみたいだし」……っ?!」

 

 

顎に手を添えて意味深な事を告げた大輝に思わず聞き返そうとする零だが、それを遮るように突然女性の声が響き渡った。そしてそれと共にその声が聞こえてきた幻魔の軍団の中から一人の女性が現れ、その女性を見た絢香と紗耶香、零とアズサは驚愕の表情を浮かべた。

 

 

絢香「あ、貴女は?!」

 

 

「……久しぶりね絢香……紗耶香は昼間にも会ったわよね。絢香が無事なところを見ると、どうやら幻魔達から救えたみたいね?」

 

 

紗耶香「貴様っ…!」

 

 

零「……お前……は……」

 

 

女性を見た絢香は絶句した顔を浮かべ、紗耶香は絢香を守るように前に出ながら女性を鋭い目で睨み付けていき、零はその女性を見て驚愕したまま震える声で口を開いた。

 

 

零「――何で……何故お前が此処にいる?!桜香!」

 

 

桜香「…………」

 

 

零が女性……昼に街を歩き回ってる最中にアズサと共に助けた人物である土御門桜香を見据えながら叫ぶが、桜香はそんな零を横目で見るだけでなにも言わず、大輝に向けて手を伸ばしていく。

 

 

桜香「さて、そのツボを渡してくれるかしら、泥棒さん?それは私の目的の為に必要なモノだから」

 

 

大輝「へぇ……嫌だと言ったら?」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら大輝がそう告げると桜香の表情が冷たい物へと変わっていき、何処からか紗耶香の龍王の籠手に似た黄金の籠手を取り出すと右腕へと装着し、そして……

 

 

桜香「断るというなら、力付くで奪い取るだけよ……変身ッ!」

 

 

高らかに叫ぶと同時に籠手から蒼い炎が勢いよく噴き出し、桜香の身体を包み込んでいった。そして炎に包まれていた桜香が右手で炎を払うような動作をすると、桜香は鬼を象ったような蒼い鎧と赤い瞳、右手に桜の花びらの絵が描かれた蒼い刀のような武器を持った亜人……仮面ライダーへと姿を変えたのであった。

 

 

零「なっ……あれは?!」

 

 

アズサ「紗耶香の龍王に似てる?……もしかして……あれが……」

 

 

絢香「……はい。あの人が嘗て桜ノ神様から授かった鬼の力を持つ聖者の子孫、そして私達と共にギルテンスタン達と戦った聖者……鬼王です」

 

 

紗耶香「そして……幻魔に付いた裏切り者だっ!」

 

 

鬼王『随分な言われようね……ま、否定する気もないわ。実際に裏切って幻魔に付いたのも事実なんだし』

 

 

非難するように叫ぶ紗耶香に軽い口調でそう言うと、桜香が変身したライダー……『鬼王』は右手に持った蒼い刀を振るうって大輝に近づいていくが、それを遮るように絢香が鬼王の前に出た。

 

 

絢香「いけません!止めて下さい桜香さん!!」

 

 

鬼王『――絢香、私の邪魔をしないで。私はそのツボ……ツボの中に封印された幻魔神を復活させないといけないの』

 

 

絢香「そんな……そんなのダメです!幻魔神は嘗ての聖者達でも勝つ事が出来なかった神なんです!桜ノ神様でも封印する事がやっとだった彼を復活させてしまえば……この世界は本当に幻魔達のものになってしまいます!」

 

 

鬼王『…………』

 

 

絢香「お願いです!もうこんな事は止めて帰ってきて下さい!もし何か幻魔に付かなければいけない理由があるなら、教えて下さい!私達が桜香さんの力になりますから!だから――!」

 

 

鬼王に向けて必死に叫び、帰ってきて欲しいと説得をしていく絢香。それを聞いた鬼王は僅かに顔を俯かせ……

 

 

鬼王『――絢香……貴方は何も分かってないわ……』

 

 

絢香「……え?」

 

 

鬼王『私の力になるですって?笑わせないでちょうだい……幻魔神の復活に反対している時点で、私の力になる気なんて全然ないじゃない……』

 

 

絢香「え……ど、どういう意味……ですか?」

 

 

鬼王『……もういいわ……貴方と話す事は何もない。そこを退きなさいッ!!』

 

 

―ズバアァッ!!―

 

 

絢香「?!!」

 

 

絢香の言葉を聞いた鬼王は怒鳴り声を上げながら刀を振るうって絢香に斬撃破を放ち、自身に迫る斬撃破を見た絢香は驚愕して身体が硬直してしまう。だが、斬撃破が絢香に直撃する前に紅い戦士……龍王に変身した紗耶香が絢香の前に飛び出し斬撃破を防いでいった。

 

 

絢香「紗耶香さん?!」

 

 

龍王『クッ!桜香、貴様ぁ!!』

 

 

鬼王『ふんっ……今は貴方の吠えなんて聞いてる暇はないのよ……さっさとそのツボを渡しなさい!!』

 

 

『シャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

鬼王は敵意を込めた目で睨んでくる龍王の視線を鼻で笑いながら受け流し、刀の切っ先を零達に向けて幻魔の大群を放っていった。そして零達は幻魔達を殴って怯ませながら後退していき、大輝もルミナと共に幻魔の攻撃をかわしながらディエンドライバーにカードを装填しスライドさせる。

 

 

大輝「チッ!めんどくさい事になったな……変身ッ!」

 

 

ルミナ「師匠の邪魔をする敵は私が倒す!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

『CHANGE UP!ASTRAEA!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に大輝はディエンド、ルミナはアストレアへと変身し、二人はツボを死守しながら幻魔達と戦闘を開始していった。それを見た零も幻魔の一体を蹴り飛ばしながらライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、絢香とカリムを守る龍王とシャッハに呼び掛けた。

 

 

零「紗耶香!桜香は俺が抑える!お前はその隙に海道からツボを取り返せ!シャッハはその間カリムと絢香を頼む!」

 

 

龍王『ッ!分かった!』

 

 

シャッハ「はい!」

 

 

龍王とシャッハは零に頷き返すと龍王は幻魔の大群と戦うディエンドの方へと向かい、シャッハはカリムと絢香を連れ木の陰へと誘導していく。それを確認した零はディケイドのカードを構え、アズサも腰にベルトを出現させる。

 

 

零「いくぞアズサ!」

 

 

アズサ「うん…!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に零はディケイド、アズサはアンジュルグへと変身していき、アンジュルグは左腕からミラージュ・ソードを取り出して幻魔の大群へと突っ込み、ディケイドはライドブッカーをSモードに展開して鬼王へと突進していったのだった。

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑤(前編)

 

 

一方その頃……

 

 

 

翔一「――おっせぇなぁ……あの二人……」

 

 

ディケイド達が公園で戦闘を行う中、公園から遠く離れた場所に位置する商店街では翔一が退屈そうにベンチに座りながら誰かが来るのを待っていた。

 

 

翔一「ったく、コンビニに行くって言ったまま帰ってこねぇし……何やってんだあの二人?」

 

 

コンビニに続いている道の方を見てまだ帰って来ないのかと首を長くする翔一。だがとうとう待ち切れなくなったのか、翔一は二人の様子を見に行こうとベンチから立ち上がりコンビニに向かおうと歩き出した。その時……

 

 

 

 

『ウワアァァァァァァァァァァアーーーーーッ!!』

 

 

 

 

翔一「ッ!?」

 

 

突然背後から叫び声が響き、翔一がその方向を見ると、其処には街の人々が無数の足軽のような怪人達……幻魔の大群に襲われそうになっている光景があった。

 

 

翔一「な、なんだありゃ?ドーパント……にしちゃ雰囲気が違うな……とにかくこのままほっとくわけにはいかねぇな。アイリス!」

 

 

『JOKER!』

 

 

街の人達を襲う幻達を見て若干戸惑う翔一だが、このままほっとくわけにはいかないと直ぐに正気に戻ってアイリスの名を叫びながらジョーカーメモリを取り出しスイッチを押す。だが、翔一はそこである事を思い出して思わず舌打ちした。

 

 

翔一「そうだった……今はアイリスの奴と連絡が着かねぇんだったなっ……」

 

 

そう、この桜ノ神の世界に連れて来られてからというもの、何故かドライバーを付けてもアイリスとの連絡が着かない上に自身が持つメモリガジェットまで全て使えなくなっていたのだ。よってダブルに変身する事も出来ないのだと思い出した翔一は仕方ないといった感じに息を吐き、ポケットからダブルドライバーに似たスロットが右側しか存在しないドライバーを取り出し腰に装着した。

 

 

翔一「しゃーねぇ、此処は冥華さんから借りたコイツを使うか……変身ッ!」

 

 

そう言いながら翔一は手に持ったジョーカーメモリをドライバーの右側にセットし、バックルを横倒しのSの形へと展開しながら幻魔の大群へと駆け出した。

 

 

『JOKER!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に翔一の身体が徐々に装甲に覆われていき、紫のラインが入った黒一色のボディと赤い複眼の戦士へと変わって幻魔の一体を蹴り飛ばしていった。突然の乱入者に幻魔達が警戒して身構えていく中、戦士へと変身した翔一は軽く手首を鳴らしてから幻魔達を指差す。

 

 

『俺の名は、仮面ライダー……ジョーカー。さぁ、お前達の罪を数えろ!』

 

 

翔一……『ジョーカー』は決め台詞を叫ぶと幻魔達へと走り出し、接近した幻魔一体一体に拳と蹴りをお見舞いして吹っ飛ばしていく。

 

 

―ドゴォッ!バキッ!ズガァァァッ!!―

 

 

『ゲハァッ!グォォッ!?』

 

 

ジョーカー『ソラッ!どうしたどうした?!こんなもんかぁッ!』

 

 

振りかざされる刀は上体を軽く動かしたりなど無駄のない動きで回避し、攻撃した後に出来る隙を付いて拳と蹴りを幻魔達に打ち込んでいくジョーカー。傍から見ても完全にこの場の流れを掴んでいるジョーカーが明らかに優勢であり、このまま押し切れるかとジョーカーも思い始めた。その時……

 

 

 

 

「うわあぁッ!!」

 

 

 

 

ジョーカー『ッ?!』

 

 

不意に横から子供の悲鳴が響き、ジョーカーが幻魔達から視線を外してそちらを見ると、其処には肩から一筋の血を流して幻魔達に建物の壁際へと追い詰められている男の子の姿があったのだ。

 

 

ジョーカー『なっ?!おい待て!止めろぉッ!』

 

 

―バキイィッ!―

 

 

『オガアァッ?!』

 

 

男の子が襲われている光景を見たジョーカーは顔色を変え、すぐに周りの幻魔達を払って走り出し男の子を囲む幻魔達を殴り飛ばし、男の子に駆け寄った。

 

 

ジョーカー『おい、大丈夫か?!立てるか?!』

 

 

「えっ…う、うん…」

 

 

ジョーカー『そうか……だったら今の内に早く逃げろ。急げ!』

 

 

「う、うん……ありがと……!」

 

 

男の子はジョーカーに礼を言って肩を抑えながら走り出し、男の子が逃げたのを確認したジョーカーは仮面越しに怒りの表情を浮かべながら幻魔達を睨みつけていく。

 

 

ジョーカー『テメェ等……あんな子供にまで手を出しやがって……絶対許さねぇッ!』

 

 

あんな子供を何の戸惑いもなく傷付けた幻魔達に怒りを覚えつつ、ジョーカーはバックルにセットされていたジョーカーメモリを引き抜き右腰のスロットにメモリをセットしていった。

 

 

『JOKER!MAXIMAM DRIVE!』

 

 

電子音声と共にジョーカーはゆっくりと腰を屈めていき、右足に膨大なエネルギーを溜め込んで幻魔達へと飛び上がり、そして……

 

 

ジョーカー『ライダーキック……ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『グ、グアァ…グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァーーーーーアンッ!!!―

 

 

ジョーカーの放った必殺技、ライダーキックが幻魔達へと炸裂し、幻魔の大群の半分以上が断末魔を上げて爆発していったのだった。それを見た残りの幻魔達はジョーカーの力に恐怖してたじろぎ、そのまま一目散に逃げ出してしまう。

 

 

ジョーカー『ッ!待ちやがれ!テメェ等だけは絶対に逃がさねぇぞ!』

 

 

このまま幻魔達を逃がしてしまえば、また奴らが街に現れて人々を襲う可能性が高い。そうなる前に此処で全部倒さなければと、ジョーカーが慌てて幻魔達を追おうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『STRIKEVENT!』

 

 

『ギャオォォォォォーーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

『ッ?!グ、グオアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ジョーカー『?!なっ……うおあぁッ?!!』

 

 

突如、逃走を謀ろうとした幻魔達に向けて何処からか漆黒の獄炎が襲い幻魔達を焼き尽くし、幻魔達に追い付き掛けていたジョーカーもそれに巻き込まれて吹っ飛ばされてしまったのだ。そしてジョーカーがふらつきながら起き上がってその攻撃が放れてきた方に振り返ると、其処には黒いドラグクローを構えた龍騎に似た黒いライダーが立っていた。

 

 

ジョーカー『な、なんだ?誰だアンタ?』

 

 

『―――イクサとファムを差し向けてデータを取ろうとしたけど、全然役に立たなかったみたいだね……やっぱり直接戦ってやるしかないか』

 

 

ジョーカー『あ?何言って……』

 

 

いきなり現れて幻魔達を倒した黒いライダーの発言にジョーカーは訳が分からず首を傾げるが、黒いライダーはそれに構わずバックルのカードデッキから一枚のカードを抜き取り、左腕のバイザーへと装填しベントインした。

 

 

『SWORDVENT!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時に黒いライダーの近くにある窓ガラスから黒いドラグセイバーが飛び出し、黒いライダーはそれを手に取ると切っ先をジョーカーへと向けていく。

 

 

ジョーカー『なっ…おい!なんのつもりだ?!』

 

 

『なんのつもり?決まってるだろう。君が僕達組織の脅威になるかどうか試させてもらうだけさ……異世界のダブル君ッ!』

 

 

黒いライダー……リュウガはドラグセイバーの切っ先を向けられて動揺するジョーカーにそう叫ぶと共に、ドラグセイバーを振るってジョーカーに襲い掛かっていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

アストレア『テアァッ!!フンッ!!』

 

 

アンジュルグ『フッ!ハッ!』

 

 

―バキィ!!ドゴォ!!―

 

 

『グボオォッ?!』

 

 

そして場所は戻り、ディケイド達が戦っている公園ではライダー達と幻魔の戦いが徐々に激しさを増していた。ディケイドは鬼王と、ディエンドはアストレアとアンジュルグと共にツボを狙って襲って来る幻魔達を得意のボクシングスタイルで殴り飛ばしていた。

 

 

ディエンド『フッ!ハッ!……チッ、やっぱり数が多いな。此処は彼等に任せるとしようか』

 

 

一々幻魔達を相手にするのに飽きてきたのか、ディエンドはそう言いながら左腰のカードホルダーから二枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:BARON!AGITO!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

電子音声と同時に引き金を引くとディエンドの目の前を無数の残像が駆け巡り、それ等がそれぞれ重なると一つは刃山 翔が変身する仮面ライダーバロン、もう一つは黄金のボディと赤い瞳を持ったライダーであるアギトとなって姿を現し、ディエンドは更にホルダーから二枚のカードを取り出しドライバーへと装填していった。

 

 

『FORMRIDE:BARON!PHOENIX!FORMRIDE:AGITO!THUNDER!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

『グッ?!』

 

 

電子音声と共にディエンドがバロンとアギトに向けて発砲すると、バロンはフェニックスフォーム、アギトはシャイニングフォームのボディに稲妻の文様が浮かび、白と黄色を基調させた姿をしたサンダーフォームへとフォームチェンジし、二人はそれぞれの武器を構えながら幻魔の大群へと向かっていった。

 

 

ディエンド『後はアレに任せておけばいいかな。この隙に俺はトンズラ『そうはさせんッ!』うおっ?!』

 

 

バロンとアギトが幻魔達を抑えている間に逃げようとするディエンドだが、そうはさせまいと龍王が刀を振りかぶって背後からディエンドへと斬り掛かり、ディエンドはギリギリでそれを回避し龍王から距離を取っていく。

 

 

ディエンド『あっぶねぇ……いきなり後ろから斬り掛かるなんて、君って武士のクセに案外卑怯だね?』

 

 

龍王『貴様にだけは言われたくない!そんな事より、そのツボを返せッ!』

 

 

ディエンド『ふぅ……返せ返せってうるさいなぁ……そんな君には、代わりにコレをプレゼントしよう』

 

 

刀を構えて睨んでくる龍王にそう言うと、ディエンドはホルダーから再び二枚のカードを取り出しディエンドライバーへとセットしてスライドさせた。

 

 

『TOUHOURIDE:YOUMU!INDXRIDE:KAORI!』

 

 

ディエンド『そら、いってらっしゃい』

 

 

そう言ってドライバーの引き金を引くとディエンドの目の前に無数の残像が現れて辺りを駆け巡り、それらがそれぞれ重なると一つは小柄な体に長めと短めの刀を一振りずつ持った白髪の女の子、もう一つは二メートル近い太刀を構えた黒髪のポニーテールの女性となって姿を現した。

 

 

龍王『ッ?!な、なんだコイツ等は?!』

 

 

ディエンド『君にはちょうどいい相手だろう?んじゃ、楽しんでくれ♪』

 

 

突然現れた二人の戦士を見て龍王が驚愕する中、ディエンドは爽やかに微笑みながら龍王に指鉄砲を向けると二人の戦士……魂魄妖夢と神裂火織はそれぞれ太刀を構えながら龍王へと襲い掛かっていった。

 

 

―ガキィッ!ガキィンッ!ガキィンッ!!―

 

 

ディケイド『フッ!ハァッ!』

 

 

鬼王『チッ!ハッ!!』

 

 

その一方で、ディケイドはライドブッカーSモードを巧みに扱いながら鬼王の刀と激しくぶつかり合っていた。そして何度も刃をぶつけ合っていたディケイドと鬼王は互いの剣をせめぎ合わせ、一進一退の押し合いをしていく。

 

 

ディケイド『ッ!まさか、絢香が言っていた聖者がお前だったなんてなっ……』

 

 

鬼王『えぇ、私も貴方の事は予想外だったわ。まさかあの預言者が言っていた世界の破壊者が貴方だったなんてね』

 

 

ディケイド『何だ、鳴滝から聞いていたのか?だったら俺にもお前の話を聞かせて欲しいな……何故お前は幻魔に味方している?』

 

 

鬼王『そんなの関係ないでしょう?部外者の癖して、私達の問題に口を出さないで!!』

 

 

鬼王は自身の刀とせめぎ合わせていたライドブッカーSモードをディケイドごと押し返し、刀を両手で構えながら刀に膨大な力を注ぎ込んでいく。すると、刀が青い雷に包まれながら徐々にその形状を禍々しく変化させていき、雷を散らせる青い剣へと変わっていった。

 

 

鬼王『鬼武装……雷斬刀』

 

 

ディケイド『ッ!ほぉ……自在に武器を変えられるのか?なら……』

 

 

形状を変えた青い剣を構える鬼王を見たディケイドはそれに対抗しようとライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルへと装填してスライドさせていく。

 

 

ディケイド『こっちも本気で鬼退治と行くか。変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DEN-O!』

 

 

電子音声と共にディケイドは白と黒のライダースーツと赤いオーラアーマーを身に纏ってD電王に変身し、ライドブッカーSモードを振りかざして鬼王へと斬り掛かっていく。

 

 

―グガアァンッ!ギンッ!ガギイィンッ!!―

 

 

鬼王『チッ!中々力があるわねっ…!』

 

 

D電王『そいつはどうも。だが余り時間も掛ける訳にはいかないんでな……さっさと終わらせて話を聞かせてもらうぞ!』

 

 

鬼王の雷斬刀と刃を交えながら横目で妖夢と神裂に圧されている龍王を見つめてそう言うと、D電王は勢いよくライドブッカーを振りかざし、鬼王はそれを紙一重でかわしながら後方へと跳んでいった。それを見たD電王は直ぐさまライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせる。

 

 

『FORMRIDE:DEN-O!WING!』

 

 

電子音声が響くと同時にD電王のライダースーツの色が黒から金色へと変わり、更に白いオーラアーマーと白鳥の翼を象ったようなデンカメンが装着された電王ウィングフォームへと変わり、フォームライドと同時に両手に生成されたデンガッシャー・ハンドアックスモードとブーメランモードを左手に纏めて持つと右手でカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DEN-O!』

 

 

再度電子音声が響くと共にD電王はデンガッシャーを両手に構え直してエネルギーを注ぎ込み、鬼王もそれを見て周りに青い火花を散らせながら雷斬刀を両手で構え、刃に青い雷を纏わせていく。そして……

 

 

鬼王『鬼戦術っ……雷斬ッ!!』

 

 

D電王W『ハアァァッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!!!―

 

 

鬼王が雷斬刀を勢いよく振り下ろして無数の雷撃を放ったと同時にD電王もデンガッシャーをブーメランの如く投げ飛ばし、D電王のデンガッシャーと鬼王の雷撃が中心でぶつかり合った瞬間……

 

 

 

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーァアンッ!!!!!!―

 

 

『グッ?!ウグアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

 

 

 

D電王の放ったロイヤルスマッシュと鬼王の鬼戦術が正面から激突した瞬間巨大な爆発が巻き起こり、二人は爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされてしまい、D電王もその衝撃でディケイドに戻ってしまった。双方かなりのダメージを受けてボロボロだが、鬼王は気にも留めずといった様子で刀を杖代わりにして起き上がっていく。

 

 

ディケイド『ッ!おいおい、まだやる気なのか?いい加減諦めたらどうだ?』

 

 

鬼王『っ……まだよっ……私はまだ、此処で倒れる訳にはいかない!』

 

 

ディケイド『……はぁ……なにをそんな気張ってるのか知らんが、良いだろう。こっちもとことん付き合ってやるよ』

 

 

刀を構える鬼王を見てディケイドも仕方ないといった感じに溜め息を吐き、ライドブッカーをソードモードに切り替えて鬼王と対峙していく。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――お楽しみのところ悪いけど、そろそろ私も交ぜてもらっていいかしら?」

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

 

 

ディケイドと鬼王の横から不意に女性の声が響き渡り、突然聞こえてきたそれに二人は思わず構えを解いて声がした方へと振り返っていく。すると其処には一人の女性……翔一を置いてコンビニに行った筈の冥華がこちらに歩み寄ってくる姿があった。

 

 

ディケイド『?何だ?』

 

 

鬼王『……誰よ、貴方?』

 

 

冥華「あぁ、気にしなくていいわ。別に貴女に用はないから。私が用があるのは……そっちの彼よ」

 

 

ディケイド『は……俺?』

 

 

自分を指差して用があると告げた冥華にディケイドは困惑してしまうが、冥華はそんな反応を他所にディケイドと向き合っていく。

 

 

冥華「一応名前は名乗っておくわ……私は紫音冥華、再誕の神よ。よろしくね、零?」

 

 

ディケイド『再誕の神……だと?というか、何で俺の名前を知って……?』

 

 

冥華「前から知ってるわよ?貴方が仲間と一緒に旅をしてる所を何度も見てるしね」

 

 

そう言いながら冥華は何処からかドライバーのような機械を装着してディケイドへと近づいていき、腰に手を当ててディケイドを見据えながら口を開く。

 

 

冥華「さて、まどろっこしい話は止めにしてそろそろ本題に入らせてもらうけど……零、私と戦いなさい」

 

 

ディケイド『ッ?!何だと?どういう意味だ?』

 

 

冥華「そのままの意味よ。貴方の今の実力を試す……零、あなたを見定めさせてもらいましょう……鎧装、フルドライブ」

 

 

いきなり戦えと言われ動揺するディケイドを他所に、冥華はそう呟くと共にその姿を変えていった。全身に様々な武器を装備した機械的な鎧を纏い、背中に巨大な翼を持ったライダーとは別の黒い戦士へと冥華は姿を変えたのである。

 

 

ディケイド『?!変わった?だが、ライダーじゃない……?』

 

 

『そう、私はライダーじゃない……これはイノセント・インフィニティア……私の世界に現れたアークに対抗する為に作られたAAW(アンチアークウェポン)よ』

 

 

ディケイド『?イノセント・インフィニティア?アンチアークウェポン?』

 

 

黒い鎧…イノセント・インフィニティアを纏った冥華が言い放った聞き慣れない単語に思わず首を傾げてしまうディケイドだが、冥華はそれに構わず戦闘態勢に入っていく。

 

 

ディケイド『ッ!ちょっと待て!本気で戦うつもりなのか?!』

 

 

冥華『当然でしょう?さぁ、早く構えなさい』

 

 

ディケイド『だから待て!いきなり初対面の人間から戦えと言われても、はい分かりましたって頷けるわけないだろう?!もうちょっと話を聞かせて――』

 

 

冥華『因みに断れば貴方を一秒でズタボロのボロ雑巾にして、地獄の四丁目をぶらり旅させた後に貴方と他の女の子がいちゃついている捏造写真を貴方の世界の仲間達がいる写真館に送り付けるから♪』

 

 

ディケイド『……え?俺に拒否権無し?てか今ので分かったがコイツももしかしてドS神?……ハハハハッ……また変な女に捕まってしまった……(泣)』

 

 

よし決めた。もう金輪際神頼みなんか絶対しねぇ!!とディケイドが内心頭を抱えながら強く決意すると共に、冥華が何処からか巨大な大剣のような武器を取り出しながら地を蹴りディケイドへと斬り掛かっていったのだった。

 

 

アンジュルグ『ッ?!零!』

 

 

アストレア『ちょ、待ってアズサ?!お姉ちゃん置いていかないでよぉっ!!』

 

 

隣で幻魔と戦っていたアンジュルグは冥華に圧されるディケイドを見て助けに入ろうと駆け出し、アストレアもそんなアンジュルグを追って走り出した。が……

 

 

―バッ……―

 

 

アンジュルグ『……え?』

 

 

アストレア『へ?』

 

 

ディケイドの元に向かおうとした二人の目の前に突然一人の少女が現れ、二人の目の前に立ち塞がったのであった。

 

 

アンジュルグ『?貴方……誰?』

 

 

「……ふふ、こうして会うのは始めてだな。ルミナ姉さん、アズサ姉さん」

 

 

アストレア『え?ね、姉さんって……まさか?!』

 

 

アストレアとアンジュルグを姉さんと呼ぶ少女にアストレアは何かに気付いたのかまさかといった表情を浮かべ、少女はそんなアストレアの様子に笑みを漏らしながら腰にベルトのような物を出現させた。

 

 

「姉さん達には悪いけど、冥華の邪魔をさせる訳にはいかないからな。暫く私の相手をしてもらうぞ………変身!」

 

 

『CHANGE ZEO』

 

 

腰に現れたベルトから電子音声と共に光が走り、少女の身体を包み込んでいく。そして徐々に光が収まっていくと、そこにはグレートゼオライマーのような姿をした白いライダーがとてつもない威圧感を放ちながら二人の目の前に立ち構えていた。

 

 

アンジュルグ『ッ?!変身した……?!』

 

 

アストレア『ま、まさかあれって……じゃあアンタは?!』

 

 

『そう、私は冥華のデータをアズサ姉さんの素体に応用して作られたβ2nd……メルティア……又の名を、仮面ライダーゼオです』

 

 

『ッ?!』

 

 

少女……メルティアが変身したライダー、『ゼオ』がそう自分の正体を明かすとアストレアとアンジュルグは驚愕の表情を浮かべて息を拒み、ゼオはそれを他所に両腕をゆっくりと構えていく。

 

 

ゼオ『さて、先ずは挨拶代わりに……デッド・ロン・フーン』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

軽い口調でそう呟くと共にゼオの身体から人間の全長を軽く越える六つの巨大な竜巻が砲撃のように撃ち出され、アストレアとアンジュルグはそれに驚愕しつつも横に転がって何とか回避し、回避された竜巻はそのまま幻魔達へと向かっていき、そして……

 

 

 

 

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!!!!!―

 

 

『ギ、ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!?』

 

 

『ッ?!グッ!ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ゼオの放ったデッド・ロン・フーンが幻魔達へと直撃すると同時に、公園全体にまるで大型台風の様な強風を巻き起こしながら巨大な爆発が発生し、幻魔達だけでなく二人や近くで戦っていたディエンド達をも吹っ飛ばしていったのだ。それを見たゼオは不思議そうに首を傾げ、自身の身体を見下ろしていく。

 

 

ゼオ『?あ、力加減間違えてましたか。えぇっと……パワーを20%から02%に落としてっと……これで互角かな?』

 

 

アストレア『クッ?!ちょ、何なの今のチート攻撃っ?!』

 

 

アンジュルグ『ッ……あの子のスペック……私達よりハイスペックに作られてる……多分冥華って人のデータを私の素体に応用してるからっ……』

 

 

圧倒的な攻撃力を見せ付けたゼオにアストレアとアンジュルグは警戒を強めながらそれぞれ武器を取り出しゼオに向けて身構え、設定の変更を終えたゼオは戦闘を再開したディエンド達を一度見ると二人に視線を戻していく。

 

 

ゼオ『さて、こっちもそろそろ始めましょう。ちゃんと手加減はしますから安心して下さいね、姉さん達』

 

 

『クッ!』

 

 

そう言いながらゼオは二人に向けて軽く構えを取り、アストレアとアンジュルグはゼオの放つ威圧感に呑まれそうになりながらもそれを振り切るようにゼオへと斬り掛かっていった。

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑤(中編)

 

その一方、街中ではリュウガと戦っていたジョーカーが不利な状況に立たされていた。

 

 

元より相手の能力がジョーカーを上回っているというのもあるが、リュウガは元々の身体能力がライダーの力に反映されているという事もあり、ジョーカーは防戦一方のまま追い詰められていた。

 

 

―ガキイィンッ!!―

 

 

ジョーカー『ガハァッ!』

 

 

リュウガ『……どうしたんだい?もっと向かってきなよ。そんなんじゃデータも取れないだろう?』

 

 

ジョーカー『ッ!ヤロウッ……だったら痛いのを一発喰らわせてやるよ!』

 

 

『TRIGGER!』

 

 

リュウガの挑発に乗せられ、ジョーカーは態勢を立て直しながらそう言うと何処からか青いメモリ……トリガーメモリを取り出してスイッチを押し、バックルのジョーカーメモリを抜いてトリガーメモリをセットしSの形に展開した。

 

 

『TRIGGER!』

 

 

バックルから響く電子音声と共にジョーカーの身体の色が変化していき、左胸に青い銃を取り付けた青いボディの戦士……仮面ライダートリガーへと変わったのであった。それを見ていたリュウガは興味深そうな声を漏らし、トリガーはその間に左胸の銃……トリガーマグナムを手に取ってドライバーからトリガーメモリを抜き取り、トリガーマグナムへと装填した。

 

 

『TRIGGER!MAXIMUM DRIVER!』

 

 

電子音声が響くとトリガーはトリガーマグナムの銃口をリュウガへと向けていき、それと共にトリガーマグナムの銃口にエネルギーが溜められ、そして……

 

 

トリガー『コイツで決める……ライダーシューティングッ!ハァッ!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

トリガーがトリガーマグナムの引き金を引くと同時に銃口から青い閃光が撃ち出され、そのまま猛スピードでリュウガへと向かっていき……

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

トリガーの放った必殺技、ライダーシューティングがリュウガへと放たれ、リュウガは閃光を避ける事なく直撃を受けて爆発に飲み込まれていったのだった。

 

 

トリガー『ヘッ、コイツでジ・エンド……だな』

 

 

リュウガに必殺技が直撃したのを確認したトリガーはトリガーマグナムを回転させ、リュウガを飲み込んだ爆炎を見つめていく。炎の中からリュウガが出てくる様子はない。恐らく今ので倒せたのだろうとゆっくり構えを解き、そのままその場を去ろうと歩き出した。しかし……

 

 

 

 

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

トリガー『ッ?!なっ……ぐあぁ?!』

 

 

突如爆発の中から電子音声が響き渡り、それと同時にトリガーの横に存在する窓ガラスから一体のサイのようなモンスター……メタルゲラスが飛び出し、完全に油断していたトリガーへと体当たりして吹っ飛ばしてしまった。更に……

 

 

 

 

『ADVENT!』

 

 

『グガアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

トリガー『?!―ガキィンッ!―ウグアァッ!』

 

 

再び電子音声が鳴り響き、メタルゲラスに吹き飛ばされたトリガーの背後にある窓ガラスから更にもう一体のモンスター……デストワイルダーが出現してトリガーを殴り飛ばしてしまう。そしてそれと共に、爆炎の中からトリガーの必殺技を受けた筈のリュウガが全くの無傷の状態で現れた。

 

 

トリガー『グッ……ッ?!馬鹿な……無傷だと?!』

 

 

リュウガ『フフッ……詰めが甘かったね。あの程度の攻撃で僕を倒せると思ったのかい?』

 

 

自身の必殺技を受けたにも関わらず、平然としているリュウガを見て驚愕を隠せないトリガー。リュウガはそんなトリガーを見て怪しげに微笑みながらバックルのカードデッキから一枚のカードを抜き取り、ダークドラグバイザーへとセットしベントインする。

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

電子音声が響くとリュウガの真横のガラスから一本の剣……ベノサーベルが飛び出してリュウガの左手へと握られ、右手に持つドラグセイバーを握り直しながらメタルゲラスとデストワイルダーを引き連れトリガーに近づいていく。

 

 

トリガー『ッ!クソッ……せめてダブルになれればまだ何とかなったかもしれないが……ないモノねだっても仕方ねぇか…!』

 

 

此処に来て自分の力だけではリュウガに勝てないと漸く悟るトリガーだが、だからと言ってこのまま黙ってやられる訳にはいかない。

 

 

近づいてくるリュウガ達を見て一度毒づくと、トリガーはふらつきながら立ち上がりロストドライバーからトリガーメタルを抜き取り透明なメモリをドライバーへと装填した。

 

 

『METAL!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にトリガーのボディが青から白銀のボディへと変化し、背中に銀色のロッドを装備した仮面ライダーメタルに変わっていった。

 

 

リュウガ『無駄な事を……パートナーのいない君一人で、僕に敵う訳がないだろう?』

 

 

メタル『あぁ、そうかもしれねぇな。だが、俺もこのまま黙ってやられる訳にはいかないんでねぇ!!』

 

 

優越感に浸って余裕の発言を放つリュウガにそう言うと、メタルは背中に装備された銀色のロッドのような武器……メタルシャフトを引き抜いて構え、リュウガ達に向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

一方、公園は突然乱入してきた冥華とゼオにより乱戦と化していた。それぞれが激しく激突する中、アストレアとアンジュルグもゼオが無数に撃ち出す竜巻の嵐を必死に回避していた。

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

アストレア『ひょわぁ?!ちょ、本当にあれで1/10の攻撃力なわけ?!どんだけ戦闘力高いのよあの子はぁ!!』

 

 

アンジュルグ『……確かに攻撃力は高いけど……狙いが甘すぎる上に何処か戦いに不慣れな感じがする……多分あの子、ロールアウトされてからまともな訓練を受けてないんだと思う……』

 

 

アンジュルグはゼオの放つデッド・ローン・フーンをかわしながらゼオの能力を冷静に分析していき、一度考える仕草を見せると隣で走るアストレアに呼び掛けていく。

 

 

アンジュルグ『……ルミナお姉ちゃん、ちょっと力を貸して……』

 

 

アストレア『……へ?』

 

 

アンジュルグに呼び掛けれ間抜けな声をあげてしまうアストレア。アンジュルグはそんなアストレアに自分が今考えた作戦を説明し、アストレアがそれを理解して承知すると二人は足を止めてゼオと向き合っていく。

 

 

ゼオ『(…?足を止めた?もしかして逃げるのを諦めたのか?)……だったら、アトミック・クエイク!』

 

 

足を止めた二人を見て好機に思ったゼオは竜巻を放つのを止め、今度は両足からアスファルトの地面に向けて膨大なエネルギーを流し巨大な大地震を巻き起こしていく。

 

 

ゼオの足元から流れる膨大なエネルギーによって半径数十メートル先までのアスファルトの地面がひび割れていき、アンジュルグとアストレアも自分の足元が崩れ落ちていくのに気付くと背中の翼を広げ、上空へと逃げていく。

 

 

ゼオ『そう来ると思った!シュートッ!!』

 

 

―ドシュドシュドシュドシュドシュドシュッドシュドシュドシュウゥッ!!!―

 

 

アンジュルグ達が上空へと逃げる姿を見てゼオは仮面超しに予想通りと笑いながら全身から無数のミサイルを乱射し、二人に向けて撃ち出していった。

 

 

それを見たアンジュルグ達は翼を羽ばたかせて上下左右に上空を駆け回りながらそれぞれが持つ射撃武装でミサイルを次々と撃ち落としていき、二人がミサイルの処理に手間取る隙にゼオは瞬間移動を使って瞬時に二人の後ろに回り込み両腕を振り上げた。

 

 

アストレア『っ?!しまっ……!!』

 

 

ゼオ『残念でしたね姉さん達!お二人にはこの辺りでご退じょ――――!』

 

 

 

 

 

 

 

 

―ブウゥンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼオ『……へ?』

 

 

だが、勝利を核心して二人を掴み取ろうと振り下ろした両腕は、二人に触れる事はなかった。

 

 

何故ならゼオの両手が二人に触れた瞬間、二人は突然ノイズを走らせながら虚空へと消えてしまったからである。

 

 

ゼオ『え……え?消えた?なん……『ヤアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』……ッ?!』

 

 

突然消えてしまった二人に動揺を隠せないゼオの背後から二つの声。その叫びを聞いてすぐに、ゼオは自身の周りにバリアを展開させながら慌てて背後へと振り返った。

 

 

―ガキイィィィィィインッ!!―

 

 

アンジュルグ『クッ…!』

 

 

アストレア『チッ?!防がれたっ……!』

 

 

展開したバリアに激突したのは、先程消えた筈のアンジュルグとアストレアが振り下ろした剣の刃。

 

 

ギギギギッ!と二人の剣が未だバリアとせめぎ合う中で、ゼオは防御が間に合った事に対して仮面の下で密かに安息の息を漏らした。

 

 

ゼオ『全く、まさか分身を使ってくるとは……少し驚きました。そういえば分身はアズサ姉さんの能力の一つでしたね』

 

 

先程自分が攻撃していた二人の分身を思い出しながらそう呟くと、ゼオは瞬時にバリアから両手を出し二人の手を掴み取った。

 

 

ゼオ『ですが此処までです……この距離なら、いくら姉さん達でも回避も分身も出来ないでしょう!』

 

 

『ッ!!』

 

 

二人の手を掴み取りながらトドメを刺さんと言わんばかりに再び風を集約させ、二人に竜巻を放とうとするゼオ。

 

 

それに気付いたアンジュルグとアストレアは回避行動を取るためにゼオの手から逃れようとするが、まるで岩と岩の間に手を挟まれているかのようにビクともしない。

 

 

そしてその間にも、ゼオはエネルギーの集束を終えて二人に照準を向けていく。

 

 

ゼオ『今度こそ終わりです!吹き飛べ、デッド・ローン――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼオ『……え?―ドガアァァァァァァァアンッ!!―ウアァァッ?!』

 

 

 

 

目の前の二人に向けて竜巻を撃ち出そうとしたゼオの背後から、突如周りに展開していたバリアを貫通して背中に何かを撃ち込まれた。

 

 

それによりゼオはバランスを崩してグルッと視界の景色が変わり、背中を地上に向けながら落下していってしまう。その途中……

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュルグ『……作戦、成功……』

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼオ『…なっ?!』

 

 

 

 

 

落下する途中で何故か遥か上空にアストレアと共にいる筈のアンジュルグとすれ違い、ゼオは遠く離れていくアンジュルグを見て全てを理解した。

 

 

ゼオ(もしかして、さっきルミナ姉さんと一緒に私に不意打ちを仕掛けたアズサ姉さんも分身?!なら今の攻撃は本物のアズサ姉さんが撃った攻撃か?!クッ!)

 

 

最初からコレを狙っていたのかと、今になってやっと気付くゼオ。

 

 

完全に油断していた、ゼオの巨大な力を過信し過ぎたと。ゼオは先程までの自分に内心反省しつつ、とにかく今の状況を打破するために落下したまま態勢を立て直そうと上半身を強引にあげていく。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

アンジュルグ『――コード……ファントムフェニックス×10……』

 

 

ゼオ『……へ?ってぇ?!ちょ、ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーッッ!!!?』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

アストレア『え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!?』

 

 

 

態勢を立て直そうとしたゼオに向けてアンジュルグが容赦なくファントムフェニックス×10を放ち、ゼオはバリアを展開するヒマもなく十匹の不死鳥達に飲み込まれながら遥か地上へと叩き付けてられていったのだった。

 

 

その場面を見たアストレアはいきなりの出来事に思わず絶叫を上げ、慌ててアンジュルグの下まで降りて声を荒げた。

 

 

アストレア『ちょ、アズサ?!アンタいきなり何やってんのッ?!』

 

 

アンジュルグ『?……追い打ち……』

 

 

アストレア『しれっと言ったよこの子ッ?!っていうかアンタそんなキャラだったっけ?!仮にも実の妹に何を――!!』

 

 

アンジュルグ『大丈夫……ちゃんと非殺傷に設定してある……それに妹でも今のあの子は敵だし……仕留め損なった相手には後腐れが残らないように追い打ちを掛けて確実に殺る……コレ、裏の世界じゃ常識……』

鳴滝の命令によって裏世界での生活を余儀なくされ、様々な組織や組と対立して潰した経験アリ。

 

 

アストレア『……アッ……アハハハッ……お姉ちゃん……アンタの将来がちょっと心配になってきたよ……』

 

 

キュピーンッと複眼を輝かせながら淡々とした口調でそう告げるアンジュルグに、初めて姉らしく妹の将来に密かに不安を感じ始めるアストレアであった。

 

 

 

 

 

 

 

因みに地上へと落とされたゼオは……

 

 

 

ゼオ『イッタタタッ……アズサ姉さんはホントに容赦ないなぁ……えと、超高速自己修復機能を作動させてっと……』

 

 

アンジュルグの必殺技を十発も受けて中傷の傷を負っていたが、自己修復機能を作動させてみるみる内に傷を直していたとか……

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑤(後編)

 

 

冥華『フンッ!』

 

 

―ガキィンッ!ドガァッ!ギギィッ!!―

 

 

ディケイド『グッ!ハアァッ!』

 

 

そしてその近くではディケイドと冥華が互いに武器をぶつけ合い一歩も譲らずの戦いを続けていた。しかしディケイドは冥華が素早く繰り出す重い剣撃に徐々に圧されていき、徐々に防戦へと追い込まれつつあった。

 

 

冥華『フッ!……どうしたのディケイド?貴方の力はその程度なのかしら?』

 

 

ディケイド『チィッ…化け物並の腕力で斬り掛かってくる癖に、よく言う!』

 

 

全く疲労した様子を見せずに大剣……ジャッジメントブレードを振りかざす冥華とは対照に、先程の鬼王との技対決で既に限界が近いディケイド。このまま長期戦に持ち込めば完全に追い込まれる。そう考えたディケイドは冥華が横薙ぎに振りかざしたジャッジメントブレードを飛び越えて避け、受け身を取りながらライドブッカーから取り出したカードをドライバーに装填した。

 

 

『KAMENRIDE:LUNATIC!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドの身体が光に包まれながら変化していき、右手に巨大なライフルを持ったライダー、以前ファイズの世界で助けてもらった紫が変身するルナティックへと変わり、Dルナティックは更にもう一枚ライドブッカーからカードを取り出してディケイドライバーに装填した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:LU・LU・LU・LUNATIC!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDルナティックはルナティックライフルの照準を冥華へと合わせ、銃口に膨大なエネルギーを注ぎ込んでいく。対して冥華はそんなDルナティックを見て興味深そうに頷くと、それに対抗するように巨大なカノン砲……カオスブラスターを構えて銃口にエネルギーを溜めていき、そして……

 

 

Dルナティック『是空陣・五重っ……コイツでッ!』

 

 

冥華『カオスブラスター、シュートッ!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

互いに向けて引き金を引くと共に二つの閃光が中央で激突し、エネルギーの塊が風船のように膨らんで巨大な爆発を巻き起こしたのであった。必殺技同士の激突で爆風が発生し、冥華はそれに吹き飛ばされないように踏ん張っていた。その時……

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

冥華『ッ?!』

 

 

爆風の何処からか聞こえてきた電子音声。それを耳にした冥華がその音声が聞こえた頭上へと顔を上げると、其処には冥華に向かって展開されていくディメンジョンフィールドと跳び蹴りの態勢でフィールドを潜り抜けてくるディケイドの姿があった。

 

 

ディケイド『セアァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーッ!!!』

 

 

冥華『―――爆風に紛れて私を仕留めるつもり?甘いわよ零ッ!!』

 

 

―ガキィィンッ!!―

 

 

ディケイド『ッ!グウゥッ?!』

 

 

冥華はそう叫びながら再びジャッジメントブレードを取り出し右手に構え、自身にディメンジョンキックを打ち込もうとしたディケイドの右足をブレードで弾いて吹っ飛ばし、ディケイドは必殺技を不発に終わらせられそのまま冥華の頭上を飛び超えるように吹っ飛ばされた。次の瞬間……

 

 

ディケイド『クッ……つああぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

冥華『…?!―ガキィンッ!―グッ?!』

 

 

冥華の頭上を飛び越えようとしたディケイドは空中で強引に態勢を変え、左腰のライドブッカーを瞬時にSモードへと切り替えて破れかぶれにと冥華に真上から突きを放っていったのだ。冥華は思わぬ反撃に驚きつつも上体を逸らして直撃を避けるが、避けられたライドブッカーの刃が冥華の右肩を僅かに傷付け、ディケイドはそのまま地面を転がりながら態勢を立て直していく。

 

 

ディケイド『っ……やっとお前に傷を負わせられたなっ……』

 

 

冥華『っ……破れかぶれにしてはまあまあね。でも、この程度の傷じゃ私は倒れないわよ?』

 

 

ディケイド『だろうな……お前の腕はまだまだこんな物じゃないんだろう?長く教導官をやってきた性か、剣を交えただけで何となく分かった……』

 

 

冥華『へぇ、中々見る目があるじゃない。なら傷を付けてくれた礼として、少し本気を出してあげるわ!』

 

 

ディケイド『ッ!全然嬉しくない礼だなぁッ!』

 

 

互いに叫ぶと共にディケイドは再びライドブッカーSモードを構え直して冥華に向かって駆け出し、冥華もジャッジメントブレードを構えてディケイドへと突進し、二人は再び激しく鉄の音を響かせながら剣をぶつけ合っていった。

 

 

―ガキィンッ!ギィンッ!グガアァンッ!―

 

 

龍王『グゥッ?!ハアァッ!』

 

 

一方その頃、ディエンド達と戦っていた龍王は妖夢達のコンビネーションに翻弄されて徐々に圧され始めていた。そしてディエンドもトドメを刺す為にホルダーから最後のカードを取り出しディエンドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

電子音声と共にディエンドライバーの銃口の周りにディメンションフィールドが展開し、ディエンドが引金を引くと強力な銃弾が放たれ、軌道上にいた妖夢達も銃弾に吸収され龍王へと突っ込んでいき、そして……

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

龍王『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!?』

 

 

絢香『ッ!紗耶香さんッ!』

 

 

銃弾は龍王に直撃し、龍王はそのまま後方へと吹っ飛ばされながら変身が解除され紗耶香に戻ってしまったのだ。それを木の影で見ていた絢香は思わず紗耶香の下に駆け出して紗耶香の体を抱き起こしていき、ディエンドはドライバーを下ろして二人に呼び掛けていく。

 

 

ディエンド『さて、コレでもう終わりってことで良いだろう?君もそんなんじゃ戦えないだろうし』

 

 

紗耶香「ッ!ふざけるなっ……私はまだっ……戦えるっ……!」

 

 

絢香「だ、駄目です紗耶香さん!!そんな体では無茶です!!」

 

 

ボロボロの身体を無視して再度龍王に変身して戦おうとする紗耶香を横から止めに入る絢香。そんな紗耶香を見てディエンドはめんどくさそうに溜め息を吐き、威嚇射撃を放ってその隙に戦線を離脱しようとディエンドライバーの銃口を紗耶香の足元に向けた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

『――鬼戦術……雷閃ッ!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

突然横から青い雷撃が放たれディエンドに襲い掛かり、ディエンドはそれにいち早く気付くとすぐさま地面を転がって雷撃を回避し、それが撃たれてきた方へと振り返っていく。そこには青い槍のような武器を突き出すように構える戦士……鬼王の姿があった。

 

 

絢香「桜香さん?!」

 

 

ディエンド『……何の用かな?今忙しいんだけど?』

 

 

鬼王『決まってるでしょ?そのツボを渡しなさい……それは貴方みたいな泥棒が持ってても意味はないわ』

 

 

ディエンド『フッ……それはどうかな?少なくとも、勝てもしない無謀な挑戦をしようとする君よりはマシだと思うけど?』

 

 

鬼王『ッ?!減らず口をッ!』

 

 

何かを見透かすような発言をしたディエンドに鬼王は怒鳴り声を上げ、青い槍を両手に構えながらディエンドへと斬り掛かっていく。ディエンドは鬼王の放つ槍を軽く避けながら後退していき、ドライバーを使って鬼王に打撃を与えていく。しかし……

 

 

鬼王『うぁうっ!?グッ……うあぁッ!!』

 

 

―ガキィィィィインッ!―

 

 

ディエンド『…ッ!?』

 

 

鬼王の武器がディエンドの右手に命中し、その衝撃でツボが吹っ飛んでいったのだ。そしてそれを見た鬼王はチャンスと思い、吹っ飛んだツボを見上げるディエンドを蹴り飛ばして上空へと高く跳び上がり、ツボを掴み取ろうと腕を伸ばした。だが……

 

 

ディケイド『くっ……ッ!やらせるかッ!』

 

 

―ズドンッ!―

 

 

鬼王『?!なっ?!』

 

 

鬼王の手があと少しでツボに触れようとした瞬間、近くで冥華と戦っていたディケイドがそれを見てすぐにライドブッカーをGモードへと切り替えてツボを狙い撃った。それによりツボは鬼王から大きく離れ、その隙にディケイドは冥華を無視して上空へと跳び上がりツボをキャッチして地上へと着地した。

 

 

ディケイド『……コイツは返してもらったぞ』

 

 

鬼王『くっ?!か、返しなさい!それは……!』

 

 

ディケイド『返すも何も、コレはもともと絢香達の物だろう?だったらお前に渡す道理はない』

 

 

鬼王『チィッ……だったら力付くで奪うまでよ!!』

 

 

そう言って鬼王はツボを奪い取ろうと槍を構え直してディケイドへと突っ込んでいき、ディケイドもそれに応戦しようとライドブッカーGモードの銃口を鬼王に定めていく。がその時……

 

 

 

 

 

―…………………パキッ…ピシピシピシッ……―

 

 

鬼王『……!?』

 

 

ディケイド『……は?』

 

 

不意にその場に何かがひび割れるような音が響いた。それを耳にしたディケイドと鬼王、更に近くで戦っていたアンジュルグ達も動きを止め、一同がその音を辿ってディケイドの手を見つめていくと……ディケイドの手に握られているツボが先程ライドブッカーで撃たれた箇所から亀裂が走っていた。そして……

 

 

―ピシピシピシィッ……パキッ……バリイィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

ディケイド『……あ……』

 

 

『んなっ…?!』

 

 

ツボ全体にヒビが行き渡ると共に、ツボは見るも無惨に粉々に砕け散っていったのだった。

 

 

ディケイド『…………………………………』

 

 

『…………………………』

 

 

一同突然の出来事に思わず硬直。周りが固まって動けない中、ディケイドは自分の手の平にある破片と地面に落ちた破片を交互に見た後……

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『――あっ悪い、壊れた』

 

 

『ちょっとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっっ!!!!?』

 

 

 

 

軽い調子でディケイドが謝ったと共に時が動き出し、公園中に絢香達の叫び声が響き渡ったのであった。

 

 

カリム「なっ、何やっちゃってるんですか零ッ?!」

 

 

ディケイド『いやぁ、咄嗟のことだったからつい……しかしまさかこんなに脆かったなんてな?俺もビックリしたぁ、ハハハハハッ』

 

 

シャッハ「ハハハじゃありませんッ!!」

 

 

紗耶香「き、貴様は本物の馬鹿かッ?!!何故ツボに銃弾など撃ち込むんだ馬鹿者ッ!!!見ろ!!壊れてしまったじゃないかッ?!!」

 

 

ディケイド『……ボンド付けて直せたりしないだろうか』

 

 

絢香「そういう問題じゃないんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっっ!!!!」

 

 

もうこの人目茶苦茶だぁ!とツボを壊してしまったにも関わらずボケた発言をするディケイドに絢香達も頭を抱えてしまう。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―……ブオォンッ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

 

 

突如ディケイドの手の平と地面に落ちた無数の破片がまばゆい光りを放ち始め、公園一帯を淡い光で照らし始めたのである。

 

 

カリム「こ、これは?!」

 

 

絢香「ま、まずい!封印が?!」

 

 

紗耶香「クッ!絢香様!!お下がり下さい!!」

 

 

ディエンド『この光は……神氣?成る程、神が封印されていたというのは嘘ではなかった訳か……』

 

 

絢香達はツボから放たれる光を見て騒ぎ出し、上空で戦っていたアンジュルグ達は光と共に放たれる強風に吹っ飛ばされないように堪え、ディエンドや冥華達は悠然と光の中で佇んでいた。そして鬼王は……

 

 

鬼王(――やっと……やっとこの日が来た!漸く幻魔神をっ……!)

 

 

鬼王は激しく輝く光を見つめながら仮面の下で険しい顔付きを浮かべ、右手の槍を力強く握り締めていた。そして光は無数の粒子と化してディケイドの頭上へと集まっていき、徐々に人の形を形成してその姿を現していく。それは……

 

 

 

 

 

 

『…………え?』

 

 

ディケイド『…………おん…………な…………?』

 

 

「……………」

 

 

 

 

 

 

光の中から姿を現した人物は……桜色と白を基礎とした派手な着物に、頭には冠のような金の装飾、そして腰まで伸ばした美しい黒髪を風で靡かせる……一人の人間の女性であった。

 

 

 



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番外編/異世界に跳ばされたもう一人の青年

 

 

黒月零達が桜ノ神の世界に飛ばされている頃、とある並行世界に存在する町では零と同じく一人の青年が飛ばされてきていた―――

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―???の世界―

 

 

とある並行世界に存在する何処にでもあるような町。様々な人達が街の中を行き交う一方で、街角にある小汚い路地裏ではある異変が起きていた。それは……

 

 

 

 

 

―……キイィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

 

 

 

誰もいない路地裏の上空に突如まばゆい光りが集まり始め、薄暗い路地裏を緑色の輝きで光り照らしていく。そう、その異変は黒月零がNXカブトの世界に飛ばされた時に起きたのと同じ現象だった。そして……

 

 

 

 

 

 

―キィィィィィィィィィィィィンッ……カッ!!―

 

 

優矢「―――え?……う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?」

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

緑色の光が徐々に収まって消えていくと、光の中から出て来た一人の青年………零と同じくハイパークロックアップによって何処かに飛ばされてしまった優矢が上空から落下し、そのまま路地裏の一角に置かれていたゴミ箱の山へと落ちてしまった。

 

 

優矢「ぁ……ぐっ……いっててて……な、何なんだよ一体っ……」

 

 

ゴミ箱の山に打ち付けてしまった後頭部を摩りながら、状況が理解出来ないままふらついて起き上がり周囲を見渡していく優矢。

 

 

優矢「……あれ?何処だよ此処?さっきまで写真館にいたはずなのに……おーい零!!みんなぁーっ!!」

 

 

何故写真館ではないこんな場所にいるのか分からないまま、零達を探して一同の名前を叫ぶ優矢。だが一同の声が返ってくる筈もなく、優矢は静寂な雰囲気が漂う路地裏でガクリと肩を落とした。

 

 

優矢「くそっ……一体どうなってんだよっ……此処が何処かもわかんねぇし……しゃーない……自分の足で調べるしかねぇか……」

 

 

此処が何処かは分からないが、こんな場所に居続けても意味はないだろう。こうなれば自分で此処が何処か調べて光写真館に帰るしかないと、優矢が町に出ようと歩き出した。その時……

 

 

 

 

 

 

―バチバチィッ……キィィィィィィィィィィィィンッ……カッ!!―

 

 

優矢「……え?―ドシャアァァァァァァァアッ!!―ウギャアァッ?!」

 

 

 

 

突然優矢の頭上に再び緑色の光りが発生し、光りの中から一台のバイク……優矢のバイクであるトライチェイサーが落下し真下にいた優矢を踏み潰してしまったのであった。

 

 

優矢「あがっ……うぅ……なんなんだよ次から次へと……もう嫌だぁぁぁぁぁっ……」

 

 

まだ何もしていないにも関わらず、いきなり落下してきたトライチェイサーに踏み潰されたまま涙を流して嘆く優矢だった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

数十分後、取りあえず優矢は写真館に帰る為に町へと飛び出し、トライチェイサーに寄り掛かりながら先程コンビニで買った地図を見て光写真館までの帰り道を調べていた。しかし……

 

 

優矢「――な、なんだこれ……どうなってんだ?」

 

 

我が目を疑うように地図を何度も見直し、思わずそう呟いてしまう優矢。地図を見たところによると、どうやらこの町はある島の上に存在する町であり、季節に関係なく桜が咲き誇るという。その地図の内容を見た優矢は信じられないという表情を浮かべながら地図を凝視して口を開いた。

 

 

優矢「何なんだよこれ……此処はカブトの世界じゃないのか?!」

 

 

地図を何度見直してみても、自分がカブトの世界で見た地図とは明らかに違う。信じ難い現実に優矢は地図を持つ手をダラリと下ろし、桜の花びらが舞う青空を仰いだ。

 

 

優矢「嘘だろおい……どうすんだよっ……これじゃあ帰ろうにも帰れねぇし……俺、別世界に行く方法なんか持ってねぇぞっ……」

 

 

カブトの世界とは違う世界に飛ばされたという現状は分かった。しかし、それが分かったところで自分にはどうすることも出来ない。自分には単独で別世界へと向かう手段は持っておらず、何時もは誰かの手助けがあって並行世界を行き来している。だから今はそんな人物がいない状況でカブトの世界に帰る事など、優矢自身に出来る筈もなかった。

 

 

優矢「………取りあえず、もう少しこの世界について調べてみっか……もし外史のライダーの世界なら、誰か知り合いがいるかもしれないし……」

 

 

諦めるのはまだ早い。もしこの世界が外史のライダーの世界なら誰か知り合いがいるかもしれない。そうすればカブトの世界に帰る方法が見つかるかもしれないと、そう考えた優矢は街を捜索しようとトライチェイサーに跨がりエンジンを掛けた。その時……

 

 

 

 

 

 

『待て!!アルシェインッ!!』

 

 

 

優矢「……え?」

 

 

 

何処からか青年の怒鳴り声が聞こえ、トライチェイサーを走らせ様とした優矢は顔を上げてその声が聞こえてきた方へと振り返った。其処には建物の屋上を飛び越えて走る二人の異形……青い異形がバッタのような異形を追い掛ける姿が目に映った。

 

 

優矢「な、なんだありゃ?もしかしてあれがこの世界のライダーと怪人なのか?…とにかく、このまま無視する訳にもいかないか!」

 

 

二人の異形を見て一瞬驚愕してしまう優矢だが、このまま見て見ぬ振りをする訳にはいかない。そう考えた優矢はトライチェイサーのアクセルを踏んでその場でターンをし、青い異形達の後を追うように走り出していったのだった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数分後、町の海岸では先程優矢が町で見掛けた青い異形がバッタの姿をした異形に手練れた格闘術を繰り出していた。しかし、バッタの異形は持ち前の瞬発力で青い異形の攻撃を軽々とかわし、青い異形の背後に回り込んで回し蹴りを打ち込み吹っ飛ばしていってしまう。

 

 

『グゥッ?!』

 

 

『ククッ……ドウシタギアデンドウ?ソンナコウゲキデハオレハタオセンゾ?』

 

 

『ッ!チッ、ピョンピョン跳ねてめんどくさい奴だな……それなら!』

 

 

バッタの異形が軽い身のこなしで青い異形……電童と呼ばれた戦士を挑発すると、GEAR電童はおもむろに身体を起こして腰に装着していた機械のような物を取り出し腰のベルトへと当てていく。

 

 

『Unicorn Drive!Install!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にGEAR電童の隣に残像のような物が出現し、徐々に実体化してその姿を現していく。そして完全に実体化した幻想獣の一角獣のような姿の青い機械的な身体を持つ獣……ユニコーンドリルは天まで届くような鳴き声をあげると、ドリルのような姿へと変形してGEAR電童の右腕に装着されていった。

 

 

GEAR電童『今度はこちらの番だ……いくぞアルシェイン!』

 

 

『Unicorn Drill!Final Attack!』

 

 

GEAR電童が機械にカードを通すと再度電子音声が響き渡り、ユニコーンドリルの頭部の角がドリルのように高速回転しながら螺旋を描くようにエネルギーを集約させていき、そして……

 

 

GEAR電童『ハアァァァァァァ……ドリルクラッシュッ!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥーーーーーーーーッ!!!―

 

 

GEAR電童がバッタのような異形……アルシェインと呼ばれた怪物に向けて右腕のユニコーンドリルで突きを放った瞬間、ユニコーンドリルの頭部の角から強大なエネルギーの渦が発生してアルシェインへと向かって発射されていった。しかし……

 

 

『ヌウゥッ……ヌンッ!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥーーーーーーーーッ!!!―

 

 

GEAR電童『?!何っ?!』

 

 

なんと、アルシェインはGEAR電童の放ったファイナルアタックを先程より高く跳び上がっただけで回避してしまったのだ。予想もしていなかった事態にGEAR電童も驚愕してしまうが、アルシェインは地上に着地するとGEAR電童を馬鹿にするかのように鼻で笑った。

 

 

『フン、ドウシタ?イッタイドコヲネラッテイル?』

 

 

GEAR電童『チッ……口先だけの相手じゃないって訳か……だが!』

 

 

挑発してくるアルシェインに舌打ちして返すと、GEAR電童はベルトの右側の腰に装着されたパックから電池のようなものを外して乱暴に投げ捨て、新たな電池を取り出しパックに装着していく。そして電池の交換を終えたGEAR電童は再度必殺技を放とうと構えを取り、アルシェインはそんなGEAR電童に対して余裕の態度を取っていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!」

 

 

 

『……アッ?―バキィッ!―ウグエェッ?!』

 

 

GEAR電童『ッ!何?』

 

 

 

不意にアルシェインの背後から一人の青年が飛び出し、そのまま赤と金の戦士に変わりながらアルシェインを殴り飛ばしていったのだ。突然吹っ飛ばされたアルシェインを見てGEAR電童が呆気に取られる中、アルシェインを殴り飛ばした赤と金の戦士……二人を追ってきた優矢が変身したクウガ・ライジングマイティフォームはアルシェインに向け構えを取っていく。

 

 

クウガRM『おいっ!アンタ大丈夫か?!』

 

 

GEAR電童『ハ?……あっ、あぁ……別に何ともないが……お前は一体?』

 

 

『グウゥッ?!ナ、ナンダキサマハ?!』

 

 

クウガRM『ん?俺か?そうだな……通りすがりの仮面ライダーってところだ!』

 

 

GEAR電童とアルシェインにそう答えると、クウガは吹っ飛ばされたアルシェインに向かって突っ込み力強く殴り掛かっていく。突然の乱入者に驚いてクウガの拳を受け続けていたアルシェインだが、徐々に慣れてきたのか持ち前の瞬発力でクウガの拳をかわしていってしまう。

 

 

クウガRM『ッ!そっちがそう来るなら……超変身ッ!』

 

 

ジャンプして拳をかわしていくアルシェインを見たクウガはすぐに構えを取り、全身からプラズマを放ちながら徐々にその姿を変えていった。ドラゴンフォームとは違って肩のパーツまで青く染まり、青いボディに金のラインが入った姿……ライジングドラゴンフォームにフォームチェンジし、それと共にクウガは地面に落ちていた木の棒を拾うと棒は青いロッドの先に金の矛先を装備した棒……ライジングドラゴンロッドへと変化しそれを構えていく。

 

 

GEAR電童『ッ!色が変わった?』

 

 

『ヌウゥゥ……コザカシイヤツメッ!!ハッ!!』

 

 

ライジングドラゴンフォームに変わったクウガを見て電童は驚くが、アルシェインは構わずと言わんばかりに空高く飛び上がりクウガを攻撃しようとする。

 

 

対するクウガはライジングドラゴンロッドを軽く振り回して構えると、ドラゴンフォームより極限まで跳ね上がった瞬発力で上空へと高く跳び上がりあっという間にアルシェインに迫っていった。

 

 

『ッ?!ナンダト?!』

 

 

クウガRD『オリャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ドシュウゥッ!!―

 

 

『オガアァッ?!』

 

 

自身の跳躍に追い付いたクウガに思わず驚愕するアルシェインだが、クウガは構わずアルシェインの腹部に向けてライジングドラゴンロッドで突きを放ち、腹を深く突き刺した。

 

 

そして手応えを感じ取ったクウガはそのまま地上に向けてアルシェインを突き刺したライジングドラゴンロッドをバットのように振り回しアルシェインを地上に叩き付け、そのまま落下を利用し再度アルシェインへとライジングドラゴンロッドを突き刺していった。

 

 

『グアァァッ?!ガッ……キ、キサマアァァァァァッ……!』

 

 

クウガRD『ッ!まだ生きてんのかよ?!ならもう一度『待て!』……え?』

 

 

トドメを刺そうとアルシェインの腹からライジングドラゴンロッドを引き抜こうとするクウガだが、突然横から静止の声が響きそちらに顔を向けた。すると其処には、GEAR電童がいつの間にか必殺技の発射態勢に入っている姿があった。

 

 

GEAR電童『後は俺に任せろ!お前はそいつを上に投げ飛ばしてくれ!』

 

 

クウガRD『えっ?あ、あぁ……分かった!オリャアァッ!!』

 

 

『ウ、ウオォッ?!』

 

 

GEAR電童の言葉に一瞬呆然となりながらも、クウガは言われた通りにライジングドラゴンロッドを全力で振り上げアルシェインを空に投げ飛ばした。それを見たGEAR電童は上空のアルシェインを見据えながら右腕のユニコーンドリルを構え、そして……

 

 

GEAR電童『コイツで今度こそ終わりだ……ドリルクラッシュッ!!』

 

 

―シュウゥッ……ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥーーーーーーーッ!!!―

 

 

『ッ?!グ、グアァッ……グアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

GEAR電童のファイナルアタックが今度こそアルシェインへと炸裂し、身体を貫かれたアルシェインは断末魔を上げながら上空で爆発し跡形も残さずに消滅したのだった。すると上空の爆発の中から宝玉のような物が飛び出してGEAR電童の足元に落下し、GEAR電童はそれを拾って何かをしていく。

 

 

GEAR電童『――よし、これで封印完了……だな』

 

 

GEAR電童はそう言って手の中の宝玉を見つめながら疲れたように溜め息を吐き、クウガの方へと振り返っていく。

 

 

GEAR電童『すまなかったな、見ず知らずのお前にこんなこと手伝わせて』

 

 

クウガRD『あ、いや…別にいいさ。こっちが勝手に首を突っ込んだんだし』

 

 

GEAR電童『そうか……だが、正直苦戦していたから助かったよ。ありがとな』

 

 

そう言ってGEAR電童は微笑しながらクウガに向けて礼を言い、それがむず痒いのかクウガは照れるように頭を掻いていた。

 

 

GEAR電童『……そういえば名前を聞いてなかったな。お前、名前は?』

 

 

クウガRD『へ?ああえっと、俺は桜川 優矢だ。そういうアンタは?』

 

 

GEAR電童『あぁ、俺の名は……とその前に、まず変身を解かないとな……』

 

 

GEAR電童は名を名乗る前にまず変身を解除しようと、全身に淡い光を纏いながら元の青年と思われる姿へと戻っていく。が、クウガはGEAR電童が変身を解除して戻った青年を見て仮面越しに驚愕の表情を浮かべてしまう。何故なら……

 

 

 

 

 

クウガRD『ア、アンタはっ……煌一さんッ?!』

 

 

煌一?『――ん?なんだ?なんで俺の名前を知ってるんだ?』

 

 

 

そう、GEAR電童に変身していた青年の正体とは、零の異世界の友人の一人である仮面ライダーインフィニティこと御薙 煌一だったのだ。GEAR電童の正体が煌一だと知ったクウガは驚愕を隠せず唖然となり、煌一はそんなクウガを見て不思議そうに首を傾げていたのであった。

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑥

 

 

幻魔、冥華達と次々と勢力が現れて戦場が激化する中ディエンドからツボを取り戻そうとするディケイド達。しかしディケイドのミスによってツボは壊れてしまい、幻魔神を封印していたツボの中から出て来たのは……着物を着た一人の女性であった。

 

 

アンジュルグ『あれは……?』

 

 

ディケイド『女……だと?』

 

 

「…………」

 

 

ディケイドの頭上に浮かぶ着物の女性を見て首を傾げる一同だが、その中で絢香と紗耶香、そして鬼王は信じられないものを見たかのような顔で女性を見つめていた。

 

 

絢香「さっ、桜色の着物に……金のかんざし……長い黒髪……?」

 

 

紗耶香「ま、まさかっ……あの方は……?!」

 

 

鬼王『そんな……馬鹿なっ……何故ツボの中にアレが?!』

 

 

ゼオ『……?何をあんなに驚いてるんだ?』

 

 

冥華『……恐らく彼女に心当たりでもあるんでしょう……まぁ、私も知ってると言えば知ってるけど』

 

 

アンジュルグ達と戦っていたゼオが驚愕する絢香達を見て首を傾げながら冥華の隣へと降り立つと、冥華はそう言いながらディケイドの頭上に浮かぶ女性を見て目を細めていた。そして宙に浮いていた女性の身体が突然小さく揺れてそのまま落下していき、真下にいたディケイドは慌てて女性を抱き留めていった。

 

 

ディケイド『お、おい…!どうした?!おいッ!』

 

 

「…………」

 

 

体を揺さ振って女性を起こそうとするディケイドだが、女性が起きる様子はなく規則正しい寝息が聞こえてくるだけだ。この様子からしておそらく眠ってるだけなのだろうとディケイドは安心と呆れが交じった溜め息を漏らし、未だ驚いた顔でこちらを見つめる絢香達に叫んだ。

 

 

ディケイド『おい、コイツがホントに幻魔神なのか?!どう見ても普通の人間にしか見えんぞ?!』

 

 

紗耶香「ッ!い、いや……その方は……」

 

 

ディケイドの言葉を聞いて正気に戻った紗耶香だが、未だ動揺が治まらないのかしどろもどろになって上手く言葉が紡げずにいた。その時……

 

 

絢香「―――その方は……幻魔神などではありません……」

 

 

ディケイド『?幻魔神……じゃないだと?じゃあコイツは一体……?』

 

 

絢香「……その方は……その方こそが、かつての聖者達に龍王と鬼王の籠手を授け、幻魔神達を封じてこの世界から姿を消した神……桜ノ神様です……」

 

 

『…ッ?!』

 

 

未だに戸惑っているのか、絢香が震える声でそう言うとディケイド達は驚愕した表情でディケイドが抱える女性……桜ノ神へと視線を向けていく。

 

 

ディケイド『桜ノ神ってっ……この女がか?!』

 

 

絢香「は、はい……桜色の着物に金色のかんざし、長い黒髪……神社に遺されていた文書の絵とも似ていますから、間違いありません……!」

 

 

アンジュルグ『…?でも、どうして桜ノ神がツボの中に?それに幻魔神は何処に―ズシャアァッ!―……ッ!』

 

 

何故ツボに封印されていたのが幻魔神ではなく桜ノ神なのか。そして幻魔神は一体何処にいったのかとアンジュルグが疑問を口にしようとした瞬間なにかを斬り裂くような音が響き、一同は思わず振り返った。すると其処には何かに斬られて倒れる幻魔の一体と、その幻魔を冷たく見下ろす鬼王の姿があった。

 

 

絢香「お、桜香さん?」

 

 

鬼王『……なによそれ……封印されていたのが幻魔神じゃなかった?なら幻魔神は……奴は……一体何処にいるのよッ!!』

 

 

―ズザアァッ!!―

 

 

『ギャアァッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

悲痛な声で叫びながら鬼王はいきなり近くにいた幻魔を斬り伏せ、更にそのまま幻魔達を刀で斬り裂いていく。突然部下を倒し始めた鬼王にディケイド達も驚きを隠せないが、鬼王は構わずに最後の一体を撃退するとおもむろに刀を腰に収め、そのまま何処かに去ろうと歩き出した。

 

 

絢香「ま、待って桜香さん!今のは何故…?!」

 

 

鬼王『……私はね……別に好きで幻魔に付いてたわけじゃないのよ……奴を……幻魔神を復活させる為だけに、幻魔を利用してただけなんだから……』

 

 

ディケイド『幻魔神の復活の為だけ?どういう事だ?』

 

 

幻魔に味方に付いた訳ではなく、幻魔神を復活させる為に幻魔を利用していた。そう告げた鬼王にディケイドが怪訝そうに聞き返すが、鬼王はその問いに答えずに再び歩き出した。

 

 

絢香「桜香さん!何処行くんですか?!」

 

 

鬼王『……別にどうでもいいしょう。ツボに封印されていたのが幻魔神じゃないなら、私ももう幻魔に味方してツボを狙う必要もなくなった……貴方達と戦う理由もなくなったんだし……ほっといて……』

 

 

一度も振り返る事なく絢香にそう言うと鬼王は公園に吹いた風と共に姿を消し、ディケイド達の前から消えたのであった。

 

 

絢香「桜香……さん……」

 

 

紗耶香「奴め……一体何を考えてるんだっ……」

 

 

ディケイド『…………』

 

 

鬼王が消えた場所を見つめながら複雑な表情を浮かべる絢香と、鬼王の意図が分からず苛立った表情をする紗耶香。そんな二人を見ていたディケイドは腕に抱く桜ノ神をしっかり抱き直すと、冥華とゼオに視線を向けていく。

 

 

ディケイド『で、お前はどうするんだ?まだやるって言うなら相手になるが……』

 

 

冥華『……止めておくわ。なんだかそんな雰囲気じゃなくなったし、貴方の実力も十分分かったしね。因みに気付いてないみたいだけど、あのディエンド達もどさくさに紛れて逃げたみたいよ?』

 

 

ディケイド『は?……って、ホントにいない?!海道の奴いつの間に?!』

 

 

アンジュルグ『?ルミナお姉ちゃんもいない……?』

 

 

冥華に言われて思わず辺りを見渡し、この騒ぎを起こした張本人であるディエンドとアストレアがいない事に気付いて驚くディケイドとアストレア。そんな二人を他所に冥華とゼオは元の姿へと戻り、ディケイド達から背を向けていく。

 

 

ディケイド『ッ!ちょっと待て!お前、結局何が目的だったんだ……?』

 

 

冥華「最新に言った筈よ?貴方の力を見定めると……もうすぐこの世界に降り懸かる、滅びを止められるかどうかをね」

 

 

ディケイド『ッ!この世界に降り懸かる……滅び?』

 

 

冥華「……気をつけなさい零。この世界の滅びは今まで以上に苛酷な物になる。一歩間違えて無茶をすれば……貴方は死ぬわ」

 

 

滅びと聞いて険しげに眉を寄せるディケイドに向け、真剣な目付きでそう告げる冥華。そんな冥華から言い知れぬ迫力を感じて思わず息を呑むディケイドだが、冥華は小さく息を吐いて空を仰いだ。

 

 

冥華「けどまあ、多分心配はないでしょうね……どうやら遠い所から増援が来てくれたみたいだし」

 

 

ディケイド『増援…?どういう意味だ?』

 

 

冥華「直ぐに分かるわ……じゃあね零。せいぜい滅びや女難で死なないように気をつけなさい」

 

 

意味深な事を言われて聞き返してきたディケイドにそう返すと、冥華は軽く手を振りながらメルティアと共に何処かへと歩き出していった。

 

 

ディケイド『お、おい待て!お前にはまだ聞きたい事が―バチバチッ―……ん?』

 

 

去ろうとする冥華達を引き止めようと叫ぶディケイドだが、その時不自然な音が響きそちらに視線を向けていく。其処には公園の中心で無数の火花がバチバチと散っており、それを目にしたディケイド達が訝しげに首を傾げた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

 

突如公園の中心に激しい光が発生し、辺り一帯を包み込んでいったのだ。突然の光の余りの眩しさにディケイド達は思わず顔を背け、光は数秒もしない内に徐々に消え去っていった。すると其処には……

 

 

 

 

 

「――あれ?何処だ此処?」

 

 

「おいおい、何処かも分からないで跳んだのかよ?」

 

 

「仕方ないだろ!コイツの制御にはまだ慣れてないんだよ!」

 

 

ディケイド『……ッ!アイツ等は……?』

 

 

アンジュルグ『?零?』

 

 

 

光が収まると共に姿を現したのは二人の青年達。その青年達を見てディケイドは思わず身を乗り出し、腕の中で眠る桜ノ神が落ちないようにベルトを外して変身を解き、二人へと呼び掛けていく。

 

 

零「――おい、何でお前達が此処にいるんだ。晃彦、勇二……」

 

 

晃彦「……え?って零?!」

 

 

勇二「れ、零さん?!」

 

 

零に呆れ半分で呼び掛けられた二人の青年達……仮面ライダーエグザムの装着者である"荒垣 晃彦"と仮面ライダーディライトの装着者である"朝崎 勇二"は零を見て驚愕し、零はそんな二人の反応を見て溜め息を吐いていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同じ頃……

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『グアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

メタル『チィ!ソラァッ!』

 

 

街中では、メタルがデストワイルダーとメタルゲラスに圧されつつもメタルシャフトを振り回して反撃していたが、原点を超えるほどまでに強く育てられた二体の猛攻にメタルは殆ど防戦一方となっていた。そして先程からその戦いを傍観していたリュウガはバックルのデッキから一枚のカードを抜き取り、ダークドラグバイザーへと装填した。

 

 

『UNITE VENT!』

 

 

『ッ!ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

メタル『ッ?!な、何だ?』

 

 

電子音声と共に突然メタルと戦っていた二体が咆哮を上げ、更に近くの窓ガラスからドラグブラッカー、ベノスネーカー、エビルダイバー、バイオグリーザが飛び出して二体の下に集合し徐々に融合していった。

 

 

『グオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

メタル『――な……なんだ……コイツは……』

 

 

完全に融合したその姿は、ベノスネーカーの頭部にドラグブラッカーの頭部が合わさり、メタルゲラスの体からはデストワイルダーとバイオグリーザの四本の腕が飛び出し、背中にエビルダイバーが取り付いた姿のモンスター……欲帝・ジェノバグリードへと変わり、リュウガはジェノバグリードの前に立つとデッキから一枚のカードを取り出してバイザーへとセットする。

 

 

リュウガ『君の戦闘データは充分に取った。そろそろ……消えていいよ』

 

 

『FINAL VENT!』

 

 

『グオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

電子音声が響くと共にジェノバグリードは胸中心部に膨大な漆黒のエネルギーを集束させ、巨大なエネルギーの塊を生み出していく。それを確認したリュウガはエネルギーの塊の前まで跳び上がり、そして……

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

リュウガ『ハアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

メタル『なっ?!』

 

 

ジェノバグリードは集束させていたエネルギーの塊を砲撃のように発射し、リュウガは砲撃の勢いで加速を付けられながらメタルに向かって跳び蹴りを放っていったのだった。それを見たメタルは回避は無理と瞬時に判断し、メタルシャフトを盾にして防御態勢を取った。その時……

 

 

 

 

 

 

―バッ!!―

 

 

リュウガ『ッ?!なに?!―ガキイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―グッ?!』

 

 

メタル『……え?』

 

 

 

メタルにトドメを刺そうとしたリュウガの前に突然一人の戦士が飛び出し、そのままリュウガの右足に剣を打ち込み吹っ飛ばしていったのだった。突然の乱入者にメタルは呆気に取られ、リュウガも直ぐさま身体を起こしてその人物を見た。その人物とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

メモリー『―――まさか、冥華に頼まれたもんを届けに来てこんな奴を見つけるとはな』

 

 

リュウガ『ッ?!貴方は……断罪の神?!』

 

 

 

そう、乱入者の正体とは、零達を捜しにこの世界へとやってきた幸助が変身するメモリーだったのだ。幸助を知らないメタルは誰?と疑問符を浮かべ、リュウガは仮面の下で険しい表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がっていく。

 

 

リュウガ『っ……まさか、貴方がこの世界に現れるとは……予想外でしたね……空間を遮断してた筈なのに』

 

 

メモリー『侮るな。空間を遮断されたぐらいで、俺がこの世界に侵入出来ないとでも思ったのか?』

 

 

そう言いながらメモリーは剣の切っ先をリュウガへと向けていくが、リュウガは落ち着きを取り戻したのか平然とした様子で口を開いた。

 

 

リュウガ『いいえ……ただ貴方が僕達の存在に気付いてやって来るのではと思ってました。それまでに目的を果たすつもりでしたが……いささか計画が狂ってきましたね』

 

 

メモリー『計画?……また零の因子を狙ってるのか?以前のヴェクタスのように』

 

 

リュウガ『アレは彼が独断で行っただけで、僕達はそうではないですよ……今回の計画は、ただ零先輩に因子の力を使わせるというだけです』

 

 

メモリー『因子の力をだと?』

 

 

リュウガ『えぇ、この世界で起こる滅びでは零先輩は必ず因子を使う事になる。今回は相手が相手ですからね』

 

 

メモリー『幻魔神か……確かに奴は人間の力では倒せんだろうな……少なくとも神氣の力がなければ』

 

 

リュウガ『そう、ですから零先輩は必ず因子を使う。そしてそれによって、因子はまた成長する。徐々に、確実に……ね』

 

 

リュウガはそう言いながら拳を強く握り締めていき、メモリーは仮面の下で眉間に皺を寄せながら再び口を開く。

 

 

メモリー『……一つ聞かせろ。お前等は因子を成長させて何をする気だ?目的は……CHAOSか?』

 

 

リュウガ『因子の最終進化形態ですか?いいえ、別にそこまで成長して欲しいと言う訳ではありませんよ。第一それにはもうひとつの因子を持つ者が必要ですし、いくら僕達でもそれを制御出来るとは限りませんから』

 

 

メモリー『CHAOSでないのなら……一体何の為に因子を狙う?』

 

 

リュウガ『それはお話出来ませんね。仮にもこれは機密事項なので……』

 

 

訝しげに質問するメモリーに対してリュウガは怪しげな笑みを浮かべながらそう応えると、近くにある時計台の針を見て背後に歪みの壁を発生させた。

 

 

リュウガ『さて、こちらも貴方に時間を割いてる暇はないので、そろそろ失礼させて頂きます。またお会いしましょう、断罪の神』

 

 

そう言ってリュウガは後ろ向きで歩きながら歪みの壁に呑まれて何処かへと消えてしまい、リュウガが消えたのを確認したメモリーとメタルも変身を解除し幸助と翔一に戻っていった。

 

 

幸助「取りあえず今は奴については放っておくか……お前が左 翔一か?」

 

 

翔一「え?あ、あぁっ……ってか、アンタ誰だ?つか何で俺の名前を知って?」

 

 

幸助「俺の名は天満幸助。現断罪の神で、お前を引っ張ってきた冥華とはちょっとした知り合いだ」

 

 

翔一「…………は?神?」

 

 

いきなり自分は神だと自己紹介してきた幸助に思わず面食らう翔一。そんな翔一の反応を余所に幸助は何処からか一本のガイアメモリを取り出し、それを翔一へと投げ渡した。

 

 

翔一「おわっと?!な、なんだよこれ?メモリ?」

 

 

幸助「ソイツは冥華からお前用に造ってくれと頼まれたもんだ。ダブルドライバーにジョーカーメモリと一緒に使えば単独で変身出来る」

 

 

翔一「?冥華さんから?」

 

 

幸助「あぁ、だが気をつけろよ?ソイツはただのメモリじゃない。俺の方でも幾つか機能を追加したから、ちょっとばっかし使い難いかもしれんからな」

 

 

そう言いながら幸助は翔一の持つガイアメモリを指差すと、翔一から背を向けて歩き出した。

 

 

翔一「ッ!おい待て!アンタは一体何なんだ?!何で組織でもないのにメモリを造れんだよ?!」

 

 

幸助「俺の辞書に不可能の三文字がないだけだ。それと俺の事は幸助でいい。じゃあな、異世界のダブル」

 

 

質問を投げ掛けてくる翔一に手を軽く振りながらそう答えると、幸助はその場から転移し何処かへと消えていってしまった。

 

 

翔一「お、おい待てって!……ああもう!何なんだよ一体?!」

 

 

自分の質問に一切答えないで消えてしまった幸助に対し府に落ちない顔を浮かべる翔一だが、きっとあの男はそういう人間?なんだと理解してガクリと肩を落とした。そして翔一は幸助から渡されたメモリを眺め、それをジッと見つめていく。

 

 

翔一「L……LAST?ラストメモリってのか?一体なんなんだコイツは……」

 

 

そう呟きながら翔一は幸助から渡されたLの文字が刻まれたメモリ……【最後】の記憶を秘めたメモリを見つめながら首を傾げ、暫くその場で佇んでいたのだった。

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑦

 

 

―桜ノ神社―

 

 

鬼王達と冥華達との戦いを終えた零達は一先ず晃彦と勇二を連れて神社へと戻り、零が背負って連れてきた桜ノ神はカリムとシャッハに任せ空き部屋に寝かせている。そして零達は一室に集まり、晃彦達から事情を聞きながらこれからについて話し合っていた。

 

 

零「―――未来からやって来た?」

 

 

勇二「はい。過去の総一達から零さん達が行方不明になってると聞いて、俺達も二人を探しにウィングゼロのパーフェクトハイパークロックアップを使って跳んできたんです」

 

 

晃彦「この世界だけは何故か普通の方法じゃ介入出来なかったようだから、未来から過去へのタイムスリップって方法しかなかったからな(汗)」

 

 

零「……成る程な……大体分かった……なら悪いが、もう少し此処に居てくれ。ちょっとこの世界でお前達に付き合って欲しい事があるんだ」

 

 

二人の今までの経緯を聞いた零はそう言いながら二人を見つめると晃彦と勇二はそんな零の視線に疑問符を浮かべていき、零はそれに構わず今度は絢香達の方へと向き合っていく。

 

 

零「それはそうと、さっきお前が言ってた事は本当なのか?さっきツボから出て来た女が桜ノ神だって」

 

 

絢香「……はい……先程も神社の文書を見て確認しましたが、恐らく間違いないかと」

 

 

零が先程連れてきた桜ノ神について質問すると、絢香は何処からか一冊の古びた本を取り出して床に置き、あるページを開いて零達に見せていく。其処には大勢の異形達に立ち向かう鬼と龍の姿をした戦士達と、空から無数の桜の花びらを散らして異形達を薙ぎ払う桜色の着物を纏った女性……先程見た桜ノ神と同じ格好した女性の絵が描かれていた。

 

 

アズサ「この絵の人……さっきの?」

 

 

絢香「はい。これは戦国の世に、龍の籠手を持つ聖者が書き記した文書です……そしてこのページに記されている聖者と幻魔達の乱を見守っているのが、桜ノ神様なんです」

 

 

零「成る程。確かにこの絵を見た感じではさっきの女と似てるな……だが、どうしてその桜ノ神がツボに封印されていたんだ?それに肝心の幻魔神は何処に……」

 

 

絢香「それは私にも分かりません。私達はただ、ツボを守る事だけを教えられてきましたから……」

 

 

紗耶香「…………」

 

 

何故ツボに封印されていたのが幻魔神ではなく桜ノ神だったのか。そして幻魔神は一体何処に行ってしまったのか。絢香達でも分からない事態に一同は困惑してしまい暫くその場に沈黙が流れていたが、口を閉ざしていた絢香は顔を上げ零達を見つめながら語り出した。

 

 

絢香「……とにかく、今は桜ノ神様が目覚めるのを待ちましょう。何故桜ノ神様が封印されていたのかも……幻魔神の事もあの方なら知ってるかもしれませんから」

 

 

零「……それしかないようだな……」

 

 

封印されていた事も、幻魔神が何処にいるのかも桜ノ神なら知ってるに違いない。そう考えた絢香は零達に提案し、零達も仕方ないといった感じに頷き桜ノ神が目覚めるのを待つ事に決めたのだった。

 

 

絢香「……あ、そういえば零さん。気になってたんですけど、さっき零さんは桜香さんの事を名前で呼んでましたよね?零さんは桜香さんとお知り合いなんですか?」

 

 

零「ん?ああ……まあ一応はな……」

 

 

絢香が桜香の事を思い出し零に聞くと、零は若干表情を引き攣らせながら桜香との関係を話し出した。街の中で怪我をして倒れていた桜香をアズサと共に助けて治療した事。その後に桜香を病院に連れていこうとしたところ、桜香が頑なに嫌がって零を痴漢呼ばわりして逃げた事などを。

 

 

絢香「……何と言うか……災難でしたね」

 

 

晃彦「っていうか、何もしてないのに痴漢呼ばわりされて警察呼ばれるなんて……不幸過ぎんだろう」

 

 

アズサ「……因みにその前にも銭湯の女湯に転移して警察を呼ばれそうになったり、他にも女の人が乗った自転車に轢かれたりボールを打ち込まれたりしてた……」

 

 

勇二「……零さん、なんか女難が酷くなってませんか……?」

 

 

零「言うな……こっちだって散々な目に合いっぱなしで、一時は一生女に関わるのは止めようかと思い詰めたんだっ……」

 

 

紗耶香「(…アイツが街中で怪我して倒れていた?……もしかすると、その怪我は私が付けた物かもしれんな……まあ言わん方がいいかもしれないが……)」

 

 

同情の目を向けてくる一同に零は暗い影を落としながら肩を落とし、そんな零を見て密かに苦笑いと冷や汗を流す紗耶香。するとその時、部屋の襖が開いて一人の人物……別室で桜ノ神を看病していたシャッハが部屋の中に入ってきた。

 

 

シャッハ「失礼します。皆さん、少し宜しいですか?」

 

 

絢香「?シャッハさん?どうかしましたか?」

 

 

シャッハ「いえ、実は先程桜ノ神様がお目覚めになられたので、それを皆さんにお伝えしに」

 

 

零「ッ!本当か?!」

 

 

桜ノ神が目覚めた。そう聞かされた零達は驚愕して思わずシャッハに聞き返し、シャッハもそれに対し小さく頷き返した。そして一同シャッハに案内され、桜ノ神が待つ寝室へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、零達はシャッハに案内され桜ノ神が休んでる和室へと訪れていた。そして部屋の中心に敷かれた布団の上に正座して一同と向き合う女性……桜ノ神は絢香と紗耶香を見て口を開いた。

 

 

「そうか、君達がこの神社の巫女と龍王の籠手を受け継いだ者か……」

 

 

絢香「は、はい」

 

 

紗耶香「こ、こうしてお会い出来て、光栄に思います!」

 

 

「ハハ、そう畏まらないでくれ……それで君が、私の封印を解いた者だな?」

 

 

零「まあな。と言っても、こっちは別にお前を出す気はなかったんだが……ちょっとばかりミスをしてしまったんだ」

 

 

紗耶香「お、おい黒月っ!桜ノ神様に向かってお前など……!」

 

 

「いいさそんな事。寧ろ、そうやって接してくれれば私も気が楽だ」

 

 

桜ノ神をお前呼ばわりする零に慌てて注意する紗耶香だが、桜ノ神は気にするなと宥めて紗耶香を落ち着かせ、一度咳ばらいする。

 

 

「さて……そういえばまだ名を名乗ってなかったな。私は桜ノ神……木ノ花之咲耶姫(コノハナノサクヤヒメ)だ、よろしく頼む」

 

 

アズサ「?コノハナノサクヤヒメって……日本神話に出て来るあの?」

 

 

「ん?ああいや、その神と私は別人だぞ?それは上の神が勝手に私の名前として付けただけだからな。しかし少し長すぎる気がするから……はしょって木ノ花か姫とでも呼んでくれ♪」

 

 

晃彦「いや、それはしょり過ぎじゃないか?」

 

 

自分の呼び名をはしょって名乗った桜ノ神……"木ノ花之咲耶姫"に晃彦や一同は思わず苦笑いを浮かべ、零だけは軽く息を漏らして姿勢を崩していく。

 

 

零「で、木ノ花だったか?何故お前はツボの中に封印されてたんだ?」

 

 

カリム「ちょ、零!そんな露骨に聞かなくても……!」

 

 

姫「いや、構わんさ。事情を知ってるなら疑問に思うのも無理はないからな……」

 

 

そう言いながら姫は一度瞼を閉じ、真剣な表情で零達を見据えながら淡々と語り始めた。

 

 

姫「まず始めに、私が何故ツボの中に封印されていたのかだが……アレは私自身を囮とする為だ」

 

 

勇二「囮?」

 

 

姫「そう、君達も知ってるとは思うが、私は幻魔神と奴が従える幻魔達を封印した……しかしその時、私の封印を免れた一体の幻魔がいたんだ」

 

 

絢香「ギルデンスタン……ですね」

 

 

姫「そうだ。奴は幻魔神の右腕であり、幻魔界一知力に長けた奴だからな。奴は幻魔神の次にもっとも警戒しなければならない奴だったが、私は奴を封印出来ずみすみす幻魔界へと帰してしまった……きっと奴は再びこの世へと戻り、幻魔神を復活させようと目論むに違いない。そう考えた私はツボに封印した幻魔神を別の場所に封じ―――」

 

 

零「―――自分が囮としてツボに封印されたわけか。ギルデンスタンの目を欺く為に」

 

 

姫「あぁ。例えギルデンスタンにツボを奪われて封印を解かれてしまっても、奴は私が封印されているとは知らずに動揺するに違いない。その隙に奴も封印してやろうと考えてたわけだ」

 

 

紗耶香「なるほど……敵の意表を突いて油断させる為に……まさかその為に自らを顧みず、数百年もツボの中に封印されていたとは!流石です桜ノ神様!」

 

 

姫「いや、其処まで言われるような事はしていない。結局ギルデンスタンは君達の活躍で倒されたようだし…………それにツボに封印されたいと思ったのは……そんな大層な理由じゃないんだ……」

 

 

零「……?」

 

 

感心する紗耶香にそう言いながら最後の部分は小声で呟く姫だが、一人だけそれを聞き取った零は頭上に疑問符を浮かべながら小首を傾げてしまう。

 

 

しかし今はそんなこと気にしてる場合ではないと直ぐに頭の中から疑問を消し、次の疑問を口にしていく。

 

 

零「お前が封印されていた理由は大体分かった……なら、肝心の幻魔神は何処に封印してあるんだ?」

 

 

姫「ん?あぁ、奴ならこの街の東にある霊山の山奥に封印してある」

 

 

絢香「へ?そ、それって、ギルデンスタン達が根城にしてた山ですか?!」

 

 

姫「?奴らもあそこを拠点にしてたのか?昔もあの山は、幻魔神達が根城にして何かを造ってたようだからな。彼処なら幻魔達もそう簡単に気付ないだろうと思ったんだ」

 

 

晃彦「成る程な、灯台下暗しって訳か……」

 

 

零「……単純なんだか利口なんだか……」

 

 

姫の説明に一同が納得する隣で、呆れたように溜め息を吐きながらカメラの手入れをする零。すると姫は布団から下りて零とアズサの目の前まで寄り、何処からか包みと白い箱を取り出し二人に差し出してきた。

 

 

アズサ「?何これ……?」

 

 

姫「君達の事はカリムから聞いてある。ツボが賊に盗まれた時、ツボを神社の者達と共に取り返そうとしてくれたと。これは私からのほんのお礼だ。受け取ってくれ」

 

 

零「お礼ねぇ……俺は別に良い。そんな物に為に協力したわけじゃないからな」

 

 

姫「そう言わないでくれ。君には幻魔のことで色々と世話になったみたいだし、私の面子を守るつもりで受け取ってくれ。頼む」

 

 

零「…………はぁ…………仕方ない…………」

 

 

アズサ「ん……ありがとう、ヒメ……」

 

 

流石に其処まで言われたら受け取らないワケにはいかないかと、零は諦めたように溜め息を吐きながら姫の手から包みを受け取り、アズサも白い箱を受け取っていく。

 

 

姫「さぁ、早く開けて見てくれ。きっと君も喜ぶ物に違いない」

 

 

零「ほう?其処までハードルを上げるという事は、よほどの物が入ってると言う訳だな?」

 

 

きっと自分も喜ぶ物。そう言われて内心期待が膨らませながら零は包みを開け、包みの中に入っていた物を取り出していった。それは……

 

 

 

 

『エロス48』

 

 

 

 

零「………………………………………………………………………………………」

 

 

 

包みから出て来たのは表紙にスカートをめくって下着を露出させる女性の姿が写った本……俗に言う、エロ本であった。

 

 

姫「君が幻魔達と戦ってクタクタだろうと思ってな。疲れると結構アレなんだろ?アッレ♪」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

姫「ん?どうした?」

 

 

絢香「……って?!な、なななななな何を渡してるんですか姫様ッ?!!」

 

 

姫「うむ?何って、年頃の男子が喜ぶものと言ったらコレだろ?もしかしてマニアック系が良かったか?」

 

 

零「そういう事を言ってるんじゃないっ……」

 

 

姫「そうか?だがあんまり好評ではないみたいだな…よし、では別のプレゼントもやろう」

 

 

零「はじめっからそっちを出せっ!!全く、何だってこんな物――――!」

 

 

包みとエロ本を隣に置き、愚痴をこぼす零。そんな零に姫はスマンスマンと笑いながら謝って代わりのプレゼントを差し出してきた。それは……

 

 

 

『機動避妊用具コンドム00』

 

 

 

零「…………………………………………………………………………………」

 

 

 

何かどっかで聞いたロボットアニメを捩ったような商品名がドンッ!と載せられた青い箱……アレな行為の時に女性に子供出来ないないように男子が身につけるアレが入った箱だった。

 

 

姫「ウンウン、これは年頃の男子にとって本当に必要な物だしな。携帯してても損はないぞ♪」

 

 

零「……………………………………………………………………コイツ殴っていいか…………?」

 

 

晃彦「ちょお?!ま、待て待て待て待て待てッ!落ち着け零ッ!!一旦落ち着けッ?!」

 

 

勇二「その人もきっと悪気があったワケじゃないですからッ!!一度落ち着きましょう?!ねっ?!」

 

 

今にも拳を振りかざし姫に殴り掛かりそうな雰囲気を漂わせる零を必死になって落ち着かせようとする晃彦と勇二。とそんな時……

 

 

アズサ「……?零、これ何だか動いてるみたいなんだけど……これは何?」

 

 

零「…………は?」

 

 

横からアズサが姫から受け取った白い箱を零に見せながら首を傾げ、それを聞いた零は危ない雰囲気を消しアズサが持つ白い箱へと目を向けた。すると……

 

 

 

 

―ヴイィィィィィィッ……ヴイィィィィィッ……!―

 

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

『………………………………………………………』

 

 

アズサ「?」

 

 

 

……白い箱全体が小刻みに奮え、中から機械のような物が振動する怪しげな音が聞こえてきていたのである。

 

 

零「……………おい………お前一体何入れた……?」

 

 

姫「ん?何って、使い方によっては君でも使えるものだぞ?主に後ろとか」

 

 

―パシッ!―

 

 

アズサ「……あ」

 

 

姫が言い切ると同時に零はアズサの手から白い箱を掴み取って立ち上がり、襖を開いて全力で空に向かって投げ飛ばした。

 

 

姫「あぁッ?!なんてことをするんだ君は?!せっかくのプレゼントを!」

 

 

零「やかましいわッ!アズサに何をやろうとしてるんだお前はッ?!」

 

 

姫「えぇ、アレではダメだったのか?……あぁ、アズサはロー〇ー派なのか」

 

 

勇二「いやそういう事じゃないから?!てかまだ言ってるよこの人?!」

 

 

零「そういうネタは色々と批判食らうから止めろッ!というかそんなのアズサにやるくらいなら自分で付けてろ馬鹿者がッ!」

 

 

姫「……悪いがそれは出来ない……それは私の主義に反するからな」

 

 

零「は……お前の主義?」

 

 

いきなり真剣な顔つきで腕を組みながら告げた姫に思わず押し黙る零。そして姫はキリッとした表情で零を見据えながら……

 

 

姫「そうだ、私は……下着とナプ〇ン以外は身に付けない主義だッ!!」

 

 

晃彦「何カミングアウトしてんのこの人ッ?!」

 

 

零「……というか、俺は神でもそういうの付けるんだって少し驚いたぞ今……」

 

 

カリム「って何処を見て関心してるんですか零ッ!」

 

 

コイツがこれなら、アテナとか冥王とかもそういうの付けてるのか?と姫の股を見下ろして関心する零に顔を赤くさせながら注意するカリム。

 

 

姫「だがまあ、今は下着を履いてないからナプ〇ンも付けられないんだがな……」

 

 

零「……は?履い……てない?」

 

 

姫「ん…?あぁ、ノーブラノーパンだが?」

 

 

『…………………はい?』

 

 

何か平然とした顔でサラリと言って除けた姫に思わず面が点となる一同。で……

 

 

シャッハ「――ってっ?!な、なななななな何をおっしゃるんですいきなり?!というか履いてないッ?!」

 

 

姫「何を驚いている?当然だろう?戦国の世にブラとパンツがあると思うか?」

 

 

絢香「だからってわざわざ公言する事ないでしょうッ?!というかそれなら早く何か付けて下さい!!」

 

 

姫「ん?まあ確かに少しスースーするが……これはこれで悪くないぞ?寧ろこの状態を見られていると思うと……非常に興奮するじゃないか」

 

 

零(駄目だコイツ、早くなんとかしないとっ……)

 

 

何の恥じらいもなくノーブラノーパンを公言した上、それを悪くないと言ってる辺り既にヤバい。そう思った零は話しの展開に付いていけず小首を傾げるアズサを横目に見ると、姫に近づいて右手を掴みそのまま姫を引っ張りながら部屋から出ていこうとする。

 

 

紗耶香「お、おい待て黒月!何処に行く気だ?!」

 

 

零「決まってる!街に行ってコイツの日用品を揃えて一般常識を身に付けさせる!このままコイツを放っておけば、主にアズサとかに余計な知識を植え付けかねんだろう?!」

 

 

勇二「いやけど……その恰好で街を歩かせたらかなり目立つんじゃ……」

 

 

零「……むっ……」

 

 

勇二に言われて足を止め、零はジト目で振り返り姫の恰好を見下ろしていく。桜色と白の着物、冠のような金のかんざし。……確かにこんな恰好で街を歩いたらかなり目立つに違いない。

 

 

姫「な、なんだ?人の恰好をジロジロ見て……照れるじゃないか……」

 

 

零「……お前、その恰好をどうにか出来んか?そんな恰好じゃ碌に外にも出られんだろう……?」

 

 

姫「恰好?……ふむ……言われてみれば、確かにこの時代では人目に付くかもしれんな……」

 

 

零に指摘され自分の恰好を見下ろしながらそう言うと、姫は部屋の中を見渡して何かを物色していき、床に座るアズサを見てゆっくりと近づいていく。

 

 

アズサ「……?何?」

 

 

姫「ふむ……君のがちょうどいいかもしれんな。少し真似させてもらうぞ?」

 

 

『?』

 

 

アズサを見てそう告げる姫の考えが読めず、疑問げに首を傾げる一同。そして姫はアズサから少し離れると両目をつむり、両手を合わせて神に拝むようなポーズを取った。とその時……

 

 

―……シュウゥゥゥゥ……パアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

零「な、何だ……?」

 

 

突然姫の両手からまばゆい光りが放たれ、部屋の中を照らし始めたのだ。そして光りは徐々に広がって姫の身体を包み込んでいくが、数秒もしない内に輝きが弱まって消え去っていった。すると其処には……

 

 

姫「――ふむ、中々良い感じに出来たな。思ったより上出来だ♪」

 

 

……其処には光に包まれた姫が嬉々とした表情で立っていたが、その格好は先程と変わっていた。

 

 

少し控え目なデザインの桜色と白のシャツに、女の子らしい長くも短くもない普通くらいの丈のスカート。

 

 

色は違うが、その格好は今アズサが着ている物と同じ服装だった。

 

 

アズサ「?私と同じ服……」

 

 

姫「ふふ、すまんなアズサ。少しばかり君の服を真似させてもらったよ」

 

 

晃彦「ま、真似させてもらったって……というか今のどうやって?!」

 

 

姫「何、簡単さ。少しだけ神の力を使ったんだ」

 

 

カリム「神の力……ですか?」

 

 

神の力を使った。微笑みながらそう告げた姫に不思議そうに首を傾げる一同に、姫は苦笑してスカートの端を掴みながら説明を始めた。

 

 

姫「まあ分かりやすく言えば、私はアズサの服を神の力を使って創造しただけだ。それが私の神としての力……『様々な奇跡を具現化出来る』力だ」

 

 

零「……なんか聞いた感じじゃチート臭がかなりする力だな……」

 

 

姫「別にそんな大したものじゃないぞ?大体私もある事にしかこの力は使わないからな。君が思ってるような力の使い方はしていない」

 

 

絢香「?ある事にしか力を使わないって、じゃあ普段はどんな事に力を使ってるんですか?」

 

 

姫「んー?そうだな……主にナプ〇ンばかり創造してたな。アノ日が近づくにつれて」

 

 

零「Wa~oすげぇ力の無駄遣いだぜー……」

 

 

というかナプ〇ン創るより他に力の使い道ないのかと思わずツッコミを入れたくもなる零だが、またボケられても困るので言葉を飲み込んだ。

 

 

姫「むぅ、しかしスカートにしたら余計にスースーしてきたな……というか、風でスカートがめくれたら見えるんじゃないか?履いてないのが」

 

 

勇二「じゃあ駄目じゃんッ?!」

 

 

零「ふむ……なあカリム、お前下着とか持ってるか?」

 

 

カリム「は?……え、えぇ……持ってると言えば持ってますが……」

 

 

零「そうか……なら少しの間、お前のををコイツに貸してやってくれないか?どうやらコイツのウエストはお前とほぼ同じのようだし」

 

 

カリム「え?……私と……ほぼ同じ?」

 

 

姫とカリムのウエストはほぼ同じ。淡々とした口調でそう発言した零にカリムは一瞬呆然となり、すぐにジト目で零を見上げてきた。

 

 

カリム「待って下さい零……何故姫さんと私のウエストが同じだと分かるんですか?」

 

 

零「?何故って、そんなの見ただけで分かるに決まってるだろ?どうやらあの女もお前と同じで其処まで胸に脂肪があるタイプではないみたいだし……」

 

 

カリム「んなっ?!」

 

 

零「ああいや、お前の方は前より増えてるのか……またデカくなったみたいだな?一体どれだけ成長させたら気が済む?特に上は前までは80くらいだったのに今は9――」

 

 

カリム「って何を言おうとしてるんですか貴方はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 

―ドグオォッ!!!!―

 

 

零「ガハァッ?!!」

 

 

何かのサイズを言おうとした零にカリムが顔を真っ赤に染めて悲鳴をあげながら拳を振りかざし、零の溝に渾身のボディブローを打ち込んでKOさせたのだった。そしてカリムは腹を抑えながら悶える零を無視し、姫に近づいで手を取った。

 

 

カリム「さあ着替えに行きましょう姫さん!私ので良ければ幾つかお貸ししますから!!」

 

 

姫「む?そう言うことなら助かるが……何か零が床を転がって悶えてるがいいのか?」

 

 

カリム「良いんですっ!!シャッハ!貴女も手伝って下さい!絢香さんと紗耶香さんもお願いしますっ!!」

 

 

絢香「は、はい……」

 

 

紗耶香「わ、分かった……」

 

 

シャッハ「……黒月教導官……南無です……」

 

 

カリムは顔を真っ赤に染めたまま姫を着替えさせる為絢香達と共に部屋から出ていき、シャッハは零に一度合拳するとカリム達の後を追って部屋から出ていった。

 

 

零「ぐおぉぉぉぉぉぉ……何故だぁ……何故俺が殴られなければならんのだぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

勇二「いや、今のは流石にマズイでしょう……完全にセクハラでしたし」

 

 

晃彦「寧ろ殴られた程度で済んで良かったんじゃないか……」

 

 

アズサ「……零、もしかして学習能力ない?」

 

 

シロ『にゃー』

 

 

床に俯せる零が晃彦と勇二に看護される中で、その隣で三人を見つめながら簡単に結論を纏めるアズサとシロであった。

 

 

 

 

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第十七章/桜ノ神の世界⑧(前編)

 

数十分後、零達は姫の日用品を揃える為にお昼過ぎのショッピングモールへと訪れていた。因みに姫はアズサの服を元に複製した服を身に纏い、下着等はカリムから借りている為ちゃんと履いている。

 

 

姫「ほお、いろいろな店があるんだなぁ」

 

 

絢香「えっと、まずは何処から行きましょうか?」

 

 

零「ふむ……そうだな……」

 

 

絢香にこれからどうするかと問い掛けられた零は顎に手を添えながら唸り、興味深そうにショッピングモールを見渡す姫の恰好を見つめながら考える。

 

 

零「……取りあえず服からにするか。何時までもアズサを真似した恰好じゃアイツが不憫だろうし、買った服に着替えさせてそれから買い物すればいいだろ」

 

 

晃彦「そうだな。んじゃ、先ずは服屋からってことで……」

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、零達がまず最初に訪れたのは先程の場所から徒歩5分の場所にある洋服店だった。店内には様々な服が並んでおり、分かってはいたが店内で買い物をする客は女性客が殆どだった。

 

 

絢香「ほら姫様、これなんてどうですか?」

 

 

姫「んー?だが少し可愛らし過ぎないか?どちらかと言えば君の方が似合いそうな気がするが」

 

 

絢香「そんな事ないですよ!とっても似合います♪」

 

 

紗耶香「あ、絢香様、その服にならこっちのジーンズと合わせて……」

 

 

カリム「あ、ほらアズサ、ちょっとこの服試着してみたら?」

 

 

アズサ「?私も……?」

 

 

カリム「えぇ♪貴女も元は良いんだから、ちゃんとオシャレすればもっと可愛くなりますよ♪」

 

 

アズサ「……?良く分からないけど……分かった」

 

 

カリム「素直でよろしい♪あ、シャッハ!次はそっちの服もお願い!」

 

 

シャッハ「……騎士カリム……何だか楽しそうですね」

 

 

洋服店に入って早々、姫に似合いそうな服を意気揚々と選び始める絢香達と、その隣でアズサを着せ替えして楽しむカリム達。そしてそんな普段では見られない年相応の姿を見せる一同を見つめる零達は……

 

 

零「……楽しそうだな……」

 

 

晃彦「あぁ……ホントだな……」

 

 

勇二「まぁ……こっちは暇過ぎて死にそうだけどなぁ……」

 

 

……零、晃彦、勇二の鈍感トリオは店内にある椅子に座って呆然とその光景を眺めていた。というか女性客ばかりしかいない店に男子三人がいるのは妙に目立つ、そして暇過ぎる。

 

 

勇二「一応覚悟はしてましたけど……やっぱり暇ですねぇ……」

 

 

晃彦「だな……女子が服選びに没頭してる間、こっちはただ座って待ってるしか出来んからな……」

 

 

零「先に服を選ぼうと提案したのは間違いだったのか正しかったのか……………ん?おい晃彦、お前缶珈琲に何を入れてる?」

 

 

呆然と服選びを楽しむ女子組みを眺めていた零だが、隣に座る晃彦が先程買った缶珈琲に何かを入れてる事に気付いて声を掛けると、晃彦は「ん?ああこれか?」と何やら良い笑顔で缶を寄せてきた。

 

 

晃彦「先程俺の世界では見られない珍しいプロテインが売ってあってな。ソイツを入れた特製の缶珈琲だ♪お前も飲むか?」

 

 

零「……いや……俺は良い。というかそもそも、俺はプロテインとか飲まん主義だし」

 

 

晃彦「なっ?!プロテインを飲まんだと?!ありえんっ……どういう神経をしとるんだお前は?!それでも人間か?!」

 

 

零「いや少なくとも缶珈琲にプロテインぶちまけるお前よりかはマシな人間だと自負出来るぞ、俺」

 

 

晃彦「馬鹿なっ……良いだろう!ならば今度、お前が嫌でも飲みたくなるプロテインを持って来てやる!首を洗って待っていろ!!」

 

 

零「………なんで俺コイツに宣戦布告されてるんだ?」

 

 

勇二「アハハハ……」

 

 

缶珈琲を片手に零を指差しながら、背後に変な闘志を燃やす晃彦に困惑の表情を浮かべる零。そんな二人のやり取りを見ていた勇二は苦笑いを浮かべていた、そんな時……

 

 

姫「男子が三人隅っこに集まって、なにをしてるんだ君達は?」

 

 

零「…?木ノ花?」

 

 

今まで絢香達に服を選んでもらっていた姫がいつの間にか零達の目の前に立っており、姫の存在に気付いた零は晃彦から姫へと視線を移した。

 

 

零「別に何もしていない、ただちょっと話し込んでただけだ……そういうお前こそ、服選びはいいのか?」

 

 

姫「あぁ、そっちはもう終わった。今絢香達が選んだ服を会計しに行ってくれて……ん?晃彦、君の隣に置いてあるそれはなんだ?」

 

 

晃彦「ん?……ああこれのことか?」

 

 

服を選び終えたことを三人に伝えようとするが、姫は晃彦の隣に置かれたピンク色の容器を見て不思議そうに問い掛け、晃彦はその容器を手に取って姫に見せていく。

 

 

姫「それは?」

 

 

晃彦「さっき其処で買ったプロテインだ。俺の世界では見られない物だったからつい買ってしまってな♪」

 

 

姫「ああ、何だプロテインか。てっきり違うモノかと思って一瞬驚いてしまったぞ」

 

 

勇二「?違うモノって?」

 

 

姫の発言に勇二は疑問げに聞き返し、その問いを受けた姫は若干顔を赤らめながら目を泳がせると……

 

 

姫「いやその……色とサイズ的に携帯用のオナ〇かと思ってな……」

 

 

零「そんなもの堂々と外で持ち歩く訳ねぇだろ……というか今更だが本当に頭大丈夫かお前?」

 

 

姫「ん?いきなり失敬な奴だな君は?私は封印される前と変わらず、頭の中は今でも思春期真っ只中だ!」

 

 

零「……ああ尚更ダメだなこの女……」

 

 

威張るように胸張って叫ぶ姫に零も何処か諦めたような声を漏らし、晃彦と勇二はそんな零を見て苦笑いと冷や汗を流していたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから洋服店での買い物を終えた一行は姫に新しい服を着せ、他の日用品を揃える為にショッピングモールを再び歩き回る事となった。

 

 

しかし、この後も木ノ花之咲耶姫の暴走に振り回される事になるとは、この時はまだ誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

時に下着を買いに行こうとランジェリーショップに向かう途中で……

 

 

 

姫「……そういえば、絢香は普段どんな下着を身につけているんだ?」

 

 

絢香「え、えぇ?!な、何ですかいきなり?!」

 

 

姫「いや、出来れば君達の趣味も参考にして下着を選ぼうかと思ってな……で、どうなんだ?」

 

 

絢香「え……えぇっと……ほ、殆ど普通ですよそんなの……というか、そういう姫様はないですか?コレといったこだわりというか何というか……」

 

 

姫「ふむ、こだわりか……こだわりかどうかは分からないが、私は下着の色は赤しか選ばない主義だ」

 

 

絢香「へ…?どうしてですか?」

 

 

姫「赤ならアノ日が近い時はいつ着ても大丈夫だからな」

 

 

零(……そんなこったろうと思った……)

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

時に薬局で買い物の最中で……

 

 

 

姫「……むーー……」

 

 

零「……?何をしてるんだ木ノ花?」

 

 

顎に手を添えながら難しい表情で商品が並ぶ棚を睨みつける姫。零はそんな姫の様子に疑問を浮かべながら姫が睨みつける棚に視線を向けると、其処には一つの商品が別の商品コーナーに置かれていたり位置が斜めにズレていたりする商品等があった。

 

 

零「?その棚がどうかしたのか?」

 

 

姫「いやな……私はこういう風に商品を雑に扱う輩は好かないんだ。だって、後で買い物しに来た人達の事を考えてないみたいだろう?」

 

 

零「……まあ、確かに見ていて気持ちが良いワケではないが……」

 

 

姫「そうだろう?だから君もコレを直すのを手伝ってくれ。こういうのは自分でやらないと気が済まないんだ。あと位置直しも頼む」

 

 

零「細かい奴だなぁ。あまり細かいこと気にしてるとハゲるぞ?」

 

 

姫「下の毛なら大歓迎だ」

 

 

零「……ああそうですか」

 

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

時に休息で寄ったレストランで……

 

 

勇二「……うぅ……すみません……ちょっとトイレ……」

 

 

零「ん?おい勇二?」

 

 

一同がレストランのテーブルに着いて何かを頼もうとするが、突然勇二が腹を抑えながら立ち上がり店の奥のトイレへと向かっていった。

 

 

晃彦「勇二の奴、一体どうしたんだ?」

 

 

絢香「心配ですね……お腹壊したんでしょうか?」

 

 

姫「いや……果たしてそう言い切れるかな?」

 

 

零「?どういう意味だ?」

 

 

何かを見通しているような発言をした姫に零は訝しげに聞き返し、姫は腕を組みながら伏せていた瞳を開いて……

 

 

姫「巨〇ならあの位置に手があっても可笑しくはない!溜まってたんだろうきっと……!」

 

 

零「いやありえねぇよ」

 

 

アズサ「……?シャッハ、巨〇って何?」

 

 

シャッハ「貴女が覚えなくて良い事です!というか今すぐ忘れなさい!!」

 

 

アズサ「???」

 

 

ボケる姫に零がツッコミを入れる中で、アズサは自分の疑問をシャッハにぶつけるも教えてもらえず、頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

時にたまたま寄った近くの公園で……

 

 

 

零「……ん?絢香、アレは一体なんだ?」

 

 

絢香「はい?」

 

 

公園を歩いていた零は芝生の先を指差しながら疑問げに問い、絢香は零が指差す方へと顔を向けた。其処には湖の近くにある一本の木の下で一組の男女が向かい合い、なにやら告白をしている光景があった。

 

 

晃彦「アレって……もしかして告白してるのか?」

 

 

絢香「あぁ、はい。アレはこの辺じゃ結構良く見掛けますね。特にあの木の下では」

 

 

零「?なんだ、あの木には何かあるのか?」

 

 

絢香「はい。あの木は昔からあった物みたいで、あの木の下で告白をすると恋が成就するって伝説があるんです。街で有名なスポットの一つでもありますよ」

 

 

零「ほぉ……昔からって事は、お前の時代にもあったのか?あの木」

 

 

姫「ん?ああ、言われてみればあった気もするが……だが、その時の伝説は全然違う物だったぞ?」

 

 

勇二「違うって……じゃあどんな伝説が流れてたんですか?」

 

 

姫「うむ。私の時代では、あの木の下で種付けすると高確率で子供が出来るという伝説が流れてたな」

 

 

零「…………色んな意味で台無しだなおい……」

 

 

そうこう話してる間に、木の下で女性が告白していた男が女性を強く抱きしめていた。恐らく告白が上手くいったのだと思うが、今の話を聞いたせいか全然感動出来ない。

 

 

絢香「え、えっと……ああでも!恋愛物って結構女の子が憧れちゃうようなモノがいっぱいありますよね!」

 

 

姫「ふむ……確かにな。中には現実味がないと言う輩もいるが、やはりそういう物には憧れるな」

 

 

絢香「ですよね!例えば……あっ、良く恋愛物で有りがちの運命の赤い糸とか!あれ憧れちゃいますよねぇ~」

 

 

姫「おぉ、赤い糸か!そのようなモノがあったら……『ヘッヘッヘ、お前アソコから糸引いてやがるぅ~』と日常的に言われるだろうなぁ」

 

 

零「言われますね」

 

 

勇二「ツッコミ放棄ッ?!」

 

 

もう一々ツッコムのめんどくさいから良いや、と遠い目をしてツッコミ放棄してしまった零に代わりにツッコミを入れる勇二。

 

 

絢香「あー、えぇっと……そ、そういえば!零さんは今まで女性と付き合った事ってあるんですか?」

 

 

零「……ん?あっいや、話を振ってもらって悪いがそういう関係になった異性はいないぞ、俺」

 

 

姫「そうなのかぁ……では右手が恋人なんだな」

 

 

零「いや違うから……」

 

 

姫「ん?違ったのか?では左手か?」

 

 

零「だからそういう訳じゃないとっ……」

 

 

姫「右手でも左手でもない?ではまさか……口が?!どれほど身体が柔らかいんだ君は?!」

 

 

零「一番ねえよ」

 

 

晃彦「……二人とも、早く先に行こう……」

 

 

 

絢香「そ、そうですね……」

 

 

勇二「だな……」

 

 

下ネタを連発して暴走する姫と姫にツッコミを入れる零を置いて先に向かう一同。そうして暫く漫才を繰り返してた二人が一同がいなくなった事に気付いて後を追い掛けたのは、それから10分ほど経った後だった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

零「…………………………………疲れたっ………」

 

 

あれから姫のエロボケネタに振り回されながらも買い物を続けた一行だが、零は休憩を申し出て姫と紗耶香と共にベンチでくたびれた様にうなだれながら座っていた。

 

 

因みに他のメンバーは休憩時間を利用して目の前にあるゲーセンへと遊びに行っており、晃彦と勇二も零のようにくたびれていたが、有無を言わせないと言わんばかりに女性メンバー達によって強制連行されていた。

 

 

紗耶香「ふぅ、随分とくたびれているな黒月?そんなに疲れたのか?」

 

 

零「……ああ……主にあの神様へのツッコミのせいでな……」

 

 

聞いただけでも疲れてます、と分かるような声で言いながら零はうなだれていた顔を上げ、視線だけを動かしてゲーセンの隅っこへと目を向けた。其処には……

 

 

『ワンワン!ワン!』

 

 

姫「アハハハッ!コラくすぐったいだろう♪」

 

 

何処からやって来たのか分からない子犬と戯れ合い、子供のように笑う姫の姿が其処にあった。そもそも零が休憩したいと申し出たのもあの女のエロボケネタに振り回され続けたからなのだが、当の本人である姫はそんな事も知らずに子犬を可愛がり、そんな光景に零は再びガクリとうなだれてしまう。

 

 

零「全く……誰の為に買い物してやってると思ってるんだ、アイツは……」

 

 

紗耶香「仕方あるまい……桜ノ神様は長年もの間ツボに封じられていたのだ。漸く自由になれたのだから、少しばかりハメを外し過ぎているだけだろう」

 

 

零「いや、あれで少し程度なのか?」

 

 

いくらなんでもあのハメの外し方は少しではないだろう?と険しげに眉を寄せて紗耶香に告げる零。そんな零の発言に紗耶香も少なからず共感しているのか冷や汗を流しながら黙り込み、零はそんな紗耶香の反応を見てもう一度深い溜め息を吐くとベンチからゆっくりと立ち上がった。

 

 

紗耶香「黒月?何処に行く気だ?」

 

 

零「ちょっと散歩がてら飲み物でも買ってくる。お前はあの女を見てろ。勝手に何処か行かれて捜すとなったら面倒だからな……」

 

 

紗耶香「あぁ、分かった。だが早く帰ってこいよ?」

 

 

いつ絢香様達が戻って来るか分からないからなと付け足す紗耶香に零は片手を軽く上げて答え、そのまま飲み物を買いに行こうと歩き去っていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―……ピッ、ガタンッ!―

 

 

零「はぁ……まさか買い物だけで此処まで疲れるとはな……いや、この場合ツッコミだけでと言うべきか?」

 

 

溜め息を吐きながら自販機のボタンを押していき、思わずそんなことを呟く零。まだまだ買い物は続くようだから、買い物を再開したらまたあの女のボケに付き合わされるハメになるんだろうか?……想像しただけでも気が滅入るので考えるのは止めよう。

 

 

そう思いながら缶の飲み物を口内へと流し込み姫達の下に帰ろうと歩き出した、その時……

 

 

 

 

 

「―――あっ!お姉ちゃんだぁー♪」

 

 

「お姉ちゃーん!」

 

 

 

 

 

零「……ん?」

 

 

姫達の下に戻ろうした零の耳に大勢の子供達の声が届き、零は足を止めてその声が聞こえてきた建物に目を向けた。それは……

 

 

零「……孤児院『青空』?」

 

 

零の瞳に映ったのは大勢の子供達の楽しげな騒ぎ声が聞こえてくる建物……青空という名の孤児院だった。

 

 

零「孤児院か……そういえば翔のとこ以外の孤児院は初めてみるな……」

 

 

以前大輝と共に祐輔の世界で翔の孤児院のリフォームを手伝った事があるが、他の孤児院はどんな感じなんだろうか?興味本意でそう思った零は缶を片手に歩き出し、孤児院の中を覗き込んだ。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜香「ふふ、久しぶりね。みんな元気にしてた?」

 

 

「うん!」

 

 

「ねえねえお姉ちゃん!今日はお姉ちゃん、ずっと孤児院にいるの?」

 

 

桜香「あー……ごめんなさい……またこの後すぐ仕事に戻らなきゃいけないのよ」

 

 

「えー……またお仕事ー……?」

 

 

桜香「ごめんなさいね……でもそれまでまだ時間はあるから、少しだけなら一緒に遊べるわ」

 

 

「ホント?!じゃあじゃあ、一緒にかくれんぼしよ!」

 

 

「あっお前だけずるいぞー!」

 

 

「お姉ちゃん!私も私もー!」

 

 

桜香「はいはい焦らない焦らない。じゃあ最初は――」

 

 

 

 

 

 

零「ッ!アイツは…?!」

 

 

 

其処には孤児院の庭の中で一人の女性……公園で零達とツボを賭けて戦った桜香が孤児達と楽しげに遊んでいるという光景があったのだ。

 

 

公園で自分と戦った女とは思えない明るい笑顔で子供達と遊ぶ桜香の姿にも驚いたが、何故桜香がこんな所にいるのか?動揺を隠せない零がジッと子供達と遊ぶ桜香を見ていた、そんな時……

 

 

「――あら?貴方は?」

 

 

零「……ん?」

 

 

不意に隣から誰かに声を掛けられ、零は桜香に向けていた目をそちらに向けた。すると其処には一人の高年の女性……格好からしてこの孤児院の先生と思われる女性が不思議そうにこちらを見ていた。

 

 

「えぇっと……どちら様?うちに何かご用でも?」

 

 

零「あ、いやその……すまない……彼処にいるのって、土御門桜香だよな?」

 

 

「?もしかして桜香ちゃんのお知り合い?まあまあ、あの娘も隅に置けないわねぇ♪こんなイケメンさんとお付き合いがあったなんて♪」

 

 

零「……は?」

 

 

何故か楽しそうに笑う女性の言葉に零は訳が分からず疑問符を浮かべてしまうが、視界の端に桜香と子供達の姿が映ると女性と桜香達を交互に見て口を開いた。

 

 

零「えっと……すまない。少し聞きたいんだが、桜香は何度も此処に来ているのか?」

 

 

「?もしかして貴方、桜香ちゃんから聞いていないの?」

 

 

零「?聞いてないって……何を?」

 

 

疑問そうに問い掛けてきた女性に零も思わず首を傾げながら聞き返し、それで零が何も知らないのだと理解した女性は少し言い難そうな表情で桜香を見つめながら口を開いた。

 

 

「その……あの娘はね……昔此処の孤児院で育った娘なの」

 

 

零「ッ?!」

 

 

桜香が此処の孤児院出身。女性の口からそう聞かされた零は驚愕の表情を浮かべ、子供達に明るい笑顔を向ける桜香へと視線を向けたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「バイバイお姉ちゃーん!」

 

 

「また遊びに来てねー!」

 

 

桜香「えぇ、またね」

 

 

それから数十分後、今まで子供達と遊んでいた桜香はそろそろ仕事に行かなければと言って孤児院を後にしようとし、手を振って見送る子供達に手を振り返しながら門から出て何処かに向かおうとする。その時……

 

 

「――驚いたなぁ……お前でもあんな顔して笑うんだな?」

 

 

桜香「…っ?!」

 

 

不意に背後から誰かに声を掛けられ、桜香はそれに驚きながら直ぐさま背後へと振り返った。すると其処には孤児院の塀に背中を預けながら桜香を見つめる零の姿があった。

 

 

桜香「あ、貴方っ……どうして此処に?!」

 

 

零「なに、たまたま通り掛かっただけだ……だが驚いたな?まさかお前が子供好きだったなんて」

 

 

桜香「っ……ずっとのぞき見してたわけ?趣味が悪いわね……」

 

 

零「それもたまたまだ……別に見たくて見たかった訳でもない」

 

 

バツが悪そうに顔を逸らす桜香とは対照に、なんでもないように言いながら軽く息を吐く零。そして塀の壁からゆっくりと背中を離すと、零は孤児院を見つめながらポツリと呟いた。

 

 

零「……お前も昔、此処の孤児院で育ったんだってな?」

 

 

桜香「……調べたの?私のこと……」

 

 

零「いいや、さっき呼び掛けられた此処の先生から話を聞いた。なんでもお前が九歳の頃から面倒を見てきたとか言っていたが……」

 

 

桜香「林先生か……全くあの人は余計な事を……」

 

 

ふぅと呆れるような溜め息を吐きながらそう呟くと、何処か観念したかのような顔をしながら零と同じように孤児院を見つめながら口を開いた。

 

 

桜香「――私がまだ九歳の頃にね、両親が交通事故に巻き込まれて死んだのよ。身寄りを失った私は此処の孤児院に入って、それから十四になった頃に土御門家に引き取られて鬼王を受け継ぐ為の教育を受けさせられたの」

 

 

零「?鬼王を受け継ぐ為に引き取られたって……」

 

 

桜香「ああ、言ってなかったわね……私は土御門家の本当の子供じゃないのよ。本来鬼王を受け継ぐべき子が不治の病に遭って亡くなったみたいでね、それで急遽その子の代わりとして私が引き取られたの……」

 

 

何処か辛いような、懐かしむような表情で自身の過去を話していく桜香。そんな桜香を見つめながら零は黙って話に耳を傾け、桜香は静かに話を進めていく。

 

 

桜香「最初は辛い事ばかりだったけど……私を引き取ってくれた土御門家に恩を返す為にもくじける訳にはいかない。ただその一心で聖者への修業を乗り越え、私は鬼王としての力を手に入れた……幻魔と戦う為にね」

 

 

零「…………」

 

 

桜香「それから私は人造幻魔達を引き連れてこの世界に現れたギルデンスタンと戦い、その中で絢香や紗耶香達と出会い、仲間となってギルデンスタンを倒した……長い戦いを終わらせる為に……それで全部終わるのだと信じて……それだけの為に戦ってきた」

 

 

零「……なら何故幻魔神を蘇らせようとする?ソイツを蘇らせれば、更に戦火が広がるんじゃないのか?」

 

 

幻魔との戦いを終わらせる為に戦ってきたなら、何故今幻魔神を蘇らせようと動いているのか?それが理解出来ない零が疑問げに質問すると、桜香は奥歯を噛み締めながら語り出す。

 

 

桜香「そうね……確かに奴が復活すれば世界が混乱し、戦火が広がる可能性が高い……でも……今も無差別に人々を襲ってる幻魔達を消し去るには、幻魔神を倒すしかないのよ!」

 

 

零「?どういう意味だ?」

 

 

桜香「簡単な話よ……全ての幻魔は幻魔神という存在が有る事によって延々と生まれてくる……つまりどれだけ雑魚を倒しても奴らが尽きる事は決してない……幻魔神という存在を消すしかね」

 

 

零「ッ!」

 

 

全ての幻魔は幻魔神という存在から生まれてくる。つまり幻魔神が存在する限り幻魔が全て消える事はない。そう聞かされた零は驚愕し、同時に桜香のホントの目的を理解した。

 

 

零「ならお前は……幻魔神を復活させて倒すために、幻魔達に……?」

 

 

桜香「えぇ、絢香達は幻魔神復活に反対しているようだから、これしか方法はないと思ったのよ……」

 

 

零「ッ!……絢香達はその事、知っているのか?」

 

 

桜香「さあ、多分知らないんじゃないかしら……私もギルデンスタンとの戦いの後に幻魔界に行って、奴が生前に使っていた研究所を調べて知ったんだし」

 

 

零「お前っ……なら何故その事を絢香達に話さないで殺そうとした?!あの二人にその事実を話せば、きっとお前の考えに賛同して……!」

 

 

桜香「それはないわね……絢香達はどんな事があっても幻魔神を復活させようとはしないわ」

 

 

零「何故だ?!そんなこと話してみないと……!」

 

 

桜香「分かるわよ……あの二人は幻魔神が復活する事で世界が混乱する事を恐れている。例えこのことを話しても奴を復活させる事に賛同するハズがない。貴方も公園で見たでしょ?絢香が必死に幻魔神の復活を妨げようと私の前に立った姿を……」

 

 

零「…………」

 

 

桜香に言われて公園で必死に幻魔神復活を阻止しようと身体を張る絢香の姿を思い出し、零は言葉が詰まってそれ以上言えなくなり口を閉ざしてしまう。

 

 

零「……だからって、何も殺そうとする事はなかったんじゃないのか?アイツ等はお前の仲間だったんだろう?何故そう簡単に殺そうとする事が……」

 

 

桜香「…………」

 

 

幻魔達を消す為なら、仲間である絢香と紗耶香を殺す事を厭わないのかと。険しげに桜香へと問い掛ける零だが、桜香は無言のまま何も言わずに孤児院に視線を向けながら話し出す。

 

 

桜香「―――私ね、此処の子供達からお姉ちゃんって呼ばれてるの……多分前に孤児院にいたからそう呼ばれてるんでしょうね……血は繋がっていないけれど、本当の姉みたいにあの子達は接してくれる……そんなあの子達が愛おしくて堪らないの……」

 

 

零「?何の話だ?」

 

 

何故かいきなり子供達の事を話し始めた桜香の意図が分からず疑問符を浮かべる零だが、桜香はそんな零を他所に言葉を紡ぐ。

 

 

桜香「だから私は、あの子達が傷付いて涙を流す姿を見たくない……貴方は知らないでしょうけど、此処にいるほとんどの子供達は……幻魔達に両親を殺されて居場所を失った孤児達なのよ……」

 

 

零「なっ……」

 

 

この孤児院にいるほとんどの孤児達が、両親を幻魔に殺されてしまった身寄りのない子供達。それを聞いた零は絶句して言葉を失い、今も庭で遊んでいる子供達へと視線を向けた。

 

 

桜香「分かる?私達が延々と幻魔と戦い続けている間にも、沢山の人達が傷付いてるっ……さっきも私達が公園で戦ってる間に孤児の子の一人が幻魔達に襲われそうになったらしいけど、黒い仮面の人に助けてもらって助かったそうよ……」

 

 

そう言って桜香は他の孤児達と一緒にボールで遊ぶ肩に包帯を巻いた男の子……先程ジョーカーに変身した翔一に助けられた男の子を指差すと、零に真剣な目を向けた。

 

 

桜香「もう悠長にしてる暇なんてないのよ……幻魔達の動きは日に日に活発化し始めて町への被害もひどくなってきてるっ……そうなれば、此処もいずれ幻魔達の被害に遭うかもしれない……だからそうなる前に、全ての元凶である幻魔神を復活させて奴を殺すしかないの!!これ以上あの子達の居場所を奪わせる訳にはいかないから!その為なら私は仲間を裏切るし、仲間を殺す事も問わない!!」

 

 

零「……お前……」

 

 

全ては此処にいる傷付いた子供達を守る為。そのためならどんな汚名を被ってもいいと、悲痛な叫びを上げてそう告げた桜香に零も口を閉ざした。

 

 

桜香「……みっともないとこ見せちゃったわね………どう?可笑しいでしょう?こんな馬鹿みたいな理由で私は絢香達を殺してツボを奪おうとしてた……最低な人間よ……私は……」

 

 

零「……そうだな……お前は馬鹿な女だ……それについては激しく同意する」

 

 

桜香「ふふ……貴方も容赦ないわね……でもそうよ。私は仲間とあの子達を天秤に掛け、あの子達を選んだ……紗耶香に裏切り者って言われるのも当然――」

 

 

零「違う。俺が言いたいのは……何故もっと早くその事を絢香達に言わなかったのかって事だ」

 

 

桜香「……え?」

 

 

静かに、それでいて何処か怒りを含んだ口調でそう言い放った零に桜香は思わず呆然としてしまうが、零は瞳を伏せて深く息を吐いて告げた。

 

 

零「お前がもっと早くそのことを絢香達に伝えておけば、もっと違う道があったかもしれない……もしかしたらってこともあったかもしれない……お前はその可能性を自分で壊したんだ」

 

 

桜香「…………」

 

 

零「お前が裏切り者と罵られるようになってしまったのは、確かにお前のせいだ。だがそれはお前が絢香達を裏切って殺そうとしたからじゃない……お前が……仲間を信じないで一人で突っ走ったからだ」

 

 

桜香「ッ!」

 

 

零「絢香はお前を信じようとした……だがお前は勝手に予想を付けて絢香達の手を取ろうとしなかった……仲間達に自分の意思が受け入れてもらえないことを恐れて自分から裏切った……お前の間違いはそれだ……仲間が仲間を信じられなければ、それで終わりなんだ……そんな事、お前が一番分かってるんじゃないのか?」

 

 

桜香「…………」

 

 

真剣な表情でそう言い放った零に桜香は言葉を失って黙り込んでしまう。そして暫く経つと、桜香は顔を俯かせながら自嘲するように笑みを漏らしていく。

 

 

桜香「仲間が仲間を信じられなきゃそれで終わり、か……ふふ、そうね……確かにそうだわ……私は自分の意思を絢香達に受け入れてもらえないのが怖かった、だから自分から裏切った。絢香達なら話せば分かってくれてたかもしれないのに……そんな当たり前のことを忘れるなんて……本物の馬鹿ね……私は……」

 

 

零「桜香……」

 

 

桜香「……零……悪いけど、此処で話した事は絢香達には内緒にしててくれる?この事は私が……私自身の口で、いつか絢香達に話すから……」

 

 

零「……これからどうするつもりだ?」

 

 

桜香「……一先ず幻魔退治でもしながら、此処から東にある霊山にでも行ってみようかと思ってる。彼処は昔幻魔神が根城にしていた山でもあるから、何か手掛かりが掴めるかもしれないし」

 

 

零(東の……霊山?……まずい……彼処は確か幻魔神が封印されてる場所じゃなかったか?)

 

 

桜香が東の霊山に行くと告げて幻魔神が封印されてることを思い出した零は内心焦りを浮かべてしまうが、そんな零の様子の変化に気付いた桜香は軽く溜め息を吐きながら腰に両手を当てていく。

 

 

桜香「何よその反応?言っておくけど、仮に幻魔神が封印されている場所を見つけても一人で挑んだりしないわよ?封印を見つけたら、先ずは絢香達に伝えに言って全てを話す。今までのこと全部ね」

 

 

零「……いいのか?絢香は大丈夫だと思うが、紗耶香が黙ってるとは限らんぞ?」

 

 

桜香「そうなっても仕方ないわ……私が彼女と絢香にしてきた仕打ちは謝って済む問題じゃない……だから斬り捨てられる覚悟で行く……その上で、一緒に幻魔神と戦って欲しいと頼んでみる」

 

 

零「以外と度胸のある女だな、お前……」

 

 

桜香「ふふふ、それだけが取り柄だから……じゃあ、そろそろ行くわ」

 

 

微笑みながら零にそう言うと軽く手を振りながら東の霊山に向かおうとする桜香。その時……

 

 

零「おい、ちょっと待て」

 

 

桜香「……ん?」

 

 

零が何故か桜香の背中を呼び止め、桜香は怪訝そうに小首を傾げながら零の方へと振り返った。そして零は無言で桜香へと歩み寄って手を掴むと、ポケットから神社のお守りのような物を取り出し、それを桜香の手に押し付けた。

 

 

桜香「?これ……」

 

 

零「お守りだ。ホントなら自分の為に買ったんだが、どうやら不幸が強すぎる為に俺には効かないようだ。だからお前が持っとけ……お前も以外と無茶する所があるからな」

 

 

桜香「……クス……何だ、心配してくれるの?」

 

 

零「そんなわけあるか……ほらさっさと行け。俺もそろそろ皆のところに戻らんといけないからな」

 

 

そっぽを向きながらさっさと行けとジェスチャーする零。桜香はそんな零の姿に思わず笑みを浮かべると、受け取ったお守りをつまむように持ちながら……

 

 

桜香「色々と世話になったわね、零…………私、貴方みたいな人は結構好きよ♪」

 

 

零「…………は?」

 

 

先程子供達に向けていたのと同じ優しげな笑みを浮かべながらそう告白した桜香に零は思わず唖然となり、桜香はそんな零の顔を見てクスクスと笑いながら霊山へと歩き去っていった。

 

 

零「……何なんだあの女は……訳が分からん……」

 

 

唖然としていた零も桜香の背中を見て漸く正気に戻り、より一層疲れた溜め息を吐きながら姫達の元へと戻ろうと歩き出していった。その陰では……

 

 

 

 

 

 

 

 

紗耶香「…………桜香の奴………馬鹿者め…………」

 

 

 

零の帰りが遅いのに気になって捜しにきた紗耶香が、建物の陰に隠れながら今の話しを立ち聞きして複雑な表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数分後、桜香と別れた零は先程姫達と別れたゲーセン前のベンチへと戻ってきていた。しかし其処にはベンチに座っていた筈の紗耶香や他のメンバーはおらず、姫が未だに子犬と戯れている姿しかなかった。

 

 

零「……お前、まだソイツと遊んでたのか?」

 

 

姫「よぉーしよーし♪……ん?零か?遅かったじゃないか、一体何処に行ってたんだ?」

 

 

零「ちょっと野暮用だ……それより、まだ絢香達は戻って来ないのか?というか紗耶香は何処に行った?」

 

 

姫「?紗耶香なら君を捜しに行くと言って何処かに行ってしまったぞ?途中で会わなかったか?」

 

 

零「俺を捜しに?ふむ……まあ待ってればその内に帰ってくるだろう」

 

 

先程桜香と話したせいか少し疲れたし、ちょっと休むかとベンチに腰を下ろしていく零。姫もそんな零から視線を逸らして子犬と向き合い、再び子犬と戯れ合いだした。

 

 

零「……それにしても、お前ホントに子犬が好きなんだな?」

 

 

姫「ん?あぁ、だって愛くるしいではないか♪まあ、そんな私でも大型犬とかは苦手なんだが……」

 

 

零「?なんだ、もしかして怖いのか?神のくせして」

 

 

姫「だって、大型犬に押し倒されながら唇とか舐められてると獣〇されてるみたいに見えるだろう?」

 

 

零「………それ言われたらそう見えるようになってしまうから言って欲しくなっかったなぁ………」

 

 

というか子犬相手にまで下ネタ言うかこの女は、と一気にテンションが下がってしまう零。姫はそんな零を他所に子犬と遊んでいくが、その時何かを思い出したように突然立ち上がった。

 

 

姫「そうだ……零、悪いが少し行きたい所があるんだが、付き合ってもらって良いか?」

 

 

零「?行きたい所って、まだ絢香達が戻って来ないだろう?それに紗耶香もまだ……」

 

 

姫「あぁ、その点なら心配は無用だ♪」

 

 

姫は微笑みながらそう言うと何処からかペンと一枚の紙を取り出し、ペンで紙に何かを書いていく。

 

 

恐らく戻ってきたメンバーに対し心配いらないという内容でも書いているのだろう。そう考えている間に姫は足元に落ちている小石を拾ってベンチの上へと紙を乗せ、更に紙の上に風で飛ばされるの防ぐ為の小石を乗せていく。

 

 

姫「これでよしっと……では行くとしよう!」

 

 

零「……え?いやホントに行くのか?」

 

 

姫「ん?当然だろう?その為に書き置きを書いたんだぞ?」

 

 

零「いやそれは分かるんだが、その前に俺の意思とかな「ではいざ行かん!しゅっぱーつ!」……ハハ……人権って何の為にあるんだろうネェー……」

 

 

肯定も否定もする間もなく意気揚々な姫に襟を捕まれ、そのまま何処かに向かって引きずられながら遠くを見つめる零であった。

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑧(後編)

 

 

―桜ノ町・高台―

 

 

零「―――おい、何処まで行く気だ?というかこんな場所に何の用が……」

 

 

姫「ついて来れば分かる。ほら、こっちだ」

 

 

何処に行くのか聞かされないまま、姫に強引に連れて来られたのはショッピングモールから少し離れた場所にある高台だった。そして疲れた身体にはキツイ長い階段を登り切ると、其処には頂上である広場や公園等が広がっており、姫は広場を見渡しながら唸り声を上げていく。

 

 

姫「ふむ……やはり此処も変わってしまっていたか……」

 

 

零「?何だ、此処になにかあったのか?」

 

 

姫「ああ。私の時代の時には此処に一面中綺麗な花畑があったんだが……やはり無くなってしまってるようだな……思い出の場所だったんだが」

 

 

寂しげな顔でそう言うと、姫はその場から歩き出して高台の手摺りへと近づいていき、零も無言で姫の隣に歩み其処から見える景色を眺めていく。其処にはオレンジ色の黄昏れに照らされる桜ノ町が一望出来、姫は手摺りに両肘を付けて目を細めた。

 

 

姫「此処もか……私が封印されていた間に色々と変わったんだな。あの頃とは何もかもが違う……」

 

 

零「そんなの普通だろう。個人の意思とは関係無しに世界は移り変わっていく。自然の道理なんてそういうものだ」

 

 

姫「それはそうなんだが、な……変わって欲しくないと思うものだってこの世にはあるさ。思い入れが有れば尚更な……」

 

 

零「……そう思うならお前が力を使って残すようにすればいいだろう?一応この世界の神なんだし」

 

 

姫「馬鹿な事を言うんじゃない。確かに変わって欲しくないと思うが、逆に此処まで世界を変えたのは人達が血の滲む努力をしたからだ。その努力を、私自身の勝手な都合で無為には出来ん」

 

 

零(……ほう……コイツでもまともな事は言うんだな……)

 

 

若干皮肉を込めて言ったつもりなのだが、案外まともな答えを返した姫に内心驚く零。そんな姫の横顔を見つめながら手摺りに背中を付け、目を動かして広場を眺めていく。

 

 

零「……さっき、思い出の場所とか言っていたな…?此処に何があったんだ?」

 

 

姫「ん?ああ……特に何かがあったという訳じゃないな。ただ此処に綺麗な花畑があって、周りには美しい自然があって、森に様々な動物達がいた……まだ人間だった頃に良く来ていた場所だったから、少し懐かしくなって来てみたくなったんだ」

 

 

零「?人間……だった?」

 

 

だったとはどういう事か?姫の発言に疑問を感じて思わず聞き返してしまう零であるが、ふと知り合いの神である幸助やシオンの姿が脳裏を横切った。

 

 

零「お前まさか……人間から神に神化したタイプの神なのか?」

 

 

姫「?何故分かった?」

 

 

零「……ちょっと知り合いにそういう奴らが居てな。それで大体予想が付いただけだ」

 

 

姫「ほう……もしかして、その知り合いとやらは混沌の神や深淵の神達の事か?」

 

 

零「ッ!何だ?お前幸助達のこと知ってるのか?」

 

 

姫「神の中でも彼等の名は有名だからな、一応名前だけなら知っている。何でも変神が多いと聞いているが?」

 

 

零「……まあ変神と言えば変神が多い気もするが……お前も十分変神だぞ?」

 

 

姫「ああ安心しろ、それはちゃんと自覚してる♪」

 

 

零「…………そうかよ」

 

 

自覚してるなら直せよとツッコミ掛けてしまう零だが、多分言ってもまたボケで返されるに違いないと思い言葉を飲み込んだ。そんな零の心境を他所に姫は笑みを漏らしながら、黄昏れに包まれる町を眺めていく。

 

 

姫「まあ、確かに私は人間から神へと神化した神だが……別に始めからなりたいと思ってなった訳じゃないんだ。寧ろ私自身、神を恨んだりとかした事もあったからな」

 

 

零「…?神を恨んでたって……ならどうして神になんかなったんだ?」

 

 

理由は知らないが、姫自身が神を恨んでいたなら何故神などになったのか?それが気になった零が思わず口にして問うと、姫は町を眺めたまま何処か自嘲する様に笑った。

 

 

姫「確かに神は嫌いだ。神になりたいと思ったのも、別に神の座に興味があった訳じゃない。私はただ……神になればもう誰も失わずに済む、誰も悲しない世界が創れる、すべての人達に幸福を与えてやれるのだと……そんな絵空事みたいな理由で神になったんだ、私は」

 

 

零「……確かに聞いた限りじゃ絵空事みたいに思えるな……だがそんな絵空事みたいな理由でも、それなりの要因があったからそう思って、神になろうと決めたんじゃないのか?」

 

 

姫「……まあな……」

 

 

目を細めてそう問い掛けてきた零に一言で返すと、姫は何処か遠くを見つめる様に黄昏れの空を見上げた。

 

 

姫「私は神になった時から人間だった頃の記憶を殆ど失ってしまってな。今では思い出せる記憶も数える程度しかないが………その中に二つだけ、今でも鮮明に思い出せる記憶がある……一つはこの場所で過ごした記憶と………一人の妹と、二人だけで暮らしていたという記憶を………」

 

 

零「……妹?他に家族はいなかったのか?」

 

 

姫「あぁ……両親がいたという記憶はない。死んだのか、それとも最初からいなかったのかは分からないが……私が覚えてるのは妹のことだけで、私が神になると決めたのもあの子が理由でもあった」

 

 

何処か懐かしむように笑いながら妹の事を話し始める姫。そして手摺りに背中を預けて瞳を閉じ、両手の指を絡ませながら話を続けていく。

 

 

姫「妹は病気持ちで身体が弱くてな。いつも家で寝てばかりで、私が家事や働きに出て家計のやり繰りをしていた……家計をやり繰りしながら妹の病気を治す薬を買おうとお金を貯めたし、たまに余裕があれば妹へのお土産を買ってあの子を喜ばせたりもした」

 

 

零「ほう……妹思いなんだな、意外と」

 

 

姫「別にそんなんじゃないさ。ただ、私自身があの子の笑顔を見たかっただけだ……ご飯を作ったり、看病をしたり、お土産を贈ったり、そんな些細な事をするだけであの子は笑って言うんだ……『ありがとう』って」

 

 

零「…………」

 

 

姫「私は別に、普通の女としての生き方なんて求めてなかった……ただあの子に感謝される事……それさえあれば他には何もいらなかった。それだけで満足していた。あの子にありがとうと感謝される事だけが、私の生き甲斐だったんだ……だが……」

 

 

優しげな顔で自身の妹の事を話していた姫だが、何故かその表情が暗くなり顔を俯かせてしまう。

 

 

姫「…………季節が冬に差し掛かった頃、あの子の病が悪化し出したんだ。私は直ぐに苦しむあの子を抱えて先生に診てもらうとしたが……どんなに頼んでも、何処も金がないというだけで突き帰され、誰もあの子を診てくれようとはしなかった……結局あの子を診てくれる先生は見つからず、私はただ病で苦しむあの子を黙って見てるしか出来なかった……」

 

 

ギリッと何かを噛み締めるような音が微かに聞こえた。良く見れば、姫が悔しげに唇を噛み締めている顔が見えたが、零は何も言わずに姫の話に耳を傾ける。

 

 

姫「悔しかったっ……目の前で苦しんでる人間がいるのに、なにもしてやれない自分がっ……そんな私があの子の為にしてやれたのは、神社でお百度参りをして神にすがる事だけだった」

 

 

零「お百度参りって、神社の境内で百回往復して百回拝むことしていくっていうアレの事か?」

 

 

姫「そうだ……何度も何度も、真冬の中で何度も境内を往復して妹の病気を直してくれと必死に神頼みした………だが………」

 

 

姫の声のトーンが先程より下がった。それが一体何を意味しているか、零はすぐに予想が付いて険しげに眉を寄せた。そして姫は瞳を伏せたまま顔を上げ、ゆっくりと口を開いて次の言葉を紡いだ。

 

 

姫「―――あの子は死んだ……最後に私と星を見たいとこの場所に来て、私に背負われながら……な……」

 

 

零「……………………」

 

 

何も言えない。悔しげな顔で、震える声で妹の死を口にした姫に掛ける言葉が見つからず、零はただ無言を突き通すしか出来なかった。そして姫は両手をゆっくりと開き、両目を細めたまま自身の手を眺めていく。

 

 

姫「間もなくして、私もとある事故に巻き込まれて死んだ……私は死ぬ間際にも神を恨んだよ。あの子は何も悪い事はしていないのに、どうしてあの子を救ってくれなかったのか。どうして何もしてくれないのか……そう思って死にかけていた私の前に突然現れたんだ。神が」

 

 

零「……神?お前以外にもこの世界に神がいたのか?」

 

 

姫「一応はな。と言っても、君が思っているような神ではないぞ?数百年前から人間の女に化けては、夜な夜な夜道を歩く人間の男を襲っている性欲の塊と言っていいド変態の神だ」

 

 

零(……コイツが其処まで言う程の変態ってどんな奴だ……?)

 

 

呆れるようにもう一人の神の事を話す姫を見て額から冷や汗を流す零。そんな零の反応を横目で見ると、姫は軽く息を吐きながら再び此処から見える町を眺めていく。

 

 

姫「どうやら本人曰く、この世界を司る神を探していたらしくてな。そんな時に私を偶然見付けて、私を神にしようと決めたらしい。その理由が―――」

 

 

 

 

 

 

『此処まで神に恨みを抱く人間なんて始めて見たからね。そんな人間が恨みを抱いている神になったら一体どうなるのか?っていうのも興味あるし、そんな神が今の世界を良い方向に導くのか悪い方向に導くのかも気になる……まあホントは資格者を探すのに飽きてきた頃だったし、貴方が何か問題を起こしても何の気兼ねなく殺せるから私自身が楽って話なんだけどね~♪』

 

 

 

 

 

姫「―――だそうだ」

 

 

零「……絶対性格歪んでるだろソイツ……」

 

 

というか、そんな理由で神になる人間を選ぶソイツが問題過ぎるだろう。と内心付け足してツッコむ零だが、姫は「そういう奴だから仕方がない」とウンザリとした感じで溜め息を吐きながら話を続けていく。

 

 

姫「最初は私も誰がそんな話しに乗るか!と反発していたが、良く考えて見ればそれも悪くないかもしれないと思ったんだ……神の座に興味はないが、神という立場になれば妹の様な不幸な人間達を救えて、多くの人達を幸せに出来るかもしれない。この無慈悲な世界を変えられるかもしれないと……そう思った私は神になるという話を呑んだんだ」

 

 

零「……じゃあつまり……それが……」

 

 

姫「そう……それが今の私……桜ノ神が生まれた瞬間だ……」

 

 

零「…………」

 

 

妹のような不幸な人間達を救う為に、もう誰も悲しまない世界を創る為に。それだけの理由で自身が恨んでいた神になると決めたのだと、そう告げた姫の姿は、何処か儚げに見えた……

 

 

 

姫「そうして神となった私は手始めに、私が妹と暮らしていたこの村……ああ、戦国時代だった頃のこの町だぞ?この村の人達から救おうと思って、あの神社に居座った」

 

 

零「あの神社……桜ノ神社のことか?」

 

 

姫「ああ。と言っても、私が居座り始めた頃は名前のない寂れた神社だったがな……あの神社に居座ってから、私は何の見返りも無しに村の住人の願いを叶えていった……金に困っていた貧しい家族を裕福にしたり、万病を抱えている子供の病気を治したり、誰かとの縁を結ばせて欲しいという恋結びなど……私は様々な願いを叶えていき、かつて貧しかったこの村を富裕にしていったんだ……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「それから名前のなかったあの神社も、桜ノ神社と呼ばれるようになってな。村の人達も笑顔を絶やすことのない生活を送るようになった。これで誰も苦しむ事はない、これでこの人達は救われたんだと……そう思ってた……だが……」

 

 

姫がこの村の住人達を救い、住人達に裕福な暮らしをさせていった。それだけ聞けば良い話のように思えるが、姫は瞳を開いて何故か暗い表情を浮かべポツリと呟いた。

 

 

姫「ある日、他の貧しい村から一人の青年が駆け込んできてな。どうやら家族に食べさせる食べ物がなくて困っているらしく、村人達に食料を分けてくれて頼み込んできた…………だが、村の住民達はそんな青年に食料を分け与えず、寧ろ汚らわしい、貧乏人と見下して、その青年を全員で袋だたきにして殺してしまったんだ…………」

 

 

零「なっ……」

 

 

ただ食べ物を分けて欲しい。それだけの事を頼み込んできた青年を汚らわしい、貧乏人という理由だけで殺した…。悲痛な表情でそう告げた姫に零は思わず息を拒んで驚愕してしまい、姫はグッと震える両手を握り締めていた。

 

 

姫「信じられなかった……私がまだ人間だった頃に、私と妹に親切にしてくれた優しかった村人達が……人が変わったように何の罪もない青年を笑って踏み殺した事が……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「……そしてその事件が発端になり、青年の住んでいた村の住民達がこの村に攻め込んできた……青年の仇討ちという口実で、様々な奇跡を起こしてこの村を裕福にした私を手に入れる為に……そしてこの村人達も、私がいなくなれば今の暮らしが出来なくなると恐れて、攻め込んできた人間達を殺し始めたんだ……」

 

 

一人の青年の惨殺。それがきっかけとなって他の村の住人達が目を光らせ、これを機にと姫を手に入れる為に戦争を起こした。そう聞かされた零は険しげな顔で姫を見つめ、姫は顔を俯かせたまま話を続けた。

 

 

姫「他の村との争いは三日三晩と続いた……その間にこの村の住人が押し寄せるように神社へとやって来て、私に様々な望みを言ってきたよ……アイツ等を殺してくれ、向こうの村人達を全員消してくれ、村ごと奴らを殺してくれ……そんな歪んだ願いばかりを……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「それで漸く悟った……私が良かれと思ってこの村の人達に与えた奇跡のせいで、こんな悲劇を起こしてしまったんだと……」

 

 

こんなハズではなかった。彼女はただ誰にも悲しんで欲しくない、みんなに平等で幸せな人生を送らせてあげたかった。

 

 

それだけの思いでみんなの願いを叶えてきたのに……その願いを叶えたせいで村の人達が豹変し、罪のない人を惨殺し、自身が裕福な人生を送りたいが為に人が人を殺す……そんな悲劇が起きてしまったのだ。

 

 

零「……それで、結局その事件はどうなったんだ?」

 

 

姫「……争いが三日目を迎えた頃に、私が村人達全員の記憶を書き換えることで争いを収めることが出来た……争いの発端となった、青年の存在を彼等の記憶から消す事で……」

 

 

零「?!お前、正気か?!それじゃその男の死は……!」

 

 

姫「分かってる……だがそれしか思い付かなかったんだ……変わってしまったとは言え、知っている人達が次々に傷付いて、死んでいって……幼い子供まで殺され掛けて……三日間どれだけ考えても、あの争いを止めるには……それしか……」

 

 

零「っ……」

 

 

唇を噛み締めて辛そうに語る姫の顔を見て、零はやりきれない感情を抱きながら手摺りを軽く殴り付けた。

 

 

村人達は自分達の欲望に駆られ、彼女を奪う、彼女を死守しようと互いに大勢の犠牲者を出していった。そんな彼等の問題は既に話し合いで済ませられるレベルではなくなっていたのだ。

 

 

だから姫は、惨殺されてしまった青年の存在を村人達の記憶から消す事でしか、争いを止められなかった……それが許されるべきことじゃないと分かっていても、自分の奇跡を手に入れる為なんて理由で皆が傷付くのを見たくなかったから。

 

 

姫「争いは何とか止める事が出来た……だが私はそれ以来、自らの奇跡を使って村人達の願いを叶えることはしなくなり、神社に引きこもった……あの争いを見て、私がやろうとしていたことは正しいのか間違っているのか、自分でも分からなくなったから……」

 

 

神になり始めた頃は自分や妹のような人間を救う為、この救いのない世界を変える為に頑張ろうとした。

 

 

だが実際に力を使って人々を救えば、彼等は自分の力を更に利用し、永遠の幸福を得ようとする欲望に塗れた醜い生き物と成り果ててしまった。

 

 

それを恐れた彼女は人間達との関わりを断ち、信じていたモノを見失って自らの世界に閉じこもってしまったのだ。

 

 

一人の人間の存在を消し、自分の力のせいで皆を不幸にしてしまうと知った……それがどれほど辛かったか、零にも想像出来ない。

 

 

姫「……それから間もなくして、この世界に幻魔達が現れ人々を襲い始めた……人を根絶やしにし、この世を手に入れて自分達の世界にすると言っていたが……幻魔神にとっては、それは二の次でしかなかったようだ……」

 

 

零「?二の次?」

 

 

姫「ああ……奴のホントの目的は……私を自分の女にする為だそうだ」

 

 

零「……はあ?」

 

 

姫を自分の女にする為に。幻魔神の本当の目的を聞かされた零は唖然とした表情になり、姫は軽く息を吐きながら話を続けた。

 

 

姫「何でも私を気に入ったらしくてな。私を奪うついでに世界を手に入れるとか、この世界を私と奴と幻魔だけの世界にする為に我の物になれとか、傲慢この上ない性格の神だったよ」

 

 

零「……目茶苦茶な奴なんだな、幻魔神とやらは……それで、お前はその誘いをどうしたんだ?」

 

 

姫「無論断ったさ。お前のような人を人とも見ない奴の女になるつもりはない、とバッサリとな……だが、奴は心底諦めが悪くてな。『お前がそう来るのなら、まずはこの世界を支配してからお前を我の物にしてやる』などと言って人間達を襲い始めた……だから私もそれに対抗する為、龍王と鬼王の籠手を創り、二人の聖者を見つけ出して幻魔と戦った……この世界を守る為に」

 

 

零「……それが幻魔達との戦いの始まりという訳か」

 

 

幻魔との戦いの歴史に関しては絢香と紗耶香から既に聞いているから大体分かる。腕を組みながら零がそう言うと、姫はオレンジ色の空を見上げながら言葉を紡ぐ。

 

 

姫「奴らとの戦いは辛く、過酷なものだった。何百人何千人もの犠牲を払いながら、私達はやっと幻魔神を封印する事に成功した……これで漸く全てが終わったのだと、私達は安心し切っていた……だが……」

 

 

零「?だが……?」

 

 

姫「……幻魔の脅威がなくなった途端、幻魔達の被害に遭った人々は私を一斉に非難し出したんだ。『この疫病神が!』、『お前さえいなければあんな化け物は攻めて来なかったんだ!』、『消えろ化け物が!』とな……」

 

 

零「っ?!何故だ?お前は幻魔達の脅威からみんなを守ってきたんだろう?!なのにどうしてそんな…!」

 

 

姫「フフッ……仕方がないさ……実際に幻魔神が私を手に入れようと攻めてきたのは事実だ。そのとばっちりを受けてしまったのだから、彼等を攻める事は出来ない……」

 

 

零「っ……!」

 

 

苦笑いしながらまだそんな庇うようなことを言う姫に零は険しげに顔をしかめてしまい、姫はそんな零の顔を見て更に苦笑しながら話の続きを語り出す。

 

 

姫「そして私はツボに封印していた幻魔神をあの霊山に封印し、私もツボに封印されて眠りに付いた……逃げたギルデンスタンの目を欺く為とは言ったが、あれは単なる建前だ。ホントは私自身が逃げたかっただけなんだ……私が神になったせいで大勢の人間を犠牲にしてしまった。もしかしたらまた幻魔のような化け物が私を狙って攻めてきて、また誰かが犠牲になるかもしれないと……そう思い、怖くなって逃げ出したんだ……最低な神だよ、私は」

 

 

零「木ノ花……」

 

 

姫「……本当ならあの時、私は奴の誘いを断って死んでおけば良かったのかもしれない……神としての勤めを果たせず、大勢の人間達を犠牲にし、幻魔達をこの世界に引き込んだ……もしかしたら、私より神に相応しい人間がいたのかもしれない……今でもそう思っているからな……」

 

 

零「…………」

 

 

桜ノ神となった後も、世界は何処までも彼女に無慈悲だった。

 

 

何処かで妹のように苦しんでいる誰かを救いたい、救いのない世界を変えたい。本当にただそれだけの願いで神となったのに……

 

 

人間達はそんな彼女の力に甘え、自らの欲望のため、自分が幸せになりたいが為に他人を傷付けて彼女へと縋り付いた。

 

 

彼女もそんな人間達に恐怖し、そして漸く自分の過ちに気付いた。自分が彼等の願いを叶えれば叶える程、彼等は醜く変わっていってしまう。それを悟った彼女は人間との関わりを断ってしまった。

 

 

そして幻魔の脅威から人間を守るために立ち上がって必死に戦っても、返ってきたのは彼女に対する罵声と拒絶。

 

 

人間達に利用され、信じていたものを見失い、守りたかった人達から理不尽に拒絶され、独り孤独になり、それでも彼女は自分が悪いんだと苦々しく笑った。

 

 

そう言った彼女の心がどれほど傷付いてるのかなんて、零には到底想像が付かなかった。

 

 

 

姫「……つまらない話しを聞かせてしまったな、すまない……早く戻ろう?きっと絢香達が心配してるに違いない」

 

 

話しが終わってから一言も話さない零に苦笑したままそう言って、絢香達の下に戻ろうと歩き出していく姫。その時……

 

 

零「…………お前の気持ち…………何となく分かるかもしれない…………」

 

 

姫「……ん?」

 

 

ポツリと呟いた零の言葉を耳にし、姫は小首を傾げながら零の方へと振り返った。そして零はそんな姫と目を合わせないまま、自身の左目へとソッと手を当てていく。

 

 

零「俺にも普通じゃない力があってな……それは時に誰かを守れる力になるが、同時にそれは俺が守りたいと思うものを壊してしまう力にもなる……だから時々怖くなるんだ。もしこの力の事が知れたら、アイツ等に拒絶されてしまうかもしれない……もしかしたら、いつかこの力に支配されてアイツ等を手に掛けてしまうかもしれないと……」

 

 

姫「…………」

 

 

零「それを考えたら、俺はアイツ等の傍にいてはいけないのかもしれない。アイツ等の前から消えなければいけないかもしれないと……今でもそう考える時があるんだ……」

 

 

零はそう呟きながら自身の左目から手を離し、自分を見つめる姫の目を見据えながら再び語り出した。

 

 

零「だから何となくだが、お前の気持ちは分かる……守りたい人達に拒絶される苦しみも、信じていた物を見失う絶望も、独りになる悲しみも……な……」

 

 

姫「……フッ……まさか、慰めてくれてるのか?」

 

 

零「……別にそんなんじゃない……ただ……」

 

 

苦笑いを向けてくる姫から閥が悪そうに目を逸らし、頬を掻きながらそっぽを向いて口を開いた。

 

 

零「……ただ俺もこんなんだから、お前も一々そんな昔のことに縛られるなって言いたいだけだ。今の世界はお前の力なんて求めてないし、お前はもう独りじゃないだから」

 

 

姫「……え?」

 

 

零「っ……だからその……今のお前には絢香や紗耶香、カリムにシャッハ、アズサやシロ、晃彦に勇二……俺もいるんだ。アイツ等や俺はお前の奇跡なんか求めていないし、お前を拒絶するつもりもない……だからそんな寂しそうな顔するな……俺達がいるんだから、お前を独りにはさせない」

 

 

姫「……零……」

 

 

零「……だが勘違いするな?お前みたいな変神を独りにさせたら何するか分からないからいってるんだ。ところかまわず下ネタ言われてたらこっちが堪らないんだからな」

 

 

フンッと顔を逸らしながらそんな言葉を口にする零。そして姫はそんな零の言葉を聞いて一瞬ポカンとしてしまうが、すぐに可笑しそうに声を出して笑い出した。

 

 

零「っ!な、何笑ってるんだ?」

 

 

姫「ふふふっ……いや、単に君は人を励ますのが下手くそだなぁ、と思ってな」

 

 

零「っ……別にお前みたいな変神を励ましたつもりはない……さっさと帰るぞ」

 

 

零は可笑しく笑う姫を見て内心あんなことを口にした自分に悪態を付き、さっさと絢香達の下に戻ろうと歩き出して姫の隣を通り過ぎようとするが……

 

 

姫「――零、少し待ってくれ」

 

 

零「……ん?」

 

 

不意に広場を後にしようとした零を姫が呼び止め、いきなり呼び止められた零は頭上に疑問符を浮かべながら姫の方へと振り向いた。

 

 

零「何だ今度は?またからかうつもりか?」

 

 

姫「そんなんじゃないさ。ただ、昔話に付き合わせてしまった礼がしたいだけだ」

 

 

零「礼?……別にそんな物欲しくない」

 

 

姫「まあそう言うな。さて、何が良いか…………」

 

 

本人の意志も関係なしに、腕を組みながらなにを上げようかと悩み出す姫。零もそんな姫を見てめんどくさそうに溜め息を吐いていると……

 

 

姫「ふむ……そうだな……ああ、私の名前なんてどうだろうか?」

 

 

零「は?お前の名前って、木ノ花之咲耶姫だろう?そんなのもう知って――」

 

 

姫「それは桜ノ神である私の名前だ。私が言っているのは、人間だった頃の名前……咲夜の事だ」

 

 

零「?さく……や?」

 

 

姫が人間だった頃の名前。それをお礼にしたいと言ってきた姫に零は不思議そうに聞き返し、姫はその場でしゃがんで適当な木の棒を拾うと、地面に『木ノ花之咲耶姫』と『咲夜』の名前を描いていく。

 

 

姫「木ノ花之咲耶姫という名は、私を神にした上司が私が人間だった頃の名前を元にして付けた名前なんだ……それが咲夜……ホントなら他人に易々と教えてはいけないのだが、君だけにこの名を教えよう」

 

 

零「?いいのか?そんな事を教えて……?」

 

 

姫「私が良いと決めたんだ、構わないさ……試しに呼んでみてくれないか?」

 

 

自分の名を呼んでみてくれと、何処か期待するかの様な視線を送ってくる姫。零はそんな姫の視線を受けて地面に描かれた咲夜の名を一度見ると、姫の顔を見つめながら口を開いた。

 

 

零「……サクヤ」

 

 

姫「むう……少し堅い気がするな……もう少し柔らかく」

 

 

零「さくや」

 

 

姫「今度は堅すぎる。もう少しこう……愛情と情熱と愛おしさを込めてくれないか?」

 

 

零「……注文の多い奴だな……」

 

 

名前を呼んでくれと言ったのはお前だろ。と心の中で愚痴りつつ、姫に言われた通り愛情と情熱と愛おしさを込めようと姫の目を真っすぐ見つめながら……

 

 

零「――咲夜」

 

 

姫「……ふむ……ギリギリ合格点と言った所か?」

 

 

零「なんだそれ?此処まで付き合わせておいてそれか……?」

 

 

姫「フフ、ならもう少し、女心という物を学んだ方がいいぞ?」

 

 

姫はそう言ってジト目で睨む零の視線を軽く受け流しながら微笑み、ゆっくりと立ち上がって夕日を眺めていく。

 

 

姫「さて、そろそろ帰るとしよう。早くしないと絢香達に叱られてしまうからな」

 

 

零「もう遅いような気もするがな……何処に行っていたのかと聞かれたら一から説明するのも面倒だし……どうしたものか」

 

 

姫「なら適当にごまかしてみてはどうだ?何処かで時間潰しをしていたらいつの間にか日が暮れていた~とか」

 

 

零「……そっちの方が説明しなくて済みそうだな……適当に本屋で立ち読みしてたとでも言っとくか」

 

 

姫「そうか……いやだが、それを言ったら君の立場が悪くならないか?」

 

 

零「?何故だ?」

 

 

姫「だってそれでは君が本屋でいやらしい本を読んでいたみたいに思われるだろう?勃ち読みだなんて」

 

 

零「一々そっちネタに話を持っていくなっ!!」

 

 

また何時もの調子に戻って下ネタを口にし出した姫に再びツッコミを入れてしまう零。そして二人はそんなやり取りを繰り返しながら広場を後にし、絢香達の下に戻っていったのだった。

 

 

 

因みに二人が元の場所へと戻ると、其処には案の定お怒りの絢香とカリム達の姿があったらしく、一体何処に行っていたのかとお説教されたのは言うまでもない。

 



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番外編/衝撃!大輝の〇〇?!

 

 

 

―とあるライダーの世界・風麺―

 

 

零「――はぁ……もうクタクタで動けんぞ全く……」

 

 

なのは「うん、今回も結構苦戦したからね(汗)」

 

 

そう言いながら市街地の隅にある屋台・風麺に疲れた様子で座る二人組の男女、仮面ライダーディケイドである黒月零とそのパートナーである仮面ライダートランスの高町なのは。

 

 

二人は現在このライダーの世界での役目を漸く終え、写真館に戻る前に何か食べて帰ろうと話し合い風麺に来ているところだった。

 

 

そうしてクタクタな様子でこの世界での出来事を振り返っていると、二人の目の前に二杯のラーメンが置かれた。

 

 

大輝「くたびれるのは別に構わないけど、少しは場所を考えてくれないかな?他の客に迷惑掛かるだろ?」

 

 

そう言ってラーメンを置いたのはこの風麺の亭主であるラーメン屋兼怪盗の仮面ライダーディエンド、海道 大輝。

 

 

呆れるような表情でそう告げてきた大輝に零は眉間にシワを寄せ、割り箸を手に取って二本に割りながら口を開いた。

 

 

零「良く言う……毎度毎度人の周りをウロチョロしてこっちに迷惑掛けてるのはそっちだろう?」

 

 

大輝「俺から言わせれば、俺の獲物の周りに君達がウロチョロしてるんだろう?邪魔されたくないのなら、君が余計な首を突っ込まなければ良い話じゃないか」

 

 

零「……ホントにお前とはいつか決着を着ける必要がありそうだな……」

 

 

なのは「ま、まあまあ!今はとにかく食べよう?早くしないと麺が伸びちゃうから!(焦)」

 

 

やれやれといった感じに首を振る大輝を睨みつける零を見てマズイと感じ、咄嗟に間に割って入って零を落ち着かせようとするなのは。

 

 

そんななのはの言葉に零も大輝を睨むのを止めて溜め息を吐き、もう疲れたからさっさとラーメンを食べて帰ろうとラーメンを食べ始めた。そんな時……

 

 

「――邪魔するわよ」

 

 

なのは「……ん?」

 

 

一人の客が屋台の暖簾を潜ってラーメンを食べていたなのはの隣に座り、不意に現れた客に零やなのはは食べるのを止めてそちらに目を向けた。その人物は……

 

 

 

 

 

ベル「…暫くぶりね大輝、元気にしてた?それと……こっち側のディケイド達も」

 

 

零「…ッ?!お前は…!」

 

 

大輝「ん?あぁ、君かベル」

 

 

なのはの隣の席に座った客とは、以前セイガの世界で大輝ややまとと共に宝探しをした少女、ガンダムディケイドの世界のディエンドであるベール=ゼルファーだったのだ。

 

 

以前セイガの世界で優矢が暴走した時に少し顔を見たことがある零はベルを見て驚愕してしまうが、大輝がベルの名を呼んだ事に対して更に驚き二人の顔を交互に見た。

 

 

零「お前等、知り合いなのか?!」

 

 

大輝「ん?ああちょっとね……そういう君こそ、彼女と知り合いなのかい?」

 

 

零「……セイガの世界の時に少しな……というか、何でお前が此処にいる?」

 

 

ベル「?なんでもなにも、ラーメン屋に来たんだからラーメン食べに来たに決まってるでしょう?それ以外に何かあると思う?」

 

 

零「……どうだかな……」

 

 

異世界のディエンドなのだから、どうせ海道と盗みの話でもしにきたんじゃないのか?と思って口にしようとした零だが、今は疲れているから止めにしようとラーメンを食べることに集中していく。そして大輝はそんな零を見ると、調理器具を手に取ってラーメン作りを開始しながら口を開いた。

 

 

大輝「しかし、君が何の用も無しにうちのラーメンを食べに来るなんて珍しいね?」

 

 

ベル「ちょっと此処の味が恋しくなってね。それに暫くアンタの顔を見てなかったから、たまにはと思って」

 

 

大輝「……成る程、それは光栄だ」

 

 

そんな会話をしながら互いに笑みを零す大輝とベル。そんな二人の会話を聞いていたなのはは大輝とベルの顔を交互に見て、なんだか妙な雰囲気が漂ってる事に気付き首を傾げた。

 

 

なのは「あの、ベルさん……でいいのかな?大輝君とはどんな関係なんですか?何だか私達の時と違って妙に親しい気がするんだけど……」

 

 

零「おいおい、そんなくだらんこと聞いてどうする?どうせ盗っ人仲間とかそんな所に決まってるだろう。聞くだけ時間の無駄だ……」

 

 

二人の関係が気になって問い掛けるなのはとは対照に、全く興味がないといった態度でラーメンを黙々と口に運んでいく零。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「彼女との関係かい?そうだなぁ……まぁ、簡単に言えば"恋人同士"って所かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「………………………………………へ?」

 

 

零「……………………………………………あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何気ない態度でラーメンを作る大輝のその言葉により、その場に流れる時間が一時止まってしまったのであった……

 

 

零「…………………………………………………………Oioioioi……待てミスター……ちょっと今耳が遠くて聞き取れなかったんだが……今なんて言った?」

 

 

大輝「ん?だから言っただろう?彼女とは恋人同士だと」

 

 

なのは「…………えっと…………それは誰と…………誰が?」

 

 

大輝「俺と彼女が」

 

 

零「…………………………………………ハハハハ……お前もホント冗談が好きだなぁ?そんな見え見えの嘘に騙されると思ったか?」

 

 

なのは「あ、あはははは!そうだよねぇー?もぉ~、ホント大輝君ってば冗談好きだよね?ベルさんもそう思うでしょ?」

 

 

大輝とベルが恋人同士だ?ハハハハハないない有り得ない♪そんな嘘に騙されるものかと、なのはが可笑しそうに笑いながらベルに声を掛けた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベル「―――ったく……恥ずかしげもなくそんなこと公言してんじゃないわよ……こっちが恥ずかしいじゃないっ……//」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「………………………………………………」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ΣΣええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ?!!!!!』

 

 

 

 

何この乙女な反応っ?!!えっマジィッ?!!

 

 

そっぽを向いて頬を微かに赤らめながらデレるベルを見てほぼ同時に驚愕の絶叫を上げ、大輝とベルを交互に見ていく零となのは。

 

 

因みにその絶叫が他の客達の耳にも届いたらしく、客の全員が何事か?と一斉に零達の方へと振り返った。

 

 

大輝「おいおい、もう少し静かにしてくれないか?他の客が驚いてるだろう?というか何をそんな驚いてるんだい?」

 

 

零「Σこれが驚かずにいられるか!!お前とこの女が恋人だと?!何だそれ?!聞いていないぞそんな事っ?!!」

 

 

大輝「そりゃ話していないからね。当然だろう?」

 

 

なのは「え?え?い、何時から?何時から二人はそんな関係になってたの?!」

 

 

大輝「何時から?そうだな……もう随分前からじゃなかったかな?」

 

 

ベル「ん、んん!……そうね、随分前じゃなかったかしら?」

 

 

両腕を組みながら同意を求める大輝に何度か咳ばらいし、いつもの調子に戻ってお冷やを飲みながら頷き返すベル。それを聞いた零は唖然となり、おもむろに額へと手を当てていく。

 

 

零「馬鹿な……有り得ない……この海道に?この人様に迷惑掛けるしか脳のない冷淡冷血性格最悪の極悪お宝馬鹿のエセ怪盗のコイツに彼女?そんなこと天と地がひっくり返っても有り得んッ!!」

 

 

大輝「全力否定してもらってるところ悪いけど、紛れも無い事実だから。コレ」

 

 

零「信じられるかそんな事!!これは何かの間違いに決まってっ―ポンッ―……は?」

 

 

こんなのは何かの間違いだと身体全体を使って全力で否定しまくる零だが、大輝はそんな零の肩に軽く手を起き、親指を立てながら爽やかに微笑んだ。

 

 

大輝「まあそういう訳だから、恋愛相談でもして欲しくなったら何時でも来ていいぞ?人生の先輩としていろいろアドバイスしてやるからさ、鈍感君♪」

 

 

零「………………ホントに一々喧嘩を売るのが上手いな、お前は……」

 

 

何処か馬鹿にするかのような爽やかな笑顔を向けてくる大輝に零は片眉を器用に動かしながら怒り、互いにイイ笑顔を浮かべながら静かに睨み合っていくのだった。そしてベルがそんな零と大輝を面白そうに見つめていると、隣に座るなのはが声を掛けてきた。

 

 

なのは「あ、あのベルさん?ちょっと聞いてもいいかな?」

 

 

ベル「…ん?何?」

 

 

なのは「その……えと……ベルさんは大輝君の何処が好きで付き合っているのかなぁ?って思って……」

 

 

正直な所、ベルがあの大輝の何処に惹かれて付き合うようになったのか検討も付かない。その疑問を素直に口にして聞くと、ベルは顎に手を添えて考える仕草を見せながら大輝を見つめていく。

 

 

ベル「そうねぇ……敢えて言うなら、大輝が面白い男だからかしら」

 

 

なのは「へ?面白い?」

 

 

ベル「そ、それに結構イケメンだし……何より見ていて面白いもの。私が探してるお宝以外の物は譲っても良いって思えたし。それに付き合ってみて、大輝の事で少し分かった事もあるしね」

 

 

なのは「?分かった事?」

 

 

大輝の事で分かった事とは何か?なのはが疑問げに首を傾げながら聞き返すと、ベルは屋台に肘を突いて零と睨み合う大輝を見つめながら呟いた。

 

 

ベル「自分が責任を取らなければならないって感じたことには責任を取る奴なんだ、ってね……だから私を恋人にしてからは、ちゃんと私の事も愛してくれてるわよ、アイツ。時には優しく……激しくもね……」

 

 

なのは(っ!……ベルさん……凄く優しい顔して笑ってる……)

 

 

ベル本人は気付いてないのかもしれないが、今のベルはなのはでも見惚れるほど綺麗で優しい顔で笑ってる。

 

 

なのははそんなベルの表情に驚きながら、ベルの視線を追って互いに睨み合ったまま動かない零と大輝を見つめていく。

 

 

なのは(……何時もはお宝が大事だっていろんな人に迷惑掛けてるけど……そういうところはしっかりしてるんだ……ちょっと見直したかな?)

 

 

お宝にしか興味ないドライな人物だと思っていたが、大輝にもそんな人並みの所があるんだなと知り、未だに睨み合う零と大輝を見て思わず笑みを漏らすなのはであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの数十分後……

 

 

 

 

ディケイド『やっぱりお前とは決着付けなければならないようだなぁッ!!』

 

 

ディエンド『ハッ!そういう言葉は俺に勝てるようになってから言いたまえ!!朴念仁君ッ!!』

 

 

ディケイド『黙れエセ怪盗がッ!!』

 

 

なのは「いい加減にしなさあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーいっっ!!!!!」

 

 

 

 

……お客が全員帰った後も二人の言い争いは止まる事を知らず、遂にはドライバーまで持ち出して殴り合う二人のライダーの姿が見られたそうな……

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑨

 

 

それから翌日の朝……

 

 

桜ノ神の世界に訪れた始めての朝。神社内にある一室では、起床した零達全員が集まって朝食を取りながらこれからどうするか話し合っている所だった。

 

 

晃彦「それで零、これからどうするつもりだ?」

 

 

零「……一先ず様子見って所だな。いつまた幻魔が動き出すか分からない以上、何時でも動けるようにしておかないと……」

 

 

勇二「でもそれじゃ、いつ写真館に帰るんですか?」

 

 

零「さあな……だが当分はまだ此処に残るつもりだ。あの冥華って女が言っていたこの世界に起こる滅びとやらも気になる……それを確かめるまで戻る気はない」

 

 

昨日公園で紫音冥華が去り際に言っていたこの世界で起こる滅び。それを放って写真館に戻る訳にはいかないと告げた零に晃彦と勇二もそれ以上は何も言わなくなるが、その時絢香が口を開いた。

 

 

絢香「あの、零さん。後で少し町に出掛けたいんですが、良かったら付き合ってもらっても良いですか?」

 

 

零「ん?なんだ、何か買い出しにでも行くのか?」

 

 

絢香「いえ、そうではなくて……その……桜香さんを捜しに行こうと思ってるんです」

 

 

紗耶香「…っ!」

 

 

町に行って桜香を捜しに向かう。そう提案した絢香に隣で食事していた紗耶香は思わず息を拒み、零も僅かに眉間に寄せていた。

 

 

絢香「あれからずっと考えたんですけど……やっぱり、桜香さんとちゃんと話さなきゃって思ったんです。幻魔神を復活させようとしたのも、きっとそうしなければならない理由があったからだと思うから……」

 

 

零「…………」

 

 

絢香「だから私、桜香さんと話したいんです。自分の気持ちだけじゃない、ちゃんとあの人の想いも聞いて受け入れないといけないって……そう思いましたから……」

 

 

紗耶香「……絢香様……」

 

 

顔を俯かせながらポツポツと語っていく絢香。それを聞いた紗耶香は複雑な表情を浮かべ、零は静かに味噌汁を手に取りながら口を開いた。

 

 

零「――そう思うのなら、アイツの事は放っておけ」

 

 

絢香「……え?ど、どうしてですか?」

 

 

零「アイツが何も話さずにお前の前から消えたということは、まだ理由を話せない事情でもあるんだろう。だったら向こうから話しに来るまで会おうとするのは止めておけ」

 

 

絢香「?……もしかして、零さんは何か知ってるんですか?桜香さんのこと」

 

 

零「…………」

 

 

小首を傾げながら桜香について何か知っているのかと問い掛ける絢香だが、零はその問いを受けてもなにも答える様子を見せず、ただ無言で味噌汁を啜っていた。そんな時……

 

 

アズサ「?ねえ……もしかして、これがヒメの言ってた東の霊山?」

 

 

『…………え?』

 

 

TVのニュースを見ていたアズサが告げた言葉に一同は疑問の声を上げ、アズサが見ていたTVのニュースへと視線を移していく。それには……

 

 

 

 

『霊山の山頂に正体不明の銀色のオーロラの様な現象が発生し、それと共に突如無数の怪物達が現れ桜ノ町に向かっている模様です!現在警察隊が怪物達と戦闘を開始しましたが、怪物達の進行が止まることなく……!』

 

 

 

 

勇二「?!これは?!」

 

 

絢香「げ、幻魔?!しかもこんな大群が?!」

 

 

TVのニュースに映っていたのは、東の霊山から波のように押し寄せてくる大量の幻魔達と警察が戦闘を行うという映像だったのだ。そのニュースを見た零達は急いで玄関から外へと飛び出し此処から見える霊山を見ると、霊山の上空に銀色のオーロラが浮かび上がる光景が一同の目に飛び込んできた。

 

 

紗耶香「な、何だアレはっ?!」

 

 

絢香「銀色のオーロラ…?で、でもどうしてあんな物がいきなり……?」

 

 

零(あれは、滅びの現象?という事はまさか、あれが冥華の言っていたこの世界の滅びか……?!)

 

 

霊山の上空に浮かび上がるオーロラを見て険しげな顔を浮かべながら冥華の言葉を思い出す零だが、霊山を見上げていく内にある事を思い出した。

 

 

 

 

―……一先ず幻魔退治でもしながら、此処から東にある霊山にでも行ってみようかと思ってる。彼処は昔幻魔神が根城にしていた山でもあるから、何か手掛かりが掴めるかもしれないし―

 

 

 

零(ッ!そうだっ……確か彼処には桜香が?!クソッ!!)

 

 

晃彦「…?!お、おい零!何処に行く気だッ?!」

 

 

確か桜香が幻魔神の手掛かりを調べる為にあの霊山に向かうと言っていたはず。それを思い出した零は血相を変え、晃彦の静止も聞かずに東の霊山に向かおうと神社の階段を駆け降りていった。

 

 

晃彦「チッ!勇二、俺達も行くぞ!」

 

 

勇二「分かってる!紗耶香さん!アズサ!二人は町に向かって幻魔達を食い止めてくれ!俺達は零さんを追う!」

 

 

紗耶香「ッ!分かった!」

 

 

アズサ「うん…!」

 

 

紗耶香とアズサにそう言うと勇二は晃彦と共に零の後を追って霊山へと向かい、紗耶香とアズサも町に攻め込んでくる幻魔達を食い止める為に町へと向かっていったのだった。

 

 

絢香「皆さん……」

 

 

姫「…………」

 

 

神社に残った絢香はそんな一同の背中を心配そうに見送り、姫も険しい顔付きで銀色のオーロラが発生する霊山へと視線を戻していく。がその時……

 

 

 

 

―………ゾワァッ!!!―

 

 

 

姫「――?!こ、この感じは……」

 

 

絢香「……?姫様?どうかしましたか?」

 

 

霊山を再び見た瞬間、突然姫の体をとてつもない寒気が襲い、姫は心配そうに顔を覗き込む絢香に気付かないまま信じられないように霊山を見上げた。

 

 

姫「ま、まさかそんな……この気配……『奴』が……?!」

 

 

絢香「え?……って、姫様?!何処に行くんですかっ?!待って下さいっ!!」

 

 

信じられないような表情を浮かべたまま姫は突然走り出し、呼び止める絢香の声も無視して神社の階段を駆け降りていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃、霊山山頂に発生した銀色のオーロラは徐々に広がり、山頂付近から発生した闇の中から次々と幻魔の大群が現れ町に向かって進軍を開始していた。現場に到着した警察官達は何とか幻魔達を食い止めようとするも、幻魔達は警官達が放つ銃弾をものともしていなかった。

 

 

『キシャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーっっ?!!」

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーっっ!!!」

 

 

「く、クソッ!退却だ!!此処は一度引け!!」

 

 

幻魔達は立ち塞がる警官達を斬り捨てて町へと下りていき、警官達も此処で幻魔を食い止めるのは無理だと判断して下がっていった。そしてその頃、山頂にある空洞の中にある一つの石碑が崩れ、その中から一体の異形が姿を現した。

 

 

『―――フン。久々の外の世界だが……空気は最悪だな……封印されていた間、また蟲共が世界を汚したか……』

 

 

身体全体に蛇のような白い鎧を纏った異形はそう言いながら不愉快な表情をすると、自分の周りに闇を発生させて大量の幻魔を呼び出し、そのまま幻達達を引き連れ山を降りようとする。だが……

 

 

 

 

 

『――鬼戦術、炎龍ッ!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『?!ギッ!ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

『……ん?』

 

 

突然異形達の真横から獄炎が放たれ、そのまま異形の周りにいた幻魔達を飲み込み焼き尽くしていったのだ。そして獄炎が放たれてきた方には紅い大剣を構えたライダー……鬼王に変身した桜香が異形を睨みつけて立っていた。

 

 

『貴様は……』

 

 

鬼王『……やっと見付けた……捜したわよ。幻魔神、フォーティンブラス!!』

 

 

鬼王は敵意を込めた目付きで異形……幻魔神・フォーティンブラスに向けて大剣の切っ先を突き付けていき、フォーティンブラスはそんな鬼王を見て何かを思い出したように不気味な笑みを浮かべた。

 

 

『ああ……誰かと思えば、昔我が遊んでやった玩具の一人か。中身は違うようだが……そうか、アレの後継者か?』

 

 

鬼王『黙りなさい!アンタと話す事は何もないっ……今度こそ、此処でアンタを殺して全てを終わらせるっ!!天双刃ッ!!』

 

 

鬼王は見下すように笑うフォーティンブラスに怒鳴りながら紅い大剣に黄金の光を纏わせ、二振りの双剣に変化させて両手に構えていき、そのままフォーティンブラスへと突っ込み双剣を振りかざした。が……

 

 

『……フッ』

 

 

―シュンッ!―

 

 

鬼王『?!なっ―ズガアァッ!!―ウアァッ?!』

 

 

フォーティンブラスは鬼王の双剣が当たる寸前に突然瞬間移動し、鬼王の背後に現れて何処からか取り出した大剣で斬り裂き吹っ飛ばしてしまったのだ。そしてフォーティンブラスは再び瞬間移動して怯んだ鬼王の背後に移動し、大剣で勢いよく突きを放ち吹っ飛ばしてしまう。

 

 

鬼王『アウッ!』

 

 

『フンッ、どうした?威勢良く吠えておいてその程度かぁ?』

 

 

鬼王『ぅ……クッ!調子に乗るなぁ!!』

 

 

欠伸でもしてしまいそうにつまらげに言うフォーティンブラスに挑発され、鬼王はふらつきながら立ち上がり双剣を構え直してフォーティンブラスに斬り掛かるが、フォーティンブラスは再び瞬間移動を使って少し離れた場所に移動し、右腕に風のエネルギーを纏わせていく。

 

 

『まあいい、貴様のような蟲でも準備運動ぐらいにはなるだろう。簡単に倒れるなよ?』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

鬼王『くっ?!キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーッ?!!!』

 

 

フォーティンブラスの右腕から放たれた巨大な竜巻が鬼王を飲み込んで斬り刻んでいき、最後は巨大な爆発を起こし鬼王を飲み込んでいったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人が戦う場所から離れた所では……

 

 

慎二「―――漸く始まったか。さて、零先輩はアレを相手にどう戦うかな?フフフフッ……」

 

 

鬼王とフォーティンブラスの激闘を静かに観戦する一人の青年……慎二は不敵な笑みを浮かべると、サングラスを取り出して掛けその場から歩き去っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同じ頃、紗耶香とアズサが町に着いた頃には、市街地で霊山から下りてきた幻魔の大群が人々を襲いながら暴れ回っていた。既に辺りは瓦礫の山で埋め尽くされ、怪我人も絶えず次々と救急車で運ばれている始末であった。

 

 

アズサ「酷いっ……」

 

 

紗耶香「クッ!これ以上奴らに好き勝手させる訳にはいかん……アズサ!」

 

 

アズサ「うん……!」

 

 

幻魔達の被害に遭って目茶苦茶にされてしまった町を見て顔を険しくさせながら、紗耶香とアズサはそれぞれ籠手とベルトを装着していく。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

二人は高らかに叫ぶと共に龍王とシュロウガへと変身していき、それぞれ武器を構えながら幻魔の大群へと突っ込んでいったのだった。そして近くの建物の屋上では……

 

 

 

 

 

 

鳴滝「――遂にこの世界にも滅びが訪れてしまった……これも全てディケイドのせいだ……ディケイドの!」

 

 

二人の戦いを建物の屋上から見下ろす男性……鳴滝は忌ま忌ましげに言いながら顔を上げ、今もなお銀色のオーロラに包まれる霊山を睨みつけていた。

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑩(前編)

 

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

鬼王『キャアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

そして場所は戻り、山頂にある空洞の中では鬼王がフォーティンブラスの打撃を受けて吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられた衝撃で桜香へと戻ってしまっていた。フォーティンブラスはそんな桜香を見てつまらなそうに首の骨を鳴らし、ゆっくりと桜香へと近づいていく。

 

 

『つまらんな……これでは準備運動にもならん……これなら昔遊んでやった貴様の祖先の方がもっと楽しめたぞ?』

 

 

桜香「ぁ……くっ……こんのぉっ……!」

 

 

『まぁ、蟲相手では勝負になるはずもないか……ああそうだ。殺す前に聞くが、桜ノ神は今何処にいる?』

 

 

桜香「っ……知らないわよ……そんな事っ……!」

 

 

『……つくづく使えん蟲だ……だったらもういい……さっさと死ね』

 

 

敵意を込めた目で睨みつけてくる桜香にフォーティンブラスは興味を無くしたように息を吐き、指先に膨大なエネルギーを溜めながら桜香に向けていく。そしてそれを見た桜香は悔しげに唇を噛み締めると目の前にある物……昨日零に貰ったお守りが落ちている事に気付き、ボロボロの身体を引きずりながらお守りを手に取った。

 

 

桜香(っ……ごめんね……皆……お姉ちゃん……皆の居場所……守ってあげられなかったっ……)

 

 

右手でお守りを強く握り締めながら、胸の中で孤児院の子供達に悔しげに謝罪する桜香。そして昨日話した青年……零の姿を思い浮かべ、桜香はゆっくりと瞳を伏せた。

 

 

桜香(ごめんね零、貴方にも謝っておく……あの子達を……絢香達のことを……お願い……)

 

 

『――死ね。その薄汚い姿を見ているだけで……吐き気がする』

 

 

―ジジジジッ……ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

蔑むように笑いながらそう告げると、フォーティンブラスは指先から巨大な閃光を勢い良く撃ち出し、閃光はそのまま桜香を飲み込もうと地面を消し去りながら一直線に向かっていった、その瞬間……

 

 

 

 

 

 

―バッ!!―

 

 

零「させるかああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーっっ!!!!!」

 

 

『……あ?』

 

 

桜香「っ?!え?―ガバッ!―キャアァッ?!」

 

 

 

閃光が桜香を飲み込もうとした瞬間、突然桜香を捜しにやって来た零がその場に飛び出し、直ぐさま桜香を抱き抱えてその場から飛び退いていった。そして標的から外れた閃光はそのまま上空へと軌道を変え、空の彼方へと消えていったのであった。

 

 

零「ハァ…ハァ…ハァ…なんとか間に合ったかっ……桜香、無事か?!」

 

 

桜香「っ……零?貴方……どうして……?」

 

 

零「どうしても何もあるか!昨日は一人で戦わないって言った癖に、勝手に幻魔神と戦いやがってっ……!」

 

 

桜香「……仕方ないじゃない……こんな状況だったんだし…………でも…………」

 

 

一人で勝手にフォーティンブラスと戦った事に対して怒鳴る零とは対照に、桜香は零に抱き抱えられながら右手に持つお守りを見下ろして微かに微笑んだ。

 

 

桜香「貴方が来てくれたのは……ちょっと嬉しかった、かな……このお守り……結構効くじゃな…………い…………」

 

 

零「ッ!桜香?!しっかりしろ桜香!!―ズガガガガガガガガガガガガッ!!―ッ?!」

 

 

気絶した桜香の体を慌てて揺さ振る零だが、突然不意を突くように背後から無数の剣や槍が襲い掛かり、零は桜香を抱き抱えてその場から飛び退き辛うじて回避した。そしてその剣や槍が撃たれてきた方には、フォーティンブラスが不愉快な顔で零を睨みつけていた。

 

 

『貴様……一体誰の断りを入れてその女を助けている?その女はこの我が死ねと申したのだ。ならば即この世界から消えるのが筋であろう!!』

 

 

零「……随分と自分勝手なことを言ってくれるな……お前が幻魔神とやらで間違いないか?」

 

 

『質問しているのはこっちだ……偉大な神であるこの我が貴様のような蟲ごときに質問してやってるのだぞ?慎んで答えるのが貴様達蟲の責務であろうが!!』

 

 

零「ッ!」

 

 

フォーティンブラスはそう叫びながら何処からか無数の剣や斧を呼び出して自身の背後に浮かせていき、そのまま零に向けて一斉掃射していった。それを見た零は桜香を抱えたままそれらを避け、ディケイドライバーを装着してフォーティンブラスと戦おうとした。が……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!―

 

 

『……ん?』

 

 

零「ッ!この攻撃は…?!」

 

 

零が変身しようとした瞬間にフォーティンブラスの足元に無数の銃弾が撃ち込まれ、零はそれに驚きつつも銃弾が放たれてきた方へと振り返った。すると其処には二人の戦士……仮面ライダーエグザムとディライトに変身した晃彦と勇二が、それぞれエグザムカリバーとライトブッカーGモードを構えながら立っていた。

 

 

零「晃彦?!勇二?!何で此処に?!」

 

 

エグザム『何でもあるか!お前が勝手に神社を飛び出すから、こうして追ってきたんだろうが!』

 

 

ディライト『それで追ってきてみれば何だか変な事になってるし……とにかく、零さんはその人を連れて逃げて下さい!そいつは俺と晃彦で倒します!』

 

 

零「何?……ま、待て?!迂闊に手を出すな!!」

 

 

フォーティンブラスと戦おうとするエグザムとディライトを見て慌てて止めようと叫ぶ零だが、二人はそれを聞かずにそれぞれの武器を剣に切り替えながらフォーティンブラスに振りかざしていく。しかし、フォーティンブラスは二人の攻撃をつまらなそうに軽々とかわしていってしまい、逆に攻撃した後に出来る隙を突いて二人を殴り飛ばしてしまう。

 

 

エグザム『ウグァッ!』

 

 

『うっとうしい奴らめ……蟲が何匹集ろうが結局は同じだと言う事が分からんのか?』

 

 

ディライト『クッ!クソ!だったらコイツだ!』

 

 

蠅を払うように次々と二人を殴り飛ばすフォーティンブラスにディライトも分が悪いと感じたのか、フォーティンブラスから距離を離して何処からか一つの端末……ケータッチを取り出し、コンプリートカードを装填してパネルをタッチしていく。

 

 

『BRAVE!SEIYA!DRAGONKNIGHT!UNICORN!BLADE!ENKI!WINGZERO!NEXDEN-O!KINGKIVA!』

 

 

『FINALKAMENRIDE:DELIET!』

 

 

九つの紋章をタッチした後にディライトの紋章をタッチしたと同時に電子音声が鳴り響き、それと共にディライトはマゼンタとシアンブルーの鎧に肩と胸に九人のライダーのカードが並んだヒストリーオーナメントが装着された姿……ディライト・コンプリートフォームへと変わり、ディライトは更にケータッチを操作していく。

 

 

『WING ZERO!FORMCHANGE:CUSTOM!』

 

 

電子音声と共にディライトがバックル部にセットすると徐々に姿を変えていき、青と白の装甲に純白の翼を背中に持ったライダー……『ウィングゼロカスタム』へと変身したのであった。そしてウィングゼロは左腰に装着したパーフェクトハイパーゼクターを弾くように叩いた。

 

 

ウィングゼロC『コイツならどうだ!』

 

 

『Perfect Clock Up!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に周りの風景が一瞬でスローモーションとなり、ウィングゼロはハイパークロックアップの約1000倍の速さでフォーティンブラスへと突っ込んで殴り掛かっていく。が……

 

 

『――――フンッ』

 

 

―ガシィッ!―

 

 

ウィングゼロC『…ッ?!なっ?!―ガキイィィィィィィィィィィインッ!!―ウグアァッ?!』

 

 

なんと、フォーティンブラスはウィングゼロの放った拳を意図も簡単に掴み取ってしまい、そのまま大剣でカウンターを放ちウィングゼロを斬り飛ばしてしまったのだ。更にフォーティンブラスは瞬間移動を使ってウィングゼロが吹き飛ばされた方へと先回りし、大剣をウィングゼロの肩に叩き付けて動きを封じてしまう。

 

 

ウィングゼロC『ウグッ!馬鹿なっ……パーフェクトクロックアップと互角だと?!』

 

 

『フン……完璧だが何だか知らんが、貴様等が戦っている相手が誰か分かってるのか?神!究極など越えた絶対なる存在!貴様等蟲共を創造した、お前達下郎共の主だ!!』

 

 

―バチバチバチバチッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ウィングゼロC『?!ウグアァッ?!』

 

 

フォーティンブラスは高らかに叫ぶと同時にウィングゼロに手の平を翳し、そのまま高出力の神氣を込めたエネルギー波を放ってウィングゼロを吹っ飛ばしてしまい、ウィングゼロは地面を転がりながら通常形態へと戻ってしまった。

 

 

零「――……?!!勇二ッ?!!」

 

 

エグザム『なっ?!勇二ッ!!』

 

 

地面に倒れるディライトを見て零とエグザムは驚愕の表情を浮かべ、エグザムは慌ててディライトへと駆け寄り身体を起こしていき、フォーティンブラスはそんな零達を見て嘲笑いを浮かべながら近づいていく。

 

 

『ハハハ!蟲にしては良く持つが、それもあと数撃か……ならば、貴様等へのトドメはこれで十分だろう……』

 

 

そう言ってフォーティンブラスは大剣を消し、右腕をゆっくりと掲げていく。その瞬間フォーティンブラスの周りに九つの残像が出現していき、そのままフォーティンブラスへと重なって姿を変えていった。その姿とは……

 

 

ディライト『くっ……?!アレは?!』

 

 

零「勇二の……ディライトだと?!」

 

 

そう、フォーティンブラスが変えた姿とは、先程ディライトが強化変身したのと同じディライト・コンプリートフォームだったのだ。突如フォーティンブラスが変身したディライトを見て零達が驚愕と戸惑いを浮かべる中、ディライト(フォ)はライトブッカーから一枚のカードを取り出し右腰のバックルにセットした。

 

 

『KAMENRIDE:ALLR・R・R・RIDER!』

 

 

電子音声が響くと共にディライト(フォ)の左右に九人のライダー達……最強フォームとなったブレイブ達が出現してエグザムとディライトに身構えていき、ディライト(フォ)は更にカードを取り出して嘲笑いを浮かべた。

 

 

ディライトC(フォ)『蟲は蟲の造り出した業で死ぬのが相応しい……だから貴様等は――』

 

 

ディライト(フォ)はそう呟きながら取り出したカードを右腰のバックルへと装填し、そして……

 

 

ディライトC(フォ)『――此処で死ね』

 

 

『FINALATTACKRIDE:ALLR・R・R・RIDER!』

 

 

『ハアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

ディライト『クッ?!グアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアッーーーーっっ?!!!』

 

 

エグザム『ウグアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッーーーーっっ?!!!』

 

 

零「?!!勇二?!晃彦ォッ!!」

 

 

ブレイブ達の最強技が全てディライトとエグザムへと炸裂し、最強技を諸に受けてしまった二人は勢い良く吹っ飛ばされながら変身が解除されて勇二と晃彦へと戻ってしまい、その光景を見た零は直ぐさま走り出し壁に激突しようとした二人のクッションとなって二人を受け止めた。

 

 

零「ぐぅっ!ゲホッガハッ!!くっ……晃彦、勇二、無事か?!」

 

 

勇二「くっ……ぅ……零さんっ……俺は大丈夫ですがっ……晃彦がっ……!」

 

 

零「何?……晃彦?おいしっかりしろ?!晃彦!!」

 

 

晃彦「………………」

 

 

勇二に言われて零はすぐにボロボロになってしまった晃彦の体を必死に揺さ振るが、気絶でもしているのか晃彦から返事は返ってこなかった。その間にディライト(フィ)は変身を解除してフォーティンブラスに戻り、気絶した晃彦を見て腹を抱えながら笑い出した。

 

 

『ふ、はは!ははははははははははははははは!!!中々しぶといな蟲共?!!あれだけの攻撃を受けていながらまだ死なんとは……ああそうか?それが貴様等の唯一の取り柄だからなぁ?ふははははははははははははははははは!!!!』

 

 

零「ッ?!貴様あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

高らかに笑い出したフォーティンブラスを見て零は直ぐさまドライバーを装着し、カードを装填してディケイドに変身しながらフォーティンブラスの腰にしがみつき、そのまま勇二達から引き離していく。

 

 

勇二「零さんっ?!」

 

 

ディケイド『グゥッ!勇二!!早く晃彦を連れて逃げろ!!』

 

 

勇二「?!けど!それじゃ零さんは?!」

 

 

ディケイド『いいから早く逃げろ!!!此処に居たら全員殺される!!!急げぇ!!!』

 

 

勇二「ッ!!っ……クソッ!!」

 

 

余裕が全くないディケイドの声を聞いて今の状況がどれだけ危険かすぐに悟ったのか、勇二はすぐさま気を失った晃彦を担いで山から駆け降りていく。

 

 

それを見たフォーティンブラスはディケイドの背中を殴り付けて地面に沈めると勇二達の後を追おうとするが、ディケイドは行かさないと言わんばかりにフォーティンブラスの足にしがみついて動きを止めた。

 

 

『ッ!蟲風情が……けがわらしい手で神に気安く触れるでない!!』

 

 

―ガキイィンッ!!ガキィッ!!ドガアァッ!!―

 

 

ディケイド『ぐあぁッ!』

 

 

フォーティンブラスは自分の足にしがみつくディケイドを見て逆鱗し、右手に大剣を召喚してディケイドをボールのように斬り飛ばしてしまった。そして自由になったフォーティンブラスは勇二達の方に視線を戻すが、其処には既に勇二達の背中は見えず軽く舌打ちした。

 

 

『チッ……蟲二匹を仕留め損なったか……』

 

 

勇二達を逃がしてしまったことに対して不快そうに舌打ちし、フォーティンブラスはそのまま地面に倒れるディケイドへと歩み寄って背中を踏み付けた。

 

 

ディケイド『アグゥッ?!グアァ……!』

 

 

『あの二匹を逃がしたせいで苛立ちが治まらん……これも全て貴様のせいだ……鬱憤払いに付き合え』

 

 

ディケイド『グゥッ!……な……にっ……?』

 

 

背中を踏まれたまま思わず聞き返すディケイドだが、フォーティンブラスは口元を不気味に歪めながらディケイドを踏み付けていた足を上げ、そのまま勢い良くディケイドに向けて足を振り下ろした―――

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

『キシャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

勇二「ハァ!ハァ!ハァ!クソッ!何処まで追ってくんだよアイツ等?!」

 

 

そして同じ頃、山頂の空洞から免れた勇二は晃彦を担ぎながら山の中を駆け降り、背後から追い掛けてくる幻魔達の追跡から逃れようとしていた。そして勇二は走っている最中に岩を見つけ、晃彦と共にその岩の影に隠れて幻魔達をやり過ごした。

 

 

勇二「ハァ!ハァ!ハァ!……一先ず……何とかやり過ごしたか……?」

 

 

怪我を負った身体で走ったせいか、全身がひどくズキズキして流血も止まらない。それでも何とか神社まで戻って晃彦の治療をしなければと思い、勇二は辺りを見渡して幻魔達がいない事を確認すると晃彦を背負って山を下りようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

『ウグアァッ?!!グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーーッッ?!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

勇二「――?!今の声……零さん?!!」

 

 

 

山頂から突然けたたましい轟音と断末魔のような悲痛な叫び声が聞こえ、勇二はその声がディケイドのものだと気付いて山頂へと振り返った。

 

 

―ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

『ガアァッ?!!ウグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーッッ?!!!!!!!』

 

 

勇二「零さん!!くっ……?!」

 

 

ディケイドの断末魔のような声を聞いて勇二は思わず山頂に向かおうとしてしまうが、先程のディケイドの言葉を思い出してその場に踏み止まった。今自分達が戻ってもなにも出来ない。それに晃彦を早く治療しなければ、手遅れになるかもしれない。そう思った勇二は顔を俯かせて苦悩の表情を浮かべた。

 

 

―ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!!―

 

 

『ウアァッ?!!ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーッッッ?!!!!!!!!』

 

 

勇二「くっ……っ……すみません零さんっ……晃彦を連れて帰ったら必ず戻りますからっ……待ってて下さい!!」

 

 

今にも死んでしまうのではと思ってしまうディケイドの絶叫を聞きながらそう呟くと、勇二は晃彦を背負いながら急いで山から下りていくのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/終極の神

 

 

 

 

―――とある並行世界の森の中。時刻が深夜の為か、暗闇に包まれた森の中は酷く静かで不気味であった。そんな場所に、一人の青年が降り立った。

 

 

大輝「――さて、あの人はいるかな?もう別の世界に跳んでなければいいけど……」

 

 

その世界に降り立ったのは仮面ライダーディエンド、異世界を渡る怪盗の海道 大輝だった。大輝は転移を完了すると共に誰かを捜すように辺りを見渡し、神経を鋭くさせて気配を探っていく。

 

 

大輝「―――いた……結構近いな……これなら歩いていけば十分か」

 

 

気配を感じ取った大輝は軽く息を吐きながらそう言うと、ポケットに両手を突っ込みながらゆっくりと森の奥へ歩き出していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「はむはむ……はむはむはむ……」

 

 

そして同じ頃、森の奥では巨大な猪を炙るたき火の前で、一人の薄紫の髪の女性がリスのように肉を頬張っていた。だが、女性は何故か肉を食べるのを止めて息を吐き、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……いつまでそうしてるの……大輝……」

 

 

それだけ口にすると女性は再び肉を食べ始め、それと共に女性の背後にある木の影から青年……大輝が笑みを浮かべながら姿を現した。

 

 

大輝「相変わらずやりますね。気配は消しておいた筈なんですけど?」

 

 

「……気配を消した所で、貴方が其処にいるのは変わらない……それに気付いただけ……」

 

 

大輝「ははは、やはりそういうところも変わらないですね……終極の神、ユリカ・アルテスタ」

 

 

「……その呼び名は使わないでって、前にも言った筈でしょう……?」

 

 

大輝は笑みを浮かべたまま背中を向ける薄紫の髪の女性……"ユリカ・アルテスタ"の名を呼ぶが、ユリカは大輝が口にした幻想の神という呼び名を聞いて僅かに表情を険しくさせ、肉を頬張りながら淡々と語り出していく。

 

 

ユリカ「それで……今日は何の用……?」

 

 

大輝「何、ただ貴方に貰った材料の事でお礼を言いに来ただけですよ。おかげでアレの開発も順調になってますから」

 

 

ユリカ「……別にそんなのいらない……私はただ必要のない材料をあげただけ……」

 

 

笑い掛ける大輝とは対照に興味がないと言わんばかりに食事を続けるユリカ。そんなユリカに大輝は苦笑を浮かべると、近くの樹木に背中を預けながら夜空を見上げていく。

 

 

大輝「――そうそう、零も順調に旅を続けていますよ。今はちょっとトラブルに巻き込まれてますけど」

 

 

ユリカ「…………そう」

 

 

大輝「……やはり、今でも許せないですか?貴方の妹さんを殺した彼を」

 

 

ユリカ「……………」

 

 

何気なく大輝が質問したその問いにユリカは口を閉ざすが、肉を食べ終えた骨をたき火に投げ入れながらゆっくりと口を開いた。

 

 

ユリカ「―――姉として言わせてもらえば、許せない……あの子が現れなければリィル達は死なずに済んだ……だけど逆に、アルテマに利用されていたあの子が哀れに思える」

 

 

大輝「アルテマ……零と、彼の妹の育ての親ですか」

 

 

ユリカ「初代創造の神……あの子を戦闘マシンとして育てた女……あの子にリィルを殺すように命じた堕神……そして全ての始まりとなった元凶……」

 

 

大輝「まあ、彼女が持っていた創造の因子は今こっちのディレイドが持ってますけどね……ホント、何処で手に入れたのやら」

 

 

ユリカ「それは知らない。でも墜ちたあの子は過去と未来を自由に行き来出来るようになってる。多分それを使ったのでしょう……」

 

 

淡々と感情の篭らない声で語りながら焚火に薪を投げ込んでいく。ユラユラと炎が揺れる中、ユリカはそれを見て瞳を伏せながら口を開いた。

 

 

ユリカ「あの墜神は本当に殺したいほど馬鹿な神だった……そして今も、彼女が遺した負の遺産……彼女の弟子と憐れな神子があの子を狙っている……」

 

 

大輝「組織のNo.0とヴェクタス……まあ、あの二人は嘗ての零に倒されましたからね。個人的な怨みもあるんでしょうが、揺り篭の事もあるんでしょう」

 

 

ユリカ「そうね……揺り篭はアルテマがオリヴィエ達と共に創り出し、その力が危険過ぎるために封印したモノ……アレの存在を彼等が知っていても可笑しくはない……」

 

 

大輝「揺り篭の封印の解き方はアルテマとオリヴィエしか知らないですからね。だから彼の同級生達を引き込んで、零の因子と彼女の娘を手に入れようとしてるんでしょう」

 

 

ユリカ「流石はあの墜神の弟子ね……考える事も全部馬鹿。あの時あの子に大人しく殺されてれば良かったのに、本当に生きてる価値もない……」

 

 

大輝「はは、相変わらずの毒舌ですね……」

 

 

毒を吐き続けるユリカに思わず苦笑いを浮かべてしまう大輝。それ程までにアルテマという人物が嫌いなのだろう。大輝はそう思いながら口を閉ざしたユリカの背中を見つめ、再びポツリと語り始めた。

 

 

大輝「――それで、貴方はどうするつもりですか?零が全ての記憶を取り戻したら……」

 

 

ユリカ「……どうもしない……ただあの子から真実を聞き出すだけ……」

 

 

大輝の質問に対してユリカはそれだけ答えると、ポケットから何かを取り出して大輝に見せていく。ユリカが取り出したそれはダイヤモンドが輝く小さな指輪であり、それを見た大輝は僅かに目を細めた。

 

 

大輝「指輪ですか」

 

 

ユリカ「そう……あの子がリィルに送った婚約指輪」

 

 

大輝「へえ?昔の零はそれの渡し方知ってたんですか……こっちじゃあ、指輪のまともな渡し方も知らずに大変な目に合ってましたよ?」

 

 

ユリカ「あの頃はリィルが色々教えてたみたいよ……だからあの子も感情を持てるようになった……あの子にとっても、リィルは全てだったらしいから……」

 

 

そう言いながらユリカは手に持つ指輪をジッと眺め、そのまま夜空を見上げながら口を開いた。

 

 

ユリカ「だからこそ、あの子が全ての記憶を取り戻したら真実を聞き出す………何故リィルを殺したのか……リィルを殺したのはあの子の意思だったのか……それを知りたいから……」

 

 

大輝「……それを知っても、貴方は彼を許せますかね?」

 

 

ユリカ「さあ……でも正直に言えば、私は今のあの子にイライラしてる。あの子はリィルに教えてもらった事、リィルと過ごした時間を忘れて生きてる……あの子が望んで忘れてるんじゃないと分かっていても、それでも……」

 

 

大輝「…………」

 

 

そう言ってユリカは指輪をポケットに戻して焚火を見つめていき、大輝はそんなユリカを見ると樹木から背を離した。

 

 

大輝「さてと、それじゃあ俺はそろそろ行きますね。組織に対抗する為にもアレの完成を急がないといけないですし……ああそれと、例の物は完成してますか?」

 

 

ユリカ「……これの事?」

 

 

例の物と告げてきた大輝にユリカは一言で呟きながら懐から一つの機械のような物とカード、そして一本のメモリを取り出し大輝へと投げ渡した。

 

 

ユリカ「ディエンド専用の強化ツールとカード、例の記憶を秘めたTZメモリ……それで良い?」

 

 

大輝「えぇ、相変わらずの完成度ですね……んじゃ、俺はこの辺で失礼します」

 

 

ユリカ「……勝手にして。私には関係ないから」

 

 

大輝「冷たいですねぇ……じゃ、また風麺でラーメンでも食べに来て下さい」

 

 

大輝は軽く手を振りながらその場から歩き出し、元の世界に戻る為に転移したのであった。そして、ユリカは大輝がいなくなったのを確認すると首に掛けていたペンダントをゆっくりと手に取っていく。

 

 

ユリカ「―――リィル……貴方が愛したあの子は貴方と過ごした時間を忘れてる……なのに、貴方はそれでも……あの子の事を……」

 

 

そう呟きながらユリカが見下ろすペンダントには一枚の写真……それには不器用に微笑む幼い頃のユリカと、花冠を被って満面の笑顔を浮かべる銀髪の少女の姿が写っていた――――

 

 

 

 

 

 






ユリカ・アルテスタ

年齢:???(本人曰く数えていない為に忘れたらしく、外見は二十代前半ほど)

容姿:薄紫のロングヘアーと金色の瞳。

服装:脇で絞った半袖のTシャツにボロボロのジーンズ、黒い革製のロングコートを羽織っている。


解説:リィル・アルテスタの姉であり、現終極の神。リィルとは血を別けた姉妹であるが、放浪癖があって自分の世界を飛び出し様々な並行世界へと放浪の旅に出ていた。


時間軸がバラバラな世界を回っては滞在を繰り返していた為、年齢は既に四千を越えているらしい。


元々終極神の因子を持って生まれ、様々な並行世界での修羅場や激戦を潜り抜けて神化を果たした今の実力はかなりのチート級であり、生身の拳一つで星を破壊する事も造作ではないらしい。


様々な並行世界を回った際に全ての世界の魔法や奥義を習得し、全ての神霊達とも契約している。


性格はゆったりとした感じで無口ではあるが、時々毒を吐いては相手を凹ませてしまう悪い癖がある。利用出来るモノはなんでも利用する性分で、終極の神の力も役に立つから使っているだけらしい。


興味があることに対しては興味がある、興味がないことに対しては興味がないとバッサリ言い放ち、必要がないと判断した記憶や情報も三秒で忘れたりするなど事務的な性格をしている。どうでもいい相手にはとことんまでどうでもいいを貫き通し、名前も適当な呼び名で呼んだりする。


旅を続けながらなんでも屋を開いており、高額の報酬を用意するのならネコ探しから人殺し等なんでもやるらしい。(本人曰く、人助けはビジネス。ただの善や親切では飯は食えないからそうしているだけ、とのこと)


神化を果たしてはいるが、ユリカ自身は神と呼ばれることを嫌がっており、神となったのもユリカの意思ではなく、旅を続けて様々な強敵と戦っていく内に体内の因子が成長を果たしてしまい、成り行きでなってしまったらしい。因みに因子は彼女の心臓その物である為、神を止めるには心臓を取り出すしか方法がない。しかしそれは彼女の死を意味し、それではある目的を果たせないが為に半ば仕方なく神を続けている。


現在は放浪の旅を続けながら妹のリィルとの間にある関係を持つ零を監視し、特に零には記憶を取り戻してからある真意を確かめようとしている。本当は何度か零に接触しているらしいのだが、零は全く気付いていない。


因みにライダーシステムやメカの開発等も趣味としており、様々な世界で手に入れた材料を使っては時々とんでもないモノを造るそうな……


自身が開発した端末機……『ノアノート』を常時携帯しており、並行世界で起こった必要な出来事や情報をリアルタイムで知る事が出来る。


好きな言葉は『人間、努力すれば不可能はない』





仮面ライダーセイレス


解説:ユリカが神化した後に開発した仮面ライダー。聖騎士のような純白の装甲にナイトに近い複眼、腰には黒と金のスカートのような装備がある。装甲はあるロストテクノロジーを用いて開発している為に総てのライダーの中でもトップクラスの強度を誇っており、例え一万を越える数のグレートゼオライマーからメイオウ攻撃を受けても傷一つ付かない。



武装一覧


アルディオス

解説:両腰に納めた二本の金色の双剣。総ての物質を斬り裂く事に特化し、刃が刃毀れする事もない。


カルテナ

解説:ロストテクノロジーを用いてユリカが開発した銀の双銃。実弾、魔力弾、エネルギー弾、神氣弾等、様々な属性の射撃攻撃を行う事が可能となっている。因みに弾切れを起こす事はなく、リロードは必要ない。更に近接戦闘対策としてダガーモードも付属されている。


ルシファー


解説:堕天使の加護を秘めた宝石剣。嘗てある世界を混沌に陥れたルシファーの力を秘めており、その一撃は世界すら切り裂くモノと言われている。


アウラ

解説:フィールドバリア系の武装。ロストテクノロジーを用いている為に最高の強度を誇っており、例え総ての世界が滅んでもこれさえあれば生き残れるらしい。(既に試用済み)



必殺技一覧



アウディ・ザギ

解説:アルディオスを一本の剣に変化させ、世界すら斬り裂く黄金の斬撃を放つ必殺技。ぶっちゃけると、これ一撃で無人の並行世界を幾つか滅ぼしてしまったとか……(ちゃんと修復はしてる)


ハウレラ・メフィス

解説:カルテナの銃口にすべてのエネルギーを込め、スターライトブレイカーの千倍以上の巨大な砲撃を放つ技。


ディ・アイン

解説:セイレス最強の必殺技だが、その力は未だ不明とされている。



マシンセレーネ


解説:イクサリオンを黒と金に染めたようなマシン。バイク形態を通常モードとして三つのモードへの変形を可能としており、一つ目はマシンモード、二つ目は星薙斬艦刀のような形状をした大剣……メイガスへの変形、三つ目はまだ不明。


因みにメイガスで放つ必殺技『アウリオス』はまんま星薙斬艦刀だが……威力がでか過ぎて星薙ぎならぬ、星斬りと化している……




他にも別のフォームなどが多数存在しますが、それは後々追加します。



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番外編/狂乱の記憶

 

 

 

―――忘れはしない……

 

 

お前が全てを忘れようとも、俺は忘れたりはしないぞ……零……

 

 

俺はずっと待っていたんだ……

 

 

あの熱と血の舞台で、お前に崇高な血と誇りを貶められた屈辱の日から、ずっと……ずっと……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――???年前。???の世界……

 

 

 

「―――ギ―――ア―――アアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッ?!!!!!!!!!!!」

 

 

……爆煙に包まれる紅い空に鳴り響く、断末魔に近い悲痛な絶叫。

 

 

その絶叫を上げるのは一人の青年。しかしその右腕は存在せず、青年の傍らには青年の物と思われる右腕が無造作に転がっていた。

 

 

そんな右腕を失った痛みでのたうちまわる青年の目の前には、右手に鮮血が粘り着いた漆黒の剣を持つ漆黒の髪の青年が、紫色に輝く両目で右腕を失った青年を見下ろしていた。

 

 

漆黒の髪の青年は憎悪、殺意、哀しみが入り混じった瞳で青年を睨みつけ、右腕を失った青年は悔しげに唇を噛み締めながら漆黒の髪の青年を見上げた。

 

 

「あ、有り得ない……!!こんなの有り得ない!!俺は、俺は選ばれた人間なんだ!!なのに、なんでお前ごときにっ?!!」

 

 

「…………」

 

 

漆黒の髪の青年は何も答えない。代わりにゆっくりと右手に持つ剣を振り上げ、そして……

 

 

 

 

―……ズシャアアアアァァァァァァァッッ!!!!―

 

 

「?!ア――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ?!!!!!!!!」

 

 

 

 

……倒れる青年の左足を何の戸惑いもなく斬り落とし、左足を失った青年は再び天を貫くような絶叫を上げていったのだった。

 

 

しかし、漆黒の髪の青年はそんな青年の反応に興味がないと言った顔を浮かべ、剣の切っ先を青年に向けていく。

 

 

「答えろ……アルテマは今何処にいる……」

 

 

「があぁっ!!ぐがぁ!!ぁ……は、ははははは……だ、誰がお前みたいな人形なんかに……!!」

 

 

「…………」

 

 

―フッ……ズシャアアァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

「っっ?!!!うあぁ……いがああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっ?!!!!」

 

 

質問に答えなかった瞬間、漆黒の髪の青年の持つ剣が残った左腕を簡単に斬り飛ばしてしまった。

 

 

ほんの一瞬の出来事に青年も反応が遅れるが、すぐに傷口から噴水のように鮮血を噴き散らしながら三度目の絶叫を上げた。

 

 

「もう一度質問だ……アルテマは今何処にいる……」

 

 

「ひがっ……ぐっ……お、お前っ……一体誰に手を出しているのか、分かってるんだろうなっ……俺はお前みたいな人形とは違うんだぞ?!!俺は―ドガアァッ!!―アガァッ?!!!」

 

 

両腕、片足を失いながらもなにかを抗議しようとする青年だが、それを遮るように漆黒の髪の青年が青年の頭を地面に踏み付けた。

 

 

漆黒の髪の青年は有無を言わせないと言わんばかりにジリジリと青年の頭を踏みにじり、冷たい瞳で青年を睨みつける。

 

 

「質問しているのはこっちだ……答えろ。アルテマは今何処にいる……」

 

 

「ぐあぁ……がっ……!」

 

 

頭を踏み付けながら冷たい口調で再び問いかけていく漆黒の髪の青年。

 

 

まるでゴミのように踏み付けられる青年はそんな漆黒の髪の青年を睨むが、突然不気味な笑みを浮かべて笑い出した。

 

 

「く、はは、はははははははははははははははは!!どうせお前にアルテマを殺す事なんて出来ないさ!!あの女に挑んでも、お前が殺されるのは目に見えてるんだからなぁ!!」

 

 

「…………」

 

 

「あはははははははは!!可哀相になぁ?!あれだけあの女の為に尽くしたのに、結局は捨てられたんだよお前は!せいぜい絶望しながら惨めに死んでいけばいいさ!!お前が殺したあの女、リィル・アルテスタのようになぁ?あは、あははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

「…………」

 

 

壊れた人形のように狂った笑い声を上げ続ける青年。

 

 

漆黒の髪の青年はリィルという名を聞いた瞬間顔から感情が消え、今まで踏み付けていた青年の頭をボールのように蹴り飛ばし、数十メートル先まで地面を滑りながら吹き飛んでいった。

 

 

「がぁっ?!うあっ……ぁ……?!」

 

 

「……アルテマの居場所を聞き出してから殺そうかと思ったが……気が変わった……」

 

 

そう呟きながら漆黒の髪の青年は吹き飛んだ青年の下まで歩み寄り、濁った瞳で血だらけの青年を見下ろしながら剣を振り上げていく。

 

 

「楽には殺さん……死んだ方がマシだという様な地獄を味わせてから、あの世に送ってやる……」

 

 

「……ひ、はは、はははははははははははははは!!俺は死なない!!俺はお前みたいな道具とは違う!!特別なんだ!!お前みたいな、お前みたいな使い捨ての人形とは違うんだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!!」

 

 

狂った笑い声と絶叫を空に向けて響かせる青年。

 

 

漆黒の髪の青年は人間とは思えない冷たい瞳でそんな青年を見下しながら、振り上げた剣を勢いよく振り下ろしていったのだった――

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―――現在……

 

 

 

ヴェクタス『――ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!!!!!……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……』

 

 

絶叫を上げながら勢いよく上体を起こし、肩で息をして目覚めたのは漆黒の仮面のライダー……組織のNo.2である仮面ライダーヴェクタス。

 

 

アジトにある自室のベッドで休んでいた彼は辺りを見渡し、殺風景な自分の部屋を見て先程の光景が夢だと分かり、苛立ちを込めてベッドを殴りつけた。

 

 

ヴェクタス『クソがっ……またあの夢かっ……また、あの時のっ……』

 

 

ヴェクタスは忌ま忌ましげに呟きながら暫くベッドの上で休むと、ゆっくりとベッドから立ち上がって天井を仰いだ。

 

 

ヴェクタス『……俺は忘れんぞ、零……俺をこんな姿に変えた借り……必ずお前に返してやるっ……』

 

 

憎悪に満ちた声で天井を見上げながらそう呟いていると、目の前に一枚のパネルが出現した。

 

 

黒髪の青年……組織のNo.1である闇無終夜である。

 

 

終夜『ヴェクタス、今すぐ王座の間に来い』

 

 

ヴェクタス『……いきなりだな……また新しい任務か?』

 

 

終夜『そうだ、お前に探して来て欲しい物がある……詳しい内容はこちらで説明するから、準備を済ませたら王座の間に来い』

 

 

ヴェクタス『人使いの荒い奴め……ああ、了解した』

 

 

軽くそう答えると共に通信パネルは消え去り、ヴェクタスはそれを横目で見るとそのまま自室の入り口へと向かい、部屋を出て終夜達の待つ王座の間に向かっていったのだった。

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑩(中編)

 

 

龍王『ダアァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

シュロウガ『トラジックジェノサイダーッ!』

 

 

そして同じ頃、桜ノ町では山頂から降りてきた幻魔の大群を相手に龍王とシュロウガが奮戦していた。だがどれだけ倒しても幻魔達の数は減る事なく、寧ろ先程まで百体だった数が今では千体を越えて町の中を埋め尽くし、二人は息絶え絶えの状態で背中を合わせていく。

 

 

シュロウガ『ハァ…ハァ…駄目っ…全然数が減らないっ……』

 

 

龍王『くっ!一体どうなっているんだ……まさか……コレが滅びという奴なのか……?!』

 

 

既に二百を越える数の幻魔と戦ったせいか、今の二人は疲労状態になって立っているのもやっとであった。しかし幻魔達はそんな二人を他所に再び数を増やしていき、獣のような雄叫びを上げながら二人へと一斉に斬り掛かっていった。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

『Full Charge!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DEJOBDO!』

 

 

『シャイニング!!カリバアァァァァァァァァァァッ!!』

 

 

『ッ?!ギ、グギャアァァァァァァァァァアーーーーーーーーッ?!!』

 

 

―ズガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

シュロウガ達を囲む幻魔達に突然無数の必殺技が降り注ぎ、幻魔達は断末魔の悲鳴と共に爆散していったのであった。シュロウガ達はその突然の攻撃を見て驚愕の表情を浮かべてしまうが、そんな二人の前に数人の戦士が現れた。その戦士達とは……

 

 

 

 

 

 

 

ゼロノス『――何とか間に合ったか』

 

 

エクスL『みたいだな』

 

 

ディジョブド『真打ち登場ってね』

 

 

カイザ『悪いな、ちょっとお邪魔させてもらうぞ』

 

 

シュロウガ『ッ?!侑斗?稟?』

 

 

二人の目の前に現れた数人の戦士達とは、前の世界で行方不明になった零の捜索を手伝ってくれた稟が変身するエクス、同じくアズサにデネブキャンディーをプレゼントしてくれた侑斗が変身する緑色のライダー、『ゼロノス』、キャンセラーの世界で祐輔達の窮地を救ってくれたゼウスが変身するカイザ、零の異世界の友人である紲那が変身するディケイド系のライダー、『ディジョブド』だったのだ。

 

 

龍王『な、何だ?コイツ等は?』

 

 

シュロウガ『皆、どうして此処に……?』

 

 

エクスL『どうしてって、また零さんと君が行方不明になったって聞いて探しに来たんだよ』

 

 

ディジョブド『それでこの世界から二人の気配を感じたからアテナさんの手助けでこっちに送ってもらったんだ。なんか知らないけど、この世界は他の平行世界との繋がりが遮断されてるみたいだからね。普通の方法じゃ転移出来なかったんだ』

 

 

ゼロノス『俺も総一達から黒月を捜すように頼まれたから、それに便乗してゼロライナーでこっちに来たって訳だ。一応神社の方にもデネブと柚子に護衛を任せてきてるから、そっちの方は安心しろ』

 

 

龍王『絢香様達を?!……お前達、一体何なんだ?』

 

 

カイザ『ふむ、そうだなぁ……零殿の台詞を拝借すれば、通りすがりの仮面ライダーといったところだ』

 

 

カイザは龍王の疑問にそう答えるとカイザブレイガンを構えながらゼロノスと共に幻魔の大群へと突進していき、ディジョブドは左腰のディジョブドブッカーから一枚のカードを取り出しドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

ディジョブド『幻魔に相手はコレだな、ジョブ!』

 

 

ジョブ『分かってるぜ相棒!ジョブチェンジハーツ、鬼武者!』

 

 

ディジョブドのドライバー、ディジョブドライバーの掛け声と共にディジョブドの姿が変化していき、戦国時代に出てきそうな赤い鎧を纏った姿……鬼武者へと変化し、腰に刺した刀を抜いて幻魔達へと斬り掛かっていった。そしてエクスもそれを見るとシュロウガと龍王の方へと振り返っていく。

 

 

エクス『取りあえず、二人にも治療しておかないとな……具現【インバディ】!ケアルガ!』

 

 

高らかに叫びながらエクスが右手を掲げると、シュロウガと龍王の頭上から暖かな光が降り注ぎ二人を包み込んでいった。そして光が徐々に晴れていくと、二人の体に蓄積されていた疲労もなくなり完全回復していた。

 

 

龍王『ッ!これは……身体の疲労が取れた……?』

 

 

エクス『回復は俺に任せて下さい。でもあんまり無茶はしないように。アズサもな?』

 

 

シュロウガ『ん……ありがとう、稟』

 

 

シュロウガはエクスに礼を言うとデスディペルを構え直して再び幻魔達へと突進していき、エクスと龍王もそれに続くように幻魔達に斬り掛かっていった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

その頃、山頂の空洞内では先程まで聞こえていたディケイドの絶叫が聞こえなくなり、不気味な静寂に包まれていた。その理由は……

 

 

 

 

 

 

ディケイド『…………………………………………』

 

 

 

 

 

 

何故なら空洞にはとてつもない深さの巨大なクレーターが出来ており、その中にはディケイドがグッタリとした様子で倒れていたからだ。片方の複眼は粉々に砕け、ボディは所々が砕けて火花を散らし、胸部には何かに踏まれたような足跡が幾つもあった。そしてその近くにはディケイドを踏み付ける異形……フォーティンブラスが退屈そうに欠伸をしていた。

 

 

『何だ、もう死んだのか?この我の鬱憤すら晴らせないとは……使えん蟲よなぁ?』

 

 

ゴミでも見るような視線でディケイドを見下ろしながらそう呟くと、フォーティンブラスはディケイドの片足を軽々と持ち上げて宙吊りさせていくが、ディケイドからは何も声が返って来ない。

 

 

『他人を守ろうとして自分が犠牲になるとは、とんだ偽善者だな。さっさとあの蟲共を放って逃げておけば良かったものを……全く、やはり蟲という存在はどいつもこいつも馬鹿のようだなぁ?』

 

 

フォーティンブラスはピクリとも動かないディケイドを見てあざけり笑い、もう興味がないとディケイドの片足から手を離そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『SPELLRIDE:MASTER SPARK!』

 

 

『……あ?』

 

 

ディケイド『――っ!!!くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

 

不意を突くように突然電子音声が鳴り響き、それと共に今まで動かなかったディケイドがライドブッカーの銃口をフォーティンブラスの顔面に向け、零距離から最大出力の弾幕を放ったのであった。そしてディケイドはその隙にフォーティンブラスの腕から脱出して跳び上がり、クレーターから出て片膝を付いた。

 

 

ディケイド『ハァ……ハァ……どうだ糞神がっ……これで少しは一泡噴いただろうっ……』

 

 

さっきのマスタースパークは魔里沙が使うオリジナルと同じ威力の弾幕。あれを零距離から喰らえばいくら奴でもダメージを負うだろうと、ディケイドは爆煙が巻き上がるクレーターを見つめながらボロボロの身体を抑えていた。が……

 

 

 

 

 

 

『――そうだな……少しは痒く感じたぞ?まあ、あれなら蚊に刺されてやった方が痒い方だがなぁ?』

 

 

ディケイド『――っ?!』

 

 

再び耳に聞こえてきたのはフォーティンブラスの嘲笑うような声。しかしその声は爆煙が巻き上がるクレーターからではなくディケイドの背後から聞こえ、その声を聞いたディケイドが慌てて背後へと振り返ると、其処には退屈そうにディケイドを見下ろす人物………マスタースパークを受けた筈のフォーティンブラスが全く無傷の状態で立っており、フォーティンブラスはそのままディケイドの首を掴み軽々と持ち上げていった。

 

 

ディケイド『ぐっ?!馬鹿な……無傷だと……?!』

 

 

『フン、あんなモノでこの我に傷を付けられるとでも思っていたのか?ははは!ホントに貴様等蟲は考えることが甘い……攻撃というものは―――』

 

 

フォーティンブラスは自分の腕から逃れようともがくディケイドを見て愉快げに笑い、もう片方の手をディケイドの胸に翳して神氣を集約させていき……

 

 

ディケイド『―――っ?!まず――?!』

 

 

『……こういうものだ』

 

 

―ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

ディケイド『――!!』

 

 

フォーティンブラスは手の平に集約させた神氣のエネルギー波を放ち、ディケイドはエネルギー波に飲み込まれながら爆発を起こして吹き飛び、そのまま壁へと激突して倒れてしまった。

 

 

ディケイド『ぐ……ぁ……くうっ……!』

 

 

『フン、どうした蟲?我は其処で寝ている女の時からまだ一割の力しか使っておらんぞ?まだまだやり返す余地はあるであろう?』

 

 

ディケイド(……?!あの力で……まだ一割だと……?!)

 

 

桜香を赤子の手を捻るように倒し、晃彦と勇二を軽く蹴散らし、先程全力で放ったマスタースパークも無傷で受け止め、それでもまだ一割程度の力。ならばこれ以上力を上げられたら一体どうなるのか?

 

 

ディケイド(っ……殺されるな……間違いなく……)

 

 

酷く冷静になって考えてみれば、最後に考え着くのはそれしかない。このまま策も無しに戦っても殺されるだけだ。ならば此処は一度態勢を立て直す為に桜香を連れて逃げる方が得策だと思えるが……

 

 

ディケイド(クソッ……逃げ切れるのか……この身体でっ……)

 

 

先程フォーティンブラスに何度も馬鹿力で踏み付けられたせいで、身体のあっちこっちが既にボロボロ、更にアバラも何本か逝ってしまってかなりキツイ。この状態で桜香を担いで逃げても何処まで行けるか分からない。しかも相手は腐っても規格外の神なのだから、どんな方法を使って追ってくるか予想も出来ない。

 

 

『どうした?そちらから来ないのなら……こちらからゆくぞ?』

 

 

ディケイド『クッ!(仕方がないっ……次で一撃を決めたらすぐに桜香を連れて逃げる……今はそれしか手はないっ!)

 

 

こんな状態では奴に一撃を与えるだけでも難しいが、今はそうも言ってられない。悠然とした足取りでゆっくりと近づいてくるフォーティンブラスを睨みつけながら、ディケイドは左腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出した。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――其処までだ、フォーティンブラス」

 

 

 

 

『……?!』

 

 

 

不意にフォーティンブラスの背後から凜とした女の声が響き渡り、ディケイドとフォーティンブラスは互いに動きを止めて声が聞こえてきた方へと振り返った。すると其処には胸の前で印のようなものを結びながらフォーティンブラスを睨みつける女性……姫が静かに佇んでいた。

 

 

ディケイド『なっ……木ノ花?!』

 

 

『ほお……誰かと思えば、お前だったか……桜ノ神』

 

 

姫「久しぶりだな、フォーティンブラス……まさかとは思ったが、やはり蘇っていたのか」

 

 

『ああ。長い間窮屈だったぞ?おかげで身体が鈍ってしまったが……まあ、この蟲共と遊んだおかげで大分マシになったがな?』

 

 

姫「…………」

 

 

親しげに言いながらフォーティンブラスはボロボロの姿で倒れ込むディケイドを見下し、姫はそんなディケイドの姿を見て内心フォーティンブラスに怒りを覚えるが、フォーティンブラスはそんな事に気付かずに姫へと歩み寄っていく。

 

 

『そんな事より、良く来てくれたな?漸く我の物になる気になったか?』

 

 

姫「馬鹿を言うな。以前も言った筈だぞ?私はお前のような人を人とも見ない奴のモノになる気はない……とな」

 

 

『何だ、未だ覚悟が出来ていないだと?たわけた女だ……本当に理解に苦しむ。お前ほど神ならば、この我に選ばれる事がどれほどの価値か判ろうに』

 

 

姫「世迷い事をっ……神だからと言って、何もかもが自分の思い通りになるとでも思っているのか?!」

 

 

『当然だろう?我々は総ての存在の頂点に立つ存在。この世の全ては、我等神という存在が在ってこそ成り立ってる。其処に転がっている屑共が存在していられるのも、我等という存在が有るからこそだ』

 

 

ディケイド『くっ……なんだとっ……』

 

 

『分かるであろう桜ノ神?この世に這い蹲い、世界を汚すことしか知らんこの屑共を生かすも殺すも我々の意思次第。これで思い通りでないと言うのなら、一体なんだと言うのだ?』

 

 

姫「黙れっ……神としての誇りを失った貴様はただの愚か者だ!貴様も神と呼ばれる身なら、何故人間を蟲呼ばわりする?!何故人々を救おうとしない?!」

 

 

『ハ、勘違いするな。救わないのではない、この屑共に救う価値がないから救わないだけだ』

 

 

姫「……何?」

 

 

フォーティンブラスの発言に姫は表情を顰めて思わず聞き返し、フォーティンブラスは倒れるディケイドと桜香を見下ろしながら語り出した。

 

 

『考えてもみろ。何故我等がこんな下等な屑共を救わねばならんのだ?人間同士で争い、いがみ合い、殺し合い、罪を犯し、欲望に塗れ、我が封印されてた間に此処まで自然を壊し、世界をこんなにまで汚した……そら、こんなどうしようもない屑共の何処に救いを与える価値がある?寧ろ一人残らず消えてなくなってしまえば、今よりは世界もマシになるであろう?』

 

 

姫「…………」

 

 

『思い出してみろ桜ノ神?かつてお前が救いを与えた蟲共が、お前に何をしてくれた?縋るだけ縋って醜い醜態を曝し、都合が悪くなれば手の平を返して全ての責任をお前に押し付けた。偉そうに自分達がすべての生物達の中で一番だと思い込んでるこの屑共を生かしておいて、何の得がある?分かるだろう?懲りもせずに過ちを繰り返すコイツ等こそが世界の敵!傲慢なこの蟲共に救いを与える価値は無い!我等こそが世界に相応しい存在なのだ!』

 

 

姫「……だから、人間達を全て滅ぼすというのか……人間達が世界の敵だから」

 

 

『間違えるなよ桜ノ神……必要なのは善悪の手段ではない。どう事を運ぼうがそんな物はただ結果への過程にしか過ぎんのだ。今世界に必要なのはもっと根本的なもの、世界に害を及ぼす存在が一人残らず消え去るという結果だけだ。そうすれば争いもなくなり、世界が混沌に包まれることもない。世界を真に平和にしたいのであれば、この蟲共を殲滅するのが一番手っ取り早いであろう?』

 

 

姫「黙れ……数百年間封印されて少しは考えを改めてるのではと期待していたが、やはり無駄だったようだな……ならば!』

 

 

今まで印を結んでいた姫の両手が別の印を結び出した。それに呼応するかのようにフォーティンブラスの足元に巨大な桜色の魔法陣が展開され、其処から無数の鎖が飛び出しフォーティンブラスの身体を縛り付けていった。

 

 

『これは……』

 

 

姫「そう、嘗てお前を封印した時に使った術だ。もう一度冥府の境に封じられるがいいフォーティンブラス。今度こそ、永遠に!!」

 

 

力強く叫ぶと共に姫は最後の印を結んでいき、それと同時に魔法陣から更に無数の鎖が伸びてフォーティンブラスを繭のように縛り上げ、そのまま鎖の繭に包み込まれたフォーティンブラスを魔法陣の中へと沈ませていく。が……

 

 

 

 

 

 

 

『―――砕けろ』

 

 

―……ピシッ……バリイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィインッッ!!!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

 

フォーティンブラスが完全に魔法陣の中へと沈み掛けた瞬間、突如フォーティンブラスが自身を包んでいた無数の鎖を力付くで払い、そのまま魔法陣から飛び出して姫と対峙していったのだ。

 

 

姫「馬鹿な……封印が効かない……?!」

 

 

『フ、馬鹿はお前だろう?この幻魔神が、そう何度も同じ手を喰らうとでも思っていたのか?』

 

 

姫「ッ!クッ……ならば、力付くで封印するまでだ!」

 

 

封印を簡単に払い退けてしまったフォーティンブラスに驚愕しながらもすぐさま正気に戻り、姫は両手両足に桜色の神氣を纏って地を蹴りフォーティンブラスへと鋭く殴り掛かっていく。だが、フォーティンブラスは次々と放たれる拳や蹴りを軽く受け流し、姫が放った右腕を掴んで引き寄せてしまう。

 

 

『ははは!抵抗しない方が良いかもしれんぞ?お前は俺のように戦う事に徹した神ではない。どうせお前の本当の力は、お前自身では使えんのだからな……』

 

 

姫「くっ!黙れッ!!」

 

 

不快な表情で怒鳴ると共に姫はフォーティンブラスの顎に膝蹴りを打ち込もうとするが、フォーティンブラスはそれを読んでいたように顎を上げて膝蹴りを回避し、姫はその隙にもう片方の足でフォーティンブラスの胸を蹴り、その反動を利用して後方へと距離を離していった。

 

 

『……まだ抗うつもりか?いい加減に諦めて我の女になればいいものを……主の前に頭を垂れ、仕え、尽くすのが女の幸せであろう。だというのに何を拒む?我の女になるのがそんなに恐ろしいか?』

 

 

姫「っ!ふさげるのも大概にしろっ……私は腐ってもこの世界の神……この世界の人々を守る責務がある。だが貴様を野放しにしておけばこの世界は再び混乱に陥てしまう……それが許せないだけだ!」

 

 

『……ほう……この世界の人々を守る……か』

 

 

真剣な表情で力強くそう告げる姫。だがフォーティンブラスはそんな姫の言葉を聞いて隅に倒れるディケイドと桜香を横目で見つめ、口元を歪めながら左手に膨大な量の神氣を集約させていく。

 

 

『――ならば見せてみろ。かつてお前に縋り付き、薄汚い醜態を曝したこの蟲共を……どのように守るのかをなぁッ!!』

 

 

―シュウゥゥ……ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

ディケイド『?!なっ……』

 

 

姫「何ッ?!」

 

 

フォーティンブラスは神氣を収束させた左手を姫にではなく、ボロボロでまともに動くこともままならないディケイドと桜香に向けて巨大な閃光を放っていったのだ。

 

 

その大きさはなのはのスターライトブレイカーを軽く上回り、空洞内を消し去りながらディケイド達へと一直線に向かっていく。

 

 

怪我で動けないディケイドや気絶している桜香にその砲撃を避ける術があるはずもなく、ディケイドはせめて桜香だけでもと無理矢理身体を動かし、桜香の上に覆いかぶさっていった。が……

 

 

 

 

 

 

―ガキイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!!!!!―

 

 

 

 

ディケイド『……?』

 

 

 

不意に鉄と鉄が激突し合うようなけたたましい轟音が背中から響き渡り、ディケイドは頭上に疑問符を浮かべて桜香に覆いかぶさったまま背後へと振り向いた。其処には……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!―

 

 

姫「ぐうぅっ!!うああっ……!!」

 

 

ディケイド『?!咲夜?!』

 

 

ディケイド達の背後には、桜の花弁のような盾を展開してフォーティンブラスの放つ閃光を必死に防ぐ姫の後ろ姿があったのだ。だが閃光を防ぐ盾は力負けして徐々にヒビが入っていき、姫の両腕からも血が噴き出し赤色に染まりつつあった。

 

 

ディケイド『な、馬鹿止せ?!それ以上はお前が!!』

 

 

姫「っ……構う物かっ……君達を守るのが、私の役目なんだ!だからこんなっ……!」

 

 

『―――茶番は……終わりだ……』

 

 

両腕から血を噴き出しつつも必死にディケイドと桜香を護ろうとする姫。しかしそんな姫の頑張りを嘲笑うかのように、フォーティンブラスは左手から放つ閃光に更に神氣を込めて勢いを上げた。その瞬間……

 

 

―…………ビシッ……パキパキパキッ……バリイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!―

 

 

姫「……っ?!」

 

 

ディケイド『なっ……さっ――?!』

 

 

閃光を防いでいた盾は遂に耐え切れなくなって硝子のように砕け散ってしまい、閃光はそのままディケイドの目の前に立つ姫に迫り、そして……

 

 

姫「―――あ……」

 

 

ディケイド『咲夜ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーオォンッッ!!!!!!!!!!―

 

 

――閃光は無慈悲にも姫とディケイド達を意図も簡単に飲み込み、ディケイド達がいる霊山の山頂は巨大な爆発を発生し跡形も残さずに消し飛んでいったのだった……

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑩(後編)

 

 

零「――――っ……ぅ……ぁ……?」

 

 

フォーティンブラスの一撃によって木っ端微塵に吹き飛んだ霊山山頂。あまりの爆発の巨大さと威力に山頂は平たい平地へと様変わりし、地面にはパチパチと炎が走っている。その中で、いつの間にか変身が解除してしまった零は桜香を抱き締めるような態勢のまま目を覚ました。

 

 

零「……此処……はっ……ッ!桜香はっ……?」

 

 

朦朧とする意識の中、真っ先に桜香の身がどうなったのか気になり慌てて腕の中に抱いた桜香を見下ろすと、少しボロボロにはなっているが、大した怪我等は見当たらない。

 

 

零「無事か……良かったっ……ん……?」

 

 

桜香の無事を確認した零は安心して息を吐くが、その時自分と桜香の周りを包み込む桜色の三角形の形状をした結界の存在に気付き、零は首を動かしてそれを見上げた。

 

 

零「これは……結界?何でこんなものが……―ドシャアァッ!!―……え?」

 

 

いつの間にこんな物が張られていたのかと疑問に思う零のすぐ近くで、何かが落ちる音がした。零はその音を耳にして思わず振り返り、光りが鈍った目でそれを見て驚愕の表情を浮かべてしてしまう。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「―――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………さく………や…………?」

 

 

 

 

 

 

――振り返った先にあったのは、地面に赤い鮮血を撒き散らし、体から煙を立たせ、口から赤い物が吐き出され、全身を無惨にもズタズタに引き裂かれて倒れる姫の姿だったのだ。それを見た零が驚愕と動揺の混じった声で名前を呼んでも、返事は返ってこない。

 

 

…死んでいる、と思った。そう思ってしまうほど、今の姫の姿は目を逸らしたくなるほどズタズタだった。

 

 

『ふ―――はは、くははははははははははははははははははははは!!!まさか本当にその蟲共を守ろうとはな?!しかも自分の身を顧みずにその蟲共を救うとは……くはははは!!偽善も此処までくれば立派なものよなぁ?!!』

 

 

……その遠くでは、姫を傷付けた本人である白い異形が狂ったように笑っていた。その哄笑は高く、焦げた大気を超えて天に届くかのようだった。

 

 

『しかし味気ない、完全にこちらの圧勝か?防ぎ切る事も出来んとは拍子抜けだぞ桜ノ神……ああそうか?少しは手加減してやるべきだった。くくく、なにしろ相手は女子供だったのだしなぁ?ふはははははははははははははははは!!!』

 

 

……それ程に愉しいのか。フォーティンブラスは倒れ伏した姫を見ようともせず、ただ己の為に笑っていた。そんな耳障りな笑い声を聞きながら、零は自分達を囲む結界が消えたのを確認すると、ボロボロの身体を必死に引きずって姫へと近づいていく。

 

 

零「っ……咲夜!しっかりしろ!!咲夜っ!!」

 

 

姫「―――――――――――――――」

 

 

『くく……さて、ではそろそろ頂くとするか。少し汚れてしまったが、まあ良いだろう。その程度で品が落ちる女ではないのだしな』

 

 

零が枯れた声で必死に姫へと呼び掛ける中、笑い声が背後からゆっくりと近づいてくるのが分かった。それに気付いた零は必死に体を姫に近付けて再び呼び掛けようとするが、それで気が付いたのか、姫はうっすらと目を開けた。

 

 

零「ッ!咲夜?おい無事か?!咲夜!!咲夜、咲夜っ!!」

 

 

姫「――――ぁ――――っ」

 

 

声が届いたのか、姫の唇が僅かに開く。救いを求めるように息を吸って、それも苦しいと小さく咳き込んだあと……

 

 

姫「――――れ―――い?――――そこに、いるの――――か――――?」

 

 

目の前にいる零が判らないと、弱々しく声をあげた。

 

 

零「っ……待ってろっ……すぐにっ……!」

 

 

手を貸してやる、とは言えなかった。倒れているのは自分も同じで、体は腕しか満足に動かない。姫を元気づける言葉さえ今は見付からない。そんな零の無様な姿も見えないのか……

 

 

姫「…………ああ、そうか…………負けたんだな…………私は…………」

 

 

姫はぼんやりとした声で、光りのない目で必死に零の姿を探して……

 

 

姫「――すまない、零……どうか……君達だけでも逃げてくれ……」

 

 

ごぽっと、苦しそうに血を吐き出しながら、そんな事を告げた。

 

 

零「――――!!!」

 

 

怒りで、視界が真っ赤に染まった。

 

 

何故自分はさっき姫を止めなかった?

 

 

何故姫と桜香を無理矢理にでも連れて逃げなかった?

 

 

自分が無理でも、姫に桜香を任せて逃げさせるという道だってあったはずなのに……

 

 

そんな答えは単純……姫を無意識に頼り切っていたのだ。

 

 

同じ神なのだからきっと奴に対抗出来る、勝てるかもしれないと、そんな馬鹿な期待を心の何処かで持っていたのだ。

 

 

そんな筈ないのに……幾ら神と呼ばれていようとも、姫は全てを思うがままに出来る存在なんかじゃない。

 

 

ただ不思議な力を持ってるというだけで、それ以外は普通の人間と何処も変わらない。

 

 

超人的な力を持つライダーでもない、普通の女の子と大して変わらない力しかない姫が、あんな化け物相手に勝てる筈がない。

 

 

封印が効かなかった時点でその事に気付くべきだったのに、一体何をやっていたのか……

 

 

神だからきっと何とかしてくれる、神なんだからどんな奇跡だって起こしてくれるのだと……姫の嘗ての話を聞いてそんなワケがないと知っていたハズなのに、そんな馬鹿みたいな期待を持ってしまうなんて……!

 

 

零「――――、くっ!」

 

 

咲夜が此処までズタズタになったのは自分のせいだ。あまりの怒りの大きさに思わず自分の頭を掴み、このまま掴み潰してしまおうかと思ったが、今は後回しだ。そう思いながら零はふらつきながら立ち上がり、懐から取り出したドライバーを装着しながらフォーティンブラスと対峙した。

 

 

『……貴様……』

 

 

姫「…………れ…………い…………?」

 

 

零「っ―――、変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

血まみれの手でディケイドのカードを取り出し、ディケイドライバーへと捩込むように装填してディケイドに変身する零。そして変身して身構えるディケイドにフォーティンブラスは足を止め、道を阻むディケイドを睨みつけた。

 

 

姫「な、何をする気だ?!止めろっ!奴は君が勝てる相手ではない!!」

 

 

目が見えずとも感じたのか、体を必死に起こして姫が叫んでいる――――それで自分の中に押さえ込んでいた物が全部吹っ切れた。

 

 

勝てないなんて重々承知、それでも構わない。あんな咲夜の姿を見続けるよりはマシだ。

 

 

……そうだ。ただ俺は、これ以上アイツが傷つくのが嫌だから、こうして立っているだけなんだ。

 

 

姫「な――逃げてと言ってるのに、どうして……!」

 

 

ディケイド『っ……誰が逃げるかっ……お前を置いて逃げたところで、この蛇もどきが俺達を大人しく逃がすとは限らないだろう……なら、戦って隙を作ってから逃げた方が確実だ……』

 

 

本心は口に出さず、左腰のライドブッカーをSモードに切り替えて目前の敵を睨みつける。

 

 

姫「ば――止めろ零っ!!そいつはそんな――!!」

 

 

背後からの姫の声を振り払い、覚束ない足で一歩前に出る。間合いは十メートル。全力で踏み込めばヤツに斬りかかれる距離だが、敵は全く動かず、フォーティンブラスはわずかに目を見張ったあとくっ、と愉快げに笑い……

 

 

『――――殺すか』

 

 

ディケイド『ッ!―ドガアアアアアァァァァッ!!―……ぐッ?!』

 

 

感情の無い声でそう言ったと共に、フォーティンブラスは一瞬でディケイドの前に現れると共にディケイドの胸目掛けて剣の切っ先を飛ばした。突然の奇襲に驚きつつも咄嗟に反応し、ライドブッカーで防御態勢を取るディケイドだが、フォーティンブラスは息を吐く間も与えず嵐のような剣撃をうち下ろしていく。

 

 

―ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン!!ズガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

ディケイド『は―――っ!くっ!!』

 

 

ボロボロで満足に動かない体を必死に振り回し、息を吐く間もなく暴風のような剣撃を防いでいくディケイド。そんな一時の抵抗を見せるディケイドに、フォーティンブラスは腹ただしげに睨みつけてきた。

 

 

『蟲が……見苦しいにも程がある』

 

 

苛立ちを込めながら呟くとフォーティンブラスは僅かに後退し、何処からか異様な形状をした一本の銀色の剣を持ち出した。

 

 

ディケイド『……?なんだ……アレは……?』

 

 

フォーティンブラスが持ち出したそれは異様な雰囲気を漂わせる剣。ギザギザとした刀身に四つの眼球の様な装飾を埋め込み、剣から黒いまがまがしいオーラが溢れ出している。

 

 

『魔剣ディスクゥエル……蟲ごときに使うには惜しい一級品の品だが……貴様は粉々に消し飛ばさなければ気が済まん!!』

 

 

―ブオオオオオォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

ディケイド『クッ!』

 

 

銀色の光が頭上から走る。フォーティンブラスが振り下ろした剣……ディスクゥエルはその命を刈らんと言わんばかりに暴風のようにディケイドへと襲い掛かり、ディケイドも直ぐさまライドブッカーを構え直してそれを迎え撃った。が……

 

 

 

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!!!!!!!―

 

 

ディケイド『――?!!』

 

 

 

 

 

……たったの一撃。たったの一撃を受け止めただけでフォーティンブラスの魔剣から破壊の銀光が放たれ、一瞬でディケイドの身体を飲み込んでしまった。銀光に飲み込まれたディケイドはそのまま勢いよく吹っ飛ばされながら変身が解けて地面を滑り、止まった。

 

 

姫「れ、い?―――零……零……っ!!!!!」

 

 

零「―――さく、や………か?なんだ……わりと近くに………」

 

 

悲痛な声がすぐ横から響いてきた。その声のおかげでまだ自分が生きていると気が付き、零は内心少し安心した。なんだか吹き飛ばされた感じだが、咲夜が近くにいるのなら問題はない。それなら立ち上がって、すぐに咲夜まで駆け寄る事が――――

 

 

零「――――――あ――――――――れ――――」

 

 

思って立ち上がろうとした時、何故か上手く立ち上がれなかった。疑問に思って倒れたまま腕を見てみると、真っ赤だった。

 

 

ねっとりとした赤い粘膜に包まれた腕は、それ自体に出血はない。

 

 

姫「動くなっ!!もういい!!頼むからもう動かないでくれ……っ!!!!」

 

 

……珍しく咲夜の取り乱した声が聞こえる。どうやら傷を負ったのは胴体らしい。

 

 

さっきの一撃、フォーティンブラスの剣を受けて吹っ飛ばされたのは確かだろう。

 

 

なら傷は――ああ、何だ。

 

 

確かにこれなら、咲夜があそこまで取り乱すのも判る気がする。

 

 

動くのは右手だけ、左手は動かない。

 

 

そもそも左手がどうなっているのかも判らない。

 

 

零「――――――ぁ―――――――は―――――」

 

 

息も満足に出来ない。左肩から斜めにバッサリ。袈裟に斬られた体は、面白い位に肩口から腰まで綺麗に分かれていた。

 

 

少しでも動けば、中身が傷口からごっそりとずり落ちてしまいそうだ。

 

 

こんな状態になってもまだ生きているというのは、我ながら不気味なぐらい。

 

 

もしかしたらとっくに死んでいて、意識だけが幽霊のように残っているだけかもしれない。

 

 

本当にそう思ってしまうほど、こうして生きてられるのが不思議だった……

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑪

 

 

 

『ふ、ははははははは!!なんだ、見事に散らばったと思ったが存外にしぶといのだな?!なぁるほど、生き汚さだけが蟲の取り柄というワケか!』

 

 

ヤツの笑い声が聞こえる。正直に言えば、今はそれが有り難い。

 

 

それが耳障りであればあるほど、消えていく意識がしっかりと身体にしがみつく。

 

 

『……だが、そこまでだ。これ以上邪魔されては堪らんからな。二度と邪魔出来んようにトドメを刺してやる』

 

 

声と共に、足音が近付いてくる。今度こそ咲夜を手に入れる為に、邪魔者である俺を消すつもりだ。消えていく意識でも、それぐらいの事は自然と理解出来た。

 

 

零「は………あ―――!」

 

 

だから立たないといけない、立って戦わなければいけない、戦って咲夜を守らなければいけない。

 

 

視界は真っ赤で、どれが何なのかもう判らない。

 

 

それでも立とうと片腕に力を込めて、ずるりと滑る腕で地面を掴み、切断しかけた身体を起こしていく。

 

 

姫「―――なぜだ……もう無理だと、どうして判らないんだっ!!」

 

 

『なるほど、未練か?だろうなぁ……ソレはお前には過ぎた宝だ。その気持ちは分からんでもない。ならばこそ他の男の手に奪われるのは悔しかろう?』

 

 

零「っ……いい加減……にしろ……奪うとか奪われるとか……咲夜を、物みたい、にっ……!」

 

 

右手に力を込める。しかしそれでも身体は応えてくれず、傷口から夥しい鮮血を落としながら片膝をついてしまった。

 

 

姫「……もう止めろ。君の助けなんていらない!私は奴に敗れた!神なんて呼ばれながら君達も、世界も守れない役立たずなんだ私は!そんな私を助ける責務など、君にはないハズだろうッ?!!」

 

 

零「っ―――ぐっ―――」

 

 

悲痛に叫ぶ咲夜の声を振り払い、もう一度膝に力を込めて立ち上がろうとする。その度に、傷口からさっきの比にもならない量の赤い液体がこぼれ落ちる。

 

 

姫「嫌だ―――止めてくれ……それ以上はダメだ!!本当に、本当に死んでしまう!こんな、またこんな、君にまで死なれてしまったら、私は――!!!」

 

 

零「―――うるさいっ……お前もいい加減黙ってろっ……こんな時ぐらい……黙って頼ってればいいんだよ……お前はっ……!」

 

 

姫「それは違う……私にはそこまでして守ってもらう価値なんてないんだっ……私は死ぬ事も出来ない存在……不老不死の化け物なんだ……そんな物を、君が命を懸けてまで守る必要なんてない!それよりも、君は自分の命を第一にするべきだ!だからもう私に構わず逃げろ!!」

 

 

悲願するような声。自分のような化け物を助ける必要なんてないと、そんな声で告げてきた。それでも――

 

 

零「―――ふざけるな……お前が人間だとか神だとか……そんな小さい事はどうだっていいんだよっ……!」

 

 

姫「―――え……?」

 

 

立ち上がろうとしながらそう呟いた零の言葉を聞き、姫は呆然と零を見つめた。そんな顔で見つめてくる姫を他所に、零は格好悪くもう一度立ち上がろうとする。

 

 

零「お前、は……ずっとそうやって……独りでみんなを守ろうと頑張ってきたんだろうっ……誰かに頼る事なく……でも……それじゃ駄目なんだよ……神になんてなっても……お前は弱いままなんだっ……どれだけ外側を取り繕っても……それは変わらないっ……本当のお前は……傷付き易くて……壊れやすい……ただの女なんだ……」

 

 

姫「――――」

 

 

零「間違えて、間違えてしまった自分に嫌悪して、傷付いて、それでも守りたい人達がいたから、立ち上がれた……けど……独りじゃ駄目なんだ……独りじゃ、いつかまた自分が間違えた時、自分だけじゃその間違いに気付けないっ……独りじゃ、もう一度立ち上がる事なんて、出来ないからっ……」

 

 

―――かつて一人の少年がいた。彼は守りたかった筈の大切な人を守り切れず、守れなかった自分を嫌悪し、皆を守れる力を求めてがむしゃらに走った。

 

 

だがその少年は、その道が間違っていたということに気付けなかった。

 

 

仲間達の声を聞かず、独りで走り、その果てで新たな悲劇を生み、守りたかった筈の仲間達に更なる悲しみを与えてしまった。

 

 

間違いに気付いた時には全てが遅かった。その時には既に医務室のベッドの上で、傍らには自分の姿を見て涙を流す仲間達の姿。独りでがむしゃらに突っ走った結果がそれだったのだ。

 

 

だからその間違いに気付いて、自分を止めようとしてくれた仲間達に対する有り難みを余計に痛感した。

 

 

そんな少年の姿と、咲夜が重なって見えた。

 

 

守りたかった大切な人達を守れず、もう失う痛みも、後悔する痛みも味わいたくないから、必死に皆を守ろうと独りで努力し、だけどその道が間違っていると気付けず、その果てで悲劇を生んでしまった。

 

 

だから放っておけなかった。間違えてしまった後悔がどれほど大きく、間違えてしまった自分をどれだけ責めたか分かるから。

 

 

かつての咲夜には、自分のように傍らで支えてくれる仲間なんていなかった。だから……

 

 

零「――――だからっ……お前を置いていったりしない……独りにはしない……支えると決めたんだっ……お前がもう間違えないように……孤独で壊れないようにって……だか、らっ……!!」

 

 

姫「っ――――!」

 

 

息を呑む気配だけがした。振り返って見たかったが、もうよく見えないから止めておこう……本当はもう、そんな余裕すらないから。

 

 

『……遺言はそれで終わりか?ならばもう逝け。貴様の声は、酷く不愉快だ』

 

 

零「っ……!」

 

 

背後から、剣を振り上げる気配を感じた。それでなんとか立ち上がろうと身体に余計に力が入るが、身体は本人の思いには応えてくれず、ほんの少ししか身体が上がってくれない。

 

 

『さらばだ。何安心しろ。貴様が地獄で寂しがらないように、他の蟲共もすぐに後を追わせてやるさ』

 

 

零「っ……クッ……ソォッ……」

 

 

動け、動け!そう強く念じながら右腕で立ち上がろうとするが、それよりも早くフォーティンブラスの魔剣が振り下ろされた。それでも立ち上がろうとした身体は虚しく崩れ落ち、背中に襲い掛かるであろう痛みに備えて歯を食いしばった。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――なんの真似だ……桜ノ神……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……ぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に聞こえてきたのは自分の背中を潰す肉の音ではなく、フォーティンブラスの苛立ちの篭った声。それを聞いた零は思わず首を動かして振り向こうとするが、自分の身体を押さえ込む何かの重みと、血の臭いとは違う優しい香りがした。

 

 

零「―――さ、くや―――?」

 

 

姫「…………………」

 

 

いつの間にか、姫が傍らに近付いて零を守るように覆いかぶさっていた。まるで母親が子を守るように零を庇う姫を見てフォーティンブラスも魔剣を下ろし、鋭い視線で姫を睨みつけた。

 

 

『一体どういうつもりかと聞いておろう、桜ノ神』

 

 

姫「……頼む……彼を……彼等をこれ以上、傷付けないでくれっ……」

 

 

『ふざけるな……その蟲は我の手で消さねば気が済まんのだ。さあ退け!退かぬのなら、貴様ごとその蟲を斬り裂くぞ?!』

 

 

先程から自分の邪魔ばかりしてきた零に余程業を煮やしてるのか、魔剣の切っ先を向けて姫に脅しをかけるフォーティンブラス。姫はそんなフォーティンブラスを見て零を抱き締める腕に力を込めながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「―――頼む……彼等を見逃してくれるなら……私のこの身を、お前に捧げていい……」

 

 

零「――っ?!!」

 

 

『……ほう』

 

 

 

震える声でそんな事を告げた姫の言葉に零は我が耳を疑って驚愕し、フォーティンブラスは興味深そうに頷いて魔剣を下げた。

 

 

『自分を差し出す代わりにそこの蟲共を助けて欲しい………そう言う事を言っているのか?』

 

 

姫「ああ……その代わり、条件がある……私の身はお前に差し出す。その代わり彼等にも、この世界にも二度と干渉せず、全ての幻魔達を幻魔界に戻せ……それが条件だ……」

 

 

零「っ?!お、前っ……何言ってっ……?!」

 

 

自分の身を差し出す代わりに零達を見逃し、この世界から手を引いて全ての幻魔達を幻魔界に戻せ。そう告げた姫に零は驚愕して身体を起こそうとするが、姫がそれを抑えて小さく語り出した。

 

 

姫「どの道、君ではヤツに勝つ事は出来ない……このまま戦えば君も彼女も殺されて、この世界の人々も皆殺しにされてしまう……ならばいっその事、私が奴の物になってしまえば全てを穏便に済ませられる。これ以上、君が傷つく事もない」

 

 

零「っ!ふざけ、るな……そんな勝手にっ……!」

 

 

必死に血まみれの右腕を伸ばし、行かせないと言うかのように姫の腕を強く掴む零。姫はそんな零の手の上に片手を添え、小さく微笑んだ。

 

 

姫「もういいんだ……そもそも奴等をこの世界に招いたのは私のせいだし、私は厄介事しか招かない疫病神だからな……それに私の代わりなんて幾らでも効く。私がいなくなってもこの世界が変わる事はないから、安心してくれ……」

 

 

零「違うっ……俺が言っているのはそんな事じゃない!それじゃお前が……!」

 

 

必死に姫に何かを告げようとするが、呼吸が出来ないせいでまともに喋れない。そんな零を見て姫は悲痛な表情を浮かべるが、すぐに苦笑いをしていく。

 

 

姫「私はな……別に神の座に着きたくて神になったんじゃないんだ。ただ誰かを守れる力を得られればそれでいい……目の前で苦しんでる人間を救えるならのなら、自分の身がどうなろうと構わないと、そう思っていた……」

 

 

零「っ……お、前……」

 

 

姫「だが、やはりダメだな……神になんてなっても、私は結局誰も救えなかった……そんな神は世界にいない方が良い……いや、寧ろ最初からいない方が良かったのかもな。私がいなくても人間は此処まで成長してこられたし……これなら私が神になる必要もなかったか。ははは……」

 

 

そう言って姫は頬を掻きながら苦笑を浮かべ、倒れる零の頬に手を添えて血を拭っていく。

 

 

 

 

姫「絢香達にも、すまないと伝えておいてくれ……こんな駄目な私を受け入れてくれて、ありがとうと」

 

 

零「っ…………待、て…………さく――――」

 

 

姫「――それと……さっきの君の言葉も、少しだけ嬉しかったよ……ありがとう、零……」

 

 

 

 

自嘲するように、情けない自分に泣きたくなるような顔で笑いかけ、最後の別れを告げる姫。そんな姫の顔を見て零は慌てて体を起こそうとするが、姫は自分の腕を掴む零の手を離させて立ち上がり、フォーティンブラスの下へとゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

『フフ。漸く決心が付いたか、桜ノ神』

 

 

姫「あぁ……だが、約束は忘れるな。もしも破ったりしたら……」

 

 

『分かってる、安心しろ。我とて此処まで汚染された世界など欲しくもないからな……お前さえ手に入るのなら、最早其処に転がっている蟲共や世界などどうでもよい』

 

 

敵意を込めた目付きで睨む姫の視線に微動だにせず、フォーティンブラスは姫を迎え入れるように両腕を広げながら歩み寄っていく。姫は僅かに顔を反らして手の平を握り締めるが、背後で倒れる血だらけの零を見て覚悟を決めた表情をした、その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―フアァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

姫「……っ?!」

 

 

『……何?』

 

 

 

突然汽笛のような音がその場に響き渡り、姫とフォーティンブラスはそれが聞こえてきた方へと視線を向けて思わず目を丸くしてしまった。

 

 

何故なら、上空から突然一台の白い電車が汽笛を鳴らしながら走って現れるという有り得ない光景が二人の目に映り、白い電車はそのまま零達と姫達の間を遮っていったのだ。

 

 

そして白い電車が過ぎ去ると、其処にはいつの間にか零と桜香を抱える青年と二人の戦士……大輝とベルが変身した二人のディエンドが立っていた。

 

 

『貴様等は……』

 

 

零「っ……お前、等っ……海……道……?」

 

 

ディエンド『やあ零、随分と良い格好になってるじゃないか?カッコイイねぇ、女性を守る為に其処までボロボロになるなんて』

 

 

ディエンド(ベル)『嫌味なら後にしなさい大輝。烈!一瞬だけ時間を稼ぐから、その隙にブレイブライナーをお願い!』

 

 

烈「分かってます!」

 

 

ディエンド(ベル)は血だらけの零に嫌味を言うディエンドを注意し、零と桜香を抱える烈と呼ばれた青年に呼びかけながらフォーティンブラスと対峙していく。

 

 

『なんだ貴様等は?そこの蟲共の仲間か?』

 

 

ディエンド(ベル)『ああ、悪いわね?生憎こっちには、アンタみたいな馬鹿神に名乗る名前は持ち合わせてないのよ』

 

 

『?!何だと貴様?!』

 

 

ディエンド『はいはい、今は君と喧嘩してる暇はないんでね?挨拶代わりに、コレをプレゼントしよう』

 

 

鼻で笑いながら馬鹿にするようにそう告げたディエンド(ベル)にフォーティンブラスも怒りの表情を浮かべるが、ディエンドとディエンド(ベル)はそれを他所に左腰のホルダーから一枚ずつカードを取り出してドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

『ッ!何?』

 

 

二つの電子音声が響くと、二人のドライバーの銃口の周りにディメンジョンフィールドが展開されてフォーティンブラスに照準を定めていき、それを見たフォーティンブラスは思わず動きを止め、そして……

 

 

『ハッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『チッ……』

 

 

―ドッガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーアァンッ!!!―

 

 

二人のドライバーから撃ち出された巨大なエネルギー弾がフォーティンブラスへと真っ直ぐ向かっていき、そのままフォーティンブラスに直撃して巨大な爆発を起こしていったのだった。そしてそれと共に上空から先程の白い電車……ブレイブライナーが現れてディエンド達の目の前に停まり、三人はブレイブライナーへと乗り込もうとする。

 

 

零「ッ!は、離せお前等っ……俺はっ……咲夜っ……をっ……!!」

 

 

ディエンド『今の君に何が出来る?どうせそんな身体じゃまともに戦うことも出来ないんだから、大人しくしていたまえ』

 

 

零「クッ……くっ……そぉ……っ……ぁ……」

 

 

姫を助ける為にブレイブライナーに乗り込むのを拒否しようとする零だが、ディエンドに一喝されて思わず口を閉ざし、そのまま体力の限界を迎えて気絶してしまった。そして全員を乗せたブレイブライナーはそのまま何処かへと走り去り、それと同時に爆煙の中から全く無傷の状態のフォーティンブラスと、フォーティンブラスの張った障壁に守られる姫が姿を現した。

 

 

『チッ、あの蟲共…………まあ良い。今の我は機嫌が良いからな……特別に見逃してやろう……』

 

 

忌ま忌ましげにブレイブライナーが走り去った方角を見上げていたフォーティンブラスは愉快げにそう言うと、障壁に守られる姫へと近づき障壁を消していく。

 

 

『さぁて、漸く邪魔者がいなくなったぞ桜ノ神。どうだ?我の女になった感想は?』

 

 

姫「………………」

 

 

愉快げに笑いながら姫へと問いかけていくフォーティンブラス。しかし姫はその問いに答えず、力無くフォーティンブラスから顔を反らした。

 

 

『だんまりか……まあ良いだろう。最早どう足掻こうが、お前は我の物になったのだからな。光栄に思えよ桜ノ神?』

 

 

姫「っ……」

 

 

フォーティンブラスはそう言いながらクツクツと笑って姫の身体を舐めずるように眺めていき、姫は震える体を抑えるように強く抱き締めながら暗い表情で顔を俯かせていく。そしてフォーティンブラスはそんな姫の姿を見て更に愉快げに笑いながら、ゆっくりと片腕を上げていった。

 

 

『では、そろそろお前との約束を果たすとしよう……この世界から全ての幻魔達を戻し、共に幻魔界へゆこうではないか!!』

 

 

高らかに笑いながらフォーティンブラスが指を鳴らすと、今まで町や山で暴れていた幻魔達が突然黒い粒子と化して何処かへと消えていき、同時にフォーティンブラスと姫がいる霊山の下の地中から何かが地響きを響かせながら浮き上がり、そのまま地表を突き破って上空へと姿を現していった。

 

 

姫「……っ?!これ……は……」

 

 

『そう。かつてこの世界の蟲共を殲滅する為、ギルデンスタンが造りあげた我等幻魔の最強の兵器……時の方舟だ』

 

 

上空に浮かび上がる巨大な舟……いや、最早空中要塞とも言っていい巨大なそれを見た姫は呆然と固まり、フォーティンブラスは両腕を広げながら上空に浮かぶ要塞、時の方舟と呼ばれたそれを見上げて愉快げに笑っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

[



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第十七章/桜ノ神の世界⑫

 

―桜ノ神社―

 

 

時刻は夜中。町で暴れていた幻魔達は何処かへと消え去ったが、幻魔達の襲撃によって桜ノ町の殆どの機能が停止してしまい、病院では今でも怪我人が多く運ばれている等大混乱となっていた。

 

 

そしてブレイブライナーで運ばれた零と桜香、勇二によって運ばれてきた晃彦は寝室でそれぞれ治療を受けており、外では烈と異世界から手助けに来てくれた青年……"木野 龍弥"が時の方舟の動きを見張り、その間に居間では大輝達が集まって今の現状について話し合っていた。

 

 

絢香「――――姫様が……幻魔神に?!」

 

 

ベル「えぇ。自分の身を差し出す代わりに二度とこの世界に干渉せず、幻魔達も幻魔界に戻す……その条件で幻魔神からこの世界を守るつもりらしいわよ、あの神様」

 

 

大輝「まぁ、今の状況じゃそれが一番の打開策だろうね?幻魔達は幻魔神が存在する限り無限に現れるし、零も幻魔神に危うく殺され掛けた……君達もあのままだったら、幻魔達の数に圧されてどうなっていたか分からないし」

 

 

紗耶香「そんな……なら、姫様はこれからどうなるんだ?!」

 

 

大輝「多分幻魔界に連れていかれるんじゃないかな?どうやら幻魔神はこの世界に興味がなくなったらしいし、そうなれば彼女は一生この世界に戻って来れないだろうね」

 

 

カリム「そんな……」

 

 

幻魔達から自分達を守る為に、姫は自らフォーティンブラスに身を捧げた。更に姫が幻魔界に連れてかれてしまうと聞かされた一同は動揺を隠せず、その中で、稟が大輝に質問してきた。

 

 

稟「待てよ大輝。アイツ等はその幻魔界にどうやって行く気なんだ?というかそもそも、幻魔界って一体何なんだ?」

 

 

大輝「……幻魔界って言うのはその名の通り、幻魔しか存在しない世界さ。あの世界は幻魔神であるフォーティンブラスに管理されていて、侵入するも出ていくも彼の許可がなければどうする事も出来ない」

 

 

ベル「つまり神である彼女でも、幻魔界に入ってしまえばフォーティンブラスの許しがないと出ていく事は出来ない……ま、あの堕神がそう簡単にあの神様を手放す訳ないだろうし、一生鳥籠の鳥として生きていく事になるでしょうね」

 

 

大輝「そして彼等は其処へ戻る為にある舟……かつてギルデンスタンが開発していた時の方舟を使うつもりなんだろう」

 

 

絢香「?時の方舟って……まさか、霊山上空に出現したっていうアレのことですか?!」

 

 

大輝の説明を聞いた絢香は先程霊山の上空に現れたという巨大な物体を思い出して思わず聞き返すと、大輝は軽い口調で話を続けた。

 

 

大輝「ホントはこの世界の人間達を殲滅する為に造られてたらしいけど、長い間地中に埋まっていたせいでほとんどの機能が使えなくなってるらしい」

 

 

ベル「まあでも、次元を越える程度の機能はなんとか使えるらしいから、それで幻魔界に帰るつもりなんでしょ。多分今頃修復作業に入ってると思うから、出発は明日の日の出ぐらいかしら?」

 

 

紗耶香「っ!ならば、その前にあの要塞に乗り込んで姫様を……!!」

 

 

大輝「止めといた方がいいんじゃない?あの舟は殆どの機能を失ってるとはいえ、それでもこの世界を消し飛ばすだけの力は持ってる筈だ。加えてフォーティンブラスは零達を意図も簡単に倒した実力者だし、無限の兵力も持ってる……無闇に突っ込んでも殺されるだけだ」

 

 

淡々と説明していく大輝の言葉を聞いて紗耶香は思わず押し黙り、室内に沈黙が流れ始めた。

 

 

相手は腐っても神であり、その力はメンバーの想像を遥かに越えている。それに無限とも言える幻魔の大群を一斉に放たれでもしたら、幾らこのメンバーでもそれを凌ぎ切るのは難しい。

 

 

時の方舟の攻略と姫の救出、無限に襲い来る幻魔との戦いやフォーティンブラスの撃退。

 

 

このメンバーでそれを同時に行うとなると、少しばかり困難かもしれない。一同が一体どうするべきかと頭を悩ませていると、居間の襖が開いて勇二と黒い着物を着た青年……晃彦の治療をしにエグザムの世界から(アテナの力を少し借りて)やって来た"ゴウト"が現れた。

 

 

侑斗「ッ!ゴウト!荒垣はどうなった?!」

 

 

ゴウト「落ち着け侑斗殿。少し暴走し掛けてはいたが、先程治療して大分落ち着いた。今はリインIとアイリスが傍に着いておるから、心配はいらん」

 

 

稟「そっか……じゃあ、零さんの方は?」

 

 

勇二「零さんは……その、なんていうか……」

 

 

晃彦の無事を聞いて安心した稟が零の容態を二人に問いかけるが、勇二は何故か言い難そうに口ごもってしまう。そんな勇二に一同が首を傾げていると、ゴウトが代わりに説明し始めた。

 

 

ゴウト「零殿は現在ゼウス殿達の治療を受けているが……これが少々厄介な事になっててな……傷の治療が出来んのだ……」

 

 

紲那「?傷の治療が出来ないって……どういう事だ?」

 

 

何故傷の治療が出来ないのか?その意味が分からない一同は頭上に疑問符を浮かべていくが、大輝が代わってその説明をしていく。

 

 

大輝「フォーティンブラスが零に傷を負わせた時に使った剣……ディスクゥエルには、一種の呪いが掛けられててね。アレで傷を負わせられた者は呪いの効果で傷を治そうとすれば、逆に傷が悪化してしまうという効果がある……つまりどんな治癒魔法を掛けても傷は治らないって訳さ」

 

 

シャッハ「そんな……なら一体どうすれば……!」

 

 

大輝「心配なんかしなくても、一日安静にしていれば呪いの効果が薄れて治癒魔法が効くようになるだろう……ま、その間に時の方舟は幻魔界に入ってしまい、あの神様の救出は出来なくなるだろうね」

 

 

つまり、零が復帰するのを待ってる間に姫は幻魔界へと連れていかれてしまうという訳だ。そうなれば姫の救出は不可能に近いのだと理解した一同は難しい顔を浮かべ、零抜きでどうやって時の方舟を攻略しようかと考えていた。その時……

 

 

 

 

 

 

「……ならそうなる前に、アレに乗り込んで木ノ花を救い出せばいいだけの話しだろうっ……」

 

 

『……ッ!』

 

 

 

どうやって時の方舟を攻略しようかと考えていた中、居間の入り口の方から声が聞こえて一同がその方へと振り返ると、其処には大量の血が滲んだ包帯を全身に巻き、薄いYシャツを羽織った青年……零が悲痛な顔で壁に背中を預けながら立っていた。

 

 

紲那「零?!」

 

 

稟「何やってるんですか零さん?!駄目じゃないですか寝てなきゃ!」

 

 

零「っ……心配なんかするな……俺を誰だと思ってる?世界が恐れる破壊者だぞ?こんな傷でくたばる訳がない……」

 

 

今にも倒れてしまいそうな様子で立つ零を見て慌てて駆け寄る稟達に冗談めいた口調でそう言うと、覚束ない足取りで居間に足を踏み入れていく。

 

 

大輝「おや、まさかそんな体で動けるなんてね。普通なら余りの激痛で動けないハズなんだけど、勇ましいじゃないか?」

 

 

零「御託はどうだっていい……それより海道、お前あの舟の事を知ってるな?」

 

 

大輝「まぁ、大体はね」

 

 

零「なら教えろ……その口ぶりなら、あの舟への侵入経路も知ってるんだろう?それに木ノ花が何処に捕らえられているのかも、お前なら詳しく知ってるはずだ……」

 

 

大輝「……それを聞いてどうするんだい?まさか助けに行く気か?そんな身体で、彼女を?」

 

 

零「…………」

 

 

鋭い視線を向けながら静かに問いかける大輝。問いを受けた零はそれに答えずに口を閉ざし、それが肯定を意味している事に気付いた一同は慌てて零へと視線を集めていった。

 

 

侑斗「おい黒月っ、冗談は止せ!その体で敵陣に突っ込むなんて自殺行為だ!」

 

 

零「……なら大人しく寝ていろって言うのか……アイツが自分の意志とは関係無しに連れ去られようとしてるのを、指をくわえて見ていろと……」

 

 

カリム「今はそうするしかないんです!そんな身体で戦えば、幾ら貴方でも死んでしまう!お願いだから大人しく此処にいて下さい!」

 

 

零「…………」

 

 

死に体当然の身体で時の舟に向かおうとする零を止めようとする一同だが、零はそんな彼等の言葉に耳を傾けず大輝を見据えている。大輝はそんな零の目を見て肩を竦め、軽く息を吐いた。

 

 

大輝「成る程……君はソレを使って幻魔神と戦うつもりか?」

 

 

零「……ああ……どうやら奴に生半可な戦い方は通用しないらしいからな……目には目を、歯には歯をって奴だ……」

 

 

大輝「……そういうことか……なら、仕方がない」

 

 

大輝はそう言いながら静かに立ち上がり、冷たい表情で何処からかディエンドライバーを取り出し零の額に突きつけて構えていった。

 

 

稟「大輝?!」

 

 

紲那「おい!なんの真似だっ?!」

 

 

大輝「これ以上彼の好きにさせる訳にはいかないんでね……今より面倒なことになる前に、此処で俺が引導を渡してあげるよ」

 

 

零「……意外だな。そんなに俺を奴の下に行かせたくないのか?てっきりお前は、奴を倒す為に俺を利用するんじゃないかと思ってたんだが」

 

 

大輝「君が万全な状態ならそのつもりだったさ。だが今の君を行かせても最悪な事態になりかねない……忘れた訳じゃないだろう?君が前の世界でアズサを救う為に無茶をして、それで君のソレがどうなり掛けたのか」

 

 

零「…………」

 

 

勿論忘れたワケじゃない。前の光達の世界でアズサを救う為、この左目を使い、そして無茶をして死に掛けた事でコレが暴走しかけたことを。

 

 

当事者の大輝からすればコレがどんなに危険か知っており、あの時の二の舞になるかもしれないと考えているのだろう。だが……

 

 

零「――それでも……それでも俺はアイツを―――っ!!」

 

 

カリム「?!零?!」

 

 

零は大輝に反論しようとするも胸の激痛によってバランスを崩してしまい、カリムが咄嗟に体を抱き抱えて倒れずに済んだ。それを見た大輝もディエンドライバーを回転させながら懐へと仕舞って話し出した。

 

 

大輝「分かっただろう?今の君一人がそんな状態で時の舟に向かっても、わざわざ殺されに行くようなものだ……黙って大人しく寝ていたまえ」

 

 

零「っ……く……そっ……」

 

 

こうしてる間にも、フォーティンブラスは幻魔界へと向かう準備を着々と進めているのにと、零は内心焦りを浮かべるが大輝に冷たく告げられて思わず毒づいてしまう。

 

 

すると居間の入り口の方から二人組の異形と少女……侑斗が契約しているイマジンと妹であるデネブと岡崎柚子が誰かを探すように現れ、カリムに支えられる零を見て慌てて駆け寄ってきた。

 

 

デネブ『黒月?!こんな所にいたのか!』

 

 

柚子「駄目じゃないですか!そんな体で動き回っちゃ!さ、早く戻って下さい、アズサさんとゼウスさん達も一緒に探してくれてるんですから!」

 

 

零「…………あぁ…………分かった…………」

 

 

身体の限界が近いからか、零は渋々と頷いてデネブの肩を借り、そのまま居間を出て部屋へと戻っていった。そしてそれを見た大輝はその場から歩き出し、居間から出ていこうとする。

 

 

大輝「まぁそういう訳だから、彼女を助けに行きたいなら作戦会議でもなんでも勝手にしておきたまえ」

 

 

勇二「勝手にって……アンタはどうするつもりなんだよ?」

 

 

大輝「俺は俺で好きにさせてもらうさ。あの神様がどうなろうと、俺には関係のない話だ。じゃあね♪」

 

 

そう言って大輝は軽く手を振って居間から出ていき、ベルも無言でその後を追いかけるように居間から出ていったのだった。

 

 

侑斗「ったく、何なんだアイツは……」

 

 

ゴウト「協力する気があるのかないのか……ハッキリせん奴だ」

 

 

そう言って一同は大輝達が出ていった入り口を見て呆れたように溜め息を吐き、取りあえず時の方舟の攻略と姫を救出する作戦を立てる為の会議を行っていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そしてその頃、桜ノ神社の屋根の上では大輝が屋根に寝転がって霊山上空に浮かぶ時の方舟を眺めていた。其処へ一人の人物……ベルが大輝の背後に静かに立った。

 

 

ベル「以外ね……アンタがあんな事するなんて思わなかったわ」

 

 

大輝「別に深い意味はないさ……今彼を行かせたら、彼の内側の力がどんな反応を起こすか分からない……下手すればフォーティンブラスと暴走した彼の両方を相手しなければならないからね。厄介事にはさせたくないんだよ」

 

 

時の方舟を眺めながら興味なさげに淡々と語る大輝。ベルはそんな大輝から時の方舟へと視線を向け、目を細めた。

 

 

ベル「それでどうするの?彼等に手を貸す気?」

 

 

大輝「……不本意だけど、そうなるだろうね……フォーティンブラスは揺り篭の存在を知る神の一人だ……もし彼まで揺り篭争奪戦に加わればスカリエッティ、組織、幻魔の三勢力を相手にしなければいけなくなる。そうなる前にフォーティンブラスは此処で潰すさ」

 

 

ベル「……ホントに複雑な事情が絡み合ってるわよね、貴方達の世界って」

 

 

大輝「そういうモノだって遠の昔に受け入れたよ……もし彼等の誰かが揺り篭を手に入れれば、様々な世界のお宝が失われてしまう。それが嫌だから戦ってるだけさ、俺は」

 

 

そう言って大輝は目付きを鋭くさせて時の方舟を睨みつけ、ベルは軽く息を吐いて大輝の隣に腰を下ろし、今もなお不気味な威圧感を放つ時の方舟を眺めていくのだった。

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑬

 

一時間後、一先ず作戦会議したメンバーは作戦が整うまで時の方舟の動向を様子見するという話で決まり、一度解散してそれぞれ自由行動を取っていた。

 

 

その中で、絢香と紗耶香は居間を後にして桜香のいる部屋へとやって来た。部屋に入ると桜香は既に上半身を起こして目覚めており、取りあえず二人はこれまでの経緯と現状を桜香に説明していた。

 

 

桜香「……そう……私が眠っている間に、そんなことが……」

 

 

絢香「はい……皆さんと話し合った結果、作戦が決まるまで方舟の動向を様子見することになりました……作戦が整えば、私達はすぐに方舟へと向かう予定です」

 

 

桜香「……そう……」

 

 

今後の行動について詳しく説明する絢香だが、桜香は二人から顔を逸らしたまま多く喋らない。恐らく裏切り者の自分が此処にいる事を気にして気まずいのだろうかと、絢香は少し悲しげに眉を寄せながら顔を俯かせて無言となり、暫く三人の間に沈黙が流れていくが……

 

 

絢香「―――桜香さん……その……本当に……ごめんなさい……」

 

 

桜香「…………え?」

 

 

その沈黙を破ったのは、頭を深く下げながら謝る絢香の謝罪の言葉だった。それを聞いた桜香は思わず声を上げて振り向けば、絢香の隣に座る紗耶香まで頭を下げていた。

 

 

桜香「ちょ、なんで謝るの?別に貴方達に謝られる事なんか……」

 

 

絢香「……私……聞きました……桜香さんが……私達の敵になったホントのワケを……」

 

 

桜香「……へ?」

 

 

戸惑う桜香を他所に、次に絢香の口から語られたのは更に意外な言葉。その言葉に桜香は思わず唖然となってしまい、絢香は袴を握り締めながら話を続けた。

 

 

絢香「桜香さんは……皆を守る為にひとりで幻魔神と戦おうとしてたんですよね……家族を失った孤児達の居場所を、守る為に……」

 

 

桜香「っ?!……そう……聞いたのね……零から私のこと……」

 

 

この話を知ってるのは彼しかいない。多分自分が運び込まれた時に全て話したのだろうと、桜香はそう予想しながら顔を俯かせるが……

 

 

紗耶香「いいや、絢香様にお前の事を話したのは……私だ……」

 

 

桜香「……え……紗耶香……?」

 

 

頭を下げたままずっと無言だった紗耶香が予想外な事を口に出し、桜香は思わず目を点にして紗耶香を見つめた。そして紗耶香は頭をゆっくりと上げ、暗い表情でポツリと語り出した。

 

 

紗耶香「すまない……昨日偶然、お前と黒月が孤児院の前で話してるのを見たんだ……それでお前達の会話を聞いてしまって……」

 

 

桜香「……そっか……貴方もあの時、彼処にいたんだ……」

 

 

紗耶香「ああ……だから、本当にすまないっ!!」

 

 

ドンッ!と、鈍い音と共にいきなり畳の上に額をぶつけながら桜香に土下座する紗耶香。その突然の行動に二人も驚愕し、桜香は慌てて紗耶香の肩に手を差し延べた。

 

 

桜香「や、止めて紗耶香っ!私には貴方達に謝られる資格なんてっ……!」

 

 

紗耶香「いいや謝らせてくれ!!私は、私はホントに愚か者だっ……共に幻魔と戦った仲間のお前を信じる事が出来ず、ただ裏切り者と罵ってばかりで軽蔑してっ……お前があの子達の為に必死に戦っていたことも知らずに……最低だ……私は……」

 

 

絢香「……紗耶香さん……」

 

 

今までの自分を情けなく思えてか、紗耶香は土下座をしたまま手の平を強く握り締めて拳を作っていく。そんな姿を見て紗耶香の思いが痛いほど伝わったのか、桜香と絢香は互いに複雑な表情を浮かべ、桜香も顔を俯かせながら呟いた。

 

 

桜香「それは私だって同じよ……貴方達が私の意思を受け入れてくれないんじゃないかって勝手に恐がって、拒絶される前にって自分から裏切った……最低なのは私も同じ……貴方達二人を信じる事が出来ずに一人で突っ走って……本当に、ごめんなさい……」

 

 

絢香「桜香さん……いえ、それを言うなら私だって……」

 

 

互いに自分の非を口にし、暗い雰囲気を漂わせながら口を閉ざしてしまう一同。そうして暫く気まずい空気が流れる中、絢香は薄い息を吐いて瞳を伏せながら、口を僅かに開く。

 

 

絢香「―――仲間が仲間を信じられなければ、それで終わり……でも、また信じ合う事が出来れば……またやり直せますよね……」

 

 

紗耶香「……え?」

 

 

桜香「絢香……?」

 

 

ソッと、以前花壇の前で零が言っていた言葉を紡いだ絢香に沈んだ顔を浮かべていた二人は顔を上げ、何処か驚いたように絢香の顔を見た。そして絢香はゆっくりと瞼を開き、桜香の手を両手で握り締めていく。

 

 

絢香「桜香さん、私のお願いを聞いてもらっても良いですか?」

 

 

桜香「……?お願い?」

 

 

絢香「はい……私達と一緒に、フォーティンブラスと戦って頂けませんか?」

 

 

『…ッ?!』

 

 

何かを決心したような顔で力強く告げる絢香。それを聞いた二人の表情は驚愕に染まり、絢香は桜香の手を握ったまま話し出した。

 

 

絢香「今この町……いえ、世界はフォーティンブラスの脅威に震えています……正直彼には、私達だけでは太刀打ち出来ないかもしれないし、姫様を助け出す事も不可能かもしれない……でも皆と一緒なら、もしかしたら彼に勝てるかもしれない……だから、桜香さんの力も貸して下さい。この世界の人々を守る為にも」

 

 

桜香「……だけど……私は貴方達を殺そうとしたのよ?そんな私が今更……」

 

 

絢香「……確かに、私達は何度もすれ違いをして傷付き合ってきました……でもそれは、桜香さんが悪い訳じゃないと思います。桜香さんも命懸けで守りたいと思う物があったから、そうするしかないと悩んで別の道を歩むことを決めた……本当のことを話してもらえなかったのは少しショックですが、桜香さんが子供達を守りたいと思った気持ちは……間違ってなかったと思います」

 

 

桜香「……絢香……」

 

 

絢香「そして今、私達皆が守りたいと思うものは一緒なんです……それを守る為にも、私達との絆が、まだ壊れていないと信じてくれるのなら……一緒に戦って頂けませんか……?」

 

 

その言葉は、自分を励ましてくれたある青年が送ってくれた言葉。

 

 

真摯の瞳で見つめ返してくる絢香に桜香も思わず息を呑み、隣でそれを見ていた紗耶香も決意を込めた顔で頷いて二人の手の上に右手を乗せ、桜香の顔をジッと見つめていく。

 

 

そして桜香はそんな二人を見て思わず涙ぐみ、瞳から溢れそうになる涙を拭って小さく頷き返し、庭の花壇に咲くシャニチソウの花はそんな三人を祝福するかのようにそよ風で揺れ動いていたのだった―――

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

そしてその頃、離れの部屋では先程デネブと柚子に連れ戻された零が布団の上で横になっており、その周りには紲那とゼウスとクライシス、そしてシロを抱えるアズサの姿があった。因みにデネブ達は零や他のメンバーのお夜食を作りに台所で料理している。

 

 

紲那「どうだ零、ちょっとは落ち着いたか?」

 

 

零「……ああ……大分楽になった……すまないな……」

 

 

先程紲那がくれた薬、超ばんのうぐすりのお陰で胸の傷の激痛は大分引いたが、やはり傷を治す事は不可能だった。暫くは痛み止めになって気休めにはなるだろうが、いつ薬の効果が切れてまた激痛が走るか分からない以上、此処で絶対安静にしておかないといけないという事で紲那達が見張りに着いていたのだ。

 

 

零「……それで……お前達はこれからどうする気なんだ……?」

 

 

アズサ「一先ず……作戦が整うまで方舟の動向を様子見する事になった……作戦が決まり次第、ヒメの救出に方舟に向かうってことに決まった……」

 

 

零「……そう……か……」

 

 

アズサから今後について話を聞いた零はそれだけ呟いて返すと、黙って天井へと目を向けていく。そんな零を見て何かを感じ取ったのか、紲那は僅かに目を細めて口を開いた。

 

 

紲那「零、一応忠告はしておくけど、君は此処で絶対に安静だぞ。作戦には参加させない……ただでさえ、さっき怪我を無視して動いただけでも危なかったんだから」

 

 

ゼウス「紲那殿の言う通りだぞ零殿、無茶し過ぎだ。自己犠牲で在られる救済なんてゴミ屑みたいなものだぞ」

 

 

クライシス「言葉は過ぎるけどそうね。零ちゃんの体は零ちゃんだけのものじゃなくなってきつつあるんだから。もっと自分を大切にしないと」

 

 

零「……分かってるさ……そんな事言われなくたって分かってる……」

 

 

忠告する紲那達の言葉を聞いた零はそう言って右腕を瞼の上に乗せ、ポツリと呟いていく。

 

 

零「ああ……頭では十分に分かっている……守る事と無茶をする事は全くの別物……無茶して誰かを守ったとしても、それはただ自分が守れたと思って自己満足するだけの独善にしか過ぎないって事も……」

 

 

ゼウス「其処まで分かっているなら……」

 

 

零の言葉を聞いて何かを話そうとするゼウス。だが、零はギリッと唇を噛み締めながら瞳を伏せ、拳を握り締めていく。

 

 

零「―――だが……あの時俺がちゃんとアイツを守っていれば……こんな事にはならなかったんだっ……」

 

 

悔しげに、後悔の念が篭った声でそう言いながら血が滲むまで拳を強く握り締める零。そんな零を見て一同も思わず口を閉ざし、零は震える声で再び語り出す。

 

 

零「目を瞑っても……思い出すのはあの時の……俺達を守ろうとして血まみれになったアイツの姿だけだ……それを思い出す度に思うんだ……どうして俺は何も出来なかったんだ……守るどころか逆に守られて……アイツにあんな顔までさせてってっ……」

 

 

最後の別れの時に見せた姫の泣きそうな笑い顔。今もそれが脳裏にこびりついて離れず、そんな顔をさせたのが自分を守ろうとしたからだと、そう思う度に後悔の念がとどまる事なく溢れてくる。

 

 

零「なにが守るだ……なにが後悔するような生き方を二度としないだ……なにが独りにはさせないんだっ……偉そうな事言っておきながら奴の前に手も足も出せずっ、無様にやられてっ、アイツを置き去りにしてっ……テメェだけ助かってるんじゃねぇかっ……!!」

 

 

悔しげに噛み締める唇から血が流れ、頬を一筋の雫が伝っていく。すぐ傍にいながら何も出来ず、逆に守られて、置き去りにして、今も助けに行けず此処で寝ていることしか出来ない。そんな自分が情けなく思えて仕方ない零はただ自分を責める事しか出来ずにいた。

 

 

紲那「……とにかく、今は傷を治す事に専念するんだ……桜ノ神は僕達が助け出す」

 

 

ゼウス「残念だが、いくら零殿でもその傷で戦うのは不可能だ……此処で大人しく寝ていろ……」

 

 

クライシス「アズサちゃん、零ちゃんのことお願いね……?」

 

 

アズサ「……うん……」

 

 

そんな零に掛ける励ましの言葉も見付からず、紲那達はとにかく零を眠らせようとアズサに零の看病と見張りを任せて部屋を後にした。そして残された二人は互いに交わす言葉が見付からず沈黙が続き、取りあえずアズサはタオルを手に取って零の唇から流れる血を拭っていく。

 

 

アズサ「……零……大丈夫……?」

 

 

零「……あぁ……すまない……面倒ばかり掛けて……」

 

 

アズサ「ううん……私は別に平気……今の零と比べたら……」

 

 

今はそんな気遣いすら心に痛い。だがそれを表情にはださず、零は上体を起こし苦笑いを浮かべながら自分の手の平を見た。

 

 

零「……本当に無様だな、俺は……ホントなら自分の手で木ノ花を助けにいかなきゃいけないのに……今はアイツ等に任せることしか出来ないなんてっ……」

 

 

アズサ「……零……」

 

 

歯痒さを隠せず、手の平を握り締めて苦悩の表情を浮かべる零。そんな零を見てアズサも口を閉ざしてしまい、再び二人の間に沈黙が流れ始めた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――えぇ。本当に無様な格好ね、破壊者さん?』

 

 

 

『…ッ?!』

 

 

 

突然鳴り響いたケラケラとした女性の笑い声。不意に聞こえてきたそれに二人は驚愕しながら慌てて辺りを見渡していくと、突如二人の目の前の空間が捩れていき、其処から一人の異形の姿をした女性が姿を現したのだ。零は突然現れた人物を警戒して身体を起こし、アズサは零の前に出て身構えていく。

 

 

『フフフフ……こんばんわ破壊者さん……』

 

 

零「ッ!お前は……誰だ?というか、どうやって此処に入ってきた……?」

 

 

『フフ、別にそんな難しい事じゃないわよ?ただ気配を消せば簡単に侵入出来るんですもの。なにせ、私は幻魔神様に仕える高等幻魔の一人……ベガドンナなのだからねぇ?』

 

 

零「?!幻魔神だと?!」

 

 

フォーティンブラスに仕えてるという異形の女性……ベガドンナの正体を聞いた零は驚愕し、アズサはそれを聞いてより一層警戒心を強めながら零を守るように構えていく。

 

 

アズサ「その高等幻魔が、一体何の用なの……」

 

 

『あらあら、怖い顔で睨みつけてくれちゃって……別に戦いに来た訳じゃないわ。ただ貴方に素敵な贈り物をしてあげようと思って、こうして足を運んであげただけよ』

 

 

零「贈り物だと?どういう意味だ?」

 

 

零はベガドンナに鋭い目で睨むが、ベガドンナは気にせずクスクスと笑いながら何処からか一枚の写真を取り出し、それを零に向けて投げ渡した。

 

 

零「?写真?これが何なん……っ?!!」

 

 

アズサ「……零?」

 

 

零はいきなり投げ渡された写真に疑問を覚えながらも写真を見ると、其処に写されていた物を見て両目を見開き驚愕した。そんな零の様子を見てアズサは小首を傾げ、零は僅かに口を開き声を震えわせながら言葉を出した。

 

 

 

 

 

 

零「―――さく……や……?」

 

 

 

 

 

 

写真に写されていたのは、縄で縛られ、顔や身体中に何かで殴られたようなアザが出来てグッタリと倒れる少女……姫の姿が写っていたのだ。写真を見るそんな零の顔を見て、ベガドンナはケラケラと笑いながら話し出した。

 

 

『どぉーお?良く撮れてるでしょう?』

 

 

零「……何だコレはっ……お前等!!アイツに何をしやがった?!」

 

 

『フフ、それ見て分かるでしょ?その女、幻魔神様がどれだけお声を掛けてもずっと無視してばかりでね?流石の幻魔神様もご機嫌を損ねて、ちょっとばっかし調教してやったのよ』

 

 

アズサ「調教って……!」

 

 

『何か問題でも?その女は幻魔神様の物となったのだから、どう扱おうが幻魔神様の勝手じゃない?それに所詮は不老不死なのだから、どれだけ痛めつけようが死んだりしないでしょ?』

 

 

零「なんっ…だと…!!」

 

 

『それで余りにも面白い姿だから、貴方にも見せてあげようと思ってねぇ?どんな気分?貴方がちゃんと守ってあげなかったせいで、そんな無様な姿に代わり果てて……アハハハハハハッ!!悔しぃーい?大事な女を汚されて♪』

 

 

零「っっっ?!!貴様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!」

 

 

アズサ「?!ダメ!零!!」

 

 

おもしろ可笑しくケラケラと笑うベガドンナの言葉で完全にキレ、写真をグシャグシャに握り潰してそのまま怒りのままに駆け出し、ベガドンナに勢い良く拳を放つ零。だがベガドンナはそんな零を軽くあしらって地面に叩き付け、頭を踏み付けた。

 

 

零「グウッ!!」

 

 

アズサ「零?!」

 

 

『はいストォープッ!それ以上動いたらこの男の頭、踏み潰しちゃうわよ?』

 

 

アズサ「っ……!」

 

 

ベガドンナは零の助けに入ろうとしたアズサに警告して動きを止めさせ、それを確認するとニヤニヤと笑いながら倒れる零を見下ろしていく。

 

 

『何だか幻魔神様を倒そうとかしてるみたいだけど、哀れねぇ?貴方達みたいな屑があの方に勝てると思ってるの?身の程知らずだって事が分からない訳ぇ?』

 

 

零「ぐっ……!」

 

 

『それに、貴方も良くこんな所で寝てられるわねぇ?貴方を守ろうとしたからあの女は幻魔神様に身を捧げたというのに、貴方は助けようともせずに此処で寝てるだけ……はははは!何?もしかして自分が助かったからあの女の事はどうでも良くなったとかぁ?』

 

 

零「っ……!!」

 

 

蔑むようにケラケラと笑うベガドンナの言葉を聞き、悔しさのあまり肩を震わせながら拳を作る零。アズサはそんなベガドンナの言葉で更に表情を険しくさせ、拳を握っていつでも殴り掛かれるように構えた。その時……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ!―

 

 

 

『……あ?―バキィッ!―ウグアァッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

突如部屋の入り口の方から誰かが飛び出し、そのまま零を踏み付けるベガドンナを勢い良く蹴り飛ばして壁に叩き付けていったのだ。そしてベガドンナを蹴り飛ばした人物……黒髪の青年は零を守るように立ち構え、ベガドンナを睨みつけながら口を開いた。

 

 

「居間に行く前に異世界のディケイドの見舞いでもしようかと寄ってみれば……意外な場面に鉢合わせちまったな」

 

 

『アグッ……グゥッ!な、何だお前は?!』

 

 

「うん?俺か?俺の名は、三崎雷火。お前達と戦う為に異世界からやって来た、仮面ライダークラストだ」

 

 

零「……三崎雷火……仮面ライダークラスト……?」

 

 

突然現れた黒髪の青年……"三崎 雷火"のいきなりの登場に零とアズサは思わず唖然となり、ベガドンナは口から流れる血を拭ってふらつきながら立ち上がっていく。

 

 

『餓鬼風情がっ……この私の顔を足蹴にするなど!!貴様のような餓鬼一匹、私の手で「誰が一人だなんて言ったんだよ?」……?!』

 

 

雷火に向けて殺気を剥き出しにしていたベガドンナだが、再び聞こえてきた別の声を聞いて入り口の方へと振り返った。其処には腰に手を当てて悠然と立ち構えながらベガドンナを睨む青年……稟の姿があった。

 

 

零「ッ!稟?何でお前まで……?」

 

 

稟「零さんにお見舞いでもしようと思って此処に来る時に、雷火と会いましてね。それで道案内しに此処へ来てみればなんか変なのがいるし……取りあえずヤバそうと思ったんで乱入させてもらいました」

 

 

驚く零にそう言いながら稟は再びベガドンナに視線を向けていき、ベガドンナは雷火と稟を交互に見たあと舌打ちしていく。

 

 

『流石に分が悪いか……まあいいわ。どれだけ醜く足掻こうが、所詮貴方達なんて私達の足元にも及ばないのだからね?せいぜい屑なり頑張れば?アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

そう言って馬鹿にするように笑いながら背後に空間の捻れを作り出し、ベガドンナはその捻れへ飛び込んで何処かへと消えていったのだった。そしてそれを確認した雷火と稟は構えを解き、アズサも零に駆け寄っていく。

 

 

アズサ「零、大丈夫……?」

 

 

零「っ……あぁ、大丈夫だ……稟とそっちのお前……雷火だったか?も面倒を掛けてすまない……」

 

 

稟「いえ、お礼なんて良いですよ」

 

 

雷火「こっちが勝手に割り込んだだけだしな。それはそうと、さっきの幻魔だろう?何処から入ってきたんだアイツ?」

 

 

零「いや、俺も詳しくは分からん……ただなにもない空間が捻れたと思ったらいきなり奴が現れて―――」

 

 

雷火に問われてベガドンナが現れた時の状況を説明していく零だが、ふと右手の中に握られたグシャグシャの写真が目に止まって口を閉ざし、ジッとそれを見つめていく。

 

 

雷火「……?どうした?」

 

 

零「………………」

 

 

不自然に口を閉ざした零に雷火が思わず聞き返すが、零は右手の写真を見つめたまま何も喋ろうとはせず、ゆっくりと立ち上がるとふらついた足取りで部屋から出ていこうとする。

 

 

雷火「お、おい?何処に行く気だ?」

 

 

零「……決まっている……さく―――木ノ花を迎えに行く……」

 

 

『ッ?!』

 

 

姫を迎えに行く。その言葉を聞いた三人は驚愕してしまうが、零は構わず部屋を出て廊下へと出てしまう。

 

 

雷火「おい待て!その身体であの舟に行く気かっ?!無茶だろ明らかに?!」

 

 

零「心配するな……迎えに行くだけで、幻魔神と戦うつもりは毛頭ない……それに幸いにも紲那がくれた薬の効果で傷の痛みは全然ないし、無理だと判断したらすぐに逃げるさ……」

 

 

雷火「そういう事を言ってるんじゃない!そんな身体で何が出来るんだ?!あの神の事なら他の奴らに任せて、お前は「それじゃ駄目なんだ!!」……っ?!」

 

 

姫を迎えに行くと聞かない零を何とか引き留めようと説得する雷火だが、零の怒鳴り声で思わず言葉を飲み込んでしまう。そして零は三人に背中を向けたまま、右手の写真を強く握り締めていく。

 

 

零「それじゃ……駄目なんだ……アイツを独りにさせないって言ったのは、他の誰でもない俺なんだ……なのにアイツは今独りで、頼れる人が傍にいなくて、苦痛に耐えて……きっと今も誰かに助けを求めてるハズなのに、それを言わないで……アイツが苦しんでるのに、俺だけこんなところで呑気に寝てるなんて、やっぱり出来ない……」

 

 

雷火「……………」

 

 

零「だから頼む……無茶なのは自分でも分かっているし、これで周りの人間にどれだけ心配を掛けるのかも分かってる……だがそれでも、これだけは俺の手でやらせてくれ……此処で行かなかったら……多分俺は、こんな気持ちを抱えたまま誰かを守って生きていくなんて……二度と出来ないと思うからっ……!」

 

 

アズサ「零……」

 

 

自分の胸を鷲掴み、自分の正直な気持ちを必死に訴え掛ける零。その気持ちが伝わったのか、アズサは何かを考えるように少し顔を俯かせた後、零の隣に歩み寄っていく。

 

 

零「……?アズサ……?」

 

 

アズサ「……零が行くなら、私も一緒に行く……」

 

 

雷火「……はっ?!」

 

 

零「いや、だがお前まで付き合う事なんて……」

 

 

アズサ「ううん、私も行く……私も、零に命を救ってもらった……だから私は零を守る為に戦うって決めた……零の背中を守るのが、私の生きる証だから……」

 

 

零「……お前……」

 

 

何時も通りの無表情であるが、何処となく力強さが伝わってくる表情で見上げてくるアズサに零も思わず息を呑み、それを聞いていた稟も軽く息を吐いて二人に近づいていく。

 

 

稟「そういう事なら、俺は零さんの意思を尊重しますよ?」

 

 

零「っ!稟……?」

 

 

稟「戦力は少しでも多い方がいいだろうし、サポート役がいた方が生存率も上がるでしょう?来るなと言われてもついていきますよ」

 

 

零「……ハァ……どうしてこう最近の若者は、こんな年寄りみたいな無茶ばかりするんだろうか……」

 

 

稟「無茶するのが苦労人でしょう?それに年寄りとか言っても、零さんまだ十代じゃないですか?」

 

 

年寄り臭い台詞を吐く零にそう言って微笑を浮かべる稟。そしてそれを見て口を閉ざしていた雷火は呆れたように溜め息を吐き、仕方がないと言ったように零に近づいてポケットから一枚の紙を差し出してきた。

 

 

零「?これは……?」

 

 

雷火「俺の方で調べといた時の方舟内の構造図、それとある神様が調べてくれた幻魔神の弱点が載ってあるメモだ」

 

 

零「っ?!何?!」

 

 

稟「お前、どうしてこんな物……?!」

 

 

雷火「此処に来る前に間違ってあの舟の中に転移してしまってな?構造図はその時に俺が調べてメモしといたんだよ……多分役に立つと思うから、持っていけ。他の連中には俺の方で事情を説明しておく」

 

 

零「そう、だったのか……すまない……何から何まで……」

 

 

雷火「謝るくらいなら最初からやるなよな……でも、これだけは約束しろ。必ず三人、生きて帰ってくるって……」

 

 

零「ッ!……ああ……必ず……」

 

 

そう言って零は真剣な表情で雷火に頷き返し、アズサと稟と顔を見合わせて頷き合うと部屋を後にし、他のメンバー達に見付からないように裏口からソッと出ていき、三人は夜明けが近い霊山へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑭

 

時刻は夜明け。日の光りで闇に支配された夜が徐々に晴れていく中、時の方舟のブリッジではそれを眺めるフォーティンブラスの姿があった。

 

 

『――ふん。こんな腐った世界でも、この光景だけは唯一価値のある物だな……お前もそう思うであろう、桜ノ神?』

 

 

日の出の光りを浴びながらそう言うと、フォーティンブラスは背後へと振り返りブリッジの隅で座り込んでいる少女……服がボロボロになっている姫を見つめていくが、姫は無言で顔を逸らした。そんな姫の様子にフォーティンブラスは鼻を鳴らし、ゆっくりと姫へと近づいていく。

 

 

『何処までも強情な女だ。幻魔界へ戻る前にこの世界との別れをさせてやろうと、我なりの優しさで此処へ連れてきてやったのだがな……』

 

 

姫「……何が優しさだ……そんな事より、早くこの舟を幻魔界に向けて出せ……これ以上この世界に居座るなっ……!」

 

 

『フ、随分と嫌われたモノだなぁ……まあ良かろう……』

 

 

睨みつけてくる姫の視線もものともせず、フォーティンブラスは愉快げに笑いながら姫の前で腰を下ろし、姫の顎を掴んで上げさせていく。

 

 

『お前の望み通り、この舟はもうすぐ幻魔界に入る事になる。帰った後には婚式を上げ、その後は我の物に相応しい女に調教してやる……楽しみにしておけよ?』

 

 

姫「っ……!」

 

 

不気味に口端を吊り上げるフォーティンブラスに姫は不快な表情を浮かべながら顔を逸らし、フォーティンブラスはそんな姫に愉快げに笑いながら立ち上がって歩き出した。

 

 

『空間転移開始まで、残り30分……転移準備に入れ!日の出が完全に上がると同時に舟は幻魔界へと帰還する!もしもの事態に備え異空間の艦隊にも待機を続けさせ――』

 

 

方舟の出航まで残り30分を切ったところで、艦内の幻魔達に命令を出していくフォーティンブラス。そして命令を受けた幻魔達が、空間転移の準備に入ろうとした。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!―

 

 

『…ッ?!何?』

 

 

姫「!何だ……?」

 

 

 

突如艦内に荒立たしく警報が鳴り響き、フォーティンブラスと姫は思わず辺りを見渡していく。すると不意にフォーティンブラスの前にモニターのようなモノが出現し、其処に映し出された映像に姫は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

姫「ま、まさか……そんな……?!」

 

 

『……あの死に損ない……また懲りもせず……!』

 

 

映像を見た姫は信じられないといった様子で両目を見開き、フォーティンブラスはギリッと歯ぎしりを立てながら不快そうな顔を浮かべていた。そして方舟の外では……

 

 

 

 

 

 

アンジュルグ『――見えてきた……時の方舟……!』

 

 

『よしっ……アズサ、木ノ花の居場所の特定を頼む!稟、その間に俺達は方舟に攻撃して幻魔を引き付けるぞ!少しでも方舟に損傷を与えて、空間転移の時間を遅らせる!』

 

 

エクスL『はい!』

 

 

日の出を背に上空を翔ける三人の戦士……アズサと稟が変身したアンジュルグとエクス、そして赤い複眼に分厚い黒い装甲を身に纏うライダー……零が変身した『サレナ』は時の方舟に向かって飛翔していき、方舟内のブリッジでそれを見たフォーティンブラスは……

 

 

『フン――戦闘準備!空戦型の幻魔共を奴らに放て!方舟は現在地に固定したまま迎撃しろ!!』

 

 

姫「ッ?!待て!!約束が違うだろう?!彼等には手を出さないと――!」

 

 

『先に仕掛けてきたのは奴らの方だ。それとも何か?このままあの蟲共の無礼を許せと?生憎我は其処まで寛大な心など持ち合わせていないのでな……逆らうのであれば殲滅するだけだ!』

 

 

姫「くっ……!」

 

 

姫の言葉に聞く耳持たず、フォーティンブラスは命令を下して二万弱の空戦型の幻魔達をDサレナ達に向けて放ちながら方舟で迎撃を開始していく。

 

 

そして三人は正面から放たれてきた巨大なエネルギー砲を散開して回避し、アンジュルグは姫のいる居場所を特定する為に後方で索敵を開始していく。

 

 

Dサレナ『ッ!稟!お前は左翼に回れ!可能なら方舟に少しでもダメージを与えろ!アズサが索敵を完了するまで時間を稼ぐぞ!!』

 

 

エクスL『分かりました!ハアァァァァァァァァァァァァァァッアッ!!!』

 

 

―ブザァンッ!!―

 

 

『グギャアァッ?!』

 

 

エクスはシャイニングカリバーを勢いよく振るうって最初に接近した幻魔を頭から斬り裂き、そのまま剣を両手で構え直して幻魔達へと飛翔していく。Dサレナもそれを見て両手のハンドガンを乱射させ、幻魔達を次々と撃ち落としながら先へと進んでいく。

 

 

Dサレナ『(雷火が調べた情報の通りなら、何処からあの方舟に近づいてもどうしても感知され、神による転移でなければ内部に侵入することも出来ず、死角が全くないっ……つまり正面から突っ込む事しか出来ない訳だが……クソッ!)』

 

 

上下左右と様々な方向から攻撃してくる幻魔達に舌打ちしながら、Dサレナはハンドガンを乱射させて幻魔を撃破しながら方舟に接近していく。

 

 

そうして方舟までの距離がハンドガンの射程距離に入り、Dサレナは一体の幻魔を蹴り飛ばしハンドガンの銃口を時の方舟に合わせてエネルギーを溜め、そして……

 

 

Dサレナ『(この距離なら!)喰らえぇッ!!!』

 

 

―ズドオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーオンッ!!!!―

 

 

ハンドガンの銃口から青い閃光が勢いよく発射され、閃光はそのまま射線上にいた幻魔達を巻き込みながら方舟へと迫っていった。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュウゥゥゥゥゥゥッ!!!―

 

 

Dサレナ『ッ?!な、掻き消された?!』

 

 

 

Dサレナの放った青い閃光は舟に直撃する前に、見えない何かによって阻まれ掻き消されてしまったのだ。

 

 

それを見て驚きを隠せないDサレナだが、良く見てみれば方舟の全体を包み込むように透明な何か……巨大な結界が張られている事に気が付いた。

 

 

Dサレナ『結界……バリアか?!クソッ!なんて面倒なモノを!』

 

 

エクスL『なら俺に任せて下さい!具現【インバディ】、ゲイボルクッ!!』

 

 

Dサレナは結界が張られている方舟を見て思わず毒を吐き、エクスは具現を発動して右手に赤い槍……ゲイボルクを出現させて弓を引き絞るように上体を反らし、そして……

 

 

エクスL『突き穿つ死翔の槍!!デリャアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

怒号と共に槍を全力で叩き投げ、魔弾と化した赤い槍は稲妻の如く神速で方舟に向かっていき結界と激しく激突していく。だが、激突はたったの数秒で終わり、赤い槍は結界によって簡単に焼き尽くされて消滅してしまった。

 

 

エクスL『なっ……ゲイボルクでも駄目なのか?!』

 

 

Dサレナ『チィ!どれだけ固いんだコイツは……!』

 

 

ゲイボルクでも突破する事が出来ないバリアの強度にエクスは驚きを隠せず、Dサレナは苛立ちを込めて舌打ちすると、背後から斬り掛かってきた幻魔を殴り飛ばして再びハンドガンを乱射させていく。

 

 

『くく、はははははは!!馬鹿が!!これは我が神の力によって作り出された物!!貴様等のような屑共の非力な力で突破出来るほどたやすくないわ!!増援を出せ!!更に一万だ!!』

 

 

姫「なっ?!止めろフォーティンブラスッ!!」

 

 

フォーティンブラスは結界を攻撃したDサレナとエクスを見て愉快げに高笑い、姫の静止も聞かず更に増援を出撃させていく。そして更に一万増えた幻魔の大群によって二人は完全に包囲され、休む間もなく次々と襲ってくる幻魔達によって呼吸が荒くなり始めていた。

 

 

エクスL『クソッ!!一体どれだけいるんだコイツ等?!』

 

 

Dサレナ『ッ!どうやら、コイツ等は幻魔神が存在する限り無限に溢れ出てくるらしいからな……どれだけ倒しても意味はないって事だっ……!』

 

 

エクスL『なら尚更マズイですよっ……このままじゃ数で押されるっ!』

 

 

背中合わせに幻魔の大群に向けて身構え、互いに肩で呼吸をしていくDサレナとエクス。だがそんな事にもお構い無しにと、幻魔達を不気味な奇声を上げながら刀を振り上げて一斉に二人へと斬り掛かった。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『コード―――ファントムフェニックスッ!!』

 

 

『ッ?!グ、グガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ズガアアアアアアァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

不意に二人に襲い掛かろうとした幻魔達に炎の不死鳥が降り注ぎ、幻魔達は獄炎に飲み込まれながら跡形も残さずに消滅していったのだ。そしてその光景に呆然となる二人の前に天使……アンジュルグが白い翼を羽ばたかせながら現れた。

 

 

エクスL『アズサ!』

 

 

アンジュルグ『遅くなってごめんなさい……二人共、ヒメの居場所が分かった……』

 

 

Dサレナ『ッ!本当か?!』

 

 

アンジュルグ『ん……方舟のブリッジ……其処にヒメがいる……!』

 

 

Dサレナ『方舟のブリッジ……』

 

 

アンジュルグに言われてDサレナは方舟の方に視線を向け、雷火が教えてくれた情報を頼りにブリッジと思われる場所を目で探していく。

 

 

そしてある一点……一カ所だけ人影が見えるガラスが張られた場所を発見し、Dサレナは両手のハンドガンを破棄してライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

Dサレナ『アズサ、稟……悪いが周りにいる幻魔達を引き寄せておいてくれ……俺は彼処に向かう……!』

 

 

エクスL『向かうって……あの結界はどうするつもりなんですか?!』

 

 

Dサレナ『大丈夫だ……策ならあるっ……!!』

 

 

そう叫ぶと共にDサレナの左目が紫色へと一瞬で変化していき、取り出したカードをディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:GEGIGAN FLARE!』

 

 

電子音声が響くと同時にDサレナのボディが黄金の光に包まれていき、腰を屈めながら右腕にエネルギーを溜めていく。それを見たアンジュルグはミラージュ・ソードを取り出して構え、エクスも仕方ないといった感じに剣を構え直した。

 

 

エクスL『しょうがないか……後ろは任せて下さい!零さんはその間にあの人を!』

 

 

アンジュルグ『うん……零は行って……!』

 

 

Dサレナ『……すまん……背中は任せた!デェアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

二人に幻魔の大群を任せ、Dサレナは右腕を方舟に向けて突き出しながら両肩のスラスターを展開し、金色の閃光と化して方舟に突進していった。時の方舟から無数に放たれる砲撃が掠りながら、邪魔する幻魔達を打ち貫いて先に進んでいく。

 

 

Dサレナ(あと少しっ……あと少しでっ!!)

 

 

方舟まで、残り数十メートルを切った。

 

 

破壊の因子を使った今なら、あの結界を突破する事は可能の筈だ。

 

 

背後からの追撃もない。恐らく稟とアズサが幻魔達を押さえ込んでくれてるのだろうと、そう考えて突き進むDサレナが方舟の目の前まで到達した瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――主砲……放て』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガコンッ……シュウゥゥゥゥ……ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『――なっ?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――突如方舟の甲板が二つに開き、其処から他の砲台とは比べものにならない程の超巨大な砲台が出現したのだ。それを見たDサレナは驚愕の余り思わず動きを止めてしまうが、その間に砲台は膨大なエネルギーをチャージして超巨大な砲撃を撃ち出し、そのまま信じられない速度でDサレナの目の前にまで迫り……

 

 

Dサレナ(駄目だ……かわせな――――?!!)

 

 

 

 

 

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

アンジュルグ『――ッ?!零っ……?!』

 

 

エクスL『なっ……零さんッ!!!!』

 

 

 

―――砲撃は無慈悲にもDサレナを飲み込んでいってしまい、Dサレナは光の中へとその姿を消してしまったのであった……

 

 

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑮

 

 

姫「―――れ……い?……零ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーッッ!!!!!」

 

 

方舟の主砲を受けて爆発の中へと姿を消したDサレナ。時の方舟のブリッジで、その様子を間近で見ていた姫は涙目になりながら悲痛な絶叫を上げた。

 

 

『ふ、ははははははは!!跡形も残さずに消え去ったか!!愉快な物だ!!存外傑作な最後を見せてくれたなあの蟲?く、ははははははははははははっ!!!』

 

 

姫「クッ!貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

爆発を見て愉快げに高笑いを上げるフォーティンブラスに姫も完全に堪忍袋の尾がブチ切れ、床から立ち上がってフォーティンブラスに掴み掛かろうとした。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SELENA!』

 

 

―バシュウゥッ!!!!―

 

 

Dサレナ『嘗めるなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『……ッ?!何?!』

 

 

姫「ッ!零?!」

 

 

 

爆発の中から突如ボロボロになったピンクの鎧に仮面が半壊して右目が露出してしまっているライダー……漆黒の重装甲をパージしたサレナ・ライダーフォームが勢いよく飛び出し、そのままブリッジ前の結界へと全力を込めた拳を叩き付けていったのであった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

Dサレナ『グッ!待ってろ咲夜っ……今っ……!!』

 

 

Dサレナは重量エネルギーを纏った右腕を結界へ捩り込むように突き出し、更に因子の力が加わってる事で激しく火花を散らせながら結界にも徐々にヒビが入り始めていた。

 

 

その様子を見た幻魔達はDサレナを止めようと慌てて上空を翔けるが、その前にエクスとアンジュルグが立ち塞がった。

 

 

エクスL『悪いけど、此処から先は通さない!!』

 

 

アンジュルグ『貴方達の相手は私達……零の邪魔はさせない……!』

 

 

そう言いながら二人はそれぞれ武器を構え直し、一斉に襲い来る幻魔の大群の中へと突っ込んでいったのであった。そして時の方舟のブリッジでは……

 

 

『――異空間に待機させてあるアレを出せ……数は十……あの三匹の蟲共は絶対に生きて帰すな……』

 

 

姫「ッ!な、何をする気だフォーティンブラス?!」

 

 

『……良く見ていろ桜ノ神。この我に刃向かうことがどれほど恐ろしい事か……その目でジックリとな』

 

 

何処かに命令を出しているフォーティンブラスを見て慌てて問い掛ける姫に対し、フォーティンブラスは不気味な笑みを浮かべながら答えて外の戦闘へと視線を戻した。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォオンッ……―

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『――ッ?!』

 

 

エクスL『ッ!な、なんだ……コレ……?』

 

 

アンジュルグ『……これは……空間転移反応……?』

 

 

 

突如方舟の周りの空間に十の捩れが発生し、Dサレナ達は突然現れたそれに気付いて辺りを見渡していく。そして十の捩れの中から、ソレはゆっくりと姿を現した……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!!―

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『ッ?!……これ……は……』

 

 

エクスL『……せ……戦……艦……?!』

 

 

 

捩れから次々と出現してきた巨大な物体達……無数の砲台が目立ち、邪悪な外見をしたソレ等は方舟よりも一回り小さい十隻の戦艦達だったのだ。

 

 

三人が突如現れたソレ等を見て呆然となる中、方舟のブリッジにいるフォーティンブラスは艦隊の到着を確認すると右手を大きく広げ……

 

 

『―――やれ』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………ッ!!!!!―

 

 

アンジュルグ『?!―ドガアァァァァァアンッ!!―キャアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

エクスL『アズサ?!―ズガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―ぐっ?!ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ?!!!』

 

 

Dサレナ『稟?!アズサァ!!―ドッガアァァァァァァァァァァアンッ!!!―ウグアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

死の宣告が下されたと共に十の艦隊から降り注ぐ光の閃光達。

 

 

上下左右から無慈悲に放たれる高出力の閃光に三人は回避も出来ず次々と直撃を受けていき、そこへ追い撃ちを掛けるように幻魔達がエクスとアンジュルグに襲い掛かってきた。

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………ッ!!!!!―

 

 

Dサレナ『ぐぁっ?!ぐっ……クソッ……あと少しっ……あと少しなのにっ……!!』

 

 

降り注ぐ閃光を全身に受けながらも右腕を突き出し続けるDサレナだが、結界は皹が入るだけでまだ壊れてはくれない。

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………ッ!!!!!―

 

 

アンジュルグ『アウッ!!ウアァッ!!』

 

 

エクスL『クソッ!!具現【インバディ】―ズザシャアァッ!!―グアァッ?!』

 

 

Dサレナ(っ!アズサ……稟……!!)

 

 

後ろを見れば、アンジュルグは艦隊の一斉砲射を受け過ぎて装甲がところどころ破壊されボロボロになり、エクスは具現を使う暇すら与えられず幻魔達の数に押されている。

 

 

こちらはまだ二人が幻魔を引き付けてくれているから何とかなっているが、このまま戦いが長引けば二人の命が危ない。

 

 

Dサレナ(クソッ!目の前に……もう目の前まで来ているのにっ……!!)

 

 

咲夜のいるブリッジはもう目と鼻の先。

 

 

この結界さえなければ直ぐに彼処へ向かえるのに、道を阻む壁はそんな彼の心を嘲笑うかのように壊れてくれない。

 

 

それに因子の力の影響か、左目の複眼が徐々にひび割れて亀裂が広がりつつある。

 

 

このままでは因子が暴走を起こす可能性も高い。

 

 

此処まできて、諦めるしかないのかと……Dサレナが悔しげに唇を噛み締めた。その時……

 

 

 

 

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

 

 

 

 

エクスL『クッ……ッ?!零さん!!危ない!!!』

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『――ッ?!!』

 

 

 

背後から聞こえてきたエクスの悲痛な怒号。

 

 

それを聞いたDサレナが慌てて振り返ると、其処には一体の幻魔が奇声と共に刀を振りかざしながらこちらへと向かってきていた。

 

 

Dサレナ『しま――?!』

 

 

気付いてももう遅い。幻魔は既に目の前まで迫って刀を振り下ろそうとしており、今から防御しても手遅れと悟ったDサレナは死を覚悟して顔を反らした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

 

『グヌォッ?!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dサレナ『……え……?』

 

 

 

突然幻魔に向かって一筋の閃光が降り注ぎ、幻魔はそれを防げぬまま受けて爆散していったのだ。それを見たDサレナ達は半ば呆然となりながら閃光が放たれた先を見ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

冥華『――やっぱり来てたわね、零』

 

 

ゼオ『おー、冥華の予想が当たったな?』

 

 

Dサレナ『ッ?!お前……冥華?!』

 

 

アンジュルグ『メルティア……?!』

 

 

エクスL『……誰?』

 

 

其処にいたのは二人の戦士……漆黒の鎧を身に纏って巨大なメガランチャーを構える紫音冥華と、メルティアが変身したゼオが浮遊してこちらを見据えていたのであった。

 

 

Dサレナ『お前達、なんで此処に……?!』

 

 

冥華『別に?ただ貴方達のこの世界での役目を見届けに来ただけ……あと、此処へ来たのは私達だけじゃないわよ?』

 

 

エクスL『え?それってどういう―ドガアァァァァァァァァァァアンッ!!!―……ッ?!!』

 

 

意味だ?とエクスが冥華に聞き返そうとした瞬間、砲撃を放ち続けていた艦隊の一隻が突然爆発を起こして粉々に砕け散り、そのまま他の戦艦に激突して地上に堕ちていった。そして遥か上空には戦艦を堕としたと思われる二人組の戦士……ディエンド・ウィングフォームとアストレアの姿があったのだ。

 

 

エクスL『大輝?!』

 

 

ディエンドW『……メモリガジェットに監視をさせておいて正解だったよ。予想通り、君達は勝手に部屋を抜け出して方舟に来てしまったし』

 

 

アストレア『さっすが師匠!二手三手先を読むって奴ですね♪『シャアァッ!』ってひょあぁ?!』

 

 

Dサレナ達の行動をあらかじめ読んでいたディエンドに尊敬の眼差しを向けるアストレアだが、不意を突くように幻魔が背後から斬り掛かってきて慌てて避け、ディエンドは幻魔に蹴りを入れて怯ませるとドライバーを乱射して吹き飛ばしていった。

 

 

Dサレナ『ッ!何しに来た?!俺を連れ戻しにでも来たのか?!』

 

 

ディエンドW『いや?此処まで来てしまった以上、このまま先に進むしか生きては帰れないだろう……不本意だけど、君に手を貸してあげるよ』

 

 

Dサレナ『っ……白々しい奴め……どうせまたお宝が欲しくて俺を利用するだけなんだろう?今度はフォーティンブラスが持ってる例の魔剣が狙いか?!』

 

 

ディエンドW『ほう、少しは頭が回るようになったじゃないか?ま、大体そんな所……さっ!!』

 

 

結界と激突し合うDサレナと会話をしながらディエンドはドライバーを乱射させて襲いくる幻魔達を次々と撃ち落としていき、エクスや冥華達の方にも幻魔達が一斉に襲い掛かろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

『ダアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ギアァッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

上空から突然現れた紅と蒼の閃光。それは一同の前に突然現れたと共にその手に持つ刀を振るい、幻魔達を薙ぎ払い吹っ飛ばしていったのだ。その正体は……

 

 

 

 

 

 

龍王『――やっと追い付いたな……』

 

 

鬼王『全く、病み上がりにこの数はちょっとキツイんだけど……そうも言ってらんないわね』

 

 

Dサレナ『なっ……紗耶香?!桜香?!』

 

 

 

そう、幻魔達を薙ぎ払った紅と蒼の光りの正体は二人のライダー………紗耶香と桜香が変身した龍王と鬼王だったのだ。

 

 

Dサレナ『お前等まで……どうして……?!』

 

 

龍王『私達は桜ノ神様を守るという役目を果たしに来ただけだ……それと、お前にも借りがあるからな……ついでにそれを返しに来ただけだ』

 

 

鬼王『相変わらず素直じゃないわね……心配で居ても立ってもいられなかったって言えば良いじゃない?』

 

 

龍王『なっ、で、出鱈目を言うな桜香!!誰が黒月の心配など――!!』

 

 

鬼王『あら?私は零の事だなんて一言も言ってないわよ?』

 

 

龍王『ぐっ?!貴様!!//『キシャアァァァァァアッ!!』……チィ?!』

 

 

なんだか漫才のようなやり取りになり掛けた二人だが、幻魔の大群や残りの艦隊はそんな事もお構い無しにと一同へと追撃していき、ライダー達は散開してそれを回避すると幻魔達に反撃していく。

 

 

冥華『零!早くそんなものぶっ壊して先に行きなさい!あと20分で方舟は転移に入るわ!!』

 

 

Dサレナ『ッ!だが、こんな数お前等だけじゃ……!』

 

 

鬼王『いいから行きなさい!アンタは桜ノ神を助ける為に此処まで来たんでしょ?!』

 

 

アンジュルグ『だから此処は任せて、早く行って!』

 

 

Dサレナ『っ……桜香……アズサ……』

 

 

エクスL『もう後悔はしたくないんでしょう?!なら行って下さい!!手遅れになれば、救えなかったら!これからもずっと後悔する事になりますよっ!!』

 

 

龍王『あの方の事はお前に任せる!あの方に何かあった時には!私は貴様を許さんからな!』

 

 

Dサレナ『稟……紗耶香……』

 

 

アストレア『今回は特別に手伝ってあげるんだから!これ終わったら美味しい物いっぱい食べさせてもらうからね!』

 

 

ゼオ『ハハ、ルミナ姉さんは相変わらず食い字が張ってるなぁ……』

 

 

ディエンドW『ま、それが彼女だから仕方ないと言えば仕方ないけどねぇ?』

 

 

Dサレナ『お前等……』

 

 

空を舞い、降り注ぐ砲撃をかわし、幻魔を倒しながらそれぞれDサレナを後押ししていくライダー達。そんな彼等の姿を見たDサレナは顔を俯かせ、押し戻され掛けた右腕を再び結界へと突き出し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『わかった……死ぬなよ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エクスL『零さんも!』

 

 

アンジュルグ『頑張ってっ……!』

 

 

鬼王『手ぶらで帰ってきたら承知しないわよ!』

 

 

冥華『男を見せなさいよ!女を守るのは、男の役目なんだから!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『あぁ……行ってくるっ……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決意の篭められた瞳で道を阻む結界を真っすぐ見据え、螺旋を描くエネルギーに包まれた右腕を奥へ奥へと押し込んでいく。

 

 

押し通ろうとする力と押し返そうとする力が反発し、辺りには巨大な火花が蛇のような生物的な動きで飛び散っていた。

 

 

『く、はははははははははははは!!馬鹿の一つ覚えとはこの事だなぁ?!まだ自らの無力さを認められんか?!』

 

 

姫「零っ……!」

 

 

白き異形は絶対の壁に全力でぶつかり合うDサレナの姿を愉快げに高笑い、その傍らには姫が不安な表情でその光景を見つめていた。そしてその姿を結界越しに見たDサレナは自然と拳に力が入り、火花の激しさもより一層強くなっていく。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!―

 

 

Dサレナ『ッ!邪魔をするなっ……俺はっ……アイツをっ……!!』

 

 

右腕のアーマーに亀裂が走り、粉々に砕け、右腕が血を噴き出しながら大きく弾かれた。

 

 

それでも残った左腕で結界を掴んで、後ろへと吹っ飛ばされ掛けた上体を辛うじて保ち、赤い粘膜に包まれた右手を限界まで固く握り締め、結界の奥を睨みつけながら――――

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『アイツをっ……咲夜を!!迎えに行くんだああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォッ!!という轟音と共に、赤い拳が空気を斬り裂き、再び壁に突き刺さる。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

その怒号に呼応するかの様に、黒月零の"右目が紫色へと変化"した。

 

 

 

 

 

 

―バリイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!!!―

 

 

『……ッ?!な、に?!』

 

 

 

戸惑いの声を上げたのは、今まで愉快げに笑っていたフォーティンブラスだった。そんな彼が信じられないように見つめる先には無数の破片……結界だった破片に包まれながら、結界内へと身体を投げ出すDサレナの姿があった。

 

 

まさかあの結界を破られるとは思っていなかったフォーティンブラスは想定外の展開に思わず後退りし、そんなフォーティンブラスの姿を捉えるようにDサレナは顔を上げ、紫色に輝く瞳をぎらつかせた。

 

 

『ッ?!チィ!来い桜ノ神!!』

 

 

その瞳から何かを感じ取ったのか、フォーティンブラスは傍らにいた姫の腕を掴んでブリッジを後にしようとする。だが、姫はそれに逆らうようにその場に踏み止まった。

 

 

『ッ?!貴様!!』

 

 

姫「嫌だっ……私はもう、彼等を殺そうとしたお前に従わない!私は……!!」

 

 

『コイツッ……何処までも我に逆らうかぁ!!』

 

 

姫「っ?!」

 

 

自分に従わない姫に完全にキレ、フォーティンブラスは姫を殴ろうと右腕を振り上げた。それを目にした姫は涙ぐみながら顔を反らし、次に来る痛みに耐えようと歯を食いしばった。その時……

 

 

 

 

 

 

―ガッシャアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

フォーティンブラスが姫を殴ろうとした瞬間、それと同時にブリッジのガラスが悲鳴を上げながら破裂し、その奥からピンク色のライダー……Dサレナが血塗れの右拳を振り上げながら、背中のスラスターを全開にして突っ込んできており、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『ソイツに―――!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「れ――?!」

 

 

『き、貴さっ―――?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dサレナ『触るなああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バキイィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガッ……グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァアーーーーーーーっっ?!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴンッ!とDサレナの拳がフォーティンブラスの鼻っ柱に突き刺さった。フォーティンブラスの身体が数十メートルも飛んで壁に激突し、Dサレナも格好悪く床を転がりながらサレナからディケイド、そして変身が解除されて血まみれの零に戻り地面に倒れたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして同じ頃、霊山近くの山の頂上では、黒いスーツの青年……慎二が時の方舟で行われているライダーと幻魔達の戦いを観戦していた。そして慎二は時の方舟に視線を向け、閉ざしていた口を僅かに開き……

 

 

慎二「――覚醒率51%……第二形態へ移行……フフ、フフフフッ……」

 

 

淡々とした口調でそう呟くと、慎二は不気味な笑みを浮かべながら時の方舟を見上げていたのであった……

 

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑯

 

―時の方舟・ブリッジ―

 

 

零「ぁ……くっ……は……」

 

 

決死の突貫によって何とか方舟のブリッジへの侵入に成功した零。だがその体は此処に辿り着くまでの激戦によって傷だらけとなり、右腕はズタズタ、胸の傷も開いて出血が酷かった。

 

 

姫「零ッ!!」

 

 

零に殴り飛ばされたフォーティンブラスを見て唖然としていた姫はそんな零の姿を見て一目散に走り出し、零の身体を抱き寄せていく。

 

 

零「っ……咲夜……か……?」

 

 

姫「あぁ!あぁ私だ!しっかりしろ!」

 

 

零「……そう、か……ちょっとボロボロだが……無事みたい……だな……良かった……」

 

 

姫「良い訳あるか!!あんな無茶してっ、こんな、こんな傷だらけになって……君は本物の馬鹿か?!もし死んでたらどうするつもりだったんだっ?!」

 

 

安心したように笑みをこぼす零に思わず怒鳴り声を荒げる姫。昨日フォーティンブラスに受けた傷が癒えぬまま、あれだけ数の幻魔達を相手にしながら此処まで辿り着いたのだ。常識的に考えてもありえない無茶をして見せた彼に流石の姫も怒りを隠せないのだが、零は何故か微かに笑みを浮かべたままだ。

 

 

姫「なにを笑ってるんだっ……私は今怒ってっ……!」

 

 

零「―――いや……それは分かってるんだが……何と言うか……」

 

 

怒鳴る姫を見て今度は苦笑を浮かべ、零は少し顔を俯かせながらポツリと呟く。

 

 

零「何と言うか……お前にもう会えないんじゃないかって思ってたから……また声が聞けて……少し安心した……」

 

 

姫「ッ!っ……馬鹿者がっ……」

 

 

そんな場違いな事を告げた零に姫もまた複雑な表情で罵倒の言葉を口にし、零はそんな姫を見て含み笑いを浮かべた。が、その時零に殴り飛ばされていたフォーティンブラスが立ち上がり尋常じゃないほどの殺気を放ってきた。

 

 

『貴様あぁ!!たかが!!たかが蟲の分際でぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!!』

 

 

零「っ……騒がしい奴め……少しは休ませてくれても良いだろうに……」

 

 

殺気を放つフォーティンブラスを見て零はゆっくりと上体を起こし、口元を伝う血を拭いながらフォーティンブラスを見つめた。

 

 

零「だが……これで少しは分かったんじゃないか?人間はお前が思っているより、ずっと強い生き物だってことが……」

 

 

『黙れえぇ!何が人間だ!貴様等は所詮弱くて薄汚い最低な存在!過ちを繰り返し!その度に世界を汚す!そんな貴様等がこの世界に存在する価値等ない!!』

 

 

フォーティンブラスは怒りを露にし叫ぶように声を荒げる。だが……

 

 

零「……成る程……くだらないくだらないとは思っていたが……本当にくだらん奴だ……」

 

 

『な、なんだと…?!』

 

 

零は呆れた様子で溜め息を吐きながらふらついて立ち上がり、そんな態度を見せる零にフォーティンブラスは殺意を見せる。

 

 

零「確かに人間は愚かだ。欲望に強く、過ちを犯し、その過ちに気付かず更なる悲劇を呼び起こし、挫折して前を見る事に恐怖を感じる時だってある……」

 

 

『そうだ!そうやって貴様等は……!』

 

 

零「だがな……そんな人間を変える事が出来るのは、結局は人間しかいないんだよ……人は独りじゃ弱い。だけど傍に誰かがいてくれて、手を差し延べてくれる他人がいる限り、人はそこから立ち上がって変わる事が出来る……自分でも気付けない過ちを正してくれるのは、自分を思ってくれる誰かなんだ……!」

 

 

零は真剣な目付きでフォーティンブラスを見据えながらそう叫び、背後に立つ姫に視線を向けていく。

 

 

零「コイツもかつてはそうだった……独りで皆を救おうとして、だけど間違いに気付けず、その果てで悲劇を生んでしまった……誰かが傍にいて、間違いに気づいて正してくれる人がいてくれれば、もしかしたらそんな悲劇は起こらなかったかもしれない……」

 

 

姫「…………」

 

 

零は姫の目を見つめながらそう強く語り、姫は黙って零の言葉に耳を傾けていく。そして零は姫からフォーティンブラスへと視線を戻し、視線を鋭くさせながら口を開いた。

 

 

零「お前の言う通り、人間は愚かな存在だ………愚かだから、過ちを正して一緒に歩いてくれる誰かが必要なんだ!そうして互いに支え合ってきたから、人間は此処まで成長して来れた!それを否定する権利なんて、お前にはない!」

 

 

『貴様ぁ……!』

 

 

零「そして此処にいる咲夜は、お前とは違う!コイツは人間に裏切られ、傷付けられても、それでも自分を犠牲にしてこの世界の人々を守ろうとした!コイツが誰かを守る為に戦うというなら、俺はコイツを守る為に戦う!もう間違えないように……道を見失わないように……俺が傍で支える!」

 

 

姫「零……」

 

 

姫は零の言葉を聞き、その瞳に強い決意を宿して深く頷きフォーティンブラスを見据えていく。そしてそれを見た零も笑みを浮かべながら残った左腕でディケイドライバーを装着し、ディケイドのカードを取り出して構えた。

 

 

『何なんだっ……貴様一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ。憶えておけ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

零は決め台詞を叫びながらバックルへとカードを装填してディケイドに変身し、左腰のライドブッカーをSモードに切り替えてフォーティンブラスと対峙していく。

 

 

『ッ!なにが傍で支えるだ……たかが蟲ごときが!!神に逆らう事がどれほど恐ろしいか、その目に刻むがいい!!』

 

 

殺意を剥き出しにして叫ぶと共にフォーティンブラスが右腕を掲げると、三人の周りに無数のモニター……桜ノ町の映像が映し出されたモニターが出現していく。

 

 

そしてそれと同時に映像に映し出された桜ノ町の周りに次々と捩れが発生していき、その中から先程零達を苦しめた巨大な物体達……百隻を越える数の艦隊が現れ、更に戦艦から下りてきた数万以上の幻魔達が町を襲い始めたのだ。

 

 

姫「こ、コレは……?!」

 

 

『この世界の人々を守るとほざいたな?ならば見せてみろ!あれだけの数を相手にして、彼処にいる蟲共を守り切れるかなぁ?ふっ、ははははははははははははははは!!!!』

 

 

ディケイド『貴様っ!!』

 

 

彼処にはまだ多くの怪我人や町の人達がいるというのに、あれだけの幻魔に攻められればどれだけの人間が犠牲になるか分からない。それを幻魔達に命じて愉快げに笑うフォーティンブラスにディケイドは怒りを隠せず殴り掛かろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――残念だが、お前の思い通りに事は運ばせねぇぜ。幻魔神?』

 

 

 

ディケイド『……は?』

 

 

『ふっははははははは!!……あ……?』

 

 

 

不意に三人のモノではない青年の声がその場に響き渡り、ディケイドは思わず足を止め、フォーティンブラスは笑うのを止めてその声が聞こえてきた方へと振り返った。其処にはモニターの一つに仮面ライダー……幸助が変身したメモリーの顔が映し出されていた。

 

 

『なっ、貴様は?!』

 

 

ディケイド『幸助?!』

 

 

メモリー『よう零、相変わらず無茶やってんな?それに幻魔神……堕神の癖に粋がった事してるじゃねえか?』

 

 

『ッ!貴様ぁぁぁぁぁ……異界の神が何の用だっ?!部外者の癖してこの世界に関与するなどっ……!!』

 

 

メモリー『それはお前にも言えた事だ。幻魔界の神の分際でこの世界に深く関わって良いと思ってるのか?更に他世界の神が司る世界に幻魔を野放し、桜ノ神にまで手を出した……お前の罪は最早見逃す事は出来んレベルだ』

 

 

『ハッ!何が罪か?!我は全知全能の神!!我が行いは全て世界の意思!!貴様のような蟲から神になった程度の紛い物風情の神が、純粋な神である我に罰など与えられる物か!!』

 

 

メモリー『……とことん哀れな奴だ……まあいい……本当なら俺がお前を断罪する予定だったが、どうやら俺が手を出す必要はなさそうだ。せいぜいお前の邪魔だけでもさせてもらうさ』

 

 

『なんだと?―ドッガアァァァァァァァアンッ!!―……ッ?!』

 

 

呆れたように溜め息を吐きながらそう告げたメモリーに思わず聞き返そうとするフォーティンブラスだが、その時他のモニターに映る町に爆発が発生し、三人はそのモニターに視線を向けていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―桜ノ町・ショッピングモール―

 

 

 

『フフフ、漸く私達が動き出す時が来たわね……』

 

 

同時刻、桜ノ町上空に展開された艦隊から無数の幻魔が町へと降り立ち、ショッピングモールでは高等幻魔……ベガドンナの指揮で町に攻め入ろうとしていた。

 

 

『さあて、存分に暴れ回りなさい幻魔達よ!この町の蟲共を一匹残らず皆殺しにしなさい!!』

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

前回の被害で瓦礫の町と化したショッピングモールにベガドンナの声が高らかに響き渡り、それに従うように無数の幻魔達が町の人々を皆殺しにしようと動き出した。だが……

 

 

 

 

 

 

『―――おぉっと、何処へ行こうって言うんだ?幻魔界からの来訪者さん達?』

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

幻魔達の前に四人の戦士が立ち塞がり、幻魔達は一斉に足を止めて四人に威嚇するように不気味な雄叫びを上げていく。しかし四人はそれに動じず、四人の戦士……紲那とゼウスが変身したディジョブドとカイザ、そして黄色い鎧のライダーと黒と白のボディのライダー……雷が変身した雷牙と雷火が変身した『クラスト』は余裕のある笑みで幻魔達を睨み返していた。

 

 

『アンタ達は……?』

 

 

クラスト『悪いな高等幻魔さん?此処から先に通す訳には行かないんだよ』

 

 

『ッ?!その声……アンタ、神社で私の邪魔をした蟲か?!』

 

 

クラスト『大・正・解……そういう事だから分かるだろう?お前達じゃ俺達には勝てない……素直に負けを認めて兵を引き上げてくれないか?』

 

 

『負けを認める…?ハッ!冗談じゃないわ!それは私の台詞よ!アンタ達こそ、素直に負けを認めて土下座でもすればぁ?そうすれば見逃してやらない事もないわよ?』

 

 

カイザ『……やれやれ……状況がまるっきし呑み込めていないようだな……』

 

 

ディジョブド『全くだ……他人の心配より、自分の身を心配したらどうだ?』

 

 

『……何ですって?』

 

 

呆れた様子で溜め息を吐くライダー達に機嫌を悪くしたのか、ベガドンナは鋭い視線でライダー達を睨みつけるが、雷牙はそれに怯まず前に出ていく。

 

 

雷牙『まだ分かっていないようだから率直に言わせてもらうが……その程度の数で俺達を倒すのは不可能だ。どうやってもな?』

 

 

『ッ!!生意気な屑共がっ……だったら今すぐその口を黙らせてやるわ!!行きなさい幻魔達よ!!』

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

雷牙の挑発的な言葉で完全に切れたベガドンナは一斉に幻魔達を四人に放ち、クラスト達はそれぞれ身構えて幻魔の大群に突っ込んでいったのであった。

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー1

 

 

―桜ノ町・ショッピングモール―

 

 

『そらそらそらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!』

 

 

―シュバババババババババババババッ!!―

 

 

ディジョブド『あっぶなっ?!』

 

 

クラスト『ちぃ!』

 

 

時の方舟内でディケイドとフォーティンブラスが戦いを始めた頃、ショッピングモールではクラスト達がベガンドナ相手に激戦を繰り広げていた。ベガンドナは素早い身のこなしで四人の攻撃を回避し、攻撃した後に出来る隙を付いて無数の毒のクナイを投げ付けるなど、四人はベガンドナの動きに翻弄されていた。

 

 

雷牙『くそっ!いい加減にジッとしてろこの女!!』

 

 

『そう言われて「はい、分かりました」なんて言うと思う?ハァッ!!』

 

 

思わず毒づく雷牙に軽口を叩くと、ベガンドナは空中で回転しながらなんといきなり二人に分身し、今度は五百本を超える数のクナイを投擲していく。それを見た四人はギョッとなりながらも武器を使ってクナイを叩き落とし、バックステップで後退していく。

 

 

ディジョブド『クッ!原作と似てるのは名前だけかと思ってたけど、戦い方までまんま同じだな、特に毒を使うなんて趣味悪いところとか……』

 

 

カイザ『全く、過激な女性のエスコートはあまり得意じゃないんだがなっ』

 

 

クラスト『キザ寒いこと言ってる場合か馬鹿っ!来るぞ!!』

 

 

クラストが四人に呼び掛けると共に、二体のベガンドナが短刀を構えながら四人の真上へと飛び上がった。四人はそれを見てすぐさま左右に別れると、ベガンドナ達が振り下ろした短刀がコンクリートの地面に突き刺さり、地面が粉砕した。

 

 

雷牙『っ……加えて外見によらずあの怪力っ……気を抜いたら一撃でやられそうだな……』

 

 

カイザ『しかも分身されてるからそれも二倍だ。さて……どうする?』

 

 

カイザブレイガンを構え直し、ユラリと立ち上がって背中合わせに睨みつけてくるベガンドナを見据えながら三人に問うカイザ。それに対し、三人は仮面の下でニヤリと笑いながら……

 

 

ディジョブド『どうするって……』

 

 

雷牙『そんなの決まってる……』

 

 

クラスト『何人増えようが、纏めて叩き潰すのみ!!』

 

 

クライシス『……酷い作戦ねぇ……』

 

 

カイザ『確かにな……が、嫌いではない!!』

 

 

カイザがそう叫ぶと共に、ディジョブドが先陣切ってベガンドナへと飛び出した。その手には三枚のカードが握られており、その内の一枚をディジョブドライバーへと投げ入れスライドさせた。

 

 

ジョブ『ジョブチェンジ!鬼武者!』

 

 

電子音声が響くと共にディジョブドの姿が前回と同様の鬼武者へと変化し、D鬼武者は更に二枚のカードをバックルへと装填してスライドさせた。

 

 

ジョブ『ライセンス!疾風刀!戦術殻・風!』

 

 

D鬼武者『風よ此処に!!でえええぇぇぇぇぇぇやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!!』

 

 

―ビュオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオッ!!!―

 

 

『なっ?!ウ、ウアアァッ?!』

 

 

鳴り響く電子音声と同時にD鬼武者は手に一本の薙刀……疾風刀が現れたと共に、疾風刀を振り回しながらその場でコマのように回転していく。それと共にD鬼武者を中心に巨大な竜巻が発生してベガンドナ達へと放たれ、ベガンドナ達は竜巻に巻き込まれて上空へと投げ出されていった。

 

 

『ガアァァァァァァッ!!グウゥッ!!だけど!!』

 

 

『こんなものでぇ!!』

 

 

竜巻に斬り刻まれたせいか全身が切り傷でボロボロだが、ベガンドナ達はそれに構わず空中で態勢を立て直して再びクナイを放とうと投擲の構えを取った。だが……

 

 

―バシュンッバシュンッ!―

 

 

『?!なっ?!』

 

 

『何っ?!』

 

 

投擲を放とうとしたベガンドナ達に突如真下から撃ち出された黄色い銃弾が直撃し、二人の動きを封じたのであった。ベガンドナ達が動けない身体に驚愕してると、銃弾を放った本人……カイザはカイザブレイガンを構えながら上空のベガンドナ達を見据え……

 

 

カイザ『ハアァァァァァァ……でえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!』

 

 

―シュンッ……ズバアァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『アガァッ?!』

 

 

『グアァッ?!』

 

 

カイザが勢いよくアスファルトの地面を蹴ってベガンドナ達へと飛んだ瞬間、カイザは黄色い閃光と化して目にも止まらぬ速さでベガンドナ達へと突き進み、そのままカイザブレイガンですれ違い様にベガンドナ達を斬り裂いたのであった。

 

 

そしてカイザの必殺技を受けたベガンドナ達は地上に叩き付けられて地面を転がり、そのまま元の一人へと一体化していった。

 

 

『あ、がっ……馬鹿な……この私がっ……たかが数匹の蟲なんかにぃっ……』

 

 

この自分があんな奴らに押されてる。その事実が信じられないベガンドナは全身から煙を立たせてふらつきながら再び立ち上がろうとした、その時……

 

 

 

 

 

『FINAL ATTACK!』

 

『FINALSPELL:RA・RA・RA・RAIGA!』

 

 

 

 

 

『…っ?!』

 

 

頭上から再び電子音声が鳴り響き、ベガンドナはすぐさま空を見上げた。すると其処には二人のライダー、クラストと雷牙がベガンドナに向けて跳び蹴りを放つ姿があった。それを見たベガンドナはすぐに回避行動を取ろうと慌てて動き出すが、それは既に間に合わない。そして……

 

 

クラスト『オリャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

雷牙『セアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『げ、幻魔神さっ―ドグオオオオオオオオオオオンッ!!!―ギッ?!ギャアァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

クラストと雷牙のライダーキックがベガンドナに炸裂し、ベガンドナはそれを受けて数十メートル以上吹っ飛びながら爆発し、跡形も残さずに散っていったのであった。そしてクラストと雷牙は着地してそれを確認すると一息吐き、そんな二人の下にディジョブドとカイザが駆け寄ってきた。

 

 

カイザ『よし、これで高等幻魔の一角は崩したな』

 

 

雷牙『ああ。だが……』

 

 

ベガンドナを倒して一安心……とは言えず、四人は顔を上げて空を仰いだ。其処には町の上空を飛ぶ戦艦達から無数の幻魔達が降下してくる姿があり、その数は未だに増え続けていた。

 

 

ディジョブド『……はぁ。まだまだ終わりそうにないなぁ……』

 

 

クラスト『ま、嘆いてたって仕方ないさ……んじゃ、いくぜ!!』

 

 

『おう!!』

 

 

クラストの掛け声に応えるようにカイザ達も武器を構え直し、ウジャウジャと増えながら向かってくる幻魔の大群の中へと突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―桜ノ町・商店街―

 

 

 

エグザムM『おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 

アナザーアギト『オラアァッ!!』

 

 

その頃、商店街ではガルガントを相手にエグザム達が奮闘している最中だった。ガルガントを中心に四方から次々と飛び掛かる四人だが、ガルガントは両刃剣を使った鋭い格闘術でこれらを打ち負かし、多勢に無勢でありながらも四人を圧倒していた。

 

 

『――成る程、動きは悪くない。力、速さ、防御も。戦場に立つにしては出来上がっているだろうが……』

 

 

ディライトC『ハッ!!』

 

 

ディガイドC『デェアァッ!!』

 

 

ポツポツと呟きながら四人の攻撃を軽く受け流すガルガントだが、その背後からディライトとディガイドが迫ってライトブッカーと拳を振りかざしていた。しかし……

 

 

 

 

 

 

『――所詮【悪くはない】だけだ……』

 

 

 

ディライトC『――ッ?!なっ―バキイィィッ!!―ゴアァッ?!』

 

 

ディガイドC『っ?!勇っ―バキイィィッ!!―ガッ?!』

 

 

 

真横。二人が息を呑む前に、既にガルガントはディライトとディガイドの間に飛び込んでいた。消えた。そう判断するしか出来ない速度で懐深くへ潜り込んだガルガントは、二人の頬を横から殴るように両肘を放ち、二人はそのままノーバウンドで吹っ飛び建物の壁へと埋もれてしまった。

 

 

エグザムM『勇二っ?!海っ!!』

 

 

『人の心配をしてる場合か』

 

 

言うや否や、ガルガントは既にエグザムの背後に回り込み、エグザムの背中に手を押し当て衝撃波を放った。重圧にも似たそれを至近距離から受けたエグザムはジェット機のように一瞬で吹っ飛び、他の二人と同様に建物の壁へと叩き付けられてしまった。

 

 

アナザーアギト『晃彦?!貴様っ!!』

 

 

アナザーアギトは壁に叩き付けられたエグザムを見てすぐさまガルガントに飛び込み、そのままガルガントの首元に渾身の蹴りを打ち込んだ。だが……

 

 

『――温い』

 

 

アナザーアギト『?!なっ―ガキイィィィィィインッ!!―ガッ?!』

 

 

アナザーアギトの渾身を込めた蹴りを打ち込まれようとも、ガルガントは眉一つ動かさずにそう告げながらガルブレードを振り上げた。アナザーアギトはそれに驚愕しつつも無理矢理態勢を変えて刃の直撃を避けるが、それでも肩から出血しながらガルガントから距離を離した。

 

 

『――何をしているのだ、お前等は?』

 

 

ガルガントは険しい口調と共にふらつきながら立ち上がる四人を見回し、目の前で肩を抑えるアナザーアギトにガルブレードの切っ先を向けた。

 

 

『俺はお遊戯をしに来たのではない……本気を出せ。それとも、これが戦う相手に対しての貴様等の流儀なのか?』

 

 

アナザーアギト『っ……言ってくれるな……』

 

 

飽くまでも武人として戦うことを望むのか、幻魔とは思えぬ力強い眼差しで見据えてくるガルガント。そんな彼から言葉では言い表せない威圧感を感じ取ったのか、四人は額から冷や汗を流しながらそれぞれ構えていく。

 

 

エグザムM『(奴を相手に正面からの打ち合いは禁物か……ならば、全力極限の一撃を決めるしかない!)』

 

 

ディライトC『(手加減して勝てる相手でも、本気を出して易々と勝てるほど甘くなそうだなっ……一か八か……コイツでっ……)』

 

 

ディガイドC『(勇二はアレを使う気か……なら、俺も全力の一撃をぶつけて奴の注意を引くのみ!)』

 

 

アナザーアギト『(ただの幻魔と思って油断したのは間違いだったか……此処は心象世界じゃない……暴走の危険もあるが……この姿の全力で勝てるほど、奴も甘くはないかっ……)』

 

 

各々、ガルガントと一定の距離を保ちながらそれぞれ心の中で葛藤するライダー達。そして決意したのか、エグザムは三枚のカードを取り出し、ディライトは一本のガイアメモリを、ディガイドは一枚のカードを取り出し、アナザーアギトは変身を解いて龍弥に戻ると、腰に漆黒のオルタリングを出現させた。

 

 

『そうだ、それで良い……さあ来い。異世界の戦士達よ!!』

 

 

龍弥「あぁ……お望み通りにしてやるよ!変身ッ!」

 

 

『XTREME DELITE!』

 

 

ディガイドC『こっちもスペシャル大サービス!』

 

 

『ATTACKRIDE:GEKIJOUBAN!』

 

 

龍弥は黒いオルタリングの両腰の箇所を叩く様に押すと、背中から悪魔の羽を生やしたアギト……『アギト・ディアブロフォーム』へと変身し、ディライトはドライバーにガイアメモリをインサートし、緑の右半身と黒の右半身の間に透明な銀色のラインが取り入れられた姿……『ディライト・NEXTコンプリートフォーム』に変わり、ディガイドはドライバーを上空に向けて撃ち出すと左右背後にディガイドライダーズを召喚していった。

 

 

『……なるほど……それが貴様等の本気か……ならばこちらも、本気を出させてもらおう』

 

 

それぞれ戦闘態勢に入ったアギト達を見てガルガントは満足そうに頷き、右手に持つガルブレードを水平に構えた。それを見た四人も僅かに身構えると、ディガイドが先陣を切るようにカードをドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DE-GUIDE!』

 

 

ディガイドC『フッ!ハアァッ!!』

 

 

『セヤアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

電子音声が響くと共にディガイドはドライバーの銃口をガルガントに向けて強化ディメンジョンシュートを発射し、それに続くようにディガイドライダーズがガルガントへと一斉に必殺技を放っていった。しかし、ガルガントは剣を水平に構えたまま瞳をつむり……

 

 

 

 

 

 

『――幻魔剣、一閃ッ!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『?!グ、ウグアァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディガイドC『?!ぐっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっ?!!』

 

 

誰にも聞き取れない呟きと共に、ガルガントは振り向き様に剣を真横一閃に振るい、その一秒後にガルガントに必殺技を打ち込もうとしたディガイドライダーズの身体を真っ二つにしてしまい、更にディガイドまでもその余波を受けて吹き飛ばされ通常形態に戻ってしまったのだ。

 

 

その光景を目にしたアギトはすぐにガルガントまでの距離を詰めて拳を放つが、ガルガントは空いた左手でその重い一撃を受け止め、その直後に百メートル近くのビルの窓が粉々に粉砕された。

 

 

アギトD『チィ?!受け止めた?!』

 

 

『……良い右手だ……今の一撃、我が全身に響き渡ったぞ』

 

 

グググッ!!と、アギトの右手を受け止めながら何処となく歓喜を含んだ笑みを浮かべるガルガント。その直後……

 

 

『MAXIMUM!COUNT!MACH!MAXIMUM COUNT!』

 

『XTREME MAXIMUMDRIVE!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DELITE!』

 

 

エグザムM『セェアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ディライトNC『ハアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

無数の電子音声が響くと共に、アギトの頭上を飛び越えるようにエグザムとディライトがダブルライダーキックを放とうとしていた。だが……

 

 

 

 

 

背後。

 

 

 

 

 

『ッ?!』

 

 

三人が息を呑む前に、既にガルガントは剣を振るった態勢でエグザムとディライトの背後に移動していた。不意に支えを失ったアギトはそのままバランスを崩し、エグザムとディライトが背後に振り返ろうとした、が……

 

 

 

 

 

 

『――幻魔剣、二閃……』

 

 

―ザュウゥッ!スバアァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『な、グアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

ガルガントの呟きと共に、エグザムとディライトの胸と肩から大量の火花と血が噴き出し、ディライトはそのまま地上に落下して通常形態へと戻ってしまった。

 

 

エグザムM『ぐぅ!コイツっ……まさかすれ違い様に一瞬でっ……?!』

 

 

ディライト『クソッ……!地球の本棚で検索した時には、今の攻撃が有効だったはずなのにっ……!』

 

 

『?地球の本棚……あぁ、無限の知識を秘めたという本棚の事か……確かにアレは便利なものだ……』

 

 

だが、とガルガントは剣を軽く振るい、地面に倒れるエグザムとディライトの間を抜けてアギトと対峙していく。

 

 

『忘れるな少年。あんな物はただの知識に過ぎん……知識は所詮知識。そのようなくだらぬ物、現実でそれ以上の力で覆せばどうとでもなる……』

 

 

つまりこの幻魔は、地球の本棚の知識以上の力を発揮してそれを覆したという事か?余りにも目茶苦茶な事を告げるガルガントに四人も戸惑いを隠せないが、ガルガントはそんな反応に構わずアギトにガルブレードを向けていき、刃を向けられたアギトは構えを取ってガルガントを見据え、そして……

 

 

―バッ!!―

 

 

アギトD『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 

『オオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

―ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォンッ!!!!―

 

 

双方同時に相手に向かって飛び出し、互いに拳と剣を勢いよくはなって商店街の中心点で激突し、激突した地点から数十メートル先の地面が瓦礫と化した。

 

 

アギトD『ダァッ!ハッ!らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

『フンッ!オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

拳と剣。その二つが交わる度に辺りに巨大な衝撃波が巻き起こり、地面が瓦礫と共に吹き飛び、近くのビルはひび割れ、拳と剣の衝突音は空すらも突き抜ける。そしてガルガントはアギトが放った右拳を身を屈めて回避し、ガルブレードの腰の後ろに下げながら……

 

 

『――幻魔剣、三閃!!』

 

 

―ズバババァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

アギトD『ッ?!―ズシャアァッ!!―グウゥッ?!』

 

 

ガルガントは雄叫びと共にガルブレードを振り抜き、三つの見えない斬撃が連続で襲い掛かった。それを目で追えないアギトは直感のままに体を反らすが、かわせたのは初撃のみ。

直後に襲い掛かった二つの斬撃がアギトの胴体と肩を斬り裂いて血を噴き出し、アギトは肩を抑えながらガルガントから距離を離した。

 

 

『ほう……あれを一撃かわしたか……大した者だな、貴様も』

 

 

アギトD『っ……そいつはどうも……だが、長期戦になるとこっちがヤバいんでね……そろそろ決めさせてもらうぞ……』

 

 

それは勝負の流れうんぬんより、胸の内から波のように迫り来る感覚を感じたからだ。恐らく暴走が近いという予兆なのかもしれない。軽く予想を付けながら額から冷や汗を流し、アギトは身を屈めてガルガントに構えていく。ガルガントもそんなアギトから何かを感じたのか、同じように剣を構えた。

 

 

アギトD『…………』

 

 

『…………』

 

 

言葉はない。呼吸の音すら聞こえない無音の世界で、二人は自分の敵を見据えて僅かに距離を詰めた。そして双方が再び一歩踏み出した瞬間……

 

 

 

 

 

 

アギトD『ハアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

 

 

 

 

合図はなかった。ただ本能で感じたままに双方が飛び出し、アギトは渾身を篭めた右ストレートを、ガルガントは全力の一撃を乗せた剣を真っ向から振り下ろしていった。が……

 

 

―……ガクッ!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

アギトD『っ!何?!』

 

 

剣を真上から振り下ろそうとしたガルガントの身体が膝からガクリと傾き、バランスを崩してしまったのだ。それを見たアギトは驚愕の表情を浮かべるが、既に放たれた拳は止められず……

 

 

―グシャアァァッ!!!―

 

 

『グッ……?!ガッ……』

 

 

……アギトの右拳はガルガントの腹部に突き刺さり、そのまま腹を貫通したのであった。腹の中に拳を突き刺されたガルガントは口から吐血し、アギトはそんなガルガントを呆然と見上げていく。

 

 

アギトD『お、お前……』

 

 

『……フッ……やはり……まだこちらの世界に、身体が慣れてなかったようだな……決着を前に隙を生むなど……迂闊だった……』

 

 

カタンッ!と、ガルガントは右手にぶら下げていた剣を力無く地面に落とした。アギトはガルガントの腹に拳を突き刺したまま呆然となり、ガルガントは口から血を流しながら穏やかに微笑み、アギトの拳を腹から抜かせて後退りした。

 

 

『流石は、異世界の戦士達…………見事…………だ…………』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

心残りを感じつつも、何処か満足げに笑みを浮かべた瞬間、ガルガントは爆発を起こし消滅してしまった。それを見たエグザム達はふらつきながら立ち上がってアギトへと近付いていき、アギトは龍弥に戻って自分の拳を見下ろした。

 

 

龍弥「……くそっ……何なんだあれは……あんな決着なんて……!」

 

 

ディライト『……龍弥……』

 

 

納得がいかない。龍弥の今の表情を露わすならそれが一番合うだろう。幻魔とは言っても一介の武人を相手に戦い、互いの誇りを掛けて全力を放とうとした結果が、不良のアクシデントで攻撃を止めてしまった敵を倒したという結果だけだ。それが納得いかない龍弥が奥歯を強く噛み締めてると……

 

 

『シャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ディガイド『っ!幻魔?!』

 

 

商店街の奥から幻魔の大群が現れ、奇声をあげながら向かってきていたのだ。

 

 

エグザムM『クソッ!構えろ龍弥!来るぞ!』

 

 

龍弥「っ……あぁ、分かってる!」

 

 

エグザムに呼び掛けられて幻魔の大群へと目を向けると、龍弥は再びアナザーアギトに変身してエグザム達と共に幻魔達へと向かっていった。

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー2

 

 

―時の方舟・上空―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

冥華『ウジャウジャとしつこいっ!!鬱陶しいのよっ!!』

 

 

鬼王『炎龍剣!!斬り裂けええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 

 

エクスL『クラッグバスター!!粉塵爆砕陣!!バスター・オブ・ジャッジメント!!具現【インバディ】!!サイ・フラッシュ!!』

 

 

シュロウガ『ランブリング・デスディペル!!ハアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!』

 

 

時の方舟周辺。其処には、数万を超える数の幻魔達を相手に全ての力と技を繰り出して戦うエクス達の姿があった。そして時の方舟の背後に存在するエンジン部の方では……

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

『ウガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!』

 

 

アテナ「運が無いわね……今の私はかなり不機嫌よ……ついでに、このふざけた船も空間転移出来ないように徹底的に壊してやるわっ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!チュドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

静かな怒りを見せながら向かってくる幻魔達を端から叩き潰し、方舟が空間転移に必要なエンジンを破壊し尽くすアテナの姿があった。そして町を攻撃する戦艦の一隻では……

 

 

―ズガアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

Typeスカル『何処だぁ?!あの堕神は何処にいるううううううううううううううううッ?!!!』

 

 

一隻の戦艦の内部。其処には背後に阿修羅を浮かべながら鬼のように幻魔の大群を片付けていくカイト……『仮面ライダーシーフ・Typeスカル』の姿があり、Typeスカルは何かを探すように幻魔達を叩き潰しながら奥へと突き進んでいた。更に別の戦艦では……

 

 

―ドガシャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ギシッ?!』

 

 

『ギシャッ?!』

 

 

外でブレイブライナーと共に艦隊を沈めていたゼロライナーが一隻の戦艦の側面に激突して内部へと侵入し、ゼロライナーの内部から二人の戦士とイマジン……ゼロノスとデネブが出てきて幻魔達の前に立ちはだかった。

 

 

ゼロノス『さて、戦艦戦もそろそろ飽きてきてたし、お次は白兵戦での殴り込みだ!!いくぞデネブ!!』

 

 

デネブ『よしっ、俺も頑張るぞ~!!!』

 

 

ゼロノス&デネブ『最初に言っておく!!俺達はか~な~り強いッ!!!』

 

 

『キシイィィィィィッ……シャアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

二人が決め台詞を叫ぶと共に幻魔の大群はゼロノスとデネブへと突進していき、ゼロノスとデネブはそれぞれ構えて艦内の奥へと突き進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―桜ノ町・港―

 

 

同じ頃、桜ノ町の港からは魚類系の幻魔達が数百体も海から出現し、町を破壊する為に地上を目指して突き進んでいた。だが……

 

 

―シュウゥ……チュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!!―

 

 

『ウ、ウガアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!』

 

 

ディナイト『退け。大人しく下がるなら、俺も貴様等の背中は討たん。だがそれを承知の上で進むというなら……容赦はせんぞ!!』

 

 

港には一人のライダー……『ディナイト』が幻魔達を地上に上がらせまいと立ち塞がっていた。幻魔の大群はディナイトに向けて咆哮をあげながら港への進行を開始していき、ディナイトも武器を構えてそれを迎撃していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―孤児院『青空』―

 

 

―ズシャアァッ!!―

 

 

『ギギャアァッ?!』

 

 

クラウン『これで577体目、ですね』

 

 

そして孤児院・青空では、クラウンが無数の幻魔達を相手に防衛線を張りながら戦っていた。だが……

 

 

『キシイィィィィィィイッ!!』

 

 

クラウン『ふむ……ぱっと見、まだ百体以上はいますか。しかもまだ増えてるとなると、流石に私一人では限界が近いですかね?』

 

 

顎に手を添えるクラウンが見つめる先には、孤児院の入口だけでなく塀を超え、更に孤児院の周りにもまだまだ幻魔達が押し寄せてきていた。そしてクラウンが思考してる間に幻魔の大群は入口や塀を抜けてクラウンへと向かっていき、クラウンはすぐにナイフを取り出してそれを迎え撃とうとした。その時……

 

 

 

 

 

「でえやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 

『……?―ドガァッ!!―ギボアァッ?!』

 

 

クラウン『……ん?彼は?』

 

 

クラウンが幻魔達に迎撃しようとした瞬間、突如何処からか一人の少年が飛び込んできて幻魔の一体を蹴り飛ばしていったのだ。クラウンは突然現れた少年に疑問符を浮かべてると、孤児院の裏口の方からもう一人の少年が現れた。

 

 

「おい鍵っ!お前なに勝手に動いてんだっ?!」

 

 

鍵「っ!しょうがないだろ?!ほら見ろ!まだ建物の中に人や子供が残ってる!」

 

 

「知るかそんな事!お前もさっさとこの訳の分からん世界から出る方法を探せ!智大の奴に見付かる前に!」

 

 

鍵「へえ、いいのかなそんなこと言って?智大さんはコイツ等と戦ってこいって言ってたんたぞ?もし此処で逃げたことがばれれば、智大さんはお前のコアは砕くらしいぞ?アグニ」

 

 

アグニ「っ……ちっ!なら勝手にしろ!」

 

 

鍵と呼ばれた少年がもう一人の少年、アグニと呼ばれた少年に揺さ振りを掛けるように言うと、アグニは舌打ちしながら三枚のメダルを出して鍵に投げ渡した。そして鍵は三枚のメダルをキャッチすると、何処からか機械のようなものを取り出して腹部に当て、それと共に機械の端からベルトが現れ鍵の腰に巻き付きながら装着された。

 

 

クラウン『!あのベルト、それにあのメダルは……』

 

 

クラウンは鍵の腰に装着されたベルトを見て見覚えがあるように呟き、鍵はそれに気づかないままバックル部の窪みへと三枚のメダルをセットしてバックル部を水平から斜めに傾け、左腰のスキャナーのような機械を取り外してバックル内のメダルを左から斜めへとスキャンした。

 

 

鍵「――変身ッ!」

 

 

『SZAKU!BYAKO!SAIRYU!C・RO・SS!CROSS!C・RO・SS!』

 

 

奇妙な歌のような電子音声が響くと共に、鍵の周りを無数のメダルが包み込み、鍵の前に縦に並んだ三枚のメダルが鍵を包むとその姿を変えていった。すべての変身を終えたその姿は、鳥の翼を模した赤い仮面と丸みを帯びた黄色いボディ、青いラインが入った脚部……そう、これこそ鍵が変身する仮面ライダー――

 

 

クラウン『――トライズですか……また予想外な増援が現れましたね』

 

 

クラウンは鍵が変身したライダー……『トライズ』を見て興味深そうに頷きながら呟き、トライズは迫ってくる幻魔達を見据えながら腰から取り出した一本の剣……メダブレーダーに三枚の銀色のメダルを装填し、左腰のスキャナーを取り外してメダブレーダーの刀身をスキャンした。

 

 

『TRIPLE!SCANNING CHARGE!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にメダブレーダーの刀身が激しく輝いていき、トライズは幻魔達に向けてそれを構えていくと……

 

 

トライズ『ハアァァァァァ……セイヤアァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『ギィッ?!グッ……グガアアアアァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

トライズが斜め一閃にメダブレーダーを振るった瞬間、メダルブレーダーから放たれた斬撃が幻魔達を空間ごと真っ二つに斬り裂いたのである。そして真っ二つにされた空間は時間が逆行するように一瞬で戻り、それと共に幻魔達は悲鳴を上げながら爆発していった。

 

 

クラウン『ほお、なかなかやりますね。流石は智大氏が見込んだ少年……―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!―……ッ?!』

 

 

トライズ『な、何だ?!』

 

 

幻魔達を全滅させた瞬間、突如けたたましい轟音と共に地響きが発生して街が揺らぎ、トライズはアグニと共に慌てて孤児院の外へと出ると、市街地の方を見て唖然となった。何故なら……

 

 

トライズ『……な、なんだ……あれ……』

 

 

何故ならトライズ達の視線の先には、市街地の奥から津波のように押し寄せてくる巨大な波……いや、千は軽く越えている幻魔の大群の姿があったからだ。

 

 

アグニ「ちっ、数でこの町を押し潰すつもりか……」

 

 

トライズ『……アグニ……此処はアレだ、虫のコンボで行こう』

 

 

アグニ「っ!お前馬鹿かっ?!分かってるだろう?!コンボは危険だと――!」

 

 

トライズ『でもどっちにしたって、このままじゃ僕達も町ごと押し潰される!!だからお願いだ、アグニッ!!』

 

 

アグニ「っ……クソッ……どうなっても知らないからな?!」

 

 

俺は止めたぞ!と、アグニは軽く毒づきながら新たなメダルを三枚取り出してトライズへと投げ、トライズはそれを受け取るとベルトのバックルを水平に戻し、バックル部のメダルを全部抜き取って新たなメダルを三枚セットした。そしてトライズはバックルを斜めに傾けると、左腰のスキャナーを取り外してバックル内のメダルを斜めにスキャンした。

 

 

『KABUTO!SASORI!TONBO!KABU・SASS・TO-N!KASO-TO!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にトライズの頭部が青い複眼と一本の角を持ったカブトムシを連想させる仮面に、ボディはサソリを、脚部はトンボがモチーフになった姿へと変化していき、胸のサークルがカブト×サソリ×トンボの紋章に変化した姿……コンボの一つであるカソートコンボへとコンボチェンジしたのであった。

 

 

トライズKST『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

カソートコンボへと姿を変えたトライズを獣のような咆哮を上げると力強く身構えていき、迫り来る幻魔の大群を睨みつけながら勢いよく駆け出した。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュバッ!シュバッ!!シュバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ……!!!!!!!!―

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっ!!!!!!!!!!』

 

 

『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻魔の大群に向かって走り出したトライズは突如一人から二人、二人から十人、十人から五十人へと次々と分身していき、最終的には百人近くまで分身して千を超える幻魔の大群の中へと飛び込んでいったのだった。

 

 

クラウン『これはまた……凄まじい光景ですねぇ』

 

 

孤児院の屋根からその光景を見ていたクラウンも興味深いといった顔を浮かべていたが、孤児院の入口の方から再び幻魔達がじわじわと押し寄せ、それを尻目に見たクラウンは軽く溜め息を吐きながら屋根から飛び降りた。

 

 

クラウン『やれやれ、もう少し休ませてもらえないのでしょうかね?私は彼等のように活発な若者ではないのですよ?』

 

 

『グウゥゥッ!シャアアァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

クラウンの言葉を理解していないらしく、幻魔の大群は問答無用と言わんばかりにクラウンへと斬り掛かり、クラウンはやれやれと首を振った後にナイフを取り出して再び幻魔達へと投げ放っていった。

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー3

/桜ノ神の世界⑮ー決戦3]

 

 

―桜ノ町・公園―

 

 

一方、町の中心に位置する公園では信長と戦闘を開始したディエンド(ベル)達の姿があった。周りの幻魔達は三人の巧みな連携によって既に全滅してるが、異形の怪物と化した信長に圧され、三人は回避で精一杯という状況に置かれていた。

 

 

『ヌンッ!!』

 

 

―ドガシャアァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

ディエンド(ベル)『くッ!中々面倒ね、アイツ……!』

 

 

天海「確かにっ、私が以前戦った時とは比べ物にならない……以前とは違うとは良くいった物だ……」

 

 

アスファルトの地面すら簡単に粉々にしてしまう信長の一撃を見てそう呟くと、ディエンド(ベル)と天海はバックステップで後退していく。だがその時、そんな二人の間を何か……虎鬼が勢いよく追い抜いた。

 

 

天海「なっ?!待て鋼っ!迂闊に近付くなっ!」

 

 

虎鬼『このメラメラ野郎!俺が相手だぁーーっ!!』

 

 

真っ正面から信長へと突進していく虎鬼を見て静止を叫びを投げ掛ける天海だが、虎鬼はそれを聞かずに地を蹴って上空へと飛び上がり、両手にオーラのような物を集約させていき……

 

 

虎鬼『行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!炎気技・咆咆弾ッ!!』

 

 

虎鬼が両手を信長に向けて勢いよく突き出すと、両手から虎の姿を模したオーラが撃ち出され信長へと飛び掛かっていった。だが……

 

 

『――フンッ!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

虎虎『いっ?!―ドガシャアァッ!!―ウアァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

天海「鋼ッ!」

 

 

信長は拳を飛ばしただけで咆咆弾を打ち消し、更にそのまま虎鬼を殴り飛ばしてディエンド(ベル)と天海の下まで吹っ飛ばしてしまったのだ。天海は咄嗟に前に飛び出て吹っ飛んできた虎鬼を受け止めていき、信長はそれを見つめながら三人へと近付いていく。

 

 

『どうした左馬介よ?逃げてばかりいないで、少しは其処の小僧を見習って向かって来たらどうだ?』

 

 

ディエンド(ベル)『ちっ、こっちが下手に攻められないって分かってる癖に……!』

 

 

天海「だが、逃げてばかりではいられないのも確かだ……一体どうするか……」

 

 

パワーは完全に信長の方が上だ。正面から力比べしても虎鬼のように返り討ちにされるのは目に見えている。だとしたら一番得策なのは……

 

 

天海「――ベル。少しの間、奴の気を引けるか……?」

 

 

ディエンド(ベル)『?まぁ、出来ないって訳じゃないけど……』

 

 

天海「ならば、一瞬だけ奴の注意を引き付けてくれ。其処を私達が……」

 

 

ディエンド(ベル)『……成る程ね……でも、ちゃんと決めなさいよ?私でもそんなに長くは持たないんだからね……』

 

 

近付いてくる信長を見据えながら天海にそう言うと、ディエンド(ベル)は何処からか一本のガイアメモリを取り出し、ボタン部分を人差し指で押していく。

 

 

『VANITY!』

 

 

ディエンド(ベル)『これはあまり使いたくなかったんだけど、今はそうも言ってらんないわよねっ!』

 

 

『VANITY DI-END!』

 

 

そう言ってディエンド(ベル)がガイアメモリをディエンドライバーに取り付けられたスロットに装填すると電子音声が響き、それと同時にディエンド(ベル)の身体が突如成長していき、更に背中から黒い翼が生えていった。

 

 

『ッ!姿が変わった?』

 

 

ディエンド(ベル)『っ……覚悟しなさいよ信長?消し飛ばされないように気を付けなさいッ!』

 

 

ヴァニティメモリの強大な力に若干よろめきつつも、ディエンド(ベル)は信長に対し強気な口調で叫びながらヴニティメモリを抜き取り、ディエンドライバーに取り付けられたマキシマムスロットへと装填していった。

 

 

『VANITY!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ディエンド(ベル)『更にっ!』

 

 

ドライバーから電子音声が鳴り響くと同時にディエンド(ベル)は直ぐさま左腰のホルダーから一枚のカードを取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

再び電子音声が響くとディエンド(ベル)はドライバーの銃口を信長へと向けていき、それと同時にディエンドライバーの銃口に凄まじい量のエネルギーが収束されていく。そして……

 

 

ディエンド(ベル)『喰らいなさい!ハァッ!!』

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『?!!―ドガアアアアアアアアアアアァァァァァィァァァァァァァァァアンッ!!!!―ヌウゥッ?!!』

 

 

ディエンド(ベル)の放った必殺技……ヴァニティコロナシュートが凄まじい勢いで信長へと放たれていき、それを真っ向から受けた信長は十数メートル以上足を地面で引きずりながら後方へと下がっていくも、全身に力を篭めて止まってしまった。

 

 

ディエンド(ベル)『!持ちこたえた?!』

 

 

『ヌウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッ!!』

 

 

ヴァニティコロナシュートを真っ正面から受けて持ちこたえた信長にディエンド(ベル)も驚きを隠せず驚愕し、信長はヴァニティコロナシュートを胴体で受け止めながら前進しようと一歩踏み出した。その時……

 

 

 

 

 

 

 

天海「信長あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!」

 

 

 

『ッ?!!』

 

 

 

頭上。真上から突如響いてきた怒号に信長が思わず顔を上げると、其処には上空から錫杖を振り上げて降下してくる天海の姿があったのだ。信長が呆然と天海を見上げる中、天海はそのまま降下の勢いを利用し錫杖を信長に向けて振り下ろしていった、が……

 

 

―ガシィッ!―

 

 

『…甘い』

 

 

天海「くっ?!」

 

 

信長は自分の顔ギリギリのところで錫杖を受け止めてしまったのだ。天海は信長の怪力のせいで空中で静止したまま錫杖を抜き取る事が出来ず、信長はゆっくりと天海に向けて左腕で振り上げた。

 

 

『愚かだな、左馬介よ……この程度の策略で私を討ち取ろう等、片腹痛いわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

天海「ッ!」

 

 

信長は天海を殴り飛ばそうと全力を篭めた拳を飛ばし、天海は物凄い勢いで迫りくる信長の拳を見て静かに瞼を閉じた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信長の懐。其処にはいつの間にか、虎鬼が飛び込んで必殺技の発射態勢に入っていた。

 

 

『な……っ?!』

 

 

虎鬼の存在に漸く気付いた信長は、天海に向けて放った拳を思わず止めて驚愕した。信長の懐に潜り込んだ虎鬼の姿は先程までとは違い、ボディの全体がゴツく黒いラインが入った姿……強化変身した『虎鬼・焔』へと変化し、その両手には炎撃とは違う膨大なエネルギーが込められていた。

 

 

『しまっ――?!』

 

 

虎鬼・焔『過炎気技――』

 

 

虎鬼の両手に込められるエネルギーから危険を感じ取り直ぐさま離れようとする信長だが、それよりも早く虎鬼が信長の懐へと飛び込み、そして……

 

 

虎鬼・焔『頑頑ナックル落としいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーっっ!!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!―

 

 

『なっ、ガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

虎鬼・焔の必殺技……頑頑ナックル落としが信長の胴体へと打ち込まれた瞬間、虎鬼は一撃だけでは終わらず連続高速で拳を放っていき、その速さはガトリングの弾ように肉眼では捉えられなくなっていた。

 

 

虎鬼・焔『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ……!!!!!!!―

 

 

『ウグオォッ?!ガッ?!ガアァッ?!!』

 

 

十発、百発、千発………。虎鬼は両腕が引きちぎられそうな錯覚を覚えながらも拳を飛ばし続け、終わりを知らない拳の嵐に信長もボロボロになり始め、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎鬼・焔『これでえぇ!!終わりだあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ガァ……グウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

虎鬼が最後に飛ばした拳が信長の顔面に突き刺さり、信長は断末魔の悲鳴を上げながら数百メートル先まで吹っ飛ばされていき、公園の一角に激突して爆発を起こしていったのであった。そして虎鬼は信長の消滅を確認すると一人の少年……鋼・アルティスへと戻っていった。

 

 

鋼「ハァ……ハァ……か、勝ったぁ~……」

 

 

ディエンド(ベル)『っ……そうねっ……一先ず……は…………』

 

 

天海「ッ!ベルッ!」

 

 

地面にへたりこんで大の字にねっころがる鋼の言葉で緊張の糸が切れ、ディエンド(ベル)は必死に保っていた意識を手放してその場に倒れてしまい、変身も解除されてベルに戻っていった。天海と鋼はそんなベルを見て慌てて駆け寄っていき、ベルの身体を抱き抱えていく。

 

 

鋼「おいベルっ!大丈夫か?!ベルっ!」

 

 

天海「……心配ない、気を失ってるだけのようだ……鋼、一度ベルを神社に運ぶぞ!」

 

 

このままベルを置き去りにして戦いに向かうにはいかないと、天海がその意味を込めて呼び掛ける。それを理解した鋼はベルを背中に担いで走り出し、天海もその後を追うように公園を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー4

桜ノ町・住宅街―

 

 

ベル達が信長と決着を付けた頃、住宅街方面では裕己が変身したアギトがトライデントレクイエムへと姿を変えて幻魔達を薙ぎ払い、その隣では翔一が変身したジョーカーがマーベラスと戦っていた。

 

 

―ガギィンッ!ガキィィィィィィンッ!!―

 

 

ジョーカー『グウアァッ!クッ!クソッ!!』

 

 

マーベラスに正面から殴り掛かっていくジョーカーだが、マーベラスは左腕の盾を使ってそれを簡単に弾いてしまい、攻撃を弾かれてしまった反動でバランスを崩したジョーカーに大剣で何度も斬り付けてしまう。元よりマーベラスとの体格に差があるのを加え、リーチの差やパワーに開きがあるジョーカーでは戦力的にも分が悪すぎる為、一方的に追い詰められていたのだ。そして……

 

 

―グガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ジョーカー『グッ?!グアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

アギトTR『?!翔一?!』

 

 

マーベラスが振るった大振りの一撃がジョーカーへともろに直撃し、ジョーカーはその衝撃で吹っ飛んで壁に叩き付けられてしまい、地面に倒れて翔一に戻ってしまった。その様子を見たアギトはすぐに翔一に駆け寄ろうとするが、周囲の幻魔達が立ちはだかって思うように動けないでいた。

 

 

翔一「うぁ……ぐうっ……ちっきしょおっ……」

 

 

『…………』

 

 

ボロボロの身体を引きずりながらも立ち上がうとする翔一。マーベラスは無言のままズンッ!と重い震動を響かせながら翔一へと歩み寄って目の前に立ち、一度大剣を肩に担ぎ、そこから更に大きく振り上げた。

 

 

アギトTR『クソッ!!逃げろ翔一!!早くっ!!』

 

 

翔一「……ッ!!」

 

 

アギトに言われてすぐさま動き出そうと両腕を地面に付けて起き上がろうとするが、その時左腕の力が不意に抜けて再び倒れてしまい、それと同時にマーベラスの大剣が翔一の頭部目掛けて振り下ろされた。同時に……

 

 

 

 

 

 

―ドバアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

 

 

 

大剣を振り下ろそうとしたマーベラスに突如衝撃波が襲い掛かり、そのまま周りの幻魔達もろとも吹っ飛ばしていったのだ。いきなり薙ぎ倒されたマーベラス達に翔一やアギトは戸惑いを隠せないが、そんな翔一の目の前にいつの間にか一人の人物が立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

 

メモリー『ふむ、幻魔共の無双に夢中になってこっちに来てみれば……また意外な奴等に会ったな』

 

 

翔一「?!アンタ……?!」

 

 

アギトTR『師匠っ?!』

 

 

そう、翔一の目の前に立ちはだかった人物とは、先程時の方舟のモニターにハッキングしてフォーティンブラスと会話していたメモリーだったのだ。突如現れたメモリーに翔一やアギトも驚愕を隠せず、メモリーはそんな二人の反応を他所に翔一の方へと振り返った。

 

 

メモリー『……どうやら、まだラストメモリを使っていないようだな?』

 

 

翔一「っ……使える訳ねぇだろっ……こんな得体の知れないメモリなんてっ……」

 

 

メモリー『ふむ……まあ、普通なら確かにそう思うかもしれんな。だが――』

 

 

そこでメモリーは目の前に視線を戻した。その視線の先には、メモリーの放った衝撃波で吹っ飛ばされたマーベラス達が立ち上がろうとしている姿がある。

 

 

メモリー『ジョーカーだけじゃ、奴らに対抗することは叶わないだろう。無論、他のメモリであるメタルやトリガーでもな……それとも、お前には他に手が残ってるのか?』

 

 

翔一「…………」

 

 

向かってくるマーベラス達を見据えながら静かに語るメモリーの言葉を聞くと、翔一はスーツのポケットに仕舞っていたラストメモリを取り出し、それをジッと見下ろしていく。

 

 

メモリー『まぁ、使うか使わないかはお前が決めればいい。お前がそいつを扱え切れるとは思ってないし、俺も強制はせん……いくぞ裕己!』

 

 

アギトTR『え?あ、はいっ!』

 

 

メモリーは呆然と佇むアギトに呼びかけながら幻魔の大群の中へと飛び込んでいき、アギトも正気に戻るとそれを追うように走り出していった。そしてその場には翔一だけが取り残され、翔一はジッと手の平の中のメモリを眺めていた。

 

 

翔一「……今の俺じゃ……勝てないってのか……あのライダーにも……アイツ等にもっ……」

 

 

昨日の黒いライダーの時も、そして今も、自分はまるで役に立っていない。あの二人は、今も自分を叩き潰した幻魔と互角以上に戦ってるというのに。

 

 

翔一「決めた筈なのに……風都を……皆を……おやっさんに託されたアイツを……守るってっ……」

 

 

脳裏に浮かぶのは、あの夜に自分が守ると決めた一人の少女の姿。このままでは守れない。此処で諦めたらアイツを守るなんて出来ない。自分の手に残されてるのは、あの男が自分では扱え切れないと言ったメモリのみ。

 

 

翔一「上等だ……」

 

 

覚束ない足で立ち上がり、翔一はスーツのポケットからダブルドライバーを取り出して腰に巻き、ボロボロの手でジョーカーメモリを取り出すとラストメモリと同時にボタン部分を押していく。

 

 

『JOKER!』

 

『LAST!』

 

 

翔一「――こちとら、伊達に悪魔と相乗りしてんじゃねえんだよっ!!!」

 

 

覇気すら感じさせる強気な口調で叫ぶと共に、翔一はバックルの両スロットへと二本のメモリを同時に差し込んで装填し、バックルをWの文字に開いていった。

 

 

『LAST!JOKER!』

 

 

バックルから電子音声が響き、翔一の身体はバチバチと凄まじい火花に包まれながら突如発生した黒い火柱に飲み込まれていく。その余波が広範囲に広がっていき、近くの幻魔達を吹っ飛ばしていった。

 

 

アギトTR『ッ?!な、なんだ?』

 

 

メモリー『……漸く使ったか……』

 

 

ゴゴゴゴゴゴッ!!と轟音を響かせながら黒い火柱に飲み込まれてしまった翔一にアギトは驚愕し、メモリーは漸くかといった感じに仮面の下で笑みを漏らしていく。そして黒い火柱に飲み込まれた翔一がゆっくりと火柱の中から出てくるが、その姿は装甲に覆われていた。

 

 

赤い瞳にシアンのラインが走る黒いアンシンメトリーな身体。更にその背中からは、まるで噴射するように二枚の翼が出現している。そんな翔一の姿にすぐさま危機感を覚えたマーベラスは翔一に向けて身構えていき、翔一は顔を俯かせたまま右手をスナップさせた。

 

 

『……その目に刻め、幻魔……俺の最後の切り札……ラストジョーカーを……』

 

 

変身した翔一……『ラストジョーカー』は静かな口調でマーベラスに告げ、それを聞いたマーベラスは世界すら揺るがす咆哮を上げながらラストジョーカーへとトラックの如く突っ込んでいき、右手の大剣を振り下ろしていった。が……

 

 

ラストジョーカー『―――フッ……』

 

 

―バリイィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

『ッ?!!』

 

 

ラストジョーカーは薄く息を吐くと共に、マーベラスの振り下ろした大剣を軽く触れただけで硝子のように破壊してしまったのである。殴った訳でもなく、ただ触れただけで大剣を壊したラストジョーカーにマーベラスも流石に動揺するも、すぐに右腕を振り上げラストジョーカーに向けて放っていった。しかし……

 

 

 

 

 

 

ラストジョーカー『―――何処を見てる……?』

 

 

『――ッ?!!』

 

 

 

マーベラスの振り下ろした右腕は何もない宙を斬り裂き、すぐ背後から冷たい声が響き渡った。

それに気付いたマーベラスは咄嗟に振り向き様に右拳を飛ばすが、マーベラスの視界からラストジョーカーが消え失せ、ビュオッ!という風を切る音と共にラストジョーカーの膝蹴りがマーベラスの顔面に突き刺さり、ラストジョーカーは地に着地すると同時に続け様に拳を放った。

 

 

―ドゴォッ!バキッ!ズガァァァッ!!―

 

 

『ゴアァッ?!ガッ?!』

 

 

ラストジョーカーは無駄のない動きで鋭い拳、鮮やかな蹴りを次々と繰り出してマーベラスの弱点を正確に突いていき、最後にその場で駒のように回転し、マーベラスの腹部に回し蹴りを打ち込んで十メートル以上吹っ飛ばしていった。そしてラストジョーカーはゆっくりと右足を下ろし、バックルのラストメモリを抜き取った。

 

 

メモリー『ッ!ヤッベ……』

 

 

アギトTR『え?……って、師匠?!何を?!』

 

 

ラストジョーカーがラストメモリを抜き取った瞬間、メモリーは何かを感じ取り直ぐにラストジョーカーとマーベラス達の周囲に結界を張ったのだ。それを見たアギトはメモリーの行動に戸惑うが、ラストジョーカーはそれに構わずに左腰のスロットへとラストメモリを装填した。

 

 

『LAST!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ラストジョーカー『……切り札……切らせてもらうぜ……』

 

 

電子音声が響くと同時に、ラストジョーカーの背中の黒翼が噴出の勢いを増していき、ラストジョーカーはそのままある程度の高さまで浮き上がっていくと……

 

 

ラストジョーカー『ラスト……ショウダウン……!』

 

 

―カチッ!―

 

 

ラストジョーカーは左腰のスロットのボタンを弾くと背中から噴出される黒翼の出力を全開にし、そのまま右足をマーベラス達に向けて急降下していったのだ。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストジョーカー『ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーっっ!!!!!』

 

 

『ギ、ガァ、ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラストジョーカーの必殺技……ラストショウダウンがマーベラスに炸裂する同時に黒色の爆発がドーム状に広がっていき、マーベラスだけでなく周囲に群がっていた幻魔の大群も飲み込んでメモリーの張った結界と激突していき、最後に内部で発生した二度目の爆発で結界全体に巨大なヒビが入ってしまった。

 

 

メモリー『――ふぅ、いやー危なかったなぁ~。危うくこの辺一帯が吹っ飛ぶところだった♪』

 

 

アギトTR『……「吹っ飛ぶところだった♪」じゃないですよ?!なんですかあの威力?!師匠の張った結界に皹入っちゃってるじゃないですか?!!』

 

 

メモリー『ん?いや、実はアレ(ラストメモリ)の制作途中にちょっと俺の方でも色々と弄ってしまってな?んで、完成した時には頼まれた物よりハイスペックに出来ちまったんだよ。その結果が……アレ』

 

 

アギトTR『いや、アレって言われてもっ……』

 

 

メモリー『まっ、アルティメットメモリよりかは酷くないから大丈夫だ。人体にもそれ程大した影響はない……一時は調子良く制作が進むもんだからアルティメットの二の舞になりかけたが……』

 

 

アギトTR『ヲイ』

 

 

サラリととんでもねぇこと言いやがったメモリーにアギトも思わず突っ込んでしまうが、メモリーはそれを無視して結界に手の平を翳し、結界を解いた。

 

 

同時に物凄い勢いで二人に爆風が襲い掛かるが、二人はそれをものともせず前へ進んでいく。

 

 

そしてある程度爆風の中を突き進んでいくと、五十メートル以上の深さはあるクレーターを発見し、その中に……

 

 

 

 

 

 

翔一「………………」

 

 

 

 

 

 

巨大なクレーターの一番深い所に、俯せに倒れる翔一の姿があったのだ。二人はゆっくりと翔一の傍にまで降りていくと、翔一の状態を確認していく。

 

 

メモリー『ふむ、どうやら気絶してるだけのようだな。特に目立った外傷は見当たらないが……全身筋肉痛になってる上に、一部肉離れしてる。ラストメモリの影響だな』

 

 

アギトTR『まぁ、師匠が作った物だからそうなっても仕方ないですよね(汗)』

 

 

メモリー『ほっとけ……取りあえずコイツ運び出して、こっから出るぞ』

 

 

そう言ってメモリーは気絶している翔一を肩に担ぎ、そのままアギトと共に宙を浮いて一気にクレーターから脱出していく。だが……

 

 

『シャアァァァァァッ……!!』

 

 

アギトTR『ッ!コイツ等っ……!』

 

 

メモリー『ちっ、また懲りもしないで出て来たか……』

 

 

クレーターから出てみれば、二人の周りは何処からか溢れ出た幻魔達に包囲されていたのだ。不気味な奇声を上げながら押し寄せてくる幻魔達に二人もウンザリとした調子で溜め息を吐き、それを合図に幻魔の大群が二人に突進しようとするが……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

メモリー達と幻魔達の間に突然無数の弾幕が放たれ、メモリー達に襲い掛かろうとした幻魔達の動きを止めていったのだ。そして何が起きたのか分からず幻魔達が動揺してると、メモリーとアギトの前に突如二人の少女……冥華の仲間である"シエル・ミクトラン"と"ルナ・アメジスト"が転移してきた。

 

 

メモリー『お?レッタに二号じゃねえか。何しに来たんだよ?』

 

 

シエル「だから今はフェルって言ってるでしょ?……冥華がこっちで決戦やってるから、ちょっと加勢に来たのよ」

 

 

ルナ「私も同じです…っていうか二号ってもう止めて下さい!今の私はルナですルナ!!」

 

 

メモリー『知らん。何度転生しようがお前の呼び名は二号しかありえんわ、この二号め』

 

 

ルナ「うぅぅぅぅ……!!いつか絶対に復讐してやるっ……」

 

 

メモリー『止めとけ、返り討ちに合うだけだ(笑)』

 

 

ニッコリ笑顔で相手にすらされてねえぇっっ?!と、涙を撒き散らしながら泣き崩れるルナ。シエルはそんなルナを軽く無視し、押し寄せる幻魔達を見据えて声を出した。

 

 

シエル「ま、状況はなんとなく掴んだわ。私達はこの雑魚達の相手をするから、幸助はそのハーフボイルドを安全な所に」

 

 

メモリー『……ま、お前がいるなら心配はいらんだろうからな……頼んだぞ?』

 

 

長年の友に対する信頼からか、メモリーは多く語らずにそれだけ告げて翔一と友に何処へと転移していき、残されたのはアギトとシエルと泣き崩れるルナだけとなった。

 

 

シエル「さてっと、じゃあやりますか?いくわよ二人共っ!」

 

 

アギトTR『へ?……あっ、はいっ!』

 

 

ルナ「ぐぬぬぬぬ……こうなればこの怒り、コイツ等にぶつけてやるわいっ!!シャーッ!!」

 

 

シエルが先陣を切り、未だ増えつつある幻魔達に突っ込んでいく三人。幻魔達はそんな三人に不気味な咆哮を上げ、一斉にシエル達へと飛び掛かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー5

 

―時の方舟・ブリッジ―

 

 

 

ディケイドS『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

『ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

平行世界の仲間達が幻魔達と戦う中、方舟のブリッジではフォーティンブラスと戦闘を開始したディケイドの姿があった。ディケイドは因子の力を解放した状態のまま炎を纏ったライドブッカーSモードを振るい、フォーティンブラスの振りかざした大剣と激突し辺りに重い衝撃波が広がっていく。

 

 

―ギギッ!ギギギギッ……!!―

 

 

ディケイドS『いい加減に諦めろ!幻魔達による襲撃はアイツ等が食い止めてるし、外には俺の仲間がいる!お前の逃げ場は何処にもない!!』

 

 

『ハッ!逃げるだとっ?!この我が逃げる必要が何処にある?!我の邪魔するのならあの屑共も叩き潰せばいいだけのこと!無論貴様もなあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

フォーティンブラスはせめぎ合わせていた大剣でライドブッカーごとディケイドを押し返し、そのまま頭上から稲妻の如く大剣を振り下ろす。ディケイドは咄嗟に後方へと飛び退いてそれを回避するが、大剣が床を叩きつけた瞬間巨大な爆発が巻き起こってディケイドの視界を覆い隠し、爆風で怯んだディケイドの背後にフォーティンブラスが一瞬で回り込み、大剣でディケイドを斬り飛ばし壁に叩き付けてしまう。

 

 

ディケイドS『ガハァッ!グウッ……!』

 

 

『覚悟しろっ、まずは貴様から血祭りに上げ、奴らの前に貴様の首を曝してやるっ!』

 

 

乱暴に大剣を振るって風を起こし、ゆっくりと地面に倒れるディケイドに近づいていくフォーティンブラス。対するディケイドは床に倒れたままフォーティンブラスから背を向けて一体のフクロウのような姿のメカ……以前智大がくれたメモリガジェットであるスパイオウルを取り出しGモードに切り替えたライドブッカーに装着させた。

 

 

 

 

 

 

雷火『あの堕神は常時、体全体に特殊な神氣を纏っているらしい。それが健在している限りはどんな強力な攻撃や技も通用しない……だが数百年前に奴と戦った嘗ての聖者達は、奴に決死の一撃を加えてある一カ所に穴を開けたんだ。其処を狙えば―――』

 

 

 

 

 

 

ディケイドS(奴の防御力が……著しく低下するっ!)

 

 

 

 

 

 

その可能性を高めるのは、この瞳に宿る悪魔の力。ディケイドはバックルに装填されたソルメモリを抜き、スパイオウルが装着されたライドブッカーGモードに装填しインサートした。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

電子音声が鳴り響き、それと共にディケイドは身体を反転させライドブッカーの銃口を歩み寄ってくるフォーティンブラスに向けた。その銃口が定める先には、フォーティンブラスの左胸……一カ所だけ、茶色い肉が剥き出しにされた部分。そこへ正確に狙いを定め……

 

 

ディケイドS『っ……オウル・エクスプロージョンッ!!ハアァッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ッ!―ズガアァァァァァァァァァァァアンッ!!―ヌウゥッ!』

 

 

ライドブッカーの引き金を引いた瞬間、銃口から細い炎の砲撃が凄まじい勢いで放たれ、フォーティンブラスの左胸へと直撃していったのだった。だが、フォーティンブラスは自身の左胸に撃ち込まれた炎の砲撃を見てもビクともせず、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

『クククッ、成る程。我に勝てぬと分かって弱点を突いてきたという訳か』

 

 

ディケイドS『……っ!』

 

 

『フッハハハハハハハッ!馬鹿な奴よ!こんな程度でこの幻魔神を倒せるとでも思って―ビシィッ―……ッ?!』

 

 

弱点を突いた程度で自分を倒そうと考えるディケイドを嘲笑うフォーティンブラスだが、不意に亀裂が走るような音が響き、驚きを浮かべながら身体を見下ろすと其処には……炎の砲撃を受ける左胸から身体全体に至って亀裂が走っていた。

 

 

『?!な、にっ?!』

 

 

ディケイドS『ッ!!オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

自身の肉体に亀裂が走る様を見てフォーティンブラスが驚愕する中、ディケイドは引き金を引く指に力を込め、両目を力強く見開き、炎の砲撃が更に勢いづいていく。その様子を見てフォーティンブラスは漸く身の危険を感じ取るが……

 

 

―……ピシッ……チュドオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!―

 

 

『ッ?!!グッ、オアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

気付いた時には既に遅く、炎の砲撃はフォーティンブラスの左胸を貫いていったのだ。その直後に、後退りしたフォーティンブラスの白い肉体が崩れ落ちて茶色い肉体へと変色し、それを見たディケイドは直ぐさま起き上がってフォーティンブラスへと駆け出しながらライドブッカーをSモードに展開し、ビートルフォンを刃に装着して剣の引き金を引いた。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

『グウゥッ?!き、貴様、その瞳は――?!!』

 

 

ディケイドS『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

フォーティンブラスが驚愕で両目を見開く中、ディケイドはライドブッカーの刃から凄まじい勢いで放たれる炎の刃でフォーティンブラスの肩を斜めに斬り付け、更に真上から刃を振り下ろしフォーティンブラスの肩へと打ち込んでいった。

 

 

『ギ、ガッ?!キ、サマァァァァァァァァァッ!!』

 

 

ディケイドS『ッ!どんな気分だ?!お前が今まで蟲呼ばわりして見下してきた、人間に追い詰められる気持ちは?!』

 

 

『グッ!追い詰められる、だと?図に乗るなよ蟲ごときがぁ!!偉大なる神であるこの我が!!貴様みたいな屑にぃぃぃっ!!』

 

 

ディケイドS『なにが神だ!!その傲慢さが!!その驕りが!!お前自身を此処まで追い詰めたんだ!!認めろ幻魔神!!そうやって人間を薄汚い存在だと否定し、価値がないと決め付けて蔑み続けたその考えが、お前の敗因だっ!!』

 

 

『ッ!!ふざけるなっ……たかが蟲ごときが一人前の口をおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!』

 

 

フォーティンブラスは怒号と共に肩に打ち込まれた炎の刃を掴み取り、そのままディケイドの腹を右拳で殴り付けて後退りさせ殴り掛かった。しかしディケイドも咄嗟にライドブッカーを盾に使い、フォーティンブラスの拳を受け止めた。

 

 

『薄汚い害虫風情がぁ!!そうやって貴様等が生きてられるのは誰のおかげだと思ってる?!そうやって貴様等人間がこの世界に生まれてこれたのは、我等神々がいたからこそだろうがぁ?!我が物顔で地上を巣食いやがってぇ!!貴様等は一度だって、命を与えてやった我等に感謝したか?!我等の為に何かしたか?!』

 

 

ディケイドS『何かした、だと?だったら逆に聞くが……お前は一度でも苦しんでる人間に手を差し延べたのか?神様助けてって、お前達を信じて祈りを捧げる人々に、一度だって救いを与えたのか?!』

 

 

『ッ!』

 

 

ディケイドS『答えられないのなら、お前だって同じだ!!この世界には、人間の力じゃどうしようもない事が山ほどあるんだよ!!何かに縋りたい!!誰かに助けて欲しいって!!どうしようもない現実が怖くて仕方なくて、不安で押し潰されそうになった時に誰かに助けてほしいって、そんな人達の心の支えにお前等はいるんじゃないのか?!例え奇跡の力がなくても、神様なんて本当はいないって思われても、皆の祈りを聞いて少しでも不安や恐怖で出来た心の隙間を埋めてやれるのが、神様って存在じゃないのか?!』

 

 

『貴様ぁ!』

 

 

ディケイドS『もしも幻魔なんて作り出すだけの力を使って、お前を信じて救いを求める人達に手を差し延べてたら、それだけでお前の立場は変わってただろう?!俺達と戦うだけの力を使って、今にも死にそうになってお前が助けてくれると信じて待ってる人達を助けてれば、それだけでお前は世界から認められる神様になれた筈だろう?!神だと偉そうに踏ん反り返ってる暇がありながら、どうしてそんな事が考えられないっ?!』

 

 

『黙れ!!そうやって生きてきた桜ノ神は、結局あのザマだ!!与えられるだけの幸福を与えてやったら、お前達人間は手の平を返して裏切っただろうがぁ!!』

 

 

姫「っ……」

 

 

フォーティンブラスの怒号に姫の表情が微かに曇る。だが、ディケイドは拳を受け止めるライドブッカーを力いっぱい押し返しながら言葉を紡ぐ。

 

 

ディケイドS『確かに咲夜の努力は裏切りなんて形で返されたっ……だがアイツには、お前にはないモノを持ってた!!どれだけ悲惨な結末であったとしても、絶対にお前と違ってアイツの世界はもっと広がってた筈だ!!だから裏切られても、皆に嫌われても、自分を犠牲にしてでも守ろうとしたんじゃないのか?!お前が蟲呼ばわりする人間達を!それぐらいの気持ちで皆を守ろうとしたコイツだから、皆に慕われて、今もこれだけの人間がコイツを助けようと必死に戦ってるんだろう!!』

 

 

『ふざけるなっ!!馬鹿にしやがって、害虫のくせに、地を這うしか出来んくせに、この我を馬鹿にしおってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!』

 

 

ディケイドを勢いよく蹴り飛ばし、フォーティンブラスが拳を握って一気に距離を詰めてくる。ディケイドはライドブッカーの切っ先を床に突き刺してスピードを減速させ、迫り来るフォーティンブラスを見据えた。

 

 

ディケイドS『お前は人間だの神だのそれ以前の問題だっ……お前がまだその間違えを認めないのなら……力付くでも止めるッ!!』

 

 

『ほざくな蟲がァああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

怒号と共に飛ばされてきた拳。ディケイドは咄嗟に身を屈めてフォーティンブラスの脇を潜りながら必殺が込められたそれを回避し、懐からグレイシアメモリを取り出してバックルのスロットへと装填した。

 

 

『GLACIER DECADE!』

 

 

凍てつくメロディーと電子音声と同時にディケイドの姿がグレイシアフォームへと変わると、ディケイドは背後から殴り掛かってきたフォーティンブラスの頭へと振り向き様に回し蹴りを打ち込んで怯ませ、瞬時にバックルからグレイシアメモリを抜き取って左腰のライドブッカーへと装填した。

 

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ディケイドG『おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 

鳴り響く電子音声と同時にディケイドの両足が冷気に包まれた。フォーティンブラスはその異変を感じ取り直ぐさま振り返るが、それよりも早くディケイドが右足を飛ばしてフォーティンブラスの頭部を蹴り付け、ディケイドは続けざまに体を回転させて左足を飛ばすと繰り返し、そして……

 

 

―ズドオォッ!バキィッ!ドゴオォッ!!―

 

 

『ゴアァッ?!ガァッ?!グオアァッ?!』

 

 

ディケイドG『―――俺も偉そうに説教出来る身じゃないがっ、一つだけお前に言ってやるっ……』

 

 

『グウゥッ?!!き、貴さ―――?!!』

 

 

ディケイドG『一度その頭冷やしてこいっ……大馬鹿野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーオンッ!!!!―

 

 

『グッ――ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

鈍い音が響き渡った。全身全霊、最後の力を振り絞って放たれたディケイドの飛び回し蹴りがフォーティンブラスの頭を捉え、フォーティンブラスの身体が勢いに乗って真横へと吹っ飛び、そのまま数十メートルの先の壁へと激突していったのだった。

 

 

ディケイドG『っ……ぁ……は……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……終わった……のかっ……』

 

 

フォーティンブラスは壁に埋もれて倒れたまま、動く様子はない。意識が朦朧とする中、やっとの事でそれを確認したディケイドは苦しげに呼吸をしながらその場に膝を着いて零へと戻り、そのまま力尽きて床へと倒れそうになる。が……

 

 

―……ドサッ―

 

 

零「…………ぁ…………?」

 

 

不意に、倒れそうになった身体が何かに抱き支えられた。ぼんやりと霞む視界の中で顔を上げて顔を動かすと、自分の身体を優しく、そして強く抱き留める人物……姫の横顔が見えた。

 

 

零「さく……や……?」

 

 

姫「馬鹿……本物の馬鹿か、君は……私なんかの為に……こんなボロボロになってっ……」

 

 

目尻に涙を浮かべ、血まみれになった零の身体を抱き締め必死に支える姫。そんな姫の涙声を耳にし、零は一度苦笑いをしてゆっくりとボロボロになった右腕を上げ姫を抱き寄せた。

 

 

零「生、憎……こんな方法しか思い付かなくて……な……馬鹿なのは自覚してる……周りからも散々言われて……来てるし……」

 

 

姫「自覚してるなら治せ!こんな血だらけになって、アイツを倒すだなんて……どれだけ無茶な事かっ……」

 

 

零「………………」

 

 

零では奴に絶対勝てない。あの時別れ際にそう告げた姫の言葉を思い出し、奴と戦う自分に彼女にも心配を掛けてしまったのかもしれない。そう考えて零は暫く口を閉ざすと、無言のまま姫を抱き締める腕に力を加えた。

 

 

零「……無茶だって事は……自分でも分かってた……この選択のせいで、どれだけの人間に心配を掛ける事になるかって……事も……」

 

 

姫「分かっているならっ!」

 

 

零「……でも……それでも……」

 

 

視界がボヤける。今にも気を失ってしまいそうになるも、しっかりと意識を保ちながら口を開く。

 

 

 

 

 

 

零「――それでも……お前を失うことの方が……よっぽど……耐えられない……から……」

 

 

姫「っ……」

 

 

零「だからもう……こんな真似はするな……アズサや絢香達も……俺も……お前が大事なんだ……人や神なんて、そんな小さな事じゃなくて……お前自身が……好きなんだよ……」

 

 

姫「れ……い……」

 

 

目尻に溜まった涙が、頬を伝う。横から聞こえてくる啜り泣きに苦笑しながらも、零は姫を抱き締める力を緩めない。

 

 

零「一人にしないって……言ったしな……だから……逃げようとしても離さないから……覚悟しておけ……」

 

 

姫「馬鹿がっ……大馬鹿者がっ……!」

 

 

朧げな目で、力無く笑う零の言葉に何も言えなくなり、泣きながら零の肩に顔を埋める姫。零はそんな姫を宥めようと姫の頭の上に手を乗せるが、その時方舟がけたたましい轟音と共に大きく揺れ、二人は思わず辺りを見回した。

 

 

零「っ……アイツ等、派手に暴れてるようだな……」

 

 

姫「っ!とにかく此処から出るぞ!フォーティンブラスが倒れたなら、この舟も時期に堕ちる!」

 

 

零「そう、だな……急ごう……」

 

 

主を失ったこの舟はもうすぐ沈む。その前に早く此処から脱出せねばと、零は姫の肩を借りながら覚束ない足取りで立ち上がり、皆が待つ外へ出ようと歩き出した。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュウッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……え?―ドッガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―ウアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

 

 

一発のエネルギー弾。何処からか撃ち出されたそれが不意を突くように二人へと直撃し、二人は爆発に巻き込まれ離れ離れに吹っ飛ばされてしまったのだ。二人は何が起きたのか理解出来ないままおもむろに上体を起こし、今のエネルギー弾が放れたれてきた方へと振り向くと……

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ク、クククッ……ククククッ……』

 

 

姫「っ?!フォーティン、ブラスっ……?!」

 

 

 

 

そう、其処には、零に倒された筈のフォーティンブラスがふらふらと立ち上がりながら不気味に微笑んでいたのだ。だがその姿は先程までとは違い、全身が強固な金の西洋鎧を纏い、背中には悪魔のような白い羽根が四枚生えていた。

 

 

零「クッ!アイツ……まだ動けたのかっ……!」

 

 

『クククッ……舐めてもらっては困るな……この我が、貴様のようなゴミの一撃で倒れるとでも思ったのか?』

 

 

零「っ……だったら今度こそ、二度と立ち上がれないように…………っ?!」

 

 

先程の一撃など何でもないと告げるフォーティンブラスに舌打ちし、バックルを片手に再び立ち上がろうとする零だが、バックルを落としながらいきなり床へと倒れてしまった。

 

 

姫「?!零っ?!」

 

 

零「なん……だ……身体が……動け……なっ……」

 

 

内心驚愕しながら掠れ掠れ呟き、それでも身体を起こそうとするが、片腕どころか指一本すら動かせない。

 

 

零「どういう……事だ……何でっ……?!」

 

 

まるで身体全体が硬直でもしてるように動けず戸惑いを隠せない零だが、それもその筈だった。

 

 

魔剣の呪いを受けた重傷の体のままであれだけの大群を突破し、因子の力をフルに使用して結界を突き破り、更にその状態のままフォーティンブラスと正面から激突し、因子の力を上乗せしたマキシマムドライブを連続使用。

 

 

ただでさえ死んでも可笑しくない重傷を負った身体に何度も何度も鞭を打ち、それを繰り返し続けて身体が持つハズがない。

 

 

そんな無茶を続けたツケが、よりによって此処に回ってきてしまったのだ。

 

 

『クククッ、どうしたぁ?二度と立ち上がれないようにしてやるんじゃないのか?』

 

 

零「クッ……!!」

 

 

愉快げに笑うフォーティンブラスの言葉に反抗するだけの余裕もない。零は必死に動かない身体を起こそうとし、フォーティンブラスはそんな零を鼻で笑いながら……

 

 

―フッ……ドゴオォッ!!―

 

 

零「ッ?!ぐあぁっ!!」

 

 

姫「なっ、零っ?!」

 

 

一瞬で零までの距離を詰め、零の腹を容赦なく蹴り付け吹っ飛ばしてしまったのだ。零はそのまま壁際まで吹っ飛んで苦しげに咳込むが、フォーティンブラスはそんな暇すら与えないと言うように一瞬で零へと接近して襟首を掴み、そのまま高く持ち上げていく。

 

 

零「ぁ……がっ……?!」

 

 

『それにしても驚いた。まさか貴様のような蟲ごときに彼処まで追い詰められるとは……ああ、それだけは大した物だと褒めてやる。だが――』

 

 

呼吸すらままならず苦しげに顔を歪める零を愉快げに見つめると、フォーティンブラスは右手に一本の白い剣を出現させてゆっくりと振り上げていく。

 

 

『――我に逆らった罪までは許す気はない……それにお前の存在は、最早生きているだけでも不愉快だ……だから――』

 

 

言葉を区切り、フォーティンブラスは零の襟首からいきなり手を離した。不意に襲い掛かる崩れ落ちていくような感覚に零は驚愕し、何が起きたのか理解する前に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドシュウゥッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「…………え…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを貫くような音が響き渡った。その直後に、姫の呆然とした声が響き、そんな彼女の視線の先には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――――――ぁ――――――は――――――」

 

 

『……此処で死ね、屑が』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

床に滴る大量の鮮血……。

 

 

それが流れてくるのは……フォーティンブラスの剣が突き刺された零の心臓からだった…………

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰決戦ー6

 

 

 

姫「…………れ…………い…………?」

 

 

 

 

震える声で呟く。彼女の目に映るのは、フォーティンブラスの剣によって左胸の心臓を貫かれ、おびただしい量の血を流す零の姿。その光景に彼女はただ自分の目を疑い、呆然と青年の名を呟くしか出来ずにいた。

 

 

零「――――ぁ――――ぅ――――」

 

 

顔は前髪に隠れて見えない。それでも息が出来てないらしく、呼吸をしてる様子はない。必死に酸素を求めるように僅かに口を開いているが、口を開いた瞬間に大量の血を吐き出し、床に新たな鮮血の塊が加わっていく。

 

 

姫「あ……ぁ……」

 

 

姫の判断力が粉々に吹き飛んだ。目の前で何が起きているのか分からず、フォーティンブラスという即物的な脅威すら頭から消えた。他人の血で濡れた手で地面を掴み、先程の不意打ちを受けた衝撃で動かない身体を引きずってそんな彼の下へと無我夢中で向かおうとする姫。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ブザアァッ!!!―

 

 

零「がっ―――ゴハアァッ?!!」

 

 

姫「っっ?!!!」

 

 

 

 

フォーティンブラスが零の左胸から勢いよく剣を抜き取り、それと共に零は口や左胸から先程の比にもならない量の血液を吐き出してしまったのだ。その光景に姫は絶句して言葉を失い、フォーティンブラスはピクリとも動かなくなった零を見て不気味に笑い、そんな零をゴミのように投げ飛ばしてしまった。そして零はそのまま地面を滑り、徐々に姫の前へと止まっていった。

 

 

姫「ぁ…………れ…………ぃ……………?」

 

 

零「――――――――――――――――――――」

 

 

力無く青年に呼び掛けるも、彼からは何も返っては来ない。ぐったりと力が抜けて投げ出された零の手足。顔や身体は赤く染まっていた。じわりと彼の身体から血が広まり、あっという間に姫の下まで赤い水溜まりが出来上がっていく。最早呼吸の音すらも聞こえて来ず、生きてるのか死んでるのかも分からない。

 

 

姫「……ぅそ、だ……」

 

 

そんな筈がない、だって、さっきまで……。

 

 

信じないと言うようにふるふると首を振り、姫は呆然としたまま地面に横たわる零の身体に手を伸ばし肩を揺さぶっていく。

 

 

姫「れ、い……れい……」

 

 

零「―――――――――――――――――」

 

 

姫「何で……黙ってるんだ……返事、してっ……」

 

 

零「―――――――――――――――――」

 

 

血の泉は未だ広がる。だが今の姫にはそれにすら意識が向かず、力無く零の身体を揺さ振り続ける。

 

 

姫「冗談……止せ……そんなの笑え……ないぞ……」

 

 

零「―――――――――――――――――」

 

 

姫「起き……ろっ……頼む……頼むから起きてくれっ……れ―ピチャッ―……ッ?!」

 

 

泣きそうな声で悲願するように言いながら零の身体を揺さぶっていた手の平に、生暖かい感触が走った。それに驚いて思わず手の平を見つめると、其処には新たな赤い液体がこびりついており、姫は震えながらのろのろとした動きで零を見た。

 

 

赤い水溜まりに沈む体……

 

 

赤く染められた顔……

 

 

左胸の刺し傷から流れる夥しい量の赤い液体……

 

 

微かに紫色の輝きが鼓動のように放ち、半開きになった瞳……

 

 

姫「ぁ……あっ……」

 

 

それで漸く悟った……

 

 

零は……彼はもう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを悟ったと共に、彼女の悲痛な絶叫が響き渡った…………

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その絶叫は、方舟の外で戦う一同にも届いていた。先にそれに気が付いたのは、ブリッジの一番近くで幻魔の大群を蹴散らしていたエクス。エクスは姫の絶叫を耳にし、ブリッジの方へと目を向けた。

 

 

エクスL『れ、零……さん……?』

 

 

口に出た言葉に含まれてる感情は、驚愕と動揺。彼にも相手の気を感じ取る力がある。だから今、エクスは零の気を読んで信じられないといった表情を浮かべていた。何故なら姫に抱き抱えられてる零からは、気が感じられないのだ。気とは人間の生命の比喩とも言っていい力、それが感じられないという事は……

 

 

エクスL『ま、さかっ……そんなっ……』

 

 

嘘だと言うように呟きながら、エクスは零から視線を逸らして二人の近くにいる人物……姫に抱き抱えられる零を見て愉快げに高笑うフォーティンブラスを目にし、直ぐにその原因を理解した。

 

 

エクスL『………………潰す……!!!騎士王の名の元に貴様を断罪……いや、殲滅するッ!!!』

 

 

アンジェルグ『ッ!稟……?!』

 

 

龍王『おい待て?!何処に行く気だっ?!』

 

 

冷製さなど何処かへと消えた。フォーティンブラスに対する殺気を抑え切れないエクスは怒りのままに剣を構えながら猛スピードでブリッジへと突進し、まだ零の事に気付いていないアンジェルグや龍王はエクスの行動を見て驚愕しながらも呼び止めようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

 

エクスL『?!何?!』

 

 

 

突如、ブリッジに向かおうとしたエクスに何処からか銃撃が襲い掛かったのだ。いち早くそれに反応したエクスは咄嗟に後方へと下がって銃撃を回避し、一同と共にそれが放れてきた方角へと振り返ると、其処には先程とは比べ物にならない数の幻魔の大群が向かってくる姿があった。

 

 

エクスL『な、増援?!』

 

 

鬼王『くっ?!よりによってこんな時にっ?!』

 

 

ディエンドW(っ!ちっ……まずいな……このまま零を放っておけばっ……)

 

 

このタイミングで新たなる増援の出現に一同は驚愕を隠せず、ディエンドはブリッジの方を見て僅かに舌打ちしていた。しかしそんな一同の反応にも関わらず、幻魔達は一斉に一同へと襲い掛かったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

同じ頃、町で幻魔と戦っていた一同も零の気の変化に気付き、方舟に向かおうと動いていた。だが幻魔達の軍勢や艦隊がそれを阻む様に数を増やして立ち塞がり、身動きが取れなくなっていた。

 

 

ディジョブド『チクショウッ!!何だってこんな時に幻魔が増えてくるんだ?!』

 

 

ディライトC『くっ?!零さんの気が弱まってく……このままじゃっ!!』

 

 

アナザーアギト『ちぃ!!今から行けばまだ間に合うってのに!!!』

 

 

クラスト『クソッ!うざい邪魔だ退け幻魔共ォ!!』

 

 

ゼロノスZ『デネブっ!!此処は一気に片付けるぞっ!!』

 

 

『了解だっ!!』

 

 

一刻も早く方舟に向かおうと幻魔の軍勢を手早く撃退していく一同だが、幻魔達は倒しても倒してもキリがなく何処からか出現し、更に……

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!―

 

 

勇王『ぐうっ?!クソッ!まだ増えるのかこの艦隊は?!』

 

 

ストライクMA『こっちは先を急いでるんだ!!邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!』

 

 

ギルガメッシュ『チィッ!この雑種共の群れは底無しかっ……!』

 

 

町の上空でも、艦隊が数を増やして町への集中攻撃を更に激化させていたのだ。それにより、同じく方舟へと向かおうとしていた空組の一同は艦隊を放っておく事が出来ず足止めにあっていた。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―時の方舟・ブリッジ―

 

 

 

『ククッ、馬鹿な蟲共が。貴様等がどれだけ足掻こうとも、我が下僕達は尽きることなく溢れ出てくるのだよ!!ハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

時の方舟のブリッジ。其処には零を消し、モニターで幻魔の大群の戦う一同の姿を見て愉快げに高笑うフォーティンブラスの姿があった。そしてフォーティンブラスが額に手を当ててクツクツと笑いながら背後へと振り返り、血まみれの零に寄り添って泣き崩れる姫に視線を向けた。

 

 

『さあて、貴様もそろそろその薄汚いゴミから離れろ。そんな屑の死体、見てるだけで吐き気がする……』

 

 

姫「うぁ、ぁ……ぁあ……!!」

 

 

フォーティンブラスの吐き捨てるような言葉すら聞こえていないのか、零の身体に縋り付いたまま嗚咽を漏らしながら泣き続ける姫。フォーティンブラスはそんな姫の様子に鼻で笑い、力付くで零から引き離そうと姫に歩み寄っていく。その時……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガンッ!!―

 

 

『ッ!』

 

 

突如姫に歩み寄ろうとしたフォーティンブラスに無数の銃撃が直撃し、銃撃を受けたフォーティンブラスは思わず足を止めてその銃撃が撃たれてきた方へと振り返った。其処には、今まで外で幻魔達と戦っていた筈のディエンドが立ち構える姿があった。

 

 

ディエンド『やぁ、また会ったね幻魔神?』

 

 

『ッ!貴様、昨日我の邪魔をした蟲の一人か……』

 

 

ディエンド『覚えててもらって光栄だね……だけど、これ以上彼に手を出されてはマズイんでね。暫く相手してもらうよッ!』

 

 

そう言いながらディエンドはドライバーを乱射させてフォーティンブラスへと突っ込んでいき、フォーティンブラスは銃弾を片手で弾きながらそれを迎え撃っていった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

そして同じ頃、方舟周辺の山林では慎二が時の方舟の様子を観察しており、慎二は方舟をジッと見つめたまま軽く溜め息を吐いた。

 

 

慎二「おやおや、思ったよりアッサリ死んでしまいましたね……零先輩」

 

 

残念そうにやれやれといった感じに溜め息を吐きながらそう呟くが、慎二はすぐに笑みを浮かべながら方舟を見上げた。

 

 

慎二「まあいいでしょう。因子が第二段階へ移行した今、こちらとしては零先輩が絶対に必要ってワケではなくなったし……後は勝手に暴走を引き起こして幻魔達を消滅させてくれれば、邪魔な勢力を一掃出来る上に因子も回収出来る。一石二鳥って訳です……」

 

 

フフフフッ、と含み笑いを漏らし、慎二はスーツの胸ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認していく。

 

 

慎二「因子暴走のタイムリミットまで、あと僅か……暴走に巻き込まれる前に離れておきますかね」

 

 

………黒月零は彼の先輩、そして中学時代を笑って過ごした友人。

 

 

そんな彼の危機にすら見向きもせず、慎二は不気味な笑みを浮かべながら暗闇に包まれる山林の奥へと姿を消していったのだった。

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰ー決戦7

 

 

―時の方舟・ブリッジ―

 

 

『ヌエアァッ!!』

 

 

―ガギィンッ!グガアァンッ!ガギィンッ!!―

 

 

ディエンド『グッ?!』

 

 

場所は戻り、ブリッジ内ではフォーティンブラスと戦っていたディエンドが壁に叩き付けられていた。フォーティンブラスは先程ディケイドと戦った時よりも力を増し、姿だけでなく戦闘力をもディエンドを遥かに上回っているのだ。それによりディエンドは防戦一方となっており、フォーティンブラスは一方的にディエンドを痛め付けて追い詰めていた。その端では……

 

 

姫「っ……うっ……ぁ……」

 

 

二人の戦いを他所に、姫は未だ零の身体に寄り添いながら涙を流していた。それでも零はピクリとも動かず、顔は血で濡れた前髪によって隠されている。

 

 

姫「どう、して……どうしてこん、なっ……こんな事にっ……!」

 

 

赤いものが滲み出て、冷たくなった零の胸に泣き顔を埋めて嘆くように叫ぶ姫。叫ぶ声は不安定で、嗚咽が混じっている。余りにも涙を流し過ぎたせいで、横隔膜の制御が可笑しくなっているのだ。

 

 

姫「また……また私は……何も出来なかった……またっ……!」

 

 

脳裏を横切るのは、彼女がまだ人間だった頃の唯一の肉親である妹の顔。あの時と同じ、すぐ近くにいながら大切な人を見殺しにした。そのことに対して後悔を拭えない姫は、血みどろになった零の服を強く握り締めながら泣き叫び続けていた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………キュッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「…………ぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に、服の袖が何かに引っ張られるような感覚を僅かに感じた。姫はその感覚に思わずのろのろと顔を上げて服の袖に視線を向けると、其処には自分の服の袖を人差し指と親指で僅かに掴む手……零の手があった。

 

 

姫「ッ?!何……で……?」

 

 

姫は自分の服の袖を掴む手を見て、零の顔へと驚きながら目を向けた。その顔は未だ前髪に隠れて良く見えないが……今にも消え入りそうな紫色の瞳が自分の顔を見つめてるのが見えた。

 

 

姫「ッ!零っ?!」

 

 

自分を見つめる零を見て、姫は驚愕と戸惑いを隠せずに零の名を思わず叫んだ。

 

 

有り得ない……確かに心臓を貫かれた筈なのに、その瞳には間違いなく生気が宿っている。

 

 

普通ならば心臓をやられた時点で即死する筈なのにと、姫が目を見開いて零の顔を見つめる中……

 

 

零「…………ゃ…………」

 

 

姫「……え……?」

 

 

零の口が僅かに開き、其処から何か言葉が放たれた。しかしその声はか細いもので、全く聞き取る事が出来ない。それでも零は消え入りそうな声で何かを呟き、姫はそれを聞き取るためにゆっくりと零の口へと耳を近付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………は……………やく……………に、げ……………ろ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「……っ?!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳に届いた言葉は、自分に早く此処から逃げろと呼び掛ける物だった。それを聞いた姫は思わず息を拒んで零の顔を見つめ、困惑した。

 

 

姫「逃げろって……なに、言ってるんだっ……?」

 

 

零「――――――」

 

 

それはつまり、自分に彼を置いていけと言ってるような物だった。何故そんな事を言うのかと理解出来ない姫だが、その真意を彼女が知る筈もない。

 

 

破壊の因子。黒月零の左目に埋め込まれたそれは絶対なる破壊の力を司り、負の力により成長し、神や世界、因果律や万物すらも例外なく葬り去る悪魔の力を秘めてる。

 

 

その力が今、宿主である零の死が間近に迫ってる事で暴走の予兆を見せているのだ。

 

 

今は彼を生きながらえさせようと働く『内なる力』によって命を繋いでいるが、その力事態が損傷を負ったせいで長くは持たず、最早助かる見込みもない。

 

 

そして彼の命が死を迎えると共に因子を押さえ込む物がなくなり、すべての力を発揮して暴発する。

 

 

有り体に言えば、今の彼は制限時間付きの核爆弾の様な物だ。

 

 

それが暴発すればこの方舟……最悪、この世界すらも破壊し兼ねない。

 

 

そんな物に巻き込まない為にも、だからこそ……

 

 

零「…………にげ…………ろ…………は…………ゃ…………く…………」

 

 

ただ逃げろと、此処から離れろと、残された力を使って必死にそれだけを姫に伝える零。それを聞いた姫は……

 

 

姫「―――出来ないっ……出来る筈ないだろうっ!」

 

 

そんな事は出来ないと、首を左右に振って拒否した。自分を助けに来て、今にも死に掛けの彼を置き去りにして逃げれるハズがない。姫は涙しながら、そんな零の身体を強く抱き締めた。

 

 

姫(どうする……どうすればいいっ……どうすれば零を救えるっ……?!)

 

 

必死に思考を巡らませて、今考えられるだけの手段を思い浮かべていく姫だが、どれも彼の命を救えるだけには至らない。自分の奇跡を具現化させる力も、今のままでは彼の命を繋ぎ止める事も出来ない。

 

 

姫(っ……何が神だっ……何が全知全能の存在だっ!私は結局、目の前で死にかけてる人間すら救えないんじゃないかっ……!)

 

 

全ては妹のような人達を救いたくて、目の前で誰かを失う後悔をしたくないが為、ただそれだけの為に神となったのに、自分はまた何も出来ずにいる。

 

 

妹と同じぐらい大切な人達が出来た。彼もその一人なのだ。

 

 

姫(なのに私は……何もしてやれない……奴に一矢報いるどころか……彼を助けることもっ……!!)

 

 

何も出来ない自分の無力を呪い、悔しさのあまり涙を流す。

 

 

この時の為に、こんな悲劇を起こさないようにする為に、この力を手に入れたのに、これでは意味などないではないか。

 

 

『あの時』も、こんな時に何も出来ないのは力が足りないからだと思ってた。

 

 

力が足りないから、目の前の人間を誰も救えず、皆が傷付いていくのをただ見ているしか出来なかった。

 

 

だから当時、人間であった自分はそんな無力な自分に耐えられず、無力な人間だった自分を捨てて神になることを選んだ。しかし……

 

 

姫(……何が……『無力な人間』だ……)

 

 

そう考えて、姫はふと自分の姿とフォーティンブラスが重なって見えて、奥歯を噛み締めた。

 

 

姫(なんて……傲慢な考え方なんだっ……)

 

 

人間は無力だから誰も救えない、誰もが神のような力を持っていれば誰も傷付かずに済む。

 

 

本当にそうか?そんな訳があるか。

 

 

人間が無力で誰も守れないなら、この青年はなんだ?

 

 

このようにボロボロになりながら、みんなと共に此処まで来て、同じ神である奴を追い詰めて、自分を助けに来てくれたこの青年はなんだ?

 

 

結局、神なんて存在になっておきながら、自分は一体何をした?

 

 

彼がフォーティンブラスと戦う中、自分はなにをしていた?

 

 

そんな青年とは対照的に、自分は一体何を出来た?

 

 

姫(……違う……人間だの神だの関係ない……本当に大事なのは……)

 

 

この青年のように、誰かの力を借り、力を合わせ、そして何をしたかだ。

 

 

あの時の自分も、今までの自分も、誰かに頼る事なく生きてきた。あの時の自分はそんな必要がないからと思って、今までの自分は、自分以外の誰かはただ守るべき対象としか見てなかった。

 

 

あの時、もしも自分以外の誰かの力を借りていれば、妹は死なずに済んだかもしれない。

 

 

今までも、傍に誰かが居てくれれば、あんな間違いを起こす事もなかったかもしれないし、幻魔達とも皆と力を合わせて戦っていれば、皆と一緒に笑い合っていられたかもしれない……

 

 

 

 

 

 

―だがな……そんな人間を変えることが出来るのは、結局は人間しかいないんだよ……人は独りじゃ弱い。だけど傍に誰かがいてくれて、手を差し延べてくれる他人がいる限り、人はそこから立ち上がって変わる事が出来る……自分でも気付けない過ちを正してくれるのは、自分を思ってくれる誰かなんだ……!―

 

 

 

 

 

 

姫(私は……大馬鹿者だ……)

 

 

自分に対し、心の中で吐き捨てた。

 

 

人間とはそんなに弱かったのか。

 

 

本当に弱かったのは、一体誰だったのか。

 

 

誰も救えないからと嘗ての自分を見限って捨て、神になって誰かを救える力を手に入れた気になってた。

 

 

だけどそれは違った。人にだって、誰かを守れる力があったんだ。

 

 

一人では不可能なことも、仲間と力を合わせれば可能に出来ると。

 

 

だから彼は、仲間達の力を借りて奴と彼処まで戦えた。だがそれでも、彼一人の力では奴にまだ届かない。

 

 

姫(……私は……)

 

 

姫は両手で血まみれの零の頬を包み、改めて彼の瞳を見つめた。

 

 

既に限界が近いからか、零の瞼は徐々に閉じられていき、瞳から放たれる紫色の輝きが激しさを増していく。

 

 

このままでは彼も、彼が守りたい人達も、自分が守りたい人達も守れない。

 

 

彼や皆を救う為に、自分が取るべき選択は何か。

 

 

姫(分かってる……)

 

 

本当の意味で、大切な人達を救う選択は何か。

 

 

正々堂々と、大切な人達を守る為に戦う選択は何か。

 

 

姫(分かってる……!)

 

 

自分一人では決して勝てない絶対の敵、フォーティンブラスの間違いを正す為に相応しい選択は何か。

 

 

神の力を利用した圧倒的な暴力に対抗する為の選択は何か。

 

 

彼等と、本当に肩を並べて歩いていける選択は何か。

 

 

姫(分かってるっ!)

 

 

涙が浮かぶ瞳に揺るぎない決意が宿る。

 

 

そして零の瞼が完全に閉じられたと共に、姫もゆっくりと瞼を閉じ言葉を紡いでいく。

 

 

姫「――我が神名……桜ノ神・木ノ花之咲耶姫の名の許に……此処に、新たなる契りを立てる……」

 

 

たった一言。それだけを口にした瞬間姫と零の足元に巨大な桜色の魔法陣が展開され、膨大な神氣が辺りに放出されていく。そしてその異変に感じ取り、ディエンドとフォーティンブラスは組み合ったまま二人へと目を向けた。

 

 

ディエンド『これはっ……?』

 

 

『ま、まさかっ?!止めろ桜ノ神!!貴様正気か?!』

 

 

フォーティンブラスは姫達の足元に出現した魔法陣を見て何かに気付き、静止の言葉を投げ掛けた。しかし姫はそれに聞く耳を持たず、今にも息を引き掛けてる零の顔を見つめていく。

 

 

姫「――すまない、零……私は君一人にばかり戦わせて、何もしてやれなかった……だから―――」

 

 

目尻に溜まった涙がこぼれ、零の頬に滴る。姫は零の頬を両手で包みながら、ゆっくりと顔を近付け……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「――もう一度、機会をくれ……共に歩み……戦う機会を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青年の血まみれになった唇へと自身の唇を重ね、同時に桜色の光りが辺りを包み込んでいった……

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰ー決戦8

 

 

―???―

 

 

 

零「――ぅ…………ぁ…………」

 

 

桜色の光に包まれたとある空間。何処までもまばゆい光が続いていく世界の中で、零はゆっくりと瞼を開いて目覚めた。

 

 

零「っ……此処……は……?」

 

 

まだ意識が完全に覚醒してないまま、何故かズキズキと痛む左目を押さえながら身体を起こし、辺りを見渡していく。

 

 

零「……?なんだ此処……俺は、何で……?」

 

 

光りに包まれる空間を見渡して頭上に疑問符を並べ、何故自分が此処にいるのか分からず混乱する零。その時……

 

 

 

 

 

 

「――此処は精神と物質の間……人と神が、契約を交わす際に招かれる世界だ」

 

 

 

 

 

 

零「……っ?!」

 

 

 

 

 

 

不意に背後から声が響き、零は驚きながらその声が聞こえてきた背後に振り返った。すると其処には自分と向き合うように立つ少女、姫の姿があった。

 

 

零「咲夜……?」

 

 

姫「……どうやら、無事に一命を取り留めたようだな」

 

 

零「?一命……?」

 

 

何の事だ?と訝しげな顔で聞き返す零だが、ふと自分の左胸が肌寒く感じ身体を見下ろした。其処には血に塗れた服の左胸部分だけが破れており、それを見た零は自然と今まで起きた出来事を思い出していく。

 

 

零「そうだ……俺は確か、奴に心臓を突き刺された筈なのに……何故だ……?」

 

 

今でも鮮明に覚えている。あの時心臓を突き刺された感覚も。それなのに、何故自分は生きてるのか?それが疑問でならない零は困惑に満ちた顔で自分の身体に触れていき、姫は瞳を伏せながら口を開いた。

 

 

姫「それは私が、君と契約の儀を行ったからだ……」

 

 

零「?契約の……儀?」

 

 

聞き慣れない単語を口にした姫に零は思わず疑問げに問い返し、姫は自分の手の平を見つめながら話を続ける。

 

 

姫「君も知ってるだろう?私が使う神の力の事を」

 

 

零「?あぁ、確か……あらゆる奇跡を具現化させるとかいう能力だろう?」

 

 

姫「そうだ……だが私は、今までその力の全てを発揮する事は出来なかったんだ……」

 

 

零「……?」

 

 

言葉の意味がよく分からず、零の頭上が疑問符で埋め尽くされる。

 

 

姫「分かりやすく言えば、私の力はずっと不完全だったというわけだ……何せ私は、本来なら人間と契約を交わす事で、その力を完全な物にして発揮する系統の神だからな……」

 

 

零「?契約を交わす事でって……」

 

 

そう言われ、零はある事を思い出していた。確か大輝なども精霊といったモノと契約を交わし、彼等の力を借りて戦っていた事もあったが……彼女もそういった系統の神だと?

 

 

零「――だが、俺はお前とそんな契約なんてした覚えはないぞ?」

 

 

姫「あぁ……それは私から一方的に契約の儀を交わしたからな……君の意思とは関係無しに、私は君との間に繋がりを創ってしまったんだ……」

 

 

零「何……?」

 

 

一方的に契約を交わしてしまった。それを聞いて零は僅かに眉間にシワを寄せ、姫はそんな零の様子を見て表情を曇らせた。

 

 

零「……助けられた身としては強く言えんが、それは契約とは言えないんじゃないか?契約っていうのは、当事者同士が合意の下でする事であって―――」

 

 

姫「それに関しては心配しないでくれ……さっきも言った通り、この契約は私が一方的に君との間に繋がりを創っただけで、まだ完全に契約成立とはされていない……君が望むなら、この契約をなかったことにする事も可能だ……」

 

 

零「そうなのか?……いやだが、それにしたって――――」

 

 

姫「分かってる……勝手にそんな事してすまないとも思ってる……だがこうするしか、君を助ける方法がなかったんだ……君と契約を交わし、本当の力を手に入れて君を治療するしか……思い付かなかった……」

 

 

零「…………」

 

 

顔を俯かせ、暗い雰囲気でそう告げる姫に零も思わず口を閉ざしてしまう。あの時、死にかけていた自分を抱き抱える姫の顔は必死な物だった。自分を助ける為にはどうすればいいのか、必死に悩んで悩んで考えた結果が、これしかなかったのだろう。それを考えて零は閥が悪そうに頬を掻き、姫は顔色を曇らせたまま顔を上げて話し出した。

 

 

姫「……零……こんな時に言えたことじゃないが……一つだけ、頼みを聞いてもらってもいいか……?」

 

 

零「?頼み?」

 

 

言い難そうに口をごもらせながらそう呟く姫。頼みと言われて零は小首を傾げ、姫は顔を少し俯かせながら話を続けていく。

 

 

姫「私は……私はずっと、自分以外の誰かに頼ることなく過ごしてきた……人間だった頃も……桜ノ神になったばかりの頃も……以前までは、自分以外の誰かは守るべき人々だからと……そう思って、誰かと力を合わせるという事を一度もしてこなかった……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「君の言う通り、そんな生き方をしてきたから、私は自分の過ちにも気付けて来れなかった……今もそうだ……君達を守ると言っておきながら、私は奴に傷を付ける事すら出来ず、君達に助けられて、君は二度も傷付いて……私は、結局誰も守れていなかった……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「……この契約の儀は、契約した人間を自分と共に歩む者として認め、契約者の立てた誓いの為にその力を振るうと決意する物でもある……だが私は、誰ともそんな契約を立てる気なんてなかった……そんな物は必要ないと、私が皆を守らなきゃいけないと……そんな使命感に突き動かされて……意地を張ってただけなんだ……」

 

 

姫は顔を俯かせたまま、唇を噛み締めて後悔するように呟き、零に向けて深く頭を下げた。

 

 

姫「だが今の私には、奴に勝つどころか対等に戦う事すら出来ないっ……だから頼む!君の力をっ……私に貸してくれっ……!」

 

 

零「……咲夜……」

 

 

姫「身勝手だとは分かってる……自分勝手な頼みだと分かってる……だけど気付いたんだ……私独りなんかが、何もかも出来る訳じゃない……私の力なんて、無力に均しいのだと……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「私の全ての力を、君が自由に使ってもいいっ……この戦いが終わるまででもいい……皆と……君と一緒に戦わせて欲しいんだ……もう誰かが傷付くのも……それを見てるだけなのも……もう嫌なんだっ……」

 

 

……つまり、自分との契約に同意して一緒に戦わせて欲しいというわけか。零は無表情のまま必死に頭を下げながら頼み込む姫の姿を見つめ、暫く何かを考えるように瞳を伏せると、薄い息を吐いた。

 

 

零「―――悪いが……俺は神の力なんていらない」

 

 

姫「っ…………」

 

 

返ってきたのは、予想通りの答えだった。頭上から聞こえてきたその声に、姫は頭を下げたまま諦め気味に瞼を強くつむった。

 

 

零「俺はそんな物に興味はない。ましてや、そんな力を扱えるだなんて思ってもいないからな……だから……」

 

 

―スッ……―

 

 

姫「…………ぇ?」

 

 

目の前に何かを差し出された。姫は下げていた頭を上げてそれを見ると、それは右手……零が自分の右手を差し出してきていた。

 

 

零「―――全部なんていらない……ただ、俺が守りたいと思う人達を守れるだけの……お前の力を……少しだけ貸してくれ」

 

 

姫「ッ!……零……?」

 

 

お前の力を少しだけ貸して欲しい。そう告げた零に姫は驚いたように息を呑み、零はそんな姫の様子に苦笑を浮かべた。

 

 

零「予想外だったか?だが言った筈だろう?俺はお前を傍で支えると……そんな事を言ったからには後に引けんし、お前の傍から離れる訳にもいかんだろう……ちょっと目を離した隙に、またアホなボケをかましてアズサに悪影響を与えてもらっても困る。それを考えれば、契約とやらをしてお前を傍に置かせておいた方が俺も安心出来る」

 

 

姫「……ははは。成る程、君らしいな……」

 

 

零「それが俺だからな……それに命を助けてもらったからには、その借りはちゃんと返すさ……」

 

 

彼女のお陰で命を取り留め、因子の暴走も未然に防げた。その借りを返さねばと頬を掻きながらそう呟く零を見て姫は思わず笑みをこぼしてしまうが、すぐさま不安げな顔に変わって零を見上げていく。

 

 

姫「――だが、本当にいいのか?私は……疫病神だぞ……?」

 

 

零「それはこっちの台詞だ。俺の方こそ、世界を破壊する悪魔……破壊者だぞ?」

 

 

そう言いながら、零は不安げな姫に向けて再び右手を伸ばした。手の平を上に、不敵な笑みを浮かべながら―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――どうする神様……悪魔と相乗りする勇気……あるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――まるで、『お前こそついてこれるか?』とでも言うように、真っすぐな瞳でそう告げた。

 

 

そんな彼からの問いに姫は僅かに目を見開き、青年を巻き込んでしまった負い目やこれからのことに対する不安が一瞬で消し飛んだ。

 

 

彼は自分と共に歩むことに迷いや恐怖もない。寧ろ、そんな感情を抱いてる自分に対して『いいのか?』と問いかけている。

 

 

これでは立場が逆ではないかと、手を差し延べてくる青年に姫は無意識に笑みを浮かべ……

 

 

姫「――あぁ……望むところっ!」

 

 

パシィッ!と、甲高い音と共に青年の手を力強く掴み取り、それと同時に辺りがまばゆい光に包まれていった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――頑張って……零………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!―

 

 

その一方、方舟のブリッジでは零と姫を中心に眩い光りが放たれ、ディエンドやフォーティンブラスは余りの眩しさに腕で顔を隠していた。

 

 

ディエンド『ッ!この光りはっ……!』

 

 

『グウゥッ!!あやつめっ、遂に血迷ったか?!』

 

 

二人から放たれる光を見てディエンドは何か心当たりがあるように呟き、フォーティンブラスが険しい表情で眩い光に包まれる二人を睨みつけながら舌打ちしていた。そして二人から放たれていた光が徐々に薄れて消えていき、光の中心点に立つ人物の姿が見え始めていく。その人物とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド?『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

ディエンド『ッ!零……?』

 

 

 

 

 

 

 

そう、光の中から姿を現した人物は零でも姫でもなく、零が変身したディケイドだったのだ。しかしその姿はディエンドが知る物ではなく、ボディは白と桜色を基礎にシャープに変化し、瞳の色は赤。右腕には桜色の籠手が装着され、背中には三対の白い羽根が生えており、身体全体からは気のような物が溢れている。

 

 

ディエンド『?あの気は……まさか神氣……?』

 

 

『ッ!桜ノ神っ、貴様ァッ!!!』

 

 

ディエンドがディケイドの身体から溢れる気が神氣だと気付いて訝しげな表情を浮かべる中、フォーティンブラスは尋常じゃない殺気を放ちながらディケイドを睨みつけていた。だがディケイドはそんな殺気をものともせず、ゆっくりと右手を前に出してフォーティンブラスに人差し指を向けながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド?『――幻魔神・フォーティンブラス……さぁ!』

 

 

咲夜『此処で散らせろ!!』

 

 

『お前の華(いのち)をッッ!!!!』

 

 

―バシュウウゥッッ!!!ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドともう一つの声……ディケイドの中に居る咲夜が声を重ねて決め台詞を叫ぶと共に、姿を変えたディケイド……『ディケイド・アマテラスフォーム』の背中に生えた六枚の白い羽根が強大なオーラを放ちながら大きく展開され、ブリッジ内に巨大な皹を入れていったのだった……

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰ー決戦9

 

 

 

『貴様ぁぁぁぁ……そんな蟲ごときと契約を結ぶ等、其処まで堕ちたかっ?!』

 

 

突如姿を変化させ、背中の白い羽根を展開させながら人差し指を向けてくるディケイド・アマテラスフォームを見て苛立ちを篭めながら叫ぶフォーティンブラス。それに対してディケイドは構えを解き、ディケイドの内にいる咲夜が語り出した。

 

 

咲夜『そう思うなら、お前も私と同じ愚か者だよ……フォーティンブラス』

 

 

『ッ!何だとっ……?』

 

 

咲夜の言葉にフォーティンブラスは険しげに聞き返し、咲夜はそんなフォーティンブラスに憶することなく言葉を続ける。

 

 

咲夜『私は今まで、人間は儚く無力な存在だと思い、そんな彼等を守る対象としか見てこなかった。そう思うようになったのも、嘗ての私が、唯一の肉親である妹を救えなかったから……だから人では何も守れないと、勝手に決め付けて人である事を捨ててしまった』

 

 

『それの何が可笑しい?!人間はただの薄汚い欲望の塊でしかない弱い存在だ!あんな屑共など、この世に必要ないゴミでしかない!』

 

 

咲夜『……いいや、違う。違うんだよ、フォーティンブラス』

 

 

フォーティンブラスの言葉に咲夜は首を左右に振り、落ち着いた口調のまま言葉を紡いでいく。

 

 

咲夜『人間は私達が思っているより、ずっと強い存在なんだ……一人では変えられない不可能な事も、誰かと力を合わせる事で可能に出来る……私は今回の事を通して、漸くそれを理解し……自分の愚かさを改めて理解したよ……』

 

 

ディケイドA『……咲夜……』

 

 

咲夜『だから私は、彼等をもう一度信じて、人の為に戦おうと思う……ただ守るべき対象としてではなく、共に歩む存在として!仲間として!』

 

 

『ッ!何が仲間だ!ふざけおってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーっっ!!!』

 

 

フォーティンブラスは怒号と正面からディケイドへと突っ込み、殺意の篭められた拳をディケイドの顔面目掛けて飛ばした。だが……

 

 

―ガシッ!!―

 

 

『……ッ?!な、に?』

 

 

ディケイドA『…………』

 

 

ディケイドは顔色一つ変える事なくフォーティンブラスの拳を片手だけで掴み取り、受け止めていったのだ。自分の拳を意図も簡単に受け止めたディケイドにフォーティンブラスが驚愕の表情を浮かべる中、ディケイドはフォーティンブラスごと拳を押し返していく。

 

 

『ば、馬鹿なっ……蟲ごときに、こんな力がっ?!』

 

 

ディケイドA『……コイツにはな、この町の人達を守りたいっていう咲夜の覚悟と思いが篭められてるだ。お前なんかに負けるようなモノじゃないんだよッ!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオンッ!!―

 

 

『ガアァッ?!』

 

 

ディケイドはそう言ってフォーティンブラスに蹴りを打ち込んで吹っ飛ばすと、何処からか二本の剣の柄を連結させたような純白の剣……桜神剣を取り出し、懐から取り出したソルメモリとグレイシアメモりを二本の剣の根本部分にあるスロットへと装填していく。

 

 

『SOL!』

 

『GLACIER!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くと共にディケイドは桜神剣を二本の双剣へと分離し、フォーティンブラスに向け身構えていく。

 

 

『グウッ!!ふざけるなっ……この幻魔神が、二度も薄汚い蟲に敗れてたまる物かァッ!!』

 

 

―シュウゥゥゥ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

蹴り飛ばされたフォーティンブラスは態勢を立て直しながら右腕を勢いよく振るい、それと共にフォーティンブラスの背後から数百発の神氣弾がディケイドへと一斉掃射されていく。だがディケイドはそれを見ても冷静なまま、グレイシアメモリを装填した剣の引き金を引いた。

 

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

電子音声と同時に片手剣の刀身が凄まじい風と吹雪に包まれていき、ディケイドは目の前から迫る神氣弾の群れに向けて片手剣を構えながら……

 

 

ディケイドA『ハアァァァァァァ……セアァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!ピキイィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

『ッ?!なっ?!』

 

 

ディケイドが吹雪を纏った片手剣を神氣弾の大群に向けて横一閃に振るった瞬間、数百発の神氣弾が一瞬の内に凍り付けにされて宙で停止したのだ。その光景を見たフォーティンブラスが信じられないといった顔で驚愕する中、ディケイドはその隙にソルメモリを装填した片手剣の引き金を引いた。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

再度電子音声が響くと共に、片手剣の刀身が勢いよく業火に包まれ刀身が伸びていき、そして……

 

 

ディケイドA『ハアァァァァァァッ……デヤアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズザアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ッ?!ウ、ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!』

 

 

凍り付けにされた神氣弾達ごとフォーティンブラスを業火を纏った片手剣で真下から斜め上へと斬り上げ、フォーティンブラスはそのまま数十メートル先まで床を転がりながら吹っ飛ばされていった。そしてディケイドはすかさずその場から瞬間移動を行い、フォーティンブラスが吹っ飛ばされた先に先回りしてフォーティンブラスを殴り飛ばした。

 

 

『ガァッ?!グゥッ!馬鹿な……たかが蟲ごとき……この我がっ?!』

 

 

先程までとは違う力を発揮するディケイドに、信じられないといった表情でふらつきながら起き上がるフォーティンブラス。ディケイドはそんなフォーティンブラスの反応に構わず両手の双剣を構え直し、猛スピードでフォーティンブラスへと突っ込み斬り掛かっていった。

 

 

ディエンド『――桜ノ神との契約……まさか、これが組織の連中の本当の目的なのか……?』

 

 

形勢逆転してフォーティンブラスを徐々に追い詰めていくディケイドを見つめながら、組織の本当の目的について予測するディエンド。其処へ……

 

 

バロン神龍『な、なんだこりゃ……?どうなってんだ?!』

 

 

零の気の変化に気付いてやってきたバロンがブリッジへと駆け付け、フォーティンブラスと戦うディケイドの姿を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

ディエンド『やぁ、翔じゃないか。表の艦隊はもう片付いたのかい?』

 

 

バロン神龍『あ、あぁ……ってか、何なんだ零のあの姿は?!気の高さも異常なほどデカイぞ?!』

 

 

そう言ってバロンが戸惑いながら指差す先には、今も激戦を繰り広げてるディケイドとフォーティンブラスの姿がある。

 

 

フォーティンブラスは以前零を追い詰めた魔剣を使ってディケイドに反撃してるが、ディケイドは桜神剣を使ってそれを簡単に弾きながら素早い斬撃を繰り出し、更に斬撃がヒットする度に巨大な衝撃波が発生してブリッジ内に巨大な皹を入れており、いつ崩壊しても可笑しくない状況になっていた。

 

 

ディエンド『それに関しては後で説明するさ……今は取りあえず、さっさと決着を着ける方が先だ。このままじゃ、今の零の馬鹿力で此処が崩れ兼ねないし』

 

 

ディエンドはディケイドを見つめながら軽く溜め息混じりでそう言うと、懐から一枚のカードを取り出し、……

 

 

ディエンド『零!受け取りたまえっ!』

 

 

―ブンッ!―

 

 

ディケイドA『……ッ!』

 

 

取り出したカードをディケイド目掛けて投げ付けたのである。フォーティンブラスと戦っていたディケイドは突然のそれに驚きながらも、フォーティンブラスを蹴り飛ばしてカードを手に取った。

 

 

ディケイドA『?これは……?』

 

 

ディエンド『此処は取引しようじゃないか?それを渡す代わりに、フォーティンブラスの持つ魔剣は俺がもらう。構わないだろう?』

 

 

ディケイドA『……本当、お前は人の足元ばかり見る奴だな』

 

 

指鉄砲を向けながらニヤリと笑うディエンドに思わず溜め息を漏らすディケイドだが、使える物は使わせてもらおうとフォーティンブラスと向き合いながらバックルを開き、カードを装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:KUROUNIN DOUMEI!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディケイドの左右に九枚のカードのようなビジョンが出現していき、九枚のカードが徐々に様々な戦士達へと姿を変えていった。その戦士達とは、零と同じく苦労人同盟であるライダー達……祐輔、滝、稟、ツトム&クレフ、カノン、鷹、ゼウス、零次、勇二が変身するライダー達であった。

 

 

『ッ?!な、何っ?!』

 

 

バロン神龍『ゆ、祐輔達っ?!何で皆が此処に?!』

 

 

ディエンド『ふむ……どうやら上手くいったようだね』

 

 

突如現れた苦労人同盟のメンバー達にバロンは驚愕の表情を浮かべ、ディエンドはディケイド達を見つめながら満足そうに頷いていた。そしてディケイド達はそれぞれフォーティンブラスに向けて身構えていき、ディエンドもバロンを促して共に肩を並べていく。

 

 

『クッ!蟲風情がゾロゾロと目障りなっ……!!』

 

 

ディケイドA『よし……皆、いくぞッ!』

 

 

ゼロスH『はいッ!』

 

 

ZERO『さあて、俺もいくかッ!』

 

 

エクスL『ええ…幻魔神・フォーティンブラス!騎士王の名の下に、貴様を断罪するッ!!』

 

 

デスペラード『貴様の罪、師匠に代わって僕達が裁くっ!!』

 

 

キャンセラーα『僕も今回は本気で行かせてもらうよ?同じ神として、あの堕神は許せないしねっ!』

 

 

ホルスSH『当然だな。あのような馬鹿神など、この世にレイリアスだけで十分だッ!』

 

 

セブンス『大罪の神の本性、刻みたいか…?貴様の傲慢、強欲、全てが俺の力に変わる…!!』

 

 

ディライトNEXC『この前の借り、此処で返してやるッ!』

 

 

カイザ『ライダーは違うが、此処は敢えて言わせてもらう……さぁ、お前の罪を数えろっ!』

 

 

ディエンド『さて、君の方は大丈夫かい?』

 

 

バロン神龍『あぁ、此処まで溜めてきたエネルギー、アイツに全部叩き込んでやるッ!』

 

 

ST『よっしゃ!俺もいくぜ相棒ッ!』

 

 

ディケイド達はそう言いながらフォーティンブラスに向けて身構えながら、それぞれ必殺技の準備に入っていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DIーEND!』

 

『TIME CRASH!』

 

グレイ「エキストラ、ウェイクア~プッ!」

 

『FINAL VENT!』

 

クライシス『エクシードチャージッ!』

 

『FINALATTACKRIDE:ZEROS!』

 

『XTREME MAXIMUMDRIVE!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DELITE!』

 

『SHINRYUU MAXIMUMDRIVE!』

 

 

それぞれ電子音声が響くと同時にディケイド、ZERO、ホルス、セブンス、カイザ、ディライトが上空へと高く飛び上がりフォーティンブラスに向けて跳び蹴りの態勢を取り、キャンセラー達もそれぞれの武器をフォーティンブラスに向けて身構えていき、そして……

 

 

 

 

 

 

『ハアァァァァァァァ……セヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!』

 

 

『ッ?!や、止めろッ?!来る―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―……グッ?!ウグアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

ライダー達の放ったそれぞれの渾身の必殺技がフォーティンブラスへと全て直撃し、フォーティンブラスは断末魔の悲鳴を上げながら吹っ飛ばされて爆発していったのであった。そしてそれを確認したディケイド達は構えを解いていき、フォーティンブラスが爆発して発生した爆炎へと目を向けていく。

 

 

ディケイドA『終わったな……これで……』

 

 

咲夜『あぁ……奴との因縁……漸く断ち切る事が出来た……』

 

 

幻魔との戦い。それが漸く終わったのだと、爆炎を見つめながら張り詰めていた肩の力を抜いていく咲夜。そして戦いの終わりを確認したエクス以外のライダー達はそれぞれ呼び出される前の居場所へと戻っていき、ディケイド達も方舟を後にしようと歩き出していく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

エクスL『な、何だ?!』

 

 

 

 

突如、ディケイド達の背後で燃え盛っていた爆炎の中からまがまがしいオーラが勢いよく噴出されたのだ。それに気付いた一同は驚愕してオーラを見上げるが、オーラは不気味な紫色の光を放ちながら方舟の床へと溶け込むように消えてしまった。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッッ!!!!―

 

 

ディケイドA『…ッ!これは?!』

 

 

バロン神龍『方舟が、揺れてる?!』

 

 

不気味なオーラが消えたと同時に、突如舟全体が揺れ始めたのだ。まるで地震のように襲い来る揺れに四人はバランスを崩しそうになるが、その時ディケイドの内にいる咲夜が天井を見上げて険しげな顔を浮かべた。

 

 

咲夜『奴め……まだ生きていたのか……!!』

 

 

ディケイドA『…?咲夜?何か知ってるのか?』

 

 

咲夜『あぁ……フォーティンブラス……奴の魂がこの方舟を乗っ取って、自分の身体にしようとしてるんだ!』

 

 

エクスL『何だって?!』

 

 

バロン神龍『ちぃ?!何処までしぶといんだアイツは―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―うわぁっ?!』

 

 

フォーティンブラスの魂がこの舟を乗っ取って自分の身体にしようとしている。それを聞いたバロンが天井を見上げながら毒づくが、再び巨大な揺れが発生して思わずふらつき、更にブリッジ内の壁や床がなにかの内蔵のような不気味な物質へと変化し始めた。

 

 

咲夜『ッ!急いで此処から出るんだ!早くしないと、全員取り込まれて奴の身体の一部にされてしまうぞッ!』

 

 

ディケイドA『チッ!それは流石に御免だな……海道!稟!翔!一度外に出るぞ!』

 

 

バロン神龍『ッ!分かった!!』

 

 

エクスL『はい!!』

 

 

ディエンド『仕方ないっ、お宝は後で回収するか……!』

 

 

『WIND DIーEND!』

 

 

切羽詰まった咲夜の言葉を聞き、四人は急いでブリッジから走り出て上空へと羽ばたいていき、それと共にブリッジが不気味な物質によって押し潰され、方舟は別の何かへと更に変化を続けていくのであった……

 

 

 

 

 




新フォーム&オリジナルカード設定]


仮面ライダーディケイド・アマテラスフォーム


解説:零と咲夜が契約して一つとなったディケイドの新フォーム。ボディカラーは白と桜色、瞳の色は赤。右腕に桜色の籠手…『桜神の籠手』が装着され鎧全体がシャープに変化し、背中には超高速飛行を可能とした六枚の白い羽根を持っている。最高飛行速度は測定不能。


全能力とスペックが数万倍にまで跳ね上がり、神氣を使った攻撃と咲夜の能力である『様々な奇跡を具現化する力』を使う事が出来る。(例え:自身の総合スペックを装着者の限界まで跳ね上げる、本来特別な力がないと倒せない敵を無条件で倒せる、元々ない筈の力を自在に使える、敵の攻撃を無力化させる等)


更に桜の花弁を象った八枚の盾を発生させて攻撃を防いだり、背中の六枚の羽根から神氣の砲撃を無数に放つ事が可能。


全身には常時特殊な神氣を纏っており、神属性以外の並の攻撃では傷一つ付けられない強度を誇っている。更に様々な特殊能力や因果破壊すら一切受け付けない。


ただしこのフォームを維持出来るのは約5分が限界であり、それを超えれば零の身体と因子に影響を与える可能性がある為、時間を超えれば強制的に通常形態へと戻ってしまう。


分身、残像を発生させる事が可能な他、瞬間移動を使う事も可能。


この形態になるには咲夜が光球となってディケイドと一体化することで変化し、近くに咲夜がいなければこのフォームにはなれない。




『桜神剣』


解説:アマテラスフォーム時にディケイドが使用する二本の純白の剣の柄を連結させた剣。二本の剣の根元部分にあるスロットにソルメモリとグレイシアメモリを装填する事で力を発揮し、神氣とソルとグレイシアの力を同時に使用する事が出来る。
更に連結を解き双剣として使うことも可能であり、その際にはソルとグレイシアの力を個々にわけて戦う。


必殺技はソルとグレイシアのマキシマムドライブ、そしてディケイドのファイナルアタックライドを同時に使用して二本の刃に神氣を注ぎ、標的を一刀両断する『桜光銀聖刃』と炎と氷の砲撃をディメンジョンフィールドに通して放つ『龍鬼砲』


双剣時はソルを単独でマキシマムドライブさせ、業火を纏った刃で敵を斬り裂く『桜火』と、グレイシアを単独でマキシマムドライブさせて氷雪を纏った刃で敵を凍てつかせながら斬り裂く『氷桜』


空手時にはディメンジョンフィールドが全て桜の花びらを模した紋章に変わったフィールドをくぐり抜け、標的に跳び蹴りを打ち込む『ディメンジョンキック改』




オリジナルカード


アタックライド:クロウニンドウメイ


解説:大輝が外史ライダー達のライダーカードを元に独自に開発し、苦労人同盟ライダー達の最強フォームを一斉に召喚出来るオリジナルカード。
召喚するライダー達は全てオリジナルの変身者となっており、召喚された際にはディケイドの記憶を共有出来るようになっている為、状況説明も必要無くすぐさま戦いに参戦出来るようになっている。


因みにライダー達は強制ではなく本人達の任意で呼び出されており、場合によっては全員を呼び出すことが可能となっている。


ライダー達は過去、現在、未来、並行世界を問わずに呼び出される為、どの時間軸でどの世界の人物達なのかは定かではない



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第十七章/桜ノ神の世界⑰ー決戦10

 

 

そして同じ頃、方舟の外では未だライダー達が幻魔の大群を相手に奮闘し、霊山の上空では爆発とエネルギー弾の雨が交差し乱戦状態に陥ていた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っ?!』

 

 

幻魔達と戦っていた一同の耳に腹の底にまで響く轟音が届き、一同は幻魔達から視線を逸らし背後へと振り返った。すると其処には、先程ディケイド達が侵入した時の方舟全体がウネウネと不気味に動く内蔵のような物質へと変化していく光景があった。

 

 

ゼオ『あれは?!』

 

 

アストレア『な、何ですかアレ?!気持ち悪っ?!』

 

 

鬼王『あれは……方舟の形が……変化してる……?』

 

 

グロテスクな物体へと変化していく方舟を目の当たりにして戸惑う一同。すると其処へ、フォーティンブラスを撃破してブリッジから脱出したディケイド、ディエンド、エクス、バロンの四人が一同の下へと飛翔してきた。

 

 

アンジュルグ『ッ!零……!』

 

 

アテナ「稟!何処に言ってたの?!いきなり消えるから心配したでしょう?!」

 

 

エクスL『あー、悪いυυちょっと色々あってな……υυ』

 

 

龍王『おい黒月!桜ノ神様はどうした?!ご無事なのか?!』

 

 

咲夜『心配するな紗耶香。私なら此処にいる』

 

 

鬼王『?!零の中から……声が?どういうことなの?それにその姿は……』

 

 

ディケイドA『話なら後で幾らでもする。とにかく今は……』

 

 

そう言ってディケイドは険しい表情で方舟の方へ振り返り、鬼王達もそんなディケイドの様子に首を傾げながら方舟に視線を戻した。ディケイド達の視線の先には、不気味に変化を続けて徐々にその姿を変えていく方舟の姿があり、時の方舟のブリッジ部がまるで人間の上半身のような形状へと次第に変化していき、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――貴様等ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

ブリッジ部が変化した人の上半身のような部分………六十メートル近くはあるであろう巨大なフォーティンブラスが獣のような咆哮を上げ、轟音にも似たそれはディケイド達の全身を突き刺していった。巨大フォーティンブラスは殺意と憎悪の篭った瞳でディケイド達を睨みつけながら、背中から悪魔のような白い羽根を生やしていく。

 

 

龍王『な、何だアレは?!』

 

 

バロン神龍『オイオイ、なんて馬鹿デカさだよアレっ?!』

 

 

咲夜『っ……奴は時の方舟の力を全て取り込んでしまってる……今の奴の力は、先程とは比べ物にならないぞっ!』

 

 

ディケイドA『ちっ、図体ばかりがデカくなっただけじゃないって訳か……!』

 

 

咲夜の言葉を聞き、禍々しい殺気を全開に放ちながら睨みつけてくる巨大フォーティンブラスを見て、一同はそれぞれ険しい表情を浮かべていく。

 

 

『許さん!!絶対に許さんぞ屑共がぁ!!貴様全員、絶対に生かして帰さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!!』

 

 

その一方で、フォーティンブラスは大気すら揺るがす叫びをあげながら顔の前方に超巨大なエネルギー弾を形成し、巨大エネルギー弾の照準をディケイド達へと向けていく。

 

 

冥華『ッ!来るわよっ!!』

 

 

ディエンドW『チィ?!』

 

 

フォーティンブラスが撃ち出そうとしている巨大エネルギー弾を見た冥華が大声で叫ぶと、ディケイド達は直ぐさま左右へと散開してエネルギー弾をかわそうと動いていく。だが……

 

 

『喰らえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!!!』

 

 

―シュウゥ……ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

『ッ?!グッ、ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

フォーティンブラスが発射した超巨大エネルギー弾は広範囲に撃ち出されていき、ディケイド達はなんとか直撃を免れた物の、とてつもなく巨大な衝撃波や風圧によって吹っ飛ばされ地上の森林へと木々を薙ぎ倒しながら叩き落とされてしまった。

 

 

エクスL『がっ……ぐっ……これが、方舟を取り込んだ奴の力?!』

 

 

龍王『圧倒的過ぎる……あんなのをまともに受けたらっ……』

 

 

アンジュルグ『……っ?!また来るっ……!!』

 

 

上空を見上げたアンジュルグが切羽詰まった様な叫び声を上げると、一同はそれを聞いて直ぐさま上空を見上げた。すると其処には、上空からこちらに向けて再びエネルギー弾を放とうとしている巨大フォーティンブラスの姿があり、一同はそれを見て咄嗟に上空へと逃げた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュウゥ……ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

『グウッ?!!』

 

 

 

 

 

一同が一斉に上空へと飛び上がったと同時に、フォーティンブラスが撃ち出したエネルギー弾が地上に着弾し巨大な大爆発を巻き起こしていったのだ。そうして徐々に爆発と爆煙が晴れていくと、先程一同が落下した森林は跡形も残らず消し飛び、半径百メートル近くはある巨大なクレーターが作り出されていた。

 

 

アストレア『う、嘘っ……一撃であの威力っ?!』

 

 

バロン神龍『冗談だろう、あれだけの威力をなんの反動も無しに使えるのか?!ありえねえだろうっ?!』

 

 

咲夜『そのありえない事を成し遂げてしまうのが、神という存在なんだよ……忌ま忌ましいことにな……』

 

 

ディケイドA『ッ!咲夜!何か奴に弱点とかないのか?!あんなのが何発も撃たれたら、いつかは町に当たって消滅するぞ?!』

 

 

咲夜『……あるにはある。時の方舟の中枢に存在する舟の核……魔空石さえ破壊出来れば……』

 

 

ディケイドA『魔空石…?それを破壊すればいいんだな?何処にある?!』

 

 

咲夜『舟の中……つまり、フォーティンブラスの体内の何処かにあるはずだ……だがそれを破壊するには、フォーティンブラスの中に侵入するしか方法はない!』

 

 

ディケイドA『奴の体内……』

 

 

そう言いながらディケイドが目の前に目を向けると、其処には巨大フォーティンブラスが両腕をがむしゃらに振り回し、山を木っ端微塵に吹っ飛ばしながらディエンド達を翻弄する光景があった。

 

 

ディケイドA『……ソイツは結構骨が折れそうだな。物理的な意味で』

 

 

咲夜『あぁ、アレの直撃を受けたら、幾ら今の君でもただでは済まない……難しい所だな……』

 

 

ディケイドA『だが迷ってる隙もないだろう……一か八かだ、一気に突っ込んで奴の中に侵入するぞっ!』

 

 

このまま悠長に構えてたら、町の方にまで被害が及ぶ可能性が高い。そうなる前に早急に決着を着けねばと、ディケイドは背中の羽根を大きく展開して腰を屈め、再び巨大フォーティンブラスが腕を振り回した瞬間を見て動きだそうとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ガッ……?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

ディケイドA『?!なにっ……?』

 

 

 

 

ディケイドがフォーティンブラスへ突っ込もうとしたその時、突如フォーティンブラスの腹が“内側”から爆発を起こしたのだ。その爆発によってフォーティンブラスは腹を押さえて悶え苦しみながら驚愕し、ディケイド達も思わず動きを止めて唖然となってしまう。

 

 

『ガッ……グウッ……な、なんだ?何が起きた?!』

 

 

エクスL『ば、爆発?誰かが攻撃したのか?』

 

 

ディエンドW『いや、全員奴の攻撃を避ける事で精一杯でそんな余裕はなかったハズだ。誰かが攻撃する素振りも見なかったし』

 

 

ゼオ『じゃあ、此処にいる奴以外がやったって事か?でも、誰が……?』

 

 

フォーティンブラスが腹を押さえて困惑しながら苦しむ中、一同は一体何が起きたのか分からず困惑の表情を浮かべながら顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―フォーティンブラス体内・魔空石―

 

 

フォーティンブラス体内に存在する方舟の中枢である魔空石の部屋。其処には今、爆煙が漂う魔空石を前にそれぞれ武器を構えて立つ戦士達……ゼロノス、勇王、ディジョブド、エグザム、アナザーアギト、そして虎鬼が強化変身した『極限荒神装虎鬼』の姿が存在していた。

 

 

エグザムM『チィ!思ったより固いぞこの石っころっ?!』

 

 

ゼロノスZ『やっぱ、全力を篭めてやるしか破壊するのは無理そうだな……』

 

 

ディジョブド『だな。よし、ジョブ!もう一度だ!』

 

 

勇王『コイツさえ破壊出来れば戦況を覆せるんだ……死ぬ気でやってやるさっ!』

 

 

アナザーアギト『あぁ、あの堕神に目に物くれてやるっ!!』

 

 

極限荒神装虎鬼『よーし!俺もやるぞぉーー!!』

 

 

一同はそう言って互いに顔を見合わせ力強く頷き合うと、再び魔空石と向き合い必殺技の準備に入っていく。

 

 

『MAXIMUM!COUNT!KICK!THUNDER!MAXIMUM COUNTⅡ!』

 

『Full Charge!』

 

『Full Charge!』

 

ジョブ『ライセンス!落鳳破!』

 

 

四つの電子音声が鳴り響くと共にエグザムとアナザーアギトは上空へと高く飛び上がって魔空石に跳び蹴りを放ち、ゼロノスと勇王とディジョブドはそれぞれの武器に自分達の持てる力を全て込め、極限荒神装虎鬼は胸の胸部の虎の口に過炎激気と幻魔の魂を圧縮した高エネルギー弾を形成していき、そして……

 

 

 

 

 

 

極限荒神装虎鬼『いっけぇっ!極限!!炎激激砲おぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

ゼロノスZ『いくぞデネブ!!オリャアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

勇王『いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!!』

 

 

ディジョブド『ハアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

エグザムM/アナザーアギト『セヤアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

……六人の全力の必殺技が魔空石へと全て炸裂していき、それと同時に魔空石が全体に亀裂を入れて輝き始め、辺りは眩い光りに包まれていったのだった……

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑰ー決戦11

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ガッ?!グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ?!!!!!』

 

 

そして場所は戻り、外では巨大フォーティンブラスが腹の内側から発生した二度目の爆発に悲痛な絶叫を上げ、頭を抱えながら悶え苦しみ出した。一同がそんな巨大フォーティンブラスの様子と謎の爆発に首を傾げていると、咲夜は何かに気が付いたように両目を見開いた。

 

 

咲夜『これは……奴の力が逆流してる?』

 

 

ディケイドA『!逆流だと?どういう意味だ?』

 

 

巨大フォーティンブラスの力が逆流してる。それを聞いたディケイドが訝しげに問い返すと、咲夜は苦しむ巨大フォーティンブラスを見つめながら言葉を紡いだ。

 

 

咲夜『私にも理由は分からないが、どうやら奴は方舟の力を制御出来なくなっているらしい。それで制御出来なくなった方舟の莫大な力が奴の中を逆流し、奴はあんなにも苦しんでいるんだ』

 

 

ディケイドA『つまり暴走してる訳か……だが、何でいきなり力が制御出来なくなったんだ?さっきまではあんなに……』

 

 

何故いきなりフォーティンブラスは力を制御出来なくなってしまったのか?その理由が分からないディケイドは困惑の表情を浮かべるが、その時ディケイド達の下に一つの通信が届いた。

 

 

アナザーアギト『皆!聞こえてるか?!』

 

 

ディケイドA『ッ?!この声……』

 

 

エクスL『龍弥さん?』

 

 

一同の下に届いた通信の声……アナザーアギトの声を聞いてディケイド達は不思議そうな顔を浮かべ、アナザーアギトはそんな一同の反応に構わず話を続ける。

 

 

アナザーアギト『たった今、こっちで魔空石を破壊した!!今ならあの堕神を倒せるぞ!!』

 

 

ディケイドA『?!魔空石を?!というかお前等いつの間に?!』

 

 

アナザーアギト『お前達があの堕神と戦っている間に侵入したんだよ。とにかく、魔空石を失って奴が力をコントロール出来なくなった今がチャンスだ!!』

 

 

アナザーアギトが叫ぶようにそう言うと、ディケイドは無言で頷いて何処からか桜神剣を取り出しながら一同と顔を見合わせて頷き合い、一斉に巨大フォーティンブラスの上空へと高く飛翔して散開した。

 

 

エクスL『よし、先ずは俺達からだ!!』

 

 

グレイ「エキストラ、ウェイクア~ップ!!」

 

 

アテナ「ずっとあの堕神にぶち込んでやりたかったからね、手加減はしない!!」

 

 

冥華『さて、私も真面目にやりますか!!』

 

 

ディエンドW『俺も本気でやらせてもらう!!』

 

 

『WIND!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

バロン神龍『いくぜスティール!!』

 

 

ST『おうっ!さっき溜めたエネルギーを全部使うぜっ!!』

 

 

『SHINRYUU MAXIMUMDRIVE!』

 

 

先陣を切るようにエクス達が巨大フォーティンブラスの背後へと回り、エクスは両手で握り締めた剣の刃に黄金の光を集約させ、バロンは膨大なエネルギーを溜めた剣を両手で振り上げ、ディエンドとアテナと冥華はそれぞれの武器の銃口に莫大なエネルギーを集めて巨大フォーティンブラスの背中に狙いを定め……

 

 

エクスL『シャイニングブレイカー!!いけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

アテナ「星神アテナが命じる!!彼の者を滅せよ!!ジャスティスブレイカァァァァァァァァァァァァアッ!!!」

 

 

冥華『ゼロ・バスター!!発射ァ!!』

 

 

ディエンドW『ウィンド!ファイナルバースト!!』

 

 

バロン神龍『斬り裂けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっっ!!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

四人の撃ち出した必殺技が巨大フォーティンブラスの背中へと全て撃ち込まれ、巨大フォーティンブラスは背中に撃ち込まれる四つの閃光を受けて更に絶叫を上げた。そしてそれを見たアストレア、アンジュルグ、ゼオも巨大フォーティンブラスの真上へと飛び上がり、武器を構えた。

 

 

アストレア『よーし!行くわよ二人共!!』

 

 

アンジュルグ『うん……!』

 

 

ゼオ『分かった!!』

 

 

アストレアからの呼び掛けに答えながらアンジュルグとゼオはイリュージョン・アローと砲撃の照準を巨大フォーティンブラスに向けていき、アストレアもセイントセイバーを両手で掲げ刃にエネルギーを溜めていき……

 

 

アンジュルグ『コード入力……ファントムフェニックスッ!!』

 

 

ゼオ『Jカイザー、発射ッ!!』

 

 

アストレア『ハアァァァァァァァァ……いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グオッ?!ガアァッ?!』

 

 

アンジュルグとゼオの撃ち出した炎の矢と雷の砲撃、そしてアストレアが振り下ろした斬撃破が巨大フォーティンブラスの肩へと直撃し、その間に龍王と鬼王が肩を並べて巨大フォーティンブラスの正面に移動した。

 

 

龍王『我々もゆくぞ桜香、腕は鈍ってないな?』

 

 

鬼王『心配ないわ。そういう貴方こそ、ちゃんと付いて来れるかしら?』

 

 

龍王『フッ、吐かせ!!』

 

 

互いに口元に笑みを浮かべながら言い合うと、二人は巨大フォーティンブラスを見据えながら自身の刀を構えた。それと同時に二人の刀が紅と青の炎に包まれ、刀身が数十メートル以上も伸びていき、そして……

 

 

龍王『合体剣技っ!!』

 

 

鬼王『龍鬼破斬剣っ!!』

 

 

『セヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!―

 

 

『ゴアァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

二人の合体技、龍鬼破斬剣が巨大フォーティンブラスの胸へと勢い良く振り下ろされ斬り刻んでいった。そして二人の合体技を受けた巨大フォーティンブラスは更に悲痛な悲鳴を上げながら苦しみ出し、その様子を見たディケイドは桜神剣の引き金を引き、更にライドブッカーから一枚のカードを取り出しバックルに装填してスライドさせた。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ディケイドA『いくぞ……咲夜!!』

 

 

咲夜『ああ!!』

 

 

『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

ディケイドは背中の羽根を羽ばたかせて勢いよく飛び立ち、ディエンド達の技で抑えられる巨大フォーティンブラスへと猛スピードで突進し、そして……

 

 

ディケイドA『デリャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズシャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『ゴアァッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

巨大フォーティンブラスの額目掛けて桜神剣を大きく振り下ろして額に突き刺し、桜神剣で額を突き刺された巨大フォーティンブラスは絶叫を上げながら大きく頭を振るっていく。しかしディケイドも負けじと巨大フォーティンブラスの額に桜神剣を更に深く刺していき、巨大フォーティンブラスは殺気の篭った瞳でディケイドを睨みつけた。

 

 

『グウッ!!まだだっ……まだ終わらんぞ?!貴様等屑共をこの世から殲滅し!!この世界も!!桜ノ神も手に入れるまでわっ!!』

 

 

ディケイドA『そんな野望……俺がっ!!!』

 

 

咲夜『私がっ!!!』

 

 

『叩き潰すっ!!!!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『ガッ……グガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!』

 

 

ディケイドと咲夜が力強く叫ぶと共に、巨大フォーティンブラスの額に突き刺した桜神剣で巨大フォーティンブラスの頭部を全力で斬り上げていったのだった。そしてディケイドは羽根を展開して巨大フォーティンブラスから離れると共に、巨大フォーティンブラスの身体の至る箇所から小規模の爆発が発生していく。

 

 

『アガッ、ガ……ク、クククク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!見える!!見えるぞ!!!貴様等蟲共が我等幻魔になぶり殺され、絶望の悲鳴を上げる光景が?!ハハッ、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ―ズシャアァッ!!―……ガッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

巨大フォーティンブラスが爆発に包まれながら桜ノ町に腕を伸ばして不気味に高笑いを浮かべた瞬間、突如現れた何者かの剣によって頭を斬り裂かれ、断末魔を上げる間もなく巨大な爆発に飲み込まれて空に散っていったのだった。そして、巨大フォーティンブラスにトドメを刺した人物………メモリーは宙に浮きながらメモリブレイドの刀身を撫でていく。

 

 

メモリー『断罪完了………幻魔神。例え幻影であろうと、テメェにその光景を見せる訳にはいかないんだよ……』

 

 

感情すら感じさせない低い声でそう言うと、メモリーはゆっくりと顔を動かしてディケイド達の方を見つめ、ディケイド達は巨大フォーティンブラスが爆発した空をジッと見上げていた。

 

 

エクスL『……終わった……のか?これで』

 

 

バロン神龍『あぁ、やっとな……』

 

 

鬼王『とうとう倒せたんだ……あの幻魔神を……』

 

 

漸く幻魔との戦いが本当に終わった。未だそれを実感出来ずエクス達がジッと空を見上げていると、ディケイドの中の咲夜が呟いた。

 

 

咲夜『――零……少し町の上に行ってもらっていいか?ちょっとやる事を思い出した……』

 

 

ディケイドA『?やる事?』

 

 

咲夜『そうだ。この状態でなければ出来ないんだ……構わないか?』

 

 

ディケイドA『……分かった……』

 

 

何をやろうとしているのかは分からないが、とにかく咲夜の言う通りにしようと桜ノ町の上空へと移動していくディケイド。桜ノ町は先の幻魔による被害によって瓦礫の町と化し、町の至る所には怪我を負った町の人々の姿がある。

 

 

咲夜『……この辺りか……零、右腕の籠手を掲げてくれ』

 

 

ディケイドA『……?こうか?』

 

 

意味は分からないが、ディケイドは取りあえず言われた通りに右腕に装着された桜神の籠手をおもむろに掲げ、咲夜もそれを見ると、ゆっくりと瞼を閉じて意識を集中させていく。すると突然、町の様々な場所から淡い光が浮かび上がり、町の上空に浮かぶディケイドの籠手へと集まっていく。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『痛い……痛いよっ……』

 

 

『誰か……誰か助けてくれっ……』

 

 

『お願いです神様……どうか……どうかこの子だけでもっ……!』

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドA『……ッ?!これは……?』

 

 

咲夜『この町の人々の願いだ……幻魔の脅威に苦しめられた人々の……』

 

 

頭の中に直接響き渡る様々な人々の願い。そう告げた咲夜の言葉にディケイドが思わず町を見下ろすと、何かに気が付いたように息を呑んだ。

 

 

ディケイドA『咲夜、お前まさか……!』

 

 

咲夜『……零……悪いが少しだけ、私の我が儘に付き合ってくれ……これが、私がこの世界にしてやれる最後の恩恵だから……』

 

 

ディケイドA『…?最後?』

 

 

最後の恩恵。その言葉の意味が分からずディケイドが訝しげに聞き返すと、咲夜は微かに笑みを浮かべ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜『――さあ、始めようか。これが私の……桜ノ神の最後の奇跡だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処か陽気な口調で叫ぶと共に、ディケイドの背中の白い羽根が大きく広げられ、次の瞬間右腕の籠手からまばゆい桜色の光りが放たれていった。そして光りはオーロラのように町全体に広がっていき、光を浴びた町の建物や家は幻魔に破壊される前に修復され、町の人々の怪我も一瞬の内に治されていったのだ。

 

 

「こ、これは?」

 

 

「怪我が、治ってく?町も……?」

 

 

桜色の光りを浴びて徐々に治されていく人々の怪我と町。その奇跡とも呼べる現象に人々が戸惑う中、ボロボロのぬいぐるみを抱えた幼い少女がふと空を見上げ、白い羽根を広げて浮かぶディケイドを見つけて……

 

 

「……かみさま……?」

 

 

不思議そうに小首を傾げ、そう呟いたのだった。そんな少女の呟きを聞いた咲夜は微かに笑みを浮かべ、桜色の粒子が降り注ぐ空を見上げた。

 

 

咲夜『なあ零……私は今度こそ……人々を幸せに出来たかな……?』

 

 

ディケイドA『……さあな……ただ―――』

 

 

ディケイドは一度言葉を区切り、町へと目を向けた。すると其処には、ボロボロのぬいぐるみを抱えた小さな少女がこちらに向けて手を振り、明るい笑顔を浮かべる姿があった。

 

 

ディケイドA『――ただ、お前ほどのお人良しな神は他にはいないと思うぞ……きっと』

 

 

咲夜『……ふふ……そうか……それは光栄だ……』

 

 

皮肉を込めたディケイドの言葉に瞼を閉じながら笑みを漏らす咲夜。ディケイドもそんな咲夜の様子に薄い溜め息を吐きながら、桜色の粒子が雪のように降り注ぐ町をジッと眺めていくのだった…………

 

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑱

 

 

幻魔達との戦いが終結してから半日後。姫が起こした奇跡によって瓦礫の町と化していた桜ノ町は元に戻り、町を離れて避難していた人々も続々と町へと戻ってきていた。幻魔達との決戦で力を貸してくれた別世界の住人達の一部もそれぞれの世界へと戻り、桜ノ神社では……

 

 

 

 

 

 

零「――おい雷火、帰って早々人様の頭にゲンコツ落とすとか……一体どういう了見だ……?」

 

 

神社の前に立ち並ぶ一同の中でそう言ったのは、頭を片手で抑えながらジト目を浮かべる零だった。そしてそんな零の視線の先には、雷火が両腕を組んで呆れたように溜め息を吐いていた。

 

 

雷火「ならこっちも聞くが……零、お前俺との約束覚えてるか?」

 

 

零「約束?……あー……確か……」

 

 

雷火「必ず稟とアズサの三人で生きて帰ってこいって言ったよな?言った筈だよな?」

 

 

零「あぁ……うん……言ったな……」

 

 

雷火「なのにお前、絶対安静の身体で無茶をし続けた挙げ句の果てに、一回死に掛けたよな?あの堕神との戦いで」

 

 

零「……掛けたな……うん……」

 

 

雷火「だよなぁ……なのにお前、人様との約束の一つも守れないとか……一体どういう了見だ?」

 

 

零「……あー……うん……申し訳ない……(汗)」

 

 

ジト目で睨みつけてくる雷火の視線を受け、思わず目を逸らしながら冷や汗を流して謝罪する零。そんな零を見た雷火は再び溜め息を吐き、絢香もそんな光景に苦笑いを浮かべながら一同と向き合い、頭を下げた。

 

 

絢香「でも、本当にありがとうございました。貴方達のお陰で、この世界は幻魔の脅威から救われました」

 

 

紗耶香「私からも礼を言おう……本当にありがとう」

 

 

烈「いえ、僕達はただ自分のやりたいようにやっただけですから」

 

 

侑斗「だな。だから礼なんて必要ないさ」

 

 

一同に頭を下げながら礼を告げる二人に烈と侑斗が少し照れ臭そうにそう言うと、絢香と紗耶香はもう一度礼を言いながら頭を上げていく。とその時、零は一同の顔を見比べてある疑問に気付き、頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

零「む?……おい、海道と馬鹿女の奴は何処いった?それにあのベルって奴も」

 

 

絢香「あ、海道大輝さん達ですか?あの方達なら先に後を立たれましたよ?それと……零さんにコレを渡して欲しいと」

 

 

零「……?手紙?」

 

 

大輝達が先に神社を去ったと告げながら絢香は懐から一枚の手紙を取り出し、零はそれを受け取って手紙を開いていく。其処に書かれていたのは……

 

 

 

 

 

 

『俺とベルはちょっと用事があるから、先に次の世界に向かわせてもらうよ。せいぜい次の世界でも邪魔しないでくれよ?

 

 

PS.魔剣はしっかりと頂いたよ、ご苦労だったね零♪』

 

 

 

 

 

 

零「……どさくさに紛れてまた盗みかアイツ……まぁ、カードの件もあるから強くは言えんか……」

 

 

ほぼ予想通りだった手紙の内容に零は溜め息を吐きながらそう言うと手紙を懐に仕舞い、そんな零の下へ翔が歩み寄り肩を叩いた。

 

 

翔「そんじゃ、此処の人達との挨拶を済ませたら写真館に帰るか?足が必要なら手を貸すぞ」

 

 

ST『俺達と一緒に転移すれば、今回みたいな行方不明も防げるしな』

 

 

またNXカブトの世界の時のようなアクシデントが起きるとは限らない為、此処は自分達が写真館まで送ろうと告げる翔とスティールだが、零は顎に手を当てながら……

 

 

零「――すまん、写真館に帰るのはまだ待ってくれないか?まだやる事が残ってた」

 

 

翔「?やる事?」

 

 

申し訳なそうにそう告げた零に翔は訝しげな表情を浮かべ、零も小さく頷き返しながらライドブッカーから一枚のカード……クウガのカードを取り出した。

 

 

零「さっき思い出したが、ハイパークロックアップで光達の世界に飛ばされた時に優矢も巻き込んでしまってな。これからアイツを捜しに行かないといけないんだ」

 

 

翔「マジか?……でもどうやって捜す気だ?アイツが飛ばされた世界とか分かるのか?」

 

 

零「幸いにもアイツの気を感じ取るぐらい出来るからな。気配を探って見付ければ、後はその世界に行って捜せばいいだろう」

 

 

翔「そうか……ならお前のとこのなのは達にも事情を説明しに「それなら私に任せてくれる?」……え?」

 

 

なのは達への説明はどうしようかと悩む翔の言葉を誰かが遮り、零達はその声が聞こえてきた方へと振り向いた。其処には先程の決戦の時にも力を貸してくれた二人の人物……冥華とメルティアの姿があった。

 

 

冥華「彼女達への説明なら私がしておいてあげるわ。次の行き先の途中でカブトの世界を通り掛かる予定だし、ついでに行ってきていいわよ?」

 

 

零「本当か?そうしてもらえるなら助かるんだが……いいのか?」

 

 

冥華「別に急ぎの用があるわけでもないしね……ああそうそう、貴方に渡す物があったんだった。はいコレ」

 

 

冥華は何か思い出したように言いながら服のポケットから数枚のカードを取り出して零へと差し出し、零は疑問符を浮かべながら差し出されたカードを手に取った。カードに描かれているのは、冥華が戦闘の際に身に纏っていたイノセント・インフィニティアやメルティアが変身するゼオ、更に見知らぬ鎧の戦士達の絵柄であった。

 

 

零「これは……」

 

 

冥華「私達の力が秘められたカードよ。旅先で貴方の力になると思うわ。持って行きなさい」

 

 

零「……何から何まで悪いな……お前にも色々と世話になった」

 

 

冥華「別にそんな大した事はしてないわ。それじゃ、私達はこの辺で「あのー……?」……ん?」

 

 

早速カブトの世界へ向かおうとした冥華だが、その時誰かに呼び止められて振り返った。すると其処には、二人の青年……先の戦いでトライズとなって幻魔達と戦っていた鍵とアグニの姿があった。

 

 

鍵「あの、すみません……此処って桜ノ神社で会ってますか?」

 

 

零「?そうだが……お前達は?」

 

 

鍵「あ、僕達は智大さんに言われてこの世界に来た者です。何か、さっきまで町の中を暴れ回ってた怪物達と戦ってこいって言われて……」

 

 

零「?!智大に?ならもしかして、お前もライ「おい!何時までグダグダ話してるんだ?!」……ん?」

 

 

智大に言われてこの世界にやって来たという鍵に零が何かを言おうとするが、鍵の隣に立っていたアグニが苛立った声を荒げてそれを遮り、零へと掴み掛かってきた。

 

 

アグニ「お前が智大の言ってた知り合いって奴だな?俺達を早く元の世界へ帰せっ!奴の知り合いならそれくらい出来るんだろ?!」

 

 

零「は……?」

 

 

鍵「ちょ?!アグニやめろってば!!」

 

 

アグニ「うるさい!こんな訳の分からない世界はもうウンザリなんだよっ!さあ早くしろ!出ないとその首へし折って―ガシィッ!―ガッ?!」

 

 

零の胸倉を掴んで早く元の世界へ帰せと脅しを掛けようとしたアグニだが、いきなり横から伸びた手に腕を捕まれて捩られてしまう。そしてアグニの腕を掴んだ人物……冥華は呆れた目でアグニを見つめながら口を開いた。

 

 

冥華「いい加減にしなさいグリード、あんまり暴れると鳥のから揚げにして野良犬に食わせるわよ?」

 

 

アグニ「イデデデデッ?!な、何だお前?!離せこの年ま―ギギギギギギッ!―イデデデデデデッ?!」

 

 

冥華「口が悪いのは何処ぞの腕怪人と同じね……貴方、元の世界へ帰りたいなら私が送ってくわよ?どうする?」

 

 

鍵「え?ほ、本当ですか?ありがとうございます!」

 

 

冥華からの願ってもない提案に鍵は思わず頭を下げて礼を言い、冥華はそんな鍵に微笑するとアグニの腕を掴んだまま零達の方へ振り返った。

 

 

冥華「んじゃ、私達はもう行くわね。また何処で会いましょう零?行くわよメルティア」

 

 

メルティア「わかったよ。じゃ、またなアズサ姉さん!」

 

 

アズサ「うん……身体には気をつけてね……」

 

 

冥華はアグニの腕を引っ張りながら零達に背を向けて鍵とメルティアと共にゆっくりと歩き出し、そのまま転移して何処かへと消えていったのだった。

 

 

雷「……何だったんだ……今の……」

 

 

零「さあ……あ、名前聞くの忘れてた……」

 

 

結局あの二人は何者だったんだ?と冥華達を見送った零は唖然としてたが、すぐに正気に戻って顔を動かし、自分の隣に立つカリムとシャッハへと目を向けた。

 

 

零「まあいいか……じゃ、俺達もそろそろ行くとするか」

 

 

カリム「はい……絢香さん、紗耶香さん……長い間、お世話になりました……」

 

 

絢香「いえ、こちらこそ。また何時でも遊びに来て下さいね♪」

 

 

紗耶香「シャッハ、元気でな。また何時か剣の相手を頼む」

 

 

シャッハ「えぇ、その時を楽しみにしてます」

 

 

互いに名残惜しそうに別れの挨拶を交わし、何時かまた会おうと約束する四人。零達もそんな様子を無言で見守っていると、ふと勇二がある疑問を浮かべた。

 

 

勇二「アレ?そういえば……姫さんは何処行ったんだ?」

 

 

龍弥「うん?言われてみれば……何処に行っ「私なら此処だ」……ん?」

 

 

先程から姫の姿がない事に気付いた勇二と龍弥が辺りを見回してると声が響き、神社の中から姫がゆっくりと姿を現した。

 

 

絢香「あ、姫様!何処行ってたんですか?!零さん達とのお別れぐらいちゃんと――!」

 

 

姫「まあ待て、説教は後回しだ。その前に少し、皆に話しておきたい事がある」

 

 

紗耶香「?話、ですか?」

 

 

いきなり話しがあると切り出してきた姫に紗耶香や他のメンバーも小首を傾げ、姫も真剣な顔で小さく頷きながら零の隣にまで歩み、絢香と紗耶香と向き合った。

 

 

紗耶香「それで、話しとは何なのですか?」

 

 

姫「あぁ……いきなりで悪いのだが……絢香、紗耶香……私はこの世界を出ようと思ってるんだ」

 

 

『……え?』

 

 

自分はこの世界を出る。姫のその発言を耳にした絢香と紗耶香は一瞬何を言われたのか分からず唖然となり、すぐに正気に戻って慌て出した。

 

 

紗耶香「ちょ、な、なにを言うんです?!この世界を出るって――?!」

 

 

姫「言葉の通りだ……この世界を脅かしていた幻魔の脅威はなくなり、漸くこの世界にも平和が訪れた……だからもう私は必要ないさ」

 

 

絢香「そ、そんなことありません!だって、町の人達だって、あの奇跡を目の当たりにして姫様のことをお認めになったんですよ?!必要ないなんてそんな……!」

 

 

姫「……絢香……幻魔達の脅威がなくなったこの世界に今必要なのは、神なんて存在じゃない。この世界を最後まで見届け、より良い方向へと導く存在……君達人間だ。それに私のような存在がいれば、第二第三のフォーティンブラスを呼び寄せ兼ねないからな……」

 

 

絢香「で、でも……」

 

 

姫「それにな?私はまだまだ未熟な神だ。この世界を導くだけの器ではない……だから、彼等と共にもっと広い世界を見てこようと思うんだ。色んな世界を見て、自分の未熟さを見直していこうと……」

 

 

紗耶香「……神様……」

 

 

自嘲するように微笑む姫を見て絢香と紗耶香は言葉を呑み、姫はそんな二人から隣に立つ零へと目を向けた。

 

 

姫「それに、私は彼と契約した身だからな。契約者の傍を離れる訳にもいかないだろう?」

 

 

零「……まさか、四六時中一緒にいるとか言わないだろうな?」

 

 

姫「ん?君が望むならそうするぞ?何なら、明日から風呂やトイレも一緒とか♪」

 

 

零「断固拒否するっ!!」

 

 

そんなつもりで契約したんじゃないわ!!と結構全力で拒む零。そんな零の様子に姫も可笑しそうに笑い、絢香は姫の顔を見て微かに笑みを漏らした。

 

 

絢香「分かりました。姫様がそうおっしゃるなら、私ももう止めません」

 

 

姫「そうか……すまんな、我が儘言って……」

 

 

絢香「いいえ。でも忘れないで下さいね?例え離れていても、この世界は姫様の帰る場所です。もしも帰りたくなったら、いつでも帰ってきて下さい」

 

 

姫「あぁ……ありがとう」

 

 

そう言って優しげに微笑む絢香に釣られるように姫も笑みを浮かべ、その様子を傍で見ていた零と紗耶香も顔を見合わせて微笑を浮かべた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

「――話の途中で悪いけど、そろそろ良いかしら?」

 

 

『……へ?』

 

 

不意に聞き覚えのある女性の声がその場に響き渡り、姫を除いた一同が一斉にその方へと顔を向けた。すると其処には、神社の柱に背を預けて腕を組む女性……決戦後に姿を消したはずの桜香が立っていた。

 

 

絢香「お、桜香さん?!」

 

 

紗耶香「お前、どうして此処に?!今まで何処に行ってたんだ?!」

 

 

桜香「別に……あの戦いの後に孤児院の様子を見に行ってたんだけど、いきなり其処の神様に呼び付けられたのよ。それでちょっと話をしてたの」

 

 

絢香「え?そ、それって、どういう事ですか?」

 

 

姫「ん?ああ、まだ話してなかったな」

 

 

桜香のことをまだ話してなかった事を思い出し、姫は苦笑を浮かべながら桜香を見つめて話を始めた。

 

 

姫「彼女には、私の代理を頼むことにしたんだ。もしまたこの世界に不測の事態が起きた場合、彼女になら全てを任せられると思ってな……きっと私より適任だと思うぞ?」

 

 

桜香「買い被り過ぎよ……だけど、頼まれた以上無下にも出来ないしね……そういう訳だから、また宜しくね?」

 

 

絢香「あ……、は、はい!こちらこそ、宜しくお願いします!」

 

 

桜香が微笑しながら差し延べた手を見て、嬉しそうに微笑みながら手を握り返す絢香。そして桜香は紗耶香と顔を見合わせて頷き合うと、ふと穏やかな顔で三人を見つめる零の顔を見て、絢香に小声で話し掛けた。

 

 

桜香(……そういえば絢香、一つ聞きたい事があるんだけど……)

 

 

絢香(え?聞きたい事……ですか?)

 

 

桜香(そっ、貴方……もう告ったの?零に)

 

 

絢香(っ?!!はっ、な、ななななな何言うんですかこんな時にいきなり?!)

 

 

桜香(だって貴方達、一つ屋根の下で一緒に寝泊まりしてたんでしょ?だったらそんな機会なんて幾らでもあった筈じゃない)

 

 

絢香(わ、わたっ、私は別にそんなつもりはというかあの人がどう思ってるのかも分からないのにそんなこと言える訳ないというかだからえっとその!!!)

 

 

桜香(……へぇ……じゃあまだ告ってないんだ……)

 

 

目をグルグルさせながら顔を真っ赤にしてゴモゴモと口ごもる絢香を見て不敵に笑い、桜香は絢香の手から手を離すと零の前へと歩み寄っていく。

 

 

零「?どうした?」

 

 

桜香「いいえ、ただ貴方にお礼を言いたくてね。今回の件で、貴方には色々とお世話になったから」

 

 

零「なんだそんな事か……別に礼なんていらんぞ……第一、誰かに贈る物なんて持ってないだろう?」

 

 

桜香「ふむ……そうね……確かに今は無一文だから何も持っていない……だから―――」

 

 

―ガシッ―

 

 

零「……む?」

 

 

顔を少し俯かせながら桜香が小声でそう呟くと、何故か突然胸倉を捕まれた。零はそんな桜香の行動に頭上に疑問符を並べるが、次の瞬間いきなり桜香が零を勢いよく引き寄せ……

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の唇と零の唇を重ね合わせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『んなっ?!!』

 

 

零「?…………っ?!っっ?!!!」

 

 

一同の驚愕の声が響き渡り、最初は事態に付いていけてなかった零も自分の今の現状に気付いて動揺を浮かべ、桜香はそんな零の唇から少しだけ唇を離し……

 

 

桜香「――私の初めて……今はこれで我慢して……ね?」

 

 

零「っっっっ?!!!!!」

 

 

鼻と鼻がぶつかる程の間で桜香が艶っぽい声音でそう告げた共に、零は腕で口を押さえながらバッ!!!と勢いよく後退してそのまま固まってしまった。そして一同が衝撃的な光景を目にして呆然となる中、絢香はすぐさま正気に戻って顔を真っ赤にした。

 

 

絢香「なっ?!な、な、な、何をしてるんですか桜香さんっ?!!///」

 

 

桜香「ん?口づけだけど?見て分からなかった?」

 

 

絢香「そうじゃありません!!こ、公衆の面前であ、あんなこと!!破廉恥です!!不潔です!!///」

 

 

桜香「何言ってるの?勝負はいつだって先手必勝よ」

 

 

姫「むう……流石は私の代理として認めた女……侮れん……」

 

 

カリム「れ、零がっ……零が女の人とっ……きゅう」

 

 

シャッハ「き、騎士カリム?!お気を確かに?!」

 

 

アズサ「?雷火……どうして目を塞ぐの?」

 

 

雷火「子供が見るものじゃありません」

 

 

そう言ってアズサの両目を塞ぐ雷火や一同の視線の先には、何かもう色々と子供には見せられない惨状が広がっている。そんな光景を一同が遠い目で見つめる中……

 

 

―ジッーーーーーー―

 

 

零「…………あ?」

 

 

背後から何かの視線を感じ、口元を押さえて固まっていた零は正気に戻り背後に顔を向けた。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アテナ「…………ニヤッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………何処ぞの星神様が、いつの間にかカメラを片手に先程のキスシーンを撮影してましたとさ。

 

 

零「――って?!お、お前そのカメ――?!!」

 

 

アテナ「さーて♪早く帰ってナノナノ動画にアップア~ップ♪」

 

 

と、アテナはまるで遠足を間近にした子供の様なウキウキとした顔で転移されました、まる。

 

 

零「お、おい待てコラ?!ちょ―ガシッ―……え?」

 

 

転移したアテナの後を追おうと慌てて走り出そうとする零だが、突然後ろから誰か……翔に襟首を捕まれて動けなくなってしまう。

 

 

零「翔?!」

 

 

翔「何処に行く気だ?優矢を捜しに行くんだろう?俺も途中まで付き合うから、早く行くぞ」

 

 

零「いや優矢を捜すより先にアテナだ!あの女さっきのをカメラに撮ってあのサイトに投稿しようと?!」

 

 

翔「それは……ご愁傷様と言いたいが……うん諦めろ。相手が悪い」

 

 

零「諦め切れるか?!離せ!!今から追えばまだ間に合う!!離せぇっ!!」

 

 

翔「じゃあ俺はコイツに付き添うから、またな皆」

 

 

勇二「は、はい(汗)」

 

 

晃彦「何かあったら呼んでくれ、またすぐ駆け付ける……って聞いてないな……」

 

 

仲間達との別れすらそっちのけで必死に翔の手から逃れようとジタバタ暴れ回る零だが、翔は深い溜め息を吐きながらも手を離そうとせず、そんな二人を見た姫は微笑を浮かべながら絢香に声を掛けた。

 

 

姫「では、私達はそろそろ行く。元気でな?」

 

 

絢香「だからそれは!――え?あ、は、はい!姫様もどうか、お元気で」

 

 

紗耶香「ご武運をお祈りしてます」

 

 

桜香「まぁ、代理の方もそれなりに頑張っとくから、安心して行ってきなさい」

 

 

姫「ああ、行ってくる……アズサ!シャッハ!翔!零とカリムを連れてこっちに来てくれ!」

 

 

翔「ん?あぁ……?」

 

 

アズサ「?……分かった」

 

 

シャッハ「あっ、は、はい……」

 

 

絢香達と挨拶を済ませた姫に促され、アズサとシャッハと翔は言われた通りに零とカリムを連れて姫の下に歩み寄っていき、姫は全員が自分の周りに集まったのを確認すると手の平を合わせていく。

 

 

アズサ「?何するの?」

 

 

姫「なに、零が言っていた優矢という奴がいる世界に転移するだけだ。今の私の力なら、世界を渡る事など簡単だからな」

 

 

翔「でも居場所は?分かるのか?」

 

 

姫「心配ない。さっき零が出してたカードと似たような気配を既に見付けてある。後はその気配を感じた世界に跳ぶだけだ」

 

 

翔の疑問にそう答えると、姫の両手の間から光が溢れ出し、姫達の足元に桜色の陳が展開されていく。

 

 

零「?!お、おい待て?!まさか跳ぶ気なのか?!」

 

 

姫「そうだ。さあ行くぞ!次の世界は、君の仲間が居る世界だ!」

 

 

零「いやちょっと待て?!先ずあの女を取っ捕まえないとあの動画&画像が並行世界全体に?!ちょ、ま、ええいチキショウ!!もう女なんて懲り懲りだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!(泣)」

 

 

結局最後の最後まで女難に遭う零。そんな彼の悲痛な叫びは桜色の光に飲まれて姫達と共に転移し、その場に残された一同はそんな零に合掌していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――因みにその頃、Wの世界では……

 

 

―パコオォンッ!―

 

 

翔一「てぇ?!ちょ、待てってアイリス?!怪我人にスリッパのマジ叩きはキツイって?!」

 

 

アイリス「良いから答えなさい!!この写真は一体なに?!アンタ、紫音冥華とキスした訳?!」

 

 

翔一「は、はぁ?!いや知らない知らない?!そんなことした覚えもないしっていうか何だよその写真?!どっから持って来た?!」

 

 

アイリス「うちのポストに入ってたのよ……さ、正直に言いなさい……異世界に行ってた間、紫音冥華と何をしてたの?!」

 

 

翔一「だ、だから何もしてな……ってアイタタタタッ?!ファングに噛ませるなって?!ちょ、ま、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ?!!」

 

 

幸助によって探偵事務所に運ばれた翔一は全身に包帯を巻き、現在冥華が送った捏造写真のせいでアイリスとファングメモリに尋問されていたのであった……

 

 

 



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第十七章/桜ノ神の世界⑲

 

 

―桜ノ町・某所―

 

 

とあるホテルの一室。其処には今回の騒動の裏で動き回っていた慎二がベッドに腰掛ける姿があり、彼の目の前には組織のNo.3である裕司の顔が写ったモニターが存在していた。

 

 

慎二「――以上が、桜ノ神の世界での零先輩の行動に関する報告です」

 

 

裕司『……成る程な……やはり空間を遮断しただけでは、他世界の連中の介入を止められなかったか』

 

 

慎二「例の断罪の神や神々が関わってきましたからね。まぁそれを呼び寄せたのも幻魔神が好き勝手やったせいでもあるんですが……結果的に因子は第二段階へと移行したのですから問題ないかと」

 

 

裕司『そうだな……ご苦労だった、慎二』

 

 

慎二「いいえ、僕はただ与えられた任務を真っ当しただけですから……それはそうと、どうします?因子は第二段階に入った事だし、そろそろ仕掛けますか?」

 

 

慎二は笑みを浮かべていた顔から冷たい表情へと変わって裕司にそう問い掛けるが、裕司はそれに対し首を左右に振った。

 

 

裕司『まだだ。先程終夜と話し合った結果、第二段階に移行したばかりの力では"アレ"を破壊するのは無理と判断した。もう暫く様子見といったところだ』

 

 

慎二「そうですか……まあ終夜先輩達が決めた事でしたら、仕方ないですね……」

 

 

裕司からの返答に少し不満ではあるも、渋々納得して頷く慎二。裕司はそんな慎二に溜め息を吐きながら、話を続けていく。

 

 

裕司『それはそうと、調べたか?奴と桜ノ神の契約について』

 

 

慎二『?ああ、幻魔神との戦いで零先輩が手に入れたアレですか。一応調べときましたよ?』

 

 

そう言いながら慎二は足元に置いてあった黒いカバンケースを手に取ってベッドに置き、ケースを開いて中から数枚の資料を取り出し資料をめくっていく。

 

 

慎二「こちらで調べた所、アレが零先輩の因子にどう影響するか詳しくは分かりませんでした。ただ長時間あの力を使用し続ければ、因子に何らかの影響を与えるというのは確かなようです」

 

 

裕司『なるほど……ならば第二の抑止力になる可能性はないという訳か……』

 

 

慎二「みたいですね。でもこればかりは流石に予想外でしたよね?まさかあの場で桜ノ神が零先輩と契約を交わすとは……」

 

 

裕司『ああ……本来なら、因子を第二段階へ移行するだけで良かったのだが……思わぬ収穫が入ったな……今後はアレも有効的に利用させてもらおう』

 

 

裕司はそう言ってこの話題にはもう興味がないと手元にある桜ノ神の世界に関する報告書に目を通していき、慎二もそんな裕司に相変わらずだなと笑みを浮かべるが、ふとある事を思い出した。

 

 

慎二「そういえば……次の世界では誰を零先輩の監視に付けるんです?」

 

 

裕司『あぁ、次の世界では総一に監視に付いてもらう。ついでにヴァリアスが連れてきた配下にも同行してもらう予定だ』

 

 

慎二「ヴァリアス……ああ、GEAR電童と対立している勢力のトップですか」

 

 

裕司『そうだ。それとあの二人の他にも、そろそろ例のアレにも動いてもらう』

 

 

慎二「例のアレ?……もしかして、ヴェクタスが以前連れてきたっていう彼ですか?」

 

 

例のアレ。裕司の口から出たその言葉に慎二は目を細めながら問い、裕司はそんな慎二に目をやらず資料に目を通しながら言葉を続けた。

 

 

裕司『次の世界には奴の旅仲間であるクウガがいるらしい。未だ不完全体のアレの初陣には、丁度良い相手だろう』

 

 

慎二「……そうですか……んで、その彼を連れてきたヴェクタスはどうしてるんです?もしかして彼も同行するとか?」

 

 

裕司「いいや。奴は今別の任務に当たってるらしい。何でも終夜が、あるモノを回収する為にあの預言者を捜しに向かわせたようだ」

 

 

慎二「あの預言者を?」

 

 

あるモノを手に入れる為、終夜がヴェクタスに鳴滝を捜しに向かわせた。慎二はそのあるモノが何なのか分からず訝しげに眉を寄せるが、裕司はそれ以上なにも答える事はなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―とある世界・廃墟内―

 

 

無人の廃市街地の中に存在する一つの廃墟。其処は嘗てルミナやアズサ達が造り出された場所であり、その名残である生体ポットが、今も尚不気味な機械音を響かせて稼動している。するとそんな場所に一人の男性……鳴滝がボロボロの姿で部屋へと入ってきた。

 

 

鳴滝「くっ!おのれっ……あと少しでディケイドを始末出来たというのにっ……!」

 

 

そう言って鳴滝はフラフラと近くの生体ポットに歩み寄って手を付け、全体重を掛けながら荒れた呼吸を整えようとする。

 

 

何故彼が此処までボロボロになっているのか?そんな疑問を抱く方々に説明すれば、実は先程の桜ノ神の世界での決戦の際で零が死に掛けた時、鳴滝はそれを好機に思い零に止めを刺そうと刺客を送ろうとしたのたが、突然乱入してきた紲那の世界の住人であるリオン達に阻止されてしまったのだ。

 

 

後は想像出来る通り、鳴滝は彼等に一方的にボコボコにされて逃げ帰り、此処まで何とか戻って来られたのだ。

 

 

鳴滝「っ……αやβという戦力を失い、別世界の住人達の介入もあってはディケイドを抹殺する事など出来ない……やはり……アレを動かすしかないのか……」

 

 

だが、アレだけは……と、鳴滝は思い止まるように口の中で呟きながら険しい顔を浮かべた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――おや?随分遅い帰りじゃないか?』

 

 

 

 

鳴滝「……ッ?!」

 

 

 

嘲りを含んだ笑い声が廃墟の中に響き渡った。それを聞いた鳴滝は驚愕に染まった表情でバッ!と顔を上げ、目の前へと目を向けた。すると其処には、なにやら人間一人が入れるくらいの生体ポットを片手に持って奥の部屋から出て来ようとしていた人物……ヴェクタスの姿があった。

 

 

鳴滝「き、貴様は?!何故此処に?!」

 

 

ヴェクタス『ふん。なぁに、単に探し物があってソレを回収しに来ただけさ……ほら、コレだよ』

 

 

言いながらヴェクタスは手に持っていた生体ポットを床へと乱暴に投げ付けた。その生体ポットはルミナやアズサが造られた時に使用されたポットと同タイプのものであり、ポットの側面には乱暴に引きちぎられたせいか、無数のケーブルが途中でちぎれてる。そしてポットの中に眠る人物を見て、鳴滝は顔を青ざめた。

 

 

鳴滝「そ、それは……!」

 

 

ヴェクタス『確かぁ、あの三体の屑人形の前にお前が造った奴だよなぁ?しかし開発途中で想像を越える程の力をコイツが持ってる事に気が付き、それを危険視して封印したとか』

 

 

鳴滝「そ、そうだっ、それだけは動かしてはならない!一度でも動かしてしまえば、ソイツは第二のディケイドとなって世界を破壊し尽くしてしまう!」

 

 

ヴェクタス『そう言いながら、結局は処分して来なかったんだろう?もしもの為の切り札として、いつかは動かそうとか考えてたんじゃないのか?』

 

 

鳴滝「違う!下手な衝撃を与えてしまえば、ソイツが目覚めてしまう可能性があったからだ!ソイツは自我を持たず、心を持たず、ただ目前の敵を破壊するだけの存在なのだ!だから私は――!」

 

 

ヴェクタス『だがコイツを造ったのはお前だ。可哀相とは思わないか?せっかくこの世に生まれたのに一度も外の世界を見られないなんて……だから――』

 

 

ニタァと、ヴェクタスは仮面の下で歪な笑みを浮かべながらポットの表面に手を掛けた。

 

 

鳴滝「?!や、止めろ?!ソイツだけは!」

 

 

ヴェクタス『――俺が出してやるよ。さぁ、共にこの腐った世界を見て行こうじゃないかぁっ?!』

 

 

―ガシャアァンッ!!!―

 

 

ヴェクタスは鳴滝の静止の言葉すら聞かず、愉快げに笑いながらポットの表面を強引に毟り取っていったのだった。それと同時に生体ポットの内側から冷却ガスが勢い良く噴き出し、生体ポットの中で静かに眠っていた人物はゆっくりと目覚めて上体を起こしていく。その人物とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零?「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の髪に真赤い瞳、黒いボロボロのコートを纏った青年……黒月零と瓜二つの容姿をした青年だったのだ。そして青年はゆっくりとポットから立ち上がり、ヴェクタスはそんな青年の顔を見て関心するような声を漏らした。

 

 

ヴェクタス『成る程なぁ。流石は『過去』の奴のデータを元に造り出しただけのことはある。この目や顔、本当にあの頃の奴にそっくりだ……』

 

 

鳴滝「くっ!何という事を……貴様、自分が何をしたのか分かってるのか?!」

 

 

ヴェクタス『あん?チッ、一々うるさい奴だ―ザッ―……あ?』

 

 

怒りを込めた表情で睨みつけてくる鳴滝にヴェクタスはめんどくさそうに思わず舌打ちするが、その時青年が鳴滝と向き合って何処からかディケイドライバーに似た漆黒のバックルを取り出して腰に装着し、左腰に現れたライドブッカーから一枚のカードを取り出してバックルへと装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

低く暗い電子音声と同時に青年の周りに九つのシルエットが現れ青年へと重なっていき、体にディケイドと酷似したスーツが装着され最後に仮面部分にカード状のプレートが刺さっていき、灰色だった部分が漆黒に変化していった。

 

 

鳴滝「な、何?!」

 

 

ヴェクタス『……ククク、ハハハハハハハハハッ!!コイツはいいっ!どうやらこいつはお前より俺に付いてくれるらしいぞ?』

 

 

自分と対峙する青年を見て鳴滝が驚愕と戸惑いを浮かべる中、ヴェクタスは額に手を当てながら肩を僅かに上下させ笑っていた。その間にも青年が変身した戦士……『ダークディケイド』は無言のままライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルへと装填しスライドさせた。

 

 

『KAIJINRIDE!』

 

 

再度電子音声が鳴り響くと共に、ダークディケイドの周りに無数の粒子が集って人の形を形作り、それらは全て他世界の怪人達であるグロンギ、アンノウン、ミラーモンスター、オルフェノク、アンデッド、魔化魍、ワーム、イマジン、ファンガイアとなって雄叫びをあげた。

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

鳴滝「なっ……」

 

 

ヴェクタス『ククク、どうする?今なら見逃してやっても構わんぞ?それとも、このままコイツ等の餌になるか?』

 

 

鳴滝「くっ!お、おのれぇ……!」

 

 

愉快げに笑うヴェクタスに鳴滝は悔しげに唇を噛み締めてヴェクタスを睨むが、此処にいても怪人達に喰い殺されるのがオチだ。そう判断した鳴滝は背後から現れた歪みの壁に呑まれ何処かへと消えていき、それを見たヴェクタスは鼻で笑いながらダークディケイドへと目を向けた。

 

 

ヴェクタス『さあて、早く此処まで来いよ零?それまでコイツと一緒に、最高の舞台を整えておいてやるからさぁ……』

 

 

ダークディケイド『………………』

 

 

心底愉しそうに笑みを漏らしながら呟くヴェクタスの言葉に、ダークディケイドは虚空を見つめたまま何も答えない。ただ彼が呼び出した怪人達が獣染みた咆哮をあげ、廃墟内に響き渡っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

第十七章/桜ノ神の世界 END

 




オリキャラ設定⑥


木ノ花之咲耶姫

性別:女

年齢:???(容姿は十八か十九歳)

容姿:腰まで伸ばした黒髪に桜色の瞳。

イメージCV:日笠 陽子


解説:桜ノ神の世界を司る神。一応神と呼ばれてるが本人は神の座に興味がないらしく、思春期真っ只中なエロボケネタをかましては周りを困らせる変神(へんじん)。


そんな変神ではあるが面倒見が良い所があり、基本的にはクール(のつもり)だが、甘いものや可愛いぬいぐるみ、動物が好きなど子供らしい一面もある。


性格とは裏腹に学力天才、運動神経抜群、料理も出来て作法も完璧だとか。


様々な奇跡を具現化するという神の力を用いた不思議な能力で記憶の書き換えや催眠術、何もない空間から物質を出したりなど様々な力が使えるが……本人曰く、ナプ〇ンを創る時以外に力を使ってないらしい。


因みに彼女自身は元々戦闘タイプの神ではないため、身体能力も人並み以上に高いだけ。戦闘に巻き込まれた場合は自分の身を自分で守る為に体術を心得ており、両手両足に神氣を纏って戦う。他にも桜の花びらを模した盾や砲撃なども少し放てる程度。


人間だった頃は『咲夜』と呼ばれていたらしく、その名は零しか知らない秘密となっている。


イメージキャラは生徒会役員共から天草シノ。





仮面ライダーイクサ・フロンティア


解説:姫が自身の力で創造したイクサベルトとイクサナックルを用いて変身するライダー。外見はイクサ・セーブモードの装甲の白い部分をピンク色に変えた姿をしており、スペックはバーストモードと同様の性能を誇る。武装は原作のイクサと同様イクサカリバーを用いて戦う。


必殺技一覧


ブロウクン・ファング

解説:ナックルフエッスルをバックル部にセットすることで発動する技。イクサナックルに全エネルギーを一点集中させ、敵を殴って粉砕する。


イクサ・ジャッジメント

解説:カリバーフエッスルをバックル部にセットすることで発動する技。必殺技発動時にバーストモードへと移行し、全エネルギーを放出しながら光りを纏ったイクサカリバーで敵を斬り裂く。


シャイニングソルブレイク

解説:桜色のフエッスル、ウェイクアップフエッスルをバックル部にセットすることで発動する技。右足に太陽の力と神力を収束し、敵にライダーキックを打ち込む


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第十八章/GEAR電童の世界

 

 

 

数々の死闘を繰り広げた桜ノ神の世界を漸く後にし、行方不明となった優矢を捜しに新たな世界へと訪れた零達一行。果たして、この世界で彼等を待つ試練とは……?

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―初音島・風見市―

 

 

季節に関係なく、桜が咲き誇るという初音島。そんな初音島の中心に存在する町……風見市では、今一人の青年がカメラを構えて町の風景を撮影していた。

 

 

零「ふむ……此処が優矢がいるっていう世界か」

 

 

首に掛けたカメラを構える青年……零はそう呟きながらカメラのレンズを街中の様々な風景に向けてシャッターを切っていき、何枚か写真を撮ると撮影を止め、ズボンのポケットから一枚の絵柄も何もないカードを取り出していく。

 

 

零「それにしても、此処は一体何の世界なんだろうな……全然心当たりがないから何も分からんし……」

 

 

ライダーの絵柄も何もないカードをひっくり返したりなどして眺めながら溜め息を吐くと、零はカードを仕舞い町の方へと目を向けた。

 

 

零「まぁ、分からないなら調べてみればいいだけの話か……とにかく、優矢の奴をさっさと見付けないとな……」

 

 

零はいつになく意気込んだ様子でそう呟き、早く優矢を見付けなければと気合いを入れていた。だが……

 

 

翔「――なあ零……ちょっといいか?」

 

 

何故かそんな零とは違い、翔はそんな零を見て額から冷や汗を流していた。零は翔に振り返る事なく「んー?何だー?」と軽く返事をしながら再びカメラを弄っており、翔はそんな零の背中を見つめながら……

 

 

翔「いやさ…そんな格好でカメラとか弄ってたら不審人物とかにしか見えないぞ……?υυ」

 

 

零「ぐっ……お前、少しは察しろよ……それ突っ込んで欲しくなくて今一人語りしてたんだろうがっ……」

 

 

翔に指摘されて苦虫を噛み潰したような顔で振り返る零。そんな彼の格好は現在白いワイシャツ、黒い上下のスーツに両手には革製の黒い手袋、そして黒いサングラスという何処からどう見てもヤクザかマフィアにしか見えない格好となっていたのだ。

 

 

零「クソッ、前の世界じゃ格好が変わることなんてなかったのに、何でこの世界じゃコレなんだっ……」

 

 

翔「いや俺に言われても分からんてυυ」

 

 

姫「まあまあ、別に良いじゃないか?格好が変わるという事は、ソレが君のこの世界での役割なんだろう?だったら分かりやすくて良いじゃないか♪」

 

 

そんな二人の会話に割り込むように話し掛けてきたのは、零達一行をこの世界へと運んだ姫だ。見れば彼女の後ろにはアズサ、シロ、カリム、シャッハの四人の姿もあるのだが、零はそんな彼女達を見て再び溜め息を吐いた。

 

 

零「なにが役割だ。俺達はただ優矢を捜しに来ただけだろう……というか、何でお前等までそんな格好なんだ?」

 

 

そう言って呆れた視線を送る零の目に映るのは、何故か自分と同じ黒いスーツに革製の黒い手袋、黒いサングラスという格好をした姫達の服装だった。零にそれを指摘されたカリムは乾いた笑みを漏らし、黒いサングラスを少しずらした。

 

 

カリム「あはは……話には聞いてましたけど、世界を超える度に格好が変わるというのは本当だったんですねυυ」

 

 

シャッハ「ですね……その格好がその世界での役割という話も聞きましたが……この格好が示す役割とは何でしょうか?」

 

 

姫「うむ、やはりアレじゃないか?銃とかマシンガンとか持って何処かの組に殴り込み、『此処は儂等のシマじゃゴラァァァァァ!!』とか叫んで銃撃戦したりとか♪」

 

 

零「……そんな物騒なことしてなんになる?まさか、ヤクザに捕まった優矢を救出しろとでも?」

 

 

幾らアイツでもそんな災難な目には合っとらんだろうと、零は馬鹿馬鹿しいと言うように軽く溜め息を吐いて黒猫を胸に抱くアズサへ目を向けた。

 

 

零「取りあえずこの世界について情報が欲しいんだが……アズサ、お前何か分かるか?」

 

 

前の世界でも様々な情報を保有していたアズサなら、この世界に関しても何か分かるんじゃないかと問い掛ける零であるが、アズサは小さく首を左右に振った。

 

 

アズサ「ごめんなさい……私もこの世界については、何も知らないの……」

 

 

零「?知らないって、何もないのか?この世界のライダーに関する情報は」

 

 

アズサ「うん……でもこの世界のライダーが戦ってる怪人、アルシェインについてなら分かる……」

 

 

シャッハ「アルシェイン?」

 

 

聞き慣れない怪人の名を口にしたアズサに一同は首を傾げ、アズサはコクッと小さく頷きながら話を続けていく。

 

 

アズサ「アルシェインは超古代時代に現れた怪人で、嘗て無限の古代神によって封印されていたらしいけど、ある組織に封印を解かれてこの世界で暴れ回ってるって……」

 

 

零「ッ!無限の……古代神?」

 

 

無限の古代神。アズサの説明に出たその単語を聞いた零は僅かに眉を寄せると、ライドブッカーから一枚のカード……インフィニティのカードを取り出した。

 

 

零「――無限の古代神がアルシェインと関わっていたなら、この世界はインフィニティと何か関係があるのか?」

 

 

アズサ「……其処までは私も知らない……でも、その可能性はないとは言い切れないと思う……」

 

 

零「そう、か……まあいい……取り敢えずこの世界のライダーや優矢についての情報を集めてみるか。此処でジッとしてても何か分かる訳でもないしな」

 

 

翔「そうだな。頭で考えるより、足で動いて探した方が早いだろうし」

 

 

ただ此処で考えるだけでは何も得られないので、零達は早速この世界を調べる為に調査を開始しようと町の奥へ行ってみようと歩き出した。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―フッ……ドシャアァッ!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

零「ッ!何……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如一同の背後からけたたましい激突音が響き、零達は突然のソレに驚きながら背後へと振り返った。すると其処には、零達の近くにあるビルの壁に一人の黒い戦士……女性的なフォルムが目立つ一人の戦士が全身ボロボロの姿でグッタリと壁に埋もれる姿があったのだ。

 

 

翔「な、何だ?!一体なにが……?!」

 

 

『……うっ……ぅ……』

 

 

カリム「ッ?!ま、まだ息があります!大丈夫ですか?!」

 

 

ビルの壁に埋もれる戦士を見て一同が唖然となる中、カリムは戦士が微かに漏らした苦しげな吐息を聞いて慌てて戦士へと駆け寄っていき、シャッハや姫もその後を追って戦士を抱き起こしていく。その時……

 

 

 

 

 

 

『――此処に居たか……』

 

 

 

 

 

 

『……え?』

 

 

不意にその場に第三者の声が響き、零達がその声が聞こえてきた方へと顔を向けると、其処にはこちらに向けて歩み寄ってくる三人の戦士……青のライダーと剣を片手に持った赤のライダー、マフラーを首に巻いた青いライダーが歩み寄ってくる姿があり、そのライダー達の一人であるマフラーを巻いた青いライダーが零達を見て小首を傾げた。

 

 

『?民間人?何故こんな場所に……』

 

 

シャッハ「な、なんですか……貴方達は……?」

 

 

マフラーを巻いたライダーが零達を見て不思議そうに小首を傾げる中、シャッハはカリムと姫を庇うように身構えながらライダー達を警戒し、そんなシャッハの前に青いライダーが近づき片腕を延ばしてきた。

 

 

『俺達が何者だろうと、お前達には関係ないことだ。そんな事より、ソイツを渡してもらおうか?』

 

 

カリム「え?わ、渡せって……この人をどうするつもりですか?」

 

 

ただならぬ雰囲気を漂わせながらいきなり戦士を渡せと告げてきた青いライダーにカリムは思わず戦士を強く抱き締めるが、青いライダーはそれに構わず腕を延ばし続ける。

 

 

『それこそお前達には関係ない話だ。さぁ、早くソイツを渡せ。大人しく引き渡せば手荒な真似はしない』

 

 

カリム「そ、そんな、強引にも程があります!ちゃんと事情を説明してもらわなければ、この人を渡すなんて出来ません!』

 

 

『……渡す気はないか……なら、仕方ないな……』

 

 

此処まで酷い怪我を負った人間を事情も話さない怪しい人間に渡せる筈がない。強気な瞳で戦士を抱き抱えるカリムを見て青いライダーは溜め息を吐くと、他の二人と共にカリム達へ歩み寄ろうとする。が……

 

 

零「――ちょっと待って」

 

 

『……ん?』

 

 

カリム達に歩み寄ろうとした青いライダー達の目の前に零、翔、アズサの三人が立ち塞がり、三人は足を止めて訝しげな表情を浮かべた。

 

 

零「会ったばかりの人間にちょっと強引過ぎやしないか?少しくらい話を聞かせてくれてもいいだろう?」

 

 

『……話す事は何もないと言った筈だぞ?お前達一般人には関係ない話なんだ。其処を退け』

 

 

翔「そう言われてはい分かりました、って言うと思うか?それに、男三人で女一人を虐めるのはどうかと思うぞ?」

 

 

零「状況から察するに、アイツの怪我もお前達が関係してるんだろう?だとしたらそう簡単には渡せんし、もしもうちの奴等にまで手を出そうっていうなら……こっちだって容赦はしない……」

 

 

零は青いライダー達を睨み付けながらスーツの懐からディケイドライバーを出して腰に装着するとカードを取り出し、翔とアズサも腰にベルトを巻いてそれぞれ構えを取り……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

『GATE UP!BARON!』

 

 

三つの電子音声が響くと共に三人はディケイド、シュロウガ、バロンへ変身してそれぞれ武器を展開しながら青いライダー達と対峙し、青いライダー達は変身した三人を見て一瞬驚愕するもディケイドを見て表情を険しくさせた。

 

 

『そうか……お前達もヴァリアスの配下か?!』

 

 

ディケイド『?ヴァリアス?一体何の話だ……?』

 

 

聞いた事のない名前を口にする青いライダーにディケイドも思わず訝しげに聞き返してしまうが、青いライダーはそれに応えず腰を屈めて身構えた。

 

 

『朱焔!霧彦!お前達はあの二人を頼む!俺はあの緑目を叩くっ!!』

 

 

『応っ!』

 

 

『分かりました!』

 

 

ディケイド『チッ、質問に答える気はないってワケか……翔!アズサ!』

 

 

バロン『わかってる!』

 

 

シュロウガ『うん……!』

 

 

ディケイドからの呼び掛けに応えながらバロンとシュロウガも武器を取り出してそれぞれ構えていき、青いライダー達もディケイド達に向けて身構えながら互いに正面から激突していったのだった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界①

 

 

 

バロン『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

戦闘開始の合図と共にバロンと赤いライダーが咆哮をあげながら同時に地を踏み、バロンはバロンアローを構え、赤いライダーは自身の愛剣を下から上へと持ち上げるように振り上げ、互いに目掛けて勢い良く得物を振りかざしていった。

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

バロン『ッ!フッ、なかなかやるじゃないか?!』

 

 

『お前もな……だが、ヴァリアスの部下を野放しにしておく訳にはいかないんでな。悪いが、此処で倒れてもらうッ!』

 

 

バロン『グッ!ヴァリアスだか何だか知らないが、俺も此処で倒れる訳にはいかないんだよッ!』

 

 

刃をせめぎ合わせてそう言い合いながら二人は同時にバックステップで後退し、再び正面から剣を激突させ巨大な衝撃波を発生させながら剣撃の嵐を巻き起こしていった。

そしてそんな二人の上空では黒と青の閃光が常人では目で追えない速さで何度も激突する様子があり、二つの閃光……シュロウガとマフラーを巻いたライダーは超高速で激突しながら言葉を交わしていく。

 

 

―ガギンガギンガギン!!ズガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

『フンッ!ハッ!出来れば教えて頂けませんかね?!何故君のようなお嬢さんがヴァリアスに付いているのですか?!』

 

 

シュロウガ『?ヴァリアスなんて知らない……私はただ、自分が守りたい者の為に戦ってるだけ……!』

 

 

『ッ!それは一体どういう―ガギィンッ!!―グゥッ?!』

 

 

シュロウガの言葉に疑問を持ったマフラーを巻いたライダーは思わず宙で動きを止めてしまい、シュロウガはその隙を見逃さずに猛スピードでマフラーを巻いたライダーへと斬り掛かって刃を交え、そのまま二人一緒に近くのビルへと突っ込んでいった。

 

 

―バキイィッ!ドガァッ!ズガアァンッ!―

 

 

『フンッ!ハアァッ!』

 

 

ディケイド『チィ!ハッ!』

 

 

その一方、シュロウガ達の真下ではディケイドと青いライダーが激しく拳と蹴りをぶつけ合い、互いに腕を取っ組み合っていく。

 

 

『答えろ!お前達はアレを手に入れて何をする気だっ?!ヴァリアスは何を企んでる?!』

 

 

ディケイド『チッ!だから一体何の話だっ?!俺達はただアイツを――!』

 

 

『あくまで答える気はないか……だったら力付くでも吐かせてやるっ!』

 

 

―ドガァッ!―

 

 

ディケイド『グッ?!』

 

 

青いライダーはそう言ってディケイドに回し蹴りを打ち込んで後退させると腰を屈めて拳法のような構えを取り、それと同時に両腕と両足のタービンを勢いよく回転させ、そして……

 

 

『ハアァァァァァァァ……旋風回転脚ッ!!』

 

 

ディケイド『なっ……?!―ドガァッ!バキィッ!ズガアァンッ!!―ガハァッ?!』

 

 

青いライダーは一瞬でディケイドとの距離を詰めると共に勢いよく回転し、ディケイドに渾身の回し蹴りを打ち込んで吹っ飛ばしてしまった。そして回し蹴りを受けてしまったディケイドは地面を転がりながら何とか態勢を立て直し、思わず舌打ちを漏らした。

 

 

ディケイド『クソッ、こっちもこのままやられる訳にはいかないんだ。恨みっこ無しだぞ?』

 

 

そう言いながらディケイドは左腰のライドブッカーを開いて一枚のカードを取り出し、ゆっくりと立ち上がりながらカードをバックルへと装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:SEIGA!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドの姿が徐々に変化を始めていき、朱色のボディアーマーとナックルガードが特徴のライダー……錬次が変身するセイガへと姿を変えたのであった。

 

 

『ッ?!姿を変えた?!』

 

 

Dセイガ『純粋な格闘戦ならコイツが打ってつけだろうからな……ハッ!』

 

 

青いライダーが突然セイガへと変身したディケイドを見て驚愕するのを他所に、Dセイガは瞬時に動き出し青いライダーへと突っ込んでいった。そしてDセイガは重さと鋭さを兼ね備えた打撃を繰り出して青いライダーを徐々に追い詰めていき、青いライダーに蹴りを打ち込んで離れさせながらライドブッカーからカードを取り出し、バックルへと装填してスライドさせた。

 

 

『FORMRIDE:SEIGA!BLUES!』

 

 

再び電子音声が鳴り響くと共にDセイガの姿が徐々に変化をし始め、水のように透き通る水色のボディと瞳……ブルースフォームへとフォームライドし青いライダーに向けて身構えた。

 

 

『チッ!姿が変わったぐらいでっ!』

 

 

ブルースフォームへと姿を変えたDセイガを見て青いライダーも舌打ちしながら上空へと飛び上がり、両足のタービンを高速回転させながらDセイガに向かって急降下していった。そしてDセイガもすぐさま足元に落ちていた木の棒を足先で拾い上げ左手に構えると、木の棒は蒼い槍……ドラグランサーへと瞬時に変化していき、更にライドブッカーからカードを取り出してバックルへとセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SE・SE・SE・SEIGA!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDセイガはドラグランサーを構えながら青いライダーに向け必殺技の発射準備に入り、青いライダーもそのままDセイガへと降下し、そして……

 

 

『爆砕ッ!!重落下あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!』

 

 

Dセイガ『オリャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

青いライダーはDセイガに向かって真上から高速回転するタービンの足膝蹴りを振り下ろし、それに対抗するようにDセイガもドラグランサーを青いライダーに向かって真下から真上へと突き上げ、そして……

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グッ?!ウグアァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

Dセイガ『ウアァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

バロン『ッ?!零?!』

 

 

 

 

 

 

 

Dセイガと青いライダーの必殺技が真っ向から激突して巨大な爆発を発生させ、Dセイガと青いライダーは爆発の中から勢いよく吹っ飛ばされてしまう。そしてDセイガも地面に叩き付けられると共にディケイドへ戻ってしまい、今まで戦いを繰り広げていた双方の仲間も二人の元へと駆け寄っていく。

 

 

バロン『おい零!大丈夫か?!』

 

 

ディケイド『っ……あぁ、何とかなっ……』

 

 

バロンに身体を起こされながら問題ないと告げるディケイドだが、先程の必殺技同士の激突で怪我したのか左腕を押さえ付けている。対する青いライダーも同じように負傷したのか右肩を抑えているが、それでもまだ戦うらしく合流した仲間と共に構えを取り、ディケイド達も咄嗟に武器を構え直した。そして2チームはそれぞれ間合いを取り、再び互いに向かっていこうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュバシュバシュバシュバシュッ!!―

 

 

『っ?!』

 

 

ディケイド『ッ!何?!』

 

 

 

 

上空から黒い光球がディケイド達と青いライダー達の間を遮るように無数に降り注ぎ、巨大な爆発と爆風を巻き起こして一同の視界を遮ったのだ。突然の出来事にディケイド達が驚愕する中、そんなディケイド達の前に一人の人物……カリム達と一緒にいたはずの黒い戦士が背を向けて立っていた。

 

 

バロン『ッ!お前は?!』

 

 

『こっちへ!早く!』

 

 

突然目の前に現れた戦士にディケイド達は驚愕してしまうが、戦士はそんな一同の反応を他所にそれだけ告げて爆煙の向こうへと走り去ってしまう。それを見たディケイドはシュロウガ達やカリム達と顔を見合わせで首を傾げると、とにかく言われた通りに戦士の後を追って走り出していった。そして灰色の粉塵が徐々に薄れていくと……

 

 

『――ッ?!いない?!』

 

 

『くっ……逃げられたかっ……!』

 

 

粉塵が晴れていくと、其処には既にディケイド達の姿は何処にもなく、残された青いライダーはそれを見て悔しげに近くのビルの壁を殴り付けたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そんな彼等が戦う場所から少し離れた場所に存在する暗い路地。其処には先程までのディケイド達の戦いを盗み見ていた二人の青年が何かを話し合う姿があった。

 

 

「――どうやら、お前んとこの同僚がうちのターゲットに接触したようだな……」

 

 

「あぁ、しかもGEAR電童に敵対心を植え付けたようだしな……このままアイツが上手くやれば、アレを手に入れるのも不可能ではなくなってきた」

 

 

黒いコートを羽織った青年はそう言って青いライダーを見つめながら不敵な笑みを浮かべ、黒いスーツを身に纏った青年……成宮総一はどうでもよさそうに溜め息を吐きながら懐から煙草を取り出して口にくわえ、ライターで火を付けいっぷくしていく。

 

 

総一「フゥ……ま、俺からすればどうでもいいけどな……こっちはただアイツ等の監視さえ出来ればそれで良いんだし」

 

 

「チッ、やる気のない奴だ……ん?そういえば、あのガキはどうした?」

 

 

総一「ん?あぁ、アイツなら何か意味不明な事言ってどっか行っちまったぜ。多分うちのターゲットの仲間のクウガを捜しに行ったんじゃねえか?」

 

 

「何だと?!勝手な行動をさせるな!!此処で騒ぎを起こされたらアレを手に入れる機会がっ……!」

 

 

総一「心配なんていらねえさ……アイツにはこっちが指示を出すまで動くなって言い聞かせてある。勝手に暴れる事はねえから安心しろ」

 

 

何でもないようにそう言うと、総一はタバコをくわえたまま青年から背を向けて路地の裏へと歩き出し、一度立ち止まって青年の方へと顔を向け……

 

 

総一「ま、実力なら申し分ないから安心しておけ……なんせアイツは、"正史のクウガと互角以上にやり合った化け物の転生体なんだからな"」

 

 

だから心配すんなと、総一はそれだけ告げて路地裏の奥へと歩き出し、黒いコートの青年も青いライダー達を一度見ると、総一の後を追うように路地裏の奥へと歩き出していった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界②

 

 

あれから数十分後、戦場に乱入した黒い戦士のお陰で青いライダー達から免れた零達はとあるバス停近くに訪れ、先程黒い戦士に変身していた女性……"古乃華紗耶香"と軽い自己紹介を済ませた後、彼女からこの世界について話しを聞いていた。

 

 

零「―――つまり、アンタは仮面ライダーファウストとしてこの世界の怪人であるアルシェイン達と、そのアルシェインを操るさっきのGEAR電童っていうライダー達と戦ってる訳か?」

 

 

紗耶香「はい……その通りです……」

 

 

紗耶香が言うには、どうやら彼女は元々とある教会のシスターだったらしいのだが、その教会をGEAR電童の手によって破壊され、GEAR電童達に無惨にも殺された教会のシスター達の仇討ちと、この世界を護る為に彼等やアルシェインと戦っているらしい。

 

 

カリム「酷すぎるっ……何の罪もない、ましてや神に遣えるシスター達を皆殺しにするなんてっ!」

 

 

シャッハ「私も同意見ですっ……同じ修道女として、そのような下劣な行いをした彼等を許せません!」

 

 

GEAR電童達の行いを聞き、同じ教会に属する者として許せないのだろう。カリムとシャッハはGEAR電童に対して怒りの感情を露わにし、翔はそんな二人の様子を見て紗耶香を見つめた。

 

 

翔「それで、アンタはどうしてGEAR電童達に目を付けられてたんだ?アイツ等、アンタの事を連れていこうとしてたみたいだが?」

 

 

紗耶香「……それは多分、私が彼等の本拠地からコレを盗んだからだと思います」

 

 

翔の質問に対してそう答えながら、紗耶香は服の内側のポケットから宝石の様に輝く赤色の石を取り出して零達に見せ、零達は不思議そうな表情で赤色の石へと顔を近づけていく。

 

 

アズサ「これは……?」

 

 

紗耶香「これはこの世界にしか存在しないと言われる秘宝石、エルクシードといいます。この石には、古代文明のある力を無限に引き出す能力があり、私は彼等に対抗する為にコレを盗み出したんです」

 

 

姫「成る程……ん?だが、それなら何でさっきの戦いの時にそれを使わなかった?古代文明の力とやらを引き出せるなら、GEAR電童達と対等に戦えたのではないか?」

 

 

そう、エルクシードに古代文明の力を無限に引き出す力があるなら、先程の戦いでそれを使いGEAR電童達を返り討ちにするぐらい出来た筈だ。なのに何故エルクシードを使わなかったのかと姫が疑問げに首を傾げるが、紗耶香はそれに対し首を左右に振った。

 

 

紗耶香「確かにこのエルクシードには、古代文明の力を引き出す能力があります……ですが、石単体だけでは力を引き出す事は出来ないんです」

 

 

カリム「?それでは、どうやってその古代文明の力を引き出すのですか?」

 

 

エルクシードだけでは古代文明の力を引き出せない。紗耶香のその言葉にカリムの頭上は疑問符で埋め尽くされ、紗耶香はその疑問に言葉で答える事なく、ある方へと人差し指を向けた。そして零達がその指先を目で追っていくと、その先には此処から見える海の海上に浮かぶ一つの小島があった。

 

 

紗耶香「あの島に、かつて超古代時代の人々が建てた遺跡があるんです。その遺跡の奥にある祭壇の上にこのエルクシードを嵌め込めば、古代文明の力を引き出すことが出来るんです」

 

 

翔「じゃあつまり、エルクシードはその古代文明の力を解放する為の鍵みたいな物なのか?」

 

 

紗耶香「平たく言えばそうですね……ですがあの島の遺跡には、遺跡の奥に続くまでの道のりに様々な仕掛けが施されており、とても私だけでは遺跡に挑むことなど出来ません……」

 

 

零(……ん?この流れ……まさか……?)

 

 

暗い表情を浮かべる紗耶香の呟きを聞き、一人冷や汗を流していち早く嫌な予感を感じ取る零。だがそんな零の様子に気付かず、紗耶香は俯けていた顔を上げて言葉を紡いだ。

 

 

紗耶香「あの遺跡に挑むには、少なくとも何人か人手が必要なんです……だからお願いします!どうか貴方達の力を―――」

 

 

零「嫌だ断る他当たれ」

 

 

紗耶香「貸して下さ………って、お願いする前に断られたっ?!」

 

 

取り付く島さえ与えまいと言わんばかりに拒絶した零に紗耶香もショックを受けてしまい、翔は慌てて様子で零に耳打ちした。

 

 

翔(お、おい零!空気読めよ?!この流れは普通『仕方ない……力を貸してやるよ』的な言葉を掛けてやるべき場面だろう?!)

 

 

零(オイオイなんで俺がそんな事しなきゃならない?俺はただ優矢の奴を捜しに来ただけであってあの女を助けに来た訳じゃないんだぞ?それにさっきのだってカリム達が危険な目に合いそうだったから助けただけで、あの女を助けたのは単なるついでだ。だからこれ以上あの女に付き合う義理なんて俺にはない)

 

 

翔(いやだけど……!)

 

 

零(それにな……どう考えてもトラブル臭しかしないだろうこの展開!これ以上女絡みのトラブルに巻き込まれるのは御免だ!!)

 

 

翔(ってそっちが本音かっ?!)

 

 

零(当たり前だ!!お前に分かるかっ?!アズサから始まり、前の世界でもいきなり女湯に転移して警察に突き出されそうになったり自転車に轢かれたり水をぶっかけられたりボール打ち込まれたり!桜香には痴漢扱いされるわ紗耶香からはいきなり斬り掛けられるわ冥華から勝負を挑まれるわ木ノ花のボケに振り回されるわ!挙げ句の果てには桜香にいきなり唇を奪われてアテナにはその動画&画像をあのサイトに投稿される!その直後にこれだぞ?!可笑しいだろ?!これ以上トラブルに巻き込まれるぐらいなら此処で舌を噛み切って死んだ方がマシだ!!)

 

 

翔(ΣΣ其処まで嫌か?!)

 

 

零(そうだよ嫌だよ当たり前だろう!!何なんだ一体?!こんな立て続けに女に絡まれるとか最早悪意しか感じないぞ?!この世界は其処までして俺を殺したいのか?!俺が一体何をしたというんだ?!)

 

 

翔(……いや、他は知らんけど……半分ぐらいはお前のせいだと思うぞ……)

 

 

考えてみれば、アズサの時は零がハイパーゼクターを弄くりまくったせいで関わる事になったし、姫の時も零がツボに銃弾なんか撃ち込まなければ封印が解けることなんてなかったわけだし、他も似たようなものだし。

その事を口に出して言ってみるが、残念ながら零には届いていないらしく頭を抑えて溜め息を吐いている。そんな零は若干疲れた顔を作ると、ショックを受けて固まる紗耶香へ視線を戻した。

 

 

零「お前にも色々事情があるんだろうが、悪いがこっちも人捜しが忙しくて他の事に時間を裂いてる暇はないんだ。そういうのは他を当たってくれ」

 

 

紗耶香「……そう、ですか……そうですよね……迷惑でしたよね……」

 

 

冷たく言い放つ零の言葉を聞いて紗耶香は顔を俯け、暗い雰囲気を漂わせてブツブツと呟き出していく。

 

 

紗耶香「やっと……やっと皆の仇を討てる機会が来たのだと思ったのですが……そうですよね……私の都合で、皆さんを危険な目に合わせる訳にはいきませんよね……」

 

 

翔「……お、おい零……」

 

 

零「構うな、俺達の役目は他にある。さっさと優矢を見付けてこんな世界とおさらばするぞ」

 

 

一々他人の問題に構ってられるかと、零は紗耶香から背を向けて歩き出し、優矢を捜しに町へと向かおうとする。しかし……

 

 

カリム「――鬼畜……」

 

 

零「なっ……」

 

 

ボソッと、背中越しに聞こえたカリムの言葉に思わず足を止めて振り返ると、見ればカリム達女性陣が冷めた視線をこちらに向けて送る姿があった。

 

 

零「おいコラ、今誰か誤解を招くような発言しなかったかっ……」

 

 

カリム「誤解も何も、本当の事でしょう?」

 

 

シャッハ「そうですね……女人の方がこうして困っているというのに、そんな方の頼みを一方的に断るなんて……」

 

 

零「っ!だからっ、俺達は優矢を捜しきた訳であってそいつの手伝いをしにきたワケじゃ……!」

 

 

アズサ「零……意地悪……」

 

 

姫「傷付くと分かっててそんな態度を取るとは、そういう趣味の持ち主なのか君は?変態か?」

 

 

シロ『んにゃー!』

 

 

零「…………なあ翔………なんだこの進んでも地獄、逃げても地獄の蟻地獄は?俺何か間違えてるか……?」

 

 

翔「……まああれだ。正論としては間違ってないと思うが、道徳的に言えばお前が間違ってると思うぞ?」

 

 

零「…………」

 

 

女性陣からボカスカ言われた上、翔からもそう言われて完全に孤立無援状態の零。そうして零は顔を動かし肩を落として沈む紗耶香とそんな彼女を慰める女性陣を交互に見つめると、暫く時間を置いてから深い溜め息を吐き……

 

 

零「―――分かった……手伝えば良いんだろう手伝えばっ……」

 

 

紗耶香「?!ほ、本当ですか?」

 

 

零「あぁ……だからさっさとその遺跡とやらに行ってさっさと用事を済ませるぞ……で、あの小島にはどうやって行くんだ?」

 

 

無駄なお喋りの時間は省いてさっさと本題に入る零。それを聞いた紗耶香は一瞬唖然となりながらもすぐに正気に戻り、懐から畳んだ地図を取り出して零達に見える様に地図を広げた。

 

 

紗耶香「先ずあの島に行くには、この島の港にある乗客船に乗る必要があります。あの島の遺跡は一般的に観光地として有名になってますから、堂々と観光客として行っても怪しまれる事はないでしょう」

 

 

翔「?だが、一々船に乗る必要があるのか?それなら転移とか使った方が早い気がするんだが……」

 

 

紗耶香「いいえ、転移など使えばGEAR電童達に一瞬で探知され、彼等がすぐさま駆け付けてきます。ですので、魔法や転移などの類は極力使わないように気をつけて下さい」

 

 

零「……大体分かった……それで、その港は何処にあるんだ?遠いのか?」

 

 

紗耶香「そうですね………此処からなら港まで、車で行ってもせいぜい20分ぐらいは掛かると思います」

 

 

翔「うわっ、じゃあそんだけ掛かる距離を徒歩で行くしかないって訳か?はぁ、転移に変わるアシとか何かないのかよυυ」

 

 

姫「……ふふん。それなら妙案があるぞ?」

 

 

溜め息を吐く翔にそう言いながら、姫は不敵な笑みを浮かべて道路の向こうへと目をやった。そちらからは、一台の軽トラが近付いてくるのが小さく見え、それを見た零は何かに気付いたように驚愕した。

 

 

零「お前、まさか?!」

 

 

姫「じゃじゃーん!ヒッチハイク大作戦!!へーい、そこのむさ苦しいトラックの運転手!この美人の姉ちゃん達とドライブする気はないかーい!!」

 

 

親指を立てた右手を差し出し、バチーン!と悩殺ウィンクを決める姫。すると、トラックは彼女の五十メートル手前で丁寧に停車すると、ゆっくりとUターンし、正確な運転テクニックでその場を去った。ニッコリ笑顔で悩殺ウィンクした姫は、そのままの表情でこう言った。

 

 

姫「……やっちまうか」

 

 

零「阿呆が、あれは運転手の判断が正しい」

 

 

誰が真昼間から悩殺ウィンク決めてヒッチハイクする女なんぞ乗せるかと、零は呆れたような目のままふと近くにあるバス停の運転表を見付け、柱の看板へと近付き運転表を確認していく。

 

 

姫「ッ!ま、まさか、バスか?!バスに乗る気か?!」

 

 

零「ああ、今可能な移動手段といったらコレしかないからな……むう、どうやらさっき便が出たばかりのようだな……」

 

 

姫「いいやちょっと待て!バスに乗るのは我々女性陣からしてどうかと思うぞ、うん!」

 

 

零「?何故だ?」

 

 

姫「分からないか?!電車・バスは女性がよく痴漢や盗撮の被害に遭う魔の乗り物!あの中では目を光らせた性欲の塊である男共がウヨウヨとたむろし、女のスカートの中に手を突っ込みカメラを突っ込み!しかもその動画をとあるサイトに流し、万人以上の世の男共がそれを見て息を荒げながら白濁液を……イヤァァアアアアアアアアアア!!!そんな危ないところなんていけなぁーーい!!」

 

 

零「お前の頭ん中の方がよっぽど危ねえよ」

 

 

頬に両手を当てて絶叫する姫にバッサリと言い放ち、港行きのバスを捜して看板の運転表を目で追っていく零。どうやら港行きのバスは次の次らしく、零は少し唸りながら紗耶香に顔を向けた。

 

 

零「……取りあえずバスをアシに使おうと考えてるんだが、構わないか?港行きはまだ暫く来ないが、歩いていくより断然楽だと思うんだが」

 

 

紗耶香「あ、はい。私の方は大丈夫ですが……あちらはいいんですか……?」

 

 

零「ん?」

 

 

紗耶香は何故か複雑そうな顔で自分の真横を指差し、零はそんな紗耶香の様子に疑問符を浮かべながらその方へと目をやった。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫「いくぞカリム!さっき私が教えたやり方は覚えたな?!」

 

 

カリム「え、ええ……ですが、バスを使うんじゃないんですか?υυ」

 

 

姫「何を言う?!君は良いのか?!あんな危険な場所であんな事やこんな事をされ、その様子を撮られた絵をネットで見た男共にハアハアシコシコビュッビュッされてしまっても?!」

 

 

カリム「いえ、あのぉ……仰ってる意味が分からないのですが……υυ」

 

 

姫「さあ行くのだカリム!私達の純潔は君の手に委ねられている!今こそ立ち上がれ!今こそ戦え!レッツゴーヒッチハァァァァァァイクッ!!」

 

 

カリム「な、何だか分かりませんが…分かりました!へ、へーい!そこの汗くさそうな運転手!このピッチピチの姉ちゃん達とドライブする気はなしにつきかーい!!」

 

 

シャッハ「ちょ、騎士カリムに変な事吹き込まないで下さい!!ってああぁ?!騎士カリムもなにタクシー止めてるんですか?!いえ違うんですこれは間違いと言いますか何と言いますか―――って貴方達もこっちほっぽいて二台目止めようとするなァァああああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔「…………………」

 

 

零「…………………」

 

 

翔「なあ……止めた方が良かないか?」

 

 

零「そうか?俺は寧ろ全力で他人の振りをしたいんだが……」

 

 

アズサ「ん……眠い……」

 

 

シロ『にゃー』

 

 

紗耶香(……この人達に頼んで本当に良かったんだろうか……)

 

 

ブッブー!とクラクションの音が響き渡る道路で聖王教会の騎士と桜ノ神がハイに暴れ回る中、我関せずというように無視を決め込む零と、眠そうに頭をふらふらさせてバス停のベンチに座るアズサを見て、思わずこんなんで大丈夫なのかと不安になってしまう紗耶香なのであった。

 

 

 

 

 

 

因みに二人のヒッチハイク大作戦は港行きのバスが来るまで続いたのだが、結果は予想通り0。

 

 

というのも、それはシャッハが二人のヒッチハイクで止めてしまった車の運転手にペコペコ頭を下げながら駆け回った事でそのような結果となったのだが。

 

 

そうして一つの戦を終えたシャッハは疲労の余りバスの中の席でグッタリともたれ掛かり、港に到着するまで零達にずっと看病されていたとか……

 

 

 



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番外編/堕血水

 

 

 

―???の世界・謎の建造物内研究室―

 

 

終夜率いる組織が隠れ家とする巨大建造物内の研究室。薄暗い闇の向こうには、不気味な輝きを放つ無数の生態ポットが存在し、その中にはある物の姿があった。それは……

 

 

 

 

 

 

『……………』

 

 

 

 

 

 

異世界のライダー達を幾度となく苦しめてきた怪人達……グロンギ、アンノウン、ミラーモンスター、オルフェノク、アンデッド、魔化魍、ワーム、イマジン、ファンガイアが生態ポットの中に存在していたのだ。更に他のポットには、光の世界の怪人であるGワームや煌一の世界の怪人であるガルギリア、宗介の世界の怪人である邪神など外史の世界のライダー達の怪人も混じっていた。

 

 

綾「……さて、そろそろ始めましょうか……」

 

 

そんな怪人達が入った生態ポットの目の前に立つ女性……組織内の開発部である綾は生態ポットをガラッと眺めると、目の前に現れた電子モニターを手慣れた手つきで操作し始めていく。その時……

 

 

 

 

 

 

『グ……ググッ……グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!』

 

 

 

 

 

生態ポットに入った怪人達から突如膨大なエネルギーが流れ、怪人達から流れたエネルギーは生態ポットに繋げられたラインを通り、その先にある透明な液体の入った一つのビーカーへと流れ着いていった。そしてビーカーの中の液体がエネルギーが流れた影響で徐々に紅く染まっていき、それを見た綾はビーカーを手に取り紅い液体の出来を確かめていく。

 

 

綾「……今回もなんとか、上手くいきましたね」

 

 

紅い液体の出来を確かめた綾は満足げに頷き、ビーカーに入った紅い液体を別の容器へと移し替えていく。そんな時……

 

 

―プシュウゥゥゥ……―

 

 

裕司「――綾、堕血水(おちみず)の開発はどうだ?」

 

 

研究室の自動ドアが開き、其処から組織のNo.3である裕司が室内へと足を踏み入れてきた。

 

 

綾「順調ですよ。今も一つ完成したところです」

 

 

部屋に入ってきた裕司にそう言いながら、綾は移し終えた容器に入った紅い液体を軽く揺らしていき、それを見た裕司は無言で頷いて怪人達が入った生態ポットへと視線を向けた。

 

 

裕司「以前NXカブトの世界のカイルが送ってきたGワームが加わったことで、何とか堕血水の開発も順調に乗り始めたな」

 

 

綾「ええ。最近では他の世界の怪人達も加わり始めたので、以前のような失敗を繰り返す事も殆どなくなりましたから」

 

 

そう言いながら綾は容器に入った紅い液体を目を細くさせながら眺め、裕司も生態ポットに入った怪人達に一体一体目を向けていきながら言葉を紡いだ。

 

 

裕司「そうだな……特に、最初の投与の時の失敗はまずかったからな……流石は神水の力と言うべきか」

 

 

綾「そうですね……No.0がお与えになったアルテマの欠片……当初はアレを液体化させた『神水』を人間の体に投与する事で、欠片に残されていた僅かな神氣を人間でも扱えるようにするという内容でしたが……」

 

 

裕司「ああ……神水を投与された実験体が神氣に耐え切れず死亡し、実験は失敗に終わった……人間がそう易々と神の力を扱える筈がないという結果だけを残して……」

 

 

その時の事を思い出したのか、苦痛に満ちた顔で生態ポットを睨みつける裕司。綾はそんな裕司の隣に立ち、生態ポットに入った怪人達を見つめていく。

 

 

綾「ですが、私達が戦う敵の中には神の力を保有している者達もいるし、因子の力とも対等に渡り合うには欠片の力が必要不可欠となる……だから……」

 

 

裕司「……様々な怪人達の持つ生態エネルギーで神水を濁し、人間の身体に対する拒絶反応を和らげる事で、始めて欠片の力を保有出来るようになった……それが真也達の扱う『羅刹』」

 

 

綾「しかも怪人達の力まで取り組み、そのお陰で真也さんはオルフェノクにしか扱えない地のベルトを人間のままで扱えるようになれた……でも……人間の身体に対する負荷までは取り除けなかった……」

 

 

裕司「あぁ……綺麗だった筈の水をわざわざ汚して濁し、それを人間に飲ませたような物だ……人間の身体に害を及ばさない訳がない……」

 

 

裕司は悲しげな声で呟く綾にそう答えながら自分の手を見つめ、拳を作るように手の平を握り締めた。

 

 

裕司「……まあ、その事について今更どうこう言っても仕方がない……綾、薬は出来てるか?」

 

 

綾「あ、はい。こちらに」

 

 

綾は裕司の言葉に頷き返しながら近くのデスクへ歩み寄って引き出しを開き、中から何かが入った小さな袋を取り出し裕司へと差し出した。

 

 

綾「これが裕司さんの分の安定薬です……力の暴走を防ぐ為にも、必ず毎日飲んで下さいね?」

 

 

裕司「あぁ、何度言われずともそうするさ……」

 

 

裕司は綾から差し出された袋をゆっくりと手に取り、スーツの懐に仕舞って綾から背を向け、そのまま何も言わずに部屋から出ていこうとする。だが……

 

 

綾「――あの、裕司さん……」

 

 

裕司「……?」

 

 

不意に綾が恐る恐ると裕司を呼び止め、呼び止められた裕司は訝しげな顔で綾の方へと振り返った。

 

 

綾「その……前々から思ってたんですが……ホントにこのままで良いんでしょうか……」

 

 

裕司「……どういう意味だ?」

 

 

綾の言葉の意味が分からず裕司は険しい表情で聞き返し、綾は気まずそうに目を逸らして生態ポットを見つめた。

 

 

綾「……いくら薬で暴走を防いでも、あの力が皆さんの命を削ってる事に変わりはありません……このまま力を使い続ければ、いずれ皆さんは……」

 

 

裕司「…………」

 

 

最後まで言葉を紡ぐ事なく、暗い表情で顔を俯かせる綾。そんな綾を見た裕司は綾から目を外し、紅い液体の入った容器を見つめながらゆっくりと口を開いた。

 

 

裕司「前にも言ったはずだ……そんな物は承知の上だと」

 

 

綾「それも分かってます、皆さんが自分の望みの為に命を張ってる事も……ですが……」

 

 

裕司「納得し切れないか?だがそういうお前も、叶えたい望みがあるから此処にいるんじゃないのか?」

 

 

綾「それ……は……」

 

 

裕司に言われ、綾は思わず自身の左腕を片手で押さえた。だがその左腕は生身の人間の腕ではなく、銀色に輝く鋼鉄……機械の左腕となっていた。その腕を見た裕司は険しげに眉を寄せ、綾から背を向けて部屋の扉を見据えた。

 

 

裕司「全てを捨てる覚悟で此処まで来たのだ。俺達は自分の望みを叶える為なら、命を捨てる覚悟だってある……この道は外道の道……引き返す事も立ち止まる事も許されない道だ……」

 

 

それだけ言い残すと、裕司はそのまま部屋を後にして王座の間へと向かっていった。そして綾は裕司の背中を無言で見送ると、目の前に立ち並ぶ生態ポットへと目を向けた。

 

 

綾「……そうですね……こんな物を造ってる時点で、私も同罪ですよね……」

 

 

小さな呟きが闇に包まれる部屋に響き渡る。そうして綾は椅子に座ってデスクと向き合い、次の堕血水と薬を量産する為に作業を続けていくのであった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界③

 

 

―風見市・ショッピングモール―

 

 

零達一行がバスで港へと向かった頃、島一番のショッピングモールでは三人の男女が大量の買物袋を持って帰路を歩いていた。そして一台のバイクを教えて歩く青年……零達が探している優矢はバイクに積んだ買物袋と青年達が持つ買物袋を見て苦笑いを浮かべた。

 

 

優矢「いやぁー、手伝ってもらって悪いな二人とも。俺一人じゃこの量は持ち帰れなくてさυυ」

 

 

「いえいえ、気にしないで下さい♪私達も夕飯の買い出しを手伝ってもらいましたし♪」

 

 

「そうだな……ま、流石にこんだけの量を持って帰るのはかったるいが」

 

 

そう言ったのは、優矢がこの世界に飛ばされて出来た友人の二人……"朝倉音夢"と"朝倉純一"だ。笑顔で気にするなと告げる音夢とは対象に、純一はかったるいといった顔で自分の両手に握られた買物袋を見下ろし、優矢はそんな純一を見て相変わらずだなぁ…と苦笑したまま目の前に目を向けた。

 

 

優矢「それにしても、この世界に飛ばされてからもう三週間経つのか……」

 

 

音夢「あ、そういえばそうですね……何だか優矢君、もうすっかりこの島に馴染んできましたよね♪」

 

 

優矢「まあ、此処の人達が良くしてくれたおかげでもあるけどさ。最初の頃はホント、これからどうしようかなぁーって途方に暮れてたし……」

 

 

最初にこの世界に飛ばされた頃を思い出し、優矢は思わず懐かしげに笑みを零しながら空を仰いだ。

 

 

優矢「取りあえずは、もう片方の仲間が何処に飛ばされたか見つかるまで居座らせてもらってるけど……中々見つかんないんだよなぁ、アイツ……」

 

 

純一「アイツって……確か黒月零さんだっけか?お前の旅仲間っていう」

 

 

優矢「そっ。アイツって、行く先々で良くトラブルに巻き込まれるからさ?きっと今も、どっかで面倒事に巻き込まれてるじゃないかなーって気になってんだよυυ」

 

 

ま、そうそう厄介事に巻き込まれるわけがないかと、優矢は思ったより心配性な自分に思わず苦笑いした。その予想が間違ってないとも知らずに……

 

 

純一「なら、その人が見付かったら帰るのか?お前が元いた場所に……」

 

 

優矢「んー……そうだな……きっと皆も心配してるだろうし、俺もまだ旅の途中だし……その時が来たら帰ると思うよ」

 

 

音夢「そう、ですか……もしそうなったら、寂しくなりますね……」

 

 

仲間が見付かれば優矢はこの島を去ってしまう。その時の事を思い浮かべた音夢は若干寂しげに表情を曇らせて顔を俯け、そんな音夢の様子を見て優矢も言葉が詰まって頬を掻いていき、純一は二人の様子を見て軽く溜め息を吐いた。

 

 

純一「別に今すぐそうなるって訳じゃねえんだ、一々気にすることないだろう?それより早く帰るぞ。あんまり遅いとさくらがうるさいだろうし」

 

 

優矢「……そうだな。うし!帰ったら荷物運びに付き合ってくれた例に、特製のおはぎ作って持っててやるよ!」

 

 

音夢「あ…じゃ、じゃあ!この前入った美味しいお茶も出しますね!良ければ、優矢君もご一緒しませんか?」

 

 

優矢「え、マジ?じゃあ、せっかくだからそうしようかなぁ?」

 

 

純一のフォローのおかげで別の話題に切り替える事ができ、優矢は音夢のお誘いを受けて後で朝倉家でお茶をしようかと考えていく。そして三人が談笑しながら帰路を歩いていると……

 

 

優矢「……あれ?」

 

 

純一「……?どうした?」

 

 

不意に優矢が目の前を見て疑問げな声を上げながら足を止め、純一と音夢はいきなり立ち止まった優矢を見て不思議そうに首を傾げると、優矢の視線を追うように目の前へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

「ひぐっ……うっ……うぅ……」

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

三人から数メートル離れた先の道の真ん中に、二人の青年と少女が手を繋ぎながらジッと立ち尽くしていたのだ。少女は何度も目を擦りながらボロボロと涙を流し、青年は何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡している。何だか様子が可笑しいと思った三人は顔を見合わせると、青年の下へと歩み寄っていく。

 

 

音夢「あのー、どうかしたんですか?」

 

 

「……?君達は……?」

 

 

優矢「あ、俺達はこの辺に住んでるんだけど……どうかしたのか?何か探してるみたいだったけど?」

 

 

そう言いながら青年と手を繋いでる少女に目を向けるが、少女は涙ぐんだままで何も答えず、青年もそんな少女を見て困ったように眉を寄せた。

 

 

「実は、この子がお母さんとはぐれてしまったらしくてね。たまたま此処を通り掛かった時に、この子が道の真ん中で泣いていたから一緒に探してあげてるんだけど……中々見つからなくて困ってたんだ……」

 

 

頭を掻きながら困った顔を浮かべる青年。事情を聞いた三人はそうだったのかと状況を理解し、音夢は少女と目線を合わせるように腰を屈めて頭を撫で、優矢は少し考える仕種を見せると青年に語りかけた。

 

 

優矢「なあ、その娘が何処で母親とはぐれたのか分からないのか?」

 

 

「?確か……桜公園って所だったかな?そこでお母さんと一緒に遊んでたらしいけど……」

 

 

音夢「じゃあ一度、その公園に戻ってみませんか?もしかしたらこの子のお母さんが捜してるかもしれませんし」

 

 

きっとこの子の母親も其処にいるかもしれないしと、音夢の提案に青年は少し顔を俯けながら考え首を縦に振り、四人は迷子の母親を捜しに桜公園へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

 

それから数十分後、桜公園……

 

 

「本当に、ありがとうございました!」

 

 

そう言って頭を下げたのは、四人が捜していた迷子の母親である。その傍らには母親と手を繋ぐ少女が四人の顔を見上げており、二人は優矢達にもう一度礼を告げて家へと帰っていった。そうして青年は母親と少女に向けて手を振って見送ると、優矢達と向き合った。

 

 

「ホントに助かったよ……僕だけじゃあの子の母親を見付けられなかったと思うし。ありがとう」

 

 

優矢「良いって良いって♪ところでさ、アンタもしかして観光者か何かか?」

 

 

「え…どうして…?」

 

 

優矢「いやだって、この辺の事とかあんま詳しくなさそうだったからさ。ちょっと気になったんだけど……違ったか?」

 

 

「あ、ううん…そうだね…一応そんなとこかな?昨日知り合いと一緒にこの島に来たばかりで、余り此処の土地には慣れてなくてね」

 

 

音夢「そうだったんですか……なら、此処へはお知り合いの誰かと一緒に?」

 

 

「いいや、ちょっと散歩したくてホテルを抜け出してきたんだ。それで此処まで歩いて来たらさっきの女の子が泣いてるのを見付けてね……放っておけなけなくて、一緒にお母さんを探してたんだ」

 

 

優矢「へえ……もしかして子供とか好きなのか?」

 

 

「?……そうだね……子供は好きかな……あの子達の笑顔を見てると、なんだか僕も嬉しくなるから……」

 

 

優矢の問い掛けに対しそう答えて穏やかに微笑むと、青年と優矢達の間を一陣の風が突き抜けた。四人が思わず風が去った方へと振り向くと、其処には満開の桜の木が立ち並ぶ光景が広がっている。

 

 

「…綺麗な島だね、此処は…一年中桜が咲き誇ってるなんて、まるで夢のような所だ…」

 

 

音夢「ふふふ…そう言ってもらえると、なんだか私も嬉しいです♪」

 

 

純一「おいおい、別にお前が褒められてる訳じゃねえだろ?」

 

 

嬉しそうに微笑む音夢の隣で呆れる様に溜め息を吐く純一。そんな純一の言葉に音夢は「むぅ……」と唸りながら純一をジト目で睨み、青年も純一と音夢のやり取りを見て思わず吹き出してしまう。

 

 

音夢「ちょ、わ、笑わないで下さいよ!υυ」

 

 

「フフフ…いやゴメンね…何か仲の良い二人だなぁーと思って、つい…」

 

 

クスクスと笑みをこぼす青年に音夢は思わず頬を膨らませ、優矢と純一はそんな二人のやり取りを見て顔を見合わせながら苦笑いを浮かべた。とそんな時、不意に青年のズボンのポケットから携帯のメールの着信音が響き渡り、青年は携帯を取り出しメールを確認していく。

 

 

「あっ…ゴメン、知り合いからだ。僕もう行かないと…」

 

 

優矢「そうなのか?…あ、そういえば…アンタ名前は?なんかすっかり聞きそびれてたよυυ」

 

 

青年の名前を聞きそびれてた事を思い出し、頭を掻きながら苦笑を浮かべる優矢。だが青年もすっかり忘れてたらしく、同じ様に苦笑しながら自身の名前を告げていく。

 

 

「僕は薫……白金 薫(シロガネ カオル)って言うんだ。君達の名前は?」

 

 

優矢「白金 薫か……俺は優矢、桜川優矢だ。よろしくな?」

 

 

音夢「えと、私は朝倉音夢です♪よろしく白金君♪」

 

 

純一「朝倉純一だ。かったるいがよろしくな」

 

 

薫「桜川優矢……朝倉音夢……朝倉純一……いい名前だね」

 

 

青年……白金薫は優矢達の名前を口ずさんで穏やかに微笑み、名前を褒められた三人は照れ臭そうにしていた。すると薫は携帯のディスプレイに映る時間を見て携帯を仕舞い、優矢達と向き合っていく。

 

 

薫「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ」

 

 

優矢「あぁ…またどっかで会えたらいいな…」

 

 

薫「うん、僕もそう思うよ…じゃあ、またね」

 

 

三人に向けて片手を振りながらそう言うと、薫はそのまま公園の入り口から出て何処へと歩き去っていき、優矢達はそんな薫の背中を最後まで見送っていく。

 

 

優矢「良い奴だったな……アイツ……」

 

 

音夢「そうですね、また何処かで会えたらいいなぁ…」

 

 

純一「そうだな……けど、俺達も早く帰らないと食材が痛んじまうぞ?」

 

 

優矢「え?…ってやっばっ?!すっかり忘れてた?!」

 

 

純一に指摘されて足元に置いておいた買物袋の存在を今頃思い出した優矢は慌てて買物袋を両手に持ち、二人と共に急いで家へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、優矢達と別れた薫は携帯を耳に当てながら桜並木を歩いていた。

 

 

『どうだ、捜し物は見付かったか?』

 

 

薫「…一応ね…それより、僕もそろそろ動かなきゃいけないのかな?」

 

 

『あぁ。ターゲットは島を離れ始めてるし、GEAR電童の奴らももうじきあの島へ向かうハズだ。次の指示が届いたら、すぐさま行動に移れ……いいな?』

 

 

薫「…うん…分かったよ…総一…」

 

 

電話越しの相手……組織のメンバーである成宮総一の指示に頷き返すと、携帯を閉じってポケットへと仕舞い、薫はそのまま風見市へと視線を向けた。

 

 

薫「桜川優矢、か……やりにくくなっちゃったな……」

 

 

何処か切なげな顔で風見市を見つめる薫。そして薫は総一からの次の指示を待つため、ゆっくりと町へ下りていくのであった……

 

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界④

 

 

―ルルイエ島―

 

 

初音島から乗客船に乗り、約一時間で到着する位置に存在する島…ルルイエ島。初音島より一回り小さい島の中心地には様々な遺跡の跡が幾つも存在しており、中には現代の科学者の頭脳でも解明出来てないモノが幾つもある。そんなルルイエ島の某所では一人の少女……アズサが海を背にして立っていた。

 

 

アズサ「皆さんこんにちは。さあ今週も始まりました『突撃!旅のオカリナ!』。この番組は皆さんが気になる観光スポットをまるごと紹介していく番組です。番組の司会を勤めますはわたしく、アズサです。よろしく」

 

 

淡々とした口調で自己紹介しながら、ペコリと可愛らしくお辞儀をするアズサ。それに続くようにアズサの傍らに座る黒猫が『にゃー』と鳴き、アズサはそんな黒猫に向けて口に人差し指を当てながら注意すると話しを続けていく。

 

 

アズサ「今回皆さんに紹介しますは此処、初音島のお隣に位置するルルイエ島です。こちらでは数百年程前に作られたと思われる様々な遺跡が在り、それを一目見ようと大勢の観光客がこの島に訪れるそうです。それでは、早速気になる現場を見てみましょう……ヒメさーん?」

 

 

アズサが手の平を横に差し出して姫の名を呼ぶと共に場面が切り変わり、とある遺跡の前に立つ姫の背中が移った。そして場面が切り替わると共に姫は意気揚々とクルリと振り返り……

 

 

姫「はぁーい、こちら現場のヒメでぇーす♪」

 

 

……普段なら絶対言わないような口調で頬に片手を添えて小首を傾げ、満面笑顔でそう答えたのであった。しかし姫は特に顔色を変える事なく、リポートを続けながら辺りを歩き回っていく。

 

 

姫「今回私がやって来たのは此処!ルルイエ島ぉ~!見て下さいコレ!この恐々しい男性の顔をしたような大きい石!これは古代文明の人々が作ったと思われる彫刻ではないかって、偉い科学者さん達に言われてるんですよー?スゴォーイ♪」

 

 

などとぶりっ子口調で言いながら、男性の顔を模した石を見て驚きを表すようにわざとらしく口を押さえる姫だが、すぐに興味をなくしたように石から離れ背後の遺跡を紹介し始めた。

 

 

姫「はい、そしてこちらがこの島のメイン!ルルイエ島の古代遺跡……なんですけど、一部の遺跡は一般公開禁止で入れないんですよねぇー。ざーんねーん……なんでも遺跡の中に何重もの仕掛けがあるみたいで、そのせいで中に入れないみたぁーい。やーん!ヒメこぉーわぁーいぃー!」

 

 

姫はフルフルと身体を揺らしながら大袈裟にアピールし、今度は此処から見える海に向かって人差し指を指した。

 

 

姫「さて!お次はこの島のもう一つの観光スポット、カミーナ海岸!綺麗な海や砂浜をリポートするため、わたくしヒメが水着に着替えちゃいまーすぅ!そしてもしかしたらぁ……ポ~ロリがあ~るかもしれないぞ♪」

 

 

零「ねえよ」

 

 

と、悩殺ウィンクを決めた姫の隣でバッサリと言い放ったのは、今のやり取りを一部始終ジト目で見ていた零であった。いきなり横槍を入れられた姫は不満げな顔で零の方へと振り返り、少し離れた場所にいたアズサもトテトテと姫の隣に立ち並んだ。

 

 

姫「なんだ零?邪魔するな、せっかくアズサと一緒に『突撃!旅のオカリナ!』ごっこしてたのに!」

 

 

零「邪魔しなきゃ延々と続いてただろうこの茶番……そもそも何だこれ?何なんだ一体?」

 

 

姫「なんだ知らないのか?今有名な旅番組『突撃!旅のオカリナ!』だ。さっき乗客船の中で見たんだが、多くの芸能人が国内や外国の観光スポットを旅し、その観光地で様々なおもしろ企画をやる番組らしいぞ?さっき私がやっていたのも旅のオカリナのアイドル、藤本彩ちゃんの真似だ♪どうだ、似てただろう?」

 

 

零「いや知らないし聞いてないし胸張って言われてもどうリアクションしたらいいか分からんから……大体お前も何やってるんだアズサ……?」

 

 

木ノ花はともかく、なんでアズサまでこんな馬鹿げたごっこ遊びに付き合っとるんだ?と、零は得意げに胸を張る姫を無視して呆れるようにアズサに問い掛け、アズサはその問いに小首を傾げた。

 

 

アズサ「だって、あの番組は有名だから話題に付いていけるようにチェックしておいた方が良いって、ヒメが……」

 

 

零「……コイツに何仕込もうとしとるだお前は……」

 

 

姫「仕込むとは人聞きの悪い。アズサは裏世界の掟などを一般常識に捉えてるのだから、少々こじつけてでも色々教えなければいかんだろう?ねー?」

 

 

アズサ「ねー」

 

 

零「ねーじゃねえよ」

 

 

視線を交わして頷き合う姫とアズサに冷静にツッコミを入れる零。そしてそんなやり取りを離れて見ていたカリムとシャッハと翔はただ苦笑いを浮かべ、紗耶香は溜め息を吐きながら前へ出た。

 

 

紗耶香「あの……そろそろ出発したいのですが、よろしいですか?」

 

 

姫「ん?ああすまんすまん、零が横槍入れるからすっかり遅くなってしまった」

 

 

零「……なんで俺のせいにされてるんだ……」

 

 

翔「抑えろ抑えろυυ……ところで、このまま中に入って大丈夫なのか?此処の遺跡って一般公開はされてないんだろう?」

 

 

翔は零を宥めながら目の前に佇む遺跡を見上げながら疑問げに紗耶香に問い掛けるが、紗耶香は「問題ありません」と告げながら一同の前に出た。

 

 

紗耶香「それに関してはこちらで根回ししておきましたので、気にする事はありません。さぁ、先を急ぎましょう?モタモタしていたら、GEAR電童達に追い付かれるかもしれません」

 

 

そう言って紗耶香は戸惑うことなく遺跡の中へと足を踏み入れて奥へと進んでいき、それを見た姫達は一度顔を見合わせると若干躊躇しながら紗耶香の後を追うように遺跡の中へと進んでいく。だが零と翔は何故かその場から動こうとせず、互いに目を合わせた。

 

 

翔(なあ零……何か妙じゃないか……?)

 

 

零(手際が良すぎる……と言いたいんだろう?それにこの感覚……)

 

 

翔(あぁ……人払いの結界、しかもかなり高度な結界がここら一帯に張られてる……シャッハさんでも気付いてる様子はなかったし、多分普通の結界じゃないな……コイツは……)

 

 

そう言って翔は険しい顔で島の上空を見上げていき、零は軽く息を吐いて遺跡を見据えていく。

 

 

零(あの女の仕業か…GEAR電童達の仕業か…それとも別の人間か…黒幕が誰かは知らんが、警戒するに越したことはないだろうな……取りあえず今は奴らの好きなようにさせておけばいいだろ……)

 

 

翔(敢えて相手の策に乗る……って事か?)

 

 

零(簡単に尻尾を出すとは思えんしな……今は用意された舞台の上で踊ってやればいいさ……ソイツ等を叩く叩かないかは、その後で決めればいい……)

 

 

証拠を押さえたりあれこれ考えるより、正体を明かしたところを叩き潰した方が手っ取り早いだろう?と、零はそれだけ告げると軽い足取りで遺跡の中へと足を踏み入れていき、翔も「そんなもんか?」と半ば呆れながら零の後を追い掛けていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

―ジェイルの研究所―

 

 

その頃、とある研究施設。其処には研究所のロビーで何かを話し合う数人の青年達の姿があり、ロビーのソファーに座る青年……大輝がこの世界のジェイルと対談していた。

 

 

ジェイル(別)「――つまり、ファウストと共に消えた彼等はこの世界を破壊しようと目論む破壊者達……という事かな?」

 

 

大輝「そっ、だから彼等はエルクシードを持つ彼女を助けたのさ。アレを使ってこの世界を破壊するため、そして君達ライダーを倒すために……ね?」

 

 

ソファーでくつろぎながらジェイル達に告げる大輝。だがジェイルの背後に立つ銀髪の青年と黒髪の青年は何処か納得出来ないのか、若干訝しげな顔を浮かべていた。

 

 

「世界の破壊者ですか……私には少し信じ難いですね……」

 

 

「そうだな。それに全てのライダーの敵というなら、同じライダーであるファウストを破壊せずに助けたりはしないだろう……お前の言葉を簡単には信用出来ない。奴が全てのライダーの敵だというなら、その証拠が何処にある?」

 

 

疑心の篭った目付きで大輝を睨み付けながらそう問い掛ける二人であるが、大輝はそれに対してただ不敵な笑みを浮かべ、胸ポケットから数枚の写真を取り出しテーブルに上に投げ付けた。その写真とは……

 

 

「……っ?!これは……」

 

 

大輝「これが証拠さ。本当に彼がライダー達の敵じゃないなら、こんな風に彼等と戦う筈がないと思うけど?」

 

 

大輝が投げ付けた写真……その写真には、ディケイドがクウガやキバ、firstに龍王といった様々なライダーと戦う姿が映し出されていたのだ。それを見た一同は険しい表情で写真を見ていき、大輝はニヤリと笑みを作りながら口を開いた。

 

 

大輝「ちなみに彼等は今ルルイエ島の遺跡に訪れてる……古代文明の力を手に入れる為にね」

 

 

ジェイル「馬鹿な!彼処には様々な仕掛けがあるんだぞ?!幾らライダーと言っても……!」

 

 

大輝「確かに、常識外れな仕掛けがあるなら彼等でもマズイかもね……だけど、その為に彼等はファウストを助けたのさ」

 

 

「?どういう意味だ?」

 

 

大輝「何故彼等が倒すべきライダーである彼女を助けたと思う?古代文明の力を狙うなら彼女はあの遺跡に関して調べてるだろうし、いざって時の身代わりにもなる……どうせ消すなら、利用出来る所まで利用してからの方がいいと思わないかい?」

 

 

「?!」

 

 

つまり、ファウストを助けたのは遺跡攻略に利用するためという訳か。頭で瞬時にそれを理解した青年達はすぐさま研究所を出てルルイエ島へと向かっていき、大輝はその様子を見て静かに笑みを浮かべた。

 

 

大輝(上手くいったな……流石に翔やアズサに姫さんがいるんじゃ俺でもマズイからね。頑張ってくれよ、GEAR電童君達?君達が零達と戦ってる間に、エルクシードは俺が手に入れてみせる……)

 

 

青年達が出ていった入口を見つめながらそう考えると、大輝はズボンのポケットに両手を突っ込みながら立ち上がり、そのまま研究所を後にし何処かへと去っていってしまった。

 

 



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番外編/アズサ、はじめてのおつかい①

 

 

 

―光写真館―

 

 

アズサ「……おつかい?」

 

 

とある写真館の昼下がり。新たに訪れた世界で一同がそれぞれ過ごす中、写真館のキッチンで零と向き合うアズサが疑問げに小首を傾げていた。

 

 

零「あぁ。実は今晩の夕飯で親子丼を作ろうと思ってるんだが、肝心の鶏肉と卵、それと食後のデザートに使う芋がなくてな。悪いが買ってきてくれないか?」

 

 

アズサ「……分かった……鶏肉、卵、お芋……でいいの……?」

 

 

零「そうだ。必要なモノは全部この中に入れてあるから、頼んだぞ?」

 

 

そう言って零は財布やメモを入れたバッグをアズサへと差し出し、アズサはそれに対して無言で頷き返しながらバッグを受け取り、頼まれた品を買いにキッチンを後にしていった。

 

 

零「……少し不安だが……まぁ、近くの商店街だから大丈夫だろう」

 

 

アズサが出ていった入り口を見つめながら内心不安が残る零だが、此処はアズサを信頼して待とうとお米を研ぎ始めるのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてその頃、零に夕飯のおつかいを頼まれたアズサは写真館の前に立っていた。その手にはバッグの中に入っていたメモが握られており、アズサはメモを見て零に頼まれた品をもう一度再確認していく。

 

 

アズサ「鶏肉、卵、お芋……ん……覚えた……後はお店に行って買うだけ……」

 

 

メモを確認し終えたアズサは何度か頷くとメモを懐に仕舞い、早速近くの商店街にあるスーパーに向かおうと歩き出すが……何故か途中で足を止めてしまった。

 

 

アズサ「?……でも確か……最近卵やお肉が値上がりしたって、昨日TVで言ってた……」

 

 

確か昨日の夜、就寝前に見たテレビのニュースでまたもや砂糖や卵等が値上がりしたと流れていたのを思い出すアズサ。

 

 

最近ではガソリンや煙草等も値上がりしたと聞いた事があるし、それに関して頭を痛めてる一般人の様子も見た事がある。

 

 

もしかしたら、今から行くスーパーでも自分が買う品が値上がりしていたりするのだろうか?

 

 

アズサ「…………」

 

 

其処まで思考したアズサは無言でバッグの中から財布を取り出し、所持金を確認していく。

 

 

写真館にはかなりの人数がいるし、加えて人並み以上に食べる大食いも何人かいる。

 

 

お代わりを頼む事を考えればかなりの量がいるだろうし、そうなれば財布の中はスカスカになること間違いないだろう。

 

 

アズサ「……そういえば……お金の遣り繰りは大事なことだって、TVでも言ってた……」

 

 

何かのバラエティー番組で節約術を学ぶという内容を思い出し、アズサは小首を傾げたまま何かを考える様に無言を突き通している。そして暫くそうして考えていると……

 

 

アズサ「―――そうだ……買うんじゃなくて……取りに行けばいいんだ……」

 

 

おぉ、と何か考えついたアズサは手の平の上にポンッと握り拳を落とすと、脳内にある膨大な情報を一斉に呼び起こして頭の中で処理していく。

 

 

アズサ「鶏肉と卵……その二つを同時に入手するにはニワトリを捕獲することが最善と判断……驚異的なスピードで卵を産み落とし、メンバー全員を満足させられる量の肉を持つニワトリの所在は……」

 

 

もの凄いスピードで流れる情報を脳内で処理し、自分が求める条件をクリアするニワトリの居場所を探し出していくアズサ。そして……

 

 

アズサ「――見つけた……魔装転神……」

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

条件に合うニワトリを発見したと同時に腰にベルトを出現させ、シュロウガへと変身。

 

 

そして変身を完了すると共に背中の漆黒の翼を大きく展開させ、上空へと飛翔し時空を越えていったのだった……

 

 



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番外編/アズサ、はじめてのおつかい②

 

―????の世界―

 

 

―――とある異世界に存在する市街地。まるでミッドのように近未来を連想させる町並みが広がるこの街では、現在ある事件が起きていた。それは……

 

 

 

 

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

「ウグアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!」

 

 

「ウワッ?!ま、また一人やられたぞっ?!」

 

 

「クソッ!止めろ!何としても奴を止めるんだ!!」

 

 

『コケー!!コッコッコッコケェーッ!!!』

 

 

……何故か、超巨大なニワトリが街の中を我が物顔で渡り歩き、自身を止めようと試みる都市警察を薙ぎ払いながら暴れ回っていたのだった。

 

 

「く、くそっ!部隊も殆ど全滅だ!ホントにニワトリなのかアレは?!強すぎるだろう?!」

 

 

「麻酔弾も全部かわされてしまうしっ……あの動きも突然変異の影響だというのかっ?!」

 

 

「ちぃっ!!どうしてちゃんと管理しておかないんだ養殖科の奴らはっ!!」

 

 

思わず毒づきながらも麻酔銃を巨大ニワトリに向けて発砲していく警官達。しかし巨大ニワトリはその巨体からは考えられない素早い動きで麻酔銃をかわしていき、一瞬で一人の警官の懐にまで潜り込み……

 

 

『コケエェェェェェェェェェェーーーーーっっ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!―

 

 

「ッ?!ウ、ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!」

 

 

巨体ニワトリの放ったマシンガンキックが警官に炸裂していき、それをモロに受けてしまった警官は悲痛な悲鳴を上げながら吹っ飛ばされビルの壁にめり込んでしまったのであった。

 

 

「ヒ、ヒロトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ?!!!」

 

 

「ば、馬鹿な……我々が、敗れるというのか?たかがニワトリ一匹に……?」

 

 

『クォックォックォッ……クォケエェェェェェェェェェェェーーーーーーーっっ!!!』

 

 

遂に残り数人だけとなってしまった警官達は目の前の信じられない現実に呆然と崩れ落ちてしまい、巨体ニワトリはそんな警官達を嘲笑うように鳴きながら上空へと高く跳び上がり、一気にトドメを刺そうと警官達に向けて跳び蹴りを放とうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――トラジックジェノサイダー……』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュン!!―

 

 

『……コケ?―ドグオォォォォォォォォォォォオンッ!!―ゴゲエェェェェェェェェェェェェェェェッ?!!!』

 

 

『……え?』

 

 

 

突如巨体ニワトリの横からなにかが飛来し、そのまま巨体ニワトリの顔面にぶち当たって勢いよく吹っ飛ばしていったのである。その様子に戦意喪失し掛けていた警官達も唖然とした顔で巨体ニワトリを見つめると、巨体ニワトリの前に一人のライダー……シュロウガがゆっくりと地上に降りていった。

 

 

シュロウガ『漸く見付けた……ニワトリ……』

 

 

「?!な、何だアイツ?!」

 

 

「ぞ、増援か?だがそんな知らせは聞いてないぞ?!」

 

 

いきなり現れたシュロウガを目にして驚きながらざわめく警官達。だがシュロウガはそれを他所に破壊された街を見渡していき、ゆっくりと起き上がる巨体ニワトリを見据えた。

 

 

シュロウガ『……街をこんな風にしたのは、貴方ね?どうしてこんな事をしたの……?』

 

 

『ゴゲェェェェ……コケッ!コケコッコッコッコケェーーッ!!』

 

 

シュロウガ『……そう……同じ養殖科に住んでた仲間を食べた人間達が許せず、その報復で街を破壊しようとしたのね……』

 

 

分かったの今の?!と思わず警官達が心の中で叫ぶが、未だ状況に付いていけてないせいで口には出せなかった。そして巨体ニワトリの事情を知ったシュロウガは仮面の下で悲しげな顔を浮かべるも、すぐに無表情に戻ってデスディペルを構えた。

 

 

シュロウガ『だけど、このまま貴方を放っておく訳にはいかないし……私もおつかいを果たさなければいけない。だから私は……貴方を狩るッ!』

 

 

『クォックォックォッ……コケエェェェェェェェェェェェェェーーーーーーっっ!!』

 

 

剣の切っ先を向けて告げたシュロウガを敵と認識し、シュロウガへと飛び掛かり蹴りを放つ巨体ニワトリ。そしてシュロウガもそれを迎え撃つように突っ込み、巨体ニワトリの足に向けて剣を振りかざした。

 

 

 

 

 

―ガギンガギンガギンガギンガギンガギンガギンガギンガギンガギンッ!!!―

 

 

シュロウガ『ハッ…!!』

 

 

『コケエェェェェェェェェェェェェーーーーーーっっ!!!』

 

 

戦闘を開始したシュロウガと巨体ニワトリの間で剣と足が火花を散らせながら何度もぶつかり合っていく。最早神速をも越えるそのスピードに誰もその目で捉える事が出来ず、ただけたたましい轟音が辺りに響き渡っていた。

 

 

「す、凄い……」

 

 

「なんなんだアイツ等……本物の化け物か?!」

 

 

目前で繰り広げられる規格外な激闘に警官達も思わず唖然とした顔になり、ただ自分の目を疑うしか出来ずにいる。

 

 

そんな彼等を他所にシュロウガは巨体ニワトリの放ったミドルキックを後方へと跳んで回避し、剣を構え直しながら巨体ニワトリを見据えていく。

 

 

シュロウガ(流石は突然変異で超巨大化したニワトリ……身体能力や知能も人間を越えるほどまでにパワーアップしてる……!)

 

 

巨大ニワトリの能力を冷静に分析しながら牽制するようにラスターエッジを放つシュロウガ。

 

 

だが巨大ニワトリはそれを容易く避けると、突然シュロウガに背中を向けて尻を突き出し、そして……

 

 

『コケエェェェェェーーーーーーーっっ!!!』

 

 

―ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポンッ!!!―

 

 

「なっ?!た、卵ォ?!」

 

 

そう、巨大ニワトリはいきなりシュロウガに向けて、尻からボウリングの玉並の大きさの卵を高速で乱射し始めたのである。

 

 

まるでガトリングのように撃ち出されるそれらは猛スピードでシュロウガへと襲い掛かり、シュロウガは背中の翼を広げて何とか卵を回避していくも、かわされた卵達は地面や建物に直撃し中身の黄身をぶちまけてしまう。

 

 

シュロウガ『ッ!卵が……』

 

 

地面に黄身をぶちまけた卵の残骸を見てシュロウガは思わず動きを止めてしまい、巨大ニワトリはそれを好機に思いシュロウガに卵の弾丸を高速連射していく。しかしシュロウガは顔色を変える事なく、何処からかバッグを取り出すと……

 

 

シュロウガ『……零がいつも言ってた……食べ物を粗末にしたら―――』

 

 

そう言いながらシュロウガはバッグを素早く振り回して卵を次々とキャッチしていき、そのまま卵をバッグで受け止めながら巨大ニワトリへと突進し、卵を一個掴んで大きく振りかぶって……

 

 

シュロウガ『――メッ!』

 

 

―ズボオォッ!!―

 

 

『ッ?!ゴ、ゴゲェェェェェェェェェェーーーーーーっっ?!!』

 

 

今正に次の卵を撃ち出そうとした巨大ニワトリの尻に、巨大な卵を突っ込んで詮をしていったのだ。

 

 

そして尻に卵を突っ込まれた巨大ニワトリは白い羽根をばたつかせながら絶叫を上げ、シュロウガはその隙に巨大ニワトリから距離を離して右手に持つ剣を手の中でクルリと回転させ……

 

 

シュロウガ『魔神剣……ハアァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―フッ……ズバンッ!ズババババババババババババババババババッ……!!!―

 

 

『ゴッ?!ゴゲエッ?!』

 

 

突然シュロウガの姿が巨大ニワトリの視界から消えた瞬間、黒い閃光と化したシュロウガが凄まじい速さで巨大ニワトリの身体を斬り刻んでいき、巨大ニワトリは何が起きてるのか理解出来ずに困惑してしまう。

 

 

そして黒い閃光と化したシュロウガが巨大ニワトリの背後に姿を現し、デスディペルを消した瞬間……

 

 

『……コ……コケエェェェェェェ……』

 

 

ズシンッ……という重たい震動を響かせながら、巨大ニワトリの身体がゆっくりと地面へと沈んでいったのであった。

 

 

「……た、倒した?」

 

 

「我々が手も足も出せなかった奴を……たった一人で……?」

 

 

地面に俯せたままピクリとも動かない巨大ニワトリ。それを見た警官達が信じられない物を見たような顔で呆然とシュロウガを見つめてると、シュロウガはゆっくりと警官達の方へと振り返り、地面に倒れる巨大ニワトリを指差した。

 

 

シュロウガ『……この子とこの子の卵……貰って良い……?』

 

 

「は?……え、えっと……良いんじゃないか?どうせソイツは処分される予定だし……」

 

 

シュロウガ『ん……ありがとう……』

 

 

警官達から承諾を得たシュロウガは警官達に向かってお辞儀をすると、巨大ニワトリと向き合い何処からか一本のロープを取り出した。それを巨大ニワトリの体に巻き付けていき、ボウリングの玉並の大きさの卵が入ったバッグを手に取った。

 

 

シュロウガ『鶏肉と卵は確保……後はお芋だけど……何処で手に入れよう……』

 

 

ロープに縛られた巨大ニワトリを見下ろし、次の芋は何処で手に入れるか思考に浸るシュロウガ。

 

 

デザートで頂くならそれなりに美味しい芋が良いのだろうが、それだけの芋となると高いかもしれないし、メンバーの分とお代わりの分を考えれば普通に買っては大出費だ。

 

 

美味しい芋を買う事なく手に入れ、しかも大量に手に入れる方法は……

 

 

シュロウガ『―――そうだ……あの世界に行けば手に入る……』

 

 

何やら心当たりがあるらしく、シュロウガは顔を少し上げて空を見上げた。そしてロープに巻かれた巨大ニワトリと卵の入ったバッグをしっかりと掴むと、そのまま上空へと飛翔し真上に出現した歪みを通って何処かへと消えていってしまった。

 

 

「……な、何だったんだ……今の……?」

 

 

「さ、さあ……」

 

 

結局あの黒いのは何者だったのか?と残された警官達はシュロウガが消えた空を見上げながら呆然と立ち尽くし、現場に別部隊が到着するまでそうしていたらしい……

 

 



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番外編/アズサ、はじめてのおつかい③

 

 

―???の世界・荒れ地―

 

 

それから数時間後。先程とは違う並行世界の何処かにある荒れ地。辺りにはゴツゴツとした岩だけが存在し、殺風景な風景が何処まで続くその場所で、アズサがある場所を見つめながら一つの岩の上に座っていた。

 

 

アズサは体育座りしながらジッとある場所を見つめたまま微動だにせず、自分の耳に装着された通信機の向こうの相手に声を掛けた。

 

 

アズサ「……二分経った……地中の様子はどう……?」

 

 

『ククク、順調に育ってるぜェ?流石はお前が調べただけの事はある。コイツは以前のデカさを遥かに凌いでやがるなァ♪』

 

 

アズサ「ん……此処の土は植物にとって快適な場所だから……きっと立派に育つ……」

 

 

通信機から聞こえてくる声にアズサがそう応えると、通信機から聞こえる声の主は不気味な笑い声を返した。

 

 

『それにしても、まさかまたお前からの依頼が来るとはな?組潰しを止めたって聞いたから、てっきり俺との縁も切ったんじゃねえかと思ってたぜェ』

 

 

アズサ「……確かに組潰しは止めたけど……別に貴方との縁を切った訳じゃない……それに今回の依頼も、貴方以外に頼める人がいなかったから頼んだの……」

 

 

『ク~ックククッ、そいつは光栄なこったなァ♪』

 

 

アズサの言葉に機嫌を良くしたのか、声の主はより一層不気味な笑い声を響かせていく。

 

 

『んで?"あのお前さん"の方は元気にしてんのか?』

 

 

アズサ「……うん……元気にしてる……今は余り出て来ないけど……」

 

 

『ソーカイ。まあ、記憶を無くして消えたって事ァなさそうで安心したぜェ~……っと、そろそろ時間だな』

 

 

アズサ「ん……そうみたい……それじゃあ、結果は後で報告する……」

 

 

『あいよ~。せいぜい死なねえように気を付けナ♪』

 

 

アズサ「うん……ありがとう……クルル」

 

 

アズサは声の主……クルルに向けて礼の言葉を告げると、通信を切りながら腰にベルトを出現させ、今まで自分が眺めていた場所に顔を向けた。

 

 

すると突然、アズサが立つ荒れ地の大地がゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!と激しい地震と轟音を巻き起こし、荒れ地の大地が割れて地中から何かが飛び出した。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イィィィィモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

……地中から上空へと飛び出した何か……それは全長30~50メートル以上はあり、全身から伸び生えた触手がうごめく芋のような姿をした怪獣だったのだ。それを見たアズサは瞬時にシュロウガへと変身しながら怪獣を見上げ、目を細めていく。

 

 

シュロウガ『対象の情報を検索……対象名『炭水化物系植物外来種地球異変体、YMO-104号』と確認……了解……現スペックと武装による撃退を推奨……可決……了解……作戦内容の確認……対象の撃墜と対象の一部の確保……及びおつかいの達成……了解……』

 

 

瞬時にすべての脳内設定を完了させると、シュロウガは右手にデスディペルを出現させ、芋の怪獣……YMO-104号に切っ先を向けた。

 

 

シュロウガ『仮面ライダーシュロウガ……アズサ……出撃する……!』

 

 

『イモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!』

 

 

漆黒の翼を展開し、上空に飛び上がってYMO-104号へと突進するシュロウガ。それを見たYMO-104号も全身から生え伸びる触手を一斉に飛ばし、シュロウガへと襲い掛かっていったのだった。

 

 

 



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番外編/アズサ、はじめてのおつかい④

 

 

『イモオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

シュロウガ『フッ…!!』

 

 

戦闘開始から30分が経過し、荒れ地の上空では未だにシュロウガとYMO-104号が凄まじい激闘を繰り広げていた。

 

 

YMO-104号は全身から伸び生える触手を飛ばしてシュロウガを捕らえようとし、シュロウガは襲いくる触手を剣で薙ぎ払いながら高速飛行でYMO-104号の回りを飛び回り、互いに一歩も引かずにいる。しかし……

 

 

―ザシュッ!ズシャアァッ!―

 

 

シュロウガ(っ!触手の数が多いっ……このままじゃ手数で押されるっ……!)

 

 

そう、YMO-104号の触手はどれだけ斬り落としても数が減る事がなく、休む間もなく次々と襲い掛かってくるのだ。しかも斬り落とした触手はとてつもない速度で直ぐさま再生するため、こちらから攻撃する暇すらなく防戦一方となっている。このままでは押されると判断したシュロウガは剣で触手を斬り落とすと同時に上空へと飛び、そして……

 

 

シュロウガ『舞え……トラジックジェノサイダー!!』

 

 

―バシュンバシュンバシュンバシュンッ!!―

 

 

シュロウガの叫びに応えるかのように無数のスフィアが両肩と両腰から放たれ、襲い来る触手を薙ぎ払いながらYMO-104号へと接近していき……

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!―

 

 

『イ、イモオォッ?!』

 

 

スフィアの大群がYMO-104号の横っ腹に直撃して爆発を巻き起こし、YMO-104号は空中でよろめき態勢を崩したのである。それを見たシュロウガは即座にアンジュルグへと変身し、右手にイリュージョン・アローを出現させ矢をつがわせてゆく。そして……

 

 

アンジュルグ『イリュージョン・アロー……シュート……』

 

 

―バシュウゥッ!ズガアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『イモオォォォォォォォォォォォォォォオッ?!』

 

 

弓から放たれた矢が態勢を立て直そうとしたYMO-104号に炸裂し、再び爆発を起こしながら近くの岩へと吹っ飛ばされていったのだった。そうしてYMO-104号は岩に埋もれたまま沈黙し、アンジュルグは上空からその様子を眺めて首を傾げた。

 

 

アンジュルグ『?動かなくなった……倒した……?』

 

 

なんだか府に落ちないような様子で疑問げに呟くアンジュルグ。あれだけ巨大に成長したのに、こうも簡単に倒されるとは予想外だったのだろう。疑念は晴れないが、取りあえず倒せたのなら対象の一部を確保しようと、アンジュルグは沈黙したYMO-104号にゆっくり近づこうとする。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ズガァンッ!ガシィッ!!―

 

 

アンジュルグ『…っ?!』

 

 

 

アンジュルグがYMO-104号に接近しようとした瞬間、背後の地面から触手が現れアンジュルグの両腕と両足を拘束してしまったのだ。それと同時にYMO-104号がゆっくりと起き上がって空中へと浮き上がり、それを見たアンジュルグは仮面の下で表情を険しくさせた。

 

 

アンジュルグ『っ!やっぱりまだ生きて――っ?!』

 

 

己の失態に思わず自己嫌悪しつつも触手から逃れようともがくアンジュルグだが、YMO-104号はそれよりも早くアンジュルグを拘束した触手を上空へと持ち上げ……

 

 

『イモオォォォォォォォッ!!』

 

 

―ブンッ!ドゴオォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

アンジュルグ『アッ―――ハッ……?!』

 

 

そのまま勢いよく触手を振るい、アンジュルグを地面へと叩き付けてしまったのであった。背中から地面に叩き付けられてしまったアンジュルグは激痛と共に一瞬息が出来ず呼吸が止まってしまうが、YMO-104号はそれに構わず先端部分を上空へと向けると、尻に火をつけてアンジュルグを引っ張りながらロケットのように飛び上がっていく。

 

 

アンジュルグ『ぐっ……!一体……何を……?!』

 

 

触手で捉えられたままYMO-104号の行動に疑問を隠せないアンジュルグ。その間にもYMO-104号は大気圏に突入してそのまま宇宙へと突破すると、突然宇宙空間で停止しアンジュルグの方へと先端を向けた。

 

 

アンジュルグ『……っ?!ま、さか……!』

 

 

YMO-104号のその行動で何かに気が付いたのか、アンジュルグは直ぐさま触手から逃れようと両腕と両足に力を込めてもがき始める。だが時は既に遅く、YMO-104号は再び尻に火を付けてジェット機のように飛び出し……

 

 

『イモオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』

 

 

―ドゴオォォンッ!!!!!!!!―

 

 

アンジュルグ『っ?!!!』

 

 

けたたましい激突音と共に、ジェット機並の速度でアンジュルグの背中へとぶち当たっていったのだ。更にYMO-104号はそのままアンジュルグと共に再び大気圏へと突入して地上へと突き抜けていき、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

 

 

 

 

……大気圏を突破したYMO-104号は隕石の如く荒れ地へと落下し、アンジュルグはYMO-104号に踏み潰され巨大な爆発の中へと消えていったのであった……

 

 



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番外編/アズサ、はじめてのおつかい⑤

 

 

―???―

 

 

暗闇に包まれた暗い空間。無限の闇が広がるこの世界の中心には一人の少女……先程YMO-104号と戦っていたアズサが俯伏せに倒れる姿があり、アズサは徐に目を開き呆然と目の前の光景を見つめた。

 

 

 

アズサ「……?此処……は……」

 

 

重たい瞼を開き、目覚めたアズサが真っ先に目にしたのは、何処までも続く闇。その光景を朧げな意識で目の当たりにしたアズサは頭上に疑問符を浮かべ、ゆっくりと起き上がりながら辺りを見渡していく。

 

 

アズサ「?私……確かさっきまで……『漸くお目覚め?』……ッ!」

 

 

事態が掴めず小首を傾げていると、背後から突然声が聞こえてきた。それを聞いて思わず振り返ると、其処には一人の少女……アズサと容姿が酷似した金色の眼の少女が立っており、アズサはその少女を見て小さく呟いた。

 

 

アズサ「アス……ハ……?」

 

 

アスハ『全く、相変わらず馬鹿やってるわね、アンタは』

 

 

アズサに酷似した容姿を持つ少女……アスハはそう言いながら呆れるように溜め息を吐き、アズサはそんなアスハを見て辺りを見渡し始める。

 

 

アズサ「もしかして此処は……私の心の中……?」

 

 

アスハ『そっ。アンタはあのデカブツに押し潰されて気絶し、アンタの意識はそのショックで此処に来たって訳よ。じゃなきゃ、私もこうしてアンタと向き合うなんて出来る筈ないし』

 

 

アズサ「……そうだったんだ……」

 

 

アスハの言葉で自分の推測が正しいと理解したアズサは辺りを見渡すのを止め、アスハはアズサの顔を見つめて溜め息を吐いた。

 

 

アスハ『にしても、アンタってホントに常識外れよね?どうして子供のおつかい程度で此処までやるのやら……』

 

 

アズサ「……だって、どうせ買うなら取りに行った方が金銭的にも良いし……」

 

 

アスハ『私から言わせれば、取りに行くより買った方が断然楽よ。何で芋なんか取る為にあんな化け物と戦わなきゃなんないわけ?めんどくさいったらありゃしないわ』

 

 

一体何を考えてるのやらと、ウンザリした様子で肩を竦めながら愚痴を零すアスハ。そんなアスハの様子にアズサもシュンッと落ち込むように顔を俯かせてしまい、アスハはそれを横目で見て頭をガシガシと掻きながら深い溜め息を吐いた。

 

 

アスハ『ったく、しょーがないわね……アズサ?ちょっとアンタの身体貸しなさい』

 

 

アズサ「……?どうして?」

 

 

アスハ『どうせアンタだけじゃあのデカブツ叩くのは無理でしょ?それにアイツは生半可な攻撃じゃ倒れない……私ならアイツを倒せるし、手伝ってあげるって言ってるの』

 

 

アズサ「……でも、これは私が頼まれたおつかいだし……」

 

 

アスハ『なら問題ないじゃない。私はアンタ、アンタは私なんだから……それにあんまり遅いと、零が夕飯の準備が出来なくて困るわよ?それでもいいの?』

 

 

アズサ「…………」

 

 

確かにこれ以上時間を掛ければ零は何時まで経っても夕飯が作れず困ってしまうし、他の皆にも迷惑を掛けてしまう。それだけは避けなければと、アズサは考え込むように俯かせていた顔を上げて……

 

 

アズサ「――わかった……お願いしてもいい……?」

 

 

アスハ『良いわよ。それに私も暴れたくて仕方なかったから、肩慣らしには丁度いいしね』

 

 

アズサ「……もしかして、それが目的……?」

 

 

アスハ『さーてね?じゃ、ちょっと行ってくるわ』

 

 

小首を傾げて問い掛けるアズサに対しそう告げると、アスハは背を向けながら手を振って歩き出し、それと同時に暗闇の世界が白光に包まれていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―ケロロの世界・荒れ地―

 

 

『イモオォォォォォ……』

 

 

その頃、落下の衝撃で作り出された巨大なクレーターの中心では、アンジュルグを踏み潰したままYMO-104号が触手を再生させながら寛いでいた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―……ゴゴッ……ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!―

 

 

『……ッ?!イ、イモオォッ?!』

 

 

 

 

突如、YMO-104号の巨体が真下にいる何者かによって徐々に持ち上げられ始めたのだ。突然の事態にYMO-104号も動揺して戸惑う中、YMO-104号を持ち上げる人物……シュロウガは片手だけでYMO-104号を押し上げ、そして……

 

 

シュロウガ『ハアァァァァ……ソラァッ!!』

 

 

―ブオォンッ!!ドシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『イ、イモオォォォォォォォォォォォォォォオッ?!!!』

 

 

シュロウガはとてつもない腕力でYMO-104号の巨体を軽々と投げ飛ばし、YMO-104号はそのまま地面を削るように滑って吹っ飛ばされていったのだった。そしてシュロウガは肩を軽く回すと、ゆっくりとYMO-104号へと近づいていく。

 

 

シュロウガ『全く、そんなデカイ図体で人様を踏み付けないでくれる?ぺしゃんこになったらどうしてくれんのよ?』

 

 

『イ、モオォォ……イモオオオオオオォォォォォォッ!!』

 

 

悠然とした態度で語りかけるシュロウガの言葉にも耳を貸さず、先程のお返しと言わんばかりに無数の触手を一斉に放つYMO-104号。それに対しシュロウガは軽く息を吐くと……

 

 

シュロウガ『――フンッ!』

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ッ?!!』

 

 

片腕をたった一振り、それだけで全ての触手達を斬り払っていったのだ。思わぬ展開にYMO-104号も動揺し、シュロウガは振るった手を握ったり開いたりを繰り返し調子を確かめていた。

 

 

シュロウガ『へえ……初めて使うにしては、私の身体にしっかりと馴染むじゃない……流石は私専用に作られたシステムね……』

 

 

身体の調子を確かめ終えると、シュロウガは未だ動揺した様子でこちらを見つめるYMO-104号に視線を向け微かに笑みを浮かべた。

 

 

シュロウガ『さあて、それじゃあ始めましょうか……第二ラウンドをねッ!』

 

 

 

 

―フッ………―

 

 

 

 

「………イモ………?」

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

 

 

「イモアァァァァァァァァァァァァァアァッ?!」

 

 

 

突然視界からシュロウガが消えたと思いきや、シュロウガは相手の懐に入り見えない程のスピードで無数のパンチを打ち込んでいったのだ。更にYMO-104号を蹴り上げて上空へと飛ばし、瞬時に先回りして地上へと叩き付けると同時に膝蹴りを叩き込むと、シュロウガは一度距離を開いて右拳を頭上に掲げ、拳の中に剣を出現させた。

 

 

シュロウガ『シュロウガよ…闇を抱き、光を砕け…』

 

 

そう呟きながら拳の中に現れた剣を抜き取っていくと、まるで血のように流れる黒いオーラを右手に纏い、手の平を頭上に掲げて黒いオーラを撃ち放った。そうして放たれた黒いオーラはシュロウガの上空で漆黒の魔法陣を形成し、シュロウガはそれを確認すると抜き取った剣を消して魔法陣へと飛び立った。

 

 

シュロウガ『転神よ、シュロウガ!!』

 

 

高らかな叫びと共にシュロウガは魔法陣を突き抜けていき、その直後、シュロウガの身体は漆黒の鳥のような姿へと変化し、そのまま猛スピードで地面に倒れるYMO-104号へと接近し……

 

 

シュロウガ『堕落なさい!無限獄へ!!』

 

 

―バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッ!!!―

 

 

『ッ?!!!!』

 

 

YMO-104号へと突撃すると共に、YMO-104号の周囲が白いドーム状の謎の空間に包まれていったのだ。いきなり出現した謎の空間にYMO-104号も困惑していると……

 

 

 

 

―……ジジッ……ジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジィッ!!!!―

 

 

『ッ?!!!イ、イモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォオッッ?!!!!』

 

 

 

 

突如、YMO-104号の思考に膨大な"何か"が流れ出したのだ。思考を蝕まれていくような感覚にYMO-104号は触手を辺りに叩き付けながらもがき苦しみ、それと共に何処からか高笑いが響き渡った。

 

 

シュロウガ『ははははははははははははははは!!!罪魂を欲し!!貪り!!!そして、自らの魂まで喰い尽くせえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!』

 

 

『イ、イモアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアァッ?!!!!』

 

 

ブチブチブチと、頭の中でなにかがちぎれていくような感覚に断末魔に近い絶叫を上げるYMO-104号。それに呼応するかのように白いドームが黒く、そして血のように真っ赤に染まり切ると共に人型に戻ったシュロウガがドームを突き破って地上に着地し……

 

 

 

 

シュロウガ『……フッ……堕ちてみるのも……心地好い物よ……』

 

 

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

 

 

自嘲するように笑みを零すと共に、シュロウガの背後でドーム状の空間が巨大な爆発を巻き起こし吹き飛んでいったのだった。そしてシュロウガが構えを解いてゆっくりとドームが爆破した場所へ振り向くと、其処にはYMO-104号が地面に倒れる姿があった。

 

 

シュロウガ『終わったか…案外簡単に片付いたわね』

 

 

ふぅ、と軽く溜め息を吐きながらそう呟くと、シュロウガはおもむろにベルトを外して変身を解きアスハへ戻り、すぐにアズサに身体を返しアズサの中へと引っ込んだ。

 

 

そして身体の所有権を取り戻したアズサは自分の身体を見下ろして負傷がないか確認すると、地面に倒れるYMO-104号の下へと歩み寄り、自分の中にいるアスハに呼び掛けた。

 

 

アズサ「ありがとうアスハ……これでおつかい、完遂出来た……」

 

 

アスハ『良いわよ別に……んで?どうやってそのデカブツ運ぶ気なの?一部だけ切り取って持って帰るとか?』

 

 

まあ普通ならそうするだろうけど、と付け足しながら語るアスハだが、アズサはそれに対し首を横に振った。

 

 

アズサ「そんなもったいない事しない……全部持っていく……」

 

 

アスハ『………は?って、アンタ馬鹿じゃないの?!これ丸ごと持っていく?!こんなの持って帰ったら皆驚くわよ?!』

 

 

アズサ「大丈夫……全部は持って帰らない……平行世界の皆に少しずつおすそ分けして量を減らしながら、持って帰る……」

 

 

アスハ『出来るか馬鹿!!こんなデカブツあっちこち担いでいったら大騒ぎになんでしょうが?!』

 

 

アズサ「そんな事もあろうかと……」

 

 

と、何故かいきなり自分のポケットに手を突っ込んでゴソゴソと漁り……

 

 

アズサ「ちゃららちゃっちゃっちゃ~……ミラージュコロイドバリアー……これを付けると透明化し、周りからも見えなくなるんだよの〇太くん……」

 

 

アスハ『誰よのび〇くんって……』

 

 

アズサ「?この前ヴィヴィオと一緒に見た猫型ロボットの――」

 

 

アスハ『別に説明求めてないから!!ってかどっから持って来たのよソレ?!明らかにアンタの持ち物じゃないでしょ?!』

 

 

アズサ「ん…此処にくる前にクルルから貰った…」

 

 

アスハ『アイツか……また余計な物をっ……って待ちなさいアンタ、なに無言でバリア張り付けてんの?本気で持って帰る気?!馬鹿止めなさい!!非常識にも程があんでしょ?!ちょ、やめ、止めろっつってんでしょ無視すんなやゴラァァああああああああああああああああああっっ!!!」

 

 

いつの間にかアンジュルグに変身し、バリアで透明化させたYMO-104号を何処からか取り出したロープで繋ぐアズサを必死に止めようと試みるアスハ。だがその努力も虚しく、アンジュルグは平行世界の皆さんにお芋のおすそ分けをするため転移してしまったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数時間後、光写真館前……

 

 

 

零「―――んで、何時まで経っても帰って来ないから探しに行こうと思ったら……何だコレはっ……」

 

 

写真館の前、黒いジャンパーを羽織って出掛けようとしていた黒月零は、目の前の物体を見て険しげにそう言った。そんな彼の目の先には……巨大なニワトリの遺体と巨大な卵達、そして平行世界の皆さんにおすそ分けしたYMO-104号の一部が無造作に転がっており、それを取ってきた張本人であるアズサは零を見上げて一言。

 

 

アズサ「頼まれたもの……取ってきた……」

 

 

零「……いや、取ってきたじゃなくてだな……」

 

 

あまりの衝撃的な光景を目の当たりにして言葉も浮かばず、取りあえず零は一回冷静になろうと額に手を当てながら深呼吸をした。

 

 

零「スー、ハァー……よし……まず聞くが、俺は確か頼んだ物を買って来いと言ったはずだよな?」

 

 

アズサ「?だから、狩ってきた」

 

 

零「字が違うしもう根本的に色々違ってんだろう……というか、どっから取って来たソレ?そのニワトリと卵は……?」

 

 

アズサ「ん……ある世界で突然変異して暴れてたから、退治して貰った……」

 

 

零「平行世界にまで行ったのかいっ……ならその芋は?」

 

 

アズサ「知り合いに協力してもらって取ってきた……でも大き過ぎたから祐輔や翔や稟のところとか、平行世界の知り合い全員におすそ分けしてきた……」

 

 

零「大き過ぎた?……一応聞くが、元々のサイズはどれくらいだ?」

 

 

アズサ「全長30~50メートル」

 

 

零「怪獣っ?!最早普通の狩りですらないだろう?!そんな物を平行世界のあっちこちに引っ張っていったのか?!」

 

 

アズサ「うん、みんな喜んでくれてた。最初は凄く驚いてたけど」

 

 

零「……だろうな……そりゃ驚くだろうな……」

 

 

いきなりそんな馬鹿デカイ芋なんぞ持ってこられたら誰だって驚くだろうさ……。

 

 

あとで芋を貰った皆に詫びの電話を入れなければと、アズサから話を聞いた零は頭を抱えて深い溜め息を吐いていき、アズサはそんな零の反応を見て不安げに眉を寄せた。

 

 

アズサ「もしかして、違った……?」

 

 

零「あぁ、もう色々間違えてるぞ……こんなの一体どうしろと……」

 

 

アズサ「…………」

 

 

零は巨大なニワトリとYMO-104号の一部を交互に見て頭を痛ませていき、それを見たアズサは自身が取ってきた巨大ニワトリ達を見つめ、表情を曇らせた。

 

 

アズサ「―――ごめん……なさい……」

 

 

零「……?いや、まあ別に謝らなくても――」

 

 

アズサ「でも……おつかいちゃんと出来なかった……だから……ごめんなさい……」

 

 

零「…………」

 

 

頼まれたおつかいをちゃんと果たせなかった事を詫びるように、顔を俯かせながら謝罪するアズサ。そんなアズサの顔を横目で見つめ、零は軽く息を吐きながらアズサが取ってきた物を見た。

 

 

零(まぁ、コイツはコイツなりに考えてやったんだろうしな……根本的に色々と間違ってはいるが、コイツの初おつかいにしてはこんな物か……)

 

 

今更此処で嗚呼だこうだと言っても仕方ないし、別にこれだって食えない物でもないだろうと。零は腰に手を当てながら薄い息を吐き、もう片方の手でアズサの頭をポンッと叩いた。

 

 

零「……ま、頼んだモノを持って帰ってきただけでも上出来だ。そう落ち込むな」

 

 

アズサ「……?怒ってないの……?」

 

 

零「別に食べられないワケじゃないんだろう?なら構わんさ……ただ、次からはきちんと店に行って買いに行けよ?もう狩りで取ってくるのは禁止だ。いいな?」

 

 

アズサ「……ん……分かった……」

 

 

零「分かればいい。さっさと手洗ってこい」

 

 

顎で写真館の玄関を指しながらそれだけ告げると、アズサは素直にコクリと頷き写真館の中へと入っていった。そしてアズサの背中を見送った零はヤレヤレと疲れたように溜め息を吐き、地面に転がる巨大な卵を手に取った。

 

 

零「全く、これだけで何人分の親子丼が出来るのやら……爺さんとオットー達の手も借りるか」

 

 

取りあえず夕飯を作って、その後きちんと常識というものを教えなければなと。卵を軽く叩いて苦笑いしながらそう誓う零であった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・洗面所―

 

 

そしてその頃、写真館内の洗面所ではアズサが洗面台の前で手洗いをしていた。蛇口から流れる水をジッと見つめながら両手を擦っていると、洗面台の鏡に写るアズサが突然アスハへと変わった。

 

 

アスハ『ほら、だから言ったじゃない。普通に買いに行っておけば良かったのにって』

 

 

アズサ「うん……アスハにも迷惑掛けた……ごめんなさい……」

 

 

アスハ『別に私は構わないけどさ、いい加減慣れてるし』

 

 

今更だしねと言いながら鏡に写るアスハは肩を竦めて溜め息を吐くと、アズサは手の動きを止めてジッと水を眺めながらポツリと語り出した。

 

 

アズサ「だけど……今日のおつかい、少し楽しかった……」

 

 

アスハ『そう?こっちはずっとヒヤヒヤしてばっかで、一時はどうなるかと思ったわよ。特にあのデカ芋の時とか』

 

 

アズサ「うん……でも……こういうおつかいをするなんて、前までの私じゃ考えられなかったから……」

 

 

アスハ『……え?』

 

 

ポツリと呟いたアズサのその言葉にアスハは思わず疑問げに聞き返し、アズサは水で濡れた手の平を見つめながら言葉を続けた。

 

 

アズサ「前の私は……零を殺す為だけに生きてきた。そうする事が私の存在意義だって、あの人に言われてそう思ってたから……」

 

 

アスハ『――そうね、私達……いいえ、アンタは元々その為だけに造られた人間だし……』

 

 

アズサ「うん……でも零に出会ってから、色々変われた気がする。だからアスハには悪いと思うけど、記憶喪失になって良かったって思う……そうじゃなきゃ、こんな風に楽しいって思う事もなかっただろうし……きっと今頃、自分の命を捨ててでも零を倒そうとしただろうから……」

 

 

アスハ『……確かに、昔のアンタならやり兼ねなかったでしょうね』

 

 

昔のアズサの事を知ってるからか、間違いないというように小さく頷くアスハ。

 

 

アズサ「アスハ……私、前より変われたかな?前より人間らしく……なれたかな……?」

 

 

アスハ『……さあね。常識はずれなところがアレだけど……でも――」

 

 

一度言葉を区切り、アスハは穏やかな顔でアズサの目を見つめながら……

 

 

アスハ『――前よりはマシになったんじゃない?今のアンタの顔は……以前よりずっと人間らしくなったし』

 

 

アズサ「……そっか……」

 

 

前より人間らしくなった。そう言われたアズサは言葉では言い表せぬ喜びを感じ、何処か嬉しそうに微笑みを浮かべて鏡に写るアスハを見つめた。そんな時……

 

 

『ぐうっ!おいアズサっ!お前も手伝え!!このニワトリ、俺達だけじゃ運べん!!』

 

 

アズサ「!ん……分かった……」

 

 

玄関から聞こえてきた零の苦しげな声を聞き、アズサはすぐさま濡れた手をタオルで拭いて玄関へと向かっていった。そして鏡に写るアスハはそんなアズサの後ろ姿を見送ると、軽く息を吐いた。

 

 

アスハ『やれやれ……零達がいるから、私はもう必要ないかなって思ったんだけど……これじゃあオチオチ寝てもいられないわね』

 

 

不出来な妹に呆れる姉ような態度で深い溜め息を吐くアスハだが、そんな態度とは裏腹に自然と笑みをこぼしていた。

 

 

アスハ『しょうがない……もう少し手助けしてやりますかね……せめてあの子が一人前になるまでは……』

 

 

写真館の玄関から聞こえるドタバタとした騒音を耳にしながら含み笑い、アスハはゆっくりと鏡の中から姿を消したのであった。

 

 

そしてこの数時間後、アズサが取ってきた食材のお陰で夕飯は豪勢な物となり、大食い組も大いに満足した夕食となった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――因みにこの数日後、以前アズサが退治した巨大ニワトリの子供である巨大ニワトリJr.が親の仇討ちで写真館を強襲し、写真館で暴れ回ったりキバーラを喰ったり、巧みなクチバシ捌きで女性陣の服を裂いたり、零がそれを見て顔を真っ赤にした女性陣に殴り飛ばされたりで大騒ぎになったのは、また別の話である……

 

 

 





アスハ


解説:アズサの心の内に存在するもう一つの人格。かつてアズサが裏世界にいた頃、『生き抜く為に戦う』という強い概念により生まれた存在。


普段はアズサの中から外の世界を見ていたのだが、アズサが記憶喪失になったことでその存在を忘れられ、アズサが記憶を失った間心の奥底で眠りに付いていたが、記憶を取り戻した事により眠りから目覚めた。


性格はアズサに比べて常識を持ち、アズサに欠けてる部分を取って合わせたような性格。瞳の色は金。何処か姉のようにアズサに接する事が多く、常識外れな行動ばかり取るアズサに頭を痛めているらしい。


ちなみにシュロウガは本来、鳴滝が裏世界での特訓を終えたアズサの中に眠るアスハの存在に気付き、彼女もディケイド抹殺に利用しようとアスハ専用に作り出し、シュロウガはアスハ、アンジュルグはアズサ専用のライダーとなる筈だった。


だがアスハがディケイド抹殺に協力的ではなく、更にアズサが記憶喪失になって一時的に人格が統一された事により、二つのライダーシステムは自動的にアズサ専用のライダーシステムと設定された。


シュロウガがアスハ専用に作られた事もあり、シュロウガの最強技であるレイ・バスターはアスハでなければ使用出来ない。その為、レイ・バスター使用時はアスハが表に出て使用する。



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第十八章/GEAR電童の世界⑤(前編)

 

 

―ルルイエ遺跡―

 

 

一方その頃、ルルイエ遺跡に足を踏み入れた零達一行はと言うと……

 

 

 

 

 

 

―ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ!!!!―

 

 

紗耶香「いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」

 

 

シャッハ「て、鉄球が?!鉄球が転がってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ?!!!」

 

 

翔「逃げろっ!!早く奥に進めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ?!!!」

両肩にアズサとカリムを担ぎながら逃走中。

 

 

姫「ハハッ、いや何故こんな事になったんだろうなぁ」

 

 

零「お前が罠に引っ掛かったせいだろうがぁっ!!」

同じく姫を肩に担ぎながら逃走中。

 

 

 

 

姫が引っ掛かってしまったことで現れた巨大な鉄球に追われたり……

 

 

 

 

―ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!!―

 

 

翔「こ、今度は海水が流れてきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!」

 

 

シャッハ「騎士カリム!!何やっちゃってくれてるんですか貴方はっ!!」

 

 

カリム「すみませんごめんなさい本当に申し訳ありませんっ!!!!」

 

 

零「いいからさっさと逃げろもうすぐそこまで来てるぞっ?!」

 

 

 

 

いきなり大量の海水が流れ込んで危うく溺れ掛けたり……

 

 

 

 

『問題、超古代文明で最も有名な宝とは?』

 

 

 

『←左・超絶DXハニワ』

 

 

『右→・とある赤鬼の石像』

 

 

紗耶香「な、何かいきなり出て来ましたよっ?!」

 

 

零「ネ〇リーグっ?!何故ネプ〇ーグのトロッ〇アドベンチャーっ?!」

 

 

翔「ってか何でモモタロスの石像があるのか激しく疑問なんですけどっ?!」

 

 

 

 

海水から逃げた先にあったトロッコで先に進みながら、何故かト〇ッコアドベンチャー(一回でも間違えば溶岩へドボン)をするハメになったり……

 

 

 

 

『ヴヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

紗耶香「今度はゾンビが出たァァァァァァァァァァァァァァァッ?!」

 

 

翔「く、来るなっ?!!!近づくなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!!」

 

 

 

ST『お、落ち着けって?!相棒ぉ?!』

 

 

零「錯乱し過ぎて聞こえてないみたいだぞ……」

 

 

カリム「もうイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

通路を埋め尽くす程の大量のゾンビがいきなり現れて喰われ掛けたり……

 

 

 

 

 

更にその後も後ろから通路の床が崩れ始めたり、天井や壁から無数の矢が放たれたり、馬鹿でかいギロチンで開きにされ掛けたり等、様々なトラップによる障害を受けながら遺跡の奥へと進んでいた。

 

 

そして数十分後……

 

 

 

 

 

紗耶香「はぁはぁ……皆さん……無事ですか……?」

 

 

シャッハ「は、い……なんとかっ……」

 

 

カリム「で、でももう無理…動けませんっ…」

 

 

姫「なんとまあだらし無い、私なんかまだ全然行けるぞ?」

 

 

アズサ「行けるぞー……」

 

 

零「ぜえ、ぜえ……アズサはともかく、お前はずっと担がれるか飛んだりしてただけだろうがっ……」

 

 

翔「止めとけ零っ……今は無駄な体力を使わない方が良いっ……」

 

 

休む間もなく次々とトラップに襲われたせいで体力も底を尽き、姫とアズサ以外は全員グッタリとした様子で床に座り込んでいた。そして一同が必死に酸素を求めて呼吸をする中、零は壁に背を預けたまま苦しげに紗耶香に語り掛ける。

 

 

零「クソッ…おい紗耶香、その祭壇とやらのある部屋まで、あとどれくらい掛かるんだ…?」

 

 

紗耶香「っ……おそらく、まだあと一時間は掛かると思います……」

 

 

カリム「ま、まだそんなに掛かるのですか?!」

 

 

翔「おいおい、まだ一時間もあんなトラップ地獄を味あわないといけないのかよ……」

 

 

目的の祭壇がある部屋まで一時間も掛かる。紗耶香にそう言われ、親身共々疲れ切った一同は先程のトラップ地獄をまた味わなければいけないのだと、そう考えだけでガクリと肩を落としてしまう。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ブラーン……ブラーン……―

 

 

シロ『……うにゃ?』

 

 

 

 

そんな一同の様子を離れて見ていたシロは背後に何かの気配を感じ、不思議そうに背後へと首を向けた。すると其処には、天井から吊される一本の古い紐が左右に揺れ動いており、それを見たシロは紐に興味を示してトテトテと紐に近づいていく。

 

 

零「……取りあえず、暫く此処で休憩しておいた方が良いだろう。こんなヨロヨロな状態で先に進んだら、今度こそ誰かが重傷を負う可能性だってある……」

 

 

シロ『うにゃー……にゃ!にゃ!』

 

 

翔「そうした方が良さそうだな……シャッハさん、水持ってないか?さっき港の売店で皆の分の水を買ってただろ?」

 

 

シロ『しゃっ!にゃ!にゃ!』

 

 

シャッハ「あ、はい、それでしたら此処に……」

 

 

先に進む前に此処で体力を回復させておこうと休憩する零達の背後で、一人?紐に飛び掛かってネコパンチを繰り出しじゃれるシロ。そして……

 

 

シャッハ「――あ、ありました。はい、これが翔さんの分のお水です」

 

 

翔「おっ、サンキュ――」

 

 

シロ『うにゃあ!』

 

 

―ガシッ!グイィッ!―

 

 

翔がシャッハから差し出された水を受け取ろうとしたと同時に、シロが紐に飛び掛かってしがみつき、その反動で紐が引っ張られてしまったのだ。んで……

 

 

 

 

 

 

―ガコンッ!―

 

 

零「……あ?」

 

 

紗耶香「へ……?」

 

 

翔「え……?」

 

 

アズサ「……?」

 

 

 

 

 

シロが紐を引っ張ったと共に零、紗耶香、翔、アズサの四人の身体に、突然宙に浮いてるような謎の浮遊感が襲った。

 

 

それが何なのか理解出来ず四人の頭上に疑問符が並び、そのままゆっくりと自分達の足元に視線を向けると……其処には先程まであった筈の床がなくなって――――

 

 

翔「――って、なんで落とし穴がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」

 

 

紗耶香「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!」

 

 

アズサ「おーー……」

 

 

零「…あー…風冷てぇ…」

 

 

カリム「っ?!れ、零?!翔さんっ!!」

 

 

姫「紗耶香!!アズサァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!」

 

 

気付いた時には既に遅く、零達四人はそのまま落とし穴の奥へと落ちていってしまったのであった。突然の事態に唖然としていた姫達もすぐさま穴を除き零達の名を叫ぶが、既に四人の姿は穴の奥へと消えて見えなくなっており、ただ姫達の声が反響して響き渡るだけだった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―風見市・芳乃家―

 

 

一方その頃、荷物運びを手伝ってくれた純一達と家の前で別れた優矢は現在居候している芳乃家の居間で茶を飲みながら寛いでおり、この家の家主である"芳乃さくら"に先程あった出来事を話していた。

 

 

さくら「へぇ~、じゃあ何の見返りも無しに迷子の女の子を助けてあげたんだ、その白金君って」

 

 

優矢「そっ、いやホントに良い奴だな~って感心したよ。最近は迷子の子供が泣いてても知らんぷり、なんて人が多いし。世の中捨てたもんじゃないな、うん」

 

 

薫の行いを感心するように両腕を組みながらウンウンと頷く優矢。そんな優矢にさくらは苦笑いをしながら茶を啜っていくが、其処である事を思い出した。

 

 

さくら「そうだ……あのさ優矢君、君のバイクの事でちょっと話があるんだけど……」

 

 

優矢「?俺のバイク?」

 

 

さくら「うん、お兄ちゃんが言ってたんだけどね?君のバイク、何だか最近調子が可笑しいみたいなんだけど……何処か不調とか感じたりしない?」

 

 

優矢「不調……いや、特に心当たりはないけど……」

 

 

さくら「そっかぁ……でももし少しでも可笑しいって思ったら、すぐ言ってね?交通事故なんて起こしたら大変だから」

 

 

さくらは若干心配そうな顔で優矢に言いながら再び茶を啜っていき、優矢も素直に頷きながらテーブルの上に置かれた自分の分の茶を手に取り口にしていく。

 

 

優矢(……そういや、最近アルシェインとの戦いでゴウラムを頻繁に使ってたっけな……もしかしてアレが原因か?)

 

 

このところ風見市で強力なアルシェインが頻繁に出現する事が多く、それに対抗しようと以前紲那の世界で使えるようになったゴウラムをトライチェイサーに合体させて使う事が多くなった。もしかしてそのせいで不具合が?と考え、優矢は茶を飲みながら難しそうな表情で悩んでいた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

不意に何処からか爆発音が響き渡り、優矢とさくらは突然のそれに驚いて思わず立ち上がったのであった。

 

 

さくら「え?な、なに今の?!」

 

 

優矢「ば、爆発?……まさか?!」

 

 

突然の爆音に若干困惑しつつも、優矢は慌ててさくらと共に居間の窓を開いて外を見た。すると町の方から幾つもの黒煙が立ち上っているのが目に映り、さくらはその光景を見て目を見開いた。

 

 

さくら「ま、町が…?!」

 

 

優矢「まさか、またアルシェインが?!俺ちょっと見てくる!」

 

 

さくら「え?ちょ、待って!優矢君?!」

 

 

黒煙が幾つも立ち上る町を見て優矢は直ぐさま芳乃家を飛び出し、さくらの制止も聞かずにバイクに乗って町へと向かっていったのであった。

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑤(後編)

 

―風見市・ショッピングモール―

 

 

優矢が芳乃家を飛び出して数十分後。先程まで大勢の人々で賑わっていたショッピングモールは無惨な姿へと成り果て、人の影もなく瓦礫の山だけが無造作に転がっていた。そんな場所へとクウガに変身した優矢がトライチュイサーに乗って駆け付け、辺りを見渡して顔をしかめた。

 

 

クウガ『何だよこりゃ……ひでぇっ……』

 

 

先程の活気ある光景も見る影もなく、あまりの惨状に仮面の下で唇を噛み締めるクウガ。だが今は他に取り残された人がいないか調べる方が先だと、クウガはトライチュイサーから降りて町を調べようと歩き出した。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やっと来てくれたね……」

 

 

クウガ『ッ?!』

 

 

 

 

背後から聞こえきた青年の声。その声を聞いたクウガは慌てて背後へと振り返り咄嗟に構えを取ってその人物を見据えた。霧のような白い煙に遮られて顔はよく見えないが、風が吹いた事で徐々に煙が晴れていき、その人物の顔が次第に見え始める。その正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

薫「…………」

 

 

クウガ『―――ッ?!か、薫……?』

 

 

 

 

そう、その人物の正体とは、先程優矢達が知り合った青年である白金薫だったのだ。煙の奥から姿を現した薫にクウガも思わず構えを解いて呆然となるが、すぐさま正気に戻って薫に呼び掛けた。

 

 

クウガ『な、何してるんだこんなとこで?!早く逃げろ!此処は今危険なんだ!』

 

 

薫「…………」

 

 

此処は危険だから早く逃げろと、自分が変身してる事も忘れて必死に呼びかけるクウガ。だが、何故か薫はその場から一歩も動こうとせず、代わりに自分の右手をゆっくりと上げてクウガに手の平を翳した。その時……

 

 

 

 

 

 

―……キイィィィィィィィィィィィィンッ!―

 

 

クウガ『?!うあ…なっ…グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

 

突如クウガの脳裏に膨大な何かが流れ込み、クウガは両手で頭を抱えながら地面に膝を付けて悲痛な絶叫を上げ始めたのだ。その様子を見ても薫は無表情のまま手の平を翳し続け、クウガに少しずつ歩み寄っていく。

 

 

薫「大丈夫、痛み一瞬だよ……ほら、ちゃんと集中しないと意識を持ってかれるよ?」

 

 

クウガ『アッ、ガッ……!な、何言ってっ……ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

不可解な言葉を放つ薫に思わず聞き返そうとするも、そんな余裕すら与えてくれまいと脳を潰してしまいそうな頭痛が襲い掛かった。そして地面の上でもがき苦しむクウガの脳裏に、突然ある映像が流れ出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――白銀に染まった雪原。

 

 

――辺りを覆い隠す激しい吹雪。

 

 

乱れ飛ぶ雪によって視界が遮られる中、そんな吹雪の中で二人の異形が戦う姿があった……

 

 

 

 

 

―ドガァッ!!ドシャアッ!!グシャアァッ!!―

 

 

『うあぁっ…ぁ…うっ……うああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!!』

 

 

『ハハハ!!アハハハハハハハハァッ!!』

 

 

 

 

 

―――片や黒き闇を従え、皆の笑顔の為に泣きながら拳を振るう黒と金の異形。

 

 

―――片や白き闇を従え、己の娯楽の為に笑いながら拳を振るう白と金の異形。

 

 

互いに身体を殴り付けて血を噴き出し、全身や雪原を紅く染め上げ、それでも尚戦い続ける二人の異形……。

 

 

―――この二人が何者なのか、何故戦っているのか。それすらも分からないまま徐々に映像が薄れていき、それと共に頭を締め付けていた頭痛も消えていった。

 

 

クウガ『ぁ……っ……今、のはっ……?』

 

 

薫「どう?少しは掴めた?君の中に眠る、"究極の闇"になれる方法を……」

 

 

クウガ『っ……お前……は……一体っ……?』

 

 

薫が何を言っているのかは分からない。それでも痛む頭を押さえながら苦しげに問い掛けると、薫は無言のままうっすらと笑みを浮かべながらその姿を変え始めた。

 

 

 

 

 

クワガタを模したような二本の金色の角……

 

 

体の至るところに鉄の装飾を身に付けた、白い異形の身体……

 

 

そしてその腰には、クウガにも身に覚えがある欠けた不気味なベルト……グロンギの証である異形のベルトが身につけられていた。

 

 

クウガ『?!薫……お前っ?!』

 

 

『そういえば、この姿での名前は言ってなかったね、優矢……僕の名は白金薫。そしてもう一つの名は――』

 

 

……その姿は、嘗て優矢の世界とは違う別世界のグロンギ達を統べていた者……

 

 

殺しや破壊を『遊び』と捉え、自らが復活させたグロンギの半数を殺戮し、ザギバス・ゲゲルで3万人以上の人間を殺害した最強最悪のグロンギ……その名は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『僕のもう一つの名は……ダグバ。未確認生命体0号って言えば、君には分かりやすいかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未確認生命体第0号……"ン・ダグバ・ゼバ"。

 

 

かつて正史のクウガと戦い倒された筈の、最強の怪人であった……

 

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑥

 

 

―ルルイエ遺跡―

 

 

風見市でクウガとダグバが対峙するその頃、ルルイエ遺跡の探索の途中で落とし穴に落ちてしまった零達はというと……

 

 

 

 

 

 

零「――あるんじゃないかって思ってはいたが、まさかこんな形で引っ掛かるとはな……落とし穴に……」

 

 

翔「あぁ、完全に油断してた……ってか、此処は一体何処なんだ?」

 

 

アズサ「ん……暗い……」

 

 

落とし穴へと落ちて姫達と離れ離れになってしまった零達は姫達と合流する為、上の階へ登る階段を探して暗闇に包まれた一本道の通路を歩いていた。だが何処まで進んでも階段らしき物は見付からず、更に明かりになるような物は零の持つスパイダーウォッチのライトだけしかない為、視界も悪く足場が見えないせいで順調に先へと進めずにいた。

 

 

零「ちっ、こんなことなら懐中電灯でも持ってくるんだったな。一体なんなんだ此処は?」

 

 

紗耶香「おそらく、遺跡の地下空間だと思います……」

 

 

視界の悪さに思わず毒づく零の疑問に答えるように、アズサの隣を歩く紗耶香が辺りを見渡しながら説明を始める。

 

 

紗耶香「嘗て超古代文明の人々はアルシェインが再び復活した時に備え、彼等に対抗しうる貴重な宝や文書を遠い時代にまで残す為に、アルシェインの手が届かないこの地下空間を作ったらしいですよ」

 

 

翔「残す為って、それならあんなトラップ仕掛けるなよな……アレじゃその宝を手に入れる前に死ぬっての(汗)」

 

 

紗耶香「仕方ないですよ。本来あのトラップは、アルシェインが此処を襲撃した時の為に作ったものらしいですから。本当なら、この遺跡の何処かにある操作装置によって起動する仕組みになっていたそうですが、長い年月で装置が故障してしまいトラップが制御出来なくなったそうです」

 

 

零「それで見事な危険地帯になったって訳か……で?ここら辺にトラップとかはあるのか?」

 

 

紗耶香にそう問い掛けながら、零は腕時計のライトを正面に向けたまま横の壁を見た。其処にはアルシェインと思われる異形と古代人が戦う様子が描かれた壁画が存在し、その中には昔のライダーと思われる仮面の戦士の姿もある。

 

 

紗耶香「そこまでは分かりませんが、一応警戒した方が良いでしょうね……一体いつ、何処からトラップが現れるかは私でも分かりませんから」

 

 

零「警戒しろって、こんな足場の悪い暗がりの中でどうやって―ゴンッ!―ガハァッ?!」

 

 

翔「っ?!零?!」

 

 

足場の悪い通路の上を歩きながら愚痴をこぼす零だが、その時突然暗闇で覆い隠された壁に頭を打ち付けてその場にしゃがみ込んでしまい、それに気付いた翔やアズサはすぐに零の下へと駆け寄った。

 

 

アズサ「零、大丈夫……?」

 

 

零「ぐおぉぉぉぉ…くっ…大丈夫だっ……問題ないっ……」

 

 

紗耶香「もう、気をつけて下さい。この辺りは瓦礫が多いみたいですから、転んだりしたら大怪我―――っ?!」

 

 

額を抑えて涙目になる零に注意しようとする紗耶香だが、何故か突然両目を見開いて驚愕し、零がぶつかった石造りの壁へと駆け寄り壁を触り出した。

 

 

アズサ「?紗耶香…?」

 

 

翔「おい、どうした?」

 

 

紗耶香「……この扉の構造……それにこの奥から微かに感じるのは……まさか!」

 

 

石造りの壁を触り出した紗耶香に翔達が不思議そうに小首を傾げる中、紗耶香はそんな一度の反応を他所に石の壁から少し離れると、懐からエルクシードを取り出し大きく掲げた。それと同時に……

 

 

―……ゴゴッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォォォォォォォォォッ!!!―

 

 

『なっ…?!』

 

 

紗耶香がエルクシードを掲げたと同時に、零がぶつかった石造りの壁が突如轟音を響かせながら左右へと開かれていったのだ。思わぬ光景に零達も驚きを隠せず唖然となるが、紗耶香だけは「やっぱり……」と何かに確信したように呟いた。

 

 

紗耶香「漸く見付けた……此処が……」

 

 

翔「お、おいっ、何なんだこれ?!一体何が起きたんだ?!」

 

 

紗耶香「……ご覧の通りですよ。此処こそが、私達が目的地としていた場所……祭壇のある部屋です」

 

 

『っ?!』

 

 

此処こそが、超古代文明の力が眠るとされている祭壇のある部屋。そう告げた紗耶香の言葉に零達は驚愕を隠せず言葉を失ってしまうが、零は直ぐに正気に戻り険しげな顔を受かべた。

 

 

零「おい待て、どういう事だ?どうしてその祭壇がある部屋がこんな地下空間にある?」

 

 

紗耶香「先程も言ったじゃないですか?超古代文明の人々はアルシェインが復活した時に備え、彼等に対抗しうる貴重な宝を遠い未来にまで残す為、アルシェインの手が届かないこの地下空間を作ったと……ならばその祭壇も地下空間にあっても可笑しくはないです」

 

 

翔「?じゃあつまり、俺達は最初からこの地下空間に来る筈だったって事か?」

 

 

紗耶香「いいえ、私が調べたところでは地下空間にはないと断言してたんですが……どうやら当てが外れたようですね……」

 

 

紗耶香は自分の予想が外れたことを悔いるように呟くが、直ぐに顔を上げて開かれた壁の奥へと歩き出していった。

 

 

アズサ「っ!紗耶香…!」

 

 

翔「……おい零、どうするんだ?」

 

 

零「どうするも何も、付いていくしかないだろ?」

 

 

アズサ「でも、カリム達は……?」

 

 

零「向こうは木ノ花が付いてるんだから大丈夫だろう。いざという時はアイツの力で遺跡から脱出出来るだろうし……それに、あの女を一人にさせる訳にもいかないしな……」

 

 

最後の部分だけ翔達に聞こえないように呟くと、零はライトで辺りを照らしながら紗耶香の後を追い掛けていき、翔とアズサも顔を見合わせると零の後を付いていく。そうして三人が壁の向こうへと足を踏み入れると……

 

 

零「――これは……」

 

 

アズサ「……綺麗……」

 

 

翔「ああ……すげえな……」

 

 

三人が壁の向こう側へと足を踏み入れると、其処には先程までの遺跡と同じとは思えぬ巨大な空間が広がっていたのだ。

 

 

足元の床にはまるで地脈を現すかのように青い光りが走って空間を照らし、その先には神々しい雰囲気を漂わせる建造物……何かを嵌め込むような突起物が浮き出した石造りの祭壇が建てられている。

 

 

そんな幻想的とも言える光景を目の当たりした零達は思わず見惚れ、先にこの場所へと足を踏み入れて祭壇を見つめる紗耶香へと近づいた。

 

 

零「……アレが、超古代文明の力が眠るっていう祭壇なのか?」

 

 

紗耶香「ええ、間違いありません……漸く……漸く此処まで……」

 

 

紗耶香は零の質問に笑みを浮かべながら返し、エルクシードを片手に両手を広げながら何かに誘われるかのように祭壇へ歩み寄ろうとする。が……

 

 

 

 

 

 

『――其処までだファウスト!ディケイド!』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

紗耶香が祭壇に近付こうとした瞬間、何処からか制止の怒鳴り声がその場に響き渡ったのだ。それを聞いた紗耶香や零達が驚愕しながらその声が聞こえてきた方へと振り返ると、其処には別の入り口の前に立つ三人のライダー……『GEAR電童』と『レイサー』、そして『イルス』がこちらを睨みつける姿があった。

 

 

紗耶香「GEAR電童っ…!」

 

 

翔「アイツ等、もう追い付いてきたのか?!」

 

 

零「みたいだな……全く、嫌なタイミングで出て来てくれる!」

 

 

現れたGEAR電童達を見て零達は咄嗟に身構えていき、GEAR電童達はそんな四人へと近づき紗耶香に向けて手を伸ばした。

 

 

GEAR電童『此処までだ紗耶香……さあ、今すぐエルクシードを渡すんだ!』

 

 

紗耶香「ッ!誰が貴方の言葉なんて聞きますか……皆の仇である貴方なんかにっ……皆さん!此処はお願いします!」

 

 

零「っ?!おい、待て!」

 

 

紗耶香は憎悪に満ちた瞳でGEAR電童を睨み付けると、零達にこの場を任せて祭壇へと駆け出していき、それを見た零が慌てて紗耶香を呼び止めようとするが……

 

 

 

 

―ズガガガァンッ!!―

 

 

紗耶香「?!なっ?!」

 

 

祭壇に向かおうとした紗耶香の真横から突如銃撃が放たれ、それにいち早く反応した紗耶香は咄嗟に後方へと跳んでギリギリ銃撃をかわし、今の銃撃が放たれてきた方へと視線を向けた。すると其処には、銃口から煙りが立つ青い銃を構えた青年……大輝が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

 

翔「なっ、大輝?!なんで此処に?!」

 

 

大輝「フッ…なんで?決まってるじゃないか。そこの彼女が持ってるお宝を頂きに来たんだよ♪」

 

 

そう言いながら大輝はもう片方の手で紗耶香の持つエルクシードに指鉄砲を向け、それを聞いたGEAR電童は驚愕して身を乗り出した。

 

 

GEAR電童『お前、最初からアレが目的だったのか?!』

 

 

大輝「当然だろう?なんの裏も無しに君達にあんなことを教えると思うかい?まあ君達が先に先行して仕掛けを解いてくれたお陰で、俺は無事に此処まで辿り着くことが出来たよ」

 

 

零「チッ!ホントに悪知恵だけは立派な奴だな……!」

 

 

大輝「悪知恵あってこその怪盗だからねぇ?まあそういう訳だから――」

 

 

舌打ちしながら毒づく零を軽く受け流すと、大輝はポケットからカードを取り出してディエンドライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE……』

 

 

大輝「俺もエルクシード争奪戦に加えてもらおうか?変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

ドライバーの銃口を頭上に向けて引き金を引くと大輝はディエンドへと変身し、それを見た零達は直ぐさまベルトを装着しGEAR電童達と対峙していく。

 

 

零「紗耶香!悪いが自分の身は自分で守れ!コイツ等と戦いながらお前に気を配るなんて、到底出来そうにない!」

 

 

紗耶香「っ!仕方ありませんねっ……!」

 

 

余裕のない様子で叫ぶ零の声から状況の悪さを感じ取ったのか、紗耶香も険しい表情で腰にベルトを巻いていき、零達はそれぞれ構えを取ると……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

『GATE UP!BARON!』

 

 

三つの電子音声が響くと共に三人はディケイド、シュロウガ、バロンへ変身し、紗耶香はピエロをモチーフにしたようなライダー……『ファウスト』へと変身しディエンドに身構えた。それと同時にGEAR電童達とディエンドは武器を構えながらディケイド達へと襲い掛かり、ディケイド達もそれぞれ武器を展開し反撃していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

一方その頃、ショッピングモールで対峙し合っていたクウガとダグバも戦闘を開始していたが、クウガはダグバに対して手も足も出せず一方的に痛め付けられているだけだった。

 

 

―トガアァッ!ガァンッ!ズガアァァァァッ!!―

 

 

クウガ『ガハァッ?!』

 

 

『ほら、どうしたの優矢?ちゃんと戦ってくれなきゃつまらないだろう?』

 

 

クウガ『グッ!クソッ……超変身ッ!』

 

 

薫がグロンギだった。そんな衝撃的な事実に未だ動揺から抜け出せないクウガだが、戦わなければやられる。

本能的にそう思ったクウガは瞬時に構えを取って徐々に姿を変えていき、紫色のボディに金のラインが走った姿……ライジングタイタンフォームへと変わった。そしてフォームチェンジを完了させると同時に近くの瓦礫の山に刺さった細長い破片を手に取ると、破片は金の矛を装着した大剣……ライジングタイタンソードとなり、クウガは即座にダグバに疾走し大剣を振りかざす。が……

 

 

―バリイィィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

クウガRT『?!なっ?!』

 

 

クウガが振り下ろしたライジングタイタンソードがダグバの身体に触れた瞬間、なんと大剣の刃が粉々に砕けていってしまったのだ。防御すらされていないのに砕け散った大剣を見て一瞬呆然となるクウガだが、その隙を突くようにダグバに横殴りに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

クウガRT『ガッ?!クッ、畜生っ……超変身ッ!』

 

 

殴り飛ばされたクウガは直ぐさま地面から起き上がって再び構えを取り、今度はライジングドラゴンフォームとなって大剣を構えた。すると大剣は瞬時にライジングドラゴンロッドへ変化してそれを構えると、即座にダグバへと飛び掛かって巧みなロッド捌きを繰り出していく。

 

 

クウガRD『ハッ!デイッ!セヤァッ!』

 

 

『フフ、頑張るね優矢……でも――』

 

 

クウガの繰り出すライジングドラゴンロッドを軽々と受け流しながら余裕の笑みをこぼすダグバ。そんなダグバにクウガは仮面の下で顔を険しくさせると、ライジングドラゴンロッドを一度腰の後ろに引いてダグバの腹目掛けて一気に突きを放った。しかし……

 

 

―バリイィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

クウガRD『…なッ?!』

 

 

クウガの放ったライジングドラゴンロッドの矛先がダグバの腹に触れると共に、先程のライジングタイタンソードと同じようにロッドの矛先が粉々に砕け散ってしまったのだ。それを見たクウガは再び驚愕しつつも慌てて後方へと跳躍してダグバとの距離を開き、粉々に砕け散ったロッドを呆然と見つめた。

 

 

『――そんな物じゃ、僕の身体に傷を付ける事なんて出来やしない。君だって、そんなのはとっくに分かってるんじゃないの?』

 

 

クウガRD『クッ?!』

 

 

身構えもせずに悠然とした足取りで歩み寄ってくるダグバの言葉に、思わず後退りしてしまうクウガ。すると其処へ、上空から黒いクワガタ虫を模したような姿をした巨大な物体……ゴウラムがクウガのピンチに駆け付ける様に飛来し、頭部と胴体が分離してクウガの背後に停められていたトライチュイサーへと融合合体していった。

 

 

クウガRD『ッ!超変身ッ!』

 

 

ゴウラムがトライチュイサーと合体する様子を横目で見たクウガは再びダグバに向けて構えを取り、今度はペガサスフォームに金のラインが入った姿……ライジングペガサスフォームへとフォームチェンジし、更に手に持つロッドも金の銃身が装備されたライジングペガサスボウガンへと変化した。そしてクウガは直ぐさまゴウラムが合体したトライチュイサー、トライゴウラムに駆け寄って乗り込むと……

 

 

―バチバチッ……バチバチバチバチィッ!―

 

 

トライゴウラム全体に電流が走り、フロント部に金色のプレートや随所に金色の装甲が発生した姿……ライジングトライゴウラムへと姿を変え、クウガはライジングトライゴウラムをダグバに向けて全速力で走らせながら座席から立ち上がり、ボウガンの銃口をダグバに狙い定め……

 

 

クウガRP『フッ――ハァッ!!』

 

 

―バシュウバシュウバシュウッ!!―

 

 

『!』

 

 

ライジングペガサスボウガンから連続で電気を帯びた弾が撃ち出され、ダグバの身体へと撃ち込まれていったのだ。弾を撃ち込まれたダグバは僅かに体をよじらせて怯み、クウガはその隙にライジングトライゴウラムの座席に腰掛けてエンジンを全開にし、そのままダグバに体当たりを仕掛けようと猛スピードで突進していく。が……

 

 

 

 

 

 

 

―ドゴオォンッ!!―

 

 

クウガRP『―――ッ?!!な……に……?』

 

 

 

 

その場に鳴り響いたのは、何かと衝突したようなけたたましい轟音。それは全速力で突っ込んだライジングトライゴウラムがダグバと激突した事で発生したのだが、クウガは目の前の光景を前に信じられないように声を震わせていた。何故なら……

 

 

『――それで……この次は一体何があるのかな?』

 

 

クウガの視界に映るのは、最高速度400km/hを超えるマシンによる体当たりを受けてもビクともせず、平然と笑みを浮かべるダグバの姿だった。そんなダグバの笑みに言葉では言い表せない恐怖を感じ取るクウガだが、ダグバはそれに構わずバイクごとクウガを殴り飛ばしてしまう。

 

 

クウガRP『ぐあぁ!!ガッ……うぁっ……!』

 

 

『言ったはずだろう、優矢……そんな物じゃ僕の身体は傷付かないって』

 

 

想像を超える怪力で殴り飛ばされてしまったクウガはアスファルトの地面の上で悶え苦しみ、ダグバはそんなクウガを尻目に横転したトライゴウラムへと歩み寄り……

 

 

『――フンッ!』

 

 

―グシャアァッ!!―

 

 

いきなりトライゴウラムの側面を足で踏み付け、信じられない力でトライゴウラムを真っ二つにしてしまったのである。辛うじてゴウラムの方は軽傷で済んでいるようだが、完全にスクラップとなってしまったトライチュイサーにダグバは興味を無くしたように視線を逸らし、未だ地面に倒れるクウガに目を向けた。

 

 

『これで、君はもう逃げられない……君の仲間であるGEAR電童達も今はこの島にいないから、助けが来る事もない……こういうのを、孤立無援って言うんだっけ?』

 

 

クウガRP『ウッ…アッ……かお……るっ……』

 

 

逃げる手段を失ったクウガはふらつきながら何とか体を起こしてダグバを見据えていくが、ダグバはそんなクウガを無表情で見つめながら右手に膨大なエネルギーを集め、そして……

 

 

『君は皆を笑顔にする為に戦ってるんだろう?だったらもっと、僕を笑顔にしてよ……』

 

 

―バチバチッ……ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

クウガRP『ッ?!うあっ…ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ?!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ダグバが右手から撃ち出したエネルギー弾が直撃し、クウガは断末魔に似た悲痛な絶叫を上げながら巨大な爆発の中へ呑まれていったのだった……

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑦

 

 

―ルルイエ遺跡―

 

 

 

そして場所は戻り、遺跡の祭壇の間ではディケイドチームとGEAR電童チームが互いに攻防を繰り返し激戦を繰り広げていた。そんな中、エルクシードを狙うディエンドはファウストに向けてドライバーを連射していき、ファウストもエネルギー弾を放って必死にソレを相殺していた。

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドォンッ!!―

 

 

ファウスト『チィ!ハッ!』

 

 

ディエンド『これじゃ埒が明かないね……じゃ、此処はコレで行こうか?』

 

 

ディエンドはそう言うと射撃を止め、左腰のホルダーから一枚のカードを取り出してドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:NEXUS!』

 

 

ディエンド『いってらっしゃい!』

 

 

電子音声と共にドライバーの引き金を引くと辺りに無数の残像が駆け巡り、それらがディエンドの目の前で重なると銀色の鎧の戦士……煌一の世界のライダーの一人である『ネクサス』となり、ファウストへと駆け出し殴り掛かっていった。

 

 

ファウスト『グッ?!このライダーは?!』

 

 

ディエンド『君の変身するライダーにとって因縁深い相手だろ?ま、それは並行世界の話だろうけどね』

 

 

 

ファウストは突然出現したネクサスに戸惑いつつもエルクシードを守りながら反撃していき、ディエンドは不敵な笑みを浮かべながらファウストに連射して突っ込んでいった。

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドォッ!!―

 

 

イルス『ハッ!フンッ!』

 

 

シュロウガ『ッ!前に戦った時より速いっ……?!』

 

 

ディエンド達の隣ではシュロウガが上空からイルスにラスターエッジで連続射撃を繰り出していたが、イルスは高速移動で射撃を避けながらシュロウガとの距離を徐々に縮めていた。

 

 

イルス『フッ!私にも負けられない理由がありますのでね!今回は手加減無しで行かせてもらいます!』

 

 

―シュンッ!ガギィンッ!!―

 

 

シュロウガ『グッ?!』

 

 

そう言いながらイルスは超高速で一気に距離を詰めてシュロウガを剣で斬り裂き、シュロウガは何とか身体を反らし直撃は避けるもバランスを崩してしまい、床に落下し倒れてしまった。

 

 

シュロウガ『っ……そう……なら私も、本気で行かせてもらう……!』

 

 

シュロウガはゆっくりと床から起き上がりながらそう言うと腰のバックルを変化させ、そして……

 

 

シュロウガ『変身……』

 

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

 

電子音声と共にシュロウガの前にピンク色の魔法陳が現れ、シュロウガがソレを潜るとシュロウガはアンジュルグへと変身していき、シュロウガは左腕からミラージュ・ソードを取り出しイルスに向けて身構えた。

 

 

イルス『なっ…天使?姿を変えた?!』

 

 

アンジュルグ『仮面ライダーアンジュルグ…アズサ…目標を迎撃する!!』

 

 

イルス『クッ!!』

 

 

アンジュルグはそう言うと白い翼を広げてイルスへと勢い良く突っ込み、イルスも姿を変えたアンジュルグに驚きつつも剣を構え直して走り出し、二人は正面から剣と剣を激突させ激しく斬り合っていった。

 

 

―グガァンッ!!ガギィンッ!!ドガァンッ!!―

 

 

バロンP『ツオォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

レイサー『チィ!!さっき戦った時よりパワーが……!!』

 

 

そしてその近くではバロンとレイサーが戦っていたが、レイサーはフェニックスフォームへと姿を変えたバロンのパワーに若干押され、このままでは分が悪いと感じたレイサーはすぐさまバロンから距離を離し、レイサーブレードを構えて刃に力を込めていく。

 

 

バロンP『ッ!そっちがそう来るなら!』

 

 

『PHOENIX!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

武器を構えるレイサーから何かを感じ取ったバロンも即座に腕のブレスからメモリを抜き取り、フェニックスカリバーの柄に装填して身構えた。そして必殺技の発射態勢に入った二人はほぼ同時に地を蹴って互いへと突っ込み……

 

 

バロンP『セイクリッド!!セイバアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

レイサー『ヴォルケーノストライク!!砕けろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーアンッ!!!!―

 

 

中心に到達すると共に二人は渾身の力を込めた自分の獲物を相手に向けて振りかざし、それと同時に二人を中心に巨大な爆発が発生し地震を巻き起こしていったのだった。

 

 

GEAR電童『フッ!デアァッ!』

 

 

ディケイド『チッ!ハァッ!』

 

 

そして三者三様の戦いが周りで繰り広げられる中で、ディケイドとGEAR電童もまた激しい肉弾戦を行っていた。ディケイドはGEAR電童の放つ蹴りを片腕で払って右拳を飛ばし、GEAR電童はそれを受け流して飛び回し蹴りをディケイドに放つなど、両者共に一進一退の攻防を繰り広げていた。

 

 

ディケイド『ッ…!随分と張り切るな?そんなにあの石っころを取り戻したいのか?』

 

 

GEAR電童『当然だ!アレを使われればこの世界が崩壊する事になる!それだけは絶対に防がないといけないんだっ!』

 

 

ディケイド『(ッ!世界の崩壊を防ぐ為?)……グッ?!』

 

 

何処か切羽詰まった口調で叫ぶGEAR電童に思わず動きを止めてしまうディケイドだが、GEAR電童はその隙を突いてディケイドに蹴りを打ち込んで吹っ飛ばしてしまった。

 

 

ディケイド(っ……まさかコイツ……いや、コイツがまだそうだと決まったわけじゃない……確かめてみるか)

 

 

吹っ飛ばされたディケイドはGEAR電童に蹴られた箇所を抑えながらそう考えると、体をゆっくりと起こして左腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルへとセットしてスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:INFINITY!』

 

 

電子音声が響くと共にディケイドの体が紅く発光してまばゆい輝きを放ち出し、徐々に光が収まっていくとディケイドの姿は銀色のボディに胸にY字状のコアが埋め込まれた姿……煌一が変身するインフィニティへと姿を変えたのだった。

 

 

GEAR電童『ッ?!それは、インフィニティ?!』

 

 

ディケイドが変身したインフィニティを見てGEAR電童は驚愕の表情を浮かべ、Dインフィニティはその反応を他所にもう一枚カードを取り出しディケイドライバーへと装填した。

 

 

『FORMRIDE:INFINITY!JEUNESSE BLUE!』

 

 

電子音声が再び響くと、Dインフィニティの頭上から水の流れを表すような青いオーラが現れてDインフィニティを覆って徐々に姿を変えていき、Dインフィニティは青いボディを特徴としたジュネッスブルーへと変わっていった。そして姿を変えたDインフィニティは右腕に装備された手甲……アローアームドネクサスから光の剣を形成し、GEAR電童へと突っ込んで斬り掛かっていった。

 

 

Dインフィニティ『フッ!セアッ!ハァッ!!』

 

 

―シュパァンッ!ギンッ!ズバアァンッ!!―

 

 

GEAR電童『グウッ!コイツッ……!』

 

 

Dインフィニティは光の剣でGEAR電童に斬り掛かりながら拳や蹴りを繰り出し、GEAR電童は次々と休む間もなく襲い掛かる斬撃と打撃を受け流しながら思わず舌打ちを漏らし、一旦Dインフィニティから距離を離し懐から青い機械を取り出した。

 

 

GEAR電童『そっちが得物を使うならっ……来い!レオサークルッ!』

 

 

『Reo Drive!Install!』

 

 

高らかに叫びながらベルトに青い機械を当てると電子音声が響き、それと同時にGEAR電童の隣に残像が出現して徐々に実体化していくと、残像は白いライオンのような姿をした機械獣……レオサークルとなっていった。

 

 

Dインフィニティ『ッ?!白いライオン?いや違う、あれは……DW(データウェポン)か?』

 

 

GEAR電童の隣に現れたレオサークルを見て表情を険しくするDインフィニティ。その間にもレオサークルは大地を揺るがすような雄叫びを上げながら体を丸鋸状へと変形させてGEAR電童の右脚に装着し、それを確認したGEAR電童はDインフィニティを見据え……

 

 

GEAR電童『コイツを避けられるか?セリャアァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―シュパンシュパンシュパンシュパンッ!!―

 

 

Dインフィニティ『っ?!』

 

 

その場で突然回転し、右脚に装着したレオサークルの鬣から巨大な風の刃を無数に撃ち出したのであった。Dインフィニティはそれに驚愕しつつも咄嗟に両腕を前に突き出してバリアを形成し、風の刃を防いでいくが……

 

 

―……ピシッ……ピシピシピシィッ……!!―

 

 

Dインフィニティ『ッ?!なっ―ガシャアァァァァァァァァァァァアンッ!!―グアァッ!!』

 

 

風の刃を防いでいたバリアに皹が入り、そのまま皹が広がってバリアが砕けてしまったのである。その瞬間無数の風の刃がDインフィニティに直撃して吹っ飛ばされてしまい、GEAR電童はそれを見て態勢を崩したDインフィニティの頭上へと飛び上がり踵落としの構えを取った。

 

 

GEAR電童『コイツで終わりだ!ディケイドォッ!!』

 

 

Dインフィニティ『クッ!そうは行くかッ!!ハァッ!!』

 

 

―シュバァンッ!!―

 

 

GEAR電童『ッ?!なっ?!―ズガアァァァァァァァァァァアンッ!!―グアァァァァァァァァアッ?!』

 

 

決着を着けるべく踵落としを決めようとしたGEAR電童にDインフィニティが倒れたまま右手から光弾を放ち、GEAR電童を撃ち落としていった。

 

 

そして地上に落下したGEAR電童を見たDインフィニティはすぐに身体を起こし、右腕を胸の前に翳してアローアームドネクサスをアローモードに展開させ、GEAR電童に向けて弓を引いていき……

 

 

Dインフィニティ『アローレイ、シュトロオォォォォォォォォォォォォムッ!!!!』

 

 

―ズシュゥゥゥーーーーーンッ!!!!―

 

 

Dインフィニティの右腕から光の矢が発射され、未だ態勢を立て直せてないGEAR電童へと真っすぐ向かっていった。が……

 

 

GEAR電童『グッ……ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

―ブオォンッ!!シュパアァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

Dインフィニティ『っ?!何ッ?!』

 

 

なんと、GEAR電童は地面に肩や背中を付けてその場でスピン回転し、そのままブレイクダンスを彷彿させるような動きでDインフィニティの放った光の矢を足で蹴り払い態勢を立て直していったのだった。

 

 

Dインフィニティ(チッ!あの一瞬でこっちの攻撃を弾きながらそのまま態勢を立て直すなんて、出鱈目にも程があるぞっ……!)

 

 

GEAR電童の目茶苦茶な行動に内心呆れてしまうDインフィニティ。だがGEAR電童はその間に青い機械を取り出して右脚に装着されたレオサークルの鬣を高速回転させ、それを見たDインフィニティもすぐさまカードを取り出しディケイドライバーへと装填した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:I・I・I・INFINITY!』

 

『Reo Circle!Drive Install!』

 

 

二つの電子音声が鳴り響くとDインフィニティは右腕に再びアローモードを展開し、左手に光の剣を出現させて光の弓につがわせていく。そしてGEAR電童もレオサークルの鬣にエネルギーを溜めていき、二人は互いを見据えながら身構え……

 

 

Dインフィニティ『オーバーレイっ……シュトロオォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーームッ!!!!』

 

 

GEAR電童『レオサークルッ!!ファイナルアタックッ!!!!』

 

 

―チュドォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーオンッ!!!!―

 

 

Dインフィニティは先程のアローレイシュトロームを超える光の矢を撃ち出し、GEAR電童は勢いよく回転して右脚のレオサークルから円形のエネルギーサークルを発射し、二人の必殺技が中心地点にまで迫った瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーオンッ!!!!!!―

 

 

Dインフィニティ『?!!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

GEAR電童『ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

 

 

二人の必殺技が中心で激突した瞬間、大規模の爆発と爆炎が発生しDインフィニティとGEAR電童を巻き込んでいったのだった。そして爆発に呑まれた二人はそのまま吹っ飛ばされて地面に叩き付けられ、変身が強制解除されて零と銀髪の青年へと戻ってしまった。

 

 

「グゥッ!まだだ…まだ俺はっ…!」

 

 

零(っ…この力…やはりコイツが、この世界の…!)

 

 

変身が強制解除されながらも、銀髪の青年は尚戦おうとボロボロの身体を強引に引きずって立ち上がろうとし、零も傷付いた体を起こそうとしながら何かに確信を持ち、銀髪の青年の方へと振り向いた。が……

 

 

零「――――え……」

 

 

銀髪の青年の顔を見た瞬間、零は両目を見開き言葉を失った。銀髪の青年はそんな零の反応に気付かずボロボロになった身体を必死に動かし、地面に落ちた青い機械を手に取って零の方に顔を向けていく。

 

 

零「お前……はっ……」

 

 

その顔を知っている。何故なら彼は自分の友人の一人だし、以前も共に戦った事があるからだ。古代神の名を持つライダーとしてガルギリアと呼ばれる異形達と戦い、キャンセラーの世界でもフェイトを死の淵から救ってくれた恩人のひとり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――――こう……いち……?」

 

 

 

 

 

 

煌一「はぁっ……はぁっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古代神・仮面ライダーインフィニティの装着者………御薙煌一。GEAR電童に変身し、先程まで自分と戦っていたのは彼だったのだ……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―風見市・ショッピングモール―

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

クウガ『ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

その頃、ダグバと戦っていたクウガはやはり勝ち目がなく押されていた。全身のボディは拳の跡や足の跡でへこみ、複眼の片方もヒビ割れて見るも無惨な姿へと変わってしまっている。そんなクウガの下へとダグバが近づいていき、残念そうに首を振った。

 

 

『ふぅ……残念だよ優矢……僕は弱い者イジメが嫌いだから、君に究極の戦士になる為のキッカケを与えたのに……全然気付いてくれない』

 

 

クウガ『ぐぁ……うっ……なに、言ってっ……!』

 

 

『どうせ殺すなら、対等に戦って殺したかったよ……そうすれば心残りもなかったんだけど……仕方がない……』

 

 

体を押さえてふらつきながら起き上がろうとするクウガを心底残念そうに見つめ、ダグバはゆっくりと手の平をクウガに翳していく。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

―ボアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

クウガ『?!!!う、あっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーっっ?!!!』

 

 

 

 

 

 

ダグバがクウガに手の平を翳した瞬間、突如クウガの身体が激しく炎上し燃え出したのであった。クウガは身体を包み込んで燃え盛る炎に悶え苦しみ、ダグバは悲しげな目でそんなクウガを見つめていく。

 

 

『君を消し、世界の破壊者を精神的に追い詰めて因子の力を高める。それが僕の任務なんだ……』

 

 

クウガ『うあぁ?!あぁ!うあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ?!!!』

 

 

『だからさようなら、優矢……君のこと、嫌いじゃなかったよ……』

 

 

炎は徐々にその勢いを増し、クウガの身体を少しずつ飲み込んでいく。ダグバはそんなクウガの苦しむ姿を悲しげな目で見つめ、クウガが息を引き取るのをジッと待ち続けていくのだった……

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑧(前編)

 

超古代文明の力を解き放つ鍵となる秘宝・エルクシードを巡り、激戦と化していくエルクシード争奪戦。激しさを増していく戦いの中で、零が今まで戦っていたGEAR電童の変身者は別世界の友人の一人……御薙煌一その人であった。

 

 

零「煌一が、GEAR電童……だと……?」

 

 

何故煌一がGEAR電童に変身していたのか?零は突然の事態に困惑を隠せず呆然とした表情でふらつきながら起き上がろうとする煌一を見つめるが、その時ファウストがディエンドの射撃を受けて祭壇の下へと吹っ飛ばされてしまった。

 

 

ファウスト『ウアァッ!』

 

 

ディエンド『……さ、早くエルクシードを引き渡してくれないかな?これ以上痛め付けられたくはないだろ?』

 

 

ファウスト『はぁ…はぁ…くっ…!』

 

 

疲れた様子すら見せず余裕の態度でエルクシードを渡せとジェスチャーしてくるディエンド。ファウストはそれを見て悔しげに唇を噛み締めると、自分の背後にある祭壇にチラリと視線をやり、もう一度ディエンドを見て肩を落とした。

 

 

ディエンド(ふむ……漸く諦めたって事かな?)

 

 

まるでなにかに諦めたかのように肩を落とすファウストを見てそう考え、ディエンドライバーの銃口を突き付けながらファウストへと近づこうとするが……

 

 

 

 

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ディエンド『…ッ?!』

 

 

ファウストに近づこうとしたディエンドの横から突如赤黒い光線のようなモノが放たれ、いち早くそれに気付いたディエンドは咄嗟に後方へと飛んで光線を回避し、今の光線が撃ち出されてきた方に視線をやった。其処には……

 

 

 

 

 

 

『――全く……やはり監視しといて正解だったか』

 

 

ディエンド『ッ?!お前は……?!』

 

 

其処にいたのは、肩に刀を乗せて手の平をこちらに向ける鬼のような姿をしたライダー……先程まで零達を監視していた総一が変身する歌舞鬼が立っていたのだ。

 

 

歌舞鬼『ったく、本当なら監視だけが俺の役目だったのによ。まさか此処まで不甲斐ない女だったとは思いもしなかったぜ……』

 

 

ファウスト『っ……貴方は……』

 

 

歌舞鬼『……早く行け。此処は引き受けてやっから、さっさと超古代文明の力とやらを手に入れてこい』

 

 

ファウスト『ッ!』

 

 

若干苛立ちの篭った口調でファウストに告げる歌舞鬼。ファウストはそんな歌舞鬼から発せられる雰囲気に思わず後退りするも、この好機を逃すまいと祭壇へと駆け出していった。

 

 

ディエンド『あ、待て!!『させねえよ!』くっ?!』

 

 

ディエンドは祭壇に向かおうとするファウストを止めようとディエンドライバーの銃口をファウストに定め発砲しようとするが、真横から歌舞鬼が刀を振りかざしてそれを阻止してしまい、仕方なく歌舞鬼と戦闘を開始していくのだった。

 

 

ファウスト『はぁ…はぁ…もうすぐ……もうすぐ手に入る……!』

 

 

そしてディエンドと歌舞鬼が戦いを始めた頃、ファウストは息絶え絶えの状態で漸く祭壇の前へと辿り着き、右手に持つエルクシードを見て小さく笑みを浮かべた。そして……

 

 

ファウスト『目覚めろ……そして奴を――GEAR電童を葬り去る力を、私に!!』

 

 

―ガコンッ!!―

 

 

高らかにそう叫ぶと共に、ファウストは祭壇から浮き出た突起物の先端にエルクシードを嵌め込んでいったのであった。そしてそれと同時にエルクシードが嵌め込まれた突起物が祭壇の中に取り込まれていき、何処からか闇が出現して祭壇とファウストに集まっていく。そして……

 

 

 

 

 

 

ファウスト『うあぁ…ぁ…あああああああああああああああああああァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっ!!!!!!』

 

 

―ギュイィィィィィィ……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーンッ!!!!―

 

 

『っ?!!』

 

 

煌一「?!しまった?!」

 

 

零「ぐっ?!これは?!」

 

 

闇がファウストと祭壇へと集まった瞬間、ファウストを中心に膨大な闇のオーラが爆発のように放出され、辺りを包み込んでいったのだ。更に放出されたオーラは天井を突き破って天空を貫き、それと共に島の上空に雷鳴の鳴り響く暗雲が現れてファウストと祭壇の下へと降り注ぎ、ファウストの身体と祭壇を飲み込んで再び島の上空へと舞い上がり、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!』

 

 

イルス『なっ……』

 

 

バロンP『……何だよ……あれ……?!』

 

 

島の上空を埋め尽くす暗雲の中から突如禍々しい巨大な怪獣の頭が現れ、凄まじい咆哮を上げたのである。それを見た一度は呆然とした表情を浮かべてしまうが、その時怪獣の頭の額から一人の人物……胸にエルクシードを埋め込んだファウストの上半身が現れ、自分の姿を眺めて歓喜の声を上げた。

 

 

『ク、ククク……ハハハハハハハハハハハハハッ!!やりました!!遂に!!遂に手に入れたのですね?!総てを超絶した闇黒魔超獣、デモンゾーアの力を!!!!』

 

 

巨大怪獣……デモンゾーアの額でファウストが高らかに叫ぶと共に、デモンゾーアが巨大な口を開いて膨大なエネルギーを集約させていき、ボロボロで満足に動けない煌一へと狙い定めていく。

 

 

レイサー『ッ?!マズイ!逃げろ煌一!!奴の狙いはお前だ!!』

 

 

バロンP『ッ!煌一だとっ?!』

 

 

『もう遅い!!消えなさい、御薙煌一ィッ!!』

 

 

―シュウゥ……シュババババババババババババババババババババッ!!!!―

 

 

煌一「くっ?!」

 

 

デモンゾーアの狙いが煌一だと気付いた時には既に遅く、デモンゾーアは口から無数の針のようなエネルギー弾を煌一目掛けて撃ち出していったのだった。それを見たレイサー達は咄嗟に煌一を守ろうと動き出すが、辺りを埋め尽くす爆煙のせいで肝心の煌一が何処にいるのか見えず、その間にもエネルギー弾は動けない煌一へと降り注ぎ貫こうとした、が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドンッ!!―

 

 

煌一「ッ?!なっ……!」

 

 

―ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

零「グッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!」

 

 

アンジュルグ『ッ!零?!』

 

 

エネルギー弾が煌一に直撃しようとした瞬間、なんと零が横から煌一を突き飛ばして代わりにエネルギー弾を受けてしまったのであった。零は巨大な爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされてしまい、その様子を見たアンジュルグが慌てて零の下へ駆け寄り零の身体を抱き起こしていく。

 

 

アンジュルグ『零っ!しっかりっ!』

 

 

零「っ……騒ぐな……別に大した事ないっ……」

 

 

アンジュルグ『でも、血が……!』

 

 

煌一「……アイツ……どうして……?」

 

 

額から流血する零の身体をアンジュルグが抱き起こしていく中、煌一は先程敵である自分を庇った零の行動に疑問が隠せず呆然となり、デモンゾーアも狙いを外してしまったことに思わず舌打ちした。

 

 

『チッ!あと少しだったと言うのに邪魔を……!』

 

 

零「……フッ、女狐が……漸く尻尾を出しやがったな……」

 

 

『っ……その様子だと、気付いていたみたいですね。まあいいです、どの道闇黒魔超獣の力が手に入った今、最早貴方達など必要ありません!!』

 

 

漸く本性を露わにしたデモンゾーアを見て不敵な笑みを浮かべる零にそう叫ぶと、デモンゾーアは再び口を開いて先程よりも膨大なエネルギーを収束させていき、その様子を見たイルスが驚愕の表情を浮かべた。

 

 

イルス『まずい…!彼女は今度はこの遺跡ごと、私達を葬り去るつもりです!』

 

 

バロンP『?!なんだって?!』

 

 

焦りの篭ったイルスの言葉に一同の表情が驚愕に染まり、その間にもデモンゾーアは口にエネルギーを集め遺跡に狙いを定め……

 

 

『今度こそ消えなさい御薙煌一!!皆の仇……此処で!!』

 

 

―ギュイイイイイイイィィィィィィ……ズドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!―

 

 

零「ッ!!」

 

 

レイサー『まずっ?!』

 

 

歌舞鬼『チッ!』

 

 

デモンゾーアの口から撃ち出された超巨大なエネルギー砲。遺跡を丸々飲み込める程の大きさを持つソレは真っすぐ遺跡へと向かっていき、遺跡ごと一同を消滅させようとした。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

―ピキイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!!!―

 

 

『……なッ?!』

 

 

煌一「……?何だ……?」

 

 

零「ッ?!これは……!」

 

 

 

 

巨大なエネルギー砲が遺跡を飲み込もうとした瞬間、突如遺跡の上空に桜の花弁を摸した巨大な盾が出現し、エネルギー砲を受け止めていったのだ。零はその見覚えのある盾を見て驚愕しながら思わず辺りを見渡すと……

 

 

 

 

 

 

姫「――ギリギリ間に合ったか……」

 

 

カリム「みたいですね……皆さん!無事ですか?!」

 

 

零「ッ!木ノ花?!それにカリムとシャッハも?!」

 

 

そう、祭壇の間の入り口……其処には先程落とし穴に落ちた時にはぐれたカリム、シャッハ、シロ、そして上空に手を掲げる姫の姿があったのである。

 

 

バロンP『お前等、どうやって此処まで?!』

 

 

姫「話は後だ!みんな私のところに集まれ!此処から転移するぞ!GEAR電童達も早く!」

 

 

レイサー『は?いやけど、俺達は……』

 

 

イルス『ッ!今は迷っている暇はありません!此処は彼女の言葉に従いましょう!』

 

 

姫の言葉に戸惑うレイサーにそう言うと、イルスは直ぐさま煌一の下へ駆け寄り肩を貸して立ち上がらせ姫の下に向かい、レイサーも慌ててその後を追っていく。

 

 

『ちぃ!!逃がしはしませんっ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!ピシィッ!!!―

 

 

シャッハ「?!盾が!」

 

 

姫「ぐぅっ!アズサ!零!急げ!!」

 

 

アンジュルグ『ん!零…!』

 

 

零「ぐっ……!」

 

 

ディエンドと歌舞鬼以外が姫の下へ集まっていく中、デモンゾーアは煌一を逃すまいとエネルギー砲の勢いを更に強め盾に皹を入れ、徐々に盾全体に皹が広がっていき、そして……

 

 

 

 

 

 

―ビシビシビシビシィ……ズガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーンッ!!!!!―

 

 

『…ッ!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

―――遂に盾が破壊され、エネルギー砲は勢いが殺される事なく遺跡を容赦なく飲み込み、ルルイエ遺跡は土地ごと粉々に吹き飛び消滅していったのであった。それを見たデモンゾーアは……

 

 

『――チッ……直前に転移して難を逃れましたか……』

 

 

黒煙に包まれる遺跡があった場所を上空から見つめ、煌一を逃がしてしまった事に気付き舌打ちしていた。

 

 

『ふん……まあいいです。どの道彼は私を止めようとまた来るに決まってる……それまでに、この力を馴染ませておく必要がありますね。先程は不完全で威力も弱かったですし』

 

 

デモンゾーアは不満げな声でそう言うと、闇の中から無数の触手を出現させて島の大地へ先端を突き刺していった。すると触手の先端で島の大地のエネルギーを吸収していき、島の自然が徐々に枯れ果てていく。

 

 

『あぁぁ……力が漲る……もっと、もっと力を……!』

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!!!!』

 

 

ルルイエ島の大地からエネルギーを吸収し、身体に力が漲る感覚に歓喜の咆哮を上げるデモンゾーア。そのルルイエ島の某所では……

 

 

「……漸く闇黒魔超獣の力を手に入れたか」

 

 

ルルイエ島の丘。其処には、総一と共に零達の動きを監視していた黒いコートの男が衰退していくルルイエ島の大地を眺める姿があった。そして男がジッと上空のデモンゾーアを見上げていると、男の背後に一人の青年……先程ディエンドと戦っていた総一が転移して現れた。

 

 

「生きてたか……案外しぶといんだな」

 

 

総一「ふん、当たり前だ。あの程度で早々簡単に死んでたまるかよ……」

 

 

「それは何より……ところで、あの盗っ人はどうした?」

 

 

総一「ディエンドか?直前に転移して逃げようとしてたところを一撃加えてやったから、多分アレに巻き込まれたんじゃねえか?」

 

 

そう言いながら総一は遺跡があった場所を顎でクイッと指し、それを聞いた男は「そうか……」と余り興味なさそうに上空のデモンゾーアを見上げた。

 

 

「ま、邪魔物が一人消えただけでも良しとするか……後はGEAR電童達さえ消せば、ヴァリアス様の望む世界が……」

 

 

総一「…………」

 

 

上空で咆哮を上げるデモンゾーアを見上げながら不敵な笑みを浮かべる男。総一はそんな男の背中をジッと眺めると、そのまま何も言わずにその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

同じ頃、ルルイエ遺跡から離れた場所に位置する森林。此処も既にデモンゾーアにエネルギーを吸い取られている為に衰退しつつあり、そんな場所に一人の青年……大輝がふらついた足取りで歩いていた。

 

 

大輝「クッ……流石は組織と言うべきか……ちょっとドジったなっ……」

 

 

そう呟く大輝の脇腹からは血が滲み出ており、大輝は右腕で脇腹を押さえながら島から脱出しようとするが、突然目眩いが襲いその場に倒れてしまった。

 

 

大輝「っ……体に力が……コレはちょっと……まずい……か……」

 

 

何とか立ち上がろうとするも身体に力が入らず、大輝はそのまま力尽き気絶してしまった。更にその直後、エネルギーを吸い尽くされた枯れ木達が突然へし折れていき、そのまま真下にいた大輝の上へと崩れ落ちていったのだった……

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑧(後編)

 

―風見市・ショッピングモール―

 

 

クウガ『ぐあぁ!あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

一方その頃、ショッピングモールではダグバと戦っていたクウガが炎に包まれながらもがき苦しんでいた。そしてクウガはそのまま力尽きて地面に倒れ変身が解けてしまい、全身に大火傷を負った優矢に戻ってしまった。

 

 

優矢「ぁ……くっ……かお……るっ……!」

 

 

『――以外としぶといね。並のグロンギならあの炎を受けただけで死んじゃうのに……ホント、君には驚かされるよ』

 

 

ダグバは全身に火傷を負いながらも薫の名をか細い声で呼ぶ優矢にそう言うと、悠然とした足取りで地面に倒れる優矢に近づいていく。

 

 

『でも此処までだ……今度はちゃんと逝けるように、直接殺してあげるよ』

 

 

優矢「っ……!」

 

 

トドメを刺そうと近づいてくるダグバを見て起き上がろうと試みる優矢であるが、全身に激痛が走り上手く立ち上がる事が出来ない。ダグバはその間にも優矢へと歩み寄り、今度こそ息の根を止めようと右腕を振り上げた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はいストップ!其処までよ」

 

 

『……ッ?!』

 

 

優矢「……え?」

 

 

ダグバが優矢にトドメを刺そうとした瞬間、その場に突然女性の強気な声が響き渡ったのである。ダグバはそれを耳にして思わず動きを止め、その声が聞こえてきた方へと顔を向けると、其処にはいつの間にか二人の男女がダグバの背後に立っていた。

 

 

優矢(あれ……は……?)

 

 

『…誰だい、君達?』

 

 

「別に誰だって良いでしょ?それより、これ以上この町で暴れ回るのは止めてもらえないかな?」

 

 

「それに、そいつを殺させる訳にはいかねぇんだ。まだそいつを手に掛けようってんなら、俺達が相手になるぜ?」

 

 

そう言って青年は何処からか白いベルトを取り出して腰に巻き、懐から白いパスを取り出した。それを見た女性も懐からディエンドライバーに似た銃を回転させながら取り出し、ポケットから一枚のカードを出してドライバーに装填しスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE……』

 

 

「いくよ亮介。遅れないでよ?」

 

 

亮介「それはこっちの台詞だ、アヤメ」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『G-END!』

 

『Blood Form!』

 

 

女性と青年……アヤメと亮介がそれぞれ変身を動作を行うと電子音声が鳴り響き、亮介は以前ホルスの世界で終夜と死闘を繰り広げた仮面ライダーである零王、アヤメはG3-Xとディエンドを合わせたような姿をした深蒼のライダー……『ジエンド』へと変身したのであった。

 

 

優矢「ッ?!仮面……ライ……ダー……?」

 

 

『ジエンドと零王……なるほど、君達が海鳴アヤメと火神亮介かい?』

 

 

ジエンド『へえ、私達の事は既に調査済みって訳?』

 

 

零王『まあアヤメはともかく、俺は何度も組織とやり合ってるから調べられてて当然だろうけどさ』

 

 

零王は軽い口調でそう言いながら懐から取り出した剣の刀身を軽く撫でていき、ダグバはジエンドと零王を交互に見たあと目を鋭くさせて二人と向き合った。

 

 

『君達の事はデータベースで閲覧してるからよく知ってるよ……だけど、僕にも僕の都合があるんだ』

 

 

ジエンド『そう……じゃ、止める気はないと?』

 

 

『もしそう言ったら?』

 

 

零王『突然…力付くで止めるに決まってんだろ!!』

 

 

叫ぶと共に、零王は地面を爆発させながら飛び出してダグバに剣を振りかざし、ジエンドもそれに続くようにドライバーから連射していく。しかしダグバは最初に斬り掛かってきた零王を片手であしらい、もう片方の手でジエンドの放った銃弾を弾いて零王と接近戦に持ち込んだ。

 

 

零王『ハァッ!ぜあああぁ!!』

 

 

『フンッ!』

 

 

零王は素早く剣を振りかざし何度もダグバへと斬り掛かっていくが、ダグバはそれを両腕でたやすく弾き返して怒涛の打撃技を零王に打ち込み、後方で援護射撃に徹していたジエンドはそれを見て左腰のホルダーから二枚のカードを取り出しドライバーにセットした。

 

 

『KAMENRIDE:LANCELOT!GUREN-TYPE02!』

 

 

ジエンド『頼むね、二人共!』

 

 

そう言いながらジエンドがドライバーの引き金を引くとジエンドの目の前で無数の残像が駆け巡り、残像達はそれぞれ二カ所で重なり白い騎士のような姿をしたライダー、ランスロットと紅いライダー、紅蓮弐式となってダグバへと向かっていった。

 

 

ランスロット『ハッ!』

 

 

紅蓮弐式『ヤァッ!』

 

 

―バキィッ!シュパンシュパァンッ!!―

 

 

『チッ…!数ばかり増えたところで!』

 

 

零王『そーかい!だったらコイツはどうだ?!』

 

 

ランスロットと紅蓮弐式を同時に相手して舌打ちするダグバにそう言うと、零王は一旦ダグバから距離を離して懐から白いパスと一枚のカードを取り出し、パスにカードをセットしベルトのバックル部にセタッチしていった。

 

 

『Ragnarok form!』

 

 

電子音声が響くと共に零王は灰色のオーラアーマーと灰色のデンカメンをスーツの上に装着し、右手の剣も巨大な銃に変わった姿……ラグナロクフォームへと変わっていったのであった。

 

 

『ッ!姿が変わった?!』

 

 

零王R『ドンドンいくぜ!アヤメェ!!』

 

 

ジエンド『分かってるよ!ハッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『チッ?!』

 

 

零王とジエンドは互いに呼び掛け合いながらそれぞれの銃でダグバを狙い撃っていき、凄まじい勢いで降り注ぐ銃弾の雨に流石のダグバも思わず後退りしていった。そして零王とジエンドは顔を見合わせて頷くと、ジエンドはカードを、零王はパスを取り出しそれぞれのバックルとドライバーにセット&セタッチしていく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:G-END!』

 

『Full Charge!』

 

 

二つの電子音声が重なって響くと、ジエンドはランスロットと紅蓮弐式を吸収しながらドライバーの銃口の周りにディメンジョンフィールドを展開し、零王は自身の銃にエネルギーを溜めてそれぞれダグバに狙いを定めていき、そして……

 

 

零王『トドメだ、くたばりやがれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!!!』

 

 

ジエンド『ハッ!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーンッ!!!―

 

 

『クッ!』

 

 

二人の銃から巨大な銃弾が発射され、ダグバへと撃ち出されていったのであった。それを見たダグバは咄嗟に真横へと転がって何とか銃弾を回避し、かわされた銃弾はそのままダグバの背後にあったビルに直撃してアスファルトが粉々に吹き飛んだ。だが……

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 

『っ?!』

 

 

ジエンド『な、何?!』

 

 

零王『……ッ!おい見ろ、あそこ?!』

 

 

突然女性の悲鳴が何処からか響き渡り、それを聞いて動揺する一同に零王がある場所を指差した。その先には、逃げ遅れたと思われる女性が子供を抱き締めて物陰に隠れる姿があり、その頭上から二人の銃弾で破壊されたアスファルトの瓦礫が降り注いできていたのだ。

 

 

ジエンド『民間人?!まずいっ!!』

 

 

零王『ヤバいっ、間に合わねえっ!!』

 

 

女性と子供の存在に気付き慌てて助けようと動き出す二人だが、時は既に遅く……

 

 

 

 

 

―ドシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

――アスファルトの瓦礫の落下は止まる事なく、けたたましい轟音を響かせながら無慈悲にも女性と子供を踏み潰していったのだった……

 

 

零王『なっ……』

 

 

ジエンド『……そん……な……』

 

 

その光景を目の当たりにした零王とジエンドは呆然と佇み、全身から力が抜けて手の平から銃を落としてしまった。

 

 

瓦礫は完全に女性と子供の上に落下した。どう考えても生きてる筈がない。

 

 

きっとあの灰色の粉塵が晴れた後には、グチャグチャに潰された人肉が散らばってる筈だと。二人は最悪な未来を想像し、粉塵が徐々に晴れていく光景を呆然と眺めていた。

 

 

そして粉塵が完全に晴れていくと、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――グッ……ウゥ……』

 

 

『……なっ?!』

 

 

優矢「…………かお…………る…………?」

 

 

 

 

 

灰色の粉塵が晴れた先……其処にあった光景はグチャグチャに潰された人肉などではなく、何故か女性と子供を庇うように背中で瓦礫を受け止めるダグバの姿があったのだ。思わぬ光景を目にした二人や優矢は両目を見開いて唖然とした顔になり、ダグバは怯えた顔で見上げてくる女性と子供が無傷である事を確認すると、背中の瓦礫を遠くに投げ飛ばし、その場に力無く屈み込んでしまった。

 

 

優矢「ッ!薫っ…!」

 

 

「あ……あ、晃!早く!」

 

 

地面に膝を着いたダグバを見て優矢は思わず薫の名を叫び、女性は怯えた様子で子供の手を引きダグバから逃げるように走り出していった。ダグバはそんな女性の背中を見て微かに笑みを浮かべるが、すぐに胸を押さえながら苦しそうに呻き声を上げた。

 

 

ジエンド『か、庇った?グロンギが……人間を?』

 

 

優矢「薫……なんで……ッ!」

 

 

グロンギである薫が人間を庇った。そんな予想外な行動を取ったダグバに一同が困惑して戸惑う中、ダグバを見つめる優矢の脳裏にある言葉が過ぎった。

 

 

 

 

 

 

―そうだね……子供は好きかな……あの子達の笑顔を見てると、なんだか僕も嬉しくなるから……―

 

 

 

 

 

 

優矢(まさか……アイツっ……!)

 

 

脳裏を過ぎったのは、先程公園で薫が口にした言葉。それで何かに気付いた優矢は身体を起こそうと全身に力を入れていき、ダグバはそれに気付かず胸を抑えてふらつきながら立ち上がった。

 

 

『……今回は見逃すよ……でも、次は容赦しない……』

 

 

優矢「ッ!ま、待て薫!!薫っ!!!!」

 

 

冷たい口調で宣告したダグバの言葉に、優矢は慌ててダグバを引き留めようと声を荒げるが、ダグバはそれを聞かずに背後に出現した歪みの壁を通って何処かへと消えていってしまった。

 

 

優矢「ッ!薫……お前……は…………ぁ…………」

 

 

零王『……っ?!お、おい!お前!』

 

 

優矢はダグバが歪みの壁と共に消えてしまったのを見て何かを呟こうとするも気を失ってしまい、ジエンドと零王は慌てて優矢に駆け寄り優矢の状態を確認していく。

 

 

ジエンド『―――大丈夫、ただ気絶してるだけみたい』

 

 

零王『そうか……じゃあ命に別状はないのか?』

 

 

ジエンド『何とかね。でも傷や火傷が酷いから、早く研究所に運んでジェイルに診せないと……』

 

 

ジエンドは全身に大火傷を負った優矢の身体を眺めながら悲痛な表情を浮かべるが、その時彼方から雷鳴が鳴り響く轟音が響き渡った。それを聞いた二人が彼方を見上げると、其処にはルルイエ島のある方から暗雲が広がりつつあるのが見えた。

 

 

零王『ちっ、どうやら例の化け物の封印が解けちまったみたいだな……』

 

 

ジエンド『みたいだね。このままじゃ初音島……ううん、この世界が滅びる事になる……』

 

 

ジエンドはルルイエ島から広がりつつある暗雲を見上げながら険しげにそう言うと、零王は無言でベルトを外して亮介に戻りジエンドと向き合った。

 

 

亮介「そうなる前に何とかするさ。取りあえず俺は大輝を捜してくるから、お前はソイツを頼むぞ?」

 

 

ジエンド『分かった……ああそれと、ソレもちょっと頼まれてくれない?』

 

 

亮介「?ソレ?」

 

 

ソレを頼むと言いながら横を指差すジエンドに亮介は疑問げに首を傾げ、ジエンドが指を指す方に目をやった。其処には先程ダグバによって破壊された優矢のバイクであるトライチュイサーのスクラップが転がっており、ジエンドは優矢を肩に背負いながら懐から一枚の紙を渡した。

 

 

ジエンド『大輝を見付けたら、そのバイクをディジョブドの世界にいるこの男に届けてくれる?海道大輝の知り合いって言えば、きっと力を貸してくれると思うから』

 

 

亮介「……ふぅ、分かったよ……そっちの方は頼んだぜ?」

 

 

仕方がないといった感じで溜め息を吐きながらそう告げると、ジエンドは小さく頷きながら優矢の治療の為にジェイルの研究所へ転移し、亮介はそれを見送るとルルイエ島の方角を見上げた。

 

 

亮介「古代の闇か……零はアレを相手に、どう戦うのかね……」

 

 

何処か遠くを見つめるような目でそう呟くと、亮介はスクラップとなったトライチュイサーを回収し、大輝を捜しにルルイエ島へと転移していったのだった。

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑨

 

 

―芳乃家―

 

 

数時間後、姫に助けられた零達はルルイエ島を脱出して初音島に逃れ、取りあえず怪我の治療と事情説明の為に煌一の知り合いであるさくらという人物が住む家に訪れ、怪我の治療を済ませて互いに事情を説明していた。(因みにさくらは傷だらけの零や煌一を見てかなり驚いていた)

 

 

翔「――えぇっと……それじゃあつまり、其処にいる煌一は俺達が知ってる煌一とは違う別世界の人間で、紗耶香は本当はアルシェインを率いるダークライダーの一人、それでアンタらはアイツを止める為に紗耶香を追ってた訳か?」

 

 

霧彦「えぇ、大体はそんな感じです」

 

 

説明を受けた翔が一つ一つ情報を整理しながら聞き返すと、霧彦は小さく頷き返してテーブルの上に置かれた茶を口にした。どうやら此処にいる煌一は自分達が知るインフィニティの世界の煌一とは違う平行世界の煌一であるらしく、彼等が本当のこの世界のライダーだという。更に紗耶香はアルシェインを従えるヴァリアスと呼ばれるライダーの手下であり、彼女はあのデモンゾーアという怪獣の力を手に入れる為に自分達を利用していたらしく、彼等はそれを止めようと紗耶香を追ってたらしい。

 

 

零「成る程な、つまり俺達はアイツに言いように利用されてたって訳か」

 

 

シャッハ「……では、GEAR電童が紗耶香さんの仲間を殺したというのも、私達を騙す為に……?」

 

 

身体に白い包帯を巻いた零に続き、シャッハは紗耶香が話してくれた仲間の死について思い出してそう呟くが、煌一はそれに対し首を左右に振った。

 

 

煌一「いいや、仲間が殺されたことは嘘じゃない……紗耶香が俺に憎しみを抱いてる事も……」

 

 

カリム「え…?」

 

 

姫「どういう意味だ?」

 

 

言葉の真意が分からないと言うように疑問げに小首を傾げるカリムと姫。それを離れて聞いていた朱焔が、壁に背中を預けたまま代わりに説明し出した。

 

 

朱焔「あの女の仲間が殺されたっていうのは本当だ。だだその仲間を殺したのは煌一じゃなく、ヴァリアスなんだよ」

 

 

『…ッ?!』

 

 

紗耶香の仲間であるシスター達を殺したのがヴァリアス。それを聞いた零達は息を拒んで驚愕するが、同時にある疑問が生まれた。

 

 

翔「ちょっと待て!紗耶香の仲間を殺したのがそのヴァリアスって奴なら、どうしてその犯人が煌一って事になってんだよ?!」

 

 

零「……多分あれだろう。煌一を仲間殺しの犯人に仕立てあげて憎悪を抱かせ、紗耶香を戦力として仲間に引き入れたってところじゃないか?」

 

 

霧彦「えぇ、それもあるのですが……その……」

 

 

零の予測を肯定しながらも、何故か霧彦は表情を曇らせて顔を反らしてしまう。そんな霧彦の様子に零達を再び不思議そうに疑問符を浮かべるが、煌一が代わりに話を繋いだ。

 

 

煌一「―――アイツを引き入れる事で、俺を精神的に追い詰めるのが目的だったんだよ……アイツは……紗耶香は……俺の命の恩人だからな……」

 

 

『ッ?!!』

 

 

零「紗耶香が……煌一の命の恩人だと……?」

 

 

紗耶香は煌一の命の恩人。想像もしてなかった二人の関係に零達は驚愕と動揺を隠せず戸惑ってしまい、煌一は暗い表情のまま話しを続けた。

 

 

煌一「俺が一人旅をしてた頃の話しだ……俺が旅先で大怪我を負って倒れてた時に、アイツが所属する教会の人達が俺を助けてくれてな……その時に付きっ切りで俺の看病をしてくれたのが、紗耶香だったんだ……」

 

 

紗耶香と過ごした頃の記憶を思い出してるのか、煌一は何処か懐かしそうな顔でポツポツと紗耶香の話しをしていく。

 

 

煌一「アイツと過ごした日々は楽しかった……今の俺があるのも、アイツが居てくれたらこそなんだ……なのに……」

 

 

ふと其処で、煌一の表情が曇った。その顔からは強い後悔や悲しみが感じ取れる。

 

 

煌一「……俺が教会を旅立った直後に、ヴァリアス達が紗耶香達の教会を襲ったんだ……なのに俺は、そんな事も知らずにっ……」

 

 

さくら「煌一……お兄ちゃん……」

 

 

ぎゅうっと拳を握り締める。その拳が白く色を失うほど強く、あの時ああしてれば良かったと言うように。

 

 

朱焔「……それから煌一や俺達は、あの紗耶香って奴をヴァリアスの下から連れ戻そうとアイツと戦ってきた。そしてエルクシードを取り戻そうと戦ったとき、漸くそのチャンスが来たと思ったら……」

 

 

カリム「……私達が……邪魔をしてしまった……」

 

 

そう呟いたのは、あの時紗耶香を庇って煌一達と対峙したカリムだった。紗耶香をヴァリアスの下から助け出すせっかくのチャンスを潰してしまった事にカリムは責任を感じで暗くなり、シャッハもそんな彼女の様子を見て顔を俯かせた。

 

 

シャッハ「その……申し訳ありません……私達のせいで……」

 

 

煌一「……いや、俺もちゃんと説明しなかったからな……責任は俺にもある」

 

 

カリム「ですが……「止めとけ」……え?」

 

 

謝罪しようとしたカリムの言葉を遮るように、居間の壁に背を預けて座っていた零が口を開いた。

 

 

零「今更過ぎたことをあれこれ言っても、何も変わりはしない……責任を感じているなら、今目の前の事態をどうにかするしかないだろう」

 

 

そう言って零は居間に備え付けられたTVへと視線を向けた。其処にはルルイエ島上空に現れたデモンゾーアの映像が流れるニュースが流れており、デモンゾーアの出現に伴い世界の様々な場所で異変が起きているという内容が映っていた。

 

 

零「あの化け物を世に放ったのは俺の責任だ。俺は今から、自分のケツの尻拭いをしてくる……お前はどうする?」

 

 

煌一「…………」

 

 

TVから視線を反らし煌一を見つめながら問い掛ける零だが、煌一は口を閉ざしたまま何も答えない。

 

 

零「ハッキリ言っておくが……アレは多分加減して勝てる相手じゃない……もしかしたら、最悪の選択を迫られる可能性もある。戦う気があるなら、その覚悟もしておいた方がいい」

 

 

煌一「っ……」

 

 

朱焔「ッ!お前っ、どの口がそんな事を言えるんだっ?!遺跡でお前等が邪魔しなきゃ、こんな事には!」

 

 

淡々とした口調でそんなことを言い放った零に朱焔がキレて零に掴み掛かるが、零は目を細めるだけで抵抗はせず、そのままこう言った。

 

 

零「俺だって出来るなら、絶対紗耶香を助け出すって言ってやりたいさ……だがアレの攻撃を受けて分かったが、正直紗耶香のことを気にしながらあの化け物を倒すなんて器用な真似は出来そうにない……グズグズしていたら、アイツは煌一を消す為だけにこの世界を滅ぼすかもしれんからな」

 

 

それほどまでの相手なんだよと、零は朱焔を見据えて断言するように告げ、朱焔もそれを聞いて口を閉ざし零から手を離した。

 

 

零「……最悪、俺は紗耶香ごとあの化け物を討つ……もしそうなっても恨むなとは言わない、憎んでくれても構わない……」

 

 

煌一「…………」

 

 

煌一に胸の内を覚悟を打ち明ける零。だが煌一は無言を貫き通して何も答えず、零もそれ以上は語らずカリムとシャッハに此処で待機するように言うと、アズサと姫と翔と共に芳乃家を後にした。

 

 

煌一「……俺は……」

 

 

霧彦「煌一君……」

 

 

さくら「…………」

 

 

残された煌一は自分の手の平を見下ろして切なげな顔を浮かべ、霧彦達もそんな煌一をただただ黙って見守りを続けるのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

芳乃家を後にした零達は、芳乃家の玄関前で立ち尽くしジッと空を見上げていた。空は先程までの青空ではなく、ルルイエ島から出現した暗雲に包まれて雷鳴を鳴り響かせている。

 

 

翔「……んで、どうするんだよ?あんなこと言ってたけど、本当は助ける気満々なんだろう?」

 

 

そんな中、最初に口を開いたのは翔だった。隣に立つ零を見つめながらそう問い掛ける翔に対し、零は軽く溜め息を吐きながら空を見上げた。

 

 

零「簡単には言うが確率は限りなく低い。相手が相手だから、下手すればこっちがやられる可能性もあるしな……正直自信はない」

 

 

姫「それでも、やる気なんだろ?」

 

 

悲観的な事を言いながらも、諦めた様子を見せない零の顔を覗き込んでそう問い掛ける姫。零はそんな姫を見て肩を竦めながら溜め息を吐くと、ライドブッカーから絵柄のないブランクカードを取り出した。

 

 

零「助けられるなら助けたいさ。だが、もしもの時は……俺がアイツを討つ……」

 

 

翔「そうならないように、俺達も出来る限り手を貸すさ。まあ本当なら、煌一達の手も借りたいところなんだが……」

 

 

零「心配しなくても、アイツ等ならきっと来るだろう」

 

 

翔「?根拠は?」

 

 

零「俺ならそうする」

 

 

アズサ「……全然根拠になってない……」

 

 

根拠のない根拠を口にする零にアズサがポツリと呟き、翔や姫も思わず苦笑いをこぼした。零はそれを無視してブランクカードをライドブッカーに仕舞い、芳乃家の方へと顔を向けていく。

 

 

零「まあ、強いて言うならそう……アイツが御薙煌一だからってところだ」

 

 

姫「……?イマイチ分からないんだが?」

 

 

零「後になれば分かる……ほら急ぐぞ。手遅れになる前にルルイエ島へ「ちょっと待ってくれる?」……あ?」

 

 

紗耶香を止めるためにルルイエ島へ急ごうとする零達だが、背後から突然誰かに呼び止められ振り返った。其処に立っていたのは、建物の壁に背を預けてこちらを見つめる女性……優矢の窮地を救った海鳴アヤメであった。

 

 

零「…?誰だ?」

 

 

姫「あ、貴女は確か……」

 

 

翔「?何だ、知り合いなのか?」

 

 

姫「ああ……そういえば話してなかったか。ルルイエ遺跡で君達三人とはぐれた後に遺跡の中で会ってな、煌一達のことやあの祭壇のある部屋までの道を教えてくれたんだ。名前は……確か……?」

 

 

そう言って姫はアヤメの名を思い出そうと顎に右手を添えて考えていき、それを見たアヤメは苦笑しながら零達の下へと歩み寄っていく。

 

 

アヤメ「私は海鳴アヤメ。こうちゃんの姉ってところよ、宜しくね?」

 

 

零「煌一の姉?……その姉貴が何の用だ?」

 

 

アヤメ「ハハハ、噂通りの愛想無しね?ま、ちょっと貴方達に伝えたい事があって来たのよ」

 

 

零「?伝えたい事……?」

 

 

最初の部分がなんか引っ掛かるが、今は手っ取り早く話を終える方が先決と思い険しげに聞き返す。その問いを受けたアヤメは腰に手を当てながら……

 

 

アヤメ「貴方達、この世界には行方不明の仲間を探しに訪れたんでしょう?」

 

 

翔「え?な、なんでその事を……?」

 

 

アヤメ「まあいいから聞きなさいって。貴方達が探しているその仲間なんだけど……今私の知り合いの研究所にいるわよ?」

 

 

『…………へ?』

 

 

……軽い口調でそんな言葉を口にし、零達は思わず間抜けな声を上げて目を点にしたのであった。

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑩

 

 

―ジェイルの研究所―

 

 

零「―――んで、その知り合いの研究所とやらが、まさかこの世界のスカリエッティのとはな……」

 

 

アヤメに案内され、零達が訪れたのはこの世界のスカリエッティが作ったという研究所だった。何でもこの研究所に行方不明となった優矢がいるらしく、零達はアヤメを先頭に優矢がいる部屋へと向かっていた。

 

 

アヤメ「ま、貴方の世界の彼等の事を考えれば複雑かもしれないけど、少なくともこの世界の彼等はまともよ。だから心配はいらないわ」

 

 

零「……まあそれに関しては祐輔の世界のスカリエッティで慣れてはいるが……アレはなぁ」

 

 

心配はいらないと言うアヤメの言葉を聞きながらも、零は先程この世界のスカリエッティに会った時の記憶を掘り起こしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェイル(別)「やあやあ待っていたよディケイド君!先の件では君を誤解してしまってすまなかったねえ。それで其処にいる子が報告にあったアズサ君か?確かシュロウガやアンジュルグに変身するとか言っていたね?素晴らしい!私はこう見えてスパ〇ボ好きでね、もしよければ今此処で変身してみてくれないかな?!出来ればこの手で直に触ってみたいのだよあの美しい線のあるボディを隅々までグゲェッ?!い、いきなり何をするんだいウーノ?!アーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「―――やっぱり異世界でも、根本的に変態な所は変わってないんだな……」

 

 

翔「ってか、息を荒くしてアズサに迫った時はマジでヤベェって思ったよ(汗)」

 

 

アヤメ「あ、あははは……まあこの世界のジェイルは過度のロボ好きだからね、仕方ないよυυ」

 

 

いやいや、アレは仕方ないで済ませて良いレベルではないと一同は思う。

 

 

ぶっちゃけアズサも両手をワキワキさせながら迫り来るジェイルに怯えて後退りしてたぐらいだし。

 

 

恐らく今頃ウーノ辺りから『ちょっとは自重しろ!』とOHANASHIされてるところだろう、時折何処からか悲鳴が聞こえてくる……自業自得とは正にこの事か。

 

 

そうこう話をしていると、アヤメに案内されてとある部屋の前に辿り着いた。

 

 

アヤメ「此処よ、貴方達の仲間のいる部屋は」

 

 

零「そうか、案内させてしまってすまないな」

 

 

アヤメ「別に良いわよ。でも余り騒がないでね?怪我の事もそうだけど、あの子……何だか色々と悩んでるみたいだから」

 

 

零「……?」

 

 

頬を掻きながら何処か言い難そうに呟くアヤメ。零はそんな彼女の様子に疑問符を浮かべながらも、恐らく優矢の身に重大な何かが起きたのだろうと考えて身を引き締め、真剣な顔で扉をゆっくりと開けていった。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優矢「良いって?!だからそんな事しなくて良いってばっ?!」

 

 

「ダメだよ優矢ー?私達、ジェイルのおじ様から優矢のお世話を任せられたんだから。ねぇ兄様ー♪」

 

 

「そうだね姉様ー♪ほらほら、身体拭いてあげるから全部脱いだ脱いだ~♪」

 

 

優矢「だ、だから良いって言ってんだろっ?!ちょ、勝手に脱がすな?!ズボン下げないでええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっっ?!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんか、ベッドの上で二人の幼児に服を剥かれる優矢がいました。

 

 

その光景を目の当たりにした零は扉を半開きにした状態でピシリと固まり、服を脱がそうとする幼児達に必死に抵抗していた優矢も零の存在の気付き、ビクッと肩を揺らしながら扉の方を見た。

 

 

優矢「え……れ、零?零か?!お前どうして此処――」

 

 

ズパンッ!と、唐突に優矢の声が壮絶な音によって掻き消された。

 

 

それは零が勢いよく扉を閉めた事で発生した音であり、中の様子を見てない翔達はそんな零の様子に小首を傾げた。

 

 

翔「おい、どうしたんだよ零?」

 

 

零「……いや、どうやらお取りこみ中だったらしい。時間を改めてからもう一度――」

 

 

優矢「ちょっと待ってええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!」

 

 

ピシャン!!と部屋の扉が開け放たれた途端、同方角から飛んできた叫び声に翔達はわずかに身を退いた。

 

 

相手は今正に襲われ掛けてましたというように着崩れした優矢であり、零は生暖かい目でそんな優矢を見つめた。

 

 

零「おや、お楽しみはもう良いのか優矢?」

 

 

優矢「いや違うからね?!お前が想像してるような事は何一つやってないからね?!ってかその目は止めて軽く傷付くからっ?!」

 

 

零「はっはっはっ、別に隠さなくたって良いんだぞ?何てったって俺は心が広いからなー。お前がどんな奴だろうと、俺は変わらずお前を受け入れるヨー」

 

 

優矢「口調が分かりやすいくらいわざとらしいなオイ?!誤解だからな?!違うからな?!頼むからその何かを悟ったような目は止めてくれえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!!」

 

 

わざとらしい笑い声を上げる零の両肩を掴んで必死に揺さ振り、悲痛な叫び声を木霊させる優矢。

 

 

翔達はそんな二人の様子を見て展開に付いていけず、終始小首を傾げていたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

優矢の必死の弁解によってなんとか誤解が解けた後、零達は部屋の中でアズサと姫の軽い紹介を済ませてから優矢にこれまでの経緯を話してもらっていた。

この世界に飛ばされた日に煌一達と出会ったこと、零が見付かるまで煌一達と一緒にアルシェイン退治を手伝ってたこと、そしてグロンギである薫と出会い戦ったことを。

 

 

零「――白金薫……ソイツは確かにダグバと名乗ったんだな?」

 

 

優矢「あぁ……自分は未確認生命体0号だって、確かに……」

 

 

その時の事を思い出してるのか、優矢は顔を曇らせて俯いてしまう。そんな優矢の様子を見た零は顎に手を添え、ある疑問を思い浮かべていた。

 

 

零(……どういうことだ?何でこの世界にグロンギが現れた?これも滅びの現象が原因なのか?それとも……)

 

 

様々な可能性を脳裏に並べていくが、やはり答えなど検討が付く筈がない。零は一通り考えて軽く溜め息を吐くと、顔を俯かせる優矢を見据えて口を開く。

 

 

零「それで、お前はこれからどうする気なんだ?」

 

 

優矢「……分かんねえ……」

 

 

フルフルと、優矢は零からの問いに対して力無く首を振り、包帯で巻かれた自分の両手を見下ろした。

 

 

優矢「分かんねえんだよ……俺は今まで、グロンギは人類の敵だって思ってた。倒すべき敵だって……でも薫はそうじゃない……アイツにはちゃんと人間の心があるんだよ……そんな薫と戦うなんて……俺には……」

 

 

今まで戦ってきたグロンギは、どれもゲゲルという名のゲームで人間の命を簡単に奪ってきた奴らばかりだった。

 

 

だが薫はそんなグロンギ達とは違う。先の戦いでは町に甚大な被害を与えたが、奇跡的に怪我人や死亡者は一人もいなかった。

 

 

恐らく薫はそれを考慮して、自分を呼び出す為だけにあんな事をしたのかもしれない。

 

 

薫には人の心がある。あの時、身を呈してあの親子を庇ったのがその証拠だ。

 

 

そのことを考えるだけで、薫と戦う事に対して抵抗が出来てしまう。

 

 

零「成る程……ようはその薫って奴を傷付けたくない訳か?自分が知ってるグロンギとは違い、人間の心が残ってるから……」

 

 

優矢「…………」

 

 

溜め息混じりにそう呟く零だが、優矢は何も答えない。そんな優矢の様子を見た零はベッド脇の椅子から立ち上がり優矢を見下ろしていく。

 

 

零「多分その薫って奴は、今ルルイエ島にいる紗耶香の下にいるかもしれん……グロンギがこの世界にいるのも、多分アイツや遺跡で海道が戦ってたライダーと何か関係がある筈だろうしな」

 

 

優矢「…………」

 

 

零「俺達は今からそのルルイエ島に行って紗耶香達を止めてくる。恐らくその時に薫って奴と戦う事になるかもしれない……だから、敢えてお前に言っておく」

 

 

そう言いながら零は優矢を見据えたまま、目を鋭くさせた。

 

 

零「もし薫が俺達に向かってきた場合……その時は、容赦なく倒させてもらう」

 

 

優矢「ッ?!なっ……」

 

 

零「これ以上面倒な敵を野放しにしておく訳にはいかないからな……お前が戦わないなら、俺が後腐れ残らないように消してやるよ」

 

 

優矢「ッ!ふざけんな!!薫は敵じゃない!!アイツは――!!」

 

 

零「お前がそう思っても、俺からすればただの敵だ。それに俺はその薫って奴のことを何も知らない……たかがグロンギ一匹倒したところで、別に何の罪悪感も感じないさ」

 

 

優矢「ッ?!!テメエ!!ぐっ?!」

 

 

翔「お、おい優矢!無茶すんな!!」

 

 

鼻で笑いながらそんな事を告げた零に堪忍袋の尾が切れた優矢が殴り掛かろうとするが、優矢は身体の傷を押さえてうずくまってしまい、零はそんな優矢を横目にそのまま部屋の扉へ歩き出していく。が、零は扉の前で不意に立ち止まり、扉と向き合ったまま口を開いた。

 

 

零「一つ聞くが……なんでお前は其処までソイツに肩入れする?たった一回会っただけの人間なんだろう?」

 

 

優矢「っ……決まってんだろう……アイツが友達だからだっ……」

 

 

零「……友達か……なら、俺から一つ忠告しておく。その薫って奴は、もしかしたら何かしらの理由があって戦ってるのかもしれん。じゃなきゃそんな町の人間の身を案じるようなお人よしが、何の理由も無しに町を破壊するとは思えんしな」

 

 

優矢「?……理由って……なんだよそれっ……?」

 

 

零「俺が知る訳ないだろ?別に知りたいとは思わんし、単なる推測だしな……」

 

 

痛みに苦しむ表情で問い掛ける優矢にそう答えると、零はゆっくりと扉に手を掛けていく。

 

 

零「……だが、もし本当に何か理由があってそんな事をしたのなら、その薫って奴は自分の意志では戦いを止められんだろう……影にいる誰かの指示で動いてるなら、ソイツはずっとやりたくもない事をやらされる羽目になる……今回みたいな事をな」

 

 

優矢「ッ!そんな……!」

 

 

零「まああくまで推測だがな……ただ――」

 

 

其処で一度言葉を区切り、零は顔だけを優矢に向けると……

 

 

零「――お前は、目の前で友達が間違ったことをしているのに、それを放っておくつもりか……?」

 

 

優矢「っ?!」

 

 

ポツリと呟いた零の言葉に、優矢は驚愕して思わず顔を上げた。しかし零はそれ以上のことは何も言わずに扉を開けて部屋から出ていき、翔達もそれを見て零の後を追い掛けていった。

 

 

優矢「……薫……俺は……」

 

 

一人部屋に残された優矢は零達が出ていった扉を見つめると、複雑な表情のまま自分の手の平を眺めていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

翔「――良いのかよ?優矢をあのままにして……」

 

 

研究所内の長い通路。出口へと続く通路を歩きながら、翔は隣を歩く零にそう問い掛けた。すると零は一度溜め息を吐き、歩みを進めながらそれに答えていく。

 

 

零「今は思う存分悩ませてやれ。それが今、アイツや煌一にとって必要な事だ」

 

 

姫「むぅ……だが、本当にそれで大丈夫なのか?」

 

 

やはり優矢のことが気に掛かるのか、背後に顔を向けながら心配そうに呟く姫。それを聞いた零も足を止め来た道を振り返った。

 

 

零「これは俺達が決める事じゃない、アイツ等自身が決めなければならない事だ……言えるだけの事は言ったんだし、これ以上余計な口を挟むべきじゃない」

 

 

翔「……今はアイツ等が答えを出すのを待つしかない、って事か……何かもどかしいな……」

 

 

今はあの二人が答えを出すのを待つしかない。零達は優矢の部屋へと続く通路を暫く見つめると、今は自分のやるべき事を果たそうと再び通路を歩き出そうとする。その時……

 

 

「――ああいたいた、ちょっと待って!」

 

 

『……ん?』

 

 

不意に背後から誰かに呼び止められ、零達がそちらの方に視線を向けると、其処には先程優矢の部屋の前で別れたアヤメがこちらに駆け寄ってくる姿があった。

 

 

アヤメ「はぁ~良かったぁ、間に合ったわねυυ」

 

 

アズサ「アヤメ……どうかしたの……?」

 

 

アヤメ「あっうん、ちょっと零に渡す物があってね。はいこれ」

 

 

乱れた呼吸を整えながらそう言うと、アヤメは懐から取り出した一本のメモリースティック……ガイアメモリを零に差し出した。

 

 

零「?これは……ガイアメモリ?」

 

 

アヤメ「そっ、デモンゾーアとの戦いで役立つかもしれないから渡してくれって、ジェノスって子から預かったのよ」

 

 

零「?!ジェノスから?」

 

 

ジェノスから預かったガイアメモリ。それを聞いた零は一瞬驚愕すると、アヤメの手からメモリ……ティガメモリをゆっくりと受け取りメモリを眺めていく。

 

 

零「――分かった、コイツは使わせてもらう。お前は優矢を見ててやってくれ」

 

 

アヤメ「えぇ、貴方達も気をつけてね?」

 

 

零「分かってる……翔、アズサ、木ノ花、行くぞ!」

 

 

零はティガメモリを仕舞って翔達に呼びかけ、紗耶香を止めるべく三人と共にルルイエ島へと向かっていくのであった。そして……

 

 

アヤメ「……亮介、急いでよ……時間もあまりないんだから……」

 

 

四人の背中を見送った後、一人残されたアヤメは何もない天井を仰ぎながらそう呟き、何処かに向かって歩き出していくのだった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑪

 

―ルルイエ島・遺跡跡地―

 

 

それから数十分後。自然の大半が死んだルルイエ島の遺跡跡地では、未だデモンゾーアが上空から無数の触手を伸ばし島の大地からエネルギーを吸収していた。そんなデモンゾーアの真下には、総一と薫が変身した歌舞鬼とダグバ、そして黒いコートの男がデモンゾーアを見上げる姿があった。

 

 

歌舞鬼『……スゲーもんだな。この島の自然からエネルギーを吸い取っただけで、力がさっきとは比べものにもならないくらいデカくなりやがってる』

 

 

「そうだな。だがまだ足りない……コイツにはもっと力を付けてもらわなければ、俺達の目的を100%達成する事など出来はしない」

 

 

『……それはつまり、初音島からも奪うって事ですか……溝呂木さん……』

 

 

上空で浮遊するデモンゾーアを見上げる男……溝呂木の横顔を見て何かを感じ取ったダグバが何処か暗い様子で問い掛けると、溝呂木はデモンゾーアを見上げたまま口元を歪めていく。

 

 

溝呂木「コイツが限界まで力を蓄えれば、御薙煌一達でも手に負えない化け物に育つ……その為にもまずは大量の糧が必要だからな。この島の次にはあの島も喰わせてやるさ」

 

 

『でも……あそこには何の関係もない人達が……』

 

 

溝呂木「だから何だと言うんだ?今はデモンゾーアの力を更に高める方が優先だ。どうせだから、そいつ等も一緒に喰わせてしまえば良いだろ?」

 

 

『っ……』

 

 

初音島と一緒に島の人間達もデモンゾーアの糧にしてしまえばいいと、鼻で笑いながらそう告げた溝呂木にダグバが思わず何か反論しそうになるも、途中で言葉を飲み込んで黙ってしまった。

 

 

溝呂木「フンッ…とにかく俺達の役目は、デモンゾーアが完全体になるまでアレを死守する事だ。いつ御薙煌一達が攻めてくるか分からない以上、周囲の警戒を怠らぬよう―――」

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

―ドシュウゥゥゥーーーーーーンッ!!!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

溝呂木が歌舞鬼とダグバに指示を送ろうとした瞬間、何処からか電子音声と共に一つのエネルギー弾が三人へと襲い掛かり、いち早くそれを感知した溝呂木達は咄嗟に後方へと跳んでエネルギー弾を回避した。そして三人がエネルギー弾が撃たれてきた方角に振り返ると、其処にはライドブッカーGモードを構えるディケイドとバロンとシュロウガ、腰にベルトを巻いて右手にナックルウェポンを持つ姫が佇んでいた。

 

 

溝呂木「ッ?!貴様等は!」

 

 

ディケイド『ふむ、遺跡で海道とやり合ってたヤツと優矢が言っていたダグバに……何か知らない奴が一人混じってるな……』

 

 

ディケイドはライドブッカーを持つ右腕を下げながら溝呂木を見て訝しげに呟き、溝呂木はディケイド以外の三人の顔を目で追って見ていくと、怪訝そうに皺を寄せた。

 

 

溝呂木「何だ、御薙煌一達は来てないのか?」

 

 

ディケイド『あぁ、生憎アイツ等は今休憩中だ。此処にはいない』

 

 

ディケイドは溝呂木の疑問に対し淡々とした口調で答えながらライドブッカーをソードモードに切り替えて切っ先を向けていき、それを聞いた溝呂木は鼻で笑いながらディケイド達の顔を見つめていく。

 

 

溝呂木「それで?この世界と何の関係もない部外者のお前達が、一体何の用だ?」

 

 

ディケイド『決まってるだろう?お前達の邪魔をしに来たんだ』

 

 

バロン『騙されてたとはいえ、その怪獣を復活させるのに手を貸しちまったわけだしな。その尻拭いに来たってところだ』

 

 

姫「そういう訳だ。此処で大人しく御縄を頂戴してもらうぞっ!因みに関係ないが私の得意な縛り方は亀甲縛りだっ!」

 

 

シュロウガ『……亀?』

 

 

なんか一人関係ないことをカミングアウトしてるが、取りあえずそれは無視して溝呂木達と対峙するディケイド達。それを見た溝呂木は再び鼻で笑うと、何処からか薙刀をモチーフにしたツールを取り出した。

 

 

溝呂木「No.10、白金、お前達はあの三人を相手してやれ……俺はあの破壊者を相手する」

 

 

歌舞鬼『別にそいつは構わねえがよ……因子に下手な刺激は与えんじゃねえぞ?間違って暴走してこの世界と一緒にオダブツ、なんてぶざまな最後は送りたくねえからな』

 

 

ディケイド(……?アイツは……)

 

 

歌舞鬼が刀を肩に乗せながら溝呂木に注意を呼び掛ける中、ディケイドはそんな歌舞鬼を見て仮面の下で訝しげな顔を浮かべた。

 

 

ディケイド(あのライダーから僅かに感じる感覚……アイツ等に似てる?)

 

 

アイツ等と言うのは、以前ディケイドがセイガの世界やキャンセラーの世界で対峙したオーガ達のことだ。

 

 

キャンセラーの世界でヴェクタスを倒して以来、あれから奴らが姿を現す事はなくなった。

 

 

目的は最後まで分からなかったが、てっきりもう諦めて襲ってこなくなったのだと考えていたのが……

 

 

ディケイド(確かに似てる……まさかあのライダー、アイツ等の仲間か……?)

 

 

遺跡では状況が状況だった為に確かめる余裕がなかったが、こうして改めて感じ取ってみると何処となく気配が似てる、あの時戦ったオーガ達と。

 

 

だとしたら、あの黒いコートの男の隣に立つダグバもあのライダーと何か関係があるのだろうか?

 

 

以前謎のイリシットと手を組んで襲ってきた例があるし、その可能性はあるかもしれない。

 

 

それに、一番気になるのが……

 

 

 

 

 

 

―その零さんの友達は、何らかの事情があって敵側についてる、と思う。そして『因子』の力を狙っている―

 

 

 

 

 

 

ディケイド(―――本当にアイツ等なのか……いや、まだそうと決まった訳じゃない……だが……)

 

 

以前祐輔に言われた言葉を思い出し、内心揺らぎながらも歌舞鬼を見つめる目に自然と力を込めていくディケイド。その間にも溝呂木が一歩前に踏み出し、取り出したツールを両手で持ち目の前に突き出した。

 

 

溝呂木「さあて、そろそろ始めようぜ?デスゲームをな……変身ッ!」

 

 

高らかに叫びながら溝呂木が変身ツール……ダークエボルバーを左右に開くように展開すると紫色の光りが放たれ、溝呂木の姿が死神をモチーフにしたような姿をした黒いライダー……『メフィスト』へと変身したのであった。

 

 

ディケイド『(ッ!今は余計な詮索は後回しだ…!)皆、行くぞ!』

 

 

バロン『おう!』

 

 

シュロウガ『ん!』

 

 

姫「今回は相手が相手だからな、私も加勢させてもらう!」

 

 

ライドブッカーからカードを一枚取り出しながら呼びかけるディケイドに応えると、バロンとシュロウガはそれぞれ武器を構え、姫は右手に持ったナックルウェポン……イクサナックルを左手の手の平に打ち付けて起動させていく。

 

 

『READY!』

 

『変身ッ!』

 

『FOMARIDE:INFINITY!JEUNESSE!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

ディケイドと姫がバックルにカードとイクサナックルをセットすると二つの電子音声が響き、ディケイドは上級武士の裃袴をモチーフにしたような姿をした赤いライダー…インフィニティ・ジュネッスフォームに、姫はバックル部から展開されたアンダースーツと桜色のアーマーを全身に纏い、イクサ・セーブモードの白い鎧をピンクに染めたようなライダー……『イクサ・フロンティア』(以後イクサF)へと変身したのであった。

 

 

メフィスト『ほう、噂通り面白い能力を持っているな?これは楽しめそうだ』

 

 

歌舞鬼『あんまりはしゃぎ過ぎんなよ?おら、出てこいお前等っ!』

 

 

インフィニティに変身したディケイドを見てメフィストが期待の篭った笑みを浮かべる中、歌舞鬼はそれを尻目に右腕を掲げ、目の前にライオトルーパーの大群を展開していく。

 

 

バロン『チッ!久々に出て来やがったなコイツ等っ!』

 

 

Dインフィニティ『だが大した数じゃない、散開して各個で叩くぞっ!アイツ等が来るまで少しでも奴らの戦力を削るんだっ!』

 

 

シュロウガ『分かった…!』

 

 

イクサF『やれやれ、それでも骨に来る数だぞコレは!』

 

 

正面から迫り来るライオトルーパーの大群を見据えて思わず愚痴りながらも、右手にイクサカリバー・ガンモードを構えるイクサF。Dインフィニティもそれを横目に見て苦笑いしながら構えを取ると、三人と共にライオトルーパーの大群の中へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―芳乃家―

 

 

零達がルルイエ島でメフィスト達との激戦を開始したその頃、芳乃家では煌一が未だに沈んだ様子でテレビに映るルルイエ島を見つめていた。

どうやらデモンゾーアの側で謎の集団と仮面ライダー達が戦いを始めたらしく、おそらくその仮面ライダー達とは零達の事だろうと、煌一はテレビを見ながらふとそう思う。

 

 

霧彦「始まったようですね……」

 

 

朱焔「だな……煌一、良いのかよ……?」

 

 

煌一「…………」

 

 

テレビから視線を逸らして複雑げに問い掛ける朱焔。煌一は一度テレビに映るDインフィニティ達とライオトルーパー達の戦いを見ると、ぎゅうっと拳を握り締めた。

 

 

煌一「分かってるんだ……俺も彼処に行くべきだって……戦うべきだって……」

 

 

朱焔「だったら!」

 

 

いつまで経っても煮え切らない態度を取る煌一に、苛立ちの篭った声で叫ぼうとする朱焔。だが煌一はキッと朱焔を睨み上げ、乱暴に叫び出した。

 

 

煌一「俺だって分かってる!!こんなところで迷っている場合じゃないって事ぐらい!!だが決められないんだ!!紗耶香を……アイツを討たなければならない覚悟がっ……!!」

 

 

現在ルルイエ島上空に漂うデモンゾーアは、これまで戦ってきたアルシェインとは格が違う化け物だ。

 

 

甦ったばかりの頃の力でも此処にいるメンバー達の力を遥かに凌いでいたというのに、今はルルイエ島からエネルギーを吸収した事で更に力を付け、最早全力を出し尽くしても勝てるかどうか分からない本物の化け物と化している。

 

 

唯一倒せる方法があるとすれば、それはデモンゾーアを完璧に制御している核……ファウストさえ討てば、デモンゾーアは自然崩壊を起こして完全に消滅させる事が出来る。

 

 

しかしそれはファウストの……紗耶香の命を絶つという意味でもあるのだ。

 

 

煌一「こんな事にならないように、ずっとアイツを止めようと戦ってきたのにっ……説得も通じない!闇黒魔超獣だけを倒す方法も他にはない!ならもう……倒すしかないじゃないかっ……!」

 

 

恐らく紗耶香はルルイエ島を喰い尽くした後、自分の故郷であるこの島も襲うだろう。そうなれば純一達がどうなるかなんて、考えるまでもない。

 

 

そんな事になる前に、この手で紗耶香を討つしかないのだ。

 

 

愛する友や家族が住むこの世界か、命の恩人であるたった一人の女の命か……

 

 

どちらかを選ぶしかない。究極の選択を迫られ、煌一は苦悩に満ちた顔を両手で覆い隠してしまう。

 

 

さくら「――煌一お兄ちゃん」

 

 

そんな煌一の傍に、今まで無言でいたさくらがゆっくりと歩み寄って腰を屈めた。さくらは一瞬どんな言葉を伝えれば良いか分からず言い淀むが、すぐに決意の篭った瞳で煌一を見つめ口を開いた。

 

 

さくら「あのね……上手く言えないかもだけど、ボクは煌一お兄ちゃんとその人がどんな関係なのか良くは知らないし……その人と昔何があったのかも分からない……」

 

 

煌一「…………」

 

 

さくら「でもね、煌一お兄ちゃんがどれだけその人を大切に想っているか、少しだけ分かった気がする……煌一お兄ちゃんは、今までその人の事が大事?」

 

 

煌一「……ああ……大事な恩人だ……」

 

 

さくら「そっか……なら、難しく悩む必要なんてないんじゃないかな?」

 

 

煌一「……え?」

 

 

その言葉に、煌一は思わず顔を上げてさくらを見た。さくらはテレビの映像に映るデモンゾーアを見つめながら、言葉を続ける。

 

 

さくら「煌一お兄ちゃんの大事な人が彼処にいて、今も苦しくて誰かに助けを求めてる……その誰かは多分、煌一お兄ちゃんの事だと思うんだ」

 

 

煌一「そんな……そんな訳ないさ……だってアイツは俺の事を憎んで……」

 

 

さくら「うん、そうかもしれないね。でも、女心って結構複雑なんだよ?煌一お兄ちゃんの事を憎んでいるからって、それでお兄ちゃんへの想いが全部消えちゃったなんて、ないと思う」

 

 

煌一「…どうして…そう言い切れるんだ…?」

 

 

さくら「うーん…女の勘?もしくは魔法使いの孫としての勘かな?」

 

 

にゃはははと、自分が嫌ってる魔法というワードまで持ち出し苦笑いを浮かべるさくらだが、すぐに優しげな表情に変わって煌一に語り掛けていく。

 

 

さくら「お兄ちゃんの気持ちはなんとなく分かるよ?でも、最初から無理だって諦めちゃダメだよ……例え可能性が0%だとしても、0を1に変えて、其処からまた巻き返す事も出来ると思う……不可能だから何をしても無駄なんて、そんな道理はないと思うんだ」

 

 

煌一「……さくら」

 

 

さくら「格好悪く転んでもいい、立ち止まって悩んでもいい……でも何かをする前に、全部を諦める事だけはしないで?お兄ちゃんは一人で戦ってる訳じゃないんだから……」

 

 

 

まるで子供に言い聞かせるように優しげな声で語り、さくらは煌一の目を真っすぐ見据えながら……

 

 

さくら「だから聞かせて?煌一お兄ちゃんは今……何をしたいの?」

 

 

煌一「…………」

 

 

何時もの雰囲気とは程遠い、真剣な表情で問い掛けるさくら。

 

 

それを聞いた煌一が朱焔と霧彦を見上げると、二人は何も語らずただ力強く頷き返した。

 

 

煌一「――俺は……」

 

 

テレビには、Dインフィニティ達が死に物狂いで奮闘する姿が映し出されている。

 

 

その姿に感化されるかの様に、煌一は瞳の奥底に決意を宿して立ち上がっていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻。ジェイルの研究所にある一室では、優矢が先程と変わらず沈んだ様子で自分の手の平を見つめていた。

 

 

優矢「……俺は一体、どうしたら……」

 

 

零達が部屋を出て行ってからもずっと悩み続けていたが、優矢の中で未だ答えは出なかった。

 

 

薫を止めたいと思う気持ち……

 

薫とは戦いたくない気持ち……

 

 

その二つの心が重なり、絡み合い……優矢は苦悩から抜け出せずにいた。

 

 

優矢「分かってる……動かなきゃ何も解決しないって事ぐらい……でもっ……」

 

 

脳裏に蘇るのは優しい顔で笑い、子供が笑ってくれるのが好きだという薫の笑顔。

 

 

それを考えると、痛むのだ。この手であの薫を殴る事を考えると。

 

 

人を殴るのは良い気分じゃない。最初の頃にグロンギと戦い拳を振るっていた時も、心の中は何時も穏やかではなかった。

 

 

それでもグロンギは人類の敵だから、倒さなければ罪のない人が殺されるから、綾瀬が笑ってくれるならと、そう自分に言い聞かせて戦ってきた。

 

 

今は零達との出会いや綾瀬の死を体験した事で、皆の笑顔の為に戦うと決めた。でも……

 

 

優矢「出来ねえよ……薫を殴るなんて……俺には……」

 

 

零が言っていた事も分かる、薫にこれ以上間違った道を歩ませたくないという気持ちは確かにある。

 

 

それでも友達を殴るなんて……そんな覚悟は自分にはない……

 

 

いつまでもグチグチと悩む自分に自己嫌悪しながらも、踏ん切りが付かないもどかしさから苛立ち、優矢は思わずベッドを殴り付けた。その時……

 

 

アヤメ「優矢?入るわよ」

 

 

部屋の外から声が響くと、扉がゆっくりと開きアヤメが部屋の中へ入ってきた。

 

 

優矢「あ、アヤメさん?」

 

 

アヤメ「様子見に来たわ。どう、調子は?」

 

 

優矢「え、あ、はい、一応大丈夫です。わざわざ来てもらってすみません……」

 

 

アヤメ「別にそんな畏まらなくても良いわよ。それに、貴方に伝えなきゃならない事もあったしね」

 

 

壁に寄り掛かって腕を組むアヤメ。優矢はそんな彼女の言葉に疑問符を浮かべるが、アヤメは真剣な目付きで話しを始めた。

 

 

アヤメ「さっきテレビで流れてたけど、零達がルルイエ島でヴァリアスの配下達と戦闘を開始したそうよ」

 

 

優矢「?!もしかして……薫も?」

 

 

アヤメ「居たわ。今頃零達と戦ってるでしょうね」

 

 

言葉を詰まらせる事なく、アヤメはハッキリと言い切った。それを聞いた優矢は唇を噛み締め、顔を俯かせてしまう。

 

 

アヤメ「どうするの?行かなくていいの?」

 

 

優矢「…………」

 

 

アヤメ「ま、無理に行けとは言わないわ。相手はグロンギとは言え貴方の友達……普通の高校生の喧嘩ならいざ知らず、友達と本気で殺し合うなんて出来るはずないものね……」

 

 

そんな戦いは零達のような熟練者ならともかく、ただの高校生でしかない優矢にはあまりにも酷だ。無理に行かなくていい。その言葉の誘惑に呑まれそうになるが、優矢は心の中で頭を振ってそれを退け、顔を俯かせたまま口を開いた。

 

 

優矢「アヤメさん……聞いてもいいですか?」

 

 

アヤメ「何かしら?」

 

 

優矢「その……もしもですけど……」

 

 

言葉が一瞬詰まる。それでも聞かずにはいられなかった優矢は、声を少し震わせながら語り出す。

 

 

優矢「もし煌一さんが……アルシェインに堕ちて人を襲うようになった時……アヤメさんならどうしますか……?」

 

 

アヤメ「…………」

 

 

もし煌一がアルシェインに堕ちたら。そう呟いた優矢にアヤメは無言のまま何も答えず、そんなアヤメから何かを感じ取った優矢は慌てて顔を上げた。

 

 

優矢「あ、す、すみません……いきなりこんなこと聞いて……」

 

 

アヤメ「ううん、別に構わないわ。そうね……私だったら……」

 

 

コツンと、アヤメは後頭部を壁に当てて天井を仰ぎ、少し唸って考える仕草を見せると……

 

 

アヤメ「――うん。やっぱり戦うと思う、こうちゃんを止める為に」

 

 

優矢「……煌一さんを傷付ける事になっても……ですか?」

 

 

アヤメ「えぇ」

 

 

迷う事なく、アヤメはその問いに頷き返した。

 

 

優矢「じゃあ、アヤメさんは平気なんですか?煌一さんを傷付ける事に、なにも感じないんですか?」

 

 

アヤメ「ううん、何もって訳じゃないわよ?こうちゃんを傷付けると思うと心が痛いし……そんな事したくないって思う……」

 

 

優矢「じゃあ……どうしてそんな簡単に……」

 

 

アヤメ「…………」

 

 

訝しげに問い掛ける優矢に対し、アヤメは天井を仰いだまま一度瞳を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

アヤメ「……確かに、こうちゃんを傷付けるのは痛いって思うよ。でもね?それよりもっと恐ろしいことがあるから、私は痛い思いをしてでもこうちゃんと戦うの……」

 

 

優矢「?もっと恐ろしい、こと?」

 

 

頭上に疑問符を浮かべて問い返すと、アヤメは「そう……」と頷きながら瞳を開き、切ない表情を浮かべた。

 

 

アヤメ「ただでさえ、今のこうちゃんは沢山の人達の命を奪ってその罪を背ってきてる……そんないつ潰れても可笑しくない状態で、もしアルシェインに堕ちて関係ない大勢の人達を殺してしまえば……こうちゃんは本当の意味で後戻りが出来なくなってしまう……」

 

 

優矢「……後戻り……出来なくなる……」

 

 

アヤメ「そう……私はそれが嫌だから、こうちゃんと戦うの……こうちゃんを傷付けて痛い思いをするより、こうちゃんが自分の罪に潰れて嘆く姿を見る方が、よっぽど痛いから……」

 

 

優矢「…………」

 

 

そう告げるアヤメの瞳には、強い決意と共に何処か深い哀しみが入り混じっている。それを見た優矢は一瞬息を拒むと、包帯が巻かれた自分の右手を見下ろした。

 

 

優矢(そうだ……もしこのまま、薫があんな事を繰り返して誰かの命を奪ったら……)

 

 

本当に後戻り出来なくなる。アヤメの言葉を思い出しぎゅうっと拳を握り締める優矢の脳裏に、ふともう一人の友人の言葉が蘇った。

 

 

 

 

 

―お前は、目の前で友達が間違ったことをしているのに、それを放っておくつもりか……?―

 

 

 

 

 

優矢(――そうだよな……ほっといていいわけねえよな……)

 

 

友達が間違った道を進んでいるのに、それを無視して良い訳がない。

 

 

これ以上罪を重ねていけば、薫はあの時のような優しい笑顔を失ってしまう。その方が何より恐ろしいと、優矢は先程まで迷っていた自分を恥ずかしく感じた。

 

 

薫の笑顔を守る。ひとつの決心を心に決めると、優矢は右手に巻いた包帯を取り払ってベッドから立ち上がり、そのまま部屋から出て行こうとする。

 

 

アヤメ「……いくの?」

 

 

優矢「はい」

 

 

アヤメ「傷付ける事になるわよ?貴方の友達を、貴方の心を……」

 

 

優矢「大丈夫です。確かに、アイツを殴るのは嫌だけど……」

 

 

ゆっくりとアヤメへと顔を向け、優矢はさっきまでとは違う迷いのない眼でこう告げた。

 

 

優矢「――アイツが笑顔を失う事の方が……もっと嫌だから」

 

 

頭に思い浮かぶのは、あの公園で自分達と一緒に笑い合っていた薫の笑顔。

 

 

薫は敵だったが、あの公園で見せた笑顔は紛れもない本物の笑顔だったと、優矢は心の何処かで核心している。

 

 

それを守る為に戦いに行くのだと、優矢は闘志の宿る瞳でアヤメを見つめ、それを見たアヤメは含み笑いを浮かべ優矢の隣に立った。

 

 

アヤメ「そういう事なら、貴方にアレを渡しても大丈夫そうね。付いてきなさい」

 

 

優矢「……え?」

 

 

アヤメは笑みを浮かべながらそう言ってそのまま部屋を出ていき、いきなり付いて来いと言われ呆然としていた優矢はそれを見ると、慌ててアヤメの後を追って部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

優矢「――あの、アヤメさん?何処まで行くんですか?」

 

 

アヤメの後を追い、部屋を出た優矢がやってきたのは研究所内のとある倉庫だった。倉庫の中央には何やらシートが被されたなにかがあり、アヤメは優矢の質問に答えずシートが被されたなにかへと近付いた。

 

 

優矢「?何ですか、ソレ?」

 

 

アヤメ「フフ、これはね?私達から貴方へのサプライズプレゼントよ♪」

 

 

優矢「……は?サプライ?」

 

 

自分達からのサプライズプレゼント。何処か楽しげに微笑むアヤメの言葉に優矢が訝しげに聞き返すと、アヤメは笑みを浮かべたままなにかに被されたシートを勢いよく取り払っていった。それは……

 

 

優矢「―――ッ?!これ、は……」

 

 

シートが取り払われて露わになったそれは、一台のバイクだった。

 

 

形状は先の戦いで薫に破壊されたトライチェイサーに似ているが、バイクカラーは全体的に黒く赤いラインが入っている。

 

 

優矢が嘗ての愛機を連想させるそのバイクを見て唖然となる中、アヤメは優矢の反応に満足げに頷きながら説明を始めた。

 

 

アヤメ「このマシンの名はビートチェイサー。薫との戦いで破壊された貴方のバイクを私の知り合いがディジョブドの世界にいる輝晶紲那達に届け、修理と改良を依頼して造ってもらった物よ」

 

 

優矢「……ビートチェイサー……」

 

 

アヤメの説明を聞きながら黒いマシン……ビートチェイサーのグリップを握っていく優矢。

 

 

アヤメ「貴方のマシンは、ゴウラムとの合体を繰り返した事で急激な金属疲労を起こしてたからね。彼処で壊されなかったとしても、どの道貴方のマシンは限界だった……こうちゃんもそれに気付いて、どうにか出来ないかって頭を悩ませてたわ」

 

 

優矢「……そうだったのか……ありがとうございます、アヤメさん」

 

 

アヤメ「お礼なら私じゃなくて、ソレを造った人達に言いなさい。その為にも、絶対に生きて帰るのよ?」

 

 

優矢「はい!」

 

 

アヤメの言葉に力強く頷き返すと、優矢はビートチェイサーの上に置かれたヘルメットを頭に被ってマシンに跨がりエンジンを掛け、アヤメはそれを見るとビートチェイサーの前方に歪みの壁を出現させた。

 

 

アヤメ「さて、じゃあ行くわよ?貴方のお友達の下へ!」

 

 

優矢「はいっ!」

 

 

アヤメは高らかな声を上げながら歪みの壁に向かって疾走し、優矢もビートチェイサーを走らせて歪みの壁に突っ込んでいく。そして二人は歪みの壁に呑まれ、そのまま何処かへと消えていったのであった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑫

 

 

 

―ルルイエ島・遺跡跡地―

 

 

そしてその頃、ルルイエ島の遺跡跡地ではライオルトルーパーの大群を撃退したDインフィニティ達がそれぞれの相手と激突し激しく奮闘していた。しかしそれぞれが戦う相手の圧倒的な力の前にDインフィニティ達は苦戦し、徐々に相手の勢いに飲み込まれつつあった。

 

 

『フンッ!』

 

 

―ドゴオォッ!バキッ!―

 

 

シュロウガ『グッ?!くっ……強すぎるっ……!』

 

 

イクサF『ッ!このままではジリ貧だっ……アズサ!一気に決めるぞッ!』

 

 

シュロウガ『ん!』

 

 

ダグバの圧倒的な戦闘力を前に、このまま正面から戦い続けても追い詰められるだけだと悟ったシュロウガとイクサFはダグバから一旦距離を離し、シュロウガは両肩と両腰にエネルギーを集束し、イクサFは左腰のフエッスルの中から銀色のフエッスルを取り出し、ベルトのバックル部に装填してイクサナックルを押し込むようにスライドさせた。

 

 

『I・X・S・K・N・U・C・K・L・E・R・I・S・E・U・P!』

 

 

電子音声が鳴り響くと同時にイクサFはバックルからイクサナックルを取り外してイクサナックルに膨大なエネルギーを溜めていき、そして……

 

 

『ハアァァァァァァァ……ハッ!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーンッ!!!―

 

 

『!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

シュロウガのトラジック・ジェノサイダーとイクサFのブロウクン・ファングがダグバに向けて発射され、二つの技を受けたダグバは巨大な爆発の中に呑まれていった。しかし……

 

 

 

 

 

 

―……ブザアァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『……ッ?!なッ?!』

 

 

突如爆炎の中から巨大な衝撃波が発生し、爆炎を吹き飛ばして辺りに拡散してしまったのだ。そして爆炎の向こうから徐々に姿を現していく異形……二人の渾身の一撃を受けた筈のダグバが無傷の状態で歩いて来る姿があった。

 

 

イクサF『馬鹿な…無傷だと?!』

 

 

『今のは中々効いたよ……でも、まだまだ甘いね』

 

 

―シュウゥゥ……ズガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ?!キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ダグバはそう言って手の平から巨大なエネルギー弾を無数に撃ち出してシュロウガとイクサFを狙い撃ち、二人は悲痛な悲鳴を上げながら爆発に飲み込まれ吹っ飛ばされてしまった。

 

 

Dインフィニティ『ッ?!アズサ?!木ノ花ッ!!』

 

 

バロン『クソッ!俺が行く!!』

 

 

ダグバに追い詰められるシュロウガとイクサFを見てバロンは今まで戦っていた歌舞鬼を力任せに押し退け、そのまま二人の助けに入ろうとダグバに向かって走り出した。だがそれを見た歌舞鬼はやれやれと溜め息を吐くと、鳴刀・音叉剣の刃を自分の影が映る地面に突き刺し……

 

 

歌舞鬼『―――羅刹の二十……影裂』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……バシャアァンッ!!!―

 

 

バロン『…ッ?!何ッ?!』

 

 

歌舞鬼が小さく呟くと同時に、音叉剣が突き刺さった歌舞鬼の影がバロンを囲むように伸びて地面を走り、影の中から突如黒い歌舞鬼が無数に現れバロンを包囲してしまったのだ。

 

 

そして黒い歌舞鬼達は刀の切っ先を一斉にバロンに向けていき、歌舞鬼もバロンの背後からゆっくりと近づいてきた。

 

 

歌舞鬼『テメェの相手は俺だろうが。他人の心配なんかしてる場合かァ?!』

 

 

バロン『チッ!ヤロウ!!』

 

 

歌舞鬼は怒号を飛ばしながら黒い歌舞鬼達と共に一斉にバロンへと飛び掛かり、バロンは思わず舌打ちしながら咄嗟にバロンアローを構えて歌舞鬼達に迎撃していくのだった。

 

 

Dインフィニティ『翔ッ?!』

 

 

メフィスト『ハッ!よそ見してる暇なんかねえぞッ!』

 

 

Dインフィニティ『チィッ!』

 

 

その一方で、メフィストと殴り合っていたDインフィニティは歌舞鬼達に苦戦するバロンを見て一瞬意識がそちらに向いてしまい、メフィストはその隙を突く様に拳を振りかざしてきた。Dインフィニティは何とかそれを受け流して上空へと飛翔し、メフィストに向けて両手から三日月型の光刃を無数に撃ち出していくが、メフィストはそれを真横に転回して軽々とかわしていってしまった。

 

 

Dインフィニティ『ッ?!避けた?この距離であの数を?!』

 

 

メフィスト『フッ、ハァッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

Dインフィニティ『なっ…―ドガアァァァァァァァァァァンッ!!―グアァァァァァァァァアッ?!』

 

 

メフィストはほくそ笑みながら態勢を立て直すと共に右手から紫色のエネルギー弾を打ち出し、空中で攻撃を避けられ驚愕するDインフィニティを撃ち落としてしまった。そして地上に叩き付けられたDインフィニティの下にバロン、シュロウガ、イクサFが地面を転がりながら吹っ飛ばされ、メフィストの下にも歌舞鬼とダグバがゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

歌舞鬼『やれやれ、ヴェクタスの奴を退けたぐらいだからどのくらい強いのかと期待してたんだが……まだこの程度か』

 

 

バロン『ぐっ……!ヴェクタス……だとっ……?』

 

 

Dインフィニティ(ッ!アイツ……やっぱり奴の仲間か……!)

 

 

メフィスト『これ以上続けても何もなさそうだな。そろそろ纏めて片付けてやるよ……紗耶香ッ!』

 

 

『―――えぇ……分かってます……』

 

 

メフィストがデモンゾーアを見上げて叫ぶと共にファウストの声が響き、デモンゾーアが倒れるDインフィニティ達に向けて口を開き膨大なエネルギーを集め、そして……

 

 

―ギュイィィィィィィ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『ッ!ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドゴオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッ!!!!―

 

 

デモンゾーアの口から発射された無数のエネルギーの槍がDインフィニティ達の頭上から降り注ぎ、四人はそれを受けて吹っ飛ばされ変身も強制解除されてしまった。

 

 

翔「ぐぁ…クソッ…!」

 

 

姫「グゥッ…!」

 

 

メフィスト『ほう?まだ動けるのか?案外しぶといんだな』

 

 

零「っ……当たり前だ……こっちは主役が来るまで、やられる訳にはいかないんだよっ……!」

 

 

不敵に笑うメフィストを見据えながらそう言って再び立ち上がろうと試みる零だが、腕が麻痺して上手く立ち上がる事が出来ず地面に倒れてしまう。メフィストはそんな零を鼻で笑うと、上空のデモンゾーアにアイコンタクトを送ってトドメを刺せと指示し、デモンゾーアはそれに応えるように再び口を開いてエネルギーを集束していく。

 

 

翔「ッ!おい、ヤベェぞっ……?!」

 

 

零(っ……まだなのか……アイツ等……!)

 

 

『貴方達には感謝してますよ、この力を手に入れる為に手助けしてくれたことには……ですから、私の手で直々に消してさしあげます!!』

 

 

徐々にデモンゾーアの口の中で巨大になっていくエネルギーの塊。零達はそれを見て何とか起き上がろうとするも、デモンゾーアはそれよりも早くエネルギーを溜め終え砲撃を撃ち出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――止めろッ!!!』

 

 

『……っ?!』

 

 

突如何処からか制止の叫びが響き渡った。その叫び声を聞いたデモンゾーアは思わず砲撃を中止し、一同がその声の主を探して辺りを見渡していると、零達の前に一人の人物が立ちはだかった。それは……

 

 

GEAR電童『…………』

 

 

零「ッ?!お前……」

 

 

『御薙……煌一っ……!』

 

 

そう、零達の目の前に現れたのは煌一が変身したGEAR電童だったのだ。目の前に立つGEAR電童を見た零達が呆然としていると、零達の背後から朱焔と霧彦が変身したレイサーとイルスが現れ零達の体を抱き起こしていき、GEAR電童はそれを確認すると憎悪の篭った瞳で睨みつけてくるデモンゾーアを見据えた。

 

 

『何しに来たのです……?わざわざ私に討たれに来たんですか?』

 

 

GEAR電童『違う。俺が此処に来たのはお前を……お前を救う為だ……』

 

 

『救う?可笑しな事を言いますね……私からすべてを奪った貴方が、今更私を何から救うと言うのです?!』

 

 

GEAR電童『それも違うっ!あの時、教会を襲ったのは俺じゃないっ!ヴァリアスだっ!お前は奴に騙されているんだっ!』

 

 

『戯れ事を!ヴァリアス様は私に力を与えてくださった方です!貴方に復讐する為の力をッ!!』

 

 

GEAR電童の言葉にも耳を傾けず、デモンゾーアは容赦なくGEAR電童に向けて口から無数のエネルギーの槍を撃ち出していった。だが、GEAR電童は何故かエネルギーの槍を避けるどころか身構えようともせず、そのまま無数のエネルギーの槍を身体で受け止めていった。

 

 

『ッ?!なっ…何…?』

 

 

GEAR電童『っ……』

 

 

防御も回避もせず、あんな化け物染みた威力の攻撃を身体で受け止めたGEAR電童に戸惑いを隠せないデモンゾーア。GEAR電童はそれに構わずふらついた足取りでデモンゾーアに近付こうと歩み出し、デモンゾーアも直ぐさま正気に戻り慌てて迎撃に入っていくが、GEAR電童はやはり防御も回避もせずエネルギー弾の雨の中を躊躇なく歩いていく。

 

 

『な、何を考えてるんですか?!貴方、頭が可笑しいんじゃ……?!』

 

 

GEAR電童『……可笑しくなんてない……言っただろ?俺はお前を救いに……取り戻しに来たんだっ!』

 

 

『な、何をっ……!』

 

 

強気な態度で叫ぶGEAR電童に戸惑いながらも、デモンゾーアは攻撃の手を止める事なくエネルギー弾を撃ち続ける。GEAR電童は肩や足にエネルギー弾がかすりながらも、足を止める事なく語り続ける。

 

 

GEAR電童『俺が許せないのならそれでも構わない……あの時、ヴァリアスに襲われていたお前を助けられなかった俺に、そんな権利はない……でももし……もし許されるなら……』

 

 

『何故……何故当たらないの?!これだけ撃っているのに?!』

 

 

GEAR電童の口から語られる言葉が一つ一つ心に染み渡る。デモンゾーアはそんな感覚に戸惑いながらもエネルギー弾を撃ち続けるが、どれもかすりはしてもGEAR電童に直撃しない。そしてGEAR電童はゆっくりと足を止め、真っすぐデモンゾーアを見据えながら……

 

 

GEAR電童『――もし許されるなら、もう一度チャンスをくれ……今度こそ絶対、お前を守ってみせる。もう二度と、お前を一人にはさせない!だからっ!!』

 

 

『っ……!』

 

 

真っすぐと、迷いのない目で自分の決意を口にしようとするGEAR電童。その言葉を聞いたデモンゾーアは思わず息を呑み、攻撃の手を止めた。その時……

 

 

 

 

 

 

メフィスト『惑わされるな紗耶香ッ!!』

 

 

GEAR電童『ッ?!―バキィッ!!―グッ?!』

 

 

『ッ?!』

 

 

レイサー『煌一?!』

 

 

不意を突くように真横から突如メフィストが乱入し、そのままGEAR電童を殴り飛ばしてしまったのだ。その様子を見た一同は驚愕し、メフィストは続け様にGEAR電童を殴り付けながらデモンゾーアに呼び掛ける。

 

 

メフィスト『忘れたのか紗耶香?!コイツはお前の居場所を!お前の仲間を殺した男だぞ?!お前は仲間の仇を討つ為に、その力を手に入れたんじゃなかったのか?!』

 

 

『ッ!そうだ……私は皆の……皆の仇を……』

 

 

イルス『マズイ?!朱焔君!』

 

 

レイサー『分かってる!』

 

 

メフィストの言葉に感化され徐々にGEAR電童に対しての憎悪が蘇り始めるデモンゾーア。それを見たイルスとレイサーは直ぐにメフィストをGEAR電童から引き離そうと駆け出すが、二人の前に歌舞鬼とダグバが立ち塞がり邪魔をしてしまう。

 

 

メフィスト『今度こそ守ってみせる?二度と一人にはしないだと?死に損ないの裏切り者が、笑わせるなっ!!』

 

 

―シュババババババババババババァッ!!―

 

 

GEAR電童『グッ!グアァァァァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

レイサー『煌一ッ?!―ガギィンッ!―グアッ?!』

 

 

イルス『ウアッ?!』

 

 

メフィストは至近距離から複数のエネルギー弾を撃ち出し、GEAR電童はその衝撃で煌一へと戻りながら後方に吹っ飛ばされてしまい、レイサーとイルスも歌舞鬼とダグバに殴り飛ばされてしまう。そしてメフィストは侮蔑の篭った目で煌一を睨み付けながら、ゆっくりと歩み寄っていく。

 

 

メフィスト『今更お前が誰かの為に戦えるわけがないだろう?大勢の命を奪い、醜い自分の正体を隠し、その手を鮮血に染め上げたお前がアイツを救えると、本気でそう思ってるのか?』

 

 

煌一「っ……」

 

 

メフィスト『出来る筈ないよなぁ?人殺しのお前が、化け物のお前が!誰かとの絆を築くなんてことがそもそも間違いなんだよ!お前もコイツ等と同じ、疎まれるべき存在なんだからなぁ!』

 

 

メフィストが高らかに叫ぶと共にメフィストの周りにアルシェイン達が何処からともなく現れた。それを見た煌一も必死に身体を起こそうとし、その間にもアルシェイン達は煌一にトドメを刺すべく動き出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――間違っているのは……お前の方だ……」

 

 

メフィスト『……何?』

 

 

倒れていた零がゆっくりと起き上がって立ち上がり、メフィストを見据えながらそう答えた。それを聞いたメフィスト達は動きを止め、零の方へと振り返った。

 

 

メフィスト『何が間違いだと言うんだ?コイツは大勢の人間の命を勝手な理屈で奪ってきた男だ。コイツ等と何も変わらない、ただの殺戮者なんだよ!』

 

 

零「それが間違いだと言ってるんだ…その男は、何の覚悟や理由も無しに誰かの命を奪うような男じゃない…俺達じゃ想像も出来ないような覚悟を、罪を、決意を背負って戦ってきたんだ!殺した人間の大切な人達に怨まれながらも、哀しみを広げない為に、悲劇を繰り返さない為に!」

 

 

メフィスト『ハッ、結局は同じ事だ。どんなに言い分を並べても、コイツの行いが哀しみを生み出してる事に変わりはない』

 

 

零「それでもソイツは信じてる。例え誰かに間違っていると思われても、自分の行いの先に、大切な人達が笑い合う未来があると……だから今この瞬間も戦ってるんだ。彼処にいる女も、その大切な人の一人だからな……そうだろう?」

 

 

そう言って零が倒れる煌一に視線を向けると、煌一は瞳の奥に決意を宿しながら頷き、ゆっくりと起き上がって零の隣に立った。

 

 

メフィスト『戯れ事を……今更お前達だけで何ができ―ブオォォォォォォォォォォォオンッ!!―…ッ?!』

 

 

馬鹿にするように鼻で笑うメフィストの言葉を遮るように、突如その場に轟音と言えるバイク音が聞こえ、一同がその方向を向くと、その向こう側から新たなマシンを駆って向かってくる人物……優矢とアヤメが駆け付ける姿があった。

 

 

『ッ!優矢……』

 

 

優矢「…………」

 

 

ダグバは駆け付けた優矢を見て目を鋭くさせ、優矢も一度ダグバを見るとビートチェイサーから降りアヤメと共に零達の下に歩き寄っていく。

 

 

零「…やっと来たか…」

 

 

優矢「ああ。ワリィ、待たせちまって」

 

 

翔「っ……覚悟は決まったのか……?」

 

 

優矢「はい。俺も、自分のやるべき事が何なのか……やっと分かりましたから」

 

 

アズサや姫と共に身体を起こす翔の問いに力強く頷き返す優矢。そう告げる目には一切の迷いがなく、それに気付いた零達は何も言わずただ頷き、それぞれ変身ツールを装着しメフィスト達と向き合っていく。

 

 

メフィスト『チッ、何なんだ…お前一体何者だ?!』

 

 

零「通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ!」

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Change!Gear Dendou!』

 

『GATE UP!BARON!』

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

『READY!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

『KAMENRIDE:G-END!』

 

 

重なる電子音声と共に零達はディケイド、GEAR電童、クウガ、バロン、アンジュルグ、イクサF、ジエンドに変身し、レイサーとイルスも一同と肩を並べてそれぞれ武器を構えていく。

 

 

メフィスト『……いいだろう。そんなに悪あがきしたいのなら、こっちも徹底的に叩き潰してやるよ』

 

 

冷たい声でそう言いながらメフィストは右腕にかぎ爪状のクローを装備したアームドメフィストを身に付け、歌舞鬼とダグバもメフィストの隣に立って身構えていく。そしてディケイドもライドブッカーをSモードに切り替え刃を撫でると、GEAR電童達と共にメフィスト達へと突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑬

 

 

レイサー『セイヤッ!』

 

 

イルス『フッ!』

 

 

バロンP『ダアァッ!』

 

 

―ズバアァッ!ガギンッ!グガアンッ!―

 

 

歌舞鬼『チッ?!コイツ等っ!』

 

 

レイサーとイルス、そしてフェニックスフォームへと姿を変えたバロンはそれぞれ剣を振りかざして歌舞鬼へと攻撃していく。対する歌舞鬼も音叉剣を使い何とか斬撃を防御するも、反撃する余裕がなく舌打ちしていた。それを見たアンジュルグとイクサFは即座に歌舞鬼の背後に周りそれぞれ必殺技の発射準備に入っていく。

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

『I・X・S・K・N・U・C・K・L・E・R・I・S・E・U・P!』

 

 

二つの電子音声が響くと共にアンジュルグはイリュージョンアローを展開して矢をつがわせていき、イクサFもイクサナックルをバックルから取り外して膨大なエネルギーを溜めていく。そして……

 

 

アンジュルグ『いけ…ファントム・フェニックス!!』

 

 

イクサF『文字通り、噛み付けぇッ!!』

 

 

―シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

歌舞鬼『!』

 

 

二人のフルパワーの必殺技が、歌舞鬼の背中目掛けて撃ち出された。だがそれに気付いた歌舞鬼は咄嗟にその場から転移して必殺技を回避してしまい、バロン達から十メートル離れた先に再び姿を現した。

 

 

アンジュルグ『ッ!かわされた……?!』

 

 

バロンP『チィ!だったらコイツだ!来い!アヴァンシェルッ!!』

 

 

レイサー『霧彦!俺達もいくぞッ!』

 

 

イルス『えぇ!』

 

 

『シンメトリカルフォーメンションッ!!』

 

 

バロンが高らかに叫びながら右手を頭上に掲げると、バロンの右手に何処からか一本の日本刀……バロンの愛剣である幻想剣アヴァンシェルが出現しバロンの手に握られた。そしてレイサーとイルスが互いの両腕を組みながら叫ぶと共に二人の体が紅と蒼の光と化し、二つの光が一つに合わさると光の中から左半身が紅、右半身が蒼を特徴としたライダーが姿を現した。

 

 

歌舞鬼『ッ!アレは…?!』

 

 

アンジュルグ『?合体……した?』

 

 

イクサF『ほおう、これは正に男のロマンだな♪』

 

 

レイサーとイルスが合体した戦士……『コリュウ』を見たライダー達がそれぞれ感想を漏らす中、バロンは右手に握ったアヴァンシェルを両手で構えて刃に炎、水、雷、風、氷、地、光、闇の八つの属性を集束していき、コリュウは両手を大きく広げて氷、焔、雷、風の属性を纏った四つのエネルギー状の龍を生み出していく。

 

 

歌舞鬼『チッ……!羅刹の四十一――』

 

 

必殺技の発射態勢に入ったバロンとコリュウを見た歌舞鬼は直感的に何かを感じ取ってすぐさま左腕を前に突き出し、手の平から黒いエネルギー球を生み出していく。そして……

 

 

バロンP『エレメンタル、クラアァァァァァァァァァァァァッシュウッ!!!』

 

 

コリュウ『必殺!!マキシマムトウロンッ!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

歌舞鬼『――轟砲ッ!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

バロンとコリュウは同時に八つの属性を宿した巨大な斬撃波と四つの龍達を放ち、歌舞鬼は黒いエネルギー球をもう片方の手で殴り付けて漆黒の砲撃を撃ち出した。そして双方の必殺技は中心でけたたましい轟音を響かせながら激突し、大きく膨れ上がった瞬間……

 

 

 

 

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

――凄まじい爆音と逆光が辺りに広がり、同時に発生した爆煙がライダー達の姿を覆い隠していったのだった。

 

 

クウガRM『ハァッ!ダァッ!』

 

 

ジエンド『フンッ!ハッ!』

 

 

―バキッ!ドガァッ!ズダダダダダダダダダダダダダダダンッ!!―

 

 

『クッ!』

 

 

そしてその一方、ダグバはライジングマイティフォームへと姿を変えたクウガの鋭い打撃技と、ジエンドの援護射撃を前に若干押されつつあった。遠近両用のコンビネーションを前に不利だと感じたダグバはクウガの拳をかわしながら後方へと跳び、二人を真っ直ぐ見据えていく。

 

 

『驚いたね。さっき戦った時とはまるで全然違う……何が其処まで君を強くしたんだい?』

 

 

クウガRM『そんなの決まってるだろ……俺も、覚悟を決めたからだ』

 

 

『覚悟……そっか……漸くその気になったって訳だね?僕を倒す覚悟を『違う!』……何?』

 

 

何かを悟ったような笑みをこぼしながら言葉を語ろうとするダグバだが、それはクウガの叫びによって遮られ、クウガは首を横に振りながらダグバに向けて口を開いた。

 

 

クウガRM『俺が戦うのは、お前を倒す為なんかじゃない!お前を……お前の笑顔を守る為だ!』

 

 

『笑顔を守る……だって?』

 

 

クウガRM『そうだ……薫、お前本当は、こんなことしたくないんじゃないのか?誰かを傷付けるような真似はしたくないんじゃないのか?!』

 

 

『…………』

 

 

身を乗り出し、仮面の奥で真剣な表情を浮かべながら問いかけるクウガ。ダグバはその問いに対して答えず無言になり、クウガは更に続けて言葉を放つ。

 

 

クウガRM『子供が好きだって言うのも、嘘じゃないんだろう?!じゃなきゃあの時、身を呈してあの親子を守る筈がない!』

 

 

『…………』

 

 

クウガRM『薫、俺と一緒に来い!お前はそんなところにいちゃいけない!お前みたいな優しい奴が、誰かを傷付けるような事をしちゃいけないんだ!だからっ!』

 

 

だから一緒に来いと、クウガは必死に説得するように呼び掛けながらダグバに手を差し出した。それを見たダグバは少し顔を俯けると、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。

 

 

『――優矢……残念だけどそれは出来ない……僕は君とは行けないんだよ……』

 

 

クウガRM『ッ!なんでだよ?!だって…!』

 

 

『確かに、出来るなら僕も誰かを傷付けるような真似はしたくないし…君とこうして戦いたくもない…』

 

 

クウガRM『なら?!』

 

 

『でもね……僕も決めたんだよ。例えそれが僕の意思に反する事でも、彼が望むならどんな事もするって』

 

 

クウガRM『……?彼?』

 

 

彼の為ならどんな事でもする。迷いのない口調でそう告げたダグバにクウガは思わず聞き返すと、ダグバは目を鋭くさせながら言葉を紡いだ。

 

 

『そう……全てを失った僕に手を差し延べて救ってくれた彼……ヴェクタスの為に戦うとね』

 

 

クウガRM『ッ?!ヴェクタス……だって……?』

 

 

ヴェクタス、その名前には聞き覚えがある。確かキャンセラーの世界で零を追い詰めて力を暴走させ、フェイトを死の一歩手前まで追いやり、更に佐知や祐輔の世界のヴィヴィオをさらい最後は零と祐輔に倒されたライダーの名だ。

 

 

クウガRM『ど、どういうことだよ……アイツがお前を救ったって……?!』

 

 

『そのままの意味さ。僕は彼に救われた……だから僕は彼の為に戦うと誓ったんだ。そんな彼を裏切るような真似は、僕には出来ない!!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

クウガRM『?!消え―バキイィッ!!―ウアァッ?!』

 

 

ジエンド『ッ!優矢?!』

 

 

怒号と共にクウガの視界からダグバの姿が突如消えたと思いきや、ダグバは一瞬でクウガの目の前に現れてクウガを勢い良く殴り付け吹っ飛ばしてしまった。クウガはそのまま地面を何度も転がって倒れてしまい、ダグバはそんなクウガを見下ろしながら口を開いた。

 

 

『君の言う通り、僕は子供が好きだし、本当ならあの子達から笑顔を奪うような事をしたくない……でも、それが彼の望みだと言うなら、僕は自分の意思を捨ててでも戦う……』

 

 

クウガRM『っ…駄目だ薫…そんな戦いなんてしちゃ駄目だ…それじゃお前が…!』

 

 

『もう遅いよ……君と僕が歩む道は根本的に違う……君は皆の笑顔を守る為に戦う、僕は皆から笑顔を奪う為に戦う……分かるだろ?僕と君が分かり合う事なんて、絶対にないんだッ!』

 

 

自分達が分かり合うことなんて絶対にない。断言するように告げると共にダグバは地面を蹴ってクウガへと飛び出した。クウガもそれを見てすぐに起き上がって拳を構え、ジエンドも攻撃を止めさせようとジエンドライバーの銃口をダグバの背中に定めた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダンッ!!!―

 

 

『…なッ?!』

 

 

クウガRM『な、何だ?!』

 

 

一同がそれぞれ激しく激突する中、突如上空から無数のエネルギー弾が降り注ぎクウガやバロン達の周囲に着弾し爆発していったのだ。それを見た一同は驚愕の表情を浮かべ、それが撃たれてきた上空を見上げた。其処には……

 

 

 

 

 

 

『ギュアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!!』

 

 

クウガRM『なっ……』

 

 

バロンP『何だよ、アレ?!』

 

 

上空を見上げた一同の目に映ったのは、彼方からこちらに向かってくる異形達の姿があったのだ。その数は普通では考えられないような大群であり、クウガ達がそれを見て唖然となる中、歌舞鬼は異形達を見て目を鋭くさせた。

 

 

歌舞鬼『(スペースビースト?あんな大群、誰が放って……まあいい……ひとまず此処はアレに任せるか)……白金、退くぞ』

 

 

『……分かった』

 

 

空から向かって来る異形達……スペースビースト達を見た歌舞鬼はアレにこの場を任せようとダグバに呼びかけ、ダグバもそれに頷くと歌舞鬼の下へ走り出し、背後に歪みの壁を出現させた。

 

 

クウガRM『ッ?!待てっ!行くな薫っ!!』

 

 

『…………』

 

 

歪みの壁を出現させたダグバを見て直ぐさまダグバに走り出すクウガ。ダグバは一度クウガの方へと振り向いて顔を俯かせると、そのまま歌舞鬼と共に歪みの壁へ飛び込み何処かへと消えていってしまった。

 

 

クウガRM『薫っ……クッ、クソォッ!!』

 

 

ジエンド『ッ!優矢、今は目の前の敵に集中しなさい!来るわよッ!』

 

 

クウガRM『っ……!』

 

 

何処かへと消えてしまったダグバを見て悔しげに叫ぶクウガだが、焦りの篭ったジエンドの声を聞いてすぐに空を見上げた。其処には既にスペースビースト達がこちらに向かって急降下しており、クウガ達はそれを迎撃しようと咄嗟に身構えた。その時……

 

 

 

 

 

 

―ドシュウンッ!―

 

 

『ギュアァッ?!』

 

 

バロンP『ッ?!この銃撃は……!』

 

 

突然クウガ達に襲い掛かろうてしたスペースビーストの一体に銃弾が撃ち込まれスペースビーストが吹っ飛ばされ、クウガ達が銃弾が発射された方を見ると……

 

 

 

 

 

 

大輝「……どうやら、パーティーに間に合ったようだね」

 

 

亮介「ま、ギリギリだけどな」

 

 

クウガRM『ッ?!海道さん?!』

 

 

ジエンド『亮介!』

 

 

そう、其処にいたのはボロボロの姿でディエンドライバーを構える大輝と、大輝の救援に向かった亮介だったのだ。

 

 

ジエンド『二人とも、無事だったのね……!』

 

 

大輝「まあね……でも本当に危ない所だったよ。彼が来てくれなきゃ、今頃出血多量で死んでただろうし」

 

 

亮介「ま、正確にはコイツ見付けたのは俺じゃなくてあの白いオッサンなんだけど……つか、あのオッサン何処行ったんだ?コイツ助け出したら急にどっか行っちまったけど……」

 

 

大輝「さあね……まあ取りあえず、アレをどうにかしないとお宝を手に入る隙もないし、不本意だけどやりますか……」

 

 

そう言って大輝はズボンのポケットからディエンドのカードを取り出してディエンドライバーにセットし、亮介も腰にベルトを巻いてパスを取り出した。そして……

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

『Blood Form!』

 

 

それぞれ変身動作を行うと大輝はディエンド、亮介は零王へと変身した。そして零王は両腰のレイオウガッシャーを組み立てて剣に変えていき、ディエンドもイクサFに視線を向けて口を開いた。

 

 

ディエンド『桜ノ神!君は零達の所に行きたまえ!あのダークライダーとデモンゾーアが相手では、君の力が必要になる!』

 

 

イクサF『ッ!わ、分かった!』

 

 

零達の下へ急げと、イクサFはそう告げたディエンドの言葉に頷き返すと直ぐに変身を解除し零達の下へと走り出した。ディエンドもそれを確認すると左腰のホルダーから二枚のカードを取り出し、バロンもバックル部のデッキからカードを一枚抜き取り、それぞれのドライバーとバックルへとセット&スラッシュさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:HORUSU!SEIGA!』

 

『KAMENRIDE:RYUKI!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

電子音声と共にディエンドがドライバーの引き金を引くとディエンドの前で無数の残像が駆け巡り、残像がそれぞれ二カ所で重なると一つは鷹が変身するライダーと同じホルス、もう一つは錬次が変身するのと同じセイガとなっていった。

 

 

そしてバロンの前でも無数の残像が出現して一カ所で重なると龍騎となり、二人は再び二枚ずつカードを取り出しドライバーとバックルにセット&スラッシュさせていく。

 

 

『FINALFORMRIDE:HO・HO・HO・HORUSU!SE・SE・SEIGA!』

 

『FINALFORMRIDE:KU・KU・KU・KUUGA!RY・RY・RY・RYUKI!』

 

 

ディエンド『痛みは一瞬だ』

 

 

―ドシュウンッ!―

 

 

『ウグッ?!』

 

 

バロンP『優矢、ちょっとくすぐったいぞ?』

 

 

クウガRM『へ?ま、まさか―ドンッ!―ウアァッ?!』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドがホルスとセイガに発砲すると、ホルスはホルスデストロイド、セイガはセイガドラグーンへと超絶変形し、バロンも続けざまにクウガと龍騎の背中を押すと龍騎はリュウキドラグレッター、クウガは身体の所々に金の装甲を身に付けたライジングゴウラムへと超絶変形し、一斉に空へと飛翔してスペースビースト達と戦闘を開始していった。

 

 

ディエンド『これで大方の敵は何とかなるだろう……後は、地上に降下した敵を抑えるぐらいかな?』

 

 

零王『うんにゃ、初音島へ向かおうとする奴の対処も必要だろ。そっちは其処のカウボーイライダーと天使ちゃんに任せてもいいかい?』

 

 

バロンP『カ、カウボーイライダーって俺か?まあ別にいいけど……アズサ、行くぞ!』

 

 

『SHINRYUU FORM!』

 

 

アンジュルグ『ん…分かった……』

 

 

バロンは零王に奇妙なアダ名で呼ばれて一瞬戸惑いながらもすぐに気を取り直して神龍フォームへ変わり、初音島に向かおうとする敵を討伐する為にアンジュルグと共に上空へと飛び上がっていった。

 

 

そして島に残ったディエンド達は地上に下りたスペースビーストを撃退する為、それぞれ武器を構えて地上のスペースビースト達へと向かっていくのであった。

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑭

 

 

スペースビーストの突然の来襲により戦場が混雑し始めた中、少し離れた場所ではディケイドとメフィストが二度目の激戦を繰り広げていた。互いの攻防が激しくなりつつある中、ディケイドはメフィストから距離を離しながらライドブッカーをGモードに切り替え、バックルへとカードを一枚装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガァッ!!―

 

 

メフィスト『そんな攻撃がっ!』

 

 

ライドブッカーから高速で撃ち出される乱射にメフィストは鼻で笑いながら真上へと跳んでそれを回避し、そのまま右腕のアームドメフィストを構えてディケイドへと飛び掛かった。だがディケイドは咄嗟に身体を唸って攻撃を回避するとメフィストの右腕を脇で挟んで動きを封じ、そのままライドブッカーからカードを一枚取り出しバックルへと装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:SLASH!』

 

 

―シュイィン!ガギィンッ!ガギィンッ!―

 

 

メフィスト『グウゥッ?!』

 

 

電子音声と共にディケイドはライドブッカーを即座にSモードに切り替えながらメフィストを突き飛ばし、態勢を崩したメフィストを斬り裂いていった。そしてディケイドの斬撃を受けたメフィストは後方へと吹っ飛ばされ、斬撃を喰らった胸を抑えながら起き上がり殺気の篭ったディケイドを睨みつけていく。

 

 

メフィスト『ちぃ……中々やるようになったじゃないか?』

 

 

ディケイド『あぁ、さっきの戦いでお前の戦法は大体掴めたからな。さっきは遅れを取ったが、今度はさっきのようにはいかんぞッ!』

 

 

メフィスト『ハッ!言ってくれるじゃないかッ!』

 

 

互いに笑いながら叫ぶと共にディケイドとメフィストは双方同時に飛び出し中心地点で激突し、無数の火花を散らせながら激しく武器をぶつけ合っていった。だがその時……

 

 

姫「零ッ!」

 

 

ディケイド『……っ?!!木ノ花?!―ドガァッ!―グッ?!』

 

 

先程までバロン達と戦っていた筈の姫がその場に駆け付け、ディケイドはいきなり現れた姫に驚き一瞬そちらに意識を向けてしまったのだ。メフィストはその隙を逃さずディケイドの腹を殴り、ディケイドを姫の下まで吹っ飛ばしていってしまう。

 

 

姫「ッ?!零!しっかりしろ!大丈夫か?!」

 

 

ディケイド『グゥッ…問題ない…それよりお前、何で此処に?翔達は?」

 

 

姫「彼等なら大丈夫だ、あっちの方には今大輝達が付いてくれてる」

 

 

ディケイド『?海道が?』

 

 

何でアイツがこんな所に?と一瞬疑問を感じたディケイドだが、遺跡での戦いの時にエルクシード争奪戦に参加していた時の事を思い出し、そういう事かと納得しながらメフィストを見据えた。

 

 

ディケイド『ま、アイツと翔がいるなら向こうは心配ないか。咲夜、アマテラスで一気に決めるぞ!』

 

 

姫「あぁ、無論だ!」

 

 

ディケイドの言葉に頷くと共に姫は自分の身体を桜色の光球へと変化させ、そのまま宙を飛び回ってディケイドの体へと入り込み一体化し、そして……

 

 

『AMATERAS!DECADE!』

 

 

バックルから高らかな電子音声が響くと共に、ディケイドの周りに変身時にも現れる九つの桜色をした残像が出現した。

 

 

そして残像が全てディケイドに重なっていくと、ディケイドの姿が光に包まれながら変化し、背中から三対の白い羽根が生え、光が止むとディケイドはアマテラスフォームへと変わっていったのだった。

 

 

更にディケイドはすぐさま懐から一本のメモリースティック……決戦前にアヤメから渡されたティガメモリを出し、ボタン部分を人差し指で教えていった。

 

 

『TIGA!』

 

 

メフィスト『ッ?!それは?!』

 

 

ディケイドA『お前とこれ以上遊んでる隙もないんでな、コイツで一気に決めさせてもらうッ!』

 

 

ティガメモリを見て思わず身構えるメフィストに啖呵を切りながら、ディケイドは取り出したティガメモリをドライバーの左スロットへと装填し……

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

再度バックルから高らかな電子音声が響き渡り、光が煌めくようなメロディーと共にディケイドの姿が変化して―――

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドA『…………』

 

 

咲夜『…………』

 

 

メフィスト『…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドA『………………………………おう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

――しなかった。メモリを装填して確かに電子音声が発声されたにも関わらず、ディケイドの姿は先程と変わらず何処も変わっていなかったのであった……

 

 

メフィスト『……おい、何も起きないぞ?』

 

 

ディケイドA『あ……う?……ちょっと待っとけ!』

 

 

怪訝そうに問い掛けてきたメフィストに向けて指差しながら待つように叫ぶと、ディケイドは慌ててディケイドライバーからメモリを抜き取って再度スロットに装填した。

 

 

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

ディケイドA『…………』

 

 

 

 

……が、変わらず反応無し。なのでもう一度メモリを抜き取り……

 

 

 

 

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

『TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!TIGA!』

 

 

『TIGA!DECADE!』

 

 

 

 

 

 

ディケイドA『…………』

 

 

咲夜『…………』

 

 

メフィスト『…………』

 

 

 

 

 

 

何度も何度もメモリを差し込んでは抜き、差し込んでは抜きを繰り返し、遂にはメモリをぶっ壊わしてしまうんじゃないかというほど連ボタンしてからドライバーのスロットへと装填するも……やはり何も起きなかった。

 

 

ディケイドA『…………』

 

 

メフィスト『…………』

 

 

ディケイドとメフィストの間に気まずい空気が流れ、二人の間で寂しい風がクルリと回りながら吹いて何処かへと去っていく。そしてディケイドはドライバーにメモリを刺したままポリポリと頬を掻き、メフィストの方へと振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイドA『……あの……今のくだり無しって事にしてもらっていいか……?』

 

 

メフィスト『ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!』

 

 

ですよねぇー、とディケイドと咲夜は珍しく心の中でハモった。そんなふざけてるようにしか見えない態度にメフィストも痺れを切らしてディケイドに向かって襲い掛かり、ディケイドもメモリの事で半ば困惑気味になりながらもそれを受け流し反撃していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その一方、デモンゾーアと戦闘を開始したGEAR電童は……

 

 

GEAR電童『ユニコーンドリル!ファイナルアタックッ!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥーーーーーーッッ!!!―

 

 

右腕に装備したドリルの一角を持ったユニコーン……レオサークルと同じDW(データウェポン)であるユニコーンドリルの角から巨大なエネルギーの渦を生み出し、デモンゾーアに向けて発射していた。だが……

 

 

―……バシュウゥッ!!―

 

 

GEAR電童『ッ?!やっぱりダメか…!』

 

 

GEAR電童の放った渾身の必殺技はデモンゾーアに直撃こそするが、必殺技はそのままデモンゾーアに吸収され無効化されてしまったのだ。先程からレオサークルを使ったFAや単独技を繰り出しているものの、どれも今のように吸収されるか跳ね返られるだけだった。更に繰り返し必殺技を使い続けたせいで電池パックも残り一つしかなく、打つ手がないGEAR電童は窮地に立たされていた。だが……

 

 

 

 

『私……そう、御薙煌一は憎むべき敵…倒すべき敵…なのにっ……』

 

 

 

 

デモンゾーアの頭部では、先程煌一に言われた言葉で心を揺さ振られ戸惑うファウストの姿がある。そんな彼女の姿を見たGEAR電童は決して希望を捨てる事なく、デモンゾーアの口から発射される光弾を避けながらファウストに呼び掛けた。

 

 

GEAR電童『グッ!もう止せ紗耶香!これ以上エルクシードの力を使うんじゃない!デモンゾーアを止めるんだ!』

 

 

『ッ?!だ、誰が貴方の言葉なんかっ……!』

 

 

GEAR電童『これ以上デモンゾーアの力を行使すれば、闇の力に飲まれて戻れなくなるんだ!そうなる前に止まってくれッ!』

 

 

『私に指図しないでっ!!貴方は…貴方は私の仲間を殺したの!!私の居場所を壊したの!!貴方は…貴方は…!!』

 

 

GEAR電童『紗耶香ッ!!―ズガガガガガガガァァァァァァァァァァアンッ!!―グアァッ?!』

 

 

その言葉はGEAR電童に投げ掛けているというよりも、まるで決意が揺らいでいる自分に言い聞かせているように聞こえる。そう思ったGEAR電童はなんとかデモンゾーアに接近しようとするが、デモンゾーアが口から放った光弾が直撃し吹っ飛ばされてしまった。しかし……

 

 

GEAR電童『っ……ぐっ……ぐぅっ……!』

 

 

『ッ?!な、なんで…なんでまだ動けるの…?』

 

 

GEAR電童はアーマーの至る所が崩れ落ちてボロボロになり、仮面の半分が半壊し流血する煌一の素顔が見えても、それでもまだ起き上がろうとしていた。

 

 

何故動ける?何が其処まで彼を突き動かす?それが分からないファウストはただただ震える瞳でGEAR電童の姿を捉え、GEAR電童はおもむろに身体を起こしながらそんなファウストを見上げた。

 

 

GEAR電童『っ……お願いだ紗耶香……俺はお前を……お前まで失いたくないんだっ……』

 

 

『―――あ……』

 

 

仮面の奥に見える煌一の頬を伝うのは……一筋の涙。それを見たファウストは思わず息を拒み、GEAR電童はふらつきながら立ち上がり、覚束ない足取りでデモンゾーアへ歩み寄っていく。

 

 

GEAR電童『分かってる…こんな言葉…今更言ったって遅すぎるかもしれない…何を今更って、思うかもしれない…でももし…もしまだ間に合うなら…まだ届くのならっ……』

 

 

『あ……ぁ……』

 

 

GEAR電童『お願いだ、紗耶香…もう一度…もう一度だけでいい……俺を……俺を信じてくれっ…!!』

 

 

『……煌一……さん……』

 

 

涙を流すその瞳に宿るのは、嘘偽りのない真摯。その瞳を見たファウストは身体から力が抜け落ちるような感覚がし、胸の奥に押し殺していた思いが再び溢れ出ようとした。だが……

 

 

 

 

 

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

 

 

『ッ?!な、キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

GEAR電童『紗耶香ッ?!』

 

 

ファウストが戦意喪失になり掛けたその時、突然デモンゾーアが巨大な叫び声を上げ、なんとファウストを頭の中に飲み込んでいってしまったのだ。GEAR電童はそれを見て思わず身を乗り出すが、ファウストを飲み込んだデモンゾーアは闇の中から無数の触手を伸ばし、GEAR電童へと襲い掛っていく。

 

 

GEAR電童『グゥッ!(どういう事だ?!何故デモンゾーアがいきなり紗耶香を……もしかして、紗耶香の心に光が蘇り始めたから?ならまさか、紗耶香から完全に光を奪うつもりか?!)』

 

 

デモンゾーアという異形は完全なる闇の存在だ。その力を行使する人間も、完全に身も心も闇に染まっていなければならない。

 

 

少しでも心に光が残っていれば、例えエルクシードを使って封印を解く事は出来ても支配下に置く事は出来ない。

 

 

無論それはデモンゾーアを支配下に置いた後も例外ではなく、もしデモンゾーアの力を行使する中で心に光が戻れば、デモンゾーアを従える事は出来なくなって暴走する。闇でも光の存在でもない半端な人間が簡単に扱える力ではない、今の紗耶香がソレだ。

 

 

このままでは、身も心も闇に染まり切れてない人間が闇に染まり切った人間にしか使えないデモンゾーアを使うという矛盾を晴らす為、デモンゾーアが主である紗耶香の心から光を完全に奪おうとする。

 

 

そうなれば紗耶香は……

 

 

GEAR電童『(本当に…戻れなくなってしまう!)……紗耶香!返事をしてくれ!紗耶香ッ!!』

 

 

最悪の未来を想像したGEAR電童は大声で紗耶香の名を叫び続けるが、デモンゾーアはそんなGEAR電童を寄せ付けまい口から無数の光弾を発射して容赦ない攻撃を浴びせていく。そして……

 

 

 

 

―ボゴ……ボゴボゴボゴッ……―

 

 

咲夜『……っ?!零、アレを見ろ!』

 

 

ディケイドA『グウゥッ!……?アレは?』

 

 

離れた場所でファウストと組み合っていたディケイドに咲夜が何処か焦った様子で呼び掛け、ディケイドは咲夜が指した場所に視線を向けた。其処には地中の中を潜って背後からGEAR電童に静かに近づくナニカの姿があり、GEAR電童は攻撃の回避と紗耶香に呼びかけることに必死で気づいている様子はない。

 

 

ディケイドA『ッ!煌一!逃げろッ!』

 

 

GEAR電童『……え?―ボゴォッ!―ッ?!』

 

 

忍び寄るナニカの存在に気付いたディケイドが慌ててGEAR電童に呼び掛けるが、時既に遅く、地中に潜んでいたナニカは地中から姿を現してGEAR電童へと襲い掛かっていった。そして地中から現れたナニカ……デモンゾーアが放った無数の触手はGEAR電童を捕えようとするが……

 

 

 

 

 

 

 

―ドンッ!シュルルッ……ガシィッ!!―

 

 

ディケイドA『グウゥッ!ガアァァァァァアッ!!』

 

 

GEAR電童『な、零ッ?!』

 

 

触手がGEAR電童を捕えようとした瞬間、ディケイドが全速力でGEAR電童へと突っ込んで横から突き飛ばし、そのままGEAR電童の代わりに触手に捕われてしまったのだ。ディケイドは手足や首を締め付けられて動きを封じられてしまい、デモンゾーアはそんなディケイドを見据えながら口に強大なエネルギーを溜め、そして……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥ……ドシュウゥゥゥゥゥゥゥウーーーーッ!!―

 

 

ディケイドA『ッ?!!!なっ……ぁ……』

 

 

GEAR電童『ッ?!れ、零ィ!!』

 

 

デモンゾーアは口に溜めたエネルギーを紫色の光線に変換して撃ち出し、触手に捕われたディケイドの胸を貫通していったのだった。そして光線で胸を貫かれたディケイドは触手から解放されてそのまま倒れ、それでも何とかふらつきながら立ち上がろうとするが……突如ディケイドの体が足元から石になり始めた。

 

 

ディケイドA『ッ?!これ……はっ……?!』

 

 

咲夜『石化能力?!いや、違う……私達の……光……が……奪われっ……』

 

 

下半身が完全に石となり、更に石化はそのまま進行が止まることなく胸の上まで広がっていく。それと同時に複眼から徐々に光が失われ、石化から抗う術を持たないディケイドは、まるで何から逃れるように必死に空に右手を伸ばし……

 

 

 

 

 

 

GEAR電童『―――れ……い……?』

 

 

 

 

 

 

………後に残されたのは、空に向かって必死に右手を伸ばし、光を全て奪われて石像と化したディケイドだけであった……

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑮(前編)

 

 

―ルルイエ島・上空―

 

 

その頃、上空ではスペースビースト達と戦っているバロンとアンジュルグが苦戦を強いられていた。最初の頃はバロンとアンジュルグの必殺技の連発で順調に数を減らせていたのだが、スペースビースト達がデモンゾーアから放たれる闇に当てられて身体能力や知能が驚くほど強化され、今では二人の技を見切り逆に押し返し始めていたのだ。

 

 

『ギュオォォォォォォォッ!!』

 

 

バロン神龍『クソッ!チョロチョロ動き回りやがって!少しはジッとしてろってんだ!』

 

 

ST『落ち着け相棒!冷静さを失ったら思うツボだ!』

 

 

アンジュルグ『ッ!でも、あっちもまだ数を増やしてきてる…このままじゃ押し切られて…!』

 

 

アンジュルグの言う通り、スペースビーストの群れはまだまだ数を増やし目の前から迫ってきている。このままではいつか初音島への進行を許してしまう。内心そう考えて焦りを浮かべながらも、二人は諦めることなくスペースビースト達へと迎撃していった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そして同じ頃、島の地上で同じくスペースビーストの群れを迎え撃っていたディエンド達もあまりの大群に数で圧され、徐々に追い込まれつつあった。

 

 

―ザシュウッ!ズバァッ!ズシャアァッ!―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァアッ?!』

 

 

零王『この!いい加減!うぜぇんだよ!お前等ぁ!』

 

 

ジエンド『飛ばしすぎよ亮介!ペースを落として!』

 

 

零王『んな事言ったって、コイツ等ウジャウジャ出てきてキリがねえよ!』

 

 

ディエンド『確かに、このままじゃジリ貧だね……』

 

 

コウリュウ『まだだっ…まだ諦めるわけにはいかない!此処で俺達が倒れれば、世界はデモンゾーアの闇で覆い尽くされてしまうっ!』

 

 

それが意味するのは、この世界に住む全ての人々の命が消えるという事。それを必ず阻止する為にも、一同は体力が消費しつつも武器を構え直してスペースビーストの群れへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、島の奥ではボロボロのGEAR電童がメフィストと一体一の激闘を繰り広げていた。その端には石化したディケイド、上空ではデモンゾーアが天に向かって雄叫びを上げ、世界を闇で覆い尽くそうと闇を広げて始めていた。

 

 

―バキッ!ガキィッ!ズガアァァァァァァアッ!―

 

 

GEAR電童『グァッ!グッ!フゥッ…フゥッ…!』

 

 

メフィスト『ククッ…いい加減諦めたらどうだ?最早デモンゾーアを止めることなど出来やしない。まして一人残った貴様だけに、何が出来る?』

 

 

GEAR電童『まだだっ…俺は諦めない!デモンゾーアや貴様に…この世界も純一達も…零達も…紗耶香もやらせやしない!その為に俺は此処まで来たんだッ!』

 

 

決して億する事なく、GEAR電童はボロボロの身体でメフィストに向けて身構えていく。メフィストはそんなGEAR電童を馬鹿にするように鼻で笑い、右腕のアームドメフィストを構えてGEAR電童へと襲い掛かっていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

零「…………っ…………ぅ…………あ…………?」

 

 

その頃、暗闇に包まれたとある空間。一筋の光すらも射さない何処かその場所で、何故か俯せに倒れていた零が重たい瞼を開いて目を覚ましていた。

 

 

零「っ…何だ…何が起きたんだ…?」

 

 

目覚めたばかりで若干意識が混乱し、零は何が起きているのか分からず額を押さえながら頭を何度か左右に振るって身体を起こすと、ふと自分の周りを囲む何かの存在に気付いた。

 

 

零「…?何だ…これは…」

 

 

零が辺りを見回して目にしたのは、まるで自分を閉じ込めるかのように周りに張られた透明なクリスタル。一見檻のように見えるそれを目にした零は訝しげな顔を浮かべ、周りに張られたクリスタルを睨みつけた。

 

 

零「なんだ一体…何がどうなって―コツンッ―……ん?」

 

 

状況がまるっきり飲み込めない零が立ち上がろうと足を動かした時、不意に足のつま先が何かに当たった。零がそれに気付いて足元に目を向けると……其処にはグッタリとした様子で俯せに倒れる姫の姿があった。

 

 

零「ッ?!咲夜?!おいしっかりしろ!咲夜!」

 

 

姫「……っ……ぅ……零……か……?」

 

 

慌てて姫の体を抱き抱えて必死に呼び掛ける零の声でゆっくりと瞼を開き、漸く意識を取り戻した姫。零はそれを見てひとまず安堵の表情を浮かべるが、すぐに険しい表情に変わって周りのクリスタルを見上げた。

 

 

零「くそっ…一体何なんだ此処?俺達はどうなったんだ…?」

 

 

姫「っ…此処は…おそらく…私達の精神の中なのかもしれない…」

 

 

零「?俺達の…精神?」

 

 

この空間は自分達の精神の中。目を動かしてクリスタルの中を見回した姫の言葉に零は訝しげな表情になり、姫は苦しげに顔を歪めながらクリスタルの天井を見上げた。

 

 

姫「覚えてるだろ…?私達はあの時煌一を庇い…あの怪物の光に貫かれて…」

 

 

零「あぁ、確か石になったハズだよな…?」

 

 

姫「そう…此処にいる私達は、恐らく僅かに残された自我…このクリスタルは…その私達を閉じ込めてる為の檻のような物なのだろう…多分、私達を永遠に石のままにする為に…」

 

 

ようは、このクリスタルの檻が邪魔をして外の世界に出られないということか。呼吸も途切れ途切れの様子で説明してくれた姫の話を頭の中で簡潔に纏めると、零はとにかく此処から出る方法を考えなければと思考を瞬時に切り替えて辺りを見渡した。

 

 

零「クソッ…だがどうやって此処から出ればいいんだ…咲夜、お前の力でどうにかならないのか?」

 

 

姫「…生憎…今はちょっと無理そうだな…どうやらさっき奴にやられた時に、力の大半を奪われたらしくて…」

 

 

苦しそうに眉を寄せながらそう呟くと、姫は気怠げに右手の手の平へと視線を落とした。すると其処には、姫の右手の指先から桜色の神氣が漏れ出て消えていく様子があり、零はそれを目にして驚愕の表情を浮かべた。

 

 

零「咲夜、お前ッ?!」

 

 

姫「…力を殆ど持っていかれたせいで…存在を留めておくのが手一杯になってしまってな…しかもこのクリスタルは、私の力の回復を妨害してるらしい…此処から出る為に使う力も…もう残ってない…」

 

 

零「ッ!クソッ!」

 

 

自嘲するように笑う姫の顔を見て、零は思わず毒づき目の前を睨みつけた。其処には自分達を阻むように張られたクリスタルの檻が存在し、零は唇を噛み締めながら必死に頭で考える。

 

 

零(どうするッ?!このままだと外の世界の煌一達も、咲夜の身も危険だっ…何かこの状況を打破する方法は…!)

 

 

必死に思考を巡らませる中、零はふと自分の左目に手を当てた。その目にあるのは破壊の因子。総てを破壊する悪魔の力……

 

 

零(コイツの力を使えば…或いは…いや駄目だ…これ以上コイツを使う訳には…!)

 

 

確かにこの力を使えさえすれば、此処から抜け出す事も不可能ではないかもしれない。だが零は、正直もうこの力を使いたくはなかった。

 

 

アズサの救出やフォーティンブラスとの戦いで二度もこの力を行使し、そのどちらも命を落としかけた事で危うく暴走し掛けた。

 

 

更に先の幻魔達との戦いの中で、因子の力が左目だけではなく右目にまで宿り出したのだ。

 

 

あの戦いの後でそのことに気付いた時、なにか物凄く嫌な予感がした。

 

 

これ以上この力を使えば、何か"取り返しの付かない事"が起きそうな、そんな予感が……

 

 

零(っ…どうするっ…一体どうすれば…!)

 

 

目の前にはクリスタルの檻、腕の中には力を奪われて瀕死状態の姫、そして外の世界には今もデモンゾーアと戦い続ける煌一達がいる。

 

 

このままではどちらも危ないと、零は刻一刻と決断を迫られ思わず拳を握り締めていった……

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑮(後編)

 

 

―風見学園・体育館―

 

 

ルルイエ島から発生した闇は既に初音島にまで流れ、初音島の交通機関や各種通信設備などは全て使用不能となっていた。海はデモンゾーア出現に伴い大荒れの状態になって船も出せず、島の外へ逃げることも出来なくなった島の人々は島の至る所にある映画館やホテルといった場所に避難していた。

 

 

そしてその避難所の一つである此処、風見学園の体育館内にもざっと百人以上の人達が避難してきており、それぞれ携帯や小型テレビで現在も生中継されているルルイエ島のライダー達とデモンゾーアの戦いを静かに見守る中、朝倉兄弟もまたその中にいた。

 

 

音夢「兄さん…大丈夫ですか…?もし寒かったら私の毛布も…」

 

 

純一「俺の事なら心配ねえさ…それにしても…ホントに大変な事になっちまったな…」

 

 

首を回して周りを見れば、体育館内は既に大勢の人で埋もれている。体育の授業や昼休みなどで何時も見る体育館と違って重たい空気が流れ、まるで此処が自分の知らない場所のように思えた。音夢は不安げな目で純一を見上げると、両手で包んだホットコーヒーを強く握った。

 

 

音夢「私達…これからどうなっちゃうんでしょうか…もしかしたらこのまま…」

 

 

純一「な、何言ってんだ…大丈夫だって…だって今ルルイエ島じゃ煌一さん達が戦ってんだ。きっとあんな化け物、すぐにぶっ倒して「それは少し難しいかもしれんぞ」……え?」

 

 

不安がる音夢を励まそうとする純一の言葉を遮る様に、背後から突然青年の声が響き渡った。それを聞いた純一が後ろへ振り返ると、其処には純一の悪友である青年……杉並が歩み寄ってくる姿があった。

 

 

純一「す、杉並?お前もこっちに避難して…ってか、今のってどういう意味だよ?」

 

 

杉並「無論そのままの意味だ、My同志朝倉よ…そら、これを見ろ」

 

 

いきなり姿を現した杉並の登場に驚く純一を他所に、杉並は至って深刻な表情のまま持参した小型テレビを朝倉兄妹の目の前に置いた。テレビ画面には他の人々が見ているのと同じ、ルルイエ島の様子がニュースで生中継されており、其処には必死にスペースビーストの群れを食い止めるライダー達と、メフィストの猛攻に追い込まれるボロボロのGEAR電童の姿があった。

 

 

純一「ッ!これって…煌一さん?!」

 

 

音夢「そんな…あの煌一さんが…こんなボロボロに…」

 

 

杉並「それだけではない。こちら(初音島)へ向かおうとする怪物達を食い止めるライダー達も数に圧倒されており…更に、ライダーが一人やられたそうだ…」

 

 

その説明と同時に、テレビ画面が不意に移り変わった。其処にはデモンゾーアの前に敗れて石化という無惨な姿に成り果てたディケイドの姿が映し出されており、それが余計に二人の心に絶望感を与えた。

 

 

杉並「最早、この島が攻め込まれるのも時間の問題だろう…船は海が荒れているせいで出す事が出来ず何処にも…いや、今は世界中にもこの闇が広がってるらしいからな…何処へ逃げても同じかもしれん…」

 

 

音夢「そんな……」

 

 

「……もう……終わりだ……」

 

 

暗い体育館の中で、誰かがボソリとそう言った。純一達はそちらを振り返るが、誰が言ったか分からない。だが所々から、同じような声が幾つも聞こえてくる。

 

 

「もう終わりなんだ…俺達みんな死ぬんだよっ…」

 

 

「仮面ライダーが勝てない相手なんか……もうどうしようもないよ……」

 

 

「人間の敵う相手じゃない……人間なんかが……」

 

 

純一「…………」

 

 

聞こえてくる声は、どれも絶望に染まったものばかりだった。あんな化け物に敵うはずがない、この世界はもう終わりなんだと。弱々しい声を上げる町の人々の言葉を耳に、純一達も何も言えず暗い表情で俯いてしまう。その時……

 

 

 

 

 

 

「――まだ…負けてないもん…」

 

 

音夢「……え……?」

 

 

暗い闇の中から、幼い声が響き渡った。純一達がその声を辿って顔を向けると、其処には母親の傍らで毛布を肩に羽織った幼い男の子が、強い瞳で小型テレビに映るライダー達を見守っていた。

 

 

「負けないよ…僕は前に、あの青い仮面ライダー達に助けてもらったんだ…だから…絶対に負けない…」

 

 

「いや、でも……」

 

 

「放っておけ…所詮子供の戯言だ……「果たしてそうかしら?」……え?」

 

 

闇の向こうから、また別の声が聞こえてきた。自然と何人かの人々が顔を上げてその声が響いてきた方へと振り向くと、其処には体育館の入り口前に立つ一人の人物……脇で絞った半袖のTシャツにボロボロのジーンズ、黒い革製のロングコートという格好をした女性、ユリカ・アルテスタが悠然と立っていた。

 

 

ユリカ「確かに現状は絶望的よ…世界は闇に包まれ、唯一あの怪物に対抗出来る彼等も疲弊して危険な状態だし…ライダーも一人やられたわ……」

 

 

「っ……そうだよ…だからもうっ……」

 

 

改めて今の現状を突き付けられ、人々は絶望の影を落として俯いてしまう。だが……

 

 

ユリカ「確かに諦めたくもなる……くじけたくもなるわよね……けど、此処で諦めて良い訳がない……全てに絶望して、希望を捨ててしまっていい訳ではないわ……」

 

 

純一「……え?」

 

 

その言葉に、純一は思わず顔を上げた。ユリカはそのまま人々の間を歩いて先程の男の子の目の前に立ち、ゆっくりと膝を折って目線を合わせ、男の子の頭の上に右手を置いた。

 

 

ユリカ「こんな小さな子供だって、勝利をまだ信じているのよ?それなのに、何もせずに終わってしまって言い訳がない」

 

 

「…だけど…私達に出来ることなんて…」

 

 

ユリカ「いいえ…あるわ…貴方達に出来る…貴方達にしか出来ないことが」

 

 

純一「……それって、一体……?」

 

 

思わず、純一は無意識の内に声を出して問い掛けていた。その問いを受けたユリカはゆっくりと立ち上がり、瞼を伏せながら語り出した。

 

 

ユリカ「信じる事よ…最後まで希望を捨てず…彼等の勝利を強く、信じ続ける事…」

 

 

「…信じ…続ける…」

 

 

ユリカ「そう…彼等は貴方達が諦めさえしなければ…希望を持ち続けてさえいれば…何度だって立ち上がる事が出来る…何故ならそれが――」

 

 

閉じた瞼を開き、強い意思の篭った瞳で島の人々を見つめ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユリカ「――それが彼等……『仮面ライダー』なのだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……っ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、絶望で下を向いていた人々が次々と顔を上げていく。

 

 

再びテレビの映像を見つめれば、其処にはボロボロに追い詰められながらも、決して諦めない彼等の姿がある。

 

 

何度傷を負わされようとも、島の人々を守る為に戦い続ける、彼等の姿が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……がん……ばれ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を見つめる誰かが、そう呟いた。

 

 

「がんばれ……仮面ライダー……!」

 

 

今度はハッキリと紡がれた、彼等に対する声援。

 

 

それを口火に切るように、人々も画面の向こうに映る彼等に向けて叫び出した。

 

 

「頑張れっ……頑張って!仮面ライダーッ!!」

 

 

「お願いっ…負けないでっ!!」

 

 

「勝てる……アンタ達なら、絶対に勝てるッ!!」

 

 

「諦めないでっ!!」

 

 

「仮面ライダーッ!!!」

 

 

音夢「煌一さん…皆さん…!」

 

 

純一「そうだよっ…アンタはこんなことで負ける人間じゃない!だってアンタは、仮面ライダーじゃないか!!」

 

 

杉並「…そうだったな…俺が知る貴方は、どんな絶望にも負けない強い人だった…!!」

 

 

気が付けば、全員がテレビや携帯を手に一斉に立ち上がっていた。

 

 

先程までの絶望感がまるで嘘のように……いや、その絶望を打ち払うだけの力が、まだ彼等の中に残っていたのだ。

 

 

今自分達だけにしか出来ない、必死に戦う彼等に精一杯の思いを伝えるために。

 

 

絶望や恐怖に挫けぬ希望を胸に、自らの足で再び立ち上がり、彼等は叫び続ける。

 

 

全てを滅ぼす闇を前に戦う、戦士達に向けて……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―桜公園―

 

 

巨大な枯れない桜の木。空は既に漆黒の闇に覆い尽くされ、黒い風が桜の木の枝を大きく揺さ振っている。そんな場所に三つの人影…さくら、カリム、シャッハの三人が、まるで神に祈るように手を組んで立つ姿があった。

 

 

さくら「煌一お兄ちゃん…皆っ…」

 

 

カリム「零…翔さん…」

 

 

シャッハ「アズサさん…姫さんっ…」

 

 

枯れない桜に背を向けて、強烈な風を正面から受けながらも、戦地で戦う彼等に向けて祈る三人。

 

 

余り外に長居すれば、いずれデモンゾーアの闇に当てられて即死するか、ライダー達の防衛を抜けたスペースビーストに喰われるかのどちらかしかない。

 

 

だがそれでも、彼女達はただジッと家で待つ事が出来なかった。大切な人達が戦ってる中で、自分達だけが安全な場所にいるなんて、我慢出来なかったのだ。

 

 

さくら「お願い…お婆ちゃん…煌一お兄ちゃん達を…守ってあげてっ…」

 

 

枯れない桜は闇に当てられたせいで、魔力を奪われて願いを叶えるだけの力が残されていない。

 

 

しかしそれでも、彼女達は自然とこの場所に足を運び、こうしてただ祈り続けていた。

 

 

今自分達が出来る事を……精一杯やる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……な……で……』

 

 

さくら「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『負け……いで……!』

 

 

『がん…れ……!』

 

 

カリム「これ、は……?」

 

 

シャッハ「声……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精一杯祈り続ける彼女達の耳に、ふと微かな声が聞こえたのは。

 

 

まるで風の音のように聞こえてくる一つ一つのそれに、三人は思わず辺りを見渡す。

 

 

その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『頑張って仮面ライダーッ!!』

 

 

『仮面ライダーッ!!』

 

 

『負けないでッ!!』

 

 

『頑張れーーッ!!』

 

 

シャッハ「ッ?!これは…!」

 

 

さくら「島の……皆の……皆の声だ……!」

 

 

 

 

今度はハッキリと聞こえた、沢山の声……。

 

 

それはこの島を愛する人々の声。

 

 

絶望の闇を前に希望をなくしていた彼等が、再び立ち上がり、彼女達と同じように戦地で戦う彼等に対する声援だったのだ。

 

 

『お願い立って!もう一度立ち上がってっ!』

 

 

『僕達も諦めない!だから、貴方達も諦めないで!』

 

 

数々の声を聞く度に、三人の顔にも自然と笑顔が浮かび上がる。

 

 

まだ諦めていない……彼等の勝利を信じてくれている人達が、まだこんなにもいるのだと……

 

 

数々の声援を耳に、彼女達は互いに顔を見合わせ、頷き合い、再び手を組んで祈る。

 

 

彼等と共に、戦士達へ声を届ける為に……

 

 

 

 

 

 

 

『負けるなっ!負けないでくれ仮面ライダーッ!』

 

 

『仮面ライダーッ!!』

 

 

シャッハ「翔さん…アズサさん…姫さん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 いつかは届く きっと 

 

 

 

 

 

 

 

『頑張れ!頑張れッ!』

 

 

『アンタ達なら勝てるッ!アンタ達は、仮面ライダーなんだからッ!』

 

 

『負けないでッ!』

 

 

 

 

 

 

 

    僕らの声が   

 

 

 

 

 

 

 

『俺達も希望を捨てない!最後まで諦めないッ!』

 

 

『私達も付いてます!だからお願い!勝ってッ!』

 

 

『仮面ライダーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 世界を 変えてゆける 

 

 

 

 

 

 

 

『絶対に負けたりしない!だってアンタ達は、俺達の希望なんだ!』

 

 

『だからお願い!負けないで仮面ライダーっ!』

 

 

カリム「皆さん…零…!!」

 

 

 

 

 

 

 

  時代を越えて――  

 

 

 

 

 

 

 

さくら「――負けないで……仮面ライダーっ……」

 

 

 

 

 

 

 

初音島の人々の思いが……希望が……願いが……光となって集い合う……

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥ……シュパアァァァァァァッ……!!―

 

 

カリム「ッ?!な、なに…?」

 

 

さくら「桜、が…?」

 

 

 

 

 

 

 

最早力を失い掛けていた筈の桜に、無数の光が集い、再び輝き出す。

 

 

花びらの一枚一枚が黄金の光でコーティングされ、さくらも今まで見た事がない美しい輝きを放つ桜。

 

 

そのあまりの美しさに三人が思わず目を奪われる中、桜の木が大きく揺れ動き、金色の光を乗せた優しい風が桜の木から放たれ、再び桜から輝きが失われた。

 

 

だが、金色の風は消える事なく、ルルイエ島に向けて流れていく。

 

 

それはまるで…島の人々の思いを…彼等へと運ぶかのように……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

姫「ぅ……ぁ……!」

 

 

零「おいっ、おいしっかりしろ咲夜!おいッ!」

 

 

精神世界に閉じ込められてしまった零は、腕の中に抱いた姫に向けて必死に声を荒げていた。何故なら今の姫は、自分の存在を維持するだけの力もほとんど失い掛け、全身から桜色の粒子が溢れ出し今にも消えそうになっていたからだ。

 

 

零(っ!どうするっ…どうしたらいい!このままだと咲夜がっ…!)

 

 

最早一刻の猶予もない。このまま此処にいては、姫は自分の身体を維持する事が出来ず消滅してしまう。

 

 

零(っ……もう…使うしかないっ…!)

 

 

残された手段は、この悪魔の力を使いこのクリスタルを破壊することだけ。今の彼女を救うには、最早この手段しかない。

 

 

決断を迫られた零は唇を噛み締め、心の中で決意し、因子を解放しようと左目のレンズにゆっくりと手を掛けた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……シュパアァァァァァァァァァァァァアッ……―

 

 

零「……え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如闇の向こうから、まばゆく暖かな金色の光が溢れ出し、零達が閉じ込められたクリスタルを包み込んでいったのだ。

 

 

零はそれを見て思わず手を止め、呆然と闇の向こうの光を見つめた。

 

 

其処に見えたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダーっ!』

 

 

『頑張れ!頑張ってッ!』

 

 

『負けないで!仮面ライダーッ!』

 

 

『仮面ライダーッ!!!』

 

 

零「…………ぁ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――其処に見えたのは、光と共に駆け寄ってくる、島の人々の姿……

 

 

諦めるな、負けるなと……必死に自分達に声援を送る……彼等の声だった……

 

 

零「……あれ…は……光?……人の……思い……?」

 

 

あの光が何なのか、何故か自然と理解出来た。

 

 

辺りを包み込んでいた闇が、彼等の光で次第に照らされていく。

 

 

それと共に、半ば心の中で諦め掛けていた零の中で何かが再び沸き上がり、光と共に駆け付けてくる彼等に向けて手を翳した。

 

 

その瞬間、それに呼応するかのように零の腰に巻かれていたディケイドライバーとティガメモリが突然金色に輝き出し、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GLITTER!DECADE!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高らかな電子音声と共に、ベルトから黄金の光が溢れ出し、その瞬間、まばゆい光が全てを包み込んだ……

 

 

 

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑯(前編)

 

 

 

―シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

 

 

 

GEAR電童『ッ?!これは?!』

 

 

メフィスト『な、なんだ?!この光は?!』

 

 

初音島の方角から現れた、無数の黄金の光を乗せた風。それは石像と化したディケイドの腰に巻かれたディケイドライバーへと次々と集まり、全ての光がドライバーに集まると同時にディケイドの身体から光の柱が発生し、ディケイドの体が黄金の輝きに包み込まれていったのだ。その光景に先程まで戦っていたGEAR電童とメフィストも戦いを止めて驚愕を露わにし、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

『GLITTER!DECADE!』

 

 

―シュウゥゥ……バシュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!!!―

 

 

『グウゥッ?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

光の中から電子音声が響き渡り、それと同時に黄金の光が辺りに広がって徐々に消えていった。そして光が消え去ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………』

 

 

 

 

 

 

GEAR電童『ッ?!零……なのか……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が完全に晴れた先には、石化した筈のディケイドが悠然と佇んでいた。しかしその姿は先程までと違い、全身が金色の光に包まれ、背中の羽根も大きく外側に展開された姿……初音島の人々の光を得た事で蘇った『ディケイド・グリッターアマテラスフォーム』へと姿を変えていたのであった。

 

 

『グウゥ……ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!』

 

 

上空のデモンゾーアも復活したディケイドを見て警戒しているのか、世界すらも揺るがせるような叫び声を上げていく。だがディケイドはそれに億する事なく、力強い目でデモンゾーアを見上げながら両腕を外回りに回転させて右腕の籠手に光を集め、そして……

 

 

『ハアァァァァァァッ……セヤアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ドシュウゥッ!!!!!ドグオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!―

 

 

『ッ?!!!ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

メフィスト『ッ?!なっ?!』

 

 

GEAR電童『と、通った…?デモンゾーアにダメージが?!』

 

 

ディケイドがデモンゾーアに向けて勢いよく右腕を突き出した瞬間、ディケイドの右腕から放たれた金色の螺旋状の光がデモンゾーアに直撃しダメージを与えていったのだ。光の直撃を受けたデモンゾーアが苦しみ叫ぶ中、ディケイドは再び外回りに両腕を回転させて両足に光を溜め……

 

 

『フッ!!ハアァッ!!!デヤアァァッ!!!』

 

 

―バシュウゥッ!!!!ドシュウゥッ!!!!ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

デモンゾーアに向けて右足を振り上げ、更にそのまま回し蹴りを放って螺旋状の光を二度撃ち出し、デモンゾーアに再びダメージを与えていったのだった。

 

 

メフィスト『ば、馬鹿な…有り得ない!!あのデモンゾーアは闇そのもの!!あの怪物にはいかなる武器も通じない筈なのに、何故っ?!』

 

 

GEAR電童『―――光?島の皆の思いが、光になって力に……いいや違う……あれは……!』

 

 

ディケイドとデモンゾーアの戦いを見つめ、GEAR電童は何かに気が付いたように声を上げた。ディケイドは光で苦しむデモンゾーアを見据えながらドライバーから金色に輝くティガメモリ……グリッターメモリを抜き取り、ライドブッカーのスロットへ装填していく。

 

 

『GLITTER!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

GEAR電童『あれは…島の皆の思いを力にしてるんじゃない…』

 

 

スロットからの電子音声と、GEAR電童の声が重なる。そして――――

 

 

 

 

 

 

GEAR電童『…戦ってるんだ…アイツ等は島の皆の思いと…"一緒に"…!』

 

 

 

 

 

 

――ディケイドと……ディケイドの内に宿る『初音島の人々の思い』は共に拳を作った両腕を肘を曲げながら腰の後ろへ下げ、前方で交差するように突き出す。そして両腕を左右に大きく開き、それに伴い光の閃光が走り、そして……

 

 

 

 

 

『ハアァァァァァァッ……ハアアァァッ!!!!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!―

 

 

『ッッ?!!!!ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!!!!』

 

 

―トガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!―

 

 

 

 

 

両腕をL字に組み、ディケイド達が放った金色の光線……グリッターアマテラスフォームの必殺技の一つであるグリッターゼペリオン光線がデモンゾーアの頭部に直撃し、デモンゾーアは致命的なダメージを受けて悲痛な悲鳴を上げていったのだった。だが……

 

 

『グ、グルルルルゥッ……』

 

 

GEAR電童『ッ!チッ、まだ倒れないのかッ?!』

 

 

ディケイド達の必殺技は確かに致命的なダメージを与えたものの、デモンゾーアを完全に消滅させるには至らなかったのだ。それを見たディケイドはゆっくりと構えを解き、ライドブッカーのスロットに装填されたグリッターメモリを抜き取り、再びスロットへと装填した。

 

 

『GLITTER!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥ……バシュウゥッ!!!!―

 

 

再び電子音声が響くと共にディケイドの羽根に黄金の光が集い、金の波動を放ちながら大きく展開される。そしてディケイドも両手を広げ、漆黒の闇に包まれた空を仰ぎ、そして……

 

 

 

 

 

 

『――グリッター!オーバーリンクッ!!!!』

 

 

―シュウゥ……ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

……無数の声が重なり合って響き渡り、それと同時にディケイドの体から黄金のオーラが発生し辺りを包み込んでいったのだ。そして黄金のオーラは徐々に光りを広げてGEAR電童、デモンゾーア、メフィスト、ディエンド達、スペースビーストの群れを飲み込み、最後にはルルイエ島そのものを包み込んでいったのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

煌一「――――……?此処……は……?」

 

 

光に包まれたとある空間。まばゆい輝きだけが辺りに広がるその場所の中心地点に、煌一は何故か一人だけ立っていた。

 

 

煌一「……どうして俺……確かあの時、光に包み込まれた筈……此処は一体……?」

 

 

自分の身に起きた出来事を一つ一つ思い出していく中で、何故自分が此処にいるのか理解出来ず困惑してしまう。そんな時……

 

 

 

 

 

 

『――此処はね?人の思いと思いが繋がり合って始めて出来る場所……人との繋がりを感じ取る事が出来る世界なんだよ』

 

 

煌一「……え?」

 

 

 

 

 

 

不意に、背後から優しげな声で誰かがそう語り掛けた。それを聞いた煌一が背後へと振り返ると、其処には一人の人物……銀髪の長髪を靡かせる少女が、いつの間にか腰の後ろに両手を回して立っていたのだ。

 

 

煌一「アンタ……は……?」

 

 

『久しぶりだね?キャンセラーの世界以来……じゃないか……あの時は声だけだったし、貴方は彼とは違う別世界の存在だしね』

 

 

煌一「?何を言って……というより、アンタは何者だ?」

 

 

『うーん……詳しいことはまだ言えないけど……取りあえず、貴方の敵じゃないって事は確か。それだけは信じて?』

 

 

煌一「…………」

 

 

苦笑気味にそう告げる少女からは、敵意のような物は感じられない。煌一はそれを確認すると警戒を解いて楽になり、少女の顔を見つめながら口を開いた。

 

 

煌一「アンタが敵じゃないってことは、まあ分かった……だが、アンタがさっき言っていた人との繋がりを感じ取る事が出来る世界というのは、どういう事だ?」

 

 

先程少女が言っていた言葉を思い出し、怪訝な口調で少女にそう問い掛ける煌一。そしてその問いを受けた少女は、煌一から光で包まれたこの世界へと視線を移しながら語り出す。

 

 

『貴方はさっき、あの光に包み込まれた……その時、貴方の意識は此処へ飛ばされてきたの。人々の思いという名の光が集い、繋がり合って作られた、この世界へ……』

 

 

煌一「……思いという名の……光……」

 

 

少女の口から紡がれる言葉を耳にし、光という単語を聞いた煌一は複雑な表情で自分の手を見下ろした。

 

 

煌一「何か……羨ましいな、そういうの……」

 

 

『……羨ましい?』

 

 

煌一「あぁ……光なんて、今の俺にはもう手を伸ばしても手に入らない物だからな……」

 

 

『…………』

 

 

煌一「理由があったとはいえ、俺は数え切れない命をこの手で奪ってきたんだ……それに俺の中には、二体のアルシェインがいる……契約の為とはいえ、俺は自ら闇に染まった者だ……光なんて、俺にはもうどんなに願っても『ホントにそうかな?』……え?」

 

 

煌一の言葉を遮るように、少女が瞳を伏せながら声を出した。煌一がそれを聞いて顔を上げると、少女は僅かに瞼を開いて語り出す。

 

 

『どんな人の心にだって、光と闇は必ずあるもの……どちらか一方が欠けているなんて、絶対にないんだよ?』

 

 

煌一「…………」

 

 

『それに貴方みたいな人の場合、単に闇の部分が偏ってるだけ……光が手に入らないなんて嘘だよ。だって現に、貴方はこうして光の中にいても消える事はない……受け入れてくれてるんだよ。貴方も、貴方の中の彼等も』

 

 

煌一「ッ?!」

 

 

この光が、自分や自分の中のアルシェイン達を受け入れてくれてる。それを聞いた煌一は思わず息を拒み、少女は彼方を見上げながら口を開いた。

 

 

『ほら、耳を傾けてみて?今なら貴方にも聞こえる筈だよ。貴方を思ってくれている……あの人の思いが』

 

 

煌一「?あの人…?」

 

 

疑問げに聞き返せば、少女はただ笑って頷くだけで何も言わない。煌一は疑問が晴れないが、少女に言われた通りに周りに耳を傾けてみる。すると……

 

 

 

 

 

 

―……今日の介護に行ってみたら、怪我も大分良くなってて、顔色も少し元気になってた……良かった……―

 

 

 

 

 

 

煌一「…ッ!この声…?」

 

 

不意に、煌一の耳に聞き慣れた声が届いたのだ。それに思わず驚いていると、声は再び煌一の耳へと届いていく。

 

 

―…今日はお見舞いに花を持っていったら、『すごく綺麗だ』と喜んでくれた…一瞬自分のことだと思ってビックリしてしまい、内心恥ずかしかったけど…彼が喜んでくれたみたいで、私も嬉しかった…―

 

 

煌一「……まさか……これは紗耶香の……?」

 

 

『そう。彼女が心の奥に、鍵を掛けて仕舞い込んでいた……貴方への思い』

 

 

煌一「ッ!」

 

 

耳に届く聞き慣れたこの声……これが紗耶香の内に秘められていた思いの声だと聞かされ、煌一は思わず息を呑んだ。そしてその間にも声が再び響き、煌一の耳に届いていく。

 

 

―あの人の怪我も大分よくなって…明日には、此処を出てまた旅に戻るらしい…―

 

 

煌一「これは……まさか、俺が紗耶香達の教会を出る前の?」

 

 

紗耶香の思いが語る内容を聞き、それがかつて教会で世話になった自分が教会を出る前の、紗耶香の心の声だと気が付く煌一。

 

 

―明日になれば…あの人はこの教会からいなくなってしまう…そう思うと…怖くて…悲しくて…今こうしているだけで、涙が溢れ出てしまう…―

 

 

煌一「…………」

 

 

声の感じからして、恐らく泣いているのだろう。

 

 

不安定な声音で語る思いの声を聞きながら、煌一の表情も複雑なものに変わっていく。しかし……

 

 

―……こんなんじゃ駄目だ……明日はちゃんと、笑ってあの人を見送らなないと……こんな顔を見せたら、あの人に笑われてしまう……―

 

 

だから……と、思いの声の声音が少しだけ強くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

―明日はちゃんと…笑ってあの人を見送ろう…また…また会える時まで…修道女として頑張って…そして…此処での生活を…またあの人に会えた時に話そう……こんな事があったって……貴方がいなくなってから、こういう事があったんだって……楽しい話しを聞いて…あの人に沢山……笑ってもらえるように……―

 

 

 

 

 

 

 

 

煌一「…紗耶香…」

 

 

 

 

 

 

 

 

―あの人は…笑ってる顔が…凄く綺麗だから…もっともっと…笑顔でいさせてあげたい…そう思っちゃうのは…変かな…?―

 

 

 

 

 

 

 

 

煌一「っ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照れ臭そうに微笑む彼女の思いを聞き、煌一は思わず泣きそうになって顔を俯かせた。少女はそんな煌一を優しげな顔で見守り、静かに瞳を伏せた。その時……

 

 

―……シュパアァァァァァァァァァアッ……―

 

 

煌一「ッ!何だ?」

 

 

煌一の腰のポケットに突然無数の光りが集まり、淡い輝きを放ち出したのだ。

 

 

そして煌一がそれに気付いてポケットに右手を突っ込み、淡い輝きを放つ何かを取り出すと、それは画面の部分が淡い輝きを放つ青い端末……ギアコマンダーであった。

 

 

煌一「これは…?」

 

 

『それはね?彼女の思いが紡いだ奇跡。貴方を思う、彼女の光だよ……』

 

 

煌一「紗耶香の…光?」

 

 

ギアコマンダーの画面で輝くこの光が、紗耶香の光。そう聞かされた煌一がギアコマンダーを見つめていると、突然煌一の両脇に無数の光が集まって何かを形作り、光はユニコーンドリルとレオサークルとなって姿を現した。

 

 

煌一「ッ!お前等?」

 

 

『……いい子達だね。力を貸してくれるんだ?あの人を助ける為に』

 

 

煌一が両脇に現れた二体を見て驚く中、少女は二体の意思を読み取って優しげに微笑み、ユニコーンドリルとレオサークルに歩み寄り二体を優しく撫でていく。すると……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥッ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

 

 

 

煌一「ッ?!ギアコマンダーが…?」

 

 

突然ギアコマンダーの画面の光りが強みを増し、淡く輝き出していったのだ。

 

 

それに呼応するかのようにユニコーンドリルとレオサークルの身体が淡く輝いて光りとなり、徐々に互いに引かれ合うようにひとつとなっていく。

 

 

そして徐々に光が止むと、其処にはユニコーンドリルとレオサークルの姿はなく、金色の刃のような角と爪を持った白い獣の姿をしたDWが佇んでいた。

 

 

煌一「ッ?!ユニコーンドリルと、レオサークルが?!」

 

 

『……友情を象徴とした獣の王……運命すら断ち切る輝ける刃を持つ者……その名は――』

 

 

煌一「――超獣王、輝刃……」

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!』

 

 

白い獣のような姿をしたDW……ユニコーンドリルとレオサークルが紗耶香の思いによって融合した『超獣王・輝刃』は名を呟く煌一に応えるように高らかな叫びをあげ、少女はそんな輝刃を見て小さく微笑んだ。

 

 

『彼の力なら、あの闇から貴方の大切な人を救う事が出来る……彼や……零達と一緒に、彼女を救ってあげて?』

 

 

煌一「?君は……?」

 

 

零の名を口にする少女に、思わず疑問げに聞き返した煌一。

 

 

だが少女から言葉が返ってくる前に、辺りを包み込んでいた光が輝きを増していき、煌一を覆いながら温かな光が広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫。私と零は、もう触れ合う事も出来ないけど……貴方達はまだ間に合う……貴方達は、私達みたいにならないで?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌一「…君は…一体…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方と彼女に……再生の神の御加護がありますように……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――それは、万感の思いが篭められた祈り。

 

 

黄金の輝きが広がっていく光の先で、儚く微笑む少女の笑顔が在った……

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑯(後編)

 

 

 

―シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

『グ、グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ?!!!』

 

 

…ディケイドから発生した黄金のオーラ。それはルルイエ島全体まで広がっていき、上空や地上でディエンド達が戦っていたスペースビーストの大群を一掃し、更にデモンゾーアにも光のダメージを与えていた。

 

 

メフィスト『クッ?!何なんだ、この光ッ?!』

 

 

未だに光が激しく輝く中、光に包まれるメフィストも両腕で顔を隠して光を遮り、ディケイドから発生したこの光が何なのか分からず困惑していた。その時……

 

 

 

 

 

 

『――輝刃ドライブ、インストールッ!』

 

 

―シュウゥゥ……ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

メフィスト『ッ!何?!』

 

 

 

 

 

 

突然光の向こうから誰かの掛け声が響き、それと共に目の前から巨大な衝撃波が発生してメフィストに襲い掛かってきたのだ。メフィストは咄嗟に前方に両腕を突き出してシールドを形成し衝撃波を防ぎ、衝撃波も辺りを包み込んでいた光が晴れると共に徐々に収まっていく。そして、光が晴れた先にあったのは……

 

 

 

 

 

 

GEAR電童『…………』

 

 

 

 

 

 

メフィスト『…ッ?!な、なんだ…あれは…?!』

 

 

 

 

 

 

光が晴れて、メフィストの目に映ったのは悠々と佇むGEAR電童の姿。

 

 

それだけなら別段可笑しい事は何もないが、メフィストが見ているのはGEAR電童の両手に握られた白く巨大な武器。

 

 

まるで弓矢のように見えるそれは、GEAR電童が呼び出した輝刃をハンドウェポンに変形させた姿……『輝刃ストライカー』

 

 

遠くからでもとてつもない力を持っている事が分かるそれを握ったGEAR電童の隣へとディケイドが静かに立ち、先程の光の影響で弱まったデモンゾーアを見上げながら……

 

 

ディケイドGA『…いくぞ』

 

 

GEAR電童『…あぁ!』

 

 

その応えと同時に、二人は勢いよく地を蹴って上空へと飛び上がりデモンゾーアへと接近していった。だが……

 

 

メフィスト『ちぃ!これ以上好き勝手させるかッ!』

 

 

デモンゾーアへと接近していく二人を見たメフィストもすぐさま上空へと飛び上がり、デモンゾーアへと向かおうとする二人の目の前に立ちはだかったである。だが二人は怯むことなく、ディケイドは黄金の輝きに包まれた桜神剣を取り出し、GEAR電童は輝刃ストライカーをエネルギーブレードが発生した『輝刃ブレイカー』へと切り替え……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……!!―

 

 

メフィスト『?!消え?!―ズシャアァッズバアァンッ!!―…ガッ…?!』

 

 

 

 

 

 

二閃。二人は一瞬でメフィストの視界から消えると共に、目に見えないスピードでメフィストを一瞬で斬り伏せていったのだ。メフィストはそのまま力無く地上へと落下して変身が解除され、二人はそれを確認することなく再びデモンゾーアへと接近していく。

 

 

『グルルルッ……ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―バシュウバシュウバシュウバシュウバシュウッ!!―

 

 

GEAR電童『来た!』

 

 

ディケイドGA『任せろ!』

 

 

デモンゾーアは、接近する二人を撃墜しようと口から無数のエネルギー弾を乱射していき、それを見たディケイドは咄嗟にGEAR電童の前に出て右腕を突き出し、金色の盾を発生させてエネルギー弾を防ぎ切った。

 

 

ディケイドGA『煌一!今だ!!』

 

 

GEAR電童『ウオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーッ!!!』

 

 

―シュンッ!ズシャアァァァァァァァアッ!!!―

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ディケイドの呼びかけと共に、GEAR電童は瞬時に輝刃ブレイカーをストライカーへ戻しながらデモンゾーアへと猛スピードで突っ込み、デモンゾーアの額に輝刃ストライカーを突き刺していった。デモンゾーアは額に突き刺さった輝刃ストライカーを振り払おうと頭を大きく振り、その隙にディケイドはグリッターメモリをライドブッカーへと装填する。

 

 

『GLITTER!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

電子音声が響くと共に、ディケイドは両腕を外回りに回転させながら全身に虹色の光を溜めていき、それに気付いたGEAR電童が輝刃ストライカーを抜き取ってデモンゾーアから離れた瞬間……

 

 

『ハアァァァァァァァ……ハアァァッ!!!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッ!!!!―

 

 

『ッ?!!ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

グリッターアマテラスフォームの必殺技の一つ……グリッターフラッシュスペシャルがデモンゾーアに向かって撃ち出されて炸裂し、デモンゾーアは悲痛な悲鳴をあげながら再び怯んでいった。

 

 

そしてディケイドはGEAR電童と共に地上に降り立ってライドブッカーから絵柄のないカードを三枚取り出すと、絵柄のなかったカード達がGEAR電童の力が秘められたカードとなっていき、ディケイドはその中から一枚カードを取り出してディケイドライバーへと装填した。

 

 

『FINALFOMARIDE:GE・GE・GE・GEAR DENDOH!』

 

 

ディケイドGA『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

GEAR電童『?何を―ドンッ!―うあッ?!』

 

 

ディケイドがGEAR電童の背後に回って背中を開くと、GEAR電童はそのまま宙に浮きながら身体を変化させていき、GEAR電童は輝刃ストライカーに似た巨大な鎗のような姿……『GEARスピナー』へと超絶変形していったのだ。ディケイドは一度両手を払うとGEARスピナーへ飛び乗り、そのまま上昇してデモンゾーアへと飛び上がっていった。

 

 

『グ、グウゥッ…シャアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―シュバババババババババババババババババババァッ!!!―

 

 

自身へと接近してくるGEARスピナーを見て危険を感じ取ったのか、デモンゾーアは慌ててGEARスピナー目掛けて口からエネルギー弾を連射していく。だがディケイドも負けじとGEARスピナーをサーフボードのように乗りこなしてそれらを全て回避し、ライドブッカーからもう一枚カードを取り出してディケイドライバーへと装填しスライドさせ、更にグリッターメモリを再びライドブッカーへとセットした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:GE・GE・GE・GEAR DENDOH!』

 

 

『GLITTER!MAXIMUMDRIVE!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にGEARスピナーの全体が金色に輝き出し、先端のドリルが激しく回転し始めた。そしてディケイドは桜神剣を双剣にして両手に構えると、身体を前にしGEARスピナーを更に加速させてデモンゾーアへと突っ込んでいき、そして……

 

 

 

 

『ハアァァァァァァッ……セヤアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ッッ?!!!!グォ……ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッッ?!!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!!―

 

 

 

 

ディケイドとGEAR電童の必殺技…グリッタースピナークラッシュがデモンゾーアの頭を見事に貫き、デモンゾーアは悲痛な断末魔をあげながら閃光と共に爆発し跡形も残さず消滅していったのだった。それを確認したGEARスピナーは上空でGEAR電童へと戻り慌ててデモンゾーアが爆発した場所に視線を向けると、其処にはデモンゾーアから解放され地上へ落下していく紗耶香の姿があった。

 

 

GEAR電童『ッ!紗耶香!』

 

 

慌てて紗耶香の下へと飛び出しながら叫ぶGEAR電童だが、紗耶香は気絶しているらしく何も答えない。GEAR電童はそんな紗耶香の下へ飛びながら必死に右手を伸ばし、グリッターからアマテラスフォームへと戻ったディケイドも静かにその様子を見守っていた。

 

 

GEAR電童(もう少し!あと少しで!)

 

 

伸ばした右腕は、少しずつ紗耶香へと近づいていく。もう離さない、絶対に彼女から離れたりはしないと。GEAR電童はこれ以上にないほど強く誓いながら、精一杯紗耶香に向かって手を伸ばし、そして、遂に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!!―

 

 

GEAR電童『……ッ?!グ、グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

ディケイドA『?!煌一ッ?!』

 

 

 

…遂に紗耶香の手を取ろうとした瞬間、突如GEAR電童の上空から無数の黒いエネルギー弾が降り注ぎ、GEAR電童を撃ち落としてしまったのだ。それを見たディケイドは慌ててGEAR電童の下へ飛び、GEAR電童をギリギリのところで受け止め地上へと下ろしていった。

 

 

ディケイドA『おい、しっかりしろ!大丈夫か?!』

 

 

GEAR電童『グッ…今のは…一体っ…?!』

 

 

突如襲い掛かってきた謎の攻撃。突然の出来事にGEAR電童もワケが分からず苦痛で顔を歪めながら困惑していた、その時……

 

 

 

 

 

 

『――まったく、大事な駒を勝手に取られるのは困るんだがなぁ』

 

 

『…ッ?!』

 

 

不意に目の前から溜め息混じりの声が聞こえ、二人は突然の声に驚きながら目の前に視線を向けた。すると其処には、背中にマントを身につけた禍々しい姿の黒いライダー……嘗てディケイドが電王の世界やセイガの世界でも戦ったベリアルと酷似したライダーが、気を失った溝呂木と紗耶香を背負って立っていたのだ。

 

 

ディケイドA『ッ?!お前は……ベリアルッ?!』

 

 

『ほう?その名を知っているのか?……ああそうか、貴様か?かつてベリアルが戦った世界の破壊者というのは』

 

 

ディケイドA『?なんだと……?』

 

 

意味深な言葉を放つ黒いライダーにディケイドが訝しげな表情で聞き返すと、傍らで倒れていたGEAR電童がふらつきながら体を起こし黒いライダーを睨みつけた。

 

 

GEAR電童『何故だっ…何故お前が此処にいる?!ヴァリアス!』

 

 

咲夜『ッ!ヴァリアスだと?ならもしかして、ヤツが……』

 

 

GEAR電童『そうだ…奴こそが紗耶香の教会を破壊した張本人……アルシェイン達を纏め上げている黒幕……ヴァリアスだ……!』

 

 

『ッ!』

 

 

あの黒いライダーが、紗耶香に復讐に駆り立てるきっかけを作り、この世界のアルシェイン達を率いる黒幕……『ヴァリアス』だと聞かされ、ディケイドはGEAR電童を庇うように前に出て身構えた。

 

 

ヴァリアス『そう慌てるなよ、俺は別にお前達と戦いにきたワケじゃない。単に大事な部下と駒を回収しにきただけなんだからな』

 

 

そう言ってヴァリアスは肩に担いだ溝呂木と紗耶香を見て不気味な笑みを浮かべ、それを聞いたGEAR電童は唇を噛み締めながら身体を起こそうとする。

 

 

GEAR電童『ふざけるなっ…紗耶香はお前の玩具なんかじゃない!!これ以上お前に紗耶香をっ……ぁ……』

 

 

ディケイドA『?!煌一!』

 

 

ヴァリアス『オイオイ、あまり無理しない方が良いんじゃないか?どうせさっきの戦闘で力を全部使い切ってるだろうし、此処で死に急ぐ事もないだろう?』

 

 

ディケイドに体を支えられるGEAR電童を見つめながらそう告げると、ヴァリアスは自身の背後に歪みの壁を出現させていく。

 

 

咲夜『ッ!マズイ!ヤツめ逃げる気だ!』

 

 

ディケイドA『チィッ!』

 

 

GEAR電童『ま、待てっ……紗耶香ぁっ!!!』

 

 

ヴァリアス『じゃあな御薙煌一。次もまたお前に素敵な絶望を送ってやる…その時を楽しみにしてな?クク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

必死に手を伸ばすGEAR電童に向けて、不気味な高笑いをあげながら歪みの壁へと飲まれていくヴァリアス。ディケイドはそれを阻止しようと直ぐにライドブッカーをGモードに切り替えて乱射していくが、その前にヴァリアス達は歪みの壁と共に何処かへと消えてしまったのであった。

 

 

ディケイドA『クッ?!逃げられたっ…!』

 

 

咲夜『反応も消失…これでは追跡も出来ないかっ…』

 

 

紗耶香を連れて歪みの壁と共に消えてしまったヴァリアス。ディケイドと咲夜はそれを見て悔しげに舌打ちし、ゆっくりとGEAR電童の方へと振り返った。

 

 

ディケイドA『煌一……』

 

 

GEAR電童『……あと少し……あと少しだったのにっ……クソッ……クソオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』

 

 

あと一歩……あと一歩で、紗耶香をヴァリアス達の下から救い出せた。

 

 

なのにそのチャンスも、予想だにしてなかった妨害のせいで無に消えてしまった。

 

 

GEAR電童はあの時……紗耶香を掴めなかったことに対し悔しさを堪え切れず地面を殴りつけ、ディケイドと咲夜もそんなGEAR電童に掛ける言葉が見つからず、ただ口を閉ざしてGEAR電童を見つめ続けていたのだった……

 

 

 



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番外編/出会いと家族(前編)

 

 

 

――これはまだ、零達一行がGEAR電童の世界に滞在している頃の話……

 

 

 

 

 

―カブトの世界・市街地―

 

 

カブトの世界に存在する市街地。零達とルルーシュの活躍によってワームの脅威は一先ず収まり、街は一時の平穏を手に入れていた。様々な人々が街の中を交差する中、一人の少女が一つのビルの屋上に佇む姿があった。

 

 

麻衣「………………」

 

 

少女の名は、睦月 麻衣。零の持つ因子とヴィヴィオを狙う組織の一員の一人であり、かつて零達の友人の一人であった少女だ。彼女は現在此処から見える一つの建物……光写真館をジッと見つめていた。そんな時……

 

 

「――麻衣」

 

 

麻衣「……?」

 

 

不意に背後から声を掛けられ、麻衣は写真館から目を逸らし背後を見た。其処には屋上の入り口からこちらに向かって歩いてくる青年……同じ組織の一員である荒井真也が、両手に缶コーヒーとジュースを持って歩いて来る姿があった。

 

 

麻衣「真也……」

 

 

真也「どうだ?奴らに何か動きはあったか?」

 

 

麻衣「……異常は特に見当たらない……大丈夫」

 

 

真也「そっか……まあ零がいないんじゃ、次の世界に向かう事も出来ないだろうしな。暫くこの世界に滞在してるだろう」

 

 

ほら、と真也は麻衣の隣に立ってジュースを差し出し、麻衣は一言礼を告げるとジュースを受け取ってタブを起こし、ジュースを口に運んでいく。真也はそれを見ると自身もコーヒーを口にし、目を細めて写真館を見つめた。

 

 

真也「しっかし、因子を手に入れて礼のアレを破壊するっていうのは分かるけど、あのガキンチョまで手に入れて何する気なんだろうな」

 

 

麻衣「……分からない……でも多分、あの子がいないと揺り篭を動かせない理由があるのかも……」

 

 

真也「ふーん……ま、別に命まで奪うってことまではないだろうけどな……あんなガキ殺したところで、何が手に入るって訳じゃないだろうし……用が済めば、アイツ等に返してやりゃあいいだろ……」

 

 

そう言いながら真也は再びコーヒーを口にしていき、麻衣は手の中のジュースを見つめながら口を開いた。

 

 

麻衣「……真也はやっぱり……今も気乗りじゃない?あの子を巻き込む事……」

 

 

真也「…………」

 

 

ふと投げ掛けたその質問に、真也は缶コーヒーを持つ手を一瞬止めた。だがすぐに缶のコーヒーを口に運び、写真館を見つめながら口を開いた。

 

 

真也「正直に言えばそうだな……だけど、やらなきゃなんねえんだよ……自分の意思に反してても、やらなきゃ俺達に待ってるのは、『絶望』の未来だけだ……」

 

 

麻衣「……真也は……納得してないもんね……瑠璃の死を……」

 

 

真也「出来る訳ねえだろう」

 

 

強く、何処か怒りの篭った声音で真也はそう返した。

 

 

真也「そうさ……出来る訳がねえ……まだ交通事故とか、不慮の事故とかなら、強引にでも納得しようって思えたさ……けどあんな……あんなクズ野郎にあんな仕打ちをされて、その上命まで奪われて……それだけの事をされたってのにっ……」

 

 

麻衣「瑠璃を殺した犯人は……『裁かれなかった』……」

 

 

バキッ!と、何かが潰れるような音がした。隣を見れば、真也が唇を噛み締めながら顔を俯かせ、手に持つ缶を握り潰していた。

 

 

真也「周りなんて信用出来ねえ……アイツ等はただ、自分達の考えを押し付けてくるだけだった……俺の気持ちなんて考えずに『仕方ない』って、『これが現実だ、目を背けるな』って……たったそれだけしか……」

 

 

麻衣「…………」

 

 

悔しげに呟く真也に、麻衣も何も言えず顔を俯かせてしまう。

 

 

真也「だからやるんだ……周りの連中は何もしてくれなかった。だから俺達が、自分の手で足掻いてやるしかねえんだよ……『絶望』しかない未来を、変える為に……」

 

 

麻衣「……でも……その為にあんな小さな子を……」

 

 

真也「それでもやるしかねえだろ。お前だって、このまま揺り篭を動かせなかったら……また『あの病院』に……」

 

 

麻衣「…ッ!」

 

 

ボソッとそう呟いた真也の言葉に、麻衣は息を拒みながら恐怖に染まった表情に変わった。すると真也は自分が口にした言葉にハッとなり、慌てて麻衣の顔を見た。

 

 

真也「あ、わ、ワリィ……つい……」

 

 

麻衣「っ……ううん……大丈夫……気にしないで……」

 

 

全然大丈夫だからと真也に平気そうに返す麻衣だが、その顔はすぐれてるように見えない。真也はそんな麻衣に心配そうに手を伸ばすが、麻衣はそのまま屋上の扉に向けて歩き出した。

 

 

真也「お、おい、何処行くんだ?」

 

 

麻衣「……ちょっと、気分転換にその辺を歩いてくる……すぐ戻るから……後はお願い……」

 

 

真也「…分かった…後は俺がやっとく」

 

 

麻衣「うん……ごめん……」

 

 

真也に向けて一度謝ると、麻衣は屋上を後にし下へと下りていった。真也はそれを見送ると、ビルの真下を覗き込みながら……

 

 

真也「そうだよ……アイツは此処(組織)に来る前に……『もう未来を奪われてるんだ』……」

 

 

風が吹けば掻き消されてしまいそうな、小さな声でそう呟いていたのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

屋上を後にした後、麻衣が向かったのは写真館の近くにある公園だった。周りには様々な遊具が揃っているが、その遊具で遊ぶ子供達の姿は一人も見られない。恐らく此処は遊び場として余り使われていないのかもしれないと、麻衣は適当に考えながら近くのブランコに腰を下ろした。

 

 

麻衣「……そういえば……こうやってブランコに乗るのも、何年振りなのかな……」

 

 

久々に感じたブランコに乗った感覚。麻衣はブランコの鎖を握り締めながら軽くブランコを揺らしていくが、不意にブランコを止めて顔を俯かせてしまう。

 

 

 

 

 

 

『それでもやるしかねえだろ。お前だって、このまま揺り篭を動かせなかったら……また『あの病院』に……』

 

 

 

 

 

 

麻衣(分かってる…分かってるよ…)

 

 

 

 

 

 

脳裏を横切るのは、先程の真也の言葉。それを思い出した麻衣はブランコの鎖から手を離し、鎖の錆が付いた両手の手の平を見下ろした。

 

 

麻衣(揺り篭を動かさなきゃ……私はこうして何かを『触る』ことも、『見る』ことも、『喋る』ことも、『立つ』ことも出来なくなる……私は揺り篭を動かす代わりに……また『私』を取り戻せたのだから……)

 

 

例え組織に入らなかったとしても、堕血水に手を出さなかったとしても、自分には既に『未来』なんてない。そんな理不尽な運命を変えたいが為に、彼女はこうして此処に在り、『家族』を取り戻す為に戦ってる。それが結果的に、『自分』を取り戻す事にも繋がるのだから。

 

 

麻衣(……もう……あんな暗闇に戻るのは嫌……揺り篭を動かせなかったら……『私はまた私を失う』……)

 

 

それは既に『約束』されている『未来』。揺り篭を動かせなければ、自分は自分の意思とは関係無く、再び『人』として生きれなくなる。『自分』と『家族』を取り戻す為にも、いい加減覚悟を決めねばと、麻衣は瞳を伏せて自分の心にそう言い聞かせていた。その時……

 

 

 

 

 

 

―コロコロコロッ……コツンッ―

 

 

麻衣「……?」

 

 

ブランコに座る麻衣の下にひとつのボールが転がってきて、ボールは麻衣の足先に当たって止まり、麻衣はボールを手に取ってそれが転がってきた方へと振り向いた。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻衣「貴方は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオ「――あ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処にいたのは、自分達のターゲットのひとりである少女……零の娘である黒月ヴィヴィオだった……

 

 

 



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番外編/出会いと家族(後編)

 

睦月麻衣が出会った少女、それは彼女達が標的の一つとして狙っている黒月ヴィヴィオだった。最初は思わぬ出会いに麻衣も内心では戸惑いを隠せなかったが、今はそれも落ち着いて普段通りの無表情になり、現在は成り行きでヴィヴィオと一緒にブランコに腰掛けながら話をしていた。

 

 

麻衣「――そう……貴方のお父さん、今は遠いところに行ってるんだ……」

 

 

ヴィヴィオ「うん……パパ達、今は優矢お兄ちゃんを探しに行ってるんだって……だからまだ帰ってこないの……」

 

 

麻衣「……そうなんだ……」

 

 

ボールを両手で抱き締めながら話すヴィヴィオにそう言って返すと、麻衣は横目でヴィヴィオの横顔を覗き見た。その顔は何処か落ち込んでるように見え、零がいなくなってどれだけ寂しいのか予想出来た。

 

 

麻衣(それだけ懐かれてるって事なんだ……零達は……)

 

 

そう思い、麻衣はヴィヴィオと零達が一緒にいる家族風景を思い浮かべて思わず笑みをこぼした。とその時、麻衣は其処である疑問に気が付き、公園を見渡して頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

麻衣「……そういえば……貴方一人?お母さん達は?」

 

 

ヴィヴィオ「?ママ達ならお買い物に行ってるよ」

 

 

麻衣「……じゃあ、此処には貴方一人で来たの?」

 

 

ヴィヴィオ「ううん、一人じゃないよ。ノーヴェ達と一緒。今ジュースを買いに行ってるの」

 

 

麻衣「……そう……」

 

 

一人で遊びに来てるわけではないと聞き、麻衣は安堵の表情を浮かべて公園を見回した。この公園は余りにも人影が少なく、子供一人で遊ばせておくには少々危なく思える。もしも一人で遊んでいたなら家に帰るように促すつもりだったが、付き添いがいるなら大丈夫だろうと考えていると……

 

 

ヴィヴィオ「――そうだ!お姉ちゃん、ヴィヴィオと一緒に遊ばない?」

 

 

麻衣「……え?」

 

 

突然ヴィヴィオがなにかを思い付いたようにブランコから立ち上がり、そう言いながら麻衣にボールを差し出してきた。

 

 

ヴィヴィオ「ノーヴェ達はまだ帰ってこないし、ママ達にも一人は危ないって言われてるし……お姉ちゃんと一緒なら、一人じゃないでしょ?だから、一緒に遊ぼ♪」

 

 

麻衣「え……でも……私は……」

 

 

ヴィヴィオの突然の提案に内心動揺を隠せない麻衣。彼女は知らないが、自分達は彼女を狙う敵対者。命令が出れば、彼女を捕まえて組織に連れていかなければならない人間だ。その事が後ろめたい麻衣はヴィヴィオと一緒に遊ぶ事に気が引いてしまい、そんな麻衣の様子にヴィヴィオも小首を傾げた。

 

 

ヴィヴィオ「ダメ…?もしかして、めいわく?」

 

 

麻衣「……そうじゃないけど……でも、知らない人と遊んだり付いていったりしちゃ駄目って、お母さん達に言われなかった?」

 

 

ヴィヴィオ「?うん、言われてるけど……でも、お姉ちゃんは知らない人じゃないでしょ?」

 

 

麻衣「……え?」

 

 

ヴィヴィオの発言に麻衣は思わず不思議そうに聞き返し、ヴィヴィオも邪気のない笑顔で言葉を続けた。

 

 

ヴィヴィオ「だってヴィヴィオ、さっきお姉ちゃんに名前教えてもらったもん。ヴィヴィオもお姉ちゃんに名前教えてあげたし、お話もしたし、全然知らない人じゃないでしょ?」

 

 

麻衣「…………」

 

 

明るげにそう言い放ったヴィヴィオに麻衣は一瞬呆然となるが、すぐに笑みを浮かべながら顔を俯かせた。

 

 

麻衣(ホント、言ってる事が目茶苦茶……そういう所は父親そっくり……)

 

 

そういえば昔一緒に居た時もこんな感じだったなと、麻衣は懐かしそうに微笑しながらヴィヴィオの顔を見つめた。

 

 

麻衣「……分かった。それじゃあ、貴方の付き添いが戻って来るまでね?」

 

 

ヴィヴィオ「!うんっ♪」

 

 

一緒に遊ぶことを承知してくれた麻衣にヴィヴィオは嬉しそうに笑い、麻衣もそんなヴィヴィオに釣られるように笑みを浮かべると、ブランコから立ち上がってヴィヴィオと一緒に遊び始めたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

……それから暫く、麻衣とヴィヴィオは様々な遊びをして過ごした。鬼ごっこや達磨さんが転んだにケンケンッパ、ヴィヴィオが持参したボールや縄跳び、たまに公園の遊具を使って遊んだりなど。時間も忘れて遊び続けた二人は、今は一度休憩の為にベンチに座って休んでいた。

 

 

麻衣「凄いねヴィヴィオ……殆ど私の完敗だよ……」

 

 

ヴィヴィオ「えへへ♪でもお姉ちゃんも凄かったよ?特にあの縄跳び、ヴィヴィオより凄く上手だった♪」

 

 

麻衣「フフッ……縄跳びは子供の頃から得意だったからね……」

 

 

お互いの服が若干汚れてることも忘れ、今までの遊びを思い出しながら笑い合う麻衣とヴィヴィオ。

 

 

麻衣(……そういえば……こうやって何かを楽しいって思えたのは、何時以来だろう……)

 

 

『あの時』以来、自分は何かに対し笑う事すら少なくなった。真也や恭平と一緒にいる時から少しずつ笑顔を取り戻せるようになってきたが、こんな風に何かを楽しいと思って笑う事など、今までなかった気がする。『家族』を失った、あの時から……

 

 

ヴィヴィオ「?お姉ちゃん…どうかした?」

 

 

麻衣「!…ううん…なんでもない…」

 

 

どうやら考え込んでいたらしく、麻衣は顔を覗き込んできたヴィヴィオにそう答えて顔を俯かせると、少し間を置いて口を開いた。

 

 

麻衣「ヴィヴィオ……ヴィヴィオは、お父さんとお母さんのこと好き?」

 

 

ヴィヴィオ「?うん、好きだよ♪だってヴィヴィオの『家族』だもん♪」

 

 

麻衣「……そっか……家族だもんね……」

 

 

ヴィヴィオ「うん……お姉ちゃんは?」

 

 

麻衣「え…?」

 

 

ヴィヴィオ「お姉ちゃんは、お姉ちゃんのパパとママのこと好き?」

 

 

麻衣「……私は……」

 

 

ヴィヴィオからの問い掛けに、麻衣は口を閉ざして顔を俯かせた。

 

 

麻衣「―――私も好きだよ……今はもう……会えないけど……」

 

 

ヴィヴィオ「?会え…ない…?」

 

 

不思議そうに聞き返すヴィヴィオ。麻衣はそれに苦笑を浮かべながら、寂しげな表情でポツポツと呟いた。

 

 

麻衣「そう…私のお父さんとお母さんは、もう何処にもいない……死んじゃったの……」

 

 

ヴィヴィオ「……死んだ……」

 

 

麻衣「うん。だからどんなに会いたいと願っても……もういないの……私の家族は……何処にも……」

 

 

ヴィヴィオ「パパとママが……いない……」

 

 

父親と母親がいない。そう聞かされたヴィヴィオはポツリと呟きながら、悲しげな表情を浮かべて顔を俯かせてしまう。

 

 

ヴィヴィオ「じゃあ、お姉ちゃんはひとりぼっちなの?」

 

 

麻衣「ううん……今は一人じゃないよ。友達がいるし……単に、家族って呼べる人がいないだけ……」

 

 

ヴィヴィオ「家族……」

 

 

『家族』という単語を聞き、ヴィヴィオは顔を俯かせたまま難しげな顔を浮かべ始めた。そんなヴィヴィオの様子を見た麻衣は子供に聞かせる話ではなかったと今更になって後悔し、この話題のことを話すのは止めようと口を開こうとした、その時……

 

 

ヴィヴィオ「―――よし、決めたっ!」

 

 

麻衣「……へ?」

 

 

ヴィヴィオは突然声を上げてベンチから立ち上がり、そのまま麻衣の正面に立ち笑顔を浮かべながら……

 

 

ヴィヴィオ「だったらヴィヴィオ、今からお姉ちゃんと『家族』になるっ!」

 

 

麻衣「……え……?」

 

 

無邪気な笑顔でそう告げたヴィヴィオの言葉に、麻衣は思わずポカンとなった。ヴィヴィオはそんな麻衣の顔を見つめながら、両手を胸に当てて口を開いた。

 

 

ヴィヴィオ「あのね?ヴィヴィオも最初は家族がいなかったの……でも、パパやママ達が出来て、ヴィヴィオにも家族が出来た。ひとりぼっちじゃなくなったんだよ?」

 

 

麻衣「…………」

 

 

ヴィヴィオ「んと…だからね?ヴィヴィオがお姉ちゃんの『家族』になれば、お姉ちゃんの『家族』はまだいるって事になるでしょ?そしたらお姉ちゃんもひとりぼっちじゃなくなるから、きっと寂しくなくなるよ♪」

 

 

麻衣「……ヴィヴィオ…」

 

 

明るく笑いながら身振り手振りと必死に説明するヴィヴィオ。恐らく自分を元気づけようとしてるのだろうと、そう考えながら麻衣がジッとヴィヴィオの顔を見つめていると、ヴィヴィオは何かを思い出したようにポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。

 

 

ヴィヴィオ「あった……はい、これっ!」

 

 

麻衣「……?」

 

 

ヴィヴィオは取り出した何かを麻衣へと差し出していき、麻衣はそれを見て疑問符を浮かべながら恐る恐る手の平を出すと、手の平の上に何かが置かれた。それは薄ピンク色の輝きを放つ小さな石のカケラであり、まるで半分に割れるように欠けていた。

 

 

麻衣「これ……」

 

 

ヴィヴィオ「さっき其処で拾ったの。ほら、ヴィヴィオも同じの持ってるんだよ♪」

 

 

そう言ってヴィヴィオが手を出すと、ヴィヴィオの手の平には麻衣が持ってる石の欠けた部分と思われる薄ピンクの石があった。

 

 

ヴィヴィオ「コレが『家族の証』♪だからお姉ちゃんは、今からヴィヴィオのお姉ちゃんだからね♪」

 

 

麻衣「…………」

 

 

無邪気に微笑むヴィヴィオの顔を見て、麻衣は手の平に置かれた石のカケラを見た。自分を家族と呼ぶ少女が繋がりの証としてくれた物。多分一時の感情でそう言っているだけで深い意味はないのだろう。だがそれでも、麻衣自身にも思う所があるのか、麻衣は手の平のカケラを何処か力強く握り締めた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィヴィオーっ!何処にいるッスかぁーっ?!』

 

 

『いませんね……確かこの辺りだった筈ですが……』

 

 

『ったく、公園までの帰り道ぐらいちゃんと覚えとけよなぁ……』

 

 

『なに言ってんスか、そういうノーヴェだってすっかり忘れてたくせにぃ~』

 

 

『誰のせいだっ!飲みもん買いに行くのに道に迷ってあっちこっち連れ回されりゃ、帰り道も訳分からなくなるってのっ!』

 

 

『ま、まあまあ!今はそれよりも早くヴィヴィオを見つけないと……υυ』

 

 

 

 

 

 

 

麻衣「ッ!今の声……」

 

 

ヴィヴィオ「あ、ノーヴェ達だ!」

 

 

遠くから聞こえてきた数人の少女達の声。ヴィヴィオはそれを聞いて声がした方へと振り返り、麻衣もヴィヴィオの視線を追ってその方を見つめた。

 

 

麻衣「今の声、貴方の付き添いの?」

 

 

ヴィヴィオ「うん、そうだよ」

 

 

麻衣「……そっか……それじゃ、私もそろそろ行かないと……」

 

 

今此処で彼女達に会うわけにはいかない。麻衣はそう考えながらベンチから立ち上がり、ヴィヴィオはそれを見て寂しげな表情を浮かべた。

 

 

ヴィヴィオ「お姉ちゃん…行っちゃうの…?」

 

 

麻衣「うん……貴方の付き添いが戻ってくるまでって約束だったし……私もこれからやらなきゃいけない事があるから……」

 

 

ヴィヴィオ「…………」

 

 

別れを惜しんでいるのか、ヴィヴィオは表情を曇らせながら顔を俯かせてしまうが、すぐに顔を振って笑顔を浮かべた。

 

 

ヴィヴィオ「分かった……じゃあ、もしまた会えたら、またヴィヴィオと一緒に遊んでくれる……?」

 

 

麻衣「……それは……」

 

 

期待と不安の篭った目で見上げてくるヴィヴィオに、麻衣は思わず押し黙ってしまう。

 

 

自分は彼女の敵で、彼女は自分達に狙われてる者。

 

 

その事を考えると答えを返すのに戸惑ってしまうが、ヴィヴィオは小さな手で自分の服の裾を掴んで見上げてくる。

 

 

麻衣はそれを見て何かを考えるように一度瞳を伏せると、ヴィヴィオと目線を合わせるように腰を折った。

 

 

麻衣「―――分かった……もし……もしまた会えたら……また一緒に遊ぼ……?」

 

 

ヴィヴィオ「ッ!うんっ♪」

 

 

麻衣のその返答にパアッと表情が明るくなり、それを見た麻衣は複雑そうに笑みを浮かべながら立ち上がった。

 

 

麻衣「じゃあ、私もう行くね……?」

 

 

ヴィヴィオ「うん、また絶対、一緒に遊ぼうね!」

 

 

麻衣「……うん……また……いつか……」

 

 

……叶うかどうかも分からない約束を口に、麻衣は手を振ってそう答えるとヴィヴィオから背中を向け歩き出し、そのまま公園の裏口から外へと出ていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

公園を出た後、麻衣は人気のない道路を歩いていた。

 

 

麻衣(……私……何をしてるんだろう……)

 

 

歩みを進める中、今も頭を過ぎるのは先程ヴィヴィオと共に過ごした時間。

 

 

それを思い出した麻衣はふと足を止め、手の平を開き先程ヴィヴィオから家族の証と言って貰った石のカケラを見つめた。

 

 

麻衣(……ヴィヴィオ……はやて……零……私は……)

 

 

自分は彼等の敵。因子とあの子を手に入れ、揺り篭を動かし、自分の生きる未来を作らねばならない。

 

 

そうしなければ、『自分』はまたあの暗闇の中に戻ることになる……今度こそ、『永遠』に。

 

 

麻衣(……私は……)

 

 

静かに瞳を伏せると、頭の中に先程のヴィヴィオの顔が自然と流れ込んでくる。それを思い浮かべた麻衣は複雑な表情を浮かべ、石のカケラを強く握り締め再び歩き出していった。彼女の仲間が待つ場所へと……

 

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑰

 

 

デモンゾーアとの戦いから半日後。世界を覆い尽くしていた闇はデモンゾーアの消滅に伴い全て消え去り、初音島の人々もTV中継でその様子を目にし歓喜の声を上げていた。そして初音島の様々な機能が徐々に復旧しつつある中、零達は芳乃家の前で煌一達と向き合っていた。

 

 

朱焔「なんていうか…今回は色々とすまなかったな」

 

 

翔「別にいいさ。そもそも今回は、俺達が騙されて力を貸しちまったのが原因なんだし」

 

 

零「前にも言ったが、俺達はただ自分達の尻拭いをしただけだ。別に礼を言われる筋合いなんてない……」

 

 

霧彦「ですが、今回の件があったお陰で煌一君が一歩前に進めたのも事実です。その事に関しては、貴方達に感謝しています」

 

 

柔らかい笑みを浮かべながら零達に感謝の言葉を送る霧彦。翔達はそれに対して少し照れ臭そうに笑い、零は霧彦達から目を逸らして煌一を見つめた。

 

 

零「それで……お前の方は大丈夫なのか?」

 

 

煌一「…あぁ…俺は平気だ…確かに今回は紗耶香を助けられなかったが…紗耶香はまだ救い出せる…その事が分かった以上、いつまでもクヨクヨしてられないさ」

 

 

零「……そうか……お前がそう言うなら、俺ももう何も言わない」

 

 

紗耶香を助けられなかったことをまだ少し引きずってそうに見えるが、まだ諦めた訳ではないと告げる煌一に零も微かに笑みを浮かべ、カメラを構え煌一の顔を撮影していく。そして煌一はそんな零の隣に立つ優矢に目を向け、優矢の目の前に立った。

 

 

煌一「優矢、お前も元気でな?向こうでも体には気を付けるんだぞ?」

 

 

優矢「あ……はい……煌一さん達も……ホントに……お世話になりました……」

 

 

気を遣う煌一の言葉に何処か落ち込んだ様子で答える優矢。恐らく、ルルイエ島での決戦で薫と和解出来なかったことを引きずってるのだろう。煌一はそう考えながら軽く吐息を漏らすと、空を見上げながら微笑を浮かべた。

 

 

煌一「――優矢。俺はな、この島の人達の事を改めて凄いって思えたんだ」

 

 

優矢「……え?」

 

 

笑いながらそう告げた煌一の言葉に、顔を俯かせていた優矢は思わず顔を上げ、煌一はそんな優矢の顔を見つめながら再び語り出した。

 

 

煌一「世界が闇に覆い尽くされて、もうダメかもしれないっていうどん底の中で、この島の人達は最後まで希望を捨てなかった……そしてその思いが奇跡を起こして、俺達の力になったんだ……俺はこの島の人達から教わったよ……最後まで希望を捨てない事……そうすればきっと、奇跡は起こるって……」

 

 

優矢「……最後まで、希望を捨てない……」

 

 

煌一「そうだ……それを教わったから、俺も紗耶香を救い出す事を最後まで諦めない。だからお前も、友達のことは絶対に諦めるな。友達の笑顔を守る……その為にお前は、戦うと決めたんだろう?」

 

 

優矢「…ッ!」

 

 

煌一のその言葉に優矢は息を拒み、その表情が先程までとは違う力強いモノに変わっていく。煌一はそんな優矢に一歩歩み寄り、優矢の肩に手を置いた。

 

 

煌一「お前ならきっと友達を救える。お前には心強い仲間が付いてるんだ。周りを信じて、自分を信じろ……そうすればきっと、道は開ける筈だ」

 

 

優矢「煌一さん……はい!ホントに、ありがとうございましたっ!」

 

 

煌一からの励ましを受け、優矢は力強い表情で煌一達に向けて頭を下げていった。その様子を隣で見た零は誰にも気付かれないように小さく笑い、煌一の顔を見上げた。

 

 

零「それじゃ、俺達はもう行く……頑張れよ、煌一」

 

 

煌一「あぁ……お前もな、零」

 

 

零と煌一はそれぞれ片手を差し出し、互いに手を握り合った後零達は煌一達から背を向けて歩き出した。すると零達の目の前から歪みの壁が出現し、零達は歪みの壁を超え今度こそカブトの世界へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その一方、芳乃家前の様子を近くのビルの屋上から見つめる二人組の青年の姿があった。片方は先程翔達と共にディエンドに変身して戦っていた大輝、もう片方は同じく零王に変身しスペースビーストの大群と戦った亮介だった。

 

 

亮介「――行っちまったか……アイツ等……」

 

 

大輝「漸くね。まあ、後は翔と桜ノ神がいれば問題はないだろうさ」

 

 

亮介「そうだな……んじゃ、俺もそろそろ自分の仕事に戻るとするわ」

 

 

大輝「あぁ、頑張ってくれよ?大ショッカーの情報は、君がいなきゃ集められないんだからね」

 

 

亮介「わぁーってるよ……そんじゃ、こっちの方は任せたぜ?」

 

 

軽い口調でそう言うと亮介は屋上のフェンスを飛び越え、そのまま目の前に出現した歪みの壁を通って何処かへと消えていった。大輝はそれを見送ると軽く息を吐き、懐から一冊のファイルを取り出した。

 

 

大輝「さて……三つの世界を回ってる内に因子も第二段階に入ってしまった……予定より早いね……」

 

 

そう呟きながら、大輝は取り出したファイルを開いてあるページを見つめた。

 

 

大輝「……残るはあと二段階……これら全ての段階を踏まえれば、彼は完全に力を取り戻す。その先に待つのは……完全なる破壊者か……CHAOSか……」

 

 

何処か真剣な目付きで大輝が見つめるのは、ページを二枚重ね合わせた一つの絵……右手に緑色に輝く白い石、左手に紫色に輝く黒い石を持った女神と、左右のページにお互いに向けて剣を突き出す二人の青年の絵だった……

 

 

[



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第十八章/GEAR電童の世界⑱(前編)

 

 

―カブトの世界・写真館前―

 

 

零「――漸く帰って来れた……というよりも、帰って来てしまったという方が正しいか?」

 

 

GEAR電童の世界を後にし、漸くカブトの世界に戻って来れた零の第一声がそれだった。零はげんなりとした様子で写真館を見上げ、翔と優矢は零の両脇に立ちながら同じように写真館を見上げた。

 

 

翔「結構長いこと異世界に滞在してたしなぁ……特にNXカブトの世界だけでも一週間以上は居たし」

 

 

零「その一週間は幸助の所で寝てただけなんだが……流石に言い訳にはならんか……」

 

 

優矢「ま、まぁ、頭下げて謝れば許してもらえるだろう?俺も一緒に謝るんだしυυ」

 

 

零「お前はまだ良いだろう、単に巻き込まれただけなんだから。それに一番問題なのは……」

 

 

そう言って零はゆっくりとした動作で、背後に顔を向けた。其処には……

 

 

アズサ「――此処が、零達の家……?」

 

 

シロ『うにゃー?』

 

 

姫「ほう、写真館が家とは中々珍しいなぁ」

 

 

カリム「此処にはやて達がいるのですね」

 

 

シャッハ「そのようですね。しかし、これでどうやって世界を渡るのでしょうか……?」

 

 

……其処にはこれから住む事になる写真館を見上げ、各々会話をする四人+一匹の姿があった。零はそんな四人を見つめると、写真館に目を戻し頭を押さえた。

 

 

零「……カリムとシャッハはまだ何とかなると思うが……問題はアズサと木ノ花の事をどうやって説明するか……」

 

 

優矢「いや、そんなに心配する事ねえだろ?きちんと事情を話せばなのはさん達だって分かって……」

 

 

零「突然行方不明になって心配掛けた上に、数人の女を連れてのこのこ帰ってきた男がそんな事で許されると思うか?」

 

 

優矢「あ……いや……それは……ねえ……?」

 

 

暗い影を落とす零の問い掛けに優矢は若干言い淀みながら翔を見るが、翔は何も言わず気まずそうに明後日の方を向いてしまう。

 

 

零「ハァ……まぁ、今さらああだこうだと言ってても意味はないし……観念するしかないか……」

 

 

そもそもこうなるんじゃないかって大体予想は付いてたしと、零は諦めたように溜め息を吐きながら写真館の中へと入っていき、翔と優矢も互いに顔を見合わせて苦笑するとアズサ達と共に零の後を追っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

そしてその頃、写真館ではなのは達が重苦しい雰囲気を漂わせながらリビングに集まっていた。その理由は勿論、行方不明となってしまった零と優矢の事である。

 

 

フェイト「――今日でもう一週間半だね……二人がいなくなってから……」

 

 

なのは「そうだね……今は優矢君を探しに行ってるみたいだけど、それもどのぐらい掛かるか……」

 

 

はやて「まぁ、翔君も付いとるようやから心配はいらへんと思うけど……零君は零君で無茶しそうやからなぁ……」

 

 

寧ろそれが災いして重傷を負ったりしたらどうしようかと、なのは達は絶える事なく溜め息を吐いていく。そんな三人の座るテーブルにチンクが栄次郎が煎れた珈琲を持って近付き、椅子に座って三人に話し掛けた。

 

 

チンク「そう溜め息ばかり吐くな。それでは幸せがどんどん逃げていくだけだぞ?」

 

 

フェイト「チンク……」

 

 

チンク「心配せずとも、黒月はきっと桜川を見つけて戻ってくるだろう。それに今私達に出来ることは何もない。ならば我々は、二人が無事に戻って来るのを信じて待つしかないさ」

 

 

チンクは落ち着いた様子でそう言いながら珈琲を口にして飲んでいく。なのは達はそんなチンクの様子を見ると、互いに顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

 

 

なのは「そうだね……こうしてたって仕方がないし、普段通りにしよう?普段通りに」

 

 

フェイト「うん、だね」

 

 

はやて「せやな、よっしゃ!それじゃあ景気付けにお菓子でも作ろうかな~♪」

 

 

チンクの励ましが効いたらしく、零達が戻るまで何時も通りに過ごそうと考えたはやてはお菓子でも作ろうとキッチンの奥へ向かい、なのはとフェイトはエリオ達と遊ぶヴィヴィオの様子を見てこようかとテーブルから立ち上がった。その時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

翔「おーい、邪魔するぞ~」

 

 

優矢「えぇっと…た、ただいまぁ~?」

 

 

フェイト「―――え?翔に……優矢ッ?!!」

 

 

『エェッ?!!』

 

 

不意にリビングの扉が開き、其処から翔と引き攣った笑みを浮かべる優矢が部屋の中へと入ってきたのだ。一番始めにそれに気付いたフェイトが声を荒げると共に他のメンバーも驚愕し、一斉に優矢へと詰め寄った。

 

 

スバル「ゆ、優矢さん?!ホントに優矢さんなの?!」

 

 

キャロ「無事だったんですか?!」

 

 

優矢「え、あ、うんっ……一応この通りυυ」

 

 

フェイト「そ、そっか……良かったぁ……」

 

 

なのは「―――あれ?そういえば零君は?一緒じゃないの……?」

 

 

翔「ん?ああ、アイツならホレ、其処に……」

 

 

優矢の無事を確認して一同が安堵する中、翔はなのはからの問い掛けにそう答えながら扉の方を見た。すると其処には……

 

 

 

 

―…………ニョキッ―

 

 

零「……おぉう……帰ったぞぉ……」

 

 

 

 

……まるでモグラのように扉から首だけを出し、恐る恐るとした口調で挨拶する零の姿があったのだった。そんな零を見たフェイト達が喜びを露わにして零へと動き出そうとした瞬間、なのはが零へと飛び出し抱き着いていった。

 

 

零「ッ?!な…のは…?」

 

 

なのは「もうっ……ホントにっ……心配ばっかり掛けてっ!!」

 

 

零の胸に埋めた顔を上げ、なのはは目尻に若干涙を浮かべながら大声で怒鳴った。そんななのはから言い知れぬ怒気を感じ取った零は思わずたじろぎ、なのはは零の胸を叩きながら大声を出した。

 

 

なのは「いきなりいなくなってっ!皆がどれだけ心配したと思ってるの?!無事なら無事って、何で連絡の一つぐらいくれなかった訳?!」

 

 

零「あ、いや、それはその……色々あって出来なかったというか……何と言うか……」

 

 

なのは「ッ!ホントにそういうところは横着なんだからっ……それにその傷っ!一体なにっ?!またなんか無茶してきたのっ?!」

 

 

ビシィッ!となのはが勢いよく指差したのは、零の頭や頬などに何重にも負かれた包帯だった。それを指摘された零は今さらになって気付いてハッとなり、頬を抑えた。

 

 

零「あ、いや、これは別に無茶したという訳では……ないぞ……?」

 

 

なのは「ぜっっったい嘘!零君がそんな怪我をするのは絶対に無茶した時だもんっ!そうですよね翔さんっ?!」

 

 

翔「えっ俺っ?!あー……まあ……そうかもなぁ……」

 

 

零「おい翔ッ?!」

 

 

なのは「隠そうとしたって無駄っ!!他はっ?!他に怪我したところはっ?!」

 

 

零「い、いや、だから怪我したのはこれだけ―バシッ!―いぃっ?!!!!」

 

 

凄まじい怒気を纏いながら詰め寄ってくるなのはに思わず後退りしながらも怪我はこれ以外ないと告げようとするが、いきなり誰かに背中を平手打ちされ、その場に膝を付いて悶絶してしまった。そして零の背中を叩いた人物……はやては腕を組みながら激痛で悶絶する零をジト目で睨んだ。

 

 

はやて「ほーう?その様子やと、背中にも傷を負ってそうやなぁ……嘘はあかんと思うで、零君?」

 

 

零「ぐうぅぅっ……はやてっ……お前なぁっ……」

 

 

フェイト「多分まだあると思うよ?先ず始めに左肩、なのはが抱き着いてちょっと触れた時に一瞬痛そうな顔してたし。それとそっちの右足もそうだよね?若干体重掛けないように右足をちょっと浮かしてるもん」

 

 

零「フェイトッ?!」

 

 

優矢(すげえ……服の下に隠れて見えない筈の怪我を見抜いたよ……)

 

 

翔(流石は幼なじみって所か。いやはや、恐れ入るわ本当に……)

 

 

一瞬で零の怪我を見抜いてみせたはやてとフェイトを見て優矢と翔は若干苦笑を浮かべ、零は冷や汗を流しながらジト目で睨んで来るなのは達から逃げるように目を逸らしていた。

 

 

すずか「ま、まあでも、零君も優矢君もこうして無事に戻ってきたんだし……このくらいで許してあげよ?υυ」

 

 

なのは「駄目!すずかちゃんは甘いよっ!」

 

 

はやて「せや!こんな傷だらけになってるって事は、また自分の身体を無視して無茶したってことなんやで?!」

 

 

零「いや……だからこれは別に無茶した訳では「無茶に入るのっ!!」ぐぅ……」

 

 

間に割って入り反論しようとするも、迫力のある怒号で一喝され押し黙る零。こういう時の彼女達には、何を言っても聞いてくれやしない。ほら、他の奴らなんか余りの恐ろしさに遠くへ避難してるし……

 

 

フェイト「それに確か、零は三つの世界を回ってきたって言ってたよね?もしかして、三つの世界全部でも無茶したとか……」

 

 

零「……(ギクッ」

 

 

なのは「……零君?今何かギクッて言わなかった?」

 

 

零「……いや……さあ……多分気のせいだろう……」

 

 

フイッと、零はそう言ってなのはから逃げるように明後日の方を向いてしまう。なのははそんな零を見て更に目を細め、零と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 

 

なのは「正直に言って…?その怪我以外にも、なにか私達に隠し事があるんじゃないの?」

 

 

零「……………………」

 

 

まるでなにかを見透かすようなその問い掛けに、零は一瞬アズサと姫を救出する際に命を落とし掛けたことを思い出した。しかし零はなのはの目から逃げるように視線を逸らしたまま……

 

 

零「別に、そんな物ない」

 

 

なのは「本当に?」

 

 

零「ない」

 

 

なのは「ホントのホントに?」

 

 

零「くどい」

 

 

なのは「…………」

 

 

この怪我以外の無茶なんてしていない。その一点張りを通す零になのはは無言のまま抗議百パーセントの目を零へと向けるが、すぐに深い溜め息を吐いて立ち上がった。

 

 

なのは「……分かった……其処まで言うならもう何も聞かない……」

 

 

はやて「?!ちょ、なのはちゃん?!」

 

 

アッサリ引き下がるなのはにはやては驚愕を隠せず声を上げるが、なのはは呆れたような表情でそっぽ向く零を見つめた。

 

 

なのは「これ以上問い詰めたって、きっと何も話してくれないだろうし……本人がないって言うなら、私達はそれを信じるしかないよ」

 

 

フェイト「で、でも……」

 

 

なのは「二人も知ってるでしょう?零君がこうなった時は、絶対に自分が決めたことを曲げない……だからもうこの話しは止めよう?それに――」

 

 

「パパ~!!」

 

 

―ガバッ!―

 

 

零「っ?!」

 

 

まだ納得出来ないといった様子のフェイト達をなのはが宥める中、なのはの背後から一人の少女が飛び出し零の胸の中へと飛び込んでいった。突然のそれに零も思わずバランスを崩しそうになるもすぐに立て直し、胸の中に飛び込んできた物を見下ろした。

 

 

零「…ヴィヴィ…オ…?」

 

 

ヴィヴィオ「ひぐっ…ぐずっ…うぅっ……」

 

 

胸の中に飛び込んできた物の正体、それは零の胸に顔を埋めながら泣きじゃくるヴィヴィオであった。漸く帰ってきてくれた零の胸の中で、ヴィヴィオが今まで我慢していた寂しさを爆発させるように泣き続ける中、なのはは零の前に屈んで微笑した。

 

 

なのは「一番零君に会いたがってたのは、ヴィヴィオだもんね……零君がいなくなってから、ずっと寂しいの我慢していい子にしてたんだよ?」

 

 

零「……そう……だったのか……」

 

 

なのはから話を聞き、零は未だ胸の中で泣きじゃくるヴィヴィオの頭の上に手を置いて表情を曇らせた。

 

 

零「……すまん……お前等やヴィヴィオにも、迷惑掛けてばかりで……」

 

 

なのは「そう思うのなら、この埋め合わせはちゃんとすること。特にヴィヴィオには……ね?」

 

 

零「あぁ……本当に、すまなかった……」

 

 

なのは「ん、よろしい……それと―――」

 

 

頭を下げて謝罪する零を見なのははて静かに頷くと、ゆっくりと立ち上がって零に右手を伸ばしていく。

 

 

なのは「――まだちゃんと言ってなかったよね?……おかえり……」

 

 

零「……っ!」

 

 

穏やかに微笑みながらそう言って、なのはは零の前に右手を差し出した。それを見た零は差し出された右手となのはの顔を交互に見つめ、頬を何度か掻くと……

 

 

零「――ただい……ま……」

 

 

照れくさそうにぎこちない口調でそう返し、顔を逸らしながらなのはの手を静かに握っていったのだった。

 

 

 



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第十八章/GEAR電童の世界⑱(後編)

 

 

翔「さてと。んじゃまあ、そろそろ皆に新しい仲間を紹介しねえとなぁ零?」

 

 

零「うぐっ……」

 

 

フェイト「?新しい仲間?」

 

 

感動の再会に浸っていた零の背後で翔が問題の話題を持ち出し、優矢以外の一同は頭上に疑問符を浮かべて翔へと視線を集めた。

 

 

なのは「翔さん?新しい仲間って「お邪魔しま~す」……え?」

 

 

新しい仲間についてなのはが代表して翔に問い掛けようとした瞬間、不意にリビングの扉が開いて二人組の女性……外で待っていたカリムとシャッハが部屋の中へと入ってきた。

 

 

はやて「えっ…カ、カリム?!」

 

 

カリム「ッ!はやて!良かった、また会えた…!」

 

 

シグナム「シ、シスターも?!何故此処に……?!」

 

 

シャッハ「あ、そのぉ……何と言いますかυυ」

 

 

零「……二人は俺が飛ばされた先の世界で見付けたんだ。それでそのまま俺達と一緒に同行してもらってたんだよ……」

 

 

カリムとシャッハの登場にざわめく一同に零が淡々と簡潔に説明し、なのは達はそれを聞いてそういうことだったのかと納得しざわめきも治まっていった。

 

 

なのは「それじゃ、新しい仲間って騎士カリム達の事なの?」

 

 

翔「ん?ああいいや、その二人もだが、まだ他にいるんだよ……おーい、お前等も入ってきて良いぞー?」

 

 

なのはの疑問に答えながら翔が扉に呼び掛けると、扉の方からカリム達と一緒に外で待っていたアズサと姫が現れ、部屋の中へ入ってきた。

 

 

姫「全く、何時まで外で待たせるんだ?いい加減待ちくたびれたぞ」

 

 

零「……仕方ないだろう。こっちにだって色々順序って物があるんだ」

 

 

アズサ「零……シロがお腹空かせてさっきから泣き止まない……」

 

 

シロ『にゃ~……』

 

 

零「なに?ええいこんな時にっ……」

 

 

長らく外で待たされてくたびれる姫と、腹を空かせて若干元気のない黒猫を突き出してくるアズサの両方を相手にそれぞれ対応する零。対してなのは達は見慣れないアズサと姫を見て目をパチクリさせるが、直ぐに正気に戻って零に問い掛けた。

 

 

フェイト「零……その二人って……」

 

 

零(ッ!やっぱり来るか?キレるか?!ええい覚悟は出来てるっ!バスターでもブレイカーでも何でも来いっ!!)

 

 

GYAKUSATSUの十回や二十回の覚悟はとうに出来てる。さあ何処からでも掛かって来い!と死を覚悟した零は顔を俯かせながら瞳を強くつむった。が……

 

 

なのは「―――その二人が、ルミナさんの妹のアズサちゃんと桜ノ神の木ノ花之咲耶姫さんなの?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……はい?」

 

 

姫「む?私達の事を知ってるのか?」

 

 

はやて「あ、はい。お二人の事はクラウンと冥華さんから伺ってますよ」

 

 

なのは「大変だったみたいですね?アズサちゃんは零君を倒すために鳴滝さんに利用されたり、木ノ花之咲耶姫さんは幻魔神っていう神に酷い目に遭ったりとか……」

 

 

姫「む、まあそうだが……その事は余り気にしてないから大丈夫だ。あと、私のことは姫で構わないぞ?」

 

 

なのは「あ、そうですか?分かりました。じゃあ私も……って、そういえばまだ自己紹介してませんでしたね?私、零君の幼なじみの高町なのはです。なのはって呼んで下さい♪」

 

 

姫「よろしく頼む。ほら、アズサも自己紹介しないと?」

 

 

アズサ「ん……アズサです……よろしく……それで、この子がシロ……」

 

 

シロ『うにゃー……』

 

 

ヴィヴィオ「わぁ~!ネコさんだぁ~♪」

 

 

ウェンディ「おー!めちゃくちゃカワユイッスねぇ~♪」

 

 

フェイト「宜しくねアズサ、シロ?」

 

 

零「…………………」

 

 

固まる零を無視して、それぞれ自己紹介をしたりシロと遊んだりするなのは達。零は同じく状況が飲み込めてない翔と優矢と一度顔を見合わせ、恐る恐る一同に問い掛けた。

 

 

零「あの……お前ら怒ってないのか?ソイツ等連れてきたこと……」

 

 

なのは「え?別に?だって訳ありだったんでしょ?」

 

 

はやて「まあ最初聞いた時は『またかっ!』って皆して思ったけど、事情が事情やからしゃーないって思ったしな。怒る要素が何処にあるん?」

 

 

零「……………」

 

 

…………あれ?何だこれ?本気で一瞬そう思った零は有り得ない物を見るような目でなのは達を見ると、翔と優矢の方に振り返り自分の顔を指差した。

 

 

零「なあ……これ、もしかして夢か?」

 

 

優矢「いや……多分、現実だと思うけど……?」

 

 

翔「えーっと……取りあえず夢かどうか一回頬をつまんでみたらどうだ?」

 

 

同じく困惑してる翔の提案を聞き、頬を結構キツメに引っ張ってみる……うん、目茶苦茶痛い……

 

 

零(という事は……夢じゃない?白昼夢でもない?これが?)

 

 

自分の予想と遥かに違う目の前の光景を見つめながら暫く固まり、頭の中で現在の状況を再確認し、全てを理解したところで……

 

 

零(―――た、助かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っっ!!!υυ)

 

 

アズサや姫の事でなのは達が怒り心頭といった様子は微塵も感じられない。今回の制裁は免れたのだと、零は心の中でクラウンや冥華に激しく感謝しながら感動を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――が……

 

 

 

 

 

 

フェイト「――あ……そういえば零に幾つか見てもらいたい物があるんだけど、これ見てくれるかな?」

 

 

零「んー?何だ?別に何でも――――」

 

 

いやはや、いらん心配してしまったなぁーと額に浮かんだ汗を拭いながら晴やかな表情でフェイトの方へと振り返った瞬間、その表情がピシリと固まった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――私の初めて……今はこれで我慢して……ね?』

 

 

『っっっっ?!!!!!』

 

 

フェイト「――これ、なーんだ♪」

 

 

……何故なら、零の視界に満面の笑みを浮かべながら一台のパソコン……桜ノ神の世界での桜香との口づけの映像が流れるパソコンを持つフェイトの姿が映ったからだ。

 

 

零「そ、それはっ?!」

 

 

フェイト「このサイトって結構便利だよね?異世界の情報もタイムリーで分かるし♪アズサや姫の事は事前に聞いてたんだけど、これについては何も知らないんだ♪……何なのかな、これ?」

 

 

零「い、いやあの……それはそのっ……」

 

 

マズイっ、その事をすっかり失念していた?!と零は今になって思い出しながら冷たい目で睨みつけてくるフェイトを見て思わず身を引いていき、その様子を見たはやても何かを思い出したようにポケットを漁り出した。

 

 

はやて「そうそう……そういえば零君?私等面白い物を貰っとるんやけど、これなぁーんだ♪」

 

 

零「……え……?」

 

 

可愛らしく首を傾げ、満面の笑みを浮かべてはやてがポケットから取り出したのは、数枚の写真……紫音 冥華が零に襲われて(アレな意味で)いる姿が写された写真だった。

 

 

零「――って、なんだその写真はッ?!」

 

 

はやて「この間冥華さんが見せてくれたんよ……なんでも?零君に身も心も好き放題にされて汚された上に、キスマークやらなんやら体中に付けられたとか……」

 

 

零「は、はぁ?!いやいやいやいや知らない知らない知らない?!そんな事身に覚えにないというか、俺がそんな事する訳ないだろう?!」

 

 

フェイト「どうかなぁ……だってコレの事もあるし」

 

 

零「ぐぅっ?!だ、だからそれはっ……!」

 

 

非難囂々の目でパソコンと写真を突き出してくるフェイト達に一瞬怯んでしまう零だが、すぐに首を振って反論を続けた。

 

 

零「と、とにかく!パソコンの方はともかく写真の方は知らない!ホントだっ!これはあの女の陰謀だっ!」

 

 

はやて「ふぅーん……其処まで言うんやったら、本人に直接聞いてみよか?冥華さーん?」

 

 

零「……は?」

 

 

そう言ってはやては扉の方に向けて冥華の名を呼び、零は思わず間抜けな声を上げながら扉に目を向けた。其処には……

 

 

 

 

冥華「…………」

 

 

 

 

零「な、冥華っ?!」

 

 

其処には扉のからゆっくりと姿を現す女性……桜ノ神の世界でなのは達に事情を説明しに行ったはずの冥華の姿があったのだ。そして冥華の登場に零が驚愕を隠せない中、はやては冥華の隣に立って話し掛けた。

 

 

はやて「さて冥華さん、今零君が言ってた事はホンマですか?」

 

 

冥華「いいえ……彼は嫌がる私を無理矢理組み伏せ、身ぐるみを全て強引に破り取って身も心も汚した挙げ句、自分のものである証として体中にこんな数のキスマークをっ……もう私、女として生きていけないっ!うっ、うわあああああああああああああああああんっ!!!!」

 

 

零「ΣΣ人の悪事を勝手に捏造するなっ?!おい待て!違う!誤解だ!俺はその女に何もやってない?!」

 

 

フェイト「じゃあこの写真は一体なに?!それに冥華さんの首や体中に付けられたキスマークとかは?!」

 

 

零「だからそんな物は知らないっ!!大体そんな写真なんかその気になれば幾らでも造れるし、跡だって俺が付けたという証拠もないだろうっ?!」

 

 

はやて「む……まあ確かにそうやけど……」

 

 

お、おぉ?手応え有りか?よし!このまま押し切る事が出来ればっ……!

 

 

零「それでもまだ疑うって言うなら、俺の体を調べて証拠を探せばいい!それで俺の無実が晴れるなら幾らでも――!」

 

 

―……ポロッ―

 

 

なのは「……あれ?なにか落ちたよ零君?」

 

 

両腕を広げて必死に弁解をする零の服のポケットから、不意に何かが落ちて床に転がった。それに気付いたなのはは落ちた何かに歩み寄って拾い上げ、それが何なのか確かめた。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『機動避妊用具コンドム00 2ndシーズン』

 

 

 

 

 

 

なのは「…………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

…………今の状況で絶対に見付かってはならないモノだった。なのははどっかのロボットアニメを捩ったような商品名がドンッ!と載せられた青い箱を見てその表情がみるみる消えていき、最終的には前髪で顔を隠しながらグシャッ!と箱を握り潰していった。

 

 

なのは「零君……何なのかな……これ……」

 

 

零「…は?なにが――――ΣΣハッ?!」

 

 

感情すら消え失せた低い声でそう呟くなのはに、零は疑問げに振り返って驚愕の表情を浮かべた。先ず零が驚いたのは阿修羅を背後に浮かべるなのは、そしてその後になのはが握り締める箱を見たからだ。

 

 

なのは「可笑しいよね…?何時もならこんなの持ってない筈なのに……これってまさか、今の話と何か関係があるのかなぁ……?」

 

 

零「い、いやっ……違うっ……それは違うぞなのはっ?!それは今回の件とは何も関係―ガシッ―……え?」

 

 

殺気のオーラを纏うなのはから身を引きながら必死に弁解を続ける零だが、背後からいきなり誰かに両肩を掴まれた。その人物は満面の笑みを浮かべる二人……フェイトとはやてだった。

 

 

フェイト「動かぬ証拠……見付かっちゃったね♪」

 

 

はやて「これでもう違うなんて……言えへんよなぁ?」

 

 

零「い、いやだから違うっ?!これは単なる偶然だっ?!えっとっ…そ、それは単に貰っただけであって、別に俺自身が買った訳では……!!」

 

 

二人から咄嗟に離れて事実を話していく零だが………どう言っても言い訳っぽくにしか聞こえない。次第になのは達の殺気がみるみる募っていく中、零は自分の力だけでは弁解は無理だと判断し……

 

 

零「(クッ!こうなったらっ……)アズサ!木ノ花!カリム!シャッハ!頼む!お前達からも何とか言ってやって……………あれ?」

 

 

こうなれば彼女達の証言に頼るしかないと、零は背後へと振り返ってアズサ達に呼び掛けようとしたが……何故か、先程一緒にいた筈の四人がリビングから姿を消していた。

 

 

零「え?ア、アイツ等何処に言った?」

 

 

優矢「あー……そのぉ……アズサ達ならさっき、栄次郎さんに部屋を案内してもらいに二階に……υυ」

 

 

零「おおおおおおおい早いよ爺さんっ?!待てっ!戻って来いっ!!せめてこっちの誤解を解いてから―――ハッ?!」

 

 

栄次郎の行動の速さに驚かされながらも悲痛な叫びを上げる零の背後で、殺気のオーラが更に強味を増した気配がした。額から大量の汗を流しながらギギギギッと壊れたブリキ人形のようにウシロヲ見れば……既にデバイス(レプリカ)を手にするなのは達の姿が其処にあった。

 

 

はやて「さあて……言い訳は十分に並べたやろ、零君?」

 

 

零「い、いや…だから、俺が言ってるのは全部事実であって?!」

 

 

フェイト「これだけの証拠や証言が揃ってるのに……まだ違うって言うのかな?」

 

 

零「本当に違うんだから仕方ないだろ?!どれも俺には見に覚えなんて――!」

 

 

冥華「酷いっ……あのときあの公園で、私に傷を付けたことも忘れたって言うのねっ?!」

 

 

零「……は?傷?公園?」

 

 

目尻にうっすらと涙を浮かべながら叫んだ冥華のその言葉で、零の脳裏に一瞬ある光景が過ぎった。それは桜ノ神の世界で姫が封印されたツボを大輝に盗まれた際、公園で冥華と一騎打ちした時に肩に傷を負わせた時の……

 

 

零「――ああ、あの事か?」

 

 

なのは「認めたね?」

 

 

零「ッ?!!」

 

 

しまった、余計な事を?!と自分の失言に気付き慌てて両手で口を塞ぐ零だが、その行動を肯定だと見做したなのは達はデバイス(レプリカ)を振るって風を起こし……

 

 

なのは「判決ッ!!」

 

 

『死刑ッ!!!!』

 

 

死の宣告を高らかに叫び、デバイス(レプリカ)を構えジリジリと零に迫っていくなのは達。対する零も滝のように冷や汗を流しながら、なのは達が一歩近付く度に一歩ずつ下がっていた。

 

 

零(ま、マズイっ……どうする?!今の失言のせいでこれ以上の弁解に意味がなくなってしまったし、当事者の四人もいない!弁解も出来ず、援護も期待出来ない……仕方がないっ……)

 

 

なのは達がデバイス(レプリカ)を構えて徐々に迫り来る中、零は瞳を伏せながら心の中である決意をし、カッ!と両目を大きく開きながら……

 

 

零「――あぁーーっ?!!あんなところで、幸助がまた知らない女に『嫁にしてくれ』と迫られているーーっ?!!」

 

 

ギンガ「えっ?!」

 

 

なのは「嘘?!また?!」

 

 

セイン「どこどこどこ?!え、どこっ?!」

 

 

零が咄嗟になのは達の背後の窓を指差しながら叫んだ瞬間、一同は一斉に背後へと振り返った。そしてそれを見た零はキュピーンと目を光らせながらすぐさま腰に手をやり、其処から玉のような物を取り出し床に向けて投げつけた。

 

 

―バウーーーーンッ!!!!!!―

 

 

ノーヴェ「うわぁ?!な、なんだ?!」

 

 

チンク「ゲホッゲホッ!!こ、これは?!」

 

 

すずか「煙玉?!」

 

 

零が床に玉を投げつけたと共に、玉が二つに割れて中から煙幕が発生し、なのは達の視界を遮っていったのだった。そして視界を埋め尽くす煙幕が徐々に晴れていくと、先程まで目の前にいた筈の零が忽然と消えていた。

 

 

フェイト「ああ、逃げた?!」

 

 

冥華「往生際悪いわね……みんな!零は写真館から出てないわ!気配を辿るから着いてきなさいっ!」

 

 

『了解っ!』

 

 

と、いつの間にかジャッジメントバスターソードとガイアセイバーを両手にした冥華を先陣に一同は一斉に動き出し、そのまま部屋を飛び出て零を追跡していったのだった。

 

 

翔「……行っちまったなぁ」

 

 

優矢「ですねぇ……つうか翔さん、零のフォローしなくて良かったんですか?」

 

 

翔「ん?あっいや、フォローは入れる気あったんだが……いざフォローしようとした時に、冥華さんに邪魔されてさυυ」

 

 

優矢「え?邪魔って、何かしてましたっけあの人?」

 

 

記憶を掘り返してみるが、冥華が翔を邪魔するような動きはなにもしてなかった筈だ。思い当たる節がない優矢は疑問符を浮かべてばかりいるが、翔は苦笑いしたまま口を開いた。

 

 

翔「直接邪魔してきたわけじゃねえんだけど……ただ俺がフォローを入れようとしたら、あの人物凄い笑顔で―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

冥華『邪魔したら"ナニ"を潰すから♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

翔「――って、笑いながら無言のプレッシャーを掛けて来てたんだよυυ」

 

 

優矢「うわぁ……目茶苦茶理不尽ッスね……」

 

 

翔「ああ…零には悪いが、アレは流石に俺でも無理だ。俺の鍛えられた本能も告げてたし、『あの人に逆らうな、アレは師匠並かそれ以上にヤバイ』って……」

 

 

優矢「……翔さんが其処まで言うってどんだけヤバイんですかあの人……」

 

 

翔の発言に若干引き気味になりながら冷や汗を大量に流す優矢。まぁ実際、外史の八柱神の全ての神権が集約されてるらしいからヤバイで済む話かどうか……

 

 

翔「まあ零達は無事(?)に送り届けたワケだし、俺もそろそろ帰るわ」

 

 

スバル「え?もう行っちゃうんですか?」

 

 

セッテ「そんなに急がなくても……良ければお茶を出しますよ?」

 

 

翔「いや、気持ちだけ受け取っとくよ、俺もイロイロ忙しいし。それに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

『捕まえたぁっ!!!』

 

 

『ぐおおおおおおおおおおしまったあああああああああああああああっ?!!』

 

 

『もう逃げられへんでっ!観念しいや零君ッ!』

 

 

『素直に尾縄を頂戴してOHANASHI―――の前に、これからやっときましょうか♪』

 

 

『……え?なに?その馬鹿でかいハサミ?』

 

 

『うふふ♪もう淫行に走れないようにぃ……きょ・せ・い・してあげる♪』

 

 

『は?へ?嘘だろ?冗談だろ?本気?本気なのか?!待て待て待て待て?!何でそこまでしなきゃならないんだっ?!』

 

 

『大丈夫、あの時の借りはコレでチャラにしてあげるから♪はい去勢♪去勢♪』

 

 

『や、止めろ?!来るな!寄るな?!寄るなあああああああああああああああああああああああああああっ?!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

翔「―――お前等も、アレでゆっくりしてる暇なんてないだろう?」

 

 

『ア、アハハハッ……』

 

 

断末魔のような悲鳴が響き渡る二階を指差す翔の言葉を否定出来ず、ただ苦笑いを浮かべるしかない一同。

 

 

翔「ま、零にはまたその内旅館に遊びに来いって伝えといてくれ。今回のことでサービスするからって」

 

 

優矢「あ、はい。ホントに、お世話になりました」

 

 

此処にいない零の分も含め、翔に向けて深くお辞儀をする優矢。翔はそんな優矢を見て気にすると言うように軽く手を振り、そのまま踵を返し写真館を後にしたのであった。

 

 

ティアナ「……それにしても、本当に大変だったみたいですね、お二人共」

 

 

優矢「ん?ああうん。まあ確かに大変だったけど、俺はそんな大した事ないよ、周りに人が居てくれたし。それに一番大変だったのは多分、零だっただろうしさ」

 

 

ディード「ああ……確かに異世界に飛ばされた上に命を狙われたり、神と戦うことになったりとか……色々苦労が絶えなかったみたいですからね……」

 

 

チンク「挙げ句の果てにはトドメにアレ……だからな」

 

 

そう言ってチンクが未だに悲鳴が響き渡る二階を見上げると、優矢達も天井に目を向けながら苦笑いを浮かべた。とそんな時、部屋を案内しに行っていた栄次郎とアズサ達が漸くリビングへと戻ってきた。

 

 

栄次郎「あれ?零君と翔君は何処行ったんだい?」

 

 

優矢「あ、翔さんならもう帰りましたよ。零は……いつものアレですυυ」

 

 

アズサ「……アレ?」

 

 

シャマル「あっ、ううん!何でもないのよ?なんでもυυ」

 

 

流石に新参者達にいきなりアレを教えるのは気が引けるのか、シャマルは両手を振って必死にごまかしていき、アズサ達はそんなシャマルの様子に疑問符を浮かべていた。

 

 

優矢「え、えっと……え、栄次郎さんっ!良かったら珈琲貰えませんかね?!何か久々に帰ってきたらあの味が恋しくなってきちゃってυυ」

 

 

栄次郎「ん?そうかいそうかい♪よしよし、じゃあアズサちゃん達の分も容れてくるか、ちょっと待っててねえ~」

 

 

優矢はアズサ達を見てすぐさま話題を変えようと栄次郎に珈琲を頼み、栄次郎も優矢の言葉で機嫌を良くし笑みを浮かべながらキッチンの奥へと向かっていった。

 

 

姫「ほおう?此処は珈琲のサービスもしてるのか?」

 

 

ギンガ「えぇ。栄次郎さんの特製の珈琲、その辺りの喫茶店が容れた珈琲よりも美味しいんですよ?」

 

 

姫「ほぉ?それは興味深いな……では私もブラックを頼もう♪苦い物を熟知しておけば色々役立つからな、うん♪」

 

 

優矢(……何に役立てようとしてんだろうこの人……まあ大体想像は付くけど……)

 

 

両腕を組みながらウンウンと頷く姫を見つめながら、そんな事を考えて苦笑いを浮かべる優矢。そして栄次郎が珈琲を容れてくれるのを待とうと、一同が近くのテーブルに腰掛けようとした。そんな時……

 

 

―ガチャ…ガララララララッ…パアァァァァアンッ!―

 

 

スバル「……あ、また背景ロールが?!」

 

 

リビングにある背景ロールが突然降りていき、写真館はまた新たな世界へと移っていったのである。その絵は巨大な門の中に蒼と白銀の蝙蝠が止まっているという絵だった。その世界とは……

 

 

ティアナ「?これってもしかして……稟さんのエクスキバット?」

 

 

ディエチ「じゃあ、この世界は……」

 

 

優矢「エクス……稟の世界?」

 

 

新たに訪れた世界は、零や彼等が良く知る人物の世界。新たな背景ロールを見た一同は今までにない何かを感じながらもその絵をただ眺めていくのであった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―謎の建造物内・廊下―

 

 

そしてその頃、GEAR電童の世界を後にした総一と薫の二人は組織が拠点としてる世界へと戻り、GEAR電童の世界での零達の動きを報告する為に王座の間へと向かっていた。

 

 

薫「……それにしても、良かったの総一?決戦の最中に逃げたりして……」

 

 

総一「良いんだよ。俺達の目的は、あくまで零の監視だ……それに奴らの仲間の足止めはしといてやったんだから、俺達が責められる理由なんてねえさ」

 

 

薫「…………」

 

 

淡々とした口調で話す総一の言葉を隣で聞きながら、何処となく暗い雰囲気を漂わせる薫。そんな薫の様子に気付いた総一は、足を止めて薫と向き合った。

 

 

総一「んな事より…お前はいいのかよ?」

 

 

薫「……え、何が?」

 

 

総一「あの小僧……クウガの事だよ。お前、アイツと何か関わりが合ったんじゃねえのか?」

 

 

薫「……っ!」

 

 

核心を突くようなその言葉に、薫は思わず顔を上げて驚愕した。その様子を見た総一は「やっぱりな…」と眉を寄せ、深い溜め息を吐いた。

 

 

総一「薫、先に断っておくが……アイツの事は忘れた方がいい。また戦うことになったら、お前だってやりにくいだろう?」

 

 

薫「……心配してくれるの?」

 

 

総一「そんなんじゃねえよ……ただ私情を挟まれたら任務に支障が出るかもしれねえから、そうなる前に忠告してるだけだ」

 

 

薫「……そっか……うん、でも大丈夫……彼のことはもう気にしてないから安心して?任務に私情を挟んだりもしないから」

 

 

総一「……ならいいけどよ……」

 

 

明るい様子で優矢のことはもう気にしてないと告げる薫の言葉を聞き、若干心配は残るも取りあえず納得する総一。

 

 

総一「まあいいか……取りあえず俺は報告を済ませてくっから、お前は先に休んでろ」

 

 

薫「え?い、いいよそんな、報告なら僕も一緒に……」

 

 

総一「良いからおとなしく休んでろ。またいつ任務に借り出されるか分かんねえんだからな。報告は俺一人で充分だから、お前は先に身体を休ませておけ」

 

 

薫「……分かった……そうさせてもらうよ……ごめんね総一……」

 

 

総一「別に……じゃ、俺はもういくぜ」

 

 

詫びる薫を尻目にそう言うと、総一はそのまま報告を済ませる為に王座の間へと向かっていった。そして薫は総一の背中を見送ると、顔を曇らせながら俯いてしまう。

 

 

薫「可笑しいな……こんな筈じゃなかったのに……」

 

 

ポツリと、薫は廊下の真ん中に佇みながらそう呟き、何もない天井を見上げた。

 

 

薫「……だけど、やるしかないんだ……僕を救ってくれたヴェクタスを守る……それが僕の決めた道なのだから……」

 

 

目を細め、強い意志を宿した瞳でそう呟くと、薫は静かに踵を返して自室へと戻っていったのだった……

 

 

 

 

 

 

第十八章/GEAR電童の世界END。

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~

 

 

 

――――これはまだ、彼が断罪の神の弟子になる前。世界の破壊者達と出会う前の……一人の美しき王女との出会いの物語である。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

――――王都レデグレア。荒れ果てた荒野に包まれたとある並行世界に存在する国の一つで、魔法の文化レベルがかなり発達した王国だ。

 

 

街中は西洋を思わせるような作りの家や建物が多く立ち並んでおり、街の中心には巨大な王宮が建てられている。

 

 

今の時刻が深夜のためか、街中は闇に支配され静寂に包まれている。そんな中、高層ビル30階以上はあるであろう王宮の屋上では、革ジャンを羽織った青年がロープを背負って立っていた。

 

 

 

 

大輝「―――例のお宝は、この王宮の中か……」

 

 

 

 

革ジャンを羽織った青年、海道大輝はニヤリと不敵に笑いながら肩に担いでいたロープの片方を手短な場所に結んでいき、もう片方を屋上から投げて下へと吊していく。そして吊したロープを伝って壁を蹴りながら下へと下りていき、適当な窓を蹴り破って王宮の中に侵入していったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

王宮内への侵入に成功した大輝は深夜の見回りをしている兵士達をやり過ごして先へと進んでいき、目的のお宝が保管されてあると思われる部屋の近くにやって来ていたのだが……

 

 

大輝(……見張りか)

 

 

大輝は通路の角に差し掛かった場所で壁に張り付き、顔だけ出してみる。目的の部屋が見えるが、その扉の前に二人の見張りの兵士が立っていた。

 

 

大輝「すぐに片付けるには問題はないが……ちょっとめんどくさいな……此処はコイツを使うか……」

 

 

そう言って大輝はゴソゴソとポケットの中から手榴弾のような形状をしたモノを取り出し、口でピンを外して兵士達の目の前目掛けて投げつけた。そして球が地に転がると、ピンが外れた部分からガスのような物が勢いよく噴き出し、二人の兵士は突然のそれに驚くもすぐにフラフラと倒れてしまった。

 

 

大輝(思ったより効いたな、睡眠ガス……まあ8時間ぐらいは起きないだろうから、あのままほっといても大丈夫か)

 

 

顔だけ出して様子を見ていた大輝は睡眠ガスが完全に消え去るのを確認すると、通路に出て扉の前まで近づいていく。

 

 

大輝「此処か……一応扉にトラップは仕掛けられていないようだね」

 

 

扉自体に防犯用のトラップが仕掛けられていない事を確認した大輝は扉から少し離れていき、腰からディエンドライバーを回転させながら取り出すと扉に厳重に掛けられた鍵に銃口を向け、発砲して鍵を破壊した。

 

 

そして鍵を破壊した大輝が扉を開けて中へと入ると、部屋中にはガラスケースで保管された高価な宝石達がズラリと並んでいた。

 

 

大輝「凄い光景だなぁ……さて、目当てのお宝は何処にあるかな?」

 

 

ガラスケースで保管される宝石達から視線を逸らし、大輝はなにかを探すように辺りを見回しながら部屋の奥へと進んでいく。そして暫く奥へ進むと、一番奥に他のガラスケースとは何処となく厚さや大きさが違うガラスケースがあり、その中には蒼く輝く球状の宝石が保管されていた。

 

 

大輝「ッ!ビンゴ!やっと見付けた♪」

 

 

パチンッ!と目当てのお宝を見付けて思わず指を鳴らし、大輝は腰に巻いているバッグからゴツゴツとしたゴーグルを取り出して目に装着すると、ケースの周りを見渡していく。これには視覚では見えないセンサーやレーザー等を識別出来る機能が備えられているのだが、ケースの周りにはそれらしき物は見当たらない。

 

 

大輝「?トラップは無しか?随分と警備が甘いんだな。まぁ、それならこっちは楽で良いんだけど」

 

 

センサーやレーザー類のトラップがないのを確認した大輝は小首を傾げながらゴーグルを外してバッグに仕舞い、蒼い宝石が保管されたガラスケースへと近づいていく。

 

 

大輝「かつて聖女が、この世界を我が物にしようとした悪魔を討った時に使ったという伝説の秘宝……エレメンタルストーン。やはり噂は本当だったか……」

 

 

蒼い宝石……エレメンタルストーンを見て大輝は不敵な笑みを浮かべ、さっさと宝石を手に入れて此処を出ようとガラスケースに手を伸ばしていく。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―バシュウッ!―

 

 

大輝「…っ?!―ドガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァアンッ!!!―グアァッ!!」

 

 

 

突如大輝に一発の青い光弾のようなモノが何処からか放たれ、光弾は大輝に直撃すると同時に巨大な爆発を起こし大輝を吹っ飛ばしていってしまったのだ。そして吹き飛ばされてしまった大輝は全身が少し黒焦げ、光弾が直撃した腹部からは夥しく赤い血液が滲み出ていた。

 

 

大輝「ぐっ……くぅっ……今のはっ……―ジジジジジジジジジジッ!!!―……ッ?!」

 

 

いきなり放たれてきた光弾に大輝は思わず腹を押さえながら辺りを見渡していくが、今の爆発を感知したのか突然けたたましく警報が鳴り響き、大輝は一度エレメンタルストーンを見て舌打ちすると腹部を抑えながらふらついた足取りで部屋から出ていった。その影では……

 

 

 

 

 

『―――フッ……』

 

 

 

 

 

部屋の隅の物陰では、灰色の身体をした一体の異形が大輝の背中を見て不気味に笑い、そのまま何処かへと歩き去っていったのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―王宮・屋上―

 

 

「居たぞ!こっちだー!」

 

 

大輝「ちっ……!」

 

 

部屋を出て急いで王宮から脱出しようした大輝だが、怪我を負ったせいで上手く動き回る事が出来ず、途中で警報を聞き付けた兵士達に運悪く見つかってしまっていたのだ。そして次第に兵士達に逃げ道を塞がれ、遂に屋上にまで追い詰められてしまっていた。

 

 

「抵抗は止めて、大人しく投降しろ!素直にこちらの指示に従えば、刑も少しは軽くなるぞ!」

 

 

大輝「っ…………」

 

 

周りを取り囲まれ、退路を断たれてしまった大輝は舌打ちしながら後退りをしていくが、後ろは行き止まりで、遥か下には王宮の庭に備え付けられた泉が微かに見える。それを見た大輝は銃を向けてくる兵士達に目を向けながら……

 

 

大輝「―――フッ……」

 

 

―バッ!!―

 

 

『……なっ?!』

 

 

不敵な笑みを浮かべたと思いきや、大輝は背後に振り返らないまま地面を蹴り、そのまま屋上から暗い闇に包まれた空へと飛び出したのだ。それを見た兵士達はギョッと顔を引き攣らせるが、大輝は最後まで笑みを浮かべたまま落下し、そのまま庭の泉へと落ちて水しぶきを上げたのだった。

 

 

「……ッ!あ、あの男っ、何をやってるんだ?!」

 

 

「じ、自殺?死んだのか?」

 

 

「……いや……泉に落ちたのだから、まだ生きてるかもしれん……下だ!!下へ急げ!!あの傷でこの高さから落ちたのだから、多分まともに動けん筈だ!!」

 

 

「は、はい!」

 

 

恐らく此処から逃げる為にあのような行動をしたのだと思うが、きっとあの傷でまともに動けないハズだ。そう考えた隊長と思われる兵士の指示で他の兵士達が荒立たしく屋上を後にし、大輝が落ちた泉に向かう為に下へと下りていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

大輝が屋上から飛び降りる少し前―――王宮のとある個室。

 

 

「………………」

 

 

王宮内のある個室。まるで王族が使うような豪華な造りをした部屋の中では、美しい白い髪のロングヘアーを持った女性がベッドの上で暗い表情を浮かべながら顔を俯かせていた。

 

 

「……あと二週間……か……此処に閉じ込められてから、もう半月以上も経つんですね……」

 

 

そう言って女性は深い溜め息を吐くと、近くに掛けておいたカーディガンを羽織ってベッドから立ち上がり、部屋のバルコニーへと出て夜空を見上げていく。

 

 

「……今日は満月だったんですね……綺麗……」

 

 

金色の光を放ちながら夜空に浮かぶ満月を見て笑みをこぼす女性。しかし、その笑みもすぐに消えて暗い顔に戻ってしまった。

 

 

「でもレイディアントからなら、星とかももっと良く綺麗に見えていたかもしれませんね……ふふ……まあ、仕方ないですよね……」

 

 

自嘲するように笑いながら女性は満月を見上げていくが、その瞳は何かを恋しく思うように何処か悲しげに見える。そうして暫く夜空を見上げていたせいか身体が冷えてきたらしく、女性は肩を軽く摩りながら部屋に戻ろうとした。そんな時……

 

 

 

 

 

―…………ドッパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

何か重い水の音のような物が聞こえ、部屋に戻ろうとした女性は足を止めて振り返り、慌ててバルコニーから身を乗り出して庭を見渡していく。すると、庭から少し離れた場所にある庭の泉の水面が大きく揺れ動いているのが微かに見え、更に向こう王宮の屋上では、大勢の兵士が泉を見て荒立たしく動き回る姿が見えた。

 

 

「?何かあったのかしら……」

 

 

こんな夜中に、しかもあれだけの兵士達が忙しく動き回っている辺り、きっと何かあったに違いない。そう予想した女性は少し顔を俯かせて何かを考える仕草をすると、そのままバルコニーから部屋、部屋から廊下へと出ていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

数分後……

 

 

「はぁ……はぁ……やっと着いたっ……」

 

 

あれから部屋を出た女性は全力で王宮内の階段を駆け降り、王宮を出て泉の近くにやって来ていた。そして女性は泉に着くと、肩で息をしながら何かを探すように泉の周りを歩いていく。

 

 

(あれだけの兵士があんな屋上に居て、しかもこの泉を見ていたとなると、きっとこの泉に何かが落ちたのかもしれない……もしそうなら早く見つけてあげないと。特にもし人とかだったらもっと大変だし……!)

 

 

そんなお人好しな事を考えながら泉の周りをくまなく詮索していく女性。とその時……

 

 

 

 

 

 

―……ガサッ……ガサガサッ……―

 

 

「……ッ!だ、誰?」

 

 

 

女性の背後の茂みから不意に物音が鳴り、女性は一瞬それに驚きながらも茂みを見つめて聞き返していく。しかし茂みからは何も答えが返ってこず、女性は首を傾げながら恐る恐る茂みを掻き分けて林の中を覗いていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

大輝「…………ぅ…………ぁ…………」

 

 

「……ッ?!お、男の……人?」

 

 

 

林の中にいたのは、全身がずぶ濡れ、腹を押さえながら仰向けに倒れて辛そうな顔を浮かべる青年……大輝だったのだ。女性は大輝を見付けて一瞬驚愕するが、すぐに正気に戻って慌てて大輝に駆け寄り、身体を抱き起こしていく。

 

 

「だっ、大丈夫ですか?!しっかりして下さい!しっかり!」

 

 

女性は必死に大輝の身体を揺さ振っていくが、大輝は荒い呼吸を続けるだけで目を覚まさず、女性は大輝が押さえている腹の傷を見て顔をしかめた。

 

 

「酷い怪我っ……とにかく、このままじゃこの人が危ないっ……早く傷の手当てが出来る場所に運ばないとっ……!」

 

 

腹の傷を見て早く手当てをしないと危険だと判断し、女性は大輝の腕を自分の肩に回して何とか担ぎ、そのまま王宮の中へと急いで戻っていったのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~①

 

 

―王宮内・???の自室―

 

 

大輝「…………っ……………………ぅ…………」

 

 

時刻は早朝。夜が明けた空には清々しいほどの青空が広がり、朝を知らせるように小鳥の囀りが聞こえてくる。庭では王宮の兵士達が早朝訓練を行っている為、野太い男達の掛け声が響き渡ってきていた。

 

 

そして王宮内に存在するとある一室では、備え付けの豪勢なベッドで横たわっていた大輝が窓から差し込む朝日の光に当てられ、瞼を開いて目を覚ました。

 

 

大輝「…………此処…………は…………」

 

 

目覚めて直ぐな為に意識が朧げで、まだ意識が完全に覚醒していないまま視点を動かし、辺りを見回していく大輝。

 

 

大輝「……何処だ……此処は……」

 

 

最初に思った疑問を思わずポツリと口にしてしまった。どうやら何処かの部屋のようだが、何故自分がこんな場所にいるのか分からない。確か昨日、兵士達から逃げる為に王宮の屋上から泉に飛び降りた筈なんだがと、頭の中で今までの事を思い出しながら身体を起こそうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

「――あ、気がつきましたか?」

 

 

 

 

 

 

大輝「……っ?!」

 

 

 

不意に真横から自分以外の人間の声が聞こえた。その声が脳に到達すると同時に意識が完全に覚醒し、大輝はバッ!と咄嗟に上体を起こして腰に収めたディエンドライバーに手を伸ばしながら声が聞こえた方へと振り返った。其処には……

 

 

「あっ?!だ、駄目ですよ起きたりしたら!まだ寝てないと?!」

 

 

大輝(……?女……?)

 

 

其処には、青と白の洋風のドレスを身に纏い、純白の髪を持った女性が洗面所と思われる場所から水の入った桶を持って出てくる姿があったのだ。そんな女性を見た大輝は疑問符を浮かべながら腰に収めていたディエンドライバーから手を離すが、女性はそれに気付かず慌てて大輝に駆け寄っていく。

 

 

「ほら、早く横になって下さい!軽い怪我は治療出来ましたけど、他の所は私の魔法じゃ治しきれなかったんですから!」

 

 

大輝「……治療?」

 

 

女性の言葉に大輝は不可解といった顔で小首を傾げるが、ふと自分の身体に白い包帯が巻かれていることに気づいた。

 

 

大輝「……もしかして、君が俺を此処まで運んで傷の手当てをしてくれたのか?」

 

 

「へ?あ、はい……昨晩、貴方が王宮の泉の側で倒れてるのを見付けて、それで怪我をしていたみたいだから治療しようと思って……あの、ご迷惑でしたか?」

 

 

大輝「……別に。まあ一応感謝はするよ……それで、此処は一体何処なんだ?」

 

 

「?あ、えっと……此処は私の自室ですよ?」

 

 

大輝「?君の部屋?」

 

 

「はい。えぇっと、もう少し詳しく説明すると……レデグレア王宮の中にある私の部屋ですね」

 

 

大輝「?!王宮の中…?」

 

 

レデグレア王宮の中にある自分の部屋。そう言われて大輝は思わず部屋の中を見回していく。室内の造りは豪華で、家具や化粧台等も一目で一級品の品だと分かるような物ばかりが並んでいる。これら全てが目の前の彼女の所有物だとすると……

 

 

大輝「……もう一つ質問があるんだけど……君は何者だ?」

 

 

「え?あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はシュレリア……シュレリア・リ・レイディアントと申します」

 

 

大輝(……?シュレリア・リ・レイディアント?)

 

 

自己紹介でシュレリアと名乗った女性の名前を聞き、その名に聞き覚えを感じた大輝は顔を少し俯かせると、何かを思い出したような表情を浮かべた。

 

 

大輝(シュレリア・リ・レイディアントって言えば、確かこの世界の大国であるレイディアントの聖女じゃなかったか?)

 

 

レイディアントと言うのはこのレデグレアと並ぶ大国の一つで、かつてこの世界を救った聖女を讃える平和主義国家であり、シュレリア・リ・レイディアントと言えばレイディアント国王の一人娘、そして聖女の生まれ変わりとも呼ばれている王女だった筈だ。

 

 

そんな彼女が、何故レデグレアの王宮にいるのだろうか?

 

 

大輝(同姓同名って訳じゃないだろうし、なんでその聖女様がレデグレアに……ま、別にどうでもいいか)

 

 

謎は残るが、自分には関係ないしどうでもいい話だ。そう思いながら軽く溜め息を吐くと、大輝は近くに掛けてあった革ジャンを手に取って羽織り、ベッドから立ち上がった。

 

 

シュレリア「ッ!ちょっ、駄目ですってば?!まだ寝てないと傷が……!」

 

 

大輝「別にこれぐらいどうだってないさ。それよりも大事な用があるから、君に世話されている暇はないんだよ……じゃあね」

 

 

シュレリア「え……って!ま、待って下さい?!そっちは!」

 

 

軽く手を振りながら部屋から出ていこうとする大輝を呼び止めるシュレリアだが、大輝はそれに構わず部屋の扉に近づいていき、もう一度エレメンタルストーンが保管されてある部屋に向かおうと扉のドアノブを掴んだ。が……

 

 

 

 

 

 

―バチィッ!!!―

 

 

大輝「……っ?!」

 

 

 

扉のドアノブを掴んだ瞬間、突然体中に痺れのような物が全身を駆け巡り、大輝は咄嗟にドアノブから手を離して右手を抑えた。今のは何だ?と疑問が隠せず扉に目を向けると、扉全体に何やら不可視の結界のような物が張られている事に気付き、シュレリアは慌てて大輝に駆け寄っていく。

 

 

シュレリア「ほら!だから言ったじゃないですか!その扉には今、侵入者対策の為に結界が張られているんです!」

 

 

大輝「っ……結界?」

 

 

シュレリア「兵士から聞いた話ですけど、昨晩王宮に賊……まあ泥棒さんが盗みに入ったみたいなんですが、どうやら王宮の中で取り逃がしてしまったらしいんです……それで王宮の中にまだ泥棒さんが潜んでいるかもしれないからと、泥棒さんが捕まるまで外出を禁止すると言って……」

 

 

大輝「……なるほど。それでこの結界を張って、君をこの部屋に閉じ込めた訳か……」

 

 

シュレリアから話を聞き、結界について理解した大輝はそう言葉を紡ぎながら扉を見つめた。

 

 

見たところ、どうやらこれはかなりの高等魔法の部類に入る結界らしい。

 

 

しかもさっき触れてみて分かったが、どうやらこれには反射能力まであるらしく、ドライバーを使って破壊を試みようとしても反射される可能性が高い。

 

 

破壊は不可能ではないが、無傷では無理そうだと判断した大輝は扉から背を向け、そのままシュレリアの横を通りすぎてバルコニーへと向かっていく。

 

 

シュレリア「?ど、何処に行くんですか?」

 

 

大輝「決まってるだろう?扉から出るのが無理なら、こっちから出ていくだけさ」

 

 

シュレリア「へ?……ま、待って下さい?!駄目ですそっちは……!」

 

 

バルコニーから外に出ようとする大輝に再び静止の言葉を投げ掛けるシュレリアだが、大輝はまたそれを無視してバルコニーへと出ていくが……

 

 

―ブオォォォォォォ……―

 

 

大輝「…………………………………………は?」

 

 

バルコニーに出た瞬間、大輝はバルコニーの周りに張られている円形型の結界を見てピタリと止まってしまったのであった。するとシュレリアが後ろから走り寄ってきて苦笑いを浮かべ、若干言い難そうに口を開いた。

 

 

シュレリア「あの、えっと……こちらの方にも、外からの侵入を防ぐ為に結界が張られてまして……外に出る事は本当に不可能なんです……」

 

 

大輝「………………」

 

 

背後で語るシュレリアの言葉を聞いて大輝は頭を抱えたい衝動に駆られながら溜め息を吐き、そのまま部屋へと戻ってベッドに腰を下ろした。

 

 

大輝「入口もバルコニーも外からの侵入を封じられ、中の人間が外に出る事も出来ないか……驚いたよ。君、かなり大事に扱われているようだね?」

 

 

シュレリア「あ、いえ、そんな……すみません……私のせいで、貴方まで一緒に閉じ込められる事になってしまって……」

 

 

大輝「ホントだよ……悪いと思うならどうにかしてくれないか?俺は君と一緒にこんなところに閉じ込められるのは御免なんだが」

 

 

シュレリア「……すみません……こればっかりは、私の力じゃどうする事も出来なくて……」

 

 

大輝「…………」

 

 

つまり、怪我を負う覚悟で結界を破壊する以外でこの部屋から出る事は不可能という訳だ。申し訳なさそうに謝るシュレリアを見てそう理解した大輝は深い溜め息を吐き、それを見たシュレリアは慌てて両手を振りながら口を開いた。

 

 

シュレリア「でっ、でも、ずっとこのままって訳じゃないですよ?兵士達の話だと、あと二週間経てば外に出られるって言ってましたし」

 

 

大輝「二週間?……それはつまり、俺に二週間も此処にいろって事かい?」

 

 

あからさまに嫌そうな顔で聞き返す大輝。ただでさえ自分は此処へ盗みに入っている上に、王宮内では今も兵士達が自分を探しているのだ。

 

 

そんな場所に二週間も滞在していれば捕まる可能性が大だし、なにより目の前の女に自分の正体がバレれば兵士達に突き出される可能性もある。そうなる前にさっさとエレメンタルストーンを盗んでトンズラしたいのだが……

 

 

シュレリア「だけど、この結界は壊したりすると外に伝わる仕組みになっていて兵士が来てしまいますし、貴方だってまだ怪我が完治していないでしょう?助けた側としても、貴方をこのまま行かせる事は出来ません!」

 

 

何やら妙に意気込んだ口調でむん!と胸を張りながら腰に両手を当てるシュレリア。そんな彼女の姿に大輝は「まためんどくさい奴に助けられたなぁ……」と胸の内で昨日の失敗を後悔していたりする。

 

 

シュレリア「あ、でも安心して下さい!ちゃんと怪我が治るまで私が看病しますし、泥棒さんを兵士に突き出すような真似もしませんから!」

 

 

大輝「別にそんなこと心配してるんじゃないんだけど……………って、ん?」

 

 

シュレリアの言葉に呆れながら聞き流しかけた大輝だが、今の会話の中で何かが引っ掛かった。

 

 

……"泥棒さんを兵士に突き出すような真似もしません?"

 

 

大輝「……………ちょっと質問なんだけどさ…………君、俺が何者なのか分かってる?」

 

 

シュレリア「……?だから、泥棒さんですよね?今王宮の兵士が必死に探している」

 

 

大輝「………………」

 

 

こちらの質問に対し、シュレリアはキョトンとした顔で小首を傾げながら不思議そうに聞き返してきた

 

 

……この女、まさかアホか?

 

 

シュレリア「あれ?もしかして違いました?王宮じゃ見掛けない格好してるし、泥棒さんは貴方が倒れてた近くの泉に飛び込んで行方不明になったって兵士達が言っていたから、てっきりそうなんじゃないかと……」

 

 

大輝「……いや、別に間違ってはいないけど……」

 

 

シュレリア「あ、やっぱり合ってましたか?私、こういう予想とかして当てるの結構得意なんですよー♪」

 

 

ヤッター♪とシュレリアは両手でパチパチと拍手しながら自分の予想が当たった事を喜んでいる。

 

 

……間違いない、この女アホだ。

 

 

大輝「……一つ聞いていいかい?普通そういうのって、気付いたらすぐ兵士達に知らせたりする物じゃないのか?」

 

 

シュレリア「?どうしてですか?」

 

 

大輝「どうしてって……俺、泥棒だよ?お宝を盗もうとした見ず知らずの犯罪者を匿うなんて、普通はそんなこと考えないと思うけど?」

 

 

それが常識だろう?と自分が言えた事ではないことを言いながらシュレリアから視線を逸らす大輝。しかしシュレリアはそんな大輝の言葉に首を傾げながら……

 

 

シュレリア「だって、泥棒さん怪我してるでしょう?そんな人を兵士に突き出すなんて出来ませんし、それにもし捕まってしまえば、処刑は免れません……自分が助けた人間をみすみす見殺しにするなんて、そんなの出来る筈ないじゃないですか」

 

 

大輝「…………」

 

 

真っすぐな視線で大輝の目を見つめながらそう告げたシュレリア。それを聞いた大輝は思わず呆れるように溜め息を吐いた。

 

 

大輝「大した奴だね、君は……そんな理由で俺を匿うのかい?見つかれば、君も共犯者として捕まるかもしれないのに?」

 

 

シュレリア「その時はその時ですよ……自分が助けた命は、責任を持って守り通す……死んだ母にそう教えられたんです。だから私も助けた側として、例え犯罪者でも、責任を持って泥棒さんをお助けします♪」

 

 

大輝「…………」

 

 

ニパッと子供のような笑顔を向けながらそんなことを語るシュレリア。

 

 

対して大輝は「本当にそんな理由で助けるつもりなのか?」とまだ信じられず、険しげにシュレリアを見つめていくが、其処で少し考えてみる。

 

 

大輝(……だが良く考えてみれば、コレは都合がいいかもしれないな。またわざわざ王宮内に潜入する手間が省けるし、此処は何重にも結界が張り巡らされてるから兵士も安全だと思って近づかないはず……それに彼女のことは不審な動きがないか見張っていれば問題はないだろうし、いざって時は人質として利用出来る……ある意味では、お宝を手に入れるチャンスかもね)

 

 

思考を巡らませ、この状況やシュレリアが自分の目的に利用出来ると判断した大輝はシュレリアに視線を戻して……

 

 

大輝「……良いだろう。君が其処まで言うなら、俺も一先ず君の世話になろう。正直、看病してくれる人間が居てくれるのはこちらとしても助かる」

 

 

シュレリア「ッ!はい!任せて下さい♪」

 

 

大輝に信用されたと思って嬉しいのか、シュレリアは両手でガッツポーズを取りながら妙に意気込み、大輝に近づいて右手を差し延べた。

 

 

シュレリア「それじゃあ、二週間の間だけですけど、よろしくお願いしますね。えっと……あ、そういえば貴方の名前は?」

 

 

大輝「……さあね……ま、適当に呼んでくれれば良いよ……」

 

 

シュレリア「そうですか……では泥棒さん、よろしくお願いします♪」

 

 

そう言いながらシュレリアは大輝に右手を伸ばすが、大輝は伸ばされた手を見た後興味がないといった様子でベッドに寝転がって反対側に寝返りを打ち、それを見たシュレリアは「もしかして照れ屋なのかな?」と小首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

怪盗と王女、妙な組み合わせで始まった二人の生活。

 

 

外に出られる日まで、あと二週間……

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~②

 

 

奇妙な共同生活が始まってから一日目……

 

 

シュレリア「という訳で、これからお料理をしたいと思います!」

 

 

大輝「…………は?」

 

 

…外の天気は清々しい程の晴天。太陽の日の光が室内の窓から差して心地好く、このまま二度寝でもしようかと思いきやいきなり何の前触れもなく叫んだシュレリアの言葉に大輝は間抜けな声をあげた。

 

 

因みに現在の時刻は昼間、いわば昼飯時である。

 

 

そんな中で、大輝は怪我の回復に専念する為にベッドに仰向けで横たわっており、その隣には椅子に座ったシュレリアがむん!と妙に意気込んだ様子で身を乗り出しながら大輝を見つめていた。

 

 

大輝「……一つ疑問言っていいかい?何がという訳なのかさっぱり分からないんだが」

 

 

シュレリア「え?だから、お料理ですよお料理!ほら見て下さい!もうお昼ですお昼!泥棒さんもお腹空かせてるでしょう?」

 

 

ビシッ!と12時を過ぎた時計を指差しながら意気揚々とした様子で大輝に問うシュレリア。そんな彼女のテンションにいい加減鬱陶しく感じながらも、大輝は自分の腹を軽く摩る。

 

 

大輝「まぁ、確かに少し小腹が空いてきた感じはするけど……まさか、君が料理をするつもりなのか?」

 

 

シュレリア「?はい、そうですよ?何か可笑しいですか?」

 

 

大輝「可笑しいというか……そういうのって普通城の使用人とかが用意してくれる物じゃないのかい?」

 

 

どうでもよさそうな表情でもっともな疑問を口にする大輝。

 

 

何故他国の王女である彼女が此処にいるのかは知らないが、一国の王女なら一応世話係の一人や二人はいる筈だ。

 

 

なら彼女が料理をする必要なんて何処にもないと思うのだが……

 

 

シュレリア「使用人は……えっと、この前まではそういう人達がお世話をしてくれたんですけど、今はもういないというか……私がもう来ないで良いと言ったから来ないというか……(汗)」

 

 

大輝「?どういう事だ……?」

 

 

何故そんなことしたのかと問い掛けようとする大輝だが、疑問を口に出した所で自然と答えが思い浮かんだ。

 

 

大輝「まさか、俺が此処にいるからか?だから使用人を近付けないようにした、と?」

 

 

シュレリア「あっ、はい。だって、泥棒さんは王宮の人間が探してるお尋ね者になってるでしょう?だから使用人さん達にお世話してもらうのは止めたんです。使用人さん達も私じゃなくて、王宮に仕えている人達ですから、誰かに告げ口する可能性だってあるし」

 

 

大輝「…………」

 

 

つまり、自分が此処にいることを他の人間に知れ渡らないように使用人まで追い払ったという事か。

 

 

自分を油断させる為にそうしているのか、ただ単に甘いだけなのかと考える大輝だが、そんなの考えるまでもないかと馬鹿馬鹿しく思えて溜め息を吐いた。

 

 

大輝「まあいいか……しかし、この部屋には台所なんてあるのかい?」

 

 

シュレリア「ありますよ、基本お菓子を作ったり紅茶を煎れたりする時にしか使わないんですけど、たまにお料理とか作ってくれたりしてましたし」

 

 

大輝「成る程……」

 

 

だったら一通りの材料等は台所に揃ってあるという事だろう。それならこの部屋に閉じ込められていても二週間は何とか持つかもしれないと、大輝がそう考えているとシュレリアが席を立って台所へと向かっていく。

 

 

シュレリア「それじゃあ、今からお粥でも作ってきますね?楽しみに待ってて下さい♪」

 

 

そう言ってシュレリアは鼻歌を口ずさみながら台所に向かっていき、それを見送った大輝は天井を仰ぎながら……

 

 

大輝「……こういう展開に限って、超最悪な料理が出てくるのがお約束だよなぁ……」

 

 

……と、この後起こる展開を軽く予想していたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

数十分後……

 

 

シュレリア「出来ましたー!ささ、たぁーんとお食べ下さい♪」

 

 

大輝「……………」

 

 

そう言って台所から出てきたシュレリアはお粥が入ってると思われる鍋をベッドの横のテーブルに置き、蓋を勢いよく開いた。しかし大輝は鍋の中身を見た瞬間顔が固まり、微塵も動かないままジッと鍋の中を見つめていた。何故なら……

 

 

 

 

 

 

―ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴッ……―

 

 

 

 

 

 

大輝「……………」

 

 

 

 

 

 

……コレハイッタイナンダロウカ?と、海道大輝は目の前に置かれた物体を見て思わず自問自答した。

 

 

彼女がお粥と言っていたからお粥だと思うのだが…………………正直コレは…………………

 

 

大輝「……あのさ……これってお粥なのかい?」

 

 

シュレリア「え?そうですよ?お粥に見えませんか?」

 

 

大輝「見えないも何も……これもう見た目的にアウトだろう?お米とか煮込み過ぎてスープみたいになってるし……」

 

 

そう、ぶっちゃけて言うが見た目からしてもうお粥に見えんのだ。お粥なのに米が『一切』入っていないと思いきや、良くみれば米は全部スープみたくドロドロに溶けてるし、あと火にも当てていないのにボゴボゴいってるし……

 

 

大輝「……一応聞くけど……君、料理の経験は?」

 

 

シュレリア「あ……えーっと……使用人さんが料理しているのを……ちょびっと見た程度で……」

 

 

大輝「……ああもう良いよ、大体分かったから……」

 

 

視線をあちらこちらに泳がせながら歯切れ悪く告げたシュレリアに大輝は思わず頭を抱えたくなった。

 

 

大体予想は着いていたが、やはり彼女に料理スキルなんて器用な技術は備え付けられていなかったようだ。

 

 

しかし、だからと言ってコレは流石にないのではないか?

 

 

お粥なんて料理の中でもスタンダードな部類(大輝からして)に入る筈なのに、 それすらまともに作れないとなると…………これはもう壊滅的である…………

 

 

シュレリア「あ、あの……もしかして、お気に召さなかったですか……?」

 

 

大輝「…………」

 

 

不安そうに顔を覗き込んでくるシュレリア。

 

 

正直コレを食べるのはかなり気が引けるのだが、お粥が完成するまで待たされていた間に胃袋はいい具合に腹を空かせている。

 

 

それにどうせ別の物を作らせてもまた失敗するに決まっているし、今より酷い物に仕上がったら自分の命が危ないかもしれない。

 

 

下手な駆け引きするよりも、まだ無難と思われる物を選んだ方が良いだろうと、大輝は諦め半分で溜め息を吐きながらテーブルの脇に置かれた小さい器とレンゲを手に取り、鍋のお粥を器に移して一口食べてみた。

 

 

シュレリア「ど、どうですか……?」

 

 

大輝「……………………………………凄いね…………感動したよ……………」

 

 

シュレリア「ッ!ほ、本当ですか?!」

 

 

大輝「ああ……………此処まで食材を殺しきるなんてそうそう出来ないだろうね……………」

 

 

シュレリア「……へ?」

 

 

無表情で淡々とした口調でそう言った大輝の言葉にシュレリアは思わず目が点となると、すぐに正気に戻り慌ててもう一本のレンゲでお粥を掬い口に運んだ。

 

 

………………………一言で言おう………………『無』だった。

 

 

味も何もない、ただドロドロとした食感があるだけでそれ以外に何も味がない。

 

 

米以外にもネギやら何やら加えた筈なのに、その味すらない。

 

 

そう……これは……

 

 

これが俗に言う、幻想殺しならぬ……『食材殺し』であるっ!!(ジョージ風)

 

 

シュレリア「――ハッ?!な、なんでしょう今の……何だか無償にマーボー豆腐が食べたくなるような声が……?」

 

 

大輝(……可哀相に……あまりの衝撃にワケの分からない電波を受信したみたいだねぇ……)

 

 

意味不明な発言をしながらレンゲを片手に辺りを見回していくシュレリアに哀れみの視線を送る大輝。その視線にハッと気付いたシュレリアは恥ずかしそうに縮こまってしまった。

 

 

シュレリア「えっとぉ……す、すみません!こんな筈じゃなかったんですけど、その……このままお下げしましょうか……?」

 

 

自分でも正直これはないと思ったのか、申し訳なさそうに頭を少し下げながら器を下げようかと聞いてくるシュレリア。だが、大輝はお粥の入った器をジッと眺めた後……

 

 

大輝「……別に良いさ……これを下げてもらった所でマシな物が出てくる訳でもないし、幸いにも食べられないほどマズイって訳でもないからね」

 

 

シュレリア「……へ?」

 

 

ふぅ、と諦めたように溜め息を吐いて言うと、シュレリアは思わず首を傾げた。しかし大輝はそんな彼女に構わず再びレンゲを取って黙々とお粥を口へと運んでいき、シュレリアはそんな大輝を見て暫く呆然としてると、自然と笑みをこぼしながら大輝の顔を見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、何とかお粥を完食して二度寝していた大輝は夕方頃にふと目を覚まし、喉が乾いたのでシュレリアに水を頼もうとしたが、シュレリアは部屋の隅のソファーで規則正しい寝息を立てながら眠っていた。仕方ないので、大輝はまだキシキシと痛む体を抑えながら水を取りに行こうと台所に足を踏み入れたのだが……

 

 

大輝「………………何だ、これは………………」

 

 

台所に入ってすぐ、大輝は目の前に広がるソレを見て思わずそんな言葉を出した。

 

 

まだ目覚めたばかりだから瞼を半開きだが、内心では視界に入った台所の現状を見てオメメパァーッチリ☆的な心境だった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

………床には無数の野菜の残骸と散りばめられた米、流し台には汚れたフライパンや鍋、食器等が山積みに置かれ、その近くには何か肉や魚やマムシやら色んな物体がはみ出たミキサー、トドメにガスコンロにはドでかいカレー鍋がズッシリと置かれ、其処から何とも言えない異臭が漂っていたからだ………

 

 

 

 

 

 

大輝「……料理どころか、後片付けすら出来ないのか……あの王女様は……」

 

 

余りの惨状に流石に言葉も出ない大輝は何とも言えない表情でそう言うと、今度はゆっくりと天井を仰いだ。其処には……

 

 

大輝「――それに……どうやったらあんな所にあんなモノを突き刺せるのか……是非とも教えてもらいたい物だねぇ……」

 

 

…………其処には、何故か天井に一本の包丁が根本まで深くぶっ刺さっていたのだった…………

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~③

 

 

 

奇妙な共同生活が始まってから早四日目……

 

 

大輝(――ふむ……身体の傷も大分良くなってきたみたいだね……)

 

 

時刻は9時半過ぎ。目覚めた大輝はベッドに腰掛けながら身体の傷の具合を確かめていき、次に手の平を握って開くと同じ動作を繰り返していく。

 

 

大輝(……けど、三日目も寝ていたせいで身体も鈍ってきてる感じがするな……明日辺りには軽い筋トレでもしておいた方がいいかもしれないね……)

 

 

全快してもう一度エレメンタルストーンを盗もうと試みて、体が鈍っていたせいでまた失敗してしまった、なんて事になれば笑い話にもならない。そうならないように軽い運動はしておくかと、脳の端っこで適当に考えながら顎に手を当てた。

 

 

大輝(それにしても、一体何だったんだろうね、あの時のアレ……)

 

 

そう考えながら思い出すのは、あの時エレメンタルストーンを盗もうとした時に襲ってきた光弾。あれさえなければ自分はこんな所に二週間も滞在せずに済んだのに、一体何だったのだろうか?

 

 

大輝(魔法って感じじゃなかったしな……それにあの時、俺以外にも誰かがあの部屋にいたって事だし……一体何者だったんだ?)

 

 

あの時、見回りや見張りをしていた兵士を除いた王宮の人間は全員眠っていた筈だ。なのにあんな時間帯に自分以外の人間があの部屋にいて、しかもエレメンタルストーンを盗もうとした自分を攻撃してきた。

 

 

ならばあの場にいたのは王宮の人間か、それともお宝を盗まれては困る別の人間か……

 

 

大輝(しかし……どう考えてもアレは人間業じゃない……魔法ではないし、拳銃といった飛び道具でもなかった……何者なんだ?)

 

 

険しげに眉を寄せながら、大輝はあの時自分を襲った人物について深く考え込んでいく。と、そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~♪♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「……?謳?」

 

 

 

 

深く思考に浸っていた大輝の耳に、不意に優しい声音の謳が届いた。それを耳にした大輝は意識を現実に戻され、訝しげに首を傾げながら謳が聞こえてくるバルコニーに顔を出した。其処には……

 

 

 

 

 

 

シュレリア「Ich weiss nicmt was soll es bedeuten. Das ich so traurlg bin~♪」

 

 

 

 

 

 

大輝(……あれは……)

 

 

 

其処には、バルコニーから空を見上げながら綺麗な謳を紡ぐシュレリアの姿があったのだ。更にその近くには、彼女の謳に誘われてきたかのように空から小鳥達が降りてきていた。

 

 

大輝(?結界が張られてるのに鳥達が……もしかして、この結界は人間に対してしか有効しないのか?)

 

 

次々とシュレリアの側に降りてくる小鳥達を見て大輝は結界を見上げながら予想し、再びシュレリアへと視線を戻していく。

 

 

シュレリア「…Der Gippel des Berges funkelt. Im Abendsonnenschein~♪」

 

 

大輝(ほぉ……悪くない歌声だ……)

 

 

まるで謳に合わせるように暗い顔、寂しい顔、明るい顔、嬉しい顔、凛々しい顔と、コロコロと表情を変えながら歌っていくシュレリアを見て珍しく素直にそう思う大輝。シュレリアはそんな大輝に未だ気付かず、楽しそうに謳を続けていく。

 

 

シュレリア「Ein Maerchen aus altenZeiten. Das kommt mir nicht aus dem Sinn~♪…………あれ?泥棒さん?」

 

 

謳を歌い終えると共にシュレリアは背後からの視線に気付き、部屋から自分を見ている大輝に気付いて振り返った。それと同時に彼女の側に集まっていた小鳥達が一斉に空へと羽ばたき、大輝はズボンのポケットに両手を突っ込みながらバルコニーに出た。

 

 

大輝「上手いじゃないか……いつもそうやって此処で歌ってるのかい?」

 

 

シュレリア「あ、あはは、聞かれてましたかυυ……まぁ、いつもって訳じゃないんですけど、たまぁーに此処で練習してるんです。ちゃんと練習しておかないと、魔法が上手く使えないから」

 

 

大輝「?魔法……?」

 

 

シュレリア「……あ、まだ言ってませんでしたっけ?私の魔法は他の人と違って、魔法を使う時に謳を紡がないと使えないんですよ。だから、小さい頃から魔法と一緒に謳も教えられたんです」

 

 

大輝「……あっそう……」

 

 

少し照れながらそう言ったシュレリアに大輝は興味なさそうに相打つを打つが、シュレリアから視線を逸らしながらある事を思い出していた。

 

 

大輝(そういえば……この世界を救った伝説の聖女も謳を使った魔法を使えてた、とか聞いた事あるな……だから生まれ変わりの彼女も、幼少の頃からそういう教育を受けてきたってワケか……)

 

 

この世界に来る前に調べた情報を思い出して納得しかけた大輝だったが、其処である疑問も一緒に思い出した。

 

 

大輝「――そう言えば、ずっと気になってたんだけどさ……君、なんでこんな所にいるんだい?」

 

 

シュレリア「……へ?何がですか?」

 

 

いきなり唐突な質問をされたシュレリアは頭上に?を浮かべて思わず聞き返し、大輝は目付きを鋭くさせながら言葉を続けた。

 

 

大輝「ずっと疑問に思ってたんだよ。どうして多国のお姫様が、このレデグレアにいてこんな王宮の部屋に閉じ込められているのか、ってね……」

 

 

シュレリア「……っ!」

 

 

眉をひそめながら軽い口調で自身がずっと感じていた疑問を口にする大輝。そのことを問われたシュレリアは一瞬驚いたように目を見開いた後、複雑そうに顔を俯かせながら口を閉ざしてしまった。

 

 

大輝「…ま、単純に疑問に思っただけだから、嫌なら無理して話さなくてもいいよ。俺からしても別に君の話はどうだっていいし」

 

 

シュレリア「…………」

 

 

一番重要なのはエレメンタルストーンだけだからねぇ~と、内心付け足して本当にどうでもよさそうに片手を振りながらシュレリアの隣を通りすぎて風景を眺めていく大輝。すると……

 

 

シュレリア「……私が此処にいるのは……その……このレデグレアの王子に嫁ぐからなんです……レイディアントを守る為に……」

 

 

大輝「…………」

 

 

ボソッと、ちょっとの風が吹いただけで掻き消されてしまうのではと思ってしまう程、か細い声でシュレリアは告げた。それに対して大輝は風景を眺めたまま何も言わず、シュレリアは胸に手を当てながら話を続けた。

 

 

シュレリア「知ってますよね?レイディアントは平和主義を貫き通している為、その軍事力は他の国よりも劣っています……それでも交通の要衝という地理的な理由から商業が栄え、様々な人達や物資の集まる重要な商業都市として、他の国とも友好的な関係を築き上げたんです。それはこのレデグレアも例外でありませんでした……ですが……」

 

 

不意に、シュレリアの言葉が詰まった。それでも大輝は何も言わず、シュレリアは暫く沈黙が流れてから再び語り出した。

 

 

シュレリア「……数ヶ月前、このレデグレアの先代の国王が病で突然倒れ、亡くなってしまったんです……それからこの国の第一王子であるアーベルト・ジ・レデグレア王子が王座に着いたのですが……アーベルト王子は自らを皇帝と名乗り、交通の要衝となるレイディアントに向けて侵攻したのです……」

 

 

ギュッと、手の平を握る様な音が背中越しに聞こえた。それがシュレリアが手の平を更に握り締めた音だと、大輝はすぐに理解した。

 

 

シュレリア「軍事力に劣るレイディアントはレデグレアに対抗する程の力を持っておらず、戦況はレデグレアが一方的に優勢でした……そして国が壊滅の危機に陥た時、アーベルト王子はある交換条件を申し出てきたんです……『このまま国を滅ぼされたくなければ、レデグレアと同盟を結び、レイディアントに伝わる秘宝を寄越せ』と……」

 

 

大輝「……へぇ……」

 

 

シュレリア「勿論父は拒否しましたが、このままではレイディアントが滅びると恐れた私は、父を説得してアーベルト王子の申し出てを受けることにしたんです……そしてレイディアントはレデグレアと同盟を締結し、エレメンタルストーンはレデグレアに引き渡され、私はアーベルト王子との政略結婚の為に此処へ……」

 

 

大輝「……なるほど……要は、君は人質として此処にいるって訳か……」

 

 

もしレイディアントが他の国と密かに手を組み、レデグレアに攻め入った場合は彼女を処刑する。要はレイディアントへの牽制の為に、彼女は此処に閉じ込められているという事だろう。

 

 

大輝「じゃあ、二週間後に外に出られるっていうのは……」

 

 

シュレリア「はい。その日にアーベルト王子との婚式が行われるんです……」

 

 

大輝「……そういう事か……漸く合点がいったよ」

 

 

他国の王女である彼女が此処にいる理由、二週間後に外に出られる訳など、様々な疑問が一気に解消されてスッキリしたように息を吐く大輝。だが、其処で一つ新たな疑問が生じ、大輝は再び険しい顔を浮かべた。

 

 

大輝「……けど分からないなぁ……何故エレメンタルストーンをそんな簡単に手放したんだ?アレはかなり価値のあるお宝の筈だろう?」

 

 

シュレリア「……そうですね……確かにアレは、代々城に受け継がれてきた大事な価値のある秘宝です……だけど私達には、秘宝よりもっと大事で、命を懸けてでも守りたい物があるんです……」

 

 

大輝「ッ!何だって?」

 

 

エレメンタルストーンより大事で、命を懸けてでも守りたい物がある。そう聞かされた大輝は思わず振り返りながらシュレリアに聞き返すが、シュレリアは既に部屋に戻ろうと歩き出していて大輝の声が聞こえていなかった。

 

 

大輝「……エレメンタルストーンより大事な物?馬鹿な、そんな物ある筈がない……」

 

 

きっと出鱈目に決まってると、大輝は呆れた様に笑いながら背後へと振り返って此処から見えるレデグレアの町を眺めていき、シュレリアはそんな大輝の背中を見て若干苦笑すると、そのまま部屋に戻ってソファーに横たわっていったのだった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~④

 

 

奇妙な共同生活が始まってから一週間……

 

 

大輝「ふっ……ふんっ……ふぅっ……」

 

 

部屋に閉じ込められてから一週間後。腹の怪我が大分回復した大輝は鈍った身体を鍛え直す為、黒いタンクトップ姿で床で腕立て伏せ1000回を行っていた。そしてやっと1000を達成すると、大輝はくたびれたように床に座り込んで近くに置いてあったタオルを手に取り、額や全身から流れる汗を拭っていく。すると其処へ、シュレリアが料理を載せたトレイを両手に持ってキッチンから出てきた。

 

 

シュレリア「――あ、泥棒さん!何やってるんですか?!」

 

 

キッチンから出てすぐ床に座り込む大輝の姿が目に入ったシュレリアは血相を変え、慌ててベッド横のサイドテーブルにトレイを置いて大輝に駆け寄った。

 

 

大輝「?ああ君か……見て分からないかい?トレーニングしてるのさ」

 

 

シュレリア「そうじゃありません!駄目じゃないですか?!まだ怪我が治っていないのにそんな事したら!」

 

 

大輝「大袈裟だな君は……怪我ならもう大した事ないさ。それにずっと寝ていたせいで身体も鈍ってたし、ちゃんと体力を回復しておかないと泥棒業にも支障が出るんだよ」

 

 

シュレリア「それで怪我が悪化したらどうするんですか?!いいから寝てて下さい!」

 

 

そう言いながらシュレリアは大輝を強引に床から立ち上がらせてベッドに座らせ、大輝は「お節介だな…」と軽く溜め息を吐きベッドに大人しく横たわった。

 

 

シュレリア「全くもう……ちょっと目を離した隙にこれなんですから……」

 

 

大輝「別に俺がなにをしてようが構わないだろう?君には関係ないんだし」

 

 

シュレリア「関係大有りです!怪我してる泥棒さんを拾ったのは私なんですから、泥棒さんをお世話するのは私の役割なんですよ?!」

 

 

大輝「拾ったって……俺は犬か猫かい?」

 

 

シュレリア「犬はちょっと違いますけど、猫っていうのはあながち間違ってないと思いますよ?言う事を聞かないところとか、人に懐かないところとか、おまけに泥棒さんですし……泥棒さんは動物で例えるなら猫がピッタリです」

 

 

全く、とまるで聞き分けのない子供に頭を悩ませる母親のような顔で何度も頷くシュレリア。大輝はそんなシュレリアの顔を見てめんどくさそうに溜め息を吐き、ベッドのシーツに足を入れていく。

 

 

大輝「分かりましたよ。大人しく寝てればいいんだろう……」

 

 

シュレリア「よろしい……あ、でもその前にこれ食べて下さい。お粥作ってきたので」

 

 

そう言ってシュレリアはサイドテーブルの上に乗せておいたお粥の載ったトレイを両手で持ち、大輝に差し出していく。大輝は差し出されたお粥を見てこの前のお粥を思い出し若干険しげに眉を寄せ、シュレリアはそんな大輝の様子に苦笑した。

 

 

シュレリア「大丈夫です、ちゃんとレシピ通りに作りましたし、私も味見しましたから(焦)」

 

 

大輝「……だったらいいけど……」

 

 

苦笑するシュレリアの言葉を聞き、ちゃんと味見した上で運んできたのなら問題はないのだろうと判断した大輝はシュレリアの手からお粥を受け取り、蓋を開いた。中身はちゃんとしたお粥であり、この前のような有害な料理には見えない。見た目は一応安全だと確認した大輝は器横のレンゲを手に取り、お粥を掬って口に運ぶ。

 

 

シュレリア「……ど、どうですか?」

 

 

大輝「……悪くはない……この前に比べたらマシな方かな……」

 

 

シュレリア「っ!ほ、本当ですか?!良かったぁ~」

 

 

不安げな様子で大輝の反応を見守っていたシュレリアはそれを聞いて安心したように肩の力を抜き、大輝はそれを尻目に黙々とお粥を食べ進めていく。

 

 

大輝「しかし、良く此処まで上達したものだね。この前のアレとは比べ物にならないし……」

 

 

シュレリア「あ、あははは……流石に私もアレはないって思いましたからね……だからあれから色々勉強と練習を繰り返して、漸く人様に出せる物が作れまして……υυ」

 

 

大輝「……あっそう……」

 

 

頬を掻きながら苦笑いを浮かべるシュレリアに大輝は適当に相打ちを打ってお粥を食べ進め、シュレリアはそんな大輝を何も言わずに見守っていくが、そこでふとある事を思い出した。

 

 

シュレリア「あ、そういえば泥棒さん、ちょっと気になってる事があるんですけど……」

 

 

大輝「?気になってること……?」

 

 

シュレリア「はい。あの、泥棒さんって、誰かご家族の方とかはおられるんですか?」

 

 

大輝「……っ!」

 

 

単純に疑問に思い、シュレリアは悪意が一切ない表情で小首を傾げながら聞いた。その問いを受けた大輝は一瞬ピタッとレンゲを掴む手が止まるが、すぐに何でもなかったようにレンゲを動かしていく。

 

 

大輝「……何でそんなこと聞くんだい?」

 

 

シュレリア「何でって……ほら、泥棒さんが此処に閉じ込められてから一週間が経つでしょう?外との連絡も出来ないですし、だから多分、泥棒さんのご家族の方々も心配なさってるんじゃないかと思って……」

 

 

要は、長らく連絡が出来ないせいで大輝の家族が大輝を心配してるんじゃないかと気になってるんだろう。そんな事にまで気にかけるシュレリアに思わず薄い息を吐き、大輝はお粥の米をレンゲで弄りながら……

 

 

大輝「――そんな筈ないさ……俺には、家族なんて物はいないからね」

 

 

シュレリア「……え?いないって……?」

 

 

大輝「……家族はいない。俺の両親なんて、もう何年も前に死んでるし」

 

 

シュレリア「……っ!」

 

 

冷たく、平たい口調でそう告げた大輝の言葉にシュレリアは思わず唖然となった。大輝はそんなシュレリアの視線から顔を背け、暫く口を閉ざした後にポツポツと話し始めた。

 

 

大輝「両親は俺が小さい頃に交通事故で死んでね……俺はその時両親と一緒にいたから、両親の死を目の前で見てたんだよ……その後俺は両親の死を間近で見たショックで暫く塞ぎ込んで、そのまま実家から離れて暮らしていた兄さんの下に引き取られたのさ」

 

 

シュレリア「…………」

 

 

大輝「それから数年間、兄さんが傍で支えてくれたお陰で漸く両親の死から立ち直れてね……俺はそんな兄さんみたいになりたくて、あの人みたいに誰かを立ち直せられる人間になりたいと思って、あるプログラムを作って一人の人物の下で働いてた……だけど……」

 

 

ググッと、言葉と共にレンゲを握り締める手に力が加われた。シュレリアはそれに気付いて不安げに大輝を見つめると、大輝は顔を逸らしたまま……

 

 

大輝「……俺は裏切られたんだよ……信じていたモノ全てに……そして俺は……兄さんまで……」

 

 

シュレリア「……泥棒さん……?」

 

 

ポツリと、なにかを呟いた大輝に心配そうに声を掛けるシュレリア。大輝はそんなシュレリアの顔を横目に見ると、いつもの様子に戻って肩を竦めた。

 

 

大輝「まっ、そういうワケだから君に心配されるような事は何もないって訳さ。理解してくれたかい?」

 

 

シュレリア「あ……はい……あの……すみません……余計な詮索をしてしまって……」

 

 

大輝「そう思うなら、これ以上俺の事情に首を突っ込まないでくれるかな?俺にも触れて欲しくないことの一つや二つはあるんだよ」

 

 

現に今もそうだしと、大輝は冷たい口調で言いながらレンゲでお粥を掬って口に運んでいき、シュレリアも聞いてはいけない事を聞いてしまったと思って少し落ち込んでしまう。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―コンコンッ……―

 

 

『姫様、少し宜しいでしょうか?』

 

 

シュレリア「……?!エ、エルク?!」

 

 

大輝「……ん?」

 

 

 

不意に入口の扉からノック音が響き渡り、シュレリアはその音と共に聞こえてきた青年の声に驚いて思わず椅子から立ち上がり、大輝は訝しげな顔でそんなシュレリアと扉を交互に見つめていく。

 

 

大輝「……何だ、君の知り合いかい?」

 

 

シュレリア「え……あっ、はい、私の護衛の騎士でして……ってこんな事してる場合じゃないんだった!!どうしましょう?!このままじゃ泥棒さんが見付かっちゃう……!!」

 

 

あわわわわ!と、ベッドの周りをあっちこち行ったり来たりと荒立たしく動き回るシュレリア。そんなシュレリアを大輝は呆れるように見つめ、そうこうしてる間に再び扉からノック音が響き渡った。

 

 

『姫様?どうかなされましたか?』

 

 

シュレリア「っ!い、いえ、なんでもありません?!ちょっと待ってて下さい!」

 

 

『はぁ……』

 

 

扉の向こう側にいる騎士に待ってもらい、シュレリアは大輝と扉を交互に見ると大輝の手からレンゲとお粥をババッ!と素早く一瞬で奪い取り、大輝を半ば強引にベッドへと横たわらせてシーツを手に取った。

 

 

シュレリア「す、少しの間隠れてて下さいっ!此処で見付かったら直ぐに拘束されて、そのままアーベルト王子に突き出されてしまうかもしれませんから!」

 

 

大輝「……ふぅ、しょうがないか……」

 

 

確かに此処で見付かってしまえば面倒な事になるに違いない。ならば此処は彼女の言う通りにした方が最善だろうと思い軽く溜め息を吐き、シュレリアはそんな大輝を見て苦笑いしながら大輝にシーツを被せ、ついでにベッドに取り付けられたカーテンも閉めて大輝を隠すと、最後に自分の服装が乱れていないか確認してから扉に声を掛けた。

 

 

シュレリア「ど、どうぞ。入っていいですよ?」

 

 

『はい、失礼します』

 

 

声と共に、扉を覆っていた結界が無数の光の結晶と化して消え去り、扉がゆっくりと開いて奥から蒼の騎士甲冑を身に纏った金色の髪の人物……先程シュレリアが"エルク"と呼んだ青年が現れた。

 

 

エルク「お久しぶりです、姫様。お元気そうですね」

 

 

シュレリア「えっ、えぇ、貴方も元気そうで安心したわ、エルクυυ……それで、今日はどうかしたの?何かあった?」

 

 

エルク「あ……い、いえ。ただ賊捜しが一段落したので、姫様の様子が気になって来てみただけなんですが……ご迷惑でしたか?」

 

 

ボリボリと、エルクは頭を掻きながら不安げにシュレリアに問い掛け、シュレリアはそんなエルクの様子に一瞬キョトンとなりながらもすぐに笑みを浮かべた。

 

 

シュレリア「いいえ、毟ろ嬉しいですよ?ありがとうエルク、心配してくれて」

 

 

エルク「っ!い、いいえ!姫様に礼を言われるようなことは何も……!」

 

 

ニコッと微笑み掛けるシュレリアの笑顔を見てエルクはほんのりと顔を赤らめながら両手を振り、ベッドのシーツから少し顔を出してその様子を見ていた大輝は「……ほぉ」と関心したような声を漏らしていた。

 

 

シュレリア「でもすみません。貴方も忙しい筈なのに、わざわざ私なんかの様子見に来てくれて……」

 

 

エルク「い、いいえ!全然そんな大した事ないです!俺もずっと姫様の顔を見てなかったからどうしてるかな?って気になってたし、俺が好きで来てるだけですから(焦)」

 

 

シュレリア「……ふふ……貴方は本当に優しいですね、エルク。レイディアントにいた頃も、貴方はいつもそうやって私の事を気にかけてくれたし……」

 

 

エルク「ぁ……」

 

 

祖国での記憶を思い出し、懐かしそうに微笑みながらそう呟くシュレリア。エルクはそんなシュレリアの顔を見て笑うのを止め、表情を暗くさせて顔を俯かせてしまう。

 

 

シュレリア「……?エルク?」

 

 

エルク「……あの、姫様……本当にこれしか……道はないんでしょうか……」

 

 

シュレリア「……え?」

 

 

表情を曇らせながらポツリと呟いたエルクにシュレリアは思わず訝しげに聞き返し、エルクは顔を少し上げてシュレリアを見つめながら身を乗り出した。

 

 

エルク「だってっ、あんな王子に嫁ぐなんてやっぱり可笑しいです!俺達の国を滅ぼそうとした男なんですよ?!レイディアントの為とは言え、その為に姫様一人が辛い思いをするなんて納得出来ません!出来ませんよ!」

 

 

シュレリア「…………」

 

 

エルク「もう一度国王陛下とお話して、他に方法がないか話し合う事は出来ませんか?!じゃなきゃこんな……諦めきれませんよ……俺だってっ……」

 

 

最後の部分だけはか細く、シュレリアには聞こえない声でエルクは苦々しく呟いた。そんなエルクの様子に釣られるようにシュレリアも一瞬暗い表情を浮かべるも、すぐに明るい表情へと戻って笑顔を向けた。

 

 

シュレリア「大丈夫ですよエルク、私は良いんです。こうする事で、レイディアントの民を救う事に繋がるのなら、私は何も惜しみません」

 

 

エルク「っ!ですが…!」

 

 

シュレリア「それに、アーベルト王子の要求を呑むと言ったのは私なんです……これは私なりに考えて決断した道……城の者達や民達、そして貴方を守れるなら、私はそれで良いです」

 

 

エルク「姫様……」

 

 

だからもう気にしないでと、苦笑いを向けるシュレリアを見てエルクは思わず悔しげに拳を握り締め、それでも無理矢理自分を納得させて肩の力を抜いた。

 

 

エルク「すみません……何か感情的になってしまって……」

 

 

シュレリア「ううん。貴方も貴方なりに心配してくれてるんだって分かったから、気にしないで、エルク」

 

 

エルク「はい……だけど……少し驚きました……」

 

 

シュレリア「?驚いたって、何が?」

 

 

驚いたというエルクの言葉にシュレリアはなんの事かわからず小首を傾げながら不思議そうに聞き返し、エルクは頬を掻きながら言い難そうに口を開いた。

 

 

エルク「いや、えっと……俺が姫様を最後に見たのは一週間前だったんですけど、その時の姫様は寂しそうなお顔で笑う事が多かったんです……」

 

 

シュレリア「寂しそう……私、そんな顔で笑ってましたか?」

 

 

エルク「はい、この王宮に来てからずっと……でも今はそんな感じがしないって言うか……寧ろ以前の姫様に近い雰囲気がするというか……何かあったんですか?」

 

 

シュレリア「え……えっと……」

 

 

エルクに言われ、シュレリアは思わず視線だけを動かしベッドに向けた。其処には鋭い視線で「喋るんじゃないぞ」と訴えかけてくる大輝の顔がカーテンの間から見えた。

 

 

シュレリア「…い、いえ!なんでもないですよ?あはははυυ」

 

 

エルク「?……そうですか……」

 

 

何かごまかすように苦笑いをするシュレリアに微かに疑問を抱きながらも、本人がなんでもないと言うなら執拗に詮索するのは止めようとエルクは一応納得すると、ふと部屋の時計が視界に入ってそちらを見つめた。

 

 

エルク「もうこんな時間か……すみません姫様、またこれから賊捜しに向かねばなりませんので、俺はそろそろ……」

 

 

シュレリア「あ、はい。気をつけて下さいね、エルク」

 

 

エルク「ありがとうございます。では、これで……」

 

 

まだ複雑な感情が残る顔でそう言ってエルクはシュレリアに向けて一度礼をし、そのまま部屋から出て他の兵士達が集まる王宮の中庭へと向かっていったのであった。

そして部屋に残されたシュレリアは入り口に再び結界が張られたのを確認するとホッと安心したように一息吐き、大輝も漸く上体を起こして扉を見つめた。

 

 

大輝「……随分と気にかけられてるようだね……しかも妙に親しげだったし……彼とは長い付き合いなのかい?」

 

 

シュレリア「え?あ、ええまあ……私がまだ十四の時に新人だった彼が護衛騎士として配属されてきて、それから馬が合って良く話し相手になってくれてたんです。だから、彼も私の大事な友人なんです♪」

 

 

大輝「友人ねぇ……」

 

 

笑顔でエルクが大事な友人だと告げたシュレリアに大輝は扉に視線を向け、先程のエルクの様子を思い出しながら口を開いた。

 

 

大輝「……君さ?彼が君に接する時の態度とか見て、何か気付かないのかい?」

 

 

シュレリア「……?なにがですか?」

 

 

大輝「…………いや、何でもないよ…………ただ天然で鈍感となると、もう救いようがないなぁって思っただけさ……」

 

 

シュレリア「???」

 

 

あのエルクとかいう青年が気の毒に思えて仕方がない大輝はそう言って呆れたように溜め息を吐くとベッドに横たわり、シュレリアはそんな大輝を見て頭上一杯に疑問符を並べまくっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―王宮・王座の間―

 

 

丁度同じ頃、レデグレアの王座の間では二人の人物が向き合ってなにかを話していた。王座に腰掛ける人物はこの国の王子であるアーベルト・ジ・レデグレア。そしてもう一人は、全身に黒いローブを身に纏って顔を隠す謎の人物であった。

 

 

『ふふふ……万事首尾よくいってるみたいですねぇ、アーベルト王子?』

 

 

アーベルト「あぁ、あまりにも上手く行き過ぎて逆に怖いぐらいさ。はははは!やっぱ最高だよ、アンタがくれたこの力はさぁ」

 

 

『気にいって頂けて光栄ですよ……』

 

 

ニヒルな笑みを浮かべながら自分の手を眺めるアーベルトに黒いローブの人物も怪しげに笑うが、すぐに声音を真剣な物に変えて語り出した。

 

 

『しかし注意して下さいよ?幾ら貴方の力が強大とは言え、婚式の日までなにが起きるか分かりませんからねぇ。油断してはなりませんよ?』

 

 

アーベルト「心配するなよ、この世界に僕以上の力を持つ奴なんてだぁれもいやしない。そして秘宝の力が手に入った今、僕はこの世界の王になったと言っても過言ではないのさ!」

 

 

『……そこまでおっしゃるなら私も構いませんが……その慢心が、滅びを喚ばぬよう気をつけて下さい』

 

 

アーベルト「だぁから心配するなって。他の国もレイディアントみたいにさっさと併呑してみせるからさぁ……そうだ……アンタにも国を一つ分けてやって良いよ?何処がいい?」

 

 

既に他の国が自分の手に落ちるという前提で、嫌らしい笑みを浮かべながらそんな事を問いかけるアーベルト。しかし、黒いローブの人物はそれに対して『いえいえ』と首を横に降った。

 

 

『私にそのような国等必要ありませんよ。私には他にやらねばならない事がありますからねぇ』

 

 

アーベルト「やらなければいけない事……ああ、例のアレ集めか?」

 

 

『えぇ。奴らのせいで百体近くしか残ってませんからね、またこれから戦力を集めに行かなければいけないのです。いやはや、中々骨にくる仕事ですよ……』

 

 

やれやれと、黒いローブの人物はウンザリしたように首を振りながら軽く溜め息を吐き、そのままアーベルトから背を向けて入り口へと歩き出した。

 

 

『まあそういう訳ですから、私はそろそろ失礼させて頂きます。一週間後の婚式、楽しみにしてますよ』

 

 

アーベルト「あぁ、アンタが来てくれるのを待ってるよ。それまでアレ……ん?そういえばアレの名前はなんて言ったかな?確か―――」

 

 

アーベルトは『アレ』の名を思い出せず顎に手を添えながら首を捻らせ、それを聞いた黒いローブの人物は足を止めてゆっくりと振り返り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――"イレイザー"……"物語を喰らう者"ですよ……キシッ♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ楽しげに、黒いローブの下で歪な笑みを浮かべてそう答えたのだった……

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑤

 

 

奇妙な共同生活が始まってから一週間と二日目……

 

 

エルクの訪問から二日後、シュレリアから絶対安静!と言い渡された大輝は現在退屈そうな顔でベッドに横たわっていた。

 

 

大輝「……暇だなぁ……」

 

 

此処に閉じ込められてから一週間が過ぎ、怪我も殆ど治ってきてそう思えるようになっていた。ホントなら暇つぶしにと二日前のように筋トレでもしたいのだが、シュレリアに見つかればまた煩く言われるのでそれも出来ない。(実際、この二日間シュレリアの目を盗んで何度か筋トレしていたが、その度に彼女に見付かって何度も説教された)

 

 

大輝「……それにしても、エレメンタルストーンより大事な物……か……」

 

 

何もすることがなく、ただジッと天井を見上げていてふと脳裏に走ったのは、前にベランダでシュレリアが言っていた言葉だった。あの時の彼女は、エレメンタルストーンより大事な物があると言っていた。あれだけの価値があるお宝より、もっと価値がある物があると……

 

 

大輝「……馬鹿馬鹿しい。そんなものが存在する筈がない……」

 

 

あの宝石はこの世界で一番の価値を持つお宝だ。それより価値があるお宝が存在するわけがないと、大輝はあの時のシュレリアの発言をくだらないと思いながら寝返りを打って腕を枕にした。その時……

 

 

 

 

 

 

『ぴにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ?!!!』

 

 

―ドガラガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

大輝「…………」

 

 

 

……何か、洗面所の方から間抜けな悲鳴と轟音が響き渡ってきた。また何かやらかしたのか……と呆れ半分大体予想が付きながらも、大輝は徐にベッドから立ち上がり洗面所へと足を踏み入れた。其処には……

 

 

大輝「……今度は何をやってるんだ、君は?」

 

 

シュレリア「アイタタタッ……あ、ど、泥棒さん?!」

 

 

洗面所に入ってすぐ視界に入ったのは、何やら大量の洗濯物を床に撒き散らし、その一部に押し潰されているシュレリアの姿だった。大輝はそんな間抜けな格好の彼女に呆れた視線を送りつつ、足元に散りばめられた洗濯物を見回していく。

 

 

大輝「随分酷い有様だねぇ……何をどうすればこんな風になるんだい?」

 

 

シュレリア「え、えーっとですね……ただ普通に洗濯機に洗濯物を入れようとしただけなんですけど、中々全部入り切らない物だから無理矢理押し込んでみたら……洗濯物がいきなり全部飛び出してυυ」

 

 

大輝「こうなった訳か……何のコントだい、コレは?」

 

 

洗濯物をぎゅうぎゅうに押し込んだら物凄い勢いで飛び出したとか、ひと昔前のコントでしか見た事ない。それを自然とやってのけるシュレリアに大輝も呆れを通り越して尊敬してしまうが、とりあえず床に散らばるこれ等をどうにかせねばと思い腰を屈めて洗濯物を拾い集めていく。

 

 

シュレリア「あ、い、良いですよそんな事しなくても!後は私がやっておきますから、泥棒さんは休んでて……!」

 

 

大輝「休みたいのは山々なんだけどさ、君に任せてても終わりっこないだろう?また間抜けな悲鳴を聞かされて起こされるのもごめんだし、どうせまた同じ事になると思うし」

 

 

シュレリア「そ、そんなこと!」

 

 

大輝「ないって言い切れるのかい?絶対に?」

 

 

シュレリア「うっ……」

 

 

大輝に軽くジト目で睨まれ、シュレリアは思わず口を閉ざした。恐らく『絶対に失敗しない』とは言い切れないのだろうと思いながら、大輝は洗濯物を拾い上げて近くに置かれた籠の中に投げ入れていく。

 

 

大輝「それにしても、料理や洗濯も満足に出来ないなんてねぇ……ちゃんと花嫁修行とかしてこなかったのかい?」

 

 

シュレリア「ぅ……はい、残念ながら……υυ」

 

 

大輝「あっそう……まぁ、あんなゲテ物食わされて、大体予想は付いてたけどさ……っていうか良くそんなんで嫁に出ようだなんて思えたね?俺だったら、君みたいな人を嫁には迎えるのは御免だよ」

 

 

シュレリア「うっ……」

 

 

大輝「今もまだお粥程度しか作れないんだろ?全く、料理が出来ない女性なんて男に好感持てないよ?ま、実際俺も君に好感持ててないし」

 

 

大輝はそう呟きながら此処に閉じ込められてばかりの頃に食べさせられたお粥を思い出し、シュレリアも同じ事を思い出したのか閥が悪そうに顔を俯かせてしまい、「うぅ~…」軽く唸り声を上げながら大輝を涙目で睨みつけた。

 

 

シュレリア「そ、そんなに言うなら泥棒さんも作ってみればいいじゃないですか!簡単に言いますけど、お料理って結構難しいんですよ?!」

 

 

大輝「んー、俺としては別に構わないけど……良いのかい?確か絶対安静って言い渡された記憶があるんだけど?」

 

 

シュレリア「私が傍で見てますから問題ありません!ついでに泥棒さんの欠点をバンバン見付けてあげますから覚悟しておいて下さい!」

 

 

王女とか聖女とかそれ以前に、女として色々ダメ出しされて悔しいのか、涙目になりながらビッ!と大輝を指差して高らかに宣言するシュレリア。そんなシュレリアを見た大輝は含み笑いを漏らすと……

 

 

大輝「……別に構わないけどさ、君に俺の欠点を見つけるなんて出来ないと思うよ?」

 

 

自信に満ちた口調で、そう告げたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数十分後、取りあえず洗濯物をすべて洗濯機に入れて回した後、大輝は料理を作る為にシュレリアと共にキッチンに入っていた。そして、大輝の欠点を見つけようと意気込んでいたシュレリアに終始見つめられながら作って完成した料理は……

 

 

シュレリア「――オムライス……ですか?」

 

 

場は部屋へと戻り、椅子に座ったシュレリアは目の前のテーブルに置かれた料理を見てそう呟いた。彼女の前に置かれたのは半熟の卵をチキンライスの上に乗せ、綺麗な木葉型に整形されてデミグラスソースをかけた料理……一般世間でオムライスと呼ばれる料理だった。

 

 

大輝「有り合わせの物で手早く作れそうなのがそれしかなくてね。俺的には、君よりずっと上手い出来だと思うけど?」

 

 

シュレリア「むぅ……」

 

 

挑発的な態度で言いながら大輝はスプーンを差し出し、シュレリアはあからさまに馬鹿にされてると感じて口先を尖らせながらスプーンを受け取ると、目の前のオムライスに目を戻した。

 

 

シュレリア「ま、まあ……確かに見た目は私より上手く出来てると思いますけど……でも肝心なのは味です!味がなってなければ折角綺麗なオムライスも台なしなのですよ!」

 

 

どっかの料理評論家みたいな物言いでスプーンの先でオムライスを突きながらそう言うと、『いただきます!』と強気な口調で声を出した後にオムライスを口に運んだ。その瞬間……

 

 

シュレリア(……っ?!!こ、これは……っ?!)

 

 

オムライスをひとくち口に含んだ瞬間、シュレリアの脳裏に稲妻が駆け走った。

 

 

シュレリア(お、美味しい……なんですかこれは?!見た目は普通のオムライスで手早く作ったって言ってたのに、それでこの味ですか?!)

 

 

自分も以前一流のシェフ達に作らせた様々な料理を食べてきたが、此処まで美味しい料理なんて一度も食べた事がない。シュレリアは驚きと衝撃を隠せず呆然とオムライスを見つめ、それに気付いた大輝は笑みを漏らしながらシュレリアの顔を覗き込んだ。

 

 

大輝「どうかな?せっかくだから感想を聞かせてもらえると嬉しいんだけど?」

 

 

シュレリア「……そ、そうですねぇ……な、中々良い出来だと思いますよ?味もしつこくないし、このデミグラスソースも中々ですし、全然食べられないほどまずくもないですしっ……」

 

 

大輝「率直に言うと?」

 

 

シュレリア「大変美味しゅうござました(泣)」

 

 

一瞬美味しくないと嘘付こうかとも考えたが、やはりそんなこと出来る筈もなく悔し涙を流しながら俯いてしまうシュレリア。大輝はそれを聞いて満足げな笑みを浮かべながら、テーブルに腰を下ろした。

 

 

大輝「まぁ、当然と言えば当然だけどねー?君と俺とじゃ腕の差が全然違うワケだし♪」

 

 

―グサッ!―

 

 

大輝「第一お姫様だからと言って、家事が出来ないのは女性としてどうかと思うよ?そういうのを世間でなんて言うか知ってるかい?ダメ女って言うんだよ?」

 

 

―グサグサッ!!―

 

 

大輝「家事はまともに出来ず、料理もお粥しか祿に作れない……将来的にも考えて、そんな人間と結婚するなんて俺は嫌だなぁー」

 

 

―グサグサグサッ!!!―

 

 

溜まりに溜まった鬱憤を晴らすか如く、大輝は遠回しな嫌みを次々と口にしていき、その度に見えない何かによって背中を刺されまくったシュレリアは……

 

 

シュレリア「――うっ……うぅ……うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーん!!!泥棒さんのお馬鹿ぁ!!!オタンコナスゥゥゥゥーーーーーっっ!!!(泣)」

 

 

結局欠点も見付けられず、言われるがままに馬鹿にされて「えぇーん!」と子供みたいに泣きながら椅子から飛び出し、そのままキッチンの奥へと走り去ってしまったのであった。

 

 

大輝はそんなシュレリアを楽しそうに見送ると、シュレリアが残したオムライスをスプーンですくって口に運び、「今日はイマイチかな?」などと呟いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの数時間後……

 

 

シュレリア「このままじゃ引き下がれません!!見てて下さいよ泥棒さん!!私はもう絶っっっっ対に負けませんからね!!」

 

 

大輝(…………また面倒な事になってしまったな…………)

 

 

……大輝に色々と言われて彼女の中の負けず嫌いに火が付いたらしく、女として磨きを掛ける為に全力で家事を行うシュレリアの姿があったとか……

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑥

 

 

奇妙な共同生活が始まってから一週間と六日目……

 

 

あのドタバタから四日後、怪我が大分完治した大輝はシュレリアと共にテーブルに着き、昼食を取っていた。因みに昼食は全てシュレリアが作って用意した物である。

 

 

大輝「……ほう……随分とマシな物になったじゃないか」

 

 

シュレリア「ふふん、そうでしょう?あれからずっと家事のお勉強をしてきたんですからね♪私だってやれば出来る子なのです!」

 

 

えっへん!と、両手を腰に当てて胸を張るシュレリア。実際この三日間、大輝に馬鹿にされて負けず嫌いに火が付いた彼女は試行錯誤を繰り返しながらも全ての家事を一人で熟していき、今では以前と比べ物にならないほどスキルアップしていた。そんなシュレリアを見た大輝は……

 

 

大輝「――とは言っても、ただ『マシ』になっただけだしね?まだまだ俺の足元には及ばないよ♪」

 

 

シュレリア「ぅ……むぅ!どうして素直に褒められないんですかねこの人は……」

 

 

大輝「『もう泥棒さんには絶っっっっ対に負けません!!』なんて威勢よく啖呵を切ったんだ。だったら俺を越えるぐらいの技量を身につけてくれなきゃ、簡単に君を褒めたりはしないよ?」

 

 

シュレリア「むむむ……」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら告げる大輝にシュレリアも頬を膨らませながら唸り声を漏らし、大輝はそれを見て小さく笑いながら料理を口に運んでいく。

 

 

大輝「まあでも、君がそこまで成長した頃には、俺はもう此処にはいないだろうね。もうすぐ二週間になる訳だし」

 

 

シュレリア「……え?」

 

 

あともう少しで二週間が経つ。大輝のその言葉を聞いたシュレリアは一瞬呆然となり、壁に立て掛けられているカレンダーに目を向けた。

 

 

シュレリア「―――ぁ……そっか……明日だったんだ……婚式の日……」

 

 

大輝「?なんだ、忘れてたのかい?」

 

 

シュレリア「あ、はい……泥棒さんを見返してやろうって思って、ずっと家事やお料理の勉強をしてましたから、すっかり……」

 

 

其処まで口にすると、シュレリアは先程までの明るい雰囲気とは打って変わって暗くなってしまい、顔を俯かせてしまった。

 

 

シュレリア「……そっか……明日になれば、泥棒さんはいなくなっちゃうんですよね……」

 

 

大輝「そっ、やっと俺も君から解放されるって訳さ。本当に長かったよ、全く」

 

 

この部屋に閉じ込められたばかりの頃を思い出し、やれやれといった様子で肩を竦める大輝。だが、シュレリアは何も話さそうとせず、顔を上げてカレンダーを見つめながら小さく笑みを浮かべた。

 

 

シュレリア「長かった……ですか……でも……私にはあっという間に感じましたけどね、二週間って……」

 

 

大輝「そうかい?結構色々あったと思うけど?」

 

 

あのゲテモノお粥から始まり、キッチンが目茶苦茶に荒らされていたり、掃除をしようとしたら掃除機に振り回されて部屋を無茶苦茶にしたり、魔法の練習をしていたら間違って爆発を起こしたりなど、シュレリアにはかなり苦労した記憶があり、そんな大輝の言葉を聞いたシュレリアも苦笑いを浮かべた。

 

 

シュレリア「色々あったからですよ……この二週間、泥棒さんの看病したり、お料理したり、お話したりとか……泥棒さんと一緒に過ごした時間は凄く楽しかった……楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうって、良く言うじゃないですか」

 

 

大輝「…………」

 

 

そう言ってシュレリアはカレンダーから大輝へと視線を向けて笑みを見せるが、その笑みは何処となく寂しそうに見える。そう感じた大輝は手に持ったフォークを思わず止めるが、すぐにフォークを動かしていく。

 

 

大輝「おめでたい奴だな、君は……そんな事に楽しいなんて感じてる暇があったら、結婚後の事を考えてた方が良いんじゃないかい?君は明後日には、この国の王女……いや、女王になる訳なんだしさ」

 

 

大輝は言葉を紡ぎながら、チーズの塊みたいな色のポレンタに真っ黒なイカスミをつけて口に運び、シュレリアはそれを聞いてほぐしたカニの入った冷たいスープをスプーンですくいながら答えた。

 

 

シュレリア「そんなの考えても、意味なんてないですよ……女王なんて言っても、私は国と秘宝を手に入れる為の道具でしかない……多分婚式の後の生活では、こうして笑う事も殆どなくなると思います……王子の女癖の悪さは、レデグレアでも有名らしいですからね(苦笑)」

 

 

大輝「…………」

 

 

シュレリア「だから私は、その前に泥棒さんに会えて、ホントに良かったって思えます……もし泥棒さんに会えてなかったら、こんな楽しい思いをして、心から笑う事なんてなかった……ふふ、神様に感謝しないといけませんね?こんな素敵な贈り物をありがとうって♪」

 

 

本当にそう思っていると、シュレリアは素直に自分の気持ちを打ち明けて子供のように微笑んだ。それを見た大輝は薄く溜め息を吐きながら料理を食べ進めていき、シュレリアも笑みを浮かべたまま料理を食べようとするが……

 

 

大輝「……一つだけ、質問してもいいかな」

 

 

シュレリア「……へ?」

 

 

黙々と静かに料理を食べていた大輝が不意に質問を投げ掛け、シュレリアは突然のそれを受けてサラダを口に運ぼうとするのを止め、大輝はフォークをくるくる回してパスタを搦め捕りながら話を続けた。

 

 

大輝「君は以前、俺に言っただろう?『私達には秘宝よりもっと大事で、命を懸けてでも守りたい物がある』……と」

 

 

シュレリア「あ……はい、確かに言いましたけど……それが何か?」

 

 

大輝「君に言われてから、ずっとその言葉の意味が気になってたんだよ。だが、どれだけ考えてもその意味は分からなかった……教えてくれないか?エレメンタルストーンより大事な物とはなんだ?」

 

 

それが知りたいんだと、その意味を篭めた真剣な瞳でシュレリアを見つめながら問いかける大輝。シュレリアはそんな大輝を見て一瞬キョトンとなるが、すぐにクスッと笑みをこぼしてそれに答えた。

 

 

シュレリア「秘宝より大事で、命を懸けてでも守りたい物……それは……『民と国』ですよ」

 

 

大輝「民と……国?それが秘宝より大事な物だっていうのかい?」

 

 

秘宝より大事な物だというから、もっとスゴイお宝を想像していた大輝は険しげに眉を寄せながら聞き返すが、シュレリアは迷いなく「はい」と頷き返し、それを見た大輝は呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

大輝「君は……一体何処までアホなんだい?そんな物がエレメンタルストーンより価値のあるお宝なハズがない!」

 

 

シュレリア「……確かに、泥棒さんから見ればそうかもしれませんね……だけど私達にとっては、何物にも替え難い物なんです」

 

 

民と国が秘宝より大事な物と言うシュレリアに否定的な態度を取る大輝に、シュレリアは言葉では言い表せない真剣な雰囲気を漂わせながらそう答えた。それを感じ取った大輝も思わず口を閉ざし、シュレリアはバルコニーの方を見つめて話を続けた。

 

 

シュレリア「まだレイディアントにいた頃、私は時々城を抜け出して、お忍びで街に下りてた事があったんです……その時に、色々な人達と関わる事も少なくはありませんでした。沢山の人達が笑い合い、助け合い、励まし合って、今という時を懸命に生きている……そんな人達を見て、一つだけ分かった事があるんです」

 

 

大輝「分かった事?」

 

 

シュレリア「はい……皆がこうして暮らせているのは、このレイディアントがあるから……そしてレイディアントという国があるのは、民である皆がいるおかげなんだって」

 

 

大輝(……国があるからこそ民があり、民があるからこそ国がある……誰かからそんな話を聞いた事があるな……)

 

 

大輝は迷わずにスラスラと言葉を放つシュレリアの話を聞きながらふとそんな事を思い出し、シュレリアはバルコニーから大輝へと目を戻した。

 

 

シュレリア「秘宝はもちろん大事だと思います。でも、秘宝を失ってもレイディアントがなくなるワケじゃありません……それより私は、レイディアントがなくなり、民達が悲しむ姿を見たくないんです」

 

 

大輝「……それが秘宝より、国や民が大事な理由かい?そんな物―――」

 

 

シュレリア「泥棒さん……エレメンタルストーンがどんな経緯で生まれたのか……知ってますか?」

 

 

大輝「?何だって……?」

 

 

突然話を切り替えたシュレリアの質問に、大輝は頭上に疑問符を並べた。シュレリアは一度目を伏せると、ゆっくりと瞳を開いて語り出した。

 

 

シュレリア「エレメンタルストーンが生まれた経緯は、ごく一部の人間にしか知り渡っていません……ですがその経緯は、聖女が自分の大切な人達を守りたいという『思い』が形になって生まれたと、そう言い伝えられてるんです」

 

 

大輝「思いが……エレメンタルストーンを生んだ?」

 

 

シュレリア「はい。誰かを思う心があったから、泥棒さんが言うお宝が生まれた……だから私は思うんです……本当の宝はエレメンタルストーンではなく、エレメンタルストーンが生まれるきっかけとなった、自分が守りたいと思う人達……民達が幸せに暮らす国なんじゃないかって」

 

 

大輝「…………」

 

 

シュレリアは迷いなく、真剣な眼で大輝の瞳を見つめながらそう断言した。それを聞いた大輝はジッとシュレリアの眼を険しげに見つめ、馬鹿馬鹿しいと溜め息を吐きながら皿とフォークを持って立ち上がり、キッチンの奥へと去っていってしまった。それを見たシュレリアは……

 

 

シュレリア「……泥棒さんも、いつかは分かる時が来ますよ……泥棒さんにも、誰かを思いやる気持ちがあるんだから……」

 

 

椅子に座ったまま一人呟き、天井を見上げて寂しげな顔を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

 

大輝「―――眠れない……」

 

 

時刻が午前12時を回った深夜。明日の為に早く眠りに付こうと早めにベッドに横たわっていた大輝だが、何故か今日に限っては中々寝付けずにいた。

 

 

大輝「……すこし夜風に当たって来ようかな……」

 

 

このまま横たわっていても寝付けそうにないし、夜風にでも当たって気分を変えようかと大輝はベッドから下り、バルコニーに出ようと歩き出した。その時……

 

 

大輝(……?何だ?)

 

 

バルコニーに足を踏み入れ様とした時、大輝はバルコニーに誰かがいる事に気付いて足を止め、カーテンの陰に隠れて顔だけ出した。すると其処にはバルコニーの塀に背中を預けて体育座りし、なにやら分厚い本を広げる人物……シュレリアの姿があった。

 

 

大輝(?何をやってるんだ、こんな時間に……)

 

 

こんな深夜にあんなところで何をやってるのか。大輝はそんな疑問を抱きながらシュレリアを静かに見つめていると……

 

 

シュレリア「…………っ……………さ…………」

 

 

大輝(……?声?)

 

 

シュレリアの方からかすかれ声が聞こえてきている事に気付き、大輝は疑問符を浮かべながらその声を良く聞き取ろうと前に少し出ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「―――ぐすっ……うっ……お父様っ……みんなっ……」

 

 

 

 

 

大輝(……泣いてる?)

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは、シュレリアの啜り泣く泣き声だったのだ。この二週間の間に一度も聞いた事がなかったシュレリアの泣き声に大輝も戸惑いを浮かべてシュレリアを見つめると、シュレリアは泣きながら膝に乗せた分厚い本を胸に抱き寄せていた。大輝は眼を細めてその本の表紙を見てみると……

 

 

大輝(あれは……アルバム?)

 

 

そう、シュレリアが胸に抱いてる本とは、『Album』と表記された本だったのだ。シュレリアが泣きながら呟く言葉からして、恐らくあれにはレイディアントの国王や民達の写真でも整理してあるのだろう。

 

 

大輝(……まさか、ずっと此処で泣いてたっていうのか?)

 

 

自分が此処に来る前………もしくは自分が此処に来てからも、彼女はああやって一人で泣いていたのだろうか?レイディアントを守る為に自分の気持ちを押し殺し、好きでもない仇の男と永遠の契りを交わさねばならない…………彼女も人間の少女なのだから、それが辛くないハズがない。

 

 

大輝(だから此処で、自分の気持ちをさらけ出してた訳か……馬鹿な奴だ。他人の為に自分の身を犠牲にするなんて、そんなのはただの偽善でしかないのに)

 

 

啜り泣くシュレリアを見て馬鹿馬鹿しいといった感じに鼻で笑うと、大輝は背中を壁に預けて天井を仰ぎ、シュレリアが言っていたあの言葉を口ずさむ。

 

 

大輝「国が宝……そんな物に価値なんてあるワケない……あるハズがない……」

 

 

瞳を伏せ、まるで自分に言い聞かせるようにか細い声でそう呟くと、大輝はシュレリアの啜り泣く声を聞きながらベッドへと戻っていったのだった…………

 

 

 

 

 

 

奇妙な共同生活。外に出られるまで、あと七時間……

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑦

 

 

奇妙な共同生活が終わり、遂に迎えた婚式の日……

 

 

天気はこれ以上にないほどの晴天。国内にはレデグレアの民達も含め、シュレリアとアーベルトの婚式を祝おうと様々な国から国王や民達が訪れていた……とは言っても、殆どの人間はこの政略結婚に納得がいかない様子だったが。そして、とある怪盗と王女が二週間を共に過ごした部屋では……

 

 

 

 

 

 

シュレリア「……………」

 

 

 

 

 

 

其処には、部屋に置かれた化粧台の前の椅子に物静かな様子で座る少女……シュレリアの姿があった。彼女は今、婚式に備えて美しい純白のドレス……ウェディングドレスを纏い、一流の美容師達の手によって化粧も施し、正に可憐な花嫁という名が相応しい姿になっていたが、彼女の顔は暗く沈んでいた。

 

 

シュレリア「……式まで、あともうすぐ……か」

 

 

式が始まるのは午前十時。今の時刻は九時半だから、あと30分で式が開かれる。部屋の壁に立て掛けられた時計の針を見つめながらそう考えると、シュレリアは腿に乗せたアルバムを開いた。

 

 

シュレリア「……これで、良かったんですよね……これが皆を守れる……唯一の方法なんだから……」

 

 

アルバムの写真に写るのは、彼女がレイディアントの国王や民達と共に過ごした頃を写した物。写真に写る彼等の表情はどれも楽しげで、笑顔を浮かべている。彼等がこれからもこうして笑っていられる様になれるには、自分がこの道を選ぶしか方法はない。シュレリアは決意を改める様にそう考えると、顔を上げて無人のベッドを見つめた。

 

 

シュレリア「泥棒さん……無事に逃げられたかな……私が起きた時にはもう抜け出したみたいだけど」

 

 

この部屋に張られていた結界は二週間でその効力を失い、自動的に消える仕組みになってる。自分が目覚めた時には既に彼の姿は何処にもなかった。恐らく結界が消えてすぐに何処かへと去ってしまったのだろう。

 

 

シュレリア「お別れの挨拶も出来なかったし、名前も結局教えてもらえなかったけど……泥棒さん、無事に逃げ切って下さいね……」

 

 

今一番に願うのは、名も知らない彼が無事に逃げ切ること。どうか王宮の者達には見付かりませんようにと、神に祈るように両手を組んで強く望むシュレリア。そんな時……

 

 

―コンコン、ガチャッ―

 

 

エルク「――姫様……そろそろお時間です……」

 

 

シュレリア「……はい、分かりました……」

 

 

ノック音の後に入口の扉が開いてエルクが現れ、時間だと聞かされたシュレリアはゆっくりと椅子から立ち上がって部屋から出ようとする前に、一度振り返って彼と二週間を共に過ごした部屋を見渡し、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同じ頃、王宮の宝物庫の前では……

 

 

「ふぁ~……ったく、一晩中見張りさせられるなんて……めんどくせえなぁ……」

 

 

そう言ったのは、宝物庫の前で見張りをしている王宮の兵士の一人。口を開けて欠伸をする兵士の言葉を聞き、もう一人の兵士は溜め息混じりに口を開いた。

 

 

「しょーがないだろ?先日の賊の事もあって警備を怠らないようにって言われたし、また賊を入れでもしたら俺らのクビが飛ぶんだぞ?」

 

 

「そうだけどさぁ……でもこの二週間、賊の足取りは全然掴めてないんだろう?だったらもうレデグレアにはいないんじゃないか?」

 

 

「あんな深手を負っていたのにか?有り得ないだろ?それに王宮から脱出した形跡もないって言うし……」

 

 

「じゃあまだ王宮内に潜んでるってか?それこそ有り得ないだろ?二週間も掛けて王宮の中を隅々まで探索したんだぞ?それで見つからないなんて―――」

 

 

以前王宮に侵入した賊……大輝の行方について話し合う二人の兵士。と其処へ、通路の角から一人の兵士が現れ二人の下に近付いてきた。

 

 

「お疲れ様です。そろそろ交代の時間ですが……」

 

 

「お、やっとか?悪いなぁ……ん?もう1人はどうした?」

 

 

「もう1人は腹を下して今トイレに行っており、もう直ぐ此方に向かうとのことです」

 

 

「そうか……んじゃ、俺らは仮眠を取って来るから、後は任せたぞ?」

 

 

ポンッとすれ違う際に肩を叩き、二人の兵士は兵士に後を任せて仮眠を取る為に休憩室へと向かっていった。そして兵士は二人を見送ると、鎧の懐から鍵を取り出して扉に掛けられた鎖の鍵穴に鍵を差し込んで鍵を解除し、部屋の中に入って頭に被っていた甲冑を脱ぎ取った。

 

 

 

 

 

 

大輝「―――前よりマシになってるかなって期待してたんだけど……大して変わってないね。拍子抜けだ」

 

 

 

甲冑を脱ぎ取った兵士……いや、兵士に変装した大輝は鎧の締まりを緩めながら軽く息を吐くと、そのまま周りにあるガラスケースに保管された宝石を無視して奥にあるガラスケース……エレメンタルストーンへと近付いて目の前に立った。

 

 

大輝「ふむ……成る程ね、ガラスケースには防止用の魔法が何重にも掛けられているようだね……でも――――」

 

 

大輝は防止魔法を何十重にも掛けられたガラスケースを見てニヤリと笑い、何処からかディエンドライバーを回転させながら取り出しガラスケースに向けて発砲し、ガラスケースを容易く破壊した。

 

 

大輝「――俺には何の意味もないね」

 

 

木っ端微塵に吹っ飛んで床に散らばったガラスケースを見下ろしながらそう呟くと、大輝はドライバーを腰に仕舞ってエレメンタルストーンを手に取った。

 

 

大輝「漸く手に入れたよ、この世界のお宝!」

 

 

漸く手に入ったエレメンタルストーンを手に取りながら子供のように嬉しそうに笑う大輝。これでもうこの世界に用はないと、大輝はエレメンタルストーンを手にしたまま部屋を後にしようとするが……

 

 

 

 

 

 

 

―……だから私は思うんです……本当の宝はエレメンタルストーンではなく、エレメンタルストーンが生まれるきっかけとなった、自分が守りたいと思う人達……民達が幸せに暮らす国なんじゃないかって―

 

 

 

 

 

 

 

大輝「………………」

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出ようとした瞬間、何故か脳裏に昨日のシュレリアの言葉が過ぎっていったのだ。それを思い出した大輝は笑みを消して思わず足を止めてしまうが、エレメンタルストーンをジッと見つめた後に再び歩き出し静かに部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―レデグレア・市街地―

 

 

宝物庫を後にし、私服姿に戻った大輝は王宮を上手く抜け出し、婚式が行われる王宮へと向かう人々の間を抜けながら歩いていた。

 

 

大輝(……国がお宝?国を守りたいから犠牲になる?馬鹿馬鹿しい……そんな物に何の意味が……)

 

 

昨日のシュレリアの言葉が脳裏を何度も駆け巡り、それを馬鹿馬鹿しいと否定しながら大輝は黙々と街中を歩き続けていた。とそんな時……

 

 

―ドンッ!!―

 

 

「きゃあっ?!」

 

 

大輝「……っ!」

 

 

思考に浸りながら歩いていた大輝の肩が一人の女性とぶつかり、女性は少しよろめきながらも何とか態勢を立て直すと、大輝に向けて慌てて頭を下げた。

 

 

「ご、ごめんなさい!ちょっと考え事してて……あの、大丈夫ですか?」

 

 

大輝「……あぁ、別になんとも」

 

 

ペコペコと必死に頭を下げ続ける女性に大輝は溜め息を吐きながらなんともないと答えると、女性の格好を見て訝しげに眉を寄せた。彼女の格好は、共同生活の中でシュレリアが無理矢理見せてきたアルバムに載っていた民達が着ている服と何処となくデザインが似ている。シュレリアも話していたが、この格好はレイディアント独特の文化が作り上げた服装らしく、他の国の人間が着ている事は余りないらしい。つまり……

 

 

大輝「――君、まさかレイディアントから来たのか?」

 

 

「え?……あ、はい、今日の式を観に来まして……あの、もしかして貴方も式を観に?」

 

 

大輝「……まあね……レイディアントとレデグレアのこれからにとっても重要な式だし、ちゃんと観ておかないといけないだろ?」

 

 

本当はそんなつもり等ないが、此処は話を合わせた方が無難だと思いそれっぽく話す大輝。だが……

 

 

「―――でも正直……私はこんな式、納得出来ませんよ……」

 

 

大輝「……?」

 

 

暗い様子でポツリと呟いた女性に大輝は頭上に疑問符を浮かべ、女性は悲しげに眉を寄せながら王宮を見つめた。

 

 

「シュレリア様は、私達やレイディアントを守る為に、仇であるあんな王子に嫁ぐ事になったんです……可笑しいじゃないですか……国を守る為とは言え、どうしてそれでシュレリア様が犠牲にならなきゃいけないんですかっ……」

 

 

大輝「…………」

 

 

悔しげに両手に持つ荷物の取っ手を握り締める女性。大輝はそれを無言で見つめ、女性は顔を俯かせながらポツポツと話し始めた。

 

 

「……私の家、以前は普通に食べていくのもやっとってぐらい貧しかったんです……弟や妹達を食べさせてあげたいのに働くところも見つからなくて……本当にどうしようって思ってた時に、お忍びで町にやって来たシュレリア様とお会いしたんです」

 

 

大輝「…………」

 

 

「最初は凄く驚いたけど、シュレリア様は普通に私と接してくれて、真剣に私の悩みを聞いてくれた上に、更には会ったばかりの私の為に働ける所を探してくれて、お陰で弟や妹達を食べさせていけるようになったんです……」

 

 

懐かしそうにシュレリアとの出会いを話す女性だが、その声は何処となく哀しみが入り混じってるように聞こえる。

 

 

「シュレリア様はいつもそうでした。いつも困ってる人を見れば、その人に手を差し延べて、嫌そうな顔を一つもしないで助けてって……本当に、私達民の事を大事に思ってくれる人なんです……だからあの人は幸せにならないといけない、幸せになるべきなのに……こんなのってないですよっ……」

 

 

大輝「……君は……よほどあのお姫様の事を慕ってるようだね」

 

 

「当たり前じゃないですか……あの人は、私達とって何物にも換え難い……国の秘宝なんかよりずっと価値のある、私達の宝なんです……」

 

 

大輝「……っ!宝?」

 

 

悲痛な顔で自身の気持ちをさらけ出すようにそう語る女性。大輝はそんな女性の言葉を聞いて戸惑い、女性は大輝の声を聞いてハッとなった。

 

 

「あっ、ご、ごめんなさい、初対面の貴方に変なこと言って……」

 

 

大輝「……別に。それより早く行った方が良いんじゃないかい?式、もうすぐ始まると思うけど」

 

 

「あ、はい……ぶつかってすみませんでした……それじゃあ、失礼します」

 

 

そう言って女性は大輝に向けて一礼すると、複雑そうな表情のまま王宮へと向かっていった。大輝はそんな女性の背中を見送ると、革ジャンの懐からエレメンタルストーンを取り出した。

 

 

大輝(……彼女は国や民が宝と言って……民は彼女を宝と言った……何故だ?)

 

 

何故この石より価値があると言い切れる?それが理解出来ない大輝が見つめるエレメンタルストーンは淡い光を放ち、それと共に脳裏にある言葉が過ぎる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―エレメンタルストーンが生まれた経緯は、ごく一部の人間にしか知り渡っていません……ですがその経緯は、聖女が自分の大切な人達を守りたいという『思い』が形になって生まれたと、そう言い伝えられてるんです―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「……思い……宝……成る程ね……」

 

 

 

 

 

 

 

脳裏を過ぎったのは、またあの少女の言葉。エレメンタルストーンを見つめていた大輝はその言葉が過ぎったと共に顔を上げ、何処か力強さが篭められた表情で王宮を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑧

 

―レデグレア・王宮中庭―

 

 

 

シュレリアSide

 

 

 

 

――――私は今、真っ赤なバージンロードの上を歩いている。

 

 

周りには様々な国の国王や代表達、レデグレアの民達の姿があって、中にはレイディアントで会ったことがある人達もいる。

 

 

わざわざ私なんかのために来てくれたのだろうか……そう思うと、少し気が楽になる……

 

 

傍らには、付き人としてエルクが一緒に歩いてくれている。

 

 

彼は最後まで、この結婚に納得がいかない様子だった。

 

 

きっと私の身を案じて言ってくれてるのだと思うけど、彼にはさっき納得して欲しいと説得させた。

 

 

その時の彼は悲しそうな顔をしていたけど……これ以上私のせいで、大切な友人を苦しめたくない。

 

 

今この時にも、彼を支えてくれる女性が現れることを望むばかりだ……

 

 

そしてこの絨毯の道の先には、牧師様と、純白のタキシードを纏ったアーベルト王子の姿がある。

 

 

……彼処に辿り着いた時には、私はエルクの手を離さなければいけない。

 

 

今はそれが、すごく心細く感じる……

 

 

 

エルク「……姫様……」

 

 

 

そんな私の心境に気付いたのか、エルクが心配そうに小声で声を掛けてきた。

 

 

いけない……心配を掛けてはならないと思い、私はエルクに笑って「大丈夫」と答えた。

 

 

私のせいで、みんなに心配掛けたり後悔をさせたくはない。

 

 

だから私は平気と、大丈夫だと思わせなきゃいけないんだ。

 

 

それが、国の皆がこれからも笑って暮らせる方法なんだから……

 

 

そうして私は、複雑な顔を浮かべるエルクに促されて歩き出し、牧師様の前にまで進み出ると、傍らに立つアーベルト王子の顔が視界に入った。

 

 

 

アーベルト「いやはや、とてもお綺麗ですよシュレリア姫?流石は、あの聖女様の生まれ変わりと呼ばれるだけの事はある」

 

 

 

シュレリア「っ…………」

 

 

 

アーベルト王子は、まるで私の身体をなめ回すように見つめてくる。

 

 

……その目が凄く怖い……全身が凍り付いて、震えが止まらなくなって、不安が波のように押し寄せてくる……

 

 

それでも私には、この人に抗う力も、レイディアントを彼から守る力もない……

 

 

だから私には、この身を差し出す事しか出来ない。

 

 

だから……受け入れるしかない……受け入れるしか出来ない……今目の前の現実を……

 

 

押し寄せる不安を押し切るようにそう考え、私は牧師様と向き合い、傍らに立つアーベルト王子も含み笑いを漏らして牧師様と向き合い、牧師様はアーベルト王子に向けて語り出した。

 

 

 

「アーベルト、貴方はこの女性と結婚し、夫婦となろうとしております。貴方は健康な時も、そうでない時も、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り固く節操を守る事を、誓いますか?」

 

 

 

アーベルト「はい、誓います」

 

 

 

シュレリア「…………」

 

 

 

今こうしてる間にも、色々な思い出が蘇ってくる……

 

 

私がお忍びで町に出掛けるといつもお説教をして、それでも最後は笑って許してくれるお父様……

 

 

鍛練が終わるとすぐに私の所に来てくれて、毎日の様に楽しいお話を聞かせてくれた私の大切な友人、エルク……

 

 

幼い頃から私のお世話をしてくれて、いつも笑って私の面倒を見てくれた城の皆……

 

 

城を抜け出してお忍びで行くと、笑顔で私を受け入れてくれた町の皆……

 

 

そして――――

 

 

 

「シュレリア、貴方はこの男性と結婚し、夫婦となろうとしております。貴方は健康な時も、そうでない時も、この人を愛し、この人を敬い、この人を慰め、この人を助け、その命の限り固く節操を守る事を、誓いますか?」

 

 

 

シュレリア「……私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もしかして、君が俺を此処まで運んで傷の手当てをしてくれたのか?』

 

 

『……さあね……ま、適当に呼んでくれれば良いよ……』

 

 

『……別に良いさ……これを下げてもらった所でマシな物が出てくる訳でもないし、幸いにも食べられないほどマズイって訳でもないからね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「私は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、何でもないよ……ただ天然で鈍感となると、もう救いようがないなぁって思っただけさ……』

 

 

『――とは言っても、ただ『マシ』になっただけだしね?まだまだ俺の足元には及ばないよ♪』

 

 

『教えてくれないか?エレメンタルストーンより大事な物とはなんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シュレリア?」

 

 

アーベルト(……おい、何をグズグズしている?早くしろ)

 

 

シュレリア「……はい………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何を考えてるのだろう、私は……

 

 

こんな時に、望むべきことじゃないのに……

 

 

なのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「……私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

――それでも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「私も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも……もう一度会いたい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「私も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方にもう一度……

 

 

そう思うのは、可笑しいでしょうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「私も……誓いま―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泥棒さん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドシュウンッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ?!』

 

 

シュレリア「……え…?」

 

 

アーベルト「何……?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時たしかに聞こえた、鋭い銃声……

 

 

突然のそれに会場がどよめいてザワザワと騒ぎ出し、私も驚きのあまり、思わず辺りを見渡した。

 

 

……そうして見付けた……

 

 

向かいに見える王宮の屋上……其処に立つ人物を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「……うそ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有り得ない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「なん……で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だってあの人は、此処にはいないはずなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「どう……して……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、見間違うはずがない……

 

 

あの黒い髪……蒼い目……そして一度だけ見たことがある……蒼天に向けられる青い銃……

 

 

あれは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーベルト「な、何だ貴様……何者だっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「決まってるだろ?花嫁をもらいに来た、ただの盗っ人さ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリアSide END

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑨

 

 

―レデグレア・王宮中庭―

 

 

鋭い銃声と共に突如現れた海道大輝。彼は右手に持つドライバーを上空に向けたまま、突然の事態にどよめく観客達を尻目に自身を睨みつけてくるアーベルトを睨み返していた。そんな中、護衛の兵士の一人が大輝の顔を見て声を荒げた。

 

 

「あ、あいつ……あいつです!二週間前、王宮に侵入して失踪した賊はっ!」

 

 

「なんだと?!」

 

 

「ほ、本当だっ……間違いない!」

 

 

「馬鹿な、国中探して行方すら掴めていなかったのに、一体何処にいたんだ?!」

 

 

屋上に立つ大輝を見て兵士達や観客達からざわめきが広がっていき、その会話を聞いたアーベルトは大輝を睨みつけながら一歩前に出た。

 

 

アーベルト「そうか、貴様だったのか?以前王宮に賊に入ったという愚か者は」

 

 

大輝「まあね。でも邪魔が入ったせいで、お宝を盗むのに随分と時間が掛かったよ。おかげでこの二週間は苦労が絶えなかったし」

 

 

アーベルト「ふん……で?今更その賊が何しに来た?わざわざ捕まりにきたのかい?」

 

 

大輝「いいや、今も言っただろう?俺が此処へ戻ってきたのは―――」

 

 

そう言いながら大輝はドライバーを持つ右手を下げ、左手の人差し指でアーベルトの背後にいる人物………呆然と佇むシュレリアを指差した。

 

 

大輝「俺が此処へ戻ってきたのは……彼女をもらいに来たからさ」

 

 

シュレリア「……え?」

 

 

エルク「っ!何?!」

 

 

シュレリアを貰いに来た。何時になく真剣な顔付きでそう告げた大輝にシュレリアは思わず呆然と聞き返し、エルクや観客達は驚きを隠せずにいた。それを他所に大輝は懐を漁ってある物……先程盗んだエレメンタルストーンを取り出した。

 

 

アーベルト「?!それは、エレメンタルストーン?!貴様いつの間に?!」

 

 

大輝「ついさっきさ。コレを手に入れたら、とっととこの国からオサバラしようと思ったんだけど……その前にある事を思い出してね」

 

 

そう告げる大輝の言葉に、アーベルト達は訝しげに眉を寄せた。大輝はそれを見るとエレメンタルストーンへと視線を移し、軽い口調で話し始めた。

 

 

大輝「君達も知ってるだろう?嘗てこの世界を我が物にしようとした悪魔を倒すため、聖女はこの石を用いて悪魔を討った……お伽話や伝説にはそれだけしか言い伝えられていないけど、この石はね?"聖女の願いと思い"がなければ、本来の力を発揮出来ないんだよ……」

 

 

「つまり」と、大輝はエレメンタルストーンからシュレリアへと目を戻して指先を向けた。

 

 

大輝「エレメンタルストーンが真の力……真に価値あるお宝になるには、彼女がいなければならない。だから彼女を貰いに来たのさ」

 

 

エルク「なっ…ふざけるな貴様!そんな事の為に姫様を!!」

 

 

エレメンタルストーンが真の価値あるお宝にする為。そんな事の為にシュレリアを貰うと告げた大輝にエルクは怒りを露わにして叫ぶが、大輝はそれを無視して呆然と自分を見上げるシュレリアを見据え、大きく息を吸い込み……

 

 

 

大輝「――――シュレリア・リ・レイディアントッッ!!!」

 

 

シュレリア「……っ?!」

 

 

 

ビクッと、突然声を荒げた大輝にシュレリアは肩を震わせ、大輝はそんなシュレリアに向けて叫び続ける。

 

 

大輝「君は言ったなッ?!秘宝より大事で命を懸けてでも守りたいのは国だとッ!!レイディアントがなくなり、民達が悲しむ姿を見たくないとッ!!」

 

 

シュレリア「…………」

 

 

大輝「自分が身を差し出せば、レイディアントや民達を守れると!!だがそれは……本当に君の望みなのかッ?!」

 

 

シュレリア「っ!」

 

 

大輝「確かに君が犠牲になれば、国は救えるだろ……だが、民達を悲みから救うことは出来やしない!何故か分かるかッ?!」

 

 

力強く叫びながら、大輝は彼方を指差す。その方角は彼女の国、レイディアントが存在する方……

 

 

大輝「それは君が民の幸せを願うように、彼処にいる民達も、君の幸福を願っているからだっ!!」

 

 

シュレリア「っ……?!」

 

 

大輝の放った言葉と共に、一瞬だけシュレリアの脳裏に様々な記憶が駆け巡った。自分の父、エルク、城の皆、国の民達……いつも共に笑い合った、彼等の笑顔が何度も蘇る。

 

 

大輝「本当に彼等を悲しみから救いたいと思うなら、自分の心を騙すな!!幸せになれ!!君が望むように生きろ!!それが君の言う、『君だけのお宝の望み』だっ!!」

 

 

シュレリア「……泥棒……さん……」

 

 

その言葉を聞く度に、胸の内から何かが込み上げ、涙が浮かび上がる。ただそれでも、彼からは一切目を離さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「国を、民を思うなら答えろ!!君の本当の望みは何だ?!君の思いは何処にある?!答えろ!!シュレリア・リ・レイディアントォッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「あ……ぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の望み?

 

 

私の思い?

 

 

それは、レイディアントを守る事……

 

 

その思いに偽りも間違いもない。

 

 

……でも……

 

 

でも本当は……

 

 

 

アーベルト「惑わされるなシュレリア!!分かってるのか?!レイディアントの命運を握ってるのは、この僕なんだぞ?!」

 

 

シュレリア「……私……は……」

 

 

 

そんなの、言われなくても分かってる……

 

 

だけど……

 

 

でも本当は……それでも私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「――私はっ、レイディアントに帰りたいっ!!もう一度っ!!もう一度みんなに会いたいっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルク「姫様……」

 

 

「シュレリア様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げて、溢れ出る涙でグチャグチャになった顔でずっと押し殺していた自分の本心を大輝に向けて叫ぶシュレリア。エルクや先程大輝とぶつかった女性は、それを聞いてシュレリアの気持ちを感じ取り、大輝も微かに笑みを浮かべながらアーベルトに向けて手を伸ばした。

 

 

大輝「そういう事だ王子君、彼女は返してもらうよ」

 

 

アーベルト「ッ!返してもらうだと?貴様のものではないだろうにっ!!」

 

 

大輝「……ああそうか……確かにそうだね……ならば怪盗らしく―――」

 

 

アーベルトの言葉を聞いて真剣な目付きへと変わり、大輝は胸ポケットから一枚のカードを取り出し、右手に持つドライバーへと装填してスライドさせ、そして……

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

大輝「――盗ませてもらう……変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

銃口を上空に向けて引き金を引くと同時に電子音声が鳴り響き、それと共に大輝を中心に三つの残像が駆け巡っていく。そして三つの残像が大輝に重なると大輝の身体が灰色のアーマーを纏い、最後に真上から下りてきたプレートが仮面部分にセットされていくと共に灰色のアーマーが鮮やかなシアン色へと変化していき、大輝は仮面の戦士………仮面ライダーディエンドへと変身したのであった。

 

 

シュレリア「?!ど、泥棒さん……?」

 

 

エルク「す、姿が変わった?!」

 

 

アーベルト「ちぃ!なにをしている兵士達?!早く奴を捕らえろ!抵抗するなら殺しても構わん!」

 

 

ディエンドに変身した大輝を見てシュレリア達が唖然とした顔になる中、アーベルトは怒鳴り声に近い声で周りの兵士達に呼びかけてディエンドへと放っていき、それと共にそれまで呆然としていた観客達もその時になって漸く弾かれたように出口へと殺到した。

ディエンドはそれを尻目に屋上から飛び降りて中庭に着地し、武器を振りかざしながら斬り掛かってくる兵士達へと突っ込んでいった。

 

 

シュレリア「ど、泥棒さん!」

 

 

エルク「っ!姫様危険です!今はこちらへ!」

 

 

襲い掛かってくる兵士達と戦うディエンドを見てシュレリアは思わず身を乗り出し、エルクはそんなシュレリアの手を引っ張って物陰に避難させていく。そしてディエンドは兵士達が振り下ろす槍をかい潜りながら左腰のホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!―

 

 

「グ、グアァッ?!」

 

 

「ウアァッ?!」

 

 

電子音声と共にディエンドがドライバーの銃口を真上に向けて引き金の引くと、銃口から発砲された銃弾が雨のように兵士達へと降り注ぎ、兵士達を吹っ飛ばして気絶させていったのだ。そしてディエンドは倒れる兵士達を見渡すと、数人の兵士達に守られるアーベルトと対峙していく。

 

 

ディエンド『この程度かい?案外大したことないね、あんなのをこき使って彼女の国を自分の物にしようとしたのか?』

 

 

背後で倒れる兵士達を顎でクイッと指し、小馬鹿にするように笑うディエンド。だが……

 

 

アーベルト「――ふ、ふふ……見くびってもらっては困るなぁ盗っ人君?」

 

 

ディエンド『……何?』

 

 

アーベルトは怒るワケではなく、不気味な笑いを漏らしながらそう告げたのだ。予想とは違う反応を見せるアーベルトにディエンドも訝しげに聞き返し、アーベルトは不敵な笑みを浮かべたまま兵士達の前に出ていく。

 

 

アーベルト「どうせだ、君にも見せてやろう?僕が手に入れた王の力を!オォォォォォォォォォッ!!」

 

 

アーベルトは獣のような雄叫びを上げながらその姿を徐々に変えていき、獅子のような姿をした灰色の怪人……ライオオルフェノクに変わって左手から青い光弾をディエンドに撃ち出し、ディエンドはそれをかわしながらバックステップで後ろへと下がった。

 

 

シュレリア「?!あ、あれは……?!」

 

 

エルク「か、怪物?!」

 

 

ディエンド『……今の攻撃……成る程……二週間前の夜、宝物庫で俺を撃ったのは君だったのか?』

 

 

『ご名答、せっかく苦労して手に入れた秘宝を横取りされたら堪ったものじゃないからね?因みに……』

 

 

ライオオルフェノクは言葉を区切りながら右腕を掲げると、ライオオルフェノクの背後にいた兵士達とディエンドの背後に現れた兵士達の顔に紋様が浮かび上がり、灰色の怪人……オルフェノクへと姿を変化させていった。

 

 

ディエンド『これは……』

 

 

『ふはははははっ!彼等は僕直属の親衛隊さ!どうだい?恐れ入ったか?今なら大人しく秘宝を渡して命乞いすれば、助けてやってもいいぞ?』

 

 

ディエンドを包囲するオルフェノクの数はパッと見れば三十は軽く越えている。敵地のど真ん中にいるのだから当然だが、恐らく増援がまだまだやって来るはず。状況から考えれば逃げるのが得策と思われるが……ディエンドは何故か含み笑いを漏らしていた。

 

 

『?何を笑ってる?余りの恐怖で頭も可笑しくなったか?』

 

 

ディエンド『ふ、いいや?寧ろ高揚感を覚えてるんだよ、俺は』

 

 

あ?と、ライオオルフェノクは見下すような目でディエンドを睨みつけた。ディエンドはただ不敵な笑みを浮かべたまま、ドライバーの銃口をライオオルフェノクに向け……

 

 

ディエンド『立ち塞がる障害が大きければ大きい程、お宝を手に入れた時の喜びも大きくなる……この程度のことで逃げてたら、怪盗なんてやってられないんだよ』

 

 

『貴様、自分が置かれてる状況が分かってないのか?それとも、命が惜しくないとでも言うのか?』

 

 

険しげにディエンドにそう問い掛けるライオオルフェノクだが、ディエンドは何を今更といった感じに笑みを漏らし、ライオオルフェノクに指鉄砲を向けながら語り出した。

 

 

ディエンド『憶えておきたまえ王子君……其処にお宝がある限り、それを手に入れる為なら命だって懸ける……それが怪盗だ!』

 

 

『……良く言った……なら、此処で死ねぇっ!!』

 

 

ライオオルフェノクの怒号と共に、オルフェノク達が一斉にディエンドへと襲い掛かり、ディエンドはディエンドライバーを乱射させながらオルフェノクの大群へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑩

 

 

『グゥルアァッ!!』

 

 

『シャアァッ!!』

 

 

ディエンド『フッ!ハッ!ハァッ!』

 

 

四方から襲い来るオルフェノク達の攻撃を紙一重で避けていき、素早い動きでオルフェノク達を殴り付けて再び素早い動きで動き出すと、ヒット&アウェイ戦法を繰り返していくディエンド。そしてディエンドはドライバーを発砲させてオルフェノク達を怯ませると、左腰のホルダーから二枚のカードを取り出しドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:KAIXA!KAMENRIDE:DELTA!』

 

 

ディエンド『そら、いってらっしゃい』

 

 

―バシュウッ!―

 

 

電子音声が響くと共にディエンドがドライバーの引き金を引くと、無数の残像が辺りを駆け巡ってそれぞれ重なっていくと、ディエンドの前にギリシャ文字のχをモチーフにした戦士……カイザと、ギリシャ文字のΔをモチーフにした戦士……デルタが姿を現した。

 

 

ディエンド『俺からのプレゼントだ、受け取れッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『グ、グアァァァァァァァァァァーーーーッ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

ディエンドがそう呟くとディエンド、カイザ、デルタはそれぞれ武器を構えオルフェノク達に向かって一斉射撃を放った。その一斉射撃を受けたオルフェノク達は悲痛の叫び声をあげ爆発して散っていき、ディエンドはカイザとデルタにオルフェノク達を任せてライオオルフェノクと対峙していく。

 

 

ディエンド『さて、君には以前不意打ちされた借りがある……此処でそのツケを払ってもらうよ?』

 

 

『ハッ、口だけはホントに達者だなぁ?ウラァッ!』

 

 

ライオオルフェノクは軽口を叩きながら左手から青い光弾を撃ち出し、ディエンドは前へ転がるようにそれを回避して一気に立ち上がり、ライオオルフェノクに向けてすぐさまドライバーを乱射させて反撃していく。が……

 

 

 

 

 

 

―パキイィィィィンッ!―

 

 

ディエンド『ッ!何っ?』

 

 

ディエンドの放った銃弾は何故かライオオルフェノクに直撃する事なく、ライオオルフェノクの目の前に張られた何かに遮られるように弾けて散ってしまったのである。それを見たディエンドは思わず戸惑いの声をあげ、ライオオルフェノクはそんなディエンドの反応を他所にディエンドに接近して殴り飛ばしてしまった。

 

 

ディエンド『ぐぅっ!くっ……今のはまさか……バリアかっ……?』

 

 

『ほぉ?中々察しがいいね?そうさ、コイツはこの力と共に手に入れた絶対領域の力!イレイザーの力さ!』

 

 

ディエンド『……イレイザー?』

 

 

聞き慣れない言葉を放ったライオオルフェノクにディエンドは思わず訝しげに聞き返す。だがライオオルフェノクはそれに答えることなく再びディエンドへと突っ込んでいき、ディエンドも反撃しようとドライバーを乱射させていくが、案の定銃弾はライオオルフェノクに届かず……

 

 

『無駄無駄ぁ!!ウオラァッ!!』

 

 

―ガギンッ!!グガァンッ!!ガギィッ!!―

 

 

ディエンド『ウグアァッ!』

 

 

接近したライオオルフェノクの鋭い爪がディエンドのボディを斬り裂き、ディエンドは火花を散らせながら後方へと吹っ飛ばされてしまう。それでもディエンドはふらつきながら上体を起こさせると、左腰のホルダーから一枚のカードを取り出しディエンドライバーへとセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:CROSSATTACK!』

 

 

電子音声と共にオルフェノク達と戦っていたカイザとデルタはそれぞれの武器をチャージしながらライオオルフェノクへと向けていく。対するライオオルフェノクは特に身構えもせずディエンド達へゆっくりと近付いていき、カイザとデルタはそれぞれの武器から弾を撃ち出しライオオルフェノクの前に黄色と白のマーカーを展開させた。

 

 

『ほー?これはこれは』

 

 

カイザ『フッ!ハアァァァァァァァァァーーーーーッ!!』

 

 

デルタ『ダアァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!!』

 

 

ライオオルフェノクは目の前に展開されたマーカーを見て興味深そうな声を漏らし、その隙にカイザとデルタが跳び上がってマーカー内へと突入し、ライオオルフェノクにダブルライダーキックを打ち込もうとしてバリアと激突した。しかし……

 

 

『――無駄な事を……ハァッ!!』

 

 

―シュウゥ……ズドオオオオオオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

カイザ『っ?!グゥッ?!ウアァッ!!』

 

 

デルタ『グアァァァァァァァァァァアーーーーーーッ?!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

ライオオルフェノクは両腕にエネルギーを集約させ、バリアと激突していたカイザとデルタに巨大な光弾を放って吹っ飛ばしてしまい、カイザとデルタは断末魔と共に爆発して跡形もなく消え去ってしまったのだ。それを見たディエンドはすぐさま左腰のホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

電子音声と共にディエンドがディエンドライバーの照準をライオオルフェノクに合わせていくと、ディエンドライバーの銃口の周りにディメンジョンフィールドが展開され、ディエンドが引金を引くと強力な銃弾が撃ち出され、軌道上にいたオルフェノク達を巻き込みながらライオオルフェノクのバリアとぶつかり合った。だが……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ……!!!―

 

 

ディエンド『ちぃっ……!突破出来ないっ?!』

 

 

バリアの強度はディエンドの予想を超え、銃弾はバリアと激突するだけで突破することが出来ず、そのまま勢いが止まってしまったのだ。対してライオオルフェノクは余裕の態度を崩さず、ほくそ笑みながら両腕に再びエネルギーを集束させていた。

 

 

『ハッハハハハハッ!まだ分からないのかい?どう足掻こうとも、君じゃ僕には勝てないんだよッ!フンッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!―

 

 

ディエンド『?!―ドグオォォォォォォォンッ!!―グアァァァァァッ!!』

 

 

シュレリア「っ!泥棒さん?!」

 

 

ライオオルフェノクは両腕に集束させたエネルギーを無数の光弾に変換して一斉に撃ち出し、バリアで激突していたディエンドの銃弾を打ち消しながらディエンドへと全弾撃ち込み、そのまま近くのテーブルへと吹っ飛ばして叩き付けてしまった。

 

 

ディエンド『ぐぅ……くっ……』

 

 

『クク、さぁて、そろそろトドメといこうか?秘宝はゆっくりと取り返させてもらうよ……死んだ君の冷たい腕からねぇ?』

 

 

全身から煙を立たせながら立ち上がろうとするディエンドを見て意地汚く笑いながらそう言うと、ライオオルフェノクはディエンドにトドメを刺すべく両腕を頭上に掲げ、青いエネルギーの塊を形成していく。それを見たディエンドは近くに転がるテーブルに手を掛けて立ち上がろうとするが、全身が麻痺して上手く起き上がれない。そして……

 

 

『それじゃあ盗っ人君……さようなら……だッ!!』

 

 

―シュウゥ……ズガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ディエンド『っ……!』

 

 

青いエネルギーの塊は巨大なエネルギー弾となって放たれ、地面を消し去りながらディエンドへと向かっていったのである。目前から迫り来るソレを見たディエンドは態勢を立て直すのは無理と判断し、すぐに防御態勢を取った。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『――ッ!何……?!』

 

 

ディエンド『……ッ!』

 

 

 

ズガァンッ!という衝突音と共に、ディエンドを飲み込もうとした砲撃は目の前に現れた何かによって遮られたのである。ディエンドの目の前に現れた物とは、両手を前に突き出して白く透明な盾を前面に展開する人物……エルクと共に隠れていた筈のシュレリアだったのだ。

 

 

ディエンド『君は……!』

 

 

『な、何のつもりだシュレリア?!其処を退け!!』

 

 

シュレリア「っ!い、嫌ですっ……泥棒さんはっ……絶対にやらせません!」

 

 

『っ……小娘ごときが……邪魔をするなぁ!!』

 

 

身を呈してでもディエンドを庇おうとするシュレリアにライオオルフェノクは苛立ち、腕に力を込めてエネルギー弾の勢いを更に増させた。対するシュレリアも両手を突き出して砲撃を防ごうとするが、謳を使っていない上に所詮は人の力。規格外の怪物の力を防げるハズがなく、シュレリアの盾は次第にひび割れ、遂に砲撃は盾を粉々に砕いてシュレリアへと襲い掛かろうとした。その時……

 

 

―バッ!!―

 

 

ディエンド『危ないッ!』

 

 

シュレリア「――え?きゃあっ?!」

 

 

砲撃が届くギリギリのタイミングでディエンドが飛び出し、シュレリアを抱き抱えてライオオルフェノクの砲撃をなんとかかわしたのだった。

かわされた砲撃はそのまま二人の背後にあった壁に激突して壁を破壊し、ライオオルフェノクはそれを見て舌打ちすると二人に近付こうとするが、その時エルクがライオオルフェノクに向かって剣で斬り掛かり、ライオオルフェノクを二人から引き離した。

 

 

『ッ!貴様っ……!』

 

 

エルク「姫様はやらせん!俺が相手だ怪物っ!」

 

 

そう言いながらエルクは剣を振りかざしてライオオルフェノクへと斬り掛かっていき、ライオオルフェノクをシュレリア達から引き離していく。その間にシュレリアはディエンドへと駆け寄り、ディエンドの身体を抱き起こしていく。

 

 

シュレリア「し、しっかりしてください!大丈夫ですか?!」

 

 

ディエンド『っ……君こそ……怪我はないのか……?』

 

 

シュレリア「は、はい……すみません……私のせいで泥棒さんがっ……」

 

 

ディエンド『……勘違いしないでくれないかな?君に何かあれば、エレメンタルストーンが真に価値のあるお宝にはならない……理由はそれだけだ……』

 

 

そう言いながら、ディエンドはシュレリアを退かして再び立ち上がろうとする。そんなディエンドの姿を見たシュレリアは顔を俯かせながらドレスの裾を掴み、ゆっくりと顔を上げてディエンドを見据えた。

 

 

シュレリア「泥棒さん……聞いても……いいですか」

 

 

ディエンド『何だいこんな時に……喋ってる暇があるならさっさと何処に――』

 

 

隠れていろと、そう言おうとしてディエンドはわずかに黙った。何故なら自分を見つめるシュレリアの目……その目の奥に、二週間前にはなかったはずの決意と力強さに気付いたからだ。シュレリアはそんなディエンドの様子に気付かず、口を開いた。

 

 

シュレリア「私……ずっと誰かに、守られてばかりでした……今だって泥棒さんやエルクに守られて……私は何も出来ていない……」

 

 

ディエンド『…………』

 

 

シュレリア「私も何時かは……みんなを守れるぐらい、強くなれるでしょうか?泥棒さん達みたいに何時か……自分の力で……」

 

 

誰かに頼り、守られるのではなく、自分の力で。決意の込められた顔でそう告げたシュレリアにディエンドは何も言わず、ふらつきながら立ち上がった。

 

 

ディエンド『どうかな……だけど……君が自分のお宝を守りたいと強く望むなら……何時か、きっと……』

 

 

最後までは語らない。だがその先の言葉を理解したのか、シュレリアはわずかに笑みを浮かべながら小さく頷き、神に祈るように両手を組んで瞳を伏せ、ペタリと地面に座り込んだまま息を小さく吸い込み……

 

 

シュレリア「――Ich weiss nicmt was soll es bedeuten. Das ich so traurlg bin……」

 

 

『…!何?』

 

 

エルク「っ!姫様……?」

 

 

彼女が口にしたのは、以前シュレリアが大輝との共同生活の中で謳っていた謳。それを耳にしたエルクやライオオルフェノクは戦いを止め、祈るように謳うシュレリアの方へと振り返った。そしてそれを黙って傍らで聞いていたディエンドだが……

 

 

―……シュウゥゥ……シュウゥゥ……―

 

 

ディエンド『……?!これは?』

 

 

ふと自分の懐から白い光が放たれている事に気づき、ディエンドは懐をゴソゴソと漁って白い光を放つソレを取り出した。それは……

 

 

―シュウゥゥ……シュウゥゥ……―

 

 

ディエンド『!これは……エレメンタルストーン?』

 

 

そう、光を放つソレの正体とはエレメンタルストーンだったのだ。シュレリアの謳に呼応するかのように淡い光を放つエレメンタルストーンを見て、ディエンドはエレメンタルストーンとシュレリアを交互に見つめていき、シュレリアは謳を続けていく。

 

 

シュレリア「…Der Gippel des Berges funkelt. Im Abendsonnenschein」

 

 

ディエンド(……エレメンタルストーンは聖女の願いや思いに呼応し、その真の力を発揮する……そういうことか……!)

 

 

シュレリアの謳を聞きながらその意味を理解し、ディエンドは淡い光を放つ石を目の前に翳した。その瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「Ein Maerchen aus altenZeiten. Das kommt mir nicht aus dem Sinn!」

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

エルク「?!な、何だ?!」

 

 

『この光はっ……?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリアの謳と共に、ディエンドの手に持つ石からまばゆい光が放たれて辺りを包み込んでいったのだ。そして光が徐々に晴れて消えていくと、ディエンドの左手には石ではなく機械のような物……青い宝石の周りに六つの白い羽根が刻まれているバックルが握られていた。

 

 

エルク「な、何だ……あれは……?」

 

 

『秘宝が、姿を変えた?!一体何が……?!』

 

 

ディエンドの手に握られる姿を変えた秘宝を見て二人は驚愕し、ディエンドは手に持つバックルを見つめた後にライオオルフェノクを見据えた。

 

 

ディエンド『別に驚く事はないだろう?これが秘宝の真の力……彼女の力さ』

 

 

『ッ!なんだと……?』

 

 

ディエンドの言葉にライオオルフェノクは訝しげに眉を寄せ、ディエンドは背後で今もなお謳い続けるシュレリアに目を向けながら話を続けた。

 

 

ディエンド『言っただろ?エレメンタルストーンは、聖女の願いや思いによってその力を真に発揮する……この石は、彼女達の思いによってその姿や力を無限に変化させていくのさ』

 

 

『願い?思いだと?くだらない!そんな物に何の価値がある?!』

 

 

ディエンド『あぁ、俺もそう思っていたよ……だけど――』

 

 

言葉を区切り、ディエンドはベルトのバックルを取り外していく。そして……

 

 

ディエンド『――人の思いとやらも馬鹿には出来ない……現にそれが、俺も予想すらしていなかった奇跡を起こしたんだからね』

 

 

『NEXTKAMENRIDE:DI-END!』

 

 

そう言いながらディエンドが左手に持つバックル……ノヴァディバイダーをベルトのバックル部分にセットすると共に電子音声が鳴り響き、ディエンドのカードが現れて仮面頭部に装着された。それと同時にディエンドのアーマーが白と金を基礎としたスタイリッシュな鎧へと変化し、左手には金のラインが走った白の銃が握られ、最後にディエンドの背中にシアンのマントが展開され、変身の余波で発生したオーラが一同の立つ地面を粉砕した。

全ての変身を終えたその姿は、シュレリアの思いが込められた秘宝の力によって強化変身した姿……『ディエンド・ノヴァフォーム』へと姿を変えたのだった。

 

 

『な、何っ?!』

 

 

エルク「ま、また変わった?!」

 

 

突如姿を変えたディエンドにライオオルフェノクとエルクは再び驚愕し、ディエンドを見た他のオルフェノク達も危険を感じ取ったのか、一斉にディエンドへと迫っていく。ディエンドはそんなオルフェノク達を見据えながら、両手に持ったディエンドライバーと白い銃を僅かに上げると……

 

 

 

 

 

 

―フッ……―

 

 

『?!消え――グ、グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『なっ……?!』

 

 

ディエンドが一瞬消えたかと思いきや、それと同時に突然オルフェノク達が悲痛な悲鳴を上げながら一斉に爆発して消え去っていったのだ。その光景にライオオルフェノクが絶句したと共に消えたディエンドが青い爆発を背に姿を現し、左手に持つ白い銃……ノヴァライザーの銃口をライオオルフェノクに向けた。

 

 

『ぜ、全滅?そんな馬鹿な……な、何なんだお前?!何者なんだ?!』

 

 

自分の親衛隊を一瞬で倒されて動揺しているのか、声を震わせて後退りしながらそう問い掛けるライオオルフェノク。それに対してディエンドはライザーの銃口を向けたまま、俯かせていた顔をゆっくりと上げ……

 

 

ディエンドN『ただの怪盗さ……憶えておきたまえ』

 

 

青い爆炎を背に静かにそう告げたと共に、聖女の謳が流れる世界に一発の銃声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑪

 

 

ダンダンダンッ!と、ディエンドの持つ二丁銃が火を噴いた。放たれた無数の弾はライオオルフェノクの肩と胴体に直撃し、ライオオルフェノクはバリアを展開する隙もなく衝撃のあまり吹き飛んだ。

 

 

『ぐあぁうっ?!この!!調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!』

 

 

ライオオルフェノクは態勢を立て直して怒りの咆哮と共に再びバリアを展開し、お返しと言わんばかりに右腕を振るうってディエンドに青い光弾を放った。だがディエンドは上半身を振っただけで光弾を避け、背後で無造作に転がっていたテーブルを踏み台にして上空へと跳び上がり、二丁の銃をライオオルフェノクに向けた。

 

 

『ハッ!馬鹿の一つ覚えだなぁ?!その攻撃がこの盾には通用しないって、まだ分からないのか?!』

 

 

先程もカイザとデルタの、そしてディエンドの必殺技をも防ぎ切ったこの盾に、あの程度の攻撃が通用するハズがない。絶対の自信に満ちているライオオルフェノクは両手を広げて愉快げに高笑うが……

 

 

 

 

二丁の銃から放たれた弾丸がバリアを貫通し、胴体に降り注いだと共にその笑みも消えた。

 

 

『ゴ……アァッ?!』

 

 

何が起きたか分からなかった。ライオオルフェノクは身体が崩れ落ちていくのを感じながら現状を理解しようとするが、その前に青と白の無数の銃弾が降り注ぎライオオルフェノクを後方へと吹っ飛ばしていった。それと同時にディエンドが地面に着地し、言葉を口にした。

 

 

ディエンドN『そういえば、君にひとつ忠告するのを忘れていたよ……』

 

 

淡々と冷たい口調で言いながらディエンドはゆっくりとライオオルフェノクへと歩き出し、ディエンドライバーの銃口をライオオルフェノクの額に突き付けた。

 

 

ディエンドN『今の俺は、さっきとは違う……一瞬で消えたくなければ、余裕と手加減は捨てておけ』

 

 

『ッ!!この、盗っ人ごときがヌケヌケとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

 

ディエンドの言葉に怒り、ライオオルフェノクは獣のような雄叫びと共に起き上がってディエンドに斬り掛かった。だが、ディエンドは一瞬ブレたと共に消えてライオオルフェノクの爪をかわし、姿を消したディエンドにライオオルフェノクは驚愕混じりに辺りを見渡した。その瞬間……

 

 

 

 

 

『――盗っ人なめるなよ、王族ごときが……』

 

 

『?!―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―ゴアァッ?!』

 

 

背後から冷たい声が投げ掛けられ、振り返る前に無数の銃弾がライオオルフェノクの背中に撃ち込まれて吹き飛ばした。そして、いつの間にかライオオルフェノクの背後に回り込んでいたディエンドは右手に持ったディエンドライバーを真上に放り投げ、左手に持ったノヴァライザーをなにかのパーツのようなモノに変形させていき、落下してきたディエンドライバーを掴み取って二つを合体させ、ライフルのような形態をしたノヴァドライバーへと姿を変えた。

 

 

『ぎぁ、ぐっ……き、貴様ぁぁぁぁぁ……!』

 

 

ライオオルフェノクはふらつきながら立ち上がると共にディエンドへと駆け出してがむしゃらに殴り掛かるが、ディエンドは片手でそれを払いながらライオオルフェノクに回し蹴りを放って後退させ、背中のマントを掴んで自身の身体を包み込むと幻のように突然消え去った。

 

 

『ぐぅ?!なっ、また消え―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ……!!!!―なッ?!!』

 

 

再び姿を消したディエンドにライオオルフェノクは思わず辺りを見渡そうとするが、その前に様々な方から無数の銃弾が放たれライオオルフェノクへとぶち込まれていった。

四方八方から10000、20000、30000発の銃弾が秒単位でライオオルフェノクへと直撃していき、最後にディエンドが背中のマントを翻しながらライオオルフェノクの目の前に姿を現し、ノヴァドライバーを突き付け至近距離から発砲していった。

 

 

『ギガアァッ?!あ、な、何故だっ……こ、この僕が……どうしてっ?!』

 

 

ディエンドN『さぁ、チェックと行こうか?』

 

 

ディエンドはよろめきながら信じられないように叫ぶライオオルフェノクを見据えながら、左腰のホルダーから一枚のカードを取り出し、ノヴァドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

電子音声が響くと共にディエンドがノヴァドライバーの銃口をライオオルフェノクへと向けていくと、ドライバーの銃口に無数のエネルギーが収束されて光りを放っていく。

 

 

『ふざけるな……僕は王になるんだ!!この力で!!この世界の皇帝になるんだァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

 

ライオオルフェノクは銃口を向けるディエンドを見て再びバリアを張り、右腕から衝撃波を放ちながらディエンドへと突進していった。ディエンドはそれに対して動じる事なく、ノヴァドライバーの照準をライオオルフェノクに合わせたまま……

 

 

ディエンドN『ハァァァァ……ハアァッ!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ディエンドが引き金を引くと共に、ドライバーの銃口から巨大なエネルギー砲が撃ち出されライオオルフェノクへと向かっていき、そのまま衝撃波を飲み込んでライオオルフェノクの展開するバリアと衝突していった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!―

 

 

『グアウッ?!まだまだっ……こんなものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!』

 

 

正面からディエンドの放つ砲撃を受け止め、そのまま押し切ろうとするライオオルフェノク。しかし砲撃は更に勢いを付けてライオオルフェノクを押し返していき、ディエンドは背後から聞こえてくる謳声に一度目を伏せると、再び両目を見開き……

 

 

ディエンドN『これで……終わりだ!ハアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ……ピシッ……バリイィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

『っ?!そ、そんなっ?!ウ、ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオーーーーーンッ!!!!―

 

 

ディエンドの放った必殺技……ディメンジョンノヴァがバリアを打ち破ってライオオルフェノクに炸裂し、ライオオルフェノクは光の中で蒼い炎を噴き出しながら跡形も残さずに爆発して散っていったのであった。それを確認したディエンドはゆっくりと構えを解き、バックル部分のノヴァディバイダーを取り外すとディエンドは通常形態へと戻り、ノヴァディバイダーも元の青い石へと戻っていった。

 

 

ディエンド『……これが、思いの力……か……』

 

 

青い石を見つめながらそう呟くと、ディエンドは背後へと振り返った。其処にはライオオルフェノクが倒されたのを見て謳を終え、穏やかな笑みを向けてるシュレリアの姿があった。そうしてシュレリアが、笑ってディエンドの下に近付こうとした、その時……

 

 

エルク「姫様っ!」

 

 

シュレリア「え……エルク!」

 

 

ディエンド達の戦いの行く末を見えていたエルクが、騒ぎを聞き付けてやって来た王宮の兵士達と共に駆け寄ってくる姿があったのである。シュレリアはエルクの無事な姿を見て安堵し、エルクもそんなシュレリアの様子に安心しながらシュレリアに近付こうとする。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガッ!!―

 

 

『っ?!』

 

 

エルク「?!何?!」

 

 

突如シュレリアとエルクの間に無数の銃弾が放たれ、辺りに灰色の粉塵が巻き起こったのだ。突然のそれにエルクや兵士達は思わず足を止めてしまうが、粉塵が徐々に晴れていくと彼等の目の前にはシュレリアの傍に立つ人物……ディエンドが立ち塞がるように立っていた。

 

 

エルク「?!貴様、なんの真似だ?!」

 

 

ディエンド『なんの真似?最初に言わなかったかい?俺が此処に来たのは花嫁をもらいにきたからだ。そういう訳だから、彼女は貰っていくよ?』

 

 

『なっ……』

 

 

笑ってそう告げたディエンドに、エルク達だけでなくシュレリアまで面を食らい唖然とした表情を浮かべてしまうが、ディエンドは構わず左腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

ディエンド『んじゃ、彼女は貰っていくよ。じゃあね、ナイト君?』

 

 

エルク「ま、待てっ?!」

 

 

電子音声と共にディエンドはシュレリアを抱き寄せると、そのままシュレリアと一緒に周りの景色に溶け込むように消えてしまったのであった。エルクは消えてしまったディエンドとシュレリアの姿を探すように辺りを見回していくと、すぐに舌打ちして他の兵士達に二人を追うように指示していくのだった。その陰では……

 

 

 

 

 

『―――ふむ……せっかく555の物語からオルフェノクの力を手に入れてきたというのに、こんなぶざまな結果になってしまうとはねぇ』

 

 

王宮の屋上には、その場に腰掛けて中庭の様子を眺める人物……以前アーベルトと話していた黒いローブの人物がつまらなそうに呟いていた。

 

 

『ちゃんと忠告もしておいたのですが……まぁ、所詮はあの程度だったという事ですかね?あれではメモリアルどころか、クロスともまともに戦えないでしょうし』

 

 

見込み違いだったといった感じに軽く溜め息を吐くと、黒い人物はゆっくりと立ち上がって空を見上げた。

 

 

『さあ、早くイレイザーを集めにいかなければいけませんねぇ……『王の子』も見つけなければいけませんし……キシッ♪』

 

 

口元を歪めながらそう呟くと共に、黒いローブの人物はその場から転移し、何処かへと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑫

 

 

 

――広い緑色の草原……

 

 

風が吹き、何処までも無限に広がっていく草原の草が僅かに揺れる。

 

 

青空の下で何処まで続いていくそんな場所に、二人の人物が何の前触れもなく現れた。

 

 

一人はレデグレアの王宮にいた筈のシュレリア、もう一人はそんな彼女を連れて姿を消したディエンドだった。

 

 

シュレリア「――……あ、あれ?此処は……?」

 

 

姿を現してからすぐ、シュレリアは見慣れない草原を見て思わず辺りを見渡した。確か自分は先程までレデグレアにいた筈なのにと。シュレリアが困惑しながら周りを見渡してると、ディエンドは無言で歩き出して大輝へと戻っていき、懐からエレメンタルストーンを取り出した。

 

 

シュレリア「……?泥棒さん?」

 

 

大輝「…………」

 

 

エレメンタルストーンを見つめたまま何も喋らない大輝にシュレリアは心配そうに声を掛け、大輝は暫く石を見つめるとシュレリアの方へと振り返って歩き出し、シュレリアの手を取ってエレメンタルストーンを握らせた。

 

 

シュレリア「!泥棒、さん……?」

 

 

大輝「……預けておくよ。それは君が持っていた方が良いだろうしね」

 

 

シュレリア「え?で、でも、泥棒さんはコレのためにレデグレアに来たんじゃっ?!」

 

 

そう、大輝は最初からエレメンタルストーンを盗む為だけにレデグレアに訪れたのだ。そのお宝が手に入ったというのに、それを返すと告げる大輝にシュレリアも戸惑ってしまうが……

 

 

大輝「勘違いしないでくれないか?それは返す訳じゃない。最高に価値ある状態で手に入れたいから、君に一時預けておくだけさ」

 

 

シュレリア「……え?」

 

 

大輝の言葉の意味が分からないのか、疑問げに小首を傾げながら思わず聞き返すシュレリア。そんなシュレリアの様子を見た大輝は、シュレリアの手に握られた石を見つめながら語り出す。

 

 

大輝「怪盗がお宝を盗む時の最大の条件は、盗むお宝が最高に価値のある状態である事だ。だけどその石だけじゃ、最高に価値があるお宝とは言えないんだよ」

 

 

シュレリア「?最高に価値のある状態って……?」

 

 

大輝「決まってるだろう?聖女である君がそのお宝を持っていること……それが、エレメンタルストーンが最高に価値のある状態なんだよ」

 

 

シュレリア「っ……!」

 

 

シュレリアがエレメンタルストーンを持っている事。それがエレメンタルストーンが最高に価値のある状態なんだと、そう告げた大輝にシュレリアは息を呑み、大輝はエレメンタルストーンからシュレリアに目を向けて話を続けた。

 

 

大輝「お宝は、価値のある物でなければならない……少しでも価値が下がれば、例えそのお宝を手に入れても納得はしないし、満足もしない……それが怪盗なんだよ」

 

 

そう言って大輝はシュレリアの前から身体を少しずらし、シュレリアの背中を押して前に出させた。シュレリアはそれに疑問符を浮かべたが、目の前にある光景を見て目を見開いた。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「――レイ……ディアント……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の目に止まったのは、遥か彼方に見えるひとつの国。

 

 

二度と帰る事も、この目で見る事もないと思っていた、自分の祖国だった。

 

 

シュレリア「……泥棒さん……どうして……?」

 

 

大輝「さあ?俺はやりたいようにやっただけだ。別に君の為にやったんじゃない……ただ――」

 

 

大輝は呆然と見上げてくるシュレリアにそう言いながら前に出ていき、レイディアントを見つめながらポツリと呟いた。

 

 

大輝「――それなりに興味があるだけさ。君が言っていた、エレメンタルストーンより価値のあるお宝……それを見せてもらう為にも、君が彼処に戻らなければ意味がないだろう?」

 

 

シュレリア「っ!泥棒……さん……」

 

 

エレメンタルストーンより価値のあるお宝を見せてもらう為。そう告げた大輝にシュレリアは僅かに驚くも、すぐに笑みを浮かべていき、大輝はそんなシュレリアを真剣な目付きで見据えながら指鉄砲を向けた。

 

 

大輝「だけど忘れるなよ?俺は別にお宝を諦めたワケじゃない……いつか今より腕を上げて、必ずその石と一緒に君を盗みに来る……憶えておきたまえ」

 

 

シュレリア「……へ?」

 

 

必ず君を盗みに来る。真剣な表情でそう告げた大輝にシュレリアは一瞬唖然となるが、その意味を理解して顔を真っ赤にしてしまう。そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫様ぁーー!!姫ぇーー!!」

 

 

シュレリア「え?……エ、エルク?」

 

 

 

 

不意にシュレリアを呼ぶ声が響き渡り、二人がその声が聞こえてきた方へと振り返ると、其処にはレイディアントの兵士達と一緒に馬に乗ってこちらに向かってくるエルクの姿があった。エルク達を見たシュレリアは一瞬呆然となるが、すぐにハッ!となって慌てて赤くなった顔を元に戻そうとし、そんな彼女の異変に気付いたエルクは傍らに立つ大輝を睨みつけた。

 

 

エルク「貴様ぁ!!やはり姫様に何かしたのかっ?!絶対取っ捕まえてやるからそこで大人しくしていろぉぉぉぉぉーーーーっ!!」

 

 

大輝「ったく、めんどくさいのが来たな……んじゃ、俺はこの辺で失礼させてもらうよ」

 

 

このままじゃあ首とか跳ねられるかもしれないしと、大輝はシュレリアから背を向けて何もない草原の方へと歩き出した。

 

 

シュレリア「ぁ……まっ、待って下さい!あの、貴方の名前は……?」

 

 

遠ざかっていく大輝の背中を見て思わず呼び止め、口にしたのはずっと彼女が知りたかったこと。その問いを受けた大輝は足を止め、シュレリアの方へと振り返り……

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「―――海道大輝……ただの泥棒さ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

指鉄砲を向けて狙い撃ち、不敵な笑みと共にそう告げたのであった。そしてその直後に一際強い風がその場を過ぎ去り、シュレリアが思わず目を閉じてもう一度目を開くと、目の前には既に彼の姿が何処にもなかった。

 

 

シュレリア「……海道……大輝……それがあの人の……」

 

 

シュレリアは大輝の消えた草原から目を離さず、石を握り締めた両手で胸に触れながら、彼の名を呟いて心に刻むシュレリア。すると其処へ馬に乗ったエルク達が漸くその場へと到着し、馬を降りてシュレリアの下に駆け付けた。

 

 

エルク「姫様!ご無事ですか?!」

 

 

シュレリア「……っ!あ、はい、私は大丈夫ですよ」

 

 

エルク「そ、そうですか……良かったぁ……」

 

 

シュレリアの無事を聞けて安心したのか、肩の力を抜いてホッと一息吐くエルクだが、すぐに何かを思い出して辺りを見渡した。

 

 

エルク「シュ、シュレリア様!アイツは?!あの盗っ人は何処ですか?!今すぐ奴を取っ捕まえないと!」

 

 

シュレリア「あ、そ、その必要はないですよ?あの人は何も盗んでませんから。ほら、秘宝も此処にありますし」

 

 

エルク「え……あれ?……じゃあ……アイツはなにも盗まないで行ったんですか?」

 

 

シュレリア「はい、あの人はただ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……いつか今より腕を上げて、必ずその石と一緒に君を盗みに来る……憶えておきたまえ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「あの人はただ……えっと……その……」

 

 

エルク「?姫様?アイツがどうかしたんですか?」

 

 

何故かしどろもどろになるシュレリアにキョトンとした顔で問いかけるエルク。対してシュレリアは「アイツが」と聞かれて思わず顔を赤くしてしまい、それを見たエルクは険しげに眉を寄せた。

 

 

エルク「姫様?……まさか……」

 

 

シュレリア「……は?い、いえ?!なんでもないですよ?!あ、あはははははははは!!///」

 

 

何でもない何でもない!と、顔を赤くにしながら両手をブンブン!と振るうシュレリア。そんなシュレリアから何かを感じ取ったのか、エルクはピキッ!と額に青筋を浮かべた。

 

 

エルク(あ、あんにゃろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………なんつうモンを盗んでくれとるんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!!!!!)

 

 

心の中で頭を抱えながら叫ぶエルク。同時に彼は此処にはいない盗っ人の顔を別な意味で心に刻み、いつか必ず取っ捕まえてやると心に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

 

その後、シュレリアは無事にレイディアントへと戻り、再び元の生活に戻った。

 

 

レデグレアでは、次期国王が怪物だったという事実が広まって民が次々と去っていってしまい、国そのものが自然解体された。

 

 

レデグレアを去った民達はその後、レイディアントを始めたとした様々な国々の協力によって受け入れられ、突然の生活の変化に戸惑いながらも徐々に慣れていったらしい。

 

 

その後はレデグレアのような侵略国家が現れた時の為に、レイディアントを中心に様々な国が同盟を締結し、世界は再びより良い方向へと向かっていった。

 

 

――因みにその一番の中心には一人の怪盗が関わっていたのだが、それを知る人間はごく僅かしかいない……

 

 

 

 

 

 

 



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番外編/仮面ライダーディエンド~怪盗と王女と幻の秘宝~⑬

 

 

――そして現在……

 

 

 

―とあるライダーの世界・風麺―

 

 

 

大輝「――ズズー……ふむ……まずまずと言ったところかな?」

 

 

とある市街地内の片隅にある屋台。其処には、風麺と呼ばれる屋台の店主である大輝がスープを煮込んだ鍋の前でそう呟いた。

そんな彼の目の前には一人の青年と三人の少女、ラーメンを食べ終えて茶を飲む零と、ラーメンをグイグイと食べるルミナと、膝に乗せた黒猫に麺を食べさせるアズサと、そして黙々とラーメンを食べるベルの姿があった。

 

 

零「それにしても、よくもまあこれだけ飽きもしないラーメンを作れるな、お前?」

 

 

大輝「そりゃそうさ、俺も俺なりに工夫を繰り返してるからね。ちゃんと客の舌の事も考えてるのさ」

 

 

零「……そういう所を他に回せないのかね、お前は」

 

 

大輝「それはこっちの台詞だよ。君こそ悪寒とか嫌な予感とか、そういう余計な鋭さを他に回せないのかい?」

 

 

零「?他って何がだ?別に回す必要なんてないだろう?」

 

 

大輝「……馬鹿だね」

 

 

ベル「馬鹿ね」

 

 

アズサ「おバカ……」

 

 

ルミナ「バーカ」

 

 

零「ばっ……なんだお前等皆して?!というか馬鹿女!お前だけにはそれ言われたくないぞっ!」

 

 

ルミナ「ふっふーんだ。私はアンタみたいにニブチンじゃないもんねー!少なくともアンタよりかはマシな方よ♪」

 

 

零「……ほう……じゃあ、1+1は幾つだ?」

 

 

ルミナ「……へ?えーっと……はい!50!!」

 

 

零「バーカ」

 

 

ルミナ「んな?!なによ!バカって言った方がバカなんだからね?!このバーカバーカっ!!」

 

 

アズサ「……どっちもどっちだと思う……」

 

 

シロ『うにゃー』

 

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる零とルミナを見てポツリと冷静に呟くアズサ。ベルはそんな三人を尻目に溜め息を吐くと、水を飲みながら語り出した。

 

 

ベル「まあでも、確かにアンタはそういう所に関してはしっかりしてるわよね。将来はチェーン店でも出すの?」

 

 

大輝「……さあね……屋台なんて成り行きで構えただけだし、潮時って感じたら止めるかもしれないしね」

 

 

アズサ「?大輝、風麺止めちゃうの?ラーメン美味しいのに……」

 

 

大輝「もしもの話さ。別に今すぐ止めるって話しじゃ…………ん?」

 

 

残念そうな表情を浮かべるアズサに含み笑いを漏らしながら何かを告げようとする大輝だが、そこで屋台に貼られたカレンダーの日付を見て動きが止まった。

 

 

ベル「……?どうしたのよ大輝?」

 

 

大輝「……いいや。ただ、あれからもう一年以上経つんだなって思っただけさ」

 

 

ベル「?」

 

 

質問に対し大輝はそれだけ言ってラーメン作りを再開していき、ベルはその意味が分からず首を傾げていた。そんなベルの反応に笑みを浮かべると、大輝は茹で上がった麺をスープの入った器に移していく。

 

 

大輝(ま、彼女のことなら上手くやってるだろ。今頃結婚して子供でも作って、平凡な生活を「大輝さぁーーん!!」…………ん?)

 

 

……何か今、幻聴が聞こえなかったか?以前何処かで聞いた事がある声に大輝は訝しげな表情で顔を上げるが、見れば零達四人+一匹がある方を見つめていた。それを見た大輝が四人の目を追ってそちらを見つめると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「大輝さぁーーん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………なんだろ、すっっっっごく見覚えのある奴が爽やかに笑ってこっちに向かってくるんだけど?

 

 

白と青のワンピースに白い帽子、白く長い髪を靡かせながら走り寄ってくる少女。

 

 

一瞬幻覚か?と思った大輝だが、彼女は大輝の胸元に思いっきり飛び込んで抱き着いていった。因みに零達は状況が飲み込めておらず、未だ唖然としてる。

 

 

シュレリア「良かったぁー♪元気そうで安心しましたよー♪」

 

 

大輝「…………あのさ…………何で君が此処にいるんだい?」

 

 

シュレリア「へ?……あ、やっぱりビックリしました?えへへ、実は大輝さんの行き先をこちらで調べたんですよ♪そしたら此処にいるって情報を聞いて駆け付けまして♪」

 

 

大輝「……流石はレイディアントだね……情報網がずば抜けてるよ……」

 

 

ニコニコと笑うシュレリアとは対照に呆れた表情を浮かべる大輝。ルミナと組み合っていた零は訝しげな顔で大輝とシュレリアを交互に見ると、大輝に向けて口を開いた。

 

 

零「おい海道……誰だその女?」

 

 

大輝「?……あぁ、彼女は―――」

 

 

シュレリア「あ、お食事中なのに失礼しました。私はシュレリア、シュレリア・リ・レイディアントと申します」

 

 

ベル「っ!シュレリア・リ・レイディアントって……あのレイディアントの王女?」

 

 

ルミナ「え、王女様?!」

 

 

零「何だ、知ってるのか?」

 

 

ベル「ちょっとだけね……それより大輝、アンタこの王女と知り合いだったの?」

 

 

大輝「……まあちょっとね……んで?一体君は何しに来たんだい?」

 

 

シュレリア「あっ、はい。実は今日、大輝さんにお話があって来たんです」

 

 

大輝「話……?」

 

 

訝しげにそう聞き返す大輝。シュレリアはその問いに頷きながら大輝から少し離れ、一度咳ばらいして本題に入った。

 

 

シュレリア「覚えてますよね?以前私は貴方に助けられ、レイディアントの秘宝をも守ってもらいました」

 

 

零「……お前、そんなことしてたのか?」

 

 

大輝「一応ね……で?それがどうかしたのかい?」

 

 

シュレリア「はい。その恩を返すにはどうすればいいのかと、私も必死に考えて考えて、そして漸く分かったんです!貴方への恩返しが!」

 

 

ですから!と、シュレリアは大輝に向けて手を伸ばし……

 

 

 

 

 

 

 

 

シュレリア「海道大輝さん!結婚を前提に、私とお付き合いして頂けないでしょうか?!」

 

 

 

 

 

 

 

大輝「…………」

 

 

零「…………」

 

 

ベル「…………」

 

 

ルミナ「………」

 

 

アズサ「?」

 

 

シロ『うにゃ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ?!!!!』

 

 

 

 

結婚を前提?!お付き合い?!何か色々と爆弾発言をかましたシュレリアに零達は驚愕の絶叫を上げ、当の本人である大輝は何言ってんだ?的な顔でシュレリアを見ていた。

 

 

ルミナ「け、けけけ結婚を前提にお付き合いって?!」

 

 

シュレリア「はい!私自身も、この人を生涯を共に生きる人として心に決めました!今日はそれをお伝えする為に、こうして足を運んだんです!」

 

 

ニパァと明るい笑顔を浮かべながら自分の気持ちを伝えるシュレリア。大輝はそんなシュレリアを見て頭を軽く掻くと……

 

 

大輝「……せっかく来てもらって悪いんだけどさ、俺には一応恋人がいるんだけど」

 

 

シュレリア「……へ?」

 

 

そう言って大輝は人差し指である方を差し、シュレリアは呆然とした表情でその方を見つめると、其処には片手を軽く上げるベルの姿があった。

 

 

大輝「彼女がベール=ゼルファー、今の俺の恋人だ」

 

 

シュレリア「え……えぇっ?!い、いつの間にそんな人が?!」

 

 

大輝「いつ?そうだねぇ……君を助けてからちょっと後ぐらいかな?」

 

 

シュレリア「そ、そんなぁ……やっと居場所を見付けて駆け付けたのにぃ~……」

 

 

既に大輝には恋人がいる。それを知ったシュレリアは負のオーラを漂わせながらガクリと肩を落としてしまい、そんな彼女を見た零達もちょっと同情したい気持ちになり、ベルも同じなのかシュレリアの肩をポンッと叩いた。

 

 

ベル「悪いわねシュレリア姫。そういうことだから、大輝の事は諦め「……いいえ、まだです!」……は?」

 

 

シュレリアに声を掛けて慰めようと思ったベルだが、シュレリアはいきなり顔を上げてベルと向き合った。

 

 

シュレリア「私はまだ諦めません!私はあの人に心を奪われました……ですからベルさん!今度は私が、貴方からあの人の心を盗んでみせます!」

 

 

ベル「……大輝、なんなのこの娘?」

 

 

大輝「取りあえず、ド天然で負けず嫌いな性格だから色々とめんどくさい「海道大輝ィィィィィィィィィィィィッ!!!」……ん?」

 

 

めんどくさそうな顔でシュレリアを指差すベルに何かを言おうとする大輝だが、その時何処からか聞こえてきた怒鳴り声が大輝の声を遮った。するとその方から一人の人物……完全武装のエルクが鬼の形相で走ってきて零とルミナの間に入った。

 

 

エルク「漸く見付けたぞ!海道大輝ィッ!!!」

 

 

零「うお、何か熱苦しそうな奴が来た?!」

 

 

大輝「君は……あぁ、彼女のナイト君か。君まで一体何の用だい?」

 

 

エルク「決まってる!姫様をたぶらかした貴様を成敗しに来ただけだ!覚悟しろよ盗っ人めぇ!!」

 

 

大輝「……まためんどくさいのが来たねぇ……んで?俺にどうしろって言うんだ?」

 

 

エルク「取りあえず表に出ろ!そして俺と一対一で戦え!」

 

 

大輝「……ふむ……別に俺としては構わないけど……その前に――」

 

 

―ポンッ―

 

 

零「……は?」

 

 

大輝を指差しながら高らかに叫ぶエルクに大輝はめんどくさそうにそう言うと、未だ事態に付いていけていない零の肩を叩いた。

 

 

大輝「――俺と戦う前に、この彼と戦って君の実力を見せてくれないかな?」

 

 

零「……はっ?!」

 

 

エルク「ふ、ふざけてるのか貴様っ……!俺はお前との一騎打ちを!」

 

 

大輝「ふざけてなんてないさ。だけど君は以前、俺の戦いを見て戦い方や能力を知ってるだろう?でも俺は君の戦闘力やどんな能力を持っているのかも知らない……それは余りにも不公平じゃないか?」

 

 

エルク「む……言われてみれば確かに……」

 

 

大輝「だろう?それに彼はかなり強い。腕鳴らしにもちょうどいいし、彼に勝てないようじゃ、俺の相手なんて務まりやしない♪」

 

 

エルク「……ほう……其処までの達人なのか……」

 

 

零「おい……おい待てっ、勝手に話を進めるなっ、なんで俺が―ブザンッ!!―ってぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ?!!」

 

 

本人を無視して話を進める大輝とエルクの会話の間に割り込もうとする零だが、その前にエルクが腰の剣を抜き取って零に振りかざし、零はすぐさま回避して剣を避けた。

 

 

エルク「おい逃げるな!!貴様は奴が認める程の達人なんだろう?!」

 

 

零「何が達人だっ?!俺は何も関係ないだろうっ?!おい海道っ!!コイツどうにかしろっ!!お前の撒いた種だろうがっ?!」

 

 

大輝「頑張れよ零ー?彼と戦ってくれれば今回は奢ってやるし、倒してくれれば風麺の食券を贈ってやるからさー」

 

 

ルミナ「頑張れー♪」

 

 

アズサ「?頑張れー……」

まだ状況を理解出来てないが、何かの遊びかと勘違いしてる。

 

 

シロ『にゃー!』

 

 

零「ふざけるなっ?!何でワケも分からないままこんな奴の相手をしなきゃならな―ブザァンッ!!―うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ?!!」

 

 

シュレリア「勝負ですベルさん!私、絶対負けませんから!」

 

 

ベル「……また面倒なのに捕まっちゃったわね……」

 

 

むん!と意気込んでライバル視してくるシュレリアにベルは思わず頭を押さえ、その端では零が剣を振り回してくるエルクの斬撃を避けまくり、大輝達はそんな二人の戦いを観戦していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、どうやって二人がこの世界にやって来たのかと言うと……

 

 

 

ユリカ「…………まだ終わらないのかしら…………暇だわ…………」

 

 

 

………意外な人物に案内人として依頼していたとは、流石の大輝でも知るよしもなかった。

 

 

 

 

 



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第十九章/エクスの世界

 

 

NXカブト、桜ノ神、GEAR電童の世界を後にして漸くなのは達と合流を果たした零。そんな彼等一行が次に訪れたのは異世界の友人の一人である土見稟の世界であり、零達は早速稟を探しに木漏れ日通りを歩いていた。

 

 

零「此処はエクス……稟の世界か……」

 

 

優矢「みたいだけど、どう見てもミッドチルダじゃ無いよな……」

 

 

大輝「ここはあの具現化の少年の故郷だからだよ、ちなみに管理局はまだ知られてないみたいだけど」

 

 

エクスのカードを見つめながら木漏れ日通りを歩く零と優矢の背後でそう言ったのは、何故か稟を探す最中にいつの間にか一緒にいた大輝だった。零はエクスのカードから視線を離すと、溜め息を吐きながら背後の大輝を睨みつけた。

 

 

零「というか、お前も何処まで着いてくる気だ?」

 

 

大輝「別に良いだろう?この世界にはお宝は無いし、だからって大人しくしてるのも暇だし、何か面白そうな事がありそうだから君達に着いていくよ」

 

 

零「……ハァ……もう勝手にしろ……それにしても……」

 

 

大輝の事は諦めて再び溜め息を吐くと、零はふと近くの店の窓に写った自分の姿を見て眉を険しく寄せた。

 

 

零「何で今回の役割がスーツなんだよ……それに……」

 

 

零は窓に写る自分の姿……いつものごとくこの世界に来た時に変わったスーツ姿を見て肩を竦めると、内側のポケットから自分の名刺を取り出してそれを眺めていく。

 

 

零「MMO(Magic Mercenary Office)所属、黒月零……なんだよMMOって」

 

 

優矢「俺が知るかよ、俺もそうなんだし……」

 

 

険しげな顔で呟く零に優矢もそう言って自分の現在の姿……零と同じスーツ姿を見てげんなりとした様子を浮かべた。この世界に着いた時、服装が変わったのは零と優矢とティアナだったので残りのメンバーは写真館で留守番している。因みにティアナの衣装は作業服で『光陽工場所属、ティアナ・ランスター』と名刺にあり、遅刻ギリギリだったので三人とは別行動を取っていた。

 

 

大輝「それを知る為に具現化の少年が居候してる家に向かってるんだろ?二人とも今日は非番なんだし」

 

 

零「お前に言われなくてもわかってる……それより、住所は合ってるんだよな?」

 

 

大輝「当たり前じゃないか。ほら、もう見えてきた……っ?!」

 

 

優矢「?どうしたんだよ?」

 

 

何故か大輝は目の前を指差したまま突然驚愕の表情を浮かべて立ち止まり、二人はそんな大輝を見て疑問符を浮かべながら大輝の視線を追って目の前を見た。すると……

 

 

零「なっ!?」

 

 

優矢「なんだありゃ……」

 

 

零と優矢は大輝が指差す方に目を向けると、大輝と同じように驚愕し思わず唖然となってしまった。大輝が指差しているのは何処にでもあるような一軒家なのだが、三人が驚いているのは其処ではない。では何にかというと……

 

 

『なんだ……あの豪邸はっ?!』

 

 

稟が居候してると言う家の両脇に建つ、洋と和の馬鹿でかい豪邸にである。驚くのも無理もない、それぞれが一般住居の四つ分は優にあるのだから。

 

 

零「おいおい……稟の家がなんか風前の灯火だぞ……災害とか起きたらどっちかの倒壊に巻き込まれて潰されるんじゃないか?」

 

 

優矢「演技でもねえ事言うな馬鹿野郎、まあいつ取り込まれてもおかしくないけどさ……」

 

 

大輝「ま、取りあえずさっさと具現化の少年に会ったらどうだい?」

 

 

零「わかってる。いちいち指図するな」

 

 

大輝に軽く文句を言いつつ、零は『芙蓉』と表札が立てられた家の前に立ちインターホンを押していった。

 

 

―ピンポ~ン!―

 

 

『はい、どなたですか?』

 

 

インターホンを押してすぐ、インターホンから聞こえてきたのは稟と同い年ぐらいと思われる少女の声だった。零はそれを聞いて一度咳払いをすると、

 

 

零「失礼、黒月零というが……稟は今いるか?」

 

 

『稟君ですか?稟君なら今は確か実家に戻ってますね。そのあと神王様のお家に寄るそうです』

 

 

零「神王様の家?そこはどちらに?」

 

 

『隣の和風のお家です』

 

 

少女にそう言われ、零は隣建つ和風の家を見て「ふむ……」と頷きながら……

 

 

零「そうか……わかった、ありがとう」

 

 

『あ、いえ。それじゃ、私はこれで』

 

 

少女がそう言うとインターホンが切れる音が聞こえ、零はそれを確認すると優矢と大輝と共に芙蓉家を後にし隣の神王の家に向かっていく。

 

 

零「まさか、王様なんてな……」

 

 

優矢「稟も凄い人に知られているみたいだな……でも神王って?」

 

 

大輝「この世界は昔にあったある事によりここ『人間界』と『神界』、『魔界』とがそれぞれ繋がっているのさ。因みに神界と魔界は魔法文明があって人間界にも伝わってはいるみたいだね」

 

 

優矢「へ~、良く知ってるな?」

 

 

大輝「この世界にはちょくちょく風麺を出してるからね、色々情報が集まるのさ」

 

 

零「また屋台関連かよ……そういえば、あの馬鹿女は?」

 

 

大輝「ルミナ君かい?彼女は今回屋台で待機だ」

 

 

優矢「?なんでさ?」

 

 

この世界の敵がどんな物かは知らないが、ルミナが居てくれればそれなりの戦力として使える筈だ。なのに何故待機させておくのかと疑問を持つ二人だが、大輝は軽い口調でその理由を語り出した。

 

 

大輝「この世界はナンパ率が限り無く多いんだよ。だから間違いなくルミナ君は百%ナンパされるが……ルミナ君が対処できるわけ無いだろう?」

 

 

零「あぁ……確かに、アレなら食べ物とかに釣られてホイホイ着いていきそうだしな」

 

 

大輝「それにこっちでもルミナ君を手伝わせようとしてるのに、こちらで大ポカやらかしたら評判に関わるだろ?」

 

 

優矢「なんか本当に屋台の親父だな……っとここか」

 

 

そんな雑談をしている間に、三人は和風の家に到着し家を眺めた。遠くから見てもでかく見えたが、近くで見るとこれまたでかかった。

 

 

優矢「うおぉ……近くで見るとこれまた迫力あるなぁυυ」

 

 

零「だな。ま、取りあえずここで待たせて貰おう」

 

 

余りのでかさと迫力に後ずさる優矢に同意しながら、零はインターホンに手を伸ばし人差し指で押していくが……

 

 

―ガランゴロ~ン!―

 

 

―ズテッ!―

 

 

零がインターホンを押した瞬間、インターホンから普通のインターホンとは思えぬ音が響き渡り、三人はそれを聞き思わずずっこけてしまった。

 

 

零「なんだよ今のインターホンの音……」

 

 

優矢「ず、ずいぶん個性的だなぁ……」

 

 

『は~い、どちら様ですか?』

 

 

未だ零達がずっこける中、インターホンから少女の声が応答してきた。それを聞いた大輝は一足先に復活し、インターホンの前に立ち用件を話し出した。

 

 

大輝「海道大輝といって、具現化の少年……土見稟君の友人なんだが……稟君がこちらに来ると聞いてね、待たせて貰いたいんだけど?」

 

 

『稟くんのお知り合いですか?じゃあどうぞ!』

 

 

大輝「お邪魔するよ」

 

 

零「……警戒されてるよな……」

 

 

優矢「多分な……」

 

 

いきなり現れた稟の知り合いというスーツの男達……やはり何処から見ても怪しまれるだろう。そう考えた零と優矢は互いに緊張の面持ちで顔を見合わせて頷き合い、大輝の後に続くように和風の家へと入っていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

同じ頃、写真館で待機する事になったメンバーはそれぞれ食料の調達やこの世界を見て回ったりなどをして時間を潰し、現在写真館に残っているのはなのはたち幼なじみ組とアズサ、そして栄次郎とキバーラだけであった。

 

 

すずか「――ふぅ……なんか、一気に写真館が静かになっちゃったね」

 

 

フェイト「だね。スバルや姫達はシグナムとヴィータと一緒に出掛けちゃったし……」

 

 

はやて「カリムやシャマル達は食料調達で近くの商店街に行っておらんし、何や暇やなぁ」

 

 

今回も待機という事になって他にやる事もなく、はやてはそう言って退屈そうに背を伸ばし、フェイトやすずかはそんなはやてを見て若干苦笑いを浮かべていた。しかし……

 

 

なのは「…………」

 

 

そんな中、なのはだけは顔を俯かせながら両手で包み込んだ珈琲をジッと眺めていた。その表情には何処か破棄がなく、そんななのはの様子に気付いたフェイトは怪訝な表情を浮かべた。

 

 

フェイト「なのは?どうかした?」

 

 

なのは「……ん?あ、ううん、別になんでもないよ?」

 

 

にゃははと、いつもの調子で笑いながら珈琲を口へと運んでいくなのは。そんななのはの様子に疑問を持った三人は互いに顔を見合わせると、すずかがなのはに向けて口を開いた。

 

 

すずか「もしかして…心配?零君のこと」

 

 

なのは「…………」

 

 

すずかがそう問い掛けた途端、なのははピタッと珈琲を飲む手を止め、ゆっくりと珈琲をテーブルの上へと置いてポツリと呟き出した。

 

 

なのは「此処で気にしてても仕方ないっていうのは分かってるんだけどね……それでも、やっぱりちょっと気になるっていうか……」

 

 

フェイト「……それって、この前の怪我の事があったから?」

 

 

フェイトが言う怪我と言うのは、写真館に帰ってきた時の零の怪我の事だ。あれだけの怪我を負ったという事は、恐らくまた何かしらの無茶をしてきたということ。フェイトがそのことを問い掛ければ、なのはは小さく頷きながら話を続けた。

 

 

なのは「この間はあれ以外の無茶はしてないって言ってたけど、絶対嘘だよね。多分アズサちゃんや姫さんの時とかにも、あんな無茶してたと思うし……」

 

 

はやて「……せやな。零君、変なとこで強情やから、ああいう無茶した時はホントのこと言ってくれた覚えないし……」

 

 

すずか「?やっぱり、管理局の仕事をしてる時もそうなの?」

 

 

フェイト「うん……六課が設立される前とか、ちょっと見ない間に包帯だらけになってたりとか……でも、何があったのかって聞いても『階段で転んだ』とか、『別に……』とか、いつもはぐらかされちゃって……」

 

 

その時の事を思い出してるのか、フェイトは何処か寂しげな表情で苦笑いを浮かべていき、なのはとはやても心当たりがあるらしく同じ表情をしていたが、すぐに顔を俯かせて暗くなってしまう。

 

 

はやて「……もしかして、私等全然頼りにされてへんのかな?だからちゃんと話をしてくれないとか……」

 

 

すずか「そ、そんな事……!(焦)」

 

 

フェイト「でも、そうじゃないって強くは言えない気がする……」

 

 

なのは「…………」

 

 

もしかして自分達は、彼に頼りにされていないのか?共にジュエルシード事件や闇の書事件、JS事件を解決し、今もライダーとして一緒に戦いながら旅してるにも関わらず、彼の中で自分達はまだ『護るべき対象』としてしか見られていないのか?そう考えると次第に三人の雰囲気が暗くなり始め、すずかもそんな三人を宥める言葉が浮かばずオロオロしていた。そんな時……

 

 

―ガチャッ―

 

 

「―――失礼、光写真館は此処で合ってますか?」

 

 

『……え?』

 

 

不意にリビングの扉が開き、其処から一人の男性が姿を現したのだ。銀色の髪に黒衣の法衣を纏った神父のような格好。突然の来客になのは達は思わず呆然としてしまうが、すずかがすぐに正気に戻り男性に対応した。

 

 

すずか「あ、あの、もしかして撮影ですか?それなら今店主さんをお呼びしますけど……」

 

 

「ああいえ、撮影ではありません。此処へ来たのは、アズサちゃんの様子が気になって寄っただけなので」

 

 

すずか「えっ?……あの、失礼ですが、アズサちゃんのお知り合いか何かですか……?」

 

 

アズサの様子を見に写真館に寄った。そう告げた男性にすずかが恐る恐る質問すると、男性は柔らかい笑みを浮かべながら……

 

 

「えぇ、私の名はアレン。以前アズサちゃんとお会した神父です」

 

 

銀髪の男性……それは以前NXカブトの世界でアズサを支え、クラウンとなって鳴滝達と戦ったアレン・テスタロッサその人であった―――

 

 

 



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第十九章/エクスの世界①

 

 

それから数十分後、なのは達はアズサの知り合いだと名乗るアレンを写真館の中に招き入れ、お茶をしながらアレンから様々な話を聞かせてもらっていた。

 

 

フェイト「じゃあ、アレンさんも様々な世界を渡り歩いてるんですか?」

 

 

アレン「ええ、世界を歩く巡回牧師をしています」

 

 

時間が経つのも忘れ、一同はアレンが話してくれる話を興味深そうに聞いていた。アレンが様々な異世界を渡り歩きながら大勢な人々を救ってきた事、そんな中で落ち込んでいたアズサと出会い知り合った事など。暫くそんな取り留めのない話をしていたが、アレンはなのはが少し、顔を俯かせていたのに気付いた。

 

 

アレン「どうしました?」

 

 

なのは「あ……いえ、零君が今、この世界を調べに出掛けているんですけど……心配で……」

 

 

アレンからの問いに対し、なのはは暗い雰囲気を漂わせながらそう答え再び顔を俯かせてしまい、フェイト達も同じように俯いてしまう。

 

 

なのは「いっつも気付けば傷だらけになって帰ってきたり、悩んでいても自分で解決しちゃったり……」

 

 

フェイト「そんな状態になっても中々、自分の事を話してくれないんです……」

 

 

はやて「それでトラブルに巻き込まれて行って……」

 

 

すずか「最終的には傷だらけになって……」

 

 

いつの間にか、先程話していたことをアレンに向けて愚痴るなのは達。アレンはそんな四人の話しを黙って聞いていき、なのはは落ち着きなく両手を組みながら言葉を続けた。

 

 

なのは「零君とは、家族として一緒に育ったけど……本当の家族ならキチンと話してくれたのかなぁ……」

 

 

アレン「――相談しなかったんじゃなくて、相談する必要が無いと思ったんでしょうね」

 

 

『……え?』

 

 

なのはが漏らした言葉にアレンがそう答え、四人は顔を上げてアレンの顔を見つめた。

 

 

アレン「君達なら言わなくても、わかってくれるって思っているんですよ。彼は」

 

 

フェイト「……言葉で示してくれなきゃわからない事もあります……」

 

 

実際、写真館に帰ってきた時も怪我の事を詳しく聞かせてくれなかった。その事を思い出しフェイトがポツリと呟くと、アレンは眼鏡を外して微笑んだ。

 

 

アレン「仕方有りませんよ。男は言葉よりも行動で示してしまうものですから」

 

 

優しげな口調でそう言うと、アレンは目を伏せながら言葉を続ける。

 

 

アレン「苦しい事ならなるべく、自分以外の人に背負わせたくない……心配をかけたくない……だから言わない……」

 

 

ポツポツと、静かに言葉を紡ぐアレンの言葉に四人は食い入るように耳を傾けていた。

 

 

アレン「それでも、彼が弱音を吐いたら―――その時は受け止めてあげる―――それで、いいんじゃないですか?」

 

 

なのは「……弱音を吐いたら……受け止める……」

 

 

伏せていた目を開いてそう告げたアレンの言葉を聞き、なのははその言葉を心に染み渡らせるようにポツリと呟いた。アレンはそんななのはを見て静かに微笑みながら、眼鏡を掛け直して椅子から立ち上がっていく。

 

 

アレン「では、私はこれで失礼します。ゆっくりしてしまいましたが私はアズサちゃんの様子を見に来たので」

 

 

すずか「アズサちゃんなら今、庭にいる筈ですよ」

 

 

アレン「そうですか、ありがとうございます」

 

 

アズサの居場所を教えてくれたすずかに柔らかな笑みを向けると、アレンはそのまま踵を返し写真館の外へ出ようとするが……

 

 

フェイト「あ、あの!!」

 

 

突然フェイトが大声を上げながら席から立ち上がり、アレンを呼び止めたのだ。背後から呼び止められたアレンはフェイトに振り向きながら微笑み……

 

 

アレン「どうかされましたか?」

 

 

フェイト「あっ、いえその……なんでもないです……スイマセン」

 

 

優しげに微笑みながら問い掛けるアレンだが、フェイトはアレンの顔を見た途端言葉に詰まってしまい、口を閉ざして静かに席へと腰を下ろしていった。なのは達はそんなフェイトを見て疑問符を浮かべ、アレンは何かを理解しているかの様に苦笑しながらなのは達を見た。

 

 

アレン「では、私はこれで失礼します。いずれまた」

 

 

すずか「あ、はい。今日は色々と、ありがとうございました」

 

 

すずかやなのは達はアレンに向けて頭を下げていき、アレンも礼儀正しく頭を下げて写真館の外へと出ていったのだった。

 

 

はやて「……なんか、感じのエエ人やったな」

 

 

なのは「うん、本当に神父さんって感じだったね……ところでフェイトちゃん、さっきはどうかしたの?」

 

 

はやて「あ、そういえば……なんや、エラい慌ててたなぁ?」

 

 

先程のフェイトの様子からただ事ではないと感じたなのはとはやてがフェイトに問い掛けると、フェイトは胸に手を当てながらアレンが出ていった扉に目を向けた。

 

 

フェイト「その、なんだかアレンさんに……ううん……やっぱりなんでもない」

 

 

『……?』

 

 

フェイトは何かを言い掛けるもすぐになんでもないと首を振ってしまい、三人はそんなフェイトを見て顔を見合わせながら小首を傾げていた。そしてフェイトは……

 

 

フェイト(……なんだろうコレ……悲しいっていうか……寂しいような……なんだか、胸がザワザワする……)

 

 

先程見せたアレンの微笑みを脳裏に思い出し、何処か切なげな顔でアレンが出ていった扉をジッと見つめ続けていたのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―写真館・庭―

 

 

写真館を出た後、アレンはアズサを探して写真館の庭を歩き回っていた。顔を動かして庭中を見渡しながら歩き回る中、アレンの脳裏にふと先程のフェイトの顔が過ぎった。

 

 

アレン(ふむ……やはり他世界とはいえ、フェイトは私の存在に何かを感じ取るようですね……)

 

 

先程自分を呼び止めたフェイトの事を考えながら暫く庭の奥へと進んでいくと、不意にアレンの視界に一人の少女……なにやら花壇の前にしゃがみ込んで何かをしてるアズサの背中が映った。

 

 

アレン「っと、いたいた……アズサちゃん?」

 

 

アズサ「?……アレン?」

 

 

アレンが優しげな口調で声を掛けるとアズサは顔を上げて辺りを見渡し、アレンに気付いて驚いた表情を見せた。アレンはそんなアズサにゆっくりと歩み寄り、アズサの隣に立っていく。

 

 

アレン「近くまで来たので、アズサちゃんの顔を見に来たんですよ。何をしていたんですか?」

 

 

そう問い掛けながらアズサの手に目を向ければ、なにやらスコップと植物の種が入っていると思われる袋を持っている。もしかして花でも植えていたのだろうか?とアレンは微笑ましく思い笑みを零すが、アズサはゆっくり立ち上がって袋をアレンに見せながら……

 

 

アズサ「ヒメから貰った……此処の土なら元気なサイバイメンが育つって言ってた。ヤムーチャさんもイチコロだって」

 

 

アレン「今すぐその種を返してきなさい」

 

 

何処か意気揚々と袋を見せるアズサにアレンは即座にツッコミを入れた。対してアズサは頭上に疑問符を浮かべながら、袋を見て不思議そうに小首を傾げた。

 

 

アズサ「もしかして、此処の土はダメ?クリリーンさんにも勝てない……?」

 

 

アレン「そういう事を言ってるのではないのですが……まあ、元気そうで何よりです」

 

 

相変わらず的外れな発言をするアズサに若干苦笑いを浮かべるが、取りあえずアズサが元気そうで安心するアレンだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その後、アズサはアレンに今まで零達と回った世界の話しをしていた。

 

 

桜ノ神の世界で姫と出会い一緒に買い物した事、GEAR電童の世界でルルイエ遺跡を探検した事など。

 

 

アレンは実際に幻魔と戦ったり見玉でその様子を見ていたので話は大体分かっていたが、何も知らない事を装って話を聞いていた。

 

 

そして暫くした後、アレンはゆっくりと立ち上がり空を見上げた。

 

 

アレン「さて、アズサちゃんが元気なのも確認出来ましたし、私はそろそろ行きますね―――っと?」

 

 

そろそろfirstの世界に戻らねばと別れを告げて立ち去ろうとしたアレンだが、不意に誰かに引き止められるように服を引っ張られた。気になって振り返れば、其処にはアズサがアレンの服の裾を掴んで寂しげな顔を浮かべていた。

 

 

アズサ「行かない、で……お…………お父さ…………」

 

 

シュンッと、アズサは服の裾を掴みながら寂しそうに顔を俯かせてしまった。そしてアレンはそんなアズサを見て少し呆気に取られるが、すぐに優しく微笑んでアズサの髪を優しく撫でた。

 

 

アレン「大丈夫です。また……来ますからね」

 

 

アズサ「…………」

 

 

まるで小さな子供に言い聞かせるようにそう言うと、アズサは顔を俯かせたまま名残惜しそうにソッと服を掴んでいた手を離していった。そして、そのすぐ後に……

 

 

アズサ「…………約束」

 

 

アズサは顔を上げ、スッと右手の小指をアレンの前に出した。それを見たアレンは一瞬キョトンとなるも、すぐにクスッと笑いながら小指を出した。

 

 

アレン「はい、約束です」

 

 

そう言ってアレンはアズサの小指と自分の小指を絡ませてまた来ると約束をし、アズサに見送られ写真館を後にしたのだった。そしてアズサは指切りを交わした手を大事そうに握り締め、暫くその場で佇んでいると……

 

 

アスハ『……今のが、アンタの言ってたアレン?』

 

 

アズサ「…?アスハ…?」

 

 

不意にアズサの頭に一つの声……アスハの声が響き、アスハはそれを聞いて顔を少し上げた。

 

 

アスハ『確か、前に零のことで落ち込んでたアンタを救ってくれたんだっけ?』

 

 

アズサ「……うん……あの時、アレンが傍に居てくれたおかげで私は立ち直れた……だから、アレンは私の恩人……」

 

 

アスハ『ふーん……』

 

 

瞳を伏せてアレンのことを話すアズサの言葉を聞き、アスハはアズサの中で目を細めながらアレンが去っていった方を見つめていく。そんなアスハの様子に疑問を持ったアズサは小首を傾げながら……

 

 

アズサ「……もしかして、アスハもアレンのこと……お父さんって呼びたかった……?」

 

 

アスハ『ッ?!なっ、ば、馬鹿っ!違うわよそんなんじゃっ!』

 

 

アズサ「……そう……じゃあ、アレンがまた来るまでお父さんって呼べるように練習する……?」

 

 

アスハ『だから違うって言ってんでしょうっ?!人の心を勝手に想像―ボゴボゴボゴッ……―……え?』

 

 

アズサの言葉を否定しようと必死になるアスハだが、その時背後から奇妙な音が響いた。アズサがそちらの方に目を向けると……其処には、何か不気味な生物達が奇声を上げながら花壇の土からワラワラと――――

 

 

アスハ『―――って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!!』

 

 

アズサ「あ、サイバイメンが育った……」

 

 

アスハ『ホントにサイバイメンの種だったの?!ちょ、アンタ馬鹿じゃない?!なんでそんなの馬鹿正直に埋めて―――ってアイツ等庭の外に逃げ出してるしっ?!!』

 

 

アズサ「バイバーイ……ゴクーさんより強く育ってねー……」

 

 

アスハ『そして何故アンタは清々しく見送ろうとしてるわけ?!ちょ、馬鹿!!早く追え!!追いなさいってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ?!!』

 

 

アスハは悲痛な絶叫を木霊させたが、それも虚しく、アズサは次々外へと逃げていくサイバイメン達をただ手を振って見送ろうとしていたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐアスハが無理矢理身体の主導権を奪ってシュロウガへと変身し、人知れずサイバイメン討伐に全力を尽くしたのは全く別の話であった……

 

 

 



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第十九章/エクスの世界②

 

 

 

シュロウガ(アスハ)がサイバイメン討伐に死力を尽くしてる頃、稟を待つために神王の家に向かった零達はと言うと……

 

 

シア「――へぇ~、稟くんそんな事もしたんだ~」

 

 

大輝「あの具現化の青年の事はアテナさんに聞いたら良くわかるよ」

 

 

ネリネ「さすが稟さまですね♪」

 

 

零「……馴染んでるな……」

 

 

優也「馴染んでるな……」

 

 

……何故か、大輝が神王の娘であるリシアンサス(通称シア)と偶然遊びに来ていた魔王の娘であるネリネと稟の話しで盛り上がっていた。先程までの緊張感は何だったんだ?と零と優矢が脱力し切って呆然となる中、シアがそんな零に向けて質問を投げ掛けた。

 

 

シア「ねぇ、零くんは稟くんの事どう思う?」

 

 

零「ん?稟か?稟は……俺と同じだな……」

 

 

シア「?」

 

 

不意に投げ掛けられたシアからの問いに零は稟と滝とでたまにいく『苦労人同盟、なぜ皆に攻撃されるのか話し合おう』という飲み会を思い出しながら遠い目をしてそう答えるが、シアにはその意味が伝わってないらしく怪訝そうに小首を傾げていた。その時……

 

 

優矢「でもまあ、稟は強いよな、魔導師としてもライダーとしても」

 

 

零「ッ?!おい馬鹿っ!」

 

 

優矢「――あっ……」

 

 

ついうっかり口を滑らせた優矢に零は慌てて叱責し、優矢も自分の失言に気付き思わず口を手で塞いだ。

 

 

シア「えっ?」

 

 

ネリネ「魔導師……ライダー?」

 

 

だが気付いた時には遅く、シアとネリネは優矢が口にした魔導師とライダーというワードを口ずさみながら怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

優矢「あ、い、いや、それは……」

 

 

零(マズイっ……!このままだとこの二人に稟の秘密がっ……!)

 

 

慌てて言い訳を考える優矢の隣で零は内心舌打ちし、どうにかして別の話にすり替えねばと必死に思考を巡らませていると……

 

 

大輝「――そういえば……確かこの前具現化の少年に告白した女性がいたっけな……」

 

 

シア「え?そ、それ誰ですか?!」

 

 

ネリネ「稟さまに告白なんて……稟さまはそれにお答えしたのですか?」

 

 

大輝がふと口にした一言にシアとネリネは瞬間的に顔を向け、なんとか話を反らせる事に成功したのであった。それを見た零は安堵の溜め息を吐き、優矢の首根っこを掴んで小声で怒鳴り始めた。

 

 

零(このバカが!稟はその事をまだ秘密にしているんだろう?!)

 

 

優矢(わ、悪い!つい口が滑っちまってっ!)

 

 

大輝がシアとネリネの興味を引いてる間に優矢は零に向けて両手を合わせて謝罪し、ゆっくりと大輝の方へと振り返った。すると大輝は一瞬こちらにアイコンタクトで『貸し一つ』と目を向けて告げ、優矢はそれに小刻みに頷き返した。それを見た零は……

 

 

零(優矢は一体何をやらされるか……ボ○太君の中か屋台引きか……あの女のお守りか……いずれにせよ、大変な目に合うのは変わらんか……)

 

 

大輝が言う貸しの意味も分からず頷いた優矢に対し、零は心の中で十字を切って同情の溜め息を吐いていたのだった。そんな時……

 

 

 

 

『シア!今帰ったぞ!』

 

 

『ん?ネリネちゃんもこっちに来てたんだね」

 

 

『シア、お邪魔するよ』

 

 

 

 

零「?今の声は……」

 

 

シア「あ、稟くん達だ!」

 

 

五人が話をしているうちに零達が待っていた稟の声が玄関から響き渡り、それを聞いたシアが稟達を迎えに玄関へと走っていった。そして和室に残された零は、優矢の首根っこを掴んだままネリネに口を開いた。

 

 

零「なぁ?今稟とは別の声が聞こえた気がするんだが……もしかして例の神王と魔王って人か?」

 

 

ネリネ「あっ、はい。今稟くんと一緒に帰ってきたのが、シアちゃんのお父様であるユーストマ様と、私のお父様であるフォーベシイ様ですよ」

 

 

零「……成る程な……いきなり神界と魔界の二大トップとご対面とは、ちょいと急過ぎる気もするが……」

 

 

優矢「お、おいっ、取りあえずもう離せって!痛い痛い痛いっ!」

 

 

ネリネから神王と魔王……ユーストマとフォーベシイの名を聞いた零が軽く息を吐くが、優矢がいつまでも首根っこを捕まれているのに痺れを切らして零の腕をタップし、零はそんな優矢をジト目で睨みながら優矢から手を離すと、それと同時に和室の扉が開き稟とシアが入ってきた。

 

 

零「よう、稟」

 

 

稟「零さん、どうしてこっちに?」

 

 

優矢「あぁ、これだよこれ」

 

 

何故零達がこっちに来てるのか疑問げに問い掛ける稟に対し、優矢は懐から自分の名刺を出し稟に見せた。

 

 

稟「MMO(Magic Mercenary Office)所属……って事は……そういう事ですね」

 

 

零「あぁ、次に訪れた世界が此処、エクスの世界……お前達の世界だったんだ」

 

 

付け加えるように零がそう言ってエクスのカードを見せると稟も事情を察知して納得するが、その時零の隣で呑気に茶を啜る大輝を見て訝しげに眉を寄せた。

 

 

稟「ところで、大輝は何でここに?」

 

 

大輝「この世界には良いお宝が無いからね、今回は零の手伝いでも、とね」

 

 

零「ハッ、何が手伝いだ。単に暇つぶしで俺達にくっついて来てるだけだろう」

 

 

大輝「おや?だって実際そうだろう?主に君のなのはさん達からのOHANASHIとかGYAKUSATSUとか、何回見ても飽きないしねぇ?」

 

 

零「……本当にお前は一々喧嘩を売るのが上手だな」

 

 

稟「ハハッ……二人とも相変わらずだなぁ……」

 

 

ネリネ「稟さま、稟さまは……」

 

 

いがみ合う(といっても零が一方的)を二人を見て稟が苦笑いする中、ネリネが続きを言おうと口を開こうとしたとき……

 

 

 

 

 

『カンパ~イ!!!!!!』

 

 

 

 

 

優矢「うおぉっ?!なんだ今のっ?!」

 

 

シア「あっ!またお父さんお昼からお酒?!リンちゃん、止めるの手伝って?」

 

 

ネリネ「えっえぇ?!」

 

 

何処からか響いてきた大音量の叫び声に優矢が思わず身を引いてビビると、シアはその声に聞き覚えがあるらしくネリネの腕を取って和室から飛び出していってしまった。

 

 

稟「はぁ……またか……」

 

 

零「……なあ稟、なんだ今の?」

 

 

稟「あ、いえ、気にしないで下さい……いつものことですから……」

 

 

零「?」

 

 

何故か呆れるように溜め息を吐く稟に零は思わず首を傾げてしまうが、稟は気を取り直し話の路線を戻そうと話し出した。

 

 

稟「とりあえず、俺の世界に写真館が来ちゃったわけですね?」

 

 

零「あぁ……あと稟、一つ不味いことが」

 

 

稟「えっ?」

 

 

大輝「そこのパシリがうっかり口を滑らせてあの二人に魔導師とライダーという単語を言ってしまったのさ」

 

 

そう言って大輝は優矢を指差していくが、優矢は大輝の今の発言に引っ掛かり慌てて身を乗り出した。

 

 

優矢「ちょ、ちょっと待て!パシリってなんだパシリって?!」

 

 

大輝「貸しひとつで1日パシリ。悪い条件じゃあ無いだろう?なんならパンデモニウムに単体で転移でも有りだけど?あっちで瀕死だけど死ねない状態になるけど」

 

 

稟「何のために?!」

 

 

大輝「俺の楽しみの為に」

 

 

零「即答かよ?!」

 

 

大輝が出した理不尽な条件に三人のツッコミが和室内で飛び交う中、突然和室の扉がバンッ!!と勢いよく開かれ、二人組の男性……ユーストマとフォーベシイがいきなり乱入してきた。

 

 

ユーストマ「稟殿!!今晩は宴をするぞ!!」

 

 

フォーベシイ「稟ちゃん、今晩は宴さ!!」

 

 

稟「はぁ?!」

 

 

ユーストマ「シアがなぁ、『お酒は夜に!』と言ったから今晩は宴だ!!」

 

 

稟「いや、そんないきなり?!」

 

 

突然宴を始めると言ってきた二人に稟も困却の表情を浮かべてしまい、その様子を見た零は「ふむ……」と顎に手を添えながら何かを考えると……

 

 

零「―――なら、俺の知り合いがいるところで良いですか?」

 

 

ユーストマ「おっ?おめぇさんは確か稟殿の友人の……」

 

 

零「黒月零、よろしくお願いします」

 

 

ユーストマ「よし、じゃあもう行くぞマー坊!!」

 

 

フォーベシイ「そうだね神ちゃん!!」

 

 

稟「なんでさ……」

 

 

零「む?別に構わないだろ?酒を飲むだけだし」

 

 

稟「……零さんは何もわかっていない……」

 

 

零「うん?」

 

 

稟が困っていたようだから助け舟を出したつもりなのだが、何故か深海より深い溜め息を吐かれて零は困惑の表情を浮かべた。そしてその間にも神王魔王の二人が必要最低限の準備を速攻で済ませて零の肩を豪快に叩いた。

 

 

ユーストマ「よし!零殿、案内してくれ!」

 

 

零「ん?あぁ、承った……」

 

 

稟の溜め息の意味が気になりつつも、取りあえず二人を写真館に案内しようと零は頷き返していった。そうして一向は稟が連絡を入れて先程零達が寄った芙蓉家でインターホンで応対してくれた少女……芙蓉 楓を誘って合流し、写真館へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

―――んで……

 

 

ユーストマ「ほらほら!嬢ちゃんも飲め飲め!」

 

 

はやて「ありがとうございます♪」

 

 

フォーベシイ「おっと、君もコップが空じゃないか」

 

 

フェイト「あ、ありがとうございます」

 

 

稟「……やっぱりこうなった……」

 

 

写真館に着いた時にはもう既に、二人は宴の用意をこなして飲んだくれていた。更にははやてもノリノリで部隊長権限により、写真館メンバー全員が強制参加させていたのだった(因みにティアナは帰った瞬間に飲まされてダウン)

 

 

稟「零さん……」

 

 

目の前でユーストマとフォーベシイが豪快に酒を飲み食らう中、稟がちらりと横を見ると……

 

 

 

 

 

零「おいコラッ?!離れろなのは!!酔いすぎだ馬鹿!!」

 

 

なのは「零りゅ~ん~うにゃぁ~♪」

 

 

零「引っ付くな寄るなって?!というか酒クサッ?!どんだけ呑んだんだお前っ?!」

 

 

……酔ったなのはが呂律も上手く回らない状態で零の腕に絡んでいた。いいや、寧ろ猫化していると言った方が正しいか……

 

 

はやて「にゃのはりゃん~!!零りゅんをわらせ~!!(訳・零くんを渡せ~!!)」

 

 

フェイト「にゃのははるるいの~!!(訳・なのははズルいの~!!)」

 

 

なのは「りゃ~りゃ~!!(訳・や~だ~!!)」

 

 

零「イダダダダダダダ?!待て?!待てって?!俺の関節はそんな所には曲がらんってぇえええええええええええええええええええええええっ?!!」

 

 

更に其処へ完璧に酔っぱらったフェイトとはやてまでもが乱入し、なのは、フェイト、はやてはそれぞれ零の左腕、右腕、首を容赦無く引っ張った……いや……というよりも……

 

 

なのは「おれれもうらえ~あろ!!れんりょくれんらい~!!(訳・これでもくらえ~なの!!全力全開~!!)」

 

 

フェイト「いっうういんらい~!!(疾風迅雷~!!)」

 

 

二人は思いっきり腕ひしぎ十字固めを絞めていた。因みにはやては零の首を本気で掴み、全力で後ろへと引っ張っていた。

 

 

零「ぢょっ……まっ……ぐっ……ぐぐぐっ……!!」

 

 

はやて「零りゅん!!りんりょうやにおならにりゅれ!!(訳・神妙にお縄につけ!!)」

 

 

はやてがだんだんと引っ張っていくので頸動脈が見事にしまっていき零は呼吸も叫び声もあげられず、できる事といえばせめて折られないように力を入れるだけだった。

 

 

稟「すいません零さん……助けにいけません……だって……」

 

 

楓「稟りゅ~ん……」

 

 

菫「お父さん……」

 

 

稟「こんな状況ですから……」

 

 

零を助けに行きたいのは山々なのだが、稟の後ろから酔った楓がしがみつき、菫は稟の足を枕にして寝ているため動ける状態ではなかった。更にシアとネリネは両王の制裁と先にダウンした栄次郎の世話をし、他の写真館メンバーも手が出せずにいた。何故なら……

 

 

 

 

 

優矢「………………」

 

 

 

 

 

……一回零を助けようと近づいた優矢に三人のトリプルブレイカーが直撃した姿を見ていたからだ。そんな焼きトカゲ張りにこんがり焼き上がった優矢を見て稟が顔を引き攣る中、姫が酒が入ったグラスを持って稟の隣にしゃがみ込んだ。

 

 

姫「いやはや、何だかとんでもない事になってしまったなぁ……」

 

 

稟「ちょ、姫さん!呑気なこと言ってないで零さんを助けて下さいよ?!此処は一つ神の力でドドンッて!」

 

 

姫「いやいや、あんなにも盛り上がっているのに邪魔する訳にはいかないだろう?せっかく夜の宴から乱交パー――♪」

 

 

稟「それ以上はアウトォォォォオオオオオ!!?」

 

 

キュピーンと瞳を輝かせる姫の下ネタ発言を稟が慌てて横から叫んで遮った。その時……

 

 

 

 

 

『りゃあ!!!!!(訳・やぁ!!!!!)』

 

 

―ゴキィィッ!!!!!―

 

 

 

 

 

稟「―――あ……」

 

 

…………普通なら絶対鳴らないような音が、零の体中から響き渡ったのである。そしてそれに気付いた稟が唖然となる中、その様子を見ていた大輝が酒を一口飲みながら一言……

 

 

大輝「あれはー……うん、見事に逝ったね?」

 

 

稟「零さあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

 

稟の悲痛な絶叫が写真館に響き渡るも、零は三人娘に引っ張られたままグッタリとして何も答えることはなかった。チーン……という効果音が何処からか響いた気がするが、多分気のせいであろう。

 

 

 

 

 

 

その後、なんとか零を救出したシャマル達により(救出時のトリプルブレイカーの犠牲はスバル)零はなんとか一命を取り留め、騒がしい宴はこうして幕を引いたのであった。

 

 

 

 



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第十九章/エクスの世界③

 

 

―光写真館―

 

 

翌日の昼間、あの騒動からずっと気を失っていた零もユーストマの治療のおかげで何とか一命を取り留めて先程漸く目を覚まし、今はテーブルに座ってグッタリと俯伏せになっていた。

 

 

零「あー……クソッ、夢の中にまで昨日のアレが出て来て目覚めが悪かった……というか、治療された筈なのに何故か体が疼くっ……」

 

 

チンク「恐らく身体がまだあの衝撃を忘れていないんだろう。まぁ、あんな目に遭って早々忘れろだなんて出来る筈ないだろうしな」

 

 

そう言ったのは、零の向かいに座って涼しげに珈琲を飲むチンクだった。因みに、なのは達は昨日宴の後片付けを手伝いに来てくれた祐輔から有り難いお説教を受け、現在はその罰として家事や掃除をさせられてる。そして零が疲れたように深い溜め息を吐いてると、キッチンから優矢(ユーストマの治療済み)が珈琲を持って出てきた。

 

 

優矢「んで零、これから一体どうする気なんだよ?」

 

 

零「……取りあえず、暫く様子見といったところだな……倒すべき敵が分からない以上、異変が起きるまで様子を見るしかないだろう」

 

 

チンク「つまり今回も何時も通り、という事だな?」

 

 

零「そういう事だ……ま、正直何も起きなければそれでいいんだが……」

 

 

大輝「まぁ、流石にそれは叶わないだろうねぇ」

 

 

『………………』

 

 

溜め息混じりにそう呟く零の隣で、いつの間にか珈琲を片手にして席に座る大輝がそう言った。完全に不意を突かれた優矢とチンクは唖然となり、零は目付きを鋭くさせながらゆっくりと顔を上げ大輝の方へと振り向いた。

 

 

零「……何処から湧いて出た?」

 

 

大輝「失礼だね君は。せめて何処から現れたと言ってくれないかい?」

 

 

零「お前には湧いて出たで十分だろう……で、今回は一体何の用だ?」

 

 

大輝「なに、君に届け物を頼まれてそれを届けに来ただけさ」

 

 

自分のコーヒーカップに口を付けながら訝しげに問い掛ける零にそう答えると、大輝は椅子に背中を預けながら胸のポケットから一枚の手紙を取り出し、それをテーブルの上へと投げ付けた。

 

 

チンク「?それは?」

 

 

大輝「神王と魔王からの、零への便りさ」

 

 

零「……何?」

 

 

ユーストマとフォーベシイからの手紙。それを聞いた零は珈琲を飲む手を止めて目付きが変わり、テーブルの上に置かれた手紙を手に取った。

 

 

大輝「何でも君と話したいことがあるんだとさ。ま、詳しい事は其処に書かれている筈だから、後は手紙を読んで確かめるといいだろう。さて……」

 

 

―ガシッ!―

 

 

優矢「……え?」

 

 

大輝は零にそう言って椅子から立ち上がると、何故かいきなり優矢の襟首を掴んだ。突然の事に優矢が戸惑う中、大輝は微笑しながら口を開いた。

 

 

大輝「君には昨日の借りがあっただろう?今日はそれを返してもらおうと思って来たんだよ♪」

 

 

優矢「えっ?あ、あれってマジだったのか?!」

 

 

大輝「何勝手に冗談にしてるんだい?ま、取りあえずは屋台の手伝いでもしてもらおうか?その後はボ〇太くんの格好で町中で宣伝、買い出しに屋台引きに……」

 

 

優矢「ちょ、借りって一つじゃねえの?!待って?!そんなの俺一人じゃ出来ないって?!アーッ?!!」

 

 

悲痛な絶叫を上げる優矢を無視し、大輝は優矢にしてもらう仕事を指で一つ一つ数えながら優矢を無理矢理引っ張り、そのまま写真館を後にし風麺へと戻っていったのだった。

 

 

チンク「……桜川も色々と苦労してるんだな」

 

 

零「アイツの場合は単なる自業自得だ……さて、あの二人もわざわざ手紙なんか寄越すなんて、一体何の用なのやら……」

 

 

大輝と優矢が出ていった扉を見てチンクが苦笑いする中、零は特に気にした様子もなくユーストマとフォーベシイからの手紙を開き中の内容に目を通していく。其処に書かれてあったのは……

 

 

零「…………………………………………成る程な……大体分かった……」

 

 

チンク「ん?何だ?手紙にはなんて……って、何処にいく黒月?」

 

 

手紙の内容を目にした零は何処か真剣な表情に変わり、手紙を仕舞い突然席から立ち上がったのだ。それを見たチンクが零を見上げて疑問げに問い掛けるが、零はそのまま扉の方へと近づきチンクの方へと振り返った。

 

 

零「少し王様達からお呼びが掛かったから、ちょっと出掛けてくる。それと……冷蔵庫にお前達と外で働いてる奴等の分の菓子があるから、小腹でも空かせたらそれでも適当に食っておけ」

 

 

じゃあなと、零はそれだけ伝えて軽く手を振りながら扉から出ていき、そのまま写真館を出て神王家へと向かっていった。

 

 

チンク「……黒月の奴、一体どうしたんだ?」

 

 

そして残されたチンクは、突然雰囲気が変わった零に疑問を抱き訝しげな表情を浮かべ、零が出ていった扉をただジッと見つめ続けていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―神王家・ユーストマの部屋―

 

 

それから数十分後、写真館を出た零は神王家へと訪れ、現在ユーストマの部屋でユーストマとフォーベシィの二人と語り合っていた。

 

 

ユーストマ「すまねぇな零殿、いきなり呼んじまって」

 

 

零「気にしなくて良いですよ。寧ろ治療をしてくれた礼がまだだったんで、その機会が出来て有りがたいぐらいです」

 

 

フォーベシイ「神ちゃんの治癒魔法は神界でもトップクラスだからね……それで零ちゃん」

 

 

フォーベシィは零の対面、ユーストマの隣に座ると険しい表情を浮かべて零を見据えた。

 

 

フォーベシイ「君はディケイドと星ちゃんから聞いたが……本当かい?」

 

 

零「……えぇ、間違いありません。それが何か?」

 

 

フォーベシイの突き刺さるような視線を正面から受けながらも、動じる様子を見せず悠々とした態度で聞き返す零。それを聞いたユーストマも険しげな顔のまま腕を組み、口を開いた。

 

 

ユーストマ「お前さんは世界を破壊する悪魔と聞いた……もしお前さんが本当にそうなら、俺達も手を打たざるを得ない」

 

 

零「…………」

 

 

つまり、自分が本当に世界を破壊するような存在ならそれなりの対処をすることになる、という意味なのだろう。稟やシアやネリネ、そして三世界全ての人々を守る為に。その意味を察した零は二人の顔を交互に見つめると、瞳を伏せて俯いた。

 

 

零「―――俺は……少なくとも、俺の意思で破壊する事は望みません」

 

 

フォーベシイ「それは……何かしらの要因があれば意思に関係なく……ということかい?」

 

 

零「それは俺にも分かりませんし……違うと断言も出来ません……俺自身も記憶喪失のせいで自分のことが分からないから……記憶が戻れば、もしかしたら貴方達が危険視する悪魔になるかもしれないという可能性も捨て切れない」

 

 

フォーベシイ「それは……『君自身』の意思で悪魔になるという事かい?」

 

 

零「それはないと思いたいですね……今の俺には、自分の命より大事な物が沢山ある……なので、現段階では俺が俺である限り破壊は望みません。ですがもし、俺が俺の意思とは関係なく破壊を望むようになるというなら―――」

 

 

一度言葉を区切り、零は伏せていた瞳を僅かに開いて顔を上げ……

 

 

零「――その時は……俺が俺自身に決着を着けます」

 

 

ユーストマ「つまりそれは……自害するって意味か?」

 

 

零「俺がまだ『人の身』である場合はそうします……ですがもし、手遅れだった場合は……不本意ですが、貴方達の未来の息子さん達の手を借りることになるでしょう……」

 

 

フォーベシイ「稟ちゃん達か……でもそれは、彼等に重荷を背負わせる事になるんじゃないかい?」

 

 

零「でしょうね、アイツ等は優し過ぎるから……ですが分かってくれるでしょう……自分達の世界を守る為だと思えば……例え重荷を背負う事になっても、その分もっと強くなってくれると思います。自分達の大切な物を守れるぐらいに……また一つ……」

 

 

ユーストマ「だがそれだと、お前さんの世界の嬢ちゃん達が悲しむんじゃないのか?」

 

 

零「……そうかもしれませんね……ですが、破壊者になった俺がアイツ等を手に掛けないという保証はない……そうなるくらいなら……いっそ俺が……」

 

 

そう語る零の顔は、何処か強い覚悟を秘めてるように見える。それを見たユーストマは真面目な表情のまま瞳を伏せると、真っすぐと零を見据えた。

 

 

ユーストマ「零殿、俺達に目を見せてくれ」

 

 

零「…………」

 

 

ユーストマにそう言われ、零はゆっくりとユーストマとフォーベシィの目を交互に見た。そして零のその目を見て何かを感じた取ったのか、二人は暫く口を閉ざした後……

 

 

ユーストマ「…………わかった、零殿を信じよう」

 

 

フォーベシイ「君は信用できる。間違いないね」

 

 

零「……根拠は?」

 

 

フォーベシイ「これでも王だからね、人を見る目はあるつもりさ」

 

 

ユーストマ「じゃあ後は依頼の話だ……MMOとしてのな」

 

 

零「……わかりました……お聞きします」

 

 

MMOとしての依頼。その一言で零の表情も真面目な物に一変し、ユーストマとフォーベシイも小さく頷きながら依頼の話しを始めていったのだった。

 

 

 



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第十九章/エクスの世界④

 

 

―魔王家・リビング―

 

 

零がユーストマとフォーベシイから依頼を聞かされてから数時間後、魔王家のリビングにはユーストマとフォーベシィに呼び出された稟、菫、土見ラバーズ、麻弓、樹、プリムラ、カレハ、祐輔が集まっていた。

 

 

フォーベシイ「皆、来てくれたね」

 

 

ネリネ「お父様、どうなさったのですか?」

 

 

フォーベシイ「あぁ、実は今朝、この手紙が家に届いてね」

 

 

急に皆を収集した事に対しネリネが代表して訝しげに問うと、フォーベシィは懐から一通の手紙を取り出しながらそれに答え、一同はその手紙に視線を集め首を傾げた。

 

 

シア「あの、それは?」

 

 

ユーストマ「脅しと呼び出し状だ。稟殿にな」

 

 

祐輔「なっ?!」

 

 

樹「……それはなんと?」

 

 

稟に対する脅しと呼び出し状。そう聞かされた一同が驚愕と共に息を拒む中、樹が何時になく真剣な表情で手紙の内容について疑問を投げ掛けると、ユーストマがフォーベシイから手紙を受け取り一同に向けて開いて見せた。

 

 

ユーストマ「『今夜0時、指定した場所に土見禀を一人で呼べ。さもなくば……周りに危害がある……』これで終わりだ」

 

 

稟「……ふざけてるな……」

 

 

ググッ…と、手紙の内容を耳にした稟は力強く握り拳を固めた。その時……

 

 

―ギュッ……―

 

 

稟「……ん?」

 

 

プリムラ「……稟……危ない?」

 

 

菫「……………………」

 

 

そんな稟の様子からただ事ではないと感じ取ったのか、プリムラと菫は稟の服の裾を握り不安げな顔を浮かべている。稟はそんな二人の顔を見て優しげに微笑み、二人の頭を撫でた。

 

 

稟「そんなわけないだろ?大丈夫だ……」

 

 

楓「ッ?!稟君駄目です!危ないですよっ!」

 

 

二人を宥める稟を見て稟が何を考えてるのか分かったのか、楓は思わず身を乗り出し声を荒げるが、そんな楓を亜紗と命が横から宥めていく。

 

 

亜沙「楓、大丈夫よ。この稟ちゃんよ?親衛隊を毎日フルボッコ、負け無しの無敵の帝王なんだから」

 

 

楓「っ……でもっ……」

 

 

命「かえっち、落ち着きな、神王様達だって策は有るんじゃないのかな?」

 

 

ユーストマ「当たり前だ、稟殿を危険に曝すものか」

 

 

フォーベシイ「手はちゃんと打ってあるさ。零ちゃん、来て頂戴?」

 

 

フォーベシイがそう言って扉の方に顔を向けると扉が開き、其処から零と大輝と優矢がリビングへと入ってきた。

 

 

零「MMO所属、黒月零、依頼は君達の護衛だ」

 

 

優矢「同じくMMO所属、桜川優矢、依頼は右に同じ」

 

 

大輝「その手伝いの海道大輝、今回は零の味方をするから安心してくれよ?具現化の少年?」

 

 

稟「……本当か?」

 

 

大輝「トレジャーハンターの名に賭けて」

 

 

稟「……わかった。頼むぞ」

 

 

楓「稟君っ!」

 

 

稟「大丈夫だ。安心しろ」

 

 

そう言って稟は心配する楓に向けて何時もの笑みを浮かべ、楓もそれを見てそれ以上何も言えなくなり口を閉ざした。そしてその様子を横目で見ていたユーストマは一同に視線を戻し口を開いた。

 

 

ユーストマ「今晩はここで皆に過ごして貰うから……すまないな。あと芙蓉の嬢ちゃん、安心しな。ちゃんと稟殿にも護衛はつける」

 

楓「……はい……」

 

 

不安を募らせる楓を安心させるようにユーストマがそう告げると、楓は未だ納得出来ていないように見えるも小さく頷き返した。

 

 

フォーベシイ「じゃあ皆、自分の家に連絡して、身の周りの物が必要だったら私に言っておくれ、転移魔法で連れていくよ」

 

 

亜沙「……ボクは魔法が嫌いですから……良いです」

 

 

フォーベシイの提案に対し亜沙は何処か辛そうな顔で首を振った。そうして暫く時間を掛けて一同が家への連絡と身の周りの物を揃えたあと、個人が自由に行動し始めた。

 

 

稟(祐輔さん、お願いしますよ)

 

 

祐輔(わかった、いざとなったら僕も……)

 

 

そんな中、稟と祐輔の二人が少し離れた場所で小声で話し合う姿があり、壁に寄り掛かってその様子を離れて見ていた零は小さく息を吐くと、地面に目を向けながら思考に浸り始めた。

 

 

零(さて……このまま予定通りに行けば何事もなく済ませられると思うが、問題は奴らが今回も横槍を入れてくるかどうか……)

 

 

零が考える奴らとは、今までの世界で幾度なく自分達の前に立ち塞がってきた謎のライダー達の事だ。奴らが今までの世界の様に邪魔をして来ないか。そのことが気掛かりでならない零であったが、その時大輝が零の隣にやって来て壁に寄り掛かった。

 

 

大輝「心配ならいらないだろう……今回、彼等がこの世界に干渉してくる可能性は限りなく低い」

 

 

零「ッ!……どういう意味だ?」

 

 

自分の考えを読まれた事に驚いたが、零が今気になったのは大輝の言葉の意味。それを問われた大輝は両手をポケットに突っ込み、つまらなそうな表情で口を開いた。

 

 

大輝「この世界には星神のアテナさんがいるからね。普通の空間転移などで外部からこの世界へ侵入すればどうやっても彼女に伝わってしまい、彼女の妨害を受ける可能性がある。それを回避するには彼女に見付からない方法でこの世界へと侵入するか、それとも彼女の妨害を受ける覚悟で転移してくるかのどちらかしかない。でもわざわざそんな手間が掛かるリスクを負うなんてことは彼等もしたくないだろうし、今回彼等がこの世界へ介入することは多分ないさ」

 

 

零「……お前……まさか、アイツ等の事を知ってるのか?」

 

 

大輝「さあ?ま、例え知ってても君には教えないさ。そんな義理もないしね」

 

 

肩を竦めながらそう言うと、大輝はそのまま別の場所へ向かおうと歩き出した。それを見た零は目を少し細めると、大輝の背中を見つめながら口を開いた。

 

 

零「そういえば……なんで今回は宝もないのに稟達に此処まで手を貸す?お前に限ってただの善意……なんて事はないんだろう?」

 

 

大輝「……確かにねぇ……まぁ、単に彼にはまだ死なれたら困るだけさ。色んな意味で」

 

 

零の疑問に対し何時もの笑みを浮かべてそう答えると、大輝は歩みを進めて何処かへと行ってしまった。そしてその場に残された零は……

 

 

零(アイツ……一体腹の底で何を考えてる……?)

 

 

大輝が去って行った方を見つめながら腑に落ちない顔をし、大輝に対する不信感を更に強めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

そうして時は過ぎ深夜11時45分になった頃、稟は必要な準備を終えてリビングで一同から見送りを受けていた。

 

 

稟「それじゃ、行ってくる」

 

 

何時もと変わらぬ笑みを浮かべてそう告げると、一同もそれに対し笑って頷き返し、稟はそのままリビングを出て魔王家を後にしたのだった。

 

 

楓「…………………………」

 

 

――ただ一人、不安げに顔を俯かせる少女に気付かず……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光陽工場―

 

 

深夜の光陽工場。今日の昼では、この世界の勤め先としてティアナが働いていたその場所で数人の人間達が集まっていた。

 

 

「計画は順調か?」

 

 

「えぇ……お陰さまで」

 

 

「ちゃんと頼むぞ……いくら国庫から出したと思っているのだ……『死体』の処理も優しく無いのだぞ」

 

 

「わかっております」

 

 

そんな怪しげな会話をする人間達が集まる広場には、なにやら人間一人が入れるくらいのサイズのカプセル……少女の遺体が入ったカプセルが置かれていた。

 

 

「これのサンプルはとったのか?」

 

 

「もう取り出しました……今から破壊する予定です」

 

 

実はこの人間達は35人のうち25人は『違法な人工生命体研究』の工場の責任者、残りの10人は『国会与党のトップ議員』だった。

 

 

工場の責任者達は多額の金を議員から受け取り、極秘裏に研究を進め、その研究成果により『不老不死』になろうとし、影で永遠の権力を手に入れようとしていたのだ。

 

 

 

因みに今回稟がユーストマとフォーベシィにあらかじめ頼んでおいたのは『違法な人工生命体の研究』をする研究所、支援する人間のリストの作成。

 

 

それに協力してアテナが調べたのは『内部で誰が研究を進めているのか』ということだった。

 

 

あの手紙は稟とフォーベシィ達が用意したもの。

 

 

稟は人間達を動けなくした上で巨大な魔力を放つ事でユーストマやフォーベシィを呼び寄せ、神界と魔界の王に証拠を見られる事によりマスコミを口封じをし、もみ消す事ができなくなる。

 

 

もしこれを最初からユーストマやフォーベシィがやったのなら、間違いなく『内政干渉』との反感をかうだろう、ならどうすればいいか?答えは簡単、『誰がやったかわからないように』すればいい。

 

 

生まれてくる子が将来皆が不幸になるという訳はない。だがしかし、実験の為だけに生まれて死ぬだけの子に幸せがやってくる訳はない。

 

 

稟はそのような子を一人でも無くす為に自分から汚れ役を買って出たのだ。

 

 

 

そして死体を処理し終えた、その直後……

 

 

 

 

 

―ドガァンッ!!!―

 

 

「ッ?!なっ?!」

 

 

「な、なんだ?!」

 

 

突然ドアが何者かによって破壊され、責任者や議員達は驚愕しながらドアの方へと一斉に振り返った。其処には……

 

 

エクスL『………………』

 

 

既にエクス・リリィフォームへと変身し、リミッターを外した稟が本気の殺気を身体から放出させてながら土煙の中に佇んでいたのだった。そしてその数時間後……

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 

 

 

 

 

其処には、エクスの制裁によりボロボロになって地面に倒れる35人の姿があったのであった。そしてその中心に佇むエクスは軽く息を吐くと、ゆっくりと辺りを見渡していく。

 

 

エクスL『これだけやればいいか……フェンリル、カートリッジロード』

 

 

―ガシャンッ!―

 

 

エクスのその呼び掛けと共に、フェンリルからカートリッジが一発排出された。そしてエクスはゆっくりと真上に向けてフェンリルを構え……

 

 

エクスL『クラッグバスターッ!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥーーーーーーーッ!!!―

 

 

真上に向けて砲撃を放ち、砲撃はそのまま工事の天井を破り上空へと消えていった。それを確認したエクスはフェンリルをゆっくり下して待機状態にし、懐から大量の書類を取り出した。

 

 

エクスL『これはアンタ達のやってきた全ての証拠だ……』

 

 

最早意識を刈り取られて何も聞こえていない35人に向けてそう告げ、エクスは証拠の書類を残しその場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―魔王家―

 

 

ユーストマ「……マー坊、感じたな?」

 

 

フォーベシイ「あぁ、神ちゃん……」

 

 

その頃、魔王家で稟の合図を待っていたユーストマとフォーベシイは稟の放った魔力に気付き顔を見合わせて頷き合い、ソファーからゆっくりと立ち上がり近くに立つ零を見た。

 

 

ユーストマ「零殿、皆を頼む!」

 

 

フォーベシイ「皆寝てるけど、なにかあったら大変だから」

 

 

零「分かりました。お気を付けて……」

 

 

零がユーストマとフォーベシィの言葉に頷き返すと、ユーストマとフォーベシイはそのまま家を出て魔力を感じた光陽工場に向かっていった。

 

 

零(……どうやら稟の方は上手くいったらしいな……このまま行けば……)

 

 

「……あの……」

 

 

零「ん……?」

 

 

このまま行けば稟達の作戦の成功もあと少しかと、そう考えていた零の背後から不意に誰かが呼び掛けた。気になってそちらの方へと振り返れば、いつの間にか楓が其処に佇んでいた。

 

 

零「芙蓉?どうかしたか?」

 

 

楓「あ、いえ……少しお手洗いに行きたいんですけど……」

 

 

零「あぁ、そういうことか……わかった」

 

 

手洗いに行きたいと一言言ってきた楓に頷き返すと、楓は一度零に一礼し何処か急ぎ足で洗い場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

稟「…………」

 

 

その頃、役目を終えた稟は何故か魔王家に戻る事なく人気の無い開けた場所へとやって来ていた。そうして稟は暫く歩きを進めていくと不意に足を止め、漸く口を開く。

 

 

稟「……ここなら良いだろ?出てこいよ、鳴滝」

 

 

稟が静かな口調でそう言うと、近くの物陰からゆっくりと一人の人物……鳴滝が険しい表情を浮かべて姿を現した。

 

 

鳴滝「土見稟……何故ディケイドを倒さない……あの悪魔はっ!」

 

 

稟「お前に言う義理はない、あえて言うなら……俺は零さんを信用している、それだけだ」

 

 

鳴滝「愚かな……ならば、実力行使を使うまでだ!」

 

 

稟のその言葉でもはや何を言っても無意味と悟ったのか、鳴滝は舌打ちしながら自身の背後に歪みの壁を発生させ、其処から巨大な機械兵器を呼び出していった。

 

 

稟「やられるかよ……フェンリル、ミカエル!SET UP!エクト!グレイ!」

 

 

エクト「いきましょう稟。カプッ」

 

 

グレイ「変っ身ッ!」

 

 

鳴滝が呼び出した機械兵器を目にした稟も即座にフェンリルとミカエルを起動させ、更にリリィフォームへ変身すると共にライトブリンガーを構えて機械兵器に向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―魔王家―

 

 

零「――芙蓉の奴……遅いな……」

 

 

場所は戻り、魔王家のリビングでは零がソファーに腰掛けて訝しげに首を傾げていた。その理由はあれから30分以上も経っているというのに、楓が手洗いに行ったきり戻って来ないからであった。そんな時……

 

 

シア「……あれ?零さん?」

 

 

零「む?シア……?」

 

 

背後から不意に誰かに声を掛けられ、後ろに振り返ってみると何故かシアの姿があった。一瞬まだ起きていたのか?と疑問を抱いたが、両手に空のコップが握られてる事に気付き、恐らく先程までネリネ達と話でもしていたのだろうと察して納得すると、そこである考えを思い付いた。

 

 

零「そうだ……シア、悪いが少し良いか?」

 

 

シア「はい?なんですか?」

 

 

零「実は芙蓉が手洗いから出てこなくてな……様子を見るからついてきて欲しい」

 

 

シア「あ、はい。わかりました」

 

 

楓の様子見に付き合って欲しいと言う零の頼みに潔く承知し、シアは空のコップをテーブルに置き零と共に手洗い場に向かった。

 

 

―コンコンッ―

 

 

零「芙蓉、大丈夫か?」

 

 

シア「かえちゃん、大丈夫?」

 

 

―……………―

 

 

零「……返事がないな……」

 

 

シア「ですね……かえちゃーん?」

 

 

扉を何度もノックして呼び掛けてみるが、楓からの返事は何一つない。それを不審に思った零とシアが互いに顔を見合わせた、その時……

 

 

―……ヒュオオォォ……―

 

 

零「!風の音?……まさかッ?!」

 

 

扉の向こうから微かに聞こえてきた風を切るような音を聞き、零は咄嗟にドアを無理矢理こじ開けた。

 

 

―ガチャッ!!!―

 

 

シア「ッ?!えっ?!」

 

 

零「チィ、あのバカっ……!」

 

 

扉を開いた向こうにあったのは……窓が開いて風が流れ込み、誰もいない手洗い場だった――――

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑤

 

 

楓の突然の失踪。それはあっという間に家中に広まり、今まで眠りに付いていたメンバーも含め全員がリビングに集まり、楓の失踪を聞いて一同の顔には焦燥と不安の色が浮かび上がっていた。

 

 

シア「かっ、かえちゃんはどこに?!」

 

 

零「決まってる!稟の所だ!優矢、海道、コイツ等を頼むっ!」

 

 

優矢「わかったっ!」

 

 

零はソファーに掛けておいた自分のコートを羽織り、優矢達に後を任せて魔王家を飛び出し急いで楓の捜索へと向かっていった。

 

 

大輝「――さて、皆は多分そろそろ知るだろうね……」

 

 

ネリネ「?知る……?」

 

 

魔王家から飛び出した零を見てそう呟く大輝の言葉にネリネは思わずそれを口ずさみ、大輝はそれを聞いて口元に笑みを浮かべながら一同から離れると、懐からスタッグフォンを取り出し番号をプッシュして耳元に当てた。

 

 

大輝「――ああもしもし?お休みのところ悪いんだけど、実はちょっとマズイ事が起きてね?実は………」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

零「クソッ!何処に行った……?!」

 

 

魔王家を飛び出した零は夜の町をあてもなく駆け回り、必死に楓の姿を捜していた。全力疾走を維持したまま道ゆく人の間を駆け抜け、交差点の向こうや路地裏にまで目を走らせて街中を走り続けていく。

 

 

零「此処にもいないっ……まさか、もう現場に着いてるとかじゃないだろうなっ……」

 

 

魔王家から光陽工事までの距離はかなりあるらしいが、それでも全走力で走れば30分で着くのも不可能ではない。そうであってないでくれよと、零は心の中で切実に願いながら光陽工事に向かおうと足先を向けた。そんな時……

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォオンッ……―

 

 

零「……ッ!何ッ?!」

 

 

突然零の周りの風景が歪みに包まれ、景色がグルリと不自然に回り始めていったのだ。それを見た零は突然の事態に思わず動きを止めてしまい、その間に歪みが治まり何処かのスタジアムに場所が変わっていた。

 

 

零「ッ!此処は……」

 

 

周りの風景がスタジアムに変わり、零はその光景を目にし険しげな表情でスタジアムを見回していく。その時だった……

 

 

―コツッ……カツッ……コツッ……カツッ……―

 

 

背後から聞こえてきた何処か不気味な足音。それに気付いた零が直ぐさま背後に振り返ると、其処には白いラインの入った黒いボディのライダーが悠々とした足取りで歩み寄ってくる姿があった。

 

 

零「お前は……」

 

 

『フフッ……君が世界の破壊者かぁ……確かに、君と戦うのは面白そうだ……』

 

 

零を見て何処か楽しげに微笑みながら、黒いライダーは右手にあらかじめ持っていた銃にも似た何かをゆっくりと口元へと持ち上げていき……

 

 

『――Fire』

 

 

『Burst Mode!』

 

 

―バシュウバシュウバシュウッ!!―

 

 

零「ッ!」

 

 

黒いライダーが銃に音声を入力すると同時に電子音声が響き、零に銃口を向けていきなり発砲してきたのだ。零は直ぐさま上体だけを動かして銃弾を避けながら、腰にディケイドライバーを巻きながらカードを取り出した。

 

 

零「チィ!また鳴滝の差し金か!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットすると零はディケイドへと変身し、変身を完了させると共に左腰のライドブッカーをガンモードに切り替え黒いライダー……デルタに向けて反撃を開始していった。

 

 

―ドシュンドシュンドシュンドシュンドシュンッ!!―

 

 

デルタ『フッ!ハァッ!』

 

 

ディケイド『クッ!ハッ!』

 

 

ディケイドとデルタはスタジアム内を駆け回りながら互いに向けて銃を乱射し、激しい銃撃戦を繰り広げていく。その時……

 

 

―バッ!!―

 

 

デルタ『ハッ!!』

 

 

ディケイド『ッ!ハッ!』

 

 

―ドシュンドシュンッ!!―

 

 

ディケイド『グゥッ?!』

 

 

デルタ『うあッ?!』

 

 

デルタがいきなりディケイドに向かって飛び掛かり銃を撃ち出していき、ディケイドも即座にデルタを狙い撃って撃ち落とし互いに倒れてしまうも、直ぐさま体を起こし互いに向けて銃口を突き出した。

 

 

ディケイド『ッ!いい加減にしてもらえないか?俺は今お前のお守りに付き合ってる暇はないんだよっ』

 

 

デルタ『ヤダなぁ~、そんなに邪険にする事はないだろう?僕はただ君との戦いを楽しみたいだけなんだから』

 

 

ディケイド『チッ、オムツも取れていないガキが……自己中も程々にしておけッ!』

 

 

稟や楓の事で焦燥に駆り立てられているディケイドは苛立ちを込めながら叫ぶとデルタに掴み掛かり投げ飛ばした。だがデルタは咄嗟に受け身を取って態勢を立て直し、そのままディケイドに向かって殴り掛かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃、エクスと機械兵器の戦闘が始まって30分ほど経ち、状況は均衡を保っていた。機械兵器はエクス程の大きさの人型で左右の腕は両刃の刃となっており稟は振られる『それ』をフェンリルとライトブリンガーで弾き、稟の振るライトブリンガーも『それ』に弾かれていた。

 

 

エクスL『まったく……早く帰りたいのにッ!』

 

 

エクスは思わず愚痴を零しながら機械兵器から距離を開き、グレイの首を掴みスロットを回していく。

 

 

グレイ「エキストラウェイクアッ~プ!」

 

 

エクスL『シャイニング……ブレイカーッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

エクスはライトブリンガーの刀身を黄金の光に包ませ、自身最大の技を撃ち出し機械兵器へと見事に直撃していった。だが……

 

 

『……ピピッ、ギュイィィィィ……』

 

 

エクスL『ッ!何?!』

 

 

自身最大の技が確かに炸裂したにも関わらず、機械兵器は胸に傷を負った程度で全壊どころか損傷らしい損傷すらしてなかったのだ。それを見たエクスが思わず驚愕する中、鳴滝が離れた場所でエクスに向けて叫んだ。

 

 

鳴滝「甘いわ!これには私自らが手をかけた実験台!ちょっとやそっとじゃ傷つかない!」

 

 

エクスL『チッ!でもまだやれるッ!』

 

 

技が大して効かなかったのは予想外だったが、まだ手が残ってない訳ではない。エクスは再び機械兵器から距離を取り、ライトブリンガーを両手で握り締め構えを取った。その時……

 

 

―……ザッ―

 

 

エクスL『……え?』

 

 

今正に機械兵器へ向かおうとしたその時、不意に背後から気配を感じ動きを止めてしまったのだ。エクスがそれに気付き、後ろに振り返ると……

 

 

エクスL『なっ!?楓!?』

 

 

そう、其処には魔王家を抜け出し稟を追ってきた楓が周りをキョロキョロ見渡す姿があったのだ。更に最悪な事に、機械兵器は不意に現れた楓を増援だと認識し楓に顔を向けていく。

 

 

エクスL『ッ?!マズイッ……楓!!逃げろ!!!』

 

 

楓「……えっ?」

 

 

機械兵器の狙いが自分から楓に変わった事に気付いたエクスが慌てて叫ぶと、楓はエクス達に気付き思わず固まってしまった。その瞬間を機械兵器は見逃さず、楓に向けて右腕を構えると……

 

 

―ギュイィィィィィィ……ブオォンッ!!!!―

 

 

機械兵器は自身の腕を切り飛ばし、楓に向かって噴射していったのである。

 

 

エクスL『楓ッ!!』

 

 

楓「あっ……」

 

 

楓は咄嗟の事、自身に降りかかる『死』を感じ取って動くことが出来なかった。

 

 

エクスL『なっ?!クソッエクト、グレイ!すまない!フェンリル、ミカエル!後を頼む!!』

 

 

エクト「なっ、稟!!」

 

 

グレイ「兄貴、何を?!」

 

 

エクスは直ぐさま強制的に変身を解除して稟に戻り、そのままバリアジャケットを纏い楓の前に走り寄っていった。

 

 

楓「稟君?!」

 

 

稟「クッ!!」

 

 

目の前から猛スピードで迫る刃。既に防御に入るのは間に合わない。一瞬でそう判断した稟は咄嗟に両腕をクロスさせ、刃はそのまま……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―グサァッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……両手をクロスさせた稟の腕に、深く突き刺さっていったのだった……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―バキッ!ドガァッ!バンバンバァンッ!!―

 

 

ディケイド『ハッ!セアッ!』

 

 

デルタ『ハッ!』

 

 

場所は戻り、スタジアム内ではディケイドとデルタが互いに至近距離から銃弾を撃ちながら激しい格闘戦を繰り広げていた。ディケイドはデルタの銃撃と打撃を避けながらライドブッカーからカードを取り出し、ドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

デルタ『グッ?!』

 

 

電子音声と共にディケイドはデルタの腹に銃撃を撃ち込んでいき、デルタを後方まで吹っ飛ばしていったのだった。そしてディケイドはすかさずライドブッカーを左腰に戻しながらカードを取り出し、ドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

ディケイド『一気に勝負を決めてさせてもらうッ!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にデルタに目掛けてディメンジョンフィールドが展開されていき、それを確認したディケイドを身を屈めて空へと跳び上がり、跳び蹴りの態勢に入ってディメンジョンフィールドを潜ろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガンッ!!―

 

 

ディケイド『…ッ?!な、グアァァッ?!』

 

 

デルタに向けて跳び蹴りを放とうとした瞬間、不意を突くように背後から無数の銃弾が背中に撃ち込まれ、ディケイドを撃ち落としてしまったのだった。

 

 

ディケイド『ぁ……ぐっ……今のはっ……?!』

 

 

技をキャンセルされたディケイドは背中から煙を立たせながら突然の事態に困惑し、ふらつきながら身体を起こし背後へと振り返った。其処には……

 

 

―ギュイィィィィィィィィィィィィィッ……!!―

 

 

『HAHA!』

 

 

其処には、青いラインの入った白い身体にギリシャ語のψをモチーフにした仮面ライダー……『サイガ』が上空からこちらを見下ろす姿があったのだ。

 

 

ディケイド『ッ?!アイツは……!』

 

 

デルタ『フフッ、誰も一人とは言ってないだろ?そう簡単に終わったらつまらないじゃないか』

 

 

突如現れた増援に驚愕するディケイドを見て、デルタは不気味に笑いながら拍手するような形で両手の指をクロスさせていた。 その間にもサイガはデルタとは反対方向に降り立ち、ディケイドを挟み撃ちにしてしまう。

 

 

デルタ『さーて、第二ラウンドの始まりだ……』

 

 

サイガ『It's!ShowTime!』

 

 

ディケイド『チィ!こんな忙しい時にぞろぞろとっ!』

 

 

右側にはデルタ、左側にはサイガが。完全に逃げ場を断たれたディケイドは舌打ちをしながら立ち上がってライドブッカーGモードを構え、デルタとサイガもそれぞれ武器を構えていく。その影では……

 

 

キバーラ「――フフッ……この状況をどう乗り越えるのかしらねぇ、ディケイド?」

 

 

キバーラがスタジアム内のフェンスの上に止まり、その光景を見つめて怪しげな微笑みを浮かべていたのであった……

 

 



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第十九章/エクスの世界⑥(前編)

 

鳴滝が作り出した機械兵器と奮闘を繰り広げる稟と、鳴滝の罠に掛かりデルタとサイガと激突するディケイド。しかし稟は突如戦場に現れた楓を庇い、重傷の傷を負ってしまった。

 

 

稟「ぅ……グッ……」

 

 

―ポタッ…ポタッ……―

 

 

機械兵器から放たれた『それ』は、深く突き刺さった程度ではなかった。稟の腕に突き刺さった『それ』は稟の右腕、左腕をも貫き、稟の首にも少し突き刺さっている。切り払うだけでなく『突く』事も視野に入れていたらしく、『それ』はそれほど太くなく、腕を切り落とす事は無かった。

 

 

楓「り、りん……くん……稟君っ!!」

 

 

その光景を稟の背後から見ていた楓は、ただ叫ぶことしかできなかった。その間にも機械兵器は楓もろとも稟にトドメを刺そうと、また残った『それ』を射出しようとしたが……

 

 

エクス「させませんッ!!ハァッ!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

エクトが機械兵器の目の前に躍り出ていき、機械兵器の気を引き付けていく。そしてエクトが機械兵器を引き付けてる間に……

 

 

フェンリル「ミカエル!!手伝って!!」

 

 

ミカエル「おぅ!!」

 

 

グレイ「兄貴!!しっかりするっス!!」

 

 

フェンリルとミカエルは人型となってグレイと共に稟の下へと駆け寄っていき、フェンリルとミカエルが稟の両肩を待って担ぎ上げ、グレイは必死に稟に声を掛けていく。

 

 

楓「えっ……あ、あの……?!」

 

 

倒れる稟の傍で呆然としていた楓は突然現れた二人に驚愕してしまうが、フェンリルとミカエルはそんな楓に向けて怒鳴り声を荒げた。

 

 

フェンリル「ボサッとしないで!!死にたいの?!」

 

 

ミカエル「何で此処にいる?!稟は待ってろと言っただろう?!チッ、とにかく早く逃げるぞ!魔力は放った!きっと零さんが来ると思うから、とりあえず合流を……!!」

 

 

鳴滝「そうはさせん!」

 

 

フェンリルとミカエルは稟を担ぎ上げて此処から離れようとするが、その時一同の目の前に歪みの壁が出現し、其処から稟と戦ったのと同じ機械兵器がもう一体現れ一同の前に立ち塞がった。

 

 

ミカエル「なにっ?!」

 

 

鳴滝「土見稟は此処で渡してもらう!ディケイドを倒す為にも、彼の力は必要なのだ!」

 

 

フェンリル「冗談っ!誰がアンタなんかに稟を……!」

 

 

鳴滝「ならば仕方あるまい……力付くでも渡してもらうっ!」

 

 

そう言って鳴滝は稟を捕えようと機械兵器に命じていき、機械兵器も鳴滝の命令に従おうとフェンリルとミカエルに迫っていき、二人は楓を後ろに下がらせながらどうやってこの場を乗り切るべきかと焦りを受かべていた。その時……

 

 

 

 

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

鳴滝「ッ?!何っ?!」

 

 

フェンリル「……え?」

 

 

機械兵器がフェンリル達に襲い掛かろうとしたその時、突如機械兵器とフェンリル達の間を一本の矢が真横から遮っていったのだ。それを見た機械兵器は思わず動きを止め、その攻撃が放たれてきた方へと振り返ると……

 

 

 

 

 

アンジュルグ『……何とか間に合った……』

 

 

ティアナ「みたいね……皆さん!大丈夫ですか?!」

 

 

フェンリル「ッ!貴方達は……?!」

 

 

ミカエル「アズサに、零さんとこのティアナ?!」

 

 

そう、其処にいたのは写真館で待機してる筈のアズサが変身したアンジュルグと、ヒートギアを腰に巻いたティアナだったのだ。二人の予想外の登場にフェンリル達が驚愕する中、二人はフェンリル達を庇うように機械兵器の前へと立ちはだかった。

 

 

フェンリル「二人共、どうして此処に……?」

 

 

アンジュルグ『ん……さっき、写真館に大輝から連絡がきた……稟達がピンチだから、私達にも現場に向かって欲しいって……』

 

 

ミカエル「大輝さんが?」

 

 

ティアナ「えぇ、てっきり稟さんが作戦に失敗して危険な目に合ってるんじゃないかって急いで来たんですけど、思ったよりヤバそうね……とにかく、此処は私達に任せて下さい!」

 

 

そう言ってティアナは右手に持っていたヒートフォンを開き、8・9・0とボタンを入力して最後にエンターキーを押していく。

 

 

『Standing by…』

 

 

ティアナ「変身ッ!」

 

 

『Complete!』

 

 

ヒートギアをバックル部へとセットするとティアナはヒートへと変身していき、変身完了と共に左腰に取り付けられたヒートブレイガンを手にしミッションメモリーを装填した。

 

 

『Ready!』

 

 

ヒート『コイツ等は私達で引き付けます!皆さんは今の内に稟さんを!』

 

 

ミカエル「ッ!助かる!フェンリル!」

 

 

フェンリル「えぇ!二人共、後はお願い!」

 

 

アンジュルグ『了解……!』

 

 

フェンリル達はエクトと二人が機械兵器を引き付けてくれてる間に稟と楓を連れて安全な場所まで移動し、ヒートとアンジュルグもフェンリル達の避難が完了するまで機械兵器の気を逸らすべく二体の機械兵器へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃、スタジアム内ではデルタとサイガが左右からディケイドを挟み、悠々とした足取りでゆっくりと迫り寄って来ていた。

 

 

デルタ『クククッ……どうする?この状況じゃ、もう君に勝ち目はないんじゃないかなぁ?』

 

 

愉快げに笑みを浮かべながらディケイドに呼び掛けていくデルタ。だがディケイドは焦りを浮かべる訳でもなく、ただ『フッ……』と軽く鼻で笑いながら左腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『どうかな?とも限らないぞ?変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:FAIZ!』

 

 

カードをディケイドライバーへと装填すると共に電子音声が響き、ディケイドの身体に赤いラインが走りDファイズへと変身していった。

 

 

デルタ『ッ!ファイズ!』

 

 

ファイズへと変身したディケイドを見てデルタとサイガも警戒して身構えていき、Dファイズは両手を払いながらライドブッカーから再びカードを取り出した。

 

 

Dファイズ『そっちが二人で来るなら、こっちも助っ人を呼ばせてもらうぞ?』

 

 

『ATTACKRIDE:AUTOBIGIN!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にスタジアム内にマシンディケイダーが無人で走って現れ、更に現れたファイズの紋章を潜るとファイズの可変型バイク、オートバジンへと姿を変えた。そしてオートバジンは人型のバトルモードへと変形し、サイガとデルタに向けて銃撃していった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『グウゥッ?!』

 

 

Dファイズ『コイツで二対二対だ。文句はないだろう?』

 

 

オートバジンの銃撃で吹っ飛ばされた二人を見据えながらそう言うと、Dファイズは隣に降り立ったオートバジンからファイズエッジを抜き取り、スタジアムの隅に吹き飛ばされたサイガへと近づいていく。

 

 

サイガ『っ……Either you, or me.!』

 

 

Dファイズ『白黒つけようだと?ハッ、良いだろう。Let the game begin!(ゲームを始めようか!)』

 

 

サイガの挑戦に乗るように叫びながら、Dファイズは左腰のライドブッカーから再びカードを一枚取り出し、ディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FORMRIDE:FAIZ!AXEL!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にDファイズの胸部のアーマーが展開し、肩の定位置に収まるとボディの色が銀と黒、そして瞳の色が赤色へと変わりアクセルフォームへとフォームチェンジしたのである。そしてフォームチェンジしたDファイズはファイズエッジを左手に持ち替え、左腕に装着されたファイズアクセルのボタンを押していく。

 

 

Dファイズ『ただしこっちも先を急いでるんでな……十秒だけ付き合ってやる!』

 

 

『START UP!』

 

 

ファイズアクセルから電子音声が鳴り響くと同時に、Dファイズはサイガの視界から消えるように超音速で動き出し、サイガも咄嗟に背中のフライングアタッカーを操作して飛翔し始めていった。そしてその一方で……

 

 

―ドゴオォンッ!!バキッ!!ドゴオォッ!!―

 

 

デルタ『グウゥッ?!こいつっ?!』

 

 

既に態勢を立て直したデルタもDファイズとの戦いに参戦しようとしていたが、オートバジンがそれを阻むように立ち塞がって殴り掛かってくる為にそれも出来ずにいた。そしてDファイズは……

 

 

―キュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!!―

 

 

フライングアタッカーでスタジアム内を飛び回るサイガを追い、超音速でスタジアム内を駆け抜けていた。そしてDファイズはサイガを追いながら壁を走り、天井を駆け、サイガへと一気に追い付くと共に……

 

 

Dファイズ『ハアァァァァ……ハァッ!!』

 

 

―ガギイィンッ!!―

 

 

サイガ『ッ?!』

 

 

サイガの背中のフライングアタッカーを、渾身の力を篭めて殴り付けていったのだった。それによってフライングアタッカーは制御を失い暴走し、サイガは壁や天井にぶつかりながら墜落してフライングアタッカーも粉々に砕け、Dファイズはサイガの前に姿を現してファイズエッジを構えた。

 

 

サイガ『っ!グッ!!』

 

 

しかしサイガは咄嗟に立ち上がって走り出し、粉々に砕けたフライングアタッカーからトンファーエッジを手にしてバックルのサイガフォンを開き、エンターキーを押していった。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

サイガ『オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

 

 

電子音声と共に青い閃光がサイガの身体を巡って両手のトンファーエッジの先端へと流れていき、サイガは雄叫びを上げながらDファイズへと駆け出していく。そしてDファイズもそれを見て咄嗟にカードを取り出し、ドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

Dファイズ『フッ!』

 

 

ドライバーから電子音声が響き渡ると共にDファイズはファイズエッジを構えてサイガに向かって突っ込み……

 

 

『Three…』

 

 

サイガ『オオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 

Dファイズ『ハッ!!』

 

 

サイガが突き出してきたトンファーエッジを身を屈めて避け……

 

 

『Tsu…』

 

 

―ドシュウゥッ!!!―

 

 

サイガ『ガッ…?!!』

 

 

すれ違い様にサイガの脇腹をファイズエッジで斬り裂いてサイガを怯ませ……

 

 

『Wan…』

 

 

Dファイズ『ハアァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

サイガ『ッ?!!』

 

 

振り向き様にファイズエッジを振りかざし、宙に赤い閃光を描きながらサイガを斜め一閃に斬り裂いたのであった。そしてファイズエッジで斬り裂かれたサイガはダラリと両手を下げていき、Dファイズがファイズエッジを一度払ってサイガから背を向けた瞬間……

 

 

『TIME OUT!』

 

 

サイガ『ゥ……オォォォォ……』

 

 

電子音声と共にDファイズが通常形態へと戻った瞬間、サイガは体にφの紋章が浮かび上がると共に青い炎を噴き出しながら灰となり消滅していったのだった。

 

 

デルタ『ッ!あーあ、あっちはやられちゃったか……だったら……』

 

 

オートバジンと戦いながらその様子を見ていたデルタはつまらなそうに呟くと、オートバジンから一旦距離を離し、デルタムーバーにセットされたデルタフォンを手にし口元へと持ち上げていく。

 

 

デルタ『3821……』

 

 

『Jetsliger come closer!』

 

 

デルタフォンに音声を入力すると電子音声が鳴り響き、デルタがスタジアム中央へと飛び出すと共にスタジアムの壁を突き破って大型マシンが現れたのだ。そしてデルタは大型マシン……ジェットスライガーに乗り込むと、Dファイズを挑発するように人差し指を動かした。

 

 

Dファイズ『マシン対決か?良いだろう、此処まで来たからには乗ってやる!』

 

 

『Vehicle mode!』

 

 

そう言いながらDファイズがオートバジンに駆け寄りオートバジンの胸のボタンを押すと、オートバジンは電子音声と共にバイク形態であるビークルモードへと変形していき、Dファイズはそれを確認するとオートバジンへと乗り込んでいく。

 

 

Dファイズ『此処で決めて稟の下に急ぐ……頼んだぞ?』

 

 

『◇◇◇』

 

 

Dファイズ『すまないな……行くぞッ!!』

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

Dファイズはオートバジンに呼び掛けると共に、アクセルを全開にし一気に階段を駆け降りていく。それを見たデルタは拍手するような形で両手の指をクロスさせながらクスクスと笑うと、運転席の画面を操作してミサイルを全弾展開していく。

 

 

デルタ『クスッ……これで終わりだ……バイバイ♪』

 

 

―カシュウゥ……ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォッ!!!!―

 

 

デルタは余裕の笑みを浮かべながらジェットスライガーからミサイルを全弾一斉掃射していき、ミサイルは全てDファイズの正面から一気に襲い掛かって来る。しかし……

 

 

Dファイズ『頼んだぞっ、オートバジンッ!!』

 

 

『◇◇◇!』

 

 

『Battle mode!』

 

 

Dファイズはオートバジンを走らせながら再びバトルモードに切り替え上空へと飛び上がり、オートバジンも上空に飛翔すると同時にバスターホイールを乱射させてミサイルを全て撃ち落とし、更にそのままジェットスライガーの前輪を撃ち抜き破壊していった。

 

 

デルタ『グッ?!そんな、馬鹿なっ?!』

 

 

ミサイルをすべて撃ち落とされた上にジェットスライガーの前輪まで破壊され、状況の不利を感じたデルタは慌ててマシンから降りようと動いた。その時……

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

―シュパアァッ!!―

 

 

デルタ『ッ?!!』

 

 

何処からか電子音声が響き渡ったと同時に、上空から赤い円錐状の光が撃ち出されデルタとジェットスライガーの動きを封じていったのだった。デルタが慌てて空を見上げれば、其処には空中回転してキック態勢に入り、デルタに向けて跳び蹴りを放つDファイズの姿があり、そして……

 

 

Dファイズ『ハアァァァァ……デアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

デルタ『クッ?!ウ、ウアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッッ!!!!―

 

 

Dファイズの必殺技、クリムゾンスマッシュがジェットスライガーごとデルタを貫き、デルタはφの紋章を刻まれ断末魔を上げながらジェットスライガーと共に爆発し跡形も残さず消滅していったのだった。

 

 

Dファイズ『悪く思うなよ……こっちは大事な仲間を待たせてるんだからな……』

 

 

Dファイズはデルタが消滅した場所を見据えながら静かに呟くと、ファイズからディケイド、そして変身を解いて零へと戻っていった。そしてそれと共に辺りが再び歪みに包まれていき、零は先程の場所へと戻っていったのである。

 

 

零「やっと戻って来れたか……ッ?!」

 

 

元の場所へと戻って来れて一先ず安心する零だが、その時ある魔力を感じ取って慌てて光陽工事の方角へと振り返った。

 

 

零「この魔力は……ヤバいッ!チッ、こっちかッ!」

 

 

零が感じ取ったこの魔力、これは稟が前もって伝えておいた『緊急用』……つまり、稟の身に何かあった時に放たれる魔力だった。

 

 

零「クソッ!一体何があったっ……稟っ!」

 

 

デルタとサイガと戦ってた間に何があったのか。零はさっさと戦いを終わらせられなかった自分に舌打ちしながらも、緊急用の魔力を辿って夜の街を駆け抜けていった。

 

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑥(後編)

 

 

エクト「ハアァッ!!」

 

 

ヒート『デェイッ!!』

 

 

アンジュルグ『フッ!』

 

 

―ガギンガギィンッ!!グガアァンッ!!ガギィンッ!!―

 

 

一方その頃、ヒート達三人は二体の機械兵器と戦闘を行い激闘を繰り広げていた。やはり先程稟が苦戦した事もあって若干押されつつあるが、フェンリル達が稟と楓を連れて遠くに逃げるまでなんとか持ちこたえていく。しかし……

 

 

『ピピッ……ギュイィィィィィィィッ!!』

 

 

ヒート『?!なっ―ガギイィンッ!!―キャアァ?!』

 

 

アンジュルグ『ティアナッ?!―ガギイィンッ!!―アウッ!!』

 

 

エクト「ッ?!二人共!」

 

 

二体の機械兵器は突然両腕のそれを振り回して回転し始め、ヒートとアンジュルグを斬り付け吹っ飛ばしてしまったのだ。二人はそのまま近くのドラム缶の山に激突してしまい、エクトは咄嗟に二人を守るように前に出て機械兵器達に身構えるが、その戦いを離れて見ていた鳴滝は稟達が去っていった方を見て舌打ちした。

 

 

鳴滝「逃げられたかっ……おい!明後日、ここで答えを聞くとこの世界のライダーに伝えろっ!」

 

 

ヒート『クッ!ま、待ちなさいッ!』

 

 

稟に逃げられた以上、これ以上の戦いは無駄だと判断したのか。鳴滝はヒートの静止を聞かずに機械兵器達と共に背後から現れた歪みの壁に呑まれ、何処かへと消えていってしまった。そしてそれを見たヒートとアンジュルグは変身を解き、エクトと構えを解いて二人の方へと振り返った。

 

 

エクト「行ったか……二人とも、無事ですか?」

 

 

アズサ「ん……私は大丈夫……」

 

 

ティアナ「私も何とか……痛ッ?!」

 

 

エクト「ッ!どうしました?!」

 

 

アズサと同様自分も大したことないと告げようとしたティアナだが、不意に足に襲った激痛に顔を歪め右足を抑えてしまった。それを見たエクトとアズサはティアナへと駆け寄り、ティアナの足を診ていく。

 

 

エクト「足を捻ったみたいですね……立てますか?」

 

 

ティアナ「え、えぇ、これぐらい何ともっ……痛ッ!」

 

 

エクト「無理はしない方が良い、無理をして悪化でもしたら大変だ……しかし、一人で歩けないとなると……」

 

 

アズサ「大丈夫、ティアナは私が支えて連れて帰るから、貴方は稟達を追い掛けて……」

 

 

エクト「いえ、しかし……」

 

 

ティアナ「アズサの言う通りです。難を逃れたと言っても、稟さんは重傷の傷を負ってる訳ですし……私は大丈夫ですから、早く行ってあげて下さい!」

 

 

エクト「…………」

 

 

確かにティアナも気掛かりだが、稟の安否が心配でならないのも確かだ。エクトは顔を俯かせてどうするか考え込み、二人の顔を見つめると、二人は早く稟の下へ急げと目で促している。それを見たエクトは……

 

 

エクト「―――感謝します……稟!今行きますっ!」

 

 

エクトはティアナとアズサに向けて頷き、蝙蝠になり稟達が去っていった方角へと急いで飛んでいった。そしてそれを見たティアナとアズサも互いに顔を見合わせて頷くと、アズサはティアナに肩を貸して写真館へと戻っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

零「チィ!まだ着かないのかっ?!」

 

 

その一方、零は稟の緊急用の魔力を辿り夜の街を全力疾走していた。途中で近くを歩く酔っ払いを撥ね飛ばして(悪い!!とポケットに入っていた小銭を投げ渡した)、零は漸く魔力の発信源近くにまで辿り着き辺りを見渡していく。

 

 

零「何処だっ、この辺りで間違いない筈だがっ」

 

 

必死に視線や顔を動かして稟の姿を探し続けてると、零の視界にある人物達の姿が映った。それは……

 

 

零「ッ!稟ッ!!」

 

 

そう、腕をクロスし、腕と首に刃が刺さっていた稟を運ぶフェンリル、ミカエル、グレイと放心している楓がいたのだ。零は直ぐさま稟達の下に駆け寄り、稟の状態を見て思わず息を拒んだ。

 

 

零「なんだこれはっ……稟!!無事か?!」

 

 

フェンリル「大丈夫!まだ生きてる!」

 

 

ユーストマ「おい稟殿!!どうした?!」

 

 

フォーベシイ「稟ちゃんっ?!神ちゃん、急いで治癒魔法を!!」

 

 

零が必死に稟に呼び掛ける中、零と同じように緊急用の魔力を感じ取った二人が走り寄り、稟の状態を見て慌てて治癒魔法をかけ始めた。

 

 

エクト「稟!!」

 

 

零「ッ!おい、一体どうした?!何があった?!」

 

 

その間、零はティアナ達と別れて戻って来たエクトを掴み、何があったのか経緯を聞き出し始めていたのであった。

 

 



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第十九章/エクスの世界⑦(前編)

 

 

―芙蓉家・リビング―

 

 

先程の戦闘から一時間後。フェンリル達の助けで鳴滝から逃れユーストマの治療を受けた稟だが、稟の両腕に突き刺さった『それ』を抜く為の作業は先程の場所では出来ないため、零達は先程の場所から一番近くにある芙蓉家に稟を運びユーストマによる緊急治療を行っていた。そして稟の部屋で治療が行われる中、零は……

 

 

フォーベシイ「――皆に、稟ちゃんの事を話す?」

 

 

零「……はい……」

 

 

リビングのソファーに腰を下ろすフォーベシイと向き合い、深刻な表情を浮かべていた。その理由はフォーベシイが今口にした通り、稟が今まで隠し通していた魔法やライダーの事をシア達に話そうと切り出していたからだ。

 

 

フォーベシイ「それは、楓ちゃんに稟ちゃんのことを知られたからかい?」

 

 

零「それもありますが……稟があんな状態になってしまった以上、これ以上隠し通すのは難しいと思います……例え芙蓉が今回の件を黙っててくれるとしても、稟のあの状態を知れば彼女達が下手な良いわけで納得するとは思えませんし……それに……」

 

 

フォーベシイ「それに……何かな?」

 

 

不意に言葉を詰まらせた零にフォーベシイが訝しげに聞き返すと、零は稟の部屋を一度見た後、顔を少し俯かせながら……

 

 

零「――今回の件は、俺にも責任があります……稟を助けに行くのが遅れた上に、鳴滝が俺を倒す為に稟に固執したせいで……稟にあんな怪我を負わせてしまった……」

 

 

フォーベシイ「鳴滝……私や神ちゃんに君が破壊者だと警告してきた男だね……彼は一体何者なんだい?」

 

 

零「それは俺にも分かりませんが……ただ奴は自分を預言者だと称して、俺達が行く先々の世界で俺が破壊者だと広めてる男です……奴が何故そんな事をするのかは、俺も詳しくは……」

 

 

考えてみれば、鳴滝の正体に関しては何も知らない。奴は自分を抹殺して何をしようというのか?ふと脳裏にそんな疑問が浮かび上がるが、零は一時それを頭の隅に置いて話を戻していく。

 

 

零「彼女達には俺から話をします……海道達にさっき彼女達を此処へ連れてくるように連絡しましたから、もう時期到着するでしょう……」

 

 

フォーベシイにそう言うと、零はフォーベシイの隣に止まる電子精霊の姿になったフェンリルとミカエルに目を向けた。

 

 

零「フェンリル、ミカエル、確かお前達の中に去年の稟の生活の記録映像がある筈だよな?」

 

 

フェンリル「?確かにあるけど……どうするの?」

 

 

零「シア達への説明の時に、その記録映像を使わせて欲しい。俺の話だけじゃ、アイツ等も具体的なイメージが出来なくて困るだろうし、記録を見せれば俺の話が真実だと信じてくれるかもしれない」

 

 

ミカエル「そういうことか……俺達は構わないけど、でも稟には……」

 

 

零「稟には俺が無理言って、お前達に頼んだと伝えておく。責任は俺が持つから……力を貸してくれ……」

 

 

マスターに無断で勝手な事をするのは心苦しいかもしれないが、どうか力を貸して欲しい。そう頼み込む零にフェンリルとミカエルは顔を見合わせて暫く考え込むと、二人揃って首を縦に振った。

 

 

零「すまない……お二人にもすみません……俺の問題に稟を巻き込んだせいで、こんな事に……」

 

 

フォーベシイ「いいや、君を責める気は毛頭ないよ。それにこのことは、何時かは皆にも話さなければならないって思っていたし……寧ろ、今がその時なのかもしれない……だから君も、そんなに自分を責めないでくれ」

 

 

零「……すみません……」

 

 

フォーベシイの気使いが身に染みり、曇った顔を俯かせて謝罪の言葉を口にする零。フォーベシイはそんな零を見て微笑を浮かべながらソファーから立ち上がると零の肩を軽く叩き、気分転換にお茶でも容れようとキッチンへと向かっていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―芙蓉家・稟の部屋―

 

 

稟「……………………」

 

 

あれから大輝達が芙蓉家に到着し零が楓達に稟の事を話してから大分経った後、ユーストマの治療を受けた稟は意識を手放し、気絶していた。

 

 

ユーストマ「なんとか一命は取り留めた……」

 

 

ユーストマは額に汗を滲ませながら手術着を脱ぎ、まるで死んだようにベッドに眠る稟を見て険しげに眉を寄せる。

 

 

ユーストマ「これ以上俺に出来る事はない……今はこのまま寝かせるか……」

 

 

そう言ってユーストマは稟の部屋を出ていき、零達が待つリビングに向かった。そしてリビングへと着いた途端……

 

 

菫「お父……さんは……!」

 

 

リビングに着いてすぐ、菫が駆け寄ってユーストマに食い付いた。魔王家に居てこちらに移動した他の皆も緊張の面持ちでユーストマを見つめ、ユーストマはそんな一同の顔を見つめ微笑しながら答えた。

 

 

ユーストマ「安心だ。一命はとりとめた」

 

 

シア「ッ!良かったぁっ……」

 

 

樹「まったく……心配かけさせて……」

 

 

その一言に全員が肩に張り詰めていた力が抜けて脱力したが、まだ部屋には暗い空気が漂っている。それでもユーストマは稟の無事を喜ぶ一同を見て笑みを浮かべると、零達に目を向けた。

 

 

ユーストマ「稟殿について誰か話したか?」

 

 

零「俺が話しました」

 

 

ユーストマの質問に椅子に座りながら零が答え、ユーストマは手術着を畳みながら零の向かいのソファーに腰を下ろした。

 

 

ユーストマ「どこまで話した?」

 

 

零「管理局、仮面ライダー、稟の去年の生活、今回の計画について俺が知ってる全て、因みにフェンリル達の映像も使いました」

 

 

ユーストマ「そうか……」

 

 

ネリネ「稟さまは今は?」

 

 

ユーストマ「寝てる。傷は残る可能性は高いが……星殿がなんとかしてくれるだろ」

 

 

フォーベシイ「皆、お茶とお菓子を持ってきたよ」

 

 

ユーストマが稟について零とネリネと話す中、フォーベシィがキッチンからティーセットを持って皆に用意していく。その時……

 

 

―バアァンッッ!!!!―

 

 

アテナ「稟っっ!!!!!!!!!!」

 

 

突然扉が勢い良く開かれ、アテナが鬼のような形相でリビングへと入り込んできた。突然のアテナの登場に他の面々も驚き肩をビクッと揺らすが、アテナにはそれが見えてないらしくユーストマ達に詰め寄った。

 

 

ユーストマ「星殿……」

 

 

アテナ「稟はっ?!!稟は無事なのっ?!!」

 

 

ユーストマ「あぁ、命に別状は無い。とりあえず今は寝ている」

 

 

アテナ「ッ!そう……なら……後で人呼ぶわね」

 

 

稟の無事を確認して緊張の糸が取れたのか、アテナは次第に落ち着きを取り戻しユーストマの隣に腰を下ろした。

 

 

零「アテナ、稟について話したが良かったよな?」

 

 

アテナ「まぁ、これが普通に終わったら話さなかったけど……まぁいいわ。フェンリル、例の戦闘シーン見せて」

 

 

フェンリル「わかった」

 

 

フェンリル(人型)はアテナの側に行くと、両目から光りが放たれ壁に映像が映された。其処にはエクスと機械兵器が戦う姿が映し出されており、アテナは顎に手を添えながらエクスの動きを見つめていた。

 

 

アテナ「……やっぱりね、限界に来てるか……エクト、グレイ、ちょっと来て」

 

 

エクト「?はい」

 

 

グレイ「こうスか?」

 

 

エクトとグレイは言われるがままにアテナに近づくと、アテナは両手をそれぞれの頭に当てていき、二人の頭にあるデータが流れ込んだ。

 

 

エクト「これは……」

 

 

アテナ「リリィフォームにプラスさせるデータを入れといたわ。これならアレを粉砕できる。リベンジしなさい」

 

 

楓「?!ちょっと待って下さい!リベンジするって事は稟君はまた戦いに行くって事ですよね?!」

 

 

アテナ「そうよ、それに鳴滝が言ってたんでしょ?『明後日、ここで答えを聞く』って?稟なら確実に戦闘するわ。これはなら負けないようにすれば良いって事よ」

 

 

楓「そんなっ……何で稟君が戦う必要が有るんですか?!傷つく必要が有るんですか?!零さん達はそれで生きてる人間なんですよね?!」

 

 

亜沙「楓、落ち着きなさい」

 

 

命「かえっち、落ち着けって」

 

 

楓を抑えよう両側から止めに入る亜紗と命だが、楓は止まる事なく、ソファーに座る零を睨みつけた。

 

 

楓「そもそもこうなったのも全部、零さんがこの世界に来たせいじゃないですか!!あの人の目的が零さんなら、零さんがいなくなればいいだけの話じゃないんですか?!」

 

 

零「ッ?!……それ……は……」

 

 

楓からの非難の言葉に、零は何も答えられず口を閉ざしてしまう。彼女の言う通り、自分さえいなければ稟が傷付くこともなかった。その事を問い詰められた零は両手を組んで顔を俯かせ、返す言葉も浮かばず黙り込んでしまうが……

 

 

 

 

 

 

祐輔「ねぇ、さっきっから何言ってるのさ?稟君が傷ついたのは君のせいでしょ?」

 

 

楓「えっ……?!」

 

 

今まで一言も語らなかった祐輔が動いた。

 

 

アテナ(これは……説教モードね……始めて見た……祐輔にここは任せるか……)

 

 

祐輔「稟君は皆に心配させないようにするために嘘をついて、絶対にいるようにって、大丈夫って言ってたよね?それを聞きながらなお稟君の元に勝手に行って戦闘が有るところに迂闊に近づいて、稟君の足枷となり、傷ついた原因となったのは誰?君だよね?」

 

 

楓「……………………」

 

 

祐輔「映像を見たけど稟君はライダーの力だと全力だったけど魔法も具現の力を一切使っていなかった。つまりはまだ余力があった。倒せる可能性はあった。なのにそれは消し飛んだ」

 

 

麻弓「祐輔さん、言い過ぎなのですよ!!」

 

 

祐輔「他の人は黙ってて」

 

 

ピシャリッと、普段の祐輔からは考えられない冷たい言い方に誰も口を開けなくなった。祐輔はそんな一同を他所に、言葉を続ける。

 

 

祐輔「それに君は稟君の足を引っ張っただけでなく、アレを倒せるチャンス。つまりは戦いを止めるチャンスを消した」

 

 

楓「……………………」

 

 

鋭く、冷たい言葉の数々が突き刺さり楓は涙が止まらなかった。

 

 

祐輔「確かに稟君の実力を知らなかったのも原因だけど親衛隊を圧倒した事は知ってるよね?それに……僕が一番怒ってるのは君が『稟君をまったくもって信用してない』って事なんだよ」

 

 

楓「そんなことは……祐輔「無いって言える?ならなんで外に出たの?」……ッ?!」

 

 

祐輔「稟君は大丈夫って言って出ていった。確かに稟君は凄い無茶する。だけど約束は必ず守る人だよ。なら僕達は稟君の『大丈夫』って事を信用して待つべきだった。他の人を見た?皆結構安心してた。菫ちゃんなんか笑顔で待っていたよ。それは間違いなく稟君を信じているからでしょ?」

 

 

そう言って祐輔は樹達の顔を見渡していき、また再び言葉を口にしようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

稟「――ストップ……です……祐輔……さん……」

 

 

自室で眠ってる筈の稟が、リビングにやって来た。

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑦(後編)

 

 

樹「稟っ?!」

 

 

稟「ちょっと……言い過ぎ……ですよ……祐輔……さん」

 

 

いきなり現れた稟に一同が驚く中、稟はおぼつかない足取りでリビングに行こうとするもバランスを崩し、倒れかけたが……

 

 

アテナ「稟ッ!!」

 

 

アテナが咄嗟に走り寄って稟の身体を抱き抱え、稟は自分を抱えるアテナの顔を見て苦笑を浮かべた。

 

 

稟「あり……がとな……アテ……ナ……」

 

 

アテナ「無茶しないの!!とりあえず今は寝てなさい!!」

 

 

そう言ってアテナは稟を抱き抱えて部屋へと連れていき、祐輔は二人の背中を見送ったあと楓の方へと振り返った。

 

 

祐輔「……確かに稟君を心配するのは当たり前だと思う。だけど、心配するのと信じるってのは別物だよ」

 

 

楓「……え?」

 

 

そう語り掛ける祐輔の声は優しく、先程の雰囲気はもう無くなっていた。

 

 

祐輔「誰かを守る時の稟君を止めることは絶対にできない。誰かが言って止まるくらいなら、君の事はとっくの昔に全てを教えていたよ」

 

 

楓「あっ…………」

 

 

祐輔「今回は稟君は『プリムラちゃんみたいな将来生まれる子』を守るために、だから止まらない。そんなとき僕達にできるのは待つことだけ。わかるよね?」

 

 

楓「はい……」

 

 

祐輔「ならこの話はこれでおしまい。もう夜が明けちゃったから皆は学校頑張って……「いや、今日は休みだ」……えっ?」

 

 

ユーストマ「今日は鳴滝がなにかアクションを起こしかねないからな、皆は休みだ。さっきマー坊と学園長っつう人間に言ってきたからな!」

 

 

フォーベシイ「うんうん、学園長という人間は話しが早くて助かるよ!」

 

 

ユーストマが大笑いするとフォーベシィもティーセットを片付ける手を休めて大笑いし、互いにサムズアップした。

 

 

零「それでいいのか……」

 

 

大輝「あんなに傍若無人なのは幸助さん位じゃないかなぁ……」

 

 

優矢「おい、また狙われるぞアンタ」

 

 

そんな二人の姿に写真館組はそれぞれ思った事を呟き合い、学園が休みとなったメンバーはそれぞれどうするか既に話し合っていた。

 

 

亜沙「じゃあボク達は……一眠りしたから朝御飯でも作ろうかな?フェンリルちゃんとミカエルちゃんやエクトちゃんにも作らないとね♪」

 

 

カレハ「私も手伝いますわ♪」

 

 

そう言って亜沙とカレハがキッチンに走っていくと、楓は突然糸が切れたように床に倒れてしまう。

 

 

麻弓「楓?!」

 

 

祐輔「……大丈夫、眠ってるだけだから」

 

 

慌てて駆け寄る麻弓に祐輔が楓の様子を確かめてそう告げると、麻弓は安堵の溜め息を吐き、シアは近くに眠るネリネを見つけて首をうねった。

 

 

シア「リンちゃんは寝てるし……私も寝るっス!菫ちゃんも寝よ?」

 

 

菫「うん…」

 

 

樹「なら俺様が添い寝……「お前はこっちだ」……離してくれ!!やらなければならないんだ!!」

 

 

ミカエル「させるかぁ!!」

 

 

シアと菫がネリネの横に移動して寝ようとする口径を目にし、樹は添い寝を狙ったがミカエルに阻止されて何処かへと引きずられていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―稟の部屋―

 

 

アテナ「まったく……少しは声が響くのを考えなさいよ……」

 

 

禀『気にするなアテナ』

 

 

そしてその頃、稟の部屋ではベッドに横になった稟とアテナがいた。因みに稟は何故か言葉が上手く出ないので、念話を使ってアテナと会話を交わしている。

 

 

禀『なぁ……アテナ』

 

 

アテナ「なにかしら?」

 

 

禀『強く……なりたいな……』

 

 

そう言って稟はアテナに背を向けて横になっていき、アテナは子を見守る母親のような表情を浮かべて優しげに告げる。

 

 

アテナ「なれるわよ……絶対に……」

 

 

禀『……だな……強く……なるさ……』

 

 

アテナ「その為に、今日は色々回復役引っ張ってくるから、今は寝なさいな」

 

 

禀『あぁ……』

 

 

アテナの声を背中越しに聞きながら、稟はその目から涙を流し眠りについていった。

 

 

―……ギリッ―

 

 

アテナ「………鳴滝……っ!!」

 

 

稟が眠りに付いたのを見守ったあと、アテナは歯軋りして握り拳を固めた。

 

 

アテナ「『誓約』が無ければ、すぐに消しに行くのに……っ!」

 

 

『誓約』……それはアテナが神になる前に誓った契約。その内容は『他世界のストーリーに大きな干渉を禁ずる』というモノであり、鳴滝を消せば零の世界への『大きな干渉』となる。その為にアテナは鳴滝を消せなかった。

 

 

アテナ「……とりあえず今は……休みましょう……」

 

 

胸の内から沸き上がる怒りを無理矢理押さえ込んで息を吐き、アテナはもう一度稟を見たあと自分の世界に帰って行った。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

殆どのメンバーが眠りに付いた後、芙蓉家の前では零と祐輔が明朝を迎えた青空を見上げて立つ姿があった。

 

 

零「……すまない祐輔……何か、お前に損な役をやらせてしまって……」

 

 

祐輔「別に気にしてないよ。それにこういうことは、ハッキリ言わないといけないだろうしね」

 

 

零「…………」

 

 

隣で苦笑いしながらそう告げる祐輔だが、零は無表情のままただ青空を見上げ、コツンと後頭部を壁に当てながら口を開く。

 

 

零「だけど……芙蓉の言うことには一つ……間違ってない事がある……」

 

 

祐輔「えっ……?」

 

 

その言葉に対し、祐輔は思わず空を見上げていた目を零に向けた。零のその表情はやはり無表情で、赤い瞳にも感情が宿っているようには見えない。そんな零の様子を見た祐輔はある事を思い出し、口を開いた。

 

 

祐輔「もしかして、楓ちゃんが言ってたこと気にしてる?」

 

 

零「…………」

 

 

その問い掛けに零はなにも答えようとしない。だが言わずとも分かるのか、祐輔は少し溜め息を吐いて再び喋り出した。

 

 

祐輔「あれは楓ちゃんが稟君を心配し過ぎて思わず言っちゃっただけなんだから、そんな気にする事は――」

 

 

零「だが間違ってるなんて言えないだろう。俺がこの世界に訪れさえしなければ、鳴滝が稟を襲う事なんてなかった……」

 

 

そう呟きながら、零は俯かせていた顔を僅かに上げて目の前を見つめた。

 

 

零「そうさ……最初から俺がいなければ……お前も稟も……あんな目に遭う事はなかったんだ……」

 

 

祐輔「え?今なんて――」

 

 

誰にも聞こえない声で呟く零の言葉を聞き取れず、思わず聞き返す祐輔。だが零は口を閉ざして何も言わず、顔を上げて何時もの表情に戻った。

 

 

零「いや、ちょっと愚痴をこぼしただけだ……その辺で何かあったかい珈琲でも買ってくる。朝はやっぱり冷えるしな」

 

 

微笑を浮かべながらそう告げると、零はそのまま祐輔の隣を通り過ぎて歩き出し芙蓉家を出て町へと向かっていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

早朝の木漏れ日通り。辺りにはまだ人の数が少なく、人影もチラホラとしか見えない。芙蓉家を後にした零は一人でその場所を歩き続けていたが、その顔は何処か優れなかった。

 

 

 

 

 

 

『そもそもこうなったのも全部、零さんがこの世界に来たせいじゃないですか!!あの人の目的が零さんなら、零さんがいなくなればいいだけの話じゃないんですか?!』

 

 

 

 

 

 

零「…………………」

 

 

 

 

 

 

脳裏に蘇るのは、あの時楓に言われた言葉。その言葉を思い出す度に様々な人の顔が零の頭の中を過ぎっていく。ただ自分を苦しめる為だけに蘇させられ、クアットロに操られるアリシアとリインフォース。自分の因子を手に入れる為だけにヴェクタス達にさらわれ、関係ない戦いに巻き込んでしまった佐知と祐輔の世界のヴィヴィオ。自分を倒す為だけに鳴滝に作られ、命を捨てなければならない宿命を背負う事になったアズサ。そのどれもが、自分が必ずしも関わっている……そして、今回も……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

『――どうして?何故私が望む形で生まれてきてくれなかったの……?何故そんな力を持って生まれてきたの……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザザザァ…ザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方なんて……産まなければ良かったっ……!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に頭の中に流れた、いつかと同じノイズ混じりの映像。それが過去の記憶に関する事だと理解するのは、一秒も掛からなかった。その映像を垣間見た零は足を止め、自分の手の平を見下ろしていく。

 

 

零「……そうだな……お前が一番正しいよ……芙蓉……」

 

 

自嘲するように、それでも何処か寂しげに笑い、零は再び歩みを進めて商店街へと向かっていったのだった……

 

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑧

 

光写真館―

 

 

零「――そういえば、結局アレからなのは達に連絡出来なかったな……」

 

 

芙蓉家を後にして飲み物を買いに行く途中、零は偶然光写真館の前を通り掛かり額から冷汗を流していた。その理由は昨日、チンクに伝言を伝えて以来なのは達に稟達の作戦の事で朝帰りになることを連絡し忘れてしまったからだ。

 

 

零「優矢に聞いたらアイツも連絡をし忘れてたみたいだし……取りあえず、昨日のことを話しておかないとマズイよな……」

 

 

ポリポリと後頭部を掻きながら溜め息交じりにそう呟くと、零は昨日連絡し忘れた用件をなのは達に伝えるため、写真館へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

零「出来ればまだ寝ていてくれると助かるんだが……誰かいるか?」

 

 

写真館の中へと入った零は、ソロリソロリと忍び足でリビングまでの廊下を歩き、ゆっくりと扉から顔だけ出してリビングの中を覗き込んだ。リビングにはまだ待機メンバーの姿が誰一人見られず、零はそれを確認すると小さく安堵の溜め息を吐いてリビングの中へと入っていく。しかし……

 

 

 

 

 

 

なのは「―――あ……」

 

 

 

 

 

 

零「は?……あっ……」

 

 

 

 

 

 

零がリビングへと入ると、それと同時にキッチンから珈琲を持った人物……何時もサイドテールに纏めてる髪を下ろし、パジャマ姿のなのはが現れたのだった。なのははリビングへと忍び込む零を見てピタリと停止してしまい、零もキッチンから出て来たなのはに気付いて思わず固まってしまうが、すぐに引き攣った顔で笑みを作り手を挙げた。

 

 

零「よ、よう……おはようなのは……起きてたんだな?」

 

 

なのは「………………………………………………」

 

 

出来るだけ何時もの態度でなのはにそう呼び掛ける零。だがなのははそんな零を見ても無表情のままなにも言わず、手に持った珈琲をコトッと近くのテーブルに置いて零へとゆっくり歩み寄っていき、そして……

 

 

―……ガシッ!―

 

 

零「……は?―ギギギギギギギギギギギギギギギィッ!!!―イッ?!イタッ!イダダダダダダダダダダダダダダッ?!!」

 

 

零へと近付いたと思えば、なのはは突然零の頭を脇に抱えて締め上げ、いきなり渾身のヘッドロックを決めていったのであった。

 

 

なのは「連絡もしないで、何時まで経っても帰ってこないからみんなして心配してたのに……な・に・を・や・っ・て・い・た・の・か・なあ?」

 

 

零「ま、待てなのはっ?!連絡しなかったのは悪かった!!すまない!!だからヘッドロックは勘弁して欲しい首が折れる!!」

 

 

なのは「今日という今日は許しませんっ!!泣いても謝っても許さないっ!!」

 

 

零「鬼かお前はっ?!いや待て本当に待てっ?!これ以上は本当に落ちるっ?!落ちるっ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!」

 

 

ギギギギギギィッ!!と、骨が絞まる音が露骨に響き渡る中、零は悲痛な悲鳴を上げながら必死になのはの腕をタップし続けていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

数十分後……

 

 

零「おうぅっ……お前っ、幾らなんでも本気でヤル事ないだろうにっ……」

 

 

なのは「自業自得、みんなに心配掛けたんだからそれぐらい安いものでしょ」

 

 

零「ぐぅ……」

 

 

あれからなのはにこれまであった出来事を話しヘッドロックを解いてもらった後、零はなのはと共にソファーに座って話をしていた。因みに稟の事は大輝からの連絡やティアナとアズサから話を聞いていた為、何か異常事態が起きていた事は分かってたらしい。

 

 

なのは「それで、稟君の方はどうなの?怪我の具合は……」

 

 

零「……一応今回の案件の後始末を片付けた後、両王が近くの病院に移す予定らしい。何でもアテナが平行世界から色んな連中を引っ張って、稟の治療をするとか……」

 

 

なのは「そっか……じゃあ一応大丈夫なのかな、平行世界の人達の力ならどうにか出来るかもだし」

 

 

零「それでも、完全に治療出来るかはまだ分からない。変な後遺症とか残らなければ良いが……」

 

 

なのは「うーん……私としては、逆にあの人達の力でも治らない後遺症があるかどうか微妙な気がするけどねぇυυ」

 

 

…まあ、確かに殆どの連中が出鱈目な力を持ってるしなぁと、零はなのはの言葉に同意するように頷いて首を摩り続ける。そして零は首を摩っていた手を下ろすと、コートのポケットからエクスのカードを取り出し目を細めた。

 

 

零「……だが、稟がそんな怪我を負ったのも元を辿れば、俺のせいでもある……」

 

 

なのは「……え?」

 

 

何処か思い詰める様な顔でエクスのカードを見つめる零の呟き、なのはは珈琲を口から話して疑問げに聞き返した。すると零はカードを懐に仕舞い、背景ロールに目を向けて語り出す。

 

 

零「今回の稟達の作戦……鳴滝の邪魔さえなければ、こんな事にはならずに丸く収まってたハズだった……アイツが俺を倒す為に稟の力を手に入れようとしなければ……俺がこの世界に来なければな……」

 

 

なのは「…………」

 

 

零「ホント、俺は皆に迷惑掛けてばかりだ……今までの世界でだってそうだ……世界を救う旅に出てる筈が、こんな事ばかりで……」

 

 

一時は怒りや憎しみに囚われて因子の力に負け、祐輔の世界を破壊しようとした事もあった。どれだけ自分は周りの人間に迷惑を掛ければ気が済むのか。自分に対して自己嫌悪に陥る零はソファーからゆっくりと立ち上がり、背景ロールの前に立って二つの言葉を思い出していく。

 

 

 

 

『あの人の目的が零さんなら、零さんがいなくなればいいだけの話じゃないんですか?!』

 

 

『貴方なんて……産まなければ良かったっ……!!!!!!』

 

 

 

 

零「――俺がいることで、周りの人間が傷付くなら……俺は一体どうすればいい……?」

 

 

世界を旅し、その世界で与えられた役目を果たすだけならまだ良い。だが、その度に周りの人間が自分の問題に巻き込まれて傷付いてしまうのなら、自分はどうすれば良い?それが分からない零は瞳を伏せて俯いてしまい、それを見たなのはは両手で包み込むコーヒーカップを見つめながら口を開いた。

 

 

なのは「確かに……私達がこの世界に訪れさえしなければ、稟君達に迷惑掛けることなんてなかっただろうね……」

 

 

零「…………」

 

 

なのは「でも、さ……誰かに迷惑掛けずに生きられる人間なんて、きっと何処にもいないと思うよ?」

 

 

零「……え?」

 

 

ポツリとそう呟いたなのはの言葉に、零は顔を上げて思わず振り向いた。なのははそんな零を見ず、珈琲の表面に映る自分の顔を見つめ続ける。

 

 

なのは「零君に限ったことじゃないよ……誰だって、知らない内に周りに迷惑を掛けてしまう時だってある……私やフェイトちゃん達だってそうだし」

 

 

零「…………」

 

 

なのは「確かに、自分のせいで周りの人間が傷付いてしまうのは嫌だと思う……そのせいで皆に迷惑掛けて、自分なんかいなくなってしまえばって考える事もあるかもしれない……でも、それじゃ駄目だと思う」

 

 

そう呟きながら、なのはは顔を上げて零を見つめた。

 

 

なのは「例え本当にいなくなったとしても、それで救われる人なんて誰もいない……何もしてあげられていない……逆にまた皆に迷惑掛けるだけだよ」

 

 

零「……なら、一体どうしたら……」

 

 

自分はそれが最善の道だと考えてた。自分が消えればそれで全てが解決すると。なのはにそれを否定された零が表情を曇らせながら聞き返すと、なのはは珈琲を一口して顔を上げる。

 

 

なのは「あくまで私の考えなんだけど……私だったら、傷付けてしまったその人に何か自分に出来ることがないか、考えると思う……」

 

 

零「?自分に……出来る事を……?」

 

 

なのは「うん、私だったらそうするかな……確かに、自分のせいで誰かを傷付けて、それで平気でいられる筈ないと思う……いたたまれない気持ちになるかもだけど、その人を放っていなくなるだなんて……やっぱり出来ないから……」

 

 

そう語るなのはの脳裏に、ある光景が過ぎる。それはあの忌まわしき事件―――あのロストロギア事件後、黒月零が重傷の怪我を負いベッドの上で眠る隣で、彼が無茶をしてしまったきっかけを作ってしまったことに対し、顔を俯かせて涙を流す自分の姿……

 

 

なのは「――だから、私はその人に出来る事をしようって考える。考えて考えて……周りから何を思われても、傷付けてしまった責任は自分で取る……まぁ、私の場合はそれぐらいしか考え付かないだけなんだけどねυυ」

 

 

零「…………」

 

 

なのは「責任取って、それを果たしたら、今度はまた考える……どうすれば同じ過ちを繰り返さずに済むか……どうすればもう周りを傷付けずに済むかって……その人を守る方法を、自分がその人に何をしてあげられるか……考えると思う」

 

 

零「……自分がその人に、何をしてあげられるか……」

 

 

そう言われ、零は今も眠っているであろう稟のことを思い出していく。自分は彼に何をしてやれるか、自分が今彼に出来る事はなにかと。

 

 

零(俺が稟にしてやれる事……俺が出来るのは……)

 

 

手の平を見つめると、零は瞼を伏せて暫く考え込む。カチッカチッと時計の針が小刻みに進み、徐々に時間が過ぎていく。なのははそんな零をただジッと見守り、考え込んでいた零も漸く伏せていた瞳を開き、なのはの方へと振り向いた。

 

 

零「なのは、悪いんだが、ちょっと相談に乗ってもらえないか?」

 

 

なのは「?相談?何を?」

 

 

零「稟が治療を終えた後のリハビリについてだ。アイツ、多分治療した後は軽いリハビリ程度の運動をしようなんて考えてる違いない……だから、今の内にそのメニューを考えておきたい」

 

 

なのは「リハビリ程度の運動って、良く分かるねそんなこと?υυ」

 

 

零「これでもお前と同じ、教導官をやってた身だぞ?若い奴の考えることはそれなりに分かる……といっても、もし俺が同じ立場ならそうするっていう予想なんだがな」

 

 

なのは「あー……成る程、無茶して周りに迷惑掛けるのはお手の物だもんね二人とも……私達には『無茶するな』なんて言う癖に……」

 

 

零「俺達は良いんだよ、男だから」

 

 

なのは「良いわけないよ!差別だよそんなのっ!」

 

 

抗議百パーセントの目で零を睨みながら大音量で叫ぶなのはであるが、零はまるで何処吹く風だと言うように明後日の方を向いてしまう。なのははそんな零を見て不機嫌そうに頬を膨らませ、プイッとそっぽを向くと……

 

 

零「――なぁ、なのは…」

 

 

なのは「む……何っ?」

 

 

なのはは零と顔を合わせずそっぽを向いたまま不機嫌そうに聞き返し、零はそれを見て若干苦笑いをこぼしながら口を開く。

 

 

零「お前は……俺が居て……良かったって思えるか……?」

 

 

なのは「……へ?」

 

 

何処か不安が込められてるように聞こえる問い掛け。それを聞いたなのはが零に顔を向けると、視界に映った零の横顔は何処か儚げに見える。なのははどうしてそんな顔をするのかと疑問を抱くが、逆にあまり詮索するのも気が引け、小さく笑みを浮かべながら答えを返す。

 

 

なのは「もちろん、良かったって思ってるよ?だって、零君が頑張ったから救われた人達だって沢山いるんだし……フェイトちゃん達やアズサちゃん達……勿論、私もその一人なんだから」

 

 

零「…………そう、か…………」

 

 

その言葉に、零は微かに力無く笑った。まるで何処か救われた様な、そんな笑みだとなのはは思った。

 

 

零「……んじゃ、さっさとメニューを完成させるか?久々の教導官らしい仕事だから、腕が鳴るなぁ」

 

 

なのは「え?あ、うん」

 

 

突然いつもの調子に戻った零に若干戸惑いつつも、零がテーブルの上に置いた紙に目を向けていくなのは。ちょっとだけ気になり目線を上げて零の顔を覗き込んで見るも、その顔はやはり何時もと変わらないように見えた。

 

 

 

 

 

 

因みにメニューが完成した直後に起床したフェイト達に見付かってしまい、昨夜連絡しなかった事で引っ掻きやら関節技を喰らうハメになったのはまた別の話である……

 

 



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第十九章/エクスの世界⑨

 

 

―光陽病院・廊下―

 

 

今朝の騒動から数時間後、零は現在稟が運ばれた光陽病院へと訪れ、稟の治療が終わるまで楓のトウラマを治療するためにやって来た煌一(インフィニティ)による楓の治療を傍で見守っていた。

 

 

煌一「―――うん、これでもう大丈夫な筈だ。気分はどうだ?」

 

 

楓「あ……はい、大分楽になりました……ありがとうございます」

 

 

零「むう……本当にこれで芙蓉のトラウマは治療されたのか?」

 

 

煌一「一応はな。ひとまずこれで思い詰める事はなくなるだろうし、以前よりは断然楽になれたと思うぞ」

 

 

零「ふむ……まぁ、お前がそういうなら大丈夫なんだろうな……すまんな煌一」

 

 

煌一「礼なら必要ないさ。さて、俺はこの辺で失礼させてもらうよ。芙蓉の治療をしに来ただけだしな……稟によろしく言っておいてくれ」

 

 

そう言って煌一は軽く手を振りながら自分の世界に帰るべく歩き去っていった。零はその背中を見送ると、何処か気まずそうに俯く楓に目を向ける。

 

 

零「気分はどうだ?煌一は以前より楽になると言っていたが……」

 

 

楓「は、はい……気持ちも大分和らいでますから、前よりはずっと楽に……」

 

 

零「そうか……良かったな?トラウマが解消されて」

 

 

楓「はい………」

 

 

零「…………」

 

 

楓「…………」

 

 

会話が止まり、そこに変な沈黙が流れる。話題がないわけではないが、どちらも自分から切り出せず沈黙が続く。といっても、楓自身は単に自分とは話したくないだけなのかもしれない。

 

 

零(まぁ、稟を危険な目に合わせた原因と仲よさげに話したいだなんて、普通は思わないよな……)

 

 

顔を俯かせる楓を見つめて心の内でそう思い、思わず苦笑いをこぼしてしまう零。その時……

 

 

楓「――あ、あのっ!」

 

 

零「……ん?どうした?」

 

 

今まで顔を俯かせてた楓が突然大声をあげながら顔を上げ、零を見上げてきた。それに対し零が訝しげに聞き返すと、楓はぎゅうっとスカートを握りながら……

 

 

楓「そのっ……今朝は……すみませんでした……」

 

 

零「……え?」

 

 

気まずそうに楓が口にしたのは、謝罪の言葉だった。零はそれを耳にして思わず目をパチクリとさせ、楓は手の指を絡ませながら言葉を続けた。

 

 

楓「私、自分の気持ちをぶつけてばかりで……零さんや皆さんは、稟君のために必死に頑張っていたのに……あんな言い方を……」

 

 

零「…………」

 

 

申し訳なさそうに頭を下げる楓の姿を見た零は呆気に取られたような顔を浮かべてしまう。だが、零はすぐに苦笑いしながら首を横に振って口を開いた。

 

 

零「いや、謝らないといけないのは寧ろ俺の方だ……肝心な時に何の役にも立たず、稟に怪我を負わせってしまったのは俺のミスだし……鳴滝が現れたのも俺が原因なのは間違いない……本当に、すまない」

 

 

楓「ッ!い、いえ!そんな、謝らない下さい……!」

 

 

楓に向けて深く頭を下げる零の姿を目にし、両手を振りながら慌てて頭を上げるように言う楓。それから零が楓に言われた通りに頭をあげると、再び会話が途切れて沈黙が横たわり、零は一度顔を俯ける楓を見ると楓の座るベンチに腰を下ろした。

 

 

零「―――芙蓉……お前は稟の事、凄く大事に思ってるんだよな……だから稟が危険な場所に行くのが、恐くてたまらない……ホントはアイツを信じたいけど、アイツがそのまま帰って来ないんじゃないかと、不安で仕方ないんだろう?」

 

 

楓「……はい……」

 

 

零「そうか……俺もな……お前のその気持ち、少し分かる気がするんだ……」

 

 

楓「え?」

 

 

苦笑混じりにそう呟いた零の言葉に、楓は思わず顔を上げ零の横顔を見つめた。

 

 

零「確かに稟や俺達が戦ってる場所は、決して安全な場所とは言えない……怪我だってするし、間違えば死んでしまう事だってある。そんな場所で俺達は戦ってるんだ……」

 

 

楓「…………」

 

 

零「そんな場所に、自分の大切な人が見ずから行ってしまう。それが恐くて仕方ないのは当たり前だと思う……何より、お前は大切な人がいなくなってしまう痛みを分かってる……だから余計に恐いんだよな……」

 

 

けどな、と零は一度言葉を区切り、楓に顔を向けた。

 

 

零「稟は確かに危なかっしいし、多少の無茶も何度もする……だが祐輔が言っていたように、アイツは人との約束は必ず守る奴だ……絶対に帰ってくるって約束すれば、どんな困難な状況にぶち当たっても必ず解決して、お前達の下に帰ろうとする。どうしてアイツがそこまで頑張れるか、分かるか?」

 

 

楓「……それは……」

 

 

零「……分かってる筈だよな……お前達が帰りを待っててくれるからだ。それがアイツの生への執着をつなぎ止めてくれてる。どんなに無茶しても、必ず生きて帰ろうと戦って、お前達の下に戻ってくる……アイツがお前達を残して、勝手にくたばるような人で無しに見えるか?」

 

 

楓「い、いえ……」

 

 

少なくとも、楓達が知ってる稟はそんな人間ではない。確かに今回の様に無茶をしてしまう事こそ多いが、約束は必ず守ってくれる。首を横に振る楓を見た零は視線を下げ、手の指を絡ませながら言葉を紡ぐ。

 

 

零「まぁ、きっとアイツも色々と必死なんだ……もう二度と、誰も失いたくない。だからああやって周りに止められてもそれを聞かず、戦い続けてるんだ……」

 

 

楓「……?もう……二度と……?」

 

 

その言葉が引っ掛かり、思わず聞き返す楓。だが零はそれに答える事なくベンチから立ち上がり、楓と向き合い笑みを浮かべた。

 

 

零「……確かに、ただ帰りを待つしか出来ないっていうのはもどかしいし、時々不安に駆られてしまう時もある。それでも……アイツを信じて待っててやって欲しい……自分の帰りを信じて待っててくれる人がいる……それだけで、人は強くなれるからな……」

 

 

楓「…………」

 

 

穏やかに微笑んでそう呟く零の言葉に耳を傾けると、楓は零の顔を見つめて質問した。

 

 

楓「零さんも……そうなんですか?なのはさん達が帰りを待っててくれるから、そんなに強く……」

 

 

零「いいや?俺の場合は寧ろ、アイツ等にボコボコにされるのが御免だから必死なだけだ。知ってるか?アイツ等ちょっと俺が無茶しただけで、スッゴい剣幕で怒鳴り散らしてくるんだぞ?今朝なんて、昨日連絡し忘れただけでヘッドロックやら間接技やら引っ掻きやら……そんな目に遭ってるのにもし死んでみろ?絶対アイツ等地獄の底まで追ってきて俺をボコボコにしてくるぞ」

 

 

楓「い、いや、それは流石に言い過ぎじゃ……」

 

 

なのは達に聞かれたら絶対フルボッコされそうな事を冗談混じりに告げる零に、楓も思わず苦笑いを浮かべてしまう。そんな楓を見た零は肩を竦めながら笑みを浮かべた。

 

 

零「だがまあ、アイツ等が待っててくれるから生きたいって思うのは本当だ……それはきっと、稟も同じに違いない。だからお前も、アイツを最後まで信じてやって欲しい……これはお前達にしか出来ない、お前達の役目だと思うから……」

 

 

楓「……私達の、役目……」

 

 

その言葉を聞き、楓は顔を俯かせて口を閉ざした。その横顔を見た零は右腕に付けたスパイダーウォッチで時間を確認し、そろそろ稟の病室に向かおうとベンチから立ち上がり廊下を歩き出した。その時……

 

 

楓「……あの!」

 

 

零「ん……?」

 

 

突然背後から楓に大声で呼び止められ、零は足を止め後ろへと振り返った。其処にはベンチから立ち上がった楓の姿があり、楓は一瞬視線を下げてしまうも、顔を上げて零を見据え……

 

 

楓「――稟君を……宜しくお願いします……!」

 

 

深く、思い切り頭を下げたのである。それを見た零は一瞬キョトンとしてしまうが、すぐに小さく笑みを浮かべながら深く頷き返す。

 

 

零「ああ……迷惑掛けた分はキッチリ返す……任せておけ」

 

 

力強い口調でそう返すと、零は楓に背を向けて再び歩き出し、稟の病室へと向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光陽病院・手術室―

 

 

そしてその頃、芙蓉家から移動した稟は後始末(例の35人)を終えたユーストマとフォーベシィの権力(と『邪魔をしたら潰す』というアテナの殺気)で手術室に移動された稟はシンから診断され……

 

 

シン「両腕の骨が貫通に……声帯が切られて、疲労が溜まりすぎてる……死ぬ気かお前は?」

 

 

とあきられていた。

 

 

シン「とりあえずアテナが色々呼んだみたいだ」

 

 

そう言ってシンが手術室の入り口に目をやると、入り口が開きエル、ジェノス、クライシス、ノア、カトルが入って来た。

 

 

稟「おい……おい……結構……いるな……」

 

 

エル「まずは声帯を治しましょう」

 

 

エルがそう言って稟の喉に手を伸ばすと、エルの力で稟の喉が少し光った。

 

 

稟「おぉ……結構楽だ……」

 

 

エル「やはり傷が深いですね……」

 

 

ジェノス「一人だけじゃなくて皆がいるだろ。大丈夫さ」

 

 

エルにそう言うと、ジェノスは何処からか取り出した自分のデバイスにマギのメモリを差し込んで稟に回復魔法を使った。

 

 

稟「あぁ……気持ちが良いな」

 

 

カトル「次は腕だな、時間がかかるから全身じゃなくて局部麻酔だ。少し痛いと思うが気にするな」

 

 

稟「了解」

 

 

カトル「とりあえずノアさんから貰った特性骨を埋め込んでだなぁ……」

 

 

それから稟の手術が始まり、カトルによる手術はすぐに終わったが……

 

 

稟「まだ動きにくいな……」

 

 

カトル「当たり前だ、今終わったばかりだろ」

 

 

ノア「とりあえず後は秘薬で……」

 

 

ノアは何処からか取り出した薬の瓶を開き、稟の腕に薬を塗っていく。

 

 

ノア「クライシス、今よ!!」

 

 

クライシス「そぉれ!!」

 

 

クライシスは急に矛に成るとノアがそれを取り、稟の腕に突くと矛から光が患部を覆った。

 

 

稟「おぉ……すぐに直った!!」

 

 

光が治まると共に稟の両腕が動くようになり、稟は腕を軽く動かして腕の調子を確かめていく。するとその時、手術室の扉が開かれ零が入ってきた。

 

 

零「稟、終ったか。今煌一が来てな、芙蓉のトラウマを治したそうだ」

 

 

稟「わかりました……って零さん、その顔の傷はいったい?」

 

 

腕の調子を確かめていた稟は零の顔にある引っ掻き傷に気付き、傷の事を問われた零は頬を掻きながら苦笑を浮かべた。

 

 

零「いや、さっき写真館に帰ったらなのは達に朝帰りについて叱られてな。連絡するのをすっかり忘れてたんだ」

 

 

稟「そうですか……楓は大丈夫ですか?」

 

 

零「とりあえず思い詰めすぎる事は無くなったみたいだ。煌一は話したらすぐに帰っていった」

 

 

稟「そうですか……零さん、後でリハビリ程度の運動に付き合ってくれませんか?」

 

 

零「そう言うと思ったよ、いいぜ。場所はどうする?」

 

 

稟「アテナに言って下さい、俺の家の地下に有りますから」

 

 

零「了解。じゃあ後でな」

 

 

零はそう言って稟に軽く手を振りながらアテナを探しに手術室後にし、稟もそれを見送るとそこから腕を上下に動かしていくが……

 

 

ノア「ああそうそう……後少ししたら私の友人が来るから」

 

 

稟「?友人?」

 

 

ノア「四葉楓って言って、いい人よ♪時間軸がずれてるからまだかかるけど……」

 

 

稟「わかりました。待ちますよ」

 

 

稟はノアにそう言うとシンの手ほどきを受けリハビリを始めていき、病室を出るときに皆も自分の世界へと帰っていったのだった。

 

 



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第十九章/エクスの世界⑩

 

 

―土見家・地下―

 

 

あれから一時間後、アテナから土見家の場所を教えてもらった零は土見家の地下に訪れ、稟が来る前に軽い準備運動を行っていた。

 

 

零「ふむ……それにしても、思ったより結構広いものだな」

 

 

準備運動を終えて軽く一息吐き、地下を見渡していく零。すると零は懐から二枚の紙……今朝自分となのはが作ったリハビリ工程と、先程アテナから渡されたリハビリ工程が記された紙を交互に見た。

 

 

零「先ずはアテナの奴から始めて、その後に俺達の奴を始めるとするか……それにしても、コイツをやるのも久々だなぁ」

 

 

自分達が用意したメニューを目にしながらそんなことを呟き、何処か懐かしげに微笑む零。とその時、漸く稟が地下へと到着し零の下に歩み寄っていく。

 

 

稟「お待たせしました」

 

 

零「いや、丁度良い、早速始めるか」

 

 

稟「はい」

 

 

零は何処からか取り出した指出しグローブを稟に投げ渡すと、自身もグローブをはめ2m離れた場所に立っていく。そして二人は脇を締めて互いを見据えると……

 

 

―……シュッ!―

 

 

一瞬で差が詰まり、スパーリングが始まった。数回拳を交じわせた後、稟は零が振り抜いた右ストレートを避けると左でボディを狙うが……

 

 

零「甘いっ!」

 

 

左手で咄嗟にガードした零は後方へと跳び、稟から距離を取った。

 

 

零「どうだ?調子は?」

 

 

稟「手首が少し固まってますね。とりあえず他は問題ありません」

 

 

零「そうか……ハァ!!」

 

 

稟「タァッ!!」

 

 

軽く会話をした後、また差を詰めて凄まじい拳の応酬が始まった。

 

 

零「そこっ!!」

 

 

稟「なっ?!カハッ……!!」

 

 

稟の一瞬の隙を突いて零のボディーブローが稟の左脇腹に突き刺さり、稟は打撃を受けた左脇を抑えながら膝を着き、何度か咳込んだ。

 

 

零「このぐらいだな、後はまた回復したらやるか」

 

 

稟「はい、具現【インバディ】、ヒール」

 

 

稟は具現【インバディ】を使って自身の体力を回復させると、ゆっくりと立ち上がった。その様子を横目に見た零はグローブを外すと……

 

 

零「次はコイツな」

 

 

零はグローブを適当な場所に投げると、今度は竹刀を取り出し稟へと手渡した。

 

稟「ん……竹刀にしては結構重いですね」

 

 

零「まぁライトブリンガーと同じぐらいだからな」

 

 

稟「成る程……」

 

 

竹刀を軽く振るって調子を確かめると、稟は零から離れて竹刀を正眼で構え、零も自分の分の竹刀を構え身構えていく。

 

 

稟「じゃあ……行きますッ!!」

 

 

バッ!と、稟は正眼で構えたまま地面を力強く蹴って正面から零に切りかかった。

 

 

零「まだまだぁ!!」

 

 

稟「これで……どうだ!!」

 

 

―シュッ、パシィッ!―

 

 

零「甘い!!」

 

 

稟「テヤァッ!!」

 

 

零「脇が甘い!!」

 

 

一度距離を離しては再び懐へと詰め、竹刀を上段と中段から振りかざす稟。零も次々襲い掛かるそれを竹刀で正確に受け止めて押し返し、隙あらば竹刀を振るいがら空きとなったボディを突いていく。そして何度もぶつかり合い、アテナ製作のリハビリ工程は完了したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

零「よし……んじゃ、次はこれやってみるか」

 

 

アテナ製作のリハビリ工程を終えた後、次に零が稟に手渡したのは何故かバドミントンラケットであった。

 

 

稟「ラケット?これでなにするんですか?」

 

 

零「簡単だ、ただこのシャトルを打ち合えばいい。普通のバドミントンだ」

 

 

稟「はぁ……」

 

 

零「呆けてる暇はないぞ?そらっ!」

 

 

ラケットを眺める稟目掛けラケットでシャトルを打つ零。稟はそれを見て咄嗟にシャトルを追い、ラケットでシャトルを打ち返そうとするが……

 

 

―ズンッ―

 

 

稟「?!お、重っ?!」

 

 

零に向けて軽く打ち返そうとした稟だが、ラケットで受け止めたシャトルは稟が想像していたのより遥かに重かったのだ。一瞬油断してバランスを崩しそうになるが、稟はなんとか態勢を保って零にシャトルを打ち返し、零は打ち返されたシャトルを片手で受け止めた。

 

 

零「驚いたか?コイツは俺がリハビリに使ってた特殊品でな、シャトルを打ち合う際に魔力を少しずつ注ぎ込み、シャトルを重くしながら互いに打ち合うんだ。コレは普通の訓練でも使えて、肉体と魔力が同時に鍛えられるんだよ。因みにラケットの方も特殊品だ」

 

 

稟「成る程……」

 

 

零「コレで少しずつ、力の加減を慣らしていくんだ。ほら、次行くぞっ!」

 

 

稟「はいっ!」

 

 

稟は再び打ち込まれたシャトルをラケットで打ち返し、零もシャトルに少しずつ魔力を注いで重くしながら稟へと打ち返した。そんな同じ動作を何十分も繰り返し、気が付いた時にはシャトルはボウリング球以上の重量になっていたとか……

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

それから時間が経ち、リハビリが一通り終わった時には既に昼から始まり、夕日が沈みかけていた。

 

 

稟「ありがとうございました。零さん」

 

 

零「なに、こっちもいい運動になった」

 

 

稟「そうですか……」

 

 

ちなみに稟は芙蓉家に戻る途中であり、零はユーストマ達との依頼の再確認と稟を一人にすると鳴滝が何を仕出かすかわからないからと護衛も兼ねて同じ帰路を歩いていた。零は稟の隣を歩きながら、稟の横顔を見つめて口を開いた。

 

 

零「なぁ稟、鳴滝とやるのは明日の夜だよな?」

 

 

稟「えぇ、あの機械兵器と決着つけないといけませんから……」

 

 

力強くそう告げる稟の顔には、迷いが一切ない。その顔から稟の覚悟を感じ取った零は「そうか……」と相槌を打ち、茜色に染まる空を見上げ……

 

 

零「……負けるなよ?」

 

 

稟「……はい!」

 

 

零のその言葉に対し、笑みを向けて力強く頷き返す稟。零もそんな稟を見て微笑を浮かべると、そのまま家に戻ろうと歩みを進めていく。

 

 

零「――あっ、そういえば明日お前の世界のはやて達がやって来るよな?」

 

 

稟「え?……えぇ、まぁ……」

 

 

明日稟の世界のはやて達がこの町に来る。アテナから聞いた話しをふと思い出し足を止めて問い掛けると、稟も足を止めながらすぐに表情が固くなった。そんな稟の様子からどんな心境なのか直ぐに悟り、零も深い溜め息を吐いた。

 

 

零「何故かはわからんが、俺達は結構攻撃喰らうからな……」

 

 

稟「何ででしょうね……」

 

 

零「あぁ……俺もな?この間洗濯物を取り込むついでになのは達の下着も取り込もうとしたら、アイツ等に殴られたんだよ……何故だろうな?」

 

 

稟「うーん……あっ!もしかしたら、その下着がまだ全部乾いていなかったからとか?」

 

 

零「っ!そういえば、取り込んだ下着がちゃんと乾いていたかしっかり確認してなかったな……思い出してみれば、まだ少し濡れてた部分があったような……」

 

 

稟「それですよ!だからなのはさん達が怒ったんですよ!」

 

 

零「そうなのか?」

 

 

稟「そうですよ!」

 

 

そうじゃねえよ。

 

 

稟「俺もはやてさん達から結構攻撃を喰らう事が多いんです……前なんかこんな事が――」

 

 

零「ううむ……それはアレじゃないか?それをああしていれば――」

 

 

稟「あ、そうか!それならあの時のアレをこうしてれば――」

 

 

零「おぉ、きっとそうだ!それさえ気をつけていれば次はきっと大丈夫に違いない!」

 

 

稟「ですよね!」

 

 

と、芙蓉家までの帰路を歩きながらどうすれば女性陣にOHANASHIされずに済むか(間違った)解決策を互いに意見しながら考えていく二人であった……

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑪

 

 

―光写真館・庭―

 

 

―シュッ!ドンッ!パシッ!―

 

 

優矢「ダァッ!ハッ!」

 

 

零「もっと脇を締めろっ!そんな大振りじゃ攻撃の後が隙だらけだぞっ!」

 

 

優矢「クッ!」

 

 

翌日の昼下がり。稟達が学園に行っている頃、写真館の庭ではボクシンググローブをはめた優矢が零の持つミットにパンチを打ち込みミット打ちを行っていた。何故二人が突然こんな事を始めているのかと言うと、その理由は二つ。優矢がリハビリに励む稟を見て感化され零に特訓を申し出た事。そしてもう一つの理由はある少年……白金薫のダグバと対等に戦う為、かつてセイガの世界で暴走したときに変身したアメイジングマイティフォームと、以前薫が見せた『究極の力』を修得するためであった。

 

 

零「――よし……そろそろこの辺で一息入れるか」

 

 

優矢「ハァ…ハァ……も、もう終わりなのかっ?俺はまだ……」

 

 

零「阿呆、トレーニング始めてからどれだけ経ってると思ってる?朝っぱらからぶっ通しでやってんだぞ?これ以上続けたらお前の体が持たんだろうが」

 

 

だからここら辺で休憩だと、零は地面に腰を下ろして両手にはめたミットを傍らに置き一息吐いた。それを見た優矢は若干不満そうな表情をするも、やはり体力的にキツいのか肩で息をしながら地面に座り、そのまま大の字に寝転がっていった。

 

 

優矢「あーークソッ、全然駄目だぁ……これじゃまだ薫の足元にも届かねえ……今すぐアイツみたく強くなる方法とかねえかなぁ」

 

 

零「そんな方法があるなら誰だって苦労せんだろう?強くなるにはそれだけの時間と努力を重ねて、地道に鍛えていくしかない……スバル達だって、そうやって強くなっていったんだ」

 

 

優矢「うぅー……そうだけどさぁ……」

 

 

零「女子供が彼処まで血の滲むような努力をしたんだ。お前もせいぜい自分を磨けよ、高校生男子?」

 

 

ニヤッと笑いながら持参していたスポーツドリンクを軽く揺らし、ドリンクを口にしていく零。優矢はそれを言われて返す言葉が浮かばず、「ちぇ……」と拗ねながら上体を起こし自分用のドリンクを口にして零を見た。

 

 

優矢「今夜なんだよな、鳴滝さんとの決着……お前も行くんだろ?」

 

 

零「……まあな……それが今俺がアイツにしてやれることだと思うし……何より、鳴滝が関係しているのに俺が行かないわけにはいかないだろう?」

 

 

優矢「まあ、そうだけどさ……何か俺に出来る事とかないのか?一緒に戦うことなら俺だって……」

 

 

零「気持ちだけで十分だ。それに、お前には海道の奴と一緒に芙蓉達を守るって役目があるだろう?お前はそっちに専念しろ」

 

 

優矢「うー……」

 

 

零が言う事ももっともだが、何処か不満そうに唸り声を漏らす優矢。零はそんな優矢を横目にドリンクを口にしていき、優矢もちゃんと地面に座ってドリンクを一口飲んだ後……

 

 

優矢「――今度はちゃんと……二人とも無事に帰って来いよ?」

 

 

零「……あぁ……勿論だ」

 

 

真剣な顔で呟く優矢にそう返し、瞳を伏せて頷く零。そして二人は暫く休憩したあと、再び特訓を再開していったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―――そしてその日の夜、魔王家……

 

 

稟「――時間か……じゃあ皆、行ってくる」

 

 

零「海道、留守頼むぞ」

 

 

大輝「わかってる。お宝も無いこの世界の住民だが……常連候補は大切にしないとね」

 

 

零「……まぁそうだな」

 

 

というかコイツ、もうお宝か屋台かどっちが大事なのか……いや、多分両方か。軽い口調で話す大輝に零はそう思いながら若干呆れた様子で軽く溜め息を吐き、稟と共に玄関から出て魔王家を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

それから数十分後。二人が一昨日稟達と機械兵器達が戦ったのと同じ場所に辿り着くと、其処には既に二体の機械兵器を目の前に展開して佇む鳴滝の姿があった。零と稟が機械兵器達から十メートルほど離れた場所で足を止め鳴滝を見据えると、鳴滝は稟に向けて問い掛けた。

 

 

鳴滝「聞かせてもらおうか、土見稟……返答は?」

 

 

稟「…………」

 

 

落ち着いた口調で稟にそう問うと、稟は一度零の顔を見た後、力強い目で鳴滝を見据えながら答えた。

 

 

稟「NOだ。気持ちは変わらない」

 

 

鳴滝「チッ……ならば……今ここでディケイドを抹殺しろっ!!」

 

 

『ピピッ……ギュイィィィィィィッ』

 

 

零は倒さないと、そう告げた稟の返答を聞いた鳴滝が機械兵器達に高らかに命じると、機械兵器達は二人をターゲットと認識してぎこちない動作で戦闘態勢へと入っていき、鳴滝は背後から発生した歪みに呑まれて何処かへと消えていった。そして零は二体の機械兵器を睨みつけながらドライバーを取り出して腰に巻き、ディケイドのカードを取り出した。

 

 

零「稟、行くぞ!」

 

 

稟「はい!エクト!グレイ!」

 

 

エクト「はい、いきましょう、カプッ」

 

 

『変身ッ!!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

グレイ「行くっスよ!変っ身!!」

 

 

零と稟は高らかに叫ぶと共にそれぞれ変身動作を行いディケイドとエクス・リリィフォームに変身していき、変身を完了させたディケイドは更にライドブッカーから一枚カードを取り出した。

 

 

ディケイド『此処はコイツで行ってみるか、変身!』

 

 

『KAMENRIDE:HI-PELION!』

 

 

カードをバックルへと装填すると電子音声が鳴り響き、灼熱色の粒子が舞い踊りながらディケイドの姿が徐々に変化していく。そして周囲に舞っていた粒子が少しずつ晴れて消えていくと、ディケイドは全く別の姿……以前白き騎士の世界で出会った日乃森シオンが変身するハイペリオンに姿を変えると、ライドブッカーをSモードを展開しエクスと共に機械兵器達を迎え撃った。

 

 

エクスL『ハァッ!!』

 

 

Dハイペリオン『ダァッ!!』

 

 

―ギンギンギンギンッ!!ガギイィンッ!!―

 

 

それぞれ機械兵器達とぶつかり合い、武器を振り抜くDハイペリオンとエクスの戦いは均衡していた。二日前の戦いと同じく、二体の機械兵器は両腕を振り回し、Dハイペリオン達も負けじと反撃はしていたが同じように防がれていた。

 

 

エクスL『ラチが開かない……フェンリル、ミカエル!魔力の補充は?!』

 

 

フェンリル「大体60%!!マックスまでまだかかるっ!!」

 

 

ミカエル「こう動きながらだとキツいものがある!!」

 

 

エクスは機械兵器達と戦い始めてから魔力を補充していたが、あまり魔力を使わないのと激しい動きで効率が悪かった。それでも機械兵器の重い一撃をなんとか受け流して懐へと素早く潜り込み、そして……

 

 

エクスL『ハァッ!!』

 

 

―ズシャアァッ!!―

 

 

『?!!』

 

 

エクスの振るったライトブリンガーが機械兵器の左腕の関節部分を切り落としていったのだった。

 

 

エクスL『やった!』

 

 

Dハイペリオン『いや……稟!まだだ!』

 

 

エクスが喜んだのもつかの間、Dハイペリオンが叫ぶと共に斬り落とされたその腕は突然独りでに宙に浮き、そのまま直ぐに機械兵器の胴体にくっつき元の位置に戻ってしまった。

 

 

エクスL『はぁっ?!』

 

 

Dハイペリオン『磁力だよ。アイツの腕、強力な磁力で関節を動かしてる……殺るには胴体をやらんとな……』

 

 

Dハイペリオンが冷静に分析すると二人は一旦距離を取るように後方へと飛び退き、機械兵器達は深追いせずに体制を整えようと動きを止めた。

 

 

エクスL『今だ!!』

 

 

エクスはその隙を見逃さず直ぐさまグレイの首を掴み、スロットを回した。

 

 

グレイ「エキストラウェイクアッ~プ!!」

 

 

エクスL『シャイニング……ブレイカーッ!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

グレイの高らかな掛け声と共に黄金に輝くライトブリンガーを振り抜き、金色の閃光がけたたましい轟音を響かせて一体の機械兵器へと直撃していった。しかし……

 

 

Dハイペリオン『やっぱり駄目か……』

 

 

やはり前回と同様、機械兵器は見た目では微かに傷がついた程度でダメージを負ってる様子はなかった。

 

 

エクスL『いや、これでいいんです……爆ッ!!』

 

 

―シュウゥ……ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

『ッ?!!』

 

 

エクスがそう叫ぶと共に、突如機械兵器の中心で謎の爆発が発生していったのであった。突然の事態に機械兵器も困惑したようにふらついているが、今のは先程エクスが放ったシャイニングブレイカーの時に魔力を上乗せし、機械兵器の近くに溜まった自分の魔力を爆発させた攻撃だったのである。

 

 

Dハイペリオン『今だ!』

 

 

エクスが発生させた爆発でよろめく機械兵器を見たDハイペリオンはライドブッカーからカードを一枚取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:H・H・H・HI-PELION!』

 

 

Dハイペリオン『ぐっ……リストアップ!選択、タキオン粒子収束波動砲!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に襲い掛かった激しい頭痛に一瞬ふらつきながらも、Dハイペリオンは武装を選択して顕現し装備していく。そして装備された波動砲の銃口を機械兵器に狙い定め、そして……

 

 

Dハイペリオン『コイツでっ……吹っ飛べッ!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーオォンッ!!!!―

 

 

トリガーを引くと同時に、波動砲の銃口から凄まじいエネルギー量の砲撃が撃ち出され、そのまま機械兵器達に向かって直撃し大爆発を起こしていった。そしてそれを確認したDハイペリオンはディケイドに戻ってその場に膝を付いてしまい、エクスは慌ててディケイドに駆け寄った。

 

 

エクスL『ちょ、大丈夫ですか零さん?!』

 

 

ディケイド『っ……このくらい問題ない……と言いたいところだが……くそっ、やっぱり慣れんなこれっ』

 

 

ディケイドは思わず愚痴りをこぼしながら、エクスの手を借りて立ち上がり爆煙が漂う目の前の光景を見つめた。

 

 

エクスL『これは……結構やりましたよね……』

 

 

ディケイド『むしろ一体位消えて貰わんと困る……』

 

 

そんな会話を交わす二人は既に息絶え絶えで、体力的にもキツく肩で呼吸を繰り返していた。そして二人が爆煙を睨みつけていると、煙が風に吹かれて徐々に晴れていき、其処には……

 

 

エクスL『……なっ?!』

 

 

ディケイド『おいおい……それは違うぞ。確かに一体消えたが……』

 

 

爆煙が晴れた先にあったのは、二人も予想だにしていなかった光景……なんと、二体の機械兵器が合体して一体の巨大な機械兵器へと姿を変えていたのである。

 

 

エクスL『というより……明らかに見た目カ○リキーだろ?!鳴滝はポ○モン好きか?!』

 

 

ディケイド『ツッコミどころ満載だが、そうも言ってられんみたいだ……来るぞ!!』

 

 

巨大機械兵器……カイ〇キー型機械兵器の姿に思わずツッコむ稟に叫びながら、けだるそうにライドブッカーを構え直すディケイド。それと同時にカイ〇キー型機械兵器が勢いよく二人へと飛び出し、二人もそれを迎撃すべく動き出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―グシャアァッ!!―

 

 

 

 

 

 

『……へっ?』

 

 

 

 

 

 

カイ〇キー型機械兵器が腕を振りかぶって二人に襲い掛かろうとした直後、突如上空から一人の男が落下しカイリ〇ー型機械兵器を踏み潰していったのだ。それを見たディケイドとエクスはいきなりの展開に思わず間抜けな声を漏らし、カイ〇キー型機械兵器を踏み潰した男は自分の足元を見下ろし首を傾げた。

 

 

「ん?なんか踏んだ?……まぁいい。おい、土見禀!ノアから連絡が有ったかもしれんが四葉楓だ!いたら返事をしろ!」

 

 

カイ〇キー型機械兵器を踏み潰した男……"四葉楓"がそう叫びながらカイ〇キー型機械兵器の上から下りると、エクスが一歩前に出て四葉に名乗り出た。

 

 

エクスL『俺が土見禀です。四葉楓さんですよね?』

 

 

四葉「あぁ、ノアから頼まれてな、これを渡しにきた」

 

 

四葉はそう言うとエクスに近付き、ポケットから一つのフエッスルを取り出してエクスに手渡した。

 

 

エクスL『このフエッスルは……』

 

 

四葉「『オーディーン』のフエッスル、それとこれだ」

 

 

四葉はまたポケットからリリィフォームの外套の留め金より一回り大きい留め金を取り出し、エクスに渡していく。

 

 

エクスL『これは?』

 

 

四葉「新しいフォームのキーだ、じゃあ俺は帰る。色々忙しいし、アレはお前達の力で倒せ」

 

 

四葉はギギギッと音を立てながら起き上がるカイ〇キー型機械兵器を顎で指しながらそういうと、そのまま転移して何処かへと消えていった。

 

 

エクスL『よし……いくぞ!!』

 

 

エクスはカイ〇キー型機械兵器と向き合いながら四葉から受け取った留め金をはめ、自分のマントの留め金のスイッチを押すとエクスの右側に空間の穴が空き、そこに右腕を突き刺して細い鎖で繋がったエクトとグレイの鎧を引き抜いた。

 

 

エクスL『これか……よし!』

 

 

稟はそれぞれをエクトとグレイに装着した。

 

 

『SET!Form Chalice!!』

 

 

エクトとグレイが同時に叫ぶと、繋がった鎖から目が眩むほどの眩しい光が発生しエクスを包み込んでいった。

 

 

ディケイド『なんだっ!?』

 

 

ディケイドはエクスを包み込む光のあまりの眩しさに目を手で覆い、驚愕の声を上げた。そして光が徐々に薄れて消えていくと、其処には……

 

 

 

 

 

 

『―――これが……新しいフォーム……』

 

 

 

 

 

 

光りが完全に消え去ると、其処には全身に白く淡い光に包まれたエクスが自分の両手を見下ろす姿があり、更にはライトブリンガーとフェンリル、ミカエルにも同じような光が覆っていた。それを見たディケイドは一瞬息を拒むもすぐに事態を理解し、エクスに近付いて語り掛けた。

 

 

ディケイド『名前はなんだ?名乗ってやれよ、アイツにさ』

 

 

そう言ってディケイドが指差した先には、先程の光で警戒するカイリ〇ー型機械兵器の姿があった。それを見たエクスはディケイドに向けて頷き返し、カイリ〇ー型機械兵器と向き合った。

 

 

『そうですね……俺は……仮面ライダーエクス、リリィフォーム・カリス!!!騎士王の名の元に、貴様を断罪するッ!!!』

 

 

新たな姿に変わったエクス……『仮面ライダーエクス、リリィフォーム・カリス』が凄まじい気迫と共に高らかに叫ぶと、カイ〇キー型機械兵器もその気迫に押されるように後退りしていくのであった。

 

 



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第十九章/エクスの世界⑫

 

 

四葉から託された留め金の力により、リリィフォーム・カリスへ上段変身を果たしたエクス。エクスは早速四葉に貰ったフエッスルを取り出し、ベルトの止まり木に止まるエクトに噛ませていった。

 

 

エクト「オーディーンバイトッ!」

 

 

エクトの掛け声と共にメロディーが響き渡り、それと同時にフェンリルが槍に、ミカエルとライトブリンガーが融合して一本の剣へと変わっていき、更にエクスのボディが薄紫に変化していった。

 

 

エクスL・C『身体が軽い……それに頭の中に戦い方が流れてくる……これなら!』

 

 

ディケイド『よし…行くぞ稟ッ!』

 

 

エクスL・C『はいッ!』

 

 

ディケイドとエクスは互いに呼び掛け合ないがら警戒して身構える巨大機械兵器に向かって突っ込んでいく。巨大機械兵器は向かって来る二人に両腕を飛ばして叩き潰そうとするも、二人は咄嗟に左右に別れてそれを回避し距離を取り、ディケイドはライドブッカーをGモードに切り替えながらバックルにカードをセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディケイド『ハッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガンッ!!―

 

 

ディケイドはライドブッカーの狙いを巨大機械兵器に定めて銃弾を乱射していくが、巨大機械兵器には大したダメージが与えられず足を止めた程度だった。

 

 

エクスL・C『じゃあこれで行く!フェンリル、カートリッジロードッ!』

 

 

―ガシャンッ!―

 

 

エクスは片手に持つ槍に姿を変えたフェンリル……グングニルからカートリッジを排出すると、グングニルを構え投擲の構えを取った。そして……

 

 

エクスL・C『くらえっ!!『神槍グングニル【絶対必中の槍】』ッ!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッ!!!!―

 

 

『?!!』

 

 

エクスの投げ放ったグングニルはそのまま閃光と化し猛スピードでカイ〇キー型機械兵器へと向かっていき、それを見た〇イリキー型機械兵器は咄嗟にその場から飛び退き槍を避けたように見えたが……

 

 

エクスL・C『残念だったな……グングニルからは逃げられない!!』

 

 

―ギュイィッ!グサアァッ!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

なんとグングニルはカイ〇キー型機械兵器を追うように突然方向を変えて曲がり、完全に油断し切っていたカイ〇キー型機械兵器のボディ目掛けて突っ込み深く突き刺さっていったのだった。

 

 

ディケイド『すげぇな……まるで翔の槍みたいだ』

 

 

グングニルの性能にディケイドも関心の声を漏らしていると、いつの間にかカイ〇キー型機械兵器に突き刺さってた筈のグングニルがエクスの手に戻っていた。更にカイ〇キー型機械兵器はダメージのせいか、突然二体に戻ってディケイドとエクスに身構えていく。

 

 

エクスL・C『二体に別れたか…零さん、そっちお願いしますっ!』

 

 

ディケイド『あぁ!時間稼ぎは任せろ!』

 

 

状況が優勢になってるとは言え、あの機械兵器を一人で倒すのは難しい。此処はエクスがもう片方を倒すまで時間を稼ごうと、ディケイドはエクスと別れてもう一体の機械兵器とぶつかり合っていった。

 

 

―ガギイィンッ!ギンッ!グガアァンッ!!―

 

 

ディケイド『チィ!流石に稟が苦戦しただけのことはあるかっ!』

 

 

ソードモードに切り替えたライドブッカーで機械兵器の両腕の刃と打ち合うが、純粋な力勝負では向こうの方が数段上で若干押されつつある。このままでは追い込まれると察したディケイドは機械兵器から距離を離し態勢を立て直そうとするが、機械兵器はそれを逃すまいと突然両腕を広げて胸を突き出し……

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ディケイド『?!何?!』

 

 

機械兵器は突き出した胸に大量のエネルギーを集約させ、其処からディケイド目掛けて巨大な光線を撃ち出していったのである。ディケイドはそれを見て驚愕しながらもすぐに横に跳んで光線をやり過ごし、かわされた光線はそのままディケイドの背後で爆発し爆煙を発生させていった。

 

 

ディケイド『ッ!今の攻撃…はかいこうせん?鳴滝の奴、カイ〇キーどころか技まで再現しやがったのかっ?!』

 

 

機械兵器が放った光線……はかいこうせんが着弾した場所を見て驚愕をあらわにするディケイドだが、機械兵器はその隙を見逃さず、今度は自身の周りに漆黒の光球を生成しディケイドに放っていった。

 

 

ディケイド『って、今度はシャドーボール?!しかもはかいこうせんを撃った後の反動も無しか?!』

 

 

再現するなら其処もちゃんと再現しろよッ!!とディケイドは思わず愚痴をこぼしながらも機械兵器が撃ち出した無数のシャドーボールをライドブッカーで受け流しながら避けていく。機械兵器はディケイドがシャドーボールに悪戦苦闘してる間に全身に雷を纏い、背中のブースターを全開にしてディケイドへと突っ込んだ。

 

 

ディケイド『な、何っ?―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―グッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

機械兵器渾身の体当たり……ボルテッカーもどきの技がディケイドへと見事に炸裂して大爆発を巻き起こし、ボルテッカーをモロに受けてしまったディケイドは爆発の中から勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま地面を何度も転がり漸く止まっていった。

 

 

ディケイド『ぐっ、ぐぅ!鳴滝の奴っ、ロケッ〇団もビックリなメカ作りやがってっ……!』

 

 

寧ろそっちの方がビックリだわと、ディケイドが機械兵器を見据えながらライドブッカーを杖代わりにして徐に起き上がっていくと、其処へもう一体の機械兵器を倒したエクスがディケイドの下に駆け寄ってきた。

 

エクスL・C『零さん、こっちは終わりました!』

 

 

ディケイド『そうか、なら少し手伝ってくれ。あいつ火事場の馬鹿力かわからんが……いきなり目茶苦茶な戦いをし出したんだ……』

 

 

そう言ってディケイドが目の前に視線を戻すと、機械兵器はディケイドの増援に加わったエクスを見て警戒するように身構えていた。ディケイドとエクスはそんな機械兵器に向けて身構え、再び機械兵器に向かって挑もうとするが……

 

 

 

 

 

鳴滝『そこまでだっ!!』

 

 

 

 

 

突如、機械兵器の両目から光が放たれ、空中に鳴滝の顔が映った映像が映し出されたのである。

 

 

鳴滝『この世界のライダーよ、今ならまだ間に合う!ディケイドを殺せ!!』

 

 

エクスL・C『何言ってる?答えはさっきも言った筈だ……断わ――』

 

 

鳴滝『もしディケイドを殺したら……"お前の両親とお前の幼なじみの母親を復活させよう"』

 

 

エクスL・C『ッ?!なん、だって……?』

 

 

ディケイド(?両親……?)

 

 

お前の両親と幼なじみの母親を復活させる。断ると言おうとしたエクスの言葉を遮るようにそう告げた鳴滝にエクスも驚愕して固まり、ディケイドはその内容を聞いて訝しげに眉を寄せ、鳴滝はエクスの様子を見て不敵な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

 

鳴滝『もちろんあの事故も無かった事にできる。君はあの、辛かった少年時代を過ごすことは無いっ!』

 

 

エクスL・C『辛かった……?』

 

 

その言葉を耳にしたエクスの脳裏にある光景……昔の楓に恨まれていた頃の記憶が過ぎり、エクスは武器を握る両手を下ろし顔を俯かせた。

 

 

鳴滝『君は幼なじみを心の何処かで憎んでる。そんな思いを抱きたくなければ、ディケイドを殺すのだ!!』

 

 

エクスL・C『…………』

 

 

ディケイドを殺せば、あの辛かった思い出が全て消される。鳴滝のその言葉を聞いたエクスは俯かせていた顔をディケイドに向けながら剣……ルクナバードを持つ手を僅かに上げ、それに気付いたディケイドは仮面の下で表情を険しくさせた。

 

 

エクスL・C『俺の答えは……』

 

 

ディケイド『稟……!』

 

 

エクスL・C『これだ!!』

 

 

そう叫ぶと共に、エクスはルクナバードを力強く握り締め『横に』振るった……

 

 

 



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第十九章/エクスの世界⑬

 

 

エクスL・C『………………』

 

 

ディケイド『……稟……お前……』

 

 

自分の両親と幼なじみの母親を生き返らせてくれる。その代わりにディケイドを消せと、その条件を聞いたエクスはルクナバードを確かに横に振るったが、その刃がディケイドを斬り裂くことはなかった。何故ならエクスのルクナバードの刃は……『鳴滝の眼前スレスレ』を通り過ぎていたからだ。

 

 

鳴滝『な……なぜ……なぜだ?!』

 

 

エクスL・C『そんなのは決まってる……俺は誰も殺さない、絶対にな。もちろん零さんも倒さない。確かに一回呑まれかけたさ、その誘惑にな……親父や母さん、紅葉おばさんがいて、楓が負い目を背負わなくて、戦いなんかしなくて、やがて来るだろうシアやネリネ、プリムラ、亜沙先輩や命先輩、カレハ先輩達に振り回されて、楽しい日々を過ごせたかもしれない……』

 

 

鳴滝『ならば何故それを望まん?!何故だ?!!』

 

 

理解が出来ない、鳴滝の顔から読み取れる感情はそれだった。だがエクスは至って冷静に、そして何処か優しげな声で呟いた。

 

 

エクスL・C『だけどな……もしあの事故が無かったら……アテナに出会えなかったかもしれないし、平行世界の皆にも出会えなかったかもしれない……それに、スレイプニルを……菫を救えなかった……』

 

 

鳴滝『後悔するぞ?!』

 

 

エクスL・C『あぁ……そうかもしれないな。でも……そうしたら親父に叱られるさ『友人を犠牲にするとは何事だ!』ってな。過去は戻らない、なら、今を……『今しか』生きれない俺達は、今を一生懸命に生きればいい。過去は振り返る物で、望む物では無い!!』

 

 

鳴滝『馬鹿なっ……理解出来ん!大切な者達と再び会えるというのに何故『馬鹿なのはお前の方だ』…ッ!なにっ?』

 

 

鳴滝の言葉を遮るように、不意にディケイドが口を開き言葉を放った。それを聞いた鳴滝は忌ま忌ましげにディケイドを睨むが、ディケイドは鳴滝の映る映像を見つめながら言葉を放つ。

 

 

ディケイド『お前はコイツの言葉の何を聞いていた?コイツの決意を……覚悟を聞いて、お前はまだ分からないのか?』

 

 

鳴滝『なんだとっ?』

 

 

鳴滝は険しげに眉を寄せながらディケイドに聞き返し、ディケイドは一度エクスを見た後、再び鳴滝を睨みながら言葉を紡いだ。

 

 

ディケイド『確かにお前の言う通り、そんな辛い過去がなければコイツ等は普通の学生生活を送れていたかもしれない……コイツのように、あの時ああしていればと……そう後悔して過去をやり直したい、そう思う人間はごまんといるだろう……』

 

 

鳴滝『そうだ!だからこそ私は――!』

 

 

ディケイド『だがな……そんな過去があったからこそ、それを受け止めて、強くなることをコイツは知ったんだ!目を背けたいような過去と向き合い、悲しみや後悔を忘れず背負い、そうして今『土見 稟』は此処にいる!今ある幸せを……大切な人達が住むこの世界を守ろうと戦ってる!それまで歩んできた道を全部なかった事にしていい権利なんて、誰にもないっ!』

 

 

鳴滝『くっ……?!』

 

 

ディケイド『コイツは『過去』ではなく、『未来』を進む事を選んだ……なら俺も、その道を阻む者を破壊する為に戦う!それが今、俺がコイツに出来る事だッ!』

 

 

ディケイドが力強い口調でそう告げると、鳴滝はモニター越しに息を拒みながら後退りした。そしてそれを聞いていたエクスは仮面の下で笑みをこぼすと、ディケイドの前に歩き出てルクナバートの切っ先を鳴滝に向けた。

 

 

エクスL・C『覚えておけ鳴滝、俺は……『蒼翼天魔』だ。『味方には天の恵みのごとき慈愛と保護を、敵には悪魔のごとき恐怖を与える』存在。仲間…友人…家族!どれか一つ、傷つけるならば……容赦はしない。お前が零さんを……大事な友人を傷つけるならば……容赦はしないッ!!』

 

 

―ズザアァッ!!―

 

 

そう叫ぶと共に、エクスはルクナバードを両手で勢いよく振り上げてモニターを縦一閃に斬り裂き、モニターを真っ二つにしていった。

 

 

鳴滝『おのれぇっ……ならもう貴様にはもう何も求めん!!』

 

 

鳴滝は苦虫を噛み締めたような表情を浮かべ、半分に切れたモニター越しに右手に持つスイッチを押した。すると突如、二人の目の前で対峙する機械兵器の身体から煙が発生し、全身が赤く染まっていった。

 

 

ディケイド『全く、アイツも余計な置き土産を置いていったな……稟、いくぞ?』

 

 

エクスL・C『はい!』

 

 

エクスはディケイドの言葉に頷くと両手のグングニルとルクナバードを構え直しながら機械兵器と対峙し、ディケイドもエクスと肩を並べ機械兵器と向き合っていくと、突然ライドブッカーが開いて三枚のカードが飛び出しディケイドの手に収まっていった。それはディケイドが元々持っていたエクスのカードを含む三枚であり、ディケイドが三枚のカードを手にした瞬間、カードの絵柄がエクスからリリィ・カリスの絵柄へと変わっていった。

 

 

ディケイド『コイツは……よし……稟、ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

エクスL・C『えっ?』

 

 

エクスはディケイドの言葉に不思議そうに首を傾げるが、ディケイドはそんなエクスの反応を他所に三枚のカードの中から一枚カードを取り出し、残りの二枚をライドブッカーに仕舞うとディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:E・E・E・EXE LILY CHALICE!』

 

 

エクスL・C『へ?ちょ、もしかして例のあれ?!―ドンッ!―オワッ?!』

 

 

エクスはディケイドライバーから鳴り響く電子音声でディケイドが何をしようとしてるか気付き慌てるが、ディケイドに横から背中を勢いよく押されて宙に浮きながらその姿を段々と変化させていき……

 

 

ディケイド『―――って、何だこれ?!』

 

 

エクスが姿を変えたその姿は、上にエクスリリィフォーム・カリスのデンカメンが装着された一つの巨大な門……『エクスゲート』に超絶変形したのであった。

 

 

エクスL・C(D)『これは……まさか門……?!』

 

 

ディケイド『門?例の人間界と魔界と神界を結ぶって言うあれか?!』

 

 

エクスL・C(D)『とりあえず零さん、早くやっちゃいましょう!これ動けなくて結構辛いですっ!』

 

 

ディケイド『あ、あぁ……わかった……!』

 

 

流石に門に変形するとは思わなかったディケイドは呆然としたまま頷き返すと、エクスゲートの前に立ってライドブッカーからもう一枚カードを取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EXE LILY CHALICE!』

 

 

エクスL・C(D)『零さん、結構衝撃いきますから!』

 

 

ディケイド『了ー解だ……フッ!』

 

 

エクスがそう言うとエクスゲートの門が徐々に開かれていき、ディケイドはそれを確認すると門の前で跳びキック態勢を取った、その瞬間……

 

 

―シュウゥ……ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

エクスゲートの中から巨大な砲撃が門の前で跳び蹴りの態勢に入ったディケイドに向かって発射され、ディケイドは背後から撃ち出された砲撃を推進力にし跳び蹴りの体勢のまま機械兵器へと向かっていき、そして……

 

 

ディケイド『ハアァァ……ハアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―ズドオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ッッッ?!!!!!』

 

 

ディケイドの放ったライダーキックが機械兵器の腹を貫通し、更にその背後からディケイドの推進力の役目を果たしていた砲撃が機械兵器の腹に開けられた穴を通って貫通し、そして……

 

 

―ザザザザザザァッ!!―

 

 

ディケイド『これで……終わりだ……』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!!!―

 

 

ディケイドが地面を滑りながら着地すると共に、ディケイドと砲撃が通った穴の箇所から大爆発が発生し、機械兵器は跡形も残さずに粉砕し消滅していったのであった。そしてそれを確認したディケイドが変身を解除すると、エクスゲートもエクスに戻って変身が解除され、稟に戻った瞬間その場に尻餅を着いた。

 

 

稟「ハァ……やっと動けたぁ……」

 

 

新フォームでの初戦闘と技の連発、そしていきなりのFFRで流石に疲れたのか、深い息を吐いて夜空を見上げる稟。零はそんな稟の下へと歩み寄り、稟に右手を差し出して微笑を浮かべた。

 

 

零「やっと終わったな……帰るか?」

 

 

稟「はい、疲れました」

 

 

零「違いないな」

 

 

俺ももうクタクタだ、と零は軽口を叩きながら苦笑をし、稟もそんな零に笑みを浮かべながら差し出された右手を手に取ってゆっくりと立ち上がり、楓達が待つ魔王家へと戻っていったのであった。

 

 



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第十九章/エクスの世界⑭

 

―光写真館前―

 

 

機械兵器との戦いから一日が経ち、零は昨日稟と共に芙蓉家で夜を過ごした後、写真館の前で稟とアテナから見送りを受けていた。

 

 

稟「お世話になりました」

 

 

零「いや、気にしなくていい、大丈夫だ……ところでアテナ、一つ聞きたい」

 

 

アテナ「なにかしら?」

 

 

零「実はエクスのカードの絵柄が戦ってる最中に変わったんだが、どういう事だ?」

 

 

そう言いながら零はライトブッカーからエクスリリィフォーム・カリスの絵柄のカードを取り出してアテナに見せ、アテナはカードを見た後稟を見つめながら話し出した。

 

 

アテナ「それは本当の力を取り戻したからよ。カリスはエクスの中で一番強いから。稟の力の根源は『護る力』その想いにカードが反応したんじゃないかしら?」

 

 

零「成る程な……」

 

 

アテナ「ちなみに稟が潰した連中の人工生命体の工場の中に鳴滝が関わってるヤツがあったわ、とりあえずこの世界じゃ人工生命体は作れないわ」

 

 

零「あぁ、だが安心はできないな」

 

 

アテナ「だから、貴方も頑張りなさいな♪」

 

 

アテナはそう言って笑みを浮かべ、零の額にデコピンするとその指で零の額をついた。

 

 

零「……だな。じゃ、そろそろ行く」

 

 

稟「零さん、俺が怪我で動けない間に皆をフォローしてくれてありがとうございました」

 

 

零「いいや、俺は別に何もしてない。だから気にするな……これからも芙蓉達と、仲良くやれよ?」

 

 

稟「はい!」

 

 

零の言葉に稟は穏やかに笑いながら力強く頷き返し、零も微笑しながら首に掛けたカメラを構えてそんな稟の顔を撮った後、手をヒラヒラと振りながら写真館に入っていった。

 

 

稟「じゃあ、俺達も行くか……」

 

 

アテナ「はやて達が待ってるわよ♪」

 

 

稟「……誠心誠意話せば伝わる……はず」

 

 

アテナが口にした名前に一瞬げんなりとするも、自分に言い聞かせるようにそう呟き稟達も写真館を後していった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

…その後、写真館に戻った零はなのは達に機械兵器との戦いに稟と共に勝利し、この世界での役目を終えた事を伝えてエクスの世界で撮った写真も現像し、早速次の世界に向かおうとしたのだが……

 

 

零(……はて……何故こうなったのだろうか……?)

 

 

はやて「さぁて……じゃあじっくりOHANASHIしよか、零君?」

 

 

……次の世界へと向かおうとした前に、何故か零は床に正座させられ、目の前には背後に修羅王を浮かばせたなのは達が仁王立ちして立っていたのだった。

 

 

零「あの……取りあえず聞きたいのだが、何故お前達はそんなお怒りになって、俺は床に正座させられてるんだろうか……?」

 

 

フェイト「何故?何でこんな事になったのか全く予想付かないんだ……?」

 

 

零「いや、あの……分かってたらこんな質問最初からしないというか……正直、今回のことでお前達が怒る要素が何処にあったかサッパリ検討付かないというか……」

 

 

なのは「そっかぁ、じゃあ多分コレ見たら思い出すんじゃないかな?」

 

 

零「コレ?」

 

 

正座させられた零が疑問げにそう聞き返すと、なのはは一枚の何処かの店の名刺のようなモノを懐から取り出し、零へと見せていく。それには……

 

 

『今日は楽しかったわ零、また会いましょう♪』

 

 

と、名刺の裏に女性の物と思われる文字でそう書かれていたのである。

 

 

零「って、何だそれっ?!」

 

 

なのは「零君が着て帰ってきたコートの胸ポケットに入ってた名刺なんだけど……随分と仲良しになったみたいだねえ?『零』なんて呼ばれて?」

 

 

零「いやっ、俺は全然知らんぞ?!大体そんな名刺を貰った覚えなんて?!」

 

 

フェイト「ふーん……なら、どうして零の額から香水の香がするのかな?」

 

 

零「は……?香水?」

 

 

フェイトにそう言われ、零は頭上に疑問符を浮かべながら指先で自分の額に触れ試しに嗅いでみた。すると額に触れた自分の指先から、何やら良い香がする香水の匂いがした。

 

 

零(額に香水?いつの間にこんな…………あっ)

 

 

訝しげに自分の指先を睨みつけていると、零は其処である事……先程稟達と別れる際にアテナにデコピンされ、額を指で突かれた事を思い出し僅かに顔を上げた。

 

 

零(まさかあの時?!あの女、また余計な事を?!)

 

 

なのは「どう説明するのかな?この香水と名刺の事」

 

 

零「い、いや、だからその……勘違いするな!それはアテナの奴が俺のポケットに忍ばせた物であってっ、香水もアテナの仕業なんだ!だいたい、俺がそんな店に行ったり女から名刺を貰ったりすると思うか?!」

 

 

はやて「うん、零君ならやる」

 

 

零「やりかねないですらないッ?!」

 

 

フェイト「零の日頃の行いからよぉーーく考えてみれば、そう思われるのも無理ないと思うけど?」

 

 

零「な、なんだ日頃の行いって?そんな風に思われる行いをした覚えなんて全然っ……」

 

 

なのは「そうかな?私達が知らない所でいつの間にか知らない女の人と出会って……」

 

 

フェイト「仲良くなって、その人のトラブルに首を突っ込んで……」

 

 

はやて「そんで最終的にその人も落とす……が、零君お得意のパターンやしなぁ?」

 

 

零「お、落と?何の話だ?俺は別に高い所から人を落とした覚えはないぞ?」

 

 

『………………………………………………………』

 

 

……ん?なんだ?何故皆、そんな呆れたような目で俺を見る?

 

 

姫「なんというか……本当に人の恋心を弄ぶことに関しては天才的だな、君は」

 

 

ディエチ「自覚ないのは分かってるけど……いい加減それも治さないと命に関わると思う」

 

 

ヴィータ「ってか、今正にその真っ最中だけどな」

 

 

シグナム「違いないな……」

 

 

セッテ「……はぁ」

 

 

おいコラッ、なに好き勝手言っとるんだお前等はっ、大体自覚ないって何の話だ?!俺は大概の自分の事はちゃんと理解してるつもりだぞ?!……って、おい?お前等?何故無言のまま俺の襟首掴んで部屋を出ようとする……?

 

 

なのは「にゃはは、いい加減その無自覚な鈍感を叩き直そうと思ってね……場所変えてOHANASHIしようか♪」

 

 

零「は?いや、だから誤解だと言ってるだろう?!というか何時もOHANASHIする時の笑顔が今日に限ってより一層恐ろしいのは何故だ?!ちょ、待っ――?!」

 

 

ズルズルズルーとなのは達に強引に引きずられ、例の如く別室に連行される零。残された一同はそんな光景を何時ものように見送り、零達が出ていったあと深い溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―

 

 

その頃、家に戻ろうと帰路を歩いていた稟とアテナは写真館の方から響き渡った爆音を聞き、稟は写真館の方角を見たあとアテナに目を向けた。

 

 

稟「……何したアテナ……」

 

アテナ「べっつに~♪ただ額に女性用の香水塗ってポケットに名刺入れたのよ、滝にあげたのと同じもの♪」

 

稟「はぁ……まぁ大丈夫だろう……また飲みに行くとするか……」

 

 

稟は陽気に笑うアテナを見て深く溜め息を吐いた後、写真館から鳴り響く轟音を聞きながら家に戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

零「…………死ねる…………」

 

 

あれから数十分後、OHANASHIを終えた零は所々に包帯を巻きながらグッタリとソファーに倒れ込み、そんな零の近くで優矢とエリオが珈琲を片手に苦笑しながら声を掛けた。

 

 

エリオ「えぇっと、大丈夫ですか零さん?もし良かったら珈琲でも煎れますけど?」

 

 

零「……いや、いい……今そんな気分じゃない……」

 

 

優矢「ったく、お前も毎回毎回あんだけやられてどうして気付かねえのかねぇ?いい加減治せよ、その鈍感」

 

 

零「ぐうぅ……だから別に、俺は鈍くないと言ってるだろっ?訓練生の頃とか、担当の教官に『お前は反射神経が良くて異変を察知する能力もピカイチだし、ホントに鋭感だなぁ』って、絶賛された事あるんだぞ?」

 

 

優矢「いや、その事で鈍いって言ってんじゃねぇんだっつの……」

 

 

あぁーもうわっかんねえーかなぁと、頭を乱暴にガシガシと掻き毟る優矢にエリオも苦笑いするしか出来ず、零はそんな二人の様子を見て訝しげに首を傾げるも直ぐにソファーに俯伏せてしまった。

 

 

零「まぁ取りあえず、この世界での役目を終えたことだけは分かるな……」

 

 

エリオ「あはは、そうですね……稟さん達、これからもこの世界で笑い合って生きていけますよね」

 

 

零「あぁ……アイツ等は、過去に縛られずにちゃんと未来を見て生きていける。稟も芙蓉も……な」

 

 

そう言って零は態勢を仰向けに変えてズボンのポケットから一枚の写真を取り出し、それをジッと眺めていく。其処には魔王家での稟や楓達の姿が写し出されており、零は写真に写る稟達を見て何処か優しげな笑みを浮かべた。その時……

 

 

 

 

 

 

―ガチャッ…ガララララララララッ…パアァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

リビングの背景ロールが再び何の前触れもなく新たな絵を降ろして淡い光を放ち、その光が止むと、其処には何処かの街中の高層ビルの上で夜空に浮かぶ満月に向かって孤高の雄叫びを上げる金と銀の狼の絵が現れたのである。

 

 

はやて「これは……狼?」

 

 

零「……シリウスの世界か」

 

 

一同が新たな背景ロールの絵を食い入る様に見つめる中、零はソファーに寝転がったまま目を僅かに細めて小さくそう呟いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、光写真館が新たに訪れた世界の某所では、大量の怪人に囲まれた金と銀のライダーと赤いライダーが背中合わせに怪人達と対峙する姿があった。このライダー達は何者なのか?そしてこの世界で待つ零達の役目とは……?

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―謎の建造物内・牢獄の間―

 

 

―カツッコツッカツッコツッ……―

 

 

恭平「…………」

 

 

一方同じ頃、組織のアジトである謎の建造内の牢獄の間と呼ばれる部屋。其処はその名の通り、組織が捕らえた重要人物や裏切り者を投獄する為に作られた部屋であり、その場所を組織の人間の一人である新藤恭平が静かに歩いていた。そうして恭平はある牢獄の前で止まり、牢獄の中の人物を見つめた。

 

 

恭平「―――よう、気分はどうだい?裏切り者さん」

 

 

「……最悪よ……何日もこんな暗い場所に閉じ込められて……気分が良いはずがないでしょ……」

 

 

恭平「そっか……ま、当然ちゃ当然だろうな」

 

 

微笑しながらそう呟く恭平の目の先には、両手に手枷を嵌められ、拘束着を身に包んだ金髪のロングヘアーの女性……先の戦いで組織に敗れ囚われてしまった、ナンバーズのNo.2であるドゥーエが壁に寄り掛かって床に座り込む姿があった。

 

 

ドゥーエ「それで……今日は一体どんな尋問をする気なのかしら?言っとくけど、どんな事をされても私はドクター達の居場所を吐いたりしないわ……さっさと焼くなり殺すなり、好きにしなさい……」

 

 

恭平「ははっ、既に覚悟を決めてるってワケか?いいねぇ、誰かを庇う為に命を張れる奴は嫌いじゃないぜ?」

 

 

ドゥーエ「あら……じゃあそんな嫌いじゃない奴からのお願いで、此処から出してくれないかしらね?そしたらお礼に一回一緒に寝てあげるけど……?」

 

 

せめてもの抵抗にと、繰り返される尋問のせいで弱々しくなった顔で妖艶な笑みを作り、余裕の態度を見せてそんなことを言ってみせるドゥーエ。それを聞いた恭平は……

 

 

 

 

 

 

恭平「いいや……そんな事しなくても、ちゃんと逃がしてやるさ」

 

 

 

 

 

 

ドゥーエ「……え?」

 

 

 

 

 

 

一瞬、何を言われたのか分からなかった。ドゥーエは必死に作っていた表情を崩して呆然とした顔を浮かべ、恭平はそれを他所に黒いスーツの内側ポケットから紙で包まれた何かを取り出し、それを牢獄の隙間から投げて床を滑らせドゥーエの足先に当てた。

 

 

ドゥーエ「?これは?」

 

 

恭平「お前の両手に嵌められた手枷の鍵と、このアジトの見取り図だ」

 

 

ドゥーエ「ッ?!」

 

 

軽い口調でそう告げた恭平の言葉に驚愕し、ドゥーエは咄嗟にそれを手に取って何かを包む紙を広げ、中身を開いていった。其処には確かに一つの鍵があり、更に鍵を包み込んでいた紙もこの牢獄の間と思われる場所を赤いペンで丸をされた見取り図であった。

 

 

ドゥーエ「これはっ……」

 

 

恭平「逃げてはいいが、今はまだ止めてた方が良いぜ。今は他の任務に当たってた連中がこのアジトに戻り始めてる。今逃げたりしても、上の連中に一発で異変を悟られてまたこの場所に逆戻りだ。此処にいる連中は俺も含めてアンタの変装を簡単に見破れる連中ばかりだしな……アンタだって分かるだろ?」

 

 

ドゥーエ「っ……貴方、一体なんのつもりなの?これも何かの策略とかかしら?」

 

 

恭平「おーおー、せっかく手助けしてやってるのに信用ないねぇ?」

 

 

ま、いきなり敵に逃げても良いなんて言われても信用出来る訳ねえかと、恭平はヤレヤレとポーズを取って溜め息を吐き、ドゥーエを見据えながら言葉を紡ぐ。

 

 

恭平「コイツは組織とは何も関係ねえ、俺が独断やってるだけさ。勿論バレれば、俺もただでは済まねえだろうよ」

 

 

ドゥーエ「貴方の独断?……なら余計に理解出来ないわね。自分が殺されるかもしれないっていうデメリットを払ってまで敵にこんな真似をして、それで貴方に何の得があるって言うの?」

 

 

恭平「得ならあるさ。ほれ、その見取り図、よく見てみ?」

 

 

ドゥーエ「?」

 

 

そう言われ、ドゥーエが再び見取り図を見てみると、其処にはこの牢獄の間以外に別の部屋が赤い丸で囲まれている図があった。

 

 

恭平「逃げ出せるチャンスがあるとしたら、零達が九つ目の世界を回った後辺りぐらいだろう。終夜や裕司以外の連中は一気にアジトを出払う予定だし。その隙にアンタは此処を抜け出し、その部屋に保管されてる奴を盗み出して零と高町に渡してくれ」

 

 

ドゥーエ「?ディケイド達に……ですって?どうして私がそんな事……」

 

 

恭平「アンタにしか出来ねえから言ってんだよ、それで此処から抜け出せるなら易いもんだろう?それに、零が組織に対抗するにも今のままじゃ無理だ。アンタだって、零が組織の手に墜ちたら困るだろ?」

 

 

ドゥーエ「…………」

 

 

確かに、破壊の因子を持つ零が組織に墜ちてしまえば最早自分達に勝ち目はない。その事を突き付けられたドゥーエは一瞬口を閉ざして黙り、恭平を睨みながら口を開いた。

 

 

ドゥーエ「確かに、黒月零が組織に着くのは避けたいわ……でも、なんで貴方がそれを阻止するために手を貸すの?貴方も組織の一員じゃなかった訳?」

 

 

そう、ドゥーエが抱く一番の疑問はそれだ。確かに零が組織の手に落ちるのは避けたいが、何故零を手に入れて得をする側の恭平がそれを阻むような真似をするのか?それが理解出来ないドゥーエが疑問げに問うと、恭平は笑みを浮かべながら……

 

 

恭平「確かに俺は組織の一員だ。でもな……俺は別に組織に忠誠を誓った訳でも、揺り篭に叶えてもらいたい願いがあって組織に入った訳でもねえんだよ」

 

 

ドゥーエ「?組織への編入が忠誠でも願いでもない?なら一体……」

 

 

何が目的で?最後まで言い切らずにそう問い掛けるが、恭平は何も答えず背後の壁に背を預けた。

 

 

恭平「その質問に答える気はねえな。だが、俺の目的は今も昔も何一つ変わってないってことは確かだ……そんで、どうする?此処でビビって死ぬまで終わらない尋問を受け続けるか?まあ、別に俺はそうなっても困らねえから嫌なら断っても良いぜ?」

 

 

ドゥーエ「…………」

 

 

肩を竦めながら恭平がそう言うと、ドゥーエは手の平の上の鍵を見つめていく。そうして暫く何かを考えるように黙り込むと、静かに顔を上げ、恭平を見つめながらゆっくりと口を開いていった――――

 

 

 

 

 

第十九章/エクスの世界END

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出

 

 

 

 

―――今から話を始めよう……

 

 

時はまだ戦国の世……これはまだ、『桜ノ神・木ノ花之咲耶姫』が人間だった頃の……彼女が神となる代価として失ってしまった記憶……

 

 

まだ桜ノ神ではない少女、咲夜が唯一心から親友だと思える友と出会った、悲しくも、大切な友との出会いの物語……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数百年前の桜ノ町。此処は昔は名もないただの辺鄙な村ではあったが、乱世の真っ只中でありながら戦とは関係が薄く村人達は活気に溢れていた。

 

 

元々戦とは掛け離れた場所に村が存在したのもあるが、この村は以前ある戦で敗退した落ちぶれ兵士の一団に食料と金品目的で襲われた事があり、一度壊滅状態に陥た事があった。

 

 

その為に再建は不可能と見た国からも見捨てられてしまった(本音は国の資金を戦の為だけに集中して使いたいが為、故意で見捨てた)のだが、残った村人達の努力で村は再建され、その時の傷痕は残ったままだが必要最低限の生活は出来るようになったのである。そしてそんな村から離れた場所に位置する畑では、一人の少女が汗水流し働く姿があった。

 

 

「――よっ、と……ふぅ、これで終わりか……」

 

 

両腕に抱えた多くの野菜を荷車に乗せ、額に浮かぶ汗と汚れを手で拭い一息吐く少女。桜色の綺麗な瞳に腰まで伸ばした黒髪を後頭部に纏め、服装は農作の仕事を行うにあたって動きやすさを重視した格好をしている。そんな少女の下へと、少女と同じ格好をした中年の男性と女性が柔らかい笑みを浮かべながら歩み寄った。

 

 

「おう、お疲れさん咲夜。野菜は全部積み終わったかい?」

 

 

咲夜「ん?あぁ、おじさん、おばさん。野菜は今ので積み終わりましたよ。あとは市に持って行けば良いだけです」

 

 

「そう、いつもありがとね咲夜ちゃん?咲夜ちゃんのおかげで仕事がはかどって助かるわ♪」

 

 

咲夜「いや、私もおじさん達が雇ってくれたおかげで助かってるから、お互い様ですよ。それに農作の仕事も、やってみると結構楽しいですし」

 

 

少女……咲夜はそう言って荷車に積まれた野菜に顔を向けて笑みを浮かべると、男性の隣に立つ女性が懐から袋を取り出し咲夜に差し出した。

 

 

「それじゃあ、はいこれ。今日の分のお金ね」

 

 

咲夜「……は?いやでも、まだこれから市で野菜を売る仕事が……」

 

 

「いいっていいって、そっちは俺らの方でやっとくからよ。お前さんは早く家に帰ってやんな。はるかちゃんが待ってんだろ?」

 

 

咲夜「あ…いや…しかし…」

 

 

男性が口にした『はるか』という名を聞き、咲夜は思わず顔を俯かせて悩んでしまう。すると女性がそんな咲夜の手を取り、金銭の入った袋を咲夜の手に握らせ優しく微笑んだ。

 

 

「遠慮しなくていいのよ?これで美味しいものでも買って、はるかちゃんと一緒に食べなさい。仕事は明日また頑張ってくれたらいいから、ね?」

 

 

咲夜「……すみません……色々と気を使ってもらって……明日もまた頑張ります!」

 

 

そう言って咲夜は二人に頭を下げて礼を言うと、そのまま村の方に向かって走り出していった。そして男性と女性はそんな咲夜の背中を見つめ、優しげな笑みを浮かべていく。

 

 

「ほんと、咲夜ちゃんは妹想いのいい子ねぇ」

 

 

「親を早く亡くして大変だろうに、弱音一つ吐かねえからな。あんな娘がうちにも欲しいよ……」

 

 

「ハイハイ、馬鹿言ってないで早く市に行くよ!早く荷車引っ張りな!」

 

 

「へいへい……」

 

 

女性は男性の腰を強めに叩いて荷車を引っ張るように促し、男性は軽く溜め息を吐きながら言われるがままに荷車を引っ張って村の市へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数十分後……

 

 

「ごほっ、ごほっごほっ!ごほっ…!」

 

 

村の中に存在するボロボロの家。此処にも嘗て落ちぶれ兵士の一団に襲撃された傷痕が残っており、家の壁や天井には所々風穴が空いていた。そしてその家には住人と思われる一人の少女……肩に少し掛かる長さの黒髪に、咲夜と同じ桜色の瞳を持つ少女が布団の上で何度も苦しげに咳き込む姿があった。其処へ……

 

 

―ガララッ……―

 

 

咲夜「ただいまぁ、はるか」

 

 

「ごほっごほっ……ぁ……お姉ちゃん……?」

 

 

家の戸が静かに開き、其処から着物姿の咲夜が家の中へと入ってきたのだ。それに気付いた少女……はるかは布団から顔を出して咲夜に目を向けると、咲夜は藁草履を脱いではるかの下へと歩み寄り、はるかの隣に腰を下ろした。

 

 

咲夜「体の調子はどうだ?朝出た時も具合が悪かったみたいだが……まだキツイか?」

 

 

はるか「うう、ん……今は大丈夫……そんなにキツくないよ……」

 

 

はるかは咲夜にそう言ってけだるそうに布団から身を起こしていき、それを見た咲夜は慌ててはるかの身体を支えていく。

 

 

咲夜「おいこら、起きるんじゃない!まだ寝てなきゃ駄目だろ?!」

 

 

はるか「あはははっ、平気だよこれくらい。お姉ちゃんは心配性なんだから……それより、お姉ちゃんこそどうしたの?こんなに早く……お仕事は……?」

 

 

咲夜「ああ、今日はおじさんとおばさんが気にかけてくれてな、いつもより早く仕事が上がったんだ」

 

 

はるか「そっ、か……じゃあ、今日はいつもより長く一緒にいられるね……♪」

 

 

えへへ……と、嬉しそうな笑顔を咲夜に向けて微笑むはるか。咲夜はそんなはるかの顔を見て釣られるように笑いながら、彼女と一緒にいる時間をあまり作ってやれない事に内心罪悪感を感じてしまう。そんな複雑な心境になりながらはるかの背中を摩ると、咲夜は何処からか包みを取り出して布団の上に置いた。

 

 

はるか「……?なに、これ……?」

 

 

咲夜「今日はおばさん達が少しまけてくれてな、お陰で良いものが買えたんだ。開けてみろ」

 

 

はるか「?」

 

 

何処か楽しげに笑う咲夜の様子に疑問を抱きながらも、はるかは言われた通りに包みを手にして中身を開いていく。それは……

 

 

はるか「――っ!わぁ~!新しい本だぁー!」

 

 

開けた包みの中には、小説や子供に読み聞かせるための絵物語など様々な種類の書物があったのだ。はるかは包みの中の書物を見て目を輝かせ、咲夜はそんな妹の様子に思わず笑みを浮かべた。

 

 

咲夜「今晩の夕飯の材料を買ったあと、まだ手持ちに余裕があったからお前にと買ってきたんだ。お前、こういうの好きだろう?」

 

 

はるか「うん!あ……でも良いの?こんなに沢山、凄く高かったんじゃ……」

 

 

咲夜「なあに、それくらい問題ないさ。だからお前が気にすることなんてない、心配するな」

 

 

はるか「うん……ごめんね――じゃなくて……ありがとう、お姉ちゃん……♪」

 

 

貰った本を胸に抱き、満面の笑みを浮かべて咲夜に礼を告げるはるか。咲夜もそんなはるかの喜ぶ顔を見て嬉しそうに笑い、はるかの頭の上にソッと手を置いて頭を撫でていく。

 

 

咲夜「よしっ、じゃあそろそろ晩御飯にするか?」

 

 

はるか「あ、だったら私も手伝っ――ごほっごほっ!」

 

 

咲夜「馬鹿っ、良いからお前は寝てろ!余り体に無理させたら、治るものも治らなくなるだろっ?」

 

 

はるか「ゴホッゴホッ…!うんっ……ごめんね、お姉ちゃん……」

 

 

咲夜「ち・が・う。それは言わないと約束だろ、はるか?」

 

 

はるか「あ……うん、そうだった……ありがとう……お姉ちゃん……」

 

 

咲夜「うむ、よろしい♪」

 

 

じゃあ、今から夕飯を作るから待っているんだぞと、咲夜ははるかをソッと布団に寝かせて立ち上がり夕飯の準備を始めようとするが、その時天井に空いた風穴から流れた風が髪を撫で、天井を見上げた。

 

 

咲夜(ん……今夜はいつもより冷えそうだな……今日は体の温まるものでも作るか……)

 

 

苦しそうに咳き込んで布団に横たわるはるかに顔を振り向かせてそう考えると、咲夜は早速準備に取り掛かろうと髪をポニーテールに纏めて夕飯作りを始めていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

……その日の晩。村人達の殆どが眠りに付いてる為、辺りには虫達の鳴き声だけが響き渡っていた。漆黒の闇が辺りを支配し、不気味な静寂が流れる村の入り口の前に、風来人の格好をした一人の人物が佇んでいた。

 

 

「……寂れた村……こんなところにも人って住んでるんだ……」

 

 

そう呟く声から察するに、おそらく女だと思われる。サラサラとした白い髪に、清楚な顔立ち。腰には鈴を付けた白塗鞘の太刀を下ろし、女は風来帽を指で少し上げて村を見つめた。

 

 

「此処なら暫く、身を休める事が出来るかな……よし……」

 

 

女は何かを決心したように呟くと、力強く一歩を踏み出して村の中へと入ろうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―ガサガサッ……―

 

 

「――ひいぃっ?!!」

 

 

突然女の背後の茂みから物音が響き、女は悲鳴を上げながらそちらの方へと振り返り思わず身構えた。女がビクビクとした様子で茂みに向けて両手を構えていると、茂みからは未だにガサガサと物音が聞こえ続けていた。

 

 

「だ、だだだだだだ誰?!誰かいるんですかっ?!」

 

 

若干及び腰になりながらも、茂みに向かって情けなく叫ぶ女。その間にも茂みの中から響く物音はどんどん近くなっていき、茂みの中から出てきたのは……

 

 

 

 

 

 

「うにゃー」

 

 

 

 

 

 

「…………ねこ?」

 

 

 

 

 

 

茂みの中からゆっくりと姿を現したのは、体中がドロだらけになって汚れた一匹の猫だったのである。それを見た女は唖然とした顔になって思わず固まり、猫はそんな女を他所に鳴き声を上げながらトコトコと何処かへと歩き去ってしまい、女はそんな猫を目で追ってガクッと肩を落としてしまう。

 

 

「な、なんだネコかぁ……もぉ……脅かさないでよぉ……」

 

 

ネコ相手に無駄に驚いてしまい、げんなりした表情で疲れた声を漏らす女。そうして女はガックリと肩を落としたまま、再び村の中に入ろうと歩き出していくが……

 

 

―……ガッ!―

 

 

「ふぇ?……へぶうぅぅッ?!!」

 

 

ビダアァンッ!!と、女は何故か何もない場所で爪先を引っ掛け、そのまま盛大にすっころんでしまったのだった……顔から思いっきり。

 

 

「ぁあ……うぅ……ひぐっ……うえええええええぇぇんっ……!!顔思いっきり摩っちゃったあああああああああぁぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 

おもむろに地面から泥だらけになった顔を上げ、女は深夜にも関わらずジンジン痛む鼻を抑えながら、村の前でびーびーと泣き出してしまったのであった……

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出①

 

 

それから翌日の昼間。咲夜ははるかに朝食を食べさせて薬を飲ませた後、今日も仕事先に出て村の市場へとやって来ていた。ジリジリと太陽の日差しが降り注ぐ中、咲夜は荷車に乗せて畑から運んできた野菜を店に並べ、額に浮かぶ汗を拭った。

 

 

咲夜「ふぅ……今日も暑いな……」

 

 

空を見上げれば、晴れやかな青空を数羽の鳥達が羽根を羽ばたかせ、何処かへと飛び去っていく姿が見える。咲夜は手の平で爛々と降り注ぐ太陽の日差しを遮りながらそれを見送り、品物並べを再開した。そんな時……

 

 

「―――聞いたかい?尾張での織田軍と今川軍の戦の話……」

 

 

咲夜「……ん?」

 

 

品物並べを再開した直後、店の外から話し声が聞こえそちらの方に視線を向けた。すると其処には、近隣の住人と思われる二人の女性が店の近くで話をする姿があり、咲夜は手を止めて話に耳を傾けた。

 

 

「聞いたよ。あの織田軍の総大将が義元の首を取ってすぐ、敵の矢を受けて討ち死にしたって奴だろ?」

 

 

「そうそう、でもなんか変なんだよ。総大将が討たれた時は大騒ぎしてたくせに、織田軍は総大将の葬儀も執り行わないらしくてさ……何かあったのかねぇ?」

 

 

咲夜(織田軍の総大将……あぁ、織田信長とか言ったか?確か天下を取って天下人になるのなんだの言っていた……)

 

 

女性らの話を聞き、咲夜は以前何かの話で聞いた織田信長の名をふと思い出すが、すぐに軽く溜め息を吐いて顔を左右に振った。

 

 

咲夜(天下を取るだの大口を叩いておきながら、結局この様か……やはり、戦をする人間なんてどいつもこいつも似たようなものだ……)

 

 

信長のように大名等と大層な名を持った人間は大勢いるが、そんな連中は一般市民や農民の自分達にとってなんの助けにもならない。寧ろ、連中は兵士の士気を下げない為という理由で、各地で自分達のような民を一方的に奴隷として捕らえたり放火したりなどをする雑兵達の行いを黙認、或は推奨したりしているのだ。

 

 

咲夜(武将等と持て囃されてはいるが、所詮どいつも戦をするしか脳のない連中ばかり……私達の事なんて、何も考えていない……)

 

 

何処の誰が何の戦に勝とうが、そんなものは興味ないしどうだっていい。さっさとこんな戦国の世が変わってくれなければ、自分達の立場はいつまで立っても変わりはしないのだ。だからさっさと誰かが天下を取って、さっさと今の世の中を変えろと願うしか出来ない。

 

 

咲夜(そんなに戦がしたいのなら勝手にやって、勝手にみんな死んでればいい……そうすれば、少しは今の世の中だって変わるだろう……)

 

 

そもそも咲夜は戦も、武士も武将も嫌っている。そうなったのも、以前この村を襲った落ち武者達の一団が原因であった。あの時咲夜とはるかの両親は兵士達の手により無惨にも殺され、しかもはるかは自分と一緒に両親の死を目の前で見たせいで、元々病弱だった体が更に悪化してしまった。病で苦しむはるかを見る度に思う。あの兵士達さえ現れなければ、連中が戦で負けたりしなければ、戦などなければと、つくづくそう思った……。

 

 

咲夜「……早くこれ、終わらせるか」

 

 

そんな事を考える内にだんだんと気分が落ち込んできてるのを感じ、咲夜は気を取り直して売り物を並べていった。そんな時……

 

 

 

 

 

 

『――だからよぉ、ごめんじゃ済まねえって言ってんだよ!』

 

 

咲夜「……?」

 

 

店の外から、今度は男の怒鳴り声が聞こえたのである。それを聞いた咲夜は手を止めて頭上に疑問符を浮かべると、店の入り口から外を除き見た。其処には……

 

 

 

 

 

「だ、だからっ、さっきからちゃんと謝ってるじゃないですかっ……!」

 

 

「うるせーんだよっ!人にぶつかっておいて、ただで済むと思ってんのか?!」

 

 

咲夜(……あれは……?)

 

 

咲夜の目に飛び込んできたのは、道の真ん中で何やら揉め合う二人の男と女の姿だったのである。女の方は風来坊の格好に白いサラサラとした髪を持った少女であり、男達の方はボロボロになった足軽の鎧を身に付け、酒でも飲んでいるのかその顔には若干赤みが帯びていた。

 

 

咲夜(あいつ等は……)

 

 

「何だありゃ?何かあったのか?」

 

 

「いやな?さっきあの二人があの子と肩をぶつけたらしくて、それで妙な因縁つけて絡んでんだよ……」

 

 

「まじか?またみっともねえ事を……うん?あの二人の鎧……ありゃあ今川軍のじゃねえか?」

 

 

「ああ……この間織田軍との戦で大将をやられたってとこの?敗戦して此処まで逃げてきて、挙げ句にやけ酒までして八つ当たりかよ……ますますみっともねえな……」

 

 

咲夜「…………」

 

 

隣でコソコソと女に絡む男達の愚痴を話す農民の男達だが、助けに入ろうとする素振りは見せない。恐らくあの男達の腰にさしてある刀を見て助けに入ろうにも入れないのだろう。咲夜はそんな予想をしながら女に絡む男達を睨みつけ、その間にも男達はオドオドと焦る女に詰め寄っていく。

 

 

「ホントに悪ぃって思ってんなら、そら、金出せ金。治療費だ!」

 

 

「そ、そんなっ…目茶苦茶過ぎますっ!第一、何処も怪我なんてしていないじゃないですか?!」

 

 

「んなもん服の下に隠れて見えねえだけなんだよっ!」

 

 

「いいから、さっさと出すもん出しやがれっ!」

 

 

男達はしつこくぶつかった代償に金を出せと女に詰め寄っていくが、女もそれに従うつもりはサラサラなく少しずつ後退りしていく。すると男の一人が、女が腰に刺す白塗鞘の太刀を見つけて目を細めた。

 

 

「けっ、生意気なアマだ。女のくせして刀まで差してやがる、それで武士にでもなったつもりかぁ?」

 

 

男は気に入らなそうにそう吐き捨てると、女が腰に刺す太刀を奪い取ろうと手を伸ばしていく。しかし……

 

 

―パシイィッ!―

 

 

「てえぇッ?!」

 

 

男の手が刀の柄に触れようとした瞬間、女が平手で男の手を叩く様に払い退けていったのだ。よほどの強さで叩かれたのか、男は手を抑えながら思わず後退り、女は刀を隠すように身構えながら男達を睨み付けた。

 

 

「こ、この刀には、指一本触れないでっ!」

 

 

「つうぅっ……何しやがんだこの女ァッ!」

 

 

「ッ!」

 

 

言う通りにされず反抗までされて激怒したのか、叩かれた男は女の顔目掛けて握り拳を振りかざした。それを見た女は両目を見開き、振り下ろされる拳から目を逸らすように目を強く瞑った。その時……

 

 

 

 

 

―ヒュンッ…グシャアァッ!―

 

 

「ゴアァッ?!」

 

 

「なっ?!」

 

 

「……え?」

 

 

突如、女を殴ろうとした男の横から猛スピードで何かが飛来し、その何かはそのまま男の顔へと減り込んで勢いよく吹っ飛ばしていったのである。女は男の悲鳴を聞いて思わず閉じていた目を開き、情けない格好で地面に倒れる男を見て唖然とした表情を浮かべると、男の近くに先程男を吹っ飛ばした物と思われるものが落ちているのに気づいた。それは……

 

 

「い、いも……?」

 

 

そう、男を吹っ飛ばした物の正体とは、なんの変哲もないただの芋だったのだ。何故芋がいきなり?と女が疑問げに小首を傾げていると、男と女の背後からザッと物音が響き渡った。それに気付いた女達が背後に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

咲夜「―――女一人を男二人で責め立てた上に金まで要求し、暴力まで振るおうとは……情けない奴らめ」

 

 

 

 

 

其処には、腰に手を当てて男達を睨みつけながら仁王立ちする咲夜の姿があったのである。すると、芋をぶつけられて吹っ飛んだ男が頬を押さえながら起き上がり、近くに転がる芋を手にし咲夜を睨みつけた。

 

 

「いっつぅ……てめえか、人様に芋を投げつけやがったのは?!いきなり何しやがる?!」

 

 

咲夜「それはこっちの台詞だ。人様の店の前で騒ぎを起こしおって……営業妨害だ。さっさと失せろ」

 

 

「んだと?!女のくせして生意気なっ!」

 

 

咲夜「フンッ……その女を二人掛かりでなければ強気に脅せない下衆風情が何を言うか……腐るなら、もう少しマシに腐ったらどうだ?この負け犬共めが」

 

 

「なっ……んだとテメエッ?!」

 

 

馬鹿にするように鼻で笑う咲夜の暴言に堪忍袋の尾が切れ、男達は激怒して腰に刺していた刀を振り抜いた。それを見た周りから小さな悲鳴とざわめきが広がるが、咲夜はそれを見ても特に臆する様子を見せず、呆れるように息を吐いた。

 

 

咲夜「やれやれ……小娘に暴言を吐かれたぐらいで刀を抜くとは、器量の小さい男達だ……そんな事だから戦にも負けたんじゃないのか?」

 

 

「コイツッ、言わせておけばッ!!」

 

 

「あ、危ないっ!!」

 

 

軽蔑の眼差しを向ける咲夜の態度が更に怒りを駆り立て、男の一人が刀を振りかざしながら咲夜へと突っ込んでいった。その光景に女が思わず悲鳴を上げるが、咲夜は焦る事なく腰に当てた手を下ろし、そして……

 

 

―ビュンッ!―

 

 

咲夜「ふんっ……」

 

 

「?!なっ―ドガアァッ!―グハァッ?!」

 

 

体位を少しだけずらして刀を避け、左手の拳でカウンター気味に男の顔面を殴りつけ怯ませていったのだ。更にそれだけでは終わらず、咲夜は顔を押さえる男の手から刀を蹴り落として男の右腕を両手で抱え、男に足払いを掛けて身体を浮かせると……

 

 

咲夜「はあぁっ!!」

 

 

「う、うあああああああああああああああっ?!!」

 

 

―ブオォンッ!!ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

……そのまま勢いよく男を背負い投げ、咲夜に投げ飛ばされた男は近くの建物の壁に叩き付けられ気絶していったのであった。その光景に女や残った男は呆然とした顔で固まってしまい、咲夜はパンパンッと両手を払って軽く溜め息を吐いた。

 

 

咲夜「こんな物か……女に投げ飛ばされたぐらいで気を失うとは、情けない奴め……」

 

 

「ッ!て、テメエ!なんてことしやがるっ!!」

 

 

気を失った男に呆れ果てる咲夜の言葉で正気に戻り、もう一人の男は怒りを露わにして背中を向ける咲夜へと突っ込み刀を振りかざしていく。咲夜は咄嗟にそれに反応して背後に振り返りながら男の振り下ろした刀を右手で払い、更に勢いを殺さずにそのままその場で回転し、そして……

 

 

咲夜「フッ!」

 

 

―ドグオォッ!!―

 

 

「ガッ…ハッ…?!」

 

 

男の腹へと渾身の後ろ蹴りを突き刺し、男は一瞬呼吸が止まって苦しげに身体をくの字に折り曲げていった。そして男が腹を押さえて悶え苦しむ中、咲夜は男の腹から左足を離して距離を離すと、右手を力強く握り締め……

 

 

咲夜「せえええあああああああああああっ!!」

 

 

―バキイィンッ!!―

 

 

「があぁっ?!」

 

 

アッパーカット気味に拳を勢いよく振り抜き、男の顎を真下から殴りつけていったのだった。そして男は懐に仕舞っていた小刀を落しながら吹っ飛んで地面へと大の字に倒れ、咲夜は男の落とした小刀を拾って刀を抜くと、そのまま男の下に歩み寄り……

 

 

―……ドンッッ!!―

 

 

「っ?!ひ、ひいいいいっ?!」

 

 

男の顔目掛けて刀を振り下ろし、男の顔の横ギリギリに刃を突き立てていったのだった。ギラリと鋭く輝く刃を見た男は恐怖で引き攣った表情を浮かべ、咲夜は前髪で顔を隠しながら男を睨みつけた。

 

 

咲夜「お前達みたいに……自分の事しか考えられない奴……大っきらいだっ……さっさと消えろ……」

 

 

「う、あぁ……お、お前!こんな事してただで済むと思うなよぉ?!」

 

 

男はそんな捨て台詞を残しながら体を起こすと、気を失う仲間を担ぎ何処かへと逃げ去っていった。そして咲夜はそんな男達を見送ると疲れたように溜め息を漏らし、小刀を捨てて女の方へと振り返った。

 

 

咲夜「おい、大丈夫か?」

 

 

「……え?あ、は、はい。すみません、ありがとうございます……危ないところを……」

 

 

咲夜「いいや、私が勝手にやっただけだ。怪我がないのならそれでいい……それにしても……」

 

 

咲夜は頭を下げて礼を言う女の格好を頭から足先まで見下ろしていき、不思議そうに小首を傾げて口を開いた。

 

 

咲夜「見慣れない格好だな…もしかしてお前、旅人か何かか?」

 

 

「へ?……あ、はい。旅の途中、休める場所を探してこの村に来たばかりでして……」

 

 

咲夜「ほお、道理でこの辺りじゃ見ない顔だと思った……あぁ、自己紹介が遅れたな。私は咲夜、この村の住人だ。お前は?」

 

 

名を名乗ることをすっかり忘れて自己紹介をすると、咲夜は女に名前を聞いていく。その問いを受けた女は頭に被っていた風来帽を外し、白い髪と紅い瞳を露わにして口を開いた。

 

 

「――私は雪奈…雪奈って言います。よろしく、咲夜さん」

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数時間後。野菜の仕事を終えて夕方になった頃、咲夜は仕事の間待たせていた雪奈から話を聞こうと、近くの団子屋に訪れて茶をしながら話をしていた。

 

 

咲夜「ふむ……では、雪奈は今の世の中を見て回る為に旅をしている、という事か?」

 

 

雪奈「えぇ、一応そんなところなんですけど……肝心の旅の資金が、昨晩宿に泊まった時にほとんど使ってしまって……それで必要な資金を稼げるところを探して歩いていたら、さっきの人達にぶつかって絡まれてしまいまして……」

 

 

咲夜「成る程、それはまた災難だったなぁ」

 

 

そう言いながら咲夜は茶を手に取って口に流し込んでいき、雪奈も苦笑しながら団子をひとくち口にしていく。

 

 

咲夜「……で、旅の資金を稼げるところは見付かったのか?」

 

 

雪奈「あ……いえ、それはまだ……あ、咲夜さんってこの村の人なんですよね?なら、私でも働ける所って知りませんか?」

 

 

咲夜「ん?んー……どうだろうな……今は何処も手が足りないってことはないし……少し難しいかもしれんな……」

 

 

雪奈「……そう、ですか……」

 

 

雪奈が働けそうな所は今はないかもしれないと、そう告げる咲夜に雪奈もガクリと肩を落としてしまった。旅の資金もそうだが、金がなければ宿にも泊まれないし食料も買えない。今夜は本気で野宿を考えるしかないかもと、雪奈が沈んだ顔を浮かべる中、咲夜はそんな雪奈の様子を見てなにかを考え込むかのように顎に手を沿えた。

 

 

咲夜「ふむ、そうだな……雪奈、仕事の方は私がどうにかしてみようか?」

 

 

雪奈「……は?いや、でもそんな、悪いですし……」

 

 

咲夜「構わんさ、別に迷惑とは思っていないし。第一、金がないんじゃ旅を続ける事も出来ないだろ?」

 

 

雪奈「それは……そうですけど……でも、咲夜さんに迷惑掛けるのは……」

 

 

咲夜「だから迷惑とは思っていない。それに一度助けたからには、途中で放って見捨てるというのも気持ちが悪いからな。此処で会ったのも何かの縁という奴だ、私に任せておけ♪」

 

 

ポンッと、自分の胸を叩き雪奈に笑みを向ける咲夜。そんな咲夜の言葉を聞いた雪奈は何かを考えるように暫く顔を俯かせると……

 

 

雪奈「――えと……じゃ、じゃあ……お言葉に甘えても良いですか……?」

 

 

咲夜「うむ、そうこなくてはな♪さて、そうと決まったら……おばさん!お代は此処に置いておくよ!」

 

 

雪奈の了承を得た咲夜は懐から出した団子代を置くと、はるかのお土産を持って雪奈の手を引きながら店を飛び出した。

 

 

雪奈「え、ちょっ!何処に行くんですかっ?!」

 

 

咲夜「決まっている!今日からお前の住むところだ!ほら、早く行くぞ♪」

 

 

雪奈「は、ええ?!聞いてないですよそんなのっ?!ちょ、待ってっ!そんなに引っ張ったら転んじゃいますってばぁっ!」

 

 

咲夜に手を引かれながら叫ぶ雪奈だが、咲夜はそれを聞かず意気揚々とした様子で雪奈を引っ張り何処かへと向かっていったのだった。

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出②

 

 

夕日の光が差し込む咲夜とはるかの家。其処には昨日と変わらず布団の上で静養するはるかの姿があった。だが二つだけ昨日と光景が違い、先ずは彼女の容態が昨日より安定し良好であること。そしてもう一つは、彼女が布団から身を起こし昨日咲夜に貰った本で読書をしてるという事。静穏の漂う家の中に本のページをめくる音だけが響き渡り、はるかが次のページをめくろうとした瞬間……

 

 

―ガラガラッ―

 

 

咲夜「はるか、ただいま」

 

 

はるか「…あ、お姉ちゃん!おかえり~!」

 

 

家の戸が音を立てて開かれ、其処から咲夜とオロオロと辺りを見渡す雪奈が家の中へと入ってきたのである。すっかり読書に意識を向けていたはるかは咲夜の声に反応して顔を上げ笑顔で出迎え、それに対し咲夜は身体を起こすはるかを見て驚いた顔を浮かべ、はるかの傍に駆け寄っていく。

 

 

咲夜「はるか、身体の具合は大丈夫なのか?」

 

 

はるか「あっ、うん。昨日より大分楽な方だから全然大丈夫……あれ?お客さん?」

 

 

心配する咲夜に笑ってそう言うと、はるかは戸の前でなにやらオロオロしている雪奈に気付き首を傾げた。するとはるかに疑問を抱かれた雪奈は若干肩をビクッと震わせながらも、苦笑しながら手を上げてはるかに挨拶していき、咲夜ははるかから雪奈に視線を向けて口を開いた。

 

 

咲夜「ああ、アイツは雪奈と言って、さっき其処の市で知り合った旅人だ」

 

 

はるか「?旅人さん?あ、だから風来坊の格好を……」

 

 

咲夜の説明で、何故雪奈が風来坊の格好をしてるのか納得し小さく頷くはるか。するとはるかは、今まで読んでいた本を傍らに置いて布団から立ち上がろうと……

 

 

咲夜「ってこら!まだ寝てなきゃ駄目だろ?!」

 

 

はるか「ん……でも、せっかくお客さんが来てくれたのに、お茶も出さないのは……」

 

 

雪奈「い、いえ、別に気にしなくていいですよ?お構いなくυυ」

 

 

はるか「でも……」

 

 

安静にしてなければいけない体を起こし、雪奈に茶を出そうとするはるかに気にしなくていいと慌てて呼び掛ける雪奈だが、せっかく来てくれたお客に茶も出さないのは失礼ではないかと、はるかはそれが気になり心配そうに咲夜の顔を見つめた。すると、咲夜はそんなはるかの両肩に手を添えながら……

 

 

咲夜「そんな心配するな。それに、雪奈は別に客って訳ではないし」

 

 

はるか「へ?お客さん……じゃないの?」

 

 

咲夜「ああ。雪奈は客じゃなくて、今日から家に住む同居人だ。だからお前も、雪奈と仲良くするんだぞ♪」

 

 

はるか「え……」

 

 

雪奈「……は?」

 

 

雪奈は今日から家に住む同居人。陽気に笑ってそう告げた咲夜の言葉にはるかと雪奈は思わず目を点にさせてしまうが、雪奈はすぐに正気に戻ると慌てて草履を脱いで中へと上がり込み、咲夜の手を強引に引っ張り家の隅っこに引き寄せた。

 

 

咲夜「む?どうした雪奈?」

 

 

雪奈「ど、どうしたじゃありませんよっ!今の、一体どういう事ですか?!」

 

 

咲夜「……ああ、同居の事か?どういう事もなにも、今言った通りだが?」

 

 

雪奈「聞いてませんよっ!いきなり同居なんて、そ、そんなこと言われても困ります……!」

 

 

雪奈の反応も無理もない。いきなり今日会ったばかりの他人の家に連れて来られて、しかもいきなり本人の同意も無しに同居しろと言われても戸惑ってしまうのは当然の反応だろう。オドオドと慌てふためきながら困惑してしまう雪奈だが、咲夜は呆れたように溜め息を吐きながら腰に手を当てていく。

 

 

咲夜「まあ、確かにあらかじめちゃんと言わなかった私も悪いとは思うが……だが実際、お前も今日泊まるところがないんだろう?金もないし、そんなんで宛があるのか?」

 

 

雪奈「それは……その……ないですけど……」

 

 

咲夜「だろ?なら必要な金が貯まるまで此処を使えばいいさ。あ、無論貸し借りがどうのこうの言うつもりもないから、その辺は安心してくれて構わない」

 

 

雪奈「あ……う……いや……でも……」

 

 

確かに手持ちがない以上、此処に住まわせてもらえるならソレはソレで助かる。だが、やはり……と雪奈はチラッとこちらを見つめて不思議そうにしてるはるかを横目で見つめ、暗い表情を浮かべてしまう。そんな煮え切らない態度を見せる雪奈に咲夜は軽く溜め息を吐いた。

 

 

咲夜「まったく……まあ、別に野宿がしたいというのなら引き止めはしないぞ?ただし、それでどんな恐ろしい目に遭っても私は責任取らないが……」

 

 

雪奈「……えっ?ど、どういう意味ですか、それ?」

 

 

ポツリと、若干小声で呟いた最後の言葉の部分が気になり恐る恐る咲夜へと問い掛けていく雪奈。それと共に、何故か咲夜の周りからドロドロドロドロッ……と怪しげな効果音が聞こえ始め、咲夜は顔を真っ青に染めながらポツポツと語り始めた。

 

 

咲夜「お前は他所の人間だから知らないだろうが……この辺りはな……?他でも出るってかなり有名なんだよ……」

 

 

雪奈「で、出る?出るって……ま、まさか……?」

 

 

咲夜「そう……昔、この村はある盗賊の一団に襲われた事があってな……その時に沢山の村人が殺されたのだが、その殺された村人の怨霊が今も夜な夜なこの村を徘徊してるらしい……」

 

 

雪奈「え、えぇぇぇっ?!……で、でもっ、そんなのただの噂……ですよねっ……?」

 

 

咲夜「どうだろうなぁ……実際見たっていう証言は度々聞くし、あながち嘘とは言い切れないしな~……」

 

 

雪奈「そ、そんなぁっ?!」

 

 

幽霊や怨霊の類が余程苦手なのか、咲夜の話しを聞いただけで瞳を潤ませながら情けない声を上げてしまう雪奈。そんな雪奈の様子に咲夜は顔を反らして不敵に笑い、すぐに陽気な笑みを浮かべながら雪奈の肩を叩いた。

 

 

咲夜「まっ、それでも構わないと言うなら勝手にすればいいさ♪あ、でももし呪い殺されても私を恨まないでくれよ?」

 

 

雪奈「うっ?!うぅっ……うぅぅぅぅぅぅっっ……」

 

 

ポンポンッと、雪奈の両肩を叩きながら好きにしろ♪と陽気に笑う咲夜。しかしあんな恐ろしい話しを聞かされた以上、既に暗くなり始めた外を出歩くなんて出来っこない。完全に怖じけづいてしまった雪奈は涙目になりながら咲夜を睨み、ただただ悔しげに唸り声を上げるしか出来なかったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

はるか「ごちそうさまでした」

 

 

雪奈「……ごちそうさまです」

 

 

咲夜「お粗末様でした……っと。それじゃ、私は食器を洗ってくるよ」

 

 

あれから時間が経ち、時刻は既に夜中。咲夜達の自宅では咲夜とはるか、そして結局外に出るのが怖くて家に居着く事にした雪奈は、丁度夕食を済ませたところだった。咲夜ははるか達の食器と自分の食器を持って皿洗いをするために外へと出ていき、居間には雪奈とはるかの二人だけが残された。

 

 

雪奈「…………」

 

 

はるか「…………」

 

 

雪奈「…………」

 

 

はるか「…………」

 

 

雪奈(か……会話がないっ……υυ)

 

 

咲夜が外に出ていってから二人はどちらからも話しを切り出そうとはせず、ただ沈黙だけが流れ続けていた。やはり親しくもない会ったばかりの得体の知れない人間と意気ワイワイと話せる筈がない。しかし此処に住む事になった以上、何時までも彼女と壁を作るのはあまりよろしくない。そう思った雪奈は心の中で腕を組み、ウーンウーンと唸りながらはるかと楽しく話せそうな話題を必死に考えていた。その時……

 

 

はるか「―――あ、あのぉ……少し伺ってもいいですか、雪奈さん?」

 

 

雪奈「……へ?あっ、は、はい!何でしょうか?!」

 

 

予想外にもはるかの方から声を掛けられ、雪奈は意識を取り戻し慌てて大声で返事を返した。そんな雪奈の返事に若干引きながらも、はるかは若干苦笑しながら言葉を続けた。

 

 

はるか「え、えっと…雪奈さんとお姉ちゃんって、確か市で知り合ったんですよね?それで、二人はどんな経緯で知り合ったのかなぁ……と思って……」

 

 

雪奈「あ……ええっと……それはですね?話せば少し長くなりますけど……」

 

 

はるかに咲夜と知り合った経緯を聞かれ、雪奈は簡潔にだが詳しく事情を説明していく。するとはるかは話を聞きながら何度も小さく頷き、話が終わると同時に仕方なそうに息を吐いて苦笑いをした。

 

 

はるか「そうだったんだ……お姉ちゃん、本当に相変わらずなんだから」

 

 

雪奈「?……あの……もしかして、咲夜さんって何時も今回みたいなというか、人助けを……?」

 

 

はるかの様子からそうなんじゃないかと思い、率直に質問する雪奈。その問いを受けたはるかは苦笑いしたまま頬を掻き、複雑な顔を浮かべながら口を開いた。

 

 

はるか「そうですね……毎日って訳じゃないですが、姉は何時も目の前で困っている人を見ると放っておけなくて、すぐに助けに入っちゃうんです……例え相手が自分より大柄で、凶器を持ってても、自分より強くても、最後までその人を助けるまで諦めないっていうか……」

 

 

雪奈「……どうして、咲夜さんは其処まで……?」

 

 

はるか「…………」

 

 

ただの親切ならまだ分かるが、はるかの話を聞く限り咲夜のソレは明らかに親切の度を越えてる。何故そこまでして自分の身を危険に曝すような事を?と雪奈が怪訝な顔で問い掛けると、はるかは自分の両手を絡めながらそれに答えた。

 

 

はるか「もう随分昔の話しなんですけど……この村は昔、戦で敗戦した兵士達の一団に襲われたことがありまして……その時に私達の両親、それに当時親しかった友達や親戚も、皆殺されてしまったんです……」

 

 

雪奈「え……」

 

 

家族や友人達を殺された。物静かな口調でそう呟いたはるかの言葉に雪奈は目を見開き、はるかは顔を俯かせたまま苦笑いした。

 

 

はるか「姉は多分、その時のことを今も後悔してるんだと思います……目の前で大切な人達が死んでいくのに、何も出来ずにただ見ているしか出来なかった……それを今も忘れられないから、姉は二度とそんな思いをしたくないが為に人を助けてるんだと思います」

 

 

雪奈「…………」

 

 

はるか「姉は何時もああやって元気に振る舞ってますけど、アレも本当はその時の弱さを隠す為に取り繕ってるだけなんです。弱いままじゃ誰も守れないから、弱さを見せたら誰も救えないから、自分なら出来る、自分なら絶対やれる、自分は強いんだって……もうあの時みたいな後悔をしたくないから、そう自分に言い聞かせて、強く有ろうとしてるだけなんですよ」

 

 

はるかは咲夜が出ていった家の入り口の方へと視線を向けてそう言うと、雪奈に視線を戻して儚げに微笑んだ。

 

 

はるか「だから私も、病気に負けずに長生きしないといけないんです……あんな姉をひとり残して逝ったりしたら、心配過ぎて成仏も出来ませんからね」

 

 

雪奈「…………」

 

 

あははは……と、頬を掻きながら苦笑いするはるか。雪奈はそんなはるかの顔を黙って見つめ、顔を俯かせながら自嘲気味に笑った。

 

 

雪奈「羨ましいですね……出来れば私も、貴方みたいな温かい家族の下に生まれたかった……」

 

 

はるか「?雪奈……さん?」

 

 

雪奈「――いえ、なんでもありません♪あ、そういえばさっき咲夜さんが布団を出しといてくれって言ってましたっけ。ちょっと取ってきます♪」

 

 

心配そうに声を掛けてきたはるかに明るげに答えると、雪奈はおもむろに腰を上げて咲夜に頼まれた布団を取りに家の奥へと向かっていった。そして、居間に残されたはるかは……

 

 

はるか(……雪奈さん……何だか一瞬寂しそうな顔をしてたような……ただの気のせい?)

 

 

先程の雪奈の様子が普通ではなかったと疑問を抱き、雪奈が去っていた方を心配そうに見つめていたのだった。

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出③

 

 

それから翌日。不本意ながらも咲夜達の家に暫く居候する事になった雪奈は、旅に必要な資金を貯める為に資金を稼げるところを咲夜に紹介してもらい、彼女が何時も働いてる野菜採りの仕事で働くことになった。そして、今日はその雪奈の仕事初日となる訳なのだが……

 

 

 

 

 

 

『カァーッ!カァーッ!カァーッ!』

 

 

雪奈「あぁーーーー?!!お、お野菜が!!お野菜がカラスに取られたぁーーーーーーっっ?!!」

 

 

咲夜「ば、馬鹿っ!!なにやってる?!早く追え!!追い掛けろっ!!」

 

 

雪奈「は、はいいぃっ!!―ビダンッ!!―アイタッ?!うっ……ふえぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっっ!!!膝擦りむいたあぁぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!(泣)」

 

 

咲夜「呑気に泣いてる場合か馬鹿あぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!(怒)」

 

 

 

 

 

 

…………ハッキリ言えば、最悪だった。雪奈が大事な品物の野菜をちょっと目を離した隙にカラス達に取られた上に、一つも取り返す事が出来ずまんまと逃がしてしまったり……

 

 

 

 

 

 

咲夜「よっと……ふぅ……よし、雪奈。これ彼処まで運んでくれ」

 

 

雪奈「は、はい!よいしょっと……んしょっ……んしょっ……!」

 

 

「よーしよし、がんばれー雪奈ーっ!」

 

 

雪奈「は、はいぃ……せぇーーのぉー、せえっ!!」

 

 

―バキイィッ!!―

 

 

『……あ……』

 

 

 

 

 

 

……野菜を運んでる途中、大事な仕事道具である荷車を強く引きすぎて壊してしまったり……

 

 

 

 

 

 

「雪奈ちゃーん!急いでー!」

 

 

雪奈「ま、待って下さい!ま、まっ――ひえあぁぁッ?!!」

 

 

―ビッシャアーーンッ!!―

 

 

「あっ……」

 

 

咲夜「……ゆひぃな……おみゃえくひゃい……(訳・雪奈……お前臭い……)」

 

 

雪奈「うっ……うえぇぇぇぇぇぇぇえんっっ……!!(泣)」

 

 

 

 

 

 

……荷車が使えなくなり、野菜を畑から村にある店まで手で運ぼうとした途中、盛大にすっ転んで全身肥料まみれになってしまったりと……

 

 

とにかく、初日からクビを切られてしまうんじゃないかとハラハラする一日だった……

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

 

咲夜「―――雪奈……お前不器用にも程があるぞ……」

 

 

雪奈「す、すみません……υυ」

 

 

仕事を終えた後、咲夜達は仕事帰りに昨日来た団子屋でお茶をしていた。雪奈は注文したみたらし団子を口に含みジト目で睨んでくる咲夜から気まずそうに目を逸らし、咲夜は口に入れた団子を飲み込んで深い溜め息を吐いた。

 

 

咲夜「今日一日、どれだけハラハラさせたら気が済むんだ?おばさん達は気にしないでいいと言ってくれたが、大事な品物をカラスに取られたり、大事な荷車を壊したりと……ホントなら仕事を止めさせられても可笑しくないんだぞ?」

 

 

先程仕事を終えて店で別れた後、おばさん達は雪奈の壊した荷車の修理に取り掛かっていた。一応修理を手伝おうと申し出たのだが、二人は笑って気にしないで良いと言ってくれた上に、雪奈には『また明日も頼むよ』と気にかけてくれたのだ。そんな二人に迷惑を掛けてしまったと思うと悪い気がしてならず、咲夜は茶を啜って再び溜め息を吐いた。

 

 

咲夜「とにかくあの二人に感謝しろよ?普通なら一発で仕事を辞めさせられても可笑しくない失敗をして、それでもまた使ってくれるって言うんだ。今度は迷惑掛けないようにな?」

 

 

雪奈「はい……ホントに、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんυυ」

 

 

咲夜「分かればいいさ……それにしても、農作の仕事も満足に出来ないとは……オマエ、旅に出る前はどうやって生計を立てていたんだ?これじゃ何処も使ってくれないような酷さだぞ?」

 

 

今回みたいに農作の仕事もろくに出来ないなら、雪奈は旅に出る前はどうやって食って暮らしていたのか?何気なくそれが気になって直接聞いてみると、雪奈は一瞬驚きながらも目をキョロキョロさせて視線を泳がし始めた。

 

 

雪奈「え、えっと……どうやってっていうか……仕事とかは、こういうのあまりした事がないし……家の事も、使用人達がやっていたから良く知らないというか……」

 

 

咲夜「使用人?……もしかしてお前、何処かの名家の生まれとかか?」

 

 

雪奈「あ……いや、えっと……名家とかそんな大した家じゃないですよ?ただ単に、他の家よりもちょっと裕福なだけですからυυ」

 

 

咲夜「ふーん……まあお金持ちのお嬢様なら、仕事に働き慣れてなくても仕方がないか……」

 

 

寧ろそうでなくては、今日みたいなありえない失敗の連続は出来ないだろうと、逆に納得したように頷いて軽く息を吐く咲夜。そんな咲夜の反応に雪奈も何とも言えず苦笑し、視線を逸らしたまま気まずそうに語り出した。

 

 

雪奈「私も出来れば、余り迷惑掛けたくないって思ってるんですけど……何故かそんな気持ちとは裏腹に、頑張れば頑張るほど失敗してしまうというか……正直旅に出るまでは、自分がこんなにも生活面が駄目だとは知りもしませんでした……」

 

 

咲夜「…………」

 

 

アハハ……と苦笑して笑う雪奈だが、その顔は何処か落ち込んでるように見える。やはり内心では、仕事が上手く出来ずに凹んでるんだろうと咲夜は思った。そして咲夜は最後の一本を口に含んで食べると、何かを思い付いたように顔を上げた。

 

 

咲夜「そうだ……雪奈、これから良いところに連れてってやる」

 

 

雪奈「……へ?良いところ……ですか?」

 

 

咲夜「歓迎祝いだ。特別にお前にも教えてやる♪あっ、そういえばはるかも前に行きたいとか言っていたな……体調が良ければアイツも連れていくとしよう♪よし、行くぞ!」

 

 

雪奈「え?へ?ちょ、私まだ行くなんて言ってな――?!」

 

 

一人で予定を決めて盛り上がる咲夜に何かを言おうとする雪奈だが、咲夜はそれを聞かずに団子代を置いて立ち上がり、昨日と同じく雪奈の手を引っ張って家へと向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

――で……

 

 

はるか「―――へ?今からあの場所……に?」

 

 

雪奈と共に自宅に帰宅後、咲夜は先程雪奈に提案した案をはるかに話していた。話を聞いたはるかは咲夜の突然の提案に瞬きし、咲夜は意地悪げな笑みを浮かべ隣に座る雪奈を横目に見た。

 

 

咲夜「実は雪奈が、仕事でドジばっかりして凹んでしまってな?だから歓迎祝いも含めて、凹んでるコイツを慰めてやろうと思ってな♪」

 

 

雪奈「べ、別に凹んだりしてませんよ!ただちょっと仕事が上手く行かなくて、落ち込んでるだけであって……」

 

 

咲夜「阿呆め、それが凹んでると言うんだ。ま、お前も前からまた彼処に行きたいと言っていたし、ちょうど良いから一緒に行こうと思ったんだが……身体は大丈夫か?」

 

 

はるか「あ、う、うん……大丈夫だけど……いいの?二人共お仕事で疲れてるんじゃ……」

 

 

咲夜「心配するな♪私はいつも鍛えているからこんなことでは疲れてはいない♪お前はどうだ?」

 

 

雪奈「あ、いえ…私はもう正直疲れて眠た「大丈夫だそうだ♪」ちょっとっ?!」

 

 

初めから聞く気ないなら聞かないでよっ?!と涙目になりながら咲夜に叫ぶ雪奈だが、咲夜はそれを右から左へと受け流しはるかへと身を乗り出した。

 

 

咲夜「ま、お前一人ぐらい背負っていくなど造作もないさ。だからそんなこと気にしないで、一緒に行こう♪」

 

 

はるか「…………」

 

 

笑ってそう告げる咲夜の言葉を聞き、はるかはチラッと視線を動かし雪奈の顔を見た。其処には既に諦めて深い溜め息を吐く雪奈の姿があり、私のことなら気にしなくて良いですよ~……と苦笑しながら手を上げていた。それを見たはるかは顔を俯かせて深く考え込むと……

 

 

はるか「……じゃ、じゃあ……一緒に行ってもいい?」

 

 

咲夜「うむ、そう来なくてはな♪では私達も準備するから、ちょっとだけ待ってろよ?」

 

 

はるか「うん……♪」

 

 

余程『あの場所』に行けるのが嬉しいのか、咲夜に頭を撫でられて満面の笑みを浮かべるはるか。咲夜はそんなはるかに頷き返すと、出かける準備を始めようと家の奥へと向かっていき、雪奈もその後を追い掛けて咲夜に話しかけた。

 

 

雪奈「あの、咲夜さん…?さっきから言ってますけど、あの場所って一体何なんですか?」

 

 

咲夜「んー?まあ、行ってみれば分かるさ。ただそうだな……取りあえず言えるのは――」

 

 

雪奈の質問に対し、咲夜は顎に手を沿えて暫く考えると、雪奈に顔を向けながら小さく微笑みこう言った。

 

 

咲夜「――私達にとっては大事な場所だ。私とはるか、そして父さんと母さんにとっても……な……」

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出④

 

 

数十分後……

 

 

雪奈「ヒィッ…ヒィッ……ま、待って下さいぃ~!」

 

 

咲夜「ほら、頑張れ雪奈!」

 

 

はるか「雪奈さーん!頑張って下さ~い!」

 

 

外出の準備を済ませた後、咲夜とはるかと雪奈の三人は家を後にして村の近くの山に訪れていた。ちなみにはるかは咲夜の背中におぶられており、咲夜がそれを気にした様子もなく順調に山道を登る中、その後ろからは呼吸絶え絶えの雪奈がふらついた足取りで咲夜の後を追い掛けてきていた。

 

 

雪奈「ぜぇ、ぜぇ……咲夜さぁ~ん……まだ着かないんですかぁ~……」

 

 

咲夜「もう少しだ。後もうちょっとで……あ、ほら、見えてきたぞ!」

 

 

もう倒れそうですっ……と言いたげな情けない声を上げる雪奈を励ましながら、咲夜は暗い森林の奥を指差した。咲夜が指差す先には出口があり、其処から木々に囲まれた暗い山道を照らすように一筋縄のオレンジ色の光が射している。

 

 

それを見た雪奈はラストスパートを掛けようと表情を切り替えて足を進め、咲夜もそんな雪奈を見て微笑しながらはるかを抱え直し、雪奈と肩を並べながら出口へと向かっていく。そして出口を抜けると、其処には……

 

 

雪奈「――ッ!これは……」

 

 

出口を抜けてすぐ、雪奈は目の前に広がる光景を見て愕然となった。雪奈の目に映ったのは、一面に広がる沢山の種類の花で彩られた花畑。更にその花畑の向こうにはオレンジ色の夕日が見え、その光が花畑の花に被った水を照らし、一面の花畑がキラキラと光り輝いているように見える。その余りにも美しい光景に雪奈も見惚れて言葉を失ってしまい、咲夜はそんな雪奈の横を通って花畑の中に入り、背中に背負ったはるかを花畑の上にゆっくりと下ろした。

 

 

はるか「わぁ……前来た時と全然変わらないね、此処……」

 

 

咲夜「だな。あ、でも少し花が濡れてるようだが……大丈夫か?冷たくないか?」

 

 

はるか「あははは、心配し過ぎだよお姉ちゃん。コレくらい私でも平気だから♪」

 

 

大丈夫大丈夫!と、自分が元気だと安心させるように笑顔を向けるはるか。咲夜はそんなはるかに心配を拭え切れない様子を浮かべながらも、彼女を気にしながら未だ呆然と佇む雪奈の下へと歩み寄った。

 

 

咲夜「どうだ雪奈、すごいだろ此処?」

 

 

雪奈「あ……は、はい……此処がさっき言っていた、咲夜さん達ご家族にとって大切な場所……なんですか?」

 

 

咲夜に声を掛けられて正気に戻ると、雪奈は数歩前に出て身を屈め花畑を見つめていく。そして咲夜も雪奈の言葉に頷きながら雪奈の隣に屈み、一輪の花を手にして口を開いた。

 

 

咲夜「此処はな、私達の父さんと母さんが結婚を誓い合った場所でもあるんだ。その後も父さん達に連れられて、良くはるかと一緒に此処で遊んだ事があってな……だから此処は、私達にとって思い出深い場所なんだ」

 

 

雪奈「……そうなんですか……」

 

 

咲夜とはるかの両親。その両親との思い出を聞かされた雪奈は複雑そうな表情を浮かべながら顔を俯かせ、咲夜は花畑の中に座り込み花を摘むはるかを一度見つめると、雪奈に顔を向けて口を開いた。

 

 

咲夜「ま、此処は父さんと母さんに私とはるかしか知らない秘密の場所でもあるんだ。此処までの道も結構険しいし、村の人達も此処には何もないと思っているから、誰も近付こうとはしないんだ」

 

 

雪奈「秘密の場所……そんな場所を、私なんかに教えても良かったんですか……?」

 

 

咲夜「さっきも言っただろ?此処へはお前を元気付けるために連れて来たんだ。私も嫌なことがあった時は此処へ来て元気をもらってたしな……だからお前も、この景色を見て少しは元気出せ。な?」

 

 

雪奈「……はい。ありがとうございます、咲夜さん」

 

 

微笑する咲夜の言葉で少しは元気を取り戻せたのか、雪奈は小さく笑みを浮かべ目の前の花畑に目を向けていく。そしてその視線を追うように咲夜も目の前に目を戻すと、何かを思い付いたように顔を上げて雪奈に語りかけた。

 

 

咲夜「そういえば……なあ雪奈、お前の両親って一体どんな人達なんだ?」

 

 

雪奈「……え?私の両親……ですか……?」

 

 

咲夜「ああ、何となく気になってな。どんな人達なんだ?お金持ちって言うから……やはり家の事とかで厳しかったりするのか?それとも以外と娘に甘い親馬鹿だったりとか?まあ、今のお前の不器用な性格から見て、両親も似たようにドジだったりしてな?はははっ」

 

 

雪奈「…………」

 

 

指を立たせながら、雪奈の両親のイメージを頭の中で膨らませ楽しげに笑う咲夜。だが、雪奈は何故か沈んだ顔を浮かべて何も答えず、咲夜もそんな雪奈の様子が可笑しい事に気付き話すのを止め、頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

咲夜「雪奈?どうした?」

 

 

雪奈「あ…いえ…その…何と言うか…」

 

 

咲夜「???」

 

 

何故か気まずそうに視線を泳がして苦笑する雪奈に、咲夜は更に疑問符を並べて小首を傾げていく。そして雪奈は泳がせていた瞳をはるかに向けると、膝を抱えながら顔を伏せた。

 

 

雪奈「――その……私……母様の事は何も知らないんです……母様は私を産んですぐ、亡くなってしまったらしいので……」

 

 

咲夜「ぇ……」

 

 

雪奈の母親は、雪奈を出産してすぐ亡くなっている。雪奈の口からそう聞かされた咲夜は思わず言葉を失い、雪奈はそんな咲夜の顔を見て苦笑いしながら言葉を続けた。

 

 

雪奈「だから私、幼い頃からずっと父様に育てられてきたんです……でも、その父様もつい先日……戦で亡くなられてしまって……」

 

 

咲夜「……そう……だったのか……」

 

 

戦で亡くなったということは、彼女の父親も戦に巻き込まれて死んだのだろうか?もしそうなら、先程まで冗談半分に雪奈の両親の事を話していた自分が恥ずかしいと、咲夜は気まずそうに顔を伏せて表情を曇らせた。

 

 

咲夜「その……すまないな……不謹慎に親の話をして、勝手に一人で盛り上がってしまって……」

 

 

雪奈「あ、いえ!別に全然気にしてませんから!咲夜さんもそんな気にしないで下さい……!」

 

 

咲夜「いや、しかし……」

 

 

悪気がなかったとは言え、死んでしまった家族の事を面白可笑しく話されていい気分がする筈がない。実際咲夜もそういう経験があるから、尚更それが分かる。そのことを謝罪する咲夜に対し、雪奈は気にしないでいいと慌てて手を振って告げると、目の前に視線を戻しながら含み笑いした。

 

 

雪奈「でも、なんていうのかな……こんな事を家の者たち以外に話す機会があるなんて、想像もしてませんでした。私、他に親しい人なんていないから……」

 

 

咲夜「?親しい人がいないって……友人はいなかったのか?」

 

 

雪奈「はい、生憎そういうのは一人も……作ろうとは思いませんでしたし、別にいなくても困らないだろうと、以前はそう思ってました……」

 

 

静かにそう語る雪奈の顔は、何処か寂しげに見える。雪奈は膝を抱え直しながらはるかに目を向け、僅かに瞳を細めながら口を開いた。

 

 

雪奈「――でも……父様が亡くなってから、その考えが間違ってたと漸く気付きました……父様がいなくなってからは私一人だけで、頼れる人が周りには誰もいない……今になって後悔してます。もっとちゃんと、心を許せる友を作るべきだった、と……」

 

 

咲夜「……友……か」

 

 

その言葉を口にし、咲夜は族に殺された嘗ての友人達の事を脳裏に思い浮かべていく。彼等が殺された後、咲夜は友人と言える人間を一人も作っていない。何せ自分と同い年の人間は既に殺され、生き残ったみんなも家族とともに此処よりも住みやすい場所へと向かい村を出ていってしまった。だから村にはもう大人やご老体の村人しかいない為に、今まで友人と呼べる人間を作ろうにも作る事が出来なかったのだ。

 

 

だからなんとなく、頼れる友人がいないという雪奈の気持ちは分かる。咲夜はそう思いながら雪奈を横目で見つめると、雪奈の腰に差さった刀に気付き首を傾げた。

 

 

咲夜「……?なあ、その刀って……」

 

 

雪奈「え?……ああ、これですか?これは父様の形見なんです」

 

 

昨日雪奈が男達から必死に庇っていた腰の刀が気になって何気なく問い掛けると、雪奈は腰に差していた刀を抜いて膝の上に置いた。

 

 

雪奈「この刀は、父様が腰に何時も差していた刀……代々家に受け継がれてきた名刀・雪片(ゆきひら)と言います」

 

 

咲夜「雪片、か……刀にしては綺麗な名前だな」

 

 

雪奈「あはははっ……まぁ、そんな綺麗な名前でも人を殺す道具に違いはありません……人を斬れば、この刀の刃も鮮血に染まる……それを考えると、【雪】という名は刀に不釣り合いかもしれません……私のように……」

 

 

咲夜「?」

 

 

何やら最後の部分だけ小声で呟いた為、咲夜の耳にはなんと言ったのか聞こえなかった。雪奈はそんな咲夜に苦笑いを向けると、膝に置いた雪片と咲夜を交互に見て、雪片を咲夜へと差し出した。

 

 

雪奈「良ければ、ちょっと持ってみますか?」

 

 

咲夜「え……?いいのか?大事な形見なんだろ?」

 

 

雪奈「構いませんよ。咲夜さんには色々とお世話になってますし、この場所を教えてくれたお礼です」

 

 

そう言って雪奈が差し出す雪片は、貧家生まれの咲夜でも一目で名刀だと分かる美しさを秘めている。咲夜は少し緊張して手汗が滲む手を着物で拭うと、雪奈の手から恐る恐る雪片を受け取っていった。

 

 

咲夜「おぉうっ……意外とズッシリ来るなっ」

 

 

雪奈「まあ、普段から刀を持たない人からすれば重たく感じるでしょうね。あ、良かったら抜いてみます?」

 

 

咲夜「い、いや、これ以上は良い。こういうのはどう扱っていいのか分からないし……」

 

 

やはりこういう名刀とか、高価そうなモノにベタベタ触れるのは少し恐れ多い。咲夜は若干顔を引き攣りながら雪片を雪奈へと返し、雪奈もそんな咲夜の様子に苦笑いしながら雪片を受け取り膝の上に置いていく。

 

 

咲夜「いやはや、やっぱり名刀なんて物は触れるだけでも緊張するなっ。何だか私が触れただけで汚してしまった感じがするよっ」

 

 

雪奈「そんな大袈裟なυυ……まあ、これは家を一つ・二つ建てるだけの価値があるらしいので、緊張するなという方が無理かもしれませんがυυ」

 

 

咲夜「って、そんな価値のある物なのかっ?!おまっ、早く言えよちょっと土が付いちゃったじゃないかっ?!」

 

 

もし価値が下がったりしたらどうするんだ?!と雪片にちょっと付いてしまった土埃を見てマジビビりする咲夜だが、雪奈は特に気にした様子もなく可笑しそうに笑った。

 

 

雪奈「咲夜さんだから良いんですよ。だって咲夜さんとはるかさんは、私にとって特別ですから」

 

 

咲夜「……は?特、別?」

 

 

雪奈「はい。私に此処まで親しく接してくれたのは、貴方達が始めてでしたから……だから、誰にも触れられたくない父の形見であるこの刀も、お二人になら触れられても嫌悪したりしません……寧ろ、逆に何だか嬉しく思うんです」

 

 

咲夜「…………」

 

 

穏やかな目で雪片を見下ろす雪奈を見て、咲夜も視線を下ろし雪片を見つめた。この刀は雪奈の父親の大事な形見であり、それを赤の他人なんかに安易く触れられて嫌悪感を抱かない筈がない。しかし、その形見を自分達が触れても嫌な思いをせず、寧ろ嬉しいのだと言ってくれた。それが嬉しく思えた咲夜は思わず微笑すると、目の前に目を向けながら口を開いた。

 

 

咲夜「なあ雪奈……これからはさ、私の事は呼び捨てで呼んでくれていいぞ」

 

 

雪奈「……え?」

 

 

その言葉が予想外だったのか、雪奈は刀から咲夜へと顔を向けて目をパチクリさせ、咲夜も雪奈に振り向き笑みを浮かべた。

 

 

咲夜「お前が私達のことを特別と思ってくれるなら、他人行儀にさん付けしないで名前で呼べ……友達だろ?私達は」

 

 

雪奈「友……達……?」

 

 

咲夜「そうだ。私は秘密の場所を教えて、お前はその大事な刀を触らせてくれた……こんなのは余程親しくなきゃ出来ない事だろう?だからもう、私達は友達だ。嫌か?」

 

 

雪奈「いっ、いえ!そんなことは全然っ……!」

 

 

咲夜「なら良い♪これからは私がお前の人生始めての友達で、はるかは二番目の友達だ。そういう訳だから、今からは愛しさと切なさと心強さを込めて私の名前を呼べ!はい!」

 

 

雪奈「え、えぇっ?!そんないきなりっ?!」

 

 

いきなり名前を呼び捨てで呼ぶように言われ、突然のことにオドオドと慌てふためく雪奈。そして、雪奈は胸の前で両手の人差し指をツンツンさせながら……

 

 

雪奈「えと……さ、咲……夜……?」

 

 

咲夜「うぅーむっ、何だかちょっとぎこちない感じが引っ掛かるが……まあいい、これから慣れていけば良いさ♪」

 

 

勇気を振り絞るようにぎこちなく咲夜の名前を呼んだ雪奈にちょっと不満は残るものの、仕方なそうに笑い掛ける咲夜。そんな時……

 

 

はるか「お姉ちゃーんっ!雪奈さぁーんっ!そんな所で話してないで、こっちに来なよーっ!」

 

 

何時までも離れた場所で話している二人に痺れを切らしたのか、花を摘んだ手を振って咲夜と雪奈に呼び掛けるはるか。咲夜はそんなはるかに「今いくー!」と返しながらゆっくりと立ち上がり、雪奈の方へと振り返って手を差し延べた。

 

 

咲夜「ほら、お前も行くぞ。せっかく久しぶりに此処まで来たんだし、お前にも此処での遊びを教えてやる♪」

 

 

雪奈「……はい。是非お願いします、"咲夜"」

 

 

陽気に笑う咲夜に対して、優しげな微笑みを浮かべて咲夜の手を取り立ち上がる雪奈。そして咲夜は雪奈の手を引いてはるかの下へと駆け出し、それぞれ楽しい時間を過ごしたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう……永訣の別れが少しずつ近づいている事も知らず……私達はただ……"今"を笑い合っていた……

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑤

 

 

―――それからの数週間、雪奈は村での生活にすっかり馴れ親しみ、咲夜達との関係もより一層強い絆で結ばれつつあった。

 

 

仕事先でも最初の頃は何度か失敗して迷惑を掛ける事が多かったが、咲夜の影ながらのサポートのおかげでなんとか仕事も板に付き、資金も順調に稼いでいる。

 

 

たまに休みがある日等は、仕事でいない咲夜の変わりにはるかの遊び相手になったり、咲夜に教わった家事を不器用ながら熟したり。

 

 

村の人たちとの関係も良好であり、誰もが雪奈も村の一員として受け入れ、今や彼女が咲夜たちと一緒にいるのが当たり前のようになっていた。

 

 

雪奈自身も苦労は絶えないものの、村での生活や仕事を楽しみ、毎日生き生きとした笑顔を受かべていた。

 

 

こんな日々が、何時までも続く……誰もがそう思っていた……『あの日』が来るまでは……

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

雪奈が村に滞在するようになってから、約四週間が過ぎた頃。何時もの様に仕事を終えた咲夜と雪奈は家に帰宅する途中、はるかの薬を買う為に村の薬売りの下へと訪れていた。

 

 

「ほい、これ何時もの薬な」

 

 

咲夜「ああ、何時もすまないな。おじさん」

 

 

「なに、こっちはただ商売やってるだけだ。礼を言われるほど大した事はしてねえさ」

 

 

そう言って薬売りの男性は照れ臭そうに笑いながら引き出しから取り出した薬を咲夜に手渡し、咲夜も今日の稼ぎのお金を出して薬を受け取り懐に仕舞っていった。

 

 

「しっかし、お前も苦労が絶えないな。はるかは病弱だから中々元気にならないし……やっぱり環境の問題なのかねえ……」

 

 

咲夜「さあな……私はそういう事に関しては良く分からないから、なんとも言えないが……前よりちょっと住み難くなってるのだけは、何となく分かる」

 

 

「だろうな。此処は再建したっつっても、まだまだ形だけでしか直せちゃいねえ……食べ物も以前に比べてかなり少なくなってるし、それが苦しいからって村を出てどっか此処より豊かな国に行こうとする奴も沢山いるが……途中で飢え死にしたり、戦に巻き込まれて死んじまったりする奴らが殆どだしなぁ……」

 

 

雪奈「?戦に……巻き込まれる……?」

 

 

戦に巻き込まれて死んだ。溜め息混じりにそう告げた男性の言葉に雪奈は思わず聞き返しに、男性はそんな雪奈に「うん?ああ……」と曖昧な返答をしたあと、再び溜め息を吐きながら口を開いた。

 

 

「この村から別の国や村に向かう最中、度々戦が行われてることが多いんだよ。だから、此処の村の住人達も何時この村が戦に巻き込まれるのかと、みんな毎日怯えながら生活してんだ。例え村を出ても、他の国までは遠いから食料が持つか分からねえし、その道中でもし戦に出くわして兵士にでも見付かったりしたら……」

 

 

雪奈「……どうなるん……ですか……?」

 

 

「先ず間違いなく、有無も言わせず拘束されて食料を全部奪われ兵糧にされちまうだろうな……そんでもしも捕まえた人間が男なら、脅迫して無理矢理兵士にさせらて戦わされるか奴隷にさせられ……女なら同じく奴隷か、最悪兵士達の慰めものにさせられるのがオチだろうさ……」

 

 

雪奈「なっ……そんなっ!そんな事をすれば、将軍や大将が黙ってる筈が……!」

 

 

「だが実際そうなんだよ。えらーい将軍様達とやらは兵士の士気を下げさせない為に、それを知っても黙視したり逆に薦めたりしてる……影でそういう事をやっていたって、誰にも言わなきゃなかった事になるしな」

 

 

雪奈「そんな……」

 

 

咲夜「……そういう物なんだよ……私達の立場なんて……」

 

 

信じられないという表情で呆然とした顔をする雪奈の隣で、ボソッと咲夜が何かを呟いた。それに気付いた雪奈が目を向ければ、咲夜は険しげに目を細めて唇を噛み締めている。

 

 

咲夜「私達がどんな目に遭っていようと、アイツ等は目もくれず助けてくれやしない……どうせ、これからの歴史でも私達の事は何も語られやしないだろうさ。都合の良い所だけ伝えて、悪い部分は全部なかった事にする……さぞかし立派な『英雄様』として伝えられていくんだろうな、アイツら武将達は……」

 

 

雪奈「……咲夜……」

 

 

彼女の目を見れば、なんとなく分かる。咲夜は武将達に対して、余り良い感情を抱いていない。寧ろ嫌悪に近い感情を抱いているのだと悟り、雪奈は何処か複雑げな顔を浮かべて俯いてしまうが、男性はそれに気付かず代金を懐に仕舞い腕を組んだ。

 

 

「まあ、今の戦国の世が終われば、きっと前みたいにもちっと暮らしやすい世の中になるだろう。それまで辛抱強く生きてくしかねえさ」

 

 

咲夜「……そうだな……すまないなおじさん、変なこと言ってしまって」

 

 

「うんにゃ。こんな世の中なんだ、愚痴りたくなる時だってあんだろうさ。気にすんなや」

 

 

咲夜「ありがとう……じゃ、私達はもう行くよ。雪奈、いくぞ」

 

 

雪奈「あ……は、はい」

 

 

咲夜は男性に一言礼を言って雪奈に声を掛けて帰路を歩き出し、今まで暗い顔を浮かべていた雪奈も正気に戻ると、男性に一度頭を下げて慌てて咲夜の後を追い掛けていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

薬売りの家を後にした後、咲夜と雪奈ははるかが待つ家に向かって夕暮れ色に染まった帰路を歩いていた。しかし……

 

 

咲夜「―――おい雪奈……何でそんな私から離れてるんだ……?」

 

 

ピタッと立ち止まって背後へと振り返れば、其処には黙々と咲夜の背後を歩いていた雪奈がビクッと肩を震わせながら同じように立ち止まっていた。因みに咲夜から雪奈までの距離は3メートルほど離れており、その事を指摘された雪奈はオドオドと焦りながら……

 

 

雪奈「え、えぇーっと……そ、そうっ!今日は仕事が何時もよりキツかったから、何だかちょっと疲れちゃいましてっ……!」

 

 

咲夜「……さっきは疲れてないかと聞いた時、『全然大丈夫です♪』って言ってたのにか?」

 

 

雪奈「え?……あ、いや、その……い、今になって!今になって疲れが出て来たんですよ!はい!」

 

 

咲夜「……ふーん……ま、別にいいけど……」

 

 

両手をブンブン振って慌てふためく雪奈が気になりながら、前を向いて再び歩き出していく咲夜。雪奈もその後を追うように歩き出すと、暫く咲夜の背中を見つめ、一度何かを迷うように顔を逸らしたあと……

 

 

雪奈「……あ、あの、咲夜……ちょっと、聞いていいですか?」

 

 

咲夜「んー?何だー?」

 

 

雪奈「あ……その……えと……」

 

 

ごもごもと言いにくそうに口をごもらせると、雪奈は少しだけ顔を上げて咲夜にこう問い掛けた。

 

 

雪奈「咲夜って、その……武士や武将達……戦をする人間を、嫌ってるんですよね……?」

 

 

咲夜「…………」

 

 

その問いを投げ掛けられたと共に、咲夜は不意に歩みを止めて立ち止まった。それを見た雪奈も同じように足を止めると、互いに口を閉ざしたまま沈黙が流れ、それを破るように咲夜が口を開く。

 

 

咲夜「嫌いだよ……あんな奴ら……だいっ嫌いだ……天下を統一するだなんて言って、勝手に戦を始めて、勝手に殺し合って、勝手に私達を巻き込んで、勝手に何もかも奪って……なのにそれが当たり前のように、平然と振る舞ってる……」

 

 

雪奈「…………」

 

 

咲夜「武将だ名将だなんて言われている奴がいるが、私から見れば皆同じにしか見えないさ……自分の欲望を満たすしか脳のない連中ばかりしかいない……」

 

 

雪奈「で、でも、そうとは限らないかもしれませんよ?中にはその……己の武士の誇りと名誉を守るが為に、刀を手にして勇敢に「それが一体何になるっ?!」ッ!」

 

 

気まずそうに顔を反らしてポツポツと語る雪奈の言葉を遮るかのように、咲夜の怒号が響き渡った。見れば咲夜は目尻に涙を浮かべ、血が滲むほど強く拳を握り締めている。

 

 

咲夜「武士の誇り?名誉?そんな物が何だ!!そんな目にも見えないものを守る為に戦まで起こされてっ、家族を奪われてっ、今までの生活を奪われてっ、私達からすれば迷惑以外の何物でもないっ!!戦をされれば、一番の犠牲になるのは私達なんだぞっ?!アイツ等はそれをまるで分かってないっ!!」

 

 

雪奈「それ……は……」

 

 

咲夜「誇りがなんだっ……名誉がなんだ、天下統一がなんだ?!以前の暮らしのままで十分に幸せだったのにっ、戦が起きてからそれも全部失ったっ……例え誰かが天下を取ったとしても……父さんも母さんも……もう戻っては来ないんだっ……」

 

 

雪奈「…………」

 

 

今まで胸の内に溜め込んでいた感情を吐き出すように、悲痛な叫びを上げる咲夜。それを聞いた雪奈は口を閉ざして複雑げな顔を浮かべながら俯いてしまい、そんな雪奈の様子に気付いた咲夜もハッとなって閥が悪そうに顔を逸らした。

 

 

咲夜「あ……す、すまない……お前に当たるつもりは……なかったんだが……ついカッとなって……」

 

 

雪奈「い、いえ……私も気に障るような事を言ってしまったみたいですから……気にしないで下さい……」

 

 

咲夜「…………」

 

 

雪奈「…………」

 

 

互いに謝罪の言葉を交わすものの、気まずい空気が二人の間に流れ続ける。それを悟ってか、二人は口を閉ざしたまま何も語ろうとはせず沈黙が漂い、夕暮れ色に染まる道の真ん中で暫く立ち尽くしていた。

 

 

咲夜「……帰るか……家ではるかが待ってる……」

 

 

雪奈「…そう…ですね…」

 

 

重苦しい沈黙を破るように咲夜は口を開いて家に足を向け、雪奈と共に再び帰路へと付いていく。しかし、二人は家に着くまでどちらからも話を切り出す事なく、気まずい雰囲気を漂わせたまま家へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから数分後。結局咲夜は一言も雪奈と話せないまま家の前に到着し、家の戸を開いて家の中へと入っていった。だが……

 

 

咲夜「ただいまぁ、はるか…………はるか?」

 

 

家の中に入りながら布団で眠ってるであろうはるかに呼び掛けるものの、はるかからの返事はなかった。見れば、何時も帰ってきた時にはいる筈のはるかの姿が布団の上にはなく、家の中に入ってきた雪奈もはるかの姿がない事に気付き疑問符を浮かべた。

 

 

雪奈「あれ?はるかさん、いなくなってる……?」

 

 

咲夜「ううむ……あ、もしかしたら隣の部屋かもしれない。アイツ、よく暇な時は彼処に仕舞ってある本を取りに行って、一人で読者してる事があるんだ」

 

 

そう言って咲夜が指差したのは、戸が開け放たれたまま放っておかれた隣の部屋だった。彼処には、咲夜が今まではるかへのお土産として買ってきた本が何十冊も保管されており、今咲夜が話した通りはるかは良く暇な時はあの部屋でひとり本を読んでることがある。その証拠に、今朝は閉まっていたはずの部屋の戸が開かれており、咲夜は仕方なさそうに溜め息を吐きながら家に上がって隣の部屋に近づいていき……

 

 

咲夜「コラはるかっ!駄目だろちゃんと寝てないと!ほら、早く布団に戻っ…………て…………」

 

 

はるかに早く布団に戻る様に促しながら隣の部屋を覗き込んだ瞬間、何故か咲夜はピタリと足を止めて立ち止まり、徐々に両目を見開いていったのである。

 

 

雪奈「?咲夜……?」

 

 

咲夜「あ……ぁ……あっ……」

 

 

何故か突然固まって動かなくなった咲夜に雪奈が疑問げに声を掛けるが、咲夜は瞳を震わせて隣の室内を見つめたまま何も答えようとしない。そんな咲夜の様子が気になった雪奈は首を傾げたまま家に上がり、咲夜が見つめる隣の部屋を覗き込んだ。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はるか「………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……戸棚から床に錯乱した無数の本。その中に、グッタリと力の抜けた手足を無造作に投げ出し、前髪で隠された顔を真っ青に染め、口から大量の血を吐き出して倒れるはるかの姿があったのだった。

 

 

 

雪奈「はるか……さん……?」

 

 

咲夜「はる、か?…………はるかああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 

目の前で起きてる現実を頭が理解するのに、数秒時間を要した。そして全てを理解した瞬間、咲夜の悲痛な叫びが室内に木霊したのであった……

 

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑥

 

 

そしてその日の夜。咲夜は突然吐血して倒れたはるかを見てなにが起きたのか分からずに錯乱してしまい、雪奈はそんな咲夜を何とか落ち着かせて医者を急いで呼びに行き、布団で意識を失って死んだように眠るはるかの様子を診てもらっていた。

 

 

咲夜「先生っ……!はるかはっ、はるかは一体どうなってっ?!」

 

 

「…………」

 

 

はるかの容態を診る医者に泣きそうな声を上げて詰め寄る咲夜。

それに対し、医者は無言のままはるかの脈を調べて首筋に当てていた手を離し、深く息を吐いた。

 

 

「どうやら、はるかさんの持病が発作を起こしたみたいですね……」

 

 

咲夜「持病が……発作?」

 

 

「前にも話しましたよね?はるかさんは、今の医学では治せない持病を抱えています。今までは発作も起こらなかったので、当分は大丈夫だと思っていたのですが……」

 

 

雪奈「な、何とかならないんですかっ?」

 

 

「今話した通り、この病を治す事は私でも無理です。ただ、薬を飲ませて発作を抑える事なら出来るのですが……」

 

 

と、医者は其処まで話して何処か言いにくそうに顔を逸らし、咲夜と雪奈は医者の顔を見つめて訝しげに眉を寄せた。

 

 

咲夜「な、何ですか?もしかしてお金ですか?!それなら私がどうにかします!だから薬をっ……!」

 

 

「いえ、そうではなくて……今はその薬が切れていて、この村にはひとつもないんです。だから薬を一から作る必要があるのですが、薬を作るのに必要な材料が足りなくて……」

 

 

雪奈「そ、そんな……」

 

 

咲夜「……その材料って、何処にあるんですか?」

 

 

薬を一から作る為の材料が足りない。

そう告げた医者に咲夜が真剣な表情で問い掛けると、医者は少し腕を組んで何かを考えたあと、ゆっくりと床から立ち上がって家の外へと出ていく。

そして二人が背後から着いて来てるのを確かめると、此処から少し離れた場所にある畑の向こうに存在する山を指差した。

 

 

「あの山です……あの山の頂上付近にある洞窟に、薬に必要な薬草が生えているのですが……」

 

 

咲夜「彼処に……ッ!」

 

 

雪奈「ッ?!咲夜?!」

 

 

あの山に、はるかの発作を抑える薬を作るのに必要な薬草がある。

医者が指差す山を見た咲夜は突然その山がある方へと向かって勢いよく駆け出すが、それを見た雪奈は咄嗟に背後から咲夜の手を掴み咲夜を引き止めた。

 

 

咲夜「ッ?!雪奈っ!は、離せっ!」

 

 

雪奈「離せませんっ!一体何する気ですかっ?!」

 

 

咲夜「決まってるだろ?!あの山に行って、その薬草を取りに行くっ!それではるかが助かるんだっ!」

 

 

雪奈「何言ってるんですか?!こんな暗闇で何も見えないのにあんな山に行って、もしなにかあったらどうするんですっ?!」

 

 

「彼女の言う通りです!それにあの山には、最近盗賊達が根城にして潜んでるという噂もあって危険なんです!明日になれば私が村の皆を集めて一緒に山に行きますから、それまで落ち着いて「落ち着ける訳ないっ!!」……ッ?!」

 

 

山に向かおうとする咲夜を必死に説得して引き止めようと試みる二人だが、突然怒号を上げた咲夜に驚いて思わず口を閉ざしてしまう。咲夜は前髪で顔を隠し、ギリッと唇を噛みながら顔を俯かせた。

 

 

咲夜「落ち着くなんてっ、出来る訳ないだろうっ……はるかは今にも死にそうになって苦しんでるのにっ、それを黙って見てるなんて……私には出来ないっ!」

 

 

雪奈「咲夜……でも明日になれば皆でっ……!」

 

 

咲夜「それまではるかの体が持つとは限らないだろう?!私はずっと、あの子を診てきたから分かるんだ!もしっ……もしはるかまで失ったらっ……私はっ!!」

 

 

雪奈「咲夜っ!!」

 

 

咲夜「お前には関係ないだろうっ!!お前は赤の他人なんだからっ、私達の事に口出しするなっ!!」

 

 

雪奈「ッ?!」

 

 

言うことを聞かない咲夜を引き止めようと何時になく怒鳴る雪奈だが、はるかを心配するが余り我を忘れた咲夜はそれを強く拒絶してしまい、雪奈はそれを聞いてショックを受けたように目を見開いた。

咲夜はそんな雪奈の様子を見て自分が言ってはならない事を口にしてしまったと気付いてハッと我に返り、気まずげに顔を逸らした。

 

 

咲夜「っ……ともかくっ、私の事はもう放っておいてくれっ!!」

 

 

「ッ!咲夜さん!」

 

 

今はとにかく一刻を争う。急がなければはるかの命が危ないと、焦燥に駆られる咲夜はショックを受ける雪奈の手を振りほどいて山の方角へと駆け出し、医者の静止も聞かずそのまま村を飛び出してしまったのだった。

 

 

「まずいっ……!雪奈さん!私は村の皆に呼び掛けて咲夜さんを追い掛けます!貴方はそれまで、はるかさんを見てて下さいっ!」

 

 

雪奈「ぁ……は、い……」

 

 

医者は咲夜が走り去った方を呆然と見つめて佇む雪奈にはるかを任せると、咲夜を捜しに向かうために村の人々を集めに向かった。

そして家の前に一人残された雪奈は呆然と咲夜に振りほどかれた手を見つめ、静かに顔を俯かせていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数時間ほど経った頃。

村を飛び出した咲夜は暗闇に包まれた山の中へと単身で入り、闇に包まれて視界もままならない状態で木々を掻き分けながら頂上を目指し歩いていた。

しかし、歩みを進める咲夜の表情は何処か複雑なものとなっている。その原因はやはりはるかの容態とは別の理由……先程自分が雪奈に対して言い放った発言にあった。

 

 

咲夜(ッ……何やってるんだ私は……はるかの事を焦る余り、雪奈にあんなっ……)

 

 

今も脳裏に思い浮かぶのは、自分の心無い言葉に驚愕して傷付く雪奈の顔。

 

 

夕方の帰りにも、みっともなく自分の胸の内に仕舞い込んでいた感情を思わず雪奈にぶつけて、結局はそれっきり気まずいままだった。

 

 

その上はるかの事で焦っていたとは言え、あんな酷いことまで言ってしまってと、咲夜は先程の自分に自己嫌悪しながら不気味な風の音が響き渡る林の中を突き進んでいく。

 

 

咲夜(……とにかく、今はその薬草とやらを見つけ出さないと……雪奈の事は、その後に謝れば……!)

 

 

あの時はるかが吐いていた血の量。

 

 

前にも今日のようにはるかが吐血した事が何度かあったが、あの量は今までとは違って多過ぎるし、あんな……まるで死んだように気を失うなんて事も一度だってなかった。

 

 

もし、あんな状態が長時間続いたら?

 

もし薬が間に合わなかったら?

 

 

今までなかった事態なだけに、不安の余り嫌な光景が脳裏を過ぎる。その度に、咲夜の心を支配する不安がドンドン大きくなっていた。

 

 

咲夜(……もし……もしも……はるかまで失ったら……私は……)

 

 

――何の為に……生きればいい?

 

 

ふとその場で歩みを止め、そんな自問自答を心の中で呟く咲夜。だがすぐに頭を左右に振って気を取り直し、その場から駆け出して闇に包まれる山奥へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

それから更に数十分後。道もまともに分からぬまま、ただひたすら頂上を目指して山道を登り続けた咲夜が辿り着いたのは絶壁の岩山だった。

周りには岩山を囲むように森林が存在し、その中心に立つ岩山は不格好で足場が悪そうに見える。

岩山の前に立つ咲夜はそれを見上げながらそう思い、険しげに眉を寄せた。

 

 

咲夜(この上が頂上…この近くに、はるかの薬を作るのに必要な薬草が…)

 

 

医者の言葉がホントなら、山の頂上に当たるこの岩山の何処かに洞窟がある筈。咲夜はその洞窟を探して岩山の周辺を歩き回り、目を動かし岩山の隅々までそれらしきものを探していく。すると……

 

 

咲夜(……ッ!あれは……?)

 

 

咲夜の目にふとあるモノが止まり、咲夜は思わず足を止めて立ち止まった。

目を細めてその方向を良く見てみれば、岩山の頂上へと続く山道の途中に何やらポッカリと穴の開いた部分……洞窟のような場所があるのを発見した。

 

 

咲夜「もしかして……彼処か?よしっ!」

 

 

目的地が見えてきた。これなら思ったより早く薬草を届けられるかもしれないと、咲夜は顔を引き締めてその洞窟に向かうべく走り出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―………ガサガサァッ!―

 

 

咲夜「……え?―グイィッ!!―ッ?!ンンッ?!」

 

 

不意に咲夜の背後の林から物音が鳴り響き、それと共に林の中から何か……無数の腕が飛び出し、突然咲夜の口や腕を背後から抑え込んでいったのだ。

 

 

咲夜(な、なんだ?なにっ……?!)

 

 

「へっへへっ、つぅかまえたぁ~」

 

 

「そら、こっちに来ようか嬢ちゃん?」

 

 

突然の事態に頭が付いていかず混乱して咲夜の耳に、意地汚い声が届く。その声が余計に咲夜を困惑させるが、それを他所に咲夜を掴む腕達は暴れる咲夜を徐々に林へと引き込んでいき、遂に咲夜の姿は林の中へと消えていってしまったのだった……

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑦

 

 

雪奈「…………」

 

 

咲夜が岩山に辿り着く前。咲夜が村を飛び出した後、医者からはるかの事を任せられた雪奈は咲夜達の家ではるかの様子を傍で看ていた。

はるかは未だ死んだように眠ってピクリとも動かず、目覚める様子は一向にない。

そんなはるかを心配げに見守りながら、雪奈は何処か暗い表情を浮かべていた。

 

 

『お前には関係ないだろうっ!!お前は赤の他人なんだからっ、私達の事に口出しするなっ!!』

 

 

雪奈(……咲夜……)

 

 

目を瞑れば、脳裏を過ぎるのは先程咲夜が言い放った言葉。

それを思い出す度に雪奈は心を締め付けられるような痛みを感じ、傍らに置いてある雪片に視線を向けた。

 

 

雪奈(やっと……やっと刀を持つ以外の道を見付けられたと思ったけど……それも一時の夢幻……だったのかな……)

 

 

あの時の咲夜の言う通り、自分は所詮この二人家族からすれば赤の他人。

どんなに強い絆を結んだとしてもそれは代わりないし、そもそも……夕方に告白したように咲夜は戦をする人間を嫌っている。

そんな彼女と自分が友情を育む事など、最初から無理だったのかもしれない。

 

 

雪奈(私……これからどうすれば……)

 

 

今からでも咲夜を追うべきか。

 

 

だが、こんな状態のはるかを放っておく事も出来ない。

 

 

それに何より……今は咲夜に顔を合わせるのが怖い。

 

 

もしまた追い掛けて拒絶されたら……そう思うと臆病になってしまい、どうすればいいのか迷い瞳を伏せて俯いてしまう。その時……

 

 

 

 

 

はるか「………ゆ……きなさ……ん……?」

 

 

雪奈「……ッ?!は、はるかさん?!」

 

 

不意に目の前から声を掛けられ、雪奈はハッと正気に戻り慌てて目の前に視線を向けた。

其処には今まで気を失っていたはるかが重たい瞼を開き、苦しそうな顔で雪奈を見上げる姿があった。

 

 

雪奈「き、気が付いたんですねっ!具合は?!体調はどうですか?!」

 

 

はるか「ぁ……は、い……少しきつい……ですけど……なんとか……」

 

 

雪奈「そ、そうですか……良かったぁっ……」

 

 

ぎこちない笑みを浮かべるはるかを見て、肩に張っていた力を抜き安堵の溜め息を吐く雪奈。

はるかはそんな雪奈を見て「心配をお掛けしたみたいで……すみません……」と詫びると、そこで何かに気付き誰かを探すように辺りを見渡していく。

 

 

はるか「?……あの……お姉ちゃん……は……?」

 

 

雪奈「え?……あ……」

 

 

何故か咲夜の姿がない事に気付き、苦しげに顔を青ざめたまま雪奈に問い掛けるはるか。

それに対し雪奈は何と言えば良いのか分からず口を閉ざして顔を逸らしてしまい、それを見たはるかは訝しげに眉を寄せた。

 

 

はるか「雪奈さん?……ッ!まさか……お姉ちゃんっ……!うっ、ゲホッゲホッ!!」

 

 

雪奈「?!だ、ダメですよ起きちゃ!まだ安静にしてないと!」

 

 

咲夜の身に何かが起きたのだと感じ慌てて体を起こそうとするも、途中で激しく咳込み口を抑えるはるか。そんなはるかの背中を直ぐさま摩って落ち着かせようとする雪奈だが、はるかにその手を力無く掴まれた。

 

 

雪奈「!はるか…さん…?」

 

 

はるか「ゴホッゴホッ……雪奈さんっ、お願いです……お姉ちゃんを止めに行って下さいっ……!」

 

 

雪奈「え?」

 

 

何度か咳き込みながら雪奈の服をキュッと強く掴み、悲願する様な目でそう頼み込んできたはるかに思わず訝しげに聞き返す雪奈。

はるかはそれに対し気まずげに顔を俯かせ、重たい口を開いた。

 

 

はるか「お姉ちゃんは……私の事になると、すぐ周りが見えなくなって……一人で何時も突っ走ってしまうんですっ……その度にボロボロになって……自分の身より私なんかを案じてっ……」

 

 

雪奈「はるかさん……貴方……」

 

 

咲夜が何をしようとしてるのか分かってるのか、それとも今までも今回のような事があったから何かに感づいたのか、震える手でしっかりと雪奈の服を掴み言葉を紡ぐはるか。

 

 

はるか「嫌な予感がするんです……今度こそ本当に、お姉ちゃんが遠くに行ってしまいそうなっ……だからお願いしますっ……!姉を……姉を助けに行ってあげて下さいっ……!」

 

 

雪奈「……でも……私にはそんな資格……」

 

 

自分の正体。それを考えるとどうしても戸惑ってあと一歩を踏み出すことが出来ず、雪奈ははるかから視線を逸らしてしまう。

しかしはるかは顔をあげてそんな雪奈の顔を見上げ、雪奈の身体を力弱く揺らし首を左右に振った。

 

 

はるか「資格なんて、あるじゃないですか……こんな事を頼めっ…ゲホッゲホッ!!頼めるのは……親友の雪奈さんしかいないんですっ……!」

 

 

雪奈「……はるかさん……」

 

 

はるか「もう二度とっ、あんな痛みを味わいたくないんですっ……!家族を失う……痛みをっ……!」

 

 

雪奈「ッ!」

 

 

苦しげに咳をしながら必死に声を出して言い放ったはるかのその言葉に、雪奈は僅かに目を見開いた。

それと同時に、ある光景が雪奈の脳裏にフラッシュバックして蘇る……

 

 

 

 

 

―――血の臭いが充満する荒野……

 

 

辺りに無造作に転がる血だらけの死体……

 

 

その中心に血に濡れた刀を手に呆然と佇む自分……

 

 

そしてそんな自分が目を見開いて見つめる先には……無惨にも刀や槍を背中に突き刺されて血だまりに沈む、一人の男性の死体……

 

 

 

 

 

雪奈(……家族を失う……痛み……)

 

 

 

 

 

脳裏に蘇ったその光景を見た雪奈はうなだれるはるかの姿を見下ろし、心の中で静かにそう呟いた。

 

 

雪奈(……私は……)

 

 

雪奈は何かを考えるようにゆっくりと瞳を伏せると、うなだれるはるかの両肩を掴み、優しく身体を離していく。

 

 

はるか「っ……雪奈、さん……?」

 

 

雪奈に体を離されて不安げな声を漏らすはるか。

それに対し、雪奈は無言のままゆっくりとはるかの体を布団へと横たわらせ、優しげに微笑んだ。

 

 

雪奈「大丈夫です。咲夜は私に任せて下さい……彼女を助けるのは、親友の私の役目ですから」

 

 

はるか「……雪奈さん……」

 

 

優しく語る雪奈のその言葉を聞き、はるかは安心したように息を吐いてゆっくりと瞼を閉じていき、再び意識を手放していった。

雪奈はその様子を見て一瞬慌てるも、すぐに平静さを取り戻してはるかに布団を被せていき、はるかの前髪を掻き分けていく。

 

 

雪奈「……待ってて下さいはるかさん……貴方の望みは、必ず果たしてみせます……この刀に誓って……」

 

 

はるかの額に浮かぶ汗を手の甲で拭いながら力強くそう呟くと、雪奈は目付きを鋭くさせながら傍らの雪片を手にゆっくりと立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そしてその一方で、はるかの予想が当たり咲夜は危機に瀕していた。それは……

 

 

「ふひひ、やっぱお前の見立てた通り、かなりの上玉だなぁ」

 

 

「だろ?だから言ったじゃねえか、絶対に損はしねぇってさ」

 

 

咲夜「っ……!」

 

 

周りには、卑下た顔をした見るからに品のなさそうな男達。

その中心には頭を押さえ付けられ、両手は後ろに回されて縄で縛られており、口には布を噛まされて言葉を放つ事が出来ない咲夜の姿があった。

そう……彼女は今、この男達に捕まり危機的な状況に陥ていたのである。

 

 

「しっかし、随分と無用心だなぁお嬢ちゃん?こんな夜更けにこんな所をうろついてたら危ないだろ?ま、今更言っても遅いだろうがなぁ」

 

 

咲夜(っ……クソォッ……)

 

 

恐らくコイツ等は村を出る前に医者が言っていた盗賊の一味だと思うが、それが分かったところで今の彼女にはどうしようもない。

なにせ両手を縛られてる上に叫ぶ事も出来ない以上、彼女が男達に反抗する術などないのだから。

 

 

咲夜(こんな事してる場合じゃないのにっ……こうしてる間にもはるかがっ……!)

 

 

「さぁて……このまま奴隷としてどっかに売り付けるのも有りだがぁ……」

 

 

咲夜(ッ!)

 

 

悔しげな表情を隠すように顔を伏せる咲夜のもとに、盗賊達の頭と思われる男が歩み寄ってくる。

咲夜は何も出来ない恐怖に耐えながら精一杯の抵抗と言わんばかりに男を睨み上げるが、男はそんな咲夜の気丈な態度に口笛を吹いてニヤリと笑い、腰に差していた小太刀を抜き取った。

 

 

「どうせだ。奴隷になって後々痛い思いするより……此処で俺等が慣れさせといてやるよ」

 

 

咲夜(……え?)

 

 

そう言われ、咲夜は一瞬何を言われたか分からずぽかんとなってしまう。

男はそんな咲夜の様子を他所にニヤニヤと笑いながら……小太刀で咲夜の着物を切り裂いた。

 

 

咲夜「ッッッッ?!!!!」

 

 

「あっ!コラッ!暴れんじゃねえっ!大人しくしてろっ!」

 

 

男のその行動で、自分が今から何をされるのか咄嗟に理解した咲夜は両目を見開きジタバタと身を捩って暴れ出した。

しかしその抵抗も長くは続かず、別の男に上から頭を押さえ付けられて身動きが取れなくなってしまう。

そしてその間にも男は手を止めず、ビリビリと咲夜の着物を引き裂き肌を露出させていく。

 

 

「ん~いいねぇ、きれいな白い肌だぁ」

 

 

咲夜「っっ!!!!!」

 

 

必死に耐えていた恐怖と共に、咲夜の眼からボロボロと涙が溢れ出た。

助けを求めようと涙で歪む視界で周りを見渡しても、恐怖と絶望と羞恥で震える自分を見てゲラゲラと笑う卑下た男達しかいない。

 

 

「大丈夫。嬢ちゃん他の女より綺麗な顔してっから、きっと良い飼い主が買ってくれるだろうさ」

 

 

咲夜「ッッ!!!!」

 

 

気分良く笑いながらそう告げた男の言葉に、咲夜は更に顔を青ざめた。

このままでは、コイツ等に好き勝手に弄ばれた挙げ句売り飛ばされてしまう。

そう考えただけで恐怖が増し必死に抵抗を続けようとするも、上から押さえ付けられてるせいで全く身体が動せない。

 

 

「心配なさんな、最初は痛いだろうがすぐに良くなるだろうよ……最後には良くなりすぎて快楽しか求められなくなるだろうがなぁ~」

 

 

そう言って男は今度は咲夜の足に手を伸ばしていく。咲夜も必死に抵抗して頭を左右に振っていた事で口に噛まされていた布が緩み、漸く口だけ解放された。

 

 

咲夜「うぁっ、止めろ!!離せ!!離せえぇっ!!」

 

 

「おーおーかわいいねえ、でもやめれないなぁ~」

 

 

ボロボロと泣きながら必死に叫び声を上げる咲夜だが、男はそんな咲夜の泣き顔を見て逆に気分を良くしてニヤニヤと笑い、咲夜の足を掴んで無理矢理開こうとする。

 

 

「さあてぇ……それじゃあいよいよ、ご開帳~!!」

 

 

咲夜「いやっ、だっ……!嫌だあぁ!!はるかあ!!雪奈ぁあああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」

 

 

……結局……どんなに強くなっても、所詮自分は女でしかない……

男に押さえつけられてろくに抵抗も出来ず、ただ助けを求めて叫ぶしか出来ない。

ボロボロと大粒の涙を零しながら泣き叫ぶ咲夜を男達はただ可笑しそうに笑い、必死に力を込めて閉ざしていた足も遂に開かれようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ブシャアァッ!!―

 

 

『……はっ?』

 

 

咲夜「……え……?」

 

 

 

 

突然男達の背後から、何かを斬り捨てるような生々しい音が響いた。

それを聞いた男達は表情が固まり、正気に戻ると共に慌てて背後へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪奈「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲夜「っ?!ゆき……なっ……?」

 

 

其処には、頭上に輝く黄金の満月を背に静かに佇み、白い髪と肌に赤い血を塗り付けて太刀を握る少女……雪奈の姿があったのだった。

その足元には盗賊の仲間である男達の死体が転がっており、恐らく髪や肌に浴びいてる血はその男達のものなのだろう。

 

 

「な、何だお前っ?!いきなり何しやがんだっ?!」

 

 

雪奈「…………」

 

 

仲間の死体を見て戸惑いと怒りの感情を浮かべる盗賊達だが、雪奈は血を被った前髪で顔を隠したまま何も答えようとはせず、刃に血を浴びた雪片を片手に幽霊のようにユラリと歩き出し、男達へと近づいていく。

 

 

「て、てめぇっ……こんな事して、ただで帰られると思うなよ?!お前ら!やっちまえっ!!」

 

 

何も語ろうとしない雪奈の態度に憤怒し、頭は部下達に命令を投げ掛け雪奈へと放っていった。

そして部下達はあっという間に雪奈の周囲を囲んでいき、雪奈はゆっくりと足をとめて立ち止まると、雪片を僅かに上に上げて構えを取った。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

「ウオラアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

それと同時に、目の前から二人の男が刀を振りかざし雪奈へと斬り掛かってきた。

それに対し雪奈はユラリと顔を上げると、前髪の奥に隠れた赤い眼が"青い眼"に一瞬で変わり、そして……

 

 

 

 

 

 

雪奈「……ふふっ……」

 

 

―……キュッ……―

 

 

『……へ?』

 

 

 

 

 

 

雪奈は幽霊のような動きで二人の男の間をユラリと抜け、すれ違い様に二人の首に浮かぶ"線"を雪片でなぞるように振るった。

ただそれだけ……それだけの動作をしただけで……

 

 

 

 

 

 

―ゴバアァァッ!!!―

 

 

『ッ?!なっ?!!』

 

 

 

 

 

 

……すれ違った男達の首が、赤い線を描いて夜空へと飛んだ。

 

 

その直後男達の首があった部分から噴水のように血が噴き出し、雪奈の上に降り注いで全身を赤く染め上げていく。

 

 

雪のように綺麗で白かった髪と肌は赤く染まり……

 

 

美しかった雪片の刃は血を伝らせて地面に赤い水滴を落としていき……

 

 

青い異形の眼は、赤い雨の向こうから盗賊達を捉えて逃さない……

 

 

その明らかに人間離れした雰囲気に、盗賊達は背筋にゾワッと寒気を感じ思わず後退りした。

 

 

「なん、だっ……何なんだお前はっ?!!」

 

 

頭は口を開かずにはいられなかった。

 

 

何かを語らなければ、この身体を支配する恐怖に押し潰されそうになるから。

 

 

しかし雪奈は先程と同じでその問いに答えようとはせず、血で染まった赤い前髪を掻き上げ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

雪奈「さあ……殺し合いましょう……この黄金の月の下で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

死を直視する魔眼で男達を捉え、謡うようにそう告げたのだった……

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑧

 

 

 

―ズシャアァッ!ザバアァッ!ザンッ!―

 

 

「ぎゃあぁっ?!」

 

 

「ぐがあぁっ?!」

 

 

雪奈の振るう雪片の刃が、盗賊達の急所を的確に貫き絶命させていく。盗賊達の屍が次々と倒れていく中、雪奈はそれを尻目に刀を振りかざして襲い来る盗賊達の全身に走る線を雪片でなぞるように斬り裂き、咲夜の下へ徐々に近づいていく。

 

 

「な、何やってやがんだっ?!女の一人ぐらいさっさと始末しやがれっ!!」

 

 

「へ、へいぃっ!!」

 

 

盗賊の頭はそんな雪奈の姿を見て恐怖の余りたじろしぎ、これ以上の接近を許すまいと残った部下達を一斉に雪奈へと放った。そして部下達は四方から刀を振りかぶって一斉に雪奈へと飛び掛かるが、雪奈は雪片を手の中でクルリと回転させて逆手に持ち、そして……

 

 

 

 

 

 

―スパアァァンッ……ゴバアァァッ!!―

 

 

「んなっ……?!!」

 

 

 

 

 

 

片足を軸に一瞬でその場をクルリと回転すると共に、襲い掛かってきた盗賊たちの身体に浮かび上がる線をたった一薙ぎ振るっただけで全て断ち切っていったのであった。盗賊たちは身体をバラバラに切断され雪奈の周りに落下していくが、雪奈はそれに気に止める事なく最後に残った頭に歩み寄っていく。

 

 

「ち、畜生っ……こうなったらっ……こいっ!」

 

 

咲夜「あうっ?!」

 

 

部下達を失って完全に追い込まれた頭は焦りを浮かべ、足元で倒れている咲夜を無理矢理起こさせこちらに歩み寄ってくる雪奈と向き合い、咲夜の首に刀を突き付けた。

 

 

「お、おい!止まれ!それ以上近づいたら、この女の首かっ切るぞっ!!」

 

 

咲夜「うっ……ぐっ……!」

 

 

雪奈「…………」

 

 

頭は咲夜を人質に捕らえて雪奈に止まるように呼び掛けると、雪奈は咲夜の姿を見て僅かに片眉をピクリと動かし、歩みを進めていた足を止めていった。

 

 

「へ……へへっ……やっぱこの嬢ちゃんとは知り合いみてぇだな……ようし、その刀も地面に捨てろ!この嬢ちゃんの命が惜しけりゃなぁ!」

 

 

雪奈「…………」

 

 

都合の良い人質が手元に有って助かったように安堵しながら、続けて雪奈に右手に持つ雪片を捨てるように呼び掛ける頭。そう指示をされた雪奈は無表情のまま逆手に構える雪片を見下ろすと、僅かに瞳を伏せた後に腰をゆっくりと屈め雪片を足元に置こうとする。

 

 

咲夜「ゆ、雪奈っ……!」

 

 

「ハハハハッ!!そうだ、それでいいんだ!!」

 

 

要求を素直に受けて雪片を足元に下ろそうとする雪奈を見て頭は愉快げに笑い、咲夜は頭に刀を突き付けられたまま悲痛な表情で雪奈を見つめていた。そして、雪奈は前髪超しにチラリと高笑いを上げる頭の様子を伺うと、雪片をゆっくりと地面に置いて僅かに手を離した瞬間……

 

 

 

 

 

―……ブオォンッッ!!―

 

 

「ハハハハハハッ……は?―ズシャアァッ!!―ギッ?!ガアァァァァァァァァァァァァァァァァアッッッ?!!!」

 

 

咲夜「ッ?!」

 

 

素早く後ろ腰に隠していた短刀を抜き取り、頭の左目に狙い定め投擲していったのだった。その一瞬の動作に頭も思わず呆気に取られてしまうも、短刀が精確に左目の眼球に突き刺さった瞬間正気に戻され、激痛のあまり刀と咲夜から思わず手を離し絶叫を上げていった。そしてそれを見た雪奈はすぐさま雪片を拾い上げながら絶叫する頭の懐へと潜り込み、そして……

 

 

―ズバアァッ!!―

 

 

「ッ?!!イッ、ァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ?!!う、腕がァッ?!!俺の腕がァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!」

 

 

雪片を斜め上に振り抜き、頭の右腕に浮かぶ線を断ち切って右腕を斬り飛ばしていったのであった。同時に眼球を貫かれた痛みよりも遥かに大きい激痛が襲い、頭は先程の比にもならない絶叫を上げて右腕を押さえながら悶え苦しみ、雪奈はそんな頭の前に悠々とした足取りで立ちはだかり雪片の切っ先を突き付けた。

 

 

「ひっ、ひいぃっ?!た、頼むっ!い、命はっ……命だけはっ……?!!」

 

 

雪奈「…………」

 

 

死の恐怖で顔を引き攣らせながら必死に雪奈に命乞いする頭。だが雪奈はそんな頭を無機質な表情のまま見下ろして何も答えず、無言のまま雪片を振りかざして頭の首を刈り取ろうと雪片を勢いよく振り下ろした。その時……

 

 

 

 

 

 

「――もう止せっ!!!」

 

 

雪奈「……!」

 

 

―ピタッ……―

 

 

「ひいぃっ?!!ひっ……ぁ……?」

 

 

背後から不意に響き渡った悲痛な怒号。それを聞いた雪奈は瞳を見開いて寸前のところで雪片を止め、刃は頭の首に触れるギリギリの位置で止まっていった。そして雪奈はガタガタと身体を震わせながら恐怖で気を失った頭から視線を逸らすと、先程の怒号を放った主……悲痛な表情でこちらを見つめる咲夜に向けた。

 

 

雪奈「……咲夜……」

 

 

咲夜「もう止せっ……もういい……殺すなっ……これ以上、人を殺めるお前の姿を見たくないっ……」

 

 

雪奈「…………………」

 

 

そう言って雪奈を見つめる咲夜の瞳の奥には、驚愕と戸惑い、そして僅かながらの恐怖が入り混じっていた。虫すらも殺せないような優しさの持ち主だと思っていた雪奈が、刀を手にした瞬間なんの躊躇もなく人の命を奪った。そんな親友の変わりように咲夜も困惑を隠せず、雪奈も咲夜に制止されて咲夜を見つめると、ゆっくりと雪片の刃に付いた血を払って腰の鞘に収めながら瞳の色を元の赤色に戻していった。

 

 

咲夜「……雪奈……」

 

 

雪奈「…………」

 

 

一先ず雪片を収めてくれた雪奈に安堵の吐息を漏らす咲夜。だがその表情もすぐに強張っていき、こちらに背を向ける雪奈に歩み寄り疑問を投げ掛けた。

 

 

咲夜「雪奈……今のは一体何なんだ……?」

 

 

雪奈「…………」

 

 

咲夜「あの動きや剣の腕、剣術にはそんな詳しくない私でもアレがどんなに異常なのかはすぐ分かった……それに今のお前、奴らの命を奪う事に何の躊躇もしてなかった……まるで、殺し慣れてるみたいな……」

 

 

雪奈「…………」

 

 

今の雪奈の戦い、刀の扱いや動きなどの全てが明らかに常人のソレを逸脱していた。たった一振りで盗賊達の身体をバラバラにしたり、人質にされた時もあんな精確に左目を狙って短刀を投擲するなんて普通じゃ出来ない技だ。しかも自分を助けるためとは言え、雪奈自身は盗賊達を殺すことに一切の戸惑いもなかった。まるで戦い慣れてるような……そうとしか言いようがない戦い方だった。

 

 

咲夜「ただの風来坊に、あんな常人離れした戦い方なんて出来る筈ない……お前、一体何者なんだ……?」

 

 

雪奈「…………」

 

 

咲夜が訝しげに雪奈にそう問い掛けるが、雪奈は顔を俯かせたまま暫く口を閉ざし二人の間に沈黙が漂う。すると雪奈は何かを観念したかのように白い息を吐くと、ゆっくりと咲夜と向き合い顔を上げた。

 

 

雪奈「……咲夜の言う通りです……私はただの風来坊ではありません……」

 

 

咲夜「じゃあ、お前は一体……」

 

 

雪奈「…………」

 

 

何者なんだ?と訝しげな目を向ける咲夜から気まずげに視線を逸らす雪奈だが、一度瞳を伏せた後に咲夜の顔を見据えて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

雪奈「―――私は……以前は織田信長公に仕えていた家臣……貴方の嫌う"武将"だった者です」

 

 

咲夜「…………え?」

 

 

 

 

 

 

そう告げた雪奈の言葉に、咲夜は一瞬何を言われたか理解出来ず唖然となった。

 

 

今、なんと言った?

 

 

雪奈が……武将……?

 

 

咲夜「信長公の武将って……どういう、事だ……?」

 

 

雪奈「そのままの意味です。私は風来坊の前に一人の武将だった……でもそれも、今は昔の話です……」

 

 

動揺を浮かべる咲夜に淡々とした口調でそう言い放つと、雪奈は咲夜に背を向けながらゆっくりと顔を上げ、頭上の星空を見上げた。

 

 

雪奈「……もう遠い昔の話ですが……私は、今の世に大して名も知れ渡ってない武家に生まれましてね……最初の頃は剣や戦とは関係ない、普通の女の子として育ちました……他の従姉妹達と遊んだり、たまにその娘達とお忍びで下町に行ったり……そんな何の変哲もない生活を送っていました……」

 

 

咲夜「…………」

 

 

ポツボツと、何処か懐かしげな顔で静かに自身の過去を話し出した雪奈。咲夜は無言のまま雪奈の話に耳を傾け、雪奈は星空を見上げていた視線を下ろしながら話を続けた。

 

 

雪奈「ですが今仰った通り、私の家は武家としての名は広くは知られてません……頭首である私の祖父は、他の家が戦や他国との交易などでどんどん名を上げていく中、自分達だけがなんの成果も得られず家の名が堕ちていく事に焦燥に駆られていました……このままでは、私達の家は名も残せず歴史の闇に消えてしまう。それを避けるために何か方法がないかと考えていた矢先……私の身にある出来事が起こりました……」

 

 

咲夜「?ある……出来事?」

 

 

ポツリと雪奈が呟いたその言葉に、咲夜は思わず疑問げに小首を傾げながら聞き返した。雪奈はそれに対し複雑げな表情を一瞬だけ浮かべると、少し間を置いた後に話の続きを語り出した。

 

 

雪奈「………ある日、当時幼かった私は母様に我が儘を言って、下町で開かれるお祭りに出掛けたんです。でも……そのお祭りの最中で、私と母様は馬車の転倒事故に巻き込まれ……母様はその時に私を庇い、亡くなってしまった……」

 

 

咲夜「ッ?!そん……な……」

 

 

雪奈「………そして私も、普通なら死んでも可笑しくない重傷を負って数ヶ月も昏睡しましたが……何とか一命を取り留めました……でも目を覚ました瞬間……私は何故か、こんな物が見えるようになってしまった……」

 

 

咲夜「え……?」

 

 

そう呟くと共に、雪奈の瞳の色が再び不気味な青色に変化していく。それと同時に雪奈の観る世界がガラリと変わり、咲夜の体や地面や森の木々などに無数の線が浮かび上がっているのが見え、雪奈は辛そうに目をつむり頭を左右に振った。

 

 

雪奈「っ……昏睡から目覚めてから、私の目はモノの死が視える鬼の目に変わってしまったんです……」

 

 

咲夜「モノの死が視える、鬼の……目……?」

 

 

雪奈「皆はそう呼んでます……私だけに視える、モノの死を表す線……私がこの手でそれを断ち切った途端、断ち切られたモノは忽ち死んでゆく……だからこの両目は、地獄の悪鬼があの世から逃げ出した私に罰として掛けた呪われた目……家の者は皆そう思い、私を気味悪がって避けるようになりましたが、祖父だけはこの力を持つ私に目を光らせました。この力を上手く使えば、いずれは信長公を退け天下を取れるかもしれない……と」

 

 

咲夜「……お前はそれを、受け入れたというのか……?だから武将に?」

 

 

雪奈「……私には、母様のことに負い目がありましたから……私が我が儘を言いさえしなければ、母様はあんな事故で死ぬことなんてなかった……だから祖父の命には逆らえなかったし、戦では父様も戦う事を知っていたから……せめて父様だけでも守れるようにと、刀を手にする事を誓ったんです……でも……」

 

 

其処で言葉を一度区切り、目をつむって何処か哀しげな顔を浮かべる雪奈。咲夜がそんな雪奈を訝しげに見つめると、雪奈は僅かに瞼を開いて咲夜の方へと振り向いた。

 

 

雪奈「その父も、先の今川軍との戦で亡くなりました……敵陳を突破しようとした最中、敵兵の不意打ちを受けて馬から落ちたところを、串刺しにされて……」

 

 

咲夜「……雪奈……」

 

 

雪奈「……無惨な姿に変わり果ててしまった父の亡骸を見て、私はもうどうすればいいのか分からなくなりました……唯一、この目を持った私を以前と変わらず接してくれてた父様が亡くなり、主君の信長公も討ち死にし、残されたのは私を利用して名を上げようと企む祖父だけ……正直、もう無理でした……これからもずっとあの人のためだけに戦うのが我慢出来なくなり、私は家から逃げ出す為にこうして旅をしてたんです……同時に、刀を握る以外の道も探して……」

 

 

そしてその旅の途中、自分達の村へやって来たという訳なのだろう。腰に差した雪片の柄を握り締める雪奈の顔を見つめながら咲夜はそう考え、雪奈は咲夜から視線を逸らすように俯いた。

 

 

雪奈「だけど結局、私には刀を振るう以外の道なんてなかったみたいです……私のあの姿を見られ、武将であった事を知られた以上、もう貴方の親友ではいられない……」

 

 

咲夜「ッ!お前……」

 

 

雪奈「……私のこと、軽蔑したでしょう?貴方が嫌う武将だった事を隠し、なにも知らない貴方達を騙して接してきた……酷い人間ですよ、私は……」

 

 

咲夜を助ける為とは言え、彼女の目の前で刀を抜き、武将であった事を明かしてしまった以上、最早彼女と友人であり続けることなど出来やしない。雪奈は自嘲するように笑いながらそう呟くが、その表情は何処か辛そうであり、何かを覚悟したかのように瞳を伏せて俯いてしまう。恐らく咲夜から絶交を持ち掛けられると思ってるのだろう。そんな雪奈を見た咲夜は一度顔を俯かせた後に、再び雪奈を見据えた。

 

 

咲夜「――確かに……お前が武将だった事を隠し事されてたのは、正直動揺したし……話してくれなかった事にも傷付いた……」

 

 

雪奈「っ…………」

 

 

正直に、自分が感じた事をポツポツと語り始める咲夜。雪奈はそれを瞳を伏せたまま無言で聞き入れるが、「傷付いた」という言葉を聞いた瞬間辛そうに眉を寄せた。そして咲夜は、一度息を吐いて少し間を置いた後に、真っすぐと雪奈の顔を見つめて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

咲夜「……だけど私は……それでお前を軽蔑したりはしない……出来る筈がないだろ……」

 

 

雪奈「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

咲夜の口から呟かれたのは、雪奈が想像していたとは全く違う言葉だった。一瞬何かの聞き間違いかと雪奈が思わず目を開いて顔を上げれば、咲夜は苦笑いしながら雪奈を見つめていた。

 

 

咲夜「確かに私は武将達や戦をする人間を嫌っている……でも、戦から遠退いた人間まで陰険に嫌ってる訳じゃない。そんなのはなんの意味もないしな……それにお前は、短い間とは言え私達と一緒に苦楽を共にした親友だし……酷い事を言ってしまった私なんかの為に危険を省みず、こうして助けに来てくれたじゃないか……そんなお前を、どうして軽蔑なんか出来る?」

 

 

雪奈「咲夜……でも私は、この手で数え切れない人達の命を……」

 

 

咲夜「こんなご時世なんだ、別段珍しい事じゃない。私もそういう事をしてきた人間なんて何人も見てきたし……お前に限った事じゃないさ」

 

 

雪奈「……責めないん……ですか……?貴方やはるかさんに……隠し事してたのに……」

 

 

咲夜「もういいさ。それにお前は、変なところで消極的な奴だしな。故意で隠してたというより、私に嫌われるんじゃないかとビクビクしてただ言えなかっただけだろう?そんな事を一々咎めても意味なんてないだろうに」

 

 

恐る恐る問い掛ける雪奈にやれやれと言ったポーズを取りながら、冗談混じりに告げる咲夜。それを聞いた雪奈は一瞬ポカンと呆けてしまうが、次第に目尻に涙を浮かべながら声を出して泣き始めていく。

 

 

咲夜「って、お、おい?!何でいきなり泣き出すんだ?!」

 

 

雪奈「うぐっ……ぇう……だって……だっでぇっ……でっぎりっ……嫌われるど思っだがらぁぁぁぁっ……!!」

 

 

咲夜「ちょ、鼻を垂らすな汚いから!分かった!私が悪かったから!だから泣き止めってっ!!」

 

 

余程咲夜に嫌われるのが恐ろしかったのか、涙で顔をグチャグチャにさせて嗚咽しながら泣き始める雪奈。そんな雪奈に咲夜も流石に慌てふためき、何とか雪奈を宥めようと慌てて背中を摩っていく。

 

 

雪奈「ひぐっ……ズズッ……ず、ずみまぜんっ……みっどもないどころをお見ぜじでっ……」

 

 

咲夜「全くだ……ま、そういうとこがお前らしいから、逆に安心したが……とにかくホラ、例の薬草がある洞窟を見付けたんだ。早く行って採りにいくぞ!」

 

 

雪奈「ズズゥッ……はっ、はいっ……!」

 

 

ボロボロと溢れ出ていた涙を拭い去り、泣いたせいで赤くなった顔で力強く頷く雪奈。咲夜もそんな雪奈に微笑して頷き返し、雪奈と共に先程見付けた洞窟へと急いで向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ゆるさねぇ……あの女共……絶対ゆるさねぇっ……」

 

 

 

 

……そんな二人の背中を、憎悪を込めた瞳で睨む人間がいるとも気付かずに……

 

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑩

 

 

それから数十分後。盗賊達と戦った場所を離れた二人は先程咲夜が見付けた岩山に再び訪れ、薬草があると思われる洞窟に向けて険しい道を登っていた。しかし辺りが暗い事もあって視界は余り良好ではなく、二人は暗闇の中、足場を探りながら壁を伝い先へと進んでいた。

 

 

咲夜「ぐぅ……雪奈、其処は少し滑りやすいから気をつけろよ!」

 

 

雪奈「は、はいっ……」

 

 

道端も思ったより幅が狭く、一歩間違えて足を踏み外したりでもすれば転落すること間違いない。そうなれば先ず命はないと、咲夜と雪奈は緊張で額から汗を流しながら足場に注意して道を進んでいく。そして……

 

 

咲夜「ハァ…ハァ…やっと着いたかっ……」

 

 

雪奈「ゼエッ、ゼエッ……此処が例の洞窟、ですか……?」

 

 

険しい岩山を時間を掛けて上り詰め、漸く目的の洞窟の前にまで辿り着いた咲夜と雪奈。外からでは洞窟の中の様子は全く分からないが、奥の方から微かに風の吹く音が聞こえてくるのが分かる。

 

 

咲夜「一応奥の方まで進めそうだな……よし、行くか」

 

 

雪奈「あ、待ってください咲夜。先行は私が行きます。危険がないとも限りませんから」

 

 

咲夜「ん……そうだな……悪い、頼む」

 

 

暗闇に包まれた洞窟の奥に何があるかは分からない。もしかしたら途中で障害物や岩が落ちてきたり、考え難いが何処かの動物が寝所に使って潜んでる可能性もあるかもしれない。それを考えた雪奈は辺りを警戒しながら先行して暗闇の洞窟に入っていき、咲夜もその後を追う形で雪奈の後ろを付いていった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―洞窟内―

 

 

暗闇に包まれる広い洞窟内。壁や天井からは大小様々な岩が突き出ており、足場は此処に来るまでと同じでゴツゴツとしてるため、気をつけて進まなければ転んでしまいそうになる。雪奈はそんな洞窟内を見渡しながらゆっくりと先に進んでいき、咲夜も足元に注意しながら雪奈から離れ過ぎないように奥へと進んでいく。その時……

 

 

雪奈「―――?あれは……咲夜、あれ!」

 

 

咲夜「え……?」

 

 

先を進んでいた雪奈が何かを見付け、咲夜に呼び掛けながら洞窟の奥を指差した。咲夜が雪奈の背中から顔を出して雪奈が指差す方を見つめると、暗闇に包まれる洞窟の奥に何かがあるのが微かに見える。良く目を凝らして洞窟の奥を見てみれば、其処には岩だらけの洞窟には不自然に浮いてる大量の雑草……いや、二人の目的の薬草と思われる薬があったのだ。

 

 

咲夜「っ!もしかして……アレが例の薬草か?」

 

 

雪奈「ちょっと待ってください……」

 

 

洞窟の奥に生えている草を見つけ、もっと近くで良く確かめようと咲夜が一歩前に踏み出すが、雪奈が片手でそれを制して先に草が生えている場所へと近づいていき、地面に片膝を付いて何かを確かめるように草に触れていく。

 

 

雪奈「……間違いないようですね。咲夜、多分これが御医者様が言っていた薬草だと思います」

 

 

咲夜「本当か?だが、お前見ただけで分かるのか?」

 

 

雪奈「まあ、これでも一応は元武将でしたからね……戦場で負傷した時などは、こういった薬草等を自分で採取して怪我の治療に利用したりとかしていたので、薬草を見分けるぐらいなら出来るんです」

 

 

咲夜「そうなのか……私はそういう事が出来ないから違いは分からないな……助かったよ雪奈、やはりお前が居て良かった」

 

 

雪奈「ハハッ、私もこんなところで戦場で身につけた能力が役立つとは思いもしませんでした……とにかく、コレを早く御医者様に届けましょう。急がないと手遅れになります」

 

 

雪奈は真剣な表情になりながら薬草を手に取って咲夜に呼び掛け、咲夜もそれに頷き返しながら雪奈の隣に駆け寄って腰を屈め、薬草を一本一本、出来るだけ草を傷付けないように優しく抜き取っていく。その最中……

 

 

咲夜「―――雪奈……その……本当に、ありがとうな……」

 

 

雪奈「……え?」

 

 

薬草を採る作業の中、突然咲夜がポツリと雪奈に礼の言葉を口にしたのである。それを聞いた雪奈は思わず手を止めて咲夜に顔を向け、咲夜はそんな雪奈に振り返らないまま薬草を採りながら言葉を続けた。

 

 

咲夜「正直、私ひとりじゃ此処まで辿り着く事なんて出来なかった……さっきもお前の助けがなかったら、一体どうなっていたか……私にも想像が付かない」

 

 

雪奈「…………」

 

 

咲夜「普段は何処か抜けていて、ちょっと目を離せば物を壊したり何もない所で転んだりと……困った部分も色々あるが、それも多分お前自身の良いところでもあるのだろうな。それに、さっき盗賊達と戦っていたお前……最初見た時は少し戸惑いはしたが、一瞬月を背に刀を振るうお前の姿が余りにも綺麗に見えて……正直女の私も見惚れるぐらいのものだった」

 

 

雪奈「そ、そんな……そんな大したものじゃありませんよ……こんなのはただの、人を殺めることしか出来ない力です……」

 

 

今まで戦に勝つ為、そして自分以外の他者を殺すだけ為に刀を振るってきた為に、感慨深い表情でそう告げた咲夜の言葉に戸惑いを浮かべる雪奈。咲夜はそんな雪奈の顔を見て苦笑すると、何かを思い付いたような表情で雪奈に声を掛けた。

 

 

咲夜「なあ雪奈。はるかの体調が今より良くなったら、私達の村で剣術の師範とかやってみないか?」

 

 

雪奈「……は?し、師範?」

 

 

咲夜「村の子供達を集めて、剣の稽古を仕込んでやるんだ。お前は剣の腕が良いから、きっとみんなのいい手本になれると思うぞ?」

 

 

雪奈「そ、そんなっ、私には無理ですよ!人に何かを教えるだなんて……こんな私に……」

 

 

咲夜「そんなの分からないだろう?それにお前の剣は、人を殺める以外にも使い道があると思う。さっきのようにな」

 

 

雪奈「……へ?」

 

 

微笑する咲夜のその言葉に雪奈は思わず間抜けな声を上げながら聞き返し、咲夜は暗い天井を見上げて先程の出来事を思い返していく。

 

 

咲夜「さっきのお前の戦い……アレはただ人を殺す為にではなく、私を守ろうとして刀を振るったのだろ?誰かを守る為に力を振るうことと、人を殺めるだけに力を振るうことはまったく違う……お前は自分を人を殺す事しか出来ない人間だと考えてるみたいだが、私はそうは思わない。お前は弱い人間を守るためなら、理不尽な暴力に立ち向かえる優しい奴だ。そんなお前なら、きっと子供達に沢山大切な事を教えてくれると思う……私はそう思ってるぞ?」

 

 

雪奈「……買い被り過ぎですよ、咲夜……私はそんな―グイィッ!―ひゅごぉっ?!」

 

 

暗い影を落としながら咲夜の言葉を否定しようとした雪奈だが、それを言い切る前に咲夜がムッとした顔で突然雪奈の両頬をつまんで引っ張っていった。

 

 

咲夜「まったく……お前は自分を自虐し過ぎだ。その癖、少しは治した方がいい」

 

 

雪奈「い、いぃぃぃいひゃあいっ!!いひゃあいれすよひゃくやぁっ!!」

 

 

咲夜「やかましいっ!私がそう思ってると言ってるのだから、お前も素直に褒め言葉として受け取っておけばいいのだっ!」

 

 

雪奈「ふぁ、ふぁいぃぃっ……!」

 

 

ムスッとした表情の咲夜の勢いと両頬を引っ張られる痛みからコクコクと何度も頷く雪奈だが、首を振る度に頬が更に痛み若干涙目になっていた。咲夜もそんな雪奈に呆れるように溜め息を吐きながら雪奈の頬から手を離すと、雪奈はジンジン痛む両頬を抑えながら唸り声を上げていく。

 

 

雪奈「うぅ~……いきなり酷いじゃないですか咲夜ぁ……」

 

 

咲夜「お前が何時までもウジウジしてるからだ。親友の言葉ぐらい素直に聞き入れろ、馬鹿者が」

 

 

雪奈「うっー……」

 

 

そっぽを向いて不機嫌そうに告げる咲夜。雪奈は両頬を摩りながらそんな咲夜を涙目で見つめると、溜め息を吐いた後にポツリと口を開いた。

 

 

雪奈「でも……仮に貴方の言う通り剣の師範をする事にしても、私は余り気乗りはしません……人を殺す術を、子供に教えるだなんて……」

 

 

咲夜「はっ?……はぁ……お前な、誰がそんなことを子供達に教えろと言った?」

 

 

雪奈「えっ?いや、だって……」

 

 

咲夜「まったく……いいか?私がお前に子供達に教えてやって欲しいのは、大切なものを奪う術なんかじゃない。大切なものを、守る術だ」

 

 

雪奈「?大切な……ものを?」

 

 

疑問げに問い掛ける雪奈に小さく頷き返すと、咲夜は集めた薬草を傍らに置いてパンパンと汚れた手を払いながら話の続きを語り出した。

 

 

咲夜「今の乱世、親を失い独りになってしまう子供は沢山いる……だから出来る限り、自分の力で、自分の家族を守れる術を今の内に教えてやって欲しいんだ。そうすれば……私達やお前のように、親を失う子供が少しは少なくなるかもしれないしな」

 

 

雪奈「……あ……」

 

 

彼女が何を言いたいのか、漸く分かった。

 

 

彼女は昔、両親が目の前で殺された時に何も出来ず、ただはるかと共に事の成り行きを黙って見ているしか出来なかった。

 

 

その事を経験して咲夜は何も出来ない無力感を知っているからこそ、今の子供達に自分と同じような感情を抱かせたくないのだろう。

 

 

同時に……人を斬る事しか知らなかったこんな自分でも、子供達が大切なモノを守れるように導くことが出来るのだと教えるために。

 

 

それに気付いた雪奈は呆然と咲夜の顔を見た後、土で汚れた自分の手の平を見つめ、ギュッと強く握り拳を作っていく。

 

 

雪奈「――でき……ますかね……こんな私でも……」

 

 

自信なさげだが、何処か僅かな意欲を感じさせる声で呟く雪奈。すると、そんな雪奈の拳の上に横から咲夜の手が重なり、それを見た雪奈は顔を上げて微笑する咲夜の顔を見た。

 

 

咲夜「そんな心配するな。お前ならきっとできる、私が保証してやる♪だから、もっと自分に自信を持て。な?」

 

 

雪奈「……はいっ」

 

 

……一つ、咲夜のおかげで武将以外の道が開けた気がする。

 

 

今まで何かを奪うしか出来なかった自分でも、誰かに大切な事を教え、与えられる人間になれるのだと。

 

 

そう思いながら雪奈は何処か救われたような笑みを浮かべ、咲夜もそんな雪奈の顔に満足げに頷いて薬草の束を手にし、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

咲夜「さて、お喋りは此処までだ。薬草も手に入ったし、急いで村に戻ってこれを届けよう」

 

 

雪奈「そうですね……急ぎましょう!」

 

 

これだけの量さえあれば、きっと薬を作る事が出来るはず。咲夜と雪奈は自分達が採った薬草を手に互いに頷き合うと、急いで村へと戻るべく入り口に向かって走り出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギイィンッ!!―

 

 

咲夜「――ッ?!なっ?!」

 

 

雪奈「ッ!」

 

 

 

 

 

二人が入り口に向かおうとしたその時、突然暗闇の向こうから何かが飛来し咲夜の足元に突き刺さったのであった。それを見た咲夜が驚愕して思わず後退ると、雪奈は咲夜の足元に突き刺さる何か……柄の部分に血がこびりついた短刀を見てすぐさま咲夜の前に立ち、腰に差した雪片の柄に手を添えながら暗闇の向こうを睨みつけた。すると其処には……

 

 

 

 

 

「――へ……へへ……見付けたぜぇ……女共ォッ……」

 

 

 

 

 

下品な笑い声と共に暗闇の向こうからゆっくりと姿を現したのは、左目の部分から頭に掛けて夥しい血が付いた包帯を何重にも巻き、右腕がない右肩に布を巻き付けた人物……先程雪奈に倒された筈の盗賊の頭だったのである。

 

 

咲夜「お前っ、さっきのっ?!」

 

 

雪奈「……何の用ですか?そんな姿でこんな場所にまで、まだ何かご用でも?」

 

 

「ヘヘヘッ……決まってんだろォ?うちの部下たちを皆殺しにして、俺をこんな姿にしやがったテメェ等に報復しにきたのよォ!」

 

 

雪奈「……どうやら頭まで低俗のようですね……わざわざ見逃してあげたというのに、そんな姿で報復など……まだ分からないのですか?どうやったところで、貴方一人程度では私を殺す事など出来ないと」

 

 

そう、彼女は先程あの数の盗賊達をたった一人、無傷で倒した実力者なのだ。

 

 

そんな彼女の実力ならば、右腕と左腕を失い負傷した盗賊に負けることなど先ずない。

 

 

しかし……

 

 

「へ……ヘヘヘッ……確かに、俺じゃお前に勝つ事は出来ねぇだろうなぁ……」

 

 

雪奈(……?何だ、コイツのこの余裕……)

 

 

雪奈に勝てないと分かっていながら、何故か余裕の笑みを崩さないまま腰に差した刀を徐に抜いていく頭。そんな頭から何か怪しげな雰囲気を感じ取った雪奈は眉間に皺を寄せ、雪片に手を添えたまま自分が採った分の薬草を背後にいる咲夜に押し当てた。

 

 

咲夜(?雪奈……?)

 

 

雪奈(咲夜、私が先に飛び出して奴の動きを封じます。その後、貴方は先に入り口に向かって走って下さい)

 

 

咲夜(ッ!お前はどうする気だ……?)

 

 

雪奈(大丈夫です……奴を抑えたら、私もすぐに後を追いますから。だから貴方は早く、薬草を御医者様に届けて下さい……)

 

 

咲夜(っ……分かった……だが気をつけろよ?)

 

 

雪奈(はい……では、私が合図したら入り口まで一気に走ってください……いち……にい……)

 

 

ジリッと、足を僅かに開き頭を睨みつけながら腰を屈めていく雪奈。それを見た咲夜も雪奈から受け取った薬草を握る手に力を込めていき、そして……

 

 

雪奈「――さんッッ!!!」

 

 

―バッ!!!―

 

 

洞窟内に怒号が響き渡ったと同時に、雪奈が先に頭に向かって勢い良く飛び出しながら鞘から雪片を抜き、その後を追うように咲夜が駆け出した。それを見た頭は咄嗟に刀を大振りで振りかざし突っ込んできた雪奈に振り下ろすが、雪奈は横に身を反らして刃を避けながら頭の刀を雪片で払い飛ばし、そして……

 

 

―ドシュウゥッ!!―

 

 

「ウゴォッ?!」

 

 

雪片で突きを放って頭の肩を貫き、そのまま頭を地面に押し倒していったのだ。咲夜はそれを横目に二人の横を通りすぎて入り口へと一直線に走っていき、それを確認した雪奈は頭を見下ろしながら口を開いた。

 

 

雪奈「此処までです。先程は見逃しましたが、このまま貴方を生かせば咲夜にまで危害が及ぶ可能性がある……トドメを刺させて頂きます」

 

 

そう言って雪奈は目付きを鋭くさせ、雪片の刃を頭の肩に突き刺したまま左胸に向けて動かしていく。頭も刃が動かされる度に悲痛な声を上げて苦しむが、その顔からは未だ笑みが消えていない。

 

 

雪奈「…何がそんなに可笑しいのです?」

 

 

「ク、クククッ……なぁ、さっきから変に思わないのか?どうして俺が、勝ち目もないのにたった一人でお前達の前に現れたのか……」

 

 

雪奈「?何を……ん……?」

 

 

意味深な発言をする頭に訝しげな表情で問い返そうとする雪奈だが、其処で何かある『臭い』が漂ってる事に気付き鼻を嗅いでいく。以前まで戦場にいた自分にとって毎日のように嗅いでいた臭い……それが何なのか直ぐさま理解した雪奈はハッとなり、頭の鎧を剥ぎ取ってその下に巻いてあるものを見た。それは……

 

 

雪奈「なっ、火薬っ?!」

 

 

頭の腹や胸などに幾つも巻かれてあったのは包み……かつて自分の居た織田軍が使っていた火繩銃に使われる大量の黒色火薬を包装した火薬包みだったのだ。更にその全てには導火線が伸びて火が付いており、頭は驚愕する雪奈を見て愉快げに笑い出した。

 

 

「ハハハハハハッ!!なあ知ってっかっ?!火薬ってのわぁ、直接火を付けるとものすげえ威力で辺り一帯をぶっ飛ばすんだぜ?これだけの火薬を一度にぶっ放せば、お前等もただじゃあ済まねェだろォ?!!」

 

 

雪奈「ッ?!!」

 

 

完全に正気を失い狂った眼でそう叫んだ頭のその言葉に、雪奈の脳裏に一瞬信長の家臣だった頃の記憶が過ぎった。

 

 

確か以前、火繩銃に使われる黒色火薬の運搬の任に当たって夜営をしてた際に、数人の兵士の不注意で火薬の一部に火が引火して爆発が発生するという事故が起きた事があった。

 

 

任の最中にそんな大事故が起きたことを知られて家の名に泥を付くことを恐れ、信長にはその時の事を黙っていたが、あの時目にした破壊的な威力は今でもこの目に焼き付いている。

 

 

それが今此処で起きようとしていると知った雪奈は慌てて咲夜が走り去った方角を見ると、咲夜はまだ入り口までに辿り着いていない。

 

 

もう一度火薬包みを見れば、導火線の火は既に火薬へと到達しようとしており、咲夜が洞窟を脱出するまでの時間は残されていない。

 

 

雪奈「クッ!!」

 

 

この男は最初から、自分達を巻き添えにして死のうとしていたらしい。

 

 

このままでは、咲夜もその巻き添えで爆発に巻き込まれてしまう。

 

 

瞬時にそう理解した雪奈は雪片の切っ先を突き刺したまま狂ったように笑う頭の胸倉を乱暴に掴んで強引に立ち上がらせ、そのまま頭と共に洞窟の奥へと全力で駆け出し、そして……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

咲夜「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……!」

 

 

そしてその頃、雪奈に頭を押さえる役を任せた咲夜は薬草を片手に全力で洞窟内を駆け、入り口に向かって一直線に走っていた。

 

 

咲夜「待ってろはるかっ……もうちょっとの辛抱だからっ……!」

 

 

もうすぐ薬草を届けられる。これを届けた後ははるかに調合してもらった薬を飲ませ、その後は雪奈を迎え一緒にはるかが目覚めるのを待とうと。咲夜は薬草を握る手に力を込めながらそう誓っていた。その時……

 

 

 

 

 

―……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッ……!!!!!!―

 

 

咲夜「ッ?!な、うわぁッ?!」

 

 

 

 

 

突如洞窟の奥の方から何かの轟音が響き渡り、それと同時に洞窟内に激しい揺れが発生したのである。突然襲い掛かった揺れに咲夜も驚愕しながらバランスを崩してその場に両膝を付いてしまうが、揺れは次第に小さくなって徐々に治まっていき、漸く完全に沈静して治まっていったのだった。

 

 

咲夜「うぐっ……いっつぅ……な、なんだ今の?一体何が起きたんだっ……?」

 

 

揺れが完全に治まったのを確認すると、咲夜は壁に手を付けながら立ち上がって両膝に付いた汚れを払っていき、一体なにが起きたのかと疑問符を浮かべながら辺りを見渡して背後に振り返り、そして……

 

 

咲夜「………………………………………え………?」

 

 

背後へと振り返った瞬間、咲夜の表情が突然凍り付き固まってしまった。

 

 

咲夜が見つめる先には此処に来るまで走ってきた道。

 

 

その道の奥には、自分を逃がす為に頭を取り押さえる雪奈の姿があったはずなのだ。しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ゴゴゴゴゴゴォッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

……暗闇に包まれる洞窟の奥に居たはずの雪奈の姿がなく、其処には腹の底まで響くほどの重たい地響きと共に天井からガラガラと音を立てて大小様々な岩石が落下し、黒煙がこちらへと徐々に広がりつつある異常な光景があったのであった……

 

 

咲夜「……ゆき、な……?……ぁ……雪奈ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

 

 

一体何がどうなったのか、何が起きたのか全く分からない……

 

 

しかし、雪奈の身に何かが起きた事だけはすぐに理解でき、咲夜は悲痛な叫び声を上げながら黒煙が流れてくる洞窟の奥へと駆け出していったのだった……

 

 



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番外編/過ぎ去りし思い出⑪

 

 

―洞窟内―

 

 

濛々と先程の爆発から発生した黒煙が立ち込める洞窟内。

 

 

爆破の衝撃から未だに天井から岩が落下し続ける中、咲夜はその場に駆け付けたと同時に辺りの惨状を目の当たりにし呆然となった。

 

 

咲夜「何だ……これ……」

 

 

先程、雪奈と別れた地点であるこの場所には天井から落下した巨大な岩が地面に突き刺さり、辺りに幾つも無造作に転がっている。更に地面には無数の亀裂が走っていたり、壁や天井には何かの衝撃を受けてか所々凹みが出来ており、咲夜はその光景に呆気に取られながらも黒煙を吸い込まないように咄嗟に口に手を当てていく。

 

 

咲夜「っ……そうだ、アイツは……雪奈っ!!何処にいる雪奈っ?!いるのなら返事をしろっ!!」

 

 

口に手を当てたまま、雪奈の名を必死に叫びながら顔を動かして辺りを見渡していく咲夜。その時……

 

 

「―――咲夜……ですか……?其処にいるのは……」

 

 

咲夜「ッ!雪奈?!」

 

 

雪奈の姿を探し辺りを見渡していた中、不意に黒煙の向こうから雪奈の弱々しい声が聞こえてきた。それを耳にした咲夜は直ぐにその声が聞こえてきた方向へと走り出すと、徐々に黒煙の先に一人の人物……ボロボロになった雪奈が俯せに倒れる姿が見えてきた。

 

 

咲夜「雪奈っ……無事だったか!」

 

 

雪奈「っ……えぇ、一応何とか……さっきの男は、体に巻き付けていた火薬に火を付けて死にました。これでもう、貴方があの男達の危害に遭う事はないでしょう」

 

 

咲夜「そうか……とにかく、早く此処から出ようっ!此処はもう崩れそうだ……!」

 

 

先程の爆破の衝撃からか、洞窟内は未だ地響きが続き今にも崩れ落ちそうな状態だ。一刻も早く此処から出ようと咲夜は雪奈の身体を起こそうと手を伸ばすが、雪奈は何故かそれに対し首を左右に振った。

 

 

咲夜「?雪奈……?」

 

 

雪奈「……咲夜……すみませんが、貴方一人で逃げて下さい。私は、貴方とは行けない……」

 

 

咲夜「なっ……何言ってる?!こんな時に馬鹿な事を言うなっ!ほら!早く立ち上がって――「立てないんですよ、もう」……え?」

 

 

雪奈「……もう私は、立ち上がれないんです。残念ながら」

 

 

呆然となる咲夜に苦笑いを向けながらそう告げると、雪奈は咲夜から視線を逸らして自分の足に目を向けていき、咲夜は疑問げに首を傾げながらその視線を追い掛けていくと、其処にあった光景を目にして目を見開いた。其処には……

 

 

 

 

 

 

雪奈「――私は既に、この有様ですから……動けないんですよね、どうにも」

 

 

 

 

 

 

ハハハッと、頬を人差し指で掻きながら苦笑する雪奈。

 

 

そんな彼女とは対照に瞳を震わせる咲夜の視界に映るのは……咲夜の身長を遥かに越える岩により、両足を挟まれて身動きが取れなくなっているという信じられない光景だったのだ。

 

 

咲夜「ぁ……雪奈……お前っ……」

 

 

雪奈「えーっと……アイツを遠くに投げ飛ばして爆破から免れたところまでは良かったんですが、またドジを踏んでしまいましてυυアハハハッυυ」

 

 

咲夜「ッ!呑気に笑ってる場合かッ?!待ってろっ、今コイツを退かしてっ……!!」

 

 

また何時ものドジで足を岩に挟まれてしまったと呑気に笑う雪奈に怒鳴りながら、雪奈の両足の上に乗る岩に両手を当てて押し出そうと試みる咲夜。

 

 

しかし岩の大きさや重さは咲夜の力で退かされるほど安易い訳がなくビクともせず、雪奈はそんな咲夜の姿を見て苦笑いしながら口を開いた。

 

 

雪奈「咲夜、もういいですから。ほら、早く行って下さい。此処はもう崩れます」

 

 

咲夜「何がもういいだ?!勝手に諦めるんじゃないっ!!」

 

 

雪奈「諦めるもなにも……これは私の甘さと愚かしさが招いた結果なんです……あの時ちゃんと奴を仕留めておけば、こんな事態にはならなかったハズだし……あ……そういえば昔父様にも、『お前は何時もツメが甘い』って言われましたっけ……?あははっ、正に今がその通りですねぇυυ」

 

 

咲夜「こんな時に笑ってる場合かッ!!!クソッ!!動けッ!!動けと言ってるんだッ!!!」

 

 

こんな危機的状況にも関わらず、未だ笑みを絶やさずに笑う雪奈に一喝しながら咲夜は岩に身体を押し当てて岩を押し出そうとする。その間にも洞窟内の揺れが更に激しさを増していき、それ目にした雪奈は笑みを消してその様子を無表情で眺めると、未だ諦めずに岩を押し退けようとする咲夜に顔を向けていく。

 

 

雪奈「―――咲夜……いい加減にして下さい……これ以上はホントに此処が持たない……早く村に戻って下さい」

 

 

咲夜「っ……馬鹿言うなっ……!こんなところにっ、お前を置き去りになんか出来るわけ「咲夜ッッ!!!」ッ?!!」

 

 

村に戻れと促す雪奈の言葉を聞き入れようとせず首を左右に振ろうとする咲夜だが、その前に雪奈が怒号を上げそれを遮ったのである。見れば、雪奈は今まで見せた事がない怒りの表情を浮かべて咲夜の顔を見上げていた。

 

 

雪奈「もう時間は残されてないんです!!このままでは二人もろとも生き埋めになっしまう!!そうなれば、せっかく手に入れた薬草をはるかさんに届けられなくなるんですよッ?!」

 

 

咲夜「ッ……!だ、だが、それではお前がっ!!」

 

 

雪奈「……例え生き埋めに合っても、私はそう簡単に死にはしません。それに、どのみち貴方じゃその岩を動かす事など出来やしない……此処にいても、"貴方にはどうする事も出来ないんです"」

 

 

咲夜「ッ?!」

 

 

断言するように、突き放すような冷たい口調でそう告げた雪奈に咲夜は思わず息を呑んだ。

 

 

自分の力では、彼女を救い出す事など出来やしない。

 

 

此処に居ても、自分はただ『無力』でしかないのだと……雪奈にそう突き付けられ、咲夜はゆっくりと両手を下ろしながら悔しげに唇を噛み締めていき、雪奈はそんな咲夜を見て微笑した。

 

 

雪奈「それに……もしも岩を退かせたとしても、もう両足の感覚がないですからね……貴方に無駄な労力を使わせるだけです」

 

 

咲夜「っ?!……そん……なっ……」

 

 

雪奈「……行って下さい、咲夜。貴方には今、何物に変えてでも果たさねばならない事がある筈です。きっとはるかさんも、貴方が来るのを待ってる筈ですから」

 

 

咲夜「っ…………」

 

 

真摯を秘めた瞳で咲夜を見据えながら雪奈がそう言うと、咲夜は顔を俯かせて岩を何度も殴り付けた。

 

 

情けない……目の前で危険に曝されている友を救う事も出来ない事が……

 

 

どんなに助けたいと思っても、自分にはそんな力はないのだ。

 

 

『ただの人間』でしかない……自分には……

 

 

咲夜「っ……待ってろ……これを届けたら、村の皆を集めて助けに来る!!絶対戻って来るからっ、待ってろよッ?!」

 

 

ならば今は、自分が今やれる最善の方法を取るしかない。

 

 

そう考えた咲夜は雪奈に待ってるように強く言い放つと、その場から駆け出して洞窟の入り口へと急いで向かっていき、雪奈はそんな咲夜の背中が完全に見えなくなるのを確かめると小さく溜め息を吐いた。

 

 

雪奈「やっと言ってくれましたか……ふぅ……」

 

 

吐息を漏らしながら地面に顔を付けていくと、雪奈のすぐ真横に落石が落下して砂埃が発生し、無数の破片が飛び散った。しかし雪奈はそれを見ても特に焦る事なく、瞳を伏せながら静かに口を開いた。

 

 

雪奈「それにしても、私の認識もまだまだですねぇ。まさかこんな事態になろうとは……まぁ、自分の甘さがどれほどのものか再確認出来たって事で、良い経験にはなりましたね。やはり私には、刀を持って戦うのは向いてないみたいです」

 

 

自嘲気味に笑いながらそう告げた瞬間、今度は雪奈の斜め上に巨大な岩が落下し危うく下敷きになりそうになった。雪奈は僅かに目を開きそれを横目に見ると、自分の手の平に視線を向けポツリと語り出す。

 

 

雪奈「まあ、死ぬのは今更恐くないか……こんなものが見え始めた頃から、そんなものに対する恐怖なんて何処かに忘れてきてしまったし……」

 

 

瞳の色が不気味に輝く魔眼へと変わり、自分の手の平に無数の線が浮かんでるのが見える。

 

 

こんな死で彩られた世界が見え始めてから、死に対する恐怖心なんてもうとっくに持ち合わせていない……言ってしまえば、自分は既に壊れてる。

 

 

さっき頭を殺そうとして止めた時も、そんな自分が忘れてしまった死に恐怖するあの男が哀れに思えた。

 

 

よくまあこの程度で恐怖を感じるものだと……咲夜に止められたあとももう一度殺そうかと一瞬考えたが、恐怖で情けなく気絶した男を見てそんな気も失せた。

 

 

しかも見逃せば見逃せばでこんな逆襲が待っていたし……いやはや、人間がやる事は中々分からないものだと、雪奈はやれやれと軽く溜め息を吐いた。

 

 

雪奈「私もまだまだ未熟者ですね……あっちに逝ったらまた父様の扱きが待っていそう……あー……それだけは嫌だなぁ……アレの後は体中が痛いからυυ」

 

 

幼少の頃に嫌々剣の修行をさせられた記憶を思い出して微妙そうに笑う雪奈。だがその表情も、徐々に崩壊していく洞窟を見て無表情へと変わっていき、咲夜が走り去った入り口へと目を向けていく。

 

 

雪奈「――でも……一度で良いから、剣の師範もやってみたかったかな……」

 

 

先程咲夜とこの場所で話した会話……村の子供達に剣を教えるという話を思い出し、顔を俯かせて複雑げに笑う雪奈。

 

 

自分の最後を知れば、あの二人は一体どんな顔をするだろう?

 

 

悲しむか、それとも勝手に逝った自分に対して怒るか……

 

 

どちらにしろ、あの二人にそんな顔をさせてしまうと考えると悪い気がしてならない。

 

 

雪奈「……咲夜……はるかさん……それに村の人たち……ホント……気付いたら私なんかにはもったいない繋がりが、沢山出来てましたね……」

 

 

目をつむれば、今日までの様々な記憶が脳裏に蘇っていく。

 

 

初めて咲夜と出会った事や、そのあと半ば強引に家に住まわせられた事。

 

 

初めての農業で失敗を繰り返したり、落ち込む自分を咲夜とはるかが秘密の場所に連れていってくれたり、其処で咲夜が初めての親友になってくれた事など……

 

 

雪奈「……ホント……此処に来てから、咲夜には何時も助けられてばかりでした……」

 

 

脳裏に咲夜との様々な思い出を思い浮かべながら微笑し、雪奈はゆっくりと崩壊する天井を見上げて口を開いた。

 

 

雪奈「でも、何故でしょう……こんな時なのに、彼女達とはまた何処かで会える気がする。此処とは違う、何処かで……」

 

 

―……ピシッ……ピシピシピシィッ……!!―

 

 

雪奈のすぐ真上の天井に、無数の亀裂が走っていく。そして遂に天井が崩れ雪奈に向かって無数の岩が降り懸かろうとする中、雪奈は微塵の恐怖も感じさせない清々しい笑みを浮かべ……

 

 

 

 

 

 

 

 

雪奈「―――さようならは言わない……だから、また会いましょう咲夜……また……何処かで……」

 

 

―ドシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

……まるで何かを約束するかのようにそう呟いた瞬間、無数の岩が轟音と地響きを響かせて彼女の上に降り注いでいったのだった……

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―――その後、洞窟を脱出した咲夜は村に戻る途中、自分と雪奈を捜しに来た村の人たちと合流を果たし、今までの経緯を一から説明して捜索隊の一人に薬草をはるかの下に届けるように頼んだ後、村の人達と共に雪奈を救出すべく山の洞窟まで急いで戻っていった。しかし……

 

 

咲夜「……………そん………………な……………」

 

 

洞窟の前にまで辿り着いたものの、咲夜は洞窟の入り口の状態を見てその場に力無く膝を付いてしまった。

 

 

何故なら……入り口は洞窟の崩壊に伴って無数の瓦礫によって塞がれており、中に入る事が出来なくなっていたからである。

 

 

咲夜が呆然と岩で塞がれた入り口を見つめる中、村の男達は何とか入り口を塞ぐ岩を少しずつ退かして中に入ろうとするも……

 

 

「ぐっ……!駄目だ、奥の方も岩で塞がれてる!とてもじゃないが、中に入るのは無理そうだっ!」

 

 

「どうにかなんねぇのかっ?!このままじゃ雪奈ちゃんがっ……!!」

 

 

「だから無理なんだって!奥の方もずっと石で埋もれてるし、まだ中で崩落が続いてるみたいなんだ!これ以上進むのは無理だっ!」

 

 

咲夜「…………ゆき、なっ…………雪奈ァッ!!!」

 

 

完全に入り口が塞がれてる上に、奥に進む通路も石で埋もれている為に進む事が出来ない。

 

 

男達のそんな会話を耳にした咲夜は悲痛な叫びを上げながら立ち上がって入り口にまで駆け寄り、半ば錯乱した様子で素手で石を取り除いて退かそうとするが、背後から村の人達に羽交い締めにされ入り口から離されてしまう。

 

 

「止せ咲夜ッ!!これ以上進むのは危険だッ!!」

 

 

咲夜「離せッ!!離してくれッ!!言ったんだアイツはッ!!生き埋めになっても簡単には死なないってッ!!まだ生きてるんだ!!だからッ……!!」

 

 

「咲夜ちゃん……」

 

 

羽交い締めにされて抑えられながらも、それから逃れようと錯乱したまま必死に暴れ回る咲夜だが、そんな咲夜の肩を村の中年の女性が横から叩いた。

 

 

咲夜「っ…おばさんっ…」

 

 

「……咲夜ちゃんだって、分かってんだろう?そんなのは、あの子の嘘だって」

 

 

咲夜「ッ……!」

 

 

「あの子はアンタを逃がす為に、早くはるかちゃんに薬草を届ける為にそうしたんだ……アンタ達は生かされたんだよ、あの子に……その生かされた命を、危険に曝すような真似はするんじゃない。あの子の為にも」

 

 

咲夜「ぅ……あっ……」

 

 

厳しい表情で諭しの言葉を口にする女性に、咲夜は何も言い返せずその場に崩れ落ちてしまい、ボロボロと涙を流しながら地面に拳を打ち付けた。

 

 

咲夜「どうしてっ……どうして何も出来なかったんだっ……!!傍に居たのにっ……近くに居たのにっ……うぁっ……ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」

 

 

何も出来なかった、助けられなかった……

 

 

すぐ傍にいながら何も出来ず、守られて、置き去りにして、自分だけが助かった……

 

 

そんな無力な自分が腹立たしくてならない咲夜は地面を何度も殴り付け、地に額を押し当てて悲痛な叫びを響かせたのであった……

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

……そしてその後。未だに崩落が続く洞窟の状態から雪奈の救出を不可と断定し、村の人達は咲夜を連れて村へと引き返す事となったが、咲夜は村に着くまでの間、ずっと無気力で足取りも覚束なかった。

 

 

そしてはるかは、咲夜と雪奈が採りに行った薬草を調合した薬を飲ませたおかげで、体調も徐々に回復して意識も取り戻した。

 

 

しかし、雪奈の姿がない事に気付いたはるかに彼女の所在を問われた際、どうしても病み上がりのはるかに雪奈の死を告げることが出来ず、彼女は薬草を届けた後に村を旅立ったと言って聞かせた。

 

 

そしてそれからの日常……

 

 

咲夜も最初の頃は雪奈の死に対して無気力気味であったが、数日ほど経ったある日を境に、皆の前で何事もなかったかのように元気に振る舞うようになった。

 

 

以前よりも仕事を増やし、家事やはるかの世話も以前の倍以上熟すようになったが、それでも普段の生活の中で突然涙を零してしまうことが度々あった。

 

 

やはり、あの時の事を無理矢理胸の奥に仕舞い込んでいる為に思わずボロが出てしまうらしい。

 

 

そんな姿をはるかに見せたくないが為に、咲夜は何時も仕事帰りにあの場所へと一人足を運び、其処で涙が一滴も残らぬように枯れるまで泣き続けた。

 

 

雪奈を救えなかった無力な自分……

 

 

目の前で危機に曝される命を救う力もない自分……

 

 

そんな力の無い自分に嫌気が差し、咲夜は泣きながら無力な自身を恨み、同時に『力』を強く欲した。

 

 

全ての人間を不幸から救えるような力……

 

 

大切な物を守り切れるような力……

 

 

この救いのない世界を変えるような力……

 

 

そう―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ただ見ているだけで何もしてくれない、『神』のような力を……

 

 

 



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番外編/そして、果たされた約束

 

 

―光写真館―

 

 

姫「―――んっ……ぁ……?」

 

 

ふと目が覚め、瞼を開けた先には見慣れた背景ロールが見えた。その光景に一瞬眉間に訝しげに眉を寄せるが、すぐに此処が写真館のリビングだと気付き、同時に自分が今まで眠りに付いていたのだと理解した。

 

 

姫「?……今のは……夢、か?」

 

 

先程まで、自分が見ていたあの夢。何処か懐かしく、だが同時に哀しくもあるあの夢は、間違いなく今まで自分が忘れてしまっていた記憶。何故か自然とそう理解出来た姫はポツリとそう呟き、未だに眠気が拭えず目を擦っていく。そんな時……

 

 

「――漸くお目覚めか?」

 

 

姫「……は?」

 

 

不意に目の前から声が聞こえ、それに少し驚きながらもそちらに目を向ける姫。するとそこには見慣れた顔の青年……自身が突っ伏しているテーブルになにかの部品を広げ、カメラの手入れをしながらこちらを見つめる零と、零が座る椅子の下で俯伏せるザフィーラの姿があった。

 

 

姫「零に……ザフィーラ?こんな所で何を……?」

 

 

零「何って、なのは達が町へ買い出しに行っていないから、俺とザフィーラと爺さんとキバーラで留守番してるんだよ……ホントなら、今日の買い出しはお前がヴィータとアギトとシャマルと一緒に行く予定だったのに、お前はいつの間にかうたた寝してるし……」

 

 

姫「買い出し?……あ……そういえば、今朝の朝食でオットーから頼まれたような……」

 

 

まだ起きたばかりで意識がハッキリしてなかったが、零から話を聞いて漸く頭が目覚めてきた。確か今朝の朝食の時、オットーに食材や日用品が足りなくなってきたから買い出しに行って欲しいと頼まれ、この世界を調べた後にシャマル達とともに買い出しに行く予定だったのだが……どうやら零が今言った通り、いつの間にかうたた寝して此処で眠ってしまってたらしい。

 

 

姫「あー、そうか……昨日は少し夜更かししてたからつい眠ってしまってたようだな……帰ったらちゃんと皆に謝らねば……」

 

 

ザフィーラ「まぁ、恐らくシャマル達は気にしないとは思うが、一応そうした方が良いだろう……ところで木ノ花、お前は大丈夫なのか?」

 

 

姫「うん?うーむ……まだ生理はキテないようだし、至って大丈夫だが?」

 

 

ザフィーラ「……いや、そういう意味ではなくてだな……」

 

 

ううむ、と難しげな表情で腹部を摩る姫を見て呆れるように吐息を漏らすザフィーラ。零もそんなザフィーラの様子を横目に見て同じように呆れた顔をすると、カメラの手入れを一旦止め姫に口を開いた。

 

 

零「ザフィーラが言いたいのは、お前が寝てる時に妙にうなされてたから大丈夫か?って聞いてるんだ」

 

 

姫「?うなされ……私がか?」

 

 

零「お前以外に誰がいる?隣でずっと「ウーウー」うなされて喧しいから作業に集中出来んし、いい加減起こそうと思って揺さぶっても全く起きんし……悪い夢でも見てたのか?」

 

 

姫「…………」

 

 

ぶっきらぼうな口調だが、何処か心配するような感じで訝しげに問い掛ける零。そんな零から問いを受けた姫は口を閉ざすと、顔を俯かせながら先程見た夢を思い出していく。

 

 

姫「……悪い夢、という訳ではないな……うむ、寧ろ懐かしい……大切な親友の夢だった……」

 

 

零「親友?……もしかして、人間だった頃のか?」

 

 

姫「そうだ……だが……」

 

 

懐かしげに自分が見た夢の話をしていた姫だが、声のトーンが不意に落ちて表情も雲っていく。そんな姫を見た零とザフィーラは互いに顔を見合わせ首を傾げると、姫が重たい口を開きポツリと呟いた。

 

 

姫「……思い出せないんだ、その親友の名が……」

 

 

ザフィーラ「?思い出せない?」

 

 

姫「ああ……顔や声、一緒に過ごした記憶はある……だが、名前だけは靄が掛かったみたいに分からなくてな……どうしても思い出せないんだ」

 

 

零「…………」

 

 

頭を片手で抑えながらそう呟く姫の様子を見て、零はふと以前姫から聞いた話を思い出していく。

 

 

零(確かコイツ、人間の頃に神になる代価として生前の記憶を失ったんだったか?他に覚えてたのは妹の事だけだったみたいだし……なら、コイツが親友のことを夢で思い出させたのも、ある意味奇跡に近いんじゃ……)

 

 

ザフィーラ「ふむ……事情は良く分からんが、元気を出せ木ノ花。そんな顔はお前らしくないぞ?」

 

 

姫「うん……?何だ、わざわざ心配してくれるのか?カワイイ奴だなぁザフィー♪」

 

 

ザフィーラ「ザッ…ザフィー?」

 

 

心配してくれるザフィーラに気を良くしたのか、動物好きを発揮した姫は陽気な笑みを浮かべてザフィーラの前に近づいて屈みワシャワシャと毛を撫でていき、姫に撫でられるザフィーラも若干複雑げに口を引き攣らせていた。だが、楽しげにザフィーラを撫でていた姫は突然手の動きをピタリと止め、ゆっくりとその場から立ち上がっていく。

 

 

零「……?木ノ花?」

 

 

姫「あー……すまん二人共、今から少し出ても構わないか?ちょっと用事が出来た」

 

 

ザフィーラ「用事?」

 

 

姫「あぁ。だから悪いんだが、ちょっと留守番を頼む。すぐに戻って来るから」

 

 

疑問げに小首を傾げる二人に向けてそう言うと、姫はそのまま部屋を出て写真館を後にし何処かへと出掛けていってしまった。

 

 

ザフィーラ「ふむ……あの木ノ花が一人で外出か……珍しい事もあるものだな……」

 

 

零「…………」

 

 

普段から姫が他のメンバーと共にいる所を頻繁に見ているためか、珍しいものを見たような表情を浮かべて姫が出ていった入り口を見つめるザフィーラ。そんなザフィーラの隣では零も同じように姫が出ていった入り口を無言で見ていたが、すぐに何事もなかったかのようにカメラの手入れを再開していったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―桜ノ神の世界・高台―

 

 

姫「…………………」

 

 

それから数十分後。写真館を出た姫が向かったのは、自身の世界の桜ノ町にある高台だった。オレンジ色の夕暮れに染まる高台の頂上に立つ彼女のその手には白い花束が握られており、姫はそれをしっかりと手にしながら、色んな花束や品物が手向けられてる目の前の石碑………あの幻魔達との戦いの中で命を落としてしまった人々の魂を弔う為、桜ノ神社と町の人々が協力して建てた慰霊碑を見つめていた。

 

 

姫「……すまない。もっと早く来るべきだったのだが、こちらも色々と立て込んでてな……」

 

 

慰霊碑に向けて申し訳なさそうに謝ると、姫は慰霊碑の前に屈み込んで手に持っていた花束を手向け、石碑を見つめながら目を僅かに細めた。

 

 

姫「本当なら、君達のことも助けてあげたかったのに……私の力が劣らなかったばかりに、罪のない君達を見殺しにしてしまった……全ての人々を不幸から救いたい……そんな大層な願いを叶えたいが為に、あんなに憎んでいた神の身になったというのに……私には、そんな器量はなかったみたいだ……」

 

 

滑稽だなと、自嘲の笑みを浮かべながらその場に腰を下ろし、膝を抱えて慰霊碑を見つめる姫。

 

 

姫「……なあ、"親友"……私は、お前やはるかの死をキッカケに、神のような力が欲しいと願うようになった……そうすれば、お前達みたいな人達を何物からも救えるようになると思って……だが、結局私には無理だった……」

 

 

フルフルと力無く首を横に振り、名を忘れてしまった親友の顔を脳裏に思い浮かべて苦笑した。

 

 

姫「神の身になっても、私は全ての人間を救うなんて出来はしなかった……なあ……お前の事を忘れてまで力を手に入れたこんな私を、お前はどう思う?馬鹿と思うか?滑稽だと笑うか?無様だと罵るか?……いや、お前はそんな事が出来る奴じゃないよな……」

 

 

かつて親友と共に過ごした記憶を思い起こしていくが、彼女が誰かに対し悪口や罵倒を口にする姿など見たことない。剣術以外の事は手先が不器用だし、すぐに何もないところで転んだりして泣き出すし、何処か抜けてるし。そんな親友の姿を思い出していく内に自然と笑みを浮かべていくと、姫は軽く息を吐きながら顔を上げた。

 

 

姫「――それで?何時までコソコソ隠れてるつもりなんだ、零?」

 

 

「……!」

 

 

ビクッと、姫の言葉に反応するように背後の草むらからそんな擬音が聞こえた気がする。それから少し時間が経つと、ガサガサと草むらの中から一人の人物……零がゆっくりと姿を現した。

 

 

零「悪趣味だな……気付いていたなら最初から声を掛ければ良いだろう?」

 

 

姫「君こそ悪趣味だろう?コソコソと盗み聞きなど。大体私と君は契約で繋がっているのだから、こんなに近くに居られれば直ぐに分かるさ」

 

 

零「……契約と言うのも考えものだな……」

 

 

溜め息交じりにそう愚痴ると、零はゆっくりと慰霊碑の前で体育座りをする姫の背後に近づき、慰霊碑に目を向けていく。

 

 

零「墓参り、か?あの戦いで救えなかった人達と、例の親友の」

 

 

姫「あぁ……彼等を死なせてしまったのは、私のせいでもある……こうして彼等の前に顔を出す事すら傲かましいと思うが、今日はどうしてもそうしなければならないと思って、な……」

 

 

零「――成る程……だが、別にお前だけの責任って訳ではないだろう。あの戦いで救えなかった命は、あの戦いに参加してた俺達全員の責任だ……それをお前が一人で自分のせいだと決め付けるのは、俺からすれば自惚れに聞こえるぞ」

 

 

姫「…………」

 

 

あのフォーティンブラスや高等幻魔達との激戦。あの戦いの中で、犠牲になってしまった命は決して少なくない。その命を守り切れなかった責任は人物達全員にあるのだと、慰霊碑に刻まれた犠牲者の一つ一つの名を見つめながらそう告げる零に、姫は膝を抱える腕に自然と力を込めた。

 

 

姫「私は……私はかつて、たったの一人の親友を置き去りにして、彼女を死なせてしまったんだ……アイツや妹を救えなかった後悔や無力さから、私はこの力を求めたというのに……私はこの有様で、力を手にする代価にアイツの記憶まで失ってしまった……」

 

 

零「……そんなものだろ。人とは違う存在になって、しかも人知を越えた神様の力とやらを手に入れるのになんの代価もないなんて、そんな上手い話があるなら誰だって神様になれる……まぁ、大事な物を守る為に大事な物を捨てなければならないと言うのは、確かに皮肉な話だろうが」

 

 

姫「そうだ……だから私は、その為にアイツとの記憶を今まで忘れ、忘れていた事すら忘れていた……親友失格だ……」

 

 

慰霊碑を見つめたまま自嘲の笑みを浮かべる姫。零はそんな姫の背中を見下ろして吐息を漏らすと、黄昏れの空を見上げながら脳裏に一人の少女……リィルの顔を思い浮かべていく。

 

 

零「――確かに……絶対に忘れてはいけない記憶っていうのは、誰の中にもあるんだろうな……それが掛け替えのないものなら、尚更」

 

 

姫「…………」

 

 

零「まあ、別に俺には関係ないからどうでもいいが……咲夜……お前はソイツの事を思い出せて、良かったって思ったか?」

 

 

姫「……そうだな……良かったって、思った……心の底から」

 

 

零「そうかい……だったら、それで良いんじゃないか?」

 

 

姫「え……?」

 

 

なんでもないような口調でそう告げた零に、姫は顔を上げながら思わず疑問げに聞き返した。零はそんな姫の隣に立つと、慰霊碑に目を向けたまま続きを語り出した。

 

 

零「今まで忘れていた事を思い出せたなら、あとはもう二度と忘れないようにすれば良い。一々忘れてた事をグチグチ悩んだところでキリもないし、何より折角思い出してもらったのに、そんなに自分を責めるお前の姿を見たら相手も気分が悪いだろ?もしも俺が思い出される立場なら、お前のその反応は嫌だ」

 

 

姫「…………」

 

 

零「それに、お前が生前の記憶を失ったのは、上司の神が代価として記憶を消したからなんだろ?それなのにお前はその親友との記憶を思い出せた……やるじゃないか?お前等の絆が神様の力とやらを上回った証拠だ」

 

 

お前の上役はマシな奴じゃないみたいだし、ちょっとは一泡噴かせられたんじゃないか?と冗談混じりに笑い掛ける零。そんな零を見て姫も呆然となってしまうが、すぐにクスリと笑みを浮かべながらその場から立ち上がった。

 

 

姫「そうだな……君の言う通りだ……もう二度と、私はアイツの事を忘れたりはしない……名前はまだ思い出せないが……」

 

 

零「それもゆっくり思い出していけば良いだろう……取りあえず、なのはたちが戻る前に早く写真館に帰るぞ。余り帰りが遅くなるとアイツ等の雷が落ちるし」

 

 

そんなのは御免だからなと、零は軽口を叩きながら踵を返して頂上を後にしようとし、姫も慰霊碑を見つめながら零の後を追い掛けて高台から下りようとした。その時……

 

 

 

 

 

―……ドンッ!!―

 

 

姫「…なッ?!」

 

 

「うきゃあッ?!」

 

 

零「ッ?!咲夜?!」

 

 

姫が慰霊碑に視線を向けたまま頂上の階段を下りようとした時、突然目の前から階段を登ってきた誰かとぶつかり互いに尻餅を付いてしまったのだ。それに気付いた零は階段を下りるのを止め、慌てて二人の下へと駆け寄っていく。

 

 

零「馬鹿!何やってるんだお前?!ちゃんと前を見ろ!」

 

 

姫「いっつっ……すまんっ、少し余所見してたっ……すまない、君の方は大丈夫かっ?」

 

 

「アイタタッ……は、はい、何とかっ……あ、あれ?眼鏡は?眼鏡、眼鏡っ……」

 

 

ぶつけてしまった頭を摩りながら涙目になる姫の問いにそう答えるが、今の衝突で眼鏡を無くしてしまったのか、左手に持った花束を膝の上に起きながら眼鏡を手探りで探す女性。すると、そんな女性の様子を見た姫は自分の近くに眼鏡が落ちてる事に気付き、それを拾って女性に差し出した。

 

 

姫「もしかして、これか?ほら」

 

 

「へ?……あっ、そ、それです!すみません!」

 

 

姫「いや、謝るのは私だ。私の不注意のせいですまな…………い………?」

 

 

姫が差し出した眼鏡を目にして顔を上げる女性の素顔を見て、姫は僅かに目を見開き驚愕の表情を浮かべていった。そしてそんな姫の様子に気付かず、女性は姫の手から眼鏡を受け取りながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

雪奈?「いえ、私も考え事をしててちゃんと前を見てませんでしたから。すみませんっ」

 

 

姫「……あ……ぁ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……苦笑を向けて謝罪する女性。その顔は、紛れもなく自分の記憶の中の親友と瓜二つであり、姫は驚愕の表情のまま思わず固まってしまったのであった。

 

 

雪奈?「?……あの、どうかしましたか?」

 

 

零「(咲夜?)……いや、気にしないでくれ。それより、アンタの方は怪我はないか?」

 

 

雪奈?「え……あっ、はい。私は全然、花もちゃんと無事ですし♪」

 

 

そう言って雪奈?は服に付いた汚れを払いながら立ち上がると眼鏡を掛け、花束を両手で抱えて笑みを浮かべていき、零もそれを見て安堵しながら未だに地面に座り込む姫を立たせていく。

 

 

零「本当にすまなかったな……ところで、アンタも墓参りに?」

 

 

雪奈?「あ、ええ。此処へは父に会いに来まして……もしかして、貴方達も?」

 

 

零「ん?まあそんなところだ……あぁ、まだ名乗ってなかったな?俺は黒月零、こっちが木ノ花姫だ」

 

 

雪奈?「あ、これはご丁寧にどうも。えと、黒月さんに木ノ花さん……ですよね?私は難波道場で剣の師範をしてます、難波 雪奈と言います」

 

 

姫「難波……ゆき、な?」

 

 

嘗ての親友と瓜二つの顔をした女性……難波"雪奈"という名に反応し、姫が呆然とした様子で思わず聞き返した瞬間……

 

 

 

 

 

 

『――私は雪奈…雪奈って言います。よろしく、咲夜さん』

 

 

姫(……ゆき……な……?)

 

 

 

 

 

 

脳裏を横切ったのは、自らの名前を名乗る親友の顔。姫は脳裏を横切ったそれに驚愕して目を見開いていくが、雪奈はそれに気付かず二人の間を通り過ぎて慰霊碑に近づき、花束を手向けて暫く合掌すると、合掌を解いて二人の方に振り返った。

 

 

雪奈「お二人も、お墓参りに此処へ来たんですよね?相手はご友人やご家族……とか?」

 

 

零「ん……まあ、コイツの親友のな。アンタは父親に会いにと行っていたが……やっぱり、あの化け物に?」

 

 

雪奈「……えぇ……私の父は、あの化け物達が町に攻めてきた時に教え子達や私を逃がす為、一人で奴らに立ち向かって亡くなったんです……だから、私や今の教え子達がこうして生きていられるのも、父のおかげなんですよ」

 

 

姫「……そう、だったのか……それは何と言うか……気の毒だな……」

 

 

雪奈「あはははっ……確かに父が亡くなったのは悲しかったけど……だけど、私はそんな父を誇りに思ってますよ?」

 

 

零「?誇り?」

 

 

雪奈「はい。だって父は、子供達を守る為……自らの誇りの為に最後まで戦って死んだんです。そんな父の姿を思い出す度に、何時までも悲しんでクヨクヨしていられないと思って、父の道場を受け継いで剣の師範をしてるんです」

 

 

零「……そうか。強いんだな、アンタは……」

 

 

雪奈「いえ、私なんて父に比べたら全然ですっ。あの時だって、私はただ子供達を逃がすことしか出来なかったし……」

 

 

まだまだ全然ですよと、零の言葉を否定するように首を左右に振る。姫はそんな雪奈の隣にゆっくりと歩み寄って雪奈の顔を見つめると、雪奈の左手の薬指に指輪のようなものが嵌められてることに気付いた。

 

 

姫「?その指輪……まさか?」

 

 

雪奈「え?あっ、これですか?ハハハッ……実は私、来月に結婚する事になってるんです♪」

 

 

姫「け、結婚?」

 

 

雪奈「はい!相手の彼は、以前父の元で修行していた生徒の一人でしてね。今は一緒に道場の経営を手伝ってくれてるんです。道場は私に任せてくれれば良いと言ってるんですけど、彼はあの時心配を掛けたお詫びがしたいと聞かなくて……」

 

 

零「心配掛けたって……何だ?何か事故にでも遭ったのか?」

 

 

何か大事でもあったのか?と気になって訝しげに問いかける零。雪奈はその質問を受けて一度顔を俯かせると、そのままゆっくりと口を開いた。

 

 

雪奈「……実は、あの化け物達が二度目に現れて町を襲った時、彼は斬られそうになった私を庇って重傷の怪我を負ったんです。傷も深くて、血の量も多くて、内臓も幾つか傷付いて……現場に駆け付けてくれたお医者さんからも、もう助からないって言われて、正直もう駄目だって諦め掛けてしまいました……でもその時……奇跡が起きたんです」

 

 

零「?奇跡……?」

 

 

雪奈「はい……あの化け物達が消えたすぐ後、町中に突然空からピンク色の光が雪のように降ってきて、それを浴びたらあの人の怪我が魔法のように治っていったんです」

 

 

姫「光……雪?……ッ!」

 

 

雪奈が口にしたワードを思わず呟いた時、姫の脳裏にこの世界で起きたあの決戦の後の出来事の記憶が自然と浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

『咲夜、お前まさか……!』

 

 

『……零……悪いが少しだけ、私の我が儘に付き合ってくれ……これが、私がこの世界にしてやれる最後の恩恵だから……』

 

 

『…?最後?』

 

 

『――さあ、始めようか。これが私の……桜ノ神の最後の奇跡だ!』

 

 

『なあ零……私は今度こそ……人々を幸せに出来たかな……?』

 

 

『……さあな……ただ―――』

 

 

『――ただ、お前ほどのお人良しな神は他にはいないと思うぞ……きっと』

 

 

『……ふふ……そうか……それは光栄だ……』

 

 

 

 

 

 

姫(まさか……あの時の……?)

 

 

あの決戦の後、幻魔の脅威によって破壊し尽くされた町と人々の願いを聞き入れ、この世界で自分が使った最後の奇跡。

 

 

それによって破壊された町は修復され、人々は怪我が治りその命を取り留めたのである。

 

 

そしてその中にいた彼女の大切な人の消えかけていた命も救われ、彼女の未来を救うことが出来たのだと、姫はそう考えて呆然とした顔を浮かべていた。

 

 

雪奈「あの光がなければ、きっとあの人はあのまま助からずに死んでいた……だから私は、この世界の神様やあの怪物たちと戦ってくれた仮面の戦士たちに感謝してるんです。これからは絶対、神様や彼等がくれたチャンスを無駄にしない為にも、恥ずかしくない生き方をして幸せになると……そう誓って」

 

 

姫(……雪奈……)

 

 

何処となく誇らしげに、胸を張りながら自分の胸の内を語る雪奈。そんな彼女の背中を見つめていた姫は、思わず開けてしまっていた口をキュッと摘むんで微笑を浮かべていくが、雪奈が突然自分の左腕に巻いた腕時計を見てギョッとなった。

 

 

雪奈「う、嘘?!もうこんな時間?!すみません!今から夕食の準備をしないといけないので!つまらない話を聞いてもらって、ありがとうございます!では!」

 

 

零「あ、おい!」

 

 

雪奈は夕食の準備の為にと二人に向けて片手を振りながら急いで高台を下りていき、零はそんな雪奈の走り去っていく姿を見て溜め息を吐いた。

 

 

零「全く、落ち着きがない奴だな。あれだとまた途中で転んでしまうぞ……まぁいいか、取りあえず俺達も早く……木ノ花?」

 

 

自分達も早く写真館に帰ろうと高台を下りようとした零だが、何故か姫が雪奈の走り去った階段を見つめたまま動かない。零はそんな姫に近づき、面倒臭そうに声を掛けた。

 

 

零「おい、何ボーッとしてるんだ?早く「……君達の……お陰だ……」……は?」

 

 

早く帰るぞと促そうとした零の言葉が、ポツリと静かに呟いた姫の声に遮られた。それを聞いた零が怪訝そうに聞き返して姫の顔を覗くと、姫は目尻に涙を浮かべながら何処か嬉しそうに笑っていた。

 

 

零「!咲夜……?」

 

 

姫「っ……君達の……お陰だっ……今度こそ守れたっ……アイツをっ……」

 

 

零や絢香たち、そして平行世界の皆が幻魔達を退けてくれたお陰で、嘗て救えなかった彼女の未来を今度こそ救う事が出来た。それがなにより嬉しくてならない姫は涙を止める事が出来ず泣き出してしまい、零はそんな姫の突然の涙に戸惑いを隠せずにいた。

 

 

零「な、なんだいきなり?おいっ、何故泣くっ?」

 

 

姫「グズッ……いや、何でもないっ……ただ、改めて君達に感謝したくなった……それだけさ……」

 

 

零「???」

 

 

頬を伝う涙を拭い去ってそう告げる姫だが、零はいきなりどうしたんだ?という顔をして疑問符を浮かべていた。そんな零に苦笑いをすると、姫は階段に目を向けて嬉しげに目を細めた。

 

 

姫(……今度こそ……幸せにな……雪奈……)

 

 

今はもう自分の事を覚えていない親友の生まれ変わり。だがそれでも、姫は今度こそ彼女が幸せになれることを切に願いながら、嘗て親友と共に見たオレンジ色の夕日をジッと眺めていくのだった。

 

 

 

 

 

 

――そして後日。桜ノ町の某所で行われたある結婚式にて、匿名で一つの綺麗な花束が花嫁の下に贈られたらしいが、それはまた別のお話である……

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界

 

 

―光写真館・庭―

 

 

―ダンダンッ!ダンダンダンッダンッ!―

 

 

零「…………」

 

 

エクスの世界での役目を終え、次の世界へ訪れた零達一行。明日早速この世界を調べる為になのは達がそれぞれ休む中、零は一人深夜の写真館の庭でライドブッカーGモードを構えながら、庭に立てられた的を次々と撃ち抜いていた。

 

 

零「……普通の状態なら、こんな物か……」

 

 

ライドブッカーGモードを下ろしながら幾つもの穴が開けられた的を見てポツリと呟くと、零は左目に付けたコンタクトを徐に外し、因子の力を解放して両目を紫色に変化させた。そして再びライドブッカーを構え直し、的に狙いを定めると……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!バリイィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

……ライドブッカーから放たれた無数の銃弾が全て的に直撃した瞬間、的が全部硝子のように粉々に砕けて跡形も残さずに消滅してしまったのであった。それを見た零は的が消えたただの棒を見つめながら構えを解き、自分の手の平を見下ろした。

 

 

零「……幻魔達との戦いで片目から両目に力が上がったみたいだが、まだ完全に覚醒し切ってる訳じゃないみたいだな……」

 

 

そう考えられるのは、以前祐輔の世界での因子暴走があったからだ。今の因子の力はあの時の半分にも至らず、しかもあの時暴走した力が因子の限界という訳ではないようだ。触れる物を必ず壊し、触れられた物を必ず破壊する。もしあの時の力を越える覚醒に目覚めたら、一体どれほど恐ろしい力になるのか……

 

 

零「――ま、今考えた所で分かる筈もないか」

 

 

それに今のところ、幻魔神との戦いの時に感じた因子の成長の灯は感じられない。きっと暫くの間は大丈夫だろうと、零は前向きに考えながらライドブッカーGモードを軽く回転させ……

 

 

零「……で、何時まで其処に隠れてるつもりなんだ、海道?」

 

 

険しげに眉を寄せながら、背後にある木の方へと振り返り不機嫌そうに問い掛けたのである。するとそれと共に木の陰から一人の青年……大輝がゆっくりと姿を現し何時もの笑みを浮かべた。

 

 

大輝「へぇ、中々勘が鋭くなってきたね?一応気配は消しておいた筈なんだけど……」

 

 

零「お前の場合は、近くにいるだけで何故か苛立つから分かりやすいだけだ……で?今度は何の用だ?」

 

 

用がないならさっさと帰れと、それだけ告げて特訓を続けようと大輝に背を向けていく零。対して大輝は木に背中を預けながら両腕を組んで口を開いた。

 

 

大輝「別に大した用事じゃないさ。ただ、君にひとつ警告をしようと思ってね」

 

 

零「?警告……?」

 

 

大輝「そっ、以前魔界城の世界で君達と幸助さん達が退けた敵……君達の世界のスカリエッティ達が再び動き出そうとしてる事をね」

 

 

零「ッ?!何っ?」

 

 

自分達の世界のスカリエッティ達が活動を再開しようとしている。それを聞いた零は驚愕して大輝の方へと振り返り、大輝はそんな零の顔を見ないまま言葉を続けた。

 

 

大輝「妙だと思わなかったのかい?連中はライダー少女Wの世界に現れて以降、今まで一度も君達の前に姿を現さなかった……それが何故か分かるか?」

 

 

零「それは……奴らがまだ戦力を整えていなかったからじゃないのか?魔界城での戦いで、アイツ等は俺達に負けて戦力の殆どを失った……それを取り戻す為に、何処かに雲隠れしてたんだろう?」

 

 

大輝「まあそれもあるが、それだけじゃない……彼等は次に君達と刃を交える時に備え着々と戦力を集めていたが、最近になってそれが一気に半減された。ある連中との予想もしてなかった戦いのせいでね」

 

 

零「ある……連中?」

 

 

大輝の言葉に頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げる零だが、脳裏にある人物達の姿が思い浮かび「もしかして……」と顔を上げた。

 

 

零「まさか……」

 

 

大輝「そう、彼等はとある世界で新たに開発したライダーシステムの稼動実験の最中、魔界城からずっと追われていたある連中に見付かったのさ。君達も今まで何度か戦った連中……」

 

 

零「……あのライダー達か……」

 

 

脳裏に蘇るのは、セイガの世界で戦ったオーガとファム、GEAR電童の世界の決戦で現れた歌舞鬼、キャンセラーの世界で祐輔達と共に倒したヴェクタスと戦った記憶。確か魔界城でも満身創痍だったスカリエッティにトドメを刺そうと現れたが、まさかあれからも執拗に奴らを追っていたとは思ってもいなかった……。

 

 

大輝「結果スカリエッティの軍は、レジェンドルガの大半を失って敗北。殆どの戦力を失った彼等は再び行方をくらまし、奴らの追跡が届かない世界に逃げ延びたらしい」

 

 

零「そんな事が―――ッ!アリシアとリインフォース、ルーテシアはどうなった?!」

 

 

大輝「?あぁ、クアットロに洗脳されてる彼女達かい?心配しなくても、彼女達は奴らとの戦いに参加してなかったから無事さ」

 

 

零「……そう、か……」

 

 

戦力の殆どを失ったと聞き、まさか彼女達までと一瞬不安が過ぎったがどうやら杞憂だったらしい。ホッと一息吐いて安心する零だが、大輝はそんな零の様子を見て呆れるように溜め息を吐いた。

 

 

大輝「安心するのは勝手だが、彼女達の身を案じてる余裕が君にあるのかい?今現在彼女達が敵であることに変わりはないんだぞ?」

 

 

零「……お前に言われなくても分かってる、そんな事」

 

 

大輝「本当かな?彼女達はあのクアットロの指揮下にある。彼女なら君達を追い詰める為なら、アリシア・テスタロッサ達を捨て駒にするぐらいのことは簡単にする……今の内に覚悟した方が良いかもしれないよ?彼女達を討つ覚悟をね」

 

 

零「…………」

 

 

大輝「討たなければ、討たれるのは君だ。分かってるだろう?彼女達に躊躇や戸惑いなんてものは存在しない。言葉や気持ちなんかで彼女達を救う事なんて出来ないって、ロストに散々痛め付けられて思い知っただろ?」

 

 

零「…………」

 

 

そんな事、今更言われなくても分かっている。彼女達をクアットロの元から救い出すには、やはり彼女達の意識を支配しているクアットロを叩くしかない。その為にも、彼女達との戦いは先ず避けられないだろう。だが……

 

 

大輝「一応これも伝えておくけど、彼女達全員を救い出せるとは思わない方が良いかもよ?絶対助け出せるとも限らないからね。誰か一人が死ぬぐらいの覚悟はしておいた方がいい」

 

 

零「余計なお世話だ。お前にそんな事言われなくても、ちゃんと三人とも――」

 

 

大輝「救い出せると?フッ、君一人に何が出来るって言うんだい?十年前の君もそう言ってアリシア・テスタロッサもリインフォースⅠも救えなかった……何かを破壊するしかことしか出来ない君の力で、どうやって彼女達を救える?」

 

 

零「方法なら幾つも考えている……それに、なのは達だっているんだ。アイツ等の力を借りれば――」

 

 

大輝「なのはさん達にあの二人の事を、未だに話せていないのにかい?」

 

 

零「ッ!」

 

 

可笑しそうに笑う大輝の言葉に、零は険しげに眉を寄せながら大輝を睨み付けた。しかし大輝はそんな零の視線を軽く流し、零に背中を向けて言葉を紡いだ。

 

 

大輝「これからの戦いは、今までのように甘くはいかない。忘れるなよ?アズサや桜ノ神達を救えたのは、『たまたま』運が良かっただけだ。これからの戦いの中で、彼女達の中の誰かを犠牲にしなければならない時が来た時、ちゃんと決心が出来るように心構えしておいた方が良い。でないと……君はいつか壊れる」

 

 

零「っ……」

 

 

大輝「まぁ、せいぜい悩みたまえ。俺はやる事があるから、じゃあね♪」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる零にヒラヒラと手を振りながらそう言うと、大輝はそのまま庭を後にし何処かへと去っていってしまった。そしてその場に一人残された零は……

 

 

零「―――失ってたまるか……もう二度と……今度こそ救ってみせる……絶対っ……」

 

 

脳裏にアリシア達の顔を思い浮かべながら手の平を見下ろし、拳を強く握り締め決意を口にしていたのだった……

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界①

 

昨夜の庭での大輝との会話から翌日。零は一同と共に栄次郎が作ってくれた朝食を食べた後、早速この世界を調べる為になのはと共にこの世界の街へと訪れていた。

 

 

零「シリウスの世界……か」

 

 

なのは「また別世界のミッドかぁ……今度の世界ってどんな所なんだろう?」

 

 

零「さてな……滝のところみたいな世界か、鷹のところのような世界か……まだ調べてみなきゃ分からん」

 

 

零が街中を歩きながらシルエットだけのカードを見つてそう言うと、ふと零の隣を歩いていたなのはの視界の隅に本屋が映り、店に置いてある雑誌を手に取ってあるページを開いた。

 

 

なのは「『またも鏡の中から怪物が……』零君、これって……」

 

 

零「あぁ、『鏡』から察するに、どうやらこの世界のライダーは龍騎系のライダーらしいな」

 

 

零はなのはの肩越しに雑誌に記された見出しを見て目を僅かに細めると、再び街に目を向けた。

 

 

零「とにかく今は情報を集めるぞ。この世界のことやライダーのことを調べないとな」

 

 

なのは「だね」

 

 

なのはは零の言葉に頷きながら雑誌を元の場所に戻し、零もこの世界の情報を集める為になのはと共に再び街中を歩き出していった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

それから数十分後、街であらかた情報を集めた零達は写真館に戻り、フェイト達と共に集めた情報を整理しながらこの世界について話し合っていた。だが……

 

 

零「しかし、この世界のライダーはどこにいるんだ?いろんな雑誌や新聞を読んでも存在してるのは確かだが、何処にいるかがまるでわからない……」

 

 

そう、雑誌や新聞、テレビのニュース等でこの世界の何処かにライダーがいるのは分かったが、肝心のそのライダーの居場所が掴めず零は頭を悩ませていたのだ。するとその時、零の向かいで新聞を読んでいたフェイトが徐に口を開いた。

 

 

フェイト「それもそうだけど、もう1つおかしい事があるよ」

 

 

なのは「なに?フェイトちゃん?」

 

 

フェイト「うん、この時期って丁度JS事件の真最中の筈なのに、ミラーモンスターの記事はあってもガジェットの記事が1つもないんだよ」

 

 

シグナム「なに?」

 

 

フェイトに言われ、一同はもう一度新聞や雑誌に目を通してみる。確かにミラーモンスターに関する事件や被害に関する見出しは飽き飽きする程あるが、JS事件に関する見出しは一枚も見当たらなかった。

 

 

ヴィータ「じゃあ、この世界ではJS事件が起きてないってことか?」

 

 

零「もしくは前のホルスの世界みたいに、スカリエッティがミラーモンスターを作り出しているのかもしれないな」

 

 

フェイト「それと、もう1つ」

 

 

零とヴィータが可能性が高いと思われる予想をそれぞれ口にする中、フェイトはそう言ってミラーモンスターとは別の記事をテーブルに広げ、零達は広げられた記事を覗き込み其処に書かれていた見出しを見た。

 

 

零「なになに……『脱獄犯・浅倉威、2人の局員の行方不明に関与か?』……この記事がどうかしたのか?」

 

 

フェイト「ここ、行方不明の局員の名前見て」

 

 

零「む……?」

 

 

そう言ってフェイトが記事の一部を指差すと、零は目だけ動かし行方不明となってる局員の名前が書かれた部分に目を向けた。

 

 

零「行方不明の局員……須藤雅史に……ティアナ・ランスター!?」

 

 

『えっ?!』

 

 

スバル「嘘っ!?ティアが行方不明!?」

 

 

零が叫んだ予想外の名前に周りの皆の顔色が驚愕の色に変わり、スバルも驚きの声を上げながら身を乗り出し記事を覗き込んだ。そこには確かにティアナの名前が書いてあり、ティアナももスバルの横から記事を覗き込み疑問符を浮かべた。

 

 

ティアナ「これ、どういうこと?」

 

 

零「わからん……この浅倉って奴が関わっているのは間違いなさそうだが……」

 

 

シャマル「……そういえば、前にもこんな似たような事があったわよね?ほら、ホルスの世界のテスタロッサさんの」

 

 

ヴィータ「うん?あぁ……確かホルスの世界のテスタロッサが六課にいなくて、次元犯罪者扱いになってた鷹達と一緒にいたってヤツだっけ?」

 

 

セイン「うーん……じゃあこの世界のティアナが行方不明って言うのも、それと似たような事情って事?」

 

 

もしそうなら、この世界のティアナはこの浅倉と言う男と一緒にいるという風に考えられるが……

 

 

零「これだけの情報じゃ、まだそうだと確定出来ないな……とにかく、この世界のライダーを探そう」

 

 

この世界のティアナの事は気になるが、今優先すべきはこの世界のライダーを探し出す事だ。零がそう提案すると一同もそれぞれ頷き、幾つかにメンバーを分け再び写真館を出て行った。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その後、なのはと共に街中を歩き回り再び情報収集を開始した零だったが、得られた情報はどれもニュースや新聞等に載ってるような物ばかりで、有力な情報は全く得られていなかった。

 

 

なのは「ホント、どこにいるんだろうね?この世界のライダー……」

 

 

ハァ……と、疲れたようにベンチに背もたれて溜め息を吐くなのは。写真館を出てからかれこれ一時間以上は経つが、この世界のライダーに関する情報は未だに0。これではラチがないとなのはが先程買った飲み物を口にする中、隣に座る零は雑誌に目を通しながら口を開いた。

 

零「ふむ……もしかしたら機動六課にいるのかもしれないな……今度はそっちも調べて―――」

 

 

今まで訪れた世界から考えて、もしかしたらこの世界のライダーも滝や光のように機動六課にいるのかもしれない。そう考えた零は膝に雑誌を置き、今度はこの世界の機動六課に出向いてみようとなのはに提案しようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

―キイイィィィィィィン!キイイィィィィィィィン!バシュウゥッ!―

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

『ッ?!』

 

 

零が言葉を発しようとしたその時、突然何処からか金切り音が響き渡り、それと共に近くのビルの窓ガラスからシアゴーストの大群が現れ、不気味な奇声を上げながら零達の前に立ちはだかっていった。

 

 

零「ミラーモンスター!?」

 

 

なのは「ッ!零くん!」

 

 

零「わかってる!」

 

 

突然現れたシアゴースト達に驚愕しながらも、二人は襲い掛かるシアゴースト達を退けながらそれぞれドライバーを腰に巻き、カードを取り出して身構えた。

 

 

『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『KAMENRIDE:TRANS!』

 

 

カードをバックルへと投げ入れスライドさせると零となのははディケイドとトランスに変身し、二人はそれぞれライドブッカーを構えながらシアゴーストに戦いを挑んでいった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

一方その頃、ディケイドとトランスがシアゴースト達と戦い始めた中、その様子を近くのビルの屋上から見つめる二人組の男女の姿があった。男の方はボサボサとした髪黒髪黒目の純日本人と思われる容姿をしており、そんな男に赤髪の少女……この世界のノーヴェが声を掛けた。

 

 

ノーヴェ(別)「あれがディケイドか。でもアタシたちは行かなくていいのか?」

 

 

「ん?まあシアゴースト5、6匹ならあの2人で十分だろ?被害が広がりそうならすぐに助けに入るし、そのためにウォルフィンたちをミラーワールドに待機させてんだから」

 

 

黒髪の青年は落ち着いた口調でノーヴェ(別)の問いにそう答え、再びディケイドとトランスに視線を戻した。するとそんな青年の横に一人の男性……この世界のゼストがやってきた。

 

 

ゼスト(別)「神威、見つけたのか?」

 

 

「おう、あいつらがシアゴースト倒し終わったら乱入する」

 

 

黒髪の青年……神威が隣に現れたゼスト(別)を横目で見つめながら笑みを浮かべてそう答えると、ノーヴェ(別)が何かに気付き僅かに顔を上げた。

 

 

ノーヴェ(別)「おい、1人増えたぞ?」

 

 

ノーヴェの言葉通り、シアゴースト達と戦うディケイドとトランスの下に一人の青年……騒ぎを聞き付けた優矢が変身したクウガがビートチュイサーに乗って駆けつけ、シアゴースト達との戦いに参戦する姿があった。

 

 

神威「これならすぐ終わりそうだな」

 

 

そんな神威の言葉通り、クウガの参戦によって3人はシアゴーストを数分で全滅させた。

 

 

神威「あっちも終わったようだし、んじゃあ行くか」

 

 

そう言いながら神威が微笑しながらポケットから取り出した一枚のカードデッキを二人に見せると、二人もそれに頷きそれぞれデッキを取り出して目の前に突き出すと、三人の腰にVバックルが巻かれていった。そして……

 

 

『変身!!』

 

 

高らかに叫びながら三人がデッキをバックルへと装填すると、ノーヴェは龍騎、ゼストはナイトに変身し、神威はタイガに酷似した仮面と両腕に、オーディンの胴体を合わせ持った金と銀のライダー……『シリウス』に変身し、ディケイド達の下に飛び降りていった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

ディケイド『――よし……片付いたな』

 

 

場所は戻り、ディケイドはシアゴースト達が爆散して発生した炎を見つめながらライドブッカーSモードの刀身を撫で、そんなディケイドの下にトランスとクウガが駆け寄っていく。

 

 

トランス『でも、この世界のライダー出てこなかったね。てっきりモンスターを倒しに現れると思ってたけど……』

 

 

クウガ『案外来る前に俺達が片付けたのかもしれないですよ?』

 

 

ディケイド『ま、とにかくこれで大丈夫だろ……取りあえず、もう一度街でこの世界のライダーについて情報収集を――』

 

 

と、ディケイドが変身を解こうとディケイドライバーのバックルに手を掛けようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

 

 

 

ディケイド『っ!?二人共構えろッ!』

 

 

『……え?』

 

 

頭上から不意に鳴り響いた電子音声。それに気付いたディケイドが二人に呼びかけながらライドブッカーを真上に振るうと、ビルの上から飛び降りてきたシリウスのウォルフロッドを受け止めた。

 

 

ディケイド『ッ!お前はッ?!』

 

 

シリウス『お、やっぱこれぐらい防ぐか』

 

 

突然奇襲を仕掛けられ困惑するディケイドにそう言うと、シリウスは一旦ディケイドから距離を取って後方へと飛び退き、それと共にシリウスの両脇に龍騎とナイトが降りて着地した。

 

 

クウガ『こ、コイツ等?!』

 

 

トランス『龍騎に……ナイト……』

 

 

シリウスに続いて現れた二人のライダーを見て咄嗟に身構えるトランスとクウガ。そしてディケイドは目の前に立つシリウスにライドブッカーの切っ先を向けながら問いかけた。

 

 

ディケイド『お前がシリウス……この世界のライダーか?』

 

 

シリウス『まぁ、一応そうなるかな?さて、恨みはねぇけど……お前の実力、見せてもらうぜ。ディケイド!』

 

 

ディケイド『ッ!何だとっ?』

 

 

いきなり実力を見せろと告げてウォルフロッドの矛先を向けてくるシリウスに、ディケイドも困惑の表情を浮かべながら思わず険しげに問い掛けるも、シリウスはそれに構わずウォルフロッドを構えて龍騎とナイトと共にディケイドたちに向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

そしてその一方、戦い始めたディケイドとシリウスを影で覗き見る一つの影……昨夜零に警告を伝えて何処かへと消えた大輝が、両腕を組んで壁に背を預ける姿があった。

 

 

大輝「シリウスのカードデッキ……俺の見立てた通り中々のお宝だ。必ず俺が頂くよ」

 

 

大輝はシリウスを見ながら不敵に笑うと、シリウスを指鉄砲で狙い定めて撃っていくのだった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界②

 

 

―ギガァンッ!ズガァッ!ドガアァッ!―

 

 

シリウス『そらそら!その程度かディケイド!?』

 

 

ディケイド『チィ!』

 

 

場所は戻り、ディケイドはシリウスの猛攻に圧されて防戦一方という状況に陥ていた。シリウスが容赦なく振りかざすウォルフロッドをライドブッカーSモードで次々と受け止め、ディケイドはウォルフロッドと刃を鍔ぜり合いになりながらシリウスに語りかけた。

 

 

ディケイド『ッ!テメェ、いきなりなんなんだ!?』

 

 

シリウス『あ~、まあ戦うって約束しちまったしな。約束を破るのは性に合わねぇし』

 

 

ディケイド『約束した…?まさか、鳴滝か!?』

 

 

ディケイドがそう言うと、シリウスはディケイドから距離を離すように後方へと跳び、首を縦に振った。

 

 

シリウス『当たり。いい勘してるぜ』

 

 

ディケイド『なるほど……お前も鳴滝に俺が破壊者だの悪魔だの吹き込まれて、真に受けたクチか……?』

 

 

シリウス『あぁ、そりゃちょっと違う』

 

 

警戒するように睨みつけるディケイドの言葉に対し、シリウスは笑いながら否定した。

 

 

シリウス『あの馬鹿の言葉なんて欠片も信じてねぇ。ただ、最近辛気臭い喧嘩ばかりでな。たまにはこうやって暴れたくなったんだよ。ディケイド相手なら面白い喧嘩ができそうだしな!』

 

 

ディケイド『チッ!ようはバトルマニアってわけか、シグナムと気が合いそうだなッ』

 

 

シリウス『かもな!』

 

 

『ADVENT!』

 

 

シリウスは陽気に笑いながらバイザーにカードを装填すると、近くの鏡の中からウォルフィンが飛び出してディケイドへと襲い掛かり、ディケイドは咄嗟に地面を転がってそれをかわしながらカードを一枚取り出した。

 

 

ディケイド『狼が相手なら、こっちは鷹だっ!』

 

 

『KAMENRIDE:HORUSU!』

 

 

ディケイドはカードをドライバーへと投げ入れてスライドするとDホルスに変身し、再度飛び掛かってきたウォルフィンの強襲を地面を転がってかわしながら更にカードを取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:ADVENT!』

 

 

『キュオォォォォォォォォォォォッ!!』

 

 

『グォッ?!』

 

 

電子音声が響くと共にウォルフィンの真横の窓ガラスからウィンドファルコンが飛び出し、Dホルスに飛び掛かろうとしたウォルフィンに掴み掛かりビルの壁に激突していったのだ。それを見たDホルスはシリウスと向き合い何処からかファルブレードを取り出し、シリウスもウォルフロッドを構え、そして……

 

 

Dホルス『ハッ!』

 

 

シリウス『フッ!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

同時に地を蹴って勢いよく飛び出し、互いに向かって武器を振りかざしていったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

その頃、二人が戦う場所から離れた所ではトランスと龍騎が、クウガとナイトが互いに激突しぶつかり合っていた。トランスはライドブッカーGモードで龍騎を狙い撃っていくが、龍騎はそれをドラグセイバーで弾きながら距離を詰めてトランスへと斬り掛かり接近戦に持ち込んでいく。

 

 

トランス『ッ!何でこんなことを!?』

 

 

龍騎『簡単に言えば、腕試しだ!』

 

 

トランス『え、その声……ノーヴェ!?』

 

 

龍騎『あ?アタシのことを知ってんのか?ってそういや平行世界から来たんだっけか。じゃあ知ってるのも当然だなっ!』

 

 

自身の正体に気付いたトランスに一瞬疑問を抱く龍騎だが、トランス達が別世界から来たことを思い出してすぐに納得し、再びドラグセイバーでトランスに斬り掛かっていったのだった。そして一方で、その横ではナイトがウイングランサー片手にクウガと戦っていた。

 

 

―グガアァンッ!ガギィンッ!―

 

 

クウガ『ぐっ!つ、強い!』

 

 

ナイト『筋はいい。だが、まだ未熟だ!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィインッ!!―

 

 

クウガ『うわあっ?!』

 

 

トランス『?!優矢君!』

 

 

完全にクウガの動きを見切ったナイトがウイングランサーでクウガに斬撃を与えて吹っ飛ばし、龍騎と戦っていたトランスはその様子を見て龍騎をライドブッカーで払い退け、クウガの下に駆け寄ろうとした。その時……

 

 

 

 

 

―キイイィィィィィィン!キイイィィィィィィィン!―

 

 

『…ッ?!』

 

 

突然その場に再び金切り音が鳴り出し、それを聞いた一同は戦いを止めて辺りを見渡した始めた。

 

 

トランス『この音……さっきの……?』

 

 

龍騎『まだ来やがったか』

 

 

ナイト『しかしこれは、神威の機嫌が悪くなりそうだな』

 

 

未だに響き渡る金切り音を聞きながらナイトが溜め息混じりにそう言うと、龍騎はトランスに背を向けシリウスの下へと走り出し、トランスもそれを見て龍騎の後を追うように駆け出したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―ドガアァッ!バキィッ!ガンッドガァッ!―

 

 

シリウス『オラァ!』

 

 

Dホルス『はぁっ!』

 

 

その一方、Dホルスとシリウスは戦いを肉弾戦に持ち込み互角の戦いを繰り広げていた。シリウスは鋭い拳を振り抜いてDホルスの顔を捉え、Dホルスはそれを片腕で払い上段回し蹴りで迎え撃つもシリウスが身を屈めて避ける。互いに一歩も退かぬ戦いを繰り広げ、Dホルスとシリウスは互いに距離を開き静かに身構えた。

 

 

シリウス『やるじゃねぇか。じゃあ、次で決めるか……ん?』

 

 

次の一撃で勝負を決めようとバックルのカードデッキに手を掛けたシリウスだが、その時何かに気が付いたように辺りを見渡し始めた。その様子を見たDホルスも頭上に疑問符を浮かべ、思わず構えを解いた。その時……

 

 

―キイイィィィィィィン!キイイィィィィィィィン!バシュウゥッ!―

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

Dホルス『ッ!何っ?』

 

 

何処からか金切り音が響くと共に、シリウスの背後の鏡から突如シアゴーストの大群が飛び出し姿を現したのだ。それを見たDホルスは驚愕し、シリウスは不快そうに舌打ちしながらシアゴースト達と向き合った。

 

 

シリウス『ちっ、随分無粋じゃねぇか、男の喧嘩を邪魔するなんてよっ』

 

 

龍騎『神威!』

 

 

トランス『零君!』

 

 

シリウスが不機嫌な表情でシアゴーストの大群を睨みつけながらそう告げると、その場へトランスと龍騎が駆け付け二人の下にやってきた。それを見たDホルスはディケイドに戻ってトランスと肩を並べ、シリウスも龍騎と立ち並ぶとディケイドに呼び掛けた。

 

 

シリウス『興醒めだぜ……おいディケイド、お前との喧嘩はここまでだ』

 

 

ディケイド『いいのか?俺を倒すって鳴滝と約束したんだろう?』

 

 

シリウス『冗談。俺は鳴滝に『ディケイドと戦う』とは約束したが『ディケイドを倒す』とはいってないぜ?だから鳴滝との約束は果たしたし、最近溜まってた鬱憤も晴らすことができたからお前と戦う理由は無い。もっとも、お前が望むんなら喜んで喧嘩を買うぜ?』

 

 

ディケイド『悪いな。生憎、俺はお前みたいに喧嘩好きじゃないんだよ……!』

 

 

シリウスの言葉にそう答えながらディケイドはライドブッカーSモードを構えてトランスと共にシアゴーストの大群へと突っ込み、シリウスもディケイドの返答に微笑しながら龍騎と共にシアゴースト達と戦い始めたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

一方その頃、別方面で情報収集をしていたスバルとティアナは……

 

 

―グギュルルルルッ……―

 

 

スバル「ねぇティアぁ……お腹空いたよぉ……」

 

 

ティアナ「しょうがないわね……ならそこで何か買っていきましょ」

 

 

スバルが盛大に虫の腹を鳴らして元気なく空腹を訴え、ティアナも呆れ混じりに溜め息を吐いて適当に目に入ったコンビニに入ろうとしていた。そしてティアナが先にコンビニに入り、スバルも腹を押さえながらフラフラとした足取りでコンビニに入ろうとした、その時……

 

 

―ドンッ!―

 

 

「きゃ!」

 

 

スバル「わっ?!」

 

 

ティアナ「ッ!スバル?!」

 

中から出て来たフード付きのジャンパーを羽織った女性とスバルがぶつかってしまったのである。女性はぶつかった衝撃で買い物袋の中身を落とし、それを見たティアナは慌てて二人へと駆け寄り買い物袋の中身を拾い集める。

 

 

ティアナ「馬鹿!なにやってんのよスバル!すみません!」

 

 

「っ!?す、スバル!?」

 

 

怒鳴るティアナが口にしたスバルの名を聞き、女性は何故か驚愕しながらフードが外れて露わになった素顔を上げた。その顔は……

 

 

スバル「え……?」

 

 

ティアナ「わ、私が……もう1人……?」

 

 

その顔はティアナとまったく瓜二つの顔……この世界で行方不明になってる筈のティアナ・ランスターだった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界③

 

―クラナガン・自然公園―

 

 

数十分後、この世界で行方不明となってるはずのティアナ(別)と遭遇したスバルとティアナは、彼女と共に近くの公園に訪れてベンチに座り、自分達が平行世界から来た事をティアナ(別)に話していた。

 

 

ティアナ(別)「なるほど、平行世界ね。まぁ、正直眉唾な話だけど目の前に自分がいるし……」

 

 

スバル「でもこの世界のティアが無事でよかったよ。新聞で行方不明なんて書いてあったから。でも無事なら何で六課に戻らないの?」

 

 

ティアナ(別)「簡単よ。私にはやることがある。それに、私はもう六課には……ううん、管理局には戻れないわ……」

 

 

ティアナ(別)は何処か遠くを見つめながら静かにそう呟き、その言葉に疑問を抱いたスバルとティアナは互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

 

スバル「なんで?何で戻れないの?」

 

 

ティアナ(別)「……私は浅倉が人を殺す手伝いをしたわ。しかも殺したのは局員。戻れるわけが無いでしょ?」

 

 

『な!?』

 

 

瞳を伏せてそう告げたティアナ(別)の言葉にスバルとティアナは驚愕の声を上げた。確かに殺人の片棒を担いだとなれば管理局にはいられない。仮に戻ったとしても捕まるだけだ。

 

 

スバル「で、でも、それって浅倉って人が原因なんでしょ!?だったら……!」

 

 

ティアナ(別)「勘違いしないで。これは私の意思でしたことよ……それに、私は後悔なんてしてない」

 

 

ティアナ「……なんで、そんなことをしたの?あなたは執務官になりたいんじゃないの?」

 

 

例え平行世界であっても、執務官になりたいという夢はどの世界でも自分が持つ大切な目標のはず。殺人に片棒すればそれはもう叶わないと分かっていた筈なのに、何故そんな事をしたのか。それが分からないティアナがティアナ(別)に問い掛けると、ティアナ(別)は瞳を僅かに開き口を開いた。

 

 

ティアナ(別)「そうね……確かになりたかったわ……でも、それ以上に許せなかった……須藤雅史が……兄さんを殺し、ミユキさんを殺したあの男が……」

 

 

スバル「?どういうこと?」

 

 

ティアナ(別)は二人に聞かせた。この世界のティーダは浅倉を捕らえる寸前、浅倉を殺そうとした須藤から浅倉を庇って死んだこと。そして浅倉が自覚がないにしろ、そのティーダの仇を討つために仮面ライダーになって脱獄したこと。さらには須藤がティーダの親友だった仮面ライダーライアのミユキ・テヅカを殺したこと。

 

 

ティアナ(別)「兄さんは死に際に浅倉に私のことを気にかけてやってくれって言ったの。そして浅倉はその約束通り私を護ってくれた。だから私は浅倉がどんな人間か、浅倉の行く先を見届けたいの。それは誰の為でもない私の願いよ」

 

 

そう告げるティアナの瞳に嘘偽りや迷いもなく、彼女の言っている事が真意だと分かる。スバルとティアナはそんなティアナ(別)を呆然と見つめ、ティアナ(別)はゆっくりとベンチから腰を上げて立ちあがった。

 

 

ティアナ(別)「……そろそろ行くわ。浅倉を待たせてるしね」

 

 

そう言ってティアナ(別)は二人に背を向けてその場を後にし、スバルとティアナはそれを引き止められずただ見送る事しかできなかった。

 

 

スバル「……この世界のティアも……なんて言うか、色んな事があったみたいだね……」

 

 

ティアナ「そうね……他の世界でも色んな自分を見てきたけど、コレも私の身に起きてたかもしれない可能性なのかもね……」

 

 

スバル「でも、良かったのかな?あのまま行かせちゃって……」

 

 

そう言ってスバルはティアナ(別)が去っていた方角を心配そうに見つめる。確かにティアナ(別)はもう管理局に戻れないかもしれないが、このまま浅倉と一緒に居させては更に罪を重ねることになるかもしれない。その事を心配するスバルだが、ティアナはゆっくりとベンチから立ち上がって口を開いた。

 

 

ティアナ「良いんじゃない?別に。この世界の私がそうしたいって言うなら」

 

 

スバル「え、でも……」

 

 

ティアナ「この世界の私も私なりに考えて、その結果浅倉って人に付いてくって決めたんでしょ。例え此処で引き止めて、もし止められたとしても、きっとこの世界の私はずっとスッキリしないと思うし。それなら自分が正しいって思う事をやらせてあげれば良いわよ。例えそれが犯罪でもそうじゃなくても、自分が後悔しないのならそれで……」

 

 

執務官になりたいという夢を捨ててまで、この世界の自分は師や友人と決別する道を選んだ。それはきっと並大抵の覚悟ではないのだと、自分の事だからこそ分かる。それを此処で止めるのは、きっと無粋な事だとティアナは思った。

 

 

ティアナ「この世界の私が選んだ道……それが間違いじゃないって、今は信じるしかないわ。ほら、私達も早く行くわよ」

 

 

スバル「え、ちょ!待ってよティアっ~!」

 

 

ティアナはそう言ってティアナ(別)が去っていた方とは別の入口から公園を後にし、スバルもその後を追うように慌てて走り出していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

その頃、街中でシリウス達と共闘してシアゴーストの大群と戦うディケイド達であるが、シアゴースト達の数は一向に減る様子が見られず、それどころかミラーワールドから次々と増援が現れキリが全くなくなっていた。

 

 

シリウス『あ~、鬱陶しい!』

 

 

ディケイド『何だかさっきよりも数が多くなってる気がするが、気のせいか?』

 

 

シリウス『ま、どんだけ数を増やそうがライダー6人の相手じゃねぇが、流石にウザったくなってきたなぁ』

 

 

ディケイドとシリウスは背中合わせになってウンザリしたようにそう言うと、又もや近くの鏡から数体のシアゴースト達が飛び出し、ディケイドとシリウスに向かって襲い掛かっていく。それを見たディケイドとシリウスは嫌そうに溜め息を吐きながら互いに武器を構え直し、向かい来るシアゴースト達を迎え撃とうした。その時……

 

 

 

 

 

―ブォオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『……ウェ?―ドシャアァッ!!―ウェェェェェェッ?!』

 

 

ディケイド『ッ!何だ?』

 

 

シアゴースト達が二人に襲い掛かろうとしたその時、突如真横から一台のバイクが飛び出しシアゴースト達を次々と跳ね飛ばしていったのである。その光景を目にしたディケイドは思わず構えを解くと、シアゴースト達を跳ね飛ばしたマシンに乗る黒い戦士……オルタナティブ・ゼロが二人の方に振り返った。

 

 

オルタナティブ・ゼロ『アニキ!助太刀に来ました!』

 

 

シリウス『おう!いいとこに来たシンヤ!』

 

 

ディケイド『?何だ、知り合いか?』

 

 

シリウス『ん?あぁ、うちの組のもんの一人だ。そう言えばディエチは?』

 

 

オルタナティブ・ゼロ『近くに来てますよ』

 

 

オルタナティブ・ゼロがそう言って彼方を見つめると、その方角から突如砲撃が飛来しシアゴーストの大群を爆散させていった。その砲撃が放たれてきた方向からは、ゾルダがビルの屋上でギガランチャーを構えて立っており、そこから撃ち出す長距離射撃で次々にシアゴーストを撃破していた。

 

 

ディケイド『あんなところから……というか、今ディエチって言ったか?』

 

 

シリウス『あぁ、あのゾルダはディエチが変身してんだよ』

 

 

ディケイド『……なるほど……確かにアイツの腕ならゾルダが一番相性が良いだろうしな』

 

 

にしても、まさかディエチもライダーで仲間になってるとはなぁと、ディケイドがゾルダを見て感心の声を漏らしていると、再びディケイド達の背後の窓ガラスからシアゴーストの大群が飛び出しディケイドに襲い掛かった。その瞬間……

 

 

 

 

―ズッガァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

『ウエェェェーーーーーッ?!』

 

 

―ドガァアアアアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

ディケイドに背後から飛び掛かったシアゴースト達に真横から二つの閃光が降り注ぎ、シアゴースト達はそれに飲まれて微塵も残さず消え去っていった。そしてその閃光が撃ち出されてきた方には、二人の戦士……アズサと姫が変身したアンジェルグとイクサFがそれぞれの武器を振り下ろして立つ姿があった。

 

 

トランス『ッ!アズサちゃん?!姫さん!』

 

 

イクサF『ううむ、騒ぎを聞き付けて来てみれば凄い事になってるな。手は必要かー?』

 

 

ディケイド『必要ない……と強がりたいところだが、生憎そんな余裕もないからな。手伝え!』

 

 

アンジェルグ『分かった、後方援護に回るっ……!』

 

 

そう言ってアンジェルグは背中のウィングを展開して上空へと浮き上がり、空中からイリュージョンアローで次々とシアゴースト達を貫き撃退していく。そしてイクサFもイクサカリバーをガンモードに切り替えて周りを囲むシアゴースト達へと乱射して怯ませていき、ディケイドとシリウスはシアゴーストを拳と蹴りで殴り飛ばしてそれぞれ一枚ずつカードを取り出した。

 

 

シリウス『それじゃ、そろそろ終わらせるか』

 

 

ディケイド『賛成だ、いい加減コイツ等の顔も見飽きたしな』

 

 

ディケイドとシリウスは軽口を叩きながら取り出したカードをウォルフバイザーとディケイドライバーへと装填していった。

 

 

『FINAL VENT!』

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

『アオオオオオオォォォォォォーーーーーーーンッッ!!!』

 

 

二つの電子音声が響くと、近くの鏡からウォルフィンが雄叫びを上げながら飛び出してシリウスの背後へと回り、ディケイドも左腰のライドブッカーをガンモードに展開して構えると目の前にディメンジョンフィールドが出現し、そして……

 

 

シリウス『オォォォォラアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

ディケイド『フッ…ハァッ!!』

 

 

―ズドオォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウェアァッ?!!』

 

 

ディケイドのディメンジョンブラストと、シリウスのハウリングライダーキックがシアゴーストの大群へと炸裂して次々と爆発を巻き起こしていき、最後には一際巨大な爆発を発生させてシアゴーストの大群は全滅したのだった。そしてそれを確認したディケイド達とシリウス達はそれぞれ変身を解いて元の姿へと戻り、神威が軽く背を伸ばす。

 

 

神威「さてっ、モンスターの退治も終わったし帰るか……お前らも来るか?とりあえず話したいこともあるだろ?」

 

 

零「そうだな……なら仲間を連れてくる。全員揃ってたほうがいいしな」

 

 

神威「OK。じゃお前の仲間が集まったらいくか」

 

 

そう告げる神威の言葉に頷くと、零は懐からビートルフォンを取り出して写真館で待機する仲間たちに連絡をし、仲間が集まってから神威達の家に向かっていった。

 

 

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界④

 

 

それから数十分後。仲間達と合流を果たした後、零達が神威に案内されてやって来たのは神威とノーヴェの住居である屋敷の前だった。ちなみに神威とノーヴェ以外のメンバーは零達の事を説明するために一足早く屋敷に戻っている。のだが……

 

 

零「……おい、マジか……」

 

 

優矢「す、スゲェ……」

 

 

スバル「これは……なんていうか……」

 

 

屋敷の前にやって来た零達は目の前に広がる光景を目にして呆然となり、若干顔が引き攣っていた。目の前の武家屋敷はやたらでかく、その存在感は圧倒されるモノがある。しかし一同が驚愕しているのは其処ではなく……

 

 

『アニキッ!!おかえりなさいやせッ!!!』

 

 

……門をくぐると、厳つい男たちが列を作って神威に挨拶をしてきたからである。その普通の日常では見られないような光景になのは達が状況を飲み込めぬまま引いてる中、零はおずおずと神威に声を掛けた。

 

 

零「お、おい神威、これはいったい?」

 

 

神威「ん?あぁ、そう言えばキチンと自己紹介してなかったな。俺はこの任侠一家『司狼組』の組長・司狼神威だ」

 

 

はやて「えっと……つまり?」

 

 

神威「簡単に言えばヤクザだな」

 

 

『………………………』

 

 

思いの外あっさりとそう告げた神威に、一同は暫くの沈黙の後……

 

 

 

 

 

 

『えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ?!!!』

 

 

 

 

 

 

大音量の絶叫が屋敷中に響き渡ったのであった……

 

 

神威「安心しろって。堅気の連中に手を出すような事はしねぇよ」

 

 

なのは「あ、安心しろってっ……」

 

 

フェイト「そうは言われてもっ……」

 

 

笑いながらそう言う神威だが、なのは達からの視線はきつくなっている。一般的にヤクザといえば、犯罪をしているイメージが強いからだろう。六課メンバーが此処にいる男達がヤクザと知って若干身構える中、零は周りを見渡してポリポリと頭を掻いていた。

 

 

零「はー……つまり、今度の世界のライダーはヤクザライダーってわけか。また一風変わってるな……」

 

 

神威「まあーな。それにな、ここにいる連中はほとんどが管理局に切り捨てられた奴らばっかりなんだよ」

 

零「?どういうことだ?」

 

神威のその言葉が気になり零が思わず疑問を投げかけると、神威は周りの男達の顔を見回しながらそれに答えた。

 

 

神威「理由はいろいろさ。保身しか考えてない上司に切られた奴。魔導師ランクが低いって理由で捨て駒にされた奴。そんでテロで管理局に復讐しようとしてたんだよ。だから俺がこいつらを受け入れたんだ。復讐なんかより、もっとおもしれぇことしようってな」

 

 

零「でも、管理局が黙ってないんじゃないか?」

 

 

神威「問題ねぇよ。地上本部とは非公式に協力関係にあるしな」

 

 

零「地上本部?という事は、またあのオッサン絡みか……」

 

 

この時、顎に手を添える零や一同の脳裏に思い浮かんだのはホルスの世界で鷹に見せてもらったレジアスの写真だった。まさか、この世界のレジアスもあんな鍛えてます!的な姿に変わり果てて自ら戦ったりしているのだろうか?と想像して零達が再び顔を引き攣らせていると、神威が玄関の扉を開けた。

 

 

神威「今帰ったぞ」

 

 

「おお神威!そこにいる青年がディケイドかね!?」

 

 

と、神威の後に続き零達がぞろぞろと玄関に足を踏み入れた瞬間、奥のほうからドタドタと騒がしく誰かが走って現れ、その人物を目にした零達は目を見開いて驚愕した。その人物とは……

 

 

フェイト「ス、スカリエッティ!?」

 

 

ジェイル(別)「興味深い!是非とも私にベルトを解析させてくブフッ?!!」

 

 

そう、屋敷の奥から走って現れたのはこの世界のジェイル・スカリエッティだったのだ。突然現れたスカリエッティを見たフェイトは驚愕して張り詰めた声を上げながら咄嗟に身構えたが、神威が接近してきたスカリエッティの顔面をいきなり蹴った。

 

 

神威「おらおらおら!テメエはそれしか頭ん中にないんかコラ!痛ぇか痛ぇかおら。いーひっひっひっひっひ」

 

 

ジェイル(別)「ぎゃああああああああ?!!」

 

 

零(……あー……何か何処かで見たことある画だな、これ……)

 

 

神威が何処となく生き生きとした顔で倒れるスカリエッティを何度も何度も思いっきり踏みつける中、零はこのときの神威を見て頭の中にドSな断罪の神の姿が重なって見えてなんとも言えぬ表情を受かべ、咄嗟に構えを取っていたフェイトも神威に踏み付けられるスカリエッティを見て唖然と佇んでいた。そんな時……

 

 

ウーノ(別)「いらっしゃい。どうぞ中へ」

 

 

神威がスカリエッティを踏み付けていると、この世界のウーノが奥から姿を現し零達を持て成した。

 

 

なのは「え、いやでも……あれは良いんですか?」

 

 

なのはが戸惑いがちに神威達の方を指差すと、ウーノは笑いながら手の平を横に振った。

 

 

ウーノ(別)「構いませんよ。いつものことですから」

 

 

『(いつものことなんだ……)』

 

 

神威「おいウーノ。とりあえずこの馬鹿を庭にでも埋めといてくれ」

 

 

ウーノ(別)「わかったわ」

 

 

思ったより気にした様子もなく受け流したウーノになのは達はタラリと汗マークを受かべ、その間に神威にスカリエッティを任せられたウーノはスカリエッティの襟首を掴み、ズルズルとスカリエッティを引きずりながら庭へと向かっていった。

 

 

ウェンディ「なんか、この世界のドクターってギャグキャラっぽく感じるッスねυυ」

 

 

ノーヴェ「ホント、アタシ等の世界とは大違いだよなぁ」

 

 

神威「ふぅ…さて、んじゃ客間に行くか」

 

 

ウーノ(別)に引きずられていくスカリエッティ(別)を目で追いながら改めて此処が別世界なのだとナンバーズが実感する中、神威は零達を連れて客間に向かおうとするが、途中の部屋から金色の物体が飛び出し神威に突撃した。それは……

 

 

ヴィヴィオ(別)「パパ~♪」

 

 

フェイト「え、ヴィヴィオ?!」

 

 

部屋から飛び出して神威へと突撃してきたのは、この世界のヴィヴィオだったのだ。突然部屋から飛び出して現れたヴィヴィオ(別)になのは達が驚く中、神威がヴィヴィオ(別)を抱き上げ頭を撫でていく。

 

 

神威「ただいまヴィヴィオ」

 

 

ヴィヴィオ(別)「えへへ♪お帰りなさい♪」

 

 

はやて(……な、なあ零君?もしかして、この世界のヴィヴィオって……)

 

 

零(どうやら、この世界では六課ではなくこの屋敷に保護されてるらしいな……にしても、まさかヴィヴィオがヤクザの組長の娘とは……)

 

 

姫(ふむ……やはり立場上、外にいた彼等からも『お嬢!』と揃って呼ばれてるのかもしれないな)

 

 

零(そうなるだろうな……って、お前よくそんなこと知ってるな?)

 

 

姫(ふふん、当然だ。何せ私は現代知識の半分を漫画やドラマで学んでいるのだからな。因みに今の知識は『ごく〇ん』というドラマから……)

 

 

なのは(ストップ姫さんッ!!それ以上は何か言っちゃいけない気がする?!)

 

 

得意げに胸を張る姫が何かを告げようとするのを何処か必死になのはが制止する中、ヴィヴィオ(別)はそれに気付かず神威に頭を撫でられて嬉しそうに神威の胸に頬ずりしていると、ノーヴェ(別)も神威の隣に寄りヴィヴィオ(別)の頭を撫でていく。

 

 

ノーヴェ(別)「よう、ヴィヴィオ。いい子にしてたか?」

 

 

ヴィヴィオ(別)「あ、ママ!」

 

 

『……えっ?』

 

 

頭を撫でるノーヴェ(別)の顔を見てさらに笑顔になるヴィヴィオ(別)だが、彼女のその発言に零達は頭上に疑問符を浮かべた。

 

 

なのは「……え、えっと、ちょっといいかなヴィヴィオ?」

 

 

ヴィヴィオ(別)「う?」

 

 

他のメンバーより先に我に返ったなのははヴィヴィオ(別)に近付くが、ヴィヴィオ(別)は初めて会う人物に少し萎縮してしまい、それを見てなのはも困ったように苦笑して頬を掻きながらこう問い掛けた。

 

 

なのは「あの、もう1回、パパとママの名前を言ってもらっていいかな?」

 

 

なのはが苦笑しながらそう頼むと、ヴィヴィオ(別)は小首を傾げながら……

 

 

ヴィヴィオ(別)「……神威パパと、"ノーヴェママ"?」

 

 

なのは「………………」

 

 

零「………………」

 

 

『………………』

 

 

何故二人の名を復唱しなければいけないのかイマイチ分からないまま、不思議そうにヴィヴィオ(別)がそう答えてから数秒後……

 

 

 

 

 

 

 

『えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーッッッ?!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

再び……というより、先程よりも何倍もデカイ絶叫が屋敷中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

因みにその頃……

 

 

ジェイル(別)「やあモグラくん、しばらくぶりだね。元気だったかい?」

 

 

モグラ「(コク)」

 

 

ウーノに庭に身体を埋められて首だけ地上に出ているスカリエッティは顔馴染みであるモグラとの会話を楽しんでいたのだった。が、その近くにある鏡には……

 

 

 

 

 

 

―キイィィィィィンッ……キイィィィィィンッ……―

 

 

『……グルルッ……』

 

 

 

 

 

 

……そんなスカリエッティとモグラの会話を覗き見るかのように、一体の巨大なミラーモンスターが鏡の中から唸り声を上げて二人?を見ていたのである。だが、ミラーモンスターは特になにをする訳でもなくすぐにスカリエッティとモグラから興味を無くしたように鏡の奥へと消え、そのままミラーワールド内の神威の屋敷へと向かっていったのであった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑤

 

 

ヴィヴィオ(別)「はむ、はむはむ」

 

 

先程の大絶叫から数十分が経ち、取りあえず落ち着いて話を聞く為に場所を変えた客間では神威とノーヴェ(別)が並んで座り、そしてこの世界のヴィヴィオが神威の膝の上に座ってケーキを食べていた。

 

 

ノーヴェ(別)「ほらヴィヴィオ、クリームついてるぞ」

 

 

そんな美味しそうにケーキを頬張るヴィヴィオ(別)の口周りに付いてるクリームを隣に座るノーヴェ(別)が拭っていき、神威もそんな二人の姿を微笑ましそうに見つめると目の前に視線を向け……

 

 

神威「で、お前らはいつまで鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してんだ?」

 

 

そう言って神威が見つめる先には、信じられないものを見たというように若干顔を引き攣る零達が向かい側に座っていた。

 

 

ティアナ「いや……だって、ねぇ?」

 

 

はやて「神威さんがパパって呼ばれるのはわかるんやけど……」

 

 

スバル「ノーヴェがママってのは……」

 

 

今まで色んな世界を回り、其処で様々な別の可能性を歩む平行世界の自分たちを見てきた。なのでもういい加減その世界の自分達が何をしてようが別段驚く事もなくなってきたのだが……今回のは流石に予想の斜め上をぶっちぎられてか、零達も不意を突かれた感じで驚きと戸惑いを隠す事が出来なかったらしい。

 

 

セイン「私たちの中でも1番縁がないと思ってたのに……」

 

 

ウェンディ「まさか彼氏持ちの子持ちなんて……パラレルワールドってほんとに恐ろしいッスねぇ……」

 

 

特に一番衝撃が大きかったセインとウェンディはまるで珍獣を見るかのような目でノーヴェ(別)を見つめるが、流石にその言葉が癇に障ったのかノーヴェ(別)の額にビキッ!と青筋が浮かんだ。

 

 

ノーヴェ(別)「テメエら……言いたいことはそれだけか?アタシに恋人がいたらおかしいってのか?」

 

 

ウェンディ「Σい、いやいやいや!別に可笑しくはないッスよ!ねえセイン?!」

 

 

セイン「そ、そうそうっ!ただノーヴェのあの性格からして恋愛とか彼氏とか縁なさそうで一番可能性なくない?っていうか無理じゃない?みたいな感じでいたから驚いただけなんだよ?うん!」

 

 

零「……フォローどころか地雷踏みまくってんだろう、お前等」

 

 

最早結果が見えてか、零は呆れるように呟きズズーと出された茶を啜っていく。そして彼の予想通り、二人の言葉で怒りの炎に油を注がれたノーヴェ(別)は拳を震わせていき、そんなノーヴェ(別)から危険を察知したウェンディとセインは顔を引き攣らせて後退りし逃げようとするが、自分たちの背後にいたある人物に捕まった。

 

 

『の、ノーヴェッ!?』

 

 

そこにいたのは、同じように怒りに震える自分たちの世界のノーヴェだった。

 

 

ノーヴェ「お前らがアタシのことをどう思ってるか、よ~くわかった。やれ」

 

 

ノーヴェ(別)「おう」

 

 

前には赤鬼、後ろにも赤鬼。完全に逃げ場を絶たれた二人はガクガクと身体を震わせながら強く抱き合い、怒り心頭の二人のノーヴェによりフルボッコにされたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

神威「さて、じゃあどこから話すか……」

 

 

二人のノーヴェがウェンディとセインをボコッて落ち着いた後、気を取り直して神威が零達に事情を説明し始めていた。因みに隅っこには頭に大量のたんこぶが団子のように積み重ねっているウェンディとセインが床に突っ伏してピクピクと痙攣しており、そんな二人をアズサが何処からか拾ってきた木の枝で突っつき、ちゃんと生きているか確かめていた。

 

 

零「先ず一つ聞きたいんだが、あのミラーモンスターはなんなんだ?」

 

 

神威「あれはオーディンが生み出したモンスターだ」

 

 

零「?オーディンだと?」

 

 

神威「あぁ、この世界のミラーモンスターは全てオーディンが作り出したものだ。奴は自我を持ち、神崎のもとから11個のカードデッキとミラーモンスターを作る方法を手に入れた。もっとも、奴の目的はまだわかってないがな」

 

 

フェイト「じゃあノーヴェたちがカードデッキを持っていたのは……」

 

 

神威「ノーヴェとディエチのデッキは神崎のもとに残されていた2つだ。そしてゼストはオーディンから渡され、シンヤはスカが俺たちのカードデッキをもとに作った。他のライダーで所有者がわかっているのはライア、王蛇、シザースの3つだ。ライアとシザースの所有者はすでに死んだ。王蛇は指名手配犯の浅倉の手にある」

 

 

零「そうか……また何とも複雑な事情があるんだな、この世界も」

 

 

ふぅ、と一息吐きながら頭を掻く零。一先ずこの世界の事情や状況等は把握したが、肝心の自分たちのこの世界での役目がまだ分からない。現状ではまだ核心はないが、一番の可能性はこれまで通り、この世界のライダーである神威達の身に何か起きるのかもしれない。そう考えた零は、取りあえず神威の傍に付いて暫く様子を見た方が良いかもしれないと判断した矢先……

 

 

ヴィヴィオ(別)「ママ、おかわり♪」

 

 

零がこれからの方針を決めていると、ケーキを食べ終えたヴィヴィオ(別)が無垢な笑顔と共に、空いたお皿をノーヴェに差し出した。しかしおかわりを要求されたノーヴェ(別)は首を横に振ってダメと言い放った。

 

 

ノーヴェ(別)「駄目だ。甘いもん食いすぎると虫歯になるぞ?」

 

 

ヴィヴィオ(別)「え~、だってママの作ったケーキ美味しいんだもん。もう1個~」

 

 

ノーヴェ(別)「……たく、しょうがねぇな。あと1個だけだぞ?」

 

 

ヴィヴィオ(別)「うん♪」

 

 

ケーキのおかわりを許され満面の笑みを浮かべるヴィヴィオ(別)。ノーヴェ(別)もそんなヴィヴィオ(別)に釣られるように笑いながらお皿を受け取っておかわりを持って来ようとすると、ふと視界の端に神威が笑っているのが見えた。

 

 

ノーヴェ(別)「あんだよ?」

 

 

神威「いや、ノーヴェもなんだかんだでヴィヴィオに甘いよなと思ってな」

 

 

ノーヴェ(別)「うっせ」

 

 

そんな家族の会話を楽しむ三人だが、零達はその会話を聞いて再び信じられないものを見たような顔になる。

 

 

神威「ん?どした?」

 

 

なのは「いや、あのぉ……もしかして、そのケーキって……ノーヴェが作ったの?」

 

 

ノーヴェ(別)「そうだけど……」

 

 

ヴィヴィオ(別)「ママのケーキ美味しいよ♪」

 

 

訝しげな顔で質問に答えるノーヴェ(別)と満面の笑みのヴィヴィオ(別)。それを聞いた一同は暫く固まったあと……

 

 

 

 

『ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!?』

 

 

 

 

再びこれでもかという程の絶叫を上げ、屋敷内に響き渡ったのだった。

 

 

ノーヴェ(別)「んだようっせーな!」

 

 

ウェンディ「そ、そんな……ノーヴェが料理だなんて……」

 

 

セイン「しかも美味しい?そんな馬鹿な事がっ……」

 

 

ガタガタガタガタと、最早驚きというより恐怖に近い様子で全身を震わせるウェンディとセイン。そして、再び失礼な発言をかました二人にノーヴェ(別)もまた怒りに震え……

 

 

ノーヴェ(別)「テ~メ~ラ~!!」

 

 

ウェンディ「ヒ、ヒイィィィィィィィ?!ノーヴェがまたブチキレたッス?!」

 

 

セイン「ちょっ!これ以上たんこぶ増やすのはご堪忍を?!ア、アズサ!お願い助けて!」

 

 

アズサ「……んー……アーメン?」

 

 

シロ『にゃ!』

 

 

セイン「ΣΣアズサにも見捨てられたッ?!しかもシロにまで見限られるってウギャアアアアアアアアアアアアアアッ?!!」

 

 

途中でセインの声が悲鳴に変わったのは、彼女の頭にノーヴェ(別)の鉄拳制裁が降り懸かったからである。そして再び、ノーヴェ(別)の拳骨がウェンディとセインを襲ったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数時間後、零達は神威に許可を貰って屋敷に泊まることになり、夕食を食べ終えた後に神威と屋敷の温泉に入っていた。

 

 

優矢「っていうか、なんで温泉湧いてんだよ?」

 

 

神威「適当に掘ってたら出てきた」

 

 

エリオ「て、適当にって……」

 

 

零「……その幸運を少しでも分けてもらいたいな」

 

 

因みに屋敷に完備されてる温泉はそれぞれ男湯と女湯に分かれており、なのは達は仕切りで分けられている壁の向こうの女湯に入っている。

 

 

優矢「しかもきっちり男湯と女湯に分かれてるし」

 

 

神威「うちはナンバーズいるからな。仕方ないだろ?」

 

 

零「まぁ、確かにそっちの方が間違いの心配もなくて気軽だな……滝達と一緒に行った温泉みたくならずに済むし……」

 

 

今も零の脳裏に蘇るのは、滝達firstメンバーと合同で行った温泉での集団リンチ。あの地獄を思い出して顔を背けながらそう呟く零に優矢も顔を真っ青にしてブルリと震え、事情を知らない神威とエリオは疑問符を浮かべていた。

 

 

エリオ「ま、まあでもっ、温泉なんて中々来られないから気持ちいいですよね」

 

 

零「……そうだな。今回はちゃんと体を癒せそうだし、何の気兼ねなくゆっくりできる」

 

 

優矢「だなぁー」

 

 

前回のような心配がない為か、完全に気を抜けきって寛ぎモードに入る零と優矢。そんな二人を見てエリオが思わず苦笑していると、女湯の方から声が聞こえてきた。

 

 

シャマル『はぁ~、滝さんの世界で行った温泉も良かったけど、こっちも気持ちいい~♪』

 

 

スバル『ですねぇ~♪』

 

 

セッテ『あの時は色々ありましたし、今回はゆっくり出来そうですね』

 

 

チンク『そうだなぁ』

 

 

ティアナ『あ、キャロ。良かったら背中流してあげよっか?』

 

 

キャロ『えっと……じゃあお言葉に甘えて。お願いします、ティアさん』

 

 

なのは『じゃあ、ティアナの背中は私が流そっか?』

 

 

ティアナ『あ、すみませんなのはさん』

 

 

女湯から聞こえてきた女性メンバーの和気藹々とした会話。それを聞いた優矢とエリオは不意に聞こえてきた女性陣の声にビクッと肩を震わせて仕切りの方を向き、更に女湯から声が響き渡る。

 

 

はやて『んー、それにしても……そらー!!』

 

 

フェイト『キャー!?は、はやてぇ?!』

 

 

はやて『ぬふふ、フェイトちゃんまた大きくなっとるなぁ、いやはやけしからん乳やでこの乳~♪』

 

 

フェイト『や、やめ、うひゃあ?!///』

 

 

 

 

優矢「あ、あの人はまた悪い癖をっ///」

 

 

エリオ「うぅ……///」

 

 

零「あのエロタヌキめ……無視しろ無視。いちいち変に気にしてたら身が持たんぞ」

 

 

優矢「無茶言うなっての!つかなんで二人とも平然としてられんのさ?!」

 

 

神威「ノーヴェ以外の女には興味ない」

 

 

零「どうでもいい。むしろ今はこの心地好い湯加減を堪能するのが優先」

 

 

と、優矢とエリオとは対照に全然全く気になりませんオーラを放ちながら温泉を堪能する二人だが……

 

 

姫『ふむ、それにしても皆は随分と肌艶が良いのだな。これだけ外見が良いのだから、何か服装や化粧に気を配って身を飾ったらどうか?』

 

 

セイン『所謂オシャレってやつ?うーん、まだ私達にはそーいうの疎いからわかんないなぁ~』

 

 

オットー『……あっ。でも、なにかの雑誌でそういうバックとかピアスとか見たことあるかも』

 

 

姫『ぴあす?あー、あれは駄目だ。私からすれば邪道だ。大体、最近の若者は親から貰った身体に穴を開けたりと何事だろうかっ』

 

 

ディード『ですが姫さん、ずっと処女って訳にも……』

 

 

姫『ぬっ?……私の考えが古かったようだ……』

 

 

 

 

零「って耳の話をしてたんだろォオオオオォォォォオーーーーッ!!!」

 

 

優矢「……てか、ディードが前フリしちゃうとか……なんか姫さんに汚染されてね?」

 

 

こればっかりは流石に無視出来ずツッコミを響かせる零の横で、タラリと額から冷や汗を流す優矢。何やら姫と仲が良い台所組の一人が姫の色に染まりつつあるようだ……。もしかしたらこのままだと、台所組全員が第二・第三の姫になり兼ねないので、これはほんとに近々対策を練った方がいいかもしれない。いやマジで。更に……

 

 

はやて『むむ?なんや~?こっちの世界のノーヴェは私らの世界のノーヴェよりもちょっと胸大きいな~♪』

 

 

ノーヴェ(別)『な!?ちょ、やめろよ!///』

 

 

はやて『ええやないか減るもんじゃなし♪』

 

 

ノーヴェ(別)『ちょ、や、やめ、ん!///』

 

 

……どうやら、エロタヌキ(はやて)が今度はノーヴェ(別)に毒牙を向けたらしい。そんな艶っぽい声が女湯から聞こえ、優矢とエリオは更に顔を真っ赤にしており、零は逆にツッコミの時のテンションを冷やされて落ち着きを取り戻し無反応。そして神威は……

 

 

神威「…………………………………………………」

 

 

……なんかこう、ゴゴゴゴゴゴゴゴッと効果音が聞こえてきそうな黒いオーラを無言で放っていた。そんな神威の様子に気付いた零と優矢、エリオは顔を引き攣らせて思わず引いてしまうが、神威はそれに構わずに男湯と女湯を仕切っている壁に近付いて……

 

 

―バンッ!―

 

 

結構思いっきり、音に怒りが含ませるように壁をいきなり叩いたのである。その瞬間……

 

 

―ガゴンッ!!―

 

 

はやて『みぎゃッ?!』

 

 

全員集合よろしくタライが女湯のはやての脳天を直撃したのだった。

 

 

なのは『は、はやてちゃん?!大丈夫!?』

 

 

フェイト『タ、タライ!?いったいどこから!?』

 

 

はやて『きゅうぅ…………星……星が見えるスター……』

 

 

ノーヴェ(別)『……(神威、こんなもんまで仕掛けてたのか)』

 

 

突如落下したタライによりノックアウトされたはやてを見て大騒ぎになる女湯。その頃神威はやり遂げた顔で温泉から出て行き、残された零達は……

 

 

優矢「タライって……もしかして神威さんが今やったヤツの?」

 

 

エリオ「そ、そんなのまであるんですね……もしかして、今みたいなのがこっちにも……?」

 

 

零「あるんじゃないか?GAU-8とか」

 

 

優矢「何で航空機用火器っ?!タライからランクアップしすぎだろっ?!いや……でもあの人ならやりかねないかも……」

 

 

なにせ向こうにはノーヴェ(別)が入るわけだし、覗きの防止でそれぐらいのことはやるかも……覗いた瞬間に問答無用で蜂の巣とか。そう考えた優矢とエリオはガクブルと背筋を震わせ、落ち着いて入ってられないと温泉からそそくさと出ていく。そして零は……

 

 

零「――まぁ、そんな仕掛けしなくてもアイツ等ならモンスターに張らせたりとかしてそうだが……それはそれで何か落ち着かんな。さっきから変な視線も感じるし……」

 

 

向こうがいない時にまた入るかと、零もまたお湯を掻き分けながら二人の後を追うように温泉を後にするのであった。そして……

 

 

 

 

 

 

―キィィィィィィンッ……キィィィィィィィィィンッ……―

 

 

『グルルルッ……』

 

 

 

 

 

 

そんな零達の様子を温泉の湯の水面から見つめる巨大なモンスター……先程庭でスカリエッティとモグラを覗き見ていたミラーモンスターが唸り声を上げながら、零達の後を追うかのようにミラーワールド内を歩き出したのだった。

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑥

 

 

――零達が温泉で寛ぎ疲れを癒してるその頃、男湯の脱衣所に一人の青年が気配を消しながら忍び込んできていた。

 

 

大輝「彼等は温泉を堪能中か……またとないチャンスだね。いくらなんでも風呂の中までカードデッキを持っていかないだろ?」

 

 

青年……大輝は男湯の方に向けてニヤリと笑みを浮かべると、神威の脱いだ洋服をゴソゴソと漁っていく。すると其処から神威がシリウスに変身する時に使う狼のレリーフの入ったカードデッキを取り出した。

 

 

大輝「あったあった。さて、じゃあ退散するかな?」

 

 

目的のカードデッキを手に入れ、もう此処には用はないと大輝がカードデッキを持って脱衣所を出ようとした、その時……

 

 

―ガララッ―

 

 

神威「――ん?お前は……」

 

 

大輝「うん?」

 

 

零「どうした神威?……って海道?!」

 

 

優矢「アンタ、こんなとこで何やってんだよ?!」

 

 

丁度温泉から上がってきた一同とバッタリ遭遇し、零と優矢は何故かこんな場所にいる大輝に気付いて声を荒げるが、エリオは大輝の手に握られているデッキに気付き指を指した。

 

 

エリオ「あの……海道さんが持ってるあれって……」

 

 

優矢「えっ?……あぁ?!シリウスのデッキ?!」

 

 

零「成る程……今度はそれが狙いか。というか人の服を漁って盗みとか、ついに其処まで落ちたか?」

 

 

大輝「頭脳的と言って欲しいなぁ。とにかくヤクザの青年くん、この世界のお宝、シリウスのデッキは確かに頂いたよ?じゃね!」

 

 

大輝はそう言いながら神威を指鉄砲で指差し狙い撃つ動作をすると、そのままデッキを手に脱衣所を飛び出してしまった。

 

 

優矢「あ、おい待てコラ!零っ!」

 

 

零「チッ!せっかく温泉に入って汗を流したっていうのに、面倒起こしやがってっ!」

 

 

エリオ「と、とにかく、早く追い掛けないと!」

 

 

このままではほんとに大輝にデッキを取り逃げされてしまう。とにかく急いで星を追わねばと、零と優矢、エリオは急いで服を着替えながら大輝を追って脱衣所を飛び出していった。だが、何故かデッキを盗まれた神威本人は特に焦る様子もなくのんびり着替えていた。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そして脱衣所を飛び出した後、零達は大輝を追いかけながら途中で出くわした組の人間達に事情を説明し、組の人間総出で大輝を追いかけ回していた。

 

 

大輝「全く余計なことを、これじゃ埒が明かないな。しょうがない……変身」

 

 

『KAMENRIDE:DI-END!』

 

 

次々と飛び掛かってくる組の人間を軽い身のこなしで退けながら、大輝はディエンドライバーを回転させながら取り出してディエンドへと変身し、更に左腰のホルダーから二枚のカードを取り出してディエンドライバーへと装填しスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:RAIA!SCISSORS!』

 

 

ディエンド『ハッ!』

 

 

―バシュウッ!―

 

 

電子音声と共に側宙で屋敷の庭へと飛び出すと、ディエンドはドライバーの引き金を引いて目の前に無数の残像を出現させ、目の前に以前龍騎の世界でなのはが戦ったライアとシザースが召喚され零達に襲い掛かっていった。

 

 

零「ちっ!変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

優矢「変身ッ!」

 

 

零はライアの振りかぶったエビルウィップを飛びこみ前転でかい潜りながら腰にディケイドライバーを巻いてディケイドへと変身し、優矢もクウガに変身してそれぞれライアとシザースを迎え撃っていった。

 

 

ディエンド『んじゃ、君達はソイツ等と遊んでいたまえ。俺は退散させてもらうよ』

 

 

ディケイド『待て海道ッ!クソッ!邪魔だ退けッ!』

 

 

ディケイドとクウガは何とかディエンドを追跡しようとするも、それを阻むようにライアとシザースの連携に邪魔されてしまい、ディエンドもこの隙に屋敷から脱出しようと塀に向かって駆け出そうとする。が……

 

 

 

 

 

―キイイイイィィィィィィィンッ……キイイイイィィィィィィィンッ……―

 

 

ディエンド『……ッ!なに?』

 

 

クウガ『こ、この音って?』

 

 

ディケイド『ミラーモンスター?こんな時にか!』

 

 

突然その場に響き渡る金切り音。それを耳にした一同は一瞬動きを止めてしまうが、ディケイドはすぐさま正気に戻り組み合っていたライアを前蹴りで蹴り飛ばすと、ライドブッカーから一枚のカードを取り出してバックルへと投げ入れた。

 

 

『FINALATTACKRIDE――』

 

 

ディケイド『一気に決めるぞ優矢!面倒事になる前にコイツ等を叩く!』

 

 

クウガ『わ、分かった!ハアァァァァァッ……!』

 

 

ただでさえ厄介なこの場面にミラーモンスターにまで出て来られたら、ほんとにデッキを取り戻す事態ではなくなる。とっととケリをつけるべく、ディケイドとクウガはそれぞれ必殺技の発射態勢に入ってライアとシザースを見据えていく。しかし……

 

 

 

 

 

 

『ギュオォォォォオオオオォォォォッ!!!』

 

 

―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーッッ!!!!!―

 

 

『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

クウガ『え……?』

 

 

ディケイド『ッ!何だ?』

 

 

突如、何処からかなにかの咆哮が聞こえたと共に近くの鏡から火炎放射が放たれ、火炎放射はそのままライアとシザースを飲み込んで二人を爆散させていったのであった。突然の出来事にディケイドとクウガも呆気に取られて構えを解いていき、思わず辺りを見渡してみると……

 

 

 

 

 

『グウゥッ……』

 

 

 

 

 

ディケイド(……!アレは……?)

 

 

 

 

 

火炎放射が放たれてきた鏡の中に、巨大なミラーモンスターが顔を覗かせてるのが見えた。恐らく今の攻撃を放ったのはあのモンスターかと思われるが、何故かモンスターはこちらに敵意を見せずジッと見つめてくるだけで何もして来ない。それに疑問を抱いたディケイドはモンスターの姿が映る鏡に近付こうとするが、モンスターはそれから逃げるように鏡から姿を消してしまった。

 

 

ディケイド(今のモンスター……何だ?何処かで見たことあるような……)

 

 

ディエンド『何なんだ一体?とにかく今は逃げる方が勝ちか!』

 

 

モンスターが消えた鏡を見てディケイドが物思いに耽る中、ディエンドは段々と嫌な予感が迫っているような予感を感じて早く逃げ出そうとした、その時……

 

 

―バシュウンッ!―

 

 

『ガアァッ!!』

 

 

ディエンド『なッ?!』

 

 

突然背後の池からウォルフィンが飛び出し、そのまま勢いよくディエンドに飛び掛かり襲ってきたのであった。それに気付いたディエンドはすぐさま真横に飛び込みウォルフィンの奇襲を紙一重で避けるも、その顔は驚愕の色に染まった。

 

 

ディエンド『どういうことだ?!なんで、契約モンスターがカードデッキの持ち主を?!』

 

 

本来ミラーライダーが契約したモンスターが、契約の証とも言えるカードデッキを持つ主を襲うなど有り得ない。ウォルフィンと対峙しながらディエンドが困惑した様子でカードデッキを見ると、いつの間にか契約が破棄されレリーフが消えていた。

 

 

ディエンド『け、契約が?!』

 

 

『グオアァッ!!』

 

 

レリーフが消えてしまったデッキを見て更に困惑するディエンドだが、その一瞬の隙を突いてウォルフィンが飛び掛かりディエンドの手からカードデッキを奪い取った。

 

 

ディエンド『あ!こら返せ!―ズガガガガガガガガガガッ!!―クッ?!』

 

 

ディケイド『其処までだ!いい加減諦めろ海道!』

 

 

デッキを奪ったウォルフィンを捕らえようとしたディエンドだが、其処へディケイドがライドブッカーガンモードで威嚇射撃を行ってディエンドの動きを止めていった。そしてウォルフィンは取り返したデッキを咥えたままディケイドたちの下へと走っていくと、そこにはちょうど今追いついた神威が立っていた。

 

 

神威「ウォルフィン、ご苦労さん」

 

 

神威が労いの言葉を掛けながらウォルフィンの口からデッキを受け取ると、ウォルフィンは再び契約を結び、そのまま池へと飛び込んでミラーワールドに帰っていった。

 

 

ディエンド『ど、どういうことだ!どうして!?』

 

 

神威「ああ、ウォルフィンは自分で契約者を選ぶんだよ。そして相応しくないものには自分から契約を破棄して襲い掛かる。どうやらお前はウォルフィンには選ばれなかったみたいだな?仮面ライダーディエンド」

 

 

ディケイド『ほぉ、なるほどなぁ…………おい待て、それって俺達が追いかけてきたのは無駄だったって事か?』

 

 

神威「ん~、そうだな。ウォルフィンは自分で帰ってくると思ってたし」

 

 

訝しげに問い掛けたディケイドに神威は飄々と答え、それを聞いたディケイド達は深い溜め息を吐きながら頭を抱えた。

 

 

ディケイド『そういうことなら先に言えよ、こっちは完全に草臥れ儲けだろう?』

 

 

神威「まあ、敵を欺くにはまず味方からってな?」

 

 

ディエンド『チッ、まんまと一杯食わされた訳か……じゃあここに長居する理由も無いね!―ドガシッ!―ぐわっ?!』

 

 

目的のカードデッキが手に入らない以上は長居無用と今度こそ逃げ出そうとしたディエンドだが、振り向いて走り出そうとした瞬間に何かに躓き転倒してしまった。

 

 

ディエンド『クッ、なっ何なんだ一体っ……』

 

 

まさかまた罠か?!とディエンドが慌てて自分が転んだ場所を見ると、其処には……

 

 

ジェイル(別)「いきなりなんだい?痛いじゃないか、へっくしゅ!」

 

 

……未だに埋められたまま生首状態のスカリエッティ(別)がいた。どうやらディエンドが躓いたのはスカリエッティ(別)らしい。

 

 

神威「ウォルフィンGO!」

 

 

―バシュウンッ!―

 

 

『グルアァッ!!』

 

 

ディエンド『は?ちょ?!まっ――?!』

 

 

それを好機と見た神威が高らかに叫ぶと共に、ミラーワールドからウォルフィンが飛び出してディエンドに突進して吹っ飛ばし、それをもろに受けたディエンドはその衝撃で変身が解除され大輝に戻っていった。

 

 

神威「さて、じゃあOSHIOKIと行こうか?ウーノ、転送ポートを俺のお仕置き部屋に繋いでくれ!」

 

 

ウーノ(別)「わかりました」

 

 

他の組の者達と一緒に大輝を追っていたウーノ(別)は若干同情の視線を大輝に向ける。そして神威は大輝を引き摺ってお仕置きルームに向かい、ディケイド達もその様子を目で追いながら変身を解除した。

 

 

優矢「お仕置き部屋……って何だろうな?」

 

 

零「さぁ……その名の通り、馬鹿やった人間に制裁を加えるところじゃないか?アイツにピッタリだろ」

 

 

エリオ「あ、あはははっ。で、でもまあ、これでひとまず一件落着……ですよね?」

 

 

優矢「そだなぁ。あーあ、あの人のせいでまた汗掻いちまったよ……もっかい温泉に入ってくるか?」

 

 

大輝を引きずってお仕置き部屋とやらに向かう神威を見送って呆気に取られながらもすぐに気を取り直し、優矢とエリオは再び温泉に入り直そうと屋敷に戻っていくが、零はその場から動かず先程ミラーモンスターが映っていた鏡に目を向けた。

 

 

零(……あのモンスター……一体何だったんだ?多分神威達の契約モンスターではないだろうし、あんなミラーモンスターなんて俺も"知らない"……敵ってワケじゃなそうだが……)

 

 

先程の戦いで自分達を助けるような真似をしたミラーモンスター。それが何故か無性に気掛かりでならない零は鏡を見つめ続けるが、やはりそうしててもミラーモンスターは再び姿を見せず、零は諦めるように息を吐いて優矢とエリオの後を追い掛けていったのだった。

 

 

 

 

 

―キイイイィィィィィィィィィンッ……キイイイィィィィィィィィィンッ……―

 

 

『……グウゥゥッ……』

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―おまけ―

 

 

それから一時間後……

 

 

『ぎゃああああああああああああああ!!!!』

 

 

アズサ「?今の……悲鳴?」

 

 

姫「うん?……ああ何だ、大輝のか。多分またロクな事をやらずに制裁を受けているのだろう、放っておけばいい」

 

 

アズサ「でも……」

 

 

ウェンディ「まあまあ良いじゃないッスか。それよりアズサ、温泉に入った後と言えばこれっスよこれ♪」

 

 

アズサ「……牛乳?」

 

 

セイン「そう!温泉の後に必ず飲むと言えばコレ!私たちもfirstの世界の温泉に行った時に教わったんだよねー♪」

 

 

姫「うむうむ。これは言わば、温泉に訪れる者たちにとって暗黙のルールとも言える。因みに、この時は必ずある一定のポーズを取りながら牛乳を飲まなければならない」

 

 

アズサ「ポーズ……?」

 

 

セイン「そう、先ずは足を開き!腰に手を当て!ビンの蓋を親指で弾く!」

 

 

アズサ「……こう……?」

 

 

姫「そう、そして蓋を開けた牛乳を一気に口へと流し込む!このとき牛乳を飲み干すまで絶対にビンから口を離すな?例え鼻から牛乳を吹き出してもだ!!」

 

 

なのは「アズサちゃんに何教えてるんですかッ?!!」

 

 

……神威のお仕置き部屋で大輝がGボックスに放り込まれる中、女湯の脱衣所ではバスタオル一枚で牛乳を片手に一気飲みをする四人組の姿があったとか。

 

 

 

 

 

因みにこの翌日。帰りが遅い大輝が気になったルミナが屋敷の前に向かうと、何やら屋敷の外に全身真っ白になった大輝が捨てられていたらしいが、まあどうでもいい話である。

 

 

 

 

 

 

 

―おまけその2―

 

 

スカリエッティ(別)「はっはっは、ごらんよモグラくん。夜が明けるよ」

 

 

そして庭には結局朝まで埋められていたスカリエッティがモグラとの友情を深めていたのだった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑦

 

 

深夜、大輝が引き起こした騒動が落ち着いてから一同はそれぞれ自由な時間を過ごし、今はもうなのは達も組の人間も眠りに付き静かな夜が訪れていた。そんな中、トイレから戻ってきた零は部屋に戻ろうと縁側を歩く中、空から光を射す月に気付いて夜空を見上げた。

 

 

零「ふむ。しかし、こんな静かな夜というのも久々な気がするなぁ……」

 

 

最近では旅に同行する人間が増えてか、夜中にガールズトークする女性陣の笑い声などが自室にも聞こえてきたりする事がたまにある。別にそのせいで眠れないといったことはないが、やはり自分的にはこういった静かな夜の方が好ましい。そう思いながら暫く月を見上げ、部屋に戻ろうと目の前に視線を戻すと……

 

 

零「……ん?神威?」

 

 

視線を向けた先に、神威が自分の部屋の前の縁側で月を見ながら酒を飲む姿を見付けた。それを見た零が足を動かそうとしたのを思わず止めると、向こうも零に気付いたのか、ゆっくりとこちらに目を向けてきた。

 

 

神威「よう、寝れないのか?」

 

 

零「……トイレに行ってただけだ。戻ろうと思ったらお前が見えた」

 

 

目を伏せながらそう答えると、零は一度神威の部屋に目を向けてノーヴェ(別)の気配を感じ取り、彼女を起こさぬよう静かに神威の横に座ると、神威がお猪口を差し出してきた。

 

 

神威「飲むか?」

 

 

零「おう」

 

 

短く返事を返して神威の手からお猪口を受け取ると、神威に酒を注いでもらい口に含んだ。

 

 

零「……そういえば、一つ聞きたいことがある」

 

 

神威「ん?」

 

 

零「何でヤクザをやってるんだ?お前なら他にいろいろできるだろう?」

 

 

神威「あ~」

 

 

正直神威ほどの人間なら、ヤクザ以外にも彼に合った道が色々とあったのでないかと思う。その意味を込めて問い掛けると神威は答え難そうな声を漏らし、零はそれを見てお猪口を手の中で弄んでいく。

 

 

零「まぁ、別に無理に答えなくても「まあ簡単に言えば……」ん?」

 

 

神威「組長(おやじ)に憧れたからだ」

 

 

神威は零の言葉を遮って答えた。

 

 

零「おやじって……お前の父親か?」

 

 

神威「いや、血は繋がっちゃいないし養子になったわけでもない。俺がこの世界に来る前にいた『清水組』ってヤクザの組長だ。俺たち組員は親愛の意味をこめて『おやじ』って呼んでる」

 

 

そう言うと神威はお猪口の酒を飲み干し、月を見上げながら懐かしげに目を細めた。

 

 

神威「昔は俺もどうしようもない悪ガキでな……目に付くもんを全部傷つける日々が続いた。ずっと1人でそこらの不良やらなんやらに喧嘩売ってた」

 

 

零「両親はいなかったのか?」

 

 

神威「お袋は俺がガキのときに死んだ。血縁上の父親に当たる男は今何をしてるかは知らん。そんで、俺が1人でバカやってたときに組長(おやじ)に拾われた。そっからは俺の人生一変してな。俺も組長(おやじ)たちを信用するようになってた。んでな、俺が組長(おやじ)にお前と同じことを聞いたんだ。なんでヤクザの組長なんてやってんだ?ってな。そしたら組長(おやじ)はこう言ってたんだ」

 

 

 

 

『―――神威。世の中にはな、器用に生きられる奴ばっかりじゃねぇのさ。社会に出て、会社入って、下げたくねぇ頭下げて、他の奴に媚びる。無論それは悪いことじゃねぇ。それも生きる中では大切なことだ。けどな、それができねぇバカ共もいるんだ。自分に嘘がつけねぇ、自分を偽ることができずにただ自分の思ったとおりに生きようとする不器用なバカがな。そして世の中ってのはそんな奴らを受け入れられるほど優しくねぇ。規律を重んじる組織の中じゃ自分の感情で動く奴は邪魔なのさ。

でもな、ワシはそんなバカ共が大好きだ。自分を偽らずに不器用に、真っ直ぐに生きようとする連中を、社会から零れ落ちた連中を拾ってやりてぇんだよ』

 

 

 

 

神威「そう、言ってた……だから俺も組長(おやじ)と同じ事がしたいんだ。実際、この組の連中も管理局から切られ、零れ落ちた奴らばっかりだからな」

 

 

零「……そう、か……」

 

 

月を見上げて組長(おやじ)のことを語る神威の表情は、何処か憧れのそれに近いものが秘められてると感じ取り、零は目を細めながら静かに微笑んだ。そんな時……

 

 

「んん~、神威~?」

 

 

神威の部屋から襖越しにノーヴェ(別)の声が聞こえ、神威は背中越しにその声を聞いてハッと振り返った。

 

 

神威「あ、気付かれたか」

 

 

零「?どういうことだ?」

 

 

神威「ノーヴェは俺がいなくなってしばらくすると、寝ながら俺のこと探すんだよ」

 

 

零「ほう……器用な真似が出来るもんだ。それも愛故にって奴か?」

 

 

神威「まあな」

 

 

零の冗談に恥ずかげもなく笑って答えると、神威は自分のお猪口を置いて立ち上がった。

 

 

神威「じゃあ俺はもう寝るわ。お前も早く寝ろよ?」

 

 

零「ああ。俺なんか気にしないで早く行ってやれ、じゃないとノーヴェが起きるぞ」

 

 

お猪口を軽く振って見せると神威は笑みを浮かべながら手を上げ、そのまま襖を開けて自分の部屋に戻っていった。

 

 

零「やれやれ……アイツ等みたいなのは他の世界でも見てきたが、やっぱり俺には分からんなぁ」

 

 

俺も誰かを好きになれば分かるのかね?と自嘲気味に笑うと、神威が置いていった酒をお猪口に注いでいく。

 

 

零「……まぁ。その愛っていうのがなんなのか、まだイマイチ分からないところもあるんだが……」

 

 

まだ自分が誰にも心を開いていなかった頃、高町家の皆が自分に家族同然に接してくれている事は分かったし、温かさのようなものは感じ取れた。だが、それが一体なんなのか、自分にはサッパリ分からなかった。

 

 

零「愛情、か……どうして俺にはそれが分からないんだろうな……」

 

 

記憶の失う前のことなんて全く思い出せないが、自分も誰かに身篭られてこの世に生を受けたはずなのだ。ならば、一度ぐらいはその愛をこの身に……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――どうして?何故私が望む形で生まれてきてくれなかったの……?何故そんな力を持って生まれてきたの……?』

 

 

『貴方なんて……産まなければ良かったっ……!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――ハッ……何を馬鹿なことほざいてるんだろうな、俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなはずがないと知っていたではないか……と、零は馬鹿な想像を思い浮かべようとした自分を鼻で笑いながら軽蔑した。親の愛情なんて知らないし、そもそも愛情を注ぐ子供にあんなことを言う親なんている筈がないだろうに。お猪口に注いだ酒の水面に映る自分の顔を見つめながらそう考えると、不意に、何時かの時と同じノイズが頭の中を横切った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザザザザザッ……ザザザザザザザッ……!!―

 

 

『おい、聞いたか?あのガキの噂……』

 

 

『聞いたよ、任務先の世界の人間全員を丸々殺戮したって話だろ?信じらんねえよ……』

 

 

『汚れ役を引き受けてるとは言え、六歳のくせに顔色一つ変えずに人を殺せるとか、どーゆう神経してんのかねえ……』

 

 

『この前の任務から帰ってきた時も、あの子、全身血で染まって帰ってきたって話でしょ……?』

 

 

『しかも、ターゲットの男とその部下の首を持ってたんだって。あの子が通った後の廊下とか、血で真っ赤になってて……』

 

 

『気持ち悪いっ……本物の化け物じゃないっ……』

 

 

『ただでさえ、こっちはいつ暴走するかも分からない因子にビクビクしながら過ごしてるっていうのに……まったく、アレの親もどうしてあんな化け物を産んだかね?いっそ降ろした方が世の中の為になっただろうに』

 

 

『馬ー鹿、あのガキの中には破壊の因子なんてもんがあんだぞ?下手に殺しでもしたら、この世界も俺達も巻き添え喰らってくたばっちまうだろ』

 

 

『生きてても迷惑、死んでも迷惑……ほんと、あんな迷惑極まりない化け物なんて他にはいないだろうねぇ……』

 

 

『その為にアイツの因子の研究を進めてるんだろう?詳細さえ分かれば、どんな処分方法なら巻き添えにならずに済むか次第に分かるだろうさ。――――様も、利用価値がなくなればアレを処分する予定らしいし』

 

 

『ハハハハハハ!ソイツはいい!もし処刑台に立つ時がきたら、死に際にはこう言い残して欲しいなぁ……『生まれてきてごめんなさぁ~~いぃ、ゴミなのにぃ~~』ってよぉ!』

 

 

『ブッハハハハハハッ!!そりゃ笑える!ついでに酒とつまみもありゃ最高の見世物じゃね?ダッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………っ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

脳裏に何度も響く、幾つもの耳障りな笑い声。それのせいか呼吸も浅くなって息苦しく、お猪口を持つ手にも思わず力が入りお猪口にヒビが入った。ビシィッという亀裂が走る音がその場に響き、零はその音で我に返ると、何かを払うように頭を振って何度か深呼吸を繰り返した。

 

 

零「はぁっ……はぁっ……クソッ、なんなんだ一体……この間からっ……」

 

 

前回と同様に断片的に蘇る記憶。片手で頭を鷲づかみながら浅い呼吸を繰り返すと、零はお猪口の酒を口の中に流し込んで深い溜め息を漏らし、目を細めながら記憶の中のある言葉を口にした。

 

 

零「っ……生まれてきて、ごめんなさい……か……」

 

 

「?何がですか?」

 

 

零「……は?」

 

 

苦々しげに呟いた零の言葉に対し、不意に横から疑問の問いが投げ掛けられた。突然のそれに零も一瞬唖然となりながらも、その声が聞こえてきた方へと視線を向けていく。其処には……

 

 

零「……キャロ?」

 

 

キャロ「あ、はい。こんばんは、零さん」

 

 

其処には、パジャマの下にストールを羽織った少女……別の部屋でフェイト等と一緒に寝ている筈のキャロがこちらを見つめて立っていたのだった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑧

 

 

一人屋敷の縁側で酒を飲んでいた所に現れたキャロ。こんな夜中に不意に現れた予想外な人物に少し驚いた零だったが、すぐに気を取り直して普段通りに装い、取りあえずキャロを隣に座らせて一緒に月を眺めていた。

 

 

零「こんな時間にどうしたんだ?眠れないのか?」

 

 

キャロ「あ、はい。なんかすっかり目が冴えて、全然眠れないから外の空気でも吸って来ようかと思って。そうしたら零さんを見付けたんですけど……零さんも眠れないんですか?」

 

 

零「いや、ちょっと神威と話し込んでただけだ。神威はもう寝たんだが……俺はまだそういう気分になれなくてな……」

 

 

苦笑いしながら困ったようにそう告げる零だが、実際はそうではない。ただ単に、先程の記憶のせいで眠りたくないだけだ。このまま眠ってしまえばあの記憶が夢の中にまで出て来そうで……そうならないために、少しでもあの記憶の事を紛らわせたいから部屋に戻らないのだ。

 

 

零「まあ俺が言うのもあれだが、夜更かしもほどほどにしろよ?でないと、何処ぞの過保護な分隊長さんが心配の余り捜しに来るかもしれんし」

 

 

キャロ「あ、あははは……そうですね……出来るだけそうします」

 

 

同じ部屋で寝てるその過保護な隊長が自分を心配して捜しに来る様を思い浮かべたのか、キャロは苦笑いを浮かべながら頷いた。だが、その横顔を見た零は何処かある違和感を感じ僅かに眉を潜めた。何だか、いつものキャロの様子と比べて若干暗いような……。そう思いながら訝しげな視線をキャロの横顔に向けてると、その視線に気付いたキャロが零に振り向いて首を傾げた。

 

 

キャロ「零さん?あの……何か、私の顔に付いてます?」

 

 

零「いや……なあキャロ。お前もしかして、何か不安や悩みとかないか?」

 

 

キャロ「……へ?ど、どうしてですか?」

 

 

零「いいや、何と言うかな……いつものキャロらしくないというのか?妙に元気がないように見えてな……多分俺じゃなくても分かると思うぞ。何かあったか?」

 

 

キャロ「あ、えーっと……その……」

 

 

零の指摘が図星だったのか、キャロは言いにくそうに顔を俯かせながらゴモゴモと口をごもらせてしまい、零はそんなキャロの横顔を見つめて困らせてしまったかと苦笑いした。

 

 

零「言いたくないのなら別に良いし、違うと言うなら否定してくれて構わんぞ?悩み事がないなら、俺の単なる杞憂だったで片付くし」

 

 

キャロ「あっ……いえ……違うって訳じゃないです。実際悩みがあるのはほんとですから。その事で今朝も、フェイトさんやエリオ君に気にかけられましたし」

 

 

零「あの二人か……その様子だと、フェイトとエリオにも話してないようだな」

 

 

キャロ「……はい」

 

 

コクりと頷き返すと、キャロは口を閉ざしたまま屋敷の庭に視線を向けていく。その様子を見た零も特に何を問い詰めるわけでもなくキャロの視線を追うように庭を見つめると、それから互いに無言になった。何処からか聞こえる鈴虫の鳴き声が夜に響き、落ち着いた空気が二人の間に流れる。やがて、その穏やかな雰囲気のお陰か、今まで無言でいたキャロがゆっくりと重たい口を開いた。

 

 

キャロ「こう言ったら、皆が私を心配して気にかけるじゃないかと思って、言わなかったんですけど……実は今朝、フリードの夢を見たんです……」

 

 

零「?フリードの?」

 

 

フリードと言えば、彼女が卵から孵った頃から育てて使役しているフリードリヒのことであり、彼女と共に訓練に励み、自分等と共に数々の修羅場を潜り抜けてきた仲間でもある。そういえば、彼女やエリオと合流したカブトの世界では二人と一緒にいなかったなと頭の片隅で思い出していると、キャロが言葉を続け語り出した。

 

 

キャロ「今朝見た夢の中で、私、何処かも分からない暗闇の中に立っていたんです……そしたら、背後から聞き慣れた鳴き声が聞こえて、思わず振り返ったら、遠く離れた場所でフリードが必死に誰かを捜してる姿があったんです……」

 

 

零「…………」

 

 

キャロ「私は慌てて大声でフリードを呼びました……だけど、フリードには私の声が届いてないみたいで、フリードは私が立っている場所とは逆の方向に去っていってしまったんです……私は直ぐさま追い掛けようとしたけど、何故か私が立ってる場所から一歩も動けなくて……フリードはそのまま暗闇の向こうに消えて、私はフリードの名前を叫びながらその場に泣き崩れてしまったんです……」

 

 

零「で、そこで夢が途切れて目が覚めた……という訳か?」

 

 

自分も何度か夢見の悪い夢を見た事がある為か、なんとなく察しが付いて静かにそう問い掛けた。すると案の定、キャロはコクりと力なく頷き返し、零も「そうか」とだけ返して目の前の庭に視線を向けた。

 

 

キャロ「その夢を見てから、何だか途端に、フリードのことで不安が膨れ上がり出したんです……ライダーの世界に飛ばされる前は一緒にいたはずなのに、カブトの世界に飛ばされてからフリードの姿がないことに気付いて不安だったけど、きっとフリードだけは飛ばされずにミッドに残ってるのかもしれないて、エリオ君に励まされてからそう思うようにしてたけど……でももし、フリードも何処かの世界に飛ばされてて、何か危険な目に合ってたら……どうしようってっ……」

 

 

フリードは、キャロ達とは違って人間ではない。もしミッドではない地球のような世界に飛ばされてでもして悪い人間等に捕まったりしたら、もし何か危険な目に遭っててでもしたらと、今朝見たという夢のせいか酷くマイナス思考に走って不安がるキャロ。こういう相談に乗るのは俺じゃなくて、あの過保護か竜騎士の役割だと思うんだがなぁと、零はあれこれ悪い予想を口にするキャロを見つめて苦笑いすると、庭に視線を戻しながら口を開いた。

 

 

零「まあ確かに、フリードだけだと何かと不憫かもしれないな。アイツは言葉も喋れないし、地球みたいな世界なら気軽に誰かの前に姿を見せれないから、コソコソ人目を避けながら隠れて過ごすしかないだろうし」

 

 

キャロ「!や、やっぱり、そう思いますよね?!やっぱりフリードだけじゃ……!」

 

 

零「そうかもしれない。だけど、そう心配することもないんじゃないか?」

 

 

キャロ「……え?」

 

 

焦ってパニクるキャロとは対照に、何故か落ち着いた様子で微笑む零にキャロは思わずキョトンとしながら首を傾げた。こういう反応はほんとに年相応だなと、零はそんなキャロの顔を横目に穏やかに微笑みながら言葉を続けた。

 

 

零「お前が思ってるほど、フリードはそんなに頼りのない奴じゃないって話だ。アイツも結構やる時はやるし、たまに野生の感?って奴を発揮してその場の危機を乗り越えたりすることもある。幾ら飛竜になれなくてちっこいままでも火は噴けるんだし、自分の身ぐらい自分で守れるに決まってる」

 

 

キャロ「……そう……でしょうか……」

 

 

零「なにより、俺やあの鬼教官等がお前たちと一緒に鍛え上げて、お前と一緒に数々の修羅場を潜り抜けてきた奴だぞ?そんじょそこらの危機ぐらいで参る筈がない。ま、もしその程度で何処かで参ってたりしたら……今までの訓練レベルを更にグレードアップさせて一から鍛え直すしかないな。あぁ、もちろん連帯責任でお前等四人全員でな?」

 

 

キャロ「え、えぇぇぇ?!そんなぁっ?!!」

 

 

零「俺に言われてもなぁ。多分それ見て決めるのは、なのはやヴィータ辺りやもしれんぞ?訓練内容は……全力全開のスターライトブレイカーを真っ正面から防ぎ切れ!とか?」

 

 

キャロ「………………フ、フリードっ、お願いだから無事でいてっ。主に私達の明日の為にっ……!!」

 

 

零「其処まで嫌か……いやまあ、アレを真っ正面から堂々と受けたりするなんて余程の命知らずしかしないだろうがな……俺は毎日のように受けてるが」

 

 

…………あれ?それだと俺も余程の命知らずって事になるのか?と、今更過ぎる疑問を抱いて小首を傾げる零だが、まあどうでもいいかと直ぐに気を取り直して隣を見れば、アワワワッと恐怖で全身を震わせながら両手を組んで神に祈るようにしていた。まぁ、うちにはもう身近に神様がいるんだがな……まともに願いを叶えてくれるか微妙だから頼まないけど。

 

 

零「―――まぁ、とにかく俺が言いたいのは、そんなに心配したり不安がらずにフリードを信じてやれって話しだ……アイツはお前と一緒に俺達のキツイ訓練を乗り越えて、JS事件でもお前達を最後まで守ってくれた頼もしいヤツなんだ。そんなアイツを卵から孵して、アイツを彼処まで育てたのは、他でもないお前なんだろう?」

 

 

キャロ「……はい……」

 

 

零「ん。なら胸を張って、下ばかり見ないで、アイツの強さを信じながら前を見続けろ。そんな顔してたら逆にフリードが心配する。何より俺だってフリードが大丈夫だと信じてるのに、一番長く一緒にいるお前が信じてやらないでどうする?」

 

 

キャロ「……零さん……」

 

 

まるでまだ小さかった頃、義兄である恭也が誰にも心を開かなかった自分に語りかけていた時のようだなと思いながらそう告げると、キャロは徐に顔を上げクリッとした目を零に向けてきた。そんなキャロに苦笑いしながら頭をポンッと軽く叩いた後にクシャクシャと撫でると、それが心地好いのかキャロは気持ち良さ気に目を細め、コクりと小さく零に頷き返した。

 

 

キャロ「そう、ですよね……あの子は私達と一緒に、何度も死線を潜り越えてきた。それを隣でずっと見てきた私があの子を信じないなんて、そんなの可笑しいですよね」

 

 

零「不安がるなっていうのも無理な話だとは思うがな……ただ、それと同じぐらいフリードの力を信頼して欲しいっていうのもある。アイツも掛け替えのない、機動六課のメンバーなんだ……だからアイツの強さを信じて、フリードが早く見付かるのを祈ろう」

 

 

キャロ「……はい……何だか、話したら少し気が楽になりました……ありがとうございます。その、フリードの事も、そんな風に言ってもらえて」

 

 

零「いや、別にそれほど大したことは何も言ってないつもりだが、ちょっとでも力になれたなら幸いだ」

 

 

言いながら、零は酒の瓶を軽く振って中身が空なのを確認すると、軽く息を吐きながらキャロに再び視線を戻した。

 

 

零「まぁ、取りあえず今はやれることをやらないと何も変わらんしな。明日からまたこの世界での役目を探す予定だから、お前ももう寝ろ」

 

 

キャロ「あ、はい……それじゃ、この辺で。話を聞いて頂いて、ありがとうございました。おやすみなさい」

 

 

零「ああ、おやすみ……」

 

 

先程の暗い雰囲気から元気を取り戻したらしい様子で軽く頭を下げるキャロに向けてそう言うと、キャロはそのまま踵を返してフェイト等が眠る部屋へと戻っていった。その少女の背中が見えなくなるまで見届けると、零は額を人差し指で掻きながら軽く息を吐いた。

 

 

零「胸を張って、下ばかり見ないで、か……全く……教え子にあんなこと言ってしまったら、俺も一々下を見れなくなってしまうじゃないか……」

 

 

先程キャロに掛けた言葉。それを思い出しながら自嘲するように笑う零は、左目のレンズを外して因子の力を解放し、紫に輝く両目で月を見上げた。

 

 

零(過去の記憶に振り回されてどうする?それと向き合うことをフェイトの前で誓っただろう……アイツの……リィルの事も……)

 

 

祐輔の世界での暴走の際に自分を救ってくれた少女。破壊者へ堕ち掛けた自分を暗闇の中から導き、仲間達の下へと帰してくれた彼女のことを必ず思い出そうと決めたのだ。ならば、この程度のことで溺れてはいけない。あの記憶がリィルのことを思い出すまでの過程だと思えば、大した苦にはならない。だからあの程度平気だと、自分に言い聞かせるように胸の内で呟いて手の平を見下ろした瞬間……

 

 

 

 

 

―……ビシィッッ!!―

 

 

 

 

 

零の中で、何かが、確かにひび割れるような音が鳴り響いた。

 

 

零(ッ?!!なん、だ……?)

 

 

その音に弾かれるように、零は慌てて顔を上げ思わず辺りを見渡した。しかし、周りの風景は別段何も変化はなく、自分の体を調べてみても何処か異常があるというわけではない。

 

 

零(気のせい?……いかんな……酒が回ってきてるのか?明日もあることだし、今日はもう休むか……)

 

 

どうやら飲み過ぎて幻聴を聞いたらしいと、零は頭を軽く振りながらやれやれと溜め息を漏らし、明日の為に今日はもう休もうと酒の瓶とお猪口を片付けてから自室へと戻っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ピシッ……ピシィッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから翌日。起床した頃には酒もすっかり抜け切っていたようで、身体に不調らしい不調は特に見られなかった。それから普段着に着替えた零が居間に向かうとFWやナンバーズ達の姿はあったが、なのは達の姿が何処にも見当たらなかった。どうやらまだなのは達が起きていないらしく、零は仕方なくなのは等を起こしに彼女達の部屋に向かっていた。

 

 

零「全く、まだ準備に時間が掛かってるのか?それともまだ寝てるのだとしたら、教え子に示しが付かないだろうに」

 

 

ぶつくさと文句を口にしながらも、取りあえず一番近かったはやての部屋の前で立ち止まる零。トントンと一定のリズムで戸を手の甲で叩くと、中の返事を待たないまま戸を開いた。

 

 

零「おいはやて、いつまで寝てる?さっさと起きて準備済ませ―――」

 

 

と、険しげに早く準備を済ませろと促そうとした零の顔が、ピシッと固まった。何故なら零が見つめる先、戸を開けて入った室内の一角では……

 

 

 

 

はやて「…………………」

 

 

 

 

衣服を身に纏ってない下着姿で、ブラのホックを止めようと背中に両手を伸ばす八神はやての姿があったのだった。彼女の傍らには、同室のリインが布団の上で眠りながら何やら良い夢でも見ているのか、幸せそうな表情で何か寝言を呟いている。だが零には彼女を起こす以前に、そちらに意識を向ける余裕すらなかった。戸を開いた手が汗で滲んで顔が引き攣る中、はやてはしばしブルブル震えながら顔を俯かせ……

 

 

はやて「零君……私、前にも何度か言わへんかったかなぁ……?女の子の部屋に入る前には、必ずノックして相手の返事を待ってから入れって……」

 

 

零「……いやぁー……どうだっただろうなぁ……黒月さん、最近歳のせいか物忘れが激しくなってボケ始めてるからなぁ、ハハハハハハハハッ……本当に言ったかっ?」

 

 

はやて「言ったよ。何度も言ったよ……なのに何時も何時も何時も、零君の学習能力の無さと来ればっ……」

 

 

あっ、ヤバい。これ完全に怒ってる。もう目視だけで分かるぐらい怒りのオーラを発しているはやてに零も思わずたじろぎ、傍らで寝ているリインも寝ながらにしてその異常を察したのか、幸せそうな表情から一変して「ふ、ふがぁ?!うぁ?」とビクビク震え出していた……それでも起きないのは大した肝の持ち主だと賞賛に値したいぐらいだ。

 

 

零(だ、だがマズイっ……これは完全に殺る空気だぞっ。どうにかして許してもらうし……か……?)

 

 

この状況の打開策を練っていた零だが、ふとはやての胸の膨らみを見て訝しげに目を細めた。そしてしばしはやての胸をジッと見つめていた零は、突然バッ!と驚愕の表情を浮かべながらその場から後退りし、はやても零のその突然の反応に思わずビックリして怒りのオーラを消した。

 

 

はやて「な、なんや?え?零君?どないしたん?」

 

 

零「ば……馬鹿な……どういう事だっ……?!」

 

 

はやて「な、何がっ?」

 

 

零が余りにもマジなリアクションで驚愕するから怒ろうにも怒れず、はやては逆に恐る恐る零に問い返した。それに対し零は、徐に手を上げて人差し指をはやてに向けながら……

 

 

零「何故だ……何故、お前のソレは其処まで大きくなっとるんだッ?!」

 

 

はやて「…………は?」

 

 

……この男、いきなり何を言ってるのだろう?はやては一瞬そう思いながら零の指先を追って視線を下ろすと……最近大きくなり出した自分の胸が視界に入った。

 

 

零「何だソレはッ?!数日前に見た時は79か80の中間辺りだったはずなのにっ、何故いきなり84なんてサイズに劇的変化を遂げとるんだ?!」

 

 

はやて「え……いや、何故って言われても……なんか可笑しい、かな?」

 

 

零「可笑し過ぎるに決まってる!前から思ってたが何なんだお前等のその有り得ない身体的成長速度は?!なのは然り!フェイト然りカリム然りギンガ然りと、第二次成長期なんてとっくの昔に過ぎとるだろうがっ!どれだけ胸の脂肪を膨らませれば気が済むんだお前等?!」

 

 

はやて「いや……そう言われてもなぁ……」

 

 

零「クソッ、はやてはまだ普通だと思っていたのにっ……大体なのはの奴だって可笑しすぎるんだ、なんだあの胸?最近また妙に成長し出してるし、前屈みすればどれだけ異常なデカさか直ぐに分かるぞ。最早魔王というより、牛魔王ならぬ乳魔王ってところだろうな」

 

 

なのは「にゃははは、誰が牛魔王ならぬ乳魔王?」

 

 

零「お前の事に決まってるだろ?お前の。ま、その内フェイトの奴と並ぶんじゃないか?正にミッドチルダきっての二大(笑)エース―――」

 

 

………………。いや待て。今の独特な笑い声、アレははやての物だったか?いや、彼女はあんな笑い方はしない。あんな笑い方をするのは、自分が知る中でただ一人しかいない筈だ。そう、今自分が話している彼女しか……

 

 

 

 

 

なのは「―――で?話しの続きはないのかな?かな?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

 

 

 

ドバーーッ!と、背筋から大量の冷や汗が噴き出すのが分かった。背後から感じる視線がグサグサと背中を突き刺し、油の切れた機械人形のように声の方に振り向けば……はい、案の定いた。ニコニコ笑顔で微笑む我らが乳魔王様ことなのはと、その背後に頭上に?を浮かべるヴィヴィオとアズサの目を両手で塞ぐフェイト等の姿が。

 

 

なのは「んん?どうしたのかな?もっと聞かせてよ?乳魔王がどーのこーのって、面白そうな話ししてたでしょ♪」

 

 

顔こそ何時ものように笑ってるが、額にはビキィッと怒りの血管マークが浮かび上がっているのが目に見えて直ぐに分かった。無表情の零の額から一筋の汗が伝い、チラリと視線だけ動かして辺りを見れば、フェイトやはやて等はそっぽを向いて見て見ぬフリを貫いている。それで助力は無理だと判断した零は一度深呼吸をし、一気に空気を吐いたあと……

 

 

 

 

ドバァッ!!と何かを蹴る音が響いた。それは黒月零が床を思いっきり蹴った音だった。

 

 

ガシャアァンッ!!という盛大な爆発音が響いた。それはトランスに変身したなのはが床を破壊して愚か者を追撃する音だった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑨

 

禁句ワードを口にした零とそれにより激怒したなのはによる愉快な逃走劇が繰り広げられた後、屋敷の居間では心身と共にボロボロになった零となのは達が居間にやってきて全員で朝食を食べていた。だがその中で、なのはからキツイお灸を据えられた零が両足の間接を摩りながら顔を俯かせて唸り声を上げていた。

 

 

零「ぐぬうぅぅぅぅっ……足の間接が痛むっ……」

 

 

なのは「自業自得でしょ」

 

 

零「ぐっ、確かに全面的に俺が悪いとは思うがっ……だからって拘束して直ぐにジャーマンスープレックスで叩き付けた後に足4の字固めはないだろうっ……」

 

 

なのは「ふぅん……背中からアクセルで蜂の巣にされる方が良かった?」

 

 

零「…………ジャーマンと4の字固めで宜しかった」

 

 

チンク(今一瞬、どっちが良いか迷ったな……)

 

 

ノーヴェ(ま、バスターで肉を焼かれるよりそっちの方がマシだとは思うけどな……)

 

 

一応、なのはの方も無闇に砲撃を使わなかっただけでもマシな方だとは思うがと、そんな二人の様子を横目で覗き見ながら朝食の味噌汁を啜るチンク達。その時、チンク達が飲んでるのと同じ味噌汁を口にした神威が頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げた。

 

 

神威「ん?今日の味噌汁いつもと違うな?」

 

 

シンヤ「そういえば……」

 

 

言われて気付いたというようにシンヤが味噌汁を再び口にしながら頷くと、神威の横に座るノーヴェ(別)がもじもじしながら答えた。

 

 

ノーヴェ(別)「きょ、今日のはアタシが作ったんだ。ま、不味かったか?///」

 

 

神威「そんなことねぇ、美味いよ。また作ってくれ」

 

 

ノーヴェ(別)「おう……///」

 

 

フェイト(……いいなぁ、この世界のノーヴェは……)

 

 

すずか(神威さんも節操があって優しそうだし……それに比べて……)

 

 

神威に頭を撫でられて顔を赤くするノーヴェ(別)から視線を逸らし、フェイトとすずかがチラッと横を覗き見ると、其処にはヴィヴィオの口に付いた汚れをおしぼりで拭き取る零があった。

 

 

零「む……ほれ、取れたぞ」

 

 

ヴィヴィオ「んっ、ありがとうパパ♪」

 

 

零「全く、食べる時は何時も口周りに気をつけろと言ってるだろう?でないと、お前の隣に座っているママにまたお行儀が悪いとキツイお灸を据えられるぞ?」

 

 

なのは「む……ハイハイ、どーせ私は可愛いげもない怖いだけが取り柄の鬼ママですよォーっ」

 

 

零「別に其処まで言っとらんだろうが……お前もいい加減に機嫌治したらどうだ?」

 

 

なのは「人を怒らせた本人が言える台詞じゃないと思いますけど?後、別にもう怒ってなんていませんから」

 

 

零「もう怒っていません、ねえ……本当にそうなら、口に米粒を付けたまま飯を食べ続けるなんて間抜けな格好はせんと思うがな……ほれ」

 

 

―ヒョイッ、パクッ―

 

 

なのは「――ッッッ?!!ちょ、な、何?!何してるのっ?!」

 

 

零「む?なにって、見れば分かるだろう?米粒取ってやったんだ。感謝しろ」

 

 

なのは「そーじゃなくてっ!何でわざわざ取ったそれを食べたりするのっ?!」

 

 

零「?別に問題ないだろう?米は残すもんではないし」

 

 

なのは「だからそうじゃなくてっ……あぁーーもぉーーー……///」

 

 

零「…………ヴィヴィオ。何か俺、間違えたか?」

 

 

ヴィヴィオ「う?」

 

 

カリム「…………」

 

 

―ギュウゥゥゥッ……―

 

 

零「ッッ?!!いっ、ま、痛たたたたたたたたたたたたたたたッ?!ちょ、待てカリム!!なんだ?!何故いきなり膝を摘む?!」

 

 

カリム「あら?可笑しいですねー、さっきまで此処に蚊が止まってたと思ったんですが……ごめんなさい。違ってたみたい♪」

 

 

零「……アレ……何故だ?お前の笑顔の裏からゴゴゴゴゴゴゴッて重たい擬音が聞こえるんだが……」

 

 

フェイト(……神威のアレが少しでも、零に備わってくれたらいいのに……)

 

 

すずか(まぁ、求めるだけ無駄だと思うけど……)

 

 

逆にあの朴念仁がいきなり女性の扱いに手慣れでもしたらそれはそれで不気味なのだが……と、額に怒りマークが浮かび上がるカリムの笑顔に圧されて顔を引き攣る零を見ながら人知れず溜め息を漏らすフェイトとすずかなのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数十分後、零達は朝食を食べ終えた食器の後片付けを行う組の人たちの作業を手伝っていた。まあ手伝いとは言っても、零達はただ自分の食器を運び、写真館の台所組が皿洗いをするという単純な作業なのだが。

 

 

優矢「よっとっ。一応これで最後だな」

 

 

オットー「分かった。後は僕達に任せて」

 

 

セッテ「それにしても、結構な量の食器ですね」

 

 

シャッハ「まぁこれぐらい、何時より多いくらいだと思えば大した量ではありませんよ。早く片付けてしまいましょう?」

 

 

此処の人達や写真館メンバーの人数が人数なので食器もかなり多い訳だが、毎日あれだけの人数の食器を洗っている台所組からすればそれほど大した量にはならない。早く片付けを終わらせてこの世界での役目を捜しに行こうと、シャッハ達が組の人達と共に皿洗いを始めようとした矢先……

 

 

―ドタドタドタドタドタ!ピシャッ!!―

 

 

ジェイル(別)「大変だよ君たち!」

 

 

廊下の方から突然けたたましい足音が近づいてきたと思いきや、一晩庭に埋められていたはずのスカリエッティ(別)が泥まみれの格好で居間に駆け込んできた。

 

 

神威「んだよ?飯ならもうねぇぞ?」

 

 

ジェイル(別)「ご飯はいいんだよ!まぁあとで貰うけども。それより街にミラーモンスターが現れたんだよ!」

 

 

その言葉に、今まで居間に流れていた穏やかな空気が変わって一斉にスカリエッティ(別)へと皆の視線が集まった。それと共に神威、ノーヴェ、ゼスト、ディエチ、シンヤがゆっくりと立ち上がっていき、零はその動きを目で追ってポツリと呟いた。

 

 

零「行くのか」

 

 

神威「おう。お前らはのんびりしてていいぞ?これはこの街を裏から取り仕切るヤクザの俺たちの役目だからな」

 

 

小さく笑いながら居間から出て行こうとする神威だが、零達はその言葉に従わず徐に立ち上がった。

 

 

零「生憎だが、守られるのはどうも苦手な性分でな。俺たちも戦わせてもらう」

 

 

神威「勝手にしろ」

 

 

零「あぁ、勝手にするから気にするな」

 

 

肩を竦めながら笑みと共にそう返すと、神威も口元を緩めながらノーヴェ(別)達と共に居間を後にしていく。そして零、優矢、アズサ、姫、ヴィヴィオやチンクたちもその後を追うように居間から出ていき、なのはも廊下へ出ようとするが……

 

 

キャロ「――なのはさん、待って下さい!」

 

 

なのは「……え?」

 

 

一同が出ていく様子を無言で見送っていたキャロが、突然立ち上がってなのはを呼び止めたのである。それにはなのはだけでなく他の待機メンバーも疑問げに首を傾げるが、キャロはそれに構わずなのはの前にまで駆け寄った。

 

 

なのは「キャロ?どうしたの?」

 

 

キャロ「あ、あの、そのっ……今回の戦い、私に行かせてもらえませんか?!」

 

 

『っ?!』

 

 

戦いに行かせてもらたい。それはつまり、自分が変身してミラーモンスターたちと戦いたいという意味なのだろう。そのキャロからの突然の告白に一同……特にフェイトやエリオは驚き、なのはもそれを聞いて僅かに目を見開き驚いた様子を浮かべていたが、すぐにいつもの様子に戻りキャロと目線を合わせるように膝を折った。

 

 

なのは「……どうしたの?キャロがいきなり、自分の口から戦いなんて言い出すなんて。何かあった?」

 

 

キャロ「……別に、深刻な何かがあるって訳じゃないんです……ただ、私も何か、今の自分に出来ることをやりたくて……」

 

 

なのは「今の自分に出来る、こと?」

 

 

不思議そうに聞き返すと、キャロは胸に手を当てながらコクりと頷き、なのはの目を真っすぐ見据えたまま言葉を紡いだ。

 

 

キャロ「今もああして、零さんや優矢さんたち、ヴィヴィオだって戦ってるのに、私は何も出来なくて……そんなの嫌なんです、守られてばかりは嫌なんです!私も何か、今自分に出来る事をやりたい……あの子もきっと、違う世界の何処かで必死に頑張っているかもしれないのに……私だけ、何もしないでいるなんて嫌なんです!」

 

 

エリオ「……キャロ……」

 

 

キャロの言うあの子が誰を示しているのか分かったのか、物憂い表情でキャロを見つめるエリオ。なのはもそんなキャロの目をしばしジッと見つめると、軽く息を吐き出し、左腕に身につけていたKウォッチを取り外してキャロに差し出した。

 

 

なのは「いいよ、行っておいで」

 

 

キャロ「!」

 

 

フェイト「なのは?!」

 

 

なのは「大丈夫。今のキャロの覚悟は、生半可なものじゃない……正直、キャロやエリオ、ヴィヴィオだって戦わせたくないって思うけど……それを決めるのは私達じゃない。本人がそうしたいって言うなら、私に止める資格なんてないよ。何よりキャロ自身も、それがどれだけ危険なことか、分かった上で言ってるんだから……だよね?」

 

 

キャロ「……はい」

 

 

なのは「ん。でもいくつか注意するけど、絶対無茶はしないこと。ヴィヴィオのことはチンク達に任せてるから一先ず安心だけど……キャロには今フリードがいない。自分の力で戦わないといけない。だからもし限界を感じたら、誰かの手を借りてでも絶対にすぐ戻ること……いい?」

 

 

キャロ「はい!」

 

 

なのは「うん、なら行っておいで」

 

 

キャロの両肩の上に両手を置いて深く頷くと、キャロもKウォッチを胸に当てて力強くなのはに頷き返し、そのまま居間を出て零達の後を追い掛けていった。

 

 

フェイト「……キャロ……大丈夫かな……」

 

 

スバル「です、ね……フリードもいないし……私達も待ってるしか出来ないし……」

 

 

はやて「心配いらへんよ、キャロなら絶対大丈夫や」

 

 

なのは「うん。零君や神威さん達だって付いてるんだし……きっと大丈夫」

 

 

心配そうにキャロの身を案じるフェイトとスバルを宥めるようにそう言うと、なのはとはやては二人の肩を叩いてキャロが出ていった廊下を見つめていくのだった。

 

 

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑨

 

禁句ワードを口にした零とそれにより激怒したなのはによる愉快な逃走劇が繰り広げられた後、屋敷の居間では心身と共にボロボロになった零となのは達が居間にやってきて全員で朝食を食べていた。だがその中で、なのはからキツイお灸を据えられた零が両足の間接を摩りながら顔を俯かせて唸り声を上げていた。

 

 

零「ぐぬうぅぅぅぅっ……足の間接が痛むっ……」

 

 

なのは「自業自得でしょ」

 

 

零「ぐっ、確かに全面的に俺が悪いとは思うがっ……だからって拘束して直ぐにジャーマンスープレックスで叩き付けた後に足4の字固めはないだろうっ……」

 

 

なのは「ふぅん……背中からアクセルで蜂の巣にされる方が良かった?」

 

 

零「…………ジャーマンと4の字固めで宜しかった」

 

 

チンク(今一瞬、どっちが良いか迷ったな……)

 

 

ノーヴェ(ま、バスターで肉を焼かれるよりそっちの方がマシだとは思うけどな……)

 

 

一応、なのはの方も無闇に砲撃を使わなかっただけでもマシな方だとは思うがと、そんな二人の様子を横目で覗き見ながら朝食の味噌汁を啜るチンク達。その時、チンク達が飲んでるのと同じ味噌汁を口にした神威が頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げた。

 

 

神威「ん?今日の味噌汁いつもと違うな?」

 

 

シンヤ「そういえば……」

 

 

言われて気付いたというようにシンヤが味噌汁を再び口にしながら頷くと、神威の横に座るノーヴェ(別)がもじもじしながら答えた。

 

 

ノーヴェ(別)「きょ、今日のはアタシが作ったんだ。ま、不味かったか?///」

 

 

神威「そんなことねぇ、美味いよ。また作ってくれ」

 

 

ノーヴェ(別)「おう……///」

 

 

フェイト(……いいなぁ、この世界のノーヴェは……)

 

 

すずか(神威さんも節操があって優しそうだし……それに比べて……)

 

 

神威に頭を撫でられて顔を赤くするノーヴェ(別)から視線を逸らし、フェイトとすずかがチラッと横を覗き見ると、其処にはヴィヴィオの口に付いた汚れをおしぼりで拭き取る零があった。

 

 

零「む……ほれ、取れたぞ」

 

 

ヴィヴィオ「んっ、ありがとうパパ♪」

 

 

零「全く、食べる時は何時も口周りに気をつけろと言ってるだろう?でないと、お前の隣に座っているママにまたお行儀が悪いとキツイお灸を据えられるぞ?」

 

 

なのは「む……ハイハイ、どーせ私は可愛いげもない怖いだけが取り柄の鬼ママですよォーっ」

 

 

零「別に其処まで言っとらんだろうが……お前もいい加減に機嫌治したらどうだ?」

 

 

なのは「人を怒らせた本人が言える台詞じゃないと思いますけど?後、別にもう怒ってなんていませんから」

 

 

零「もう怒っていません、ねえ……本当にそうなら、口に米粒を付けたまま飯を食べ続けるなんて間抜けな格好はせんと思うがな……ほれ」

 

 

―ヒョイッ、パクッ―

 

 

なのは「――ッッッ?!!ちょ、な、何?!何してるのっ?!」

 

 

零「む?なにって、見れば分かるだろう?米粒取ってやったんだ。感謝しろ」

 

 

なのは「そーじゃなくてっ!何でわざわざ取ったそれを食べたりするのっ?!」

 

 

零「?別に問題ないだろう?米は残すもんではないし」

 

 

なのは「だからそうじゃなくてっ……あぁーーもぉーーー……///」

 

 

零「…………ヴィヴィオ。何か俺、間違えたか?」

 

 

ヴィヴィオ「う?」

 

 

カリム「…………」

 

 

―ギュウゥゥゥッ……―

 

 

零「ッッ?!!いっ、ま、痛たたたたたたたたたたたたたたたッ?!ちょ、待てカリム!!なんだ?!何故いきなり膝を摘む?!」

 

 

カリム「あら?可笑しいですねー、さっきまで此処に蚊が止まってたと思ったんですが……ごめんなさい。違ってたみたい♪」

 

 

零「……アレ……何故だ?お前の笑顔の裏からゴゴゴゴゴゴゴッて重たい擬音が聞こえるんだが……」

 

 

フェイト(……神威のアレが少しでも、零に備わってくれたらいいのに……)

 

 

すずか(まぁ、求めるだけ無駄だと思うけど……)

 

 

逆にあの朴念仁がいきなり女性の扱いに手慣れでもしたらそれはそれで不気味なのだが……と、額に怒りマークが浮かび上がるカリムの笑顔に圧されて顔を引き攣る零を見ながら人知れず溜め息を漏らすフェイトとすずかなのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数十分後、零達は朝食を食べ終えた食器の後片付けを行う組の人たちの作業を手伝っていた。まあ手伝いとは言っても、零達はただ自分の食器を運び、写真館の台所組が皿洗いをするという単純な作業なのだが。

 

 

優矢「よっとっ。一応これで最後だな」

 

 

オットー「分かった。後は僕達に任せて」

 

 

セッテ「それにしても、結構な量の食器ですね」

 

 

シャッハ「まぁこれぐらい、何時より多いくらいだと思えば大した量ではありませんよ。早く片付けてしまいましょう?」

 

 

此処の人達や写真館メンバーの人数が人数なので食器もかなり多い訳だが、毎日あれだけの人数の食器を洗っている台所組からすればそれほど大した量にはならない。早く片付けを終わらせてこの世界での役目を捜しに行こうと、シャッハ達が組の人達と共に皿洗いを始めようとした矢先……

 

 

―ドタドタドタドタドタ!ピシャッ!!―

 

 

ジェイル(別)「大変だよ君たち!」

 

 

廊下の方から突然けたたましい足音が近づいてきたと思いきや、一晩庭に埋められていたはずのスカリエッティ(別)が泥まみれの格好で居間に駆け込んできた。

 

 

神威「んだよ?飯ならもうねぇぞ?」

 

 

ジェイル(別)「ご飯はいいんだよ!まぁあとで貰うけども。それより街にミラーモンスターが現れたんだよ!」

 

 

その言葉に、今まで居間に流れていた穏やかな空気が変わって一斉にスカリエッティ(別)へと皆の視線が集まった。それと共に神威、ノーヴェ、ゼスト、ディエチ、シンヤがゆっくりと立ち上がっていき、零はその動きを目で追ってポツリと呟いた。

 

 

零「行くのか」

 

 

神威「おう。お前らはのんびりしてていいぞ?これはこの街を裏から取り仕切るヤクザの俺たちの役目だからな」

 

 

小さく笑いながら居間から出て行こうとする神威だが、零達はその言葉に従わず徐に立ち上がった。

 

 

零「生憎だが、守られるのはどうも苦手な性分でな。俺たちも戦わせてもらう」

 

 

神威「勝手にしろ」

 

 

零「あぁ、勝手にするから気にするな」

 

 

肩を竦めながら笑みと共にそう返すと、神威も口元を緩めながらノーヴェ(別)達と共に居間を後にしていく。そして零、優矢、アズサ、姫、ヴィヴィオやチンクたちもその後を追うように居間から出ていき、なのはも廊下へ出ようとするが……

 

 

キャロ「――なのはさん、待って下さい!」

 

 

なのは「……え?」

 

 

一同が出ていく様子を無言で見送っていたキャロが、突然立ち上がってなのはを呼び止めたのである。それにはなのはだけでなく他の待機メンバーも疑問げに首を傾げるが、キャロはそれに構わずなのはの前にまで駆け寄った。

 

 

なのは「キャロ?どうしたの?」

 

 

キャロ「あ、あの、そのっ……今回の戦い、私に行かせてもらえませんか?!」

 

 

『っ?!』

 

 

戦いに行かせてもらたい。それはつまり、自分が変身してミラーモンスターたちと戦いたいという意味なのだろう。そのキャロからの突然の告白に一同……特にフェイトやエリオは驚き、なのはもそれを聞いて僅かに目を見開き驚いた様子を浮かべていたが、すぐにいつもの様子に戻りキャロと目線を合わせるように膝を折った。

 

 

なのは「……どうしたの?キャロがいきなり、自分の口から戦いなんて言い出すなんて。何かあった?」

 

 

キャロ「……別に、深刻な何かがあるって訳じゃないんです……ただ、私も何か、今の自分に出来ることをやりたくて……」

 

 

なのは「今の自分に出来る、こと?」

 

 

不思議そうに聞き返すと、キャロは胸に手を当てながらコクりと頷き、なのはの目を真っすぐ見据えたまま言葉を紡いだ。

 

 

キャロ「今もああして、零さんや優矢さんたち、ヴィヴィオだって戦ってるのに、私は何も出来なくて……そんなの嫌なんです、守られてばかりは嫌なんです!私も何か、今自分に出来る事をやりたい……あの子もきっと、違う世界の何処かで必死に頑張っているかもしれないのに……私だけ、何もしないでいるなんて嫌なんです!」

 

 

エリオ「……キャロ……」

 

 

キャロの言うあの子が誰を示しているのか分かったのか、物憂い表情でキャロを見つめるエリオ。なのはもそんなキャロの目をしばしジッと見つめると、軽く息を吐き出し、左腕に身につけていたKウォッチを取り外してキャロに差し出した。

 

 

なのは「いいよ、行っておいで」

 

 

キャロ「!」

 

 

フェイト「なのは?!」

 

 

なのは「大丈夫。今のキャロの覚悟は、生半可なものじゃない……正直、キャロやエリオ、ヴィヴィオだって戦わせたくないって思うけど……それを決めるのは私達じゃない。本人がそうしたいって言うなら、私に止める資格なんてないよ。何よりキャロ自身も、それがどれだけ危険なことか、分かった上で言ってるんだから……だよね?」

 

 

キャロ「……はい」

 

 

なのは「ん。でもいくつか注意するけど、絶対無茶はしないこと。ヴィヴィオのことはチンク達に任せてるから一先ず安心だけど……キャロには今フリードがいない。自分の力で戦わないといけない。だからもし限界を感じたら、誰かの手を借りてでも絶対にすぐ戻ること……いい?」

 

 

キャロ「はい!」

 

 

なのは「うん、なら行っておいで」

 

 

キャロの両肩の上に両手を置いて深く頷くと、キャロもKウォッチを胸に当てて力強くなのはに頷き返し、そのまま居間を出て零達の後を追い掛けていった。

 

 

フェイト「……キャロ……大丈夫かな……」

 

 

スバル「です、ね……フリードもいないし……私達も待ってるしか出来ないし……」

 

 

はやて「心配いらへんよ、キャロなら絶対大丈夫や」

 

 

なのは「うん。零君や神威さん達だって付いてるんだし……きっと大丈夫」

 

 

心配そうにキャロの身を案じるフェイトとスバルを宥めるようにそう言うと、なのはとはやては二人の肩を叩いてキャロが出ていった廊下を見つめていくのだった。

 

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑩

 

 

屋敷を出て数十分後。零と神威達がミラーモンスターが現れた地区に駆けつけると、そこには今も尚ミラーワールドから出現する大量のシアゴーストが民間人を襲う光景が広がっており、零と神威達はすぐに民間人を襲うシアゴーストたちを殴り飛ばして民間人を避難させていく。

 

 

優矢「クッソッ、なんて数だよコレ?!オリャッ!」

 

 

ノーヴェ(別)「しかもまだまだ出てくるみてぇだな。ちっ、うざってぇ連中だ」

 

 

神威「だな。まぁ、さっさと終わらせればいい」

 

 

ある程度民間人を避難させたのを確認すると神威が零に視線を送り、零もそれを理解すると相手をしていたシアゴーストを殴ってそれぞれ変身しようとする。だがそれと同時に突如歪みの壁が目前に現れ、そこから鳴滝が険しい顔つきで現れた。

 

 

零「?!鳴滝?!」

 

 

アズサ「どうして……ここに……?」

 

 

突如目の前に立ちはだかった鳴滝に零とアズサは驚くも、すぐに警戒心を固めて身構える。鳴滝はそんな零の姿を見て更に顔を険しくさせると、キッと神威を睨みつけた。

 

 

鳴滝「司狼神威、これはどういうことだ?なぜディケイドを倒さない!?」

 

 

神威「おいおい、俺はディケイドと戦うと言ったが倒すとは一言も言ってないぜ?そっちが勝手に勘違いしたんだろ?」

 

 

鳴滝「貴様、それでいいのか!?ディケイドはいずれ全てを破壊する!なぜこの世界を護ろうとしないのだ!?」

 

 

声を荒げて神威を責め立てる鳴滝だが、神威はそれに対し飄々とこう答えた。

 

 

神威「別に。俺は……俺達は世界に為に戦ってるわけじゃない。俺たちは自分の願いの為に戦う。それだけだ」

 

 

零(……成る程……これが神威の……いや、コイツ等の戦いという訳か……)

 

 

断言するようにキッパリと言い放った神威。その答えに鳴滝も思わず押し黙り、神威達はそれを無視してそれぞれカードデッキを取り出すと近くの鏡に翳してVバックルを腰に装着し、零と優矢、アズサと姫、ヴィヴィオもそれぞれベルトを巻き変身の体勢に入った。

 

 

『変身ッ!』

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『Cord…Set Up!』

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

『READY!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

鳴り響く電子音声と共にそれぞれディケイド、クウガ、シュロウガ、イクサF、ナンバーズ、シリウス、龍騎、ナイト、ゾルダ、オルタナティブ・ゼロへと変身を完了し、一同はそれぞれ身構えシアゴーストの群れに向かっていった。

 

 

鳴滝「く、こうなれば……グッ?!」

 

 

「やめておけ」

 

 

最早神威の手は借りないと自ら行動を起こそうとする鳴滝だが、それは背後から伸びた金色の鎖のような物に首を絡めれ取られ阻止された。鳴滝は突如首に巻き付いた金色の鎖に驚愕しながら背後を振り向くと……

 

 

鳴滝「キサ、マッ……神崎士郎?!」

 

 

鳴滝の視線の先には車の窓ガラスに映った一人の青年と一体のミラーモンスター……神崎士郎と神崎に従う、ガルドサンダーが鳴滝を捕らえていた。

 

 

鳴滝「な、なぜだ!なぜディケイドを倒さない?!そうしなければ世界が滅びるぞ!」

 

 

神崎「その理由は神威が語ったはずだ。そもそもミラーライダーは他のライダーとは生まれた理由が違う」

 

 

鳴滝「なん……だと?」

 

 

神崎「他のライダーは人々を救うために生み出された。だが、ミラーライダーは俺が優衣を助けたいという願いからライダーバトルのために生み出した。言わば、俺の欲望から生まれた存在だ。そして、かつてライダーバトルに参加した者たちも。そして神威たちにも正義などありはしない。あるのは欲望という名の純粋な願いだけだ。そしてその願いはお前程度に利用できるものではない。たとえ何度世界が滅びると言ってもあいつらはディケイドとは戦わないだろう」

 

 

鳴滝「ならばどうする!?ディケイドが破壊者としてなったら!?」

 

 

神崎「そのときは今度こそ神威たちはディケイドと戦うだろうな。自分たちの願いのために。覚えておけ。ミラーライダーは人々のために戦うライダーではない。自分自身の願いのために戦うのがミラーライダーだ」

 

 

神崎が鋭い視線を向けながらそう言い切ると、鳴滝はガルドサンダーから開放され、鳴滝は首を摩りながら悔しげに神崎を睨みつけて歪みの壁の向こうに消えていった。

 

 

―ガギィンッ!ズガガガガガガガガガガガガァッ!!バキイィッ!!―

 

 

クウガ『だぁーーもう!!多過ぎだろコイツ等ァ?!どんだけ湧いて来んだよッ?!』

 

 

オルタナティブ・ゼロ『ぼやいてる暇なんかねぇッスよ!口より先に手を動かして下さい!』

 

 

ナイト(ゼスト)『連携も何もないただの烏合の衆だが、こうも数が多いのも……なッ!』

 

 

イクサF『ふむ……』

 

 

襲われる民間人を救出しながら少しずつシアゴーストたちの数を減らしていこうとするも、まるでライダーたちの勢いを押し返そうとするかのように鏡の中から続々とシアゴーストの群れが飛び出してくる。それを見て間合いを計り治そうとクウガとオルタナティブ・ゼロとナイトが後ろへ下がろうとするが、それを弱気と受け取ったイクサFは無造作に最前線へと一歩踏み出して……

 

 

イクサF『うわー。このままではミラーモンスターのケダモノ共にさらわれて死ぬほどレイプされまくるー』

 

 

『ッッ?!!』

 

 

こうなってしまうと、悲しきかな男と騎士は意地でも下がれない。後ろへ下がろうとした足を踏み止めて拳と剣を振るい、かろうじてイクサFがシアゴーストの群れに呑みこまれるのを防いでいった。

 

 

オルタナティブ・ゼロ『ちょっとォォォォォォ?!!アンタ一体なにしちゃってくれてんスかァ?!!』

 

 

イクサF『それはこちらの台詞だ。まったく、戦いの場で出し惜しみなどするな。最初っからそれぐらいの勢いで戦ってれば良かったのだ』

 

 

クウガ『零ィィィィィィィィィィィィッ!!!今すぐこの人の尻を引っ叩く許可をくれェ!!!今すぐだァ!!!』

 

 

ディケイド(……何やってんだアイツ等……)

 

 

クウガの悲痛な叫びが何処からか響き渡るが、生憎シアゴーストの群れに挟まれているせいで姿までは確認出来ない。なので此処は敢えて無視しようと、ディケイドはクウガの叫びには答えず黙ってシアゴーストを殴り飛ばしていく。其処へ……

 

 

キャロ「ハァ、ハァ…あ、もう始まってる……」

 

 

ディケイド達を追いかけてきたキャロがその場に駆け付け、呼吸を整えながら既に始まった戦いを眺めるとなのはから預かったKウォッチを見下ろしていく。

 

 

キャロ(今の私に出来ること……フリードもきっと、違う世界の何処かで頑張ってるんだ。だから私も、今やれることを!)

 

 

心の中で決意を改めると、キャロは左腕にKウォッチを巻いて操作し、画面に浮かび上がったエンブレムをタッチした。

 

 

『RIDER SOUL FRIED!』

 

 

Kウォッチから電子音声が鳴り響くと、キャロの右手と腰が光に包まれて輝いていく。そして光りが徐々に治まっていくと、キャロの腰には神威達が装着してるのと同じVバックル。右手にはレリーフの無いカードデッキが握られていた。

 

 

キャロ「?これ……もしかして神威さんたちと同じ、ミラーライダーのデッキ?だとすると……」

 

 

ディケイド『でぇあ!……ッ?!キャロ?なんで此処に?!』

 

 

キャロが右手と腰に現れたVバックルとカードデッキをまじまじと見つめる中、シアゴースト達を撃退していたディケイドがキャロの姿を見付けて驚愕し、その声を聞いたキャロはハッと我に返り慌てて目の前を見た。

 

 

キャロ「れ、零さん!私も援護します!変身ッ!」

 

 

―カシャンッ!―

 

 

キャロが右手に持つカードデッキをVバックルのバックル部分へと装填すると、鏡が割れるような音と共に何処からか現れた無数のシルエットがキャロに重なるように集まり、キバの世界のワタルと同じように身長が伸び違う姿へと変化していった。その姿は……

 

 

ディケイド『――な……』

 

 

シリウス『オイオイ……なんだありゃ?』

 

 

キャロが変化したその姿を見て、ディケイドとシリウスの声がその場に響いた。だがその声音は驚きというよりも、何処か肩透かしを食らったかのような感じだった。何故なら……

 

 

 

 

『――これが……私の仮面ライダー……?』

 

 

 

 

何故ならキャロが変身したその姿は、あまりにも貧弱な姿だったからだ。外見は龍騎に酷似してるが、全体の体色が黒く、装甲や左腕に装備しているバイザーにも全く言っていいほど意匠が無い。キャロが変身したその姿は、どちらかと言えば龍騎・ブランク体に近い姿……『仮面ライダーフリード・ブランク体』へ変身していたのであった。

 

 

龍騎(ノーヴェ)『おいおい、んだよアレ?増援かと思えばブランク体って……』

 

 

クウガ『ど、どういうことだ?何でキャロだけあんな?!』

 

 

シュロウガ『……駄目……スペックもシアゴーストの半分以下しかない……アレじゃ……!』

 

 

フリードB『え、えと……ミラーライダーの戦い方は確か、こう?』

 

 

キャロが変身したブランク体のフリードを見て一同が落胆と戸惑いの反応を浮かべる中、フリードはそれに気付かないままミラーライダーの戦い方を思い出しながら戸惑いがちにバックル部分のデッキからカードを一枚抜き取り、それを左腕に装備したライドバイザーに装填しベントインした。

 

 

『SWORD VENT!』

 

 

バイザーからの電子音と共に、フリードの真横の鏡の中から一本の素朴な剣……ライドセイバーが飛び出しフリードの手に握られた。

 

 

フリードB『わっ、で、出た……よし……!』

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

ディケイド『まずい……!待てキャロ!!違うっ!!それはっ!!』

 

 

ライドセイバーを強く握り締め、目前から迫って来るシアゴーストの大群を見据えるフリードを止めようとするディケイドだが、周りのシアゴーストが邪魔して思うように進めずにいた。そして、フリードは気迫を込めた掛け声と共にライドセイバーを握り締めながら一気にその場から駆け出し、群れの最前線に立つシアゴーストへと勢いよくライドセイバーを振りかざしていった。が……

 

 

―……バリィンッ!!―

 

 

フリードB『…ッ?!お、折れたァ?!―バキィッ!―キャアァッ?!』

 

 

クウガ『ッ?!キャロォッ!!』

 

 

なんと、シアゴーストの右肩に向けてライドセイバーを振りかざした瞬間、ライドセイバーの刀身が面白いぐらいに真っ二つに折れてしまったのだ。それを見たフリードは思わず驚愕してしまうも、シアゴーストの反撃を受け殴り飛ばされてしまい、更にその周りへとシアゴースト達が集まってフリードを包囲しようとしていた。

 

 

ディケイド『クッソッ…!ヴィヴィオ!!木ノ花!!キャロのフォローに回れっ!!』

 

 

ナンバーズ『わ、分かった!』

 

 

イクサF『チィ!一体何がどうなってるんだっ?!』

 

 

ゾルダ(ディエチ)『ッ!援護は私がする!早くあの子の救援を!』

 

 

『SHOOT VENT!』

 

 

ゾルダがバイザーにカードをベントインしたと共に、鏡の中からギガキャノンが飛び出しゾルダの両肩へと装着された。そしてゾルダがギガキャノンを発砲してシアゴーストの大群を吹き飛ばすと道が開かれ、ナンバーズとイクサFはその道を経由しフリードの下へと急いで向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

―キイィィィィィィン……キイィィィィィン……―

 

 

『……グルルッ……』

 

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑪

 

 

―ギガァンッ!ギガァンッ!バキャアァッ!―

 

 

フリードB『アウッ!うっ、くぅっ!!』

 

 

街中の至る所に存在する鏡から絶えず飛び出して出現するシアゴースト達により、ライダー達が戦う戦場は混戦となっていた。その戦いの場へとフリードに変身して参戦したキャロだが、ブランク体のスペックではシアゴースト達とまともに戦える筈もなく、弱い相手を先に潰そうと集中的に狙ってくるシアゴースト達の猛攻に圧されされるがままになっていた。

 

 

龍騎(ノーヴェ)『ラァッ!ッ!おい!お前等んとこのキャロがヤベェ事になってんぞ?!』

 

 

イクサF『クッ!キャロ!コレを使え!』

 

 

―ブンッ!―

 

 

フリードB『ッ!は、はい!ヤァッ!』

 

 

―ガキィンッ!!―

 

 

『ウェアッ?!』

 

 

シアゴーストの攻撃を退けながらイクサFが咄嗟に投げ渡したイクサカリバーを両手でキャッチし、野球のバットを振り回すようにがむしゃらにイクサカリバーを振るいシアゴースト達を斬り付けるフリード。武器をフリードに渡したイクサFは空手のまま一体のシアゴーストをブルドッグで地面に叩き付け、その近くで戦うナンバーズもキレのある回し蹴りでシアゴーストを蹴り飛ばすとバックルのKナンバーを開き、12の番号を押した後にエンターキーを押した。

 

 

『SAMON!DEED!』

 

 

ナンバーズ『ディードお願い!手伝って!』

 

 

『Set Up!』

 

 

電子音声と共にナンバーズの隣にディードが実体化して姿を現していき、両手の双剣を構えながら迫り来るシアゴーストの大群を次々と斬り捨てていく。それに続くようにナンバーズも向かってくるシアゴースト達を退けながら突進していき、ディケイドもライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

―ズガガガガガガァッ!!チュドオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ウゥ、ウゥ、ウゥ』

 

 

ディケイド『チィ!キリがないぞコイツ等……!』

 

 

シリウス『ったく、こっちは早く終わらせてぇってのに……ん?……まずいな』

 

 

まだまだ数を増やしていくシアゴーストの大群を見て思わず毒づくディケイドとシリウスだが、その時シアゴーストの何体かが地面にうずくまっている姿を見付けて顔をしかめた。するとその直後、地面にうずくまるシアゴースト達の背中が割れ、中からレイドラグーン達が姿を現し上空へ飛翔し始めた。

 

 

シリウス『ちっ!こんな時に脱皮しやがったか!』

 

 

ディケイド『キャロ!お前は下がれ!その姿じゃ奴らの相手は無理だ!』

 

 

フリードB『ッ?!で、でも!「……うっ……ひっぐっ……」……え?』

 

 

今のブランク体のフリードではレイドラグーンに太刀打ちなど出来ない。急いで戦線から下がるように呼び掛けたディケイドにフリードが何かを叫ぼうとするも、不意に背後から泣き声が聞こえて思わず振り返った。其処には……

 

 

「ひぐっ……うっ……怖いよぉっ……」

 

 

フリードB(ッ!民間人?まさか、逃げ遅れたの?!)

 

 

フリード達からは見えない位置の物陰。其処に民間人と思われる女の子が、身を隠しながら泣きじゃくる姿があったのだ。それに気付いたフリードは慌てて女の子の救援に向かおうとするも、上空から急降下してきたレイドラグーンの放った槍の突きを背中に受け、女の子の下まで大きく吹っ飛ばされてしまった。

 

 

クウガ『ッ?!キャロ?!』

 

 

フリードB『ぅっ……は、早く……こっちへっ……』

 

 

背中に受けた傷がズキンと痛みながらも、フリードはふらつきながら何とか上体だけ起こさせて女の子に手を伸ばしていく。女の子は恐怖のせいか周りの状況が見えてないらしくフリードに気付かないまま泣き続けており、フリードはそんな女の子を体ごと抱き寄せるが、直後に背後から数体のシアゴーストがフリードの背中にしがみついてきた。

 

 

「キャアァァッ?!!」

 

 

フリードB『くぅっ!ア、アズサさんッ!!!』

 

 

シュロウガ『ッ!』

 

 

数体のシアゴーストたちに背中にしがみつかれながらも、フリードは近くで戦うシュロウガに向けて女の子を走らせた。シュロウガはそれを見て直ぐさま周囲のシアゴーストを斬り飛ばし女の子を保護するが、それと同時にフリードの元へと三体のレイドラグーンたちが飛来して次々と槍で斬り付けていき、そして……

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

フリードB『うあぁぁぁッ!!!』

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

シュロウガ『キャロッ!』

 

 

レイドラグーンの放った槍の突きが炸裂し、フリードの身体が砲弾のように吹き飛び近くの廃墟の壁を突き破って建物の中へと転がり込んでしまった。その穴を通ってレイドラグーン達が槍を突き付けながら徐々に倒れるフリードへと近づいていくが、フリードは全身にビリビリと痺れるような痛みが走って体が言う事を聞いてくれず、立ち上がることすらままならない。

 

 

フリードB(っ……立たなきゃ……立って……戦わなきゃ……!)

 

 

動かない身体。フリードはそれを無理矢理起こそうと全身に力を込めながら勢いのまま立ち上がり、ふらつきながら拳を振り上げレイドラグーンたちと戦おうとする。だが、レイドラグーンたちはそんなフリードを嘲笑うが如く槍を振るって何度もフリードのボディを斬り付けていき、トドメに再び突きを放ちフリードを廃墟の奥へと吹っ飛ばしてしまった。

 

 

フリードB『ウアッ!う、ゲホッ、ゲホッゲホッ……まだ……決めたんだから……今の自分に出来ることを……やろうってっ……!』

 

 

体中土だらけになり、蓄積されたダメージでふらつきながらも、フリードは血が伝う唇を噛み締め再び起き上がろうと腕に力を込めていく。だが、地面を掴んだ腕に思うように力が入らず再び倒れ込んでしまい、フリードは仮面の奥で苦痛の表情を受かべた。

 

 

フリードB『ッ……あの子を……あの子とまた会う為にも、私も守るって決めたっ……戦うって決めたっ……だからっ……!』

 

 

『ブウゥンッ!!』

 

 

あれだけ痛め付けても未だ倒れようとしないフリードに業を煮やしたのか、レイドラグーン達は槍を構え直し一気にトドメを刺すべくフリードへと駆け出した。それを見たフリードも咄嗟に起き上がろうとするも、ダメージのせいか思うように立ち上がれず再び倒れ込んでしまい、その間にレイドラグーンの振りかざした槍が頭上から振り下ろされた。

 

 

フリードB(ぁ……フリー……ド……)

 

 

頭上から無慈悲にも振り下ろされた槍。それを避けるだけの余裕は最早残されておらず、フリードは呆然と自分に向けて振り下ろされる槍を見つめて此処までなのだと悟り、顔を俯かせて心の中でフリードや零達に謝罪しながらゆっくりと瞼を閉じていった……

 

 

 

 

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

『グルァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

 

―ドグオォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!―

 

 

『ブウンッ?!!』

 

 

フリードB『……ぇ……?』

 

 

 

 

 

 

直後、ゴッ!!という轟音がフリードの目の前から響いた。そのことに気付いてフリードが呆然と目の前に視線を戻した時には、先程まで目前にいたはずのレイドラグーン達が何故か壁に叩き付けられて地面に倒れており、目の前には、巨大な白い尻尾をユラリと揺らしレイドラグーン達に威嚇する巨大な白いモンスターがいた。

 

 

フリードB『ッ!貴方……は……』

 

 

『グルルルッ……』

 

 

巨大な白い翼を特徴としたメタリックな白いボディに赤い瞳、ドラゴンを彷彿とさせる神々しい姿。何処となく龍騎の契約モンスターであるドラグレッダーと同じ意匠が所々に見られるその謎のモンスターからは、とてつもない殺気と威圧感が放たれている。しかし、フリードはそんな謎のモンスターを間近で見ても不思議と恐怖心は沸き上がらず、それどころか懐かしさと頼もしさを感じていた。

 

 

フリードB『……貴方……まさか……』

 

 

『グウゥゥゥッ……ガアァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!』

 

 

何かに気付いたかのようにフリードが謎のモンスターに声を掛けようとするが、謎のモンスターは建物の穴の方から次々となだれ込んでくるシアゴーストの大群を睨みつけて爆音のような雄叫びを上げ、シアゴーストの大群目掛けて勢いよく突進していったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!―

 

 

シリウス『ッ?!』

 

 

龍騎『な、何だ?!』

 

 

その一方、レイドラグーン達により廃墟へと吹っ飛ばされてしまったフリードの救援に向かおうとしていた一同の目の前で、フリードが吹っ飛ばされた廃墟から突如爆発が発生した。突然のそれに驚愕し思わず動きを止めてしまうライダー達だが、次の瞬間、廃墟から発生した黒煙の中からシアゴースト達が勢いよく吹っ飛ばされ向かいのビルの壁に叩き付けられていき、更に廃墟の中からズシンッという重たい振動と共に巨大な白いモンスターが現れた。

 

 

ディケイド『!あれは……?』

 

 

クウガ『デ、デカァッ?!何じゃありゃッ?!』

 

 

シュロウガ『龍……?違う……ドラゴン?』

 

 

イクサF『まさか、此処に来て新手か?もしそうならご遠慮願いたいんだがっ』

 

 

オルタナティブ・ゼロ『そうも言ってらんないと思いますけどねぇ。ほら、何かこっち向いて来てるしっ!』

 

 

オルタナティブ・ゼロの言う通り、シアゴースト達を荒々しく蹴散らしていた謎のモンスターはライダー達の存在に気づきゆっくりと一同の方へと振り返った。その謎のモンスターから発せられる威圧感のような物にライダー達も思わずたじろいでしまうも、先手必勝を狙いゾルダは両肩のギガキャノンを、シュロウガは剣を構えて謎のモンスターに挑もうとした。その直後……

 

 

『―――ま、待って下さいっ!!!』

 

 

『……え?』

 

 

バッ!!と、突如謎のモンスターを庇うように両手を広げて何者かが立ち塞がった。それを見て、謎のモンスターに攻撃を仕掛けようとしたシュロウガとゾルダも動きを止めて呆然とその人物……土埃や傷でボディの所々がボロボロになったフリードを見つめた。

 

 

イクサF『キャロ……?』

 

 

フリードB『お願いしますっ、この子を……この子を傷付けないで下さいっ!』

 

 

クウガ『な、何言ってんだよ?!そいつはミラーモンスターだぞ?!』

 

 

フリードB『いいえ、大丈夫……大丈夫ですから……だから此処は、私に任せて下さい……お願いします!』

 

 

ディケイド『…………』

 

 

何故か必死に謎のモンスターを庇い立てるフリード。そんなフリードにクウガ達は困惑してしまうが、ディケイドやシリウスは何か思うところがあるのか、無言のまま謎のモンスターの顔を見つめている。フリードはそんな一同から攻撃の意思がなくなった事を確かめると、何処かライダーたちに対して警戒する背後の謎のモンスターへと体ごと振り返った。

 

 

フリードB『大丈夫だよ?この人達は味方だから……貴方を傷付けたりしない。だから、そう警戒しないで?』

 

 

『……グウゥッ……』

 

 

優しく呼び掛けるフリードの言葉を理解したのか、謎のモンスターは少し戸惑いながらもライダーたちへの警戒心を解いてゆっくりとフリードへと頭を近づけていき、フリードはその頭の上に右手を置いて優しく撫でていく。

 

 

フリードB『――この感じ……うん……やっぱり、お前だったんだね

 

 

 

 

…………"フリード"』

 

 

『……えっ?!』

 

 

ナンバーズ『ふ、フリードって……』

 

 

ディード「まさか、あのミラーモンスターが……?」

 

 

ディケイド(……やはり、そうだったか……)

 

 

フリードが謎のモンスターに対して向けた名前。その名を聞いた龍騎達は驚愕の声を上げながらフリードが頭を撫でる謎のモンスター……キャロの使役竜である"フリードリヒ"に目を向けていき、フリードは仮面の奥で目頭を熱くさせながらフリードリヒの頭部に顔をくっつけた。

 

 

フリードB『最初は全然姿が違ってて、すこし驚いたけど……すぐにお前だって分かった……お前も、この世界に来てたんだね……』

 

 

『……キュクルルッ……』

 

 

フリードB『ごめんね……直ぐに気付いてあげられなくて……直ぐに探してやれなくて……ホントにごめんねっ……』

 

 

ディケイド『キャロ……』

 

 

フリードリヒがこの世界に飛ばされていた事に気付いてやれなかったことに対し、フリードリヒの頭部に顔を押し付けて涙ながら謝るフリード。その様子を静かに見守っていた一同だが、その時再び鏡の中からシアゴーストの大群が飛び出し一同へと襲い掛かり、ディケイド達は直ぐさまそれに応戦しながらフリードに向けて呼び掛けた。

 

 

ディケイド『クッ!キャロ!契約だ!今すぐフリードと契約するんだ!』

 

 

フリードB『え……?け、契約って?』

 

 

シリウス『お前のデッキの中に『CONTRACT』ってカードがあるはずだ!ソイツを使ってフリードと契約しろ!それでお前のライダーが真の力を発揮する筈だ!』

 

 

フリードB『は…はいっ!』

 

 

シアゴーストたちを蹴散らしながら契約について説明するディケイドとシリウスの助言を聞き、フリードは慌ててバックル部のカードデッキからカードを一枚抜き取った。そのカードにはシリウスが言っていた通り『CONTRACT』と描かれており、フリードは暫くそれを見つめた後、フリードリヒを不安げに見上げた。

 

 

フリードB『……フリード……今更、こんな事を言うなんて虫が良すぎるかもしれない……お前が傍にいたのに……私は全然気付いてあげられなかった……』

 

 

胸の内から沸き上がるのは、フリードリヒに対しての罪悪感。恐らく自分たちがこの世界に訪れた時から、フリードリヒは自分たちの傍にいたのかもしれない。でなければ、先程レイドラグーンにやられそうになった時にあんなタイミング良く助けにきてくれる筈がない。『CONTRACT』のカードを胸に当てながらポツポツとフリードリヒに向けて語ると、フリードはおもむろにフリードリヒに左手を伸ばしていく。

 

 

フリードB『でももし……もし許してくれるなら……また一緒に、私と戦ってくれる……?』

 

 

不安の篭った問い掛けと共に伸ばされた手。フリードリヒはそんなフリードを見つめたあと、ジッと自分に伸ばされた左手をしばし見つめ…………ゆっくりと、その手に自分の頭を当てていった。

 

 

フリードB『―――ありがとう……行くよ、フリード!!』

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!』

 

 

その呼び掛けに応えるように、白い翼を大きく広げて大地を揺るがすような雄叫びを上げるフリードリヒ。それを見たフリードも笑みを浮かべて力強く頷くと、フリードリヒから数歩離れ、『CONTRACT』のカードをフリードリヒに翳していく。それと同時に……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥッ……シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

 

 

 

フリードとフリードリヒの間にまばゆい光りが生じ、辺り一帯が白い光りに呑み込まれていったのだった。その光りの余りの眩しさにディケイド達は思わず腕で顔を隠し、シアゴースト達も視界をやられ次々と怯んでいく。そしてその光りが徐々に晴れていき、ディケイド達が構えを解き再びフリードに視線を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

ディケイド『!キャロ……』

 

 

 

 

 

其処にはフリードリヒの姿はなく一人のライダー……ボディの所々にフリードの意匠が施された白とピンクのアーマーを纏い、左腕のバイザーや仮面がフリードリヒの頭を模した姿をした赤い複眼の戦士、フリードリヒと契約を交わした事で真の力を得た『仮面ライダーフリード』の姿が其処にあったのだった。

 

 

クウガ『あ、あれが……キャロのホントの仮面ライダー?』

 

 

シリウス『どうやら、契約に成功したみたいだな』

 

 

ゴキッ!と、ヘッドロックを掛けていたシアゴーストの首をへし折りながらシリウスが姿を変えたフリードを見てそう呟くと、数体のシアゴースト達がフリードに標的を定め襲い掛かっていく。だがフリードは冷静にシアゴースト達の攻撃を退けながら後退し、バックル部のデッキからカードを一枚取り出して左腕に装備したバイザー……フリードバイザーに装填しベントインした。

 

 

『WING VENT!』

 

 

鳴り響く電子音声と共に、真横の鏡の中からフリードの翼を模した巨大な二枚の白翼……フリードウィングが飛び出しフリードの背中へと装着されていった。そしてフリードは背中の翼を外側へと大きく広げるように展開すると、大声でディケイド達に呼び掛けた。

 

 

フリード『皆さん!危ないから避けて下さい!』

 

 

『ッ!』

 

 

一同に向けて、その場から退避するように呼び掛けるフリード。それを聞いた一同はフリードが何をしようとしているのか分からないままとにかく言われた通りに左右へと散開し、一同が射線上から引いたのを確認したフリードは左右の翼に無数の光の粒子を蓄積して力を蓄えていき、そして……

 

 

フリード『シューティング……レイッ!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……ドババババババババババババババババババババババババババババババババババババババァッ!!!!―

 

 

『ウ、ウエアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァッ?!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

フリードの声に応えるかのように、二枚の翼から無数の光弾が一斉掃射された。放たれた光弾の一つ一つが正確にシアゴーストたちの急所を貫いていき、更にはそれら一つ一つに誘導操作が備わっているのか、標的から外れたと思われた光弾は不自然な動きでUターンすると何処かへ逃けようとするシアゴーストの背中を背後から貫通していく。そしてフリードが光弾の発射を停止したと同時に大半のシアゴースト達が断末魔を上げながら一斉に爆散していき、その光景を間近で見ていたディケイド達は唖然としていた。

 

 

クウガ『す、すげえ……あんな数のモンスターを一瞬で……』

 

 

ディケイド『……あれ可笑しいな……俺が知っているシューティング・レイは、あんな凶悪な殲滅兵器じゃなかった筈なんだが……』

 

 

フリード『フッ!ヤァッ!皆さん、手伝って下さい!またモンスター達がミラーワールドから現れてますよ!』

 

 

ゾルダ(ディエチ)『え?……あ、あぁ、うん!』

 

 

オルタナティブ・ゼロ『わ、分かったっ!』

 

 

フリードウィングを畳んで再びミラーワールドから現れたシアゴースト達を相手に奮闘するフリードの呼び掛けで正気に戻り、ディケイド達は慌てて武器を構え直すとフリードと連携を取りながらシアゴースト達と戦闘を再開していくのであった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑫

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

龍騎(ノーヴェ)『はぁぁぁぁ……おりゃあァッ!!』

 

 

―ボワアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

『ウェッ?!』

 

 

 

フリードリヒと契約した事で真価を発揮したフリードを筆頭に、シアゴースト等を次々と撃退していく一同。その中で、龍騎がドラグクローファイアーで大半のシアゴーストを爆散させるが、やはり近くの建物の窓や鏡の中からシアゴーストが後から後から湧いて出ていた。

 

 

龍騎(ノーヴェ)『でぇい!しつこい!』

 

 

ゾルダ(ディエチ)『ぼやいてる暇ないよ、ノーヴェ』

 

 

『SHOOT VENT!』

 

 

後から後からしつこく湧き出てくるシアゴースト達を見て毒づく龍騎にそう言いながらゾルダはバイザーにカードをセットしてギガランチャーを装備し、強力な砲弾でシアゴーストの大群を次々に吹き飛ばしていく。

 

 

クウガ『けど、確かにこの数は嫌になるよなっ。超変身ッ!』

 

 

その隣でクウガも負けじと構えを取り、身体の至る所からスパークを放ちながらライジングドラゴンフォームにフォームチェンジすると、プリムの世界を回って以降触媒無しで生成出来る様になったライジングドラゴンロッドを両手に構え、ロッドを振り回しシアゴーストを薙ぎ倒していくが、やはりシアゴースト達は一向に数を減らす様子を見せない。

 

 

ディケイド『クソッ……!あとどれぐらい倒せば減り始めるんだコイツ等っ!』

 

 

フリード『ッ!私に任せて下さい!』

 

 

ライドブッカーGモードを乱射しながらシアゴースト達を殴り倒して舌打ちするディケイドにそう言うと、フリードはバックル部分のデッキから一枚のカードを抜き取りフリードバイザーへと装填していった。

 

 

『CHAIN VENT!』

 

 

―ジャラジャラジャラジャラジャラジャラッ!!!―

 

 

『ウェアッ?!』

 

 

ナイト(ゼスト)『ッ!これは……?』

 

 

バイザーからの電子音声と共に周りの鏡の中からピンク色の無数の鎖が飛び出し、フリードの視覚範囲内のシアゴースト達の体を四方から縛り上げ動きを止めていったのである。更にフリードは続け様にデッキからもう一枚カードを抜き取り、フリードバイザーに装填してベントインした。

 

 

『STRIKE VENT!』

 

 

再度電子音声が響くと共に、フリードの真横の鏡の中からフリードリヒの頭部を模した龍の篭手……フリードクローが飛び出しフリードの右腕に装着された。そしてフリードは背中に装備されたフリードウィングを展開して上空へと高く飛び上がり、鎖で捕縛され動けないシアゴースト達に狙いを定めながらフリードクローを後ろ腰へとゆっくりと引き、フリードクローの口に炎を集約させ……

 

 

フリード『はあぁぁぁ……ヤアァァァァァァァッ!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!―

 

 

『ウ、ウェアアアアァァァァァァァァァァッ?!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォンッッ!!!―

 

 

シアゴースト達目掛け一気にフリードクローを押し出した瞬間、一際大きい爆発の後にフリードクローの口からドラグクローファイヤーの二倍はある火炎放射が撃ち放たれ、シアゴースト達を飲み込み消し炭にしていったのだった。

 

 

クウガRD『どわあぁッ?!あ、あっぶねぇーっ。何て火力だよアレっ』

 

 

イクサF『むう、あの威力は巻き添えを喰らえばひとたまりもないだろうな……って優矢!お前頭が燃えているぞ?!』

 

 

クウガRD『え?嘘っ?!うわマジだっ?!アチチチチチチチチィッ!!水っ!!誰か水うぅぅぅぅーーーーーーーーーっっ?!!!』

 

 

ディケイド『……またやってるぞアイツ等……』

 

 

シリウス『良いんじゃねえか?まだまだ余裕があるみたいでよ』

 

 

頭に燃え移った火を消そうと地面を転げ回るクウガに呆れるディケイドとは対照に、爛々と笑うシリウス。しかし、そんなシリウスの背後の鏡のシアゴーストの姿が移し出され、其処からシアゴーストが飛び出してシリウスに襲い掛かろうとした瞬間……

 

 

「兄さん!はああああああ!紫電一閃ッ!!」

 

 

―ズシャアァァァッ!!!―

 

 

『ウェッ?!!』

 

 

―トガアァァァァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

シリウスを襲おうとしたシアゴーストの頭上から突如一人の少年が降下し、そのまま降下を利用して両手に握った槍でシアゴーストを両断していったのだった。その少年とは……

 

 

「よしっ。無事ですか、兄さん!」

 

 

シリウス『エリ坊!どうしてここに!?』

 

 

エリオ(別)「ちょうどこの近くの住民避難させていたら兄さんたちの姿が見えて、部隊長に許可を貰ってお手伝いに来ました!フェイトさんは渋ってましたけど……」

 

 

驚愕混じりに問い掛けるシリウスに少年……この世界のエリオが苦笑いしながらそう答え、シリウスも納得したように頷くと別の方向から爆発が響いた。思わずそちらに視線を向ければ、其処には召喚獣ガリューを従えナイト(ゼスト)と共にシアゴースト達を撃退するこの世界のルーテシアの姿があった。

 

 

シリウス『ルーも来たのか。よし、じゃあお前はルーと連携して戦ってくれ!』

 

 

エリオ(別)「はい!行くよルー!」

 

 

ルーテシア(別)「うん……ガリュー……」

 

 

エリオ(別)はシリウスの言葉に頷くと、ストラーダを構え直しながらルーテシア(別)とガリューと共にシアゴーストを倒し始めていき、ディケイドも若干複雑げにルーテシア(別)を見た後に襲ってきたシアゴーストを払い退けライドブッカーガンモードで吹っ飛ばしていく。

 

 

ディケイド『何でエリオに兄さんって呼ばれてんだ?』

 

 

シリウス『いろいろあってな。六課でエリオだけは俺たち全員と顔見知りなんだ』

 

 

ディケイド『ほぉ、色々と訳ありって奴、かッ!』

 

 

シリウス『そーゆうこった、なッ!……ん?』

 

 

しつこく迫り来るシアゴーストを殴り倒しながら会話するディケイドとシリウスだが、その時シリウスが何かを見つけ僅かに眉間に皺を寄せた。シリウスの視線の先には、先程と同様地面にうずくまって動かなくなっているシアゴースト達の姿があり、直後にそのシアゴースト達の背中が割れて再びレイドラグーン達へと脱皮していった。

 

 

シリウス『くそ、こいつらまた脱皮しやがった。しかもさっきより数が多いっ』

 

 

ディケイド『コイツは一気にカタを付けないとキリがないな……―ガチャッ、ブォンッ!ブォンッ!ブォンッ!―……ん?』

 

 

シリウスが空を埋め尽くすレイドラグーンの大群を見上げて悪態を付いていると、突然ディケイドのライドブッカーが開き中からシリウスの力を秘めた三枚のカードが飛び出した。そしてディケイドがそれらをキャッチすると、シルエットだけだった三枚のカードの絵柄が浮かび上がっていった。

 

 

ディケイド『コイツは……よし』

 

 

いきなり絵が浮かび上がったカードに驚きながらも、ディケイドは真ん中のカードを抜き取って残った二枚をライドブッカーに戻し、抜き取ったカードをディケイドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALFORMRIDE:SI・SI・SI・SIRIUS!』

 

 

ディケイド『ちょっとくすぐったいぞ』

 

 

シリウス『ん?ああ、なるほど……了~解、しょうがねぇな』

 

 

電子音声と共に背中に回り込んだディケイドの真意を理解しているのか、素直にディケイドに背中を見せるシリウス。そしてディケイドがシリウスの背中を少し強めに押すと、シリウスの体が宙に浮きながら徐々にその姿を変えて巨大化し、巨大な狼(大きさ的にはもののけ姫のモロぐらい)のような姿……『シリウスウォルフィン』へと超絶変形していった。

 

 

『ワオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!』

 

 

ゾルダ(ディエチ)『ッ?!あ、あれはっ?』

 

 

龍騎(ノーヴェ)『か、神威?!』

 

 

超絶変形したシリウスウォルフィンは甲高い雄叫びを上げると、龍騎達はシリウスウォルフィンを見て驚愕し、レイドラグーンとシアゴーストもシリウスウォルフィンから発せられる気迫や存在感に圧され後退りしていく。そしてシリウスウォルフィンはレイドラグーンとシアゴーストを睨みつけると……

 

 

『グルルルルルル・・・・・・ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

ダンッ!!と跳躍すると共に、レイドラグーンとシアゴースト達に飛び掛かっていったのだった。レイドラグーンとシアゴースト達はそれを見て本能的にマズイと感じたのか、慌てて散り散りに別れミラーワールドへと逃げ込もうとするも、そうはさせまいとシリウスウォルフィンが後ろから追い付き……

 

 

『グルアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

―バグゥッ!!!―

 

 

『ウ、ウェアアアアアアアアアァァァァァァッ?!!』

 

 

―バキッ!グチャッガシャンッグベチャグチャッ!!―

 

 

シアゴーストの上半身を、一口で噛み千切った。そしてそこからの光景もかなり凄惨だった。シリウスウォルフィンは逃げるレイドラグーンやシアゴーストの腕や足、更には上半身や下半身をひと噛みで噛み千切り、噛み千切られたモンスターたちはしばらくのた打ち回ると爆散した。その光景を見ているディケイドたちは……

 

 

『うわぁ…………』

 

 

かなり………というか最早ドン引きしていた。因みにクウガとイクサFがフリードとシュロウガ、龍騎とゾルダがエリオとルーテシアの視界を塞いで見えなくしている。それだけ惨い光景なのだ。もし映画とかならR指定がかかるほどの。

 

 

ディケイド『おぉう、また凄いFFRだな……あれ理性あるのか?いや、あったらあんなモンスターを喰おうとは思わんか……』

 

 

クウガRD『おまっ、冷静に言ってる場合か?!ってか良く平気でいられるなお前?!』

 

 

ディケイド『いや平気ではないが……うわっアレとか凄いぞっ、上半身を喰い千切られて下半身だけのたち回ってるっ。中身とか全部地面にぶちまけ――』

 

 

クウガRD『ウエェッ?!!ちょっ、もう早く決めてくれよっ!!俺なんか胃液が逆流してきたっ!!』

 

 

ディケイド『あー、そだな……もう決めよう。見てるだけで気分悪い……キャロ!お前も手伝ってくれ!』

 

 

フリード『へ?あ、は、はい!何が起きてるか分からないですけど……』

 

 

そろそろ決めないと何人か胃の中の物を吐き出し兼ねないのでと、ディケイドはライドブッカーからもう一枚カードを取り出してディケイドライバーに装填し、フリードもクウガに目隠しされたまま手探りでデッキからカードを抜き取り、フリードバイザーに装填してベントインした。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SI・SI・SI・SIRIUS!』

 

『FINAL VENT!』

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォオンッ!!!!』

 

 

二つの電子音声が響くと、近くの建物の窓からフリードリヒが咆哮を上げて飛び出した。それを見たフリードは後方へと飛び上がってキック態勢に入り、ディケイドもシリウスウォルフィンに飛び乗ると前方に回転しながら飛び出し飛び蹴りの構えを取ると……

 

 

『ワオオオオオオオォォォォオオオオオオォォォォォォォォォォォンッ!!』

 

 

『グオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!』

 

 

ディケイドはシリウスウォルフィンの発する衝撃波で、フリードはフリードリヒの放った火炎で加速し、残ったミラーモンスターたち目掛けて飛び蹴りを放っていく。そして……

 

 

ディケイド『はあぁぁぁっ……セアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

フリード『ヤアアァァァァァァァァァァァァァッ!!ハアァッ!!!』

 

 

『ウエアァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ディケイドとシリウスウォルフィンの必殺技と、フリードのドラゴンライダーキックが残存するミラーモンスター達を次々と破壊していき、最後に残ったレイドラグーンをダブルキックで蹴り飛ばしたと同時に後方と前方で巨大な爆発が巻き起こったのであった。

 

 

ディケイド『っと……漸くこれで終わり、か』

 

 

フリード『っ……みたい、ですね……あ、れ……?』

 

 

地面に着地してモンスター達が爆散した場所を見つめ、もう鏡からモンスターが現れないのを確認して両手を払いながら一息吐くディケイドだが、そのときフリードの視界が不意にフラリと揺れ、そのままふらつきながらディケイドの身体にもたれ掛かった。

 

 

ディケイド『ッ?!キャロ……?』

 

 

フリード『…………………………………………』

 

 

ディケイド『おい、どうした?おいキャロ?!おいっ!!キャロッ!!』

 

 

いきなり自分に身を預けてきたフリードの身体を抱え必死に揺さぶりながら呼び掛けるディケイドだが、フリードからはなにも返事が返ってこず、ただダラリと力無く両腕をぶら下げ沈黙し続けてるだけなのだった……

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑬

 

 

―光写真館―

 

 

市街地に現れたミラーモンスターを撃退してから数十分後。戦闘後に突然倒れてしまったキャロを連れ光写真館に戻ったあと、零達は写真館の前で見送りに来てくれた神威とノーヴェ(別)と向き合い別れの挨拶を交わしていた。

 

 

神威「もう行くのか?」

 

 

零「ああ。キャロもさっき目を覚ましたし、この世界での役目も終わったみたいだが、まだ旅は終わっていないからな」

 

 

神威「そうか。まあいい、頑張れよ?俺の力が必要なときはいつでも呼べ」

 

 

零「わかった……お前たちはオーディンを倒したら、どうするんだ?」

 

 

神威「どうもしないさ。俺の願いを邪魔する奴は叩き潰す。ミラーライダーの戦う理由は正義でも悪でもない……自分自身の願いだからな」

 

 

真っすぐな視線を零に向けながら迷いなくそう告げる神威。零は黙ってそれに耳を傾けると、神威は左手を腰に当てて再び語る。

 

 

神威「人が願いを持ち続ける限り、俺たちの戦いは終わらない。ミラーライダーは人の欲望の果ての姿だからな。神崎も言っていた。『人が欲望を背負いきれなくなった時、人はライダーになる』ってな」

 

 

零「……そうか……なら、俺から言うことは何もないな……」

 

 

自分達の望みの為、それを邪魔する者と戦い続ける。端から聴けば聞こえが悪く思うかもしれないが、ある意味それもミラーライダーに限らずライダーの在り方を示すひとつなのかもしれない。

 

 

今までの世界で自分達がしてきたことも、世界を救いたいからという欲のために滅びの張本人となった敵を倒してきたと、単純に言えばそういう事になるのだ。だから零たちはそれを否定するつもりはないし、寧ろそっちの方が神威達らしいと微笑を浮かべた。

 

 

零「ま、其処まで豪語したんだ。頑張れよ?でないと、組長の面子が丸つぶれだぞ?」

 

 

神威「言われるまでもねえさ。あ……ところで、俺のファイナルフォームライドどんなんだったんだ?そこだけ記憶に無くてな。しかもなぜか腹一杯なんだが?」

 

 

零「はっ?あー……いや、気にするな……じゃあ、またなっ」

 

 

神威「?何か府に落ちねえが……まあいい、またうちにも遊びに来いよ。何時でも歓迎してやっから」

 

 

なのは「あははっ……は、はいっ……」

 

 

流石にあんなモンスター達を食っていたなどと言えず若干顔を引き攣りながら話をごまかすと、零は苦笑いするなのはと共に神威達と別れ写真館へと入っていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

キャロ「い、痛い痛いっ!シャマル先生っ、痛いですって!」

 

 

シャマル「我慢する!全くもう、こんなに傷だらけになって帰ってきて……」

 

 

フリード「キュクルル~……」

 

 

零となのはが戻ったあと、リビングでは意識を取り戻したキャロがソファーに腰掛けながらシャマルの治療を受けている真っ最中だった。因みに、フリードリヒはキャロが変身を解いたと共にミラーモンスターの姿から元のチビ竜のフリードへと戻り、今はキャロの膝の上に乗り心配げにキャロの顔を見上げている。

 

 

シャマル「――はい、これでおしまい。一先ず大した怪我はないから、傷が残る心配もないわ」

 

 

キャロ「あ、ありがとうございます……あと、すみません……無茶はしないって約束したのに……」

 

 

ヴィータ「まったくだな。幾らトラブルの連続だったつっても、無茶のし過ぎにも程があんだろ。ま、今回はフリードの助けがあったから良かったものの……」

 

 

キャロ「ぅ……ご、ごめんなさい……」

 

 

両腕を組みながらジト目で睨んでくるヴィータに返す言葉も浮かばず、反省の意を込めて謝罪しながら俯くキャロ。一同もそんなキャロを見て苦笑いすると、はやてがキャロの隣に腰掛けポンッとキャロの頭の上に手を置いた。

 

 

はやて「ま、きっとキャロにもそうせなあかん事情があったんやと思うし、反省しとるんなら私等も深くは追及したりせえへんよ?せやけど、キャロが今日みたいにあんま無茶すると……」

 

 

と、はやてが苦笑しながらそう言うとキャロから視線を外して別の方へと顔を向けていく。キャロもそんなはやての様子に疑問を浮かべて小首を傾げ、はやての視線を追ってみると、其処には……

 

 

 

 

 

フェイト「どーーして?!どうしてキャロがあんな傷だらけになって帰ってくるのォッ?!!零達が付いていながら!!一体みんなして何やってたのォォォォォォォォーーーーーーーーーっっ!!!!(泣)」

 

 

すずか「フェ、フェイトちゃん!!落ち着いて!!」

 

 

零「いやだから俺達も助けようとはしたんだがミラーモンスター達に邪魔されて救援に行こうにも足止めされてしまっていたというか取りあえず襟掴んで身体を揺さ振るのは止めてくれホント酔うというか既に酔っているというかっ……」

 

 

優矢「なっ何で俺までぇぇぇぇっ……ウェップッ……」

 

 

なのは「ス、ストップストップッ!!フェイトちゃん待ってってば!!二人ともなんか顔色が真っ青になり始めてるからっ?!!」

 

 

……其処には、キャロが傷だらけになって帰ってきた為にパニックに陥り、漫画みたく目をグルグルさせながら零と優矢の襟を掴んで前後にブンブン激しく揺さ振りまくるフェイトの姿があったのだった。ちなみにすずかがフェイトを羽交い締めし、なのはがフェイトの両腕を掴んで二人を解放しようと試みてるようだが、過保護パワーを発揮している今のフェイトには何ら通じていないようだ……。

 

 

はやて「……キャロたちの保護者さんがものすごいパニックになってまうから、今後今日みたいなのは控えてな?」

 

 

姫「うむうむ、子供に何かあった時の親は恐ろしいからな。余り過剰な無茶はしない方がいい。特に零みたいなのは以っての外だ」

 

 

キャロ「は……はい……」

 

 

スバル「っていうか、一緒に戦った姫さんはフェイトさんに責められないんですね、あとアズサも(汗)」

 

 

姫「みたいだなぁ。まあアズサはともかく、私は攻められるより攻める方が好みだからな。それを分かってくれてるんだろう」

 

 

ティアナ「いや意味が違うっていうか字が違うっていうか、何の話ですか」

 

 

うむうむと腕を組みながら深く頷く姫に冷静にツッコミを入れるティアナ。そうしてそんなやり取りと零達の様子を見て苦笑を浮かべていたエリオだが、キャロの膝の上に乗るフリードを見て、フリードの頭を撫でながら口を開いた。

 

 

エリオ「それにしても、謎ですよね。何でフリードはミラーモンスターになって、この世界に飛ばされていたんでしょうか……?」

 

 

チンク「それはきっとアレだろう?私達が生身のまま魔法やISが使えないように、滅びの現象のせいでそうなったでは?」

 

 

ティアナ「確かに。可能性として考えるなら、それが一番有り得そうよね。現に、リイン曹長やアギトが小さくなれなくなって……」

 

 

ザフィーラ「俺も今は獣人化が出来なくなっているからな。恐らくそれと同様のことが、フリード自身にも起きているのではないか?」

 

 

エリオ「うーん……そうなのかなぁ……」

 

 

フリードがミラーモンスターになってこの世界に飛ばされたのも、滅びの現象の影響によるもの。現状で考えられる一番の可能性を口にする一同にエリオも何処か府に落ちない様子でフリードの頭を撫で、漸く優矢共々フェイトから解放された零は床に倒れながらある思案をしていた。

 

 

零(滅びの現象か……そういえば、ルーテシアの変身するガリュウも契約モンスターにガリューがいたという話だったが……もしかしてガリューもその影響で、ミラーモンスターになっていたのか……?)

 

 

もしくはクアットロ達に捕まった際にミラーモンスターにされてしまったという可能性も捨てきれないが、真相はやはり分からない。パニック状態のフェイトを必死に宥めるなのはとすずかの横で難しげにそう考えていると、ティアナがフリードの頭を軽く人差し指で突いた。

 

 

ティアナ「にしてもアンタ、私達がこの世界に来た頃からずっと傍に付いてたんでしょ?ならなんでもっと早く姿を表さなかったのよ、チビ竜」

 

 

フリード「ぷきゃあ、キュクルルー!」

 

 

姫「ん?……ふむ……成る程……それについては、何だか色々と理由があったみたいだな」

 

 

セッテ「?理由?」

 

 

姫「あぁ。最初は、私達を見付けた時にすぐ姿を見せようとは思ってたみたいだが、自分の今の姿を見てすぐフリードだって分かってもらえるか不安だったから、姿を見せる事に少し躊躇してたみたいだ」

 

 

優矢「ウップッ……あー、成る程っ……確かに、俺も最初見た時はミラーモンスターと思って警戒してたしなぁ……っていうかアンタ、フリードの言葉が分かんのかっ?」

 

 

姫「言葉というより、単に意思を読み取っているだけだ。本人が何かを伝えようとする意思を見せていれば、それを読み取って大体のことは分かる……でまあ、彼もその後、どうにかして私達に接触しようと何度も試みたみたいだが、私達が神威達と行動を共にするようにしてから簡単に姿を見せられなくなったみたいでな……」

 

 

セイン「?神威達?なんで?」

 

 

何故神威たちと行動を共にしてから姿を見せられなくなったのか?その理由が分からないスバル達は訝しげな表情で小首を傾げるが、その理由がなんとなく理解出来た零は椅子を支えにふらつきながら立ち上がって答えた。

 

 

零「それは多分、今の自分がミラーモンスターだったから……か?」

 

 

姫「正解!どうやら彼は、我々がこの世界に来る前からミラーモンスターと戦う神威達の戦いぶりを陰ながら見ていたようだ。だからもし、自分が安易に彼等の前に姿を見せれば、他のミラーモンスター同様退治されてしまうのではないかと警戒してたらしい」

 

 

零「……成る程……だからあの盗難騒ぎで助けてくれた時、姿を見せないでそのまま逃げたのか」

 

 

あの夜での戦闘の際、自分と優矢を助けてくれたのがフリードだというのは正体が分かった時に確信したが、何故そのまま姿を見せずに逃げたのかは未だ分からなかった。なので漸くその理由が分かって疑問が解消された零は軽く息を吐くと、スバルがフリードの頭を人差し指でグリグリとしていく。

 

 

スバル「でもまあ何はともあれ、無事にフリードも見付かって良かったよねぇ。これでキャロとフリードのコンビも復活だし♪」

 

 

エリオ「ですね。キャロもカブトの世界に飛ばされたばかりの頃、フリードのこと心配してましたし……良かったね、キャロ」

 

 

キャロ「うん♪これからまたよろしくね?フリード」

 

 

フリード「キュクルルー♪」

 

 

満面の笑みを向けるキャロに答えるように、両腕の翼を羽ばたかせて鳴き声を上げるフリード。その光景を離れて見ていた零も、もうキャロは心配いらないなと微笑しながらキャロ達から視線を外すと、入り口の方から先程写真の現像を頼んでいた栄次郎がリビングに入ってきた。

 

 

栄次郎「ああ零君、頼まれた写真の現像終わったよ。ほれ、今回も中々良い写真だ♪」

 

 

そう言って笑いながら現像した数枚の写真達の中から一枚取り出して零に見せると、零はそれを受け取って写真を見つめる。其処には神威の屋敷で愉快げに馬鹿騒ぎする神威達となのは達の姿が写されており、零はその写真を見て満足げに笑みを浮かべていく。

 

 

栄次郎「それにしても、その神威君という子は中々良い顔で笑うね。笑顔が似合っているよ」

 

 

零「ああ、自分の望みの為に戦い続けてる奴だからな。だからきっと、後悔する生き方はしないと思う……戦いが終わった後も、こうやってみんなと笑いながら生きていくだろ、多分な」

 

 

自分の望むがままに生き、嘘偽りなく生きる。そんな裏表のない男だからこそ、あれだけの大勢の人間が彼の周りに集まるのだろう。写真から視線を外しながらそう考えて微かに微笑むと、零は写真を額に飾ろうとその場から歩き出した。その時……

 

 

 

 

―ガチャ…ガララララララッ…パアァァァァアンッ!―

 

 

 

 

リビングにある背景ロールが独りでに降りて淡い光を放ち、写真館が再び別世界へと移動したのであった。新たに現れたその背景ロールの絵には……

 

 

オットー「?これって……また動物?」

 

 

ヴィヴィオ「ライオンさんに、鮫さんに……鳥さん?」

 

 

背景ロールの絵には、前回のウォルフィンの絵と同様に青い雷を背景にした黄色い獅子が中央に立ち、その両脇に黄色い鮫と鷹の三体が描かれていたのだった。

 

 

 



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第二十章/シリウスの世界⑭

 

 

 

一方その頃、謎の建造物内・王座の間……

 

 

真也「―――はぁ?コイツとこの新人で雷牙の世界に行けだぁ?」

 

 

とある平行世界に存在する建造内・王座の間。其処には、終夜と裕司に呼び出された真也、恭平、薫の三人の姿があり、真也は終夜に下された命令を聞き間抜けな声を上げていた。

 

 

終夜「正確には、ある組織の連中と共にお前と恭平、それと新人にその世界に向かってある対象を捕獲してきてもらう……という内容だ」

 

 

真也「はぁ……いやまあ、それに関しては別に問題ねえよ?問題ねえけど……何でその同行するメンバーがよりにもよってこの馬鹿と新人なんだよっ?!」

 

 

薫「…………」

 

 

恭平「うっわーヒデえなぁ真ちゃ~ん。苦楽を共にしてきた無二の親友のことを馬鹿呼ばわりとかさー」

 

 

真也「オメェとそんな濃い関係になった記憶は微塵もねえっ。ってか引っ付くな気持ちわりぃっ!」

 

 

ツーンと口先を尖らせて首に腕を回してくる恭平を鬱陶しげに引き離す真也。薫は無言のままそんな二人の様子を目で追い、終夜も眉一つ動かさずに淡々と話を続けた。

 

 

終夜「メンバーに関しては、今回の任務がお前達にはちょうどいいと思ったからだ。今回の任務の対象の名はサンダーレオン……外史ライダーの一人である仮面ライダー雷牙が使役する契約獣であり、雷牙と契約する以前はとある世界の守護者だったらしい」

 

 

真也「だから寄るなってのっ!……ま、そのサンダーなんとかの事は大体分かったよ。んで?なんでそんなのが急に欲しくなったんだ?また前の無効化の神さんみたく、揺り篭に生体ユニットとして組み込みたくなったとかか?」

 

 

終夜「いいや……正直に言えば、サンダーレオン自体は余り重要ではない。この獣は中々のじゃじゃ馬らしく、自分が認めた相手以外に大人しく仕えはせん……そんな獣を手なずけるために割く時間など、我々にはないからな……」

 

 

恭平「んじゃあ、何でそのライオンちゃんの捕獲な訳よ?組織に必要ねえなら、わざわざ俺らが向かう必要もねえだろ?」

 

 

それなら他の任務に付いた方が効率が良いのでは?と真也と恭平、それに一言も話さず話を聞いていた薫も揃って同じ疑問を抱くが、終夜はそれに対し小さく首を横に振った。

 

 

終夜「必要ならある……。我々が本当に狙うべき標的は雷の獅子ではなく、それを狙う者達なのだからな」

 

 

薫「?サンダーレオンを、狙う者達……?」

 

 

真也「つまり……なんだ?ソイツ等をおびき寄せる餌にする為に、そのライオンを雷牙から先に奪えって訳か?」

 

 

裕司「そういうことだ……奴らに戦力強化の機会を与えれば、弱体化した奴らの勢いが更に増してまた面倒なことになる。そうなる前にサンダーレオンの捕獲、もしくは奴らの計画の阻止だ。可能ならば始末しても構わん」

 

 

恭平「……成る程……一つ聞きたいんだが、そのライオンちゃんを狙ってる連中ってのは―――」

 

 

何かを察したかのように、僅かに目を鋭くさせ終夜を見据える恭平。終夜もそれに対し否定する素振りを見せず瞳を伏せ……

 

 

終夜「そう――例の裏切り者、スカリエッティの機械人形共だ……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―???の世界―

 

 

そして同じ頃。無数の廃棄ビルが建ち並ぶ市街地の地下に存在するスカリエッティ達のアジトでは、ひとつの薄暗い部屋の中で数人の男女達……現在レジェンドルガ達を纏めているクアットロと黒いローブの男性、そしてその男性の後ろに控える赤髪の女性が話し合う姿があった。

 

 

クアットロ「――成る程。つまり、その手順に沿ってサンダーレオンと彼女を捕獲する……という事かしら?」

 

 

『えぇ。今現在、あなた方の戦力は先の戦闘で多くのレジェンドルガとドゥーエさんを失ったことにより、著しく低下してしまっている。それを埋めるためにも、此処であなた方の柔順な手足となる強力な下僕を手に入れる事が必要と思える……故に雷の獅子と、雷を操る事に長けている彼女を同時に入手すれば、あなた方にとっても心強い戦力と成り得るでしょう』

 

 

そう言いながら、フードの下で何処か楽しげに微笑む男性。クアットロはそんな男性の顔を見て薄気味悪く感じながらも、男性が提示した作戦の内容には素直に興味を示していた。

 

 

クアットロ「それにしても、こんなにも早くネタ明かしをしないといけなくなるなんてねぇ……もう少し引っ張ってから絶望させてやろうかと思ったのに、残念ですわぁ」

 

 

『まぁ、今回もそれなりに楽しいショーとなるでしょうから、それで我慢して下さい。それに、あの出来損ないの今の状態を知れば、恐らくそれをも上回る絶望を味わう事になるでしょうよ……』

 

 

クアットロ「あぁ……破壊の因子のことですか。もしや、あの力も彼女にお教えするおつもりで?」

 

 

『いえいえ、そんなことを教えても大したショックにはならないでしょう。私が彼女に教えるのは……あの力のデメリットの方です』

 

 

クアットロ「?デメリット……?」

 

 

男性の口から告げられたデメリットという言葉。それを聞いたクアットロは訝しげに眉を寄せ、その様子を見ていた赤髪の女性がニヤニヤと意地汚く笑みを浮かべた。

 

 

「なあに?アンタもしかして、そんなことも知らずにあの出来損ないに因子を渡したわけ?」

 

 

クアットロ「!なんですって……?」

 

 

『止めなさい、シュレン。今彼女と話しているのは、私なんですよ』

 

 

「はいはい、話の腰を折ってごめんなさいねぇ」

 

 

男性の注意を受けたシュレンと呼ばれた女性は片手を軽く振りながらそう言うと、男性は溜め息を吐きシュレンを睨むクアットロと向き合った。

 

 

『申し訳ありませんねぇ、どうやら彼女も退屈なようでして。きっと今回の作戦では役に立つはずなので、どうか多めに見てあげて下さい』

 

 

クアットロ「……まあいいですわ……それで?そのデメリットというのは?」

 

 

『なあに、そのままの意味ですよ。大きな力を使ったことによる代償……今まであの破壊者は、多くの世界であの力を行使し続けた。たかだか生身の人間程度があれだけの強大な力を使い続けて、それでなんの代償もない方が逆に可笑しいでしょう?』

 

 

クアットロ「……確かにそうですね……で、そのデメリットとやらは彼女の心を揺さ振るほどのモノなのかしら?」

 

 

『当然……。まあ彼女の方は私に任せて、貴方は予定通りにアクションを起こして下さい。ただし、あまり度が過ぎた真似はしないように……良いですね?』

 

 

クアットロ「了解ですわ。では、私はロストちゃんとルーお嬢様達の調整を済ませなければならないので、先に失礼しますね。ふふ」

 

 

念を押してくる男性にそう返すと、クアットロは笑いながらゆっくりとソファーから立ち上がりそのまま部屋から出ていった。そしてクアットロが部屋から出ていったのを確認すると、今まで男性の背後に立っていたシュレンが無造作に男性の隣に腰を下ろした。

 

 

シュレン「あーあ、ずっと立ってばかりで疲れたぁ~……にしても、何であんな陰険眼鏡に力を貸すような真似するわけ?八雲」

 

 

『先程言った筈でしょう?単なる戯れですよ。少しは刺激のある楽しみがなければ、退屈で死にそうですからねぇ』

 

 

シュレン「ふうん……まあいいわ……よっとっ」

 

 

八雲と呼ばれた男性がそう言って心底つまらなそうに息を吐くと、突然シュレンが身を倒して八雲の膝に頭を乗せ膝枕をし出した。

 

 

『……何の真似です?シュレン』

 

 

シュレン「だってぇ、やっと二人きりになれたのよ?此処にはエイラもクォルのお邪魔虫もいないし♪」

 

 

『……前にも言った筈ですがね……私は貴方達に微塵の興味もない、と』

 

 

シュレン「そーゆう冷たい素振りを見せるのも、女を引き付ける要因なのよぉ?ねぇねぇ、ちょっとぐらい頭とか撫でてよ~」

 

 

『……ハッ……』

 

 

両手を伸ばしながら甘えた声でそんな要求をしてくるシュレンを鼻で笑い、八雲はそのままソファーから立ち上がった。それにより、八雲の膝の上に頭を乗せていたシュレンは「ウギャーっ?!」と間抜けな悲鳴と共にソファーから落っこちてしまうが、八雲は構わず部屋の入り口へ歩み寄っていく。

 

 

シュレン「イッターッ……ちょっと!いきなり何すん―――って、何処行くの?」

 

 

『なに、少し現場を下見に行くだけですよ。ついでに、もしものアクシデントがあった時の為の下準備も、ね……』

 

 

そう言って八雲はシュレンの方に一度も振り返ることなく部屋を出て何処かに向かってしまい、部屋に一人残されたシュレンは後頭部を摩りながら不満げに頬を膨らませていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―シリウスの世界・公園―

 

 

黒月零達が去った後のシリウスの世界。クラナガンの某所に存在するとある公園のベンチにて、大輝が一人の女性……ユリカからあるツールを受け取る姿があった。

 

 

大輝「漸く完成しましたか……雷牙の、パワーアップツール」

 

 

ユリカ「出来に関しては申し分ないと自負してる……問題は、それを扱う人間がその力を使いこなせるか否か、よ」

 

 

大輝「使いこなせるかじゃなく、使いこなしてもらわなきゃ困るんですよ。次の戦いは入り乱れそうですから、少しでも対等の戦力が欲しい」

 

 

ユリカから渡されたツール……所々にハイパーゼクターの意匠が見られる金と赤のゼクターを眺めて淡々と告げると、大輝は懐にそれを仕舞いベンチからおもむろに立ち上がっていく。

 

 

大輝「さてと……じゃあ、俺はそろそろこの辺で失礼させてもらいますよ。屋台をルミナ君ひとりに任せておくのも心配なんで」

 

 

ユリカ「そう……けど気をつける事ね。次に戦う敵は多いわよ……」

 

 

大輝「分かってますよ。んじゃ、また何処かでお会いしましょう」

 

 

左手をズボンのポケットに突っ込んだまま右手を軽く振り、大輝はそのまま入り口に向かい公園を後にするのであった。ユリカはそれを見送る事なく公園で遊ぶ子供達を無機的な瞳で眺めていると、一度目を伏せ、閉ざした口を再び開いた。

 

 

ユリカ「―――彼ならもういなくなったわよ……そろそろ姿を見せたら……?」

 

 

誰かに向けてポツリと呟くユリカ。すると、ユリカが座るベンチの背後にある森の木の影から茶髪の青年がゆっくりと音を立てずに姿を現し、ユリカに向けて口を開いた。

 

 

「アンタが、海道 大輝の言っていたなんでも屋のユリカ・アルテスタ、か?」

 

 

ユリカ「まあね……貴方も何か、私に頼みたい依頼があるのかしら?仮面ライダーディソードの新条迅……」

 

 

振り返りもせずに、淡々とした口調で背後の青年……新条 迅に向けてそう問い掛けるユリカ。それに対し迅は「ああ」と短く返答を返しながらユリカに一歩近付き、ジャラッと金の音が鳴る袋を差し出した。

 

 

迅「依頼の内容はアンタが知っている情報の提供……ついでに、アンタの意見も聞かせてもらいたい」

 

 

ユリカ「珍しい依頼内容ね……何を聞きたいのかしら……?」

 

 

僅かに興味を持ったように顔だけ迅の方に向け静かにそう聞き返すと、迅は少し目を細めてこう答えた。

 

 

迅「世界の破壊者ディケイド……いいや……黒月零を、この世界から排除すべき存在か否か、だ」

 

 

ユリカ「………………」

 

 

その声に篭められているのは、僅かなる敵意。それを感じ取る事が出来たユリカは眉一つ表情を動かすことなく、ただジッと迅の顔を見つめ続けていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

更に同じ頃、とある世界の海岸にて……

 

 

―ジャキィィィィンッ!!ズバァッ!!ジャキィィィィンッ!!―

 

 

『ハッ!!オラァッ!!』

 

 

ガイ『グアアァッ?!!』

 

 

ベルデ『ヌアァッ?!!』

 

 

何処か別の次元に存在する世界の海岸。其処では今、龍騎の世界の仮面ライダーであるガイとベルデと戦う銀色の仮面ライダーの姿があった。外見はディケイドとディエンドと同系と思われるタイプであり、その手には先端が三叉になってる槍が握られている。銀色のライダーは見事な槍捌きでそれを軽々と振るってガイとベルデを吹っ飛ばしていき、後方でこの戦いを観戦していた男……鳴滝の元へ吹っ飛ばした。

 

 

鳴滝「クッ!!何故だ?!何故私の言葉を聞かんのだ?!ディケイドを倒さねば、全ての世界が奴によって破壊されてしまうのだぞ?!それでもいいと言うのか?!」

 

 

『ハッ!そうなった時はそうなった時に考えりゃ良いだけの話だろ。それにな、俺様がお前を信じられねえ理由はもう一つ……お前のやり方が気に入らねぇんだよっ!』

 

 

鳴滝「な、何っ?」

 

 

ズビシィッ!と槍の先端を突き付けて豪語する銀色のライダーに鳴滝も戸惑ってしまうが、銀色のライダーは構わず槍を下ろして言葉を続けた。

 

 

『毎度毎度、世界が危ねえだの破壊されるだの言っておきながら、テメェは他力本願ばかりで自分からじゃ何もしやがらねぇ!そんなヤツの言葉を信用する気もなけりゃ、従う気もこれっぽっちもねえんだよ!男なら裏でコソコソしねぇで、正面から自分の手でストレートにやりやがれっ!』

 

 

鳴滝「クッ!おのれぇぇっ……ディスパーッ!!」

 

 

忌ま忌ましげに銀色の仮面ライダー、『ディスパー』を睨み返す鳴滝だが、ディスパーはそれに臆することなく左腰のカードホルダーから一枚のカードを出し、三叉槍の下の部分を開いてカードを装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DISPAR!』

 

 

ディスパー『ハアァァァァァァァァァァァッ……!!』

 

 

三叉槍……ディスパランサーから電子音声が響くと共に、ディスパーはランサーの先端に力を篭めながらゆっくりと身を屈めていく。それと同時にランサーの先から無数のライドカードの残像が出現してディスパーの左右へと並んでいき、更になんとカード達が次々と銃を手にした八人の戦士達の姿へと変化していったのである。そして……

 

 

ディスパー『――ヒーローサーガ!!ドリームレジェンドォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』

 

 

―バシュウゥンッッ!!!―

 

 

ディスパーがガイとベルデに向けて勢いよくディスパランサーで突きを放ちエネルギー弾を撃ったと共に、八人の銃戦士達……メガシルバー、ガオシルバー、マジシャイン、ボウケンシルバー、ゴーオンゴールド、ゴーオンシルバー、ゴセイナイト等が続け様にガイとベルデに向けて銃弾を放ち、更にディスパー達が撃った八つの弾が八人の様々な戦士達……ドラゴンレンジャー、キバレンジャー、キングレンジャー、タイムファイヤー、黒騎士、シュリケンジャー、デカブレイク、シンケンゴールドとなって突っ込みガイとベルデをすれ違い様に次々と斬り裂いていき、そして……

 

 

ディスパー『ハアァァァァァァァァァァァァアッ!!ハッ!!オラアァァァァッ!!!』

 

 

―ドグオォンッ!!バキャアァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!!!―

 

 

『グッ?!!グアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ?!!』

 

 

―チュドォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーンッッ!!!!―

 

 

最後に突っ込んだディスパーの強烈な斬撃、ヒーローサーガ・ドリームレジェンドが見事に炸裂し、ディスパーが二人の背後に立ったと共にガイとベルデは悲痛な断末魔を上げながら爆発して跡形も残さずに散っていったのであった。それを確認したディスパーはディスパランサーを肩に担いで溜め息を漏らし、自分を睨みつけてくる鳴滝に人差し指を向けた。

 

 

ディスパー『どうするオッサン?アンタの呼び出したライダー達は、俺様が片付けちまったぜ?』

 

 

鳴滝「グゥッ……おのれぇ……!」

 

 

ディスパー『ワリイことは言わねぇ、奴の事は諦めてとっとと自分の世界に帰んな。まあ、まだやるってんなら、俺様も……あ?』

 

 

鳴滝に自分の世界に帰れと促そうとしたディスパーだが、その時突然何かに気付いたように鳴滝から視線を離し別の方向に目を向けた。そんなディスパーの様子を見た鳴滝も頭上に疑問符を浮かべ、思わずディスパーが見つめる先に目をやってみるものの、其処には何もない青い海が広がる光景しかない。が、次の瞬間……

 

 

 

 

―バチバチッ……ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

鳴滝「ッ?!」

 

 

ディスパー『なん、だ?!この光は……?!』

 

 

 

 

突如、ディスパーと鳴滝が見つめていた海上の真上にまばゆい光りがスパークを放ちながら発生し、光りは辺りを覆い尽くす程の輝きを広げていったのである。その余りの眩しさに二人も思わず顔を逸らしてしまうが、暫くした後に少しずつ光りが治まり始め、視界がクリアになっていく。そうして二人が、光りの正体を確かめようと再び海上の上に視線を戻すと……

 

 

鳴滝「―――なっ……」

 

 

ディスパー『オイオイ……今度は何だ、ありゃ?』

 

 

二人が視線を戻した先には、先程まで其処には影も形も存在しなかった筈の物体……謎の巨大マシーンが、いつの間にか海の上に浮いて浮遊してるという光景があったのだった……

 

 

 

 

第二十章/シリウスの世界END

 

 

 



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番外編/聖夜の後に

 

 

 

―光写真館―

 

 

――クリスマス・イヴ当日の夜。外で深々と白い雪が降り注ぐ中、今年もやって来た聖夜を祝おうと写真館でもクリスマスパーティーという名のどんちゃん騒ぎが開催され、パーティーは大いに盛り上がった。

 

 

昼間にディードとオットーとセッテの台所組が完成させた豪勢な料理をスバルやエリオを始めとした大食い組が食べ尽くし、この日のために密かに特訓していたウェンディやセインがアズサを交えて行った芸で笑いを取ったり、パーティー中にフェイトとはやてが間違えて酒を飲んでしまった為に酔っ払い、稟の世界での悲惨な記憶を思い出した零が一目散に逃げ出そうとしてまんまと捕まり再び地獄を見る羽目になったりと、それぞれの記憶に残る賑やかなパーティーとなった。

 

 

――そして楽しいクリスマスパーティーがお開きになり、メンバーも騒ぎ疲れてそれぞれの自室でぐっすり眠りに付いた頃……

 

 

 

 

姫「――よし、では始めるか!」

 

 

零「……何をだよ……」

 

 

 

 

―――大きな白い袋を二つ傍らに、何故か赤い手袋と赤い帽子を被ったサンタの格好に変身した姫に眠たげに目を細めながら不機嫌そうに突っ込む零の姿があったのだった。

 

 

 

 

 

『聖夜の後に』

 

 

 

 

 

零「――つまり……あれか……お前がサンタクロースになって、日頃世話になっている皆へクリスマスプレゼントを贈ると……?」

 

 

姫「うむ、所謂サプライズ企画という奴だ」

 

 

取りあえずいきなり過ぎて状況が飲み込めなかった為に姫から説明を受け、漸く姫が何をしようとしているか理解して納得するように頷く零に得意げに胸を張る姫。だが……

 

 

零「ああ、まぁ……東洋の神様がサンタの格好なんかしていいのかとか細かいツッコミは抜きにしてもそれは別に構わないが……それで何故部屋で寝ていた俺がお前に叩き起こされねばならんのだっ」

 

 

口端をヒクヒクさせながら不機嫌そうにジト目で姫を睨みながら今一番の不満を口にする零だが、別に企画自体に参加させられる事に対しそんなに不満がある訳ではない。ただ寝ていた所を姫に結構本気でボディープレスされて無理矢理叩き起こされた事に不満があり、その事について姫に言及すると……

 

 

姫「私も最初の内はちゃんと君の名を呼んだり身体を揺さ振ったりなどして起こそうと試みたんだぞ?それでも起きてくれないから、仕方なく力業を行使させてもらってだな」

 

 

零「仕方なくの力加減じゃなかっただろう、明らかに容赦のない本気の体だったぞアレは……。大体なんで俺まで参加しなければならないんだ?お前が一人プレゼントを配り回れば済む話だろ……」

 

 

まさかプレゼントの入った袋を担いで部屋を配り回るのがしんどいから、自分に荷物運びをやれと言うのではないだろうなと警戒して零が若干身構えながら問い掛けると、姫は少し恥ずかしげに頬を染めて……

 

 

姫「いや、あの……一人でこのテンションを維持するのは、ちょっと……」

 

 

零「?……お前、まさか、その格好で一人プレゼントを配り回るのが恥ずかしいから、俺に手伝えと言うんじゃ……」

 

 

姫「……うん」

 

 

零「……………………」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

 

『――ったくっ、サンタの格好するのが恥ずかしいなら最初からしなければ良いだろうにっ……』

 

 

姫「馬鹿を言うな、クリスマスにプレゼントを運んで来るのがサンタクロースと相場が決まっている以上、我々もその様式に従わぬ訳にはいかないだろ?向こうにはヴィヴィオやエリオにキャロなどの子供達がいるのだから」

 

 

『ヴィヴィオはともかく、エリオやキャロがサンタを信じているかも妖しいだろ……というかちょっと待て……俺のこの格好は一体なんなんだ……?』

 

 

結局姫のサプライズ企画を手伝う事になって就寝しているなのは達一同の部屋に向かってる途中、姫の後ろを付いてきていた零が此処に来るまで疑問に思っていた今の自分の格好について姫に問い詰めた。その姿は、何故かディケイドに変身したボディーとスーツの上にサンタの服を着せられ、頭の上にはサンタの帽子を被らせられて顔にまで白い髭が身につけられていたりと、端から見れば不審者と思われても可笑しくはない珍妙な格好をしていたのであった。

 

 

姫「良く似合ってるではないか?名付けるなら、仮面ライダーディケイド・クリスマスフォームといった所か?」

 

 

ディケイドX'mas『そんな一年に一回しか使えなさそうなフォームいらんわ。そうじゃなくて、何故に俺が変身させられてる上にサンタの格好なぞされねばならんのだっ』

 

 

姫「いや、君は毎回至る所から世界の破壊者などと不名誉窮まりない名で呼ばれてるだろ?だからイメージアップも兼ね、今夜限りは『世界の破壊者』ではなく子供達に夢を与える『夢の配達者』となって子供達を喜ばせようではないか!という私からの配慮だ」

 

 

ディケイドX'mas『……一歩間違えれば子供の夢を壊し兼ねんだろこの格好は……』

 

 

姫「見られさえしなければ問題ないだろう?もし見付かった時には、君のカードの能力で逃げる事も出来るし」

 

 

ディケイドX'mas『そっちが目的か?!』

 

 

結局便利屋ではないか何が夢の配達者だ!と叫び掛けるが、姫がディケイドの口を抑えながら口元の前に人差し指を立てて横を指差した。其処にはFW組の部屋、そしてその隣に並ぶギンガとナンバーズ達の部屋があり、大声を出せば彼女達が起きてしまうと言いたいのだろう。

 

 

姫「文句なら後で幾らでも聞く、今は彼女達にプレゼントを配る方が先だ」

 

 

ディケイドX'mas『っ……分かった分かった……もう文句は言わない……』

 

 

折角のクリスマスイヴだしなと、ディケイドは溜め息を吐きながらプレゼントの入った袋を持ってFW組の部屋の扉を静かに開け、姫と共に部屋の中に入っていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

スバル「……んー……もう食べられないれすぅ……」

 

 

エリオ「くぅー……くぅー……」

 

 

キャロ「すぅ……すぅ……」

 

 

ティアナ「……ん……」

 

 

ディケイドX'mas『……一人如何にもって感じの寝言を言ってるな』

 

 

姫「微笑ましくて良いじゃないか。さ、彼女達が起きない内にプレゼントを置いていくぞ」

 

 

ディケイドX'mas『分かってる……って、そういえばプレゼントの中身は大丈夫なのか?まさかまた人にあげられないようなモノとか入ってないだろうな……?』

 

 

姫「心配するな、ちゃんと彼女達のリクエスト通りに用意しているさ♪」

 

 

ディケイドX'mas『……なら良いが……』

 

 

一先ずプレゼントの中身がちゃんとしたモノであると姫に確認を取り、姫と共にそれぞれのベッドで眠っているスバル達の枕元にプレゼントを置いていくディケイド。しかし、プレゼントを置き終わった姫は胸元が開けているティアナの艶っぽい寝姿を見て眉を潜めていた。

 

 

姫「それにしても、年齢に見合わずティアナは妙に色っぽいな。やはり胸か……」

 

 

ディケイドX'mas『いや、隣の芝生は青いって奴じゃないか、ソレ……?』

 

 

両手を叩くように払いながら口先を尖らせる姫にそう告げるディケイドだが、姫はそれを聞いてゴソゴソとティアナのベッドに下から潜り込み……

 

 

姫「ティアナに芝生はないようだぞ?」

 

 

ディケイドX'mas(馬鹿っ、止めんか起きるだろっ!次に行くぞっ!早くっ!)

 

 

ティアナのベッドに下から潜り込んで何かを確認する姫の服を無理矢理引っ張って引きずり出し、姫がまた余計な事をしない内に次に向かおうとディケイドは姫を引きずってFW組の部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

それから更に数分後……

 

 

姫「ギンガとナンバーズはこれでクリア、と……では次に行くぞ、零」

 

 

ディケイドX'mas『……ああ……』

 

 

姫「?どうした、鼻を抑えたりして?」

 

 

ディケイドX'mas『……プレゼントを置こうとしたら、ウェンディ達の寝相の悪さやられたんだよ……ノーヴェの鉄拳が飛んでくるわ、セインに思い切り蹴られるわで……』

 

 

姫「ああ……成る程……」

 

 

大人数のギンガ達の部屋にプレゼントに置いてきた後、ディケイドと姫の二人が次に向かったのはヴォルケンリッター達の部屋だった。そして二人はゆっくりと部屋の扉を開けて中の様子を確認すると、シグナム達はそれぞれ気持ち良さそうに深い眠りに付いていた。

 

 

ディケイドX'mas『寝てるな……よし、此処は素早く行けよ?あまり長居すると、アイツ等が気配を感じて起き出すかもしれん』

 

 

姫「ああ、分かった」

 

 

相手が歴戦の騎士な以上、あまり長居せず素早くプレゼントを置いて次に行こうと、姫は四人分のプレゼントを持って部屋に入りシグナム達の枕元にプレゼントを置いていく。が……

 

 

―ゴトッ―

 

 

ヴィータ「すぅ……すぅ……」

 

 

姫「……………」

 

 

何故か最後のプレゼントをヴィータの枕元に置いた後、姫は一瞬動きを止めて何かを探すかの様にヴィータのベッドの周りを見回し、そのまま静かに部屋を出てパタンと扉を閉じ……

 

 

姫(無意識にくつ下かかってないか調べてしまった……見た目的にサンタ信じてそうで……)

 

 

ディケイドX'mas(無意識にくつ下かかってないか調べてたな……見た目的にサンタ信じてそうだからって……)

 

 

姫が一体何を探していたか大体の予想は付いてるが、その辺を問い詰めると少しややこしくなりそうなのであまり追及しないでおこうとディケイドも無言を決め込み次の部屋に向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

そしてそれから更に数分後……

 

 

―パタンッ―

 

 

姫「――フェイト達はこれで良しと……最後はなのはとヴィヴィオの部屋だな」

 

 

ディケイドX'mas『……?最後って、アズサは良いのか?あと爺さんとキバーラとか』

 

 

姫「アズサは私と同じ部屋だからな、君を起こしに行く前にプレゼントを置いて来てある。栄次郎とキバーラにも同様だ」

 

 

ディケイドX'mas『ああ、なるほど……抜け目がないな……』

 

 

姫の手回しの良さに関心しながら、残った二つのプレゼントを持ってなのは達の部屋へと向かうディケイドと姫。そして姫はゆっくりと部屋の扉を開け、室内で眠ってるであろうなのはとヴィヴィオを起こさぬように部屋の中に足を踏み入れようとする。が……

 

 

 

 

 

 

なのは「――あれ?姫……さん?どうしたの、そんな格好で?」

 

 

 

 

 

 

姫「………………」

 

 

ディケイドX'mas『………………』

 

 

 

 

 

 

――室内には、クリスマスパーティーではしゃぎ疲れたからかぐっすり眠ってるヴィヴィオの隣で、上体を起こし読書するなのはの姿があったのだった。それを見た姫とディケイドもまさかなのはが起きているとは思わず、こんなコスプレ姿まで見られダラダラと汗を流していき、なんとかごまかそうと姫が動揺を受かべながら喋り出した。

 

 

姫「わ、私は……サンタの娘です、人違いです」

 

 

なのは「サンタさんって、外国人だよ?」

 

 

姫「……実は妾の子で……」

 

 

ディケイドX'mas『なんだその昼ドラみたいな衝撃事実……』

 

 

なのは「へ?零君?なんで変身なんかして……え、っていうかなにその格好……?」

 

 

ディケイドX'mas『聞くな……それ以上聞けば泣くぞ』

 

 

なのは「泣くのっ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

※サンタ娘&夢の配達者、事実説明中……

 

 

 

 

 

 

 

 

なのは「――へぇ、じゃあ二人で皆にクリスマスプレゼントを配り回ってたんだ?なんか素敵♪」

 

 

ディケイドX'mas『俺は巻き込まれただけだけどな……』

 

 

姫「そう言いながら、君もノリノリだったじゃないか?案外楽しんでただろ?」

 

 

ディケイドX'mas『む……まぁ、否定はせんが……』

 

 

なのはに一通りの事情説明を済ませた二人はなのはが用意した椅子に腰掛け、姫は彼女の横に眠るヴィヴィオの枕元に彼女が欲しがってたクリスマスプレゼントを静かに置き、ディケイドも自分の袋からプレゼントを取り出してなのはに差し出した。

 

 

ディケイドX'mas『ほれ、取りあえずこれがお前へのプレゼントだ。メリークリスマス』

 

 

なのは「あ、うん、ありがとう♪でもいいなぁ、何か二人とも楽しそうで。私も一緒にサンタさんやりたかったかも……」

 

 

姫「そうか?なら来年辺りには君も一緒にプレゼント配りをやろうじゃないか♪」

 

 

ディケイドX'mas『止めておけ、やるなら相当の忍耐力が必要だぞ?……色々と疲れる羽目になるのは必須だからな……』

 

 

なのは(……あぁ……多分また姫さんのボケに振り回されたのかなっ……)

 

 

疲れたようにガックリと肩を落とすディケイドを見て此処に来るまで何があったのかすぐに分かり、思わず苦笑いしてしまうなのは。しかし姫はそんななのはとディケイドの反応を他所に袋の中を漁って中身を確認すると、袋を担ぎ椅子から立ち上がった。

 

 

姫「さて、では私達はそろそろ退散するとしよう。あまり長話をして、ヴィヴィオを起こしてしまうワケにはいかないしな」

 

 

ディケイドX'mas『同感だ。こんな珍妙な格好を見られたら、心が折れる自信があるし……』

 

 

なのは「そ、そんな、私は全然良いと思うよ?可愛いし(汗)」

 

 

ディケイドX'mas『お前、最初に俺の格好を見た時に若干引いてたよな……?』

 

 

なのは「うぅっ……」

 

 

姫「そう言ってやるな零、彼女は彼女なりにイメージアップを試みる君の頑張りを褒めようとしている訳であってだな……」

 

 

ディケイドX'mas『そもそもの元凶はお前だろうがっ!』

 

 

なのは「にゃははは……」

 

 

白々しさ全開の笑顔を浮かべる姫にディケイドも怒りを含みながらすかさず突っ込みを入れ、なのはもそんな二人の漫才を見て自分も来年参加するとなるとこの輪に入らねばならないのかな、と苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

零「――はあぁ……やっと終わったか……」

 

 

数分後、なのはと一言二言会話を交わしてから彼女達の部屋を後にした零は変身を解き、姫と共に自室の前に戻り大きく背を伸ばしていた,

 

 

姫「助かったよ、零。付き合せてしまって済まなかったな」

 

 

零「全くだ……今度からは何かやる時は、前以て伝えに来いよ?もう寝てる所を無理矢理起こされるのはゴメンだからな?」

 

 

姫「ふむ……まあ、善処はしよう♪」

 

 

零「……なんか胡散臭いな……ハァ、まあいい。じゃ、俺はもう寝るぞ「あっ、ちょっと待て」……あ?」

 

 

早くベッドに就きたいので早々に切り上げ自室に戻ろうとする零だが、姫に呼び止められ訝しげな顔で背後へと振り返った。すると姫はなにやら袋の中を漁り、其処から一つのプレゼントを取り出して零に差し出した。

 

 

姫「まだ一つプレゼントが残っていたのを忘れていた、これは君へだ」

 

 

零「?……俺、別に欲しい物とかないぞ?」

 

 

姫「だろうなぁ、これは私が選んだ君へのプレゼントなんだから。まあ、今夜の企画に付き合わせたお詫びだと思って、受け取ってくれ」

 

 

零「……ま、変なものじゃないなら受け取ってやるよ……」

 

 

素直に礼を言うのが恥ずかしいからか、零はそっぽを向きながらそう言って姫の手からプレゼントを受け取り、姫もそんな零の反応に微笑みながら床に置いた袋を持って背中を向けると、零の方に顔を向けて……

 

 

姫「メリークリスマス、零……また来年、一緒に皆へプレゼントを贈ろう」

 

 

零「……気が向いたら、な……」

 

 

優しげに微笑みながらそう告げる姫に、彼女から貰ったプレゼントを軽く振りながらそう答える零。そんな零を見て姫は微笑を浮かべながら手を振って自室へと戻っていき、零も姫の背中が見えなくなるまで見送ると、姫に貰ったプレゼントの包装紙を破かないように取り外しプレゼントの中身を取り出していく。それは……

 

 

零「……?これは、桔梗の花……の指輪か?」

 

 

プレゼントの中身は、桔梗の花の装飾が彩られた男物の銀色の指輪だったのだ。なのは達のような女性ならともかく、何故こんな物を男の自分に?とワケが分からず指輪を怪訝な目でジッと眺めていくと、零はふと桔梗の装飾を見てある事を思い出した。

 

 

零(そういえば……桔梗の花言葉って、確か……)

 

 

 

 

桔梗の花言葉と言えば――『優しい愛情』、『誠実』、『従順』、『清楚』、『気品』、『正義』、そして……

 

 

 

 

『変わらぬ愛』、『変わらぬ心』

 

 

 

 

零(……俺自身に何かが……例え人間でなくなっても、変わらずに俺に付いてきてくれる……って事なのか……?)

 

 

 

 

それともただの偶然か……真意は分からないが、なんだか彼女なりに気遣ってくれているような気がして、零は思わず苦笑を浮かべた。

 

 

零(また来年、か……そうだな……叶うならまた……また皆で……)

 

 

手の中で輝く桔梗の指輪を見つめながら穏やかに笑い、零は視線を上げて廊下の窓の外の方を見た。暗闇の向こうにちらほらと白い粉雪が降る景色が見え、また来年、皆で一緒にこの景色がもう一度見られるようにと、桔梗の指輪を強く握り締め静かにそう決意するのであった。

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神


※こちらの番外編は時系列は雷牙の世界後となります


 

 

 

―――桜ノ神の世界。

 

 

其処は嘗て、第三者の介入により意図的にその世界に跳ばされた黒月零と桜ノ神の木ノ花之咲耶姫を始めとする多くの戦士達の活躍により、幻魔と呼ばれる異形の脅威から救われた世界だ。

 

 

幻魔神の復活事件解決後は桜ノ神が最後にこの世界で見せた奇跡の力によって、破壊された街や致命傷の傷を負わされた大勢の人々を救い、彼等は零達が世界を巡る旅に戻った後も、取り戻した平穏を噛み締め元の生活に戻っていた。

 

 

……しかし……

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神の世界・美術館―

 

 

―ジジジジジジジジジジジジジジジジッッ!!!!―

 

 

――深夜の闇に支配される桜ノ神の世界。幻魔の脅威から救われて平穏が永らく続いていたその世界であったが、今現在、桜ノ町のとある美術館にてある事件が起こり、館内には騒々しいまでの警報が響き渡っていた。

 

 

―カッカッカッカッカッカッカッカッ!!―

 

 

「いたぞッ!!こっちだッ!!」

 

 

「逃がすなぁッ!!追えぇッ!!」

 

 

警報が鳴り響く館内の暗い廊下を、大勢の警備員達が何かを追って全力で駆けていく。そんな彼等が怒号を上げ、必死に追い掛ける先には……

 

 

―バサアァッ!―

 

 

『………………』

 

 

白いマントを靡かせながら、廊下を身軽に駆け抜ける桜色と金色の仮面の戦士の姿があったのだった。だがその姿は所々異質な外見をしており、神々しいボディの首下から両腕まで銀色の鎖が巻き付き、仮面と右腕の上にはその神々しい姿に似合わない重厚なパッチ・アーマーが装備され、更にその上からは何かを封じるかのようにお札のような物が何枚も貼付けられている。

 

 

―バアァンッ!―

 

 

『………………』

 

 

そんな異質な姿をした仮面の戦士は、警備員達の追跡を振り切って扉を勢いよく開き美術館の屋上へと辿り着いていた。そして仮面の戦士は何かを探すかのように辺りを見回していくと、耳元に手を当てて何処かに通信を繋いだ。

 

 

『――ノエル、屋上で合流する予定の筈の『馬鬼』の姿が見られませんが?』

 

 

ノエル『あー……ごめん、もうちょい待ってて?あのじゃじゃ馬が飛んでるヘリん中で無駄に暴れるもんだから、そっちに着くの大分遅れちゃっててっ』

 

 

『待ってて、と言われましても……』

 

 

通信の向こうで何処かウンザリした様子で溜め息を漏らすノエルと呼ばれた女性に仮面の戦士が何かを言い掛けるも、その時、仮面の戦士を追ってきた警備員達がその背後から続々と現れ、仮面の戦士をあっという間に包囲していってしまった。

 

 

『……今正に、絶体絶命の危機なのですが』

 

 

「其処までだっ!『怪人S』っ!」

 

 

「盗んだ美術品を返せっ!それは桜ノ神社から保管を任された大事な品なんだぞっ!」

 

 

仮面の戦士……『怪人S』を絶対に逃すまいとして、警備員達は完全包囲のまま怪人Sを捕らえようとジリジリと少しずつ距離を詰め迫っていく。対して怪人Sは焦る素振りは見せないも徐々に後退りしていき、遂に行き止まりにまで追い詰められ、本当に絶体絶命の危機かと思われた。その時……

 

 

 

 

 

 

―ヒヒイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーイィンッッ!!!!―

 

 

「……っ?!な、なんだ?今のは?」

 

 

『……来ましたね』

 

 

突然、何処からともなく馬の鳴き声のような物が響き渡ったのであった。それを聞いて警備員達も思わず肩をびくつかせながら辺りを見渡していくも、怪人Sはやっとかと待ち侘びたように密かに溜息を吐いて空を見上げた。すると……

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥッ……バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ヒヒイイイイイイイイイイイイイィィィィィィーーーーーーーーーーイィンッッ!!!!』

 

 

「ッ?!う、うわあああああああああああああああっ?!」

 

 

「な、何だあれっ?!角が生えた……馬っ?!」

 

 

そう、闇が支配する遥か空から、なんといきなり一匹の黒い馬が落下し警備員達と怪人Sの間へ轟音と共に降り立ったのである。だがその外見は怪人Sと同じく普通ではなく、その巨大な黒い身体は金属らしき物で構成されてまるでロボットのようであり、額からは鬼の角のような一角が生えている。警備員達は突然落下してきた黒い馬に驚愕して腰を抜かす中、黒い馬……馬鬼は警備員達を威嚇するように睨み据え、怪人Sはそんな馬鬼の背に乗り込み手綱を握り締めると……

 

 

『それでは予告通り、コレは頂戴していきます。お勤めご苦労様でした……馬鬼?』

 

 

『ヒヒイィィィィィィィィィィィイィンッッ!!』

 

 

―シュバアァァッ!!―

 

 

「……っっ?!!!」

 

 

怪人Sが馬鬼に呼び掛けると共に、馬鬼の角から一瞬眩い光が放たれ警備員達に襲い掛かったのだ。すると警備員達は一斉に意識を失いバタバタと力無く倒れていき、怪人Sは彼等を一瞥しながら淡々と呟く。

 

 

『明日には何事もなく目を覚ますでしょう……最も、此処で起きた事は全部忘れているでしょうが。ハッ!』

 

 

意識のない警備員達にそう告げると、怪人Sは手綱を操って馬鬼を背後へと振り返らせ、馬鬼は屋上の外へと勢いよく飛び出して何もないハズの空に地を踏んだ。そして、馬鬼はそのまま軽快な足音を響せながら空を駆け抜けて何処かへと向かっていき、怪人Sは馬鬼を走らせながら懐から一つの玉……六つの星が入った桜色の宝玉を取り出した。

 

 

(残るはあと一個……奴より先に、最後の一つを手に入れさえすれば……)

 

 

宝玉を強く握り締めながら決意を新たにし、怪人Sは手綱を握り直し馬鬼と共に夜空を駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

――そして、桜ノ神の世界で事件が起きている頃、光写真館では……

 

 

 

 

零「――オォーイ……確かにさっきのは俺が悪いとは思うが……これはどうかと思わないかぁ……?」

 

 

 

 

……桜ノ神の世界を救った一人である黒月零は何故か布団で丸められた上に縄で何重にも縛られ、自室の窓から逆さ吊りにされていたのだった。

 

 

なのは「本当に悪いと思うのなら、一晩其処で頭を冷やしなさい!」

 

 

零「一晩ずっとこの態勢で過ごせと言うかっ?!鬼かお前っ?!」

 

 

なのは「性懲りもなくデリカシーのないセクハラするからでしょっ、零君がっ!」

 

 

零「此処までされる程酷いものだったかっ?!俺は単に食い過ぎで腹が痛いって言うフェイト達に、薬を薦めてやっただけだろうがっ!!」

 

 

なのは「其処で薦める薬がなんでよりによって胃腸薬じゃなくて浣腸の薬なのっ?!可笑しいでしょっ!!」

 

 

零「胃腸薬が切れてたんだから間に合わせであれしかなかったんだしょうがないだろっ!!大体浣腸の薬の何が悪いかっ!!ただお前達の体調を案じただけだというにっ、何だ、恥ずかしいってか?!心配しなくても俺だってお前達のケツになぞ興味な――」

 

 

―バタンッ!―

 

 

零「おおぉい待てええええぇぇぇぇーーーーーっ?!待てっ!!分かったっ!!俺が悪かったからコレ外せっ!!この態勢だと頭に血が昇るんだっ!!おおおおおおおいっ!!」

 

 

逆さ吊りにされながら身体を左右に揺らして写真館の中に戻ってしまったなのはに向かって叫ぶが、なのはが戻って来る気配は一向にない。そして結局、零は外に吊されたまま一晩過ごすハメになったのだった……。

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神①

 

 

 

それから翌日……

 

 

零「――グゥッ……くそっ、まだ頭が痛いっ……」

 

 

なごみ「――随分よろよろですね。まるで二日酔いのオヤジーさんのようですよ?」

 

 

自室の窓から逆さ吊りにされ一晩過ごすという罰から解放された零は、ガンガン痛む頭を抑えながら愚痴をこぼす。そんな彼は現在、たまたま偶然写真館に遊びに来た以前キャンセラーの世界で知り合った銀髪の中性的な顔をした自動人形、"ドール"、そして滝の世界のなのはとユーノの娘である"高町なごみ"と、その付き人である人型女性アンドロイドの"アシェン・ジョーカー"と共に、何故か姫に連れられて桜ノ神の世界に訪れていた。

 

 

姫「君も毎回毎回懲りるという事を知らないな。君は彼女達にセクハラしなければ死んでしまう呪いにでも掛かっているのか?」

 

 

零「そんなピンポイントな呪いになぞ掛かってたまるかっ……あぁ、クソッ……まだフラフラするし、何か気持ち悪い……うっぷっ……」

 

 

ドール「昨晩はお楽しみで、一晩中逆さ吊りにされたワケですからなぁ。経緯が経緯なので弁解の余地無しですが」

 

 

零「その最初の方の俺が好き好んでやってるような言い回し止めろっ、あんな趣味なんぞ俺にはないわっ」

 

 

アシェン「毎回懲りもせず繰り返していればそう疑いたくもなりますでしょう。繊細さの無さも、此処まで来ると最早才能の一種ですますね」

 

 

なごみ「いっそ開き直って変態紳士と名乗ったらどうでしょ?案外似合うと思いますが」

 

 

零「そんなもん似合いとうないわっ!」

 

 

ドールとアシェンとなごみから不名誉な称号を着せられそうになって必死に拒否するが、大声を上げたせいで余計に頭痛が強まり頭を抑え黙り込んでしまう零。するとそんな彼女達に、姫が腰に片手を添えて口を開いた。

 

 

姫「まあそう弄ってやるな。確かに自業自得ではあるが、彼も悪気があった訳ではないんだ」

 

 

零「!木ノ花、お前……」

 

 

姫「彼は無意識ながらアレはアレで喜んでるんだから、人の趣味をどうこう言うものではないだろう?何せ前になのは達からの制裁を受けて部屋で休んでる彼を見舞いに行った時も、彼の部屋からイカの臭いが――」

 

 

零「ちょっとでもお前に感動した俺が馬鹿だったっ」

 

 

それと名誉の為にも言っておくが、彼女が嗅いだイカの臭いは栄次郎が見舞いに来た時に貰った焼酎と一緒に付いてきたスルメの匂いだ。決して部屋の中でやましい事をしてた訳ではない、断じてだ。

 

 

零「あぁ、もういいっ……それはそうと木ノ花、そろそろ何でまたこの世界に俺を連れてきたのか、話してくれてもいいんじゃないか?コイツ等もコイツ等で、なんか面白そうな事がありそうだからって付いてくるし……」

 

 

ドール「おやこれは意外、私達の思考を見抜くとは。女心には疎い癖に小生意気ですねぇ」

 

 

零「それとこれとは話は別だし、お前達の場合はもう深読みする必要もなくそういう考えがタダ漏れてるだろ……大体、なんでよりにもよってお前となごみ達が一緒なんだっ」

 

 

なごみ「私は前々から、お母様のお手伝いなどでコツコツと貯金していたお小遣が大分貯まってきたので、ドールさんのお店を覗きに来ただけですよ」

 

 

零「……は?ドールの……店?」

 

 

ドール「おや、ご存知ありませんでした?こう見えてもワタクシ、小さいながらショップを開いてまして。今まで渡り歩いてきた世界で手に入れた品を売り物として扱ってるのですよい。それでちょくちょくお金を稼いで借金の足しにしてるというね(´ω`)」

 

 

なごみ「そして私はちょくちょく貯めたお金をたまにドールさんに貢献してるという事です。因みに、先程も一品ほどアイテムを買収したところですが、それをどう使うかは……ご想像にお任せします」

 

 

零(……絶対にロクなことじゃないな……明らかに……)

 

 

あからさまな態度で視線を逸らすなごみを見て心の中でそう断言する零。しかしそれを聞くのは恐ろしくもあるので敢えて問い詰めはせず、取りあえず話題を戻そうと姫に視線を戻した。

 

 

零「で?何でまた急に戻って来たんだ?まさか故郷が恋しかったから、なんていう訳でもないんだろう?」

 

 

姫「ふむ……ま、私もまだ詳しくは聞いた訳ではないのだが、昨夜に桜香からの式神が届いてな。なにやら彼女達の世界でとある窃盗事件が起きたらしく、私に話したい事があるから戻って来て欲しいと知らせが来たんだ」

 

 

零「……?窃盗事件……?何でまたそんな――って、アイツ等がただの窃盗事件なんぞでお前を呼び戻す筈がないか……」

 

 

何せこの世界には紗耶香と桜香の二人の聖者が揃っているのだ。幻魔神復活事件の時もそうだが、彼女達は以前この世界に攻め入ったギルデンスタンとその配下の人造幻魔達を撃退した事がある手練れだ。それが、ただの人の手で起きた程度の事件で姫を呼び戻すとは思えないが……

 

 

アシェン「つまり、その窃盗事件が普通の人間の手による事件ではないと?」

 

 

零「……まさか、実はまた幻魔みたいな怪人が現れて、なんて事はないよな……?」

 

 

姫「まさか……。そもそも幻魔はフォーティンブラスの消滅と共に消えたのだし、幻魔のような危険な妖が現れたことも、長年生きて来て今の一度もなかったんだぞ?……まあ、万が一に備えて、私の契約者である君も連れてきた訳なんだが」

 

 

ドール「んー……まあ居たにはいたけど、単純に幻魔さん方が表でヒャッハー!してたせいで出ようにも出られなかったとかではないですか?んでどっかの穴蔵にでも引きこもって、虎視眈々と機会を伺っていたという線も有り得なくはないと思いますが、まあ実際に話を聞くしかないんじゃねースか?此処で話してても時間を浪費するだけですし」

 

 

零「……そしてこのまま付いて来る気満々なんだな、お前達……」

 

 

一向に帰る気配を見せず、このまま桜ノ神社まで付いて来る気満々のドール達に頭を悩ませる零だが、そんな彼を置いて姫とドール達は先を進んでいってしまい、零はもう一度深く溜め息を吐いた後に彼女達の後を追って歩き出していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そしてそれから数十分後、桜ノ神社にて……

 

 

絢香「――神様、零さん、お久しぶりです♪」

 

 

姫「ああ。久しぶりだな、皆。変わりないようで安心……と言いたいところだが、何やらまた面倒な事件に巻き込まれたようだな」

 

 

 

桜ノ神社に到着した零達を待っていたのは、桜ノ神の世界で零とアズサ達が世話になった絢香、そして共に幻魔と戦った紗耶香と桜香の三人だった。神社の居間に通された零達は、絢香の案内で卓袱台を挟み絢香達と向き合う形に腰を下ろしている。

 

 

紗耶香「申し訳ありません……本当なら、旅情の身である神様の手を患わせる事など心苦しいのですが、何分神様本人に確認して頂きたい事がありまして……」

 

 

姫「確認?……つまり今回の事態は、私にも何か関係があると?」

 

 

桜香「関係があるかないかはまだ分からないんだけど、貴方に直接見てもらった方が手っ取り早いと思ってね。……ところで……」

 

 

ふと、姫に向けられていた桜香の目が彼女の隣で絢香から貰った吐き気止めの薬を飲む零に向けられ、其処から更にドール、なごみ、アシェンに視線が移動していく。

 

 

桜香「また見慣れない連れがいるけど、何?貴方達の仲間?」

 

 

零「ぐぅっ……うん?ああ、この三人か?コイツ等は――」

 

 

なごみ「どうも、初めまして皆さん。零さんの実妹兼恋人の高町なごみです」

 

 

アシェン「なごみお嬢様の護衛兼零様の愛人のアシェン・ジョーカーです、以後お見知り置きを」

 

 

ドール「浮気相手のドールです。ちなみに彼との馴れ初めは酔っ払った彼に暗い路地で後ろから―――ポッ(*´ω`*)」

 

 

姫「そして私が正妻ポジの姫だ、記憶しておいてくれ♪」

 

 

零「一度にボケるのだけは止めろォッ!!ツッコミが追い付かんわァッ!!」

 

 

絢香「れ……零さん……そんなっ……」

 

 

紗耶香「じ、実の妹までっ……其処まで堕ちたかっ……!!」

 

 

桜香「……一夫多妻去勢剣……鍛えに鍛えたこの剣技を見せる時が来たか……」

 

 

零「お前等もお前等で真に受けんなッ!!本気で心が折れるッ!!」

 

 

なごみ達の自己紹介で思いっ切りドン引きして軽蔑の眼差しを向けて来る絢香と紗耶香、更にその隣でなにやら物騒な事を呟く桜香に冷や汗を流しながら卓袱台を叩いて叫ぶ零だが、元凶の姫達はそれに意に介さず絢香達が用意した茶菓子に興味を向けご馳走になっていたのだった。

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神②

 

 

 

―桜ノ神社―

 

 

姫「――『怪人S』?」

 

 

それから数十分後。一先ずなごみ達についての誤解を解いた後、零達は絢香からこの世界に呼ばれた理由について説明を受け、彼女の説明の中に出てきた気になるワード……怪人Sという聞き慣れぬ名に姫が思わず聞き返していた。

 

 

零「何だ、その捻りのない名前?新星のお笑い芸人か何かか?」

 

 

桜香「ふふ……お笑い芸人なら寧ろ良かったのだけどね、それだったら茶の間のテレビで笑うだけで済むのだから。……怪人Sというのは、最近この町に現れた正体不明の怪盗の名よ」

 

 

絢香「実はつい先日、桜ノ神社宛てに突然こんなモノが届きまして……」

 

 

そう言って、絢香は懐から一枚のカードのようなモノを取り出して卓袱台の上に置き、姫がそれを手に取ると、零達も脇から顔を出しそのカードを覗き込んだ。其処には……

 

 

 

 

 

 

今夜12時丁度、桜ノ神社に保管されてる『桜龍玉』の一つ、『六桜玉』を頂戴しに参ります 

 

 

    怪人Sより   

 

 

 

 

 

 

其処には、如何にも漫画の中の怪盗が送り付けたような予告文が書かれており、零はそれを見て眉間に皺を寄せながら険しい表情を浮かべた。

 

 

零「なんだこれは……ネタかと思えば、本気で怪盗の真似事のつもりか?悪ふざけにも程があるだろ、くだらん」

 

 

ドール「おや、そうですか?私はこういうの嫌いじゃないですよ。怪盗の美点を捉えてますし、名前も何処となく怪人二十面相を彷彿とさせるというか」

 

 

零「そりゃ空想や漫画の中の場合はな。現実でこんな物、出された方からすれば堪ったものじゃない」

 

 

アシェン「随分辛辣ですね……怪盗絡みで、何か嫌な思い出でも?」

 

 

零「……随分昔にな。まだ局員になり立てだった頃、これと似たような予告状が送られて来たんだよ。〇〇ホテルのお高い宝石を頂くみたいな……明らかに悪戯の可能性大だったが、万が一に備えてと俺を含んだ多くの局員達が深夜まで警備に付けられたが、結局取り越し苦労で何も起こらず、俺は次の日にも別の仕事があったのに寝不足で遅刻……口喧しい上官から叱られるわ、嫌な同僚からは『高ランクの魔導師様となると堂々と遅刻が出来るんですねぇ~』なんて嫌味を言われるわで散々な目にあった。しかもこんな悪戯が年に数回もあるのだから、怪盗なんちゃらと聞く度に思わず舌打ちしてたくらいだ」

 

 

なごみ「公務員のお仕事も大変ですね。……もしや、零さんが大輝さんを毛嫌いしてるのは其処から来てるとか?」

 

 

零「それもあるし、個人的に奴という人格が俺の嫌いなタイプっていうのもある。カイトみたいに訳ありで怪盗やってるならともかく、自分の為に怪盗の真似事やってる奴の気なぞ知れん。だから俺は声を大にして言いたい……滅べ、全世界のエセ怪盗共っ」

 

 

ドール「オオゥ……積年の怨みとやらが篭められてるのをヒシヒシと伝わりますね」

 

 

姫「…………」

 

 

絢香が見せた予告状を見たせいで嫌な記憶と嫌な奴の顔を思い起こされたからか、不機嫌な表情を浮かべて昔の事を語る零の隣では、何やら姫が険しい顔付きで予告状を睨み、絢香に視線を戻し口を開いた。

 

 

姫「『桜龍玉』の六桜玉を頂戴する……この怪人Sとやらが名指した物を、君達は保管していたのか?」

 

 

絢香「はい。六桜玉の他にもあと一つ、七桜玉も保管してました。ですが、以前海道大輝さん達にツボを盗まれた時の事を考えたら心配になりまして……今回はこの予告状が送られて来たのをきっかけに、町の方々にも協力を要請して市内にある美術館に六桜玉を厳重に保管して頂けるようお願いしたのですが……」

 

 

紗耶香「その……誠に申し上げ難いのですが……昨夜その盗っ人が厳重な警備をかい潜って美術館に侵入し、六桜玉を奪われてしまいまして……」

 

 

桜香「私達が救援を受けて駆け付けた時には、警備員達は全員気絶、怪人Sにも既に逃げられた後だった。幸い怪我人は誰もいなかったのだけど、目を覚ました彼等は何故か全員怪人Sを追っていた時の記憶が欠落しててね。詳しく話を聞こうにも、彼等は何も覚えてはいなかった……だから、奴を直接見たって人は誰もいないのよ」

 

 

姫「記憶が欠落?……ふむ……確かにこれはただ事ではなさそうだな……しかも奪われたのが桜龍玉の一つとなると余計に妖しく……」

 

 

予告状を見据えながら顎に手を添えて思考に浸る姫。するとそんな彼女の横顔を見ていたなごみが、スッと小さい左手を上げた。

 

 

なごみ「ハイ。取りあえず、事情を知らない私達は置いてきぼりを喰らってるので、質問宜しいでしょうか?」

 

 

絢香「え……あ、は、はい。どうぞっ」

 

 

なごみ「有り難うございます。では早速なのですが、先程から皆さんが話してる『桜龍玉』とは、一体なんなのでしょう?もしやアレですか?D〇的な何か?」

 

 

ドール「わお、なごみさん、いきなりそんな核心突いちゃう?でも私的にも其処んとこ気になってたので、ハイ!私にもチョーイイネーでサイコーな説明プリィィィィズ!」

 

 

絢香「え……えぇっと……」

 

 

零「……コイツ等の発言の八割方は無視していいぞ、絢香。一々気に止めてたら話が進まない」

 

 

絢香「は、はぁ……」

 

 

横に並びながら片手を挙手するなごみとドールの言動とテンションに圧倒されて言い淀む絢香に零が静かにそう言い放ち、絢香は控え目に頷きながら一度咳払いした後に説明を始めた。

 

 

絢香「桜龍玉とは、とある神様……あっ、姫様とは別の神様ですよ?が、大昔に作ったという『神具』の事です」

 

 

アシェン「?失礼ですが、神具とは?」

 

 

桜香「文字通り、神様の手で作られた道具のことよ。不老不死を無効化して命を刈り取る武器、この世全ての生き物を魅力させる薬、天気を操る道具とか。そういった普通なら有り得ない事を実現させる道具と認識してくれればいいわ。……まあそういったモノは殆ど、もう随分と大昔に消えてしまったようだけど」

 

 

絢香「それらの神具を生み出した本人、或いは持ち主である神様達が人の世からいなくなれば、それと共に、彼等が作った神具も人の世に残されず消えてしまいますからね。そして、その桜龍玉も持ち主の神様がいなくなった事で、数百年の間ただの石に変わり果てていたのですが……」

 

 

其処で、絢香の視線が姫に向けられていき、姫もそれで絢香が何を言いたいのか悟り小さく頷き返した。

 

 

姫「なるほど……桜龍玉は、初代桜ノ神が作った神具だからな。現桜ノ神の座に居る私が蘇った事で、力を失っていた桜龍玉は本来の力を取り戻したというわけか……となると、このまま桜龍玉を放置しておくのはマズイかもしれない」

 

 

零「……?何だ?そんなにヤバい物なのか?」

 

 

姫「……ふむ……使う人間によりけり、といった感じだな」

 

 

なごみ「……つまり、扱う人間によっては危険な品物になる、という事でしょうか?」

 

 

そう問い掛けるなごみの瞳が少しばかり真剣味を帯びたような感じがするのは、気のせいではないだろう。そんな彼女に疑問を投げ掛けられた姫は少しだけ間を置いた後、徐に頷き言葉を続けた。

 

 

姫「桜龍玉という神具は、全部で八個存在する。そうして全ての桜龍玉を集めた者は、様々な望みを叶えてくれる『桜龍』を呼び出せると言い伝えられてるのだ」

 

 

ドール「オーリュー?……アレー?何か設定が本格的にD〇っぽく――」

 

 

零「今ネタを挟むのは自重しろ、本当に話が進まなくなるっ」

 

 

姫「別に構わないぞ?何せ桜龍玉自体、初代桜ノ神が違う世界の地球から招いたナメック人の知識を借りて完成させた神具なのだし」

 

 

零「パクリどころかオリジナルの制作者本人が関わってただとォッ?!!」

 

 

なごみ「成る程……某龍玉と類似点があるのはその為ですか。納得しました」

 

 

まさかの衝撃事実に驚愕を露わにして動揺してしまう零だが、なごみやドールは「ああそういう事……」と結構冷静に受け止めており、姫もなごみの言葉に肯定するように頷いた。

 

 

姫「とは言っても、桜龍はかの神龍のようにあらゆる望みを叶えてくれるという訳ではない。出来ない事も多々あったり、桜龍を呼び出す為の力が足りないからと原典より桜龍玉を一つ増やしたりと、龍玉の劣化版として生み出されたんだ。まあそれでも、不老不死を授けたり、星を一つ生み出したり、死者を蘇生させるなどの力は持っているのだが……」

 

 

零「……その時点で既にヤバい感じがするな……何でそんな品物を一カ所に保管せずに放置してたっ?」

 

 

そんな危険な品物だと言うなら、何故しっかりと保管するなり封印するなりしておかなかったのだと呆れる零だが、姫は力無く首を横に振りながら薄く溜め息を漏らした。

 

 

姫「全て集めようにも、私も他の桜龍玉が何処にあるかは知らないんだ。なにせ上役の神達は、桜龍玉の事を私に説明しただけで何処にあるかなど教えてはくれなかった。桜龍玉は、人間が自分達の叶えたい望みを叶える為に追い求め集めるものだからと言ってな……最も、散らばった桜龍玉は意図的に人間達には見付からないような場所に落ちるよう仕向けてあるらしいのだが……」

 

 

なごみ「?それはどういう……」

 

 

ドール「……ハハーン……もしやアレですか?『願いを叶える道具は授けてやるけど、オメーらには絶対見付けられないだろうけどなプギャー!』……みたいな?」

 

 

姫「ふむ……半分ぐらいは間違ってはいないな。仮にも神の手によって作られた願望機、そう安易く人間の手には渡らぬように、己の願いの為に何処まで神具を追い求められるか……半ば人間達への試練という意味も篭められているらしい。まあ、散りばめられてから一度でも全て集められた事はないらしいが」

 

 

零「……成る程な……んで、その怪人Sとやらも何か叶えたい望みがあるから、桜龍玉を追い求めるって口か?」

 

 

桜香「毟ろそれ以外集める理由がないでしょ。でも、このまま怪人Sに七桜玉を渡すワケにはいかないわ。どんな理由があれ、それを話さず、堂々と姿も見せずにこんなふざけた予告状を送り付けてきて、厳重に保管すれば無断で掻っ攫って行くような奴がまともな筈ない」

 

 

零「いや、理由も話さずにって部分はソイツもお前も似たようなも――」

 

 

桜香「ん?何かしら♪」

 

 

零「……いや、別に何も」

 

 

ニッコリと笑い掛けて来る桜香から逃れるように目を逸らして言葉を引っ込める零。そしてそんな零を横目に、姫は予告状を卓袱台の上に戻して話を続けた。

 

 

姫「それで?先程私に確認してもらいたい物があると言っていたが……もしや、この予告状の事か?」

 

 

絢香「それもなんですが、もう一つ。これなんですが……」

 

 

そう言って、絢香は再び懐から先程出した予告状と同じ物を取り出し、卓袱台の上に置かれた予告状の横にソレを差し出した。其処には……

 

 

 

 

 

 

今夜1時半、〇〇〇ホテルに保管された『七桜玉』を頂戴しに参ります

 

 

    怪人S    

 

 

 

 

 

 

其処に書かれていたのは先の予告状と同じく、絢香達が持つ最後の桜龍玉を頂くという怪人Sからの予告文だったのである。

 

 

紗耶香「今朝方に、神社の郵便受けに入れられてた物です。内容は、我々が持つ最後の桜龍玉……七桜玉を、今夜頂くと」

 

 

姫「昨日の今日でもう、か……まぁ盗みを働いた以上、町に長居出来る筈がないだろうからな。それでこの、七桜玉が保管されているホテルというのは?」

 

 

桜香「この町で1番大きなホテルよ。六桜玉を美術館に移動させる時に、一緒に人知れず移動させたのだけど……どうやら向こうにはバレてたみたいね」

 

 

アシェン「では、今の内に関係者に連絡して、七桜玉を別の場所に移動させては如何でしょうか?」

 

 

紗耶香「いや……恐らく、それも無駄骨にしかならんだろ。実際前回の予告状が送り付けられてすぐ美術館に六桜玉を移動させたにも関わらず、怪人Sは予告通り、美術館に潜入し六桜玉を盗んでしまった」

 

 

零「……こっちがどんなに手を打とうが、向こうには全部筒抜けって事か。チッ、小賢しい」

 

 

ドール「アータ本当に辛辣ねぇ……そんな怪盗嫌いになるまで、一体どんだけ嫌な思い出築いてきたん?」

 

 

怪人Sの手際の良さに忌ま忌ましげに舌打ちする零に、ドールが若干ドン引いた様子で声を掛ける。そしてそんな二人のやり取りに苦笑いを浮かべながら、絢香は姫に目を向けた。

 

 

絢香「ともかく、怪人Sが一筋縄ではいかない相手だというのは間違いなさそうです。何せ、人間の記憶を消すなんて事をやって退けるのですから……もしかすると、怪人Sが異形の類という可能性も……」

 

 

なごみ「つまり、怪人かもしれないという事ですか。……まあ既に怪人と堂々と名乗っている訳ですから、あながち間違いでもないと思いますが」

 

 

零「だが怪人がわざわざ、これから盗みに行きまーすなんて予告状出して自分達の作戦をバラすような馬鹿を……いや……有り得なくはないか……」

 

 

アシェン「……いえ、其処で私とお嬢様を見られましても。実際にそんなお馬鹿をやってるのはショッカーですし」

 

 

実際お馬鹿をやってる知り合いの世界の悪の組織の事を思い出して半目でなごみとアシェンを見つめる零。そんな零を見つめ返し冷静に返すアシェンを他所に、桜香が茶を啜って再び口を開いた。

 

 

桜香「まあそんなワケで、私達は今夜〇〇〇ホテルに保管されてる七桜玉の警備に参加して、怪人Sを迎え撃つ事にしたの。だから、其処に貴方達にも参加してもらいたいのよ。もしかすると怪人Sが幻魔、もしくは幻魔とは違う別の敵……なんて事も、あるかもしれないでしょ?」

 

 

姫「ふむ……まあ私は別に構わないが、零、君はどうする?」

 

 

零「どうするも何も、最初から俺にも手伝わせる気で連れて来たんだろう?今更帰るなんて言えるか。……それに、その怪盗とやらをひん捕まえるのも悪くはない。俺が直々に御上に差し出して刑務所にぶち込んでやる。フ、フフフッ……」

 

 

ドール「わー……零さんがヒーローにあるまじき極悪な顔で笑っておられるぅー……って、最初から零さんにヒーローらしいとことかありませんでしたな」

 

 

なごみ「堂々と女性にセクハラするような人ですしね。因みに、何やら面白そうなので私も参加します」

 

 

アシェン「お嬢様が参加なさるのなら私も。私の目の届かぬ所で、お嬢様が零様に卑猥な事をされては護衛失格ですので」

 

 

零「何処まで信用されてないんだ俺はッ?!人を女を見れば手を出す犯罪者みたく言うなッ!誤解されるだろうッ!」

 

 

ドール「しかし間違ってはいないでしょう?昔から、ヒロインは主人公とのToloveるなイベントを起こしては無闇矢鱈にフラグが乱立すると相場が決まってるのですし」

 

 

アシェン「えぇ、ですからお嬢様まで毒牙に掛けられては堪りません」

 

 

零「何処の相場だッ!大体さっきから訳の分からん事ばかりっ、俺が幼女になぞ手を出す訳がないだろうッ!」

 

 

アシェン「ほう……それはつまりアレでますでしょうか?うちのお嬢様は攻略する価値なしと?貴方からすればヒロインとしての魅力もない、と?」

 

 

零「な……何故に其処で、無表情のまま手をバキボキ鳴らすっ?い、いや待て、攻略とかヒロインなんたらは分からんがっ、なごみは普通に魅力的だと思うぞっ?ウンっ」

 

 

なごみ「いやーん、零さんってばもぉー(棒読み」

 

 

アシェン「お嬢様が魅力的?……遂に本性を曝しましたか、この変態ロリ」

 

 

零「フォローに回った途端にコレかぁッ?!一体俺にどうしろと言うんだお前はッ!!」

 

 

ドール「ウワァー……幼女に魅力を感じるとか零さんマジきめぇ……あっ、私に十メートル以内近づかないでくれます?」

 

 

姫「なんと、零はロリもイケる口だったか……よし、君が望むのなら私もこの身をロリにしよう!何、口外はしないから犯罪にはならないさ!」

 

 

零「己らも勝手に人を変態認定するなぁあああああああああっっっ!!!!」

 

 

紗耶香「……前にも思いましたが……本当にこんなんで大丈夫なのでしょうか……」

 

 

絢香「あは……あはははは……あは……」

 

 

ボケ要員×4からの矢継ぎ早のボケ攻撃に、忙しなくツッコミを飛ばす零を見て紗耶香はうんざりした様子で溜め息を漏らし、絢香もまた何とも言えず苦笑いを浮かべるしか出来ずにいたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―桜ノ町・???―

 

 

――零達が桜ノ神社で絢香等と話しているその一方、桜ノ町の何処かに存在する暗闇に包まれた広い空間。何処までも闇で先が見えぬ広大な空間のその中心にて、今、二人の人影が身体を向き合わせ何かを話す姿があった。

 

 

『――一体どうなってる?貴様が言う神具とやらは、何処ぞの鼠に横取りされてしまったぞ?』

 

 

『ふぅむ……妙ですなぁ……アレの存在を知るのは、現代の聖者共、そしてこの世界に不在の桜ノ神のみのハズなのですが……』

 

 

解せぬと言うように、顎に不気味な形状の手を添えてそう語るのは、黒いマントを身体に身に纏い後頭部が後ろに延びた骸骨のような姿の異形。そしてその異形と向き合うのは銀の装甲を光り輝かせる魔人であり、銀色の魔人は自分と骸骨の異形の足元に転がる六個の桜色の宝玉……桜龍玉を見下ろしていく。

 

 

『残る桜龍玉は二つの内、一つを奪われた……このままでは、桜龍とやらを呼び出す事は不可能だ……一体どうするつもりだ?』

 

 

『なに、心配は入りませぬよ。その辺りの事も考えてはおります故、心配ご無用……』

 

 

『……ならばいいがな……だが、忘れるなよ?』

 

 

銀色の魔人の緑色の瞳が、暗闇の中で妖しげな輝きを放ちながら骸骨の異形を見据える。

 

 

『主である幻魔神を失い、消え逝く定めであった貴様が、我々『大ショッカー』の傘下に下るに足る人材であるか……それを証明出来なければ、貴様は――』

 

 

『分かっておりますとも、"月影"殿……。必ずや桜龍の力にて我らが主を蘇らせ、アナタの信用に応えてみせましょうぞ……』

 

 

月影と呼ばれる銀の魔人にそう告げて、骸骨の異形が右手に握る禍々しい形状の杖の尻で地面を軽く叩くと、二人の足元に転がる六つの桜龍玉が不気味な緑色の光に包まれ、そのまま何処かへと消えてしまったのであった。

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神③

 

 

―〇〇〇ホテル―

 

 

―――あれから十数時間後。既に日付が変わり、深夜の闇に包まれる桜ノ町内の〇〇〇ホテルでは、怪人Sの予告状に記されてた予告時間に備え七桜玉の警備を強める警備員達の姿があり、その中には警備への参加を願い出た絢香達の姿もエントランスにあった。のだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ヒュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッ……!!!―

 

 

零「―――ポジショニング……見誤った……な……」

 

 

 

 

 

 

 

 

……何故か零が一人だけ、冷たい強風が吹き抜けるホテルの屋上にて革ジャンのポケットに両手を深く突っ込みながら寒さに耐え忍び、無表情でガタガタと身体を震わせて怪人Sを待つ姿があったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―〇〇〇ホテル・エントランス―

 

 

絢香「――は?れ、零さんを屋上の警備に回したぁっ?!」

 

 

その一方、七桜玉が厳重に保管されたガラスケースが中央に立つエントランスでは、絢香が姿の見えない零の居場所について桜香から話を聞き驚愕の声を上げていた。そんな絢香の大声に周囲の警備員達の視線も集まるが、絢香はそれに気付かないまま愕然とした顔を浮かべ、桜香は腰に左手を添えてやれやれと首を振りながら話を続けた。

 

 

桜香「言っとくけど、別に私がそうさせた訳じゃないわよ?ただ彼が『例の怪人とやらが来る前にアイツ等のボケを捌き切れずに倒れそうだから、どっか一人で見張れる場所を教えてくれ……』って言われたから、屋上を教えただけで……」

 

 

絢香「だ、だからって何でよりによって屋上なんですかっ!あんなところに一人で居させたらっ、それこそ風邪引いて倒れ込んじゃいますよっ!」

 

 

桜香「……まあ大丈夫よ。どうせ寒さに耐え切れずに戻ってくるだろうし。それより私達が気にするべきは、アレでしょ」

 

 

零は限界が来れば本人から勝手に戻ってくるだろうとあまり気に止めず、桜香は顎でエントランスの中央を指した。其処には七桜玉が保管されたガラスケースと、そのガラスケースの前に立ってガラスケースの中の七桜玉を覗き込むなごみ、アシェン、ドール、姫、そして彼女達に七桜玉の詳細を解説する紗耶香の姿もあった。

 

 

なごみ「――これが七桜玉ですか」

 

 

ドール「なーるほど。玉の中に星……のように見える桜の花びらが七枚あるから七桜、という事ですか」

 

 

姫「ふぅむ……私も実物は初めて見るが、確かにこの宝球には僅かながら神愾を宿してるな。やはり桜龍を喚び出す為の物か」

 

 

紗耶香「恐らく。とは言え、私達も実在の桜龍をこの目で見た事はないのですが」

 

 

ガラスケースに保管される七桜玉をジッーと凝視するなごみとドール。その二人の後ろでは姫が初めて目にする七桜玉から僅かな神愾を感じ取り、その様子を離れて見ていたアシェンは、何かを探るように辺りを見渡していく。

 

 

アシェン「それにしても、この程度の警備態勢で本当によろしいのですか?相手は一度六桜玉の盗難に成功させてるようですし、もう少しトラップを仕掛けるなり、何かしら警戒レベルを上げるべきでは?」

 

 

紗耶香「いや、トラップは既に前回で実践して、その結果がアレだったんだ。だから単純な罠では向こうも攻略法や解除法、突破法など熟知してると考えてこの警備態勢を取った」

 

 

ドール「んまぁ、トラップなんてもんは突破スキルさえありゃ大した障害になんざならねーもんですしねぇ。因みに失礼な質問ですが、この警備員の方々は信頼出来るお人達で?知らぬ内に怪人さんと入れ代わっているなんてオチがありそうで、少々心配なのですが」

 

 

桜香「その事なら心配入らないわ」

 

 

人数が多い為、いつの間にか警備員の誰かと怪人Sが入れ代わって既にホテル内に潜んでいるかもしれないという可能性を考えて遥か天井のガラスを仰ぐドールに、桜玉が絢香と共に歩み寄りそう告げると、懐から人型の小さな紙切れを取り出した。

 

 

桜香「警備の人達全員の懐にこの式神を潜ませてあるから、何か異常が起きた時にはコレが知らせるようにしてあるの」

 

 

アシェン「成る程、そちらの対策も既に練っているという訳ですね」

 

 

桜香「相手は一筋縄ではいかないようだしね。それとさっき紗耶香と手分けして、ホテル内のあっちこちに侵入者対策の札を張り巡らせておいたから、外からの侵入に対しても対策済みよ。捕まえると決めたからには、手を抜いたりはしないわ」

 

 

なごみ「徹底してますね。しかし相手も仮にも怪盗を名乗っている訳ですから、私達の想像を遥かに超える手段で盗りに来るかもしれませんよ?それこそ某怪盗Ⅲ世や猫目三姉妹のような突拍子もない方法でとか」

 

 

アシェン「いいえお嬢様、きっと最近で言うところの怪盗キッ〇並の盗みっぷりですよ恐らく……となると、此処は体は子供で頭脳は大人の、スーパー小学生を連れてくるべきなのでしょうか?」

 

 

ドール「ノンノン、こんな事件は私がいれば即コスモ解決ですよい。なにせ私は、彼のコスモパトロールでバイトとして働いてた過去があるのですから!若さや愛を問われても!振り返りも躊躇いも蒸着もしませんが!鍛えに鍛えたこの腕でコスモ追跡、あーんどコスモ逮捕してやるぜぇ!エマージェースィー!ジャッジメント!決☆め☆るぜぇッ!」

 

 

姫「では、捕らえた後は私がその怪人とやらを亀で……ん?だが、もし相手が男だった場合、亀で縛っても誰得な事に……むむ」

 

 

紗耶香「……ああ……黒月がいなくなって分かったが……ダメだ……私には、奴のようなツッコミスキルがない……」

 

 

絢香「あ、あはははっ……ま、まあ、桜香さんが仕掛ける罠は確かに優秀ですから、心配入らないと思いますよっ?うんっ」

 

 

交互にボケるなごみ達へのツッコミが思い付かず思い詰めた顔を浮かべる紗耶香の隣で、絢香が苦笑で彼女達のボケをごまかしながらそう告げた。そしてそんな彼女達を他所に桜香は左腕に身に付けた腕時計に目を落とし、時間を確認する。

 

 

桜香「1時23分……もうすぐ予告時間ね……警戒を怠らないで。いつ何処から奴が現れるか、分からないわ」

 

 

ドール「ウォーケェーィ!任せんしゃーい!例の怪人さんが来た瞬間、この手で獅子奮迅にして獅子奮迅にしてやるのだわ!」

 

 

紗耶香「いや、まるで意味が分からんぞ」

 

 

キィィイイエェェエエッ!と荒ぶる鷹のポーズを取り気合いを入れるドールに、冷ややかなツッコミを入れる紗耶香。そして他の一同がそんな様子を見て呆れたり苦笑いを浮かべたりしていた、そんな時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズバアアァァッ!!!―

 

 

「う、うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!?」

 

 

―ドシャアアァッ!!!―

 

 

『ッ……!!?』

 

 

 

 

突然、エントランス内に悲痛な悲鳴が響き渡ったのである。その声を聞き絢香達や他の警備員達が驚愕して慌てて辺りを見回していくと、遥か上のフロアから何かが落下して絢香達のいるエントランスへと落下し、絢香達がそちらの方に振り返ると、其処には肩から腰に掛けて匙加減に切り傷を付けられて血を流しながら倒れる男性……上のフロアの見回りをしていたハズの警備員の一人の姿があり、それを目にした絢香達は慌てて警備員へと駆け寄って身体を抱き起こした。

 

 

紗耶香「お、おいっ!どうしたっ?!しっかりしろっ!何があったっ?!」

 

 

「ぁ……ぅがっ……ば……ばけ……もの、が……」

 

 

絢香「ば、化け物……?」

 

 

姫「――ッ!皆っ、下がれっ!!」

 

 

桜香「……え?」

 

 

警備員が途切れ途切れに口にした化け物という言葉に絢香が戸惑いと疑問を浮かべる中、姫が突然声を荒げながら絢香の手を引いて後ろへと下がり、それに続くようにアシェンがなごみを、ドールが警備員を抱えてガラスケースの下まで跳び退いた。その時……

 

 

―……シュワアァァァァァアアアアアアッ……―

 

 

『――グルラァァァァッ……』

 

 

『アァァァァッ……』

 

 

「?!な、何だっ?!」

 

 

「うわあああああああああああああああっ!!?」

 

 

エントランス内、各フロアなどの要所々々に突如闇にも似た霧が無数に出現し、其処からなんと黒い甲冑を纏った異形の怪物達が姿を現したのであった。そして怪物達はその場に居合わせた警備員達を視界に捉えると共に彼等へと襲い掛かり、姫達も上階のフロアから響き渡る悲鳴と発砲音に動揺していた。

 

 

アシェン「これはっ……!何もない空間に発生した闇から、怪物がっ?!」

 

 

ドール「ちょちょちょい!何ねこれ?!こっちの想像を遥かに超える手段で来るかもとは言いましたけど、流石にバケモン使って来るとか聞いてねぇーっ!しかもまだ予告時間じゃねぇーっ!」

 

 

姫「っ……何がどうなって……とにかく彼等を救い出して避難させるぞっ!このままでは……絢香?」

 

 

突如現れた無数の黒い甲冑の異形達に襲われる警備員達を救う為にイクサベルトを腰に巻き付けて絢香達に呼び掛ける姫だが、絢香と紗耶香と桜香の三人は何故か警備員達を襲う黒い甲冑の異形達を見て目を見開き、驚愕の表情を浮かべていた。

 

 

絢香「そ、そんな……あれってっ……?!」

 

 

紗耶香「ま、間違いないっ……あれは奴の、ギルデンスタンが作り出した『人造幻魔』ですっ!」

 

 

姫「っ?!何っ?」

 

 

あの黒甲冑の異形達の正体……それがかつて、絢香達が倒した高等幻魔の一人であるギルデンスタンが生み出した人造幻魔であると、驚きを隠せない様子でそう告げた紗耶香に姫も驚愕の表情を浮かべるが、その時人造幻魔達が姫達に狙いを定め刀で斬り掛かっていき、姫達はそれぞれ人造幻魔に応戦し反撃していく。

 

 

姫「クッ!どういう事だッ?!ギルデンスタンは君達が倒したのだろッ?!いやそもそも、幻魔神が倒れた以上、幻魔が存在する筈がっ……!」

 

 

桜香「ッ!ギルデンスタンの消滅でコイツ等も活動が出来なくなった筈なのにっ……まさか、奴が?いや、そんなまさかっ……!」

 

 

『グルラァァァァッ!!』

 

 

ドール「ひょおおおおおおおおおおおおおおおッ!!助けてくりぃーっ!!つか早く応戦した方が宜しいのでなくてぇーっ?!警備員の皆さんの身とか色々危ねーですよぉーっ!!」

 

 

刀をブンブン振り回し追い掛けて来る人造幻魔から、怪我人の警備員を担ぎ全力で逃げ回りながら他の一同にそう叫ぶドール。そしてそれを見た姫は咄嗟に駆け出してドール達を追う人造幻魔に跳び蹴りを喰らわせ吹っ飛ばしイクサナックルを取り出すと、桜香と紗耶香も絢香を守りながらそれぞれ籠手を出し、アシェンもなごみを守るように臨戦態勢を取り戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

零「…………寒い…………」

 

 

下のフロアで突如前触れもなく現れた人造幻魔の襲撃に遭ってるその一方、屋上で怪人Sを待ち続ける零はそんな事が起きているとは露知らず、首から下ろしたカメラを風で揺らしながらその場に腰を下ろし遠い目で明かりの消えた町並みを眺めていた。

 

 

零「予告時間の一分前だと言うのに、未だ何の動き無し……本当に来るんだろうな、怪人とやら……」

 

 

まさか既にホテル内に侵入してるとかじゃないだろうな?と、寒さで身体をガタガタ震わせながらそんな事を考え溜め息を漏らし、零の左手首に身に付けられた腕時計が遂に予告状に書かれていた1時半を刺した。その時……

 

 

 

 

 

 

―バッバッバッバッバッバッバッバッ……!!―

 

 

零「…………あ?」

 

 

 

 

 

 

一旦ホテルの中へ戻ろうかと考えていた零の上空から、突然ヘリの音が聞こえて来たのだ。そしてその音に釣られるように零が頭上を見上げると、其処には遥か上空に何処から現れたのか、一機の大型ヘリがこんな時間にホテル上空を飛んでいる光景があった。そして……

 

 

 

 

 

 

―ガラアァッ!―

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

 

大型ヘリの扉が開き、其処から背中のマントを靡かせながら桜色と金色の仮面の戦士……怪人Sがその姿を現したのだ。そうして、怪人Sは遥か眼下のホテルの屋上を見下ろしながら躊躇なく大型ヘリから飛び降り、そして……

 

 

―フッ……ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

零「ッ!何……?」

 

 

怪人Sはそのまま、屋上に貼付けられた天井ガラスに目掛けて猛スピードで落下して天井ガラスを突き破り、その下に繋がってるエントランスへと落ちていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―ガギイィィッ!!ズシャアァァッ!!ズシュウゥッ!!―

 

 

鬼王『ハッ!!ハアァァッ!!』

 

 

『グオァッ?!』

 

 

『グェエエッ!!』

 

 

龍王『ゼエェアアァッ!!早く逃げろッ!!』

 

 

「ハ、ハイィッ!」

 

 

一方同じ頃、ホテル内では鬼王に変身した桜香と龍王に変身した紗耶香の二人が各フロアを駆け回り、人造幻魔達を次々と斬り捨てて警備員達を避難させていた。そしてエントランスでは、イクサFに変身した姫とアシェンが七桜玉を奪おうと迫る人造幻魔達を格闘術で次々と薙ぎ倒していき、七桜玉が保管されているガラスケースの下では、絢香となごみとドールが怪我を負った警備員達の傷を治療する姿があった。

 

 

―バキイィィィィッ!!―

 

 

『ボアァッ?!』

 

 

アシェン「ッ!数が多過ぎますッ!このままでは何れ押されてしまうッ!」

 

 

イクサF『クッ!絢香ッ!なごみッ!ドールッ!君達だけでも先に逃げろッ!このままでは君達の身にまで危険が及ぶッ!』

 

 

絢香「ッ!でもっ!」

 

 

ドール「てやんでぇいっ!そいつは無理な相談って話ッスよ姐さぁんっ!」

 

 

なごみ「引き際は心得ていますので、こちらの心配は入りません。何より、この方々を見捨てて逃げるほど、私も非情にはなれませんので」

 

 

イクサF『ッ……!全く、君もそういう強情なところは母親似だなっ!』

 

 

何でも有りなドールはともかく、警備員達を見捨てて逃げる事を拒否するなごみからなのはの面影を垣間見て苦笑すると、イクサFはイクサカリバーGモードを取り出しながら周囲の人造幻魔達へと乱射し撃退していく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアッ!!!』

 

 

―ズシィィィィィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

『?!なッ……?!』

 

 

フロアの一角から一つの影が雄叫びをあげながら勢い良く落下し爆風が起こり、爆風が晴れると、其処にはイクサF達より二回り巨大な体格をし、両手に大剣と盾を装備した巨大な幻魔……幻魔神との最終決戦にて、翔一が変身したジョーカーによって倒されたハズのマーベラスの姿があった。

 

 

絢香「こ、高等幻魔っ?!あんなのまで、どうしてっ……?!」

 

 

『グルアァァァァァァッ……』

 

 

イクサF『ッ……いよいよ持ってきな臭くなって来たな……コレも怪人Sの仕業なのか?いや、もしかすると怪人Sは……?』

 

 

ギルデンスタンの消滅と共に活動停止したハズの人造幻魔達の襲撃に、高等幻魔の復活。次々と巻き起こる不可解な展開の連続にいよいよ妖しさを覚えるイクサFだが、マーベラスはそれを他所に右手に握る大剣を振り上げて刃に雷を纏い、それを目にしたイクサFとアシェンは背後のなごみ達と七桜玉を守ろうと咄嗟に身構えた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

『Saber Active!』

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

 

マーベラスがイクサF達に向かって攻撃を仕掛けようとしたその時、エントランスの上空から突然聞き慣れない電子音声が鳴り響いたのである。そしてそれを耳にしたその場にいる一同が驚愕し頭上を見上げると、其処には、白いマントを身に包みながら猛スピードで急降下して来る怪人Sの姿があった。

 

 

アシェン「あれはっ……?!」

 

 

『――フルコンタクト……』

 

 

『saber Brake!』

 

 

―ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!―

 

 

再度電子音声が響き渡り、怪人Sが身を包むマントの奥から水色の輝きが放たれ、怪人Sが純白のマントを勢いよく翻すと共に左腕に装備されたアーマーに収納された鋼鉄の剣を抜き取り、水色の極光を刃に纏わせながらマーベラスに向けて振りかざしたのだ。それに対しマーベラスは直ぐさま応戦して雷を纏った大剣で怪人Sへと横殴りに斬り掛かるが、怪人Sが振るった鋼鉄の剣と激突した瞬間に大剣は真っ二つに斬り裂かれ、怪人Sの剣はそのままマーベラスの胴体へと突き刺さっていった。

 

 

―ズブシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!―

 

 

『ッ!!?ゴブッ……ガアアアアアッ……?!!』

 

 

『……フッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァンッ!!!―

 

 

『ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

そうして、怪人Sはマーベラスの胴体に突き刺さった鋼鉄の剣に力を込めてマーベラスを一刀両断に斬り裂き、マーベラスは断末魔の雄叫びを上げながら爆発し粉々に吹き飛んでいったのだった。

 

 

絢香「なっ……こ、高等幻魔を一撃でっ……?!」

 

 

アシェン「……大したパワーですね……ですが幻魔を倒したという事は、この人造幻魔達は怪人Sの仲間ではない……?」

 

 

イクサF『…………』

 

 

マーベラスをたった一撃で撃退した怪人Sの戦闘力に絢香が驚愕を浮かべ、この人造幻魔達の襲撃が怪人Sの仕向けたものではないかと推測していたアシェンが頭上に疑問符を浮かべる中、イクサFは怪人Sを見て仮面の下で目を見開き違う驚愕を浮かべていた。

 

 

イクサF(ま、間違いない……外見は所々変わってるが、あの鎧……だが、何故アレがっ……?!)

 

 

『…………』

 

 

―シュバァッ!!―

 

 

バサッと、純白のマントを翻した怪人Sを有り得ないものを見るような目で見つめるイクサFだが、怪人Sはそれを他所に右手に握る鋼鉄の剣を左腕のアーマーに静かに収めながら素早く駆け出してイクサF達へと突っ込み、それに対し迎撃するようにアシェンが拳を振り上げて殴り掛かった。が……

 

 

―シュビィッ!―

 

 

アシェン「!消えた?!」

 

 

アシェンの拳が届く寸前に、怪人Sの姿が残像のように音も無く消えた。それに驚き思わず動きを止め辺りを慌てて見渡し怪人Sの姿を探すアシェンとイクサFだが……

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

絢香「きゃあぁっ?!!」

 

 

『ッ?!』

 

 

背後からガラスの破裂音と絢香の悲鳴が響き、二人が慌てて背後に振り返ると、其処にはいつの間にか絢香達の背後のガラスケースを破壊して七桜玉をその手に収める怪人Sの姿があったのだった。

 

 

アシェン「なっ……いつの間にっ?!私のセンサーには何の反応もっ……!」

 

 

『――七桜玉……予告通り、コレは頂いていきます』

 

 

イクサF『ッ!待てッ!お前にはまだ聞きたいことが―バゴオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―……なッ?!』

 

 

七桜玉を手に逃亡しようとする怪人Sを慌てて呼び止めるイクサF。だがその時、エントランスの床が突然爆発を巻き起こして破裂し、床の下から巨大な黒い馬……怪人Sが従える馬鬼が飛び出してイクサFの前に立ち塞がったのだ。

 

 

イクサF『ッ!馬鬼ッ?!お前までっ……?!』

 

 

『ブルルルルッ……!!』

 

 

『……時間稼ぎは任せますよ、馬鬼。それでは、私はこれにて……』

 

 

―バサアァッ!―

 

 

アシェン「待ちなさいッ!―バチイィィィィッ!!―クッ?!」

 

 

怪人SはイクサF達にそう言いながら純白のマントを身に包み、超人的な跳躍力で跳び上がって各フロアを駆け登りながら破壊された天井に向かって逃亡し始めたのだ。アシェンがそれを追おうとするも、残された馬鬼が自身の角から雷撃を撃ち出してそれを阻止してしまい、馬鬼は怪人Sを追わすまいとしてイクサFとアシェンに攻撃を仕掛けていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―〇〇〇ホテル・屋上―

 

 

そして、人造幻魔の襲撃の騒ぎを利用し七桜玉を手に入れた怪人Sは、先程破壊した天井からホテルの屋上へと飛び出して着地し何かを探すように辺りを見回していく。だが……

 

 

(……?ヘリが……いない……?)

 

 

怪人Sが探しているのは、此処へ侵入する時に自分を運んでくれた大型ヘリの姿。どうやら七桜玉を盗んだ後はそのヘリに乗って逃亡しようとしていたらしいが、肝心のヘリが見付からず怪人Sは困惑に満ちた様子を浮かべていた。そんな時……

 

 

―バッ!―

 

 

「ハアアァァッ!!」

 

 

『――ッ?!―ドグオォッ!!―クッ……!』

 

 

物陰から突然一つの影が飛び出し、そのまま怪人Sに目掛け跳び蹴りを放ち蹴り飛ばしていったのであった。突然の不意打ちに怪人Sも対応が遅れて回避出来ず壁に強く叩き付けられるが、すぐに立て直して自分を攻撃した影に目を向けた。其処に立っていたのは……

 

 

 

 

 

 

零「――お前を追うべきかヘリを追っ払うべきか一瞬悩んだが、どうやら後者を選んで正解だったらしいな……アレがお前の逃走の足だったらしいし、この寒さに耐え忍んだ甲斐があったようだ」

 

 

 

 

 

 

其処に立ってたのは、この寒さの中で厚着もせずに黒の革ジャンのみを羽織り、首にカメラを掛けた黒髪の青年……偶々屋上に居合わせた零の姿があり、怪人Sは不意を突いて現れた零に警戒し身体を向き合わせた。

 

 

『貴方は……』

 

 

零「屋上の担当を任された警備員だ。言っておくが、お前が探していたヘリなら当分は戻って来んと思うぞ?さっきまで俺が此処から銃を乱射して追っ払った所だからな、逃げるなら自分の足で逃げるしかない……最も、逃がすつもりは毛頭ない訳だが」

 

 

『…………』

 

 

懐からディケイドライバーを取り出して腰に巻き付けながらそう告げると、零は左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出し、怪人Sが飛び出してきた天井ガラスの方に視線を向けていく。

 

 

零「さっきから下の方が妙に騒がしいようだが、アレもお前の仕業か何か?……ま、それもお前を捕まえて吐かせれば分かる話か……とにかく、ソイツは返してもらうぞ?変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

そう言いながらバックルにカードを装填して電子音声が鳴り響くと共に零はディケイドへと変身していき、それに対して怪人Sは零が変身したディケイドを見て僅かに驚くような様子を浮かべた。

 

 

『ディケイド……世界の破壊者……!貴方が……』

 

 

ディケイド『?俺を知っているって事は、お前も鳴滝に俺の事を教えられた口か?なら、一々名乗る必要はなさそうだなぁッ!』

 

 

ディケイドの名を口にする怪人Sから、奴もまた鳴滝辺りから唆されたのだろうと推測しながら慣れた様子で地を蹴り、怪人Sに殴り掛かるディケイド。そして怪人Sも七桜玉を左手へと持ち替えながらディケイドの拳を払い退けて直ぐさま反撃していき、戦闘を開始していくのであった。

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神④

 

 

―〇〇〇ホテル・エントランス―

 

 

『ヒヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーイィンッッッ!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオオォンッッッ!!!!―

 

 

イクサF『グウゥッ!!止めろッ!!止まるんだ馬鬼ッ!!私の声を忘れたのかッ?!』

 

 

ディケイドと怪人Sが激突するその頃、エントランスでは怪人Sが足止めの為に残した馬鬼が雄叫びを上げながら暴風のように駆け、イクサFへと突進し続ける光景があった。それに対しイクサFも床を転がるようにして馬鬼の突進を回避しながら必死にそう呼び掛けるも、馬鬼はそれを聞き入れずに構わずイクサFへと再び突っ込んでいき、それを目にしたイクサFは馬鬼の体当たりを受け流しつつその背中に飛び乗り、手綱を握って引っ張り上げた。

 

 

『ヒヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイィンッッッ!!!!!!』

 

 

イクサF『クッ!このッ!言う事を聞けッ……!ウワァッ?!』

 

 

必死に手綱を引っ張り馬鬼を静めようとするイクサFだが、馬鬼はまるで言う事を聞こうとはせずに激しく暴れ回ってイクサFを背中から強引に振り落としてしまい、何度も床を転がり倒れ込んだイクサFに向けて頭部にある鬼の角を青白く光らせた。そして……

 

 

―シュウゥッ……バチイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!―

 

 

イクサF『ッ?!クソッ!!』

 

 

馬鬼の鬼の角から蒼白の雷が撃ち出され、イクサFへ容赦なく襲い掛かったのであった。イクサFもそれを見て舌打ちしながら慌てて雷撃を回避すると、雷撃はイクサFの背後の壁に直撃して巨大な爆発を起こし、イクサFはそれを背に何処からかイクサカリバーカリバーモードを取り出し馬鬼に目掛け疾走し、左腰からカリバーホイッスルを取り出しバックルのイクサナックルへと装填して押し込んでいく。

 

 

『I・X・S・C・A・L・I・B・E・R・R・I・S・E・U・P!』

 

 

イクサF『―――言う事を聞かないなら、力付くにでも聞いてもらうぞッ!!』

 

 

無機質な電子音声と共に、十字架を模したイクサFの仮面部分が起動音と共に開き、その下に隠された赤い複眼が露わになった瞬間、イクサFから凄まじい熱量が放出されバーストモードへと移行する。そして莫大なエネルギーを刃に纏ったイクサカリバーを身構え、馬鬼はそんなイクサFを近付けさせまいとして続け様に雷撃を放つが、イクサFは雷撃を浴びせられながらも気合いで潜り抜けて馬鬼に肉薄し……

 

 

イクサF『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!』

 

 

―ズバアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアァァアンッッッ!!!!!―

 

 

『――――ッッ?!!!』

 

 

横一閃に振るわれた必殺の斬撃……イクサ・ジャッジメントが馬鬼の身体に叩き込まれていったのだった。そしてイクサFの必殺技をまともに受けた馬鬼は全身から青白い無数の火花を撒き散らしながらふらつき、そのままゆっくりと足元から崩れ落ち床に倒れ込んでいったのだった。

 

 

イクサF『っ……ぜぇっ……ぜぇっ……全く手間をっ……昔は此処まで暴れ馬ではなかったというのにっ……』

 

 

疲れたように肩を上下に揺らしながらそんな愚痴をこぼしつつ、イクサFは膝を折って馬鬼の首にゆっくりと手を添える。加減はした為に気を失っているだけで済んだらしく、イクサFは安堵の溜め息を漏らしホッと胸を撫で下ろすが、其処へ上のフロアから人造幻魔達が飛び降りてイクサFと馬鬼にジリジリと迫って来ていた。

 

 

イクサF『ッ!まだこんな数が……グッ!』

 

 

迫り来る人造幻魔達を見て迎撃すべく立ち上がろうとするが、先程の馬鬼の雷撃のダメージが響いてその場に膝を付いてしまい、人造幻魔達は獣のような唸り声を上げてそんなイクサFに刀を振りかざして斬り掛かろうとした。その時……

 

 

―バッ!―

 

 

アシェン「―――デモンズスラッシュッ!!」

 

 

―ドバアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアァンッ!!!!―

 

 

『ッ?!ゥオアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアァッッッ?!!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアンッッッ!!!!―

 

 

イクサF『――ッ?!』

 

 

イクサFの背後から不意にアシェンが飛び出し、強大なエネルギーを纏った右足で後ろ回し蹴りを放ち人造幻魔達を纏めて吹き飛ばしていったのだ。そしてその光景を見てイクサFも驚き、アシェンはそんな彼女の前に着地し残りの人造幻魔達と対峙した。

 

 

イクサF『アシェン?!』

 

 

アシェン「此処はお任せを、姫様は後方まで後退してお嬢様達の守りをお願いします」

 

 

イクサF『それは……私も助かるが、君一人で大丈夫かっ?』

 

 

アシェン「ご安心を。それにお嬢様から、詳しく話を聞き出す為に幻魔を一体取っ捕まえるという命を受けましたので、そう簡単にはやられません」

 

 

イクサF『……いや、高等幻魔はともかく、下級幻魔は大体知能や言語は取り除かれているから、多分奴らから話は聞けないと思うぞ……?』

 

 

アシェン「そうなのですか……では解剖用として一体ふん捕まえるとしましょう。それなら息の根を止めても問題ないでしょうし」

 

 

イクサF『物騒だなぁ……だが頼りになるよ。では、此処は任せた……!』

 

 

両手をバキバキ鳴らし殺る気十分なアシェンの背中に頼もしさを覚えながら、イクサFはこの場をアシェンに任せて後方の絢香達の下まで後退していく。そしてアシェンもイクサFの気配が離れていくのを感じ取りながら目の前に目を向けると、他のフロアからもぞろぞろとその数を増やし集まって来る人造幻魔達の姿があった。

 

 

アシェン「まだこんなにも残ってましたか……まるで砂糖菓子に群がるアリですね。しかし、私は向かって来る相手に甘くはないですよ?」

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 

アシェンがそう告げたと共に、人造幻魔達はゾンビのような雄叫びを上げながら刀を振り上げてアシェンに突っ込んでいき、それに対してアシェンも拳を構えながら最初に斬り掛かってきた二体の幻魔達を殴り飛ばし、大群へと突進していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―〇〇〇ホテル・屋上―

 

 

『……!』

 

 

―ズギャアァンッ!!ズギャアァンッ!!―

 

 

ディケイド『チィ!ちょこまかとッ!』

 

 

同じ頃、屋上では零が変身したディケイドがGモードに展開したライドブッカーで怪人Sを銃撃していくが、怪人Sは深夜の闇による視界の悪さを利用して屋上内を素早く駆け回り、ディケイドの放つ銃弾は怪人Sの姿を捉えられずにいた。

 

 

ディケイド『ッ!すばしっこさじゃ向こうが上か……だったらコレだッ!』

 

 

このまま戦っても怪人Sに追い付けないと感じ、ディケイドはライドブッカーを左腰に戻しながらカードを一枚取り出してバックルに装填しスライドさせていった。

 

 

『FORMRIDE:KIVA!GARULU!』

 

 

ドライバーからの電子音声と共に、ディケイドの姿がキバ・ガルルフォームへとフォームチェンジしながらバックルから現れたガルルセイバーを左手に手にしていったのであった。そしてDキバはガルルセイバーを右手に持ち替えながら格段に向上した脚力で怪人Sの気配が感じられる方向へと素早く駆け出し、怪人Sの進行方向に飛び出てガルルセイバーで斬り掛かった。

 

 

『ッ!―ガギイィィィィィィイッ!!―グッ!』

 

 

DキバG『チッ……紙一重で避けたか。だが、コレでお前に一方的に振り回されずに済むな。ハアァッ!!』

 

 

刃が届く直前に身体をずらして直撃を避けた怪人Sに向けそう言いながらガルルセイバーの刀身をスルリと撫で、Dキバは獣のように荒々しい太刀筋で怪人Sへと斬り掛かっていった。対する怪人Sもマントを翻しながらDキバの剣をかわし続けるも、次第に刃が所々に掠れて火花が散り、このままでは勢いに圧されると悟った怪人SはDキバの頭上を飛び越え、そのまま隣のビルに逃げようとホテルの屋上から空高く飛び上がっていった。

 

 

DキバG『ッ!逃がすかッ!』

 

 

それを見たDキバも怪人Sを逃すまいと左腰のライドブッカーからカードをもう一枚取り出し、バックルに投げ入れて手早くスライドさせた。

 

 

『FORMRIDE:KUUGA!DRAGON!』

 

 

DクウガD『ゼエアアァッ!!』

 

 

―バッ!!ガシイィィッ!!―

 

 

『?!くっ……!』

 

 

電子音声が鳴り響く同時にDキバの姿がクウガ・ドラゴンフォームへとフォームチェンジし、変身完了と共に並外れた跳躍力で飛び上がり上空の怪人Sの左足を掴んで力付くで引っ張ったのだ。それによりバランスを崩した怪人SはDクウガと共に向かいのビルの屋上に落下して何度も転がりながら倒れ込み、Dクウガは咄嗟に受け身を取って地面を転がりながら怪人Sから距離を離すと、フェンスのパーツの鉄棒を強引に抜き取って構えドラゴンロッドへと変化させていく。

 

 

DクウガD『今の内に一応聞いておくが、投降する気はあるか?もし詫びを入れる気があるなら、これ以上戦うつもりはないが……』

 

 

『………………』

 

 

『Saber Active!』

 

 

Dクウガの問いに対し何も答えようとせず、代わりに怪人Sの左腕から電子音声が発せられ鋼鉄の剣が抜き取られた。それを目にしたDクウガもやれやれと溜め息を吐き、シャンッシャンッと音の鳴るドラゴンロッドを振り回して構え直していく。

 

 

DクウガD『全く、そっちも中々強情だな……まぁ、そう来るなら俺も、お前を捕らえるのはやぶさかではないが、なぁッ!!』

 

 

『!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッッッ!!!!!!―

 

 

跳躍力が向上した足で一気に地を蹴って怪人Sに向け飛び出しドラゴンロッドを振り上げるDクウガ。それを迎撃するように怪人Sも鋼鉄の剣を振るいDクウガのドラゴンロッドと激突し火花を散らすと、Dクウガが力負けして後方へと追いやられ、其処へ追撃する様に怪人Sは鋼鉄の剣を突き出しDクウガへと突っ込んでいくが、Dクウガはすかさず左腰のライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーにセットした。

 

 

『KAMENRIDE:EXZAM!』

 

 

Dエグザム『フッ!!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィイッ!!!―

 

 

『(?!パワーが上がった……?やはり姿を変える度に能力値も変える事が……!)』

 

 

再度電子音声が鳴り響き、Dクウガは平行世界の友人の一人である荒垣 晃彦が変身するエグザムにカメンライドし、同じくドラゴンロッドが変化したエグザムカリバーカリバーモードで咄嗟に怪人Sの鋼鉄の剣を下から切り払っていったのだった。姿を変えたと共にスペックも変わったDエグザムに力負けして怪人Sは宙に浮いてしまうが、そのまま後方転回して立て直しDエグザムから距離を取ると、Dエグザムに向け鋼鉄の剣を構えた。

 

 

『Saber Brake!』

 

 

Dエグザム『(ッ!来るか……!)』

 

 

白いマントに隠れた怪人Sの左腕から電子音声が響き渡ると同時に、怪人Sの手に握られた鋼鉄の剣の刀身が水色の極光を纏い雷のように激しく光り輝いてゆく。それを見たDエグザムも怪人Sが必殺の一撃を撃ち放とうとしてるのだと悟り、すぐさまライドブッカーからカードを一枚取り出しディケイドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EXZAM!』

 

 

『!フルコンタクトッ……!』

 

 

―ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!―

 

 

Dエグザムのバックルから鳴り響く電子音声から敵も何か必殺技を発動させようとしているのだと気付いたのか、怪人Sは鋼鉄の剣の刃を覆う極光を強めながら先手を取ろうと地を蹴ってDエグザムへと突っ込み、Dエグザムもそれに対して冷静にエグザムカリバーをGモードに展開し、そして……

 

 

―ガギイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーイィンッッッ!!!!!!―

 

 

Dエグザム『グウゥッ?!グッ……!!』

 

 

―ガシィッ!―

 

 

『……?!』

 

 

怪人Sが容赦なく振り下ろした水色の斬撃を避けようとせずその場で左肩で受け止め、そのまま怪人Sの剣を握る手の手首を掴んだのであった。予想外の行動を取られた怪人Sもそれには驚きながらDエグザムから離れようと必死に掴まれた右手を引っ張るが、Dエグザムはそんな怪人Sの腹にエグザムカリバーの銃口を突き付け……

 

 

Dエグザム『――すばしっこい奴には、ただ撃ったとしても簡単に避けられそうだったしな……悪く思うなよ』

 

 

『!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガアァッ!!!ボガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアアァァンッッッッ!!!!!―

 

 

そう言って引き金を引き、エグザムカリバーから強力な火炎弾を零距離から連射し怪人Sを爆発と共に吹っ飛ばしていったのだった。そうして怪人Sはそのまま向かい側のフェンスに叩き付けられてズルズルと地面に座り込んでいき、それを確認したDエグザムは一息吐くと共に痛みで顔を歪め左肩を抑えた。

 

 

Dエグザム(ッ……クソッ……思ったより結構効いたなっ。耐久力に自信があるとは言っても、こんな無茶するもんじゃないかっ……)

 

 

日頃なのは達に制裁されまくってるのが吉と出たか、今の必殺の一撃をまともに貰ってもどうにか踏ん張る事が出来たが、やはり痛い物は痛い。後で絢香にでも頼んで傷を診てもらおうかと頭の隅でそう考えながら、Dエグザムは警戒心を緩めず地面に座り込んで沈黙する怪人Sに歩み寄ると、エグザムカリバーの銃口を突き付けた。

 

 

Dエグザム『詰めだ……今のをまともに喰らってそうすぐには動けんだろ。大人しく盗んだ七桜玉、それと六桜玉が何処にあるのかも吐いてもらおうか?』

 

 

『…………』

 

 

―ビシッ……ピシィッ……パラァッ……―

 

 

Dエグザム『何、悪いようにはしない。正直に話せば、アイツ等だって今回の件は穏便……に……』

 

 

エグザムカリバーの銃口を突き付け桜龍玉の居場所を問い掛けるDエグザムだが、その時、グッタリと顔を俯かせたまま何も答えようとしない怪人Sのマスクとパッチ・アーマーが今のDエグザムの必殺技を受けた衝撃のせいか亀裂が走り、仮面の一部が破損してパラパラと破片を落としながら徐に顔を上げ、Dエグザムはその奥に見えた怪人Sの素顔を見て絶句してしまった。何故なら……

 

 

Dエグザム『―――お……んな……だとっ……?』

 

 

「……………」

 

 

そう、怪人Sの割れた仮面の奥に見えたのは、無表情且つ感情の読み取れない瞳でDエグザムを見上げる女の顔だったのだ。怪人Sの正体がまさか女とは思わなかったDエグザムはそれを見てあからさまに動揺し、嫌そうな顔を浮かべながら後退りした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―バンッ!―

 

 

「――ウオッ!下がってッ!」

 

 

―バババババババババババババババアァッ!!!!―

 

 

「……!」

 

 

Dエグザム『何ッ……?!―ズガガガガガガガガガガガガガガガアァッ!!!―グオオォッ?!!』

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァアァンッ!!―

 

 

Dエグザムが怪人Sの正体を知り動揺する中、不意に真横から女の叫び声が響き渡った。その声に釣られてDエグザムが振り返ると、其処にはビルの屋上の扉を開け放って飛び出した金髪の女がマシンガンを構えて乱射し、怪人Sがその場から離れたと共にDエグザムに無数の銃弾が浴びせられ吹っ飛ばしてしまい、Dエグザムはディケイドに戻りながらそのまま屋上の一角に集められてたガラクタの山に突っ込んでしまった。

 

 

ディケイド(ァッ……グッ……!な、んだっ……この火力っ……?!普通の火器の威力じゃなっ――?!)

 

 

―バッ!!―

 

 

「――ハアァッ!」

 

 

ディケイド『……ッ?!―バキイィィッ!!―グァッ?!』

 

 

ライダーの装甲を貫通して吹っ飛ばす程のマシンガンの異常な威力にディケイドが驚きを隠せない中、ディケイドの目前からまた別の女……金髪の女の背後から銀髪のショートヘアの女が飛び出し、そのまま勢いよく地を蹴ってディケイドに向けて跳んだかと思えば身体を勢いよく半回転させ、そのまま空中半回転蹴りをディケイドの頭部へと打ち込んで吹っ飛ばしていってしまったのだ。

 

 

突然の不意打ちに驚愕しながらもディケイドは咄嗟に受け身を取って態勢を立て直そうとするが、銀髪の女はそうはさせまいとディケイドへと再び突っ込み殴り掛かっていき、ディケイドは慌てて銀髪の女の打撃技をかわしながら後退していく。

 

 

ディケイド『グッ?!おい待てッ?!何なんだお前達はッ?!アイツの仲間なのかッ?!』

 

 

「デエェアァッ!!」

 

 

―ドグオオォッ!!―

 

 

ディケイド『ゴハアァッ?!』

 

 

流石に生身の人間を相手に下手に攻撃する訳に行かず防戦一方になりながら銀髪の女にそう問い掛けるが、銀髪の女はそれを聞かずにディケイドに二段蹴りを打ち込み再びディケイドを吹っ飛ばしてしまう。そして……

 

 

「――準備OK……折夏ッ!今よッ!」

 

 

折夏「……ッ!」

 

 

―バッ!―

 

 

ディケイド『ぁっ……っ……?な、何だっ……?』

 

 

屋上の扉の前で何かの作業を行ってた金髪の女が折夏と呼ばれる銀髪の女に合図を送ると共に、折夏がディケイドから離れると共に、金髪の女は何処からか取り出したのか巨大な銃火器……ロケットランチャーを肩に担ぎ、照準をディケイドに狙い定め……

 

 

ディケイド『―――って、ちょっと待てぇえッ!!?そんなもん此処で撃ったらっ――!!?』

 

 

ロケットランチャーを担ぐ金髪の女が次に取る行動を悟ったディケイドは慌てて止めようとするが、金髪の女もやはりそれを無視してロケットランチャーの引き金を躊躇なく引いてディケイドに目掛けて弾頭を撃ち出し、そして……

 

 

 

 

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

ディケイド『ヌオアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアッッッ?!!!』

 

 

 

 

 

 

弾頭がディケイドへと直撃すると同時に目眩い光りが放たれ、直後に屋上の一角を吹っ飛ばすほどの巨大な大爆発が巻き起こり、ディケイドを一瞬で飲み込んでしまったのであった。そして怪人S達はとてつもなく強大な爆風に吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐え、視界を覆う程の黒煙が徐々に薄れて消えてゆくと、黒煙が晴れた先でグッタリと地面に倒れ込む人物……変身が強制解除された零が、全身黒焦げになって倒れる姿があったのだった。

 

 

零「……ごっ……グッ……なん、て……馬火りょ……くっ……ゥ……」

 

 

余りに馬鹿げたその威力にそんな呟きを最後に、零は意識を失いゴンッ!と地面に勢いよく額を叩き付けてしまった。そして、目標の沈黙を確認した金髪の女はロケットランチャーを下ろして一息吐き、折夏と共に怪人Sの下へと駆け寄っていく。

 

 

「ウオ!大丈夫だった?!」

 

 

「……えぇ、助かりましたノエル、折夏」

 

 

駆け寄って来た二人にそう礼を告げながら右腕に身に見付けたパッチ・アーマー……無数の札を張り付けた無骨な鋼鉄の装甲を纏った籠手を取り外すと、怪人Sの装甲が無数の桜色の粒子となって弾け、怪人Sは長い黒髪をお下げにした一人の女となり、三人はボロボロになって俯せに倒れる零に近づいていく。

 

 

ノエル「んで、どうするのよコイツ?幻魔対策の為に改良した火器をぶっ放れておいてまだ息があるみたいだけど、トドメを刺すなら私がやるわよ?」

 

 

スルリと、金髪の少女……ノエルは後ろ腰のホルダーに収めたサバイバルナイフを抜き取り零を此処で殺すかどうか質問するが、黒髪の女は零を少しだけジッと見下ろした後、首を左右に振った。

 

 

「いえ……確かに彼は厄介な存在ですが、逆に考えれば、彼をこちらに引き入れればこれ以上にない味方になると思います」

 

 

折夏「……?引き入れる、とは……彼を?」

 

 

「えぇ……何せ彼は、この世界を救った救世主の一人で、あの桜ノ神の加護を受けた人物ですから」

 

 

ノエル「ッ!じゃあコイツが……桜ノ神の……?」

 

 

桜ノ神の加護を受けた人物と聞いた途端、ノエルの目付きが鋭くなって倒れる零を見据えていき、黒髪の女はそんな零の傍にまで歩み寄って屈むと、零の腰からディケイドライバーとライドブッカーを取り外した。

 

 

「……彼がこの世界に再び現れた事は予想外でしたが、ある意味では好機とも言えます。彼を使って、残りの桜龍玉を手に入れるとしましょう」

 

 

零から取り外したバックルとライドブッカーを二人に見せながらそう告げると、黒髪の女はバックルとライドブッカーを左手に纏めて持ちながら右手に水色の鎖を生成し、ボロボロの零と向き合って鎖を投げ放ったのであった。

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑤

 

 

――その後、〇〇〇ホテルで起きた人造幻魔の突然の襲撃と、怪人Sに七桜玉を奪われてから一夜が明けた。

 

 

あの後、ホテル内に現れた人造幻魔達はライダー達とアシェンの活躍により全て撃退され、負傷した警備員の何人かが病院に搬送されたものの、命に別状はなく、幸いにも死傷者は出ていない。

 

 

またホテルで起きた一件は桜ノ神社から関係各所に頼み込み、人聞きは悪いが、世間には知らせず隠蔽する事にした。

 

 

理由は、前の事件からまだ半年も経っていないにも関わらず、再び幻魔が現れたなどと世間に知れれば街の住民達の不安とトラウマをまた呼び起こす事となってしまうからだ。

 

 

今回の事件で実際に被害を受けた側からすれば納得がいかない話かもしれないが、向こうもその辺りの事情を汲んでくれてか、真相を明らかにして事件を解決するという約束と引き換えにどうにか納得してくれた。

 

 

そして桜ノ神社はあれからアシェンが捕らえた一体の人造幻魔をドールが解剖、怪人Sが足止めに利用した馬鬼を姫が一睡もせず調査してる間、絢香は翌日関係各所への説明と説得、なごみを除いた他のメンバーは姫達からの連絡があるまで街中を捜索し続けていた。何故か?

 

 

 

 

屋上を警備していたハズの黒月零が突然失踪し、連絡も取れず行方不明となったからだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神社―

 

 

姫「――そうか……君達の方でも結局、零は見付からなかったか……」

 

 

昨夜のホテル襲撃事件から一夜明けた翌日の夕方頃。桜ノ神社の居間では昨夜の戦闘での疲れがまだ残っているにも関わらず、今回の件での関係各所への説明と謝罪と説得、人造幻魔の解剖や馬鬼の調査、失踪した零の捜索を昨夜から続けていたメンバーの姿があった。

 

 

紗耶香「申し訳ありません、街中をくまなく捜索したのですが……結局、奴を見付ける事は叶わず……」

 

 

姫「いや、私の方でも、彼との契約の繋がりを辿ろうとしても何故か居場所を掴めなかったからな。君達だけを責めるのは見当違いだ……だが恐らく、零の失踪に何か関与があるのは間違いないと思う」

 

 

桜香「考えられる可能性としては、逃亡先の屋上で零と居合わせたであろう怪人Sか、彼に幻魔神を倒され、昨夜姿を現した幻魔達のどちらかか……何れにしても早く救出に向かうべきなのでしょうけど……肝心の居場所が分からないのでは……」

 

 

ドール「んー、それもなんですが、皆さんもそろそろ睡眠の一つでも取ったらどーです?目の下、隈出来てますやん」

 

 

なごみ「睡眠不足は乙女の天敵の肌荒れの元ですよ。昨夜の戦闘での疲労がまだ残ってるでしょうし、私も一度休んだ方がいいと思いますよ」

 

 

アシェン「私はあまり睡眠を必要としないので問題はありませんが、私の数値でも皆さんの思考能力、体力が共に平均より低下を示しています。お嬢様達の言う通り、休眠を取られては?」

 

 

絢香「わ、私もそう思いますっ。皆さんフラフラだし、このままじゃ皆さんが倒れてしまいますよっ!」

 

 

ドールとなごみ、アシェンと絢香が揃って休むように薦めるのも当然だ。姫達はホテルでの一件から一度も休む事もなく作業を続けており、その顔にはあきらかな疲労に目の下には隈も出来ており、しっかり休眠を取った絢香となごみ、睡眠を余り必要としないドールとアシェンならともかく、このままでは彼女達が限界が来て倒れてしまう。だが……

 

 

姫「いや、呑気に寝ている場合ではないんだ。ドール、君の調べでは、あの人造幻魔は正真正銘本物の幻魔だったのだろう?」

 

 

ドール「うん?えぇ、桜香さんが以前幻魔界から持ち帰ったというギルデンスタンさんの資料を元に調べてみましたが、あの人造幻魔の構造は資料と一致してました。造られた時期も大分昔のようですが、所々改良されたような不自然な部分が見受けられました」

 

 

桜香「……つまり何者かが、ギルデンスタンが何処かに遺してた人造幻魔を回収し改良した、ってところかしらね……人造幻魔は純粋な幻魔って訳じゃないから、幻魔神が消滅しても起動出来なくなるだけで、他の幻魔達のように消えるワケじゃない……いずれにせよ、事態は私達が思ってたよりも深刻かもしれない。何せ、またこの世界に幻魔が現れたのだから」

 

 

ギリッと、桜香は唇を強く噛み締めた。桜ノ神である姫、現代の聖者として籠手を受け継いだ桜香と紗耶香にとって、幻魔は数百年前から続く因縁の敵なのだ。それをフォーティンブラスとの決着で漸く断ち切ったと思われた矢先に再び幻魔が蘇ったとなれば、零や、自分達のあの戦いは一体なんだったのかと、やるせない気持ちになり休んでなどいられない。それに……

 

 

姫「―――それもあるが、もう一つ、懸念せねばならない事がある……怪人Sの事だ」

 

 

なごみ「怪人S……そういえば、あの方の姿は不格好でしたが、何処となく仮面ライダーに近い外見をしていたような気がしますね。もしやお二方の他にもライダーが?」

 

 

紗耶香「いや、そんな筈はない。この神社に残されていた伝承にも、聖者は二人しか存在しないと書き記されていた……のだが……」

 

 

桜香「……ドールに見せてもらった記録映像を見たけど、所々の外見や雰囲気は鬼王と龍玉に酷似してたし、それに昨夜捕まえたあの黒い馬……桜ノ神、貴女は何か知ってるような口ぶりだったけど、そろそろどういう事か教えてもらえるかしら?」

 

 

姫「…………」

 

 

何か知っているか?という遠回しな質問ではなく、知っている事を教えろという直接的な桜香の問い。恐らく彼女自身、既に怪人Sの正体について何か気付いている節があるのだろうが、まだ確かな確証が持てずにいるのだろう。一同の視線が集まる中、瞳を伏せる姫は暫くの沈黙の後、その口を開き言葉を紡いだ。

 

 

姫「怪人Sが、何処でアレを見付けたのか、誰が変身してるのかは知らない……だがあの聖者――ライダーについては、私も良く知っている」

 

 

絢香「え……じゃあ、あの怪人Sが変身していたのは、やはり聖者……?」

 

 

姫「その一基であることに違いはないが、鬼王や龍玉とは根本的に違う。アレは――」

 

 

姫の顔が少しばかり曇る。不可解な現実を目の当たりにして、有り得ない事実を認められないように、徐にその口を開いた。

 

 

姫「―――アレは人間には絶対に使えないハズの……桜ノ神専用に造られた聖者……ライダーシステムなのだから」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

零「――――ぅ……っ……?」

 

 

その頃、怪人Sとその仲間に不意を突かれて囚われた零は、重たい瞼を開き漸く目を覚ましていた。

 

 

零(……此処……は……)

 

 

朧げな意識の中、視線のみを動かして現在地を確かめようと周りを見回していくと、周りの風景に何となく見覚えがあった。

 

 

零(航空機……ヘリの……中か……?)

 

 

元の世界で局員として働いていた頃に、任務等で良く乗っていた大型ヘリと構造と壁の質が良く似ている気がする。だがあくまで気がするというだけなので実際は違うのかもしれないが、そもそも何故自分がこんな所に?と、状況が全く理解出来ず脳内を疑問符で埋め尽くし、とにかく立ち上がり自分が今何処にいるのか調べようとするが……

 

 

―……ジャラッ!―

 

 

零「――ッ!何っ?」

 

 

立ち上がろうとして、零は漸く今の自分がどんな状態なのか気が付いた。身体の自由が効かず上手く立ち上がれない。それに驚愕して自分の姿を見下ろせば、何やら水色の鎖のような物が身体に巻き付き拘束されていたのだ。それを見て零も余計に困惑し、取りあえず鎖を解こうと腕に力を込め身を捩らせる。すると其処へ……

 

 

―プシュウゥゥゥゥッ……―

 

 

「――漸く気が付いたようですね」

 

 

零「……ッ……!」

 

 

不意に目の前の扉が開き、その奥から数人の女達が姿を現し部屋の中へと入って来たのだ。一人は毛先が肩に僅かに掛かるぐらい伸ばした金髪の女、もう一人はショートカットの銀髪に髪止めを付けた無表情の女。そしてその二人の前に立つ、黒い長髪を左右に分けてお下げにした女が零の下に歩み寄ってきた。

 

 

零「お前は……?」

 

 

「……こうして素顔を見合わせるのは初めてですね。初めまして、ディケイド。昨夜は敵同士だったからとは言え、まともな挨拶も交わせず申し訳ありませんでした」

 

 

零「昨夜……?」

 

 

お下げの女にそう言われて一瞬頭上に疑問符を浮かべる零だが、お下げの女の瞳を見た瞬間、脳裏に昨夜の出来事の記憶が過ぎった。自分が怪人Sと戦った事、突然現れた謎の女達の襲撃に遭った事、そして今目の前に立つお下げの女の顔が昨夜垣間見た怪人Sの素顔と同じで、その女の背後にいる女達が自分を襲撃した張本人達である事を。

 

 

零「――そうか……お前が怪人Sのっ……」

 

 

「えぇ、お初にお目にかかります。魚見(うおみ)と申します。以後、お見知り置きを」

 

 

昨夜の出来事を思い出して警戒心を露わに問い掛ける零に対し、お下げの女……"魚見"は正体を包み隠そうともせずにアッサリ自分が怪人Sだと認めて小さくお辞儀をすると、背後に立つ二人の女に手の平を指した。

 

 

魚見「そしてこちらの二人は私の仲間の、ノエル・コーマット、立花折夏です」

 

 

ノエル「……ふん……」

 

 

折夏「…………」

 

 

魚見の紹介を受けたノエルは鼻を軽く鳴らしながら壁に背を付けて零からそっぽを向き、折夏は僅かに頭を下げてペこりと挨拶した。そんな二人を見据えて零は更に目付きを鋭くさせると、何もない殺風景な部屋を見回していく。

 

 

先程は昨夜の記憶が曖昧だったせいで気づけなかったが、此処は恐らく彼女達の住み処で、自分は彼女達にまんまと捕まり此処に閉じ込められていたのだろう。

 

 

そう考えながら、零は目の前の魚見を見上げて僅かながらの敵意を込めて言葉を紡いだ。

 

 

零「……律儀に自己紹介をしてくれるのは有り難いが、取りあえず、此処が何処なのか教えてもらえないか?ついでに、俺を捕らえてこんな所に閉じ込めた理由も説明してもらえると助かるんだが」

 

 

とにかく、今自分が1番に聞きたいのはこの二つだ。自分が囚われの身である事は分かったが、此処が何処で、何故彼女達は自分を殺すなり放っておくなりせずにわざわざ捕らえたりしたのか。零からの問いを受けた魚見はノエルと折夏の方を一瞥すると、再び零の方に視線を向け語り出した。

 

 

魚見「そうですね。自分の今の現状を知らないままでは、貴方も不安ででしょうから……先ずは此処が何処なのかという質問ですが、此処は私達の住居のヘリの中です。元々はノエルの実家の物なのですが、内装を改造し寝所に使っています」

 

 

零(……チッ……やっぱりそうだったか……)

 

 

魚見の返答を聞き、やはりかと零は小さく舌打ちした。昨夜にもホテルの屋上から一度目にしたが、彼女達が住居に使っているというヘリはかなりの大型のモノだった。盗みを働いた後にそんなサイズのヘリを隠すとなれば、街中には絶対に隠せないだろうし、恐らく今現在ヘリが待機しているのは桜ノ町から離れた郊外の何処かに隠れされていると考えるべきか。となれば、姫達にもきっと安易には見付けられないだろうし、彼女達の助けは期待出来ない。

 

 

魚見「それから、何故貴方を捕らえたかという二つ目の質問ですが……それに答える前にこちらから一つ、貴方に質問があります」

 

 

零「……?質問?」

 

 

魚見「はい……貴方は以前、この世界で起きた事件を解決した後、桜ノ神と共に違う世界へと旅立った筈。なのに何故再び、この世界に戻ってきたのです?」

 

 

零「!何でその事を……?」

 

 

自分がこの世界で起こった幻魔事件に直接関与した事はあの事件に関わった当事者達しか知らないことだし、並行世界云々もこの世界の住人では絢香達しか知らない筈だ。だからその事を知る魚見に目を見開き驚く零だが、魚見はそれに対しアッサリとこう告げた。

 

 

魚見「単純に今回の作戦の障害となりそうなアナタ達の事で以前の事件を調べ、アナタ方の正体を突き止めただけですよ。それより、何故またこの世界に?」

 

 

零「……ふん。何故も何も、お前達が妙な事件を起こしたせいに決まってるだろう?それで俺達が呼ばれて、六桜玉を盗んだお前達を捕まえる為にこんな事件に首を突っ込むハメになったんだ」

 

 

魚見「俺達?……もしや、桜ノ神もこの世界に?」

 

 

零「さあな……質問は一つだけなんだろう?ならこれ以上話すつもりはない」

 

 

魚見「…………」

 

 

ベラベラとこちらの情報を話す気なぞない。そもそも彼女達が自分にとって敵である事に変わりはないし、敵に捕まったからと言って仲間の事をそう安々と話すほど腐ってるつもりはない。その意味を込めて魚見を睨み付けると、そんな零を見た魚見は薄く息を吐いてやれやれと首を振った。

 

 

魚見「仕方ありませんね……二つ目の質問の返答ですが、貴方を捕らえたのは私個人、貴方に折り入って頼みたい事があるからです」

 

 

零「……頼み……?」

 

 

魚見「ええ、あの幻魔神を倒したという世界の破壊者としての貴方の力。それを見込んで―――私達に協力してもらえないでしょうか?」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

……横たわる零の目を真っすぐに見据えながら魚見がそう告げた途端、零の顔があからさまに嫌そうな表情へと変わった。例えるなら、いつの間にか部屋に湧き出た黒光りのGを初めて目の当たりにした時のような険しい顔に。

 

 

魚見「そんな顔をされると何気に傷付きますね。其処まで嫌な提案でしたか?」

 

 

零「当然だろ……逆に聞くが、お前は俺がそんな提案されて、素直に頷くような奴とでも思ったのか?」

 

 

魚見「いえ、私も別に其処まで楽観的に捉えていた訳ではありません。ですから、これからその理由を説明します」

 

 

ジト目で見上げて来る零にそう言いつつ、魚見は懐に手を伸ばして一枚の写真を零に差し出した。其処には、一つの廃ビルが写されていた。

 

 

零「……これは?」

 

 

魚見「町外れにある、今では使われてない廃ビルです。数ヶ月前から、このビルに近づいた人達が忽然と姿を消すという噂が町に流れているようでして。何でも此処から逃げ延びた人の話では、刀を持った化け物に襲われたとか……」

 

 

零「刀を持った化け物……?……ッ!まさか……?」

 

 

その特徴を聞き、零の脳裏に一つの醜い異形の姿……以前この世界に訪れた際に戦った下級幻魔の足軽の姿が過ぎるが、すぐにそれを振り払うように頭を振った。

 

 

零「いや、そんな筈ないっ。幻魔は俺達と、桜ノ神が倒したフォーティンブラスと一緒に消えた筈だっ」

 

 

魚見「……確かに、幻魔神の支配下にある幻魔達なら例外なくすべて消滅するでしょうが、あくまでそれは支配下のみの話です。この幻魔達は、恐らく幻魔神の管轄を離れた者が支配する下級幻魔達……ギルデンスタンの部下と思われます」

 

 

零「ギルデン……スタン?」

 

 

その名には聞き覚えがある。確か、自分がこの世界に転移して来る前に人造幻魔を引き連れて幻魔界とやらからこの世界に現れたという高等幻魔の名だった筈だが、そいつは絢香達が協力して倒した筈だ。

 

 

魚見「奴は以前この世界に突然現れて人々を襲い、現代の聖者の鬼王と龍王の手によって倒されました……ですが、奴はしぶとく生きながらえ、今の今まで息を殺して各地に複数の研究所を作り、以前の決戦にも姿を見せずにある物を集めていました」

 

 

零「ある物?……まさか……」

 

 

魚見「そう……奴の目的とは、全ての桜龍玉を集め、あらゆる望みを叶える桜龍を呼び出し、恐らく貴方達に倒された幻魔神……フォーティンブラスを蘇らせようとしてるのではないかと」

 

 

零「……!」

 

 

フォーティンブラスの復活。もしも本当にそうなれば、消えた幻魔達が再びこの世界に蔓延り、人々を襲い、あの地獄のような光景がまた繰り返されるという事になる。だが……

 

 

零「……話は大体分かった……だが、お前達は一体なんなんだ?何故其処まで詳しい?ギルデンスタンとやらが生きていた事も、ソイツが桜龍玉を集めて幻魔神を復活させようとしている事も……」

 

 

魚見「…………」

 

 

零「それだけじゃない……。怪盗の真似事なんてわざわざ目立つやり方で予告状を桜ノ神社に宛てて送り付けて、桜龍玉を盗んだのも何故だ?お前達は……何者だ?」

 

 

絢香達すら気付かなかった情報を知っていて、桜龍玉を盗んで、彼女達の目的は何で、一体何者なのか?何をしようとしているのか?それらが未だに分からない零は魚見を見上げて疑問を投げ掛けると、魚見は何かを考えるように静かに瞳を伏せるが、その時、今まで口を閉ざしていたノエルが語り出した。

 

 

 

 

ノエル「――私達はね……ギルデンスタンに捕まって身体を改造された、"改造人間"なのよ」

 

 

 

 

魚見「!」

 

 

零「ッ!改造人間……だって……?」

 

 

折夏「…………」

 

 

改造人間。淡々とした声でノエルがそう口にしたその言葉に、零は驚愕の表情を浮かべて絶句し、魚見も目を見開きノエルの方に振り返るが、ノエルはそんな魚見の横を通り過ぎ零の前に立った。

 

 

ノエル「まぁ、正確には、折夏と私がギルデンスタンに捕まって幻魔の血を身体に注入され、身体のあっちこっちをモルモットみたく改造されてたって感じかしらね……で、いよいよ見た目まで完全に化け物にされそうになったとこに、魚見が助けてくれたってワケよ。だからギルデンスタンの事も、奴の目的についてもそれなりに知っていたし、私達は何処にも行く宛がないから魚見に協力してる……ほら、これだけ聞ければ満足かしら、エーユー様?」

 

 

零「………………」

 

 

魚見「ノエル……貴方達のことは、そんなアッサリと話して済ませられる話では――」

 

 

ノエル「ハッ、こんな奴にこっちの事情を教えてどうなるってのよ?私達は半分幻魔になったと言っても過言じゃない化け物、コイツ等はその化け物である幻魔を叩き潰すのが目的のエーユー様方……解り合える訳無いのよ。そもそも――」

 

 

ノエルの目が、床に倒れ伏す零に向けられる。その目には、怒りと憎しみ、そして僅かながらの、哀しみが入り混じっているように見えた。

 

 

ノエル「―――こんな奴の助けを借りるなんて、まっぴらゴメンだわ……どんなに泣き叫んで助けを求めても、肝心な時に駆け付けてくれやしない、役立たずの英雄なんかにはねぇッ……!」

 

 

零「…………」

 

 

ノエルの激情が全身に突き刺さるのを、肌に感じる。零はそんなノエルを無表情のままジッと見上げると、ノエルは忌ま忌ましげに舌打ちして踵を返し部屋の扉へと向かっていく。

 

 

魚見「ノエル……」

 

 

ノエル「断るんならとっとと断って消えろ……奴とは私達の手でケリを付ける。英雄なんてチヤホヤされて祟られてるようなヒーロー様なんて、お呼びじゃないのよ……」

 

 

吐き捨てるようにそれだけ言い残すと、ノエルは部屋を後にし退室してしまう。そして残された一同は彼女が出ていった扉を暫く見つめていると、魚見が静かに溜め息を漏らし、零の方に振り向いた。

 

 

魚見「すみません……彼女自身も、貴方に当たるのは筋違いだと分かってるとは思うのですが、あの事件の当事者にこうして会うのは、貴方が初めてだったモノで……」

 

 

零「……?どういう意味だ……?」

 

 

魚見「…………」

 

 

あの事件の当事者となると、思い当たるのはやはり、あのフォーティンブラスが復活した事件の事だと思うが、今の彼女の態度にあの事件が何か関係しているのだろうか?訝しげな表情を浮かべてその意味を込めて問い返すと、魚見一度は口を閉ざして一拍置き、ゆっくりと口を開く。

 

 

魚見「―――彼女がギルデンスタンに捕まったのは、幻魔神が復活したあの日……母親の実家に遊びに来ていた彼女は、霊山から下りてきた幻魔の大群に家族を皆殺しにされて重傷を負い、怪我で動けない彼女は、そのままギルデンスタンに密かに捕まり、モルモットにされたのです」

 

 

零「ッ?!な……に……?」

 

 

魚見「無論、彼女だけではありません。幻魔神が復活したあの日に襲われた人間が死体を含めて、ギルデンスタンに誘拐されモルモットにされたようです……。奴は生粋のマッドサイエンティストですから、上手く動けば実験体の人間が大量に手に入る前回の事件は、大喜びだったでしょうね……前回の事件の裏で、奴に誘拐された人間も決して少なくはないと思われます」

 

 

零「ッ……なら……誘拐された人達はっ?」

 

 

魚見「……残念ながら……私が奴の研究所の一つを突き止めて駆け付けた時には、既にノエルと折夏のみでした」

 

 

零「……ッ……!」

 

 

ギリッ!と、魚見の言葉を聞いた零は歯を噛み締めて音を鳴らしながら床に視線を落とし、魚見はそんな零を見つめながら薄く溜息を漏らして一度折夏と目を見合わせると、再び零に目を向けた。

 

 

魚見「一先ず、考える時間を差し上げます。余り時間もないので期限は今夜まで……良く考えて、決断して下さい」

 

 

それだけ言い残し、魚見も部屋を後にして退室した。恐らく出ていったノエルを追い掛けたのだろうが、今の零に彼女達の事を考える余裕はなかった。

 

 

零(……あの事件で救えなかった被害者……しかも、俺達がフォーティンブラスを倒して事件が解決した後も、ずっと苦しめられてる人達がいた……?助けを求めて……ずっと……)

 

 

その光景が頭に浮かび上がる。訳も分からず捕まった人間達が、訳の分からない化け物に捕まって実験体にされる光景が。

 

 

生きたまま解剖されて、どんなに泣き叫んで助けを求めてもその声は届かず、同じ化け物にされ、失敗すれば死体の山に積まれて他の幻魔の餌にされる……。

 

 

そんな地獄みたいな光景も、あの事件さえなければ――もしくはあの時、自分がフォーティンブラスを倒して、姫を助けてさえいれば、或いは……

 

 

零「……クッソッ……」

 

 

そんな今更過ぎるもしもを考えて、零は自分の頭を床に打ち付け、力無くポツリとそんな声を漏らしたのであった。

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑥(前編)

 

 

―桜ノ神社・古小屋―

 

 

なごみ「――では、怪人Sの正体が人間の場合、あの姿に変身した時点で命を落としてしまう……という事でしょうか?」

 

 

桜ノ神社が家畜を飼ってる古小屋。其処には鶏などが飼われてる他にも昨夜姫が捕らえた馬鬼も格納されており、絢香達は姫の説明を受けながらその小屋に場所を移していた。そして姫はなごみからの問いに頷き返しながら、小屋の向こうに格納されて眠ってる馬鬼を見つめて口を開いた。

 

 

姫「アレは本来、神格化した肉体に合わせて造られたモノだからな。もし人間がアレを使って一度でも変身すれば、人間の肉体では耐え切れずに灰と化して死んでしまうんだ……」

 

 

ドール「ぬー……まーるで何処ぞの呪いのベルトみたいですなぁ。あちらの方も装着者が人間ではないのが条件でしたし」

 

 

桜香「だとすると、怪人Sは人間じゃない?……もしかして幻魔とか……」

 

 

姫「いや、それこそない。アレは幻魔達にとって弱点となる力も含んで造られた品物だ。仮に幻魔がアレを使って変身しようものなら、一瞬で蒸発して消えるのがオチだぞ」

 

 

なごみ「ですが、絶対とも言い切れないのでは?その籠手自体に何か改造処置を施した……という可能性もありますし」

 

 

姫「……確かにな……鎧の所々に封印処置が施されて、本来の力が使えなくなっているようだったし……だが……」

 

 

平然とあの籠手の力を使い熟してる事から、怪人Sが人間だという線は先ずないと思われる。だとすれば、人間以外……つまり幻魔か、もしくはそれ以外の何かと考えられるが、情報が余りに少な過ぎて全く検討が付かない。怪人Sの深まる謎に深く考え込んで一同の間に沈黙が漂う中、それを破るかのように桜香が口を開いた。

 

 

桜香「まぁ、奴の正体に関しては本人と対面した時にでも問い質せばいいでしょ……。それはそれとして、そもそも何で貴女の籠手を怪人Sが持ってるの?アレって元々何処に保管してたわけ?」

 

 

姫「ん?何処にと言われても、アレは私が封印される前にその時代の聖者達に後を任せて…………―――」

 

 

桜香に聞かれて昔の記憶を思い出すように腕を組んで小屋の天井を見上げながら暫くそうしていた姫だが、不意に姫の顔が凍り付き、そのまま固まってしまった。

 

 

絢香「……?姫様?」

 

 

姫「―――ああ……そうか……一人居たな……今回の件を詳しく知ってそうな奴が……」

 

 

紗耶香「えっ……ほ、本当ですかっ?!それは一体っ?!」

 

 

姫「……うむ……」

 

 

姫のその言葉に激しく食い付いて身を乗り出す紗耶香だが、それに反して姫の顔は何処か複雑げで歯切れが悪い。まるで気付いたけど気付きたくはなかったような、出来れば話したくないような、そんなあからさまに嫌な顔で言葉を紡ぐ。

 

 

姫「龍王、鬼王の籠手……そして怪人Sが持つアレを造るのに手を貸してくれた、私の上役の神だよ。多分、奴なら今回の件についても何か知っているかもしれない……」

 

 

ドール「ほうほう?つまりその方に話を聞けば、あの怪人さんが何処で姫さんのライダーシステムを手に入れたか分かるかもしれないってなワケですかい?」

 

 

姫「可能性はないとは言い切れないが……ただ、まぁ……また、あの見苦しい姿を見る事になるとはな……ハァ……」

 

 

『……?』

 

 

目に見えて嫌そうな様子で、嘗て自分を桜ノ神にした上役の神の事を話して溜め息を吐く姫。そんな彼女の様子に絢香達は揃って頭上に疑問符を浮かべていくが、この数時間後、何故姫がこんな反応をするのかその理由がすぐに分かることとなるのだった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―大型ヘリ内―

 

 

零「…………」

 

 

折夏「…………」

 

 

そしてその一方、ノエルと魚見が部屋を出ていった後、零が捕われた部屋の中には囚われの身の零、そして彼の監視役と思われる折夏が室内の椅子に腰掛け黙々と本を読む姿があった。

 

 

零「…………」

 

 

折夏「…………」

 

 

―ペラッ……―

 

 

零「…………」

 

 

折夏「…………」

 

 

零(……気まずいっ……)

 

 

先程のノエルとのやり取りのせいか、どうにも室内の空気が重苦しい。更に本を読む折夏が余りにも無愛想なのでどうにもこちらから話し掛け辛いし、沈黙だけが続く部屋の中に折夏の本のページをめくる音だけが響き渡る。

 

 

零(クソ……さっきから何も話さないし、何かやりにくいなっ……ああもうっ、こういう奴は苦手だってのにっ……)

 

 

折夏「…………」

 

 

アズサと初めて会った時もそうだったが、ああいう何を考えてるいか分からない相手はどうにも苦手だし、話の切り出し方にも悩む。だが……

 

 

零(……それでも……ちゃんと聞かない事には、な……)

 

 

ノエルは先程、自分と折夏はギルデンスタンに捕まり改造されたと言っていた。つまり彼女もノエルと同じ改造人間で、フォーティンブラスが復活したあの日に幻魔に親族を殺され誘拐されたという事なのか。正直それを知るのは恐ろしく思うが、あの事件の当事者である自分がそれを聞かない訳にはいかない。そう思い意を決して、零は折夏に向けて口を開いた。

 

 

零「――ひとつ、聞いてもいいか?」

 

 

折夏「……何……?」

 

 

零「いや……お前もアイツと同じ改造人間と聞いたが、お前もあの日……フォーティンブラスが復活した日に、ギルデンスタンとやらに捕まって誘拐されたのか?……家族を殺されて……」

 

 

折夏「…………」

 

 

もしもそうなら、被害者である彼女に辛い記憶を呼び起こさせる質問になってしまうが、零は彼女の返答を待って真っすぐ折夏の顔を見つめたまま視線を反らそうとしない。そしてそんな零の質問を受けた折夏も本から顔を上げて零の方へと顔を向けながら少しだけ間を置くと、パタンッと本を閉じ語り出した。

 

 

折夏「……私は……違うと思う……」

 

 

零「……思う?」

 

 

折夏「そう……私はノエル達が研究所に連れて来られる前から、ギルデンスタンの下で改造手術を受け続けていた……だから多分、私が奴に捕まったのはずっと前だと思う……」

 

 

零「……?」

 

 

たどたどしい口調で自分のことを話す折夏だが、その言い方は何処か妙だ。思うだとか、多分だとか、自分のことの筈なのにハッキリしない。それに疑問を抱き頭上に疑問符を浮かべる零だが、そんな零の反応に気が付いたのか、折夏は一瞬だけ悲しげに眉を潜め自分の手の平を見下ろした。

 

 

折夏「ごめんなさい……私には、貴方に話せる過去がないの……そもそも自分が何処の誰なのか、私自身にも分からないから……」

 

 

零「……?自分が誰なのか分からないって……まさかっ……」

 

 

折夏「……そう……私には、過去の記憶というモノが一つも存在しないの」

 

 

零「ッ!」

 

 

それを聞いて、零は驚愕を露わにして目を見開いた。記憶が存在しない。それはつまり、彼女は嘗ての自分と同じ……いいや、彼女がギルデンスタンに捕まっていたという経緯を考えれば、もしかしたら自分なんかよりも……。

 

 

折夏「……ギルデンスタンの下で改造手術を長く受け続けていた後遺症だろうって、魚見は言っていた……だから自分が何時からギルデンスタンの下にいたのか、それ以前の、家族の記憶も一切覚えてない……」

 

 

零「……なら、お前の名前は?」

 

 

折夏「知らない……立花 折夏という名前も、魚見とノエルが一緒に考えて私に付けてくれたけど、本当の名前は一切思い出せない」

 

 

零「……そう、か……」

 

 

短く答え、零は思わず折夏から目を反らしてしまった。淡々と感情のない口調で自分の事を話す折夏の姿を見ているのが、いたたまれない気分になったからだ。自分やアズサは記憶喪失になっても名前だけは忘れずに済んだのが唯一の救いだったが、彼女はそれすらも奪われ、過去の自分を思い出す事も出来ない。改めて幻魔の非道を知った零は眉を潜めながら拳を強く握り締めていき、折夏はそんな零の顔を見て不思議そうに首を傾げた。

 

 

折夏「何故、貴方がそんな辛そうな顔を浮かべているの?」

 

 

零「……ふん、別に。たださっきから手洗いに行きたくて、我慢してるだけだ」

 

 

折夏「……そう……」

 

 

彼女に同情の念を抱いてしまったとは言えない。彼女自身がそう思うのならともかく、他人からそんな風に思われるなど、彼女の境遇をより悲惨にさせるだけではないかと思う。だからそれを悟られないように憎々しげな口調でそっぽを向きながらそう告げると、折夏は短く答えながら何かを考える様に少しだけ瞼を伏せ、椅子からゆっくりと立ち上がり零の後ろに歩み寄る。

 

 

零「……?何だ?」

 

 

折夏「黙って」

 

 

折夏の突然の行動に戸惑う零だが、折夏はそれだけ言ってゴソゴソと零の背後で何かをし、ガチャリッと、零の身体を縛り付けていた鎖を解いてしまった。

 

 

零「ッ?!お前、なんでっ?」

 

 

折夏「……トイレは其処の角を曲がった先にある……その後どうするかは、貴方の勝手にすればいい」

 

 

零「なっ……」

 

 

それはつまり、逃げたければ好きに逃げればいいという事だろうか。だが、何故急に敵である自分にそんな事を?と困惑を隠せず零は唖然とした顔で折夏を見上げていき、折夏は解いた鎖を無造作に投げ捨てながら淡々と告げた。

 

 

折夏「私もただ、ノエルと同じ意見ってだけ……貴方はギルデンスタンの件とは何も関係ないし、貴方には私達に協力する義理なんてない……貴方に協力する気がないのなら、無理に巻き込む必要はないと思った。ただそれだけ」

 

 

零「…………」

 

 

そう語る折夏の顔は先程と変わらず無表情だが、嘘を言ってるようには見えない。突拍子もない行動に驚きはしたが、要するに関係ない人間は去れと彼女は言いたいのだろうと、零はそう思いながら徐に立ち上がり片腕を軽く回していく。

 

 

零「本当に良いのか。あの魚見とかいう奴は俺に協力して欲しいと言っていたが、仲間を裏切るような真似をして」

 

 

折夏「上手い言い訳なら既に考えてあるから心配いらない。それから貴方のドライバーとカードは、さっき教えたトイレまでの道の突き当たりにある魚見の部屋に保管されてると思うから、忘れないように……」

 

 

零「……そうかい……何から何まで有り難い限りだな……じゃ、達者でな」

 

 

簡潔にそれだけ告げると、零は折夏の方を一度も振り返らずそのまま歩き出し、部屋を出て去っていってしまった。そして部屋にただ一人残された折夏は部屋の扉を暫くジッと見つめると、薄く溜め息を吐き、再び椅子に腰を下ろして天井を仰いだ。

 

 

折夏「……二人への言い訳……なんて言おう……」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神社・参道―

 

 

 

 

―――突然だが、皆さんは変態神という神様をご存知だろうか?

 

 

その名の通り、変神の更なる上をゆく超ド級の変態の神様の事だ。

 

 

そういったカテゴリーの神は平行世界を探せば一人はいるだろうが、実は嘆かわしい事に、その一人がこの桜ノ神の世界にも生息(?)しているのである。

 

 

仮に、万が一、多分何かの間違いだろうが、もし彼女に会いたい場合、あるモノを用意すれば彼女はすぐにすっ飛んで現れてくれる。

 

 

どうやって?なに、手順は簡単だ。その辺りの降霊術の準備より遥かに安い。

 

 

先ず、脱いだ洗濯物(ただし男物に限る)を用意する。

 

 

次に、これを外に置いとき暫く待ってる。これだけである。はい。

 

 

で……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンンンンンンンンンンンンンンンフゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!久方ぶりのイケ☆メン☆の脱ぎ立てシャツをゲェェッッッッチュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!スゥウウウウウウウウウウウウウハァアアアアアアアアアア!!!スゥウウウウウウウウウウウウウハァアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……ゲッチューである。

 

 

絢香「………………………………うわぁ………………………………」

 

 

紗耶香「…………あの…………出来れば何かの間違いかと思いたいのですが……まさか、アレが……」

 

 

姫「私の上役……つまり私の上司だよ……凄いだろう?」

 

 

桜香「……えぇ、ある意味そうね……まさか此処までブッ飛んでたとは想像もしてなかった……」

 

 

アシェン「寧ろブッ飛んでるを通り越して、最早ドン引きの域かと思いますが」

 

 

ドール「そーですかい?私的には欲望に忠実そうな方で、寧ろ好印象なのですが(・∀・)?」

 

 

なごみ「私は全く見えませんが、皆さんの反応と奇声のような物で何となく察しが付きますね」

あまりに見苦し過ぎる光景な為、アシェンに後ろから両目を塞がれている。

 

 

わざわざ写真館に一度戻って持ってきた零の服の匂いを激しく嗅いだり舐め回したりする目の前の女神……姫の上役の神を実際に目の当たりにしてドン引きする一同(一名を除き)。姫もそんな絢香達の予想通りの反応に思わず溜め息を吐くと、まるで野良犬のように地べたに平伏して服に顔を埋める上役の神に歩み寄った。

 

 

姫「――お久しぶりです。その様子だと、相変わらず男漁りに没頭なさっているようですね」

 

 

「ジュルウゥウウウウッ!ジュルルルルルルルッ!!……ふ?ふぁ!ひふぇふぁんひゃひゃいろ!ふぃっふぁひぃふりれぇ!」

 

 

姫「取りあえず、服を口に含んで喋らずにシャキッとして下さい。汚い。子供が見てる前ですよ」

 

 

「ふぇ?……ふぁ」

 

 

姫の言葉を聞いて、クチャクチャと汚らしい音を立てて服を口に含んでいた上役の神は其処でやっと彼女の背後に見える絢香達の存在に気付き、すぐさま立ち上がり服を後ろに隠しながら姿勢と態度を引き締めた。既に手遅れだが……。

 

 

「げふんげふん!えー……初めまして、皆さん?私が桜ノ神・木ノ花之咲耶姫の後見人兼上司の、真姫(まき)です、ヨロシク!……んで、そんなことよりこの服の持ち主は何処よ?ん?ん?!」

 

 

姫「此処にはいませんし、居たとしても絶対に会わせません」

 

 

「ええぇぇぇぇえッ!!?じゃあ何故に私を呼んだしッ!!?」

 

 

姫「少なくとも貴女の欲を満たす為ではないのは確かです」

 

 

しっかり自己紹介したかと思えば、すぐに自分の欲望に忠実になり服の持ち主を探し忙しなく辺りを見回す上役の神……"真姫(まき)"に姫が冷静にそうツッコミを入れると共にショックを受け、そんな二人のやり取りを離れて見ていた一同も「本当に大丈夫なんだろうか……」と不安を覚えずにはいられないでいたのだった。

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑥(後編)

 

―大型ヘリ・格納庫―

 

 

大型ヘリ内の格納庫。其処には現在、魚見とノエルが魚見の籠手……無骨な鋼鉄の装甲の上に無数の札を貼付けた籠手の整備と調整を行う姿があり、作業机の上にはその為の部品の他にも奇妙な形状をしたリングと勾玉、そして勾玉を材料に造られたと思われる赤、青、緑、黄色など様々な色と形の指輪が転がっていた。

 

 

魚見「――どうでしょうか、ノエル?」

 

 

ノエル「…………駄目ね。どうやってもキャパシティを越えてしまう。これじゃ指輪を一度でも使った瞬間、コイツの力を抑え込んでる拘束具が壊れて装着者のごまかしが効かなくなるわ。指輪の件は、もう諦めるしかないかも」

 

 

魚見「そうですか……結局、次の戦いまでに指輪の力を使えるようにはなりませんでしたね……」

 

 

溜め息混じりのノエルからの報告を受けて、名残惜しそうに作業机の上の勾玉の指輪を一つ手に取る魚見。だがそれも一瞬だけであり、魚見はすぐに表情を切り替えノエルに目を向けた。

 

 

魚見「では力が使えない分は、ノエルと折夏の力を頼りに、私が頑張るしかないですね」

 

 

ノエル「そればっかりってのも、不安が残るけどね。死んだパパの……いや……今は叔父さんの会社か……そっからこのヘリと武器を幾つか取り寄せて、籠手の力をウオでも使えるように調整したりもしてるけど、それでも実際の戦力を考えると、やっぱり馬鬼を失ったのは痛手だし……」

 

 

魚見「……私が足止めを喰らったせいで、馬鬼を捕らえさせてしまったようなものですからね……ですが、その失った戦力を埋める為に彼に協力を要請したんです。幻魔神を撃退するほどの彼の力さえあれば、きっと馬鬼以上の戦力になってくれると思いますから」

 

 

ノエル「…………」

 

 

そう言って魚見の零の話題を切り出した途端、ノエルは口を閉ざして黙々と作業の手を進めていく。そんな彼女の様子を横目に、魚見は手の中で指輪を弄びながら静かに口を開いた。

 

 

魚見「やはり……まだ受け入れられませんか?彼の事」

 

 

ノエル「別に……私だって、理屈じゃ分かってんのよ……アイツを責めるのはお門違いなんだって……でも……」

 

 

魚見「……理屈では分かっていても心では、ですか……貴女の気持ちは分からなくもありませんが、現状の私達の戦力ではギルデンスタンとその戦力に敵わない事は明白ですから……」

 

 

ノエル「分かってる。だからアイツの力を借りるって事でしょ……私ももう感情的にはならないから、アンタが決めた事なら黙って従うわ」

 

 

魚見「……ありがとうございます、ノエル」

 

 

まだ納得自体はしていないのだろうが、一先ずは零をこちらに引き入れることを許してくれたノエルに礼を言いながら微笑する魚見。そして礼を受けたノエルもそんな魚見を見て照れ隠しのようにそっぽを向き軽く鼻を鳴らすと、作業を続けながら徐に口を開いた。

 

 

ノエル「でもアイツ、本当に私達に協力してくれるの?正直、全然そんな見込みないと思うんだけど」

 

 

魚見「……断られた時の事を考えて、こちらの目的やこれからの方針についてはまだ話せていませんからね。そればかりは、彼の答えを待つ以外分かりません」

 

 

ノエル「なら、もし断られたら?」

 

 

魚見「此処での記憶を全て奪って、仲間達の下に返します。……その場合、ギルデンスタンの根城へは私達のみでの突撃になりますが」

 

 

現状の戦力を考えるとそれだけは避けたいが、零の返答次第ではそれも止む無しとなるだろう。その辺りは知恵を働かせてどうにか乗り切るしかないが、問題はもう一つ……。

 

 

ノエル「でも、桜ノ神社はどう動くかよね。アイツを捕らえられて、しかも幻魔がまた現れたのを知ったとなると、間違いなく私達と幻魔の足取りを追って来るだろうけど」

 

 

魚見「私達の方は、ヘリに私の札を張り巡らせて気配を完全に遮断していますが、ギルデンスタン達の根城はすぐに発見するでしょうね。彼女達の索敵能力も優れていますから」

 

 

ノエル「そうなると連中も、こぞって来る事になるわよね……。正直個人的にはあんま気乗りしないけど、奴らを纏めて相手する事にならないならそれはそれで助かるけどさ……やっぱり、桜ノ神も一緒なのかしら」

 

 

魚見「…………」

 

 

零が再びこの世界に現れたとなると、彼と一緒に旅に出た桜ノ神もやはり戻ってきているのか。籠手の整備と調整を続けながらなんと無くそう呟くノエルだが、彼女は其処でハッとなり隣にいる魚見に目を向けると、魚見は何か思い耽るように掌の上の指輪をジッと見つめていた。

 

 

ノエル「……別に止めたいなら、構わないわよ?元々アンタは桜ノ神にバレないように動いてたわけだし。そうなっても、私達は私達でやるだけだしね」

 

 

魚見「……いいえ、貴女がそんなことを気にする必要はありません。仮にもし、彼女が戻ってきていたとしても、私は貴女達と一緒に行きます。私の仲間は、今は貴女達なんですから」

 

 

ノエル「そう言ってくれるのは有り難いけど……本当に良い訳?アンタと桜ノ神は……」

 

 

魚見「……ええ……大丈夫です」

 

 

何処か魚見を案じるような声音でノエルがそう問い掛けても、魚見は瞳を伏せて静かにそれだけ返し、指輪を作業机の上に置いて椅子から立ち上がった。

 

 

ノエル「?ウオ?」

 

 

魚見「そろそろ休みます、今夜の作戦での体力を温存させておきたいので……後は任せても宜しいですか?」

 

 

ノエル「ああ……分かった。こっちは夜までに終わらせておくわ」

 

 

魚見「はい、お願いします」

 

 

そう言いながらノエルに向けて軽く頭を下げ、格納庫を後にする魚見。そうしてノエルもそんな魚見の後ろ姿を見送ると、薄い溜め息を吐きながら作業に戻ってポツリと呟いた。

 

 

ノエル「……いつもみたく無表情の癖に、無理してんのがバレバレだっての……バカ……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―大型ヘリ・魚見用休眠スペース―

 

 

そしてその一方、ノエルと別れて格納庫を後にした魚見は、彼女が普段使用している休眠スペースの前まで戻ってきていたが、魚見は休眠スペースの扉の前で足を止め溜め息を吐いていた。

 

 

魚見(これでは、協力してくれているノエルや折夏にまともに顔向け出来ないわね。もう後戻りが出来ないところまで来てしまってるのだから……例え彼女が戻ってきていたとしても……)

 

 

胸に手を当てながら何回か深呼吸を繰り返しそう思案すると、魚見は徐に扉に手を伸ばし、扉を開けて室内に足を踏み入れようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――ぬぅ……Cカップか……実に健康的で控え目なサイズだな。まあアイツ等みたいにあざとくでかいよりはマシ……?」

 

 

魚見「………………」

 

 

零「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

……扉を開けた先で、魚見の青のブラジャーを両手に妙に真剣な表情でそんな事を呟いてる変態(零)と対面したのであった。そんな零を見付けた魚見は無表情のまま固まり、零も魚見に気付いて固まり、暫く互いを見つめ合った後、魚見がゆっくりとポケットから端末を取り出して……

 

 

魚見「通報します」

 

 

零「待てッ!!実に適切な対応だが待てッ!!誤解だッ!!というか此処で通報したらお前達の方もマズイだろうッ?!」

 

 

平坦な声でそう言いながら端末を操作する魚見を慌てて制止し、元のあった場所の下着入れにブラジャーを戻していく零。そんな零を見て魚見も呆れるように息を吐き、端末を懐に戻していく。

 

 

魚見「それで?どうやってあの部屋を抜け出して忍び込んだのですか?しっかり拘束して、監視に折夏も付けていた筈ですが」

 

 

零「っ……ふん、奴が呑気にいびき掻いて居眠りした隙に抜け出しただけだ……あの程度の拘束も、俺なら問題なく壊せるしな。馬鹿な女で助かったよ」

 

 

魚見「それは嘘でしょう?彼女は受け持った仕事を疎かにするような子ではありません。……大方、彼女が鎖を解いて貴方を逃がしたのでは?」

 

 

零「……仲間を疑うつもりかよ」

 

 

魚見「逆です、彼女という人間を良く知っているからこそですよ。彼女は優しい子ですから、無関係の貴方を巻き込む事を良しとしなかったのでしょう……第一彼女も並外れた実力者ですから、身近に少しでも異変が起きたなら、今頃私達に報告しに来る筈です。……何か違ってますか?」

 

 

零「……チッ……性の悪い女だな……」

 

 

最初から分かっていながら、わざわざあんな質問してきたのかと不快げに舌打ちして魚見から顔を逸らす零。だが魚見は特に気にした様子もなくお下げに纏めた髪を弄りながら、扉に背を付けて懐からあるモノ……零のライドブッカーを取り出した。

 

 

零「ッ!それは……!」

 

 

魚見「逃がして貰えたのに、わざわざ私の部屋に忍び込んで長く居座っていたとは、コレが中々見つからなかったから……ですよね?」

 

 

零「……バックルは簡単に見付けられたんだがな……やっぱりお前が持ってたか」

 

 

魚見「ええ。昨夜の戦いで、貴方がコレを武器にして使っているのをこの目で見てるので、コレさえ持ってればそちらは放っておいてもあまり危険ではないかと思いまして。流石にコレがないと、変身も出来ないでしょう?」

 

 

零「……とことん嫌らしい奴だな、お前っ」

 

 

魚見「あ……今の悔しげな顔は何かグッと来たので、ワンモアプリーズ?」

 

 

零「しかもS気質かッ?!ほんっと最悪だなお前ッ!」

 

 

ほんのり頬を上気させながら人差し指を立ててそんな所望をする魚見を見て、とことん自分とは相性が悪いと思い知りながら叫ぶ零。魚見もそんな零の反応を見て「冗談です」と微笑するが、零は絶対に冗談なんかじゃなかったと確信しながら頭を抑えて疲れたように溜め息を吐いた。

 

 

零「ああ、まあいいか……どうせ取られたモノを取り返したら、お前の所に行くつもりだったし」

 

 

魚見「……私に?」

 

 

零「まだ腑に落ちない事があるんだよ……それをお前に直接問い質したくてな」

 

 

零は不思議そうに聞き返す魚見にそう言ってベッドに腰掛け、足を組んで魚見を見据えながらポツポツと語り出した。

 

 

零「さっきのお前の説明のおかげで、あの二人がギルデンスタンとやらに改造された連中で、お前達の目的がギルデンスタンへの復讐と奴の計画を阻止しようとしている事は大体分かった……だが俺は、まだ肝心のお前自身の事を何も教えてもらっていない」

 

 

魚見「………………」

 

 

零「あの二人をギルデンスタンの下から救い出した、と言ってたな?どうやってそんな事が出来た?あんな化け物共の巣窟に、まさか偶然にも迷い込んで二人を救い出したって訳じゃあるまい……あのライダーの力か?」

 

 

魚見「……ええ。あの力がなければ、私では幻魔達と対等に戦う事なんて不可能ですから。アレは元々私が持っていた物です……それが何か?」

 

 

零「それは可笑しいな……この世界じゃ、ライダーは二人しかいないと云われているらしい……だがお前が変身したアレは、俺が良く知ってるその二人の外見と雰囲気が酷似してる部分があった……この世界の仮面ライダーは桜ノ神によって造られたらしいが、アレが元々お前が持ってた物なら、お前はアレを何処で手に入れた?いやそもそも……お前は一体何者だ?」

 

 

魚見「……私の正体を知ることが、そんなに重要ですか……?」

 

 

零「俺が困っている人間に誰彼構わず手を差し延べる善人だと思ってるなら、大間違いだ。正体も知れないような奴に無償で手を貸すほど、俺もお人良しじゃないんだよ……お前自身の事を何も話さないと言うなら、協力して欲しいって答えはNOの一点張りを通させてもらう」

 

 

魚見「………………」

 

 

やれやれというお決まりの仕草を、両手を広げてしてみせながら意地の悪い笑みを浮かべる零。そんな零を見据えながら魚見もほんの僅かにだが眉を潜めると、溜め息を吐いて顔を左右に振った。

 

 

魚見「本当に意地の悪い人……何故貴方のような人を、彼女は……」

 

 

零「……彼女……?」

 

 

魚見「いいえ、何でもありません……」

 

 

零「?」

 

 

口ではそう言って首を横に振る魚見。だがその様子は何処か、何か期待と違って失望しているようにも見え、零はそんな魚見の様子に頭上に疑問符を浮かべ首を傾げるが、魚見はもう一度深く溜め息を吐いたと共に零を見つめ返した。

 

 

魚見「――分かりました。私も、このまま仲間の命を危険に曝すような真似は出来ませんから……私の正体の一つや二つを曝して済むなら、幾らでもお話します」

 

 

零「交渉成立か……なら、話してもらえるか?お前の正体、それからあのライダーに変身する籠手の出所とか」

 

 

魚見「ええ……本当は、彼女との契約の繋がりがある貴方に教えるのは気が引けたのですが、背に腹は返られません」

 

 

観念したように溜息を吐きながらそう言うと、魚見は零にライドブッカーを投げ渡した。恐らく、これから全てを話すという意思表示なのだろう。

 

 

魚見「とは言え、貴方が何処まで私の話を信じてくれるかは分かりませんが……私は―――」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神社―

 

 

絢香「――え……盗まれた?幻魔との決戦の時に?!」

 

 

同時刻、桜ノ神社に真姫を招いた絢香達は、怪人Sが持つ籠手の管理をしていたという彼女から話を聞いていた。因みに真姫は未だに服を口に含んだりしており、零の服はもう涎まみれで使い物にならなくなってるが、真姫は気にせずつまみ感覚で服を噛みながら言葉を紡いだ。

 

 

真姫「まあねぇ。ついこの間の君達と幻魔との決戦の、えー……『幻魔大戦』?の最中、私や他の神々の目を盗んでいつの間にか封印が解かれてたらしくてさぁ、籠手もどっかいっちゃったのよぉ。今も探しているとこなんだけど、全然見つかんなくてねぇ?いやはや参った参ったぁ♪」

 

 

紗耶香「参った参ったって……」

 

 

桜香「私達が死に物狂いで戦ってる時に何やってたんだか……アンタや他の神達もこの世界の神でしょう?なのに何にもしないで……」

 

 

真姫「ん?そりゃあ、この世界を守るのは姫ちゃんの役だからねぇ。私の役目はそんな彼女の監督役で直接世界に関与して言い訳じゃないし、私らは彼女みたくそう易々と人間の世に関わっちゃいかんのよ、これが」

 

 

姫「……度々人の世に下りては男を食い散らかしてるのは、関わってないと言えるのですかね」

 

 

真姫「あっ、それはそれ、これはこれ。どうせその後は記憶を奪ってなーんも覚えちゃいないんだし、ノープロっしょ?」

 

 

なごみ「そういう問題ではないと思いますが」

 

 

真姫のあまりの適当ぶりに呆れてしまう一同だが、当の本人である真姫は無問題だと笑ってばかりいる。そして絢香が出してくれた茶を一口飲むと、真姫は瞼を伏せながらしみじみと語り出した。

 

 

真姫「まぁ、君達が幻魔神を倒してくれた事には私も感謝してるよ。あのまま姫ちゃんがさらわれれば、私も彼女から神権を剥奪して切り捨てなきゃならなかったし。もしくは万が一、この世界が幻魔達に侵略されるようなら、私らも最後の手を使わなならんかったしね」

 

 

アシェン「?最後の手……というのは?」

 

 

真姫「ん?アレだよ、この地球上の生き物ごと幻魔達を殲滅する、ってヤツ」

 

 

『なっ……』

 

 

姫「…………」

 

 

軽い調子で笑いながらそう語る真姫だが、その内容は彼女のように笑って流せる物ではなかった。幻魔達にこの世界を侵略された時、連中ごと地球上の生物諸共滅ぼすつもりだった。そんな恐ろしいことをサラリと告げた真姫に一同も目を見開くが、姫は薄く溜め息を吐いて首を振った。

 

 

姫「やはり、上役達はアレを使うつもりでしたか……」

 

 

真姫「『神滅兵器』、ね。不死の神を殺すとなると、地球上の生物を滅ぼすほどの威力じゃなきゃ殺せないから。君達が幻魔神に敗れた時に備えて、私もソイツを動かす為に上役達に駆り出されてたんで、籠手の方を気にしてる余裕もなかったのさね」

 

 

姫「……つまり籠手が盗まれたのは、元を糾せば私の不甲斐なさが原因でもあるという事ですね……」

 

 

絢香「……姫様」

 

 

幻魔大戦での件に負い目があるから、顔を俯かせ暗い表情を浮かべる姫。そんな姫を絢香が心配そうに案じる中、ドールはそれを横目に真姫を見つめ口を開いた。

 

 

ドール「んで、肝心のその籠手を盗んだ犯人さんの目星は既に付いているのですかい、真姫さん?」

 

 

アシェン「……ふむ。籠手が盗まれたのが神界という世界なら、籠手を盗んだのは神界の神の誰かと考えるのが妥当でしょうね。何か手掛かりの一つは掴んでるのでは?」

 

 

以前の事件からそれなりに時間も経ってるのだから、既に犯人に関する足取りを何か掴めているのではないかと、ドールとアシェンが真姫を見据えてそう疑問を投げ掛けると……

 

 

真姫「え……あー……んーと……さぁ、どーだろぉ?犯人探しは私より下の神達に任せてあるから、私は全然知らないかなぁ?ウン」

 

 

絢香「………………」

 

 

紗耶香「………………」

 

 

何故か急に、真姫は歯切れが悪くなり、一同から視線を逸らしながらそう告げたのだった。そのあからさまに怪しい態度を見せる真姫に絢香達はジト目を向けていき、姫も絶対零度の眼差しで真姫を見た。

 

 

姫「上役……」

 

 

真姫「…………な、何ぞな、姫ちゃん……?」

 

 

姫「いえ……そういえば、貴女は昔から隠し事を隠すのが下手くそだったなー、というのを何故か思い出しまして……」

 

 

真姫「な、何を言うんだい姫ちゃん?!この純粋無垢、天衣無縫さを絵に描いたような私が隠し事だって?!そんな事ある訳ないじゃないのさっ!」

 

 

姫「…………上役」

 

 

真姫「はうっ!」

 

 

そのまま姫は、無言のまま真姫を見つめ続けた。全てを見透かすような姫の瞳の前に、真姫は思わず変な声を上げながらその顔にダラダラと冷や汗を浮かべていく。

 

 

姫「上役……?」

 

 

真姫「う……えぇっと……あー……だからぁ……」

 

 

なごみ「だから?」

 

 

一同の疑心に満ちた視線が真姫に一斉に突き刺さる。それを肌で感じ取った真姫は彼女達の視線から逃れるように辺りに目を泳がせていき、そして……

 

 

真姫「――あっヤッベーッ!!そろそろ日課にしてる小学生男子ウォッチングの時間だわッ!!そーいう訳だからスィーユゥーッ!!」

 

 

―バッ!!!―

 

 

姫「堂々と犯罪宣言して逃げるなァッ!!イクゼ淑女共(レディーズ)ッ!!」

 

 

『夜露死苦てよッ!!』

 

 

―ドォンッ!!!―

 

 

最早容赦無し。堂々と犯罪宣言して勢いよく逃亡した真姫を取っ捕まるべく、姫の号令と共に一同は真姫を追って一斉に飛び出していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―大型ヘリ・魚見用休眠スペース―

 

 

零「―――水ノ神?」

 

 

魚見「ええ……それが私、市杵宍姫ノ命(いつきししひめのみこと)の神名です……」

 

 

そして場所は戻り、零は魚見から彼女の本当の名……市杵宍姫ノ命(いつきししひめのみこと)の名を聞かされ、腕を組みながら訝しげな顔を浮かべていた。

 

 

零「市杵宍姫ノ命……その長ったらしく口説い名前、何処となく桜ノ神と似てるが、なんだ?アイツの遠い親戚か何かか?」

 

 

魚見「親戚というわけではありませんが……そうですね……それに近しいような仲ではありました」

 

 

零「…どういう事だ?」

 

 

何を考えてるか分からない無表情のまま天井を仰いで呟く魚見にそう聞き返すと、魚見は徐に零へと視線を向けて言葉を紡いだ。

 

 

魚見「親友だったんですよ、彼女……桜ノ神がまだ神になったばかりの頃から、私達は」

 

 

零「ッ?!親友って、お前と、アイツが……?」

 

 

魚見「意外ですか?ですが、事実です。実際私が変身に使っていたあの籠手も、元々は桜ノ神専用の物ですから……彼女と親友だったからこそ、籠手が何処に仕舞われていたのかも知っていましたから」

 

 

零「……要するに、アイツの持ち物を勝手に盗んだって事か、それは?」

 

 

魚見「それは……ご想像にお任せします」

 

 

零「………………」

 

 

一瞬歯切れが悪くなったという事は、何か後ろめたい事でもあるのか。そう考えながら零はベッドからゆっくり腰を上げると、片手をポケットに突っ込み、魚見をまっすぐ見据えた。

 

 

零「最後に一つ聞きたい。お前は何で、其処までして幻魔達と戦う?」

 

 

魚見「……償い、です」

 

 

零「償い?」

 

 

魚見「はい……肝心な時に、何もしてあげられなかった友への……です」

 

 

零「………………」

 

 

視線を落としそう語る魚見の様子は、何処となく罪悪と後悔の念が垣間見える。そんな魚見の様子から彼女が言ってる事も満更嘘ではないと悟り、零は魚見から視線を逸らして面倒そうに溜め息を吐きながら頭を掻いた。

 

 

零「まあいい。お前が何者で、あの籠手を何処で手に入れたのかも聞けたんだしな。これ以上詮索はしないでおく」

 

 

魚見「では、これで……?」

 

 

零「……ま、お前達だけで幻魔共を倒せるとは思えんしな。一応聞いておくが、桜ノ神社の連中と協力する気はないんだろう?」

 

 

魚見「ええ……本当は、桜龍玉を狙いに来る幻魔達の存在を桜ノ神社の彼女達に気付かせて、遠回しに彼女達の協力を得ようと考えていたのですが……桜ノ神が戻ってきているのだとすれば、それは避けねばなりませんから……」

 

 

零「……また何か訳ありか……仕方ない。そういう事なら、俺とお前達でやるしかないようだな……」

 

 

出来れば仲間達と合流して戦力に余裕があるようにしたかったのだが、魚見にも魚見の事情がある以上頷くしかないかと、零は薄く息を吐いて魚見に左手を差し出した。

 

 

魚見「?握手、ですか……?」

 

 

零「……何だよ、何で其処で意外そうな顔する?」

 

 

魚見「いえ……てっきり、貴方はこういう友好的な表しをするような人ではないのだと思ってたので」

 

 

零「お前も結構失礼だな……一先ず休戦を約束するってだけだ。協力はしてやるが、事件が全部解決した後にはアイツの籠手と盗んだ桜龍玉を力付くでも返してもらう。別にお前と仲良くする気もないんだ、勘違いするな」

 

 

魚見「……ああ……何だか愛想の無い人だな、と思いましたけど、もしかしたら勘違いしていたかもしれません。アレですか、もしやツンデレ?」

 

 

零「今の発言の何処にそう汲み取れる部分があったッ?!人を何処ぞの金髪女と一緒にするなッ!」

 

 

魚見「寧ろ、そういう風に受け止められる要素しかなかったというか、別に否定する必要はないと思いますよ?年下の男の子のツンデレとか、ショタ属性の私的に私得――」

 

 

零「……え"っ?」

 

 

魚見「コホンッ……いえ、何でも。こちらの話です」

 

 

何だか聞き流せない危ない台詞を聞いてしまったような気がするのだが、魚見はそう言いながら咳払いして気を取り直し、零の左手を握り返して握手を交わし微笑を浮かべた。

 

 

魚見「それでは、ギルデンスタンを倒すまでは、貴方の力をお借りします。ディケイド」

 

 

零「……何か、速まった事をしたんじゃないかって気が段々としてきたんだが……まあいい……協力するって言ってしまった訳だしな……」

 

 

先程の発言から、魚見から姫と同じ変神の片鱗を垣間見てしまい、早くも自分は速まった選択をしてしまったのではないかと軽く後悔し始めてしまう零だが、今更二言は言えないなと覚悟を決め、軽く溜め息を吐きながらも魚見の手を握る力を少しだけ強めたのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑦(前編)

 

―桜ノ町郊外・廃ビル―

 

 

―――町外れの郊外にひっそりと佇む廃墟ビル。昔はまだこの辺りに人が住んでいた頃に大きな病院として使われてたらしいが、人がめっきりいなくなり始めてから潰れて廃墟と化したらしい。

 

 

その有様は今や幽鬼の類が出てきても可笑しくはなく、最近まで夜になれば町の若者達が足を運んで肝試しに来ていたらしいが、それも今や行方不明者の続出ですっかり人が寄り付かなくなったとのこと。

 

 

零「――正に幽霊ビルって訳か。夏場に冷えたい時にはうってつけだな……入ったらもう戻っては来れなさそうだが」

 

 

魚見『実際、この建物に足を踏み入れて戻ってこれた人は一人もいないようですから。恐らくは幻魔達に殺され、死体はそのままギルデンスタンの実験材料に使われたかと』

 

 

零「仮に俺達がドジ踏んで捕まったとなれば、そのギルデンスタンにモルモットとして使われる訳か……考えたくもないな」

 

 

時刻は深夜の12時。あれから数時間が経ち、市街地の方も建物の明かりが徐々に消え始めている中、零は無線機の向こうの魚見と喋りながら廃ビルの周囲に広がる森林に身を潜ませて、魚見から預かったファイルの記録に一通り目を通しながらギルデンスタンが根城に使っているという廃ビルを見上げていた。因みに、今此処に零の他にいるのはノエルだけであり、魚見と折夏は零達とは建物の反対方向の場所で待機してるらしい。

 

 

零「しかし、二手に別れて中に突入するとか、戦力を分散させるのはリスクがありすぎやしないか?」

 

 

魚見『そうかもしれませんが、大人数で固まって突入するとなると敵にすぐ発見されてしまう可能性があります。あちら側の戦力が分からない以上、出来るだけ戦闘を避けて、本願にまで一気に突っ切る方を目的にした方が宜しいかと』

 

 

零「短期決着か……だが、建物の中がどうなっているのかも分からんのだろう?中の構造図は昔の奴を一応貰ってあるが、正直これが何処までアテになるか分からんぞ……」

 

 

魚見『それでもないよりかはマシかと。それに桜龍玉が何処に保管されてあるのか分からない以上、建物も大きいので、二手に別れて進入し探索した方が効率的でしょうし……万が一敵に見付かった時には、どちらかが派手に陽動を起こし、その隙にギルデンスタンの下まで攻め入って桜龍玉を奪還するという作戦に移行出来ますから』

 

 

零「……俺達かお前達が囮になってその隙に頭を、か。まあそれなら全部の敵を相手にしないで済みそうで助かるが……何だって俺がコイツと二人一組なんだ……」

 

 

ノエル「…………」

 

 

溜め息混じりにそう呟いて零が背後へと振り返ると、其処には零に背中を向けてマシンガンやアサルトライフル等の銃器の弾の装填を無言のまま行うノエルの姿があり、何も言わないが、その背中からは『私に話し掛けるな』というオーラが滲み出ていた。

 

 

魚見『一応、彼女の能力的に貴方と組んだ方が相性が良いと考えたので……何か問題でも……?』

 

 

零「寧ろ問題しかない……能力的に相性が良くても、人間関係が最悪じゃなんの安心も出来ん。下手したら後ろから撃たれ兼ねんぞ、俺が」

 

 

ノエルは自分に対して余り快い感情を抱いていない。このまま二人きりで敵地に乗り込んだとしても、戦いになった瞬間に、後ろからまたいきなり敵ごとロケットランチャーの一発や二発を撃ち込まれるのではないかと心配でならない。その意味と込めて溜め息混じりに告げる零だが、無線機の向こうの魚見はそれを否定した。

 

 

魚見『貴方が思っている程、彼女は貴方を恨んではいませんよ。ただ、そう……貴方という人を良くは知らないから、自分の中での先入観が先立って、貴方にきつく当たってしまっただけですから』

 

 

零「……それでも、アイツが俺に何かしら恨みを抱いてても可笑しくはないだろ。アイツが家族を失ったのも、改造人間にされたのも、俺達に力が足りなかったせいでもある……アイツ等が幻魔に捕まって苦しんでいた事だって、俺は微塵も知らなかったしな……」

 

 

魚見『……それを言うなら、神なんて人知外の存在でありながら、彼女達を元の人間に戻してあげられない私はもっと無力になってしまいますよ?貴方達が必死に幻魔神と戦ってる時にも、私は何も出来ませんでしたし……』

 

 

零「…………」

 

 

魚見『人というのは、案外話せば解り合えるものです。その人がどういう人間か、分からないし、知らないから、周りの声で自分の中で勝手な人物像を形作ってしまう……その人が本当はどんな人間か、話して知れれれば全部ではなくても、悪人ではない限り気が合うかもしれません』

 

 

零「……まるで自分もそうだった、みたいな口ぶりだな」

 

 

魚見『ふふ……彼女と契約しているなら知っていると思いますが、他の神を心底嫌っていた昔の桜ノ神とも、そうやって和解したものですからね……人生の先輩からのアドバイスという奴です』

 

 

零「……まさかとは思うが、俺とコイツを組ませたのはそれが目的か?」

 

 

魚見『さぁ?どうでしょうね。……そろそろ作戦開始時刻なので、私はこの辺で。ご武運を』

 

 

あからさまにわざとらしい口調のその言葉を最後に、魚見からの通信が切れた。そして零は通信が途絶えた無線機を耳から外しジト目で無線機を睨みつけると、小さく溜め息を吐きながら無線機を仕舞いノエルの方へと振り返った。

 

 

零「もうすぐ作戦開始時刻だそうだ……どうする?」

 

 

ノエル「……決まってるでしょ……私達も突入よ」

 

 

―カチャッ……!―

 

 

感情を押し殺したかのような淡々とした返事と共に、ハンドガンの冷たい撃鉄の音が暗闇の森に響き渡る。そうして、ノエルは整備を行った武器をすべて担いでズカズカと零を置いてビルへと進んでいき、零はそんなノエルの背中を見てやれやれと溜め息を漏らすと、ノエルの後を追い掛け歩き出していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―廃ビル・通路―

 

 

割れた窓を通り、ビルの中へと入り込む零とノエル。侵入は思ってたより安易く、少しばかり拍子抜けしてしまいながらも警戒心は緩めず、ライトを持つノエルを先頭に暗がりの通路を慎重に進んでいく。

 

 

零「……幻魔達は現れないんだな……てっきり、建物の中を徘徊して回ってるんじゃないかと思ったんだが」

 

 

ノエル「ザラ警備も良い所ね。幻魔を造るのは一丁前でもこういうとこは適当で敵の侵入を許すだなんて、笑えたもんだわ」

 

 

零「…………」

 

 

ライトで通路の先を照らしながら進んで一応は返事を返してくれるノエルだが、その声はやはり淡々としていてそっけない。その予想通りの反応に再び溜め息を吐きながらも、零はノエルの背中を見つめて徐に口を開いた。

 

 

零「そういえば一つ、聞き損なったんだが……お前、この戦いが終わった後はどうする気なんだ?」

 

 

ノエル「……何よ急に」

 

 

零「いや、単純にギルデンスタンとの因縁を着けて、それからお前等がどうするつもりなのか気になっただけだ。……親戚の所にでも行くのか?」

 

 

確かノエルは両親と母方の親族を先の戦いで失ったと言っていたが、他に親族はいるんじゃないだろうか?それならギルデンスタンと決着を付けた後はその親族に会いに行くのだろうかと気になり問い掛ける零だが、それに対しノエルは鼻を鳴らして否定した。

 

 

ノエル「まさか……こんな化け物みたいな身体にされて、今更帰れる訳ないじゃないの……そもそも私の家すら、もうない訳だし」

 

 

零「……は……?」

 

 

もう自分の家はない。なんでもないようにそう告げたノエルの言葉に耳を疑って思わず聞き返すと、ノエルは曲がり角の先に誰かいないか確認しながら先に進み、話を続けた。

 

 

ノエル「取られたのよ……私の家もパパの会社も叔父に……うちって、ちょっと有名な軍事企業でね。休日にママの実家がある日本に遊びに来て、其処でこの間の事件に巻き込まれてパパとママ、私も死んだのだと思われていたから、叔父が倒産し掛けてたうちの会社を掌握したの。で、晴れて叔父は会社の社長、私の家も叔父とその家族に取られたってワケ……」

 

 

零「……お前が改造人間にされて捕まってる間に、か……」

 

 

ノエル「……久方ぶりに国に帰って、家の前で呆然としたわ。私がいない間に、私が知ってる家の風景じゃなくなっていて……本当に何もかも失ったんだって、そう自覚した途端、目の前が真っ白になった……絶望感って、ああいうのを言うのかしらね」

 

 

零「…………」

 

 

掛ける言葉が見付からず、零は口を閉ざしノエルから視線を逸らしてしまった。彼女がギルデンスタンの下でモルモットのように扱われていた中、叔父によって父親の会社と家を奪われ、帰ってきた彼女に居場所はなかった。その時に彼女が感じた絶望など、自分には想像し難い。

 

 

ノエル「それから日本から戻ってきた私を見て、叔父はわざとらしく喜びながら一緒に暮らさないかなんて言ってきたけど……あの男が前々からパパの事を疎んでたのを知っていたから、そんなのは願い下げだって断って、あのヘリと武器を幾つか貰って日本に戻ってきたってわけ」

 

 

零「……ギルデンスタンに復讐する為に、か?」

 

 

ノエル「それ以外になにがある?私にはもうそれしか残されていない……こんな身体にされて、もう普通の人間のように生きられる筈がない……だったらせめて、アイツだけでもっ……」

 

 

零「…………」

 

 

もう普通の人間として生きられないのなら、せめて、こんな事になってしまった全ての元凶である幻魔達とギルデンスタンを倒し仇を撃つしか生きる希望はないのだと、憎しみの篭った目付きへと変わりながらそう語るノエル。そしてそんなノエルから憎しみの念をひしひしと感じ取った零は何かを考え込むように顔を俯かせた後、ノエルの背中を再び見据え、足を止めた。

 

 

零「――俺は、お前と似たような境遇の奴を……いや、お前のように、異形の力を持ってしまった奴らを、良く知ってる」

 

 

ノエル「…………?」

 

 

不意に突然そう語り出した零の言葉を聞き、ノエルは思わず頭上に疑問符を浮かべながら立ち止まって背後へと振り返り、零はそんなノエルの目を真っすぐ見つめ返しながら言葉を続けた。

 

 

零「そいつらは皆、お前のように体を改造されて異形にされたり、異能の力を手に入れて、辛く厳しい戦いに巻き込まれて徐々に人間ではなくなって行ったり、既に人間でなかったり……それぞれ苦悩を抱えてた。そういう奴らを、俺は幾つもの世界を巡って、この瞳で何人も見てきた」

 

 

ノエル「…………」

 

 

零「一見すると、ソイツ等も化け物である事に違いはない。実際、ソイツ等の中には人間から疎まれたり、人類の敵と呼ばれた奴らもいた……だがソイツ等には、人を襲う化け物とは違う、決定的な違いがあった」

 

 

ノエル「……違い?」

 

 

思わずそう聞き返すノエル。人を襲う化け物と、異形の存在になってしまったというその人達の違いというのが、彼女にとって他人事のように思えなかったのかもしれない。そんなノエルの疑問に対し、零は懐からライドブッカーを取り出すと、ライドブッカーを開きディケイドのカードを取り出しながらポツリと答えた。

 

 

零「人間としての心、って奴だ……例え自分が人間でなくなって、周りから化け物と恐れられようとも、それでも守りたいモノがあった。ソイツ等はただ、それだけの理由で、自分と同じ力を持った怪物と戦い続けて来た」

 

 

ノエル「……何かを守る為に、ね……じゃ、私はその人達みたくはなれないわ。命を張って守りたいものだなんて、私にはもう――」

 

 

零「別に、ソイツ等みたく生きろとは言わんさ。ただ、お前にも憶えてて欲しいだけだ……お前の言う化け物になって、自分の存在に悩みながら、それでも尚今も愚直なまでに戦い続けている……アイツ等の事を」

 

 

ノエル「…………」

 

 

零「今の自分に、悲観的になるなとは言わない、何かを恨むなとも言わない……ただ……」

 

 

其処まで言い掛けて、零は少しだけ次の言葉を紡ぐのを躊躇してしまう。彼女を救えなかった自分に、この言葉を口にする資格はあるのかと。だが誰かが言わねば、彼女はずっとこのままかもしれない。そう考え、零は瞳を伏せて一拍置いた後、瞼を開き真剣な眼差しをノエルに向けた。

 

 

零「……ただ、それだけで終わらないで欲しい、とは思う。自分が人間じゃないから、もう未来はないんだと……そう思って、其処から立ち上がる事を、諦めないで欲しい」

 

 

ノエル「…………」

 

 

多くの大切なものを失った彼女の心の闇を、果たして晴らす事が出来るのか、それは分からない。

 

 

だがそれでも、どんな形にしろ、あの事件から生き残った彼女には、生きていて欲しいと思う。

 

 

彼女の境遇を考えれば酷な願いでしかないだろうが、それでも……あの丘の上の慰霊碑に名を刻まれた死者達のような犠牲者を、これ以上出したくはない。

 

 

ノエル「――無責任な男ね。幻魔を倒す以外、生きる希望を何かも失った私に、これ以上生き続けろってこと……?」

 

 

零「……そうだな。何時もの俺らしくもない、自分でも驚くほど身勝手な事を言っているとは思ってる……それでも……」

 

 

ノエル「…………」

 

 

それでもそれが自分の本心なのだと、その意を込めて零は無言のままノエルの目を見つめていく。それに対しノエルも零の視線を正面から見つめ返すが、すぐに瞳を伏せながら零に背中を向けて再び歩き出していき、そんなノエルの背中を見て零も薄く溜め息を吐いて彼女の後を追った。

 

 

零(まあ、俺が言っても何の説得力もないか。肝心な時に何もしてやれなかったような奴から言われても、余計に嫌悪感を……「……ねぇ」……ん?)

 

 

やはり自分が何を言っても届くハズがないかと、零がそう考えていた中、不意にノエルの方から声を掛けてきた。その声に釣られる様に零がノエルの方に視線を向けると、ノエルは歩みを進めながら僅かにこちらに顔を向けている。

 

 

ノエル「……さっきアンタが、幾つもの世界を巡って見てきたっていう人達の事だけど……その人達って、何て呼ばれてるの?」

 

 

零「?……その世界によっては呼び名も色々変わって来るが……どれも全部一括して、仮面ライダーと呼ばれてる」

 

 

ノエル「……kamen rider、か……キャメンライダー……いや、カァメンライダァー……?」

 

 

零「……?」

 

 

言い慣れぬ様子で、何度も仮面ライダーの名前を呟くノエル。そんなノエルの姿に零も不思議そうに見つめ怪訝な表情を浮かべるが、ノエルもそんな零を他所に納得が行かなそうな表情で何度も何度も仮面ライダーの名を繰り返し呟いていくと徐々に正しい発音に近付いていき、漸く納得が行く発音を言えるようになったのか、コクりと小さく頷いた。

 

 

ノエル「――仮面ライダー……ね……うん……まぁ、一応その名前は、頭の隅にでも入れておく」

 

 

零「!お前……」

 

 

ノエル「……別に、アンタの言う事を全部聞き入れた訳じゃない。ただ別世界でも私みたいな目にあって、それでも挫けず戦い続けている奴らがいるって聞いて……私だけ負けるのは何かイヤだなって、そう思っただけ……」

 

 

髪で横顔を隠しながらそう言うと、ノエルは再び前を向いてそのまま無言となり先へと進んでいく。そしてそんなノエルを見つめて零も僅かに目を見開いたまま驚くも、全部ではないが、彼女の心境に少しだけ変化を与えられたのだと考えて微笑し、ノエルの後を追い歩く速度を速めていくのであった。

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑦(中編)

 

そして、あれから約一時間が経った。

 

 

探索を再開した零とノエルの二人は、ギルデンスタンの居場所と奴が集めた残りの桜龍玉が保管されている場所を探して慎重に先へと進み、それらしき場所か、或いはその場所に通じる部屋がないか隅々まで探しながらビルの最上階を目指し登り続けた。だが……

 

 

 

 

 

ノエル「――どういうこと?桜龍玉もギルデンスタンも見付からないどころか、幻魔の一匹とも遭遇しないだなんて……」

 

 

 

 

 

漸く最上階の前まで登り詰めたというのに、此処までギルデンスタンと桜龍玉に関する手掛かりが何一つ見付からないどころか、二人が侵入してからそれなりに時間が経っているにも関わらず、未だに幻魔一匹の姿すら見付かっていないのであった。

 

 

零「おい、どうなってる?此処まで何も無いと、流石に違和感しか感じんぞ……本当に此処が幻魔共の根城なのか?」

 

 

ノエル「それは、間違いない……最近まで何度も調査を繰り返して、此処が奴らの根城だと確信を持って、万全の準備をして、それで漸く……なのにっ……」

 

 

まさか、自分達が突入する前に既に違う場所にアジトを移して此処を破棄したのだろうか?そんな事を想像しながらノエル自身も困惑を隠せない様子でいたが、そんな彼女を見た零は薄い息を吐いて自分達が登ってきた階段と、上の階に続く一本道の階段の先に見える扉を交互に見た後、階段の上の扉を顎で指した。

 

 

零「取りあえず、此処まで来た以上は最後まで確かめてみるしかないか……どうやらこの先が最上階のようだし、あの扉の先に何かないとも限らん……気を抜くな」

 

 

ノエル「っ……分かってるわよっ」

 

 

気落ちし掛けていたノエルに葛を入れるように厳しい口調でそう言えば、ノエルもそう言い返し武器を構え階段を登っていく。そして零もその後に続いて階段を登ると、二人は階段を登り切ると共にすぐさま扉へと近づき、扉の取っ手をそれぞれ掴み顔を見合わせた。

 

 

零「準備はいいな?」

 

 

ノエル「当然……」

 

 

零「よし―――GO……!!」

 

 

―バァンッ!!!―

 

 

零の合図と共に、扉の取っ手を掴んだ二人の手が勢いよく扉を開け放っていった。扉が開かれ、零は懐からディケイドライバーを取り出して腰に装着し、ノエルはアサルトライフルを構えながら扉の向こうへと突入していく。その先にあったのは……

 

 

零「――ッ?!何……?」

 

 

ノエル「え……ウオ?折夏?!」

 

 

魚見「――!ノエル?ディケイド?」

 

 

折夏「…………」

 

 

零とノエルが突入した扉の向こうに広がっていたのは、埃を被っていたりクモの巣が張られてる無数の客席がズラリと並べられた、広々とした空間の寂れた劇場のような場所であり、更に零とノエルが突入した扉とは別の扉から、二人と同じタイミングで劇場内に突入してきた別チームの魚見と折夏の姿が其処にあったのだった。

 

 

別動隊との予想外の合流に一瞬互いの顔を見て驚くも、零達はすぐに我に返って小走りで互いへと駆け寄り合流していく。

 

 

零「お前達ももう此処まで辿り着いてたか、どうだ?そっちで何か見付かったか?」

 

 

魚見「いえ……此処に来るまで色々な場所を探しましたが、他の桜龍玉とギルデンスタンに関する手掛かりどころか、幻魔の一匹も見付からず……そちらは?」

 

 

ノエル「こっちも似たようなもんよ……ったく、何がどうなってんのっ?まさかアイツ等、本当に此処を捨ててっ……?」

 

 

零「…………」

 

 

これだけ探して幻魔一匹の影すら見付からないとなると、本当に奴らをこのビルを破棄してしまったのか。だが、何故急に?何の為に?それが分からず腑に落ちない様子で近くの壁に握り拳を叩き付けるノエルだが、零はそんな彼女を尻目に険しげな表情で劇場内を見回していく。

 

 

零(……何だ……この妙な違和感……?胸がざわつくような……何かが可笑しい……)

 

 

魚見「―――取りあえず、このホール内も調べてみましょう。まだ何も手掛かりはないとは言い切れませんし、落胆するのはそれからでも遅くはありません」

 

 

ノエル「……分かったわよ……望み薄だけどね……」

 

 

正体不明の違和感を拭えずに零がホール内に視線をさ迷わせていく中、この場所に何か僅かにでも手掛かりが残されていないかと調査すべく、手初めにホールの壇上の上を調べようと魚見とノエルが歩き出す。が、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥッ……パキイイイイイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

『―――ッ?!』

 

 

零「ッ!何?!」

 

 

 

 

 

 

一同が動き出したその時、突如四人が入ってきた二つの扉が光の障壁に覆われて、封鎖されてしまったのであった。それを見た零達は突然の事態に驚愕し、慌てて扉へと引き換えして零が扉を阻む障壁に右手を伸ばすが、障壁に触れた瞬間に青白い火花が飛び散り、零の右手を弾いてしまった。

 

 

―バチイィィッ!!―

 

 

零「ッ!クソッ、やっぱり罠だったかっ!」

 

 

魚見「そんな……」

 

 

ノエル「……ってことは、まさかっ……!」

 

 

 

 

 

 

『―――ヒヒハハハハハッ……ノコノコと罠に掛かりに来るとは、やはり人間は単純で助かる……』

 

 

 

 

 

 

『……ッ!』

 

 

障壁で塞がれてしまった扉を見て一同が動揺する中、背後から突然零達を嘲笑うかのような不気味な笑い声が響き渡り、零達はそれを耳にし声が聞こえてきた方へと振り返った。すると、ホールの壇上の上に螺旋状の不気味な緑色の光が何処からか出現し、その光の中から、黒いマントを纏った一体の不気味な外見の異形が杖を付きながら姿を現した。

 

 

零「お前は……?」

 

 

『クククククッ、お初目に掛かるかな?我等が偉大な幻魔神をその手で屠った、憎たらしき世界の破壊者、そして、水ノ神よ?』

 

 

魚見「ッ!」

 

 

ノエル「ギルデン……スタンっ……!」

 

 

二人を知っているような口ぶりで零と魚見を交互に見つめ、クツクツと不気味に嗤う黒いマントの異形……幻魔界最高の科学者でありマッドサイエンティスト、ノエルと折夏を改造人間にした張本人であるギルデンスタンの出現に、ノエルが憎悪を宿した瞳で睨み付けるが、魚見はそんなノエルを片手で制止しながら前に出てギルデンスタンを睨み付けた。

 

 

魚見「……何故、貴方が私の事を知っているのです?幻魔神を倒した張本人の彼はともかく、私が知り得る限り、私達は貴方達に正体を知られないように動いていた筈ですが……」

 

 

『フン……桜ノ神の下から盗んだ仮面で顔を隠し、それで私が貴様の正体に気付かないとでも思ったのかね?』

 

 

魚見「ッ……」

 

 

零「籠手の事までバレてるのかよ……情報ダダ漏れし過ぎだろう」

 

 

魚見の正体どころか、魚見が持つ籠手の出所までギルデンスタン達に知れ渡っていた。その事実に魚見達も驚愕し零も腰に手を当てて呆れるようにそう呟くが、ギルデンスタンはそんな零の言葉に対し笑いながら首を横に振った。

 

 

『いやいや、私がそれを知れたのは偶然の産物だよ……私もまさか、こんな形でお前達の正体を知ることになるとは思わなかった……ハハハッ!天は何処までも私の味方のようだッ!』

 

 

零「?何を訳の分からん事を……頭のネジが跳んでるのか?」

 

 

ノエル「元から頭の可笑しい奴よっ、大勢の人間を自分の欲望と研究の為に犠牲にしたっ……こんな奴のせいでっ……!!」

 

 

『ン?……あァ……誰かと思えば私の『娘』ではないか。ハハハハハッ、まさか私の下から離れてまだ生きていようとは、驚いたよ、『クレシダ』!』

 

 

零(……?クレシダ?)

 

 

ノエル「クレシダじゃないッ!誰がアンタみたいなクソ野郎の娘なものかッ!私は私だッ……ノエル・コーマットだッ!!」

 

 

クレシダという名で呼ばれ忌ま忌ましげにそう吐き捨てると、ノエルはアサルトライフルの標準をギルデンスタンの額に合わせて引き金に指を掛けるが、そんなノエルを見てもギルデンスタンは未だに愉快げに笑い続けていた。

 

 

『ククククッ、それは残念だ……お前の『姉妹』は、私が与えた名を喜んで受け入れてくれたのだがねぇ……なぁ、『ゴネリル』?』

 

 

ノエル「……え?」

 

 

魚見「――ッ!ノエルッ!」

 

 

―バアァンッ!―

 

 

零「?!」

 

 

不気味に笑うギルデンスタンの言葉にノエルが思わずそう聞き返した瞬間、突然魚見が何かに気付いたように悲鳴のような大声を上げながら飛び出して自分の体ごとノエルを押し飛ばし、その直後、ノエルが立っていた場所の背後にある客席に一発の銃弾が打ち込まれ、零はその銃弾が放たれてきた方へ振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

折夏「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処には、ノエルが立っていた場所に銃口から煙りが立つハンドガンを向けて、無表情のまま佇む少女……魚見とノエルの仲間であるはずの折夏の姿があったのだった。

 

 

零「お前っ……?」

 

 

魚見「クッ……」

 

 

ノエル「お……折、夏……アンタ……?」

 

 

折夏「…………」

 

 

折夏の手に握られたハンドガンを見て、今のノエルに向けて放たれた銃弾が折夏の手によるものだと一目で理解した零は驚愕を露わにし、一方でノエルは未だに何が起きたのか理解出来ず魚見と共に床に倒れたまま呆然と折夏を見つめるが、折夏は無言のまま銃を下ろし、超人的な跳躍力でギルデンスタンが立つ壇上の上まで飛び上がって着地し、ギルデンスタンの前にひざまづいて懐から二つの宝玉……魚見達が手に入れた六桜玉と七桜玉を差し出した。

 

 

ノエル「ッ?!それはっ!」

 

 

折夏「こちらが、残りの桜龍玉の六桜玉と七桜玉です……ギルデンスタン様」

 

 

『ご苦労……。流石は私の娘だ、言われた通りにしっかり仕事を熟してくれる。フフフフッ』

 

 

折夏が差し出す二つの桜龍玉を受け取り、クツクツと酷薄な笑みを浮かべるギルデンスタン。そんなギルデンスタンを零も微かに目を細めて睨み付けると、ギルデンスタンの前に跪く折夏に目を向けた。

 

 

零「どういう事だ……お前、コイツ等を裏切ってたのか?」

 

 

折夏「…………」

 

 

ノエル「何とか言ってよ……折夏っ……!私達、仲間だったんじゃないのっ……?!」

 

 

魚見「……そういう事ですか……」

 

 

零とノエルが疑問を投げ掛けるも、折夏はギルデンスタンの前に跪いたまま何も答えようとはしない。無言を貫き通す折夏にノエルも思い詰めた表情を浮かべるが、魚見はそんなノエルを横目にふらつきながら立ち上がり、ギルデンスタンを見据えながら懐から籠手を取り出した。

 

 

ノエル「……!ウオ?!」

 

 

魚見「……私の正体や籠手の事……そして私達が今夜このビルに突入する事も、彼女を使ってあらかじめ調べ済みだったという事ですか……ギルデンスタン」

 

 

『フフフッ……私もまさか、お前がゴネリルとクレシダを私の研究所から連れ出した不届き者だとは思わなかったよ。だから昨夜も、密偵からお前と其処の破壊者との戦いに、この二人が現れたと聞いた時は驚いた……まさか私の計画の邪魔をしていた盗っ人と同一犯だったとはなぁ……。いやだが、だからこそ、お前達がゴネリルを連れていてくれて助かったというものだ』

 

 

―パキィッ!―

 

 

そう言いながらギルデンスタンが指を軽く鳴らすと、折夏はそれに応えるように前に出ていき、淡い光と共にその姿が一瞬で変化していった。短かった筈の銀髪が腰まで伸び、まるで法師のような恰好と銀色の鎧を身に纏い、右手に薙刀を手にした姿……折夏の幻魔としての姿であるゴネリルへと。

 

 

『ゴネリルの脳改造は既に半分近くまで完了していてね……。私の手で、このように自在に操る事が可能なのだよ。まあ最も、改造が不完全なままだった為に行方が知れないせいで洗脳も使えなかったが、お前達が姿を現してくれたおかげでこうして我が娘を取り戻し、残りの桜龍玉も揃った。その点においては、お前達に感謝せねばならないかな?』

 

 

零(……ッ!まさか、俺を助けてコイツの部屋の場所を教えたのも、コイツから正体を聞き出す為に……?)

 

 

魚見「…………」

 

 

だとするなら、あの時には既に折夏はギルデンスタンに洗脳されていたという事なのか。そう推測しながら魚見に目を向けて彼女とのやり取りを思い出す零だが、魚見はそんな零の視線に気付かずに瞳を伏せて溜め息を吐くと同時に、瞬時に怪人Sへと変身して左腕のパッチ・アーマーから鋼鉄の剣を抜き取った。

 

 

零「ッ!おい、どうする気だ?」

 

 

『どうも何もありません。私達の目的はギルデンスタンを討ち倒し、奴の計画を阻止して、奪われた桜龍玉を全て回収する事……作戦に変更はありません』

 

 

ノエル「ちょ、ちょっと待ってっ!それって……折夏とも戦うって事っ?!」

 

 

『……障害となるのなら、それもやむを得ないでしょう。このまま幻魔神の復活を許す訳にはいきませんし、彼女が幻魔として立ち塞がるのなら、彼女を仲間として迎え入れた私が、この手で……』

 

 

ノエル「そんな……ちょっと待ってよウオッ!そんなのっ!」

 

 

それはつまり、幻魔として立ち塞がる折夏を倒してでもギルデンスタンを止めるという事か。淡々とした声でそう語る怪人Sにノエルが前に出て止めようとするが、怪人Sはそんな彼女を素通りしギルデンスタンとゴネリルに立ち向かおうとすると、そんな怪人Sを零が横から止めた。

 

 

『!ディケイド……?』

 

 

零「……お前はギルデンスタンを倒して、六桜玉と七桜玉を奪い返せ。あの女は、俺が何とかする」

 

 

ノエル「え……何とかって……?」

 

 

『何をするつもりですか?……彼女は奴の手によって直接脳を弄られて、もう元に戻す事が不可能な域にまで改造されている……こうなる事は覚悟出来てた……彼女を救うには、もう……』

 

 

零「…………」

 

 

仮面で表情を見えないが、何処か思い詰めたような声でそう呟き、顔を俯かせる怪人S。そんな彼女の様子を見て零も微かに目を細めながら口を閉ざすと、壇上の上から飛び降りこちらに向けて薙刀を身構えるゴネリルを見据え、口を開いた。

 

 

零「こうなる事は最初から予想していたって事か……アイツはもう自分の手じゃ救えないって事も、何時かアイツが、お前達を裏切るかもしれないって事も……そうなった時は、自分の手で討つと決めて」

 

 

ノエル「……え?」

 

 

『…………』

 

 

真剣な口調で零にそう問い掛けられるも、怪人Sは口を閉ざして何も答えない。そして、その間にも劇場内の至る場所に闇が発生し、其処から今まで姿が見られなかった人造幻魔の大群が現れて零達を包囲していく。

 

 

零「それでもアイツを連れていたのは、完全に幻魔にされてしまうアイツを見捨てられなかったからなのか、それともギルデンスタンの元に置いておくのは危険な性能だったからか……俺には分からんが、前者ならまだ諦めるのは早いだろ。手ならまだこっちにある」

 

 

『……どんな手があると?彼女の脳に再び手を加えれば、彼女は記憶だけでなく、辛うじて留められた彼女の人格まで崩壊してしまう……貴方が其処まで義理立てする必要は……』

 

 

零「義理を立てなきゃならない理由が一応あるんだよ。操られていたのかどうか知らんが、俺も一度アイツに助けられてるんでな……それに経験談から言わせてもらうと、知り合いの女に目の前で死なれるってのは……結構来る物があるんだよ……一緒に過ごした時間が長かろうが、短かろうとな……」

 

 

ノエル「……?」

 

 

気のせいか、そう語る零の横顔が一瞬、ノエルには切なげな顔に見えた。しかし零はすぐに真剣な表情へと切り替わり、左腰のライドブッカーから二枚のカードを取り出すと、取り出した二枚の内の一枚のディケイドのカードを身構えた。

 

 

零「悩んでる時間もない。アイツを救う気があるなら、お前達は黙ってとっととギルデンスタンを仕留めろ、周りの雑魚とあの女は俺が引き受ける。変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『ATTACKRIDE:ILLUSION!』

 

 

『…………分かりました…………彼女を頼みます…………ノエルッ!』

 

 

ノエル「!わ、分かったっ!」

 

 

『今生の別れは済んだか?では、もう一人の娘を返してもらうついでに、世界の破壊者と水ノ神という今までにない実験材料も一緒に頂こうか……行けっ!我が造魔達っ!我が息子達よっ!奴らを捕らえるのだっ!』

 

 

『シャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!』

 

 

『……!!』

 

 

ギルデンスタンが変身したディケイドと怪人S達を指差し高らかに叫ぶと共に、無数の人造幻魔……造魔達とゴネリルは一斉にそれぞれの武器を構えながら三人に目掛けて突っ込んで斬り掛かっていき、それを見たディケイド達も咄嗟に客席を飛び越えて造魔達が振りかざす武器をかわしていく。

 

 

そして怪人Sとノエルはそのままギルデンスタンに向かって客席を飛び越えながら突っ込み、ディケイドはイリュージョンを使用して生み出した分身に造魔達の相手を任せ、その隙に本体はゴネリルに向かって走り出して戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

―廃ビル前―

 

 

ルーノ『―――ふうむ……此処が例の幽霊ビルという奴ですかな?』

 

 

ディケイド達がギルデンスタンの計略に嵌まり戦闘を開始したその頃、廃ビルの正面玄関から月光に照らされる巨大なビルを見上げる複数の人影……姫、紗耶香、桜香、アシェン、そして馬鬼に跨がるドールが鎧を纏った姿であるルーノと、その後ろに乗ったなごみの姿があった。

 

 

姫「上役の話では、此処に奴……ギルデンスタンが身を隠し、怪人Sとその仲間が今夜突入する予定だったらしいが……どうだ、アシェン?」

 

 

―キュイィィィィィッ……ピピッ!―

 

 

アシェン「――はい、確かに。今から約一時間程ほどに、何者かが建物内に侵入した形跡があります」

 

 

なごみ「つまり、怪盗の皆さんはとっくに虎穴の中へ……という事ですか」

 

 

桜香「此処から離れた場所に怪人S達の物と思われるヘリもあったし、多分まだこの中でしょうね……」

 

 

大型ヘリの方には、万が一怪人S達が戻ってきた時に備えて絢香を待機させてきたが、恐らくその心配も杞憂に終わるかもしれない。幻魔やそれ以外の多くの人魔と戦い続けてきた彼女達にしか分からないだろうが、このビル全体が今、異様な気配に覆われているのである。もしかしたら今現在、この建物の中の何処かでギルデンスタンと怪人S達の戦いが繰り広げられてるのやもしれない。

 

 

紗耶香「それにしてもまさか、ギルデンスタンの奴が生き延びていたとはな……私達がしっかり確認しておけば……」

 

 

桜香「今更後悔しても後の祭りでしょ。奴を取り逃がした尻拭いは、私達の手でケリを付けるしかないわ」

 

 

姫「ああ、今回は……いや今回も、私も無関係とは言えないしな」

 

 

そう言いながら、姫の視線が背後の馬鬼……の後ろに向けられ、それを追うように一同の目もそちらに向けられていく。其処には……

 

 

 

 

 

真姫『――ンンブウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッッッ!!!!!ンンンンンンンンンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

布団で丸められた上に馬鬼の片足に繋がれた縄でグルグルに縛られ、喋ることも出来ず篭った声でなにやら奇声を発する真姫の姿が其処にあった。

 

 

桜香「……桜ノ神の籠手の盗難を見逃す所か、まさか盗難の手助けをしていただなんてね。ほんとハタ迷惑な神だわ……」

 

 

姫「上役にも上役なりに何か事情があったのだろうがな。それが許される事かどうかは置いといて……彼女に関する責任は私が代わりに負う……私も、個人的な理由で怪人Sに会わなければならなくなったしな」

 

 

紗耶香「?個人的な理由、とは……?」

 

 

手首を回して骨の音を鳴らしながら何時になく真剣な様子を浮かべる姫の意味深な言葉が気になり、紗耶香が怪訝な顔でそう聞き返した。その時……

 

 

 

 

 

 

―チュドオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッッッッ!!!!!!―

 

 

『……ッ?!!』

 

 

 

 

 

 

廃ビルの最上階の一角から突如、巨大な轟音と共に、爆発と閃光が炸裂したのであった。爆風と共に無数の破片が夜の空に飛び散っていくその光景を目の当たりにし、姫達も突然の事態に驚愕で目を見開きながら、爆発が巻き起こった廃ビルを見上げた。

 

 

紗耶香「あ、あれはっ?!」

 

 

桜香「爆発……最上階から……?!」

 

 

アシェン「……恐らくはと言うか、間違いなく彼処でやがりますね……怪人S達とギルデンスタンが戦っているのは」

 

 

姫「ッ!最上階へ急ぐぞッ!ギルデンスタンを相手に彼女達が戦っているとなると、奴の事だ、きっとまた非道な罠を仕掛けているに違いないっ!」

 

 

数百年前にも嘗てギルデンスタンを相手に戦った事がある経験からか、桜香達にそう呼び掛けて廃ビルの中へ彼女達と共に突入しようとした姫だったが、彼女達は正面玄関を目にしてその足を止めてしまった。何故なら……

 

 

―シュウゥゥッ……―

 

 

『アァァァァッ……』

 

 

『ギシャアアァァァァッ!!』

 

 

廃ビルの正面玄関前に突然前触れもなく闇が出現し、其処から数え切れない数の造魔達が奇声を発しながら姿を現したのである。まるで、中に入ろうとする姫達を阻むかのように。

 

 

桜香「ッ!私達を入れさせないつもり?!」

 

 

なごみ「邪魔物対策も万全なようですね、どうしますか?」

 

 

姫「決まってるさ」

 

 

間髪入れずに即答すると、姫は何処からか取り出したイクサベルトを腰に巻き、紗耶香と桜香も籠手をそれぞれ取り出して右腕に装着していき、姫は続けて取り出したイクサナックルを掌に押し当てた。そして……

 

 

『READY!』

 

 

姫「強行突破だ、コイツ等を蹴散らして最上階を目指すッ!変身ッ!」

 

 

『変身ッ!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

電子音声と共に、それぞれ変身動作を行ってライダーへと変身する姫達。そして変身を完了したイクサF達は得物を手にして迫り来る造魔達と対峙していくと、アシェンも拳を構えながら馬鬼に跨がるルーノに声を掛けた。

 

 

アシェン「お嬢様をお願いします、ドール様。万が一にもお嬢様を傷物にした時には――」

 

 

ルーノ『心配めさるなやアシェンさん、なごみさんのぷるぷるお肌と貞操は私がしっかり守ってみせましょう!いざって時にゃ、この騎英の手綱(ベルレフォーン)で光を超えて突貫してやるぜぇい!(`・ω・´)』

 

 

なごみ「その場合私も一緒に敵陣の中に突撃する事になってしまいますが、頼もしさは伝わってきますね」

 

 

ルーノ『あ、なんでしたらなごみさんもボンッキュッボンな大人化&変身とかしてスポット参戦しちゃいます?私、丁度そういう道具を持ってますし』

 

 

なごみ「魅力的なお誘いですが、遠慮しておきます。私が此処でそんな事をしては全世界のなごみんファンが血涙を流しながら発狂してしまいますし、道具に頼らずともこれからボインボインになる予定ですので」

 

 

ルーノ『ワオ、何か今とんでもねぇフラグを投下されたような気ぃしますけど、残念です。ではあれだ、なごみさんのお母様みたいな魔法少女とかどーじゃろな?』

 

 

なごみ「ふむ……魔法少女ですか。アイデアは悪くはありませんが、そうなると魔法のステッキが必須ですね……ブツは?」

 

 

ルーノ『つカレイドステッキ』

 

 

龍王『お前達少しは緊張感という物を持てんのかぁッ!!あと貴様も何かあからさまに胡散臭いステッキを渡すなぁッ!!』

 

 

鬼王『……昨夜は無理とか言って嘆いてた癖に、しっかりツッコミ出来るようになってるじゃない……』

 

 

イクサF『弱気でいるよりはずっとマシさ、行くぞッ!』

 

 

背後で胡散臭いステッキをなごみに渡そうとしているルーノにツッコミを入れる龍王を背中に、イクサFは後ろ腰から取り出したイクサカリバーを剣形態に切り替えながら先陣を切るように造魔達へと斬り掛かり、正気に返った龍王と鬼王、そしてルーノも馬鬼の手綱を操ってその後に続き、廃ビルの中へと突入していくのであった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑦(後編)

―廃ビル最上階・劇場ホール―

 

 

―ブオオォッ!!!―

 

 

Dセイガ『――チィッ!!おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 

『……!!』

 

 

―ズバアアァァッ!!!ズバアアァァッ!!!―

 

 

その一方、廃ビル最上階の劇場内の一角をゴネリルの薙刀から放たれた斬撃波によって破壊され、黒煙の中から、Dセイガにカメンライドしたディケイドが両腕をクロスさせながら飛び出してゴネリルへと突っ込み、ゴネリルは続け様に薙刀から雷を纏った斬撃を放ち迎撃していく。その隅では……

 

 

―ガギイィッ!!ズバアァッ!!ザシュウゥッ!!―

 

 

Dブレイド『ハアァッ!!ウエアァッ!!』

 

 

DGEAR電童『ヤアァッ!!ハッ!!』

 

 

分身のディケイド達が変身して客席の上を器用に駆け抜けながら、ブレイラウザーを振りかざして造魔達を斬り捨てていくDブレイドと、両腕両足のタービンを高速回転させながら造魔達を次々と蹴散らしていくDGEAR電童の姿があり、更に……

 

 

Dホルス『デェアァッ!!ゼアァッ!!』

 

 

『グアァッ?!』

 

 

D龍騎『ハッ!デェアッ!』

 

 

反対側の客席では、逆手に持つ両手のファルブレードで造魔が振るった刀を受け止めながら華麗な後ろ回し蹴りで造魔達を纏めて蹴り飛ばし反撃するDホルスと、ドラグセイバーで周囲を囲む造魔達を纏めて斬り捨てていくD龍騎の姿がある。そんな彼等の援護を受け、ノエルは真っすぐ壇上のギルデンスタンを目指してアサルトライフルで前方の障害となる造魔達を薙ぎながら疾走していた。

 

 

―バババババババババババババババアァッ!!!!―

 

 

『グルアァッ?!!』

 

 

『ガアァッ?!!』

 

 

ノエル「ウオッ!!!」

 

 

『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

障害となる前方の造魔達をあらかた片付けたノエルが大声で叫ぶと共に、彼女の背後から怪人Sが勢いよく宙へと跳び上がり、壇上のギルデンスタンに目掛けて降下しながら右手に握った鋼鉄の剣を振り下ろすが、ギルデンスタンも咄嗟に杖を振り上げソレを受け止めた。

 

 

―ガギイィィィィィッ!!ギギギギギギギギィッ……!!―

 

 

『―――フン、前の戦いで何も出来なかった神の一人の分際で、私の計画を止められると本気で思ってるのかね?』

 

 

『だからこそですっ……!何も出来なかったからこそっ、せめて彼女達が守った世界を守ってみせる……!それが私に出来る、唯一の償いですっ!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!チュドオォォォォーーーーーーーオォンッ!!!―

 

 

二度目の甲高い金属音を響かせながら怪人Sがギルデンスタンから跳び退いたと共に、ギルデンスタンの懐に目掛けて横合いからグレネード弾が打ち込まれ爆発を巻き起こした。

 

 

対幻魔用に調整されたその威力は並の幻魔なら一発で消し飛ぶ程の威力を誇るが、相手はやはり、腐っても高等幻魔の端くれ。

 

 

爆風を拡散させて中から姿を現したギルデンスタンは咄嗟に障壁を展開して全くの無傷であったが、壇上に上ってグレネード弾を打ち込んだノエルもそれでギルデンスタンを倒せるとは思っておらず、銃器の銃口を突き付けたまま敵意を込め叫んだ。

 

 

ノエル「アンタは必ず此処で殺すっ……!!折夏や、私や、アンタの実験動物にされて死んでいった人達の無念もっ、此処で全部晴らしてみせるっ!!」

 

 

『フ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!面白いッ!!私が改造を施した娘が、私に武器を突き付けて憎悪と共に引き金を引く。いや、これも中々にない貴重な体験ではある。今後の新たな研究の教訓とする為に、是非とも楽しませてもらおうかぁ!』

 

 

―ギュイィッ!ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアァンッ!!―

 

 

両手を広げて高らかに笑いながら、ギルデンスタンが杖の先端を怪人Sとノエルに向けた瞬間に杖の先端が淡く輝き、二人に衝撃波が襲い掛かった。しかしそれが直撃する寸前に、二人は直感のまま横へ跳んでギリギリ衝撃波を避け、鋼鉄の剣とアサルトライフルを構え直してギルデンスタンに再び迎撃していくのだった。

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

Dセイガ『……!チィッ!大した火力だな、クソッ!』

 

 

劇場内の一角で再び巨大な爆発が発生し、爆炎と黒煙の中からボディの所々が黒焦げになったDセイガが床を滑って後退し、床を蹴り上げてゴネリルへと跳躍し飛び回し蹴りを放つ。だがゴネリルは薙刀を盾にしてそれを受け止め、そのままDセイガを力で押し返すと共に薙刀を振り下ろして雷を纏った斬撃波を至近距離から放つが、Dセイガは咄嗟に左腰のライドブッカーからカードを取り出しドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

―バゴオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!!―

 

 

『……?!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に、宙で逆さになり身動きが取れないDセイガの身体が無数の残像となって消え、ゴネリルが放った斬撃波をかわしたのである。そしてDセイガに避けられた斬撃波はそのまま客席の幾つかを吹き飛ばし、ゴネリルは消えたDセイガを探して忙しなく辺りを見渡していく。その時……

 

 

 

 

 

 

『KAMENRIDE:PRIEST!』

 

『ATTACKRIDE:AGNISH WATTAS!』

 

 

Dプリースト『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―バシュウバシュウバシュウバシュウゥッ!!!―

 

 

『ッ!』

 

 

不意に頭上から二つの電子音声が重なって響き渡り、それを耳にしたゴネリルが頭上を見上げた瞬間、其処にはゴネリルに向けて全身に身に纏った炎から無数の炎弾を放ちながら、ライドブッカーSモードを振りかざして高速で落下して来るDプリーストの姿があり、それに気付いたゴネリルは瞬時に迎撃に出た。

 

 

―ガギンガギンガギンガギンガギンッ!!!―

 

 

頭上から豪雨のように降り注ぐ無数の炎弾の雨を見て、ゴネリルは咄嗟に踊る様に薙刀を振り回して炎弾を左右へと薙ぎ払っていき、薙刀を勢いよく突き上げてDプリーストを串刺しにしようとするが、Dプリーストはそれをライドブッカーの刃で弾きながらその衝撃と勢いで身体を回転させながらゴネリルから距離を離し、そのまま左手に握っていたカードをバックルへと装填しスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:REVERSE DERRINGER!』

 

 

Dプリースト『そらッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!ガシィッ!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

再び電子音声が響くと共にDプリーストがゴネリルに向けて左拳を突き出すと雷が放たれ、ゴネリルの身体に巻き付いて動きを封じていったのであった。

 

 

薙刀を弾かれた態勢をまだ立て直せていなかった為にソレから逃れられずに拘束されるゴネリルだが、それでも抵抗を止めず雷の拘束を力付くで外そうと両腕に力を込めていき、そんなゴネリルを拘束する雷を操りながら床を滑るように着地したDプリーストはライドブッカーを床に突き立て、カードを一枚取り出した。

 

 

Dプリースト『悪いな、こっちはお前とまともにやり合う気はないんだ……少々荒療治だが、耐えてくれよ……』

 

 

『ッ……!……ッ!!』

 

 

拘束から逃れようと抵抗を続けるゴネリルに向けて切に願うようにそう告げると、Dプリーストは取り出したカード……NXカブトの世界のアズサの一件で天満幸助に助けてもらった際、彼が作ってくれたカードをディケイドライバーに装填しスライドさせていく。

 

 

『CROSSRIDE:CORD GEASS!GEASS!』

 

 

Dプリースト(一か八かだ……頼む、成功してくれっ……!)

 

 

再度ディケイドライバーから鳴り響いたのは、今まで零が使用してきたカードで発せられなかった聞き慣れない音声。そしてその直後、Dプリーストの左目の複眼に赤い鳥のような模様が浮かび上がり、もしかしたらこの後に起きるかもしれない最悪な事態を想定して仮面越しに額から汗を流しながらも、ゴネリルの目を真っすぐに見据えDプリーストは高らかに叫んだ。

 

 

Dプリースト『――ルルーシュ・ランペルージの名を借りて命ずるっ……!立花折夏っ、本当のお前を……"自分自身"を取り戻せッ!お前を縛り付けている物に負けるなッ!!!』

 

 

―キュイィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

『――ッ?!』

 

 

ゴネリルの瞳を見据えそう命じた瞬間、Dプリーストの左目の瞳の中の赤い鳥が光となって翼を羽ばたかせながら飛び立ち、ゴネリルの瞳を通じ彼女の意識深くへと潜り込んでいく。そうしてゴネリルの深層意識に辿り着いた瞬間、ゴネリルの意識に既に植え付けられていた別の"枷"と衝突して一瞬妨げられてしまうが、絶対遵守の強制力によって枷を破壊し、Dプリーストが命じた命令がゴネリルの意識に上書きされていったのだった。

 

 

―カシャアァァァァァァァァァンッ!!―

 

 

『――ッ?!…………ぁ…………わた…………し…………』

 

 

―グラッ……―

 

 

Dプリースト『ッ?!オイッ!!』

 

 

絶対遵守の力……ギアスによって"枷"を破壊され一瞬は意識を取り戻すゴネリルだったが、直後にそのまま意識を失いながら淡い光と共に折夏へと戻り、身体を揺らし倒されそうになる。それを見てDプリーストはディケイドへと戻りながら慌てて折夏に駆け寄り彼女の身体を抱き留め、ゆっくりと折夏の身体を下ろして何かを確かめるように折夏のこめかみに指で触れると、規則正しい呼吸を繰り返し静かに眠っている反応が返ってきた。

 

 

ディケイド『ッ……成功か……良かった……』

 

 

殆ど力技での力押しだったが、最悪な事態にならずに済んで良かったと安堵して溜め息を漏らすディケイド。

 

 

ディケイドが今行ったのは、クロスライドのギアスの絶対遵守の力で、ギルデンスタンが折夏に掛けた洗脳をこちらの命令で強引に上書きするという荒療治だ。

 

 

しかしこちらの予想通り、折夏に掛けられていた洗脳はただでは上書きされずに一瞬だがギアスの力を拒み、最悪上書きしようとする力とそれを阻もうとする力が拮抗し、折夏の脳と意識を傷付けてしまうかもしれない危険性があったが、どうにかギアスの力が押し切る事が出来たのは運が良かったからか……。

 

 

これで、彼女はギアスの力によってギルデンスタンの洗脳から解放され、運が良ければ……彼女の失われた記憶を、呼び起こす事が出来たかもしれない。

 

 

『……ッ!馬鹿な……ゴネリルの洗脳を解いただとっ?!』

 

 

ノエル「!折夏っ?!」

 

 

ゴネリルから元の人間の姿に戻ってディケイドに腕に抱き抱えられる折夏を見たギルデンスタンは驚愕し、ノエルもそんなギルデンスタンの言葉を聞いてディケイドと折夏の方へと思わず振り返った。だが、そんなノエルの背中に再び衝撃波を打ち込もうとギルデンスタンが正気に戻り杖の先端を突き付けようとするが、怪人Sは横合いから飛び出して剣でギルデンスタンの杖を払い、ギルデンスタンを押さえ込んだ。

 

 

『ノエルッ!折夏をお願いしますッ!ギルデンスタンは私とディケイドでっ!』

 

 

ノエル「……ッ!」

 

 

そう言われ、ノエルは折夏とギルデンスタンを交互に見つめ迷う素振りを見せる。両親達と自分の仇であるギルデンスタンか折夏か、どちらを取るべきか足の爪先が迷ってしまうが、一瞬顔を俯かせて思案した後……

 

 

ノエル「―――分かった、任せて!」

 

 

決断を固めた顔を上げ頷き返し、迷いなく壇上から飛び降りてディケイドと折夏の下へと急いで走り出していくノエル。途中で造魔達がノエルに襲い掛かろうとするが、D龍騎とDホルスが造魔達を斬り捨てノエルを守り、ノエルはそのまま立ち止まらずディケイドと折夏の下へと駆け寄った。

 

 

ノエル「折夏ッ!!」

 

 

ディケイド『気を失ってるだけだ、心配ない……面倒を掛けて悪いが、コイツを連れて離れてろ』

 

 

ノエル「……分かった……ギルデンスタンのことは、アンタ達に任せる……私の分まで、しっかり仕留めてよっ……!」

 

 

ディケイド『ああ、任せておけっ……』

 

 

本当なら、両親達と自分を改造人間にした憎い相手を自分の手で倒したいに違いないのだろうが、今はそれより折夏が大事だと取ってくれたのか。折夏の身体を抱えて力強く頷くノエルに頷き返して立ち上がると、ディケイドはライドブッカーを構え直して駆け出し、道中の造魔達を斬り裂きながら壇上へと跳び上がってギルデンスタンに容赦なく斬り掛かった。

 

 

―ガギイィィィィッ!!―

 

 

『ッ!貴様、破壊者!よくも私の娘を……!』

 

 

ディケイド『悪いな、お前なんぞの娘にしておくのは勿体ないから奪い返させてもらったぜ。……代わりに俺からあの世への片道切符をくれてやるよ』

 

 

『覚悟してもらいますよ?貴方が今まで行ってきた、数々の非道の罪……此処で償ってもらいます』

 

 

『チッ……!』

 

 

ゴネリルを失い、造魔達もディケイドの分身達が食い止めて援護は期待出来ず、ディケイドと怪人Sを一人で相手しなければならない。少しばかり傾きが悪い今の状況にギルデンスタンも忌ま忌ましげに舌打ちするが、ディケイドと怪人Sは構わずそれぞれの剣を構え、ギルデンスタンに目掛けて斬り掛かろうと踏み込み、そして……

 

 

 

 

 

 

―バゴオォォォッッ!!!バチイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーイィッッッッ!!!!!!―

 

 

『――ッ!!?』

 

 

ディケイド『?!何ッ?!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァンッッッ!!!!!―

 

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァッ?!!!』

 

 

『……!!?』

 

 

 

 

 

 

直後、頭上から轟音と共に、破壊の雨が降り注いだ。

 

 

正確に言うと、ディケイドと怪人Sとギルデンスタンが立つ壇上の頭上の天井が大量の粉塵を撒き散らして破裂し、その粉塵の奥から降り注いだ緑色の破壊光線がディケイドと怪人Sへと襲い掛かり、爆発の中へと飲み込んでいったのだった。

 

 

その突然の不意打ちにディケイドと怪人Sも咄嗟に反応が出来ず爆風と炎と共に壇上から吹き飛ばされてしまい、そのまま客席の中に叩き付けられて転がり、床に伏してしまった。

 

 

ノエル「――ッ?!な……ウオッ!ディケイドッ!」

 

 

『ぁ……ぐっ……!』

 

 

ディケイド『ゥアッ……ッ……何だ、今度は一体……?!』

 

 

突然の事態に、思考が困惑して付いていかない。ギルデンスタンが用意した折夏=ゴネリルは無力化したというのに、これ以上まだ何か隠してるのか。ふらつきながら何とか椅子を支えに立ち上がり、ディケイドは壇上の上のギルデンスタンを睨み付けるが、そこで彼は疑問を覚えた。

 

 

何故か、ギルデンスタンは破壊された劇場の上の天井を見上げ、戸惑いを露わにしていたのである。そんな時……

 

 

 

 

 

 

『――やはり、お前だけに全て任せておくのは間違いだったな……これではいつまで経っても準備が進まん』

 

 

ディケイド『……ッ?!』

 

 

 

 

 

 

天井……いいや、破壊された天井から僅かに見える、"月"から声がした。

 

 

思わずそう錯覚してディケイドが破壊された天井の向こうに目を向けるが、それは勘違いだったと直ぐに分かった。

 

 

無論、"月"が話した訳ではない。

 

 

その月の光を遮って佇む、"影"が今の声の主だったのである。

 

 

『あ、貴方は……』

 

 

『……無様な物だ……貴様は下がっていろ……邪魔な障害は私が片付ける』

 

 

月の光が逆光となってその姿全体は見えないが、そう告げる"影"の緑色に冷たく輝く瞳に見据えられ、ギルデンスタンは何も言い返せず気まずげに顔を逸らして後退りした。そしてそんなギルデンスタンを見て軽く鼻を鳴らし、"影"は呆然と自分の姿を見上げるディケイドを見て僅かに微笑んだ。

 

 

(まさか、本当に生きていようとはな……私の世界の奴なのかはまだ分からんが、それは直接確かめさせてもらうとしよう……場合によっては、計画を見直す必要が出て来るかもしれん)

 

 

ディケイドを見下ろしながら"影"がそう思案して一歩踏み出すと共に、闇に隠されていたその姿が月の光に照らされ明らかになった。

 

 

月光で明らかにされたその姿は、銀色に輝くボディに緑色に輝く魔眼。

 

 

中央部が緑色に輝く真っ黒なベルトを腰に巻き付け、その右手には鮮血のように赤い刃の剣を手にした魔人。その姿はまるで……

 

 

 

ディケイド『――仮面ライダー……だとっ……?!』

 

 

 

そう、月光を背に佇むその魔人の姿は、ディケイドが良く知るライダー達のシルエットと酷似していたのだ。だが銀色の魔人はそんなディケイドの呟きに対して何も答えず、呆然となるディケイドに向かって無言のまま赤い剣を振りかざしながら飛び降り、ディケイドへと容赦なく襲い掛かっていったのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑧(前編)

 

―廃ビル・3階フロア―

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

鬼王『鬼戦術っ、雷斬!!』

 

 

龍王・白『白虎乱剣!風牙雷神剣ッ!!』

 

 

アシェン「ゲンブスパイクッ!!」

 

 

―ズシャアァァァァッ!!―

 

 

『グオアァッ?!』

 

 

最上階の劇場ホールにて、ディケイド達が突如現れた銀色の魔人の襲撃に遭っているその頃、廃ビルの3階フロアでは迫り来る造魔達を蹴散らし先へ進んでいくイクサF達の姿があった。後方のイクサFが撃ち出すイクサカリバーGモードの銃弾が造魔達の数を確実に減らし、接近戦を得意とする鬼王と龍王とアシェンの前衛組が残った造魔を強力な攻撃で纏めて切り払って一掃する。そして……

 

 

ルーノ『カ・ラ・ド~?』

 

 

なごみ「ボルグ」

 

 

―ギギギッ……バシュウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!―

 

 

『コァアアッ!!?』

 

 

『ギャアァァァァッ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオォンッッッッ!!!!―

 

 

前方の造魔達を全て撃退し直ぐに、ルーノと、ルーノから借りたカレイドステッキで変身→アーチャーのクラスカードで夢幻召喚(インストール)し、アーチャーの礼装に身を包んだなごみの二人が撃ち放った弓矢が遥かフロアの奥から迫る造魔達に直撃し、造魔達を跡形も残さず纏めて消し飛ばしていったのだった。

 

 

マジカルルビー『ひゅー♪さっすがは平行世界の魔法少女さんの娘さんですねぇ~。たったの数分でこうも早く力を使いこなしてしまうとは。魔法少女としての素質も十二分ですし、良い人材を紹介してくれましたねマイブラザ~♪』

 

 

ルーノ『そうでしょうともマイシスタァー?いやぁ、とあるアイドル達を一流のアイドルへとプロデュースしたこの私の目に、KURUIはなかったずぇ~』

 

 

なごみ「ふむ……ステッキの性格はともかく、武器の性能と威力は上々ですね。これなら私の身体能力でもまともに戦えそうです」

 

 

マジカルルビー『……あれ?何か私、さりげなく人格ディスられてます?』

 

 

龍王・白『……桜香、何か厄介なのがまた増えてるぞ……ステッキが喋ってるぞ……何だアレ……珍妙にも程があるっ……』

 

 

鬼王『そう?魔法のステッキなんてあんなもんじゃない?私が昔見てた魔法少女だって――――い、いえ、なんでもないわ……』

 

 

アシェン「?」

 

 

活発にルーノと意気投合し、勝手に喋ったり飛んだりするマジカルルビーを不気味な物を見るような目で見る龍王に何か言い掛けるも、すぐに言い直して首を横に振る鬼王。そしてそんな一同を他所に、イクサFは先に造魔達が現れた方へと進んで上に続く階段があるのを見付けると、一同に手を振って呼び掛けた。

 

 

イクサF『こっちに階段を見付けた!今度は私が先行するから、君達は後から続いて来てくれ!』

 

 

龍王・白『えっ……?ま、待って下さい神様っ!危険ですっ!』

 

 

鬼王『…………』

 

 

先行して先に進もうとするイクサFを慌てて引き止めようとするが、イクサFはそんな龍王の制止を聞かずに先に階段を登っていってしまい、それを見た一同は慌ててイクサFの後を追い階段を駆け登っていく中、鬼王はイクサFの背を追いながら推理するように思考を駆け巡らせた。

 

 

鬼王(やっぱり、上役の神と話してから桜ノ神の様子が可笑しい。その後も上役と二人で何か話してたようだし、何だか他の人達よりも先を急いでるような……まさか、彼女は怪人S達の正体について何か心当たりが……?)

 

 

だとしたら、こんなにまで焦っているのも一刻も早く怪人Sに会う為か?だが、仮に会えたとしてどうする気なのか?怪人Sは自分達から六桜玉と七桜玉を盗んだだけでなく、真姫の手を借りて彼女の籠手を奪った相手だ。そんな奴と会って一体何を話す気なのかと、イクサFの後を追って四階フロアに辿り着こうとした。その直前……

 

 

 

 

 

 

―ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォッ…………!!!!!!!!!―

 

 

『……ッ?!!』

 

 

 

 

 

 

四階フロアへと一同が踏み込もうとしたその時、突如上の階層からの爆発音ような轟音と共に廃ビル全体に大きな揺れが襲い掛かったのである。その突然の揺れに一同も思わずバランスを崩して倒れそうになるが、壁や互いの肩を支えに何とか耐えると、揺れは何事もなかったかのように徐々に収まっていった。

 

 

ルーノ『今のは?』

 

 

―……ピピィッ―

 

 

アシェン「――ッ?!これは……上の階層から高エネルギー反応?!」

 

 

龍王・白『高エネルギー?……ま、まさかギルデンスタンの奴、桜龍王を使って幻魔神を?!』

 

 

アシェン「それは……分かりません。ですが、今までにない強大な敵が現れた事は確かとしか……」

 

 

イクサF『っ……!』

 

 

このタイミングでの新たな強敵の出現。それは間違いないと断言するアシェンの言葉を聞き一同の間に動揺が広がる。

 

 

まさか既に手遅れで幻魔神が復活させられてしまったのか、それともギルデンスタンが強力な造魔を投入したのか。

 

 

いずれにしても、先にギルデンスタンと戦っているであろう怪人Sとその仲間、そして、もしかすると両陣営のどちらかに捕まって戦いに駆り出されているかもしれない零が危機に陥っているかもしれない。

 

 

そう考えた途端、イクサFは鬼王達の間を駆け抜けて下のフロアへと引き返し、真姫が縄で縛られ繋がれたままの馬鬼へと駆け寄って飛び乗った。

 

 

ルーノ『おちょちょちょ、姫さんや?何するつもりですかい?』

 

 

イクサF『コイツに乗って私が先陣を切り込む!君達は後続を頼んだ!』

 

 

鬼王『は?!頼んだってっ、貴女その馬を満足に操れる訳?!幾らドールの道具で大人しくさせられてるからってっ……!』

 

 

イクサF『いや、心配入らない。元々コイツの主は私だったんだ、コイツの扱い方は私が良く知ってるさ』

 

 

まあ彼女が手助けしたせいで籠手と一緒に盗まれてしまったワケだがと、馬鬼の足に繋がれた縄で縛られる真姫にジト目を向けて振り返るイクサF。そんなイクサFの視線を感じ取ったのか、真姫も僅かにビクッと身体を震わせるが、イクサFはそれを無視してイクサカリバーを片手に手綱を握った。

 

 

イクサF『コイツは敵陣への突貫に優れてはいるが、歯止めが効かないのが唯一難点でな……それでもし私が孤立しても、君達は気にせず先へ進んでくれ』

 

 

龍王・白『気にせずって……!』

 

 

ルーノ『……いえ、寧ろその方がいいかもしれません。仮に幻魔神が復活したのなら、今頃両陣営のどちらかに捕まっているかもしれない零さんが幻魔神と戦ってる可能性もありますし、もしそうなら姫さんを先に向かわせるべきです。そうすれば零さんもアマテラスを使える訳ですから』

 

 

アシェン「ですが、零様がこのビルにいないという可能性もありますから、姫様だけを向かわせるのは危険なのでは……」

 

 

ルーノ『そん時は不本意でしょうが、怪人Sさん達と協力するか、怪人Sさん達を囮にして逃げてもらうかのどちらかを取ってもらいましょう。……まぁ姫さんの性格上、後者を取るとは考え難いですが』

 

 

イクサF『大丈夫だ、引き際ぐらい心得てるよ。では、行くぞっ!』

 

 

『ヒヒヒイィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイィンッッ!!!!!!』

 

 

真姫『ンンッ?!ンンッ!ンンンンンンンンンンンンンンンッ!!』

 

 

イクサFがそう呼び掛けて手綱を思いっきり引くと共に、馬鬼は雄叫びを上げて真姫を引きずりながら階段を猛スピードで駆け上がり四階フロアへと飛び出した。そしてそのままイクサFが馬鬼を操り先へと進んでいくと、フロアの先に鉄砲を構え待ち伏せている造魔達の姿を発見し、向こうもイクサFと馬鬼を発見して一斉に鉄砲を撃ち出した。

 

 

―バアァァンッバアァァンッ!!バアァァンッ!!バアァァンッ!!―

 

 

イクサF『チィッ!邪魔をするなッ!!退けぇッ!!』

 

 

『ヒヒヒイィィィィィィーーーーーーーーーーイィンッッ!!!!』

 

 

しかしイクサFと馬鬼も臆する事なく銃弾の雨の中を駆け抜けて、一直線に造魔の大群に目掛けて突っ込み体当たりをお見舞いしていく。そしてその様子を離れて見ていたルーノ達もそれぞれの武器を手に駆け出すと、イクサFと馬鬼が突進して怯んだ造魔達へと切り込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―廃ビル最上階・劇場ホール―

 

 

―ガギイイィィッ!!ズシャアァッズバアァッ!!―

 

 

『ヌゥンッ!!』

 

 

Dホルス『グゥッ?!グアアァッ!!』

 

 

『ウァアッ?!』

 

 

DGEAR電童『グアアアアアアアアアアッ?!』

 

 

そしてその一方、最上階の劇場ホールに突如出現した銀色の魔人の襲撃によって、一度は傾き掛けたディケイド達の優勢の流れは完全に変わってしまっていた。

 

 

最初のディケイドと怪人Sの二人掛かりでも全く寄せ付けず、二人の劣勢に分身のディケイド達が加わっても次第に押されるばかりであり、銀色の魔人が無駄のない動きで振りかざす真紅の剣の前にDホルスは吹き飛ばされ、怪人Sは客席に叩き付けられ、DGEAR電童は火花を散らしてゴロゴロと階段を転がり床に伏してしまう。しかし……

 

 

『ATTACKRIDE:THUNDER!』

 

 

『ATTACKRIDE:STRIKE VENT!』

 

 

Dブレイド『クッ……!!ハァアアアアッ!!』

 

 

D龍騎『はあぁぁっ……デエェアアァッ!!!』

 

 

―バチイィィィィッ!!!ゴオオオオオオオオオォォォォォォッ!!!!―

 

 

『……!』

 

 

銀色の魔人の猛攻によって吹っ飛ばされたDブレイドとD龍騎が態勢を立て直しそれぞれカードをバックルに装填してスライドさせ、電子音声と共にDブレイドはブレイラウザーに纏った青白い雷を雷撃にして放ち、D龍騎は右腕に装着したドラグクローの口から火炎放射を放出して別方向から銀色の魔人に攻撃を仕掛け、銀色の魔人は真紅の剣を盾にして二人からの攻撃を防ぎ身動きを止めた。

 

 

ディケイド『ッ!今だッ!市杵宍ッ!』

 

 

『はいっ……!フルコンタクトッ!』

 

 

『Saber Brake!』

 

 

銀色の魔人が動きを止めた隙にディケイドとDホルスとDGEAR電童はそれぞれのライドブッカーからカードを一枚ずつ取り出してドライバーにセットし、怪人Sも鳴り響く電子音声と共に神氣を鋼鉄の剣に纏わせてパッチ・アーマーから剣を抜き取った。そして……

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

『FINALATTACKRIDE:HO・HO・HO・HORUSU!』

 

『FINALATTACKRIDE:GE・GE・GE・GEAR DENDOH!』

 

 

『『『デエエアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!』』』

 

 

『キエェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーッッ!!!!』

 

 

Dホルス『フッ!ハアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

三つの電子音声が重なって鳴り響くと、それと同時に雷撃と火炎放射を真紅の剣で受け止めて身動きが取れない銀色の魔人に目掛けてディケイドの前にディメンジョンフィールドが展開されていき、ディケイドはそのフィールドの中へと飛び込みディメンジョンキックを放った。

 

 

それに続く様に、怪人Sが莫大な量の神氣を纏わせた鋼鉄の剣を振り上げながら飛び出すと、DGEAR電童も両手両足のタービンを高速回転させて銀色の魔人へと突っ込み、Dホルスも近くの鏡から飛び出したウィンドファルコンが放った竜巻に飛び込んで銀色の魔人に必殺技を放ち、四人は四方から銀色の魔人へと必殺技を放った。だが……

 

 

 

 

 

『――フン……ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!』

 

 

―ギュイィィィィィッ……バチイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーイィッッッ!!!!!!―

 

 

『『『『ッ?!!なっ……グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッッ?!!!!』』』』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッ!!!!―

 

 

ディケイド『ッ!何ッ?!―バチイイイイイッ!!―うぐああぁッ?!!』

 

 

―バゴオォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

『ディケイドッ?!キャアァッ!!?』

 

 

 

 

なんと、今まで防御に徹していた銀色の魔人が真紅の剣から深紅色のエネルギー波を放出して雷と火炎放射を打ち消し、そのままエネルギー波を広範囲に拡散させ四人のディケイドの分身を纏めて葬ってしまったのだった。更にディケイドもそのエネルギー波をまともに受けて入り口近くの壁へと勢いよく吹き飛び壁を突き破ってしまった上に、怪人Sがエネルギー波に拘束され、そして……

 

 

―バチバチバチバチイィッ!!ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『グッ?!ウアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

ノエル「ッ!ウ、ウオッ?!」

 

 

銀色の魔人はエネルギー波で拘束した怪人Sに強力な電力を流し込み、怪人Sは全身から無数の火花を散らしながらあまりのダメージに魚見の姿に戻ってしまったのだ。そして銀色の魔人は変身が解除された魚見をエネルギー波で引き寄せ、傷だらけの魚見の首を締めように掴んだ。

 

 

魚見「ァッ……!クッ……かはっ……!」

 

 

(不老不死の神か……この女を死神博士に引き渡して不死の秘密を得られれば、我らが組織の配下達を不死の軍団にする事が可能かもしれんが……いや、余計な欲を出して奴に私の正体を突き止められても困る。今は――)

 

 

此処で二度と動けない様に生きた肉片にするかどうか思案した末にそう判断し、銀色の魔人は魚見を捕えたままディケイドが吹き飛び突き破った入り口付近の壁に目を見遣る。すると……

 

 

―ガコォンッ……―

 

 

零「―――――クッ……ッ……クッ……ソッ……グゥッ……」

 

 

粉塵が舞う破られた壁の向こうからゆっくりと、変身が強制解除され額や左腕から出血し傷だらけになったボロボロの姿の零がふらつきながら現れ、銀色の魔人はそんな零に捕えた魚見を見せ付けた。

 

 

零「……ッ?!市杵宍ッ……!」

 

 

『この女の身柄は我々が預かる。返して欲しければ追って来るがいい、世界の破壊者……行くぞ、ギルデンスタン』

 

 

『御意』

 

 

零「何っ……?おい待てっ!!」

 

 

ノエル「クッ!逃がすかぁ!」

 

 

―ババババババババババババババアァッ!!―

 

 

魚見を連れ逃げようとする銀色の魔人を止めようと、折夏を守っていたノエルがアサルトライフルの残った弾全てを銀色の魔人に向け乱射していく。しかしその銃弾が全て届くよりも速く、銀色の魔人と魚見はギルデンスタンが発生させた闇に呑まれ桜龍玉と共に闇の中へと消えてしまい、銃弾は客席をズタズタにし無数の羽毛が宙に舞うだけに終わってしまった。

 

 

ノエル「っ!消えたッ?!」

 

 

零「ッ……!桜龍玉も一緒にか、クソッ……!『シャアァァァァッ!!』ッ?!」

 

 

闇に呑まれ消えてしまった銀色の魔人と魚見、そして桜龍玉とギルデンスタンを慌てて追い掛けようとする零だが、その時又も劇場内の所々に闇が発生して無数の造魔達が姿を現し、零とノエル達を包囲して一斉に襲い掛かってきたのである。

 

 

ノエル「な、こんな時に増援っ……?!ウオと桜龍玉も奪われて先を急いでるってのにっ!」

 

 

―バキャアァッ!―

 

 

『ゴエェッ?!』

 

 

零「チッ、邪魔をするなッ!!退けッ!!」

 

 

額からの出血で視界を阻まれながらもなんとか応戦する零と、弾が尽きたアサルトライフルを破棄して右足に巻いたホルダーに収納していたハンドガンと後ろ腰のコンバットナイフを抜き取り、並外れた戦闘力による格闘術で気絶する折夏を必死に守るノエル。だが……

 

 

 

 

―バッ!―

 

 

『シャアァァァァッ!!』

 

 

零「――ッ?!コーマットッ!後ろだッ!!」

 

 

ノエル「っ?!」

 

 

ノエルの頭上の天井に気配を殺して張り付いていた忍型の造魔が、短刀と一体化している両腕を振り上げながらノエルに向かって飛び降り襲い掛かったのである。そしてそれに気付いた零が直ぐさまノエルに呼び掛けるも、ノエルが振り返り応戦するよりも速く造魔の短刀がノエルの額に目掛け振り下ろされ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

『KAMENRIDE:FIRST!SECOND!V3!』

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

first『ハアァッ!!』

 

 

―バキイィッ!!―

 

 

『?!ゴバアァッ?!』

 

 

ノエル「……え?」

 

 

零「?!な……first?!」

 

 

不意に何処からか電子音声が響き渡り、それと同時にノエルの頭上を飛び越えて一人の仮面の戦士……零の異世界の友人である本郷滝が変身するfirstが突如現れ、ノエルに襲い掛かろうとした造魔の顔面を殴り飛ばし彼女の九死を救ったのだった。更に……

 

 

―ドグオォッ!!ズガガガガガアァッ!!ドガバキイィッズガアァッ!!―

 

 

V3『ハアァッ!デェアッ!』

 

 

second『ウオォラァッ!ハッ!』

 

 

『ギャアッ?!』

 

 

『ガハァッ?!』

 

 

firstだけでなく、ホール内に溢れ出る無数の造魔の大群を二人の仮面ライダー……firstの世界の彼の仲間である風見真二が変身するV3と十文字隼人が変身するsecondがアクロバットな動きで造魔達を翻弄し、確実にその数を減らしていく姿があったのだ。

 

 

ノエル「な、なにコイツ等?一体何処から……?」

 

 

零「…………」

 

 

突如何処からか前触れもなく現れ、自分を助けた三人のライダー達を見てノエルも呆然とした表情を浮かべてしまうが、ノエルと同じような反応を見せてた零は先程の聞き覚えのある電子音声からこの三人のライダーを呼び出した犯人の正体に感づき、先程の電子音声が聞こえてきた方へと無言のまま視線を向けていく。其処には……

 

 

 

 

 

ディエンド『――また随分愉快な格好になってるじゃないか、零?知らない女性と関わる時にはいつもそんな感じだが、もしかして、そういう呪いにでも掛かってるのかい?』

 

 

 

 

 

劇場の片隅にある客席に腰を下ろし、両足を前の客席に組む様に乗せてくつろぐシアンと黒のライダー……大輝が変身したディエンドの姿がいつの間にか其処にあり、ボロボロの姿の零を見て呆れるようにやれやれと首を振っていたのだった。

 

 

零「……海道……何しに来た?というか、これは一体何の真似だ?」

 

 

ディエンド『うん?別にどうもしないよ。ただこの世界には、まだめぼしいお宝が残っているようだからね。それを頂戴しに此処まで来て、たまたま君達を見掛けて面白そうだから横槍を入れたってだけさ。別に君なんかを助けたって訳じゃない』

 

 

ノエル「?お宝って……もしかして、桜龍玉のことを言ってんの?!」

 

 

ディエンド『お、中々察しが良いじゃないか。流石はギルデンスタンの改造人間ってところかな?』

 

 

ノエル「なっ……そ、そんなの今は関係ないでしょっ?!大体アンタ一体っ――?!」

 

 

改造人間と名指しされムキになりディエンドに食ってかかるノエルだが、ディエンドはそんなノエルを無視して徐に客席から立ち上がった。

 

 

ディエンド『さて、と……どうやらギルデンスタン達は、このビルの屋上に転移したようだな……どうせだ、此処は勝負と行かないかい零?どっちが速く桜龍玉を手に入れるかってさ』

 

 

零「……くだらん……こっちはお前以外の怪盗騒ぎに巻き込まれて迷惑している最中なんだ。そんなのに付き合っていられるか」

 

 

ディエンド『あっそう』

 

 

馬鹿馬鹿しいと無愛想そうに吐き捨てる零にそっけない口調でそう返すと、ディエンドは左腰のホルダーから一枚のカードを取り出し、それをディエンドライバーに装填しスライドさせていく。

 

 

ディエンド『ま、それならそれで俺も勝手にやらせてもらうさ。俺が先に桜龍玉を手に入れても、恨みっこは無しだぞ?』

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

その言葉とドライバーから鳴り響く電子音声と共に、ディエンドの身体が無数のビジョンと化し何処かへと消えてしまった。恐らく、今彼が言った通りギルデンスタン達がいると思われる屋上に向かったのだろうと考えながら、零は血がこびりついた前髪を掻き分けてノエルと折夏の下へと駆け寄った。

 

 

零「ッ……俺もさっきの奴とギルデンスタンを追って屋上に行く。コーマット、お前はソイツを連れて先にこのビルから脱出しろ。さっき俺が吹っ飛んで突き破ったそこの壁から外の通路に出られる……そこから逃げろ」

 

 

ノエル「ハァ……?!冗談言わないでっ!ウオがさらわれたのにそんなっ……私だってっ――!」

 

 

零「駄目だッ!お前が付いて来てもどうにかなる相手じゃないっ……!それにお前まで付いて来たら、誰がソイツを守るッ?!」

 

 

ノエル「っ……だけどっ……!」

 

 

それでも、さらわれた仲間を放って逃げる事に抵抗があるのか、零と気を失ってる折夏を交互に見つめ複雑げな顔を浮かべるノエル。するとそんな彼女の横顔を見た零は僅かに目を伏せると、ノエルの両肩を掴み真っすぐノエルの目を見つめながら言葉を紡いだ。

 

 

零「市杵宍は必ず俺が連れて帰る……お前からすれば俺の事なんて信じられないだろうが……何があっても助け出す。だからお前も、立花を安全な場所に連れていく事だけを優先しろ……市杵宍と立花の両方を救うには、今はこれしかない。ギルデンスタンとさっきの銀色を相手にするとなると、変身出来る俺が向かう方が適任だろ……」

 

 

ノエル「けど、アンタさっきのその銀色に負けたじゃない!しかもその怪我じゃ……!」

 

 

零「心配すんな……幻魔神との戦いで死に掛けた時に比べれば、こんなのかすり傷も同然だ。それに負けたままなんてのは、俺の性に合わん……リベンジの機会ぐらい、くれても良いだろ?」

 

 

だから気にするなと、片目を伏せて戯けるように呟く零。そんな零を見てノエルも未だ迷うように苦悩の顔を浮かべると、一度俯き、零の目を見つめ返した。

 

 

ノエル「……約束、してよ……絶対にウオを助けて、連れて戻ってくるって……でないと私、アンタを絶対に許さないから……」

 

 

零「……ああ……絶対に、だ……」

 

 

零が力強くそう言って頷くと、ノエルも零に頷き返し、折夏の片腕を肩に回して立ち上がり、ハンドガンを片手に折夏の身体を支えながら先程零が突き破った壁の方へと歩き出していく。そして零もそんなノエルの背中を見送りながら何とか立ち上がると、頭を抑えて辺りを見回す。

 

 

零(海道は奴らが屋上に向かったと言っていたが……屋上に向かうには……)

 

 

とその時、劇場内の端に扉が半開きになってる非常口が目に入った。その先には上りと下りの非常階段があるらしく、どうやら屋上にも続いてるらしい。

 

 

零(彼処しかない、か……ガタが来ていて、途中で崩れたりしなきゃいいが……)

 

 

そんな嫌な事態を考えながらもふらつく足に力を入れ、零はギルデンスタン達を追ってこの場の造魔の大群をfirst達に任せて屋上に続く非常階段へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑧(中編)

 

―廃ビル・屋上―

 

 

冷たい夜風が吹き抜ける、廃ビル最上階の頭上に存在する屋上。

 

 

其処には先程の戦闘の際に攫った魚見を捕える銀色の魔人と、八つ全ての桜龍玉を地面に並べて黒いマントを靡かせながら悠然と佇むギルデンスタンの姿があり、そんなギルデンスタンと銀色の魔人の前に並べられた八つの桜龍玉は、まるで他の桜龍玉に呼応するかのように何度も淡い光の点滅を繰り返していた。

 

 

『――ほう。桜龍玉が全て揃うと、このような現象が起こるのか……』

 

 

『桜龍の召喚の為の条件を満たしたという証でしょう。後は桜龍を呼び出す為の召喚の言霊を口にすれば……クククッ……』

 

 

魚見「……っ……」

 

 

遂に全て揃った桜龍玉を前に、漸く自分達の主の復活の願いが叶うとクツクツと不気味に笑うギルデンスタン。そうして、銀色の魔人に拘束される魚見はそんなギルデンスタンの後ろ姿を睨み据えながら、どうにか右腕に装着したままの籠手を使って再び変身出来ないか密かに試みようとする。が……

 

 

―……バチッ……バチッバチィッ……!―

 

 

魚見(……?!そんな……籠手の制御装置が破損しているっ……?!)

 

 

火花が散るような不吉な音が耳に届き、その音に釣られて魚見が右腕に視線を下ろすと、籠手を覆っていた筈の鋼鉄の拘束具の一部が破壊され破損してしまっていたのだ。それを目にした魚見は驚愕を浮かべるが、先程の銀色の魔人との戦闘で拘束された時の事を思い出しハッとなった。

 

 

魚見(さっきの戦いの時に破損してっ……?これでは、ごまかしで変身なんて出来ないっ……!)

 

 

本来の籠手の資格者である桜ノ神ではない、別の神でも変身出来るようにごまかすための拘束具が壊れてしまってはもう変身なんて出来ない。唯一の対抗手段が使えなくなり内心焦りを浮かべる魚見だが、その間にもギルデンスタンは両手を広げて夜空を仰ぎ……

 

 

 

 

 

 

『さあ―――いでよ桜龍ッ!!!そして、我が願いを叶えたまええぇッ!!!』

 

 

―ジジジィッ……バシュウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

ギルデンスタンが高らかにそう叫んだ次の瞬間、八つの桜龍玉から無数の火花を撒き散らし莫大な光りが放たれたのだった。そして、桜龍玉から放たれた光りはまるで龍が如くうねりながら勢いよく天にまで上り、何かを形作るかのようにその姿を巨大な何かへと変化させていき……

 

 

 

 

 

 

『―――ォォォォォオオオオオオオオオッ……さぁ、願いを言え……どんな望みも一つだけ叶えてやる……』

 

 

 

 

 

光が形作られ姿を露わしたのは、月を背に廃ビル上空に浮遊する巨大な桜色の龍……桜龍玉を全て揃う事で出現し、あらゆる望みを叶えると言い伝えられている『桜龍』だったのであった。

 

 

『ほぉ……これが……』

 

 

『ク―――ハハハ、ハハハハハハハハハハハハッ!!遂にッ!遂に現れたか桜龍よッ!!これで漸く、我等が主を蘇らせられるッ!!クッハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

魚見「っ……!」

 

 

遂に現れた桜龍を前に銀色の魔人は感慨深げに桜龍を見上げ、ギルデンスタンもまた両手を広げながら歓喜の高笑いを上げて喜びを露わにする中、魚見はそんな二人を睨み付けながら後ろ腰に隠したナイフに手を伸ばそうとするが……

 

 

―チャキッ……―

 

 

魚見「?!」

 

 

『余計な真似はしない事だ。どの道、貴様はもう変身出来ない……何をしようと無駄な足掻きだ』

 

 

魚見「クッ……!」

 

 

『フッフフフフッ、其処で指を加えて見ているがいい水ノ神。我等が麗しき、神の復活を……!!!』

 

 

銀色の魔人に真紅の剣の切っ先を突き付けられ下手に動けない魚見を嘲笑うようにそう告げると、ギルデンスタンは天空の桜龍と向き直り右手の杖を掲げる。

 

 

『さぁ桜龍よ、我が願いを叶えたまえっ!!我が望みは―――!!!』

 

 

 

 

 

 

『―――おっと、その前に横槍を入れさせてもらうよ?』

 

 

『ATTACKRIDE:BEAST!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『――ッ?!』

 

 

 

 

ギルデンスタンが幻魔神復活の願いを桜龍に投げ掛けようとしたその時、不意に何処からか電子音声が鳴り響きそれを遮ったのである。そしてそれと共に無数の銃弾が不規則な弾道を描いて背後からギルデンスタンに襲い掛かり、それに気付いたギルデンスタンが慌てて背後に振り返るも既に間に合わず銃弾が直撃しようとした。が……

 

 

―ガギギギギギギギギィッ!!―

 

 

『……フン……』

 

 

『!おぉ、月影殿……!』

 

 

ギルデンスタンを守るように銀色の魔人が飛び出して真紅の剣を素早く振り抜き、ギルデンスタンの背中に撃ち込まれようとした全ての銃弾を軽々と払い退けてしまったのだ。そして銀色の魔人が真紅の剣を払いながら目の前に目を向けると、其処にはディエンドライバーの銃口を銀色の魔人達に向けて佇むライダー……ディエンドの姿があった。

 

 

ディエンド『ちっ、流石に今のでやれるほど簡単じゃないか。厄介な奴を番犬にしてくれたものだよ……』

 

 

『……ディエンド……そうか貴様か、組織からディエンドライバーを盗んだコソ泥とやらは』

 

 

ディエンド『知ってもらえているっていうのは、光栄に思うべきなのかな……大ショッカーの大幹部さん?今度は、死に損ないの幻魔を傘下に入れようって魂胆かい?』

 

 

『利用する価値があるから使うだけの事だ……この女のようにな』

 

 

魚見「グッ?!」

 

 

淡々とした口調でそう語りながら、銀色の魔人は魚見の襟首を掴み強引に目の前に突き出すが、ディエンドはそれを見て鼻を軽く鳴らしながらドライバーの銃口を突き付けた。

 

 

ディエンド『人質のつもりなら無駄な事だ、俺は基本的に神ってのは嫌いでね。それで俺が怯むと思ってるなら大間違いだぞ?』

 

 

『ふん、だろうな。貴様は他のライダー達とは違うと聞いている……だが――』

 

 

―ブオオォォッ!!―

 

 

魚見「ッ?!ウアァッ!!」

 

 

ディエンド『ッ!何?!』

 

 

なんと、銀色の魔人は突然魚見の身体を勢いよく振り回したかと思えば、魚見をそのまま躊躇なく屋上の外へ投げ飛ばしてしまったのだった。その銀色の魔人の突然の暴挙にディエンドも驚愕し投げ飛ばされた魚見に一瞬意識が向いてしまい、銀色の魔人はその一瞬の隙を見逃さずに猛スピードでディエンドへと肉薄し、真紅の剣を振りかざし斬り掛かっていった。

 

 

―ガギイイィィッ!!!―

 

 

ディエンド『グアァッ!!グッ、このっ……?!』

 

 

『やはり根っこの甘さは他のライダー達と変わらんな、すぐにそうして気を逸らされる……息の根を止めるついでだ、そのドライバーも返してもらおうッ!』

 

 

ディエンド『ッ!お断り、だっ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

不意を突いた初撃で怯んだディエンドにもう一度斬撃を叩き込もうと真紅の剣を振りかざす銀色の魔人だが、ディエンドはそうはさせまいとディエンドライバーの銃口を突き付けて銃撃し、それに対し銀色の魔人は真紅の剣を振るって銃弾を弾きながらディエンドへと再び斬り掛かっていき、そして、屋上から投げ出されてしまった魚見は……

 

 

―ガシッ!―

 

 

魚見「グッ!くぅっ……!」

 

 

咄嗟に何かを掴もうと無我夢中で左手を伸ばし、屋上の縁に運良く掴まってどうにか落下せずに済んでいたが、左手だけではロクに力も入らず、右手を伸ばそうにも縁に届かない為に這い上がる事が出来そうにない。

 

 

魚見(っ……まだっ、こんな所でっ……桜龍を呼び出されてしまったのにっ……こんなっ……!)

 

 

それでも此処で諦めるワケにはいかないと、左手だけでも這い上がろうと必死に左腕に力を込める魚見だが、やはりそれだけではどうにもならず縁に掴まる左手にガクガクと震えが走り、遂に限界が来て縁から左手を離してしまった。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―パシィッ!―

 

 

魚見「――――っ……………………え…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

半ば諦め掛けて思わず目を閉じていた魚見だが、地上に目掛け落下しようとした彼女の左手を何かが掴んだのだ。落下が止まり、左手を掴まれたその感覚に魚見も瞼を開き自分の身体が宙吊りになっているのを見て疑問を抱くと、顔を上げて自分の左手を掴んだものの正体を確かめた。其処には……

 

 

 

 

 

 

零「――ぐっ……クッ……クッソッ……屋上に着いた途端にいきなりコレかっ……少しは休ませてくれても良いだろうにっ……!」

 

 

魚見「っ!ディケイド……?!」

 

 

 

 

 

 

其処には、荒い息を吐きながら屋上から身を乗り出して魚見の手を掴む青年……魚見とギルデンスタン達を追い掛けて屋上に到着した零の姿があったのだった。魚見はそんな零を見て一瞬唖然とした表情を浮かべるが、直ぐにハッと我に返り零に向けて叫んだ。

 

 

魚見「は、離してくださいディケイドっ……!私の事は良いっ!それよりも今はギルデンスタンをっ!このままでは幻魔神が復活させられてしまうっ!」

 

 

零「ッ……言われなくても分かってるっ……だがっ、こっちにもそういう訳にはいかない事情ってもんがっ……」

 

 

此処に来る前に交わしたノエルとの約束もある上に、個人的な理由もあってから魚見を見捨てるなんて事は出来ない。だが最上階からこの屋上までの非常階段を全力疾走で駆け登ってきた為に喋る余力もなく、零は魚見の言葉を無視し魚見を必死に引き上げようとするが、そんな零の姿を見つけたギルデンスタンは……

 

 

『フン、余計な真似を……ハァッ!!』

 

 

―ギュイィィッ……バシュウウゥッ!!―

 

 

零「……ッ?!」

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーアァンッ!!!!―

 

 

『……!』

 

 

ディエンド『?!零っ!』

 

 

ギルデンスタンが零の背中に目掛けて杖の先端を突き出し、杖の先端から一発のエネルギー弾を撃ち出したのである。エネルギー弾はそのまま零に着弾したと共に轟音を響き渡らせながら屋上の一角を吹っ飛ばしてしまい、魚見も突然襲い掛かった衝撃と爆発に思わず目をつぶると、慌てて顔を上げて零の安否を確かめた。すると……

 

 

―……ピチャッ……ピチャッピチャッ……―

 

 

零「――――ハッ…………ァ…………グゥッ…………クッ…………」

 

 

其処には、破壊された屋上の一角から突き出たパイプに血塗られた右手で掴まり魚見の手を離さずに掴む零の姿があるが、その姿は今の攻撃でズタズタに引き裂かれ、体中から流れる血で全身が赤く染まってしまっていたのだった。

 

 

魚見「ぁ……も、もういい……!離して下さい……!貴方が其処までする必要はありません!」

 

 

零「…………うるせぇ…………少し黙ってろ…………こっちは今、頭がボーッとしてるんだっ…………」

 

 

荒い呼吸を繰り返しながらか細い声でそう呟く零だが、パイプを掴むその右手がガクガクと小刻みに震えている。やはり怪我を負った身体で実質二人分の体重に耐えられないのだろうが、それでも魚見の左手をガッシリと掴んで離さない零に、魚見は珍しく険しい表情を浮かべて叫んだ。

 

 

魚見「本物の馬鹿ですか貴方はっ……!私は不老不死の神で、このまま落ちた所で死ぬ訳ではありませんっ!貴方が自分の命を危険に曝してまでっ、助ける価値なんて私にはっ―――!」

 

 

零「ッ……この、言わせておけばっ……馬鹿はそっちだろうがッ!!幾ら不死の身体でもこの高さから落ちてみろッ!!お前生きたままミンチになりたいのかッ?!」

 

 

魚見「優先順位を間違えないで欲しいと言っているんですっ!幻魔神が蘇れば、またノエルのような大勢の犠牲者が生まれる事になるっ!私なんかを助けてる間に、またあんな悪夢が繰り返される事になるかもしれないんですっ!ですから、手を――!」

 

 

零(っっっ……!!このっ、どいつもこいつもっ……!!)

 

 

『自分は不死だから助ける価値なんかない』だとか、少し前のどっかの女と似たように自分を疎かにするような発言をする魚見に零も内心苛立ちを募らせ、血で滑り易くなっている左手で魚見の手を強く握り直した。

 

 

魚見「ッ!どうしてっ……貴方はまだ――!」

 

 

零「っ……お前の親友にも、同じ事を言ったがな……お前が神だからとか、そうじゃないからとか、そんな小さい事はどうだっていいんだよっ……!」

 

 

魚見「……え……」

 

 

―バキッ……バキィッベキイィッ……!!―

 

 

零が掴まるパイプから不吉な音が、立て続けに響いた。やはり人間二人分の体重に堪えられないのかもしれないが、それでも零は魚見の手を離そうとせず言葉を続けた。

 

 

零「死なないからっていう理由だけで、それでお前を見殺しにしていい言い訳になぞならんだろうがっ……そんな言い訳を俺が呑むとしたらっ、そもそもフォーティンブラスから咲夜の奴を助けだそうだなんてっ、考えもしなかったっ……!」

 

 

魚見「っ……ですが、あの時とは状況がっ……幻魔神が蘇っては……!」

 

 

零「フォーティンブラスが生き返ったのならもう一度地獄に叩き返してやるだけだっ……もうあの時みたいにっ、誰かを見捨てて自分だけが助かるだなんてしたくないしっ……それにっ――」

 

 

ピチャッピチャッと、零の左腕から流れる血が魚見の顔に滴り落ちていく。暗闇のせいで今まで気づかなかったが、目を懲らして良く見ると、零の左腕の服の上から幾つもの破片が突き刺さっている。だがそれでも、零は魚見の手を強く握り締めながら荒い呼吸を繰り返して途切れ途切れに語る。

 

 

零「――お前は、アイツの二人しかいない親友の一人なんだろうがっ……なら、アイツを泣かせるような真似なんか絶対するなっ……お前に何かあれば、アイツも傷付く……散々泣かせて傷付かせて来た、俺みたいな馬鹿には、絶対にっ……!」

 

 

魚見「……!」

 

 

既に余裕もない身体でありながら、絶対に離さないという意志を表すかのように魚見の手を痛いぐらい強く握りながら唇を噛み締めてそう語る零のその言葉を聞き、魚見は僅かに目を見開いて驚愕した。今の今まで愛想のない意地悪な性格の青年と思っていた彼が必死で、真剣に、まさかこんな言葉を口にするとは思わなかったからだ。

 

 

魚見(…………ああ……………そうか…………だから彼女は、彼を…………)

 

 

そんな零の必死な姿から、彼がどれだけ後悔を繰り返して来たのか自分にも感じ取れた。そして漸く、彼女が彼と契約した理由を理解して視線を下げ、拘束具が破損した籠手を見下ろすと、魚見は自嘲気味に笑いながらポツポツと語り出した。

 

 

魚見「――そう……ですか……貴方はちゃんと、彼女の事を大事に想っていたんですね……なのに、私は……」

 

 

零「あっ……?一体何の話……―バキイィッ!―……ッ?!」

 

 

魚見の言葉に疑問を抱いて聞き返そうとする零だったが、頭上から聞こえた先程よりも大きな音と共に零と魚見の身体が大きく揺れ、零が慌てて上を見上げると、零が掴まるパイプが外れそうになっているのが見えた。

 

 

零「まずっ……?!クソッ!おい市杵宍っ!お前その態勢からどうにか変身出来ないかっ?!」

 

 

魚見「……それが、本来の籠手の資格者である桜ノ神であることをごまかす為の拘束具が先程の戦闘で破損してしまって……もう変身が……」

 

 

零「っ……!」

 

 

つまり手詰まりという事かと、何とかパイプに掴まる手を握り直して内心舌打ちしてしまう零。魚見の手を掴む左手にも痺れが走り既に限界が近く、このままでは二人揃って地上に真っ逆さまだとただ焦りと危機感が募るばかりであり、どうにかして魚見だけでも先に上がらせて引き上げてもらえないかと試みる。しかし、その時……

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

ディエンド『チィッ……!だったらコイツでどうだっ!』

 

 

―バシュウウゥッ!!!―

 

 

『!』

 

 

銀色の魔人との戦闘で圧倒されるディエンドが左腰のカードホルダーから取り出したカードをディエンドライバーへとセットし、ドライバーの銃口を銀色の魔人に向けて引き金を引きディメンジョンシュートを撃ち放ったのである。だがそれを見た銀色の魔人は咄嗟に身を翻してエネルギー弾を回避してしまい、標的から外れたエネルギー弾はそのまま零が掴まる破壊された屋上の一角に迫った。

 

 

零「ッ?!あの馬鹿っ……!!クッソッ!!」

 

 

―バッ!!―

 

 

魚見「え……うぁっ?!」

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッ!!!!!!―

 

 

左腕に全力を込めながら何とか身体を持ち上げて屋上から僅かに顔だけを出す零だが、ディエンドが外したディメンジョンシュートが迫り来るのを見て目を見開き、半ば自棄クソ気味にパイプから手を離し魚見共々落下した。そして次の瞬間、ディメンジョンシュートが零が掴まっていた屋上の一角に直撃して巨大な爆発を巻き起こし、爆風を帯びた衝撃波が零と魚見を襲い二人の落下を促したのだった。

 

 

―ビュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ……!!!―

 

 

魚見「ぅあっ――くっ――?!」

 

 

零「ガッ――ァ――クソッ――市杵宍っ――!!」

 

 

衝撃に促された落下速度が凄まじ過ぎる。お互いの手を離さないようにするのが精一杯であり、零は必死に魚見から離れないように彼女の手を強く握るが、どの道このまま何もしなくても二人諸共地上に叩き付けられてしまう。

 

 

零(変身っ……駄目だ間に合わないっ!!クソッ!!どうするっ?!)

 

 

この落下の速度と状況ではとてもじゃないが変身など出来ないし、例え出来たとしても変身が完了する前に地面に叩き付けられアウトだ。それでも他に方法がないかと焦りが募るばかりの零が必死に思考を巡らせる中、闇で見えなかった地上が段々と鮮明に見え始め、最早此処までなのかと半ば諦め掛けて猛スピードで廃ビルの七階フロアを通り過ぎようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―バッッッゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

『ヒヒイイィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーイィンッッッ!!!!』

 

 

イクサF『ああああああっ?!こらあああああっ!!止まれええええええええええええっ!!!!』

 

 

零「――え?―バゴオォッ!!―ごはあぁっ?!!」

 

 

魚見「?!なっ……?!」

 

 

 

 

零と魚見が通り過ぎようとした七階フロアの窓が突然突き破られ、其処から疾風の如く現れた巨大な漆黒の馬……馬鬼と、馬鬼の背中に跨がったイクサFが悲鳴を上げながらいきなり飛び出して来たのである。

 

 

そして馬鬼はそのまま止まることなく何もない空の上を全力疾走で駆け抜けると、落下の最中だった零の横っ腹に勢いよく体当たりをかましてしまい、零と、ついでに零が手を繋いでいる魚見を頭で持ち上げながら急停止し、高らかに鳴き声を上げていったのだった。

 

 

イクサF『ィッツウッ……漸く止まってくれたかっ……全く、瓦礫がモロに頭に当たってしまったぞ……って、え?零っ?!何故君が此処にっ?!』

 

 

零「ぅごっ……ぇぐっ……ァッ……そ、それぇっ……こっちのセリ……ガクッ」

 

 

イクサF『お、おい零ッ?!しっかりしろっ!!オォイッ?!』

 

 

魚見「ッ?!その声は……まさか、さ……咲、夜……?」

 

 

イクサF『え?……お前は……魚見、か……?』

 

 

軽い(?)衝突事故により、馬鬼の頭でグッタリと持ち上げられる零を見てイクサFが驚愕するのもつかの間。

 

 

間近で聞こえたイクサFの聞き覚えのある声に魚見がそう問い掛け、イクサFも現代では零しか知らない筈の自分の本当の名を呼んだ魚見を見て仮面の下で目を見開いて驚き、こうして、二人の神は漸く再会を果たしたのであった……。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑧(後編)

 

―廃ビル・屋上―

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

ディエンド『ガハッ!!』

 

 

その一方、必殺技を躱されて決定打を逃してしまったディエンドは銀色の魔人の猛攻の前に徐々に追い込まれていき、銀色の魔人が上から下へ振り下ろした真紅の剣を前に火花を散らして倒れてしまった。

 

 

『……弱いな。それとも力を惜しんでいるのか?』

 

 

ディエンド『ッ……グッ……大幹部さん……君、本当にこんなのが上手くいくと思ってるのかい……?』

 

 

『……何がだ?』

 

 

ディエンド『幻魔神を復活させてっ、君達の傘下に入れようって話さっ……あの傲慢なフォーティンブラスが、素直に君達の下に着くと本気で思うかいっ?俺はそうは思わないけどねっ』

 

 

時間稼ぎのつもりなのか、そんな素朴な質問を投げ掛けながら銀色の魔人に見えないようにゆっくりと左腰のホルダーへと手を伸ばすディエンド。だが、銀色の魔人はそれを見逃さず剣でそのディエンドの手を払い退け、切っ先をディエンドの首に突き付けながら淡々と語り出した。

 

 

『何を勘違いしている……我々は幻魔神を復活させるとは言ったが、誰もフォーティンブラスを蘇らせるとは一言も言っていないだろう』

 

 

ディエンド『っ……?なんだとっ?』

 

 

自分達が復活させる幻魔神はフォーティンブラスではない。そんな不可解な発言をする銀色の魔人にディエンドは頭上に疑問符を浮かべながらそう聞き返すが、銀色の魔人はそれに答えず背後に目を向けた。その時……

 

 

 

 

 

 

―ビガアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッ!!!!バチイィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

天空から突如一筋の雷光が飛来し、ギルデンスタンの前に莫大な閃光を撒き散らしながら墜落していったのだった。バチバチッと時折稲妻状の火花が撒き散り、濛々たる土埃が視界を遮り何が起きたのか分からない中、上空に浮遊する桜龍が重々しい声で語り出した。

 

 

『お前の願いは叶えた……さらばだ……!!!』

 

 

―ギュイィィッ……バシュウウゥゥゥゥッーーーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

眼下のギルデンスタンにそう告げた直後、桜龍の身体が光に包まれながら粒子と化して消滅していき、八つの桜龍球が独りでに回転しながら上空へと飛翔した後に別々の方角へとバラバラに散っていってしまった。そして、ギルデンスタンは土埃の中の向こうに見えた人影を目にし、歓喜の声を上げて叫んだ。

 

 

『嗚呼ぁ……!その麗しきお姿!若かりし頃の私がお仕えした時と、何も変わらない……!お久しゅうございます……初代幻魔神様っ!!』

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

屋上に吹き抜ける風で霧散した土埃の中から現れたのは、かつてこの世界で零と姫達を苦しめた異形の神であるフォーティンブラスではない。ピッタリと身体に張り付いた戦闘服のような服装に真紅の鎧を合わせた異色な格好をした、腰まで伸びた金色の髪を風に揺らす女であり、その姿は他の幻魔とは違い一見して人間のようにディエンドの目には見えた。

 

 

ディエンド(初代幻魔神、だって……?馬鹿な、どう見ても人間じゃないか……!)

 

 

……いや、もしかしたらあの姿は人間態で、怪人態が別にあるのかもしれないとディエンドが予測して警戒する中、金色の髪の女……初代幻魔神は、まるで起き抜けのような調子で自分の両手を見下ろし、ギルデンスタンはそんな女に一礼し頭を下げた。

 

 

『貴方様の力さえあれば、忌ま忌ましい世界の破壊者と桜ノ神達に倒されてしまったフォーティンブラス様を始めとした多くの幻魔達を再びこの世に舞い戻し、今度こそこの世を幻魔の手に治める事が出来ましょうぞっ。ですから、どぉか!その力を今一度我等の為にィィィィ……!!!』

 

 

「…………」

 

 

まるで隷属を誓うかのように跪きながらそう懇願するギルデンスタンを、初代幻魔神は氷を連想させるような青い瞳で見据えたまま何も言わない。ただ、言葉を送る代わりに応えるようにギルデンスタンにゆっくりと手を伸ばしていき、それを目にしたギルデンスタンも初代幻魔神からの慈悲であると考えて歓喜を露わに手を伸ばし、そして……

 

 

 

 

 

 

 

まるで小さな子供が遊びで線引きをするかのように、何となしに振るわれた初代幻魔神の手刀が、ギルデンスタンの身体を真っ二つに引き裂いたのであった……。

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑨(前編)

 

―廃ビル・七階フロア―

 

 

そしてその頃、ビルの屋上から落下してきた零と魚見を偶然回収したイクサFは馬鬼と共に七階フロアへと戻り、造魔を全て撃退した七階フロア内に一時留まり零と魚見の傷の治療をしていた。

 

 

因みに零がノエルと折夏と鉢合わせなかったかと一同に問い掛けたが、どうやらイクサF達も二人に会っていないらしく、もしかするとまだ上の階層の何処かで身を隠しているのかもしれないと予想し、索敵能力に優れたアシェンを連れ鬼王と龍王が二人を探しに向かっている。

 

 

零「―――今度こそ本当に死んだかと思ったな……」

 

 

ドール「毟ろ、あのお馬さんに撥ねられて何故死なないのかマジで不思議ですね。なのはさん達に鍛えられ過ぎじゃね?……いや普通か」

 

 

なごみ「苦労人は無駄にしぶといと言われてますからね、毟ろあの程度の事故に耐えられないようでは苦労人は名乗れませんよ」

 

 

零「お前等の中の苦労人の定義はどうなっとるんだっ!」

 

 

ドールの治療を受けている最中の身体でありながら、何だか偉く失礼な事を口を揃えて語るドールとなごみに鋭いツッコミを入れる零。そしてそのすぐ近くでは姫の治癒術を受ける魚見の姿もあり、魚見は零と話すドールとなごみを見て何処となく驚いたような様子を浮かべていた。

 

 

魚見「……驚きました……まさか、あんな子供達まで幻魔と戦っていただなんて……」

 

 

姫「まぁ、子供とは言っても片方は人形で、女の子の方は子供らしからぬ思慮深さではあるがな。どちらも油断ならない相手だよ」

 

 

魚見の傷を治癒術で癒しながら可笑しそうに笑う姫。魚見はそんな姫の顔を無表情のまま見上げると、馬鬼の方に振り向き、馬鬼の足に結ばれた縄で縛られてる真姫を見て再び口を開く。

 

 

魚見「上役があの様子だという事は……貴女達は既に、こちらの経緯は何もかも承知済み、という事でしょうか……」

 

 

姫「……一応、な……君が無断で籠手を盗んだ事も、上役がそれに協力していた事も……それに――」

 

 

魚見「…………」

 

 

魚見の右腕の傷がみるみる内に癒えて完治されていく。しかし魚見はその様子を見る事なく姫から目を逸らしたまま無言となり、姫も治療する箇所を変えながら目を細める。

 

 

姫「―――君があの事件の際、フォーティンブラスに捕まった私を助ける為に、"水ノ神"の力を使って現世に攻め入ろうとしていた事もな……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

数時間前、桜ノ神社……

 

 

姫「―――魚見が……黄泉の亡者達を先導して、フォーティンブラスと戦おうとしたっ?!」

 

 

逃亡した真姫を全員で縛り上げて籠手が盗まれた真相を洗いざらい吐いて貰った後、姫は居間で真姫と二人きりになり、彼女から先の事件の裏で起きていた事件を聞かされ驚愕の声を上げた。

 

 

真姫「そっ。無断で地獄に行って、数万の罪人達を引き連れて現世に降りようとしてね。彼女の神権の力……本来の役目である死んだ魂達を黄泉の国に誘う黄泉送り。その逆の、亡者達を黄泉から現世に誘い二度目の生を与える黄泉還りでね……三途の川を自由に行き来出来る、『死神』の彼女なら出来る芸当だ」

 

 

姫「そんな……黄泉還りは神界では禁忌として定められてるのに……彼女はその禁を破ったとっ……?」

 

 

真姫「彼女の真面目な性格を良く知ってる君からすれば、信じられない話だろうさねぇ。私も、実際に拘束された彼女を目にするまでは半信半疑だった訳だし」

 

 

姫「……っ……」

 

 

飄々とした調子でそう語る真姫の説明を聞き、姫は顔を俯かせて唇を噛み締めた。親友の彼女が何故禁忌を破ったのか。その理由が、フォーティンブラスと戦おうとしていたという話から大体の想像が付いてしまったからだ。

 

 

姫「……私のせい、ですか……私を幻魔神の下から救い出そうとして、禁じられていた筈の黄泉還りを使って現世に攻め入ろうとした、と……」

 

 

真姫「有り体に言えばそうなるだろうね。姫ちゃんが幻魔神に捕まったって話が神界に広まった際に、彼女が上役達の下に乗り込んできたのさ。君を助けに向かわせて欲しい、なんて申し込んで来てさ」

 

 

姫「…………」

 

 

真姫「けど上役達は保身を優先したいからそんな話は聞き入れず、せっせと神滅兵器の起動に私達を働かせ、彼女も強行手段に出て禁を破る事にしたらしいよ。随分本気だったみたいでね、彼女が蘇らせようとした亡者共はどいつもこいつも罪深い罪人達ばかりで一筋縄ではいかないような連中ばかり……おかげで彼女を捕らえるのに苦労したと、彼女を捕らえた神達が口を揃えて言っていたよ」

 

 

姫「……その後、彼女は?」

 

 

真姫「無論拘束された後に、罰は与えられたよ。本当なら悪神として裁かれても可笑しくない事件だったけど、彼女の役職の水ノ神は君みたいに有象無象の誰でもいい桜ノ神とは違って人を選ぶからね。彼女を裁きまた別の水ノ神を用意するのは面倒だから、水ノ神の力を封印して一ヶ月の投獄さ。まあ、君みたいに先の大乱の責任を全て負わされ神界からの『永久追放』、なんて罰よりはずっとマシな方だろ?」

 

 

姫「……彼女の神氣を一切感じ取れないのは、それが原因ですか……では、どうやって彼女は私の籠手を?」

 

 

投獄されていたのならば、彼女はどうやって牢獄から抜け出して籠手を奪取したのか。それが気になり姫が真姫に疑問を投げ掛けると、真姫は何でもない調子で口を開いた。

 

 

真姫「察しの良い君なら、もう気付いているんじゃないのかい?例え彼女が牢獄から抜け出させたとしても、水ノ神の力を封印された状態で君の籠手を盗み出すなんて事は不可能に近い……つまり、彼女は牢獄から抜け出してから籠手を手に入れたのではなく、"籠手を手に入れてから牢獄から抜け出した"……と考えた方が、説得力があるんじゃないかな?」

 

 

姫「……まさか……」

 

 

真姫「そっ……"私"だよ?先の事件の騒乱の中で封印されていた籠手の封印を解き、捕われてた彼女に籠手を渡して逃がしたのは……ね」

 

 

封印を解いて籠手を持ち出した犯人は魚見ではなく、自分だった。包み隠そうともせず、飄々とした調子で笑いながらその真相を語る真姫に姫は僅かに目を細め睨み付けた。

 

 

姫「どういうつもりですか……いえ、貴女の質の悪さは昔から知っていましたが、今回は度が過ぎてる……何のつもりでこんなことを……?幻魔神復活を止める為ですか?」

 

 

真姫「それは彼女を逃がした後に付け足された目的の一つに過ぎないよ。本来の目的は、桜龍玉を集めてるギルデンスタンの始末さ。あの事件の裏でコソコソと動き回っていたのは知っていたから、目障りに思ってね。だから彼女に奴の始末を依頼したって訳さ。案外、潔く聞き入れてくれたよ?」

 

 

姫「ッ!白々しい、彼女が断らないと知った上でそんな話を持ち掛けたのでしょ……!」

 

 

真姫「当然。じゃなきゃ、籠手の封印を解いて彼女の脱走を手助けしたりなんてしなかったよ。こんな事がバレれば私の首も間違いなく跳ぶし、十分な可能性がなければやらなかったさ。あの時点で利用出来そうなのは彼女しかいなかったし、ギルデンスタンを放置していては桜龍玉を揃えて良からぬ事を願われ兼ねない。だから早めに潰しといた方が良いと彼女を嗾けた」

 

 

姫「ッ……脱走した彼女がどんな処遇を受けることになるか……それを分かった上でですか……」

 

 

真姫「ん?忘れたのかい?私が慈悲や遠慮とは無縁な女だって。そもそも私の中での優先順位っていうのは、世界の存続とその世界に生きる命達を生き長らえさせる事だ。その為だったらそれ以外の物はどうだっていいし、それを脅かす物は容赦なく排除し、その為の犠牲だって顧みないよ。君だろうと、水ノ神であろうと……君が契約を交わしたディケイドだろうとね」

 

 

姫「……何故其処で彼の名が出てくるのですか……」

 

 

真姫「君も白々しいねぇ。本当は気付いてるんだろ?幻魔神の謎の復活の原因が彼の出現にあって、彼の中に破壊の神氣と再生の神氣を司る、二つの因子があるって……。彼は世界に本来起きない筈のイレギュラーを発生させる、十分に異端で危険な存在じゃないか」

 

 

姫「っ、しかし彼は……!」

 

 

真姫「私達の世界を救ってくれた、だろ?私もそれは承知しているけど、皆が皆そう思うだけでは済まないさ。保身派の上役達は彼を即刻先の事件の元凶として捕える事を唱えたけど、彼と契約した君を監視役として付いていかせる事で黙らせた……だから、私は君をまだ桜ノ神でいさせてあげてるんだ。いざという時、君に彼を討ってもらう為にね」

 

 

姫「……っ……」

 

 

上役の神々が自分に課した役目の一つ。それを改めて突き付けられた姫は唇を噛み締めながら目を逸らして拳を強く握り、真姫はそんな姫に不敵な笑みを向けて飄々と言葉を紡いだ。

 

 

真姫「君が桜ノ神になったばかりの頃にも一度言ったと思うけど、神様なんて物は本来理不尽な存在なんだよ。だから、私を人でなしと思うのは君の自由だ。私は体裁なんてものはどうでもいいし、神々や人間達が取り決めた価値観や善悪に縛られるつもりもない。私は私の役割に徹する、その為なら如何なる手段も取る。例えそれが君達からしてみれば非道であろうとね。それが嫌なら、私の思い通りにならないように抗ってみせてくれよ?その自由は君達にもある訳なんだし」

 

 

姫「……相変わらずの破綻ぶりですね……本当、どうして貴女は……」

 

 

真姫「理解しようとなんてしなくていいよ。神様なんてのは大昔からロクでなしばかりだし、人には理解出来ないような連中ばかりさ。親兄弟と平然と殺し合いしたりとかね。もしも君がそれを分かるようになってしまった時は、君もこちら側と同類になってるだろうさ。……それとも、君も私みたいになりたいかい?」

 

 

姫「……少なくとも、見境なく男を襲っては食い散らかすような痴女になりたくはありません……だから、貴女や上役達の思い通りにもなりませんよ」

 

 

真姫「結構結構、私みたいになりたくないという意志があるなら君はまだ大丈夫だ。……まぁ、数千数万と年を重ねていった時には、どうなるかは分からないけどね」

 

 

ニタリと、真姫は姫にそう言いながら口元を歪め笑みを深めた。まるで姫が何処まで今の自分を貫き通せるか、愉しんでいるかのように……。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑨(後編)

 

―廃ビル・七階フロア―

 

 

魚見「――そうですか……あの人がそんな事を……」

 

 

姫「……その後の君の行方についても彼女から聞いたよ。桜ノ神ではない君でも変身が出来るように、上役が手を加えた籠手を使って神界から脱走し、ごまかしごまかしで何とか籠手の力を使い続けながらギルデンスタンの研究所を破壊して回って、二人の改造人間を救い出した事も」

 

 

魚見「…………」

 

 

姫「だが本当は、君だって分かってたんだろ?彼女が君を利用するだけ利用して、事が全て終わっても他の上役達から君を庇うつもりなんてないと……神界に戻れば、今度こそ君の神権を剥奪され兼ねないんだぞ。そうなれば……」

 

 

魚見「…………」

 

 

神権を奪われた神がどんな末路を辿る事になるのか。それを知っているからか、姫は最後までその事を語らず思い詰めた顔を俯かせながら深刻な雰囲気を漂わせる。そしてそんな姫の顔を見た魚見も気まずげに顔を逸らすと、姫に治療された左腕を右手で掴み、強く握り締めた。

 

 

魚見「それでも、構わないと思いました……先の事件で、保身派が自分達の身を優先したせいで貴女を見捨てるコトになって、貴女を傷付けて……しかも全ての責任を貴女にだけ押し付けて追放だなんて……そんな理不尽な処罰を下した保身派達の下に従い続ける事が、どうしても我慢が出来なかった……」

 

 

姫「……それは当然の罰だ。私は守り神でありながら他世界の神に敗れ、世界を破滅の危機に追い込んで、大勢の犠牲を出してしまった……守り神としての役目を全う出来なかったのに、追放だけでもまだ足りないぐらいだろう」

 

 

魚見「っ……!貴女一人の力では幻魔神に太刀打ち出来ない事を、上役達は承知済みでしたっ!なのに助けを出そうともせずっ、ただ自分達だけが助かればそれで良いと、神滅兵器を起動させて貴女と世界ごと幻魔神達を葬ろうとしたっ……そんな横暴が……許されて良い筈がないじゃないですか……」

 

 

姫「…………」

 

 

そう言ってボロボロの左手で右腕を掴み、影で表情を隠しながら悔しそうに語る魚見のその言葉を聞いて、姫は魚見が抱いている感情……保身を優先した上役達に対する憤慨と失望を読み取れた。

 

 

恐らくそれもまた、黄泉の亡者達を甦らせて幻魔神と戦おうとした事や、神界からの脱獄に思い立った原因でもあるのだろう。

 

 

実際上役達が助けを寄越してくれさえすれば、幻魔に殺された街の人々も死なずに済んだのかもしれないのだから。

 

 

姫「―――君の気持ちは分からないでもない……禁忌を犯してまで、私を助けてくれようとしていたという君のその気持ちも、素直に言えば嬉しいと思う……」

 

 

零(……咲夜……)

 

 

魚見「…………」

 

 

魚見は口を閉ざし何も答えない。そんな彼女に対して姫は素直に自分の気持ちを口にしていき、そんな二人の今までの話を離れて聞いていた零はうなだれる姫の背中を見つめる目を僅かに細めると、うなだれていた姫がふと顔を上げて魚見の顔を力強く見据えた。

 

 

姫「だが……私は君のそのやり方を、肯定する訳にはいかない」

 

 

魚見「……っ……」

 

 

姫「追放された身である私が言える立場じゃないが……罪人とは言え、その罪を償う為に地獄にいた魂達を、君の都合で連れ出して甦らせようとした事も、怪盗騒ぎで街を騒がさせた事も……許される事じゃない。私達は腐っても世界を守る存在だ。だからこそ、神界や桜ノ町の平穏を乱した君のやり方を、私は認める訳にはいかない」

 

 

魚見「……保身派達の横暴も……貴女は認めると言うのですか……」

 

 

姫「そうは言っていない!私はもう良いんだ!今の私には私にしか出来ない役目があるから……!だが君が度し難いと言うその上役達に、私と君は命を握られているも同然なんだっ!下手に逆らった所で、待ってるのは神権の剥奪による消滅だけなんだぞっ!」

 

 

魚見「……それに関しては、貴女の上役が持ち掛けた取り引きに乗った時点で、既に覚悟を決めました……それにどうせ、私は自分の意志で水ノ神になった訳ではありませんから……迷う要素もありませんでしたし……」

 

 

姫「っ……それはっ……」

 

 

零「……?自分の意志で神になった訳じゃない?」

 

 

それはつまり、魚見は彼女の意志とは無関係に誰かによって水ノ神にさせられたという事なのか?彼女達の話を聞いていた零が思わずそう問うと、姫は零達の方を一瞥して言うべきか悩むような素振りを見せた後、俯く魚見を見つめながら口を開いた。

 

 

姫「彼女が水ノ神になった経緯は、神になる事を自分から承諾した私や他の神々と違ってな。彼女は元々、現世で命を落としてしまい他の死者達と共に黄泉の国に送られる筈だった、ただの人間にしか過ぎなかったんだ……」

 

 

魚見「………」

 

 

姫「だが、先代の水ノ神が彼女の中の水ノ神に神化出来る素質を見抜き、彼女に自分の神権を継承して死亡した……というのが表向きの事情なんだが、実際にはそうじゃない……先代は、何も知らない彼女に無理矢理自分の神権を押し付けたんだ。過酷な水ノ神の運命から、逃れる為に……」

 

 

零「……過酷な運命?」

 

 

魚見「……水ノ神は、文字通り水を司る神の事を差すのですが、その本質は別にあります……現世で死んでしまった死者達が、黄泉の国への道筋を迷わないように案内し、三途の川を行き来して黄泉へと送り届け、そして、黄泉に送り届けた死者達の末路を最期まで見届けなければならない……水ノ神であり続ける限り、永遠に」

 

 

ドール「死者達を黄泉へと送り届ける神……要するに、魚見さんは一種の死神ってことですかい?」

 

 

魚見「……ええ、その認識で間違いはありません」

 

 

零「…………」

 

 

顎に人差し指を当てて何となしにドールがそう問い掛けると、魚見は僅かに嫌そうな顔で目を逸らしながら淡々と答えた。そして零はその一瞬の仕種を見逃さず目を細めると、隣に座っているドールの頭を掴んで徐に立ち上がった。『あぁんッ!』なんてわざとらしい声が返ってきたが、それを無視して二人に向けて口を開く。

 

 

零「だが、何故それが過酷なんだ?聞いてる限りじゃ、ただ単に死者達を黄泉の国とやらに送り届けるだけの簡単な仕事に聞こえるが……」

 

 

姫「……そうだな。話だけでは分かりづらいが、彼女は普段その役職からあの世にいた……私も一度彼女に会いに其処に行ったことがあるのだが、彼処に足を踏み入れた瞬間、心が可笑しくなりそうになったよ……生命の息吹が一切感じられない、瘴気に満ちた『死』しか存在しない黄泉の世界……『死』が当たり前で、生きてる自分の方が不自然に思える、恐ろしく冷たい世界だった……」

 

 

魚見「……あの世は完全に『生命』という物を拒む死の世界ですからね。最低限の耐性が備わる水ノ神ならともかく、それ以外の者が踏み込めば忽ち死の瘴気に心を蝕まれていってしまう……神であろうと関係ない……生きているという感覚が鈍麻して、死への衝動に駆られてしまうんです」

 

 

なごみ「……成る程、過酷とはそういう意味ですか。例え耐性があっても、そんな陰気な世界に十年も百年も居続ければ精神が病んでいってしまう。死にたいと思っても、自分は神だから死ぬ事は出来ない。だから他人にその苦しみを押し付けて、楽になりたいと思う……先代の水ノ神は、大方そういった理由で魚見さんに自分の神権を押し付けたのでしょうね」

 

 

生を一切感じられない死の世界との繋がりを、永遠に持ち続けなければならない。

 

 

最初からその覚悟を持って神になったならともかく、何も知らずにただその苦しみを押し付けられただけの人間が、そんな過酷な運命に耐えられるとは思えない。

 

 

本当なら新たな生を得て、ただ普通の人間として来世を生きられた筈なのにそれも叶わず、死者達が次の生を得る姿をただ見ている事しか出来ない。

 

 

……確かに過酷としか言いようがない。本人がどんなに死にたいと思っていてもそれは出来ず、その苦しみから逃れるには誰かにその運命を押し付けるしかないのだから。

 

 

魚見「―――ですが私は、先代のように誰かにこの苦しみを押し付けて自分だけ楽になるなんて出来ない……その苦しみは、私自身が一番良く知っていますから……」

 

 

零「…………」

 

 

魚見「死ぬ事も叶わず、心が壊れていくぐらいなら、いっそ自分から壊れてしまった方が楽かもしれない……貴女に出会うまでは、ずっとそう思い続けていたんですよ……桜ノ神」

 

 

姫「……魚見……」

 

 

何処か儚げな笑みを向けてそう語る魚見の言葉に姫は複雑げな顔を浮かべ、魚見はそんな姫から視線を外し右腕の籠手を見下ろした。

 

 

魚見「まだ貴女が桜ノ神になったばかりの頃……自分以外の神を毛嫌いしていた貴女の教育係を任せられて、貴女と数え切れないほど衝突していく内に、いつの間にか貴女と掛け替えのない友人になって……希望を失っていた私に、もう一度生き続けたいという想いを抱かせてくれた……だからこそ、そんな貴女達が決死の想いで救ったこの世界を、ギルデンスタンと蘇った幻魔神達から守りたかった……貴女への、償いとして……」

 

 

姫「……そう思うのなら、どうして桜ノ神社に助けを求めなかったんだ?彼女達の力を借りれば―――」

 

 

真姫「―――出来る筈ないじゃーん、そんなの」

 

 

緊張感のない飄々とした声が真横から響いた。それに釣られて一同が声がした方に振り向くと、布団に包められ縛られた真姫が床に寝っ転がったまま姫達に語り掛けて来ていた。

 

 

真姫「だって先の事件の際、他の神々は保身派の指示とはいえ神滅兵器で君達と世界ごと幻魔神を亡ぼそうとした訳よう?まあ彼女は君を助けに向かおうとしていたけど、結果だけ見れば君達を見捨てたも同然だ。そんな奴が、どの面下げて助けを乞えるのさ?言える訳ないじゃん、ねー?」

 

 

魚見「…………」

 

 

零「お前はちょっと空気を読んで黙ってろ諸悪の根源。余計に話がややこしくなる」

 

 

真姫「あら、やだっ、イケメンに黙ってろって罵られたっ。ちょっと濡れたっ。いやん!もっと言ってぶるごあああああっ?!」

 

 

まるで陸に上がった魚の様に跳び跳ねながら自重しない台詞を吐こうとした真姫の額に目掛けて、なごみと姫が近くに落ちてた適当な破片をブン投げてクリーンヒットさせ黙らせていった。

 

 

魚見「……彼女の言う通りです……私には、先の事件の当事者達である貴女達に合わせる顔がなかった……だから怪盗騒ぎを起こして、遠回しに彼女達の協力を……いえ、彼女達を利用しようとしました……幻魔達が狙う桜龍玉を持つ私達を彼女達に追跡させ、幻魔の生き残りの存在を気付かせようとしましたが、貴女が戻って来てるかもしれないと知って……」

 

 

ドール「ふーむ……姫さんを巻き込めないからと急遽予定を変更して、姫さんにノコノコ付いてきていた零さんを取っ捕まえて協力を要請した、と?そりゃまた遠回しな気遣いっつーか、回りくどいっつーか……」

 

 

なごみ「不器用過ぎますね。まるで零さんみたいです」

 

 

零「誰がぶきっちょだっ。此処まで酷くはないわっ」

 

 

ドール「ええ、貴方の場合は不器用な上にタチが悪いですしね、隠し事するし。確かにこの程度の酷さではない」

 

 

零「ぐっ……!」

 

 

反論した途端にドールに図星を突かれてしまい、思わず押し黙ってしまう零。そしてそんな彼等のやり取りを他所に、魚見は顔を俯かせたまま……

 

 

魚見「ギルデンスタン達を倒してこの件が終わった後、神界に戻ってから、咎はきちんと受けるつもりです……例え神権を奪われて、地獄に堕とされても……」

 

 

姫「ッ!馬鹿を言うなっ!それでは君が……君だって、ギルデンスタンの目的を阻止する為に動いていたんだっ!それを上役達に伝えてどうにか……!」

 

 

魚見「それだけで、籠手を盗んだ事と脱走の件が許される筈がありません。貴女の言う通り、私は秩序を乱す行いをしてきました……それだけの事をしてきたと自覚していますし、言い逃れをするつもりもない……」

 

 

姫「魚見っ……!」

 

 

零「…………」

 

 

上役達に逆らって幻魔神と戦う為に大勢の亡者達を甦らせようとした事に始め、真姫の誘いに乗って籠手の力を使い脱走し、桜ノ町も怪盗騒ぎで騒がせた。

 

 

それらが罪だと分かっていながら、それでも親友への償いと、親友とその仲間が守ったこの世界を自分なりに守りたかった。

 

 

だから言い逃れはしない、罰は全て甘んじて受けると告げる魚見だが、それでは結局姫に友を失った悲しみを与えるだけだ。

 

 

それで残される者達にどれ程の悲しみを植え付ける事になるのか分かっているのか。それとも分かっていながら、仕方のない事だと受け入れてしまってるのか。

 

 

零(……チッ……めんどくさい奴だな……)

 

 

その光景……魚見を失った姫が泣き崩れて自分を責め立てる姿が脳裏を過ぎり、零は内心舌打ちして魚見を横目に見つめながら溜め息を吐くと、気怠げな足取りで真姫の下へと歩み寄った。

 

 

零「……おい、実際の所はどうなんだ?今回の事件を解決しても、あの女は神界に戻ってから上役達とやらに裁かれるのか?」

 

 

真姫「ん?んー、まあその可能性は高いかもねぇー。保身派達のあの頭の固さは筋金入りだし、自分達に逆らった奴はそう簡単にゃー許さんだろうさ。従わない奴をみすみす生かしておくほど生易しい連中でもないし」

 

 

零「それを知っていながらアイツを逃がしたわけか、とんでもない女だな。……なら、ギルデンスタンを倒しただけじゃあの女は処罰を免れないのか?」

 

 

真姫「なくはないが、確実じゃないだろうね。籠手を盗んで脱走しなければならなかった程の大事で、あの頑固者共の上役達を揃って納得させられるような大層な大義名分でもあれば話は別だけどさ」

 

 

零「…………」

 

 

つまり、ギルデンスタンの計画を止めたという結果は交渉の材料として使える訳だが、それだけでは魚見の処罰を軽減させるには至らない。ならばもっと、その保身派の連中が話を聞いただけで背筋を凍らせ、逆に魚見を行かせて良かったと思わせるような理由を付け加えればと、思考を必死に駆け巡らせ、一つの結論に至った零はスッと目を細めながら真姫を見据えてこう告げた。

 

 

零「――なら、こんなのはどうだ?『ディケイド……黒月零が桜ノ神を問い詰めて桜龍玉の存在を強引に聞き出し、桜龍玉を独占しようとこの世界に再び戻ってきた』……とかな」

 

 

姫「っ?!」

 

 

魚見「なっ……」

 

 

真姫「……ほう?」

 

 

腕を組みながら人差し指を立ててそんな提案し出した零の言葉を聞き、姫と魚見が驚愕の様子を浮かべ勢いよく零の方へと振り返る。そしてそんな零の提案を聞いた真姫は興味深そうに目を細めてニヤリと笑うと、呆然としていた姫が正気に戻り慌てて零に駆け寄った。

 

 

姫「ばっ、何を言っているんだ零っ?!君は――!!」

 

 

零「それなら、大義名分としても通用するだろ?話を聞いた限りじゃ、どうやらお前等の上役達は俺の事を危険視しているようだしな……俺がそんな暴挙の為にまたこの世界に戻ってきて、しかもギルデンスタンが桜龍玉で幻魔神を復活させようとしていたと聞けば、それを早急に阻止する為にあの女を向かわせたのだと言っても鵜呑みにするかもしれん」

 

 

真姫「……成る程……君と幻魔の両陣が桜龍玉を独占しようとしているとなれば、それは確かに大事だ……でもそれだと、何故そんな大事な事を報告しなかったんだって私が責められるかもしんないんだけど?」

 

 

零「其処までは知るか……適当にお前が報告し忘れたとでもホラを吹いとけばいいだろ」

 

 

真姫「本当に適当だなぁ。……でもいいのかい?そうなると君は上役達の顰蹙を買い、完全に連中から敵視される事になるけど?」

 

 

零「……ふん。中途半端に敵視されるぐらいなら、いっそ思いっきり嫌われた方が楽だろう。そんな連中に好かれたいとも思わんし、寧ろ清々する」

 

 

姫「勝手に話を進めるんじゃないっ!待って下さい上役っ!彼の言う事は真に受けな、むぐっ?!」

 

 

人を無視して勝手に話を進める零の前に出て今の話をなかった事にしようとする姫だが、零がそれを阻むように後ろから手を回して姫の口を塞ぎ、真姫を睨み付けながら淡々と告げる。

 

 

零「水ノ神は桜ノ神と協力して幻魔神を復活させようとしたギルデンスタン達を倒し、同じく桜龍玉を独占しようとした黒月零を叩き伏せて奴を止めた……そう伝えておけ。それで連中が潰しに来るなら、こっちも容赦はしないから覚悟しておけ、ってな」

 

 

真姫「……良いねぇー……そういう無謀な馬鹿は私も嫌いじゃないよ♪」

 

 

―バリイィッ!!―

 

 

人をおちょくるような笑みを浮かべながらそう言うと、真姫は自身を縛り付けていた布団と縄を内側から破裂させて拘束を解いた。それを見た一同は目を見開き驚くも、それを他所に真姫はゆっくりと立ち上がり首の骨を鳴らした。

 

 

真姫「ふぃー……んじゃあ、君や水ノ神の事は上役達にそう伝えておくよ。それなら私の首も飛ばずに済みそうだし。ただ、きちんと自分の目で今回の件を最後まで見届けないと報告は出来ないから、離れた場所で高見の見物をさせてもらうよ?スィーユー♪」

 

 

姫「ぶはぁっ!ま、待って下さいっ!上役っ!!」

 

 

呑気な調子で一同に向けて手を振りながら転移を開始した真姫。それを止めようと零の手を強引に振り払い真姫を止めようとするが、真姫はそのまま転移し何処かへと消えてしまったのであった。

 

 

姫「っ……零っ、どうしてあんな事を言ったんだっ!君はっ―ビシィッ!―あいたっ?!」

 

 

自分が何をしたか分かっているのか。零に詰め寄ってそう言い切る前に、零が姫の額にデコピンし黙らせてしまう。

 

 

零「皆まで言うな。安心しろ、その保身派達とやらと敵対する事になってもお前やなのは達とは無関係だ……出来る限り巻き込まないように努力するから、心配すんな」

 

 

姫「ッ!そういう問題じゃないっ!分かってるのかっ?!君が敵に回そうとしているのは神々なんだぞっ?!なのに君という奴は……「……何故、ですか……」……っ!」

 

 

神界の神々を敵に回す事になるかもしれないのに悠然とした態度を取る零に姫が詰め寄って怒鳴るが、その様子を見ていた魚見が呆然とした様子でポツリとそんな声を漏らし、零達の視線が魚見へと集まった。

 

 

魚見「どうして……私には、貴方が其処までして庇う価値なんてありません……!」

 

 

零「…………」

 

 

魚見「上役達の意向に反抗して、大勢の罪人達を私の独断で甦らせようとして、漸く平穏を取り戻した町を再び騒がせて……裁かれるに値する罪を幾つも犯してきました!なら……!」

 

 

零「……チッ……お前、自惚れるのもいい加減にしておけよ……?」

 

 

魚見「……え……?」

 

 

其処までして庇ってもらう価値は自分にはない。胸に手を当てて必死にそう訴え掛ける魚見だが、舌打ちしながらそう告げた零の言葉に呆然となり、零は突然の自分の発言に戸惑う姫の方を一瞥すると、もう一度舌打ちしながらそんな魚見に向けて淡々と語り出した。

 

 

零「お前が自分の罪を自分で償おうとするのはお前の勝手だがな……そんな押し付けがましい償いなんぞ、こっちからしてみれば良い迷惑なんだよ」

 

 

魚見「っ……」

 

 

零「それとも何か?本当はお前が水ノ神としての運命から逃げたいのが本音で、建前として親友への償いって形で死にたいのか?あぁ……確かにその方が綺麗な死に方だろうしなぁ?感動の涙でも流して欲しいのか?」

 

 

魚見「っ……!そんな、つもりは……」

 

 

姫「おい、零っ!」

 

 

冷たい態度で淡々と魚見を責めるように語る零に、姫が前に飛び出して咎めた。そして零はそんな姫の顔をジッと見つめた後、視線を逸らしながら再び溜め息を吐き、姫の横を素通りして歩き出した。

 

 

なごみ「?何処へ行く気ですか?」

 

 

零「……屋上に戻るんだよ。海道の奴が邪魔しに来ているし、恐らくまだギルデンスタン達と戦ってるかもしれんが、桜龍を呼び出された以上、既に願いを言われてフォーティンブラスの奴が甦って――」

 

 

いるかもしれない、と言い掛けて、零は其処で背後に振り返り、うなだれる魚見を気遣うような目を向けて佇む姫の様子に気付いた。それで魚見が気になって仕方がないのだと感じ取れた零はめんどくさそうに密かに息を吐くと、ポリポリと血で固まった前髪を掻いて背中を向けた。

 

 

零「木ノ花……お前は此処になごみ達と一緒に残れ。屋上には俺が向かう」

 

 

姫「ッ……!いや、だが君一人じゃっ……!」

 

 

ドール「敵は腐っても神様なんですし、一人で挑むのは無謀なのでは?なんでしたら私がパートゥナァーに!」

 

 

零「お前がついて来たら、此処の守りが木ノ花となごみだけになるだろうが……二人だけじゃ万が一の時、幻魔達に襲われた時に対処出来ん」

 

 

姫「だから、私が……!」

 

 

零「今のお前が付いて来ても戦いの邪魔になるだけだ……付いて来るなら、その原因を片付けてから来い。いいな?」

 

 

姫「……っ……」

 

 

魚見に視線だけ向けて念を押すように告げる零の態度から、彼が自分を気遣ってくれている事に気付いたのか、一拍を置いて深く悩むように俯いた後、コクりと小さく頷き返す姫。そしてそれを見て零も他の一同に気付かれないように小さく頷き屋上に向かうべく歩き出そうとするが、そんな零の隣になごみが無言のまま付いてきた。

 

 

零「……!なごみ?」

 

 

なごみ「基本何でもアリなドールさんが一人居れば、此処は安全でしょう。私達が零さんを手伝います」

 

 

零「なっ……駄目だ!相手は規格外の化け物なんだぞ!お前も此処に――!」

 

 

マジカルルビー『ノープログラム♪いざという時は私が全面的になごみさんをサポート致しますから、心配はご無用ですよー♪』

 

 

なごみ「ピンチになった時は零さんを囮にして逃げる覚悟ですので、どうぞお気になさらず。いないモノと思って頂いても構いませんよ」

 

 

零「……はぁ……分かった……そのスタンスを貫くつもりなら、俺ももう何も言わん」

 

 

逃げ際をしっかりと心得ているのなら、利口な彼女は自分が心配せずとも大丈夫だろうと半ば諦めたように息を吐く零。そしてなごみと一緒に屋上に向かおうと歩き出し、魚見の前を通り過ぎようとした際、魚見にしか聞こえないような小さな声で零が口を開いた。

 

 

零「……本気でアイツの為を思うんなら、お前の償いとやらでアイツを傷付けるような真似するな。お前が死んだ後、残されたアイツが何を想うかも考えろ……」

 

 

魚見「……っ……!」

 

 

その声に釣られて、魚見はバッと勢いよく顔を上げた。しかし零となごみは既に走り出してとっくにその姿は遠ざかっており、魚見が何処となく思い詰めた顔で零達の後ろ姿を見送る中、そんな彼女の横顔を離れて見つめていたドールはやれやれと首を振っていた。

 

 

ドール(これで彼女も罪を償う為に死ぬ、なんて覚悟に迷いが生じるでしょうが、どうしてあんなやり方と言い方しか出来ないのやら……)

 

 

相変わらずの零の不器用っぷりに溜め息を吐きながらそう考えると、ドールは腰の後ろからモゾモゾとあるモノ……隙を見て魚見から掏った籠手を取り出した。

 

 

ドール(んまあ、私は私で彼女達が再起した時に備えますかねぇ。lt's 魔改造ー!マジかマジでマジだよショーターイム!)

 

 

ジャキンッ!と、心の中で無駄にテンションを上げながら懐から愛用の工具箱を取り出すと、ドールはそのまま無言の姫と魚見に背を向けて何かの作業を黙々と開始していくのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑩(前編)

 

―廃ビル・13階フロア―

 

 

―バアァンッバアァンッ!バアァンッバアァンッバアァンッ!―

 

 

『シャアァッ?!』

 

 

『ガアァッ?!』

 

 

ノエル「クッ……!このっ、いい加減しつっこいっ!」

 

 

その一方、廃ビル13階のフロアの一角では、最上階から気を失う折夏を抱えて避難していたノエルの姿があったが、彼女達は次々と迫り来る無数の造魔の大群によって行き止まりに追いやられ逃げ場を失い、絶体絶命の危機に瀕していた。それでもなおノエルは諦めようとはせず、折夏を守るようにハンドガンを構えて迫り来る造魔達を一体ずつ確実に倒していく。しかし……

 

 

―バアァンッ!カチッ、カチッカチッ……!―

 

 

ノエル「ッ?!嘘、弾切れ?!」

 

 

造魔達に目掛けて連射していたノエルのハンドガンの弾が不意に底を尽き、弾を装填しようと咄嗟に懐に手を伸ばしてマガジンを手に取ろうとする。しかしどれだけ懐を漁ってもマガジンは見つからず、それでマガジンも底を尽いてしまったのだと悟ったノエルは舌打ちしてハンドガンを乱雑に投げ捨てながら、後ろ腰からコンバットナイフを抜き取って構えを取った。

 

 

ノエル(クソッ……!武器の大半はギルデンスタンの奴との戦いで使い切ったしっ、コイツだけでこの場を切り抜けるのはっ……!)

 

 

ハッキリ言えば不可能だ。ナイフ一本では自分の身を守るのも難しいのに、もし一斉に攻め込まれでもしては折夏を守る所ではない。このままでは、二人揃って……

 

 

ノエル(――いや……私が囮になってコイツ等を引き付ければっ、折夏だけでも或いはっ……)

 

 

それならせめて、折夏だけでも助かるかもしれない。背後の物陰に隠れ気を失う折夏に視線だけ向けてそう思案すると、ノエルは次に目前から迫り来る造魔達の注意を自分にのみ引き付けなければならない方法を考える。

 

 

ノエル(コイツ等の注意を私に向ける方法……確か、コイツ等も普通の幻魔達のように人間を喰らうのが好きな筈っ。だったらっ……!)

 

 

造魔達の興味を一度に引き付けるとしたら、幻魔達の好物である人間の血の臭いを嗅がせのが方法として手っ取り早い。そうと決まればと、ノエルは躊躇する事なくナイフを逆手に持ち、自分の左腕にナイフの刃を食い込ませて適量の血液を流していく。

 

 

―ブシュッ!ポタッポタッ……ポタッ……―

 

 

ノエル「ぐっ……ほら、こっち!こっちよっ!こっちに来なさいっ!!」

 

 

『……!グルルルッ……!』

 

 

『シャアァァァァッ……!』

 

 

血が流れる左腕を造魔達に見えるように向けて自分に注意を逸らすようにノエルが動き出すと、ノエルの血の臭いを敏感に嗅ぎ取ったのか、造魔達の視線が一斉にノエルへと集まり彼女に向かって迫ってきた。それを見たノエルは額から冷や汗を流しつつ自分の思惑が上手く行ったと不敵に笑うと、そのまま物陰に隠れる折夏から離れるようにその場から走り出していった。

 

 

ノエル(ッ……!あの子のすぐ近くで喰われてもっ、奴らはすぐに私を平らげた後に折夏にも狙いを変えてあの子に襲い掛かるに違いないっ……だから出来るだけ遠くっ、とにかく今はあの子から奴らを引き離す事だけ考えて、それからっ……!『シャアァァァァァッ!!』……?!)

 

 

とにかく自分が囮になって奴らを折夏から遠ざけて、その後の事はその時に考えればいい。背後から追って来る造魔の群れを見つめながらそう思案していた中、ノエルの前方から数え切れない大群の造魔達が奇声を発しながら押し寄せて来る光景があったのだ。それを見て慌てて方向転換しようと足を止めるノエルだが、既に背後からも造魔の大群が間近に迫ってきており、逃げ場はない。

 

 

ノエル(っ……万事休す、か……いや……)

 

 

正しく前門の虎、後門の狼という最悪な状況であるにも関わらず、ノエルの目はまだ諦念の色を帯びてはいない。力強い闘志を宿した瞳で造魔の大群を睨み据え、コンバットナイフを構え直しながら戦闘態勢に入る。

 

 

ノエル「―――上等よ……ただでなんかやられてやるもんか……どうせ死ぬんならせめて、アンタ達も道連れにしてやるわっ!!」

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

どうせ此処で力尽きるならせめて、一匹でも多くこの化け物共を地獄への道連れにしてやると、決死の覚悟で造魔の大群を迎え撃とうとするノエル。そうして、そんなノエルへと造魔達が刀を振りかざしながら一斉に飛び掛かり、それを見たノエルも造魔達を睨みつけながらナイフを振り抜こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

「―――勇ましいのは結構な事です。が、それで命を粗末にするのは関心し兼ねますですわね」

 

 

―ヒュッ……バゴオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーオォォンッッッ!!!!―

 

 

『ッ?!ギッ……ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

ノエル「?!……え?」

 

 

 

 

 

 

ノエルに刀を振りかざして襲い掛かろうとした造魔達に突如何処からか、業火と雷と暴風が混雑した無数の攻撃が降り注いだのだった。それらの攻撃は造魔達を薙ぎ払って微塵にし、その光景を見たノエルが突然の攻撃で巻き起こった爆発と閃光に思わず目をつぶり、再び目を開くと、其処には……

 

 

 

 

 

 

アシェン「―――ふむ……後方の大群諸共薙ぎ払ったつもりでしたが、大分残ってしまいましたか」

 

 

鬼王『全く。次のフロアに着いた途端、何か妙な場所に幻魔達が集まってるなと思えば……』

 

 

龍王『たったの武器一つでこの大群を相手にしようなどと、自殺行為も良いところだぞ』

 

 

 

 

其処には、造魔達の残骸の上に佇み拳と刀をそれぞれ構える一人の女性と二人の戦士……零から話を聞いてノエルと折夏を探しに来たアシェン、鬼王と龍王がノエルを守るように背を向け造魔の大群と対峙する姿があったのだった。

 

 

ノエル「ア、アンタ達は……」

 

 

アシェン「貴女がノエル・コーマット様……ですね?金髪に小柄、スリーサイズは上から84、57、82。何処となくツンデレっぽい顔立ち……成る程……零様から教えて頂いた特徴と完全に一致しますね」

 

 

ノエル「え?零って、ディケイドの事?……ってか、なによ今の特徴ってっ?!アイツがそれ全部言ってたのっ?!」

 

 

アシェン「えぇ。零様から貴女様の特徴について質問した時、今の通りに教えて頂けましたが?」

 

 

龍王『いや、会って早々の初対面の人間にいきなり嘘を吹き込んでどうするんだお前っ』

 

 

ノエル「……は?う、嘘?」

 

 

アシェン「いえ、初見で何やらからかい甲斐のある方だなぁと思いましたので、少しばかり私なりの挨拶を少々」

 

 

鬼王『嘘かホントか分かりにくい冗談は止めて頂戴?彼なら本気で言い兼ねないと、一瞬信じそうになったじゃない』

 

 

アシェン「桜香様からしてみれば都合のよい嘘では?もし零様が彼女にもフラグを確立させてしまっているなら、今の内にバキボキに折っておこうかなと言う私なりの親切心もあるのですが」

 

 

鬼王『よしいいぞ、もっとやれ』

 

 

龍王『お前も簡単に丸め込まれるんじゃあないっ!!』

 

 

造魔の大群を前にしながら、呑気に漫才を繰り広げる三人。そしてそんな三人の会話を忙しなく目で追っていたノエルは困惑し、堪らず三人に向かって叫んだ。

 

 

ノエル「な、何なのよ一体、アンタ達はっ!」

 

 

龍王『ん?……まあ』

 

 

鬼王『取りあえず言えるのは……』

 

 

アシェン「……ノエル様達の味方である事に、違いはありませんよ」

 

 

―ダンッ!!―

 

 

そう言い切ると共に、鬼王と龍王は同時に地を蹴って駆け出し、アシェンも宙を跳んで造魔達の中へと跳び回し蹴りを放っていくのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

―廃ビル・屋上―

 

 

―バキイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーイィィィンッッッッ!!!!!!―

 

 

ディエンド『ウグアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

同時刻、ギルデンスタンの願いを叶えた桜龍が八つの桜龍玉達と共に消えた後、廃ビルの屋上ではギルデンスタンの願いによって復活した初代幻魔神がその暴威を振るい、圧倒的な実力でディエンドを一方的に追い詰めていく姿があった。既にディエンドの姿はボディの所々が砕けてボロボロになっており、それでもなお立ち上がろうとするディエンドを見て、初代幻魔神はディエンドからもぎ取った装甲の一部を投げ捨て関心の声を漏らした。

 

 

「驚いたな……あれだけの一方的な暴力で痛め付けられながら、まだ戦う意志が残っているとは……やはり今の人間達は、この程度の暴力を前にそう簡単に屈しないのかい?」

 

 

ディエンド『グッ……ッ……クッ……!』

 

 

まるで、小さな子供が答えの分からない問題の答えを大人に問い掛けるように、小首を傾げてディエンドにそう尋ねる初代幻魔神だが、今のディエンドにそれにまともに答えるだけの余裕はない。今までの戦いで、ディエンドは初代幻魔神と自分の実力差を思い知ってしまっている。このままでは勝てない、ならばこの場をどう切り抜けるか。ただその方法を考える事だけで精一杯であり、初代幻魔神も何も答えないディエンドを見て嘆息すると、そんなディエンドに人差し指を向けながら莫大な神氣を指先に収束していく。

 

 

「いや、違ったか……立ち上がる意志はあれど、戦う意志は既にない、か……勘違いしてすまなかったね。だが、君のその力は我々にとって軽視できない物だ。悪いが消えてもらうよ?」

 

 

ディエンド『クッ……!』

 

 

バチバチバチイィッ!!と、凄まじい火花を散らして収束していく初代幻魔神の指先のエネルギー弾を見てすぐさま起き上がって逃げようとするディエンドだが、初代幻魔神に一方的に痛め付けられた時のダメージがまだ残っていて上手く起き上がれず、そんなディエンドを消し去ろうと、初代幻魔神が充分に溜まった指先のエネルギー弾をディエンドに目掛けて撃ち出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

『――デエェアァァァァッ!!!』

 

 

「……ん?」

 

 

―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォンッッッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

上空から不意に電子音声が響き渡り、それを耳にした初代幻魔神が顔を上げて空を見上げたと同時に、上空から猛スピードで飛来した何かが初代幻魔神に渾身のキックを打ち込み遥か後方へと後退りさせていったのだった。そして初代幻魔神に不意打ちをした何か……ディケイドに変身した零はボロボロのディエンドの前に華麗に着地すると、それに続き魔法少女の姿をしたなごみがフワリとその隣に着地した。

 

 

ディエンド『っ……!零、なごみっ……!』

 

 

ディケイド『…………』

 

 

初代幻魔神に不意打ちして現れたディケイドとなごみを見て驚くディエンドだが、ディケイドはそれに対し何も答えず、無言のままに視線のみを動かして屋上の一帯を見渡していく。

 

 

先程まで廃ビルの屋上の空に浮かんでいた筈の桜龍と桜龍玉、そしてあの銀色の魔人の姿が何処にも見当たらず、屋上に残されているのはボロボロの姿に変わり果てたディエンドと、先程自分が蹴り飛ばした見慣れない真紅の鎧を身に纏った金色の髪の女。

 

 

そして何故か、身体を真っ二つに引き裂かれて屋上の隅に転がっているギルデンスタンの亡骸だけだった。

 

 

ディケイド『一体何がどうしてこうなったんだ、少し目を離した隙に状況が一転しすぎだろ……』

 

 

なごみ「……ふむ……確か零さんの話では、ギルデンスタンが既に桜龍を呼び出していたとの話でしたが……その桜龍とやらと桜龍玉の姿が何処にも見当たらず、ギルデンスタン(実際に見るのはこれが初めてなので推測)のあの姿とボロボロの大輝さんに、あの如何にも危険人物っぽい格好をした女性から察するに……既に願いを叶えてもらった後で、あの方が零さん達が以前倒したというフォーティンブラスなのでしょうか?」

 

 

ディケイド『だったら俺もこんなに困惑せずに済んだんだがな……残念ながら、あんな可愛げのある外見したパツキン女なんぞ知らん。おい、どうなってる海道?一体何なんだあの女は?』

 

 

桜龍の姿が消えているのを察するに、あの女が桜龍の願いによって呼び出された存在であるのは多分間違いない。

 

 

しかし、どう見てもアレは自分達が以前倒したフォーティンブラスではないし、何故ギルデンスタンがあんな姿に変わり果てていて、一緒にいた筈の銀色の魔人の姿もいつの間にか消えてしまっているのか。

 

 

予想していた事態と違い過ぎててイマイチ状況が把握出来ず、ディケイドは自分と魚見が屋上から落ちた後の経緯について聞き出そうとディエンドに目を向けてそう問い掛けるが、その時、そんなディケイドの不意打ちを受けながら何事もなかったかのように身を起こそうとした初代幻魔神が何かを思い出したように顔を上げた。

 

 

「ディケイド……零……ああ、そうか君かね。桜ノ神と契約してフォーティンブラスを倒した人間というのは?」

 

 

ディケイド『……だったらどうした?いや、そもそもお前、何者だ?』

 

 

声を掛けてきた初代幻魔神に警戒しながらなごみの前に出てディケイドがそう聞き返す。するとそれに対し、初代幻魔神はディケイドのディメンジョンキックを受けた鎧の胸の部分の埃を手で払いながら悠々とした声で口を開いた。

 

 

「君については、復活した際に自然と頭の中に情報が入り込んできた時から気になっていてね。会えて光栄だよ。そしてはじめまして、私は君達が倒した四代目幻魔神フォーティンブラスより前の、初代幻魔神……リアだ。宜しく頼むよ」

 

 

ディケイド『!初代幻魔神だと……?』

 

 

なごみ(……リア、ですか……シェイクスピアの四大悲劇のリア王を彷彿とさせますが、フォーティンブラスといいギルデンスタンといい、もしや、この世界のシェイクスピアは幻魔達と何か繋がりでもあったのでしょうかね……)

 

 

そんな推測をしながら、以外にも友好的に自己紹介をする初代幻魔神……"リア"を真っすぐ見据えるなごみだが、ディケイドはそんなリアを見て表面上では冷静さを保ちながらも内心では困惑を抑え切れずにいた。

 

 

ディケイド(どういう事だ……初代?何で今更そんな古臭い奴を蘇らせて……あの銀色とギルデンスタン、何を考えてる……?)

 

 

ただ指導者を蘇らせたいのならばフォーティンブラスでも構わないハズだ。それをわざわざ初代の幻魔神を復活させたということは、あのリアとかいう女にしか出来ないナニカがあるからなのか。少なくともフォーティンブラスより理知的に見える印象に騙されぬようディケイドが注意する中、リアはそんなディケイドを見て不敵な笑みを浮かべた。

 

 

リア「そう警戒しないでくれよ。今のところ、私は別に君達と殺し合いをしようなんてつもりはないのだから」

 

 

ディケイド『……何?』

 

 

なごみ「殺し合いをする気は……ない?」

 

 

首を左右に振りながらそう告げたリアの意外な言葉を聞き、ディケイドとなごみが思わずお互いに目を合わせると、リアはガシャッガシャッと鎧の音を立てて前に踏み出し再び口を開いた。

 

 

リア「そんなに驚くほどのコトかい?……いや、まあ当然か。君達からすれば、幻魔は君達の理屈も言葉も通じない怪物でしかないのだしね」

 

 

なごみ「……まるで自分はそうではない、みたいな口ぶりですね」

 

 

リア「実際に違うからね。数千年も昔……私が幻魔神として幻魔界を治めていた頃は、今より理性的な幻魔も多かったし。ただ、私が神権を次の幻魔神に譲ってからは、本能のままに人間を襲うようになったらしいのだが……その原因はギルデンスタンの増長にもあるらしい。そのせいで人間も悪戯に減らしてしまって、申し訳なく思ってるよ」

 

 

ディケイド『……ッ!まさか、あのギルデンスタンの死体はお前が……?』

 

 

リア「彼はもう私に仕えていた頃と違っていたのでね。私が再び神として蘇った以上、これからの私の目的の為には彼の快楽を満たすだけの実験で、これ以上人間達の数を悪戯に減らされるのは都合が悪い。幸いにも彼の代わりは他にも沢山いるようだし、彼には潔く消えてもらったのさ」

 

 

ディケイド『……お前の、目的……?』

 

 

ディケイドが険しげにそうリアに聞き返す。今までの話を聞いた限りだとリアは他の幻魔と違って理知的な人物かと思われるが、そう認識し切ることが出来ない怪異なワードを彼女は所々口にしていた。

 

 

"人間達の数を悪戯に減らされるのは都合が悪い"。

 

 

"幸いにも彼の代わりは他にも沢山いるようだし"。

 

 

そんな不穏を孕んだ言葉を聞き逃さなかったディケイドがリアを強く睨みつけると、リアは右腕を掲げ……

 

 

 

 

リア「―――簡単な話だよ。この世界を、我々幻魔の新たな"故郷"にするのさ。人間達のヒエラルキーの頂点に、我ら幻魔が人間達の上位種として君臨する事でね」

 

 

 

 

悪意も邪悪さを微塵も感じさせない透き通った声音で、人間に代わってこの世界の支配者になるのだとリアは高らかにそう宣言したのである。それを聞かされたディケイドは険しい表情になり、右の拳を固く握った。

 

 

ディケイド『それは要するに、人間を……この世界を支配しようって事か……?フォーティンブラスの奴のように……』

 

 

リア「ん?まぁ、結論から言えばそうなるね。ただ、フォーティンブラスと一緒にされるのはちょっとだけ心外だなぁ……彼は人間達を見下してこの世を幻魔で埋め尽くそうと考えていたらしいが、私は人間達の力を評価した上で、人間達の上に立とうとしているんだよ?此処まで時代が移り変わったのは、偏に人間達の向上心があったからこそだからね。果てには人間の力だけで宇宙にまで行った、これには目を見張るモノがあると私も思うよ」

 

 

謡うようにそう告げると、リアは柔らかい笑みを浮かべたまま更に続ける。

 

 

リア「だから、下手に人間の数を減らされると困るんだよ。彼等には幻魔の為にその力を活用してもらいたいからね。だからギルデンスタンは邪魔だったし、彼の技術を人間に教え込めば彼の代わりは幾らでも生み出せるのだしね」

 

 

なごみ「……つまり人間に、貴女達にとって都合よい奴隷になれという事ですか、それは?」

 

 

リア「人聞きが悪いな……別に彼等からこれまで通りの自由を奪うつもりなんてないさ。それに私達がこの世界を支配すれば、今よりも現状が格段に良くなると思うけど?」

 

 

ディケイド『……どういう意味だ?』

 

 

リア「そのままの意味だ。今もこの人間達の世には、貧困や紛争等が堪えず起きてるそうじゃないか?それどころか、現状の自分達の生活すらままならない所もあるときた……それが全てを物語ってるじゃないか?結局人間が人間を管理するなんて完全には出来ない事だって。獣が獣を管理するようなモノなんだから必ず粗が出るし、完璧になんてなる筈がないのさ」

 

 

ディケイド『…………』

 

 

リア「けど、私達にならそれが出来る。温暖化や破壊された緑を蘇らせる事も、貧困や紛争を塞ぎ止める力もある。優れた種が自分達より劣る種を管理し、生き長らえさせる……君達が人より劣る動物に安全に暮らせる場所を与え、食べ物を与えるのと同じだよ」

 

 

なごみ「だから支配する、と言うのですか?貴女達、幻魔が人間より優れているからと……」

 

 

リア「それはこれから証明するのさ。手始めに人間達に宣戦布告し、太平洋の海の真ん中にでも巨大な風穴を私の力で開ける……それで幻魔の力を世界中の人間に見せ付け、その後は私達に彼等の武器が通用しない事を思い知らせる。世界中の軍隊をかき集めようと、世界中の核武器を用いようと、私達には絶対勝てないという事実を突き付けて屈してもらう……あぁ、死人は極力出さないようにするから心配しなくていいよ。大事なのは、彼等に自分の無力さを思い知ってもらうって事だしね」

 

 

ディケイド『……何が心配するなだ……其処までして、お前達は人間の上に立ちたいっていうのか……?』

 

 

リア「そうしないと、幻魔はこの世界でまともに生きていけないんだよ。ただでさえ君達人間は、同じ人間であろうと肌の色が違うってだけで差別と迫害を行うだろ?そんな君達に人外である幻魔を受け入れてもらえる筈がない。共存は最初から不可能なんだ。なら、人間達の上に幻魔が立ち、逆らってはならない存在であると認識してもらった方が都合がいいに決まってるじゃないか」

 

 

ディケイド『ああ……そうかよ……大体分かった……』

 

 

そう呟くと、ディケイドは左腰のライドブッカーに手を伸ばしてソードモードに展開し、リアと対峙するように一歩前に踏み出て剣の切っ先を突き付けた。

 

 

ディケイド『要するにそれは、恐怖で人間を支配してこの世界を乗っとるって話だろう?回りくどい言い方しおって……最初からそう言っとけ。どうせやる事は変わらんのだしな』

 

 

リア「……?もしやと思うが……君、戦うつもりなのかい?私と?」

 

 

ディケイド『最初からそのつもりで此処まで来たんだ、当然の流れだろう……?大体アイツ等が守ったこの世界を勝手にどうこうしようっていうんなら、フォーティンブラスだろうがお前だろうが関係ない。あの世還りの死人には、もう一度あの世に帰ってもらうだけだ』

 

 

リア「本気かい?私を受け入れれば、この世界をより良い方向へと導く為の術を与えてあげられるんだよ?そうすれば誰も餓える事もなく、戦争根絶も出来る。一体何が不満なんだい?」

 

 

ディケイド『恐怖で人間達を抑え付けようってところがだ……この世界の人間はもう十分にソレを味わった。一度あの事件に関わった身としては、アイツ等が必死になって漸く守ったこの世界を、お前に壊されるのを黙って見てる訳にはいかないんだよ』

 

 

平穏を取り戻したこの街で、笑顔で生き続けると姫や自分に誓った雪奈のような人間もいた。

 

 

彼女だけでなく、彼女のようにあの事件の恐怖を抱えながら、それでも前を向いて生きようとしている人達もきっといるだろう。

 

 

そんな人々が今を生きるこの世界が再び恐怖で染まるなど、見過ごしていい筈がないのだ。

 

 

その意味を込めてディケイドが力強くそう告げると、リアはそんなディケイドの目を暫くジッと見つめ返した後……

 

 

リア「……ふぅ……困った物だね……出来れば無駄な争いは、極力控えたかったのだが―――」

 

 

 

 

 

 

―……ゾワアァァァッッッ……!!!!!―

 

 

 

 

 

 

『…………ッッッ?!!!』

 

 

 

 

 

 

やれやれと、リアが不本意そうに首を横に振りながらそう呟いた瞬間、その場にいる一同の全身の鳥肌が総立ちした。

 

 

今まで一切何も感じられなかったリアから、あのフォーティンブラスをも凌駕するとてつもなく強大で邪悪な、殺気とプレッシャーが屋上全体をあっという間に飲み込んで支配していく。

 

 

その圧倒的な力の差を嫌と言うほど思い知らされる感覚にディケイドとなごみが思わずザッ!と後退りしてしまう中、リアは頭全体に真紅の甲冑を纏うと、その身体がゆっくりと宙に浮き上がる。

 

 

『――そちらがその気ならやむを得ない、か……まあいい。どの道、後ろの彼のようにこの世界のライダーシステムとやらは全て破壊するつもりだったのだしね……アレは私の目的を揺るがすイレギュラーな力だ。だから、君のそのベルトも壊させてもらうよ?』

 

 

ディケイド『ッ……ふざけろっ、ソレは俺の専売特許だっ……勝手に真似してんじゃねぇよっ……』

 

 

『ふふっ、啖呵を切るほどの余裕はまだまだあるようだね?なら―――』

 

 

バシュウゥッ!!と、リアの右手から蒼い稲妻状の光が勢いよく放出され、光は蛇の様にうねりながら徐々に巨大な武器……リアの背丈を越えるほど巨大な深蒼の鎌を形作り、リアの手に握られた。

 

 

『――その戦意を根こそぎ絶たせてもらうよ。不本意だが幻魔の神として蘇った以上、私には彼等を導いて守る義務があるのだからね……圧倒的な恐怖と力を前に、是非とも絶望してくれ……』

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑩(後編)

 

―廃ビル・屋上―

 

 

『フンッ!!』

 

 

―ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

ディケイド『?!なごみィッ!!』

 

 

なごみ「っ!」

 

 

ディエンド『クッ!!』

 

 

―バゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッッ!!!!!!―

 

 

満月を背に浮遊するリアが勢いよく振りかざした大鎌から、蒼い三日月の形状の斬撃波がディケイドとディエンドとなごみに目掛けて放たれた。それを目にしたディケイドは咄嗟になごみを脇に抱え、ディエンドもボロボロの身体を無理矢理動かしその場から跳び退くと同時に、斬撃波が三人が立っていた場所に炸裂して巨大な爆発を巻き起こしていったのだった。

 

 

ディケイド『ッ!クッソッ、子供がいても容赦無しかよっ……!』

 

 

『ただの子供が相手なら、流石の私でも躊躇は覚えるよ。……ただ其処の彼女の場合、どうやら"普通"ではないようだからね……容赦していてはこちらの身が危なそうだ』

 

 

なごみ「……?それは……どういう……?」

 

 

なごみを見下ろして意味深な発言をするリアになごみがそう聞き返すが、リアはそれに答えず大鎌を振り回してディケイドとなごみに目掛けて猛スピードで突進し、それを見たディケイドはすぐさま前に出てライドブッカーからカードを一枚取り出し、バックルに投げ入れスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:EXE LILY CHALICE!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!―

 

 

DエクスL・C『グゥッ!!テメェッ……!!』

 

 

『……フォーティンブラスが敗れたのは君達というイレギュラーの出現。そしてそのイレギュラーを侮り、慢心したのが敗因だ。彼のような失敗を繰り返さない為にも、君達のような不安要素を最初から潰させてもらうよ』

 

 

DエクスL・C『その為だったら子供が相手でも容赦は無しかっ!』

 

 

『その子供に武器を持たせて、わざわざ戦場に連れてきたんだ。闘いの場に現れ、君達と同じイレギュラーな以上、こちらとて容赦はしないさ』

 

 

―ガギイィッ!ガガガガガガガガガガガガァッ!!!グガアァンッガギイィィンッ!!!―

 

 

DエクスL・C『グゥッ?!ハアァッ!!』

 

 

そう言いながら、一見して大振りで扱い難そうな大鎌を軽々と振り回し、斬撃の嵐を容赦なくDエクスへと浴びせていくリア。しかしそれに負けじとDエクスも両手に握るルクナバードとグングニルを組み合わせた連撃で迎え撃ち反撃するが、素早さはリアの方が上で徐々に圧され始めていき、トドメの一撃をDエクスに打ち込もうとリアが大鎌を振り上げた。その時……

 

 

 

 

 

なごみ「――砲撃(シュート)」

 

 

―ズドオオオォッッッ!!!―

 

 

『……!』

 

 

―ガギイィッ!!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ……!!ガギイィィィィィィィィィィィィィインッ!!―

 

 

リアの死角から突如、一発の巨大な砲撃が不意を突くようにリアに目掛けて襲い掛かったのである。それに反応したリアはDエクスに振り下ろそうとした大鎌の軌道を咄嗟に変えて砲撃に叩き込み、力任せに砲撃を弾き返した。そしてその隙にDエクスがリアから距離を離してリアと共に砲撃が放たれてきた方に振り返ると、其処にはいつの間にか、マジカルルビーの先端をリアに突き付けながら佇むなごみの姿があった。

 

 

DエクスL・C『なごみっ?!何やってるっ?!早く逃げろっ!!』

 

 

なごみ「むぅ……落第点の返しですよそれは。其処は『いつもすまないなぁ』と言って、私が『それは言わない約束でしょ、アンタ?』と返すところでしょう」

 

 

DエクスL・C『こんな場面で何時も通りのボケなんてかましてる場合かぁッ!!』

 

 

不満げに口先をちょこんと尖らすなごみに対してそう怒鳴りながらグングニルを地面に叩き付けるDエクスだが、それに反してリアは落ち着いた様子で大鎌の柄の部分を肩に乗せながら、なごみに向けて口を開いた。

 

 

『君まで逃げずに向かって来る気かい?自分の世界に大人しく逃げ帰るというのなら、イレギュラーでも見逃してあげても良いと思ったんだけどね』

 

 

なごみ「有無もなくいきなり仕掛けてきた癖に、良く言います。それに生憎ですが、貴女のような傲慢かつ危険な思想の持ち主に向ける背中など、持ち合わせてはいませんよ」

 

 

『……ふっふふっ、中々耳が痛いな。でもね少女君』

 

 

―ブオォォッ……ガギイイイイィッ!!!!―

 

 

DエクスL・C『ッ!クッ!』

 

 

リアの死角へと素早く回り込んだDエクスが振るったルクナバードとグングニルの斬撃がリアに襲い掛かるも、リアは振り返りもせず背中に回した大鎌だけで安易くソレを弾き、目にも留まらぬ動きでDエクスを地べたに叩き付けて踏み付けてしまう。

 

 

DエクスL・C『グアアァッ?!がっ……!!』

 

 

なごみ「!零さんっ!」

 

 

『―――傲慢であろうが何であろうが、それを貫き通し、実現させた者が"正義"なんだよ……君なら分かるだろ、零君?それがどんなに歪んだ願望であろうと、それを叶えてしまえば誰が何を喚こうが後の祭りでしかないんだ。桜龍玉の力を行使し、この私を蘇らせてしまったようにね』

 

 

―ドッッッ……!!!!―

 

 

DエクスL・C『……ッ?!―バキャアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!!!―ウグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ?!!!』

 

 

そう呟き、まるでサッカーボールを蹴り上げるような感覚でDエクスの体を簡単に宙に浮き上がらせた次の瞬間、リアはそのまま右足を綺麗に振り上げDエクスに踵を打ち込み地面に沈没させてしまった。その内臓と骨の両方を同時に潰されるような激痛に、Dエクスは仮面の隙間から血の塊を吐き出してディケイドの姿へと戻ってしまうが、リアは追撃の手を緩めずに態勢を立て直せないディケイドにミドルキックを容赦なく打ち込み、ディケイドを横滑りに蹴り飛ばしてしまう。

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッ!!!!―

 

 

なごみ「零さんっ!!」

 

 

『……ギルデンスタンが私を蘇らせたのは確かに間違いだろう。だが、私が私の支配を遂げてしまえば、彼の行ってきた非道も正当化されてしまう。当然だ。私が支配する世界では、幻魔が我が物顔でこの世界を巣くう事になるのだからね。幻魔よりヒエラルキーが下の人間達には、それを非難する発言権すらも与えられないんだから』

 

 

なごみ「っ!ルビー!」

 

 

左足に巻かれてるホルダーから一枚のカードを素早く抜き取り、なごみはカードをルビーに翳しながらその身に光を纏ってリア目掛けて突っ込んだ。そして光が弾けてその中から姿を露わにしたのは、所々肌が露出した青い装束を身に纏い、紅い魔槍を手にした騎士に姿を変えたなごみであり、リアに肉薄すると共に紅い魔槍を突き放つ。だが……

 

 

―ガギィイイイイッ!!!ガンガンガンガンガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッッッッ!!!!―

 

 

なごみ(ッ……?!これも凌がれるっ……?!)

 

 

クラスカードに宿る英霊の力をその身に宿して放つ、神速の域のなごみの魔槍がことごとくリアの大鎌に跳ね退けられていく。それに対してリアはなごみが放つ槍の雨を凌ぎつつ、まるで余裕を表すかのように高らかに笑いながら叫んだ。

 

 

『ハハッ、大した魔力じゃないかッ!それの力の元は英霊の力のようだが、それを引き出す為の条件を軽々とこなすその膨大な魔力ッ!"一体誰の姿力を借りたのか"是非に気になるねッ!』

 

 

なごみ「ッ!何の話を……!」

 

 

『分からないのなら、今はまだ知らなくていいよっ!いずれ君にもその意味が分かる時が――!』

 

 

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

 

 

『――ッ!―ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイィッッッ!!!―グッ!!』

 

 

なごみ「?!これは……!」

 

 

リアが最後まで何かを言い切る前に一つの電子音声が屋上に響き渡り、直後に、何処からか目にも留まらぬスピードで現れた青と白の閃光がリアを切り刻むように襲い掛かったのである。そしてある程度ダメージを与えたと思ったのか、青と白の閃光はそのままなごみを抱えて猛スピードでその場から離れ、青と白の閃光の正体……キャンセラーに変身したディケイドは荒い呼吸を繰り返してなごみを地面に下ろした。

 

 

なごみ「零さん……!」

 

 

Dキャンセラー『奴の戯れ事なんかに耳を貸すなっ……!お前は此処で大人しくしてろっ!』

 

 

余裕のない声音でなごみにそう言い聞かせると共に、ダァンッ!と勢いよく地を蹴ってリアへと突っ込み刀を振りかざすDキャンセラー。対するリアも鎧の所々がボロボロに崩れ始めてるにも関わらず咄嗟に大鎌を振り上げてDキャンセラーを迎撃するが、Dキャンセラーの刀を大鎌で打ち返す度にリアの鎧が音を立てて砂糖のように崩れ、リアの頭部の甲冑の一部が崩壊し素顔が露わになる。

 

 

リア「――成る程……それが無効化とやらの力かい。こうも簡単に鎧を形成する神氣を打ち消されるとは……やはり君達の力は中々に厄介だよ」

 

 

Dキャンセラー『そうかいっ、俺の力じゃないがっ、お褒め頂き光栄、だっ!』

 

 

―ズガガガガガガァンッ!!―

 

 

リア「!」

 

 

リアの大鎌と刀で打ち合いながら空いた左手で左腰のライドブッカーを掴み取り、瞬時にGモードへと展開して足元を撃ち抜き土埃を発生させた。それによってDキャンセラーの姿を土埃で見失ってしまい、リアは正面を覆う土埃ごとDキャンセラーを切り払うように大鎌を横薙ぎに振るうも空を斬り、既にDキャンセラーの姿は何処かへと消えていた。次の瞬間……

 

 

『FORMRIDE:FAIZ!AXEL!』

 

『Start Up!』

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

リア「む?!」

 

 

頭上から突如、立て続けに無数の電子音声が響いた。そしてその電子音声に釣られリアが空を見上げれば、其処にはいつの間にか四つの紅いポインターがリアを捉える光景があり、そして……

 

 

DファイズA『デェェェェアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアアァァンッッッ!!!!―

 

 

リア「がっ、ふぅっ……!!!」

 

 

Dファイズのアクセルクリムゾンスマッシュが連続で炸裂し、無効化の力で殆どの耐久力を失ったリアの鎧を貫いていったのだった。そしてDファイズはリアの背後に着地すると共にもう一度ドライバーにカードを装填し、振り向き様にいつの間にか右手に装着していたファイズショットを勢いよく振り抜いた。そして……

 

 

『FINALATTACKRIDE:FA・FA・FA・FAIZ!』

 

 

DファイズA『オマケだっ、ついでにコイツも持っていけェッ!!!!』

 

 

『Three…Tsu…Wan…』

 

 

リア「ッ……!!ふふっ、流石にそれは遠慮しておくよォッ!!」

 

 

―ドゴオオオォォォッッッ!!!!―

 

 

DファイズA『ッ?!なっ?!』

 

 

『Time Out!』

 

 

超高速からのDファイズが全力で振り抜いたアクセルグランインパクトを、リアは振り返りもせずに素早く左腕を伸ばして安易く掴み受け止めてしまった。その光景を目にしてDファイズが目を見開くと同時に時間切れでディケイドに戻ってしまい、リアはディケイドが動きを止めているその隙を見逃さずディケイドの腕を引っ張り首を掴んで締め上げていく。

 

 

ディケイド『ぐあぁぅっ!ぐうぅっ!』

 

 

リア「中々に惜しかったね。鎧の耐久性を落とした上での連続攻撃……最後のを貰っていれば私もダメージを免れなかっただろうが、流石に見切れない攻撃じゃあない。最後の最後で詰めを見誤ったね」

 

 

そう言って今度こそディケイドの息の根を止めようとするつもりなのか、右手に持つ大鎌の刃をディケイドの後ろ首に回した。そしてそのままディケイドの首を刈り取ろうと、リアが腕に力を込めて大鎌を勢いよく引こうとした。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

「―――夢幻召喚(インストール)……ギルガメッシュ……!!」

 

 

―ジャラァアアアアアアアアアアアアッ、ガギイィィッ!!!―

 

 

リア「――っ?!なっ?」

 

 

リアがディケイドにトドメを指そうとした次の瞬間、何処から無数の鎖が飛来しリアの動きを止めるように全身へと巻き付いていったのであった。そしてそれによって身動きを封じられたリアが自分の身体に巻き付く無数の鎖を見下ろし鎖が放たれてきた方に振り向くと、其処には黄金の鎧を身に纏い、背後の何もない筈の空間から無数の鎖を伸ばしてリアを拘束するなごみの姿があったのだ。

 

 

ディケイド『ッ!なごみっ?!』

 

 

リア(ッ……!彼の暴君の鎖だと……?あの模造品、よもや此処までっ――!!)

 

 

なごみ「はっ……ッ……今ですっ、大輝さんっ!」

 

 

―バッ!!―

 

 

何処か辛そうに背後の何もない空間から伸ばした無数の鎖でリアを拘束したままなごみがそう叫ぶと共に、なごみの頭上を一人の戦士……ディエンドがカードをドライバーに装填しながら飛び越え、鎖で全身を縛り付けられ身動きが取れないリアへと素早く接近しリアの腹に銃口を突き付けた。そして……

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-END!』

 

 

ディエンド『――無効化の力で弱体化されたその鎧とこの距離からの攻撃、流石の君でも耐えられはしないだろう?』

 

 

リア「!!」

 

 

―ドッッッゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

そう呟きドライバーの引き金を引いた瞬間、銃口から最大出力のディメンジョンシュートが撃ち出されリアの身体を一瞬で呑み込み、リアを呑み込んだディメンジョンシュートはそのまま屋上の一角に着弾したと共に大爆発を起こしていった。そして、それを確認したディエンドがドライバーを下ろして溜め息を吐くと、リアの拘束から逃れられたディケイドは何度か咳込みながらディエンドを睨みつけた。

 

 

ディケイド『海道お前っ……人にばっかり戦わせてっ、自分は良いとこ取りかっ……!』

 

 

ディエンド『そんなの今更だろう?俺は君のように何でもかんでも正面からぶつかるような奴じゃないんだ。それに、敵の隙を突いて勝利を得るというのも立派な戦い方の一つじゃないか』

 

 

ディケイド『ふざけろっ、人を囮に使っておいてどの口が―ドサッ!―……え?』

 

 

すかした態度でそう告げるディエンドに身体を起こして文句を口にしようとするディケイドだが、その時、横合いから何かが倒れる音が聞こえそちらの方に振り返ると、其処には黄金の鎧の姿から元の姿へと戻り、地面に倒れるなごみの姿があった。

 

 

マジカルルビー『なごみさん?!しっかりして下さい!』

 

 

ディケイド『なごみ……?おいっ、なごみっ!!』

 

 

倒れるなごみの下に慌てて駆け出し、変身を解除して零に戻りながらなごみの傍に滑り込みなごみの身体を抱き抱えると、なごみは苦しげに呼吸を繰り返しその顔が赤く高揚しており、零はそんななごみの額に手を当てて驚愕した。

 

 

零「何だこの熱っ……?!何で急にこんな?!」

 

 

ディエンド『……恐らく、強力なクラスカードを連続して使った反動だろうね』

 

 

零「……何?」

 

 

何かを知っているような素振りで歩み寄って来るディエンドの言葉を聞き、零が険しげにそう聞き返すと、ディエンドはなごみの傍に浮遊するルビーを指差した。

 

 

ディエンド『彼女がさっき使った夢幻召喚というのは、本来ならそう簡単には行使する事は出来ない高度な力……クラスカードというカードの真の力だ。だが、それを引き出すにしても力を行使するにしても、戦い慣れしていないなごみには負担が大きすぎたのさ。他の英霊より強大な力を持つ英雄王のカードなんて物は、特に大きいだろうしね』

 

 

零「なっ……お前っ、其処まで知っていながらなごみがカードを使うのを止めなかったのかっ?!」

 

 

ディエンド『幻魔神の動きを止めるには、そのカードの天の鎖の力がどうしても必要だったのさ。あのままじゃ君まで殺されていたし、しょうがないだろう?』

 

 

零「しょうがないで済むのなら管理局なんかいらないんだよっ!クソッ!だから戦いになんか巻き込みたくなかったのにっ……!」

 

 

腕の中で苦しげに荒い呼吸を何度も繰り返すなごみを悲痛な顔で見下ろし、彼女にこんな無茶をさせるような状況を作ってしまった不甲斐ない自分を責めつつも、零は自分が着ている血の付いたボロボロの革ジャンを脱いでなごみの身体に包ませながら立ち上がると、両腕に抱えるなごみをディエンドに預けた。

 

 

零「とにかくっ、なごみを連れて早く此処を離れろっ。まだ下の階にアシェン達がいる筈だから、アイツ等と合流するんだっ」

 

 

ディエンド『?俺に彼女を運べと?』

 

 

零「こうなった責任はお前にもあるだろうがっ!良いから急げっ!アシェン達と合流した後は木ノ花かドールになごみを治療させるんだっ!その間に俺はっ……―バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―……ッ?!」

 

 

ディエンドにアシェン達と合流しなごみを治療させるように零が言い付ける中、けたたましい爆発音が突如その場に響き渡った。その爆発音に二人も驚愕して思わず振り返ると、其処には今の爆発音の正体の爆発で発生した黒煙が漂っており、そして……

 

 

 

 

 

 

リア「――参ったねぇ……ライダーとは言え人間相手だからと甘く見ていたけど、君達相手に油断し過ぎていたようだ……これじゃ、フォーティンブラスを笑えないなぁ」

 

 

 

 

 

 

……その黒煙の中から、鎧の大半を破壊されボロボロの姿になっているにも関わらず、笑みを浮かべながら未だ余裕を崩さないリアが悠然とした足取りでその姿を現したのであった。

 

 

ディエンド『なっ……馬鹿な……あの距離からの攻撃で、殆どダメージがないのかっ?!』

 

 

リア「……鎧を失った程度で、私に攻撃が通りやすくなっているとでも思ったのかい?残念だがそれは君達の目論みが甘かったよ……私はフォーティンブラスのように神氣ばかりに頼って、自身を鍛えてこなかった訳じゃない。忘れたのか?私は"初代"で、幻魔を導く為にこの身を神にしたんだ、自分の力でね?」

 

 

零「ッ……!クッソッ……早くしろ海道っ!!なごみを安全な場所にっ――!!」

 

 

この緊張の場面に似つかわしくない、柔らかい笑みを向けて来るリアを見て戦慄を覚えながらドライバーを再び装着していく零だが、リアはそんな零達に笑みを向けたまま何処からか出現した一本の剣……あの事件で零が姫を守ろうと立ち塞がった際、フォーティンブラスが使用して零を斬り伏せた銀色の魔剣と酷似した黄金の剣を右手に握った。

 

 

零「ッ?!それは……?!」

 

 

ディエンド『魔剣ディスクゥエル?!』

 

 

リア「の原典(オリジナル)だよ……フォーティンブラスも使っていたあの剣は、二代目の幻魔神がこの剣をモチーフにしたモノでね。銘は特にないのだが、そうだね……テフィラー、とでも付けておこうか?」

 

 

テフィラー……ヘブライ語で『祈り』の意味を持つ剣を手にしながら笑い、リアはテフィラーを高らかに天へと掲げていく。すると次の瞬間、その動作を合図と取ったかのようにテフィラーの刀身から膨大な神氣が螺旋を描いて勢いよく溢れ出し、まるでテフィラーとリアを中心に渦を巻くように踊り出す。

 

 

――――その光景を前に、零とディエンドは確かに、本能的に自身の命の危機を感じ取った。

 

 

零「は………海道ォオッッ!!!!!」

 

 

ディエンド『っ――!!!言われなくてもっ!!!!』

 

 

一瞬、呼吸をするという当たり前の事を忘れてしまっていた零が全力で叫ぶと共に、ディエンドがなごみをしっかりと抱え直しながら全力で背を向け走り出し、零も"アレ"を放とうとしているリアを急いで止めようとライドブッカーから取り出したカードをバックルに捩込むようにセットしながら飛び出した。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

リア「逃がしはしないよ?君達の危険性を再確認した以上、最早加減はしないと決めたからね……正真正銘の神の一撃、君達に見舞わせよう」

 

 

変身して正面から全速力で向かって来るディケイドに目もくれず、リアの右腕がユラリと動く。まるで指を指すような気軽な感覚で、テフィラーの切っ先をディケイドに向け、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

白い光がディケイドの視界を覆い、唐突に、彼の意識がそこで途絶えたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑪(前編)

 

―廃ビル・七階フロア―

 

 

―……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォォォンッッッッ……!!!!!!!!―

 

 

魚見「―――ッ?!!」

 

 

姫「な、何だっ?!!」

 

 

そして、リアの放った光が零達を襲ったと共に、姫と魚見が残る七階フロア……いいや、この廃ビル自体が巨大な揺れに襲われていた。このビルが崩れてしまう。そんな不安と恐怖を思わずにはいられない程の巨大な振動に姫と魚見が必死に耐える中、何かの作業を続けていたドールが手を止めて天井を見上げた。

 

 

ドール「む……どうやら、屋上辺りで何か起きたようですね……しかもこの強大な神氣、零さん達の身に何か起きたのか」

 

 

姫「っ……!零、なごみっ……!」

 

 

この揺れの原因であろう今の爆発音が、零達を襲った物の正体なのか。ドールの呟きを聞いて零達の安否が気になる姫が不安げに天井を見上げると、そんな姫を背中越しに見たドールは揺れが収まったのを確認してから作業を再開し、ふぃー……と一息吐きながら立ち上がって姫へと歩み寄った。

 

 

ドール「姫さん。ホイ、これ」

 

 

姫「……え?」

 

 

ポイッ!と、まるで友人が差し入れのジュースを送るような感覚でドールが投げ渡したのは、掌の形をした金色のバックルのような物と、姫も知らないライダーの顔を模したローズレッドの勾玉の指輪と手形の絵柄が刻まれた指輪だった。

 

 

姫「?これは……?」

 

 

ドール「改良が一通り済みましたので、持ち主の姫さんにお返ししようかと思いまして。姫さんの籠手♪」

 

 

姫「……はっ?これが私の籠手っ?!ちょっと待て、何かいつの間にか形が大分変わってしまっているぞっ?!何をやったっ?!」

 

 

ドール「いやぁ、最初は単に旧式のライダーシステムですから、何処か不備な点がないか点検してついでに改良しようかなぁみたいなノリだったんですけど、改良を進めてく内に段々調子が乗り始めて来ましたね?指輪と籠手の力を合わせるっていうシステムから知り合いのライダーを思い出して、元からあったシステムをそのライダーのベルトのシステムにより似せたり、フォームの改造とかしたり、指輪を増やして技や武器を増やしたりとか……んで、そうやって籠手にチョチョイと手を加えたら、ちょーーっと改良のし過ぎで、ベルトに形変わっちゃいました。てへ☆」

 

 

姫「てへ☆……じゃあないだろっ?!どうしてくれるんだっ?!勝手にこんな事をしてっ?!」

 

 

ドール「うんにゃんにゃ、心配いりませんよ。姿形は変わっても、それは姫さんが以前使っていたと力と大して変わりませんし。それに……怪人なんて呼ばれていたものを生まれ変われさせるなら、調度いい機会かと思いましてね」

 

 

姫「……!」

 

 

戯けるように片目を伏せてそう告げるドールの言葉に何か気付いたのか、両手に持つ掌の形の金のバックルと指輪を見下ろすと、魚見に目を向けていく。

 

 

ドール「資格認証は姫さんのままですので、姫さんが使う事も可能です。無論、それを『変える』事も。後はどうするかは、姫さんが決めて下さいな」

 

 

姫「…………」

 

 

わざとらしくそう口にするドールに姫は何も答えない。だだ、バックルと指輪を持ったまま歩き出し、魚見の前に立って彼女と目線を合わすように屈んだ。

 

 

姫「魚見……」

 

 

魚見「……行ってあげて下さい、咲夜……彼等だけでは、不死の幻魔神を倒す事は出来ない……私の事を気に掛ける必要はありません」

 

 

姫「…………」

 

 

確かに、アマテラスにならなければ不老不死の幻魔神を零達だけで倒すのはほぼ不可能だろう。例外があるとすれば零の中の破壊の力のみだろうが、彼がその力を使う事に否定的な上、力を行使すれば零の身に何か起こらないとも限らない。だから手遅れになる前に、零達の下に急げと促す魚見の言葉を聞き、姫は……

 

 

姫「――勿論彼等を助けに行くつもりだ……ただし、お前も一緒にな」

 

 

魚見「……え……?」

 

 

真剣な眼差しで、真っすぐ魚見を見据えながら静かにそう告げた。そしてそれを聞いた魚見も怪訝な表情で姫に問い返すと、姫は無言のまま掌の形のバックルを魚見の腰に押し当てていき、バックルはベルトとなり魚見の腰に装着された。

 

 

魚見「咲夜……?!」

 

 

姫「―――正規の資格者、桜ノ神・木ノ花之咲耶姫の登録を削除……次の資格者を水ノ神・市杵宍姫ノ命に変更……」

 

 

魚見「な、何をやっているんですか!止めて下さい!」

 

 

バックルに手を当てて姫が何をしようとしているのか気付き、すぐさま姫の手を掴んでバックルから離そうとする魚見だが、姫はバックルを力強く掴んだまま更に呟く。そして……

 

 

姫「以後、資格者を彼女に固定……承認、完了」

 

 

―パキイィィィィンッ!!―

 

 

何か弾けるような音と共に、魚見の腰に巻かれたバックルから淡い光が放たれ、掌の形のバックルはベルト部分が消滅し、右手の形をした普通のベルトへと擬態していったのだった。

 

 

ドール(ふむ……やっぱりそういう形にしましたかい、実に姫さんらしい)

 

 

彼女が行ったのは、桜ノ神専用のライダーシステムの使用条件と資格者の変更。つまり、桜ノ神にしか使えないという条件を破棄し、次なる装着者に魚見を選んだという事なのだ。しかし……

 

 

魚見「咲夜、何故ですかっ……これは本来貴女が使うべき物ですっ!それなのに、どうして私なんかにっ!」

 

 

詰まる所それは、桜ノ神に合わせて作られたライダーシステムの力の劣化にしか過ぎない。本来の資格者である姫が使えばその真価は発揮され、零や他の人間達に頼らずとも、彼女一人で幻魔神を倒す事は可能の筈なのに、何故こんな愚策に走ったのか。その意味を込めて魚見が問い詰めると、姫は魚見の腰のバックルを眺めながら……

 

 

姫「確かに、それを使えば私一人でも幻魔神は倒せるかもしれない……だがそれでは何の解決にもならないし、私にそれを使う資格はそもそもないんだ」

 

 

魚見「……え?」

 

 

ポツリとそう告げた姫に、魚見が呆然とした声で再び怪訝な表情を浮かべると、姫は徐に立ち上がって魚見の目を見つめながら言葉を続けた。

 

 

姫「私は……私一人の力では、この世界を守る事も出来なかった。零や他の皆の力を借りて、必死になって、それで漸く平穏を取り戻して……そうしなければ、世界一つも守れない情けない奴なんだ、私は」

 

 

魚見「っ……しかしそれは――」

 

 

姫「籠手がなかったから、なんていうのは言い訳にはならない……いつ如何なる時も、全ての災厄から人々を守る……それが籠手の力がなかったから果たせなかったなどと、何が守り神か……」

 

 

グッと力強く握り締めた拳を見下ろして自分の無力さを噛み締めるように語ると、姫はローズレッドの仮面の戦士の顔を象った指輪を眺めていく。

 

 

姫「一人で世界も守れず、神界から永久に追放された私に、守り神の証であるこの力を使う資格はない……」

 

 

魚見「……それを言うなら、私も……」

 

 

姫への償いの為にと、神界や町を再び騒がせた自分にこの力を使う資格はない。普通のベルトに擬態にしたバックルに触れ魚見がそう考える中、姫は指輪を握り締めて魚見を見据えながら……

 

 

姫「確かに……桜ノ神……木ノ花之咲耶姫としては、平穏を乱したお前のやり方を認める事は出来ない……だが――」

 

 

スッと、言葉を区切り、姫は徐に魚見に向かって頭を下げた。

 

 

魚見「?さく……」

 

 

姫「―――親友として……"咲夜"として……お前には感謝してる……私なんかの為に、禁を破ってまで助けようとしてくれて……追放された私の代わりに、ギルデンスタンと戦ってくれて……有り難う……」

 

 

魚見「……ッ……!」

 

 

桜ノ神としてでなく、彼女の親友の咲夜として、自分の為に戦ってくれた魚見に素直な気持ちを口にし礼を告げた姫。そんな姫の言葉を聞いて魚見も目を見開きながら僅かに息を拒むと、姫は静かに魚見に左手を差し出した。

 

 

姫「お前が動いてくれなければ、救えなかった命があったのも、今よりもっと事態が深刻化していたかもしれないというのも事実だ……だから私も、お前や零だけに全てを背負わせたりはしない……一緒にケリを付けよう。幻魔神を倒して、神界に戻って、今度は私が……お前を助ける」

 

 

魚見「……咲夜……」

 

 

神界に戻って上役達の批難を浴びせられる事になろうとも、今度は自分が魚見を助けてみせる。その為にも先ず、共にこの事件を解決しようと手を伸ばす姫に、魚見は一度顔を俯かせて瞼を伏せたあと困ったように微笑し、姫の手を掴んで徐に立ち上がった。

 

 

魚見「全く……貴女も彼も本当に、何処までもお人良しが過ぎますね……それを伝える為だけに、彼と一緒に行かなかったのですか?」

 

 

姫「友人を見捨てておくほど冷酷にはなれないさ……私がこういう奴だと、お前も嫌というほど知ってるだろう?」

 

 

魚見「……えぇ、そうでしたね……そんな貴女だからこそ、貴女と彼は引き合ったのかもしれません……」

 

 

類は友を呼ぶとは、正しく二人の事を言うのだろうと思い苦笑いを浮かべつつ、魚見は姫の目を真っすぐ見つめ返しながら小さく頷き返した。

 

 

魚見「分かりました。戦う術を与えてくれるなら、私も戦います……それに傍でちゃんと貴女達を見ておかないと、また無茶をするのではないかと不安で不安で仕方がありませんから」

 

 

姫「ふふっ……お前だって、私や彼の事を言えないぐらいお人良しじゃないか」

 

 

魚見「そうさせたのは彼と貴女ですよ……行きましょう、咲夜」

 

 

姫「ああ……今度は一緒に、な」

 

 

そう言いながら頷いて姫がローズレッドの指輪を投げ渡すと、魚見はそれを受け取って指輪を眺めながら決意を新たに姫に力強く頷き返し、左手の中指にローズレッドの指輪を静かに嵌めていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―廃ビル・屋上跡―

 

 

――リアの剣から放たれた全てを飲み込む白光。その破壊力は、零達がいた屋上を跡形も残さず消滅する程の凶悪なモノだった。

 

 

それにより屋上の45階から19階に掛けてのフロアが崩壊してしまっているが、それはリアの剣から放たれた光の威力の余波に過ぎない。

 

 

テフィラーから放出された白光は射線上の障害を全て薙ぎ払って直線に突き進み、廃ビルから数十キロほど先にある山々が木っ端微塵に消し飛び、更にその先に広がる海の水平線の先まで海を真っ二つに引き裂いてしまっていたのだ。しかし……

 

 

リア(……テフィラーが力を放出する寸前、紙一重で私に接近して剣の切っ先の軌道を強引に変えたか……人間の執念とは侮り難い物と思っていたが、此処までとは思わなかったな……)

 

 

そう、本来ならリアはこの建物ごと零達を消し飛ばすつもりだったのだ。それによりイレギュラー達を全て一掃するのが目的だったのだが、それが出来ず建物が未だ健在なのは、捨て身で自分に肉薄しテフィラーの剣の軌道を無理矢理変えた大馬鹿者による邪魔があったからだ。

 

 

リア「私が仕留めると決めてし損じるとはな……いや、君の無鉄砲さには頭が下がる……一体どうしてこんな無茶が出来るのか」

 

 

ズタズタに引き裂かれた様に無惨な姿に変わり果てた屋上跡の中央で、何事もなかったようにテフィラーを眺めながら佇むリアがそう言いながら目の前に視線を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

零「………………ッ………………ゥ………………」

 

 

 

 

 

全身の皮膚が焼き焦げ、肉が裂け、血だまりの中に手足を投げ出してグッタリと倒れ込む零の姿があった。意識が朦朧としているのか立ち上がろうとする気配はなく、リアはそんな零へと歩み寄りながら上半身の砕かれた鎧を脱ぎ捨てていく。

 

 

零(っ…………なごみ…………海道は…………無事に、逃がせたのか…………?―ガシッ!―グッ?!)

 

 

暗転する意識の中でなごみの安否を気に掛ける中、零の身体が不意に持ち上げられ思考を遮られてしまう。そして、零の襟首を掴んで持ち上げたリアはその口元に笑みを浮かべながら口を開く。

 

 

リア「ほんと、君には驚かされるよ。元素の塵にまで分解される神の一撃……テフィラーの光を正面からまともに受けて原形を保っているとは……やはり、君の中に宿る"ソレ"の恩恵が原因なのかな?」

 

 

―ズシュウゥッ!!―

 

 

零「ッ?!!ガッ……ァッ……!!!」

 

 

小首を傾げてそう問い掛け、零の左胸にテフィラーの切っ先を躊躇なく突き付け匙加減に捩込むリア。そのあまりの激痛に零もリアの手から逃れようと必死に身を捩らせてもがくと、リアは零の左胸からテフィラーを離し、テフィラーの刃で傷付き出血する零の左胸を見て目を細めた。

 

 

リア(すぐに再生能力は働かない、か……この因子は完全に覚醒し切っていないのか、或いは彼の意思とは別に力が働いているのか……いずれにせよ、このままこの力に完全に成長されては、今より厄介になるのは間違いない……今の内に仕留めておくのが吉か)

 

 

この男の危険性が今だけに留まると限らない。今以上に危険な存在になる前に芽を摘んでおくのが幻魔……いや、世界の為だろうと、テフィラーの切っ先を零の左目……破壊の因子に狙いを定める。

 

 

リア「潰すのなら、先ずはその目からの方が良さそうだね。君を殺した瞬間に、道連れでこの世界まで破壊されては堪ったものではないし」

 

 

零「………………」

 

 

リア「何か言い残すことはないかい?君の仲間に伝えたいことがあれば、私の方から言っておくが……」

 

 

せめてもの慈悲のつもりなのか、左目にテフィラーを突き付けたままリアがそう問い掛けるが、それに対して零は前髪で表情を隠したまま薄い笑みを浮かべて静かに笑った。

 

 

リア「……?何が可笑しい?君を笑わせるような事を言ったかな、私は?」

 

 

零「フフッ……いいや……ただ単に、俺も随分買い被られたモノだと思ってな……そんなに俺の中のコイツが恐ろしいのかっ……?」

 

 

リア「……恐ろしいかそうでないで言えば、そうだろうね。君のソレは万物全てを破壊する殺戮の力だ……加えて、ソレがどのような進化を遂げるのかは私にも予想出来ない。どれほどの危険度を持っているか計り知れない以上、真っ先に君は潰しておくべきだろうさ」

 

 

零「……それは光栄なこった……だがな、お前は一つ勘違いしてるぞ……」

 

 

リア「……?」

 

 

うっすらと笑みを浮かべる零の言葉に頭上に疑問符を浮かべるリア。すると零は前髪の奥の瞳でそんなリアを射抜くように見据えて、淡々と語り出した。

 

 

零「真っ先に潰さなきゃならない相手を、お前は既に間違えてるって話だ……俺一人の力なんてのは、所詮フォーティンブラスを倒す事も出来ないぐらい貧弱だ……本気でこの世界を手中に収めたいなら、俺を狙うよりも、もっとそれ以前に潰すべき相手がいただろうよ……」

 

 

リア「?君以上の脅威なんてそうそういないと思うが、一体誰の話だい?異世界の人間か?それとも断罪の神達の事か?」

 

 

零「ハッ……決まってるだろ……」

 

 

本当に何も分かっちゃいないと嘲笑しながら、リアを睨み返しながら零はハッキリとこう告げた。

 

 

零「何百年も前からお前等と戦い続けている……この世界の『守り神』だっ……」

 

 

―バッ!!―

 

 

『ハアァッ!!』

 

 

リア「!―バキイィッ!―くっ……!」

 

 

零がリアにそう言い切ると共に、横合いから突如二人の人影が飛び出してリアに不意打ちの跳び蹴りを放ち、リアはそれを受けて零から手を離し後方へと後退りさせられた。そしてリアが目の前に視線を向けると、其処には……

 

 

姫「――すまない零、少しばかり遅れてしまった」

 

 

零「ッ……遅すぎだろ……とっくに主役の登場を盛り上げてやってたのに、危うく殺され掛けたわ……」

 

 

魚見「主役は遅れてやってくるものでしょう。遅れたことに関しては素直に謝罪しますが」

 

 

倒れる零の前に着地し、零の身体を抱き起こす二人の女……零を追ってきた姫と魚見の姿があったのだった。

 

 

リア「桜ノ神に水ノ神……君達まで来たのか」

 

 

魚見「……?彼女は?」

 

 

零「……初代幻魔神のリアだそうだ……言うなれば、フォーティンブラスの祖先って奴だな」

 

 

姫「初代?……成る程な、通りでフォーティンブラスの奴とは気配が違うと思ったが、ギルデンスタンの奴が蘇らせたのはアレだったのか」

 

 

此処に来る前から既にリアの気配を感じ取って疑問を覚えていたのか、零から話を聞いて漸く合点が言ったと納得したように頷く姫。そしてリアはテフィラーを肩に担ぎ、姫と魚見を交互に見つめながら溜息混じりに口を開いた。

 

 

リア「それで、今更一体何しに出て来たんだ?自分で言うのもなんだが、君達が揃ったところで私に敵いはしないのは分かり切ってるだろう……同じ神格である君達なら、此処に辿り着く前に私の神氣を感じ取った時点で、それは読み取っていると思ったのだが……」

 

 

嫌味や上からの物言いではなく、正真正銘の真実を口にするように告げて溜め息を吐くリア。実際に言えば、リアは確かに二人よりも数段格上の神格だ。今更、二人が揃ったところでリアには敵わない。だが……

 

 

姫「ああ、頭に来るが確かにその通りだ。だが……」

 

 

魚見「どう足掻いても敵わない……と決め付けるのは、まだ早計でしょう。少なくとも、貴女と実際にこうして対峙して、貴女に勝てないと感じてはいません」

 

 

リア「……それはただ単純に、君達が私の恐ろしさを身を持って実感していないからだ。悪い事は言わない、今すぐ手を引け。私もイレギュラー以外と、無駄に争うような真似はしたくないんだ」

 

 

格下、それもイレギュラーではない者達の戦うつもりないと、リアは姫と魚見に興味を向ける素振りすら見せない。しかし……

 

 

零「――随分人を見る目がないんだな、お前」

 

 

リア「……何?」

 

 

馬鹿にするように軽く鼻を鳴らしながらそう告げた零の言葉を聞き、リアが怪訝な顔つきで零に目を向けると、零はふらつきながら上体を起こし言葉を続けた。

 

 

零「さっきも言ったハズだろう?本気でこの世界を手中に収めたいなら、先ずは俺よりも真っ先に潰さなければならない奴らがいるってな……」

 

 

リア「……守り神……まさか、彼女達の事かい?ふふ、それだったら何の問題もないよ。彼女達では私には――」

 

 

零「その認識が、お前の間違いだと言ってるんだ」

 

 

笑みをこぼすリアの言葉を遮るようにそう言うと、零は姫と魚見の間に立ち姫を顎で差した。

 

 

零「あの戦いでフォーティンブラスを倒せたのは、俺の力なんかじゃない。偏にコイツを救う為に集まった仲間達と、そいつ等とこの世界を守る為に、身を全て投げ打った桜ノ神の力があったからこそだ……じゃなきゃ、俺も今ごろは此処に立ってはいなかった」

 

 

姫「…………」

 

 

その言葉を聞き、姫の脳裏に心臓を貫かれて死ぬハズであった零の姿が過ぎる。そして零はそんな姫から目を逸らし、魚見に目を向け言葉を続けた。

 

 

零「そしてそれは、コイツも同じだ。コイツもまた、大事な親友とやらとそいつが守った世界を守る為に、償いの為に、自分の全てを掛けてギルデンスタン達と戦ってきた……褒められたやり方じゃなかったのは確かだが、コイツのその心に、嘘偽りなんてない」

 

 

魚見「……!ディケイド……」

 

 

驚いたように僅かに目を見開いて魚見が振り向くと、零は真剣な眼差しでリアを見据えながら前髪をかき上げて前に出た。

 

 

零「分かるか、初代幻魔神……幾らイレギュラーって奴を潰そうが、そんなのは関係ない。この世界には、自分全部をかなぐり捨ててまで誰かを守ろうとする大馬鹿な奴らがいるんだ……お前やフォーティンブラスみたいな連中がこぞって攻めて来ようが、コイツ等はお前達には屈したりしない。お前が真っ先にコイツ等を潰してれば、俺もお前に勝てる術はなかっただろうに……優先順位を見誤ったな」

 

 

リア「……そういう事か……なら――」

 

 

ブオオォォッ!!と、リアは右手に握るテフィラーを振るって突風を起こしながら戦闘態勢に入り、零達と対峙した。

 

 

リア「――此処で、君達を纏めて倒しさえすればいいだけの話だろう?圧倒的な絶望を味わせて、ね」

 

 

零「残念だが、それはもう不可能だ。俺達が揃ったからにはな……」

 

 

魚見「ええ……」

 

 

『driver on!now!』

 

 

零の言葉に頷きながら魚見が中指に指輪を嵌めた右手を腰の掌の形のバックルに当てると電子音声が響き、それと共に掌の形のバックルが金色のベルトに変化していき、そこから更にバックル横のレバーを操作して中央部の掌形のバックルを左手側にスライドさせた。

 

 

『shabadwubi touch henshin!shabadwubi touch henshin!』

 

 

魚見「桜ノ神も、ディケイドも、この世界の人々も、貴女にやらせはしない」

 

 

姫「守り神の意地という奴を、お前にも見せてやるさ……ただでやられてはやらないぞ?」

 

 

リア「……君達のその強さ、一体何処から来るのか分からないな。何なんだい、君達は?」

 

 

零「とっくにご存知だろ?通りすがりの仮面ライダーと……」

 

 

姫「桜ノ神、木ノ花之咲耶姫。そして……」

 

 

魚見「水ノ神、市杵宍姫ノ命です」

 

 

『憶えておけっ!変身っ!』

 

 

『AMATERAS!DECADE!』

 

『gouka!now!』

 

『gou!gou!gou-gou-gou!』

 

 

零はディケイドライバーにカードをセットして姫と共にディケイド・アマテラスフォームに変身し、魚見は左手の中指に嵌めたローズレッドの指輪の目の部分に当たるカバーを下ろした後にバックルに左手をタッチすると、鳴り響く電子音声と共に左手を真横に翳し、真横に出現した朱い魔法陣を潜り抜けていく。

 

 

そして魔法陳を潜り抜けると、魚見の姿は東洋の鎧に西洋の魔法使いのデザインが組み合わったような金色と朱の戦士……朱のラインが走る金色のボディに鎧武とファムを足して二で割ったような仮面、ウィザード・ドラゴンスタイルに酷似した勾玉を模した肩パーツに、鎧武の脚部とドラゴンスタイルのローブを持った怪人Sの生まれ変わった姿、『聖桜』に変身したのであった。

 

 

リア「面白い……ならば見せてくれ。君達が何処まで、この絶望に耐えられるかをっ!!」

 

 

ディケイドA『そう簡単に絶望したりはせんさ。さぁ……』

 

 

『connect now!』

 

 

聖桜は右手の指輪を外して左腰のリングホルダーから新たな指輪を取り出し右手の中指に装着すると、バックル横のレバーをスライドさせてバックルを右手側に切り替え、バックルに左手をタッチさせる。そして、電子音声と共に右手を横に向けて朱い魔法陣を出現させると、その中から銀色の剣……ウィザーソードガンを取り出し、手形のパーツを開いて左手でタッチした。

 

 

『gouka!Change now!』

 

 

聖桜『ショータイムです……決着を着けましょう、幻魔神!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共に、業火の炎を放つ朱い魔法陣がウィザーソードガンを潜り抜け、ウィザーソードガンは一本の朱い太刀……真炎龍剣に変化していき、聖桜は真炎龍剣を握り締めながら桜神剣を構えるディケイドと共に地を勢いよく蹴り、リアへと斬り掛かって戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑪(後編)

 

―廃ビル・屋上跡―

 

 

リア「小細工無しに正面から来るか……その意気や良しだが、それだけではなぁッ!!」

 

 

―バゴオォオオオオオオオオオオオォッ!!!!―

 

 

それぞれの武器を手に正面から全力で突っ込んで来るアマテラスフォームに姿を変えたディケイドと聖桜に、リアがテフィラーを振りかざし白光を撃ち放つ。だがそれに対する聖桜の対応も素早く、リアが迎撃態勢を取った瞬間を見てすぐに右手の指輪を取り替えバックルにタッチした。

 

 

『defend now!』

 

 

―ドゴオォオオオオオオォンッッッ!!!!―

 

 

リア「!障壁か……!」

 

 

電子音声と共に聖桜が正面に右手を突き出すと、迫り来る白光と二人の間に朱い魔法陣が展開され、けたたましい轟音を響かせながら白光を受け止めた。そしてディケイドは白光を防いだ魔法陣を真横を抜けてリアに目掛け疾走し双剣に切り替えた桜神剣を振り上げ、リアも瞬時にテフィラーを振るい桜神剣と激突した。

 

 

―ガギイイィィッッ!!!ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイィッッッ!!!!―

 

 

リア「ははっ、凄いなッ!さっきまでとは動きが段違いじゃないか零君ッ!」

 

 

ディケイドA『ッ!』

 

 

咲夜『こいつ、アマテラスの動きに食いついて来るかッ!』

 

 

アマテラスに強化変身したディケイドが雷の如く次々と振りかざす斬撃を歓喜の笑みと共に安易く弾き返しながら反撃してくるリアに、ディケイドの中の咲夜もリアの規格外さに驚きを隠せないでいる。しかし、既にリアと一戦を交えているディケイドは冷静にリアの剣撃を捌きながら右手の桜神剣で斬り掛かるが、リアはソレをテフィラーで受け止めながら空いた左手の拳を振り抜いてディケイドに殴り掛かった。だが……

 

 

―ドンッ!!―

 

 

リア「む……?!」

 

 

『cho-iine!』

 

『finisshu strike!saiko-!』

 

 

聖桜『ハァァアアアアッ!!』

 

 

ディケイドはリアが放った左拳に対して咄嗟に蹴りを放ち、そのままリアの馬鹿力を利用して後方へとバク宙して後退したのである。更にその次の瞬間、新たに別の指輪を嵌めた右手をバックルに当てた聖桜が業火を纏った真炎龍剣を両手に構えながらバク宙するディケイドの真下を素早く潜り抜け、そのまま無防備のリアに大剣を振るって業火の炎を叩き込んでいった。

 

 

―ドッガアァアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアァァンッッッ!!!!!!―

 

 

リア「がぐっ!ぐっ、まだ、まだ……だよッ!!」

 

 

鎧を脱ぎ捨てた故に、尋常ではない熱と炎が肌を直接焼き焦がし、神氣を纏った爆炎となってリアの身体を焼き尽くそうとする。だが、それで倒れるほど彼女も柔ではなかった。苦悶の声を上げそうになる口を噛み締めながらテフィラーの刃で爆炎を斬り裂いてすぐに脱出するが、聖桜は既に離脱して目の前にはおらず、代わりに後方まで後退したディケイドが一つに連結させた桜神剣の柄の部分の銃口の照準をリアに定め……

 

 

ディケイドA『吹っ飛べッ……!!』

 

 

―バシュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!―

 

 

リア「その気はないよぉッ!!」

 

 

テフィラーを振るった態勢を咄嗟に戻せないであろうリアに銃口から巨大な砲撃を撃ち放つディケイドだが、リアは笑みを崩さぬまま先程使っていた大鎌を右手に出現させながら振り上げ砲撃を消し飛ばしてしまい、瞬時に大鎌を再び消してテフィラーを振りかざしながらディケイドに目掛けて突進した。だが……

 

 

『bind now!』

 

 

―ジャラアァァッ!!ガシイィッ!!―

 

 

リア「……むっ!」

 

 

後方から響く電子音声と共に、突如無数の銀色の鎖がリアに襲い掛かり、彼女の身体に巻き付いてその動きを止めたのだった。

 

 

そしてリアが自身の身体に巻き付く鎖を見下ろしその鎖が放たれる背後へと振り返ると、其処には、右手を突き出して周りに出現した四つの魔法陣から無数の鎖を伸ばして操る聖桜の姿があり、聖桜は鎖を操りリアを捕縛したまま左手にブルーの指輪を身に付け、バックル横のレバーをスライドさせて左手側に切り替えたバックルに左手をタッチさせる。

 

 

『ikazuchi now!』

 

『biribiribiri!biriririri!』

 

 

まるで歌を歌っているかのような奇妙な電子音と共に聖桜が頭上に左手を向けると、青白い魔法陳が頭上に現れてゆっくりと降下し、聖桜はその魔法陣を頭から潜り抜けていく。そうして魔法陣を抜け切ると、聖桜の姿は深紅の稲妻の意匠が彩られた武者の鎧を模した蒼のボディ、ウィザード・ウォータードラゴンと息吹鬼を足して二で割ったような仮面の姿……雷の属性を司るイカヅチスタイルに姿を変え、聖桜はすぐに真炎龍剣から元に戻った右手のウィザーソードガンの手形パーツを開き左手でタッチした。

 

 

『ikazuchi Change now!』

 

 

リア「ッ!何をする気かは知らないが、阻止させてもらう……!」

 

 

―バキイィイイイイッ!!―

 

 

ディケイドA『邪魔はさせるかっ!!』

 

 

電子音声と共に、魔法陣を潜り抜けて蒼い異形の刀へと変化したウィザーソードガン……真雷斬刀を構える聖桜を見て、力任せに自身を捕縛する鎖を引きちぎり聖桜に再攻撃を仕掛けようとするリア。しかしそれを阻止しようとディケイドは再び桜神剣を双剣にしリアに向けて疾走して剣を振りかぶるが、リアもそれに対して咄嗟に左腕を振り上げ、足元の床を殴り付け一同の足場を粉砕してしまった。

 

 

―ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオォンッッッッッッ!!!!!―

 

 

咲夜『クッ?!生身の拳で床を粉砕するとはっ!』

 

 

ディケイドA『馬鹿力がっ……!!』

 

 

たったのワンパンチで階層ひとつ分を崩壊させたリアの規格外なパワーに苦虫を潰したような顔を仮面越しに浮かべるディケイド。床を崩壊された際に発生した土埃が辺りを覆って敵の姿は捉えられず、ディケイドとリアはそのまま無数の瓦礫と共に破壊されたフロアのすぐ真下の階層へと落下してしまうが……

 

 

『ikazuchi!』

 

 

―バリイィッ!―

 

 

リア「!―ガギイイィィッ!!―ちぃ!」

 

 

リアが着地した直後に背後から電子音声が響き渡り、一筋の蒼い雷光が頭上から降り注ぐ無数の瓦礫をジグザグの動きでかわしながら信じられぬ速さでリアへと襲い掛かったのだ。それに反応したリアもすぐさまテフィラーで蒼い雷光の一撃を凌ぐが、蒼い雷光はリアのすぐ真後ろで人の形……聖桜の姿となり、レバーをスライドさせてバックルの手形を右手側へと切り替え、右手に嵌められた指輪をバックルにタッチさせた。

 

 

『cho-iine!』

 

『finisshu strike!saiko-!』

 

 

聖桜『ハアァッ―――!!!!』

 

 

―ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッッッ!!!!!ドバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッ!!!!―

 

 

リア「ァッ―――!やる、がまだぁッ!!!」

 

 

―ブザアァァッッ!!!!ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッ!!!!!―

 

 

雷を纏い、雷鳴の如く速さで振り下ろされた真雷斬刀の連続攻撃がリアの身体に叩き込まれ、最後の一刀が振り下ろされた際に放たれた巨大な雷撃がリアの身体を焼き焦がす。正確に急所を狙い打ち込まれた斬撃。しかしリアも全身から流血しつつも絶命には至らず、目前の聖桜を薙ぎ払うように白光を纏ったテフィラーを勢いよく振るうが、聖桜は咄嗟に身を屈めてそれを回避し、避けられた白光はフロアの壁全てを木っ端微塵に吹き飛ばし一瞬で見晴らしの良い屋外に変えてしまった。その時……

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

リア「!!」

 

 

今度は頭上から二つの電子音声が鳴り響いた。リアが空を見上げると、其処には今の広範囲攻撃を跳躍で回避したディケイドが月を背に飛び降り、業火と吹雪を刀身に纏った桜神剣を両手に振り上げ、そして……

 

 

ディケイドA『オオォオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

―ブザアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!!―

 

 

リア「ガッ……!!グッ、ハァアッ!!!」

 

 

ディケイドが振り下ろした炎と氷を纏った双剣がリアの肩から下を斬り付ける。だがリアもすぐに立て直してテフィラーを両手に握り締めながらディケイドへと斬り掛かるが、ディケイドはバク転でそれを回避しながらその場から跳び退き、それを逃すまいとしてリアがテフィラーを振るい三つの光の斬撃波を放ち追撃する。しかし……

 

 

『rekkuu now!』

 

『byuu!byuu-byuu-byuu-byuu!』

 

 

―ビュオオォオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーオォッッッ!!!!―

 

 

リア「!竜巻……?」

 

 

再び何処からか電子音声が響き、ディケイドに向けて撃ち出された三つの斬撃波が突如出現した緑の竜巻に阻まれ軌道を逸らされたのである。

 

 

全く有らぬ方角へと別々に飛んでいく三つの斬撃波を見てリアも僅かに驚くと、緑色の竜巻が徐々に収まりその中から緑色の戦士……黒み掛かった緑色の甲冑と魔法使いのようなローブに、ウィザード・ハリケーンドラゴンとカリスの仮面を足して二で割ったような仮面の戦士、風を司る属性のレックウスタイルへと姿を変えた聖桜が現れ、その手には深緑色の薙刀のような形状をした異形の武器……真疾風刀が握られていた。

 

 

リア「……今度は緑か……仮面ライダーというのは、コロコロと色彩を変えるのが他にも多く存在するようだが、実際に目の当たりにするとまるで虫かカメレオンのようだね。実に面白いよ」

 

 

聖桜『例えのチョイスはイマイチですが、褒め言葉として受け取っておきますっ』

 

 

『gouka now!』

 

『gou!gou!gou-gou-gou!』

 

 

不敵な笑みを向けるリアにそう返しつつ、聖桜は通常形態のゴウカスタイルへと戻りながら左腰のホルダーから新たに指輪を取り出し、右手の中指に装着してバックル横のレバーをスライドさせバックルへとタッチした。

 

 

『copy now!』

 

 

電子音と共に聖桜の足元とその隣に魔法陣が出現し、聖桜が魔法陣を潜り切ると同時になんと、聖桜の隣にもう一人の聖桜が現れたのである。そして聖桜ともう一人の聖桜が全く同じ動きでレバーをスライドさせてバックルにもう一度タッチすると、今度は二人の両脇に魔法陣が現れ新たに二人の聖桜を生み出していく。

 

 

『copy now!』

 

 

リア(分身?いや、ただ単に本物そっくりに作られた複製か……どちらにしろ、このまま放っておくと面倒になるのは間違いない……ならば……)

 

 

―バシュウゥッッッ!!!!!!―

 

 

アレが何か大技を繰り出すつもりの前準備なら、これ以上面倒になる前に早々に決着を付ける。そう考えに至ったリアがテフィラーを掲げると同時にリアの全身から膨大な神氣が溢れ出し、テフィラーはその神氣をも吸収して先の一撃目の時よりも更に力を高め、辺り一帯に巨大な火花を撒き散らしながら凄まじい輝きを放っていく。

 

 

咲夜『ッ……!!まずいぞ、零っ!!』

 

 

ディケイドA『分かっている……こっちも全力で迎え撃つぞッ!!』

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

あの災厄の光を再び放とうとするリアを目にしたディケイドも咄嗟にアマテラスの力を使用し、このフロアから下の階層を守る結界を廃ビル全体に形成する。そして桜神剣にセットされたソルメモリとグレイシアメモリのマキシマムドライブを再び発動し、更にライドブッカーからカードを取り出しディケイドライバーへと装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ディケイドA『はぁぁああああああああああああっっ…………!!!!』

 

 

電子音声と共にリアに向け展開されるディメンジョンフィールドの前で桜神剣を構え直しながら集中し、一意専心の構えを取るディケイド。そして……

 

 

リア「―――この世を切り裂き、地獄を織り成せ……テフィラアァッ!!!」

 

 

―シュウゥッ……ドバァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

ディケイドA『デエェアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!』

 

 

―ブザアァッッッ!!!!ガギイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

まるで己の祈りを願掛けるように呟きリアが突き出すテフィラーから放たれたのは、一撃目の時よりも遥かに広範囲で威力が倍加されてる白光。それに対しディケイドも咄嗟に背中の羽根を大きく広げて飛び出し、ディメンジョンフィールドを一息で潜り抜けてリアが撃ち放った光に全力の剣を打ち込み激突していったのだった。

 

 

―ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオォォォォッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

リア「――ふ……ハハハハハハハハハハハハッ!!!ほんっっとうに君達には驚かされるなぁ、零君ッ!!桜ノ神ッ!!テフィラーの光を真っ向堂々と受け止められた相手など、君達を入れても片手で数えるぐらいしかいないよッ!!人間の底力とやらはやはり興味深いッ!!こんなにも心が躍るのは私も久々だッ!!」

 

 

―ビシイィィッ……バキッ、バリィイイイイイイイイイイインッッッ!!!―

 

 

咲夜『ッ?!!零ッ!!!』

 

 

ディケイドA『グッ!!!ひ、人の心配するより先に残ってる力を全部こっちに回せッ!!!この姿でいられる時間も残り少ないんだッ!!!』

 

 

歓喜を露わにリアが徐々に白光の威力を高めていく度に、白光を受け止めるディケイドのボディの至る箇所が皹割れて破損し、規格外の熱量に耐え切れず白い煙を立てて溶解しつつある。それでもなおディケイドはどうにか踏み止まりながらアマテラスの全能力を総動員させてテフィラーの光を全力で凌ぎ、その背後では八人にまで分身した聖桜達が左手の指輪を取り替え、それぞれのベルトのレバーでバックルの手形を左手側にスライドさせタッチした。

 

 

『cho-iine!』

 

『kick strike!saiko-!』

 

 

『『『『ハァアァァァァァァァァァァッッ……!!!!!!』』』』

 

 

八人の聖桜達のドライバーから電子音声が同時に鳴り響き、聖桜達の足元に朱い魔法陣が出現する。そして聖桜達は揃って腰のローブを翻しながら、魔法陣から右足へと炎を纏い、一斉にロンダートし夜空へと跳び上がった。

 

 

リア「っ……!アレは?」

 

 

咲夜『ッ!!!今だ、零ッ!!!』

 

 

ディケイドA『ッッ!!!ハアァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!』

 

 

―ギュイィィィィッ!!―

 

 

聖桜達が一斉に夜空へ跳び上がる光景にリアの意識が一瞬逸れ、それにより白光の勢いが僅かに弱まった。その隙を逃さずディケイドも残った力の全て、そこに破壊の因子の力を加算させ一気に光を押し返しながらリアに目掛けて突っ込んだ。

 

 

リア「ッ!何だと……?!」

 

 

ディケイドA『ぅぅおおおおおあああああああああああああああーーーーーーーーーーっっっ!!!!』

 

 

そしてそれに気付いたリアはすぐさま白光に力を込めようとするが、それよりも速く光の中からボディ全体が溶解したディケイドが飛び出して双剣に切り替えた桜神剣を全力で振りかぶり、すれ違い様にリアの胸を十字に斬り裂いていった。

 

 

―ズシャアアアアアアッッ!!!―

 

 

リア(グッ……!!?クッ、この力、これが彼の因子の……?!!)

 

 

―パシュンッ!―

 

 

零「ぐうぅっ!!」

 

 

姫「クッ、魚見ッ!!!」

 

 

桜神剣で斬り裂かれたリアの胸から鮮血が舞い散り、彼女の動きが一瞬だけ目に見えて鈍る。大ダメージにより変身が強制解除されて零と共に受け身も取れずゴロゴロと転がりながらそれを確かめた姫が、咄嗟に身体を起こして夜空を見上げて叫ぶと、其処には八人の聖桜達が空中反転して跳び蹴りの態勢に入り、そして……

 

 

『『『『ハアァァァッッッ!!!!!!』』』』

 

 

―ゴウゥッッッ!!!!!―

 

 

リア「ッ!!!」

 

 

朱い炎を纏った右足を突き出し、夜空に朱い炎の線を描きながら一斉にリアに目掛けて全力の跳び蹴りを放つ聖桜達。それを目にしたリアもすぐさまテフィラーを構え直して迎撃に出ようとしたが、今まで零達に受けたダメージが此処に来てリアの動きを鈍らせ、そうして……

 

 

―ドゴオォオオオオッッッ!!!!―

 

 

リア「ぐぁっ……ぐっ……!!」

 

 

聖桜『――フィナーレです……リア』

 

 

―シュウゥ……チュドオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!!!!―

 

 

連続で打ち込まれた聖桜達のキックが見事に炸裂し、リアの身体に朱い魔法陣が浮かび上がる。そしてその背後に身を翻しながら華麗に着地した聖桜達が一人へ戻ってポツリとそう呟いた瞬間、リアは巨大な爆発を巻き起こしながらゆっくりとその場に膝を付き、地面に倒れ伏していったのだった。

 

 

姫「ッ!やった……?」

 

 

零「……っ……グッ……終わった……のか……?」

 

 

聖桜『…………』

 

 

爆発と共に倒れ伏したリアの姿を見て、傷だらけの零が身体を抑えながら上体を起こし呟く。そして聖桜もゆっくりと振り返りリアに目を向けると、倒れるリアの指が僅かにピクリと動き、そのまま傷だらけの上体を起こして三人の方へ振り返り座り込んだ。

 

 

リア「……ハァ……参った……まさか此処まで見事にやられるなんて……うん、これじゃあ負けを認めるしかなさそうかな……出せる切り札は出したんだし」

 

 

聖桜『……その割にはまだ余力を残していそうな様子ですが……貴女、本当に全力で戦っていた訳ではありませんね……?』

 

 

リア「心外だな……私は今出せるだけの全力を出したつもりだよ?それを君達が打ち負かした……実質二度も世界を救った事になるのだから、もっと胸を張って誇ってもいいと思うけど」

 

 

姫「……?まさか、本気で負けを認めるつもりなのか……?」

 

 

随分潔いが、そう言いつつも実は自分達を油断させるつもりなんじゃないかと、信じられないというように疑いの眼差しを向けて怪訝に問い掛ける姫だが、それに対してリアはヒラヒラと手を振りながら答えた。

 

 

リア「ウソなら今こうして君達と言葉なんて交わさず、有無も言わせぬままこの建物ごと君達を葬ってるさ。実際に私は大事な場面で油断して敗北し、そんな事が出来る身体じゃあない。それに私の力は君達よりも遥かに上だし、君達相手に小細工なんてそれこそ無意味じゃないか?」

 

 

姫「む……」

 

 

嘘や嫌味ではなく、事実を口にして笑い掛けるリア。だが姫は疑念を拭えぬまま訝しげに半目でリアを睨み続けると、零が震える膝に力を入れながら徐に身を起こした。

 

 

零「騙している、って事はなさそうだな……ま、戦う気がないのは本当のようだし、取りあえずは信じてみてもいいじゃないか……?こっちもこれ以上コイツと戦うのは御免だし……」

 

 

聖桜『……そうですね。私も信じてみてもいいと思います。彼女は嘘を口に出来るような人柄ではなさそうですから』

 

 

姫「むむっ……零と魚見も彼女を信じるのか……」

 

 

聖桜『……?何か問題でもあるのですか?』

 

 

姫「……いや、私も実際は君達と同意見なんだが……もう少し可愛げのある言い方をしてもいいだろうに……」

 

 

リア「ん……?ああ、何か癪に障る言い方したかい?すまないね。こう見えて口下手なものだから嘘は言えないし、本当の事を口にしようにもオブラートな言い方が出来なくて有りのままにしか伝えられないもので」

 

 

姫「だ、だからそれが余計だと言っているんじゃないかっ!」

 

 

零(……珍しい……コイツでも相性の悪い相手がいるんだな……)

 

 

まあ相手は長年戦ってきた宿敵の幻魔を統べる神なのだし、確かに相性が良いとは言えないかと。そう思いながら零は姫の意外な一面を見て内心驚きつつ、とにかく此処を離れて桜香達と合流すべきだろうと姫達に声を掛けようとした。その時……

 

 

 

 

 

―……ドバァアアアアアアッッッ!!!!!―

 

 

リア「――むッ?!!」

 

 

『?!なっ……?!』

 

 

突如、リアの身体から勢いよく極光が放出されたのである。その光の正体は莫大なまでの量の神氣であり、完全に油断し切ってた三人は突然のその出来事に驚愕を隠せず咄嗟に身構えた。

 

 

零「おいっ!いきなり何の真似だっ?!」

 

 

リア「ッ……!!ち、違う……これはっ……ァッ……!!」

 

 

凄まじい勢いで莫大な神氣を放出するリアに戸惑いのまま零が疑問を投げ掛けるが、何故か当の本人のリアまでもが自分の身体を抑えながら驚愕と動揺が入り混じった表情を浮かべている。そんな時だった……

 

 

 

 

 

―チュドオォオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッ!!!!!―

 

 

聖桜『ッ?!』

 

 

姫「な、何だっ?!」

 

 

 

 

 

零達の背後から不意に、けたたましい爆発音が響いた。その爆音に驚愕し零達が慌てて振り返ると、この廃ビルから遠く離れた場所に位置する山の一つが轟音と共に崩壊していき、その奥から……

 

 

 

 

 

『――ヒ、ヒヒヒヒヒヒッ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!』

 

 

 

 

 

……粉塵が舞う山の奥から薄気味悪い高笑いと共に姿を現したのは、380m程はある巨大な黄金の異形……いや、全身が黄金で作られ、背中の金の羽根に女面や男面、翁面など無数の面が張り付けられた人型の異形の姿をした上半身、四足の脚部で歩行する獣の異形の姿を形取った下半身を持つ黄金の像だったのである。

 

 

零「なっ……おいっ、何だあの金ぴかのデカブツはっ?!」

 

 

崩れ落ちた山の中から突如出現した巨大な黄金の像を目の当たりにし、零も目を見開いて驚愕してしまうが、姫はあの黄金の像を見て別の意味で驚愕していた。

 

 

姫「そんな……アレは……あの像は、まさか……黄金魔神像?!」

 

 

零「?!魔神像?おい、何か知ってるのか?!」

 

 

リア「ッ……数百年前……当時幻魔王だった信長が、全ての人間達に自分を祟拝させる為に完成させた洗脳装置だよ……柳生一族の者に破壊されたと聞いていたが……成る程……ギルデンステンめ、密かに改修してたのかっ……グッ!!」

 

 

―バシュウゥッ!!パタンッ……―

 

 

聖桜『ッ!リア?!』

 

 

まるで何かを悟ったようにリアが自嘲した瞬間、リアの身体から放出されていた神氣が弾け飛ぶように拡散して糸の切れた人形のように倒れてしまい、それを目にした零達は慌ててリアに駆け寄り彼女の身体を抱き起こすと……

 

 

聖桜『っ!身体が、軽い?しかも神氣が感じられない……これは……?』

 

 

リア「……どうやら、ギルデンステンは私が敗れた後の保険も用意してたようだ……私が君達に敗れれば、私から神権を吸収してあの黄金魔神像を動かす動力源にする……伊達に私の下に仕えていた訳ではないようだよ……流石は幻魔界一の天才だ……」

 

 

零「神権を吸収だと……?ならお前は……」

 

 

姫「既に神ではなくなっているっ……こんな事が……それに、こんな状態で神でなくなればっ……!」

 

 

今のリアの容体は、今までの戦いで受けたダメージにより不死の身体でなければ即死しても可笑しくないような重傷なのだ。それが神でなくなったとなれば耐え切れる筈もなく、このままではリアは間違いなく死ぬが、零達が呆然としているその間にも山の中から出現した黄金魔神像は何処かに向かって動き出し始めていた。その方角は……

 

 

聖桜『―――町の方角……あの像、桜ノ町に向かっているっ?!』

 

 

リア「……アレの本来の用途は洗脳、だからね……その為に先ず人間が多い場所を目指すのは当然だろうさ……急がないと、町の人間が全て……私の力で幻魔に祟拝するように洗脳させられてしまうよ……」

 

 

零「チッ……!咲夜、もう一度アマテラスだっ!」

 

 

姫「なっ、馬鹿を言うなっ!その傷でこれ以上戦えば君だって死ぬぞっ?!それにアマテラスになれる時間だってもう二分もっ……!」

 

 

零「他にも方法も迷ってる時間もないだろうっ!身体の傷と残り時間なら短期戦に持ち込んであのデカブツを壊せば問題はないしっ、あんなデカイ相手に対抗するにしてもアマテラスしかないっ!市杵宍、お前はソイツを頼むぞ……!」

 

 

聖桜『えっ……?まさかっ、貴方達だけで戦うつもりですかっ?!』

 

 

リア「……私を気に掛ける余裕があるのかい……?私にはもう神の力は残されていないし、助けてもアレをどうこうする力もない……その辺りの人間と変わりはないんだよ……?そんな奴を助けるなんて、人が良すぎやしないかい……?」

 

 

零「アレが動き出したのはお前が神権を奪われたせいでもあるだろうがっ!幻魔が起こした面倒なら、解決するまで勝手に死ぬなっ!咲夜っ!」

 

 

姫「~~~~っっ!!何処まで生き急げば気が済むんだ君はっ……アマテラスの残り時間が迫れば無理矢理にでも離脱するぞっ?!いいなっ!」

 

 

零「あぁっ、いくぞっ!」

 

 

『AMATERAS!DECADE!』

 

 

苦渋の決断で念を圧すように告げる姫に頷き返すと、零は腰に装着したバックルにカードをセットして姫と共にディケイド・アマテラスフォームへと再び変身し、背中の羽根を広げて黄金魔神像に目掛けて屋上から飛び出していったのだった。

 

 

リア「……さっきまで殺し合いをしてた相手に死ぬな、と言うか……本当にお人良しが過ぎる……」

 

 

聖桜『……そうですね……不本意ではありますが、私も貴女の意見には同意です……でも――』

 

 

呆れるようにそう言いながらも、聖桜は左腰のリングホルダーから新たな指輪を取り出して右手の中指へと装着し、ベルト横のレバーをスライドさせてバックルに右手をタッチした。

 

 

『healing now!』

 

 

ドライバーから電子音声が響くと、聖桜はリアの身体に右手の掌を翳す。すると、聖桜の右手から温かな光が放たれリアの身体を包み込んでいき、リアの全身の怪我が少しずつ癒え始めていた。

 

 

リア「ッ!……水ノ神……?」

 

 

聖桜『――きっと、それが彼という人間なんでしょう。不死の私を命懸けで助けようとするぐらいですから……そんな彼に大きな借りを作ってしまった以上、私も彼の意志を尊重するしかありません』

 

 

リア「……はぁ、君も面倒な男に付き従ってるという訳か……」

 

 

聖桜『えぇ……でも、不思議と悪い気がしないのは、何故なんでしょうね……』

 

 

クスッと、そう呟きながら仮面の下で苦笑いし、聖桜は桜ノ町を目指す黄金魔神像に向かってディケイドが飛び去っていった方へ振り向いていく。

 

 

聖桜(私もすぐに後を追います……それまでは絶対に死なないで下さい、二人共……)

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑫(前編)

 

―郊外の森―

 

 

―ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッ……!!!!!!―

 

 

深夜の暗闇に包まれる森の木々を薙ぎ倒して、巨大な黄金の像はまるで蜘蛛のように桜ノ町を目指して突き進んでいく。どんな手段を使ったのかは知らないが、リアから神権を奪った黄金魔神像は行く手を阻む障害を全て破壊しながら夜の森を駆け抜け、その遥か後方からはディケイド・アマテラスフォームが風を切って追って来る姿があった。

 

 

ディケイドA『クッ……間近で見るとほんっとにデカイな、あの像っ……!』

 

 

咲夜『全長300m以上な上、先程幻魔神から奪った神氣で全身がコーティングされて強度も増しているっ……真っ向から相手にするのはどう考えても無理だぞっ!』

 

 

それにサイズ差があり過ぎる以上、あの像を足止めしながら戦うのも不可能だ。このままではどうあっても黄金魔神像の町への侵入を許してしまう事になるが、ディケイドは今のスピードを緩めずに桜神剣を双剣に切り替えた。

 

 

ディケイドA『それならそれで戦い様はあるっ……先ずは場所を変えるぞっ!』

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

―ブザアアアアアアアアアアアアアァァァァァーーーーーーッッッ!!!!!―

 

 

ソルメモリがセットされた右手の桜神剣のトリガーを引いてマキシマムドライブを発動させ、刀身に纏った炎を斬撃波にし黄金魔神像に目掛けて勢いよく飛ばすディケイド。

 

 

しかし黄金魔神像もそれに反応したのか、桜ノ町を目指して動かしていた四足をピタリと止めて上半身のみを振り向かせると、人型の異形の目から巨大な閃光を放って炎の斬撃波を打ち消し、そのままディケイドにも閃光が襲い掛かるが……

 

 

―ブオォンッ!!―

 

 

閃光がディケイドを貫いた瞬間、なんと閃光はディケイドの身体をすり抜けてしまったのだ。そしてディケイド……否、ディケイドが生み出した残像は幻のように徐々に消えていき、黄金魔神像もそれがディケイド本体ではないと気付きディケイドの姿を探して周囲を見渡していた。その時……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥッ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

 

 

 

黄金魔神像の頭上から突如、桜色の極光が発生したのであった。それに気付いた黄金魔神像が頭上を見上げてその光の正体を確かめようとするが、光は既に周囲に広がって黄金魔神像をも包み込んでいき、次の瞬間、黄金魔神像は極光と共に何処かへと消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―海上―

 

 

―ブオォォンッ……ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッッ!!!!!!―

 

 

そして、桜ノ町から離れた場所に位置する海域の上に突然桜色の極光が出現し、其処から黄金魔神像が飛び出して海に叩き付けられていった。更に、黄金魔神像から離れた位置にも桜色の極光が現れ、其処から黄金魔神像をこの場に強制転移させた張本人のディケイドが姿を現した。

 

 

ディケイドA『此処なら、周りの被害を気にする必要もない……!』

 

 

咲夜『残り時間1分っ……!急げ零っ!こっちももう時間がないっ!』

 

 

ディケイドA『分かってるっ!』

 

 

焦る咲夜にそう言いながら両手の桜神剣を連結させて一つにし、黄金魔神像に向かって全速力で突っ込んでいくディケイド。態勢を崩していた黄金魔神像も身を起こしながらディケイドに目掛けて再び瞳から閃光を撃ち放つが、ディケイドはそれをかわすように上空へ飛び上がり、黄金魔神像の頭上を飛び越えながら桜神剣から砲撃を乱射していく。

 

 

―バシュウゥゥッ!!!バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥゥッ!!!―

 

 

『ゥッ……オオオオオオオオオオッ……!!!』

 

 

―ドガアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーアァァンッ!!!!―

 

 

無数の砲撃が黄金魔神像の上半身に次々と降り注いで大爆発を巻き起こし、黄金魔神像の上半身の頭が爆煙に覆われていく。そして、黄金魔神像が動きを止めた隙にディケイドは桜神剣を再び双剣に切り替え、グレイシアメモリが装填された左手の剣を逆手に持ち海に突き刺して引き金を引いた。

 

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

―パキッ、パキパキパキパキパキパキパキパキパキッ……!!!!!―

 

 

咲夜(ッ!海が凍り付いていく……?)

 

 

桜神剣からの電子音声と共に剣の刃から神氣の冷気が放たれ、ディケイドが剣を突き刺す地点を中心に黄金魔神像の下まで海が一瞬で凍り付いていくが、咲夜はディケイドの行動が読めず怪訝な反応を浮かべ、黄金魔神像はその間にも態勢を立て直しディケイドに再び攻撃しようとする。が……

 

 

―……ツルッ!―

 

 

『……?!!』

 

 

―ズドオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッ!!!!!―

 

 

黄金魔神像が一歩前へ踏み出した瞬間、氷の上で足を滑らせて再び態勢を崩したのであった。

 

 

咲夜『そうか、この氷の上でなら……!』

 

 

ディケイドA『足場の自由を奪えば、あの巨体を支え切る事は出来ない筈だ……此処で決めるぞっ!!』

 

 

これで黄金魔神像は簡単に立ち上がる事は出来ない。海に突き刺した剣を抜いて再び桜神剣を連結させると、ディケイドはトリガーを引いてマキシマムドライブを発動させた。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

『……!!!』

 

 

―ギュイィィッ……バシュウゥッ!!!バシュウゥッ!!!バシュウゥッ!!!バシュウゥッ!!!―

 

 

桜神剣から立て続けに響く電子音声と共にディケイドが桜神剣を構えて勢いよく飛び出し、それに気付いた黄金魔神像が態勢を立て直せないまま下半身の異形の口からエネルギー弾を連続で撃ち出し、ディケイドを接近させまいと乱射していく。しかし……

 

 

―ドガアァァンッッ!!!ドガアァンッドガアァンッドガアァンッドガアァァァァァアンッッ!!!!―

 

 

ディケイドA『ハアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!』

 

 

ディケイドは黄金魔神像の下半身の異形の口から次々と放たれるエネルギー弾の雨をかい潜り、凍りついた海面にエネルギー弾が着弾して巻き上がる大量の氷の破片を回避して突き進む。そして、臆する事なく突っ込んで来るディケイドを見て黄金魔神像も効果的な別の攻撃に移ろうとするが、それよりも速くディケイドが黄金魔神像の上半身へと肉薄し桜神剣の切っ先を額に突き刺していった。

 

 

―ズシャアアァッ!!!―

 

 

『グッ……?!!ゥウオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……!!!!!!』

 

 

ディケイドA『グウッ!!クソッ!!大人しくしろッ!!』

 

 

咲夜『残り33秒だ!!急げ零ッ!!』

 

 

額に剣を突き刺されもがき苦しむように黄金魔神像が上半身を激しく振り回していくが、ディケイドは必死に離れまいと更に深く黄金魔神像の額に桜神剣を突き刺し、左腰のライドブッカーをガンモードに展開して黄金魔神像の目の中に銃口を滑り込ませた。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!!―

 

 

『ッッッ!!!?』

 

 

咲夜『あと24秒ッ!!』

 

 

目の中を直接攻撃されたのが思ったより効いたのか、黄金魔神像はよりいっそうもがき苦しみディケイドを力付くで払い退けてしまうが、宙に投げ出されたディケイドは咄嗟に立て直してライドブッカーを左腰に戻しカードを取り出した。

 

 

ディケイドA(やはり内側が外側を攻撃されるよりも効果的か……なら……!)

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

バックルにカードをセットしスライドさせると、電子音と共にディケイドと黄金魔神像の間にディメンジョンフィールドが形成されていく。そしてディケイドは桜神剣を構え直して九枚のディメンジョンフィールドへ飛び込み、目を攻撃され怯む黄金魔神像の頭部……先程桜神剣を突き刺した時に付けられた巨大な傷に目掛けて突っ込んだ。

 

 

咲夜『残り16秒ッ!!』

 

 

ディケイドA(同じ場所に全力の一撃を叩き込んでっ、すかさず其処へトドメを刺すっ!!!)

 

 

狙うは一点集中。今の状態ではこれだけの図体の敵を完全に破壊する事は不可能だが、機能を停止させ海に沈めるぐらいなら出来る筈。そう思案しながら最後のディメンジョンフィールドを潜り抜け、気合いの雄叫びと共に掲げたディケイドの剣が黄金魔神像の額の傷に目掛けて振り下ろされた。が……

 

 

 

 

 

 

『―――それは困るな……この像にはまだ利用価値がある。破壊されるのは勘弁願いたい』

 

 

―ギュイィィィィィッ……バチイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーイィッッッッ!!!!―

 

 

ディケイドA『……ッ?!何っ?!―ガシイィッ!!―ウグアアァッ?!』

 

 

咲夜『?!零?!』

 

 

最後のフィールドを抜けて黄金魔神像に必殺技を叩き込もうとしたその時、突如ディケイドの頭上から稲妻状の光線が降り注ぎ、ディケイドを拘束してしまったのだった。突然の事にディケイドも咄嗟に反応出来ず動きを封じられてしまい、困惑を隠せぬままその光線が放たれてくる方に視線を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

『―――それが神と一つになって手に入れた姿か……どうやら、私の知らない所でそれなりの修羅場を潜り抜けてきたようだな』

 

 

ディケイドA『?!おまえ、はっ……?!』

 

 

 

 

 

黄金魔神像の頭の上に悠然と佇む銀色……廃ビルでの戦いでギルデンスタンを追い詰めた際に突如現れ、リアが復活した際には何処かに姿を消したはずの銀色の魔人の姿があり、その左手からはディケイドを拘束する光線が放たれていたのであった。

 

 

咲夜『こ、こいつ、いつの間に黄金魔神像の上に?!』

 

 

ディケイドA『グッ!クッ……お前っ、幻魔神にギルデンスタンが殺されてっ、姿を消した筈じゃっ……?!』

 

 

『そのまま尻尾を巻いて逃げ去ったとでも思ったか?そんな筈がないだろう……お前達が復活した幻魔神と戦っている間、私は密かに準備を進めていただけだ』

 

 

咲夜『準備?……ッ!ま、まさか……?!』

 

 

銀色の魔人のその言葉から何かに気付いたのか、咲夜がハッと息を拒み、銀色の魔人は黄金魔神像を見下ろしながら淡々と言葉を続けた。

 

 

『黄金魔神像は幻魔神から神権を奪い、それを動力源として起動するが、その為の引き金は誰かが引かねば意味はない……だから私が頃合いを見てそれを引いた。幻魔神がお前達を倒しても良し、お前達が勝とうと、コレが残ってさえいれば幻魔神など不要なのだからな』

 

 

ディケイドA『ッ!要するにコイツが動き出したのはっ、お前が一枚噛んでたって事かっ―シュウゥゥッ……―……ッ?!』

 

 

黄金魔神像の起動を促した犯人であると自ら暴露する銀色の魔人を睨み付け拘束から逃れようと必死にもがくディケイドだが、そのとき、ディケイドの身体から無数の淡い光の粒子が立ち上り始めた。

 

 

咲夜『まずいっ……!離脱するんだ零っ!!このままでは変身がっ!!』

 

 

ディケイドA『クッ!!』

 

 

その現象が意味するのは、アマテラスフォームを維持出来る時間がもう残されていないということ。余裕のない焦りに満ちた声で咲夜がディケイドに離脱を促し、ディケイドも慌てて転移を使い拘束から逃れて離脱しようとするが……

 

 

『……逃がすと思っているのか?』

 

 

―ドバアアァッッ!!!―

 

 

ディケイドA『ッ?!何っ……?!』

 

 

そうはさすまいと、銀色の魔人が左手を掲げたと共に黄金魔神像の両肩の装飾に飾られた男面と女面が独りでに浮き上がった。そして男面と女面は無数の数へと分裂してディケイドを包囲するように散開し、様々な方向から一斉にディケイドに襲い掛かった。

 

 

『ヒヒヒヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!』

 

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!』

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッッッ!!!ズガアアァァァァァァァァァァアアッッッ!!!―

 

 

ディケイドA『グッ!!?グゥアァァッ!!!』

 

 

咲夜『零ッ?!!』

 

 

不気味な笑い声と共に容赦なく降り注いでくる男面と女面に全身を殴り飛ばされ、防ぐ事も逃げる事も叶わず一方的に痛め付けられる事しか出来ないディケイド。そして男面と女面は一斉にディケイドへと密集して動きを完全に封じていき、その隙に黄金魔神像は口の中に膨大な神氣を収束させてディケイドに狙いを定め、そして……

 

 

 

 

 

『トドメだ……』

 

 

咲夜『?!れ――ッ!!!』

 

 

ディケイドA『……?!!』

 

 

―ギュイィッ……バシュウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

ディケイドA『グッ……グアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ?!!!!!』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァァァンッッッッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

……黄金魔神像の口に収束された膨大な神氣が巨大な閃光と化して一気に放出され、その光は無数の男面と女面に捕まるディケイドを一瞬で呑み込んでしまった。そうして、ディケイドを呑み込んだ閃光は海を真っ二つに切り割りながら数キロほど離れた先に存在する無人島へと着弾し、直後にドーム状の爆発が島の大半にまで一気に広がっていったのであった。

 

 

『……神を付き従えようとも所詮この程度か……思ったより期待外れだったな』

 

 

閃光の中に消えディケイドが吹っ飛ばされた遥か彼方の無人島を見据えながら、落胆した様子で肩を落とす銀色の魔人。そして残った男面と女面を元の位置へと収める黄金魔神像を一度見下ろした後、桜ノ町がある島へと目を向けた。

 

 

(まあいい……此処からは予定通り、あの町の人間全てを洗脳してこの像の性能を確かめる。大ショッカーに取り込むに値する兵器かは、その後で決めれば――)

 

 

 

 

「―――デモンズ、スラッシュッ!!!」

 

 

『エクス――カリバァアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォンッッッ!!!!―

 

 

『――ッ?!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

 

黄金魔神像の進路を島に向かわせようとしたその時、背後から突如二つの攻撃が放たれて黄金魔神像に襲い掛かってきたのだ。銀色の魔人はそれに気付いたが、黄金魔神像の巨体でそれをかわし切る事は出来ず背中に直撃を受けて僅かに動きを止めた。

 

 

そして銀色の魔人も思わずバランスを崩しそうになるも何とか耐えて今の攻撃が放たれてきた方に振り返ると、其処には、黄金の剣と右足を振るった態勢のまま上空に浮遊する二人組……ドールが変身したルーノと飛行ユニットを身に付けたアシェン、そしてその背後には背中から蒼の翼と紅の翼を生やした鬼王と龍王の姿があったのだった。

 

 

ルーノ『かぁーっ!やっぱチョーかてぇあの像さん!エクスカリバー喰らってもまだピンピンしてやがりますぜ!』

 

 

『……人形共にこの世界のライダー共か……懲りずにまた来るとは』

 

 

アシェン「……?あの銀色は……」

 

 

龍王『あの盗っ人が言っていたギルデンスタンの協力者か……!』

 

 

黄金魔神像の頭の上に立つ銀色の魔人を目にし、咄嗟に武器の切っ先を突き付け構える龍王。因みに彼女が言う盗っ人とは大輝の事であり、ノエルと折夏を助け出した彼女達は此処に辿り着く前になごみと共に回収した大輝から一通りの話を聞いていたのだが、鬼王は其処である事に気が付いて辺りを見渡していく。

 

 

鬼王『……?零と桜ノ神がいない……あの二人を何処にやったの?!』

 

 

先行して黄金魔神像を止めに向かった筈のディケイドの姿がなく、しかも周囲は悲惨な光景と化している。そんな不穏な状況から嫌な予感を感じた鬼王が銀色の魔人に向けて叫ぶと、銀色の魔人は遥か遠方の爆煙が立ち上る無人島を顎で指し……

 

 

『奴らを助けに来たのならば手遅れだ……あの二人は既に冥府へ墜ちた。守り神と世界の破壊者というのも、名ばかりだったな』

 

 

龍王『っ?!なん、だとっ……貴様ぁっ!!』

 

 

ルーノ『落ち着いて下さい紗耶香さん。あのお二人はそう簡単に死ぬようなタマじゃありませんし、きっと無事ですよ』

 

 

アシェン「そうですね……姫様の不死と零様のG並のしぶとさを信じて、此処はノエル様に連絡してお二人の回収を要請しましょう。私達はこの巨像が桜ノ町へ向かわぬよう、此処で食い止める事に専念すべきかと」

 

 

鬼王『……それが出来るのは、今私達だけだから、か……そうね。前回だってあの二人に良い所を持っていかれっぱなしだったし……今回は休憩しててもらおうかしらっ!』

 

 

心配と不安がないかと問われれば勿論あるが、それを拭うように叫び黄金魔神像と銀色の魔人に向かって刀を構える鬼王。

 

 

それに続くようにアシェンと龍王もそれぞれ拳と刀を構え、ルーノも後方で待機してるノエルの大型ヘリに通信を繋ぐ中、銀色の魔人もそんなルーノ達を見回して軽く鼻を鳴らすと、背後から出現した歪みの壁に入って黄金魔神像の内部……室内全体が全て金が出来たコックピットへと転移し、黄金魔神像を操る舵を手にしていく。

 

 

『良かろう。どの道貴様達も始末するつもりだったのだからな……今度は私自らの手で、貴様等を消滅させてやろう……!』

 

 

『オォォォォオオオオォォォォオオオオォオォォォォオォォォオオオオォッッッ…………!!!!!!』

 

 

高らかにそう宣告しながら銀色の魔人が勢いよく舵を回したと共に、黄金魔神像がまるで怨霊の嘆きのような叫び声を上げてルーノ達へと襲い掛かり、ルーノ達も咄嗟に散開して四方から黄金魔神像に攻撃を仕掛けていくのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑫(後編)

 

―無人島―

 

 

姫「――――ぅ…………っ…………ぁ…………?」

 

 

ルーノ達が黄金魔神像を食い止める為に戦闘に入ったその頃、黄金魔神像の一撃で遠方の無人島にまで吹っ飛ばされた姫は変身が強制解除され、島の大半が吹き飛び焼け野原と化した森林跡地でボロボロの姿で倒れ伏し、今漸く意識を取り戻し目を覚ましていた。

 

 

姫「…………ここ、は…………そうだ、私…………グッ?!」

 

 

グググッ……と、徐に身体を起こそうとして身体に激痛に走った。あまりの痛みに顔を歪めて自分の身体を見下ろしてみると、見たところ大した損傷はしてないようだが身体の至る所から流血しており、無理に動こうとすると痛みが走る。それを見て、姫も漸く先程までの出来事を完全に思い出していく。

 

 

姫「っ……あの距離からの攻撃で、何処も身体が吹き飛んでいないのは幸いかっ……アマテラスの頑丈さに救われたな……」

 

 

あの馬鹿げた威力の攻撃を正面から受けたのだ。意識を失う寸前に、身体の一部が消し飛ぶのではないかと覚悟していたのだが、どうやら杞憂で終わってくれたらしい。未だ目覚め切っていない頭でそう考えながら呆然と自分の掌を見下ろし静かに安堵していた姫だが、其処でハッと何かを思い出したように目を見開き顔を上げた。

 

 

姫「零……?そうだ、彼は……?!」

 

 

意識を失う寸前までは彼の身体の中に居たハズなのに、今は分離して離れ離れになっている。慌てて周りを見回してみても近くには誰もおらず、姫は痛みの走る身体を抑えて立ち上がり零を探して走り出した。

 

 

姫(まずいっ……私はまだいいがっ、零はただの人間だっ……幾ら彼でもあんな……!)

 

 

姫は零の身体の中に居たお陰でまだこの程度で済んでいるが、黄金魔神像の攻撃を直接受けた零のダメージは到底計り知れない。もしかしたら身体の一部が……などと、先程自分が危惧していた最悪の事態を考えて更に不安を覚え、とにかく急いで零を見付けなければと忙しなく辺りを見回し、焼け野原と化した周囲一帯を駆け回る姫。その時……

 

 

 

 

「―――――――――――――――は――――――――ぁ――――――――」

 

 

 

 

姫「……ッ?!今のは……?」

 

 

 

 

零を探す中、何処からか声の掠れた呻き声が聞こえた。それを僅かに聞き取った姫はその場に立ち止まり、耳を澄まして声が聞こえて来る方へ覚束ない足取りで進んでいくと、其処には……

 

 

 

 

零「―――――――――――――――ぅ―――――――――――――――」

 

 

姫「ッ!零ッ!!」

 

 

 

 

へし折れた木々の残骸が辺り一面に散乱しているその中心で仰向けに倒れる青年……血まみれの零の姿を発見し、姫は慌てて零の下に駆け寄っていくが、零の姿を間近で見た瞬間に目を見開き、思わず息を拒んでしまう。何故なら……

 

 

 

 

零の左脇腹が大きくえぐり取られて風穴が開き、その中身が曝されてしまっていたからである……。

 

 

 

 

姫「…………ぁ…………れ、零ッ!!しっかりしろッ!!おいッ!!!」

 

 

零「―――――――――――――――――――」

 

 

呆然と佇んでた姫は漸く我に返り零の傍に座り込んで必死に呼び掛けるが、零は意識が朦朧としているのか姫の呼び掛けには答えず、目の焦点も定まっていない。それを見て、零の容態が如何に危険な状態か余計に思い知らされて焦りを浮かべてしまう。其処へ……

 

 

「―――ねえ、ねえちょっと!其処のアンタ!」

 

 

姫「……!」

 

 

背後から突然女の声に呼ばれ、それを聞いた姫が振り返ると、其処には此処から離れた先に着陸してる大型ヘリからこちらに向かって駆け寄って来る金髪の女性……ルーノに指示され零達を回収しに来たノエルの姿があった。

 

 

姫「君は……確か魚見の……」

 

 

ノエル「はぁ……はぁ……アンタ、桜ノ神よねっ……?無事だったの……って、ディ、ディケイドッ?!」

 

 

姫を発見し一先ず安心して一息吐こうとしたノエルだが、姫の傍に倒れ込む零の存在に気付き、彼の左脇腹に空いた風穴を見て絶句し口を抑えながら後退りしてしまう。そして姫も思い詰めた表情で零の顔と左脇腹の傷を交互に見ると、自分の掌を見下ろして自分の中に僅かに残された神氣を確かめた。

 

 

姫(っ……これが最後の神氣っ……此処で力を使えば……いや、迷う必要なんてない筈だッ!)

 

 

―パァンッ!―

 

 

残された最後の神氣を此処で使えばどうなるか。それを分かった上で迷いを振り切るように両手を叩くように合わせ、神氣を纏わせた両手を零の左脇腹に翳していく姫。

 

 

ノエル「ッ!ね、ねぇなにやってんの?!早く何とかしないとソイツ……!」

 

 

姫「分かってるッ!!」

 

 

姫が何をしようとしてるのか分からず困惑した様子で呼び掛けるノエルに大声を張り上げて強引に黙らせ、残った神氣を零の左脇腹に集中させていく。すると、零の左脇腹が眩い光りに包まれ、欠損した部分をみるみる内に修復させていき、光りが弾けて四散したと共に風穴が空いた零の左脇腹は完全に治療されていたのであった。

 

 

ノエル「え……ウ、ウソ……?あんな大怪我が、一瞬で……?」

 

 

姫「ッ……これで、一先ずはっ……ぅっ……」

 

 

―フラッ……―

 

 

ノエル「ッ?!ちょ、ちょっとっ?!」

 

 

ノエルが綺麗に復元された零の左脇腹を見て信じられないものを見たように驚愕する中、零の治療を終えた姫が安堵して深い溜め息を漏らしながら力が抜けた様に身体を揺らして倒れそうになり、それを見たノエルが慌てて姫の身体を支えていく。その時……

 

 

零「――――ぁ……は……ぅ、ガハッ!!ゲホッゲホッ!!ガハァッ!!」

 

 

ノエル「ッ!ディケイドッ!」

 

 

姫「っ、零っ……!」

 

 

意識が朦朧としていた零が突然身体をくの字に折り曲げながら口から大量に血を吐き出し、苦しげに何度も咳き込んだのだ。そんな零を見て姫もノエルの手を借りながら慌てて傍に寄って心配げに零の顔を覗き込み、血を吐き出した零も漸く姫に気が付き呆然と姫の顔を見上げた。

 

 

零「はっ……ぁ……さく、や……?おまえ……けがっ……」

 

 

姫「私の事はいいっ!それより自分の事を心配しろっ!君は大丈夫なのかっ?!他に痛む所はっ?!」

 

 

零「ぇ……」

 

 

まだ意識が完全に戻っていないのか、呆然とボロボロの姫の顔に伸ばそうとした左手を掴まれ、必死な様子でそう問い掛けて来る姫の言葉を聞いて頭上に疑問符を浮かべる零。そして其処で漸く先程までの黄金魔神像との戦いを自然と脳裏に思い起こし、零はハッと目を開いて辛そうに上体を起こすと、綺麗に完治された左脇腹以外ズタボロの血塗れになった自分の身体を眺めていく。

 

 

零「っ……俺は……」

 

 

ノエル「えと……アンタ、さっきまで死に掛けてたのよ。でも桜ノ神がアンタを治療して……」

 

 

零「コーマット……そういう事、か……」

 

 

ノエル自身も姫がどんな力を使って零を治療したのか詳しく知らない為に簡潔にそう説明すると、不自然に綺麗な脇腹とその説明だけで何があったのか理解したのか、零はそう呟きながら徐に起き上がるが、途中で足がふらついて倒れそうになり姫に支えられた。

 

 

姫「ッ!無理をするなっ!治療したと言っても、まだ君の身体はっ……!」

 

 

零「ハァッ……これぐらいどうって事はないっ……それより木ノ花、お前の力は今どれぐらい残ってる……?」

 

 

姫「……君の治療で使ったのが最後だ……今はもう、転移する力すら残ってない……」

 

 

零「……なら、アマテラスは?」

 

 

姫「神氣が残ってない今の状態では無理だ……それに例え僅かにでも残ってたとしても、限界時間を過ぎた以上、これ以上アマテラスを行使すれば君の命に関わる……」

 

 

零「……そうか……」

 

 

アマテラスフォームは使用不可。姫自身にももう力は残されてはいない。それを確認した零は深く溜め息を吐き出すと、姫から離れて額から流れる血を拭いディケイドライバーを取り出す。

 

 

零「ならお前はコーマットと一緒に此処を離れろ……俺は戻る……」

 

 

ノエル「は……?も、戻るって……まさか、戦うつもりなの?!正気?!そんな身体で何が出来んのよ?!」

 

 

姫「彼女の言う通りだ!離脱するなら君がそうするべきだろう!後は私が……!」

 

 

零「神氣が空っけつのお前に何が出来る……?俺ならまだあの像に対抗する術は残っているが、お前はそうじゃないだろうが……良いから言う通りにしろ……」

 

 

姫「出来る訳がないだろうそんなのっ!!君こそ自分の身体を良く見てみろっ!!そんな状態で戦えば次は本当に死ぬぞっ?!分かっているのかっ?!」

 

 

零「分かってるっ……ただちょっと動き辛いだけで、別に戦えないワケじゃな「分かっていないっ!!」……ッ!」

 

 

けだるげにそう言ってディケイドライバーを腰に巻き付けようとした零だったが、姫が零の言葉を遮るように声を張り上げて叫び、零とノエルもその声に驚いて姫に視線を向けると、姫は顔を俯かせて肩を震わせていた。

 

 

零「木ノ花……?」

 

 

姫「ぜんっぜん分かっていないっ……君はさっきまで死に掛けてたんだぞっ……私に力が残っていなければ君だって今ごろ死んでたんだっ……アマテラスで駄目だったのに、そんな身体で無茶をすれば今度こそっ……」

 

 

零「…………」

 

 

声を震わせながらそう語る姫を見て、零も何も言えず無言のまま視線を落としてしまう。確かに、現段階で黄金魔神像とまともにやり合える対抗策のアマテラスフォームももう使えず、姫に治療された左脇腹以外はリアや黄金魔神像との戦いで負った怪我も残っている。

 

 

加えて先程まで死に掛けて、そんな姿を目の当たりにした姫とノエルからすれば今から死にに行くと言っているようなものだ。しかし……

 

 

零「――別になにも考えも無しに戦うワケじゃない。さっきの戦いであの金ぴかの弱点も掴んだ……あとはアシェン達の力を借りて、どうにかしてあの像の中に侵入して内側から叩く……他のライダーの力を使えばそれぐらい可能だろうしな……」

 

 

姫「だからっ、君一人じゃそれは危険だと言っているだろうッ!第一そんな身体で簡単に近づける程、アレは安易い相手じゃないんだぞッ!」

 

 

零「ッ……!この……だったら他に方法があるのかッ?!お前だってもう力が残ってないんだろうッ?!」

 

 

姫「まだ私には不死の身体があるッ!私なら君が死ぬような攻撃を受けても死にはしないッ!その後に君の言うようにアレの中になんとか侵入して内側から……!」

 

 

零「それじゃぁ俺と大して変わらんだろうがッ!お前にそんな馬鹿をさせられるかッ!いいから俺に任せてお前は離脱しろッ!何度も言わせるなッ!」

 

 

姫「君こそ何度言わせる気だッ!大体馬鹿なことだと自覚してるなら……!」

 

 

ノエル「ちょ、ちょっとアンタ達いい加減にしなさいよッ!今は言い争いなんかしてる場合じゃなっ――!」

 

 

俺がいく!私がいく!と、平行線の言い争いをいつまでも続ける零と姫を仲裁しようとノエルが大声を張り上げて叫ぼうとした、その時……

 

 

 

 

 

『teleport now!』

 

 

魚見「――デュアルチョップ!」

 

 

―ズビシイィッ!!―

 

 

零「アイタァッ?!」

 

 

姫「ひぎぃっ?!」

 

 

ノエル「……へ?」

 

 

何処からか鳴り響いた電子音声と共に、言い争う零と姫の横合いに突如魔法陣が出現し、其処から姿を現した魚見が二人の頭上にいきなりチョップを打ち込んで無理矢理言い争いを止めたのであった。

 

 

姫「イッタィッ!なに?!え、魚見?!」

 

 

零「ぐおぉぉぉぉっっ……て、てめえぇっ……仮にも出血してる怪我人の頭になんて事しやがるうぅっ……!」

 

 

魚見「お二人がいつまでも似たような話を繰り返しているからでしょう。ノエル、貴女だけに二人をお任せしてすみません」

 

 

ノエル「ウ、ウオ?アンタ、今まで何処で何して……!」

 

 

魚見「幻ま――いえ、ある人物の応急処置が長引いてしまいまして……。それで治療を終えて上役に彼女を任せた後、こちらへ向かう途中で指輪の力で戦況を確認していたのですが……何をしてるんですか貴方達は……」

 

 

腰に両手を当てて呆れる様に溜め息を吐きながら零と姫を見つめると、二人はあからさまに気まずげに魚見から目を逸らした後、零がビシィッ!と姫を指差して叫んだ。

 

 

零「いやっ、こうなってるのは木ノ花がまた性懲りもなく無茶しようとして話が長引いたからだっ!!確実性のない方法で無謀な策に出ようとしたからっ!!」

 

 

姫「な、はぁっ?!それを言うなら君の方だろっ?!そんなボロボロの癖にまた無茶な真似をしようとしてっ!!無謀だというなら君の方じゃないかっ!!」

 

 

零「身一つで正面から突っ込もうとするお前に言われたくはないわっ!!俺ならまだ他のライダーの力でどうとでもなるが、今のお前は跳ぶ力すら残っとらんだろうがっ!!」

 

 

姫「誰も無策に真正面から挑むとは言っていないじゃないかっ!!それに君のその傷じゃ死ににいくようなものだろうっ!!私は不死で死にはしないっ!!だから君は私に任せて大人しく休んでればいいんだっ!!」

 

 

零「だからお前にそんな事させられないんだと言ってるだろうがっ!!大体お前もソイツも、神だからって自分を軽視し過ぎなんだよっ!!少しは自分を大事にしたらどうなんだ女の癖にっ!!」

 

 

姫「お、女の癖にと言ったかっ?!差別だろそれはっ!!大体自分を大切に云々で君が叱れる立場じゃな――!!」

 

 

魚見「シャラップ」

 

 

ピシャリッと、感情のない冷淡な声で魚見が零と姫を黙らせた。その声音は氷のように何処までも冷たく、言葉を向けられた本人達はともかく、魚見の隣に立つノエルまでもが顔の筋肉を引き攣らせながら魚見の顔を見つめ、魚見も無表情のまま零と姫を目だけで交互に見た後に深く溜め息を吐いた。

 

 

魚見「……要するに、ディケイドは神氣が残ってない桜ノ神が単身で向かう事に反対で、桜ノ神は満身創痍のディケイドが一人で黄金魔神像に挑むのに反対して、議論がいつまで経っても決着が付かない……簡潔に纏めると、そういう事ですね?」

 

 

姫「む……まあ……」

 

 

零「……そうなるな」

 

 

気まずげに姫が、無愛想に零がそっぽを向いて魚見の問いに対し素直に肯定する。そしてそれを聞いて魚見も顔を俯かせて何かを思案するように瞼を伏せ、暫くそうした後に、ゆっくりと目を開いて地面に座り込む零の下へと歩み寄った。

 

 

魚見「ではディケイド……いえ、零……私から貴方に提案があります」

 

 

零「……何だ?言っておくが、お前と木ノ花に任せて此処を離れろって言う提案ならお断りだぞ。今の木ノ花を行かせるぐらいなら、俺が奥の手を使ってでも――」

 

 

魚見「いえ、そうではありません。私も今の桜ノ神を戦線に戻すのに反対なのは、貴方と同意見ですし」

 

 

姫「は?お、おい魚見っ?!」

 

 

零「……じゃあ何だ……?お前が俺をエスコートして、あの像の所まで送り届けてくれるのか?」

 

 

魚見「いえ……ですが、当たらずとも遠からず……といった所でしょうか」

 

 

零「あ……?」

 

 

何やら回りくどい言い方で、しかし何処か気恥ずかしそうに視線を逸らして頬を赤らめる魚見に怪訝な顔で聞き返してしまう零。だが、ルーノ達と黄金魔神像が戦闘を行っている戦域の方で零達の下にまで響くけたたましい轟音と共に巨大な爆発が巻き起こり、それを見た魚見は咳ばらいと共にいつもの無表情に戻って零と向き直った。

 

 

魚見「あまり回りくどいやり取りをしてる時間もなさそうですね……率直に言います、零」

 

 

零「だから何をっ――」

 

 

 

 

魚見「――此処で……私と契約して下さい。桜ノ神と同じように」

 

 

 

 

零「……は?」

 

 

姫「ぶふっ?!」

 

 

胸に手を当てて魚見が零に告げたのは、姫と同じように自分と契約して欲しいという提案だったのである。流石に予想外過ぎたのか、その言葉を向けられた零も目を見開いて固まり、姫も思わず噴き出してしまうが、今の発言を聞いて目を点にし唖然としていたノエルが我に返って慌てて魚見へ詰め寄った。

 

 

ノエル「ちょ、ちょっとウオっ!アンタいきなりなに言って……?!」

 

 

魚見「……私と契約すれば、限定的にですが私の力をアマテラスフォームのような形で具現化出来る。無論私も水ノ神の神権を封印された状態ですから失敗する可能性も大いにありますし、無駄に終わってしまうかもしれませんが、もし成功すれば黄金魔神像に対抗出来る力が得られる。そうすれば内側から私がサポートして、貴方も怪我の心配をせずに戦闘に専念する事が出来ますが……」

 

 

零「…………」

 

 

確かに、魚見の話が本当であるなら自分達が危惧している心配もする必要はなくなる。だが、自分は既に姫と契約した身だ。他の神と契約なんかして大丈夫なのかという不安や心配も色々あるが、真っ先に思うのは姫を差し置いてそんな真似をしていいのかという迷いだ。横目に姫を見れば彼女も「ぁ……えーと……」と言い淀んでおり、零はそんな姫を見て軽く溜め息を吐きながら立ち上がり……

 

 

零「確かに現段階じゃそれが一番の最善策だろうが……一体どういう風の吹き回しだ?分かってるのか?俺はお前達の上司共が危険視している――」

 

 

魚見「分かっています……ですがどちらにしろ、このまま黄金魔神像を止められなければ保身派の上役達にとっても宜しくない事態に陥るのは目に見えていますし、結果的にアレを止めさえすれば、保身派達も貴方達や私を強くは言えないと思います。それに――」

 

 

其処で一拍言葉を区切ると、魚見はまるで近所の困った子供を見るような目で姫と零を交互に見つめながら……

 

 

魚見「――私がそうでもしないと、貴方も桜ノ神もまた無茶をするでしょう?現に今も、どっちもどっちな無謀な真似をしようとしていましたし……」

 

 

零「っ……た、確かに馬鹿な真似しようとしてたのは認めるが……お前、忘れてないか?俺は既に木ノ花と契約した身なんだぞ?」

 

 

そう、問題は其処だ。自分はもう姫と契約を交わし、既に彼女というパートナーがいるのだ。なのにまた他の神と契約など、幾らそれが親友とは言え姫だって嫌と言うに決まって……

 

 

姫「ぁ、いや……私は別に契約自体は構わないぞ……?確かに他の神だったなら複雑だが、魚見なら別に嫌とは思わないし……」

 

 

零「ハアァッ?!!」

 

 

魚見「彼女もこう言っていますし……後は貴方の心変わり次第では、問題ないと思いますが?」

 

 

零「ぐっ……」

 

 

姫にも確認を取り、僅かに首を傾げてそう問い掛けて来る魚見だが、零は顔を引き攣らせながら後退りしてしまう。

 

 

――正直に言おう。すごい嫌だ。目茶苦茶断りたい。

 

 

ただでさえ今でも姫一人で手一杯なのに、姫と同じく変神の片鱗がある魚見まで増えられては容量オーバーでほんとに倒れてしまうし、魚見に付いて来られたらなのは達にどんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。

 

 

しかし今は一刻を争うし、魚見の提案を受け入れなければまた姫が自分の代わりに戦うなどと言い兼ねないし、急がねば黄金魔神像を食い止めてくれてるアシェン達の身が危なく……嫌だとは言えない。なので……

 

 

零「――――分かったっ……だが、一つ条件付きだ……」

 

 

魚見「?条件?」

 

 

零「そうだ……お前と契約するのは今回の戦いだけの一回切り、あのデカブツを倒すまでの間のみ!あの像を倒した後はちゃんと切ってもらう!いいな?!」

 

 

魚見「……"一回切り"?」

 

 

姫(……あー……)

 

 

念を押して、ちゃんとこの場を切り抜けた後に契約を絶つことを前もって魚見に伝える零。しかし、それを聞いた魚見は何故か訝しげに首を傾げながら疑問符を浮かべ、姫も閥が悪そうに冷や汗を流しながら露骨に零から目を逸らしていたが、魚見は気を取り直して零に右手を差し出した。

 

 

魚見「とにかく、交渉成立ですね……。ただ一つだけ注意しておきますが、先程も言った通り今の私は神権を封印された状態にあります。なので、今から貴方との契約でその封印を一時的に強引に解放しますが……そのせいで力が不安定と化してしまう事になる。ですから……」

 

 

零「短期決戦に持ち込め、と言いたいのか?」

 

 

魚見「はい。……二分半、その間に決着を付けて下さい。それ以上は貴方の命に関わる」

 

 

零「……思ったよりシビアだな……俺の命が約束されてるのはカップ麺が作れる時間以下かよ……」

 

 

頭を掻きながら愚痴っぽくそう呟くと、零は恐る恐る魚見が差し出す右手に手を伸ばして魚見の手を握り、魚見も零の手を握り返しながら姫とノエルに向けて口を開いた。

 

 

魚見「ノエル、桜ノ神、貴女達はヘリを飛ばして出来るだけ遠くにまで避難して下さい。……この辺一帯、少々荒っぽくなるかもしれませんので」

 

 

ノエル「……分かったわ。アンタが決めた事なら私ももう何も言わない。でも……」

 

 

姫「私に出来るのもヘリを守るぐらいだろうしな……二人共……いや、皆、無事に帰って来てくれよ?」

 

 

零「まぁ、無傷は多分無理だろうが……一応頭の中には入れておくさ」

 

 

若干苦笑いを浮かべながらそう告げると、零は真剣な表情に変わって魚見の目を見つめ、魚見もそんな零に向けて小さく頷き返すと共に、祈るように瞳を閉じて口を開いた。

 

 

魚見「―――我が神名……水ノ神・市杵宍姫ノ命の名の許に、此処に、新たなる契りを立てる……」

 

 

魚見が口にしたのは、あのフォーティンブラスとの戦いにおいて姫が瀕死の零を救う為に行った契約の永唱。それと同時に魚見と零の足元に巨大な水色の魔法陣が展開され、膨大な神氣が辺りに放出されていき、そして……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―海上―

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!!!!―

 

 

ルーノ『ヤッベッ?!にょおおおおああああああああああああっっっ!!!?』

 

 

―ドバアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!―

 

 

龍王『?!ドールッ!!!』

 

 

そしてその一方、海上では桜ノ町に向けて進行しようとする黄金魔神像をルーノ達が粘り強く食い止めようとしていたが、黄金魔神像が瞳から放った赤い閃光を両手の剣で受け止めようとしたルーノを吹き飛ばして海ほと叩き付けてしまっていた。

 

 

『……この世界のライダーと過去の遺物の人形共の力も、所詮はこの程度か……』

 

 

『アハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

『ヒャハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 

鬼王『クッ!コイツ等っ!』

 

 

アシェン「振り切れないっ、数が多すぎますっ……!」

 

 

無数に分裂して執拗に追い掛けて来る面を振り切ろうと縦横無尽に飛び回る鬼王とアシェンだが、無数の面は何処までも二人を追尾して離れようとせず、龍王も黄金魔神像の瞳から矢継ぎ早に放たれる閃光のせいで取り付く事も出来ない。

 

 

龍王『クッ?!このっ!!』

 

 

『これ以上、貴様等に付き合っている時間もない……一瞬で消してやろう』

 

 

無数の閃光を紙一重で回避し続けながら黄金魔神像に近付こうとする龍王の姿を見つめながらポツリとそう呟くと、銀色の魔人は舵を勢いよく回し、それに応えるかのように黄金魔神像が莫大な神氣を口に収束させ始めていく。

 

 

―ギュイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィイッッ……!!!!!―

 

 

鬼王『ッ……!まずいっ!紗耶香っ!!』

 

 

龍王『分かっているっ!!』

 

 

アレを撃たせてはならない。直感的にそう感じ取った鬼王が龍王に叫ぶと龍王も同じ物を感じ取っていたのか、二人はどちらからでもなく同時に空を翔けて黄金魔神像の攻撃を阻止しようとするが、二人の死角から不意を突いて男面と女面が飛び出し鬼王と龍王を捕らえてしまった。

 

 

アシェン「?!紗耶香様っ!!桜香様っ!!」

 

 

鬼王『しまっ……グッ!』

 

 

龍王『ぐうぅっ?!』

 

 

『さらばだ……纏めてあの世へ堕ちるがいい』

 

 

無数の面に抑えられ身動き一つ取れない鬼王と龍王に向けて黄金魔神像が狙いを定め、激しく光り輝く口を大きく開いていく。そしてそれを目にしたアシェンは慌てて二人の下へ向かって二人を拘束する面達を蹴り砕いていくが、面達の数が多すぎてすぐには助け出ずことが出来ず、その間にも黄金魔神像が口に収束させた神氣を放出し三人を纏めて消し飛ばそうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥッ……ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!!!!―

 

 

『……むっ!』

 

 

『グ……オオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ……?!!!!』

 

 

―ザッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッ!!!!!―

 

 

アシェン「っ!」

 

 

鬼王『え……?』

 

 

龍王『な、何だ……今のは……?』

 

 

 

 

 

黄金魔神像の口から砲撃が放たれようとしたその寸前、突如黄金魔神像の横合いから巨大な水色の砲撃が放たれて黄金魔神像の側面に直撃し、黄金魔神像はそのままバランスを崩して海に倒れてしまったのであった。その光景を目の当たりにしたアシェン達も驚愕で目を見開き、今の砲撃が放たれてきた方角に目を向けると、其処には……

 

 

二枚の機械的な深蒼の翼を広げて浮遊し、金のラインが所々に走るロイヤルブルーのボディ。

 

 

赤い瞳を輝かせるロイヤルブルーと白の仮面を纏い、その両手には銃口から白い煙りが立つ二丁の神々しいデザインの蒼いライフルを握り締めたロイヤルブルーのライダー……この場に居る一同も初めて目にする姿に変わったディケイドだったのだ。

 

 

『ッ……何だ、あれは……?!』

 

 

アシェン「あれは……零様?ですが……」

 

 

龍王『アマテラスじゃ……ない?』

 

 

黄金魔神像の攻撃から三人を守り、アマテラスフォームとは違う別の姿となって駆け付けたディケイドの姿を見て呆然となる鬼王達。そして、ディケイドも蒼いライフルを持つ手を下げながら何処か辛そうに深く息を吐くと、徐に起き上がる黄金魔神像を見て舌打ちした。

 

 

ディケイド?『クソッ……一撃で仕留めるつもりだったんだが、やはりまだ力の加減が上手くいかんっ……』

 

 

『――出力を修正しました。やはり強引に神権を解放して変身したせいか、力が不安定のまま安定しない……長引くとこちらが不利になります』

 

 

ディケイド?『たった二分で決めろっていう条件付きだしなっ……速攻で一気に決めるぞ、魚見っ!』

 

 

魚見『えぇ、"スサノヲ"の制御はお任せを……!』

 

 

ディケイドの内側から響く声……魚見がそう叫ぶと同時に、ディケイドの背中の機械的な深蒼の翼が大きく広げられて翼の先が分離し、八基の武装……スサノヲはまるで意志を持ってるかのようにディケイドの周囲に展開されていき、魚見と契約し新たな姿に変身したディケイド……否、『ディケイド・ツクヨミフォーム』は両手の蒼いライフルを回転させながら黄金魔神像に目掛けて突っ込んでいくのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑬

 

―海上―

 

 

『奴め、また新たな力を手に入れたというのか……?だが……!』

 

 

―ギュイィィィィィッ……バシュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

ツクヨミフォームとなって再び戻ってきたディケイドの新たな姿を見て一瞬驚きはしたものの、すぐに冷静さを取り戻した銀色の魔人の操縦で先程放ち損ねた砲撃をディケイドに向けて放つ黄金魔神像。しかし……

 

 

魚見『させません……スサノヲ!!』

 

 

―バシュバシュバシュッ!ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『ッ!何……?!』

 

 

ディケイドの内に宿る魚見が念動兵装……スサノヲの三基を操ってディケイドの前で三角形の陣形を形作り、巨大なバリアを展開して黄金魔神像が放った砲撃を受け止めたのである。そして、砲撃を受け止めている隙に残りのスサノヲが黄金魔神像へと接近し、素早く周囲を飛び交いながら砲撃を打ち出して黄金魔神像に攻撃を加えていく。

 

 

―バシュバシュバシュバシュバシュバシュゥバシュバシュバシュッ!!!チュドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッッッ!!!!!!!―

 

 

『ウオォァアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァッッッ…………!!!?』

 

 

『ぬっ、くっ……小癪なっ……!』

 

 

縦横無尽に夜空を飛び回るスサノヲ達から撃ち出される無数の砲撃が黄金魔神像に休む間もなく降り注ぎ、銀色の魔人は忌ま忌ましげにスサノヲ達を睨みつけながら舵を操って黄金魔神像でスサノヲ達を薙ぎ払おうとする。そしてディケイドは黄金魔神像の注意をスサノヲ達が引き付けている隙に両足のホルスターに二丁の蒼いライフル……日照と月読を収めると、懐からソルメモリとグレイシアメモリを取り出して日照と月読に装填し、ホルスターから再び抜き取った。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

ソルメモリを日照へ、グレイシアメモリを月読へ装填すると共に鳴り響いた電子音声を耳に、ディケイドはホルスターから抜き取った日照と月読を構えながら翼を広げて空高く上昇する。黄金魔神像もそれに気付き、すぐさま無数に分裂した面を飛ばして四方からディケイドを囲み挟み撃ちにしようとするが……

 

 

―シュンッ!―

 

 

『……?!何ッ!』

 

 

ディケイドは突如幻影と共にその場から消え……いや、消えたと錯覚させる程の超スピードで、面達の包囲から脱却してみせたのだ。そしてその光景を見て銀色の魔人が我が目を疑う中……

 

 

―バシュバシュバシュッバシュバシュバシュッ!!!パキイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『ッ!脚が……!』

 

 

ディケイドは超スピードで幻影を生み出しながら夜空を駆け抜けて黄金魔神像を翻弄していくと共に、月読から氷の砲撃を連続で撃ち出して黄金魔神像の脚部を凍り付かせ、すかさず其処へ日照から放つ炎の砲撃とスサノヲ達の砲撃を掛け合わせた集中放火を黄金魔神像に浴びせていく。しかし……

 

 

―……ガクッ!―

 

 

ディケイドT『――ッ?!身体がっ……!』

 

 

魚見『!零……?!』

 

 

『隙ありッ!!』

 

 

―ブオオォォッッッ!!!!!!―

 

 

魚見『ッ!スサノヲッ!!』

 

 

―ガギイィィッッッ!!!!!!―

 

 

超スピードで移動していたディケイドの動きが不意に鈍り、超スピードで動けなくなってしまったのである。そしてディケイドの姿を捉えた銀色の魔人は咄嗟に黄金魔神像の右腕を飛ばしディケイドへと迫り、それを目にした魚見はすぐさまスサノヲ全基を総動員させディケイドの周囲に集めると、ディケイドを包み込むように巨大な四角形の障壁を展開して黄金魔神像の手からディケイドを守った。しかし……

 

 

―ミシミシミシミシミシミシミシミシミシミシッッッ……!!!!!!!―

 

 

魚見『くっ、なんて握力っ……!!』

 

 

黄金魔神像は全スサノヲが展開する障壁で必死に身を守るディケイドを握り潰そうと障壁を掴む手に徐々に握力を加えていき、それに生じて障壁が軋みを上げていくが、ディケイドは身体を抑えて何も出来ずそれを見ている事しか出来ない。

 

 

『ふん、やはり先の戦闘で疲弊しているようだな……それにその姿、先程の姿と幾つか類似点があるが……もしや、時間制限がある事も同じか?』

 

 

ディケイドT『ッ……』

 

 

『図星か。ならば話は早い、このまま追い込み、時間切れまで追い詰めてやろう……!』

 

 

弱点が分かった以上、其処を突かない道理はないと。銀色の魔人は黄金魔神像の握力を更に上げてスサノヲが展開する障壁ごとディケイドを握り潰そうとする。それにより障壁にも徐々にだが亀裂が走り、万事休すに思われた、その時……

 

 

 

 

 

『――だったらそうなる前に……』

 

 

『貴様ごと、その悪趣味な像を叩き壊すまでだッ!!』

 

 

―ガギイィィッッッ!!!バリイィィィィィィインッッッ!!!―

 

 

『ッ……?!何っ?』

 

 

もう少しで障壁が砕かれようとした瞬間、スサノヲの障壁で身を守るディケイドの下へと突如赤と青の二つの光が飛来し、障壁を掴む黄金魔神像の指の間接部分を斬り裂いたのであった。それによって黄金魔神像の右手は手の平だけを残す形で五本の指全てがバラバラになり、それを見た銀色の魔人は驚愕しながら赤と青の二つの光を目で追うと、其処には背中の翼を纏って高速で移動する龍王と鬼王の二人の姿があった。

 

 

『奴らめ、まだっ……!』

 

 

鬼王『今よ、零ッ!!』

 

 

ディケイドT『ッ!!スサノヲッ!!』

 

 

鬼王の呼び掛けと共にディケイドは咄嗟に障壁を解除して黄金魔神像から距離を離すと、八基のスサノヲの銃口から神氣で形成された刃を展開し、ディケイドが右腕を掲げると共に一斉にスサノヲ達が黄金魔神像に目掛けて突っ込み像の全身に突き刺さっていく。

 

 

―ズババババババババババババババババアァッッ!!チュドオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッ!!!!―

 

 

『ぬぐっ!クッ、まだだ、黄金魔神像はこの程度では落ちん……!』

 

 

 

 

 

『――ええ。ですからこちらも容赦しませんぜ?』

 

 

 

 

 

『……?!』

 

 

銀色の魔人がスサノヲ達に突撃された箇所から爆発を起こす黄金魔神像の態勢を立て直そうとしたその時、不意に陽気な声が何処からか聞こえた。そしてそれを耳にした銀色の魔人が驚きを浮かべその声の主を探すと、黄金魔神像の足元……黄金の剣を弓に番わせて静かに狙いを定める、ルーノの姿が其処にあったのだった。

 

 

『足元……?!』

 

 

ルーノ『伝説の聖剣を矢に使うなんて贅沢過ぎますが、出欠大サービスです……約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――!!!!』

 

 

―バシュウウゥゥッッッ!!!!―

 

 

銀色の魔人がルーノの存在に気付いた時には既に遅く、弓に番われていた黄金の剣が大気を切り裂いて矢として放たれていった。そうしてルーノの手から撃ち出されたソレは猛スピードで打ち上がり、黄金魔神像の胸に直撃し巨大な大爆発を巻き起こして風穴を開けたのだった。

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『ッ!黄金魔神像に穴をっ……?!』

 

 

ルーノ『今です!!アシェンさん!!』

 

 

アシェン「はああああ!!」

 

 

ルーノが掛け声を上げたと共に、上空で待機していたアシェンがその声を合図に飛行ユニットを用いて黒煙が立ち上る黄金魔神像の胸の穴から体内へと侵入し、飛行ユニットをパージした。そして……

 

 

アシェン「此処まで来た以上、出し惜しみはしません……コードDTD!発動!!」

 

 

両腕の拳を胸の前で火花を散らしながらぶつけ合わせて高らかに叫ぶと同時に、アシェンのスーツの一部が露出し、頭部のバイザーが後頭部に回された。そして全ての工程を終えると共に、アシェンは先程までのクールな印象とは明らかに違う明るい笑顔で片腕を掲げながら叫ぶ。

 

 

アシェン「リミット解除!!どっぎゃーーん!!此処からボクの一人無双ー!!ファントムミラージュぅッ!!!!」

 

 

―ヒュンッ……ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアアァッッッ!!!!!!ボッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアンッッッッ!!!!!!!!―

 

 

明るい笑顔を浮かべてそう言いながらピョンピョンと子供のように軽くジャンプした後、アシェンは肉眼では捉えられない超スピードで残像を生み出しながら駆け出し、黄金魔神像の体内を手当たり次第に破壊して駆け抜けていったのだ。更にそれだけに終わらず……

 

 

ディケイドT『こっちも時間がないんだ、一斉攻撃で一気に沈めるっ!!』

 

 

魚見『えぇ……!スサノヲ!!』

 

 

龍王『応!!』

 

 

ルーノ『任せんしゃい!!』

 

 

鬼王『オーライ!!いけえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!』

 

 

黄金魔神像の内側から攻撃を行うアシェンの後に続き、ディケイドも八基のスサノヲを操作してアシェンが侵入したのと同じ穴へスサノヲ達を突入、散開させてスサノヲ達の砲撃を乱れ撃ち、外側からも龍王、鬼王、ルーノがそれぞれ必殺技を放ち黄金魔神像に集中放火を浴びせていくのであった。

 

 

―ドガアァァァンッ!!!ボガアァンッボガアァンッチュドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッッ!!!!!!―

 

 

(ッ!クッ、神氣が上手く働かないっ……まさか此処まで追い込まれるとは……奴らの力を侮り過ぎたかっ……)

 

 

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

 

 

『!!』

 

 

銀色の魔人が黄金魔神像の体中から巻き起こる爆発の揺れに堪える中、背後の壁が爆発と共に打ち破られた。その爆発に驚愕し銀色の魔人が反射的に背後に振り返ると、破壊された壁の向こうから立ち込める爆煙の中からゆっくりと一人の人物……通常形態に戻ったアシェンが姿を現した。

 

 

『貴様……』

 

 

アシェン「やっと追い詰めました……チェックメイトです」

 

 

『…………』

 

 

スチャッと、静かに両拳を構えながら鋭い眼光で銀色の魔人を見据えるアシェン。しかしそんな彼女を見て銀色の魔人も身構えようともせず、右手を舵に乗せたまま動かない。

 

 

アシェン「これ以上の戦闘は無意味です。私と零様達が体内で暴れ回った事で、この像も長くは持たない。貴方達の負けです……降伏するのなら今の内ですが」

 

 

『……確かに貴様の言う通りだな……今回の戦いは、私の敗北で間違いない。正直見くびり過ぎていたよ、貴様達の力をな』

 

 

アシェン「……妙に潔いのですね……」

 

 

『私とて己が未熟さが招いた敗北は認めるさ。ああ、だから、この戦いは貴様等に花を持たせよう……ただ――』

 

 

バキイィッ!と、其処で言葉を区切ると共に、銀色の魔人は突然握り拳を作った右手を振り上げ、舵の中央に叩き付けて舵を破壊してしまった。

 

 

アシェン「ッ!何を……?!」

 

 

『―――敗走の行き掛けの駄賃ぐらいは、貰っていっても構わんだろう?』

 

 

―ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!―

 

 

銀色の魔人が不敵な笑みを浮かべてそう告げたと共に、コックピット内に突如けたたましくアラームが鳴り響き、コックピット内が赤く点滅し始めていく。

 

 

アシェン「ッ?!何をしたのです?!」

 

 

『大したことはしていない。ただ最後の苦し紛れに、起爆装置を起動させただけだ……まぁ、一度爆発すれば、半径数百キロ程は跡形も残さず吹き飛ぶ品物だがな』

 

 

アシェン「なっ……?!」

 

 

一度起爆すれば、半径数百キロが吹き飛ぶ事になる。何の感情もなく平たい口調でそう説明する銀色の魔人にアシェンも驚愕を浮かべ動揺してしまうが、銀色の魔人はそんな彼女を他所に背後に歪みの壁を出現させた。

 

 

『起爆までの時間は一分半……止めるなら急ぐ事だ。でないとどの道、桜ノ町は勿論、この近辺一帯は一瞬で消滅する事になるぞ』

 

 

アシェン「ッ!待ちなさいッ!!」

 

 

歪みの壁の中へと逃げようとする銀色の魔人を逃がすまいと、アシェンは咄嗟に地面を蹴って勢いよく飛び出し銀色の魔人に目掛けて跳び回し蹴りを打ち込もうとする。しかしアシェンの蹴りが届く前に銀色の魔人は歪みの壁に呑まれ何処かへと消えていってしまい、残されたアシェンは地面に着地してすぐに辺りを見回して悔しさをぶつけるように床に拳を叩き付けた後、すぐさま思考を切り替えて銀色の魔人が破壊した操縦桿を慌てて調べ始めていくのだった。

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑭

 

―海上―

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!ボッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『………………………………………………』

 

 

そしてその頃、体内に侵入したアシェンに内側から、外側から全力の一斉攻撃を撃ち込んだディケイド達によって一時は激しくもがき苦んで暴れ回っていた黄金魔神像だったが、その動きが急に突然停止し、今はもう全身の至る所から発生している小規模の爆発にも反応を示さず完全に停止していた。

 

 

龍王『……?なんだ?急に動きが止まった……?』

 

 

鬼王『倒した……っていう感じではないわね。まるで事切れた人形みたいな、何だか不自然な感じが……』

 

 

ルーノ『ふぅむ……此処はどう判断すべきですかね?もしも倒せたんなら気兼ねなく思いっきり「やったか?!」って喜べるんですが』

 

 

ディケイドT『それはフラグ過ぎるから止めろっ……それにしても、一体どうなってるんだ?』

 

 

魚見『……内部を攻撃していた中で大事な部分をやられたのか、体内に突入したアシェンさんがあの銀色を止めたのか……いずれにせよ、まだ油断ならないのは確かかと』

 

 

ディケイドT『そうだな……取りあえず今は警戒を緩めず様子を見て、アシェンが外に出て来るのを待つしか――』

 

 

黄金魔神像がまだ形を残して健在な以上、気を抜かず様子を見て今はアシェンが無事に出て来るのを待つしかないと、ディケイド達が全身から小規模の爆発を起こす黄金魔神像を見下ろしていたその時、黄金魔神像から突然ノイズ混じりの声が響いた。

 

 

アシェン『――皆さま――聞こ――ますか?!』

 

 

鬼王『ッ?!この声は……』

 

 

ディケイドT『アシェンッ?!』

 

 

黄金魔神像からノイズに混じって途切れ途切れに聞こえて来る一つの声……黄金魔神像の体内に侵入したアシェンの声であり、声の主がアシェンだと知ったディケイド達も何故彼女の声が黄金魔神像から?と驚きを浮かべてしまうが、その時黄金魔神像の身体から一際大きい爆発が発生した。

 

 

ディケイドT『ッ!おい何やってるっ?!早く脱出しろっ!その像はもう長くは持たんぞっ!』

 

 

アシェン『分かっていますっ!ですがそういう訳にはいかないんですっ……!あの銀色が余計な置き土産を置いていきやがりましてっ、この像、あと一分で自爆しやがるのですっ!』

 

 

『なっ……』

 

 

焦躁を露わに余裕のない声でアシェンが告げた衝撃的な事実に、ディケイド達は目を見開いて言葉を失ってしまい、アシェンはそんなディケイド達に先程までの銀色の魔人とのやり取りを話していく。

 

 

鬼王『半径数百キロって、嘘でしょっ……?!』

 

 

アシェン『今は私の機能で起爆装置に侵入して時間を稼いでますが、起爆自体を解除する事は不可能のようです……このままではいずれっ……』

 

 

龍王『な、何とかならんのかっ?!この像を、何処か別の場所に飛ばすとかっ!』

 

 

ルーノ『しかしその場合、かなり場所を絞る必要がありますよ?完全に周りに人がいない場所なんざそうそうありませんし、周囲に甚大な被害が出るとなると、私の力でこの像を異次元に飛ばすとか……いや、これだけの巨体を飛ばすとなると、今の私一人では時間が掛かりますね……』

 

 

鬼王『クッ、だったら桜ノ神を連れてきて彼女の力で……!』

 

 

魚見『いえ、彼女にはもう奇跡の力を行使するだけの神力は、もう……』

 

 

ディケイドT『…………』

 

 

つまりは八方塞がり。こうしてる間にも徒に時間だけが過ぎていくのに他に何もいい手段が思い付かず焦りばかりが募る中、ディケイドは何かを思案するように顔を伏せた後、黄金魔神像の体内にいるアシェンに向けて叫んだ。

 

 

ディケイドT『アシェン!お前はそのままその像から脱出しろ!後の事は俺達が何とかする!』

 

 

アシェン『え……』

 

 

鬼王『っ!はあっ?!』

 

 

龍王『ちょ、ちょっと待て黒月っ?!任せろってっ、一体どうするつもりだっ?!』

 

 

ディケイドT『……要するにあの像を人がいない場所に飛ばせば良いんだろう?だったら最適な場所がある……彼処にな』

 

 

そう言って、ディケイドは左腰のライドブッカーからカードを取り出しながら徐に人差し指を夜空で満天の星々より一際大きく輝く星……満月を指差した。

 

 

鬼王『月?……まさか?!』

 

 

ディケイドT『ツクヨミの力でコイツを彼処に飛ばす……今の俺と魚見の力ならそれぐらい出来るはずだ。そうだろう?』

 

 

魚見『それは……いえしかし、こちらももう残り時間が一分を切って……!』

 

 

ディケイドT『このデカブツを地球の外に捨てるだけだ、別に戦う訳じゃない。他に手段もない以上、やるしかないだろ……?』

 

 

魚見『っ…………』

 

 

確かに、自分達には手段を選んでいる余裕などない。ツクヨミの制限時間もある以上悠長にはしてられないのだ。ならば今取るべき策は……

 

 

魚見『――分かりました。スサノヲ全基、フォーメーション……!』

 

 

ディケイドT『悪いな……アシェンっ!お前も急いで脱出しろっ!準備が出来次第ソイツを飛ばすっ!』

 

 

アシェン『っ!了解……!』

 

 

アシェンの方もディケイドが提示した作戦に乗るしか方法はないと決断したのか、それだけを伝えて通信を切った。そして魚見の号令と共に、ディケイドの背中の大翼に収まる八基のスサノヲが一斉に起動して宙を舞い、黄金魔神像の後方で巨大な円を作るように陣形を取ると、八基のスサノヲが形作る円の中心に青白い光が灯り、光が広がって巨大なワープホールを作り出していった。

 

 

魚見『フィールドを展開、あとは――!』

 

 

―……ドグオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!―

 

 

ワープホールの起動準備を完了した直後、黄金魔神像の胸の中心部分から巨大な爆発が発生し、爆発と共に巻き起こった黒煙の中から飛行ユニットを再装着したアシェンが勢いよく飛び出してきた。

 

 

ルーノ『アシェンさん!!』

 

 

アシェン「ッ……!こちらは脱出しましたっ!!零様っ!!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

アシェンの脱出を確認すると共に、ディケイドはあらかじめ取り出してたカードをバックルに投げ入れスライドさせた。そして電子音と共に黄金魔神像に向けてディメンジョンフィールドが現れ、ディケイドは背中の翼から白い光を放出して右足を突き出しながら目にも留まらぬスピードでディメンジョンフィールドをくぐり抜け……

 

 

―ガギイイイイイイイインッッッッ!!!!!―

 

 

ディケイドT『グッ!!!クッ……ゥウオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

フィールドをくぐり抜けたディケイドのディメンジョンキックがけたたましい轟音と共に黄金魔神像に炸裂し、そのまま黄金魔神像の巨体を右足で浮かせて後方に展開されるワープホールにまで突き進んでいった。そうしてディケイドは黄金魔神像と共にワープホールをくぐり抜け、ディケイド達が完全にワープホールの向こう側へ飲み込まれると同時に、スサノヲ達もその後を追いワープホールの光も消滅したのであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―月面―

 

 

―ギュイィィィィィッ……ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアァンッッッッ!!!!!!―

 

 

―――地球から遠く離れた宇宙に存在する月の月面。その頭上に突如青白い光が何処からともなく出現し、その向こうから黄金魔神像が現れ背中から月面へと落下していったのであった。そして、黄金魔神像に続いてディケイドも光の奥から現れ黄金魔神像から離れた場所に着地するが、着地と共に突然仮面の口の部分を抑えて激しく咳込み出した。

 

 

魚見『ッ?!零っ!』

 

 

ディケイドT『ゲホッゲホッ!!ハァッ……ハァッ……お、俺の事はいいっ……それよりっ……』

 

 

仮面の下で何度も苦しげに咳き込み吐血しながらディケイドが魚見にそう言って目の前に視線を向けると、そこには全身から火花を撒き散らす黄金魔神像が仰向けに倒れる姿があり、その装甲の隙間からは無数の閃光が次々と溢れ出していた。

 

 

ディケイドT『ッ……動き出す気配もない。此処なら周りに被害が出る事もないな……』

 

 

魚見『えぇ、急いで戻りましょう?ツクヨミでいられる時間も残されていませんし、このまま長引けば貴方の命にも関わります』

 

 

ディケイドT『あぁ……分かった……』

 

 

肩で呼吸をしながら魚見にそう言うと、ディケイドは黄金魔神像に背中を向けて月の表面を軽く蹴り、宙に浮きながら背中の蒼い翼に収まったスサノヲ達を再び起動させてワープホールを再形成しようとする。が、その時……

 

 

 

 

 

 

 

―ギュイィィィィィッ……バシュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーウゥゥッッッッ!!!!!!!―

 

 

魚見『――ッ?!零っ!!』

 

 

ディケイドT『ッ?!何っ?!』

 

 

―ドグォオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオォォンッッッ!!!!―

 

 

スサノヲ達に再びフォーメーションを形成させようとしたその時、背後から突如巨大な砲撃が襲い掛かって来たのだ。それに対しディケイドは直感から思い切りその場から跳び退くも完全に回避し切る事は叶わず、左足を砲撃に焼かれながら爆発の余波で吹っ飛ばされ地面を滑るように叩き付けられてしまった。

 

 

魚見『零っ?!無事ですか?!しっかりっ!』

 

 

ディケイドT『ァッ……!グッ……お、俺は平気だっ……それより、今のはっ……!』

 

 

装甲が焼き焦げて白い煙が立つ左足を抑えつつ、ディケイドは仮面の下で苦痛で顔を歪めながら今の砲撃が撃たれてきた方に視線を向けると、ディケイドと魚見の表情がみるみる内に驚愕の色へ染まっていってしまう。何故なら、二人が目にしたのは……

 

 

 

 

 

 

『グルルルルルルルゥッ……グルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

……今まで動く気配すらなかったハズの黄金魔神像の上半身が口から白い煙りを立たせ、地に両腕を付けてこちらを見据えながら獣のごとく咆哮する姿が其処にあったのだった。

 

 

ディケイドT『なっ……どういう事だっ?あの像っ、また動き出したのかっ……?!』

 

 

魚見『まさか……!此処へ飛ぶ前まではそんな気配は何も……ッ?!』

 

 

今まで動き出す気配なんて微塵もなかったはずの黄金魔神像の再起動にありえないと驚愕する魚見だが、その時魚見はあるモノを見て再び驚愕してしまう。何故なら黄金魔神像のすぐ傍に下半身の部分に当たる筈の異形の像があり、下半身を失った黄金魔神像の上半身からは、まるで白い大蛇を彷彿とさせる長い尻尾がユラリとうごめき伸びていたのだ。

 

 

ディケイドT『尻尾……?何だアレは……奴は像じゃなかったのか?』

 

 

魚見『アレは……そんな……まさかっ…………』

 

 

ディケイドT『?魚見……?』

 

 

『フシュウゥゥゥゥッ……グゥオアァァァァァァァァァァァァァァァァアッッッッ!!!!!』

 

 

―バキッ……ビシィッ、パキッ……バリイィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

黄金魔神像の上半身から伸びる巨大な白い尻尾を見て何かに気付いたかのように動揺を露わにする魚見。そんな彼女の反応に対しディケイドが訝しげな顔を浮かべる中、ディケイドに向かって獣のように吠え続ける黄金魔神像の金の装甲に突如亀裂が走り、亀裂は装甲全体に広がって全て地面に崩れ落ちていったのだった。そして、装甲が崩壊した黄金魔神像の中には……

 

 

 

 

 

 

 

『グゥオオアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

純白の翼と、まるで悪魔のような形相の白い異形……。

 

 

黄金魔神像の中からその姿を現した謎の怪物を目にし、魚見が僅かに声を震わせ呟く。

 

 

魚見『間違い、ない……あれは、"フォーティンブラス"……!!』

 

 

ディケイドT『ッ?!なんだとっ?!』

 

 

『グウゥッ……ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!』

 

 

震える声で魚見がそう口にしたのは、嘗て零達がこの世界で倒した先代幻魔神のフォーティンブラスの名。目の前の巨大な異形がソレだと言われディケイドも思わず目を見開き驚愕するが、謎の異形……フォーティンブラス・激情態はその巨大な両腕を振るってディケイドに向けて衝撃波を放ち、ディケイドはそれを見て慌ててその場から跳び退きギリギリ衝撃放を回避した。

 

 

ディケイドT『クッ!!おい、どういうことだっ?!あの化け物がフォーティンブラスだとっ?!』

 

 

魚見『え、えぇ……アレはフォーティンブラスのもう一つの、儀式用の仮の姿……私も数百年前に一度目にした事がありますから、間違いないかと……』

 

 

ディケイドT『だとしても何でフォーティンブラスがあの像の中から出て来るっ?!奴は俺達が倒したんだぞっ!!』

 

 

そう、フォーティンブラスは確かにあの戦いで零達に敗れ、その魂は幸助の手によって断罪された。だからこそフォーティンブラスが復活するなどありえないと否定するディケイドだが、魚見は見境なく辺りを攻撃するフォーティンブラスを見て分析するように呟いた。

 

 

魚見『あくまでも私の推測ですが、恐らくあのフォーティンブラスに断罪の神に断罪された魂は宿っていません。アレは知性もなく、ただ破壊衝動のままに行動する破壊魔……貴方達に滅ぼされた肉の身体のみをかき集めて再生させただけの、空っぽの存在です』

 

 

ディケイドT『肉体を再生……ようするに完全な復活じゃなく、再生怪人の類って事か……?』

 

 

魚見『ただの再生ならその括りで違いはないのでしょうが……あのフォーティンブラスからは、黄金魔神像と戦った時より強烈な神氣を直に感じます。恐らくはリアから奪った神権は黄金魔神像にではなく、像の中に隠されていたあのフォーティンブラスに吸収されたのかもしれません……だとすると黄金魔神像の本来の役目もフォーティンブラスに吸収された神権がアレに定着するまでの時間稼ぎと隠れみので、起爆と共に動き出す仕掛けになっていたのかもと……』

 

 

ディケイドT『……成る程な。どんなカラクリであの女から神権を奪ったのかも気になってはいたが、そういう事かっ……』

 

 

桜龍玉で蘇ったリアが駄目なら黄金魔神像に保険を、黄金魔神像も倒れるのなら更なる保険にフォーティンブラスを再び幻魔神として復活させる。死んでもなお何処まで用意周到な保険を残していたギルデンスタンにディケイドも思わず毒づくが、フォーティンブラスはそんなディケイドに向け今度は口から広範囲の炎を放出して襲い掛かり、それを見たディケイドも咄嗟にスサノヲでバリアを展開し炎を凌いだ。

 

 

魚見『ッ!とにかく一先ず撤退をっ!ツクヨミを維持出来る時間も残されていませんしっ、爆弾も恐らくはフォーティンブラスが脱ぎ捨てたあの下半身の像の中ですっ!彼処から、膨大な熱源反応が……!』

 

 

ディケイドT『ッ……そう言われてもなっ……!』

 

 

フォーティンブラスの出現に加えてツクヨミフォームを維持出来る時間もなく、更には半径数百キロを消滅させる爆弾がまだすぐ傍に健在なのだ。こんな状況で戦闘を続けるのは危険だと魚見が撤退を促すが、このままフォーティンブラスを放置して戻る事など出来るはずもない。ディケイドはそう考えながら炎の勢いが緩んだと共に、障壁を解除してスサノヲと共にフォーティンブラスに目掛け疾走した。

 

 

魚見『?!零、何を?!』

 

 

ディケイドT『決まってるだろうっ!!此処で奴を仕留めるっ!!』

 

 

魚見『なっ……話を聞いていなかったんですか……!このままでは貴方の身体が!』

 

 

ディケイドT『どっちにしろ此処で退いたら奴に対抗する手段がなくなるっ!!ツクヨミまで使えなくなれば、そうなったら誰が奴を止めるんだっ?!』

 

 

魚見『それはっ……しかし……!』

 

 

ディケイドT『奴を放って甚大な被害が出るよりかはマシだろっ……!俺も少し時間がオーバーしたぐらいじゃ簡単には死なんっ!!勝手な事を言っているのは重々承知だが――』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……ズドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオォォォンッッッッ!!!!!!!―

 

 

ディケイドがフォーティンブラスに向けて襲い来る炎をかい潜りながら疾走する中、フォーティンブラスの額にある赤い瞳に雷が宿り雷撃となってディケイドに襲い掛かり、ディケイドは超高速移動でそれを回避しながらフォーティンブラスの背後に回り込んで両足のホルスターから日照と月読を抜き取った。

 

 

ディケイドT『―――勝手ついでだ……地獄の底まで付き合ってくれよっ……』

 

 

魚見『ッ……貴方という人は、本当に……スサノヲっ!!』

 

 

無茶なのを承知で頼むディケイドに渋々ながらも納得してくれたのか、魚見は八基のスサノヲを念で操ってフォーティンブラスに突撃させて包囲し、スサノヲ達から神氣で構成された光線が放出され、フォーティンブラスの身体を雁字搦めに縛り付けた。

 

 

『グゥオオオッ?!!』

 

 

魚見『残り時間は50秒っ……!急いでっ!!』

 

 

ディケイドT『ッ!!』

 

 

魚見が叫ぶと共に、ディケイドは背中の両翼から光を放出しながら猛スピードでフォーティンブラスに接近し、フォーティンブラスの額へと着地すると共に日照と月読を合体させて一つのパーツにし、其処へソードモードに切り替えたライドブッカーを合体させて巨大な深蒼の銃剣に変化させていった。

 

 

ディケイドT『三重連……!!アメノハバキリッ!!』

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

日照と月読、そしてライドブッカーを合体させた銃剣……アメノハバキリを掲げると共に装填された二つのメモリから電子音声が響き、それと同時にディケイドは勢いよくアメノハバキリの銃口をフォーティンブラスの額に突き刺した。

 

 

―ブシャアアァッ!!!!―

 

 

『ッ?!!ギシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッッッッ!!!!!?』

 

 

ディケイドT『クッ!最大出力だっ……吹っ飛べええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!』

 

 

―シュウゥッ……バシュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!―

 

 

頭を激しく振り回すフォーティンブラスの額に必死にしがみつきながら引き金を強く引き、アメノハバキリの銃口から赤と水色が入り混じった巨大な砲撃が撃ち出されフォーティンブラスの額を安易く貫いていったのだった。が……

 

 

『ゥゥッ……ウウオアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

ディケイドT『ッ?!何っ?!―バキイイィィィッッ!!!!―グゥアァァァァァァッッ?!!!!』

 

 

魚見『零ッ?!くっ?!』

 

 

―チュドォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーオォンッッッ!!!!―

 

 

フォーティンブラスはディケイドが最大出力で放った砲撃に額を貫かされながらも息絶える事なく、苦しげに悶えながらまるで羽虫を払うかのようにディケイドを殴り飛ばしてしまったのだった。そしてディケイドはそのまま数十メートル先の岩場にまで吹っ飛ばされ岩に叩き付けられてしまい、フォーティンブラスも額から血を流しながら唸り声を漏らしてそれを確認すると、美しく輝く地球を暫し見上げた後、全身に神氣の光を身に纏い信じられない速さで地球に目掛けて飛び立っていった。

 

 

魚見『ぅ……っ……れ、零……無事ですかっ……?』

 

 

ディケイドT『ァッ……ぐっ……なんとか、なっ……クソッ、たった一発じゃぁ簡単に沈んでくれんかっ……』

 

 

ガララッと、崩れた岩場に埋もれた身体をふらつきながら起こすディケイドだが、複眼に亀裂が走り破片が幾つか地面に落ちていく。しかしディケイドはそれに目もくれずアメノハバキリを杖代わりにして立ち上がり、頭を振って朦朧となる意識を戻すと、光となって地球へと向かってくフォーティンブラスに気付き驚愕した。

 

 

ディケイドT『アイツ……まさか、地球に向かってるのかっ?!』

 

 

魚見『……恐らく、今は目覚めたばかりで分が悪いと逃走を決めたのかもしれません。それで再び身を隠す為に地球へ……』

 

 

ディケイドT『ッ!クソッ……!魚見、残り時間はっ……?!』

 

 

魚見『……あと30秒……これ以上は流石に限界です……!スサノヲで転移して急いで此処を離れて下さいっ!近くにはまだ爆弾もっ……!』

 

 

ディケイドT『……爆弾……?』

 

 

言われて思い出したように、ディケイドは離れた場所で無造作に転がってる黄金魔神像の下半身の像に目を向け、そして……何故だか、仮面の下で不敵な笑みを浮かべた。

 

 

ディケイドT『そうか……ギルデンスタンも、中々気の効いた置き土産を置いていってくれるじゃないか』

 

 

魚見『……?何を言って……』

 

 

ディケイドT『……魚見、今から俺の言う座標にスサノヲでワープホールを展開しろ』

 

 

魚見『え……?』

 

 

ディケイドからのいきなりの要求に面食らう魚見だが、ディケイドはそんな反応を他所に今さっき考え付いた作戦を魚見に説明していく。

 

 

魚見『―――なっ……正気ですかっ?!そんなことをすれば、貴方は……!!』

 

 

ディケイドT『奴を確実に仕留める為だ。悪いが俺もこればっかりは意見を引き下げるつもりはない……馬鹿な奴と契約したと思って、諦めてくれ……』

 

 

魚見『っ……嗚呼……咲夜が貴方を契約者に選んだ気持ちが、何となく分かってきましたっ……』

 

 

ディケイドと一体になって彼が本気であることを感じ取れたからか、これ以上は何を言っても無駄だと呆れや怒りとも取れる溜め息を吐きながら八基のスサノヲに念を送り、ディケイドもそんな魚見に苦笑しながら黄金魔神像の下半身の像に爪先を向け走り出していくのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑮

 

 

―宇宙―

 

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!』

 

 

そしてその頃、月面から光を超える速さで飛び立ったフォーティンブラスは既に地球のすぐ傍にまで迫って来ていた。

 

 

既にディケイド達がいる月は遠く、最早フォーティンブラスの前に立ち塞がる障害は存在しない。

 

 

徐々にゆっくりと大気圏へと突入していき、此処を抜けた後は先ずはディケイドに受けた傷を癒す為に大量の人間達を食べ尽くそうと知性のない頭でそう考え、地球の引力に身を任せようとするフォーティンブラス。その時だった……

 

 

 

 

―……ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!―

 

 

『……ッ?!!』

 

 

 

 

地球へと降下しようとするフォーティンブラスの前に、突如青白い巨大な光……ワープホールが出現したのであった。そして突如目の前に現れたソレを目にしたフォーティンブラスも驚きを浮かべ、思わず降下を中断し動きを止めた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

―バシュウウゥゥッッッッ!!!!!!―

 

 

ディケイドT『うぅおおおおおおあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

『ッ?!!―ドゴオオオオォッッッッ!!!!!!―ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ?!!!!!』

 

 

 

 

 

ワープホールの向こうから、猛スピードで巨大な物体……フォーティンブラスが月に置き去ってきたハズの黄金魔神像の下半身の像が勢いよく飛び出してきたのだった。そして、黄金魔神像の下半身の像……それを咆哮と共に全力で押し出すディケイドはそのままフォーティンブラスの腹に像をブチ当てて大気圏の外にまで押し出していき、完全に大気圏から離脱したと同時に剣形態のアメノハバキリを右手に握り締めた。

 

 

『SOL!MAXIMUM DRIVE!』

 

『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

魚見『残り21秒っ……!!零っ!!』

 

 

ディケイドT『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にアメノハバキリから神氣の炎と氷で構成された光の刃が放出された。そしてディケイドはアメノハバキリを握り締めながら黄金魔神像の装甲の上を駆け抜けて像の突撃で怯むフォーティンブラスへと飛び掛かると、アメノハバキリを高らかに振り上げ、そして……

 

 

ディケイドT『ズエアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!』

 

 

―ブザアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ?!!!!!』

 

 

ディケイドが振りかざしたアメノハバキリの光の刃が、先程ディケイドの放った砲撃に撃ち貫かれたフォーティンブラスの額に深々と突き刺さっていったのだった。フォーティンブラスは傷を負った箇所を再び攻撃され断末魔にも似た叫びを上げながらもがき苦しみ、ディケイドはそんなフォーティンブラスの額からアメノハバキリを抜き取り背中へと回り込んで真上に跳躍した。そして……

 

 

ディケイドT『魚見イィッ!!!』

 

 

魚見『スサノヲ、全基フォーメーション・展開っ!!』

 

 

ディケイドの呼び掛けを合図に魚見が八基のスサノヲに念を送ると、六基のスサノヲが三基ずつディケイドとフォーティンブラスの間で三角形を作るように陣形を取り、残りの二基がディケイドの右足に装着されて神氣を纏い、ディケイドはスサノヲに向けて跳び蹴りの態勢を取り、そして……

 

 

 

 

ディケイドT『ハアァァァァァァッ……ゼエェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!』

 

 

―ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアアァンッッッッッッ!!!!!!―

 

 

『グッ……?!!グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ……!!!!!?』

 

 

 

 

六基のスサノヲ達が形作る二つの六角形の中心を潜り抜ける様に急降下したディケイドの右足……月光招来がフォーティンブラスの背中に炸裂し、ディケイドはそのままフォーティンブラスと黄金魔神像の下半身の像と共に大気圏内へと突入していくのであった。

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ……!!!!!!―

 

 

魚見『ぅっ……くっ……!!残り11秒っ……!!零っ!!!』

 

 

ディケイドT『ァ……グッ……落ちろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!』

 

 

『ウオオオオオオオッ……ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

大気圏の熱が身を焦がし、ディケイドの全身からツクヨミの限界時間を知らせる光の粒子が立ち上り始める。だがそれでもなおディケイドはフォーティンブラスの背中を踏み付ける右足に全身全霊の力を込め続けると、フォーティンブラスの背中から全身へ徐々に巨大な亀裂が走っていき……

 

 

 

 

―カチッ……カチッ……ビガアアァッッッ!!!!―

 

 

ディケイドT&魚見『―――ッッッ!!!!』

 

 

 

 

フォーティンブラスの腹に激突したままの黄金魔神像に内蔵された爆弾がついに起爆し、黄金魔神像から放たれた光が一瞬でディケイドとフォーティンブラスを飲み込んでしまい、そして……

 

 

 

 

 

 

―バチバチッ……バチィッ……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!―

 

 

『オ、オオオオオオオオッ……オオオッ……グウゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ?!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

巨大な青い火花が散った次の瞬間、ディケイドとフォーティンブラスを飲み込んだ光りが数百キロ先にまで及ぶ巨大な大爆発と化し、広く暗い宇宙にフォーティンブラスの断末魔の叫びが何処までも響き渡ったのであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―海上―

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッッ…………!!!!!!!!―

 

 

鬼王『――ッ?!あ、あれはっ……?!!』

 

 

龍王『爆発……?まさか……黒月っ?!!』

 

 

アシェン「ッ……零様……」

 

 

ルーノ『…………』

 

 

同時刻、黄金魔神像とディケイドが消えた海上の上でディケイド達の帰還を待ち待機してたルーノ達の頭上の空で爆発の光が広がり、一同はその光景を不安と心配が入り混じった様子で見上げていた。其処へ……

 

 

―バッバッバッバッバッバッバッバッ……!!!―

 

 

背後からヘリのプロペラ音が聞こえてきた。それを耳にした一同が振り返ると、其処にはノエルの大型ヘリが一同の下へ近付いて来る姿があり、一同の方に側面を向けると共にドアが開き中から二人の人物……身体の所々に包帯を巻いた姫となごみが顔を見せた。

 

 

アシェン「お嬢様っ!」

 

 

ルーノ『お二人とも、ご無事でしたか』

 

 

なごみ「えぇ、なんとか。それより……」

 

 

姫「二人はどうなったっ?!零はっ?!魚見はっ?!」

 

 

龍王『……それが……』

 

 

必死な様子で零と魚見の安否を問い詰めて来る姫に対し何も答えられず言い淀み、一同が無言のまま極光が広がる夜空を見上げると、姫はそれで彼女達が何を伝えているのか悟り絶句してしまう。

 

 

姫「ま、まさか……そんな……っ……!」

 

 

―ガクッ!―

 

 

なごみ「姫さん!」

 

 

倒れそうになる姫の身体をなごみが咄嗟に横から支えゆっくりと座らせるが、姫の顔色は真っ青に染まってしまっている。そんな姫に掛ける言葉も見付からず、一同の間にも重たい空気が流れ始める。そんな時だった……

 

 

 

 

 

「――なんだいなんだい、このしんみりとした空気は?まるでお通夜みたいじゃないか?」

 

 

『……ッ?!』

 

 

重たい空気が支配するその場に何処からか飄々とした声が響き、その声に釣られ一同が声がした方へと振り返ると、其処には何もない空間を悠然と歩いてこちらに近付いて来る人物……廃ビルで何処かに消えた筈の真姫の姿があった。

 

 

なごみ「貴方は……」

 

 

姫「……上役……何のご用ですか……」

 

 

真姫「おいおい、随分つれない挨拶だなぁ。保身派の上役達に報告する事の経緯をしっかりと見届けたから、一応声を掛けておこうと思ったんだけど」

 

 

鬼王『……こっちはアンタに構ってる隙なんてないのよ……全部しっかり見届けたって言うんなら、とっとと神界にでも戻ればいいでしょ……』

 

 

真姫「無論そのつもりだよ。まあけど、神界に連れていくのは"彼女"一人だけで十分なんでね。"彼"は返しておくよ」

 

 

『…………え?』

 

 

何やら意味深な言い回しをする真姫の言葉に、姫達が頭上に疑問符を並べて振り返ると、真姫はパキィッ!と指を軽く鳴らして自分の目の前に二つの光球と何処からか出現させた。それは……

 

 

 

 

零「……ぅっ……ぁ……」

 

 

魚見「ぅ……っ……」

 

 

 

 

鬼王『ッ?!零ッ!!』

 

 

ノエル「ぁ……ウオッ!!」

 

 

そう、真姫が出現させた光球の中には、フォーティンブラスと共に黄金魔神像の爆発に呑まれて消滅したと思われていたボロボロの姿の零と魚見の姿があったのだった。そんな二人の姿を目にした一同は顔色を明るくさせて歓喜し、姫もまた一瞬唖然とした後に我へと返り、動揺を露わに真姫に問い掛けた。

 

 

姫「ど、どういう事ですか?!何故上役が二人を?!」

 

 

真姫「ん?べっつにぃー?ただあの黄金魔神像に内蔵されてた爆弾は、どうやら君(桜ノ神)対策に作られた神をも殺せる品物だったらしいからね。あのままじゃ今回の事件の重要参考人の一人である水ノ神が爆発に飲み込まれて消えられてただろうし、そうなったら私が困るから助けただけだよ。ホイ」

 

 

適当な調子でそう答え真姫が人差し指をヘリに向けると、光球に包まれる零の身体が勢いよくヘリに突っ込み、姫は慌てて零の身体を受け止めるもそのまま零と共に倒れ込んでしまった。

 

 

零「ゴフッ……」

 

 

姫「いっつぅっ……!な、何を考えてるんですか上役っ?!彼は怪我人ですよっ?!」

 

 

真姫「命を助けてあげたんだからそれで十分でしょ?まあ、助けたのは彼の無茶のせいで危うく大事な証人の水ノ神も消されるところだったから、ついでみたいな感じだけどね」

 

 

咎めるような目を向ける姫に軽い調子でそう答えると、真姫はもう一つの光球に包まれる魚見を一瞥し、姫に再び目を向けた。

 

 

真姫「さて……事件も漸く解決したようだし、彼女の身柄は私が預かるよ。神界の頑固者爺共が早く彼女を連行してこいって煩いし、戻って一休みしたらすぐに審議会だってさ」

 

 

姫「っ……!だ、だったら、私も……!」

 

 

真姫「君は連れていけないよ。前回の事件の責任を負わされて、神界への立ち入りを禁じられてるだろ?」

 

 

姫「ッ……しかしっ……」

 

 

それでもやはり魚見が心配なのか不安げな表情を浮かべる姫。するとそんな彼女の反応を見て、真姫はやれやれと首を振って目を伏せながらこう答えた。

 

 

真姫「彼女については、私の方から色々とフォローを入れておくから心配しなさんなよ。それに……」

 

 

片目だけ目を開くと、真姫はヘリの中でなごみに壁に背中を預ける形で座らせられている、全身血まみれで前髪で顔が見えない零を見据えた。

 

 

真姫「……これでも腐っても神様だからね。部外者の通りすがりのクセに、此処までこの世界の為に身を張った人間の努力を無下するような真似はしないさね」

 

 

姫「……上役……」

 

 

真姫「んじゃ、君達はこのまま帰って休むといい。私も彼女を神界に送り届けてから事後処理に勤しむよ、君ももうそんな力は残っていないようだしね。じゃ、またね」

 

 

片手を上げて軽くそう言うと、誰かが呼び止める間もなく真姫は魚見と共に光となって何処かへと消えてしまった。そして一同がそれを見届けた直後に、ヘリの操縦をオートに切り替えて来たノエルが慌ててその場に駆け付け、真姫と魚見の姿がない事に気付き姫に詰め寄った。

 

 

ノエル「ね、ねぇ!ウオは?!さっきまで此処に……!」

 

 

姫「……私の上役が神界に連れていったよ……今回の事件について、他の上役達を交えて審議会を開くそうだ」

 

 

ノエル「ッ!そんなっ……私、まだちゃんと、ウオにお礼すら言えてないのにっ……」

 

 

なごみ「…………」

 

 

姫から魚見が連行された事について聞かされ、ショックを隠せない様子で壁にもたれ掛かるノエル。恐らく、彼女も魚見がどんな立場にあるのかを知っていたのだろう。神界に連れていかれればどんな目に遭わせられるか、それを知っているからこそ不安げに顔を俯かせるノエルに、姫が声を掛けようとして……

 

 

「―――心配は入らんだろ……」

 

 

『ッ!』

 

 

横合いからボソリと力無い声が聞こえ、姫達がそちらに目を向けると、零が片目を伏せて肩を僅かに上下に動かしながら姫とノエルを見上げる姿があった。

 

 

姫「零……!気が付いたのか?!」

 

 

零「……あの女、中身はふざけた奴だったが、本人も言ってた通り腐っても神の端くれなんだろ……さっきの言葉が嘘じゃないなら、今はそれを信じるしかないだろうよ……」

 

 

ノエル「…………」

 

 

零がそう言って真姫と魚見が消えたヘリの外を横目で見ると、ノエルもまた零の視線を追い外の風景を見る。すると、ルーノ達が続々とドアを通ってヘリの中に着地していき、他の三人が変身を解除する中、アシェンは自身のセンサーで零の身体をスキャンし僅かに眉をしかめた。

 

 

アシェン「……左腕左足が骨折してる上に出血多量、その他諸々の重傷……普通の人間ならショック症状で死んでる状態ですよ、零様」

 

 

零「別に今に始まった話じゃなかろうよ、もう慣れた……」

 

 

姫「『もう慣れた』、じゃないだろっ!明らかに私と彼女と別れた時より怪我が増えてるじゃないかっ!」

 

 

―バシイィッ!!―

 

 

零「イィッッッ……?!!お、お前っ、怪我してる所を叩くとか阿呆かっ?!!慣れてると言っても痛いもんは痛いんだぞっ?!!」

 

 

姫「知るか馬鹿っ!」

 

 

姫に殴られた部分を抑えて涙目になりながら文句を口にする零と姫の言い争いは続く。そんな二人の様子を周りが呆れたり苦笑したりする中、同じくその様子を暫く眺めてたノエルは薄く溜め息を吐いた後、一同に背を向けて口を開いた。

 

 

ノエル「……取りあえず、アンタも他の連中も治療が必要みたいだし、町に戻るとしましょう……私も早く折夏を安静に出来る場所で寝かせたいし」

 

 

姫「……それは助かるが、いいのか?魚見のこと……」

 

 

ノエル「ええ……ソイツの言う通り、今の私には信じることしかできないし……今は信じて待つわ……折夏と一緒にね」

 

 

姫「……そうか。彼女も、良い仲間達に巡り会ったんだな……」

 

 

まるで自分の事のように嬉しそうに微笑み掛ける姫の言葉を背に、ノエルはふん……と何処となく照れ隠しのように鼻を軽く鳴らして金髪の髪を手で払いながらコックピットに戻っていき、零もその背中を見届けた後、黄金魔神像の大爆発の光が収まった夜空を見上げながら思考に浸る。

 

 

零(――だそうだぞ……此処にはまだ、お前を待っていてくれてる連中がいる……だからもう、馬鹿な……かんがえ……は…………)

 

 

身体が重い。今まで必死に持ち堪えていた意識がそこで遂に限界を迎え途切れてしまい、開いていた片目をゆっくりと閉じ、零は誰にも気付かれず完全に意識を手放したのであった……。

 

 

 

 

 



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番外編/桜龍玉と新たな神⑯

 

 

―――その後、魚見を神界に連れ戻した真姫を信じて事後処理を任せて、桜ノ町に戻った零は絢香達の手により病院に運ばれて厄介になる事が決まった。

 

 

もし姫に僅かでも力が残っていれば彼女の力で怪我もすぐに治せるのだが、生憎自分の怪我を治すほどの力も残っていない今の彼女にそんな芸当は不可能であり、零や同じく他のメンバーと共に彼女も病院で治療を受ける事となった。(零が搬送された先の病院の先生は絢香達の知り合いらしく、彼女達の事や幻魔の事も承諾済みだったらしい)

 

 

無論他の面子はともかく、重傷を負った零が運ばれた時には医師達も血相を変えていたが、再生の因子の力のお陰か驚異的な治癒力で大体の傷は治療され、一日も休めば歩けるようになるまで回復し医師達を驚かせていたが、それでも左腕と左足は骨折したままで松葉杖無しでは満足に歩けないようだ。

 

 

ノエルと折夏に関しては、双方とも大した外傷もなく軽傷で済み、零が用いたクロスライドによりギルデンスタンの洗脳から解放された折夏も翌日になってから何事もなく目を覚ました。

 

 

念の為に病院で折夏の体をレントゲンで撮って貰ったが、ギルデンスタンに改造された箇所以外は特に異常は見られないらしく、一先ずは大丈夫なようでノエルも安堵を露わにしていた。

 

 

魚見達が町を賑わせていた怪盗騒ぎの件については、取りあえずは表向きに犯人を逮捕したという情報のみをマスコミに流し、騒ぎを鎮静化させる事を決断した。

 

 

無論それだけで許されるなんて虫が良い話だろうし、ノエルもそれを自覚し町を騒がせた責任を償う為に絢香達に自首を提案したが、盗まれた桜龍玉の持ち主である桜ノ神社が警察への届けを取り下げ、彼女達のお陰でギルデンスタン達の存在に気付き最悪の事態を回避出来たのもまた事実な為、窃盗の被害に遭った各所に直接赴き頭を下げる形で許してもらう事となった。

 

 

そして、神界に連れ戻され審議会に掛けられることになった魚見は……

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

―桜ノ神社―

 

 

零「―――結局、あれから何の音沙汰も無しか……」

 

 

絢香達とノエルが窃盗事件の被害に遭った各所に顔を出し終えた後の昼下がり。青空を仰いで溜め息混じりにそう呟き、額に白い包帯、左腕と左足にギブスを身に付けて松葉杖を付く零は絢香達とノエルに見送られ、姫、ドール、なごみ、アシェンと共に桜ノ神社の前に立っていた。

 

 

姫「恐らく、神界の審議会がまだ長引いているのかもしれないな……保身派達を全員納得させる事などそうそう簡単な事ではないだろうが、上役が付いててくれているから心配は入らないと思うが……」

 

 

ドール「いつ終わるか分からない審議会から、あの人が帰ってくるのを待つのはこれ以上無理でしょうなぁ……私らもあんま長居出来ませんし」

 

 

アシェン「私とお嬢様も、これ以上の滞在は滝様達に心配をお掛けする事になってしまいますからね」

 

 

なごみ「後の事は、絢香さん達に連絡して知らせてもらうしかありませんね……ホントに心苦しいですが」

 

 

魚見が保身派達からどんな処遇を受けることになるのか。それだけが心配でならないのに最後まで見届けることが出来ず、元の世界に帰らねばならないことに対し申し訳ない気持ちになる姫達だが、絢香はそれに対し苦笑いを浮かべながら首を左右に振った。

 

 

絢香「申し訳ないのは寧ろこちらです。二度も皆さんにこの町を守ってもらったのに、こちらに出来ることはもうそれぐらいしかありませんし……まともにお礼も返せないなんて、情けない限りです……」

 

 

アシェン「いいえ、私達は感謝を言われるような行いは何もしていません。それに……」

 

 

零「……最終的にこの町を救ったのは市杵宍の力だ。俺もただアイツの力を借りて戦っただけだしな。礼を言うなら、アイツが帰ってきた時に直接言え」

 

 

ノエル「…………」

 

 

照れ隠しでもなんでもなく、本当にそうだからという意味で瞳を伏せながらそう語る零だが、魚見の名前を聞いたノエルは不安を露わにした暗い表情を俯かせてしまう。そして零はそんなノエルの様子に気付き薄い溜め息を吐くと、ノエルの前に歩み寄りポケットに手を突っ込んだ。

 

 

零「――コーマット、受け取れ」

 

 

ノエル「……え?」

 

 

無愛想な態度でそう言って零がポケットから取り出しノエルに差し出したのは、何処かの連絡先が書かれた一枚のメモだった。

 

 

ノエル「何、これ……?」

 

 

零「阿南家って所の一員の"阿南 信義"って奴の連絡先を書いたメモだ。此処へ連絡すれば、お前と立花を元の身体に戻す治療をしてくれるそうだ」

 

 

ノエル「ッ?!元の、身体に……?私と、折夏が?!」

 

 

有り得ないものを見るような目で驚愕し、零からおずおずと受け取ったメモを眺めるノエル。てっきりもうこんな身体を治す術はないのだろうと諦めていたからこそだろう、そんな反応を示すノエルに零が付け足すように説明する。

 

 

零「今朝方に連絡を入れて話は既に通してある。腕は確かだし、俺の知り合いでもあるから安心して信じてもらって構わない……後はお前が其処へ連絡すれば、その身体を治療してお前とアイツは普通の人間に戻れるだろうさ」

 

 

ノエル「……でも、私にはそんな資格……沢山の人達にも迷惑を掛けてきたし、アンタ達の事を良くも知らないで目の敵にしたり……」

 

 

桜香「資格なら十分あるでしょ?貴女もあの折夏って子もあの事件の被害者なのだし、貴女達を助けられなかった私達にも責任はある……恨まれても当然よ」

 

 

紗耶香「それに窃盗の件も、私達や関係者がキッチリ許した。……お前達が気にするような事など、もう何一つない」

 

 

ノエル「けど……」

 

 

零「……俺達に対して少しでも悪いと思う気持ちがあるなら、厚意は素直に受け取っておけ。恥を掻かせるなよ」

 

 

零達や自分の復讐の為に町を騒がせた事に対する後ろめたさから、素直に厚意を受け取れないノエルに零が溜め息混じりにそう告げると、ノエルは一度そんな零を見上げて一同の顔を見回した後、控え目にコクりと頷き返した。

 

 

ノエル「ありがと……けど、此処に行くのは、私はもう少し先にしようと思う」

 

 

零「……?何でだ?」

 

 

小首を傾げて訝しげに聞き返す。彼女はギルデンスタンに改造された自分の身体を悍ましいと嫌っていたし、元に戻れる方法があるのにそれを後回しにする理由などない筈だが、ノエルは手の中のメモを見下ろしてポツポツと言葉を紡いだ。

 

 

ノエル「前までの、復讐しか頭になかった私だったら、確かに大喜びして、直ぐにでもこんな身体を治しに行ってたと思う……でも、アンタから仮面ライダーの話とか聞いて、洗脳された折夏の姿を思い浮かべて、あの子の病室で色々考えたのよ……ギルデンスタンはこっちの世界で様々な場所に研究所を作って、其処には奴に捕われた人達や改造された人達が沢山残ってるかもしれないって」

 

 

零「…………」

 

 

ノエル「だから私、考えて決めた……アイツが遺した研究所を全部潰して、捕われた人達を全員助け出して、実験台にされて死んでしまった人達をちゃんと弔ってあげたい……癪に障るけど、その為にもこの身体はまだ必要だからさ……元の身体に戻るのは、後始末を終えて、研究所から救い出した人達と一緒に……ってね」

 

 

零「……その話、立花の奴にも話したのか?」

 

 

ノエル「今朝あの子の病室でね。そうしたらあの子もついて来るって言ってたけど、駄目だって諦めさせた……あの子は私と違って脳まで改造されてるし、今はアンタの力であの子の洗脳を抑えてるけど、根本的な部分が改善されたわけじゃない。退院が決まったら、この信義って人のところに行かせるつもりよ」

 

 

零「……そうか。分かった。そういう事なら信義には俺からそう伝えておくが……お前一人で大丈夫なのか?」

 

 

各地にギルデンスタンが遺した研究所を潰して回って生存者を探して救出する。確かにその為には超人的な力を持つ改造人間の身体は必要だろうが、彼女一人でそれを成し遂げるのは流石に無茶ではないか?と零が問い掛けると、桜香が腕を組みながら代わりにそれに答えた。

 

 

桜香「その心配なら必要入らないわ。ギルデンスタンの研究所の後始末には、私と紗耶香も桜龍玉集めの傍らで付き合うつもりだから」

 

 

姫「?桜龍玉集め?」

 

 

紗耶香「はい……ギルデンスタンの望みを叶えた後、八つの桜龍玉は世界各地に散らばってしまいましたから、その回収の為に我等で世界各地を回るつもりです。もう二度と、ギルデンスタンのような輩の手に渡らぬように、桜ノ神社で保管する為に」

 

 

ノエル「丁度私達が桜龍玉探しに使っていたレーダーもあるし、それなら一緒にどう?、ってこの人達から誘いを受けてね……折夏の抜けた穴を埋めてくれるのなら、私も助かるから断る理由ないし」

 

 

零「桜龍玉を探す旅か……確かにあんなのをまたロクでもない奴に使われでもしたら、面倒この上ないしな……」

 

 

絢香「えぇ。ですから姫様と零さん達が旅に戻って、折夏さんを阿南家に送った後、ノエルさん、桜香さん、紗耶香さん達で研究所の破壊と桜龍玉を探す旅に向かう予定です。その間私は――」

 

 

「―――この町に残って、私と一緒にお留守番という訳だな」

 

 

絢香の言葉を繋ぐように、神社の方から別の声がした。その声に釣られて一同が神社に目を向けると、其処には神社の柱に背を預ける一人の女性……でかでかと胸に『火星人』とプリントされたダサダサのTシャツを纏った、元初代幻魔神であるリアの姿が何故か其処にあった。

 

 

姫「……お前、本当にこの神社に居座るつもりなのか……?」

 

 

リア「仕方がないだろう?幻魔神の神権を失い、力を失った今の私は普通の人間と変わりない存在になってしまったのだし。こんな状態じゃ私一人では暮らしてはいけないよ」

 

 

零「まぁ、復活したばかりで金もなければ戸籍もないワケだしな……というか、よくコイツの居候を許したな?」

 

 

絢香「いえ、まあ……元幻魔神とは言っても今は普通の人間とそう変わりないようですし、あのまま放って路頭に迷わせるのは忍びないですから……」

 

 

桜香「アンタは人が良すぎるのよ……こんな奴どうせ何だかんだで勝手にやって、しぶとく生きていけるでしょう?」

 

 

リア「ひどい言われようだなあ……まあでも、拾ってもらった恩もあるし、せっかく生き返らせてもらった命だからね。敵対する理由がなくなった以上、絢香君達への恩返しを考えつつ、私は私なりに現世を存分に楽しむつもりだよ♪」

 

 

なごみ「何気に今の時代をエンジョイする気満々ですね」

 

 

零「何か封印から目覚めたばかりの頃の木ノ花を彷彿とさせるな……というかお前、その服どうしたんだ?」

 

 

リア「ん?これかい?いや、着る服がなくて困ってたところに、紗耶香君が自分のお下がりをくれたんだよ。ハイカラだろ?」

 

 

ドール「ハイカラっスねぇ!(゜∀゜)」

 

 

零「……紗耶香……お前……」

 

 

紗耶香「……は?な、何だ?何故皆して私を見る?」

 

 

アシェン「いえ、別に……単純に、紗耶香様の女子力の無さと絶望的なセンスに少々驚いてるだけですので」

 

 

紗耶香「んなっ?!」

 

 

桜香「……だからあれほど、あんなの買うのは止めておけって言ったのに……」

 

 

お世辞にもセンスが良いと言えない『火星人』の文字が大きくプリントされたTシャツを嬉々としてドールに見せびらかすリアを見て、アシェンから容赦ない指摘を受けた紗耶香はその場に跪いてしまい、桜香もそんな彼女を見て呆れる様に頭を抑え溜め息を吐いていたが、そんな一同を他所になごみがリアに歩み寄った。

 

 

なごみ「リアさん、貴女は私の事を知っている風でしたが……貴女は私が何者なのか、知っているんですか?」

 

 

リア「ん?まぁ、これでも一応は古参の神だからね。知らない事はあまりないが……君自身について、何か聞きたい事があるのかな?」

 

 

なごみ「……いいえ、貴女が私の出自を知っていると聞けただけで十分です。其処から先は、自分の目と耳で確かめますから」

 

 

リア「……そうか。なら、何か聞きたい事が見つかれば聞きに来るといい。私は此処でいつでも待っているよ」

 

 

アシェン(……お嬢様……)

 

 

毅然とした佇まいと眼差しでそう言い切ったなごみの言葉に何か満足したのか、クスッと口元に指を当てて小さく微笑むリア。そんなリアに何も言わずなごみは一礼して零達の下に戻ると、アシェンがなごみの傍に歩み寄った。その時……

 

 

 

 

 

「―――おーおー、何やら人が多くて賑やかだねぇ?」

 

 

『……ッ!』

 

 

 

 

 

零達の背後からそんな呑気な口調の声が響き、その声を聞いて一同が声がした方へと振り返ると、其処には赤い鳥居を潜って石階段を上って来る一人の女性……昨夜魚見を連行して神界に戻った筈の真姫の姿があった。

 

 

零「お前……!」

 

 

姫「上役っ?!どうして……!」

 

 

真樹「うーすっ、全員揃ってるようだね。いやいや、門出に間に合ったみたいで良かったよ」

 

 

真姫の突然の登場に一同が驚く中、真姫は呑気な口調のままそう言って一歩その場から退くと、真姫の背後にもう一人の人物の姿があった。それは……

 

 

 

 

 

 

魚見「――恥ずかしながら、帰って参りました……」

 

 

 

 

 

 

姫「ッ!魚見ッ!」

 

 

ノエル「ウオッ?!」

 

 

そう、真姫の後ろに所在なさげに視線をさ迷わて立っていたのは、神界に連行され審議会に掛けられた筈の魚見だったのである。彼女の姿を捉えたノエルは一目散に飛び出して魚見に抱き付き、姫達も魚見の下へと駆け寄っていった。

 

 

ノエル「ウオっ……!良かったっ、無事だったのねっ!」

 

 

魚見「……えぇ。心配をお掛けしたみたいで、すみません」

 

 

姫「良いんだ、そんな……それで、審議会はどうだったんだ?!保身派達はなんて?!」

 

 

魚見が無事に戻ってきた事に関しては喜ばしい事だが、審議会で保身派達が彼女に一体どんな決定を下したのか。その内容を知るまではまだ安心は出来ないと姫が魚見にそう問い掛けると、真姫が前に出て代わりに答えた。

 

 

真姫「彼女の件に関しては、一先ずは軽い処罰で済んだよ。審議会の序盤は脱走や籠手の奪取の件で彼女の神権を剥奪しろって糾弾の声もあったけど、ギルデンスタンの企みや零君が提示してくれた彼の凶行を食い止めた事、復活した幻魔神を無力化させた功績が認められてね。審議の結果、彼女が重い罪に問われるような事はなくなったよ。けど……」

 

 

真姫は其処で一拍置くと、一同から離れた場所に立つ零に目を向けていき、その視線で零も何かを悟り溜息した。

 

 

零「まぁ、そう伝えて保身派の連中が俺を見逃す義理なんてないだろうしな……で?俺を捕えろとでも言われたのか?」

 

 

真姫「……まあね。やはりというか予想通りというか、君が桜龍玉を独占しようとしたと伝えたら保身派の爺共はもうカンカン。やっぱりあの男は危険だ!今すぐにでも捕らえて抹殺すべきだ!とか声を揃えて訴えてねぇ。上役達からもそう命じられたんだけど……」

 

 

姫「そ、そんなっ……いや、もし上役もそのつもりなら、私は……!」

 

 

零「止めろ木ノ花……これは俺がそうするように仕向けたんだ、関係ないお前は引っ込んでろ」

 

 

姫「そういう訳にいくかっ!此処で貴女が彼を連れていくつもりなら……!」

 

 

真姫「あー、いやちょっと待ちなって。別に彼をどうこうしようってつもりはないんだから」

 

 

桜香「……?どういう事?」

 

 

保身派の命で零を連行するつもりなら徹底抗戦もやむを得ないと身構える姫に、首を振ってそう語る真姫の言葉に一同が頭上に疑問符を浮かべると、魚見が抱き着くノエルを離れさせ説明するように語り出した。

 

 

魚見「確かに、審議の終盤では零の処分について最終決定が下される所でした。ですが……」

 

 

真姫「決定が下される寸前で、突然のアクシデントが起きてね。そのせいで審議会どころじゃなくなっちゃったんだよ、これが」

 

 

姫「?アクシデント……?」

 

 

真姫「そっ……"阿南家"のお偉いさんが、いきなり審議会に殴り込んできたのさ」

 

 

零「……はあぁっ?!!」

 

 

阿南家が神界の審議会に殴り込んできた。その耳を疑うような発言に零は驚愕を露わにして声を荒げ、姫達も同じく唖然とした表情を浮かべるが、真姫は構わず話の続きを口にする。

 

 

真姫「いやぁ、私も流石に驚いたよー。まさか"神殺兵器"をブッ込みながら、あの阿南家のお偉いさんが真っ正面から突撃してくるのだもの。神界は大騒ぎ、上役達も今の君達みたいに突然の事に呆然としてて、事態に頭が付いていけてなかったようだし」

 

 

零「……い、いやちょっと待てっ!そもそもの問題っ、何故其処で阿南家が介入してくるんだっ?!」

 

 

真姫「うん?あー……いや、どんな手を使ったか知らないんだけど、どうやら今回の事の経緯を一から全部承知済みだったらしいのよ。だからなのか、有りもしない罪で君を処罰する事に粋がる上役達に、『世界の危機に自分達の保身ばかり考えて何もしようとせず、他人に責任ばかり押し付けて何も背負おうとしない貴方達に彼女と彼を糾弾して裁く資格なんてない』って、保身派達に怒鳴り付けてね。無論納得しない上役達が反論したりしたんだけど……アレだよね、人の身で神様を脅す人間なんて久方ぶりに見たよ、私」

 

 

零「……ほんとに一体何をしてるんだよ阿南家っ……」

 

 

なごみ「相変わらず規格外な事を平然と成し遂げますね、あの家は。今更ですけど」

 

 

いや、確かに阿南家を普通の括りに入れること自体可笑しいことなんだろうが、何やら妙に爽やかな表情でとんでもない事を口にする真姫を見て零は思わず頭を抱えてしまう。

 

 

魚見「ですがそのお陰で、保身派達も貴方に下す処罰を取り下げましたし、ある意味では結果オーライかと思いますが……」

 

 

零「……いやまあ、確かに有り難い話ではあるんだが……何だろうな……一度腹を括って決めたこの覚悟は、俺は一体どう処理すればいいんだろうかっ……」

 

 

真姫「取り越し苦労だったと思えば良いんじゃない?……あ、あと審議会の後で君に伝えて欲しい事があると伝言を頼まれたんだけど、『なんでもかんでも一人で背負い込もうとするのも考えもの、周りに無駄な心配を掛けるような真似はしないように』だってさ」

 

 

零「……しかも説教までされるとはっ……」

 

 

ドール「ほんと良いとこ無しねアンタ、流石にダサいっすわ(´・ω・`)」

 

 

アシェン「らしいと言えば、らしくはありますけれどね」

 

 

リア「ふむ……事情は飲み込めないが、まあそう落ち込むな。ほら、私がこの胸で慰めてあげるよ?」

 

 

桜香「!その手があったか……!」

 

 

零「あったかじゃねーよ、いらんわっ。ええい、もういいっ」

 

 

ほらほらと両手を広げて、恐らくはからかい半分で艶っぽい口調と共に豊満な胸を張るリアにそう言いつつ、零は気を取り直して松葉杖を突きながら魚見へと近づいた。

 

 

零「そんな事より……おい、市杵宍。そろそろお前と交わした契約を解いてくれないか?契約期限のあの像も倒したし、俺も旅に戻らないといかんからな。事件を解決した以上、これ以上お前と繋がっている必要もないだろう」

 

 

リア「…………は?」

 

 

姫「……ぁ……」

 

 

魚見「………………」

 

 

零「……?何だ?」

 

 

黄金魔神像を倒すまでの間という条件を果たしたから契約を解いてくれと魚見に零がそう頼んだ瞬間、リアが何故か『何を言ってるんだ?』と言いたげに困惑した様子で小首を傾げ、姫が思い出したように気まずげな声を漏らし、魚見は無表情のまま零の顔を見上げている。そんな神様達の反応に零も疑問符を浮かべ彼女達の顔を見回していくと、魚見は無言のまま姫に目を向け口を開いた。

 

 

魚見「桜ノ神……まさかとは思いますが、零に契約の詳細については……」

 

 

姫「……いや、まあ、何と言うか……多分、君の予想通りだと思うっ……」

 

 

リア「おいおい、本当か?……だとすると、君も災難だな、零君」

 

 

零「は……?おい待て、何の話だ?分かるように説明しろっ」

 

 

魚見「……はぁ……零……まさかとは思いながら問い詰めなかった私にも責任はありますし、今更この段階で説明するのはアレですが――」

 

 

零「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

魚見「私と桜ノ神が貴方と交わした契約は、一度結べば解く事は『不可能』です。それも、『一生』」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

零「なんとぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ?!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

魚見の口から告げられた、衝撃の事実。それを聞いて一同の間に少しだけ沈黙が流れた後、零の腹の底からの大絶叫が晴天の空に響き渡ったのだった。

 

 

アシェン「落ち着いて下さい零様。動揺の余り『だ』が抜けて、何処ぞのニュータイプみたくなっていやがりますよ」

 

 

零「おぅぁ、ぇぁ、ぁっ……ど、どういう意味だ……?初めて知ったぞそんな話っ?!!」

 

 

魚見「そのままの意味ですよ?一度契約を交わせば、貴方が死ぬまでこの契約が解かれる事はない。最初の契約で聞かされなかったのですか?」

 

 

零「聞いていないッ!!!」

 

 

魚見「……そうですか……いえ、私もまさか契約のことを知らない?と考えはしましたが、桜ノ神に限ってそんな大事な事を説明してない筈がないだろうと思い、貴方の「一回だけ」も、私と契約してもフォームを使うのは今回だけ、という解釈で受けとったのですが……」

 

 

零「…………」

 

 

姫「…………」

 

 

グルリと、零が首を回してじと目で姫を睨むと、姫は顔を引き攣らせながら同じタイミングで零から視線を逸らした。

 

 

零「おい、どういうことだ木ノ花っ……?こんな話、お前と契約を交わす時に聞いていなかったぞっ?!」

 

 

姫「……いや、そのぉ……ほら、あの時は場の空気と勢いに流されて、つい説明をし忘れたというかぁ……その後も説明をしようとは度々考えてはいたんだが、忘れていたというかっ……てへっ☆」

 

 

零「てへっ☆じゃないだろぉおおおおおおっっ!!!お前の説明不足でとんでもない事になってるんだぞ今ぁああああああっっ!!!」

 

 

可愛らしく頭をこっつんと叩いて舌を出しながらごまかす姫に零が怒鳴って叫ぶ。当然だ、まさか其処まで重い契約とは知らずに魚見と契約し、しかも一生それを解く事は出来ないと言われたのだから。流石に反省の色を隠せない姫から目を逸らして零が思わず頭を抱えると、ドールが何かを提案するように声を掛けた。

 

 

ドール「よう分かりませんが、要するに解除不可能の契約を解いてもらいたいのでしょ?ソレ私なら出来るかもしれませんが」

 

 

零「ッ?!ま、まじか?!」

 

 

ドール「マジかマジでマジですよ?ルーノの鎧でルルブレをキャスターさんから借りたりとか、方法は色々ありますし。何なら今すぐにでも出来ますぜ?」

 

 

零「お、おおっ……!俺は今、初めてお前が頼もしく見えたぞ……!よし、なら早速――!」

 

 

魚見「……まあ、其処までして契約を解きたいのなら止めはしませんが……」

 

 

真姫「そうなると君自身にデメリットが降り懸かる事になるが、大丈夫なのかい?」

 

 

零「……は?デメリッ……?」

 

 

リア「……やはり聞かされていなかったのか」

 

 

ふぅ……と憐れみを込めて溜め息を吐くリアの言葉に姫が冷や汗を流す。そんな姫を尻目に、魚見が怪訝な顔を浮かべる零に説明する。

 

 

魚見「私と桜ノ神が貴方と交わしたのは、私達でも解く事が出来ない絶対の契約です。何せ神の力を人の身で行使出来るようになる訳ですから、その代償に貴方は誓約に縛れる事になり、それを無理に破ると貴方に幾つかのペナルティが降り懸かる事になります」

 

 

零「……一応聞いておくが……その、ペナルティっていうのは……?」

 

 

魚見「契約を交わした神の神格によっては数や内容が違う事がありますが、大体は……」

 

 

 

 

 

 

1.この契約は絶対の繋がりの印であり、純潔の誓約。仮にもしこれを解いた場合、契約者の人間にはペナルティとしてその魂の死後は必ず『地獄』へ送られる事になり、輪廻転生はされず永遠に地獄廻りを味わう事になる。

 

 

2.契約を解除したその瞬間から、契約者の人間のこの先の人生に降り懸かる不運が倍化され、更にこれから訪れる筈の幸福が一切訪れなくなる。

 

 

3.人間との契約を赦した神を辱めたその代償として、契約者は死に際のその時まで呪殺の呪いに蝕まれる事となる。

 

 

 

 

 

 

魚見「―――基本的にはこんな感じですが、他に何か聞きたい事は?」

 

 

零「デメリットの方が遥かに大きいじゃねぇかぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

 

一通りの説明を終えて冷静にそう問い掛ける魚見だが、あまりに理不尽過ぎるペナルティに零の絶叫が再び炸裂したのであった。

 

 

リア「まあ気持ちは分からなくもないよ。まさかこんな呪いを背負わされるとは知らずに契約を交わしてた訳だし」

 

 

真姫「けど、無理に契約を解けばこれらを始めとした様々な罰が君に科せられる事になる。こちら側の神にとって人間との契約ってのは、人と同じ位にまで自分を貶めて契約者と一生苦楽を共にする覚悟で結ぶ、言わば純潔を捧げるのと同等の意味だからねえ。因みにこの誓約は日本の古い夫婦神のイザナギとイザナミの話が元となっていて……」

 

 

零「そんな話はどうだっていいっ!!!つまり何だっ?!!俺がコイツとの契約を解けば、今言った呪いとやらが一気に降り懸かって来るって事かっ?!!」

 

 

リア「そうなるね」

 

 

ドール「む……つーか良く考えたら、私の方法じゃ魚見さんとの契約だけでなく姫さんとの契約まで解けることになりますから、そうなると今言ったペナルティが二倍になって、零さんに科せられることになりますなぁ」

 

 

零「あが……うぉ……ぅぁっ……」

 

 

間髪入れずリアに断言され、更に追い撃ちでドールが口にした最悪の事態に零は言葉を失い絶句する。そうなるとつまり、魚見と契約を解く事は出来ない訳で、だから必然的に……

 

 

魚見「まあ詰まるところ、契約に従って私も貴方達の旅に同行するつもりです。私も、すぐに無茶な真似をする貴方と桜ノ神を放ってはおけませんし」

 

 

零「……いや……別に契約を結んでいるからと言って、常に一緒にいる必要性はないのではっ……」

 

 

真姫「そういう訳にもいかないんだよ。審議会の決定で、彼女にも罪を軽減する代わりに君を監視しろって命じられちゃってるし。その決定で君への処罰も取り下げに持ち込めたんだよ?」

 

 

零「……水ノ神の役目は……」

 

 

魚見「私の部下達が役目の代わりを引き受けてくれたので大丈夫です。それと、部下の死神達から貴方へ伝言が……」

 

 

零「……え?」

 

 

魚見「『絶対に上司を幸せにしてあげて下さいネ!でないと呪殺します♪』……だそうです」

 

 

零「」

 

 

ドール(地獄の死神さん達にまで釘を刺されるとは……まじパネェ)

 

 

桜香(ドンマイとしか言いようがないわ、コレは……)

 

 

なごみ(今にも膝から崩れ落ちて泣き出しそうな感じですね)

 

 

最早後には引けない状況に立たされ、哀愁が漂う零の背中を何とも言えない顔で見つながらそう思う一同。そうして無言のままうなだれる零の肩に、魚見が手を置いて告げる。

 

 

魚見「大丈夫ですよ、ようするに契約を絶たなければ害はないという訳ですから、えー……幸せに、シテクダサイネ?」

 

 

姫「……まあ、なんだ……その……改めて、今後ともヨロシクっ?」

 

 

零「……ぉぉっ……ぉぉぉぉぉぉっ……ぉぉ、ぉぉぉぉぉぉぉぉっっ……!」

 

 

……左腕と左足が健在なら、今頃膝を突いてorz状態になっていただろう。キュピーンと瞳を輝かせる魚見と苦笑いする姫のその言葉がトドメとなり、零は何も言えず右手で顔を覆いながら、自分の愚かしさを呪って地の底から這い上がって来る亡者のような唸り声を漏らしていくのであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてその後、光写真館に戻る前に魚見の指輪の力で祐輔の世界に折夏と彼女の付き添いのノエルを連れて転移し、彼女達を阿南家に任せた後、零達は魚見と共に写真館へと戻ってきた。のだが……

 

 

 

 

はやて「――んで?大輝君の言うてた通り、また知らない女の人にフラグを立て、また無茶をして大怪我をした……と?」

 

 

零「…いや…その…フラグ云々は良く分からんが……怪我に関してはちょっと、これには深い事情があってというかだな……」

 

 

フェイト「へぇ、そうなんだぁ……うん、じゃあその辺りについてもお説教しながら詳しく聞くから、取りあえず正座しようか?」

 

 

零「……いや、あのほら、俺今、左足ポッキリ逝ってるし……正座はホラ、今は正直無理というか、わりと、本気で、マジで、うん」

 

 

なのは「じゃあ、其処の席に座りながらで。それなら大丈夫だよねぇ♪」

 

 

零「いや……だから……」

 

 

アシェン「大丈夫ですよ、零様。私達の事なら気にする必要はありません」

 

 

なごみ「えぇ、お母様達へのお土産のカメラをしっかりこうして回しているだけですから、気にせず存分に怒られて下さいな」

 

 

零「だから嫌だと言ってるんだろうがッ!!止めろッ!!カメラ回すなぁッ!!撮るなぁッ!!」

 

 

大輝「良いじゃないか?別に減るもんじゃあるまいし♪」

 

 

零「ふざけるなッ!!そもそもこうなってるのは全部お前のせいだろッ?!いつの間にかいなくなっていると思ったらコイツ等に余計な事を吹き込みおってぇッ!!」

 

 

『零(君)ッ!!早くッ!!』

 

 

零「ぐうぅっ……クソォ、畜生ぉ……何故こうなったあぁぁぁぁっ……!」

 

 

魚見「此処が光写真館……中々味のある館ですね」

 

 

姫「そうだろ?私も基本は家や屋敷は和風派なんだが、此処は最初に見た時から一発で気に入ってなぁ。部屋も中々居心地が良いし、因みに今の写真館の近くには名物スポットまであるそうだぞ?」

 

 

魚見「成る程……フフフ、ですが桜ノ神?こう見えても私は、スポットに関してはマニア並に少々口煩い方ですよ?なにせ私の中では今でも不動の1番を誇る、昼夜問わずのおすすめのスポットを既に知っていますからね。……良ければ今度ご紹介しますが」

 

 

姫「Gスポットなら知ってるぞー☆」

 

 

魚見「ちぇー」

 

 

ギンガ(……こ、これが、神様同士の会話……?)

 

 

優矢(あ、成る程、この人確かに姫さんの友達だわ……)

 

 

数日も連絡一つ寄越さず、また見知らぬ女性を連れ、またボロボロの姿になって帰ってきた零はなのは達にお説教を受け、その端では全員に自己紹介を済ませた魚見と姫がツッコミ不在のエロボケネタを繰り広げており、優矢達はその様子を離れた場所で見つめながら新たに仲間に加わった魚見を姫と同じ変神と認定していたのだった。

 

 

 

 

桜龍玉と新たな神 END

 

 

 





魚見


年齢:???(実年齢は姫より上、外見年齢は恐らく姫と同い年ほど)

外見:左右に分けてお下げにした長髪の黒髪に、水色の瞳。


解説:桜ノ神の世界の冥界を司る水ノ神(死神)であり、姫とは彼女がまだ桜ノ神になったばかりの頃からの元教育係兼親友。


水ノ神としての神名は市杵宍姫ノ命(いつきししひめのみこと)と呼ばれ、魚見という名は人間の頃の彼女の本名らしく、姫と違って本名を明かしているのは、死の世界に長く居続けてた事で記憶の一部が麻痺し、それにより自身の名と存在まで忘れぬ為らしい。


水ノ神の力は罪を犯した罰としてツクヨミフォームを安定させる力以外現在封印されており、力が使えない代わりにドールが譲ってくれたウィザードリングなどを日常生活や戦闘で用いている。


姫からは『魚見』、『ウオミー』、『ウオミン』と呼ばれ、一方自身は姫を『桜ノ神』、『咲夜』、『姫っち』と呼んでいる。


周りからは『魚見』、『魚見さん』、零からは普段『市杵宍』と呼ばれ、ツクヨミ時にのみ『魚見』と呼ぶ。


無表情だが実はあがり症であり、姫と出会う前は大勢の人の前で話すのは苦手だったようだが、彼女と交流を重ねていく内に今現在のように表情豊かになったとか。


また姫と気が合うことからエロボケネタをかましては周りを困らせる事が多く、零曰く「木ノ花がもう一人増えた……」と頭を抱える事が多くなったそうな。


因みにどうでもいい話だが、実はショタコン。なのでほぼ年下の男性陣のグッと来る仕草に無意識に目が行きがちなのだが、本人はソレを隠している。


また、契約者である零と姫と同じように親しい関係になろうと意識してか、距離を縮めるよう心掛けて二人っきりの時にのみタメ口になる。


因みに着痩せするタイプで隠れ巨乳であり、姫は大昔から度々自分のスタイルと比べては敗北感に陥っているらしい。


イメージキャラは生徒会役員共から、魚見さん。




仮面ライダー聖桜(セイオウ)


解説:魚見がセイオウドライバーとセイオウリングを使用し、出現した魔法陣を潜る事で変身する仮面ライダー。


桜ノ神の世界のライダー達の鬼王や龍王の元となったオリジナルであり、本来は桜ノ神が使う事を想定して開発された神のライダーでもある。


実際に姫が変身すればその真価が発揮され、零が苦戦したフォーティンブラスにも単独で引けを取らないと云われてるが、魚見が装着者になった事で全スペックが目に見えて著しく低下し、基本スペックも従来の平成ライダーの中級フォーム程度の力しか発揮されないが、指輪の力を用いた魔法や擬似的な奇跡の力によって強力な力を発揮する事が出来る。


リングは全部で二種存在し、元々聖桜に備わっていたセイオウリング、ドールから譲り受けたウィザードリングを用いて戦い、魚見が日常生活において使用するのはウィザードリングのみ。


戦闘スタイルはウィザードのスタイルと魔法をベースに武士を組み合わせた戦い方になっている。



スタイル一覧


ウィザードと同じく左手の中指に換装した聖桜専用の指輪を使用し、各属性の力を宿して変身する。数百年前に姫が変身した本来の姿とは違い、ドールに魔改造された事でどのスタイルも元の姿とは遠く掛け離れた外見になっているが、これは魚見が変身する際に拒絶反応が起きないよう彼女の負担を減らす為の処置らしい。



ゴウカスタイル


解説:ゴウカのセイオウリングを使用して変身する、炎の神の力を宿した聖桜の基本形態。


外見は東洋の武士の鎧に、西洋の魔法使いのデザインが組み合わさった金の装甲に朱のラインが走り、鎧武とファムを足し二で割ったようなローズレッドの仮面、肩にはウィザード・ドラゴンスタイルに酷似した勾玉を模したパーツ、鎧武の脚部とドラゴンスタイルのローブを掛け合わせたアンバランスな姿になっている。


ウィザードと同じく炎や熱を操る能力を備えてる他、基本形態らしく身体能力のバランスにも優れ能力の調和を取れているオールマイティな形態。


専用武器はゴウカの指輪でウィザーソードガンを媒体に変化させた、真炎龍剣。


スタイルチェンジの電子音声は『gou!gou!gou-gou-gou-!(ゴウ!ゴウ!ゴウーゴウーゴウ!)』



イカヅチスタイル


解説:イカヅチのセイオウリングを使用して変身する、雷の神の力を宿した聖桜の高速形態。外見は深紅の稲妻の意匠が彩られた武者の鎧を模した蒼のボディ、ウィザード・ドラゴンスタイルと息吹鬼を足して二で割ったような仮面を纏っている。


雷や雷雲などを操る能力を備え、他のスタイルに比べスピード・瞬発力・ジャンプ力が格段に撥ね上がっており、更にイカヅチの指輪をベルトに翳す事で自身の身体を雷光と化し敵の攻撃を擦り抜けられる他、常人の目では捉え切れない超高速移動で素早い敵と互角に戦う事が出来る。


専用武器はゴウカと同じく、イカヅチの指輪でウィザーソードガンを媒体に変化させた真雷斬刀。


スタイルチェンジの電子音声は『biribiribiri!biriririri!(ビリビリビリ!ビリリリリ!)』



レックウスタイル


解説:レックウのセイオウリングで変身する、風の神の力を宿した対大軍用形態。


外見は黒み掛かった緑色の甲冑と魔法使いのようなローブに、ウィザード・ハリケーンドラゴンとカリスの仮面を足して二で割ったような緑の仮面を纏っている。


ウィザードのハリケーンスタイルと同じく風や大気を操ったり空中戦が可能な他、巨大な竜巻や嵐を起こし大勢の敵を一気に撃退する力を持つ。


専用武器はレックウの指輪を使用してウィザーソードガンを媒体に変化させた、真疾風刀。


スタイルチェンジの電子音声は『byuu!byuu-byuu-byu-byuu!(ビュウ!ビュウービュウービュウービュウ!)』



セイオウドライバー


解説:聖桜の変身ベルト。元々は鬼王の籠手や龍王の籠手と同じく籠手の形状をしていたが、ドールが改造を施した事で金色のベルトの形状に変化した。


魚見自身の神氣と各リングに宿っている神氣(魔力)をシンクロさせて聖桜に変身し、指輪の力を解放させて様々な魔法や擬似的な奇跡を使う事が出来る。


普段は中央に右手型の手形が付いた普通のベルトに擬態しているが、ドライバーオンウィザードリングを翳す事で本来の姿の金のバックルに変化し、変身リングを使用する事が出来る。


元のシステムと指輪の魔法使いのベルトのシステムと幾つか類似点がある事から、ウィザードリングと連動しウィザードの世界の魔法を発動させる事が可能。


ベルトの待機音声は白い魔法使いドライバー、必殺技発動の音声はウィザードライバーの音声から流用されている。



セイオウリング


解説:聖桜の籠手に元々備わっていた三色三つの勾玉の指輪。


籠手の開発初期の際に真姫が上位神の炎の神、雷の神、風の神の力を借りようと何度も彼等の下に訪れては追い返され、その末にどうにか説得した彼等の恩恵を頂いて力の一端を宿してもらった神器でもある。


自身に宿る神氣の色を三神の色に変化させ、彼等の力の一端をさも自分の力のように行使する事ができる。


実際姫は数百年前の幻魔達やフォーティンブラスとの戦いにおいてこれらの指輪を用い、聖者達と共に無限の幻魔達と戦い抜いたそうだが、幻魔との長い戦いの中で強大な三神の力に籠手が耐え切れず不調を起こし、フォーティンブラスとの最後の決戦においては籠手の修復が間に合わず生身のまま挑み、完全には倒す事が出来ず封印という手段を取ったらしい。



オリジナルリング


ストライクフィニッシュセイオウリング


解説:ドールがウィザードの指輪を下に作ったリング。各スタイルの専用武器の必殺技を発動させる指輪であり、ドライバーに指輪を翳す事でそれぞれの武器の力を完全に解放する事が出来る。



サモンセイオウリング


解説:ウィザードのドラゴライズと同じ用途の指輪であり、桜ノ神の世界に居る馬鬼を召喚し戦わせる事が可能。



武器一覧


ウィザーソードガン


解説:外見や武器の性能はウィザードやメイジが使っていたものと全く同じだが、スラッシュストライクとシューティングストライクは破棄され、各スタイルの専用武器に変化させる媒体目的の武装となっている。


無論このままでも使用可能であり、剣形態と銃形態を切り替えて近距離と遠距離に対応出来る。



真炎龍剣


解説:ゴウカスタイル専用の武装であり、鬼王が扱う炎龍剣の原典の太刀。その一刀は大地を割り、刃から発せられる業火は世界をも焼き尽くすと云われていたが、正規の装着者ではない魚見にはその真価は発揮出来ない為、ドールの改造によって威力がセーブされている。


必殺技は強力な業火を敵に叩き付ける、火炎の閃光を撃ち放つ『真龍怒涛』



真雷斬刀


解説:イカヅチスタイルの専用武装、鬼王の雷斬刀の原典の刀。その刃で振るう一刀は雷の煌めきと称され、断ち切れぬ物はこの世に存在しないと云われた名刀だが、こちらもドールの手により威力をセーブされている。


必殺技は雷鳴の如く無数の雷の太刀を浴びせて斬撃の嵐を打ち込む『雷雨の太刀』



真疾風刀


解説:レックウスタイルの専用武装、鬼王の疾風刀の原典の薙刀。一度振るえば竜巻を起こし、二度振るえば嵐を巻き起こすとも云われていたが、ドールの手によりセーブされその真価を発揮する事は出来ない。


必殺技は薙刀と共に回転し巨大な竜巻を巻き起こして大群の敵を一気に薙ぎ払う『風神裂波』



馬鬼


解説:聖桜の相棒の幻獣。数百年前に鬼の一族達から譲り受けた鬼の馬であり、幻魔との戦いで姫が聖桜の装着者だった際に共に戦場を駆け抜けた愛馬でもある。


聖桜を乗せて何もない空を駆け抜ける事が出来る他、特殊な力を宿した角から雷を放って攻撃し、記憶消去や催眠など様々な幻術を行使出来る。


普段は桜ノ神社の馬小屋で待機しており、聖桜のサモンリングの力で何処へ呼び出す事も可能。




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第二十一章/雷牙の世界

 

 

 

シリウスの世界でフリードと再会し、神威達と別れ次なる世界へと旅立った零達一行。その影で様々な思惑が蠢いているとは露知らず、一行は新たに訪れた世界で明日の捜索の為に早めに身体を休め、就寝していたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―――暗い闇の中。

 

 

何処までも続く、一筋の光すら射さない深淵の暗闇。

 

 

この場所……見覚えがある……

 

 

これは、そう……夢だ。

 

 

多分、俺の夢の中。

 

 

長らく見てなかったせいか、思い出すのに少し時間が掛かった。

 

 

……いいや、違う……それだけじゃない……

 

 

なにか少し、違和感があるような……

 

 

以前見ていた夢とは、何処か違う気が……

 

 

……ああ、そうか……

 

 

いないんだ、『奴』が。

 

 

この夢を見る時に、何時も聞こえてくる『奴』の声が、何時まで経っても聞こえてこない……

 

 

『奴』は……何処に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――貴方のお名前、聞かせてくれるかな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!この声……『奴』?

 

 

いや、これは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は、高町なのは♪貴方のお名前は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この声は……なのはの?

 

 

ああ、そうか……

 

 

これはアイツと……始めて顔を合わせた時の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ピシィッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……誰?貴方もジュエルシードの探索者?』

 

 

『あ、うん。おおきにな、ありがとう♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは……ああ、フェイトとはやてと始めて会った時の……

 

 

懐かしいな。

 

 

この頃はまだ、フェイトもあんな過保護になるとは思わなかったし、はやても今みたいに出世するとは夢にも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピシッ……キシィッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだ……まだまだあるな……

 

 

高町家の皆との生活……

 

 

アリサにすずか、真也達と学園で馬鹿をやったり……

 

 

休日には八神家でシグナムやヴィータに稽古に付き合ってもらったり、シャマルと料理をしたり、リインと一緒にザフィーラにもたれて昼寝したり……

 

 

クロノに任務で無茶した事で叱られ、ユーノがそれを宥め、エイミィとリンディさんが苦笑いと溜め息して……

 

 

教会でカリムやシャッハにヴェロッサ、陸士108部隊でゲンヤのオッサンやギンガに出会って……

 

 

六課でスバル、ティアナ、エリオ、キャロとフリードを教導し、不慣れながらもヴィヴィオの遊び相手をして、ヴァイスやシャーリー達と事件を解決して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピシッ…ピシィッ…!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだまだある。

 

 

皆と過ごした記憶、思い出、時間……

 

 

一つ一つ、ちゃんと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピシピシッ……ピシッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『えっと……もし……もしもだよ?もし私達の世界を救って帰ってこれたら……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと全部、覚えて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピシッ……ビシィッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

覚え……て……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト『その……もう一度、この場所で―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ビシッ……ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

零「――ハッッ?!ぁ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……今、の……?」

 

 

カッ!と、弾かれるように目覚めた零の視界に最初に入ったのは、見慣れた自分の部屋の天井。額に大量の汗が滲んでいるのを感じながら、零はゆっくりと僅かに顔だけ動かして部屋の中を見回していく。

 

 

零「今の夢……またか……最近夢見が良かったのに、何でまたっ……」

 

 

以前何度か見たのと同じ、わけの分からない終わり方をする夢。たかが夢だとは分かっているのだが、やはりあんな後味の悪い覚め方をすると気分が悪くなる。しかもここ最近は普通の夢ばかりで気を抜いていたのに、まるで不意を突くかのようにあんな夢を見せられたから尚更だ。憂鬱な気分になりながら吐息を漏らしふと部屋に掛けられた時計を見れば、時刻はまだ5時になったばかりのようだ。

 

 

零「……随分早く目覚めたみたいだな……まあいい。一足先に起きて、朝飯の仕込みでもするか……」

 

 

あんなの見たあとで二度寝する気分でもないしなと、零は一度溜め息を吐いた後にベッドから身を起こして私服に着替え、机の上に置いてあったカメラを首に掛けて部屋から出ていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

それから数十分後。朝飯の仕込みを一通り終えた後、暇を持て余した零は他の皆が起きてくるのを待とうとリビングのテーブルの上でカメラの手入れをしていた。

 

 

零「ふむ……まあ、こんなものだな……ついでに、後で爺さんに他に問題がないか見てもらうか」

 

 

最近色々と合ったから点検に出す隙もなかったからなと、零は手に持ったカメラを傍らに置いてテーブルの上に広げた手入れ道具を片していく。其処へ……

 

 

フェイト「――あっ、零」

 

 

零「む?……フェイト?」

 

 

手入れ道具を片していた零がいるリビングへと、起床したフェイトが入ってきたのである。フェイトは既に起きていた零を見付けてすこし驚きながらも、直ぐに気を取り直し零が座るテーブルへと歩み寄っていく。

 

 

零「何だ、もう起きたのか?いつもより随分早いな」

 

 

フェイト「あ、うん。何か急に目が覚めちゃって……零はこんな早くに起きて、何してるの?」

 

 

零「あぁ。朝飯の仕込みが終わって隙だったから、時間潰しにカメラの手入れを済ませておこうと思ってな。昨日は寝る前の手入れをし忘れたし」

 

 

フェイト「……ホントにカメラが好きだよね、零って(汗)」

 

 

そうか?と、苦笑するフェイトに答えて手入れ道具の片付けを続ける零。それを見たフェイトも片付けを手伝おうと手入れ道具を手に取ると、何かを思い出したように零に視線を向けた。

 

 

フェイト「そういえば、今回の世界で一緒に回るメンバーってもう決めたの?」

 

 

零「ん?いや、まだだ。取りあえずまた皆で外に出てみて、恰好が変わった連中がいればソイツ等と一緒に行動しようかと思ってる。まあもしその中でミッド組がいれば、軽い変装をしてもらう必要があるが……っと、コイツはこっちだったな」

 

 

手入れ道具を仕舞っていた中で、零はテーブルの上に置いておいた数枚の写真を見付けそれらを手に取り、隣の椅子の上に置いておいたアルバムをテーブルの上に広げ写真を仕舞っていく。

 

 

フェイト「あ、それって、今まで撮ってきた写真のアルバム?」

 

 

零「ああ、額に飾ってあるのとは別に仕舞っててな。こっちは見る用だ」

 

 

フェイト「へぇ……あっ、この写真……」

 

 

写真をアルバムに仕舞う零の作業を見ていたフェイトは、他の写真と同様にアルバムに仕舞われてる一枚の写真……以前祐輔の世界の臨海公園で撮影した花壇の花の写真に気付き、笑みを浮かべながらその写真を指差した。

 

 

フェイト「これって、祐輔の世界で撮った写真だよね?臨海公園の花壇の花の」

 

 

零「…………え?」

 

 

フェイト「あ、この写真も。それにこれと、これも、あとこれ。全部花壇に咲いてたよね?私、今でも覚えてる♪」

 

 

零「……………………」

 

 

フェイトが楽しげに次々と指差す花の写真を目で追っていく零だが、その様子は何処か可笑しい。だがフェイトはそれに気付かず椅子に腰を下ろし、再び何かを思い出したように両手を叩いた。

 

 

フェイト「そうだ……ねえ零?約束の件で少しお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

 

零「……?やくそく……?」

 

 

フェイト「うん♪元の世界に戻ったら、臨海公園で私の写真を撮ってくれるって言ったでしょ?その後で、ちょっと一緒に行きたい所が色々あるんだけど、いいかな?」

 

 

零「…………………」

 

 

フェイト「昔ね?綾に教えてもらったオススメの和菓子屋さんがあったんだけど、まだ今でも営業してるみたいなんだ。彼処の和菓子がどれも凄く美味しくて♪あ、その後はちょっと町で買い物とかしたり、最後は翠屋で六課の皆のお土産を買おうって思ってて――」

 

 

零「……なあ……フェイト……」

 

 

フェイト「それと……ん?何?」

 

 

楽しそうに自分の考えたプランを口にするフェイトの話を遮った零に、首を傾げながら不思議そうに聞き返すフェイト。しかし、零はそんなフェイトを訝しげに見つめ……

 

 

零「――お前……

 

 

 

 

 

……"さっきから一体、何の話をしてるんだ"?」

 

 

フェイト「…………え?」

 

 

本当に、本当に訳が分からないといった口調で、そう問い掛けたのである。それを聞いたフェイトは、一瞬なにを言われたのか分からないといった顔を浮かべてしまうが、零は構わず話を続けた。

 

 

零「さっきから話しの見えない事ばかり言って、一体何言ってるんだ?お前」

 

 

フェイト「ぇ……な、何って……ほ、ほら……前に、祐輔の世界で……私の写真を撮ってくれるって、約束……」

 

 

零「約束……?だからなんの話だ?"そんな約束した覚えなんてないぞ"?」

 

 

フェイト「えっ……ぇ……え……?」

 

 

全く偽りがない様子で怪訝そうに告げる零の言葉に、ショックを隠せず瞳を震わせながら戸惑うフェイト。だが零はそれに気付かないままアルバムに目を落とし、祐輔の世界で撮った花壇の花の写真を訝しげに見つめる。

 

 

零「大体この写真だって、一体誰が撮った奴なんだ?こんなの知らんぞ?」

 

 

フェイト「……えっ?だ、誰って、それは全部零が……」

 

 

零「?俺が?馬鹿言うな。こんな写真撮った覚えなんてないぞ?きっと爺さん辺りがボケて、間違えて入れたんじゃないのか?」

 

 

フェイト「……………………………………」

 

 

そう言われて、フェイトは今度こそ絶句し言葉を失ってしまった。だがやはり、零はそれに気付かないままアルバムから次々と花壇の花の写真を躊躇なく取り出して纏め、椅子から立ち上がりフェイトに写真の束を差し出した。

 

 

零「悪いが、後で爺さんに渡しておいてくれないか?間違えて人のアルバムに入れるなって。俺はそろそろ上の連中を起こしてくるから、頼んだぞ?」

 

 

フェイト「……あ……」

 

 

そう言って写真の束をフェイトに握らせ、片手を振りながらリビングを後にしようとする零を引き止めようと手を伸ばすフェイトだが、引き止めてから何と言えば分からず躊躇してしまい、結局零の背中を見送るしか出来なかったのだった。

 

 

フェイト「……どう、して……どうしちゃったの……零……」

 

 

今の彼は、自分の目でも分かるぐらい明らかに可笑し過ぎた。確かに、今まで彼は自分達との約束を破ってしまう事は度々あったものの、あんな風に約束を忘れることなんて一度もなかった。何より、自分が撮った写真の事まで忘れるなんて、何時もの彼なら絶対有り得ない。なのに……

 

 

フェイト「……どうしちゃったの……零……」

 

 

もう一度繰り返すように、フェイトの声がリビングに虚しく響き渡る。だがそれに答えてくれる者など何処にもおらず、ただショックを隠し切れないその瞳で、彼が出ていった入り口を見つめていたのだった……。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界①

 

 

それから約一時間後。メンバー全員が起床して朝食を食べ終えた後、零は直ぐになのは達(勿論帽子を装着済み)と共に写真館の外へと出て新たに訪れた世界、雷牙の世界のミッドチルダを見渡していた。

 

 

零「雷牙の世界……つまり今度は雷の世界、か」

 

 

なのは「雷さんって、確かアレだよね?祐輔君の世界とかで、度々私達の助っ人に来てくれた」

 

 

姫「うむ。私の世界でも、幻魔達との決戦の際に手を貸してくれたな。まあそれは良いとして……零、君のその格好はなんだ?しかもアズサも」

 

 

早速写真館の外に出て雷牙の世界のミッドの町並みを眺めていた一同だが、姫は零とアズサの格好を見て訝しげに小首を傾げながらそう問い掛けた。零とアズサの格好……それは上下白を特徴とした制服(イメージは種死等のザフト軍白服)という何やら派手な格好となっていたのだ。

 

 

アズサ「おー……格好いい……」

 

 

シロ『にゃー!』

 

 

優矢「って、相変わらずマイペースだなアズサは……にしても、ホントに何なんだその格好?」

 

 

はやて「うーん……あぁ分かった!きっと特撮の撮影用の衣装や!」

 

 

セイン「いや違う、これは絶対コスプレイヤーだね!」

 

 

カリム「いいえ、多分コスプレ喫茶の制服ですよ!前に雑誌で見たことありますし♪」

 

 

シャッハ「……いつの間にそんな本を読んだんですか、騎士カリム……」

 

 

零「というより、全部ハズレだ」

 

 

はやて、セイン、カリムがそれぞれ職業を予想するも、零は溜め息混じりにそれを一掃しながら制服の胸のポケットから何かを取り出した。零が取り出したそれはどうやら身分証らしく、其処にはミッド語で『古代遺物管理部機動六課・レオン分隊所属、黒月零空曹長』と描かれていた。

 

 

スバル「機動六課……って、え?今回の役目は六課の局員って事ですか?!」

 

 

零「どうやらそうらしいな。ちゃんとレオン分隊所属の黒月零空曹長と……って、ちょっと待てっ。俺が空曹長?」

 

 

ギンガ「あ、ホントだ……この世界じゃ一等空尉じゃないんですね?」

 

 

リイン「リインと同じ階級みたいですね、何だかちょっと嬉しいですぅ♪」

 

 

零「……俺はなんだか複雑だがな……アズサの階級はなんだ?」

 

 

隣で嬉しそうに笑うリインと対照にちょっとブルーになりながらアズサに階級を聞くと、質問されたアズサもそれに気づきポケットを漁って身分証を取り出し、其処に記された自身の階級を読み上げた。

 

 

アズサ「私は……黒月アズサ二等空尉、だって……」

 

 

シグナム「ふむ。つまりアズサは私と同じ階級、という訳か」

 

 

ヴィータ「んじゃ、アズサは零の上司になるってことだなぁ♪」

 

 

アズサ「イエーイ……」

 

 

零「……まあ、別にそれはどうでもいいとして……今更だが、このレオン分隊ってのは何なんだ?」

 

 

なのは「うーん……多分、スターズやライトニングと同じ分隊なんじゃないかな?部隊名からしてもそんな感じだし。ねえ、フェイトちゃんはどう思う?」

 

 

フェイト「………………」

 

 

零とアズサの身分証に描かれてるレオン分隊について同じ分隊長であるフェイトに意見を求めるなのはだが、フェイトは何故か思い詰めた表情で俯いたまま何も答えない。そんなフェイトになのはも思わず首を傾げ、フェイトの顔を覗き込んだ。

 

 

なのは「フェイトちゃん?聞いてる?」

 

 

フェイト「……え?あ、ご、ごめん、聞いてなかった……なに……?」

 

 

なのは「いやだから、この身分証に描かれてるレオン分隊って、フェイトちゃんは何だと思う?」

 

 

フェイト「え……さ、さあ……どうかな……ちょっと分からない、かな……」

 

 

『……?』

 

 

何処か元気がなく、歯切れ悪くそう答えるフェイト。そんな彼女の様子に一同も違和感を感じ頭上に疑問符を浮かべるが、フェイトは俯かせていた顔を上げ零の顔を一度見つめると、再び暗い影を落としながら一同から背を向けた。

 

 

フェイト「ごめん……私、先にこの世界のこと調べてるね……それじゃ……」

 

 

はやて「え?ちょ、フェイトちゃん?!」

 

 

言うだけ言って、はやての焦る声を背にそのまま早足で街の方へと向かっていくフェイト。その背中を呆然と見送っていたなのはたちだが、すぐに何か気付いたように正気に戻り、一斉に零の方へとジト目を向けた。

 

 

零「……?何だ?」

 

 

チンク「黒月……お前まさか、また何か余計なことを口にしたんじゃあるまいな?」

 

 

零「は?何で俺が?」

 

 

優矢「いやだって、今一回お前を見て余計に暗くなってたぜ?また何かフェイトさんを凹ませるようなこと言ったんだろ?」

 

 

零「?いや、特に心当たりないぞ?確かに今朝ちょっと話したりはしたが、別段これといったことも話してないしな……」

 

 

なのは「そのこれといったことっていうのが信じられないんだけど……まあいいや。フェイトちゃんは私とヴィヴィオで追い掛けるから、此処からは別々に行動ね?行こっか、ヴィヴィオ?」

 

 

ヴィヴィオ「うんっ♪」

 

 

一同にそう言ってなのははヴィヴィオの帽子の位置を直すと、ヴィヴィオと手を繋ぎながらフェイトの後を追って街の方へと走っていき、それを見送ったはやても一同と向き合い此処からのチーム分けを始めた。

 

 

はやて「んじゃ、取りあえずチーム分けは私等八神家と教会組に姫さん、優矢君とFWとチンク達で、六課へは零君とアズサちゃん……ってな感じでええな?」

 

 

優矢「え、でもチンク達はヴィヴィオと一緒じゃなくて大丈夫なのか?」

 

 

ノーヴェ「ああ、それに関しちゃ心配ねえよ。アレに変身するのに、アタシ等とヴィヴィオの距離はあんま関係ねぇみたいだし」

 

 

セイン「呼ばれたらすぐにパーって飛んでいっちゃうからね、だから心配はご無用♪」

 

 

零「とのことだ……まあ、なのはとフェイトも付いている訳だから心配はいらんだろ。取りあえず、お前等はこの世界の詳しい情報を。俺達は六課に行って雷がいないか探してみるから、頼んだぞ?」

 

 

零がそう言うとはやて達も頷き返し、一同は写真館の前で別れてそれぞれ行動を開始したのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

因みに、零達が行動を開始したのと同時刻。光写真館のすぐ真後ろに建つ一軒の建物……霧島写真館の前で、三人の男女が物珍しげにミッドの町並みを見渡していた。

 

 

「うわっ、何このSFチックな街?!」

 

 

「すっげー……此処が次の世界なのか?紫苑」

 

 

「うん。多分、この世界があの手紙にも描かれていた外史ライダーの世界……なんだと思う」

 

 

ミッドの町並みを見て感動の声を漏らす小柄な青年の問い掛けに、紫苑と呼ばれた青年……以前零達が電王の世界で出会った風間紫苑とは、また別世界の存在である風間紫苑はそう答えてライドブッカーから一枚のカード……シルエットだけとなっている雷牙のカードを取り出した。

 

 

「それにしても、まさかほんとに九つの世界以外にもライダーの世界が存在してたなんて……まだそっちの方が驚きだよ……」

 

 

紫苑「だね。ま、それでも僕達がやることはあんまり変わらないだろうし。気楽にやれば良いと思う―ブオォォォォッ……―……ん?」

 

 

キョロキョロと落ち着かない態度で周囲を見回す少女を宥めようとした紫苑だが、突然紫苑の周りに歪みが発生して紫苑を包み込んでいった。そして歪みが止むと、紫苑の格好が零とアズサと同様に白を特徴とした制服姿へと変わった。

 

 

「う、うわっ!何だぁ?!いきなり格好が変わったぞっ?」

 

 

「あ、紫苑君は次の世界に着くと何時もこうなるの。でも、今度はいったい何の格好?」

 

 

紫苑「さあ……ん?なんかポケットに入ってる?」

 

 

制服姿へと変わった自分の身体をペタペタと触ってると、紫苑は制服のポケットに何かが入ってるのに気付きそれを取り出した。それはやはり、零とアズサが持っていたのと同じ機動六課の身分証であり、身分証にはミッド語で『古代遺物管理部機動六課・レオン分隊所属、風間紫苑三等陸尉』と描かれている。

 

 

「?これって……もしかして身分証?」

 

 

「うおっ、何語だよコレ?全然読めないしっ」

 

 

紫苑「古代遺物管理部機動六課……どうやら、これが今回僕の役割みたいだね」

 

 

「機動六課?つまり、其処に行く事が紫苑君の今回の役割って事?」

 

 

紫苑「きっとね。ま、取りあえず此処に行けば何か分かるだろうし、早速行ってみようか?光、勇輔」

 

 

そう言って紫苑は身分証を胸ポケットに仕舞い、早速身分証に描かれていた機動六課へと向かおうと歩き出していくが、光と呼ばれた少女は腕を組みながら首を傾げて……

 

 

光「……ところで紫苑君。その機動六課が何処にあるのか、知ってるの?」

 

 

紫苑「…………」

 

 

光にそう言われ、ピタッと両足を揃えて立ち止まってしまう紫苑。そしてその場で腰に右手を当てながら顎に手を添え、暫く何かを考え込むようにミッドの空を見上げると……

 

 

紫苑「――うん。その辺を探せば見付かるんじゃないかな?多分」

 

 

勇輔「つまり、場所知らない訳ねっ……」

 

 

首を傾げながら適当にそう告げた紫苑に勇輔も若干顔を引き攣りながら苦笑いし、光もそんな紫苑の無計画振りに溜め息を吐いて頭を押さえていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

フェイト「…………」

 

 

一方その頃、零達と別れて一足先にクラナガンへ出たフェイトは道行く通行人に混じって何処かへと歩いていたが、その足取りは何処となく重く、帽子の下の顔も思い詰めたモノとなっている。その原因はやはり、今朝の光写真館での零との会話にあった。

 

 

『約束……?だから何の話だ?"そんな約束した覚えなんてないぞ"?』

 

 

フェイト(……やっぱり、どう考えても可笑しい……約束の事はともかく、自分が撮った写真の事まで忘れて、しかもその事に対する自覚がないなんて……)

 

 

ただ単に、本当に零が忘れてるだけなのではないか?自分が過剰に気にし過ぎてるだけではないか?何度もそう思い、もう一度脳裏に今朝の零の様子を思い返してみるが、やはりどう考えても違和感が拭え去れない。彼は、明らかにあの時の記憶を失っている。そうとしか言いようがないために、心を支配する不安の色が色濃くなるばかりだった。

 

 

フェイト(まさか……記憶喪失?もしそうだとしたら……でも、何で今になって?)

 

 

仮に彼が記憶喪失になっていると考えても、その原因が検討も付かない。普段の彼を見ていてもそれらしい様子は見当たらなかったし、至って何時も通りにしか見えなかった。だとすると……

 

 

フェイト(私達に、なにか大事なことを隠してる……?)

 

 

その可能性を考慮すれば、彼なら充分に有り得る。何か、人には言えない大事を密かに抱えていて、一人でそれを解決しようとして今みたいになってしまった。そう考えれば、彼が今朝のようにああなってしまった原因が何となく掴めてくる。

 

 

フェイト(きっとそうだ……また何か、私達に隠し事してっ)

 

 

彼が何を隠しているのかは知らない。しかし、きっとそれは彼に害を及ぼしてる何かに違いない。でなければ、あんな記憶を失うなどという恐ろしい事になる筈がないのだ。どうにかせねばと、フェイトは重い歩みを止め今からでも零を追い掛けようと決断し掛けた。その矢先……

 

 

「――あ、いた。フェイトちゃーーんっ!!」

 

 

フェイト「……へ?」

 

 

自分の名を呼ぶ聞き慣れた声。背後から聞こえたその声にフェイトが思わず声を漏らし、自分が来た道を振り返ると、其処には手を繋いで自分の下に駆け寄ってくる二人……なのはとヴィヴィオの姿があった。

 

 

なのは「はぁ…良かったぁ、やっと追い付いたよぉ」

 

 

フェイト「なの、は?それにヴィヴィオまで……どうしたの二人共?」

 

 

なのは「もう、どうしたのじゃないよ。フェイトちゃんがいきなり一人で別行動取るなんて言い出すから、慌てて追い掛けてきたんだからっ」

 

 

フェイト「え……あ、そっか……確か別行動で動く時は、ライダーに変身出来る人と一緒じゃないとダメなんだっけ……」

 

 

なのは「そーゆうこと。いざっていう時にライダーになれる人がいないと、怪人とか現れた時に対処出来ないからって、前に皆で話し合って決めたでしょ?」

 

 

フェイト「う、うん。そうだった……ごめん、ちょっとボーッとしてたから……すっかり忘れてた……」

 

 

申し訳なさそうにうなだれながら、反省する様に謝罪の言葉を口にするフェイト。しかし、なのはもそんなフェイトの様子を目にして、何処となくある違和感を感じていた。

 

 

なのは(やっぱり、今日のフェイトちゃん、ちょっと変だ……何か元気ないっていうか……どうしたんだろ……)

 

 

今こうして会話していても、何故か目を合わせようとはせず下ばかり見ている。やはり今朝零と話したという時に、また何か無神経なことを言われたのではないかとなのはが心配していると、今までうなだれていたフェイトの頭にある考えが過ぎった。

 

 

フェイト(そうだ……もしかしたら、なのはは私が見落としてる何かを知ってるかもしれない……他の世界でも、零と一緒に行動しているのが多いのはなのはだし)

 

 

ならば、自分が知らないところで、零が何か不自然な態度を取っていなかったか聞いてみるべきか。心の中でそう思考すると、フェイトは意を決したようになのはの目を見て口を開いた。

 

 

フェイト「あの、なのは?ちょっと、聞いてもいい?」

 

 

なのは「うん?何?」

 

 

フェイト「えと……あの、さ……此処最近、零の様子に、何処か可笑しいところとかなかった……?」

 

 

なのは「?可笑しいところって、どうして急に?」

 

 

フェイト「う、ううん……今朝零と話している時に、なんか元気ない感じだったから、ちょっと気になって……それで、何か知ってる?」

 

 

流石に、零が記憶を失っているとは言える筈もなく、どうにか理由をごまかしてなのはに再び問うフェイト。それに対しなのはは唸り声を上げて暫く考える仕草を見せると……

 

 

なのは「うーん……最近は余り、そういうのは見ないかな?この前までは悩みごとがあったみたいで元気なかったけど、相談に乗って話を聞いてから普通に元気になったし」

 

 

フェイト「………え?」

 

 

……今、なんと言った?

 

 

零が、相談?なのはに?

 

 

フェイト「……相談、って……それ、いつ頃に?」

 

 

なのは「え?あ、えと……確か最初は鷹さんの世界でだったかな?その後も稟君の世界とかで、ちょっと話を聞いたりとか」

 

 

フェイト「…………」

 

 

つまり、零は前から自分の悩みをなのはに打ち明けていたということだろうか?彼女にだけは、自分の弱音を……

 

 

ヴィヴィオ「――フェイトママ?だいじょうぶ?」

 

 

フェイト「……えっ?あ、ううん……なんでもない、よ……」

 

 

キュッ……と、フェイトは自分の左腕を掴んで心配げに顔を覗き込むヴィヴィオに力無くそう答え、暫く顔を俯かせた後、徐になのはとヴィヴィオから背を向けた。

 

 

なのは「?フェイトちゃん?」

 

 

フェイト「……ごめん、なのは……やっぱり私、先に行ってるね……」

 

 

なのは「え……?え、待って!フェイトちゃん?!」

 

 

その言葉に戸惑う隙もなく、フェイトはそのまま早足で先へと歩き出してしまう。それを見たなのはは慌ててフェイトを呼び止めようとするも、フェイトは一度も止まることなく人混みの中へと姿を消してしまい、フェイトの姿を見失ってしまった。

 

 

『――確か最初は鷹さんの世界でだったかな?その後も稟君の世界とかで、ちょっと話を聞いたりとか』

 

 

フェイト(――零、前から話してたんだ……なのはには、自分の悩み……)

 

 

そして、なのはとヴィヴィオと別れたフェイトは帽子の下で沈んだ表情を浮かべ、様々な通行人が行き交う街の中を一人歩いていた。しかしその足もピタリと止まり、フェイトはゆっくりとポケットに手を突っ込むと其処から数枚の写真……写真館で零に渡された花壇の花の写真を取り出した。

 

 

フェイト(私、なにも力になれてない……助けになりたいって思ってるのに……私……そんなに頼りないのかなっ……)

 

 

『苦しい事ならなるべく、自分以外の人に背負わせたくない……心配をかけたくない……だから言わない……』

 

 

ポツポツッと、写真を見下ろすフェイトの赤い瞳から急に大粒の涙が溢れ地面に落ちていく中、以前エクスの世界でアレンに言われた言葉が脳裏を過ぎる。

 

 

それは確かにそうなのかもしれない。でも、なら何故彼は親友の彼女にだけそれを打ち明けたのか。

 

 

自分は頼りにされていないのか?

 

 

そんなに自分は頼りないのだろうか?

 

 

そう思う度に、心の奥から悲しみと悔しさが滲み出て、ぐつぐつと沸き上がってくる。

 

 

次第に目の前の視界も止めどなく溢れる涙で霞んでいき、フェイトは帽子を深く被って泣き顔を隠し、血が滲み出るほど唇を強く噛み締めた。

 

 

『それでも、彼が弱音を吐いたら―――その時は受け止めてあげる―――それで、いいんじゃないですか?』

 

 

フェイト(私だって、そうしたい……そうなりたいっ……でも、どうしたらそうなれるのか……分からないよ……アレンさんっ……)

 

 

彼に頼られたい、力になりたい。でも、彼が唯一弱音を見せるのは、親友であるなのはの前だけ。

 

 

ならばきっと、自分が問い詰めたところで、彼は何も話してはくれないだろう。

 

 

助けになりたいと願っても、そうなれない自分。

 

 

なのはに対する嫉妬の感情、そして親友である彼女にそんな醜い感情を抱く自分自身に対する自己嫌悪。

 

 

それらを全部引っくるめて、今の自分が嫌で嫌で仕方ないフェイトはボロボロと泣きながら、零に忘れ去られた写真を胸に抱き、そのまま泣き崩れるようにその場にしゃがみ込んでしまうのであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そして、そんなフェイトの近くある路地裏では……

 

 

「――フフッ、随分良い顔ねぇ……見ていて気分良いわぁ」

 

 

路地裏に身を潜めながら、道行く人々の視線に気付かぬまましゃがんで動かないフェイトを静かに見つめる女性……長いコートと帽子を被って変装した、クアットロの姿が其処にあった。

 

 

クアットロ(んっふふっ。まさか現場の下見に来て、こんな面白い物が見られるなんてねぇ……せいぜい今の内に、好きなだけ泣いておきなさい?その顔、もっとグチャグチャにしてあげるから♪)

 

 

泣き崩れるフェイトの姿を愉快げに見つめ、ニヤニヤと笑いながら路地裏の奥へと去っていくクアットロ。その途中で前方から現れた歪みの壁に飲まれ、そのまま何処かへと姿を消してしまうのであった。そして其処へ……

 

 

「――ん?何だ?」

 

 

「……?映紀さん?どうかしましたか?」

 

 

映紀「うん?あーいや……何かこの先に誰かいたようが気がしてな……」

 

 

「…?誰もいないですよ?多分気のせいじゃないですか?それよりもほら、先を急ぎましょう」

 

 

映紀「うん?ん……ああ、分かったよ」

 

 

クアットロが消えた路地裏の前を取り掛かった二人組の青年。その内のひとりである映紀と呼ばれた青年が、路地裏に誰かいたような気を感じて路地裏を覗き込んでいたが、もうひとりの青年に先を促され、疑問が残りながらもその場を後にしたのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界②

 

 

―機動六課―

 

 

一方、はやて等と別れた零とアズサ(シロは六課に向かう前に栄次郎に預けてきた)は取りあえずこの世界での自分たちの役割であるレオン分隊と合流する為、この世界の機動六課に訪れてカウンターの局員に話し掛けていた。

 

 

零「失礼、今日から此処に配属する事になった者なんだが……」

 

 

「え?……あぁ、貴方達が例の?そちらの話でしたら事前に伺っています。では失礼ですが、一応身分証と階級の確認をさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 

アズサ「ん……はい、黒月アズサ二等空尉です……」

 

 

胸ポケットから取り出した身分証を局員に見せ、それから自身の階級を口にするアズサ。局員も提示された身分証を見た後に機動六課のデータベースでアズサのそれが本物か確認して頷き返し、それを見た零もフッと不敵な笑みとともに胸のポケットから身分証を出して局員の前に突き付けると……

 

 

零「で、俺が同じくレオン分隊所属になった――黒月零"一等空尉"だ」

 

 

「……え……あ、えぇっと……あぁ、黒月零"空曹長"ですねっ。分かりました。では隊長をお呼びしますので、そちらでお待ちになって下さいっ」

 

 

零「…………………………………………」

 

 

結構自信満々に言ってみたものの、苦笑いで返された上に若干引かれてしまった。その局員の反応を見て零も「やはり駄目か……」と肩を落としながらトボトボとカウンターから離れ、アズサと共にロビーのソファーに腰を下ろした。

 

 

零「くそぅ……やはり勢いに任せて名乗っても事実が覆る訳じゃないか……」

 

 

アズサ「零、流石に嘘を付くのは駄目だと思う」

 

 

零「……別に嘘言ってる訳じゃないんだが……」

 

 

いやまあ、どうせ無駄だとは思ってましたよ?だけどそう簡単に空曹長への降格を受け入れるのも何か癪というか、ぶっちゃけあのリインと同じ階級というのが何か悔しいというか……。ちょっとぐらい世界に反抗してみても良いのではないかと、そんな出来心からあんな無謀なチャレンジをしてみたものの、局員に引かれた上にアズサから責めるような視線を注がれるぐらいならやんなきゃ良かったと、零は今更になって内心ちょっぴり後悔した。そうして、若干テンションただ下がりながらアズサと共に暫くソファーで待っていると……

 

 

「えーっと……あ、いた。其処の二人共ーっ!」

 

 

零(?あれは……あぁ、この世界のなのはか)

 

 

ロビーの奥から、教導官の制服に身を包んだこの世界のなのはが現れ、ソファーに座る零とアズサを見付け声を上げながら歩み寄ってきていた。それに気付いた二人もソファーから立ち上がると、肩を並べてなのは(別)の前に立つ。

 

 

なのは(別)「初めまして、君達が例の新人さん達だよね?私は高町なのは。此処機動六課で教え子達の教導兼スターズ分隊の隊長を勤めています」

 

 

零「ご丁寧にどーも……。本日よりこちらに配属することになった、黒月零一等――じゃなかった。黒月零空曹長だ」

 

 

アズサ「同じく、黒月アズサ二等空尉です……宜しく……」

 

 

なのは(別)「はい、宜しくね♪それで早速、この部隊について説明しようかと思うんだけど……」

 

 

零「いいや、一応それなりに知っているから必要ない……それより、ひとつ質問いいか?」

 

 

なのは(別)「ん?何かな?」

 

 

左手を上げて質問があると告げた零になのは(別)が首を傾げながら問い返すと、零は何かを探す様に辺りを見回しながら口を開いた。

 

 

零「気になってたんだが、レオン分隊の隊長や副隊長殿は来てないのか?普通自分の隊に配属することになる部下の迎えなんて、他所の隊の隊長殿がやる事じゃないだろう?まあ、アンタが普段からパシリ扱いされてるなら話は別だが」

 

 

なのは(別)「そ、そういう訳じゃないんだけどねっ。ただ、今はどっちも訓練中で教え子達の教導に手が離せなかったから、代わりに私が二人の案内に来たってこと」

 

 

零「……ほおう」

 

 

なら別に、こいつに続きを任せてソイツ等が来れば良かったんじゃないか?なんてツッコミは野暮かと。零は適当に考えながら首に掛けたカメラを構えてなのは(別)の写真を取り、なのは(別)はそれを見て苦笑いしながら踵を返した。

 

 

なのは(別)「それじゃあ、取りあえず八神部隊長の所に行こっか?先ずはちゃんと挨拶しておかないとだし」

 

 

零「ふむ……あ、待った。その前に先に訓練スペースの方に行ってもいいか?」

 

 

なのは(別)「え?どうして?」

 

 

零「いやなに、あの有名な八神はやて陸上二佐に会うとなるとどうも緊張してな。取りあえず失礼がない様に緊張を緩めたいから寄り道。ついでに俺達も使う事になる訓練スペースへの道を覚えておきたいんだが……駄目か?」

 

 

なのは(別)「うーん……別にはやて隊長なら全然気にしないと思うけど……でもまあ、時間もまだあるし、どうせそっちの方も案内する予定だったからいいかな?うん、じゃあ付いてきて?」

 

 

零「感謝しまーす、なのは隊長?」

 

 

片目を伏せてそんな軽口を叩くと、なのは(別)は歩きながら「にゃはは」と苦笑を返した。そして零もアズサと共にそんななのは(別)の後ろを付いて歩くと、隣を歩くアズサが小声で話し掛けてきた。

 

 

アズサ(零、どうする気なの……?)

 

 

零(…一先ず、レオン分隊とやらの面子の顔を拝もうと思ってる。そん中に雷の奴がいないかどうか確かめたいからな)

 

 

アズサ(?それだったら、今なのはに話を聞いた方が早いんじゃ……)

 

 

零(馬鹿。もしこの世界の六課が雷と敵対してる立場なら、そう簡単に聞ける訳ないだろう?何の因果か、今回はもしかしたら雷牙と敵対してる組織の一員……なんてこともあるかもしれしれないしな)

 

 

アズサ(……今回は結構慎重なんだ……)

 

 

零(一応な。それになんか……写真館出た時から、妙に嫌な予感するんだよ……まるで―――)

 

 

と、零は目の前を歩くなのは(別)の背中を見つめたまま不意に言葉を区切った。それに対しアズサも頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げると、零は誰にも聞こえない声でポツリとこう呟く。

 

 

零(―――まるで、何か嫌なモノが迫って来てるような……そんな気がしてならない……何故だ?)

 

 

心の奥底から沸き上がる、謎の不安感。以前にも幾度となく感じた事があるその感覚に、零も表情を厳しくさせてしまうが、すぐにそれを振り払うように思考を切り替えなのは(別)の後を黙って付いていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン・ショッピングモール―

 

 

零達がこの世界の機動六課に着いたのと丁度同じ頃。クラナガンのショッピングモールの一角に存在するとあるコンビニ店に、一人の黒いスーツの青年が買い物カゴを片手に店の中を徘徊していた。

 

 

真也(ちっきしょおぉ……何で俺がアイツ等の食料を調達して来なきゃなんねえんだよっ……)

 

 

内心愚痴りながら、お菓子コーナーの棚に並ぶポテチとチョコ菓子を買い物カゴに投げ込んでいく青年……組織の任務でこの世界へと来ている筈の荒井真也は、ポケットから出したメモを頼りに次の商品を探しに向かう。

 

 

真也(クソッ……やっぱりあん時のジャンケンでグーじゃなくてチョキを出してればこんな事には――って、そういう問題じゃねえんだよっ。なんで俺、任務の最中に買い物カゴを片手にデザートコーナーのプリンをカゴん中に入れてんだよっ)

 

 

グチグチとそんな文句を垂らしながらも、同じ組織の一員である恭平リクエストのプッ〇ンプリンを乱雑に買い物カゴへと投げ入れる真也。ちなみに何故彼がこんな場所で買い物をしてるかと言うと、終夜の命令でサンダーレオンを捕まえにこの世界へ訪れ、さあ今回も頑張るぞと張り切ってた矢先に恭平が『腹減った』などと言い出して動かなくなってしまったのだ。

 

 

そうなってしまうと腹に何かを入れなければ梃でも動かない恭平なので、仕方なく腹ごなしという事で真也と恭平と薫の三人で誰がコンビニに行くかとジャンケンした結果、敗者となった真也がこうしてむざむざと買い出しに来てる訳である。

 

 

真也(しかも恭平の奴、これを見よがしに山ほど頼みやがってっ……えーっと、次は電〇レ?って、アイツまだこんなん読んでんのかよ?ったく、電〇レ、電〇レと……何処にあんだ?)

 

 

文句を言いながらも、素直に雑誌コーナーに足を運んで電〇レを探すも何処にも見当たらない。これはもしかしてないんじゃないか?と、真也は半ば諦めムードになりながら顔を動かして横を向くと……

 

 

 

 

 

 

姫「ふむぅ……やはりこの材料はこの武器でなければ入手困難か。だがこの武器はまだ作れてないし、ソロでは少々面倒だな……仕方ない。アズサやはやてにも協力してもらうか?他には―――」

 

 

 

 

 

 

真也「……………………………………………」

 

 

 

 

 

 

……横を向いた先に、何故かすんごい知ってる人間?が雑誌を開いて何やらブツブツ独り言を呟いていた。黒いロングヘアーの髪に、明らかに美人の類に入る顔立ち。確か彼女は、とある世界で黒月零と契約を交わしたという桜ノ神・木ノ花之咲耶姫のハズ。つまりは自分達組織とは敵対関係にある神……なのだが、その彼女が何故か自分のすぐ横で雑誌を手に立ち読みしていた。ホントに、何故か。

 

 

真也(な……何でだよ……何でよりによって会いたくない奴らの一人が、こんなとこで雑誌の立ち読みなんてしてんだよ?!アレか?俺にはコントの神でも憑いてんのか?!いらねー!!こんな笑いなんていらねえぞ神様ーっ?!)

 

 

ああいや目の前の女も神様なんだけどねと、一人ツッコミしていた真也は其処である事に気が付き、カッ!と両目をかっ開いて驚愕した。

 

 

真也(し、しかもコイツが読んでるの、恭平の奴に頼まれた電〇レじゃねっ?!何でよりによってそれ読んでんのコイツ?!これなんて俺虐めだよチクショウッ!!)

 

 

姫が難しい表情で立ち読みしてる雑誌。それが恭平に頼まれた電〇レであると気付き、真也はよりによってと内心頭を抱えながら絶叫した。何故ただのお使いがこんなハイレベルな任務にランクアップしちゃってんだよと、誰かに文句を言いたい気分だったが、生憎今の彼にそんな余裕などない。

 

 

真也(く、くそぉっ。どうする俺っ?このまま見付からない内にレジ行ってさっさとこっから出るって手もあるけど、それだと電〇レを諦めるしかねえっ。買って来なかったとなると恭平がネチネチ文句言って後々うっとうしいし、たかだか雑誌一冊の為に別の店に行くのもめんどくせぇし……しゃーない……此処はさりげなく話し掛けて譲ってもらうしかねえか……)

 

 

彼女に顔を見られるのはかなりマズイが、此処はただの一般人を装って雑誌を譲ってもらえば大した印象にも残らないだろう。そう考えた真也は一度姫から背を向けて気を落ち着けようと深呼吸を繰り返し、意を決して姫の方へと振り返った。

 

 

真也「……あ、あのぉ……ちょっといいッスか?」

 

 

姫「……ん?何だ?私か?」

 

 

真也「え、えぇ……お取り込み中のところ悪いんですけど、実はその雑誌が欲しくてですね……駄目ッスかね?」

 

 

姫「……ほう……成る程」

 

 

遠回しだが、雑誌を譲って欲しいという意思表示がなんとか伝わったのか、姫は真也と電〇レを交互に見た後に……何故か、ニヤリと笑った。

 

 

姫「つまりアレか……君はこの雑誌を譲って欲しいと言ってるわけか」

 

 

真也「え、えぇ、まあ……」

 

 

姫「なるほどなるほど……で?君は一体どのキャラが目当てなんだ?」

 

 

真也「……は?」

 

 

……何言ってんだこの女?そう言いたげな表情で姫に思わず聞き返す真也だが、姫はそれに答えぬまま雑誌をパラパラとめくってあるページを開き真也に見せると、真也はそのページを見てウッ?!と後退りした。姫が開いて見せたページには、なにかのギャルゲーのキャラと思われる女の子が、上に着ていたTシャツを今正に脱ごうとして無駄に巨乳な下乳が見えるか見えないかという、中々にえっちぃ絵が大きく載せられていたのである。

 

 

姫「君の本命はこっちなのだろ?最近は小学生の男の子も、半分はこーゆう絵を目当てに買う子が増えてるらしくてなぁ。いやはや、時代は移り変わってもこの辺りは全く変わっていないようだ」

 

 

真也「は、はぁっ?!んな訳あるか!俺は単にダチに頼まれただけであって!」

 

 

姫「皆まで言わなくていい、分かっているさ。最近は三次元より二次元が~っという若者が増えているようだからな。しかもその中には、偏った性癖の持ち主も多くいるらしい。君もそっち系のアレなんだろ?」

 

 

真也「ちっげぇーっ!なに勝手に人の性癖を捏造して哀れんでくれてんだよ?!つかアレってなんだ?!」

 

 

姫「だが恥じる事はない、それは男……いや、人なら誰しもが持っている性質だからな。寧ろない方が可笑しいさ」

 

 

真也「……ねえ、俺の話し聞いてる?さっきから微妙に会話のキャッチボールが成立してない気がすんだけど?」

 

 

姫「確かにそんな趣味を人に打ち明けるなど恥ずかし過ぎるし、なにより女子にバレてしまった時には一生モノの傷になること間違いないだろう。しかし、私は決して軽蔑したりしない!寧ろ暖かく受け入れようさ!さあ、君の素直な気持ちを私に打ち明けろ!さすればこの宝本を譲ろうではないか!」

 

 

真也「……お前、絶対自分が楽しんでるだけだろ?」

 

 

何処か楽しそうに爛々と電〇レを掲げる姫にげんなりした表情になる真也だが、此処で無駄に時間を喰う訳にはいかないし、あんまりこの女と関わる訳にはいかない。

 

 

姫「うん?どうした?ほれほれ。素直に言わないと、この本は私が買ってしまうぞ?」

 

 

真也「ぐぬぅぅぅっ……」

 

 

この女、恐らく自分が満足する返答をしなければ雑誌を渡す気はないのだろう。どう見ても顔にそう書いてある。こんな性悪女の手の上で弄ばれるのはかなり癪だが、此処は無難にことを済まさなければ……。そう思いながら拳を強く握り締め、どうにかこの怒りを沈めようと辛抱しながらワナワナ震えて……

 

 

真也「……あ、ああ、そうだよっ……俺は!!その微エロ画が見たいからその本が欲しいんだよ!!だからそれ譲って下さいどうかお願いします!!」

 

 

姫「うむ、君の真心、確かに受け取った!……因みに、先程から後ろにいる彼は君の知り合いか?君と同じ格好をしているが」

 

 

真也「…………え?」

 

 

一瞬、姫に何を言われたのか分からず小首を傾げてしまう真也。軽く下げていた頭を上げて彼女を見れば、姫は何故か真也の後ろに目をやっており、その視線を追うように背後にゆっくりと振り返ると……

 

 

 

 

 

 

薫「……………………」

 

 

 

 

 

 

……どうにも形容し難い、なんとも言えぬ顔で真也を見つめる薫の姿が、何故か其処にあったのだった。

 

 

真也「……し……しししし新人?お、お前、何でっ?」

 

 

薫「……いや……余りにも先輩の帰りが遅いから、何か問題が起きたんじゃないかと思って様子見に来たんですが……」

 

 

姫「ふむ…?どうやら君の知り合いで間違いないようだな。なら私はこれで失礼させてもらおう。早くしないと飲み物が温くなってしまうしな。ではな、好青年♪」

 

 

ポンッと、電〇レを真也の胸に押し付けて床に置いてあったコンビニの買い物袋を手に取り、満足げに鼻歌を歌いながらコンビニを後にする姫。そして残された真也と薫の間には、何とも言えぬ微妙な空気が漂い、真也は気まずげにゆっくりと重たい口を開いた。

 

 

真也「あ、あの……違うんだぞ、新人……さっきのはなんていうか……あの女の陰謀というか、俺も色々と苦悩した上での決断だったというか……」

 

 

薫「…………いえ、別に気にしなくて大丈夫ですよ?組織は毎日任務三昧だから、ストレスだって溜まるでしょうしね。なにかしらの方法で発散しないと身が持たないでしょう」

 

 

真也「思いっきし勘違いしてるよなお前?!声が一段と低いぞ?!いやだからそうじゃなっ――!」

 

 

―ササッ……―

 

 

真也「そうじゃっ――!」

 

 

―サササッ……―

 

 

真也「ちがっ――」

 

 

―ササササッ!!―

 

 

真也「………………」

 

 

なんとか誤解を解かねばと薫に歩み寄ろうとする真也だが、薫は真也が近付こうとする度に後退して一定の距離を保とうとする。しかも真也を見つめるその眼は明らかに冷たく、其処からなんとなく意思が伝わってくる。『これ以上は近付かないで下さい』、と。

 

 

真也「…………あの、新人君……?」

 

 

薫「……じゃあ、僕は先に恭平先輩の所に戻りますので。失礼します」

 

 

真也「待って?!頼む待て!!ちょっとでもいい!!お願いだから弁解させてくれ?!違うんだ!!!俺にこんな趣味なんてないんだよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」

 

 

そんな青年の悲痛な懇願も虚しく、薫は冷めた視線を真也に向けたままコンビニから去っていってしまった。そうして、先輩としての威厳とかその辺の色んな物を一度に失った真也は右手を伸ばした態勢のまま暫く固まり、そのままフラフラと床に膝を付き四つん這いになっていったのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてその頃、コンビニを後にした姫は買い物袋を手にはやて達の下へと向かう最中、突然ピタリと足を止め自身が来た道を振り返った。

 

 

姫(――さっきの青年……やけに邪な気を纏っていたな……まるで、死神にでも憑かれて生命を食われているような……)

 

 

何かが引っ掛かる。そんな心境を表すように難しげな表情を浮かべ、姫は顎に手を添えながら先程会話した真也と薫の顔を思い浮かべていく。

 

 

姫(しかし、話してみて特に変わった異常は見当たらなかったしな……それに、あの後から出て来た少年。何処かで会ったような気が……)

 

 

―PPPPP!PPPPP!―

 

 

姫「ッ!っと、携帯か……優矢から?」

 

 

思考に浸っていた中で突然響いた着信音に驚きながら携帯を取り出すと、ディスプレイには優矢の携帯番号が表示されている。早速何かこの世界での役目について掴んだのだろうか?と、姫は携帯の通話ボタンを押して耳に当てた。

 

 

姫「もしもし?」

 

 

『あ、もしもし?!姫さんですか?!』

 

 

姫「?その声……スバル?優矢じゃないのか?」

 

 

何故か通話に出たのは携帯の持ち主である優矢ではなく、彼と行動を共にしてるスバルだった。それに対し疑問げに聞き返す姫だが、スバルはそれに答えず焦りの篭った声でこう告げた。

 

 

スバル『そ、それより大変なんです!実は今、目の前で優矢さんが怪人と戦ってて……!』

 

 

姫「ッ!怪人?この世界のか?」

 

 

スバル『はいっ!場所は、えと……あ、クラナガンの第六エリアです!』

 

 

姫「第六エリア……分かった。すぐはやて達と一緒にそっちへ向かう!」

 

 

スバルにそう伝えると、姫は携帯の通話を切ってポケットに仕舞い、はやて達と合流すべく買い物袋を握り直しながら駆け足で走り出した。が……

 

 

―……ピタッ―

 

 

姫「…………………」

 

 

何故か、はやて達の下へと走り出した姫はすぐに足を止め、その場に立ち止まってしまったのである。姫はチラリと、僅かに顔だけを動かし自分の斜め後ろを覗き見ると、そのまま何事もなかったかのように正面を向いて歩き出すが、何故かその足が向かう先は道路脇にある路地裏へと繋がる道だった。そして、姫は暫く道を進んで人気のない広場へと出ると、ゆっくりと足を止めて口を開いた。

 

 

姫「――姿を見せろ。生憎私には、視姦される趣味はない」

 

 

目前に視線を向けたまま、凜とした声を言い放つ姫。すると、姫の真横に建つ建物の上からゆっくりと一人の青年が姿を現し、姫の前に飛び降りて姫を見据えてきた。

 

 

「お前が桜ノ神、木ノ花之咲耶姫……黒月零と契約したという神、だな?」

 

 

姫「ふむ?どうやら私も、それなりに有名になってるみたいだな……それで?私に何か用か?」

 

 

「お前というより、お前と契約した黒月零に用がある、と言った方が正しいな……」

 

 

姫「?なら何故私のところに来る?さっさと彼の下に行けばいいだろう?」

 

 

「ああ。ホントなら俺も、真っ先に奴の下へ行きたい……だが、その前に――」

 

 

至極真っ当な質問を投げ掛ける姫にそう言うと、青年は後ろ腰に手を引いて其処から一本の長剣を取り出し、それを見た姫は驚愕から険しげな表情となって青年を睨んだ。

 

 

「お前と奴が一つになって変身するアマテラスフォームとやらは、かなり厄介だ。奴と戦う時にそれを出されたら、流石に俺でも面倒になる」

 

 

姫「零と、戦う……だとっ?」

 

 

「……お前に怨みはないが、その片割れには暫く動けなくなってもらうッ!!」

 

 

怒号を飛ばすと共に、青年は姫に突っ込みながら剣を横薙ぎに振るって姫に斬り掛かっていった。姫は咄嗟に前へ飛び込むようにして剣をかわすと、態勢を立て直しながら何処からかイクサナックルとイクサベルトを取り出し、ベルトを腰に巻いた。それを見た青年も鼻で笑いながらポケットから一枚のカードを取り出し、姫と対峙していく。

 

 

「抵抗はしないでもらえると助かるんだがな……。神が相手となると、こちらも手加減が出来なくなる」

 

 

姫「すまないが、それは出来ない相談だな……私の身に何かがあれば、彼にまた涙を流させることになる。それだけは避けたいんだ」

 

 

「……随分と酔狂だな……そんなにアイツを悲しませたくないと?」

 

 

姫「君には分からないだろうが、彼に彼処まで強く思われるとそうなってしまうんだよ。だから私も、彼にはもう二度とあんな顔をさせない……そう決めてる。私も、彼を思う一人としてな」

 

 

『READY!』

 

 

イクサナックルのナックル正面を手の平に押し当てると、無機質な電子音が路地裏に響き渡る。対する青年もそれを見て、取り出したカードを剣へと装填した。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

「神が人への恋を謡うか……中々ロマンチックな事だ。果たしてその結末は如何なるものか」

 

 

姫「恋……?フフッ、少し違うな。私が彼に抱いてる感情は、そんな可愛いモノじゃないさ」

 

 

「ほう……ではなんだ?」

 

 

姫「ふむ……正面切って言うのは少々照れ臭いんだが……絶対の信頼……『愛』だよ……変身ッ!」

 

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

「……変身」

 

 

『DI-SWORD!』

 

 

二つの電子音声が二人の間で鳴り響き、それと共に姫は右手にイクサカリバーGモードを手にしたイクサFに、青年は自身を中心に辺りを駆け巡りながら現れたビジョンに重ねられアーマーを纏い、最後に上空に浮かんでいた紋章がプレートとなり青年の仮面へと刺さっていった。そして全てのプレートが刺さり終わると青年のスーツは紫へと変色してディケイドとディエンドに近い姿をしたライダーへと変身を完了し、二人は変身した互いの姿を見据えたまま警戒し、どちらからも全く動こうとはしない。そして……

 

 

 

 

 

 

イクサF『…………』

 

 

『…………』

 

 

 

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥッ……カンッ!―

 

 

 

 

 

イクサF『ッ!ハッ!!』

 

 

―ババババババババババババババッ!!―

 

 

『おおおおおおおッ!!』

 

 

 

 

 

風に乗って飛んできた空き缶が建物の一角に当たった音を合図に、イクサFが素早く右手のイクサカリバーGモードを青年に突き出し銃を乱射し、変身した青年……『ディソード』は咄嗟に自身の顔の前にディソードライバーを盾にするように出して銃弾を弾き、そのままイクサFに突進しディソードライバーを振りかざしたのであった。

 

 



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第二十一章/雷牙の世界③

 

 

―機動六課・訓練スペース―

 

 

イクサFとディソードの戦いが人知れず始まった頃、機動六課に訪れている零とアズサはなのは(別)の案内で訓練スペースへとやって来ていた。訓練スペースに到着して直ぐに二人の目と耳に入ったのは、市街地にセッティングされたフィールドと、鉄と鉄が激突するように何度も響く金属音。零とアズサがその金属音の発信源を探し辺りを見渡していると、なのは(別)が口を開き説明を始めた。

 

 

なのは(別)「此処が私達の教え子、FWの皆の訓練を受ける時とかに使う特殊訓練施設、一応私監修の陸戦用空間シュミレーターだよ。さっき話した通り、今はレオン分隊の隊長達とFWが模擬戦をしてるところなんだけどね。ほら、彼処」

 

 

そう言ってなのは(別)が市街地のある場所を指差すと、零とアズサはそれを追うようになのは(別)が指を差す方向に目を向けた。其処には……

 

 

―ガギィンッ!!ガギィンッ!!ガァンッ!!―

 

 

「ダアァァァァッ!!!」

 

 

スバル(別)「おおおおおおおおッ!!!」

 

 

「フッ!フンッ!」

 

 

其処には、刀身が青く光り輝くガンブレードを振りかざして斬り掛かる少年と、リボルバーナックルを振りかぶって殴り掛かるスバル(別)の攻撃を悠然と佇んだまま赤子の手を払うようにそれぞれの武器を両手で受け流し、すかさず鋭い拳を振り抜き、反撃する隙を与えず少年とスバル(別)を追い込んでいく黒髪の青年の姿があった。其処へ……

 

 

―ババババババババッ!!―

 

 

「ッ!」

 

 

スバル(別)と少年の後方のビルから、数発のオレンジ色の魔力弾が黒髪の青年に目掛けて放たれた。魔力光の色からするに、ティアナによる遠距離からの狙撃なのだろう。正確に青年の頭を捉えて奔るオレンジ色の銃弾。だが、天空から飛来するそれに咄嗟に反応した黒髪の青年は上段回し蹴りだけで魔力弾を全て叩き落とし、狙撃に気を取られる隙を狙って両脇から襲い掛かったであろうスバル(別)と少年の拳と剣を両手で受け止め、反撃していた。

 

 

零「(あの男、雷じゃないな……)……アイツが、レオン分隊の隊長なのか?」

 

 

なのは(別)「え?あ、ううん。あの人はレオン分隊の副隊長の、理央さんだよ。ちょっと前に色々あって、私達に協力してくれてるの。隊長は――」

 

 

―ガギイイイイイイイイイイイイイイィィィィィンッ!!!―

 

 

なのは(別)が何かを説明しようとしたその時、それを遮るようにフィールドからけたたましい金属音が鳴り響いた。驚いた三人が思わずそちらに視線を向けると……

 

 

 

 

エリオ(別)「くっ、ぐううううっ……!」

 

 

雷「…………」

 

 

 

 

其処には、青年達とは別の場所で槍と槍を鍔ぜり合うこの世界のエリオと、零達が探していた目的の人物である龍藤 雷の姿があった。二人の態勢はエリオ(別)が雷の頭上からストラーダを振り下ろし、雷がそれを両手に持つ槍で受け止める姿勢のまま互いに動かない。其処へ……

 

 

キャロ(別)「フリード!!」

 

 

雷「ッ!」

 

 

雷の背後から、キャロ(別)の叫びと共にフリード(別)の放った火炎が放たれる。それを見たエリオ(別)は雷から咄嗟に離れ、雷も直ぐさまその場から飛んで火炎を避けるが、地面に着地したと同時に何処からか無数の銃弾が飛来し、雷に容赦なく襲い掛かった。

 

 

雷(ッ!この攻撃、レオナか!)

 

 

空から止め処なく降り注ぐこの射撃が誰による攻撃かすぐに気付きながら、雷は素早く槍を振り回して銃弾を弾き返していく。その内の一発の弾がエリオ(別)の背中に当たってしまうが、エリオ(別)には何の外傷もなく、全身が淡く発光している。ただそれだけで至って何も変化がないように見えるが、若干疲れが浮かんでいたエリオ(別)の顔に力強さが戻り、そのまま勢いよく地を蹴って雷にストラーダを突き出していった。

 

 

エリオ(別)「セェイッッ!!」

 

 

雷「チッ!(レオナの奴、俺に牽制しながらエリオに回復弾を使ったかっ。このまま長引かせると、こっちがマズイかもなっ)」

 

 

エリオ(別)の放つストラーダの素早い突きを避け続けながらそう判断し、背後に跳んで距離を離そうとする。しかしエリオ(別)もそれを許すまいとストラーダのブースターを起動して雷に突撃し、更にエリオ(別)の背後から先程と同じように援護射撃が放たれ、雷へと向かっていった。その訓練を眺めていた零は……

 

 

零(ふむ……雷がいるって事は、この世界の管理局は雷と敵対してる訳じゃないみたいだな。なら……)

 

 

雷が管理局と敵対してないと分かった以上、後は雷に会って話しをしてみるか。そう考えると、零は隣で雷たちの訓練を見守っているなのは(別)に話し掛けた。

 

 

零「なのは隊長。いきなりで悪いんだが、俺達も犯罪者役であの訓練に途中参加していいか?」

 

 

なのは(別)「え?犯罪者役って……」

 

 

零「挨拶も兼ねて、俺達の隊長殿の実力を知りたいんだよ。それに実戦においてのイレギュラーの登場なんて、戦いに良くある事だ。新人達の良い経験になるかもしれないし、絶対無茶したりはしない。駄目か?」

 

 

なのは(別)「…………」

 

 

零の突然の提案に戸惑いながらも、否定はせず考える仕草を見せるなのは(別)。そして……

 

 

なのは(別)「――そうだね。私も、あの子達が突然のアクシデントに上手く対処出来るか、ちょっと気になるかな……うん、いいよ。でも、あまり無茶なことはしないようにね?」

 

 

零「はいよ、なのは隊長」

 

 

訓練への途中参加の許可をなのは(別)から得て、なのは(別)に片手を振りながら雷達の下へと向かうべく、アズサと共にその場を後にする零。その道中、アズサは不思議そうに首を傾げて零を見上げた。

 

 

アズサ「零、何するの……?」

 

 

零「なに、ちょっと雷の奴を驚かせようってだけだ。それにアイツ等に教導されて、この世界のスバル達がどれだけ強くなってるのかも個人的に気になるしな。それだけだよ」

 

 

アズサ「……それにしては、ちょっと楽しそうに見える……」

 

 

気のせいだ、と。アズサの疑問に右手首を摩りながら笑ってそう答える零だが、アズサの言う通り零のその顔は悪戯を思い付いた子供のような顔に見えるため、あながち違うとも言い切れない。そして、今も雷達が訓練する市街地へと向かいながら、零が自分とアズサはどっちに乱入するべきかと考えていると……

 

 

 

 

 

―ビィー!!ビィー!!―

 

 

『クラナガン第8エリアにインフェルニティ出現!!数は九!現在民間人が襲われており、その内正体不明の戦士三人がインフェルニティと応戦しています!!』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

 

突然訓練スペース内に響き渡る警報。それを聞いた零とアズサは驚愕し、思わず訓練スペースの頭上を見上げた。

 

 

アズサ「アラーム……?それにインフェルニティって、確か雷牙の世界の怪人の……」

 

 

零「こんな時に出てくるとはな、何処の世界でも怪人が空気を読めないのは一緒か……というか、正体不明の戦士に民間人?」

 

 

アズサ「……もしかしたら、優矢達が先にインフェルニティと戦ってるのかも」

 

 

零「ああ……有り得るな。仕方ない、これじゃあ訓練どころじゃないだろうし、先にインフェルニティから潰すか。行くぞ、アズサ」

 

 

アズサ「んっ」

 

 

先ずは優矢達を助けにインフェルニティの下に向かうかと、零とアズサは訓練スペースを後にしてインフェルニティが現れたエリアに向かうのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

零とアズサが警報を聞いてから数十分後。インフェルニティが現れたという第8エリアでは、インフェルニティ出現の騒ぎを聞き付けて合流したなのは、優矢、ヴィヴィオが変身したトランス、クウガ、ナンバーズがゴキブリ型のローチインフェルニティ達と戦う姿があった。

 

 

―バキイィッッ!!―

 

 

『ゴバァッ?!』

 

 

ナンバーズ『ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ?!ゴ、ゴキブリ殴っちゃったぁっ?!もうやだコイツ等ぁっ!』

 

 

トランス『うぅっ!ヴィ、ヴィヴィオ!その名前言わないで!せっかく意識しないように戦ってたのにっ!』

 

 

クウガ『ダァッ!ふ、二人とも!接近戦が駄目なら離れて戦ってくれていいから!ちゃんと戦ってくれ!』

 

 

ティアナ「……まあ、アレを意識しないで戦えなんてのは確かに無理な話よねっ……」

 

 

スバル「み、皆さーん!頑張って下さーいっ!」

 

 

ローチインフェルニティのモチーフがゴキブリの為か、拳や足で攻撃するだけで気持ち悪さのあまり身体を震わせるトランスとナンバーズ。そんな二人に背後の物陰に隠れながらエールを送るFWに見守れながら、クウガもローチインフェルニティを数体殴り飛ばしていく。その時……

 

 

―……バッ!!―

 

 

『ヌゥオオオッ!!』

 

 

クウガ『ッ?!―ガギィンッ!!―ウアァッ!』

 

 

エリオ「ッ?!優矢さんっ!」

 

 

トランス『優矢君?!』

 

 

ローチインフェルニティと戦っていたクウガに、真横から飛び出した何かがいきなり襲い掛かって攻撃してきたのである。突然の奇襲にクウガも吹っ飛ばされ、それを見たトランスとナンバーズは慌ててクウガへと駆け寄ると、クウガに襲い掛かった何かの正体を確かめるべく視線を向けた。其処には……

 

 

『――全く。雷牙をおびき出そうとして、何やら可笑しな連中が釣れてしまったな……』

 

 

ナンバーズ『な、何アレ……?』

 

 

キャロ「三つの犬の頭……もしかして、ケルベロス?」

 

 

ローチインフェルニティ達の先頭に立ち、ひとりだけ明らかに他とは違う異質な威圧感を放つ黒い異形。両肩に黒い狼のような頭部を持つケルベロス型のインフェルニティ……ケルベロスインフェルニティの出現に身構えるトランス達だが、ケルベロスインフェルニティはそんな三人を見て鼻を軽く鳴らした。

 

 

『何者かは知らんが、貴様等がいては雷牙討伐の邪魔になる……消えろッ!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

トランス『ッ?!消え―ガギィンッ!―キャアァッ!』

 

 

―ガギィンッ!ガギィンッ!―

 

 

ナンバーズ『ウアァッ?!』

 

 

クウガ『グアァッ?!』

 

 

トランス達の視界からケルベロスインフェルニティの姿が消えたと同時に、ケルベロスインフェルニティは素早く動き出してトランス達の懐に一瞬で潜り込み、両手の爪で斬り付けて再び素早く動き出す。大輝と同じヒット&アウェイの戦法に翻弄されトランス達はケルベロスインフェルニティの動きを追い切れず、三人はそのまま壁際にまで吹っ飛ばされてしまった。

 

 

エリオ「み、皆さんっ!」

 

 

ティアナ「アイツ、速いっ……!」

 

 

『フッ、大したことのない連中だ。貴様等の始末は、コイツ等で十分だろう……行けっ!』

 

 

『シャアアアアアアッ!!』

 

 

トランス『クッ!』

 

 

倒れるトランス達を始末すべく、ローチインフェルニティ達を一斉にけしかけるケルベロスインフェルニティ。それを見たトランスは咄嗟に身体を起こしながら左腰のライドブッカーからカードを一枚取り出し、迫り来るローチインフェルニティ達を迎え撃とうとした。その時……

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―

 

 

『ッ?!―ドゴオォッ!!―ボアァッ?!』

 

 

『ッ!』

 

 

道路の奥から一台のマシン……マシンディケイダーに乗った零とアズサが走って現れ、トランス達に襲い掛かろうとした先頭のローチインフェルニティ達を轢き飛ばしていった。

 

 

スバル「れ、零さん!アズサ!」

 

 

零「無事か、お前等?なんだか随分危なそうだったが」

 

 

トランス『う、うん、なんとかっ……』

 

 

クウガ『っ……き、気をつけろ二人とも!その黒い奴、かなり強いっ!』

 

 

現場に駆け付けた零達を見てトランス達が一安心する中、ケルベロスインフェルニティを指差して零たちに警告するクウガ。それを聞いた零とアズサもヘルメットを外しながらディケイダーから下りると、ケルベロスインフェルニティを見据えながら腰にドライバーを巻いていく。

 

 

零「確かに、一見他のとは違う感じはするな……まあ今まで戦ってきた規格外な連中に比べれば、まだマシな類だろう」

 

 

アズサ「ん……フォーティンブラスやデモンゾーアの強さを考えたら、まだカワイイ方……」

 

 

『ッ!なんだとっ?貴様等、俺を舐めてるのか?!』

 

 

零「生憎だが、お前みたいな犬っころ舐めたら病原菌が移るかもしれんから願い下げだ。変身ッ!」

 

 

アズサ「変身……」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

 

激昂して叫ぶケルベロスインフェルニティにそう言いながらそれぞれ変身動作を行い、二人はディケイドとアンジェルグに変身した。そしてアンジェルグは右腕から排出したミラージュソードをEモードに展開して構え、ディケイドはライドブッカーをソードモードに切り替えて刃を撫でると、ローチインフェルニティ達に斬り掛かり、トランス達も態勢を立て直してローチインフェルニティ達に突っ込んでいった。

 

 

クウガ『ハアァッ!ダリャアァッ!ほらヴィヴィオ!後ろでビクビクしてないで戦えって!』

 

 

ナンバーズ『うぅぅっ……え、ええい!女は度胸っ!ゴキがなんだぁーーっ!!』

 

 

肉弾戦で先陣を切るクウガの呼び掛けで覚悟を決め、半ばがむしゃらに迫り来るローチインフェルニティ達を回し蹴りで吹っ飛ばしていくナンバーズ。その二人の隣では、アンジェルグとトランスがミラージュソードとライドブッカーソードモードを振りかざしてすれ違い様にローチ達を斬り捨てていき、トランスは更にライドブッカーからカードを一枚取り出してトランスドライバーに投げ入れスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

トランス『シューートッッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!―

 

 

『ギボァァッ!!』

 

 

電子音声と共にGモードに切り替えたライドブッカーの銃口をローチ達に向けて引き金を引くと、トランスの周りに生成された複数のアクセルシューターがローチ達を貫き爆発させていった。そしてアンジェルグも背中の翼を広げて上空へと飛び上がり、右腕から槍状のエネルギーを乱れ撃ちしながら急降下し、ローチ達を斬り飛ばしていく。

 

 

ディケイド『ハアァッ!!』

 

 

―ガギイィィィンッ!!―

 

 

『ヌオォォッ?!』

 

 

そしてクウガ達から少し離れた場所では、ディケイドがライドブッカーSモードを振るってケルベロスインフェルニティの足を掬い、咄嗟に立ち上がろうとしたケルベロスインフェルニティを前蹴りで蹴り飛ばすと、ケルベロスインフェルニティが身を起こしてすぐ素早く動き出してディケイドに襲い掛かり、超スピードの突進を数発喰らって吹っ飛ばされてしまう。

 

 

ディケイド『ッ!すばしっこい奴だな……ならコイツでどうだ?』

 

 

そう言いながら態勢を立て直したディケイドはライドブッカーを左腰に戻して一枚のカードを取り出し、バックルへと装填しスライドさせていった。

 

 

『FORMRIDE:AGITO!FLAME!』

 

 

電子音声と共にディケイドに波紋が広がり、フレイムセイバーを右手に構えたDアギト・フレイムフォームへとフォームライドすると、Dアギトはフレイムセイバーを両手で握りゆっくりと居合の構えを取った。

 

 

『(姿が変わった?なにをする気かは知らんが無駄な足掻きだ、死ねェッ!)』

 

 

Dアギトに変身したディケイドに内心少し驚きながらも、ケルベロスインフェルニティは構わずDアギトの周囲を素早く動き回ってDアギトの背後に回り込み、そのままDアギトへと背後から突っ込み爪を振りかざして引き裂こうとした、が……

 

 

Dアギト『――其処かッッ!!』

 

 

―ガギィッッ!!―

 

 

『ッ?!なっ―ズバァァァァァァァンッ!!―あぐあああああッ?!』

 

 

フレイムフォームの特性により鋭敏化した感覚を研ぎ澄ますことで、ケルベロスインフェルニティの接近にいち早く反応したDアギトは振り向き様にフレイムセイバーで振り下ろされた爪を下段から弾き、そのまま上段に振り上げたフレイムセイバーを勢いよく振り下ろしケルベロスインフェルニティを斬り裂いて後退りさせた。そしてDアギトはフレイムセイバーの刃を撫でてディケイドに戻ると、ライドブッカーからファイナルアタックライドのカードを取り出した。

 

 

『グウゥッ!ば、馬鹿なっ……貴様ぁ、一体何者だ?!』

 

 

ディケイド『ただの通りすがりの仮面ライダーだ、憶えておけ』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

そう言いながらバックルにカードを装填してスライドさせると、ディケイドの目の前にディメンジョンフィールドが展開されていく。ケルベロスインフェルニティもそれを見て危険を察知したのか、残ったローチ達を自身の前に呼び集めて盾にしようとするが、ディケイドは構わずライドブッカーSモードを両手に握り締めてディメンジョンフィールドを一気に駆け抜け、そして……

 

 

ディケイド『ハアァァァァァァァァァァァァッ!!!ハアァァッッ!!!』

 

 

―ガギイイイイイイイィンッ!!!―

 

 

『ギシャアァァァァァァッ?!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォオンッッ!!!―

 

 

『グ、アァッ?!』

 

 

ディメンジョンフィールドを潜り抜けたディケイドのディメンジョンスラッシュがローチたちを纏めて一刀両断し、ローチたちは一斉に爆発を巻き起こし跡形もなく散っていた。その爆発の余波に巻き込まれてケルベロスインフェルニティも吹っ飛ばされ、地面を何度も転がってふらつきながら身体を起こしていく。

 

 

『ヌウゥッ……!これでは雷牙討伐は無理かっ……!』

 

 

部下であるローチ達を全滅させられては、雷牙の討伐以前にライダー五人を一人で相手するのは流石に分が悪すぎる。此処は一度撤退すべきだろうと、ケルベロスインフェルニティは忌ま忌ましげにディケイド達を一瞥して撤退していき、それを確認したディケイドも両手を叩くように払いトランス達と合流した。

 

 

クウガ『やったな零!』

 

 

ディケイド『一先ずはな。ま、一匹逃がしてしまったが……』

 

 

トランス『だね。でもまあ、部下の怪人達を倒された訳だから、向こうもすぐには動けないんじゃないかな?』

 

 

ディケイド『……だと良いんだが』

 

 

肩を竦めながら息を吐いてそう言うと、取りあえず今は六課に戻ろうとバックルに手を掛けるディケイド。が、その時……

 

 

『――待て、ディケイド!』

 

 

『……!』

 

 

突然誰かに呼び止められる声が聞こえ、一同はそれが聞こえてきた方向へと振り返った。其処には、こちらを見つめる一人のライダーと一人の青年……雷が変身する雷牙と、先程訓練所でFWを教導していたレオン分隊の副隊長である理央の姿があった。

 

 

スバル「!あれって、雷牙?」

 

 

ディケイド『なんだ、やっと来たのか?遅かったな、インフェルニティならもう俺達が片付けたぞ』

 

 

やっと駆け付けた雷牙達を見て、アンジェルグの肩を叩きながら前に出るディケイド。しかし、雷牙は何故か一言も言葉を返そうとはせず、左腰のカードケースからゆっくりとカードを取り出し……

 

 

『ATTACKSPELL:RAIGA CLAW!』

 

 

雷牙『おおおおおおおッッ!!!』

 

 

ディケイド『?!―ガギィィィィンッ!!―グアァッ?!』

 

 

『なっ?!』

 

 

ナンバーズ『パパッ?!』

 

 

雷牙はライガドライバーにカードをセットして現れたライガクローを両腕に装備しながらディケイドに突撃し、いきなりライガクローで斬り掛かってきたのだ。そんな雷牙の突然の行動にトランス達も驚愕を隠せず固まってしまうが、その間にも雷牙はライガクローを振りかぶって吹っ飛ばされたディケイドへと斬り掛かっていき、ディケイドはライガクローの片方を脇で挟んで押さえ込みながら雷牙に呼び掛けた。

 

 

ディケイド『グッ?!おい待てッ!いきなり何の真似だ、雷ッ?!』

 

 

雷牙『気安く名を呼ぶな!貴様のことは預言者とやらから聞いてるぞ、悪魔が!』

 

 

ディケイド『なっ……』

 

 

訳を聞き出そうとして雷牙の口から返ってきたのは、今までの世界で何度も浴びせられてきた暴言の言葉。雷牙にそう言われ仮面の奥で絶句してしまうディケイドだが、雷牙は構わずディケイドの腕を無理矢理振り払いライガクローで何度も斬撃を浴びせていき、その光景を呆然と見ていたトランス達も漸く正気に戻って困惑した。

 

 

ティアナ「ど、どういう事?!何で雷さんが零さんを?!」

 

 

クウガ『わ、分かんねえけど、とにかく止めないとマズイだろっ?!』

 

 

理央「――そうはさせん」

 

 

とにかく雷牙を止めようと走り出したトランス達だが、それを阻むように雷牙と一緒に現れた理央が一同の前に立ち塞がった。

 

 

トランス『邪魔しないで下さい!私達は貴方達と戦いに来た訳じゃないんです!』

 

 

理央「それは無理な相談だ。あのディケイドとやらがこの世界を破壊する存在と言うなら、このまま生かしておく筋など、それこそ俺達にはないのだからな……臨獣ライオン拳、臨技・臨気凱装」

 

 

自分達が敵ではないことを必死に呼び掛けるトランス達にそう言い放ち、理央は一歩前に踏み出した。それと共に理央の身体から金色のオーラが放出し、直後、理央の全身を獅子を模した黒い外装が次々と纏い、全く別の姿へと変わっていった。

 

 

黒獅子リオ『猛きこと、獅子の如く。強きこと、また獅子の如く。世界を守る者…我が名は黒獅子、リオ』

 

 

エリオ「あ、あれはっ?!」

 

 

ナンバーズ『ラ、ライダーじゃない?それに、何この感覚……普通じゃないっ』

 

 

アンジェルグ(黒獅子リオ?……ッ!まさか、臨獣拳アクガタの?)

 

 

獅子を模した黒い外装を身に纏った『黒獅子リオ』の姿に一同が戸惑う中、アンジェルグは何か心当たりがあるように黒獅子リオの姿を見つめていくが、黒獅子リオは構わずトランス達に向かって飛び掛かっていった。そして、近くの物陰では……

 

 

鳴滝「――ディケイドよ。今度こそ、この世界が貴様の墓場となる……フフフッ……」

 

 

雷牙の攻撃の前に追い詰められていくディケイドの姿を物陰から見つめ、不気味に笑う鳴滝の姿が其処にあったのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界④

 

 

―クラナガン・路地裏―

 

 

―ガギィンッ!!ガギィンッ!!ガギィィィィィィィィィンッ!!―

 

 

イクサF『クッ?!ハァッ!!』

 

 

ディソード『ヌンッ!!』

 

 

クラナガンの路地裏。其処では姫が変身したイクサFと謎の青年が変身したディソードが互いの得物をぶつけ合い、両者の間で何度も無数の火花を散らし合っていた。だが流石に男が相手となると力の差が生じるのか、イクサFはディソードの剣と鍔ぜり合いになりながら力負けして押されていき、後退りさせられていく中でドラム缶やゴミ箱を押し倒しながらディソードの剣撃を受け吹っ飛ばされてしまう。

 

 

ディソード『ふん……どうした?桜ノ神の力とやらは、その程度なのか?』

 

 

イクサF『っ……どうかな?そういう君もか弱い女を相手に、少々大人気ないんじゃないか?』

 

 

強気な態度を崩さずそんな軽口を叩くと、イクサFはボディの所々に埃を被ったまま目の前に転がるゴミ箱を片手で払い、ディソードに向けてイクサカリバーを構える。ディソードもそんなイクサFを見て軽く鼻を鳴らしながら二枚のカードを取り出し、ディソードライバーへと装填しスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:IXA!REY!』

 

 

ディソード『ならば詫びの印しに、俺からの贈り物だ。受け取れッ!』

 

 

そう言いながらディソードライバーを横薙ぎに振るうと、ディソードの目の前に無数の残像が駆け巡ってそれぞれ二カ所で重なり、剣を構えたイクサFと同じ姿の戦士、『イクサ』と両腕に巨大な爪のような武器を装備した白い戦士、レイとなって現れイクサFに襲い掛かっていった。

 

 

―ガギイィンッ!!ブォッ!!ガギイィッ!!―

 

 

レイ『フンッ!!』

 

 

イクサ『ハァッ!!』

 

 

イクサF『クッ!ハッ!』

 

 

イクサFはディソードが喚び出した二人のライダーの同時攻撃に圧されつつも、イクサが振るった剣を跳躍して避けながら背後の建物の屋根に着地し、Gモードに切り替えたイクサカリバーの射撃でディソード達を牽制しながらベルトの左腰から取り出した銀色のフエッスルをバックル部に装填し、イクサナックルを押し込むようにスライドさせた。

 

 

『I・X・S・K・N・U・C・K・L・E・R・I・S・E・U・P!』

 

 

鳴り響く音声と共にイクサFはベルトのバックル部分からイクサナックルを取り外してイクサナックル表面にエネルギーを蓄積させていき、イクサカリバーGモードの銃撃でイクサとレイを怯ませながら屋根から飛び降りた。そしてイクサの正面に着地するとすかさず回し蹴りでイクサの手からイクサカリバーを弾き飛ばし、そのまま回し蹴りの要領で一回転してイクサナックルを振り抜き……

 

 

イクサF『ハアァッ!!』

 

 

―バシュウゥンッ!!―

 

 

イクサ『ッ?!ぐあああああああああッ?!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

イクサFの放ったイクサナックルがイクサの胸に直撃し、イクサはそのまま悲痛な悲鳴と共に爆発を起こし散っていったのであった。それを確認したイクサFは一息吐くが、そのとき真横から不意を突くようにレイが飛び出して襲い掛かり、次々と振り下ろされる爪をギリギリ避けながらもレイの斬撃を何発か食らい吹っ飛ばされてしまう。

 

 

イクサF『グゥッ!やってくれるなっ……―コツンッ―……ん?』

 

 

仰向けに倒れてレイに斬り付けられた胸を抑えながら思わず毒づくと、不意にイクサFの肩に何かが当たった。それに気付いて視線を向ければ、其処には先程倒したイクサの手から弾いたイクサカリバー・カリバーモードが地面に転がっており、イクサFはそれを見て何かを思い付いた様に地面に転がるイクサカリバーを掴み取った。

 

 

レイ『ウオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

イクサF『ッ!ハアァッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!―

 

 

レイ『ッ?!ヌオォ、グアァァァァァァァァッ?!』

 

 

トドメを刺そうと両腕の爪を振りかざして突っ込んできたレイを見て、イクサFはすぐさま手にしたイクサカリバーをGモードに展開し、両手のイクサカリバーGモードの銃口をレイに定めて銃撃を浴びせていく。そして無数の銃撃を浴びて吹っ飛んだレイを見て咄嗟に態勢を立て直し、両手のイクサカリバーを上空へと投げ左腰のフエッスルからカリバーフエッスルを取り出し、バックル部へと装填してイクサナックルを押し込んだ。

 

 

『I・X・S・C・A・L・I・B・E・R・R・I・S・E・U・P!』

 

 

無機質な電子音が鳴り響き、それと同時に十字架を模したイクサFの仮面部分が起動音と共に開き、その下に隠されていた赤い複眼が露わになった瞬間、イクサFから凄まじい熱量が放出されレイのボディを焼き焦がしながら再び吹っ飛ばしていく。そして、バーストモードになったイクサFは頭上から落ちてきた二本のイクサカリバーをキャッチしながら瞬時にカリバーモードに展開すると、背後に燃え盛る太陽を背にゆっくりとイクサカリバーを構え、そして……

 

 

イクサF『――フッ!!!ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 

―ジュキイィィンッッ!!ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!―

 

 

レイ『グウゥッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ?!!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!―

 

 

イクサFが最初に振りかざした左手のイクサカリバーがレイの身体を斜めに斬り裂いて怯ませ、最後に斜め右に振り上げた右手のイクサカリバーがトドメとなり、レイはボディの隙間から無数のスパークを放ちながら力無く両膝を付き、そのまま俯せに倒れると同時に爆発し跡形も残さず散っていったのだった。

 

 

ディソード『ほう……大した物だ。流石とでも言っておこうか』

 

 

イクサF『ッ……君に褒められても嬉しくはないな、まだやる気なのか?』

 

 

此処まで蓄積したダメージで若干ふらつきながらディソードにそう問い掛けると、ディソードは無言のままイクサFに向けてディソードライバーを構えていき、イクサFもそれを見てヤレヤレと溜め息を吐きながら両手のイクサカリバーを構え直しディソードと対峙していく。が、その時……

 

 

 

 

 

―タッタッタッタッ……!―

 

 

勇輔「――銃声が聞こえたのって、確かこの辺りだよな?」

 

 

光「その筈だけど……」

 

 

ディソード『…ッ?!チッ!』

 

 

―バッ!!―

 

 

イクサF『っ?!な、待てッ!』

 

 

 

 

 

街上に繋がる通路の先から不意に聞こえてきた、複数の足音と男女の声。それを聞いたディソードは声が聞こえてきた通路の先に視線を向けて間が悪いといった感じに舌打ちすると、突然路地裏の奥に向かって走り出し、呼び止めるイクサFの声を無視しそのまま何処かへと走り去ってしまった。

 

 

イクサF『……何なんだ、一体』

 

 

紫苑「――あれ?あれは……」

 

 

何故かいきなり退いたディソードが走り去った方向を見て困惑しながらも取りあえず変身を解除していると、市街地に繋がる通路の先から三人の男女……紫苑と光と勇輔が現れ、路地裏の真ん中に佇む姫に気付いて駆け寄ってきた。

 

 

勇輔「あのー、すいませーん」

 

 

姫「……?何だ、君達は?」

 

 

光「あ、いきなりすみません。実はあの、さっき其処を通り掛かった時に、銃声みたいな音を聞いて来たんですけど、何かこの辺りで見ませんでしたか?」

 

 

姫「銃声?……ああ、いや……実は私も、それを聞いて此処まで確かめに来てな。何やら争った形跡は見られるが、それ以外には特に何も見つからなかったぞ?ほら」

 

 

勇輔「ん?うわっ、ホントだ……」

 

 

光「凄い荒れようだね……此処で何があったんだろ?」

 

 

紫苑「…………」

 

 

流石に関係のない一般人に此処で変身して戦闘をしていたなど言える筈もなく、何も知らない素振りでドラム缶等が転がっている背後の光景を指で差す姫。その光景を見て愕然となる勇輔と光だが、紫苑だけはそんな姫の様子から何処となく不自然さを感じて訝しげな顔を浮かべていると、姫もふと紫苑の格好が目に入り目を見開いた。

 

 

姫「その制服……君たち、まさか機動六課の関係者か?」

 

 

勇輔「え?あ、えと、その……」

 

 

光「一応は、ですけど……あっ、もしかして、貴方も機動六課の関係者ですか?」

 

 

姫「む?ああいや、関係者とは言っても、この世界の六課の面々とは顔見知りではないというか……ううむ、まいったな……どう説明したものか……」

 

 

『???』

 

 

流石に違う世界から来たと言っても理解してもらえるとは思えず、どう説明したものかと姫は三人から目線を反らして悶々と考え込む。すると、その様子を黙って見ていた紫苑はふとある考えが過ぎり、半信半疑で姫にこう尋ねた。

 

 

紫苑「あの……もしかして貴方って、別世界から来た住人じゃないですか?」

 

 

光「……え?」

 

 

姫「!……何故、そう思う?」

 

 

紫苑「いや、なんとなく?『この世界の』って響きが何だかそれっぽかったし。それに貴方も、この世界の人達と何処か違うっていうか、何となく日本人っぽいというか……」

 

 

紫苑にそう言われて勇輔と光が姫の顔を見てみると、確かに見た感じ、姫はこの世界の人達と何処か違って日本人という印象が強い。それを指摘され姫も自分の髪の毛先を弄って見つめると、何処か関心したような目で紫苑を見つめた。

 

 

姫「成る程……君は中々、良い観察力の持ち主のようだな」

 

 

勇輔「え?じゃあ貴方って……」

 

 

姫「うむ。其処の彼の言う通り、私はこの世界の住人じゃない……。ある経緯があって、私は仲間達と共に様々なライダーの世界を旅して回っててな。この世界にも、その一環で訪れたんだ」

 

 

光「様々なライダーの世界を旅って……じゃあ貴方も、私達みたいにライダーの世界を巡ってるって事ですか?」

 

 

姫「?"私達みたいに"?」

 

 

それはどういう意味だ?と、光の言葉に怪訝な表情で聞き返そうとする姫だが、その時……

 

 

フェイト「――ハァ、ハァ……あ、居た!姫ーーっ!」

 

 

姫「……ん?フェイト?」

 

 

市街地に繋がる通路の方から、なのはとヴィヴィオと別行動を取って独自に行動していたフェイトが走って現れた。それに気付いた姫も紫苑達からフェイトに目を向け、フェイトは紫苑達の間を抜けて姫の前に駆け寄った。

 

 

姫「どうしたんだ?そんな血相を変えて?」

 

 

フェイト「はぁ、はぁ……どうしたじゃないよ!姫の方こそ、こんなところで何してるの?!さっきスバルから、姫に怪人が現れたって連絡したのにまだ来ないって連絡あって捜しに来たんだよ?!」

 

 

姫「む?……あ、すっかり忘れてたっ」

 

 

フェイト「わ、忘れてたって……と、とにかく急いで!何だか零達が大変な事になってるって連絡があったから、早く合流しないと!」

 

 

フェイトはそう言いながら慌てた様子で姫の手を掴み市街地の方を向いて走り出そうとしたが、その拍子に視界の端に見えた紫苑達の顔を見て思わず足を止めた。そしてフェイトは帽子の鍔を上げて紫苑と光の顔を交互に見て、両目を見開き驚愕した。

 

 

フェイト「し、紫苑?光?ど、どうして二人が此処に?!」

 

 

紫苑/光『……へ?』

 

 

勇輔「え?へ?な、なに?二人の知り合い?」

 

 

目の前の二人が、以前電王の世界で知り合い零達と共に戦った紫苑と光だと思い、思わぬ再会に驚きの声を上げるフェイト。それに対し紫苑と光は初対面の人間にいきなり名前を呼ばれて戸惑い、互いに訝しげに顔を見合わせていたのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

黒獅子リオ『ヌンッ!!』

 

 

―バキイィッ!!ドガァッバキィッドグオォンッ!!―

 

 

クウガ『グアァッ?!』

 

 

ナンバーズ『アウッ!』

 

 

そして場所は戻り、市街地では突如ディケイドに襲い掛かってきた雷牙の仲間の黒獅子リオが、たった一人でトランス達四人を圧倒していた。右と左から同時に攻撃してきたクウガとナンバーズの拳を両手で払い退けてから後ろ回し蹴りで纏めて吹っ飛ばし、更に追撃を仕掛けようと倒れた二人に突っ込もうとするが……

 

 

シュロウガ『舞えっ……!トラジックジェノサイダー!!』

 

 

―バシュウバシュウバシュウバシュウバシュウバシュウゥッ!!―

 

 

黒獅子リオ『ッ!』

 

 

いつの間にか、シュロウガへと変身したアンジェルグが黒獅子リオの背後に回り込んで両肩と両腰に膨大なエネルギーを蓄積し、無数のスフィアを黒獅子リオに向かって撃ち出していたのである。咄嗟にそれに反応した黒獅子リオは即座にスフィア群を迎え撃ち、蹴りや拳でスフィア群をすべて叩き落とそうとするも、弾かれたスフィア群は不自然な動きでUターンして再び黒獅子リオへと降り注いでいった。

 

 

黒獅子リオ『?!この攻撃、誘導弾か?!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!ドガァアアアアアアアアアアアンッ!!―

 

 

弾いたはずなのに再び襲い掛かってきたスフィア群に驚愕しながらもその特性に気付くが、それと同時に、四方から飛来したスフィア群が黒獅子リオに全弾直撃し爆発を起こしていった。しかし……

 

 

 

 

黒獅子リオ『…………』

 

 

 

 

シュロウガ『!効いてない……!』

 

 

咄嗟に防御態勢を取った為に黒獅子リオが負ったダメージは軽減され、軽傷程度で済んでいた。それを見たシュロウガは直ぐさまデスディペルを取り出して機械的な翼からバーニアを噴出し、黒獅子リオに向かって突進し素早く斬り掛かっていくが、黒獅子リオも負けじとシュロウガの振りかざす斬撃を両腕で受け止めながら反撃していた。

 

 

―ズガガガァンッ!!ガギンッ!!ガギィィンッ!!―

 

 

シュロウガ『ハアァッ!』

 

 

黒獅子リオ(ッ!速いな、速さは断然向こうが上か。しかもこの太刀筋と迷いの無さ……明らかに戦い慣れしてる……だが!)

 

 

黒獅子リオは横薙ぎに振るわれたデスディペルを上空へと跳び上がって回避すると、両腕に臨気を収束させていき、そして……

 

 

黒獅子リオ『臨獣ライオン拳リンギ!剛勇吼波ッ!!』

 

 

―ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッッ!!!―

 

 

シュロウガ『ッ?!―ガギイィィィィィィンッ!!―くぅっ?!』

 

 

―バゴオォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!―

 

 

シュロウガ目掛けて黒獅子リオが両腕を突き出したと共に、金色のライオンの形に構成された臨気が放たれシュロウガに襲い掛かって直撃し、シュロウガはそのまま背後に建つ建物の壁を突き破りながら吹っ飛ばされてしまった。それを見た黒獅子リオは地上に着地してトドメを刺そうとシュロウガへと歩み寄っていき、シュロウガも直ぐにふらつきながらもデスディペルを杖代わりにして何とか立ち上がろうとした、その時……

 

 

トランス『待って!!』

 

 

―ガシャンッ!!―

 

 

黒獅子リオ『ッ!』

 

 

シュロウガ『ッ?!なのは……!』

 

 

シュロウガにトドメを刺そうとする黒獅子リオをトランスが背後から羽交い締めにし、黒獅子リオの動きを封じたのである。トランスのいきなりの行動に戸惑いつつも、黒獅子リオは身体を振るってトランスを振り払おうとするが、トランスはそれに耐えながら黒獅子リオに呼び掛けた。

 

 

トランス『もう止めてください!!私達は戦いに来た訳じゃないし、零君は悪魔でも破壊者でもない!!どうして信じてくれないんですか?!』

 

 

黒獅子リオ『ッ……貴様等がアレをどう思っているかは知らないが、俺達は奴を信じる事など出来ん。奴がこの世界を破壊する危険性を確かに持ってる以上はな』

 

 

トランス『そんなっ!―バキイィッ!!―キャアァッ?!』

 

 

必死に説得しようとしても全く応じてくれず、黒獅子リオはトランスの拘束を力任せに振り払ってトランスを肘で殴り飛ばしてしまい、トランスは地面を何度も転がり倒れてしまう。それでも何とかふらつきながら体を起こすと、トランスはディケイドと雷牙が消えた道路の向こうを見た。

 

 

トランス『(このままじゃ、また鳴滝さんの思う壷にっ……仕方ないっ)アズサちゃん!みんなもお願い!二人の所に行って!何とかして、零君と雷さんの戦いを止めさせて!』

 

 

シュロウガ『!うんっ……!』

 

 

スバル「わ、分かりましたっ!」

 

 

このままでは零を潰そうという鳴滝の思う壷になってしまう。その前になんとかして二人を止めなければと、トランスはディケイドと雷牙をシュロウガとスバル達に任せ、シュロウガもそれに頷いて背中の翼を起動させ上空へと飛び上がり、スバル達もシュロウガと共にディケイドと雷牙の下へ向かっていったのだった。

 

 

黒獅子リオ『雷達の下に行くつもりか?そうは……―カシュンッ!!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!―……ッ?!』

 

 

ディケイドと雷牙の下へと向かおうとするシュロウガを止めるべく右腕に臨気を集めようとした黒獅子リオだが、それを阻止するかのように真横から空気弾と無数のエネルギー弾が襲い掛かった。

いきなりの不意打ちに驚きつつも咄嗟に後方へ跳んでそれを回避し、それが撃たれてきた方に振り向くと、其処にはペガサスフォームに姿を変えたクウガとナンバーズがペガサスボウガンとヘビィバレルの銃口を黒獅子リオに向けて立つ姿があった。

 

 

ナンバーズ『邪魔はさせないよッ!』

 

 

クウガP『アンタの相手は俺達だッ!』

 

 

黒獅子リオ『チッ……そういえばまだコイツ等が居たんだったな……』

 

 

トランス『そういう事です。此処から先には絶対行かせない……変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:GAIA!』

 

 

力強く黒獅子リオにそう言い放ながらライドブッカーから取り出したカードをトランスドライバーへと装填すると、トランスはガイアへと変身して静かに腰を屈め独特の構えを取った。そしてガイアに姿を変えたトランスに黒獅子リオも関心の声を漏らし、ゆっくりと構えを取っていく。

 

 

黒獅子リオ『胸に金の獅子を持つ戦士か……面白い。その力、見せてみろ』

 

 

Tガイア『――ハッ!!』

 

 

挑発する黒獅子リオに答えないまま、Tガイアは地を蹴って疾走し黒獅子リオの頭を捉えて右腕を飛ばした。それを見た黒獅子リオは咄嗟に身を屈めてTガイアの拳を避けながらTガイアの右腕を両手で掴み、背負い投げの要領でTガイアを向かいのビル目掛けて軽々と投げ飛ばしていった。しかし……

 

 

―タンッ!!―

 

 

Tガイア『ヤアァァァァァァアッ!!』

 

 

黒獅子リオ『ッ?!―ドォンッ!!―クッ?!』

 

 

Tガイアも負けじと吹っ飛ばされながら空中で回転して態勢を立て直し、ビルの壁を蹴り黒獅子リオへと跳び蹴りを放っていったのだ。黒獅子リオはそれを見て咄嗟に顔の前で両手をクロスして跳び蹴りをガードするが、衝撃を殺せず何歩か後退りさせられ、Tガイアは地上に着地して直ぐに黒獅子リオへと追撃を仕掛け殴り掛かっていく。

 

 

Tガイア『ハァッ!セイッ!ヤァッ!!』

 

 

―バキイィッ!ガァンッ!ドガァッガンッバキャアァッ!―

 

 

黒獅子リオ『フンッ!ハッ!ヌンッ!!』

 

 

互いの間で飛び交う蹴りと拳を防ぎ、弾き、かわし、相手に一撃でも多く与えて戦況を少しでも自分の方に傾けさせようと一進一退の攻防を繰り広げるTガイアと黒獅子リオ。

 

 

遠くから傍観してても二人のその戦いの迫力を感じ取る事ができ、クウガとナンバーズはその間に入る事は出来ないと思いその場から動けずにいる。そして、Tガイアと黒獅子リオは互いにパンチを打ち込みながら後方へと距離を離すと、それぞれ最後の攻撃の準備に入った。

 

 

『FINALATTACKRIDE:GA・GA・GA・GAIA!』

 

 

Tガイア『ヘル・アンド・ヘブンッ……!!』

 

 

バックルにカードをセットして電子音声が鳴り響くと共に、Tガイアは高らかにそう叫びながら右手に破壊の力、左手に護りの力を集めていく。そして、黒獅子リオも全身からライオンの形を象るエネルギーを放出し、Tガイアに向けて構えを取っていく。

 

 

黒獅子リオ『臨獣ライオン拳リンギ……!!』

 

 

Tガイア『ゲル・ギム・ガン・ゴー・グフォ……ハッ!!』

 

 

―バシュウゥゥゥゥゥゥッ!!―

 

 

Tガイアが両手の拳を組んで目の前に突き出したと共に、強力な電磁嵐が発生し黒獅子リオを捉えた。だが黒獅子リオはそれに動じる様子を一切見せないまま構えを解こうとせず、全身から放出するエネルギーを更により一層濃くしていく。そして……

 

 

黒獅子リオ『――剛勇!!拳打ッ!!!』

 

 

Tガイア『ウイイイイイィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーータアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

―ガギイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーイィンッ!!!!!ジジジジジィィィィィィィィィィィッ……!!!!!―

 

 

どちらからでもなく、同時に相手に向かって咆哮と共に飛び出した二人。黒獅子リオは金色のエネルギーを全身から放出したままTガイアに拳底を向けて飛び出し、Tガイアも両腕を突き出して地面を破壊しながら黒獅子リオに向かって突っ込み、両者の必殺技が凄まじい衝撃波とけたたましい激突音を響かせながら中間地点でぶつかり合った。そして……

 

 

―ジジジジィィィィッ……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォオンッッッ!!!!!!―

 

 

なのは「――きゃあぁッッ!!!」

 

 

理央「――ぐうぅッッ!!!」

 

 

ナンバーズ『ッ?!なのはママッ!!』

 

 

必殺を篭めた強力な技と技のぶつかり合いの末に巨大な爆発が巻き起こり、二人は変身が解除されながら吹っ飛び地面に叩き付けられてしまったのだ。クウガとナンバーズはその光景を見て慌ててなのはの下へ駆け出し、なのはを抱え込んでいく。

 

 

ナンバーズ『ママっ!大丈夫っ?!』

 

 

なのは「ッ……う、うん、大丈夫だよ?これぐらい何とも――痛ッ!」

 

 

クウガ『なんともってっ、なのはさん手がっ!』

 

 

本人は大丈夫だと笑ってるが、額にはうっすらと汗が浮かび上がっているし、何より彼女の両手だ。先程の黒獅子リオとの激突のせいか、なのはの両手は重度の火傷を負い小刻みに震えている。そんな彼女の身を案じて心配な表情を浮かべる二人だが、そのとき理央が右腕を抑えふらつきながら立ち上がった。

 

 

理央「ッ……理解出来ないな……何故其処までして、あの破壊者を庇うのか……」

 

 

クウガ『ッ!だから、零は破壊者なんかじゃないって言ってるだろ?!どうして信じてくれないんだよ?!』

 

 

理央「俺も言ったはずだ、俺達は奴の危険性を知っている。それがこの世界に現れた以上、みすみす放っておく訳には―――っ?!」

 

 

どんなに違うと否定しても聞き入れてくれない理央に怒号を上げるクウガだが、理央はそう言いながら構えを取って再び変身しようとする。しかし、彼はナンバーズが支えるなのはの姿を見て信じられない物を見たように動きを止め固まってしまった。それもその筈、何故なら……

 

 

理央「お前、は……高町?何故お前が此処に……?」

 

 

なのは「……え?」

 

 

先程まで自分と戦っていた相手が、彼の所属する機動六課のメンバーである高町なのはと同じ顔をしていたのだから。しかしそのことを知らないなのはは自分の名を口にした理央に疑問符を浮かべていき、クウガとナンバーズも訝しげに顔を見合わせ首を傾げていく。その時……

 

 

なのは(別)「――理央さん!」

 

 

スバル(別)「大丈夫ですか!インフェルニティは何処に?!」

 

 

理央「ッ!高町…?では、あの高町は……?」

 

 

なのは「あ……」

 

 

呆然と佇む理央の背後から、インフェルニティの出現の知らせを聞いて出撃した機動六課の面々が駆け付けたのである。その中に自分の知るなのは(別)の姿を見つけた理央は更に困惑した様子でクウガとナンバーズと共にいるなのはの方へと振り返り、なのは達も駆け付けた機動六課のメンバーを見て彼等にどうこの状況を説明するかと顔を見合わせていくのだった。

 

 

 



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特別編/いざキャンプ、『ノイタミナ』へ!①

 

 

 

―光写真館―

 

 

零「……は?キャンプ?」

 

 

とある光写真館の午後。他のメンバーが次の世界へと移動する前に町へ買い出しに出掛けてる中、写真館のリビングには現在滞在してるライダーの世界の異変を解決して寛ぐ零の姿があり、テーブルに腰を下ろす零は向かいの席に座る青年……前触れもなく突然写真館に来訪した大輝の話を聞いて訝しげな声を上げた。

 

 

大輝「そっ。最近は俺もルミナ君も、連日風麺で働き詰めでロクに休みも取ってなかったからね。そーいうわけだから、今回は休みを取ってキャンプにでも行こうって話になったのさ」

 

 

零「風麺一同でキャンプ、な……別にお前等が店を休もうが閉じようが関係ないが、なんでそんな話を俺のとこに持ってくるんだ?」

 

 

大輝「何、折角のキャンプなのに二人だけというのも味気無いと思ってね。どうせなら、暇そうな君たちも連れていってあげようかと誘いに来たのさ」

 

 

零「……胡散臭さ全開だな……お前の事だ、また何か良からぬ事でも企んでるんじゃないのか?」

 

 

大輝「そんな失礼な物言いは止めてくれないか?俺はただ、自分が有意義な休日を送りたいだけなんだよ。別に行きたくないなら俺は構わないよ?それなら他の面子を誘うだけだからね」

 

 

片手をヒラヒラさせて笑みを浮かべながらそう告げる大輝だが、零は今まで大輝のせいで良からぬトラブルに巻き込まれてきたせいか、疑心に満ちた目で大輝を睨みつけている。そんな中、零と栄次郎と共に写真館で留守番していたはやてが栄次郎の容れてくれた珈琲を乗せたお盆を持ってテーブルへと歩み寄り、二人の前に珈琲を置いていく。

 

 

はやて「キャンプかぁ……そういえば私等も学生の頃、学校の行事とかで参加したことあったなぁ」

 

 

零「ん?あー、言われてみればそんなこともあったな……今や若かりし頃の記憶、あれから俺達も随分と年取って年寄りに―ガァンッ!―アイタッ?!」

 

 

はやて「誰が年寄りやねんっ?!私らはまだまだピチピチの十代やっ!」

 

 

勝手に自分まで年寄り扱いされてか、遠い記憶を思い起こすように呟く零の後頭部をはやてがお盆で思いっきり殴り飛ばした。余りの勢いに零もテーブルに顔を打ち付けて悶絶し、大輝はそんな二人を見てやれやれと溜め息を漏らすと珈琲を手に取って口に流し込んでいく。

 

 

大輝「ふぅ……どうだろ?零は乗り気じゃないみたいだが、君達も一緒に?」

 

 

はやて「え?あ~……でもキャンプ場とか、大輝君が選んだ場所なんやろ?これまでのこと考えると、せめて危険がないと分からんとなぁ……」

 

 

ぶっちゃけ、大輝が今までマシなことをしてきた試しがない為に、大輝が選んだキャンプ場が安全かどうか分からなければ簡単に頷くことは出来ない。はやてもそれを分かってる故に苦笑して言葉を濁してしまうが……

 

 

大輝「その点は心配ないさ。無人世界だから、動物と綺麗な自然しか存在しないのどかな世界だからねぇ。まあ遺跡とかはあるけど、近付きさえしなければ大して危険もない」

 

 

零「……遺跡なぁ……お前、ほんとはそれが目的なんじゃないのか?」

 

 

大輝「フッ、まあ否定はしないさ。どうやらその遺跡は秘密が多いらしくてね。もしかしたら、何かしらのお宝が眠っている可能性があるかもしれないだろ?」

 

 

零「……そんな事だろうと思った。どうせその遺跡に困難なトラップが張り巡らされてるからとかで、俺達に手伝えとか言いに来たんだろう?だとしたらお断りだ」

 

 

大輝「別にそうは言っていないだろ?確かに遺跡にはトラップが幾つか張り巡らされてるらしいが、簡単に突破出来るような安っぽい罠しか存在しない。いつぞやのショッカー本部のモノと比べても、足元にも及ばないと断言出来るしね」

 

 

零「む、それなら……いやしかしだな……」

 

 

コイツが何処まで本当の事を言っているのかも分からないし、やはり手遅れにならない内に追い返した方が良いかもしれん。そう思いながら零が額に手を添えて考える中、はやてが大輝に向けて口を開く。

 

 

はやて「大輝君、その無人世界て、ほんまに危険とかないんやよね?」

 

 

大輝「もちろん。ちゃんと前以て調べておいたからね、危ない場所に近付きさえしなければ大丈夫さ」

 

 

はやて「そっかぁ……んー……そういう事なら、一緒に行っても大丈夫やないかな?」

 

 

零「は?……おいちょっと待て部隊長、お前本気か?」

 

 

意外と乗り気な様子でそう呟くはやてに思わず険しい表情で聞き返す零。

 

 

はやて「いや、私も流石に大輝君の話を全部信用してる訳やないよ?でも私等も最近、怪人とかと戦い詰めで休む隙もないやん?良い機会やし、息抜きも兼ねて参加すんのもありかなぁ、と」

 

 

零「むぅ、しかしだな……」

 

 

はやて「それに、最近零君も疲れ気味やろ?こんな機会でもないとリフレッシュ出来へんし、たまにはええと思うで?」

 

 

零「む……」

 

 

確かに、最近は色々と悩みが増えて心身共に疲れる事が多くなった。出来る限り彼女達に悟られぬように気をつけてたつもりなのだが、どうやら最近はそれも顔に出て来てしまっているらしい。流石にそれはマズイと思った零も少し悩む仕草を見せると……

 

 

零「――ま、確かにこんな機会でもなければ休めないだろうしな。ただし、少しでも妙な事をすれば……」

 

 

大輝「分かっているさ♪で、肝心のキャンプする場所だけど――」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

 

零「――という訳で、海道の奴が主催するキャンプに参加する事になった」

 

 

ティアナ「ま、また急な話ですね……」

 

 

はやて「まあ、確かにそう思うわな」

 

 

写真館での晩飯時、台所組が用意してくれた夕食を食しながら一同に昼間大輝と話したキャンプの件を話すと、真っ先に返ってきたのはティアナの苦笑いだった。はやてもそれに苦笑しながら同意するように頷くと、同じく夕食を食べていたなのはが口を開いた。

 

 

なのは「キャンプかぁ……確かに最近はずっと戦ってばかりだったし、息抜きってことなら良いんじゃないかな?」

 

 

はやて「うん、私もそう思ってんけど、ほら、主催者が大輝君やし?零君もその辺がちょっと不安みたいで……」

 

 

シグナム「まぁ、気持ちは分からないでもないですね。あの男がマシな事をした試しがないですから」

 

 

ヴィータ「だな。ま、もしまた面倒事をやらかそうってんなら、そん時はアタシ等全員で締めてやりゃ良いだろ?」

 

 

零「おう、やってやれ。出来ればそのまま湖の底にでも沈めてやれ」

 

 

ギンガ「いや、流石にそれはどうかと……」

 

 

パシッ!と、気持ちの良い音を響かせながら手の平に拳を打つヴィータの言葉に同意する零。それに対してギンガが苦笑いを浮かべていると、オットーからお代わりを受け取っていたウェンディがスプーンをくわえたまま喋り出す。

 

 

ウェンディ「んで、肝心の場所は何処なんスか?」

 

 

はやて「んー、確か動物と自然しかない無人世界って言っとったよ?名前は確か……『ノイタミナ』とか」

 

 

零「海道の話じゃ、大昔は地球に良く似た世界だったらしいが、ある大きな災害のせいで人がいなくなって文明が滅んでしまったらしい。で、今でもその名残が残っているとか」

 

 

セイン「へぇ~」

 

 

優矢「じゃあ、もしかすると古代遺跡とか見られるかもしんないのか。やばっ、何かそう考えるとワクワクしてきた♪」

 

 

フェイト「あ、でも、そんなところに勝手に入っちゃって大丈夫なのかな?遺跡とかあるんなら、貴重な物も沢山あるだろうし……」

 

 

零「うむ……なら、そういうのに詳しそうな誰かに頼んで同行してもらうか?何か貴重な物を壊して呪われたりなんかしたら、堪らんからな」

 

 

姫「……ふむ……」

 

 

ノイタミナの話しで一気に盛り上がる一同。そんな中、姫が何かを考え込むかのように俯いて唸り、それに気付いた隣の席のアズサが姫の顔を覗き込んだ。

 

 

アズサ「ヒメ……どうかした……?」

 

 

姫「ん?いや、ノイタミナという名に少し聞き覚えがあってな……」

 

 

シャマル「……あ、もしかして、姫さんのお知り合い神様がその世界で奉れてたりとか?」

 

 

零「いやいや、そういう冗談は止めてくれシャマル。それ聞いたらまた別の不安が……」

 

 

姫「――あぁ、そうだっ!実は封印される前、上役の神の紹介で知り合った護り神がいてな?確かそいつの出身が、そのノイタミナという世界だった筈だ」

 

 

優矢「なん……ですと?」

 

 

零「……ヤバい……一気に不安が膨らんできたぞ……」

 

 

姫「まあしかし、アイツと知り合ったのはあの世界の文明が滅びる前だったからな。今はもう存在してるかどうか分からないな……」

 

 

その知り合いである護り神の安否が少し気になってか、何処か複雑げな顔を浮かべる姫。そんな彼女の姿を見て、どうやら今回も何かありそうだと軽く溜め息を漏らす黒月零なのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―Green cafe―

 

 

祐輔「皆でキャンプかぁ……良いですね。エデンでのキャンプを思い出すよ」

 

 

それから翌日。昨夜の夕食の会議で決めた役割当番でなのは達がキャンプなどで必要な道具を買いに行っている中、零は面子集めの為にGreen cafeに訪れ祐輔にキャンプの話をしていた。ちなみに店内には、祐輔の他にも翔、ミナ、なのは、フェイト、はやて、ユーノの姿もあった。

 

 

零「まぁ、キャンプ先には遺跡があるらしいからな。海道が暴走したりしないか心配な上に、木ノ花の知り合いとかいう神がいるかもしれんから、色々と不安もあるんだが……」

 

 

祐輔「あー……なるほど。その神が姫さんみたいな変神、って可能性あるかもしれないしね」

 

 

零「もしそうだった場合、木ノ花と揃って暴走されたりなんかしたら止められる自信がない……」

 

 

翔「あぁ、あの人が暴走したら振り回されるのは目に見えてるしな……」

 

 

そうならないよう出来ればマトモな奴でありますようにと、切にそう願わずにはいられないが、その願いも脆く崩れ落ちそうで怖い。そんな零の心境を察し祐輔と翔も苦笑いする中、話しを聞いていたユーノが興味深そうに会話に参加した。

 

 

ユーノ(祐輔)「それにしても、平行世界の古代遺跡か。僕も興味あるなぁ」

 

 

なのは(祐輔)「私達が真由と出会ったのも、エデンの遺跡でだったしねぇ。その遺跡でもまた女の子が見付かったりして♪」

 

 

零「いや、多分それはないだろ、そう信じてる。……そう信じたい」

 

 

はやて(祐輔)「せ、切実やなぁ……」

 

 

ミナ「でもまあ、トラブルがないに越したことはないですからね」

 

 

零「そういう事なんだ……悪いんだが、キャンプ先に皆にも来てもらって良いだろうか?下手に何か壊して、トラブルを起こしたりしたくないんだ」

 

 

祐輔「そういうことなら、僕は別に良いですよ?他の皆は……」

 

 

翔「うーん……大輝が主催ってのが信用出来ないけど……まぁ、奴が怪しい動きを見せたら、そん時にとっちめれば良いかな?」

 

 

フェイト(祐輔)「あ、なら孤児院の皆と一緒に参加しようか?きっと皆にも良い経験になるかもだし」

 

 

ユーノ(祐輔)「僕も良いかな?遺跡関係なら、僕も少しは力になれるかもだし」

 

 

零の頼みに、キャンプへの参加を表明していく祐輔達。こうして、祐輔達一行もキャンプに参加することが決定したのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

それから数時間後……

 

 

―光写真館・物置部屋―

 

 

優矢「んで、他の皆にも声を掛けてきたのか?」

 

 

零「ああ、全員が来れるかはまだ分からないけどな。取りあえず、当日の日付と時間は知り合い全員に伝えてきた」

 

 

写真館の物置部屋。其処には、なのは達が買ってきた道具以外のキャンプに必要な道具を探して物置を漁る零と優矢の姿があり、二人はキャンプに参加するメンバーの話をしながら道具を一カ所に集めていた。

 

 

優矢「ん……よし、これで一通りは揃ったかな?」

 

 

零「いや、まだ道具の具合を確かめないと駄目だ。このまま当日に持っていて、もし使い物にならなかったなんて事になったらマズイからな。先ずはどれから…………ん?」

 

 

集めた道具の前で身を屈めながら道具の具合を確かめようとする零だが、その時、視界の端で何かが光ったような気配がし、疑問符を浮かべながらそちらの方へと視線を向けた。其処には……

 

 

零「――メダル……?」

 

 

零が見つけたのは、何やら部屋の片隅に転がる三枚のメダルのようなものだったのだ。それに気付いた零は立ち上がって部屋の片隅へと近付くと三枚のメダルを拾っていき、拾った三枚のメダルを眺めていく。何処か薄気味悪い紫色に輝く三枚のメダルには、それぞれ空想上の幻獣の絵……ケルベロス、キメラ、バジリスクの絵柄が刻まれており、それを眺める零の隣に優矢が歩み寄ってメダルを覗き込んだ。

 

 

優矢「?何だそれ?メダル……か?」

 

 

零「みたいだな……しかもこのメダル、普通のメダルじゃない……コアメダルだ」

 

 

優矢「コア?……あぁっ!確か、オーズが使うって奴のアレか!」

 

 

零「そのアレだ。前に拓斗が持ってるのを少し見せてもらった事があって、もしやと思ったが……。しかし何でこんなボロい倉庫に、そのライダーのアイテムが……ッ!!!」

 

 

訝しげに指に挟んだ三枚のコアメダルを眺めていた零だが、突然その顔の形相が変わり慌てて隣に立つ優矢にコアメダルを押し付けて距離を開いた。

 

 

優矢「おぉわぁぁ?!な、何だよ零っ?どうしたいきなり?」

 

 

零「……いいや……確か、前にもこうやってライダーのアイテムを弄ったせいでろくでない事になったからな……また何か起きて訳の分からない世界に飛ばされでもしたら敵わん……」

 

 

優矢「いや、それは流石に心配し過ぎだろ?そう何度も何度もトラブルが起きる訳ないし、大丈夫だって♪」

 

 

以前にもこんなライダーのアイテムを弄った時に巻き込まれた事件を思い出して警戒する零とは対称的に、優矢はそう何度も運の悪いトラブルが起きる筈もないと気にした様子もなく三枚のメダルを手の中で弄んでいく。

 

 

零「お、おいバカ!余り変に触らないでその辺にでも置いておけ!何か起きたらどうする?!」

 

 

優矢「いや、だからビビり過ぎだってっ。見たところこれ、お前が前に言ってたグリードって怪人の意思があるメダルって訳でもないようだし、大丈夫だろ」

 

 

心配性な奴だなぁと、優矢は必死に制止する零に苦笑をしながら手に握るメダルを近くの棚の上へと適当に置いていき、零もそれを見て安堵するように肩の力を抜くと優矢と共にキャンプ道具の下へ戻ろうと歩き出していく。

 

 

……のだが、優矢が棚の上に置いたコアメダルの一枚が不安定な場所に置かれていた為にグラグラと揺れ、そのままゆっくりと棚の上から落ち床に向かって落下してしまった。その時……

 

 

 

 

 

―ピイイイイィィィィィィィィィーーーーーーンッッ……シュウバアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!―

 

 

優矢「――ッ?!!えぇっ?!!」

 

 

零「な、何?!」

 

 

紫のコアメダルが床に落下する直前、なんとメダルはピタリと宙に制止して淡い光りを放ち出し、更に棚の上に置かれていた残り二枚のコアメダルがそれに呼応するかのように宙に浮いて一カ所へと集まり、火花を撒き散らしながらまばゆく輝き出したのであった。

 

 

―バチバチバチバチバチバチバチイィッ!!!!―

 

 

優矢「ど、どどどどどどうなってんだッ?!何でいきなりメダルがッ?!」

 

 

零「そら見ろ!!やっぱり何か得たいの知れない事が起きたじゃないか!!どうしてくれるッ?!」

 

 

優矢「いや俺のせいかよッ?!」

 

 

零「どう考えても原因はお前しか思い付かんだろうがッ?!何とかしろ!!お前クウガなんだろ!!」

 

 

優矢「無茶言うなよッ?!コレどう見ても近付いたらヤバそうな感じしかしねぇってッ!!」

 

 

何故か突然暴走をし始めたコアメダルを前に、お互い言い争いを始める零と優矢。だがそうこうしている間にも三枚のコアメダルから放たれる光は激しさを増して徐々に倉庫内を包み込んでいき、そして……

 

 

―バチバチバチバチバチバチバチィッ……ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!―

 

 

優矢「ッ?!!う、うわ、うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

零「ッ!!優矢ぁッ!!!ぐっ……ぅおあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ?!!!!」

 

 

三枚の紫のコアメダルの間に生じた小爆発によってブラックホールのようなモノが発生し、周囲のガラクタを物凄い吸引力で吸い込み始めたのであった。そして優矢もそれに巻き込まれてブラックホールへと飲み込まれ、零も優矢に手を伸ばそうとしてそれに巻き込まれてしまい、二人を飲み込んだブラックホールはそのまま三枚のコアメダルと共に何処かへと消えていってしまったのだった……。

 

 



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特別編/いざキャンプ、『ノイタミナ』へ!②

 

 

 

―同時刻・とあるライダーの世界―

 

 

―バゴオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオォンッ!!!!―

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ?!!」

 

 

「キャーーーッ!!!」

 

 

『ハッハッハッハッ!!!逃げろ逃げろッ!!!』

 

 

別世界に存在する、天ノ川学園都市と呼ばれる街の中に建てられた学園、天ノ川学園。

 

 

その学園の敷地内では現在、身体に星座のような模様が浮かぶ鷲の姿をした怪人……鷲座のゾディアーツであるイーグルゾディアーツが空を飛びながら学園内の柱の一部を破壊し、空から逃げ惑う生徒達の姿を見て愉快げに高笑いをしていた。そんな時……

 

 

「――止めろ加藤!!」

 

 

『……?!』

 

 

突如イーグルゾディアーツに向けて制止の声が響き、イーグルゾディアーツは思わず驚愕して笑うのを止めそれが聞こえてきた方へと振り返った。其処には青のブレザーの制服を着た数人の男子生徒と女子生徒達と共に駆け付ける昭和の不良のような格好をしたリーゼント頭の青年の姿があり、青年はイーグルゾディアーツに向けて再び叫んだ。

 

 

「もう止せ!!スイッチを捨てろ!!このまま人間に戻れなくなってもいいのか?!」

 

 

『ッ……!う、うるせぇ!俺は見返してやるんだ!俺をイジメた奴らに、俺の凄さを思い知らせてやるんだぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

―シュバババババババババババババァッ!!―

 

 

必死に説得しようと呼び掛ける青年の言葉に聞く耳を持たず、イーグルゾディアーツは頭を抱えながら二枚の翼から無数の羽手裏剣を青年に向けて放っていった。それを見た青年は咄嗟に地面を転がりながら何処からか操縦桿を模したレバーが取り付けられたバックルを取り出し、それを腹部に当てるとベルトが伸びて腰に装着された。そして……

 

 

―カチッカチッ、カチッカチッ!―

 

 

バックル中央の画面を挟むように二カ所ずつある四基のスイッチソケットの四つのスイッチを素早く押していき、ベルトから起動音が鳴り響くと共に左手を構え、右手でバックル右側部のレバーを掴んだ。その直後……

 

 

『THREE!』

 

『TWO!』

 

『ONE!』

 

 

「変身ッ!!」

 

 

―ガシュンッ!!―

 

 

ドライバーからのカウントダウンと共に高らかにそう叫び、レバーを起動させて右腕を頭上に突き上げた。それと同時に青年の身体が猛烈な蒸気の噴出と共に別の姿へと変わっていき、姿を変えた青年が蒸気を払うように右腕を振るうと胸に両腕を抱きながら身体を屈め、背伸びをするようにXの字に身体を伸ばした。

 

 

『宇宙キターーーーッ!!!!仮面ライダーフォーゼ、タイマン張らせてもらうぜっ!!』

 

 

白いカラーリングを基礎とした宇宙飛行士のような姿の仮面ライダー……青年が変身した『フォーゼ』はイーグルゾディアーツに拳を突き出して啖呵を切ると、背部のブースターで加速しながらイーグルゾディアーツへと突っ込み殴り掛かっていった。

 

 

フォーゼ『ドオリャッ!!おらぁっ!!』

 

 

―バギィッ!!ドガアァッ!!ズガアァァァッ!!―

 

 

『ウワアァッ?!クッ……ウアァァァァァァッ!!』

 

 

距離を縮めてすぐに相手の顔にパンチを二発打ち込み、イーグルゾディアーツが反撃して振りかざした拳を片手で受け止めながら頭突きを食らわせてイーグルゾディアーツを後退りさせるフォーゼ。だが、イーグルゾディアーツは咄嗟に上空へと飛翔して再び羽手裏剣を乱射しまくり、フォーゼは慌てて近くにあった木の影に飛び込んだ。

 

 

フォーゼ『ッ!やっぱ空を飛ばれたら厄介だなっ』

 

 

「如月!左腕を16番に変えろ!奴を地上に引きずり落とすんだ!」

 

 

フォーゼ『おう、分かったぜ賢吾!』

 

 

離れた場所からフォーゼとイーグルゾディアーツの戦いを見ていた賢吾と呼ばれる男子生徒の指示を聞き、フォーゼは直ぐにバックルの左から四番目のスイッチを抜き取って別のスイッチを装填し、スイッチを起動させた。

 

 

『WINCH-ON!』

 

 

電子音声と共にフォーゼの左腕にドラム式ウインチユニット……ウインチモジュールが装備され、フォーゼは地面を転がりながら木の影から飛び出し上空のイーグルゾディアーツに向けてワイヤーと接続されたフックを射出していった。

 

 

―ガシイィィッ!!―

 

 

『なっ?!』

 

 

フォーゼ『捕まえたぜっ!ウオリャアアアアアアアッ!!』

 

 

『ウワアァァァァァァァァァァァァーーーーーーッッ?!!』

 

 

フックで捕らえたイーグルゾディアーツを力任せに引っ張り、地面に思いっ切り叩き付けていった。そしてフォーゼはフックでイーグルゾディアーツを捕らえたままドライバーの一番右端のスイッチを取り外して赤いスイッチを取り出し、バックルに装填してスイッチを起動させた。

 

 

『FIRE-ON!』

 

 

再び響く電子音声と共に、フォーゼの右腕から豪炎が放出されてフォーゼの身体を包み込み、一瞬だけ淡く輝いた直後に炎が晴れて別の姿へと変わっていった。赤いボディと右腕に緑色の複眼、そして右手には赤い銃を手にしたフォーゼ……ファイヤーステイツにステイツチェンジしたフォーゼは赤い銃・ヒーハックガンを構え、銃口をイーグルゾディアーツに狙いを定めた。

 

 

フォーゼF『オォラアァッ!!』

 

 

―ゴオアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

『あ、熱い?!アチチチチチチィッ!!』

 

 

ヒーハックガンの銃口から凄まじい勢いで放たれる火炎放射がフックに捕らえられるイーグルゾディアーツに直撃して確実にダメージを与えていき、イーグルゾディアーツも反撃する余裕もなくもがき苦しむように地面を転げ回っていく。

 

 

「おおおお!!いいよゲンちゃーん!イケイケーッ!」

 

 

賢吾「良いぞ如月っ!そのままリミットブレイクだ!」

 

 

フォーゼF『分かった!!今助けてやるからな、加藤!!』

 

 

司令塔の賢吾の指示に頷きながらイーグルゾディアーツにそう言うと、このまま勝負を決めるべくファイヤースイッチへと手を伸ばすフォーゼ。だが……

 

 

 

 

―バッ!!―

 

 

『フンッ!!』

 

 

フォーゼF『ッ?!―ガギイイイイィィィィィィーーーーーーーーーーーンッッ!!―ウワアァッ?!』

 

 

『っ?!』

 

 

トドメの必殺技を放とうとしたフォーゼの真横から、突如何者かが飛び出しフォーゼに攻撃を加えて吹き飛ばしてしまったのだ。それによりイーグルゾディアーツを捕らえていたフックも外れてしまい、フォーゼを妨害した異形……天秤座の外見を持つリブラ・ゾディアーツがイーグルゾディアーツの傍に歩み寄った。

 

 

『これ以上はやらせんよ、フォーゼ……フンッ!』

 

 

―ガギイィッ!!ギィンッ!!グガアァンッ!!―

 

 

フォーゼF『うわぁッ?!ぐあぁッ!!』

 

 

「あぁ、またマント付きが出たっ!」

 

 

リブラゾディアーツの巧みな棒術が何度もフォーゼに炸裂して無数の火花を散らし、イーグルゾディアーツもそれを見て直ぐさま立ち上がりフォーゼに再度攻撃を仕掛け、一対二の劣勢になった戦いに女子生徒の一人も頭を抱えてパニックになってしまう。

 

 

(如月一人では無理だな……仕方ない、此処はメテオの出番か……)

 

 

リブラとイーグルの二体に圧されるフォーゼの様子を見ていた賢吾達の制服姿とは違う、ベージュにダークブラウンのパイピングを施したデザインの制服に身を包んだ男子生徒は険しい顔付きを浮かべると、賢吾達にバレぬようにその場から抜け出そうとする。だが、その時……

 

 

 

 

 

「――うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッッ?!!!おっ、おち、落ちるううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!?」

 

 

「おい優矢っ!!お前下になってクッションになれっ!!俺を助けろっ!!」

 

 

「ふっざけんなテメエェッ?!ちょっ、まっ、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっ?!!!」

 

 

『……ん?―ドシャアァッ!!―ウガアァッ?!』

 

 

フォーゼF『?!えっ?』

 

 

『っ?!』

 

 

『?!なにっ?』

 

 

リブラと連携してフォーゼを攻撃していたイーグルゾディアーツの頭上から悲鳴が響き渡り、それを聞いたイーグルゾディアーツが空を見上げた瞬間、イーグルゾディアーツの上に二人の人間が落下して踏み潰していったのだった。突然の出来事にフォーゼ達やリブラも驚愕し、イーグルゾディアーツを踏み潰した二人に思わず視線を向けた。その人物達とは……

 

 

 

 

 

零「―――ふぅ……いやぁ危なかったぁ、危うく怪我するところだったぞ……」

 

 

優矢「おぐっ……ぅ……て、てめぇ……」

 

 

零「……うん?優矢?何でお前俺の下になってるんだ?」

 

 

優矢「お前のせいだろォッ?!!」

 

 

……イーグルゾディアーツを下敷きにした二人の正体とは、写真館の物置部屋でコアメダルの暴走に巻き込まれて消えた筈の零と優矢だったのだ。自分の下敷きになる優矢を見て不思議そうに首を傾げる零に優矢が怒号を上げてツッコミを入れる中、フォーゼと生徒達は戸惑いがちに零達と二人が降ってきた空を交互に見ていた。

 

 

フォーゼF『な、なんだ?空からいきなり人間が…?』

 

 

「何なの……あの二人?」

 

 

零「うん?……あっどーも、空から落ちてきた宇宙人です」

 

 

「え、えぇぇ?!このタイミングで、宇宙人キターッ?!」

 

 

「いやいやいや、どう見ても人間でしょ?!」

 

 

優矢「お前もなに自然と嘘付いてんのさっ?!」

 

 

零「いや……なんだか空気読まずに乱入してしまったような感じがしてな。取りあえず場の空気だけでも和ませようかと思ったんだが……」

 

 

和むどころか、フォーゼや生徒達はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして零と優矢を見ており、零も場違いだったと感じ取ったのかバツが悪そうな表情を浮かべていく。その様子を見ていたリブラは……

 

 

『(あの顔……黒い髪に、赤い瞳……何処かで……)』

 

 

優矢「取りあえず退けって零!!重いって!!」

 

 

零「失敬な奴だな……これでもなのは達よりは軽い方だぞ?脂肪が少ないからな」

 

 

『(零?……ッ!まさか、奴があの預言者が警告した世界の破壊者?!とうとうこの世界に?もしそうなら、このまま野放しにしてはフォーゼやメテオと同様に我望様の脅威となる可能性もある……ならば!)』

 

 

―シュバアァッ!!―

 

 

賢吾「ッ!危ない!」

 

 

零「っ!優矢!」

 

 

優矢「え?グエェッ?!」

 

 

零を見てなにかを危惧したリブラが零と優矢目掛けていきなり飛び掛かり、それに気付いた零は咄嗟に優矢の襟首を掴んでその場から飛び退き、リブラを見据えながら身構えていく。

 

 

零「おいおい、いきなり歓迎してくれるとは嬉しいね、全く」

 

 

フォーゼF『オイ!危ねぇからアンタらも早く逃げろ!此処は危険だ!』

 

 

零「いいや、心配入らないフォーゼ。こっちはこっちでどうにかするから、お前はその鳥を片付けろ」

 

 

フォーゼF『……え?』

 

 

賢吾「あの男……何故フォーゼの名を……?」

 

 

溜め息混じりにフォーゼの名を口にした零にフォーゼと賢吾が戸惑いを浮かべる中、零はそれに構わず懐からディケイドライバーを取り出し、腰に装着して左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出した。

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

高らかに叫びながらカードをバックルへと装填すると電子音声が鳴り響き、それと共に零はディケイドへと変身して両手を叩くように払っていった。

 

 

「え、ええええッ?!」

 

 

フォーゼF『うおおおおお?!変身した?!』

 

 

「新しい……仮面ライダー?」

 

 

(俺と如月以外にも、仮面ライダーが…?!)

 

 

『その姿……貴様、やはりあの男が言っていた世界の破壊者か』

 

 

賢吾(?世界の破壊者…?)

 

 

ディケイド『ほう?お前も鳴滝の口車に乗せられた口か?まぁ、その方が話しが早くていい……。今の俺は気が立ってるんでな、悪いが相手してもらうぞ!』

 

 

相手が怪人だから気兼ねなく戦える為か、何時になく好戦的な口調でそう言いながらリブラに突っ込み上段蹴りを放ったディケイド。リブラはそれを横に避けながらディケイドに杖の先端を突き出すが、ディケイドは片手でそれを防ぎながらリブラに右拳を打ち込んで後退りさせ、再びキックを放ち戦闘を開始していったのだった。

 

 

「あの幹部と互角……凄いわね、あの仮面ライダー」

 

 

賢吾「色々気にはなるが……如月!今の内にイーグルを倒せ!」

 

 

フォーゼF『ッ!あ、そうか、よしっ!』

 

 

ディケイドとリブラの戦いに気を取られていたところを賢吾の指示を聞いて正気に戻り、フォーゼは慌ててファイヤースイッチをバックルから抜き取りヒーハックガンの発射口下部のスロットへと装填していった。

 

 

―フォーンッフォーンッ!フォーンッフォーンッ!―

 

 

フォーゼF『これで決めるぜ!喰らえ、ライダー爆熱シュウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーートォッッッ!!!!』

 

 

『LIMIT BRAKE!』

 

 

―ズドオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッ!!!―

 

 

『ッ?!!う、うわっ……うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ?!!』

 

 

―ドッガアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!―

 

 

消防車のサイレンのような音と共にヒーハックガンの銃口から発射された、最大出力の火炎放射……ライダー爆熱シュートが地面から起き上がろうとしたイーグルゾディアーツへと炸裂し、イーグルゾディアーツは断末魔と共に爆発を起こし散っていたのだった。すると爆発の中から、禍々しい形状をしたスイッチのような物が飛び出してフォーゼの足元に転がり、フォーゼがそれを拾ってスイッチを押すと何処かへと消滅し消え去っていった。

 

 

『ッ!イーグルが倒されたか……。君との勝負も此処までのようだ、破壊者』

 

 

―ジャリンッ!―

 

 

イーグルゾディアーツが倒された以上、ディケイドとフォーゼを同時に相手するのは流石に分が悪いと感じたのか、リブラはそう言いながらディケイドと距離を開くと右手の杖……ディケで地面を叩いて幻のように何処かへと消え去り、ディケイドもそれを見て構えを解き辺りを見渡していく。

 

 

ディケイド『逃げたか……それにしても、この世界にまで鳴滝の手が伸びてたとはな……』

 

 

ほんとに懲りない奴だと、溜め息を吐きながらベルトのバックルを開いて変身を解除し元の姿へと戻る零。するとフォーゼはそんな零に歩み寄り、零の肩を軽く叩いた。

 

 

フォーゼF『ありがとな、アンタのおかげで助かったぜ!ディケイド……だったか?アンタも仮面ライダーなのか?』

 

 

零「?…ああ、通りすがりのな。お前は?」

 

 

フォーゼF『うん?俺か?』

 

 

訝しげな表情を浮かべる零に名を聞かれ、フォーゼはバックルの四基のスイッチソケットにある四つのスイッチ……トランススイッチをすべてOFFにして変身を解除していき、リーゼント頭の青年へと戻った。

 

 

零「高校生…?」

 

 

「俺の名前は如月弦太郎、この天ノ川学園の生徒全員と友達になる男だ!勿論、全ての仮面ライダーともな♪」

 

 

ドドォンッ!という豪快な効果音が聞こえてきそうな勢いで左胸を叩き、零を指差して明るい笑顔を向ける青年……"如月 弦太郎"。

 

 

 

 

ディケイドである黒月零と、フォーゼの如月弦太郎。これが二人の仮面ライダーの最初の出会いであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―月面・ラビットハッチ―

 

 

優矢「――す、すっげぇー……マジで月にいるんだ、俺達……」

 

 

零「此処まで来ると摩訶不思議な物だな、コズミックエナジーの力とやらも」

 

 

それから数時間後、先程のイーグルゾディアーツに変身した生徒を救急車に運んでもらった後、零と優矢は弦太郎達に自分達のことと事情説明の為に彼等の秘密基地……天ノ川学園から月に通じるラビットハッチに訪れていた。因みに二人には弦太郎により彼等が創設した部活、仮面ライダー部の面々……歌星賢吾、城島ユウキ、風城美羽、JK、大文字隼、野座間友子、朔田流星等のことは紹介済みである。

 

 

賢吾「―――なるほど……つまり貴方達は、そのコアメダルが引き起こした暴走に巻き込まれたせいでこの学園へと飛ばされてしまい、先程あの場所に現れたということか」

 

 

零「まあな……運悪く宇宙空間に飛ばされたりとかしなくて良かったぞ……それもこれも、コイツの用心の無さが原因だ」

 

 

優矢「だ、だから悪かったって!そう何度もあんな事が起きるだなんて思わなかったしさっ……」

 

 

ジト目で睨む零から、バツが悪そうに目を背けながら謝罪する優矢。

 

 

弦太郎「にしても、まさかアンタたちがオーズと知り合いだったなんてなぁ」

 

 

零「驚いたのはこっちだって同じだ。まさかお前が拓斗と知り合いだったなんて、思いもしなかった」

 

 

弦太郎「まあなぁ。オーズとは二回、一緒に戦った中だかんな。俺の最初の仮面ライダーのダチでもあるんだ♪」

 

 

零「ほう……(拓斗からはそんな話、一度も聞いた事ないが……やはり時間軸が違うんだろうか)」

 

 

弦太郎からオーズ(拓斗)の話を聞きながら脳裏でそう思案する零。すると隼は、そんな零と優矢を見つめながら両腕を組んで神妙そうに何度も頷いていく。

 

 

隼「しかし、仮面ライダーの世界を旅して回るライダーに、並行世界か……未だに信じ難い話だな」

 

 

賢吾「だが、満更嘘というワケではなさそうだ。黒月さんのドライバーを調べたところ、彼のドライバーには様々なライダーの能力を使用出来る特殊な機能や、このラビットハッチの精密機具でも解析出来ない未知の石が内蔵されていたからな。恐らく、彼等の話が嘘という事はないだろう」

 

 

JK「つっても、やっぱり漠然としてて実感沸かないッスよね?いきなり別世界がどうとか言われても」

 

 

零「ん……だったらお前達も、俺達が旅で知り合ったライダー達に会ってみるか?ちょうど近い内に、皆である並行世界へキャンプしに行く予定もあるし」

 

 

ユウキ「えっ?い、良いんですか?!」

 

 

零からの思いがけない突然の提案にユウキは驚愕して思わず聞き返し、零は首に掛けたカメラでそんなユウキの顔を撮影しながら頷き返した。

 

 

零「こうして知り合えたのも、何かの縁だろうしな。人数が多ければキャンプも盛り上がるだろうし、俺もお前達のことが気に入った。それにその世界には古代遺跡やら色々とあるらしいから、きっと退屈はしないと思うぞ?」

 

 

JK「うおぉっ、マジっすか?!」

 

 

美羽「Oops!ライダー同士が世界を超えてキャンプだなんて、なんだか面白そうじゃない♪仮面ライダー部として、これは参加しない訳にはいかないわね!」

 

 

流星(確かに……パラレルワールドの仮面ライダーに会えるなんて、そうそうない機会だしな。俺も興味はある)

 

 

零が持ち掛けたキャンプの話に乗り気らしく、別世界へと行ける事にテンションを上げていくライダー部の面々。しかし……

 

 

ユウキ「あ、でもお二人はどうやって帰る気なんですか?お二人の家の写真館がある世界て、その並行世界にあるんですよね?」

 

 

零「その点なら心配ない。さっきお前達が留守の間に写真館に連絡して、仲間の神が迎えに来てくれる事になったからな」

 

 

『…………はっ?』

 

 

ライダー部の面々が用意してくれた飲み物を口に流し込みながら何気なくそう告げる零だが、ライダー部の面々は零が口にした「神」というワードに疑問符を浮かべながら間抜けな声を上げた。

 

 

零「……?何だ?」

 

 

JK「……いやいやいや、あの……なんスか?その、かみって?」

 

 

零「?神は神だ。神話とかによく出てくるだろ?人間作ったとか大陸作ったとかの、あの神様だ」

 

 

『……ハアアァッ?!!』

 

 

友子「神……!」

 

 

弦太郎「神様って――いやいやいやいや!それは流石に……なぁ?」

 

 

優矢「いや、俺たちのとこじゃ、神様の知り合いとか普通だぜ?それもウンザリするぐらい沢山いるし……」

 

 

零「こっちじゃ、ドS神とやらが在り来りになってるよな……。他にもヘタレ神や苦労人の神やら変神やら何でも御座れだ。並行世界に行けば普通に会えるぞ?」

 

 

ユウキ「えぇぇぇ?!」

 

 

賢吾「馬鹿な……ありえないっ……」

 

 

JK「並行世界……ほんとにハンパないっすね……」

 

 

優矢「……あ……そうか、これが普通のリアクションなんだっけ……」

 

 

零「……だったな……暫く忘れてたぞ、普通とやらを……」

 

 

別世界に行けば普通に神様に会えると聞いてドン引きする仮面ライダー部の面々。そんな一同の顔を見て、零と優矢も長らく忘れてしまっていた『普通』の感覚を思い出し何処となく遠い目を浮かべていくのだった。

 

 

 

 

それから暫くして、写真館からラビットハッチに迎えに来た姫(仮面ライダー部の面々はいきなり転移してきた姫に驚いていたが)と共に帰る前に、ライダー部の面々にキャンプの日付と当日にラビットハッチに集まる事を決め、零と優矢は無事に写真館へと帰還したのであった。

 

 

 

 

 

 

優矢「―――あれ?てか、なんか大事なこと忘れてね……?」

 

 

そう……とても大事な事を、忘れたまま……。

 

 



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特別編/いざキャンプ、『ノイタミナ』へ!③

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

フォーゼの世界から戻ってきた翌日の夜。大輝主催のキャンプがいよいよ明日に迫り、就寝用のラフな格好に着替えた零は自分の自室で明日のキャンプに持っていく荷物を纏めていた。

 

 

零「ふむ……必要なものは大体揃ってるな。こんな所か?」

 

 

明日キャンプに持っていていく荷物に足りないものがないか何度か確認した後、零は荷物をベッドの片隅に置いて肩を軽く回していく。

 

 

零(ふぅ……。しっかし、今更ながら本当に大丈夫だろうな?明日のキャンプ、また良からぬ事でも起きなければいいが……)

 

 

自室の窓から夜空に浮かぶ月を眺めながら、心の中で不安を呟く零。何事もなく無事にキャンプが終わってくれる事を願うばかりなのだが、正直そのビジョンが全く想像出来ない。やはり大輝絡みというのもあるが、此処最近厄介なトラブルに巻き込まれてばかりだからだろう。なんだか嫌な癖が付き始めているなぁと、自分に対して一人溜め息を吐いてしまう零。

 

 

零「……まぁ、此処で愚痴ってても仕方ないし、今日はもう寝るとするか。明日寝坊でもして、海道の奴にネチネチ嫌味を言われたら敵わん」

 

 

その光景を脳裏に浮かべて嫌そうな顔をすると、零はそうならないように今日はもう休もうと部屋の電気を消してベッドに入り、10分もしない内に静かな寝息を立てながら眠りに付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ギイィッ―

 

 

ドール「……(゚∀゚)ニヤッ」

 

 

 

 

勝手に部屋の扉が静かに開かれ、左手に何かが入った怪しげな瓶、右手に銀色のトランクを持ったドールが気配を殺して近付いて来ている事も気付かず……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

数時間後……

 

 

『――――ふむ……此処は……かね?』

 

 

零「……ん……」

 

 

『いやいや、やはり……ですかね?しかしそうなるとこっちが……』

 

 

零(ん……ん?なんだ……誰かいるのか……?)

 

 

夜も深まった深夜に、心地好い眠気に身を委ねていた零。だが彼は、目を閉じたままふと近くに人の気配があるのに気付いた。何やらゴソゴソと衣服が擦れる音などが耳に届き、零はやたら重たい瞼をゆっくりと開けて横を見た。其処にいたのは……

 

 

ドール「――んー……いや、違うなぁ。此処はもっとこう……」

 

 

零「……何やってるんだ、お前?」

 

 

ドール「ん?おや、起きてしまわれましたか。参りましたね、このまま起こさずに立ち去るつもりだったのですが」

 

 

零の視界に飛び込んだのは、若干困った様子でウーンと唸るドールの顔だった。何故この人形が此処にいるのかと未だに目覚め切ってない頭に疑問が浮かぶが、どうやら、ドールは今までベッドの近くに置いてあった椅子に座りながら零の顔を覗き込んで何かしていたようだった。零は上半身をベッドから起こして軽く首を回すと、視線をあちこちに漂わせる。時間は明け方のようで、電気を消した暗い部屋に窓からの朝焼けの光が微かに差し込んでいる。

 

 

零「……んで、人の部屋に勝手に侵入して何をやっていたんだ、お前は?」

 

 

意識がぼーっとするまま、取りあえず零は今一番聞きたい疑問を半目で睨みつけながらドールに投げ掛けた。すると、ドールは飄々とした笑みを浮かべて両腕を組み……

 

 

ドール「いやぁー、実は零さんに折り入って頼み事というか、協力してもらいたい事がありましてねぇ?」

 

 

零「?協力……?」

 

 

ドール「えぇ、実は私、とある友人から一つ頼まれ事を引き受けまして。一着、ドレスを作って欲しいと頼まれたのですよ。なんでも結婚式に着用するらしく、是非とも私に作って貰いたいと切ってのお願いでしてね」

 

 

零「……?結婚式のドレスて……何だ、ウェディングドレスかなんか……?」

 

 

ドール「まあ、そんな感じです。んでまあ、私も頼まれたら断れない性分なんで、私がデザインした通りにドレスを一着仕立てたわけなんですよ。しかしまあ、どうにも納得がいかない所が多々ありましてね?そういうとこ直す為にも、誰かにドレスを着てもらう必要があったんですよ。マネキンとかねーですし」

 

 

零「……あぁ……なるほどな……つまり、なのは達にドレスを着てもらうために写真館に来た訳か……」

 

 

まだ完全に眠気が抜けきってない為か、零はウトウトしながらドールの話を適当に聞き流し、眠たげに瞼を擦っていく。

 

 

零「む……しかし、それでなんで俺の所に来るんだ?なのは達なら別の部屋で……」

 

 

ドール「いやいやいや、別になのはさん達でなくても良いんですよ。つーかぶっちゃけなのはさん達にはサイズが合わないんで、ちょい強引にサイズに合う人にさせてもらいやした」

 

 

零「……?どういう意味だ……?」

 

 

ドールの言葉の意味が理解出来ない。眠気が消えないまま半目でドールを睨んでいると、ドールは零の背後に向けて人差し指を向けた。

 

 

ドール「零さんも見てみては如何です?是非感想とか聞かせてもらえると、私的には助かるんですが」

 

 

零「……?何が……」

 

 

訳が分からぬまま気怠げに顔だけを動かし、ドールが指差す方へと振り返る零。ドールが指差す先には部屋に備え付けられた大きめの鏡があり、その鏡の中にはベッドの上の見慣れた自分の"少女"の姿が写し出されて……

 

 

 

零「……………………」

 

 

ドール「…………」

 

 

零「…………あ?」

 

 

ドール「うん?」

 

 

零「…………………」

 

 

ドール「…………」

 

 

 

 

互いに無言。零は鏡の中に写し出された自分……いや、少女の姿を見て思考が固まり、ドールを見て、鏡を見て、もう一度ドールを見ると、再び鏡に目を向ける。

 

 

鏡の中には何故か自分の姿が見当たらず、ドールと、暗闇の中でも分かるぐらい美しい蒼のドレスを身に纏った16か17と思われる黒い長髪の少女の姿しか見られない。

 

 

零「…………………」

 

 

スッと自分の格好を見下ろしてみれば、何故か鏡の中の少女と同じ蒼のドレスを自分も着ており、頭に手を伸ばしてみれば、髪も妙に長くなっている。更に言えば、自分の胸に、本来ならある筈のない物が備わっているのが重みで分かる。

 

 

零(…………いや……いやいやいやいやいや……待て……待てよ……そんな馬鹿なことがっ……)

 

 

徐々に意識が覚醒し、同時に状況を理解し、ダラダラと大量の汗が滝のように額から流れ出る。そんなはずがない、あってたまるかと。零は頭の中で必死に目の前の現実を否定しながら、恐る恐る自分の胸元に手を伸ばし、男にはないはずのソレを掴んだ。

 

 

―モミュ、モミュッ―

 

 

零「…………………」

 

 

感覚は……ある。

 

 

偽物じゃない、自分の手が掴んだソレは紛れも無く女だけが持つアレだと一瞬で分かった。

 

 

それが意味するものは……これが女装とかそんなチャチなもんではなく……

 

 

零「おい……ドール……」

 

 

ドール「はい?」

 

 

零「お前……俺に何をした……?」

 

 

声を僅かに震わせながら、この信じ難い事態の元凶と思われる人形に問い詰める零。今気付いたが、何だか自分の声も女っぽくなってしまっている。正直、何かの間違いであって欲しい。これはただの夢であると、ドッキリとかそんなオチが待ってると信じたかった。がしかし、現実というものは無慈悲なもので……

 

 

ドール「何をと言われましてもねぇ……ただこの薬を零さんが寝ている間に飲ませて、貴方を『女体化』させただけですが?」

 

 

零「………………………」

 

 

ドール「いやはやぁ、勝手に申し訳ありませんねぇ。都合上、そのドレスを完成させる為に依頼主の彼女と全く同じスタイルで、見栄えのいい女性が急遽必要になったんですが、中々そういった人材が見つからなくて困っていたのですよい。だからまあ、そういう人間が見付からないなら誰かになってもらおうかと思いまして」

 

 

零「……お……おま……」

 

 

ドール「おかげさまで修正すべき点も幾つか見付かりましたし、これで結婚式に間に合いそうですわ。いや~良かった良かった。ああそうそう、これ、お詫びも込めたお礼です。魔界名物『ゲルギガメルの目玉』!見た目は少々アレですが中々の珍味ですので、是非皆さんでお食べになってくだ――」

 

 

零「お前は一体何をやってくれとるんだぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」

 

 

取りあえず、この人形は手足をもぎ取ってからその辺のアンティークショップにでも売り付けてやる。そう強く決意したと共に、零は黒い長髪を乱れさせながら拳を握り締めドールに飛び掛かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・リビング―

 

 

『えええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!?』

 

 

シャマル「そ、それじゃあ……」

 

 

フェイト「そのドールの薬のせいで、零……」

 

 

スバル「女の子になっちゃった、って事ですか……?」

 

 

零(女)「あぁ……そういう事だな……」

 

 

翌日の朝。あれから時間が経っても女体化したまま元の姿に戻る事が出来ない零は、取りあえずこの事態を皆に伝えるべくリビングでなのは達に昨日の夜の経緯を話していた。因みに零は小柄になったせいで男の時に着てた服が一着も着られず、ギリギリ着られた上下真っ黒の素朴なジャージを着てソファーに座っている。

 

 

ヴィータ「おいおい、マジかよ、女装とかなら何度か見た事あっけど……」

 

 

すずか「何処から見ても女の子、だよね……女装している時より女の子らしいっていうか……当たり前だけど」

 

 

零(女)「女装の話しは持ち出すなっ、アレはお前等が勝手にやらせたんだろうがっ」

 

 

リインⅡ「うわぁ、うわぁ~、零さんのお肌すっごいプニプニですぅ!」

 

 

アギト「ホントにこいつ零なのかぁ?目の色とか髪の色とか似てるけど、原形が全然ねえし、こんな可愛くなるとも思えないしなぁ」

 

 

零(女)「余計なお世話だっ!リインも人の頬を何度も突くなっ!」

 

 

ヴィヴィオ「……パパが女の子になっちゃったから……パパ、ヴィヴィオのママになっちゃったの?」

 

 

アズサ「ん……性別が転換したから、普通はそうなるけど。零は零のままだから、ヴィヴィオのパパである事は変わりないと思う……」

 

 

女になった身体をペタペタ触ってくるリインやアギトの手を嫌々げに払い退ける零から離れた場所で、零が女なって戸惑うヴィヴィオにフォローを入れるアズサ。そんな二人のやり取りを横目に、優矢も未だに信じられないといった様子で零へと視線を向けて腕を組んだ。

 

 

優矢「し、しっかし、女装とか女の子になるとか色んなとこで聞くけど、まさかお前までそうなるなんてなぁ……」

 

 

なのは「う、うん…大丈夫なの零君?他に何処か何ともない?」

 

 

零(女)「……一応はな……取りあえず、無いはずのものがあって、あるはずのものがないというのは落ち着かない。特にこの髪が邪魔で仕方がないっ」

 

 

ティアナ「あー、男の人はそんなに髪を伸ばすこともないですしね……良ければ結びましょうか?」

 

 

零(女)「ん、そうか?なら悪いが頼む。自分じゃどうにも上手く出来なくてな……」

 

 

助かったと言うように眉をひそめると、零は後ろ髪を払いながらそそくさとティアナに背中を向けるように座り直し、ティアナもそんな零の仕草に苦笑しながらゴムと櫛を手にして零の隣に座り、零の髪を櫛でとかしていく。

 

 

はやて「せやけどタイミング悪いなぁ。キャンプ当日の日に、いきなりこんな事になってまうやなんて……」

 

 

姫「そうだなぁ。今の零を並行世界の皆に見せたら、驚くのは目に見えているし」

 

 

キャロ「姫さん、姫さんの力で、零さんを元に戻す事って出来ないんですか?」

 

 

姫「うむ……ただの薬ならばたやすいだろうが、あの混沌の極みが作ったものだからなぁ……。まあ下手に私が介入するより、効力が切れるのを待つ方が無難だろう。アレが人体に悪影響を与えるような物を人間に使うとも限らないしな」

 

 

エリオ「そうですか……零さん。そのドールさんから、薬の効力が何時まで続くのか聞いてます?」

 

 

零(女)「……大体、二日か三日ぐらいだとか……」

 

 

セイン「三日ぁっ?!」

 

 

ザフィーラ「つまり、キャンプの間はずっとその姿のままという事か……」

 

 

最悪だなぁと、一同からの哀れみの視線が一斉に零に浴びせられていく。それを受け止められず零も一同の視線から逃れるように思わず目を逸らしてしまうが、そのとき優矢が何かを思い付いたように顔を上げた。

 

 

優矢「そうだ。薬を作ったのがドールなら、アイツに頼んで治療薬でも作ってもらえば良いじゃんか?零、ドールは何処に行ったんだ?」

 

 

零(女)「む……いや、それは……」

 

 

薬を飲ませた元凶のドールに治療薬を作らせれば、零だってすぐに元に戻れる筈だ。最もな提案を上げて零にドールの居場所を聞き出そうとする優矢だが、零は何故かバツが悪そうな顔を浮かべながら優矢から顔を逸らし……

 

 

零(女)「――アイツの手足もぎ取って達磨にしてやろうとしたら、ドレス持ってトンズラしてしまって……そのまま雲隠れされた……」

 

 

ノーヴェ「まじかよ……」

 

 

シグナム「つまり行方知れず、という訳か」

 

 

チンク「そうなると、後は薬の効力が切れるのを待つしか方法はないな。全く、本当に良くトラブルに見舞われる男だ」

 

 

別に好きで見舞われてる訳じゃない、と言い返したいところだが、多分何を言っても説得力がないと思うので口を閉じるしかない。何だか最近ツイてないと意気消沈する零の下にフェイトが歩み寄り、その場にしゃがんで零の着ている真っ黒なジャージに触れていく。

 

 

フェイト「うーん……でもどうしようか?キャンプにいくなら、この格好でって訳にもいかないし……」

 

 

零(女)「ん?俺は別にこの格好でもいいぞ?こっちの方がキャンプに行くなら動きやすいだろうし」

 

 

はやて「そんなんあかん!折角の皆でのキャンプなんやし、翔君とこの孤児院の子供達も沢山来るんやろ?そないなみっともない格好を子供達に絶対見せれへんし、部隊長としても認めへんっ!何より元がいいのにジャージやなんて勿体ないっ!」

 

 

零(女)「いや、こんな事で部隊長権限持ってこられても……というか最後の方は私情じゃないのか?」

 

 

ビシィッ!と指差しながら怒号を上げるはやての気迫に押されて思わず身を引いてしまう零だが、はやてはそれを他所に女性陣を召集してなのは達と勝手に話を進めていく。

 

 

はやて「さて、先ずは零君が着てく服をどうするかやけど……」

 

 

なのは「実際どうしようか?零君が着ていた服は全部、ぶかぶかで着られないみたいだし」

 

 

はやて「別に男物の服を着させることないよ。零君は今女の子なんやし、女の子の格好させたらええやろ」

 

 

零(女)「……え?」

 

 

フェイト「そうなると……問題は零のサイズに合う服をどうするかだよね。零、スタイルは良いけど、見たところ私達の服じゃサイズが合わないだろうし……」

 

 

スバル「あ、だったら私とティアやアズサの持ってる服とかどうでしょ?零さんなら私達とそんなサイズも離れてないだろうし、ピッタリ合うかもしれませんよ?」

 

 

ティアナ「そうね……あ、そういえば零さんに合いそうな装飾品も色々あるんですけど、それも持って来ましょうか?」

 

 

零(女)「……おい?お前等?」

 

 

姫「どうせだ、皆がリクエストする服を私が出してやろう。思う存分着せ替えすればいい♪」

 

 

キャロ「さっすが姫さん♪」

 

 

はやて「ふふん、何かおもろなってきたなぁ♪よし、時間までまだ余裕あるし、私らで零君をコーディネートするでーっ!!」

 

 

『おおおおぉぉぉぉーーーーーーっっ!!!』

 

 

零(女)「………………」

 

 

自分を無視して、何か一致団結して盛り上がるはやて達。そんな彼女達の姿から自分の身に迫る危機を感じ取った零は、徐にソファーから腰を上げ、はやて達にばれぬように足音を殺してリビングから出ていこうとするが……

 

 

―ガシッ!―

 

 

零(女)「うっ……?!」

 

 

後ろから突然誰かに力強く肩を掴まれ、零はビクッ!と肩を震わせながらギギギ、と首だけを動かして背後を見た。其処には……八神はやてが素晴らしい笑顔を浮かべて立っていた。

 

 

はやて「何処に行く気や、零君?」

 

 

零(女)「……いや、あれだ……そういえば今の俺でも着られる服があったなぁ、と思い出して部屋に戻ろうかと……」

 

 

はやて「なに言うてんの?零君は今女の子なんやから、わざわざ男物なんて着る必要ないやん」

 

 

零(女)「いやいやいやいや、女だから女の格好しないといけないなんてそんな理屈はないとおも――」

 

 

はやて「姫さんっ!零君を今すぐ私の部屋に連れてってやっ!絶対に逃がしたらあかんでっ!」

 

 

姫「了解だ」

 

 

零(女)「話を聞けぇっ!!待て待て待て!!おい放せ木ノ花っ!!止めろっ!!放せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 

このままでは本当に女物の服を着せられてキャンプに行くことになってしまう。それだけは死んでも嫌だと必死に抵抗するが、抵抗も虚しく零は姫が生み出した桜色の鎖に拘束されて動きを封じられてしまい、そのまま頭上から発生した魔法陣に呑まれてはやての自室へと強制的に転移させられてしまうのだった。それを見届けたはやて達は急いでそれぞれの自室へと各自の洋服や装飾品を集めに向かい、優矢達もそんな光景を終始眺めて苦笑いを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分、はやての自室から零の悲鳴が絶え間なく響き渡り、写真館から出発する直前にはやて達は満足げな顔で、可愛らしい服装に身を包んだ零はグッタリとした様子でアズサに担がれながら部屋から出て来たのであった。

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑤(前編)

 

 

 

―クラナガン・廃棄工場―

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ディケイド『ぐぅッ?!』

 

 

市街地でなのは達と理央達が邂逅する中、市街地から少し離れた場所に位置する廃棄工場ではディケイドが雷牙が振るうライガクローに斬り裂かれ、ドラム缶の山を倒しながら吹っ飛ばされてしまっていた。しかしディケイドはすぐに態勢を立て直して物影に身を潜め、困惑を隠せないまま雷牙に向けて叫んだ。

 

 

ディケイド『クソッ……!いい加減にしろ雷ッ!お前まで鳴滝の口車に乗せられたのかッ?!』

 

 

雷牙『気安く名を呼ぶなと言ったハズだっ!あの男の忠告だけじゃないっ!お前が世界を破壊する存在だという事は、こちらでも既に証拠を掴んでいるっ!大人しく投降しろっ!』

 

 

―ズバアアァァッ!!―

 

 

ディケイド『チッ?!』

 

 

投降を呼び掛けながらディケイドが身を潜める物影に目掛け両腕のライガクローを振るい、金色の斬撃波を放つ雷牙。それを感知したディケイドが咄嗟に地面を転がってその場から離れたと共に、ディケイドが隠れていた物影が金色の斬撃波に斬り裂かれて粉々に爆発してしまい、その威力から雷牙が本気であると悟ったディケイドは別の場所に身を潜めながら仮面の下で唇を噛み締めた。

 

 

ディケイド(何でだっ……何故雷が俺をっ……まさか、アイツは俺を見限ったのか……?俺が、破壊者だから……?)

 

 

雷が何故友人であるハズの自分にその牙を向けるのか。彼が今まで一緒に何度も戦って来た自分を突然敵と見做したのも、やはり自分が世界の破壊者だからなのか?それに対しショックを隠せず内心激しく動揺するディケイドだが、その間にも雷牙が気配を頼りにディケイドが隠れる場所へライガクローを構えながら歩み寄っていき、ディケイドもその足音でハッと我に返りライドブッカーを構えた。

 

 

ディケイド(っ……考えるのは後だ。とにかく今は、雷の奴を止めないとどうにもならないっ……!話しはその後直接聞き出せばいいっ!)

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

雷牙『ッ!クッ!』

 

 

話が通じない以上は戦って雷牙を止めるしかない。心の中でそう決心したと共にディケイドは物影から姿を現してライドブッカーガンモードを雷牙に向け素早く乱射し、それを見た雷牙は両腕のライガクローで防御態勢を取って瞬時に銃弾を防ぐが、ディケイドはその隙を逃さず雷牙に向かって勢いよく飛び出しながらライドブッカーからカードを一枚取り出し、同時にライドブッカーをソードモードへと切り替え雷牙に斬り掛かった。

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

雷牙『ぐぅっ?!』

 

 

ディケイド『悪いな、一気に勝負を決めさせてもらうっ!』

 

 

『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』

 

 

ライドブッカーですれ違い様に雷牙のライガクローを斬り付けて雷牙を怯ませると、ディケイドは先程取り出したカードをバックルへと装填してスライドさせ、ガンモードに切り替えたライドブッカーの銃口を雷牙に狙い定めた。それと同時にディケイドと雷牙の間にディメンジョンフィールドが展開されていき、それを見た雷牙は舌打ちしながらすかさず左腰のケースから一枚のカードを取り出してバックルへと装填した。

 

 

『SAMONSPELL:THUNDERLEON!』

 

 

『グルアァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

ディケイド『ッ?!サンダーレオン?!グァッ!』

 

 

電子音声が鳴り響くと共にディケイドの真横に黄色の魔法陣が出現し、其処からサンダーレオンが飛び出しディケイドに体当たりして必殺技をキャンセルさせてしまう。突然の不意打ちを喰らったディケイドはそのまま勢いよくガラクタの山にまで吹っ飛ばされガラクタの中へと埋もれてしまい、慌てて態勢を立て直そうとするが……

 

 

―ガギイィッ!!―

 

 

ディケイド『グッ?!』

 

 

雷牙『――チェックメイトだ、破壊者』

 

 

雷牙はその好機を逃さず、瞬時に接近してマウントを取り、ライガクローの爪でディケイドの首を捉えたのだった。完全に押さえ付けられてしまったディケイドは慌ててライガクローから逃れようとするも外れず、雷牙はそんなディケイドにトドメを刺そうともう片方のライガクローをゆっくりと振りかぶった。だが……

 

 

『――止めてっ!!』

 

 

―ガシャンッ!!―

 

 

雷牙『ッ?!』

 

 

ディケイドにトドメを刺そうとした雷牙の横から一人のライダー……シュロウガが突如乱入して雷牙の腰にしがみつき、そのまま強引にディケイドから雷牙を引き離したのだった。

 

 

ディケイド『ッ……っ?!アズサっ?!』

 

 

雷牙『コイツ、ディケイドの仲間か…?!』

 

 

シュロウガ『もう止めて、雷っ!零もっ!二人が戦う必要なんてないっ!こんな戦いっ……!』

 

 

雷牙『クッ!邪魔をするんじゃないっ!退くんだっ!サンダーレオンっ!』

 

 

『ガアアォオオオオオオオオオッッ!!』

 

 

ディケイド『ッ!クソッ!』

 

 

引きはがそうとしても全く離れないシュロウガに痺れを切らし、サンダーレオンに呼び掛ける雷牙。するとそれに応えるようにサンダーレオンが雷牙の代わりに攻撃するようにディケイドに目掛けて爪を振りかざしながら突進し、目の前から飛び掛かって来るサンダーレオンを見てディケイドもすぐライドブッカーの銃口をサンダーレオンに定めた。しかし……

 

 

 

 

シュロウガ『――零っ…!戦っちゃダメっ!!』

 

 

―ドンッ!!―

 

 

ディケイド『――ッ?!!なっ……?!!』

 

 

 

 

ディケイドがライドブッカーの引き金を引こうとした瞬間、それを阻止するかのようにディケイドに向けてシュロウガが飛び出しそのままディケイドの体を突き飛ばしてしまったのだった。そして……

 

 

『グルアァッ!!!』

 

 

―ガギィイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!!―

 

 

シュロウガ『ッ!!ウアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

―ブオォンッ!!ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァンッッ!!!!―

 

 

サンダーレオンの振り下ろした爪がシュロウガの背中へと叩きつけられるように直撃し、漆黒の片翼を火花と共にもぎ取りながらシュロウガの背中へと深く突き刺さっていったのだ。更にそれだけに終わらず、シュロウガは背中から赤い鮮血を撒き散らしながら真横へと吹っ飛ばされ、そのままガラクタの山の中へ突っ込んでしまったのだった。

 

 

雷牙『なっ……』

 

 

ディケイド『ッ?!ア……アズサァァァァッ!!!』

 

 

ティアナ「はぁ、はぁ……っ?!ア、アズサッ!!」

 

 

今のはどう見ても致命的な一撃だった。それは誰の目から見ても一目で分かり、雷牙は予想外の事態に言葉を失い絶句し、ディケイドはシュロウガの姿が消えたガラクタの山に向けて飛び出し、その場に漸く駆け付けたスバル達も変身が解けてガラクタの中に埋もれるアズサを見て血相を変えながら駆け出し、アズサを下敷きにするガラクタを退かしてアズサを抱き抱えた。

 

 

ディケイド『アズサッ!おい、しっかりしろッ!アズサッ!』

 

 

エリオ「アズサさんっ!しっかりして下さいっ!」

 

 

アズサ「……ぅ……」

 

 

額から血を流すアズサの身体を揺さ振りながら必死に呼び掛ける一同。しかし、アズサは意識を失ってる為に何も答えられず、彼女の背中からはサンダーレオンの爪に突き刺されたせいで夥しい量の血が流れている。アズサを抱き抱える手にその血がこびりついたディケイドはそれを目にして息を拒んで絶句し、拳を握り締めながら奥歯を噛み締め、アズサの身体をスバルを預けておもむろに立ち上がっていく。

 

 

ディケイド『――何故だ、雷……今まで何度も一緒に戦ってきて……仲間だと、思っていたのにっ……』

 

 

雷牙『…何?』

 

 

声を震わせながらそう呟くディケイドの言葉に、雷牙が思わず聞き返す。だが、今ので完全に雷牙への憤りを押さえていた理性が吹き飛んだディケイドにそれに答えられるだけの余裕が既になく、ディケイドはライドブッカーをソードモードに切り替えて一瞬で雷牙の目の前にまで距離を詰めた。

 

 

雷牙『なっ?!―ガギィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッ!!!―グウゥッ?!』

 

 

スバル「ッ?!れ、零さんっ?!」

 

 

ディケイド『良いだろう……そっちがその気なら乗ってやるッ!!』

 

 

ギンガ「ま、待って下さい零さんっ!!早まらないでっ!!」

 

 

先程までとは違い、ライドブッカーSモードで雷牙を問答無用で斬り飛ばしたディケイドを背後から必死に呼び止めるギンガ達だが、ディケイドはそれを振り払い雷牙へと突っ込みながらライドブッカーを振りかざし素早く斬り掛かっていく。

 

 

―ガギイィィンッ!!ガギイィィンッ!!ガギイィィンッ!!―

 

 

雷牙『ぐあぁっ?!くっ、コイツっ!』

 

 

ディケイド『ハアァッ!!』

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

雷牙『ぐぁっ!!』

 

 

上下左右から容赦なく振り下ろされるライドブッカーの刃が雷牙のボディを何度も斬り刻んでいき、最後に膝蹴りを打ち込まれ吹っ飛ばされる雷牙。そしてディケイドはライドブッカーをブックモードに切り替えて左腰に戻しながらカードを一枚取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

ディケイド『そっちが獅子ならこっちは狼だ……』

 

 

『KAMENRIDE:SIRIUS!』

 

 

電子音声と共に響き渡る鏡の割れるような音と共に、ディケイドの姿が黒のスーツの上に金と銀のアーマーを身に纏ったライダー……前の世界で神威が変身したシリウスへと変身した。そしてDシリウスは変身完了と共に右手に握られていたウォルフロッドを巧みに振り回して身構えると、勢いよく地面を蹴って再び雷牙へと突っ込んでいった。

 

 

―ドグオォッ!!ドグオォッ!!ドグオォッ!!―

 

 

Dシリウス『ハアアァァッ!!ハアァッ!!』

 

 

雷牙『グウゥッ?!(コイツ、さっきと違って加減がなくなってるっ?!クソッ!このままじゃ押し切られるっ!)』

 

 

『ガァオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

 

容赦なくウォルフロッドによる棒術を叩き付けて反撃の隙を与えないDシリウスの猛攻に徐々に押され始める雷牙。すると雷牙の危機感を読み取ったのか、サンダーレオンがDシリウスと雷牙の間に割って入るように飛び出してDシリウスを威嚇していくが、Dシリウスは焦る事なく素早く左腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルへと投げ入れスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:ADVENT!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

『アォオオオオォォォォーーーーーーンッッ!!!』

 

 

『グオオォッ!!?』

 

 

雷牙『っ?!な、狼?!』

 

 

再度電子音声が鳴り響くと共に、雷牙の足元に落ちていた割れたガラスの破片の鏡からシリウスの契約モンスターであるウォルフィンが飛び出しサンダーレオンへと襲い掛かった。不意を突かれたサンダーレオンはそのままウォルフィンに喉を噛み付かれて組み伏せられていき、その光景に一瞬呆気に取られてしまう雷牙だが、Dシリウスは構わずウォルフロッドを雷牙へと叩き付けて吹っ飛ばしてしまった。

 

 

雷牙『ぐっ……!クソッ、これ以上好きにやらせるかっ!!』

 

 

『FORMSPELL:RAIGA!BOOSTER!』

 

 

このままでは追い込まれるだけだと悟ったのか、雷牙は左腰のケースから一枚のカードを取り出しバックルへと投げ入れて装填した。そして電子音声と共に工場の入り口である扉を破壊しながら一台のマシン……ライガブースターが颯爽と駆け付け、徐々に変形しながら雷牙の身体に装着されていき、自身のマシンと合体し防御力が格段に増した姿である『雷牙・ブースターフォーム』へと姿を変えたのだった。

 

 

Dシリウス『ッ!マシンと合体しただと?!』

 

 

マシンと合体しブースターフォームに姿を変えた雷牙を見てDシリウスも驚愕を隠せない中、雷牙は左腕に装備した腕時計型ツールであるライガアクセルに右手の人差し指を伸ばしていき、Dシリウスもそれを見て雷牙が何をしようとしてるのか気付きライドブッカーから一枚のカードを取り出してバックルへと装填した。

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL VENT!』

 

『BOOST UP!』

 

 

―シュンッ!!!―

 

 

キャロ「?!消えた?!」

 

 

互いのツールから電子音声が重なって鳴り響くと共に、Dシリウスと雷牙の姿が一瞬ブレた直後にスバル達の視界から消えた。それを目にしたスバル達が驚愕し二人の姿を探して戸惑う中、Dシリウスと雷牙は……

 

 

―ガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!ガギイィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

雷牙B『ハアァッ!!!』

 

 

Dシリウス『チィ!硬いっ…!!』

 

 

超高速の世界を駆け抜け、互いの得物と拳を激突させ激しくぶつかり合っていた。だが、ライガブースターと合体したことで防御力が重点的に増している雷牙はウォルフロッドの直撃を受けてもものともせず、逆に雷牙の拳をまともに喰らい数メートル先まで吹っ飛ばされてしまい、それと同時にアクセルベントとライガアクセルの効果がほぼ同時に切れた。

 

 

『BOOST DOWN!』

 

 

スバル「――っ!零さんっ!」

 

 

雷牙B『オオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 

Dシリウス『ッ!この野郎ッ!』

 

 

地面に倒れるDシリウスを視界に捉えスバル達が驚愕する中、Dシリウスに目掛けてすかさず正面から突進して来る雷牙。それを見たDシリウスは地面に倒れたまま毒づきライドブッカーからカードを一枚取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:NASTY VENT!』

 

 

『ッ!!アォオオオオォォォォーーーーーーオォンッ!!!』

 

 

雷牙B『ッ?!ぁ、グアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

バックルから響く電子音声と共に、サンダーレオンを抑えていたウォルフィンが体当たりでサンダーレオンを吹っ飛ばし、雷牙に向け咆哮を上げた。それは耳の鼓膜を破り兼ねないほどの超音波となって雷牙に襲い掛かり、雷牙は両耳を塞ぎ苦しみ出していく。そして……

 

 

―ガギイィィィィッ!!―

 

 

雷牙B『グウゥッ?!』

 

 

Dシリウス『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!』

 

 

―ズザザザザザザザザザザザザザザザァッ!!!―

 

 

その隙を見逃さず、Dシリウスは態勢を立て直すと共に雷牙に向けて飛び掛かり雷牙の腹にウォルフロッドを打ち込み、そのまま雷牙を力任せに工場の外にまで押し出し吹っ飛ばしていった。

 

 

雷牙B『グゥッ!!クソッ……!!』

 

 

Dシリウス『……そろそろ決めさせてもらうぞ』

 

 

『ATTACKRIDE:TRICK VENT!』

 

 

Dシリウスは身体を起こす雷牙を見据えながら地面にウォルフロッドを投げ捨ててドライバーへとカードをセットすると、Dシリウスがトリックベントの効果で三人に分身していく。雷牙はそれを見てDシリウスが次で勝負を決めようとしているのだと気付いて左腰のケースから一枚のカードを取り出し、Dシリウス達もカードを一枚ずつ取り出してそれぞれのドライバーへ装填していった。

 

 

『『『FINALATTACKRIDE:SI・SI・SI・SIRIUS!』』』

 

 

『FINALSPELL:RA・RA・RA・RAIGA!』

 

 

『アオオオオオオォォォォォォーーーーーーーンッッ!!!』

 

 

Dシリウス達と雷牙のドライバーから電子音声が響くと同時に、廃工場の中からウォルフィンが飛び出してDシリウス達の背後に降り立ち、三人のDシリウスは上空へと跳躍し一回転して跳び蹴りの態勢へと入っていく。そして雷牙もDシリウス達を見据えながら両腕の拳に雷を纏わせて全エネルギーを蓄積させていき、そして……

 

 

『『『ゼエェェアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!』』』

 

 

雷牙B『ハアァァァッ……デァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッッ!!!!!ドグオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッッ!!!!!――

 

 

上空から急降下するDシリウス達のハウリングライダーキックが雷牙に目掛けて放たれ、雷牙もそれを迎え撃つように超高速ラッシュをDシリウス達のトリプルキックに叩き込んでいき、両者の間で大爆発が発生し二人を飲み込んでいったのだった。その結果は……

 

 

ディケイド『――グアァッ!!!!』

 

 

雷牙『――ガハアァッ!!!!』

 

 

結果は引き分け。爆発の中からDシリウスから変身が解けたディケイドとマシンと分離してしまった雷牙が吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられてゴロゴロと何度も転がっていく。

 

 

雷牙『グゥッ……ぐっ……!!』

 

 

ディケイド『ッ……雷っ、お前はっ……!』

 

 

互いにもうボロボロで戦いを続ける余力もないと言うのに、ディケイドは雷牙に対する怒りの感情のままに起き上がり戦いを続けようと雷牙へと歩み寄っていく。しかし……

 

 

 

 

なのは「――零君っ!駄目っ!」

 

 

―ガバアァッ!!―

 

 

ディケイド『ッ?!なのは?!』

 

 

雷牙『っ…!高町…?!』

 

 

 

 

雷牙に近付こうとしたディケイドの真横から、市街地で理央と戦っていたハズのなのはが飛び出してディケイドの肩を掴み、そのまま強引に雷牙から引き離したのであった。ディケイドと雷牙も突然現れたなのはに驚愕してしまうが、ディケイドは直ぐに雷牙に意識を戻して雷牙に向かって突き進もうとする。

 

 

なのは「待ってっ!お願いだから止めてっ!零君っ!」

 

 

ディケイド『退いてろなのはっ!!邪魔するなっ!!アイツは……!!』

 

 

なのは「違うのっ!!落ち着いてっ!!あの雷さんはっ、私達の知ってる雷さんじゃないのっ!!」

 

 

ディケイド『!……何?』

 

 

あの雷牙に変身する雷が、自分達の知る雷ではない。その言葉を聞いて漸くディケイドも落ち着きを取り戻して止まり、なのはもディケイドが止まったのを見て安堵しながら雷牙の方へと振り返った。

 

 

なのは「あの雷さんは、まだ私達のことや、平行世界の事を何も知らない頃の雷さん……私達と出会う前の雷さんなの……」

 

 

ディケイド『ッ!……なら……アイツが俺達のことを知らないのは……?』

 

 

なのは「うん、あの雷さんが、"時間軸の違う世界の雷さん"だから……」

 

 

ディケイド『!!』

 

 

つまりは、目の前の雷牙は過去の時間軸の世界の雷が変身した存在。平行世界を行き来してればそういった時間軸のズレもたまに良くある話だが、まさか旅先で自分達の知る友人の過去の世界に訪れる事になるとは思っていなかったディケイドは息を拒んで呆然と佇み、其処へ、なのはより一足遅れ優矢達と理央達が駆け付けディケイドと雷牙へとそれぞれ近づいていく。

 

 

ヴィヴィオ「パパッ!」

 

 

優矢「零っ!」

 

 

ディケイド『お前ら……』

 

 

なのは(別)「雷君!大丈夫?!」

 

 

雷牙『ッ?!高町が、二人?一体どうなって……?』

 

 

理央「その事は後で話す。取りあえず今は、ディケイドと戦う必要はなくなった。今だけはな……」

 

 

雷牙『……?どういうことだ?』

 

 

雷牙は理央の言葉の意味が分からず首を傾げてしまうが、理央はそれに答えないままなのは達と共にディケイドの方へと振り返った。ディケイドはそんな理央達の視線を受けて気まずげに視線を逸らすと、雷牙達へと視線を戻しながらベルトのサイドバックルを開き、変身を解いて零へと戻った。

 

 

なのは(別)「えっ……く、黒月空曹長?!」

 

 

零「……お前ら、工場の中に向かってくれ。スバル達が中で怪我をしたアズサを看てる。思ったより重傷だ、手を貸してやってくれ」

 

 

優矢「アズサが?!」

 

 

ウェンディ「わ、分かったッス!」

 

 

なのは(別)が変身を解いた零の姿を見て驚愕する中、零はそれを他所に優矢達にアズサの事を伝え廃工場の中へ向かうように促した。そして優矢達がそれを聞き慌てて工場の中に向かった後、零は徐に雷牙達の方へと振り返り、雷牙も変身を解いて雷に戻っていく。

 

 

雷「その顔……お前、確か今日うちの部隊に配属する予定の黒月……?」

 

 

零「…………」

 

 

なのは「あ、あの、零君は破壊者じゃないんです!確かに無愛想で口下手で言葉遣いも悪いし、有り得ないくらい鈍感だしセクハラもするし何処か抜けてるし、一般常識も欠けてるけど、悪い人じゃないんですっ!」

 

 

零「お前は俺をフォローしたいのか貶したいのかどっちだ」

 

 

零と雷達の間に流れる緊迫な空気を感じ取って何とかフォローしようとしてくれているらしいが、言ってる事が殆ど悪い印象ばかりで説得力の欠片もない。実際なのは(別)達も余計に零に対して警戒心を強めているが、理央は変わらず険しい表情を浮かべながら雷の前に出た。

 

 

理央「お前の事は、そちらの高町からある程度話を聞いた……。お前自身は破壊を望む悪魔というワケではないようだが、俺達はまだお前の事を信用し切れていない。もう少し詳しく話を聞かせてもらうぞ、お前やお前の"力"について」

 

 

零「……断ると言ったら?」

 

 

理央「力付くにでも吐いてもらうだけだ。場合によっては、お前を危険分子として捕らえることになるかもしれんがな……」

 

 

なのは「そんな?!―スッ……―っ?!」

 

 

理央の発言に思わず反論し掛けるなのはだが、それを制止するように零が横から手を伸ばし、一度なのはの目を見つめた後に理央へと視線を向けた。

 

 

零「其処まで言うからには、何か俺の事に関する情報を知ってるんだろう?俺が危険分子だと、誰もがそう確信するような事を……」

 

 

理央「知りたければ、大人しく六課にまで着いて来い。此処で全て話して、お前に逃げられでもしては困るからかな」

 

 

零「……選択肢が一つ消されたか……用心深い奴だな、アンタ」

 

 

そんな軽口を叩く零だが、実際は逃げる気など微塵もない。詳しく話を聞きたいのは自分の方も同じであり、何より雷や彼等も口にしていた『証拠』とやらが気になる。彼等の口ぶりからして、どうやら今回の件は鳴滝の忠告だけが原因ではないようだと思い、今までの世界との違いに違和感を覚えていた。それを確かめる為にも六課への同行を零が頷き了承した、そんな時……

 

 

「――六課に行くなら、僕も同行させてもらって良いですかね?」

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に背後から誰かに声を掛けられた。それを聞いた零達が驚きを浮かべながら背後に振り向くと、其処には零達と別々に情報収集をしていたフェイトやはやてに姫達、そしてフェイトと姫が出会った紫苑達が歩み寄って来る姿があった。

 

 

フェイト(別)「え、今度はもう一人の私?!」

 

 

雷「お前達は……」

 

 

零「紫苑に光?!お前達もこの世界に来てたのか?!」

 

 

はやて「あっ、いやいや、違うんよ零君。この紫苑君達は……」

 

 

何故かフェイト達と一緒にいる紫苑達を見て零が驚愕する中、はやてが若干苦笑しながら零と紫苑を交互に見つめながら困ったように頬を掻いていくが、紫苑がそんなはやての前に出て代わりに説明し始めた。

 

 

紫苑「貴方が黒月さんだよね?フェイトさん達から話は聞いてます、貴方も仮面ライダーの世界を旅してるディケイドだって」

 

 

零「……?何だ改まって?まるで初対面みたいに」

 

 

紫苑「そりゃそうですよ、僕は貴方の知っている風間紫苑じゃない、違う世界の風間紫苑なんですから」

 

 

零「……は?」

 

 

紫苑の口からいきなりそう告げられ、一瞬何を言われたのか分からず困惑の表情を浮かべてしまう零。隣に立つなのはも別世界の紫苑と名乗る彼の言葉を聞いて零と同じように呆然と立ち尽くして零と目を合わせていき、事情を知らない雷達も零達が何の話をしているのか分からず訝しげな顔を浮かべていたのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑤(後編)

 

 

―クラナガン・路地裏―

 

 

同じ頃、クラナガンの街角に存在する暗闇に包まれた路地裏を駆け抜ける茶髪の青年の姿があった。そして青年は自分が来た道を振り返って追っ手が来てないか確かめると、軽く息を吐き壁に背中を預けていく。

 

 

「――チッ、まさか彼処で紫苑達が来るとは……お陰で桜ノ神と決着が付けられなかった……」

 

 

そう言って軽く舌打ちする茶髪の青年……ディソードに変身して姫と戦っていた新条迅の脳裏に過ぎるのは、先程の姫との戦いの最中に突然現れた紫苑達の顔。余りのタイミングの悪さに迅も思わず再び舌打ちすると、取りあえずこの場から離れようと何処かに向けて歩き出していく。そんな時……

 

 

 

 

「―――少し急ぎ過ぎじゃないかい?良い若い者が、焦っても良い事なんてないよ?」

 

 

 

 

迅「…?!」

 

 

不意に路地裏の何処からか響き渡る、穏やかな女の声。それはまるで困った子供に言い聞かせる母親のような口調で、何故か安心感を与えさせてくれるような温もりすら感じる。その声、その感覚に覚えのある迅が慌てて辺りを見渡していくと、迅の目の前の通路から一人の女性が姿を現した。ポニーテールに纏めた黒い長髪に、黒い瞳、片方の目が前髪で隠れてしまっていながら特に気にした様子もなく、片手を軽く上げながら人当たりの良い笑顔を浮かべた。

 

 

「やっ♪久しぶりだね迅君、あれからちゃんと栄養のあるもの食べていたかい?」

 

 

迅「……小坂井、ハル……」

 

 

灰色のマントに身を包んだ黒髪のポニーテールの女性……"小坂井 ハル"は久々に会った迅との再会を喜ぶかのようにニコニコと笑っているが、迅はそんなハルを警戒するように睨みつけながら後ろへと数歩後退りして身構えた。

 

 

ハル「?どうしたんだい?せっかく久しぶりに会ったと言うのに、そんな怖い顔して?」

 

 

迅「……白々しい奴だな。アンタがこんなタイミングで此処に現れたってことは、さっきの戦いを見て俺を止めに来たんじゃないのか?」

 

 

ハル「さっき?……あぁ、君と桜ノ神さんの決闘のことかい?いやぁ、アレはお互いに良い勝負をしていたと思うよ。君はまだ本気を出していなかったし、桜ノ神さんも力を使わずに実力だけで君に追い付いていたからね。彼処で君達の世界のディケイド君達が来なかったらどうなっていたのかと、年甲斐もなく子供の様にハラハラしてしまったよ」

 

 

迅「ッ……何処まで惚ければ気が済むんだ……俺は、"アンタの後輩"を消すかもしれない為に、奴の仲間である桜ノ神と戦ってきたんだぞ?何とも思わないのか?」

 

 

呑気に笑いながらさっきの戦いについて語るこの女にとって、あの男は学生の頃の"仲の良い後輩"だ。場合によってはその男を消すかもしれない自分を目の前にしながらのほほんとしてるハルの意図が読めず、警戒心を強めながらそう問い掛ける迅だが、ハルは表情を変えないまま迅に告げた。

 

 

ハル「何とも思わない……と言えば、多分嘘になるのかな?彼も私にとっては、可愛い後輩の一人だからね。だけど、君がそうしたいと言うのなら、私に止める権利なんてないよ」

 

 

迅「……何故だ?」

 

 

ハル「君の中にある疑問を解消するには、私や他の人の言葉よりも君自身の目で確かめた方がスッキリするだろう?私も、出来るなら君自身の目で彼という人間を見定めて欲しいのさ。そうすれば、君も色々と納得してくれると分かっているからね」

 

 

迅「……随分と買ってるんだな、奴のこと……もしかすると、奴という存在が何なのか見定める前に、俺が奴を始末するかもしれんぞ?」

 

 

ハル「それは大丈夫、彼はそう簡単には負けないよ。君にも、自分自身にも。彼の周りには支えてくれる人が沢山いるし、何より、私の可愛い後輩だからね♪」

 

 

迅「……最後の方は訳が分からんぞ」

 

 

全く説得力のない事を言いながらにっこりと気の抜ける笑顔を向けて来るハルを見て馬鹿らしくなったのか。迅はそう言って深く溜め息を吐きながらゆっくりと構えを解いていき、ハルに背を向けてその場を後にすべく足を踏み出そうとした。その時……

 

 

 

 

「――ハルさんっ!やっと見付けたっ!」

 

 

 

 

迅「……ん?」

 

 

ハル「うん?」

 

 

突然背後から聞こえたハルを呼ぶ誰かの声。それを耳にした迅は思わず足を止め、名を呼ばれた当の本人のハルが後ろに振り返ると、其処にはハルと同じ格好をして頭にフードを被る二人の青年が駆け寄って来る姿があった。

 

 

迅(アイツ等は……?)

 

 

ハル「おや、黒ノ介君にユーノン君じゃないか。どうしたんだい?そんなに慌てて」

 

 

「ぜぇ、ぜぇっ…どうしたんだい?じゃないですよっ……街を歩いてる途中でいきなりはぐれるから、心配して捜しに来たんじゃないですかっ……」

 

 

ハル「ん?……あぁ、そういえば、君達には何も言わないで此処まで来てしまったんだった。申し訳ない、勝手な事をしてしまって。捜すのに苦労しただろう?」

 

 

「はぁ、はぁっ…い、いえ、最初は確かに焦りましたけど、コレのおかげでハルさんの居場所は直ぐに掴めましたから、そんなに苦労はしてませんよっ……」

 

 

申し訳なさそうに謝罪するハルに対して首を横に振りながらそう言うと、青年はマントを翻して腰に巻いている月を模した緑色のバックルを見せると、もう一人の青年もマントを翻して腰に装着した火星を模した青のバックルをハルに見せていき、ハルはそれらを見て懐から太陽を模した赤のバックルを取り出していく。

 

 

ハル「あぁ……そういえば、ベクターバックルにはバックル同士の居場所を感知出来るシステムが組み込まれてあるんだったね」

 

 

「そういえばって、忘れてたんですかっ……まぁ無事に見付かったから良かったですけど……ん?そちらの彼は?」

 

 

自分のベクターバックルをまじまじと見つめるハルに呆れて溜め息を吐く青年だが、ハルの背後に立つ迅に気付いて頭上に疑問符を浮かべていき、ハルも迅の事を問われて「あぁ」と相槌を打ちながら迅に視線を戻し、二人に迅の事を話そうとした。その時だった……

 

 

 

 

 

 

『グルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ドシャアァァァァァァッ!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

上空から複数の影が雄叫びをあげながら勢いよくハル達の周りに飛び降り、四人の前に立ち塞がったのだ。突然の襲撃者に四人も驚愕しながら振り向くと、其処にはインフェルティではない全く別の姿をした異形達……スカリエッティの配下であるレジェンドルガ達がハル達を睨みつけてくる姿があった。

 

 

迅「コイツら、レジェンドルガ?!」

 

 

ハル「おっとっと、これは大変だ。どうやら敵さん達に私達のことを感づかれてしまったらしいね」

 

 

「えっ?それで焦ってるんですか?全然分からないんですけど……」

 

 

ハル「む、心外だなユーノン君。私は今スゴく焦っているんだよ?覚えておいて欲しいんだけど、私は何を考えてるのか分からないって言われるのが、実は1番嫌いなんだ」

 

 

「いやだって、実際分かり難いんですってっ」

 

 

迅「良いから早く応戦しろお前らっ!とにかく変身を―スッ……―……っ!?」

 

 

敵を目の前にしながらマイペースなハル達にツッコミを入れつつ、迅はディソードライバーとカードを取り出しディソードへと変身しようとするが、それを制止するように何故かハルが横から手を伸ばした。

 

 

迅「アンタ……?」

 

 

ハル「君はさっきも戦ったばかりだろう?此処は私達に任せてくれればいいさ。君は休んでて良いよ。さ、行こうか?黒ノ介君、ユーノン君」

 

 

「分かってます――というか、いい加減その変なあだ名止めてもらえませんかっ?そう呼ばれると、昔一般常識に欠ける朴念仁の友人に変なあだ名で呼ばれてた頃を思い出すんでっ……」

 

 

ハル「うん?そんなに変かね?私は結構気に入ってたんだが……残念……では気を取り直して、行こうか?クロノ君、ユーノ君」

 

 

ユーノ「はい!」

 

 

ちょっぴり名残惜しそうに呟きながらも、ハルは腰にベクターバックル……ソルドライバーを装着しながら両脇に立ち並ぶ二人の青年、零達の世界の"クロノ・ハラオウン"と"ユーノ・スクライア"に呼び掛けると、クロノはマーズドライバー、ユーノはルナドライバーをそれぞれの腰に装着していく。そして……

 

 

『変身ッ!!』

 

 

『VECTOR SOL!GO!』

 

『VECTOR MARS!GO!』

 

『VECTOR LUNA!GO!』

 

 

三人の高らかな掛け声と共に三つの電子音声が同時に鳴り響き、三人のバックルの中央部からそれぞれ赤、青、緑の三機の小型戦闘機……『ベクターマシン』のベクターソル、ベクターマーズ、ベクタールナが飛び出し上空に目掛けて空高く飛翔した。

 

 

そしてハル達の頭上を飛び回るベクターソル、ベクターマーズ、ベクタールナから照射された光波がハルとクロノとユーノを吸収し、上空で三角形の編隊を組みながら飛行していく。そうして……

 

 

 

 

クロノ『念心!!』

 

 

ユーノ『合体!!』

 

 

ハル『GO!アクエリオオオオォォォーーンッ!!』

 

 

 

 

それぞれベクターマシンを操縦するクロノ、ユーノ、そして二人に続いてハルが叫んだ直後に、それに呼応するように三機のベクターマシン達が徐々に変形していく。先ずはハルが搭乗するベクターソルが上半身のような姿へと変形し、其処へユーノが乗る変形済みのベクタールナが背中に合体し、更にクロノが搭乗するベクターマーズがベクターソルと合体して脚部に変形していき、最後にベクターソルから両腕と頭部が展開されていく。

 

 

クロノ『おおおおおッ?!こ、この感覚ッ……!!』

 

 

ユーノ『や、やっぱりっ、慣れそうにないぃぃぃぃぃぃぃっ……!!』

 

 

ハル『慣れるんじゃない、感じるんだ。さぁ、行くぞ!』

 

 

合体と共に波のように押し寄せて来る恍惚とした感覚にクロノとユーノが身体を震わせる中、そんな二人を促すハルの身体がベクターからスーツの中へと実体化していき、頭部の飾りと瞳が一瞬淡く輝いたと同時に金色に輝く巨大なウィングが背中に展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべての合体を終えたその姿は、まるで機械仕掛けの天使を思わせるような姿をした白と赤の戦士……ハルとクロノとユーノがベクターマシンを用いて変身した『仮面ライダーアクエリオン・ソーラーフォーム』へと姿を変えたのだった。

 

 

迅「ア、アクエリオン?!よりにもよって、あの目茶苦茶な機体がライダーにっ?!」

 

 

アクエリオンS『ふむ……二度目ともなると、やはりある程度は慣れてくるようだな。よし、では――』

 

 

―シュピィンッ!―

 

 

ハル達三人が変身したアクエリオンを見て驚愕する迅を他所に、掌を握り締めて身体の調子を確かめていたアクエリオンの姿が忽然と消え去った。そしてレジェンドルガ達も、いきなり姿を消したアクエリオンに驚愕し慌てて辺りを見渡していくが……

 

 

 

 

―グシャアァッ!!!―

 

 

『ッ?!!ガッ…?!!』

 

 

アクエリオンS『――先ずは一体。すまないね?不意を突いて』

 

 

なんといつの間にかレジェンドルガの一体の懐に潜り込み、ただの右拳でレジェンドルガを一突きしていたのだった。アクエリオンの右拳が貫通したレジェンドルガはショートを起こし、やがて爆発して跡形もなく散っていった。それと同時にアクエリオンは爆発の中から飛んできたレジェンドルガの武器である剣を掴み取り、そのまま他のレジェンドルガ達に目掛けて勢いよく突っ込んでいく。

 

 

―ガキィンッ!!ガキィンッ!!ガキィンッ!!―

 

 

『グアァッ?!』

 

 

『ガァッ?!』

 

 

『オアァッ?!』

 

 

アクエリオンS『1、2の3、これで4!』

 

 

―ザシャアァァッ!!―

 

 

『ゴアアァァッ?!』

 

 

無駄の無い最小限の動きでレジェンドルガ達の攻撃の回避と反撃を同時に行い、そのまま立ち止まることもないまま4体目のレジェンドルガをすれ違い様に斬り捨てていった。そしてアクエリオンが剣を投げ捨てたと同時に4体のレジェンドルガ達が一斉に断末魔と共に爆発して散り、その光景に最後のレジェンドルガも恐怖して背中の羽根を広げ逃げるように空へと飛んでいってしまう。

 

 

ユーノ『アイツ、逃げる気だ!』

 

 

アクエリオンS『そのようだね。でもすまないけど、此処で逃げられると都合が悪い。墜とさせてもらうよ?』

 

 

逃げる相手を討つのは気が引けるけどねと、アクエリオンは何処かへ飛び去っていくレジェンドルガを見据えて右腕に力を込めながら腰の後ろにまで下げていく。そして……

 

 

   ≪ 無限拳 ≫

 

 

アクエリオンS『無限――パアァァァァァァンチィッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!!!ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァッ!!!―

 

 

『ッ?!!―グシャアァッ!!―グアアァァッ?!!』

 

 

レジェンドルガに向かって突き出した右腕が展開され、なんと右腕が遥か彼方のレジェンドルガに目掛けて何処までもどんどん伸びていき、背後からレジェンドルガの背中を貫いていったのだった。そしてアクエリオンの拳に貫かれたレジェンドルガは上空で爆発して跡形もなく消え去り、それを確認したアクエリオンは伸ばした右腕を収納し元の状態に戻していった。

 

 

アクエリオンS『ふぅ……今ので全部片付いたかな』

 

 

クロノ『……しかし、あのレジェンドルガ達は何しに現れたんだ?』

 

 

ユーノ『連中が現れたタイミングから察するに、多分僕達か、或いはさっきの彼が目的で襲ってきたんじゃないかな。やっぱり情報通り、脱走した戦闘機人達はこの雷牙の世界に……って、あれ?そういえば彼は?』

 

 

レジェンドルガ達を撃退しアクエリオンが一息吐く中、ベクタールナ内のユーノが辺りを見渡して先程まで一緒にいた筈の迅がいつの間にかいなくなっている事に気付いた。そしてアクエリオンもそれに気付き軽く辺りを見渡すと、ベルトを外して変身を解きハル達に戻っていく。

 

 

ハル「行ってしまったのか……相変わらずつれないなぁ。一言くらい挨拶してくれても良いと思うんだが」

 

 

クロノ「そんな呑気な事が出来る状況でもなかったでしょう……。というか、彼は一体何者です?随分親しそうでしたが」

 

 

ハル「昔からの知り合いさ。まぁ、その辺については追い追い話すとして、取りあえず此処を離れようか?今の騒ぎを聞き付けて誰かに見付かるのはマズイからね、特に二人は」

 

 

ユーノ「ですね……。そうなれば僕達も動き難くなりますし、急ぎましょう」

 

 

こんな場所に次元航行艦隊の提督や無限書庫の司書長がいるなどと知られれば、この世界のクロノとユーノに迷惑が掛かる。そうなる前に此処から離れようと、三人は顔を見合わせて頷き合い、路地裏を後にし何処かへと走り去っていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン・公園―

 

 

恭平「んー……あぁ、なーる。此処はこのアビリティ使って攻略すれば良いワケなぁ…………ってか、どしたよ真也?何かさっきから沈んでっけど」

 

 

真也「……うっせぇよ……良いからほっといてくれ、頼むから……」

 

 

薫「…………」

 

 

クラナガンのとある公園。多く子供達が公園の遊具で自由に遊び回る中、公園のベンチには真也、恭平、薫の三人が腰掛け、コンビニで真也が買ってきたパンや飲み物などをそれぞれ口にしていた。ちなみに真也と薫はコンビニでのやり取りから未だに言葉を交わしておらず、薫は子供達の方に視線を向けたまま飲み物を飲み、真也も薫と目を合わせられず暗い影を落としていた。

 

 

真也「ハァ……つかよォ、終夜の奴が言ってた"組織"の人間ってのは何時来んだ?ホントにこの公園が待ち合わせ場所なのかよ?」

 

 

恭平「一応はなぁ。まぁ、そんな心配しなくてもすぐに来るだろ?」

 

 

真也「すぐに来るって……待ち合わせの時間からどんだけ経ってると思ってんだよ……ったく、約束の時間も守れねぇってどんな奴だ」

 

 

恭平「んー…聞いた話じゃ、気難しいお嬢さんらしいが、実際どーだろーなぁ?裕司の奴も彼女のエスコートにゃ気を付けろとか言ってたが」

 

 

真也「マジかよ、そんなんが来るなら麻衣の奴も連れてくりゃ良かったなぁ……女の相手は女にさせた方が気が楽だぜ……」

 

 

薫「……すみませんね先輩。麻衣さんじゃなくて、僕なんかで」

 

 

真也「は?……い、いや、別にお前を連れてくんじゃなかったとか思ってねぇよ?ホントだよ?」

 

 

薫「…………」

 

 

恭平「……え?何?このなんとも言えない空気?キョワイんだけど?」

 

 

何故か真也に対して辛辣な態度を取る薫と、そんな薫に何故か気を使う真也の間に挟まれて戸惑ってしまう恭平。そして何とも言えぬ空気に恭平が真也と薫の顔を交互に見ていると、三人が座るベンチに一人の少女が歩み寄ってきた。

 

 

「――その黒いスーツ……貴方達かしら?例の組織の人間っていうのは」

 

 

薫「……え?」

 

 

真也「ッ!……誰だ、お前?」

 

 

「誰だ?随分な口の聞き方ね。私達の手を借りたいと言って来たのはアンタ達の方でしょう?一緒に作戦に参加する人間の顔くらい、事前に調べときなさいよ」

 

 

真也「んだと…?」

 

 

後ろ髪を払いながら、つんけんとした態度で真也達を見下ろす少女。彼女の外見はショートカットの茶色い髪の毛に、ツリ目が特徴の紫の瞳。年齢は恐らく外見からして高校生くらいだと思われる。恭平はスーツの胸ポケットから取り出した写真と目の前の彼女を見比べると、ベンチから立ち上がり少女の前に立っていく。

 

 

恭平「あー……アンタか?例の組織の幹部っていう……」

 

 

「そうよ、名前はクレア・ケネディ。ナンバーはⅩⅣ……『Praga(プラーガ)』の幹部よ」

 

 

腕を組みながら、自らの名と組織でのナンバーを三人に告げる少女……クレア・ケネディ。彼女の正体は、幾多の英雄たちが共存する世界、黒月零が『黒月黎愛』という名の女として生まれ、仮面ライダー桜羅として戦いに身を投じる世界に寄生する組織の人間だった。

 

 

 

 





小坂井ハル

性別:女

年齢:二十代前半。

容姿:ポニーテールに纏めた長すぎる黒髪に、黒瞳の純日本人。


解説:聖祥学園の卒業生であり、零やなのは達の一つ上の先輩。零やなのは達、真也達からは『先輩』、終夜からは『会長』と呼ばれ慕われている。


元生徒会長・文武両道・容姿端麗の優秀な生徒だったが、大学を卒業後に忽然と姿を消し長らく行方不明になっていた。ミッドで局員として働いていたなのは達も彼女が行方不明になったと聞いた時は心配していたが、零に関しては「あの人らしい」と逆に気にしていなかった。


性格は誰に対しても穏やかな対応を見せるが、何処か惚けて真意が掴み辛い。というよりは、意外と天然でマイペース。


家族構成は父と兄がおり、母親は彼女が幼い頃に不治の病で死去している。亡くなった母親の教えで他人に対し『愛』を持って接するように心掛けており、誰かの悩みに真剣に接して抱き留めたり、心理的な悩みを抱える者の心を癒して立ち直らせたりと、彼女に救われた人間も数知れない。


そんな人柄から彼女を慕う人間も多く、零やなのは達もそういった経験があり、彼女を慕って親しく接していた。


実家が剣道場で、剣道の腕は一流。一度だけ零と終夜と一対二で剣で戦った事があり、その時は二人を圧倒し勝利した経験がある。


また、零が頭の上がらない人物であり、何度痛い目に遭っても学習せずなのは達に無自覚でセクハラする零が、唯一セクハラ出来ない相手。


というのも、彼女は"あの"零が唯一尊敬し憧れを抱いている女性でもあり、その為に中学の時には良く彼女に振り回されていた。



一例


恭平の頼みで本屋にエロ本を買わされに向かった時、偶然同じ本屋で居合わせたハルと遭遇した際……


ハル「あぁ……そうか。君も意外と好きなんだなぁ♪」


零「!!??」



上記の通り、ハルにエロ本を買うところを見られた際はガチで凹んだ経験がある。


しかし、零の彼女に対する憧れの感情に恋愛的な感情があるかは微妙なところであり、零自身もその辺に関しては良く分かってないらしい。


突然行方不明になった彼女だが、実は彼女も本編開始前に零となのは達の世界で度々起き始めていた滅びの現象に巻き込まれ、別世界へ跳ばされていたのである。


其処から彼女なりに情報を集めていき、自分が置かれている状況を理解した後、元の世界へ帰る方法を探し旅をしていた。


そして元の世界へ帰る旅を続ける中で何処ぞの人形と出会い、人形から自分達の世界で起きてる滅びの事を知り、以降は滅びを止める方法を見付ける事に目的を変え行動を開始する。


その時に人形から戦う為の手段にとスマートバックルを貰い、ライオトルーパーに変身して様々な敵と戦い続けていたらしい。


因みにライオトルーパーのスペックは原作と変更点はなく、成り行き上、ライオトルーパーより倍のスペックを持つ敵とも戦う機会が幾度となくあったようだが、至らない部分を彼女自身の技量で補い、量産型のライダーを使いながらも互角以上に戦っていたらしい。


現在は自分と同じく滅びの現象に巻き込まれたクロノとユーノと行動を共にし、とある世界で入手したアクエリオンの力や他のライダーシステムを使いチームを組みながら戦っている。



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番外編/吉?大吉?なにソレ知らない

 

 

 

※これは、小学生四年生時代の黒月零と高町なのは等の物語である。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

―高町家―

 

 

なのは「――え?みんなで初詣で?」

 

 

新しい年が明けた1月1日の高町家。家の外では昨日と変わらず雪が降り注いでいるが、昨日と比べると少々小降り気味になっている。どうやら幾分かマシになったらしいが、それでも死ぬほど寒いことに変わりはない。その為暖房で温まったリビングで新春特別番組を観ながらまったり寛いでいた中、なのはが携帯を耳に当ててそう呟いた。

 

 

はやて『うん。実はさっきすずかちゃんから連絡来て、これからみんなで近所の神社に初詣でに行かへんかって誘いが来てな?そんなら折角やし、みんなも誘おうかって話になったんやけど、なのはちゃんと零君はどう?』

 

 

なのは「あ、うんっ、私は全然大丈夫♪零君も今日一日予定がないらしいから、多分大丈夫だと思うよ?」

 

 

はやて『そっか♪そんなら待ち合わせ場所は……あ、なのはちゃん家でも大丈夫かな?もし良ければ、私からフェイトちゃん達に連絡しとくけど』

 

 

なのは「うん、いいよー♪」

 

 

……と、こうしてはやて達と共に近所の神社に初詣でしに行く事になったなのはと零。それからなのはは、はやてと待ち合わせの時間を話し合って言葉を二、三交わしたあと通話を切り、せっかくだし着物を着て行こうかと考えながらTVの電源を消し上機嫌な表情で桃子の下へ向かっていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

それから数十分後。桃子に頼んで着物を出してもらい着付けも手伝ってもらった後、艶やかな着物姿に変身したなのは。それから暫くして同じく美しい着物姿のフェイト、はやて、アリサ、すずかも高町家に訪れて合流を果たし、さあ初詣でに行こう!みたいな空気になった矢先、事件は起きた。

 

 

零「嫌だ」

 

 

フェイト「…………υυ」

 

 

はやて「…………υυ」

 

 

アリサ「…………」

 

 

すずか「…………υυ」

 

 

美由希「はぁ……」

 

 

なのは「にゃはは……υυ」

 

 

高町家のリビング。其処には今、リビングに出された炬燵の前にうっすらと汗を浮かべながら困った表情で佇む着物姿のなのは、フェイト、はやて、すずかと、頭を抱えて呆れるように溜め息を漏らすなのはの姉の高町美由希と、片眉をピクピクと起用に動かしながら炬燵を睨む着物姿のアリサ。そして、そんな彼女達の視線を一斉に浴びているこの状況の元凶……炬燵から顔だけ出し、無表情のままなのは達を見上げる黒月零の姿が其処にあった。

 

 

フェイト「……えっと……れ、零?そう言わずにさ、みんなで一緒に初詣で――」

 

 

零「嫌だ」

 

 

フェイト「あぅ……」

 

 

はやて「れ、零君っ。そう言わんと、せっかくみんなで初詣で行こうって話して集まったんやしっ」

 

 

零「だったらお前等だけで行け。俺は行かん」

 

 

はやて「うぅ……υυ」

 

 

アリサ「あんたねぇっ……さっきから人が行こう行こうって誘ってんのに何なのよその態度っ!炬燵なんかに入ってないでちゃんとっ――!」

 

 

零「……あ、何だ、誰かと思えばアリサか。すまん、今まで気付かなかった」

 

 

アリサ「嘘つけえぇっ!!あんた私達が入って来た時に、一瞬私と目ぇ合ってたでしょうがぁっ!!」

 

 

フェイト「ア、アリサっ!落ち着いてっ!」

 

 

あからさまにわざとらしい態度で惚ける零に犬歯を剥き出しにして怒鳴るアリサだが、零はまるでどこ吹く風と言うように明後日の方を向いている。それが余計にアリサの怒りを刺激して思わず掴み掛かろうとし、フェイトが慌ててアリサを背後から羽交い締めにして止めに入っていく。

 

 

美由希「はぁ……ごめんねぇみんな?せっかくわざわざ来てくれたっていうに、うちの馬鹿弟が迷惑掛けて」

 

 

すずか「い、いえ、そんなυυでも、どうして零君がこんな事に?」

 

 

美由希「さあ?私もなのはに聞いただけなんだけど、最初は初詣でに行こうって誘った途端、いきなり有無も言わずに自分の部屋に閉じ篭っちゃったみたいでね。で、其処に私が通り掛かってなのはから事情聞いて、部屋から出てくるように説得したんだけど……」

 

 

零「ふざけるな。何が説得だ。アンタただ人の部屋の扉を日本刀で"真っ二つ"にして、リビングに無理矢理引っ張ってきただけだろうがっ」

 

 

美由希「だってアンタが出て来ないなんて言うからでしょ?じゃあもう斬るしかないじゃない」

 

 

零「じゃあって何だ、何故話し合いの次の手段が斬るって発想になるんだ、怖いわ」

 

 

その時の光景を思い出してか、美由希を半目で睨みながら僅かにブルッと身を震わせる零。そんな零の様子にフェイト達は「一体何があったんだろ……」と気になり、その現場を直接見ていたなのはは何も言えずただ苦笑いを浮かべていた。

 

 

なのは「ま、まあその話は一先ず置いとくとして……零君、どうして初詣でに行きたくないの?」

 

 

零「どうしても何もあるか。何故こんなクソ寒い中、わざわざ神社に頭下げに外に出なきゃならない?意味が分からん」

 

 

はやて「意味が分からんて……去年は私等と一緒に初詣でに行ってたやんか?」

 

 

フェイト「うん、私も覚えてる。初めてのお参りで私がどうしたらいいか分からない時に、なのは達と一緒にいろいろ教えてくれたでしょ?なのに、どうして?」

 

 

零「…………」

 

 

去年は自分達と一緒に初詣でに行ったのに、何故今年は行きたくないなどと言うのか。その理由が分からないなのは達が零に訝しげに問い掛けるが、零は彼女達から視線を反らし口を固く閉ざしたまま何も言わない。よほど言いたくないわけでもあるのか、なのは達もどうしたものかと困り顔を見合わせてしまうが、その時美由希が何かを思い出したような顔を浮かべた。

 

 

美由希「もしかして―――ねえなのは?確か零って、去年みんなと一緒に初詣でに行ったんでしょ?」

 

 

なのは「え?う、うん。そうだけど」

 

 

美由希「その時に、みんなでおみくじとかした?」

 

 

なのは「?うん。お参りをした後、みんなでおみくじ引いたけど……」

 

 

美由希「じゃあ、その時零が何を引いたか覚えてる?」

 

 

なのは「それは……あっ!」

 

 

まさか……!と、美由希の質問で何かが分かったのか、なのはは美由希から炬燵から顔だけ出す零に視線を向け、美由希も呆れた様子で溜め息を吐きながら零に向けて口を開いた。

 

 

美由希「零……アンタがお参りに行きたくない訳って、もしかして"おみくじ"を引くのが嫌だからなんじゃないの?」

 

 

零「――――っ」

 

 

『……えっ……?』

 

 

核心を突くように半ば呆れながら美由希がそう言うと、フェイト達は唖然とした顔で美由希へと振り向き、零はビクッと身体を僅かに震わせ目を泳がせていく。

 

 

美由希「やっぱりね……。アンタ、いっつも神社でおみくじ引くと何故か『凶』とか『大凶』とかしか引かないし、小さい頃から一緒にお参りに行っても一回も吉を引いたところなんて見たことないもん」

 

 

すずか「え……それじゃあ……」

 

 

フェイト「零が初詣でに行きたくない訳って……」

 

 

はやて「おみくじで凶を引くのが嫌やから……か?」

 

 

零「……チッ……」

 

 

アリサ「しょ、しょーもなっ……!ならくじ引かずにお参りだけすればいいだけの話でしょっ?!」

 

 

零「……ハッ……別におみくじだけが理由とは一言も言っとらんだろう?理由なら他にもある」

 

 

なのは「?他の理由って?」

 

 

どうやらおみくじについては理由のひとつだと認めたらしいが、他にも初詣でに行きたくない訳があるらしい。それについてなのはが首を傾げながら聞き返すと、零は軽く溜め息を吐いたあと、なのは達に視線を合わせ淡々と語り出した。

 

 

零「年明けの初参りとやらは、一年の感謝を捧げたり、新年の無事と平安を祈願したりするんだろう?」

 

 

はやて「まあ、一般的にはそうやけど……」

 

 

零「確かに俺は、この家に来てから毎回毎回年明けの度に神社に初詣でに連れてかれ、内心面倒くさいと思いながらも一年を無事に過ごす為に下げたくもない頭を下げて強く祈願してきた。何故か?俺だって人間だ、平穏に過ごせるならそっちの方が良いに決まってるからだ。寧ろたったのワンコインで一年の無事と平安を保障されるならこっちとしても万々歳、クソ寒いのも我慢して行こうと思っていた。なのにだ……」

 

 

ヒクッと、零の口端が一瞬震えた。彼の口調が徐々に低く、感情が消え失せていくのが分かり、なのは達は思わず額から冷や汗を流していく。

 

 

零「毎年毎年……どんなに強く祈願しても、その年を無事と平安で過ごせた試しが一度もない。なんなんだこれは?毎回毎回理不尽な目に遭って死ぬかもしれんような怪我に遭うばかり。こっちはわざわざ金払ってるのに、一種の詐欺だろう。おみくじだってそうだ。毎年毎年凶ばかり引いてれば楽しみも面白みもなくなる。去年に至っては、吉を引くまで帰らないと何度もやり直した結果、吉を一度も出せずに『凶』シリーズをコンプリートだ。ふざけんな。最早経営側の悪意すら感じたぞ俺は」

 

 

美由希「いや、それはもうアンタの運の無さに問題があるとしか良いようがないでしょ……」

 

 

アリサ「っていうか、毎回怪我してるのだってアンタの自業自得でしょ」

 

 

零「黙れケルベロス、俺が怪我する1番の原因は大体お前のせいだろうが」

 

 

アリサ「人聞きの悪いこと言わないでよねっ?!っていうか、なによケルベロスってっ?!」

 

 

零「毎年やってくる地獄の一年の象徴とも呼べる地獄の犬の呼称、つまりお前の事だ。毎度毎度普通の人間が喰らえば死ぬかもしれんような必殺技ばかり掛けおって、そんなに俺を地獄に引きずり落としたいかこのケルベロスめ」

 

 

アリサ「ケルベロス言うなっ!それだって、アンタが何時も馬鹿やって人が注意してるのを無視してるからでしょ?!だからこっちも肉体言語決め込んで、アンタを反省させる為に格闘技の練習だって毎晩欠かさずやってるんだから!他の人にはやらないわよ!」

 

 

フェイト「そ、そうだったんだっ……(通りで何時もアリサの技に研きが掛かってるなぁって思ったら……)」

 

 

零「サラッと俺を殺す為に牙を磨いでることまで言いおったぞこの女っ……あーもういい。とにかく俺は行かん、新年早々鬱になるのはごめんだ。犬も犬らしく庭でも駆け回ってろ、俺は炬燵で丸くなる。じゃあな」

 

 

シッシッと手を振りながらそう言うや否や、零は亀のように頭を引っ込め炬燵の中に入ってしまった。が、アリサは今の零の発言とジェスチャーでカチンと来てしまい……

 

 

アリサ「こんのぉぉっ……つべこべ言わずにさっさと支度しなさいこの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」

 

 

―ガバアァッ!!―

 

 

『ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ?!コイツ、人の足掴んで無理矢理っ?!放せっ!俺は行かんと言っただろうがっ!』

 

 

アリサ「やかましいわっ!そんなしょーもない理由は却下っ!良いからさっさと出て来なさいこの阿呆魔導師っ!!」

 

 

『黙れケルベロスっ!放せっ!止めろと言ってるだろっ!狂犬病に掛かるぅーッ!!』

 

 

アリサ「掛かるかぁッ!!!」

 

 

すずか「……えっと……先に行っとこうか?二人共、暫く掛かると思うし……」

 

 

はやて「そやね……」

 

 

フェイト「うん……」

 

 

なのは「にゃははは……」

 

 

美由希「ごめんね、ほんとに……私も加勢して早めに終わらせとくから……」

 

 

炬燵の中に両手を突っ込み零を引きずり出そうとするアリサと必死に出るまいと抵抗する零。そんな二人の攻防戦の後を美由希に任せ、なのは達四人は先に神社に向かうべく高町家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

その後、なんやかんやありつつ近所の神社に到着したなのは達。神社にはやはり初詣でに訪れた人々が沢山おり、お参りやおみくじを引いたり着物姿で記念撮影する人の姿があっちこちで見られる。そんな去年と変わらず境内に溢れる人々の数になのは達が感慨の声を漏らしながら辺りを見渡す中、先程アリサに強引に引っ張られ合流した零が顔をしかめながら首を摩っていた。

 

 

零「クッソッ……人を無理矢理炬燵から引きずり出した上に締め技で落としおってっ……しかも気絶してる間に服まで着替えさせられてるし……」

 

 

アリサ「アンタが人の言うこと聞かないで抵抗するからでしょうが」

 

 

零「黙れケルベロスめっ」

 

 

なのは「ま、まあまあυυ」

 

 

フェイト「ほら、早く皆でお参りしよ?」

 

 

零「……今年もまた無駄金を投げねばならんとは……どっからか魔導師が攻めてきて神社を焼いてくれんものか」

 

 

アリサ「不吉なことぼやかないっ!」

 

 

結構本気っぽくそんな事を呟いた零の後頭部を持参のバックでガツンッ!と殴りながら突っ込むアリサ。なのは達もそんな二人のやり取りに苦笑しながらもそれぞれ小銭を取り出し神社の賽銭箱に投げ入れ、パンッパンッと景気の良い音を響かせて両手を打ち、手を合わせて願掛けしていく。

 

 

すずか「ん――よしっ♪皆は何お願いした?」

 

 

なのは「んーっと……今年もみんなで平穏に楽しく過ごせますように、かな?」

 

 

フェイト「あ、私も同じ」

 

 

アリサ「相変わらず子供っぽくないお願いするわねぇ……アンタは?」

 

 

零「ほんの僅かで良いから幸を下さい、と」

 

 

はやて「せ……切なすぎるで零君……」

 

 

アリサ「アンタそれ、自分で言ってて悲しくない…?」

 

 

零「五月蝿いっ」

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

お参りを終えた後、零達が次にやって来たのは境内にあるおみくじ売り場。売り場には予想通りおみくじを引く為に大勢の人が集まっており、中には互いにおみくじを見せ合ったり、くじを携帯の写メで撮影してる人などが見られる。

 

 

はやて「さて、お次はおみくじやけど……零君?」

 

 

なのは達の視線が、彼女達の一番後ろに立つ零に注がれる。彼の様子を見ればやはりというべきか、零はあからさまに嫌そうに顔をしかめながら参拝客におみくじを渡す巫女さん達を半目で睨んでいた。

 

 

零「……俺は行かん。行くならお前達だけで行け」

 

 

フェイト「で、でもほら、折角ここまで来たんだし」

 

 

零「結果の見えてるおみくじなど微塵も面白くない。『凶』シリーズも去年コンプリートを果たしてるからもういらんし、最近はもう凶という字を見るだけで胃が痛くなるし頭痛がするし気分も悪くなる」

 

 

アリサ「アンタどんだけ嫌なのよおみくじ……」

 

 

其処までおみくじに対して拒絶反応を示すなんて、彼は一体どれだけの数の凶を引いてきたのやら……。

 

 

すずか「だ、だけどほら、一番重要なのは吉か凶よりくじの内容なんだし、一旦そういうのを気にしないでやってみたらどうかな?」

 

 

零「……むぅ……」

 

 

アリサ「すずかの言う通りかもね……第一、アンタはたかだかおみくじに対して苦手意識が過剰過ぎんのよ。今の内に治しておかないと、ホントに一生おみくじ引けなくなるかもよ?それに今年こそ吉を引ける、ってこともあるかもしれないじゃない」

 

 

少し大袈裟かもしれないが、彼にはこれぐらい言わなければ嫌でもおみくじを引かないだろう。彼もすずかとアリサの説得を聞き少しでも思うところがあるのか、零は拗ねたように口を尖らせながら横目で売り場の方を見ると……

 

 

零「……分かった……一回だけだぞ」

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

数分後、それぞれ御神籤箱を振って出て来た棒に書かれた数字と同じくじを巫女さんから受け取ったなのは達は、自分達が引いたくじを開き紙に書かれてる今年の運勢を確かめていた。

 

 

アリサ「よしっ!『大吉』!」

 

 

フェイト「あ、私も♪」

 

 

すずか「私は…あ、『吉』だって」

 

 

なのは「私のくじは、えと……『中吉』」

 

 

はやて「私は『小吉』か~……まあまあやねぇ」

 

 

どうやら今年も女子組は凶を引かずに済んだらしく、紙に書かれてる運勢もそこそこ良いものだ。それぞれ自分が引いたくじの運勢を互いに見比べたりした後、早速くじを境内の木に結び付けようと話し境内の木に向かおうとする五人だが、何故か零が自分のくじを見つめたままその場から微動だにしない。

 

 

フェイト「?零?どうしたの?」

 

 

零「……………………」

 

 

なのは「あ……もしかして、また凶だったとか……?」

 

 

アリサ「また?ったく……さっきも言ったでしょう?重要なのは凶とか吉よりも内容だし、たかがおみくじじゃない。なにをそんなにショック受けて――」

 

 

と、アリサは呆れるように溜め息を吐きながら零へと歩み寄って彼のくじを覗き見、なのは達も苦笑いしながら零のくじを覗いていく。其処に書かれていたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――絶・大・凶

 

 

運勢…暗闇の先に光なし

 

恋愛…波あり 嵐あり 苦難あり

 

健康…ほぼ毎日怪我、病気に遭う

 

失物… に隠れて出ず     ↑

何も書かれていない

 

 

要約――諦めが吉、期待は時の無駄

 

 

 

 

 

 

なのは「…………」

 

 

フェイト「…………」

 

 

はやて「…………」

 

 

すずか「…………」

 

 

アリサ「…………」

 

 

 

 

 

 

一同絶句。其処に書かれていた内容は救いもなければ助言もない、彼女達も初めて目にする凶と、くじを引いた人間が硝子のハートの持ち主なら粉々に打ち砕かれること必至の運勢ばかりだったのだ。なのは達が零のくじの運勢を読み上げて言葉を失う中、今にも消え入りそうな瞳の零がおもむろに顔を上げて重たい口を開く。

 

 

零「……すずか……おみくじで大事なのは……吉や凶より、その内容なんだよな……」

 

 

すずか「え……えと……」

 

 

零「これ、どう思う?」

 

 

すずか「そ、その……」

 

 

零「どう思う?」

 

 

すずか「……ご、ごめんなさい……υυ」

 

 

フェイト「れ、零っ……良かったら私のと交換しよっかっ……?」

 

 

零「……いや……良い……人の貰っても余計に虚しいし……さっさと木に結んで帰る……」

 

 

思いの他おみくじの内容に叩きのめされたのか、零はそう言ってフラフラと覚束ない足取りで境内の木へと向かっていき、掛ける言葉が見付からず暫く呆然と彼のその背中を哀れむように見つめていたなのは達も直ぐさまハッと正気に戻り、慌てて零の後を追い掛けていったのだった。

 

 

 

 

 

 

因みにおみくじを結び終えて帰路を帰る途中、自転車に二人乗りしてふさげていた若者(乗っていたのは女と女の妹)が何故か自転車のコントロールを失って零に後ろから激突したり、なのは達に労れながら激痛の走る身体を引きずって帰る途中に曲がり角から突然飛び出してきた同学年くらいの女子と頭をぶつけ合って悶絶したりと、散々な目に遭ってしまい、帰宅した際には『もう元旦におみくじなんか引かんっ』と改めて決意し暫く鬱になっていたとか。

 

 

 



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番外編/男達の戦……い?

 

 

 

 

 

――――それはある日、彼の友人である提督からの一つの相談事から始まった……。

 

 

 

 

 

―機動六課・黒月零の自室―

 

 

零「……は?お偉いさん達との接待で食事会?」

 

 

 

まだ機動六課が設立して間もない頃。後見人となってくれた友人達の助力もあって、漸くはやてが数年の月を掛けて立ち上げた六課の発足が叶い、より一層意気込むなのは達と共に自分でも珍しく思うほど気合いを入れようとしていた零の下にそんな話を持ち込んだのは、六課設立の後見人の一人であり、零の友人でもあるクロノ・ハラオウンだった。

 

 

クロノ『あぁ、まぁ……実は六課設立の際に出資を快く引き受けてくれた方々からそういった話があってな……某所のレストランで食事の場を設ける事になってしまって、その内の一人として零、君が指名されているんだ……』

 

 

零「……?何で俺だ?部隊長のはやてやお前と同じ後見人のカリム達ならともかく、俺と会って話して向こうに何のメリットがある?」

 

 

零の疑問も最もだ。はやて達のような重要な役職の人間ならともかくとして、たかだか一局員にしか過ぎない零と会った所で何か意味があるとも思えないし、向こうが自分を指名してきた意図も検討が付かない。もしや、何か新しい陰謀論か……?などと、あまりに予想が付かないばかりに素っ頓狂な考えまで過ぎり訝しげな顔で珈琲を啜る零だが、モニターの向こうのクロノは何処か歯切れの悪い様子でその疑問に答えた。

 

 

クロノ『まぁ、何というかな……実は、向こうは君やなのは達のファンでもあるらしいんだ……それで僕が、君達の友人である事を知った向こうからの要望で、一度君と会って話をしてみたいという話になってしまってな……。まぁ、そういう話の流れもあってか、どうにか機動六課への投資の話を円滑に進められた訳なんだが……」

 

 

零「ああ……あぁ成る程……ようするに金の為に俺を売った訳か、お前」

 

 

クロノ『ひ、人聞きの悪い事を言うなっ!!僕は別に、君をそんな風に利用しようだ事なんて思った事は一度もっ―――!!』

 

 

零「冗談だ、冗談……まぁ、俺は六課の設立に関して何も手伝えなかった訳だしな……そういった交渉事の場で少しでも役立てたのなら、俺も少しは力になれたんだと思えて気が楽になるし、それに関しちゃ別にいい」

 

 

クロノ『それは……いやしかし、そのつもりがなかったとは言え、勝手に君を交渉の材料に使ってしまった事は謝る。すまなかったな……』

 

 

零「気にするなよ、俺とお前の仲だろう」

 

 

思えば、クロノにもこちらに来てから度々世話になっていながらその借りを返す機会も中々なかった訳だし、少しでもそれを返す事が出来たのなら願ったり叶ったりだと、瞼を伏せて微笑しながら戯けるように肩を竦める零。クロノもそんな零の言葉に思わず砕けた笑みを浮かべながらも、直後に何故か困ったように眉を下げ、

 

 

クロノ『それでまぁ、どうだろうか……?出来れば今夜辺りにでも、と向こうから連絡も来ているんだが……今日の夜、予定は空けられそうか?』

 

 

零「?また急だな……まぁ、発足し立てとあって、今の所まだ俺にはそんなに仕事も回って来てはいないし、このままのペースなら丁度定時に終われるだろうから、俺は別に構わんが……」

 

 

クロノ『助かるっ……あっ、それと実はもう一つ、君に頼みがあるんだが……』

 

 

零「……頼み?」

 

 

何だ、今日のクロノはやけに頼み事が多いなと不思議がりながらも零がそう聞き返すと、クロノは何処か切羽詰まった様子で声を潜めつつ、

 

 

クロノ『その……実は、その接待に誰かもう一人連れて行きたいと思ってるんだ……出来れば同姓で、なんだが……そういう奴に誰か、心当たりとかないかっ……?』

 

 

零「……?ないか、と急に言われてもな……というか、同姓がどうとか何の話だ?ただの接待じゃないのか?」

 

 

クロノ『それ、は……まぁ、それに関しては追々話すとして、だっ……。誰でもいいんだっ!役職とか、この際局員でなくても別にいいっ!出来ればこうっ、人当たりも良く、気遣いの出来るみたいな、そういう奴を……!』

 

 

零「?」

 

 

何だろうか、らしくもなく身振り手振り使ってまるで訴え掛けるように問い詰めて来るクロノの勢いに圧倒されてしまい、眉間に皺を寄せて困惑を露わにしながら思わず身じろぐ零だが、それでも一応何処か鬼気迫るクロノの形相に圧されるがままにクロノの言う条件に当て嵌まる人物を頭の中で探していき……

 

 

零「……ああ……そういえば、ユーノの奴が今日は休暇を取ってる、みたいな話をなのは達から聞いたぞ?何でも明日無限書庫で大規模な探索をするらしいから、その準備の為に今日一日休んだとか何とか……」

 

 

クロノ『それだっ……!ユーノならきっと及第点に違いないっ!これならきっとっ――!』

 

 

零「……及第点……?」

 

 

クロノ『ッ!あ、いや、何でもないんだ、何でもっ……。とにかく!ユーノには僕の方から連絡しておくから、君も向こうに失礼がないようにちゃんとした正装で来てくれっ!場所は○○時に、○○ホテルの最上階に在る天望レストランだ……!この件はなのは達にも内密にっ!頼んだぞっ!』

 

 

零「お、おい、ちょっ……!」

 

 

プツンッ!と、やはり切羽詰まった様子で口早にそう切り上げ、思わず引き止めようとした零の静止の声を聞かずに一方的に通信を切ってしまうクロノ。そして、後に一人残された零はクロノを呼び止めようとして中途半端に右手を伸ばした態勢のまま暫し固まった後、その手で額を抑えて深々と溜息を漏らした。

 

 

零「何なんだ一体っ……というかアイツ、あんな人の話を聞かないようなキャラだったかっ……?」

 

 

いや……少なくとも、自分の記憶の中のクロノはあんなキャラではなかったような気がするのだが、最近になってキャラチェンジでもしたのだろうか?と首を傾げながら疑問げな表情を浮かべる零だが、その時、零の端末に局内の局員からの通信が入り、不意を突いたタイミングに若干慌ててつつも気を取り直し、通信を開いた。

 

 

『あ、黒月さん?少しよろしいですか?実は、今すぐちょっと確認を取って頂きたい資料がありまして……』

 

 

零「あぁ、もしかしてさっき聞かされた奴か?分かった……今から向かうから、少し待っていてくれ」

 

 

『分かりました。では、お待ちしておりますね』

 

 

と、その後も一言二言局員と会話を交わした後に通信を切り、椅子に掛けておいた上着を手に取って羽織りながら、頭の片隅で先程のクロノからの頼まれ事を考える。

 

 

零(しかし結局、接待の内容自体は教えれなかったが、というか何でなのは達に秘密なんて……まぁ、行ってみてアイツから直接聞いた方が早いか)

 

 

どうせ待ち合わせ場所で顔を突き合せるだろうしと、あまりその事を深く考えもせず「そう言えば、スーツなんかまだあったか……?」などと別の心配をしながら部屋を出ていく零。

 

 

 

 

 

 

……だがこの時、今からでももう一度クロノに連絡してその内容を問い質しておけばと、零は後になってから酷く後悔した。

 

 

そうすれば、あんな"惨劇"は起こらなかったのに―――と。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―○○ビル・天望レストラン―

 

 

―――クラナガン都内に在る、とある高層ビル最上階の高級レストラン。そのビルの天望からは、ロマンチックなクラナガンの夜景を一望でき、更に出される料理も全て三ツ星レベルの高級の一品揃いと、某料理本でもオススメに選ばれる程の有名店でもある。そんな場所で……

 

 

 

 

 

 

「―――えと……は、はじめまして!私、航空武装隊に所属しております、ディクソン・アーデンの娘の、マリー・アーデン三等空尉です!で、こっちが……」

 

 

「あ、り、陸士隊に所属してます……!リリアン・ベルレルトの娘の、リリー・ベルレルト三等陸尉です……!本日は、宜しくお願いします……!」

 

 

「どうも!同じく陸士隊に所属してまーす!ロベルト・ワイナーの娘の、シェリー・ワイナー三等陸尉です!今日は宜しくお願いしますねー♪」

 

 

零「………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 

……お偉いさん方との食事会と聞いてきっちりスーツ姿の正装に身を包んで来た零は何故か、同じく正装姿のクロノとユーノと共に見知らぬ美女達の前に訳も分からず呆然と立たされており、そんな零を他所に、クロノは一度軽い咳払いした後に爽やかな笑みで前に出た。

 

 

クロノ「ええ、こちらこそ、本日は宜しくお願いします。クロノ・ハラオウンと申します。それで、こちらの二人が……」

 

 

ユーノ「えーと……ユ、ユーノ・スクライアです。本日はどうぞ、宜しくっ……」

 

 

零「……………………………………………………黒月零一等空尉だ「敬語っ……!」……一等空尉です……宜しく……」

 

 

「「「きゃあああああぁぁぁぁーーーー……!!!」」」と、三人が自己紹介を終えると共に、女性陣の間で湧く黄色い悲鳴。その光景を前にクロノとユーノも思わず苦笑いを浮かべる中、自己紹介中にクロノに注意されてより一層渋い表情を浮かべていた零がクロノの腕を強く引っ張り、半ば強引にユーノ達に背中を向けるように背後に振り返って小声で叫んだ。

 

 

零(おいっ……おいどういう事なんだコレはっ……!!!聞いてた話と全く違うぞ一体これの何処が接待だっ……?!!アレがお前の言ってた出資者達だってのかっ?!!どう見ても違うだろうアレか、浮気かぁっ!!!エイミィや子供達がいながら何やっとんだ説明しろクロノォオオオオオオオオッッッ!!!!)

 

 

クロノ(お、落ち着けっ……!!違うっ!!いや、出資者と言うのはあながち間違いでもないんだっ……!!)

 

 

零(ああッ?!)

 

 

日々の多忙さのあまり遂にトチ狂って浮気にでも走るつもりかと思い、マジギレ寸前で怒鳴る零を必死に宥めるクロノ。そんなクロノの言葉に零も僅かに怒りが和らいで頭上に疑問符を浮かべると、クロノはユーノと楽しげに語らう女性達の方を見つめながら小声で説明していく。

 

 

クロノ(さっきの彼女達の自己紹介の際、幾つか名前が出ただろう……?その人達こそ、六課設立の為の出資を快く引き受けてくれた名門家の方々……つまり彼女達は、その出資者達の娘のご令嬢という事だ……)

 

 

零(ご令嬢ってっ、それなら尚更可笑しいだろうっ……!何故に出資者達本人じゃなくてその娘達が出てくるんだ……!会いたいと言っていたのは出資者達の方じゃな―――まさかっ……?)

 

 

其処で何かを察したのか、零が険しく眉を寄せてクロノの顔を見つめると、クロノの方も困ったように眉を下げながら嘆息と共に頷き返した。

 

 

クロノ(その出資者達が君や僕に会いたいと言う話になったのは、彼等のご令嬢達が僕達の事を良くご存知だったからと言うか……まぁようするにファンという事から、其処からトントン拍子に色々と話を進められたと言うかな……で、その人達の要望で、僕や君に娘達の為に会ってもらえないかとこの場を設けられてね……)

 

 

零(……ようするに金持ちの道楽とただの親バカって事じゃないのかそれ……)

 

 

クロノ(そういう言い方をするなっ……!少なくとも前提として、はやてや僕達の考えに共感してくれた上で出資を快く引き受けてくれたんだ……。ならこちらも引き受けれられる向こうからの要望には応えていかなくては、ご令嬢達の心象を悪くしたばかりに援助を断たれた上に、漸く発足した六課の活動に支障が出るとあっては、折角のはやて達の意気込みに水を刺す羽目になるだろっ……)

 

 

零(今正に、六課の発進に気合いを入れていた俺が水を刺されてる最中にあるんだがそれは……)

 

 

クロノ(どうせ君のソレは今じゃなくても明日か明後日には平常運転に戻ってるだろうから要らぬ心配だ……。長く続いた試しも無いしな)

 

 

零(おう喧嘩売ってんのかテメェっ)

 

 

人をまるで三日坊主みたく言いやがるクロノに思わず顔を引き攣らせて抗議する零だが、その時、二人の背後からスカイブルーのセミロングヘアーの女性と、紅色のボブヘアーの女性……マリーとシェリーが話し掛けた。

 

 

マリー「あの……お二人共、どうかしましたか?」

 

 

クロノ「ッ!い、いえ、お気になさらず!そのっ……彼はこういう場に慣れてはいないようなので、皆さんの前で失礼がないように最低限のマナーを教えていただけで……!」

 

 

零「おいっ、なにサラッと人のこと礼儀知らずみたいな―ドゴォッ!―ごふぅっ!?」

 

 

クロノのフォローに思わず異を唱えようとするも、マリー達に笑顔を向けたままクロノが放った高速肘打ちを脇腹に打ち込まれて黙殺させられてしまう零。そしてそんな密かなやり取りが行わられてるとも露知らず、シェリーは手を振りながら「気にしないで」と笑った。

 

 

シェリー「私達も父さん達から後から聞かされたクチですから、そういうのは気にしなくても大丈夫ですよ。元々、私達の父さん達が勝手に決めた事ですし」

 

 

マリー「でも、その……スミマセンっ。皆さん大事な時期でお忙しいでしょうし、最初は断ろうかとも思ったんですけど、こちらから頼んでおきながら断るのも、それはそれで失礼だろうと思いまして……」

 

 

クロノ「いいえ、お気になさらず。そのお心遣いだけでも十分ですよ。それに、皆さんが我々の事をご存知で居てくれたのも、個人的には嬉しく思いますし」

 

 

シェリー「それはもう!PT事件や闇の書事件の事は勿論、それ以降の皆さんのご活躍も聞いてます!特にこの娘とか、黒月さんが解決した事件が載った雑誌や新聞の切り抜きとかしててー♪」

 

 

マリー「ちょっ?!や、止めてよシェリーっ!ご本人の前でそんなっ……!!///」

 

 

零「ぐぅううううっ……!」

 

 

まるでからかうようにマリーの両肩に手を置き、彼女が零のファンであると本人を前に暴露するシェリーにマリーは顔を真っ赤にして慌てふためき、零の方を何度もチラ見して気にするが、零の方は未だクロノに肘を叩き込まれた脇腹を抑え悶絶している為に全く会話を聞いておらず、そうこうしている間にも何やら一人リリーと話し込んで盛り上がっていたユーノがウェイトレスに話し掛けれ、四人に声を掛けた。

 

 

ユーノ「クロノ、零、席に案内してくれるって。そろそろ行こうか?」

 

 

クロノ「あ、あぁっ。ほら零っ、君もしっかり歩けっ、何時までそうしてるっ……!」

 

 

零「誰のせいだと思ってやがるっ……!クソッ、よりによって打ち所の悪いとこに叩き込みおってっ……」

 

 

マリー「あ、あの、大丈夫ですかっ?」

 

 

零「エッ?あ、あぁ、別にこれぐらいどうという事はない「敬語っ……!」……デス」

 

 

と、クロノに注意されたりマリーに気遣われつつも零は他の面々と共に案内に付いていき、男性陣と女性陣で向かい合う形でホール中央付近のテーブルの席に着いていく。

 

 

因みに席順は、テーブルの右端からユーノとリリー、クロノとシェリー、零とマリーと一対一で対面になるように座り、席に着いたクロノは再び小声で隣に座る零に話し掛けていく。

 

 

クロノ(取りあえず、この場は印象良く乗り切れればいい……。下手な事を言ったばかりに怒って帰らせた挙句に出資者達の心象を悪くし、さっき言ったように機動六課の活動に支障を来たすなんて最悪な展開は絶対に回避するぞっ……!)

 

 

零(……まさかこんな形で六課の今後について肩に背負う事になるとは思わなかったがな……というか、ユーノはこの事について知ってるのか……?)

 

 

クロノ(当たり前だろう……ユーノには特に詳細を伝えて、話の流れが停滞した時には出来るだけ場を盛り上げて欲しいと頼んである……)

 

 

零(成る程、サポートに関しちゃ右に出る者はいないユーノにこそ相応しい重要ポジだ……堅物のお前やこういう場に疎い俺じゃとても務められないな……)

 

 

クロノ(あぁ、全くだ……君と二人だけで名門家のご令嬢達と会うだなんて、自殺行為も甚だしいからな……やはりユーノを呼んでおいて正解だったよ……)

 

 

リリー「へぇ、じゃあユーノさんは、そういった経緯で今の司書長の職に?」

 

 

ユーノ「はい、最初の頃は色々と勝手が分からなくて悪戦苦闘してましたけど、今はもう何とか板に付いて来てっ……。まぁ、元々考古学の関係で本が好きだったから、其処まで苦にはならなかった、と言うのもありますけど」

 

 

零(あぁ、実に大した采配だ、流石提督……因みに聞くが、エイミィにはこの事を何か伝えてたりとかしてるのか……?)

 

 

クロノ(いや、接待とは言え、流石に異性と食事をしてくるとは伝え辛くてな……お偉方と食事をしてくるとだけは伝えてあるが……)

 

 

零(まるで浮気男の謳い文句みたいだな、オイ)

 

 

クロノ(誤解を招く言い方するなっ!というか君の方こそっ、此処に来る前になのは達に何か余計な事を言ったりしてないだろうなっ?!)

 

 

零(?フェイトはともかく、何でなのは達が出てくるのか分からんが……まぁ心配はないだろう。何故か知らないが、なのはとフェイトは先に上がってていつの間にかいなくなってたし、はやての方は部隊長室に篭って作業をしていた事しか分からなかったが……)

 

 

クロノ(そ、そうか……まぁ、その辺りの心配がないだけまだマシだな……この食事会を成功さえすれば、後はどうとでもなるだろうし……)

 

 

などと二人でヒソヒソと小声で話している間にも、ユーノはマリー達を相手に話を回して場を盛り上げてくれており、零とクロノもそんなユーノの若者向けのトークスキルの高さに感心している中、不意にマリーが何処か目を輝かせながら零に質問していく。

 

 

マリー「あ、あの、黒月さんって確か、高町なのはさんやフェイト・T・ハラオウンさん達と一緒に八神はやてさんが立ち上げた部隊に配属なされたんですよね?」

 

 

零「え……あぁ、もしかして機動六課の事か「敬語」……ですかっ」

 

 

マリー「はい!あの、その……先程シェリーも言っていたんですけど、私、黒月さんや高町さん達に憧れてて……航空武装隊に志願したのも、皆さんのような、強くて、凄くて、素敵な魔導師になりたいと思ったからなんです……」

 

 

零「あ、あぁ……そうなのか―――ですか……?」

 

 

マリー「はい!だから、その、まだお話でしか聞いた事がないんですけど、PT事件や闇の書事件を解決した皆さんがまた揃うと聞いて、皆さんを応援してきた私的にもとてつもないビックニュースと言うか!本当に私事みたいに嬉しくて!皆さんのご活躍に今からもう期待で一杯で!」

 

 

零「は、はぁ……」

 

 

やけに熱の篭った口調で興奮気味にそう語りながら、何やら身を乗り出し兼ねなそうな勢いのマリーに圧されながらも相槌ちを打つ零。そしてマリーも、そんな零の引き具合を見てハッと我に返って慌てふためき、顔から湯気が立ち上らんばかりに赤くなって俯いてしまう。

 

 

マリー「ス、スミマセンっ……私ったらはしたなく、声荒げたりしてっ……/// ひ、引きましたよ、ね……?」

 

 

零「……いや……まぁ、確かに少し驚きこそはしたけれども……其処まで俺達の事を応援してくれてると言うのは、有り難い……です」

 

 

マリー「え?」

 

 

零「いや、その……正直に言うと、そういう風に周りから言ってもらえるのはこれまでもありましたが、あまり実感というモノは感じた事がなかったと言うか……アイツ等は勿論、俺もただ、今までこの目で目の当たりにして来たような惨劇を、二度と起こしたくは無いと思って、ただ突っ走って来ましたから……」

 

 

マリー「…………」

 

 

零「その点で言えば、高町やハラオウン、八神達は確かに賞賛されて然るべき事を成してきました……それは今回の機動六課の発足をきっかけに、もっと多くの人達を救っていくでしょうが……俺が出来る事なんてたかが知れてると言うか……正直、アイツ等はともかく、俺が周囲から持ち上げられるような事を言われるのは違和感が――「そんなことありません!!」……え?」

 

 

マリー「黒月さんは、十分それだけのことをして来てます!だって私、ちゃんと見てますもん!高山のダムが決壊して、大規模な洪水が起きた時に村の方々の避難が完了するまで一人で食い止めたこととか、とある次元世界の町で暴走して暴れ回るロストロギアを相手に民間人に被害が出ないように一人で挑んで、満身創痍になったこととか!他にも沢山!」

 

 

零「…………」

 

 

マリー「えと……ですから、そんな風に自分を卑下しないで下さい!そんな黒月さんの姿に憧れて、元気付けられている人がいるのは確かなんですし……私も、その一人なんですから……」

 

 

そう言って、哀しげに顔を伏せるマリー。そんな彼女の熱弁と勢いに一瞬呆気に取られていた零だったが、直後、せきを切ったように吹き出しながら顔を逸らし、必死に笑いを噛み殺そうとする。

 

 

マリー「ちょっ、な、何で其処で笑うんですか?!私は真剣に……!」

 

 

零「ふっ、くくっ……いやっ、失敬……俺の事をそんな必死に言ってくれる奴は、高町達や隣にいる二人ぐらいしかいなかったもので、少し驚いて、つい……ふ、くくくっ……!」

 

 

マリー「あう……」

 

 

余程ツボにハマったのか、必死に笑いを堪えようとしても堪え切れずに笑い声が口から溢れる零に対し、絶対に可笑しな子だと思われたと恥ずかしげに縮こまるマリー。そしてその後、零は軽く深呼吸を繰り返し、どうにか落ち着きを取り戻して気を取り直すように咳払いした。

 

 

零「ンンッ、失礼……しかし、そう思ってくれているというのは本当に有り難いです……アーデン女史にも……」

 

 

マリー「……マリー……」

 

 

零「……は?」

 

 

マリー「マリーって、呼び捨てで呼んでくれませんか……?私は黒月さんよりも階級も下ですし、そんな風に呼ばれるほど、私自身も大した人間じゃありませんから……出来れば、あの……お互いに、名前で呼び合えたらと言うか……いい、ですかっ……?」

 

 

零「は、はぁ……では、マリー……っと?」

 

 

マリー「は、はい!えっと……れ、零さん……えへへへっ……///」

 

 

零「っ?」

 

 

クロノ(嗚呼……また君という奴は、全くっ……これではフェイトにバレた時、僕まで小言を言われるハメになるじゃないかっ……!)

 

 

シェリー「クロノさん、クロノさん!じゃあ、奥さんへのプロポーズの言葉ってどんな感じだったんですか?」

 

 

クロノ「……え?あ、あぁ、それは、何というか、そのっ―――」

 

 

名前を呼び、呼ばれて本当に嬉しそうに微笑むマリーと、そんなマリーの様子に怪訝な表情で首を傾げる零を横目で見て、よりにもよって恐れてた事態になってしまったと内心戦々恐々としていたクロノにシェリーが興味津々にエイミィとのプロポーズの時の話を質問攻めしていき、そんな二人を横目に零も一先ず一息吐こうとテーブルの上の飲み物が入ったグラスを手に取ろうとして……

 

 

 

 

 

 

―…………ゾワァアアアアッッッ!!!!!―

 

 

零「………………………………………………………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

……その時、何故か不意に背筋が凍り付くような寒気が走り、その震え上がるような感覚に零も思わずグラスを持つ手の動きを止めて固まってしまい、忙しなく辺りを見回していく。

 

 

クロノ(……?零?どうしたんだ?)

 

 

零(いや……何だろうな……何か突然、寒気というか……身に覚えのある殺気を感じたというか……)

 

 

クロノ(はあっ……?脅かしっ子は無しだぞっ、ただでさえ知り合いに見られでもして誤解されたら困ると言うのに……)

 

 

零(……そう、だな……悪い、多分俺も疲れてるのかもしれないな……。全く、機動六課も今からこれからだというのに……)

 

 

この調子じゃ機動六課が本格始動する際には身体が持たないんじゃないかと溜め息を吐き、今の寒気にも似た殺気は恐らく気のせいだろうと気を取り直した零はグラスの中の飲み物を一口飲み、何となしにマリーから目を逸らしてその背後に目をやり、

 

 

 

 

 

――――その先に、『地獄』は在った。

 

 

 

 

 

零(…………………………………………………………クロノ……クロ、クロククッ、クククククククロノっ、クロっ、クロっ、クロっ……!黒介ぇええっ!!!)

 

 

クロノ(痛っ!痛っ、ちょ、痛いっ!何だ急にっ?!というか誰が黒介だっ!)

 

 

零(そんなのどうだっていいだろうっ!!アレ、ア、アレ……アレっ……!!)

 

 

クロノ(アレっ?)

 

 

何だ突然?、と急に顔色を変えてドスドスと肘で突っついて来る零のただならぬ様子に困惑しながらも、零が必死に視線を向けろと促す方に目を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

―カチャッ、カチャッ、カチャッ……―

 

 

なのは「…………」

 

 

エイミィ「…………」

 

 

フェイト「…………」

 

 

はやて「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――零達が座るテーブルから少し離れた場所に位置する、窓際の席……。其処には何故か、それぞれに合った色合いのドレスを身に纏い、正に絶対零度と呼ぶに相応しいオーラを放ちながら黙々とフォークとナイフを動かして食事するなのは、フェイト、はやて、そして、クロノの妻であるエイミィの姿があったのだった。

 

 

クロノ(ッッッッ!!!!!?ば、馬鹿なっ……エ、エイミィにフェイト、だとっ……!!!!?し、しかもなのはにはやてまでな、なぜ、何故此処にっ……!!!!?)

 

 

零(俺が知るかぁっ!!!さてはお前っ、エイミィにバレるようなヘマして此処に来やがったなっ!!!?)

 

 

クロノ(そんな訳あるかっ!!!!僕はそんなヘマしていないっ!!!!そういう君こそっ、あの三人の内の誰かにこの食事会の事を悟られたりして、って…………あ…………)

 

 

零(……「あ……」?おい、「あ……」って何だ、「あ……」ってっ……?)

 

 

クロノ(……いや……そ、そういえばこの前、エイミィが母さんから何処かのレストランの食事券を貰ったと言って、機動六課の設立記念になのは達の日頃の労いも兼ねて食事会に誘う、みたいな話をしてた気が……)

 

 

零(……おい……おいちょっと待てお前……その食事券って、まさかっ……)

 

 

クロノ(…………その…………恐らく、この○○レストランの食事券だったんじゃないか、と………………)

 

 

零(馬鹿かお前えェええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!)

 

 

零、大絶叫。ただし小声でなので他の面々に気付かれぬまま、片手で顔を覆うクロノに向けて叫び続ける。ただし小声で。

 

 

零(何でよりにもよってそんな重要なこと忘れてんだテメェエエッ!!!!しかも同じ日、同じ時間のこのレストランの食事会の場でバッタリとか天文学数値的レベルの偶然とかそんなチャチなもんじゃねえぞぉおおッ!!!!笑いの神にでも愛されてんのかお前ぇええッ!!!!)

 

 

クロノ(そんなはた迷惑な神様になんか愛されてたまるかぁあッ!!!!いやっ、確かにうっかり忘れていた僕の責任ではあるがっ、何でよりにもよってこんな時に鉢合わせなんてっ……!!!!)

 

 

零(それよりもどうすんだ提督っ……!!!!アレ完全にこっちに気付いてんぞっ……!!!!気付いた上でのあの氷河級のレベルの空気だぞっ……!!!!さっきの殺気は気のせいなんかじゃなかったんだどうしてくれるんだこの状況ォオオッ!!!!)

 

 

クロノ(お、おち、おおおおおおおお落ち着けっっ……!!!!こんな時こそ冷静にっ、落ち着いて対処するだっ……!!!!そもそも後ろめたい事をしてる訳でもあるまいしっ、彼女達だって流石にこんな公共の場で問題を起こし兼ねない接触なんてして来ない筈だっ……!!!!普通にしていれば後から幾らでも弁明をっ――――!!!!)

 

 

シェリー「……クロノさん?何か、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」

 

 

クロノ「ッ!い、いえ!お気になさらず!ちょっと飲み過ぎたかなぁ、なんてっ、アッハハハハハッ……!」

 

 

いやー!!、とあからさまに取り繕った愛想笑いで乾いた笑い声を漏らすクロノ。シェリーはそんな違和感バリバリのクロノの態度に首を傾げながらも、グラスに入った飲み物を口にしながら大してその事を追及せず、笑顔を向けて語り出した。

 

 

シェリー「でも、やっぱりクロノさんって素敵ですよねぇー。お母様の跡を継いで次元航行隊提督で、しかも二児のお父さん……いいなー……憧れますよー……」

 

 

クロノ「は、ははははっ、そんなっ、僕なんてまだまだ大した事はっ……」

 

 

零(詰めの甘さが原因で、現在進行形で妻に浮気現場を目撃されてる最中だしな……)

 

 

クロノ(余計な事を言うなぁッ!!というか僕は浮気なんかしてないぞッ!!)

 

 

零(いやしかし、前に何かの番組で見たが、人によっては妻に黙って他の女性と食事しに行っただけでも浮気認定されるとか……)

 

 

クロノ(君は一体どっちの味方なんだァあッ!!!)

 

 

ボソッと、何故今そんな聞きたくもない恐ろしい情報を口にするのかと思わず零に怒鳴ってしまうクロノ。しかし、シェリーは何処か艶っぽい眼差しでクロノの顔をジッと見つめながら、

 

 

シェリー「でも私、クロノさんが執務官だった頃から知ってるんですよ……最年少で執務官になっただけじゃなく、その後も色んな活躍をなさって、憧れて……この際だから言っちゃいますけど、幼かった頃の私の初恋って、クロノさんだったんですよねー……」

 

 

クロノ「へ、へぇ、そう、でしたかっ……それはまたっ、光栄というかっ……」

 

 

エイミィ「…………………………………………」

 

 

零(……クロノ、エイミィが最早無表情を通り越してスゴい顔になってるぞ……今の会話聞かれてるんじゃないか……)

 

 

クロノ(ば、馬鹿を言えっ!!この席から彼女達の席まで距離があるんだっ!!例えどんな地獄耳だとしても、僕達の会話が彼女達の耳に拾われる筈はっ……!!)

 

 

シェリー「だから今日、父さん達が勝手に決めた事とは言え、そんな幼い頃からずっと憧れてたクロノさんに、会えたのが嬉しいのも当然なんですけど……こうして直接お会いして、やっぱり素敵な人なんだなぁって実感したら……余計に、好きになっちゃったって言うか……」

 

 

クロノ「……え"?」

 

 

 

 

 

シェリー「悪い事だって、分かってるんですけどね……『略奪愛』も、アリかなー……なんて……///」

 

 

 

 

 

 

エイミィ「……………………………………………………(グググググッ!」

 

 

零(……クロノ、エイミィがお前から貰った指輪を薬指から外そうとしてるぞ……)

 

 

クロノ(エイミィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!!違ぁうッ!!!!僕はそんなつもりはないッ!!!!誤解だァあああああああああッ!!!!)

 

 

最早盗聴器の類でも密かに付けられているんじゃないかと、思わずクロノの服を眺める零にも構わずクロノは小声で絶叫をかましつつ、熱い視線を送るシェリーに向かってエイミィにも聞こえるように叫ぶ。

 

 

 

クロノ「ぼ、僕は妻一筋ですッ!!!!それはこれから先も一切変わりませんっ、ハイッ!!!!」

 

 

マリー「そ、そうだよシェリー!クロノさんにはちゃんとした奥さんがいるんだからっ、そういうのは駄目だってばっ……!」

 

 

シェリー「むうー……やっぱりダメかー……でもなぁっ……」

 

 

クロノ「そ、それよりもっと別の話をしましょうっ……!!なぁユーノっ?!最近君の近況とか今どんな感じ―――!!」

 

 

と、これ以上エイミィの逆鱗を刺激しない為に未練タラタラにクロノを上目遣いで見つめるシェリーから逃れるように、クロノが隣の席の最大戦力であるユーノに話題を振るが、その時、クロノと零の表情が凍り付いてしまう。何故なら……

 

 

 

 

 

 

ユーノ「―――ヒックッ……!いやぁ~、でもまさか、リリーさんも考古学に詳しいだなんて意外でしたよー///あっ、ジュースおかわりどーぞっ///」

 

 

リリー「うふふ、ありがとうございまーす///んんぅ……でもおいしーでふねー、このジュース♪///」

 

 

 

 

 

 

其処には、何故か頼まれていたお酒の瓶をジュースと勘違いして開き、お互いのグラスにお酒を注ぎ合いながら盛り上がって完全に出来上がっているユーノとリリーの姿があったからだ。

 

 

零「ユ、ユーノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!?」

 

 

シェリー「ちょっ、アンタ何やってんのよリリーッ?!っていうか、なんでお酒なんかあるワケっ?!」

 

 

クロノ「……それ、さっき僕が頼んだ年代物だ……話し込んでた隙にいつの間にか来ていたのかっ……!」

 

 

零「戦犯お前かいッ!!!!」

 

 

マリー「リ、リリー!しっかりしてよっ!お水飲むっ?!ねぇってばーっ!」

 

 

リリー「えふー……///」

 

 

瓶の中身はもう半分以下。零とマリーがどうにか二人を介護するもそれだけの量を飲み干したばかりに完全に酔い潰れてしまっており、その後結局、二人は店の店員が持ってきた水すらも飲み切れずに椅子やテーブルに寄り掛かりながら眠り込んでしまい、掛け布団代わりにユーノにジャケットを被せた零とクロノも深刻な顔で重い雰囲気を漂わせていた。

 

 

零(おい……おいどうするんだクロノっ……!うちの最大戦力のユーノが潰れちまったぞっ……!この後どうやって乗り切る気だっ?!)

 

 

クロノ(ッ……立て続けに思わぬアクシデントが起きてしまったが、此処から軌道修正する事はまだ可能な筈だっ……とにかく、この食事会さえ平穏無事に終わらせる事だけでも出来ればっ……!)

 

 

零(だからそれをどうするかと聞いてるんだろうっ……!!俺とお前に今時の女子に向いた話題が出来る筈も無しっ、平穏無事に終わらせるにしてもどうやって話を其処までっ―――!!)

 

 

シェリー「もう、リリーってば……ユーノさんも、流石にこのまま寝かせておく訳にもいかないし……クロノさん、スミマセンけど、二人を家まで送っていくの手伝ってくれませんか?私、車出しますから」

 

 

クロノ「……え?それ、は……僕も、ですか?」

 

 

シェリー「えぇ。私、ユーノさんの家が何処にあるか分かりませんし、ついでにクロノさんもそのまま家に送っていきますけど……あ、もしかして、クロノさんも車で来てます?」

 

 

クロノ「あ、い、いえ、今日はタクシーで来ましたから、その心配は……」

 

 

シェリー「じゃあ、今日の所はお開きにしときます?私、表に車回しますから、ユーノさんを連れて先に行って待っててくれますか?」

 

 

クロノ「そ、そうですね……!では、今日はもうこの辺にして、解散しましょうか……!」

 

 

零(ちょ、おい待てクロノっ……!ホントにこのタイミングで解散する気なのかっ……?!)

 

 

クロノ(このまま続けて火に油を注ぐような事になるよりもマシだっ……!一先ずこの食事会を成功させてしまえば、後はもうエイミィやなのは達に弁明して誤解を解くだけで済むっ……!)

 

 

零(いや……正直、それだけでアイツ等が許してくれるとは到底思えないんだが……)

 

 

クロノ(心配し過ぎたっ……!とにかく、僕はこのまま彼女達と一緒にユーノを送るついでに彼の家に行く……!君も彼女と別れた後はそのまま帰宅して、明日にでもなのは達に事情を説明して誤解を解け……!分かったなっ……?!)

 

 

とにかく今はエイミィ達の目から逃れたいのか、クロノは零にそう言ってから手早い動きでユーノの肩を首に回し、そのまま足早にホールの外へと逃げるように去っていってしまう。

 

 

零「逃げ足速ぇなアイツ……」

 

 

マリー「えーと……じゃあ、私達も今日はこの辺にして、そろそろ行きましょうか?」

 

 

零「え、あ、あぁ……そう、ですね……じゃあ、タクシーでも呼んで――」

 

 

シェリー「え?何言ってんの?アンタはまだ残んなきゃダメよ、黒月さんも!」

 

 

マリー「……へ?」

 

 

零「……は?」

 

 

と、クロノに続いて自分達も帰宅の準備をしようと椅子から立ち上がり掛けた零とマリーを制止したのは、何故かクロノ達を先に行かせた筈のシェリーであり、二人が彼女の言葉に揃って聞き返すと、シェリーはニヤニヤとした笑みを浮かべながら懐からキーのような物を取り出し、マリーの手に握らせた。

 

 

マリー「……?な、何これ?」

 

 

シェリー「何って、見てわかるでしょ?このレストランの下にあるホテルの、ス・イ・ー・ト・ル・ー・ム……の鍵♪」

 

 

零「…………は?」

 

 

マリー「え……えええええええええッ!!!?///」

 

 

「「「(ガタァッ!!!)」」」

 

 

思わぬ品を渡されたマリーの絶叫と共に、なのは達が思わず飛び出そうとした椅子の物音が激しく響き渡った。その音にビクゥッ!!と零がビビる中、そんな零の様子に気付かずシェリーは溜め息混じりに語り出す。

 

 

シェリー「まー、ホントは私がクロノさんと一緒に行くつもりで取った部屋なんだけどねー……でも、ほら、アンタもせっかくずっと憧れてた黒月さんとお会い出来たんだし、この出会いをチャンスにしないと♪」

 

 

マリー「だ、だだだだだっ、だけどそんなっ、今日初めて会ったばかりなのに、ま、まだ早いよそんなっ……!!」

 

 

シェリー「もー、今更なに言ってんだかー……今日の為に、勝負下着してきたクセに……」

 

 

マリー「ちょっとぉおおおおおおっ?!!////」

 

 

 

 

 

―バリィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッッ!!!!―

 

 

「ッ?!お、お客様っ……?グ、グラスがっ……」

 

 

なのは「……へ?あ、ごめんなさーい♪ちょっと力み過ぎちゃったみたいでー♪」

 

 

はやて「やー♪此処のお料理が美味しすぎて飲み物もついつい進むから、酔ってしまったんかなー♪あははははははははははははははははははははははっ♪」

 

 

フェイト「もう、はやてったらー♪私達が飲んでるのは、ノンアルコール、だよー♪あ、グラスは後で弁償しますねー♪」

 

 

 

 

 

零「――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

ああ、マズイ。この流れはマズイ。

 

 

直感的にそう思っただけで具体的に何がマズイのかまでは良く分からないが、それでも気付かぬ内になのは達の地雷を踏み抜いていってしまってるのだけは分かる。

 

 

ただの握力だけでグラスを粉砕し、ポタポタッと中身にあった飲み物で濡れた手を振って恐怖に震える店員に笑顔を向けるなのは達を横目に、零も恐怖のあまり呆然と立ち尽くす中、シェリーはニシシと歯を見せて笑ってみせた。

 

 

シェリー「大丈夫大丈夫、私も実はまだクロノさんのこと諦めてないから♪ユーノさんとリリーを送った後で幾らでも二人きりになる機会ある訳だしねー」

 

 

マリー「き、機会ってっ、シェリーまずいってばっ!相手はあのクロノさんだし、下手したら不倫問題に……!」

 

 

シェリー「残念、私は恋に生きると決めたのよマリー君!じゃあそーゆー訳なんで、黒月さん、マリーのこと宜しくー♪」

 

 

マリー「ちょ、まっ、シェリーっ!!」

 

 

エイミィ「……私、ちょっと行ってくるね」

 

 

なのは「どうするの?」

 

 

エイミィ「タクシーで追い掛けて、現場抑えて来る」

 

 

フェイト「うん、頑張って……」

 

 

零(……生き延びろよクロノ……俺にはもう、お前に何もしてやれそうにない……)

 

 

軽快に走り去っていくシェリーの後を追うように、ドンッ!と足音に怒りを滲ませて出ていくエイミィの姿を目で追いながら、遠い目で内心クロノの無事を祈る零。そしてマリーがそんなエイミィに気付かず、心配そうにシェリーが去っていった方を見つめていると、零は若干歯切れ悪くこう告げる。

 

 

零「その……心配はいらないと、思いますよ……クロノの奴は見た目通りの堅物ですから、自分の嫁を裏切るような真似はしないかと……」

 

 

マリー「!そ、そうですよね!ごめんなさい……別にクロノさんを信じてない訳じゃないんですけど、シェリーは昔から、コレ!って決めたらどんどん突き進んでいっちゃう子なんで……あの子の勢いに押し切られでもしたら、どうしようかと心配になってしまって……」

 

 

零「あぁ……成る程……」

 

 

だとしたら、場合によってはとんでもない場面を抑えられてアイツも血を見兼ねないなと、この後のクロノの運命を垣間見てマリーにバレないように合掌する零だが、マリーは申し訳なさそうに眉を潜めて零の方に振り返った。

 

 

マリー「でも今更ですけど、奥さんがいるのに私達みたいなのの我侭に付き合わせてしまって、ホントにご迷惑でしたよね……もしかして、零さんも、恋人がいるのに私達に無理矢理付き合わせてしまったりとか……」

 

 

零「えっ?あぁ、その心配なら別に……恋人とかいないですし、そもそも今まで一度も作った事がないんで……」

 

 

マリー「そうなんですか……って、一度もっ?!一度も彼女とか作った事がないんですかっ?!」

 

 

零「えぇ、まぁ……元々愛想が悪いとは度々言われてるので、周りからは印象悪く思われてるんだと思います……今日まで生きてきてこの方、異性に恋愛的に好かれていると感じた事は一度もないので……」

 

 

それはただ単純にお前がありえないくらい鈍いだけだろうがっ……!!と、長年奴の鈍感に振り回されてきたなのは達が怒りの炎に更に油を注がれて血管が浮かび上がるほど強く握り締めた拳をフルフルと震わせる中、零の話に聞き入っていたマリーが手の中の鍵をジッと見つめると、何かを迷うかのように視線をさ迷わせた後、何度か深呼吸をして零を見上げ……

 

 

マリー「―――あ、あのっ……!零さんって、恋人はいらっしゃらない……んですよ、ねっ……?」

 

 

零「……?えぇ、今もそう言いましたが……」

 

 

マリー「じゃ、じゃあ、あの……もう少しだけ、一緒にいて欲しいと私が頼んでも……ご迷惑ではありませんか……?」

 

 

零「はぁ……え……はい?」

 

 

マリー「で、ですからっ……!そのっ……」

 

 

察しが悪く首を傾げて聞き返す零に対し、マリーは若干テンパった様子で「うぅ~~~~……!!」と真っ赤になった顔で目を強く瞑りながら唸るも、恐る恐る、零のスーツの袖端をギュッと掴み、恥ずかしげに俯きながらか細い声で呟く。

 

 

マリー「その……へ、部屋……一緒に、行ってもらえませんか……?零さんと一緒じゃないと……その……意味、ないと思いますからっ……///」

 

 

零「え……」

 

 

「「「ッ?!」」」

 

 

マリーの口から飛び出した思わぬ大胆発言。それを耳聡く聞き取ったなのは達がバッ!と勢いよく振り返り緊張が走る中、その言葉を向けられた当人である零はと言うと……

 

 

零(二人で、部屋……?いやまぁ、大前提として名家のご令嬢が俺なんぞを恋愛対象として見るなんてありえないとして……一体何が目的でそんな誘いをっ……?)

 

 

……などと、この状況で一番の可能性を「まず無い」とアッサリと切り捨てただけでなく、まるでフィクションの中の探偵のようなシリアスな推理顔でマリーの意図が何なのかと推理しようとするなどと、とんでもなく場違いな事を考え始めていたのだった。

 

 

しかしそんな馬鹿な男の頭の中など露知らず、マリーはと言えば「言ってしまったっ……!!やってしまったぁああああああっ……!!!///」と、凄まじい羞恥心と僅かな後悔がゴチャゴチャに入り混じった感情から、傍から見れば心配になりそうなほど真っ赤に染まった顔で俯き、零はそんなマリーの意図を探ろうとジーーッと顔を見つめ……

 

 

零(……ッ!嗚呼、そうか……そういう事か……やはりそうだったんだな……)

 

 

マリーの意図を察したのか、赤面しながら不安で小刻みに震えるマリーを見て何かに気づいた様子で瞼を伏せ、零は悟ったように穏やかな笑みを浮かべながらマリーを見つめ、そして……

 

 

零(―――やはり、着ているドレスが一回り小さいせいで着替えたくて仕方なかったんだな……。初見の時からスタイルとドレスのサイズ差に違和感があったのには気付いてはいたが、可哀想に……顔があんな真っ赤になるほどキツかったのを、ずっと我慢し続けていたのか……)

 

 

―――とんでもなく素っ頓狂な思い違いを心の中で吐露してやがったのだった。

 

 

しかし当の本人はそんな自分の思い込みに何処から来ているのかも分からない自信から確信し、哀れむような眼差しをマリーに向けながら勘違いの暴走は更に加速していく。

 

 

零(確かに、このドレスのタイプで、しかもサイズが合っていないとなれば一人で脱ぐのは困難だろう……昔、なのはの奴が間違ってサイズの合わないドレスを着たばかりに、一人で脱げずフェイト達の手を借りてワンワン言っていたし……ううむ……女は見栄を張りたがる生き物だとは聞いた事があるが、それは何処も一緒なんだなぁ……)

 

 

感慨深そうに「うんうん」と頷く零だが、その推察が何一つ当たっていないのが悲しい所である。

 

 

唯一合っているとすれば、マリーのドレスのサイズが実際合っておらずキツキツという、口にすれば場合によってはセクハラと訴えられても文句の言いようのない事ぐらいなのだが、現在進行形でそういった女心を学習中の経験から流石の零も言葉を濁すよう努めつつ、マリーの肩に手を置きながら……

 

 

零「分かりました……なら、一緒に行きましょうか?」

 

 

「「「なあっ……!!?」」」

 

 

マリー「ッ?!えっ、え、ええっ?!い、良いんですかっ?!」

 

 

零「えぇ、心配しないで下さい。俺がちゃんと(ドレスを着替えられるように)リードしますから……何より……」

 

 

よしよし、今回はちゃんと女心を気遣って言葉を選べているぞ……と、(零の感覚では)手応えを掴めていると実感を得て得意気になり、更には数年前に中学の学園祭で開かれた女装コンテストにて、男連中共に嫌々女物の服やドレスを着せたり脱がしたりした経験から、何の自慢にもならない自信と共に爽やかな笑みを向けながら……

 

 

 

 

 

零「―――こう見えても俺、女性の服を脱がすのだけは得意なんでっ!」

 

 

 

 

 

……経緯が分からなければ最早ただのスケコマシにしか聞こえないとんでも発言をブチかましたと共に、なのは達が全力全開でブン投げた殺傷力満載の椅子がマッハの勢いでぶち当たって横殴りで吹っ飛んだのは、そのすぐ直後の事であった……。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――――事後報告。

 

 

その後、凶器と化した椅子と共にぶっ飛んだ黒月零は高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての三人の手によって確保。

 

 

マリー・アーデンも突然目前で起こった事態に最初こそ混乱していたものの、なのは達を見た瞬間に「エ、エース・オブ・エースの高町なのはさんっ?!フェイト・T・ハラオウンさんに、八神はやてさんまでっ?!」と、目の前にいきなり現れた憧れの人達を前に目を輝かせて感激しまくり、なのは達も最初の方はそんなマリーのテンションに圧されて若干戸惑いはしたものの、直接話していく内にマリーの自分達に対する純粋な想いが伝わったのか、その後は意気投合し、頭に包帯を巻いた零を間に挟んで楽しく会話(ただし、零には終始プレッシャーを掛けながら)した末、帰宅の際にはなのは達と零と共にフェイトの車で家まで送ってもらったのだが、その際……

 

 

 

 

マリー「あのっ、今日は本当にありがとうございましたっ!ほんっとうに楽しかったですっ!その……零さんも、機会がありましたら……またお話させてもらってもいいですか……?///」

 

 

フェイト「フフッ、もちろん良いに決まってるよ♪ねー零♪だって、こーーーーんな可愛いガールフレンドを泣かせるような事はしないもんねー♪」

 

 

零「……………………………………………………………………あの…………ちょっと、野暮用を思い出したんで、俺もこの辺で降りても―――」

 

 

なのは&はやて「「は?」」

後部座席で、零を間に挟んで座っている。

 

 

零「アッハイ、ウソデス、ハイ……」

 

 

マリー「?」

 

 

 

 

――――それから翌日。

 

 

酔い潰れたユーノはあの後無事に帰宅したらしいが、昨晩の記憶もあやふやで、しかも頭を締め付けるような二日酔いが抜き切れぬまま仕事に向かったせいで無限書庫の大規模探索で本領を発揮出来ず

 

 

クロノは一応本人の名誉の為にも詳しい事は話せないが、あれから暫くハラオウン家は嘗てない程の冷戦状態となったらしく、同居人のアルフ曰く「子守りがなけりゃ今すぐにでも他所へ避難したい……」と憔悴し切った顔でくたびれ、その様子からどれだけあの家が壮絶な事態になっているか伺い知れる。

 

 

そして、なのは達の手によって機動六課に連行された零はと言うと―――まぁ、これに関しては特に語るまでもない……。

 

 

強いて言うならば、その次の日、黒月零が六課に出勤した姿を誰も見なかった、という事ぐらいだろうか……。

 

 

 

 

 

 



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番外編/ドールと大輝の実験

 

 

――――突然だが皆さん。黒月零という、超が幾つあっても足りない鈍感野郎の事をご存知だろうか?

 

 

その鈍感は知る人ぞ知り、その酷さはもう酷いというレベルではない。

 

 

『コイツの頭ん中はどうなってんだ?』という、末期を越えたレベルの酷さだ。

 

 

周囲の人間達も何度かコレを治そうと試みるものの、その全てが失敗に終わってしまったという過去が幾つもある。

 

 

一度は異世界の知人を介してこの鈍感をどう治せばいいかと募集を掛けたが、「治せない」、「無理無駄無謀」とどれもこれも匙を投げられてしまった。

 

 

加えて最悪な事に、こやつはデリカシーの『デ』どころか、DELICACYの『d』すらない男で、それが原因で幼なじみ達からフルボッコにされるという日々が続いている。

 

 

これに関してももう、学習能力がないとかのレベルではない。

 

 

本人曰く、『ガキの頃からこんな感じだったからな、多分もうクセとかそういうのに近い形で染み付いてるんだろう……』との事で、最早改善の余地が見られない程酷くなってしまってる。

 

 

どちらかでもいい。完治とまでは行かなくても、どうすれば改善してくれるのか……。

 

 

一度は少女の身体になってしまったこともあり、その経験で何か少しは学んだことがあったのではないかと思いきや、結局元に戻っても彼は彼のままで何も学んでないっぽい。

 

 

一体何が悪かったのか……作業片手間に考えた末に、ドールはある仮説を立てた。

 

 

姿形が変わっても特に何も学ばなかったのは、身体が女になろうが、結局は彼が彼のままだった為に女性にDELICACYを抱くにまで至らなかったからではないか。

 

 

……では、仮に他の女性の身体になってしまった際、彼は女性の身体を気遣い、ほんの少しのDELICACYを抱くのではないか?と。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

ドール「――という経緯があって今回の実験に至ったワケなのですが、まだ何か意見でも?」

 

 

アズサ?「大有りだこのトラブルメーカー共がぁあああああああああああああああああああッッ!!!!」

 

 

―ガッッッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

そんな腹の底からの怒声と共に、テーブルがちゃぶ台の如く思いっきりひっくり返った盛大な音が、午後の光写真館全体に響き渡った。そして、ひっくり返ったテーブルの傍にはビビった様子でソファーの上で身を引く優矢と、動じる様子もなく椅子に座って足を組む大輝とドール、何故か内股に組む両足の間に座るシロの頭を静かに撫でる零と、テーブルをひっくり返した張本人……普段の彼女なら絶対にそんな事はしない筈のアズサが、怒りの形相で大輝とドールを睨み付ける姿があった。

 

 

大輝「あっぶねえぇー……いきなり酷いじゃないか、"零"?怪我でもしたら一体どう責任を取ってくれるんだい?」

 

 

アズサ?「喧しいわっ!!毎度毎度はた迷惑なトラブルに人を巻き込みおってっ!!何だっ?!お前等は俺に恨みでもあるのかっ?!新手の鳴滝からの刺客かっ?!」

 

 

そう怒りを露わにして大声で叫ぶアズサ……ではなく、大輝とドールの手によりアズサの身体と入れ代わってしまった零だが、ドールはそんなアズサ(零)に対し左手をパタパタさせながら呑気に笑い掛けた。

 

 

ドール「まっさかぁ~。大輝さんはともかくとして、私は単純に零さんのためを思ってやったまでですよぉ?毎度毎度懲りもせずセクハラ発言をかます零さんのそんな性格を改善すべく、女性の身体を労るっていうデリバリー精神を学ばせたいなぁ~と」

 

 

優矢「それを言うならデリカシーな、何をデリバリーすんだよ。今の混沌な状況をか?」

 

 

アズサ(零)「余計なお世話過ぎるわっ!誰もそんな事は頼んどらんだろっ!大体俺だけでなく何でアズサまで巻き込むかっ!」

 

 

そう言いながらビシッ!と勢いよくアズサ(零)が人差し指で突き付けたのは、ソファーに座ってシロを撫で続ける零……ではなくて、零の身体に入れ代わってしまったアズサであり、シロはそんな何時もの零らしくない零(アズサ)を見上げて若干ビクビクしている中、大輝は律儀に近くに落ちている包みに入った茶菓子を拾い集めながら適当に答えた。

 

 

大輝「仕方がないだろう?他の女性陣はタイミングが悪く留守でアズサしかいなかったんだし、あまり人がゴチャゴチャいられると、この薬で余計なのまで心と身体が入れ代わってしまうんだから」

 

 

ドール「イエース!この私が開発した『IREKAWARU』は機密性が高く、吸い込んだ人同士の精神が入れ替わってしまうのデース!もし優矢さんがもう少し早く帰ってきてたら、恐らく優矢さんが零さんかアズサさんのどちらかになっていたかもしれませぬなぁ」

 

 

優矢「……考えたくもないなソレっ……」

 

 

デデデーンと怪しげな形状のスプレーを掲げるドールの言葉を聞いてその光景を思い浮かべたのか、心底巻き込まれずに済んで良かったと苦笑いを浮かべる優矢。まあつまり、何故こんなことになってしまったのか経緯を簡潔に説明しますと……

 

 

 

 

計画を企てた大輝&ドールがIREKAWARUを手に写真館に侵入。

リビングに零とアズサしかいないのを確認し、ドールがIREKAWARUを室内に注入。

二人はIREKAWARUを吸ってすぐに気を失って倒れてしまい、目を覚まして自分達の精神と身体が入れ替わっている事に気付き混乱。

直後に写真館に帰ってきた優矢が、アズサ(零)の絶叫を聞いて慌ててリビングに駆け付けようとし、ドールと大輝を発見&強制連行。

二人から事情を全て吐いてもらい、アズサ(零)が怒りテーブルをひっくり返す。↓

今現在。

 

 

 

こんな感じである。

 

 

 

 

アズサ(零)「とにかく早く元に戻せっ!こんな姿じゃ録に動き回れんし、もしアイツ等に見られでもしたらっ……!」

 

 

ドール「いえ、今は無理っす。元に戻す薬とかねーんで」

 

 

アズサ(零)「……………………………はっ?」

 

 

優矢「え?ま、まさかそれってっ、二人はずっとこのままとか……?!」

 

 

ドール「いえいえ、時間が経てば勝手に元に戻れますよ。まあ今日中って以外は分かりませんから、十分か一時間か半日かは分かりませんが……」

 

 

アズサ(零)「不確か過ぎるだろっ……!夜になるまでこの姿のままなんて御免だぞっ?!」

 

 

零(アズサ)「……零、私は別に暫くこのままでも大丈夫……他の人と身体が入れ代わるなんて貴重な体験が出来て、楽しいし……」

 

 

アズサ(零)「いや、お前が認めたらコイツ等が余計に調子に乗るだろっ!ほらっ、見ろっ!ドールのヤツが『計画通り……』みたいな顔して笑ってんぞっ!」

 

 

シロを撫でる零(アズサ)にそう叫びながらアズサ(零)が指差したドールは、確かに一同から顔を逸らし不敵な笑みを浮かべてニヤリとしており、そんなドールの隣でテーブルをしっかり元に戻した大輝も椅子に再び腰を下ろし、いつもの笑みを浮かべた。

 

 

大輝「まあとにかく、元に戻るまではしっかりアズサの身体を守る事だね。下手に一生付いて回るような傷でも付けたら、アズサは嫁入りも出来なくなるかもしれないぞ?」

 

 

アズサ(零)「……クッ……コイツの身体は俺ほどではなくても頑丈なんだ、そう安々と傷なんか付くかっ……」

 

 

優矢(とか言いながら、しっかりアズサの身体を気遣いながら座るのな……)

 

 

フンッと不快げに鼻を鳴らしながらアズサのスカートをしっかり下げ、静かにソファーに座るアズサ(零)を見て優矢は内心苦笑いを浮かべていき、そんな優矢の様子に気付かずアズサ(零)は頭痛で額を抑えてうなだれた。そんな時……

 

 

 

 

零(アズサ)「……ん……」

 

 

 

 

額に手を当ててうなだれるアズサ(零)の隣でシロと遊んでた零(アズサ)が不意に僅かに身じろぎし、膝の上のシロを床に下ろして徐に立ち上がった。

 

 

ドール「お?何処に行くんですアズサさん?」

 

 

零(アズサ)「トイレ……」

 

 

ドール「ああそうでしたか、サーセンな引き止めて。いってらー(´∀`)ノシ」

 

 

優矢「にしても、ホントにお前がアズサの身体に入れ代わると違和感しか感じねーなぁ……アズサのそんな無愛想そうな顔なんて見たことないぞっ?」

 

 

アズサ(零)「悪かったなっ。これが俺じゃなくてお前だったら、もっと呑気な顔になれてただろうさ……」

 

 

優矢「ひどっ?!」

 

 

大輝「…………」

 

 

ドールに見送られリビングを後にする零(アズサ)の背が見えなくなるまでジッと見送った後、大輝は目の前のアズサ(零)と優矢に視線だけ向けるが、二人は気に止めた様子もなく台所に向かってお茶を要れてきたりして話を続けている。

 

 

大輝「零、いいのかい?アズサを行かせて」

 

 

アズサ(零)「……?何がだ……?」

 

 

大輝「彼女、今さっきトイレに発ったぞ。放っておいてもいいのかい?」

 

 

アズサ(零)「は?……おいおい、アイツが一人で便所にも行けないようなヤツに見えるのか?其処までガキじゃないんだぞ、失礼な奴だな」

 

 

大輝「ほう……そうかい」

 

 

呆れるように言いながら今要れてきたばかりの茶を啜るアズサ(零)にそっけなくそう返すと、大輝も静かに椅子から立ち上がって台所を借り、お茶を注いで口に運み、一口啜ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

大輝「いや、あのままだと彼女は君の身体でトイレを済ませる事になるんじゃないかと思ったんだが、君はそういうのは気にしないのか。なら安心したよ」

 

 

アズサ(零)「…………あ?」

 

 

優矢「…………え?」

 

 

大輝「…………うん?」

 

 

アズサ(零)「…………」

 

 

優矢「…………」

 

 

大輝「…………」

 

 

ドール「ずずずっ……あ、茶柱。ラッキー」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、到底聞き流せないような事を飄々と告げられ、二人は大輝の顔を見つめながら硬直し、大輝もそんな二人の顔を見つめ返し固まってしまった。

 

 

そして、アズサ(零)と優矢も一瞬大輝が何を言ってるか理解出来ず硬直した後、一同の間に沈黙が流れ……

 

 

 

 

アズサ(零)「おおおおおおおおいアズサァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーっっっ!!!!待てッ!!待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 

 

―ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッッッ!!!!!!!―

 

 

 

 

漸く事の重大さを飲み込むと共に、アズサ(零)は急いでリビングから飛び出して零(アズサ)が入っていったトイレへと駆け出し、必死の表情でトイレの扉を何度も何度も殴るように叩いていったのであった。

 

 

『?零?どうしたの?』

 

 

アズサ(零)「どうしたじゃないんだっ!!今すぐそこから出ろっ!!早くっ!!頼むからっ!!」

 

 

『……あっ、もしかして零もトイレ?待ってて、私が終わってから――』

 

 

アズサ(零)「そうじゃないんだっ!!今のお前の身体は俺の身体であってっ、だからっ――!!」

 

 

『?……ああ……大丈夫、任せて。元の身体と違って慣れないけど、零の身体を汚したりはしないから』

 

 

アズサ(零)「そういう事を言ってるんじゃないっ!!……あれ?おい待て、何だこのカチャカチャって音?……おい、まさか?……や、止めろアズサァッ!!!待てッ!!!頼むから止めろッ!!!止めろぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」

 

 

慣れていないせいで自分の身体を汚されるんじゃないかとアズサ(零)が心配しているんだと勘違いしたのか、何処か張り切った様子の零(アズサ)を止めようと、ダンダンダンダンッガチャガチャガチャッ!!と、扉を叩いたりドアノブを回したりを繰り返しながら必死にそう叫ぶアズサ(零)だが、そんな声も虚しく廊下に響き渡るだけであり、そうして……

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

――結論から言いますと、零の身体は無事、アズサのお陰で何処も汚れずに戻って参りました。

 

 

 

 

アズサ(零)「……………………………………………………………………」

 

 

優矢「あー……そのぉ……零さぁーんっ……?」

 

 

大輝「ぶっ……くくっ……そ、そう気を落とすなよ零?良かったじゃないかっ、アズサがちゃんと君の身体をっ……ぶふっ!」

 

 

零(アズサ)「うん……私、頑張った、零……」

 

 

微塵の悪意もなく、部屋の片隅で体育座りして暗い影を落とすアズサ(零)に向け両腕で小さくガッツポーズを取る零(アズサ)だが、その隣で大輝が顔を逸らして爆笑するのを必死に堪えている。優矢はそんな大輝を呆れるような目で見つめながらアズサ(零)に何と声を掛けようか迷ってしまうが、そんな彼等の間を抜けてドールがるんるんスキップでアズサ(零)へと近寄り、物凄く良い笑顔で彼の肩に手を置いて……

 

 

ドール「ねえねえ今どんな気持ちィ?NDK~?年頃の女の子に自分の身体の放尿を見られるってどんなキモジブオァアアアアアアアアアッ!!!?」

 

 

アズサ(零)「ぶっ壊すッ!この人形だけはスクラップにしてゴミの山に埋めてやるぅううううううううううううううッ!!!」

 

 

優矢「お、おおおおお落ち着け零ッ?!!止めとけってっばっ!!!」

 

 

言葉の途中で奇妙な悲鳴に変わったのは、アズサ(零)が目にも止まらない速さで振り向き様に強烈なエルボーをドールにお見舞いしたからだ。そして白目を剥いて仰向けに倒れるドールにトドメを刺そうとするアズサ(零)を優矢が背後から羽交い締めにして必死に止めていき、アズサ(零)は諦めたようにガクリと床に崩れ落ちてしまった。

 

 

アズサ(零)「クソォッ……くそおぉぉっ……ホントにいい加減にしろッ!!一体何時になったら元の身体に戻れるんだッ?!」

 

 

大輝「ンンッ……。それは俺達にも分からないって言っただろ?一分後かもしれないし、一時間後かもしれないし。まぁ元に戻る時には戻るから、心配しないでくれたまえ♪」

 

 

アズサ(零)「寧ろ心配しかないわッ!……あぁ、もういいっ、お前らの顔を見てると余計にストレスが溜まるっ……」

 

 

無償に殴り掛かりたくなる笑顔を向ける大輝から顔を逸らして忌ま忌ましげに舌打ちすると、アズサ(零)はそのまま床から立ち上がり大輝を無視してリビングを後にしようとする。

 

 

優矢「え、零?何処行くんだよ?」

 

 

アズサ(零)「便所だよ……いい加減一人にもなりたいし、別に何処にも行きやしない……」

 

 

疲れた様子で溜め息混じりにそう呟くと、アズサ(零)は今度こそノロノロとリビングを後にしトイレへと向かっていった。そんな彼の背中から滲み出る疲弊感を感じ取った優矢も黙ってアズサ(零)を見送ると、深く溜め息を吐いて大輝にジト目を向けた。

 

 

優矢「ホント、あんた等もいい加減にしといてくれよ?このままじゃまた余計なトラウマをアイツに植え付ける事になんぞっ」

 

 

大輝「うん?ドールはともかく、俺は本当に最初から興味本位の面白半分で関わっているだけだよ?こんな方法であの零が本当にデリカシーを学ぶのかってさ」

 

 

優矢「いや無理だろ、あの零だぜ?こんなんで治るならなのはさん達がとっくに治してるって……」

 

 

大輝「かもね、まあ別に俺はそれでも良いんだけど。その過程でさっきみたいなのが見れれば面白いし♪」

 

 

優矢「知ってはいたけど、アンタ本当に最悪なっ?!―ガタンッ!―……え?」

 

 

爽やかな笑顔で人で無しな発言をする大輝にツッコミを入れる優矢だが、その時、不意にリビングの入り口の方から物音がして一同の視線がそちらへと集まっていく。すると其処には今し方、トイレに立ったハズのアズサ(零)が入り口の前でガクリと肩を落として座り込む姿があった。

 

 

零(アズサ)「零?」

 

 

優矢「お、おい、どうしたんだよ?」

 

 

アズサ(零)「………………………………な………………………い……………」

 

 

優矢「は?な、何だってっ?」

 

 

何だか小刻みにプルプルと震えながら顔を俯かせボソボソと何か呟いているようだが、声が小さくて上手く聞き取れずにアズサ(零)に聞き返す優矢。それに対しアズサ(零)は唇を噛み締めてギュッと左手でスカートを押さえると、何かを猛烈に我慢しているような真っ赤になった顔を上げ、涙を浮かべながら……

 

 

 

 

アズサ(零)「―――ア…………アズサの身体、だからっ…………トイレっ…………出来ないっ…………!」

 

 

『…………あー…………』

 

 

零(アズサ)「……?」

 

 

 

 

納得したように、優矢と大輝は揃って声を漏らした。先程の零(アズサ)は中身がそういうのを気にしない為に自然と行けたが、アズサ(零)はそういう訳にはいかない。中身が男なのに他の女の身体でそのまま手洗いなど、アウト過ぎる。セクハラである。変態である。なので……

 

 

アズサ(零)「ぐうぅうううううっ……クッソッ……!さっきから何時でも行けるからと我慢していたのにっ、畜生っ……こんな落とし穴がぁっ……!!」

 

 

優矢「え、ええっとっ……と、とにかくもう少し我慢しろっ!今なのはさん達に連絡して手を貸してもらうように頼んでみっからっ!」

 

 

アズサ(零)「無理だっ……限界が近いっ……!」

 

 

優矢「もうそんな水位レベルなのっ?!もうちょっと我慢しろよ子供じゃあるまいしっ!!」

 

 

アズサ(零)「女の身体は男の身体の時に慣れてる歯止めの効き方と違うんだよぉッ!!オマエ男と女の尿道の形状が大きく違うって事を知らんのかぁッ!!!」

 

 

優矢「知らねぇよッ!!!と、とにかくなのはさん達を呼ぶから待ってろってッ!!!」

 

 

此処にいる男二人では手の打ちようがない。とにかく今は買い出しに出掛けてるなのは達を急いで呼び戻しこの事態の収束を手伝ってもらおうと、優矢は携帯を片手にリビングを慌てて飛び出していき、アズサ(零)と零(アズサ)と気絶してるドールと一緒にリビングに残された大輝は呆れるように溜め息を吐いた。

 

 

大輝「君も頑固だなぁ……身体の事なんて気にしないでさっさと済ませてしまえばいいのに」

 

 

アズサ(零)「ソッ……ッ!そんな訳に行くかぁっ……いくら俺でもっ、其処まで無遠慮って訳じゃないんだぞっ……!」

 

 

零(アズサ)「零……私なら別にそんなこと気にしないよ……?」

 

 

アズサ(零)「イヤ、お前が気にするとか気にしないとかの問題じゃなっ―――ッ!そ、そうかっ!」

 

 

最早我慢の限界の寸前だと言う所で、突然何かを思い付いたかのようにバッ!と顔を上げて、アズサ(零)は零(アズサ)の腕を掴んだ。

 

 

アズサ(零)「アズサ……!お前、俺と一緒にトイレに付いて来いっ!」

 

 

零(アズサ)「え……?」

 

 

大輝「オイオイ、なんだい急に?我慢のし過ぎで遂に気でも狂ったのか?」

 

 

アズサ(零)「そうじゃないっ!俺が見たり触れたりするのはアウトだがっ、この身体の持ち主のコイツが手伝ってくれるのならセーフだろっ!用を足してる間は俺も目隠しして身体に触れないようにしてれば、何の問題もない訳だしっ……!」

 

 

大輝「……ふむ。まあその様子を見ることになるのはその身体の持ち主のアズサだしね……元の身体に戻ったとしても、君は目隠しで何も見えていなかった事になるだろうし、多分問題はないかな?」

 

 

アズサ(零)「だろうっ?!そんな訳だから頼むアズサっ、手を貸してくれっ!本当にもう限界なんだっ……!」

 

 

零(アズサ)「……分かった……それで零を助けられるなら、手伝う」

 

 

アズサ(零)「助かるっ……!よしっ、そうと決まれば急ぐぞっ!」

 

 

漸くこの我慢地獄から解放されると希望を抱き、アズサ(零)は急いでその辺りに掛けてあった目隠しに使うためのタオルを手に取って零(アズサ)と共にリビングから慌てて飛び出し、そのまま二人一緒にトイレへと騒がしく駆け込んでいったのであった。

 

 

大輝「……はぁ……全く、よくもまあこんなしょうもない事でグチグチ悩める物だ……あのまま零がトイレに直行した時には、なのはさん達へのネタに使えると思ったんだけど」

 

 

それが残念だったなぁと、大輝がそう呟きながら椅子に腰を下ろしてテーブルの上の茶菓子に手を伸ばそうとした。その時……

 

 

―ガチャンッ!―

 

 

『零っ?!』

 

 

『零君っ!大丈夫っ?!』

 

 

大輝「……ん?」

 

 

不意に突然、玄関の方から勢いよく扉が開け放たれる音と聞き慣れた声が幾つもの響き渡ったのだ。そしてその音に釣られ大輝がリビングの入り口の方へと振り返ると、玄関の方からバタバタと騒がしい足音と共に買い物袋を手にしたなのはとはやてと、そしてその二人を呼びに出ていった優矢がリビングへと慌てて駆け込んできた。

 

 

大輝「おや、やっと帰ってきたのかい?」

 

 

はやて「ぜぇっ…ぜぇっ……あ、あれっ?大輝君っ、零君はっ?」

 

 

なのは「ゆ、優矢君から、電話で零君が大変なことになってるって聞いて、慌てて戻ってきたんだけどっ……」

 

 

大輝「ああ、彼かい?彼だったら君達が来る前に――」

 

 

と、大輝が適当な調子でテーブルに頬杖を付きながらトイレに駆け込んだ二人のことをなのは達に教えようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥ……ビガアァァァァァァァァァァァァァァァァァアァッ!!―

 

 

大輝「……ッ?!」

 

 

なのは「え?な、何っ?!」

 

 

突然、前触れもなく廊下の方から激しい光が放たれたのであった。その光を目にした一同は驚愕して戸惑いを浮かべるが、光はすぐに何事もなかったかのように収まって消えていった。

 

 

優矢「な、なんだ今の……?」

 

 

はやて「今の光って……トイレから……?」

 

 

大輝(……あ、今の現象って確か……)

 

 

なのは「もしかして零君、トイレに……?!」

 

 

廊下から見えた光で何かを察したような大輝の様子に気付かず、なのは達はすぐさま買い物袋を置いて廊下へと飛び出し、トイレの前に辿り着くと共に鍵が掛けられてない扉のドアノブを掴んで回転させ、勢いよく扉を開け放った。

 

 

はやて「零君っ!」

 

 

優矢「大丈夫か零っ!今の光はなん――――」

 

 

扉を開け放ち、言い掛けた優矢の台詞がトイレの中の光景を目の当たりにした瞬間、ピタリと止まった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「――?……???……????」

 

 

零「………………………………………(゜д゜)」

 

 

 

 

 

 

 

 

便器の前でタオルで目隠ししたまま佇み、その足元には脱がれたスカートが床に落ち、何が起きたのか分からず困惑した様子でキョロキョロと頭を動かすアズサと、そんなアズサの白い太股に下着を履かせようと(脱がせようとしてるようにも見える)屈んで布を通し、開かれた扉を見て唖然とした顔を浮かべる零の姿があったからだった。

 

 

……どう見ても変態の画です、本当に(ry

 

 

はやて「……一つ……確認したいんやけど……」

 

 

なのは「今……その零君の身体には、誰が入ってるのかな?アズサちゃん?それとも、まさか……レ イ ク ン ?」

 

 

零「………………………………………ァ………」

 

 

はやて「あ、アズサちゃんなら全然問題あらへんよ♪しょーじきに言うてくれればええから♪ウン♪」

 

 

零「………………………………………………」

 

 

そう言いつつも、彼女達の背後から凄まじい阿修羅のオーラが見えるのは何故だろうか。いや、そんな事は今はどうだっていい!

 

 

晴れて元の身体に戻れたというのに、よりにもよって最悪なタイミングで最悪な場面の最中に絶対見られてはいけないヤバい奴らに見られてしまったっ。

 

 

本当に最悪だ、だが幸いにもまだこちらが黒月零なのかアズサなのかは分かってはいないのは好都合だ。

 

 

ならば此処は全力で、この場を切り抜ける為にシラを切るのみっ!!

 

 

零「ソ……ソウダヨ?ワ、ワタシ、アズサダy――」

 

 

すると、状況が分からずにキョロキョロしてばかりいたアズサが漸く目隠しを外し、自分に下着を履かせようとしてる態勢のまま固まる零を見つけ……

 

 

アズサ「ッ!零、良かったっ……ちゃんと元の身体に戻れてたんだっ……」

 

 

零「…………………………………………」

 

 

なのは「………………………………………」

 

 

はやて「………………………………………」

 

 

ホッと安堵したように一息吐いたアズサのその言葉が紡がれたその瞬間、青年の運命が決まったのであった……。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

実験報告書。

 

 

零を他の女性と精神と身体を入れ替えさせ、少しでもDELICACYを学んでくれるのかという興味本位からの実験は、結局満足に確認も出来ず失敗に終わった。

 

 

ただ、入れ代わってしまったアズサの身体を気遣うような態度は見せていたので、元からそういった感情は少なからずあったのかもしれない。

 

 

まあ、その辺りに関してはドールが興味があったことなので、個人的に俺は余り興味はなかった。

 

 

寧ろその後の展開の方が面白かったので、大分満足な結果になったなとは思う。

 

 

その点で言えば、君の実験に付き合って良かったよ。

 

 

……これで君の嘗ての友人の息子が、少しはマシに育ってくれていると納得してくれればいいがね。

 

 

君が零と一緒に写真館の前で土下座させられてる間に、俺はそろそろルミナ君と次の世界に向かわせてもらうよ。

 

 

暇があればまた風麺に食べに来ればいいさ。

 

 

じゃ、また何処かの世界で会おう。

 

 

海道 大輝

 

 

 

 

 

 



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番外編/宇宙が生まれたばかりの、『人形』のお伽話

 

 

 

―――その昔、今とは違う全く別の宇宙が在った。

 

 

その世界は無駄を赦さず、現宇宙の意志からすべてが管理された世界だった。

 

 

人間達に自由はない。総てが宇宙の意志に管理され、物事全ての無駄を無くし、ただ人形のように死ぬまで働かされる奴隷でしかない。

 

 

意志は人間が嫌いだった。だから意志は、人間を自分好みの『人形』にする為に人間達を管理する。

 

 

才能を持つ人間のみを未来に残すため、愛し合ってない男と女を本人達の意志とは関係無しに結ばせ才能の優れた子供を生ませるように運命を操った。

 

 

何の才能もない人間の存在は決して赦さず、他の人間達はそんな彼等に罵詈雑言の限りを浴びせて非難し、生きる希望を失わせ自殺に追い込んだ。

 

 

利口な人間のみが築く世界、才能のない無駄しか持たない余分な人間の存在は絶対に許さない。

 

 

異常極まりない理。だが、管理される人間達はそれを可笑しな事だと疑問を持つ事はなかった。

 

 

それが彼等の住む宇宙の理、世界の概念だからだ。

 

 

才能を持たない人間は悪、無駄は嫌悪すべき物、社会が決めた奴隷の様に生きるルールが善であると、彼等は生まれた時はそう教え込まれたのだ。

 

 

正しく家畜。宇宙の意志の思惑通りに動く『人形』でしかなかった。

 

 

……だが、それを可笑しいと否定する者が現れた。

 

 

この世界は可笑しい、この世界のルールは間違ってると。そう唱える彼を、世間は狂人だと称してまともに相手にしなかった。

 

 

味方など誰もいない世界。しかし彼はそれでも世界の不条理を真っ向から否定し、そんな理を作った存在を探し戦い続け、遂に誰にも見付けられる筈がない宇宙の意志の下へと辿り着いたのだ。

 

 

お前は間違ってる――と、彼は意志を否定した。

 

 

私は間違ってない――と、意志は自分を肯定した。

 

 

相容れない二人は衝突し、長い長い戦いの末に―――彼は意志を打ち倒した。

 

 

敗れた宇宙の意志の不条理は破棄され、意志を下した彼が新たな宇宙を創造し、新たな理を創った。

 

 

それが今の宇宙。誰もが、人間らしく生きられる世界だった。

 

 

……だがしかし、敗北した前宇宙の意志は、前宇宙と共に消える寸前に現宇宙の意志への深い憎悪から一つの『人形』を生み出した。

 

 

自分と前宇宙の理を、再び世界へと流出させる為に、現宇宙の意志を滅する使命を『人形』に与え、前宇宙の意志は前宇宙と共に容れものの『人形』の中で深い眠りに付いたが、其処で前宇宙の意志の思惑外の事態が起きた。

 

 

 

 

彼が生み出した『人形』が自我に目覚め、現宇宙を愛してしまったのだ。

 

 

 

 

植え付けられた前宇宙の理しか知らなかった『人形』は、新しい理の中で自由に生きる人間達に興味を持ち、其処に生きる人々と接していく内に現宇宙と彼等に愛着を持ってしまった。

 

 

前宇宙では見られなかった心からの笑顔を浮かべて、信頼する友と共に過ごし、愛する人と添い遂げる。

 

 

管理などで決められたものではない、自らの意志で、名も知らぬ誰かを助けたりするそんな人間達の姿は、生まれたばかりの『人形』を心惹からせた。

 

 

もっとこの世界を知りたい。そんな好奇心から、自分を生み出した存在から与えられた使命を果たそうとせず、『人形』は様々な世界を渡り歩き、行く先々で数え切れない友を作った。

 

 

友人達もそんな『人形』に最初の内は驚いたり戸惑ったりしたものの、最後には暖かく迎え入れて、ソレを友人だと笑顔を浮かべて認めてくれた。

 

 

そんな彼等と接していく内に、『人形』もある確信を得た。

 

 

こんなにも素晴らしい彼等と宇宙の存在が間違ってる筈がない、間違ってるのは前宇宙の意志の方だと。

 

 

前宇宙の意志の理を否定し、現宇宙にすっかり愛着を持った『人形』はこの宇宙で何時までも生きていたいと望みつつあった。そんな矢先の出来事だった……

 

 

 

 

 

 

『人形』が初めて友人を作った世界に、ある神の手により異能の力を手に入れた転生者が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

突如現れた転生者は神から貰った異能を使って思うがままに生き、多くの女達を手駒にし、友人達が働いていた時空管理局を壊滅した。

 

 

その中には、転生者に惨たらしく殺された『人形』の友人達の姿もあり、異常に気付いて『人形』が戻った時には、彼等は既に物言わぬただの死骸に変わり果てていた……。

 

 

屍を抱き締め、『人形』は悲しみ嘆いた。涙を流せぬ代わりに、ソレは絶叫した。

 

 

何故彼等が死なねばならぬのかと。彼等は何も悪行を成していないのにと。

 

 

友を殺され、『人形』の中にある感情が芽生えた……憎悪だ。

 

 

その初めて得た激しい感情を、ソレは押さえ込む術を知らず、『人形』は憎悪のままに使わぬと決めていた前宇宙の意志が授けた力を敵討ちに使ってしまった。

 

 

友等を殺した張本人である転生者は、最初の内は悦に入れさせてから徐々に追い詰め、四肢を喰いちぎり、圧倒的な恐怖と絶望を与えてから、何故こんな真似をしたのか問い詰めた。

 

 

友人達が働いてた管理局が、裏で非道な行いでもしていたのか。それとも友人達を初めとした多くの局員が、実は人を人とも見ぬ畜生だったのか。

 

 

とにかく訳を知りたかったのだ。彼等が殺され、掴む筈だった幸せを奪われるに足る動機を彼が持っているのかを。

 

 

……しかしその理由は、余りにも信じられないほど救いのない動機だった。

 

 

 

 

 

 

自分が転生する前の世界で初めて見た、とある創作物のお気に入りであるアンチ小説の主人公の真似事がしたかっただけ、と。

 

 

 

 

 

 

───意味が解らなかった。怒りのあまり、頭の中が真っ白になった。

 

 

気付いた時には、『人形』は転生者の腹を引き裂いて内臓をブチまけ、転生者は涙と鼻水と血でグチャグチャになった絶望に塗れた顔で死んでいた。

 

 

だが、友の仇である転生者を殺しても『人形』の胸を支配する憎悪と無念は晴れなかった。

 

 

転生者の力に心酔し、彼を英雄などと讃えて友人達を殺す手伝いをした裏切り者の局員と人間達を一人残らず駆逐した。

 

 

彼をこの世界に転生させた元凶である愚神の下に乗り込み、四肢を引きちぎってゴミのように踏みにじって惨殺した。

 

 

それでも収まらない憎悪のままに、暴れ、暴れ、暴れ───

 

 

 

 

 

 

───気付いた時には、『人形』は全てが荒廃した大地の上に独り佇んでいた……。

 

 

 

 

 

 

友人達の亡骸も、転生者や他の人間達の亡骸も、街も全て消滅して、自分が犯した馬鹿な復讐劇を思い返し、胸に残った虚無感に呆然となりながら、『人形』は暗雲に包まれる空を見上げ力無く呟いた。

 

 

 

 

 

 

「――嗚呼……この世界は……なんて――――」

 

 

 

 

 

 

これが、『人形』の軌跡の一つ。

 

 

もう気が遠くなるほど昔の、宇宙が誕生したばかりの頃の『人形』のお話だった。

 

 

 



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番外編/期待の新星!魔法少女☆カレイドダイヤ!そのいち☆

 

 

―とあるライダーの世界―

 

 

零達が現在滞在するとあるライダーの世界の遥か上空。

 

 

雲一つないその晴天の空をプカプカと浮遊する、ある一本の『ステッキ』の姿があった。

 

 

 

 

ダイヤ『―――はぁーあ、折角祐輔に新しいトラウマを植え付けようと楽しんでたのにぃ。マスターったらちょっとは空気を読んで欲しいわよねぇー』

 

 

 

 

ぶーぶーと不満を垂らしながら空を浮遊するその如何にも怪しいステッキの名は、愛と正義のラブリーステッキ、『マジカルダイヤ』。別称、トラウマ無限製造機。

 

 

零の異世界の友人の一人である早瀬智大が、彼の世界の『魔導元帥』から位を譲り受けた後の最初の制作品として作り上げたカレイドステッキ達の末妹である。

 

 

ダイヤ『ふー……にしても、最近洗脳ばっかりで段々とマンネリ化しつつあるわねえ……何か刺激が欲しいわー、刺激が。危篤状態の半死半生の人間が出血多量で、その辺にでも転がってないかしら?』

 

 

……そしてこの発言から察する通り、中身もカレイドステッキの長女さん以上に危険な思考の持ち主である。

 

 

刃向かう輩はぶっ潰します、破壊しますと、その思考回路が何処ぞのミスブルーを彷彿とさせるのは恐らく気のせいではない。

 

 

ダイヤ『……ん?血と言えば……そういえば私、まだ他のステッキ達みたく誰かと契約を交わしてなかったわよね?』

 

 

漸く思い出したかのように、自分……というかカレイドステッキの本来の用途を思い出したダイヤ。だが、何故だか嫌な予感しかしない。

 

 

ダイヤ『……うん、そう、そうよ!今まで私のマスターは一人だけ、他はイラネとか思ってたけど、よくよく考えると、ソレって私の従順な手足である下僕を作れるってコトじゃないの!』

 

 

※本来は違います。"本来"は。

 

 

ダイヤ『今店に戻った所で、マスターに捕まっておしおきされてしまうのは目に見えているわ……だったらその理不尽な運命を破壊してくれる、私に従順(という名の洗脳)な下僕(マスター)を見つけて、(本人の意志とは関係無しに)私を救ってもらえばいいじゃない!』

 

 

言っている本人がなんとも理不尽な横暴を口にし盛り上がっているが、ダイヤは其処でグニャリと、まるで人間が首を傾げるような感じで柄の部分を曲げた。

 

 

ダイヤ『だけど肝心なのはその下僕(マスター)候補ねー……この私と契約させてあげるのだもの。普通の小娘とか論外。っていうか、魔法少女を女にやらせるとか普通過ぎて面白くないから却下ね。あんまトラウマになってくれなさそうだし』

 

 

その横暴っぷりは止まるところ知らず。面白くない、トラウマになってくれなそうという理由で、何と魔法少女の大前提である『変身者が女の子』という条件を切り捨ててしまうダイヤ。と、そんな時……

 

 

―……ビビビビッ!―

 

 

ダイヤ『ん?この反応……あはっ、いいカモを見付けたわ☆』

 

 

先端にアンテナを生やして何かを受信し、顔があればものすごく良い笑顔をしてそうな声でバビューンッ!と何処かに飛んでいってしまった。……嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・浴場―

 

 

―ゴシゴシゴシゴシゴシッ……―

 

 

零「………………」

 

 

―ゴシゴシゴシゴシゴシッ……―

 

 

零「………ぐっ………」

 

 

―ゴシゴシゴシゴシゴシッ……―

 

 

零「ぬぁああああ!落ちん!全く落ちんぞ!何なんだこのしつっこい粘りはっ!」

 

 

パシンッ!!と、浴槽の中を必死に、丹念にタワシで浴槽を磨き続けていた黒月零が声を荒げて立ち上がりながらタワシを浴槽の床に叩き付けてしまい、一緒に彼と風呂場の掃除をしてたスバルとエリオが苦笑し、なのはが呆れた表情で零に目を向けた。

 

 

なのは「もうっ、叫んでる暇があったら手を動かしてよっ。このままじゃホントに終わらないでしょっ」

 

 

零「叫びたくも泣きたくもなるわ!見ろ!この浴槽中に固まってヘドロのごとくへばり付いてる『チョコ』!擦っても擦っても全く落ちん!もう半日以上経ってるのに一向に終わる気配がせんぞ!」

 

 

休む事もなく浴槽をタワシで擦り続けたせいで震える右手で零が指差したのは、洗剤の泡塗れになった浴槽中に塊となってへばり付くチョコであり、よく見れば風呂場全体にも同じような塊や後が染み付いている。

 

 

エリオ「まあ、アズサさんが以前巨大イモの怪獣の件でお世話になったっていう、知り合いの方に頼んで取り寄せた特別なチョコらしいですからねっ。多分普通のチョコとは色々違うんだと思いますけど……」

 

 

零「……そのチョコを風呂一杯に入れて、チョコ風呂なんかにするとは思いもしなかったがな……しかも前例があるから、やはりまともな物じゃなかったし……」

 

 

スバル「アハハハハッ……アレはホントに驚きましたよねえっ。まさか、チョコが怪獣になるなんてっ」

 

 

どうして浴場がこんなにもチョコ塗れになってしまっているのか。

 

 

その経緯を一から説明すると、事の発端は数日前アズサがヴィヴィオに絵本を読み聞かせていた際に、その絵本に出てきた『お菓子のお風呂』にヴィヴィオが興味を持ち、一度で良いから実際に見てみたいと言ったのだ。

 

 

そんなヴィヴィオの些細な願いを叶えようと、アズサが知り合いに頼んで取り寄せたチョコを風呂場一杯に入れてチョコ風呂を完成させた……のはまだ良いのだが、完成させた直後にそのチョコが突然変異し、宇宙怪獣と化してしまったのである。

 

 

その後はもうしっちゃかめっちゃかであり、宇宙怪獣と化したチョコは風呂場を拠点に更に巨大化しようとし、騒ぎを聞き付けた零達が駆け付けてどうにか撃退したものの、風呂場は撃退した宇宙怪獣の残骸が飛び散りチョコ塗れになってしまった。

 

 

で、朝からこうして風呂場の掃除を続けているのだが、半日以上経っても汚れは落ちず作業は滞ってしまっているのだ。

 

 

零「ああクソっ……ところで、アズサの奴はまだ戻って来ないのかっ?」

 

 

なのは「え?あ、うーんと……確かこのチョコを取り寄せた知り合いの人の所に、こういう落ちにくい汚れとか何でも落とせる洗剤があるって言って出ていったけど……まだ戻って来ないね……」

 

 

スバル「あ、だったら一回アズサに連絡してみますか?全員疲れてますし、休憩を挟むっていうのも兼ねて!」

 

 

零「っ……そうするか……なのは、一度アズサに連絡してくれるか?後、スバルとエリオもリビングで休んでていいぞ」

 

 

エリオ「え?零さんは?」

 

 

零「俺はちょっと此処で窓の風に当たってから行く……あぁ、ついでに飲み物を用意しててくれると助かる」

 

 

スバル「分かりました!」

 

 

なのは「じゃ、先に行ってるね?」

 

 

ビシッ!と零に敬礼するとスバルとエリオはタオルで足を拭いてからリビングに向かい、なのはもアズサに連絡を入れる為にその後を追い掛けて浴場を後にしていった。そして零はそれを見送ると、浴槽の縁に腰を下ろして全開された窓の向こうの空を眺めた。

 

 

零「アッツっ……はぁ……にしても随分晴れ晴れとした青空な事で……こんな日は写真が見栄えよく撮れるんだが……」

 

 

そんな隙もないかぁと肩を落として溜め息を吐き、首に掛けたタオルで汗を拭っていた。その時……

 

 

 

 

―……キラーンッ……―

 

 

零「……あ?何だ?」

 

 

 

 

窓の向こうの空で、何かが光った。それに気付いた零が訝しげな顔で僅かに身を乗り出し、目を細めると……

 

 

―キィィィィィィィィィイィィィィィィッ……!―

 

 

零「……?何だアレ?鳥……じゃないか」

 

 

―ィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイッ……!!―

 

 

零「というか……何か……」

 

 

―イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ……!!!―

 

 

零「こっちへ……近づいて来て―――」

 

 

 

 

……まるで流れ星の如く、一本の『ステッキ』が猛スピードでこちらへ飛来して来るのが見え―――

 

 

『ハァーーーイッ!ダイナミックおっじゃまぁぁぁぁーーーーっ!!!!』

 

 

零「って危ねぇええええええええええええええっっっ!!!!?」

 

 

―ブザアアアアアアアアアアアアアッ!!!!―

 

 

飛来してくるステッキが自分の顔面目掛けて飛んで来ている事に気付き、咄嗟に絶叫と共に全力で顔を逸らすが、完全にはかわし切れずステッキのヘッド部分の羽が零の頬を引き裂いた。思いっきり、肉ごとザックリと。

 

 

―ブシャアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッ!!!!―

 

 

零「グアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?イッタァアアアアアアアアアアアッ!!!?血がっ、血がアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ?!!!!」

 

 

『あららら、手っ取り早く済ませようとしてザックリ行き過ぎたわね。噴水みたいよ、スッテキ~☆』

 

 

浴槽から滑り落ちて後頭部を強打しただけではなく、ステッキの羽で肉ごとザックリやられた頬から血の噴水を噴き出しのた打ち回る零。

 

 

そしてステッキ……ダイヤが無駄にびっしょりとグロテスクに自分の羽に付いた血を見て採血(認証)の完了を確認すると、零はビチャビチャッと頬から滴り落ちる血を押さえながら四つん這いになり、ダイヤを強く睨みつけた。

 

 

零「ァ……て、てめえぇっ……人様の家の窓からいきなり闇討ちとかっ……一体何者だぁっ……」

 

 

ダイヤ『闇討ち?失礼ねぇ。私、別にそんな事の為に此処へ来た訳じゃないのよ?』

 

 

零「あぁっ……?」

 

 

困惑と敵意を込めて睨みつけて来る零にそう言うと、ダイヤはクルリと回転して宙に浮き、パパパンッ!と背後で花火を鳴らしながら自己紹介した。

 

 

ダイヤ『私の名前を聞きたなら、教えてあげる。私の名前は愛と正義のマジカルステッキ、マジカルダイヤ!貴方の願いを叶えに来てあげたのよ!さぁ、私を手に取りなさい!そうすれば(私に都合のいいだけの)望みを叶えてあげる!』

 

 

零「………………」

 

 

急な展開に頭が付いていかない。あまりに突然の出来事だったが、一つだけ、自分の直感が告げていた――。

 

 

零(こいつ……果てしなくうさんくせぇっ……)

 

 

ダイヤ『ああん?今うさんくさいとか思ったでしょ?なに?私の言う事が嘘だと思ってんの?ふざけてる?脳みそカチ割る?』

 

 

零「ほらぁ!コイツなんかもう黒いの隠し切れてないしっ!というか何でお前が切れてんだよっ!」

 

 

ダイヤ『おっと、つい素が……』

 

 

もう初っ端から物騒な口調に変わり始めたダイヤから危険な臭いを嗅ぎ取り警戒心を強める零だが、ダイヤはコホンと背後で咳ばらいし零と向き直った。

 

 

ダイヤ『まあでも、どんな望みも叶えてあげるってのはホントよ?何か困ってるみたいだしぃ、コレは愛と正義のカレイドステッキとしては見逃せないかなぁ~って』

 

 

零「愛と正義のステッキが血を流すような事してどうするんだよ……それに、別にいきなり現れたお前なんぞに叶えてもらいたい願いなんか――」

 

 

ダイヤ『ホント~にぃ?別にどんな些細な願いだっていいのよ?この質素な浴場をピカッピカッにするとかは勿論、鈍感を治したい!とか』

 

 

零「ぬ……」

 

 

ダイヤ『女心を分かるようになりたい!とか、誰にも出来ない筈の願いを叶えてあげられるんだけどぉ~』

 

 

零「…………」

 

 

ぷらーんぷらーんと、まるで零を誘惑するかのように自分の身体を揺らしてそう囁き掛けるダイヤ。そして零はそんなダイヤが告げた願いの内容を頭の中で何度もリピートさせながらジッとダイヤを睨むが、すぐにハッと我に返りダイヤから顔を逸らした。

 

 

零「そ……そんな願いには騙されんぞ?そんな上手い話がある訳ないんだからな。お前なんかの話にまんまと乗って、痛い目を見るのは御免だ」

 

 

ダイヤ『……ふーん、そう……じゃあアンタは諦めてあげるわ。その代わり、奥にいる女の子達の願いでも叶えて来ようかしらねぇー』

 

 

零「………はっ?な、んでそうなるっ?!」

 

 

ダイヤ『だって、このまま何もせずに帰るだなんて癪に障るじゃないの?だったらアンタの代わりに、奥にいる子達の願いを叶えてから気分よく帰った方がマシよ。それじゃ~』

 

 

零「ちょっ、待てっ!!ふざけろっ!お前みたいなうさんくさい奴をアイツ等に会わせられるか!!」

 

 

こんなあからさまに危険そうな奴をなのは達、特に、他の奴らより純粋な子供組に会わせたら、写真館史上最悪の事件が起こるのは目に見えている。そんな奴をみすみす行かせる訳にはいかないと、浴場から出ていこうとするダイヤを慌てて背後から掴んで引き留める零。しかし……

 

 

ダイヤ『―――ふっ、想定以上にちょろかったわね……』

 

 

零「……は……?」

 

 

―ガクンッ……―

 

 

ダイヤが不穏な呟きを漏らしたと同時に、零の身体が突然硬直してしまった。まるで、身体の自由を"何か"に奪われたような。

 

 

零「なっ……ぐっ……お、まえ……俺に……何を……?!」

 

 

ダイヤ『ふふふふふふっ、血液によるマスター認証と接触による使用の契約……すべて滞りなく頂いたわ!これで晴れて、貴方は今日から私の手足となる従順な下僕(マスター)よ!』

 

 

零「ハアァッ?!な、にを勝手な……?!」

 

 

―ドバアァァッッッッッ!!!!!!―

 

 

とんでもない事を高らかに叫ぶダイヤに反論しようとしたその直後、零の足元に巨大な魔法陣が展開され、魔法陣から放たれた膨大な魔力が零を飲み込んだ。

 

 

零「こ、今度はなん……っ?!」

 

 

ダイヤ『ハーハッハッハッハッ!このままの勢いで、一気に多元転身(プリズムメイク)と洗脳と女体化に逝くわよッ!コンパクト・フルオープン!境界回廊、最大展開!』

 

 

零「ちょ、ちょっと待ってぇええええええええっっ!!!?今聞き捨てならないワードが幾つかっ!あっ、やめっ、止めろっ!!本当に止めろおぉっ!!!!?止せぇえええええええええええええええええええええええっっ!!!!!!」

 

 

今ある全身全霊で、全力でダイヤの目論見から逃れようとする零だが、悲しいか相手はあの黒い魔法使いが作ったトンデモ礼装。たかだか人間風情が抗える筈もなく、零はトンデモない量の魔力と共に何処かへ消滅してしまったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―Green Cafe―

 

 

智大「――畜生……ダイヤの奴、何処に行った?」

 

 

そして同じ頃、キャンセラーの世界のGreen Cafeでは、祐輔と智大の二人が探しものをして店内を見回っていた。因みにその探しものとは無論、あのダイヤの事である。

 

 

祐輔「いませんね……もしかしたらもうこの店を抜け出して逃げたとか……」

 

 

智大「ったくアイツ、段々と俺の手をかい潜るのが上手くなってきたな……。こりゃその内にでも自立し出すかね?」

 

 

祐輔「止めて下さいよぉっ?!あんなステッキが自由に蔓延り出したら手に負えないじゃないですかぁっ!」

 

 

智大「冗談だよ、冗談……でもアイツ、ホント何処に行ったんだ……?おーい、いい加減出てこいダイヤー」

 

 

ダイヤに植え付けられたらトラウマを思い出して顔を真っ青に染める祐輔に苦笑でそう返しつつ、ダイヤにそう呼び掛けながら探索を続ける智大。と、そんな時……

 

 

 

 

 

『―――ハーハッハッハッ!!私なら此処よ、マスターッ!!』

 

 

―ドバアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!―

 

 

祐輔&智大『……っ!!?』

 

 

 

 

 

わざとらしい高笑いと共に、店内に突如膨大かつ馬鹿げた量の魔力の光の柱が出現し、祐輔と智大は突然の眩い光に顔を覆った。

 

 

祐輔「な、何コレ?!っていうか今の声って?!」

 

 

智大「お前かダイヤっ!!つか、一体何だこれは?!」

 

 

ダイヤ『マスターと祐輔にも紹介しようと連れて来てあげたのよ♪私の新しい、下僕(マスター)をね!』

 

 

智大「……はあ?何だいきなり?」

 

 

祐輔「……っ?!と、智大さん、彼処っ!」

 

 

突然の展開に困惑していた祐輔が何かを見付けたように、光の柱を指差す。それを追うように智大が視線を向けると、何処からかエコーの掛かった声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

ステキな魔法の世界はな♪

 

 

 

あるのさお前の庭の傍♪

 

 

 

たった一つの希望を捨てて♪

 

 

 

生まれ変わった不思議な体♪

 

 

 

心の扉を開いちゃ閉める♪

 

 

 

祐輔「こ、この声は……」

 

 

智大「……あ、嫌な予感がする……」

 

 

 

 

 

 

何処となく聞き覚えがあるその声に、祐輔は顔を引き攣らせ、ある程度の予想が付いた智大が頭を抑えて唸る。そして、光の柱から姿を現したのは……

 

 

腰まで伸びた漆黒のロングヘアーと真赤い瞳に、控え目にぷるんっと揺れる胸。

 

 

シャララランッと、白銀の魔法少女の姿となった少女は、ドレスを揺らしながら可愛らしく、そして華麗に回りながらポーズを決め、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

黎愛(零)「お☆ま☆た☆せ!期待の新星、魔法少女☆カレイドダイヤッ!!推参(おしてまいる)のだわ☆」

 

 

 

 

 

 

―――高らかにそう名乗り、魔法少女カレイドダイヤ……というか、女体化して黎愛となった零は愛らしく祐輔と智大に、ハート付きのウィンクをかましたのであった……。

 

 

 

 

 



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番外編/期待の新星!魔法少女☆カレイドダイヤ!そのに☆

 

―Green Cafe―

 

 

そして、あの衝撃的な登場から一時間後……

 

 

 

 

黎愛(零)「…………………………………………………………………………」

 

 

 

 

祐輔「あー……えーと……れ、零さんっ?そんな気を落とさないで、ねっ?」

 

 

黎愛(零)「…………………………アァ…………………………ソウダナァ……………………コノカッコウ、ミンナニモキットワラッテモラエタダロウシナァ……………………」

 

 

祐輔「ちょっ、何か目の光が消えて凄い顔になってるしっ?!しっかりしてってば零さぁんっ!!!」

 

 

一時間前に派手で無駄に可愛らしい演出と共に、華麗な参上を果たしてさあ暴走タイムだ☆と盛り上がりを見せてそのまま街に繰り出そうとしたカレイドダイヤだったのだが、祐輔と智大がそれをさすまいと必死に二人掛かりで化け物染みたスペックのカレイドダイヤを押さえ込み、一時間を掛けて漸くカレイドダイヤとダイヤを引き離す事に成功した。

 

 

因みにカレイドダイヤ……黎愛(零)は洗脳が解け正気に戻った後、女体化した上に魔法少女になった自分の姿、そして先程の自殺モンのこっ恥ずかしい名乗りの全てを思い出し、この世の終わりのような顔で絶望し店内の片隅で体育座りしていた。……カレイドダイヤの姿のままで。

 

 

ダイヤ『いやー、参ったわねぇー。まさかこうも簡単に洗脳を解かされちゃうだなんて』

 

 

智大「誰がお前を作ったと思ってんだ、お前の洗脳の解き方は俺が一番良く分かってんだよ。無駄な手間を増やしがってっ」

 

 

ダイヤ『でもマスターだってそう言いつつも、アイツの魔法少女も以外と似合う思ったでしょ?』

 

 

智大「それは同意だ」

 

 

黎愛(零)「ふっざけんなぁっ!あんな人に見られたら自殺モンの格好と名乗りなんか似合いたくなんかないわっ!」

 

 

ギリギリッと、呑気に笑う諸悪の根源のヘッド部分の羽を両手で掴み強引に引き伸ばす智大と、智大に羽を伸ばされるダイヤの会話に黎愛(零)が泣きそうな顔で怒鳴るが、ダイヤは智大の手から上手く逃れ黎愛(零)に近づいた。

 

 

ダイヤ『とにかく誰が何と言おうと、契約が成立した以上、コイツが私の正式な下僕(マスター)である事に変わりはないわ。アンタも観念して受け入れなさい?』

 

 

黎愛(零)「ぜっっっったいにお断りだっ、誰がお前みたいな性悪詐欺師ステッキの下僕になんぞなるかっ。というかさっさと俺を元に戻せぇっ!」

 

 

ダイヤ『いーじゃなーい、私も似合ってると思うわよ?そのいい年こいて恥ずかしい格好?ブフッ!』

 

 

黎愛(零)「お前が着させてるんだろーがぁああああああああああっっ!!!」

 

 

祐輔「ちょっと待って?!落ち着いてぇっ?!お店の椅子を振り回さないでってばあぁっ!!」

 

 

笑いを堪えるようにぷくくと笑いを押し殺すダイヤに店内の椅子を持ち上げ殴り掛かろうと暴れる黎愛(零)を、祐輔が背後から羽交い締めにし必死に止めようと試みる。そんな時だった……

 

 

―カランカランッ―

 

 

奈美「こんにちは~♪お父さんいる―――?」

 

 

士輝「親父ィっ!事務所の仕事を人に押し付けたままいつまで―――」

 

 

翔「祐輔~、孤児院の畑で採れた野菜を届けに―――」

 

 

なごみ「祐輔さん、今日もいつもの奴を―――」

 

 

 

 

黎愛(零)&祐輔&智大『………………あ………………』

 

 

 

 

店の扉が不意に開き、其処から常連客である奈美達がよりにもよって揃って現れ、店内の光景を目の当たりにし固まってしまったのである。無論四人がそうなった原因は、祐輔に腰にしがみつかれたまま店内のテーブルに乗っかって店の椅子を大きく振りかざす、ド派手な魔法少女の格好をした変な女……。

 

 

奈美「――ああ……えーと……な、何か私達、お邪魔だったみたいでっ」

 

 

黎愛(零)「ぁ……ち、違っ……これはっ……(フルフルッ」

 

 

士輝「ふぅおおおおお?!魔法少女キタッー!ってかコスプレ?いやこの際どっちでもい―ゴキイィッ!―ぐえぇっ?!」

 

 

翔「あー……や、野菜っ、此処に置いとくからっ……そんじゃっ」

 

 

なごみ「……良い趣味してますね。どうぞお気になさらず、ごゆるりと」

 

 

―パタンッ……―

 

 

黎愛(零)「待ってくれえぇえええええええええええええええええっっっ?!!!違うっ、違うんだっ!!!これは俺の趣味なんかじゃ、違あぁああああああああああああああああああうっっっ!!!!」

 

 

黎愛(零)のその可哀相な格好から関わってはいけないとすぐさま察したのか、気まずげに扉の奥へと引っ込んでいく奈美達を引き止めようとする黎愛(零)だが、奈美達が消えた扉は虚しい音を立てて閉じてしまい、黎愛(零)は暫く手を伸ばした態勢のまま固まった後、ガクリと崩れ落ちるように四つん這いになった。

 

 

黎愛(零)「ぐぅおおおおおおおおおおおっ……見られたぁぁぁぁぁぁぁぁっ……しかも思いっきりドン引かれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ……!!!」

 

 

ダイヤ『ぶふっ、くふっ、よ、良かったじゃないっ?気遣い上手な友達に恵まれててっ?ぶはぁっ!―ブオオォッ!!―うおっと!』

 

 

黎愛(零)「くたばれえぇっ!!死に曝せえぇっ!!そして地獄に堕ちろこのクソステッキがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!」

 

 

祐輔「お、落ち着いてぇっ?!っていうか店のモノを投げないでえぇっ!!!」

 

 

羞恥心と怒りが限界を超えて泣きながらメニュー表や調味料などを手当たり次第にダイヤに投げ付ける黎愛(零)だが、ダイヤはそれらをひょいひょいとかわしておちょくるように逃げ回る。が、そんなダイヤを智大が背後からグワシッと掴んだ。

 

 

智大「まあなんにせよ、ダイヤはこうして捕まった事だし、零、取りあえずお前も着替えたらどうだ?」

 

 

黎愛(零)「ぜえっ、ぜえっ……そうするっ……祐輔っ、悪いんだがミナかウェンディ達の服を貸してくれないか……?出来ればズボンとか長袖とかそういうのを……コイツも俺を元に戻す気はないようだしっ」

 

 

祐輔「ああ、うん。本人達には後から事情を説明すればいいだろうし、別に構わないけど……」

 

 

ダイヤ『あら、土下座して頼むんなら叶えてあげるわよ?ビキニとかメイドとかチャイナとか?』

 

 

黎愛(零)「お前なんぞには死んでも頼まんわっ!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そして数十分後。黎愛(零)が祐輔から服を借りて着替えてる間にダイヤは智大によって連れ戻されたらしく、取りあえずジーンズに薄手の長袖のシャツ、その上にダウンベストという格好に着替えた黎愛(零)は、ダイヤに植え付けられた傷心を抱えたままGreen Cafeを後にした。のだが……

 

 

黎愛(零)「―――駄目だ……こんな姿じゃ写真館には戻れん……」

 

 

一先ず光写真館に帰ろうと街中を歩いていた黎愛(零)だったが、帰路を辿る途中でこんな姿のまま写真館に帰ればどうなってしまうか考えてしまい、どうするか迷い近くの公園のベンチに座り込んでうなだれてしまっていた。

 

 

黎愛(零)(このまま写真館に帰ったとしても、前にも似たような事があったから説明すればすぐに納得してもらえるだろうが……問題はその後だ……恐らく俺が元に戻るまでの間だからと着せ替え人形のような目に遭うのは目に見えているっ。かと言ってGreen Cafeに戻っても、事情を知らない奴らにこんな姿を見られる訳にはっ……というか何時になったら元に戻るのかも分からんっ……!)

 

 

写真館にもGreen Cafeにも戻れず、差し当たっては、何時元の姿に戻れるのかも分からず頭を抱えてしまう黎愛(零)。そんな時……

 

 

『―――思った通りねぇ、悩んでる悩んでる~』

 

 

黎愛(零)「ッ?!」

 

 

すぐ後ろから、わざとらしい不気味な笑い声が聞こえた。それを耳にし黎愛(零)が慌ててベンチから立って背後へと振り返ると、其此には智大に連れ戻された筈のダイヤが浮遊する姿があった。

 

 

黎愛(零)「お、お前っ……なんで此処にっ?!智大に連れ戻されたんじゃないのかっ?!」

 

 

ダイヤ『そんなの、マスターの隙を見て逃げ出したに決まってるじゃない?折角契約してあげたのに、このまま何もせずに帰ったら不完全燃焼もいいところだわ』

 

 

黎愛(零)「人にあんな一生忘れられないトラウマを植え付けておいて不完全燃焼と申すか貴様っ」

 

 

ダイヤ『あんなのまだまだ序ノ口よ。それにアンタ、このまま私が帰ったら元に戻れずずっとそのままよ?』

 

 

黎愛(零)「……な、に?」

 

 

自分がいなければ元の姿に戻れない。羽で指差しそう告げるダイヤに黎愛(零)も絶句し、ダイヤはクルクルと黎愛(零)の頭上を回りながら飄々とした口調で話を続けた。

 

 

ダイヤ『時間が経てば勝手に元に戻れると思ってるんなら甘い甘い。それは私が解除しない限り、アンタはずっと元の姿には戻れないんだから』

 

 

黎愛(零)「なん、だとっ……?!」

 

 

ダイヤ『あぁ、でもマスターや祐輔に頼めば何とかしてもらえるんじゃない?私を探しにマスターもGreen Cafeに戻ってきたみたいだし』

 

 

黎愛(零)「ッ!おぉ、そうかっ!アイツ等の力なら元の姿にきっとっ……そうと決まればっ!」

 

 

ダイヤ『ただ、今あの店には事情を知らない異世界組がお茶しに来てるみたいだけど?』

 

 

黎愛(零)「」

 

 

希望が見えたかと思い店に戻ろうと走り出し、たった四秒でその希望を打ち砕かれて崩れ落ちる黎愛(零)。そして、その一連の様子を愉悦げに眺めていたダイヤはそこでふとある事を思い付き、パタパタと黎愛(零)の頭上に移動した。

 

 

ダイヤ『ま、どーしてもっていうんなら、私の条件を呑んでくれれば元に戻してあげてもいいわよ?』

 

 

黎愛(零)「…………何をだよ…………」

 

 

ダイヤ『簡単よ、私と一緒にある事件を解決するの。マスターの下から此処まで逃げてくる途中で、ちょうどある事件を見掛けたし』

 

 

黎愛(零)「……?事件?」

 

 

不穏な物言いをするダイヤに黎愛(零)が険しげにそう聞き返すと、ダイヤは右側の羽である方向を指差しながら話を続けた。

 

 

ダイヤ『どうやらこの先にあるホテルで事件が起きたらしくてね、立て篭もりとか言ってたかしら?なんでも銀行に押し入った強盗の一団が大量のお金を奪って逃げる途中で事故って、焦った犯人達が近くのホテルに逃げ込んだのだとか』

 

 

黎愛(零)「立て篭もり……まさかお前っ、俺にお前と一緒にその事件を解決しろとっ?」

 

 

ダイヤ『そのとーり♪もちろんあの魔法少女の格好で――♪』

 

 

黎愛(零)「ふざけろっ!!あんなイカれた格好で人前にっ、それも大勢の前にだなんて出られるかっ!!」

 

 

元の姿に戻りたいのは確かに山々だが、だからと言って緊迫した事件現場にあの頭の可笑しい格好で乱入など出来る筈がない。ガーッ!!と全身を使って全力で拒否するそんな黎愛(零)に、ダイヤはめんどくさそうに軽く溜め息を吐くと……

 

 

ダイヤ『それならそれで別に構わないけど……それはそうと、アンタの後ろに見えるアレって、アンタの知り合いなんじゃないの?』

 

 

黎愛(零)「ッ!何っ?!」

 

 

まずい、こんな格好で知り合いに会う訳にはいかないと、遠方を指差すダイヤの羽の先を追うように、黎愛(零)が慌てて背後へと振り返る。しかし、振り返った先には人っ子一人の影すらなく、それを見て黎愛(零)が頭上に疑問符を浮かべた瞬間、ダイヤが素早く黎愛(零)の手の中に収まった。

 

 

黎愛(零)「っ?!なっ、しまったっ?!」

 

 

ダイヤ『ハッハッハァッ!まんまと騙されてくれちゃって、ほんっとにチョロイ奴ねぇッ!まだまだこっちは暴れ足りないんだから、暫くアンタの身体を貸してもらうわよッ!』

 

 

黎愛(零)「やっぱりそういう魂胆かこの性悪がっ?!ぐっ、このっ、離せぇっ!というか離れろおぉおおおおおおおっ……!!」

 

 

もう最初辺りの目的を忘れ、ただ暴れ回りたいみたいな発言をかますダイヤから離れようとするが、身体の自由を既に半分奪われてるせいで中々離れてくれない。それでも必死にダイヤを自分から引き離そうと抵抗する黎愛(零)だが……

 

 

ダイヤ『あー……そういえば言い忘れてたんだけど、その姿のまま4時間が経つと、解除が出来なくなって一生その姿のままになっちゃうのよねぇー』

 

 

黎愛(零)「!!な、なんっ……?!」

 

 

ダイヤ『なーんて、うっそよぉーん!』

 

 

―ギュイイイイイイイイイイイィィィィーーーーーーーーイィィッ!!!!―

 

 

ダイヤのその言葉を聞いて黎愛(零)が一瞬動揺し意志が揺らいだたその隙を見逃さず、ダイヤは黎愛(零)の身体の自由を完全に奪い、黎愛(零)の足元に魔法陳を出現させていった。

 

 

黎愛(零)「んなっ?!貴様、また謀ったなぁっ?!」

 

 

ダイヤ『ふふん、アンタも大概期待を裏切らないから楽で良いわー♪そんじゃ、本日二度目のプリズムメェーイク!!』

 

 

黎愛(零)「待て待て待て待て待てッ!!!分かったっ、分かったッ!!!協力はするッ!!!協力するからあの格好だけはっ、ぁっ、止めっ、ああああ畜生めえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 

 

必死の懇願も通じず、足元の魔法陳から駆け登った膨大な魔力が黎愛(零)の身体を無慈悲にも飲み込んでしまった。そして……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―ホテル―

 

 

海鳴市内のとあるホテル。建物周辺は既にパトカーが数台と警官隊に包囲されており、現場から少し離れた場所にはマスコミと野次馬まで群がっている。そしてホテルの2階フロアでは、銀行強盗の一団がホテルの従業員と宿泊客を全員集め緊迫した空気が流れていた。

 

 

強盗A「畜生っ、逃走用の車をさっさと用意しろっつってんだよっ!!でなきゃ、従業員と宿泊客を一人ずつぶっ殺すぞぉっ!!」

 

 

―バアアァンッ!!―

 

 

『キャアアアッ?!』

 

 

2階フロアの窓から上半身だけを出し、外の警官達にそう叫びながら空に目掛け銃を発砲する犯人の一人。どうやら逃走の失敗や立て篭もりなど不測の事態が続いて起きたせいか興奮状態にあるらしく、端から見ても危険な状態なのは目に見えて分かるが、そんな犯人の一人を別の犯人が慌てて宥める。

 

 

強盗B「落ち着けってっ!こっちには人質が大勢いるんだっ、向こうだってそう簡単にゃ踏み込んじゃこれねえってっ!」

 

 

強盗A「うっせぇっ!それも時間の問題だろうがっ!大体テメェが運転ヘマして車をダメにしなきゃだなっ!」

 

 

強盗C「いい加減にしろっ!!仲間内で言い争ってる場合じゃねぇだろうがぁっ!!」

 

 

「ヒッ……ぅ……ぅええええええんっ……!」

 

 

大声を張り上げながら言い争いの仲間割れまでし始めた強盗の一団への恐怖が遂に極まってしまったのか、人質として捕われた宿泊客の中の小さい女の子が泣き出してしまい、それを耳にした興奮状態の強盗が近くの椅子を蹴り飛ばした。

 

 

強盗A「ウルセェんだよクソガキがッ!!ブッ殺されてぇのかぁッ!!」

 

 

「す、すみませんっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ……!」

 

 

「ひぐっ……うぅっ……!」

 

 

これ以上強盗達の苛立ちを刺激しては本当に殺され兼ねない。そうならない為に、母親は少しでも娘の泣き声を抑えようと恐怖で身体を震わせながら泣き止まない娘を強く抱き締めていき、他の従業員や宿泊客達も何時また強盗達が暴れないかとビクビクしながら必死に身を縮めていた。そんな時だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ひっさぁーつぅ、ダイヤモンドキイィイイイイイーーーーックッ!!」

 

 

―ガッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァンッ!!!!―

 

 

強盗A「……へ……?―ドグシャアァッ!!―ぐぼぁあああああああああああああああっ?!!」

 

 

―バゴオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーオンッ!!!!―

 

 

怯える人質達に対し怒鳴り散らしていた強盗の背後の窓が、奇妙な掛け声と共に何者かによって蹴り破られてしまったのだ。そうして無数の硝子の破片が室内に降り注ぐ中、その何者かの右足はそのまま強盗の横顔を思いっきり蹴っ飛ばし、強盗は信じられない速度で吹っ飛んで壁の中へと減り込んでいったのだった。

 

 

強盗C「っ?!な、何だっ?!」

 

 

強盗B「だ、誰だ?!何者だ、お前?!」

 

 

「――誰だ、と?フフフッ……」

 

 

強盗の一人が壁に減り込む仲間を見て驚愕と困惑の顔を浮かべ、もう一人の強盗が混乱を隠せないながらも窓を蹴り破って室内に飛び込んできた人物の背中に震える手で拳銃を突き付けて叫ぶ。そしてそれに対して、いきなり窓から飛び込んできた人物……白銀のフリフリのドレスというアレな格好をした漆黒の髪の少女は不敵に笑い、ステッキを片手にクルリと振り返って……

 

 

黎愛(零)「宜しい!誰かと聞かれれば是非とも答えましょう!つーか聞かれなくても言いましょう!全国の良い子の味方!愛と正義の執行者!魔法少女・カレイドダイヤ!此処に、KOU☆RIN!」

 

 

……今までの緊迫した空気をものの見事に破壊し、黎愛(零)の意識がぶっ飛んだカレイドダイヤは、本当に無邪気な笑顔でそう答えたのであった……。

 

 

 

 



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番外編/期待の新星!魔法少女☆カレイドダイヤ!そのさん☆

 

 

強盗C「な、なんだ、この頭の可笑しい女はっ?!」

 

 

いきなり何処からともなくホテルに乱入してきたかと思えば、場違いで意味不明な名乗りを上げるカレイドダイヤを見て強盗達だけでなく、人質である従業員や宿泊客達まで唖然としてしまっている。だがカレイドダイヤはそんな一同の反応を他所に、ガッツポーズをするように右腕を振り上げ華やかな笑顔を浮かべた。

 

 

黎愛(零)「Yes!二度目の名乗りも完璧なのだわね、ダイヤ♪」

 

 

ダイヤ『えぇ、ぶふっ……今の貴方はとっても素敵よ、ダイヤっ?』

 

 

黎愛(零)「ありがと☆それじゃあ、このまま一気にプリズマメイクで事件解決しちゃうわよぉ!」

 

 

クルクルッとステッキを鮮やかに振り回し、強盗達に向かって恥ずかしげもなくポーズを決めながらステッキを突き付けるカレイドダイヤ。

 

 

黎愛(零)「そこのモブ二人!善良なる市民を恐怖で震え上がらせたその罪、万死に値するわ!このカレイドダイヤが、お空っつーか、宇宙の果ての太陽に変わってボコにしたるぅ!!」

 

 

強盗B「ヤ、ヤベェ……コイツっ、どう見ても(頭が)やべえよっ……」

 

 

強盗C「び、びびってじゃねぇよっ!こんなコスプレ女一人で何が出来―ドグシャアアアアッ!!!―グハアァァァァァァァァッ!!?」

 

 

動揺する仲間にそう言いながらカレイドダイヤを脅すために拳銃を突き付けようとした強盗の一人の懐に、カレイドダイヤが一瞬で潜り込みステッキを振り上げ強盗を殴り飛ばしていった。そして信じられない怪力で顎を殴られた強盗はそのまま真上に吹っ飛び、天井に思い切り打ち付けられた後に床に落下し、気絶したのであった。

 

 

黎愛(零)「ヘーイ♪先ずはひっとりぃー♪隙が多すぎて欠伸が出るのだわー☆」

 

 

強盗B「ひ、ひぃいい?!な、何なんだよお前ぇええええっ?!」

 

 

―バアァンッ!!―

 

 

常人離れした動きであっという間に仲間を倒したカレイドダイヤを見て更に動揺した残った強盗が、咄嗟に銃を突き付けて発砲する。だがカレイドダイヤはそれを見向きもせずに咄嗟に屈んで回避しながら足払いで強盗を倒れさせ、すぐさまその上に跳び乗り強盗の額に人差し指を向けた。

 

 

強盗B「ひっ?!」

 

 

黎愛(零)「よいユメをー、ガンド♪」

 

 

―バキュウゥッ!!―

 

 

良い笑顔でそう言いながら、指先から放たれた一発の弾丸が強盗の額に打ち込まれ一瞬で意識を刈り取っていったのだった。そして、カレイドダイヤは気を失ってうなされる強盗の上から退いて立ち上がり、撃退した二人の強盗の手から拳銃を奪い取っていく。

 

 

黎愛(零)「これで一件落着、事件解決ね☆でも思ったより早く殲滅しちゃったし、何だか拍子抜けしちゃったのだわ」

 

 

ダイヤ『武器を持っただけのただの人間に負ける要因なんてそれこそないわよ。まあ物足りないってのは同感だけど……魔力砲の一発や二発、思いっきりブチ込みたかったわねぇ。もう少し粘ってくれればいいのに「キャアアアアアアッ!!」……ん?』

 

 

ただの人間相手にとんでもない無理難題を言いながら不満げに溜息するダイヤだが、その時横合いから突然悲鳴が響き渡り二人が振り返ると、其処には……

 

 

 

強盗A「ゼェッ……ゼェッ……こ、この変質女っ……よくもやってくれやがったなぁっ……!」

 

 

「ひぅっ……ぅぅっ……」

 

 

先程カレイドダイヤが窓を突き破って飛び込んだ時に蹴り飛ばし壁に減り込んでいた強盗が意識を取り戻し、鼻から大量の鼻血を流しながら人質の子供を捕らえてこめかみに銃口を突き付ける姿があった。

 

 

黎愛(零)「むむむっ、劣勢に陥った途端に人質を取るとは……流石は悪、汚い!やることが古典的かつ一々ねちっこい!」

 

 

強盗A「うるせえぇ!いいからとっとと手ぇ上げろ!さもねぇと、このガキの命はねえぞっ!」

 

 

仲間を全員やられた焦りと恐怖から既に余裕がないのか、ガチガチと歯を鳴らしながら銃を突き付けた人質を見せ付けカレイドダイヤに手を上げろと叫ぶ強盗。それを見たカレイドダイヤも「むむぅ……」と唸って暫く考え込んだ後、両手を徐に上げていき……

 

 

強盗A「ひ、ひひっ。そうだっ、それでいいんだよっ。言う事を聞けばガキの命は――」

 

 

黎愛(零)「と見せ掛けて、時間が止まる呪文☆」

 

 

―ピシィッッッ……!!!―

 

 

……悦に浸って気を抜いた強盗の隙を突き、人差し指を突き付けてこの室内のみの『時』を止めてしまったのだった。強盗も人質全員も身動き一つ出来なくなり、カレイドダイヤはその中で何事もないように軽快に強盗へと歩み寄って人質の子供を解放し引き離した。

 

 

黎愛(零)「フフーン♪残念ながらダイヤは悪に屈するような事はしないのだー☆そーしてぇ、悪い事をした輩には、それ相応の制裁が待ち受けているのDEATH!ダイヤァ!」

 

 

ダイヤ『ええ、更にもっと、面白おかしくしちゃいましょう♪』

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてその一方、カレイドダイヤが突入したホテルの前ではマスコミや野次馬、警官隊達の間でざわめきが広がっていた。

 

 

「おい、どうなってる?!さっきホテルに飛び込んでいったのはなんだ?!」

 

 

「わ、分かりませんっ。あまりにも早過ぎて、誰も視認が出来ずっ……!」

 

 

「クッ……しかし銃声がした以上、中で何かがあったのは確かなようだっ。こうなれば突入をっ――!」

 

 

中で何が起きてるか分からない以上、こんなところで足踏みしてても何の意味もない。危険なのは承知だが、此処は強引にでも突入を強行すべきかと、警官隊が動き出そうとした。その時……

 

 

 

 

―ブォンッ……ドサァッドサァッドサアァッ!!―

 

 

「ッ?!」

 

 

「な、何だ?!」

 

 

ホテル内に突入しようとした警官隊の前に、前触れもなく突如三つの影が出現し地面に転がったのである。それは……

 

 

『……うぅ……』

 

 

「こ、こいつら……ホテルに立て篭もってた強盗犯達か?!」

 

 

「だが……何なんだ、この格好っ……?」

 

 

そう、警官隊の前に現れた三つの影の正体は、ホテルに立て篭もってた筈の三人の強盗犯達だったのである。しかしその格好は猛烈に可笑しく、何故か三人とも露出度の高いチャイナ服やメイド服やらビキニタイプの水着など珍妙且つ変態的な格好をしており、そんな強盗達を見て警官達も両目をひん剥き唖然としていた。其処へ……

 

 

 

 

 

「―――ふっふっふっふっ、この世にまずいメシ屋と悪が栄えた試しは無し……正義は必ず勝つのだわ☆」

 

 

 

 

 

「――ッ?!い、今の声は?!」

 

 

「あ……彼処ですっ!!」

 

 

何処からともなく聞こえたハツラツとした声に警官達や野次馬が思わず辺りを見渡していくと、若い警官の一人が何かを発見して上を指差した。そして他の皆がそれを追って振り向くと、其処にはホテルの屋上で仁王立ちする一つの人影の姿があった。

 

 

「あ、あれは……?」

 

 

「――トォッ!!」

 

 

―ダァンッ!!―

 

 

人々が呆然とホテルを見上げる中、屋上に佇む人影が勢いよくホテルの屋上から飛び降りていった。それを目にした観衆からざわめきと悲鳴が上がるが、人影はクルクルと華麗に回転しながらシュタッ!、と何事もないように強盗犯達の前に背中を向けて着地した。

 

 

「強盗犯はこれで全員よ。人質も全員無傷でホテルの中にいるから、早く助けにいってあげるといいわ」

 

 

「な、何っ?」

 

 

「ま、まさか、君が犯人達を捕らえてくれたのかねっ?一人でっ?」

 

 

「貴方は一体?!」

 

 

警官達の質問と共に、マスコミのカメラが一斉に人影を捉える。それを背中越しに感じ取ったのか、人影はフッと不敵な笑みを口元に浮かべ……

 

 

「何者かと問われれば、答えるのが世の常と言うものなのだわね……よろしい!私の名は――!」

 

 

バサアァッ!!と、銀色のドレスを揺らしながら観衆の方へと華麗に振り返り、そして―――!!!

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―Green Cafe―

 

 

黎愛(零)『弱きを助け、強きをくじく!愛と正義の執行者、魔法少女☆カレイドダイヤ!この町を泣かせる悪者は、私がプリズムメイク!しちゃうのだわ♪』

 

 

ドール「うわぁ……なんスかあれチョーイタい、ショウジキナイワー(´・ω・`)」

 

 

零「…………………………………………………………………………………………………………」

 

 

―――後日、カメラの前で華麗に可愛らしくポーズを決めるカレイドダイヤの姿を実際にテレビで見て、あの醜態を曝すハメになった黒月零(正気)はGreen Cafeのカウンター席で俯せになり、涙で出来た水溜まりに無言のまま顔を埋めていたのであった……。

 

 

なごみ「ナノナノ動画にも動画がUPされてるようですね、これはまた凄い反響で……」

 

 

智大「見た所、この数日の間にカルト的なファンまで急増してきているようだしな……ウン、良かったじゃないか零?」

 

 

紲那「あー……まあそのぉ……」

 

 

カノン「元気出しましょうよ、零さんっ……」

 

 

翔「そうそう、俺達も気にしないからさっ……」

 

 

零「…………(ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッカンッガンッガンッ……!)」

 

 

祐輔(む、無言のままテーブルに頭を打ち続けているっ……)

 

 

周りの慰めの声も聞こえておらず、何度も何度も無言のままテーブルに頭を打ち付ける零。それほどまでにカレイドダイヤの忌ま忌ましい記憶を消し去りたいのか、そんな零の姿に一同も若干引いてしまう。其処へ……

 

 

―カランカランッ―

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「ただいまー!ねえねえ!見て見てにぃー!」

 

 

祐輔「あ、ああ、おかえりヴィヴィ……ブフッ?!」

 

 

店の扉を開けて学校から帰ってきたヴィヴィオ(祐輔)に挨拶を返そうとした祐輔だったが、彼は帰ってきたヴィヴィオ(祐輔)の格好を見て思わず吹き出してしまった。

 

 

何故なら今の彼女の姿は、朝学校に行く時には着けていなかった筈のあるもの……カレイドダイヤの衣装に似せて作ったような、新聞紙とカチューシャを身に付けていたからである。しかも完成度もかなり高い……。

 

 

祐輔「ヴィ、ヴィヴィオっ……その格好はっ……?」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「今日の図工の時間に作ったんだよー、凄いでしょ♪えっと……愛と正義のしっこうしゃ!魔法少女☆カレイドダイヤ、参上!」

 

 

―ザシュウゥッ!!!―

 

 

零「ごはぁあっ?!!」

 

 

ょぅι゛ょ の 悪意なき暴力が 零を襲う !!

 

 

カノン(ぎゃあああああああああっ?!零さんが吐血したああああああああああああああっ?!)

 

 

翔(し、しっかりしろっ!傷は浅いぞっ!)

 

 

祐輔「へ、へえぇっ、そうなんだぁっ?良く出来てるねぇっ」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「えへへへへ、学校の友達と一緒に作ったんだぁ♪皆にも上手に出来てるって言ってもらえたよ!」

 

 

祐輔「そ、そっかぁ、良かったねっ」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「うん♪あ、でもこれ作ってる時、男子が意地悪な事ばっかり言って来てヒドイんだよ?『カレイドダイヤとかキモイ』とか」

 

 

―ズシャアァッ!!!―

 

 

零「グフゥッ?!!」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「『いい大人のクセに魔法少女なんてヘンなの』とか」

 

 

―ブザアァッ!!!―

 

 

零「ごばあぁっ……!!!」

 

 

ヴィヴィオ(祐輔)「『ああいう格好するのオタクっていうんだよ』って言うんだよ!全然変なんかじゃないよね?!」

 

 

祐輔「そ……そう、だねっ……」

 

 

零「……………………………………………………………………………」

 

 

紲那(や、やばいっ?!零が息していないっ!!しっかりしろ零ぃっ!!)

 

 

カノン(もうやめたげてぇっ!!!本人此処にいるからっ!!!零さんのLPはもうZeroだからぁっ!!!)

 

 

生気を失い、カウンター席に全身真っ白になりながら突っ伏して吐血する零が、まさかそのカレイドダイヤとは知らずに学校での批評を語るヴィヴィオ(祐輔)の傍らで必死に零の息を吹き返そうとする一同。

 

 

そうして祐輔もその様子を横目で見て冷や汗を流しながらも、ヴィヴィオ(祐輔)のカレイドダイヤに関する話は一向に終わらず、零のLPは知らず知らずマイナスまでガリガリと削られる一方なのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその後、光写真館に帰宅すると……

 

 

 

 

なのは「あの、零君、何か変なお客さんが来てるんだけど……」

 

 

零「……え?」

 

 

ダイヤ『ハァーイッ!おっ久しぶりねえ零ぃー?元気にしてたぁ?』

 

 

零「」

 

 

 

 

何故だかあの悪魔が来訪し、その数分後、光写真館にて最大最悪の絶望的事件が幕を開く事になるのだが、それはまた別の話であった……。

 

 

 

 

 




黒月黎愛 設定]



黒月黎愛

性別:女(元は一応男)

容姿:黒髪ロングと真赤い瞳

解説:ドールに薬物を投与されたり、マジカルダイヤによって無理矢理女体化させられてしまった女版黒月零。


外見は別世界の零の同位体である黒月黎愛まんまなのだが、体型は零の年齢に合わせ成長しており、より艷やかな大人の女性らしいスレンダーな体付きになっている。


見た目から声音まで元の男だった頃の面影が何一つない為、本人が自ら正体を明かさなければ普通に女だと勘違いされても可笑しくないレベルの美女になっており、実際、最初に女になった零を初めて目にした仲間内からも『原形が全然なく、可愛げがあるので本当に零なのか怪しい』と疑われていたが、今や顔やスタイルが無駄に良い為になのは達に着せ替え人形のように扱われ、日々泣く事が多くなったとは本人談。


また、女化が長引くと感覚も次第に女性へと近付くのか、ヴィヴィオと遊んでると時になどふと母性が湧き出たり、トイレの時には自然と女子トイレを選んだり、仕草が無意識に女性らしくなったりするらしく、その度に男の自分を取り戻す為に自分で自分の顔をブン殴ったりしているらしい。


最近ではマジカルダイヤのせいで黎愛になる回数が日に日に増してきており、そのせいか黎愛である事に慣れ始めている事が死活問題になっている他、遂には女の色香まで出始めて来たのか、早瀬智大に貞操を狙われたりなどして危機感を覚え始めてきたそうな……。


因みに余談なのだが、中身が男のままのせいか普段女性ならば気を付けるべき事が全く出来ていない事が多く、更には女化の影響で心持ちも和らいでいるのか、信頼する相手に無防備を晒し、無防備に微笑み、無防備に異性(本人的には同姓)とも接する―――ので、ある意味自ら危険に飛び込む悪い癖が此処でも発揮されているとも言える。







仮面ライダー少女ディケイド


解説:黒月黎愛がディケイドライバーとライドカードを用いて変身する仮面ライダーディケイド……の、女版。


以前風麺でバイトの時に着せられたボン太くんのきぐるみを纏ったまま変身した時と同様、零が黎愛になってしまった影響により誕生したイレギュラーな形態と思われる。


武装や基本性能は元と全く変わらないが、仮面はお面のような形状となって頭の上に引っ付き、スーツやボディは殆ど水着のように見える女の子らしいアレンジされた衣装に変化しており、更にディケイドを意識したリボンやアクセサリーを身につけている他、瞳や髪の色もディケイドのマスクの色彩を落としたような外見に変化している。


また、カメンライドの際にはそのライダーのデザインを準拠にした衣装と、仮面の色彩を落とした瞳と髪色、頭の上のディケイドの仮面もカメンライドしたライダーの仮面に変化する。



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第二十一章/雷牙の世界⑥

 

 

―機動六課・食堂―

 

 

あれから数十分後、零達は取りあえず落ち着いて話し合える場所に移そうと言う雷達の提案からこの世界の六課の食堂に訪れ、其処で雷達に事情を説明し、同時に紫苑達からも雷達と一緒に今までの経緯を聞かせてもらっていた。ちなみに、アズサは六課に到着した後そのまま医務室へと運ばれ、先の戦いで負った怪我をこの世界のシャマルに治療してもらっている。

 

 

理央「――つまり、お前達はそれぞれ別世界のディケイドで、この世界には何れ訪れるであろう滅びを食い止めに来たという訳か」

 

 

零「一応な。ま、紫苑達がこの世界に現れたのなら、危険分子とやらの俺は不要なのかもしれんが……」

 

 

なのは「ちょっと、零君っ……!」

 

 

一通りの話を聞いた理央の言葉に、テーブルに片肘を付きながら淡々とした口調でそう答える零。そんな零の態度になのはが咎めるが、理央は特に気にせず真剣な顔付きで零と紫苑の顔を交互に見比べていく。

 

 

理央「だが、その話も何処まで本当か分からんな……世界を破壊する悪魔がこの世界に現れると雷から聞いて、それが二人も現れた。その悪魔とやらは、お前達のどちらなのか……」

 

 

紫苑「…………」

 

 

光「ま、待ってください!世界を破壊する悪魔って、紫苑君はそんな事……!」

 

 

零「……そいつの言う通りだな。その小僧に、世界を破壊するなんて事は出来んと思うぞ?」

 

 

勇輔「……え?」

 

 

疑心の眼差しを向ける理央に光が紫苑を庇おうとしたその時、零が無愛想な態度で横からそんな事を言った。その発言に紫苑達は呆気に取られた顔で零を見つめ、雷達も紫苑から零へ視線を移していく。

 

 

理央「では、お前は出来ると言うのか?世界を破壊するなどという芸当が」

 

 

零「お前こそ、そんなことが出来ると分かってて回りくどい質問をしてるんじゃないのか?さっきの戦いでも、其処の男が証拠とやらがどうとか言っていたしな。全く、一体何を見せられ聞かされて、そんなに怯えているのやら……」

 

 

シグナム(別)「何…?」

 

 

はやて「零君っ!」

 

 

雷「…………」

 

 

やれやれと肩を竦めながら挑発するような態度を取る零に思わずシグナム(別)とヴィータ(別)が身を乗り出し、はやても零のその態度に怒鳴り声を上げて止めに入った。そして理央はそんな零を見て僅かに目を細めると、はやて(別)に視線を向け、はやて(別)も理央が何を伝えようとしているのか悟り頷き返した。

 

 

はやて(別)「――んじゃ、その『証拠』を見てもらう前に一つ質問あるんやけど、ええかな?」

 

 

紫苑「……?質問?」

 

 

はやて(別)「せや。二人はこの世界に来る前に幾つものライダーの世界を回ってきたみたいやけど……その中に、キャンセラーの世界を訪れた事てあった?」

 

 

『ッ?!』

 

 

光「キャンセラー……ですか?」

 

 

はやて(別)が零達と紫苑達に向けて問い詰めたのは、零達と紫苑達がこの世界に来る以前にキャンセラーの世界に訪れた事があるか、という内容だった。零達は何故他の世界に関わった事のない雷達がキャンセラーの名を知るのかと驚愕してしまうが、紫苑達は初めて聞かされるキャンセラーの名に疑問符を浮かべていき、理央達は双方のその反応から答えを得たのか小さく頷いている。

 

 

理央「どうやら、そちらの一行はキャンセラーの世界に滞在していたことがあるようだな」

 

 

零「……何でキャンセラーの世界の存在を知ってる?お前等、まだ並行世界の事は何も知らないんじゃないのか?」

 

 

理央「キャンセラーの世界に関しては別だ。まあ最も、俺達がその世界の存在を初めて知ったのは、こんなものを見せられてからだがな」

 

 

零「何?」

 

 

険しげな顔を浮かべる零に理央がそう言うと、雷の隣に座るはやて(別)が片手で端末を操作していく。すると食堂内に巨大なモニターが展開され、モニターに何かの映像が徐々に映し出されていった。それに映っていたのは……

 

 

 

 

 

 

ディケイド『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!』

 

 

―ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!ドグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオンッッ!!!!―

 

 

ヴェクタス『アッハハハハハハハハハハハハハッ!!ほら何処を狙ってる?!そんなんじゃすぐに俺に殺されるぞ?!あの女みたいになぁ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

ディケイド『貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

零「――っ?!」

 

 

フェイト「あ、あれは……?!」

 

 

巨大なモニターに映し出された映像。それは、零達が以前訪れたキャンセラーの世界での戦いのひとつ……ディケイドが破壊の因子の暴走により殺意と憎悪に囚われ、何かも破壊し尽くしながらヴェクタスと戦っている映像だったのだ。その映像に零達は驚愕を隠せず目を見開き、理央はそんな零達を見据えながら淡々と語り出した。

 

 

理央「これは数日ほど前に、機動六課に送られてきた映像でな。差出人は不明で、最初は何かのイタズラかと思っていたが、同封されていた手紙のせいで本当か実か判断が出来ずにいた」

 

 

零「……手紙だと?」

 

 

雷「これの事だ」

 

 

理央が口にした手紙とやらが気になり思わず質問すると、雷が制服の内から一枚の手紙を取り出しテーブルの上に置いていく。そして零は訝しげな顔でその手紙と雷の顔を交互に見つめながら戸惑いがちに手紙を手に取り、其処に書かれてる内容を読み上げてく。その内容とは……

 

 

 

 

―龍藤 雷、突然のお手紙に驚かせてしまったことをお詫び申し上げます。実は貴方様に一つご忠告させていただきたく、この手紙を送らせて頂きました。

 

 

あの預言者を名乗る男から既に話を聞いてると思われますが、アナタ方の世界に、世界の破壊者と呼ばれるライダーの脅威が迫りつつあります。

 

 

預言者の言う通り、アレは確かな危険を持ってる存在であり、必ず貴方達の前に障害として立ち塞がる事となるでしょう。

 

 

そして何より一番にお伝えしなければならないのは、アレが持つ『破壊』の力です。

 

 

あの破壊者はその力を己の感情のままに振るい、仲間たちがいるにも関わらず、別の世界に存在するキャンセラーの世界を滅ぼそうとした事があります。

 

 

一度は絆を結んだ友すらも躊躇なく消し去ろうとした存在……そのようなモノを野放しにしておくのは危険です。

 

 

お願いします、どうかあの破壊者を貴方達の手で消し去って下さい。でなければ、アレは何れ全ての世界を破壊し尽くしてしまう。

 

 

これは世界を救う牙である、貴方にしか出来ない役目です……―

 

 

 

 

はやて「――何やのこれ、こんなん無茶苦茶や……!」

 

 

フェイト「……零……」

 

 

零「…………」

 

 

その手紙に書かれてるのは、雷にディケイド……零を倒して欲しいという頼みが綴られたものだったのだ。それを読み終えたなのは達が手紙の内容に対し理不尽さを覚える中、フェイトは物憂い表情で零の顔を見つめるが、零は無表情のまま手紙から雷達に視線を向けていく。

 

 

零「一つ聞きたい……この手紙、鑑識に回して調べたのか?」

 

 

雷「一応な……色々と調べてはみたが、その手紙から手掛かりになりそうなものは何も出なかった。差出人も不明で、多分六課に直接届けられたんだろうが、それ以上の事は何も分からない」

 

 

零「……簡単に尻尾を掴ませる気はないって事か……コイツを出した奴は余程の用意周到らしいな」

 

 

差出人不明の手紙をテーブルの上に投げながら軽く息を吐いてそう言うと、零は両腕を組んで理央を見据えながら再び口を開いた。

 

 

零「で?お前達が俺を……ディケイドを危険視する理由は分かったが、これからどうする気なんだ?具体的に」

 

 

理央「それはこれから決める所だ。その為にも幾つか、お前にはこちらの質問に答えてもらう事になるが」

 

 

零「質問……?」

 

 

雷「ああ、先ずは一つ……その手紙に書かれてる事は事実なのか?お前が世界を破壊しようとし、仲間達をも消し去ろうとしたというのは」

 

 

零「…………」

 

 

フェイト「ちょ、ちょっと待ってっ!違うのっ!それは「あぁ、事実だ」――え……?」

 

 

手紙の真意について確かめようと零を問い詰める雷にフェイトが何かを言おうとするが、それを遮るように零が事実だと認めてしまい、それを聞いた理央達の零を見る目が鋭くなった。

 

 

理央「では、その手紙にも書いてある『破壊の力』とやらを、お前が保有してるというのは?」

 

 

零「事実だ……まあ流石の俺でも未だに扱い切れない力だが、やろうと思えば世界の一つぐらい消せるぞ?何なら、今この場でやって見せようか?」

 

 

優矢「おい、零っ?!」

 

 

ヴィータ(別)「テメッ…!「待て」っ?!雷?!」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発する零に掴み掛かろうとするヴィータ(別)だが、それを雷が片手で制して止め、雷はそのまま零に視線を戻して再び問い掛けた。

 

 

雷「……本当なのか?お前は自分の仲間を……友人を世界と一緒に消し去ろうと……?」

 

 

零「今言っただろう?紛れも無い事実だと。俺は世界を破壊しようとしたし、それに仲間を巻き込む事に何の躊躇もしなかった……この手紙にも書いてある通り、俺は正真正銘の破壊者だ」

 

 

セイン「ちょっ、零っ!何言ってんのさっ?!」

 

 

フェイト「そうだよっ!祐輔の世界でのアレは、元はと言えば私がっ――!」

 

 

零「きっかけはどうであれ、俺が自分の感情のままに破壊者になった事に変わりはない。それに一つ勘違いしているようだが、あの時俺が世界の破壊者になったのはお前の為じゃない。俺が俺の為になった……それだけだ」

 

 

フェイト「っ……零っ……」

 

 

なのは達が零を弁護しようとしても、零はそれを突っぱね飽くまで自分の意志で世界を破壊しようとしたと淡々と告げる。そんな零にフェイトも更に思い詰めた表情を浮かべ、理央も零の返答を聞きはやて(別)達と顔を見合わせ頷き合った。

 

 

理央「……ならば、お前をこのまま野放しにする訳にはいかない。お前には悪いが、この世界に滞在してる間は俺達の監視下に入ってもらう」

 

 

優矢「え?か、監視っ?」

 

 

理央「そうだ、この手紙が送られたのは六課だけじゃない。本局にもこれと似たような警告状と映像が送られたらしく、上層部はディケイドに対して警戒態勢を取っている。そんな状況の中で、お前達を自由に出歩かせるわけにはいかない。暫くは自室の外に出ることは禁ずる。その間の食事は、レオンとFWの誰かに部屋にまで持って来させる」

 

 

ヴィータ「んだよそれっ…殆ど監禁じゃねぇーかっ!」

 

 

はやて(別)「……私等も、ホントはそんな扱いしとうないよ。せやけど、私等はまだ完全に彼の事を信用出来へんし、なにより、彼は世界を破壊出来る力を保有していながら自分でもその力を御し切れてないて言った。もしそれであの映像みたいに暴走なんてされたら、私達に止める術はない。だから、いつ何が起きても良い様に常に目の届くとこに居てもらわんと……」

 

 

理央「身の丈を越える力は自身だけでなく、周りをも滅ぼす……お前が暴走して勝手に自滅するだけで済むなら話は別だが、それで俺達の世界まで巻き込まれては堪らんからな。例え暴走しないと言われても、根拠も無しに会ったばかりの人間の言葉を鵜呑みにする程、俺達もお人良しじゃない。俺達はこの世界の市民の命を預かる身だ。そちらが絶対に安全だと保障してもらわなければ、簡単に信用することは出来ない」

 

 

はやて「っ…それは……」

 

 

確かに、彼等にとって零は今日初めて会ったばかりの他人だ。そんな人間を言葉だけで完全に信用する義理はないし、なにより彼等にだって守る物がある。それを危険に晒す可能性を持つ人間を野放しにする訳にはいかないのかもしれないが、やはり納得は出来ない。どうにか零の処遇を考え直してもらおうと必死にその方法を考えるなのは達だが……

 

 

零「――御託はいい。要するにただ部屋に篭ってれば良いだけの話だろう?ならそれでいい」

 

 

セッテ「?!零っ…?!」

 

 

ギンガ「で、でも、いくら何でもこんなっ…!」

 

 

零「別に犯罪者として逮捕される訳じゃないだろう。どうせアズサも暫く怪我で此処から動けんだろうし、どっちみち残る事になる。気にするな」

 

 

なのは「だけど……」

 

 

心配するなのは達に大丈夫だとは言うが、やはりまだ納得出来ないのかなのは達は不安げに互いの顔を見合わせていき、零はそんな一同から雷達に目を向けて話を切り出した。

 

 

零「ただ、アンタ等に二つほど約束して欲しいことがある。それを呑んでくれるなら、俺も大人しくそっちの指示に従う」

 

 

雷「?約束……?」

 

 

零「そうだ。先ず一つは、定期的でも良いからアズサの見舞いに行かせること。勝手に外に出る事はしないだろうが、もしかしたら、アイツの容態が気になって部屋から勝手に抜け出すかもしれん。どうせ監視も付けるだろうし、同行させて行けば構わんだろ?」

 

 

はやて(別)「ん……まぁ、それくらいなら別にええけど……」

 

 

零「助かる……二つ目は、紫苑に関しての処遇だ」

 

 

紫苑「……え?」

 

 

零が雷達に提示した二つ目の約束は、紫苑に関する事。今まで口を閉ざしていた紫苑もそれを聞いて思わず疑問げな声を漏らすが、零は構わず話を続ける。

 

 

零「コイツも俺と同じディケイドだが、コイツには俺ほどの物騒な力は持っていない、多分だがな。だから、紫苑に関しては俺みたいな扱いはするな」

 

 

雷「それは……ソイツがお前の友人の同位体だから、か?」

 

 

零「勘違いするな。ただ単に俺と同じライダーだからと言う理由でとばっちりを受けて、後で文句言われたら敵わんだけだ。お前達が危惧しているのは俺だけなんだろ?だったらコイツにまで同じ扱いをする必要はないし、レオンに配属になる二人がどっちもそれじゃお前達だって困るだろ?」

 

 

ただそれだけだ……と、零は其処まで言って口を閉ざした。それを黙って聞いていた光や勇輔は紫苑を庇う零を唖然とした表情で見つめ、雷ははやて(別)の意思を聞こう彼女と顔を見合わせると、はやて(別)は暫く考える仕草を見せた後に仕方ないといった感じに頷いた。

 

 

雷「……分かった、出来る限り考慮はする。だがお前は――」

 

 

零「何度も言わなくても分かってる、約束を呑んでもらった以上は俺も文句は言わんさ」

 

 

再度忠告しようとする雷にウンザリした顔でそう言うと、零はなのは達に視線を向けて口を開いた。

 

 

零「んじゃ、お前達は先に写真館に戻ってろ。また何時インフェルニティが現れるか分からんからな。それまでちゃんと身体を休ませて何時でも動けるようにしとけ」

 

 

なのは「で、でもっ、二人を残して帰るなんて……」

 

 

零「阿呆め、人の心配より自分の心配しろ。お前両手がそんなんじゃ、戦う以前に生活にだって支障が出るだろうが。いいからとっとと帰って安静にしとけ」

 

 

なのは「うっ……」

 

 

理央との戦いで重度の火傷を負い、包帯でグルグルに巻き付けてるなのはの両手を見下ろしながら溜め息を吐く零。それを指摘されたなのはも言葉が詰まって何も言え返せなくなり、苦笑するはやてとすずかに肩を叩かれ渋々と頷き返したのだった。その端では……

 

 

フェイト(……私……私のせいだ……私のせいでっ……)

 

 

そんななのは達から離れた場所では、フェイトが一人思い詰めた表情を俯かせて唇を噛み締めていた。祐輔の世界で零が破壊者と化してしまった1番の要因は、自分にある。そのせいで零が雷達から危険視されてしまってるのだと責任を感じ、暗い影を落としながら誰にも気付かれぬよう静かに食堂を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―???―

 

 

不気味に輝く生体ポットがズラリと並ぶ薄暗い研究室。暗闇に包まれるその一室には、今現在零達の世界のクアットロが何かが入った巨大なポットの前で端末を操作し、室内にはクアットロがキーボードを打つ音だけが絶え間無く響き渡っていた。其処へ……

 

 

―プシュウゥゥゥゥ…―

 

 

『―――只今戻りました。そちらの調子はどうです?クアットロ』

 

 

研究室の扉がスライドして開き、其処から黒いローブを纏った男……黒月八雲が室内へと足を踏み入れた。そして扉の開く音でそれに気付いたクアットロは操作を一時中断し、部屋の中に入ってきた八雲の方へ振り返った。

 

 

クアットロ「えぇ、プラン通り順調に進んでますよ?貴方が先日持ってきて頂いた『オリジナル』の血液のおかげで、"この子"の完成ももうすぐですし……後は簡単な調整を済ませるだけですわ」

 

 

『それは何より……こちらも丁度貴方達が雷牙の世界で動きやすくなるように、手回しを済ませてきたところです』

 

 

クアットロ「…?手回し?」

 

 

八雲の発言にクアットロが疑問符を浮かべながら聞き返すと、八雲はローブの中から数枚の封書を取り出し小さく笑みを浮かべた。

 

 

『あちらの世界の機動六課、それと本局の方に危険が迫りつつある事を知らせただけですよ。ディケイドという破壊者の事をね……。これで雷牙の世界に現れた破壊者達も自由には動けず、貴方達も少しは動きやすくなるでしょう。ついでに……』

 

 

そう言って八雲は手に握る数枚の手紙を何処かへ消し去り、代わりに一本の金のガイアメモリとガイアドライバーを出してクアットロへと投げ渡した。

 

 

クアットロ「ッ!これは……?」

 

 

『祝い代わりに用意した、貴方専用のガイアメモリとドライバーですよ。これで貴方も彼等や組織と対等に渡り合える力を得られるでしょう。それと、もう一つ……』

 

 

まじまじと八雲から投げ渡された金色のガイアメモリとドライバーを交互に見つめるクアットロにそう告げながら、八雲はもう片方の手を徐に上げて掌を開いていく。その中には、小さな黒い欠片のような物があり、それはまるで何かに呼応するかのように何度も淡く紫色に輝いていた。

 

 

クアットロ「?それは……」

 

 

『これは"彼女"への誕生日プレゼントです。見覚えがあるでしょ?一時は貴方達が組織を倒す為の切り札として保有し、今はあの出来損ないの下に戻った石……"破壊の因子の欠片"です』

 

 

クアットロ「なっ…?!」

 

 

八雲の手に握られてるのが、ライダー少女Wの世界で自分がロストを通し黒月零の左目に埋め込んだ破壊の因子の欠片。それを聞いたクアットロは驚きを隠せず、八雲はそんなクアットロを他所にポットの前にまで歩み寄っていく。

 

 

クアットロ「因子の欠片……そんな物を一体何処から……?」

 

 

『以前お話したでしょう?あの出来損ないは過去に、『アルテマの乱』で自ら因子を捨てて人の身となりました。この欠片は、アレがそのとき因子を捨てた際に欠けた一部分でしてね。それを拾っておいたのですよ』

 

 

クアットロ「そんな物が……ですが、何故今になってそんなものを?そんな欠片程度、黒月零の持つ因子に比べれば大した力なんて……」

 

 

『いいえ、欠片程度と甘く見てはいけませんよ?確かに力はアレの持つ因子とは比べ物にはなりませんが、それでもこれだけで世界を壊すことなど造作もない。それに、コレが1番面白いのは力などではなく、この欠片の中に内包されているモノ……あの出来損ないの"負の感情"です』

 

 

クアットロ「?負の……?」

 

 

この欠片には黒月零の負の感情が内包されてる。邪な笑みと共にそう告げた八雲にクアットロが思わず聞き返すと、八雲は紫色に点滅する因子の欠片を自分の耳に近付けた。

 

 

『破壊の因子は持ち主の負の感情を取り込むことで、その成長を速めます。過去のアレはそれによって神座へと至る権利を得ましたが、因子を捨てた事で、破壊の因子はそれまでの力を全て失いました。しかしこの欠片の中には、過去のアレの憎悪や絶望、そういった負の感情の濃い部分が内包されてるんですよ。聞こえてきせんか?過去のアレの嘆きが、憎悪が、絶望が、悲痛な叫びが……この欠片から聞こえて来るのが』

 

 

クアットロ「過去の黒月零の負の感情……ですが、それが一体何になるんです?」

 

 

『おや、分かりませんか?この負の感情が内包された因子の欠片……これをそのクローンに与えれば、彼女は世界の総てを憎悪し、総てを壊し尽くすまで止まらない破壊の化身となるかもしれない。しかもこの欠片は、あの出来損ないの持つ破壊の因子と一つになる事を激しく求めてる……コレは面白い事に使えると思いませんか?』

 

 

生体ポットの中で、無数のケーブルのような物で繋がれた人間……バイザーで顔が隠された少女を見つめながら楽しげな声でそう言うと、八雲はポットの表面に手で触れ口元を歪めていく。

 

 

『初めて心から愛した女と同じ顔をした人間が、過去に自分が抱いた憎悪と絶望を抱き破壊と殺戮の限りを尽くす……それをあの出来損ないが目にした時どんな顔をするか、実に興味深いでしょう?』

 

 

クアットロ「……成る程。しかし私も大概ですけど、貴方も悪趣味な男ですね」

 

 

『ええ……今こうしてても愉しみですよ……』

 

 

微笑するクアットロにそう言ってクルリと振り返ると、八雲は何処からか数枚の写真……零となのは達の姿が写し出された写真を取り出した。

 

 

『何せアレは、この雷牙の世界ごと自らの仲間を手に掛ける事になりますからね……その時にあの出来損ないは知る事になるでしょう。本当の絶望というものが如何なるものなのかを……二度と戻れぬ絶望の淵でね』

 

 

口元を歪め、零やなのは達の写真を纏めて握り締める八雲。直後、零達の写真を握り締める八雲の手が不気味な黒い炎に包まれ、写真が徐々に炎に焼かれ灰と化し散っていく。そして八雲はその様子を眺めながら更に笑みを深めていき、灰となった写真を捨てて背後の生体ポット……『No.Φ』と表記されたポットと向き合い因子の欠片をおもむろに翳していくのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑦(前編)

 

 

―機動六課・医務室―

 

 

あれから数分後。なのは達を先に写真館に帰して機動六課に残った零は、自分の部屋に向かう前にアズサの様子を見るため医務室へと立ち寄っていた。零が立ち寄った時には既にアズサは意識を取り戻していたが、この世界のシャマル(別)の診断ではあまり激しい運動をすると背中の傷が開いてしまうので絶対安静を言い渡され、アズサに無理をさせぬよう彼女をベッドの上に横たわらせながら会話していた。

 

 

零「傷の具合はどうだ…?まだ痛むか?」

 

 

アズサ「ううん……大丈夫……前に翼を毟り取られた時に比べたら、全然平気……」

 

 

零「あぁ……そうだったな、お前はひ弱そうに見えて案外丈夫な奴だし。安静にしとけばその程度の怪我、すぐに治るだろう」

 

 

アズサ「…………」

 

 

冗談を交えて笑みを浮かべながらアズサにそう告げる零。しかし、そんな零を見つめるアズサは何故か元気がなく表情を曇らせており、何処か申し訳なさそうに目を伏せながら口を開いた。

 

 

アズサ「零―――ごめんなさい……」

 

 

零「……?何だ急に?何で謝る?」

 

 

何故かいきなり謝り出したアズサに訝しげに零が問い返すと、アズサは「だって……」と伏せていた瞼を開いた。

 

 

アズサ「あの時……私が怪我さえしなかったら……零が雷と戦う事なんてなかったから……」

 

 

零「……!」

 

 

アズサが気にしているのは、雷との戦いの中でサンダーレオンから零を庇った際、自分が怪我をしたせいで零と雷を止められなかったことらしい。あの時自分が怪我さえしなければ、零が雷に対し怒りを抱いて戦うこともなかったと。その事に対して申し訳なさそうに謝罪するアズサに、零も気まずげに視線を下げ一瞬口を閉ざしてしまうが、すぐにアズサに視線を向け首を左右に振った。

 

 

零「お前が謝る事はない。謝らないといけないのは、寧ろ俺の方だ……お前は身を呈して必死に戦いを止めようとしてくれたのに、俺は目先の怒りに囚われて、それを無駄にした……すまない」

 

 

それに、あの戦いでアズサを傷つけられた事に対して怒りを感じたのは事実だが、実際はそれだけじゃない。自分も信頼してた仲間に裏切られたと誤解して感情的になり、冷静さを失い雷と戦ってしまった。だから悪いのはアズサじゃないと零は頭を下げて謝罪し、アズサはそんな零を見てフルフルと首を振った。

 

 

アズサ「零……謝る相手が違う。私じゃなくて、雷に謝らないと……」

 

 

零「……え?」

 

 

アズサ「雷達は、何も知らないままただ自分達の世界を守る為に戦っただけで、私達も、雷達のことを誤解して戦った……」

 

 

零「…………」

 

 

アズサ「零は不器用だから……きっと、まだ雷達と仲直り出来てないと思う……だから、雷達とちゃんと、仲直りして……誤解されたままじゃ、何も分かりあえないから……」

 

 

まるで友達と喧嘩した子供を優しく叱る母親のように、零の眼を真っすぐと見つめながらそう促すアズサ。零はそんなアズサの言葉を聞き驚くように僅かに眼を見開くと、自嘲するように苦笑いを浮かべ、アズサに向けて小さく頷き返した。

 

 

零「ああ……分かった……雷達には俺から謝っておく、だからお前ももう休め。あまり無理すると、本当に怪我の治りが遅くなるぞ?」

 

 

アズサ「……うん……約束……」

 

 

苦笑いする零に向けて徐に頷くと、アズサはゆっくりと瞼を閉じて数分もしない内に寝息を立てながら眠りに付いていき、その就寝の早さに零も思わず苦笑いを深めてしまう。

 

 

零「まったく、まさかお前に説教される日が来ようとは……いや、それだけ俺が頼りないだけか」

 

 

改めて自分の不甲斐なさを思い知らされて力無く首を振ると、零はアズサの肩にまでシーツをしっかり掛け、医務室の扉を横目で見つめた。

 

 

零「――いい加減に入って来たらどうだ?盗み聞きをされるのは良い気がしない」

 

 

『……!』

 

 

零がそう呼び掛けた瞬間、医務室の扉の向こうで誰かが驚くような気配がした。そして少しの時間を置いて医務室の扉が開かれ、其処から一人の少年……紫苑が医務室の中へと入ってきた。

 

 

紫苑「気付いてたんですか、僕がいるの」

 

 

零「気配を感じ取ることに関しては、どっかのドSの扱きで人並み以上に鍛えられてるんでな……で?俺に何か用か?」

 

 

アズサと話してた時と違い、淡々とした口調で紫苑にそう問い掛ける零。しかしそんな零からの問いに紫苑は無言のまま何も答えず、ベッドの上で眠るアズサに視線を向けた。

 

 

紫苑「彼女には優しいんですね。その子と話してる時の貴方は、さっき雷さん達と話してる時とまるで違った」

 

 

零「……別に。怪我人相手にまで刺々しく接する必要はないだろ」

 

 

紫苑「本当にそれだけですか?……ずっと気になってたんですよ。何で貴方はあの映像や自分の力について何も弁解せず、雷さん達に対してあんな態度を取って、僕を庇うような事をしたのか」

 

 

零「そんなつもりはないと言ったハズだ……何が言いたいんだ?」

 

 

まるで全てを見透かしてるかのように回りくどく言う紫苑を鋭い目付きで睨む零だが、紫苑はそんな零に臆する事なく、零の目をまっすぐ見つめ返しながらハッキリと告げた。

 

 

紫苑「あの人達にあんな事を言ったのも、自分が世界を破壊する存在だと認めたのも、全部わざとじゃないんですか?自分に矛先を向けさせて、わざわざ自由に動けなくなる条件を呑んでまで僕を庇ったのも、何か意図があるからでは?」

 

 

零「…………」

 

 

紫苑「ちゃんと話してください。このまま貴方に借りを作られたままなんて僕は嫌です。何も聞かされないまま、貴方の思惑通りに動かされるのも」

 

 

自分の自由の代わりに零が犠牲になるという今の状況が気持ち悪いからか、零の目を見つめたまま真剣な口調でそう告げる紫苑。零はそんな紫苑の言葉を聞いて思わず紫苑の目から視線を反らしてしまうが、先程アズサに言われた言葉を思い出し、薄く息を吐きながらゆっくりと口を開いた。

 

 

零「―――お前も知っての通り、この世界の管理局という組織は、ディケイドを危険な存在だと警戒心を抱いてる。その原因となったあの映像と警告状を送った奴は、恐らく俺の『力』についてそれなりに知ってるに違いない。最初は俺の力を警戒してあんな物を送り付けたのかと思ったが、それなら俺の名前を書けばいいだけなのに、警告状にはわざわざディケイドとだけ書かれていた。多分アレは俺だけじゃない……俺とお前の両方をこの世界で動けなくさせる為に送った物だ」

 

 

紫苑「僕達を…?どうしてそんなこと……」

 

 

零「其処までは分からんが、恐らく向こうには俺達の存在は都合が悪いんだろう。だからあんな警告状を管理局に送り付けて、俺達を動きづらくした……そんな真似をするって事は、絶対に向こうは録なことを企んじゃいない。多分それが、この世界で起きる滅びなのかもしれん」

 

 

紫苑「……なら尚更、何故あの人達に弁解しなかったの?其処まで考えたのなら、彼等に全部話して――」

 

 

零「いいや……例え彼処で今の話を含めて弁解しても、俺達の自由が保証されるワケじゃない。何せあっちには怪人とも対等に戦えるライダーに、良く分からんライオンもどきみたいな奴がいる。もし『どんな異変が起きても俺達で対処するから、お前達は大人しくしてろ』などと言われてバックルを取り上げられた上に部屋に閉じ込められれば、この世界で異変が起きた時に対処出来なくなる。そうなるくらいなら、低い確率で両方を自由にしてもらうより、高い確率でどっちかが残る方が確実にいい」

 

 

紫苑「……だからあの映像に映っていた貴方はあんな態度を取って、弁解もせず彼等からの処遇を受けて、僕を庇ったと?」

 

 

零「どちらが危険なのかを明確にしておけば、雷達がお前まで危険視することは余りないだろうからな……それに、弁解する気なんて元々なかったさ。あの映像の件についても、俺は言い訳出来る立場じゃない……」

 

 

思い詰めた表情でそう呟く零の声には、何処か罪悪の念が篭められているように聞こえる。やはり祐輔達の世界を破壊しようとした事に対し未だに罪悪感を拭えないようだが、零はすぐに首を軽く振って思考を切り替え、真剣な表情で紫苑の顔を見つめた。

 

 

零「とにかく、今回の世界はこれまでの世界とは何処か違う。いつ何が起きても可笑しくはない……。何かが起きるとしたら、真っ先に狙われるのは間違いなくこの世界の仮面ライダーの雷牙だ。異変が起きた際、些細な事に時間を取られて対応が遅れるのはマズイ。だからお前には、雷から一時も目を離さないでもらいたい」

 

 

紫苑「それは別に構わないけど……貴方はどうするの?」

 

 

零「……俺とお前のどっちかが滅びを止めさえすれば、俺達がこの世界に居座る必要はない。もしもお前達だけで異変を解決出来たのなら、俺は大人しくこの世界から消えるだけだ」

 

 

紫苑「それは……雷さん達と何も話さないままでってこと?でも、その子と約束したんでしょう?絶対彼等の誤解を解くって……」

 

 

零「…………」

 

 

先程のアズサとの会話で、雷達の誤解を解いて絶対に和解するという約束。その事を指された零は口を閉ざして思わず黙ってしまうが、ベッドの上で静かに眠るアズサの顔を見つめると、視線を落として淡々と語り出した。

 

 

零「解くべき誤解なんて何もない。あの映像に映っていたもの全てが事実だし、俺が俺自身の力を御し切れていないのも、いつ力を抑え切れず暴走してしまうか分からないのも、仲間達を消し去ろうとしたのも事実だ」

 

 

紫苑「…………」

 

 

零「経緯がどうであれ、俺は使わないと決めていた力を使って仲間達を危険な目に遭わせて、個人的な理由で今もその力を使い続けている。……アイツ等が俺を危険と思うのも当然だろ」

 

 

自分の失ってしまった過去と向き合うためとは言え、一度は世界と仲間達を破壊しようとした力を捨てず、暴走の危険もあるのに今もその力を使って戦い続けている。そんな自分に、因子の力を危惧している彼等に『暴走なんてしない、安心しろ』などと言えるハズがない。

 

 

零(――それに、この世界に来てから妙に嫌な予感がする……表で目立って動くより、裏に回って何時でも動けるようにしておいた方が良いかもしれん)

 

 

機動六課に来てからも薄々と感じていた、嫌なモノが迫って来てるような感覚。それが気になってならない零は、最悪な事態に備えて何時でも動けるように逆に雷達から離れて様子を見た方が良いだろうと、首から下ろすアルティを握り締めながらそう考えていた。そして……

 

 

「――雷……」

 

 

雷「…………」

 

 

医務室の外では、雷と黒髪のショートカットの女性……"桜井 奈央"が廊下の壁に背中を預けながら今の零と紫苑の会話を聞いて佇む姿があり、奈央は何か言いたげな表情で雷の顔を見上げるが、雷は何も言わずに無言のままその場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

クレア「いらない」

 

 

真也「……(ピクッ)」

 

 

クラナガンの街角の一角。大勢の人々が行き交う中、両足を組んでベンチに踏ん反り返るクレアがドドン!という壮大な効果音が響き渡りそうな態度でそう言い放った。そしてその言葉を向けられた真也は口の端をヒクヒクと小刻みに動かし、彼女に差し出した飲み物の入った缶ジュースを握り潰したい衝動を抑えながら口を開く。

 

 

真也「じょ、嬢ちゃんよぉ……俺ぁ、アンタが『喉が渇いたから飲み物を買って来て』って言うから、こうして俺が買って来て……」

 

 

クレア「そんなの飲みたくない、別なの買ってきて」

 

 

真也「……(ビキィッ)」

 

 

恭平「あー……真也君よぉ、此処は辛抱して、素直にもっかい買い直しに向かおうや、な……?相手は一応ゲストなんだし……」

 

 

額に青筋を浮かべる真也の肩に手を置き、苦笑い気味に恐る恐るそう告げる恭平だが、真也はそんな恭平の手を払い退けるように、缶ジュースを地面に思い切り叩き付けた。

 

 

真也「ざっっけんなぁ!!もっかいだとぉっ?!そう言ってさっきから何度買い直しに向かわされたと思ってんだっ?!『8回』だぞ『8回』っ?!何回自販機往復さすりゃ気が済むんだコラァっ!!!」

 

 

クレア「アンタがまずそうなもんばっか買って来るからでしょう?ったく、一体どんな感性してるのやら……」

 

 

真也「オメェの感性が飛びすぎてんだろーがぁっ!!大金持ちのお嬢様だか幹部だか知らねぇが、ちったぁ人を敬うってことを知りやがれぇっ!!俺ぁお前より年上だぞ一応っ?!」

 

 

クレア「あー……じゃあ、年上のアンタを敬って、今私が飲みたいものを特別に教えてあげる。ココナッツジュースね、天然物の」

 

 

真也「なに一つ敬ってねぇしんなもん自販機にあっかボケェェェェェェェェェェェェッ!!!!」

 

 

クレアの無茶な注文にぶちギレ怒鳴り声を上げる真也。その真也の叫びに驚いた通行人も変な物を見るような目で真也達の方へと振り向くが、クレアは気にした様子もなく深い溜め息を吐きながらベンチから立ち上がった。

 

 

クレア「アレも出来ない、コレも出来ない……男ってのはホントに使い物にならないわね。寛容さもなければ理解力も低い低脳だし、陰でグチグチ悪口を言って女々しいし、せいぜい子種出して子孫を残すくらいにしか使えないし、ホントに何でアンタ達って死なないの?ってか何が生き甲斐でそんな生きてるの?」

 

 

真也「こ、このアマァァァァァァっ……」

 

 

恭平(うはー、スッゲェー言われよう……)

 

 

薫(まぁ、あちらの組織でも男嫌いで有名らしいですからね、彼女。裕司さんが『彼女の扱いには気をつけろ』って言った意味が漸く分かったかも……)

 

 

雷牙の世界に向かう際に、裕司に言われた言葉を思い出して密かに溜め息を吐く薫。それを他所に真也は額に浮かべる青筋の数を増やしていき、クレアを睨みつけながら再び口を開いた。

 

 

真也「テメェっ……マジでいい加減にしろよっ。こちとらお前なんかいなくても、こんな任務熟すぐらいっ……」

 

 

クレア「出来ないと思われたから、私が呼ばれたんでしょ?キャンセラーの世界でも人質に取った女の子を逃がして戦況を不利にしたって聞いたし……なに?アンタもしかしてロリコン?きもっ……」

 

 

真也「――(ブチッ)」

 

 

薫「……先輩、止めなくても良いんですか?」

 

 

恭平「んー、良んじゃね?真也があの子の相手してくれんなら、こっちはこっちで作戦練りやすいし」

 

 

一触即発な空気を漂わせている真也とクレアを無視し、こっちはこっちで今の内に作戦を考えようと二人に背を向け、恭平はスーツの内側ポケットから雷の写真を取り出した。

 

 

恭平「今回の作戦は以前の阿南祐輔捕獲の任務の失敗を踏まえ、出来るだけ戦闘を避けてサンダーレオンを捕獲しようって考えだ。また異世界からバンバン増援来られたらキャンセラーの世界の二の舞になるし」

 

 

薫「戦闘を避けるって……戦わずに雷牙からサンダーレオンを奪うって事ですか?どうやって?」

 

 

恭平「なに、別に難しい事じゃねえさ。夜を待って、六課の局員全員が寝静まった隙に羅刹を使ってコイツの寝室に忍び込む。そんでコイツのドライバーを手に入れて、ライオンちゃんを捕まえて、それを餌に戦闘機人ちゃん達を罠に掛けておびき出すって訳よ」

 

 

薫「……確かに……下手に騒ぎを起こして、彼女達に僕達の存在が知られたら、警戒して逃げられる可能性がありますしね」

 

 

恭平「向こうも戦力が半減してっから、無駄な戦闘は避けたいだろうしな。まあそゆことだから、今は大人しくして夜を待とうや。今騒ぎを起こして連中と出くわしたら、この作戦もパァにな『キャアァァァァァァァァッ!!』……は?」

 

 

サンダーレオンを捕獲する為の作戦とこれからの方針について恭平が話している中、突如女性の悲鳴が響き渡った。慌てて周りを見れば、通行人の人々が何故か恭平と薫の背後を見て悲鳴を上げながら一目散に逃げ出していた。そんな彼等の視線を追って、恭平と薫が振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

オーガ『――こんのクソガキャアァァッ!!もっぺん言ってみろオォォッ!!』

 

 

『えーえー何度でも言ってあげるわよこのロリコン!あー、でもアンタ確か妹の為に戦ってるとかも言ってたけ?じゃあシスコンか、シ・ス・コ・ン!!SHI☆SU☆KON!!』

 

 

オーガ『こんのっ……?!シスコンの何が悪いんじゃゴルァアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーっっっ!!!!(゜д゜#)』

 

 

 

 

 

 

……其処には、先程まで口論していた筈の真也が変身したオーガと、クレアが『ディスペアバックル』を用いて変身した紫色の甲冑を全身に身に纏った怪人……オーディンディスペアが、道路のど真ん中で互いの剣と槍を打ち合い、目茶苦茶騒ぎを起こしまくってる姿があったのだった。

 

 

恭平「――おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!こんな公衆の面前で何堂々と暴れちゃってくれてんのアンタらぁぁぁぁぁぁ?!止めろぉお!!こんな騒ぎ起こしたらこの世界の六課に気付かれちまうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

薫「……いや、手遅れだと思いますけどね、もう」

 

 

ドライバーとバックルまで持ち出して喧嘩する二人を必死に止めに入る恭平の横で、最早諦め切った表情で薫がそう呟いた。そして彼の言う通り……

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―機動六課・部隊長室―

 

 

―ビィー!!ビィー!!―

 

 

なのは(別)「ッ!緊急警報?!」

 

 

はやて(別)「まさか、またインフェルニティか?!」

 

 

案の定、彼等が街中で起こした騒ぎは機動六課に直ぐに伝わってしまい、同時に恭平の練った作戦は木っ端微塵に壊される事となったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

フェイト「…………」

 

 

その一方、なのは達に気付かれぬよう機動六課を抜け出したフェイトが向かった先は、六課から離れた場所に位置する土手……以前、NXカブトの世界でアズサが零と再会した同じ場所であり、フェイトはその場所で流れる川の水を思い詰めた表情で見つめながら佇んでいた。

 

 

フェイト(……どうすればいいの……零も記憶がなくなって、祐輔の世界での事を知られたせいで零が雷達から犯罪者みたいに扱われて……私のせいだ、私のっ……)

 

 

零の身に次々と異変が降り懸かっているというのに、彼の助けになり得そうな事が何一つ思い浮かばない。彼の喪失した記憶を取り戻す方法も、記憶喪失の進行を止める方法すらも。

 

 

フェイト(やっぱり、皆にも知らせた方が……だけど……)

 

 

彼女達にどう話せば良い?ただでさえ零のことで皆が不安がってる中、解決策もないのにこの事を話してもただ追い撃ちを掛けるだけではないか。そもそも零が雷達から信頼してもらえないのも、元はと言えば自分のせいなのに。

 

 

フェイト(分からない……私は一体どうすればいいの……分からないよっ……)

 

 

零の身に起きている異変を知ってるのに、なのは達に知らせる事も出来ず、彼を助ける方法すら分からない。零が忘れてしまった写真をポケットから取り出して見つめながら、自分の無力さを改めて思い知らされ、フェイトは瞳に涙を滲ませ俯いてしまう。その時……

 

 

 

 

『―――では、私が代わりに教えて差し上げましょう』

 

 

 

 

フェイト「……え……?」

 

 

 

 

不意に、背後から聞き慣れない何者かの声が聞こえた。それを耳にしたフェイトが顔を上げて背後へと振り返ると、其処には、河原の向こうからゆっくりと歩み寄って来るフードを被った男の姿があった。

 

 

フェイト「貴方…は…?」

 

 

『なに、そう身構えないで下さい。私はただ、黒月零の事で思い悩む貴女を救いに来ただけですよ、フェイト・T・ハラオウン……』

 

 

呆然と佇むフェイトに敵意がないと証明する様に両手を広げながら、フードで顔を隠した男……黒月八雲はそう言って、フードの下で怪しげな微笑みを浮かべていくのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑦(中編)

 

 

 

―機動六課・一室―

 

 

アラームが六課内に鳴り響く、数分前……

 

 

零「…………」

 

 

紫苑と別れ、アズサが眠る医務室を後にした零は現在、はやて(別)達が用意した自室にいた。ベッドの上に腰を下ろし、両腕と両足を組んで何をする訳でもなく俯きながらジッとしていたが、不意に顔を上げて天井を見つめながら嘆息した。

 

 

零「まったく……自分から呑んだ条件とは言え、やっぱりこのままってのは退屈だな……」

 

 

部屋で何をする訳でもなくジッとしているのに飽きたのか、天井を見上げる目を細めながらそんな事を呟く零。部屋から絶対出ないと彼等と約束したが、やはり何もしないでいるのは退屈でならない。機動六課内を動けるのはアズサの見舞いに行くときだけで、それも一日一回と決められている。つまり残りの時間はこの室内で過ごさねばならない訳なのだが……

 

 

零「参った……やることもないし、どうした物か」

 

 

部屋に閉じ込められた後にどうするかなど微塵も考えてなかった。話し相手もいないし、先程ミッドの番組をチラリと見てみたが別段面白そうな内容のテレビもなかったし、どうしたものかと零は再び嘆息しながら首に掛けたアルティに触れていく。

 

 

零「いつもならお前が話し相手になって退屈しないで済むんだがな……いつまで寝坊すれば気が済むんだ、お前」

 

 

未だに機能が停止しているアルティを見下ろしながらポツリと呟くが、アルティは何も答えない。一瞬何か言葉が返ってくるのではと期待したが、やはり無駄かと薄く息を吐き、零は再び天井を仰いだ。

 

 

零(そういえば……紫苑は今頃写真館に着いてる頃か?代わりになのは達に無事だと伝えて欲しいと頼んではみたが、どうなったか……)

 

 

食堂で話した時は雷達の前であった以上、なのは達に自分の真意を詳しく話す事が出来ずに心配させたまま帰してしまったが、紫苑に何とか自分が無事である事を知らせてもらえないかと頼んだ記憶が脳裏に蘇る。彼も立場的に考えて自由に外出させてもらえるかは分からないが、果たしてどうなったか。そんな事を考えながら零が静かに天井を見上げていると……

 

 

 

 

 

―…プシュウゥゥゥゥッ―

 

 

雷「…………」

 

 

 

 

 

零「――っ!雷……」

 

 

不意に部屋の扉が機械音を立てながら開き、其処からレオン分隊の制服を纏った雷が部屋の中へと足を踏み入れたのである。いきなり前触れもなく部屋に入ってきた雷に思わず驚きながらも、零はすぐさま無愛想な顔に戻って目を伏せながら俯いた。

 

 

零「何の用だ…」

 

 

雷「ご挨拶だな。一応俺は、この世界でのお前の隊長という役職なんだが」

 

 

零「…俺が上司を敬うような利口な人間に見えるのか?生憎、俺は元の世界でも上司の魔導師に喧嘩売ってボコボコにした経験があるんでな。そんなもの求められても困る」

 

 

まぁ、それも闇の書事件ではやてや守護騎士達が局員として働く様になった後、吐き捨てるように彼女達の悪口を口にする上の人間に喧嘩を吹っ掛けただけなのだが、今ではもう良い思い出だ。だが、勝負の最中に起きたトラブルで無茶した事をはやてに叱られたり、上の人間相手に軽率な行動をした事をクロノ達に散々絞られたりと、酷い目にも遭ったが……

 

 

雷「――一つ、お前に聞きたい事がある」

 

 

零「あ……?」

 

 

そんな昔の事を思い出して零が軽く首を振っていた中、雷が何処か真剣な口調で零にそう問い掛けた。それを聞いて零が思わず間抜けな声と共に顔を上げると、雷は真剣な眼差しを零に向けたまま更に問い掛けた。

 

 

雷「食堂で話した時、お前達は自分達の世界を救う為に同じように滅びに巻き込まれるつつあるライダーの世界を旅していると言ったな?それが自分達の世界も救う方法だと」

 

 

零「……それがどうした?」

 

 

わざわざ改めて聞くことか?と冷たく返しながら息を吐いて雷から顔を逸らす零。雷はそんな零を見て瞼を伏せながら苦笑いすると、再び零に視線を戻して言葉を続けた。

 

 

雷「なら……お前と風間がこの世界に訪れたのも、その滅びとやらがこの世界に迫りつつある、ということなのか?」

 

 

零「…………」

 

 

雷からそう問い掛けられた零はそれに答えようと何かを言おうとするが、すぐに思い止まるように口を閉じ、雷から顔を逸らしたまま目を伏せた。

 

 

零「だったらなんだ?別に何が起きようが、お前達がいれば問題なく解決出来るだろう?それに、俺みたいに無闇やたらに世界を破壊する心配のない紫苑もいるのだし、何が起きてもあの小僧がいれば大丈夫だろうしな。何れにしろ、俺には関係ない事だ」

 

 

ふっ、と鼻を軽く鳴らしながら変わらず無愛想な態度を取る零。だが、雷は零のそんな態度を見ても表情を変えず、薄い溜め息を一つ吐いた後に……

 

 

雷「―――いい加減、そろそろ本当のお前の言葉を聞かせてくれてもいいんじゃないのか?例え話しても、お前が心配している風間の処遇については今更どうこうするはつもりはない」

 

 

零「…っ?!」

 

 

呆れを交えた雷のその言葉を聞き、零は思わず驚愕を隠せない表情で雷の方へと顔を振り向かせてしまった。何故お前がその事を知っている?まさか紫苑が話したのか、或いは心を読まれたのかと考えたが、すぐにそれらの可能性を思考から捨てて雷を睨みつけた。

 

 

零「聞いてたのか?俺達が医務室で話していたのを」

 

 

雷「気になる疑問が幾つかあって、お前にもう一度話を聞こうと思って医務室に足を運んだ時にな。まぁ、それも殆どお前達の会話で解消されたが」

 

 

零「……盗み聞きとは良い趣味だな。余り褒められた趣味でもないが」

 

 

そう言ってバツが悪そうに舌打ちして雷から再び顔を逸らす零だが、雷は構わず両腕を組みながら部屋の壁に背を預けて口を開く。

 

 

雷「食堂でお前と話した時から可笑しいと思った……仲間を傷付けられた怒りで我を見失ったり、自分より他人の事を気にしたりするような奴が、世界や仲間達を自らの意志で破壊出来るとは思えないって」

 

 

零「……どうかな……お前がそう思っているだけで、ホントの俺は仲間の犠牲も省みない外道かもしれんぞ?」

 

 

雷「かもしれないな……。だが本当にそうなら、お前の仲間の高町達が彼処までお前を心配するとは思えん。違う世界の存在とはいえ、アイツ等にも人を見る目ぐらいはある筈だ。そんな連中がお前を信用しているなら、少なくとも、お前は血も涙もない悪魔ってわけじゃないんじゃないか?」

 

 

零「…………」

 

 

雷「話を聞かせて欲しい、お前自身の事、お前が自分の力についてどう思ってるのかを。少なくとも、俺もお前と敵対する気はないし、出来る事なら互いを憎み合うような関係にはなりたくない……もっとも、誤解とは言え話も聞かずに自分から襲い掛かった男の言葉など、簡単には信じられないかもしれないがな」

 

 

零「お前……」

 

 

そう言って苦笑いを浮かべながらも、零から一切目を離さず真摯に見つめ続ける雷。そして零もそんな雷の言葉を聞いて思わず視線を向け、暫く迷うような仕草を見せた後にゆっくりと口を開こうとするが、其処で表情を曇らせ顔を逸らしてしまう。

 

 

零(いや……本当に……話すべきなのか……?)

 

 

雷を信用していない訳じゃないが、此処で雷と話して和解してしまえば、彼まで自分の問題に巻き込まれてしまうのではないか?もしかしたら目の前の雷はこの出来事をきっかけにキャンセラーの世界に自分を助けに来て危険な目に遭わせてしまうのかもしれないし、もしくは全く別世界の住人となって、最終的に二人の雷を巻き込むことになるのでは?そうなれば……

 

 

 

 

 

『…………………………わ…………たし……………………を………………許し…………………て………………』

 

 

『……そう……か……私……みんなに迷惑……掛けちゃったみたいね………ふふふ……何やってるのかしら……私は……』

 

 

『……ありがとう、零……貴方に出会えて……ホントに良かった……』

 

 

『そもそもこうなったのも全部、零さんがこの世界に来たせいじゃないですか!!あの人の目的が零さんなら、零さんがいなくなればいいだけの話じゃないんですか?!』

 

 

 

 

 

……また、あんな犠牲者を増やしてしまうのでないか?それなら自分との繋がりを持たない方がいいのではないか?そんな不安が一瞬脳裏を横切り、零は迷って開き掛けた口を閉ざし黙ってしまった。そんな時……

 

 

 

 

―ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!―

 

 

『…っ?!』

 

 

二人の間の沈黙を破るかのように、突如六課内に緊急警報が鳴り響いたのだった。それを聞いた二人は驚愕の表情を浮かべ、零も立ち上がり部屋の天井を険しげに見上げていく。

 

 

零「緊急警報?まさかまたインフェルニティか?一体どれだけ怪人の数が多いんだこの世界は……」

 

 

雷「いや、それにしては奴らの出現のペースが早過ぎる気が……とにかく、お前は此処にいろ。俺は八神達の所に向かう」

 

 

突然の警報に疑問を抱きながらもすぐに平静に戻った雷は零にそう言い渡すと、そのまま早足で部屋から出ようと扉へと近づいていくが、雷は何故か一度扉の前で立ち止まり、再び零の方へと振り返った。

 

 

雷「……黒月。お前が自分の事を話したくないなら、無理に話せとは言わない。だが、一つだけ忘れないでもらいたい」

 

 

零「……?」

 

 

雷「俺は出来ることなら、お前も救いたいと思ってる。別世界の住人とは言え、今はお前もこの世界に住む人間だからな。この世界の人々を守るのが、俺の……雷牙の役目だ」

 

 

零「……まあ、大抵の仮面ライダーはその世界を守る存在だからな。そう思うのも当然かもしれん」

 

 

雷「それはお前や、風間も同じだろう?お前達だって自分達の世界を救うために戦ってる……なら、お前達二人も俺とは何処も変わらない、仮面ライダーだろう?」

 

 

零「…………」

 

 

零も紫苑も、自分と同じ様に世界を救おうとする仮面ライダーであると、言葉を濁す事なくハッキリとそう告げた雷。そして雷はそれだけを伝えると部屋を後にしてはやて(別)達の下へと向かい、その言葉を投げ掛けられた零は無表情のまま雷が出ていった部屋の扉を暫く見つめた後、深く溜め息を吐きながら顔を逸らした。

 

 

零「くそっ……なのはと話して少しはマシになったかと思えば、まだグチグチとっ……」

 

 

舌打ちしながら毒づくその言葉は誰かに向けられたものではなく、自分に向けてのものだった。雷が自分を理解しようと向こうから歩み寄ってきてくれたというのに、後の不安を考えすぎて迷ってしまった。その事に対し少なからず後悔してしまう零だが、すぐに思考を切り替えるように頭を振った。

 

 

零「いや、今はそれよりも目の前のことが先だな……通信機能だけでも使えればいいが……」

 

 

インフェルニティが現れただけなら雷達だけでも対処出来るだろうが、もしかしたらという事もある。最悪の事態に備えておく必要はあるなと、零は首に掛けたアルティを握り締めながら部屋の扉を見つめていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そしてその一方、六課から離れた場所に位置する土手で八雲と邂逅していたフェイトは、八雲の突然の言葉に戸惑いを隠せず困惑していた。何故なら……

 

 

フェイト「ど、どうして、私が悩んでるって知ってるの……?」

 

 

そう、初対面であるはずの自分や零の事を知っているだけでなく、自分が零の事で悩んでいる事を何故言い当てられたのか分からず、フェイトは八雲に疑わしげな目を向けながら後退りしていく。だがそんな視線を浴びせられつつも、八雲はフードの下で口の端を吊り上げながらフェイトへ歩み寄っていく。

 

 

『何故私が彼の事や、貴女が彼の事で悩んでいる事を知っているのか疑問に思いますか?まぁ、そう思うのも無理はありませんよねぇ。なにせ私は貴女や、当の黒月零とは何の接点もない他人ですから』

 

 

フェイト「?接点がないって…じゃあ…どうして…?」

 

 

尚更分からない、何故目の前の男が自分の事や零の事を知ってるのかと。困惑の色が益々深まる表情でフェイトが戸惑いがちに八雲にそう問い返すと、フェイトの前に立ち止まった八雲はニヤリと笑みを深め……

 

 

『何故?そんなの決まっているじゃないですか』

 

 

フェイト「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私が……あの“警告状”を彼等に送り付けた本人だからですよ♪』

 

 

フェイト「……えっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身がゾクリと凍えそうなほどの声で、嘲笑いながらそう告げた八雲の言葉を聞き、フェイトは一瞬目の前の男が何を告げたのか理解が追いつかなかった。

 

 

警告状……?

 

 

あの文を送ったのが…この男……?

 

 

フェイト「……貴方が……あの警告状をっ……?」

 

 

『えぇ、どうでしたかな?あの映像も良く撮れていたでしょう?正しく"世界の破壊者"と呼ぶに相応しい鬼気迫るあの姿……フフ、あの悪魔を危険な存在だと彼等に認識させるには、十分な証拠だったと思いますがねぇ』

 

 

フェイト「っ……!!」

 

 

放心状態のまま固まる中、頭の中の思考だけが状況を理解しようと自然と働いている。零と雷達の間に溝を作り、彼等やこの雷牙の世界の管理局がディケイドに世界を破壊する悪魔だという認識を植え付けさせたのもこの男だと。そのせいで零が今どんな目に遭わせられているのかを思い出し、全てを理解したフェイトの表情に怒りの感情が徐々に浮かび上がる。

 

 

フェイト「どう…して……貴方はっ……どうしてあんなものを!!あんなもののせいでっ、皆と雷達は戦わされて!!零は皆から信用してもらえなくて!!なのに!それなのにっ!!」

 

 

今まで心の内に溜め込んでいた行き場のなかった感情が爆発し、八雲にぶつける言葉を上手く纏められないまま怒号を上げるフェイトだが、八雲はそんな彼女の責め付けを受けても笑みを崩さない。寧ろフェイトのその姿を楽しむ様にフードの下で愉快げに笑い、こう告げた。

 

 

『まあ確かに、貴女が私に対して憎しみを抱くのも無理はない。貴女が彼をどんなに大切に思っているのかも承知してますからねぇ。しかし……

 

 

 

 

……貴女に私を責める権利があるのですか……?』

 

 

フェイト「……え……」

 

 

感情のない、冷たさだけを感じる淡々とした声。それを聞いたフェイトが思わず口を閉ざして八雲の顔を見上げれば、其処には八雲の顔が間近に迫り、フードの下から見える冷たい輝きを放つ赤い瞳でフェイトの顔を覗き込んでいた。

 

 

フェイト「ひっ…」

 

 

『だってそうでしょう?元を辿れば、彼が今も苦しんでる原因を作ったのは他の何者でもない……貴女じゃないですか、フェイト・T・ハラオウン?』

 

 

フェイト「っ…?!」

 

 

酷薄な微笑みと共に、フェイトの心をえぐるかのようにわざとらしく核心を突く八雲。フェイトもその言葉を聞いて絶句し何も言えなくなってしまうが、八雲は構わず言葉を続けた。

 

 

『キャンセラーの世界でのヴェクタスと彼等の戦いの際、貴女があんな真似をしなければ彼が破壊者としての力を目覚めさせることも決してなかった……。私が何故あんな警告状を彼等に送り付けたと思います?今の彼がどんな危険な存在なのかを誰よりも理解してるからです。ああしなければなくなったのも、全ては彼が破壊者としての力を芽生えさせたせい……その原因になったのは誰か、貴女も良く分かってるでしょう?』

 

 

フェイト「そ…それは……」

 

 

『それだけではありませんよ?貴女もご存知でしょ?今現在、彼の身に異常事態が起きている事を』

 

 

フェイト「え……?」

 

 

八雲に淡々とそう言われた直後に、フェイトの脳裏を一瞬ある光景……今朝の零との会話が横切る。それを思い出したフェイトは自然と自分の左手に視線を落としていき、自分の手の中に握られているもの……零が忘れてしまった写真達を見下ろした。

 

 

フェイト「まさ、か……」

 

 

『えぇ、そうです。黒月零の記憶喪失。あれも貴女が抱え込んでいる悩みの一つのようですが、何故突然、彼の身にそんな事が起きたのでしょう?その答えは極めて単純……"あれも貴女のせいだからですよ"』

 

 

フェイト「っ!!!?……えっ……?」

 

 

零が記憶を失ったのは自分のせい。八雲のその言葉を聞き、フェイトは声を震わせながら呆然と八雲に聞き返した。一体どういう事?そんな恐怖と疑問に満ちた瞳を八雲に向ければ、八雲は両手を広げながら笑って告げた。

 

 

『彼が記憶を失った一番の要因と言えるのは、あの時彼が破壊者として目覚めてしまった事に関係しているのですよ。可笑しいと思いませんか?あれだけの強大な力を使ったというのに、彼自身に何の負担もないなどと、そんな都合の良い話があるハズがない。ならばそのデメリットとは何なのか……此処までいえばもうお気づきでしょう?』

 

 

フェイト「ぁ……あ……」

 

 

八雲の言葉で、フェイトの頭に一つの可能性が浮かび上がる。だが信じたくない、信じられない。激しく瞳を震わせながら今すぐ逃げ出したい衝動に駆られるが、それを許すまいと八雲は無情な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

『そう……その代償こそがあの記憶の喪失。つまり、彼がああなったのは貴女のせいなのですよ、フェイト・T・ハラオウン』

 

 

フェイト「………………」

 

 

 

 

一瞬、目の前が真っ暗になったような気がした。その絶望的な事実を突き付けられ、フェイトは余りの衝撃に目を見開いてその場から動けなくなってしまう。

 

 

フェイト「う、そ……そんなのっ……」

 

 

『信じられませんか?信じたくないですか?では何故彼は貴女にではなく、高町なのはに自分の弱音を吐いたのでしょうかねぇ?……それも全ては、貴女に頼れない理由があったからでは?』

 

 

フェイト「!!!」

 

 

わざとらしく、フェイトが抱えているもう一つの悩みにまで触れフェイトを動揺させる八雲。何故そんな事まで知っているのかとフェイトの中に疑問が浮かび上がるが、それよりも八雲の言葉が胸に突き刺さりそれ以外の事が考えられない。

 

 

フェイト「……私になにも話してくれなかったのは、私が原因だから……?話したら、私がその事で、自分を責めると思ったから……?」

 

 

それなら全ての辻褄が合うような気がした。彼が何かを抱えていてもそれを皆に話せなかったのは、話せば自分がその事に対し責任を感じてしまうと思ったからではないか?だからそのまま抱え込み続けたせいで、彼が記憶を失うなどという恐ろしい事になってしまったのではないかと。今まで解らなかったパズルが望まぬ形で次々と解かれていくような感じに、フェイトは頭を抱えながらそれを否定するように首を振っていく。

 

 

『なんとも哀しい事実ですねぇ。貴女は彼を思い、彼の苦しみを分かち合いたいと望んでいたのに、それはただ貴女を苦しめるだけの絶望でしかなかった……。どうです?彼が今まで我が身を削ってまで隠し続けた真意を知ったお気持ちは?』

 

 

フェイト「っ…や、めてっ……」

 

 

『おや?今度は掌を返してもう何も聞きたくないと?これはお笑いだ……一体誰のせいで此処までの事態になったと思いです?それとも、今更自分は関係ないとでも言うつもりですか?』

 

 

フェイト「ち、違っ…私はただっ……」

 

 

『救おうとしただけ、と?しかし彼を更なる苦行の道に進ませたのは紛れも無く貴女でしょう?それなのに彼を救いたい?助けたい?彼を地獄に突き落とした上に、親友に醜い感情を抱くような貴女に、そんな事が出来るとでも?……おこがましいにも程がある』

 

 

フェイト「っ!ち、違う!私っ、零やなのはにそんなつもりでっ……!」

 

 

『彼と彼女の仲を妬ましく思ったのでしょ?何故自分ではなく彼女なのかと……ふふっ、その訳が分かっただけでも良かったではないですか?彼が貴女を思って言わなかっただけなのだと。……ん?しかしそれだと、彼も少なからず貴女にも原因があると自覚していたという事になるんでしょうかねぇ?』

 

 

フェイト「や…め、て……もうやめてぇっ!!」

 

 

もう何も聞きたくないと、フェイトは悲痛な叫びと共にボロボロと大粒の涙を瞳から溢れさせながら耳を押さえその場にしゃがみ込んでしまう。零が苦しんでるのは自分のせいで、何かも自分が悪いのだと。罪悪感や悲しみといった負の感情が胸の中でグチャグチャに入り混じり、フェイトは目と耳を閉ざして絶望の淵にその身を浸らせてしまう。だからこそ……

 

 

 

 

『――ああ……ですが一つだけ、無いとも言い切れませんね。貴女が彼を救える方法が』

 

 

フェイト「……え…」

 

 

 

 

この悪魔のささやきに今の彼女が抗える筈がないと、八雲はそう確信して密かに笑みを深めたのであった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑦(後編)

 

 

 

 

フェイト「私でも……零を救える方法……?」

 

 

『えぇ、貴女にもそれが出来ることが一つだけ残っていました』

 

 

ポツリと呟いた八雲のささやきに耳を貸してしまったフェイトが顔を上げて問い掛けると、八雲はそう言いながら機動六課のある方角へと目を向けた。

 

 

『貴女も知っての通り、彼は世界の破壊者としての力を芽生えさせ危険な存在になりつつあります。それは力を使えば使うほどその力を増していき、その代償として彼からあらゆるモノを奪い去っていく……それを利用して彼を手に入れようとしている者が、この世界にいるのですよ』

 

 

フェイト「ッ?!零を?!でも、誰がそんなっ……」

 

 

目の前の男の話を鵜呑みにする訳ではないが、可能性がないとも言い切れない。もしやこの世界の管理局の上層部や最高評議会が零に目を付けたか?そんな考えがフェイトの頭を過ぎるが、八雲はそれは違うと否定するように首を振った。

 

 

『いいえ、確かにこの世界の管理局はディケイドを警戒してはいますが、明確な敵意がある訳ではないようです。私が言っているのは、あなた方と最も深い因縁のある人物達……ジェイル・スカリエッティが生んだ戦闘機人達です』

 

 

フェイト「なっ…脱走した他の戦闘機人が、この世界に…?!」

 

 

『長らく行方を暗まして姿を隠していたようですが、その間に戦力を蓄えて復活の機会を伺っていた様ですね。そしてその手始めとして、彼女達は破壊者の力を目覚めさせつつある黒月零を手に入れようと企んでるのです』

 

 

フェイト「企んでるって…どうして貴方がそんな事を……?」

 

 

『知っているのかと?当然、れっきとした根拠があるからですよ。ほら』

 

 

ピラッと、八雲はそう言いながら何処からか一枚の写真を取り出してフェイトの膝の上に落とした。そしてフェイトがその写真を手に取って見てみると、其処にはミッドの何処かのビルの上に、レジェンドルガ達と二人のライダー……ロストとガリュウを従えて不敵な笑みを浮かべて立つクアットロの姿があった。

 

 

フェイト「クアットロ?!それに、このライダーって……!」

 

 

『……ああ、ガリュウですか?そういえば貴女は以前ライダー少女Wの世界で、彼女と戦った経験があるんでしたね。そう、ガリュウの装着者……ルーテシア・アルピーノもこの世界に訪れているんですよ』

 

 

フェイト「!!」

 

 

ルーテシア・アルピーノ。JS事件でエリオとキャロが救い出した少女であり、現在は再びスカリエッティの下に囚われてライダーとして無理矢理戦わされてる少女だ。写真に写っているもう一人のツートンカラーの仮面ライダーは初めて目にするが、優矢から聞いた特徴からして恐らくコイツがライダー少女Wの世界で零に重傷を負わせたというロストなのかもしれない。その二人を連れてクアットロがこの世界へと現れたというなら、半信半疑だった八雲の今までの話にも真実味が帯びていく。

 

 

『恐らく彼女達は、黒月零を手に入れる為に既に行動を開始しているでしょうね。どうやらキャンセラーの世界での暴走の件を知って、彼の力を手に入れる事により執着しているようですから』

 

 

フェイト「っ……」

 

 

つまり、彼女達はこの世界に自分達が訪れている事を知って追ってきたという事なのだろうか。だとしたら、このままクアットロ達を野放しにしておくのは危険過ぎる。彼女達がより零に執着してるのが自分のせいならば尚更だ。

 

 

フェイト「なのは達に……皆にも知らせなきゃ!急がないと!」

 

 

そうと決まれば、この事を急いでなのは達に知らせてクアットロ達を探さなければ。皆で協力すればきっとクアットロの居場所をすぐに突き止められる筈だと、フェイトは土手を後にして光写真館に戻ろうとする。しかし……

 

 

『――本当に良いのですか?彼女達に伝えたりして』

 

 

フェイト「……え?」

 

 

ポツリと、意味深な発言をこぼした八雲の言葉が気にかかり、フェイトは思わず足を止めて立ち止まり八雲の方へと振り返った。すると八雲はそんなフェイトの反応を見て肩を竦めながらやれやれと溜め息を吐き、淡々とした口調で語り出した。

 

 

『クアットロ達をこの世界に誘うことになったのは、キャンセラーの世界で黒月零が暴走した事による一件で彼に執着してるから……つまり、貴女に原因がある訳なんですよ?』

 

 

フェイト「っ……!だ、だけどっ……」

 

 

『ただでさえ貴女のせいで厄介事を引き込んだというのに、彼女達にまた余計な迷惑を掛けるつもりですか?先程まで貴女ご自身でもそんな事は出来ないと考えていたのに?』

 

 

フェイト「ぅっ……」

 

 

確かに、クアットロ達をこの世界に招いたのが自分のせいなら、自分の手で解決するべきなのかもしれない。だが、ルーテシアが変身したガリュウにも負けた自分一人ではクアットロ達を止める事もままならないのも事実である。ならば一体どうすれば良いのかとフェイトが顔を俯かせて悩んでしまう中、八雲がニヤリと笑みを浮かべながら懐に手を伸ばした。

 

 

『まぁ、ただライダーの力を使って勝てる相手でもないのは確かですからね……では、私から貴女にこれをプレゼントしましょう』

 

 

そう言って八雲はフェイトの手を掴むと、懐から取り出したある物をフェイトの手に握らせていく。それは金色に輝くバックルのようなモノであり、フェイトはそれを目にした瞬間、何故かとてつもない嫌悪感を感じて身を震わせた。

 

 

フェイト「これ、は…?」

 

 

『ディスペアバックル、私がとある人物から運用実験の為に渡された物でしてね。クアットロ達と戦う際にこれを使えば彼女達に遅れを取る事はないでしょう。最もかなり危険な品物ですので、奥の手として取っておく事をオススメしますがね』

 

 

そう言われフェイトがディスペアバックルを見下ろすと、確かにバックルから何か禍々しい物が感じられる。そのオーラからして八雲の言う通り危険な品物だと本能的に分かり、フェイトは今すぐにでも八雲にバックルを突き返したく思うが、八雲はそんなフェイトに構わずに話を続けた。

 

 

『クアットロ達の居場所は私が捜して貴女にお伝えしましょう。彼女達の居場所を突き止めた後は、貴女はクアットロ達よりも先に倒すべき敵を素早く撃退して頂きたい』

 

 

フェイト「!私が倒すべき、敵……?」

 

 

自分がクアットロ達よりも先に倒さねばならない敵。それが気になったフェイトが思わず聞き返すと、八雲はフェイトに渡した写真に写るライダー……ガリュウを人差し指で指差した。

 

 

『クアットロは黒月零の暴走の件を知って以来、彼を破壊者にさせ自分の手駒にさせる計画を立てていた様です。貴女の命が奪われたことで破壊者になったなら、その時と同じ状況を作り、彼を再び破壊者へと堕としてしまえば良い……彼女を使ってね』

 

 

フェイト「ッ?!そんなっ、まさかクアットロはっ……?!」

 

 

『今や圧倒的な戦力を持つ彼女からすれば、ライダーが一人欠けようと何の支障もありませんからねぇ……それに犠牲者にするなら、幼い子供の方が精神的苦痛も大きいでしょうから』

 

 

フェイト「っ……!!」

 

 

まさかあの時の……自分がヴェクタスに殺された時と同じ状況を作る為だけに、クアットロはルーテシアを犠牲にしようと言うのか?もし本当にそんな事になれば、零だけじゃない。彼女を必死の思いで救い出したエリオやキャロの努力も、大好きな母親と共にやり直そうとしているルーテシアの想いすらも犠牲になってしまう。それだけは……

 

 

フェイト「――絶対にダメ……絶対に……絶対に止めなきゃっ……!!!」

 

 

最早、フェイトに精神的な余裕など微塵もない。彼女の思考を埋め尽くしているのは、とてつもなく巨大な罪悪感やこんな事態に招いた自身に対する嫌悪感、零やルーテシアを救い出す事、クアットロの企みを絶対に阻止しなければならないという使命感だけだった。青白く染まった表情でガタガタと身体を震わせながら写真を見つめるフェイトの姿を見て、八雲の顔に張り付いた笑みが大きくなる。

 

 

『だからこそ、余計な犠牲を生まない為にも、貴女は私の言う倒すべき敵を必ず倒さねばならない……お分かりですね?』

 

 

フェイト「……誰を……誰を、倒せばいいのっ……?」

 

 

既にフェイトには、八雲の言葉を疑うだけの余分な気持ちなどない。今の彼女の中には、クアットロの企みを阻止して零とルーテシアを救い出すという感情しかないのだ。朧げな瞳で倒すべき敵が誰なのか問うフェイトの質問に、八雲は写真を差す人差し指をゆっくりと動かした。

 

 

『先程も話した通り、クアットロはルーテシア・アルピーノを犠牲にすることで黒月零の力を暴走させようと考えていますが、それは同時に、自分の手駒であるライダーを一人切り捨てることを意味します』

 

 

フェイト「…………」

 

 

『しかし、幾ら黒月零を手に入れる為とは言え、主力であるライダーを捨てることは彼女にとっても大きな痛手でしょう。彼女達には戦うべき敵が多いですから、戦力を余計に減らすことは出来るだけ避けたいハズ。ならば……ルーテシア・アルピーノを切り捨てることが出来ない状況にしてしまえば良い』

 

 

フェイトに説明しながら、八雲は人差し指を動かす手を止めず写真の上を滑らせていく。

 

 

『今現在、彼女達が戦力に出来るライダーシステムはアース、ロスト、ガリュウの三つ……。クアットロはガリュウを捨てることで代わりに黒月零を手に入れるつもりのようですが、もしガリュウ以外のライダーが作戦実行前に倒されれば、計画を続行出来る状況ではなくなる……だから――』

 

 

ピタッと、八雲の指が静かに止まった。彼が指差したのは、クアットロが従えるもう一人の仮面ライダー。そう……

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダーロスト……ルーテシア・アルピーノが犠牲になる前に、コイツを倒してしまえばいい。貴女の手で、この世から完全に、ね……』

 

 

 

 

 

 

何も知らない彼女に、自分の姉と親友の家族を殺せと、彼は酷薄な笑みと共にそう告げたのであった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑧(前編)

 

 

―光写真館―

 

 

紫苑「――という事なんだ。だから、黒月さんも心配しなくていいって」

 

 

なのは「……そっか……やっぱりそういう訳があったんだね……」

 

 

そしてその頃、写真館では六課から戻ったなのは達が光と勇輔を連れて写真館に訪れた紫苑から零の話しを聞かせられていた。そして紫苑の話しを聞き終えたと共になのは達は納得したように頷き合い、一同の間に流れてた沈んだ空気も少しだけ和らいでいた。

 

 

光「やっぱりって……皆さん気付いてたんですか?零さんの考えてたこと」

 

 

すずか「まあ、薄々だけどね……。この世界のはやてちゃん達と話してたときの零君、なんだか、いつもと比べてぶっきらぼうな面が不自然なくらい際立ってた、っていうか……」

 

 

シグナム「奴があんな態度を取る時は、大抵自分の気に喰わない相手に対してか、或いは何かしらの考えがある時のどちらか、なんだが……」

 

 

シャマル「あの子の場合、その考えっていうのが殆ど良からぬ事ばかりなのよね……」

 

 

はやて「せやから、私等も嫌な予感して止めようとしたのに……零君がそれを全部突っぱねてまうようなことばっか言うから……」

 

 

ハァ……と、一同は揃って深い溜め息を吐いてしまう。そんな一同の様子に紫苑達も思わず苦笑してしまうが、その時ザフィーラがゆっくりと口を開いた。

 

 

ザフィーラ「だが逆を言えば、これで黒月を危険から遠ざける事が出来るのではないか?例の警告文の内容からして、おそらくアレを送った人間は黒月の力についてもそれなりに熟知しているかもしれんからな」

 

 

チンク「まあ、キャンセラーの世界での黒月の暴走の件を知っているなら、その経緯についても知っているだろうしな……それを利用して黒月を再び破壊者に堕とそうと、向こうも黒月を狙ってくる可能性はあるかもしれない」

 

 

セイン「その点で言えば、私達も気をつけなきゃだよね。もし私らの誰かがやられたりしたら、それでまた零が破壊者になっちゃうかもなんだし……」

 

 

セッテ「ですね……私も、自分のせいであの人を世界を破壊する存在になんてしたくありませんから……」

 

 

暗い表情でそう呟くセッテの言葉に、なのは達もふと食堂で理央達に見せられた映像の事を思い出す。もし自分達の身に何かあれば、零は再びあの映像のように世界の破壊者となって今度こそ世界を破壊してしまうかもしれない。そうなれば彼がどんなに苦しんで後悔する事になるか……。そうならない為にも、自分達も常に何が起きてもいい様に警戒しなければと各々心の内で決意していた、そんな中……

 

 

はやて「――あ、そういえばなのはちゃん、フェイトちゃんの方はどうや?連絡ついた?」

 

 

なのは「え?あっ、ううん……さっきから何度も携帯に掛けてるんだけど、全然出なくて……」

 

 

そう言いながらなのははスカートのポケットから携帯を取り出してフェイトからの着信がないか確かめるが、着信履歴にフェイトからの着信はなく、なのはは気落ちする様に嘆息しながらフェイトのいない写真館の中を見渡した。

 

 

――零と別れて機動六課を出ようとした直後、何故かフェイトの姿がいつの間にか消えていた。もしかすると、あの映像と零の処遇の件に責任を感じて六課から飛び出してしまったのではと心配し、六課を出てから皆で手分けしてフェイトを捜してみたものの、結局何処を捜しても彼女を見つけることは出来なかったのだ。

 

 

はやて達と同様、行方が分からないフェイトが心配でならないなのはは彼女からの連絡を待ってるのだが、一向にフェイトから連絡が来る気配がない。

 

 

それが余計に胸の内の不安を掻き立て、なのはが暗い顔で携帯の画面を見つめていると、ヴィヴィオが心配そうになのはへと近寄り、そんなヴィヴィオの頭を撫でながら大丈夫だと笑顔を向けた。その端では……

 

 

優矢「――よし、決めた。やっぱり俺達も動こうぜ!そんで、警告状を送り付けた犯人を取っ捕まえてあの人達の前に差し出すんだ、そうすれば零だって自由の身にしてもらえるだろ!」

 

 

ヴィータ「バカ!んな簡単に見付かるなら、初めっからこんな事にはなってねーよ!」

 

 

ティアナ「この世界の私達も、未だ犯人の人物像すら掴めていないようですしね。そんな犯人を捜そうにも、今の私達だけじゃ……」

 

 

優矢「だからダイジョーブだって、こっちにはまだ別世界のディケイドがいるんだしさ」

 

 

紫苑「……え?僕?」

 

 

いきなり名指しされ、唖然とした表情で自分を指差す紫苑。すると優矢はそんな紫苑に人当たりの良い笑顔で頷き返し、ポンポンッと紫苑の肩を叩いた。

 

 

優矢「あの警告状を出した犯人は、ディケイドを警戒してあんな手紙をこの世界の管理局に送り付けたってことなんだろ?なら紫苑と一緒に行動して出歩けば、ソイツらも下手に動けなくなって異変も起きなくなるかもだし、もしかしたら尻尾を出して襲って来るかもしれないじゃんか」

 

 

勇輔「え、それってまさか……紫苑を囮に使うって事か?!」

 

 

優矢「まあ、有り体に言えばそうなるけど……」

 

 

優矢が語る計画に思わず声を上げて驚愕する勇輔だが、優矢はそれに対してごまかそうとせず肯定するように頷き返し口を開く。

 

 

優矢「でもさ、これは紫苑に囮として敵を引き付けてもらうのと同時に、紫苑の身を護るってことにもなるだろ?俺らと紫苑達が一緒に固まって行動すれば、向こうがどんなヤツが襲って来てもそう簡単に負けないだろうし」

 

 

アギト「まあ、紫苑と勇輔にこっちのライダーチームを合わせれば六人って事になるしな……ガチの化け物相手じゃなきゃ先ず負ける筈ねぇか」

 

 

優矢「だろ?紫苑達にとってもそんな悪い話じゃないと思うんだけど……駄目かな?出来たら、零を助ける為にもそっちの力があるとスッゲー助かるんだけど……」

 

 

紫苑「…………」

 

 

仮に滅びが起きたとしても、ディケイドである紫苑に協力してその元凶を倒せば零も自分達もこの世界に留まる必要がなくなる。そうすれば零も解放されてこの世界の雷達とこれ以上いがみ合う事もなく次の世界に去る事が出来るのだがと、その意味を込めながら紫苑に問い掛けると、紫苑は顎に手を添えて考える仕草を見せる。そして……

 

 

紫苑「……いいよ、やろうか」

 

 

勇輔「えぇ!?い、良いのかよ紫苑!」

 

 

紫苑が引き受けると思っていなかった勇輔が驚愕を隠せない様子で紫苑を見るが、紫苑は薄く溜め息を吐きながら口を開いた。

 

 

紫苑「ここで引き受けるにしろ断るにしろ、結局は僕たちも異変があるところに飛び込まなきゃこの世界での役目を果たせないでしょ。だったらこの人達と一緒に動いた方が、異変も早く解決出来るかもしれないじゃない」

 

 

光「それは、そうかもですけど……」

 

 

優矢「……ワリィ、そっちにとっちゃあんまり気持ちのいいやり方じゃないかもだけどさ……でも、俺達もアイツのことを助けてやりたいんだよ」

 

 

勇輔「えっ?」

 

 

申し訳なそうに謝る優矢の言葉を聞き、勇輔と光は訝しげな顔で優矢の方へ振り返った。すると優矢は頬を掻きながらなのは達の顔を見回し、物憂い表情で語り出した。

 

 

優矢「俺達ってさ、いっつも零の奴が大変な目に遭ってる時に、何も力になれなくてさ……キャンセラーの世界でのアイツの暴走の時だって、俺達も平行世界の皆から話し聞くまでそんなことが起きてたなんて微塵も知らなかったし。だから、力になれる事があるなら助けてやりたいんだよ」

 

 

ギンガ「……そうですね。零さんは何度も私達の事を助けてくれるのに、私達は肝心な時に何も力になれてないですし……」

 

 

優矢「うん……だからさ?俺達に出来る事があるなら、力を尽くしたいんだ……ほら!アイツには沢山借り作ってきたし、何時までも借りを作りっぱなしってのも格好悪いしさっ……」

 

 

照れ臭そうに後頭部を掻きながら笑ってごまかす優矢だが、実際は本当に零の身を案じて言ってるのだろう。そんな優矢に賛同する様になのは達も微笑しながら頷いていき、そんな彼等の表情を見回した光と勇輔も互いに顔を見合わせると、何かを決心したように頷き合った。

 

 

光「……分かりました、私たちも協力しますよ」

 

 

優矢「え……本当に?!」

 

 

勇輔「うん。この世界での俺達とそっちの目的も同じらしいし、それに、そんな風に頼まれたら断れないしさ。なあ紫苑?」

 

 

紫苑「ん……まぁ同じ旅をする者同士、助け合いっていうのも悪くないかもね」

 

 

優矢「そっか……そっか!ありがとな!別世界のディケイドが力を貸してくれるなら百人力だっ!ようし、栄次郎さん!この人たちにコーヒー出してやってくれよ!俺の奢りで!」

 

 

栄次郎「ん?ああはいはい、ただ今用意してるところだよ~」

 

 

姫「こら優矢、はしゃぐのはいいが少しは落ち着かないか!はしたない奴と思われたらどうする気だ!」

 

 

セイン「いや……それ姫が言う?」

 

 

協力を受け入れてくれた紫苑達に感謝して勇輔の手を取りブンブンと振る優矢。勇輔と光はそんな優矢に苦笑いし、姫も優矢を宥めようとする中、紫苑はそんな優矢達をジッと無言のまま見つめてある事を思い出していた。

 

 

紫苑(もし彼等や黒月さんが、彼……紅 渡の言ってた仲間だとするなら、僕達は彼等と一緒に戦うべきなのかもしれない。夢の中で彼の言っていた、『敵達』と戦う為にも……)

 

 

紫苑の脳裏を過ぎるのは、この世界に来てから始めて見た夢の中での紅 渡との会話だった。もし彼が警告していた『敵達』が今回の件と関係してるなら、その魔の手は既に自分達の目と鼻の先にまで迫っているということだ。ならば此処は優矢の提案を受け入れ共に行動した方がいいかもしれないと、紫苑は背景ロールの絵に視線を向けながら物思いに耽っていた。その端では……

 

 

カリム「…………」

 

 

ガヤガヤと優矢達が騒いでいる中、カリムはソファーに腰掛けながら両手に握る一枚の白い紙……この世界のはやて達に頼んでコピーしてもらった例の警告状を見下ろし、一人何かを考え込むような顔を浮かべていた。

 

 

シャッハ「……?カリム?どうかしましたか?」

 

 

カリム「……え?あ、シャッハ……いえ、その……これを見ていて、少し気になる事があって……」

 

 

はやて「?気になるって、何か変な部分でも見付けたんか?」

 

 

カリムとシャッハの会話を聞いたはやてが間に入ってそう問い掛けると、カリムははやての顔を見上げ一瞬思案する仕草を見せた後、自分が握る警告状に視線を戻して口を開いた。

 

 

カリム「変な、というより……何だか、胸騒ぎみたいなものを感じるの……」

 

 

シャッハ「胸騒ぎ、ですか……?」

 

 

カリム「えぇ……これを見ていると、これから何かとてつもなく嫌な事が起きるような、何だかそんな予感がして……」

 

 

そう言って不安げに脅迫状を見つめるカリム。そんな彼女の様子に釣られはやてとシャッハも不穏な表情を浮かべながら目を合わせるが、そんなカリムをどうにか元気付けようとはやてがカリムの手を握り締めた。その時……

 

 

―PPPPッ!PPPPッ!―

 

 

『ッ?!』

 

 

不意に突然、電子音のような音が部屋中に響き渡った。突然鳴り響いたそのけたたましい音に一同も驚きながら電子音が聞こえて来る方へと振り返ると、其処には紫苑が通信パネルを開いて応答する姿があった。

 

 

雷『聞こえるか、風間?』

 

 

紫苑「雷さん……?どうかしたんですか?」

 

 

雷『八神から出撃命令が出た。市街地の方でインフェルニティとは違う怪人と、ライダーのような姿をした奴が街への被害も顧みずに暴れ回ってるらしい。俺達はその戦いの鎮静化、もしくは双方の撃退に向かう事になった。お前も来い』

 

 

紫苑「?インフェルニティじゃない怪人にライダーに似た戦士?……分かりました、すぐに向かいます」

 

 

インフェルニティではない別の怪人とライダーと思わしき戦士というワードに疑問を抱きながらも取りあえず頷き返し、紫苑は通信を切って優矢達の方へと振り返った。

 

 

紫苑「雷さんから、たった今出撃命令が出たって。僕はこのまま市街地の方に向かおうと思うけど……」

 

 

優矢「もちっ、俺達も一緒に付いてくよ!」

 

 

なのは「あっ、なら私も!痛っ……?!」

 

 

スバル「なのはさんっ!」

 

 

自分も紫苑達に同行すべくテーブルの椅子から立ち上がったなのはだが、立ち上がろうとした瞬間に両手に激痛が走ってその場に疼くまってしまい、それを見たスバルとティアナとシャマルは慌ててなのはへと駆け寄り身体を起こしていく。

 

 

シャマル「無茶しちゃ駄目よなのはちゃんっ!ただでさえ酷い火傷で、普通にしてるのもやっとなのに!」

 

 

ティアナ「そうですよっ!大人しく安静にしてないとっ……!」

 

 

なのは「っ……で、でも、私だけこんなところでっ……」

 

 

零が動けず、フェイトも行方が分からないこんな状況の中で大人しくしてるのが我慢ならないのか、なのはは自分の怪我の事も顧みず戦いに向かおうとするが、そんななのはの前にはやてが無言のまま近付いて屈みなのはの腕からKウォッチを取り外した。

 

 

なのは「っ!はやてちゃん……?」

 

 

はやて「……なのはちゃんは此処で大人しく待機や。零君達のことで焦る気持ちは分からんでもないけど、そないな状態で戦いに向かわせる訳にはいかへん」

 

 

なのは「うっ……」

 

 

なのはの心境を見透かす様にジト目で見つめるはやてに、なのはも言葉が詰まり黙り込んでしまう。そしてそんななのはに苦笑いを浮かべると、はやては左腕にKウォッチを身につけ立ち上がった。

 

 

はやて「紫苑君達の手伝いは私が引き受けるから、なのはちゃんは安静にしてること。ええな?」

 

 

なのは「ぅ……はい……」

 

 

はやて「ん、宜しい。皆もなのはちゃんの事、宜しく頼むな?」

 

 

ギンガ「はい、分かりました」

 

 

シグナム「主はやても、どうかお気を付けて……」

 

 

はやて「うん、おおきに♪ほんならリイン、行こうか?」

 

 

『RIDER SOUL RIN!』

 

 

リイン「はいですぅ!」

 

 

Kウォッチの画面をタッチしながら呼び掛けるはやてに向けて敬礼し、その場で軽くジャンプするリイン。するとリインの身体が光に包まれてリインキバットへと変身し、はやての周りを何度か飛び回って彼女の肩に留まっていった。

 

 

光「え、えぇぇっ?!お、女の子が?!」

 

 

勇輔「キバットになったっ?!ど、どういう仕組みこれ……?」

 

 

セイン「あ、えーっと……それについては私達も良く分かってないっていうかぁ……」

 

 

ノーヴェ「まあ細かい事はあんま気にすんな。どうせ考えたって分かるもんじゃねぇし、アタシらも使えるもんを取りあえずで使ってるだけなんだしよ」

 

 

考えたって時間の無駄だしと、頭を掻きながら適当な調子でそう告げるノーヴェに光と勇輔も微妙に納得出来てない表情で互いに顔を見合わせるが、その時紫苑が前に出て口を開いた。

 

 

紫苑「そんな事はどうでもいいでしょ、今はとにかく雷さん達と合流しないと」

 

 

勇輔「わ、分かってるって!じゃあ、行こう!」

 

 

取りあえず今は一刻も早く雷達と合流して、市街地で暴れ回ってるというライダー?と怪人を止めなければならない。紫苑達と優矢達のライダーチームは互いに顔を見合わせ頷き合うと、部屋を飛び出して写真館を後にしていく。その時……

 

 

カリム「はやて!」

 

 

はやて「!……カリム?」

 

 

はやてが紫苑達に続き部屋を出ようとすると、カリムが突然大声を上げてはやてを引き止めた。そして呼び止められたはやてがカリムの方へ振り返って訝しげな表情を浮かべると、カリムは何処か不安げな顔を浮かべながら徐に口を開く。

 

 

カリム「気をつけて……今回の世界、何だか凄く嫌な予感がするから……」

 

 

はやて「?……ん、分かった。皆にもそう言っとくな?」

 

 

彼女の言う嫌な予感とやらが何なのかは分からないが、先程からのカリムの様子からして聞き逃していい事ではなさそうだ。皆に追い付いたら一応知らせた方がいいかもしれないと、はやてはそう考えながらカリムに向けて頷き返し、紫苑達の後を追って部屋から飛び出していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

 

―バチイィッ!!バチイィッ!!バチイィッ!!―

 

 

オーガ『チィッ!んの野郎っ!』

 

 

雷達と紫苑達が向かってる市街地の方では、些細な喧嘩から始まったオーガとオーディンディスペアの戦いが激戦と化しつつあった。上空に浮遊するオーディンディスペアが長槍を掲げて空から放つ雷撃がオーガに襲い掛かり、オーガは路上に乗り捨てられた車の上を跳び移りながら雷撃を避けて上空へ飛び、大剣を振り上げオーディンディスペアへと斬り掛かった。

 

 

―ガギイィィィィィィィインッ!!―

 

 

『ええいっ!しつっこい!いい加減にくたばりなさいよこのブ男っ!!』

 

 

オーガ『うるせぇッ!最近胸糞ワリィ任務に使われてばっかでイライラしてて我慢してたっつーのに、余計にイライラさせやがってっ!火ィ付けた責任は取ってもらうぞぉっ!』

 

 

―ドゴオォッ!!―

 

 

『グウゥッ?!』

 

 

未だ取るに足らない口喧嘩を繰り返しながら大剣と長槍で鍔ぜり合っていた中、オーガの蹴りが炸裂してオーディンディスペアを路上の車の屋根に叩き落とした。其処へ追い撃ちを掛けるようにオーガが大剣を振りかぶって勢いよく落下するが、それを見たオーディンディスペアは直ぐさま身体を起こしてその場から跳び退き、オーガの振り下ろした大剣はそのまま車を真っ二つに斬り裂き爆散させただけだった。

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

恭平「おぉぉぉぉい止めろぉぉぉぉっ!!止めないかお前らぁぁっ!!これ以上無駄に騒ぎを大きくするんじゃねぇぇぇぇっ!!」

 

 

『はぁ……彼女はともかく、先輩がまさか此処まで単細胞だったとは……』

 

 

恭平「冷静に言ってないで止めれるなら止めてくれよ後輩クンっ?!いつの間にか変身してんだからっ!」

 

 

『いえ、そうしたいのは山々なんですけど、僕もあの二人の喧嘩のせいで町に余計な被害を出さないようにするのに必死でして……』

 

 

そう言いながら、ダグバに変身した薫は二人の戦闘によって破壊され飛んできた瓦礫や車の破片などを片腕だけで弾き、町への余計な被害を出さないように忙しなく動き回ってる。そんなダグバの姿に恭平も眩暈を覚えふらついてしまうが、どうにか踏み止まって再び二人に視線を戻していき、自分やダグバを気に止めず喧嘩を続けるオーガとオーディンディスペアを睨みつけた。

 

 

恭平「にゃろう……お前らマジでいい加減にしろよっ!!変身っ!!」

 

 

いつまでも子供の喧嘩を続ける二人に痺れを切らし、恭平はアナザーアギトへと変身しながら二人に向かって飛び出した。そしてそのまま二人の間に割って入り、オーガの大剣とオーディンディスペアの長槍を掴み動きを封じていく。

 

 

オーガ『ぐっ!なにすんだ恭平っ?!邪魔すんなっ!』

 

 

『そうよっ!これはコイツと私のサシなんだからっ、邪魔しないでっ!』

 

 

アナザーアギト『アホかぁっ!!いつまでガキみたいな喧嘩してんだよこのバカチン共っ?!良いから早くこっから離れっぞっ!じゃないと、機動六課に見付かってマジで作戦がパァーに「其処までだっ!」……って、へ?』

 

 

二人の武器を封じて必死に説得する中、それを遮るかのようにこの場の誰の物でもない制止の声が何処からか聞こえた。その聞き覚えのある声を耳にした途端、アナザーアギトはまるで一時停止されたテレビ画面の出演者のように固まってしまい、それを他所にオーガとオーディンディスペア、ダグバは首を動かして声が聞こえた方へと振り向いた。其処には……

 

 

 

 

 

雷「――お前達がこの騒ぎの元凶だな?一体何者だ?」

 

 

 

 

アナザーアギト(いっ……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ?!!!本命がキタァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーアァッ?!!!)

 

 

 

 

 

腰にベルトを巻き、一緒に駆け付けたなのは(別)達と共にアナザーアギト達を見据えて佇む青年……今回の任務のターゲットの一人である雷が静かに佇んでいたのだった。今一番会いたくなかったターゲット達との対面に仮面の裏側で滝汗を流しながら内心絶叫してしまうアナザーアギトだが、そんな彼の心境を知らずにオーガとオーディンディスペアは頭上に疑問符を浮かべながらアナザーアギトの顔を見つめ、ダグバは頭を抑えやれやれと首を振っていた。

 

 

スバル(別)「……あれ?報告じゃ怪人とライダーと思わしき戦士が戦ってるってあったのに、怪人が増えてる?」

 

 

ティアナ(別)「しかもまたインフェニティじゃないし……何なのあれ?クワガタとバッタ?」

 

 

「いや、バッタの方は怪人じゃなくないか?だってほら、マフラーしてるし」

 

 

「……兄さん。マフラーがヒーローの身につけてる物だからって、怪人じゃないとは限らないよ……?」

 

 

雷達の背後でスバル(別)とティアナ(別)と金髪の少年と少女……雷が部隊長を勤めるレオン分隊のメンバーの"カイル・レオンハート"と"レオナ・レオンハート"の会話が聞こえて来るが、そんな事を気にしてる余裕すらない。アナザーアギトはどうにか冷静になるべく小さく深呼吸を繰り返して二人の武器からゆっくりと手を離し、雷達の方に振り返って両手を上げていく。

 

 

アナザーアギト『えーっと……こ、こんちゃーっす!局員の皆さん、こんなとこで会うなんて奇遇っすねーっ!』

 

 

雷「……奇遇?」

 

 

理央「……奇遇もなにも、お前達が騒ぎを起こしたせいで俺達が出動する羽目になったんだがな……」

 

 

アナザーアギト『い、いやぁ、別に騒ぎって呼ぶほど大袈裟なもんじゃないっすよ?ただの喧嘩っていうか、痴情の縺れっていうかっ、あはははっ……』

 

 

どうにかしてこの場を切り抜けなければと必死に雷達に弁解しようとするアナザーアギトだが、どう言っても苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。それは雷達も分かっているのか、一同はゆっくりと辺りを見渡し、燃え盛る車やビルを視界に捉え険しい表情でアナザーアギト達を睨みつけていく。

 

 

雷「……これだけの被害を出しておきながら、今更言い逃れをする気か?」

 

 

アナザーアギト『い、いやそうじゃなくて……だから、ねっ……?』

 

 

『……ねぇ、あれがアンタ達の言ってた例の獣の飼い主って奴?』

 

 

オーガ『あ?だから何だよ……?』

 

 

アナザーアギトが雷達への言い訳を必死に考える中、サンダーレオンの契約者の雷に興味を示すオーディンディスペアに訝しげに眉を潜めるオーガ。するとオーディンディスペアはニヤリと不敵な笑みを浮かべ……

 

 

『だったらさ、勝負方法を変えない?どっちが先に……アイツから例のライオン奪えるかってさぁッ!!』

 

 

―バッ!!―

 

 

オーガ『なっ、おいっ?!』

 

 

雷達『ッ?!』

 

 

アナザーアギト『うぇ?!』

 

 

そう言うや否や、オーディンディスペアは長槍を構え直しながら雷達に向かって飛び出していったのだった。そして突然襲い掛かってきたオーディンディスペアを見て雷達も驚愕しながらその場から飛び退いてオーディンディスペアの襲撃をかわすと、雷は左腰のケースから雷牙のカードを取り出しオーディンディスペアと対峙していく。

 

 

雷「チッ……!交渉で解決出来るならそうしたかったが、やっぱり無理だったか……変身っ!」

 

 

『CHANGE RAIGA!』

 

 

アナザーアギト『いやいやいやいやいやいやっ!!?まだ交渉の余地はあるよっ!!?今のはその娘が頭に血が上って勝手に暴走しただけだからっ!!?若さ故の過ちって奴だからっ!!』

 

 

理央「またそうやって騙し討ちする気か?その手にはもう乗らん。臨気凱装!」

 

 

オーディンディスペアの独断行動のせいで何を言っても聞き入れてもらえず、それぞれ変身動作を行い雷牙と黒獅子リオに変身し戦闘態勢に入っていく雷と理央。そうしてなのは(別)達もデバイスを構えてアナザーアギト達と対峙していき、それを見たオーディンディスペアは更に笑みを深めて身構えていく。

 

 

『いーじゃない、ようやくらしくなって来たって感じね。こういう命のやり取りがしたくてこの依頼を引き受けたようなもんなんだから、楽しませなさいよ?並行世界の仮面ライダァーッ!!』

 

 

アナザーアギト『……………………………………』

 

 

『……完全にパァーになりましたね、作戦』

 

 

オーガ『……あー……何かワリィ、俺も頭に血ィ上り過ぎたわ……』

 

 

アナザーアギト『謝るくらいなら最初からやんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!』

 

 

勝手に雷牙達と戦い始めたオーディンディスペアや、哀れみ目を向けるダグバや今更になって謝罪してくるオーガに対して腹の底から絶叫し、アナザーアギトはその場に崩れ落ちながら行き場のない感情をぶつけるように地面に拳を叩き付けていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そして、オーガ達と雷牙達が戦い始めたのと同じ頃。彼等から少し離れた場所に位置するビルの屋上では、ハル達を襲わせたのと同じレジェンドルガ達を従わせ戦いの様子を傍観する一人の女……クアットロが笑みを浮かべて立つ姿が其処にあった。

 

 

クアットロ「んっふふっ、やっぱり出てきましたね、追跡者達。私達が弱ってると思ってノコノコ追ってくるなんて、ほんとに馬鹿な連中……まぁ、そうでないとこちらも予定通りに動けないんですけどぉ」

 

 

雷牙達と戦闘を開始した三人……オーガ達の姿を眺めながら邪な笑みを浮かべてそう呟くと、クアットロは何処からかガイアドライバーを取り出して腰に装着し、懐から先程八雲から受け取った金色のガイアメモリを取り出しスイッチ部分を押していく。

 

 

『DESIRE!』

 

 

クアットロ「このメモリの性能も試したかったところでしたし、丁度良い実験台が見付かって助かりましたよ♪」

 

 

禍々しい電子音声が響くと同時にクアットロが笑みを醜く深めると、突然ガイアメモリが自我を持ったようにクアットロの手から離れ、自動的にガイアドライバーのスロットに挿入されていった。するとクアットロの身体がプラズマに覆われながら徐々にその姿を変貌させていき、黄金の甲冑を纏った女王のような外見をした怪人……デザイアドーパントへと変身していったのだった。

 

 

『あああああぁ……素晴らしいっ……!身体の奥から力が漲るっ!デザイア……『欲望』!ふふ、ふふふふふふふっ……私に相応しいメモリだわぁ……』

 

 

デザイアドーパントに変貌した自分の身体を見惚れるように見回し、身体の内側から溢れる強大な力に歓喜の吐息を漏らすクアットロ。そして変身したクアットロ……デザイアドーパントはゆっくりと背後へと振り返り、『道具』達を捕えるレジェンドルガ達を見回していく。

 

 

『しっかりと捕えておくんですよ?それはこの作戦に重要な『道具』なんですから、絶対に逃がさないように』

 

 

『『『ハッ!』』』

 

 

デザイアドーパントの指示にレジェンドルガ達がそう答えた瞬間、彼等が捕える『道具』達がより一層怯え出したのが目に見えて分かり、そんな『道具』達の様を見てデザイアドーパントは邪悪な笑みを深めていく。その時……

 

 

「――クアットロ、こっちの準備は終わったよ」

 

 

『うん……?』

 

 

不意に声を掛けられ、デザイアドーパントがその声が聞こえた方へ振り返ると、其処にはメカのような外見をした戦士達を背後に控え、こちらに歩み寄って来る二人の男女の姿があった。

 

 

『あら、流石に仕事が速いですわね"インスペクター"さん。探してた『因子』をやっと見付けて、貴方達も張り切ってるのかしらぁ?』

 

 

「ふん、アンタも人のこと言える口かい?それより、風間紫苑がアンタんとこの破壊者の仲間を引っ提げて此処に向かってるみたいだけど、どういうことだい?予定じゃ両方のディケイドをこの世界の六課に閉じ込め、アンタらが騒ぎを起こして雷牙達を引き離し、手薄になった六課をアタシ等が襲撃する予定だったろ?」

 

 

『あぁ……それに関してはこちらの世界のディケイドが余計な真似をしたみたいですね……まぁ、予定とは大分違いますが問題ないでしょう?貴方達はそのまま風間紫苑達を襲撃してください。戦況が危うくなれば、黒月零も大人しくしてる筈がないですから』

 

 

「ふぅん……ならアタシ等は予定通り、このまま風間紫苑を襲うけど……アレに付いてるオマケは、全員殺しても構わないんだろ?」

 

 

『どーぞどーぞ♪あ、でもお嬢様だけは殺してはいけませんよぉ?アレにはまだ利用価値がありますから、生け捕りにして下さいね?アギーハさん、シカログさん』

 

 

甘ったるい声でアレと示すヴィヴィオを殺さぬように、女……"アギーハ"に釘を刺すデザイアドーパント。すると、アギーハは軽く鼻を鳴らしながら何処からか蒼色のベルトを取り出し、それを横目で見た隣に立つ禿頭の男……"シカログ"もアギーハの物とは違う緑のベルトを取り出しそれぞれ腰に巻き付けると、カードを一枚ずつポケットから出していく。

 

 

アギーハ「善処はするよ、五体満足とは限らないけどね……変身っ!」

 

 

シカログ「……!」

 

 

『OG UP!SIRBELWIND!』

 

『OG UP!DRUKIN!』

 

 

変身の掛け声と共にカードをそれぞれのドライバーにカードを装填し、アギーハとシカログの姿が変化して違う姿へと変わっていく。アギーハは全身にバーニア・スラスターと姿勢制御用モーターを搭載し、高周波ブレードを両腕に装備した脚部を持たないライダー……『シルベルヴィント』に、シカログは両肩に砲身を装填した重装甲型のライダー……『ドルーキン』へと変身し、二人が変身を終えると共に背後から出現した歪みに配下の戦士達と一緒に飲まれ、何処かへと姿を消していった。

 

 

『……これで風間紫苑達に邪魔される心配はなくなりましたね……後は――』

 

 

シルベルヴィント達が歪みと共に消えたのを見届けた後、デザイアドーパントは背後へと振り返っていく。其処には、先程と変わらずレジェンドルガと『道具』達の姿があるが、その一番後ろ……

 

 

 

 

 

『………………』

 

 

 

 

 

レジェンドルガ達の背後に、無言で静かに佇む一人の少女の姿があった。全身に装甲のようなパーツを身に纏い、顔を隠すようにモノアイが特徴のバイザーを顔に身に付けるその少女からは、何処か不気味な雰囲気が漂っている。そんな少女に向けて、デザイアドーパントは微笑を浮かべながら口を開いた。

 

 

『貴女も彼女達と合流して、いつでも動けるように待機してて下さいね?』

 

 

『………………』

 

 

『ええ。勿論、生け捕りにした後は貴女の好きにして頂いて構いませんわよ?彼を真に愛せるのは貴女しかいない……そうでしょ?』

 

 

『………………………』

 

 

甘ったるい口調でデザイアドーパントがそう問うと、少女の口元が僅かに歪んだ。まるで、言葉にせずとも当たり前だと言うように。そんな少女を見てデザイアドーパントも口端を吊り上げながら、雷牙達に視線を戻し右腕を掲げる。

 

 

『さぁ、ではそろそろ始めましょうか。黒月零と風間紫苑、サンダーレオン鹵獲作戦を……ね』

 

 

ピキィッ!と、作戦開始を宣言するように指が鳴り、全てが始まったのだった。

 

 

クアットロの予想をも遥かに越える、黒月零にとって未来永劫決して忘れることが出来ない、"最大最悪の絶望的な悪夢"が……。

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑧(中編)

 

 

―クラナガン・ショッピングモール―

 

 

雷牙達とアナザーアギト達が戦い始めたのと同じ頃、写真館を飛び出した紫苑達は通信で雷から聞いた現場に向かって急行し、すでに住民が避難し無人となったクラナガンのショッピングモールを全力で駆け抜けていた。その道中……

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

紫苑「ッ?!」

 

 

勇輔「な、何だっ?!」

 

 

現場に向かっていた最中、遠方から突如巨大な爆音が鳴り響いたのだった。それを耳にした紫苑達が思わず足を止めて遠くを見れば、其処には高層ビル群の向こうから巨大な黒煙が立ち上る光景が映った。

 

 

優矢「あれは?!」

 

 

紫苑「……多分雷さん達が現場に着いて戦い始めたのかも、急ごうっ!」

 

 

勇輔「あ、ああっ!」

 

 

遠方から響き渡る爆発音を聞きながら急いで走り出す紫苑に続くように、立ち止まっていた優矢達も紫苑の後を追って駆け出していく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――残念ですが、貴方達を此処から先に通す訳にはいきません……』

 

 

―バシュウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーッッ!!!―

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

 

何処からか声が響き渡ると共に上空から銃音が聞こえ、紫苑達が上空を見上げると、其処にはなんと無数の実弾とビームが紫苑達に向かって降り注いできていたのだった。

 

 

はやて「ちょっ?!なんやアレっ?!」

 

 

紫苑「ッ!全員散開だっ!急いでっ!」

 

 

ヴィヴィオ「ダ、ダメっ!間に合わないっ!」

 

 

姫「下がれ、皆っ!」

 

 

既に回避も変身も間に合わない距離まで接近してきている無数の実弾とビームの混同射撃を見て一同の表情が凍りつく中、姫が怒号と共に空に向けて右手を掲げ花びらを摸した巨大な盾を展開した。そして上空から飛来してきた実弾とビームが次々と花びらの盾に着弾して爆発と爆風を起こし、爆発から発生した爆煙が周囲を覆っていく。

 

 

勇輔「ゲホッ!ゲホッゴホッ!な、何とか凌いだ……のか?」

 

 

紫苑「……いいや……安心するのはまだ先みたいだよ……」

 

 

ヴィヴィオ「え……?」

 

 

爆煙で咳込みながらも安堵する勇輔にそう告げる紫苑に、一同は訝しげな表情を浮かべ思わず紫苑を見た。すると紫苑は険しげな顔で何かに警戒するかのように目前を睨んでおり、優矢達もそんな彼の視線を追い目の前の目を向けていくと、辺りを覆っていた黒煙が晴れて徐々に視界が戻っていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――今のを凌ぎますか。やはり、不意打ち程度では簡単に倒れてくれないようですね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

黒煙が消えた先。其処には、仮面のモノアイを不気味に光らせ紫苑達を見据える天使のような姿をした白いライダーが悠然と佇んでいたのだった。まるで天使の輪を彷彿とさせる金色のリングを取り巻くように身に付けているそのライダーの右手には、二つの銃口を持つ巨大な白いランチャーが握られており、紫苑はそれを見て目を鋭くさせながら白いライダーと対峙する様に前へ踏み出した。

 

 

紫苑「君は……誰だ?どう見ても仲良くしにきたって感じに見えないけど」

 

 

『当然です……私の役目は貴方達を雷牙の下に行かせないこと……可能ならば、命を奪っても構わないとも命じられています』

 

 

淡々とした声で紫苑の問いにそう答える白いライダー。それを聞いた優矢達は、改めて目の前の相手が自分等の敵だと認識しそれぞれ身構えていき、紫苑もディケイドライバーを取り出し腰に装着していく。

 

 

紫苑「命じられた、か……君、例のインフェルニティって連中には見えないけど、ソレってもしかして……この世界の管理局にあの警告状を送り付けた奴と関係してるんじゃないの?」

 

 

『…………』

 

 

紫苑「黙秘するって事は、否定しないって意味?……僕達を雷さん達のところに行かせない為に襲ってきたのは、僕達が彼処に行くと何か都合が悪いから、じゃない?」

 

 

白いライダーから話を聞き出そうと淡々とした口調で直接問い詰める紫苑。だが、白いライダーは口を閉ざしたまま何も答えようとはせず、無言のまま空いてる手を上げて背後に歪みの壁を出現させた。

 

 

『それを知ってどうするのです?知ったところで何も変わりはしない、知ったとしても貴方達が辿る結末は変わらない。そう……』

 

 

其処まで告げた直後、白いライダーの背後に出現した歪みの壁から無数の戦士達が姿を現した。そうして、歪みの壁から続々と姿を現した無数の戦士達……青のボディを特徴とした『量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ』とグレーのボディを特徴とした『量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ』はあっという間に紫苑達を包囲していき、白いライダー……『センチュリオ・レガートゥス』も白いランチャーを剣のような形状に変化させ……

 

 

センチュリオR『――此処で貴方達は確実に殺します。誰一人として、生かしては帰さない』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガカガガガガガアァンッ!!!!―

 

 

『ッ!変身ッ!!』

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『READY!』

 

『F・I・S・T・O・N!』

 

 

まるで死刑囚に死刑を宣告する審判者のように彼女がそう告げた瞬間、四方から量産型ライダー達が一斉に武器の引き金を引いて襲い掛かったのだった。それを見た紫苑達もすぐさま変身動作を行ったと同時に銃弾が次々と直撃して爆発を起こすも、ギリギリ変身が間に合ったディケイド(紫苑)達は爆発の中から飛び出しセンチュリオR達と戦闘を開始していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―機動六課・ロングアーチ―

 

 

ルキノ(別)「っ?!これは、風間さん達がアンノウンと戦闘?!数、三十、六十、八十……どんどん増えてますっ!」

 

 

グリフィス(別)「なっ……此処に来てまた別の敵っ?インフェニルティじゃないのか?!」

 

 

アルト(別)「データベースに照合無し……全くの未知の敵ですっ!」

 

 

はやて(別)「…………」

 

 

そしてその一方、機動六課ではロングアーチが紫苑達を襲撃したセンチュリオRと量産型ライダー達の反応を感知し、予想外の敵襲にスタッフの間でざわめきが広がっていた。更に……

 

 

―ビーッビーッビーッ!―

 

 

アルト(別)「?!別区域にまた別の反応?これは……っ?!さ、先程の幹部級のインフェルニティですっ!」

 

 

グリフィス(別)「なっ?!く、こんな時にっ……!」

 

 

ルキノ(別)「幹部級と思わしきインフェルニティと、戦闘員が移動を開始……!この方角は……雷さん達とアンノウンの交戦地帯です!」

 

 

はやて(別)「……やっぱりか……」

 

 

オーガ達やセンチュリオRの襲来だけでなく、まるでこの機に乗ずるようにインフェルニティまで出現して戦いに加わろうとしている。増援に向かった紫苑達はセンチュリオR達の足止めを食らって現場を離れられない状況であり、このままでは更に混戦と化して彼等の身が危ない。どうにかしてインフェルニティを止められないかと、グリフィス(別)が思考を巡らませる中、何かを考えるように瞳を伏せていたはやて(別)がゆっくりと瞼を開いた。

 

 

はやて(別)(……やっぱり、私が行くしかないな……出来れば紫苑君達に頼みたかったけど、相手の正体や能力も分からんこの状況で、下手に戦力を分散させるのは彼等が危険や……なら、動ける私が行かんと)

 

 

交戦経験があるインフェルニティが相手ならば、まだ自分でも何とか対処出来る範囲だし、幹部級も足止めくらいなら出来る筈だと、はやて(別)が意を決した様に立ち上がろうとしたその時、突如はやて(別)の前に激しく画面にノイズが走る通信パネルが現れた。

 

 

はやて(別)「?!な、何や?通信……?」

 

 

『…………ぁ…………き……………………るか…………』

 

 

グリフィス(別)「?なんだ……声?」

 

 

いきなり現れたノイズしか映らない通信パネルに目を白黒させるはやて(別)だが、グリフィス(別)はノイズに紛れて通信パネルから声のようなものが微かに聞こえて来るのに気付き、その間にも通信パネルの画面が徐々に鮮明に映り始める。其処に映っていたのは……

 

 

 

 

 

 

零『―――あー、あー……お、繋がったか。聞こえるか、部隊長殿?』

 

 

はやて(別)『!黒月空曹長っ?!』

 

 

 

 

ノイズが僅かに薄れた通信パネルに映ったのは、今も部屋に軟禁しているハズの零の姿だったのだ。予想外の人間からの通信にはやて(別)も再び驚いてしまうが、零はそんな彼女の反応を余所に軽い調子で喋り出す。

 

 

零『何やら大変な事になってるみたいだな?こっちの部屋まで局員達が忙しなく駆け回ってる声が聞こえて来てるぞ』

 

 

はやて(別)「あ、えと……そ、そんなことより、どうやって通信を?!それらしいモノは何も持ってなかったて報告で聞いた筈やけど……」

 

 

零『ん……?ああ、実は俺もデバイスを持っててな。殆どの機能が停止していて、こうして通信に繋ぐのもかなりギリギリなんだが、こういう時に備えて検査の時に隠させてもらったのさ……流石に気付かなかっただろう?』

 

 

意地悪げに笑いながらそう言って首に掛けたアルティを摘んで見せる零。それを見たはやて(別)も一瞬呆気に取られてから思わず頭を抑えてしまうが、すぐさま平静さを取り戻し画面の向こうの零を見据えた。

 

 

はやて(別)「……それで、一体何が目的ですの?こんなタイミングにわざわざ隠し持ってたデバイス使こうて通信を寄越すってことは、そっちもただ私等をからかうのが目的やないんですよね?」

 

 

もしかすると、戦闘要員を殆ど出払って守りが薄くなっているこの機会に交渉を持ち掛けて、今すぐ自由の身にしなければ機動六課を内側から壊滅させるなどと脅迫してくる気なのかもしれない。変身に必要なバックルとカードを没収したとは言え、彼自身の力はまだ未知数だし、彼への理不尽な仕打ちを考えればそれも有り得い話ではなそうだ。果たして一体なにが目的で通信など寄越したのかと、内心緊張を覚えながら画面の向こうの零を見据えてると、零から返ってきたのは……

 

 

零『流石に部隊長は察しが良くて助かるな……用件はただ一つだ―――』

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン―

 

 

『シャアァァァァッ……!』

 

 

それから数十分後。市街地に突如として出現した無数のローチインフェニルティの群れは、雷牙達とオーガ達が戦闘を繰り広げる区域を目指し進行を進めていた。そしてその最後尾には、零達が先程の戦闘の際に退けた黒い異形……ケルベロスインフェニルティの姿もあった。

 

 

『――ふん……あの連中が何者かは知らないが、今が我々にとって好機なのは間違いない。この混乱に乗じれば、雷牙を打ち倒す事もたやすいだろうからな……』

 

 

雷牙達がオーガ達との戦いに気を取られてる隙を突けば、不意を突いて雷牙達を追い詰められるハズだと鼻を軽く鳴らし、ケルベロスインフェルニティは先行するローチ達を急がせ雷牙達の下へと進行していく。その近くに……

 

 

迅「――火事場泥棒とは正にこのことだな……。インフェルニティもセコいことを考える」

 

 

近くのビルの屋上から身を屈めて、その様子を静かに覗き見る青年……ハル達と別れた迅の姿が其処にあり、迅は逆手に持った右手のディソードライバーを手にゆっくりと重い腰を上げていくと、胸のポケットからディソードのカードを取り出していく。

 

 

迅(紫苑がこの世界で役目を果たす前に、雷牙を倒されるのはこっちにも都合が悪いからな……さっさと片付けさせてもらおうか)

 

 

奴らに介入されれば、またややこしいことになるのは間違いない。そうなる前に此処で消えてもらうべく、迅が取り出したディソードのカードをドライバーへと装填して変身しようとした。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ……ドガガガガガガガガガガガガガァッ!!!!―

 

 

『ヌッ?!』

 

 

『ギシャアァァァァァァァァァアッ?!!』

 

 

迅(……ん?)

 

 

 

 

轟音のようなバイク音と共に、ケルベロスインフェニルティ達の背後から一台のマシンが猛スピードで突っ込んできたのだった。

 

 

それにいち早く反応したケルベロスインフェニルティは咄嗟に身を翻してマシンを避けるが、マシンはそのまま止まる事なくローチ達を次々と吹っ飛ばしながら突き進み停まっていくと、二人組の男女が乗るマシン……マシンディケイダーを運転していた青年はヘルメットを取って素顔を露わにしていく。

 

 

零「――こんなタイミングで現れたインフェルニティはどんな奴かと思えば……またお前か」

 

 

『?!貴様はっ……!』

 

 

迅(黒月……零……)

 

 

素顔を露わにした青年……それは、六課で軟禁されていた筈の零だったのである。ケルベロスインフェルニティも青年の正体が零だと知って驚きを露わに思わず身を乗り出し、ビルの屋上からその様子を見ていた迅も零を見て僅かに目を細めていく中、零は静かにディケイダーから降りてケルベロスインフェニルティ達と対峙していく。

 

 

零「悪いが、此処から先のパーティーはもう満員でな。大人しく引き返してもらえるなら、俺も手間が省けて助かるんだが……」

 

 

『……フン、そう言われて黙って従うとでも思うか?丁度いい、貴様には先刻の借りがある。雷牙の前に、先ずは貴様から消し去ってやる……!』

 

 

零「根に持たれてたか……まあそれもそうか」

 

 

ギリギリと拳を固く握り締めてローチ達を前面に展開するケルベロスインフェニルティを見てめんどうそうに溜め息を吐くと、零も懐からディケイドライバーを取り出して腰に巻き付けていく。すると、零と一緒にディケイダーに乗って駆け付けた後部席に座る女性……奈央がヘルメットを取り去って口を開いた。

 

 

奈央「気をつけてください、あのケルベロスの本気の速さは貴方達と戦った時と比べ物になりません。それと……」

 

 

零「『力』は使わないようにお願いします……だろ?分かってる。もし力を使ったその時は、後ろから俺を撃てばいい。そういう約束だからな」

 

 

戦闘態勢に入るケルベロスインフェニルティ達を見据えたまま背後の奈央にそう告げると、零はふと、脳裏に機動六課でのはやて(別)とのやり取りを思い出していく。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

数十分前……

 

 

はやて(別)『――出現許可を、出して欲しい……?』

 

 

零『そうだ。そちらに通信を繋ごうと作業してる時に、ノイズ混じりにだがチラホラ会話は聞こえてたんでな。なにかお困りなようだから手を貸してやりたいと思ってるんだが、こっちは勝手に外には出ないという約束で出られない……だから直接アンタに許可を貰おうと思って、こうして通信を送った訳だ』

 

 

はやて(別)『……せやけど、私等は貴方の世界を破壊する力を危惧したから部屋に閉じ込めたんですよ?それを出して欲しいてお願いされたからって、そう簡単に出せるワケ……』

 

 

零『……それもそうだな……なら、幾つか条件を付けるって言うのはどうだ?』

 

 

はやて(別)『?条件?』

 

 

零『ああ……俺を外に出す交換条件として……アズサと光写真館の連中の身柄をお前達に預ける。もしも俺があの映像と同じ『力』を行使したその時は、アイツを煮るなり焼くなり好きにすればいいだろう?』

 

 

はやて(別)『……つまり、貴方が嘘を言うてないて信じさせるために、私らにあの子らを人質に取らせるっちゅうことですか……?』

 

 

零『そうなるな……。それでも信用出来ないのなら、俺に監視を付ければいい。もし力を使ったその時は、俺を逮捕するなりその場で息の根を止めたりさせればいい……それとも、仲間を売り渡すような人間の言葉なんて信用出来ないか?』

 

 

はやて(別)『……確かに、貴方達が世界を旅する為にも、あの写真館がなければ満足に世界を移動することも出来ないのは聞いてます。それを考えれば、貴方が仲間達を見限って、一人で逃げる事もなさそうですけど……』

 

 

零『それでも疑いが晴れないなら仕方ないが、迷ってる時間もないだろう。取りあえずこっちは、さっさとこの世界での役目を終えて自由になりたい、そっちは今の事態をさっさと解決させたい……一応ではあるが、利害は一致してるんじゃないのか?』

 

 

はやて(別)『…………』

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

零(――駄目元ではあったが、言ってみるものだな。ただ、この世界のはやて達を信用させる為にアズサ達を交渉の材料に使った事は心苦しいが……他に方法も時間もなかったしな……)

 

 

それに要らぬ心配だろうが、これで医務室で眠ってるアズサも自分に利用されたと哀れんではやて(別)達も悪いようには扱わない筈だ。形振り構っている時間もない。

 

 

零(雷達を襲ってるアンノウン……正体はまだ分からないが、もしかしたらそれがこの世界で俺や紫苑達が倒すべき敵なのかもしれん……なら、逃げられる前に雷と紫苑に倒させなければ……!)

 

 

巻き込んでしまった写真館で待機している皆への謝罪は後で考えるとして、その為にも今はケルベロスインフェニルティ達を雷牙達の下に辿り着く前に撃退し、急いで紫苑達の援護に駆け付けねばと、零は左腰のライドブッカーからディケイドのカードを取り出し構えようとした。その時……

 

 

奈央「……黒月さん。こんな時ですけど……一つ聞いても良いですか……?」

 

 

零「ん……?」

 

 

不意に背後から奈央に声を掛けられ、零は思わず手を止めて背後に目を向けた。其処には奈央が自分の胸に手を当て、真剣な眼差しを向けて来る姿があり、奈央は真っすぐと零を見据えて言葉を続けた。

 

 

奈央「どうして…其処までして戦う必要があるんですか?こんなやり方を続けて戦い続けても、貴方自身が報われる事なんてない……自分の言い訳もしないで、そうまでして戦うのは何故ですか?」

 

 

零「?……まさか、アンタ……」

 

 

奈央「…………」

 

 

まさか、彼女も雷と一緒に医務室での紫苑との会話を聞いてたのか?真っすぐな眼差しを向けて来る奈央の目を見つめ返しながら一瞬呆然となる零だが、すぐに何時もの愛想のない表情に変わり、前を向いてそれに答えた。

 

 

零「大した理由なんてない。ただアイツ……俺を信用しようとした雷の信頼に、俺なりに応えようと思っただけだ。それに……約束もあるしな」

 

 

奈央「約束……?」

 

 

そのワードが気になったのか、小さくそう呟いた零に奈央は思わず疑問げに聞き返すと、零は右手に持ったディケイドのカードを見つめながら語り出した。

 

 

零「世界を巡る旅を始める時、なのは達に言ったんだよ。必ずアイツ等の世界を救ってやるから信じろって、約束……を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………ぃ…………しょ…………ゃ………………………る…………………?―

 

 

 

 

 

 

 

 

零(――……?なんだ……今の……?)

 

 

 

 

 

 

約束という言葉を口にしていた途端、脳裏の隅に一瞬だけ何かの光景のような物が浮かび掛けた気がしたが、それもすぐにスッと消えてしまった。まるで、雲を掴もうと手を伸ばして掻き消えてしまったかのように。その不可解な感覚に、零も頭上に疑問符を浮かべて小首を傾げてしまう。

 

 

零(?……まあいい。もう何だったかも分からんし、思い出せないような物なのだからどうでもいい事なんだろう)

 

 

そんな事よりも今は目の前のインフェルニティ達を片付けなければと、零は真剣な表情に切り替わってディケイドのカードを構えた。そして……

 

 

零「変身ッ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

カードをバックルにセットして電子音声が響き、零はディケイドへと変身すると左腰のライドブッカーをSモードに展開しローチ達に向けて身構えていった。

 

 

奈央「これが……ディケイド……」

 

 

『貴様から受けた屈辱……此処で晴らさせてもらう!行けッ!』

 

 

『シャアァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

ディケイド『安心しろ、そんなお前には汚名の挽回をくれてやるッ!』

 

 

ローチ達を差し向けるケルベロスインフェニルティに微笑しながらそう告げると、ディケイドはライドブッカーの刃を軽く撫でながら勢いよく駆け出し、迫り来るローチ達をすれ違い様に素早く斬り裂いて突き進み、爪を構えて襲い掛かって来るケルベロスインフェニルティにライドブッカーを振り下ろし戦闘を開始していくのだった。

 

 

迅「――哀れな奴だな……そんな約束や、過去と向き合う為に因子を行使し続けて、自分自身をも壊してることに気付きもせず……」

 

 

その様子をビルの屋上から終始眺めていた迅は、ケルベロスインフェニルティ達と刃を交えるディケイドを見て鼻を軽く鳴らし、ディソードライバーにカードを装填した。

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

迅「自分の力の事さえ自覚していない……やはりお前は危険だな、黒月零……。お前は、世界に必要な存在ではない」

 

 

『DI-SWORD!』

 

 

明らかな敵意を瞳に宿して断言するように言い放ち、電子音声と共にディソードに変身する迅。そして変身を終えたディソードはディソードライバーを軽く振り、眼下でローチ達を次々と斬り裂くディケイドを瞳に捉え複眼を妖しく輝かせるのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

―クラナガン・ショッピングモール―

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!』

 

 

テンガ『ゼェリャッ!!ダアァッ!!』

 

 

クウガ『クソッ!邪魔すんな、退けッ!』

 

 

一方その頃、雷牙達の救援に向かっていた最中に突如現れたセンチュリオR達の妨害に遭うディケイド(紫苑)達は、それぞれ二組にタッグを組んで迫り来る量産型ライダーの大群の迎撃に当たっていた。

 

 

その中で、クウガとテンガは得意の格闘戦で武器を振りかざして襲い掛かる量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ達を次々と殴り飛ばしていくが、やはり数が多いために中々減る様子はなく、二人は背中合わせになって呼吸を整えていく。

 

 

テンガ『ッ!全く、キリがないなっ……!』

 

 

クウガ『ああっ、クソッ、猫の手も借りたいって正にこのことだなっ……―ビュオォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!―……え?』

 

 

量産型ライダー達の余りの数に思わず毒づいてしまうクウガとテンガの上空を、何かが勢いよく飛び去った。それに気付いて二人が空を見上げれば、其処には空を飛び舞う巨大な黒いクワガタ……以前ディジョブドの世界に訪れた際、紲那が優矢にくれたカードの効果によって優矢の世界の遺跡からこちら側の世界に駆け付けてくれたゴウラムの姿があり、ゴウラムは上空を飛び交う量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ達に次々と突撃を繰り返し撃墜していた。

 

 

テンガ『アレは……?』

 

 

クウガ『ゴウラム?!来てくれたのか!』

 

 

イクサF『ハァッ!…お?ちょうど良いところに増援か……!』

 

 

リイン『空の敵はゴウラムに任せれば大丈夫やね…!皆は地上の敵に集中やっ!隣の相手と離れ離れにならんよう気ぃ付けてなっ!』

 

 

クウガ『分かってますっ!』

 

 

こんな大群に囲まれた状況の中で一人で突っ込めば、あっという間に四方から囲まれてしまう。そうならないように注意を払いながら戦わなければと、リイン達はそれぞれ拳を構え直し、量産型ライダー達の大群の中へと再び突っ込んでいくのだった。

 

 

―ガギイィッ!!バキィッ!!グガアァンッ!!―

 

 

ナンバーズ『グゥッ?!ウアァッ!!』

 

 

ディケイド(紫苑)『ヴィヴィオ!ダアァッ!!』

 

 

一方、ディケイド(紫苑)とナンバーズの二人は軍団を指揮するセンチュリオRを先に倒し指揮系統を乱そうと挑むが、センチュリオRが巧みに振るうブレード・ルミナリウムの鋭い斬撃の数々がナンバーズを追い詰めて斬り飛ばしてしまい、それをフォローするようにディケイド(紫苑)がライドブッカーでセンチュリオRに斬り掛かった。

 

 

―ガギイィィィィッ!!―

 

 

センチュリオR『――並行世界のディケイド、風間 紫苑……どうやらまだ力のすべてを取り戻せていないようですね……』

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ?!僕の事も知ってるのか……?』

 

 

センチュリオR『無論、貴方だけではありません……仮面ライダーテンガ、クウガ、ナンバーズ、イクサ・フロンティア、リイン……それ以外の別世界のライダー達のデータも我々は保有しています。つまり、貴方方が私に勝てる可能性は0に近いと言っても過言ではありません』

 

 

感情の篭らない無機質な声でそう断言し、鍔ぜり合っていたディケイド(紫苑)のライドブッカーをブレード・ルミナリウムで力任せに押し返して斬り掛かるセンチュリオR。そして何とか初撃を弾き返すディケイド(紫苑)だが、その後に襲い掛かる斬撃を捌き切れずに直撃を受け吹き飛ばされてしまい、地面を何度も転がり倒れ込んでしまう。

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ……どうかなっ?そうと決めるのは、まだ早いと思うよ?』

 

 

ふらつきながら身体を起こしてセンチュリオRにそう言うと、ディケイド(紫苑)はライドブッカーを左腰に戻しながら一枚のカードを取り出し、ドライバーへと装填しスライドさせた。

 

 

ディケイド(紫苑)『変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:SHINING!』

 

 

電子音声が響き渡り、ディケイド(紫苑)の姿が奇妙なメロディーと共に変化して異形の姿へと変わっていく。キバに酷似した姿だが、その外見は赤い複眼に黄色のボディとキバとは全く逆の姿のライダー……紫苑達が前の世界で出会った渉が変身した『シャイニング』に変身したのであった。

 

 

センチュリオR『カメンライド……別のライダーに姿を変えたからといって、私に勝てるとでも?』

 

 

Dシャイニング『さっきも言ったでしょ?勝てないと決め付けるのは早いって、さッ!!』

 

 

勢いよく地を蹴り、一息でセンチュリオRとの間合いを詰めて右拳を振り抜くDシャイニング。それを見たセンチュリオRは咄嗟にブレード・ルミナリウムの峰でそれを払い退けながらDシャイニングを斬り付けていくが、Dシャイニングも負けじと身を屈めて斬撃をかわしながらセンチュリオRを殴り付けて後退りさせ、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しバックルに投げ入れた。

 

 

『FORMRIDE:SHINING!FANG!』

 

 

ディケイドライバーの中枢核からファングセイバーが飛び出し、Dシャイニングがそれを手にすると左腕と胸部に鎖が巻かれ、銀色のボディと複眼が特徴としたファングフォームへと変化したのだ。そしてDシャイニングはファングセイバーの刃を撫でながら勢いよく駆け出し、ファングセイバーを巧みに使いセンチュリオRを追い詰めていく。

 

 

センチュリオR『ッ!この力は……!』

 

 

Dシャイニング『まだまだ、これで終わりじゃないよ!』

 

 

そう言ってDシャイニングはセンチュリオRから距離を離すように後方に跳び、今度は違うフォームカードをライドブッカーから取り出してディケイドライバーにセットする。

 

 

『FORMRIDE:SHINING!ARK!』

 

 

電子音声と共に次にディケイドライバーの中枢核から現れた拳のような形をした槌、アークハンマーを手にすると、Dシャイニングは黒い複眼と黒色の鋼のような鎧を纏ったアークフォームへとフォームチェンジした。

 

 

Dシャイニング『そぉらッ!』

 

 

センチュリオR『ッ!』

 

 

―ブオォォッ!!ドゴオォォォォォォオンッ!!!―

 

 

フォームチェンジを終えたと同時にDシャイニングがアークハンマーを振り回しセンチュリオRへと襲い掛かるが、センチュリオRはかろうじてアークハンマーを避けながら後退して壁際にまで追い詰められていき、頭上から振り下ろされたアークハンマーを地面を転がってギリギリ回避すると、アークハンマーはそのまま建物の壁を木っ端微塵に打ち砕いてしまう。

 

 

センチュリオR『ッ……大したパワーです……ですが―バシュウウゥッ!!!―……ッ!』

 

 

―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォンッ!!!!―

 

 

ブレード・ルミナリウムを構え直しDシャイニングに斬り掛かろうとした瞬間、真横から向かってきた強力なエネルギー弾がセンチュリオRに直撃し爆発を巻き起こしたのだった。そしてそれを目にしたDシャイニングが驚きエネルギー弾が放たれてきた方に振り返ると、其処にはヘビィカノンを構えて立つナンバーズの姿があった。

 

 

Dシャイニング『ヴィヴィオ!』

 

 

ナンバーズ『紫苑さん!今ですっ!』

 

 

セッテ『今の内に早くっ!決めて下さい!』

 

 

爆煙で姿が見えなくなったセンチュリオRに目掛け、ヘビィカノンからエネルギー弾を乱射し足止めを行うナンバーズ。そしてDシャイニングもそれを見て頷きながら通常形態のシャインフォームに戻り、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しドライバーに装填した。

 

 

『FINALATTACKRIDE:SH・SH・SH・SHINING!』

 

 

Dシャイニング『ハアァァァァッ……』

 

 

―ジャキィッ!―

 

 

バックルから響く電子音声と共にDシャイニングが身を屈めながら両手をクロスさせると、Dシャイニングの右足のヘルズゲートの鎖が解き放たれた。そしてDシャイニングは上空に高く飛び上がりながら爆煙に目掛けて右足を突き出し、センチュリオRに向かって猛スピードで急降下していく。

 

 

Dシャイニング『デェアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

ナンバーズ『よしっ…!』

 

 

セイン『このまま行けば、決まるっ!』

 

 

センチュリオRが爆煙の中から動き出す気配は未だにない。このまま行けばDシャイニングの技が決まってセンチュリオRを倒せる筈だと確信し、ナンバーズが見守る中でDシャイニングの跳び蹴りが爆煙の向こうに微かに浮かぶ人影に直撃し掛けた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ギュイィィッ……バシュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッッ!!!!―

 

 

Dシャイニング『ッ!!?ぐ、ぐあああああああああああああああああっっ!!!?』

 

 

ノーヴェ『?!な、何だッ?!』

 

 

ナンバーズ『し、紫苑さんっ?!』

 

 

 

 

Dシャイニングの必殺技が決まろうとした直前、上空から降り注いだ青白い閃光がDシャイニングに直撃し、Dシャイニングは無数の火花を散らしながら地面に叩き付けられてディケイド(紫苑)に戻ってしまったのだった。その突然の事態にナンバーズも驚愕を隠せないまま慌ててヘビィバレルを消しディケイド(紫苑)に駆け寄って身体を起こさせると、先程の青白い閃光が降り注いできた空を見上げた。其処には……

 

 

 

 

 

 

シルベルヴィント『―――ふふっ、漸く見付けたよ?風間 紫苑……』

 

 

 

 

 

 

遥か上空に浮遊し、胸部の砲身から青と白の火花を散らしながら妖しげに微笑む半人型の戦士……アギーハが変身したシルベルヴィントの姿があったのだった。

 

 

ナンバーズ『な、なにあれ……?』

 

 

ディケイド(紫苑)『あ……ぐっ……お、お前はっ……?』

 

 

又もや突如として現れた異形の戦士にナンバーズが呆気に取られてしまう中、シルベルヴィントの不意打ちを受けた傷を押さえながらナンバーズの手を借りフラフラと起き上がるディケイド(紫苑)。すると、上空で浮遊していたシルベルヴィントがゆっくりと降下していき、ディケイド(紫苑)に右手の高周波ソードの切っ先を向けながら名乗った。

 

 

シルベルヴィント『初めましてだね、風間紫苑……。あたいの名はアギーハ、インスペクターの幹部の四天王さ』

 

 

ディケイド(紫苑)『……?インスペクター……?』

 

 

インスペクター。聞き慣れないその名に怪訝な顔を浮かべて思わず聞き返してしまうディケイド(紫苑)だが、シルベルヴィントはそれに構わず、両手のソードを構え戦闘態勢に入った。

 

 

シルベルヴィント『あんたに恨みはないけど、ウェンドロ様はあんたの中に眠る『力』を欲してる。渡してもらうよ?あんたの体ん中に眠る力……『無限の因子』をねぇッ!』

 

 

ディケイド(紫苑)『無限の……因子……?待ってっ!一体何の―ガギイィィィィィィィィィインッ!!!―グアァッ?!!』

 

 

ナンバーズ『――ッ?!紫苑さんっ!!』

 

 

身に覚えにもない力を渡せと告げられて困惑する隙もなく、シルベルヴィントは信じられない猛スピードでディケイド(紫苑)との距離を詰め高周波ソードで斬り掛かり吹っ飛ばしてしまい、そのまま目にも止まらぬ速さでディケイド(紫苑)に何度も斬り掛かっていく。そのあまりの速さに反応が遅れたナンバーズも吹っ飛ばされるディケイド(紫苑)の姿を目にし、ディケイド(紫苑)を助けようとベルトのバックルのKナンバーに手を伸ばした。その時……

 

 

 

 

 

 

『――レルム・D、起動……出力50%……』

 

 

―ドバアアァァッ!!!!―

 

 

ナンバーズ『?!……え?』

 

 

 

 

 

 

背後から聞こえた無機質な声と何かが破裂するような爆発音。直後に背筋が凍えそうな殺気を背中越しに感じ、ナンバーズが背後へと振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

センチュリオR『――成る程……確かに、加減して倒せる相手ではなさそうですね……』

 

 

 

 

 

 

視界を遮ってた爆煙を消し飛ばし、先程とは明らかに雰囲気が変化したセンチュリオRの姿があったのだ。しかも、ディケイド(紫苑)とナンバーズから受けた傷の殆どが完治寸前まで再生し掛けており、遂には完全に傷が塞がって完治してしまった。

 

 

ナンバーズ『そ、そんなっ……ダメージが殆どないっ?!』

 

 

オットー『傷が一瞬で……まさか、自己再生能力?!』

 

 

センチュリオRの信じられない速度の再生能力を目の当たりにしてナンバーズもチンク達も驚愕を隠せずに動揺を浮かべ、それを他所にセンチュリオRは右手に持つブレード・ルミナリウムを大型銃……ランチャー・ジェミナスに変化させ、二つの銃口をナンバーズに突き付けた。

 

 

センチュリオR『……ならば、此処から先は本来の力で戦わせて頂きましょう』

 

 

―バシュウゥッバアァンッバシュウゥッバシュウゥッバシュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッッッ!!!―

 

 

ナンバーズ『ッ?!!くっ……ウアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ?!!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアンッッ!!!!―

 

 

ランチャー・ジェミナスの引き金を引くと共に撃ち出されたのは、無数の実弾とビームの混同射撃。一度に放たれたその銃弾の数々を避け切れる筈もなく、最初の何発かはなんとか凌いでいたナンバーズは銃弾の雨の中に呑まれ、爆発に飲み込まれてしまったのだった。

 

 

リイン『?!ヴィヴィオッ!!』

 

 

クウガ『クッ!俺達が行きますっ!お二人はコイツ等をお願いしますっ!』

 

 

センチュリオRに圧されて追い詰められるナンバーズの危機を見て、クウガは量産型ゲシュペンストMk-Ⅱを殴り飛ばしてテンガと共にナンバーズを助けようと走り出していく。だが……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……バシュウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!―

 

 

イクサF『……ッ?!待て二人共?!避けろっ!!』

 

 

テンガ『……へ?』

 

 

 

 

量産型ゲシュペンストMk-Ⅱをイクサカリバーで斬り裂き撃破していたイクサFは、彼方から迫る一筋の光に気付き、切羽詰まった声で二人を呼び止めたのだ。突然の事にクウガとテンガも疑問符を浮かべ振り返ると、イクサFはいつの間にか二人の目前にまで近づき二人を突き飛ばした。その直後……

 

 

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!!!―

 

 

『?!な……うわああああああああああああああああああああっっ?!!!』

 

 

 

 

イクサFが立っていた場所……正確に言えば、クウガとテンガが先程まで立っていた場所に、極太の砲撃が着弾し巨大な大爆発を巻き起こしたのであった。爆発から発生した爆風にクウガやテンガにリイン、周囲の量産型ライダー達も巻き込まれて吹っ飛ばされ地面に叩き付けられてしまうが、三人は何とか身体を起こし砲撃が着弾した場所に目を向けた。その時……

 

 

―ヒュンッ……ドゴオォォォォォオンッ!!―

 

 

リイン『……え?』

 

 

リインの真横を何かが通りすぎ、次の瞬間、その何かはリインの背後のビルの壁に衝突し爆発を起こしたのだった。僅か数秒間の出来事にリインも言葉も出せず反応が遅れるが、すぐに我を取り戻し慌てて背後へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

姫「……ぅ……ぁ……」

 

 

リイン『ひ、姫さんッ?!』

 

 

クウガ『姫さんッ!!!』

 

 

 

 

そう、吹っ飛ばされて壁に叩き付けられたのは、先程の砲撃からクウガとテンガを庇った姫だったのである。変身も強制解除されたその姿は服がズタズタに裂け、全身もヤケドだらけで流れる血も焼き焦げており、腰に巻かれたイクサベルトも半壊しバチバチと火花を散らしている。そんな惨い姿に変わり果てた姫を見たリイン達は慌てて姫に駆け寄り大声で呼び掛けるが、意識を失ってるのか姫から返事は返って来ない。其処へ……

 

 

―ガシャンッガシャンッガシャンッ……―

 

 

ドルーキン『…………』

 

 

クウガ達の前に、重量感を感じさせる重い足音と共にゆっくりと一人のライダー……シルベルヴィントと同じくインスペクターの一員であるシカログが変身したドルーキンが姿を現したのであった。

 

 

テンガ『ッ?!な、なんだアイツ……?!』

 

 

リイン『か、仮面ライダー……?それにあの肩の砲身……まさか、今の攻撃もあのライダーが……?!』

 

 

ドルーキン『…………』

 

 

―ジャラァッ……ブォンッブォンッブォンッブォンッ!!!―

 

 

突如姿を現したドルーキンを目にしてリイン達が警戒を強める中、ドルーキンは無言のままモーニングスター状の巨大ハンマーを何処からか取り出してブンブンと勢いよく振り回していく。それでドルーキンが敵だと改めて認識したクウガとテンガは、リインの前へと飛び出していく。

 

 

リイン『!優矢君、勇輔君!?』

 

 

クウガ『っ……はやてさんは姫さんを頼みますっ!勇輔っ!』

 

 

テンガ『ああ!超変身っ!』

 

 

構えを取って高らかに叫ぶと、テンガの姿はクウガ・タイタンフォームに外見が酷似したアースフォーム、クウガも全身から雷を放ちながらライジングタイタンフォームへと姿を変え、姫が壁に激突して割れた鋭く尖った壁の破片をそれぞれ手にし、アースブレードとライジングタイタンソードに変化させていく。

 

 

そしてテンガは態勢を立て直した量産型ライダー達、クウガはドルーキンに目掛けて走り出し勢いよく斬り掛かっていった。

 

 

リイン『二人共っ……ッ!とにかく今は姫さんの治療や!リイン!』

 

 

リインキバット「は、はいですぅ!」

 

 

そんな二人の後ろ姿を見て、リインは左腰にある四つのフエッスルの中から指輪の形を模した緑のフエッスルを取り出し、バックルの止まり木に止まったリインキバットに吹かせていく。

 

 

リインキバット「カモ~ンシャマル!ですぅ~!」

 

 

可愛らしい掛け声と共にリインキバットが緑のフエッスルを吹くと、まるでそよ風のような何処となく癒しを感じさせるメロディーが響き渡り、直後に彼方から緑色の光球が飛来しリインの隣に降り立ったのだった。その正体は……

 

 

シャマル「――……?あ、あら?私、どうしてこんなところに……?」

 

 

リイン『シャマル!』

 

 

そう、笛の音と共に飛んできた光球の正体は、写真館でなのは達と共に待機していた筈のシャマルであり、その姿は滅びの現象の影響により身に纏う事が出来なかった筈の騎士甲冑に包まれていたのである。

 

 

これがリインの持つ特殊なフエッスル……カモンフエッスルの能力であり、フエッスルを吹くことでヴォルケンリッターの誰かを呼び出し、失われた力を蘇らせ共に戦う事が出来るのだ。

 

 

ただし、戦闘で呼び出せるのは一人だけであり、他のヴォルケンリッターを呼び出す際には先に呼び出したヴォルケンリッターを帰さねばならないというデメリットもある。

 

 

シャマル「はやてちゃん?もしかして、私を呼び出したのは……?」

 

 

リイン『うん、私や。急で悪いけど、シャマルの力を貸して……!』

 

 

未だ動揺気味のシャマルにそう言いながら、グッタリと壁にもたれ掛かる姫に目を向けるリイン。シャマルもそんな姫の姿を見て一瞬目を見開いて驚愕するが、すぐに自分が呼び出された理由を理解し力強く頷き返した。

 

 

シャマル「分かったわ……姫さんの治療は任せてっ!その間はやてちゃん達は、周りの敵をお願いっ!」

 

 

リイン『うん、任せといて。行くでリイン!』

 

 

リインキバット「了解ですぅ!」

 

 

リインキバットにそう呼び掛けながら、リインは早速シャマル達を狙って襲ってきた量産型ゲシュペンストMk-Ⅱに飛び掛かって膝蹴りをお見舞いし、シャマルの治療が完了するまで二人を守ろうと身構えていく。そしてシャマルもリインを信じ、治癒魔法を使って姫の治療を開始していくのであった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑧(後編)

 

 

―ガキイィッ!!グガアアァンッ!!ガギィッ!!―

 

 

『デエアァッ!!』

 

 

ディケイド『ゼアァッ!!ハアァッ!!』

 

 

そして同じ頃、ローチ達を撃破したディケイドはケルベロスインフェニルティと一騎打ちの剣戟を繰り広げ、互いの間に無数の火花を散らしながら剣と爪をぶつけ合っていた。そしてディケイドがライドブッカーSモードを大振りで振るうと、ケルベロスインフェルニティは背後へと跳躍しビルの壁を蹴ってディケイドに斬り掛かり、ディケイドは咄嗟に地面を転がってそれを避けながらライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイド『相変わらず、ちょこまかと身軽な奴だな……変身ッ!』

 

 

『KAMENRIDE:CHAOS!』

 

 

ドライバーにカードを投げ入れて電子音声が響くと、ディケイドはDカオスへと変身し、右手に握られていたライドブッカーは左腰に戻され代わりにカオスブレイドが握られていた。

 

 

奈央「っ?!変わった……?だけど、データで見た狼みたいなライダーじゃない……」

 

 

『カオス?ふん、混沌を司る神の名か。俺の速さに追い付くためにそんな力に頼るとは……ならば見せてやる、俺の本気を……!』

 

 

そう言ってカオスに変身したディケイドを見据えながら不敵な笑みを浮かべ、両手を構えながら自らの本気を見せるべく走り出そうとするケルベロスインフェルニティだが、それよりも早くDカオスは既に一枚のカードをドライバーへと投げ入れてスライドさせていた。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME STOP!』

 

 

―ピシイィッ!!―

 

 

『……ッ!!?な……にっ……!!?』

 

 

奈央「……え?な、何が起きたの?」

 

 

電子音声と共に、突如ケルベロスインフェルニティがDカオスに目掛けて駆け出そうとしているポーズのまま固まってしまったのであった。いきなり動かなくなってしまった自分の身体にケルベロスインフェルニティも驚愕と戸惑いを浮かべるが、カオスブレイドの刃をスルリと撫でて立つDカオスを見て、怒りの声を上げた。

 

 

『き、貴様っ、まさか俺の時を止めたな……?!』

 

 

Dカオス『うん?ああ、良く気付いたな。少々惨いやり方だが……まぁ、許せ。こっちも時間がない』

 

 

アッサリした言い方でそう告げながら、Dカオスは左腰のライドブッカーからもう一枚のカードを取り出しバックルに装填してスライドさせていった。

 

 

『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』

 

 

―シュンッ……ズババババババババババババババババババババババババァッ!!!!―

 

 

『ッ?!グ、グアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッ?!!!』

 

 

再び電子音声が鳴り響くと同時に、タイムクイックを使用したDカオスの姿が奈央とケルベロスインフェルニティの視界から消え、肉眼では捉えられない速さで動けないケルベロスインフェルニティを斬り刻んでいくのであった。そして、Dカオスはすれ違い様にケルベロスインフェルニティを斬り付けながらライドブッカーから再びカードを取り出し、バックルに装填してスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:C・C・C・CHAOS!』

 

 

電子音声が響き渡ると、Dカオスの右手に握り締められるカオスブレイドに時を破壊する膨大なエネルギーが蓄積されて刃が光り輝き、そして……

 

 

Dカオス『ゼェアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『グ……グハアァッ!!』

 

 

―ヒュンッ……ドゴォンッドゴォンッドゴォンッドゴォンッドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

振り向き様にフルスイングで振るわれたDカオスのカオスブレイドがケルベロスインフェルニティへと叩き込まれ、ケルベロスインフェルニティはそのまま真横のビルの壁を突き破りながら遥か遠くまで吹っ飛ばされていったのだった。

 

 

奈央「え……えぇぇぇぇ……む、惨いっ……」

 

 

Dカオス『ふぃ……悪いな。せめて良い夢見ろよ、番犬ちゃん。先を急ぐぞ、桜井』

 

 

とてもじゃないがヒーローらしからぬ勝利を収めたDカオスに奈央が何とも言えぬ目を向けるも、Dカオスはそれに気付かないままケルベロスインフェルニティが吹っ飛ばされた方角に向けて謝罪するように合掌しながらディケイドに戻り、紫苑達の救援に向かうべくディケイダーと奈央の下に歩み寄ろうとした。その時……

 

 

 

 

―シュンッ……ガギイィッ!!―

 

 

ディケイド『?!何……?』

 

 

奈央「えっ?!」

 

 

 

 

ディケイダーと奈央の下に向かおうとしたディケイドの足元に、突如何処からか一本の剣が飛来して深々と突き刺さっていったのだ。いきなり飛んできた剣を目にしてディケイドが驚愕の表情を浮かべながら思わず固まる中、不意に背後から聞き慣れぬ声が届いた。

 

 

『……悪いが、お前を雷牙や紫苑達の下に向かわせる訳にはいかないな』

 

 

ディケイド『!』

 

 

背後から届いた青年の声。それを聞いたディケイドが背後へと振り返れば、其処にはゆっくりとディケイドの下に歩み寄って来る紫のボディのライダー……迅が変身したディソードの姿があり、ディケイドは仮面の下で突如現れたディソードに驚きを浮かべながらも、すぐに表情を険しくさせてディソードを睨み付けた。

 

 

ディケイド『何者だ、お前……?』

 

 

ディソード『なに、ただの通りすがりさ……お前のような破壊者を監視するだけの、ただのな』

 

 

ディケイド『……監視?』

 

 

意味深げに語るディソードの言葉に疑問を抱き思わず問い返すディケイド。だがディソードは何も答えないままディケイドの横を通り過ぎて地面に突き刺さった剣……ディソードライバーの前に立ち、ディケイドはそんなディソードを横目に見ながら目を細め、ライドブッカーをゆっくりと握り締めていく。

 

 

ディケイド『……お前が誰か知らないが、取りあえず俺を先に進ませる気はない……そういう訳か?』

 

 

ディソード『そう解釈してくれれば構わんさ。お前を雷牙や紫苑に近付けさせるわけにはいかない……俺はお前を認めない……お前の中の因子は、世界に必要な存在ではないからな』

 

 

ディケイド『因子の事まで知ってるか。しかも紫苑の事まで知っているとなると……成る程、お前の目的が大体分かってきたな……』

 

 

握り締めたライドブッカーをソードモードに切り替え、ギラリと妖しげに光る刃を眺めながらそう呟くディケイド。そしてディソードも地面に突き刺さるディソードライバーの柄を掴むと、徐に地面から抜き取って刃を撫でていく。

 

 

ディソード『なら用件だけ伝えよう。……お前が持つ因子を、此処に置いていけ』

 

 

ディケイド『断る。コレは俺の記憶を取り戻す唯一の手掛かりなんでな……それを見ず知らずの人間にはいどうぞと、渡せるはずないだろう』

 

 

ディソード『……ふっ……そんなくだらないものの為に、世界に危機を及ぼすつもりか?』

 

 

ディケイド『無論それだけじゃないさ。お前を信用出来ないというのもあるし……こんな悪魔の力、誰かに預ける訳にはいかないんだよ……俺みたいな破壊者を生み出さない為にもな』

 

 

こんなものは人間が扱える力ではない。実際この力に振り回され、自分は危うく世界を破壊し掛けたのだ。そんな危険な物を誰かに預けるわけにはいかないし、過去の記憶の手掛かりとなるコレを手放す訳にはいかない。今まで目を逸らしていた自分の過去や因子とも向き合うと、祐輔の世界でフェイト達や自分を救ってくれたリィルにも誓ったのだから。

 

 

ディソード『破壊者か……それは、自分が世界を破壊する存在だと認めた上での言葉か?世界を脅かす敵であると……』

 

 

ディケイド『討たれる覚悟ならとうに出来ているさ、それを覚悟した上でコイツを使い続けて来たんだ……まあ、今はまだ討たれてやるつもりはないが』

 

 

ディソード『……そうか……なら、交渉は決裂だな』

 

 

そう呟き、ディソードが身に纏う雰囲気が一気に冷たくなった。それを背中越しに感じ取ったディケイドはライドブッカーSモードの柄を握り直し、ディソードもディソードライバーの刃に映る自分の顔を見つめて僅かに目を鋭くさせた。次の瞬間……

 

 

ディソード『――ハアァッ!!』

 

 

ディケイド『フッ!』

 

 

―ガギイィィィィィィインッ!!!―

 

 

ディソードが急に振り返りながらディケイドに目掛けて、ディソードライバーで一閃を叩き込んだのである。ディケイドは咄嗟にそれをライドブッカーで受け止めて切り払いディソードに斬り掛かるが、ディソードもそれを安易く弾き火花を散らしながらディケイドから距離を離す。そして二人はそれぞれの剣を構え直しながらゆっくりと立ち回り、再び互いに向かって駆け出し激しい剣戟を繰り広げていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―ガギイィッ!!ギイィンッガアァンッガギイィンッ!!―

 

 

『デエェアァッ!!』

 

 

雷牙『チィッ?!ハァッ!』

 

 

一方で、雷牙とオーディンディスペアはライガクローと長槍をぶつけ合い無数の火花が散る激戦を繰り広げていた。そしてオーディンディスペアは真下から振り上げた長槍の斬撃で雷牙を吹っ飛ばし、すかさず雷牙に右手を突き出し手の平の前に雷球を構成していく。

 

 

『雷の異名を待つのは私だけで十分よ、黒コゲになりなっ!!』

 

 

―ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

雷牙『ッ?!クソッ!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

怒号と共にオーディンディスペアの手の平から巨大な雷の砲撃が放たれ、それを目にした雷牙が咄嗟にその場から飛び退いた瞬間、雷の砲撃は雷牙が立っていた地面に炸裂して大爆発を起こしたのだった。

 

 

雷牙(ッ……何て威力だ……あんな物をまともに喰らったらっ……『――羅刹……解放……』……ッ?!)

 

 

雷の砲撃で破壊された地面を見て、その驚異的な威力に雷牙が冷や汗を流す中、上空から不意に一つの声が聞こえた。それを耳にして雷牙が慌てて空を見れば、其処には全身からオーラを放ち大剣の切っ先を突き出しながら勢いよく落下して来るオーガの姿があった。

 

 

雷牙『しまっ……?!』

 

 

オーガ『遅せェッ!羅刹の二、豪刃烈波ぁッ!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!!―

 

 

落下して来るオーガの姿を捉えた時には既に時遅く、雷牙がその場から離れようとするよりも速くオーガの剣の切っ先が雷牙に直撃し、直後にその衝撃で雷牙の真下の地面が破裂し木っ端微塵に吹き飛んだのだった。

 

 

黒獅子リオ『ッ!雷ッ!!』

 

 

アナザーアギト『よそ見してる余裕なんてねぇぜっ、黒獅子ちゃんよッ!』

 

 

その隣でアナザーアギトと一進一退の肉弾戦を繰り広げていた黒獅子リオはその光景を横目に見て一瞬集中が途切れてしまい、アナザーアギトはその隙を逃さず勢いよく振り抜いた右拳を黒獅子リオの腹に打ち込んで怯ませ、更に畳み掛けるかのように回転蹴りを放ち黒獅子リオを後退りさせた。

 

 

黒獅子リオ『グゥッ!なんだコイツ……戦い方が目茶苦茶な癖に、隙がない……?』

 

 

アナザーアギト『ワリィな?こうなっちまった以上、こっちも後がねぇんだわ……アッチが終わるまで付き合ってもらうぜッ!』

 

 

ターゲットである雷牙と出会って自分の考えた作戦がパーになってしまった以上、最早後戻りは出来ない。こうなればこのままサンダーレオンを奪還するしか道はないと、アナザーアギトは再び構えを取って拳を構えながら黒獅子リオに突っ込み殴り掛かっていった。その背後では……

 

 

フェイト(別)「ハーケン、セイバアァァァァッ!!」

 

 

スバル(別)「ハアァァァァァァァァアッ!!」

 

 

エリオ(別)「デェアァッ!」

 

 

カイル(別)「ゼェアァッ!」

 

 

『フッ!』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

残った六課の面々をダグバがたったの一人で相手し、その圧倒的な戦力で彼女等の攻撃を次々と跳ね返していた。上空に浮遊するフェイト(別)が放ったハーケンセイバーを片手で払い退け、突進してきたスバル(別)の拳を僅かに身を動かしただけでかわし、それに続くようにエリオ(別)とカイルが振りかざして突っ込んできた槍とガンブレードを両手で意図もたやすく受け止める。直後……

 

 

ヴィータ(別)「でえぇあああああああっ!!」

 

 

シグナム(別)「紫電、一閃っ!!」

 

 

『!』

 

 

三人の背後から上空に飛び出したヴィータ(別)とシグナム(別)が鉄槌と剣をそれぞれ構えながら飛び出し、ダグバに目掛けて振り下ろしたのだった。それを見たダグバは咄嗟にスバル(別)とカイルを突き飛ばすと、二人に手の平を向け衝撃波を放ちヴィータ(別)とシグナム(別)を後方にまで吹っ飛ばしてしまった。

 

 

シグナム(別)「グゥッ!!」

 

 

なのは(別)「シグナムさん!ヴィータちゃん!大丈夫?!」

 

 

ヴィータ(別)「っ!大丈夫だっ……けどアイツ、威圧感がハンパじゃねぇぞっ……」

 

 

痛みの走る身体に顔を歪めながらヴィータ(別)が目の前に視線を戻せば、其処にはヴィータ(別)達が態勢を立て直すまで足止めしようと援護するティアナ(別)達の一斉射撃を受けながらも、全くビクともせず静かに佇むダグバの姿があった。そんな光景になのは(別)とフェイト(別)も戦慄を覚えながらも、二人は互いに顔を見合わせて頷き、ダグバに再び攻撃を仕掛けていくのだった。

 

 

―ズザアァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

雷牙『グウゥッ!ハァ……ハァ……クソッ……』

 

 

オーガとオーディンディスペアが放つ強烈な連続攻撃をなんとかライガクローで受け止めるも、衝撃までは殺せず後方まで吹き飛ばされてしまう雷牙。その姿はボディの所々が削れてボロボロになり、仮面部分にも皹が入り痛ましい姿になっていた。

 

 

雷牙(コイツらっ、今まで倒してきたインフェルニティ達と比べものにならないっ……強すぎるっ……)

 

 

仮面の下で額から血を流しながらオーガ達の戦闘力の高さに驚きを隠せない雷牙だが、それも当たり前だ。相手は以前にも零や竜胆や祐輔を追い詰めた事がある手足れであり、並行世界の敵との戦闘経験が無いこの時代の雷牙が勝てないのも当然だった。

 

 

肩で呼吸を繰り返し思わず弱音を吐きそうになるそんな雷牙の前に、オーガとオーディンディスペアがゆっくりと対峙しボロボロの雷牙に向けてオーガが大剣の切っ先を突き付けた。

 

 

オーガ『もう十分だろう?お前じゃ俺らには勝てねぇ……これ以上痛め付けられたくなかったら、大人しくお前が持ってる契約獣……サンダーレオンを俺らに寄越しな』

 

 

雷牙『ッ!サンダーレオン……?何故お前達がアイツを……?!』

 

 

オーガ『知る必要ねぇだろ。良いから大人しく渡せ、こっちの用が済めばお前に返してやるからよ……多分な』

 

 

雷牙『…………』

 

 

今の雷牙の力では自分達を倒す事は出来ない。オーガはその事実を突き付けた上でサンダーレオンを渡せと大剣の切っ先を向けて警告すると、雷牙は少しだけ口を閉ざした後、無言のまま首を横に振った。

 

 

雷牙『お前達が何者かは知らないし、何の目的の為にサンダーレオンを欲してるかも知らないが……それは出来ない相談だ。サンダーレオンは俺の相棒であり、大切な友だ。それを見ず知らずのお前達に渡すなど、出来る筈がない!』

 

 

オーガ『……そーかい……おたくがそういう構えなら、こっちももう容赦しねぇぜ……?例え死んだお前の手から奪うことになってもなァッ!』

 

 

『初めっからそうすれば良いでしょ?戦いなんてのは生きるか死ぬかの命のやり取り、負けた方は命なんてないのよッ!』

 

 

サンダーレオンは渡さないと拒否してライガクローを構え直す雷牙にそう叫び、大剣と長槍を再び構えてくオーガとオーディンディスペア。そして三人は互いの間合いを徐々に詰めていき、相手の出方を伺って飛び込むタイミングを見計らっていた。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥゥ……ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!ドゴオォンッ!!―

 

 

雷牙『ッ?!』

 

 

オーガ『?!な、何だ?!』

 

 

なのは(別)達『キャアァッ?!』

 

 

上空から、突如数発のエネルギー球が飛来し雷牙達やオーガ達の周りに見境なく直撃し爆発が巻き起こったのである。爆風によって辺りの車等が吹き飛ばされる中、雷牙達とオーガ達はなんとか耐え気って吹き飛ばされずに済み、爆風が少しずつ晴れるとエネルギー弾が飛来した上空から複数の人影が降り、雷牙達から離れた場所に着地した。それは……

 

 

 

 

 

 

『――ご機嫌よう皆さん?お取り込み中の所にお邪魔してごめんなさい♪』

 

 

雷牙『ッ……?!』

 

 

黒獅子リオ『何だ、アイツは……?』

 

 

 

 

雷牙達の前に突如として現れたのは、黄金に輝く甲冑を纏った女王の様な外見の怪人……クアットロが変身したデザイアドーパントと、革袋を被せた複数の何かを抱えるレジェンドルガ達だったのだ。

 

 

突然の攻撃と共に乱入してきたデザイアドーパント達に雷牙達も驚愕と困惑を隠せない中、オーガ達はその聞き覚えのあるデザイアドーパントの声から、彼女の正体にすぐさま気付きデザイアドーパント達に向けて叫んだ。

 

 

オーガ『その声……テメェ、例の裏切り者の戦闘機人かっ?!』

 

 

『ウフフッ、気付きました?ご明察……。お久しぶりですねぇ追跡者の皆さん?お元気にしてましたぁ?』

 

 

アナザーアギト『……元気っちゃ元気だが……そっちは随分と変わったじゃないの?そんな全身ピカピカになっちゃって』

 

 

『おかげさまでねぇ。けど、今は貴方達なんかに構ってる時間はないんですよ』

 

 

オーガ『何……?』

 

 

彼女達の天敵である自分達を前に余裕に満ちた態度で素っ気なくそう告げるデザイアドーパントに眉を寄せて険しげに聞き返すオーガだが、デザイアドーパントはそんなオーガ達を無視し、未だ呆然と佇む雷牙に目を向けて口を開いた。

 

 

『初めまして、仮面ライダー雷牙?私は、並行世界のナンバーズのNo.4……クアットロと申します。以後、お見知り置きを』

 

 

雷牙『クアットロ……?』

 

 

フェイト(別)「ナンバーズって……まさか、スカリエッティが生み出した戦闘機人の?!」

 

 

デザイアドーパントが口にしたナンバーズの名に反応して身を乗り出すフェイト(別)。そんな彼女の声を背中越しに聞き取った雷牙はそれで目の前の怪人の正体を知り、内心警戒心を強めながらデザイアドーパントと向き合い問い掛けた。

 

 

雷牙『クアットロと言ったか……それで?並行世界の戦闘機人のお前が、俺に何の用だ?』

 

 

『いえいえ、別に大した用ではありませんよぉ?ただ貴方と取り引きをしたいと思い、こうして貴方にご挨拶しに足を運んだだけですから♪』

 

 

雷牙『取り引き……?俺とか?』

 

 

一体自分と何の取り引きをしようと言うのか?疑問符を浮かべて雷牙がそう問い掛けると、デザイアドーパントは雷牙に向けて手を伸ばしこう告げた。

 

 

『実は、私達の目的の為にも貴方が契約する雷の獅子……サンダーレオンが必要でしてね?今日はその貴方のペットを、私達に譲り渡してもらえないかとお願いしに参ったんですよ♪』

 

 

雷牙『?!お前達もサンダーレオンを……?!』

 

 

『ええ。まあ、其処の連中は私達をおびき寄せる為に野蛮なやり方で貴方達からサンダーレオンを奪おうとしてたみたいですが、私達はそんな事しませんから、安心して下さいな♪』

 

 

『はぁ……?言ってくれるじゃないのよ、金メッキ風情が……』

 

 

あからさまに嫌味を込めたデザイアドーパントの言い方にオーディンディスペアも癪に障ったのか、ドスの利いた声と共に踏み出そうとする。が、それを止めるようにアナザーアギトが横から腕を伸ばして制止し、代わりにオーガが前に歩み出た。

 

 

オーガ『俺達の前に堂々と姿を現すたぁ、随分と余裕じゃねぇか……?そんな姿になったからって、俺らとやり合えるとでも思ってんのか?』

 

 

最早彼女達本人が自ら出て来た以上、オーガ達に雷牙と戦う理由はない。此処でクアットロを倒して捕らえさえすれば、彼等の任務は達成されるのだ。既に雷牙からデザイアドーパントに標的を変えているオーガ達だが、デザイアドーパントは余裕に満ちた邪な笑みを浮かべてクスリと笑った。

 

 

『確かに、私だけで貴方達全員を相手にするのは少々面倒ですわねぇ……でも、別に戦う必要なんてないでしょう?だって――』

 

 

―パキィッ!―

 

 

そう言いながらデザイアドーパントが片手を上げ軽く指を鳴らすと共に、背後に控えるレジェンドルガ達がそれぞれの抱える何か……『道具』達に被せた革袋を勢いよく剥ぎ取り、その下に隠された物を露わにさせた。

 

 

雷牙『――なっ?!!』

 

 

オーガ達『ッ?!!』

 

 

スバル(別)「そ、んな……あれってっ……!?」

 

 

露わになった革袋の中身。それを目にした雷牙達は信じられない物でも見たかのように目を見開いて驚愕し、オーガ達は驚愕のあまり言葉を失い絶句してしまう。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の子A「……ッ!!!?ッ!!!~~ッ!!!」

 

 

女の子B「ッッ~~~~~!!!!」

 

 

『―――私達はあくまで、"平和的解決"が目的なんですから♪』

 

 

 

 

ニコッと、まるで天使の皮を被った悪魔の様な笑みと共にデザイアドーパントが右手で差したのは、革袋で隠されていた中身……両手を拘束されて自由を奪われ、口を塞がれて叫ぶこともままならず、涙でグチャグチャになった顔で雷牙達に必死に助けを求める六人の子供達の姿だった……。

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑨(前編)

 

 

 

そして、雷牙達がデザイアドーパントと対峙するその頃……

 

 

―ズガアァッ!バキィッ!バキャアァッ!!―

 

 

『ヌグアァッ?!』

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァァァーーーーーアァンッ!!!―

 

 

リイン『まだまだっ!ヤァッ!』

 

 

シャマルが姫の治療に専念する中、リインは前後左右からネオプラズマカッターを抜いて襲い掛かる量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ達の攻撃を避けながら力強く拳を叩き込み、上空から急降下して不意を突こうとした量産型ヒュッケバインMk-Ⅱへと跳び回し蹴りを打ち込んで頭を粉砕し爆散させていた。その一方で……

 

 

―ガキイィッ!!ガギギギギギギギギギギイィッ……!!!―

 

 

クウガRT『グッ!くううううううっっ……グアァァッ!!!』

 

 

ドルーキンが放った巨大なハンマーをライジングタイタンソードでなんとか受け止めようとするクウガだが、余りの威力に耐え切れず弾かれ盛大に吹っ飛ばされてしまっていた。更に其処へ追い撃ちを掛けるようにドルーキンが胸の砲身から巨大なビーム砲を撃ち出し、吹っ飛ばされるクウガを飲み込んで爆発を起こしていった。

 

 

クウガRT『ガアァァッ!!ぁ……ぐっ……!クソッ……アイツ、堅すぎるし……攻撃の威力が高すぎるっ……!』

 

 

ライジングタイタンフォームの持ち前の防御力でどうにか持ち堪えなんとか踏ん張り、仮面の汚れを拭いながらドルーキンを見据えて思わず毒づくクウガ。

 

 

先程からどんなに剣を叩き込んでもあの重装甲の前に全て弾かれ、こちらの攻撃を一切寄せ付けない。

 

 

加えてこちらは、向こうの攻撃を一方的に喰らい続けてボディの所々が焼き焦げボロボロになっており、その姿から分かる通りダメージ量も半端ではなく足元も覚束ない状態だ。

 

 

それでも背後にいるリインや姫達にコイツを近付けさせるワケにはいかないと、クウガは力が上手く入らない自分の身体に鞭を打ってライジングタイタンソードを両手で握り直していくが、ドルーキンは再び右手に握る巨大なハンマーを勢いよく振り回し始め、そんなクウガに目掛けて容赦なく頭上から振り下ろしていった。

 

 

クウガRT『ッ!!やらせるかよぉぉぉぉぉっっ!!!』

 

 

―ガギイィッ!!!ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッ!!!!―

 

 

しかしクウガも咄嗟に頭上から迫るハンマーをかわすようにドルーキンに目掛け勢いよく飛び出し、ハンマーはそのまま何もない地面に打ち込まれ大きく地面を沈没させる。

 

 

そして、ハンマーの一撃を避けたクウガはそのままドルーキンに突っ込みながら徐々にライジングドラゴンフォームに姿を変えると、右手に持つライジングカラミティソードをライジングドラゴンロッドに変化させて投擲の構えを取り、ドルーキンも迫り来るクウガを迎撃しようと咄嗟に胸部の砲身にエネルギーを溜めてビーム砲を放とうとするが……

 

 

クウガRD『させるかァッ!』

 

 

―ブオォォンッ!ズシャアァァァァッ!!!―

 

 

ドルーキン『……!』

 

 

ビームが撃ち出される前に、クウガがライジングドラゴンロッドをドルーキンの胸部の砲身に向かって投げ付け、砲身に槍を突き刺しビームの発射を封じたのであった。

 

 

そうして発射を封じられたドルーキンは数歩ふらつきながら後退りし、クウガは更にドルーキンの胸に突き刺さったライジングドラゴンロッドを掴み、そのまま捩り込むように強引に押し込んでいく。

 

 

―ガギイィッ!ジジジジジジジジジィッ……!!―

 

 

ドルーキン『!!』

 

 

クウガRD『グウゥッ!このままっ……一気にっ!!』

 

 

槍を強引に押し込みながら、封印エネルギーを一点に集中させて流し込んでいくクウガ。

 

 

そんなクウガを離れさせようとドルーキンもハンマーを手放してクウガを掴み強引に引き離そうとするが、クウガはライジングドラゴンロッドを掴んだまま離れようとせず封印エネルギーを流し続け、ドルーキンの胸の砲身の周りに徐々に亀裂を入れ始めていく。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズシャアァッ!!―

 

 

クウガRD『……え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

直後に、突如クウガの腹部に激痛が走ったのだった。

 

 

その突然の感覚にクウガも一瞬何が起きたのか分からず唖然となり、ゆっくりと自分の身体を見下ろせば、其処には何故か赤い粘膜が付着した"白い刃"がクウガの腹から突き抜けていた。

 

 

クウガRD『なっ……ぇ……コレ……はっ……?』

 

 

自分の身体から突き抜けるソレを目にして、クウガは何が起きたのか理解出来ぬまま徐に背後へと振り向いていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

―ブォォンッ―

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

クウガRD『ッ?!お、まえ……は……?!』

 

 

 

 

 

 

其処には、センチュリオRと全く同じ姿をした純白のライダー……センチュリオシリーズの最下級クラスのセンチュリオ・アウジリスがブレード・ルミナリウムを握り、仮面のモノアイを妖しく光らせながら無言でクウガを貫く姿があったのだった。更に……

 

 

 

 

 

 

―ブオォォォォンッ……―

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

リイン『っ?!な、何やの……アレ……?』

 

 

 

 

 

 

ゴウラムの活躍により徐々にその数が減って墜落していく量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ達の遥か上空に突如歪みの壁が現れ、其処から無数のセンチュリオの大群がゆっくりと姿を現したのである。漸く敵の数が減り始めた中で新たに出現したその白ずくめの軍勢を見て、リインが驚愕して目を見開く中……

 

 

―チュドオォォォォォォーーーーーーーーーーオンッ!!!―

 

 

リイン『ッ?!』

 

 

遠方から鳴り響いた爆発音。それを耳にしたリインが再び驚愕し慌てて背後へと振り返ると、其処には……

 

 

 

 

優矢「…………ぅあ…………ぁ……ごばぁっ……」

 

 

 

 

リイン『ゆ、優矢君ッ?!』

 

 

ビルの壁の一角が壊され、その奥には瓦礫に埋もれながら口や腹部から夥しい量の血を流して倒れる優矢の姿があったのだ。その有様は遠くから見ても致命傷と分かる瀕死の重傷を負っており、その近くには優矢にトドメを刺そうとゆっくりと近づくドルーキンとセンチュリオの姿があった。

 

 

リイン『っ!あかん……!優矢君っ!―ズバァッ!―くぅッ?!』

 

 

直ぐさま優矢を助けに走り出すリインだが、真横から量産型ゲシュペンストMk-Ⅱが振るったネオプラズマカッターに阻まれてしまい、其処から続々と襲い来る残りの量産型ライダー達に邪魔されて動けなくなってしまう。そしてその間にもドルーキンが優矢に接近し、片手に握るハンマーを振り上げようとした。その時……

 

 

テンガA『やらせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

―ガキイィンッ!!―

 

 

ドルーキン『?!』

 

 

優矢に向けその巨大な鉄球が放たれようとした直前、今まで量産型ライダー達と戦い撃破していたテンガがアースブレードを振りかざしながらその間に割り込み、ドルーキンに渾身の斬撃を叩き込んで後退させたのだった。

 

 

優矢「……ぁ…………ゆ……ぅ…………すけ……?」

 

 

テンガA『ッ!しっかりしろ優矢っ!気をしっかり持てっ!―ガキイィンッ!―グゥッ?!』

 

 

自分を助けたのがテンガだと分からないぐらい意識が曖昧なのか、消え入りそうな声で勇輔の名を呟く優矢に大声で呼び掛けるテンガ。だが直後にセンチュリオがブレード・ルミナリウムを振りかざしながらテンガへと斬り掛かり、テンガは咄嗟にアースブレードでそれを受け止めて剣戟を繰り広げていく。

 

 

シャマル「勇輔君っ!」

 

 

テンガA『クッ!シャマルさんっ!!今の内に優矢の手当てをっ!!早くっ!!』

 

 

シャマル「っ……!でも、まだ姫さんの手当てがっ……―キュッ……―っ?!」

 

 

まだ重傷の姫の治療が完了してない為に此処を離れることを躊躇ってしまう中、不意にシャマルの服の袖を何かに引っ張られた。それに驚きながらシャマルが目線を下げると、其処には気を失っていた筈の姫が弱々しくシャマルの服の袖を引っ張る姿があった。

 

 

シャマル「姫さん?!」

 

 

姫「ッ……シャマル……私はもう、大丈夫だ……君は…優矢の治療をっ……」

 

 

シャマル「な、何言ってるんですかっ!確かに火傷はある程度引きましたけど、まだ姫さんの怪我はっ……!!」

 

 

姫「心配しなくていいっ…死にはしないさっ……私は不死なんだ……だが、優矢は私とは違うっ……急ぐんだシャマル……手遅れになる前にっ……早くっ……!」

 

 

シャマル「っ……姫さんっ…」

 

 

ガクガクと小刻みに震える右手で袖を必死に引っ張りながら、優矢の下に急げと促す姫。そんな姫の言葉を聞いてもシャマルは煮え切らない顔を浮かべるが、今にも叫び出したい程の激痛を感じている筈なのに真っすぐな眼差しを向けて来る姫の目を見て決意が固まり、力強く頷き返し優矢の下に向かっていったのだった。

 

 

姫「……フフ……決心が早くて助かる、な……グゥッ!」

 

 

優矢の下に急ぐシャマルの後ろ姿を見送って安堵するように吐息を零すも、すぐに左腕に走った激痛に顔を歪めた。どうやら骨が折れてしまってるのか、指一本すら動かせず持ち上げる事も出来ない。

 

 

姫「っ……参った……コレでは力を使って治癒術を……使う事も出来ない、かっ……」

 

 

力を使うには右手と左手を合わせることが発動条件の一つなのだが、左腕がこの状態では力を発動させる事は難しい。それでもどうにかしてこの傷を治療しなければと、姫は震える右手で必死に左手に触れようと伸ばしていくが……

 

 

 

 

 

―ガシャッ!ガシャッ!ガシャッ!―

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

 

 

 

そんな姫の目前に、上空に現れたセンチュリオの大群の中の数体が降り立ち、リングに付属した純白の羽をブレード・ルミナリウムに変質させて右手に握りその切っ先を姫に向けたのだった。それを見た姫は思わず苦笑いを浮かべると、壁に寄り掛かったままズルズルと気だるげに立ち上がり、半壊したイクサナックルをベルトから取り出し左肩に押し付けた。

 

 

『RE…D…Y…』

 

 

姫「やれやれっ……少しは、休ませてはくれないものか……変身っ……!」

 

 

『F…I・S…O……N…!』

 

 

カタカタと右手を震わせてバックルにイクサナックルをセットすると、ノイズが雑じった壊れ掛けのような電子音声と共に、ボディの所々が破損して無惨な姿に変わり果てたイクサFへと変身した。そして変身した姫を見てセンチュリオ達はそれぞれの剣を構えていき、イクサFもイクサカリバーガンモードの銃口を突き付け発砲していくのだった。

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィーーーーーイィンッ!!!!―

 

 

ディケイド(紫苑)『グアァッ?!ぐっ、うあぁっ!』

 

 

そしてその近くでは、ディケイド(紫苑)が目にも留まらぬ速さの突撃を繰り返すシルベルヴィントの攻撃を受けて何度も吹っ飛ばされてしまう姿があった。その姿は、殆ど反撃も出来ないまま一方的に痛め付けられているせいでボディの所々に切り傷が刻まれており、そんなディケイド(紫苑)の前にシルベルヴィントが姿を現して妖しげに微笑んだ。

 

 

シルベルヴィント『ふっふふふふっ、随分と呆気ないねぇ風間紫苑?因子を使えなきゃこの程度なのかい?』

 

 

ディケイド(紫苑)『くっ……!このっ……!』

 

 

余裕の笑みを浮かべるシルベルヴィントを睨み付けながら立ち上がろうとするも、ディケイド(紫苑)はすぐによろめいて片膝を着いてしまい、同時に目前の敵に対する反論が思い浮かばずに舌打ちしてしまう。

 

 

シルベルヴィントのあの速さに対抗するためにはクロックアップ並の速さが必要だが、ディケイド(紫苑)はそのカードをまだ取り戻せていない。

 

 

つまり、今手元にシルベルヴィントの機動力に太刀打ち出来る切り札がないのである。

 

 

シルベルヴィント『さて、そろそろ終わらせようじゃないかい風間紫苑?あんたの旅も、あんたの命も……此処でねぇッ!!』

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ……!』

 

 

両腕に装備した高周波ブレードを十字に重ね合わせ、バーニアを再び噴出させてディケイド(紫苑)にトドメを刺そうと突っ込んで来るシルベルヴィント。それを目にしたディケイド(紫苑)も直ぐさま立ち上がろうとするが、ダメージのせいで膝の力が抜け再び跪いてしまい、その間にもシルベルヴィントの凶刃が迫りディケイド(紫苑)を貫こうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―バサアァッ!!―

 

 

「はあぁッ!」

 

 

シルベルヴィント『ッ?!―ドッガアァンッ!!!―うぐああぁぁっ?!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォーーーーーーオォンッ!!!―

 

 

ディケイド(紫苑)『……ッ?!え……?』

 

 

 

 

 

 

何処からか羽が羽ばたくような音が聞こえ、それと共にシルベルヴィントが真横から猛スピードで飛び出してきた何者かに蹴り飛ばされビルの壁に叩き付けられていったのであった。その突然の光景を見て、ディケイド(紫苑)は一瞬目を丸くさせて唖然となると、すぐさまハッと我に返ってシルベルヴィントを蹴り飛ばした物の正体に視線を向けていく。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ「――っ……何とか、間に合ったっ……」

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ?!君は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

背中から伸ばした白い羽根を羽ばたかせて浮遊し、脇腹を抑えながら苦痛で顔を歪める病人服を身に纏った少女……機動六課の医務室で眠っているハズのアズサだったのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―機動六課・ロングアーチ―

 

 

はやて(別)「?!あ、あの娘はっ……?!」

 

 

時を同じくし、機動六課でディケイド(紫苑)達の戦いを見守っていたはやて(別)は、戦場に現れたアズサを見て目を見開きながら驚愕していた。確かアズサは今六課の医務室で眠っていて自分達の監視下に置かれていた筈なのに、何故彼女が今彼処にいるのか?呆然とアズサの姿が映し出されたモニターを見つめてはやて(別)が固まる中、彼女の前に突然通信パネルが現れた。

 

 

シャマル(別)『は、はやてちゃん!聞こえる?!』

 

 

はやて(別)『?!シャマル……?』

 

 

はやて(別)の前に出現した通信パネルの画面に映し出されるのは、医務室でアズサの治療と見張りを任されていたハズのシャマル(別)であり、その様子は落ち着きがなく表情にも焦りが浮かんでいた。

 

 

シャマル(別)『落ち着いて聞いて!実は、あのアズサって娘が医務室からいなくなっちゃったの!まだ傷も塞がってなくて安静にしてないといけないのに、少し目を離した隙に警備の人達を気絶させて逃げ出したみたいで!今スタッフの皆で探し回ってるんだけど……はやてちゃん?聞こえてる?』

 

 

はやて(別)「…………」

 

 

画面を良く見てみると、確かにシャマル(別)の背後にアズサの警備を任せた局員達がベッドの上に横たわる姿が見える。それが今彼女が話した通りアズサによる物なのだと改めて思い知らされ、はやて(別)は必死に説明するシャマル(別)の声も耳に入らず眉間を抑えてゆっくりと項垂れてしまうのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

そうしてその頭痛の原因であるアズサは、先程蹴り飛ばしたシルベルヴィントが叩き付けられたビルの壁を見据えながら空を浮遊していたが、額から汗を流しながら赤い血が滲み出ている脇腹を強く押さえていき、其処へ彼女の内側の存在であるアスハの溜め息が入り混じった呆れ声が聞こえてきた。

 

 

アスハ『ったく……アンタの非常識さと無鉄砲さにはホントに頭が痛くなるわね……。やっと目を覚ましたと思ったらいきなりベッドから跳び起きて、押さえに掛かった警備の奴らを全員薙ぎ倒すとか……』

 

 

アズサ「っ……だって……皆が戦ってるのに、私だけ眠っている訳にはいかないし……零と雷が早く仲直り出来るように、こんな戦い、早く終わらせないとっ……」

 

 

アスハ『……はぁ……別にアンタ一人が気張った所で、この戦いが早く終わる訳じゃないでしょうよ……』

 

 

自分の身体の事も無視して戦おうとするアズサに呆れ溜め息を吐いてしまうも、彼女がこうなってしまっては自分が止めても言う事を聞かないだろう。こういう頑固頭なところは零に似てしまってるしと、アスハはもう一度深く溜め息を吐き、アズサの人格を無理矢理身体の奥に引っ張り込んで表へと出ていった。

 

 

アズサ『?!アス、ハ……?』

 

 

アスハ「……どうせ、私が止めろつっても聞かないんでしょ、アンタは?此処で私が無理矢理帰らせても、またアンタが無理矢理入れ替わって戦いに向かおうとするだろうし……そんなのはごめんだから黙って引っ込んでなさい。この程度の怪我は、私ならアンタより平気で戦えるから」

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

それだけ告げて腰にベルトを出現させると、アスハはシュロウガへと変身し右手の手の平の真ん中に現れた魔法陣からデスディペルを取り出し戦闘態勢に入った。そしてディケイド(紫苑)が未だ呆然とシュロウガを見上げる中、シュロウガは視線を動かさないままディケイド(紫苑)に呼び掛けた。

 

 

シュロウガ『アンタも何時までそうしてるつもりよ?ボーッとしてないで、苦戦してるヴィヴィオを助けにでも行ったらどう?』

 

 

ディケイド(紫苑)『っ?!アズサちゃん……じゃない?君は……一体……?』

 

 

シュロウガ『そんなの気にしてる場合?今はそれより、アンタがやるべきことが他にあるんじゃないの?』

 

 

ディケイド(紫苑)『………………』

 

 

ディケイド(紫苑)の疑問に対し答える素振りを見せず、冷たく突き放すようにそう言い放つシュロウガ。そんなシュロウガの態度から自分がどんなに疑問を投げ掛けても答えることはないのだろうと感じ取り、ディケイド(紫苑)は少しだけ考えるように顔を俯かせると、シュロウガに向けて頷き返しナンバーズの加勢に向かうべく走り出していくのだった。その直後……

 

 

―バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッッ!!!―

 

 

シルベルヴィントが叩き付けられたビルの屋上が爆発し、其処から勢いよく何かが飛び出した。シュロウガがソレを追うように遥か空を見上げていくと、其処には先程アズサに蹴り飛ばされた際に破損したマスクの片方のごく僅かの隙間から、怒りに満ちた瞳でシュロウガを見下ろす一人の異形……シルベルヴィントの姿があった。

 

 

シルベルヴィント『っ……あんたかいっ……あたいの顔を踏み付けて蹴り飛ばしてくれたのはっ!!』

 

 

シュロウガ『えぇ、そうよ。でも、随分と綺麗な顔になったじゃないの?さっきまでのブサイクな面より、そっちの方が何万倍マシだと思うけど?』

 

 

シルベルヴィント『言ってくれるじゃないかいっ……小娘がッ!』

 

 

挑発するように鼻を鳴らし嘲り笑うシュロウガの言葉に怒り、シルベルヴィントは両腕の高周波ブレードに光を纏わせ身構えていく。そうしてそれを見たシュロウガもデスディペルを軽く振るって風を起こし、シルベルヴィントに向けてかかって来いと言わんばかりにクイクイとジェスチャーをしていく。

 

 

シュロウガ『さ、こっちもあんま時間掛けれないからとっとと掛かって来なさい。ちょっとだけ遊んであげるからさ、オ・バ・サ・ン?』

 

 

シルベルヴィント『オバっ……?!このっ……尻の青い小娘風情が、調子に乗るんじゃないよォッ!!』

 

 

『オバサン』の部分をわざとらしく強調して挑発するシュロウガに遂にぶちギレ、スタートダッシュから既に超スピードでシュロウガに突っ込み斬り掛かるシルベルヴィント。だがシュロウガもシルベルヴィントと同じく超スピードでそれを回避し、互いに空へ戦いの場を変えて超高速バトルを繰り広げていくのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ディソード『デェアッ!!ハッ!!』

 

 

ディケイド『チィッ!!』

 

 

その頃、ディケイドは自身の因子を狙い突如襲ってきたディソードと剣を交えて一進一退の攻防を繰り広げていた。だが、ディソードが振りかざすドライバーをライドブッカーSモードで受け止めて反撃するその顔には、何処か焦りが浮かび始めている。

 

 

ディケイド(クソッ……!コイツ、隙が中々見付からないっ……こんな奴に時間を取られてる暇はないっていうのにっ……!)

 

 

先程からディソードの戦闘不能を狙い急所を集中して攻撃するも、そのすべてがディソードに安易く弾かれ無効化されてしまい、決着の決定打となる一撃を与えられず時間ばかりが過ぎていくだけだったのだ。このままでは雷や紫苑達の助けに間に合わないと、次第に焦燥が募り始めてたディケイドは一旦ディソードから距離を離し、ライドブッカーを左腰に戻しながら一枚のカードを取り出してバックルにセットした。

 

 

『KAMENRIDE:KABUTO!』

 

 

電子音声が響き渡り、それと同時にディケイドの姿がカブトへと徐々に変化していく。そして右手に現れたクナイガンを逆手に構え、ライドブッカーから一枚のカードを取り出しバックルに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:CLOCK UP!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

ディソード『ッ!クロックアップか……―ガキイィッ!!―グッ?!』

 

 

再び電子音声が響き渡ると共に、Dカブトはクロックアップ空間に突入して音速すら超えるスピードでディソードへと突っ込み、すれ違い様にクナイガンで斬り付けて吹っ飛ばしていったのだった。そしてDカブトは間髪入れずディソードが地面に落下する前に何度も突進を繰り返して吹き飛ばしていき、そのまま上空へと飛び上がりディソードにクナイガンの切っ先を向けながら落下してトドメを刺そうとした。が……

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

Dカブト『ッ?!何?!』

 

 

クナイガンの刃が届く直前にディソードのドライバーから電子音声が響き、直後にディソードは無数の残像と化して何処かへと消えてしまったのだ。それを目にしたDカブトは目を見開きながらディソードが消えた場所へと着地し、クロックアップを解除して辺りを見回しディソードの姿を探していくと……

 

 

『KAMENRIDE:KICK HOPPER!』

 

 

『デェアアァッ!!』

 

 

Dカブト『ッ!―ガキイィィィィッ!!―クッ?!』

 

 

不意に背後から電子音声が鳴り響き、それを耳にしたDカブトは咄嗟に背後へと振り返りながらその場から飛び退いてクナイガンを振るい、背後から放たれた攻撃と激突し火花を散らしたのだった。そしてDカブトは十分に距離を取って目前を見据えると、其処には、緑色のボディと赤い複眼を持ったバッタをモチーフにした姿の仮面ライダー……キックホッパーに変身したディソードが、右足を振り上げて立つ姿があった。

 

 

Dカブト『ッ!その姿……お前も他のライダーに変身出来るのか?』

 

 

Dキックホッパー『使えるには使えるが、普段は余り多様しない力だ……だが、お前を相手に出し惜しみをしていては勝つ事など叶わんだろう?』

 

 

Dカブト『ッ……そうまでして、何故俺の因子を狙う?お前が言う監視とは、何の事だ?』

 

 

Dキックホッパーとの距離は十メートル。全力で踏み込めば十分に間合いを詰められると考え、DカブトはDキックホッパーに見えぬようにライドブッカーからゆっくりと一枚のカードを取り出していく。

 

 

Dキックホッパー『お前や紫苑等が破壊者と称されるように、俺にも一つの役目……監視者としての使命が存在する』

 

 

Dカブト『監視者……?』

 

 

Dキックホッパー『そう、ディケイドが世界の外敵となる危険な存在にならないように監視し続ける者……向こう側で言えば、紫苑が世界の破壊者とならぬよう見張ってるのさ。奴の中の"因子"が目覚めないようにな』

 

 

Dカブト『ッ?!因子だと?!』

 

 

"因子"というワードを口にしたDキックホッパーに、目を見開いて驚愕を露わにするDカブト。まさか紫苑も、自分の中に宿る因子と同じような物を持っているというのか?そんな疑問が浮かび上がり聞き返そうとするよりも早く、Dキックホッパーは話の続きを語り出した。

 

 

Dキックホッパー『ヤツの中に眠るのは、お前の破壊の因子と同じく無限を司る因子……一度その力が解き放たれれば、無限の動力と力を得る事が出来る』

 

 

Dカブト『無限……つまり、無限の因子って事か……だが、何故紫苑がそんな物を持ってるんだ?俺が以前クアットロに無理矢理埋め込まれたように、アイツも誰かに因子を埋め込まれたのか?それとも――』

 

 

Dキックホッパー『それを貴様が知る必要はない……どうせお前は此処で消える。お前が破壊の因子を渡さないなら、お前ごとソレを抹消するまでだからな』

 

 

Dカブト『……それは、今という状況を理解しての言葉か?』

 

 

Dキックホッパー『貴様を紫苑に近づけて、奴の中の因子に良からぬ予兆を招くよりマシだろ。特に、今の不安定な状態の貴様は危険過ぎる……』

 

 

Dカブト(……?不安定?)

 

 

険しげにそう語るDキックホッパーの言葉の意味が分からず、疑問符を浮かべてしまうDカブト。だが、今はそんな事より雷や紫苑達の救援に向かう為に目の前の相手を倒す事が最優先だと、思考を切り替えながらDキックホッパーを見据えていく。

 

 

Dカブト『取りあえず、お前が紫苑の敵ではないってことだけは分かった……が、こっちの邪魔をするなら押し通らせてもらうっ!!』

 

 

『KAMENRIDE:EDEN!』

 

 

怒号を飛ばしながら地面を蹴って走り出し、同時にDカブトはライドブッカーを開いて取り出したカードをディケイドライバーに投げ入れてDエデンに変身し、Dキックホッパーに目掛け突っ込みながらクナイガンが変化した正宗を横薙ぎに振るっていった。しかし、Dキックホッパーは咄嗟に上空へと跳び上がりながら正宗を避け、それと同時にドライバーにカードを一枚装填した。

 

 

『KAMENRIDE:IXA!』

 

 

Dイクサ『ハァッ!!』

 

 

―ズギャギャギャギャギャギャギャアァンッ!!!―

 

 

Dエデン『チッ!』

 

 

『FORMRIDE:EDEN!EXIS!』

 

 

―ガギンッガキンッガキンッガキィンッ!!!―

 

 

電子音声が響くと共に上空でイクサへと変身し、空中で身を捩らせながら右手に現れたイクサカリバーガンモードをDエデンに向けて連射していき、Dエデンも咄嗟にカードをドライバーに装填しエクシアフォームに姿を変え、上空から降り注ぐ無数の弾丸の雨を右腕の大剣とライドブッカーで素早く斬り払う。そしてDイクサは銃撃を続けながら地上に着地して更にカードを一枚取り出し、Dエデンもカードを取り出してそれぞれのドライバーに装填していく。

 

 

『FINALATTACKRIDE:I・I・I・IXS!』

 

『FINALATTACKRIDE:E・E・E・EDEN!』

 

 

Dイクサ『ハアアァッ!!』

 

 

Dエデン『デエェアッ!!』

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィィィィインッッ!!!ジジジジジィッ……チュドオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーオォンッッ!!!―

 

 

『グァアアァッ!!?』

 

 

それぞれのドライバーから電子音声を響かせて互いに目掛けて必殺技を放つ二人だが、二人が放った必殺技は中央で激突して押し合い、巨大な大爆発を巻き起こしてDエデンとDイクサを吹っ飛ばしてしまう。だが二人は咄嗟に受け身を取りながらカードを取り出し、互いに目掛けて駆け出しながらドライバーにカードを装填した。

 

 

『KAMENRAID:BLADE!』

 

『KAMENRAID:CHALICE!』

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィィィィインッッ!!!―

 

 

Dブレイド『ハアァッ!!ウェアァッ!!』

 

 

Dカリス『ヌウゥンッ!!ハッ!!』

 

 

Dエデンはブレイドに、Dイクサはカリスへと即座に変身しながらすれ違い様にラウザーとカリスアローをぶつけ合い、無数の火花が散る。そしてDブレイドはブレイラウザーを上下左右素早く振りかざしDカリスに斬り掛かるが、Dカリスは後方一回転でソレを避けながらエネルギー矢を連射してDブレイドに撃ち込み後退りさせ、再びカードを取り出しドライバーに装填した。

 

 

『KAMENRAID:ZOLDA!』

 

 

Dゾルダ『フッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

Dブレイド『グッ?!グアアァッ!!』

 

 

再びカメンライドでゾルダに変身し、マグナバイザーの銃撃でDブレイドを吹き飛ばしてしまった。そしてDゾルダは何処からかディソードライバーを取り出し地面に突き刺すと、カードを一枚取り出してドライバーに装填しスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKRIDE:Z・Z・Z・ZOLDA!』

 

 

『モオォォォォォーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

ドライバーから電子音声が響くと共に、マグナギガが雄叫びを上げながらDゾルダの前に出現した。そしてDゾルダは目の前に現れたマグナギガの背中にマグナバイザーをセットすると、マグナギガの全ての武装を展開してDブレイドに照準を合わせていく。そして……

 

 

Dゾルダ『――終わりだ、黒月零……』

 

 

―カチッ……バシュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッッッ!!!―

 

 

Dブレイド『……!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!!!―

 

 

奈央「?!く、黒月さんっ!!」

 

 

マグナバイザーの引き金を引くと共に、マグナギガの全砲門から無数のミサイルとレーザーが一斉に放たれ、その全てがDブレイドに直撃し巨大な爆発を巻き起こしたのであった。そしてソレを確認したDゾルダは、マグナギガを消しながらディソードへと戻って地面に突き刺さったドライバーを抜き取り、スルリと刃を撫でた。

 

 

ディソード『随分と呆気なかったな、黒月零……最悪因子を使うかもしれないと対策も考えていたんだが、全くの杞憂だったか……』

 

 

手応えは確かにあったし、爆煙の中からディケイドが飛び出して来る気配はない。だが万が一に備え追撃しておいた方がいいかもしれないと、ディソードは更にもう一枚カードを取り出しドライバーに装填しようとした、その時……

 

 

 

 

 

 

『FINALATTACKRIDE:G・G・G・GARMRAID!』

 

 

『――イグニションッ!!』

 

 

―バシュウゥゥゥゥッ!!!!―

 

 

 

ディソード『…っ?!』

 

 

 

 

 

 

突如爆煙の中から掛け声が発せられ、同時に煙の内側から紅蓮の業火が噴き出し爆煙を吹き飛ばしたのだ。そして爆煙の中から姿を現したのは、両肩両腰に装備した牙のような形状のパーツから噴出される炎を身に纏い、業火の中に佇む紅のライダー……以前零が知り合ったヒューゴ・メディオが変身するガルムレイドにカメンライドしたディケイドの姿があったのだった。

 

 

ディソード『なっ……貴様まだ……!!』

 

 

Dガルムレイド『おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!』

 

 

あの一斉射撃を喰らっても尚立ってるDガルムレイドを見て驚愕するディソードだが、Dガルムレイドは構わず炎を全身に纏いながらディソードに目掛けて飛び出し、それを目にしたディソードは舌打ちしながら慌ててドライバーにカードを装填しようとするが、それよりも速くDガルムレイドの左拳がディソードの腹に打ち込まれた。

 

 

ディソード『がああぁぁっ?!!』

 

 

Dガルムレイド『バーニングゥゥッ、ブレイカァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

―バキャアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーアァァンッッッ!!!!!―

 

 

ディソードに拳を打ち込みながらその場で一回転し、上空に向けてディソードを投げ出したDガルムレイド。そして、Dガルムレイドはライドブッカーから再び二枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに纏めて装填してスライドさせた。

 

 

『KAMENRIDE:ALTEISEN!』

 

『FINALATTACKRIDE:A・A・A・ALTEISEN!』

 

 

電子音声が再び鳴り響き、Dガルムレイドは赤い閃光を放ちながら分厚い重装甲と右腕のパイルバンカーが特徴的な赤のライダー……ガルムレイドと同じく零が以前知り合った南武 恭介が変身するアルトアイゼンへと姿を変え、変身の完了と共に吹き飛ぶディソードに向かって突撃しながら、左腕の三連マシンキャノンと両肩に装備したスクエア・クレイモアを続けざまに乱射すると、頭部のヒートホーンにエネルギーを纏いディソードの頭上へと飛び上がった。

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

ディソード『ぐあぁっ?!ぐっ?!このっ……!!』

 

 

Dアルトアイゼン『まだ終わらんぞっ!!』

 

 

―ザシュウゥッ!!!―

 

 

ディソードの頭上から降下して頭部のヒートホーンを薙ぎ払い、すかさず左腕のリボルビング・ステークを振り抜きディソードの腹に突き刺した。

 

 

ディソード『がぁっ!?』

 

 

―ガシャアァンッ!ガシャアァンッ!ガシャアァンッ!ガシャアァンッ!―

 

 

Dアルトアイゼン『バンカァーッ!!撃ち抜けえぇッ!!』

 

 

―ドシュウウゥッッ!!!―

 

 

ディソード『!!』

 

 

そのまま間髪入れずリボルビング・ステークの弾薬を惜しみ無く連続で撃ち込み、最後の一発を撃ち込みながらディソードを遠方へと撃ち飛ばしたのであった。そして、Dアルトアイゼンは吹き飛んでくディソードにゆっくりと背を向け……

 

 

Dアルトアイゼン『これが…コイツの切り札だ…』

 

 

―カシュゥッ……ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!―

 

 

ディソード『グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

空になった薬莢をステークから排出したと共に、ディソードは地面に叩き付けられながら大爆発を起こし、Dアルトアイゼンも爆発を背に右腕を下ろしディケイドへと戻っていくのだった。

 

 

奈央「っ!や……やったの……?」

 

 

ディケイド『…………』

 

 

その二人の戦いを物陰から見守っていた奈央も、漸く戦いに決着が着いたのかとディソードが爆発した場所を見つめていき、ディケイドも肩を僅かに上下させながら無言のまま背後に振り返ると、爆煙が風に吹かれ徐々に視界が戻っていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

ディソード『―――ッ……クッ……!』

 

 

 

 

 

 

全力を込めたディケイドの連続攻撃を受けても諦めず、ドライバーを杖代わりにしふらつきながら立ち上がろうとするディソードの姿があったのだった。しかし、流石に先程の連続攻撃が効いているのか、その姿はボロボロで複眼やボディの所々がひび割れていた。

 

 

ディケイド『流石にしぶといな……こっちも今ので終わらせるつもりだったんだが、そう簡単に倒れてはくれんか』

 

 

ディソード『っ……当たり前だ……お前を、紫苑達に近付ける訳にはっ……!』

 

 

ディケイド『……何故そうまでして俺に向かって来る?お前が其処まで傷付いてまで戦うのはどうしてだ?世界の為か?使命の為か?それとも……』

 

 

ディソード『っ…………』

 

 

此処までボロボロにされても尚立ち向かって来るディソードの目的を問い詰めるディケイドだが、その問いを受けたディソードは顔を逸らしながら口を閉ざして何も答えず、代わりにゆっくりとディソードライバーを構え直して戦いの続きを促した。そしてディケイドもそれを見て仕方ないと深く溜め息を漏らすと、次の一戦で今度こそディソードを気絶させようと決意し、左腰のライドブッカーに手を伸ばした。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―フッ……ガキイイイイイイイイィッッ!!!―

 

 

ディソード『っ?!ぁ……?!』

 

 

ディケイド『っ?!―ガキイィィィィッッ!!―がっ……?!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッ!!!!!!―

 

 

奈央「?!え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――ディソードの背後から突如放たれた、一筋の深紅の閃光。肉眼では捉えられない速さで放たれたソレはディソードの脇腹を背後から貫通し、更にディケイドの腹を貫きながら通り過ぎ、ディケイドの遥か後方の高層ビルに直撃して木っ端微塵に吹き飛ばしていったのだった。だが、謎の閃光に腹を貫かれた二人は吹き飛んだビルに意識を向ける余裕すらなく、変身も解除されそのまま力無く地面に倒れ込んでしまった。

 

 

奈央「っ!く、黒月さんっ?!大丈夫ですかっ?!しっかりっ!!」

 

 

零「ぁ……がぁっ……!!ぐあぁっ……!!」

 

 

迅「がっ……な、んなんだっ……今のはっ……?!」

 

 

肉と血の焦げた嫌な臭いが辺りに漂う中、木っ端微塵に吹き飛んだビルを目にし唖然としていた奈央は地面に倒れ込む零を見て慌てて駆け寄り身体を起こしてくが、零は奈央の言葉を返す余裕もなく腹に走る激しい激痛に身悶え、迅も自分と零を襲った今の攻撃の正体が分からず困惑の顔を浮かべていた。其処へ……

 

 

 

 

 

『――へぇ……本当に頑丈に出来てるのね。普通なら今の一撃で即死の筈なんだけど……あぁ、それとも私の狙いが甘かっただけ?』

 

 

『ッ?!』

 

 

 

 

 

何処からか、関心を含んだ女の声が響き渡った。それを聞いた奈央、そして零と迅が苦しげに顔を動かし声が聞こえてきた方へと振り向くと、其処には……

 

 

 

 

 

『まあどっちでもいいか……いずれにしろ、私がやる事に変わりはないんだし』

 

 

 

 

 

迅の遥か後方。其処には、まるで龍と蛇を掛け合わせたかのような禍々しい外見と、炎に包まれる二対の翼を背中から生やした赤とオレンジのツートンカラーの異形……シュレンが変貌したヴリトライレイザーが、零達に人差し指を向けながら悠然と歩み寄る姿があったのだった。

 

 

迅「お前……はっ……?!」

 

 

奈央「な……なに、あれ……インフェルニティなの……?」

 

 

『……はぁ……にしても、現場で待機済みだったのにいきなり作戦変更だとか、冗談じゃないわよ……予定通りなら、このまま手薄になった六課に攻め込んで局員を皆殺しにした後、アンタにソレ見せ付けて絶望させるつもりだったのに……余計な真似してくれたわね、出来損ない?』

 

 

零「っ……出来……損、ない……?」

 

 

奈央に抱き抱えられる零を見据えて、吐き捨てるように出来損ない呼ばわりするヴリトライレイザーに怪訝な表情を浮かべて問い返す零だが、ヴリトライレイザーは構わずに指を鳴らして右手に炎を纏った。

 

 

『まぁ、それも別の方法を試せばいいか……あっちに行ったクアットロとレジェンドルガ共に先越されるのも癪だし、さっさと終わらせてもらうわよ?』

 

 

零「?!レジェンドルガにクアットロ……?まさか、アイツ等もこの世界に来てるのかっ……?!」

 

 

『うん?知りたい?だけど残念……アンタがあの女に会う事はないわ!』

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!―

 

 

奈央「?!」

 

 

零「っ!クソッ……!ぐぅっ……!」

 

 

そう叫ぶと共に、ヴリトライレイザーは零と奈央に向けて炎を纏った右手を勢いよく振るい、無数の炎弾を撃ち出したのだった。それを目にした零はすぐさま再変身しようとライドブッカーに手を伸ばすが、腹に穴が空いた身体を急に激しく動かした為に激痛が走って動きが鈍り、炎弾が二人に襲い掛かろうとした。その時……

 

 

『KAMENRIDE:DI-SWORD!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

ディソード『グウゥッ!!グアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』

 

 

奈央「?!えっ?!」

 

 

零「!?」

 

 

無数の炎弾が零と奈央に当たろうとした寸前、倒れていた迅がディソードに変身しながら二人の前へと飛び出し無数の炎弾を代わりに受けたのだ。そして火花を散らしながら全ての炎弾を受け切ったディソードは力無く地面に倒れ掛けるが、ドライバーを杖代わりにし何とか倒れるのを防いだ。

 

 

零「お前……?!」

 

 

『あらら、まさかそんな状態で動けるなんてねぇ……っていうか、何の真似よ?アンタさっきまで其処の出来損ないと戦ってた癖に、今度はソイツ庇う気?』

 

 

ディソード『っ……別に、奴を助けた訳じゃないっ……ただ其処の女は、俺達とは関係ないから庇った……それだけだっ!!』

 

 

怒号を飛ばすと共に、ディソードはふらつく足をしっかり地に着けて地面を蹴り、ヴリトライレイザーへと突っ込みドライバーで斬り掛かっていった。だが……

 

 

―ガキイィッ!!グガアァンッ!!ガキャアァンッ!!―

 

 

『ふふ、よくもまあ頑張るわ。もうボロボロじゃないの?その意気込みは立派だけど……』

 

 

ディソード『クッ……!』

 

 

ボロボロの状態に関わらずドライバーを振りかざしてヴリトライレイザーに何度も斬り掛かるディソードだが、ヴリトライレイザーはその場から一歩も動かないまま防御も回避もせず斬撃を全て正面から身体で受け止め、ビクともしない所か笑みすら浮かべている。それを見たディソードも通常攻撃は効かないと判断して距離を取り、ドライバーに一枚のカードを装填しスライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:DI・DI・DI・DI-SWORD!』

 

 

ディソード『なら、コイツでどうだっ!!』

 

 

電子音声が辺りに響き渡ると、ディソードとヴリトライレイザーの間にディメンジョンフィールドが展開されていき、ディソードはドライバーを握り直しながらディメンジョンフィールドを勢いよく潜り抜けてヴリトライレイザーに斬り掛かろうとした。が……

 

 

―シュンッ……ガシャアァンッガシャアァンッガシャアァンッ!!!―

 

 

『ふ……』

 

 

ディソード『っ?!―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!―グァッ?!ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?』

 

 

零「なっ?!」

 

 

ディソードがフィールドを潜り切る前に、なんとヴリトライレイザーはディメンジョンフィールドへと躊躇なく自ら飛び込み、フィールドを一枚ずつ壊しながらディソードへと迫って業火を纏った右足でディソードを蹴り飛ばし、ディソードは爆発に飲み込まれて吹っ飛ばされてしまったのだ。そしてディソードは変身が強制解除され迅へと戻ってしまい、火だるまになりながら地面に叩き付けられてしまった。

 

 

迅「ぐああああああっ?!ああぁっ!!あああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

『……アンタ達とは、次元が違うのよ』

 

 

奈央「あ、あの人がっ……?!」

 

 

零「クッ……!!うあああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

奈央「っ?!黒月さんっ!」

 

 

『……ん?』

 

 

悲痛な悲鳴と共に火だるまになってのた打ち回る迅にトドメを刺そうとヴリトライレイザーが歩み寄る姿を見て、零は腹の激痛を振り払うように叫びながら勢いよく駆け出してディケイドに再変身し、ヴリトライレイザーに向かって拳を振り上げながら殴り掛かるが、ヴリトライレイザーは顎を軽く上げただけでソレを避けながらディケイドの腹に蹴りを入れて後退りさせてしまう。

 

 

ディケイド『グウゥッ?!ぐっ!桜井!!早くソイツを連れていけ!!』

 

 

奈央「えっ?で、でも黒月さんは?!」

 

 

ディケイド『俺はコイツを足止めする!!お前はシャマルに連絡してソイツを治療させろ!!急がないと手遅れになる!!急げっ!!』

 

 

全身火傷に覆われボロボロになった迅の姿から早急に治療が必要だと悟り、ディケイドは奈央に迅を急いで機動六課に連れていくように告げながら左腰のライドブッカーをSモードに展開しヴリトライレイザーへと斬り掛かっていく。そして奈央は、一瞬ディケイドと迅を交互に見て迷う素振りを見せるも、今は目の前の怪我人を救う事が先決だと決心し、迅の身体を支えながらその場から離れていくのだった。

 

 

『フフ……今度は襲われた方が襲った奴を助けるなんて、随分と優しいじゃないの?』

 

 

ディケイド『っ……奴にはまだ聞き出さなきゃならん事が山ほど残ってるから、勝手に死なれちゃ困るだけだ……それより答えろっ!クアットロ達もこの世界に来てるのかっ?!奴らは今何処にいるっ?!』

 

 

『ふん……それを知って、どうするっての?』

 

 

ディケイド『良いからさっさと答えろっ!奴らがこの世界に来てるなら、今回の件にも奴らが一枚噛んでる筈だし、奴の護衛に二人のライダー達が付いてる筈だっ!奴らは今何処にいるっ?!』

 

 

『ライダー達?……ああ、あのクアットロ達の人形共の事か……それなら――』

 

 

既に立ってるだけでも限界な為に、余裕がある内に急いでクアットロ達の居場所を聞き出そうと問い詰めるディケイドにそう告げ、ヴリトライレイザーはゆっくりと右手を上げてディケイドを指差していき、ディケイドはそれを見てまた先程と同じ攻撃が来るのではと思わず身構えた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――今、アンタの後ろにいるじゃない』

 

 

ディケイド『……は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴリトライレイザーがそう口にしたのは、ディケイドが予想していなかった言葉だった。その言葉の意味が一瞬だけ理解出来ず、ディケイドが思わず間抜けな声を漏らした。その瞬間……

 

 

 

 

―ズシャアァッ!!!―

 

 

ディケイド『……ぇ……?』

 

 

 

 

鋭い斬撃音を辺りに響かせ、突如ディケイドの背中を何かが斬り裂いたのだった。突然の不意打ちにディケイドも一瞬何が起きたのか分からないままバランスを崩して倒れそうになるが、何とか踏み止まり、視界が何度も暗転する中で呆然と背後へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

―ピチャッ……ピチャッ……―

 

 

ロスト『…………』

 

 

ディケイド『ッ?!おま、え……ロストっ……?!』

 

 

 

 

 

そう、ディケイドの背後に立っていたのは、赤い雫が滴り落ちる銀色の槍を振り下ろしたアンシンメトリーの外見をした仮面ライダー……ライダー少女Wの世界で自分を苦しめ、クアットロ達によってこの世に蘇らせられたアリシアとリインフォースが変身したロストの姿があったのだ。そして更に……

 

 

 

 

―ブオォォォォォォォォォォォォォォオッ……―

 

 

ガリュウ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

センチュリオ『…………』

 

 

 

 

ディケイド達の周りに歪みの壁が出現し、その中から無数のライダー達……ルーテシアが変身したガリュウを筆頭に、十体近くのセンチュリオ達が現れ、あっという間にディケイドを包囲してしまった。

 

 

ディケイド『ッ!黒い仮面ライダー……ルーテシアか……!それにコイツらっ、レジェンドルガじゃないっ……?!』

 

 

『そっ、ソイツらは"センチュリオシリーズ"……あんな雑魚共よりもよっぽど使える量産型共よ。それともう一つ……』

 

 

ガリュウと共に現れた見慣れないセンチュリオ達を見て戸惑うディケイドを他所に、ヴリトライレイザーはその場から退くように一歩後退った。その奥に……

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………………』

 

 

 

 

ディケイド『?なんだ……女……?』

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴリトライレイザーが退いた先に、仮面ライダーでも怪人でもない一人の少女が無言のまま静かに佇む姿があったのだ。だがその姿は全身に装甲のようなパーツを身に纏い、モノアイが特徴のバイザーが顔に身に付けられていたりと明らかに普通ではない外見の上に、何処か不気味な雰囲気を身に纏っていた。それが余計に不気味さを引き立たせてディケイドも思わず後退り、そんなディケイドの様子を見てヴリトライレイザーも笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

『どう?コイツが今回の特別ゲスト。アンタにとっては嬉しいサプライズでしょう?"懐かしい"と思わない?』

 

 

ディケイド『……?懐かしい……?何の話だ……?』

 

 

ヴリトライレイザーの言葉の意味を理解出来ず訝しげに聞き返すディケイドだが、ヴリトライレイザーはそれ以上は何も語らずただ妖しげに笑いながらゆっくりと右手に炎を纏っていき、それに呼応するかのように周囲のセンチュリオの大群もランチャー・ジェミナスを右手に形成しディケイドに狙いを定めた。

 

 

ディケイド『ッ!』

 

 

『まぁ、それはまた後の楽しみと行きましょうか……その方が後々盛り上がるし、ねぇ!』

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!―

 

 

ディケイド『クソッ!!』

 

 

ヴリトライレイザーはディケイドに向けて先程と同じように無数の炎弾を放ち、センチュリオ達も引き金を引いてランチャー・ジェミナスの銃口から一斉に混同射撃を撃ち出した。それを目にしたディケイドは直ぐにライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『ATTACKRIDE:BARRIER!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!―

 

 

ディケイド(ッ……!とにかく、ロストとガリュウが現れたのなら好機に違いはないっ!クアットロが介入してくる前に、三人のベルトを破壊すればっ……!)

 

 

バリアを展開して一斉射撃を何とか凌ぎ、ディケイドはライドブッカーから一枚取り出しながら思考を駆け巡らせていく。周囲を爆煙が覆ってる以上、向こうも視界を遮られこちらの姿を捉えられないはず。今ならロストかガリュウに奇襲を仕掛けてダメージを与え、戦況を有利に進められる筈だと、ディケイドは背後のロストの方へと振り返ってカードをバックルに装填しようとする。が……

 

 

 

 

 

 

 

―ヒュンッ……ズシャアアアァァァァッ!!!―

 

 

ディケイド『――っ?!!なっ……?』

 

 

 

 

 

突如、爆煙の向こう側から高速で何か……一本の剣が飛来し、カードを持つディケイドの右腕へ正確に突き刺さったのだ。一瞬なにが起きたのか分からずに驚愕してしまうディケイドだが、自分の右腕が剣に貫かれたのだと気付いたと同時にとてつもない激痛が走って思わずカードを手放してしまい、そして……

 

 

―シュンッ!―

 

 

『………………』

 

 

ディケイド『?!お前はっ……?!』

 

 

ディケイドの目前に、あのバイザーを身に付けた少女が瞬時に移動して肉薄して来たのだ。その両手には、ディケイドの右腕に突き刺さる剣と同じ柄をした二本の剣が握られており、少女はニイイ、と口元を歪めながら驚愕するディケイドへと容赦なく両手の剣を振り下ろしていったのだった。

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑨(後編)

 

 

 

―クラナガン・市街地―

 

 

『――さぁ、どうしますか雷牙さん?このまま子供達を見殺しにするか、サンダーレオンを差し出すか……勿論答えは既に出ていますわよねぇ?』

 

 

雷牙『ッ……!!』

 

 

人質の子供達に加え、瀕死の男の子を人質に取り雷牙に手を差し延べながらそう告げるデザイアドーパント。

 

 

そんなデザイアドーパントを強く睨みつける雷牙だが、彼女の望む返答を出さなければまた人質の子供の誰かが犠牲になってしまう。

 

 

しかもこのまま時間を掛け過ぎれば、瀕死の男の子の命までもが危ない。答えが出せない中で、迷いと焦りが募るばかりのそんな雷牙を見つめデザイアドーパントが嘲笑う中、オーガ達は……

 

 

オーガ(……おい、恭平)

 

 

アナザーアギト(わーってるよ……こっちはいつでもオーケーだ……)

 

 

デザイアドーパントの意識が雷牙に向けられてる隙にオーガとアナザーアギトがなにやらアイコンタクトを交わし、オーガはアナザーアギトの反応を確認すると、今度はオーディンディスペアに向けて念話を発した。

 

 

オーガ(おい、我が儘娘。ちょっと聞きてぇことあんだが……)

 

 

(あん?何よ?っつか誰が我が儘だってっ?)

 

 

オーガ(いいだろ其処は別にッ!……それよりお前、そのバックルの能力の一つに超高速とかあったりするか?)

 

 

(?……あるにはあるけど、それがなんだってのよ?)

 

 

質問の意図が読めず怪訝に問い返すオーディンディスペア。それに対しオーガはデザイアドーパントに視線を向けたまま、右手に握る大剣を握り直しながら足幅を僅かに広げながら答えた。

 

 

オーガ(なら、お前はそれであの瀕死のガキを連れてこっから離れろ……。あの機械人形共は俺らで何とかする)

 

 

(は?何とかって、まさか……あんたアイツら助ける気なワケ?)

 

 

オーガ(バーカ、良く思い出せ。俺達の任務は、奴らと奴らの企みを潰すことだ。このまま雷牙達に不利が続いて根負けしてサンダーレオンを渡すなんてことになっちまえば、折角弱体化させた奴らの戦力の増強を許すことになる……そんななのはうちのボス達が許さねぇ。だから雷牙達が不利になる要素は潰していくしかねぇんだよ……)

 

 

アナザーアギト(このままじゃやっこさん方、本気でライオンちゃんを渡し兼ねない空気だしな……不本意かもしんねぇけど、嬢さんも協力してくれ。じゃないと俺らの首が危ねぇしさ)

 

 

(……チッ……まあ、私もあのクソ女に一泡吹かせたいってのもあるし……しゃーない、今回は言う通りにしてやるわ)

 

 

(ッ!なら先輩、僕も……!『駄目だ』ッ?!)

 

 

あまり乗り気ではない様子のオーディンディスペアを説得する二人の会話を聞き自分も協力を申し出ようとするダグバだが、オーガがそれを遮るように冷たくそう言い放ち、オーガは振り返らないまま淡々とした口調で言葉を続けた。

 

 

オーガ(羅刹の使えねぇお前に出来る事なんざない。大人しくジッとしてろ)

 

 

(ッ!でもっ!)

 

 

オーガ(……ハッキリ言わねえと分かんねぇのか?足手纏いなんだよ、ガキ共を助けたいならすっこんでろ)

 

 

(……っ……)

 

 

アナザーアギト(まあそうピリピリしなさんなって。新人君もよ?気持ちは有り難いが、此処は真也の言う通りに待機しててくれや。……いいな?)

 

 

(……はい……)

 

 

デザイアドーパントを前に苛立ちを露わにするオーガを見てオーガが本気なのだと悟り、大人しく頷き返すダグバ。そうしてアナザーアギトはそんなダグバの肩の上に手を置くと、オーガとデザイアドーパントと目を合わせて小さく頷き合う。

 

 

『ふぅ……なんだか待たせ過ぎるから、イライラしてきましたわねぇ……。あともう一人ぐらい誰か傷付けないとハッキリしないのかしらぁ?』

 

 

雷牙『ッ!止めろッ!!』

 

 

その一方、未だにサンダーレオンを差し出すかどうか迷う雷牙に痺れを切らし、もう一人犠牲者を増やすべきかと人質の子供達に歩み寄ろうとするデザイアドーパント。それを見た雷牙は慌ててデザイアドーパントを呼び止め、苦悩の表情を浮かべながら俯き『最早条件を飲むしかないのか……』と、徐に左腰のホルダーに触れていく。その時……

 

 

 

 

 

『――羅刹の七、電光石火ッ!!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

『…!』

 

 

雷牙『……え?』

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

『ッ?!グハアァッ!!』

 

 

 

 

 

雷牙が半ば諦め掛けサンダーレオンのカードを取り出そうとした瞬間、オーガとアナザーアギトが突然怒号を放ってオーディンディスペアと共に姿を消したのである。それを聞いた雷牙達とデザイアドーパント達の意識が一瞬オーガ達の方に向けられると、それと共に瀕死の状態の男の子を人質に取ったレジェンドルガが突然吹っ飛んでいったのだ。そして……

 

 

―シュンッ!―

 

 

『――よし、確保……』

 

 

男の子B「……ぅ……」

 

 

『ッ!貴様ァ!―ガギイィッ!―ウガァッ?!』

 

 

瀕死の状態の男の子の傍にオーディンディスペアが姿を現し、男の子を抱き抱え肩に背負っていく。それに気が付いた他のレジェンドルガ達は慌ててオーディンディスペアを止めようと駆け出すが、それを阻むように信じられないスピードで駆ける何者かに跳ね飛ばされていった。

 

 

なのは(別)「な、なにっ?なにがどうなってっ?!」

 

 

『あらあら……これはまた意外な方々が助っ人になるとは』

 

 

―ガギイィッ!!―

 

 

オーガ『――チィッ!!』

 

 

姿の見えない何者かの突進を受けて吹っ飛ばされてくレジェンドルガ達の姿を見て冷静な口調でそう呟き、デザイアドーパントが右に素早く右腕を突き出すと、電光石火を用いて高速移動しデザイアドーパントへと斬り掛かったオーガの大剣を安易く受け止めてしまい、そのままオーガを裏拳で横殴りに吹っ飛ばしてしまった。

 

 

『ッ!ブ男ッ!』

 

 

オーガ『ッ……構うなッ!オメェはさっさとそのガキ連れて離れろッ!急げッ!』

 

 

『……ッ!』

 

 

―シュンッ!―

 

 

奇襲に失敗してデザイアドーパントに殴り飛ばされるオーガを見て一瞬その場に踏み止まるオーディンディスペアだが、オーガにそう言われ自分の役目を果たすために再び超高速を用い、男の子と共に戦線から離脱していく。そしてデザイアドーパントはそれを横目で見ると、再びオーガに視線を向けて可笑しそうに笑みを浮かべた。

 

 

『これは驚きましたわぁ。目的の為ならば手段を選ばない『追跡者』のメンバーが、まさか子供を救い出すなんて……まさか、くだらない正義感に目覚めちゃったんでしょうか?』

 

 

オーガ『……ハッ……んな訳あるかよ。俺らの任務はテメェ等の企みを潰す事だ。このままテメェ等を見逃せば、俺らの首も危ないんでねっ……』

 

 

……ついでに言えば、子供を人質に取るデザイアドーパントを見てるとあのヴェクタスに従ってしまった時の記憶を思い出させられて気に入らないというのもあるのだが、それは口には出さず大剣を杖代わりにして立ち上がり、デザイアドーパントに向けて剣を構えていくオーガ。だが……

 

 

『――フフフ、命惜しさに形振り構っていられない訳ですか……でも、貴方達は一つだけ見落としてしまってる事がありますわよ?』

 

 

オーガ『……何?』

 

 

口に手を添えて余裕の態度を見せ付けるように嘲笑うデザイアドーパントの言葉を聞き、オーガは仮面の下で眉を潜めて思わず問い返した。その時……

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『があああぁっ!!!』

 

 

『……ッ?!』

 

 

突如、オーガ達の上空からけたたましい爆発音と共に爆発が発生し、悲痛な悲鳴が響き渡ったのであった。オーガとダグバ、雷牙達は突然の出来事に驚愕し爆発が巻き起こった空を思わず見上げると、オーガ達から少し離れた場所になにかが落下して地面に叩き付けられた。それは……

 

 

 

 

 

 

『――ウフフフッ……』

 

 

―ギリギリギリィッ!―

 

 

恭平「ぐあぁっ……ぐあああああああああっ……!!」

 

 

オーガ『ッ?!恭平ッ?!』

 

 

『先輩ッ!!』

 

 

黒獅子リオ『なっ……クアットロが、"もう一人"だとっ……?!』

 

 

 

 

 

 

そう、地面に落下した物の正体とは、人質の子供達を救出すべく羅刹を使ってレジェンドルガを撃退しようとしていたハズの恭平と、その恭平を踏み付けクスクスと可笑しげに笑う『もう一体のデザイアドーパント』だったのだ。ボロボロの姿に変わり果てた恭平を踏み付けるもう一体のデザイアドーパントを見てその場にいる一同は驚愕を隠すことが出来ず困惑し、オーガと対峙するデザイアドーパントはそんな彼等の様子を見て高らかに笑い出した。

 

 

『アッハハハハハハハッ!残念でしたねぇ、おバカな追跡者さぁん?作戦を実行に移す前に、もう一つ警戒すべき懸念を見落とすからこうなるんですよぉ?』

 

 

オーガ『ッ!何だとっ……?』

 

 

愚か者を見下すような口調でそう告げるデザイアドーパントを睨み付けオーガが剣を構え直すと、デザイアドーパントはクツクツと笑いが収まらぬまま徐に右手を上げて指を鳴らし、なんとその身体からもう一体のデザイアドーパントを生み出したのである。

 

 

オーガ『なっ……』

 

 

『これがデザイアメモリの力……』

 

 

『私自身が望めば望むほど、力は増し、私自身が望む能力を得ることが出来る。この分身能力も、その一つ……』

 

 

『欲望が大きければ大きいほど、メモリはそれに呼応して私に強大な力を授けてくれる!それこそ無限に!何処までも!お分かりですか追跡者さん?貴方達など、最早私達にとって恐れるに足りない存在ということですよ?アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!』

 

 

オーガ『ッ……クソッタレっ……』

 

 

愉快げに耳障りな笑い声を上げる二体のデザイアドーパントの話を聞き、オーガはデザイアドーパント達の言う通り、自分達の認識の甘さに後悔して思わず毒づいた。

 

 

以前ドゥーエとトーレが率いる軍勢との戦いで勝利しドゥーエを捕らえた経緯がある為、クアットロ程度が何に姿を変えようが自分達なら問題なく捕らえられると思っていたが、彼女自身ではなく彼女が持つメモリの能力を確かに警戒すべきだった。

 

 

後悔先に立たずとはこの事かと、悔しさから拳を強く握り締めていくオーガだが、デザイアドーパントはニヤニヤと笑いながらもう一体のデザイアドーパント……デザイアドーパントBに踏み付けられる恭平を指差した。

 

 

『人質の一人を逃がされたのは残念ですが……まあ、貴方達に有効な人質が手に入ったのだから良しとしましょうかしら?見たところ仲の良いお仲間さんのようですし、使い道は色々あるでしょうから、ねぇ……?』

 

 

オーガ『…………』

 

 

恭平「ッ……構うな真也ッ!!俺なんかの事よりっ、ソイツをっ―ドグオォッ!―ぐああぁぁッ!!!」

 

 

『ッ!先輩ッ!―バッ!―……っ?!』

 

 

自分に構わずクアットロを止める事を優先しろ。そう言い放とうとした恭平の腹をデザイアドーパントが容赦なく踏み付けて黙らせてしまい、それを目にしたダグバが踏み出そうとするも、ダグバの前にデザイアドーパントCが立ち塞がってそれを阻んでしまう。

 

 

『余りに下手に動かない方が身の為ですよぉ?あの彼のように呆気なくやられて、貴方まで人質にされたくはないでしょう?』

 

 

『クッ……!』

 

 

立ちはだかるデザイアドーパントCにそう忠告されてダグバが人質の方に視線を向けると、恭平の他にもレジェンドルガ達がいつの間にか態勢を立て直して再び子供達を人質に取っており、それを見たダグバは悔しげに唸りながら握り締めた拳を緩めてしまう。そしてオーガもその様子を横目に見ると、目の前のデザイアドーパントに視線を戻して淡々と言葉を紡いだ。

 

 

オーガ『それで……?うちの馬鹿野郎を人質に取って、一体何して欲しいってんだよ?』

 

 

『あら、物分かりが良くて助かりますわぁ。そうですねぇ……先ず、変身を解いてもらいましょうか?またさっきのような力を使われたら、面倒ですから♪』

 

 

オーガ『……だろうな……』

 

 

予想通りの要求をされ口の中で小さく舌打ちすると、オーガは徐にバックルに手を伸ばしてオーガフォンを掴み、オーガフォンを操作してオーガから真也に元に戻っていった。

 

 

恭平「ッ……!真也っ……!」

 

 

真也「……これでいいのか、クアットロさんよ?」

 

 

『えぇ♪口は悪いですけど、意外に素直な人で助かりました……わッ!!』

 

 

―バキイィッ!!―

 

 

真也「?!ウグアァッ!」

 

 

『ッ!真也先輩ッ!』

 

 

変身を解除した真也を見て上機嫌にそう言いながら、デザイアドーパントは一瞬残像のように姿を消した後に真也の前に現れ、真也を裏拳で容赦なく殴り飛ばしてしまう。突然の不意打ちだったために真也も受け身を取れずゴロゴロと地面を転がって倒れ込んでしまい、デザイアドーパントは愉快げに笑いながら真也へと歩み寄り雷牙達に向けこう告げた。

 

 

『貴方達も、よぉーくその目に焼き付けておいてくださいねぇ?私を出し抜こうなんて馬鹿な真似をしたら、どうなるかってことを、ねぇッ!!』

 

 

―ドグオォッ!!―

 

 

真也「ごふうぅっ?!がっ……?!うあぁっ……!」

 

 

恭平「真也ァッ!!!」

 

 

雷牙『クッ……』

 

 

わざわざ雷牙達に見えやすい位置から、無抵抗の真也を執拗に痛め付けていくデザイアドーパント。真也も規格外な怪人の力の一方的な暴行の前に口から血の塊を吐き出して悶え苦しみ、雷牙達も先程まで戦ってた敵とは言え、生身の人間が一方的にやられる光景を前にグツグツと怒りを滾らせていくも、何もすることが出来ずただその光景を黙って見ているしか出来ないのだった……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

フェイト(――何で……)

 

 

そうして同じ頃、ヴリトライレイザー達の猛攻の前に変身解除にまで追い込まれていた血まみれの零の前に現れたフェイト。先程土手で八雲に言われた通り、彼からの指示を受けてロストとガリュウを探しにこの場に誘導されたフェイトは、零の姿を目の当たりにして絶句してしまっていた。

 

 

零「……おま、え……なんでっ……?」

 

 

―ビチャァッ……!―

 

 

フェイト「っ……!!」

 

 

一方で零も、何故フェイトが此処にいるのか分からずあからさまな動揺を浮かべ瞳を激しく揺らすが、今のフェイトには零の言葉より、全身から赤い血液を流す零の惨い姿しか目に映らなかった。しかし……

 

 

―……ザッ―

 

 

ロスト『…………』

 

 

フェイト「ッ!ロストっ……?!」

 

 

フェイトの前に、ロストがスピアグレイブを手に立ち塞がった。突然現れたフェイトを障害と判断して排除しようとしてるのか、ロストは右手に握るスピアグレイブの切っ先をゆっくりとフェイトに向けていくと、フェイトは自分に向けられたその槍の先端を見てハッと気付いた。スピアグレイブの先端に、ロストが零を奇襲した時にこびりついた赤い血があるのを……。

 

 

フェイト「……ま、まさか……貴方、が……?」

 

 

ロスト『…………』

 

 

震える声でそう問い掛けても、アリシアとリインIの意志を封じられてるロストは何も答えようとはせず、代わりに銀槍を振るい先端に付いた血を地面に撒き散らした。端から見れば挑発のようにも見えるそれを目にしたフェイトは、右手の金のバックルを握り締める手に力を込めロストを鋭く睨みつけていく。

 

 

フェイト「よ……くも……よくも、零をっ……!」

 

 

―……シュウウゥッ……―

 

 

ロストを見据えるフェイトの表情がみるみる内に怒りへと染まり、心の奥底から荒波の様に迫る激しい感情がフェイトの心を支配していく。そして、それに呼応するようにフェイトの右手に握られた金色のバックル……ディスペアバックルが淡い光を放ち、フェイトがそれを腰に当てると、バックルの端からベルトが出現しフェイトの腰に巻き付いていく。

 

 

零「ッ……?!フェイ、トっ……?」

 

 

フェイト「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」

 

 

零はフェイトが身に付けた見慣れないバックルを見てフェイトに戸惑いと困惑の眼差しを向けるが、既に今のフェイトにはそんな零の姿も見えておらず、ロストを見据えたままゆっくりとディスペアバックルのバックルに手を伸ばし、そして……

 

 

―ガチャッ!―

 

 

『IZANAGI!』

 

 

―バシュウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

零「ッ?!!なっ?!!」

 

 

ロスト『ッ!!』

 

 

フェイトがバックル部分を開いたと同時に電子音声が響き渡り、フェイトの身体がディスペアバックルから発生した凄まじい勢いの雷に飲み込まれたのである。フェイトが呑まれた雷はそのまま天をも貫かんばかりの勢いで空高く立ち上り、零やロスト達はその光景を前に圧倒されて驚愕し、雷は徐々に細く小さくなっていくと、その中から一体の異形がその姿を露わにしていく。それは……

 

 

 

 

 

『ふうぅっ……ふうぅっ……ふうぅっ……!』

 

 

 

 

 

銀色に輝く仮面、後頭部の隙間から流れる金髪の髪。その体はフェイトのバリアジャケットと同じ黒の装甲の上に金のラインが入った漆黒のコートを纏い、その右手に槍に近い形状の金の薙刀を握り締めた異形……ディスペアバックルを用いてフェイトが変貌した雷の化身・イザナギディスペアだった。

 

 

零「ッ?!フェイトっ……お前っ……?!」

 

 

センチュリオ『!』

 

 

センチュリオ『!』

 

 

突然異形の姿へと変貌してしまったフェイトを信じられない物を見るような目で見つめ言葉を失ってしまう零だが、センチュリオ達はイザナギディスペアに変貌したフェイトを新たな敵と認識して一斉にブレード・ルミナリウムを構えてイザナギディスペアへと飛び掛かり、イザナギディスペアは僅かに顔を上げてそんなセンチュリオ達を見据えた瞬間……

 

 

 

 

 

―フッ……ズバババババババババババババババババババババババババアァッ!!!!―

 

 

『……っっ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

零「――なっ……!!?」

 

 

 

 

 

無数の稲妻状の火花を宙に撒き散らして音もなく消え、その直後に無数の斬撃の嵐がセンチュリオ達を襲い、その身体を何百回と斬り刻んでいったのである。

 

 

そうして、センチュリオ達は一瞬の内に四肢や胴体を何分割にも斬り裂かれ無残な姿に変わり果て、稲妻状の火花を散らしてイザナギディスペアがセンチュリオ達の背後に姿を現した瞬間、センチュリオ達は一斉に爆発を起こして粉々に散っていき、イザナギディスペアは爆発を背にロストに向けて薙刀を突き付けた。

 

 

『ロストっ……貴方は私が……貴方だけはっ、私がッ!!!』

 

 

―ドバアァッ!!!―

 

 

ロスト『ッ!?―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!―ッ!!?』

 

 

零「ッ?!フェイトッ?!」

 

 

爆炎を背にロストに向けて金の薙刀を突き付けながらそう告げたと同時に、イザナギディスペアは稲妻状の火花を撒き散らしながら地を蹴ってロストへと一瞬で肉薄し、薙刀を振りかざしロストを斬り付けていったのだ。それを見た零は一瞬呆気に取られるが、すぐに我に返って慌ててカードをドライバーに装填し、素早くスライドさせながらイザナギディスペアに目掛けて駆け出した。

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

―ガシィッ!!―

 

 

『ッ?!零っ?!』

 

 

ディケイド『止めろフェイトッ!!!よせッ!!!』

 

 

ロスト『ッ……!』

 

 

―バッ!―

 

 

零は再びディケイドに変身してイザナギディスペアを後ろから羽交い締めにしてロストから無理矢理引き離し、ロストはその隙に二人から距離を離し態勢を立て直そうと飛び退くが、イザナギディスペアはディケイドの腕を振り払ってロストを追おうとし、ディケイドは慌ててイザナギディスペアを引き止めていく。

 

 

『ッ!!離してッ!!邪魔をしないで零ッ!!』

 

 

ディケイド『止めろと言ってるだろうッ!!一体どうしたんだッ?!大体なんでお前が此処にいるッ!!その姿はなんだッ?!なのは達と一緒じゃなかったのかッ?!』

 

 

『ッ!』

 

 

興奮気味に暴れるイザナギディスペアを強引に押さえ込み、混乱と困惑が収まらないまま次々と疑問を投げ掛けるディケイド。そんなディケイドの方に振り返りイザナギディスペアも思わず何かを言い掛けるが、その時、彼女の脳裏に八雲のあの言葉が過ぎった。

 

 

 

 

―そう……その代償こそがあの記憶の喪失。つまり、彼がああなったのは貴女のせいなのですよ、フェイト・T・ハラオウン―

 

 

―クアットロ達をこの世界に誘うことになったのは、キャンセラーの世界で黒月零が暴走した事による一件で彼に執着してるから……つまり、貴女に原因がある訳なんですよ?―

 

 

 

 

『……ッ……』

 

 

ディケイド『っ?フェイトっ?』

 

 

――話せない。クアットロ達をこの世界に招いたのは自分が不甲斐ないせいで、零を今もこんな目に遭わせてしまっているのは自分のせいなんだ。何より、ルーテシアが彼を破壊者にする為だけにクアットロ達に殺されそうになってるなど、どう説明すればいいのか。これ以上、彼が傷付くような事に巻き込みたくはない。

 

 

『――私は……私はもう、約束のことなんてどうでもいいの……』

 

 

ディケイド『……え?』

 

 

ボツポツと、イザナギディスペアがか細い声で何かを呟くが、声が小さく上手く聞き取れなかった。思わずディケイドが問い返すと、イザナギディスペアは勢いよく顔を上げて何処か泣きそうな声で叫び出した。

 

 

『私はただっ、零にもう何も忘れて欲しくないっ……それだけでいいのっ!!私の事もっ、なのは達の事もっ、私達が一緒だった記憶もっ……もうこれ以上っ、何も忘れて欲しくないだけなんだっ!!』

 

 

ディケイド『忘れる……?いきなりなに言ってるんだお前っ?俺はなにも忘れてなんかいないっ!!』

 

 

『ッ……』

 

 

嘘でもごまかしでもない、本気でそう思い込んでからのディケイドのその言葉を聞き、イザナギディスペアは悲痛な顔を浮かべ俯いてしまう。だが其処へ、態勢を立て直したロストが二人の間を割って入るようにスピアグレイブを振りかざして斬り掛かるが、イザナギディスペアがディケイドを突き飛ばし薙刀で槍を受け止めた。

 

 

ディケイド『ッ!フェイト?!』

 

 

『……ロストは、私が倒す……コイツさえ倒せばっ、もう誰も犠牲になんかならないからっ!!!』

 

 

―ガギイイィィッ!!!―

 

 

ロスト『ッ!!!』

 

 

ロストを倒しさえすれば、クアットロはルーテシアを捨て駒として使えず彼女達の作戦を潰す事が出来る。その為にも、クアットロが介入して来る前にロストを倒さなければと、イザナギディスペアは薙刀を振るいロストを斬り飛ばして追撃していくが、ディケイドはイザナギディスペアが口にした言葉を聞き衝撃を受けていた。

 

 

ディケイド(ロストを……倒すっ?何でっ、フェイトがそんな事をっ……)

 

 

フェイトが此処までロストに敵対心を抱くことなど、今まで一度もなかった筈だ。なのに何故突然、こんな最悪なタイミングでと動揺を隠せないディケイドだが、そうしてる間にも自分の目の前でイザナギディスペアとロストの戦いは続いていく。

 

 

――自分が最も恐れていた、姉妹と親友の家族の殺し合いが……。

 

 

ディケイド『――駄目だっ……止めろフェイトッ!!違うッ!!ソイツはっ……―ドグオオォォッ!!!―がっ!!?』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォオンッ!!!―

 

 

最早形振り構ってる場合ではない。手遅れになる前にイザナギディスペアに事実を話し二人の戦いを止めるしかないと、イザナギディスペアに向かって一目散に走り出すディケイドだが、突然横から飛び出してきた何かに吹っ飛ばされ、そのまま真横に立つ廃棄ビルの壁に叩き付けられ壁を突き破り建物内に連れ込まれてしまったのだ。

 

 

そして建物内に吹っ飛ばされてしまったディケイドが激痛で悶え苦しんで当然の事態に困惑し、辺りを白い煙が覆う中、壊されたビルの壁の向こう側から一人の人影がゆっくりと姿を現した。それは……

 

 

 

 

『………………』

 

 

ディケイド『ッ?!お前、はっ……?!』

 

 

 

 

その正体は、無表情のまま地面に倒れるディケイドを静かに見下ろすバイザーで顔を隠した女……先程ヴリトライレイザーと共に何処かへ消えた筈の金髪の少女だったのである。更に……

 

 

『――駄目じゃない。せっかくの姉と妹の感動の再会よ?邪魔するのは無粋ってもんでしょ?』

 

 

ディケイド『ッ?!貴様っ!!』

 

 

その背後には、金髪の少女と共に何処かへと消えた筈のヴリトライレイザーの姿もあったのだった。先程は逃げたと思っていた二人を見てディケイドは驚愕し、ヴリトライレイザーは先程の金髪の少女の不意打ちのダメージからまともに動けないディケイドを見下ろしいやらしい笑みを向けると、建物の外に視線を向けて楽しげに喋り出した。

 

 

『にしても、まさかこうも簡単にことが上手く運ぶとは思わなかったわ。全く、なんだか上手く行き過ぎて逆に怖いくらいよ』

 

 

ディケイド『何っ……?』

 

 

やれやれとわざとらしく肩を竦めてそう語るヴリトライレイザーに訝しげな顔を浮かべると、ディケイドは其処で何かに気付いたように目を見開きハッとなった。

 

 

フェイトが何故あんな見慣れないバックルを手に異形に変身し、彼処までロストに対し敵対心を抱いているのか。

 

 

不可解な事態が立て続けに起こったせいで、その原因と思われるモノが何なのか分からなかったが、コイツは自分の前から消える時に確かに言っていたではないか。

 

 

もうじきアンタみたいなのを助けようと、カワイイ"お姫様"が駆け付けてくれるんだから、と――。

 

 

ディケイド『――お前達が……お前達の仕業かッ!!アイツにロストをけしかけるように差し向けたのはッ!!』

 

 

『あん?人聞きの悪いこと言わないでくれるぅ?私達はただ心が傷付いた可愛そうなあの娘を、だぁーいすきなお姉ちゃんと会わせてあげただけよぉ?ほら、今も仲良くやってるじゃない?姉妹同士の殺し合い、ってやつ?』

 

 

ディケイド『ふざけるなぁッ!!アイツ等は戦ってはいけないんだッ!!アイツにとってアリシアはっ……アリシアがどんなに大切な存在なのかっ、知りもしないクセして利用してッ!!貴様等わぁッ!!!』

 

 

『ハッハハハハハッ!利用価値があるから利用するんじゃない?今もああやってその大切なお姉ちゃんを殺そうと馬鹿みたいに必死に頑張って頑張って、笑えてくるでしょ?最後には自分が誰を斬ったのかを知って絶望の淵に堕ちて、私達に都合の良い人形として利用されるだけだってのに……クアットロの依頼で新しい玩具が欲しいって話だから、あの女とその下部に雷の獅子がちょうどいいのよ。その為の道具も揃ってるんだからねぇ?』

 

 

ディケイド『ッ?!』

 

 

つまりクアットロは、この世界で弱体化した自分達の戦力を増強させる為に新たな戦力として、フェイトと雷のサンダーレオンを取り入れようとしているのか。

 

 

そのために自分と雷達の間に溝を作り、ロストを……アリシアとリインIを利用して……。

 

 

ディケイド『――だから……だからあの映像と警告状をこの世界の管理局に送り付けたのかっ……雷達から俺や紫苑を引き離してっ、俺達を管理局に捕らえさせてっ、戦力を分断させる為にっ……!!』

 

 

『そっ、邪魔物は少ないに越した事はないもの。まあアンタが余計な真似をしてくれたおかげで、風間紫苑が自由にされたりとかして予定を幾つか変更させる羽目になったけど、アンタがまだあの娘達にあの二人のことを隠しててくれたのは助かったわ。じゃないと、あの女が彼処までロストを倒そうなんて意気込む事も出来なかった訳だし?』

 

 

ディケイド『ッ……!!!』

 

 

そうだ、こんな奴に構っている場合ではない。急いでフェイトを止めなければ、彼女は何も知らずに自分の姉と親友の家族を手に掛けてしまうのだ。そうなる前にと、ディケイドは直ぐにライドブッカーからカードを一枚取り出しドライバーに装填してスライドさせていった。

 

 

『KAMENRIDE:RYUKI!』

 

 

D龍騎『ハアアァッ!!』

 

 

―バシュウンッ!―

 

 

『……あらら……ふふっ、無駄な事を……』

 

 

電子音声と共にD龍騎へと変身してすぐ、近くの鏡に飛び込んでミラーワールドに侵入するディケイド。そしてミラーワールドに侵入して直ぐにD龍騎はビルの外に出ると、近くのビルの窓にイザナギディスペアが薙刀を振るいロストに容赦なく斬り掛かる姿が映し出されていた。

 

 

D龍騎『ッ!フェイトッ!止せぇッ!!』

 

 

二人の姿を見付け、D龍騎は一目散にイザナギディスペアとロストの姿が映し出された鏡に向かって全力で走り出した。が……

 

 

 

 

 

『ADVENT!』

 

 

―バゴオオォンッ!!―

 

 

『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!』

 

 

D龍騎『……ッ?!!なっ―バキイイィィィッ!!―うぐああぁぁっ!!?』

 

 

 

 

 

何処からか突然鳴り響いた電子音声と共に、D龍騎の足元の地面がいきなり破裂し、其処から一体の巨大な漆黒の龍が飛び出したのだ。漆黒の龍はそのまま突然の襲撃に一瞬怯んで動きを止めるD龍騎に噛み付いて遥か上空にまで上昇し、そして……

 

 

―ドガガガガガァッ!!!ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!!!―

 

 

D龍騎『ガアアァッ!!?ウグアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーッッッ?!!!!!』

 

 

高層ビルに接近し、D龍騎の上半身をビルの壁に激突させて引きずり、そのまま高層ビルの屋上にまで上昇していく。そして漆黒の龍は高層ビルの屋上の上空へ飛び上がり、頭を勢いよく振るい屋上の扉の窓ガラスに目掛けて全身ボロボロに変わり果てたD龍騎をボールのように投げ入れたのである。そして……

 

 

―ドシャアアァッ!!―

 

 

『――ハァイ、おかえりぃ~♪』

 

 

ガリュウ『…………』

 

 

零「うああぁッ……ぐぁッ……ァ……ぁ……」

 

 

ミラーワールドから現実の世界に弾き出されたD龍騎はビルの屋上の地面に叩き付けられたと共に強制的に変身を解除させられ、先程よりも惨い姿に変わり果て血塗れになった零に戻ってしまい、そんな零が戻って来る先に先回りしていたヴリトライレイザーと金髪の少女、そして漆黒の龍……ドラグブラッガーを呼び出した張本人であるガリュウの姿が其処にあったのだった。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑩(前編)

 

 

―クラナガン・上空―

 

 

シュロウガ『デエェアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

シルベルヴィント『ハアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―ガギイィンッガギイィンッガギイィンッガギイィンッ!!!グガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

そして同じ頃、クラナガンの上空では黒と緑の二つの閃光……最早常人の肉眼で捉える事の出来ない速さで縦横無尽に空を駆け抜けるシュロウガとシルベルヴィントが互いの得物を何度もすれ違い様にぶつけ合う姿があり、二人の戦いも未だに終わりが見えない激しい激闘と化していた。

 

 

―ガギイィィィィィッ!!―

 

 

シルベルヴィント『ハッ!やるじゃないかい小娘がッ!あたいの速さに付いて来れる奴なんざ、そうそういないってのにさぁッ!』

 

 

シュロウガ『へえ?じゃあアンタの周りにはレベルの低い奴らしかいなかったんだぁ。この程度のスピードにも追い付けないなんて、確かにお笑いよねえ?オ・バ・サ・ン?』

 

 

シルベルヴィント『ッ!!このっ、口の減らないガキンチョがッ!!』

 

 

シルベルヴィントの高周波ソードを受け流しながら、余裕げに笑ってみせて挑発しシルベルヴィントの怒りを買うシュロウガ。だが、シュロウガのそのマスクの下の顔は汗にまみれて苦痛に満ちた顔が浮かび上がり、その表情は声と反して既に余裕がなくなっていた。

 

 

シュロウガ(っ……チッ……思ったより限界が来るの速かったわねっ……ったく、アズサもよく麻酔も無しにこんなんで六課から此処まで来られたもんだわっ……)

 

 

熾烈なハイスピードバトルを長時間続けていく内に、腹部の傷口が更に広がって先程よりも多く血が流れているのが直に分かる。それと共に意識が吹っ飛そうな程の激痛が今も襲っており、シュロウガもこのままではこのアズサの身体が危ないと危機感を抱き、徐々に焦りを感じ始めていた。

 

 

―ガギギギギイィッ!!!ガギイィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

シルベルヴィント『ほらほらほらぁっ!!どうしたんだい小娘がぁっ?!口では偉そうに言って足が止まってるじゃないかいっ!!』

 

 

シュロウガ『っ……ハッ、アンタがあんまりにも遅いからつまんなくて加減してあげてんのよ。そんな事も分からないのかしら?足も遅ければ理解するのも遅いのね、もう年なんじゃないの?』

 

 

シルベルヴィント『こっ……?!』

 

 

だからそうなってしまう前に、急いで決着を付けようと先程からずっとシルベルヴィントを挑発して彼女の怒りを買い続けてるのだ。そうすれば彼女は自分への怒りの余り動きが段々粗くなり、隙が多くなって反撃の糸口が見えやすくなる。実際シュロウガは先程からその隙の部分に反撃を繰り返して少しずつにだがシルベルヴィントにダメージを与えていき、それが実を結んでか相手の動きが徐々に鈍くなり始めている。

 

 

シュロウガ(よし……後はタイミングを見計らって、大技を打ち込めばっ……)

 

 

アズサ(っ……アス……ハ……)

 

 

シュロウガ(ッ!アズサ、もうちょっと持ちこたえなさいよっ……!もう少しでコイツを倒して終わらせるからっ!)

 

 

アズサ(……うんっ……)

 

 

タイミングを見計らい何時でも必殺技を放てるように身構えるシュロウガにそう言われ、先程よりも元気がなくなり始めてる心の中のアズサは素直に頷き返し、シュロウガに戦闘を任せて心の奥で再び眠ろうとする。が……

 

 

 

 

「――――ッ――――」

 

 

 

 

アズサ(……?あれ……は……?)

 

 

 

 

再び眠りに付こうとした心の中のアズサの視界の端に、ふと何か動く物が見えたような気がしたのだ。それが気になりアズサがそちらに目を向けていくと、建物やビルなどが多過ぎて一瞬見失ってしまうが、すぐにまた視界の端でそれが動いたのが見えて見付ける事が出来た。それは自分達から少し離れた先にあるビルの屋上で動く物で、アズサは持ち前の人間離れした視力でそれが何か確かめようと集中していくと、アズサのその表情はみるみる内に血の気を失い青ざめていった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――ぅ――ぁ――は――」

 

 

『フフフフッ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

アズサ(……れ……い……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

見知らぬ真紅の異形が妖気に笑いながら、ポタポタと全身から赤い血を流して今にも死にそうな姿に変わり果てた青年……零の襟首を掴んで持ち上げていく光景。それがアズサが見付けたものの正体であり、アズサはその光景を見て先程まで感じていた激痛や睡魔などが全て吹き飛び、頭の中が一瞬で真っ白に染まっていた。

 

 

アズサ(どう……して……どうして零が、彼処に……何で零が……あんな……)

 

 

彼は確か機動六課にいるのではなかったのか?その彼が何故あの場所で、あんな惨い姿に変わり果てて、今にも死にそうになっているのか……?

 

 

何故?なぜ?ナゼ――?

 

 

分からない。何故彼がああなってしまっているのか、その経緯を知らない自分には何も分からない。

 

 

ただ……ただ一つ、分かるとすれば――

 

 

 

 

 

『CHANGE UP!ANGELG!』

 

 

アンジュルグ『――れえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーいっっっっ!!!!!』

 

 

アスハ(っ?!!ア、アズサっ?!!)

 

 

シルベルヴィント『なっ……?』

 

 

 

 

 

……零が今正に殺されようとしている。その事実だけを理解したアズサはアスハを自分の中に無理矢理引っ張り込んで表に入れ代わりながらアンジュルグに変身し、今までアスハが戦ってたシルベルヴィントを無視して零達の姿が見える高層ビルの屋上に目掛け全力で翼を羽ばたかせたのだった。

 

 

アスハ(ちょ、ちょっと!待ちなさいアズサ!何なのいきなり?!どうしたのよ?!)

 

 

アンジュルグ『零っ……!零が、零がっ……!!!』

 

 

アスハ(零……?)

 

 

冷静さを失って取り乱しながら零の名を連呼するアンジュルグに怪訝な顔を浮かべてしまうアスハ。だが、そんなアンジュルグを見て一瞬呆気に取られてたシルベルヴィントがすぐに我に返り、高周波ソードを振りかざしながら背後からアンジュルグを追い掛けて来ていた。

 

 

アスハ(ッ!!アズサっ、後ろぉッ!!)

 

 

シルベルヴィント『待ちな小娘ッ!!此処まであたいを焚き付けておいて、何処に行く気だいッ?!』

 

 

アスハが悲鳴にも似た声で叫んだと共に、アンジュルグの背後へと一瞬で肉薄したシルベルヴィントがアンジュルグの背中に目掛けて高周波ソードを振り下ろし、振り下ろされた凶刃はアンジュルグの背中を容赦なく貫こうと迫る。が……

 

 

 

 

 

―ブオォンッ!―

 

 

シルベルヴィント『――っ?!な……に……?!』

 

 

 

 

 

シルベルヴィントが振るった高周波ソードはアンジュルグを貫く事なく空を斬り、アンジュルグはノイズを走らせながら突然その姿を消してしまったのであった。その光景を目にしてシルベルヴィントも目を見張り思わず動きを止めた、次の瞬間……

 

 

『――ミラージュ……サイン……』

 

 

シルベルヴィント『ッ?!―ズバアァッ!!―ガァッ……?!!』

 

 

背後からまるで囁くように聞こえた冷たい声。その声に釣られるようにしてシルベルヴィントが振り返ろうとした瞬間、いつの間にか後ろに回り込んだアンジュルグがミラージュソードを手にすれ違い様にシルベルヴィントの身体を斬り付け怯ませたのだ。だが攻撃の手はそれだけに終わらず、シルベルヴィントの死角にアンジュルグの分身が現れシルベルヴィントを上空へ斬り上げ、更に無数の分身が次々と出現し何かを描くように四方八方からシルベルヴィントを斬り上げて遥か上空にまで持ち上げていき、そして……

 

 

―ギュイィィィィーーーーーーーーイィンッ……!!―

 

 

シルベルヴィント『っ?!な、なんだいこりゃっ?!身体がっ……?!』

 

 

分身達がシルベルヴィントを攻撃すると共に描いていた巨大な五芒星が展開され、シルベルヴィントの身体を拘束し動きを封じたのだ。そしてシルベルヴィントが五芒星に囚われて身動きが取れない中、本体であるアンジュルグが遥か上空に幻影の如く美しく姿を現し、華麗に回転しながら右手にイリュージョンアローを出現させて左手に生成したエネルギー矢を弓につがわせ、そして……

 

 

『FINAL CHARGE RISE UP!』

 

 

アンジュルグ『コード……ファントムフェニックスッ!!!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

シルベルヴィント『ッ?!うぁっ……あああああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっ!!!!』

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアンッッッ!!!!!!―

 

 

電子音声と共に金色の弓矢から放たれた、炎の鳳凰。それは五芒星に捕えられたシルベルヴィントを安易く飲み込み、炎の鳳凰はそのまま遥か地上に轟音を撒き散らしながら激突し、巨大な爆発を巻き起こしていったのだった。

 

 

アスハ(ウソ……アズサ、あんた……)

 

 

アンジュルグ『はぁっ……はぁっ……はぁっ……!!』

 

 

零を助けるという底力からか、重傷の怪我を抱えてるにも関わらずシルベルヴィントを一瞬で撃退したアンジュルグに驚きを隠せないアスハ。だが今のアンジュルグにとってそんなことはどうでもよく、腹部の傷が開いたせいで走る激痛に顔を歪めながらも、それにすら構わず高層ビルの方へと視線を戻していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―ギリギリギリィッ!!―

 

 

零「カッ――ぁ――は――!」

 

 

『フッ、何?もう終わり?もう少しぐらい抵抗してくれないと、私も退屈で仕方がないのだけれど?』

 

 

そしてその一方、再び変身解除にまで追い込まれた零はヴリトライレイザーに首を掴まれて持ち上げられ、宙吊りにされながら徐々に首を締められて呼吸もままならない状態に陥っていた。その血まみれの姿は既に戦いを続行する事も不可能だと人目で分かるほどズタズタに引き裂かれた瀕死の状態であり、最早零が戦うことも出来ないと知った上で、ヴリトライレイザーは挑発的にそう言いながら零を乱暴に地面に叩き付け、ゴミを踏みにじるように零の頭を踏み付けた。

 

 

零「ぐあぁっ!!ぁっ……うぁっ……!」

 

 

『残念……もう少し遊べると期待してたのに、玩具にすらならないなんてねぇ。ホントに出来損ないなのね、あんたぁ?』

 

 

零「っ……!クッ……ソォッ……ぁっ……!」

 

 

侮蔑するように吐き捨てるヴリトライレイザーに反抗しようと震える片腕を支えに起き上がろうとするが、最早自力で立ち上がる余裕すらなく再び地に伏せてしまう。そんな零を見てヴリトライレイザーも失望するように溜め息を吐き、もう用はないと言わんばかりに零を蹴り飛ばそうと右足を上げた。その時……

 

 

 

 

 

 

『――止めてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッ!!!』

 

 

零「……っ?!」

 

 

『……あん?』

 

 

 

 

 

ヴリトライレイザーが零を蹴り飛ばそうとした直前、突如上空から悲痛な叫び声が響き渡ったのだ。それを聞いたヴリトライレイザーはピタッと動きを止め、零もその聞き覚えのある声に手放し掛けた意識を繋ぎ止め、慌てて声がした方へと視線を向けた。すると其処には、シルベルヴィントを倒して零達の下に上空から向かって来るアンジュルグの姿があった。

 

 

零「アズ、サっ……?!なんでっ……駄目だっ、来るなあぁッ!!」

 

 

『へえ……まだあんな玩具が残ってたんだぁ……』

 

 

アンジュルグ『はああああああああああっ!!』

 

 

コイツは闇雲に手を出して敵う相手ではない、生半可な力で挑めば間違いなく殺されてしまう。だが、それを知らない上に零の危機を前に冷静さを失ってるアンジュルグは迷いなく左腕に内蔵されているミラージュソードを素早く抜き取り、剣を振りかざしヴリトライレイザーに斬り掛かろうとした。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドバァアァァァァァァァァァァァァアッ!!!!―

 

 

アンジュルグ『……………………え…………?』

 

 

『!』

 

 

零「……なっ……」

 

 

 

 

 

 

 

その刃が、異形に届く事はなかった。

 

 

何故なら、アンジュルグの背後から突如目にも止まらぬ速さの一筋の黒い閃光が飛来し、アンジュルグの腹を背後からベルトごと貫き、剣を振り下ろそうとした彼女の手を止めてしまったのだから……。

 

 

零「……ア……アズ……サっ……?」

 

 

アンジュルグ『……………………ぁ………………ッ………………ぇ……………』

 

 

今、一体何が起きた……?

 

 

余りに一瞬の出来事だったために理解が追い付かず、ただ疑問だけが脳内を埋め尽くし、零も、そしてアンジュルグ自身も困惑し呆然と固まっている。

 

 

ふとアンジュルグが視線を落してみれば、彼女の目に飛び込んだのはバチバチッと無数の火花を散らす破壊されたベルトと、黒く焼き焦げて穴が開いた自分の腹。

 

 

それらを見て、漸く自分が何者かの攻撃を受けたのだと理解したと共に、変身が解除されアンジュルグからアズサへと戻ってしまい、そして……

 

 

 

 

 

 

―バチッ……バチッバチッ……―

 

 

『――いけませんねぇ……今宵の舞台は既に満員……貴女の役は既にないのですよ』

 

 

 

 

 

 

零達のビルから、数十キロも離れた先のビルの屋上。其処には人差し指から黒い稲妻状の火花を散らす黒いローブを身に纏った男……アズサを貫いた黒い閃光を放った張本人である八雲が屋上に立ち、口の端を吊り上げてそう呟く姿があったのだった。更に……

 

 

―……ボシュウゥッ!!!―

 

 

シルベルヴィント『――よ……くも……やってくれたねえぇっ……小娘えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!』

 

 

アスハ(ッ?!アズサアァッ!!!)

 

 

アズサ「…………ぁ…………」

 

 

地上で轟々と燃え盛る炎の中から、アズサが倒したと思われたシルベルヴィントがアズサへの激昂から復活し、両腕の高周波ソードをクロスさせながらアズサに目掛け襲い掛かってきたのだ。この最悪なタイミングで再び襲ってきたシルベルヴィントにアスハが悲痛な声でアズサに呼び掛けるが、既に瀕死の状態で回避や防御を取る余力すら残されていないアズサにそれを避ける事が出来る筈がなく、そうして……

 

 

 

 

 

 

『CHANGE UP!SYUROGA!』

 

 

―ズシャアァァァァァァァァァァアァッ!!!―

 

 

シュロウガ『――ッ!!!がぁっ……ァッ……ああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッッ?!!!』

 

 

アズサ(ッ?!!ア……ス……?!)

 

 

零「っっっ!!?アズサァッッ!!!!」

 

 

シルベルヴィントの刃に貫かれようとしたその寸前、心の中のアスハが無理矢理アズサを引っ張る様に入れ代わりながらシュロウガへと瞬時に変身し、アズサの代わりにシルベルヴィントの刃に貫かれたのだった。

 

 

そしてシルベルヴィントの高周波ソードはシュロウガのベルトを貫通して深々と腹部に突き刺さり、シュロウガも激痛のあまり悲痛な絶叫を上げながら仮面の下から血の塊を吐き出すが、シルベルヴィントは攻撃の手を緩めずにシュロウガの腹を突き刺したまま上空に空高く上昇して胸部の砲身にエネルギーを溜めていき、そして……

 

 

零「ッ?!やめっ――!!」

 

 

シルベルヴィント『粉々になっちまいなあぁッ!!!』

 

 

シュロウガ『―――ッ……!!!』

 

 

零「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

 

―ドバアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアァッ!!!!―

 

 

零の悲痛な叫びも虚しく、シルベルヴィントの胸部の砲身から撃ち出された極太の砲撃が零距離からシュロウガを呑み込んで吹き飛ばし、シュロウガを呑み込んだ砲撃はそのままリイン達が戦う戦場へと着弾し巨大な爆発を起こしたのだった。

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーアンッ!!!!―

 

 

リイン『ッ?!な、何やの、今度は?!』

 

 

ディケイド(紫苑)『攻撃っ……?何処からっ?!』

 

 

又もや敵の増援からの攻撃かと思い、それぞれが戦う敵の攻撃を躱しながら警戒を強め辺りを見回していく一同。すると、砲撃が着弾して発生した黒煙が徐々に薄れ砲撃が飛来した場所の中央がクリアになっていき、リイン達はその先にある物を見付け目を見開き驚愕した。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

―……バチィッ……バチッ……!―

 

 

アズサ「―――――――――――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

其処にあったのは、手足を無造作に投げ出し、地面に撒き散らされた赤い鮮血の上に力無く倒れる彼女達の仲間……。

 

 

全身をズタズタに引き裂かれて真っ赤に染まり、穴が開いた腹部から夥しい量の血を流し、全壊して無数の火花を散らすシュロウガのベルトを腰に巻いた少女……シルベルヴィントに敗れ、見るも無惨な姿に変わり果てたアズサだったのだから。

 

 

シャマル「そ、そんな……あれってっ……?!」

 

 

リイン『ア……アズサちゃんッ!!!―ドガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーアンッ!!!―キャアァッ?!』

 

 

もう既に死んでいる、そう言われれば疑いなく信じてしまいそうなほど惨い姿に変わり果てたアズサを見て思わず固まり絶句していたリイン達はすぐさま正気に戻り、慌ててアズサの下に駆け寄ろうとするも、上空から飛来した一発の砲撃が戦場に降り注いでそれを止めてしまった。

 

 

そして突然の攻撃に怯みながら一同が砲撃が放たれてきた上空を慌てて見上げると、其処にはゆっくりシルベルヴィントが空から降下して来る姿があった。

 

 

ディケイド(紫苑)『アギーハッ?!』

 

 

シルベルヴィント『邪魔はさせないよ?シカログっ!その生意気な小娘を、その自慢の鉄球でブッ潰しちまいなっ!!』

 

 

ドルーキン『……!』

 

 

―ジャラアァッ!!!―

 

 

ナンバーズ『ッ?!駄目っ、アズサさぁんッ!!!』

 

 

ディケイド(紫苑)『クッ!!ヴィヴィオッ!!コイツは僕に任せて、君は彼女をッ!!』

 

 

ナンバーズ『ッ!は、はいッ!!』

 

 

シルベルヴィントの指示に従い、ドルーキンが優矢とシャマルの守りに専念するテンガをセンチュリオ達に任せてアズサに狙いを定め巨大ハンマーを振り回すのを見て、ナンバーズはセンチュリオRの相手をディケイド(紫苑)に任せアズサを助け出そうと走り出した。だが……

 

 

センチュリオR『――行かせません』

 

 

―シュウウゥッ……バシュウゥッバシュウゥッドガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ?!ヴィヴィオッ!!危ないッ!!』

 

 

ナンバーズ『……え?―ドグオォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

センチュリオRはそれを逃すまいとして、ディケイド(紫苑)のライドブッカーと鍔ぜり合いになりながら空いた左手に大型ランチャーを形成し、その銃口をナンバーズに向けて混同射撃を放ったのだ。ナンバーズはそれに気付くのが遅れ無数の銃弾をまともに受けてしまい、身体から煙を立たせながら膝から崩れ落ち、変身も解けてヴィヴィオへと戻りその場に倒れ込んでしまった。

 

 

シャマル「ヴィ、ヴィヴィオちゃんッ!!!」

 

 

ドルーキン『!』

 

 

―ジャラァッ!ビュウオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッッッ!!!!!―

 

 

リイン『ッ!!あかんっ、アズサちゃんッ!!!』

 

 

シルベルヴィント『邪魔はさせないて言ったろうっ!』

 

 

シャマルの悲痛な声が響き、それと同時にドルーキンの巨大ハンマーがアズサに向かって容赦なく振り下ろされた。それを見て直ぐにアズサの救出に向かおうとするリインの前にシルベルヴィントが立ち塞がって足止めしてしまい、アズサの頭上から迫る巨大ハンマーは無慈悲にもアズサを押し潰そうとした。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!―

 

 

姫「――ぐううぅッ!!!うぐっ……あっ……!!!」

 

 

リイン『?!ひ、姫さんッ?!』

 

 

 

 

殺人的な速度でハンマーがアズサを押し潰そうとしたその時、アズサと同じように瀕死の状態でありながらセンチュリオ達と戦ってた姫がアズサの傍に駆け付け、頭上に右腕を掲げて障壁を展開し巨大ハンマーからアズサを紙一重で守ったのであった。だが、その身体は既に限界間近な上に片腕しか使えない為、姫の右腕からは大量の血が噴き出しており、加えてハンマーは勢いが止まらず姫ごとアズサを押し潰さんとばかりにその勢いを増し続けていた。

 

 

―ブシャアァァァッ!!!―

 

 

姫「うああッッッ!!!!ッッッ……!!!!はっ、早くアズサをッッッ!!!!急げえぇッッッ!!!!」

 

 

リイン『ッ!!ヤアアァッ!!』

 

 

―バキャアァッ!!―

 

 

シルベルヴィント『ウアァッ?!』

 

 

巨大ハンマーの威力に耐え切れず破裂し掛けてる右腕から大量に血を噴き出しながらも、早くアズサを救い出せと必死に呼び掛け持ち堪える姫。そんな姫の気迫に促され、リインはシルベルヴィントを蹴り飛ばして怯ませた隙に全力でアズサの下へと滑り込み、アズサの身体を抱き抱えてその場から避難した。

 

 

リイン『ッ……!!姫さんッ!!アズサちゃんは助けましたッ!!姫さんも早くっ……!!』

 

 

姫「――ふ……ふふっ……そう……か……」

 

 

―ビシッ……ビシィッ……―

 

 

リイン『ッ?!姫さん?!なにしてるんですかッ!!早く――ッ?!』

 

 

アズサも助け出し、鉄球を受け止める障壁にも徐々に皹が入り始めているにも関わらず逃げようとしない姫に叫ぼうとするが、其処でリインはハッと気が付いた。

 

 

――障壁を張ってハンマーを受け止める姫の両足が、裂傷して肉が裂け、目も当てる事が出来ないほど悲惨な有様になっている事を。

 

 

その足の所々には、自分達が戦ったあのセンチュリオの持つブレード・ルミナリウムの破片らしき物が深々と突き刺さっており、その有様は最早歩くどころか立つ事すら出来る筈ないと、自分の目から見ても分かる状態だった。

 

 

それでも、彼女がああして立っていられるのは、仲間の危機を救うために無茶をしたのだと、リインは目を見開いて力無く微笑む姫の顔を見た。

 

 

姫「ッ…………すま…………ない…………はや、て…………その娘を…………頼―――」

 

 

―ビシィッ……ピシッ……バリイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

リイン『ッッッ!!!!!ひっ、姫さああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんッッッッ!!!!!!』

 

 

―ドシャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッ!!!!!!―

 

 

虚しく音を立て、硝子細工のように砕け散った障壁。それを見てリインが悲鳴にも似た声で叫び声を上げ、姫が自嘲するように苦笑を浮かべたと共に、姫の頭上から振り下ろされた巨大な鉄球が轟音と共に赤い鮮血を辺り一面に撒き散らしたのであった……。

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

『あらあら、どうやらまた一人やられちゃったみたいねぇ?』

 

 

零「な…………ぁ…………ア…………」

 

 

――そして、その光景を零も目にしていた。ヴリトライレイザーに襟首を掴まれ無理矢理立たせられ、次々と倒れていく仲間達の姿を見せられた零は激しく瞳を揺らし、そんな零の様子を見て更に笑みを深めながら零の耳元に口を寄せ、ヴリトライレイザーが囁くように呟く。

 

 

『ほら、どうするぅ?何処ぞの預言者を裏切った人造人間は死に掛けで、桜ノ神も不老不死の身体とは言え、物言わぬ『肉片』にされてしまえば無事じゃあ済まない……しかもこの下じゃロストとあの娘が殺し合いの真っ只中……アッハハハハハハハハッ!サイッコーに盛り上ってきたじゃない!こんなところでグズグズしてる場合じゃないんじゃないのぉ?!』

 

 

零「ッ……!!!!クッソオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

零の中の焦りを煽り立てるようなヴリトライレイザーのその言葉に弾かれるように、零は瀕死の身体に鞭を打って瞬時にディケイドに変身し、ヴリトライレイザーの手を力づくで振り払いヤケクソ気味に殴り掛かる。だが、ヴリトライレイザーはそんなディケイドの拳を軽々と受け止め……

 

 

『アハッ♪』

 

 

―ボキャアアァッ!!!―

 

 

ディケイド『ッッ?!!!ァッ――――?!!!!!』

 

 

ディケイドの左腕の上から強烈な馬鹿力による肘打ちを打ち込み、ディケイドの左腕の骨を軽々と粉砕してしまったのであった。その余りの激痛にディケイドも悲鳴を上げられず、ブラリと力無く垂れ下がる左腕を押さえて怯んでしまうが、ヴリトライレイザーは容赦なく続けざまに回し蹴りを放ちディケイドを蹴り飛ばしてしまった。

 

 

ディケイド『グアァッ?!ァッ……ウァッ……ッ……こ……のぉっ……!!』

 

 

『あら?殆ど死に体の上に左腕の骨を砕いてやったのに、まだ立ち向かって来るなんてねぇ……諦めの悪さは一人前ってワケ?まぁ、そんな身体じゃもう何をしようが無駄だと思うけど?』

 

 

ディケイド『ッ……!!』

 

 

今更どう足掻こうが、格下、それも歯を食いしばって全力を出さねば立ち上がる事も出来ないディケイドが何かをしようと無駄であると、余裕の態度を崩さずに倒れるディケイドの周りを歩き回るヴリトライレイザー。

 

 

そしてディケイドも苦痛で顔を歪めながらそんなヴリトライレイザーを見上げて睨み付けると、視線だけを動かし屋上を見渡していく。

 

 

ディケイド(どうするっ……どうやってコイツ等を撒いてフェイト達の下に向かうっ……!)

 

 

屋上を見渡して逃げ場所を探し、同時に思考を駆け巡らせヴリトライレイザー達から逃げ切る方法を必死に考える。

 

 

屋上から飛び降りる?駄目だ、それでは下に辿り着く前に追い付かれてやられるだけだ。

 

 

他のライダーの力を使う?それも駄目だ、こんな有様じゃカードの力を使っても身体が付いていかない。

 

 

なら、後に残る方法は……

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

『ん?』

 

 

ディケイド『ハアアァァッ!!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガアァッ!!―

 

 

ガリュウ『ッ!』

 

 

左腰のライドブッカーをGモードへと切り替えながら取り出した一枚のカードをドライバーに装填し、電子音声と共にライドブッカーGモードを振り回してヴリトライレイザーやガリュウに向けて無数の銃弾を乱射し一瞬だけ怯ませていった。

 

 

そして、ディケイドは二人が怯んだ隙に全力で立ち上がって屋上の扉に向かって一目散に走り出すが、その扉の前に金髪の少女が飛び出して立ち塞がってしまう。

 

 

ディケイド『ッ!!邪魔だッ!!退けえぇッ!!』

 

 

『…………』

 

 

一度でも立ち止まれば、その瞬間にこの体は動けなくなる。疾走したまま足を止めず金髪の少女に向かって突っ込み怒号を上げるディケイドだが、金髪の少女は空手のまま退く素振りを見せない。

 

 

ディケイド『ッ……!だったらッ!!』

 

 

フェイトとロストの戦いを止め、雷と紫苑達の救出の邪魔をするなら、例え生身の人間だろうとこちらとて容赦はしない。障害となる少女を退けるために右手に握るライドブッカーを瞬時にソードモードに切り替え、ディケイドは金髪の少女に目掛けて突っ込みながらライドブッカーを下段から容赦なく振り上げ、金髪の少女を躊躇なく斬り裂こうとした。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグゥンッ!!―

 

 

ディケイド『――ッ?!!なっ……ハッ……?!』

 

 

―ガギイィィィィィッ!!―

 

 

『っ…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

ライドブッカーの刃が金髪の少女の顔を斬り裂こうとしたその寸前、不意に突然ディケイドの左胸の心臓が痛みを感じるほど、大きく高鳴ったのである。

 

 

一瞬呼吸が止まってしまいそうになったその不可解な感覚にディケイドも思わず驚愕して手元が狂い、少女の顔に目掛けて放たれた筈のライドブッカーの刃が数cmほどズレて、少女の顔を隠していたバイザーのみを真っ二つに斬り裂いただけとなった。

 

 

そうして、二つに斬り割れたバイザーはそのまま乾いた音を立てて地面に落ち、金髪の少女も思わず何歩か後退りするが、ディケイドは苦痛に顔を歪めて左胸を抑えながら地面に膝を付いてしまう。

 

 

―ドグゥンッ……ドグゥンッ……ドグゥンッ……!―

 

 

ディケイド(グッ……ァッ……ッ……な、何だ、これはっ……なんで心臓が……こんなにっ……っ……)

 

 

左胸の心臓の不快な高鳴りは、一向に治まる気配が感じられない。

 

 

寧ろ動悸は徐々にその激しさを増しているようで、胸をえぐるような痛みが走る。それこそ、心臓が止まりかねない程の。

 

 

……けれどそれは、まるでこの心臓が何かを訴え掛けて警告しているようだと、ディケイドは何故だかそう思ってしまった。

 

 

――顔を上げるな、なにも見るな。見てはいけない。

 

 

――逃げなければ駄目だ。

 

 

――此処に居てはいけない。

 

 

 

 

――そうしなければ、お前はもう戻れない……!

 

 

 

 

そんな良く分からない確信が徐々に動悸が増していく心臓を通して脳にまで這い上がり、不安となって胸を支配する。顔を上げることすら身体が何故か拒否しているが、いずれにせよこの先の扉を潜らねば此処から逃げることも出来ないのだ。

 

 

急がなければ全てが手遅れになる。そうなる前に早くフェイトの下に向かわねばと、ディケイドはそう決心して眩暈と共に胸の不安を振り払うように頭を振り、顔を上げて目の前の少女を睨み付けた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ポタッ……ポタッ……―

 

 

ディケイド『……え……』

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ディケイドが呆然とした声を上げ、その目が大きく見開かれた。まるで見てはいけない物を見た、有り得ない物を目にしてしまったような。そんな顔を浮かべるディケイドの瞳に映ったのは、前髪で隠れ、先程ディケイドが振るったライドブッカーの刃が僅かに掠って斬れた額から血を流す金髪の少女の顔。だが、その顔は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ポタッ……ポタッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディケイド『………………………リィ…………ルっ…………?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィル?「―――うん……久しぶり、零……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

儚げに微笑むその顔、誰をも優しく包み込むような暖かなその声は

 

 

まさしく、彼が失った記憶の中の大切なその人だった

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑩(後編)

 

 

 

 

ディケイド『………………………リィ…………ルっ…………?』

 

 

 

 

リィル?「久しぶり……元気そうだね、零」

 

 

 

 

身に付けていたバイザーを失い、露わになった少女の素顔。それはディケイドが今まで何度も旅の中で救われ、彼が僅かに取り戻した過去の記憶の中で笑い掛けていた少女の顔だった。見間違う筈のないその顔を目にしたディケイドは戦意を削がれて変身が解除され、零に戻りながら呆然と口を開いた。

 

 

零「本当、に……リィル……お前……なのかっ……?」

 

 

リィル「うん?何?もしかして、私の顔忘れちゃったの?酷いなぁー、私は零の事、しっかり覚えてるのにぃっ」

 

 

零「……ぁ……あ……」

 

 

その懐かしさを覚える声は、祐輔の世界で因子が暴走した時、あの暗闇の世界で自分に語り掛けた声と全く同じだった。頬を膨らませながら拗ねる目の前の少女のそんな顔を見て、零は未だに我が目を疑い見開いた眼球を震わせ、ゆっくりと右手を上げて少女の頬へと引き寄せられるように自然と伸び掛けたが、ふと彼のその手がピタッと止まった。

 

 

零「けど、何でっ……どうしてお前がっ……此処にっ……?」

 

 

リィル「?どうしてって……ふふっ。やだなぁ、そんなの決まってるでしょ?」

 

 

零「……え……?」

 

 

屈託のない笑顔を浮かべる少女の言葉の意味が判らず、零は思わず間抜けな声を漏らして少女に聞き返した。そして彼女もそんな零を見て「しょうがないなぁ……」と困ったように苦笑いすると、零の両肩を両手で掴み、彼の胸に額を押し付けながら軽く寄り掛かった。

 

 

零「っ!リィ、ル……?」

 

 

リィル「……私、ね……?ずっとずっと、零に会いたくて仕方がなかった……零に会う為に、今こうして此処にいるんだよ?」

 

 

零「っ……!」

 

 

ギュッと強く、それでいて優しく肩を掴んでそう語る懐かしい声を聞き、零は思わずその目から涙が溢れそうになった。未だに彼女の記憶を全て取り戻せた訳ではないが、それでも彼女が自分にとってどんなに大切な存在だったかはこの心が覚えていた。嘗ての自分にとって全てだったと言っても過言ではなく、旅の中で何度も自分を救ってくれた少女。そんな彼女の体温を感じながら、こぼれそうになる涙を堪え、零は震える右腕を少女の背に回そうとする。

 

 

リィル「会いたかった……ずっと離れてなきゃいけなくて……ずっと苦しかった……」

 

 

零「っ……そん……なの、俺だってっ……俺だって、お前にっ――――!」

 

 

伝えねばならない事も沢山ある。謝らねばならない事も山ほどある。だが、それよりも真っ先に伝えたい、言い尽くせぬ感謝の言葉を彼女に告げようと、零が口を開いて彼女に救われた礼を告げようとし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズシャアァァァァッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………ぇ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……それが彼女に伝わる事はなかった。

 

 

何故なら、零の左肩を掴むリィルの手に突如一本の剣が握られ、そのまま剣を持つ左腕を躊躇なく振り下ろし零の左肩を斬り裂いてしまったのだから。

 

 

―ビチャアァッ……ビチャッ……!―

 

 

零「…………ぁ…………え…………リィ…………ル…………?」

 

 

斬り裂かれた左肩から勢いよく噴き出した血が地面に撒き散る光景を見ても、零は何が起きたのか分からず呆然とリィル?を見つめ、リィル?がその顔を上げると、彼女の瞳は先程までとは違い、光を失った冷たい目付きに変貌していた。

 

 

 

 

 

 

リィル「だって、私……ずっと零に『復讐』がしたくて、仕方がなかったんだから……」

 

 

 

 

 

 

零「……………………………………えっ…………?」

 

 

 

 

 

 

―――一瞬、彼女がなにを言ってるか分からなかった。だが、自分に向けられたその闇のように暗い眼差しには確かな憎悪が込められてるのに気付き、零は目を震わせて左肩を抑えながらリィル?から離れ思わず後退りした。

 

 

零「リィ、ルっ……何でっ……どうしてっ……?!」

 

 

リィル「……どうして?それを貴方が聞くの?私から全てを奪ったクセに……私を"裏切った"クセに、それすらも忘れたというの……?」

 

 

零「っ?!俺が……お前を裏切ったっ?何を言ってるんだ、何の話をしてるんだリィルッ?!」

 

 

自分がリィルを裏切った。冷え切った瞳で零を見つめ返してそう告げるリィルの身に覚えのない言葉に零は益々困惑してしまうが、リィルはそんな零の反応を見て憎悪を宿した目を更に細めた。

 

 

リィル「本当に何も覚えてないんだ……自分は嫌な記憶は全部かなぐり捨てて、新しい人生始めて、あの娘達と仲良く世界を巡る旅に出て……随分良いご身分になったね、零……?」

 

 

零「ッ……そ、それはっ……」

 

 

リィル「ううん、隠さなくてもいいんだよ?ぜーーんぶ知ってるよ?私の事も、私と過ごした記憶も、私の世界の事も、貴方はこの旅を始めるまで何一つ思い出さなかった……その程度の価値だったって事でしょ?私は」

 

 

零「ッ!違うッ!!お前は俺にとって掛け替えのない存在だッ!!お前がいてくれたからっ、今も俺はこうしてっ「じゃあなんで……?」……ッ?!!」

 

 

リィルの言葉を否定して大声で叫ぶ零の声が、冷淡な声に遮られた。その声の冷たさに零も思わず震えて黙り、リィルはそんな零を他所に前髪で顔を隠しながら俯き、ポツリポツリとか細い声で語り出した。

 

 

リィル「なんで貴方は私を裏切ったの……?なんで私の事を忘れてたの……?なんで私がこんな目に遭ってるのに助けに来てくれなかったの……?なんで……なんで―――」

 

 

零「リィ……ル……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィル「――なんで……"私を殺したの"……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――――――――――――――え――――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の口から放たれた信じ難い一言に、零の思考が一瞬で凍り付いた。

 

 

どういう意味だ?

 

 

何の話だ?

 

 

頭に浮かんだそんな疑問を思わず彼女に投げ掛けようとした、その時だった。

 

 

 

 

―ザザァッ……ザザザザザザザザザザアァッ……!!―

 

 

 

 

久しく忘れ掛けていた、あのノイズが脳裏を過ぎったたのは……。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

――暗雲に包まれた紅蓮の空……。

 

 

轟々と燃え盛る炎に包まれ、焼け落ちる村……。

 

 

逃げ惑う人々の、断末魔と悲鳴……。

 

 

そんな地獄絵図と呼ぶに相応しい光景が広がる村から、遠く離れた場所に位置する丘があった。

 

 

何処にでもあるような何の変哲もない、綺麗な海が見えて花畑に囲まれた丘の上。

 

 

その丘の上に存在する一本の大樹の下には、二人の男と女が向き合う姿があり、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピチャッ……ピチャッ……ピチャッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………れ………………ぃ………………どうし………………て………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

その男の手には、少女の腹に深々と突き刺さる漆黒の剣が握られていた。そして剣の切っ先から流れる赤い血が地面に生える花に滴り落ちて赤く染め上げていき、少女は悲痛な顔で口から大量に血を流しながら自分の腹を無言のまま突き刺す男を見上げ、呆然と彼の名を呼んだのであった……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

零「――――あ……ぁあっ……ぅぁっ……ああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!」

 

 

――脳裏に再生された鮮明な映像。それが最後まで脳に流れたと共に、零は這い上がって来る嘔吐感をこらえながら悪い夢なら覚めてしまえとでも言うように、何度も何度も地面に頭を叩き付けていく。

 

 

額が割れ、鮮血が飛び散っても、頭を叩き付けるのを止められない。嘘であってくれ、信じられない、信じたくない記憶を否定するように頭を何度も打ち付けているのに、頭はこれ以上にないほどクリアだった。

 

 

つまり、それが答え。

 

 

この記憶が、紛れも無い、自分が失った"過去の一部"なのだと。

 

 

リィル「やっと思い出した?そう。それが真実なんだよ、零?」

 

 

零「アッ…………ぁっ…………ち、ちがっ、ちがうっ……ちがう……違うッ……違うぅッッッ!!!!!!こんな、っ…………こんな記憶っ……こんなの出鱈目に決まってッッ……!!!!!!」

 

 

リィル「事実だよ」

 

 

零「!!!!?」

 

 

取り戻してしまった記憶を必死に否定して崩壊寸前の意識を何とか持ち直そうとするも、リィルの冷たい一言が頭上から降り懸かる。それに弾かれるように顔を上げれば、其処には記憶の中で自分が剣を突き刺した少女が、憎しみを篭めた瞳で見下ろす姿があった。

 

 

リィル「私は貴方に殺された……貴方に大切なもの全てを奪われた……それを嘘とは言わせない……言わせはしないッ……」

 

 

零「っ……!!リィル……なら、お前はっ……」

 

 

リィル「漸く思い出したんでしょ……?じゃあ次は、何で貴方に殺された私が此処にいるのか……答えは簡単、クアットロが生き返らせてくれたんだよ?あのロストの二人みたいに……貴方を追い詰める為の道具にする為にね……」

 

 

そう言いながら、リィルは自分の身体を両手でまさぐって下へ下へと下ろしていく。しかしその顔には、明かな嫌悪感が滲み出ていた。

 

 

リィル「たったそれだけ……ただそれだけの為に、墓を荒らされて、骨を掘り出されて、実験でこんな作り物の体を造られて……静かに眠る事も許されなかったッ……!!!なんで……?ねえなんで……?なんで私ばかりがこんな目に遭うの……?こんな偽物の醜い身体に魂を無理矢理入れられて、人形みたいに戦わされて……なのに私をこんな目に遇わせた貴方は、なんでそうやって平然と笑っていられるの……?」

 

 

零「ぁ…………あ…………ぁっ…………」

 

 

リィル「私がなんで憎い貴方をキャンセラーの世界で助けたか知ってる?貴方を私の手で殺す為だよ?他の誰かに殺させなんてさせない。赦さない。死ぬなら私の手で死んでよ。それが普通でしょう?当たり前だよね?だって私がこんな惨めな姿になったのは、貴方のせいなんだよ?その為に今回の作戦をクアットロに進言したんだから」

 

 

零「ッ?!まさか、そんな……この騒動を、お前がっ……?!」

 

 

リィル「だって貴方には、もっともっと苦しみながら死んで欲しかったから。私がクアットロに捕まって、何度も何度も実験の痛みで苦しんで、止めてって、助けてってどんなに泣き喚いても、貴方はあの娘達だけを救って私なんか助けてくれなかった……言ってくれたよね、零?どんな事があっても、私を守ってくれるって?…………アハッ…………アハハハハッ…………嘘つき……嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきッッッッッッ!!!!!!!!!!こんな仮面で顔を隠されただけでっ、私の事なんて気付きもしなかったクセにィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイッッッッッ!!!!!!!!」

 

 

零「───────」

 

 

矢継ぎ早に、リィルの口から放たれる呪詛。その圧倒的な悪意と殺意と呪いは極大な恐怖となって零を縛り付け、それと同時に失った過去の記憶の中で優しい笑顔を浮かべていた彼女を此処まで醜く変えてしまったのは自分のせいなのだと改めて思い知られ、零は言葉では言い表せない程の巨大な絶望感と罪悪感の余りボロボロと大粒の涙を流しながら、その場に力無く跪いてしまった。

 

 

零「…………俺、が…………お前を…………苦しめたのか…………?…………俺なんかがいたから…………お前を…………其処まで追い詰めてしまったのかっ…………?」

 

 

リィル「…………」

 

 

リィルは何も応えない。ただ何処までも底の見えぬ憎悪を秘めた眼差しを零に浴びせ、零は涙を流しながらそんなリィルの目を見て彼女の憎悪が本当に本物である事を悟り、力無く首を左右に振ると、ゆっくりと右手を地面に付けて頭を深く下げた。

 

 

零「すまっ……っ……すまないっ……リィルッ……すまないっ……すまないっ……すまないっ……すまないっ……!!」

 

 

リィル「……………」

 

 

零「赦してくれなんて言わないっ……赦して欲しいとは思わないっ……赦される資格がない事は分かってるっ……俺が憎いなら俺を殺してもいいっ……それでも足りないならっ、気が済むまでいたぶってくれても構わないからっ……だからっ……だからっ……!!!」

 

 

リィル「…………」

 

 

零「フェイトはっ……紫苑達はっ……雷達だけはっ、助けてやってくれッ!!!俺は死んでもいいからッ、お前の気が済むまで殺してくれてもいいからッ!!!だからっ……!!!だから頼むからっ、アイツ等だけはっ……俺への復讐にっ……巻き込まないでくれっ……!!!お願いだっ……お願いだからっ……おねがいしますッ……おねがいしますッ……おねがいしますっ……おねがい……しますっ……!!!!」

 

 

唯一動く血まみれの右手を震わせ、地面に滴り落ちる涙で顔をグチャグチャにしながら頭を下げ、無様を曝してフェイト達を自分への復讐に巻き込まないで欲しいとただひたすらリィルに懇願し続ける零。そんなみっともなく情けない姿を曝す零の姿を無言のまま見下ろし、リィルの口から出た言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィル「――――ぷっ……んぐっ……ぐっ……あは……あっははははははははははははははははははははっ!!!も、もう無理っ!無理だよシュレンっ!あはははははははははははっ!!」

 

 

零「……………………………………………ぇ……………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……罵声でも、呪いの呪詛でもない。先程までのそれらとは全く違う、まるで、悪戯が成功した子供のような明るい声と笑顔を浮かべ突然笑い出したのだった。

 

 

そんな彼女の突然の変わりように、零も思わず呆然となって涙でグチャグチャになった顔を上げてしまい、その様子をガリュウと共に離れて見ていたヴリトライレイザーが口元をニヤ付かせて二人へと近付いた。

 

 

『あらら、駄目じゃないの"Φ"?折角面白い所だったのにぃ』

 

 

リィル「アッハハハハッ。だってぇ~、"Rey(レイ)"がスッゴく面白くて抱き締めたくなるくらい震えてるから、笑いが堪え切れなかったんだもぉん♪」

 

 

零「……………………………………リィ…………ル…………………?」

 

 

先程までの憎悪の塊のような様子と違い、まるで人が変わった様に明るい様子で目尻に浮かぶ涙を拭いヴリトライレイザーと仲良く会話を交わす目の前の少女を呆然と見上げる零。すると、そんな零の呟きを聞いたリィルはやっと零の様子に気付いたように人当たりの良い笑顔を浮かべ、こう告げた。

 

 

リィル「違うよぉーRey((レイ)?私の名前はリィルじゃなくって、ファイって言うんだよぉ♪」

 

 

零「…………ファ…………イ…………?」

 

 

リィル「そっ♪正式名称はNo.Φだから、Φ♪そして貴方の本当の理解者!初めましてだねRey(レイ)♪私に会えて嬉しい?嬉しいよね?そうだよね!そうに決まってるよね♪」

 

 

零「……………………………………………………」

 

 

……意味が、分からなかった。

 

 

リィルと同じ顔をしていて、先程まで自分に恨み辛みの限りを浴びせていた彼女はリィルではなく、Φなのだと。

 

 

突然の告白に理解が追い付かず、ただただ呆然とニコニコと笑顔を向けて来る彼女を見上げる事しか出来ない零の隣をヴリトライレイザーが通り、リィル……Φと呼ばれた少女の隣に立って彼女の肩に手を置いた。

 

 

『どーおぉ?良く似てるでしょ?アンタの為に私達が用意した、アンタの大事な大事なリィル・アルテスタ……その女の血液を使って造り出した『クローン』、ふふふふっ、喜んでくれたかしら?』

 

 

零「……ク……ローン……?」

 

 

Φがリィル・アルテスタのクローン。そう言われて思わず口にして聞き返すが、未だに脳が理解出来ない。誰が、誰の……?

 

 

『感謝してくれても良いのよ?ロストやガリュウとの再会だけじゃ物足りないと思って、アンタがもう一度会いたいだろうと思ってるあの女の顔に似せて作ってあげたんだから』

 

 

零「……………………………………どう……いう……ことだ…………?なら…………なら、さっきの、は……?俺を赦さないって………………俺に、殺されたっていうのはっ…………?」

 

 

『……ハァ?何?まさか、アンタまだ分かってない訳?』

 

 

零「え…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

『そんなのぜぇーーんぶ、この娘があの女に成り済まして『演技』してたに決まってるじゃない?あの女が殺されたっていうのは本当らしいだけど、アンタを憎んでるかどうかなんて知る訳ないでしょ?幾らあの女に似せてるからって、あの女の心まで似せれる訳ないんだし』

 

 

Φ「えっへへ〜♪クアットロが書いた脚本を全部覚えたんだよ?凄いでしょー?私、頭も良くて演技力も凄いんだから♪ねえねえ、褒めてよRey(レイ)?私、凄いよね?凄いに決まってるよね?!あはははははっ♪」

 

 

零「……………………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

───眩暈がした。

 

 

───吐き気を覚えた。

 

 

今度こそ、頭が真っ白に染まり切った。

 

 

リィルのクローン?

 

 

リィルの偽物?

 

 

全部、縁起だった?

 

 

アイツの顔を使って、アイツの声を使って……

 

 

俺に吐き出した憎悪も殺意も憤怒も全部

 

 

嘘?

 

 

 

 

零「―――――――――――――――ァ―――――――――――――――――」

 

 

 

 

───眩暈が止んだ。

 

 

───吐き気が止まった。

 

 

真っ白に染まった頭がグツグツと熱く煮え返り、目に見えるもの全てが赤に染まり、大きくかっ開いた眼球が血走る。

 

 

ふざけるな。

 

 

ふざけんな。

 

 

よりによって……

 

 

よりにもよって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫……貴方はもう、誰かの人形なんかじゃない……私にしてあげられなかった事を……あの子達に……してあげて?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『約束だよ―――零』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――よりにもよって……アイツの声を、姿を利用してッッッッッッッッッ……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――ふざけ、るなよ…………このっ、クソ野郎ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈な力を籠めて強く握り締めた掌や全身から血が噴き出し、"頭が破裂する"。

 

 

破壊の因子とか、この世界のはやて達との約束とか、雷や紫苑達の事とか、全部綺麗に弾け跳ぶ。

 

 

内側から莫大な力が沸き上がり、彼の両目が禍々しい紫色の妖しい輝きを放つ。

 

 

破壊の因子の発動。あまりに強大過ぎる憎悪の感情に呼応し、コンタクトを外していないにも関わらず破壊の力が解放されるも、彼はそれに気付いてか気付いていないでか、それに構わず口元をニヤつかせ嘲笑するヴリトライレイザーに迷いなく飛び出した。

 

 

リィルの存在を利用したあのクソ野郎だけは、この手で血祭りにあげる。

 

 

身体の内側からブチブチと何かがちぎれる不快な音を聞きながらも、今の彼の頭にはそれだけしかなく、万物例外なく全てを破壊する右腕がヴリトライレイザーに向かって伸びた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ズシャアァッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………え…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

直後だった。

 

 

何もない真下から真上へと、巨大な剣が跳ね上がったのは。

 

 

それは零の右脇の下を潜る形で、一気に右肩へと向かっていった。

 

 

回避する時間も、受け流す余裕もなかった。当然だった。

 

 

信じられないほど簡単に、"黒月零の右腕が肩の所から切断された"のは、彼が痛みを感じるよりも速かったのだから。

 

 

零「――――――な――――――ぁ――――――」

 

 

くるくると、赤のラインを描きながら黒月零の右腕は宙を舞って、零から離れた場所に軽い音と共に落下した。

 

 

断面からは大量の血が噴き出してる。赤い血飛沫が頬を濡らし、地面が赤く染め上げられていく光景を凝視しながら、零は激しく眼球を震わせながら何か言葉を発しようと、喉の奥から声を絞り出そうとするが……

 

 

 

 

―ザシュウウゥゥッ!!!―

 

 

零「――――ッ?!!!!ぁ――――――は――――――ッッッ?!!!!」

 

 

Φ「――駄目だよ零ィ……ちゃんと私を見てくれないとォ……ねっ?」

 

 

 

 

零の懐へと、金髪の少女が軽快な足取りで飛び込んだ。まるで、大好きな恋人に彼女が甘えて抱き着くかのように。その手に握られた可愛らしい外見に似合わぬ大剣で、零の腹を躊躇なく突き刺し貫いていったのであった。

 

 

Φ「Rey(レイ)?さっき私が言った言葉、覚えてる?貴方に会いたかったって……あれね?縁起なんかじゃなくて、あれだけは私の本心なんだよ?」

 

 

―グチュウゥッ……グチャアァッ!!―

 

 

零「――ッッッ!!!!?――――――――――――――――ッッッ!!!!!!!!!?」

 

 

突き刺された大剣が、腹の中で上下左右に動かされる。まるで内臓を掻き回されているような、その形容し難い気持ちの悪い感覚と信じられない激痛に、零は天を仰ぎ声にならない絶叫を上げる。そんな零の様子をウットリと見つめ、Φは頬を上気させ愛おしむように言葉を続けた。

 

 

Φ「だってねぇ?ファイは、Rey(レイ)と一つになる為に生まれて来たんだよ?一つになって、溶け合って、世界をぜぇーんぶ壊すの♪それがファイの存在理由、ファイのやりたいこと、クアットロやヤクモが私に与えてくれたファイの生きる理由なんだよ♪」

 

 

零「――――――ぁ――――――ぐ――――――ごぶおぁ――――――!!!!!」

 

 

強烈な嘔吐感が襲い、零は口から赤い血液を吐き出しΦの顔にぶちまけた。だがΦは不快な顔を一切せず、寧ろ自分の顔を赤く濡らす血に嬉しそうに笑いながら舌で舐め取り、まるで媚薬でも口にしたかのように興奮を露わにしていた。

 

 

Φ「Rey(レイ)も私と同じなんだよね?世界をぜんぶ壊したいって思ってる。だからファイと同じ"ソレ"を持ってるんでしょ?何もかも壊したいから♪」

 

 

零「――――――な――――――に――――――いっ――――――て―――――――?」

 

 

血が張り付いた喉を強引に動かし、息を吸い込んで、漸く言葉を発してそう問い返した。そしてΦは笑みを浮かべたまま顔を上げて、ある部分を変化させる。

 

 

零が破壊の因子を用いる時に起きる現象と全く同じ、右目を禍々しく妖しく輝く紫色の瞳へと。

 

 

零「――――ッ?!!!!ま――――――さか――――――――」

 

 

Φ「うんっ♪Rey(レイ)が持ってる、ファクターから削れた欠片!この子も言ってるよ?Rey(レイ)が持ってるファクターと一つになりたいって♪」

 

 

零「――――ッッ!!!」

 

 

破壊の因子の欠片。そんな物があった事にも驚いたが、それ以上に、そんな物を自分の体に埋め込んでるにも関わらず嬉々として笑うΦに恐怖を覚えた。こんな悪魔みたいな力を受け入れて、世界を全部壊したいなどと正気の沙汰じゃない。コイツは異常だと、視界が暗転して身体の体温が急激に消え失せていくのを感じながらそう確信する中、Φは零の首筋に流れる血を舐め取り、そのまま零の唇に自分の唇を重ねた。

 

 

Φ「嗚呼……だから、凄い嬉しいィ……Rey(レイ)がファイの物になってくれて……スッゴく嬉しいィ……」

 

 

零「―――――――――――――――ぁ――――――――――――――――」

 

 

自分の血を口に含んで恍惚の表情を浮かべるΦの顔を最期に、視界が完全に真っ黒に染まり、何も見えなくなった。

 

 

Φ「これからは、ファイがずっと一緒にいてあげる。もう離さない、離れない、離れてあげない……」

 

 

零(ッ――――――畜生――――――畜生っ――――――畜生ぉっ――――――)

 

 

――寒い。今度は身体から熱が消えた。

 

 

零(こんなところでっ―――――――オレが――――――不甲斐ない――――――せいでっ――――――)

 

 

―――今度は、呼吸が出来なくなった。

 

 

――――舌が動かなくなる……喉、から、声が出なくなる。

 

 

零(――――――ァ――――――ァッ―――――――――――――――――)

 

 

―――――僅かに残ってた感覚が、身体から消えた。

 

 

そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Φ「大好き……大好き……大好き……大好き……大好き……大好き……大好き………これからは、ずっと、ずぅーーーーーっと、一緒だよぉ?Rey(レイ)……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そんな艶やかな声を最期に、黒月零の意識は、完全に闇の中へと消えた。

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑪(前編)

 

 

 

―カチッ……カチッ……カチッ……―

 

 

『───予定より随分早いですね……まぁ、それだけアレが必死だったという事でしょうか』

 

 

そして同じ頃、零とΦ達の様子を数キロほど離れた位置のビルの屋上から傍観し全てを見届けた八雲はフードの下で酷薄の笑みを浮かべると、左手に握られる懐中時計を見下ろし、ゆっくりと懐中時計を閉じて懐に仕舞っていく。

 

 

『その点においては、癪に障りますが褒めるべきなのでしょうか。おかげでこちらもスムーズに――――』

 

 

言い掛け、八雲はフードの下の目付きをスッと細めながら、顎を僅かに上げ爪先で地を軽く蹴りその場から跳び退いた。その瞬間……

 

 

 

 

 

―ブザアアアアァァァァッッッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

――まるで残像のように、八雲が今立っていた場所の目前に何かが現れ、その手に握る剣を八雲に向かって素早く振り抜き居合い斬りを放ったのであった。その剣から放たれた鋭い斬撃は八雲の首を刈り取ろうとするも、剣の切っ先は僅かに八雲の首に届かず掠めてしまい、剣を振るって吹き上がった風圧が八雲のフードを脱ぐって顔を露わにするだけで終わってしまう。そして斬撃をかわした八雲はそのまま後方へと下がると、鋭い真紅の瞳で目の前の敵を射抜いた。それは……

 

 

―ブオォッ!―

 

 

メモリー『――よぉ。久しぶりだな、八雲……』

 

 

ガイア『…………』

 

 

冥王『…………』

 

 

全身から圧倒的な威圧感を放ち、剣を振るって八雲を見据えるライダーと、その背後に今にも八雲に飛び掛からんとばかりに殺気を露わに控える二人のライダー。その正体は、零達の平行世界の仲間、そして八雲にとって"宿敵"でもある天満幸助が変身したメモリー、天満シズクと不破椛が変身したガイアと冥王の三神であり、八雲は彼等を見て軽く口の端を吊り上げながら薄く笑った。

 

 

八雲「これはこれは、また懐かしい顔触れが揃い踏みで……久しいじゃないか、断罪とその妻の女神共?彼の宇宙意思の奴隷となったお前達が、こんな有象無象の一つに過ぎない世界に、一体何の用だ?」

 

 

ガイア『ッ……惚けた事をっ……』

 

 

わざとらしく惚けた様子で笑う八雲に怒りを覚え身を乗り出すガイアだが、それを横からメモリーが片手で制止し、八雲を真っすぐ見据えた。

 

 

メモリー『お前がこの世界の裏で糸を引いて、零達を罠に嵌めた事は既に俺達の下に伝わってる……零達をわざとこの時間軸の雷牙の世界に誘い、何も知らない雷達に偏った情報を与えて零と仲違いさせ、零の世界のフェイトをロストと戦うように仕向け、加えてこの惨状だ……』

 

 

八雲「……それが何か問題か?俺はただあの機械人形に助言を与え、技術を提供し、アレの女のフェイト・T・ハラオウンを誑かしたまで……その後の問題は、当人達が勝手をやったまでだ。俺は直接には何も手を下してはいない。裁くなら、今回の事件の主犯である機械人形共と、彼処にいるイレイザーとクローンのみで十分ではないか?」

 

 

メモリー『どんな形であれ、今回の件に関与した時点で貴様も同罪だ……貴様等自身が世界から、イレイザーという名の刻印を押され追放された身だという事を忘れたか?ただでさえ貴様等が全ての物語に関与すること自体がルール違反だというのに、今回の件はやり過ぎたな』

 

 

冥王『お前には、即刻この世界から出ていってもらうの……抵抗するのなら――』

 

 

―ビュウゥンッ!―

 

 

直後、八雲の後頭部目掛けて一本のナイフが飛来し、それに続くように青と白の騎士と漆黒の騎士の二人がそれぞれ剣を振りかざして八雲に斬り掛かっていった。しかし、八雲は振り返る素振りすら見せずに僅かに首を動かしただけでナイフを避けながらナイフを手に取り、二人の騎士が振りかざした二本の剣をナイフで軽く受け流すと、騎士達は八雲から離れて今のナイフを投擲した人物の下まで下がった。それは……

 

 

 

 

クラウン『――抵抗するのならば、我々が全力で貴方を虚無へと叩き堕とすまでです』

 

 

ジークローバーWDD9『そういう事だ……覚悟してもらおうか、外道……?』

 

 

『……年貢の納め時という奴だな、黒月八雲……今回ばかりは、僕も一切容赦はしないぞ?』

 

 

 

 

其処には、メモリー達と共に八雲を挟み撃ちするように背後に佇む三人の人影……滝の世界のダークライダーであるクラウン、ヒカルの仲間であるグランが姿を変えたジークローバーWD(ウェルシュドラゴン)D9、イレイザー態へとその姿を変えたカルネだったのだ。零達のあの惨状を目にしたからなのか、彼等三人からは常人が向き合えばそれだけで命を刈り取られ兼ねない程の殺気が滲み出ており、それを見た八雲はクラウンが投擲したナイフを手の中で弄びながら目前の三神を見据えた。

 

 

八雲「これは驚きだな……俺一人を潰す程度で、これだけの顔触れが揃うとは。一体何がお前達を其処まで憤せたのか、まるで親兄弟でも殺されたようだな」

 

 

クラウン『……或は、それに近い憤りを感じていますよ。貴方は零氏達と雷氏達を謀っただけでなく、彼等を疑心暗鬼に陥れ、挙げ句には過去の零氏の憎悪や絶望といった負の感情を宿した『破壊の因子の欠片』を与えて狂気に染めたΦ嬢を零氏に嗾かけ、あろう事か零氏のリィル嬢への想いを利用して踏みにじった……いずれ向き合う筈だった、零氏のリィル嬢との記憶を最悪な形で呼び起こして……』

 

 

『お前は越えてはならない一線を越えた……零坊やが、リィル嬢ちゃんに対してどれだけ深い罪悪の意識を抱いているか……それを知っていながらっ!』

 

 

八雲「知ってるこそ、今回の計画にも利用しやすいと誰より理解していたつもりだが?実際、奴はこちらの期待通りに動いてくれたのだからな……お前達も観たのだろう?是非とも感想を聞かせて頂きたいものだ。初めて愛した女と同じ顔、同じ声をしただけのただのクローンを宛がっただけで馬鹿のように悦び、憎悪の限りをぶつけられれば絶望して泪しながら跪き、無様な姿を曝しながら仲間だけでも助けてくれなどと必死に懇願する……フッ、全てを知るお前達の目には、実に滑稽な道化の姿に見えただろう?」

 

 

ジークローバーWDD9『……もういい……その不快な口を閉じろ……これ以上貴様と話すだけ時間の無駄だ』

 

 

静かな怒りを露わにして、ジークローバーWDD9が八雲に向かって剣を構え、それに触発されるように他の一同もそれぞれ身構えていき、メモリーも八雲を睨み据えながら剣の切っ先を突き付けた。

 

 

メモリー『こっちとしても、お前の事は今の若者達に任せようと思っていたが、そういうワケにもいかなくなった……覚悟してもらうぞ、八雲?過去の因縁諸共、この場で断ち切らせてもらう……』

 

 

断罪者として、そして天満幸助として八雲との因縁を此処で完全に断つつもりなのか、何時になく本気を露わにするメモリー。そしてそんなメモリー達に囲まれ、八雲は……

 

 

八雲「――参ったなぁ……この身を司る属性上、俺は貴様と対峙すれば著しく弱体化する身だ。そんな状態で貴様等を纏めて相手にするとなるとただでは済まんだろうし、今この世界には輝晶紲那達を始めとした多くの異界人が徐々に集い始めている……ああ、正しく絶体絶命という奴だな」

 

 

メモリー『…………?』

 

 

手の中の短刀を弄びながら、自分の今の立場についてそう語る八雲。だがその時、メモリーはある違和感に気付いた。

 

 

幸助とシズクと椛の天満ファミリー、更にクラウンと、一度でも彼等に関わったことがある者達なら、彼等一人にでも対峙するという今のような状況に陥れば体を震え上がらせ、無様な姿を曝して必死に命乞いするのが大体の反応だ。

 

 

八雲「嗚呼……本当に……お前達の善人振りには感動すら覚える。知人の危機を救う為ならば、何処へでも何時でも駆け付ける……だから──」

 

 

だがそれに反して、八雲の様子は先程と変わらず変化がなく、その顔には未だに薄い笑みが張り付いている。まるで……

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「──だからこんなにも簡単に、こちらの策に掛かってくれる。都合が良くて助かるよ……今宵の喜劇に、お前の存在は特に必要不可欠だからな……断罪の?」

 

 

 

 

 

 

 

まるで、彼等の到着を待ち侘びていたような、そんな笑みのように見えた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

零Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……暗い……寒い……冷たい……

 

 

光が見えない……何も見えない……暗闇しかない……

 

 

此処は……何処だ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が重い……鉛のようだ……

 

 

頭が……体中が……胸が痛い……

 

 

どうして……こんなところに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ああ……あぁ……

 

 

そうだ……そうだった……

 

 

リィルの、あの偽物に……やられて……それで……俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハ……ハハッ……ハハハハハハハハッ……ハ……

 

 

何て無様……何て滑稽……何て恥さらしな最期……

 

 

あんな偽物の虚言に簡単に騙されて……挫けて……恥を曝して……絶望なんか抱いて……

 

 

挙げ句の果てに……俺は……リィルを……この手でっ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ああ……結局……俺には……この結末が似合いなのか……

 

 

何も救えないで……何も出来ないままで……

 

 

アイツを殺した俺には……そもそも……そんな、資格なんてっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま……塵のように消えて……終わる……

 

 

……そうだな……それしか、俺に出来る……償いなんて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ドグンッ……ドグンッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………それでも、私は絶対に傍にいるよ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………え…………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―貴方の過去に何があっても…貴方が貴方でなくなったとしても…そんなの関係ない。だってそうでしょう?例え貴方が何者だろうと、貴方が貴方である事に…何一つ間違いなんてないんだから―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは……ホルスの世界の……なのは、の……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ……ドグンッ……!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……私等は別に、零君に何も求めてへん……ただ一緒にいてくれるだけでええんや……たったそれだけで…ええんやから…―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ!今度は……はやて……の……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ……ドグンッ……!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―昔わたしに言ってくれたよね?今度は誰かからの命令ではなく、自分の意思で、自分を信じて生きてみろって。その言葉を聞いて…私はもう一度自分の意思で生きてみようって思ったの。だからなのはが何度も私に呼び掛けてくれたことや、零のその言葉があったお陰で……私は今もこうして皆といられるんだなって―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?!この声は……フェイトか?けれど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そんな事ないよ?零やなのはがいたから、私はもう一度生きようって思えたんだから……私一人の力じゃ……ここまで来る事なんて出来なかった―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの……記憶だ……?

 

 

こんな記憶……俺は知らな――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……だから尚更、私達の世界を救いたいって強く思うの。今の私がこうして変われたのはあの世界があったから。あの世界で感じてきた思いや時間は、何処の世界にもない……私や零やなのは達が積み上げてきた思い出は……あそこにしかないから―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――知ら……な……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ねぇ零?その、ちょっとお願い聞いてもらってもいいかな……?―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ぁ……あぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―えっと……もし……もしもだよ?もし私達の世界を救って帰ってこれたら……その……もう一度この場所で、写真撮ってくれる……?―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そうだ……何言ってるんだ、俺……?

 

 

こんな……大事な記憶……何で今まで、忘れてっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束……?だからなんの話だ?"そんな約束した覚えなんてないぞ"?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……っ……馬鹿だ俺っ……

 

 

だからアイツ、あの時にっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はただっ、零にもう何も忘れて欲しくないっ……それだけでいいのっ!!私の事もっ、なのは達の事もっ、私達が一緒だった記憶もっ……もうこれ以上っ、何も忘れて欲しくないだけなんだっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうとも知らずに……俺がアイツを追い込んで……

 

 

なのに俺は、こんな所でっ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ……戻らないと……

 

 

こんな所でまだ終われない……終わるワケには、いかないっ……

 

 

フェイトとロストを止めて……雷達と紫苑達を助けて……

 

 

フェイトに……謝らなければっ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ……ドグンッ……―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィルの事は……確かに、許されない罪を犯したかもしれないっ……

 

 

でも、今は……

 

 

アイツが俺を救ってくれた時に……言ってくれた言葉を……最後まで……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ……ドグンッ!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――其処までだ、再生の魔女の片割れ。破壊された記憶を再生するのは構わんが、それ以上余計な真似をしないでもらおうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドグンッ!…………―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!なん……だ……?

 

 

お前は……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだなぁ。こうして話すのはホルスの世界以来か、罪人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ!何で、お前がっ……!

 

 

何故お前が此処にいるっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も可笑しいことはないだろう?こうして話すのは久々だが、俺は常にお前の傍に在り続けてきたんだ。今更驚くような事か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ……それで、一体何しに出て来たっ?

 

 

俺はお前なんかと話す事は何もないぞっ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずつれない奴だ……ま、俺とお前の場合は寧ろその方が良いのかもな。お前と俺は決して相容れない、そんなのは前々から分かりきってた事だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だったらもう俺の前に現れるな……

 

 

今はお前なんかに構ってる場合じゃ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そっちになくても、こっちにはあるんだなぁ……これが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ッ?!何だ……これっ……闇っ……?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、八雲も余計な真似をしてくれる……阿南祐輔の世界で取り込みし損じたからといって、まさか奴が動くとは……出来れば俺のペースでやらせて欲しかったんだがな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なに……言ってっ……お前、一体っ……?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?俺か?そうだな……どうせこれが最後の問答になる訳だしな……俺は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お前の"罪"……そのものだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零Side End

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

『――これで本当に終わり……か』

 

 

腹を大剣で串刺しにされ、足元に広がる血の海の上でΦに愛おしげに抱き締められる零。そんな彼を見て、ヴリトライレイザーは興ざめしたように肩を竦め吐露をこぼした。

 

 

『出来損ないとは言え、八雲の血を引いているのだから少しは楽しめるかと散々煽り立ててやったのに……期待外れもいいところね』

 

 

これなら今八雲が足止めをしてるという異世界人達と戦った方がまだ良い暇潰しになったと、もう一度溜め息を吐きながらガリュウと共にその場を後にしようとΦと零に背を向けた。その時……

 

 

 

 

 

 

―……ガシイィッ!ググググググゥッ!―

 

 

Φ「――?!か……ぁ……はっ……?」

 

 

 

 

 

 

ガリュウ『?!』

 

 

『ッ!……何?』

 

 

 

 

 

 

二人がその場を後にしようとしたその時、不意に背後からΦが呻く声が聞こえ、その声を耳にした二人は慌てて背後へと振り返った。其処には……

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

身体は既に死に体、右腕を失い、腹を大剣で貫かれてもう立つ事も出来ない筈の零が、ヴリトライレイザーに骨を粉砕された左腕でΦの首を掴み締め上げながら幽霊のように立つ姿があったのだった。

 

 

『な……そんな馬鹿な……アンタ、何で……!』

 

 

零「…………フッ…………」

 

 

―バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォオォンッ!!!―

 

 

Φ「ッ?!か……はッ……?!」

 

 

立ち上がれる筈のない身体で再び立った零を見て驚愕するヴリトライレイザーの反応を他所に、零は僅かに口端を吊り上げて左腕を大きく振るい、Φを容赦なく信じられない怪力で地面に叩き付けていったのだった。そしてΦが痛みのあまり悶絶する中、零は前髪で顔を隠したまま徐に口を開く。

 

 

零「――再生の因子……最大出力……再構築……形成……」

 

 

―シュウゥゥゥゥッ……パアアァンッ!―

 

 

ボソボソと零が小声で何かを呟いた瞬間、それに呼応するかのように先程Φの剣によって切断された右腕が突然光となって弾け、そのまま無数の粒子となり零の下へ飛来していく。そして無数の粒子は零の肩の部分からまるで動脈を描くように腕の形を形成していき、最後に光が弾けると、切り離されたハズの右腕が零の肩に戻っていたのだった。

 

 

(ッ?!あれは……再生の因子の瞬間再生?!そんな、アイツには彼処までの力は扱えない筈なのに……!)

 

 

零「………………」

 

 

信じられない物を見るような表情で右腕を再生させた零を見つめるヴリトライレイザー。しかし零はそんな異形の様子に構わずに右手の調子を確かめるように掌を開いたり閉じたりを繰り返し、空いた左手で腹部に突き刺さったままの大剣を引き抜いていく。すると、大剣が抜き取られた腹の穴は白色の輝きを放ちながら徐々に塞がって完全に再生されていくが、零はそれを確認する事なく抜き取った大剣を両手で握り締め、そして……

 

 

―ズシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!―

 

 

Φ「?!ィ……ア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ?!!!」

 

 

……躊躇なく、頭上に振り上げた大剣を足元に倒れるΦへと勢いよく振り下ろしていったのだった。大剣にその身体を引き裂かれたΦは鮮血を撒き散らして絶叫を上げるが、零はその手を止める事なくΦを串刺しにしていく。

 

 

―ザシュウゥッ!!ズシャアァッズシャアァッズシャアァッズシャアァッ!!―

 

 

Φ「ぎぁ――あああああああああああああああああああああああッッ?!!!!イタ――イ――!!!!イタイよRey(レイ)……ヤメテ……ヤメテェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!!」

 

 

零「……フ……フフフ……ハハハハハッ……!!!」

 

 

激痛で身悶え、泣き叫ぶΦの顔に酷薄の笑みを浮かべ、零の手が徐々に速さを増していく。次第にはΦの声も聞こえなくなり、大剣を突き刺される度にその身体が痙攣してビクビクと動くが、ヴリトライレイザーは助ける素振りを見せずただジッとその光景を傍観し、零は薄い笑みを張り付けたまま口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

Omnes diis Tenri. Et ob quod peccatum quod Ego in hoc natus sum mundi(遍く天理の神々よ。私の犯した罪は、この世に生を受けた事です)

 

 

 

Corporis fundunt nescit amor nescit amoris infundat(この身は愛を注がれる事を知らず、愛を注ぐ事を知らない)

 

 

 

Et ego sum esurientem. Etiam si non possit se ad amorem, amor ad minimum aeternitatis dabo illis ad populum crawling carissimi, et misericors Dominus.(されど私は渇望する。例えこの身に一身の愛を得られずとも、せめてこの愛しく憐れな這い人達に永劫の愛を与えん事を)

 

 

 

Conputruerunt iumenta Haec anima, haec sordida sanguine est: hoc solum novit carne et dolorem desperandum(この魂は腐敗し、この血は汚れ、この肉は苦痛と絶望しか知らない)

 

 

 

Tunc peccatum paenitet me, inquit, iudicem, et nota devotio, pace tua dixerim me ad vos. So--(ならば罪深き私は貴方達の許で懺悔し、祈り、審判を受け、この身を貴方達に捧げましょう。だから――)

 

 

―……ゾワアァッ!!―

 

 

『ッ?!これ、はっ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

零の口から紡がれる詠唱。それと共に、零の全身から放たれる異様な気配を感じ取り、ヴリトライレイザーは目を見開き信じられない物を見るような表情を浮かべた。何故ならその気配は、彼女が良く知っている物と全くの同じだからであり、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ambo te ignosce me. Amare illis toto orbe terrarum(どうか許して欲しい。この世全て、彼等を愛す事を)

 

 

―……ビシィイッッ!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言と共に、零の足場から巨大な亀裂が走った。

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑪(後編)

 

 

―クラナガン・高層ビル屋上―

 

 

『――――ッッ!!』

 

 

メモリー『何だ……これは……?』

 

 

そして時を同じくして、その異常をメモリー達も察知していた。その原因を探るように一同が周囲を見回すと、八雲が目を細めながらメモリーに向けて語り出す。

 

 

八雲「俺が後先何も考えずに、今回の騒動の引き金を引いたとでも思ったのか、断罪の?」

 

 

メモリー『……何……?』

 

 

簡単に、淡々とした口調でそう語る八雲にメモリーが訝しげに問い返す。すると八雲は瞼を伏せながら首を軽く回し、僅かに開いた瞼の先に見える真紅の瞳でメモリーを見据えた。

 

 

八雲「これだけ大きな異変を引き起こせば、お前達が跳んで来るのは目に見えていたよ……だから敢えて、そうするように仕向けた。分かるか?お前達も、俺が用意した舞台の役者であり、お前達がいなければこの舞台は成立しなかった……言わば主演だ。寧ろ来なければどうしようかと、不安すら覚えたぞ?」

 

 

ジークローバーWDD9『何を言ってる……?どういう事なんだっ?!』

 

 

八雲の言っている意味が分からず、ジークローバーが声を荒げて問い詰めるが、八雲は構わず続ける。

 

 

八雲「今宵の舞台で、俺は前々から言い渡されていた目的を果たせねばならん。しかし、その前にお前達に敗れて消滅してしまうようでは、本末転倒も良いところだ。だからこう考えたのさ……俺の目的を果たし、俺自身の快楽を満たす舞台を完成させ、俺の力を増大させる同時の方法を実行すればいいだけだと……奴を利用してな」

 

 

素っ気なく、そんな有り得ない事をサラサラと告げ、八雲は此処から数十キロも離れた高層ビルへと視線を向けた。その直後だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「――Amor in aperto mundo(放縦な世への愛)……」

 

 

 

 

―ピキッ……ピシィッ……ビシィイイイイッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零達が戦っている高層ビル……いや、その周囲の風景ごと硝子に皹が入ったように、巨大な亀裂が走ったのは。

 

 

『なっ……』

 

 

ジークローバーWDD9『何だ……アレはっ……?!!』

 

 

その異常な光景に、ジークローバーやカルネは我が目を疑って驚愕し、クラウンやメモリーはその見覚えのある光景に忌ま忌ましげに顔を歪めた。

 

 

零達がいる高層ビルとその周辺が、まるでテレビ画面の一部に亀裂が入ったかのようにひび割れている。

 

 

それは、嘗てキャンセラーの世界でもメモリーとクラウンが目にした光景……零が因子暴走の際に臨海公園上空を破壊した時と酷似しており、亀裂は信じられない速さで広がり雷牙の世界を侵食し始めていた。

 

 

八雲「――"芽"自体は、既に『アルテマの乱』で大罪を犯した時にあの出来損ないの中に生まれていた……しかし、これがまた面倒な"奴"でな。よりにもよってアレの中にではなく、因子の中に住み着いてしまったんだ。負の感情が一番多く集まる部分だから、住み着きやすいとでも思ったんだろう。お陰でアレが因子を捨てた際に"奴"まで捨てられ、侵食も一切進まぬまま、アレが因子を取り戻すまで十年も経ってしまった」

 

 

メモリー『――ッ!!そうか……そういう事かっ……!!』

 

 

冥王『?幸助君……?』

 

 

まるで独り言のように語る八雲の言葉で何かを察したのか、メモリーは剣を握る手にグッと力を篭めていき、クラウンやカルネもまた何かに気付き彼と同じような様子を浮かべていた。

 

 

八雲「後はそう難しい問題じゃない。因子と共に"奴"を取り戻したアレにありったけの負の感情を喰わせ、もう二度と立ち上がれないような絶望の前に跪かせれば、取り込む事は簡単に出来る。キャンセラーの世界では度重なる横槍のせいで失敗したが、お陰で今回の良い対策になった」

 

 

メモリー『カルネッ!!お前の力でクラウンとグランを守れッ!!ソイツ等には俺やシズク達と違ってうっちゃんの加護はないッ!!このままじゃ"アレ"に巻き込まれるぞッ!!』

 

 

『ッ!だ、だが、雷坊や達や零坊やの世界のなのは嬢ちゃん達っ、紲那坊や達がっ……!!』

 

 

メモリー『無理だッ!!もう間に合わんッ!!』

 

 

既に亀裂は、その驚異的な速度でミッドチルダ全体にまで行き渡っていた。

 

 

雷牙達や真也達、デザイアドーパント達、インスペクターやレギオン達に、ディケイド(紫苑)とリイン達……。

 

 

イザナギディスペアとロスト、零達を救いに来た多くの異世界人達、零とフェイト達の帰りを信じて写真館で待つなのは達、機動六課で雷牙達の窮地を救う方法を必死に思案するはやて(雷)達……。

 

 

雷牙の世界のミッドチルダも、更に地球も、他の次元世界も、其処に住む大勢の人々も……。

 

 

彼等は今正に世界を襲っている異常に気付かないまま亀裂に侵食され、リモコンのボタンで一時停止された映像のように止まっていた。そして……

 

 

 

 

 

―ボゴオォォォォッ!!―

 

 

零「――ッ!!ごぁっ……ガッ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

世界が亀裂に覆われていく中、この異常事態を引き起こした元凶である零の身にもまた、異変が起き始めていた。

 

 

身体の内側から突如黒い泥のようなモノが溢れ出し、零の身体の至る所に纏わり付き、泥が付着した部分から徐々にその姿が変化していく。

 

 

左腕がまるで悪魔のような赤黒い不気味な異形の腕に。

 

 

右足が甲冑に似た黒い異形の足に。

 

 

そして顔の右半分が、悪魔のような造形の化け物の顔へと……。

 

 

八雲「――アルテマの乱の時と同様の大罪を犯せば、"奴は"更に強大な力を持って生まれ出る。それが俺の目的の一つだ。龍道 雷達からの疑心、自身の命より大事な仲間達を危機に追い込み、恐れていたフェイト・T・ハラオウンとロストの衝突……それらの過程の果て、リィル・アルテスタのクローンであるΦを嗾ければアレの心は折れる……その隙さえあれば、"奴"があの出来損ないを取り込むには十分だ」

 

 

メモリー『ッ!八雲ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 

断罪の剣を振りかざして地を蹴り、咆哮と共に八雲に斬り掛かるメモリー。怒りや憎悪からではない。八雲の言うもう一つの目的が達成されれば、取り返しの付かない事態になると気付いたからだ。だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ビシイィッ……ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァァンッッッッッッッ!!!!!―

 

 

メモリー『ッ?!!グッ、グオオオオオオオオッ!!』

 

 

ガイア『幸助ッ?!キャアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

クラウン『シズク嬢ッ!!クッ?!』

 

 

『ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァッッッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

メモリーの刃が八雲の額に届こうとした寸前、亀裂に完全に侵食されてしまった雷牙の世界が硝子のように砕け散り、メモリー達は上も下も存在しない暗闇の中へと投げ出され、奈落の底に落下していってしまう。その間際……

 

 

 

 

 

 

 

 

零『――ィ……アッ……!ァアッ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ……!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ジークローバーWDD9『ッ?!れ、零っ……?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

……遥か遠くの闇の中で、頭や胸を押さえ、苦しげに身体をくの字に折り曲げて絶叫する零の姿があったのだ。

 

 

だが、その姿は最早彼等がよく知る零の姿ではなく、身体の大部分が悪魔のような造形の異形の姿へと変貌してしまっており、人間としての名残は殆ど残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「―――『仮面ライダー雷牙の物語』は、完全に書き換えられた……最早、この世界の何処にも存在はしない。あの時点での、俺とシュレン、お前達以外の大勢の人間ごとな」

 

 

 

 

 

 

広大な闇の何処からか、姿なき八雲の声が響き渡る。

 

 

何処までも無機質で、何処までも不気味で、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「ああ、だが何、落胆することはない。代わりに、雷牙の物語だった世界を基盤に新しい物語が生まれたんだ。喜べ。お前達が良く知る男が描いた世界……哀れな出来損ないの、独りよがりの駄作の物語――」

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――ウゥゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「――黒月零という名の、哀れな『イレイザー』が創った世界に……お前達を招こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

……何処までも無慈悲な声で、全ての物語から存在を許されなくなった男の名を語ったのであった……。

 

 

 



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番外編/『彼』の記憶の断片

 

 

 

――もしも、今ある平凡な日常を失った時、貴方ならどうしますか?

 

 

もしも、自分の命より大切な物を失った時、貴方ならどうしますか?

 

 

もしも、愛すべき人達、愛すべき世界、愛すべき仲間達全てを失った時……貴方ならどうしますか?

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「―――はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……!!」

 

 

荒れ果てた市街地に包まれたとある無人世界。

 

 

其処は文明も人類の歴史も途絶えた世界であり、無数に存在する平行世界の地球が辿り着いた結末の一つ。

 

 

その街の中に存在する一つの廃墟に、全身傷と汚れだらけになった青年が金髪の少女の手を引っ張り、息絶え絶えになりながら駆け込んでくる姿があった。

 

 

「ッ……はぁ……はぁ……此処まで……来ればっ……」

 

 

廃墟内に駆け込んだ青年は入り口の方を見て追っ手が追い掛けてきてないことを確認すると、安心して気が抜けたのか背中でズルズルと壁を引きずりながら地面に座り込むが、青年は自分の右手に握られた禍々しい形状をした剣を目にすると、悲しげに顔を俯かせてしまう。

 

 

「……パパ?」

 

 

「っ……どうして……どうしてこんな事にっ……」

 

 

心配げに声を掛ける金髪の少女を気遣う余裕すらなく思わず口にしたのは、何故こんな事になってしまったのかと、後悔の念が強く篭められた言葉だった。

 

 

一体何を間違えたのか、何処で間違えてしまったのか。

 

 

その答えが分からない青年が心の中で何度も自問自答を繰り返し、あの大戦世界で他の仲間達と共に失ってしまった"彼女"を抱き留めた際にこびり付いた血まみれの手で、前髪をグシャグシャに掻き分けながら泣き崩れてしまうが……

 

 

―……ギュッ……―

 

 

「……っ……?!」

 

 

どうしようもない絶望感と喪失感の前に心が折れ掛けていた青年の冷たい体が、不意に温かく、小さな両腕に抱き締められた。それに弾かれるように青年が顔を上げると、其処には自分と同じようにボロボロの金髪の少女が青年を優しく抱き締める姿がある。

 

 

「……ヴ■■ィ、オ……?」

 

 

「……大丈夫……大丈夫だよ……?だって、パパにはまだヴィ■■■が付いてるもん……ママ達の分まで、ヴ■ヴィ■が傍にいるから……だから、お願い……泣かないでっ……?」

 

 

「……ッ……!」

 

 

そう言って笑い掛ける金髪の少女の目には、うっすらと涙が浮かんでおり、その顔を見て絶望に屈し掛けていた青年もハッとさせられた。

 

 

彼女とて、大好きな母親と親しい人達を失って泣き出したいほど辛い筈なのに、それを懸命に隠して自分を慰めようとしている。

 

 

……本当ならそれは、父親である自分が彼女にしてあげなければならない事の筈なのに。

 

 

「……パパ……?」

 

 

無言のまま、嘗ての相棒と自分のベルトが一体化した禍々しい剣を手放して、力一杯彼女の身体を抱き締める。

 

 

僅かに苦しいのか、少女もくぐもった声を漏らすも嫌がる素振りを見せず、その小さな両手で父親の身体を抱き締め返す。

 

 

「ごめんっ……ごめんなっ……パパが情けないから……パパが間違えたからっ……ママ達を助けてあげられなかったっ……!」

 

 

「っ…………」

 

 

「お前だけは、絶対に守るから……!どんな事をしてでも、絶対に……絶対に、守り抜くからっ……!」

 

 

「パパっ……」

 

 

まるで残された希望に縋るように、傷んだ少女の髪を不器用に撫でながら彼女に約束を口にする青年。少女もそんな青年の肩に顔を埋めながら、必死に堪えてた涙をボロボロと流していく。が……

 

 

 

 

 

 

―パチッパチッパチッパチッパチッ……―

 

 

「いやぁ、美しいですねぇ。正しく親と子の愛、という奴ですか?」

 

 

『……ッ?!!』

 

 

 

 

 

 

二人しかいない筈の廃墟の中に、突如拍手と共に何処からか男の声が響き渡った。その声に反応して青年と少女も驚愕しながら周囲を見回し、青年が手放した剣を再び手に立ち上がると、廃墟の奥の闇の中から一人の男がゆっくりと姿を現した。それは……

 

 

「いやはや、探しましたよ世界の破壊者さん?ライダー大戦の世界から勝手にいなくなるんですかねぇ、探す方の身にもなって下さいよ?」

 

 

「ッ……!ユ■■……テ■ミ……!」

 

 

黒いスーツに黒い帽子を頭に被り、緑色の短髪に糸目の青年。一見物腰の柔らかそうに見えるその男を目にした青年は警戒心を露わにし、少女を自分の後ろへと下がらせて剣を構えた。

 

 

「何しに来たっ……!そもそも、どうやってこの場所をっ……!」

 

 

テ■ミ「そんなのはどうだっていいじゃないですか?それより、やっちゃってくれましたねぇ?紅さん達を皆殺しにしちゃうなんて。これはもう、我々ライダーへの宣戦布告と取られても仕方がないですよ?」

 

 

「ッ!ち、違うッ!あんなつもりはなかったんだっ……!ただあの時は我を忘れて、気が付いた時にはあんなっ……!」

 

 

テ■ミ「だーかーらー……そんなのはもう関係ないんですよって。貴方は紅さんと剣崎さん達をその手に掛けた。これだけでもう貴方はライダーの……いいや、全ての世界の敵になった訳なんですから。事実、全てのライダーが貴方を世界の敵と見做して、全力で排除する事を決定しましたし」

 

 

「ッ……!!」

 

 

軽薄な口調でそう語る緑色の髪の男……テ■ミの言葉に、青年は自分が犯した罪を思い出し悲痛な表情を浮かべた。

 

 

自分がアポロガイストにさらわれた"彼女"を助ける為に、あの大戦世界から出ていけと忠告した彼等の警告を拒否したせいで、彼等の世界は消滅し、彼等の大切な仲間達も消えてしまった。

 

 

其処から先は、何もかもが泥沼と化した……。

 

 

大切な仲間達と世界を消された怒りと悲しみから自分を倒そうとした彼等から、自分の仲間達もそれを阻止しようと自分を庇って次々と事切れ、遂には"彼女"さえも……

 

 

その先の記憶は一切覚えていない。

 

 

ただあの時、内から沸き上がる憎悪とそれに反応した"因子"が輝き出した瞬間に目の前が真っ暗になって、気付いた時には彼等だったものの残骸が足元に転がり、自分の姿も醜い姿に変貌していた……。

 

 

その後は自分の犯した大罪に戦慄し、唯一生き残ったこの娘を連れて、此処まで逃げてきた。

 

 

無論、自分が赦されない事をしたのは分かっている。けれども……

 

 

「……だったら、俺の事はいいっ……赦されない罪を犯した事は分かってる……だが、この娘だけは助けてやってくれッ!この娘には何の罪もないッ!この娘は何も悪くないんだッ!断罪なら俺がちゃんと受けるッ!だから、だからっ……!」

 

 

「パパッ……!」

 

 

テ■ミ「…………」

 

 

咎は受ける、だからどうかこの娘だけは助けてやって欲しいと、必死にテ■ミにそう頼み込む青年。それに対し、テ■ミはそんな青年をジッと見つめたまま無言で何も答えず、やがて薄く息を吐きながら徐に天上を仰ぎ……

 

 

 

 

 

 

テ■ミ「――寝ぼけたコト吐かしてんじゃねぇーよ、クソガキがァアッ!!!!」

 

 

「ッ?!!なっ……」

 

 

「ひっ……」

 

 

頭に被った黒い帽子を剥ぎ取り、突如先程までの柔和な表情から一変して狂暴な顔付きへと変わり、青年に吐き捨てるかのようにそう叫んだのだった。

 

 

緑の短髪が総立ち、糸目も開かれてその奥に妖しげに輝く金色の瞳が見える。

 

 

突然のテ■ミの変貌に青年は驚愕して身じろぎ、少女も怯えて恐怖する中、変貌したテ■ミは見下した態度で叫ぶ。

 

 

テ■ミ「"この娘だけでも助けてやって欲しい"だぁ?テメーはもう他のライダーや全部の世界の敵だっつったよなぁ?なのにそんな奴の娘を見逃して欲しい?そのガキは何も悪くない?……ヒャッハハハハハハッ!コイツは傑作だなぁオォイッ!」

 

 

「な、何がっ……」

 

 

テ■ミ「良いかぁー?耳かっぽじってよーく聞けよー?与えられた役目すら果たせずに世界を救えなかったテメーは、もう"ゴミ"なんだよ!ゴーミー!わかる?いなくてもいい、存在価値すらねぇゴミだ!そんな糞以下の価値すらねぇゴミのゴミなんざ生かして、一体俺ら仮面ライダーに何の得があるってんだぁ?」

 

 

「なっ……」

 

 

自分だけでなく、少女までもゴミ呼ばわりして貶めるテ■ミに絶句し言葉を失う青年。しかし、そんな彼の反応を他所にテ■ミは不気味に口端を吊り上げる。

 

 

テ■ミ「大体、テメェーの言う通りそのゴミ助けたところで、どうせソイツにはもう帰る場所なんざねーんだからなぁ。此処で仲良くテメーとおっ死んじまった方が、そのガキにとっちゃ寧ろ幸せなんじゃねーか?」

 

 

「っ……どういう事だっ……?」

 

 

テ■ミ「あ?どうって?決まってんだろ?

 

 

 

 

 

 

―――テメェー等の世界は、もうとっくに俺様の手で"滅びちまってる"ってコトだよ」

 

 

「…………え…………?」

 

 

 

 

 

 

一瞬、何を言われたか理解が追い付かず硬直した。

 

 

今、この男はなんと言った……?

 

 

テ■ミ「あれぇー?聞こえませんでしたかぁー?なら理解するまで言ってやんよ、テメェ等の世界は!もうとっくの昔に!ぶっ壊しちまったっつってんだよッ!」

 

 

「…………う、ウソだ…………どうして、お前達が其処までする必要があるっ?あの世界の連中には何の罪もっ…………!!!!」

 

 

テ■ミ「……はぁ……まだ分かりませんかねぇ?貴方はもう全ての世界の敵な訳ですよ?だったら、貴方が逃げて潜伏してそうな世界を徹底的に探し尽くすのは当然でしょう?そのために私が選ばれたんですよ。ま、後から行き違いで隠れられても面倒なんで、後腐れ残さず根絶やしにさせて頂きましたがねぇ」

 

 

「…………ウソ、だ…………」

 

 

信じられない。信じたくなどない。

 

 

世界を救うためとは言え、彼等がそんな非道をする筈がないと。

 

 

音を立てて崩れ落ちていく精神を必死に押し止めようと頭の中でそう否定し続るが、テ■ミは何処までも人をコケにしたような表情のまま懐からビデオカメラを取り出した。

 

 

テ■ミ「ああ、何だったら証拠にテメーの顔見知りの最期の瞬間を撮った映像でも見せてやろうかぁ?キレーに撮れてんぜぇ?絶望しながら死んでったあの愉快な光景がよぉ!何つったかなぁ?ほら、アレだよアレ。ライダー大戦の世界で、最期の最期にテメーを庇ってお涙頂戴な感じで愉快におっ死んだ頭の悪い馬鹿な女の家族……高村?高梨?」

 

 

「…………テッ――――」

 

 

 

 

 

 

テ■ミ「あ、ワリィワリィ、やっぱ思い出せねぇわー。死んだゴミの名前なんざ一々記憶に留めとくほど暇じゃねーんで♪」

 

 

 

 

「テ■ミィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

『KAMENRIDE:DIREED!』

 

 

 

 

何処までも人をおちょくり、挙げ句には自分を救ってくれた"彼女"と自分と彼女の家族まで鼻で笑いながら侮辱するテ■ミに遂に怒り、青年は何処からか取り出したカードを剣へと装填しながら飛び出し、赤黒色の禍々しい姿のライダーへと変身しながら憎悪のままにテ■ミに斬り掛かった。が……

 

 

テ■ミ「――キャンキャン喚くなや、クソガキ。殺すぞ?」

 

 

『Baind!Now!』

 

 

―ジャラァアアアアアアアアアアアアァッ!!!―

 

 

『―――ッ?!!なっ―ズガガガガガガガガガガガガガアガガガガアァッ!!!―ウグゥアァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッッッ?!!!!』

 

 

「ッ?!!パ、パパァアッ!!!」

 

 

テ■ミが指輪を身に付けた右手を腹部の手形型の緑のベルト……普通のベルトに擬態化させてるウロボロスドライバーのバックルに翳した瞬間に電子音声が鳴り、直後に赤黒色のライダーの周囲の地面に現れた無数の緑色の魔法陣から先端に刃が取り付けられた無数の鎖が飛び出し、赤黒色のライダーの全身に容赦なく突き刺さっていったのだった。

 

 

そうして、赤黒色のライダーは全身から赤い血を流しながらダラリと両手をぶら下げて強制的に変身が解除されその場に倒れ込んでしまい、テ■ミはそんな青年の姿を見て愉快げに笑い出した。

 

 

テ■ミ「ヒャッハハハハハハハハッ!!!大丈夫ぅ?ねぇだいじょーぶぅ?だいじょーぶですかぁー?ククククク……馬鹿が。因子の力で神化したばかりのテメーに、その力がいきなり使いこなせる筈ねぇーだろうがぁ!」

 

 

―ドグオオォッ!!―

 

 

「ごあぁッ!!ガァッ……!!」

 

 

テ■ミ「とっとと忠告聞いて出ていっとけば此処まで拗れなかったものをよぉ、テメーの端迷惑な仲間意識のせいでこうなっちまったって分かってんのかねぇ?分かってる?分かってんだったらとっとと死ねやァ!テメェーの存在価値なんざもうそれぐらいしか残ってねぇんだからなぁ!ゴミはゴミらしくおっ死んで、さっさと俺様達の世界を救っときゃいいんだよォッ!」

 

 

「……止めて……も、もう止めてぇッ!!」

 

 

文字通りゴミのように瀕死の青年の身体を踏みにじるテ■ミを見て遂に我慢出来なくなったか、その光景を今まで見ていた金髪の少女が再び青年を踏み付けようとしたテ■ミの片足を泣きながら掴んで止めた。

 

 

「ッ……!ヴ■、■ィオ……!」

 

 

「パパは何も悪い事なんてしてないッ!!パパだって頑張ったんだよッ!!世界を救おうとして、いっぱい頑張ったんだよッ?!なのになんで、なんでパパをイジメるのッ?!お願いだから、もうパパをイジメないでぇッ!!」

 

 

テ■ミ「…………」

 

 

これ以上、自分の父親が誰かに責められる姿を見たくはないと、必死にそう泣き叫びながらテ■ミの足にしがみつく金髪の少女。そんな少女の姿をテ■ミは無言のままジッと見つめると、やがてヤレヤレと深く息を吐きながら上げた足を下ろし、ニコッと糸目で微笑みながら……

 

 

 

 

テ■ミ「―――しゃしゃり出て来てんじゃねぇよ、ガキ」

 

 

―ドゴオオォッ!!―

 

 

「ッ……!!?ァッ……!!!」

 

 

冷淡な声音と共にそう言い放ち、少女の腹に容赦なく足蹴を打ち込んで彼女を吹っ飛ばしてしまったのだった。

 

 

「ッ!!?ヴィ、ヴ■■ォッ!!!」

 

 

テ■ミ「『なんで?』だぁ?分かんねぇんなら教えてやんよガキ。それはなぁ、テメーの親父が糞の役にも立たねぇゴミだからだよォ!」

 

 

―バキィッ!バキィッ!バキィッ!―

 

 

「ぅああッ!!きゃ、いやぁあああああッ!!」

 

 

テ■ミ「ゴミをゴミ呼ばわりして何が悪い、えぇ?!テメーの親父がゴミなら、その娘のテメーもゴミ以下のクズだッ!お前たち親子なんざ、居なくなってもこの世界にゃ関係ねぇーんだよォッ!分かったんなら生意気に口答えしてんじゃねーぞクソガキがぁッ!」

 

 

「や、止めろッ!!!もう止めろォオッ!!!その娘は何も関係ないだろうがぁあッ!!!」

 

 

テ■ミ「!おっと……いやー、失敬失敬。ゴミがしゃしゃり出てきて調子に乗るもんだから、ついつい教育してあげちゃいましたよー……ま、幾ら教育しようとゴミはゴミなんですがねぇ。ククククク」

 

 

「ッッ……!!!!テ■、ミイィィィィィィィィッ……!!!!」

 

 

大の大人の力で容赦なく踏み躙られ、全身アザだらけになりながら嗚咽を漏らし泣きじゃくる金髪の少女に目もくれずおどけるようにクツクツ笑うテ■ミ。それを見て、青年も沸き上がる憎しみを糧にどうにか身体を起こすが、テ■ミは再び無数の鎖を操り青年に刃を向けさせていく。

 

 

テ■ミ「さーて、絶望したままおっ死ぬ覚悟は出来たか?なぁに安心しろ、テメーを殺った後にこの糞ガキも後を追わせてやんよ。あの世は一人でも多い方が、淋しくねぇからなぁッ!」

 

 

「グッ……!!」

 

 

無数の鎖が青年に目掛けて再び飛来して来る。だが、殆ど立つ事しか出来ない程消耗している青年には既に剣を振るうだけの余力はなく、無数の鎖の刃が青年の体を突き刺さそうと目前にまで迫った。その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウェイクアップッ!』

 

『LORD MAXIMUM DRIVE!』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

「……あぁん?」

 

 

「っ?!」

 

 

 

不意に何処からか電子音声が響き渡り、それと同時に青年に襲い掛かろうとした無数の鎖が何処からか飛来した閃光が飲み込んで吹っ飛ばしていったのだ。それを見たテ■ミも思わず動きを止め、青年もその光景を目にして驚愕していると、青年の前に二人の戦士……仮面ライダーエクスと仮面ライダーエンシェントロードが現れた。

 

 

「な……稟?!宗介?!」

 

 

Eロード『遅くなってすまないな、■』

 

 

エクス『此処は俺達に任せて下さい!■さんは今の内に、早く逃げて!』

 

 

「っ?!な、何言って?!―ガシッ―……?!」

 

 

テ■ミに向けて武器を構えながら早く逃げろと告げた二人に驚愕する青年だが、その時背後から誰かに腕を掴まれて思わず振り返る。すると其処には二人の青年……青年の片腕を掴む本郷滝と、いつの間にかボロボロの金髪の少女を抱き抱える御薙煌一の姿があった。

 

 

「滝?!煌一?!何でお前等まで……?!」

 

 

煌一「その話は後だ!」

 

 

滝「今の内に逃げるぞ!来い!」

 

 

驚愕する青年を他所に二人は青年を引っ張り、背後に歪みの壁を出現させて青年を連れていこうとする。

 

 

「は、離せ二人共!!二人が、稟と宗介が!!」

 

 

滝「いいから急げ!!あの二人も俺達も、お前を逃がす為に来たんだ!!お前が此処に居たら二人も満足に戦えない!!」

 

 

煌一「今のお前に何が出来る?!今はとにかく逃げる事だけを考えろ!!」

 

 

「アイツ等を置いてそんなこと出来るか!!離せ!!離してくれ!!!稟!!!宗介ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっっ!!!!!」

 

 

二人の拘束から逃れようと必死にもがきながら悲痛に叫ぶ青年だが、そんな余力も残されていない為にその努力も虚しく、青年と金髪の少女は二人と共に歪みの壁に呑まれ何処かへと消えてしまったのであった。

 

 

Eロード『行ったか……』

 

 

エクス『あぁ……後は俺達で、滝さん達が■さんを連れて逃げる時間を稼ぐだけだ……!』

 

 

エクスとEロードは四人が歪みの壁に呑まれて消えたのを確認すると武器を構え直し、正面に立つテ■ミと対峙した。対してテ■ミはそんな二人を見て目を細め、呆れ呆れに二人に問い掛ける。

 

 

テ■ミ「貴方達ねぇ……自分が何やってるのか分かってます?前に話したハズでしょう?彼をこの世界から消し去らなければ、貴方達の世界も消える事になるんですよ?」

 

 

Eロード『ああ、知ってるさ……けどな、俺達は絶対にダチを手に掛けるような真似はしないっ!!』

 

 

エクス『俺達はアンタ達のやり方を絶対認めない!!世界の為と言ってあの人を殺して、それで手に入れた世界で生きていくなんて出来る筈ないだろっ!!』

 

 

テ■ミ「……やれやれ……これだから子供は嫌になるんですよ……」

 

 

二人を見て説得は無理だと判断したのか、テ■ミは頭に被る帽子を押さえながら溜め息混じりにそう呟くと、帽子で表情を隠したまま右手の指輪をけだるげに取り替えて腹部のバックルに翳した。

 

 

『Driver On!Now!』

 

 

再び電子音声が鳴り響き、手形型のバックルが緑色の禍々しい形状をしたベルトへと変化していき、テ■ミはウロボロスドライバーのバックルの手形を左手側に切り替えながら左手の中指に緑色の宝石の指輪を装着していく。

 

 

テ■ミ「――ほざく台詞が何もかも幼稚過ぎて、思わずブッ殺したくなっちまうからなぁ……変身……」

 

 

そう呟くと共にカチャッ!と緑の宝石の指輪のカバーを下ろし、テ■ミは左手をドライバーのバックルへと翳していく。そして……

 

 

『Change!Now!』

 

 

再度鳴り響く電子音と共にテ■ミの前方に緑の魔法陣が現れ、緑の魔法陣を潜り抜けると、テ■ミの身体は禍々しいオーラを身に纏う仮面ライダーに変身したのだった。

 

 

黒い縁取りにダークグリーンのロングコート、蛇の鱗を摸したような緑の宝石の鎧を四肢に纏い、何処となく白い魔法使いの面影を感じさせる緑の蛇の仮面を顔に纏った仮面ライダー……『ウロボロス』は軽く首の骨を鳴らし、Eロードとエクスと向き合っていく。

 

 

ウロボロス『この俺様に盾突きやがったんだ……ただ殺すだけで済むとは思ってねぇよなぁ?テメーら殺した後で、オメェらの世界の住民も後を追わせて皆殺しにしてやんよぉ』

 

 

エクスL『そんなこと、させると思うか……!』

 

 

Eロード『アイツを倒す以外の方法は必ず見つけ出す……その為にもお前を倒した後で、他のライダー達も絶対に止めてみせる!!』

 

 

ウロボロス『はぁあ?俺を倒す、だと?……ヒヒヒ、ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!全く、救いようがねぇバカ共だとは思ってたが、まさか此処までバカだったとはなァッ?!!ヤベぇヤベぇウケる、超ウケるッ!!!』

 

 

エクスL『……何だと……?』

 

 

頭と腹を抑えて身体をのけ反らせながら爆笑するウロボロスに、二人は剣を構えながら鋭く睨み付ける。しかしウロボロスは微塵も臆した様子もなく笑いすぎで息切れになりながら、ニヤニヤと笑いながら口を開く。

 

 

ウロボロス『ヒヒヒヒ……随分と思いきったことを吐かすじゃねぇか、ガキ共?テメェら、今一体誰を敵に回そうとしてんのか微塵も分かってねーだろォ?……折角だ。『本物の恐怖』ってヤツをきちんと理解させた上で、あの世へ送ってやんよ……』

 

 

そう言って、ウロボロスはまるで帽子を抑えるように、ゆっくりと頭に手を添えていく。そして……

 

 

 

 

 

ウロボロス『―――第666拘束機関解放……次元干渉虚数方陣展開……』

 

 

―……ドグンッ―

 

 

『『―――ッ!!!?』』

 

 

 

 

 

その瞬間、ウロボロスから放たれる殺気がより一層濃くなり、禍々しいとしか言いようがない妖気と魔力が迸る。

 

 

ただその姿を視界に捉えているだけなのに、それだけで意識すら霞みそうな波動を受け、二人の額に冷たい汗が浮かび動けなくなる。

 

 

Eロード『て……てめぇ、何をする気だ……!!?』

 

 

ウロボロス『ヒヒヒヒッ、ヒャハハハハハハッ!!!もう恐いかぁ?もう苦しいかぁ?!そォだ、ソイツが"恐怖"だッ!!"絶望"だッ!!よーく覚えとけよぉ?ソイツがテメェらが味わう最期の感情ってヤツだからなァアアッ!!!!』

 

 

狂い、だが何処か謡うように叫び、ウロボロスの纏う魔力もまた更に不吉に顕在化し始める。

 

 

ドクンッと、二人は胸がざわめき震え出すのを感じた。

 

 

ウロボロスから膨れ上がる暴力的な凶念と死の匂い。

 

 

それがまた、不吉な直感となって二人の全身を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

ウロボロス『コード=SOL(ソウル・オブ・ランゲージ) 碧の魔道書(ブレイブルー)、起動ォオッ!!!見せてやるよ、『碧』の力をなァアッ!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

煌一「――っ……此処まで来れば、一先ず安全か……」

 

 

滝「ああ……あの二人が足止めしてくれてるおかげってのもあるだろうけどな……」

 

 

「………………」

 

 

Eロードとエクスがウロボロスを止めて時間稼ぎしてくれている隙に、青年を連れてとある世界の廃墟内に逃げ込んだ滝と煌一。二人は外を覗いて追っ手が来ていないか確認すると、煌一は気を失う金髪の少女を優しく壁に寝かせ、滝は壁に背を預けて無気力のまま座り込む青年へと歩み寄り、膝を折って青年と目線を合わせ語り掛けた。

 

 

滝「今稟達があのライダーを食い止めてくれてる。お前も今の内にしっかり休んで――「……なんで、だ……」……ッ!」

 

 

彼の身に起きた出来事を全て知っているからか、青年の身を案じるようにそう声を掛けるが、青年はそんな呼び掛けに答えずボソリとそう呟いた。

 

 

「……なんで、俺なんかを助けたんだ……お前達も、奴等から聞いてるんだろ……俺を助ければ、お前達の世界も消えるって……なのに、なんで……稟も宗介も……"アイツ等"もっ……」

 

 

煌一「……■……」

 

 

「こんな筈じゃなかった……こんな筈じゃなかったんだっ……こんな筈じゃっ……!」

 

 

滝「…………」

 

 

クシャッと、"彼女"の血で血塗られた手で頭を抑えながらボロボロと大粒の涙を流して泣き叫ぶ青年の言葉に、二人も何も答えられなかった。

 

 

彼が……いや、彼等が歩んできた今までの旅路は、彼が望んだ未来へと辿り着ける旅路ではない無駄なものでしかなかった。

 

 

世界から敵だと認識され、今までの旅路で絆を紡いだ仲間達を失い、それどころか……彼が守りたかった筈の"彼女達"までも……。

 

 

「……もう……無理だ……限界だっ……頼む……頼む二人共っ……俺を、俺を殺してくれっ……!!殺してくれっ!!」

 

 

煌一「ッ!馬鹿な事を言うな■ッ!しっかりしろッ!お前がそんなんじゃどうするッ?!」

 

 

「もう、無理なんだ……俺達がしてきた事が全部無駄で……ライダーから世界の敵として追われて……世界を救う術がもう分からなくて……その上、アイツ等を見殺しにして、俺だけが助かるなんて……もう耐えられないんだっ……なァ、頼むよっ、殺してくれっ……殺してくれよっ……死なせてくれェッ……!!!!」

 

 

煌一「ッ……■……」

 

 

今の彼は、"彼女"を失ったあの時から、自分で自分の命を絶つ事が出来ない肉体になってしまった。

 

 

それでも、全てのライダーから敵として追われ、生きる目的を全て奪われ、絶望のあまり最早生きていたくはないと、煌一の足にしがみついて泣き叫び無様に懇願する青年。だが……

 

 

―グイィッ!―

 

 

「ッ?!―バキイィッ!!―グウゥッ?!」

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

滝「…………」

 

 

煌一「?!滝っ……?!」

 

 

そんな青年の姿を無言のまま見つめていた滝が青年の胸倉を掴んで無理矢理立たせ、いきなり青年の顔を殴り背後に積み重ねられたドラム缶の山にまで吹っ飛ばしていったのだった。煌一もいきなり青年を殴り飛ばした滝を見て思わず目を見開き驚愕してしまうが、滝は構わず倒れる青年の胸倉を再び掴み、青年の瞳を睨み付けた。

 

 

「ッ……滝っ……」

 

 

滝「いい加減にしろ、■……アイツ等を見殺しにして生き延びた事が耐えられないから、死なせて欲しい?お前がそんなんじゃ、本当に何かも全部無駄になっちまうだろうッ?!稟も宗介もっ、命を捨ててまでお前を守ったアイツ等の命もッ!!」

 

 

「……ッ……」

 

 

滝「お前等の旅が全部無駄だったっ?まだ全部が全部そうだと決まったワケじゃねぇだろっ!連中が時間が無いからって極端な手段に出ているだけかもしれないし、探せばまだ他に手はあるかもしれないっ!それに―――」

 

 

 

 

 

「…………パパ…………?」

 

 

 

 

 

滝が何かを言い掛けたその時、か細い声が聞こえた。その声を聞いてハッとなり青年が振り返ると、其処には今の騒音と滝の怒号で目を覚ましたのか、テ■ミに容赦なく踏み躙られてアザだらけになった少女の姿があった。

 

 

「……ヴィ、■ィオ……」

 

 

滝「……お前までいなくなっちまったら、誰があの娘を支える……?あの娘の親はもう、この世にお前しかいねぇんだぞ……!」

 

 

「ッ……!……ゥッ……ッ……!」

 

 

滝「だから諦めんな……まだ俺達がいるっ……!そうだろっ?」

 

 

力無く項垂れ、ボロボロと大粒の涙を流す青年にそう力強く告げる滝。そうして、青年も泣きながら少女の傍にまで寄り、まるで何かに縋る子供のように少女の身体を抱き締めた。

 

 

「……俺を生かせば……消えるかもしれないんだぞ……お前達も、お前達の世界も……」

 

 

煌一「……ふっ……そんなの、覚悟の上だ」

 

 

滝「簡単に消えてやるつもりなんてねぇさ。忘れたのか?俺達は無駄にしぶといんだぜ」

 

 

「……馬鹿野郎っ……」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

そして、彼等のライダー達からの逃亡劇は数ヶ月にも及んだ……。

 

 

彼を逃がす為にウロボロスを足止めしていたエクスとEロードは、結局、彼等の下に戻ってくる事はなかった……。

 

 

ウロボロスとの戦いに敗れたのか、或いは彼を守ったせいで自分達の世界と共に消滅したのか……それすらも分からないまま……。

 

 

それでも……それでも彼は、希望を捨てずに何処までも逃げ続けた。

 

 

自分の隣には、まだこの子がいる。いてくれる。

 

 

彼女がいる限り、希望は捨てない。

 

 

必ず世界を救う違う方法を探し出し、彼女と共に生きられる未来を見付けてみせると。

 

 

 

 

 

だが、この時の彼は、まだ知らない。

 

 

この世界が、何処まで残酷で、悪意に満ちているのか。

 

 

"本当の悲劇"が、此処から始まるのだと知らずに。

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)

 

 

 

 

 

 

 

 

────くだらない話をしよう。

 

 

幼い自我が目覚めた時から、《男》は何処までも愛に貪欲だった。

 

 

 

 

────お前など産まなければ良かった。《母親》は泣きながら、後悔するように《男》に言った。

 

 

 

 

────俺達が欲しかったのは、お前ではなかった。《父親》は吐き捨てるように、憎悪を込めて《男》に言った。

 

 

 

 

ただの一度も親から愛を注がれず、誰からも愛されずに育ちながらも、幼かった《男》はそれでもなお人を愛し、優しくあろうとした。

 

 

誰かに好きでいて貰いたい。

 

 

愛して欲しい。

 

 

《男》が心の底から望んでいたのは、何の事はない、誰もが当たり前の様に思うありきたりな願いだった。

 

 

人に優しく生き続ければ、きっといつか、たった一人でも、誰かが自分を好きになってくれるかもしれないと。

 

 

 

────だが《全て》を失ったその時、《男》は思い知る事となる。

 

 

こんなにも苦しみ、哀しみ、後悔するぐらいなら

 

 

もう二度と、誰も愛したりはしないと。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―???の世界―

 

 

――――太陽も、星一つも存在しない灰色の空が何処までも続く不気味な世界。

 

 

 

灰色の空が照らし出すその眼下には、荒廃した大地が最果てにまで続いており、其処に命の息吹は一切感じられなかった。

 

 

ひと一人どころか、草木の一本すら存在しない。

 

 

 

だがその代わりに、大地の上には無数の"ある物"だけが存在していた。

 

 

―――数え切れないほどの数の墓碑。

 

 

世界の全てを埋め尽くす程の無数の『墓石』が地平線の彼方にまで並ぶ、異質な光景が唯一その世界に存在していたのだ。そして……

 

 

 

 

 

椛「―――ぅ……ぐっ……」

 

 

グラン「ゲホッ!ゲホッゲホッ!っ……此処はっ……?」

 

 

幸助「くっ……」

 

 

 

 

 

そんな異常窮まりない世界の中心にて、全身に被った砂を落としながら徐に身を起こす複数の人影……雷牙の世界から放り出されて闇の中に消えた筈の幸助達の姿があり、他の一同と同じように砂を被ったシズクが頭を軽く振りながら、一同の顔を見回して口を開いた。

 

 

シズク「皆、大丈夫っ?欠けている人はいないっ?」

 

 

カルネ「ッ……一応ね……クラウンとグラン坊やも、僕の力で何とか"アレ"から護れた……けど……」

 

 

全員の安否を確認し、一同は周囲に広がる墓地に目を向けて見渡していく。地平の彼方にまで無数の墓石が広がっているという異常な光景。其処はどう見ても、彼等が先程までいたハズの雷牙の世界のミッドチルダではなかった。

 

 

グラン「なんなんだ、此処は……俺達はさっきまで、雷牙の世界にいた筈なのに……別の世界へ飛ばされたのか?」

 

 

幸助「――いや……此処は雷牙の世界だ……それに間違いはない……」

 

 

グラン「……え?」

 

 

怪訝な顔で墓碑に覆われた不気味窮まりない世界を見渡すグランに、幸助が神妙な様子でそう言いながら近くにある一つの墓碑の前に近づいて立つと、膝を折ってその墓碑に刻まれた名前に指を這わせていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

『AZUSA/ASUHA(アズサ/アスハ)』

 

 

 

 

 

 

墓碑に刻まれているのは、雷牙の世界で零を助けようとし、シルベルヴィントの手によって倒されたアズサとアスハの二人の名であり、それを見たグランは目を見開き驚愕してしまう。

 

 

グラン「ア、アズサの名前……?どういうことだっ?何故あの子の墓がっ?!」

 

 

クラウン『……いえ、どうやらアズサ嬢だけではないようです……』

 

 

アズサの墓を目にして驚愕を隠せないグランに、クラウンが何処となく複雑げな面持ちで他の墓碑を見回す。すると其処には、見知らぬ誰かの名が刻まれた他の墓石達に混じって、『YUUYA SAKURAI(ユウヤ サクライ)』、『SHION KAZAMA(シオン カザマ)』など、彼等が良く知る人物達の名前を含んだ無数の墓石が何処までもズラリと並んでいたのであった。

 

 

グラン「な、何なんだ……この世界は……此処は一体……?!」

 

 

カルネ「……幸助坊やの言う通り、此処が雷牙の世界である事は間違いないよ。いや、というよりは―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――雷牙の世界『だった世界』……そう言った方が正しいだろうな、この場合は」

 

 

『……ッ?!』

 

 

 

 

 

 

 

 

見知った知り合い達の名が混じった無数の墓石が何処までも続く不気味な世界。そんな異質窮まりない光景を目の当たりにして立ち尽くす事しか出来ない一同の背後から突然男の声が響き、幸助達が一斉に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

―ザッ、ザッ、ザッ……―

 

 

八雲「――――ようこそ、この独りよがりの醜い物語(せかい)へ……歓迎するぞ、断罪達よ」

 

 

幸助「八雲……!」

 

 

 

 

 

 

無数の墓が立ち並ぶ荒野の向こう側から、黒いローブを風で揺らして歩み寄って来る一人の男……雷牙の世界で幸助達と対峙した八雲の姿があったのだった。そして幸助達は咄嗟に八雲の方へ向き直り構えていくが、それに対し八雲は身構えもせずに立ち止まりグルリと荒野を見回していく。

 

 

八雲「しかし、生きてこの世界に足を踏み入れたのはやはりお前達だけか……いや、どうやら難を逃れた連中もいるようだが、そちらは大した害ではないな」

 

 

グラン「……?何を言って……いや、それよりどういう意味だっ?!雷牙の世界だった世界だの、生きて足を踏み入れたのが俺達だけだの、それじゃまるで――」

 

 

八雲「"まるで"、ではない。言葉通りの意味だ。忘れたか?あの時言った、俺の言葉を……」

 

 

グランの言葉を遮るようにそう告げて、八雲はスッと、まるで舞台前の演説者を演じるように黒いローブの中から左手を出した。

 

 

八雲「『仮面ライダー雷牙の物語』は完全に書き換えられた。もう何処の世界にも存在しないとな……この世界は、その雷牙の世界という基盤を元に生み出された、新たな物語(せかい)といっても過言ではない」

 

 

グラン「雷牙の世界を基盤に……新しく生み出された物語(せかい)っ……?」

 

 

クラウン『……ではやはり、幸助氏達とカルネ氏の力で護られた私達以外の人間は……』

 

 

八雲「わざわざ俺に聞くまでもないだろう?お前達の目には今、その答えが嫌というほど見えている筈なのだからな」

 

 

おどけるように片目を伏せながら八雲が左手を広げて指すのは、幸助達と八雲の周りに地平の彼方まで並ぶ無数の墓碑。

 

 

……つまり、これが答え。

 

 

此処に立ち並ぶ無数の墓に刻まれている全ての名は、その墓石の主の証。

 

 

これが彼等の……"末路の姿"であるのだと……。

 

 

グラン「馬鹿な……こんな出鱈目な……こんな話がっ……!!」

 

 

カルネ「ッ……黒月八雲っ……貴様っ……!!」

 

 

八雲「俺を責めるのはお門違いではないか?確かに奴にそう仕向けるようにしたのはこの俺だが、この連中を直接手に掛けたのは俺ではない……あの出来損ないだ」

 

 

シズク「ッ……!零君……彼は今何処にいるのっ?!」

 

 

八雲の口から告げられた出来損ないというワードから、雷牙の世界から放り出された際に闇の中で垣間見た零の姿を思い出したシズクが身を乗り出し八雲に問い掛けると、八雲は無表情のまま視線のみをある方向に向けていき、それを追うように幸助達が振り返ると、彼等は其処で灰色の空に浮かぶ"あるモノ"の存在に初めて気が付いた。それは……

 

 

椛「――黒い、月……?」

 

 

そう、灰色の空に、まるで巨大な孔が空いているようにも見えるソレは、薄汚い黒に染め上げられた不気味な満月だったのだ。そして、幸助達がその黒い満月を睨み据える中、八雲は黒い満月を軽く顎で差しながら語り出した。

 

 

八雲「この不細工窮まりない物語(せかい)の出来前について文句があるのなら、"アレ"に直接言え……駄作になるのは目に見えていたが、俺とてまさか此処までとは思ってもいなかったのだからな」

 

 

 

 

 

 

『――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

シズク「―――うっ!」

 

 

カルネ「グッ?!」

 

 

グラン「な、なんだっ……この声はっ?!」

 

 

八雲がそう告げた直後に、黒い満月の向こうから突如"声"がした。耳にするだけで不快で、醜悪で、余りの不愉快さに思わず耳を塞ぎたくなるその声に苦痛で顔を歪めて一同が戸惑う中、黒い満月の向こう側で何かが蠢き、中からゆっくりと、二本の異形の腕がユラリとその姿を現した。

 

 

まるで、視えないナニかに救いを求める亡者のように。

 

 

いなくなってしまった母親をひたすらに捜し求める、赤子のように。

 

 

醜い両腕が伸ばされた満月の向こうから、ゆっくりと姿を現したのは……

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

全身に不気味な赤い紋様が刻まれ、まるで悪魔のような姿形と羽根を持ったグロテスクな異形……。

 

 

人間には理解出来ない言語で獣の如く吠えながら月の向こうから現れたその悪魔を目にし、目を見開く一同の間にざわめきが広がる。

 

 

カルネ「あ、あれはっ……まさかっ……!」

 

 

八雲「……どうした?驚いていないでもっと喜べよ、カルネ。今この瞬間、俺とお前の同類が新たに生まれ出たんだぞ?」

 

 

グラン「?同類……?」

 

 

クラウン『ッ……!まさか……!』

 

 

その言葉で何かに気付いたのか、クラウンは仮面越しに険しい表情で黒い月の向こうから上半身だけを乗り出す悪魔を見上げていくと、八雲も黒い月を見上げながら僅かに口を開いた。

 

 

八雲「―――カテゴリーは幹部クラスに該当する幻想・神話の異形か……一応は能力的にも申し分なさそうだが、理性を失っているようでは獣同然だな。全く、イレイザーとなっても出来損ないとは救いようがない……」

 

 

シズク「ッ!イレイザー?それに出来損ないって……まさか、あの怪人はっ……?!」

 

 

―ズシイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

八雲の言葉を聞いてシズクが何かを叫ぼうとするが、それを遮るように突如けたたましい爆音が響き渡った。そしてその音に釣られるように幸助達が爆音がした方に振り返ると、其処には黒い満月から抜け出て爆風の中から身体の全てを曝け出した悪魔の姿があり、八雲はそんな悪魔を見据えて淡々と語り出した。

 

 

八雲「醜い姿だろう……?アレが奴の"罪"の証。俺やシュレンのように、大罪を犯して物語から存在を許されなくなった者の末路の姿であり、雷牙の世界をこの不細工窮まりない物語に書き換え、この連中を手に掛けた張本人……"黒月零"のイレイザーとしての姿だ」

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

冷淡な口調でそう語る八雲の言葉と共に、黒い月から現れた悪魔のような姿形をした異形……零がその姿を変貌させた『アバドンイレイザー』はその醜い赤黒い両腕を掲げ、まるでこの世に生まれ出た自身の存在を世界に知らしめるように、漆黒の満月に獣の雄叫びを上げていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)①

 

 

グラン「あ、あの怪人が……零、だと……?」

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!』

 

 

漆黒の月に吠える悪魔……アバドンイレイザーの正体が零だと聞かされたグランは驚愕を露わに目を見開き、他の面々も苦々しい表情を浮かべる中、幸助が無言のまま八雲に目を向け強く睨み据えた。

 

 

幸助「これがお前の目的の一つか、八雲……零の中に眠っていたあのイレイザーを完全に目覚めさせ、雷牙の世界を書き換えて大勢の命をアイツに奪わせ、零を大罪人として仕立て上げる……そうして、アイツが犯した大罪をお前の『力』として取り込む事が……」

 

 

八雲「……物語一つの改変と大量殺人……これだけの大罪を奴が犯してくれれば、俺のイレイザーの能力で俺の力は倍加される。そうなれば、俺の属性の相性の悪さでお前と対峙する事によって弱体化されたとしてもお前達に引けを取る事はなくなる……加えて、俺に課せられていたイレイザー集めのノルマもこれで達成された。正に一石二鳥、という事だ」

 

 

シズク「ッ!ふざけないでッ!仮にも自分の息子を、貴方はっ……!」

 

 

八雲「それこそ心外だな……俺はあの出来損ないを、息子と認めた事など一度もないぞ?まぁ、生まなければ良かったと思った事は、幾度となくあったがな」

 

 

カルネ「ッ!貴様っ!!」

 

 

何の気兼ねもなく軽く鼻を鳴らしてそう告げる八雲に憤りを覚え、カルネが咄嗟に怪人態となって剣を構えながら八雲に切り掛かろうとする。が、それを幸助が左腕を制して止めさせた。

 

 

『ッ!幸助坊や……』

 

 

幸助「……八雲は俺達が引き受ける。お前とグランは零を止めろ。あくまで予想だが、まだあいつの理性は完全にイレイザーに呑まれてはいない筈だ。それに――」

 

 

 

 

―シュウゥゥ……ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッッッッ!!!!!!―

 

 

 

 

『……ッ!』

 

 

幸助が言葉を言い切る前に、突如けたたましいまでの爆発音が響き渡り、一同がその音が放たれた方へ振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

―シュウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ…………―

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■ァァァァァァァァァァッッッッッッ…………………!!!!!!!』

 

 

 

 

 

……アバドンイレイザーの正面から数キロメートル先までの地平と墓石が丸ごと消滅し、削られてしまっていたのである。恐らくアバドンイレイザーが放った何かの攻撃の威力なのだろう。最果てが視認出来ない彼方まで放たれたその威力にカルネは目を見開いて言葉を失い、幸助は目付きを鋭くさせて八雲を見据えながら口を開いた。

 

 

幸助「これ以上、零にこの世界を傷付けるような真似はさせるな……俺達の力でこの世界は再生出来たとしても、これ以上の破壊は、アイツ自身を傷付ける……」

 

 

グラン「……!」

 

 

書き換えられた雷牙の世界の改変は幸助達の力があればまだ何とか出来る。だが、その物語改変を行った零自身がこれ以上この世界を傷付け、事実を知れば……。幸助の言わんとしてる事を察し、カルネとグランは何かを思案するように顔を俯かせた後、互いに顔を見合わせて頷き合いアバドンイレイザーの下へと急いで向かっていったのだった。

 

 

八雲「……これは驚いた。まさか執行者である貴様が、世界改変を行った重罪人を救う手助けをするとは。どういう風の吹き回しだ?アレは既に世界の……いや、お前の断罪の対象のハズだが?」

 

 

幸助「……それもテメェの目的の一つなんだろう……仲間を、世界を、大勢の命を奪いイレイザーになった零を、俺の手で断罪させる……そうして零達の物語をテメェが望む悲劇に仕立て上げ、お前は傍観者を気取ってそれを愉しむ……胸糞の悪い、お前が考えそうな趣向だ。俺達をこの舞台の主演とほざいたのも、その為なんだろ……?」

 

 

八雲「……それもある……が、別にお前の手であの出来損ないを断罪せずとも、それはそれで俺は構わんのだよ。断罪の」

 

 

クラウン『?どういう意味です、それは……?』

 

 

友人である断罪の神の手によって断罪され、黒月零の物語を悲劇という形で終わらせる。だが、別にそれでなくても構わないと告げる八雲の言葉の意図が判らずクラウンがそう問い返すと、八雲は淡々とした口調で答える。

 

 

八雲「言ったハズだろう?俺がこの騒動を起こしたのは、お前達を呼び寄せる為でもある。仮にお前達があの出来損ないを救い出し、雷牙の世界を再生させようともそれはそれで構わない……俺にとって重要なのは、あの出来損ないに、物語改変と大量殺人を行ったという事実を確立させ大罪を着させること……それだけなんだよ」

 

 

シズク「――ッ?!まさかっ……!」

 

 

何かに気付いたかのようにハッとした様子でシズクが八雲を見据え、八雲は僅かに口元を歪めながら周囲の墓石達を指し……

 

 

八雲「奴が自らのその手で、自身の命より大事な仲間と、大勢の人間を手に掛け、世界を書き換えて、自らも化け物となった……今はイレイザーになって理性を失っているとは言え、その事実を、奴が都合よく覚えていないとでも思うか?」

 

 

『……ッ!』

 

 

零の手による雷牙の世界の改変、零のイレイザー化、それらも確かに八雲の目的ではあるが、彼にとっての一番の目的は『黒月零に、自身が行った大罪の記憶を根強く植え付けること』。それが八雲の今回の目的の根本であり、例え此処で零を救い出して雷牙の世界を元に戻そうとも、最早八雲にとってそんな事はさほど重要ではないのだ。

 

 

八雲「フェイト・T・ハラオウンを殺されたぐらいで復讐心で我を忘れ、キャンセラーの世界を破壊しようとした罪悪感を未だに引きずっているような奴だ……例えお前達が全てを元に戻したところで、あの出来損ないが自身の仲間達と多くの人間を手に掛けた事実は消えはしない。果たして奴は、その事実を許容し正気を保っていられるかどうか……さぞ面白い見物になると思わないか?」

 

 

椛「ッ……!」

 

 

八雲「いや、そもそもイレイザーは、全ての物語から存在を許されなくなった刻印の証だ……奴の存在が許されるのは、奴自身が書き換えたこの駄作の世界でのみだ。雷牙の物語を再構築すれば、奴は今度こそ存在を許されず全ての物語から追放され、お前達や、高町なのは達にも二度と会えなくなる。俺やカルネのように、ルールを破りさえすれば物語に侵入する事は可能だろうが……そうなると、何らかのイレギュラーが発生して物語が破綻するやもしれん……なにせ"俺達"やカルネの存在もあって、こちら側は既に許容範囲を越えているだろうからな」

 

 

幸助「……要するに、此処で零を人間に戻せたとしても、アイツを破滅に追い込む術は幾らでもあるって言いたいのか……」

 

 

八雲「フッ……何なら物語改変や大量殺人の事実を奴の記憶から消して、アレの中のイレイザーも取り除いて全てをなかった事にするか……?俺はソレでも構わんぞ?それはそれで、また別の計画に利用する事が出来るのだからな」

 

 

幸助「…………」

 

 

スッと目を細めて笑う八雲のその言葉を聞き、幸助達は八雲を睨み据える目付きを鋭くさせる。八雲は既に、零を破滅に追い込む為の計画を何重にも考えている。零が大罪を犯したという事実がある限り、これから先も八雲は容赦なく其処を突いて来るだろう。自分が臨む"悲劇"を見たいが為に。

 

 

幸助「―――犯した罪業は二度と消えはしない。死ぬまで背負い続けるしかない。それはイレイザーでなくとも同じ事だ……」

 

 

クラウン『…………』

 

 

幸助「経緯がどうであれ、零が赦されない罪を犯したのも確かに事実だ。だからこそ、奴にはその罪と向き合い、罪を償ってもらう。場合によっては、俺自らの手でアイツを断罪する事もやぶさかじゃねぇ……だがな――」

 

 

―ジャキッ!―

 

 

そう言って幸助は何処からかメモリアルブレイドを抜き取ると、ギラリと鋭く光る刃の切っ先を八雲に突き付けた。

 

 

幸助「―――アイツを断罪する前に、先ずは貴様が先だ……八雲……!」

 

 

八雲「……ほう……こんな大惨事を引き起こした張本人が貴様等の前で暴走しているというのに、奴より俺を優先すると?」

 

 

幸助「当然だろ……貴様のようなヤツがいる限り、この世界の住人や零のような犠牲者がまた増える事になる……それを分かっててみすみす見逃すほど、俺達は馬鹿じゃねぇのさ」

 

 

幸助のその言葉に続くかのように、シズクと椛がそれぞれ腰にベルトを装着し、クラウンも両手にナイフを装備して戦闘態勢に入る。そしてそれを目にした八雲は……

 

 

八雲「――成る程……倍加した今の俺の力が何処まで貴様等に通用するのか……それに、兼ねてから開発を進めていた"アレ"の実験……それを試すにはちょうどいいかもしれんな……」

 

 

幸助「……何?」

 

 

意味深な発言をする八雲に幸助が訝しげな表情で聞き返すが、八雲はそれに対し何も答えず無言のまま右手を上げて指を軽く鳴らすと、八雲の背後に歪みの壁が出現し其処から深紅の異形……雷牙の世界で零を追い詰めたヴリトライレイザーがゆっくりと姿を現した。

 

 

『―――なあに、八雲?話はもう終わったワケ?』

 

 

八雲「ああ……此処から先はお前の好きな殺し合いだ。存分に暴れるといい……ただし、断罪の神は俺が相手をする」

 

 

『そ?じゃあ他は貰ってもいいってワケね。……もうさっきみたいな加減はしないわよ』

 

 

そう言いながら炎を宿した左手を軽く振るい、オレンジ色の線を宙に描くヴリトライレイザーだが、そんな彼女を目にした椛は僅かに眉を吊り上げ八雲を睨んだ。

 

 

椛「私達も随分と嘗められた物なの。そんな三下に、私達の相手が勤まるとでも思っているの?」

 

 

八雲「これでもお前達の相手を出来る人選を選んだつもりだ。それに、お前達を纏めて相手にするとなると俺も加減が難しくなるからな……そうなるとこの世界を破壊するだけでなく、こうして貴様等と揃って再会した上に"コレ"の試作運転も出来なくなる」

 

 

そう言って八雲は幸助達を見据えながらコートの内に手を伸ばし、其処から一つのバックルのようなモノを取り出して腰に当てると、バックルの端からベルトが伸びて八雲の腰に装着されベルトとなり、そのベルトを目にした幸助達は驚愕の表情を浮かべた。何故なら……

 

 

幸助「それは、まさか……ゲートベルト?!」

 

 

八雲「いいや、これはゲートドライバーであってゲートドライバーではない……俺の記憶の底に根強く残っているある知識を元に、貴様が生前使っていたカオスの性能に俺なりに改良を加えた試作品。『真』に至る為の『NEO』だ」

 

 

『CHANGE UP!NEO CHAOS!』

 

 

八雲がそう呟くと共に電子音声が鳴り響き、八雲の姿がまばゆい光に包まれた。そして光が一瞬で収まると、八雲の外見が両肩、両腕、両足が鋭利な造形をした金のラインが走る禍々しい漆黒のボディに、鋭い赤い複眼。腰から黒いコートを靡かせるその姿は、時の神時代の天満幸助が変身したカオスに酷似していたのだった。

 

 

シズク「なっ……NEOカオス?!」

 

 

椛「ッ……!どういう事?わざわざ幸助君のカオスの偽物を作ったって事なのっ?」

 

 

幸助「……いや、違う……あのカオスはっ……」

 

 

クラウン『?幸助氏……?』

 

 

NEOカオス『――流石に技術者の貴様には分かるか……そう、このNEOカオスは貴様が以前に変身していたカオスのスペックや性能を遥かに上回っている以外、貴様が変身していたカオスとの相違点は一切存在しないのさ』

 

 

シズク「ッ?!相違点がないって……それって幸助のカオスと、同じって事!?」

 

 

八雲が変身してみせたカオスは、嘗ての幸助が変身していたカオスとはその性能差以外に相違点はない。衝撃的でもあり簡単には受け入れ難いその事実を聞かされ幸助以外の面々は驚愕の様子を浮かべるが、八雲が変身したカオス……『NEOカオス』は、自分のこめかみに人差し指を当てながら淡々と語り出した。

 

 

NEOカオス『実のところ、俺自身にもまだ詳しくは分かってはいない。だが、どうやら俺は貴様等のベルトの設計やその技術を記憶しているようでな……このNEOカオスも、その記憶と技術を元に俺の手で完成させた試作品の内の一つでもある』

 

 

幸助「……"試作品の内の一つ"、だと……?」

 

 

椛「まさか……そのベルト以外にも、私やシズクちゃんのベルトもっ?!」

 

 

NEOカオス『……ああ。このベルトと同時期にお前達のベルトを元にした新型機の開発も進めていた……だが、その途中で俺はある事実を知ってしまってな。残念ながらそれらのベルトの開発は断念し、このNEOカオスのベルトに改良を加えて実用化させたのさ』

 

 

クラウン『?ある事実……?もしや……』

 

 

八雲がゲートドライバー以外のベルトの開発を断念した理由。その理由に何か思い当たる節があるのか、顎に手を添えるクラウンがハッと顔を上げると、NEOカオスは腰のバックルに触れながら話を続けた。

 

 

NEOカオス『このベルトや貴様等のベルトの新型機を開発する事は俺にも可能のようだが……そのベルトの真価を完全に発揮するには、どうあっても貴様等が持つ"因子"が必要不可欠のようでな。例えベルト自体を完成させたとしても、それらが揃わなければベルトは真の意味で完成しない……そんなモノに労力を注ぐなど、単なる時間の無駄でしかない。だから完成間近だったこのベルトは予定を変更し、俺の力のリミッターとして完成させたのさ……要するに貴様のメモリーと同じという意味だよ、断罪の』

 

 

幸助「……大した自信じゃねえか。俺達相手に、自分の力を抑える余裕があるとはな」

 

 

NEOカオス『そうでもしなければ俺が"全力"を出せない事は、貴様がよく分かっているだろう……?これでもお前達との再会を密かに愉しみにしていたんだ。それなのに全力を出せないなど、そんなのは嘘だろ?』

 

 

幸助「……そうか。そっちがそう望むなら、こっちも容赦はしねぇ――」

 

 

力強くそう答えると、幸助は腰にメモリドライバーを装着しながら横目でカルネとグランを見る。あちらもアバドンイレイザーの暴走を止めようと奮闘している。ならばこちらも、八雲達があちら側に余計な介入をせぬよう止めるまでだと、NEOカオスとヴリトライレイザーを睨み据える。

 

 

幸助「―――貴様との因縁も、今度こそ此処でケリを付けさせてもらうっ……!」

 

 

『変身ッ!!』

 

 

『CHANGE UP!MEMORY!』

 

『GATE UP!』

 

『Mei-O Form!』

 

 

幸助とシズクと椛は一斉に変身を動作を行い、メモリー、ガイア、冥王に変身したのだった。そしてそれを横目にクラウンが先に先制を打つべく一歩前へ踏み出そうとするが、変身したメモリーがクラウンの肩を掴んで強引に引き戻しながらNEOカオスとヴリトライレイザーに目掛けて駆け出した。

 

 

クラウン『ッ?!幸助氏ッ!!』

 

 

メモリー『おおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

背中のマントを風で激しく揺らしながらNEOカオスとヴリトライレイザーに向かって突っ込み、メモリーは右手に握ったメモリアルブレイドを振りかざし二人に目掛けて飛び掛かろうと勢いよく跳躍した。が……

 

 

 

 

 

NEOカオス『――大地を揺らせ、ノーム……』

 

 

―ブオオォォッッ!!!!ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッッッ!!!!!!―

 

 

メモリー『ッ?!ぬ、おっ?!』

 

 

―ガシャアアアァァンッッッッ!!!!!!―

 

 

ガイア『ッ!幸助ッ?!』

 

 

NEOカオスが静かにそう呟きながら見えない何かを掬い上げるように右手を軽く上げた瞬間、それに呼応するかのように突如メモリーの真下の大地が巨大な崖となって勢いよく迫り上がりメモリーと激突したのであった。

 

 

そして巨大な崖の上に押し上げられ滑るように倒れ込んでしまいながら咄嗟に身を起こすメモリーだが、NEOカオスとヴリトライレイザーが立つ大地までもが巨大な崖となって勢いよく浮上しメモリーが倒れる崖を軽々と越え、更にNEOカオス達の崖の上から紫色の雷光が降り注ぎメモリーに浴びせられた。

 

 

―バチィイイイイイイイイイイイイイイィッッ!!!!!!―

 

 

メモリー(グゥッ……?!この攻撃の感覚、ヴォルトの雷っ……?!それに大地を動かしているこの力は、ノームの……?!)

 

 

 

 

―……言ったハズだろう?このNEOカオスは貴様が以前変身していたカオスとの相違点はスペック以外存在しない。生前の貴様が手に入れた能力をも再現した上で改良を加え、こうして貴様が使役していた精霊共の力も行使出来るというワケだ―

 

 

 

 

メモリー『ッ……!チィッ!』

 

 

困惑するメモリーの疑問にわざわざ答えるかのように、メモリーの頭にNEOカオスからの念話が送られてきた。それを聞いて忌ま忌ましげに崖の上を睨み付けると、メモリーはその戯言ごと振り払うように全身に浴びせられる雷を打ち払いながらNEOカオスがいる崖の上を目指して勢いよく駆け出し、NEOカオスは崖の上からそれを見下ろしながら大地に向けて左手を伸ばし……

 

 

NEOカオス『吹き荒れろ、シルフの暴風……』

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴオォッッ……ビュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

NEOカオスの言葉と共に、荒野の数ヶ所にて無数の墓石を破壊しながら暴力的な風が巻き起こって巨大な竜巻が複数発生した。それらは無数の墓石の破片をも取り込んで殺傷力が増しており、無数の竜巻はまるで個々に意思を持っているかのように、メモリー達に牙を剥いて襲い掛かっていくのであった。

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)②

 

 

―ビュウウゥゥゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

ジークローバーWDD9『ッ?!な、何だ、この竜巻はッ?!』

 

 

NEOカオスがシルフの力で巻き起こした無数の竜巻。禍々しい精霊の力で発生したそれらは、メモリー達から離れた場所でアバドンイレイザーを食い止めようと奮闘するカルネとグランが変身したジークローバーの周りにも大量に発生し、カルネとジークローバーに牙を剥き襲い掛かっていた。

 

 

―バゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーオォオオンッッッッ!!!!!―

 

 

『グゥッ?!僕達を狙っている……?それにこの力は、精霊の……?!』

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!』

 

 

カルネとジークローバーを集中的に狙う無数の竜巻を二人が必死に避け続ける中、二人の頭上から突然獣のような雄叫びが響き渡った。その声に釣られて思わず二人が頭上を見上げると、其処には空高く上空に跳躍したアバドンイレイザーが両手の鋭い爪を振りかざしながら二人に目掛けて落下して来る姿があり、それを見た二人はすぐさまその場から跳び退いたが……

 

 

―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアンッッッッッ!!!!!!―

 

 

『ッ?!地面がッ!』

 

 

二人に目掛けて振り下ろされた両手はそのまま地面に叩き付けられ、一瞬で地盤が沈没し無数の瓦礫が宙に浮き上がったのだ。しかしカルネとジークローバーは崩れそうになったバランスを咄嗟に立て直して着地し、それぞれの剣にエネルギーを纏い素早く駆け出してアバドンイレイザーに斬り掛かっていくが、アバドンイレイザーは片足を上げて二人の剣の受け止めながら回転してカルネを殴り飛ばし、ジークローバーの剣撃と打ち合っていく。

 

 

―ガギイィッ!!ギィンッグガアァンッズガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

ジークローバーWDD9『クッ……!もう止めろ零ッ!!これ以上暴走すれば、お前はっ……!!』

 

 

『■■■■■■ァアアアッッッ!!!!』

 

 

―ドグオォオオオオッッッ!!!!―

 

 

ジークローバーWDD9『ウグアァァッ?!!』

 

 

『グラン坊やッ!!』

 

 

必死にそう呼び掛けるジークローバーの説得にも耳を傾けず、アバドンイレイザーはとてつもない馬鹿力の前蹴りでジークローバーを吹っ飛ばしてしまう。それを見たカルネもすぐにジークローバーを援護しようと背後からアバドンイレイザーに飛び掛かり剣を振りかざすが、アバドンイレイザーはまるで背中に目が付いているのかのように咄嗟に反応して振り向き様にソレを蹴りで払い退け、カルネの胴体に斬撃を叩き込んで後退りさせてしまう。

 

 

『ガアァッ!!グゥッ……零坊やっ、イレイザーの力に飲み込まれては駄目だッ!このままでは戻って来れなくなるぞッ!』

 

 

『■■■ァ……!!』

 

 

斬り刻まれた胸から白い煙を立たせながらも剣を構え直して諦めずに呼び掛けるカルネだが、アバドンイレイザーはただただ獣のような唸り声と共に白い吐息を吐きながらそんなカルネに迫り、両腕に不気味な黒い炎を纏わせて再びカルネに襲い掛かる。それに対してカルネも咄嗟に剣で捌いてどうにか凌ごうとするも、アバドンイレイザーは追撃の速度を更に速めていき、カルネの一瞬の隙を突いてその身体を貫こうとした。次の瞬間……

 

 

『Attack Function Cosmo Slash!』

 

 

ジークローバーWDD9『ハァアアアアアアアッ!!!!』

 

 

―ズバアァアアアアッッッッ!!!!!!―

 

 

『……!』

 

 

―ガギイィィッッッ!!!チュドオォオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッッッ!!!!!―

 

 

『ッ?!コレは……!』

 

 

アバドンイレイザーの鋭爪がカルネの右胸を貫こうとしたその時、不意に響いた電子音声と共に先程吹っ飛ばされたジークローバーがアバドンイレイザーに向け背後から剣を振るい巨大な斬撃波を放ったのだった。

 

 

そしてそれにいち早く反応したアバドンイレイザーが振り向き様に突手を放って斬撃波と激突した瞬間に巨大な大爆発が巻き起こってアバドンイレイザーを飲み込み、その隙にジークローバーは素早くカルネの腕を掴んでその場から離れた。

 

 

『グラン坊や……!』

 

 

ジークローバーWDD9『一旦離れるぞッ!奴と俺達とのパワーの差がダンチ過ぎるッ!このまま打ち合い続ければこっちが――!』

 

 

このまま正面から戦い続けては何れ押されてしまうと冷静に分析し、アバドンイレイザーが足止めを受けている隙に一度カルネと共に離脱して作戦を立て直そうとするジークローバー。しかし……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥッ……バシュウウゥゥッッッ!!!!!―

 

 

『『……ッ?!!―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッッッッ!!!!!―ぐああああああああああああああああっっっ?!!!』』

 

 

 

 

 

アバドンイレイザーの姿が消えた爆炎の向こうから、音速を越える速度で一発の朱い光弾が放たれ、ソレは一瞬で二人に迫って直撃し再び巨大な爆発を起こしたのである。不意を突かれる形で直撃を受けてしまった二人はそのまま爆風で吹っ飛び、無数の墓石に激突しながら地面を滑る様に叩き付けられていき、ふらつきながら上体を起こして光弾が放たれてきた方に視線を向けると、其処には……

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥゥッ…………―

 

 

『■■■■■■■ァァァァァァァッ……!!!!』

 

 

轟々と燃え盛る赤い炎の中に佇む黒い悪魔……ジークローバーの必殺技を受けたハズのアバドンイレイザーの姿があった。しかしその姿は先程までと僅かに違い、身体が生々しかった肉の体からまるで西洋の鎧に、顔全体が甲冑を連想させるような仮面を身に付けた姿へ変貌していたのだ。

 

 

ジークローバーWDD9『な、なんだ……?姿が変わっているっ?!』

 

 

『肉体を変換させた……?いや……もしかしてあのイレイザーは、状況に応じて自分の外見を複数の姿形に使い分ける事が出来るのかっ?!』

 

 

予想外な特殊能力で自身の外見を変化させたアバドンイレイザーを見据え困惑と驚愕を露わにするカルネとジークローバーだが、甲冑姿に変身したアバドンイレイザーはそれに構わず何処からか赤黒い槍のような武器を取り出すと、二人に目掛けて地面を勢いよく蹴りながら再び襲い掛かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

一方その頃、メモリー達はNEOカオスがノームの力を行使して地形を操り無数の巨大な岩山を作り上げられたせいで分散させられてしまっていた。だが四人は怯む事なく各自それぞれに動き出し、NEOカオスがいる一番巨大な岩山の上を目指そうとしていたが……

 

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!!!ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッッッッッ!!!!!!―

 

 

冥王『グウゥッ!ウゥアァッ!!』

 

 

クラウン『クッ?!椛嬢ッ!!』

 

 

NEOカオスがシルフの力で呼び起こし、更に墓石の破片を孕んだ無数の竜巻が、岩山の頂上を目指そうとするメモリー達を阻むように絶え間なく襲い掛かっていたのだった。道中で合流を果たしていたクラウンと冥王は四方八方から息遣いをする隙もなく襲い掛かる竜巻を必死に回避し続けるが、その余りの数の多さに避け切れずに冥王が直撃を喰らって吹き飛ばされてしまっていた。更に……

 

 

―バシュウゥゥッッ!!!ドッガアァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァンッッッッ!!!!!!―

 

 

ガイア『熱っ、クッ?!』

 

 

『何処を見ているのさァッ!!!』

 

 

また他の場所では、冥王達と同じように頂上を目指すガイアが竜巻の上に乗ったヴリトライレイザーが放つ広範囲の火炎放射に追われ、まるで蛇のように襲い掛かる炎を全力で回避した矢先に頭上から落下してきたヴリトライレイザーの踵落としを咄嗟に両腕で防御して受け止め、地面が大きく沈没してしまった。そして……

 

 

―ガギイイイイイイイィィィィィィィッッッ!!!!―

 

 

メモリー『チイィッ!!グッ、うおおおおおおおぉッ?!』

 

 

同じく単独で岩山の頂上を目指して険しい岩山を駆け登り続けるメモリーにも、上空から無数の竜巻が迫り襲い掛かっていた。

 

 

しかしメモリーも負けじとメモリアルブレイドの一刀でどうに無数の竜巻を打ち消しながらなんとか崖の上を駆け登るが、メモリーが駆ける足元の地盤が幾度の竜巻の激突によって崩壊してバランスを崩してしまい、その隙を突くように無数の鋭利な破片を孕んだ竜巻がメモリーを飲み込んでしまったのだった。

 

 

クラウン『クッ……ッ?!幸助氏ッ!!』

 

 

無数の竜巻を退けてた最中にその光景を偶然にも目の当たりにしたクラウンは思わずその場で足を止めてしまい、直ぐさまメモリーの救出に向かうべく走り出そうとする。しかし……

 

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……ドシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアァッッッッ!!!!―

 

 

クラウン『ッ?!―ズバババババババババババババババババッ!!!―グゥッ、ウゥアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!』

 

 

クラウンの足元が突如激しく震動し、直後にクラウンの真下の地中から別の竜巻が飛び出しクラウンを飲み込み吹っ飛ばしてしまったのだ。そして、無数の鋭利な破片の数々がクラウンの全身を突き刺しながらそのまま地上に思いっきり叩き付けてしまい、それを見た冥王が慌ててクラウンの傍へと駆け寄った。

 

 

冥王『クラウンッ!!』

 

 

―ピシッ、ピシィ……パラパラパラッ……―

 

 

アレン「―――ゥッ……ッ……幸助君ッ!!!」

 

 

―バシュウウゥッ!!!―

 

 

顔に被るイツワリの仮面の一部が皹割れて素顔が露わになりながら身体を起こし、クラウン……否、アレンは竜巻に囚われるメモリーに目掛けて左手から一筋の光りを放った。そして光りはまるで流星の如く竜巻を突き抜けてメモリーの下へ辿り着いた瞬間、円形状の透明なバリアに変化し竜巻と無数の破片の猛威からメモリーを守っていく。

 

 

メモリー『ッ?!これはっ……!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

だが、竜巻と無数の破片の脅威は止まらない。障壁に守護されるメモリーの真下から無数の破片達が構わず突き刺り続けていき、NEOクロノスがいる岩山の頂上にまで押し上げ、遂にそのまま岩山の頂上の上空まで辿り着いた瞬間……

 

 

―ビシイィィッッ……ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアァァンッッッッッッ!!!!!―

 

 

NEOカオス『……ほう』

 

 

冥王『?!幸助君ッ!!』

 

 

アレン「ッ!椛ちゃんっ!貴女一人ではっ、グッ……!!」

 

 

無数の破片が痛々しく突き刺さったバリアが遂に限界を迎えてしまい、メモリーを内側に抱えたまま大爆発を巻き起こしてしまったのだった。その様子を遥か地上から目にした冥王は慌てて頂上を目指して駆け出していき、アレンも咄嗟にその後ろ姿を止めようとするも、先程のダメージが響き身体を抑えてうずくまってしまう。そして……

 

 

メモリー『グゥッ、ぅおああああああああああああッ!!!』

 

 

―ガシャッ!ガシャアァンッ!ズシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!―

 

 

バリアの爆発に巻き込まれたメモリーは上空から岩山の頂上へと滑るように叩き付けられていくが、その姿は既に此処に辿り着くまでに受けた数々のダメージで痛ましい姿になっていた。激しい突風に揺れる背中のマントや、ボディの所々が泥や傷でボロボロと化しており、NEOカオスはそんなメモリーの姿を見てNEOカオスブレイドを右手に握り締めながら目を細めていく。

 

 

NEOカオス『そんな足枷にしかならない仮面と鎧に縛られた状態でまだ、俺と戦うつもりか……?』

 

 

メモリー『ッ……貴様には十分なハンデだろうッ!!』

 

 

そう怒号を飛ばすと共に、メモリアルブレイドを杖代わりにふらつきながら駆け出してNEOカオスに斬り掛かるメモリー。だがNEOカオスもメモリーが振りかざす斬撃をNEOカオスブレイドで次々と弾き返していき、メモリーが剣撃を払われた際に生まれた一瞬の隙を突く様に瞬時に冷気を纏わせた左手をメモリーに目掛けて振るい、それを見て直感的に危険を感じたメモリーは咄嗟に後方へと跳躍するも僅かに掠ったのか、左腕が指先から肘に掛けてまで凍り付き始めていた。

 

 

メモリー『ッ……!今度はセルシウスの氷か……!』

 

 

NEOカオス『……本来なら僅かに掠った程度でも、人間の全身を凍り付かせる程の冷気なのだが、やはり貴様が有する対魔力の前では無意味に等しいな……が―――』

 

 

―シュンッ!―

 

 

冥王『ハアアァッ!!!』

 

 

NEOカオスが淡々と何かを言い切ろうとした直前、メモリーを追い掛けて頂上へと辿り着いた冥王がNEOカオスの背後から頭上へ飛び出し、その両手に握り締めた薙刀をNEOカオスの首級に目掛けて躊躇なく振り下ろし斬り裂いた。が……

 

 

―…ブオォンッ!―

 

 

冥王『ッ?!消え――!』

 

 

NEOカオス『―――闇の精霊、シャドウの力を応用して生み出した"影"だ』

 

 

―ガシイィッ!!―

 

 

冥王『グッ?!ウアアァッ!!』

 

 

メモリー『?!椛ッ!!』

 

 

冥王が振り下ろした薙刀に斬り裂かれたNEOカオスが影の様に消え去り、それを見て動揺する冥王の背後にいつの間にか回り込んだNEOクロノスが冥王の後頭部を左手で掴んでその体を持ち上げてしまったのだ。そして身体を宙吊りにされジタバタともがく冥王の姿を見上げながら、NEOカオスは仮面の下で意味深な笑みを浮かべてメモリーに語り掛ける。

 

 

NEOカオス『懐かしい図だ……そういえばこの女の"最期"も、コレと似た状況だったか』

 

 

メモリー『ッ……!!』

 

 

NEOカオス『同じ悲劇の焼き直しなど俺の趣味ではないのだが、折角だ。再会を祝してもう一度再現するか、断罪の?……『あの時の光景』を』

 

 

メモリー『クッ!!』

 

 

その言葉と共に、メモリーの脳裏を一瞬だけある光景……生前、スバルの仇討ちの際になのはが八雲に殺害された時の惨劇が過ぎり、その記憶に弾かれるようにメモリーは冥王を助け出すべく凍り付けにされた左腕を無視してNEOカオスに突っ込もうとし……

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォォンッッッッ!!!!!!!―

 

 

メモリー『?!ウオオォッ?!』

 

 

その僅かに芽生えた焦りが油断へと繋がって反応が遅れたのか、メモリーの頭上から不意を突くようにまた別の竜巻が降り注ぎ、メモリーを襲って吹っ飛ばしてしまったのだった。

 

 

冥王『ッ?!こ、幸助君っ……!!』

 

 

―シュタッ―

 

 

『――フフッ』

 

 

その竜巻に乗って頂上へと上ってきたヴリトライレイザーがNEOカオスの隣に静かに降り立ち、それと入れ代わるようにメモリーが頂上から投げ出されてしまう中、先程メモリーを吹き飛ばした竜巻がメモリーを追尾し……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァッッッッッッ!!!!!!―

 

 

メモリー『グ……グゥオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

落下するメモリーを竜巻が飲み込み、それと共に無数の鋭利な破片がメモリーの全身を容赦なく串刺しにしていったのだった。そしてメモリーは悲痛な叫び声を上げながら遥か地上へ落下して叩き付けられていってしまい、漸く動けるようになるまで回復したアレンがその轟音に気付いて顔を上げると、遥か岩山の頂上の崖端に佇むNEOカオスに後頭部を掴まれて宙吊りにされる冥王の姿が見えた。

 

 

アレン「ッ?!椛ちゃんッ!!」

 

 

冥王『うぅっ、うぁあああっ!』

 

 

NEOカオス『断罪には僅かに劣るが、貴様も大した対魔力を備えてるようだな……だが――』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥゥッ……バシュウウゥゥッッッ!!!!!―

 

 

冥王『――?!!』

 

 

NEOカオスが其処で言葉を区切った次の瞬間、冥王の後頭部を掴む左腕から凄まじいまでの冷気が放出され、冥王の全身が白煙に覆われながら一瞬で凍り付けにされてしまったのだった。そして……

 

 

NEOカオス『――奴ほどの対魔力がなければ、この凍気には抗えんよ……』

 

 

―パッ……―

 

 

NEOカオスがそんな冥王の後頭部から手を離すと、凍り付けにされて身動きが取れない冥王は重力に逆らえずそのまま地上に目掛けゴロゴロと勢いよく岩山を転げ落ちていってしまうが、地上からその様子を目にしていたアレンは慌ててその場から飛び出し、地上に叩き付けられる寸前の冥王をギリギリ抱き留めていった。

 

 

―ガバァッ!!―

 

 

アレン「グッ!はぁ、はぁ……椛ちゃん、大丈夫ですかっ?」

 

 

冥王『――ぅ……ぐっ……これ、ぐらい……!』

 

 

冥王の身を案じてアレンが顔を覗き込むと、頂上から転げ落ちてきた際に岩場に激突して砕けてしまったのか、冥王の仮面部分が破損し素顔が露わになっている。しかもセルシウスの氷で全身を凍り付けにされ未だ身動きは取れず、頂上からその様子を見下ろしていたNEOカオスはすぐに思考を切り替えて左手の掌の上に一つの黒いエネルギー球を形成すると、左手を頭上に掲げて、暗雲に覆われた灰色の空にエネルギー球を打ち上げた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

―バチッ、バチバチバチィッ…………ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォンッッッ…………!!!!!!!!―

 

 

アレン「ッ?!アレは……?!」

 

 

 

 

 

 

NEOカオスが打ち上げた黒いエネルギー球が暗雲の向こうに消えたその直後、巨大な火花が撒き散らったと共に空を埋め尽くす暗雲が徐々に退けられていき、雲が晴れた空の向こう側には異様な光景……高々と聳え立つ岩山の上空に、巨大な次元の裂け目が発生していたのであった。

 

 

『……随分デカイ目印ね。ちょっと目立ち過ぎじゃない?』

 

 

NEOカオス『"向こう側"に伝わるようにするなら、これぐらい大袈裟でなくては意味はない……ともかくこれで―――』

 

 

―ガギイィィッッ!!!―

 

 

何かを言いかけたNEOカオスの言葉を遮るように、背後で突如金属の激突音が響き渡った。だがNEOカオスは特に大した反応もないまま背後に振り返ると、其処にはNEOカオスに目掛けて降り抜いた拳をヴリトライレイザーの右足に遮られたライダー……ガイアの姿があり、ガイアは受け止められた拳を見て舌打ちしながら咄嗟に二人から距離を離した。

 

 

NEOカオス『残るはお前だけだな、天満シズク』

 

 

ガイア『ッ……一体何をしたの、八雲っ?これは一体っ……!』

 

 

NEOカオス『大した事は何もしていないさ。ただ、俺の仕事の"最後の仕上げ"をしたまでだ』

 

 

ガイア『……?仕上げ?』

 

 

不可解なワードを口にするNEOカオスに怪訝な顔を浮かべるガイア。それに対してNEOカオスは無言のまま上空に発生した次元の裂け目を見上げると、淡々とした口調で続きを語り出す。

 

 

NEOカオス『もう少し分かりやすく説明するなら、あの裂け目は所謂"道標"という奴さ……今まで向こう側に追放されたある連中を、こちら側へ誘う為のな』

 

 

ガイア『ある連中って……ッ!まさかっ?!』

 

 

NEOカオスのその言葉で何かを察したのか、ガイアは目を見開き、NEOカオスはその反応に僅かに口元を歪めながら口を開いた。

 

 

NEOカオス『そう……"今まで追放されてきた無数のイレイザー"……あの裂け目は向こうに追いやられたその連中を、こちら側へ誘う為の出入り口なのさ。直に奴らもあの裂け目の存在に気付き、一度に此処を目指して押し寄せて来るだろうよ』

 

 

ガイア『そんな……分かっているの?!そんな事をすれば、一体どんな事になるか……!』

 

 

NEOカオス『今まで追放された全てのイレイザー共がこちら側へ侵入し、様々な世界に散らばっては自分勝手に都合のいい物語を書き換え始める……だろう?だからこそだ』

 

 

冷淡な声でそう答え、NEOカオスはガイアに再び目を向ける。

 

 

NEOカオス『あの出来損ないに書き換えられたこの世界は駄作以外の何物でもないが、此処がイレイザーの手で作られた世界である事に変わりはない……それだけでも利用価値はあるんだよ。この世界は既にメモリアルの管轄から切り離された物語であり、他のイレイザーにとってはこちら側へと戻って来れる、唯一の"抜け穴"でもあるからな。そうして奴らがこちら側で好き勝手に改変を繰り返し、他のイレイザーが活動しやすい環境にしてくれれば、残りの"クリエイト"達もこちら側へ来られるようになる……』

 

 

ガイア『ッ……それも貴方の目的の一つだったんだねっ……』

 

 

"クリエイト"……上級イレイザー達で構成され、八雲とシュレンもその一員として加入している組織の名だ。恐らく八雲は、向こう側にいる自分とシュレン以外の他のクリエイトの面々をこちらへ誘うという目的も含み、零をイレイザーに堕としたのだろう。

 

 

NEOカオス『俺の目的というよりは、クリエイトの目的に過ぎんさ。俺が命じられた役目を全て果たした以上、此処からどのような結果になろうと俺の知ったことではない。寧ろ―――』

 

 

チャキッと、NEOカオスが静かに身構えたNEOカオスブレイドの刃が妖しく輝き、刀身にジェネシックの姿が映し出される。

 

 

NEOカオス『―――此処からが俺個人の、本当の愉しみなんだ。今度は簡単に殺されてくれるなよ、破壊の女神……?』

 

 

ガイア(……?"今度"は……?)

 

 

拳を身構えながらNEOカオスの言い回しに違和感を感じるガイアだが、思考に浸らせる余裕など与えられはしなかった。口火を切るようにヴリトライレイザーが両腕に火炎を纏いながらガイアに飛び掛かって拳を飛ばし、ガイアが咄嗟に身を屈めそれを回避した直後にNEOカオスの剣がガイアに襲い掛かったのであった。

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)③

 

 

―バチッ、バチバチバチィッ…………ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォンッッッ…………!!!!!!!!―

 

 

『ッ?!何だ……?!』

 

 

そして同じ頃、激戦が繰り広げられるメモリー達から離れた場所で暴走するアバドンイレイザーを抑えようと試みるジークローバーとカルネも、NEOカオスの手によって灰色の空に打ち上げられた道標に気付き、揃って困惑と驚愕の様子を隠せないでいた。

 

 

ジークローバーWDD9『何だアレは……空に亀裂が……?!』

 

 

『この感覚は……向こう側と繋がっているッ?!黒月八雲の仕業かッ!!』

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!』

 

 

幸助達と八雲が戦っている岩山の上空に突如出現した巨大な次元の裂け目を目にして驚愕してしまう二人だが、そんな暇すら与えないと言わんばかりに甲冑姿に変化したアバドンイレイザーが先程までの理性のない戦いぶりがまるで嘘のように、槍のような武器を巧みに操りながらカルネとジークローバーに素早く襲い掛かっていき、二人は咄嗟に我に返りアバドンイレイザーの槍を受け止めて押さえ込んでいく。

 

 

ジークローバーWDD9『クッ!!どうするんだカルネッ?!このまま零を止められないんじゃ堂々巡りにしかならんぞッ!!』

 

 

『言われなくても分かってるッ!!だがっ……!』

 

 

目の前で起きてる異常事態も気になるが、こんな零を放っておく訳にはいかないし、何よりもこのままでは零の自我が完全にイレイザーに飲み込まれてしまう。そうなっては雷牙の世界を再生したとしても零だけが救われず、彼の仲間達にも悲しみを与える結末にしかならない。だが……

 

 

『■■■■アァァッッッッ!!!!!』

 

 

―ギュイィィィッ……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオォンッッッッ!!!!!!!―

 

 

ジークローバーWDD9『グッ?!クソッ!!』

 

 

『ぐうぅッ!!』

 

 

アバドンイレイザーが自身の持つ槍全体に真紅のエネルギーを纏わせ、勢いよく横薙ぎに槍が振るわれたと共に全包囲に紅い衝撃波が放出され、それを見てすぐさまそれぞれの得物で必死に凌ぐ二人に容赦なく襲い掛かる。零を止めようにも、先ずはどうにかして彼が正気を取り戻さなけれねば助けようがない。だが……

 

 

―シュンッ……ガギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイィンッッッッ!!!!―

 

 

『ガハアァッ!!』

 

 

ジークローバーWDD9『ッ!カルネッ!!』

 

 

その肝心の方法が思い浮かばず焦りばかりが募る中、紅い衝撃波が止んだと共にアバドンイレイザーが一瞬でカルネの懐に飛び込み、紅い光を纏った槍を素早く振るって無数の斬撃を打ち込みカルネを吹っ飛ばしてしまったのだ。そしてジークローバーは咄嗟にカルネの下に駆け寄って彼を守るように剣を構え直し、アバドンイレイザーも次の標的をジークローバーに定めて再び攻撃を仕掛けようとした。が……

 

 

 

 

 

 

―ピタッ―

 

 

『■■■■■■■■■――――――………………ァ…………………』

 

 

 

 

 

 

突如前触れもなく、二人に再度襲い掛かろうとしたアバドンイレイザーは長槍を振りかざした状態のまま固まり、その動きを止めたのであった。

 

 

ジークローバーWDD9『……?何だ?』

 

 

『ッ……動きが……止まった?』

 

 

そんなアバドンイレイザーの姿を目にし、二人もまた困惑を隠せない様子で構えを解きながら思わず互いの顔を見合わせた。先程まで見境なく暴れ回ってたにも関わらず、何故急に動きが止まったのか。不可解げな様子を浮かべつつもアバドンイレイザーを警戒する中、アバドンイレイザーが僅かに身体を震わせ……

 

 

『…………………ェ…………………ど……………………』

 

 

ジークローバーWDD9『?!今のは……声?』

 

 

微かに、風が吹けば掻き消えてしまいそうなほど小さな声が、アバドンイレイザーから聞こえたのである。運よくその微かな声を聞き取れた二人は驚愕しつつも、すぐに耳を澄ませ、アバドンイレイザーが微かに発する声に耳を傾けると……

 

 

 

 

 

 

『………………フェ………………イト………………ア、リシア………………リイン、フォース………………ルーテシ……ア………………どこだ……………どこにいるっ………………?ぜったいに………………ぜったいに………………タス………………タスケッ……………ァ………………ァァ………………ァァァァァァァァアアアアアアッッッッッ………………!!!!!!!』

 

 

『……零、坊や……』

 

 

 

 

 

 

途切れ途切れに、懸命に喉の奥から絞り出すかのようにアバドンイレイザーの口から発せられたのは、書き換えられてしまった雷牙の世界で、八雲の策によって望まぬ殺し合いをさせられてしまったフェイトとアリシアとリインフォース、そしてクアットロの操り人形として零を窮地に追い込んだ一人であるルーテシアの身を案じる零の声だったのだ。

 

 

恐らくあれが、先程幸助が言っていた僅かに残された零の自我。そしてその声で、二人は咄嗟に零が今どんな状態にあるのか悟った。

 

 

あのイレイザーの中に囚われる零の意識は、自分がどんなに醜い姿になっているのかも分からないまま、今もフェイト達を助ける為に雷牙の世界でヴリトライレイザーやΦ達と戦っているつもりでいるのだ。

 

 

……そのフェイト達や仲間達を、自分が世界ごと手に掛けたとは知らずに。

 

 

ジークローバーWDD9『――カルネ……此処から先は、本気で行くぞ』

 

 

『!グラン坊や?』

 

 

不意に、ジークローバーが身に纏う雰囲気が真剣な物へと変わり、カルネが怪訝な顔でジークローバーを見上げると、ジークローバーはアバドンイレイザーを見据えたまま口を開く。

 

 

ジークローバーWDD9『これ以上、零を苦しめる訳にはいかないだろ。それにあの亀裂に関しても、黒月八雲がまだ何か事を起こそうとしてるのは間違いない筈だ。……それはお前にだって、分かってるんだろ?』

 

 

『…………そうだな』

 

 

短くそう答えて、ゆっくりと身を起こして立ち上がるカルネ。そうして二人が見据えた先には、アバドンイレイザーが左手で顔を覆いながらもがき苦しむような姿があり、カルネとジークローバーは肩を並べて立ち並んだ。

 

 

『君の言う通りだ……今は、なのは嬢ちゃん達と幸せに願ってるリィル嬢ちゃんの為にも、零坊やを止めてみせる―――リミット解除、暗黒狼魔翼開放ッ!』

 

 

ジークローバーWDD9『聖杯・<希望>、起動ッ!』

 

 

『mode Messaih!』

 

 

カルネとジークローバーがそれぞれに雄叫びを上げると共に、カルネの背中から悪魔を彷彿とさせる巨大な翼が生え、ジークローバーも自身が身に付ける赤龍帝の籠手から電子音が響くと同時に右手に嵌めた指輪を腰に巻いたベルト……ジークマギドライバーに翳していく。

 

 

『Infinity Dragon!Please!』

 

『he-SuiFooDo-!BouZabaByuuDogo-n!』

 

 

再度電子音声が鳴り響き、それと共にジークローバーは頭上から出現した銀色の魔法陳を潜り抜け、まるでダイアモンドを連想させるような美しい姿に……ジークローバー・インフィニティドラゴンメサイアに変化し、指輪を嵌めた右手をアバドンイレイザーに向けて掲げながら高らかに告げる。

 

 

ジークローバー∞D・M『さぁ、ラストショータイムだッ!!』

 

 

『行くぞ、零坊や……少しばかり、辛抱してくれよ』

 

 

『ィ…………ガッ…………ァァァァアアァァァアアアアアッッッ―――――――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!』

 

 

二人が強化形態に変身した姿のそれに対し呼応したのか、アバドンイレイザーは全身を覆う甲冑の隙間から血の様に赤い閃光を放ちながら獣の咆哮を上げ、左手にも槍を生成して二人に目掛け飛び掛かり、カルネとジークローバーもほぼ同時に地を蹴って飛び出しアバドンイレイザーが振り下ろす双槍と激突していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―次元の裂け目眼下・岩山の頂上―

 

 

―ガギイィィッ!!バキイィッズガガガガガガアァッ!!バキイィンッ!!!―

 

 

ガイア『くうぅッ!ハアァッ!』

 

 

NEOカオス『フッ!』

 

 

その一方、メモリーがほんの一瞬の隙を突かれ岩山の頂上から遥か地上に墜落し、同じく全身を凍り付けにされた冥王が地上で回復に専念していたアレンに助けられる中、ガイアは単独でNEOカオスとヴリトライレイザーを相手に奮闘していた。

 

 

NEOカオスの後方からヴリトライレイザーが無数に放つ火炎弾を足蹴で上手く蹴り落とし、その隙を突くように斬り掛かるNEOカオスの剣撃を捌きつつ反撃して打撃技を打ち込むが、NEOカオスはガイアの拳を掴みながら仮面の下で目を細めた。

 

 

NEOカオス『流石にあの二人みたく簡単に隙を曝さないか……まぁ、貴様とはあの二人ほど因縁が薄いのだから当然の話か』

 

 

ガイア『ッ!訳の分からない事をッ!』

 

 

NEOカオスの言葉を戯言と切り捨て、ガイアが勢いよく振り上げた回し蹴りがNEOクロノスの頭を捉えた。だがNEOカオスも瞬時にガイアの手を離しながら素早く屈んで足払いを掛け、宙に浮いたカオスに膝蹴りを打ち込み空に飛ばしていってしまった。

 

 

ガイア『グッ……!タイムクイックッ!』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

NEOカオス『タイムクイック……』

 

 

『TIME QUICK!』

 

 

―フッ……ズガガガガガガアガガガガガガガガガガガガガガガアァァッ!!!!ドゴオォォンッドゴオォォンッドゴオォォンッドゴオォォンッ!!!!―

 

 

上空へと投げ出されたガイアが苦悶の表情と共に瞬時にタイムクイックを発動させ、それを見たNEOカオスもタイムクイックを発動させると二人の姿がほぼ同時に何処かへと掻き消え、直後に何かと何かが衝突する激突音と衝撃波が岩山の上空の至る所で巻き起こっていく。そして一際大きい衝撃波が上空で発生した直後に、ガイアとNEOカオスが漸く姿を現して岩山の頂上に着地し、ガイアが再度NEOカオスに仕掛けて駆け出そうとした。その時……

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥッ……ドゴオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッ!!!!―

 

 

ガイア『ッ?!な、何?!』

 

 

 

 

 

岩山の上空の次元の裂け目の向こう側が一瞬だけ輝き、裂け目の向こうから突如一筋の閃光が飛来してきたのであった。そして閃光はそのまま岩山の頂上の真上を過ぎ去って遥か地上へと墜落して爆風を巻き起こし、爆風が徐々に晴れていくと……

 

 

 

 

 

『―――グオァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

『……戻ってきた……戻ってきたぞぉぉおおおおぉぉぉぉおおおッ!!!!』

 

 

『ウゥオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

 

 

 

爆風の中から姿を現したのは、昆虫や肉食獣の姿形を持った数十体の異形の群れ。高らかに歓喜の雄叫びを上げるその異形達の正体は、八雲とシュレンと同じく嘗て大罪を犯して物語から存在を許されなくなり追放された者達の末路の姿……イレイザーの大群だったのである。

 

 

ガイア『イレイザーが……!』

 

 

NEOカオス『漸く最初の連中が来たか……シュレン、奴らを率いて各世界に散蒔かせろ。自分達の好きなように、物語を改変しろとな』

 

 

『はいはい、言われなくともやりますよーっと』

 

 

カオス『ッ!そうはさせっ―ガギイィィッ!―ウグゥッ?!』

 

 

NEOカオスの指示通り、侵入したイレイザーの大群の下へ向かおうとするヴリトライレイザーを止めようと駆け出すガイアだが、それを阻むようにNEOカオスが飛び出してすれ違いにガイアを斬り伏せてしまい、NEOカオスブレイドの刃をスルリと撫でガイアに切っ先を向けていく。

 

 

NEOカオス『貴様は俺の相手をしていればいい……。お前ほどの女神が、わざわざあんな愚劣者共の相手をする必要はないだろう?』

 

 

ガイア『クッ……!』

 

 

そう言って再びNEOカオスブレイドを振りかざして斬り掛かるNEOカオスの斬撃を地面を転がって咄嗟に回避するガイア。そしてその間に地上に降下したヴリトライレイザーはイレイザー達の下へと歩み寄り、パンッパンッと両手を叩き景気の良い音を辺りに響かせた。

 

 

『ハイハーイ、イレイザーの皆さん、ちゅーもぉーく』

 

 

『……?誰だ、お前?』

 

 

『うん?誰って、貴方達をこちら側に招くお手伝いをさせてもらった者ですけど?そうね……クリエイトの一員って言えば、私が何者かは検討が付くんじゃない?』

 

 

『ッ?!ク、クリエイトっ?じゃ、じゃあもしかして、あの入り口を開けたのもアンタ達なのかい?!』

 

 

クリエイトという組織名に聞き覚えがあるのか、イレイザー達の間にざわめきが広がり互いの顔を見合わせていく。そしてそんな彼等の様子を眺めながら、ヴリトライレイザーが飄々と口を開いた。

 

 

『クリエイトを知っているなら、私等が何の為に貴方達をこちら側に招き入れたのか大体予想は付くでしょ?貴方達にはこれから――――』

 

 

と、ヴリトライレイザーが先程NEOカオスから指示された命令をイレイザー達に伝えようとした。その時だった……

 

 

 

 

 

 

―ギュイィィィィィッ……ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッッッッ!!!―

 

 

『――ッ?!』

 

 

『……あら?』

 

 

 

 

 

 

ヴリトライレイザーが本題を口にしようとした次の瞬間、突如空に浮かぶ次元の裂け目の向こう側から再び一筋の光が飛来し、まるで流星の如くイレイザー達の後方に墜落し爆風を巻き起こしたのである。それを目にしたイレイザー達は突然の出来事に動揺して思わず後退りしてしまうが、先程にも同じ光景を見たばかりのヴリトライレイザーは特に驚きはせず口元をニヤつかせた。

 

 

『思ったよりも速いペースで次が来るのねぇ……ま、この調子で集まってくれればこちらも助かるのだけど』

 

 

次に戻って来たイレイザーは集団か、或いは一人だけか。何れにせよ、一人でも多くイレイザーが集まれば改変出来る物語が増えるのだから自分達としては都合が良い。濛々と立ち込める黒煙を見据えてそう考えながら、ヴリトライレイザーは新たに襲来した侵入者を出迎えようと歩き出した。その直後……

 

 

 

 

 

 

―ボウゥゥッ……ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『――ッ?!な、クッ!』

 

 

―ズシャアァァァァッ!!!!―

 

 

『ッ?!!ギ、ガ……』

 

 

『ウゥグアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!?』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーアァァンッ!!!!!!―

 

 

 

 

 

 

――突然の出来事だった。ヴリトライレイザーが歩み寄ろうとした黒煙の向こうから突如、不意を突くように二つの炎の斬撃波が飛び出してヴリトライレイザーに襲い掛かったのだ。ヴリトライレイザーはその顔に驚きを浮かべながらも咄嗟に反応して斬撃波を避けるように後方へ跳躍するが、そのすぐ真後ろにいた二体のイレイザー達が斬撃波に斬り裂かれ爆散していった。

 

 

『クッ……!何よコレ……どうなってんのっ?!』

 

 

一体何が起きたというのか、困惑を隠そうとせずヴリトライレイザーが苦虫を噛み潰したような表情で叫ぶと、炎の斬撃波が飛来してきた黒煙が徐々に薄れて晴れていき、其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ジャキッ!―

 

 

メモリー?『………………………………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

徐々に薄れていく黒煙の中で、静かに身を屈める一人のライダー……幸助が変身するメモリーの姿が其処にあったのだった。

 

 

『ッ!断罪の神!もう復活して…………?けど、姿が違う……?』

 

 

再び目の前に立ち塞がったメモリーを見てすぐさま身構えるヴリトライレイザーだが、メモリーの姿を目の当たりにした途端その表情が訝しげな物に変わった。

 

 

よく見ると、メモリーの姿は先程までNEOクロノスと戦っていた時と違い、全身のボディが炎のように赤く染まり、複眼の色は緑に、風に揺れるマントも橙色に変化し、更に右手にはメモリアルブレイドではない見慣れぬ真紅の剣が握られている他、メモリドライバーのバックル部分には電池の様なアイテムが装填されたスマートフォン型のツールがセットされている。

 

 

ただフォームチェンジしただけかと思われるが、メモリーのあんなフォームなど八雲から聞かされていない。

 

 

―ドグオオォッ!!―

 

 

ガイア『グッ!……ッ?!幸助?!』

 

 

NEOカオス『……?断罪の……?何だ、あの姿は……』

 

 

その一方で、岩山の頂上で一騎打ちの攻防を繰り広げていたガイアとNEOカオスもメモリーの存在に気付いていたが、二人もまた初めて目にするメモリーのその姿に怪訝な様子を浮かべていく中、メモリーは無言のまま身を起こしてイレイザー達に向かって歩き出していく。

 

 

『コイツ、やろうってのかァ?』

 

 

『漸くこっち側に戻って来られたんだっ、やられてたまるかよぉっ!!』

 

 

迫るメモリーを自分達の敵であると認識し、直ぐさま各々が得意とする武器を構えて一斉にメモリーに襲い掛かるイレイザー達。だが……

 

 

―ガギイィッ!―

 

 

『ッ?!―ズシャアアァッ!!―ヌアアァァッ?!』

 

 

―ガギイイィィッ!!ズバアァッズシャアァッ!!―

 

 

『ウアァッ?!』

 

 

『ギャッ!!?』

 

 

メモリーは冷静に、最初に襲い掛かってきたイレイザーを右手に持つ真紅の剣で斬り伏せ、直後に死角から他のイレイザーが振り下ろした武器を切り払いながら斬撃を打ち込み吹っ飛ばす。更に、左腰に納めたもう一本の剣……メモリアルブレイドを勢いよく抜き取りながら居合い斬りで正面のイレイザーを斬り捨てると、バックルにセットされた赤い本の形をしたアイテムを抜き取って、真紅の剣の柄の部分に装填していく。

 

 

『数多の苦難を勇気と不屈の魂で乗り越える、真紅の不死鳥の物語!』

 

『BRAVE FINISH!』

 

 

赤い本を装填された真紅の剣からまるで物語を読み上げるかのように高らかな電子音声が響き渡り、それと同時に真紅の剣の刃から赤い炎が放出され螺旋を描くかのようにメモリーの周囲を舞い踊り、そして……

 

 

メモリー?『――ハアァァァァァッッ!!!』

 

 

―ズババババババババババババババババババババババババアアァッ!!!!!―

 

 

『ッ?!ァ、ガッ……グゥオアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!!!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ぐっ!?』

 

 

態勢を立て直したイレイザー達が四方から再び一斉にメモリーに飛び掛かった次の瞬間、メモリーはその場で勢いよく一回転しながら真紅の剣を振るい、赤い炎の斬撃でイレイザーの大群を纏めて斬り裂いていったのだった。そしてメモリーに斬り裂かれたイレイザー達は断末魔と共に爆発して跡形も残さず消滅し、その光景を岩山の頂上から一部終始見ていたガイアは呆然とした顔を浮かべていた。何故なら……

 

 

ガイア『……ち、違う……あのメモリー、幸助じゃ……ない?』

 

 

NEOカオス(……断罪が得意とする剣技とは太刀筋が違う……いや、流水の剣と似た部分が所々に見受けられるが、アレは奴の剣とは明らかに似て非なる……アレは―――)

 

 

そう、あのメモリーがイレイザー達を倒す際に見せた剣技は天満幸助のソレとは違い、流水の剣技を取り入れたような全く異なる剣技を使っていたのだ。彼を良く知る二人からすればその違いは一目で解り、だからこそあのメモリーの正体が幸助でないと気付き戸惑う中……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥッ……ズバババババババババババババアアアァァッッッ!!!!ドゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオオオオンッッッッッ!!!!!―

 

 

NEOカオス『――!!』

 

 

正体不明のメモリーに目を奪われる中、NEOカオスの上空から無数の斬撃波と砲撃の雨が降り注ぎ、NEOカオスに襲い掛かったのだった。しかし咄嗟にそれに反応したNEOカオスはその場から跳び退きながら避け切れない斬撃波と砲撃を弾いていくが、斬撃波の一つを捌き切れずに左腕に直撃して爆発を起こし、左腕のアーマーが完全に破壊されながら後退していくと、ガイアの前に三人の人物が上空から降り立った。

 

 

幸助S「――遅くなったなシズク、無事か?」

 

 

ガイア『ッ?!幸助っ……!椛ちゃんにアレン神父も!』

 

 

アレン「遅れてしまい申し訳ありません、凍り付けにされた椛ちゃんの解凍に少々手こずってしまって……」

 

 

椛「あ……はぁ。アハ………あはははははははははははははははははは!!面白い、面白いの!久しぶりに、全開の力が出せる時が来るとは思わなかったの!!!後悔するななの……もう、私の狂気は止められないの!!あはぁ♪アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ♪」

 

 

ガイアを守るようにNEOカオスの前に立ちはだかる三人……それは先程の激闘の際に頂上から投げ出されてしまった幸助と椛、そして、NEOカオスの氷結魔法により凍り付けにされた椛の解凍を手伝っていたアレンだった。だが、幸助と椛が身に纏う雰囲気は先程までとは違って仰々しいまでの凄まじい覇気を纏っており、加えて椛に関しては狂気を滲ませる狂った高笑いを上げていた。

 

 

NEOカオス『全リミッターを解除に因子解放、加えてスペリオルモードに狂化……俺なんぞを相手に其処まで切るとはな、余程その女に関しての遺恨が魂の芯にまで染み付いてると見られる』

 

 

幸助「当然だ、同じ過ちを二度も繰り返すほど俺達は馬鹿じゃねぇんだよ……。今度は万全の状態で、テメェの首を刈り取るまでだ」

 

 

NEOカオス『それはそれは、光栄の限りだな……。だがそうか、貴様が此処にいるという事は……やはりアレは貴様の差し金か?』

 

 

幸助「……?アレ?」

 

 

―ガギイイィィィッ!!!―

 

 

NEOカオスの問い掛けに幸助が訝しげな表情でそう聞き返したその時、不意に何処からか甲高い金属音が響き、直後に岩山の下から二つの影が飛び出し幸助達とNEOカオスの前にそれぞれ降り立っていく。一つは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるヴリトライレイザー、そしてもう一つは、次元の裂け目の向こう側から突如現れイレイザー達を撃退した二人目のメモリーだった。

 

 

椛「……え?」

 

 

幸助「赤い……メモリーだと……?」

 

 

NEOカオス(?……あの反応……もしや、奴らも知らない?)

 

 

『グッ、クソッ……何なのよアンタっ?いきなり現れたかと思えば斬り掛かってきてっ、何者よっ?!』

 

 

二人目のメモリーを目の当たりにして幸助達が目を見開き戸惑う中、今まで赤いメモリーと打ち合っていたヴリトライレイザーが忌ま忌ましげに赤いメモリーに向けて叫ぶ。そして、この場にいる誰もが考えている疑問を向けられた赤いメモリーは、背中のマントを風で揺らしながらそんなヴリトライレイザーとNEOカオスと向き直り……

 

 

 

 

 

 

メモリー?『――メモリー……仮面ライダーメモリー・ブレイブフェニックス、断罪の後継者……だよ』

 

 

 

 

 

 

ビュンッ!と、左手に握るメモリアルブレイドで風を斬りながら赤いメモリー……否、"仮面ライダーメモリー・ブレイブフェニックス"は静かにそう名乗りを上げ、NEOカオスとヴリトライレイザーと対峙していくのであった。

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)④

 

 

―次元の裂け目眼下・岩山の頂上―

 

 

ジェネシック『―――仮面ライダーメモリー……ブレイブフェニックス……?』

 

 

幸助「俺の後継者、だと?」

 

 

静かにそう名乗りを上げた、もう一人のメモリー……仮面ライダーメモリー・ブレイブフェニックスの登場に思わず目を見開く幸助達。しかし、NEOカオスはそんなメモリーBPを見据えて僅かに目を細めるだけであり、メモリーBPの姿を眺めながら口を開いた。

 

 

NEOカオス『断罪の後継者……成る程……つまり、貴様は未来から来た次世代のメモリーという事か?』

 

 

メモリーBP『そう認識してくれればいいよ。こっちとしても説明の手間が省けて助かるからね』

 

 

NEOカオス『……そうか……まぁ、そうでなくてはこの宇宙に一つしか存在しないメモリドライバーがもう一つ存在する理由の説明が付かないのだから当然の話だが……その未来の人間である後継者が、何をしにこの時代へやって来た?』

 

 

納得したように溜息した後に、メモリーBPにまた別の質問を投げ掛ける。目の前に立つメモリーが未来から来た来訪者である事は理解したが、しかし何のためにこの時代へ跳んできたのか。そう問い掛けるNEOカオスの質問に答えたのは、メモリーBP本人ではなく、彼の身体の内からだった。

 

 

『愚問ね……私達がこの時代へ来たのは、貴方の凶行を止める為よ。黒月八雲』

 

 

アレン(っ!彼の中から、女性の声が……?)

 

 

NEOカオス『……この気配……まさか、精霊か?』

 

 

メモリーBP『そっ。このメモリーの力は、とてもじゃないけど俺だけじゃあ到底扱い切れないからね。その補助として、俺が契約している精霊の力を借りてるんだ。それがこの姿さ』

 

 

幸助(成る程……そうしてあのメモリーの性能を問題なく引き出せるようにしているワケか……それにあの姿、零と姫のアマテラスのシステムに酷似してる部分があるが、アレを設計したのはあの二人を良く知る人物か……?)

 

 

技術者としての視点から、ブレイブフェニックスの姿を眺めて開発コンセプトを一発で見抜く幸助。そしてNEOカオスも同じようにメモリーBPの姿を見つめて何かに気付いたのか、僅かに笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

NEOカオス『そういう事か……しかし、今更貴様達が出て来た所でどうする事も叶わん。あの出来損ないはイレイザーに堕ち、奴の手により雷牙の世界はこの無様な世界に変わり果て、雷牙の世界の住人達も奴の仲間達も消え去った』

 

 

メモリーBP『…………』

 

 

NEOカオス『付け加えて言えば、例え貴様と断罪達が結託して俺とシュレンを退け、この雷牙の世界を元の形に修復した所で、あの出来損ないはどう足掻いても救われはしない……イレイザーとして全ての世界から追放されるか、大罪を犯したという事実に苛まれて精神を崩壊させられるかの二択のみしかない。そんな状況下の中、一体お前達に何が出来る?』

 

 

そう。例え此処で幸助達やメモリーBPが幾らお膳立てした所で、その後の問題は零自身の手で乗り越えられなければ意味がないのだ。それだというのに、今さら現れたメモリーBPに一体何が出来るというのか。そう問い掛けるNEOカオスの質問に対し、メモリーBPは僅かに沈黙した後、首を横に振った。

 

 

メモリーBP『別にどうもしないよ。……そもそも俺達は、貴方のこれ以上の凶行を止める為にきただけで、あの人を救いに来たって訳じゃないんだからね』

 

 

ガイア『なっ……』

 

 

NEOカオス『ほう?随分ハッキリと言う……では、あの出来損ないがどうなろうと知ったことではない、という事か?』

 

 

メモリーBP『そうは言っていない。俺達にはあの人を救う手段がないからどうしようもないから、今俺達が出来る事……貴方を止める事に全力を尽くそうって、決めているだけだよ』

 

 

それに……と、メモリーBPは一拍置いて俯くと、再び顔を上げてNEOカオスを見据えながら力強く告げる。

 

 

メモリーBP『俺は、信じているんだ』

 

 

NEOカオス『……何?』

 

 

メモリーBP『あの男の人が、このベルトを渡してくれた『あの人』の言う通りの人なら……その絶望を乗り越えて、俺達が知る未来まで道を切り開いてくれるってね』

 

 

NEOカオス『……ほう。つまり貴様等の時代までは、あの出来損ないはしぶとく生き残っている訳か……フフッ、これはまた面白い裏付けが取れた―――』

 

 

―ブザァアアアアッ!!!!!!―

 

 

メモリーBP『――!!』

 

 

『渉武ッ!!』

 

 

まるで予想外の収穫があったかのように顎に手を添えながら笑い、直後にNEOカオスが片手に握るNEOカオスブレイドを振り抜きメモリーBPに目掛けて巨大な斬撃を飛ばした。だが、メモリーBPも咄嗟に両手の双剣を使って斬撃波を受け流しながら軌道を逸らし、斬撃波を上空に飛ばしたと同時に爆発が巻き起こり、一度の頭上から爆風が襲い掛かる。

 

 

NEOカオス『――未来からのイレギュラーとは予想外だったが、貴様のお陰で"面白い計画"を思い付いた……ついでだ。その新たなメモリーの性能とやらも、今の内に確かめさせてもらおうか?』

 

 

ジャキッと、NEOカオスブレイドの冷たい切っ先を突き付けてそう告げるNEOカオス。それに対し同じ様に臨戦態勢を取っていくメモリーBPだが、その隣に幸助も並びメモリアルブレイドを構えた。

 

 

メモリーBP『……!先代さん?』

 

 

幸助「俺もヤツとの因縁にケリを付けないといけないんでな。未来の俺の後継者の力量を確かめるついでに手伝わせてもらう。メモリーに変身出来るという事は、お前も断罪の因子は持っているんだろう?」

 

 

メモリーBP『……?断罪……えっと、俺が知ってる人には『自滅因子』とか何とか呼ばれる事はありますけど……断罪の因子って……?』

 

 

幸助「……ああ、成る程。つまりまだ、お前の因子は覚醒していない訳だな」

 

 

断罪の因子と言うワードに聞き慣れぬ様子を浮かべるメモリーBPの反応から大体の事情を察したのか、幸助は溜息と共に軽く剣を振るう。それに対しメモリーBPも訝しげに首を傾げてしまうが、NEOカオスはそのやり取りを聞きヴリトライレイザーに目を向けた。

 

 

NEOカオス『―――シュレン、此処は俺一人でやる。お前はあの出来損ない達の下に向かって、奴を止めようとしている連中の相手をしてやれ』

 

 

『……!はぁ?!冗談言わないでよね八雲っ!アイツにしてやられた借りを返せないままだなんて、そんなの――!』

 

 

NEOカオス『貴様の私情など知らん。いいから言う通りにしろ。イレギュラーが発生した以上、貴様には奴のお守りをして少しでも長くこの世界を維持してもらわねばならん。……未だ覚醒はしていないようだが、断罪の因子が二つもこの場に揃った以上、俺も我が身を護るので手一杯になりそうだからな……今の内に保険を掛けておいて損はない……』

 

 

そう言ってNEOカオスはNEOカオスブレイドを肩に乗せながら幸助とメモリーBPを交互に見つめていき、ヴリトライレイザーもNEOカオスのその言葉から今の状況の危うさを悟ったのか、軽い舌打ちの後に宙に浮き、カルネ達と戦うアバドンイレイザーの下へ飛翔していった。

 

 

アレン「ッ!逃がしませんっ、幸助君ッ!」

 

 

幸助「ああ、こっちは俺達に任せろ、向こうは任せたぞ……!」

 

 

アレン「ええ……!」

 

 

力強く幸助に頷き返すと共に、ヴリトライレイザーの後を追って崖から飛び出したアレン。NEOカオスもその様子を横目で見るが、すぐに目前の幸助達に視線を戻し一同と対峙していく。

 

 

『……意外ね。用心深い貴方の事だから、アレン神父を後ろからでも狙い撃つのかと思ってこちらも身構えてたのだけど……どう言うつもり?』

 

 

NEOカオス『……どうも何もない。俺の役目は既に、あの"道標"を開けた時点で完了している。後は此処からどんな結果になろうが、俺の知った事ではない。あの女にらしい御託を述べてあの出来損ないの下に行かせたのも、ただのポーズにしか過ぎんよ』

 

 

ガイア『……さっきの戦いの最中にもそんな事を言ってたけど……貴方、今回の件にはクリエイトへの貢献も一緒に含まれてるのではなかったの……?』

 

 

これだけの大掛かりな事件を引き起こしておきながら、如何な結果になろうとも構わないと告げるNEOカオスのそのスタンスに対しての疑問を思わず問い掛けるガイア。その間にも幸助達がNEOカオスを包囲するようにジリジリと立ち回る中、NEOカオスはその質問に対し軽く鼻を鳴らした。

 

 

NEOカオス『生憎、俺は他の連中ほど組織に対して忠義心に溢れている訳ではないさ……とは言っても、クリエイトに属している他の連中の大半が、己自身の研究心や野望の為だったりと大概だがな……中には、"王"に取って代わって自分がクリエイトを統べる存在になろうなどと考える馬鹿もいるくらいだ。そんな連中に比べれば不良同勢でやる気が無くとも、言われた通りの仕事をこなす俺なぞまだかわいい方だとも……』

 

 

幸助「……他の連中の事は知らんが、テメェほどタチの悪い奴もそうそういねぇだろうがな……いずれにしても、クリエイトは時期が来れば俺よりも若い連中が潰すだろうが……テメェは此処で、俺達が終わらせる……徹底的にな」

 

 

ジャキィッ!とメモリアルブレイドを一回転させて、剣の切っ先をNEOカオスに突き付けながらそう宣言する幸助。それに伴うように椛やガイア、メモリーBPもそれぞれの得物と拳をNEOカオスに向けて構えていき、NEOカオスは仮面超しに微かな笑みを受かべながら僅かに足幅を広げる。

 

 

NEOカオス『その気概で来てもらわねば、こちらとしても面白くはない。貴様等との再会は、俺にとって唯一の愉しみだったんだ……そう簡単には終わらせんぞ……?』

 

 

 

 

 

◇◆◆

 

 

 

 

 

そして、その一方……

 

 

 

『■■■ゥ■■■■■■■■■■ァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!』

 

 

―バキィイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!―

 

 

『グッ、ガハァアアッ!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『カルネッ!!クソッ!!』

 

 

それぞれの強化形態に姿を変えてアバドンイレイザーに挑み続けていたカルネとジークローバー。しかし、片方の槍をかなぐり捨ててがむしゃらに殴り掛かって来るアバドンイレイザーの高速ラッシュに対しカルネも対処が間に合わず、防御ごと押し切られて遥か後方の岩山にまで吹き飛ばされてしまい、それを目にしたジークローバーはカルネを追撃しようとするアバドンイレイザーに背後から飛び掛かるが、それに反応したアバドンイレイザーに振り向き様に槍で弾かれ防がれてしまう。

 

 

ジークローバー∞D・M(ッ!!やはりこちらの動きを読まれるっ……!!正気は失っていても零自身の技量はそのまま……いや、それにイレイザー化も上乗せされて更に強化されてるのか……!!)

 

 

アバドンイレイザーと高速で打ち合いながらそう分析し、ジークローバーはアバドンイレイザーが上段から振りかざした一刀を武器で払い退けて後方へ跳躍し距離を離す。それを見てアバドンイレイザーもすぐさま鎧姿から先程の悪魔の姿へと姿を変え、勢いよく地面を蹴って獣の如くジークローバーを追撃しようとするが……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥッ……ズババババババババババババババババババァアッ!!!!―

 

 

『……■■?!』

 

 

ジークローバーを追うアバドンイレイザーの遥か後方から無数の斬撃波が飛来し、それを察知したアバドンイレイザーは咄嗟に追撃の手を緩めて方向転換し迫り来る斬撃波を次々と両手の凶爪で叩き払っていくが、最後の一撃を退けたと同時に斬撃波が放れてきた方向から一体の異形……カルネが翼を羽ばたかせて目にも留まらぬスピードで接近し、すれ違い様にエネルギーを纏った剣でアバドンイレイザーの脇腹に鋭い斬撃を斬り付けていった。

 

 

―ズバァアアアアアンッ!!!―

 

 

『■■■■■■■ッッ!!!!?』

 

 

『ッ!!今だグラン坊やッ!!やれぇえッ!!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『ぅうおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!』

 

 

そうして、カルネの一撃によってアバドンイレイザーが怯んだ隙を突くかのように、ジークローバーが再び得物を構え直してデアバドンイレイザーに目掛け一息で迫る。だがそれに気付いたアバドンイレイザーもただではやられまいと上空へと跳び上がり、頭部の前面に一瞬で形成した紅い光弾を乱射し二人の追撃から逃れようとするも、ジークローバーとカルネは素早く荒野を駆け抜けて光弾の雨を潜り抜け、同じように空高く跳躍し上空でアバドンイレイザーを挟み打ちにした。

 

 

『■■■■ッ!!!!』

 

 

『すまんな、零坊やっ……!痛みは一瞬で済むっ!だから―――』

 

 

ジークローバー∞D・M『ほんの一瞬だけだ、俺達の本気に耐えてくれよっ!!』

 

 

―ギュイィイイイイイイイイイイイイイッ!!!!―

 

 

そう言い放つと共に、二人はそれぞれの得物に最大限にまで力を溜めながらアバドンイレイザーの両サイドから素早く突撃し、必殺を込めた得物をアバドンイレイザーに向け振りかざしていったのだった。それを目にしたアバドンイレイザーも直感から身の危険を感じ取ったのか、すぐさま鎧姿へと再度姿を変えるが双槍の生成までは間に合わず、二人の武器が空手のアバドンイレイザーに叩き込まれようとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―……バシュウゥウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!―

 

 

『――■■?!』

 

 

ジークローバー∞D・M『ッ?!な、なんだッ?!』

 

 

『炎の……壁……?!』

 

 

 

そう、二人の一撃が振り下ろされようとしたその時、アバドンイレイザーと二人の間に突如巨大な炎の壁が出現しそれを阻んでしまったのである。その突然の事に二人も驚愕して必殺技の発動をキャンセルしてしまうが、次の瞬間……

 

 

―ボシュウゥゥッ!!!―

 

 

『――ウゥラァアアッ!!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『?!なっ―バキィイイイイッ!!!―ぐぁあああっ!!』

 

 

『ッ!グラン坊やッ!!』

 

 

炎の壁の中から突如一体の紅い異形……NEOカオスの指示を受けて駆け付けたヴリトライレイザーが飛び出し、ジークローバーの首筋にハイキックを打ち込み地上に目掛け蹴り落としてしまったのだ。突然の不意打ちを受けたジークローバーを目にしたカルネはすぐさまジークローバーの下に急ごうとするも、ヴリトライレイザーはそれを邪魔するように今度はカルネへと襲い掛かった。

 

 

『クッ!貴様っ、シュレンっ!』

 

 

『ハァーイ、暫くぶりね裏切り者?アンタとこうして戦うのってもう何度目だっけ?いい加減アンタの顔も見飽きてきたし、そろそろ一回死んでみるぅ?』

 

 

『お断りだっ……少なくとも、零坊やを救い出して、お前達を潰すまではなぁッ!』

 

 

そう強気で言い放ちながらヴリトライレイザーの片足を払い退けて斬り掛かり、ヴリトライレイザーを後方にまで下がらせるカルネ。そしてすかさず追撃すべく剣を構え直し、ヴリトライレイザーに斬り掛かろうとするが……

 

 

 

 

 

 

―シュンッ!―

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■ァアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

『……ッ?!―ガギィイイッ!!―チィッ!』

 

 

『?!れ、零坊や?!』

 

 

なんと、カルネが動き出すよりも早く、炎の壁の向こう側に隔離された筈のアバドンイレイザーが壁を飛び越えてヴリトライレイザーへと襲い掛かったのだった。その光景を見てカルネも思わず驚愕で動きを止め、ヴリトライレイザーはアバドンイレイザーの拳を避けながら愉快げに笑い出した。

 

 

『はっははっ!!なぁに?理性ぶっ飛んでるクセに、私への恨みだけは忘れてないって訳?その自分の仲間をその手で消したってのに、私を恨むのはお門違いって奴じゃない。幸せな奴ねぇ?』

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■ォオオオオアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!』

 

 

クスクスと嘲笑うヴリトライレイザーに対し、まるで怒りと憎悪を大爆発させるかのような雄叫びを上げ、離れていてもとてつもない殺意が込められている事が分かる醜い拳を振り上げてヴリトライレイザーに殴り掛かっていくアバドンイレイザーだが、ヴリトライレイザーは遊んでるかのような余裕な身のこなしで襲い来る拳を次々と避けていき、逆にアバドンイレイザーに反撃してダメージを与え徐々にアバドンイレイザーの体力を削っていた。

 

 

『零坊や……!『カルネ氏!』……?!』

 

 

カルネもその戦況を目にしこのままではマズイと悟り二人の間に割って入ろうとするが、背後から不意に声を掛けられて振り返った。すると其処には、先程ヴリトライレイザーにより墜落させられたジークローバーの身体を支えてカルネの下に飛翔して来るライダー……修繕したイツワリの仮面を再び纏ったクラウンの姿があった。

 

 

『クラウン?!グラン坊やも……!どうして此処に?!黒月八雲は?!』

 

 

クラウン『あちら側の事でしたら心配は入りません。向こうには未来からの助っ人が来て頂いたので、八雲氏の方は幸助氏達に任せて、私の方はあのイレイザーを追って来たんですよ』

 

 

『……?未来からの、助っ人……?』

 

 

そうクラウンからの説明を受けて首を傾げるカルネ。すると、クラウンに支えてもらっていたジークローバーがクラウンから離れて、ヴリトライレイザーとアバドンイレイザーの戦闘に目を向けた。

 

 

ジークローバー∞D・M『事情は良くは分からんが、どうやらそういう事らしいから一先ず向こうの心配はいらないだろ……それより今は、アイツ等をどうするかだ……』

 

 

クラウン『そうですね……私はあのイレイザーをどうにかして引き離します。お二人はその間に、先程と変わらず零氏をお願いします』

 

 

『どうにかって、大丈夫なのかいっ?貴方だって黒月八雲との戦いのダメージが……』

 

 

クラウン『「傷が深いから戦えない」、とも言っていられる状況ではありませんからね……こうしている間にも、零氏の残った理性は確実にイレイザーに侵食されているハズです。八雲氏がまた何か良からぬ事を仕出かす前に、私達も……』

 

 

ジークローバー∞D・M『……分かった。ならあの女はアンタに任せる……アンタもそれでいいだろ?カルネ』

 

 

『ッ……ああ。けど二人共、無茶だけはするんじゃないぞ!』

 

 

クラウン『ええ、貴方達、もっ!』

 

 

―ビュンッ!ガギィッ!―

 

 

『ッ……!チッ、邪魔者が……!』

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■アアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

クラウンが投擲したナイフを叩き落として舌打ちし、一度立て直そうと離脱するヴリトライレイザー。それを逃すまいとしてアバドンイレイザーが怒りの咆哮と共に追撃しようとするが、それを阻むようにカルネとジークローバーが立ち塞がり、ヴリトライレイザーの前にクラウンが立ちはだかる。

 

 

『あら……誰かと思えば、道化気取りの悲劇の救世主さんじゃない。なに?まだ私達の邪魔しようっての?あんな出来損ないの為に?』

 

 

クラウン『その質問自体が、ナンセンスというものでしょう……?零氏達の物語は、零氏達自身の手によりその結末を決めるもの……それは禁忌を犯し、全ての物語から追放された貴方達の手によって決めるべきものではありません』

 

 

ジャキッ!と、何処からか取り出した数本のナイフを両手の指の間に挟み、ヴリトライレイザーと対峙するクラウン。それに対しヴリトライレイザーも軽く鼻で笑い、指を鳴らしながら腕に紅い炎を身に纏う。

 

 

『あんなクズになに期待してんのか知らないけど、邪魔するってんなら容赦はしないわ。アンタも灰になっちまいなぁッ!!』

 

 

クラウン『……灰となるのは御免被りますが、身を焼かれるよりも辛い本当の苦痛とやらを、貴方にも直々にお教えして差し上げましょう……』

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)⑤

 

 

―ガギギギギギギギギギギギギギギギギィイッ!!!ガギャアァァァァァアンッ!!!―

 

 

幸助「はぁああッ!!」

 

 

NEOカオス『ヌゥンッ!!』

 

 

場所は戻り、遥か上空に開かれた巨大な亀裂の眼下に存在する崖の上では、けたたましい金属音が絶え間なく響き渡っていた。幸助とNEOカオスが互いに振るう剣が激突し、その衝撃だけで彼等の周囲の足元が削り取られて秒速で形状を何度も変えていくという凄まじい激闘が繰り広げられている。

 

 

―ブザアアァッ!!!―

 

 

NEOカオス『……!』

 

 

幸助「どうした、八雲ッ!そんな仮面と鎧に縛られた状態でまだ俺と戦うつもりかッ!」

 

 

そんな激闘の中、まるで先程の意趣返しのような台詞と共に、下段から目にも留まらぬ速さで振り上げられた幸助の剣がNEOカオスの仮面の一部を傷付ける。変身解除と因子の解放によるリミッターを解除した今の幸助が、未だ力を抑えている状態のNEOカオスに遅れを取る筈もなく、傍目から見てもNEOカオスが徐々に幸助の剣撃に圧されつつあるのは目に見えていた。更に……

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!バゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオッッッ!!!!!!―

 

 

幸助「うおっ!」

 

 

椛「ぁはははははははははははははははははっ!!!私を無視して二人だけで愉しむなんて良い度胸なのっ!!!そらそらそらそらそらァアアッ!!!」

 

 

NEOカオス『チッ……』

 

 

刃を鍔ぜり合わせる二人の上空から豪雨の如く無数の砲撃が降り注いだ。それはいつの間にか上空に飛翔し薙刀の矛先をNEOカオスに狙い定める椛から幸助への援護攻撃……の筈だが、因子解放による狂化のせいか、その援護攻撃も見境がなく、NEOカオスだけでなく味方の幸助にまで被害が及んでしまっていた。

 

 

―バゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオッッッ!!!!!!ドガァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアアァンッッッッ!!!!!―

 

 

幸助「チィッ!椛っ!こんな面倒な時にまで暴走してんじゃねぇッ!」

 

 

メモリーBP『ォオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

上空から降り注ぐ砲撃の雨に幸助が思わず悪態を吐く中、メモリーBPはその砲撃の雨の中を全速力で駆け抜けてNEOカオスへと迫り両手の剣で斬り掛かっていく。しかしNEOカオスも椛の砲撃を弾き、かわしながらメモリーBPが次々と振りかざす剣撃を全て薙ぎ払い、足払いを掛けて倒した後に上段から剣を振り上げようとするが……

 

 

ガイア『やらせないッ!!』

 

 

NEOカオス『チッ……!』

 

 

其処へ間に割って入るかのようにガイアが拳を突き出してNEOカオスの邪魔に入り、剣を振るう手を止めて一息で後方へ後退するNEOカオス。だが、其処へすかさず椛の放った無数の砲撃がNEOカオスに目掛けて集中砲火が降り注ぎ、その足止めを受けた隙に幸助がNEOカオスの懐に肉薄し……

 

 

幸助「天満流剣技――流水月牙ァアッ!!!」

 

 

―ズシャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!!―

 

 

NEOカオス『ぐっ……』

 

 

咆哮と共に振り上げられた一閃……流水月牙が炸裂し、NEOカオスのボディを破壊して無数の破片が飛び散るが、NEOカオスも刃を喰らう寸前に後方に後退していた事で直撃は避け、装甲を破られるだけで済ませられてしまう。だが……

 

 

『BRAVE FINISH!』

 

 

NEOカオス『!』

 

 

直後に真上から響き渡った電子音声を聞き、NEOカオスが頭上を見上げると、其処には業火を刃に纏った真紅の剣とメモリアルブレイドを振り上げながら跳躍するメモリーBPの姿があり、それに対しNEOカオスもNEOカオスブレイドで迎撃しようとするが……

 

 

―バッ!!―

 

 

幸助「ツオラァッ!!」

 

 

ガイア『ヤァアッ!!』

 

 

―ガギィイイイイッッ!!!!―

 

 

NEOカオス『ムッ……!』

 

 

メモリーBP『ウオリャアァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』

 

 

―ブザァアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!―

 

 

NEOカオス『……!』

 

 

瞬時に懐に飛び込んだ幸助とガイアがNEOカオスの剣を弾き、その隙に降下したメモリーBPがすれ違い様に双剣を叩き込み、ボディに二つの刀傷を斬り刻まれたNEOカオスの全身から青白い火花が撒き散り、変身が強制解除されて八雲へと戻っていった。

 

 

ジェネシック『変身が解けた……!』

 

 

メモリーBP『よしっ、これでぇえっ!!』

 

 

―ジャキィッ!―

 

 

変身解除にまで追い込んだ八雲を目にし、メモリーBPは真紅の剣を逆手に持ってメモリアルブレイドとジョイントさせ、更にバックルから赤い本型のツールを抜き取って真紅の剣に装填する。

 

 

『数多の苦難を勇気と不屈の魂で乗り越える、真紅の不死鳥の物語!』

 

 

『BRAVE STRIKE!』

 

 

メモリーBP『ハァアアアアアアアアッ……!!!』

 

 

再度真紅の剣から高らかな電子音声が響くと共に、メモリーBPの目前に赤い魔法陣が出現し、其処から炎の不死鳥が飛び出して上空へと空高く飛翔する。それに続くようにメモリーBPも空へと跳躍して、炎の不死鳥と一体化し、そして……

 

 

メモリーBP『コイツでぇ、トドメだァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

―キエェェェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!―

 

 

炎の不死鳥と共に八雲に目掛け急降下し、両手の剣を振りかざし突撃するメモリーBPの必殺技……ブレイブストライクが発動し、空手で佇む八雲へと猛スピードで迫り、その身体を貫こうとした。が……

 

 

 

 

 

 

八雲「―――成る程。流石は三神とその意志を受け継いだ後継者か……やはり、俺自身の目的の為にも、貴様らの因子は必要不可欠のようだな」

 

 

―ゴォオオッッッ!!!!―

 

 

メモリーBP『……ッ!!?何ッ!!?』

 

 

 

 

 

―――直後だった。ポツリと静かにそう呟いた八雲の足元から、突如轟音と共に黒い闇が出現し八雲の身体を包み込んでしまったのである。そして、八雲の全身を包む闇が拡散し、闇の中から一瞬だけ現れた存在の姿が幸助達の視界から消え失せ、メモリーBPの突撃は空を切った。

 

 

メモリーBP『ッ!消えたッ?!』

 

 

ガイア『クッ、何処に……?!「シズクちゃんッ!!」……え?』

 

 

姿を消した八雲を探し視線をさ迷わせるガイアの真横から椛の悲痛な叫びが聞こえ、ガイアが思わず振り返ろうとしたと同時に、椛が猛スピードでガイアにタックルし突き飛ばした。次の瞬間……

 

 

―ブシャァアアアアッッッ!!!!!―

 

 

椛「―――ぐっ、ぅぁあああっ!!!」

 

 

メモリーBP『ッ!!?なっ……』

 

 

ガイア『も、椛ちゃんっ?!』

 

 

幸助「椛ッ!!」

 

 

ガイアを突き飛ばす椛の左足から突如、赤い鮮血が勢いよく飛び散ったのであった。二人はそのまま地面を滑るように転がり込み、ジェネシックは慌てて椛に駆け寄って身体を抱き起こし、幸助とメモリーBPはすぐさまガイアが立っていた場所を睨みつけた。其処には……

 

 

 

 

 

 

 

 

―……ポタッ……ポタッ……―

 

 

『――――流石に同じ二の舞は演じぬ、か……一度は殺した相手ならと思ったが……どうして、やはり簡単には行かんようだな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……幸助達に背中を向け、左手の爪の先から椛の物と思われる赤い血の滴を滴り落とす、"漆黒の天使"の姿があったのだった。

 

 

全身に赤く禍々しい紋様が描かれ、背中には巨大且つ機械的な黒い羽根があり、ゆっくりと振り返り幸助達を見据えて来るその瞳は、人間体の八雲と同じ真紅に不気味に光輝いている。

 

 

まるで、醜悪な悪魔の姿に変貌した零とは対極を成すかのようなその漆黒の天使を目にし、幸助とメモリーBPは剣を構え直して天使を睨み据えた。

 

 

幸助「それが、貴様のイレイザーとしての本来の姿か……八雲……!」

 

 

『……この姿になるのも、久方振りだがな……お陰でこの身体の振り方を忘れてこのザマ、だ』

 

 

そう言って漆黒の天使……イレイザー態に変貌した八雲が視線を向ける先には、肉ごと裂かれた左足からドクドクと血を流す椛と彼女を抱き抱えるガイアの姿があり、幸助もその二人の姿を横目に険しい表情を浮かべ八雲と対峙していくが、メモリーBPは幸助と椛を交互に見比べ口を開いた。

 

 

メモリーBP『大丈夫なんですか……?あの人のことが心配なら、此処は俺に任せても―――』

 

 

幸助「無駄口叩く暇があるなら目の前に集中しろ……。椛の奴はあの程度の傷でどうこうなったりはしねぇ。それより問題は八雲の方だ。奴はお前一人じゃ手に余る……気ィ抜けば、死ぬぞ……」

 

 

そう呟き、静かに剣を構え直す幸助から仮面越しでも分かるほどピリピリとした空気が伝わって来る。それを見て、メモリーBPも自身が不要な心配をしていると察して目の前の八雲に向け両手の剣を構え直していき、それに対し八雲もユラリと右手を中空に掲げていく。

 

 

『本来、この姿になれば力を常時抑えておかなければならない故に億劫なのだが……貴様の因子と、其処の後継者が持つ因子の影響で弱体化してる今の状態ならば、何の気兼ねなく、その力を行使出来る……こんな風にな』

 

 

 

―シュウゥ…………ドバァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァンッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!―

 

 

 

 

幸助「ッ!チィッ!」

 

 

椛「このっ……!」

 

 

―ガギイィイイイイイイイイイイィッッッ!!!!!―

 

 

メモリーBP『ウ、グウゥッ!!?』

 

 

ガイア『ウアァッ!』

 

 

そう呟いたと共に、八雲の右手から広範囲に真紅の衝撃波が広がり幸助達に襲い掛かったのだった。それをいち早く察知した幸助と椛がメモリーBPとジェネシックを守るように咄嗟に障壁を展開するが、真紅の衝撃波は障壁ごと幸助達を丸々飲み込み、更には障壁内にいる筈なのに気を抜けば身体の全てを消し飛ばさんとばかりの衝撃が一同の身体を突き抜けていた。

 

 

『……解せんな。貴様とも在ろう男が、そんな受け身の選択を取るとは……貴様なら、"私"が撃った瞬間にその剣で斬り掛かって来るぐらいの気概は見せるハズだろう?』

 

 

幸助「ッ……!自分で自分の身を護れる椛とシズクだけならそうしていたところだが、生憎こっちにはまだそれが出来ん、今の貴様の相手が務まるほどの実力に至っていない手の掛かる後継者がいるんでなっ……。それをこんな過去の世界で、漸く生まれた後継者を消させるわけにはいかねぇんだよ……!」

 

 

メモリーBP『ッ……!先代さん……!』

 

 

『……未来の希望の為に、わざわざその身を張って新世代を守ると?親身な事だ……が、私が見たいのは貴様のそんな姿ではないんだよ』

 

 

―ドゥバァアアアアアアアアアアアァァァッッッッッ!!!!!!―

 

 

幸助「ヌッ……!!」

 

 

何処か苛立ちを含む口調と共に、八雲の手から放たれる衝撃波の勢いが更に増して幸助達に襲い掛かる。

 

 

『其処の後継者が使う未来のメモリーの性能は実際に戦って既に分析し終えた。残るは、私が持っていない貴様の断罪の因子の真価をこの目で確かめる事のみ……私のもう一つの目的の為にも、貴様には因子の力を今より存分に発揮してもらわなければ困るんだよ』

 

 

幸助「……俺がこれ以上、貴様の思惑通りに動くとでも思うか……?」

 

 

『ならなければ、そうせざるを得ない状況を私が作り上げるだけだ……』

 

 

―ガギャンッ!!バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!―

 

 

八雲の淡々とした言葉と共に、八雲の背中の機械的な黒い羽根が展開されて緑色のエネルギー翼を噴出し、更に八雲の全身の赤い紋様が光を発光し禍々しく輝き始める。

 

 

『最初に言った筈だろう?私は貴様等との再会を待ち侘びていたと。永らく待ち望んでいたこの闘いをつまらん終わり方で幕を下ろすのは不本意窮まりない……次なる計画の為にも、貴様の因子の力を此処で見極めさせてもらう』

 

 

幸助(ッ……椛とシズクはともかく、今の後継者の力でアレを凌ぐのには無理があるか……一か八か、奴を一撃で沈められるか……?)

 

 

機械的な黒い羽根から噴出される緑のエネルギー翼を外側に大きく広げ、全身の赤い紋様から莫大な力を感じさせる真紅の光りを放出する八雲を迎え撃つべく、幸助もメモリアルブレイドを水平に構えていく。そうして、八雲の全身から放出される力の高まりが限界点を突破し、遂には次元すら揺るがし始めた。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ギュイィィィィィィィッ……バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

『……ッ!』

 

 

幸助「むっ?!」

 

 

ガイア『?!な、何コレっ?!』

 

 

 

 

 

突如、幸助達と八雲が戦う岩山から遠く離れた場所に位置する地点から、巨大な純白の光の柱が天に目掛け放たれたのであった。その突然の事態を目の当たりにした幸助達と八雲は思わず動きを止めてしまい、その間にも突如出現した光の柱から放出される光が信じられない速度でこの世界全体に拡散していき、困惑する一同の視界をも覆い隠していく。

 

 

―シュパァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

メモリーBP『グッ!!ま、眩しい……!!』

 

 

『この光、一体?!』

 

 

『……まさか……』

 

 

幸助「この感覚……祐輔の世界の時の……!」

 

 

目眩い光に視界を覆われて何も見えない中でメモリーBPと彼の中の精霊が戸惑う声が聞こえる中で、八雲、そして幸助はこの光の正体について何か気付き始めるが、二人が何かを口にする前に、光は激しさを増して彼等を飲み込んでしまうのであった―――。

 

 

 

 

 



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第二十一章幕間/クロツキレイの物語(せかい)⑥

 

 

―――光の柱が発生する、少し前……

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

クラウン『ハッ!!』

 

 

『チィッ!しつっこいッ!』

 

 

ジークローバーとカルネを援護する為、幸助達と分散して駆け付けたクラウンとヴリトライレイザーの激闘が空中で絶え間なく続いていた。

 

 

両腕に業火を身に纏い迫るヴリトライレイザーの剛腕を軽い身の熟しで避けつつ、両手に取り出したナイフを一斉に投擲し、ヴリトライレイザーがナイフを回避している隙に上空へと舞い上がると、マントを大きく広げて自身の周囲に無数のナイフを出現させてヴリトライレイザーに目掛け一斉に撃ち放った。

 

 

『ッ!道化がァ……そんななまくらが私に通用するとでも思ってんのかァ!!』

 

 

―シュウゥッ……バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!!!!―

 

 

上空から豪雨のごとく降り注ぐ無数の凶器を迎え撃つべく、ヴリトライレイザーも瞬時に自身の背後に軽く百を越える数の炎弾を一瞬で形成し、無数のナイフに向けて一度に乱射しナイフを全て撃墜し、残った炎弾がクラウンに目掛けて襲い掛かった。が……

 

 

―ブォンッ!―

 

 

『……ッ?!幻っ?!―バサァッ!―わっぷっ?!』

 

 

完全に捕らえたと思われたクラウンの身体を容赦なく炎弾が撃ち貫いたその時、クラウンの姿が大きく残像のようにブレて消え去ってしまったのである。それがクラウンの本体ではなく、彼が生み出した分身なのだとヴリトライレイザーが気づいた瞬間、ヴリトライレイザーの頭に何処からともなく降ってきたマントが覆いかぶさり一瞬だけ視界を遮り……

 

 

―バキイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!―

 

 

『ガッ……!!?』

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

その隙を突くように、頭上から何者かからの踵落としを受け、猛スピードで地上へと蹴り落とされていったのだった。そして、ヴリトライレイザーに不意打ちを打ち込んだ何者か……クラウンは、ヴリトライレイザーの視界を封じていた宙に舞う自身のマントを掴み、再び身体に身に纏いながら地上を見下ろしていく。

 

 

クラウン『今のも手品の一つですよ。物語から追放された貴女の事だ、こういったエンターテイナーを目にするのは久方振りでしょう……如何でしたかな、Rady?』

 

 

―……ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

胸に手を当てたクラウンが紳士のようなポーズでそう問い掛けたと同時に、ヴリトライレイザーが墜落した地上から突如巨大な爆発が発生した。そうして、立ち込める土埃の中から片膝を付いたヴリトライレイザーが現れ、殺意を込めた瞳でクラウンを見上げていく。

 

 

『このっ……サマ師の道化風情が、やってくれたねぇええッ!!』

 

 

クラウン『ふむ……確かに、女性を足蹴にするなどあまりにも失礼ですね。では、今からはこの両腕だけでお相手して差し上げましょう……彼とは違い、貴女を相手にはそれだけで十分そうだ』

 

 

『ッ!ほざいたなァッ!』

 

 

クイクイと、片手でジェスチャーするクラウンの言葉に怒りと共に拳に握る砂を投げ捨て、地面を蹴り上げながら遥か上空のクラウンに向け一気に跳躍するヴリトライレイザー。それに対してクラウンもマントを翻し、何処からともなく取り出したボールを両手にヴリトライレイザーに投擲して迎撃してゆくのだった。

 

 

―ガギイィッ!!ガギィンッガギィッガギャアァンッ!!―

 

 

ジークローバー∞D・M『ウゥラァッ!!』

 

 

『ゼェイヤァッ!!』

 

 

『■■■■ッ?!!■■■■■■ァッ!!!!』

 

 

その一方、クラウンがヴリトライレイザーの気を引き付けてる隙にアバドンイレイザーとの戦闘を再開したジークローバーとカルネは得物を素早く振るって交互に立ち回り、徐々にだがアバドンイレイザーの体力を削って少しずつ追い込み始めていた。

 

 

―ガギャアアァァンッ!!―

 

 

『■■■■ッ……!!!!■■■■■■ァアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

 

―バシュバシュバシュバシュッ!!!!―

 

 

『ッ!!グラン坊やッ!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『ああッ!!』

 

 

―ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

カルネの一撃を袈裟懸けに叩き込まれ数歩後退りしたアバドンイレイザーが再び朱い光弾を乱射し、それを見たカルネとジークローバーは咄嗟に左右に飛び退き光弾を避け、二人の背後で光弾が着弾して大爆発が巻き起こり爆風が吹き荒れ、カルネとジークローバーはそれに見向きもせず攻撃を行った直後で硬直するアバドンイレイザーに接近して再度斬り掛かった。

 

 

―バキィッ!!ガギイィッガギィンッ!!ズバァアッ!!―

 

 

『■■■■■■■ァッ!!■■■ゥッ……!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『ッ!ちょっとずつだが弱って来ている……カルネっ!』

 

 

『ああ……!今なら零坊やを拘束出来る!』

 

 

此処まで蓄積したダメージが漸く目に見えて来たか、槍を杖代わりにして肩で息をするアバドンイレイザーを見て此処が好機だと悟り、二人はすかさずアバドンイレイザーに追撃を仕掛け一気に拘束しようとするが……

 

 

『グッ……!これ以上好きにはやらせないよッ!!』

 

 

―ドバババババババババババババババババァッ!!!ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『うおっ?!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『クッ!!この、邪魔すんなっ!!』

 

 

クラウン『貴女の相手は私だと言った筈ですっ!!』

 

 

クラウンとの戦闘の最中であるヴリトライレイザーがソレを邪魔するかのように二人に向けて無数の炎の矢を乱れ撃ち、二人の行く手を阻んでしまったのである。それを目にしたクラウンはすぐさま自分に再び意識を向けさせるべくヴリトライレイザーにナイフを投擲するが、ヴリトライレイザーもナイフを軽く蹴り払いながらジークローバーとカルネへと再び襲い掛かっていき、それを追い掛ける形でクラウンもその場に乱入して三対一の乱戦と化してしまう。だが……

 

 

 

 

『■■■■■……■■■■■■■■ァアッ!!!!!』

 

 

―ブザァアアアアッ!!!バリイィッ!!バリイィッ!!ベキベキべキバリイィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『ッ?!』

 

 

ジークローバー∞D・M『何だッ?!ウオォッ?!』

 

 

『ウワアァッ?!』

 

 

 

 

三人がヴリトライレイザーとの戦いに気を取られる中、度重なるダメージにより憔悴しているアバドンイレイザーが突如長槍の矛先に黒い稲妻状のエネルギーを纏わせ、槍を振るって巨大な斬撃波を四人に目掛けて放ったのだ。四人もそれに気付き咄嗟に散開し巨大な斬撃波をかわすが、かわされた斬撃波はそのまま何もない筈の空間に亀裂を入れ、空間を破壊し、壊された空間の向こうに次元がハッキリと見えてしまっていた。

 

 

クラウン『ッ!この力は……まさか、因子の……?!』

 

 

『……ァハハッ。漸く因子の扱い方を覚えたようねぇ?まぁ今はまだこの程度の力しか使えないみたいだけど、人間だった頃に使っていた程の熟練度になるのは時間の問題かしら……?』

 

 

ジークローバー∞D・M『ッ?!まさか、零はあの姿になっても破壊の因子の力を行使出来るってのか?!』

 

 

もしそうなら冗談ではない。暴走した状態で振るわれる因子の力の猛威は、祐輔の世界で零が破壊者として覚醒した時に嫌というほど知っているのだから。驚愕を露わにジークローバーがヴリトライレイザーにそう問い詰めると、ヴリトライレイザーは愉快げに肩で笑いながらアバドンイレイザーを顎で指した。

 

 

『別に不思議でもなんでもないわよ、あの程度。イレイザー化すれば、その人間が元々持つ力がイレイザーの力の一部となって取り込まれて、人間でなくなった後もその力がイレイザーの能力の一つとして顕現される事になる……私のこの炎のようにね。あの出来損ないの場合、それがアレの持つ因子だった、それだけの事よ。そうよね、裏切り者?』

 

 

『……ッ……』

 

 

そう言ってユラリとカルネに視線を向けると、カルネは唇を噛み締めてその視線から逃れるようにヴリトライレイザーから顔を逸らす。その無言が意味するのは、つまりは肯定という事。それを悟ったジークローバーとクラウンもイレイザー化に加え因子の力とも対峙せねばならないと理解して険しい表情を浮かべる中、アバドンイレイザーは破壊の因子の力を帯びた長槍を再び振るって四人へと襲い掛かった。

 

 

『■■■■■アァッ!!!!!!』

 

 

―ブザアアァァッ!!!!バリイイィィンッ!!!!バキャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『よっ!ハハハッ!それでアンタ達はどうする気ィ?あの出来損ないはイレイザー化に加えて、破壊の因子まで使えるようになった。もう生半可に生かしておくようじゃヤバいんじゃないのー?理性のない状態で、因子の力を行使されるのはアンタ達にとっても都合が悪いでしょ?』

 

 

ジークローバー∞D・M『貴様ッ……!!―ズバアアァァッ!!―グッ?!』

 

 

アバドンイレイザーの一撃を身軽に避けながらほくそ笑むヴリトライレイザーに怒りを覚えるも、そんな暇すら与えまいとアバドンイレイザーの斬撃波が飛来し慌てて地面を転がって回避するジークローバー。その矛先はクラウンやカルネにも襲い掛かり、三人はどうにか斬撃波を上手く回避し続けるも、避けられた斬撃波はそのまま空間を硝子のように破壊し、周囲至る所に次元の向こう側が見えてしまっている風穴だらけになってしまっていた。

 

 

ジークローバー∞D・M『クッ!!オイどうするッ?!ただの暴走を抑えるだけなら未だしも、因子の力まで使われるんじゃ勝手が違って来るぞッ?!』

 

 

『言われなくたって分かっているっ!クソッ、こうなる前に零坊やを正気に戻す筈だったのに、まさかもう此処まで力を使い熟せるとは……!』

 

 

クラウン『……永らく零氏の内、いえ、破壊の因子の中に潜んでいた影響もあって、恐らくあのイレイザーも零氏並かそれ以上なまでに因子の力に熟練しているのかもしれませんね……』

 

 

因子の力を使いこなすアバドンイレイザーを見据えて最も考えられる可能性から自身の推測を語るクラウンだが、そんなクラウンにもアバドンイレイザーが容赦なく漆黒の斬撃波を放ち、咄嗟に身を翻して斬撃波を避けながらジークローバーとカルネに向けて叫んだ。

 

 

クラウン『ともかく作戦を変えましょう!グラン氏とカルネ氏はクリエイトのイレイザーを抑えて下さい!零氏は私が引き受けます!』

 

 

ジークローバー∞D・M『なっ、けれどアンタだけじゃ……!』

 

 

クラウン『零氏の中の破壊の因子がイレイザーの力の一部として組み込まれてしまった以上、カルネ氏とてあの力は驚異となります!ならば、一度は因子の力を解放した零氏と対峙した経験がある私が相手をするのが妥当の筈です!』

 

 

『しかし……!』

 

 

『しかしもカカシも無い、そうはさせる訳ねぇーだろってねぇえッ!!』

 

 

『■■■■■■■ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

クラウンが提案する作戦の変更を二人が渋ってる間にも、ヴリトライレイザーがそうはさせまいと両足に炎を纏ってクラウンに素早く蹴り掛かる。更にはそんなヴリトライレイザーに目掛けて、周囲の空間を破壊し尽くして槍を振るいまくるアバドンイレイザーが再び矛先に因子の力を纏わせ、クラウンごと屠る為に槍を横薙ぎに振りかざそうとしたが、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

―…………ドグンッ!!!!!!―

 

 

『――――ッ!!!?■■…………■ッ…………!!!!』

 

 

―ガシャンッ……!―

 

 

ジークローバー∞D・M『……!な、何だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、槍を振るおうとしたアバドンイレイザーが手を震わせて槍を落とし、胸を抑えて苦しみ出したのだ。その様子を目にしたカルネとジークローバーは怪訝な顔を浮かべ、ヴリトライレイザーは交戦するクラウンに回し蹴りを放って後退させながらアバドンイレイザーに叫ぶ。

 

 

『なにやってんのよッ!!そら、さっさと来なさいッ!!リィルを弄んだ私が憎いんでしょうッ?!アンタにはもっと暴れてもらわなきゃ困るのよッ!!さぁッ!!』

 

 

『ッ……!!!!■■■■■■■■アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……!!!!―

 

 

『マズイ……!グラン坊やッ!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『ッ!クソッ、こうなればヤケクソか……!!』

 

 

ヴリトライレイザーのその言葉に触発されるかのように、アバドンイレイザーは荒々しくヴリトライレイザーに右腕を突き出して手の平に膨大な因子の力を収束させていく。ジークローバーとカルネもそれを見て、因子の力に恐れている場合ではないと慌ててアバドンイレイザーに向かって駆け出していくが、それよりも速くアバドンイレイザーの右手から漆黒のエネルギー弾が放たれようとした。その時だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……シュバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!―

 

 

『……■■ッ?!!』

 

 

『……なっ!!?』

 

 

『?!な、何よ、アレ?!』

 

 

 

 

 

 

因子の力を再び振るおうとしたアバドンイレイザーの身体から突如、目眩いまでの純白の光が溢れ出したのだった。その謎の光を目にしたクラウン達やヴリトライレイザーは勿論、アバドンイレイザーも己の身体から突如放たれたその輝きを見て動揺と驚愕を隠せずにいるが、純白の光はその間にも徐々に激しさを増していき、遂にはアバドンイレイザーの身体を完全に飲み込んでしまった。

 

 

『れ、零坊やッ!!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『おいっ、今度は一体何が起きたんだッ?!まさか、因子の暴走かッ?!』

 

 

クラウン『……いいえ……あの光は……まさか……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―………………せ、ない………………絶対にっ………………絶対にやらせないっ………………!!!!―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ?!い、今のは……?』

 

 

ジークローバー∞D・M『……女の、声……?』

 

 

クラウン(今の声……やはり……!)

 

 

 

 

 

 

突如出現した謎の光に飲み込まれてしまったアバドンイレイザーを見てざわめくクラウン達の心の中に、女の声が何処からともなく聞こえ出したのだ。

 

 

心に直接聞こえたその謎の女の声にジークローバーとカルネは動揺してしまうが、クラウンはその聞き覚えがある女の声である確信を深めアバドンイレイザーを飲み込んだ光に視線を戻すと、それと共に純白の光が弾けるように消え、光の中からアバドンイレイザーの姿が露わにされた。だが、その姿は……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドシャアッ!!―

 

 

『――――……ッ……クッ……ハァッ、ハァッ、ハァッ……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

光の中から姿を現したのは、両膝を付いて苦しげに肩で息を繰り返す純白の異形……先程まで彼等が戦っていたハズの醜い悪魔の姿をしたイレイザーではなく、まるで神話の中に出てくる女神を彷彿とさせるような美しい女性型のイレイザーだったのだ。

 

 

ジークローバー∞D・M『れ、零……じゃない……?何なんだ、アイツ……?!』

 

 

『女型の……イレイザー、だとっ……?』

 

 

アバドンイレイザーと入れ代わるかのように、光の中から現れた謎のイレイザーを見て驚愕するジークローバーとカルネ。そんな中、ヴリトライレイザーはその謎のイレイザーを見て信じられないといった様子で後退りした。

 

 

『こ、この、感覚……間違いない……な、なんで……?』

 

 

『ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……!』

 

 

一体どういう事だと、有り得ない物を見るような目で謎のイレイザーを見つめるヴリトライレイザー。だが、その瞳は徐々に憎しみの色を帯びてギリギリと拳を握り締めていき……

 

 

『な、なんで……よ……なんでアンタ……なんでアンタがァァアアッ!!!!』

 

 

―ダアアァンッ!!!!―

 

 

『……ッ?!クッ!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオオォンッッッッ!!!!!!!!―

 

 

突然の激昂の雄叫びと共に、地面を爆発させる勢いで蹴り上げて謎のイレイザーに目掛けて飛び出し、拳を振り上げて殴り掛かったのだった。そして、それに気付いた謎のイレイザーはすぐさま目の前に両手を突き出して自身の周りに球状の障壁を作り出し、激突音と共にヴリトライレイザーの拳を受け止めた。

 

 

『シュレン……?!』

 

 

『どうしてアンタが此処にいるのよッ!!?死んだ筈のアンタがぁッ!!!まだ私達の邪魔をしようってのッ?!!"亡霊"風情がっ、今更しゃしゃり出て来てんじゃないわよオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッッ!!!!!』

 

 

『ウグッ、クッ……うぅっ……!!!』

 

 

―ピシッ……ピシィッ……ビシイィッ!!!―

 

 

先程までの様子から一変し、何故かヴリトライレイザーは憎悪に満ちた拳を捩り込むように突き出し、謎のイレイザーが展開する障壁に火花を散らせながら徐々にヒビを広げていき、謎のイレイザーも障壁に新たなヒビが生じる度に苦悶の声を上げて苦しんでいた。

 

 

ジークローバー∞D・M『おい、何なんだ一体……?!アイツ、零を暴れさせるのが目的なんじゃ、いやそもそも、あのイレイザーは零なのか?!』

 

 

『僕にも分からない……だが、あのイレイザーはまさか……―バッ!―っ?!』

 

 

突然の展開の連続に困惑を隠せないでいる二人だが、そんな二人を他所にクラウンが二人の間を猛スピードで駆け抜けてヴリトライレイザーと謎のイレイザーの間に割り込み、障壁に拳を打ち込むヴリトライレイザーの腕を下から掌底打ちで弾き飛ばした。

 

 

『ッ!貴様ァッ!』

 

 

クラウン『"彼女"を此処で、貴女にやらせるワケにはいきませんッ!』

 

 

『ふざけんなぁあッ!!!退けぇえッ!!!』

 

 

未だ収まらぬ激昂を高ぶらせ、それに応じるかのように激しく燃え盛る炎を両腕に纏わせてクラウンに殴り掛かるヴリトライレイザー。そして、謎のイレイザーは目の前で繰り広げられる二人の戦いを見つめながら膝から崩れ落ちるように倒れ、それを目にしたジークローバーとカルネは慌てて謎のイレイザーの下に駆け寄った。

 

 

ジークローバー∞D・M『お、おい、おいしっかりしろッ!!おいッ!!』

 

 

『うぅっ……ぁあっ……うぁああああッッ!!!!』

 

 

この異形が何者かは分からないが、それでも零かもしれないという可能性がある以上は放っておけず苦しむ様子を見せる謎のイレイザーに必死に呼び掛けるジークローバーだが、謎のイレイザーにはその声に応えるだけの余裕がないのか激しく身を捩らせながら悲鳴を上げると、直後にその姿がアバドンイレイザーに、次に零に、その次に長い銀髪の見覚えのない少女の姿に変化した後に謎のイレイザーの姿へと戻った。

 

 

ジークローバー∞D・M『ッ?!な、何だ……今の?!』

 

 

『今の少女……やはり、君は―――!!』

 

 

『あああぁッ!!グッ!!ぅうっ、ぐっ……ぁっ……ァァァアアアアァァァァアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

―シュウゥッ……シュウゥッ……シュパアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!!!!!―

 

 

カルネが銀髪の少女の姿を見て何かを確信し言葉を発しようとするが、それを遮るように謎のイレイザーが悲痛な悲鳴を上げ、それと同時に謎のイレイザーの体から先程と同じ純白の輝きが激しく放たれ出した。

 

 

『ッ?!!ヤ、ヤバッ……?!!』

 

 

クラウン『あれは……?!』

 

 

ジークローバー∞D・M『こ、この光、さっきの?!』

 

 

『この感じっ……力が逆流しているのかッ?!離れろグラン坊やッ!!!』

 

 

ジークローバー∞D・M『何?!ウ、オォッ!!?』

 

 

謎のイレイザーの全身から放たれる光の正体が何なのか分かったのか、カルネは慌ててジークローバーの腕を掴んで謎のイレイザーから離れるように駆け出し、クラウンもヴリトライレイザーを蹴り飛ばして二人の後を追い掛けるが、謎のイレイザーから放たれる光はその合間にも激しさを増して遂には火花を散らし、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―バチバチッ……バチイィッ!!!―

 

 

『アアァッ……グゥッ……ウグゥッ……ァ……ッ…………イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!』

 

 

―ギュイィィィィィィィッ……バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!―

 

 

『『『ッ!!!!?ウ……ウワアァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……謎のイレイザーの悲痛な絶叫と、直後に発生した轟音と閃光と共に、彼女の全身から灰色の空に目掛けて巨大な白い光の柱が勢いよく立ち上り、光の柱から視界を覆う程の輝きが拡散してこの世界全体へと一瞬で広がっていったのだ。

 

 

その輝きは、クラウン達とヴリトライレイザー、遠くの地にいるハズの幸助達と八雲をも包み込んでしまい、やがては地平線の向こうにまで光の奔流が広がり零の物語(このせかい)の全てを飲み込んでしまったのであった――――。

 

 

 

 



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番外編/異世界の森にて

 

 

―???の世界・謎の森―

 

 

――雷牙の世界がイレイザーに堕ちた零の手によって零の物語(せかい)に書き換えられ、メモリー達がNEOクロノス達との激闘を開始したのと同じ頃。

 

 

零の物語(せかい)とは違う平行世界のとある不気味な雰囲気が漂う森にて、全身を覆う防護服を身に纏った数人の作業員の集団が何かの作業を行う姿があった。

 

 

彼らが身に纏う防護服には、『YGGDRASILL』のロゴが共通して入っており、更に彼等の中には同じ形状のドライバーのようなモノを腰に巻き付けた者の姿が何人か見られる。

 

 

そしてそのドライバーを腰に装着した作業員の一人が記録簿を片手に、近くの木に無数に実る不気味な果実を一つだけもぎ取った。次の瞬間……

 

 

―ギュイィィッ……バシュウゥンッ!―

 

 

突如作業員が手にした果実が淡い光に包まれてその姿を変化させ、なんとカバーの中央にイチゴが描かれた南京錠型の謎のアイテムに姿を変えたのである。だが、そんな異様な現象を目の当たりにしても作業員は特に驚きはせず手慣れた様子で再び作業を再開させてゆく。だが……

 

 

 

 

 

 

大輝「―――あれがロックシードか……成る程。噂の通り、少々"一癖"あるお宝のようだ」

 

 

 

 

 

 

その様子を、木々の上から息を殺して盗み見る盗っ人……海道 大輝がニヤリと不敵な笑みを浮かべる姿があった。そして大輝は何かを探すかのように木の上から視線をさ迷わせると、その目が作業員の集団が手にする何かに止まり、思わず笑みを深めながら後ろ腰に手を伸ばそうとした。その時……

 

 

 

 

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッ!!―

 

 

大輝「――ッ?!うおぉっ!!」

 

 

大輝が何か行動を起こそうとした瞬間、突如何処からか二発の銃弾が飛来し大輝に襲い掛かったのだ。いち早くそれに反応した大輝は直ぐに木の上から飛び降り二発の銃弾は木の枝に直撃するも、咄嗟の事だった為にバランスを崩し背中から地面に倒れ込んでしまう。そして作業員達はいきなり現れた大輝を見て驚愕しながら後退りしていき、大輝も背中を打ち付けた痛みに顔を歪めながら今の攻撃を撃たれてきた方へと視線を向けた。其処には……

 

 

 

 

 

―ザッ、ザッ、ザッ……―

 

 

『―――知らぬ間に、鼠が一匹忍び込んでいたか……何者だ?』

 

 

 

 

 

草を踏み鳴らしながら歩み寄って来る一人の戦士……まるでメロンをモチーフにしたような明るい緑の和風の鎧とメロンの皮の紋様が施された巨大な盾を左手に持ち、鍔が銃となっている直剣の銃口を倒れる大輝に突き付ける白いライダーの姿が其処にあったのだった。そして大輝はふらつきながら身を起こし服の汚れを手で払うと、白いライダーを睨み付けながらニヤリと笑った。

 

 

大輝「いきなり有無もなく攻撃とはやってくれるじゃないか……俺がただの人間なら、今ので死んでいたかもしれないよ?」

 

 

『無遠慮な鼠を相手に何を遠慮する必要がある?そもそも本当に貴様がただの人間なら、この森に簡単に足を踏み入れる事など出来はしない……何処の手の者だ?』

 

 

一見してふざけた態度を取っているようにしか見えない大輝を見て何か感づいたのか、仮面の下で険しげに眉を寄せてそう問い掛ける白いライダー。そしてそれに対して大輝も鼻を軽く鳴らすと、胸のポケットからカードを抜き取りつつディエンドライバーを回転させながら取り出した。

 

 

大輝「察しがいいね。ユグドラシルコーポレーションの研究部門、プロジェクトリーダーの名は伊達ではないか……けれど、こっちも君と無駄な話をしている暇はないんだよ」

 

 

『KAMENRIDE――』

 

 

『フン……ならば少々痛い目に遭わせて、その口から直接吐かせてやろうっ!』

 

 

カードを装填して電子音声が響くディエンドライバーを目にして白いライダーが直剣で大輝に容赦無く斬り掛かるが、大輝は地面を転がりながらそれを回避して白いライダーから距離を取り、ディエンドライバーの銃口を頭上に向け……

 

 

大輝「そう簡単に行くとは思わない事だ、変身ッ!」

 

 

『DI-END!』

 

 

ドライバーの引き金を引くと共に電子音声が響き渡ると大輝はディエンドに変身していき、白いライダーもディエンドに変身した大輝の姿を見て動揺を露わにした。

 

 

『変身しただと……?貴様、その姿は……!』

 

 

ディエンド『フッ……ハッ!!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!―

 

 

驚愕する白いライダーの反応に構わず、ディエンドはディエンドライバーの銃口を向けて乱射しながら突っ込んで白いライダーに殴り掛かっていく。そしてそれを見た白いライダーも咄嗟に冷静に戻り左手に持つ盾で銃弾を防ぐと、ディエンドが放った左拳をそのまま盾で受け流しながら右手の剣でディエンドに反撃していき、ライダー同士の戦闘が始まったのを見て作業員の集団が慌てて逃げ惑う中、ディエンドと白いライダーは互いの武器をぶつけ合わせて鍔ぜり合いとなる。

 

 

―ガギイィィッ!!!―

 

 

『ッ!我々が開発したシステムとは別物……そうか、貴様か?平行世界のライダーというのは……!』

 

 

ディエンド『既にご存知なら話は早い、一々説明する手間が省けるからね……。ハアァッ!!』

 

 

戯ける様にそう言いながら白いライダーの肩に蹴りを打ち込んで後退りさせ一旦距離を取ると、ディエンドは左腰のホルダーから四枚のカードを取り出し、ディエンドライバーに装填してスライドさせていく。

 

 

『KAMENRIDE:DOUBLE!OOO!FOURZE!WIZARD!』

 

 

ディエンド『お近づきの印に、俺からのプレゼントだ。ハッ!』

 

 

―バシュゥンッ!―

 

 

ドライバーの引き金を引くと共にディエンドの周囲を無数のビジョンが駆け巡り、残像はそれぞれ四ヶ所で重なって四人のライダーに変化していったのであった。左右非対象の緑色と黒のライダー、上下三色のライダー、ロケットをモチーフにした白のライダー、宝石のように煌めき輝く仮面を身に纏った赤いライダー……ダブル、オーズ、フォーゼ、ウィザードに変化した残像達はそれぞれが得意とした戦法で白いライダーに攻撃を仕掛けていった。

 

 

オーズ『ハアァッ!!』

 

 

ウィザード『デェヤァッ!!』

 

 

―ガギイィンッガギィッ!!バキイィッ!!ズバアァッ!!―

 

 

『クッ?!小癪な……!』

 

 

フォーゼ『おおおおおおッ!!』

 

 

背後からダブルが放つ華麗な回し蹴りを左手に持つ盾で防ぎながら蹴り飛ばし、拳で殴り掛かるフォーゼを直剣で斬り飛ばして四人のライダー達と一定の距離を取る白いライダー。そして、少し離れた場所からその様子を傍観していたディエンドは左腰のホルダーからもう一枚カードを取り出すと、ドライバーに装填してスライドさせた。

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

ディエンド『フッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガアァンッ!!!―

 

 

『ッ!チッ!』

 

 

ドライバーからの電子音声と共にディエンドが銃口を白いライダーに向けて引き金を引くと無数の銃弾が放たれ、無軌道の弾道で白いライダーに襲い掛かった。それに対して四人のライダーは示し合わせていたかのように一斉に離脱して銃弾を回避し、白いライダーも咄嗟に左手の盾を用いて降り注ぐ銃弾を凌いでいくが……

 

 

―バシュンッバシュンッバシュンッバシュンッ!!―

 

 

「う、うわぁああああああっ?!」

 

 

「ひぃいいっ!!」

 

 

『……ッ?!』

 

 

不意に背後から悲鳴が響き渡り、白いライダーはそれを聞き慌てて振り返ると、其処にはディエンドが乱射した無数の銃弾が戦線から離れ避難しようとしていた彼の部下である作業員達の周囲に降り注ぐ光景があったのだ。幸いにも作業員達に直撃してはいないようだが、作業員達は突然の攻撃に驚愕して怯み、その隙にディエンドが素早く一人の作業員の下に接近し……

 

 

―ドゴォッ!―

 

 

「アグァッ?!ァ……」

 

 

ディエンド『悪いね、少々眠っていたまえ』

 

 

作業員の腹に容赦なく拳を打ち込み、作業員の意識を刈り取ったのである。そうしてディエンドは作業員が持っていたトランクケースを奪い取りながら作業員を近くの木にもたれ掛かるように座らせ、奪ったケースを地面に置いて開き中身を確かめる。其処には……

 

 

ディエンド『――戦極ドライバーとロックシード一式……確かに頂いたよ』

 

 

奪ったトランクケースの中には、白いライダーや一部の作業員達が腰に巻いてるのと同じ、左側にカッティングブレードのような物が設置された奇妙なバックルと桃、さくらんぼ、レモン、そして梅の花がカバーの中央に描かれた南京錠型の謎のアイテムが複数収納されており、白いライダーはウィザードの剣と鍔ぜり合いになりながらトランクケースを奪ったディエンドに向け叫んだ。

 

 

『貴様……!最初からソレが目的でっ……!』

 

 

ディエンド『フッ……じゃなきゃ好き好んで、こんな物騒な森に足を踏み入れようだなんて思わないさ』

 

 

軽く鼻を鳴らしてそう言いながらディエンドは奇妙なバックルと南京錠型の謎のアイテム……戦極ドライバーと四つのロックシードが収納されたケースを仕舞って立ち上がり、四人のライダー達の足止めに遭う白いライダーにケースを見せて口を開いた。

 

 

ディエンド『エナジーロックシードとはまた別口で開発されてた曰く付きのロックシード……俺達が戦ってる相手に対抗するには、これぐらい曰く付きでないと寧ろ話にならないんでねぇ。目的の物も手に入ったし、悪いがこれは頂戴していくよ?』

 

 

『ふざけるなぁッ!』

 

 

―ズシャアァッ!!―

 

 

ダブル『グァッ?!』

 

 

首を傾げながらそう告げるディエンドの言葉に憤慨し、白いライダーはダブルを斬り飛ばしながら一直線にディエンドに目掛けて走り出していくが、ディエンドは冷静に左腰のホルダーから再びカードを取り出してドライバーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:INVISIBLE!』

 

 

『ッ?!消えた……?!』

 

 

再度電子音声が響いたと共に、ディエンドはトランクケースと共に無数の残像と化して突如何処かに消えてしまったのである。そしてそれを見た白いライダーは慌ててディエンドを探して辺りを見渡していき、残された四人のライダー達にも目を向けると、ディエンドが逃げた影響かダブル達も徐々にその身体が透明になり、最初から其処に何もなかったかのように消滅してしまったのであった。

 

 

『ッ……!逃がしたかっ……』

 

 

完全にしてやられたと仮面の下で毒づき、思わず拳を固め近くの木を殴り付ける白いライダー。そして、今の騒ぎで避難していた作業員達が白いライダーの下に集まっていき、白いライダーもディエンドに気絶させられた作業員に近付き無事を確認してから安堵する様に一息吐くと、徐に立ち上がってディエンドが消えた場所に目を向けていく。

 

 

(あのライダー、一体何者だ?ベルトと錠前を手に入れて、何を……?)

 

 

自分達から戦極ドライバーとロックシードを奪って何をしようとしているのか。その目的は分からないが、このまま奴を逃がすつもりもない。部下の作業員達に帰還の指示を出しながら、白いライダー……『斬月』はバックルにセットされているメロンのロックシードのカバーを上げて元の位置に戻し、変身を解除して一人の青年に戻りながら静かにそう決意するのであった。

 

 

 

 

 



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第二十※章/〃牙ノせ界⑫(前ぺ#)

 

 

―雷〆の世かイ・某所―

 

 

―……ブオォォォォォォォォォォォォォオッ―

 

 

―――雷牙の世界のクラナガンのとある建物の屋上。町中のあちこちにて激戦が繰り広げられてる中、其処に突如歪みの壁が出現し、歪みの向こう側から一人の青年……アタッシュケースを手に持った大輝が姿を現した。

 

 

大輝「――少々遅れて来て正解だったようだね。お陰で世界が破壊される余波に巻き込まれずに済んだようだし、"彼女"の力で雷牙の物語も無事に再構築されたようだけど……」

 

 

スッと、大輝は僅かに目を細めて街を見渡していき、小さく溜息して空を見上げていく。

 

 

大輝(……後の戦いや障害の為に必要な力とは言え、果たして今の君にこの業を背負い、乗り越えられるかどうか……出来なければ、待ってるのは"最悪の結末"だけだぞ、零?)

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―シュウゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーッッッッッ…………バシュウゥゥンッッッ!!!!―

 

 

グラン「―――ウァアアッ?!」

 

 

カルネ「グォアアッ!!」

 

 

同じ頃、雷牙の世界が崩壊する寸前に幸助達と八雲が対峙していた高層ビルの屋上では、屋上の真上に突如純白の光が出現して弾け、其処から変身が解除されて元の姿に戻った幸助達と八雲が吹っ飛ばされるように姿を現したのだった。だが余りにも突然だったせいか、グランとカルネは上手く着地が出来ずにふらついて膝を付くが、幸助達とクラウンとメモリーBP、八雲は着地を成功させながら互いに距離を離し、周囲の風景を見回していく。

 

 

グラン「グッ……ッ……!な、何だっ?何が起きたんだ、一体っ……?!」

 

 

カルネ「ッ……確かあの時、光に飲み込まれて、それから…………ッ?!」

 

 

間近であの光に巻き込まれた事で目をやられたのか、暗転を繰り返す視界が漸く回復したカルネとグランは目の前に広がる光景を見て驚愕した。一同の目に映るのは、イレイザーとなった零によって破壊された筈の雷牙の世界の町並み。先程まで自分達が八雲等と激闘を繰り広げた灰色の荒野ではなく、塗り変えられ消滅してしまった筈の世界を目にした二人は我が目を疑い、忙しなく周りを見渡していくと、其処には……

 

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

シルベルヴィント『―――どうしたんだい風間紫苑ッ?!仲間をやられた途端に弱気になったかァッ?!』

 

 

ディケイド(紫苑)『クッ、このっ……!!』

 

 

 

 

 

―バチィイイイイイイイイイイイイイッ!!!!―

 

 

『逃がすかっ……!ロストォオオッ!!!』

 

 

ロスト『―――ッ!!!』

 

 

 

 

 

……この雷牙の世界と共に、イレイザー化した零の力によって有象無象の墓石となってしまったハズの彼の仲間達と敵対する者達……紫苑達一行が変身するディケイド達とインスペクター&センチュリオの大群、そしてイザナギディスペアに変貌しロストを徐々に追い詰めていくフェイトの姿が見え、先程まで起きていたハズの異常に気付かぬまま世界が破壊される前と同様に戦い続ける姿があったのだった。

 

 

グラン「こ、ここはっ……雷牙の世界っ?!元に戻ったのかっ?!だが、どうやってっ……?」

 

 

本来ならば、零を止めてから幸助達の手によって修復される筈だった雷牙の世界の町並みを見回して動揺を浮かべるグラン。そして、八雲も無言のまま視線だけを動かし周囲の状況を確認した後、此処から見える遥か遠くの建物……零達が戦っていたビルの屋上を見つめていく。

 

 

八雲「――愚かな女だとはつくづく思ってはいたが、まさか此処までとはな……魂だけの存在でありながら自身から進んでイレイザーになるとは……亡霊風情が、健気な事だ」

 

 

カルネ「ッ!魂だけの存在……亡霊……なら、やはりあのイレイザーは……!」

 

 

忌ま忌ましげでありながら何処か感心も含んだ口調でそう呟く八雲の言葉で何か確信を深めたのか、カルネは八雲の視線を追っていく中、幸助は僅かながら悔いるような様子でボソリと口を開いた。

 

 

幸助「再生の巫女、"リィル・アルテスタ"……先代の再生の因子の持ち主か……」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―高層ビル・屋上―

 

 

そしてその一方。零とヴリトライレイザー達が戦っていたこの高層ビルの屋上もまた、零により消え去ったハズのガリュウ達が世界が崩壊する前と寸分違わぬ姿のまま立ち並ぶ姿があった。だが、まるで全てが同じと言うワケでもなく、其処にいたハズなのに姿が見られない人物も見受けられる。ガリュウ達を従えていたヴリトライレイザー、そして……

 

 

 

 

 

―……ガシャンッ!!―

 

 

『―――ッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……!』

 

 

 

 

 

……彼女達がボロ雑巾の様に痛め付けていた零の姿が何処にもなく、代わりに、フェンスに寄り掛かりながら苦しげに肩で呼吸を繰り返す女神型のイレイザーの姿が其処にはあったのだ。

 

 

センチュリオ『――黒月零が……消えた……?』

 

 

センチュリオ『あの怪人は、一体……?それに、彼女は……?』

 

 

対してセンチュリオ達は、幸助達や八雲達と違い自分達と共に雷牙の世界を塗り替えられていたという先程の異常事態を認知しておらず、まるで零と入れ代わるように目の前に現れた正体不明の女神型のイレイザーの登場に困惑し、更に自分達と一緒だったハズのヴリトライレイザーの姿がいつの間にか消えている事に気付き、何が起きているのか理解が追い付けずにいた。そんな時……

 

 

 

 

 

 

―シュウゥゥゥゥゥッ……バシュウゥンッッ!!!―

 

 

『――――見付けたよォッ、この亡霊がァアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

『……ッ?!クッ!!』

 

 

―バゴォオオオオオオオオオオオオンッ!!!!―

 

 

 

 

突如高層ビルの屋上の上空に目眩い光が出現し、其処から一体の異形……幸助達と八雲よりも遅く帰還したヴリトライレイザーが上空から猛スピードで急降下しながら現れ、拳を振り上げて女神型のイレイザーに襲い掛かった。

 

 

そしてそれに気付いた女神型のイレイザーも慌てて地面を転がってヴリトライレイザーの襲撃を避けると、ヴリトライレイザーの拳は女神型のイレイザーが寄り掛かっていたフェンスを木っ端微塵に粉砕してしまった。

 

 

『チィッ!相変わらず子猿みたいにすばしっこい奴ね……"リィル"……!』

 

 

『ッ……シュレンさん……どうしてこんなっ……何で貴女がイレイザーにっ……!』

 

 

片膝を着き、必死に乱れる呼吸を整えようとしながら、彼女を知ってるような口振りでヴリトライレイザーにそう問い掛ける女神型のイレイザー……"リィル"。

 

 

だがそんなリィルに対してヴリトライレイザーは容赦なく拳を振りかざして追撃していき、遂に女神型のイレイザーの頭を捉えるも、女神型のイレイザーは咄嗟に障壁を張ってソレを受け止めた。

 

 

『ハッ、なんで?どうしてですって……?決まってんでしょ?アンタたち"姉妹"を見返す為よォッ!!』

 

 

―ドゴォオオンッ!!!―

 

 

『ッ、ウァアアッ!!』

 

 

怒号と共に障壁に捩り込む拳に業火を纏い、リィルが展開する障壁を粉砕し破壊してしまうヴリトライレイザー。そしてリィルもそのままノーバウンドで吹き飛ばされてフェンスに思い切り叩き付けられてしまい、ヴリトライレイザーはそんなリィルへと歩み寄りながら淡々と語り掛ける。

 

 

『終極の因子と再生の因子を持って産まれてきた姉妹……!片や村一番の天才剣士、もう片方は再生の神の神託を受けた再生の巫女……!そんなアンタ達がずっっと妬ましかったのよ……!特にアンタの姉にはねぇッ!』

 

 

『ッ……お姉ちゃん、がっ……?』

 

 

『そうよッ!!私がどんなに努力しても、すぐにまた私を突き放して軽々と先へと進んでいくあの才能もッ!!初恋の人を簡単に奪い去っていったあの美貌もッ!!私が求めても手に入らない何もかもを涼しい顔で全て持っていくあの女も、アイツに鬱陶しくべたつくアンタも憎らしかったッ!!だからこうして手に入れたッ!!アンタ達を超える為に、全ての物語を探しても存在しない、このイレイザーの力をねェッ!!』

 

 

ゴウゥッ!!と、そう言いながら火炎を纏った両腕を振り回してリィルに何度も執拗に殴り掛かるヴリトライレイザー。そんな彼女の言葉にリィルも障壁を張る余裕もなくひたすら避け続けるが、ヴリトライレイザーの踵落としを両手で受け止めて片膝を着いてしまう。

 

 

『ッ……!だからってっ、こんなっ……こんな事が許される筈がないよ!!零を苦しめる為だけに私のクローンを作って!!生まれたばかりのあの子の心を故意に歪めて!!それどころか、零や零の大切なあの子達の心も弄んで!!貴女達にそんな権利がある訳がない!!そんな事も分からないまでに堕ちたと言うの?!』

 

 

『権利ィ?死人の分際で、何を上から物を言ってんのよ?アンタはもうとっくに死んでんだろう?だったらいつまでも未練がましく昔の男に引っ付いてないで、でしゃばらずにあの世に引っ込んでろよォオオッ!!!』

 

 

―ドグォオオッ!!!―

 

 

『グゥウッ!!?』

 

 

リィルの言葉を嘲笑と共に切り捨てながら、リィルの胸を蹴り飛ばす。そして、ヴリトライレイザーは地を転がるリィルに目掛け飛び掛かり再びキックを打ち込もうとするが……

 

 

『ッ……アルテスタッ!!』

 

 

―ガギィイイイイイイイイイイイインッ!!!―

 

 

『ッ?!なっ……?』

 

 

リィルは咄嗟に態勢を立て直しながら、何処からか零のデバイス……アルティを取り出して掲げ、なんと、機能が停止しているハズのアルティがブレード形態に変形しヴリトライレイザーの足を受け止めたのだった。

 

 

―ギギッ、ギギギギィイッ……!!!―

 

 

『AIも無しに、デバイスを?……ああ……そういえばそのなまくら、AIは後付けで、剣とかの大部分は元々アンタのものだっけ?ならあのクズより使いこなせるのは当然なのか。けど……』

 

 

『ッ……!ヤァアッ!!』

 

 

そう語るヴリトライレイザーの言葉を遮る様に、アルティでヴリトライレイザーの足を押し退けながら間髪入れず斬り掛かるリィル。だが、ヴリトライレイザーはリィルが振るうアルティの刃を首を僅かに動かすだけで安易く回避していき、リィルの手を掴んで背後に回り込みながらリィルの膝裏を蹴り付けて跪かせてしまう。

 

 

『ァグッ!ゥッ……!』

 

 

『……あの女ならともかく、剣術で一度も私に勝てたことがないアンタが敵う筈ないでしょ?加えて、あのクズと一緒にイレイザーになったばかりで、その身体も使い慣れてなくイレイザーの力を完全に発揮し切れない……そら、勝ち目なんてある筈ないわよねぇ?』

 

 

―ボシュウゥウウウッ!!―

 

 

膝を着くリィルを見下ろしながら冷淡にそう言い放ち、ヴリトライレイザーは掌から何かを形作るように炎を勢いよく放出すると、炎が弾けるように消え去り、その中から一本の得物……禍々しい形状の紅蓮の魔剣が現れ、ソレを手にし刃の切っ先をリィルに突き付けた。

 

 

『私達に必要なのは、その出来損ないと、ソイツの中のイレイザーだけ。アンタはいらないのよ……だから今度こそ、私の手で殺してあげるッ!!』

 

 

―ブォオオオッッ!!!―

 

 

『クッ……!!!』

 

 

嬉々としたその口調と共に、リィルの後頭部に目掛け一切の躊躇なく突き出される紅蓮の魔剣。その迫り来る凶刃を目にしたリィルは思わず顔を逸らし、次の瞬間に訪れる激痛に備えて唇を噛み締めた。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―シュンッ……ガギィイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッッ!!!!!―

 

 

『―――ッ?!!何っ?!―ドゴォオオオオッ!!―ガッ……?!!』

 

 

 

 

 

 

リィルの後頭部をヴリトライレイザーの凶刃が貫こうとしたその時、突如リィルとヴリトライレイザーの間を何者かが目にも留まらぬ速さで駆け抜けながら魔剣を弾き、更にヴリトライレイザーの頭部を蹴り飛ばしリィルから引き離したのであった。

 

 

その突然の展開にヴリトライレイザーも混乱しながらも咄嗟に態勢を立て直して距離を作り、リィルの方に振り返ると、彼女を守るように立ち塞がる一人の人物を目にしてその表情がみるみる内に歪んでいく。何故なら……

 

 

 

 

 

 

『――――お姉……ちゃん…………?』

 

 

 

 

 

 

ユリカ「………………」

 

 

 

 

 

 

『ユリカ……ユリカ・アルテスタッッッ……!!!!』

 

 

 

 

 

 

黄金の剣を振り上げ、鋭い眼光でヴリトライレイザーを射ぬく一人の薄紫色の髪の女性。それはリィルの姉であり、ヴリトライレイザーにとっては長年の怨敵である人物……ユリカ・アルテスタだったのだから。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―バチバチィイッ!!ズドォオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!―

 

 

ロスト『―――ッッッ!!!!』

 

 

その頃、ユリカとヴリトライレイザーが対峙する高層ビルのすぐ真下の戦場では、迅雷の如く速さで動きを掴ませないイザナギディスペアの猛攻の前にロストも徐々に追い込まれボロボロになり、上空から飛来した回避不可能の雷撃をまともに受け片膝を着いてしまっていた。

 

 

―……チャキッ―

 

 

ロスト『……ッ……!』

 

 

『―――これで、詰めだ……ロスト……』

 

 

そんなロストの目の前に、イザナギディスペアが薙刀の切っ先を突き付けながら立ち塞がった。それを目にしたロストは全身から黒煙を立ち上らせつつも戦闘を続行すべく立ち上がろうとするが、戦闘のダメージが想像以上に響いているのか上手く動けずにおり、イザナギディスペアはそんなロストに向け淡々とした声で語り掛ける。

 

 

『貴方が何者かは知らないし、個人的な恨みもない。もしかしたら貴方も、クアットロ達に利用されているだけなのかもしれないけど……それでも……』

 

 

カタカタと、僅かにだが、薙刀を握り締めるイザナギディスペアの手が震えてるように見える。自分の意志で、初めて誰かの命を奪い手に掛けるという恐怖に見舞われているのか。だが、脳裏にルーテシアや彼女を慕うエリオやキャロ、クアットロの策略により、ルーテシアを犠牲にすることで再び破壊者に堕とされようとしている零の顔が過ぎり……

 

 

『それでも……ルーテシアや……零達を守る為なら……私はっ……!!』

 

 

―ブォオオッ!!!―

 

 

ロスト『ッ……!』

 

 

最早迷いはすまいと、手の震えを振り切るように強く両手で握り締めた薙刀を大きく頭上に振り上げ、一気にロストの脳天に目掛けて振り下ろすイザナギディスペア。それに対してロストもただではやられまいと、残された力を振り絞り右手の槍をイザナギディスペアに向かって突き出した。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――成る程。彼等の心を守りたいと言う貴女の気持ちとその覚悟は、痛いほど伝わりました。しかし……』

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!!!―

 

 

『―――えっ……?』

 

 

ロスト『……?!』

 

 

 

 

 

 

ビル街に甲高く響き渡る、鉄と鉄が激突し合う金属音。だが、それは二人の得物がどちらかに突き刺さって起きた物ではなく、両者は目の前の光景を見て唖然とした様子を浮かべていた。何故なら……

 

 

 

 

 

 

プレシア?「―――だからと言って、貴女がその手を汚す必要なんてない筈よ。フェイト?」

 

 

クラウン『ええ。こんな事をしても、誰も浮かばれはしません……零氏達は勿論、貴女自身も』

 

 

『ク、クラウン……?それに、か、母、さん……?!』

 

 

 

 

 

イザナギディスペアが振り下ろした薙刀は、ピエロのライダー……幸助達と別れて彼女達の戦いを食い止めに来たクラウンにより指と指の間に挟んで受け止められ、ロストが突き出した槍はイザナギディスペアが良く知る女性……フェイトとアリシアの母親である"プレシア・テスタロッサ"が障壁を展開して防ぎながら突然現れたからである。更に……

 

 

「―――まっ、そういった間違いを犯させないと言うのも、ある意味じゃ僕達の役目でもあるけどね」

 

 

―ジャラァアアアアアッ!ガシィイッ!―

 

 

ロスト『―――ッ!!?』

 

 

何処からか聞こえたそんな声と共に、ロストの背後の地面から突如無数の鎖が伸びてロストを拘束したのである。その光景を目にしたイザナギディスペアは更に驚愕し、声が聞こえた方に振り返ると、其処には路地裏へと繋がる曲がり角からゆっくりと二人の男女……零の平行世界の友人である輝昌紲那の仲間の"エンド"と"黄昏華"が姿を現したのだった。

 

 

『エ、エンドに黄昏華?!じゃ、じゃあ貴方は、紲那の世界の私の……?』

 

 

プレシア(紲那)「……そう。この雷牙の世界で、貴方達の身に起きた騒動を知って駆け付けたの……彼等を手助けすると同時に、貴方を止める為に、ね」

 

 

『……え……?』

 

 

そう言いながらロストの槍を受け止めていた障壁を消し、イザナギディスペアを見つめるプレシア(紲那)のその言葉に怪訝な声を漏らしてしまうイザナギディスペア。そんな彼女に対し、エンドが黄昏華と共にプレシア(紲那)の隣に立ち並び語り掛けた。

 

 

エンド「フェイト……君の今のその姿……自分の目を凝らしてよく見てみるんだ。それを見て何も感じないかい?そんな姿になってまで、さっきの君が一体何をしようとしてたのか、その意味を本当に分かっているのか?」

 

 

『ッ!……そ、それはっ……』

 

 

エンドのその言葉を前に、イザナギディスペアは言葉を詰まらせて思わず後退りしながら、彼に言われるがまま自分の左手を静かに見下ろしていく。其処に映るのは、それだけで人を殺せてしまいそうなほどに鋭く尖った凶爪を生やした醜い異形の手。ロストを倒せねばならないという使命感に囚われるばかり、目を逸らしていた今の自分の身体を改めて見つめ息を拒む彼女に対し、クラウンは右手を伸ばしていく。

 

 

クラウン『フェイト嬢……今からでもまだ遅くはありません。変身を解き、そのバックルをこちらに渡して下さい』

 

 

『ッ……けど……それでも私はやらないといけないのッ!!私のせいでこんな事になってっ、零も……だから私がっ……!!』

 

 

エンド「だとしてもだっ!こんな方法で償いをした所で、君の望む結果には決してなりはしないっ!ましてやあの男の事だ、君がそうやって苦しんでいる事すらもただ愉しんでいるだけに違いないんだぞっ!」

 

 

『……えっ……?貴方達……あの男の事を知ってるの……?』

 

 

このバックルを渡したあの男の事を知っているような口ぶりのエンドにそう聞き返すと、エンドの代わりにクラウンが答える。

 

 

クラウン『フェイト嬢……零氏は今、貴方を止めようと決起し、それをある人物の手によって阻まれ窮地に追いやられています……』

 

 

『?!れ、零が……?!』

 

 

クラウンにそう言われ、イザナギディスペアは其処で漸くハッとなり慌てて周囲を見回していく。ロストを倒す事に気を取られ気づけなかったが、確かに、先程まで自分を必死に呼び止めていた筈の零がいつの間にか消えてしまってる。今になって漸くその事を知ったイザナギディスペアが動揺する中、プレシア(紲那)が真剣な眼差しで再び口を開く。

 

 

プレシア(紲那)「そして、彼を追い詰めるように仕向けた全ての首謀者は、貴方を誑かして、そのバックルを貴女に渡した男……彼の父親、黒月八雲なのよ」

 

 

『ッ!!!?父親、って……あの男が……零の、お父さんっ……?』

 

 

プレシア(紲那)の口から語られた衝撃の事実を聞かされ、イザナギディスペアは驚愕の余り口を抑え言葉を失ってしまう。あの土手で、零を破壊者と呼んで危険視するばかりか、雷達との間に溝を作ってこの世界の管理局にディケイドの存在を警戒させるように仕立て上げ、更に自分にロストを倒すようにこのバックルを渡した男が零の父親。そう聞かされ、イザナギディスペアは力無く首を横に振っていく。

 

 

『ど、どうして……?どういう事なの?何で零のお父さんが、そんなっ……だ、だって、血の繋がった実の父親でしょっ?!親子なんでしょっ?!なのに何で、こんなっ……!!』

 

 

黄昏華「それが、黒月八雲という男なのですわ……。あの男は、零様を実の息子として見てない所か、零様を産むべきではなかった、出来損ないと憎んで蔑み、捨て去ったのです……そしてその果てに、零様は貴女達の世界に流れ着き、漸く平穏の日々を手に入れたのですわ」

 

 

エンド「……けど、そんな彼の平穏すらも、あの男は自身の欲求の為に平気な顔で打ち砕こうとしてるんだ……君を誑かし、ロストを君に手に掛けるように仕向けて後戻りが出来なくさせ、零君を更に追い詰め苦しませる為にね……」

 

 

『…………そ……そん、な…………』

 

 

次々と彼等の口から聞かされる衝撃的な事実の前に、イザナギディスペアは頭で完全に理解するよりも前にとてつもない眩暈に襲われ立ちくらみを覚えた。

 

 

今回の件を仕組んだのは零の実父で、あの男は自身の息子を苦しめる為に自分をもその計画の一部に組み入れた。

 

 

知らず知らずの内にそんな計画に利用されていたのだという事実にもショックを隠せないが、何よりも辛いのは、零が長年に掛け知りたがっていた筈の実の親が、彼を憎悪し、産むべきではなかったと蔑み捨てられてたのだという事実だった。

 

 

まだ元の世界にいた頃、もし本当の親に会えたならと、そんな話を度々彼としていた記憶がふと蘇る。

 

 

その時に、零が興味がなさそうな素振りしながらも、何処となく期待を滲ませる顔を浮かべていたのを今でも鮮明に思い出せる。

 

 

……なのに、そんな彼とは対照的に、彼の実の父親は零に対しての愛情などなく、雷達に彼を危険分子だと認識させて対立を煽り、今もこうして自分をも利用し零を追い詰めようとしてるのだと。

 

 

そんな救いのない話、何かの間違いであって欲しい。そんな淡い希望を求めてクラウン達に顔を向ければ、プレシア(紲那)と視線がぶつかり、嘗ての自分が母親に拒絶された時の記憶を思い出して更に胸を締め付けられてしまう。

 

 

プレシア(紲那)「……フェイト?どうしたの……?」

 

 

『……なんでもない、です……そ、それで、私は一体どうすればっ……?』

 

 

エンド「取りあえず、君が今腰に巻いてるバックルをこちらに渡してくれればいい。その後、そのバックルは僕達の方で処分するから」

 

 

『……わ、分かりました……』

 

 

確かに、このバックルが自分達を陥れる為の物なら、もう自分には必要がない。そう考えながら、イザナギディスペアはエンドに言われた通り変身を解除すべく腰のバックルに手を伸ばしていく。が……

 

 

 

 

 

 

―ガシャンッ……ギュイィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッ!!―

 

 

『……え?な、なに―――キャアァアアッ!!?』

 

 

―シュンッ、ガギィイイイイッ!!!―

 

 

ロスト『――ッ!!?』

 

 

プレシア(紲那)「?!なっ……?!」

 

 

エンド「フェイト君?!」

 

 

 

 

イザナギディスペアがバックルを取り外そうとした次の瞬間、突如バックルから不穏な起動音が響き渡り、直後にイザナギディスペアの姿が他の一同の視界から消え去ってロストへと斬り掛かったのだった。そしてイザナギディスペアはそのまま追撃の一撃をロストに加えようとするも、横からクラウンが間に割って入り薙刀の一撃を受け止めた。

 

 

クラウン『ッ!フェイト嬢っ!』

 

 

『ち、違っ……!違うっ!違うのっ!私じゃなくてっ、身体が勝手にっ―――!』

 

 

クラウン『えぇ分かっています!恐らくコレも……!』

 

 

エンド(黒月八雲っ……!何がなんでもフェイト君に彼女達を手に掛けさせるつもりか……!)

 

 

恐らくコレも、自分達のような障害の乱入やフェイトが戦意喪失した時に備えて八雲があらかじめ仕組んでおいた保険なのだろう。何処までも用意周到な八雲に対して一同が憤りを覚える中、イザナギディスペアはクラウンを強引に払い退けてロストに再び斬り掛かろうとするが、横合いから飛び出したプレシア(紲那)の魔力砲に阻まれ後方に後退した。

 

 

『グッ……!ダ、ダメっ、逃げて皆っ!このままじゃ、私っ……!』

 

 

クラウン『……いいえ。そういう訳にはいきませんよ、フェイト嬢』

 

 

黄昏華「こんな事で、貴女の手を汚させる訳にはいきませんわ。あの男の凶行も、貴女も、私達が止めてみせます!変身ッ!」

 

 

『ROSE TEIR!』

 

 

プレシア(紲那)「少しばかりの辛抱よ、フェイト……今助けるわ……!」

 

 

必ず助け出す。そんな強い決意と共にクラウンとプレシア(紲那)はそれぞれ得物を取り出し、黄昏華は腰に装着したドライバーに薔薇の意匠が施されたメモリを装填して『仮面ライダーRT(ローズテイル)』へと変身する。そしてイザナギディスペアもそんな三人を敵と認識したのか、フェイトの意志に反して薙刀を振り回し、稲妻を散らせて三人に目掛け斬り掛かっていったのだった。

 

 

エンド「――さて。彼等がフェイト君を止めてくれている間に、君をどうにかしないとね」

 

 

ロスト『――――』

 

 

そしてその一方で、エンドは自身の力により拘束されているロストと向き合っていく。ロストは未だに拘束を解こうと抵抗してるが、余程頑丈な拘束なのかビクともせず、エンドはそんなロストの額に右手を近づけていく。

 

 

エンド「先ずは、クアットロが君達に掛けた暗示を解かなければならないね。そうすれば、零君の負担も今よりかは―――」

 

 

 

 

 

 

「――ウェイクアップッ!」

 

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

エンド「―――ッ?!何っ?!」

 

 

―チュドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

 

 

 

 

ロストに掛けられた暗示を解き、彼女達を解放する。それを試み様としたエンドの頭上から突如雄叫び声が響き渡り、エンドは驚愕を浮かべながらも直感のまま後ろへ飛び退くと、エンドが立っていた場所に何かが飛来して巨大な爆発が巻き起こった。

 

 

エンド「グッ……?!な、何だっ、今のは一体っ?!」

 

 

突然の襲撃。爆風に吹き飛ばされそうになる足を必死に踏み止まらせながら突然の事態にエンドが困惑する中、爆風が止み、何処からか吹き抜けた突風によって辺りを覆っていた黒煙が消え去り、目の前の視界がクリアになる。其処には……

 

 

 

 

 

 

―……バリィンッ!―

 

 

アース『―――なんてザマだ……。やはり、操り人形ではこの程度か……不甲斐ない』

 

 

ロスト『――――』

 

 

エンド「ッ?!君は、仮面ライダーアース……零君達の世界のトーレか……!」

 

 

 

 

 

 

黒煙が晴れた先に見えたのは、エンドの拘束を破壊してロストを解放する一人の仮面ライダー……魔界城の世界にて零達と敵対したナンバーズの一員、トーレが変身するアースだったのである。そして、突如現れたアースにエンドが動揺する中、アースはロストに視線を向けて淡々とした口調で口を開く。

 

 

アース『今回は裏方に専念しろとの指示だったが、そのザマでは戦闘続行は不可能だろう……貴様は離脱して、クアットロ達に合流しろ。コイツ等の相手は私が引き受けてやる……行け』

 

 

ロスト『――――(コクッ』

 

 

クイッと、顎で差しながらそう指示するアースの命令を受けて短く頷き、ロストは背後に歪みの壁を出現させてクアットロ達の下へと転移しようとする。

 

 

エンド「ッ!行かせはしないっ!!」

 

 

アース『それはこちらの台詞だっ!!』

 

 

アースキバット「ライド・インパルスブレード!」

 

 

―ガギィイイイイッ!!!―

 

 

それを目にしたエンドも、すぐさま先程と同じ無数の鎖を飛ばしロストの逃走を阻止しようとするが、それを阻むようにアースがバックルの止まり木に止まったアースキバットに深紫色のフエッスルを吹かせながら両腕両足の鎖を解き放ち、その下に隠された紫の装甲から放出される紫色の刃で無数の鎖を次々と叩き落としていき、その間にロストは歪みの壁を潜り抜け逃走してしまった。

 

 

エンド「クッ……トーレ、君は……!」

 

 

アース『……あんな人形とは言え、ドゥーエを失った今の我々にとっては貴重な戦力だ。やすやすと貴様等に明け渡してなるものか』

 

 

エンド「ッ!いい加減に目を覚ませっ!!こんな事を続けて何になるっ?!君達の世界のセッテだって、今も君を……!!」

 

 

アース『……敵対象の排除を開始する』

 

 

アースキバット「ライド・インパルス!」

 

 

エンド「トーレッ!!」

 

 

エンドが投げ掛ける言葉に聞く耳を持たず、アースはアースキバットの掛け声と共に目にも留まらぬ速さで駆け出してエンドへと斬り掛かり、エンドも悲痛な叫びと共に応戦していくのであった。

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙ノせ界⑫(中へん)

 

 

『ユリカ……ユリカ・アルテスタッッッ……!!!!』

 

 

ユリカ「…………………」

 

 

リィルを庇い、黄金の剣を手にヴリトライレイザーと対峙するように何処からともなく現れたユリカ・アルテスタ。そんな彼女の登場に対し、ヴリトライレイザーは泥のように粘着な憎悪と殺気を浴びせながら睨みつけるが、ユリカは真っ向からソレを受け止めても動じずにヴリトライレイザーに鋭い視線を向け続けている。が……

 

 

『お姉…………ちゃ……………ゥッ…………』

 

 

―バタッ……―

 

 

ユリカ「ッ!リィルッ!!」

 

 

地面に座り込むリィルは、駆け付けたユリカの背中を見た途端突然グラリと身体を揺らしながら倒れ伏してしまい、それを背中越しに感じ取ったユリカは剣を消しながら慌ててリィルの傍に駆け寄り、彼女の身体を抱き抱えた。

 

 

ユリカ「リィル!リィルっ!!しっかりしなさいっ、リィルッ!!」

 

 

『…………お姉……ちゃん…………』

 

 

普段の冷静な彼女らしくもない、血相を変えた表情でリィルの身体を揺さ振って呼び掛けるユリカ。リィルはそんな彼女の声で朦朧とした意識を呼び覚まされ、ユリカの顔を徐に見上げる。

 

 

『お姉ちゃん――――お、おね、がい……』

 

 

ユリカ「……え?」

 

 

そう妹の口から零れたのは、懇願の声。それを聞いたユリカが思わず聞き返してしまう中、リィルは震える手でユリカの肩を掴み、

 

 

『お願い…………零を…………零の大切な、あの子達を…………守って、あげ―――――』

 

 

ユリカ「ッ……!!リィルッ!!」

 

 

ユリカにそう伝え、力無く気を失ってしまうリィル。そんな彼女の様子にユリカも慌ててリィルを揺さ振り大声で再び呼び掛けるが、その時、リィルの全身が光に覆われていき、身体から無数の粒子を立ち上らせて異形から人間の姿……元の黒月零へと戻り、リィルは消滅―――否、零の中へと、"今度は完全な魂の形で戻った"のだった。

 

 

ユリカ「ッ……リィル……貴方……其処までしてまだ……この子達を……」

 

 

元の姿に戻った零、そして彼の中にイレイザーとして戻ってしまったリィルを目にし、ユリカは悲しげに瞼を伏せながら零をその場に寝かせ、ゆっくりと身体を起こしてヴリトライレイザーを睨み据えた。

 

 

『――あら、感動の再会はもういいのかしら……?気の済むまで続けてもらっても構わないのよ?なんせ、これが最後の姉妹の会話に成り兼ねないのだしねぇ』

 

 

ユリカ「…………。貴女がイレイザーとなってクリエイトの一員に降ったことは知っていたけど……少し見ない内に、随分醜悪な姿になったものね、貴女も……」

 

 

『ハッ、人の見た目のまま化け物同然の身体になったアンタよりか、まだ可愛いげがある方じゃない?人を指してどうこう言える立場でもないでしょ、アンタも?』

 

 

そう言い合いながらユリカとヴリトライレイザーはお互いにとてつもない敵意と殺気を放ち、それを間近で感じ取った近くのセンチュリオ達も恐れ戦き思わず後退りする中、ユリカはヴリトライレイザーと対峙したまま白と金のバックルを取り出した。

 

 

『……何のつもり?まさかアンタ、そのクズを庇って私達と戦おうだなんて考えてるんじゃないでしょうね?』

 

 

ユリカ「……そうだと言えば、どうするの?」

 

 

『気でも狂ったとしか言いようがないわね……忘れたの?ソイツはアンタの妹を殺し、私やアンタ達の故郷をも滅ぼした、言わば仇と言っても過言じゃないわ。アンタだって、それを知っているからあんなに嫌がってた終極の神になんかなったんでしょ?そいつを殺す力を得る為にさぁ?』

 

 

ユリカ「…………」

 

 

まるでユリカの中の憎しみを煽るように笑いながら高らかにそう告げるヴリトライレイザーに対し、ユリカは何も言い返そうとせず、ただ無言のまま腰にバックルを当ててベルトを巻き付けていく。

 

 

『さっきだって、ソイツの顔を見たアンタの瞳には、憎悪の色が見えた……本当は今でも殺したいぐらい憎んでんでしょう?だったら――「貴女に言われるまでもないわ」……あ?』

 

 

ヴリトライレイザーの弁に熱が入り始めようとしたその時、ユリカの冷ややかな声が彼女の演説を遮った。そしてヴリトライレイザーが怪訝な表情でユリカを見ると、ユリカは先程と変わらない無表情のままヴリトライレイザーを見据え、己の心情を語るように淡々と口を開いた。

 

 

ユリカ「少しばかり癪に障るけど、大体は貴女の言う通りよ……私も聖人君子という訳ではないから、私や貴女の故郷、リィルの命を奪ったこの子に対する憎しみがないと言えば嘘になる……以前はリィルの事を忘れて生きる彼を、思わず殺したくなる時だってあった……けどね……」

 

 

スッ……と、ユリカの目が冷たい色を帯びる。

 

 

ユリカ「私も、あの時何が起きたのか全てを知るワケじゃない。それを聞き出す前に今の何も知らない彼を糾弾し、この手に掛けた所で、きっと私は永遠に納得する事が出来なくなる……真実を知る為にも、一時の憎しみに身を委ねて全てを無為にような真似はしないわ」

 

 

『……あっ、そう……その心意気には感心するけど、でもこっちからしてみればそんなのはどうでもいい事なのよ。ソイツには完全にイレイザーになってもらわないと困るんでね。ソイツの中の『余分なモノ』には此処で消えてもらうわ』

 

 

ユリカ「……させると思うの?」

 

 

ザッと、零の中のリィルを消し去る意向を見せるヴリトライレイザーの前に立ち塞がるユリカ。だがそんな彼女の周囲を状況の理解が追いつかず今まで立ち尽くしていたセンチュリオ達が包囲してブレード・ルミナリウムを握り締めていき、その端では全身から夥しい量の血を流すΦを肩に担ぐガリュウの姿があった。

 

 

『アンタはΦをアジトにまで運んで治療させなさい。その子にはまだ利用価値があるんだから、死なせるんじゃないわよ?』

 

 

ガリュウ『…………(コクッ)』

 

 

ヴリトライレイザーからの指示にガリュウは控え目に頷き返し、Φを抱え直しながら背後に歪みの壁を出現させて自分達のアジトへと撤退していき、その様子を横目にユリカは再び口を開いた。

 

 

ユリカ「あんなくだらないクローンを持ち帰って……まだアレを悪用するつもり……?」

 

 

『その為に造ったのだから当たり前でしょう?今回の件で利用目的の半分は果たしたけれど、戦力的な意味でならまだまだ活用出来るしね。特にソイツ相手にはリィルと同じ顔をしてるってだけで効果覿面だしぃ?……ああ、アンタからしてみれば不快な事この上ないのかしら?ねぇ、おねーさん?』

 

 

ユリカ「……どんなに本物に似ようとも、所詮は偽物……あのクローンに対しての感情は何一つ持ち合わせてはいないわ……でもね……」

 

 

ユリカの腰に巻かれた白と金のベルト……セイレスドライバーから無数の光の粒子が放出されユリカの全身を覆うと、黒色のラインが走る純白の装甲とナイトに近い騎士のような仮面を身に纏い、最後に黒と金のマントが腰に出現し違う姿へと変身していった。そしてすべての変身を完了させたライダー……『セイレス』は右腰に納めた金色に輝く剣、先程も手にしていたアルディオスを手に取った。

 

 

セイレス『―――あの子という存在を貶め、侮辱した貴女達に対するこの怒りは、例え八つ裂きにしても収まりが付かない……あの子の顔を使った時点で、それ相応の覚悟は既に出来てるのでしょう……?』

 

 

死者であり、自身にとって最大の遺恨でもある彼女の存在を辱めたヴリトライレイザー達に対する憤怒から圧倒的な威圧感を放つセイレス。それを間近で感じ取ったのかヴリトライレイザーは無意識に額から一筋の冷や汗を流しつつも、その顔には薄い笑みを浮かべている。

 

 

『珍しくやる気じゃない、いつもすかしてるアンタのそんな顔を見れただけでも私的には満足だけど……。アンタ一人で、其処のクズを"守り切れる"と思ってんの?』

 

 

ガリュウとΦが抜けたとは言え、此処にはまだ無数のセンチュリオが健在だ。

 

 

更に町中には雷達と紫苑達がクアットロとノーマ・レギオ、そしてインスペクターに追い詰められて何人かが瀕死の状態に陥っており、彼等の誰かが欠けるだけでも零を精神的に追い込む事が出来る。

 

 

その手助けを幸助達に期待しようとも、そちらの方は八雲がその力を発揮すれば単独で足止めぐらいは出来る。

 

 

つまり、此処でセイレスが零を守り切れたとしても、黒月零を瓦解させる方法は幾らでもあるのだ。

 

 

セイレス『……そうね……私一人じゃ此処にいる彼の身を守れたとしても、彼の心まではどうする事も出来ない……彼等を助けに向かおうにも、今の私一人じゃ其処までのお膳立ては出来ないわ……』

 

 

自分一人では今ある問題の全てをカバーし切ることは確かに不可能だ。その事実を認めた上で、しかし、セイレスは仮面の下で不敵に笑ってみせ、

 

 

セイレス『私には出来ないとしても、"彼を慕う彼等"にならそれも可能になるわ……その辺りの事、きちんと考えてあるのかしら?』

 

 

『何……?』

 

 

 

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!!―

 

 

 

 

 

どういう意味だ?と、ヴリトライレイザーがセイレスに聞き返そうとする前に、町中に突如巨大な大爆発が発生したのはそのすぐ直後の出来事なのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

爆発が起こる数分前……

 

 

 

 

―クラナガン・ショッピングモール―

 

 

―ガキイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!!―

 

 

ディケイド(紫苑)『グゥッ?!うっ、ウアァアッ!!』

 

 

センチュリオRが一息と共に振るうブレード・ルミナリウムの凶刃がディケイド(紫苑)のボディを切り裂いて火花を散らし、続け様に上空から猛スピードで突進してきたシルベルヴィントがすれ違い様に叩き込んだ高周波ブレードによる斬撃がディケイド(紫苑)を吹き飛ばしてしまう。

 

 

それでもなお、ディケイド(紫苑)は起き上がって二人に立ち向かおうとするが、途中で身体がふらつき片膝を着いてしまった。

 

 

シルベルヴィント『ハッ、なんだい風間紫苑?もうへばったのかい?これなら、さっきの小娘の方がまだ歯ごたえがあったよ!』

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ……うっ……』

 

 

センチュリオRの斜め後ろの宙に浮遊し、今のディケイド(紫苑)の姿を嘲笑うシルベルヴィントに触発され無理に立ち上がろうとするも、やはり上手く膝に力が入らずソレすらも出来ない。

 

 

先程までは、アズサがシルベルヴィントの相手を引き受けていてくれたおかげでナンバーズと共にセンチュリオRと互角の戦いに持ち込む事が出来たが、アズサが倒れた事で再びシルベルヴィントと相対する事になり、更には彼女を助けようとしたナンバーズも倒れてしまった。そして、

 

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガァアッ!!バシュウゥッバシュウゥッ!!ガギィイイイイイインッ!!―

 

 

テンガA『クッ!こんのっ!―ズバアァアアッ!!―ガハァアッ?!』

 

 

リイン『?!勇輔君ッ!!―ズシャアァアアアッ!!―きゃあぁあああっ?!』

 

 

シャマル「優矢君ッ!!!ヴィヴィオッ!!!姫さんッ!!!お願いしっかりしてッ!!!アズサちゃん気をしっかりッ!!!」

 

 

ヴィヴィオ「……ゥ……」

 

 

優矢「………………」

 

 

アズサ「――――――」

 

 

姫「――――――」

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィオは遥か後方にて、勇輔によって一緒に回収された瀕死の状態の優矢、アズサ、姫と共にシャマルの治癒魔法を受けてる最中にあった。

 

 

しかし、腹を貫かれた優矢、ミンチ寸前にまで全身をズタズタにされた姫の容態はシャマルの治癒を受けても芳しくなく、アズサに関してはシャマルが治療魔法の手を緩めれば直ぐに死に至っても可笑しくない最悪の状態にある。

 

 

そんな彼女達を守るためにリインとテンガがゴウラムの支援を受けつつ迫り来る無数の敵を迎撃しているが、やはり数が違い過ぎる。

 

 

空から絶え間なく降り注ぐ無数の実弾とビームの雨、振り下ろされる刃の数々にリインとテンガの姿も目に見えてボロボロになっていき、更にはゴウラムまでもが量産型ゲシュペンストMk-Ⅱとセンチュリオの一斉射撃を浴びせられ遂に墜落し、ビルの一角へと叩き付けられてしまっていた。

 

 

ディケイド(紫苑)(ッ……どうする……このままじゃいずれはっ……)

 

 

あの様子ではシャマル達を守るリインとテンガもそう長くは持たない。

 

 

彼女達の守りが突破される前に一刻も早く別の手段を考えなければならないが、この現状、この状況を打破する術をディケイド(紫苑)は持ち合わせてはいない。

 

 

目前のシルベルヴィントとセンチュリオR、リインとテンガを今も追い詰めてゆくドルーキンは破格の実力の持ち主であり、センチュリオRの性能に引けを取らない力を持つセンチュリオの群れ、更には無数に沸き上がる量産型ゲシュペンストMk-Ⅱと量産型ヒュッケバインMk-Ⅱの大群。

 

 

これだけの数の強敵と兵の数を一度に蹴散らすには、やはり今のディケイド(紫苑)の持つ力だけでは足りない。

 

 

せめてこの世界に来る前にもう幾つかライダーの世界を巡っていればと、今更の後悔の念に見舞われて地面に拳を叩き付けてしまう。

 

 

ディケイド(紫苑)(……いいや、それでも、諦める訳にはいかないっ。零さんに任された以上は、僕が……!)

 

 

無い物をねだったところで、それこそ今更でしかない。

 

 

零が自分を信じて雷達の事を任せた以上、此処で自分が挫ける訳にはいかないのだと、ディケイド(紫苑)はライドブッカーSモードを杖代わりにふらつきながら立ち上がり、再びシルベルヴィントとセンチュリオSと対峙していく。

 

 

センチュリオR『……まだ無駄な抵抗を続ける気ですか、風間紫苑……今の貴方の力ではこの状況を覆す事は不可能です……。それは、他ならぬ貴方自身が良く分かっている筈では?』

 

 

ディケイド(紫苑)『ああ、君に言われるまでもないさ……。けどね、だからって簡単に諦めるほど僕も人間出来ちゃいないんだよ……こう見えて、理不尽な暴力に対しては抗いたくなる質なんでね……どんなに君達の力が強大だろうと、君達に屈する膝は持ち合わせてはいないっ』

 

 

シルベルヴィント『ハッ、憎たらしい減らず口も此処まで来ると、最早愛嬌にすら見えてくるねぇ……だったら教えてあげるよ、風間紫苑?そういうのってさ、無駄の努力の悪あがきって言うんだよォォおおおおッ!!!!』

 

 

忌ま忌ましげに吠えると共に、両腕の高周波ブレードを交差しながらバーニアを最大出力で噴出し、ディケイド(紫苑)に向かって再び突進するシルベルヴィント。

 

 

センチュリオRもブレード・ルミナリウムを形成するナノマシンを分解、再構築してランチャー・ジェミナスへと形作りながら銃口をディケイド(紫苑)に狙い定め、迫り来る二人の強敵を前にディケイド(紫苑)も噛み締める歯を鳴し玉砕覚悟でライドブッカーを構え直した。そんな時だった……

 

 

 

 

 

 

『――――成る程ね。その心意気、君は確かに別世界のディケイドだ。そういう人間は嫌いじゃないよ』

 

 

『ああ。だから、こちらも気兼ねなく加勢させてもらうぜ?』

 

 

ディケイド(紫苑)『…………え?』

 

 

 

 

 

 

―――そんな、何処からか聞こえた二つの声と共に、シルベルヴィントの真下、センチュリオRの頭上から二人の仮面の戦士が前触れもなく現れたのは……。

 

 

センチュリオR『ッ……?!なっ―ズシャアァアアッ!!―グッ!!』

 

 

シルベルヴィント『なにッ?!―ガギィイイイイイインッ!!―ガハァッ?!』

 

 

ディケイド(紫苑)『ッ?!な、何?一体……?!』

 

 

突如二人の頭上と真下から出現した二人の仮面の戦士による奇襲。

 

 

センチュリオRは頭上から急降下してきた仮面の戦士にランチャー・ジェミナスを真っ二つに斬り裂かれて咄嗟に後方へと跳び退き、シルベルヴィントは真下から飛び上がった仮面の戦士が突き上げる剣の突撃を喰らってのけ反るように吹き飛んだ。

 

 

そんな目の前で起きた突然の出来事にディケイド(紫苑)も理解が追い付かずに唖然としてしまう中、シルベルヴィントとセンチュリオRを退けた二人の仮面の戦士がディケイド(紫苑)に背を向けるように立った。

 

 

『……それにしても、あの世界から転移してこんな所に出てきてしまうなんてね……いや、今回は寧ろそれが良い方向に働いたかな?』

 

 

『雷牙の世界を修復する手間も省けたしな。……俺としては、あのシスコン馬鹿オーガがいる場所に転移が出来てれば言う事無しだったんだが』

 

 

ディケイド(紫苑)『……君達、は……?』

 

 

目の前で謎の会話を交わす二人組に戸惑いがちにそう問い掛けるディケイド(紫苑)。すると、ネオプラズマカッターで斬り掛かってくる量産型ゲシュペンストMk-Ⅱを殴り飛ばすリインと優矢達を治療するシャマルがその二人組に気付き、我が目を疑うように驚愕の表情を浮かべた。

 

 

シャマル「あ、あれは……?!」

 

 

リイン『せ、"紲那君"に、"紲牙君"っ?!な、なんで二人が来ないなとこにっ?!』

 

 

二人組の仮面の戦士達……零の平行世界の友人である輝晶 紲那が変身する仮面ライダーディジョブドと、もう一人の紲那とも呼べる紲牙が変身する仮面ライダーディジョブドダークネスを見てリインとシャマルが驚愕の声を上げ、その二人の不意打ちを喰らったシルベルヴィントとセンチュリオRは新たに現れた敵対者に警戒心を露わにしていた。

 

 

シルベルヴィント『クッ、仮面ライダーディジョブドの輝晶紲那に、ディジョブドダークネスの輝晶紲牙だってっ……?!』

 

 

センチュリオR『……何故、貴方達が此処に……?』

 

 

ディジョブド『その質問は愚問だね。そんなの零達を助ける為に来たに決まっているだろう?当初はまあ……予想外のアクシデントに見舞われたせいで別世界で戦っていたけど、予定通りこの世界に無事転移出来たのは運が良かったよ。……この場所に"出てきた"のは僕達にとっても予想外だったけど』

 

 

ディジョブドD『……一緒に転移した筈の連中が此処にいない時点で、半分成功の半分失敗だけどな。ま、気配は感じ取れるからこの世界にいるのは間違いないだろうが』

 

 

そう言いながら誰かを探すかの様にディジョブドDが周りを徐に見回すが、シルベルヴィントはそれを他所に新たに現れた乱入者を前に敵意を露わにし宙に再び浮き上がっていく。

 

 

シルベルヴィント『ワケの分からないことをゴチャゴチャとっ……要するアタシ等の邪魔しに来たって事だろっ?たかだか増援が二人増えたところで―――!』

 

 

 

 

 

 

「――――いや、生憎だがその数え方は間違いだ」

 

 

「うん。この場合、正確には"四人"……だよね?」

 

 

リイン『……え?』

 

 

―シュンッ……ガギィンッ!ガギィンッガギィンッ!ガギィイイイイイインッ!―

 

 

『ッ?!グ、グォオッ?!』

 

 

『ガハアアァッ?!』

 

 

ドルーキン『……?!』

 

 

シルベルヴィント『な……なんだい、ありゃ?!』

 

 

 

 

苛立つシルベルヴィントの声を遮るように、何処からともなく響き渡った二つの声。それと共に、突如遥か上空から二機の小型戦闘機が飛来し、リインとテンガを襲う量産型ライダー達に何度も突撃して次々と吹っ飛ばすと、あらかた片付け終わった二機の小型戦闘機はリイン達の後方……其処に佇む二人組の青年の腰に巻かれたドライバーのバックルに吸い込まれるように消えていった。その二人組とは……

 

 

 

 

 

 

クロノ「……最悪な事態になる前に、なんとか間に合ったようだな。しかし全く、あの人がいきなり『此処で別行動!』とか言い出さなければもっと早くっ―――」

 

 

ユーノ「いや、まあ、愚痴っても仕方ないよクロノっ。あの人の唐突さは零達でも手を焼いてたってぐらいなんだしさっ」

 

 

リイン『ッ?!う、嘘……あれって……?!』

 

 

シャマル「ユ、ユーノ君に……クロノ提督……?!」

 

 

 

 

そう、その二人の青年……険しげに眉間にシワを寄せる黒髪の青年と、その彼に苦笑いを向けて宥める金髪の青年とは、零達の世界の住人で零とリイン達の友人、そして、ハルと別行動を取りリイン達の危機に駆け付けたクロノとユーノだったのである。

 

 

シルベルヴィント達がその二人を新たな敵の増援として捉え驚愕する中、リインとシャマルはそれとは別の意味で驚きを露わにクロノとユーノを呆然と見つめていくが、クロノとユーノはそんな彼女達の反応を他所にリイン達の前にまで踏み出した。

 

 

ユーノ「まあ、とにかくさ、二人共久しぶり。積もる話も色々あるけど、一先ずこの場は加勢させてもらうよ……これ以上君達の身に何かあったんじゃ、零達や守護騎士達に合わせる顔もないしね」

 

 

リイン『え……零って……そ、そんなら二人はまさか―――!』

 

 

クロノ「詳しい話は後だ、君達は引き続き怪我人達を頼む。……ユーノ、行くぞ!」

 

 

ユーノ「うん。まあ、ハルさんがいないからアクエリオンにはなれないし、此処は……コレの出番だね」

 

 

そう言いながら二人は腰のベクターバックルを外していき、代わりに何処からか別のベルトを取り出していく。

 

 

クロノとユーノがそれぞれ取り出したそのベルトは、一見するとファイズギアに酷似しているが、クロノのベルトは青と白のツートンカラー、ユーノのベルトは緑と白のツートンカラーと色調に違いがあり、それらを腰に巻き付けていく。

 

 

リインキバット「えっ……あ、あれって……!」

 

 

シャマル「ベルト……?!まさか……!」

 

 

二人が腰に巻くベルトを目にしたリイン達が目を剥く。そしてクロノとユーノは更に懐から自分達のベルトと同じ色彩の携帯……アストレイフォンを取り出して開き、それぞれ変身コードを入力した後にエンターキーをプッシュしていく。

 

 

『0・0・3』

 

『0・0・4』

 

 

『『Standing by……』』

 

 

エンターキーを押して響き渡る電子音。そして二人はアストレイフォンを閉じてそれぞれ変身の構えを取り、

 

 

『変身ッ!』

 

 

『『Complete!』』

 

 

腰に巻くベルト……アストレイギアのバックルに携帯をセットすると同時に再度電子音声が鳴り響き、直後にクロノのベルトから青の光、ユーノのベルトからは緑の光が伸びて二人の体を駆け巡っていく。

 

 

二人から発せられる眩い光が辺りを覆い尽くしてその眩しさに一同が思わず視線を逸らすと、閃光が徐々に収まり始め、みなが二人に視線を戻した時には彼等の姿は全く別の物……外見はほぼ同一ではあるが、基本フレームの色がそれぞれ異なる二人のライダーに変化していた。

 

 

クロノは青と白の装甲に緑の瞳を持ち、全身には巨大なバズーカやミサイルポット、左腕には青と黒の大型シールドを装備したライダー、ユーノは緑と白の装甲と緑色の瞳を持ち、両腕にはクロノと同じく緑と黒のシールドに巨大なライフルを手にしているが、腰にはライフル・ビームサーベル・実体斧を複合させたような武器をマウントさせてるライダー……『仮面ライダーアストレイ・ブルーフレームフルウェポン』、『仮面ライダーアストレイ・グリーンフレーム』に変身し、変身完了と共にれぞれの銃から量産型ライダー達に向けて一斉射撃を放った。

 

 

―バシュウゥッ!バシュウゥッ!ズガガガガガガァアンッ!!―

 

 

センチュリオ『くッ?!データベースにない全く未知のライダーですって……?!』

 

 

リイン『ク、クロノ君と、ユーノ君が、仮面ライダーに……?!』

 

 

アストレイBFFP『……本物のデッドコピーではあるが、それでも性能的には申し分ない。甘く見えていたら痛い目だけじゃ済まないぞッ!』

 

 

アストレイGRF『別世界のディケイド、ディジョブド!こっちは僕達に任せてくれ!君達はそっちを頼んだよ!』

 

 

ディケイド(紫苑)『え……あ、はい、分かりましたっ!』

 

 

ライダーに変身したクロノとユーノに驚愕しつつも、彼等がリイン達の加勢をしてくれるなら目の前の強敵に専念出来る。未だに困惑しながらも二人に感謝し、ディケイド(紫苑)達は目前のシルベルヴィントとセンチュリオRに向けて身構え反撃を開始していくのであった。

 

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑫(後編)

 

―クラナガン・市街地―

 

 

―ドゴォオオッ!!ドグオォッ!!バキィイイッ!!―

 

 

真也「ごはぁあっ!!ぐっ、うがぁああああっ!!」

 

 

恭平「真也ぁああッ!!!」

 

 

『アッハハハハッ!どうしたのかしら追跡者さ~ん?まだまだ始まったばかりよ?この程度で、貴方達に対して溜まりに溜まった私の鬱憤はまだまだ晴らせないわぁアッ!!』

 

 

雷牙『……ッ……』

 

 

そして同じ頃、デザイアドーパントの驚異的な能力により恭平を人質に取られ、変身解除にまで追い込まれてしまった真也はデザイアドーパントからの一方的な暴力で徹底的に痛め付けられていき、血へどを吐きながら地面を転がりはいずり回るという無様な姿を曝け出していた。

 

 

そんな光景を目の前で見せ付けられる雷牙達も思わず飛び出したくなる衝動に駆られるも、デザイアドーパントの能力、何より子供達を人質に取られてる以上は身動きが取れない。

 

 

なにも出来ない無力さと苛立ちに雷牙達が見舞われる中、デザイアドーパントは真也の胸に足底を叩き付け踏みにじり、なにかを思い出したように雷牙に視線を向けた。

 

 

『ああ……そういえばそろそろ決心が付きましたか、雷牙さん?サンダーレオンを引き渡すか、あの子達を見殺しにするか、いい加減決めてもらわないと、私も痺れを切らして何をするか分かりませんよぉ?』

 

 

雷牙『クッ……』

 

 

わざとらしく演技するかのように両手をヒラヒラさせ雷牙に挑発的な笑みを浮かべるデザイアドーパント。そんな彼女からの再通達に雷牙も仮面の奥で歯を噛み締め、左手に握るサンダーレオンのカードを見つめて葛藤し続け、デザイアドーパントはそんな未だに煮え切らない雷牙を見て小さく溜息を吐いた。

 

 

『そうですかー、決心するにはまだ見せしめが足りないと?なら――――いえ、そうですね……』

 

 

雷牙『ッ……!何だ、今度は一体何をっ……!!』

 

 

まさかまた子供達の誰かを利用する気なのか。思案をするように顎に手を添えるデザイアドーパントを睨みつけて雷牙達は警戒心を更に強めると、デザイアドーパントはニヤリと薄く笑い、

 

 

『―――良いですよ、雷牙さん?私もいい加減飽きて来ましたし、今はまだサンダーレオンを渡せないなら、また日を改めて別の日に再度交渉する……というのはどうでしょうか?』

 

 

黒獅子リオ『……何……?』

 

 

雷牙『日を改め……?どういう事だっ、何を企んでるっ?!』

 

 

『別にぃ?ただ私も余り暇ではないので、一度の交渉でこうダラダラ長引かせられたらこちらの予定も狂ってしまいますから、貴方に考える時間を与えるという意味でも日を改めようと言ってるんですよ。その方が貴方も決心が付くでしょ?なんなら、人質の子供達を解放させてあげても宜しいですよぉ?』

 

 

雷牙『なっ……』

 

 

交渉はまた日を改めて、更には人質の子供達も此処で解放する。そう言われ希望の光が射したような感覚に見舞われるも、いいやと、そんな甘い考えを否定するようにかぶりを振ってデザイアドーパントを見据えた。

 

 

雷牙『そんな上手い話は信用しないぞ……お前の事だ、代わりに何か俺達にそれ相応の条件を要求するつもりなんだろっ?』

 

 

『あら素敵!其処まで頭が平和ボケしてなくて安心しましたわ♪ええ、無論タダで人質を解放なんてしませんよ?彼等を解放し、私達にこの場から退いて欲しいなら……』

 

 

ドゴォオッ!と、デザイアドーパントは踏み付ける真也を雷牙の前まで躊躇なく蹴り飛ばし、彼を顎で差しながら……

 

 

 

 

 

 

『……其処の彼、貴方の手で始末してください。雷牙さん?』

 

 

雷牙『…………え…………?』

 

 

『なっ……?!!』

 

 

 

 

 

 

お前の手で、その無抵抗の重傷人の命を奪えと、何となしにそんな残酷な要求を提示したのであった。

 

 

『あっれぇ?何を驚いてるんです雷牙さぁん?彼等はさっきまで貴方達と戦っていた敵だったでしょ?何も躊躇する事なんてないじゃないですかぁ♪』

 

 

恭平「テメッ……!!!」

 

 

フェイト(別)「ふざけないでッ!!!人質を解放して欲しければ人を殺せなんて、そんな目茶苦茶な要求がっ……!!!」

 

 

『はぁああ?なに甘ったれたこと言ってるんですぅ?誰かを助けるって事は、誰かを助けないという事でもあるんですよ?幼い命か、さっきまで敵対していた敵の命か、天秤に掛けて此処まで上等且つ好条件の取り引きはそうそうないと思いますよぉ~?私みたいなぁ、わ・る・も・の、相手にはねえ♪』

 

 

雷牙『貴様ぁっ……!!!』

 

 

握り締めた拳から血を吹き出しそうだった。最早怒りを通り越して憎しみに近い激情を乗せた眼差しでデザイアドーパントに突き刺す雷牙。だが、そんな物で奴がどうとなるワケでもない。

 

 

『どうしたんですか?ほら、優柔不断もいい加減にしてさっさと決めちゃって下さいよ?……それとももう一度、誰かに犠牲になってもらわないと決められないのかしらぁ?』

 

 

女の子A「!!!?」

 

 

雷牙『ッ!!!止めろッ!!!…………ッ…………わ…………分かったっ…………!』

 

 

黒獅子リオ『ッ!雷ッ!!』

 

 

人質の女の子に人差し指を向けるデザイアドーパントからの脅迫に圧され、苦悩の末に了承してしまう雷牙。そしてその返答を聞き、デザイアドーパントは口元を歪めながらニッコリと雷牙に笑い掛けた。

 

 

『それじゃ、他の皆さんにも分かりやすく見えるように、そのご自慢の爪でバラバラにしっかり解体してくれますぅ?あ、他の皆さんは動いたり口を挟んだりしないで下さいねぇ?でないと、この子達の頭が一度に吹き飛ぶかもしれませんから♪』

 

 

スバル(別)「グッ……!!」

 

 

レオナ「雷さん……!!」

 

 

人質の為とは言え、自分達の目の前で雷が人を殺めようとしているのに、それを止める事も叶わない。デザイアドーパントへの怒りと悔しさのあまりFW陣の目尻にも涙が浮かび上がるが、雷牙はそんな彼等の視線を背中に受けて無言のまま徐にカードを取り出し、バックルへとセットする。

 

 

『ATTACKSPELL:RAIGA CLAW!』

 

 

何時になく無機質に聞こえる電子音声と共に、雷牙の両腕にライガクローが装備される。そして一歩、また一歩と歩みを進め、雷牙はゆっくりとボロボロの姿で倒れ伏す真也に歩み寄っていく。

 

 

真也「―――――…………ッ…………?ら…………ィ、ガ…………?」

 

 

雷牙『ッ…………』

 

 

少しの間だけ意識を失っていたのか、ビチャッ、と血を垂らしながら顔を上げて雷牙の見上げる真也を見て、雷牙は思わず躊躇し足を止め立ち止まってしまう。

 

 

『何をやってるんですか、雷牙さぁん?さぁ、子供達を助けたいならその男を殺しなさい!大丈夫、幼い命を守ろうとする貴方は紛れもなく『正義の味方』なのだから、なに一つ間違ってなんていませんよ!弱気を助け、強気をくじく!自信を持って!貴方は、世界を守る雷の牙なんだからァ♪』

 

 

雷牙『ッ!!!』

 

 

どの口で、と思わず吐き出しそうになった言葉を飲み込む。如何な理由があるとは言え、無抵抗の人間の命を奪うようなことが、何が世界を守る牙か。今正に、ソレに反する非道を行おうとしている自分の今の姿に吐き気すら覚えるというのにと、未だに苦悩と葛藤にもがき苦しむ雷牙のそんな姿をデザイアドーパントは鼓舞するが……

 

 

(…………なーんて。そんな上手い話があるワケないでしょうってねぇー)

 

 

その心の内では、やはり……否、それ以上に醜い感情でそんな雷牙の姿を嘲笑っていた。

 

 

(っていうか普通、いくら追い詰められてるからって私の言う事なんて信用しますかねぇ?……まぁ、それだけ精神的に追い込まれているというのなら仕方ないのかもしれませんけど)

 

 

そうさせてる私が言うのもアレなんですけどねー、と内心笑い、真也を見下ろす雷牙の行動を見届ける為に、ジッと目を離さず見つめ続ける。

 

 

(今の彼の精神は疲弊し、正しい判断が出来なくなっている。そんな状態のまま無抵抗の人間を手に掛けたとなれば、彼の心は不屈の精神を失い折れやすくなる……。我ながら中々エグイ策を思い付きますよねぇ、なんか可哀相だし、人質は約束通り解放してさしあげましょうか)

 

 

ゆっくりと、雷牙が右腕の爪を振り上げる。彼の背後のなのは(別)達が最早見ていられないと目を逸らし、そして……

 

 

(―――まあ、"何時約束を果たすか"までは決めてはいないですけどねぇ~)

 

 

悪意に満ちた笑みを口元に浮かべるデザイアドーパントに見届けられるように、雷牙の凶爪が真也を突き刺すべく振り下ろされた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガシッ―

 

 

雷牙『…………え?』

 

 

 

 

 

 

振り下ろした筈の凶爪が、横から伸ばされた肌色の手に止められてしまった。

 

 

信じられない力で掴まれ、身じろぎ一つ出来ない。

 

 

目の前で起こった急展開に頭が追い付かず、呆然と雷牙が顔を上げた視線の先には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハル「―――ダメだよ。君のその手は、何かを守る為に振るわれるモノ。一方的に、何かを奪う為に振るうモノじゃないだろう?」

 

 

 

 

 

 

まるで、母が子を諭すような口調で語り掛け、小さく微笑む女性の姿があったのだった。

 

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑬(前編)

 

―クラナガン・市街地―

 

 

デザイアドーパントからの残酷な取り引きによって、人質である子供達を救う為に雷牙が苦渋の末に真也の命を奪おうとしたその時、ソレを阻む様に突如現れた一人の女……小坂井ハルの乱入に、雷牙だけでなく他の一同までもが呆然と彼女の顔を見つめていた。

 

 

雷牙『ぁ…………アンタ、は…………?』

 

 

ハル「通りすがりの旅人ってところだよ。それよりもホラ、君もいい加減その爪を下げるんだ。こんな茶番、君が其処まで真摯に受け取る必要なんてないさ」

 

 

真也「…………せん…………ぱ、い…………?」

 

 

恭平「せ……先、輩……?ア、アンタ、小坂井先輩なのかっ?!!」

 

 

ハル「む?ああ。久しぶりだね、真也君に恭平君?出来ればこんな血生臭い所で再会なんてしたくなかったんだけど、まあ、積もる話はまた後でね?」

 

 

レジェンドルガに人質に取られる恭平、真也も意識が朦朧とする中で現れた女性が嘗て学生時代の自分達の先輩であり、自分達の世界で今まで行方不明になっていた小坂井ハル本人なのだと気付き驚愕を露わにするが、そんな二人の反応とは裏腹にハルは小さく手を上げながら呑気に軽く挨拶し、目の前へと歩み出てデザイアドーパントと対峙していく。

 

 

『……何ですか貴女は……一体何者です……?』

 

 

ハル「うん?何ですか、と聞かれたら、そうだね……まあ簡潔に言えば、其処の二人と、黒月零君、それから高町なのはさん達の学生時代の先輩ってところかな?名前は小坂井ハル。ただの一般人の、うん」

 

 

『……小坂井、ハル?』

 

 

その名前に聞き覚えがあるのか、デザイアドーパントは何かを思い出そうとするかのように顎に手を添えて思案に浸り、その名に該当する一人の人物の事を記憶から掘り当てた。

 

 

『ああ、そう……何やら聞き覚えがある響きだと思ったけど、聞いた事がありますわ。私達の世界で起きた滅びの原因とその解決策を探して、あっちこちの世界をコソコソ嗅ぎ回っているネズミがいるとか何とか』

 

 

ハル「恥ずかしながらね。まあ、一応それなりに知ってもらえているようで安堵したよ。どうも私は昔から説明下手というか、その辺の物語りが特に苦手でね?しかも自己紹介とかなると、私自身の説明とかいつも相手に伝わり辛く手こずってしまうんだ。いやー、やはりその辺の事を昔から福会長や書記とか周りの人達に任せて治そうとしてこなかったのが悪かったんだろうね、きっと」

 

 

『…………』

 

 

呑気に笑ってそう言いつつ頬を掻くハル。そんなこの緊迫した空間に似つかわしくない空気を漂わせるハルを見て雷牙達は呆気に取られてしまい、デザイアドーパントも思わずたじろいでいる。が、途端にハルは顔から笑みを消し、無表情のままデザイアドーパントを見据えて口を開いた。

 

 

ハル「ま、そんな与太話も適当に切り上げるとして……風の噂で聞いた話じゃ、君にはうちの後輩達が随分と世話になったようだね。零君然り、高町君達然り、そして今の彼らに然り、ね」

 

 

『……ふふっ。ええ、思えば私達は、貴女の後輩さん方とはどれも浅からぬ因縁がありますねぇ。で、それが何か?……もしや、彼らの仇討ちでもしに私達の前に現れたとか?』

 

 

ハル「いや?生憎私は其処まで酔狂な人間ではないよ」

 

 

一番可能性として有り得る問いを投げ掛けるデザイアドーパントだが、それに対してのハルの返答はNO。髪を揺らしてあっさり否定するように首を振るそんなハルを見てデザイアドーパントもいよいよ困惑で眉を潜める中、ハルは自身を指しながら話を続けた。

 

 

ハル「こんな事を自分から口にするのもアレだけど、私はどうも、昔から悪徳というモノに対して怒りや憎しみといった感情を沸き上がらせる事が一切と言っていい程なくてね。無意識と言うべきなのか、私が基本第三の視点からものを見る気があるせいか、其処にその人達なりの道理や言い分があるのなら、例え悪徳であろうとも特に私の方から言う事はない。君の非道に対してもね」

 

 

シグナム(別)「なっ……」

 

 

ヴィータ(別)「お前っ、何を言ってっ……!」

 

 

『ふぅん……それじゃあ何かしら?貴女は私達の行いを悪徳と知りながら、それを良しとして容認すると?』

 

 

ハル「君達が悪で、間違いや非道ではないのかと問われれば間違いなくそうだと断言出来るが、君達の立場からするなら合理的な判断ではあるんじゃないかい?君達の目指す目的を一度ならず二度までも邪魔した彼等に復讐の念を覚えるのも致し方ないとしても、それだけで此処まで彼等の弱点や行動を研究し尽くしてるのはある種の感心を覚えるよ」

 

 

『あら、お褒め頂いて大変恐縮ですわぁ。……けど、それなら余計に解せませんね。貴女の言い分なら、貴女が私達の邪魔をする理由はない筈でしょう?なのに、何故彼を止めたのかしら?』

 

 

悪徳に怒りや憎しみの念を抱く事もなく、相手なりの道理や言い分があるのならそれでも良いと語るなら、何故この場に横槍を入れるように邪魔しに出て来たのか。それが理解出来ず問い掛けるデザイアドーパントの質問に対し、ハルは片目を伏せながら首を竦ませた。

 

 

ハル「基本的にはそうなんだけどね。ただ、此処まで茶番が過ぎると流石に口を挟みたくもなるさ。だってそうだろう?余りにフェアじゃない。雷牙君が自身の信念に反してまでその子達を救おうとしているのに、君がそんなんじゃ白けると言うものさ。……観客からのブーイングが嫌なら、下らない屁理屈を捏ねて、守る気のない約束なんか最初からするもんじゃないよ?」

 

 

『ッ?!』

 

 

あっさりと、何の気無しにハルが軽い口調でそう口にしたのは、雷牙が真也を殺害した直後に実行に移そうとしていたデザイアドーパントの次の作戦。それを聞かされたデザイアドーパントは目を見開いて驚愕し、雷牙達の間にどよめきが広がっていく。

 

 

雷牙『守る気のない約束、だって……?どういう事だ、クアットロっ……貴様、騙していたのかッ?!』

 

 

『ッ……フッ、何を根拠にそんな―――』

 

 

ハル「えっ?寧ろ根拠しかないじゃないか?此処までの身勝手な暴挙をしておいて、彼から召喚獣を奪った後で雷牙君達をそのまま野放しにしておくなんて事、慎重且つ性悪な君がする筈ないだろ?どうせこの茶番も、雷牙君に多大な精神的ショックを与えて彼を弱らせる為の作戦なんだし……その方が彼の手からサンダーレオンを奪いやすくなるだろうし、ウンウン、実に良く考えられた策じゃないか♪」

 

 

『グッ……!!』

 

 

いやーアッパレアッパレ、と脳天気に笑いながら拍手までしてデザイアドーパントに賛辞を送るハルだが、そんな彼女とは対照に雷牙達は怒りを煮えたぎらせながらデザイアドーパントを睨みつけている。

 

 

当然だ。子供達の身を盾に約束を取り付けておきながら最初からソレを守る気もなく、半ば脅迫に近い形で雷牙に真也を殺せと強要させたのだから、その怒りも最もだろう。

 

 

その策を全て目の前でバラされたデザイアドーパントは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、未だ笑いながら拍手の音を繰り返すハルをキッと睨み据えた。

 

 

『あ、貴女っ、一体何なんですかっ?!私達のやり方を容認するような口ぶりをしておきながら、これじゃ言ってることとやってることが――!!』

 

 

ハル「あ、因みに一つ伝えなきゃいけない事があるんだけど」

 

 

矛盾しているじゃないっ!、と怒鳴り付けようとしたデザイアドーパントの声を遮るように、ハルが忘れ物を思い出した調子で笑顔を浮かべ、

 

 

ハル「私なんかの戯れ事に耳を貸してる間に"後ろががら空きになっているけど、大丈夫かい"?」

 

 

『…………は?』

 

 

そんな訳の分からない台詞を口にされ、理解が追い付かずデザイアドーパントが思わず口を開けてそう聞き返した。次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ガギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィインッ!!!!―

 

 

『『ギッ、ガ……!!!?グゥウウァアアアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!!?』』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『ッ?!なっ……?!』

 

 

雷牙『な、何だ?!』

 

 

 

 

デザイアドーパントの背後から突如悲痛な断末魔の声が響き渡り、雷牙達とデザイアドーパントはその声に驚愕してそちらの方へと思わず振り向いていく。すると其処には、子供達と恭平を人質に取られていた筈のレジェンドルガ達が次々と地に倒れ伏して爆発を起こしていく光景があり、それを目にしてハルを除く一同が目を見張る中、徐々に収まる爆発の向こうに人影が見えた。其処には……

 

 

 

 

 

―ビュンッ!―

 

 

「―――ったく、いきなりネタバレしてこっちに話を振るんじゃねーよっ。本気でヒビって慌てて飛び出すハメになったじゃねぇかっ!」

 

 

 

 

 

人質を捕らえていたレジェンドルガ達を一度に倒した張本人だと思われる素朴な青年の姿があり、その後ろには拘束を解かれた人質の子供達の姿もあった。

 

 

外見は黒いシャツとズボン、黒いフード付きのマントを身に纏った格好に、髪の一部に白髪が入った首まで長い茶髪の男。

 

 

そしてその手には、レジェンドルガ達を一掃した武器と思われる三叉槍が握られており、茶髪の青年は巧みな槍捌きで振り回した三叉槍を肩に担ぎ、ハルに向かって文句を口にした。

 

 

『な、何なのあの男っ?!……ッ?!まさか、貴女の仲間っ?!あの男に人質を救わせる為にわざとっ……!!』

 

 

ハル「……え?あ、いいや?別に仲間ではないよ?今が初対面だし。なんか後ろの方で人質救出の機会を伺ってたみたいだから手を貸してみたんだが……おーい!君って誰だー?!すまないが名前を教えてくれるとスッゴい助かるーッ!!」

 

 

「って、知らずにこっちの手伝いしてたのかよッ!!いや、まあ、どうせ名乗るつもりだったがよ……ほら、お前達はとっとと逃げろ、チビ共」

 

 

女の子A「は……はいっ!」

 

 

男の子C「ありがとうっ、お兄ちゃんっ!」

 

 

茶髪の青年は大手を振って叫ぶハルに呆れつつも助け出した子供達に若干乱暴な口調で逃げるように促すと、子供達は揃って茶髪の青年にお礼を告げてからこの場から離れる為に走り出し、その背中を見送った茶髪の青年は前に出てデザイアドーパントと対峙していく。

 

 

「ゴホンッ!んじゃまあ、気を取り直して……全員、耳の穴をかっぽじってよーく覚えときな!俺様の名は高岡 映紀ッ!そしてまたの名を――」

 

 

高らかに叫びながら茶髪の青年……"高岡 映紀"は服の内側ポケットに左手を突っ込むと、其処から一枚のカードを取り出し、三叉槍の下の部分を開いてカードをセットした。

 

 

『KAMENRIDE―――』

 

 

『ッ?!その槍……まさか……?!』

 

 

映紀が手にする三叉槍に見覚えがあるのか、デザイアドーパントは顔に浮かぶ驚愕の色を更に深めて映紀を見つめるが、映紀はそれを他所にカードをセットした三叉槍を大きく振り回し、そして……

 

 

映紀「変身ッ!!」

 

 

『DISPAR!』

 

 

映紀が高らかに叫ぶと共に、槍を振り回す勢いにより三叉槍の下の装填口がスライドされて電子音声が鳴り響いた。そしてそれと共に無数の残像が出現して映紀を中心に辺りを駆け巡り、残像が映紀に重なると灰色のアーマーとなって映紀の身体に身に纏われ、最後に三叉槍から複数のプレートが飛び出して映紀の仮面へと横に突き刺さり、灰色のボディが銀色に光り輝く美しい色へと変色して全ての変身を終え、デザイアドーパントに指を差し向けた。

 

 

『ディスパー、仮面ライダーディスパー!!テメェの悪行をストレートにぶった切る男の名だッ!覚えときなぁッ!』

 

 

映紀が変身した銀色の仮面ライダー……仮面ライダーディスパーは高らかに熱く、そして力強く叫んでデザイアドーパントに三叉槍を突き付けていき、デザイアドーパントも新たに現れた予想外の乱入者を前に思わず後退りをしていく。

 

 

『ディスパー……ディスパー、ですってっ……?あの荒くれ者が、どうしてこの世界にっ?!』

 

 

ハル「ほほう、これはまた予想外な闖入者が現れたものだね。……で?どうするかなクアットロ君?これはいよいよ君の計画が破綻し出してきたと思うけど」

 

 

『ッ……いいえ……まだ、まだよっ!』

 

 

ディスパーの登場に動揺を浮かべながらも、デザイアドーパントが右腕を頭上に振り上げて周囲に歪みの壁が出現させると、其処から無数のセンチュリオ達が現れ、デザイアドーパントを守るように雷牙達とディスパーと対峙していく。

 

 

『手札はまだあるっ!策は考えれば幾らでも絞り出せるっ!この程度で私の計画が瓦解する事なんて、ありはしないっ!』

 

 

ハル「頑張るねー、流石の諦めの悪さだ。その気概は私も嫌いじゃないよ。……でも」

 

 

新たに軍団を用意するデザイアドーパントの不屈さに素直に感心しつつも、ハルは小さめの溜め息を吐いて空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハル「それじゃあ、"まだ足りない"。もうちょっと捻りを効かせるべきだったと思うよ?」

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!!!―

 

 

センチュリオ『グッ?!』

 

 

センチュリオ『ッ?!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

『ッ!!?なっ……!!?』

 

 

 

 

 

 

空を見上げるハルが小首を傾げてそう告げた次の瞬間、デザイアドーパント達の遥か上空から無数の銃弾の雨が降り注いだ。

 

 

それらはセンチュリオ達が展開するレルム・Dを突破してセンチュリオの装甲を次々と貫通していき、デザイアドーパントが呼び出したセンチュリオ軍団は一人残らず爆発を起こし散っていったのだった。

 

 

その間、13秒。

 

 

あまりに突然の急展開にデザイアドーパントは勿論、雷牙達でさえ呆然と佇む中、ディスパーが三叉槍を肩に担ぎ空に向かって叫ぶ。

 

 

ディスパー『おーい、遅ぇぞー!!今まで何やってたんだお前!!』

 

 

『―――すみません。この辺り一帯に逃げ遅れた人達が残っているのを見掛けて、その人達の避難誘導をしていたら合流に遅れてしまって……』

 

 

ディスパーの声に応じる様に返ってきたのは、申し訳なさそうな青年の声。それを聞いてその場にいる一同が声が聞こえた上空に目を見遣ると、其処には、センチュリオ達を撃退した先程の銃弾を放った張本人と思われる戦士……否、"悪魔"の姿があった。

 

 

黒と金を基礎としたボディに、二本の悪魔のような角を持つ緑色の複眼。そして何より、悪魔と称する以外に表現のしようがないその異形染みた外見。

 

 

傍目に見ても異質としか感じられない姿をした悪魔のような戦士は、ディスパーに向かって謝罪するように軽く頭を下げながら空からゆっくりと地上に降下し、そんな悪魔のような戦士にディスパーは馴れ親しんだ調子で歩み寄り彼の肩を拳で突いた。

 

 

ディスパー『そういうコトなら先に連絡の一つぐらい寄越せ!お前の方で何かあったんじゃねぇかって思って、一瞬探しに行こうかと迷ったじゃねーか!』

 

 

『だ、だからすみませんって!いや、ほんと、お詫びに後で何でも奢りますから痛い痛い痛いッ!!イタいですって映紀さんッ!!』

 

 

心配掛けさせやがってと、自身の首回りに腕を回して締め上げるディスパーの腕を何度もタップしまくりながら謝罪を繰り返す悪魔の戦士。そんな二人に対し、デザイアドーパントは募る苛立ちの余り荒々しく片腕を掲げ、背後に再び歪みの壁を出現させた。

 

 

『何なの……何だって言うのっ……次から次へとッ!貴方は一体何者なのよォおおッ!!』

 

 

ハル、ディスパーと続いて更に現れた第三の闖入者、未知の敵に向かって怒号を上げるデザイアドーパントの激情に呼応して呼び出されるように、歪みの壁から複数のセンチュリオ、更にレジェンドルガの増援が飛び出してディスパーと悪魔の戦士に目掛けて突進していく。

 

 

そして二人も迫り来る敵の軍勢を前にじゃれるのを止めてディスパーは三叉槍……ディスパランサーを、悪魔の戦士は金のラインが入った黒い大型銃を取り出して構え、銃口を一体のセンチュリオに突き付けてこう告げた。

 

 

『―――守護者ベルグバウ……海斗、海道 海斗……お前を倒しにきた者さ』

 

 

―ズガァアアンッ!!―

 

 

デザイアドーパントの質問に答え、己の名――守護者としての名と、父と母から貰った名の両方を口にしたと同時に、悪魔の戦士……『ベルグバウ』の銃が火を噴いたのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガァアンッ!シュンッ、ガギィイインッ!―

 

 

『グッ!!この、止まっ、ウァアアッ!!』

 

 

プレシア(紲那)「ッ!フェイトっ!無理をしないで私達に任せなさいっ!下手に抗えば、貴方の身体に余計な負担が掛かり兼ねないわっ!」

 

 

『で、でもっ!ううっ!』

 

 

そして同じ頃、八雲が細工を施したバックルが故意に暴走を起こした事により、フェイトの意志に反し戦い続けるイザナギディスペアを止める為、クラウン、プレシア(紲那)、RTが様々な攻撃方法でイザナギディスペアを止めようと挑み掛かるも、事はそう単純ではなかった。

 

 

暴走状態にありながらイザナギディスペアの戦闘力は変わらず、その能力も遺憾無く発揮され、全身に雷を纏い高速移動による撹乱、襲い来る斬撃と雷撃の雨、更には三人の戦闘データもプログラムされてるのか、イザナギディスペアは三人を相手に有効な戦術を次々と活用して引けを取らずにいた。だが……

 

 

『ハァッ……ハァッ……ハァッ……ぅっ……っ……』

 

 

クラウン(ッ!まずいですね……あの動き、中の人間(フェイト)に耐えられる動きじゃない。完全に彼女への負荷を無視している……このままではフェイトが……!)

 

 

今のイザナギディスペアは常時フル稼動の状態にある。そんな状態であんな動きをし続ければ、どう考えてもフェイトの身が持たない。時間を掛ける事は許されないのだが、三人のデータをプログラムされてる以上は向こうもこちらの戦法を上回る為の戦術を駆使し、その度にフェイトの身体に負担が掛かる。そんな堂々巡りをする訳にはいかない。ならば……

 

 

クラウン『(私達が"先ず、絶対にやろうとは思わない戦法"……それならば……)……プレシア嬢!フェイト嬢にありったけの追尾弾を放って下さい!黄昏華嬢!貴女はその間にマキシマムドライブの発動準備を!』

 

 

プレシア(紲那)「え?」

 

 

RT『クラウン……?一体何を……』

 

 

クラウン『フェイト嬢の動きを止めます。詳しい方法は彼女の前では話せませんが、プレシア嬢にはその隙を作る為、黄昏華は私が動きを止めた隙に貴女の技で彼女のバックルへのハッキングをお願いしたい……頼めますか?』

 

 

二人の顔をジッと見つめてフェイト救出の為の協力を求めるクラウン。そして、二人もそんなクラウンから真剣な想いを感じ取ったのか、互いに顔を見合わせた後、力強く頷いた。

 

 

プレシア(紲那)「分かったわ。それがフェイトを救うことに繋がるなら……喜んで」

 

 

RT『決め手は任せてください、彼女の捕縛は貴方に任せます!』

 

 

クラウン『ええ……頼みました』

 

 

そう言いながら二人に背中を向けて、ナイフを取り出して両手に握り締めるクラウン。そしてRTも必殺技発動に備えてバックルからメモリを抜き取っていき、プレシア(紲那)は杖を操りながら自身の背後に次々とスフィアを生成し、背後の空間を埋め尽くす程の数にまで練り上げる。その数、500超。

 

 

『っ……!す、凄い……!』

 

 

プレシア(紲那)「これだけの数なら……行きなさいっ!」

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!―

 

 

『ッ!ァッ……くぁっ!』

 

 

短時間の内にあれだけの数のスフィアを展開したプレシア(紲那)の凄さにフェイトが状況を忘れ圧倒されるも、プレシア(紲那)が杖を掲げて号令を飛ばすと共に数百のスフィアがイザナギディスペアに目掛けて放出され、イザナギディスペアは高速移動を用いて上空へと避難しスフィアを振り切ろうとする。

 

 

だが誘導付きのスフィアはイザナギディスペアの後を執拗に追跡していき、イザナギディスペアもただ逃げてるだけでは振り切れないと感じたか、薙刀を使ってスフィアの数を徐々に減らしながら上空を駆け回り、何とか追跡から免れようとするが……

 

 

―シュンッ!―

 

 

クラウン『…………』

 

 

『?!ク、クラウン?!』

 

 

無数のスフィア群から全速力で逃げ回るイザナギディスペアの進行方向の先に、クラウンが突如現れ目の前に立ち塞がった。

 

 

このまま行けばクラウンと衝突する。しかし背後には無数のスフィアがすぐ後ろまで迫って来ており、立ち止まったり急転換してる間に追い付かれて背中を撃ち貫かれてしまう。

 

 

――――ならば、残る可能性としてこのまま目前の敵を打ち破るだけだと、イザナギディスペアはスピードを緩める所か更に加速し、クラウンを串刺しにすべく薙刀を突き出した。

 

 

『ッ!ダ、ダメッ……!!逃げてクラウンッ!!』

 

 

クラウンを迎撃すべく勝手に動く自分の身体に抗いながら必死に叫ぶフェイト。

 

 

だがクラウンには聞こえていないか、或いは聞こえた上での行動か、ジェット機を彷彿とさせる猛スピードで迫り来る驚異(イザナギディスペア)に対して両手のナイフを徐に振り上げ、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

その手に持つナイフを、ゆっくりと手放した。

 

 

 

 

 

―ブザァアアッッッ!!!―

 

 

 

 

 

『…………え…………な、んでっ…………?』

 

 

クラウン『――――……ッ……グッ……!』

 

 

 

 

 

ぶつかり合う二つの影。

 

 

だがその間には、鋭い刃が備え付けられた薙刀の存在がある。

 

 

そんな物がある状態で二人がぶつかり合えばどうなるか、想像も難しくはない。

 

 

―ビチャッ……ビチャァッ……!―

 

 

『ぁ……ど……っ……ど、どうして……何でこんなっ―――?!』

 

 

―ズドドドドドドドドドドドドドドォオンッッッ!!!!―

 

 

『ッ?!うっ、キャアァアアッ!!?』

 

 

目の前で起こった出来事に対しフェイトが動揺と驚愕を露わにする中、背後から無数のスフィアが飛来してイザナギディスペアの背中へと絶え間無く次々と撃ち込まれ、イザナギディスペアの動きが怯んだ。

 

 

そしてクラウンもその隙を見逃さず、イザナギディスペアの肩と薙刀を握る彼女の腕を目一杯の力で掴み、地上のRTの向けて叫ぶ。

 

 

クラウン『黄昏華嬢ォおッ!!!』

 

 

RT『!!クッ!!』

 

 

『ROSE TAIL!MAXIMUM DRIVE!』

 

 

クラウンらしくもない無茶な行動を目の当たりにしてプレシア(紲那)共々呆気に取られていたRTだったが、正気に戻ってすぐに左腰のスロットにメモリを装填し、クラウンが押さえ込むイザナギディスペアのバックルを目に捉える。そして……

 

 

RT『ローズ、ハッキングッ!!!』

 

 

―キュイィィィィィッ…………ジジジジジジジジジジジジジジィイッ!!!!―

 

 

『!!?ぁ……!ぅっ……な、なに……ァ……?!』

 

 

RTの雄叫びと共に発動された強力なハッキング能力。それはイザナギディスペアのバックル内に侵入し、彼女を暴走させている要因となるプログラムを次々と分析、無力化し、更にフェイトとバックルを無理矢理に繋ぎ合わせている中心部に侵入して解析していく。そして……

 

 

RT『あと、少しっ…………………………出来ましたわッ!!クラウンッ!!!』

 

 

クラウン『!!』

 

 

―ガチャッ!!―

 

 

バックルの解析をし終えたRTの呼び掛けと共にクラウンがイザナギディスペアの腰のバックルを掴み取ると、イザナギディスペアの姿がフェイトに戻りながら脱力した様子でクラウンにもたれ掛かり、それを確認したクラウンはバックルを上空に投げ捨て……

 

 

―バシュウゥッ……ドガァアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!―

 

 

プレシア(紲那)「――取りあえず、これで一先ず安心……ね」

 

 

クラウン『……そう、ですね』

 

 

プレシア(紲那)が地上から放った魔力砲で木っ端微塵に破壊されたバックルの始末を見届けながらそう呟き、クラウンはフェイトをしっかり抱え直しながら地上にゆっくりと降下していくと、フェイトが力無く顔を俯け、疲れきった様子で口を開いた。

 

 

フェイト「……どうして……あんな、無茶な真似……其処までして、私なんか……」

 

 

クラウン『……私なんか、などと自分を卑下するのはお止めなさい……やり方は確かに間違えてはいましたが、貴女は貴女なりに零氏の身を案じて、貴女なりに考えた方法で彼やエリオ氏やキャロ嬢、ルーテシア嬢本人も守ろうとした。……その気持ちまで、否定する気は私にはありませんよ』

 

 

フェイト「そんな……そんな純粋な気持ちだけなんかじゃないっ……私は、零に頼られたなのはを羨んで、嫉妬なんかしてっ……自分もそうなりたい、だなんて……そんな疚しい気持ちもあって……だからっ……」

 

 

クラウン『……それは何か悪い事、なのですか?』

 

 

フェイト「……え……?」

 

 

クラウンにそう問われて、思わず顔を上げるフェイト。クラウンはそんな彼女の瞳を静かに見つめ返し、

 

 

クラウン『確かに、嫉妬という感情は基本、人の目には醜いものとして映る事が多い。中にはそれを悪い事だと訴える人も多く存在しますが……私はそうは思いません。そういった感情もまた、誰の心の内にも必ずしはあるもの……それを悪だと罵るなら、嫉妬なんて感情を生み出す世の全ての人間はみな統べからく悪人という事になる。違いますか?』

 

 

フェイト「っ……けど私、なのはに……親友相手にっ……」

 

 

クラウン『親友なのだから嫉妬なんかを覚えてはならない、なんて決まりもありません。寧ろ私は健全ではないかと思いますよ?昔日から、親友は良きライバルとも言われていますから。お互いに意識して競い合い、自分より上を行く相手に時には嫉妬しながらも高め合い、より良い自分を磨き上げていけばいい。何より貴女となのは嬢は同じ少年を好きになった本物の競争相手でもあるのですから、それをマイナスとして捉えるのではなく、スポーツの一種としてでも捉えてみればいい。そうすれば貴女も、少しは前向きになれると思いますよ』

 

 

フェイト「……でも……」

 

 

それでもまだ、心に根付いた自己嫌悪を消し去る事が出来ない。自分の中の醜い感情から始まった今回の件の事を考えると、一体どんな償いをすればいいのか分からない。そんな風に悩み思わず胸をわし掴みながら険しい表情を浮かべるフェイトの心境を悟ったのか、クラウンは額から流れる汗を感じながらももう一度口を開く。

 

 

クラウン『フェイト嬢……人は何かを成すにしても、先ずは、自分という人間を好いて、自信を待たなくてはいけません……そうでなくては、この先何をやろうとも、貴女は何に対しても満足する事も納得する事も出来なくなってしまう……そんな貴女の姿を見れば、零氏もなのは嬢達もきっと哀しみます』

 

 

フェイト「……好きになりたくても……それ以上に、自分の事を許せなかったら……?」

 

 

クラウン『それなら先ずは、貴女が貴女自身を許してあげることです』

 

 

フェイト「えっ……」

 

 

そう言われ、フェイトは目を点にしながら思わず顔を上げる。気のせいか、クラウンは僅かに息が上がっているように見えるが、クラウンは構わず真っすぐフェイトを見据え言葉を続ける。

 

 

クラウン『罪の意識から、自分を責め続けても、その先には何も生まれはしない……ただ貴女が貴女自身を苦しめ続けて、余計に自分を追い詰めるだけです……本当に零氏達に対して罪悪の念を感じるなら、先ずは、貴女が自分を許してから、貴女なりの方法で彼等に謝ればいい……大丈夫ですよ。こんな事で違えるほど貴女達の絆が脆くないのは、貴女達と敵対してる私の目から見ても明白なのですからね』

 

 

フェイト「…………」

 

 

気のせいか、そう語るクラウンの仮面の奥に、何故か一瞬知っている"誰か"の顔が幻のように過ぎったような気がする。しかしそれが誰なのか思い出すに至らず、その代わりに疑問を投げ掛けた。

 

 

フェイト「どうして、其処まで……貴方と私達は、敵同士なのに……」

 

 

クラウン『……敵に塩を送る、ではありませんが……零氏にはまだ、っ……我々ショッカーにとっても利用価値がありますからね……貴女を失う事で、使い物にならなくなっては困るだけですよ』

 

 

フェイト「……そう……――――」

 

 

嘘つき…、とクラウンの耳に聞こえないように小声で呟き、先程の戦闘での疲労から遂に気を失ってしまうフェイト。そしてフェイトが気を失ったと同時にクラウンが地上に着地すると、プレシア(紲那)、黄昏華、そしてアースと戦っていたエンドがクラウンの下へと駆け寄っていく。

 

 

黄昏華「クラウン!フェイト様は?!」

 

 

クラウン『今は気を失っていますが、見たところ大事ありません。ですが、あのバックルを使用した後遺症がないとも言い切れませんからね……一度検査をしてみる必要があるかもしれません』

 

 

エンド「そっか……こっちはトーレに逃げられたよ、フェイトの暴走を止められた途端にね……どうして彼女は……」

 

 

クラウン『……彼女も意地になっている、のかもしれませんね。魔界城の世界でセッテ嬢を一度見捨ててしまった以上、後戻りは出来ないと、っ……』

 

 

プレシア(紲那)「ッ!クラウンっ!貴方もいい加減傷の治療をなさいっ!貴方もさっきの戦いで……!」

 

 

思わず大声で怒りながら、プレシア(紲那)は先程イザナギディスペアを止める為にその身を壁にして薙刀を受け止めたことで貫かれ、今もなお血が溢れ出るクラウンの脇腹の傷を見て詰め寄ろうとするが、クラウンは手で制止して首を左右に振った。

 

 

クラウン『この程度なら、私の方で治療出来ますから心配入りませんよ』

 

 

黄昏華「しかしっ、フェイト様を助ける為とは言え、あんな無茶を……!」

 

 

クラウン『向こうには、私や貴方達の行動パターンは全て見通されてしまってる。時間も掛けられなかった以上、あの方法しかないと私なりに考えたまでですよ。幸いと言うべきか、私が人よりも頑丈な方だから出来た事です』

 

 

エンド「……だからって、あんな極端なやり方以外にも方法は色々あっただろうに……」

 

 

クラウン『そうですね。私も柄になく気が焦っていたようだ……ともかく、フェイト嬢を安全な場所にまで運んであげて下さい。私は、彼等の下に戻ります』

 

 

プレシア(紲那)「……分かったわ……私達が付いていっても足手まといにしかならなそうだし……気を付けるのよ……?」

 

 

クラウン『貴方達も。では―――』

 

 

プレシア(紲那)達に助け出したフェイトを預けると共に、クラウンは目前の高層ビルを見上げて地を蹴り、ビルの屋上……其処で今も八雲と対峙し合っているでだろう幸助達の下を目指し、一気に跳び上がっていくのだった。

 

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑬(中編)

 

―クラナガン・市街地―

 

 

―ザシュウゥッ!!ズバババババババババァアッ!!ドガアァァァァァァァァァァアンッ!!―

 

 

リイン『デェヤァアァァァァァァアッ!!』

 

 

アストレイGRF『ハァアッ!!ヤアァッ!!』

 

 

テンガA『ゼェァアッ!!』

 

 

イザナギディスペアの暴走がクラウン達の手によって食い止められ、フェイトが救出されたその一方、センチュリオ達とインスペクターの猛攻の前に全滅寸前にまで追い込まれていたディケイド(紫苑)達は、ディジョブド、ディジョブドD、そして零達の世界のユーノとクロノが変身するアストレイ達の加勢により、戦況は徐々にディケイド(紫苑)達の方に押し返され始めていた。

 

 

ディジョブド『ハァッ!』

 

 

ディジョブドD『オラァッ!』

 

 

―ズガガガガガァッ!!!ガギイィィィィイッ!!―

 

 

シルベルヴィント『グゥッ?!このっ、いきなり出て来た部外者の分際でっ、いつまでも邪魔するんじゃないよォオッ!!』

 

 

ディジョブドの援護射撃で怯んだ隙にディジョブドDの剣が打ち込まれ、火花を散らすシルベルヴィントが激昂と共に高周波ブレードを構え直して二人に高速で突進しようとするが……

 

 

 

ディジョブドD『やらせっかァッ!!』

 

 

―バッ、ガシイィッ!!―

 

 

シルベルヴィント『ッ?!なっ、こいつっ?!』

 

 

ディジョブドDが剣を乱雑に投げ捨てながら躊躇なくシルベルヴィントへと飛び掛かり、シルベルヴィントの下半身にしがみついたのである。それによってシルベルヴィントも重みが増して高速で動けなくなってしまい、動きが怯んだその隙を突くように……

 

 

 

 

『LICENSE!ULTIMATE GESPENST KICK!』

 

 

ディジョブド『――究・極ッ!!ゲシュペンストォ、キイィイイイイイィィィィィィィーーーーーーーイイィックゥッ!!!!』

 

 

シルベルヴィント『ッ!!―ドゴオォオオオオオンッ!!!!―グ、ァッ……!アァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

―フッ……バゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!!―

 

 

ドルーキン『?!』

 

 

ディジョブドの能力の一つであるライセンスカードを用い、上空に空高く跳び上がったディジョブドが発動させた必殺技……究極!ゲシュペンストキックが電子音声と共に炸裂し、シルベルヴィントはディジョブドの必殺キックを顔面にまともに喰らって後方のビルまで吹っ飛ばされ、そのままビルの壁に叩き付けられていったのだった。

 

 

そして、相方の危機に気付いたドルーキンが思わずそちらに目を見遣った、その時……

 

 

『Reday!』

 

 

アストレイBFFP『よそ見をしてる暇はないぞッ!!』

 

 

ドルーキン『……ッ!!』

 

 

―ガギイィィッ!!!―

 

 

その隙を見逃さず、アストレイBFがバックルから取り外したミッションメモリーをビームサーベルに装填しながら一気に接近して剣を抜き取り、ドルーキンに目掛け斬り掛かった。

 

 

それに応戦してドルーキンもすぐさま鉄球を両手で抱えアストレイBFの剣をガードするが、アストレイBFは鍔ぜり合いになり掛けた寸前にドルーキンに前蹴りを打ち込んで吹っ飛ばし、すかさず左手にバズーカを掴んでドルーキンに連射しながらミッションメモリーをバックルに戻すと、バックルの携帯を開きエンターキーをプッシュした。

 

 

『EXCEED CHARGE!』

 

 

鳴り響く電子音声と共に、アストレイBFがアストレイフォンを閉じると、ベルトから青い光が伸びてアストレイBFの全身を駆け巡り、両腕両足に到達すると同時に両手に握るバズーカ二丁、両足のミサイルポットが青く点滅する。そして……

 

 

アストレイBF『全弾発射だっ、全部持ってぇええええぇぇええぇーーーーーーーーーーーーええぇぇッッッ!!!!!!』

 

 

―ギュイィッ……ドババババババババババババババババババババババババババババァアアアアッッッ!!!!!!―

 

 

ドルーキン『!!!』

 

 

―ドッガァアァアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアアァァンッッッッ!!!!!―

 

 

咆哮と共にトリガーを引き、全身の火器が一斉に火を噴いた。二丁のバズーカと両足のミサイルポットから絶え間無く撃ち出される弾がドルーキンに次々と打ち込まれていき、ドルーキンの姿が爆発と黒煙に覆われていく。しかしドルーキンもインスペクターの中では鉄壁を誇る幹部。この程度の火力で倒れるほど柔ではなく、最後の一発をその自慢の装甲で受け止め切ってからすかさず反撃に出ようとするが……

 

 

『Raday!』

 

 

―ブォオオオオッッ!!!―

 

 

アストレイGRF『ォオオオオオオオォッッッ!!!!』

 

 

―ズシャアアアァァッ!!!!―

 

 

ドルーキン『……ッ!!?』

 

 

黒煙に覆われるドルーキンの背後から突如電子音声が響き、直後にその向こう側からアストレイGRFが勢いよく飛び出したのだ。その手にはライフル・ビームサーベル・実体斧の複合武器……アストレイGRFの専用武装であるツインソードライフルが握られており、不意の奇襲に怯むドルーキンの背中にライフルの上下に装備された二本のビームサーベルを突き刺して動きを封じ……

 

 

アストレイGRF『クロノォッ!!!』

 

 

『Raday!』

 

 

―パキィインッ!!―

 

 

アストレイBF『でえぇやぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーあァッッッ!!!!』

 

 

―ブザァアアアアアアアアアアアァアッッッ!!!!―

 

 

ドルーキン『ッ!!?』

 

 

アストレイGRFのその声を合図に、ドルーキンの正面を覆う黒煙の向こう側からアストレイBFが全身の火器を全てパージしながら飛び出しドルーキンの懐に滑り込み、右手に握るビームサーベルで鉄球を持つドルーキンの右手を弾き、左手に握るビームサーベルでドルーキンの胸に突き刺した。そして……

 

 

リインキバット「ウェイクアップ1!ですぅ~!!!」

 

 

リイン『ヤァアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!』

 

 

ドルーキン『……?!!』

 

 

―バゴォオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオオォンッッッッ!!!!―

 

 

前後から挟み打ちにされ身動きが取れないドルーキンの遥か頭上から、リインが右足の鎖(カテナ)を解放しながら踵を振り上げて垂直落下し、ドルーキンの頭部にフルムーン・ラグナロクを叩き込んだのだった。

 

 

そしてアストレイBFとアストレイGRFが離れたと共にリインの三連後ろ回し蹴りがドルーキンに打ち込まれ吹き飛ばし、それでもドルーキンは態勢を立て直して倒れようとはしないものの片膝を着き、度重なるダメージのせいで全身のアーマーに亀裂が走り戦闘の続行は困難のように見える。

 

 

シルベルヴィント『クッ!シ、シカログ……!!』

 

 

センチュリオR(……インスペクターの二人の損傷が激しい……加えてこちらに与えられた兵達が底を尽き始めてる……新手が増えた以上、戦闘の続行は困難……ならば)

 

 

―ドゴォオオッ!!―

 

 

ディケイド(紫苑)『グウッ?!』

 

 

周囲を見渡して瞬時にそう戦況を分析すると同時に、センチュリオRは剣と剣をせめぎ合せていたディケイド(紫苑)に蹴りを放って吹っ飛ばしながら後退し、片手を掲げて生き残ったセンチュリオ達にシルベルヴィントとドルーキンに回収を命じていく。

 

 

シルベルヴィント『ッ?!な、何の真似だいアンタッ?!』

 

 

センチュリオR『戦況はこちらの不利です。これ以上の消耗を防ぐ為にも、一度撤退すべきかと』

 

 

シルベルヴィント『勝手なことをするんじゃないよッ!!こんな無様を曝したまま、引くわけには――!!』

 

 

センチュリオR『引き際を見極められなければ、待つのは滅びのみ……それほど死に急ぎたいのであればご勝手にして下さい。私達は構わず撤退させて頂きますので』

 

 

シルベルヴィント『っ……!このっ……クッ……』

 

 

感情の起伏を一切感じさせないセンチュリオRの淡々とした物言いに一瞬頭に血を上らせて食ってかかろうとするシルベルヴィントだが、彼女を相手に本気になっても無駄だと思い出し、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら視線を逸らした。

 

 

そして、センチュリオRもそんなシルベルヴィントの様子を見てこれ以上の反論は出ないと見ると他のセンチュリオ達に二人の回収を命じ、ディケイド(紫苑)達に視線を戻す。

 

 

センチュリオR『此処は一先ず痛み分けとしましょうか……こちらもこれ以上の損害を出すのは望ましくはない』

 

 

ディジョブドD『なんだ、逃げるってのか?お楽しみはまだ此処からだろ?』

 

 

センチュリオR『この場での私達の役目は所詮足止めですから……貴方達を全滅寸前まで追い込んでトドメを刺せなかったのは惜しく感じますが、最低限の任務を果たせた以上は深追いをする気もない……次に会う時には、こちらも今以上の戦力を持って、貴方達を潰します』

 

 

宣言するように一同に向けそう告げると、センチュリオR、シルベルヴィントとドルーキンを回収するセンチュリオ達、残った量産型ライダー達の背後に歪みの壁が出現して彼女達を飲み込み、センチュリオR達は歪みの壁と共に何処かへと転移し撤退していったのであった。

 

 

ディジョブド『退いたか……』

 

 

ディケイド(紫苑)『みたい、だね……ぅっ……』

 

 

ディジョブドD『ッ!おい!』

 

 

センチュリオR達の撤退を見届けて気が抜けたのか、途端に膝から崩れ落ちてしまうディケイド(紫苑)。それを見てディジョブドDも思わずディケイド(紫苑)も支えて、三人一緒に変身を解除しながらボロボロの姿に変わり果てた紫苑をその場に座らせていく。

 

 

紲那「酷い怪我だ……少し待ってて、今僕の力で治療を――」

 

 

紫苑「ッ……いえ、僕の方は大丈夫ですっ……。それより今は、雷さんや怪我人の皆さんの方を……」

 

 

「――雷牙達の方なら心配は入らないだろう。あちらには今頃、僕達の知り合いが向かってる筈だからね」

 

 

紫苑「!」

 

 

紲那を手で制して雷牙達と優矢達の救援を優先すべきだと告げようとする紫苑の言葉を青年の声が真横から遮り、そちらに振り返ると、三人と同じように変身を解除したクロノが紫苑達の下へと歩み寄って来る姿があった。

 

 

紫苑「貴方は……」

 

 

クロノ「君が別世界のディケイドの風間紫苑君、それからディジョブドの輝晶紲那君達だろう?僕はクロノ・ハラオウン、向こうの彼はユーノ・スクライア。零となのは達の友人だ」

 

 

紫苑「零さん達の……?」

 

 

紲牙「じゃあやっぱ、アンタら二人は零達の世界のクロノとユーノって事か?」

 

 

クロノ「そういう事だな。君達には随分とうちの馬鹿野郎、ンンッ!……零や皆が世話になったようだね。その事に関して、僕からも改めて礼を言わせてくれ」

 

 

紲那「あ、いや、別に礼を言われる程の事は何も……」

 

 

そう言って紫苑達に深く頭を下げるクロノを見て少し慌ててしまう紲那。しかしそんな紲那を他所に、紫苑は激痛の走る左腕を抑えてクロノに口を開いた。

 

 

紫苑「そんな事よりっ、雷さん達の方が心配入らないって、本当に大丈夫なんですか……?その知り合いって、何人くらい……」

 

 

クロノ「何人……?いや、一人だけだが……」

 

 

紫苑「なっ、一人ってっ、そんなの増援にもならないじゃないですかっ!やっぱり僕もっ、ぅ……!」

 

 

紲牙「お、おい、あんまり無理すんなっ!」

 

 

雷達の救援にたったひとり向かわせた所で何になると言うのか。やはり自分も、と紫苑が怪我を負った身体に無理を押し立ち上がろうとするが、クロノはそんな紫苑を安心させるかのよう肩の上にポンッと手を軽く置いた。

 

 

クロノ「心配は入らない。確かにあの人は変わり者だし、心配な部分も多大にはあるが、同時に僕とユーノを遥かに凌ぐ実力者でもある。彼女に任せておけば、きっと雷牙達も無事に助け出してくれるさ」

 

 

紫苑「っ……だけど……」

 

 

クロノ「それに、今の君がそんな状態で彼等の助けに向かった所で、足手まといになるのが関の山だ。……それよりも今僕達がすべきなのは、一刻も早く怪我人達を運んで彼等の命を救う事だ。違うか?」

 

 

そう言って、真剣に、真っすぐな瞳で紫苑を見つめるクロノ。そんなクロノの目を見て、紫苑も彼の真摯な気持ちを感じ取ったのか、少しだけ迷うように視線をさ迷わせた後に小さく頷き返した。

 

 

クロノ「よし……。なら君は、この世界の機動六課に至急救援要請を送ってくれ。ディジョブド、君はその間、怪我人達の治療を頼む。今シャマルが必死に頑張ってくれてはいるが、いくら彼女でも瀕死の重傷人を三人も一緒に並列して治療するのは不可能だ。彼女を手伝ってやってくれ、頼む」

 

 

紫苑「……はいっ」

 

 

紲那「分かった。任せておいてくれ!」

 

 

冷静にそう指示するクロノに従い、紫苑はすぐに自身の通信を使って機動六課に連絡を。紲那は向こう側で自分達と同じくユーノから説明を受けてるはやて達の下に急いで向かっていき、クロノはその背中を見送りながら密かに小さく溜め息を吐いた。

 

 

クロノ(取りあえずこっちは何とかなったか……ハルさんの方は恐らく心配ないとして、残るは零の方だが……果たして……)

 

 

紫苑にはああ言ったものの、クロノの心の内は未だに出会えてない友の安否に対する心配で埋め尽くされていた。しかし彼にあんな事を言った以上、怪我人達を放ってこの場を離れる訳にはいかない。今にでも彼を探しに向かいたい足を先程の自分の言葉を思い出す事で律し、クロノはこの世界の六課からの救援が駆け付けるまでこの場に留まり、彼女達を守る事に専念するのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―クラナガン・市街地―

 

 

―ガギイィィッ!!ズバァアッ!!バシュンッバシュンッバシュンッ!!―

 

 

ディスパー『ハァアッ!!オォラァアッ!!』

 

 

ベルグバウ『フッ!ダァッ!ハッ!!』

 

 

『ゥオオッ!!?』

 

 

『ギャッ?!』

 

 

そして同じ頃、ディスパーとベルグバウ、ハルの乱入によって最大の武器だった人質達を失ったデザイアドーパントは、それでもなお苦し紛れにレジェンドルガとセンチュリオ軍団を呼び寄せ応戦していた。

 

 

だが、巧みな槍捌きで次々とレジェンドルガ達を薙ぎ払うディスパー、縦横無尽に空を飛び回って銃撃の雨を浴びせ、センチュリオ達の急所を正確に撃ち抜いていくベルグバウの前に撃退されていき、更に人質の心配がなくなった事で今まで動けずにいた雷牙達も戦闘に参戦し、なのは(別)達はレジェンドルガの群れと、雷牙と黒獅子リオは先程までの雪辱を晴らすべくデザイアドーパントと戦う姿があった。だが……

 

 

『ハァアアッ!!!』

 

 

―ドグォオオオオオォッッッ!!!!―

 

 

黒獅子リオ『グッ……?!ガハァアッ!!!』

 

 

雷牙『リオッ?!―バゴォオオオオンッ!!!―グゥアアアアッ?!!』

 

 

戦況を覆されたとは言っても、デザイアドーパントの脅威的な能力が健在のままであることに違いはない。デザイアドーパントは先程オーガ達を追い詰めた自身の力を活用し、黒獅子リオの拳術を安易く弾きながら黒獅子リオの胸に掌底を打ち込んで吹っ飛ばし、更に彼を助けようとした雷牙の懐に瞬時に潜り込んで腹を殴り、首を掴み上げていく。

 

 

カイル「ッ?!ら、雷さんッ!!」

 

 

雷牙『ぐ、ァ……!カハッ……!』

 

 

『こうなればもう回りくどいやり方はしないわっ……!!貴方を殺し、無理矢理にでもその手からサンダーレオンを奪い取って―――!!』

 

 

その後に洗脳でもなんでもして強引に使役すればいいと、デザイアドーパントがギリギリと首を締め上げられて悶え苦しむ雷牙の命を絶つべく手刀を繰り出そうとするが……

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガァッ!!―

 

 

『ッ!グッ?!』

 

 

ベルグバウ『これ以上好きにはやらせるかッ!』

 

 

それを阻止する様に、センチュリオ達を撃退していたベルグバウが右手に握る銃でデザイアドーパントの背を狙い撃い、デザイアドーパントの手から雷牙を手放させた。そしてベルグバウの銃撃で怯むデザイアドーパントに向かってディスパーが一直線に疾走し、ディスパランサーを振りかざし斬り掛かっていく。

 

 

―ガギイィィッ!!―

 

 

『クッ?!何故邪魔をするのッ?!流れ者の貴方には関係のない事の筈でしょうッ?!』

 

 

ディスパー『ところがどっこい、うちの連れの関係でテメェに雷牙達をやらせる訳にはいかねぇのさ。それにな、その事を抜きにしても、俺様はテメェの曲がったやり方が気に食わねぇッ!邪魔する理由はそれだけでも十分だッ!!』

 

 

―ドゴォオッ!!―

 

 

『アグッ?!』

 

 

そう言って怒りの声を荒げながら力任せにデザイアドーパントの腹を蹴り付けて距離を作ると、ディスパーは左腰に装備してるカードホルダーを開いてカードを一枚取り出し、ディスパランサーに装填してスライドさせていく。

 

 

『HERORIDE:BOUKEN SILVER!』

 

 

ディスパー『テメェの腐った性根を叩き直すついでだ、俺様の力を見せてやるよ。変身っ!』

 

 

電子音声と共にそう叫びながらディスパーが槍を前に突き出すと、ディスパランーから赤と黒の針が特徴の巨大な羅針盤のエンブレムのビジョンが飛び出して光となり、ディスパーの身体を包み込んだ。そして光が晴れると、ディスパーの姿は銀色に輝く角が備え付けられたメット、銀と黒のスーツを身に纏った、仮面ライダーとは別の戦士に変身したのであった。

 

 

『っ?!その姿……!』

 

 

黒獅子リオ(……!アレは、まさか……!)

 

 

デザイアドーパントはライダーではない銀色の戦士に変身したディスパーを見て驚きを露わにし、その背後では黒獅子リオもレジェンドルガを殴り付けながら姿を変えたディスパーの今の姿……嘗て自分が元の世界でとある戦いにて敵対し、最後にはゲキレンジャーと共に共闘した轟轟戦隊の銀色の戦士を見て驚愕する中、銀色の戦士に変身したディスパーは更にカードを一枚取り出しディスパランサーにセットした。

 

 

『ATTACKRIDE:MABAYUKI BOUKENSHA!BOUKEN SILVER!』

 

 

『目眩き冒険者!ボウケンシルバーッ!!……へっ、やっぱコレがなきゃ絞まらねぇよな。行くぜぇ、性悪女ァッ!!』

 

 

電子音声が響き渡ると同時に決め台詞を叫び、銀色の戦士……ボウケンシルバーに変身したディスパーは鼻の下を擦りながらデザイアドーパントに啖呵を切り、何処からかディスパランサーとは別の槍型の武器……サガスピアを取り出し疾走してデザイアドーパントと刃を交えていった。

 

 

Dボウケンシルバー『ハァアッ!!ダァッ!!オラァッ!!』

 

 

―ズシャアァッ!!ギンッ!!ガギイィィンッ!!―

 

 

『クッ!!このっ……?!ゥアアッ!!』

 

 

Dボウケンシルバーはデザイアドーパントが振るう攻撃を槍で上手く捌きながら一撃、また一撃とデザイアドーパントに能力を使わせる暇を与えまいとダメージを加えていくと、続け様に回し蹴りを放ってデザイアドーパントを蹴り飛ばし、サガスピアを両手で構えて刃に力を溜めて光を纏い、そして……

 

 

Dボウケンシルバー『ハアァァァァッ……サガスラッシュッ!!喰らいやがれぇええッ!!!』

 

 

―バシュウゥッ!!ズバァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『ッ!!―ガギイイィィッ!!!―グッ……ウアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』

 

 

サガスピアと共にその場で回転して銀色の斬撃を目の前に出現させ、其処へ更にもう一撃斬撃を重ねてデザイアドーパントに目掛けて二重の斬撃波を飛ばしていったのだった。それを見てデザイアドーパントも咄嗟に両腕をクロスさせ銀色の二重の斬撃波を受け止めるが、斬撃波を凌ぎ切る事が出来ず爆発と共に再び吹っ飛ばされていき、Dボウケンシルバーはディスパーに戻りながら叫んだ。

 

 

ディスパー『どした、もう終わりかよ?』

 

 

『グッ……っ……いつまでも、調子に乗るんじゃないわよッ!!』

 

 

―シュンッ、ガシッ!―

 

 

ハル「……おお?」

 

 

挑発するディスパーに激昂の雄叫びを返しながらデザイアドーパントは突然高速移動を用い、何もせずに目の前の戦闘をただ傍観していたハルの後ろに回り込み拘束し、彼女の首に右手を突き付けた。

 

 

雷牙『ッ?!しまった!!』

 

 

ディスパー『なっ……?!てめぇっ、また懲りもせずっ!!』

 

 

『利用出来るなら何だって利用するだけよッ!!それ以上は近づかない事ねっ、でないと――!!』

 

 

この女の命はないと、デザイアドーパントはハルの首に右手を突き付けディスパー達を牽制していき、再び人質を取られた事で一同も手出しが出来なくなり悔しげに唇を噛み締めていく。が、それとは対照に人質にされている当の本人のハルは表情を変えず、ポリポリと呑気にこめかみを掻いていた。

 

 

ハル「んー。クアットロ君?追い詰められる余り人質を取る、っていう選択肢は私も有りだとは思うんだけどさ。この状況で私を人質に選んでも意味ないと思うよ?や、ホントに」

 

 

『貴女は黙っていなさいッ!!元はと言えば、貴女が現れてから全部が狂い出してっ―――!!』

 

 

ハル「いや、でもね?」

 

 

余裕のないデザイアドーパントとは裏腹にハルは落ち着き払った調子で、頭上を指差し……

 

 

 

 

 

 

ハル「私も一応、"保険"は掛けてあるから、私に危害を加えるのは得策じゃないと思うけど?」

 

 

『……………は?』

 

 

―バシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッ!!!―

 

 

『ッ!!?なっ、ゥアアアアアアアッ!!?』

 

 

ディスパー達『?!』

 

 

ハルがそう口にした直後、デザイアドーパントの頭上から突如無数のビームの雨が降り注ぎ、ハルには一発も当たらぬようにデザイアドーパントだけを正確に狙って撃ち貫いていったのである。

 

 

そして予想外の不意打ちを受けたデザイアドーパントがそのままゴロゴロと地面を転がりながら吹き飛ぶと、上空からハルの下へ一基の赤い飛行マシン……彼女がアクエリオンへの変身時に使用するベクターソルが降下し、ハルがポケットから取り出したバックルに吸収されるように収納されていく。

 

 

『グッ、ゥッ……?!な、何なのっ、それはっ?!』

 

 

ハル「えっ?ああ、いや、さっきも言ったろ?此処に来る前に、万が一に備えて用意しておいた保険だよ。ほら、私も所詮一般人だし、こういう事に備えておかないと安心出来ない小心者だからさ。我ながら情けない性格だけど、今回はそれが吉と出て良かったよ、ウン」

 

 

はっはっはっ、と高らかに笑いながら懐にバックルを仕舞うと、ハルは徐にマントを翻して腰にあらかじめ巻いていた赤と白のベルト……ユーノとクロノの物と同じアストレイギアを露出させ、更に腰のベルトと同じ色のアストレイフォンを取り出して開き、手慣れた手つきで変身コードの番号を入力してエンターキーをプッシュしていく。

 

 

『0・0・2』

 

『Standing by……』

 

 

『ッ?!そ、そのベルトは……?!』

 

 

ハル「本当だったら、ディスパー君とベルグバウ君の二人だけで加勢は十分かと思って傍観しているつもりだったんだけど、君が私に危害を加えるつもりなら仕方がない。悪いけど、最低限の抵抗はさせてもらうよ?変身」

 

 

『Complete!』

 

 

そう言いながらハルが携帯を閉じてバックルへと装填すると共に電子音声が響き渡り、ベルトから赤い閃光が伸びてハルの全身を駆け巡っていく。

 

 

そして赤い光が徐々に止むと、ハルの姿が仮面の戦士……基本フレームと角の色が赤と白である以外、ユーノとクロノのアストレイと全く同じ外見をし、唯一の相違点が左腰に差した鞘に納められた日本刀である『仮面ライダーアストレイ・レッドフレーム』へと変身していたのであった。

 

 

スバル(別)「え……ええッ?!あ、あの人も変身したッ?!」

 

 

ディスパー『お、お前っ、お前もライダーだったのかよっ?!』

 

 

『くっ……!通りで妙だと思ったわ……!何がただの一般人よ、騙してたのねっ?!』

 

 

アストレイRF『え、ええ?それは誤解だ、別に騙していた訳じゃないよ?ただ単に変身する機会や告白するタイミングがなかったから、結果的にそうなっただけと言うかね?うんっ』

 

 

『黙りなさいッ!!レジェンドルガっ、何をやってるのっ?!今すぐあの女も仕留めなさいっ!!』

 

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

心外だ、と言わんばかりに手と首を振るアストレイRFの言葉に聞く耳を持たず、デザイアドーパントはアストレイRFを標的に含め無数のレジェンドルガ達を再び嗾ける。

 

 

それに対してディスパー達も咄嗟にそれぞれの得物を構えて迎撃に出るが、アストレイRFは何故か『ひゃー!!』と可笑しな悲鳴を上げながらレジェンドルガ達が振るう拳や剣を軽い身のこなしでかわすだけで反撃せず、ただただ俊敏な動きで逃げ回るだけでいた。

 

 

ディスパー『ちょ、おいっ!!なんで逃げ回ってんだお前っ?!変身したんなら戦えよッ!!』

 

 

アストレイRF『えっ?いやいやいや、私は単に無抵抗のまま死にたくはないから変身しただけだよ?というか私ねっ、どうにも拳とか射撃とかはそうでもないんだけど、剣術だけは"刀を持つと途端に殺しが絶望的なまでに下手になる"っていうか、"こちらから剣を振るい出すと虫の一匹すら殺せなくなる"というか―ビュンッ!!―にゃーーッ!!?』

 

 

ディスパー『じゃあなんで出て来てんだ大人しく帰れよお前ぇええッ!!!』

 

 

『何処までもふざけてっ……いいわ……貴女みたいな雑魚、私が直々に殺してあげますわッ!!』

 

 

最もな意見を口にしながらレジェンドルガを一体斬り捨てていくディスパーだが、アストレイRFの方はそれに答える余裕もないのか、『おろーーッ!!』と独特な悲鳴を上げてレジェンドルガ達の攻撃を全てかわしながら逃げ回り、デザイアドーパントもそんなアストレイRFのふざけた調子に苛立ち、何処からか黄金の杖を取り出してアストレイRFに襲い掛かっていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

―高層ビル・屋上―

 

 

『ダァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

セイレス『フッ!!』

 

 

―ガギィイイイイイイイイイイイイインッッッ!!!!!!―

 

 

場所は戻り、零が意識を失い倒れている高層ビルの屋上。インスペクター達の脅威が去り、イザナギディスペアの暴走が沈静化され、更にはディスパーとベルグバウ、ハルといったイレギュラーの乱入が続く中、其処では、セイレスに変身したユリカとヴリトライレイザーの闘いが火蓋を切って落とされていた。

 

 

―ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!!グガァアアンッ!!―

 

 

『チィイッ!鬱陶しいッ!そんな鉛弾で、この私を倒せるとでも思ってる訳ッ?!』

 

 

セイレス『…………』

 

 

忌々しげに舌打ちしながら屋上を駆け抜け、セイレスが片手に握る白銀の銃から放つ銃弾を回避するヴリトライレイザーがそう叫ぶも、セイレスは何も答えないまま銃撃を続けていくと、足元に転がる破片……ヴリトライレイザーと戦いながら先程全て破壊したセンチュリオの仮面の一部を、銃撃から逃れるヴリトライレイザーの進行先に目掛けて蹴り付けた。

 

 

―ビュオオォオッ!!―

 

 

『ッ?!な、なにっ――』

 

 

セイレス『隙だらけよ』

 

 

―ブザァアアアッ!!!―

 

 

『ウグァアアアッ?!!』

 

 

目の前を高速で横切った破片に驚いてヴリトライレイザーが思わず足を止めた瞬間、セイレスはその隙を見逃さず一気に疾走してすれ違い様にヴリトライレイザーの脇腹を剣で斬り付けて怯ませ、直後に振り返り様に再度銃撃を浴びせてヴリトライレイザーの全身から火花を撒き散らせていった。

 

 

―ズダダダダダダダダダダダダダダダダァアンッ!!!!―

 

 

『ガァアアアアッ?!!!ゥッ……!!このっ、よくもっ……!!』

 

 

セイレス『……ガッカリさせないで欲しいわね……私の知る昔の貴方なら、もっと今より歯ごたえがあった筈よ……イレイザーの力に溺れて、腑抜けにでもなったのかしら?』

 

 

『調子に乗ってんじゃないわよっ……!!この世界ならともかくっ、メモリアルの管轄外だったさっきのあの出来損ないの世界でならこっちだってっ……!!』

 

 

セイレス『なら、私を相手に存分に戦える状況に恵まれなかった自身の運の無さを呪いなさい……これで終わりにさせてもらうわよ……』

 

 

冷淡な声音でそう言い放ちながらゆっくりと足を開いて腰を落とし、ヴリトライレイザーに引導を渡すべく両手の武器に神氣を込めていくセイレス。それに対しヴリトライレイザーも口の中で舌打ちすると、両腕に業火を纏いながら迎撃態勢を取り、両者睨み合い一触即発の空気を漂わせ、そして……

 

 

 

 

 

「――――其処までよ、お二人さん。これ以上の戦いは、傍目から見ても不毛にしか映らないわ」

 

 

―シュウゥッ……バッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

セイレス『……?!』

 

 

『ッ?!こ、この技は……?!』

 

 

 

 

二人が再度激突しようとしたその時、突如セイレスとヴリトライレイザーの周囲に無数の水柱が立ち上ぼり、二人の間に流れていた張り詰めた空気を拡散させてしまったのである。そして、二人が突然出現した周囲の水柱を見て動きを止める中、二人の間にも一つの水柱が現れ、其処から一人の人物……水色のショートヘアーに、氷のように冷ややかな切れ目の女性が姿を現した。

 

 

セイレス『……貴方は……』

 

 

「ハロー。こうして顔を合わせるのは初めてかしら、終極の女神様?うちの八雲とシュレンが、大分お世話になってるようねぇ?」

 

 

ヒラヒラと、水柱の中から現れた女性は人当たりの良さそうな声音でそう挨拶し、セイレスに片手を振って笑みを浮かべている。だが、それに反してその目は笑っておらず、何処か冷たさを滲ませており、セイレスが突如現れた女性に警戒を強める中、ヴリトライレイザーはその女性の背中に向かって声を荒げた。

 

 

『エ、エイラ……!!なんでアンタがこんなとこにいんのよッ?!確か別件で違う物語に、イレイザー集めに行ってたんじゃなかった訳ッ?!』

 

 

「あら。そんな用件はもうとっくに終わらせたわよ?貴方達が断罪の神達を相手にはしゃいでる間に、ね?」

 

 

そう言って水色の髪の女性……"エイラ"は不敵な笑みと共にヴリトライレイザーに顔を向けると、ヴリトライレイザーは『クッ……!』と憎たらしげにエイラを睨み付けるが、エイラはそれを無視してセイレスに視線を戻すと、セイレスは仮面の下で眉を寄せながらエイラを睨み据える。

 

 

セイレス『この感覚……そう、貴方もイレイザーという訳……?それも、シュレンや黒月八雲と同じ――ー』

 

 

エイラ「ええ、クリエイトの一員を務めさせてもらってるわ。因みに階級はこの子より一つ上、つまり上司って事になるかしらね?」

 

 

『……ハッ、何が上司よ。あんた如きの階級、私がその気になりさえすればすぐに……』

 

 

エイラの後ろでそんな小言をヴリトライレイザーが漏らすが、エイラはそれを無視し、セイレスに顔を向け……

 

 

エイラ「さて……。いきなりお邪魔したところ申し訳ないけど、終極の女神様?この勝負、悪いんだけど、一先ず私に預からせてもらえないかしら?」

 

 

『ッ?!なっ……!』

 

 

セイレス『……何ですって?』

 

 

顔に笑みを張り付けたまま、突然そんな事を言い出したのである。エイラのその言葉にセイレスも更に表情を険しくさせ、同じく驚愕を露にしていたヴリトライレイザーもハッと我に返りエイラの肩を荒々しく掴んで強引に振り向かせた。

 

 

『なに勝手なこと言い出してんのよッ?!これは私とコイツの闘いだッ!部外者が横から口挟んでじゃっ―――!!』

 

 

エイラ「挟むに決まってるでしょう?さっきも言ったけど、貴方も八雲も、昔の怨敵を前に立場も忘れてはしゃぎすぎよ。そんなんじゃ、メモリアルから余計に目を付けられるだけでなく、邪魔立てが増えて後の計画にも支障が出てくる……王の余計な怒りを買いたいの、貴方?」

 

 

『グッ……!』

 

 

エイラが"王"というワードを口にした途端、エイラに食って掛かるヴリトライレイザーの勢いが目に見えて弱まった。そしてエイラもそんな彼女を尻目に乱れた服を整え直し、セイレスに目を向けて話を続けていく。

 

 

エイラ「で、どうかしら女神様?これ以上こんな不毛な戦いを続けてもこちらも損をするばかりだし、それに貴方も、其処の彼を早く安静にさせないといけないのではなくて?」

 

 

セイレス『……だから見逃せ、と言うの?貴方たちを』

 

 

エイラ「この戦いは建設的じゃない、と言ってるのよ。どうせ今の貴方じゃ私達の存在を完全に滅ぼせないし、私達も、物語を改変でもしなければ不死の貴方を殺す事は出来ない……ね?こんな決着の付けられない戦いを続けたところで、得られるものなんて何もないわ。お互いにね」

 

 

セイレス『……今はまだその時ではない、ということか……』

 

 

エイラが言わんとしてる事が伝わったのか、セイレスはそう呟いた後、エイラとヴリトライレイザーに突きつけた銃をゆっくりと下ろしていく。

 

 

エイラ「あら、思いの外物分かりが宜しいのね」

 

 

セイレス『完全に納得した訳じゃないわ……ただこちらも、貴方達と正面切って戦う為の準備が完璧という訳じゃない。だからその機会をそちらから頂けると言うなら有り難い限りよ……次に相見える時には、貴方達を後腐れなく殺せるのだからね』

 

 

エイラ「……フフ、そう。それは楽しみだわ。では、私達はお先に失礼させてもらいます。ごきげんよう、終極の女神?」

 

 

『チッ……覚えてなよユリカっ……次こそは、絶対っ――――!』

 

 

微笑しながら胸に手を当てて別れの挨拶をするエイラとは反対に、ヴリトライレイザーは不完全燃焼で苛立たしげに舌打ちしながらセイレスを睨み据えて何かを告げようとするも、全てを言い切る前にエイラが足元から再び水の柱を発生させてヴリトライレイザー共々自身を飲み込ませ、水の柱が消えると、其処には二人の姿がなく何処かへと消え去っていたのだった。

 

 

セイレス(……どうにか退かせられたか……認めるのも癪だけど、今の私じゃ奴等を倒せても物語から追い出す事しか出来ない……あれだけ嫌だった神化を果たしても、未だ私の力は及ばないなんてね……)

 

 

だが、それでも奴等に弱味を見せる訳にはいかないと仮面の下で小さく嘆息すると、ベルトを外して変身を解除し、ユリカに戻って零の方へと振り返る。

 

 

ユリカ(……リィル……貴方はそんな姿になってまで、今もなお彼を守ろうとして……其処までして守る理由が、私の知らない"彼の過去"にあるの?それとも……)

 

 

心の内でそう問い掛けても、倒れる零の中のリィルは何も答えてはくれない。ユリカはそれに対して僅かに哀しげに目を伏せた後、すぐに無表情へ戻って何かを探すように周囲を見渡し、ある一点……幸助達と八雲が対峙する高層ビルを見据えた。

 

 

ユリカ(……それでも、私のやる事は変わらない……全てを知る為にも、目の前にある手掛かりを求めてただ戦い続けるだけだ)

 

 

その為にも先ず、『あの事件』の全てを知る者と対峙しなければと、ユリカは一度零を一瞥した後に正面を睨み、幸助達と八雲が対峙する高層ビルに向かって空高く跳躍したのであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―ブオォオオォッッ!!!―

 

 

『グルァアアッ!!』

 

 

『シャアァアアッ!!』

 

 

アストレイRF『うおっと?!危ない危ないっ、ほっ!』

 

 

―バキィイイッ!!―

 

 

『グガァアッ?!』

 

 

一方その頃、アストレイRFに変身したハルは無数のレジェンドルガ達に囲まれて逃げ場を失い、四方からの集中攻撃を受けている真っ只中にあり、次々と降り掛かる凶爪や武器による攻撃を必死に凌ぎ続けていた。だが、そんな危機的状況に立たされながらもアストレイRFの様子は余裕を保っており、一見ふざけているように見える立ち回りでレジェンドルガ達の攻撃を避けながら肘打ちや平手打ちを叩き込んで反撃し、そのまま距離を離して深々と溜め息を吐いた。

 

 

アストレイRF『やれやれ。私なんかを相手に其処まで躍起にならなくても良いじゃないか?どうせ"コレ"を抜いた所で、"私からは"一人も君達を殺せはしないんだから、無闇やたらに襲ってこない方が身の為だと思うよ?』

 

 

『グルルルッ……シャアァッ!!』

 

 

そう言って左腰に差す日本刀の鞘を掴んで僅かに揺らして見せるアストレイRFだが、レジェンドルガ達はそれに構わず再度四方からアストレイRFへと襲い掛かった。

 

 

アストレイRF『聞く耳持たず、か……しょうがないなあ……』

 

 

―チャキッ……―

 

 

迫り来るレジェンドルガ達を前に小さく溜め息をこぼすと、アストレイRFは腰に差した日本刀……ガーベラストレート(菊一文字)を僅かに抜いて刃を曝し、柄を握りながら足を広げて腰を落とし、そして……

 

 

 

 

 

アストレイRF『――無尽ノ太刀……"散"』

 

 

―フッッ…………ズバアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

『――ッ?!ガッ……?!』

 

 

『ギャッ……ァッ……?!』

 

 

 

 

 

――――たった一度の抜刀。アストレイRFの腰から勢いよくガーベラストレートが引き抜かれた瞬間、距離があるにも関わらずそれだけでレジェンドルガ達の手足が斬り裂かれて宙を飛び、更に首筋などの急所に斬撃が走ったのである。

 

 

一体何が起きたのか、それすらも分からないまま手足を失ったレジェンドルガ達はアストレイRFの前にバタバタと倒れていき、アストレイRFはそれを見て小さく一息吐きながらガーベラストレートを軽く振るい刃を眺めていく。

 

 

アストレイRF『流石は菊一文字、ガーベラストレートだなぁ……。これだけの数を斬り伏せても刃こぼれ1つ無しなんて―バシュウゥッ!!―……!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!!!―

 

 

ガーベラストレートの刃を見上げて関心の声を漏らすアストレイRFだが、其処へ突然一発のエネルギー弾が襲い掛かった。それに反応したアストレイRFは咄嗟に後方へと飛び退いてエネルギー弾をかわすと、今の攻撃を放った張本人……杖の先端を向け、分析の為にレジェンドルガ達をアストレイRFに差し向けて今まで傍観していたデザイアドーパントに目を向けた。

 

 

アストレイRF『危ないなぁクアットロ君っ。ただの一般人相手に不意討ちなんて、当たって怪我でもしたらどうするのさ?』

 

 

『ッ……何処までふざければ気が済むのっ?あんな一瞬でレジェンドルガ達を皆殺しにしておいて、貴方みたいな一般人がいるはずがないでしょう!?』

 

 

アストレイRF『皆殺し?ちょ、人聞きの悪い事を言わないでくれよっ。ちゃんと見てみてくれ、ほら、私が斬った彼等をさ?』

 

 

『っ?』

 

 

心外だ、と言わんばかりにデザイアドーパントの周囲に倒れるレジェンドルガ達を指差すアストレイRFの指先を思わず追い、デザイアドーパントは周りの地に伏すレジェンドルガ達を見回す。すると良く見れば、手足を切り落とされた上に急所を斬られた筈のレジェンドルガ達の身体が僅かに上下に揺れており、息がある。しかもそれは一人や二人だけでなく、彼女に斬られた全員が酷い姿になってるにも関わらず生きていた。

 

 

『死んで、いない……?そんなっ、こんな状態で、一人も死んでないと言うの?!』

 

 

アストレイRF『んー……だから、さっきディスパー君にも言っただろ?私は刀を抜くと、途端に殺しが絶望的に下手になる、と』

 

 

驚愕するデザイアドーパントに肩を竦めながらそう言うと、アストレイRFはガーベラストレートを突き出して流暢に語り出す。

 

 

アストレイRF『私の使う剣は、"無尽一刀流"という護身剣術でね。我が家のご先祖様から代々我が家に伝わる古い剣術なんだが、護身の名の通り、襲い来る敵から我が身と命を護る為のものさ』

 

 

そう説明しながら、アストレイRFはガーベラストレートをビュンッ、と真横に振るうって空を斬り、苦笑いを浮かべた。

 

 

アストレイRF『ただまあ、それを目的に突き詰め過ぎたのか、それとも私達一族が元々そうなのかは知らないが、この剣を会得してしまうと途端に殺しというものが下手になってしまってね。こちらから剣を振るっても、人一人どころか虫一匹すら殺せなくなるんだ。斬っても刺しても突いても、傷は付けられても"こちらからは絶対に命を奪えない"……中々に馬鹿げた話だろ?』

 

 

『……成る程。つまり貴方は、その剣を手にしてる限り私達を殺せない、と解釈しても宜しいのかしらぁ?』

 

 

アストレイRF『そっ。彼等を見れば分かると思うけど、手足を切り落せてもギリギリ死なないようになっているし、急所を狙ったとしてもどうしても腕が僅かに狙いをずらしてしまうんだ。それも無意識にね。私自身不思議でならないよ』

 

 

一体どういう仕組みなんだろーねー?と、頭の上に?マークを浮かべて自分の掌を握ったり開いたりして繰り返すアストレイRFだが、それを聞いて険しげな顔を浮かべていたデザイアドーパントは口元に笑みを浮かべ、杖を握り直した。

 

 

『そういうこと……なら私は、貴方に殺される心配をする必要はない、という事かしら?』

 

 

アストレイRF『?うーん……うん。私から君へ斬り掛かっても殺せはしないだろうからね、絶対。不殺、なんて聞こえは良いけど、怪人態の君のような相手にはそれも通用しないだろうしなぁ……ほら、これが生身の人間だったら『死』なんて漠然としたイメージより、手足を切り落とされると分かってた方がより生々しいイメージと恐怖を身近に感じさせられるだろ?そのハッタリだけで、大概の人間は戦意喪失して逃げてくれるんだがー……』

 

 

『ええ……私みたいなのが相手となれば、人間一人殺せないなんて言う貴方という格好の獲物を、わざわざ見逃す理由はないわぁッ!!!!』

 

 

―ダァアアアアンッッッ!!!!―

 

 

声に何処と無く歓喜を含ませて、デザイアドーパントは杖を振りかざしてアストレイRFへと襲い掛かった。今の自分なら、例え手足や致命傷を狙われてもデザイアメモリの力で瞬間的に回復する事が出来る為、敵の命を奪えないなどとほざくアストレイRFなど恐れるに足らない。そんな圧倒的有利を確信したデザイアドーパントは狂喜と共にアストレイRFへと猛スピードで迫ると、アストレイRFは何を思ったか、ガーベラストレートを静かに鞘に収め、

 

 

アストレイRF『あ、そういえば説明の続きがまだだったね?さっきも説明した通り、無尽一刀流は護身を目的とした剣術だ。だから、"こちらから"剣を振るっても、例え手足を切り落としたとしても無意識に相手をギリギリ死なせないようにするなんて言う、なんとも悪趣味な不殺の剣なんだが……』

 

 

『貰ったァアアアアッ!!!!』

 

 

デザイアドーパントが振りかざした杖の先端から光が放出され、まるで死神の鎌を連想させる刃を展開する。そうしてそのままアストレイRFに目掛けて容赦なく振り下ろされ、そして……

 

 

 

 

 

――――無尽ノ太刀

 

 

 

アストレイRF『……"そちらから剣を振るった時にはね、コイツは必殺になるんだよ"……』

 

 

 

――――"絶"。

 

 

 

―フッ……ザシュウゥウウウウウッッッ!!!!!!―

 

 

 

『―――ッッ?!!!!なっ……ァッ―――――』

 

 

 

 

 

デザイアドーパントの鎌がアストレイRFを斬り裂こうとした瞬間、アストレイRFが超神速で抜刀したガーベラストレートが頭上から振り下ろされる鎌を打ち砕いた上に、その奥のデザイアドーパントの首筋に光の斬撃が駆け走ったのだった。そうして、デザイアドーパントはそのままアストレイRFの背後へと事切れるように倒れていき、アストレイRFはそれに見向きもせずにガーベラストレートの刃を撫でていく。

 

 

アストレイRF『――――無尽一刀流の真髄はあくまでも護身術だが、その実、護身の皮を被った殺人術でもあるんだ。こちらから敵の命を絶対に奪えない代わりに、敵からの攻撃に対しては無敵の域の"カウンター"を発揮し、確実に敵の急所を狙い惨殺する。カウンターという枠で限るなら最強の一角とも言えるんだ……って、今更説明しても遅いか。もちょっと早く話しとけば良かったよ』

 

 

ポリポリと頭を掻きながらそう言ってアストレイRFが振り返ると、其処には無尽ノ太刀・絶をまともに受けて一瞬で絶命し、物言わぬ屍となったデザイアドーパントが倒れる姿があり、それを見てアストレイRFも『悪いことしたなぁ……』と溜め息を漏らすが……

 

 

『―――――…………ぐっ、ガハァッ?!ゲホッ!!ゲホッゲホッ、ガハッ!!!!』

 

 

アストレイRF『……あり?』

 

 

突如、絶命した筈のデザイアドーパントが身体をくの字に折り曲げて激しく吐血しながら何故か蘇生したのであった。アストレイRFは確実に命を断った筈のデザイアドーパントが息を吹き返したのを見てキョトンとした顔を浮かべるが、デザイアドーパントはゆっくりと身体を起こしてふらつきながらアストレイRFの方へ振り返った。

 

 

『ゼェエッ……ゼェエッ……よ、よくもっ……よくも、騙してくれたわねっ……刀じゃ殺せないなんて、言っておきながらっ……!!』

 

 

アストレイRF『……へ?あー、それに関しては私の説明不足だったから謝るけど……や、そっちも凄いね?完璧に命を断った筈なのに生き返るなんて、なに?そのメモリは蘇生術まで使えるのかい?』

 

 

『っ……当然よっ。このデザイアメモリは、私の欲望が高ければ高いほど、私が望む能力を私に与えてくれるっ……それなら万が一に備えてっ、蘇生魔法を事前に掛けておくのは当然でしょうっ……』

 

 

アストレイRF『成る程ー。うん、君のその用意周到さにはホントに恐れ入るよ。尊敬すら覚える……と言いたい所だけど、その代償は大きかったようだね?蘇生した代わりに著しくパワーダウンしてるようだ……そんな状態で、まだ私達と戦い続ける気なのかい?』

 

 

『ぐっ……』

 

 

そう、事前に蘇生魔法を掛けていた事でアストレイRFの一撃を凌ぐ事は出来たようが、その代償は大きかったのか、デザイアドーパントは苦しげに肩で大きく呼吸を繰り返し、足も震えて目に見えて弱体化している。とても戦闘を続けられる状態には見えないが、そんなデザイアドーパントの周りを四人の戦士……レジェンドルガとセンチュリオの混合群を倒した雷牙、黒獅子リオ、ディスパー、ベルグバウが包囲した。

 

 

ディスパー『此処までだぜ、性悪女』

 

 

黒獅子リオ『貴様の部下は全て倒させてもらった……残るは貴様だけだ』

 

 

ベルグバウ『この人数相手に、そんな状態じゃまともに戦えないだろう』

 

 

雷牙『諦めて投降してもらうぞっ、クアットロッ!!』

 

 

アストレイRF『私の可愛い後輩達の為にも、君が操ってるロスト君達の洗脳の解き方も教えて欲しいからねえ。今度は殺さないように気を付けるから、大人しく捕まってくれるかな?』

 

 

ま、下手にそっちから仕掛けると分からないけどねー、と気楽に言いながらガーベラストレートを突き付けて雷牙達と共にジリジリとデザイアドーパントに迫るアストレイRF。それを見てデザイアドーパントもいよいよ余裕がない様子になるが、しかし、何故かデザイアドーパントは急に可笑しげに笑い始めた。

 

 

アストレイRF『?何がそんなに可笑しいんだい?』

 

 

『ふふ……いいえ?ただ私も嘗められたものだと思いましてねえ~……私の手札がこのデザイアメモリと、あの人質だけだとでも思ったんですか?』

 

 

黒獅子リオ『……なに?』

 

 

どういう意味だ?、とアストレイRF以外の面々が訝しげな顔を浮かべるが、デザイアドーパントは無言のまま何処からかスイッチのようなモノを取り出し、

 

 

『まさか、最後の手段まで使う羽目になるとは思わなかったけれど……こうでもしないと、貴方達相手じゃ逃げ切れないでしょうからねぇえッ!!』

 

 

 

 

―カチッ……チュドォオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

 

 

ベルグバウ『ッ?!なっ?!』

 

 

雷牙『ビ、ビルがッ?!』

 

 

狂喜の笑みと共にデザイアドーパントがスイッチを押した瞬間、それと同時に雷牙達の近くの高層ビルから無数の爆発が続けざまに発生し、直後にビルが倒壊し雷牙達に目掛けて傾き倒れ出したのである。

 

 

黒獅子リオ『ッ!!こんなものまで仕込んでいたのかッ!!』

 

 

ディスパー『テメェッ!!なんて事しやがっ――って、いねぇッ?!』

 

 

ビル倒壊の引き金を引いたデザイアドーパントに怒りを向けてディスパーが振り返るが、其処にはいつの間にかデザイアドーパントと瀕死のレジェンドルガ達の姿がなく何処かへと消えてしまっていた。どうやら、雷牙達がビルの爆発に気を取られてる隙に逃走したらしい。

 

 

雷牙『クッ……!!アイツっ、この為に爆弾なんかをっ!!』

 

 

ベルグバウ『クアットロの事は今は放っておきましょうっ!!それよりも今はあのビルをっ!!このままアレが倒れるのを許したら、街に余計な被害が広がってしまうっ!!』

 

 

アストレイRF『むう。仕方がない、此処は私の無尽一刀流で……』

 

 

ディスパー『何とか出来るのかっ?!』

 

 

アストレイRF『と思ったけど、私一人じゃあの大きさは捌き切れなさソーダナー。ってな訳で、後は任せたよ若人(わこうど)達よ!私の命は君達に預けたァ!』

 

 

ディスパー『こんな時に出来ねぇなら最初っから思わせ振りなこと言ってんじゃねぇよォォおおッ!!!殴っぞてめえェェええええッ!!!』

 

 

ベルグバウ『ちょっ、ツッコミなんかしてる場合じゃないですよ映紀さぁんッ!!』

 

 

ファイっオーッ!、となんとも嬉しくない気の抜ける応援を送るアストレイRFにキレるディスパーを宥めようとするベルグバウだが、その間にも高層ビルは音を立てて既に雷牙達の頭上から落下していき、そして……

 

 

 

 

 

 

「―――エクセリオォォォォォォンッ……バスタァアァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!」

 

 

「トライデント、スマッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!」

 

 

―ギュイィィィィィィッ……ドッガアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァンッッッッ!!!!!!―

 

 

アストレイRF『――お?』

 

 

黒獅子リオ『ッ!今の砲撃は……』

 

 

 

 

倒壊するビルの真横から、桜色と黄色の2つの巨大な閃光が撃ち放たれ、雷牙達を押す潰そうとしたビルを貫いて木っ端微塵に吹っ飛ばしたのであった。そしてその見覚えのある攻撃を目にして雷牙達が2つの閃光が放たれてきた方へと振り返ると、其処にはこちらに向かってくるなのは(別)達の姿があった。

 

 

なのは(別)「雷君っ!理央さんっ!」

 

 

ティアナ(別)「お二人共、無事ですかっ?!」

 

 

雷牙『皆……すまない、助けてもらって……』

 

 

フェイト(別)「ううん、さっきはピンチの時に何も出来なかったからこれぐらいはしないと。でも、無事で良かった……」

 

 

一先ず雷牙達が無事である事を確かめて安堵の溜め息を漏らすなのは(別)達。すると、その様子を離れて見ていたディスパーとベルグバウが変身を解除し、元の人間の姿……映紀と海斗へと戻りながら雷牙達に声を掛けた。

 

 

海斗「あの、すみません。少し、お話良いですか?」

 

 

雷牙『……?お前達は、確かさっきの……』

 

 

海斗「貴方がこの世界の仮面ライダー、雷牙の龍藤雷さんですよね?俺はかいど―――いや、海斗って言います。こちらは高岡映紀さんで、実は俺達、貴方達と一緒にいる黒月零さんに大事な用事があって、平行世界からやって来たんです」

 

 

黒獅子リオ『並行世界から……?』

 

 

零に会うために並行世界から来たと正体を明かす海斗の言葉を聞き、戸惑い気味に顔を見合わせる雷牙達。するとその時、ヴィータ(別)が何かを思い出したように顔を上げて海斗に口を開いた。

 

 

ヴィータ(別)「じゃあ、あの変な女もお前等の仲間なのか?さっきの戦いん時も、妙に息が合ってたし」

 

 

映紀「はあっ?さっきのアレを見てて何でそんな発想になんだよっ!アイツも俺とは初対面っつってただろうがっ!」

 

 

カイル「あ、いや、てっきりそういう作戦なのかなー、と……じゃ、ホントにあの時が初対面だったんですか?」

 

 

海斗「え、ええ……俺もまさか、あんな人がいたなんて知らな……って、あれ?あの人は?」

 

 

背後に振り返って当の本人のアストレイRFにも話を聞こうとする海斗だったが、其処にはアストレイRFの姿がなくいつの間にかいなくなっていた。一体何処へ?と、海斗達がアストレイRFを探して辺りを見回していた。その時……

 

 

―……モニュウゥッ―

 

 

フェイト(別)「……へ?―ムニムニムニムニムニムニムニムニムニッ!!!―ひっ?!ヒャアアアアアアアアアアアアアアアッ?!!!」

 

 

なのは(別)「ッ?!フェ、フェイトちゃんっ?!」

 

 

シグナム(別)「テスタロッサっ?!どうし……って……?」

 

 

突然フェイト(別)がすっとんきょんな悲鳴を上げた為に何事かと振り返れば、其処にはフェイト(別)が後ろから延びた謎の両手に胸を高速で揉みしだかれる光景があり、その後ろには……

 

 

ハル「―――んん?んんん?なんてことだ……中学を卒業してから未だ此処まで成長を果たしているだなんて……テスタロッサ家のオパーイの血筋は化け物か……」

 

 

……いつの間にか変身を解除したハルがフェイト(別)の後ろに回り込み、彼女の胸を高速で揉み倒しながら戦慄の走る顔を浮かべる姿があったのだった。

 

 

フェイト(別)「――ってぇっ!いきなり何やってるんですか貴女はァァああああッッ!!!」

 

 

バッ!!と、両腕で胸を隠しながら半泣きでハルから慌てて離れるフェイト(別)。しかしハルは表情を変えないまま未だに胸を揉むように両手をワキワキさせ、

 

 

ハル「いや、何って、別に他意はないよ?ただほら、私は学校卒業以降君のその胸がどれ程までに育っているのかまでは知らなかったからさ?あの悲劇を知っている当事者としては、どーしてもその辺が気になるというかー」

 

 

フェイト(別)「意味が分かりませんっ!!大体っ、悲劇って一体何の話ですかっ?!」

 

 

ハル「あれ?この世界の君にはなかったのかな?中学の体育祭、君達が中二の時に出た対抗リレーの際、君が中一の時から着てたジャージのチャックが走行中でバインバインに揺れまくってた君の胸に耐えきれず弾け飛び、君の次のバトンを受け取る筈だった零君の額に弾丸の如く突き刺さって噴水のように血を噴き出すという、通称チャックボーン事件という大惨事があってねー。それ以降、零君は巨乳に対して一種の恐怖心を抱くようになったばかりか、君に対抗心を燃やした女子生徒達が「私だって出来るわよ!」と豪語して君のチャックボーンを真似ようとしたが結局上手く行かず、精神的ショックを受けて登校拒否になる生徒が続出したりと……」

 

 

フェイト(別)「ホントに一体何の話ですかァアッ?!!」

 

 

チャックボーンなんて知りませんよッ!!と、遠い目を浮かべるハルに泣きながら叫ぶフェイト(別)だが、其処へ黒獅子リオが雷牙と共に変身を解いて理央へと戻り、一同の前に出てハルと向き合っていく。

 

 

理央「貴様、そういえばさっき、黒月零達の先輩だと言ってたな……?アイツ等の旧友か何かか?」

 

 

ハル「うん?うん、そだよ。それから、最初に君達と戦ってた二人のライダーもね。……怪人の方は知らないけど」

 

 

『……えっ?!』

 

 

理央「…………」

 

 

アッサリと、あのオーガ達と自分の関係性を微笑みながらバラすハルに、一同の間に驚愕と動揺が広がるが、理央は僅かに目を細めて徐に両腕で組んだ。

 

 

理央「ならば、貴様から代わりに詳しい話を聞かせてもらおうか……。あの連中、俺達が戦ってるどさくさに紛れていつの間にか逃げたようだからな。あの連中のこと、それから、貴様のこともだ」

 

 

ハル「……うん。いいよー。私が話せることなら何でも話す。でも一つだけ、私からも条件を言っていいかな?」

 

 

理央「条件?」

 

 

何を求める気だ?、と警戒を露にする理央。だがハルはそんな理央を見て苦笑いを浮かべ、

 

 

ハル「彼等の事を話すのは構わないけど、その代わり、零君達にはまだこの事は話さないでおいてくれるかな?零君達は彼等の正体を知らないし、今はまだ知る時じゃない……何より、今の彼等にはその事実を受け止められるだけの余裕が残されていないだろうからね」

 

 

雷「……?それは、どういう……?」

 

 

海斗「…………」

 

 

意味深な発言をするハルに雷が訝しげな顔で問い返すが、ハルはそれ以上は何も答えず、海斗は何か訳知り顔で胸のポケットから一つの宝石……黒く光輝く輝石を取り出してソレを握り締めていくのであった。

 

 

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑬(後編)

 

 

―クラナガン・高層ビル屋上―

 

 

八雲「―――クアットロも退いたか……あれだけ調子に乗り過ぎるなと釘を刺したと言うのに、所詮は出来損ないの傀儡か……」

 

 

そうして、街中で起きていた数々の激闘が沈静化していく中、それらの戦いを静観していた八雲はつまらなさそうに深く溜め息を吐き、自身が今も対峙している目の前の怨敵達……幸助ファミリーとグランとカルネ、そしてメモリーBPに目を向けた。

 

 

八雲「それで、お前達はどうする気だ?あの亡霊……リィル・アルテスタが再生の因子の力を"暴走"させた事で、あの出来損ないに破壊された雷牙の世界はこうして再構築され、俺が連れてきたシュレンもエイラに連れられて俺一人になった訳だが……この場でもう一度、先の闘いを続きでもするか?」

 

 

シズク「……幸助……」

 

 

幸助「…………」

 

 

それでも俺は構わないぞ、と両手を広げて不敵に笑う八雲。だが幸助はそれに対して険しげな表情で八雲を睨み付けたまま動こうとはせず、代わりにカルネとグランが武器を手に前に踏み出した。

 

 

グラン「お望みとあらば、次は俺達が相手をしてやるさっ」

 

 

カルネ「零坊やが元に戻った以上、最早遠慮する事は何もない……此処で今度こそ、引導を渡してやるぞっ!」

 

 

クアットロ達も退けた以上、最早八雲は孤立無援でしかない。ならばこの好機を逃す手はないと、グランとカルネは八雲に向けて武器を構えながら対峙していくと、其処へ、フェイトを止めたクラウンと、ヴリトライレイザーを退けたユリカがその場に駆け付けた。

 

 

グラン「っ!クラウンっ!それに……」

 

 

カルネ「……ユリカ嬢ちゃん……」

 

 

ユリカ「…………」

 

 

駆け付けたユリカを見て僅かに驚きを浮かべるカルネ。だがユリカは幸助達を横目で一瞥しただけで何も言わず、八雲を睨み付け両手に銀の双銃を取り出した。

 

 

クラウン『遅れて申し訳ありません……。フェイト嬢の方は、プレシア嬢と黄昏華嬢の協力もあってどうにかなりました。後は……』

 

 

グラン「黒月八雲を仕留めるだけ、か……!」

 

 

クラウンとユリカが揃った今の戦力なら、仲間のいない八雲を今度こそ追い詰められる。カルネとグランはそう確信し、八雲に向けて飛び掛かるべく身を屈めて突撃しようとする、が……

 

 

 

 

 

―ズギャアァンッ!!―

 

 

幸助「――っ!」

 

 

カルネ「ッ?!なっ……」

 

 

グラン「何ッ?!」

 

 

八雲に仕掛けようとしたその時、二人の足元に突如銃弾が撃ち込まれて八雲への攻撃を阻まれてしまったのである。一同もソレに驚愕して銃弾が放たれてきた方に目を向けると、其処には、何故かユリカが銀の銃をグランとカルネの足元に向ける姿があった。

 

 

カルネ「ユリカ嬢ちゃん……?!」

 

 

ユリカ「動かないで。……貴方達にはまだ、この男を倒させる訳にはいかないわ」

 

 

八雲「……ほう……」

 

 

グラン「なっ、何を言ってんだっ、アンタッ?!」

 

 

八雲に手出しはさせない。そう言って左手の銃を幸助達に向けるユリカの意図が分からずグランが困惑の声を荒げるが、ユリカは無言のまま何も言わず、直ぐに右手の銀の銃を八雲に突きつけた。

 

 

幸助「ユリカ・アルテスタ、お前……」

 

 

八雲「……フフッ、正気か?その程度の武装でこの場の全員を敵に回すような真似──」

 

 

ユリカ「余計な発言は控えてもらえるかしら……貴方はただ、私の質問に黙って答えればそれでいいの……」

 

 

八雲「……質問?」

 

 

静かにそう語るユリカに、八雲は僅かに首を傾げて聞き返す。そしてそんな八雲に対し、ユリカは銃口を突き付けたまま鋭い目付きで睨み付ける。

 

 

ユリカ「貴方が知っている全てを、此処で全て吐いてもらうわ……私が知らない、あの子の過去に何があったのか……何故あの子の中に、リィルの魂が在るのかを……」

 

 

八雲「……ハッ。何を言い出すかと思えば、そんな昔話を今更聞きたいと……?わざわざ俺なんぞの口から聞かずとも、貴様なら自身の手で如何様にもその真相に辿り着き、知る事など造作もないだろう?」

 

 

そもそも俺が餓鬼に寝物語を聞かせるような人間なぞに見えるのか?と、片手を軽く振りながら馬鹿らしげに笑う八雲だが、ユリカも引こうとはしない。

 

 

ユリカ「確かに……その顛末を調べる事は私にでも出来るし、正直、この件はあの子が全ての記憶を取り戻すその時まで、あの子自身の口から直接聞き出すまで詮索しないでおこうと思っていた……だけど……」

 

 

グッと、銃を握り締める手に力を込め、八雲を見据えるユリカの瞳に憎しみが宿る。

 

 

ユリカ「……そうして傍観者を気取ったせいで、あの子も、リィルも、貴方と同じイレイザーにしてしまった……まだ生きているあの子はともかく、死んだリィルが魂だけとは言え完全にイレイザーとなってしまえば……」

 

 

八雲「――そうだな……イレイザーになると言う事は、全ての物語(せかい)からの追放、即ち世界のルールからの脱却を意味する。それは死後に関しても例外ではない。魂までもがイレイザーとなった者が死ねば、その魂は輪廻転生の環に還らず、ただ無に帰すのみ。その点で言えば、リィル・アルテスタはもう、二度目の生を受けて生まれ変わる事は不可能と言えようさ」

 

 

カルネ「……ッ……!」

 

 

一度イレイザーとなってしまった者の末路。八雲の口から聞かされるその内容に同じイレイザーであるカルネも複雑げに眉を寄せ、ユリカは険しい表情を浮かべる。

 

 

ユリカ「もっと早く、こうしておけばと今更になって後悔してるわ……貴方の力を恐れ、近づかまいとして、あの子から事実を聞き出す事に拘って、そうした結果がこのザマよ……だからこそ、これ以上手遅れになる前に、あの子達の間に何があったのかを知る貴方には―――」

 

 

八雲「全てを吐いてもらう、か……とは言え、此処で俺が話せる事実など、お前も既に知っている顛末ばかりだと思うが……まぁいい……俺自身、今の現状の再確認も踏まえて語ってやっても構わんかもしれんな」

 

 

ユリカが放つ威圧感も何処吹く風と、八雲はつまらなそうにそう言いながら背後のフェンスに背中を預け、ユラリと片手を広げる。

 

 

八雲「貴様も知っての通り、俺達の世界には嘗て、創造神と呼ばれた神・アルテマが存在していた……俺達の世界の並行宇宙を管理・存続させる存在として、俺達の世界の『座』に君臨してな」

 

 

グラン「……『座』?」

 

 

ユリカ「私達の世界を支配、或いは世界のルール(理)そのものを変える事が出来ると言われてる世界の中心……其処にあるシステムのようなものよ……最も其処へ行けるのは、"世界"に選ばれた存在となった神だけと言われていて、実際に見たことはないけど、神となった者が其処に立てば、それだけで、ソイツが望むように世界を塗り替えることも出来るとも聞くけど……」

 

 

八雲「事実だ。……だが、その為にはその神自身の力が世界を塗り替える程の力を持っている事が大前提でな。力が足りなければ、例え世界を塗り替えたとしても、その後に生まれる世界は欠損が目立つ不完全な世界にしかならない。……アルテマの平行宇宙のようにな」

 

 

そう言いながら何かを思い出しているのか、八雲は僅かに瞼を伏せて俯くが、すぐにまた無表情となり顔を上げて話を続けていく。

 

 

八雲「世界に選ばれたからと言っても、其処に選ばれた本人の意志は関係はない。アルテマは半ば不本意に世界に選ばれ、その上で奴が現出した理では、増え続ける平行世界の全てを許容出来る程の力を備えてはいなかった……。増え続ける並行世界によって、アルテマが生み出した並行宇宙は崩壊の危機に瀕し、やがては他の世界と引かれ合い、融合し、崩壊への末路を辿るのみだった。そんな危機的状況を解決する為に、アルテマは――」

 

 

ユリカ「……あの子と、あの子の中の破壊の因子を利用したのでしょ……彼の手で、古い世界を破壊させる事で、アルテマが世界を管理出来る範囲にまで負担を減らす為に……」

 

 

グラン「?!なん、だと……?」

 

 

幸助「…………」

 

 

嘗て八雲や零達の世界に存在し、彼等の並行宇宙を管理していたと言う創造神……アルテマ。

 

 

過去の零は、その神が全ての世界を管理出来るように増え続ける平行世界を破壊させられていたのだと語る八雲とユリカにグランは驚愕し、八雲は腕を組み話を続ける。

 

 

八雲「文明も進化も発達しない不要な世界、古い世界を破壊する事で並行宇宙の寿命を延命させ続ける……奴がお前とリィル・アルテスタの世界を訪れたのも、その一環だ……ついでに、とある目的からあの女の中の再生の因子を奪うようにアルテマから命じられていたようだが……その結果は、貴様も知っての通りだ」

 

 

ユリカ「……其処までは私の方でも散々調べたわ……問題はその先よ。あの子の下に、リィルの心臓と因子が至った経緯……私はまだ、その経緯を詳しくは知らない。あの子達の間に、本当は何があったのか、それをっ――――!」

 

 

八雲「だから言っているだろう……?経緯も何もない。あの出来損ないがリィル・アルテスタを手に掛け、血迷った挙げ句にアルテマ達に反旗を翻して返り討ちに遭い、お優しい巫女様は、そんな出来損ないを哀れみ、己の心臓である再生の因子をあの出来損ないに移植させて蘇生させた…………己の魂の『片割れ』を、移植の際に心臓に移して、な」

 

 

グラン「……?魂の片割れ、だと……?」

 

 

どういう意味だ、とグランが一同を代表して疑問を聞き返すと、八雲は幸助達を見回し……

 

 

八雲「此処の数人は既にご存知だろうが、それまで僅かでも疑問に思わなかったか……?神でもないただの人間の分際で、何故神の因子を2つも保持しているだけでなく、両方の因子の力を用いる事が出来るのか……。俺も当初は、せいぜい奴の中の再生の因子が保持者に死なれては厄介だからだと、勝手に起動して奴を生かしているのだと考えていた。奴自身の事を考えるのはそれだけで苦痛だから、せいぜいその程度の理由だと高を括っていたのだが……どうやら、その予想は間違いだったようだ」

 

 

ふぅ、と溜め息をこぼし、八雲は零が今も倒れている高層ビルを横目に語り続ける。

 

 

八雲「そもそもあの出来損ないに、二つの因子を同時に使いこなせるだけの器用な才なぞある訳がない。今まで再生の因子を起動させていたのは、本来の持ち主であったリィル・アルテスタ自身……数年前に奴が行き着いた世界で起きた事件、ロストロギアの事件で奴が死にかけた際に、奴の命の危機に再生の因子が呼応して起動したのは、リィル・アルテスタの魂の片割れが因子の力を呼び起こしたからだ……。奴に再生の因子の恩恵を与える為だけに、あの女は自分の死の間際、己の魂の半分を移した心臓を奴に移植し、残りの半分の魂をあの世へ送っていたのだろうよ……」

 

 

メモリーBP『?半分の魂をって、どうしてそんなこと……』

 

 

幸助「……アルテマやコイツのような存在に、自分は確かに死んだのだと思わせる為だろうな……零に因子の力の恩恵を与える為に、アイツの中に自分の魂が残っている事が悟られれば、コイツ等はそれを消しに掛かってくるかもしれない。それを予期して、リィル・アルテスタは己の魂を分ける事で、コイツ等の目を欺こうとした……コイツ等が自分の死を後から確かめたとしても大丈夫なようにな」

 

 

八雲「結果、俺やアルテマもリィル・アルテスタの策にまんまとハマったという訳だ……だが、それが逆に俺にとっては都合の良い結果を招いてくれた」

 

 

シズク「……都合の良い、結果……?」

 

 

訝しげに眉を寄せてシズクが思わずそう聞き返すと、八雲は幸助達に視線を戻し僅かに口端を吊り上げる。

 

 

八雲「どうやらリィル・アルテスタはいざという時に備えて、奴の中に残しておいた己の魂の片割れと、あの世に送ったもう片方の魂との間を繋ぐ『ライン』を作っていたようだ……。そうする事で、片割れだけの力ではどうにもならない事態の際に、その繋がりを使って黄泉の国から辿ってあの出来損ないの中に残したもう片方の魂と一つになり、再生の因子の力を最大限に発揮できるようにする……。以前のキャンセラーやGEAR電童の世界などで、あの女はその方法で奴等に関与し続け、今回もあの出来損ないがイレイザー化する直前に、魂を一つにして奴の中のイレイザーを抑え込んだが、その代償は大きかったようだな……それが―――」

 

 

カルネ「―――リィル嬢ちゃんの、イレイザー化か……」

 

 

八雲の言葉を繋げるように険しげな表情でそう呟くカルネの脳裏に、先程零がアバドンイレイザーとは違う別の姿に変身した女神型イレイザー……否、リィルの魂が零の身体を使って変貌したイレイザーの姿を思い出していく。

 

 

八雲「再生の巫女が変身したのは、本来クリエイトで言う幹部クラスに該当する神話タイプのイレイザー……あの出来損ないのイレイザーの出来映えを除けば、神話タイプを2体も生み出せた事になる。これでノルマ達成どころか、クリエイトでの俺の立場はより揺るぎないものとなり、今以上に動きやすくなるという事だ。その点で言えば、リィル・アルテスタには俺からも感謝しなければならんな」

 

 

ユリカ「ッ……いい加減にして、何時までグダグダとくだらない話を続けるつもりなの……?私が聞きたいのはそんな事じゃないっ。あの子達の間に、本当は何があったのかをとっ――――!!」

 

 

何時まで経っても自分が知りたい情報を話そうとしない八雲に対して遂に痺れを切らし、ユリカは幸助達に向けていた側の銃を八雲に突きつけながら引き金に指を掛ける。だが……

 

 

幸助「――その通りだな。いい加減にしろよ、八雲。貴様、何時までそうやって道化の真似事を演ずる気だ?」

 

 

ユリカ「……えっ……?」

 

 

カルネ「幸助坊や……?」

 

 

突然そう言って口を開いたのは、武器を手にせず空手のまま八雲と対峙していた幸助だった。突然そんな意味深な発言をし出した幸助に他の面々も怪訝な表情で振り返り、八雲も僅かに首を傾げた。

 

 

八雲「急に何の話だ、断罪の?俺に何処か可笑しな所でも?」

 

 

幸助「……見くびるのも大概にしろと言っているんだ……その程度のチャチな分身で、俺の目をごまかせるとでも思ってるのか?」

 

 

ユリカ「……?!なっ……」

 

 

グラン「分身だとっ?!」

 

 

驚愕の声を荒げ、ユリカ達は一斉に八雲の方へと振り返る。対する八雲は幸助からの指摘を受けてその顔から一瞬表情が消え、僅かに口を閉ざした後、退屈げに小さな溜め息をこぼした。

 

 

八雲「分かってはいた事だが、こうも簡単に見破られるとなると白けるな……まぁ、貴様相手にこの程度の誤魔化しが通ずる筈もないか……気付いていたのは最初からか?」

 

 

幸助「当然だろう……雷牙の世界が修復され、俺達がこの世界に戻ってきた時点で、お前の気配は零の物語で戦った時より明らかに違う。……入れ代わったのは、俺達と共にこの世界に戻って来る直前、その時に分身を飛ばして入れ代わり、お前自身は既に裏方にでも引っ込んでいるんだろう?」

 

 

八雲「……流石の洞察力だな」

 

 

溜め息混じりにそう言って肩を竦めながら笑うと共に、八雲の身体が残像のように一瞬だけブレる。その様子から、目の前の八雲は本当に分身のようだ。

 

 

カルネ「黒月八雲っ、貴様……!」

 

 

八雲「……雷牙の世界が修復された以上、此処は既にメモリアルの管轄内だ。此処で貴様等を相手にこれ以上は好き放題暴れる訳にもいかないからな。水を刺された以上、お前達との決着は後のお楽しみとして取っておく事にしようと思った訳だ。あの出来損ないの駄作の世界よりも、より相応しい舞台で、なあ?」

 

 

ユリカ「ッ……!!貴方という男はっ……何処まで人をおちょくってっ……!!」

 

 

八雲「……ああ、貴様が知りたがってるあの出来損ないと巫女の過去についてなら、これ以上は俺の口から聞くよりも直接、奴の中の当人にでも聞いたらどうだ?転生の望みは最早ないが、あの出来損ないの身体を奪えばリィル・アルテスタも二度目の生を手に入れる事は出来ようさ……嘗て愛した男の身体と共に生きる……そう考えたら、中々にロマンチックだとは思わないか?」

 

 

ユリカ「ッッッッ……!!!!!」

 

 

―ズギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャアァァンッッッ!!!!!!―

 

 

煽るように笑ってそう語る八雲のその言葉を引き金に、ユリカは両手の銀の双銃を八雲に目掛けて容赦なく乱射させていく……が、ユリカが放った銃弾は全て八雲の身体をすり抜けてしまい、直後に八雲の姿が大きくブレた後に幻のように消え去ってしまった。

 

 

メモリーBP『消えた……?!』

 

 

『……どうやら本当に、本物は既に何処かに姿を眩ましていたようね』

 

 

ユリカ「黒月八雲っ……!!」

 

 

 

 

 

―……何れにせよ、今まであの出来損ないを護り続けていたあの再生の魔女もイレイザーと化し、黒月零自身が生み出したイレイザーと共に枷になる事に代わりはない。イレイザーは所詮は"存在を許されぬ者"……それを2匹もその内に抱えている以上、"世界"はこれまで以上に奴を異物として全力で追い出そうとするだろうさ……奴にはもう、安息の未来なぞないも同然なのだからな―

 

 

 

 

 

何処からともなく響き渡る八雲の声。その声の居場所を探して一同が周囲を見渡すが、やはり八雲の姿は見付けられず声も聞こえなくなってしまい、八雲から嘗ての零とリィルの過去を聞き出せなかったユリカは拳を震わせ、悔しさのあまり堪らず真横のフェンスを殴り付けた。

 

 

カルネ「ユリカ嬢ちゃん……」

 

 

ユリカ「ッ……何処まで人を馬鹿にすれば気が済むの、あの男はっ……!」

 

 

幸助「……あの男はそういう奴だと、お前も嫌と言うほど分かってるだろ?恐らくこうしてる間にも、奴は既に次の手を考えて良からぬ企みでも企ててる筈だ……零達の世界のクアットロ達を使ってな」

 

 

いや、それどころかこうなる事も予期して、既に何かしらの手駒を用意している可能性もある。幸助は薄い溜め息を吐きながらそう考えると、項垂れるユリカの背中を一瞥した後、踵を返し今も零が倒れる高層ビルの方へと振り返った。

 

 

椛「幸助君……これからどうする気なの?」

 

 

幸助「……一先ず零を回収して、この世界の機動六課と雷達に接触する。八雲達がこの程度で手を退くとは思えないからな……奴らがまた何か仕掛けてくる前に、打開策を用意しておく必要がある」

 

 

クラウン『クアットロ嬢も、恐らく今回の作戦を邪魔された事で更に復讐心を募らせているでしょうからね。彼女達が何か仕掛けてくる前に、零氏達を万全の状態にまで回復させなければなりませんが……』

 

 

シズク「……だけど、八雲の言う事が本当なら、零君は……」

 

 

そう、八雲の言う通り零にイレイザー化、そして雷牙の世界と共に雷やなのは達を手に掛けた記憶が残っているなら、零の精神は恐らく……。そんな不安を孕んだ声を漏らすシズクに一同も何も言えず沈黙が流れるが、幸助は目を伏せた後、メモリーBPに視線を向ける。

 

 

幸助「……それで、お前達の方はどうする気だ?このまま俺達と来るのか?」

 

 

メモリーBP『あ、それは―――』

 

 

『―――残念だけど、私達が関与出来るのは此処までよ』

 

 

此処から先について自分達がどうするか説明しようとしたメモリーBPの言葉を遮るように、メモリーBPの腰のバックルから響いた女性の声が代わりに答え、直後にメモリーBPの身体から僅かに粒子のようなモノが浮き出た。

 

 

グラン「ッ!それは……」

 

 

クラウン『……成る程。貴方達がこの過去の世界に関われるのには、何かしらの制限が課せられているのですね?』

 

 

『……ええ。私達が関われるのは、"黒月零が破壊した後の雷牙の世界での天満ファミリーと黒月八雲の闘い"までで、それ以降の歴史には関わってはいけないと言われているの』

 

 

メモリーBP『だから、この世界が元に戻ったら、俺達も未来の世界に帰るように言われてて……スミマセン、ホントは俺達も力になりたいんですけど……」

 

 

幸助「いや、此処まで手を貸してくれただけでも上々だ。それにそのベルトが未だに使われてるという事は、お前達の方にも、お前達なりの戦いがあるのだろうし、これ以上過去の出来事に関わる事でソレを疎かにする事もあるまい……お前達は、お前達の戦いに専念しろ。こちらの事は、俺達に任せておけ」

 

 

メモリーBP『…………。分かりました』

 

 

真剣な眼差しを向ける幸助の瞳を見つめ返して力強く頷き返し、メモリーBPは一同から少し離れた場所へと立って振り返り、メモリアルブレイドを地面に突き刺す。すると、メモリアルブレイドを突き刺した部分から光が広がって巨大な魔法陣が展開され、メモリーBPは魔法陣から発せられる光に包まれながら幸助達に目を向けた。

 

 

メモリーBP『先代さん……未来は必ず、先代さん達の意志を継いだ俺達が守ってみせます!だから過去の世界の事、頼みます!』

 

 

幸助「……ああ。お前も、断罪の後継者の名に恥じないように、精進し続けろよ?」

 

 

メモリーBP『……はい!』

 

 

―シュウゥウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ…………バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーウウウゥゥゥッッッッッ!!!!!!!!!―

 

 

先代メモリーの幸助からの激励を受けながら、メモリーBPの全身が魔法陣から徐々に激しさを増していく光に覆われてその姿が見えなくなっていく。そして、メモリーBPを飲み込んだ魔法陣は少しずつ縮小していき、そのまま何処かへ転移するように消滅してしまったのであった

 

 

クラウン『……行ってしまいましたね』

 

 

シズク「うん。……あ、そういえばあの子の名前、結局聞きそびれちゃったね?」

 

 

幸助「ん?……そういえばそうだったな……まぁ、どうせ未来で知る機会もあるだろ。最も、その頃にまだ俺達が健在ならの話だが……」

 

 

自身の跡を継ぐ者が現れたと言うのなら、その頃には自分達はどうなっているのか……。そんな考えが一瞬過って思わずポツリとそんな小声を漏らすが、今は関係のない事だと軽く頭を振りながら思考を切り替えようとしていると、今まで無言でいたユリカがフェンスから拳を離し急に何処かへと歩き出した。

 

 

カルネ「!ユリカ嬢ちゃん?何処に行く気だ?!」

 

 

ユリカ「……決まっているでしょ……?黒月八雲の足取りを追うのよ……ノアノートを駆使すれば、奴の逃走ルートを割り出して追跡する事ぐらい……」

 

 

幸助「……追い掛けて、それでどうなる?お前の今の力で奴と対峙しても、今度こそ殺されるのがオチだぞ」

 

 

ユリカ「……そんな事、言われなくたって百も承知よ……実際に奴と戦った事がある経験もあるのだから、実力の差は嫌と言うほど分かってる……それでもっ……」

 

 

このまま何もせずにはいられない、そうじゃなきゃあの子達に顔向け出来ないと、実際には言葉には出さずに拳を強く握り締め、ユリカはそのまま転移魔法を用いて何処かへと消えてしまった。

 

 

グラン「お、おいっ!待てよアンタっ!」

 

 

幸助「放っておけ、今はアイツに構ってる暇はない」

 

 

カルネ「いや、しかしっ……!」

 

 

クラウン『彼女が心配なのは分かりますが、幾らユリカ嬢でも八雲氏相手に無謀な真似はしないでしょう。先程彼女自身も言っていた通り、彼の恐ろしさはユリカ嬢も良く分かっているハズ……今は彼女を信じるしかありません』

 

 

幸助「クラウンの言う通りだ。とにかく、俺達は零を連れてこの世界の六課と合流するぞ。……八雲の野郎がクアットロ達を使って次の一手を打ってくる前に、な……」

 

 

今回は予想外のアクシデントが重なった事でクアットロ達の計画を阻止出来たが、これで終わりとはとても思えない。クアットロ達がいつ何を仕掛けて来てもいいように零達と雷達を回復させなければと、幸助達は八雲の追跡をユリカに任せて高層ビルの屋上で一先ず解散し、シズクと椛ははやて達の下に、クラウンとカルネとグランは雷達の下へと向かい、幸助は一人零の回収へと向かっていくのであった。

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?

 

 

 

 

 

 

 

スバル「―――そういえば気になってたんですけど、姫さんのアマテラスと魚見さんのツクヨミってどっちが強いんですか?」

 

 

姫&魚見「「…………………………………え?」」

 

 

 

 

 

 

―――それが、今回の事態を引き起こした原因となる一言だった……。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

―光写真館―

 

 

季節は冬。数日後に来たるクリスマスの日に備えて街が華やかなデコレーションで彩られていく中、この光写真館でもクリスマスを迎える為に各々が必要なモノを揃えようと準備を進めていた。

 

 

零や優矢、映紀を始めとした男組となのは達は外へと買い出しに出掛け、残った栄次郎と留守番組はいつもよりも気合いを入れて写真館の清掃をしていき、リビングではスバル達FW陣とギンガ、姫と魚見がパーティーでの主役となるケーキをどのようなモノにするかという重要な役割を受けて和気藹々と話し合ってた中、先の台詞がスバルの口からふと飛び出し、一同の間に流れる空気が固まったのである。

 

 

ティアナ「ス、スバル……?あんたっ、急になに言い出してんのよっ?」

 

 

ギンガ「そ、そうよスバルっ、失礼じゃない!本人達の前でいきなりそんな話……!」

 

 

スバル「え……えっ?や、ちょうど二人が揃ってたから前々から気になってた話を聞こうとしただけ、なんだけど……もしかしてコレ、聞いちゃいけない系の話でしたかっ……?」

 

 

姫「……は?あ……いや、別にそういう訳ではないぞ?ただ少し、意外な質問だったから驚いただけというか、なぁ……?」

 

 

魚見「そう……ですね。今まで気にした事もない話の質問だったので、思わず面を食らいましたけど……でも、何故急にそんな疑問を?」

 

 

コホン、と気を取り直すように一度咳ばらいした後に魚見が聞き返すと、質問を返されたスバルは「えっ?!」ときょどりながら目を泳がせて人差し指を回し、

 

 

スバル「いや、何で、っていうか、大した理由はないんですけど、ほら、お二人が零さんと一緒に変身するアマテラスとツクヨミって、どっちも凄じゃないですか?強いのは当たり前で、速いし、色んな能力も使えてって。でも、両方の戦いを見ててどっちも凄すぎて逆に違いが分からないっていうか、えーと……なんて言えばいいのかな……?」

 

 

キャロ「えと……つまり、どっちも強いのは分かってはいるけれど、どう強くて、どっちがどの分野においてズバ抜けているのか素人目には伝わりづらい……って事ですか?」

 

 

ティアナ「ああ、何だ……つまりアンタ、アマテラスフォームとツクヨミフォームの性能の違いが分かってないって事?」

 

 

スバル「ち、違いはちゃんと分かってるよっ!えと、例えば、色とか、武器とか、中の人の違いとか……!」

 

 

エリオ「いや、それ性能って話じゃないような……」

 

 

必死にアマテラスフォームとツクヨミフォームの相違点を説明しようとしているスバルを見て、姫と魚見は漸く『そういう事か……』と要領を得た。

 

 

要するに先程スバルが言いたかったのは、アマテラスとツクヨミの強さの相違点を知りたいといった意図の質問だったのだろう。

 

 

例えるなら、カーレースで優勝した現チャンピオンのレースカーと前チャンピオンのレースカーが具体的にどう違うか。

 

 

その手のプロやそれを扱う人間には分かっていても、実際にレースを見る普通の観客からすると、どちらも速い事は分かるがその違いがどう違うのか伝わり辛いという感じなのだろう。

 

 

姫「成る程な……君の言いたい事は何となく掴めた。しかしだな、スバル?そういう疑問は、実際に口にするのは無粋というものだぞ?」

 

 

スバル「へ?」

 

 

魚見「そうですね。どちらが上か、どちらが強いかといった議論は例えどのような答えを出したとしても、比べられる方はあまり良い気はしません。スバルさん、例えば貴方とギンガさん、どちらが上かといった話を目の前で実際にされて、勝っても負けたとしても、あまり良い気はしないでしょう?」

 

 

スバル「それは……うん……確かにそう、かも……」

 

 

実際にその時のことを想像し、気落ちした様子で俯くスバル。頼んでもいないのにギンガと勝手に比べられ負けるのは確かに嫌な気持ちにはなるが、それと同時に、自分を持ち上げるためにギンガが貶められるのはもっと嫌な気持ちになるし、そんな事で認められてもちっとも嬉しくない。

 

 

姫「その手の下らない話で満足するのは、実際に議論を交わす無粋な連中だけだ。スバル、実際に想像して君がそんな気持ちになるのなら、私達が今どんな心境か、良く分かるだろう?」

 

 

スバル「……そうですね。すみません、姫さん、魚見さん、変な事聞いちゃって……私、そんな頭良くないせいで、その辺の配慮が足りなかったっていうか……」

 

 

魚見「いいえ、そんな事はありません。ちゃんと自分が悪いと反省出来ている時点で、貴方は十分聡明な子ですよ?」

 

 

姫「そうだな……君は十分立派だ。それを理解してるなら、私達から言う事は何もない♪まぁ、これに懲りたら、この手の無粋な話はもう――――」

 

 

 

 

 

 

 

魚見「――――まあそれはそれとして、機動力と火力で言えば、ツクヨミの方が断然上ですよ?アマテラスよりかは」

 

 

 

 

 

 

 

姫「―――――――――――――――。ウゥン?」

 

 

 

 

 

 

 

本人の目に見える所で気軽にしたら駄目ダゾー?、と年上らしく諭そうとして、横からコーヒーを啜りながら口にした魚見のその一言で完全に遮られてしまった。

 

 

良い感じの話に終わらそうとして、人差し指を立てて笑顔を浮かべる姫の表情がピシィッ!と凍り付き、他の面々はそんな姫の反応を見て顔を引き攣らせ、ぎこちない動きで魚見に視線を向けていく。

 

 

エリオ「う、魚見……さん……?」

 

 

魚見「?どうしました?」

 

 

キャロ「ど、どうしたって、あの……さっき魚見さん、姫さんと一緒にその手の話はしちゃ駄目だって……」

 

 

魚見「……?ええ、その手の無粋な議論は、議論する人達が満足する以外に何も生みません。私もその手の話は、不必要な場ではするべきではないと思います」

 

 

ギンガ「じゃ、じゃあ……どうして今っ……?」

 

 

魚見「どうして、って……だって、スバルさんの疑問事態は不毛ではないでしょ?アマテラスとツクヨミの能力の違いが分からないとなると、いざ皆さんと一緒に戦う時になったら連携が取れないワケですし。そうなるとスバルさんだけでなく私達も困る事になりますから、ある意味、この議題はとても重要です」

 

 

ティアナ「ぎ、議題って、其処まで大袈裟な話じゃっ……っていうか連携も何も、どっちにしろあんな出鱈目なスピードに付いていけないとなると、それも無理な話じゃないかとっ……」

 

 

魚見「いいえ!それならばこちらで動きを合わせれば済む話!そうして皆さんと連携を取れば何者にも遅れを取る事はナイのです!何よりも皆さんの命にも関わる以上は話さずにおくなど言語道断っ!……そういう事ですので、スバルさん。今からアマテラスフォームとツクヨミフォームの相違点をしっかり教えますから、きちんと頭に叩き込んで記憶してくださいね?」

 

 

スバル「えっ、えっ?あ、は、はいっ……?」

 

 

何か変なスイッチでもONされたのか、隣で固まっている姫を他所にコホン、と再び咳ばらいした後、魚見は教職員ばりの真摯な顔で五人とフリード相手に授業を開始した。

 

 

魚見「先ず、私と零が変身するツクヨミフォームに関してですが、こちらは先程も言った通り機動力と火力に重点を置いた形態になっています。その一端を補ってるのがスサノヲ、これは私が零の中から念力を発して動かす念動兵装となっています。これを利用する事で射程は無限、銀河地平の彼方にも一瞬で転移する事も出来る。此処が先ず、アマテラスとは違って優れた点ではありますね」

 

 

姫「…………それぐらい別にアマテラスでも出来るし…………」

 

 

ボソッ……と何か聞いてはならない声が聞こえたような気がした。しかし魚見は聞こえていないのか、それとも聞こえた上で無視しているのか、ダラダラと冷や汗を流すスバル達と対照に表情を一切変えずに説明を続けた。

 

 

魚見「次に、ツクヨミが用いる主要武装の日照と月読に関して。こちらは通常時でも普通の銃として扱う事が可能ですが、零が持つ二本のガイアメモリを両方に装填することで常時マキシマムドライブ状態になり、放つ銃撃が全て必殺技の域の超強力な砲撃へと変化します。更にこれらと、零の武器を合体させる事でツクヨミフォームの最強の武器……アメノハバキリとなり、ディケイドは一撃必殺に長けた武器を手にする事が出来ます。この辺も、単一の武装しか使えないアマテラスとの違いですね」

 

 

姫「…………桜神剣は臨機応変が強みだし、別にそれだけで戦ってる訳じゃないし…………」

 

 

嗚呼、やばい、ヤバい、ヤバイ……。

 

 

魚見から顔を背ける姫の表情はスバル達からも一切見えないが、あの向こうじゃきっと凄い顔になってる気がする……。

 

 

何だか胃がキリキリと痛み出し始めるスバル達の心境など露知らず、魚見は饒舌に説明を続けていく。

 

 

魚見「そして何よりも優れているのは、その手数の多さ!スサノヲを使った戦術だけでも百を越え、どんな巨大な敵とも一対一で戦い続けられる事が出来ます!そう、つまり持久力!どのようなサイズの敵とも戦え、高火力、機動力、持久力にも長けて、一撃必殺の剣で敵を断つっ!これこそがツクヨミフォーム……アマテラスフォームには決して出来ない全てが揃った私と零の力ですっ!」

 

 

姫「異議ありぃいいいいっっっっっっ!!!!!!」

 

 

バァアアアンッッ!!!、とテーブルの上に姫の手が打ち付けられた。ひぃい!とスバル達が肩を縮こまらせるが、対する魚見はキョトンとした表情で首を傾げている。

 

 

魚見「どうしました、桜ノ神?急に怒鳴ったりなんかして」

 

 

姫「ウ、ウオミーさんっ?先程から黙って聞いていれば、少々言が過ぎるのではないだろうかっ?」

 

 

魚見「……?何か可笑しな部分がありましたか?私は至って、当たり前の事実を話していただけのような気がしますが」

 

 

姫「寧ろ可笑しい部分が多すぎるっ!!!そんな説明じゃ、アマテラスにはツクヨミに勝る部分が何一つないように聞こえるではないかっ?!!」

 

 

魚見「……………………………………。え、寧ろ何かありましたっけ?」

 

 

姫「か、確信犯だとぅッ?!あるッ!!あるに決まってるだろうッ!!アマテラスは私自身の力が零にも使えるようになってるッ!!それを使えば、今君が説明したツクヨミフォームの能力も実現させる事が出来ると、君だって知ってるじゃないかァッ!!」

 

 

ビシィイッ!!、と涙目になりながら勢いよく立ち上がり魚見に人差し指を突き付ける姫。すると、魚見も「そうだった……」と思い出したように掌の上にポンッと拳を落とすが、直後に小首を傾げて不思議そうな顔を浮かべた。

 

 

魚見「ですが、桜ノ神……貴方の能力となると、確かあらゆる奇跡を具現化させる、という万能の能力の事ですよね?」

 

 

姫「え?あ……そ、そうともサ!それを使いさえすれば、君のツクヨミの能力をそのままアマテラスに用いる事だって不可能では――!」

 

 

魚見「……でもぶっちゃけ、それって戦い向きの能力ではないですよね?」

 

 

姫「―――エ?」

 

 

ギンガ「……あ、そっか。万能って聞こえはいいけど、それって逆に、どんな事を望んだらいいのか漠然としてて直ぐには思い付きませんよね?」

 

 

ティアナ「あー……作戦を考えている時とか、必要な物や足りない物がある時には便利かもしれないけれど、いざ戦いになると戦闘に集中し過ぎて、そんな望みとか瞬時に考えてる余裕もないわよね……それを考えたら、戦闘向きってあらかじめ分かってるツクヨミの方が扱いやすいかも……」

 

 

姫「……そんな……そんな……馬鹿なっ……」

 

 

ガクッと、FW陣の裏付けを聞かされて崩れ落ちるようにテーブルに両手を付ける姫。そんな彼女に大して、魚見はキュピーン、と瞳を輝かせながら勝ち誇るかのように妖艶の笑みを浮かべた。

 

 

魚見「これで証明されましたね、桜ノ神……いいえ、木ノ花之咲耶姫!貴方と彼のアマテラス、そして私と彼のツクヨミのどちらがより優れているか!これでハッキリと決着が付いたワ!」

 

 

姫「ッ……いいや……まだ、まだだぞ魚見っ!否っ、市杵宍姫ノ命ォおッ!!」

 

 

決定的敗北を魚見の口から突き付けられながらも、姫の瞳には未だに闘志の炎が宿っている。美しい黒髪を揺らして再び立ち上がり、何か決意に満ちた顔で魚見に指を突き付けた。

 

 

姫「私はまだ完全に負けてはいないっ!確かに私自身、君に劣る部分があるのは認めてるがっ――――!」

 

 

魚見「え、胸とか?」

 

 

姫「 ゆ" る" さ" ん" 」

 

 

ギンガ「きゃああああああああああっっ!!?待って姫さんっっ!!!早まらないでぇえええええええっっ!!!」

 

 

戦極ドライバーを取り出し腰に装着しようとする姫をギンガ達が取り押さえる。そんな彼女達の声のお陰か、姫はすぐに「ハッ……」と我に返り、ドライバーを後ろ腰に仕舞って気を取り直すようにわざとらしく咳ばらいをした後に、魚見に再び指を突き付ける。

 

 

姫「とにかくっ!君に劣る部分が多分にある事は私も認めているが、こればかりは、君に勝ちを譲るワケにはいかないっ!彼と最初に契約した君の先輩として、何よりも彼のパートナーとしてもだっ!」

 

 

魚見「……良いでしょう。其処まで言われたからには、私も同じパートナーとして引く訳にはいきません」

 

 

そう言って姫と同じように椅子から立ち上がり、魚見はビシィッ!とまるで何かの格闘ゲームのキャラクターのようなポーズを取って姫と対峙した。

 

 

魚見「勝負の決め手は何も、能力やスペックだけじゃありません。どちらが彼の心と一番に繋がっているか……勝負と行きましょう、桜ノ神!此処からは敵同士ですッ!!」

 

 

姫「うむっ、馴れ合いは不要という事かッ!!」

 

 

魚見「今は舐め合いだッ!!」

 

 

姫「その表現、誤解されそうだぞッ!!」

 

 

ティアナ「ああ、うん、良かった、取りあえずあの辺はいつも通りだわ……」

 

 

エリオ「いや安心してる場合じゃないですよティアさんっ?!ど、どうするんですかあの二人っ?!」

 

 

ギンガ「もうっ!そもそもスバルがあんな変な質問したりなんかするからぁッ!!」

 

 

スバル「だ、だだだだってっ!まさかこんな展開になるなんて思わなかったんだもぉおおおおんっ!」

 

 

キャロ「と、というかコレっ、どう考えても零さんが巻き込まれるパターンなんじゃっ……」

 

 

フリード「キュクルルル……」

 

 

「はぁああああああっ!!ハァアッ!!」と何か良く分からない高速組み手までし始めた二人の姿を遠くから眺めることしか出来ず、スバル達は些細な話題から始まってしまった二人の神の対決をどう止めるべきか分からず焦り、ただただ身を寄せ合う事しか出来ずにいたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

そしてその一方……

 

 

―ブチィイッ!―

 

 

零「ッ!!?……何だ?」

 

 

優矢「よいっしょっと……うん?どうした零?」

 

 

零「いや……何か急に靴紐が引きちぎれたんだが……どうなってるんだ……?」

 

 

優矢「はぁあ?不吉にも程あんだろっ。まさか、また何か良からぬ事に巻き込まれるとかになるんじゃねぇのっ?」

 

 

零「はっ、それこそまさかだろう?一々靴紐がちぎられたぐらいで厄介事に巻き込まれてたら、こっちの身が持たな……ハッ、っくしっ!」

 

 

優矢「うわぁっ!おまっ、こっち向いてくしゃみするなよっ!まさか、風邪でも引いたんじゃねーかっ?」

 

 

零「ぐっ、そんなまさかっ……や、でも何か寒気がっ……しっかり厚着してきたハズなんだがな……」

 

 

近くの商店街になのは達と共に買い出しに来ている零は写真館で起きてる出来事など露知らず、妙な肌寒さに首を傾げつつも優矢と軽口を交わしながら買い出しを続けていったのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?①

 

 

―光写真館―

 

 

数十分後。外での買い出しを終えた零達が荷物を抱え写真館に戻ると、丁度掃除も終わっていて写真館の中は全て綺麗になっていた。そして、零達は折角綺麗になった箇所を汚さないように気を付けながら台所組に買ってきた食材や日用品を渡して後を任せると、一度着替える為にそれぞれの部屋に戻る事にした。

 

 

零「―――寒っ……やっぱ厚着をしていても、今年の寒さは応えるなっ……」

 

 

一人そう呟きながら、優矢やなのは達と別れ自室への廊下を歩いていく零。手袋を脱いだ片手で顔を触ってみると、外で何度も寒風を受けたせいで肌は冷え切っており、零は小さく溜め息を吐きながらふと帰宅した間際の事を思い出した。

 

 

零(そういえば、スバル達が何か俺に言いたそうにしてたが……結局何だったんだ……?)

 

 

なのは達と一緒に買ってきた食材やら何やらを台所組に確認してもらってた最中に、何やら背後で「アンタが話して来なさいよ……!」とか、「だって何て説明したらいいかわかんないよ……!」とかコソコソしているスバル達の姿があったが、気になってこちらから何か用があるのかと聞いても『な、何でもありませんっ!!』と言ってそそくさと逃げられてしまった。

 

 

零(むう……ま、用があるならまた向こうから声を掛けて来るだろ。それより今はとっとと着替えて――――)

 

 

スバル達の件は取りあえずそう考えて余り気にしないことにし、自室の前にまで到着した零は部屋の扉のドアノブを掴んで回すと室内に足を踏み入れ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

魚見「―――おかえりなさい。随分遅かったですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「…………………………………………………」

 

 

―パタンッ―

 

 

 

 

―――ようとして、無言のまま静かに扉を閉めたのであった。

 

 

零「……部屋、は……ウン、間違えてはいないな」

 

 

部屋の前のネームプレートを確認し、念の為に部屋の位置もしっかり確かめてから自分が部屋を間違えた訳ではないようだと安堵して溜め息を吐く。ならば今のはきっと何かの見間違いだと、何処か自分に言い聞かせるように考えながら扉のドアノブを回して開くと、其処には何も……

 

 

 

 

魚見「―――ご挨拶ですね、いきなり。人の顔を見るなり扉を閉めるなんて」

 

 

 

 

……ないと信じたかったが、何故かエプロン姿の魚見がお玉を手に、不服そうな目をして自分の部屋に立つ姿があったのだった。

 

 

零「…………………………………。人の部屋で何してやがんだ、お前……」

 

 

魚見「?見て分かりませんか?貴方の部屋で家事をしながら、こうして貴方の帰りを待ってただけですよ?」

 

 

零「イヤそんな当然でしょ?みたいな感じに言われても―――って、おい、おい待て……お前、その後ろのヤツなんだっ?」

 

 

取りあえず何か色々とツッコミ所が多過ぎて険しげな表情で頭を抑える零だが、魚見と話している最中に、何やらグツグツと煮込む音が耳に届いて魚見の背後に目を向ける。すると其処には、何故か部屋のテーブルの上に火の付いたコンロと、その上にコトコトと何かを煮込んでる鍋が置かれていた。

 

 

魚見「何って、鍋で料理しているだけですよ?」

 

 

零「違う、そうじゃない……俺が聞きたいのは、何故人の部屋で勝手に鍋なんぞ煮込んでるんだって聞いてるんだっ」

 

 

魚見「ああ、そういう……。貴方が一度着替える為に部屋に戻って来る事は予想が付いていたので、こちらで料理をしながら待たせて頂こうかと」

 

 

零「はあっ……?料理したいのならキッチンでやればいいだろっ?!何だって俺の部屋でやる必要があるっ!」

 

 

キッチンでやれば台所組のオットー達が手伝ってくれるだろうし、自室ならともかく何だって自分の部屋で料理なんてしているのかと至極真っ当なツッコミを入れるが、魚見は腰に両手を当てて、ふぅ……と溜め息を吐き、

 

 

魚見「零、貴方は私の契約者で、私は貴方のパートナーですよね?」

 

 

零「はっ……?何だ薮から棒に改まって?」

 

 

魚見「良いから、ちゃんと答えて下さい」

 

 

零「っ?ああ……まぁ……一応そんな感じではあるな……」

 

 

妙に食い下がる魚見に気圧されて頭を掻きながら素直にそう認めると、僅かだが魚見は嬉しそうに眉を下げて胸を張る。

 

 

魚見「なら、こうして私が貴方を労おうと料理を振る舞うのは、何も可笑しくはないと思いませんか?」

 

 

零「労うって……お前が俺をか?何でまた急にっ?」

 

 

魚見「パートナーとして、相棒を労うのに理由が必要ですか?……まぁ、強いて言うなら、以前助けてもらった恩を今の内に返したいから、というのもありますけどね。もうすぐ今年も終って新たな一年が始まりますし、今年中にそれも清算しておこうかと」

 

 

零「いや、そんなもん今更気にする必要ないだろう?あの時助けてもらったのは俺も同じ――」

 

 

魚見「良いんです、あくまで建前ですから。……そういう事なんですから、今度からは遅くなるなら連絡くらい下さいねっ」

 

 

零「……こんなこと始めるなら連絡欲しかったんだが……」

 

 

魚見「家事にも色々予定があるんだから。――裸エプロンで待ってたけど、寒くて服着ちゃった」

 

 

零「それ家事の項目に入らねぇヨっ?―コンコンッ―……あ?」

 

 

まさかその為に自分の部屋で待ってたのかとか、こんなクソ寒い季節になにやっとんだ、と続けようとして、背後の扉を外側から誰かが叩く音が聞こえた。その音に釣られる様に振り返り、こんな時に誰だ?、と零が扉を開けると……

 

 

零「……木ノ花?」

 

 

姫「やあ零、少し良いか……って、ウオミー?」

 

 

魚見「あら」

 

 

其処には、何やら料理を入れてあるパックを手に立つ姫の姿があったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

姫「―――そういう事か。通りで姿が見えないと思ったら」

 

 

零「驚かされたのは俺も同じだ、全く……」

 

 

数分後。取りあえず、寒い廊下で立ち話にする訳にもいかないだろうと零は姫を部屋の中に招き入れ、彼女に先程までの経緯を簡潔に説明していた。それで姫も何か納得が行った様に頷くと、魚見は彼女の手のパックに目を向けた。

 

 

魚見「それで、桜ノ神は此処へは何をしに?」

 

 

姫「え……?あ、ああっ、実は私も料理をしててなっ。完成した品を零にも味見してもらおうかと」

 

 

零「は?お前もか?何だって今日に限ってお前ら揃って……何かあったのか?」

 

 

姫「えっ……ああ、いや、たまたま、じゃないかっ?うん、私もまさか、魚見が料理してるとは知らなかったし、ホントにっ」

 

 

零「……?」

 

 

目を泳がせてキョドる姫の様子に零が不審げな視線を向け、それを見て姫も話題を変えるように慌てて魚見が調理している鍋を見て口を開いた。

 

 

姫「そういえば、ウオミーは何を作ってたんだ?」

 

 

魚見「私ですか……?私はシチューを。桜ノ神は何を?」

 

 

姫「私は肉じゃがだ。……和風と洋風だな」

 

 

魚見「アンバランスですね……」

 

 

確かに、と姫が顎に手を添えて少し悩むが……

 

 

姫「まあ、外国人でわかめ酒というのも一興だしなぁ?」

 

 

魚見「わかめ酒と言うより金箔酒ですね」

 

 

『あはははははははははははははははっ!!!』

 

 

零「…………腹減ったからもう勝手に食っていいか?」

 

 

何か意気投合して二人だけで盛り上がる姫と魚見へのツッコミを放棄し、すっかり蚊帳の外の零は死んだ魚のような目でシチューを煮込む鍋の蓋を開けていたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・キッチン―

 

 

そしてその後、何だかんだで盛り上がった二人は会話の流れでもう一品作ろうという話題になり、零と共にキッチンに移動して料理を開始していた。因みに他の面々の夕飯は台所組が零達が買い出しに出掛けている間に既に完成させていて、これから二人が作るのは自分達と零の分らしく……

 

 

零「……つまり、お前達もアイツ等に頼まれて手伝わされていた、と……」

 

 

オットー「まぁ、そういうことっ」

 

 

調理する二人の背を見守りながら溜め息混じりにそう言って隣に立つ台所組のオットー、ディード、セッテに目を向ければ、オットーが苦笑しながら頷き返した。どうやらこの三人も姫と魚見に手を貸してたらしく、二人からあらかじめ零と自分達の分の食事を抜いておいて欲しいと手回しを頼まれていたらしい。

 

 

零「成る程な……で?何でアイツ等がいきなりやる気になって料理なんかし出したのか、何か聞いてないのか?」

 

 

ディード「いえ、理由までは……。ただ昼間に私達が台所の整理をしている最中に、姫さんからキッチンを使わせて欲しいと頼まれて、準備をしてくると部屋に戻った後に……」

 

 

セッテ「その後に魚見さんがやってきて、シチューに使う材料や鍋とガスコンロを譲って欲しいと頼まれて一通り渡した後、魚見さんが何処かに行ってしまって……」

 

 

オットー「それとは入れ代わりに姫さんが戻ってきて、皆の夕飯を作る片手間に手伝っていた、って感じだけど」

 

 

零「…………」

 

 

つまり、オットー達もあの二人が急に料理をし出した理由は分かってはいないらしい。深まる謎に零も顎に手を添えながら、火の前に二人並んでフライパンを操る姫と魚見の背中に訝しげな目を向けるが、そんな零の視線にも気付かず二人は互いのフライパンに目を見遣っていた。

 

 

姫(あの手捌き……やはりやるな、ウオミーっ!!)

 

 

魚見(パートナーキャラの座を確固たる物にする為にも……負けられませんっ!!)

 

 

―ゴォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!―

 

 

ディード「後ろからフランベを見ると、二人が燃えてるように見えますね……」

 

 

零「オイ危ねぇから止めろ馬鹿ァァああッッ!!!」

 

 

勝負に白熱するあまり酒の投入にも加減が効かなくなっているのか、ディードの言う通り本人達が燃えてるように錯覚してしまうほど立ち上る巨大な火柱を見て、零も流石に見てられずに止めに入ったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・浴場―

 

 

そして、皆より少し遅れての夕食後。零は冷え切った身体を温める為に入浴し、浴槽の中で全身の力を抜け切りリラックスしていた。

 

 

零「……ハァ……にしても、本当に何だって言うんだアイツ等……こっちから聞いてもあからさまにはぐらかすし……」

 

 

アレでごまかしてるつもりなのかと、先程の夕食の時に事情を聞き出そうとして「べ、別に何でも……?」と視線をそらされた記憶が頭を過ぎる。やはり、あの二人が突然競い合うような真似をし出したのには何かありそうだが……

 

 

零(あの様子じゃ、素直に話す気はなさそうだしな……鎌を掛けてみるか?だがどうやって……)

 

 

『―――零?』

 

 

零「――っ!っと、何だ、市杵宍?」

 

 

思案に浸っていた零の意識を現実に引き戻すかのように不意に魚見の声が聞こえ振り向くと、浴場と脱衣所を隔てる扉の向こうに魚見のシルエットが見えた。

 

 

魚見『タオルを持って来たした。此処に置いときますね』

 

 

零「あ、ああ……そうか、悪いな。助かる」

 

 

魚見『いえ。……でもシルエット越しだと、生板ショーやりたくなりますよね。ぬぎっ』

 

 

零「そんな心理廃れてしまえっ」

 

 

訳分からん心理と共にシルエット越しに腹のとこまで服を脱いでみせる魚見に、零の冷ややかなツッコミが投げ掛けられる。で、魚見が脱衣所から退室してから数分後……

 

 

―~~~~~♪♪♪♪―

 

 

『――ウッフ~ン、ちょっとだけよぅ?あんたも好きねぇっ、咲クちゃんぺっ』

 

 

零「そろそろ上がりたいんで出てって下さい」

 

 

突然なんの脈拍もなく何処からか流れた淫靡な曲と共に扉の向こうに今度は綺麗な脚線美の足が現れるも、零は背中を向けたままハイライトの消えた瞳で慣れた調子でそう返し、湯舟から組んだお湯で全身の泡を洗い落としていったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―光写真館・チンク達の自室前―

 

 

零「―――じゃ、これが俺の分のノルマな……。後の方はそっちで頼む」

 

 

セイン「あいよー、確かに」

 

 

ウェンディ「んじゃ、おやすみッス。また明日~!」

 

 

零「ああ、お前等もあまり無理するなよ?」

 

 

それから数時間後。風呂場から上がった零は数日後に迫るクリスマスパーティーで使う飾り付けの製作を手伝う為にチンク達の部屋に訪れ、自分の分のノルマを全て終えて自室に戻ろうとウェンディ達と別れ部屋を後にし、廊下を歩きながらグイーッと背中を伸ばしていく。

 

 

零「ッ……単調な作業とは言え、やっぱりずっと繰り返してると結構疲れるなっ。今日ももうとっとと寝るか……」

 

 

若干疲れを感じさせる調子でそう呟いてる内に自室の前に辿り着き、部屋の扉を開けて中に入る。一瞬また魚見が中で待ち伏せてるのではないかと身構えたが、見慣れた自室には人っ子一人の影すら見当たらない。

 

 

零「……杞憂だったか……ま、いくらアイツ等でも、そう何度も人の部屋に勝手に入ったりはせんか」

 

 

当然だよな、と独り言ちながら溜き息を吐くと、零は部屋の電気を消して明かりを消し、そのままベッドに身体を投げ込もうとシーツをめくって、

 

 

 

 

 

 

魚見「――――Let's make love all night long (今夜は寝かせないわ)(キリッ」

 

 

 

 

 

 

零「………………」

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、ベッドの上に仰向けに寝転んだ魚見が彼を待ち受けていた。……取りあえず、襟を掴んで部屋の外に放り出しておいた。

 

 

―バタンッ!―

 

 

零「―――頭いてぇ……何だってんだ一体っ……」

 

 

魚見を外に放り出して扉を閉じた後、心なしか急に頭がガンガン痛み出し始めたような気がする。

 

 

今日はもう何か色々と考えたくない。その一心で痛む頭を振りながらベッドまで身体を引きずり、シーツをめくりあげて今度こそ身体を投げ出そうとし、

 

 

 

 

 

 

姫「――――ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ…………(YES枕)」

 

 

 

 

 

 

零「」

 

 

 

 

 

 

いつの間にか、YESと表面に書かれたピンク色の枕を両手にSM用の開口マスクと黒い目隠しというハードな格好をした姫がベッドの上に寝転んでいた。……問答無用で襟を掴み上げて部屋の外に投げ出しておいた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―???―

 

 

―――光写真館が現在滞在する世界とは、また別次元に存在する世界。

 

 

何処かの使われなくなった店舗跡地のその奥に、本来なら通っていない筈の電気で点灯するパソコンの前で嫌らしげな笑みを浮かべる独りの男の姿があった。

 

 

「クク……クッククククッ……漸く再起の時が来た……此処まで力を取り戻すのに苦労したが、流石の断罪の神とは言えど、この我が半身には気付けなかったようだな」

 

 

一人そう呟き、男は身体の調子を確かめるかのように手の平を開閉させた後、机の引き出しを開き、中からカッティングブレードが装着されたバックルと錠前のようなアイテムを取り出すと、パソコンの画面に映し出された青年の顔に目を向けていく。

 

 

「残された力で生み出せたのはコレだけだったが、奴を葬るだけならコレで十分よ。新たなGAが使えないなら、我の手で直接消し去ってくれる……待っておれよ、忌ま忌ましいリア充ディケイドよォおッッ!!!!」

 

 

パソコンの画面に映し出された青年の顔……黒月零に向かってそう叫ぶと共に、男は両手に持つバックルと錠前のようなアイテム……姫が持つのと同じ戦極ドライバーと紫のラインが走る黒いロックシードを掲げ、なんだかよく分からない理由で打倒ディケイドを誓っていたのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?②

 

―市街地・スーパー―

 

 

翌日。姫と魚見が何時にも増して可笑しくなってから夜が明けて、零達は昨日に引き続きクリスマスに向けての準備の為に再び街へと買い出しに出掛けた。

 

 

今日も引き続き買い出し役となった優矢とスバル達は食材を、零は朝一緒に連れていって欲しいと同行を願い出た姫と魚見と共にパーティーグッズや日用品などを買いに街で二手に別れていた。

 

 

優矢「――コレと、コレ……あっ、それからコレもか。エリオー!カゴが一杯になってきたから、悪いけど次持ってきてくれるかー?」

 

 

エリオ「あ、はい、分かりましたー!」

 

 

人数分+おかわりの分も考えて、食材を次々とカートの上のカゴに投入してく内に早くも一杯になってしまい、優矢はエリオに頼んで新しいカゴを取りに行ってもらう間に食材が山積みに入ったカゴをカートの下の段に位置を変えて運んでると、別区域へ食材を集めに行っていたスバル達が優矢の下に戻ってきた。

 

 

スバル「優矢さーん!こっちの方は大体揃いましたー!」

 

 

優矢「おーう!んじゃあ、後はこっちが揃えれば完了だな」

 

 

ティアナ達と共にカートを押して手を振るうスバルに手を振り返しながら手元のメモを確認すると、優矢は戻ってきたエリオが持って来たカゴをカートの上に乗せてスバル達と共に買い物を再開していったが、そんな時……

 

 

優矢「ん……そういやさ、スバル達って、昨日今日の姫さんと魚見さんってどう思う?」

 

 

『……へえっ!!?』

 

 

何となしに、優矢の口から投げ掛けられた昨日と今日の姫と魚見に関する些細な疑問。優矢の方は世間話の感覚で話題を口にしたようだが、当事者である彼女達の方は隠していた筈の自身の犯罪をいきなり言い当てられた犯人の如く動揺して思わず素っ頓狂な声を上げ、その反応に優矢もビクッと肩を震わせてしまう。

 

 

優矢「な、なんだよ皆っ?どうかしたのかっ?」

 

 

エリオ「えっ……いや、その、えーとっ……」

 

 

ティアナ「あ、ああ!そこのお刺身のパックが格安で皆して驚いてたんですよ!私達の世界じゃ、こういうのはもっと原価が高かったですから!ねえっ?!」

 

 

ギンガ「そ、そう!やぁ、こういう所はやっぱり地球が羨ましいなぁ~とか思ったりっ、アハッ、アハハハハハハッ」

 

 

優矢「っ?」

 

 

イイナー、スゴイナー!と急にそわそわし出して店内を見渡していくスバル達に優矢も頭上に疑問符を一杯並べて首を傾げてしまい、そんな優矢にキャロが話題を変える為に慌てて口を開いた。

 

 

キャロ「え、えと……でも、何で急にそんな事っ?」

 

 

優矢「えっ?や、急っつーか、昨日から明らかに可笑しいだろ、あの二人?何時にも増してっていうか、何か張り合ってるっていうか……ほら、今朝の朝食ん時だって、顔を突き合わせるなり『今日の朝食は胃が持たれない消化に良いものだ!』、『望むところです!』、とか言い出すなりキッチンに突っ込んでって、たまご雑炊と煮込みうどんを作ってまだ寝てる零の部屋に殴り込んでったし……」

 

 

……まあ、二人が部屋を飛び出して数分後に零のけたたましい悲鳴が写真館中に響き渡り、その後、何やらションボリとした姫と魚見が不自然に米が残った雑炊と、中途半端に残った麺だけが鍋からこぼれ出て熱々の汁だけが何処かに消えて空っぽになってたのを見るに、取りあえず朝から零が悲惨な目にあった事だけは窺い知れたが。

 

 

優矢「俺はてっきり、また零が二人に何かしたんじゃないかと思ったけど、良く良く考えたら昨日はアイツと俺達で買い物に出かけてずっと一緒だったし、出掛ける前はあの二人も何時も通りだったから、何か他に理由あるんじゃないかって思ってさ」

 

 

ギンガ「……り、理由……ね……」

 

 

優矢「そう。五人は昨日、昼間は姫さんと魚見さんと一緒だったろ?なら、何か知ってるんじゃないかって――って、ど、どしたっ?」

 

 

昨日の事をよーく思い出しながらそう言ってスバル達の方に振り返ると、五人は揃って顔から滝のように汗を流して目を泳がせている。そんなスバル達の様子に優矢も思わずギョッとしてしまう中、ティアナが恐る恐る片手を上げた。

 

 

ティアナ「あの……じ、実は、ですね?」

 

 

優矢「?」

 

 

気まずげに目を反らしつつ、流石にこのまま話さずにおくのはまずいかもしれないと思ったのか、ティアナはスバル達に代わり先日起きた出来事について簡潔に説明していき、話を聞いていく内に優矢も漸く合点が行ったように納得し顔を引き攣らせながら頷き返した。

 

 

優矢「成る程っ……んで、どっちがパートナーとして優れてるかって話になって張り合ってる訳かっ」

 

 

ティアナ「ええ……もうっ、元はと言えばこの馬鹿のせいでっ……!」

 

 

スバル「ううっ……ごめんなさいっ……」

 

 

優矢「いや俺に謝られてもさっ。ってか、そういう事なら先ず零に説明した方が良くないか?ほら、アイツもきっと今の現状にどうしたら良いか分からずにいるだろうし、もし皆から話しにくいなら俺から零に説明しとくけど?」

 

 

エリオ「あ、そ、それじゃ是非っ!」

 

 

キャロ「お、お願いしますっ!私達の方から話そうにも、どうやって説明したら良いのか思いつかなくてっ!」

 

 

優矢「そ、そんな思いきり懇願しなくても……。あー、じゃ、じゃあ、此処での買い物が終わったら零達と合流して、そん時に俺から話すからさ?皆はその間、あの二人を―――」

 

 

当事者以外の人間の口から話してくれるなら有り難いことこの上ないと、両手を合わせてお願いする五人に優矢も苦笑いしながらも、取りあえず此処を出てから零達と合流しての事を取り決めようとした、その時……

 

 

 

 

 

―ガッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!!』

 

 

 

 

 

優矢「――?!な、何だっ?!」

 

 

ギンガ「今のはっ?!」

 

 

店内の入り口の方から突如、硝子が破裂するような音と共に悲鳴が響き渡ったのだ。その悲鳴を聞いて周囲の客達もざわめき、優矢達は互いに顔を見合わせると、カートをその場に置いて悲鳴が聞こえてきた方へと一斉に走り出した。そして、優矢達がスーパーの入り口に駆け付けると、其処には……

 

 

『ゥウァァアアアァァァッ…………』

 

 

『ァァァアァアアアアァァッ……』

 

 

スバル「ッ?!あ、アレって?!」

 

 

ティアナ「まさか、怪人っ?!」

 

 

そう、其処には、硝子張りの窓を割って開けた穴から店内にミイラのような外見をした無数の怪人達……屑ヤミーの群れがぞろぞろと入り込み、レジを踏み荒らしながら客や店員達に襲い掛かる光景があったのだった。その光景を前に優矢達も一瞬唖然としてしまうがすぐに我に返り、優矢、スバル、ティアナ、ギンガは屑ヤミー達に向かって飛び蹴りで打ち込んで襲われる人々を助けていき、その間にエリオとキャロは店内に残された人達を入り口にまで誘導し避難させていく。

 

 

―ドグォオッ!!―

 

 

『ゥオオッ!!?』

 

 

優矢「クッ!何だってんだよコイツ等ッ!一体どっから沸いて出てっ……!」

 

 

ギンガ「分からないけど、でもとにかく民間人が避難するまで被害が出ないようにしないとっ……!優矢君っ!」

 

 

『RIDER SOL REISU!』

 

 

優矢「分かってますっ!!ダァアッ!!」

 

 

この屑ヤミー達が何処から現れたのかは謎だが、今は先ず民間人を無事に避難させなければと、ギンガはKウォッチを操作し、優矢は屑ヤミーを蹴り飛ばしつつ腹部に両手を翳しそれぞれの腰にベルトを出現させると、それぞれ変身の構えを取り、

 

 

『変身ッ!!』

 

 

掛け声と共にそれぞれ変身動作を行い、優矢はクウガ、ギンガはレイスへと変身する。そしてそれぞれ拳を構え、迫り来る屑ヤミー達に向かって飛び掛かり戦闘を開始していった。しかし……

 

 

「――――これで邪魔物は足止め出来る。フフフッ、待っておれよ、リア充ディケイドよ……」

 

 

その様子を盗み見る一人の男の姿が影にあり、クウガとレイスが屑ヤミー達相手に奮闘する様を見届けると、男はニヤリと笑みを浮かべながら何処かに向かって歩き出していった。

 

 

 

 

 

◆◇◇

 

 

 

 

 

そして、クウガ達が戦闘を開始したその頃……

 

 

零「………………………………………疲れた………………………………」

 

 

何処までも青が続く空を見上げながら、黒月零は現在一人でコンビニに向かって足を進めていた。その呟きには隠しきれない疲労を滲ませ、足取りも何処か重く見える。どうして此処まで疲れ切っているのか、理由はやはり……

 

 

零「アイツら……行くとこ行くとこで張り合うような真似をしおって……。昨日から何なんだ一体っ」

 

 

そう、やはりというか予想通りというか、今朝に同行を願い出た姫と魚見が昨日に続き、何かある度に買い物先でも『いざ勝負!』と自分を巻き込んで競い合いを始め、張り合ってたかと思えば突然一緒にボケ出してツッコミをさせられたりと、何かもう心身共に早くもクタクタになってしまい、二人に休憩を申し出てて一人になる為、二人を近くの公園に待たせてコンビニへ買い物に向かっていたのである。

 

 

零(とは言え、このまま戻って買い出しを再開した所でさっきの続きになるのは目に見えてる。そうなれば、これ以上は本当にこっちの身体が持たんし……こうなったら、あの二人から強引にでも目的を聞き出して止めさせるしかないな……)

 

 

というかそうしないと本当に今にでも倒れ兼ねない。ただでさえ普段からあれほど振り回されてるというのに、これ以上パワーアップされでもしたら捌き切れる自信がないし、もう今朝のような目には遭いたくないと、左頬と首筋に貼ってる冷却シートを摩り溜め息を吐く。

 

 

そう戻った後の事を考えて強く決心すると、零は到着したコンビニの自動ドアを抜け店内に足を踏み入れた。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

零(そうと決まれば、さっさと用を済ませるか。取りあえずあの二人には紅茶で良いとして……紅茶に合う物と言えば、っと……?)

 

 

店員の声を耳に身近なカゴを手に取る。取りあえず、姫と魚見へのドリンクに温かい紅茶を手に取りカゴに投げ入れ、次にあの二人の好みと紅茶の組み合わせに合いそうな物を真剣に選んでいく。と、そんな時……

 

 

 

 

「―――おや。そこにいるのは、黒月零殿ではないか」

 

 

 

 

零「……うん?」

 

 

何を買っていこうかと悩む中、突然真横から誰かに声を掛けられ、零が振り返ると、其処には見慣れない顔の男がいつの間にか零の隣に立っていた。

 

 

「いやぁ、探しましたぞ?まさかこんな所にいようとは」

 

 

零「……?アンタは?」

 

 

「ん?ああ、これは失敬。私の名はマキナ、と申しましてね。又の名を――」

 

 

と、"マキナ"と名乗った男は懐に手を伸ばすと、其処からカッティングブレードが装着されたバックル……戦極ドライバーをいきなり取り出して腹部に当てると、バックルの端から伸びたベルトがマキナの腰に巻き付いたと共に、バックル左側の黒いプレートに紫色の仮面の戦士の横顔が浮かび上がった。

 

 

零「ッ?!ベルト?まさか、お前っ……?!」

 

 

マキナが腰に巻いたベルトを見て、驚愕の声を上げる零。それに対してマキナは無言のまま、服の内側から更に紫のラインが走る黒いロックシードを取り出した

 

 

マキナ「―――又の名を、"デウス"。貴様を葬る為にやってきた神の名だァッ!」

 

 

『DEUS!』

 

 

狂喜の笑みを浮かべながらロックシードを解錠すると共に電子音声が鳴り響き、それと同時にマキナの頭上にファスナーが出現し丸い裂け目が現れ、その奥から丸い黒の物体が降下してきた。そしてマキナはロックシードをバックルにセットして固定し、カッティングブレードでロックシードをスライスしていった。

 

 

『Lock On!』

 

 

マキナ「変身……」

 

 

―スパァンッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS ARMS!』

 

『Deus ex machina……!』

 

 

レクイエムを彷彿とさせる不気味なメロディーと共に、マキナの頭上に浮遊する黒い物体がマキナの頭へと被さった。そしてマキナの身体が紫のアンダースーツを纏い、黒い物体が徐々に花開くように開いてバナナアームズと造形が酷似した刺々しい黒い鎧となり、その下に隠された黒と紫色の洋風の仮面が露わになりながら黒とパープルの鎧を身に纏った戦士……『仮面ライダーデウス』へと変身し、直後に拳を振りかざして零へと殴り掛かっていったのだった。

 

 

―ガッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

「ッ!!?う、うわああああああああああッ!!!」

 

 

「きゃあああああああああああああッ?!!!」

 

 

零「グウゥッ?!テメッ、いきなり何の真似だッ?!」

 

 

デウス『何の真似、だと?今言った筈だろう?貴様を葬りに来たとなァアッ!!』

 

 

―ドゴォオオッ!!―

 

 

零「ぐぁああァッ?!ぐっ、クッソッ!!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

 

悲鳴を上げて逃げ回る周囲の客達に目もくれず、問答無用で一切の躊躇なく殴り掛かって来るデウスの拳を受けながらもすぐさまディケイドライバーを腰に装着してディケイドに変身し、再び襲い掛かってきたデウスに回し蹴りを打ち込んで後退りさせた。

 

 

デウス『ッ……!クククッ、そちらもやる気になったか……ならばこちらも加減は無しだァッ!』

 

 

―カシュゥッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS SQUASH!』

 

 

変身したディケイドを見て不気味に笑い、バックルのカッティングブレードを一度倒して電子音声を鳴らす。そして、後ろ腰から黒い両刃の槍……デウスライサーを取り出すと、バチバチッと稲妻を撒き散らす黒い雷光を両刃に纏わせながら身構え、それを見たディケイドも直ぐさま回避行動を取ろうとするが……

 

 

 

 

「ぅ、うぁあああああああああっ……!うぁあああああああんっ……!!」

 

 

 

 

ディケイド(……?!まずっ――!!)

 

 

自身の直ぐ背後から泣き声が聞こえ、慌てて振り返れば、其処には突然始まった戦いに恐怖し、レジの前で縮こまって泣き叫ぶ男の子の姿がある。ディケイドもそれに気付いて回避行動を取ろうとした身体をその場に踏み止まらせるが、

 

 

デウス『何をチンタラやっているかぁあッ!!!』

 

 

―ズバァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーアァアアンッッッッ!!!!!!―

 

 

ディケイド『クッ……!!―ズガァアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!―グッ、うぐぁあああああああああああああああああああっっっ!!!!?』

 

 

―ガッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッッッッ!!!!!!―

 

 

デウスはディケイドのすぐ背後の男の子の存在など露知らず、問答無用で雷光を纏ったデウスライサーを横殴りに振るってディケイドに目掛けて巨大な斬撃波を叩き込んでいったのである。それに対しディケイドも左腕で受け止めてどうにか防ぎ切ろうとするも、耐え切る事が出来ず左腕を爆発させ、そのままコンビニのガラス窓を突き破りながら外ヘと吹き飛んでゴロゴロと地面を転がっていってしまう。

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥゥッ…………!!!―

 

 

ディケイド『ァッ……ッ……クッソッ……腕がっ……!!』

 

 

デウスの必殺技を受け止め切れずに、アーマーが粉砕されてダラダラと出血する左腕を抑えて苦悶の顔を浮かべるディケイド。そんなディケイドの下にコンビニの中からデウスが飛び出し、地面に散乱するガラス片を踏み鳴らしながらデウスライサーを肩に担いで歩み寄って来る。

 

 

デウス『クククッ、だらしのない。音に聞こえた破壊の因子の持ち主の力はこの程度なのか?やれやれ、想像していた程ではなかったなぁ?ガッカリにも程がある』

 

 

ディケイド『ッ……てめぇ……一体っ……!!』

 

 

デウス『立つのも辛いなら、そのまま倒れていても構わんぞ?何、どうせ一瞬で済むからな。……そうして貴様を葬った後、桜ノ神も水ノ神も我の物にしてくれるわぁああああああああっ!!!!』

 

 

ディケイド『チィッ!!』

 

 

そう言いながらデウスライサーを振り回し突っ込んで来るデウスを迎撃すべく、ディケイドはダラリと左腕を下げたまま立ち上がってハイキックを放つも、デウスは槍でソレを弾きながらディケイドに容赦なく斬撃を叩き込み、後ろ回し蹴りを放ってディケイドの頭部を蹴り飛ばしてしまうのであった。

 

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?③

 

―市街地・公園―

 

 

姫「―――むう。零の奴、遅いな……」

 

 

魚見「そうですね……」

 

 

ディケイドがデウスの襲撃に遭っているその頃、公園ではコンビニに買い出しに向かった零の帰りを待つ姫と魚見が首を長くして公園のベンチに並んで腰を下ろしており、姫は公園にある時計台と零が通っていった公園の入口を何度も交互に見つめ、魚見はジッと空を見上げたまま暇を持て余しているかのように小さく足をぶらつかせていた。

 

 

―ヒュウゥゥゥゥゥッ……―

 

 

姫「ううっ、寒っ……まったくっ、人をこんな所に待つように言っておきながら遅れるとは、帰ってきたら小言の一つでも言ってやらねばなっ。なぁ、ウオ……ウオミー?」

 

 

魚見「…………」

 

 

外出の為に着込んできたとは言え、吹き抜ける真冬の寒風は身体の芯に堪える。ガタガタと震えながら身体を抱きしめつつ零が帰ってきた時の文句を頭の中で考える姫だが、そんな彼女とは対照に、今まで空を見ていた筈の魚見は正面に顔を向けて何かをジッと見つめていた。

 

 

姫「魚見?どうした?」

 

 

魚見「……サクッち、アレは……」

 

 

姫「?」

 

 

そう言って指を指す魚見の指先を追うように、姫が首を傾げながらそちらに目を向ける。其処には……

 

 

「―――ひっぐ……ううっ……うっ……」

 

 

公園の奥に立つ大きな樹の前で立ち尽くし、何やら目を摩りながら泣きじゃくる赤いマフラーを巻いた女の子の姿があったのだった。

 

 

姫「あれは……」

 

 

魚見「あの子、何かあったんでしょうか……すみません、少し席を外します」

 

 

姫「あっ、ま、待て。私も行く」

 

 

あの泣いている幼子が気になって席を立つ魚見の後を追い、姫もベンチから立ち上がる。そして二人は赤いマフラーを巻いた女の子の下にまで走り寄ると、膝を曲げて泣いてる女の子に声を掛けた。

 

 

魚見「あの、どうかしましたか……?」

 

 

姫「君?何を泣いているんだ?何処か、怪我でも?」

 

 

「うっ……?ひぐっ……ぅ……んんっ……」

 

 

フルフルと、心配げに顔を覗き込む姫の質問に小さな首を横に振って否定して、女の子は上を指差す。その指差す方を追って姫と魚見が上を見上げると、其処には、サッカーボールを蹴るワニのぬいぐるみが樹の上に引っ掛かっている光景があった。

 

 

魚見「アレは……もしや、あのぬいぐるみは貴方の?」

 

 

「…………そう、だけど…………でも、そうじゃないの…………」

 

 

姫「?どういう意味だ?」

 

 

女の子の言葉の意味が理解出来ず二人が揃って頭上に疑問符を並べると、女の子はずずっ、と赤くなった鼻を啜りながら、たどたどしい口調で経緯を話し出した。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

魚見「――成る程。つまり貴方には、昔から仲の良い男の子のお友達がいて……」

 

 

姫「その子がクリスマスの日に引っ越してしまう事が決まって、そのお別れの品に、君の母親と協同であのぬいぐるみをクリスマスプレゼントとして彼に贈ろうと作った、と」

 

 

「…………」

 

 

数分後。女の子から教えてもらった経緯を簡潔に纏め二人が確認の為にそう質問すると、女の子はコクりと控え目に頷き、姫と魚見はぬいぐるみが引っ掛かった樹を見上げながら溜め息を吐いた。

 

 

姫「で、いざ完成したぬいぐるみを渡そうとこの公園に彼を呼び出して、プレゼントを彼に渡したのまでは良かったが……」

 

 

魚見「その後に彼の男友達が現れて、彼に渡したぬいぐるみを「女々しい」と散々馬鹿にされ、頭に来たあまり彼の手からぬいぐるみを強引に奪ってあの樹の上に投げてしまい、彼とも口喧嘩になり喧嘩別れしてしまった……と」

 

 

「っ……ぐすっ……」

 

 

二人の話でその時のことを再び思い出したのか、女の子は後悔を滲ませる顔を俯かせたまま再び涙を落として地面を濡らしてしまい、二人もそんな女の子を見下ろして揃って二度目の溜め息を吐いた。

 

 

姫「それはなんと言うか、タイミングが悪かったというか、気の毒にな……」

 

 

魚見「ですが、何故貴方もそんな事を?折角頑張って作ったものを馬鹿にされて怒るのは無理もありませんけど、話を聞く限り、彼と喧嘩になるような要素はなかったと思いますが……」

 

 

「……それ、は……その……」

 

 

魚見が女の子と目線を合わせて小首を傾げてそう問い掛けると、女の子は所在なさげに目をさ迷わせながらスカートを掴み……

 

 

「だってっ……タカくんが、アタシとコウくんのこと指差して「ふーふだー!ふーふ!ふーふ!」ってずっとからかうから、恥ずかしくなって、カッとなって……気が付いたらコウくんにあげたぬいぐるみを取って投げて、怒鳴って、喧嘩しちゃって……そんなつもりなかったのに……アタシ、いつもそんなんでっ……」

 

 

魚見「いつも……となると、もしかして、貴方はそのコウくんって子と毎回そういう些細な事で喧嘩を?」

 

 

「えっ……そう、だけど……なんで?」

 

 

魚見「いえ、少し気になって……」

 

 

姫(ああ、成る程。恐らくこの子……)

 

 

魚見(幼いながら既にツンデレ要素を兼ね備えているとは……将来性がありますね)

 

 

と、首を傾げる女の子を前にそんな何とも残念な分析をする二人。そして、魚見は徐に腰を上げぬいぐるみが引っ掛かっている樹を見上げると、後ろ腰に身に付けている水色のポーチの中から一つの指輪を取り出し、右手の中指に嵌めていく。

 

 

魚見「でも、そうですね……このまま見過ごすのも忍びないですから、特別に、貴方に真冬のショータイムをお見せしましょう」

 

 

「……へ?」

 

 

そう言いながら片目を伏せて悪戯っぽく笑う魚見に、女の子は思わず間抜けな声を漏らす。それを他所に、魚見は徐にバックルの手形に右手を翳していった。

 

 

『Connect Now!』

 

 

―ギュイィィッ!グググッ……!―

 

 

「え……ええええぇッッッ!!!!?」

 

 

バックルからの音声と共に魚見の真横に赤く描かれた魔法陣が現れ、魚見が其処に右手を突っ込むと、遥か頭上の樹の林に引っ掛かっているワニのぬいぐるみの真横にも同じ赤い魔法陣が出現し、其処から魚見の手だけが現れてぬいぐるみを掴んだのである。その有り得ない光景を前に女の子も驚愕を隠せないでいるが、魚見は構わず右手を引いてワニのぬいぐるみを魔法陣の向こう側から取り出し、唖然となる女の子にぬいぐるみを差し出していく。

 

 

魚見「どうぞ。でも、今度は投げ付けたりなんてしてはいけませんよ?この子も可哀相ですし、何より、貴方を手伝ってくれたお母様の努力も、この子には詰め込まれてる訳ですからね」

 

 

そう言って女の子の腕に、ワニのぬいぐるみを抱かせ手渡していく魚見。女の子もそんな魚見と手元に戻ってきたぬいぐるみを何度も見比べて眼を白黒させると、途端に目を輝かせて魚見を見上げ叫んだ。

 

 

「す、すごいっ……!!お姉ちゃんって、マジシャンだったのっ?!」

 

 

魚見「え……ああ、いえ、私は……」

 

 

興奮が冷め止まない様子でそう問い掛ける女の子からの質問に、魚見も少々どう返答を返すか困ってしまう。別に隠すほどの正体ではないが、馬鹿正直に神様と答えても信じてもらえるかどうか怪しいし、かと言って実際そうではないマジシャンと名乗るのもどうかと思い悩む中、姫が女の子との目線を合わせるように膝を曲げて笑いかけながら代わりにこう答えた。

 

 

姫「マジシャンではないな。どちらかと言えば、そうだな……実は、私と彼女はな?こう見えて、魔法使いなんだ」

 

 

「魔法使いっ?!魔法使いって、ほんとにいたのっ?!」

 

 

魚見「……ええ、まあ……」

 

 

姫「まぁ、あまり注目されても困るからな。普段は目立たないようにしてるんだが、今回ばかりは泣いている女の子を見過ごせず力を使ってしまったんだ。だがもし他の人達に知られると私達は今まで通りの生活が出来なくなってしまうから、此処で起きた事は、君と私達だけの秘密……だぞ?」

 

 

「ひ、秘密……う、うん。分かったっ……!」

 

 

魔法使いも大変なんだ……、と一人呟きながら、姫との約束を真摯に受け止めて小さな手で口を塞ぎながらコクコクと頷いた女の子。それに対し姫も微笑を返すと、ゆっくりと両手を合わせて手と手の間に力を込めていく。

 

 

姫「約束してくれるなら、お礼に私からも君へプレゼントを上げよう。ほら」

 

 

そう言って姫が合掌する両手を前に出してゆっくりと開くと、其処には姫の力で生み出した、女の子が持つワニのぬいぐるみとセットになるようにマネージャー服を着たクマのぬいぐるみがあった。

 

 

「す、すごーいッ!!コレ、魔法で作ったのっ?!」

 

 

姫「まぁ、流石に君達が作ったぬいぐるみには敵わない出来だがな」

 

 

姫が生み出したぬいぐるみを見て更に目を輝かせる女の子に、姫は苦笑いしつつ頬を掻きながら女の子にぬいぐるみを手渡し、立ち上がって腰に手を当てていく。

 

 

姫「さて……問題のぬいぐるみも戻ってきた事だし、そうなると後は、君がその友達の彼と仲直りするだけだ」

 

 

「え……でも、アタシ……ひどいことしたし……絶対に嫌われて……」

 

 

だから、許してくれないかもしれない、と言外に言いながら女の子が不安そうに両手に持つぬいぐるみを抱き締めると、魚見は首を横に振りながら諭すように語る。

 

 

魚見「そう思うなら、尚更です。このまま彼と仲直りも出来ないまま、嫌われたと思ったまま離れ離れになれば、きっと後悔する事になる。……そうなる前に、その子を追い掛けて、貴方から謝りに行った方が良いと思いますよ?」

 

 

「……でも……」

 

 

魚見の言う通り、今すぐにでも追い掛けて彼に謝りに行きたいが、不安が勝ってその勇気が沸き上がらない。泣きそうな顔で俯くことしか出来ない女の子に魚見もどうしようかと悩み始める中……

 

 

姫「ふむ……君、少し手を隠してくれるか?」

 

 

「……え?」

 

 

魚見「桜ノ神?」

 

 

突然姫がそう言い出し、女の子に手を差し出してくれないかとジェスチャーするように掌を差し出したのだ。そんな姫から申し出に女の子だけでなく魚見も怪訝な顔を浮かべるが、姫は真っすぐ女の子を見つめて掌を差し出し続けており、女の子もそんな姫の顔と手を交互に見た後に恐る恐る手を伸ばすと、姫は女の子の手の上に、キラキラと光る粒子のようなものを降らしていった。

 

 

「……?今のって……」

 

 

姫「今、私から君へ魔法を掛けた。友達の彼と君が、必ず仲直りが出来るな」

 

 

「えっ……?ほ、ほんとにっ?!」

 

 

姫「ああ。しかしこの魔法は、君が専心誠意、ちゃんと彼に謝らなければ発揮されない魔法だ。だから後は、君が勇気を示さなければ意味はない」

 

 

「……勇気……」

 

 

ポツリと、女の子が譫言のように姫から言われた言葉を繰り返して呟くと、姫も深く頷く。そして女の子も腕の中に抱く二つのぬいぐるみをジッと見つめた後、顔を上げて力強く姫に頷き返した。

 

 

「わかった……これから、コウくんに謝ってくるっ!」

 

 

姫「その意気だ!今度はしっかりな?」

 

 

「うんっ!お姉ちゃん達、ありがとうねっ!あと、秘密の事もちゃんと言わないようにするからっ!」

 

 

姫からのエールを受けて、女の子は先程までの暗い様子から一変して明るい顔で走り出し、公園の入り口で一度振り返って二人に手を振った後に友達を追い掛け公園を後にした。そうして、姫と魚見も女の子の姿が見えなくなるまで手を振り続けた後、魚見が急に溜め息を深く吐いた。

 

 

魚見「それにしても、貴方も上手い事を考えますね、桜ノ神」

 

 

姫「ん?何の事だ?」

 

 

魚見「また惚けて……あの子に魔法なんて、最初から掛けてなんていなかったでしょう?」

 

 

ジトーとした目を魚見が姫に向けてそう言うと、姫は僅かに肩をビク付かせて、苦笑いを浮かべた。

 

 

姫「あー……やっぱり君にはバレていたか……」

 

 

魚見「当たり前でしょう。一体どれだけ貴方と親友をやってると思ってるんですか?」

 

 

姫「ハハハハッ……まぁ、踏み切れないあの子に良いきっかけになるのではないかと思ってな……流石に、当人達の間での問題に介入するなんて無粋な真似はしないさ」

 

 

肩を竦めておどけるように姫が言えば、魚見も呆れるような顔で溜め息を吐き、二人はそのまま会話もなく女の子が去っていった入り口の方を見つめていると……

 

 

姫「――なあ、魚見……?ちょっと聞きたい事があるんだが、良いか?」

 

 

魚見「……?聞きたい事、ですか?」

 

 

不意に、姫が目を泳がせてそう言い出し、魚見も怪訝な表情で姫の方に振り向くと、姫は何処となく言いにくそうに頬を掻きつつ、

 

 

姫「その……昨日の事なんだが……何故急に、君があんな私と張り合うような事を言い出したのか、今になって気になってな……いつもの君らしくないというか、あんな事は、今まで一度もなかっただろう?」

 

 

魚見「……そう、でしたっけ?」

 

 

姫「ああ……。だからその、出来れば理由を聞かせて欲しいというか……何か、あったのか……?」

 

 

魚見「……それは……」

 

 

魚見の表情を伺うように姫が俯き加減にそう問い掛けると、魚見は僅かに視線を逸らして口を閉ざしてしまう。そして、そんな時間が暫く続いた後、魚見が漸く口を開こうとした、その時……

 

 

 

 

 

―……ゾワァッ!!!―

 

 

魚見「―――っ!?」

 

 

姫「なんだ……今の感覚っ……!?」

 

 

 

 

突如、姫と魚見の背筋にとてつもない悪寒が走った。前触れもなく襲い掛かったその感覚に二人も驚愕して顔を見合わせ、街の方へと振り返る。

 

 

姫「今のおぞましい神氣は、一体……?」

 

 

魚見「しかも気配がしたのは、零が向かった先の……まさか、彼の身に何か……?」

 

 

姫「ッ!行くぞ、魚見っ!」

 

 

魚見「ええ……!」

 

 

零が向かった先の街から感じられたおぞましい神氣の正体は分からないが、何か嫌な予感がする。その予感に駆られるように二人は顔を見合わせた後、おぞましい神氣が感じられる街に向かって走り出していくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―バシュウゥッ!バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!―

 

 

デウス『無駄無駄無駄無駄無駄ァアアアアッ!!!!』

 

 

ディケイド『チィッ!!!』

 

 

そしてその一方、デウスの襲撃により左腕を負傷したディケイドはライドブッカーGモードを用い、デウスを近付けまいと乱射し距離を取ろうとするも、デウスはデウスライサーを回転させて銃弾を全て弾きながらディケイドに肉薄し、両刃の槍を叩き付けながらディケイドの弱点である左腕を執拗に狙い続けていた。

 

 

―ガギィイイイインッ!!―

 

 

ディケイド『グゥウッ!!クソッ……!!』

 

 

デウス『弱い!弱い!弱い!弱すぎるわ!その程度で因子の力だけでなく数多の女や女神にも見初められるなど、有り得はせんのだよォォォおおおおッッ!!!』

 

 

ディケイド『ッ……!!訳の分からん事をッ!!』

 

 

―ズダダダダダダダダダダダダダァアッ!!!―

 

 

左腕を庇いながら戦うディケイドの姿を無様だと一笑するデウスにそう叫び返し、ディケイドはデウスの足元に目掛けてライドブッカーを乱射させて煙幕を発生させていく。

 

 

デウス『煙幕か……。軟弱な貴様に似合いな姑息な手よなァア?だが――』

 

 

―ブォオオッ!!ガギィイイイイッ!!―

 

 

ディケイド『――クッ?!』

 

 

デウスの死角から剣形態に切り替えたライドブッカーで斬り掛かるディケイドの刃を、デウスは振り返りもせずデウスライサーで受け止めてしまい、そのままバックルのカッティングブレードを掴んで刃を一度倒し、

 

 

―カシュゥッ!―

 

『Come on!』

 

『DEUS SQUASH!』

 

 

デウス『その程度で、この我を倒せると思うてかァアッ!!』

 

 

―ズバアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―

 

 

ディケイド『!!!』

 

 

バックルからの電子音声と共に再びデウスライサーの両刃に雷光を纏い、ディケイドを真っ二つに両断するように横薙ぎに振るったのであった。そしてデウスの必殺技をまともに喰らったディケイドはそのまま上半身と下半身が分かたれた……かのように見えて、突然その身体がブレて残像のように消え去っていった。

 

 

デウス『?!分身だと?!『FINALATTACKRIDE:DE・DE・DE・DECADE!』……ッ?!』

 

 

ディケイド『はぁぁあああああああああああああッッ!!!!』

 

 

消え去ったディケイド……ディケイドがイリュージョンを用いて生み出した分身を見てデウスが目を見開く中、背後から電子音が響き渡り振り返ると、其処にはディメンジョンフィールドを展開してデウスに目掛けライダーキックを放つ本物のディケイドの姿があったのだった。完全な不意打ち。しかし、それを目にしたデウスは怯む事なく咄嗟にデウスライサーを突き出しディケイドの必殺技を受け止めてしまう。

 

 

ディケイド『何ッ?!』

 

 

デウス『馬鹿めがっ!このデウスは貴様を抹殺する為に我が生み出したライダーっ!この程度でやられたりはせぬわァアっ!!』

 

 

―カシュッカシュゥッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS AULAIT!』

 

 

ディケイドのディメンジョンキックを受け止めたままバックルのカッティングブレードを二度倒して電子音を鳴らし、デウスの右腕に黒い雷光が纏われ、そして……

 

 

デウス『ドゥウリャアァアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオォオンッ!!―

 

 

ディケイド『グッ?!ぐぅああああああぁっっ!!!』

 

 

デウスはそのままディケイドの右足をデウスライサーで叩き伏せてディケイドを地面に引きずり落とすと共に、雷光を身に纏った右腕をディケイドのボディへと叩き付けて吹っ飛ばしてしまい、ディケイドは地面を転がりながら変身解除させられて零に戻ってしまう。

 

 

零「ァッ……ッ……クソッタレ、めっ……!」

 

 

デウス『ハッハハハハァッ!笑止!笑止!笑止!破壊の因子の力がなければ所詮その程度かァッ?!全く、こんなくだらん男が神にも等しき力を行使して数多の世界で救世主を気取っているとは、いやはや、世も末とはこの事よなぁ?』

 

 

ドクドクと大量の血を流して倒れる零の姿を見下すような目で見つめ、デウスはデウスライサーを突き付けながら零の下へと歩み寄っていく。

 

 

デウス『さぁて、お遊戯もそろそろ幕引きと行こうか?貴様を殺した後、破壊の因子も頂くついでに、貴様を慕う女共も我が可愛がってやろうではないかァ?』

 

 

零「ッ……!なに、勝手なことっ……!」

 

 

デウス『なぁに安心しろ、悪いようにはせんさ。そうさなぁ?手始めに、貴様と契約している二人の女神を我好みの女に―ズガガガガガガガガガガガガガガガァアンッ!!!―ごばぁああああああああッッ!!!?』

 

 

零「?!」

 

 

そんな薄気味悪い妄言を口にしながら零にトドメを刺そうとしたデウスの顔面に、突如何処からか飛来した無数の銃弾が降り注ぎ火花を散らしながらデウスを吹っ飛ばしていった。それを見て零も思わず驚愕すると、零の背後からウィザーソードガンを突き出す魚見と姫が零の下へと駆け付けた。

 

 

魚見「零っ!」

 

 

零「っ!市杵宍っ?木ノ花もっ……」

 

 

姫「無事か?!一体何が……って、その傷っ……?!」

 

 

零の下に慌てて駆け寄ると、姫は零のズタズタの左腕を見て目を見張り絶句してしまう。そして魚見が零の傍に屈んで左腕を手に取ると、その際にドロリッと血が滴り落ち、よく診ると、デウスの執拗な攻撃を受け続けたことで怪我の具合が更に悪化しており、腕の肉が裂けて白い骨が見えてしまっていた。

 

 

魚見「酷いっ……とにかく治療を……!桜ノ神っ!」

 

 

姫「分かってるっ……!向こうは任せろっ!」

 

 

そう言ってデウスの相手を自ら引き受け、姫は顔面に銃弾を浴びせられて身もだえているデウスと対峙していく。

 

 

デウス『ぬぅうぐっ……ん?ほほう、誰かと思えば、あの軟弱ディケイドと契約した桜ノ神に水ノ神ではないか?』

 

 

姫「貴様……一体何者だ?気配からして何処ぞの神である事は間違いなさそうだが、何の目的で彼を狙っている?」

 

 

出来るだけ冷静に、相手の目的を聞き出す為に心の内の怒りを沈めて姫がデウスにそう問い掛けると、デウスはデウスライサーを肩に担ぎ込みニヤリと笑って口を開いた。

 

 

デウス『これはこれは申し遅れた。私の名はマキナ、またの名をデウスと申してな。嘗ては断罪の神に裁かれたものの、半身を残してこうして生き残り、破壊の因子を行使して数多の女共だけでなく、我と同じ神格である貴殿らまでも手込めにしようとしてる軟弱ディケイドを抹殺しに来たのだよ』

 

 

姫「……?まさか、そんな訳の分からない理由でこんな騒ぎを起こしたというのか、貴様はっ?」

 

 

デウス『うん?寧ろ妥当な理由だろう?人間の分際で神の力を行使するなどおごかましい。そんな脆弱な男に持たせるぐらいなら、崇高な神格である我のような神が持つ方が相応しいと思わんか?』

 

 

悪びれもせず、片手を広げて高らかに演説するデウス。姫はそんなデウスの話を聞いていく内に眉間に皺を寄せていくと、先程デウスが零を襲撃した際に破壊したコンビニや店の中で苦しげに横たわっている怪我人達の姿が視界の端に映り、怒りで手を震わせながら懐から戦極ドライバーを取り出していく。

 

 

姫「ふざけるな……そんな取るに足らないくだらない理由の為に、神の力を大衆の前で振るって大勢の人達を巻き込んだ上に、彼までも傷付けたと言うのかァッ!!」

 

 

戦極ドライバーをデウスに突き付けて怒りの声を上げると、姫は腰にバックルを装着してスカートの装身具に身に付けたピーチロックシードを荒々しく掴み取り、解錠スイッチを押した。

 

 

『PEACH!』

 

 

姫「変身ッ!!」

 

 

『Lock On!』

 

 

―スパァンッ!―

 

 

『Soiya!』

 

『PEACH ARMS!』

 

『Gouka☆kenran!』

 

 

ピーチロックシードをバックルにセットしてスライスし、鳴り響く電子音声と共に姫の頭上に現れた裂け目からピーチアームズが落下して姫の頭に被さる。そうしてスーツを身に纏った後にピーチアームズが展開されて鎧を身に纏い天神へと変身すると共に、飛び散る桃の果汁を右手に出現した桜雪で斬り払いながらデウスに飛び掛かり斬り掛かっていった。

 

 

―ガギィイイイインッ!!―

 

 

デウス『ハッハハハァッ!威勢の良い女子は嫌いではないぞッ!あの軟弱ディケイドを屠った後、水ノ神と共に我の物にしてから手ずから我好みの女にしてやるわッ!!』

 

 

天神『黙れッ!貴様のような身勝手な神の存在を私は絶対に許さんッ!断罪の神に代わってっ、今度は私が貴様を葬り去ってやるッ!!』

 

 

―カシュゥッ!―

 

 

『Soiya!』

 

『PEACH SQUASH!』

 

 

そう言ってデウスの両刃の槍に荒々しく桜雪をぶつけ合わせると、天神はデウスに前蹴りを打ち込んで吹き飛ばし、ドライバーのカッティングブレードを倒して桜雪の刃にエネルギーを身に纏わせながらデウスへと勢いよく斬り掛かっていくのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?④

 

 

-ガキイィィィィンッ!!!―

 

 

天神『ダアアッ!!ハアアッ!!』

 

 

デウス『ヌウァッ!!ハアアアッ!!』

 

 

デウスの身勝手な狂行に怒りと共に変身し、天神となって自身の得物である桜雪をデウスの槍とぶつけ合わせて激突する姫。だがデウスも引けを取らず、デウスライサーを巧みに扱い天神の振りかざす剣撃を次々と弾き返しながら反撃していき、そのまま天神とつばぜり合いとなり双方睨みあっていく。

 

 

-ガギギギギギギギギギギギギィッ……!!!-

 

 

デウス『フフハハハハハハハハハッ!!流石は彼の幻魔神達を二度も退けた桜ノ神だッ!!その凛々しさ、その美しさッ!!ますます欲しくなるなァッ!!』

 

 

天神『ッ!!何処までもふざけた事をッ!!』

 

 

ケタケタと笑いながら下心を隠そうともしない視線で身体をなめ回してくるデウスに嫌悪感を露にし、天神は桜雪でデウスを押し退けながら左腰に装備している無双セイバーを抜き取って桜雪と連結させ、それを目にしたデウスも咄嗟にバックルのカッティングブレードを一度倒し、天神はバックルから外したピーチロックシードを無双セイバーに装填していく。

 

 

-カシュゥッ!-

 

『Come on!』

 

『DEUS SQUASH!』

 

『Lock On!』

 

『Ichi……Juu……Hyaku……Sen……Man!』

 

『PEACH CHARGE!』

 

 

天神『ハアァァァァァッ……ゼェエアアッ!!』

 

 

デウス『ヌゥウアアアアッ!!』

 

 

-ガキイイイイイイイイイイイイッッ!!!!ジジジジジィッッ……チュドオオオオォォォォォーーーーーーーーーーオオオオオオォォォォォォンッッッッ!!!!―

 

 

天神『グッ?!ウウウアァアァッッ!!!』

 

 

デウス『ヌゥウッッ!?』

 

 

互いに電子音を鳴らしながらそれぞれの武器に膨大なエネルギーを注ぎ込み、天神はナギナタ無双スライサーを、デウスは黒雷を纏わせたデウスライサーを振るうって互いに目掛けて必殺技を放ち、両者の技は中央で激突して拮抗した直後に大爆発を引き起こし、爆風が二人を吹き飛ばしてしまった。

 

 

デウス『ッ……!クックククククッ、加えて我と対等にやり合える力量を備え持つか……。我の側に置くだけに相応しい資格を持っているようだなぁ」

 

 

天神『ッ……!!こいつっ……!!』

 

 

デウス『ハハハハハハッ!その嫌がる顔も中々にそそるではないかッ!まあ、我の施す調教の限りを受ければそんな顔も出来なくなって―ズガガガガガガガアァンッ!!―ゲバアァァァァァァァァァァァアアッ!!!?』

 

 

天神『?!』

 

 

天神を気に入って下品な笑い声を上げながら立ち上がろうとしたデウスだったが、直後にデウスの上半身に先程よりも数を増した銃弾の雨が降り注いで火花を散らし、そのままデウスを吹っ飛ばしたのであった。

 

 

そしてそれを見た天神が驚愕を浮かべながら銃弾が放たれてきた方に振り返ると、其処には魚見が変身した聖桜と、聖桜の治癒魔法を受けて復活した零が再変身したディケイドが、それぞれ銃形態に切り替えた武器の銃口をデウスに向けて立つ姿があった。

 

 

天神『魚見に……零っ?!動いて大丈夫なのかっ?!』

 

 

聖桜『ええ、完治とまでは行きませんが、戦闘に支障は出ない程度には何とか』

 

 

ディケイド『お前にも世話を掛けたな。この借りは、奴を倒してから全部返すッ……!』

 

 

デウス『ヌグゥッ!?さ、三対一だとッ?!卑怯ではないかッ!それでもヒーローの端くれか貴様らッ?!』

 

 

ディケイド『いきなり仕掛けて来た奴が言う事かぁッ!!』

 

 

復活したディケイドを見て急に弱腰になり正論らしいことを言い出すデウスにそう言い返すと、ディケイドはライドブッカーをSモードに切り替えながらデウスへと斬り掛かり、それに続くように聖桜は剣形態に展開したウィザーソードガンを、天神は無双セイバー・ナギナタモードを構え直してデウスへと飛び掛かっていった。

 

 

聖桜『ヤァアアッ!!』

 

 

天神『ゼェエヤッ!!』

 

 

―ガキイィィッ!!ズバアァアッ!!ザシュウウゥッ!!―

 

 

デウス『ウガアァッ?!グッ……?!数を増やした程度で調子に乗りおってぇぇぇぇぇぇっっ……!!!!ならばァああッ!!!!』

 

 

ディケイド達に連携で続けざまにボディを切り刻まれ、デウスは三方を囲むディケイド達を睨み付けながら憤慨してバックルのカッティングブレードを掴み、ブレードを三回素早く倒していった。

 

 

―カシュッカシュッカシュゥッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS SPARKING!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーウウウゥッッッッ!!!!―

 

 

ディケイド『?!』

 

 

天神『な、なんだッ!?』

 

 

響き渡る電子音声と共に、デウスの身体が突如黒い雷光を身に纏って激しく発光し出したのである。その姿を見てデウスに追撃しようとしたディケイド達も攻撃の手を思わず止めてしまい、その隙にデウスはデウスライサーを大きく振り回し、

 

 

デウス『ヌウウウゥオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオオオォッッッ!!!!』

 

 

―シュウゥッ……ドバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーアアアアァンッッ!!!!!―

 

 

『『『ッ!!?ゥッ、ウウゥアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァッッッ!!!!?』

 

 

デウスが槍を叩き付ける様に降り下ろしたと共に、デウスの全身から全方に向けて巨大な極光が放出されてディケイド達に牙を剥き、三人を一瞬で飲み込み纏めてふっ飛ばしてしまったのだった。

 

 

聖桜『ッ……!あの男っ、まだこんな力を隠し持ってっ……!』

 

 

ディケイド『あの調子だと、あまり長引かせると何をし出かしてくるかも分からんな、アイツっ……』

 

 

天神『加えて向こうには、まだ怪我人も大勢残ってるっ。短期決戦に持ち込めるならその方がいいっ。そうなると後は……』

 

 

早々に決着を付けるにはどんな手が有効か。現状のメンバーで考えられるのは、やはりディケイドと合体してパワーアップし、その勢いのままデウスを押しきってしまうのが得策だろう。そうなると問題なのは……

 

 

聖桜(敵の装備は接近戦闘に長けた槍。ベルトを操る事で遠距離攻撃も可能のようですが、高機動を活かして一度かわしてしまえば驚異にはなりませんし、今の零に満足に接近戦が出来るとは思えない。なら……!)

 

 

天神(現状の零は近接戦闘が難しそうだが、私の力を使えばそれは瞬時に回復出来るし、奴の戦闘力も私と零の力を合わせれば軽々と凌駕出来る範囲。ならば……!)

 

 

聖桜『零!此処はツクヨミフォームで――――!』

 

 

天神『零!此処はアマテラスフォームで――――!』

 

 

 

 

 

天神&聖桜『『………………………………………………うん?』』

 

 

 

 

 

お互いに瞬時に熟考し、この方法が一番だと答えを出してディケイドに呼び掛けようとして、何故か台詞の一部分を除いてハモってしまい顔を見合わせる天神と聖桜。それを聞いていたディケイドもライドブッカーからカードを取り出そうとしていたようだったが、二人の台詞の相違する部分に気付いて首を傾げ、怪訝な顔で振り返った。

 

 

ディケイド『おい……今の、どっちって言ったっ?』

 

 

天神『アマテラスだ!!』

 

 

聖桜『ツクヨミです!!』

 

 

ディケイド『だからどっちなんだよッ!!!!』

 

 

何故其処で両方になるんだとディケイドが困惑して叫ぶと、天神と聖桜は途端に顔を突き合わせ、敵を目の前に口論し始めてしまう。

 

 

天神『何故其処でツクヨミなんだ!私と彼が合体すれば、私の力で瞬時に零の傷を回復しつつ奴を一瞬で切り伏せられる!此処はアマテラス一択の筈だろう?!』

 

 

聖桜『何処がですか!近接戦闘を得意とする敵に正面から突っ込むよりも、私と合体して遠距離からの集中放火で手堅く勝つ方が得策です!大体、貴方の力を使わせる暇を敵が与える筈もなし、そもそも怪我人の彼にわざわざそんな接近戦をさせること自体ナンセンスです!』

 

 

天神『いいや!彼と相性が良い私なら、君が危惧する障害を全て打破出来る!それこそが、彼の意志に同調出来る私にこそ出来る事だ!だから彼と合体するのは私だ!』

 

 

聖桜『いいえ!現状必要なのは、彼の身体を理解し、彼に最善な戦いをさせられる判断力です!その点で言えば私の方が断然上!彼と合体するのは私の方がふさわしい筈です!』

 

 

天神『いいや違うッ!!私の方がッ!!』

 

 

聖桜『私がッ!!』

 

 

ディケイド『いい加減にしろお前らァあッ!!!こんな時にまで張り合ってる場合じゃな――――!!!』

 

 

デウス『いい加減にしろはこっちの台詞だァあああああああああああああッッッ!!!!』

 

 

いつまでも口論する二人を間から叱咤して止めようとしたディケイドの背後から、突如デウスが憤怒の雄叫びを上げながらデウスライサーを振りかざして黒い斬撃波を飛ばし、それに気付いた三人は慌てて散開して斬撃波を回避した。

 

 

デウス『真っ昼間から男を取り合って争いやがってぇぇええええッッ!!!合体だとォおおッッ?!!既に女神二人の処女を喰い漁り済みかこのリア充ディケイドがァあああああああああああああああッッ!!!!』

 

 

ディケイド『てめえも何訳の分からん事をいきなり抜かしてんだァあッ!!!』

 

 

此処に来て頭を抱えて発狂しながら意味不明の戯れ言を叫ぶデウスにディケイドも苛立ちのあまり逆ギレして怒鳴り返してしまい、もういい、こうなったら一人で戦うまでだと決心して左腰のライドブッカーからカードを取り出そうとするが……

 

 

聖桜『――あ、UFO』

 

 

『『『……は?』』』

 

 

不意に、聖桜がそんな気の抜ける声と共に彼方を指差しながらそう言い出し始めたのである。それを聞いた一同も思わずそちらの方に振り返るが、聖桜が指差した方には何もなく一同が首を傾げた、次の瞬間……

 

 

聖桜『今です!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

ディケイド『?!な、何ッ!?』

 

 

『TSUKUYOMI!DECADE!』

 

 

天神『?!って、ああああッ!!?』

 

 

首を傾げるディケイドの背後から、聖桜が躊躇なくダイブしてディケイドの中へと強引に入り込んだのだ。そして、ディケイドライバーから電子音声が鳴り響くと共にディケイドはツクヨミフォームへと強制的に変身してしまったのである。

 

 

ディケイドT『きょ、強制変身……?!おまっ、こんな事が出来たのかっ?!』

 

 

魚見『やろうと思えば出来ない事もありませんよ?ただ手間が掛かるので、普段ならあまりやる事はありませんが』

 

 

天神『ゥおおおおおいっっ!!!?なに抜け駆けしているんだウオミィイイイイッ!!!!?』

 

 

魚見『甘いですよ桜ノ神?こういうのは早い者勝ちです。さぁ零!今の内に速くっ!!』

 

 

ディケイドT『ッ……!ああっ、クソッ……!もうとっとと終わらすぞ魚見っ!!木ノ花っ、援護は任せたっ!!』

 

 

天神『ちょ、オオイッ!!?』

 

 

こうなったらもうさっさと奴を倒して全部終わらせるしかないと、ディケイドは天神の声を背に両足のホルスターから日照と月読を抜き取りながらデウスに向かって走り出し、2丁銃から銃撃を放ちながらデウスとの戦闘を再開していったのだった。

 

 

―ズガガガガガガガガァッ!!バキイィイイイイイッ!!―

 

 

デウス『おのれぇええええええッッ!!今度は女神と合体だとォッッ?!我への当て付けのつもりか貴様ァああああッッ!!』

 

 

ディケイドT『知るかァあッ!!良いからとっとと倒されろッ!!こっちは今お前を相手にしている程の余裕はないッ!!』

 

 

魚見『スサノヲ!!』

 

 

妬み全開で叫ぶデウスにそう言ってディケイドが銃撃を続けながら素早く立ち回りデウスに接近してミドルキックを打ち込み怯ませると、その隙に魚見がディケイドの背中の翼の先端のスサノヲを全基起動させて射出し、上空を縦横無尽に駆け巡らませて全方向からスサノヲ達からの集中放火をデウスに浴びせていくのであった。しかし……

 

 

天神『……ほおう、そーかそーか……そっちがそう来るなら、こちらも加減は無しだっ!!』

 

 

『SU・I・CA!』

 

『Lock On!』

 

 

ディケイドの戦う姿を遠くから眺めながらフルフルと手を震わせて取り出したスイカロックシードの解錠スイッチを押すと、バックルのピーチロックシードと入れ換えて戦極ドライバーに装填し、カッティングブレードを掴んでスライスしていった。

 

 

―スパァアンッ!―

 

 

『Soiya!』

 

『SUICA ARMS!』

 

『Oodama Big Bang!』

 

 

―ギュイイィィーーーーーーイィンッ……!―

 

 

デウス『……お?ードッシャアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーアアアァンッッッ!!!ーぎょえええええええええっっっ!!!!?』

 

 

ディケイドT『ッ?!!な、何だッ?!!』

 

 

天神の戦極ドライバーから響き渡る電子音声と共に、デウスの遥か頭上に裂け目が出現し、其処からスイカアームズが落下して丁度真下にいたデウスを踏み潰してしまった。そして天神は身に纏うピーチアームズを消しながら空高く跳躍してスイカアームズへと乗り込み、そのまま人型形態に変形しながら巨大な両腕をディケイドに伸ばし、何故かディケイドを拘束してしまったのであった。

 

 

『YOROI MODE!』

 

 

魚見『さ、桜ノ神!?』

 

 

ディケイドT『待て待て待て待て待てッ?!!何やってんだお前ッ?!!敵はあっちだッ!!!あっちィッ!!!』

 

 

天神SA『いいやっ!!一番の敵は身内に潜んでいたのだっ!!これは最早戦争っ!!殺られる前に殺れっ!!パートナーの座を奪われる前に、こちらから奪ってその座を確立するしかないと言うことだァああッ!!』

 

 

ディケイドT『どういう意味だァあッ?!取り敢えず分かるように説明し―バシュウゥッ!!―ぅおおおおッ!!?』

 

 

魚見『アウゥッ?!』

 

 

何かもう殺伐とした事を言い出す天神にディケイドも困惑が極まり始めてしまうが、天神は構わずスイカアームズから脱出してディケイドの中へと飛び込み、そのまま内側から魚見を外に追い出すと魚見は聖桜に戻りながらゴロゴロと地面を転がり、ディケイドはツクヨミフォームからアマテラスフォームへとフォームチェンジしていった。

 

 

『AMATERAS!DECADE!』

 

 

聖桜『くっ……!!咲夜っ!!横入りなんてマナー違反ですよっ!!』

 

 

咲夜『抜け駆けした君に言われたくないっ!!さあ零っ!!アマテラスで一気に勝負を付けるぞっ!!』

 

 

ディケイドA『付けるぞ、じゃないっ!!さっきから何なんだお前らはッ?!いい加減訳をっ、ぅおおおおおおおおッ!!?』

 

 

こうも何度も押して入れ替われられてはこちらの身が持たないといい加減文句を口にしようとするディケイドだが、咲夜はそれを無視して内側からディケイドの身体を強引に動かし、何処からか桜神剣を取り出しながらデウスに目掛けて斬り掛かっていった。

 

 

―ガキィイイイイッッ!!ガギャギャギャギャギャギャギャッッ!!!!―

 

 

デウス『ぬおおおおおおおおおおおおっ?!!グッ!今度は桜ノ神に衣替えか貴様ァあああああああっ!!そうやって次から次へと女を取っ替え引っ替えとォっ!!』

 

 

ディケイドA『誤解を招く言い方をするなっ!!こっちだって好きでこんな訳の分からん状況に立たされてる訳じゃないわぁっ!!』

 

 

これが好き好んでやってるように見えるのかと全力で否定しながら、最早ヤケクソ気味にデウスのデウスライサーと火花を散らして打ち合うディケイド。そして、その光景を離れて見ていた聖桜は右手の指輪を取り替えながらバックルの手形を右手側にスライドさせ、右手をバックルに翳していく。

 

 

『Cho-iine!』

 

『Special!Saiko-!』

 

 

聖桜『ハァアアッ!!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーウウウゥゥゥゥッッ!!!!―

 

 

デウス『ッ?!アチャッ?!アチャチャチャチャチャチャチャチャチャッ?!!』

 

 

咲夜『ッ!隙が出来たッ!今だ零ッ!』

 

 

ディケイドA『よしっ、トドメは一気にっ―――!!』

 

 

聖桜『私とですっ!』

 

 

―バシュウゥッ!!―

 

 

ディケイドA『んなぁあッ?!!』

 

 

聖桜が放つ火炎放射の直撃を受けて火だるまになりながら辺りを駆け回るデウスを見て好機を悟り、すぐさま桜神剣にソルメモリとグレイシアメモリを装填しようとしたディケイドだったが、それを阻むように聖桜が横から飛び込んできてディケイドの中に無理矢理入り込んだのでしまった。

 

 

咲夜『ちょっ?!なに急に入り込んで来てるんだ魚見っ?!』

 

 

魚見『先に彼と合体していたのは私の方ですっ!!此処は譲ってもらいますよ咲夜っ!!』

 

 

咲夜『じょ、冗談じゃないっ!!今は私がっ、って、イタタタタタッ?!!押すなっ、押すんじゃあないっ!!』

 

 

魚見『痛っ!お、押し返さないで下さいっ、狭っ……!!』

 

 

ディケイドA『お、お前らいい加減にしろォォおおッ!!!敵を前に人ん中で喧嘩なんかしてる場合かァァあああああああああっっっ!!!!!!』

 

 

自分の中で主導権をどちらかが握る度に、アマテラスフォームからツクヨミフォームに、ツクヨミフォームからアマテラスフォームへとコロコロ変化する自分の姿を見てディケイドもいい加減痺れを切らして二人を怒鳴り付けるが、全身の炎を振り払ったデウスはバックルのカッティングブレードを一度倒していった。

 

 

―カシュゥッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS SQUASH!』

 

 

デウス『貴様らァ、いつまでそうやって遊んでるつもりだァあッ!!』

 

 

―ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァンッッッッ!!!!―

 

 

『『『ッ?!うあぁあああああああああああああああああああああッ?!!』』』

 

 

電子音声を戦極ドライバーから鳴らしてデウスライサーの両刃に黒い雷光を身に纏い、ディケイドに目掛け黒い雷の斬撃波を連続で打ち放ち直撃させてしまった。そして身体の内側に咲夜と魚見を抱えたまま直撃を受けたディケイドは何度も地面を転がりながらふっ飛び、ダメージのあまり通常形態に戻ってしまう。

 

 

デウス『フン、女神と契約しておきながら呼吸すら合わせられていないとはなぁ?所詮人間風情には過ぎた力よ。その力、やはりこの我が持つに相応しいわ!』

 

 

ディケイド『ッ……クソッ……!』

 

 

咲夜『れ、零……!』

 

 

魚見『ぅ……』

 

 

思いの外打ち所が悪かったせいか、身体が思うように動かせず起き上がる事が出来ない。そんなディケイドの姿を嘲笑いながら、デウスは再びバックルのカッティングブレードを掴んで素早く三回倒した。

 

 

『Come on!』

 

『DEUS SPARKING!』

 

 

デウス『今度こそトドメだ。せいぜい産まれてきた事を後悔するがいい……軟弱ディケイドォォォおおおおおおおおおおッッ!!!!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!―

 

 

勝利を確信して叫び、デウスは全身から黒い極光を放出しながら雷光で刃が伸びたデウスライサーを振り回し、ディケイドに向かって突きを放つ。その光景を前に、ディケイド達は動かぬ右腕の拳を強く握り締めながら、"三人一緒に全く同じ事を考えていた"。

 

 

ディケイド(ふざけるな……此処で俺が倒れたら、誰が奴から咲夜と魚見を守れる……?!そんな事はっ――――!!!!)

 

 

咲夜(私がまた意地を張ったばかりにっ……失うのか……?零も、魚見も、あんな奴に奪われて?……そんな事――――!!!!)

 

 

魚見(許容出来る筈がない……私はまだ、あの女の子のように彼女に謝ってもいない……理由も話せないまま、そんな事――――!!!!)

 

 

自分はともかく、こんな馬鹿げた結末で他の二人を失うなどあってはならない。そんな想いから、動かぬ筈のディケイドの右腕の拳が力を取り戻してゆっくりと手が開き……

 

 

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーウウウゥゥゥゥッッッ!!!!!!―

 

 

ディケイド『――――こんな……こんな事で――――!!!!』

 

 

魚見『そんな事――――!!!!』

 

 

咲夜『させてたまるかァァァァァァああああああああああああッッッッ!!!!』

 

 

 

 

迫り来る驚異を前に、三人の意識が自分以外の二人を守りたいという意志によって"同調"し、三人が全く同時に突き出した右腕が目前に迫る黒い極光とぶつかり合った。その時……

 

 

 

 

―シュウゥゥ…………ドッッバアァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァンッッッッ!!!!!!―

 

 

デウス『―――ッ?!な、何だ?!』

 

 

 

 

ディケイドの右腕と黒い極光が激突した瞬間、ディケイドの身体から突如巨大な銀色の光の柱が発生したのである。そして、ディケイドから発生した光の柱はデウスが放った黒い極光を受け止めて僅かに拮抗した後、黒い極光を霞みのように打ち消し、銀色の光の柱が徐々に鎮まりディケイドの姿が見え始めていく。だが、その姿は……

 

 

 

 

 

 

ディケイド?『ぜえぇっ……ぜえぇっ……ぜえぇっ……あっ……?なんだ……これっ……?』

 

 

 

 

 

 

光の中から現れたディケイドの姿は、咲夜と合体したアマテラスフォームでも、魚見と合体したツクヨミフォームでもない、全く別の姿となって右腕を突き出しながら佇んでいたのだった。コンプリートフォームに酷似したスーツの上にアマテラスフォームよりもシャープな銀色の鎧甲冑を身に纏い、通常形態と同様の緑の複眼、金の爪を特徴とし、掌に砲口を備え持つ両腕、背中に巨大な銀色の機械的な翼を持った姿に変身し、ディケイド自身も未知の姿に変化した自分の身体を眺めて困惑する中、ディケイドの中から戸惑い気味の咲夜と魚見の声が響き渡った。

 

 

咲夜『こ、この姿は……?』

 

 

魚見『これは……まさか、未知の形態……?それにこの感じは、私と咲夜が一緒に合体したまま戦えるようになってる……?』

 

 

咲夜『へ?あ……スサノヲの数がツクヨミよりも増していて、しかも私にも操れるようになってる?!凄いぞ零っ?!これはアマテラスやツクヨミよりも全スペックが遥かに増している!!』

 

 

ディケイド?『ハァアッ!!?何でっ、というかっ、お前ら二人を抱えたままってっ……嗚呼、蘇るクライマックスフォームの記憶っ……』

 

 

未知の形態に変身したディケイドを冷静に分析してる魚見と、ディケイドの新しい力に子供のようにはしゃぐ咲夜の声を聞きながら、以前自分が苦労人同盟の面々と共に変身したクライマックスフォームの記憶を思い起こさせる今の自分の姿に頭を抑えるディケイド。そしてそんな彼等とは対照的に、デウスは額に青筋を浮かべて悔しげに拳を握り締めていた。

 

 

デウス『わ、我の渾身の一撃を凌いだ上に、女神達と往来で3Pだとォおおッ?!!貴様ァァああッ!!!少しは恥と言うものを知れェェええええッ!!!』

 

 

ディケイド?『ッ!そもそもの元凶のお前が言うなァああああっ!!!』

 

 

一体誰のせいでこんな事になったと思ってるんだと、ディケイドは嫉妬と激昂の雄叫びを上げて向かって来るデウスに向かって突撃し、そのまま助走を付けてデウスの顔を蹴り付けてぶっ飛ばしながら追撃しようとすると、若干焦りを滲ませた声で魚見が叫び出した。

 

 

魚見『零っ!今調べた所、どうやらこの形態はアマテラスとツクヨミより力を増している代わりに、制限時間が通常よりも低下してしまってるようですっ!』

 

 

ディケイド?『ッ!低下?幾つだ?』

 

 

咲夜『――――3分、のようだな……加えて今までの形態に比べて未知数の部分も多い。零、決着を付けるなら早目に行けっ!!』

 

 

ディケイド?『ッ……簡単に行ってくれるっ……まぁ、試運転には打ってつけの相手が目の前にいるんだ。分からない部分があるなら、奴と戦ってる間に解析を進めてくれよっ』

 

 

デウス『グゥウウッ!!この我を演習相手呼ばわりだとっ!?何様だ貴様ァっ!!!』

 

 

ディケイド?『通りすがりの仮面ライダーだ。憶えておけぇッ!!』

 

 

決め台詞と共に啖呵を切り、新たな姿を得たディケイド……『仮面ライダーディケイド・イザナギフォーム』は拳を握り締めてデウスへと再び突っ込み、戦闘を再開させていったのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/姫と魚見のパートナーの座争奪戦?⑤

 

 

―ガキィイイッ!!ガキィイイイインッ!!―

 

 

ディケイドI『フッ!ハァアアッ!』

 

 

デウス『ぬがぁああっ?!グッ、おのれぇええええっ!!』

 

 

咲夜と魚見の張り合いの末、偶発的に誕生したイザナギフォームへと強化変身したディケイド。ディケイドはデウスが叩き付けて来るデウスライサーの斬撃の全てを強靭なボディで受け止めて軽々と弾き返し、攻撃を弾かれて怯むデウスの隙を突くようにライドブッカーSモードで斬り付けていき、トドメに後ろ回し蹴りでデウスの顔を蹴り飛ばしふっ飛ばしていった。

 

 

デウス『グボァアッ!!?グッ、調子に乗るなよっ、神の力を借りてるだけの人間風情がァあッ!!』

 

 

―シュバァアアッ!!―

 

 

憤怒の雄叫びを上げながら、ディケイドに目掛けてデウスライサーを振るい黒い斬撃波を飛ばすデウス。だがそれを目にしたディケイドが咄嗟に左手を開いて目の前に突き出すと、掌に備え付けられてる砲口……カグツチから極光と閃光が放出され、デウスが放った斬撃波を正面から掴み取り打ち消していった。

 

 

デウス『何ッ?!』

 

 

ディケイドI『―――成る程な。大体分かってきたぜ、コイツの扱い方がな……アマテラスッ!』

 

 

攻撃を防がれ驚愕するデウスを他所に、ディケイドが確信に満ちた口調でそう叫ぶと、ディケイドが突き出す左手に咲夜の能力で複製された2本のソルメモリがスロットに装填された、太陽のように紅く染まった紅色の桜神剣……アマテラスが出現してディケイドの手に握られ、徐にアマテラスの紅い刃を指でなぞりながらデウスと対峙していく。

 

 

デウス『クッ……そんな虚仮威しなどォォおおおおおッ!!』

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

ディケイドI『フッ!でぇええああああッ!!』

 

 

―ズバァアアアアアッ!!―

 

 

デウス『なっ?!ガハァアアアアッ?!』

 

 

アマテラスを構えるディケイドに向かって再び斬撃波を放ちながら突撃するデウスだが、それに対してディケイドは僅かに身体を動かしただけで斬撃波をかわしながら刃に焔を灯したアマテラスを振りかざして突撃してきたデウスの脇腹にすれ違い様に一閃を叩き込み、即座に振り返って連撃を打ち込みデウスを吹き飛ばしていった。

 

 

デウス『グゥウウッ?!!おのれぇぇぇぇっ……ならばァあッ!!』

 

 

―カシュッカシュッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS AULAIT!』

 

 

ディケイドに切り刻まれたボディから白煙を立ち上らせて後退り、デウスは拳を震わせた後にバックルのカッティングブレードを掴み二回素早く倒す。そして、電子音声と共に右腕に黒い雷光を纏わせると、ディケイドに向けて突き出し右手から黒い砲撃を放出していった。しかし……

 

 

ディケイドI『―――ツクヨミッ!』

 

 

―ガキィイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!―

 

 

デウス『?!何だと?!』

 

 

ディケイドは迫り来る砲撃を前に、右手にソルメモリと同じく咲夜の力で2本に複製されたグレイシアメモリが装填された、藍色に染められたアメノハバキリ……ツクヨミが光と共に現れ、前方に盾のように突き出して砲撃を防いだのである。その隙に……

 

 

咲夜『魚見ッ!』

 

 

魚見『えぇッ!』

 

 

咲夜&魚見『スサノヲッ!!』

 

 

―バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!!―

 

 

ディケイドの内の咲夜と魚見が声を重ねて叫ぶと同時に、ディケイドの背中の機械的な翼に内蔵された16基の銀色の念動兵装……スサノヲが一斉に放出され、上空を縦横無尽に駆け巡りながらデウスに向かって突撃していき、あらゆる方向から絶え間なく砲撃の雨を降り注がせていく。

 

 

―ヒュンッヒュンッヒュンッヒュンッ!バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!―

 

 

デウス『がぁうッ?!こ、こんなものでぇええええええええええッ!!』

 

 

上空から雨霰のように無数に飛来する砲撃の雨を必死にデウスライサーで凌ごうとするも、その数の多さに圧倒されて徐々に被弾していき、その隙にディケイドはアマテラスとツクヨミのトリガーを引いていく。

 

 

『『SOL!MAXIMUM DRIVE!』』

 

『『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』』

 

 

ディケイドI『ハァアアッ!!』

 

 

―ズドォオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーオオォンッッッ!!!―

 

 

デウス『?!グッ、ぬぅうぐぁああああああああああああああっっっ?!!』

 

 

二つの武器から電子音声を鳴らして前方に突き出すと、アマテラスとツクヨミの銃口に瞬時に膨大な神氣を溜め込み、デウスに目掛けて紅い閃光と藍色の閃光を放って直撃させていったのだった。そして、二つの閃光の直撃を受けたデウスは勢いよく吹き飛んで地面を何度も転がり倒れ付してしまうが、即座に顔を上げて起き上がり、忌々しげにディケイドを睨み付けていく。

 

 

デウス『何故だっ……崇高な存在である神格のこの我が、貴様のような人間如きにィイイイイッ!!』

 

 

耐え難い屈辱だと叫び、デウスは足の爪先で地面に転がるデウスライサーを器用に持ち上げてキャッチし、素早くバックルのカッティングブレードを掴み三回倒した。

 

 

―カシュッカシュッカシュゥッ!―

 

 

『Come on!』

 

『DEUS SPARKING!』

 

 

デウス『オォオオオオオオオオオオオッッッ!!!死ねぇええええええええええええええッッッ!!!』

 

 

―ダァンッ!―

 

 

電子音声を再び鳴らしてあの黒い極光を身に纏いながら遥か上空へと跳躍し、槍を突き出しながら絶叫と共にディケイドに向かって急降下していくデウス。だがそれに対してディケイドは避ける素振りを見せず佇み、ツクヨミの引き金を静かに引いた。

 

 

『『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』』

 

 

ディケイドI『何が神だ……ゼェエアアッ!!』

 

 

―ガキィイイイインッ!!ピシィッ、ピシィイッピシィイッピシィイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィンッッッ!!!!―

 

 

デウス『ッ?!な、にっ?!』

 

 

電子音声と共に、ツクヨミの刀身が巨体な氷の刃を纏う。そして急降下して来るデウスに目掛けツクヨミを突き出すと、切っ先に触れた瞬間、デウスは黒い極光ごと巨体な氷塊に覆われていき、一瞬の内に氷付けにされていったのだった。

 

 

デウス『ァッ……ガッ……う、動け、なっ……?』

 

 

ディケイドI『――テメェなんぞ、祐輔や幸助達、コイツ等に比べればパチモン同然だろうがァッ!!』

 

 

『『SOL!MAXIMUM DRIVE!』』

 

 

―ブザァアアアアァァァッ!!!ズバァアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!―

 

 

デウス『うごああぁッ?!』

 

 

デウスを氷塊の中に閉じ込め、ディケイドはすかさずアマテラスの引き金を引き電子音声を鳴り響かせながら巨大な焔の刃をアマテラスの刀身から放出し、そのまま氷塊ごとデウスを斬り裂いていったのだった。そして、氷塊を打ち砕かれた事で自由になったデウスは勢いよく吹き飛んで地面を何度も転がり倒れ付すが、

 

 

デウス『グッ、グゥッ……!実質3対1っ……このままでは勝てぬかっ……!』

 

 

今の自分では新たな力を手に入れたディケイド達には勝てないと踏み、デウスはディケイドに背を受けて空へと飛び上がると、そのまま一目散に猛スピードで逃亡を開始していく。

 

 

咲夜『?!あの男、逃げる気か?!』

 

 

ディケイドI『そうはさせるかっ……スサノヲッ!』

 

 

逃げ去ろうとするデウスの背を睨み据えながらディケイドが叫ぶと共に、16基全てのスサノヲが一斉にディケイドの下へと舞い戻りアマテラスとツクヨミに次々と合体し始めていき、二つの武器の形状を変化させていった。

 

 

アマテラスは、双刃に8基のスサノヲが合体して弓のような形態に変化し、神氣の弦が出現したロングボウモード、ツクヨミは同じく8基のスサノヲとの合体により矢のように鋭くしなやかな形状に変化したアローモードへとなり、ディケイドはゆっくりとツクヨミをアマテラスの弦に掛けながら二つの武器のトリガーを引く。

 

 

『『GLACIER!MAXIMUM DRIVE!』』

 

『『SOL!MAXIMUM DRIVE!』』

 

 

重なって鳴り響く4つの電子音声。次の瞬間、アマテラスとツクヨミは緑色の輝きに覆われながらバチバチと蒼白い火花を放出していき、ディケイドは鋭い眼光で既に遥か彼方のデウスの背中に目掛けて照準を定め、そして……

 

 

―ギギギギィッ……!!―

 

 

ディケイドI『――ハァアアッ!!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーウウゥッッッ!!!!!!!!―

 

 

デウス『――――ッ?!なっ、グッ、ぬぅうぐぁああああああああああああああっっっ!!!?』

 

 

―チュドオォオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッッッ!!!!!!―

 

 

大気を震わせ、ディケイドの足元の地面を陥没させながらアマテラスから撃ち放たれたツクヨミは音速を越えるスピードでデウスに目掛けて放たれ、そのままデウスに直撃し巨大な爆発を巻き起こしたのだった。そして、ディケイドは爆煙の中からデウスが墜落する様子を確認しながら戻ってきたツクヨミを掴み取って地面に突き立て、左腰のライドブッカーから一枚のカードを取り出した。

 

 

ディケイドI『決めるぞ、二人共……!』

 

 

咲夜『あぁっ!』

 

 

魚見『えぇ……!』

 

 

ディケイドの呼び掛けに力強く頷き返すと、咲夜と魚見はアマテラスとツクヨミからスサノヲ達を分離させていき、ディケイドは二つの武器を消しながら取り出したカードをバックルに投げ入れてスライドさせていった。

 

 

『FINALATTACKREAD:DE• DE•DE•DECADE!』

 

 

咲夜『スサノヲッ!』

 

 

魚見『全基フォーメーションッ!』

 

 

ドライバーから響き渡る電子音声と共に咲夜と魚見が叫ぶと、4基のスサノヲが宙を舞いながらディケイドの右足に装着されていき、残りの12基のスサノヲは上空で4基ずつ四角形を形作るようにフォーメーションを形成しながら縦一列に並んでいく。それを確認したディケイドは背中の翼を大きく広げて遥か上空へと跳躍し、右足を突き出すと、上空でフォーメーションを形成するスサノヲ達との間にディメンジョンフィールドが展開され……

 

 

ディケイドI『ハァアアアアアアアッ……ハァアアッ!!』

 

 

―バシュウゥウッ!!―

 

 

右足に装着した4基のスサノヲから緑色に光輝くブレードを出現させながら一気にディメンジョンフィールドとスサノヲ達が展開するフィールドを潜り抜けていき、最後のフィールドを抜けた瞬間にワープホールへと突入して転移したのである。そして……

 

 

 

 

―ギュイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィイッッッ…………バシュウゥウッッッ!!!!―

 

 

ディケイドI『ゼェエエァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァッッッ!!!!!!』

 

 

デウス『――ッ?!―ドグォオオオオオオオオッッッッ!!!!― ごぁあああああああああああああっっっっ?!!!!!』

 

 

 

 

落下していくデウスの目前にワープホールが出現し、其処からディケイドが猛スピードで飛び出し、ブレードを展開する右足……天之尾羽張(あめのおはばり)がデウスに打ち込まれ炸裂したのであった。

 

 

―バチバチバチバチバチバチバチバチィッッッ!!!―

 

 

デウス『ガァアッ?!ガッ……馬鹿なっ……何故、人間の貴様に、この我がァッ……!!!?』

 

 

咲夜『――――貴様には決して理解出来ないだろうさ』

 

 

魚見『彼と貴方とでは、決定的に足りないものがある……それが分からない限り、彼に……いいえ、私達には決して勝てません』

 

 

デウス『グウゥッ!!み、認めんっ、認めんぞォオオオオッ!!こんな結果ッ!!こんな結末ッ!!貴様のような軟弱ディケイドなどにィイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!!!!!!!!』

 

 

ディケイドI『ハァアアアアアアアッ……ハァアアアアッ!!!!』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァンッッッッ!!!!!!―

 

 

デウス『グッ……!!?ゥウウウウウォアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアァッッッ!!!!!!?』

 

 

こんな結末など決して認めない。そう言って最後まで自身の敗北を受け入れられないまま、デウスは最後のだめ押しを叩き込んだディケイドの一撃を受けて絶叫と共に爆発を起こし、光の中に消えていったのだった。

 

 

―ズザァアアアアアアッ!!―

 

 

ディケイドI『……ッ……やっと終わった、か……』

 

 

そして、手に入れたばかりの力でデウスに勝利したディケイドはそのまま付近の建物の屋上へと地面を滑りながら着地し、肩で呼吸を繰り返しながら片膝を着くと、突然ディケイドの背の翼のスサノヲ達が起動して何処かに向かって飛び去っていく。

 

 

ディケイドI『ッ!おい、どうしたお前ら?まさかまだ敵が……』

 

 

咲夜『いや、そういう訳じゃない。ただ――』

 

 

魚見『あの神が犯した過ちの後始末ぐらいしておかないと、気持ちよくこの世界から去れませんから。これぐらいは、と思って』

 

 

再び警戒心を強めようとしたディケイドにそう言って咲夜と魚見はスサノヲに念を送って操り、最初にデウスが零を襲撃して破壊したコンビニの周囲を囲むと、スサノヲ達は変形して砲撃形態になり、砲口から暖かな光が放出されてコンビニを包み込み、破壊された箇所をあっという間に修復し、更に怪我を負った一般人達の傷を癒していったのである。

 

 

「――――あ……あれ?」

 

 

「傷が治って、る……?なんで……」

 

 

「……?これ……光……」

 

 

破壊された建物が元に戻り、更に自分達の怪我が消え去り人々が顔を見合わせて戸惑う中、コンビニの中から一人の少年……デウス襲撃の際に、ディケイドが身を呈して庇ったあの時の男の子が空から降り注ぐ光に気付き、空を見上げながら外へ出た。その時……

 

 

「―――あ、いた!タカくんっ!!」

 

 

「……え?」

 

 

突然何処から名を呼ばれて、男の子は声がした方へと振り返る。すると其処には、首に巻いた赤いマフラーを揺らし、両腕にワニのぬいぐるみとクマのぬいぐるみを抱えた女の子が笑顔で駆け寄って来る姿があった。

 

 

「ユイちゃんっ!!」

 

 

咲夜『……!あの子は……』

 

 

魚見『……成る程……案外狭いものですね、世の中というのも』

 

 

ディケイドI『……?何だお前ら?二人して笑ったりなんかして?』

 

 

咲夜『うん?ああ、いや……何でもないさ』

 

 

魚見『ええ、何でも、ね』

 

 

ディケイドI『あ……?』

 

 

互いに駆け寄っていく女の子と男の子の姿を見守りながら微笑み合う咲夜と魚見を見て意味が分からないと訝しげに眉を寄せるディケイドだが、二人はただただ可笑しげに笑うだけで何も言わず、ディケイドもそんな二人に対して首を横に振りながら溜め息を吐いた。

 

 

ディケイドI『まあいい……それより、さっきは何だって急にあんな張り合うような真似をし出したんだ?ってか、昨日からそんな感じだったが、お前ら一体何があったんだ』

 

 

咲夜『え?あー、いや、それは、そのぉっ……』

 

 

魚見『と、特にこれといって、大したことがあった訳では……』

 

 

ディケイドI『言い逃れしようとしたってそうは行くかっ。もうさっきみたいな目に遭うのも御免だからな、いい加減きっちり訳を話し―グニャアアアアアアッ……―て、も、ら…………う…………?』

 

 

―フラッ……ドシャアアァッ!!!―

 

 

魚見『?!れ、零っ?』

 

 

咲夜『お、おいっ、どうしたんだ?!零っ?!』

 

 

いい加減二人の争いの原因を問い質そうとしたディケイドだったが、不意に目の前の景色が飴細工のようにグニャリと捩れたかと思いきや、全身にとてつもない疲労感がのし掛かり、そのまま後ろから倒れてしまったのだった。咲夜と魚見もそれを見て慌てて変身解除を行い元に戻ると、零に駆け寄り、顔を真っ赤にして苦しげに呼吸を繰り返す零の顔に触れて思わず手を引いた。

 

 

姫「あっつッ!?な、何だこれッ!?凄い熱だぞッ!」

 

 

零「ぉ、ぅ…………ど、どう、なってるっ…………?まだ、3分経っていない…………ハズ、だろっ…………」

 

 

魚見から教えられた3分を体内時計で数えてた限り、まだ時間に余裕はあった筈だ。なのにこのとてつもない疲労感と熱っぽさは何なんだと零が魚見に目を向けると、顎に手を添えて何やら思案していた魚見は何かに気付いたように顔を上げた。

 

 

魚見「あぁ、そうですね……よくよく考えたら、ただでさえアマテラスやツクヨミ単体でも相当な負担を貴方に掛ける訳ですから、私達が二人も入って変身なんかすれば、それに伴って貴方に掛かる負担が倍になるのも当然でしょう」

 

 

零「なっ……!!?お、おまっ、そういう大事な事はもっと早く気付いてっ…………あ、コレ駄目な奴だ」

 

 

―バタンッ!!!―

 

 

姫「ッ!?れ、零ッ!?しっかりしろオイッ!!気をしっかり持てッ!!れぇえええええええええええええええぃいっっっっ!!!!」

 

 

何かを悟った様な口調で口にしたその言葉を最後に、意識を手放して失神してしまう零。そんな彼の真っ赤な顔とは対照的に顔を青く染め、零の身体を抱き抱えながら必死に揺さぶる姫の絶叫が冬の町に何処までも広く響き渡ったのであった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

―???の世界・店舗跡地―

 

 

マキナ「――――ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……何とか、戻って来られたかっ……」

 

 

一方その頃、別の世界に存在するとある街中の店舗跡地にて、ボロボロの身体を引きずりながら這うように跡地の中に入っていく一人の男……零達に敗れ消滅したかと思われたマキナの姿が其処にあった。

 

 

マキナ「グゥウッ……リア充ディケイドめぇえっ……覚えていろよっ……!このままでは済まさんっ……!もう一度力を取り戻したら、今度こそこの手でっ……!」

 

 

この雪辱は必ず晴らすと、マキナは零への一方的な憎しみを募らせてふらつきながら起き上がり、とにかく今は傷付いた身体を癒そうと覚束無い足取りで部屋の奥に足を進めていく。だが……

 

 

 

 

「――――今度こそ、か……生憎だが、貴様に次の機会なぞありはせんぞ」

 

 

 

 

マキナ「?!な、何?!」

 

 

 

 

不意に、マキナの背後から聞こえた謎の声。その声に釣られるようにマキナが振り返ると、其処にはマキナからは見えない位置の壁に背を預けて両腕を組む一人の青年の姿があった。それは……

 

 

 

 

 

幸助「――――よう、遅かったな塵芥。俺を此処まで待たせるとは、随分と良いご身分じゃないか?」

 

 

 

 

 

ニィッ……と、彼を知る者ならそれだけで魂の芯まで畏怖させる程の笑みを浮かべる黒髪の青年……断罪の神・天満幸助だった。

 

 

マキナ「なっ……?!て、天満幸助、だとっ?!何故貴様が此処にっ?!」

 

 

幸助「こんな低レベルの結界を建物の周囲に張った程度で、俺の目から逃れられると思ってたのか?生憎、貴様程度を見付けるなんぞ目を瞑る所か、研究の片手間でも出来る事だ」

 

 

青年の正体が幸助だと分かり身体を震わせるマキナにそう言うと、幸助は壁から背を離し、まるで死神のようにゆっくりとマキナへ歩み寄っていく。

 

 

幸助「さて……まさか半身を残して生き延びていたとは思わんかったが、俺が此処まで出向いた理由は最早説明するまでもないだろう?零への身勝手な復讐の為に無関係な人間を巻き込んだだけでなく、貴様は二度、俺に対して大罪を行った。一つは、俺の断罪から生き延びたこと。もう一つは……俺に貴様の事を思い出させた事だ。今度こそ、二度と転生出来ぬように、その汚れた魂ごと消してやる」

 

 

マキナ「ひ、ひいぃっ?!こ、後半からはただの横暴ではないかァアアッ?!」

 

 

バキバキッ、と手の骨を鳴らしながら迫る幸助に怯えて後退りしていくマキナ。しかし……

 

 

「―――おっと、何処に逃げようと言うんだ?」

 

 

「残念だが、貴様に逃げ場は最早ないぞ?」

 

 

マキナ「?!なっ……」

 

 

マキナの背後から再び声が響いた。 店舗跡地の奥から聞こえたその声にマキナも再び驚愕して振り返ると、其処にはマキナも見覚えのある少年を含んで立つ集団……輝晶紲那と彼の仲間達、そしてマキナの半身であるデウスと深い因縁を持つ少年、別世界の仮面ライダーAGAである"高町翔悟"だった。

 

 

マキナ「ッ?!き、貴様等はッ?!」

 

 

翔梧「よう、こうして会うのは初めてか邪神?まさか半身残して生き延びてたとはなぁ?しかも俺の前世を勝手に決めだけでなく、関係ない子供も巻き添えにするなんて……ゲンコ以上にボコる」

 

 

ユーノ(翔悟)「全力で協力するよ、翔梧」

 

 

ユウザ「アナザーGAメモリ代表して、倒す」

 

 

アンヘル「身勝手だね……今回は、奴を屠る事に協力するよ」

 

 

エンド「ツブすよ、チッチぇ邪神」

 

 

リオン「お前のせいでクオリアが怯えていたっすからねえ。クオリアを泣かせるなら、俺の敵っすよ」

 

 

紲那「魔界777つ道具にするか、鼻毛真拳水中奥義魚魚操りの舞(水中に引きづり乙姫衣装のオヤジ達のキス地獄)かオヤジの剣でキタキタ踊り刑か、いやぁ楽しみだね~」

 

 

紲牙「相変わらず黒いな兄弟」

 

 

暗黒のオーラを滲み出し、マキナへの怒りを各々露にする紲那達。そんな彼等を前にマキナも更に恐怖を駆り立てられガクガクと怯える中、そんなマキナの顔に背後から剣の切っ先を突きつけられ……

 

 

幸助「念仏は唱えたか?何、まだなら安心するといい……時間はまだまだ残っているんだからなぁあ?」

 

 

マキナ「ひっ……ヒィイイイイギャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ?!!!!!!!」

 

 

Sっ気たっぷりの笑みを浮かべる幸助の笑みを前に遂に恐怖メーターが限界点を突破し、絶叫を上げるマキナ。

 

 

……そして、マキナは今日、二度目の地獄と死を迎えたのであった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

零「…………………………あ"だま"い"だい"…………………………」

 

 

そして場所は戻り、光写真館の零の自室。其処には先の戦闘の後に高熱を出して倒れた零が姫と魚見の手によって運び込まれ、ベッドの上で氷を頭に乗せながら寝込む姿があり、そんな零の看病をして体温計を零に挿していたなのはが体温計を抜き取り、熱を確認していく。

 

 

なのは「熱は、えっと……よ、40度超えッ?!一体どうやったら今日一日でこんな急に熱が出るのッ?!」

 

 

姫「あー……それは、まあ……」

 

 

魚見「原因は色々ありますが、これに関しては私達に原因が……」

 

 

計った熱の驚きの数値を見てギョッとするなのはに、恐る恐る挙手をして気まずげに名乗り出る姫と魚見。そして、町中に現れた屑ヤミー達を撃退して戻ってきた優矢は唸り声を上げて寝込む零を見つめながら深い溜め息を吐く。

 

 

優矢「にしても、クリスマス直前に訳わかんねぇ因縁付けてきた神に命狙われた上に、こうしてぶっ倒れる羽目になるなんてなぁ……災難続き過ぎだろ、お前っ」

 

 

零「……うるせぇ……こっちだって、好きでこんな目にあっ……ぅぐっ……」

 

 

なのは「ああもうっ、良いから大人しく寝ててっ!姫さん!魚見さん!下に確か薬があった筈だから、一緒に探して持ってきてあげて!」

 

 

姫「う、うむ……」

 

 

魚見「分かりました……」

 

 

零をこんな目に遭わせてしまった責任がある以上、彼の看病を手伝わなければならない義務がある。布団をかけ直すなのはからの指示に揃って頷くと、姫と魚見は薬を取りに部屋を後にし下のリビングへと向かっていった。

 

 

姫「ハァッ……まさか、イザナギの副作用が制限時間関係無しにこんな形で出ようとはなぁ……」

 

 

魚見「アマテラスやツクヨミよりも強大な力故に、その力の反動も大きいようですね……折角の新フォームも、零がああなるのでは封印するしかないかもしれません」

 

 

姫「そうだな……非常に残念だが、零にこれ以上の負担を掛ける訳にもいかないし、それが妥当だろうなぁ……」

 

 

新しい形態は捨てがたいが、零の為にもアレは封印しておくのが一番だろうと意見を一致させて溜め息を吐く姫。そんな彼女を横目も魚見も何処か残念そうな顔を浮かべると、その時、姫が何かを思い出したように顔を上げて魚見を見た。

 

 

姫「そう言えば……なぁ、魚見?さっき公園で何かを言い掛けていたが、結局なんだったんだ?」

 

 

魚見「?……ああ、それは……」

 

 

マキナの気配を感知する前に、公園で魚見が何か言い掛けていたのを思い出して問い掛ける姫に、魚見は僅かに目線を逸らし髪の毛の先を弄り出すが、話さずにいるのは無理だと観念したのか、徐に口を開いた。

 

 

魚見「桜ノ神は言いましたよね。何故私が急に、貴方と張り合うような事を言い出したのか、何か訳があるんじゃないかと……」

 

 

姫「?あぁ、私の考えではそう思ってたんだが……違うのか?」

 

 

魚見の口振りは、暗にそう言ってるようにも聞こえる。しかし魚見は毛先を弄り続けながら言いにくそうに視線を迷わせた後、小さく頷き返した。

 

 

魚見「ええ……そんな大した理由があるワケじゃありません……私のこれは、もっと幼稚で、くだらないもの……貴方への、対抗心のようものですから」

 

 

姫「対抗、心……?」

 

 

どういう意味だ?、と姫が疑問一杯の表情を浮かべて首を傾げると、魚見は薄く息を吐きながらそんな姫に目を向ける。

 

 

魚見「咲夜……貴方は彼と契約してから、彼と共に数々の修羅場を潜り抜けて来ましたよね。そしてその度に、貴方と彼の絆もより強まっていった……」

 

 

姫「そ、そうか?いや、そんな事はないような気が……」

 

 

魚見にそう言われて照れ臭そうに頬を掻く姫。そんな姫を見た後、魚見は天井を見上げなざら再び口を開いた。

 

 

魚見「正直に白状すると、私はそんな貴方が羨ましく思えてたんです……最初の頃はそうでもなかったんですが、彼のパートナーとして一緒に戦っていく内に、私にはない彼と貴方の間にある絆の強さを目の当たりにして、いつの間にか対抗心が芽生えて……気が付けば先日、貴方と張り合うような事を口走ってしまっていたんです……」

 

 

姫「?つまり……それが原因?」

 

 

先日からの魚見の姫と張り合うような言動の原因は、姫への対抗心から来るものだった。そう言われてもピンと来ないのか、姫は首を傾げて怪訝な顔を浮かべるが、魚見はそんな姫に視線を戻し、

 

 

魚見「取るに足らないくだらない理由だと、自分でも分かってはいたんですけどね……それでも、貴方と彼の絆の強さを間近で見る度に、私も其処に辿り着きたい。あんな風に、私もパートナーとして認められたいと気ばかり焦って、さっきの戦闘でも貴方達の足を引っ張ってしまった……みっともないですね」

 

 

先日からのそんな自分の失態を思い返して、苦笑いと共に頬を掻く魚見。するとそんな彼女の横顔を見て、姫は僅かに目を伏せた後、

 

 

姫「……それを言うなら、私だって同じさ」

 

 

魚見「え……」

 

 

ポツリと、そう口にする姫の言葉に魚見が思わず訝げな反応を返し、姫もまた頬を掻きながら恥ずかしげに自身の胸の内を語り出した。

 

 

姫「私だって、正直気を焦らせてはいたさ。今回の事だけじゃない……最初の頃はそうでもなかったが、君が彼のパートナーとして同行するようになってから、私には出来なかった方法で零の力になる君を見て、私も負けてはいられないと思い続けていた……今にして思えば、私も君と同じく、君に対抗心を芽生えさせていたんだと思う……それが今回の件をきっかけに、表立って君と張り合うような形になってしまったようだ」

 

 

魚見「……咲夜……」

 

 

だから、魚見だけじゃない。自分も魚見に対して同じ気持ちを感じてたんだと、心の内を告白して苦笑いを浮かべる姫。そんな彼女を見て、魚見は驚いたように僅かに目を見開いた後、姫と同じく苦笑いを浮かべた。

 

 

魚見「要するに……私達は、お互いの足りない物を持ってる相手をライバル視して、お互いに対抗し合っていたと……可笑しな話ですね」

 

 

姫「あぁ、全くな」

 

 

これでは巻き添えを食らった挙げ句に倒れて寝込んでしまった零に申し訳立たないなと、二人は互いに顔を見合わせて苦笑し、直後に姫は背伸びをするように両腕を伸ばして「さて!」と気を取り直した。

 

 

姫「なら、迷惑を掛けた分はきっちり返さねばならないな。お互い、変に意地を張り合ったせいで、彼を振り回してしまったし」

 

 

魚見「そうですね……なら今度は、病人の胃に優しい、食べやすい料理対決といきましょうか?」

 

 

姫「うん?何だ、まだ続けるのか?」

 

 

魚見「彼や周りに迷惑を掛けない分には大丈夫だと思いますよ?それに、お互いに気持ちを打ち明けた今となったら、ただ意味もなく張り合うのではなく、互いを高め合う為に……というのと、悪くない気がして」

 

 

姫「ふむ……成る程。そういう事なら、望む所だ!」

 

 

魚見「負けませんよ!」

 

 

そう言いながら、対決の火蓋が切って落とされた時と同じくポーズを取り合う姫と魚見だが、最初の時とは違って二人の表情は何処か楽しげであり、対決の課目である料理を作る為に同時にリビングに向かって走り出していくのであった。

 

 

――因みに余談だが、零の高熱はクリスマスの日を迎えるまで一向に下がる気配がなく寝込み続け、漸く回復して復活したかと思いきや、直後にはあの『天使黎愛(あまつかれいあ)』の件へと繋がる訳なのだが、それはまた別の話である。

 

 

 



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IF番外編/いい夫婦の日(駄目な夫の奔走記)

 

 

 

―――11月22日。

 

 

地球ではこの日を11(良い)22(夫婦)の日と呼び、あの朴念仁―――黒月零と高町なのはの二人が、めでたく"夫婦"となった記念すべき日付けでもある。

 

 

本人達も後からそのことに気付き、特になのはが嬉しそうにカレンダーの日付けに花マルを書いて『来年、この日に絶対記念日しようね♪』と微笑む愛しい笑顔に対し、『ああ、絶対にな……』と笑いながら確かに約束を交わした夫は―――

 

 

 

 

 

 

―黒月家・自室―

 

 

美由希『――は?結婚記念日のこと、今日まで忘れてたぁっ?!』

 

 

零「……ソーナンデス……」

 

 

―――現在、多忙な局員の仕事に追われて結婚記念日の事をすっかり忘れ、当日になって漸く思い出し焦りのあまり地球の実家の姉に電話で泣き付くというダメっぷりを発揮していたのであった。

 

 

 

美由希『ちょ、アンタ……結婚したばかりのクセして記念日忘れるとか……今が大事な時期でしょうっ?!なにそんな大事な日のこと忘れてんのよっ?!』

 

 

零「イヤ……オレも此処最近多忙が続いていたので、すっかりというか、ボケていたというか……昨夜のなのはがやけにご機嫌だったから可笑しいとは思ってたんだが……」

 

 

美由希『その時点でなんで気付かないのか……。普通は色々疑問に思って考えて考えて『あ、そっか!』ってなるとこでしょ其処はっ!』

 

 

零「其処まで考えが及ばなかったというか……もう年なのだろうか、コレ……」

 

 

美由希『私より全然若い癖して何言ってんのよ……』

 

 

自業自得とは言え、かなり追い詰められた状況に立たされているからか、虚ろな目でダラダラと滝の如く汗を流す零に冷ややかにツッコミを入れる美由希だが、すぐに呆れるように溜め息を吐いた。

 

 

美由希『っていうか、何で私に相談?何も私じゃなくたって、そっちのお友達に相談に乗ってもらえばいいんじゃないの?』

 

 

零「したさ……フェイト達にも今日相談したんだが、アレだ……『そういう事は、忘れてた本人がキッチリ責任を取らなければ駄目!』と全員から言われて……」

 

 

美由希『……あぁ、そりゃ正論ね……』

 

 

結局は記念日を忘れていた零に責任があるのだから、その失敗は本人の手で取り返さねば駄目だという彼女達の意見も正しい。だが、この常識知らずの弟にそれだけ言ってもどうせ迷走し続けるだけで結論も出ないだろう。

 

 

美由希『(全く、しょうがないなぁ……)』

 

 

此処は姉として、阿呆の弟にお節介を焼いてやろうと軽く溜め息を吐きながら、美由希はゆっくりと語り始めた。

 

 

美由希『零……?アンタ、ほんっと~~~~~っに、なのはの事を愛してるのよね?』

 

 

零「?ああ、それに関しては嘘偽りはないが……」

 

 

美由希『神様に誓って?』

 

 

零「アイツと式を上げた時に既に誓ってる。……何が言いたいんだ?」

 

 

美由希が何を言わんとしているのかイマイチ見えず、思わず問い詰めてしまう零。すると美由希は、何処か優しげな声で諭すように話し出した。

 

 

美由希『だったら、アンタが普段なのはにしてやれていない特別なこと……今日は沢山、あの子にそれをしてやりなさい』

 

 

零「普段してやれていない、特別なこと……」

 

 

美由希『そっ。アンタ、どうせ結婚してからもあの子に『好き』とか『愛してる』とか、普段から正面切って言えてないんでしょ?」

 

 

零「ぐ……そ、れは……」

 

 

零の素直じゃない性格から考えると、恐らくそういった直接的な言葉は普段から比喩的にしか伝えていないはずだ。その事を指されてやはり図星だったのか、零は言葉を詰まらせて思わず黙ってしまい、そんな零の反応から美由希も『やっぱりか……』と再び溜め息を吐きながらも言葉を続けた。

 

 

美由希『女の子っていうのは、まあ女の子に限った話でもないんだけど……そういうのを、言葉や形にして言って欲しいものなのよ』

 

 

零「……そういうものなのか……?」

 

 

美由希『そういうものなの。だからそれだけでいい……。難しくなんて考えなくてもいいの。アンタが素直に、自分の気持ちをあの子にごまかさず伝えて、特別なことをしてあげればそれだけで』

 

 

零「……俺の素直な気持ちに……特別なこと……か……」

 

 

美由希『私から教えられるのはそれだけ。そこから先は自分で考えること。私が全部教えたら意味がないからね』

 

 

零「……ああ、分かった。すまなかったな美由紀姉、手間を取らせて……」

 

 

美由希『何の何の♪可愛い弟と妹の為、困った時に一肌脱ぐのがお姉ちゃんってもんでしょ?』

 

 

零「……そうだな……ありがとう……」

 

 

彼女から教わった通り、素直に礼の言葉を告げながら笑みを浮かべる零。そしてその後二言三言と美由希と会話を交わしてから電話を切った後、部屋の天井を見上げながら深く息を吐いた。

 

 

零「……とは言ったものの……普段の俺がなのはにしてやれていない特別なこと、な……」

 

 

一人呟きながら、零は思考と記憶を巡らせる。結婚式以降、自分となのははほぼ結婚前と変わらずに今まで通り自然体で接していた。やはり幼い頃から家族同然に暮らしてきた為にお互いにその方が落ち着くのだが、やはりそこは夫婦らしくなのはも愛を語らったりもしてくれる。だが、自分はいつも比喩的にしか伝えていないから、自分の素直な気持ちをなのはに伝えた事は未だにない。

 

 

零「俺の素直な気持ち……俺のアイツへの気持ちと……俺がアイツにどんなことをしてやりたいか……」

 

 

思えば、今まで自分から何か趣旨を拵えて誰かにしてやるというのはしたことがないような気がする。いつもは誰かが企画を発案して自分はそれに乗り、その過程で何かをするということは度々あったが、こうして自分が誰かの為に何かサプライズを考えることなどあまりなかったかもしれない。

 

 

……考えればこれも、自分がいつもなのはにしてやれていない特別な事ではないか?

 

 

零「しかし、今から何を考える?俺一人じゃそんな大した計画は……ん?」

 

 

頭を悩ませながらふと視線を下げると、自分のデスクの上に置かれている数枚のチラシらが視界に入った。確かさっき家に帰って来た時に家のポストに入ってた物を取り出しそのまま部屋まで持ってきてしまったんだったなと、頭の中で思い出しながら何気なくチラシを漁っていくと……

 

 

零「――?これは……」

 

 

ピタッと、不意にチラシを漁っていた零の右手が一枚のチラシを手にして動きを止め、チラシに書かれてる広告に目を通していく。

 

 

零「……これだったら、俺でも……いやだが、今から間に合うのか……?」

 

 

……いいや、もうこれしか考え付かない以上、間に合わせるしかないッ!そう心の中で力強く決心すると共に、零は意を決した表情を浮かべて椅子を倒しそうなほどの勢いで立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

なのは「―――えっと……メールで指定された公園って確か、此処……だよね……?」

 

 

それからおよそ数時間後。

 

 

明日の自分が担当する教導の訓練メニューの組み立てや、データの整理等で帰宅時間が夫の零よりも遅れたなのはは、現在、雪が降り積もるミッドの町を歩いてとある公園の前まで訪れていた。

 

 

なのは(仕事が終わったら此処に来い、なんてメールをいきなり寄越すなんて……急にどうしたんだろう?何かあったのかな……)

 

 

寒さが厳しい冬の夜。幾らマフラーとコートを着込んでるとは言っても、やはり寒いものは寒い。

 

 

こんな寒い夜は仕事場から一直線に家に帰り、暖炉や暖かい夕食であったまりながら家族団欒を過ごすのが一番だと、彼女の夫である零が口にしていたのを覚えてる。

 

 

そんな事を言っていた彼がわざわざこんな寒い夜の下で待ち合わせだなんて、やはり何かあったのだろうか?

 

 

そんな疑問を抱きつつサクサクと音が鳴る雪に足跡を刻みながら歩いて公園の中へと立ち入り、待ち人の姿を捜して白一色の雪景色で彩られた公園をグルリと見渡していく。すると……

 

 

なのは「うーん、と……あ、いた。おーいっ!零くー…………」

 

 

そんなに広い公園ではない。寒い夜だし、人気のない公園で人っ子一人見つけるなど造作もない。

 

 

実際彼女は愛しい待ち人の姿をすぐに発見出来たし、片手を振りながら笑って声を掛けようとしたのだが、その表情は思いっきり引っ込んで引き攣った顔になってしまった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

零「………………………………………あぁ………………………………………来たのか、なのは………………………………………」

 

 

 

 

 

 

……公園の中にあるベンチに座り込み、全身に白い雪を積もらせて何やら重たい空気を漂わせて落ち込んでいる旦那の姿があったからである。

 

 

なのは「れ、零君っ?ちょ、どうしたのっ?っていうか何してるのこんなとこでっ?!」

 

 

零「…………いや…………まあアレだ、ウン…………雪化粧って奴だ…………似合うだろう……………?」

 

 

なのは「意味違うからソレっ!いいからほらっ、とにかく立ってっ!」

 

 

見るからに自分の意思で立つ気力も無さそうな零の腕を引っ張って強引に立たせ、全身に積もった雪を払い落としていく。

 

 

雪の積もり具合からしても恐らく一時間くらい前から此処にずっと座っていたと思われるが、幾ら丈夫な彼でもこれでは身体が冷えて風邪を引いてしまうではないか。

 

 

だと言うのに、そんな当の本人である零は寒がる様子も見せず、バツが悪そうになのはから顔を逸らしたまま口を開いた。

 

 

零「なのは…………その、すまない…………」

 

 

なのは「謝るくらいなら最初から家で待っててよっ!もし凍死なんてしたらどうするの……!」

 

 

零「いや、そうじゃなくて…………今日の、記念日のことなんだが…………」

 

 

なのは「……へ?」

 

 

ピタッと、零の口から出た記念日というワードを聞き、なのはは思わず雪を払う手を止め零の顔を見上げる。そんな彼女に対し、零は申し訳なさそうに瞼を伏せながら軽く頭を下げた。

 

 

零「本当なら、こういう日は……テレビや雑誌で見るような洒落た店で食事とか、気の利いた贈り物とか……もっとそういう、サプライズ的な何かを用意するのが当たり前なんだろうが……ロクにそういう事を学んで来なかったせいか、それに勝るぐらいの『特別』な事が思い付かなくてだな……」

 

 

なのは「あの……零君?」

 

 

零「いや……元はと言えば全部、俺が悪いんだが……そのせいで、こんな物しか用意出来なかった……」

 

 

なのは「……え?」

 

 

困惑して首を傾げるなのはにそう言って、零はずっとコートのポケットに突っ込んでいた左手を抜き取り、なのはの前に差し出し恐る恐る拳を開いていく。すると、其処には……

 

 

なのは「?これって、もしかして……ビーズ?」

 

 

零「……を使って、作った物だ。不格好だけどな……」

 

 

零の掌の上に、淡く綺麗な様々な色の飾り玉……その中でも特に際立つ、なのはのシンボルカラーの白と青、そして、彼女の魔力光の色であるかわいらしいピンク色のビーズで作られた、少しばかり不格好だが星をモチーフにした編みリングが乗せられていたのである。

 

 

なのは「えっ、これ、作ったの?!零君が?!」

 

 

零「……家でヴィヴィオにも手伝ってもらって、だけどな……コイツを見て思い付いて、材料とか教本とか買い集めて作り始めたのまでは良かったんだが、やっぱり付け焼き刃じゃこれが限界だった……」

 

 

落胆した様子でそう言いながら右側のポケットに手を突っ込み、其処からクシャクシャに折り曲げられた一枚の紙……零が制作した物とは比べ物にならない完成度の作品、ビーズで作られたブレスレットやネックレスなどが載ったビーズ教室のチラシをなのはに見せて、顔を俯かせてしまう。

 

 

零「それでも、付け焼き刃なりに少しずつ上達して、ヴィヴィオにもデザインを考えてもらったりと途中までは上手く行ってたんだが……失敗する度に時間を気にしたり、そのせいでまた失敗を繰り返して……途中からはもう、やはり何か別のプレゼントをとも考えたんだが、当日になって慌てて用意したものをせっかくの初の記念日に贈っても誠意が篭ってない上に、お前の気持ちを疎かにしてる気がしてな……」

 

 

なのは「…………」

 

 

零「本当に、すまん……実は……その…………」

 

 

こんな不格好なプレゼントしか用意出来なかった以上、やはり真実を包み隠さず話すしかない。

 

 

しかし、一体彼女になんと伝えるべきか。

 

 

どう言葉を取り繕った所で、今日という日を楽しみにしてたであろう彼女の期待を粉々に打ち砕く事に変わりはないのだ。

 

 

寒さのせいか、はたまたそれ以外の要因のせいなのか、ビーズの指輪を乗せた手を震わせながら彼女に事実を話そうとするが、そんな彼に対し、なのはは軽く息を吐きながらビーズの指輪を持つ零の手を握り……

 

 

 

 

なのは「――記念日の事、すっかり忘れてたんでしょ?知ってるよ」

 

 

 

 

零「……………………………………………は?」

 

 

 

 

そんな、なんでもないようにとんでもないことをアッサリ言い放ったのであった。

 

 

零「知っていた、って……お前……は?何故にっ?」

 

 

なのは「何故って、あのね……何年一緒にいると思ってるの?昨日の時点で零君の態度とか反応とか見てれば直ぐに分かったよ。昨日の私、なんかわざとらしいぐらい妙に機嫌が良いように見えなかった?」

 

 

零「……ま、まさかっ」

 

 

ワナワナワナと、先程とは違う震えに襲われながら零がそう問い掛ければ、漸く気付いたか……と言いたげに、なのはは呆れるように深く溜め息を吐いた。

 

 

なのは「こっちが分かりやすくアピール繰り返しても全然いつも通りの反応しか返さないから、『あ、これ完璧に忘れてるな……』って直ぐに思ったもん。零君じゃあるまいし、私が気付かない訳ないでしょう?」

 

 

零「なっ……あ、悪趣味にも程があるだろうお前ッ!!?」

 

 

なのは「零君だって、今日まですっかり忘れてたんだからコレでおあいこだよ。……私はちゃんと覚えてたのに……」

 

 

零「ぐっ……それは、確かに、そうかもしれんが……」

 

 

なのは「……だから、今日だって私が色々と準備して、ネタバラシで零君をびっくりさせてそれで満足しようって、そう思ってたのに」

 

 

そっと、まるで水を掬い上げるかのように両手で零の掌の上の指輪を大切に受け取り、その不格好な作りを見てなのはも思わずクスッと小さく微笑んだ。

 

 

なのは「びっくりさせるつもりが、逆にびっくりさせられちゃうんだもんなぁ……あーあ、何か悔しいなぁー」

 

 

零「ッ……良く言う、してやられたのは寧ろこっちの方だってのにっ」

 

 

なのは「こういうイベントの駆け引きで、零君が私にまだまだ敵う筈ないでしょ?まあ、今回はたまたまだったけど次はこうは行かないだろうし、もうちょっと昇進が必要かもねぇ。ま、私を見習って頑張りなさいな若人♪」

 

 

零「誰の真似なんだソレはッ!クソッ!無駄に頭を悩ませて損したっ……!」

 

 

此処でなのはを待ってる間に土下座する覚悟もしてたからこそ、ヴィヴィオの前では見せられないとこんな寒空の下の公園を待ち合わせ場所に選んだのにとんだ無駄骨ではないかと、腕を組んでそう毒づきそっぽを向いてしまう零だが、そんな零を見てなのはは苦笑いと共に手の中の指輪を大事そうに胸に当て微笑んだ。

 

 

なのは「でも……嬉しいって気持ちは、ほんとだよ?もう半ば諦め掛けてたから、私から今日のことを言い出さなきゃ駄目だろうなって思ってたし……だから、すっごく嬉しい……」

 

 

零「……っ……」

 

 

恐らく、少ない時間の中で少しでも凝った作りにしようと努力したのだろう。所々の作りに細かい作業の痕跡が見受けられ、零の手から受け取った掌の上の不格好なビーズの指輪を大切そうに、愛おしげに見つめて嬉しそうに微笑むなのは。

 

 

そんな彼女の表情を横目に、顔を背けていた零も視線を逡巡させて何か迷うように瞳を伏せると、なのはの方に向き直り、突然自身のマフラーの端っこをなのはの顔を隠す様に押し当てた。

 

 

なのは「わっぷ?!ちょっ、ちょっと!いきなり何?!」

 

 

零「うっさいっ。今日はお前のおかげで散々振り回されたんだっ。これぐらいの仕返しはしてもバチぐらい当たらんだろうよっ」

 

 

なのは「そ、それは元々記念日を忘れてた零君のせいでしょーっ?!」

 

 

もう!いいから退けてよこれー!と叫びながら、顔を覆うマフラーを退けようと上から押さえ付ける零の手を掴んで離そうとするなのは。すると、零はそんな彼女の顔を暫しジッと見つめて僅かに深呼吸をした後、徐になのはの耳元に顔を近付け……

 

 

 

 

 

零「……―――――――――」

 

 

 

 

 

なのは「…………へ…………?」

 

 

 

 

 

誰もいない、真っ白な無音の世界で囁かれた言葉。

 

 

それを聞いたなのはは一瞬彼から何を言われたのか理解が追い付かず固まってしまい、マフラーの上から押さえ付けられていた零の手がソッと離れて視界が戻ると、なのはの目の前に立つ零はマフラーを鼻の上まで覆って顔を隠しながら、耳を赤くしてなのはの顔を見ないようにそっぽを向いていた。

 

 

零「……とっとと帰るぞ。家にアルティを置いてきたとは言え、これ以上ヴィヴィオを一人にしとくのは心配だからな……」

 

 

先程までと違って声のトーンを落とし、何処かぶっきらぼうに聞こえる口調でそう言いながらそそくさと公園の入り口に向かって逃げる様に早足で歩き出す零だが、急ぎ過ぎて足元の注意が疎かになっているのか、その道中で雪に足を取られて危うくコケそうになり「アイタッ!」などと間抜けな声を上げている。

 

 

そんな締まらない後ろ姿を目にし、先程の突然の告白から呆然と固まっていたなのはも我に返りながら思わず吹き出してしまい、掌の上のビーズの指輪をもう一度見下ろすと、手袋を外した右手の薬指にビーズの指輪を嵌め、零の後を追って横に並びながら零の左手に裸の右手を絡めていく。

 

 

零「……お前、こんなクソ寒い中で手袋外して歩くとか、しもやけになっても知らんぞ……」

 

 

なのは「そうだねー。明日も事務作業とか山ほどあるし、指が使えなくなったら大変かも。まぁ、だからほら、愛しい旦那様には奥さんの綺麗な手を温めて守って頂こうかなー、と」

 

 

零「なんで俺なんだっ。手袋あるなら手袋すればいいだけの話だろうがっ」

 

 

なのは「だってさっき零君の身体から雪を落とす時に手袋も冷たくなっちゃったし、零君のこっちの手はずっと指輪持ってポケットに入れてたから暖かいもん。こんな寒い雪の中を呼ばれてわざわざ来てあげたんだから、たまにはワガママくらい言っても許されると思うんですけどー?」

 

 

零「ハッ、たまに?おいおい、お前がワガママを言わなかった日なんて何時あった―ギリギリギリギリギリィッ!!―イダダダダダダダダダダダダダァッ!!?ちょっ、ばっ……?!待てっ!!分かったっ!!悪かったっ!!今のは俺の失言だった謝るゥううううぐぁあああああああああああああああああああああっっっっ!!!?」

 

 

鼻を軽く鳴らしながらなのはの発言を小馬鹿にしようとした零だが、それがカチンッと来たなのはが無言のまま握り締めた手に力を込めて護身術の要領で片腕を捻っていき、零もすぐさまなのはに対して訂正して謝罪するが結局聞く耳を持たれず腕を極められ、悲痛な絶叫が雪降るミッドの街に木霊したのであった。

 

 

 

 

 

―――余談だが、指輪作りを手伝ってくれたヴィヴィオとアルティも実はなのはと共犯だったらしく、零が留守の間に家の中の飾り付けを済ませていたヴィヴィオとなのはが笑顔でハイタッチする傍ら、家庭内での妙な疎外感に落ち込んで暗い影を落とす零サンなのであった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/断罪の神と悲劇の天使

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――物心が付いたその日から

 

 

俺は、自分が周りの人間とは違うのだと気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輪の花が在る。

 

 

そよ風に揺れるその姿を美しいと愛で

 

 

散りゆく様を儚いと、誰もが慈しんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの物語がある。

 

 

様々な苦難を乗り越えて、主人公達がハッピーエンドに至るという有り来たりな筋書き

 

 

しかし、その険しい道程を、絶望に膝を屈せずに未来を信じて進み続けた彼らの健気な姿に誰もが涙し、拍手喝采を惜しみなく送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの奇跡が有る。

 

 

過去に一度流産し、それ以来児を産むことが出来ないと医師に断じられた筈の女が、児を授かり、愛する人に見守られながら我が子を産み落とした

 

 

あり得なかった筈の奇跡に、母と父は涙ながら腕に抱いた我が子に、そして児を授けてくれた神に感謝を捧げ、生まれてきてくれた我が子を一生守ってゆくことを誓った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その花の儚さは

 

 

その物語の結末は

 

 

その奇跡の尊さは

 

 

万人の心を打ち、涙し、美しいと口にした

 

 

それが普通だと

 

 

当たり前のように振る舞う彼らの姿を遠巻きに見つめながら、俺の心の内を埋める感情は一つしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おぞましい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故そのような醜いものを愛せるのか

 

 

何故そのような汚らわしいものを美しいと感じられるのか

 

 

理解出来ない

 

 

したくもない

 

 

豚の臓物をぶちまけて塗りたくった様な肉塊を見て、感動の念を向けているも同然な連中の感性をどうやって解かれと言うのか

 

 

だが、そんな俺の想いとは裏腹に、世界は俺が嫌悪するモノで満ち溢れている

 

 

幸福が

 

 

希望が

 

 

正義が

 

 

万人が「美しい」と感じるものを、美しいと思えない

 

 

嗚呼―――嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 

何だコレは?何の冗談だ?

 

 

汚らわしい

 

 

おぞましい

 

 

醜いぞ消えてなくなれ

 

 

吐き気が止まらない

 

 

寒気が収まらない

 

 

確かに俺は生きているのに、「生きてる」という実感すら湧かない

 

 

周りから聞こえて来る幸せを噛み締めるような笑い声ですら、呻き声や金切り声に聞こえる

 

 

ああ

 

 

何故だ

 

 

何故なんだ

 

 

理解不能の不快感が消えてなくならない

 

 

視界に映る総てに殺意すら抱く

 

 

俺はなんだ?

 

 

何故俺は他とは違う?

 

 

この言葉に出来ない感情を表すにはどうすればいい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰でもいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でもいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この懊悩に応えを―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

―――日の光もなく、灰色の暗雲に覆われた荒廃した大地の上を、一迅の風が吹き抜ける。

 

 

其処には生命と呼べるものはなく、人や獣、自然が存在していた痕跡らしきものも何一つ存在しない。

 

 

それもその筈、此処は生命という概念が生まれ落ちる事がなかった可能性の世界の地球……。

 

 

Mundi mortis―――正しく死の世界。

 

 

そんな世界に唯一人、黒を基調とした服装の黒髪の青年が、何処か物憂げな表情で灰色の雲を見上げて佇む姿があった。

 

 

幸助「――こんな時に限って運が悪い……最期の時は何処か縁の場所をと思って適当に跳んだら、辿り着いたのはこんな世界か……」

 

 

やれやれと、肩を竦めて溜め息を吐く青年の名は天満幸助。

 

 

断罪の神として様々な世界の住人達を手助けし、或いは救ってきた平行世界の頭役。

 

 

―――そして、永い時を生き過ぎた代償により魂が摩耗がし、今正に、三度目の死を迎えようとしていたその人だった……。

 

 

 

 

 

 

―ザッ……―

 

 

「―――寧ろ、貴様にしては中々趣のある"死に場所"を選んだのではないか?この荒廃した大地……ああ、此処に立てば鮮明に思い出す……嘗て貴様が戦い抜いた第二のラグナロクの成れの果て、そのものの光景だろう……?」

 

 

幸助「……ほざけ。あの時も裏で暗躍し、そう仕向けた貴様が言えた義理か……」

 

 

 

 

 

 

土を踏む音を鳴らし、何処か懐かしむように悦に浸る声を背中越しに聞きながら、幸助は僅かに振り返った先に佇む一人の男を鋭い目付きで睨み付ける。

 

 

その服装は常時身に纏っている筈の黒いローブではなく、軍服のような制服に身を包み、両手には白の手袋、黒のブーツ姿という幸助も初めて目にする姿だが、その忌まわしい顔だけは忘れた事など片時もない。

 

 

荒れ果てた大地に吹く風に揺れる漆黒の長髪に、三度の死を前にした幸助の姿を愉悦げに捉えて離さない真赤い瞳。

 

 

その顔立ちは幸助が知る青年の顔と良く似ているが、その冷酷非情な人格も本性も、奴の息子の彼とは到底似ても似つかない。

 

 

―――黒月八雲。

 

 

総ての物語からその存在を赦されず追放されながらも、禁忌を破り、未だあらゆる世界の裏で暗躍する男。

 

 

―――そして、嘗て天満幸助の妻と親友をその手に掛け、彼等から『人』としての幸福を奪った怨敵であった……。

 

 

八雲「驚愕は無し、か……その様子だと、どうやら貴様も薄々気付いてはいたようだな。貴様の三度目の死を、俺がみすみす見過ごす筈がないと」

 

 

幸助「当然だろ。生粋のバットエンド主義者のテメェが固執する俺に、自然消滅なんてつまらん幕引きをさせるとも思わんし、貴様の目的も分かってんだよ……俺の"因子"が狙いだって事はな」

 

 

左胸を鷲掴み、未だ鼓動が鳴り続ける自身の心臓……断罪の因子を示してそう語る幸助に、八雲は愚問だと言わんばかりに笑ってみせる。

 

 

八雲「いつかのあの出来損ないの物語(せかい)でも語って聞かせた通りだ……俺のもう一つの目的の為にも、貴様の因子の真価をこの目で確かめる為にも、お前には存分にその力を振るってもらわなければ困る……ああ、いや、違う。違うな。それだけではないか」

 

 

訂正するように呟き、白い手袋に覆われた右手で前髪を弄りながら、八雲は目を細めて口端を吊り上げる。

 

 

八雲「貴様を一度殺したのは俺だ。ならばそう、お前が今一度死ぬのであれば、安寧なる死など認めん。他の誰にも渡しはしない。赦しはしない。貴様を最期まで殺していいのは他の何者でもない―――俺だけだろう?」

 

 

幸助「……随分な告白だな。俺が女なら、今すぐ助走を付けてその顔にビンタ一つでも叩き込んでた所だ」

 

 

八雲「軽口を叩ける余裕があるのなら、消滅までの残りのタイムリミットの心配はいらなそうだな」

 

 

フッ……と、八雲の身体が僅かに宙に浮き上がる。それを目にし、幸助も即座に断罪の剣―――メモリアルブレイドを取り出して構えを取ると、八雲は両腕を掲げ謳うように語る。

 

 

八雲「―――では、俺からのせめてもの贈り物だ。葬送曲(レクイエム)を捧げてやろう。絶望を奏で、哀絶を歌い、貴様の物語を新たな『悲劇』として彩ろうじゃないか……」

 

 

幸助「人の人生の終わりを勝手に決めてんじゃねえよ。俺の結末は俺が決める……テメェとの因縁にケリ付けて、若い連中に後を託すって結末をなァッ!」

 

 

力強く地を踏み込み、八雲の目前に瞬時に現れた幸助が横一閃にメモリアルブレイドを振りかざす。

 

 

だが、メモリアルブレイドの刃が触れる寸前、八雲の姿が残像のように掻き消えメモリアルブレイドの刃は空を切ってしまい、直後に幸助の背後に八雲が音もなく姿を現した。

 

 

八雲「そう急くなよ、断罪の……貴様と戦いを興じようにも、俺と貴様が惜しみなく力を発揮して一度ぶつかれば、この銀河―――いや、世界そのものが一瞬で消し飛び、ロクに戦う事も叶わない……ならば此処は、我々二人に相応しい舞台を用意すべきだとは思わんか?」

 

 

幸助「……何?」

 

 

どういう意味だ、と険しげな眼差しで八雲を睨み付ける幸助だが、八雲はそれに対して答えず、ただすぐに分かると言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、真赤い瞳を不気味に光らせながらゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

Omnia eunt more modoque fluentis aquae.

 

万物は流れる川のように移ろいゆく

 

 

Mundus vult decipi, ergo decipiatur.

 

世界は騙されることを欲している、それゆえ世界は騙される

 

 

 

 

 

 

幸助「……!これは……」

 

 

 

 

 

 

八雲の口から紡がれるのは、正体不明の謎の詠唱。

 

 

しかし、その声を耳にした瞬間に背を走り抜ける寒気を感じ取り、幸助は無意識のままメモリアルブレイドを振り下ろした姿勢から瞬時に剣を構え直した。

 

 

 

 

 

 

Damnant quod non intellegunt.

 

彼等は、彼等が理解しないものを非難する

 

 

Cum tacent, clamant.

 

彼等が沈黙しているとき、彼等は絶叫しているのである

 

 

Date et dabitur vobis.

 

与えよ、さらば与えられん

 

 

Ducunt volentem fata, nolentem trahunt.

 

運命は望む者を導き、欲しない者を引きずる

 

 

 

 

 

 

響き渡る声は静かに、だが無限の情熱を持って綴られる。

 

 

魂ごと木っ端微塵に砕けそうな重圧。

 

 

紡がれるその謳の一つ一つが、極大の破壊と歓喜を放ち、奴を中心に荒廃した地上総てが焦土と化して燃え盛る。

 

 

狂した意志が威圧を伴い、総ての世界から追放されし者の両眼が輝きを増す。

 

 

 

 

 

 

Dum fata sinunt vivite laeti.

 

運命が許す間、喜々として生きよ

 

 

Homo vitae commodatus non donatus est.

 

人は生命を与えられたのではなく貸されたのだ

 

 

Initium sapientiae cognitio sui ipsius.

 

自分自身を知ることが知恵の始まりである

 

 

Fiat eu stita et piriat mundus.

 

正義を行うべし、たとえ世界が滅ぶとも

 

 

Nemo fortunam jure accusat.

 

誰も運命を正当に非難できない

 

 

 

 

 

 

――――クル。

 

 

直感的にそう悟り、次に迫る衝撃に奥歯を噛み締めながら挑み掛かるかのように、八雲を睨み付ける幸助。

 

 

直後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「――Die Geburt der Tragodie (悲劇の誕生)……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一節が紡がれたその瞬間、荒廃した灰色の世界が光に覆われ、総てを塗り潰したのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

――――先ず、一番最初に目にしたのは、眼下に見える青の星だった。

 

 

それは、彼も数多の世界で多く目にしてきた人の児達の母なる星―――地球。

 

 

つい先程まで、生命の存在を一切赦さない死の星と化していたあの星が、何故青の輝きを取り戻しているのか……。

 

 

その答えは、今自分が立つ此の空間が示していた。

 

 

幸助「―――地球の……真上か、此処は……」

 

 

死の星の地上を踏み締めていた筈の己の足が、いつの間にか宇宙空間を漂っている。

 

 

一体何が起きたのか、余人には理解不能の超展開。

 

 

だが、断罪は既に、この異常の正体に気付いていた。

 

 

「―――そう。これが俺の描く流出(ものがたり)だよ……断罪の」

 

 

無が支配する静寂の中、空から声が響き、顔を上げる。

 

 

其処に視えたのは、目映い太陽の輝きを背に幸助を見下ろす軍服姿の男……。

 

 

愉悦の相を隠そうともせず、笑みを貼り付けたまま、八雲はまるで愛児でも見るような眼差しで語る。

 

 

八雲「俺の渇望、俺の本性、俺の業……それらが形を成し、生まれ出たのがこの世界―――いや、そう呼ぶほど仰々しいモノでもないな……今この瞬間は、俺と貴様が歌劇を舞う為だけのただの舞台と思えばいい。俺達の闘いに、あの世界(フィクション)は脆すぎる……この世界でなら、俺達の力の拮抗にも耐え、野暮な連中の横槍を気にする必要もなく存分に戦えようさ」

 

 

幸助「…………」

 

 

そう語る八雲の言葉を耳に、幸助は眼下に映る地球を見下ろし、思考する。

 

 

恐らく此処(この世界)は、八雲の言葉通り、奴がイレイザーの力で生み出した新天地……

 

 

……いや。恐らく元々あったあの死の世界を自身の理の形にデフォルメし、その上に、知覚不可の己の世界を生み出したのだ。

 

 

例えるのであれば、古びた紙の上に、全く同じサイズの新しい紙を乗せて重ねているようなものか。

 

 

別次元の並行して存在する並行世界とも違ければ、嘗てイレイザーとなった零が、雷牙の世界を無理矢理己の物語に書き換えた訳でもない。

 

 

この世界は、あの死の世界の上に均等に重なり、現状"全く同じ次元に、あの死の世界と八雲が生み出した世界が同時に存在しているのだ"。

 

 

本来の常識下であれば、不可能な所業。

 

 

最早天地創造の域のその業を成しているのは、偏にイレイザーの力だけではない、八雲という男の規格外さが可能としているのだろう。

 

 

幸助「出鱈目な奴め……イレイザーの分際で世界を創り出すだなんて真似事、自分が神と同格になったとでも自慢のつもりか?」

 

 

八雲「それは少し違うな、断罪の。俺は神などというフィクションの象徴のソレではない。……単にこの物語(せかい)を描くだけの、ただの物書き風情に過ぎんよ」

 

 

八雲の視線が僅かに眼下の地球……其処に生きる、八雲の渇望から生まれ出た何も知らない人々に向けられる。

 

 

だが、その瞳の内には感情と呼べるものが宿っておらず、ただ何となしに、道端に転がる石に気付いて目を向けたのと同じ意味に過ぎない。

 

 

 

八雲「この力は、上級イレイザーの中でも極めて極大な渇望を抱く者にしか開眼出来ない禁忌の中の禁忌……しかしその実、自らの内の渇望を垂れ流し、形を成したソレを貴様の言うように神の真似事で見せられるだけの退屈な物に過ぎん」

 

 

そう呟き、直後、地上の何処かで巨大な大爆発が巻き起こった。

 

 

それも一つだけではない。

 

 

日本、アメリカ、イギリス、中国等の各国から無数のドーム状の爆発が次々と連鎖的に発生していき、人々も突然の混乱に悲鳴を上げ、逃げ惑い、ただただ絶望だけが加速的に世界中に広まっていく……。

 

 

その光景は正に、阿鼻叫喚が絶え間なく響き渡る地獄絵図。

 

 

そうとしか呼ぶ事が出来ない光景を天上から見下ろし、八雲は声音一つ変えずに語り続ける。

 

 

八雲「俺の渇望は『至高の悲劇を望む事』……それで生まれたこの世界はどうだ?なんでもない……"ただこの世界に生きる者総てが、幾ら努力し、善行を重ねても、救いようのない悲惨な悲劇の結末にしか至れない"……ただそれだけの世界だ。ああ、実に面白味がない。悲劇とは名ばかり。幾ら数を重ねようとも所詮は有象無象。役者が悪ければどれも二流以下の歌劇しか生まれない……それでは俺の餓えは満たされはしないのだよ」

 

 

だからと、長い前髪を掻き分け、八雲は幸助をその目に捉える。

 

 

八雲「この箱庭(せかい)は狭い……ただ紙の裏につまらない文字を書き起こして並べるだけの一人遊びにも飽いた……。此処で得る肥料も水も、俺にとっては枯れ井戸でしかいない……分かるか断罪の?俺の喉を潤せるのはあの出来損ないでもなければ、七柱神でも、烏合の異世界の連中でもない……貴様という主役がいてこそ、始めて成り立つものなんだよ」

 

 

幸助「……能書きはそれで終わりか……?生憎、こっちはテメェのくだらねえ趣味に付き合う気はねえんだよ」

 

 

そう吐き捨て、幸助は手に握る断罪の剣を八雲に突き付ける。

 

 

力の矛先をはっきりと、戦意と共に怨敵に翳す。

 

 

お前を殺す。ただその意味だけを込めて。

 

 

幸助「テメェの渇望だの、渇きだの知った事じゃねえ。俺がやるべき使命は今も昔も変わらない……貴様の大罪を此処で断罪する……他に語るべき事は何もない。ただそれだけの話だっ」

 

 

八雲「…………」

 

 

この男に対し、一切の怨念がないのかと聞かれれば、無論あるに決まっている。

 

 

幾ら億数年の時を重ねようとも、例え万が一、運良く三度目の死を免れてこれから更に数千と時が経とうとも、自分達の幸せを奪い、妻と親友を殺し、自分達の故郷だった世界を滅びへと誘ったこの男だけは決して許せない。許せる筈も無い。

 

 

しかしそんな怨念も多忙な断罪の神の使命で心の底に仕舞い込み、この男を倒すのは奴の息子である零達の役目だと思っていたが、今のままでは八雲を倒すどころか、逆にこの男の暗躍に圧し潰されてしまう可能性の方が高い。

 

 

ならばせめて、この最期の瞬間、先に逝く者として、後の未来を往く若者達が道を切り拓けるように布石を残す。

 

 

それが今の自分に残された最後の役目だと、そう告げる幸助のまっすぐな眼差しを正面から受け、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ザザザァッ……ザザザザザザザザザザァアアッ……!!―

 

 

『――――――――――ッッッ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――八雲の脳裏を、一瞬だけ駆け巡ったノイズ混じりの記憶……。

 

 

禍々しくも神々しいその姿……。

 

 

漆黒の翼にも似たマントを羽ばたかせ、この世総て、森羅万象を破滅へと誘わんとする『鬼神』の姿を垣間見た。

 

 

八雲「――――く、は」

 

 

その瞬間、その口から不意に、僅かに何かが漏れる。

 

 

もちろん、それが何かは知っている。

 

 

今までも数多の世界で暗躍してきた頃、フードで顔を隠し、イレイザーとしての側面を前面に押し出していた自分が散々やってきたことだ。

 

 

だが、これは初めてだ。

 

 

八雲「はは……く、ははは……ははっ……」

 

 

イレイザーとしての側面の自分ではなく、"黒月八雲"として声を出して嗤うのは、一体どれほど以来だったか。

 

 

久しい故に、我ながら上手く出来ない。

 

 

どうにかこの気持ちを表現したいが、これでは嗚咽のようにも見える。

 

 

いや、最早それでも構わないか。

 

 

いいぞ、ああ、もう面倒だ。

 

 

奮わせてくれ。

 

 

泣かせてくれ。

 

 

この身は総て、人の世の悪性しか愛せない破綻者。

 

 

希望よりも絶望を。

 

 

正義よりも悪を。

 

 

喜劇よりも悲劇を。

 

 

そんな歪んだものしか愛せず、認められず、それらを愛する事でしか抱けなかったこれを、心の底から吐き出させてくれ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

八雲「はッははははははははははははははははははははッ!!!!ははははははははははははははははははは――――――ッ!!!!!!」

 

 

幸助「?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

天上の宇宙を仰ぎ、突如八雲が歓喜の哄笑を上げる。

 

 

そんな八雲の突然の反応に幸助も驚愕を露わにするも、八雲はそんな幸助を他所に、止めどなく湧き起こる歓喜に身を奮わせて幸助を見据えた。

 

 

八雲「くく、くくくくくく……アァ、そうか、そうなのか……やはり貴様が"そう"なのだな……であるなら、俺が此処まで貴様という存在に固執するのも道理なのか……」

 

 

幸助「っ?何言ってやがる?いきなり何の話を―――!」

 

 

突然不明な台詞を口にする八雲に眉を顰め、思わず幸助が聞き返そうとしたのと同時だった―――

 

 

 

 

 

 

Aut disce aut discede.

 

学べ、さもなくば、去れ

 

 

幸助「――!!?な……」

 

 

 

 

 

 

突如八雲の口から歌われる詠唱。

 

 

その瞬間、まるでそれに呼応するかのように二人が浮遊する空間が不気味に震え出し、幸助は背筋を駆け抜けたその不吉な予感に釣られるように天上の八雲を仰いだ。

 

 

Vivere disce, cogita mori.

 

生きることを学べ、死を忘れるな

 

 

幸助「ま、さか……止めろぉおッ!!八雲ぉおおおおおおッ!!!!」

 

 

二節目の詠唱を耳に、八雲が何をしようとしているかなど考えるよりも先に予想し、断罪の剣を手に幸助が飛び掛かる。

 

 

しかしその刃が届くよりも早く、八雲は幸助と眼下の地球を真赤の瞳に捉えながら白い指を差し向け、直後、二人の間に白光が発生したと共に幸助と八雲を呑み込み、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Alea iacta est!

 

賽は投げられた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に紡がれた一節と共に

 

 

光は一瞬で太陽系全域へと広がり

 

 

やがて太陽系そのものを呑み込み、一瞬で全てを消滅させてしまったのである。

 

 

幸助「グッ――あああァッ!!!!」

 

 

無数の星々が爆発して発生した膨大なエネルギーが、幸助を飲み込んでその身を焼き尽くしていく。

 

 

並の者ならば、最初の衝撃だけで細胞一つ残らず消し飛ぶ程の業火。

 

 

しかしこの男も、かの断罪の神と呼ばれた男。

 

 

たかだか太陽系の星々が消し飛んだ程度の爆発でどうとでもなる筈もなく、体内の神氣を開放して衝撃波を放ち、身を焼く焔を払い除けた。しかし……

 

 

幸助「ッ……地球が……」

 

 

幸助の目に映るのは、元の原形が何一つ残らず無へと消え去り、先程まで地球が存在していた筈の空間。

 

 

消えてしまった。何も出来ず、こんな簡単にも、地球の人々が……。

 

 

「―――何をそんなに憂えている?この物語(せかい)は俺の渇望から生まれた独りよがりなモノ……いずれ悲劇の結末に至り、初めから死が前提で生まれた連中のことなど気に掛けてどうする?」

 

 

幸助「ッ……!」

 

 

背後からの含み笑うような男の声。

 

 

振り返り、剣を突き付けた先には、やはり幸助と同様に無傷で宇宙空間を悠然と漂う八雲の姿があった。

 

 

八雲「それよりもだ、今は先の一撃にも耐えてみせたこの物語(せかい)の健在を喜ぶべきではないか?ああ、実の所、俺も驚いている……この身は罪の体現、無数の業と共に我が身は在り、罪業が何処かで生まれる度にその力を増す……故に永く、全力を出す事も叶わなず億劫の時を歩んできた……」

 

 

しかしだ、と、八雲は間を置いて言葉を区切り、威圧を伴い真赤の両眼が輝く。

 

 

放たれるのは極大の戦意。

 

 

宿っているのは堪え切れぬ歓喜……その一色のみ。

 

 

八雲「信じられるか……?抱擁どころか、柔肌を撫でるだけで脆く枯れ落ちる目の前の光景が、今も俺の前にある。あるんだよ。それだけで心が躍る、無垢の子供のようにな。散々味わい続け、飽いた既視感も既知感も今はない……」

 

 

それはこの物語(せかい)が突出して頑丈だから……という訳ではない。

 

 

幾らこの世界が強靭な基盤を持とうとも、この世総ての罪業をその身に力とする八雲が詠唱(うた)を一度口ずさめば、それだけで数多の世界を破壊する災厄そのもの。

 

 

故の存在を赦されぬ存在であり、大罪者の烙印である「罪」の属性なのだ。

 

 

それでもまだこの程度の規模にまで被害が抑えられているのは、偏に幸助の内に宿るもう一つの因子……原罪を裁く役目を持つ「断罪の因子」の影響力が大きい。

 

 

だからこそ……

 

 

八雲「貴様の因子によって余分な力が削ぎ落とされ、俺はより『全力』を出す事が出来る。一方的な殺戮でもなければ、屈服させる為でもない。殺し、殺されるかの本気の殺し合い……それが叶うのはお前とこうして対峙した時のみだ。そういった意味でも、お前は俺にとって唯一無二の存在だよ。今この時、俺に確かに「生きている」と実感させてくれるのだからな……」

 

 

幸助「……そんなくだらないモノの為に、意味もなくこの物語(せかい)の人類を滅ぼしたと言うのかっ……」

 

 

八雲「何を其処まで気にする?元よりこの物語は、俺と貴様の闘いの舞台として描き起こしただけのもの。どの道この物語の理もある以上、遅かれ早かれ死に絶える運命だ……それに言った筈だぞ、葬送曲(レクイエム)を捧げてやると。貴様の事だ。どうせ異世界の連中どころか、伴侶の女神達にも何も言わず此処まで来たのだろう?」

 

 

幸助「…………」

 

 

まるで見透かすような視線を向けてそう告げる八雲に、幸助は口を結んで無言を通す。

 

 

図星なのか、それとも律儀に受け答える必要はないという意思表示なのか。

 

 

いずれにせよ、八雲は僅かに目を細めながら語り続ける。

 

 

八雲「誰にも知られず、看取られる事なく孤独に逝くぐらいなら、せめて寂寞を抱かぬように大勢の同志を連れて逝かせてやろうと、俺なりの気遣いのつもりだったのだがな……気に入らなかったか、断罪の?」

 

 

幸助「ふざけるな……そんなことを決める権利が貴様にあるのかっ!」

 

 

八雲「愚問だな……俺が俺の描いた流出(ものがたり)の登場人物を気に掛ける必要が何処にある?それにコレが初めてという訳でもない。あの出来損ないの因子……破壊の因子をスカリエッティの一味に授ける前、この物語を展開して破壊の因子の力を持つ新たなクリエイトの幹部候補のイレイザーを生み出せないか、何度も実験を繰り返した末、人類滅亡など何度も繰り返した……結果は察しの通りだったがな」

 

 

そう語りながら八雲が思い出すのは、何度もこの物語の流出を行い、破壊の因子をこの世界の中に落としてから紡がれた、どれも到底物語とは呼べぬくだらないモノばかり。

 

 

ある時は、破壊の因子を手に入れて悪用し、世界中を巻き込んだ戦乱を招いた悪しき者を討つ為に、後の世に英雄と呼ばれる事になる者達が立ち上がって悪しき者を討った事もあれば

 

 

この物語の真実に気が付き、破壊の因子の力を使って八雲の下にまで辿り着き、この物語(せかい)を守ろうと挑んできた者もいた。

 

 

他にも似たような事はあるにはあったが……その中でイレイザーに至る者もいなければ、破壊の因子の力を真に正しく発揮出来た者は誰もおらず、結局は実験失敗の下に八雲の手で残らず消滅したのが共通する結末……。

 

 

アレは実に無為な実験だった。そう考えながら、八雲は徐ろに片手を頭上に掲げていく。

 

 

八雲「……いずれにせよ、死を目前にしてくだらんセンチメンタルに囚われる余裕はないぞ……?今この瞬間ばかり、もう加減はせんと決めている……すぐに余計な思考も出来なくなろうさ……」

 

 

Qui parcit malis, nocet bonis

 

悪人を許す人は、善人に害を与える

 

 

幸助「ッ……!八雲ッ!!」

 

 

再び八雲の口から紡がれる詠唱。それを見て、幸助も即座にメモリアルブレイドを両手で構えた。

 

 

Nec possum tecum vivere, nec sine te.

 

私はおまえとともに生きていけない、おまえなしに生きていけない

 

 

Respice, adspice, prospice.

 

過去を吟味し、現在を吟味し、将来を吟味せよ

 

 

幸助「オールフォームブレイクッ!」

 

 

二節目と三節目の詠唱。その詩を耳に幸助が高らかに叫ぶと共に、その身から無数の自身の分身……一人一人姿が異なる仮面ライダーメモリー達を生み出した。

 

 

ノーマルフォームとファイナルフォームを除き、イフリート、ウンディーネ、シルフ、セルシウス、ノーム、ヴォルト、アスカ、ルナ、シャドウ、マテリアル、ガイア、クリスタル、パーフェクト、スペリオル、スペリオルファイター。

 

 

本来であれば、ファイナルフォームの能力である全てのフォームの実体化。それを生身だけで実行すると言う離れ業をやって退けつつ、直後に分身のメモリー達はそれぞれの武器に素早く力を収束させながら八雲に向けて身構えていく。

 

 

Jucunda memoria est praeteritorum malorum.

 

過ぎ去った苦しみの思い出は、喜びに変わる

 

 

 

メモリーI『業火爆炎!インフェルノブレイカーッ!!』

 

 

メモリーU『飲まれろ流水の槍撃!アクアランサーッ!!』

 

 

メモリーS『荒れ狂え風の弓激!テンペストアローッ!!』

 

 

メモリーG『大地のスコップの一撃!アーススティンガーッ!!』

 

 

メモリーC『氷華の乱舞!アブソリュートブレイクッ!!』

 

 

メモリーA『光の砲撃!解き放て!!アスカバスターッ!!』

 

 

メモリーL『天の裁きよ、降り注げ!!ルナジャッジメント!!』

 

 

メモリーSW『闇の終焉にて食われて消えよ!ダークネスハウリング!!』

 

 

メモリーM『全ての属性の一撃を喰らえ!エンドオブ・マテリアルブレイカーッ!!』

 

 

メモリーGA『星よ、我が一撃に力を!エンドオブ・ガイアブレイカー!!』

 

 

メモリーCS『光と闇のクリスタルよ、我に力を!!エンドオブ・クリスタルブレイカーッ!!』

 

 

メモリーP『全ての力を一つに……これが完全なる一撃!!エンドオブ・パーフェクトブレイカー!!』

 

 

メモリーSP『グオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーー―――――ーッッッ!!!!』

 

 

メモリーSPF『ダブル・エンドオブ・スペリオルブレイカーッ!!!』

 

 

八雲の詠唱を掻き消さんとばかりに、怒号にも似た雄叫びを上げながら必殺技の発動準備を行うメモリー達。

 

 

対する八雲はそんな光景を目の当たりにしながらも臆するどころか薄い笑みを浮かべ、片腕を天上に掲げたまま、この物語の外に存在する無数の並行宇宙・並行世界にまで干渉、その内部の天体の配列を操作し、この死の世界と二人が存在する物語の外側に並べ始めていた。

 

 

その数はこの短時間で百、千、万……否。恐らくそれらを上回る数の天体を集め、八雲は不気味に輝く瞳で幸助達を見下ろしながら高らかに叫ぶ。

 

 

八雲「それでこそだ断罪の。さぁ、最期の恐怖劇(グランギニョル)を此処に……!盛大に祝おうか天満幸助!冥府への門は目の前だ!故に滅びろ!至高至天の悲劇に散る花と成れッ!!」

 

 

幸助「吐かせッ……!どちらが滅びるか知るのは貴様だッ!俺が遺すのはテメェに捧げる悲劇じゃねえっ……!アイツ等がこれからを歩む為の途だッ!故に滅びろ!未来を照らす道標の礎となれッ!!」

 

 

そして、二つの絶対が激突する。

 

 

まるで闘いの開幕を告げるかのように、一斉に撃ち放たれた分身のメモリー達の業と共に、剣を振り抜いて幸助が一息で跳び

 

 

迫り来るメモリー達の業の轟音により音が掻き消された最後の一節を八雲が口にすると共に、二つの世界の外側に集められた無量大数の宇宙・世界が極大規模の大爆発を連鎖的に起こしていき、そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

幸助/八雲「「行くぞォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――宇宙が先程の比にならない白い光に覆われる寸前

 

 

 

断罪の剣が悲劇の天使の頸に目掛けて振りかざされ

 

 

 

振るわれた白い指が断罪の神の額に向けて焔を放ち

 

 

 

二人の男の咆哮と共に、文字通り総てを巻き込んだ闘いが火蓋を切って落とされたのだった―――。

 

 

 

 

 




黒月八雲 設定(随時設定を更新予定)]

黒月 八雲

性別:男

年齢:外見は二十代後半だが、実年齢は不明。

容姿:漆黒の長髪に真赤い瞳。


解説:黒月零の実父で様々な事件の裏で暗躍してきた黒幕であり、自身と同じく全ての物語から追放された上級イレイザーのみで編成された組織『クリエイト』のメンバーの一人。


過去の黒月零と当時の彼の仲間達が関わったと言われる『アルテマの乱』で零達を陥れ、嘗ての時の神、破壊の神、究極と狂気の神を殺害、神道拓斗の世界でのグリード達の復活なども彼の手によって引き起こされた。


『至高の悲劇を味わいたい』、『誰もが絶望に身を堕とす姿をいつまでも見ていたい』といった歪んだ極大な渇望を抱いており、その渇望から多くの人間を嵌め、欺き、最悪の事態に仕向け、自らの望む『至高の悲劇』を創り続けてきた。故に、彼によって総てを狂わされた人間も数知れない。


その危険な思想と本質から八雲のイレイザーは『罪』の属性を司る者として誕生したが、それにより八雲は最悪な力を身に付ける事となってしまう。


八雲のイレイザーとしての能力は、『存在する罪(大小問わず)の数と、それらの罪の重さから強くなる』というものであり、これは八雲が犯した数が多ければ多いほど、犯した罪が重ければ重いほど戦闘力が増大するというもの。


聞いているだけでは大した事のない普通の能力のように思えるが、上記の能力は八雲がまだイレイザーに目覚めたばかりの頃の能力であり、八雲はこの力を利用して成長を続けていき、遂には規格外の化け物にまで上り詰めてしまう。


初期の頃の能力はあくまで八雲の犯した罪にだけ当て嵌まるものだったが、八雲の能力が成長するに伴い、対象が八雲自身だけでなく『存在する全ての物語の中の人間達が持つ、総ての罪の数とその重さから戦闘力が増す』というデタラメな能力にまで進化してしまう。


これにより八雲は自身の罪だけではなく、無限に存在する全ての物語の人物達の持つ罪(大小問わない)の数と重さが八雲の戦闘力として反映され、更に罪を犯す罪人が何処かで増える度に、新たな物語が生まれる度に強大化する化け物と化してしまう。


全ての物語の人物達の持つ罪を自らの力として得る為に、その戦闘力は未知数。彼と戦った事があるユリカや古い友人であったドール曰く、『彼がその気になれば多次元宇宙を一瞬で消し飛ばせる』らしい。


加えてイレイザーの能力がなくとも八雲自身の純粋な戦闘力は最強クラスとされており、例え零達一行が如何なる手段を問わず全力で挑んだとしても瞬殺、良くても秒殺が関の山であるらしく、ユリカも自身の弟子に『絶対に手を出すな』と言わしめるほど。


だが、それ故に『全力』を出せない事に憤りを感じており、その憤りを鎮める事を目的の一つとして悲劇を求めている。


『罪』の属性を司る事から『断罪』の因子を持つ天満幸助とは相性が悪く、彼と対峙して向き合うだけで著しく弱体化するという弱点が存在する。


幸助に目を付けたのもそれが理由と思われるが確かな真相は不明であり、彼と彼の大切な人達の人生を悲劇で彩り目茶苦茶にした上で彼等の命を奪うという非道を行うが、断罪の神に転生した幸助と、弱体化した上でなら『全力で戦える』という微かな愉しみを抱いている。


古い友人であるドール曰く、人間だった時代の八雲は今よりも人間らしく、ある世界では『英雄』として称えられた事もあったらしいが、この頃から彼の価値観と一般的な価値観の相違はあったとの事。




実は、今の宇宙が誕生する以前の宇宙……前世である古代宇宙時代(真・仮面ライダークロノス)から幸助達と出会っており、彼等との因縁が始まったのもこの頃からとされている。


更に現世の八雲は古代宇宙時代の記憶を僅かながらにだが受け継いでおり、この記憶の解明も目的の一つとし、その一環として記憶の底に根付いているベルトの設計図と技術を元に、クロノスの発展型である『NEOクロノス』を開発するが、幸助の持つ因子がなければその真価は発揮されない為にリミッター的な役割とされて使用されている。






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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry

 

 

―光写真館―

 

 

――早瀬智大の手により、マジカルエメラルドという名のクソステッキ二号誕生と共に生まれた、カレイドエメラルド――通称、まじかるアリサという二人目の魔法少女降臨事件から一週間が経った頃。

 

 

その日、光写真館のポストに一つの小包が前触れもなく届いた。

 

 

……小包みの表面に、ご丁寧にデカデカと『早瀬印』を表記して。

 

 

 

優矢「――なんだろなー……俺だけかなー……この展開にスゲえデジャヴを感じるのは……」

 

 

そんな怪しい雰囲気全開の小包を見下ろし、遠い目でそう呟いたのは、前回迂闊にもマジカルエメラルドを世に放つという蛮行を犯してしまった一人の優矢。

 

 

そんな彼の周りで、同じ様に怪しげな小包を覗き込むのは写真館でたまたま寛いでいたなのは、はやて、スバル、ティアナ、姫、魚見であり、彼女達もその明からさまに怪しい物体に揃って微妙な顔を浮かべていた。

 

 

はやて「なんやろなぁ……もう隠す気も更々ないっていうか……」

 

 

ティアナ「こんなにも堂々と差出人の名前書かれると、逆に怪しいっていうか……や、例え書いてなくても同じようなものけど」

 

 

スバル「……っていうか、どうしようかコレ?このまま放っとくのもそれはそれで何か気味悪いし……いっその事、思い切って開けてみるとかっ?」

 

 

優矢「……っていう意見もあるけどさ……お前どう思うよ、零……?」

 

 

そう言いながら顔を上げて優矢が振り向いた先に、他の面々の視線も集まっていく。其処には……

 

 

 

 

 

 

零「―――何度も言わせるな優矢。俺はさっきから断固反対だと言ってんだろっ」

 

 

 

 

 

 

――実に真剣味を帯びた顔と絶対零度のジト目でそう言いながら、テーブルの下に避難して微塵も動こうとしない震える子羊―――否、零の姿があったのだった。

 

 

なのは「零君っ、いい加減そんな所に隠れてないでこっちで真剣に話し合ってよっ。場合によったらコレ、智大君の所に返しに行かないといけないんだから」

 

 

零「嫌だ。断る。俺は関わらない。特に早瀬一家に関するものなら尚更だ。俺はもう二度とあのクソステッキ共の件と同じ轍を踏む事はしないと心に誓っているんだっ……!!」

 

 

姫「凄まじいまでの拒否っぷりだな……まあ無理もないが」

 

 

優矢「ってか、まだこれの中身があのマジカルステッキ達と同じかなんて分かんないだろ……お披露目するにしても、流石に二度も同じ手とかは―――」

 

 

零「その発想自体が甘いんだよ馬鹿野郎っ。裏の裏を掻いてまた同じ手を使って来る可能性だって無きに等しきだろうがっ。二度あることは三度なんちゃらって言葉を知らんのかっ」

 

 

優矢「いやなんちゃらの部分は知らねぇっていうか、裏の裏って結局表じゃ……あれ?この場合は合ってるのか?」

 

 

零「とにかくだっ……!そのふざけた荷物を開けるなら俺が外に出るまで待てっ!もし一ミリでも開けてみろっ……!ソイツの中身が飛び出してきた瞬間に此処で舌を噛み千切って今すぐにでも死んでやんぞォオッ!!」

 

 

優矢「どんだけ根深いんだよお前のそのトラウマッ!!」

 

 

血走った両目をかっ開いて自害発言までかます零に思わずツッコむ優矢だが、そんな二人のやり取りを他所に魚見が小包を手に取って封を切り、銀色のジュラルミンケースを取り出し箱を眺めていく。

 

 

魚見「箱の外見に特に可笑しな所はありませんね。箱の中身にもこれと言って妖しい気配を感じ取れませんし……」

 

 

はやて「ん、そんなら今回はトラブルの心配はないって事かな……?」

 

 

優矢「や、まだ分かんないですよ?確か型月のマジカルステッキって、血液認証をしないと起動出来ないみたいなのを原作プレイしてて見た事ある気が……」

 

 

ティアナ「……原作?」

 

 

零「良いからそのまま触れるんじゃないッ!触るなッ!いいかっ、せめてこのまま俺が外に出てくまでは待っ――」

 

 

魚見「はいパカーン」

 

 

零「ぬぅううううぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!?」

 

 

一同にしつこく念を押しながら何故か身を屈めて外に避難しようとした零の前で、間の抜けるような声と共に魚見がジュラルミンケースをご開帳してしまった。直後に零は絶叫と共にテーブルの下に目も止まらぬ速さで滑り込んで引っ込み、優矢達も目をキツく閉じながら顔を背けて何か飛び出してくるのではと咄嗟に身構えたが、暫し時間が経っても何かが飛び出してくる気配はなく、一同が恐る恐る目を開けてケースの中身を見ると、其処には……

 

 

なのは「……?コレって……」

 

 

スバル「ドライバー……ですよね?コレ」

 

 

零「…………なぬっ?」

 

 

そう、呆然とした様子でそう呟いたなのはとスバルが目にしたジュラルミンケースの中身とは、新たなマジカルステッキなどではなく、謎のドライバーと様々な色彩の数枚のエンブレムが収められていたのである。

 

 

ケースの中身に収められている、色のみプレート状のエンブレムの数は五つ。

 

 

謎のドライバーの外見はガルウイング型のパトカーをモチーフにしたサイレンがベルトの上部にあり、フロントガラスにあたる部分が何かをセットできるような構造になっている。

 

 

そんな謎のドライバーとエンブレムを目にした二人の呟きを耳にし、テーブルの下で突っ伏していた零も顔を上げて振り返り、のそのそと四つん這いでジュラルミンケースの傍にまで寄って中身を覗いていく。

 

 

姫「ふうむ……どうやら一見して危険物、という訳でもないようだな。智大が新たに開発したライダーシステムか何かか?」

 

 

魚見「其処まではまだ分かりませんが、入ってるのがドライバーと変身に使うと思われるアイテムからして、恐らくそうかもしれないですね……良かったじゃないですか、零。マジカルステッキさんの三女さんとかでなくて」

 

 

零「ああ―――いや良かったじゃねえわどの口で言ってくれるんだお前っ……!俺が出てくまで開けるなと言っただろうがっ!これがホントに三女とかだったらどうなっていたか――!」

 

 

魚見「箱の中身が分からずにビクビクし続けるくらいなら、さっさと中身を確かめてしまった方が楽になると思っただけです。万が一三女さんが出て来た時には、まぁ、私が責任を取って契約を引き受ける覚悟でしたけど……」

 

 

零「市杵宍……お、お前っ……」

 

 

魚見「その後、カレイドの力で貴方をショタ化させて魔法少年にする目論見だったのに……クッ……残念ですっ……!」

 

 

零「俺の感動返せてめえ」

 

 

傷だらけのハートにこれ以上ないほど響く優しい台詞にジーンと来たと思ったら、下心満載の本音をポロリとこぼされ思わず出掛かった涙が引っ込んだ。そしてそんな本当に悔しそうに拳を握り締める魚見の隣で、ティアナはケースの中のエンブレムを一つ手に取り、窓から差す日の光に翳すように掲げて眺めていく。

 

 

ティアナ「でもコレ、どういう意図で送られて来たんですかね?傷心の零さんを労って、せめてものお詫び……とかでしょうか?」

 

 

零「……だったらもっと他に色々あるだろ。慰安旅行の招待券だの、良い温泉への案内状だのもっと良いものがっ」

 

 

優矢「や、それはちょっと話が美味すぎるって言うか、例え出来たとしても欲出し過ぎじゃね?」

 

 

零「欲を出し過ぎ?……ハッハッハ……並行世界を跨いで恥という恥を晒しまくった俺にっ、せめてもの癒やしを求める事も求めるなと言うのかお前はァああああああああッッッ!!!!」

 

 

優矢「ひ、ひぃいいいいいいいッッッ?!!分かったッ!!!分かったから落ち着けぇえッ!!!怖い怖い怖い怖い怖いってぇええええええッッッ!!!!」

 

 

なんかもう、血涙すら流しそうな形相で頭を鷲掴んで詰め寄ってくる零に優矢も顔を引き攣りながら恐怖の声を荒げ、そんな零の様子になのはも苦笑いしつつ、ケースの中からエンブレムの一つを手に取っていく。

 

 

なのは「まあでも、ホントにどうしようかコレ?取りあえず危なそうなものじゃないっぽいのは分かるけど……」

 

 

はやて「んー……まぁ、せっかくもらったんやし、有り難く頂戴してもええんやない?もしかしたら智大君も、今までの件を申し訳ないって思うてプレゼントしてくれたのやもしれんし……」

 

 

零「だったら尚のこと受け取れんっ……!これで今までの件をチャラにされて、またあのクソステッキが騒動を起こした時にさりげなく便乗して来るかも分からんのだからなっ……!そうならないようにコイツは突っ返しに行くっ」

 

 

優矢「えー、もったいないじゃんかー。せめて一回ぐらい試してからでも……うん、ウソウソ。返しに行こ、今すぐ、うんっ」

 

 

ギロッ!と、それだけで人を殺せそうな程の殺気を込めた目で睨み付けられて、優矢は冷や汗を流しながら両手を上げて軽口を閉ざし、優矢を黙らせた零は即座になのは達の手からエンブレムを回収してケースの中に投げ込み、閉じたケースを手に取って立ち上がった。

 

 

零「取りあえずっ、今から智大の事務所に行ってドライバーを返しに行ってくるっ。それでこの件は終わりだ。出掛けてる他の連中が帰ってきても何も言うなよ?特にアリサなんかから、変なトラウマを刺激してとばっちりを受けるのはゴメンだからなっ……」

 

 

優矢「あー……あー分かったから、早く行ってこいってっ。気をつけてなーっ」

 

 

人差し指をビシッと突き付けながら、一同に念を押して忠告してくる零に優矢も適当にそう返事しつつやる気なく手を振って見送り、そんな優矢や苦笑い気味のなのは達に見送られながら零はジュラルミンケースを手に廊下へ出て玄関に向かっていく。

 

 

 

零(全くっ、人の気も知らんでからに何が勿体無いかっ……まぁ、本当にお詫びだとすれば有り難いという気持ちもなくは無いが……)

 

 

そんな事を考えながら玄関に辿り着き、若干ヒンヤリとする玄関の扉の取っ手を掴む。

 

 

零(其処はソレ、此処でこんなものを受け取ればまた何かさせられるかも分からんのだ……此処は心を鬼にして、何を言われても動じない不屈の心で挑まねば……)

 

 

今まで散々口車に乗せられてどんな意見も封殺されて来たが、今度ばかりはそうはいかない。何せ失うものなど最早何もない身なのだ。どんな脅迫染みた事を言われようとも、一切突き動かされない不動の心を持って挑む決心をし、今度こそ安寧の日々を取り戻す為に扉を開け放ち……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイイイィィンッッッッ!!!!!!』

 

 

リア「――ん?おお!零君久しぶりー!元気にしてたかーい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――扉を開けた先に広がっていた、町中にも関わらず馬鹿でかい馬の怪物の背に乗って清々しい笑顔を向ける顔見知りの元神様を見て、零の表情が凍り付いた。

 

 

不動の心、決心してから二秒で崩壊した瞬間である。

 

 

―……パタンッ―

 

 

零「…………うん…………うん?白昼、夢?…………いや…………もしかしたらまだ、あのクソステッキの魔力の残滓が残ってるせいで幻覚を…………?」

 

 

あ、そっか。そうだ、きっとまだ疲れてるんだ、そうに違いない、うん。絶対にそうだと考えながら一先ず玄関の扉をそっと閉じ、今の気分を落ち着かせようと親指と人差し指で瞼を抑え……

 

 

 

 

 

 

 

 

リア「んー?これは入っていいって事なのかな?よぅしおじゃましまーす、いえーい、たのもー」

 

 

『ヒヒイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーイィンッッッ!!!!!!』

 

 

―ガッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァンッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

零「ごぼぁあああああああああああああああああああああああああああァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあああぁぁぁッッッッ!!!!!!?」

 

 

優矢「ッ?!な、何だァッ?!何の音と悲鳴ッ?!」

 

 

なのは「ちょっ、零君ッ?!玄関で何やって……って何事ぉぉぉオオオオオオオッ!!!?」

 

 

 

気の抜けた掛け声と共に、ダイナミックお邪魔。

 

 

馬鬼と共に玄関をブチ破って飛び込んで来たリアのタックルをまともに受けてぶっ飛んだ零の悲鳴を聞き、なのは達が駆け付けて目にしたのは破壊された悲惨な光景の玄関と、馬鬼に跨がるリア、そんな一人と一匹に撥ね飛ばされて全身にガラス片がぶっ刺さり、ドクドクと流れる血溜まりの中に倒れる零の姿なのだった―――。

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry①

 

―光写真館―

 

 

零「―――久方ぶりに、あの世とこの世の境をさ迷った気がするぞ……」

 

 

―――そして、先の騒動から数十分後。リアと馬鬼の突然の訪問によって重傷を負った零はなのは達の手を借りてリビングに運び込まれ、魚見の魔法の力で全身に突き刺さったガラス片を取り除いてもらった後に治療し、全身に包帯を巻いてもらいミイラ男のような姿に変わり果てたそんな彼の姿に、元凶であるリアはテーブルの席で茶を啜りながら一言。

 

 

リア「うん。すまない。悪気はなかったんだほんと。ただこの前マンガで見たジャパン流の挨拶を模範した結果、どうやらその知識が間違いだったのだと桜ノ神達から教えられたよ。まじごめん」

 

 

零「最後の謝罪に誠意も感じられなければ謝って済む問題でもなかろうがっ……!うちの爺さん見てみろっ!お前に壊された玄関を見て目眩を覚えてたぞっ!」

 

 

そう、先の騒動を聞き付けた栄次郎はリアと馬鬼のせいで破壊された玄関を目にし、その凄惨さにショックを覚えて倒れ掛けたのだ。その後は姫の力のおかげでどうにか壊される前の状態の玄関に戻してもらい、何とか持ち直したものの、栄次郎に余計な負担を掛けてしまったのは事実である。

 

 

リア「ああ、ご老体にも迷惑を掛けてしまったようだね。申し訳ない事をした。うん。今後は私も心を入れ替え、ジャパン流挨拶のドウジョウヤブリは封印すると心に誓おう。まだ1回しか使ってないけど」

 

 

優矢「や、道場破りって挨拶じゃねえし、そもそもうち写真館だし……」

 

 

うん、と拳を握り締めながら良くわからない決意を固めるリアに冷静にツッコミを投げ掛ける優矢だが、その時、リアが訪問してから妙に警戒し、彼女の向かいの席に腰を下ろす姫がジト目でリアを見据え口を開く。

 

 

姫「そんな事はどうだっていい。それよりも……お前は一体何しに来たんだ、初代幻魔神。勝手に馬鬼まで持ち出してやって来たと思えば上がり込んで、何が目的なんだ?」

 

 

リア「?随分辛辣だなぁ、桜ノ神。私はもう幻魔神ではないと言うのに、まだ私がそんなに怖いのかい?」

 

 

姫「誰もそうは言ってない!というか、私が抱いてるのは恐怖心ではなく警戒心だ!この世に蘇った時に私や零達の事も記憶したなら、私達が幻魔神という存在のせいでどれだけ長く苦しめられて来たかぐらい知ってるだろ……!そのきっかけを作ったお前と、いきなりそう簡単に仲良くとはいくもんか……!」

 

 

リア「……ふむ……そう言えば、君はあの世界の数百年前にフォーティンブラス率いる幻魔達と戦っていたんだったか……まあ確かに、その因縁を考えたら幻魔神の神権というシステムを作った私に、君が反発心を覚えるのは無理からぬ事かもねえ。……あ、そういえば絢香から君達への手土産を渡されたんだったよ。はいコレ」

 

 

ティアナ「あ、どうも……」

 

 

姫「オイイイイイイッ!!真剣に聞かないかァッ!!こっちは真面目の体で話してるんだぞォッ!!」

 

 

ズズゥッと、再び茶を啜りながら思い出したように席の下に置いていたお土産をティアナに手渡すリアに、机を叩きながら勢いよく立ち上がりガーッ!!と吠える姫だが、そんな姫とは対照的にリアは「まーまー」と呑気に姫を宥め……

 

 

リア「君のその恨みは最もだが、ソレを実際に私にぶつけられてもどうしようもないよ。第一、私が幻魔神の神権というシステムを築いたのも、当時無法だった幻魔界を統べるのに必要だと思ったから作ったのがきっかけだったからね。何もフォーティンブラスみたく他世界を侵略するのが目的だった訳じゃないし、流石にソレが数千年後に君達に仇なしたと言われても責任は持てないよ」

 

 

姫「そんなの……!」

 

 

リア「無責任にしか聞こえない?でも、実際そうだよ。当時の私は自分が生きた時代を統べる事だけで忙しかったし、私が果たすべき責任は私の時代で全て果たしたけれども、それでも当時の時代にはまだ幻魔神の存在が必要だったから、後任を任せても大丈夫だと思って選んだ後継者に跡を託して没した。其処で私の役目は終わったんだ。だから私が死んだ後の未来で後継者達がやってきた事の責まで、死人だった私に背負う事は出来ない。軽薄な言い方だけどね」

 

 

姫「ッ……それ、は……そうかもしれないがっ……」

 

 

確かに、幻魔神というシステムを築き上げた張本人はリアではあり、彼女が築いたその神権のせいで後々の時代にフォーティンブラスなどの邪神を生み出したが、それはリアの後の時代を生きた者達が彼女が遺した力を間違って振るったからであり、それを全てリアのせいにするのは何処か違うような気もする。実際姫もリアの言葉に一理あると感じているのか、唸るように声を漏らしながらリアから目線を逸らして口籠り、リアはそんな彼女を瞳に捉えたまま言葉を紡ぐ。

 

 

リア「でもまぁ、君のその憤りも妥当なものだと思う。私の遺したものが、君が守りたかったものを奪ったのもまた事実だからね。私にはフォーティンブラスが仕出かした事の責任は取れないけれども、君の憎しみを受け止めるぐらいなら今の私にも出来る。……幻魔神のせいで不幸になった者達の為にも、君は私を赦すべきではないさ」

 

 

姫「……お前……」

 

 

そう言って目を伏せながら僅かに微笑むリアの言葉が予想外のものだったのか、姫は思わず呆気に取られ、そんな彼女に対してリアは更に笑みを深めて、

 

 

リア「それはそれとして、君のあのペットは随分カワイイ奴だね?新参者で、しかも敵対してた幻魔であるハズの私にもすーぐ懐いて、今ではもう私の言う事を全部聞いてくれてるよー。こんな私に気を赦してくれるし、嬉しい限りだなぁ」

 

 

姫「……は?」

 

 

スバル「ペット、って……ああ、確か魚見さんが怪人Sの時から乗ってたっていう馬ですよね?名前は確か、馬鬼……ですっけ?」

 

 

魚見「えぇ、元々は桜ノ神が数百年前の幻魔達との戦いの際に駆っていた愛馬でしたが、彼女の封印後は上役が預かり、ずっと誰にも乗られる事なく神界で飼育されていたんです。と言うのも、馬鬼は気性が荒く、彼を乗りこなす人材が中々いなかったのが原因らしくて……」

 

 

姫「そ、そうだっ!実際、私だって当時馬鬼を手懐けるのに半年は掛かったんだぞっ!そんな簡単にっ、しかもずっと戦ってきた幻魔を相手にそんな簡単に懐くハズが……!」

 

 

リア「え?私は会ってすぐ、一時間足らずで懐いたけど?」

 

 

姫「……なん、だと……?」

 

 

魚見「私もです……神界から脱走する際、上役から手渡されて恐る恐る接しましたけど、すぐに背中に乗せて言う事を聞いてくれましたが……」

 

 

姫「エエエエッ!!?」

 

 

魚見どころか、幻魔であるリアですら初めて会ってすぐに馬鬼が懐いたと聞かされて驚愕を露わに叫ぶ姫だが、そんな彼女を他所に、リアと魚見は互いに視線を交わして「だろ?」みたいな顔を浮かべた。

 

 

リア「あの子が気性が荒いなんて今初めて聞いたよ。そんな素振りは見られなかっただろう?」

 

 

魚見「ええ……私も聞いてた話とは違っていて、ずっと疑問に思っていたんですが……桜ノ神、本当に馬鬼を乗りこなすのに半年も掛かったのですか?」

 

 

姫「だ、だからそうだと言ってるだろっ!アイツはホントにとんでもない暴れ馬なんだっ!そんな簡単に懐くハズがないっ!きっと、何かっ……何かお前達が馬鬼を怖がらせるような事をして、無理矢理服従させたんじゃないのかっ?!」

 

 

リア「失礼な……そんな酷い事をするハズないだろう?ただ会ってすぐ、胸で頭を抱いてあげたくらいしかしてないよ」

 

 

魚見「あ、ソレ私もやりました。脱走する覚悟を固める為に、これから運命を共にする相棒にヨロシクの意味を込めて、こう、胸に抱き締めて……」

 

 

姫「……胸に、抱く……?」

 

 

覚えている限りの中で、二人が共通して馬鬼に行った動作を聞かされた姫の視線が魚見とリアの胸……僅かにプルンと艷やかに揺れる、抱き締められたらとても心地良さそうな豊満なバストに向けられて―――

 

 

零「―――あぁ、成る程……ようするに相手がデカ乳だったからすぐに懐いたってこ―ドグォォオオッ!!!―ゴバァアアッ!!?」

 

 

姫「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ……!!!!!私だってっ、私だってぇええええええっ……!!!!!不老でさえなければもっと豊満に育ったに違いないのにぃいいいいいいいいいいいいいいいっっっ…………!!!!!!」

 

 

「「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおおっ……!!!」」と、片やデリカシーのない発言を口にしようとしたばかりに両脇のなのはとはやてに容赦ない裏拳を顔と鳩尾に叩き込まれて悶絶し、片や固い絆で結ばれていたと信じていた相棒の知りたくもなかった残酷な事実を前に膝を屈して絶望する二人。片方は自業自得だからほっとくとして、魚見とリアは揃って姫の両肩にポンッと手を置き、憐れむように微笑んだ。

 

 

リア「そう気を落とすなよ、桜ノ神。こればっかりは仕方がない。単純に私達が君と違い、生まれ持ってのないすばでぃーだったってだけの話さ」

 

 

魚見「そうですよ、桜ノ神。そんなもう叶わないもしもを憂いるより、今を見ましょう?大丈夫です。女性の価値は胸だけでは決まりません。……あの子の場合はちょっとそうじゃなかったというだけの話で」

 

 

姫「やっっかましいわァァァァああああああッ!!!!全然励ましてないどころか寧ろ貶してるじゃないかァああああッ!!!!もういいッ!!!!お前とはどうあっても敵だッ!!!!和解不可ッ!!!!君とも今からは敵同士だ魚見ィいいいいいいいいッ!!!!」

 

 

リア「やだなあ……これが女の嫉妬か……嘆かわしい。だから人間同士の争いはなくならないのか……」

 

 

魚見「落ち着いて下さい桜ノ神!胸が大きいからと言ってそれが良い事とも限りません!肩こりとか、サイズに合ったブラを探すのがめんどくさいとか、そんな面倒な気苦労を知らないだけでも貴方の方がずっと生きやすい体をしてますよ!」

 

 

姫「よし戦争だ」

 

 

優矢「ちょっ、止めてぇええええええええッ?!!!こんなところでベルト取り出したりしないでぇええええええええええッ!!!!」

 

 

ティアナ「もォォおおおおおおッ!!!!魚見さんも火に油を注ぐようなこと言わないで下さいよォォおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

遠回しにそんな苦労した事ないでしょ?、と煽ってるようにしか聞こえない魚見の説得(?)に遂にキレてドライバーまで取り出す姫を止めようと優矢達が必死にしがみつく中、床に突っ伏し悶絶していた零がテーブルの縁を掴んで身を起こし、顔半分をテーブルの縁から覗かせながらリアにジト目を向けた。

 

 

零「……で?結局お前、一体何しに写真館に来たんだ……?別に木ノ花をオモチャに遊びに来た訳じゃないんだろう?」

 

 

リア「もちろん。私が今日来たのは、君達にこの世界の街を案内してもらいたかったからだよ」

 

 

はやて「?案内……ですか?」

 

 

何故に?、と零達の頭上に疑問符が揃って並び、リアはそれに答える前に懐を漁ると、其処から封筒を取り出して見せながら説明の続きを語る。

 

 

リア「ほら、私は君達に敗れてから今桜ノ神社で世話になってるだろ?だから絢香達に日頃のお礼をしたくて、彼女達への贈り物を探しに君達を頼りに来たんだ。出来ればサプライズで渡したいから、あの世界で買い物してる最中にばったり会ったりしないよう、別世界にまで足を運んだって訳さ」

 

 

零「それはまた随分律儀な……いや待て、という事はその封筒の中身は金か?どうやって手に入れたんだソレっ?」

 

 

リア「ん?コレかい?実は向こうで年末に巫女のアルバイトをしてね。そのお給料で貰ったものだから、別に犯罪で手に入れた訳じゃないから安心していいよ?」

 

 

なのは「バ、バイトって……えぇっと……元神様が、違う神様の神社で手売りした、って事ですかっ……?」

 

 

リア「うーん、実に大変でやり甲斐のある体験だったよ。そもそも働くこと自体初めてだったからねぇ。けどほら、あの神社の神様って今留守中だろう?そんな神社の絵馬やおみくじにご利益があるかも分からないから、私手ずから元幻魔神のご利益がある絵馬を作って手売りしたりもしたよ。こっちの神様の方が効果望めるよ?って、うん」

 

 

姫「「うん」、じゃないだろォおおおおおおおおおおおおッ!!!なに人の神社で無断信仰してくれてるんだお前はァああああああああああああッ!!!」

 

 

スバル「ひぃいいいいいいいいいいッ!!!落ち着いてぇえッ!!!落ち着いて下さい姫さァああああああああああああんッ!!!」

 

 

未だ収まる所を知らぬ怒りに更なる油を注がれ、怒り心頭の姫を優矢達がより必死に押さえ付ける。そんな様子を横目に零も顔を引き攣りつつ、眉間を抑えながら溜め息を吐いた。

 

 

零「まあ……絢香達への恩を返したいっていうお前の言葉にも嘘は無さそうだし、手伝うくらい別に構わんが、頼むからこれ以上アイツを煽るような真似はするなよ……。でないとうちの若いのの身体が持たん……」

 

 

リア「んー……それはちょっと約束はし兼ねるかなー。ほら、私彼女に嫌われてるし、こんな口調だろ?ソリが合わないのもそうだが、生まれてから死ぬまでずっとこんな感じだったからオブラートな言い方も出来ないし、自分でも分からない内に彼女の気に障れてしまうのは否めない。だから其処はホラ、彼女の契約者である君がフォローしてくれたら助かるかなーと」

 

 

零「……ようするに面倒事を俺に押し付けたいって事じゃねえかっ……」

 

 

リア「ええっ?君からしたら今更じゃないかやだなーはっはははははははははっ!」

 

 

零「爆笑する所のツボが可笑しいだろォッ!!指差すなぁあッ!!」

 

 

何がそんなに彼女のツボに入ったのか、零は失礼にも目尻に涙を浮かべて人の顔を指しながら爆笑するリアの指を払い除け、リアの方も一頻り笑った後に若干息切れしながら目元の涙を拭い、気を取り直すように咳払いする。

 

 

リア「まぁ、それもある意味君を信頼してでの頼みって事さ。私を倒して彼女達の世界を救った英雄の一人なのだから、それくらいの器量の良さは見せてくれても良いだろう?」

 

 

零「調子の良い事をっ……というか英雄呼ばわりなんかするな気色悪いっ。こっちはただあの二人の力を借りてお前達と戦っただけだと前にも話しただろうがっ」

 

 

リアからの英雄呼びにあからさまに嫌そうな顔を浮かべなから、零は未だ怒りが収まる気配のない姫と、そんな彼女を宥める為になのはとはやてと一緒に姫を落ち着かせようとする魚見を顎で指してそう訂正するが、それに対しリアは腕を組みながら肩を竦めた。

 

 

リア「君も君で自分を過小評価し過ぎな気もするけど……ま、其処まで嫌がるのなら私も言葉には気を付けよう。それで、どうかな?出来るのなら今からにでも街へ贈り物を探しに行きたいのだけど」

 

 

零「……チッ、仕方ない……おい、お前等も一緒に来て手伝ってく―――オオオオオオイッ?!!何もう変身一歩手間みたいな状態になっとるんだお前等ァああああああああッッッ?!!」

 

 

リアの要望に渋々と了承し椅子に掛けたジャケットを掴みながら姫達の方に振り向けば、其処にはリアと話し込んでいる隙にいつの間にか姫の頭上にピーチアームズが待機状態で浮遊して変身する直前みたいな光景が広がっており、姫が暴れる度に連動して荒ぶるピーチアームズを見て、街に向かうよりも先にアイツの怒りを鎮めねばと、零も慌てて姫の鎮圧に乱入していくのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―???―

 

 

―バキィイイッ!!―

 

 

「ごはぁああッ!!?」

 

 

その頃、とある世界の何処かにある謎の研究所の一室。暗がりの中で薄気味悪い光を放つ無数の生体ポットが並び、研究書らしき無数の白い紙が机や床に散乱されたその部屋では今、白衣を着た一人の男が何者かに殴られて床を転がる光景があった。そして、鼻血が垂れる鼻を抑えて蹲る男の下に、彼を殴った人物……"財団"の幹部であるカンパネルラが歩み寄り、膝を折って何処か不機嫌そうに男に語り掛けた。

 

 

カンパネルラ「困るんだよなぁ、博士。勝手にあんな大規模な実験を僕達の許可なくされちゃったらさぁ……しかも見事に失敗してくれちゃってるし、仮にこれで僕たち財団の仕業だと公にバレでもしたら、どう責任取ってくれるのさ?ねえ?」

 

 

「ぐっ……ッ……も、申し訳っ、ありませんっ……カンパネルラ様っ……」

 

 

カンパネルラ「謝って済むなら、こうやって僕が足を運ぶ事はないでしょ。君への処分は追って伝えるから、それまで大人しくしてる事だね……下手な真似して、財団を敵に回すような事はしないように」

 

 

見下すような冷たい眼差しで男を見下ろしそう吐き捨てると、カンパネルラは徐ろに立ち上がってそのまま振り返る事なく部屋を後にし、男は蹲ったままそんなカンパネルラの背を見送ると、途端に勢いよく起き上がって机の上の研究書や器具を乱暴に払い除け、けたたましいガラス音が室内に響き渡った。

 

 

「クッソッ……クソォッ!!クソォッ!!クソォオオオオオオオッ!!!何が財団だッ!!どいつこいつも俺の研究が分からない馬鹿ばかりの分際でぇッ!!!」

 

 

ダンッ!!と、収まらない苛立ちを叩き付けるように机に拳を落としながら頭を掻き毟り、財団への止まらない悪態を吐きまくる男だが、そんな事をしてる合間にも脳裏を過るのは、先程カンパネルラからも伝えられた財団からの処分の件に対する恐怖心だった。

 

 

「ッ……いやまだだ……まだ時間は残ってるんだっ……!そうさっ、俺の研究の結果さえ見せ付けりゃっ、財団の馬鹿共を黙らせてやれるっ……!」

 

 

処分を待つまでの間に結果さえ出せれば、まだ挽回の余地はあるハズ。そう考えながら男はノートパソコンを取り出して電源を入れると、血走った瞳で画面を睨み付けながらキーボードを素早く打ち込んでいく。

 

 

「人類全てを神にも等しき存在……高次元生命体に進化させる実験っ……!その成功まであと少しなんだっ……!そのデータは今までの実験のモルモット達が裏付けているっ……!あともう一歩っ……せめて、高次元生命体と同等の存在のサンプルなどさえあればっ……!」

 

 

研究の完成を急ぎながらも、その完成の一歩手前で手詰まりになり、焦燥に駆られてそんな有りもしない物を思わずねだってしまう男だが……

 

 

「……っ……?待てよ……高次元生命体と……同等の存在……?」

 

 

そのワードが男の中の何かに引っ掛かったのか、そう呟きながら口元を片手で何か思案した後、突然思い出したようにパソコンのキーボードを忙しなく操作して何かのファイルを開き、その中から一枚の画像データを表示し、口元を歪めた。

 

 

「そう、か……ははっ、はははははははっ……!いるじゃないか……ちょうどいい奴等が……!こんな連中に持たせているより、私の方が有効に扱えるサンプルが……!」

 

 

クツクツと薄気味悪い笑みを張り付けて、男が見つめるのは、何処かの崩壊したビルの屋上を夜の上空から撮影した一枚の写真……その中心に立つ、テフィラーを手にしたリアと、そんな彼女に首を掴まれて持ち上げられる、全身血塗れの零の姿だった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry②

 

―センター街―

 

 

リア「―――というワケで、何やかんやありつつも君達の案内の下、こうして無事に街までやって来た訳だけど……おぉ、正に都会!って感じだねえ」

 

 

ガヤガヤガヤッと、零達に案内されて大勢の人々が賑やかに行き交うセンター街にやってきたリアは、街中に建ち並ぶ高層ビルの数々を見上げながらそんな感慨深い声を漏らし、暫し街の風景を眺めた後に「よし」と意気込みながら一同の方に振り返った。

 

 

リア「では早速、絢香達への贈り物を探しに街を回ってみるとしようかな。諸君、何か此処はオススメ!と思う店などはあるだろうか?」

 

 

ティアナ「や、あるだろうか、と言われましても……」

 

 

優矢「ぶっちゃけ、俺等もその辺あんま詳しい方じゃないって言うか、この世界での役目を果たすのに必死だったから他に目をやる余裕がなかったと言うか……」

 

 

リア「むぅ?それは頂けないなぁ。せっかく幾多数多の世界を旅しているのだから、もっとその世界ならではの娯楽も愉しまくては損だよ?戦いと息抜きは均等でなくてはならないからね。……よし、では今回は戦いと使命に明け暮れる君達の労いも兼ねて楽しむとしよー!おー!」

 

 

スバル「お……おー……?」

 

 

と、何か良くわからない謎のハイテンションで右腕を掲げながら笑うリアの勢いに圧されつつ、若干戸惑い気味に右腕を上げて応える優矢達。そして、零達はそんなリア達の様子を遠巻きに傍観しつつ、謎のドライバー一式が入ったジュラルミンケースを手にした零が怪訝な表情で口を開いた。

 

 

零「何だろうな……。玄関でアイツにぶっ飛ばされた時から妙な違和感があったんだが、アイツってあんなハツラツとしたキャラだったか……?前はもっとこう……一見穏やかに見えて冷徹と言うか、食えない奴だった気がするが……」

 

 

なのは「え、そうなの?私は全然、リアさんって元からああいう人当たりの良い人なのかなって思ってたけど……」

 

 

以前相対した時のリアと、今のリアの印象が何処か違って見えるように語る零に意外そうな反応を浮かべるなのは。すると、そんななのはの隣に立つ魚見が二人と共にリアを見つめながら語り出す。

 

 

魚見「多分、お二人が彼女に抱いた印象はどちらも間違っていないと思いますよ。きっと私達と戦った時のリアも、今のリアも、どちらも元からある彼女の内の本質なのかもしれません」

 

 

零「……と言うと?」

 

 

魚見「分かりやすく言えば、彼女にとってはどちらも"素"なんでしょう。私達と敵対していた時は、幻魔神としての役目を全うする為に冷徹な神を振る舞えるし、今のようにみなと仲良く接する事も出来る……特に今の彼女は、幻魔神としての永い生涯を終えたが故に、その柵みから開放された反動で、より今のこの瞬間が楽しくて仕方ないのかもしれません」

 

 

はやて「……あぁ、そっか……なんか、ちょっとだけ分かる気もするなぁ、その気持ち……」

 

 

なのは「?はやてちゃん?」

 

 

魚見の話を聞いて何か共感したのか、そう呟きながら苦笑いを浮かべるはやてに一同の視線が向けられ、はやては頬を掻きながら何処か複雑げに語る。

 

 

はやて「私も、ほら、ずっと部隊長として責任ある立場で働いてきたやろ?自分が望んで成った事なんやけども、やっぱり、それでもプレッシャーって言うか、周りからの期待とか、私の事を良く思わない人達の事とか……そう言うんのも色々含めて、背負って頑張って来たけど、今こうして皆と旅してる間はそういう柵みから開放されて、ちょっと気が楽と言うか……」

 

 

魚見「……私も少し、分かる気がします……。私も今は半ば無理矢理に押し付けられた水ノ神の役目から開放されて、初めてこうして地上に出てからは、冥府でずっと抱いていた悩みを考えずに済むようになりましたから」

 

 

はやて「ええ、私もそんな感じで……あっ、別に局員の仕事に嫌気が差したとかやないよっ?ただ、まぁ……今だけはこうしてみんなと、他の事を考えずに一つの目標を目指して普通に過ごせるんは、ちょっとだけ嬉しいかなぁ……なんてっ」

 

 

なのは「……そっか……うん、考えてみたら私達、こうやって旅を始める前までは根詰めで仕事してばっかりだったって言うか、その事で周りの色んな人達からも度々怒られてた気が……」

 

 

零「気も何も、実際にそうだったろうがよ。こっちが幾ら注意しても聞く耳持たずに仕事三昧で……。全く、人の事を無茶だなんだと言えた立場か」

 

 

はやて「上司に無断で危険な任務を進んで買って出てた人に言われたない」

 

 

なのは「同感」

 

 

零「グッ……ど、どの口で言うかっ……過度な量のデスクワークに加えて、重要な会議やら新人教育やらで忙しなく動き回ってるお前達にあんな高難易度な任務がこなせる筈がないだろうがっ!」

 

 

なのは「ソレ言い出したら零君だって仕事量は私達とそんなに変わらなかったでしょっ!……っていうかそうだ、思い出したっ……!確か何度か私やフェイトちゃんが引き受ける筈だった任務の受注書類をはやてちゃんに申請する前に後から書き変えて、自分の名前をサインしてた事あったでしょうっ?!しかも、勝手に私達が体調不良って嘘吐いてっ!」

 

 

はやて「せやっ……!書類の整理してる時に妙に零君の名前が多くて違和感感じたから、調べてみたらなのはちゃん達が筆記した書類のサインを後から書き変えて出したって分かって、ちょっと署内で騒動になったんやった……!」

 

 

零「……はて、何の話だったか……黒月さんの記憶にはござらんナー……お前ら揃って白昼夢でも見てたんじゃないのか?」

 

 

なのは「ま、またそうやってしらばっくれてぇええっ……!!言っとくけどアレも書類偽造で立派な犯罪なんだからねえッ?!私達が問題にしなかったってだけの話でッ!!」

 

 

零「ははははははは、冗談キツイな高町さんや。俺は清廉潔白を画に描いたような男ダゾ?この純粋且つまっすぐな瞳を見て、そんな後ろめたい不正を行うような奴に見えるのデスか?」

 

 

なのは「……などと容疑者はこのような供述を述べていますが如何致しましょうか、八神二等陸佐?」

 

 

はやて「よっしゃ説教や、今日という今日はこの捻くれた性根を叩き直したるっ……!」

 

 

魚見「……あの、三人共、人目の多い大通りでそういうのはちょっと……聞いてませんね」

 

 

やいのやいのっ、と以前に零が行った不正行為の件で揉める三人を一瞬止めようとするも、外野の声が届かない勢いで口論する零達に何を言っても無駄だろうと悟って諦め、軽い溜め息を吐きながら背後に振り返ると、其処には……

 

 

姫「…………(むすぅ」

 

 

……先程の一件から未だご機嫌斜め。拗ねた様子で口先を尖らせながらそっぽを向いて佇む姫の姿があり、そんな彼女を見て魚見は再び溜め息を吐いた。

 

 

魚見「桜ノ神、貴方もいい加減機嫌を治して下さい。さっきの件は私も悪乗りが過ぎたと謝罪したではないですか」

 

 

姫「……別に、その件の怒りを引きずってる訳じゃない……ただ、なんというかな……」

 

 

魚見「……一度意地を張ってしまったが故に、自分でも中々引っ込みが付かない、と?」

 

 

姫「う……」

 

 

図星らしい。魚見の指摘にあからさまに動揺する姫に、魚見も何処か呆れた様子で肩を竦める。

 

 

魚見「確かに、貴方の気持ちも分かります。さっきの貴方の言葉を借りれば、怨敵である幻魔の神であり、後の貴方達の時代に災厄を齎す存在の始まりである彼女に対して、複雑な感情を拭い切れないのは当たり前でしょうから」

 

 

姫「……分かってるんだよ、頭では私も……アイツを目の敵にするのはお門違いで、本当に悪いのは幻魔神の力を己の傲慢のままに悪用していたフォーティンブラス達だと言う事も。しかし……」

 

 

歯切れ悪く語りながら所作無さげに視線を彷徨わせてそう呟き、姫は自身の手元を見下ろす。

 

 

姫「それを抜きにしても……アイツは幻魔だ。奴らの手で、大勢の命が無慈悲に奪われ、私を信じて付いてきてくれた者達も目の前で殺され、幻魔から世界を守る事を私に後を託して志半ばに逝った……。鬼の一族や、当時の聖者達、柳生の衆、彼等と共に戦った者やその血を引く次世代達……そんな彼等の事を考えると、幻魔であるアイツを受け入れてしまう事が、私を信じてくれた彼等に対する裏切りになるんじゃないかって……」

 

 

魚見「……咲夜」

 

 

彼女達と幻魔達との因縁は決して浅くはない。永い戦いの中で、幻魔の非道な行いは嫌と言うほど見て来たし、その中には到底赦す事が出来ないモノもあった。特に姫はその悲惨な光景を此処にいる誰よりも目にし、失ってきた当事者だからこそ、リアを受け入れる事に未だ抵抗を覚えるのかもしれない。そんな彼女の複雑な心境に魚見も思わず口を結び、何か言葉を探すように俯いて考える素振りを見せると……

 

 

零「……まあ、別にそんな無理してまで受け入れようだなんて、考えなくても良いじゃないのか?」

 

 

魚見「……!零?」

 

 

不意に声を背後から掛けられ、振り返れば其処にはいつの間にかなのはとはやてに絞られていたハズの零が何処となく疲れた様子で立つ姿があった。確か説教の途中だったのではと?と気になってなのはとはやてを探すと、二人はリアと優矢達と共に何か雑談を交わしており、どうやら零の説教の最中にリアに呼ばれてあちらの方に行ったらしく、零はそんなリア達の方に目を向けながら言葉を続けていく。

 

 

零「神とは言ってもお前だって元は人間なんだ。聖人君子でもあるまいし、ソリの合わない奴ぐらい居たとしても何も不思議な事じゃない。アイツもそれで構わないみたい事は言っていたのだし、受け入れられない所があるなら別にそれでも良し、受け入れられる所だけ受け入れとけばいいだろ、今のところ」

 

 

姫「それは……しかし……」

 

 

零「……普段はボケ倒してるクセに、変な所で生真面目過ぎるんだよお前は……ちょっとは肩に張った力抜いてみろ。あまり気負い過ぎてもお前がしんどいだけで得するモノは何もないんだ……死んだ連中云々を語るんなら、先ずはお前自身が一番前を向いて生きやすい考え方に落ち着いてからにしとけ。気を揉み過ぎたせいでお前が病んだりでもしたら、それこそ、お前に後を託した連中に顔向け出来んぞ」

 

 

姫「…………」

 

 

姫の幻魔との永い確執は部外者である零には想像しか出来ないが、そう簡単に割り切れるほどの問題でもなければ、誰かからの言葉でそう簡単に解決出来るモノでもないのだろう。そうでなければ、もっと以前に姫自身の中で解決出来ていた筈だ。その葛藤に対しての姫が欲しいと思う答えは姫自身にしか分からないし、零達に出来るのはせいぜい姫が悩み過ぎないようにフォローする事ぐらいだが……

 

 

零「ま……ようは一人であれこれ考え過ぎるなって事だ。万年脳内思春期のお前にそんな気の重い顔をされたら、こっちも調子が狂うしな……取りあえず今は、探り探りでも良いから今のお前に合った距離感でアイツと接してみろ。それでもしまた何かウダウダ悩みでもした時は、俺とコイツで話ぐらいは聞いてやる……」

 

 

魚見「……そうですね。今は私だけでなく、零達も一緒なんですから。以前のように、一人だけで悩んで抱え込むのは無しですよ、咲夜」

 

 

姫「……二人とも」

 

 

それでも、こうして傍に居て、一緒に悩みを分かち合う事ぐらいは出来るだろうと、相変わらず無愛想な零と、どれだけ永い年月を重ねても変わらない笑みを向ける魚見の言葉に姫も驚くように僅かに目を見開き、そんな二人に余計な気を使わせている今の自分に対して思わず苦笑いを浮かべ、瞼を伏せて頷いた。

 

 

姫「そうだな……何事も考え過ぎは良くない。何より幻魔との戦いは、幻魔神を倒した事で終わったのだからな……幻魔だからという理由だけで、アイツという個人を受け入れないのはただの傲慢でしかないし、それではフォーティンブラスと何も変わらない……危うく奴と同じ轍を踏む所だったよ。心配を掛けてすまない、二人共」

 

 

零「フン……今更だろ、そんなの」

 

 

魚見「えぇ、友人を気に掛けるのは当然です。……まぁ、私としては、先程の零の言葉には少々反論したい部分が多々にあってモヤモヤしている所ですけど」

 

 

零「……は?」

 

 

姫「あぁ、それは私も聞きながら思った。悩み過ぎるだの、抱え込み過ぎるだの、寧ろ私から君へ送りたい言葉のオンパレード過ぎて思わずツッコミそうになるのを抑えるのに必死だったと言うか……」

 

 

零「はあっ?!」

 

 

いや、何故其処で急に自分に飛び火するのかと、姫の表情が少しは晴れて和やかなムードになったかと思いきやの予想外の展開に動揺を隠せない零だが、そんな零に構わず姫と魚見の話は続く。

 

 

姫「第一に、そもそも君は自分を軽視し過ぎているきらいがあるんだ。私を助けに来た時もそうだったし、魚見の件で有りもしない罪を被って彼女を庇ったり!あの時だけでも私がどれだけ気を揉んだか!」

 

 

零「あ、あの時の話はもう終わった事だろうがっ!今更蒸し返すような話じゃっ……!」

 

 

魚見「いいえ、この際ですからまた同じ事にならないように釘を刺すついでに言わせてもらいますが、もしあの時の貴方の提案が罷り通っていれば、今頃神々を敵に回してとんでもない事になっていた筈です。なのに貴方はその危険性を全くこれっぽっちもっ―――」

 

 

零「……あれ……なんだこれ……説教する相手がなのは達からコイツ等に変わっただけじゃないかっ……?」

 

 

姫を元気づけるつもりで掛けた言葉が何故か自分に向けられ、しかもなのはとはやてに代わり説教まで始まり、どうしてこうなったと頭を抑えて嘆く零。そんな中……

 

 

リア(……ふむ……成る程な……)

 

 

その様子の一部始終を、リアはなのは達と雑談を交わしたまま横目で見つめながら内心そう呟き、何かに納得するかのように小さく頷いていたのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―センター街・ショッピングモール―

 

 

そして、それから数時間後。リアの行き先が決まったという事で説教は中断され、一先ず零達はリアのリクエストである絢香達への贈り物を探しにこの日に備えて彼女達の好みを調べたと言うリアの調査の下、センター街の東側にある大型のショッピングモールへと訪れていた。因みに、この辺りの道に詳しくないと言う零達がどうやって其処までの道すがらを辿ったかと言うと……

 

 

零『―――スマホ……って、お前買ってもらったのかっ?!絢香にっ?!』

 

 

リア『うん、連絡を取るのに必要だろうという彼女の好意でね。やー、しかしほんと便利だねーコレ。インターネットとか電子マネーとかは勿論、新幹線の席の予約もこれひとつで十分。人間の技術力の進歩には頭が下がるよ。うん。だからこれさえあればモールまでの道筋も分かってチョーらくちん、だお?(*´ω`*)』

 

 

零『(コイツ……暫く見ない内に俗世に染まり切ってやがる……!)』

 

 

優矢『……っていうか、初めからソレ使ってりゃ俺らの案内とか別にいらなかった気が……』

 

 

という経緯から、現代人である零達も驚く程の吸収力で現代機器を使いこなすリアのおかげで迷う事なく此処まで辿り着き、その後も絢香達が好みそうな品がありそうな店を検索し、店先ではなのは達の異見を取り入れて無事に、絢香達への贈り物を選ぶ事が出来た。のだが……

 

 

零「―――あー……クソッ……まさか今度は四人一緒で説教されそうになるとはっ……」

 

 

頭を掻き、ウンザリとした口調でそう呟きながら零は一人、モール内のベンチにもたれ掛かるように座って溜め息を漏らしていた。周りになのは達の姿はない。と言うのも、その訳は今の零の台詞にある訳で……

 

 

零「全くっ、何だってこう、ああいう時に限って無駄に息が合うのかアイツ等はっ……。女三人寄れば姦しいとは良く聞くが、四人ともなれば尚更だなっ……」

 

 

空を仰ぎ、額に白い包帯が巻かれた手の甲を当ててもう一度溜め息を吐きながら先程の出来事を思い出す。

 

 

事の発端は絢香達への贈り物を探し終え、今度は自分の頼みに付き合ってくれたお礼にと零達への贈り物を探しに買い物の続きをリアに要求され(なのは達は最初遠慮していたが、実際はリアがもう少し観光したいという希望もあり、自分の我儘にまだ付き合って欲しいという意味も込めてとの事で)、とある洋服店でなのは達に似合いそうな服を探している最中、はやてが試着した服のサイズが合わず、どのサイズが合うか調べる為に店の店員を呼んでメジャーで測ってもらおうとした時に……

 

 

零『――わざわざそんな事せんでも一目で分かるだろ?腹周りだ腹周り、ウェストがこの前より(本人のプライバシーの為、自主規制)cm増してるんだよ』

 

 

優矢『ばっ?!』

 

 

はやて『…………(ピシッ!)』

 

 

……女性陣の長い服選びに痺れを切らしていたのに加え、気を利かせて無駄な手間を省かせようとそうアドバイスした結果、女性陣大顰蹙。特になのはとはやて、姫と魚見の四人は先の件の説教がまだ途中で不完全燃焼だったのが拍車を掛けてその勢いや凄まじく、これはヤバイとトイレ休憩を申し出てすぐさま逃亡。こうして外に逃げてきたという訳である。

 

 

零「何か、今日は何時にも増してツキ回りが悪いような気が……いや、さっきのは俺の失言だった訳だけども……」

 

 

とは言え、先程の件を抜きにしても此処までツキが悪いと、何だか何をやっても上手くいかないような気がしてならない。

 

 

……そう言えば、今日の自分の運勢はどうだっただろうか?と、ふとそんな事が気になって懐を漁り、ビートルフォンを取り出して開いた瞬間―――当然、目の前を何かが覆って暗闇に包まれた。

 

 

零「……は?なん――」

 

 

「だーれだー?」

 

 

―ギギギギギギギギギギギギギギギギィッ!!!―

 

 

零「イィッ?!イダダダダダダダダダダダダァアアッ!!!目がっ、目がァああああああッ?!!誰だお前ェええええええッ?!!」

 

 

急に目の前の景色が暗闇に変わったと思えば、直後に眼球を潰さんとばかりに信じられない力で両目を圧迫されて思わず悲鳴を上げ、すぐさま自分の目を覆っている何かを振り払いながら勢いよく飛び退き自分が今まで座っていたベンチの後ろを見てみれば、其処には何故か、なのは達と一緒に買い物をしている筈のリアが零に振り払われた両手を上げてキョトンとしていた。

 

 

リア「ありゃ……力加減を間違えたかな?すまないすまない、どうやら想定以上に驚かせてしまったようだ。幻魔は腕力が凄いから加減が難しくてねー、うん」

 

 

零「「うん」、じゃないわァアッ!!いきなり何事だお前ッ?!アレかッ?!新手の騙し討ちか何かかァッ?!危うく眼球を潰されそうになったぞこの野郎ォオッ!!」

 

 

リア「おお、まるでさっきの桜ノ神を彷彿とさせるリアクション。成る程……君と彼女が引かれ合ったのは、そういうところも含めて近しい部分が多々にあったから、かもしれないねえ?」

 

 

零「ああっ……?」

 

 

いきなり何の話だっ?と、危うく潰され掛けた両目を庇いながら思わず険しげに聞き返す零だが、リアはそれに対し特に何も答えず零が座っていたベンチの前へと移動して腰を下ろしていき、それを見て、零は怪訝な表情で辺りを見回していく。

 

 

零「おい、なのは達はどうした?一緒じゃないのか?」

 

 

リア「ああ、彼女達ならこの先のファミレスだよ。もうすぐ昼になりそうだから早い内に昼食を取ろうって事になってね。で、何時まで経っても帰って来ない君を探しにいく役を、私が買って出て迎えに来たって事さ」

 

 

零「……そうかよ……ソイツは無駄な手間を取らせたな……」

 

 

おかげで眼球を潰されそうになって散々な目に遭ったがな、と心の中で付け足しながら溜め息混じりにそう言うと、零はベンチの足元に置いておいたジュラルミンケースを手に取り、リアが言っていたファミレスに向かおうとするが、その時、リアが口を開いて喋り出した。

 

 

リア「しかし良い子だね、あの子達は。君と敵対し、一度は君を殺し掛けた私にもあんな風に屈託なく接してくれて。正直意外だったよ。もっとこう、桜ノ神みたいに警戒される事を想定していたのだけど」

 

 

零「……まぁ、アイツ等のお人好しは筋金入りだからな……長く一緒にいれば、自ずと毒気も抜かれていくぞ……かく言う俺も、アイツ等のそのお人好しに当てられた口だが……」

 

 

リア「……成る程……確かに、実際に関わってみればその言葉の意味が良く分かるよ。……私にも、彼女達のような存在が傍にいてくれたら、どんなに良かったかなぁ……」

 

 

零「……?」

 

 

ボソッと、風が吹けば掻き消えてしまいそうな程の小さな声でそう呟いたリアの言葉を耳で拾い取り、その意味が気になり零が訝しげな表情で振り返ると、リアは周囲を行き交う人々の姿を視線で追いながら、その目は何処か遠くを見つめているように見える。

 

 

リア「―――君はさ、零君。以前私と戦った時に、私が恐怖で人間達を従えようとした事を否定していたよね」

 

 

零「……突然なんだ、急に改まって」

 

 

リア「いや、別に大した意味はないよ。ただこうして、幻魔神でなくなってから人の中で生きていくようになって、ふと色々思うようになる事が多くてね」

 

 

そう言いながら、リアは空を仰いで手を伸ばし、太陽に掌を翳してポツポツと語り続ける。

 

 

リア「今だから言うけど、私はさ。再び幻魔神としての役目を果たす事を求められて、こうして蘇り、幻魔達を導く役を課せられて、君達が否定したその方法を手に取ったけど……正直、私もあんな方法で幻魔達が人と同じ世界を生きていくのは無理だろうと、頭の片隅では思っていたんだ。と言うのも、今の幻魔の現状を見て、そう思わざるを得なかったというのが本音だけど」

 

 

零「今の……そういえば、前にお前と戦う前のやり取りで似たような事を言ってたな……。数千年前には今より理性的な幻魔も多かったが、神権を次の幻魔神に譲ってからは、本能のままに人間を襲うようになったらしいとか」

 

 

リア「まあね。当時私が選んだ後継者は、私の後任を任せても大丈夫だと思った人選だったんだけど、どうやらその彼ですら、全ての幻魔を統治するのは無理だったようだ。結果、ギルデンスタンを始めとした様々な幻魔達が己の本能を抑えられぬまま生きて数千年が経ち、今では高等幻魔を除いて獣畜生同然の幻魔しか残らず、幻魔神という存在の消滅と共に消え去った……呆気ないものだよ、ホントに」

 

 

零「…………」

 

 

何処となく自嘲するように笑みをこぼして、肩を竦めるリア。零はそんな彼女の横顔を暫し見つめると、徐ろにリアが座るベンチの近くのオブジェに背中を預けるように寄り掛かった。

 

 

零「……今更後悔でもしてるのか?自分が生きていた頃、何かもっとこうしていれば、とでも……」

 

 

リア「ん?いや、別に後悔はないよ。流石に数千年後の未来の事まではどうしようもないし、私は私の時代で成すべき事を成し切ったし、自分なりに最善だと思う選択をしてきたつもりだ。私が選んだ後継者も、統治力は想像より私よりもなかったみたいだけど、彼よりも相応しいと思うような者も他にはいなかったからね。……と言うか、他のがどいつこいつも、幻魔神の力や権力にしか興味ない奴等ばかりだったから、彼しか選択肢がなかったってだけなんだけど……全く、そういう所は父上が統治していた頃から何一つ変わらなかったのが残念でならないよ」

 

 

零「……?父上が統治していた頃、って……」

 

 

リア「……あれ、そういえば言ってなかったっけ?私の父親って言うのは、私がまだ幼かった頃に幻魔界を収めていた幻魔の王。つまり王族ってヤツで、私、王の七番目の妻の子供。うん」

 

 

零「七番、目っ……」

 

 

それはまた、随分盛んですね、とでも言えばいいのか……。いや、問題は其処ではないか。つまりそれは、幻魔神という存在が生まれる前から、幻魔界を統べる者がいたという事か。しかし、そうなると……

 

 

零「その……お前の父親ってのは、お前が幻魔神になった頃にはどうしてたんだ?」

 

 

リア「?どうも何も、とっくの昔に殺されてたよ?自分が王になろうと、王の座を狙ったある幻魔に暗殺されて王位を奪われただけでなく、私の母や他の妻達や子供達も、その新たな王に残らず殺されてね。生き残ったのは当時、まだ九歳だった私だけだったよ」

 

 

零「…………」

 

 

そう言ってあっけらかんに己の過去を話すリアだが、その内容は、到底軽く聞き流せるようなモノではなかった。父親である幻魔王を殺され、王座を奪われただけでなく、母達を皆殺しにされて自分だけが生き残った。そんな予想外なリアの壮絶な過去に思わず目を剥いて固まる零だが、そんな零の反応を見て何か勘違いしたのか、リアは若干慌てた様子で胸の前で手を振った。

 

 

リア「あっ、別にこの復讐の為に幻魔神の力を求めたとかじゃないよ?さっきも言ったけど、私の父が収めていた頃から幻魔界は無法だったし、強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当然だと言う弱肉強食的な価値観が蔓延って一般化していたからね。だから私も、幼心に仕方のない事なのだと受け入れていたけど、その後の横暴の限りを尽くし、幻魔界を滅茶苦茶にしていく新たな王を見てこのままでは行けないと決心して、新たに神権というシステムを作り上げて王を倒した後に、幻魔界の新たな統制者として君臨した……みたいな感じだよ」

 

 

零「……どうして其処で神権に目を付けたんだ?単純に、王座を取り戻すだけじゃ駄目だったのか?」

 

 

リア「……うーん……強いて言えば、より完全な絶対者とは何なのかを追求した結果……かな?ほら、私の父上がそうだったように、王とかって叛逆されたり暗殺されたりするのが付き物だろ?其処に血気盛んな幻魔が加われば尚更、王が暗殺される度にコロコロ状勢が変わっていては、あのままではホントに幻魔界がいずれ潰れてしまうと危惧したんだ。だから、王よりももっと上の存在……挑もうという気概すら湧かず、誰も逆らえない絶対の存在を生み出す事で、幻魔界の状勢を不変のモノにしたかったんだよ。……ま、それも結果的に失敗に終わったけどね」

 

 

零「…………」

 

 

なんでもないようにそう語りながら、困ったように眉を下げてリアは笑う。しかしそんな彼女に対し、零は無言のまま眉を潜めて何か納得し難いような表情を浮かべていた。

 

 

零「何故だ?」

 

 

リア「……?何がだい?」

 

 

零「お前のその物事に対する執着の薄さの事だ。両親を殺された事もそうだし、俺達はお前が其処までの想いで作り上げた幻魔神という存在を消し去ったんだぞ?なのにお前はそんな俺達に怒りを覚えるどころか、未練すら抱いていない……。どうしてお前はそんな―――」

 

 

リア「平然としていられるか、って?さっきも言ったけど、私の価値観のベースには弱肉強食……強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当たり前って考えが今尚強く根付いてる。だからって別にそう振る舞おうって気はないのだけど、『負けた奴は全てを失って当然』……そういう考えは自分にも向けられていてさ。だから生前、私は死ぬまで誰にも敗れるような事はしなかったけれど、君達に負けた時点で、私は"何もかも失ったと受け入れられた"。……まぁ元より、今の幻魔界は其処まで執着する程のものではないと思ったから、早々に見切りを付けたっていうのもあるんだけどね」

 

 

零「……だから俺達に負けた時、妙に潔く負けを認めてたのか」

 

 

リア「まあね……君達と戦う時にも言った"不本意"、というのもそういう意味だ。だからまぁ、私が執着というモノをしないのはそういう単純な理由さ。君が其処まで気にする事じゃないよ」

 

 

零「……それは……」

 

 

―――いや、待て、違う。そうじゃない。

 

 

本当に問い質したい事はもっと別にある。

 

 

今までの話を聞いていて、リアに対し覚えたモヤモヤとした感覚。

 

 

一聞、今のリアの話にこれと言って可笑しな部分はなかったように聞こえるが、その中に何か、気付かねばならない疑問があったような気がするが……しかし、それが一体何だったか……。

 

 

本当はその事を追求したいのに、そのモヤモヤの正体が自分でも分からない故に口に出して言葉に出来ない。その妙な引っ掛かりに零が渋い顔を浮かべる中、リアは高層ビルの壁に貼り付けられた大型画面に映る時刻を見てベンチから立ち上がった。

 

 

リア「何か随分話し込んでしまったね、長話になってすまない。そろそろ行くとしようか?あんまり遅いと彼女達が心配し兼ねないし、特に桜ノ神とか、迎えに行った私に遅い!と言って怒りそうで恐いし」

 

 

零「…………、まぁ、その辺は俺の方でフォローしといてやる……話が長引いたのは俺が質問を投げ掛け過ぎたせいでもあるし……」

 

 

リア「おお?無愛想な見掛けに依らず優しいねー君は。しかし、あまり桜ノ神の前で私の肩を持ち過ぎないよう気を付けた方がいいよ?彼女からしてみれば、自分の契約者である君が天敵の私と仲良くしている姿を見るのは心底面白くないだろうし」

 

 

零「無愛想云々は余計だっ……大体、木ノ花はそんなこと気にする様な奴じゃないだろ。さっき話した時にも、アイツなりにお前とちゃんとした付き合い方を考えるみたいな事を言っていたのだし」

 

 

リア「……それとこれとはまた別の話だと思うけどなぁ……まぁ、今の君には言うだけ無駄か……」

 

 

零「っ?」

 

 

やれやれと、首を横に振りながら両手を広げて呆れるリアの意図が読めず、険しい顔で怪訝な反応を浮かべる零だが、リアはそんな零を他所に背筋を伸ばしながら歩き出していき、それを見て零も符に落ちない様子で口先を尖らせながらも、取りあえず今はリアと共にファミレスに向かうべきだろうと溜め息を吐いて一先ず気を取り直し、彼女の後を追うように足を踏み出した。が……

 

 

 

 

 

 

―……チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオォォォンッッッッッ!!!!!!!!―

 

 

リア「―――!」

 

 

零「?!何だっ?!」

 

 

 

 

 

 

突如、鼓膜を裂くような爆発音と共に零とリアの足元が大きく上下に揺れ動いた。その突然の震動に思わずバランスを崩して倒れそうになる零だが、リアの方はけたたましい爆発音に驚いただけで不動を保ち、今の爆発が聞こえてきた方へと振り向くと、其処には、街の至る場所が破壊され黒煙が立ち込めている光景が見え、零はその光景を目の当たりにし思わず目を見開いてしまう。

 

 

零「爆発っ……?何で急に……事故か何かか……?」

 

 

リア「……いいや。どうやら、そういうのとは少し違うようだよ」

 

 

零「……何?」

 

 

空に立ち上る黒煙を見上げて突然の爆発に困惑する零だが、そんな零とは対象に落ち着いた様子のリアが僅かに細めた目で正面を見据えながらそう呟き、零はリアの言葉に疑問符を浮かべながら彼女の視線を追って前を向くと、其処には……

 

 

 

 

 

―ギュイィィィィィーーーーーーーイィンッ!!―

 

 

『シャアァアアアアアアアアッ!!!』

 

 

「う、うわぁあああああああああっ!!!?」

 

 

「ば、化け物ぉおおおおっ!!!」

 

 

……街の上空に無数のファスナーが出現し、チャックが開くように裂け目が開け、其処から無数の怪物達……智大の世界のライダーの一人である迅武達が戦う怪人・パンデミック達が飛び出し、街の人々を無差別に襲う光景が広がっていたのだ。

 

 

零「パンデミックッ?!何でこの世界にアイツ等がっ……?!」

 

 

リア「ふむ……君の台詞から察するに、アレは元からこの世界にある産物ではない、と……何やらきな臭いなぁ……零君、こんな無粋な真似をする誰かに心当たりとかないのかい?」

 

 

零「ッ……寧ろあり過ぎて逆に検討が付かんっ……。とにかくお前は此処にいろっ!今はアイツ等を―――!」

 

 

一体何故、誰が何の目的でこんな真似をしたのか分からないが、このままパンデミックに襲われる人々を見過ごす訳にはいかない。とにかく今は民間人の救出が優先だとディケイドライバーを取り出して変身しようとする零だが、その時……

 

 

―バシュウゥッ!―

 

 

零「ッ?!なっ……?!」

 

 

ディケイドに変身しようとした零の目の前を、突然一発の銃弾らしき物が遮ったのだ。危うくその凶弾に当たり掛け、驚きを隠せないままその銃弾が放たれてきた方に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

『………………ピピッ』

 

 

 

 

 

零が振り向いた先に視界に捉えたのは、無機質な造形の謎の白いアンドロイド……。その右腕の側部には、今の銃弾を放った正体と思われる射撃ユニットが搭載されており、その銃口を突き付けたままアンドロイドは無言で零を見つめ不気味に佇んでいたのだ。

 

 

零「お前はっ……?」

 

 

『………………(クイッ』

 

 

突然現れた謎のアンドロイドに困惑を露わにする零だが、アンドロイドの方はそんな零の反応に構わず、まるで「付いてこい」と告げるように顎を差した瞬間、パンデミックの大群が人々を襲う街中を走り出して何処かへと向かっていく。

 

 

零「……そうかよ。向こうの目的は俺、って訳か……」

 

 

リア「しかし、どうにも罠臭いのが否めないな……どうする?彼女達に連絡して先に合流でもしとくかい?」

 

 

零「……出来ればそうしたいが、こんな状況だ。パンデミック達の方も放っておけない以上、此処は分散して撃退に動いた方が得策だろ……此処で誘いに乗らないと何をして来るかも分からんからな……リア!」

 

 

例え罠だとしても、今はその誘いに乗るしかない。そう考え、零は背後のリアの胸にジュラルミンケースを押し付けた。

 

 

リア「?これは?」

 

 

零「お前の用件が片付いたら、そのまま知り合いの所に直行して突っ返しに行こうと思ってたモノだ……!お前はソイツを持ってなのは達と合流しろっ!いいか、絶対中身に傷は付けるなよっ?!もし壊しでもしたら、それを弱味にまた訳の分からんトラウマ事に巻き込まれるか分からんからなぁっ!」

 

 

『KAMENRIDE:DECADE!』

 

『FORMRIDE:KUUGA!DRAGON!』

 

 

指を指してしつこいくらいにリアにそう念を押しつつ、零は腰に巻いたドライバーにカードを装填してディケイドに変身すると、更にもう一枚カードをバックルにセットしてDクウガ・ドラゴンフォームに姿を変えながら素早い身のこなしでアンドロイドを追って飛び出し、その道中、地面に転がっていた鉄パイプを素早く拾い上げてドラゴンロッドへと変化させ、すれ違い様に人々を襲うパンデミックを次々と撃退しながら、アンドロイドの後を追跡していくのであった。

 

 

リア「……さて……これが本当に、零君だけを狙っての騒動なのか……どうにも不穏だなぁ……」

 

 

そして、謎のアンドロイドを追い掛けて遠ざかっていくDクウガの背中を見つめながら、独り残されたリアはこの突然起こった騒動に奇妙な違和感を感じてポツリとそう呟いた、その時……

 

 

―……ギュイィィィィィーーーーーーーイィッ!―

 

 

『シャアァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

そんなリアの頭上に、不意にファスナーが現れて裂け目を開き、一匹のパンデミックが飛び出し眼下のリアへと襲い掛かったのである。迫る凶爪がリアの後頭部を捉え、数秒後には無残にも引き裂かれたリアの姿が誰の目にも浮かぶが、しかし……

 

 

 

 

 

―フッ……―

 

 

『―――ッ?!ギッ……?―ガシィッ!―クギィッ?!』

 

 

―グシャアァアアアアアアアアアアアッ!!!―

 

 

不意に、パンデミックの視界からリアの姿が残像のように消え去り、直後、パンデミックの後頭部を背後から何者が鷲掴みながらそのまま地上へとめり込むように叩き付け、まるで果実が潰れたような生々しい音と共にパンデミックの頭がグチャグチャに粉砕されたのだ。そして、パンデミックを地上へと叩き潰した人物……パンデミックの背後へと瞬時に移動したリアはゆっくりと身を起こし、乱れた前髪を掻き上げて目付きを鋭く細めた。

 

 

リア「――いずれにせよ、あんまりこういうのは頂けないかな……私を倒した彼等を振り回すような真似は……」

 

 

―ギュイィィィィィーーーーーーーイィンッ!!―

 

 

『シャアッ!』

 

 

『ギィイイイイイイイッ!』

 

 

そう呟くリアの声音は、先程まで零と話していた時と違って低く、その佇まいはあの夜に零達と戦った時と何一つ変わらない、圧倒的な気配を漂わせている。

 

 

そしてそんな彼女の気配に引き寄せられるように、更に無数の裂け目が出現してパンデミック達が飛び出し、ワラワラと群がるパンデミックの大群を前に、リアも僅かに薄い息を漏らしてジュラルミンケースを肩に背負い、ゆっくりとパンデミックの群れに向かって歩き出していくのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry③

 

―モール街―

 

 

『ATTACKRIDE:ACCEL SHOOTER!』

 

 

トランス『シュウゥーーーーーットォッ!!』

 

 

―バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!!!―

 

 

『ギャッ?!』

 

 

『グギャアアッ!!』

 

 

一方その頃、昼食の為に先にファミレスで零とリアを待っていたなのは達も街で突如起きたパンデミックの大量発生の対処に追われていた。

 

 

なのは、優矢、姫、魚見はそれぞれライダーに変身してパンデミック達を撃退しながら襲われる民間人を救出し、助け出した人々をはやて、スバル、ティアナが避難させていたが、四人がどれだけ倒してもパンデミックは未だその数を増やしていき、前線を天神と聖桜に任せ、後方でトランスと共にペガサスフォームとなってパンデミックが裂け目から現れる瞬間を狙い撃ち続けていたクウガもそのあまりの数に渋い顔を浮かべていた。

 

 

クウガP『クソッ……!撃っても撃っても全然数が減らないっ!どうなってんだコイツ等っ?!』

 

 

天神『ッ……!この明らかに不自然な敵の出現……恐らく、コイツ等の発生は自然のものではなく人為的なものだっ……!だとすればきっと、何処かにコイツ等を呼び寄せてる奴がいるハズだがっ……!』

 

 

倒しても倒しても、その度に更に数を増して増え続けるパンデミックの出現にたまらずボヤくクウガにそう言いながら、天神も桜雪を横一閃に振るってパンデミック達を纏めて斬り裂いて撃破するも、やはり四人がパンデミックを倒したと同時にまた裂け目から新たな大群が湧き出てしまい、その光景を前にトランスも仮面の下で苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてしまう。

 

 

トランス『でもっ、その首謀者を探し出そうにもこれじゃキリがないっ!街の守りも固めないといけないしっ……!』

 

 

聖桜『ッ……せめてこちらも戦力を増強出来ればっ……』

 

 

この騒動を引き起こしてると思われる張本人を探し出そうにも、今此処にある戦力だけでは分断して犯人の探索と街の防衛を同時に行うのは不可能だ。圧倒的に人手が足らない。そんな四人の募る焦燥感を嘲笑うかのように徐々に数を増して押し寄せてくるパンデミックの大群を前にトランス達の額を冷や汗が伝う中、民間人の避難活動を行っていたスバルが優矢から渡されていた携帯を手に、トランスに向けて叫んだ。

 

 

スバル「なのはさんっ!アズサ達と連絡が取れましたっ!皆もこの騒ぎを聞き付けて、今こっちに向かってる最中だそうですっ!」

 

 

トランス『ッ!アズサちゃん達が……?!』

 

 

天神『よし、それなら何とかなりそうだっ。後は彼女達が駆け付けるまで持ち堪えて、チームを二つに別ければ……!』

 

 

聖桜『寧ろ、彼女達にはそのまま首謀者の捜索に向かってもらうのも手だと思います。そうすれば、私達もこの場での救助活動に専念する事が出来ますし』

 

 

スバルからアズサ達がもうすぐ駆け付けるという知らせを聞かされた安堵感からか、トランス達の声音にも幾分か余裕が戻り、このままアズサ達と合流するか、それとも彼女達を別働隊として動かすかを戦いながら話し合える程に落ち着きを取り戻した。が、その時、スバルの持つ優矢の携帯から不意にメールの着信音が響き渡り、スバルは突然のその着信音に「わっ?!」と驚きながらも携帯を操作してメールを開くと、其処に書かれていた内容に目を剥いて驚愕した。

 

 

スバル「えっ、ちょっ……な、なのはさんっ!大変ですっ!零さんがっ……!」

 

 

トランス『ッ?!えっ?!』

 

 

クウガP『大変って……まさか、零の奴に何かあったのかっ?!』

 

 

スバル「いや、えと、あったっていうかっ……今ちょうどリアさんからメールが届いたんですけど、一緒だった零さんがこの騒動の犯人らしき人物が寄越したと思われる使者を一人で追い掛けてしまった、って内容が来てっ……!」

 

 

天神『はあっ?!』

 

 

聖桜『また彼はっ……あれだけもう無茶はするなと言い付けたばかりなのに……!それで、リアの方は……?!』

 

 

スバル「え、えぇっと……何ていうか……リアさんの方は、一人で怪人を相手に余裕ありあり過ぎっていうかっ……」

 

 

と、何故か歯切れの悪い口調でそう言いながらスバルがトランス達に見せた携帯の画面に映るのは、メールに添付された一枚の画像……無数のパンデミック達の死骸が転がる死屍累々の光景を背に、一体何処で覚えたのか、キラッ☆とアイドルのようなポーズを取るリアの自撮り画像であり、その緊迫した今の状況に似つかわしくない画像を目にしたトランス達は思わず肩の力が抜けて唖然としてしまった。

 

 

クウガP『あ、あの人はっ……何ていうか、一人だけ何かテンション可笑しくないかっ……?』

 

 

天神『ええいっ、どうせ絢香達の所で休養している内に幻魔の力も十分取り戻したんだろっ……!アイツの事はほっとけっ!それよりも今は零の方だっ!わざわざ彼だけを誘い込むような真似をする辺り、恐らく敵の目的はっ……!』

 

 

聖桜『……彼の命か、もしくは以前にも見せた破壊者としての彼の力が狙いか、そのどちらかかもしれませんね……。何れにせよ、このまま零を一人だけ敵の元に向かわせるのは危険ですが、まだ此処を離れる訳にはっ……』

 

 

トランス『…………』

 

 

この事件の犯人の真の目論見は直接問い質さない限り分からないが、少なくとも零に関する何かしらが狙いなのは関係しているに違いない。零が誘い込まれた先に罠の可能性も十分にある以上、万が一に備えて零の援護にも向かいたいが、救援がまだ到着してない今の状況で戦力を割る訳にはいかない。迫り来るパンデミックの群れを撃破しながらもどうするべきかと一同が悩む中、トランスはライドブッカーの引き金を引きながら顔を伏せて何か思考に浸った後……

 

 

トランス『――姫さん、魚見さん!二人は零君を追い掛けて下さい!此処は、私と優矢君で引き受けます!』

 

 

聖桜『ッ!えっ……?』

 

 

クウガP『な、なのはさん?』

 

 

天神『し、しかし、君達だけでこの数の進行を食い止めるのは……!』

 

 

トランス『大丈夫……!二人だけでもアズサちゃん達が駆け付けるまでの間くらいならどうにか持ち堪えられますから、二人は零君の手助けをしてあげて下さい!姫さん達の力があればどんな罠があってもきっと零君を救い出せるし、状況次第じゃアマテラスやツクヨミになれるには姫さん達が必要になる筈です!だから……!』

 

 

クウガP『……ですね。いざって時には、避難所までのルートへ街の人達を誘導しに行ってるはやてさん達に付いたゴウラムもいます!此処は俺等に任せて、二人は零を頼みます!』

 

 

天神『ッ……分かった、すまない二人共……!魚見っ!』

 

 

聖桜『えぇ……!』

 

 

『Sumon!Press!』

 

 

トランスとクウガの厚意に後押しされ、聖桜は指輪を付け替えた右手をバックルに翳して電子音を慣らしながら、自身の左方に出現させた魔法陣から写真館に置いてきた馬鬼を召喚し、天神も懐から取り出した梅の花をモチーフにしたかのようなロックシードを解錠して道路に放り投げ、巨大化しながら徐々に変形してバイクとなったロックシードのマシン……ウメノハナタイフーンへとそれぞれ乗り込み、トランスとクウガにこの場を任せ、二人は契約で繋がっている零の気配を頼りに馬鬼とマシンを走らせ街中を疾走してゆくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―市街地・中央区―

 

 

――そして、トランス達の現在地から更に街の中央に位置する区域。零達が先程まで買い物をしていたセンター街よりも更に高い高層ビルがズラリと立ち並んだその町並みも、やはりパンデミック達の襲来によって破壊し尽くされてしまい、人の姿もなく、壊されたビルの瓦礫やガラス片が散乱する街の至る所からも黒煙が立ち上る大惨事と化していた。だが、そんな地獄のような惨状と化した中で……

 

 

「―――ァあ……遅い……まだか……まだなのか……まだ来ないのか……?」

 

 

市内のとある広場。辺りに街の人々がパンデミック達から逃げる際に落としていった物が転がり、いつ何処からパンデミックが現れるかも分からない状況の中で、一人の男が貧乏揺すりをしながらベンチに腰掛けて何かを待つ姿があった。

 

 

外見は恐らく二十代後半。セットすらされておらずボサボサに乱れた金髪に無精髭とだらしない顔だが、一見高級そうな黒のスーツを装い、まだかまだかと、何かを待ちわびて苛立ちを露わにしている様子だが、その時、ハッと何かに弾かれるように顔を上げ、口元を歪に歪めた。

 

 

「あァ……やっと来てくれたか……」

 

 

―ガシャアァンッ!!―

 

 

何処か声に歓喜を含んで男がそう呟いた瞬間、けたたましい金属音と共に広場の通りの方から何かが男の前へと吹き飛ばされ、自分の足元に倒れ込んだソレを男の目が捉える。その正体は、全身から火花を撒き散らしながら白い煙を立ち上らせる機能停止したスクラップ同然の機械……零が追い掛けていた謎の白いアンドロイドであり、男がそんな白いアンドロイドから興味を失ったように目を逸らして目前に視線を移すと、其処にはドラゴンロッドで突きを放った態勢のまま男を見据えて佇む青いライダー……Dクウガの姿があった。

 

 

「クッ、フフフフッ……漸く来てくれたかい……待っていたよ破壊者。随分遅かったじゃないか?あまりに遅いから、送った案内役が拙すぎて此処までの道すがらが分からなかったんじゃないかと不安を覚えてたところだったよ」

 

 

DクウガD『…………』

 

 

喜びを露にベンチから立ち上がり、両腕を広げて狂喜的な笑みを深める男に対し、Dクウガは仮面の下で目付きを鋭く細めながらドラゴンロッドを握る腕を下ろして男の姿を観察するように見つめつつ、周囲に他に人影や罠がないか警戒して気を引き締めるが、そんなDクウガの警戒に気付いた男はニヤニヤとした笑みを隠そうともせず首を横に振った。

 

 

「心配せずとも、此処にいるのは私だけだよ。つまりこの騒動は私一人が起こした単独正犯という事だ……。別に仲間なんていないから、騙し討ちの心配する必要なんてないよ?」

 

 

DクウガD『……そうかよ。だったら早い話、此処でお前を叩き伏せればこの騒動も収まるって事になるが……そもそもお前、何者だ?何が目的でこんな真似をした?』

 

 

出来るだけ冷静な口調で、男から情報を引き出す為に静かにそう問い掛けると、男はスーツの裾を整え直しながらDクウガに向けて口を開く。

 

 

 

「私の名はリーガン・マシュベルト。見ての通りただのしがない研究者の一人で、特にこれといった経歴はないのだが……そうだね……『財団』の関係者、とでも言えば、君には私が何者かなんて説明はこれ以上必要ないんじゃないかなぁ?」

 

 

DクウガD『……財団……』

 

 

財団―――それは智大の宿敵であるシャドウが率る組織の名であり、嘗て戦国世界でも武者ディケイドを始めとした武者ライダー達の消滅の原因を作った、自分にとっても仇敵である組織の名だ。その関係者であると名乗る金髪の男……"リーガン・マシュベルト"の口から聞かされた時点で、Dクウガの身に纏う空気が一気に張り詰めて戦闘態勢に入るが、リーガンはそんなDクウガの雰囲気の変化を察して右手で制止した。

 

 

リーガン「待ってくれよ、別に私は君と戦いに来た訳じゃない。……こうして君を招いたのは、君とある取り引きがしたいからなんだ」

 

 

DクウガD『……取り引きだと……?』

 

 

どういう意味だ?、とリーガンの突然の言葉にDクウガが眉間に皺を寄せて訝しげな反応を返すと、リーガンは自分の話に興味を示すDクウガに僅かに気を良くしながら足元に転がるアンドロイドを跨いで歩き出し、両手を広げたまま話の続きを語り出した。

 

 

リーガン「実はね、私は今ある研究を進めている最中なんだよ。全ての人間を、神にも等しき高次元の存在へと進化させ、誰もが時や次元……いいや、神の領域をすら超えた新たな種、『高次元生命体』を確立させる為の研究を……!」

 

 

DクウガD『……高次元生命体?』

 

 

聞き慣れない単語に思わず険しげにそう聞き返すと、リーガンは人差し指を立ててその説明を口にする。

 

 

リーガン「言ってしまえば、神話に出てくるような神の神秘とも言える力の数々を人の身で宿した人種の事さ。つまりこの研究が実現すれば、人は人のままにそんな神にも等しき力を手に入れ、いずれは森羅万象総てを支配する存在になれるかもしれない!つい先日にも、それに最も近いとも言える被験体を幾つも生み出せたんだよ!……ま、最終的には力に耐え切れず自壊してしまったのだけど」

 

 

DクウガD『…………』

 

 

自身の研究……人間を神にも等しき存在と称す『高次元生命体』へと至らせるのだという内容を話していく内に、徐々に話に熱が篭もりテンションが高まって踊り狂うリーガン。だがそんなリーガンとは対象に、Dクウガは無言のままリーガンの背に冷ややかな眼差しを向けるも、リーガンはそんな事にも気付かずDクウガの方に振り返り、先程よりも更に狂気の増した瞳を向けて高らかに語り続ける。

 

 

リーガン「私はね、いずれ人類全てを死の概念からも逸脱した新人類へ導きたいと思ってるんだ!私はその革新者となりたい!……でも、その研究の最中に一つの壁に打ち当たってしまってねぇ。どうしても高次元生命体と同等の存在、或いは力のサンプルが必要になってしまったんだ。其処で―――」

 

 

DクウガD『―――其処で、俺の中のコイツに目を付けた……という事か』

 

 

リーガンの言葉を最後まで聞く事なく遮り、Dクウガは自身の左側の複眼……破壊の因子が埋め込めれた左目に触れ、リーガンはそんなDクウガの言葉を肯定するようにニヤッと更に笑みを深めた。

 

 

リーガン「私の求める取り引きとはソレさ。君には、私の実験に協力して欲しいんだよ。破壊の因子という神へと至る力を持つ君の協力を得られれば、私の研究はより確実性を増すに違いない!人が神に成り代われる事も可能になるという私の論理を証明出来るんだ!だから―――」

 

 

DクウガD『―――だから、その為だけに此処までの騒ぎを起こしたっていうのか、お前は……?』

 

 

リーガン「?……ああ、私が用があるのは君だったからねぇ。邪魔が入って横槍を入れられるのも癪だし、これだけの大惨事となれば君の仲間達もこの騒ぎの対処に追われる事になるだろう?そうして結果は狙い通り、君だけをこうして招く事が出来て万々歳だったよ。ハハッ!」

 

 

DクウガD『……あぁ、そうかい……もういい、大体分かった』

 

 

何の悪びれもなく、パンデミックを街に放って人々を危険に晒した事に一切の罪悪感もなく笑うリーガンの態度から更に不信感を強め、Dクウガは小さくそう呟きながら左腰に収めたライドブッカーをガンモードに切り替え、リーガンに銃口を突き付けた。

 

 

リーガン「…………。どういうつもりかな、それは?」

 

 

DクウガD『どうもこうも、見ての通りだ。話とやらは聞くだけ聞いただけで興味も無ければ、俺のやる事も何一つ変わらん……俺がお前の研究になぞ手を貸す義理もないし、財団に関わりのある人間以前に、そんなくだらん理由で関係ない人間を多く巻き込んだ時点で、お前は俺の敵以外の何者でもない』

 

 

リーガン「……正気かな……分かってるのかい黒月君?私の研究が実現すれば、君のその因子をより安全に、安定して制御する事が出来るようになるかもしれないんだよ?そんなチャンスを棒に振るっていうのかい?」

 

 

DクウガD『余計なお世話だ。例えそれが可能だったとしても、誰がお前みたいな胡散臭い奴に頼るものか……お前の戯言にこれ以上付き合う気はない。とっとと街で暴れているパンデミック共々この世界から失せろ。それでも食い下がるつもりなら、此処で容赦なく叩き潰すだけだ』

 

 

リーガン「…………」

 

 

交渉は決裂。その上、ハッキリと敵対宣言をDクウガの口から告げられたリーガンはその顔から表情が消え去り、頭をガシガシと乱雑に片手で掻き毟りながら、

 

 

リーガン「やれやれ……全く、イヤになるなぁ、ホントに

 

 

 

 

―――どいつもこいつも、俺の研究が分からない馬鹿ばっかりでさぁ……」

 

 

DクウガD『!コイツ……?』

 

 

チッ……という舌を打つ音と共に、突然リーガンの口調が先程と打って変わって口汚いモノへと変わり、据わった目付きでDクウガを睨み付けて来たのだ。Dクウガもリーガンのその雰囲気の変化を感じ取って警戒心を強める中、リーガンは懐からジューサーの造形に似た一つの赤いバックル……嘗て、早瀬智大が七条鉄斗に送ったモノと同じ"ブラッドドライバー"を取り出し、腹部に当てて腰に巻き付けた。

 

 

DクウガD『ッ?!そのベルトはっ……?!』

 

 

リーガン「見覚えあるだろぉ?財団に関わっていれば、お前達のデータなんて幾らでも手に入るからなぁ……それを元に、ベルトを再現して創り上げるぐらい簡単に出来るんだよ……何せ俺、天才だからさぁ」

 

 

DクウガD『なっ……』

 

 

それはつまり、智大の発明品であるベルトをデータを見ただけで一から作り上げたと言うのか。せせら笑うリーガンの言葉にDクウガが驚愕を浮かべるのを他所に、リーガンは更にズボンのポケットからエナジーロックシードに酷似した錠前……無数の首を生やした異形の絵柄のエナジーロックキーを取り出し、解錠した。

 

 

―プシュウッ!―

 

 

『HYDRA ENERGY…!』

 

 

―ギュイィィィィィィィーーーーーーーイィンッ!―

 

 

『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァッッッッ!!!!!』

 

 

リーガンが錠前を解錠した電子音と共に、リーガンの頭上に出現したファスナーが巨大な丸を描いて裂け目を開いたと同時に、裂け目の奥から武装された巨大な九の首を持つ蛇の異形……ギリシャ神話にて英雄ヘラクレスと相対した怪物であるヒュドラが降臨し、リーガンは更にエナジーロックキーをブラッドドライバーのバックルに装填して固定し、バックル右側のハンドルを握り押し込んだ。

 

 

―ゴポポポポポポポポポッ……!ー

 

 

『BLOOD…!』

 

『HYDRA ENERGY ARMS!』

 

 

ジューサーの容量でエナジーロックキーから血のようなエネルギーがバックル下のコップに絞り出され鳴り響いた電子音声と共に、上空のヒュドラが徐々にアームズへと変形してリーガンの頭に被さり、直後、リーガンの全身を白いライダースーツが覆いながら、アームズが徐々に花開いて変身したリーガンの身体に身に纏われたのだった。

 

 

仮面ライダーデュークとマルスの仮面を足し合わせて二で割ったような薄緑色の仮面に、毒々しい紫色の瞳。白いライダースーツの上に身に纏われた薄緑色の鎧の背中からは、まるで尻尾のように伸びた九つの蛇の頭を持ち、その右手には黒い弓矢を手にした姿……『仮面ライダーテュフォン・ヒュドラエナジーアームズ』に変身したリーガンに、Dクウガは未だ我が目を疑いつつも、思わず舌打ちして毒づいた。

 

 

DクウガD『クソッタレめっ……他所の発明を無許可でパクって使うとは、随分といい趣味してるじゃないかっ……』

 

 

テュフォン『ハッ、どうせ使い捨てのガラクタなんだ。そもそもお前みたいなクソガキから力づくで因子を奪うのに、一から何かを考えて造るなんて面倒極まりないだろ?だったらこの方が手っ取り早いってもんさ……。少なくとも、お前程度にはこの程度の品で十分に通用するだろうしなァ』

 

 

DクウガD『……そうかよ、だったらこっちも加減は無しだ……。此処で取り逃がしてそのベルトがダメだったから、なんて理由であのクソステッキと似たようなものを作られても厄介だからな……お前は此処で仕留めるッ!』

 

 

―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガァアアッ!!!!―

 

 

自分の中の動揺を振り払うようにそんな軽口を口にすると共に、Dクウガは先制を取るようにライドブッカーで銃撃しながらドラゴンフォームの素早さを活かしてテュフォンに目掛けて突っ込み、肉薄した瞬間に何時でも突きを放てるようにドラゴンロッドを腰の後ろに引いて構える。しかし、テュフォンはDクウガの放つ銃弾を全て右手の黒い弓で受け止めてガードしつつ、弓を横薙ぎに振るって巨大な斬撃破を放ち、それを目にしたDクウガは強化された跳躍力で斬撃破を飛び越えるようにかわし、そのままテュフォンの頭上を超えて背中に回り込もうとするが……

 

 

―……ブォオオオッ!!!―

 

 

『シャアァアアアアアアッ!!!』

 

 

DクウガD『――ッ?!何っ?!―ブシャアァアアアアアアッ!!―ぐぅうううううッ?!!』

 

 

Dクウガがテュフォンの頭上を飛び越えようとした瞬間、テュフォンの背中から伸びた九頭の蛇の頭の内の一つが不意に動き出し、突然首を勢いよく伸ばして空中のDクウガに噛み付こうと襲い掛かったのである。それを目にしたDクウガも驚きを露わにしながらも、咄嗟に宙で身を捻って蛇の頭の襲撃を回避しようとするが、蛇の牙がDクウガの右腕をすれ違いざまに切り裂いて完全に避け切る事は叶わず、赤い血しぶきを腕から撒き散らしながらテュフォンの後方へと叩き付けられてゴロゴロと地面を転がり、ディケイドへと戻りながら倒れ込んで苦悶げに血が流れる右腕を抑えた。

 

 

ディケイド『ァッ……!ぐぅッ、っ……その、アームズっ……まさかっ……!』

 

 

テュフォン『ハッ、今になって気付いたのか?そう、コイツは彼の英雄、ヘラクレスを苦しめたと云われる怪物……ヒュドラの力を宿したアームズでね。コイツの猛毒はヘラクレスの人間としての生を奪っただけでなく、不死であるケイローンがその猛毒の苦痛に耐え切れず、己の不死を返上したとも伝えられているんだよ』

 

 

『シャアァアアアアアッ……!』

 

 

そう言ってテュフォンがギリシャ神話に伝わるヒュドラの逸話を語る中、ディケイドを襲った蛇の頭……ヒュドラが威嚇するように牙を剥いて大きく口を開きながら唸ると、牙から毒々しい色の毒が垂れて地面に滴り落ち、直後、何かが溶けるような嫌な音と共に地面から白い煙が立ち上り、毒を浴びたコンクリートの地面が溶解してしまう。

 

 

テュフォン『ヒュドラの毒は強力でねぇ、少し牙に触れただけでも十分に相手を殺せる効果があるんだよ……特に、ヒュドラの牙で傷を受けた者には尚更なぁ?』

 

 

ディケイド『……ッ……』

 

 

意地汚い笑みを向けて来るテュフォンに仮面の下で険しげな表情を浮かべながら、ディケイドはヒュドラの牙で切り裂かれた右腕……既に毒の影響で赤黒く変色してしまっている傷口を見つめた。

 

 

テュフォン『ハッハハハハハハハッ、中々面白い趣向になって来たじゃないかァ!毒が全身を回るまでせいぜい三十分……さっきは俺を倒すだなんてクソ生意気な戯言をほざいてたが、ヒュドラの毒に侵されてるその身体で何処までそれが出来るかなァー?早く俺を倒して毒も何とかしないと、お前が死んだと共に破壊の因子でこの世界はドーンッ!!、お仲間もろとも心中ってこった。クククククッ……』

 

 

ディケイド『ッ……誰が……ハァッ……生憎この程度の毒でどうにかなる程っ、こっちは軟な身体してないんだよッ……!!』

 

 

『ATTACKRIDE:BLAST!』

 

 

毒のせいか、朦朧とする意識を必死に保ちながらテュフォンに啖呵を切ってバックルにカードをセットし、テュフォンに向けてライドブッカーから無数の銃弾を乱射していくディケイド。だが、テュフォンはそれに対して特に慌てる素振りもなくブラッドドライバーのハンドルを掴んで押し込んだ。

 

 

『HYDRA ENERGY STRIKE!』

 

 

テュフォン『粋がんなよ雑魚……実の親からも見捨てられた"落ちこぼれ"が』

 

 

『『『『グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァッッッッ!!!!!』』』』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウウウゥゥゥゥッッッ!!!!!!―

 

 

ディケイド『ッ?!グッ……うぐぁあああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!』

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァンッッッッ!!!!!!!!―

 

 

ドライバーからの電子音声と共に、テュフォンの背中から伸びたヒュドラの首の内の四つが頭を起こし、口から凄まじい威力の火炎放射を放ってディケイドが放った銃弾を飲み込み、そのままディケイドへと襲い掛かって大爆発の中に呑み込んでしまったのだった―――。

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(re④

 

 

―市街地・南区―

 

 

ディケイドとテュフォンが戦闘を開始したのと同時刻。未だ収まる気配のないパンデミックの出現は街の南に位置する区域でも同様に発生し、無差別に破壊の限りを尽しながら人々を襲うパンデミックの大群で溢れ返っていた。

 

 

 

 

 

 

―――つい先程までは、の話だが……

 

 

 

 

 

 

―バキィイイイイイイイイイイイイイインッ!!!―

 

 

『ギギャアァアアアアアアッ!!?』

 

 

街の一角にて、断末魔にも悲鳴と共にパンデミックの一体が壁に勢いよく叩き付けられ、そのまま地面に倒れると共に爆発して散る光景があった。そして、その"最後の"パンデミックを撃退した人物……ストライプのスーツに、黒い営業鞄という如何にも胡散臭い格好の青年はパンデミックを蹴り飛ばした際に突き出した右足をゆっくりと下ろすと、乱れた裾を整え直し、黒煙が立ち上る空を見上げて目を細めた。

 

 

「やれやれ……せっかく黒月の新しい災難を影から愉し―――もとい、生暖かく見守っていたってのに、何処の敵さんも空気を読んでくれないねぇ、まったく」

 

 

ふぅ……、と何気に酷い事をぼやきながら落胆を込めて溜め息を吐く青年だが、それも一瞬。右手にぶら下げる営業鞄を一瞥した後、青年は踵を返して街の中央区の方へ振り返る。

 

 

「ま、それを見越してのあのドライバーだった訳だけどもね。……テストプレイを見るついでに、少しばかりつっ突きにでも行ってみますかっと」

 

 

辺りの悲惨な状況に似つかわしくない軽い調子でそう呟くと共に、ストライプのスーツの青年……早瀬文臣はその顔に不敵な笑みを張り付けたまま、中央区を目指して徐ろに歩き出してゆくのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―中央区・旧モール街―

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!―

 

 

テュフォン『そらそらそら逃げろ逃げろォッ!!一発でも貰えば一瞬であの世逝きだぞクソガキィッ!!』

 

 

ディケイド『チィッ!!』

 

 

一方場所は戻り、ディケイドはテュフォンとの戦闘の最中で周囲の被害を考慮し、戦いの場を中央区内にある潰れた店舗が並ぶ旧モール街に逃げ込み、後方からヒュドラの首を用いて炎弾を乱射しながら追って来るテュフォンをライドブッカーGモードで迎撃していた。だが、テュフォンは黒い弓でディケイドが放つ銃弾を容易く弾きながらヒュドラの首から絶える間もなく炎弾を放ち続け、その猛威にディケイドもいよいよ堪らずビルの一角に身を潜めてしまう。

 

 

テュフォン『おいおい、何だよ口ほどにもないじゃないか。よくもまぁそのザマで俺を倒すだなんてほざけたなぁ、えぇ?もう臆病風にでも吹かれたのかよ?』

 

 

ディケイド『ッ……毒なんてセコい真似を使う奴が良く言うっ……』

 

 

愉快げに煽るような言葉を投げ掛けるテュフォンに反論して毒づきつつ、ディケイドは右腕の傷の具合を確かめる。ヒュドラの毒が進行している影響か、傷口は先程よりも毒々しい緑色に変色しており、素人目から見ても一目でマズイ状態だと分かる程に悪化していた。

 

 

ディケイド(……此処に辿り着くまでに大体で約十分……奴の言葉が本当だと仮定すれば、残り二十分までに解毒しなければ俺の命も其処までって事になるが……クソッ……奴自身はともかく、あの蛇共が厄介だなっ……)

 

 

一対一で戦うならともかく、あの猛毒持ちのヒュドラ達があっては下手に近づく事も叶わないが、かと言って遠距離からの攻撃もあの九つの首に遮られて無力化させられてしまうのは既に確かめ済みだ。

 

 

ディケイド(今の身体のコンディションも考慮して、アレを相手に正面からの正攻法は避けるしかない……そうなると残る手は、搦め手で奴の不意を突き、思わぬ事態に動揺した瞬間を狙って全力の一撃を叩き込み、一瞬でカタを付け……っ……付けるしかないかっ……)

 

 

大きく深呼吸しようとして、全身に痺れるような痛みが走る。恐らく毒が全身に回ってきた証拠なのだろうと思考しながら、ディケイドはライドブッカーを開いてカードを一枚取り出した。

 

 

ディケイド(チャンスは一度切り……分の悪い賭けではあるが、一か八か……賭けるしかないっ……!)

 

 

『ATTACKRIDE:―――』

 

 

テュフォン『ハッ!何をする気か知らないが、みすみすやらせるとでも思ってんのかァッ?!』

 

 

『『『『シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァッッッッッ!!!!!』』』』

 

 

ディケイドが身を隠すビルの一角から鳴り響いた電子音声を耳に、テュフォンは背中から伸びたヒュドラの首達を一斉にビルの一角に身を潜めるディケイドに目掛けて放ち、ビルの一角を噛み砕くが……其処には何故か、ディケイドの姿が何処かへとなくなっていた。

 

 

テュフォン『ッ!消えた……?』

 

 

―バシュウゥンッ!―

 

 

『ハァアアッ!!』

 

 

テュフォン『ッ?!何?!』

 

 

ディケイドの姿が消えた事に動揺するテュフォンだが、そんなテュフォンの真横の窓に映る鏡から、突如不意を突いて一人の赤いライダー……龍騎にカメンライドしたディケイドが拳を振りかざして飛び出して来たのだ。その思わぬ不意打ちにテュフォンも思わず驚愕しながらも反射的に身体を反らしてD龍騎の拳をかわすと、D龍騎はそのまま反対側のビルの窓ガラスへ吸い込まれるように飛び込み、ミラーワールド内へと逃げ込んだ。

 

 

テュフォン『チィッ!咄嗟にミラーワールドに避難してこっちの攻撃をやり過ごしたって訳かっ!小癪なぁ……!』

 

 

しかし、それは逆にこちらとしても好都合とも言える。鏡の中から出てくると分かっていれば、自分の周囲の鏡に警戒して出てきた瞬間を狙ってしまえば一撃で仕留める事が出来ると、テュフォンは黒い弓を引き絞りながら周りの窓ガラスに忙しなく狙いを定め、D龍騎がミラーワールドから飛び出してくる瞬間を狙うも、その時……

 

 

『ATTACKRIDE:THUNDER!』

 

 

―バチィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!―

 

 

テュフォン『……?!なっ?!』

 

 

鏡ばかりに気を取られているテュフォンの背中に目掛けて、テュフォンが弓を向けるビルとは反対側のビルの中から一筋の稲妻が放たれてきたのだ。反応が遅れて慌てるテュフォンだが、ヒュドラの首の一つがテュフォンを守るように雷撃を代わりに受け止めて凌ぎながら、すぐさま他のヒュドラの首が稲妻が放たれてきたビルの中に向けて火炎弾を放つと、暗闇に紛れる一人の青いライダー……ブレイドにカメンライドしたディケイドは咄嗟に火炎弾を避け、再びビルの暗闇に紛れ身を隠した。

 

 

テュフォン『っ?!いつの間に反対側のビルに……?―ズドドドドドドドドドドドドドドドォオンッ!!!!―なあっ?!』

 

 

つい今し方、ミラーワールドに逃げ込んだ姿を目にしたばかりのD龍騎がいつの間にかブレイドに姿を変え、反対のビルの中に消えていく姿を見て疑問を抱くテュフォンだが、そんなテュフォンの周囲に突如空から無数の火炎弾が降り注いで襲い掛かった。突然の攻撃に驚きながらもテュフォンが空を見上げると、其処にはビルの上の階層の壊れた窓から身を乗り出し、太鼓の撥のような武器で肩を叩きながらテュフォンを見下ろす鬼の姿のライダー……響鬼にカメンライドしたディケイドの姿があり、D響鬼はそのまま先程のDブレイドのようにビルの奥へと引っ込んで姿を消していく。

 

 

テュフォン『またっ?瞬間移動か何かかよっ……!ガキがちょこまかとっ……鬱陶しいんだよしゃらくせえェえええええええええええッッッッ!!!!!』

 

 

『HYDRA ENERGY STRIKE!』

 

 

『『『『ギシャアァアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァァッッッッ!!!!!』』』』

 

 

ディケイドに翻弄される今の状況に憤慨し、痺れを切らしたテュフォンはバックルのハンドルを再度押し込むと共に背中から伸びた九つのヒュドラの首を一斉に飛ばしていき、今度こそディケイドが逃げられぬように両側のビルを貫いていった。が……

 

 

―……ガシィッ!!―

 

 

テュフォン『―――?!な、にっ……?!』

 

 

ヒュドラ達が両側のビルを貫いた直後、突然、ヒュドラ達が両側のビルに突き刺さったまま何かに掴まれたように見動きが取れなくなってしまったのだ。予期せぬ事態に陥り、困惑を露わにヒュドラ達を引き戻そうと足掻くテュフォンだが、そんなテュフォンの意志とは裏腹に一向にヒュドラ達が戻ってくる気配がない。それもそのハズ……

 

 

 

 

 

 

―グググググググググッ……!!!―

 

 

『ギシャアァアアアアアアアアアッ!!シャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

Dクウガ『―――捕まえた、ぞっ……!!』

 

 

Dファイズ『グッ!クッ……!!』

 

 

D電王『このっ……!大人しくしろっ!!』

 

 

Dキバ『グウゥッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

ヒュドラ達が貫いた両側のビルの内部では、それぞれ九人のライダー達……ディケイドがイリュージョンを用いて生み出した分身達がカメンライドしたDクウガ、Dアギト、D龍騎、Dファイズ、Dブレイド、D響鬼、Dカブト、D電王、Dキバが九頭のヒュドラの首を捕らえて必死に抑え込んでいるからだ。そして、ビルの中でそんな事態になっているとも露知知らず、テュフォンが未だヒュドラ達を引き戻そうと躍起になる中、其処へ……

 

 

『『ATTACKRIDE:TIME QUICK!』』

 

 

―シュンッ!ズバババババババババババババババババババババババババァアッ!!!!―

 

 

テュフォン『ッ?!なっ……ヒュドラの首が?!』

 

 

突如何処からか鳴り響いた電子音声と共に、黒と青の二つの閃光が目にも止まらぬ速さで現れ、テュフォンの背中から伸びたヒュドラの九つの首の間を駆け巡りながら一瞬で細切れにしてしまったのである。直後、テュフォンの左右に二人のライダー……分身のディケイド達が変身したDクロノスとDキャンセラーがタイムクイックを解除して姿を現し、そのまま続け様にそれぞれの手に握り締めた剣と刀を振りかざし、すれ違いにテュフォンに一閃を叩き込んだ。

 

 

―ガギィイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイィンッ!!!―

 

 

テュフォン『ガァアアアアアアァッ?!!ぐっ、チキッ、ショウがァアアアアアアアアアッ!!!雑魚の分際で小賢しい真似をォオッ!!!一体どれだけ分身を―――!!!』

 

 

 

 

 

『―――安心しろ。コイツで打ち止めだ……』

 

 

『ATTACKRIDE:BURST HAMMER!』

 

 

テュフォン『ッ?!―ズドォオオオオオンッ!!!―がはぁああああっ!!?』

 

 

 

高まる苛立ちのあまり激昂の雄叫びを上げるテュフォンの背後から、電子音声と共に聞こえた声。それに釣られるように振り返った瞬間、テュフォンの顔面に炎を纏った右ストレートが叩き込まれて後方にまで吹っ飛ばされていったのだった。そして、テュフォンを殴り飛ばしたバッタの姿のライダー……firstにカメンライドしたディケイドはテュフォンを殴った右手首を軽くスナップさせてから叩くように両手を払い、ライドブッカーから一枚カードを取り出してバックルに投げ入れ、スライドさせた。

 

 

『FINALATTACKRIDE:FIR•FIR•FIR•FIRST!』

 

 

―バチィイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!―

 

 

Dfirst『はぁああああああっ……ハァアアッ!!』

 

 

ディケイドライバーから響く電子音声と共にDfirstの両足から電流が走り、直後に凄まじい勢いの雷を身に纏いながら空高く跳躍して飛び上がる。そして、殴り飛ばされたテュフォンがユラリと立ち上がる隙に空中できりもみ回転から跳び蹴りの態勢を取り、

 

 

Dfirst『電光ライダーキックッ……!!!ゼェエヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアァァァッッッッ!!!!!』

 

 

テュフォン『クッ……ッ?!グゥアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』

 

 

―ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッッッッ!!!!!―

 

 

眩い稲妻を撒き散らしながら放たれたDfirstの電光ライダーキックがテュフォンに炸裂し、Dfirstの全力の一撃をまともに受けたテュフォンは断末魔の悲鳴と共に爆発を巻き起こし炎の中に呑み込まれたのであった。そして、テュフォンが呑み込まれた爆発を背にDfirstも着地し、Dクウガたち分身を消して一人に戻りながらディケイドへと戻ると、若干ふらつきつつも起き上がり、右腕を抑えながら未だ轟々と燃え盛る炎を見つめていく。

 

 

ディケイド『ッ……どうにか上手くいったか……成功するか微妙だったが、思ってたよりも短絡的な奴だったのが功を奏したな……』

 

 

テュフォンに気付かれぬように、イリュージョンで生み出した分身達を利用する作戦。あたかもあちこちに瞬間移動しているかのように見せ掛けてテュフォンを翻弄し、挑発されて憤るテュフォンがシラミ潰しに差し向けて来るであろう九頭のヒュドラを一対一で抑え込み、先に厄介なヒュドラ達を潰す事で動揺するテュフォンを不意の一撃で倒す。毒を抱えた状態で短期決戦に持ち込むべく即興で立てた作戦がどうにか成功して安堵するも、途端に意識が朦朧とし倒れそうになる。

 

 

ディケイド『ぅッ……ッ……とにかく、奴を倒した以上騒ぎも収まるハズ……後はアイツ等と合流してっ、木ノ花達に毒の治療をっ……』

 

 

目の前の視界が暗転する。恐らくヒュドラの毒が全身に回って来た証拠だろうと考えながら、急ぎ姫達の下に向かうべくふらついた足取りで歩き出そうとするディケイド。が……

 

 

 

 

 

 

 

 

『Rock On……!』

 

『HYDRA ENERGY!』

 

 

ディケイド『……ッ?!なっ?!―ドッガァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―ぐぁああああああああああああああああッ!!!?』

 

 

 

ディケイドの背後で燃え盛る炎の中から、不意に響き渡った無機質な電子音声。二度と聞こえるハズのないその音声を耳にしたディケイドが驚愕を露わに慌てて振り返った瞬間、炎の中から一本のエネルギー矢が飛び出してディケイドを貫き、爆発と共に吹っ飛ばされながら変身を強制解除させられ零に戻ってしまったのだった。

 

 

―シュウゥゥゥゥゥゥッ……―

 

 

零「ァッ……グッ……!なに、が……今のはっ……?!」

 

 

思わぬ一撃を受けて重傷を負い、地面に夥しい量の鮮血を撒き散らしながら倒れ伏す零が困惑を露わに額から流れる血と毒の影響で霞む視界で目の前に目を向けると、其処には……

 

 

 

 

 

 

―ゴォオオオオオオオオオオオオオオッ……!―

 

 

テュフォン『―――なーんてなァ……アレで俺を倒しただなんて、本気で思ったのか?破壊者さんよォ?』

 

 

 

 

 

 

……ヒュドラエナジーキーを装填した黒い弓を放った姿勢のまま何事もなかったかのように炎の中に佇み、飄々とした口調で零を小馬鹿にするように嘲るテュフォンの姿があったのだった。

 

 

零「おま、えっ……どういう事だっ……確かにさっき、手応えはあったハズっ……!」

 

 

テュフォン『ンン?あァ……何でまだ生きてるかって?そういや、お前にはまだ説明してなかったっけなぁ』

 

 

零「何っ……?」

 

 

倒したと思われたテュフォンの健在に驚愕する零だが、クツクツと不気味な笑みを隠そうとしないテュフォンの言葉に怪訝な表情を浮かべそう聞き返すと、テュフォンはユラリと右手を広げ語り出した。

 

 

テュフォン『俺が高次元生命体の研究をしている事は説明したな?その研究の為に、俺は様々なモルモットを実験体に使ってきたが、それは"俺自身"とて例外ではないんだよ……。例えこの身を滅ぼされようと、細胞が僅かにでも残っていれば其処から再び肉体を再生して蘇る……つまり俺は不死の一歩手前、高次元生命体完成の目前にまで上り詰めていると言う事さ!』

 

 

零「ッ……マッドサイエンティストがっ……ようするに、化け物のお仲間入りをしたって事かよ……」

 

 

テュフォン『おいおい、頭の悪い言い方するなよ……。俺は人の身で神にも匹敵する肉体を得た、言わば超越者だぞ?もっと言っちまえば、お前が釣るんでる断罪の神や無効化の神ともそう変わらんだろ?』

 

 

零「……吐かせ……テメェなんぞとアイツ等を一緒にすんなっ……アイツ等はお前みたく高慢チキでもなけりゃっ、人間の心を捨てちゃいなっ……ッ……」

 

 

テュフォン『……立場を弁えないクソガキだな……今この状況で、どっちが優位に立ってるのか分かってんのかぁ?』

 

 

テュフォンに反論しようとして脇腹に激痛が走り、顔を歪める零にテュフォンが黒い弓矢を引いて狙いを定めていく。

 

 

テュフォン『まぁどっちにしろ、お前じゃあもう俺は倒せはしない……。さっきの攻撃で因子の力を上乗せしていれば俺を倒せたかも分からんが、最早動く事も出来ないんだろ……?そんなお前にその因子を持たせるだけ、宝の持ち腐れってもんだからな……頂くぞ、お前の命と共にィイッ!!』

 

 

―バシュウウゥゥッ!!!―

 

 

零「クッ……!!」

 

 

最早満足に動く事も叶わない零に目掛けて、テュフォンの弓から容赦なく矢が放たれた。それを目にして零も咄嗟にバックルを取り出して再び変身しようとするが、毒の影響かバックルを持つ手が震えてディケイドライバーを落としてしまい、その間にもテュフォンの矢が零の眉間を貫こうと目前にまで迫った、次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

―ブォオオッ!!!ー

 

 

『ギギャアァッ?!』

 

 

零「……?!」

 

 

―チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォォォンッッッ!!!!―

 

 

『ギャアァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』

 

 

テュフォン『ッ?!な、何だッ?!』

 

 

矢に貫かれようとした零の目の前に、突如何処からか一体のパンデミックが投げ飛ばされて来たのだ。直後、矢はそのまま零の代わりにパンデミックに直撃して爆散させていき、そんな予想外の事態に零もテュフォンも動揺を露わにする中、パンデミックが吹き飛ばされてきた方から足音と共に一人の人物が姿が現した。それは……

 

 

 

 

 

 

リア「―――それは困るなぁ、闖入者君。彼は私を倒した勝者なんだよ?そんな彼を此処で倒されてしまっては、私の立つ瀬がいよいよ無くなってしまうじゃないか」

 

 

零「?!リア……?!」

 

 

そう、二人の前に現れたのは、ジュラルミンケースを手にまるで緊張感のない声音でブラリと歩み寄って来る金髪の女……零と別れてから一人でパンデミックの大群を相手に無双の限りを尽くしていたリアだったのだ。そんな彼女の思わぬ登場に零が目を見開く中、テュフォンはリアの顔をその目で捉えたと共に歪んだ笑みを深めていく。

 

 

テュフォン『何だ。誰かと思えば、人間や格下の神格如きに敗れて落ちぶれた、元神様の負け犬かい』

 

 

リア「わぁ、歯に衣着せぬ言い方するなぁ。まぁ、実際事実だから否定出来ないのが痛い所だけども……」

 

 

明らかに見下すような口調のテュフォンに対して、口ではそう言いつつも特に気にする様子もなくやれやれと首を振るリアだが、彼女の登場に一瞬唖然としていた零はすぐさま我に返り、リアに向けて叫ぶ。

 

 

零「お前っ……!何で此処に来たっ……?!さっき別れる間際になのは達と合流しろと言っただろうっ!!」

 

 

リア「まぁまぁ、そう肩を怒らせないでくれよ。出来れば私も素直に君の言葉に従いたかったのだけどさ……そうも行かなくなった事情が出来たと言うかな……どうやら其処の闖入者君が用があるのは、君だけではないようなんだよ。零君」

 

 

零「……エッ……?」

 

 

なのは達の下に向かわずにわざわざこんな危険な場所にやって来たリアに思わず怒鳴る零だったが、目を細めてテュフォンを真っすぐ見据えるリアの言葉に呆気に取られ、リアの視線の先を追うようにテュフォンに目を向けると、テュフォンは何処か関心した様子で「ほう……」と感慨の声を漏らした。

 

 

テュフォン『どれだけ落ちぶれようとも、持ち前の勘の良さは健在ってか。流石は原初の幻魔神、その名は伊達ではない、と?』

 

 

リア「流石に彼処まであからさまじゃ、狗でも気付くだろうさ。裂け目から現れる怪物はみな私を狙って来るだけでなく、街を襲っていた者まで私を標的に変え次々と向かって来る始末だしねえ……。おかげでホラ、絢香が買ってくれた服が返り血で台無しだよ。どうしてくれるんだい、コレ?」

 

 

テュフォン『……へぇ……ふざけた言動の割には、あの数のパンデミックを相手に無傷で此処まで辿り着いたって訳か……』

 

 

パンデミックを撃退した際に浴びた返り血がこびりついた服を引っ張って広げるリアに対し、何処か興味深そうにリアを観察するテュフォン。だが、零はそんな二人のやり取りからでは話の意図が読めず困惑を深め、二人の顔を交互に見比べリアに疑問を投げ掛ける。

 

 

零「おいっ、さっきから一体何の話だっ……?アイツが用があるのは俺だけじゃないとか、パンデミック達がお前を狙うとかっ……」

 

 

リア「言葉通りの意味さ。此処に辿り着いてすぐチラッと聞こえたけど、彼は君の中の因子を欲しているんだろ?其処から考えたら、彼が私を標的にする目的は大体の察しが付くよ」

 

 

零「……目的……?」

 

 

肩を竦めて溜め息混じりにそう語るリアだが、零は未だに理解が及ばず怪訝な表情を浮かべ、そんな彼を他所にリアはテュフォンを見据えたままスッと細め、

 

 

リア「そうだろ、闖入者君?君の狙いは、彼の因子と同等の意味合いを持つと言っても過言ではないモノ……"幻魔神の神権"……私が所持するソレも欲していると推測したのだけど、どうだろ?合っているかな?」

 

 

零「……ッ?!なん……だと……?」

 

 

今、彼女はなんと言ったか。自分が所持する幻魔神の神権……。確かな口調でハッキリとそう告げたリアの言葉にテュフォンは何も答えずただ仮面の下で僅かに笑い声を漏らし、零は目を見開いて言葉を失うも、困惑が収まらぬままどうにか口を開く。

 

 

零「待て……おい待てっ、どういう意味だソレはっ……?!幻魔神の神権を所持してるって何だっ?!アレは、俺と市杵宍が復活したフォーティンブラスを倒した事で一緒に消滅した筈じゃっ……?!」

 

 

リア「いや、それは……」

 

 

テュフォン『それはあまりにも短絡的過ぎだろ?幾ら神権を所持する神を倒そうとも、その神権自体が消滅する事は先ずありえない。加えて神権の生みの親が健在で、しかも次の後継者もいない以上、ソイツの下に帰結するのは当然のハナシじゃないか。なぁ、初代様?』

 

 

零「なっ……」

 

 

リア「…………」

 

 

つまり、幻魔神の神権は零と魚見が倒したフォーティンブラスと共に消滅した訳ではなく、神権を生み出した大元であるリアに渡っていたという事。初めて聞かされるその内容に零は動揺を浮かべるも、リアは特に表情を変える事なく無言のまま瞼を伏せ、そんなリアに向けてテュフォンは何処か腑に落ちない口調で口を開いた。

 

 

テュフォン『しかし解せないのはその後だ。せっかく神権を取り戻したというのに、何故再び幻魔神として再臨しない?そうすれば、消えた幻魔達も再び蘇り、今度こそ地上をその手にする事が出来るかもしれないと言うのに』

 

 

リア「…………」

 

 

テュフォン『もしや、其処の彼等を警戒するあまり機会を得られずくすぶってるのかな?ああ、だったら私と来ると言うのはどうだろう?君の幻魔神の力と私の高次元生命体の力、その二つが合わされれば最早君に敵う敵など存在しなくなる!君の悲願だったこの世を幻魔の新たな故郷にするという望みも、私と共になら実現し「……笑わせないでくれよ、闖入者君」……あ?』

 

 

リアを自分の下に引き入れようと一方的にまくし立てていたテュフォンだったが、それを遮るように放たれた冷たい一声で思わず低い声で返しリアを見つめると、リアはまるで卿が削がれたかのような冷めきった眼差しでテュフォンを見据え、長い髪を軽く払いながら淡々と語り出す。

 

 

リア「君と共に?私の悲願?生憎だが、私は元から其処までして今の幻魔に尽くすつもりは毛頭ないんだよ。私がこの身を削ってでも守りたかったのは嘗ての幻魔であり、今の獣畜生も同然な幻魔ではない。彼等との戦いの時も、ギルデンスタンに蘇らされて幻魔神としての役を押し付けられたから、半ば仕方なく受け入れて戦ったまでだしね……だからこうしてその役から解かれた以上、進んで私が幻魔神になる理由なんて最早存在しないんだよ」

 

 

テュフォン『……正気か……?放り投げるっていうのか?幻魔達を統べる存在でありながら、無責任にも貴様は―――』

 

 

リア「責任の是非を部外者の君にとやかく言われる筋合いはないだろ?そもそも私は太古の存在だ。そんな過去の遺物に頼ってしまった時点で、今の幻魔は終わってしまったも同然だし、私自身も敗者なんだ。敗れた者は潔く去るのみ……それが私のモットーって言う奴だ。仮に今の私に出来る事があるとすれば、せめて、これ以上彼等の名誉に泥を塗るようなことがないように、緩やかに終わりを受け入れる事だけ……まぁようするに、だ。君の誘いは余計なお世話以外の何物でもないんだよ、闖入者君?」

 

 

テュフォン『……へぇ。ふうん。ああそう。よーく分かったよ……所詮お前も、物事の価値って奴が分からない馬鹿の一人だって事がね……』

 

 

『Rock On……!』

 

 

ハッキリと拒絶の言葉をリアから突き付けられ、テュフォンは苛立ちを含んだ声でそう呟きながら再び黒いにヒュドラエナジーロックキーを装填して電子音声を鳴らし、黒い弓に備わった刃にエネルギーを収束させていく。

 

 

零「ッ!マズいっ……!おい逃げろリアっ!!奴は本気だっ!!このままじゃ殺されるぞっ!!」

 

 

リア「…………」

 

 

テュフォンから滲み出る狂気的な殺気を感じ取り、慌ててリアにそう呼び掛ける零。しかし、リアは何故かその場から一歩も動こうとはせず、ジュラルミンケースを掴む手の人差し指でケースの取っ手の部分をカチカチと小刻みに叩く。

 

 

零「っ……?おいっ、何で突っ立ってんだっ……?!早く逃げろってっ―――!!」

 

 

テュフォン『因みに聞くがよぉ、初代様……もし此処で神権持ちのお前を俺の手で殺せば、その瞬間、お前の持ってる神権は俺に譲渡されたりはするのかよ……?』

 

 

リア「さあ、どうだろう?しかし可能性が無いとも言い切れないしねぇ……そんなに気になるようなら、試してみてもらっても構わないよ?私は」

 

 

零「……ッ?!な、に……言ってんだ……お前……?!」

 

 

あっけらかんと、自分の命を差し出すような事を言い出したリアに零も言葉を失い戸惑いを浮かべ、そんな零とは対照にテュフォンはニイィッと不気味な笑みを張り付ける。

 

 

テュフォン『なんだよ、命なんて惜しくも何ともないってのかい?』

 

 

リア「さっきも言っただろ?私は敗者なんだ。彼等に敗れた時点で、私の命になんて最早何の意味も価値もない。強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当たり前……特に私の場合、ギルデンスタンの手によって間違った方法で蘇った訳だしね。私が勝つ事でそれが正しかったと証明出来なかった以上、いつまでもそんな私がこの世に存在するのは可笑しいじゃないか?」

 

 

零「ッ?!」

 

 

至極当然のように、零達に敗れた自分が生きている事に価値はないと断言するリアに驚愕する零だが、同時に、先程のリアとのやり取りが脳裏を過ぎった。

 

 

 

 

 

―私の価値観のベースには弱肉強食……強い奴が生き、弱い奴は死ぬのが当たり前って考えが今尚強く根付いてる。だからって別にそう振る舞おうって気はないのだけど、『負けた奴は全てを失って当然』……そういう考えは自分にも向けられていてさ。だから生前、私は死ぬまで誰にも敗れるような事はしなかったけれど、君達に負けた時点で、私は"何もかも失ったと受け入れられた"……―

 

 

 

 

 

あの時、彼女は何でもない事のように己の事をそう語り、自分はそんな彼女の言葉に何処か違和感を感じていた。

 

 

その時は何に対して疑問を抱いたのかハッキリせず、ただの気にし過ぎかと思い考えるのを止めたが、今になって漸く分かった。

 

 

『負けた奴は全てを失って当然』、『何もかも失ったと受け入られた』と、この女は言ったが、その前にもこうも言っていた。

 

 

"執着というモノをしない"、と。

 

 

零(あの時感じた違和感……そうか、コイツっ……物事にだけじゃないっ……"自分の命"にすらっ……!!)

 

 

テュフォン『へえ……なら、大人しく俺に殺されてくれるってんだァ、お前?』

 

 

リア「その言い方は少し引っ掛かるけど、利害関係は一応一致してるのかな……君は私の神権が欲しくて私を殺し、私はギルデンスタンの犯した最後の間違いである私自身を終わらせたい……うん、私の都合を考えたら、今のところ君が適任か。今まで世話になった絢香達へのお礼の品も買い揃えたし、心残りは……あー……なごみ君の事があったけど……まぁ、これから自分の目と耳で確かめると言って退けた彼女に、私なんかの言葉は必要ないか……」

 

 

テュフォン『そうかいそうかい、それは助かるよ。ソイツみたく無駄に抵抗されちゃめんどくさいからさぁ……死にたがりなお前のおかげで、目的の一つがスムーズに達成出来るよっ!!』

 

 

『HYDRA ENERGY!』

 

 

―ダァアアンッ!!―

 

 

そう言いながら黒い弓から発せられる電子音と共に、テュフォンは弓を振りかざしながら勢いよく地を蹴って飛び出し、リアへと飛び掛かった。しかし、対するリアは迫り来るテュフォンを前に動じる様子もなくただその場に佇み、目の前の死に身を委ねるかのように瞼を閉じ、そんなリアに目掛けてテュフォンが不気味な笑みと共に容赦なく弓を振り下ろした、が……

 

 

 

 

 

 

 

 

―ドォオンッ!!!―

 

 

リア「……え?」

 

 

―ブザァアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!―

 

 

零「ガッ―――グウゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!!!」

 

 

テュフォン『ッ?!なん、だとっ?!』

 

 

 

テュフォンの凶刃が振り下ろされた瞬間、なんと零が動けぬ筈の身体でリアに横からタックルで押し飛ばし、そのまま彼女の代わりに顔の左側を引き裂かれてしまったのだった。飛び散る血しぶきと共に零の絶叫が響き渡り、ゴロゴロと地面を転がって吹き飛ぶ零の姿にリアもテュフォンも呆気に取られてしまうが、先に正気に戻ったリアは零の傍に戸惑い気味に駆け寄り、困惑を露わに腰を落として赤い血に濡れた顔の左側を抑えて苦しむ零の顔を覗き込んだ。

 

 

リア「零君……君、なぜ……?―ガッ!!―ッ?!」

 

 

リアが疑問を投げ掛けるよりも先に、零が右手を伸ばしてリアの胸ぐらを乱暴に掴んで引き寄せ、そのまま勢い任せにリアの頭に強烈な頭突きを叩き込んだ。思わぬ一撃を喰らい、更に困惑を深めるリアだが、リアの額から顔を離した零は赤く塗り潰された左面を抑えたまま激痛のあまり涙が浮かぶ鋭い目付きで、リアを睨み付けていた。

 

 

リア「零君……?」

 

 

零「フッ、ザケ、ン――じゃねえ、ぞっ―――テメェッ―――!!!!誰、が、其処ま、で―――――グッ……ごばぁああああッッッ!!!!!!」

 

 

リア「!零君!」

 

 

リアに何かを言い放とうとするも、突然零の口から大量の血の塊が吐き出され、呻き声を漏らしながらもがき苦しんでいく。未だ困惑が収まらないリアはそんな零を目にして何時になく動揺を浮かべるが、零の右肩の服の隙間から僅かに見える黒い肌に気付き、急ぎ服を捲り上げると、其処には、右腕からヒュドラの毒が侵食して零の身体右半分が真っ黒に変色している異常な光景があった。

 

 

リア「これは、毒か……しかも既に此処まで進行して……『フフフ、クククククククククククッ……』……!」

 

 

幾分か落ち着きを取り戻し、一目で零の身体を蝕む物の正体を見抜くリアだが、背後から不意に聞こえた不気味な笑い声に釣られて思わず振り返ると、其処には何故か、クツクツと肩を揺らして上機嫌に笑うテュフォンの姿があった。

 

 

テュフォン『流石は初代様だ。そう、ソイツは彼のヘラクレスをも殺したヒュドラの毒……さっきの戦いで俺が与えたんだが、もうタイムリミットが近いようだなあ。あれから二十分。もうあと十分で、ソイツの命もこの世からおサラバって訳だァ」

 

 

リア「……いいのかな、君はそれで。彼が死ねば、彼の中の因子が暴走してこの世界は一瞬で砕け散るんだぞ?そうなれば君も―――」

 

 

テュフォン『え?アァ、その心配だったらもう必要ないと思うぜェ?』

 

 

リア「……何?」

 

 

どういう意味だ、と怪訝な表情で思わず聞き返すリア。テュフォンはそんな彼女にただただ不気味な笑みを返し、ゆっくりと、零の血で真っ赤に染まった左腕を上げて固めていた拳を開き、

 

 

 

 

 

テュフォン『だって、ほうら……そいつの左目だったら、ちゃーんと"此処"にあるんだからさァ?』

 

 

リア「なっ……」

 

 

 

 

 

ニチャアァッ……と、粘着くような音と共にゆっくりと開いて見せたテュフォンの拳の中に在ったのは、人間の目……零の左目に収まっている筈の、"真赤い瞳の左眼球"だったのだ。

 

 

何故テュフォンが零の眼球を?と、それを目にしたリアは目を見開いて驚愕するも、其処で何かを思い出したようにハッとなりながら零が抑える左目を覗き込めば、零の指の隙間の奥に見える左目は空洞で何もない。つまり、アレは零が自分を庇った際に左目を抉り取られて、奴の手に渡り奪われてしまったモノ……。

 

 

テュフォン『ギャッハハハハハハハハハハハハッ!!ソイツが想像以上の馬鹿で助かったよッ!!偽善此処に極まれッ!!嘗ての敵を庇ったばかりに大事な因子を奪われるたァ、ザマアねえよなぁ、破壊者ちゃ~ん?』

 

 

零「ッ……て、め……ごぶっ……!!」

 

 

リア「零君!」

 

 

思わぬ形で因子を手に入れた上機嫌からか、ナメ切った口調で嘲るテュフォンに対して零も思わず立ち上がろうとするも、ヒュドラの毒と左目を失ったダメージは大きく血を吐き出しながら呻き、そんな無様な姿の零にテュフォンも興味を失ったようにリアに目を向け、黒い弓で狙いを付けながら弓を引いていく。

 

 

テュフォン『さーて……お次はアンタだぜェ、死にたがりの初代様?どうするぅ?因子がこっちにある以上、ソイツを殺す不安要素もなくなっちまった訳だけど、どうせだ。あの世への付き添い欲しけりゃ一緒に殺してやるぜぇ?』

 

 

リア「…………。生憎だが、私はともかく、彼は此処で死なせる訳にはいかないんだよ。彼は私を倒した勝者だ。その勝者が、敗者の私を庇って死ぬだなんて事は―――」

 

 

テュフォン『ウン、ウンウンウン、スゲェーわかるー。そうだよなぁ、じゃあ最後の望みとしてそれぐらいは聞き入れてやる―――なーんて言う訳ねぇーだろバァアアアアアアアアアアアカァッ!!!!!』

 

 

『HYDRA ENERGY!』

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!―

 

 

リア「!」

 

 

―チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオォォンッッッ!!!!―

 

 

テュフォンの嘲笑と共に空に向けて放たれた必殺の矢の雨が、豪雨の如くリアと零に目掛けて降り注ぐ。迫る矢の雨を前にリアも零を抱き寄せて強く抱き締めたと共に、矢の雨は容赦なく二人に襲い掛かって絶え間なく爆発を巻き起こしていき、二人の姿を爆炎と爆風が呑み込んでいってしまうのであった。

 

 

テュフォン『アッハハハハハハハハハハッ!!ざまぁみろぉっ!!俺の誘いに乗ってればこうならずに済んだモノをっ!!当然の報いだァっ!!はっはははははははははっ…………あ?』

 

 

空から降り注ぐ矢の雨の中に飲み込まれた二人を見て狂ったように高笑うテュフォン。だが、徐々に薄れていく黒煙の奥を目にしてその顔から笑みも消え去り、変身を解除してリーガンに戻りながら二人がいた場所にまで歩み寄ると、其処に二人の肉片らしきモノは見当たらず、代わりに先程の矢の雨によって地面を破壊されて出来た巨大な大穴……下水道へと繋がる道を発見した。

 

 

リーガン「……チッ、あの一瞬で逃げ遂せたって事か……無駄にしぶといっ……」

 

 

あともう少しと言うところで惜しくも逃げられ、声に苛立ちを滲ませるリーガンだが、自身の左手に握られた零の眼球に目を向けた途端に口端を不気味に釣り上げていく。

 

 

リーガン「まあいい……目的の一つは達成出来たんだ。後はゆっくり……じっくりと追い詰めるだけだ――」

 

 

―グチュイィイイッ!―

 

 

そう呟いた次の瞬間、なんと、リーガンは己の手で躊躇なく自身の左目を潰し、そのまま左目の眼球を抉り取り放り捨ててしまったのだ。常人では考えられない奇行だが、しかしリーガンは左目から血を流しながらも苦痛に悶える素振りもなく、零の眼球を己の左目に捩じ込み、高次元生命体の再生力で零の眼球を自身の肉体に結合させていき、次第に見えるようになってゆく左目からの景色にニタリと笑みを浮かべた。

 

 

リーガン「アァアアァァアアアアアッ……ハハハハハハハァッ……コレが破壊者が見てきた景色かァ……イィもんじゃんかよ。視えるもの総てが脆く、壊したくなる……ククククッ、一体この目でどれだけ破壊の限りを尽くして来たんだろーなぁ、アイツ……」

 

 

破壊の因子を宿した瞳を通して見る景色から得るのは、自分が絶対者になったという高揚感。身体に満ちる最高の感覚から、成る程、今ならあのガキが阿南祐輔の世界を破壊しようとした気持ちがよーく分かると一人納得し、早くこの瞳の力を試したい衝動に駆られながら二人の後を追おうと下水道に繋がる穴へ落ちようとした、その時……

 

 

―バシュウゥッ!バシュウゥッ!―

 

 

リーガン「……んあ?」

 

 

突如リーガンの足元に打ち込まれた無数の銃弾。背後から放たれたソレを目にしたリーガンがユラリと振り返ると、其処には零の救援に駆け付けた二人のライダー……天神と聖桜が無双セイバーとウィザーソードガンの銃口をリーガンに突き付ける姿があった。

 

 

聖桜『動かないで下さい……少しでも動けば、今度は確実に当てます』

 

 

リーガン「……あぁ……誰かと思えばァ、あのクソガキが契約したっていう神様方か」

 

 

天神『……その口ぶり、やはり貴様が零を狙ってこんな騒動を引き起こした元凶か……!一体何者だ!その気配からして、人間ではないんだろう……!』

 

 

リーガン「へぇええ?俺が普通じゃないってのももう分かってんのかァ。流石じゃん神様達?でもさぁ……あのガキを助けに来たのなら手遅れって奴だぜェ?」

 

 

天神『……何?』

 

 

明らかに危険な雰囲気を漂わせるリーガンに警戒心を強めて天神がそう聞き返すと、リーガンはゆっくりと二人に身体を向けて左目を見開き、その見覚えのある真赤い瞳を目にした二人は仮面の下で驚愕し、目を見開いて絶句した。

 

 

聖桜『そ、その目……?まさかっ……?!』

 

 

リーガン「あははははははははははははははっ!!見覚えあるだろぉ?お前らの愛おしい愛おしい破壊者君が、俺にくれたプレゼントさぁッ!」

 

 

―プシュウゥッ!―

 

 

『HYDRA ENERGY!』

 

 

信じられないモノを目にしたかのように戸惑う二人に向けて狂喜を露わに笑い、リーガンはヒュドラエナジーキーの解錠ボタンを押して電子音を鳴らしながらブラッドドライバーにセットしていく。

 

 

リーガン「あの二人を殺しにいく前のウォーミングアップだァ……光栄に思えよ、雑魚神共ぉ?お前達が新たな破壊の因子の宿主様の、初めてのお相手になれるんだからなァああああああッ!!!!」

 

 

『BLOOD……!』

 

『HYDRA ENERGY ARMS!』

 

 

ハンドルを押し込んで再びテュフォンに変身しながら駆け出し、更に復活したヒュドラ達を従えて二人へと襲い掛かるリーガン。対する天神と聖桜も零の左目を持つテュフォンに動揺しながらも慌てて迎撃態勢を取り、それぞれの武器を構え直してテュフォンと戦闘を開始していくのであった。

 

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry⑤

 

―旧モール街下水道・管制室―

 

 

零「――――――――――…………ッ…………ぅ…………?」

 

 

暗がりに支配された下水道。旧モール街の真下に存在するその場所は空間的にも広く、しかし大量の下水が流れるとあって思わず顔をしかめてしまいたくなるような酷い臭いが充満しており、とても人間がいつまでも滞在していられるような場所ではない。

 

 

だが、そんな場所にも下水の嫌な臭いを遮断出来る唯一の場所……旧モール街が使われる事がなくなった為に同様に閉鎖されていた管制室が存在し、無数のモニターや下水道内での機能を操る為の機材が揃った部屋の中では、気を失って横たわっていた零がゆっくりと瞼を開いて意識を取り戻し、暗転する視界の中で右目を動かし管制室内を見回していく。

 

 

零「…………?こ、こは…………「気が付いたようだね」…………ッ?!」

 

 

意識が目覚めたばかりの頭で薄暗い室内を見回し、見慣れない場所に一瞬混乱し掛けてしまう零だが、右方から聞こえた声に驚き振り返ると、其処には地面に腰を落として体育座りで座り込むリアの姿があった。

 

 

零「っ……!おま、えっ……―ズキィイイッ!!―ギッ……?!ァッ……!」

 

 

リアを見て思わず上体を起こそうとするが、途端に全身に走った激痛と痺れ、特に左目の痛みに思わず悶絶して左目を抑える零。が、其処で零は自分が触れた左目から頭に掛けて何か布状のモノを包帯のように巻かれている事に気付き、同時に、自身の左目に何もないような違和感を感じ取った。

 

 

零「ッ……俺、は……確かっ……アイツと戦っていて……」

 

 

リア「動かない方が身の為だよ。君の中に残ったもう一つの"ソレ"の恩恵で、今は毒の侵行を全力で抑えてくれているようだけど、そのせいで他の怪我を治すだけの余力はないようだし」

 

 

零「……ソレ……?」

 

 

そう言いながら顎で差して来るリアの視線を追い、零が自分の身体を見下ろして先ず最初に目に付いたのは、止血止めに巻かれた包帯代わりの布と、黒く変色した自分の身体の右半分。しかし其処から左半分にまで毒が進行している様子は何故かなく、一瞬不自然に思い疑問を抱くも、今のリアの言葉と彼女が見つめる視線が自分の左胸……再生の因子を捉えていると気付き、ソッと大事なモノに触れるように左胸に手を当てていく。

 

 

零「そう、か……コイツのおかげで、まだどうにかしぶとく生きていられてるって事か……」

 

 

リア「今はまだ、ね……。でも安心はまだ出来ないよ。あの彼が追って来てるかも分からないし、君の怪我も深刻だ。君の中のソレが毒を抑え込むのに精一杯で怪我を癒せない以上、このままでは出血多量で死んでしまう可能性も―――」

 

 

零「…………」

 

 

天井を見上げ、今の深刻な状況を語るリア。しかし、零は何故かそんなリアを険しげな顔で睨み付けたまま口を閉ざして何も言わず、リアもそんな零の視線に気付き困惑を露わにする。

 

 

リア「なんだい、どうしたんだよ零君?急にそんな怖い顔で睨み付けたりして」

 

 

 

零「……どうしたもこうしたもないだろう……何であんな真似したんだ、お前……?」

 

 

リア「あんな?……あぁ、よりによってこんな汚い場所に逃げ込んだ事かい?確かに酷い臭いの所だけど、仕方ないだろ?あの状況じゃ咄嗟に逃げられるのが此処しかなかったと言うか――」

 

 

零「惚けるなっ……!俺が聞きたいのはそんな事じゃない……分かって言ってんだろ、お前っ……」

 

 

リア「…………」

 

 

白々しくも話を逸らそうとするリアに零も思わず語気を強めて食って掛かる。そんな零に対し、リアも一瞬口を閉ざして無表情となるも、小さく溜め息を吐きながら困ったように首の後ろを擦っていく。

 

 

リア「悪かったよ、ふざけた事は確かに謝る……でも、私がした事は君が其処まで怒りを買うような事かい?正直、君がそんな必死になってまで私を気に掛ける理由の方が分からないのだけど……」

 

 

零「お前には分からなくてもこっちには多々にあるんだよっ……。別世界と言えど、仮にも公務員が自殺願望者を前に見殺しにする訳にもいくまいし、絢香達にだってなんて伝えろってんだっ。何より、分かってるのか……?アイツに神権を渡すって事は、新たな幻魔神を生み出すって事なんだぞっ……!そうなったら――!」

 

 

そう、リーガンの手に神権が渡れば、それは幻魔達の復活を意味するのではないか。その事も危惧したからこそ零はその身を挺してリアを庇ったが、それを抜きにしても、あの時自分から命を差し出すような真似をした彼女に対して個人的な怒りも感じており、そんな零の憤りを感じ取ったのか、リアは何処か物憂い表情を浮べながら零から視線を外した。

 

 

リア「確かに、勝手に話を進めた事はすまなかったよ。そのせいで君も左目を失うハメになった事だし、怨まれてもしょうがないミスを犯したと反省はしている」

 

 

零「……この目の事は別に気にしなくたっていい……本当なら翔子達の世界でとっくに使い物にならなくなる筈だった訳だし、今更惜しいとも思ってない……それよりも、俺が聞きたいのはっ―――」

 

 

リア「―――彼に私の持つ神権が渡る事を心配しているなら、その必要はないよ、零君」

 

 

零「……何?」

 

 

リーガンに幻魔神の神権が渡ってしまうのでは、と言う最悪の事態は零の杞憂でしかない。そう語るリアにどういう意味かと零が訝しげに聞き返すと、リアは脇に下ろしているジュラルミンケースの上に右手を乗せながらその意味を語り出す。

 

 

リア「彼は、私を倒せば自身に神権が継承されて次期幻魔神となり、復活した幻魔達を統治する事が出来ると思い込んでるようだけど、実際はそう簡単な話じゃない。神権を継承するにしても正式な段取りが必要だし、そうじゃなきゃ私が嘗て破棄した王位の件と何も変わらないだろ?だから、私を倒しても次の幻魔神に……なんて言うのは、そもそもからして無理な話なんだよ。私もホラ、"かもしれない"……と、可能性の話でしか話していなかったろ?」

 

 

零「……だったら、何でお前はあんな事……」

 

 

リア「自分から命を差し出すような真似をしたかって?理由は大体さっき彼に話した通りさ。……まぁ、実際の所はもう一つ、いずれ来るであろうと思っていた時が来たからそうした、って言う理由が大きいんだけどね……」

 

 

零「……?」

 

 

溜め息混じりに何処か気だるげな表情でそう呟くリアに、眉間に皺を寄せて小首を傾げる零。すると、ジュラルミンケースをコツコツと指でリズム良く小突いていたリアは、そんな零に目を向けて続きを語る。

 

 

リア「今の私はもう幻魔神ではない。けど、幻魔神の神権を所持している以上、ソレを狙う存在がいずれ現れるだろうとは思ってたんだ。だってそうだろ?所詮今の私は神権を持っているだけ……そんな私の手から、神権を奪う事ぐらい簡単に出来ると思う輩がいても不思議じゃない。だけど、私はもう他の者にこの神権を渡すつもりないし、そういった考えを抱く連中がこれから先も絶えず出てきて、不毛な争いが起こるのは私も望まない。だから―――」

 

 

零「……お前、まさかっ……」

 

 

リア「流石に察しがイイね。そう……神権が手に入ると思い込ませたまま、彼の手によって私という存在を今度こそ終わらせると共に、幻魔神の神権を私と共に消滅させてその系統を終わらせる……それがあの時、私が自ら命を差し出した目的の一つだよ」

 

 

ただそれだけの話だ、と何でもない事のように自身の真意を語るリア。しかし、それは零からすれば到底聞き流せるような内容ではなく、一瞬息を拒んだ後に徐々に目付きを鋭くさせリアを睨み付けた。

 

 

零「それこそ話が違うだろ……あの時、奴は神権を消し去る事は出来ないって……」

 

 

リア「普通では……という話ではそうさ。だけど、それにも例外という物はあってね。神権を生み出した大元の張本人であるなら、本来なら不可能である筈の神権の破棄を行う事が出来るんだ。……まぁ今の時代、次の後継者に継承されるのが当たり前になってからはその方法も廃れてほぼ不可能な話になりつつあるんだけど、こうして蘇っている原初の存在である私にならそれが可能だ。だからあの彼には勘違いをさせたまま私を討ってもらい、神権をこの世から消し去ってもらいたかったんだよ。……まぁ、あのままじゃ君も殺されてたかも分からなかったから、せめてもの駄賃にと彼を道連れにしようと思ったけど、まさか君の横槍が入るとは想定外だったなぁ……」

 

 

零「ッ……お前っ……」

 

 

リア「君としても望ましい事だろう、零君?そうすれば幻魔神という存在が再び現れる可能性も完全に消え去り、君達が守ったあの世界の平穏が二度と破られる事もなくなるのだからさ」

 

 

零「勝手な事を言うなっ!幾ら神権を消し去る為とは言え、その為にお前に命を捨てろと求めた覚えも無ければっ、そんなやり方を認めるつもりも毛頭ないっ!」

 

 

リア「…………」

 

 

神権を無くす事で新たな幻魔神の誕生と幻魔達の復活が無くなるのは良い。だが、その為にリアの命を犠牲にするようなやり方を黙認する事など出来る筈もない。だが、そんな言葉を投げ掛ける零に対してもリアは表情一つ変えようともせず、零もそんなリアの不動さに僅かに圧されながらも言葉を続けていく。

 

 

零「お前は言っていたな、俺達に敗れたお前の命には最早意味も価値もないと……本気でそう思ってんのかっ……?」

 

 

リア「……寧ろ君に聞かせた私の価値観の話から、君もとっくにその事を察してくれてると思ってたよ。ほんとに噂に違わぬニブちん振りだね、君?」

 

 

零「単純にお前の話が回りくど過ぎただけだろうがっ……ッ……神権を消し去りたいのなら、何もお前までも死ぬ必要はないだろっ……それでもまだ死にたいってのかっ……?」

 

 

リア「勿論」

 

 

激痛に耐えながらもどうにか口を開いて投げ掛けた零の問いに、一切の迷いもなく即答するリア。そんな彼女の返答に更に顔を顰める零だが、リアはその瞳で零を捉えたまま淡々とした口調で語る。

 

 

リア「執着はしない―――。君にそう言った通り、私は自分の命にもそういったものは抱かない。特に、今の私の命はギルデンスタンによって不本意に蘇らされたものだ……望まぬ形で、しかも君達に敗れた事で彼の望みも果たせなかった以上、今の私が生き続ける事に何の価値もないし、これ以上生き続ける意味もない。……ならばせめて、私達を倒した君達を生かせるという意味のある事の為に使いたいんだよ」

 

 

零「ッ……何処までも勝手な女だなっ……そんな押し付けがましい自己満足の為に、お前の命を背負わされる身にもなったらどうなんだっ……!」

 

 

リア「背負う必要なんてないよ。言っただろう?私はとっくの昔に死んだ身なんだ。今此処にある私は余計な奇跡の下に蘇っただけで、本来ならあの世に帰結するのが当たり前の存在だ。見掛けによらずお人好しな君のお節介でどうにか生き永らえたけど、それも本当は間違いでしかない。間違った者の手によって蘇った者は、再びあの世へ還すべき……そんな私に君が固執する事は、それこそ、自然の摂理に反する行為だとは思わないのかい、零君?」

 

 

零(ッ……!コイツはっ……!)

 

 

何とか零が説得の為の流れを作ろうと試みても、それ以上の屁理屈を捏ねて反論するリアに舌を巻いて険しい表情を浮かべてしまい、どれだけ言葉を投げ掛けてもリアには何一つ響いてる様子もない。

 

 

……しかし、もしかしたら、彼女の言う事も一概に間違ってるとも言い難いかもしれない。

 

 

何せリアは彼女の言う通り、現在進行形で神格としての役を務める姫や魚見とは違い、元々は数千年も前に『滅び去った存在』なのだ。

 

 

故に自身の命に無頓着なのも道理。後悔も未練もなく死んだ彼女からすれば、今ある人生はそれこそ蛇足以外の何物でもなく、元々執着が薄い性格に加えて自分の命を軽視しているのは無理らしからぬ事なのかもしれない。

 

 

しかし、それでも……

 

 

零「―――それでも……お前にも今は、"命"があるのは確かだろうがっ……!」

 

 

リア「…………」

 

 

零「お得意の御託を並べて煙に巻こうったってそうはいくかっ……。お前を生かすと最初に言い出したのは俺なんだ……そんな俺が、このままお前を見殺しにする訳にもいくまいし……お前を助けると言い出したからには、お前の命に関して担わなければならない責任だってあるっ……!」

 

 

リア「……変な所で律儀だな、君は……それでも、私が行くと言えば?」

 

 

零「……決まってるだろう、そんなの……」

 

 

ジャキッ……!と、そう言いながら気怠げに腕を上げた零の右手に握られているのは、銃口が冷たい輝きを放つライドブッカーGモード……。それを見てもリアが表情一つ変えぬ中、零は息も絶え絶えに告げる。

 

 

零「今の俺じゃ、お前を引き止める事もままならない……だったらせめて、あんな奴に殺されるのを見過ごすぐらいなら……俺が此処で、今度こそお前を討つ……それがお前を倒した者としての、俺が果たすべき責任だ……」

 

 

リア「……また無茶苦茶な事を言ってくれるものだな……だがその理屈で語るなら、私を殺すにしても、桜ノ神や水ノ神も一緒でなくては筋は通らないのではないかい?君が私を倒せたのは、彼女達の力があってこそだと言うのが君の意見だったと思うけど」

 

 

零「それは間違っちゃいないが、今は話が別だ……こんな事で、アイツ等の手を汚させる必要なんてない……。最も、お前が考えを改めるつもりがあるのなら、俺もこんな真似をせずに済む訳だが……」

 

 

リア「私もそのつもりは無いよ。私自身、私たち幻魔を倒した君達への報酬として、君達が守った世界の平穏を出来うるだけ永く保つにはどうするべきか……それを私なりに考えた末に出した結論でもある。今更君の言葉一つで、変えられる程の軽い決意ではないさ」

 

 

零「……交渉は平行線、って事か……」

 

 

リア「そのようだ。ならば、次に君はどうする?」

 

 

零「…………」

 

 

変わらず眉一つ動かさないままそう問い掛けるリアに、零はライドブッカーを突き付けたまま口を閉ざす。

 

 

嘗てのあの夜の戦いの時のように、リアを言葉だけで説き伏せる事はきっと出来ない。

 

 

特に、自身の命よりも零の命に価値を見出していると言うのも、この先、神権を巡る厄介事を引き起こしたくはないと言うのも、彼女の良い意味でも悪い意味でも潔い性格からして嘘ではないのだろう。

 

 

自身の命に執着はない―――。

 

 

加えて彼女はその命の使い道を自分を倒した零に使い、更に敗者の矜持に習うと同時に、ギルデンスタンの最後の罪業を清算しようと既に決めている。

 

 

そんな彼女の決意を、僅かにでも引き留めるにはどうすればいいか……。

 

 

零はリアと対峙したままその次の方法を必死に思考していく中、ふと、ある一つの考えが脳裏を過ぎり、その手に握るライドブッカーを持つ腕を力無く下ろした。

 

 

リア「……?なんだい、漸く諦めでも付いてくれたのかな?」

 

 

零「……まさか……ただ一つ質問が出来ただけだ……。お前は、自分の命よりも、俺の命に価値を見出してると言ったな?それは本心か?」

 

 

リア「無論だよ。何度も言っただろ?君や彼女達は私を倒した勝者であり、だからこそ君に生きていてもらわなければ私が困ると。……それが何か?」

 

 

零「ただの再確認だ……あぁ……だったら、こういうのはどうだ……?」

 

 

二ィッ……と、首を僅かに傾げながらそう言って口端を吊り上げる零。そんな零の意味深な態度にリアも思わず訝しげに眉を寄せる中、ゆっくりと、零は一度は下ろしたライドブッカーを持ち上げ、その銃口をリア……ではなく、なんと、己のこめかみに突き付けた。

 

 

零「―――お前の命が掛けられた天秤のもう片方に、"俺の命を乗せる"……お前がどうしても死にに行くと聞かないのなら、今此処で……俺が命を断つと言えば、お前はどうする気だ?」

 

 

リア「…………。どうもしないよ。そんなブラフで私が動揺するとでも思うのかい?生憎私にはそんなものは通用しない……。「必ず世界を救う」と、彼女達と交わした約束を放って君がそんな半端な真似をしないだろう事は理解してるし、私に其処まで命を掛ける理由もないだろう?」

 

 

零「さぁ?どうだろうな……少なくとも、明らさまに口数が増えたお前の様子を見るに、それだけでも俺にとっては試すだけの理由はある所だが……」

 

 

そう言ってリアを見据えたまま、血に濡れた零の人差し指がライドブッカーの引き金に掛けられる。それを目にしたリアも眉をピクリと動かすが、それも一瞬。すぐに表情を元に戻しながら、冷静な口調で語り掛ける。

 

 

リア「莫迦な真似はしない方が身の為だ。世界を救うと言う大事の前に、私なんかの為に命を張って何の意味がある?そんなものはないんだ。そんな簡単な事が分からない程、君は愚か者ではないだろう?」

 

 

零「そうかよ、だとしたら俺は愚か者で十分だ……。前にも言った事だが、世界を救うなんて言いながら、目の前で死のうとしている奴を見殺しにするような奴が世界を救えるなんて出来る筈もない……此処でお前を止められなきゃ、俺はきっと、アイツ等との約束を果たすなんて不可能な話だ」

 

 

リア「……それこそ本末転倒じゃないか。君が死ねば、一体誰が彼女達の世界を救えるんだ?」

 

 

零「なのは達はもう魔法無しでも十分に戦える。それに優矢やアズサ、木ノ花達もいれば、いざとなれば海道や祐輔達だっているんだ……万が一俺に何かあったとしても、アイツ等なら―――」

 

 

リア「馬鹿げた事を言うんじゃない。君という存在はその程度の価値じゃないだろう?あまり自分の命を軽視するのは感心しないぞ……」

 

 

零「どっちが」

 

 

リア「…………」

 

 

零「…………」

 

 

互いに一歩も引かず、睨み合ったままどちらも視線を外そうとしない零とリア。しかし、その間にもリアは僅かにだがジリジリと爪先から足を動かして、零のこめかみに突き付けられたライドブッカーを弾く為に零との距離を徐々に詰めていき、零の方もそんなリアの一挙一動を注視しつつ引き金に掛けた指に力を込め、頬を伝う一滴の汗が地面に落ちて弾けた、次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

―――ドロォオオオッ……と、零の両目と鼻、口から夥しい量の血液が突如溢れ出したのであった。

 

 

リア「?!零、く―――」

 

 

零「…………ぇ…………なん…………ァ――――」

 

 

―グラッ……―

 

 

リア「零君!!」

 

 

零の身に起きた突然の異常事態。零自身もそんな自分の身体に起きた異常を理解出来ぬまま、両目や口からゴポッと水音と共に大量の血を吐き出しながら身体を揺らして倒れそうになるも、咄嗟にリアが零の身体を胸に抱き留め、ヒューヒューとか細い呼吸を繰り返す零の容態を見て目付きを鋭くさせた。

 

 

リア(マズイな……毒が侵行を再開し出してる……。今の零君の中の因子の力では、完全に毒を抑え込むのは不可能という事なのか……抜かったな……らしくもない失敗だぞ、リア……!)

 

 

零の中の因子が毒を抑えている隙に、彼を姫達の下に連れて毒の治療だって可能だった筈だ。なのに必要性の欠片もない口論でその機会を潰してしまったと、己の失態を咎めて内心舌打ちするリアだが、リアの腕の中にもたれ掛かる零は未だ吐き出る血の量に呻きながらも、震える左手でリアの背中を鷲掴んだ。

 

 

リア「!零君?」

 

 

零「ッ…………どっち、にしっ、ろ…………俺の命、も…………ここまでかも…………分からない、みたい…………だなっ…………」

 

 

リア「……君らしくもない……私やフォーティーンブラスにも見せたお得意の生き汚さは何処へ行った!君のその諦めの悪さの末に私達は敗れたというのに、こんなつまらない死に方で終わるつもりなのか!」

 

 

零「…………そうしたくはな、いのは…………こっちだって山々だ…………だが、今回ばかりは…………それだけじゃ、どうにもならなそっ、グッ―――がはッ!!げほっげほッ……!!」

 

 

リア「……ッ……!」

 

 

自嘲気味に笑ってそう言いながらも、激しく咳き込むと共に血を吐き出し続けて目に見えて衰弱してゆく零。その様子に流石のリアも顔を歪め、内心焦りを覚え始めながら零の血で汚れた自身の右掌を見つめていく。

 

 

リア(時間はもうない……桜ノ神達の下に連れていこうにも、恐らく間に合わないだろう……このまま何も手を打たなくては、本当に零君は……しかし、今の私の力では彼を治療する事も―――)

 

 

―――いや、一つだけあったと、リアは掌にこびり付いた零の赤い血を見て思い出す。

 

 

幻魔神の神権―――。

 

 

無から有を、その気になりさえすれば宇宙すら一から生み出せる神の力を今一度この身に宿せば、零の中の毒どころか、彼の怪我でさえ忽ち治す事だって容易い。

 

 

しかし、それは……

 

 

リア(……それは同時に、他の幻魔達の復活を意味する……そうなれば……)

 

 

再び幻魔達による地獄が始まり、零達が自分を倒して守った平穏が打ち破られる事になる。

 

 

否、それだけは決して避けなければならない。

 

 

しかし、残された方法がそれしかないのも、今此処でその力を使わなければ目の前で死の淵に立たされる零を救う事を出来ないのもまた事実……。

 

 

このまま零を見殺しにするか、それとも零の命と引き換えに幻魔の復活か。

 

 

虚ろな目の零を壁により掛かるように寝かせながら、どうするべきかと心の内で迷うリア。だが、その時……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうか……なら、俺が一思いに楽にしてやるよ」

 

 

リア「……!?」

 

 

 

 

自分と零しかいない筈の管制室内に、突如響き渡った聞き慣れぬ男の声。完全に思考に浸っていた為にリアも、背後から聞こえたその声の接近に気付かずハッとなり、すぐさま振り返った、次の瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

―バァアアアアンッ!!!―

 

 

零「――――ガッ――――ァッ――――!!!?」

 

 

リア「なっ……」

 

 

 

 

 

 

 

……背後に振り返ったリアの真横を過ぎ去り、一発の銃弾が、零の右胸を貫いて粒状の血飛沫を撒き散らしたのだった……。

 

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry⑥

 

―中央区・旧モール街―

 

 

―ドッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!―

 

 

聖桜『グッ……?!あぁああああああッ!!』

 

 

―ガシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

天神『ッ?!魚見ィッ!!』

 

 

同時刻。地下下水道の管制室にて零達が何者かの襲撃に遭う中、地上の旧モール街では天神と聖桜がテュフォンを相手に奮闘する姿があった。

 

 

しかし、やはりヒュドラの持つ猛毒の牙が厄介な為にロクにテュフォンに近付く事も叶わず、かと言って距離を離した途端に放たれて来る炎弾の嵐に二人も防戦一方を強いられてしまい、遂には魔法陣で炎弾を防御し続けていた聖桜の障壁が打ち破られ、そのまま炎弾の直撃を喰らって背後の元電化店へとガラスを突き破って吹っ飛ばされてしまった。

 

 

テュフォン『ハッハハハハハハハッ!よえーなぁ神様たちよぉッ!アンタらの力ってのはその程度なのかァい?えぇ?』

 

 

天神『クッ……だったらッ!』

 

 

『SU•I•CA!』

 

 

額に片手を当てて愉快げに笑い挑発するテュフォンに対し、天神は左腰のホルダーからスイカロックシードを手にして解錠し、バックルへと装填してカッティングブレードでカットした。

 

 

―スパァアンッ!―

 

 

『Soiya!』

 

『SUICA ARMS!』

 

『Oodama Big Bang!』

 

 

―ギュイィィィィィィーーーーーーーーイィンッ……!!―

 

 

戦極ドライバーから響く電子音声と共に、天神の背後の空に出現したジッパー状の裂け目からスイカアームズが現れ地上に落下し、それを確認した天神はスイカアームズへと即座に乗り込むと、ヨロイモードへと変形してスイカ双刀を手にテュフォンと対峙していく。

 

 

天神SA『この巨体と分厚い装甲なら、その蛇達の毒牙もそうやすやすと通るまいッ!』

 

 

テュフォン『ハッ……!いいねいいねぇー、ちっとは楽しめそうじゃないかぁ。せいぜい足掻いてみせろよォ?かませ犬のカミサマよォおおおおおおおッ!!』

 

 

これで少しは歯応えが出ると歓喜を顕わにし、弓を引いて矢を放ちながら天神に挑みかかるテュフォン。

 

 

対する天神もスイカアームズの後ろ腰に備え付けられる巨大な薙刀・スイカ双刃刀を取り出しながら矢を弾き、その巨体を活かしてテュフォンに突進していくのだった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

―管制室―

 

 

―――薄暗い室内に突如響き渡った発砲音と共に、零の右胸に撃ち込まれた一発の凶弾。

 

 

無数の赤い血飛沫が撒き散らされるその光景を前にリアも目を見開き、呆然と背後に振り返り零に銃弾を放ったその人物に目を向けると、管制室の入り口の前に佇むのは、自分達を追ってきたリーガン……ではなく、ストライプのスーツを着込んだ一人の青年だった。

 

 

リア「君、は……」

 

 

「―――なーんてな……どうだい、黒月?俺からのプレゼント、気に入ってくれたか?」

 

 

リア「……?プレゼン……?「グッ……ぅッ……」?!」

 

 

戯けるように意地の悪い笑みを浮かべる青年の言葉に訝しげに聞き返そうとしたリアの背後で、苦しげな呻き声が響く。

 

 

そしてその声に釣られリアが振り向けば、其処には撃たれた筈の零が苦痛に顔を歪め、右胸に撃ち込まれた銃弾……否、銃弾を模した注射状の薬が突き刺さった胸を抑えていた。

 

 

リア「これは……」

 

 

「俺特製の解毒薬だ。幾ら叔父さんの技術を真似た物でも、その程度の毒なんて俺の前じゃ大したもんじゃないさ。どうだ?副作用で痺れはするが、段々身体が楽になってくのが分かるだろ?」

 

 

零「……ッ……確かに、何だかだんだん身体が楽にはなってきたがっ……だからって今のは流石にタチが悪いだろっ……!"文臣"っ……!!」

 

 

解毒薬を撃ち込まれた右胸を抑えながらどうにか声を絞り出すようにそう言うと、零は額に汗を滲ませて解毒薬を打ち込んだストライプのスーツを纏った青年……事あるごとに零にトラウマ級のトラブルを持ち込み、今となっては零の天敵の一人である"早瀬"の名を持つ男、"早瀬 文臣"をキッと睨み付ける。

 

 

だが文臣はそんな零の視線も何処吹く風と意に介した様子もなく、解毒薬を放った銃を手の中で回転させてスーツの内ポケットに収めながら二人の下に歩み寄っていく。

 

 

文臣「タチが悪いとは酷い言い草だなぁ。せっかく死に掛けてた所を助けたんだぞ?もうちょっと素直に礼を言ってくれても罰は当たらないと思うが……」

 

 

零「だったら素直に礼を言わせる治療をしろっ……!というかっ、そもそも何でお前が此処にいるっ……?!」

 

 

文臣「ん?そうだな……まぁお前の毒の治療だったり、奴の動きに気付いて万が一に備えて追ってきたりとか、理由は色々あるにはあるんだが……」

 

 

と、文臣が何故この世界にいるのかと言う零の疑問に対して考えるような素振りを見せながら、文臣はゆっくりとリアが地面に置いたジュラルミンケースの傍に歩み寄って屈み、ケースの上に掌を乗せる。

 

 

文臣「取り敢えず今は、お前の怪我の治療に一役買うこのベルトの使い方を、其処の元神様に説明する為……みたいな感じだろうかなァ、うん」

 

 

リア「え……?」

 

 

零「使い方を説明、って……お前、何で智大のベルトのこと知って……?」

 

 

文臣「いやいや、ソレ叔父さんが作ったベルトじゃねぇぞ?コイツは俺が作って、そのまま完成間もなくお前達の写真館に送り付けたモノだ。……元幻魔神さんが、お前達を訪問するタイミングに合わせてな」

 

 

零「は……はあッ……?!ならソレを送り付けた犯人は、智大じゃなくてお前だったのかっ?!」

 

 

しかも、何故かリアが光写真館に着くタイミングに合わせて荷物を届けたのだと語る文臣に困惑を露わに驚愕する零だが、そんな零とは対象的にリアは無表情のまま文臣を観察するようにその顔をジッと見つめた後、やがて瞳を伏せて小さく溜め息をこぼした。

 

 

リア「成る程……今の早瀬の血筋の者は曲者揃いだとは知っていたが、君はその中でも格別のようだな……いや……タチが悪い、と、零君の言葉を借りればいいのかな?」

 

 

文臣「はははははっ、また酷い言われようだな。まぁ、確かに自分でも人よりかは意地の悪い方かなー?と自覚はしているが、それも黒月家に関して限った話さ。普段の俺はもっと紳士的かつ、全人類どころか自然にすらハートフルな男だぜ?lady?」

 

 

零「おい、今サラッと人のこと人類の枠から外してなかったお前っ……ゥッ……」

 

 

さりげに失礼な事を言われ思わず身を起こそうとする零だが、解毒薬の副作用の痺れに加えて傷が響き苦痛で顔を歪め、リアは文臣を見据えながら静かな口調で語り出す。

 

 

リア「良く回る口だな……。しかし、満更見当違いとも言い切れないんじゃないか?先程チョロッと口にしていたが、君はあの彼の動きを追っていたんだろう?君ほどの男が、あの彼の動きを一切見逃す筈も無し……君は彼がどう動くかも予想して、私達を狙って襲撃しに来ると踏んでそのベルトを彼等に送り付けた……つまり君は、最初から―――」

 

 

文臣「……そうだな。正直、俺が此処まで出張る予定はなかったよ。何せアイツの始末は黒月達と、このベルトを用いたアンタに全部任せるつもりだったしな」

 

 

零「!な、に……?」

 

 

あの男……リーガンの動きを監視していながら、その事を狙われる零達には伝えず、自分はベルトを送っただけで今回の件には傍観を決め込む予定だった。

 

 

そう自ら語る文臣に零は一瞬言葉を失うが、すぐに険しい表情で文臣を睨み付けた。

 

 

零「お前っ、タチの悪さにしても限度ってものがあるだろうっ……!奴の事を掴んでいたなら何で事前に知らせなかったんだっ?!そうすればっ―――!」

 

 

文臣「そうすれば、そいつを匿ってもっと安全な場所に避難させて、お前達だけで奴と戦った、か?それは困る。寧ろそうならないようにする為に、敢えてお前達に奴の事を知らせなかったんだからな」

 

 

零「何っ……?」

 

 

リアを今回のトラブルから遠ざけられてしまうのは文臣にとって都合が悪い。

 

 

そう語る文臣の意図が読めず訝しげに眉を寄せる零に対し、文臣はコツコツと人差し指でケースを叩きながら飄々と話を続ける。

 

 

文臣「俺としては、其処の元神様にはこの騒動の火中の中に進んで関わってもらいたかったのさ。その為にはどうすればいいかと考えて真っ先に思い付いたのは、ソイツが自分を倒した勝者と呼んで固執してるお前さんと奴をぶつけ合わせて、お前が命の危機に瀕すれば、必ずその場にノコノコ現れてくれると踏んだ。んで、結果は予想通りに事を運び、お前はその女を庇って瀕死の重傷を負ったって訳だ……因子を奪われたのはちょっぴり誤算だったがな」

 

 

詫びれもせず、手をヒラヒラさせて己の計画を語っていく文臣。

 

 

しかしその内容は流石に容認出来る物ではなく、彼の話を聞いていく内に零の顔付きも更に険しく染まって思わず声を荒げた。

 

 

零「ふざけるのも大概にしろっ……今までのお前の悪ふざけはギリギリでも容認してきたが、今回は度を越してるにも程があるだろっ!!なんのつもりか知らんがっ、お前が奴の行動を見過ごしたせいで街にどれほど被害がっ―――!!」

 

 

文臣「街の人間の事なら気にしなさんな。予め奴の手は読んでいたし、パンデミックが出現する地点に俺のガジェットを大量に待機させて怪我人どころか死人一人出しちゃいない。ああ、一応お前達の付近にもガジェットは潜ませてたが、お前達がパンデミックを速攻で倒してくれたおかげで出番は無しだ。いやはや、流石に流石、一騎当千のライダー達は違ったな」

 

 

零「ふざけるなと言ったぞ俺はっ……!どっちにしろ街の人間やリアを危険に晒したことに変わりはないだろうがっ!それでも医者かお前はっ?!」

 

 

ガァンッ!、と背中の壁に血まみれの拳を叩き付け、息も絶え絶えに文臣を睨み据えて怒りに吠える零。

 

 

そんな零の気迫を受けて文臣も一瞬口を閉して無言になると、ふぅ、と小さく溜め息を吐き、前髪を掻き上げながら真剣味を宿した口調で、

 

 

文臣「医者だからこそ、なんだよ黒月……此処までの事をしなければ、その女は自分の在り方を変えない。変えられない。……この騒動はな。ある意味、そいつを治療する為に建てたオペ室でもあるんだよ」

 

 

零「……なに……?」

 

 

リア「…………」

 

 

普段の人を苛つかせるふざけた口ぶりではなく、医者としての顔を表に出した文臣の淡々とした話に零は眉を潜め、リアは無表情のままそんな文臣を見つめていると、文臣はリアを顎で指し、

 

 

文臣「その女に人の道理で物を語っても無駄だ。見た目は人と同じでも、根底にある根っこの部分は人ではなく幻魔の……言っちまえば化け物の価値観なんだからな。お前の仲間の姫や魚見といったそもそもが人間の神様連中とは違い、異形の存在として生まれ、生きてきた世界が違う以上、人間の道理を説いたところでそいつの考えが変わる事はない。フォーティンブラスを始め、お前が今までの世界で戦ってきた連中がそうだったようにな」

 

 

零「……それは……」

 

 

そう言われ、零は今まで巡ってきた世界で戦ってきた強敵達との戦いを思い起こし、文臣の言葉を一概に否定出来ないとして口を閉ざして俯いてしまう。

 

 

すると文臣もそんな零からリアに視線を移し、声音を一切変えず言葉を続けていく。

 

 

文臣「まあだが、お前の言う事もあながち間違っちゃいない……。俺の目的はその女の自殺紛いな行為を辞めさせることだが、その為にこの街を巻き込むことを良しとした……手前勝手な理屈一つでな。そういう意味じゃ、俺の行いは医者とは到底呼ぶに値しない。糾弾されるのも当たり前だ」

 

 

ただな……と、文臣は僅かに目を細める。その瞳には、いつもの彼らしくもない強い意志のようなモノが見られる。

 

 

文臣「どんなに腐っても、俺は医者だ。命を生かす人間だ。それは人でも人外でも関係ねえ。目の前で死の縁に立たされるヤツがいりゃあコレを助けるし、命を投げ出そうとしてるバカがいりゃあ何をしてでも止める。……例え世界中の全てを敵に回してでもな……」

 

 

零「……お前……」

 

 

リア「…………」

 

 

迷いなく、リアを見据えながら断言するように告げる文臣。

 

 

……端から聞けばめちゃくちゃ以外の何物でもない。

 

 

なにせ彼は、目の前の一つの命の為ならば手段を選ばず、犠牲を強いる事になっても、何を敵に回そうとも救うと口にした。

 

 

到底医者とも思えない矛盾に満ちた言葉。普通ならば批難されても当たり前の事を彼は口にしてるのだ。

 

 

……だが同時に、それだけの覚悟を持って命というモノと向き合っている文臣の決意が伝わり、零は何処か呆気に取られた顔でそんな文臣を見つめ、リアも文臣の視線を受けて暫し見つめ返した後、呆れるように瞳を伏せて溜め息を吐いた。

 

 

リア「本当に無茶苦茶だな……まったく、理解に苦しむよ……。一度は君達の世界を奪おうとした敵を、何故其処までして……」

 

 

文臣「人間の中には、たまにそういう馬鹿が生まれてくるのさ。……で、どうするよ、元神様?もう分かってんだろ?俺もそいつも本気だ。黒月はお前の命を繋ぎ止められるなら自分の命すら懸けるし、俺もその為なら何を犠牲にしてでも阻止する……これだけの事をされても、まだ自分が死ぬ事に固執するか?」

 

 

リア「…………」

 

 

それはお前としても望む事ではないだろ?、と片目を伏せながら戯けるように語る文臣に対し、リアは無言のままそんな文臣と零を交互に見つめ無言になると、やがて、もう一度重々しい溜め息を吐いて肩を竦めた。

 

 

リア「参ったよ……ハッタリでないのは君達の顔を見てても嫌でも分かるし……流石に私を倒した人間の命と、私を倒して守った世界を人質に取られた上、私のせいでそれらが過失してしまってはいよいよ立つ瀬がなくなる……戦い以外でも、君達には叶わないようだな、私は……」

 

 

零「リア……」

 

 

文臣「……フッ……」

 

 

自嘲するように目尻を下げて微笑み、自らの敗北を認めるリア。

 

 

そんな彼女の様子を見て零も僅かに安堵するような表情を浮かべ、文臣も二人に見えぬように小さく笑う。が……

 

 

―…………グニャアァアアアアアアッ……―

 

 

零「…………あ……?」

 

 

―……ズズッ、ズッ……ドサァアッ!―

 

 

文臣「――!」

 

 

リア「ッ!零君!」

 

 

リアが自らの命を捨てる事を諦めた矢先、突然零が視界がグニャリと歪んで意識が遠退き、そのまま壁に寄り掛かったままズルズルと倒れてしまったのだ。

 

 

それを見たリアと文臣はすぐさま零の傍に寄るが、倒れる零の目は何処か空虚を見つめ焦点が定まらず、息をする呼吸音も「ヒュー……ヒュー……」と、今にも途切れてしまいそうな程か細く、そんな零の容態を目にした文臣は口の中で小さく舌打ちした。

 

 

文臣「長話が過ぎたようだな。血を流し過ぎてる……幾ら毒をどうにかしても、このままじゃ出血多量であの世逝きは免れん」

 

 

リア「再生の因子は?毒を抑える必要がなくなったのなら、アレの治癒力でこの程度の怪我もすぐに治せると思うが」

 

 

文臣「ダメだ。治癒を受ける本人の体力が先にもたない。流石に因子の力でも、本人が死んじまえば因子本体である心臓も止まる……このまま何もしなけりゃ、な」

 

 

リア「……何か秘策がある、といった口振りだね」

 

 

文臣「それを教えてやる為に俺が出張った」

 

 

ガチャッ!と、いつの間にか鍵を外したジュラルミンケースを開き、文臣は中に収まるバックル……ジャッジドライバーを取り出し、リアの前に差し出しながら説明を始めていく。

 

 

文臣「コイツは元々試作品のままお蔵入りした品物なんだが、お前が神権を保有してることに着目して改造を施したベルトでな。機能の一つとして、お前の持つ神権をコイツに封印するシステムを組み込んである。ま、ただ封印するってだけなら大した事はないんだが、コイツの有用性はここからでな。封印した神権の力を、限定的にだが一時的に神化する必要なく用いる事が出来る。つまり……」

 

 

リア「……まさか……」

 

 

文臣が言わんとしてる事に先に気付いたのか、リアは僅かに目を見開いて驚き、文臣もそんな彼女の反応に気を良くして頷きながら続ける。

 

 

文臣「幻魔神の力を、幻魔神になる事なく限定開放する事が出来る……。ま、長時間も開放し続けるとオーバーヒートを起こしてぶっ壊れるから使いすぎ注意だが、これなら幻魔神が再び生まれる事なく、一時的にでも力を行使することが出来る。……此処までの説明で、俺が言いたい事は伝わったな?」

 

 

リア「……そういうことか……ふう……何から何まで君の手の上みたいで面白味はないが、まぁ、四の五の言っていられないのも事実だ……」

 

 

これだから早瀬の血筋は油断ならないよ、と、愚痴とも取れるような台詞を呟きながら溜め息を吐くと、リアは文臣の手からジャッジドライバーを半ば乱雑に奪い取ってそのまま腹部に当て、バックルの端から伸びた金属製のベルトが巻き付いてドライバーを装着していく。

 

 

瞬間、リアが巻いたジャッジドライバーのバックルが突然緑色に淡く発光し、それに連動するようにリアの身体から緑色のオーラのようなモノが流れ出てベルトに吸い込まれていき、やがて吸収を終えたガルウイング型のパトカーをモチーフにしたバックルに、エンブレムのようなものが刻まれたのであった。

 

 

文臣「ふむ……神権の封印は無事に成功したようだな。どうだ?何か身体に不調はないか?」

 

 

リア「今の所はないね。寧ろ使わない重りがなくなった事で身軽になった気分だ。……で?君の考え通りにするにはどうすればいい?」

 

 

文臣「簡単さ。お前が知る、神権を呼び起こすアクションを何でもいいから実行すればいい。そいつが発動キーになって、ベルトから限定的に幻魔神の力を一時的に使える筈だ」

 

 

リア「……発動キー、か」

 

 

後はそれだけだ、とさも簡単そうに方法を教える文臣。

 

 

しかしその説明を聞いたリアはううむ、と何やら悩むような素振りを見せて逡巡し、僅かに考え込んだ末にそのリアが知る"発動キー"を文臣に教えてゆくのだが……

 

 

文臣「―――そいつはまた……よりにもよってこんな状況で、としか言いようがないな」

 

 

リア「全くだよ。……ま、君が私に提供してくれると言うのなら、話は早いのだけど」

 

 

文臣「それは流石に勘弁願いたい。せめて身持ちだけは清らかに、ってのが母親との約束なんでな。……仕方ないか」

 

 

そう言いながらヤレヤレと軽く溜め息を吐き、文臣は床に倒れる死に体の零の顔を覗き込んでパチパチと頬を叩いていく。

 

 

文臣「黒月ー、俺の声が聞こえるかー?」

 

 

零「――――…………っ…………?文臣、か…………?」

 

 

文臣「フム、意識は戻ったか……実はな黒月。リアの神権とジャッジドライバーを使って瀕死のお前を治療しようと思ったんだが、その前に一つ問題が発生してな。急遽、お前の助力も借りないといけなくなった」

 

 

零「…………じょりょ、く…………?」

 

 

どういう意味だ?、と意識が朧げながら文臣の説明を聞き、怪訝な反応を返す零。

 

 

それに対し、文臣は「ウェエッホンッ!」とわざとらしい大きめな咳払いをした後、

 

 

文臣「リアが幻魔神の神権を開放する為の発動キーは、今この場には一つしかなくてな。……その方法ってのが、魔力を有する人間から直接血を吸う『吸血行為』しかないらしい」

 

 

零「…………ハ…………?」

 

 

文臣「ま、要するにだ。リアには今から出血多量で死に掛けのお前から血を吸ってもらい、それで幻魔神の力を開放するから、耐えろ。なに。死の一歩手前くらいならまだ助けられる余地はあるから、後はお前次第だ」

 

 

零「ヤ、まっ……!ちょッ……!!こんな状態の重傷人にそんな無茶を要求するとか正気かッ!!?鬼か何かかお前はッ!!?」

 

 

文臣「お、ツッコミで活力が戻ってきたな。よし、その勢いのまま、イッテミヨー」

 

 

零「ふざけんなテメェええええええッッ!!!ってかっ、魔力を持ってる誰の血でもいいなら健康体のお前が差し出せばいいだけの話じゃ―グイッ!―なぁああああああッ?!!」

 

 

文臣の理不尽極まりない無茶振りを前に、先程までの衰弱振りも何処へやら。

 

 

キレて文臣へのツッコミが止まらない零だったが、いきなり誰かに顔をロックされて首の向きをグルンと強引に変えさせられ、振り向いた先に、口を開けて八重歯を見せるリアの顔が映った。

 

 

 

リア「なに、血を吸うにしてもほんの一定量だけだから安心してくれ。時間もあまりないんだ。死にたくなければ、死なないように耐えろ、零君。そういうの得意だろ、君?」

 

 

零「理不尽な要求にも程があるわァあああああッ!!!?ちょっ、待てッ……!!!!考え直せッ!!!!止めッ―――?!!!」

 

 

リア「さて。吸血なんて久方ぶりだから、上手く出来るか不安だが……うん。じゃ、いただきます、と。あー……」

 

 

―ガブゥッ!―

 

 

零「イィイイイッ――――!!!?」

 

 

こんな場面で残った力の全てを出し切り、全力で頭を振って抵抗の意を示す零だが、やはりそれも微々たるもの。

 

 

抵抗虚しく無意味に終わり、リアは零の首筋に噛み付いたのであった。

 

 

そしてリアは、さっさと行為を終わらせてしまおうとそのまま噛み付いた零の首筋からちゅぅううううううっと血を吸い始めていくのだが、吸い出した血液が舌に触れた瞬間、まるで電流が走ったかのような感覚が走り、閉じていた目を勢い良くかっ開いた。

 

 

リア(こ、これは……?滑らかな舌触りに、血液特有の苦味の中にほのかな甘み……?それでいて味もしつこくなく、粘り気もなく飲みやすい……なんたる……なんたる美味!)

 

 

―ちゅぅうううううっっ―

 

 

零「マ、ッ……!チョッ、リアさんッ……?アナタちょっと飲み過ぎじゃありませんかッ……?一定量でいいならそれ以上、はッ……」

 

 

リア(なるほど、これが彼の"母親の血"か……風の噂で耳にしたことはあれど、いやしかし、まさか此処までのものなのか?正に話に違わぬ禁断の味、これは確かに……クセになる……!)

 

 

―ちゅぅうううううっっ……!―

 

 

零「…………アノ……アノ、ちょッ……なんか心なしか、勢い、増してませんヵッ……?」

 

 

リア(ちゅうぅ、むちゅうぅ――。ちゅっ、ちゅるっ、ちゅううぅっ――。 はぁあッ……マズい、飲めば飲むほどクセになってくるっ……。首筋でコレなら、他の部位だとどんな味がする?薄味か?濃い目か?嗚呼……彼と戦った時にあんなにもドバドバと流れ出ていたのに勿体無い事をした……これなら一口くらい飲んでおけば……!)

 

 

―ちゅぅうううううううううううううううっっ!!!!―

 

 

零「ぜったい勢い増してるぞコイツゥうううううううううううッ!!!?止めろォおッ!!!文臣コイツ止めろォおおッ!!!この女ホンキで俺の血を吸い尽くすつもりぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァッ………………」

 

 

先程までの毅然とした姿は何処へ行ったのか。初めて口にした零の血の味に魅力され、興奮のあまり我を見失ってガッチリと零をホールドしながら呼吸も荒く、ひたすら血を吸っていくリア。

 

 

そんなリアの様子から冗談抜きで命の危機を感じ取った零が慌てて文臣にヘルプを求めるも、その顔色が急激に青白く染まってガクリとダウンしてしまい、その光景を傍から見ていた文臣もやれやれと溜め息を吐くと、リアの肩を掴んで揺さ振っていく。

 

 

文臣「そこまでにしとけ。それ以上は流石にガチで死んじまうぞ、ソイツ」

 

 

リア「……ッ?!ぁ、んんぅっ……はぁあッ……あぁ、そうか……すまない……少しばかり夢中になって、我を見失っていたようだ……んちゅ、んんむぅ……」

 

 

文臣の制止を受けて漸く正気に戻り、唾液と血が入り混じった赤い糸を引きながら零の首筋から離れたリアのその顔は、うっとりと頬を赤く染めて熱に浮かされているように見える。

 

 

――あ、これマズいスイッチ入ったな……。

 

 

興奮冷めやらぬまま、口周りに付いた血を拭って唾め取るリアの様子からそう確信し、文臣は彼女から零へと視線を移すと、一定の量を超えた血を絞り尽くされた零は真っ白に染まり、軽く痙攣まで起こして完全に気を失ってしまっていた。

 

 

文臣「……ま、ギリギリ死なない程度で済んだから良しとするかね……で、どーだいリア?神権は使えそうか?」

 

 

リア「ンッ、ンンッ……ああ。少しばかり多めに採取してしまったが、これだけ魔力を得られれば後は容易いよ……ふっ!」

 

 

文臣の質問に軽くそう答えながら、リアは腹部のバックルに意識を集中した後、全身に気合を入れたと同時に緑色のオーラがベルトから放出されてゆく。

 

 

すると、緑色のオーラはそのまま霧のように宙を舞った後にリアの下に集まって右手に宿り、リアは緑色のオーラが纏われた右手を開閉して調子を確かめると、零の傍に腰を下ろし、零の胸に右手を当て……

 

 

リア「……フンッ!」

 

 

―ズドォオオオオオッ!!!―

 

 

零「―――――ッ!!!!!?グッ……ガハァアァアアアアアアアアアアアッ!!!!?」

 

 

いきなり掌底気味に零の胸に右手を打ち込み、右手に纏うオーラを零の中に注ぎ込んだのだ。

 

 

瀕死の身体にはあまりに重いその衝撃に零も思わず意識を呼び戻されて思いっきり吐血し、身体をくの字に折り曲げながら胸を抑えて激しく咳き込んでしまう。

 

 

零「ゲホッ!!ゲホッゲホッゲホォッ!!ぐっ、テ、テメッ……!ナニいきなり馬鹿力でっ……!血を吸い尽くした上にトドメまで刺す気かァッ?!」

 

 

リア「おお、元気なツッコミだ。ウン。その様子だと、どうやら無事に成功したようだね」

 

 

零「何っ?…………ぁ、れ……?」

 

 

危うくホントに昇天し掛けて額に青筋を浮かべながら怒鳴る零だが、リアの言葉を聞いて漸く其処で身体に痛みがない事に気付き、自分の身体を見下ろすと、テュフォンに受けた傷がいつの間にか癒え、毒に侵されていた筈の黒い肌も元の肌色に戻っていた。

 

 

零「治ってる……?奴から受けた傷も、毒まで一瞬で……?」

 

 

リア「神権を一時的開放して、幻魔神の治癒力を君に付与したんだよ。ま、因子に侵食された左目までは元には戻せなかったけど……それも私の方で取り返してくるよ」

 

 

零「!取り返しにって、まさか、奴と戦いに行く気か?!待てっ、だったら俺も―バチバチバチバチィッ!!―のぉおおおおおおッ?!!」

 

 

天井を見上げるリアの台詞からテュフォンの下に戻ろうとしている事に気付き、自分も一緒に行くと立ち上がろうとした零だが、腰を上げた瞬間に全身に痺れが走り、力無くその場に座り込んでしまう。

 

 

零「な、ンだ、コレッ……?身体が、痺れっ……?!」

 

 

文臣「さっき言っただろ?解毒剤の副作用で身体に痺れが出ると。俺が作る薬品は神格の力でも簡単に打ち消せるもんじゃないのさ」

 

 

リア「そういうことだ。君は大人しく休んでろ。ナニ、あの彼への借りは、私が君の代わりに返しておくさ」

 

 

解毒剤の副作用で動けない零にそう言いながら、リアはジュラルミンケースの中に残る数枚のエムブレムを手に取り、そのまま軽い足取りで管制室の出入り口へ向かっていくと、そんな彼女の背中に向け文臣が声を掛ける。

 

 

文臣「一応念は押しておくが、もうヤケは起こすんじゃねえぞ……。お前が自分の命に一切の執着がなかろうと、そんなお前の為に身を張る馬鹿が出来ちまったんだからな……その繋がりを作っちまった以上、責任も取らずに逃げるのは無責任ってもんだ」

 

 

リア「……肝に銘じておくさ……彼を頼むよ?早瀬のトリックスターくん」

 

 

エンブレムを軽く上に放り、落下してきた所をキャッチしながら戯けるようにウィンクを返しながらそう告げると、リアは地上に向かうべく扉を押して管制室を後にしていく。

 

 

そして文臣もそんなリアの背を見送ると、肩を竦めて軽く溜め息をこぼし、その様子をジッと見ていた零は痺れる手で額を流れる汗を拭い、

 

 

零「お前、アイツを説得する為にわざとあんなハッタリをかましただろ……」

 

 

文臣「……さてな。ただ、俺はやると決めたからにはいつでも全力投球だぞ?お前に関する事は面白いから、特にな」

 

 

零「吐かせっ。礼は言わねえぞ……まぁ、お前から受けた過去の仕打ちの一つはチャラにしてやってもいいが……」

 

 

文臣「マジ?やったね。なら許してもらった分を埋める為に次の企画を用意しなきゃな」

 

 

零「前言撤回オマエだけは何があってもぜったい許さんっ」

 

 

凝りもせずに次の悪巧み宣言を口にする文臣に思わず許し掛けた気を引き締め直し、絶対にこの男の前で隙は見せないと改めて固く誓う零なのだった。

 

 

 

 

 



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番外編/幾ら努力しようが絶対に無駄に終わる努力もある。ようするに無駄な努りょ(ry⑦

 

―中央区・旧モール街―

 

 

―ギギギギギギギギギギギギギギギギィイッ……!!!―

 

 

天神SA『ぐ、ァッ、ぅっ……!!こん、のぉぉオオオオッ……!!』

 

 

一方場所は戻り、旧モール街でスイカアームズを身に纏い果敢にもテュフォンに挑んでいた天神だが、激闘の最中、一瞬の隙を突かれてテュフォンが操るヒュドラの首に雁字搦めにされ、一切の身動きが取れずにいた。

 

 

鎧の軋む音と共に徐々に力が強まるヒュドラの巻き付きに内心焦りを募らせるも、天神は諦めず必死に足掻いてヒュドラの拘束から逃れようと試みるが、テュフォンはそんな天神の姿を見て嘲笑の笑い声を上げる。

 

 

テュフォン『無駄だよ無駄ァ!どんだけ巨体に姿を変えようが、所詮雑魚は雑魚のままなんだよぉッ!』

 

 

天神SA『ッ……!!舐めるな、よっ……!!この程度の逆境などっ、こっちは何度も潜り抜けて来ているんだっ!!』

 

 

『Oodama Mode!』

 

 

―バシュウウゥンッ!!!―

 

 

テュフォン『ヌッ?!』

 

 

嘲笑うテュフォンにそう言いながらドライバーから電子音を鳴らし、天神は瞬時にスイカアームズを変形させて大玉形態となりながらヒュドラの拘束から逃れ、そのまま高速回転しながらテュフォンを押し潰そうと襲い掛かる。

 

 

しかし、テュフォンもそれに対し黒い弓でスイカアームズを受け止めながら徐々に後退しつつ辛うじて踏ん張ると、背後に戻したヒュドラ達の口から一斉に火炎放射を放ってスイカアームズを遥か後方にまで吹っ飛ばしてしまい、天神も通常形態に戻りながら地面を転がって倒れ込んでしまう。

 

 

天神『グウゥッ!!クッ……ソッ……!!』

 

 

聖桜『ッ……咲夜っ……!』

 

 

テュフォン『ヒッハハハハハハハハハッ!!弱ぇ弱ぇえッ!!所詮神と言ってもゴミはゴミってこったなぁッ!!あーあー、破壊の因子のテストにちょうどいい実験台になるかと思ったけど、期待外れだったわ、クズがっ』

 

 

 

ぺッ!と、まるでゴミでも見るような目で天神と聖桜を見回しそう吐き捨てると、テュフォンは黒い弓を引いて天神に狙いを定め、左目を妖しく輝かせていく。

 

 

テュフォン『つーか、何かもう飽きたわ。後であの出来損ないも後を追わせてやっからさぁ……ゴミはゴミらしく、仲良くおっ死んどけやァああああッ!!!』

 

 

―バシュウゥウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!―

 

 

聖桜『ッ!咲夜ァああッ!!』

 

 

天神『ッ……!』

 

 

黒い弓から放たれた一本の矢が、何か"嫌な気配"を身に纏いながら天神に目掛けて猛スピードで迫り来る。

 

 

その気配に覚えがある。

 

 

それは今までの旅の中でも、零が難敵達を相手に酷使し続けてきた因子の力そのもの。

 

 

その本質は万象総てを破壊する悪魔の力。神すらもその力の前に成す術なく散る他ない一撃が今正に目前にまで迫り、聖桜の悲痛な声が響き渡る中、天神が次の瞬間に訪れるであろう破壊から目を逸らすかのように思わず顔を背けた、その時……

 

 

 

 

 

―……バシュウウゥッ!!!チュドォオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオォンッ!!!!!―

 

 

テュフォン『……ハッ?』

 

 

聖桜『なっ……』

 

 

天神『ッ…………えっ?』

 

 

 

 

……天神の目前にまで迫っていた矢が、突如真横から放たれてきたエネルギー弾により射線を逸され、そのまま天神から遠く離れた彼方へと墜落して爆発を起こしたのである。

 

 

そんな思わぬ横槍にその場に揃う一同も何が起きたのか分からず呆気に取られてしまうが、先に正気を取り戻したテュフォンがエネルギー弾が放たれてきた方に振り返ると、其処には……

 

 

 

 

 

 

リア「──やれやれ……やっと出口を見付けて外に出られたと思いきや、まさかいきなり戦場とはねえ。全く、ちょっとは一息ぐらい吐かせてくれても良いだろうに」

 

 

 

 

 

 

穴の開いたマンホールの前に佇み、右腕の掌を突き出しながら溜め息混じりに首を振る、腰にベルトを巻いた一人の女性……零達と別れ、下水道から脱出したリアの姿があったのだった。

 

 

天神『お、お前……?!』

 

 

聖桜『リア!』

 

 

テュフォン『……ハッ、何だよ。誰かと思ったら役立たずの死に損ないじゃないか。今さら何しに来た?』

 

 

リア「相変わらず辛辣だなぁ……まあでも、役立たずと言われるのもあながち間違いでもないか。私も不本意だったとは言え、私のせいで零君を危険な目に遭わせてしまった上に、あんな怪我まで負わせてしまった訳だし」

 

 

天神『(ッ!怪我……?!)』

 

 

目を細めて自分のせいで招いてしまった事態を悔いるように語るリアの言葉を聞き、天神はテュフォンの左目に埋め込まれた破壊の因子、加えてあのヒュドラの毒の事も考慮して嫌な予感を覚え、慌てた口調でリアに向けて叫んだ。

 

 

天神『おいリアっ!零はっ、彼はどうしたんだっ?!奴に目を奪われたと言う事は、彼の容態も危険なんじゃっ……?!』

 

 

リア「ん?ああ、その事なら心配は入らないよ、桜ノ神。確かに先程まで彼の容態は危険な状態だったが、今は腕に信頼出来る医者が付いていて無事に一命を取り留めたからね。その蛇達の毒も無事に取り除けたし」

 

 

テュフォン『……何?』

 

 

聖桜『……腕に信頼出来る、医者……?』

 

 

どういう事だ?と、リアの説明に彼女以外のその場の一同が疑問を露わにしてしまうが、一方のリアはそんな彼らの反応も他所に手の中に握り締めたエンブレムをお手玉のように投げて弄びながらテュフォンの前に出ていき、落ちてきたエンブレムをキャッチしながらテュフォンをまっすぐと見据えて対峙していく。

 

 

リア『……後は、君に奪われた破壊の因子を取り返して彼の下に届けるだけで、万事全て収まるという事だ。まぁ、そんな訳だから覚悟してくれ?今の私にはもう、自分から命を差し出せない理由が出来てしまったからね。加減は出来ないんだ、悪いけど」

 

 

テュフォン『……ハッ、さっきから訳の分からない虚言をベラベラと。ヒュドラの毒を解いた?俺から因子を取り返す?ハッ、ハハハハハハハッ!!何だァ、神様辞めてから芸人にでもなったのかぁ?!馬鹿がァ!!俺様の作った毒を簡単に解ける筈もなし、破壊の因子の力を我が物にした俺にテメェなんぞが勝てる筈ねぇだろうがァッ!!』

 

 

何を惚けた事を吐かしているのかと、額を抑えてゲラゲラと下卑た笑い声を上げるテュフォン。しかし、それに対しリアは無言のままスッと目を細め……

 

 

リア「自惚れるのも大概にしておきなよ、三流……。人様の力を借りなければ何事も果たせない君如きの発明なんて、そもそも大した事ないんだ。いい加減、自分の無知無能さを自覚したらどうなんだい?」

 

 

テュフォン『……な、に……?』

 

 

そう言って、今までの彼女とは突然打って変わって侮蔑と冷徹さを兼ね備えた口調で語るリアの言葉に、テュフォンの表情から笑みが消え去り、ヒクッと顔を引き攣らせながらリアを睨み付けた。

 

 

テュフォン『テメェ……今、俺の発明をくだらないと言いやがったか?無知無能、三流だとっ』

 

 

リア「言ったとも。私も並大抵の事には基本的に寛容だが、君の数々の愚行は流石に目に余る。恥知らずにも盗作を利用し、今度は彼から奪った因子を利用し粋がって、それで完成するような君の研究なんてたかが知れてるだろうさ。……ああ、それとも本当は自覚しているのかな?成る程。ならばその下品極まる言動も自信のなさの裏返しと思えば、まぁ、それなりに可愛げがある思うよ?私は」

 

 

テュフォン『……フヒ、ヒヒヒ、ハハハハハハハッ!そうか、そーか!つまりアレだな!……テメェ、今すぐ此処で死にてぇってコトだよなぁ……?』

 

 

自身を指して嘲笑を含みながら煽り立てるリアの言葉で静かに憤慨し、テュフォンはゆっくりと黒い弓を引きながらリアの眉間に狙いを定め、矢に左目の因子の力を注いでいく。

 

 

テュフォン『どーせこの二人を潰した後、テメェとあのガキを殺しにいくつもりだったんだ……ちっとばっかし予定は早まったが、一足先に死んでけやァッ!!』

 

 

ーバシュウゥッ!!ー

 

 

天神『ッ!!まずいっ!!』

 

 

聖桜『リアッ!!』

 

 

テュフォンの手から一切の躊躇なく放たれた矢が、一直線にリア目掛けて襲い掛かった。蓄積されたダメージのせいでその光景を黙って見ている事しか出来ない天神と聖桜の悲痛な声が響き渡る中、因子の力を帯びた矢は一瞬の内にリアの眉間の目前にまで迫り、次の瞬間には鮮やかな鮮血が辺り一面に飛び散るであろうと想像してテュフォンが口端を吊り上げた、が……

 

 

 

 

 

リア「──無駄だよ」

 

 

ーパシ、ギュウゥンッ!!ー

 

 

テュフォン『ッ?!なんっ?!ードッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!ーぐ、ぁあああああああああああああああああッ!!!?』

 

 

聖桜『な……』

 

 

天神『や、矢を受け止めて……投げ返した……?!』

 

 

 

そう、リアは矢が当たる寸前に首を逸らしてギリギリで矢を回避しただけでなく、顔の横をすり抜けようとした矢を右手の中指と人差し指の間に挟んでキャッチするという荒技を成し遂げ、そのまま軽く投げ返した矢をテュフォンの顔面目掛けて一発で直撃させてしまったのである。

 

 

そんな思わぬ反撃に遭い顔面から爆発を起こしたテュフォンは顔を抑えてのたうち回り、天神と聖桜も破壊の因子の力を帯びている筈の矢に生身で直接触れて投げ返すという荒技をやって退けたリアを見て驚愕し唖然となる中、リアは矢を掴んで投げ返した手を眺めながら退屈そうに溜め息を吐いた。

 

 

リア「やはり、か……因子を手に入れて力の行使は出来れど、所詮はその程度の力か」

 

 

テュフォン『グァアアアアアアアアッ!!?なっ、んっ、だとォォオオオッ!!?馬鹿を言うなァァアアアッ!!!破壊の因子の力をっ、あんなガキに負けたテメェ如きに跳ね返せる筈がァァアアアッ!!!』

 

 

リア「だったら今、君が無事である事をどう説明する?彼の持つ因子は万物を破壊する悪魔の力だ。その力を帯びた君自身の攻撃をまともに食らった君が、何故こうして私と話せているのか……其処まで分からないほど馬鹿ではないだろ、君も?」

 

 

テュフォン『なっ……』

 

 

拳銃のように人差し指を向けながら飄々と語るリアの言葉に、顔を抑えて衝撃を受けたように絶句するテュフォン。

 

 

因子の力は絶大且つ危険な力。その力は零の手にも余り、これまでの戦いで幾度となくその力のせいで数多の世界を危険に晒してきた。

 

 

因子を解放すれば触れただけで神と呼ばれる存在すらも滅ぼし、世界さえ破壊するその力。

 

 

なのに、そんな力を帯びた筈の自身が放った攻撃をこうも容易く跳ね返された上、こうしてソレを身体に受けたテュフォンには何の異常も起きていない。

 

 

そんな筈がない。破壊の因子が持つのは絶対の破壊の力だ。本当だったら自分は既に頭を吹き飛ばされ……いいや、それ以前に因子の力を帯びた矢に触れた時点で、リアとて無事では済まない筈なのだ。

 

 

つまり、それは……と、リアから指摘されて動揺を露わに自身の両手を見下ろすテュフォンに対し、リアは不敵な笑みを浮かべて冷徹にその答えを突き付ける。

 

 

リア「つまりは、だ……君にはその因子の力を扱える資格がないって事だよ。当然だろ?誰にでも扱える力なら、ナンバーズの機械人形だってわざわざ零君にその因子を返したりせず自分達で利用しようとする筈だ。なのにそれをしなかったのは、彼女達も彼と因子がワンセットなのだと知っていたから。生まれ持っていたが故に、彼はその因子の力を引き出せるんだ……分かるかな?ようするに君の研究とやらを完成させるのに因子の力を引き出す必要があるのなら、零君の存在はどうあっても必要不可欠なんだよ。なのにそんな事すらも分からず、君は彼を殺そうとした……愚かにもねぇ?」

 

 

テュフォン『なっ……ぐっ、ぅっ……!』

 

 

リア「因みにだが、君の攻撃が因子の力を帯びているように感じるのはただの見せ掛け……ようするにハリボテだね。そう見えるってだけで中身はスカスカな状態だ。あぁ、正に今の君みたいでお似合いじゃないか?プライドばかり高くて中身なんて何一つない。成果は全て他人頼り。君の手で生み出せた物なんて一つもない。そんなんで研究者を名乗るなんてね。これならまだギルデンスタンの方がマシなレベルだ……これ以上笑わせてくれるなよ、三下君?」

 

 

テュフォン『ああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!黙れぇええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!』

 

 

―バシュウゥッ!!バシュウゥッ!!バシュウゥッ!!―

 

 

徹底的に侮蔑を込めて嘲笑を浮かべるリアの声を掻き消すかのように、遂に怒りの臨界点を超えたテュフォンが狂い乱れながらリアに目掛けて因子の力を宿した矢を乱射していく。

 

 

だがそれはリアが言うように見掛けだけのハリボテに過ぎず、リアは迫り来る矢の数々を片手だけで叩き、首だけでかわし、顔色一つ変えずに余裕そうに笑ってみせ、それを見たテュフォンは更に憤慨し頭を掻き毟った。

 

 

テュフォン『ちっくしょうっ……チクショウっ、チクショウチクショウチクショウチクショウチクショウチクショウがァァああああああああああああああああっっっ!!!!どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがってェェえええっっっ!!!!テメェらなんぞにっ、テメェらなんぞが俺の才能を測ってんじゃねェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!!』

 

 

―バシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッバシュウゥッ!!!!ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!―

 

 

聖桜『ウアァッ?!』

 

 

天神『グウッ!おいリアっ!これ以上そいつを刺激するんじゃないっ!ただでさえ現状でも手が付けられないのに、余計に暴れさせてどうするっ?!』

 

 

リア「おおっと、流石に調子に乗って喋り過ぎたかな……ま、そう案ずる事はないよ。後の事は、私が片付けるからね」

 

 

天神『っ……?何っ?』

 

 

怒りのままにヒュドラ達と矢を無差別に放って街を破壊し尽くすテュフォンの攻撃を身軽に避けながら天神にそう告げると、リアは手の中に握り締めたエンブレムの感触を確かめつつ、腰に巻いたガルウイング型のパトカーがモチーフとなっているベルト……ジャッジドライバーのバックルのサイレン部を開いた。

 

 

『Judge!Ready……』

 

 

天神『!あのベルトは……?』

 

 

聖桜『確か、今朝に写真館に送られてきた……?』

 

 

ジャッジドライバーから静かに鳴り響いた電子音を聞き、其処で漸くリアの腰に巻かれているジャッジドライバーの存在に気付く天神と聖桜。

 

 

そしてそんな二人の視線を浴びながら、リアが右手に持つエンブレムの裏側のスイッチを押した瞬間、エンブレムから1の数字が出現して炎を模したエンブレムへと変化し、バックルの中へ落とすように装填しながらバックル部分を戻すように押し込んだ。

 

 

『SOUL'd JUSTICE!Frame Up!』

 

 

エンブレムを装填した瞬間、ジャッジドライバーからサイレンのような待機音と共に激しいギターテイストのメロディーが流れ、リアはそのメロディーに乗るようにその場で華麗に一回転しながらテュフォンが放つ矢をかわし、バックルに備え付けられたレバーを掴み……

 

 

リア「──変身……」

 

 

―ガシャアンッ!―

 

 

『SOUL'd JUSTICE!』

 

『MATASETAZE!i am HERO!』

 

 

まっすぐとテュフォンを見据えながら静かに呟き、レバーを押し込んだと共にジャッジドライバーのバックルのパトカーがサイレンが発光し、炎のエンブレムがバックルから巨大化しながら現れてリアを包み込むように一体化していく。

 

 

そして全身を覆う赤い光が弾けるように消えると、光の中から現れたリアは全く別の姿の戦士に変化していた。

 

 

メインカラーは青、アクセルトライアルのような尖ったスマートな仮面の目は赤い単眼で、目と言うよりもバイザーに近い。

 

 

肩当てには炎をデフォルメした刑事のつけるバッジのようなエンブレムが右に、左にサイレン。胸のアーマーはパトカーのフロントをイメージさせる。

 

 

光が反射して淡い輝きを放つその姿こそ、文臣がリアの神権の封印と彼女の元々の身体能力を最大限に引き出す為に開発されたライダーであり、そんなリアを見て天神と聖桜、テュフォンも驚愕を露わに後退りした。

 

 

テュフォン『な、何だそりゃっ……!そんなベルトがあるなんて聞いてねぇぞっ?!』

 

 

聖桜『リアが、仮面ライダーに……!』

 

 

天神『あいつ……どうして……?!』

 

 

『──ふぅむ、中々の着心地だな。まぁ私に合わせて改造を施したとも言っていたし、当然と言えば当然か』

 

 

ライダーになったリアの姿に天神と聖桜、テュフォンの間でどよめきが広がる中、リアは変身した己の姿を見下ろしながら両手を閉じて開いたりを繰り返し調子を確かめると、顔を上げてテュフォンを見据え、人差し指を突き付ける。

 

 

『さて、此処からは私のターンと行こうか──さぁ、審判の時だ。己の罪を断罪される覚悟、決まったかな?』

 

 

テュフォン『……ッ……!ほざくなっ!堕ちた神風情がっ、どの口でっ!』

 

 

『『『シャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!!』』』

 

 

戯るような口調でそう告げるリア……『仮面ライダージャッジ』の言葉に激昴し、背中のヒュドラ達を一斉にジャッジに目掛けて飛ばすテュフォン。

 

 

対するジャッジは迫り来るヒュドラ達に自ら突っ込むように駆け出すと、ヒュドラ達の突撃を次々と紙一重で退けながら素早くテュフォンの懐へと潜り込み、炎を灯した右拳を全力でテュフォンの腹部に叩き込んだ。

 

 

―ドグォオオオオオオッッッ!!!!―

 

 

テュフォン『ガァアアアアアッ?!ィッ、ッ……て、めぇええっ……!!』

 

 

ジャッジ『おいおい、そんな直線的な軌道でこの私を捉えられる筈がないだろ?こっちはまだまだエンジンが掛かってないんだ、もう少し手応えのあるヤツを頼むよ』

 

 

天神『ば、馬鹿!自分から挑発してどうするんだお前っ?!』

 

 

テュフォン『ざっけんなっ……!ならこれでどうだァああッッ!!!!』

 

 

わざとらしく挑発するようにクイクイッと手でジェスチャーしながら余裕のある笑みを浮かべるジャッジに天神が慌てて一喝するが、既に遅い。

 

 

ジャッジのその態度に苛立ちを露わにしたテュフォンは頭を激しく掻き毟りながら背中から再び飛ばしたヒュドラ達の動きに変化を付け、今度はジャッジを囲むように四方から襲い掛かったのだ。

 

 

回避は不能。上に飛ぼうが下に屈もうが追撃を免れられず、最早ヒュドラ達の牙の餌食になるしかないジャッジに蛇達が一斉に噛み付こうとした、その時……

 

 

 

 

 

ジャッジ『──来い、テフィラー』

 

 

―フッ……ブザァアアアアアアッッッ!!!!!―

 

 

『『『───!!!?』』』

 

 

天神&聖桜『『なっ……』』

 

 

テュフォン『ッ?!な、にィいいいいいっ!!!?』

 

 

 

 

 

ヒュドラ達がジャッジの全身に一斉に噛み付こうとした寸前、ジャッジが小声でそう呟いたと共に何処からか現れた黄金の剣を手に、目にも止まらぬ速さの抜刀を繰り出したのだ。

 

 

その瞬間、頭に切れ目が走ったヒュドラ達の頭部が次々と紫色の血飛沫を撒き散らして爆散していき、その光景を前にテュフォンも驚愕のあまり絶叫してしまう中、ジャッジはヒュドラ達の頭を一瞬の内に斬り伏せた黄金の剣……零達との戦いでも用いたテフィラーを軽く振るい、得意げにテュフォンを見据えた。

 

 

ジャッジ『全く、煽ればすぐに目の前しか見えなくなるのは君の悪癖だなぁ。この程度では、私に傷を付けるなど夢のまた夢だよ?』

 

 

テュフォン『ッ……舐めるなよ……!ヒュドラ達は不滅だ!この程度、すぐに再生して―……ビキッ、ビキッビキィッ……!―……っ?!』

 

 

幾ら倒されようとも、不滅の再生能力を持つヒュドラ達の前では無駄でしかない。そう言い切ろうとしヒュドラ達を再生させようとしたテュフォンだが、何故かヒュドラ達は一向に再生する気配を見せず、それどころか切断痕から徐々に灰色へと変色して力無くしなだれつつあった。

 

 

テュフォン『な、何だっ……?ヒュドラ達が再生しないっ?!な、何故──?!』

 

 

ジャッジ『うん?何だ、君は調べてこなかったのかい?この剣の事を』

 

 

テュフォン『!な、何っ?』

 

 

何かを知ってるような口振りのジャッジの言葉に反応してテュフォンが戸惑いを露わに振り向きながらそう聞き返すと、ジャッジは徐にテフィラーの切っ先をテュフォンに突き付け、ヒュドラ達が再生されない原因を飄々とした口調で語り出した。

 

 

ジャッジ『この剣は、其処にいる桜ノ神と零君が嘗て戦ったフォーティンブラスが手にしていた魔剣ディスクゥエルの原典(オリジナル)でね。ディスクゥエルには様々な能力があり、その中には魔剣で付けられた傷を治療しようとすれば逆に悪化し、その者を苦しめる呪いの力があるのさ。これは零君もフォーティンブラスに敗北した際に付与された呪いだ』

 

 

テュフォン『魔剣……呪い……オリジナル?……ッ!ま、まさかっ……!』

 

 

ジャッジ『察しが早いねぇ。そう、ディスクゥエルにそんな力があるのなら、その原典(オリジナル)であるこのテフィラーにもその力は備わっているのさ。……ディスクゥエルよりも強力な呪いが、ね』

 

 

テュフォン『なぁっ……』

 

 

つまり、あのテフィラーに付けられた傷によりヒュドラ達の再生能力が働かず、寧ろ逆に悪化してテュフォン自身を追い詰める事にしかならないということ。

 

 

以前に零を苦しめたのと同じ呪いを付与されたのだと聞かされ動揺を隠せないテュフォンの反応を他所に、ジャッジはテフィラーを仕舞うように消しながら懐から新たなエンブレムを取り出した。

 

 

ジャッジ『まぁともかく、これで厄介な蛇達は片付ける事が出来た……次は君が彼から奪ったモノを取り返すとしよう』

 

 

そう言いながらエンブレムを起動した瞬間、エンブレムから5の数字が出現して八咫烏を模したエンブレムに変化し、ジャッジはバックルのエンブレムを入れ替えて装填し再びレバーを引いて押し込んだ。

 

 

―ガチャアンッ!―

 

 

『Baton Touch!SOUL'd THIEF!』

 

『TADAIMA KENZAN!YORUNIMO MAGIRENU DATESGATA!』

 

 

ジャッジドライバーから再度電子音声が鳴り響くと共に、八咫烏の巨大なエンブレムがバックルから出現してジャッジを包み込み、黒い光が全身を覆った直後に弾けるように消え、新たなジャッジの姿を露わにする。

 

 

黒をメインカラーとし、鴉をモチーフにした頭の上にアイマスクをしたようなバイザーで赤い嘆願を隠す口無しの仮面。

 

 

肩当てが八咫烏の頭になっており、ボロボロのマントを背中から靡かせる姿……泥棒の力を宿した仮面ライダージャッジ・ソウルドシーフに変化し、マントを翻して両手を広げながら高らかに叫ぶ。

 

 

ジャッジST『ズバッと参上!すし喰いねぇ!……んー、何か違うなぁ。やっぱりテレビや漫画で見たヤツをそのまま引っ張ってくるのは芸があるとは言えないかなぁ?』

 

 

テュフォン『ふ、ふざけるなァッ!余裕かましやがってっ……!ヒュドラを封じたぐらいで俺をやれると思うなぁッ!』

 

 

―バシュッバシュッバシュッバシュウゥッ!!―

 

 

敵を前にして呑気に決め台詞が思いの外しっくり来ない事に腕を組んで悩むジャッジに腕を荒々しく振るって怒り、テュフォンは黒い弓を素早く引いてジャッジにエネルギー矢を放つ。

 

 

それを見たジャッジは徐に腕を解くと、何処からか三種の赤、黄、青が柄に煌めく信号機モチーフの武器……専用武装であるジャッジセイバーを取り出し、柄の部分の黄色信号に光を灯して刃を短剣形態に伸縮させた。

 

 

『SHORT!SRASHER!』

 

 

―ズバババババババババババババババババァアッ!!―

 

 

ジャッジST『──そちらこそ、こんなもので私をやれると思わない事だ』

 

 

テュフォン『ギッ……貴ッ様ァッ!!』

 

 

『HYDRA ENERGY STRIKE!』

 

 

短剣形態のジャッジセイバーを手首のスナップを利かせて振り回しただけで矢を全て捌き、悠然とした余裕を一切崩さないジャッジ。

 

 

そんな達人めいた動きをケロリと熟してみせるジャッジに一瞬威圧されながらも、それを振り払うようにテュフォンはバックルのハンドルを押し込んで黒い弓にエネルギーを流し込みながらジャッジに目掛け正面から突っ込み、対するジャッジもジャッジセイバーを逆手に構えてそれを迎え撃つように飛び出し、そのまま双方得物を振りかざしてぶつかり合う寸前、

 

 

 

 

 

 

ジャッジの全身が突如影の様に黒く染まり、テュフォンが振り下ろした弓の斬撃をすり抜け、そのまま霞のように消え去ったのである。

 

 

テュフォン『ッ?!き、消えた──?!』

 

 

『──汚くて悪いネ。けど、問答無用で頂くよ?』

 

 

―ブザァアアアアッ!!―

 

 

テュフォン『なッ?!』

 

 

影のように消えたジャッジにテュフォンが気を取られる中、テュフォンの死角から黒い手が伸び左目に触れるように撫でたのだ。

 

 

その黒い手を見てテュフォンも慌てて振り向くと、其処にはボロボロのマントを翻して天神と聖桜の下へと着地し、その身に纏う影を晴らして姿を現すジャッジの姿があり、ジャッジは何かを握り締めた右手をヒラヒラと振りながら得意げに笑ってみせる。

 

 

ジャッジST『騙し討ちのようで悪いが、まぁ悪く思わないでくれよ。どうせ君が"コレ"を持ってた所で、宝の持ち腐れだろうしさ』

 

 

テュフォン『な、にっ?……ッ!め、目が?俺の目がッ?!』

 

 

ジャッジST『君のではないよ。彼のだ。……水ノ神、これを』

 

 

聖桜『え?……ッ?!』

 

 

突然自分の左目を抑え激しく狼狽し出したテュフォンを他所に、ジャッジは徐に聖桜の手に右手に握った"ソレ"を手渡すと、受け取った"ソレ"を目にした聖桜はギョッとしてしまう。

 

 

何故ならジャッジの手から手渡されたソレは、テュフォンに奪われた筈の破壊の因子を宿す零の真赤い瞳の左眼球であり、横から覗き込んで零の左眼球を見た天神も思わず目を見開いてジャッジの顔を見上げた。

 

 

天神『お、お前……これ、どうやって──?!』

 

 

ジャッジST『なに、別段そう難しい事でもない。これもこのライダーの力の一つさ』

 

 

愕然となる天神と聖桜にそう言いながらヒラヒラと片手を振ると、ジャッジはピシッと自分の足下……地下を指差す。

 

 

ジャッジ『君達は先にそれを持って、彼の下へ向かってくれるか?契約を交わしてるのなら彼の気配を追って辿り着けるだろうし、治癒が使えるならソレを彼に移植するのも難しくはないだろう。此処は私が引き受ける』

 

 

聖桜『……リア……』

 

 

天神『…………』

 

 

自分がテュフォンを抑えてる間に、取り戻した左目を零の下へ届けて治療して欲しいと頼むジャッジ。そんな彼女の言葉に聖桜も掌の上の眼球を傷付けないように握り締めて一瞬逡巡し、天神の方に目を向けると、天神も俯かせてた顔を上げて聖桜の目を見つめ無言のまま力強く頷き、それで何かを悟った聖桜も天神に頷き返しながら右手の指輪を取り替えてバックルに翳していく。

 

 

聖桜『……分かりました。この場はお任せします』

 

 

『teleport now!』

 

 

短くそう伝え、聖桜は電子音と共に足下から出現した魔法陣に包まれて零の下へ向かうべく転移した。そしてその様子を横目で見届けたジャッジはジャッジセイバーを構え直して目の前に視線を戻そうとするが、そんな彼女の隣に肩を並べるように天神が立ち、桜雪を構えていく。

 

 

ジャッジST『?君は行かないのか?』

 

 

天神『治療役なら魚見一人で十分だ。奴に関しては私もやられっぱなしでは癪だし、何より、お前一人にいい所を持ってかれるのはもっと癪だっ』

 

 

ジャッジST『……はは、君も存外負けず嫌いだなぁ。なら、私も好きにやらせてもらうとしよう!』

 

 

テュフォン『グッ!テメェ等ァァあああああああっっ……何処まで俺を馬鹿にするつもりだァァああああっっ!!!』

 

 

天神『私達や彼の事を下に見る発言をしておいて、今更どの口で言っているんだ?人を散々コケにしてくれたツケは──』

 

 

テュフォンST『あぁ、君自身に払ってもらうッ!』

 

 

―ダァアンッ!―

 

 

目を失って荒れるテュフォンに力強くそう言い切り、天神とジャッジはほぼ同時に地を蹴り上げ両脇からテュフォンへと挑み掛かる。

 

 

迫り来る二人を前に左目を失ったテュフォンは一瞬どちらを対処するか迷うも、死角となっている左から桜雪を振りかざして斬り掛かってきた天神の刃を黒い弓で受け止めるが、其処へジャッジが横から割って入り、すかさず天神が右腰に収めた無双セイバーを抜いて怯むテュフォンに銃撃を浴びせていく中、ジャッジが短剣による素早い斬撃を連続で叩き込みながら鋭い後ろ回し蹴りを打ち込み、吹っ飛ばしていく。

 

 

―ドゴォオオオオッ!!―

 

 

テュフォン『ぐぅううううっ!!んの、野郎がァァああああああっっ……何時までも頭に乗るなァァああああああッ!!!!』

 

 

『Rock On……!』

 

『HYDRA ENERGY!』

 

 

ジャッジST『!』

 

 

天神『させるかっ!』

 

 

―ドッガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアンッ!!!―

 

 

激昴の雄叫びと共にバックルのヒュドラエナジーキーを弓に装填し、テュフォンが放つ強力なエネルギー矢が二人に襲い掛かる。

 

 

それを見て咄嗟に防御体勢を取ろうとしたジャッジだが、天神が咄嗟に右手を突き出し自分達の前に花弁の盾を形成してエネルギー矢を防御し、爆発が巻き起こって周囲の視界を遮るように黒煙が辺りを覆い尽くしていく。その時……

 

 

『Baton Touch!SOUL'd LAWYERl!』

 

『IGARI!KURAI YAGARE!DOKANTO!』

 

 

『はァァああああッッ!!!』

 

 

テュフォン『……?!―ドゴォオオオオンッ!!―グッ、ァアアアアアアアッ?!』

 

 

突然何処からか電子音が鳴り響き、直後に煙の向こうから勢いよく飛び出してきた影が振るった巨大な鈍器のようなモノにテュフォンが殴り飛ばされた。

 

 

いきなりの不意打ちに脳がぐらつく程の衝撃を受けてふらつきながらも何とか態勢を立て直し、テュフォンが仮面を拭って目の前に視線を戻すと、徐々に薄れていく煙の向こうから一人のライダーが姿を露わにしていく。

 

 

白をメインカラーとし、マスクは黒いままのバイザー型の単眼を際たたせるようにハンマーが逆さになったような形で、頭部には一本角。

 

 

肩当てがハンマーの形になっており、胸当ては弁護士のバッジのようなエンブレムになっている姿のライダー……裁判官、弁護士の能力を持つ形態となった仮面ライダージャッジ・ソウルドロイヤーは、ハンマーのような形態となったジャッジセイバーを振り下ろした姿勢から得物を構え直していき、ジャッジセイバーを再び振り抜いてテュフォンへと殴り掛かっていく。

 

 

―ガギィイイイイッ!!ガギィイイイイッ!!ドゴォオオオオオオンッ!!―

 

 

テュフォン『がふっ、ごァァあああッ?!ちっ、くしょうがァァああっ!!こんなもんでェェえええええっ!!』

 

 

ジャッジSL『桜ノ神!』

 

 

『Rock On!』

 

 

―ダァアンッ!―

 

 

テュフォン『?!』

 

 

凄まじい馬鹿力で振るわれるハンマーの打撃に圧倒されて反撃もままならず、煮え滾る怒りのままに雄叫びを上げるテュフォンが動きを止めた隙を逃さず、ジャッジが大声で呼び掛けたと共に桃と銀色の影が素早く彼女の肩を踏み台に上空へと跳び上がった。

 

 

その影を目で追ってテュフォンが思わず空を見上げると、其処には桜雪とジョイントさせた無双セイバーにピーチロックシードを装填し、刀身に膨大なエネルギーが収束される薙刀を振りかざす天神の姿があり、テュフォンは慌てて黒い弓を構え天神を撃ち落とそうとするも、それを阻止するようにジャッジが下から振り上げたハンマーでテュフォンの手から弓を弾き飛ばし、

 

 

『PEACH CHARGE!』

 

 

天神『ハアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーアアアァァッッ!!!!』

 

 

―ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!―

 

 

テュフォン『ガッ?!ぅぐぁああああああああああああああああああッ!!?』

 

 

会心の一撃。紫電を撒き散らして叩き込まれた必殺の斬撃がテュフォンの身体を見事に斬り裂き、テュフォンはそのまま堪らず全身から無数の火花を散らしながらゴロゴロと地面を勢いよく転がって倒れ込んでいった。

 

 

そしてジャッジも倒れるテュフォンを見て素早く通常形態のソウルドジャスティスへと戻り、手首を軽く回しながら天神の隣に立ち並んでいく。

 

 

ジャッジ『そろそろ頃合いか……此処までのお膳立て、ご苦労だったね。後は私の方でケリを付けよう』

 

 

天神『ふざけろ……!お前に美味しい所は渡さないと言っただろ!』

 

 

互いにそんな軽口を叩き合いつつ、ジャッジはジャッジドライバーのレバーを素早く二回押し込み、天神は戦極ドライバーのカッティングブレードを一回スライスさせていく。

 

 

―ガチャンッガチャアンッ!―

 

 

『BREAKING!SOUL!JUSTICE!Burnin' Up!』

 

『Soiya!』

 

『PEACH SQUASH!』

 

 

ジャッジ『ハッ!』

 

 

天神『ハアッ!』

 

 

―ダンッ!―

 

 

テュフォン『ぐっ、ぅ……ッ?!』

 

 

重なって響き合う電子音声と共にジャッジと天神が空高く跳び上がる。徐に身を起こそうとしたテュフォンもそれを見て空を見上げれば、二人はそれぞれの右足にエネルギーをチャージしながら既に上空で態勢を変えて徐々にキック態勢へと入っていき、二人の技を迎え撃とうとテュフォンもバックルのハンドルを押し込んで必殺技を発動させようとするが……

 

 

―……バチッ……バチッバチッバチッバチィッ!―

 

 

テュフォン『?!なっ……べ、ベルトが……?!』

 

 

バックルを操作しようとしたブラッドドライバーから不意に火花が散った。それに驚き思わず手を引いて慌ててドライバーを見下ろすと、腰に巻かれたブラッドドライバーのバックルがエナジーキーごと縦一文字に斬り裂かれ、傷跡から徐々に亀裂が広がり機能不全を起こし始めていたのだ。

 

 

テュフォン『(こ、これは……まさかっ、さっきのっ──?!)』

 

 

動揺するテュフォンの脳裏に過ぎるのは、天神の一撃を喰らった時の記憶。恐らくあの時にドライバーとエナジーキーをやられたのだと気付いてテュフォンが焦りを浮かべているのを他所に、ジャッジと天神はテュフォンに目掛けて右足を突き出しながら猛スピードで急降下していき、そして……

 

 

 

 

ジャッジ『ハァアアアアアッ……ゼェエエエエエアアアアッッッッ!!!!!』

 

 

天神『ダァアアアアアアアアッッッッ!!!!!』

 

 

テュフォン『く、そっ……くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!て、テメェらにっ……テメェら如きにこの俺がァァああああああああああああああああああッッッッ!!!!!』

 

 

―ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーオオオオォンッッッ!!!!!!―

 

 

テュフォン『ウ、ァ……ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアァァァッッッッ!!!!!?』

 

 

 

 

ジャッジの必殺技、ブレイキングバーニンと天神の必殺技、桜華脚が炸裂しテュフォンは断末魔を上げて何度も回転しながら派手に吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた瞬間、巨大な爆発を起こし炎の中に呑み込まれたのであった。

 

 

天神『っ……終わった、か……?』

 

 

ジャッジ『恐らくね。自身にも改造を施しているからまだ生きてはいるだろうが、これ以上戦い続けるのは無理だろうさ』

 

 

地上に着地し、テュフォンを仕留められたかどうか未だに警戒を強める天神に軽い口調でジャッジがそう告げると、爆発が止んだ煙の向こうに変身が解除されて力無く地面に倒れ気絶するリーガンの姿があり、それを見た天神とジャッジも肩に張った力を抜いて安堵の溜め息を漏らしながら変身を解除した。その時……

 

 

「──どうやら、こちらも無事に終わったみたいですね」

 

 

リア&姫「「……!」」

 

 

そんな二人の背後から不意に声が響き、それを聞いて二人が振り返ると、其処には変身を解除して歩いて来る魚見と、頭から左目に掛けて包帯を巻き、彼女に支えられながら覚束無い足取りで歩く零の姿があった。

 

 

姫「零っ……!魚見!」

 

 

零「ッ……よぉ、悪かったな……結局面倒事をお前達に押し付ける事になって……」

 

 

リア「人の事を気にするより、先ず自分の身を心配しないか……。それで、治療の方はどうなったんだい?目の調子は?」

 

 

魚見「一先ず、目の移植の方は無事に終わらせる事は出来ました。文臣さんにも治療を手伝って頂いたので、後遺症の心配はないと仰っていましたが……」

 

 

零「その後ふらっと何も言わずにいなくなっちまったがな……あの野郎、散々人を振り回すだけ振り回しておいてっ……」

 

 

包帯を巻いた左目に触れ、文臣の顔を脳裏に思い浮かべてそんな愚痴をこぼす零だが、左目を治してくれた事やリアの説得に協力してくれた事もあるからか、その口調に怒りの色があるようにはあまり聞こえない。

 

 

リアもそれを悟ったのか、零の言葉を聞いて含み笑いを浮かべながら腰に巻いたジャッジドライバーをそっと撫でていくと、零はそんなリアの姿を見つめて徐に口を開く。

 

 

零「お前、これからどうする気なんだ?」

 

 

リア「んー?何だい急に?別に何も、また絢香達の神社に戻って彼女達の世話になるだけだよ。君達と一緒に選んで買ったお土産も届けなければならないしねぇ」

 

 

零「…………」

 

 

いつも通りの口調でそう言いながら明るく笑うリアだが、零は真顔のまま何かを訴え掛けるかのようにジッと無言でリアを見据えている。そんな零の視線に気付いたリアはその顔から笑みを消し、瞳を伏せて小さく微笑んだ。

 

 

リア「其処まで気にしなくても、もう君が心配するような事は考えていないよ。でないと、君にまた余計な負担を掛けて早死させ兼ねないからね」

 

 

零「……そうかよ。だったらいい」

 

 

姫&魚見「「……?」」

 

 

リアのその返答を聞き、何処か安心したような声音で瞼を伏せる零。一方で二人の話が見えない姫と魚見はお互いに顔を見合わせて小首を傾げてしまう中、そんな二人の反応を見たリアは何か思い付いたように顔を上げると、悪戯っ子のように口元に笑みを浮かべ……

 

 

リア「別に君達が気にする程の大した事でもないさ。ただまぁ、私としてはすこーしばかり特別な体験だったと言うかなぁー……多分君達でさえ経験のない事だと思うよ、彼との、ア・レ・は」

 

 

姫&魚見「「……は?」」

 

 

零「っ?アレ……って、一体何の話だ……?」

 

 

リア「アレと言ったらアレだよ。ほら、地下室で私が君にした」

 

 

零「?……あ……」

 

 

怪訝な顔を浮かべる姫と魚見の反応を他所に、アレとやらがピンッと来ない零にリアが自分の唇を艶やかに撫でると、その仕草で彼女が言ってるのが地下室でのアレ……神権の力を行使する為に無理矢理リアにされた吸血行為を思い出した。

 

 

零「そうだっ……そう言えばお前っ、あの時はよくもっ……!」

 

 

リア「オイオイ、そんな目で睨まないでくれよ。あの時はあれしか君を助ける方法はなかった訳なんだしさ、非常時だったんだから仕方がないだろー?」

 

 

零「限度ってモンがあるだろっ!人の気も知らず無遠慮にチューチューチュー(血を)吸いやがってっ!」

 

 

姫(吸う?!)

 

 

リア「酷いなぁ、人を色情魔みたいに。でも確かに、途中から我を忘れてしまったのは謝るよ。ほら、君の首にも痕を残してしまったし(二つ折りのコンパクトミラーを見せつつ」

 

 

魚見(……?!地下では暗くて分からなかったけど、これは……キスマーク?!)

 

 

零「おまっ、人の首に勝手になに付けてくれてんだっ?!しかもこんなに沢山……!」

 

 

リア「いやー、私も堪らず「行為」に興が乗ってしまったみたいだねぇ。我ながら恥ずかしい限りだよー。……そういえば、キスマークって女性から男性に付ける場合、意味合いが変わってくるって前にネットか何かで見たような気がするなぁ。確か……自分のモノというマーキングとか、自分を思い出して欲しいからとか……自分しか知らない相手との秘密の証だったり、とか?」

 

 

零「此処まで派手に付けておいて何処が秘密だっ……!そもそもお前の物になった覚えなんてな……ん?木ノ花?何だ急にガクガク震えて、寒いのか?」

 

 

赤い痕が幾つも残っている首筋を抑えてリアに反論しようとした零だったが、何故か顔を俯かせて身体を震わせる姫の様子を見て何事かと思い訝しげに問い掛けると、そんな彼の気の抜けた間抜けな声に姫もキッと顔を上げ、

 

 

姫「き、君というヤツはァっ……何処まで見境がないと言うんだァァああああっっ!!!!私や魚見だけでなくっ、幻魔神までとか節操がないにも程があるぅっっ!!!!」

 

 

零「は、はあっ?なんだいきなりっ?一体何の話……アレ?え、何か急に腕が滅茶苦茶痛くなってきたんだが、なにコレ?」

 

 

うわあああああんっ!と今にも泣き出しそうな形相で腕をブンブンしながら猛抗議して来る姫に更に困惑を浮かべてしまう零だが、何やら魚見の肩に回した右腕に痛みが走り、恐る恐る振り返れば、其処には零の右腕を掴む手に力を込めながら絶対零度の眼差しを向ける魚見の姿があった。

 

 

零「い、市杵宍……サンっ?」

 

 

魚見「貴方という人は本当に……私達が必死に戦ってるのを他所に懲りもせずに、またですか……」

 

 

零「またって何だまたってッ?!そもそもお前ら揃って一体……待て、待って、待って下さい無言のまま力を込めるなァァああッ!!!ちょっ、メキメキ言ってるッ!!!目の傷より痛いッ!!!木ノ花止めろォォおおおおッ!!!目がマジだコイツゥゥうううううッッ!!!」

 

 

姫「えっぐっ、うぇええええええええっ……NTRたぁっ……よりにもよって幻魔にNTRてしまっだぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ……!!」

 

 

零「お前も泣きながらなにトチ狂ったこと言ってんだァァああああああああああああああああッッッッ!!!!!」

 

 

まるで夫に浮気された奥さんのように泣きじゃくる姫と、無言のまま零の右腕を万力の如く怪力で握り締める魚見に挟まれ悲鳴を上げる零。

 

 

リアもそんな三人の修羅場を横目に何処か上機嫌に鼻歌を歌って素知らぬ振りをしていたが、そんな彼女も零達の会話を面白がっていたが為に気付く事が出来なかった。

 

 

 

 

 

彼女達に倒され、気を失って倒れていた筈のリーガンがいつの間にか姿を消してしまっている事に……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―ガシャアアンッ!!―

 

 

リーガン「グゥウッ!ク、ソッ……何故だっ、途中まで上手くいっていた筈なのにっ……!」

 

 

人気のない裏路地。黒煙が立ち上る街の方からサイレンの音が響く中、命からがらあの場から逃げ出したリーガンはゴミ箱を倒しながら薄汚れた裏路地をふらついた足取りで歩き、壁にもたれ掛かって荒い呼吸を整えながら空を忌々しげに見上げていく。

 

 

リーガン「これも全部、何もかもあの元幻魔神の女のせいだっ……!奴さえいなければ、今頃因子もこの手の中だったものをっ……!」

 

 

絶対に許さない。次に会った時は必ずあの女の四肢をズタズタに引き裂いて殺してやると、リアへの復讐を胸に誓い、その憎しみを糧に上手く力が入らない身体に鞭を打って自分の研究所に戻ろうと足を進めていくリーガンだが、その時……

 

 

 

 

「──残念だけど、君にそんな機会は二度と巡っては来ないよ」

 

 

リーガン「?!」

 

 

 

 

壁を伝って進むリーガンの目の前から、淡々とした声が不意に響き渡る。その声を聞きリーガンが目を剥いて顔を上げると、其処には路地裏の奥の闇から靴音を鳴らして一人の人物……カンパネルラが姿を現した。

 

 

リーガン「ッ?!カ、カンパネルラ……様……?!」

 

 

カンパネルラ「やあ。また随分と派手に暴れ回ったそうじゃないか、博士?まさか処分を伝える此処まで盛大な命令違反をしてくれるなんて……最早呆れを通り越して尊敬の念を覚えるよ、君にはさぁ」

 

 

リーガン「ひっ……ち、ちがっ……これは、俺はただっ、前の失敗を取り返そうとしただけでっ……!」

 

 

カンパネルラ「でも結局また失敗した。しかも黒月零に僕達との繋がりをベラベラ喋って、余計な情報漏らしてくれちゃってさ……」

 

 

リーガン「あ……ぁ、あっ……」

 

 

溜め息混じりの声音から既に分かる。カンパネルラが自分を処するつもりのだと悟り、リーガンがガチガチと恐怖で歯を震わせながら後退りしていく中、その距離を埋めるように足を進めてカンパネルラは親指と中指を擦り合わせ、

 

 

カンパネルラ「まあでも、収穫が一切なかったって訳じゃないのはある意味救いかな?元幻魔神の力や新たなライダーの能力も観測出来た訳だし、その点で言えば君は良く働いてくれたよ……だからせめてものの報酬に、僕自らの手で処罰を下してあげよう」

 

 

―パキィッ!ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!―

 

 

親指と中指を弾いて軽快な音を鳴らした瞬間、それと同時に上空から巨大な影が落下しカンパネルラの背後に轟音を上げて着地した。

 

 

巻き上がる砂埃の向こうで、『グルルルルルッ……』と獣の唸り声を上げる巨大な影。

 

 

それを目にしたリーガンも思わず「ヒッ……!」と悲鳴を上げながら恐怖のあまり腰が抜けて尻餅を付く中、カンパネルラは冷淡な眼差しをリーガンに向けたまま背後に立つ獣を顎で指す。

 

 

カンパネルラ「コイツは最近新たに作った魔獣でね。稼働実験も兼ねて連れ回してたんだけど、どうやら腹を空かせてしまったらしいからそろそろ餌を与えなきゃと思ってた所なんだよ」

 

 

リーガン「え……さ……?ま、まさかっ──!」

 

 

カンパネルラ「君、確か自分の身体を改造して高次元……なんだっけ?とかになったんだろ?随分腹持ちが良さそうだと思ってね。折角だから君の研究成果を有効活用してあげようと思ったのさ……君自身で、さ?」

 

 

『グルルルァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアァァァッッッッ!!!!!』

 

 

リーガン「イ、イヤだっ……!!あああああイヤだァァあああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!?誰、か、ギッ、ゲッ……ぅごぇえァァあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーああああぁぁぁぁッッッッ!!!!!?」

 

 

僅かに口元を歪めて嗤うカンパネルラのその言葉を合図にするかのように、獣の雄叫びを上げて魔獣が勢いよくリーガンへと飛び掛かった瞬間、リーガンの悲痛な悲鳴と共に何かを噛み砕く生々しい音が路地裏に響き渡った。

 

 

そしてカンパネルラも自分の足元にまで飛び散る赤い飛沫を冷たい眼で見下ろすと、徐に顔を上げて背後に目をやり、

 

 

カンパネルラ「そういう訳だから、残念だけど彼は僕が先に頂くよ。元々僕の担当だった訳だし、恨み言はないだろ?」

 

 

―……ザッ―

 

 

文臣「………………」

 

 

少年の見た目通り、悪戯っ子のような含み笑いを込めた声でカンパネルラがそう呟くと、路地の奥の闇からまた一人新たな人物……零達と別れた文臣がゆっくりと姿を現し、感情を一切写さない無表情のままカンパネルラと対峙していったのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◇

 

 

 

 

 

──その後、リーガンの逃亡に気付いた零達はこの騒動の元凶となった彼を探し出そうとしたが、零のビートルフォンに送られてきた『奴の事は俺に任せろ』と言う文臣からのメールが届いた事から零の治療や次の世界にも向かわねばならない事もあり、一先ず奴の事は文臣に任せようという方針になった。

 

 

因みに今回の発端ともなったリアはなのは達と共に選んだ絢香達へのお土産とジャッジドライバー一式を手に、

 

 

リア「何だか大変な事になってしまったけど、取り敢えず君達も暫くは休みたまえ。私も今日は久々に激しい運動をして疲れたし、ゆったり身体を休めるとするよ。チャオー!」

 

 

と相変わらずな調子で明るく笑いながら手を振り桜ノ神の世界に帰っていったが、そんな彼女の去り際を何故か首元に白い包帯を巻いた零と姫が「二度と来るなぁっ!!」と恨めしげに見送っていた事になのは達は揃って頭上に疑問符を浮かべていた。

 

 

そうして、事件当日から数日後……。

 

 

 

 

 

◇◇◆

 

 

 

 

 

―光写真館・零の自室―

 

 

零「……Zzz……Zzz……」

 

 

事件解決後に新たなライダーの世界へと訪れた一行は、前の世界での戦いの疲労を最後に癒す為、探索は次の日に行おうとそれぞれ自室で休む事にしていた。

 

 

左目を始め負傷した零もその後のシャマル達からの治療を受けてどうにか全治一歩手前まで回復し、身体の傷の痛みに悩まされる事なく久しぶりに快眠を過ごせていたが……

 

 

―……ギシッ……ギシッ……―

 

 

「──ーい…………ぉー…………ぉーい…………起きろー」

 

 

零「…………ぅ、ん…………ん…………?」

 

 

寝息を立てて眠る零のベッドの軋む音と、深い眠りに浸る零を起こす声が暗がりの部屋に響く。

 

 

その声に零も意識を呼び起こされて重い瞼を徐々に開けていき、寝惚けた意識のまま声が聞こえる方に目を向けると、其処には……

 

 

リア「──お、起きた。やぁ零君、ちょっと前振りー♪」

 

 

……何故か数日前に桜ノ神の世界に帰った筈のリアがベッドに眠る零の上に覆い被さり、ヒラヒラと手を振って笑う姿があった。

 

 

零「んー…………リア…………リ、アか…………ってリアッ?!お前なんで此処にっ―ガバァッ!―ムゥグウウッ?!」

 

 

目覚めたばかりで頭が呆けていたが、目の前で揺れる金色の髪と女性特有の甘い匂いで自分の上に覆い被さってるのがリアだと漸く気付き大声で飛び起きようとした零だが、リアはそんな零の口を素早く手で塞ぎ、自分の口に人差し指を当てていく。

 

 

リア「しー。大声は出さないでくれよ。夜中に近所迷惑だし、今この場面を桜ノ神達に見られるのは私も都合が悪い」

 

 

零「グッ……ム、ァッ……?」

 

 

無理矢理口を塞がされ、ベッドに押し付けられたまま零は険しい顔でリアを睨み付ける。その表情だけで喋れない零が何を言いたいのか感じ取れたのか、リアは自分の口元から離した人差し指をクルクルと回しながら答える。

 

 

リア「何で此処にいる?って顔をしてるね。いや、別に何か大事があって来たってワケじゃないんだ。君達と選んだお土産は絢香達にも大変喜ばれたし、私もあれから神社に戻って彼女達と平穏に過ごしていた──までは良かったんだが……」

 

 

零「……?」

 

 

説明しながらクルクル回していた人差し指をピタリと止め、何故か急に照れくさそうに目を逸らすリア。そんな彼女の反応に零も怪訝な顔で眉を顰める中、リアはそっと自分の唇を人差し指でなぞり、

 

 

リア「ほら、前に君を助ける為に、私は君から血を吸っただろ?あの時に味わった甘美の味が、どーしても……どーーーーしても忘れる事が出来なくってさー……だからァ、」

 

 

チロッと、リアの赤い舌が艶やかに人差し指を舐め取る。

 

 

頬を紅潮させ、何処か淫靡な煌きを魅せる貌で自分の顔を見下ろすリアの様子が一変している事に気付いた零は何故かゾクッ!と嫌な悪寒を感じ、慌てて全身に力を込めリアを強引に押し退け逃走を計ろうとするが、それにいち早く反応したリアにそれ以上の力でベッドに更に押し付けられ、

 

 

リア「すこーーし……ほんのすこぉーーーーしでいいんだぁ。もう一度だけ、あと一回だけ、君の血を味あわせてくれないかなぁー?それぐらいいいだろぉ……?命を助けた借りはそれでチャラにするから……ね……?」

 

 

零「ンンンンンンッ!!!?ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」

 

 

息を荒く、甘さの伴った吐息を漏らしながら零の首筋に顔を埋めるリアの舌が零の首をなぞる。

 

 

まるで数日振りに餌を貰えた犬猫のように嬉しそうに舌を蠢かす彼女のその様子から身の危険を感じ、ベッドの上で激しく抵抗しながら助けを求めて全力で大声を上げるも、幻魔の力で口を押さえ付けられてる為に身動きも声を上げる事も叶わず、結局成されるがまま彼女に弄ばれ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ダダダダダダダダダダダダダダダダダァ……ガチャンッ!!―

 

 

姫「どうしたんだ零っ?!君の気配が段々弱まってるのを感じたが、なに……が……」

 

 

 

 

 

リア「ちゅーっ……ちゅっ、ちゅ、ちゅっ……あぁ、んっ、全くもうっ、こんなの一回きりなんて無理に決まってるじゃないかぁっ……ちゅ、ぇあっ、ぢゅるるるるぞぞぞっ!」

 

 

零「────(涙を流し顔面蒼白。まるでミイラのように干からびて口から魂が抜け出ようとしている)」

 

 

姫「なんっ……なん、な……なななななな何をやってるんだお前ェェえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえええぇぇッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

──まるで恋人のように抱き着いた零の首を舌でなぞり、吸い付いて自分のだと印を付けるかのように赤い痕を幾つも残したりなど夢中で血を吸い続けるリアの淫靡な姿を発見し、怒りや羞恥で顔を真っ赤にした姫の喑噁叱咤の雄叫びが写真館中に響き渡ったのであった……。

 

 

 

 

 

 





リア

性別:女

年齢:???(容姿は十九か二十歳)

容姿:腰まで伸ばした金髪に碧眼の美女。


解説:桜ノ神の世界での怪盗事件の際、幻魔の生き残りであるギルデンスタンの手により盗まれた桜龍玉の力で現世に復活した初代幻魔神である女性。


初代の幻魔神とあってその力も歴代の幻魔神達を凌ぐほど凄まじく、復活した当初も自分を復活させたギルデンスタンを触れただけで殺害し、零、大輝、なごみ、姫、魚見を苦しめた。


零達と戦った当初は一見穏やかに見えて冷徹な性格に思えたが、実は人当たりがよく、周りと共に楽しい事を全力で楽しもうとする明快闊達な面もある。


その性格から物事への順応力も高く、行き場のない自分を拾ってくれた絢香達とすぐに仲良くなったり、彼女達から貰ったスマホをあっという間にマスターしてネットを使いこなしたりなど色んな面でとにかく器用。


また、幻魔神の神権を後述のジャッジドライバーに封印していても元々幻魔である為に戦闘能力が高く、生身で怪人の軍勢を撃退出来る上にその様子を自撮りしたりし余裕を見せるなど凄まじい戦闘力を誇る。


ただ彼女が生きていた当時の幻魔界の影響から弱肉強食の価値観が強く根付いている為、零達に敗れた時点で自分の命にも執着を持たなくなってしまっているが、自分を倒して世界を救った零達を勝者と称して唯一執着を抱いている。


ジャッジに初めて変身した以降は自らを人質にした零と文臣の説得から自分を省みるようにはなったが、代わりに零の命を救おうと幻魔神の神権を起動させる為に彼の血を吸血した際に零の血の味に心底魅了され、事件後も零の血を吸わなければ私生活に支障をきたすレベルで中毒になってしまい、それからは度々写真館に侵入し寝込みを襲っては零の血を出血多量一歩手前まで吸いに来るようになってしまった為、零も普段の生活から鉄分を過剰に摂取するようになったとか……。


桜ノ神社や魚見、なのは達との関係も良好。零とも何だかんで仲自体は良いのだが、姫とは嘗て敵対した幻魔である上に幻魔神のシステムを生み出した張本人であるのに加え、自身が巨乳である事を良い事に魚見と一緒に彼女を弄って面白がる為に犬猿の仲。というか、零と大輝のように先ず性格自体合わない模様。


キャライメージはVOCALOIDのLilyから




仮面ライダージャッジ

変身者:リア


解説:文臣が試作品のベルトを改良した仮面ライダー。


元々試作品のままお蔵入りになる予定の品物だったが、リアが幻魔神の神権を保有してることに着目した文臣が改造を施し、機能の一つとして幻魔神の神権を封印するシステムが組み込まれている。


また、封印した神権の力を限定的にだが一時的に神化する必要なく用いる事が出来るが、長時間開放し続けるとオーバーヒートを起こして破損してしまう為に注意が必要。



ジャッジドライバー


解説:モチーフはガルウイング型のパトカー。サイレンがベルトの上部にあり、フロントガラスにあたる部分が、スタイラーエンブレムをセットできる場所になっている。


変身時はサイレン部を持ち上げ、スタイラーエンブレムをセット。戻したのちに、レバーを押し込み、サイレン発光→エンブレムが現れ、変身!


フィニッシュはレバーを二回引くことで必殺技が発動する。



スタイラーエンブレム

解説:色のみプレート状のアイテム。プレート状態の時に裏についたスイッチを押すことで、ナンバーが出現→ベルトにセットすることで連動し、エンブレムが表れる仕組みになっている。


ベルト起動

『ジャッジ!Ready……』

エンブレムセット!

『ソウルド・○○○!フレイム・アップ!』

変身!

『ソウルド○○○!♪○○○!』

ソウルド《フォーム》チェンジ!

『バトンタッチ!ソウルド○○○!』

必殺技!

『ブレイキング!ソウル!○○○!バーニンアップ!』



各ソウルド紹介


ソウルドジャスティス

解説:仮面ライダージャッジの基本形態。


マスクはアクセルトライアルのような尖ったスマートなマスク。単眼は赤く目と言うよりもバイザーである。メインのカラーは青。


肩当てには炎をデフォルメした刑事のつけるバッジのようなエンブレムが右に、左にサイレン。胸のアーマーはパトカーのフロントをイメージさせる。


戦闘スタイルは磨いた正攻法の格闘スタイル。攻撃を受けながらも、相手を圧倒する真っ直ぐなファイトを得意とする。正義の心をともしたような熱い炎を操る事も可能。


必殺技はエネルギーをチャージし、飛び上がると同時に低い体制からあざやかな反転蹴りを繰り出し、その反動で上空高く舞い上がって火の蹴りをフィニッシュに叩き込む『ブレイキンバーニング』と、ジャッジセイバーに炎をまとわせ、素早く六芒星を描き、切断する『フレイヤードジャッジ』



ソウルドロイヤー

解説:裁判官、弁護士の能力を持つ形態。


メインのカラーは白。マスクは黒いままのバイザー型の単眼を際たたせるようにハンマーが逆さになったような形で、一本角あり。


肩当てがハンマーになっており、胸当ては弁護士のバッジのようなエンブレムになっている。


戦闘スタイルは、パワフルなボクシング+プロレススタイル。鈍足をパワーで補う豪快な戦いに加え、雷を操る。


必殺技は一気に判決を下す木槌のようにジャッジセイバーを降り下ろし、雷撃でスパークさせて擂り潰す『スパークインパクツ』



ソウルドスナイパー

解説:射撃主の能力を持つ形態。メインカラーは緑で、マスクが保安官のような帽子型で単眼が赤く光り、目を隠すようになっている。


肩当ては星形で、肩当てからフリンジが垂れ下がり、コートを着ているような感じで伸びている。胸も星形で、中心に弾丸のエンブレム。


戦闘スタイルは早打ちと様々な変化をする弾丸、そして風を操るテクニシャンタイプ。至近距離はジャッジの専用武器をハンマーのように使いながら、打撃と銃を操る。


必殺技はスナイパーズメガホンを展開し、2丁拳銃に切り替え、四散する風の弾丸と、威力の高い貫通弾を同時に発射する『テンペストリガー』



ソウルドディテクティブ

解説:探偵の能力を持つ形態。メインカラーは白と黄色のチェック柄。


マスクは単眼が赤い複眼に変化し、帽子がホームズの被っているディアストーカーと言うハンチングのような感じのマスクになると同時に、パーカーを羽織っている姿になる。


肩当てはなく、胸のエンブレムはパイプをモチーフにしたものになる。


戦闘スタイルは探偵の頭を巧みに使った情報処理と推理を利用した居合いスタイル。大地の力で様々な土を使った技を使いこなす。


必殺技は地面を隆起させ、自分は敵の頭に乗り、膝から勢いをつけそのまま地面に叩き付ける『ランドブランディング』



ソウルドシーフ

解説:泥棒の能力を持つ形態で、メインカラーは黒。


マスクがアイマスクをしたようなバイザーで赤い嘆願を隠す口無し。角は無しで、頭がカラスをモチーフにした形になっている。


また、肩当てがヤタガラスの頭になっており、ボロボロのマントに身を包んでいる。


戦闘スタイルはスピーディーな足技を中心に、影を移動すると言うまさに怪盗を絵にかいた戦いを繰り広げる。


必殺技は影に身を潜め、ジャッジセイバーによる乱れ斬りを見舞った後、影から飛び出して踵落としでフィニッシュする『フォビドゥンファントム』



専用武器

ジャッジセイバー

解説:基本武器にして、専用武器。モチーフは信号機。三種の赤、黄、青が柄に煌めく。


伸縮可能で状況による使い分けが推奨。


赤:短剣。シーフと相性よし。

切り替え音声

ショート!スラッシャー!


黄色:刃が扱いやすい長さになると同時に、ジャスティス、ディテクティブで最も操りやすくなる。


切り替え音声

スタンダード!スバット!


ハンマード

青:ロングソード状だが、ハンマーのように変形した形態。ロイヤーが最も得意とする。


切り替え音声

ハンマード!インパクツ!



スナイパーズメガホン

解説:メガホンの形状をしたスナイパー専用武器。


エネルギー弾や実弾をボリュームのつまみによって、多彩な変化をつけて発射できる。



変身ソング

ジャスティス(ナンバー1→エンブレム炎)

待たせたぜ!アイアムヒーロー!

ロイヤー(ナンバー2→ハンマーエンブレム)

意義あり!喰らいやがれ、ドカンと!

スナイパー(ナンバー3→弾丸の跡のエンブレム)

ヒュイーゴー!バキュンといくぜ!

ディテクティブ(ナンバー4→パイプのエンブレム)

ショータイム!これが推理ショー!

シーフ(ナンバー5→ヤタガラスエンブレム)

只今、見参!夜にも紛れぬ伊達姿!



コンテンダーさんから頂いた設定のオリジナルライダーです。コンテンダーさん、設定ありがとうございました!






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第二十一章/雷牙の世界⑭(前編)

 

―クラナガン・路地裏―

 

 

裕司『───そうか……どうやら思ってた以上に面倒な事態になっているようだな……』

 

 

恭平「面倒なんてモンじゃねーよ。ただでさえ面倒な事に余計な面倒さが増して、厄介極まりない事になってんだよ、こっちはっ……」

 

 

クアットロ達と八雲が退き、一旦の脅威が去ったクラナガン内のとある路地裏の片隅。

 

 

薄暗い闇が辺りを覆うその場所には、ハルや映紀達が駆け付けた騒ぎに乗じてどうにかあの場から逃げられた恭平と薫、全身に傷を負って壁に寄り掛かりながら死んだように眠る真也と、先程人質の男の子を救出する為に戦線を離脱したクレアの姿があり、その中で恭平は別世界の本拠地にいる裕司にモニターで通信を繋いで現状の説明を行っていた。

 

 

裕司『しかし、クアットロが手に入れたというデザイアメモリか……奴等、何処でそんな強力なメモリを……』

 

 

恭平「さてな、そいつはこっちが聞きてぇぐらいだぜ……当初の目的だったサンダーレオン無しでも釣れたのは良いが、羅刹も通じねぇあんな反則染みたメモリがあったんじゃ下手に手出し出来ねぇぞ。しかも──」

 

 

裕司『……小坂井ハル……ある日を境に行方不明になっていたとは聞いていたが、まさか異世界に飛ばされていたとはな……相変わらず無茶苦茶な人だ……』

 

 

ハァッ……、と通信越しにも分かるほど深く溜め息を吐く裕司。彼もハルのあの荒唐無稽さを経験した事があるクチだからか、眉間の皺を抑える裕司の姿に恭平もそれに釣られるように溜め息を吐いてしまうも、すぐに表情を引き締めて報告を続ける。

 

 

恭平「とにかく、こっちはそのメモリで変身したクアットロと俺が捕まったせいで真也が動けない状態だ……悪いんだが、どうにかそっちから増援を送ってもらえねぇか……?」

 

 

裕司『……そちらの状況を聞いた以上、そうしたいのは山々だが、生憎こちらも今は他のメンバーも別の任務で出払っていてな……今残っているのは俺と綾だけだ。終夜も所用で留守にしている以上、此処の防衛の為にも俺まで此処を離れる訳にはいかん』

 

 

恭平「……マジかよ……」

 

 

そうなると此処から先は、怪我人の真也を除いた自分と薫、クレアの三人のみで任務を続行するしかないと言う事だが、驚異的な力を秘めたデザイアメモリを持つクアットロ達に加えて、状況次第では雷牙達や零達、最悪ハルとも戦う可能性がある中、この人数で動く事になるのは正直心許ない。

 

 

せめて同じ任務に赴く事が多い麻衣だけでもと一抹の望みを掛けていたのだがと、恭平が何度目かの溜め息と共に項垂れる中、クレアがふと薄い吐息を吐いて口を開いた。

 

 

クレア「別に増援なんか必要ないわよ……此処までコケにされた上に、手に負えなくなったから味方に泣き付いたなんて事があったんじゃ良い笑いものじゃない。あのクソ女ぐらい、私一人でもぶっ殺せるんだからっ」

 

 

裕司『……その心意気は頼もしいが、現状はそう簡単なものではない。零達や雷牙、最悪小坂井ハル達を相手にしなければならないこの状況下で、驚異的なメモリを手にしたクアットロ達を仕止めなければならないと言うのは現状難しい……此処はやはり、一度出直してチーム編成を見直し「冗談言うなよ、裕司」……!』

 

 

此処は一度恭平達を退かせて、新たにチームを組み見直してクアットロの討伐に向かわせるべきかと提案する裕司の言葉が、掠れた男の声に横から遮られる。そしてその声を聞いて一同が振り返ると、其処にはいつの間にか意識を取り戻し、壁に寄り掛かったままモニターの向こうの裕司を見つめる真也の姿があった。

 

 

薫「せ、先輩……!」

 

 

恭平「真也……!目ぇ覚めたのか?!」

 

 

真也「ああ……けどまだ、身体の方はあっちこちイテェんだけどな……」

 

 

クレア「……それはドジこいたアンタが悪いんじゃない。もっとしっかりやってればそうはならなかった筈でしょうに」

 

 

真也「……うっせぇよ……」

 

 

クレアの憎まれ口にそう返しつつ、真也は態勢を変えるように僅かに身動ぎし、裕司の方に目を向けて改めて口を開いた。

 

 

真也「こっちの事なら心配はいらねぇよ、裕司……一度引き受けたからには、やり切ると俺だって決めてんだ……多少怪我したぐらいで任務を続けらんねぇなんて言ってたら、この先やってくなんて出来ねぇからな……こっちは任せて、お前はお前の仕事にでも集中してろ」

 

 

裕司『……そんな状態で、任務を続けられると言うのか?つい先程、クアットロに引けを取った言うのにか?』

 

 

真也「ああ……言葉だけじゃ信じらんねぇだろうが……今の俺にはそれしか言えねぇ……それでも、頼む裕司……俺を信じてくれ」

 

 

裕司『…………』

 

 

真っすぐ、真摯な眼差しで裕司を見据えながらそう告げる真也。裕司もそんな真也の目をジッと睨むが、暫くした後に小さく溜め息を吐いた。

 

 

裕司『いいだろう。其処まで言い切ったからには、必ず相応の成果を持ち帰ってきてもらうぞ。……終夜の方には、俺の方からそれとなく誤魔化しておいてやる』

 

 

恭平「え……マジ?いつもは冷酷無慈悲で終夜に従順のお前が其処まで気を回してくれるとか、何か悪いもんでも食ったか?」

 

 

裕司『貴様は俺をなんだと思ってるんだ……俺はただ、来たるべき決戦の為に貴重な戦略を下手に削るのは得策ではないと判断したまでの事だ……だが、忘れるなよ?今回またお前がヘマをした暁には、その首は終夜の前に差し出してもらう事になると』

 

 

真也「……ああ……わーってるさ……あんがとな」

 

 

と、心身共にボロボロなせいか、何時もの彼らしくもなく素直に裕司に感謝の言葉を告げる真也。

 

 

そんなしおらしい姿に裕司だけでなく恭平や薫も目を点にして意外そうな反応を見せるが、裕司は気を取り直すように咳払いし、そのまま通信を切ってしまった。

 

 

恭平「通信、切れちまったか……けど、どうするよ真也?裕司にはああ言ったけど、正直今の俺らだけじゃクアットロ達に対抗するのは結構厳しいせ?此処からどう逆転したもんかぁ……」

 

 

真也「へっ…‥決まってんだろ、そんなの……至極簡単な話じゃねえか……」

 

 

クレア「?簡単って、何を……?」

 

 

愚問だ、と言わんばかりに軽く鼻を鳴らす真也の言葉の意図が読めずに彼以外の面々が頭上に?マークを浮かび上がらせる中、真也は顔を上げてそんな一同の顔を見回し、不適な笑みを浮かべた。

 

 

真也「今この世界には、零達の危機に駆け付けた異世界の連中がこぞってやって来てんだ。……あのクソ女の鼻っ面をへし折りてぇなら、俺らもその"祭り"に乗じてひと暴れしてやるんだよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

―機動六課―

 

 

なのは「──え……ど、どういうことですか、それっ……?」

 

 

幸助「…………」

 

 

一方その頃、市街地での戦闘を終えた幸助達は零を回収した後、この雷牙の世界の機動六課を訪れ、姫やアズサ、優矢やヴィヴィオの負傷を聞き付けて同じ様に六課へ急いで駆け付けたなのは達にこれまでの経緯を説明していた。

 

 

重傷の傷を負った姫やアズサ、優矢はシャマルの治癒魔法のおかげで何とか一命を取り留め、ヴィヴィオも三人に比べて其処まで大した外傷はなく、今はチンク達が傍に付き添って四人とも医務室で安静にしており、零は意識不明の状態で集中治療室に隔離されて今も面会謝絶なままその顔を見られない。

 

 

そんな中、零が隔離される集中治療室の前でなのはとはやて、そしてクラウン達に助けられて頬や腕などに白い包帯を巻いて沈んだ表情で俯くフェイトを交え、シズクとクラウン、幸助は目を伏せて淡々とした口調で説明を続けていく。

 

 

幸助「今話した通りだ。零はクアットロ達の術中に嵌り、以前のキャンセラーの世界の時と同様破壊者として覚醒し、この雷牙の世界を一度破壊した。……お前達を巻き込んでな」

 

 

はやて「破壊って……な、何の話をしとるんですかっ……?」

 

 

なのは「そ、そうですよ……!私も二人も、それに皆、この世界も今ちゃんとこうして此処にあるじゃないですか!零君が世界を破壊しただなんてっ、そんなの一体いつ……?!」

 

 

シズク「それは皆が気付けていないだけなの。……私と幸助達は実際、この雷牙の世界が破壊された瞬間に立ち会って、零君の手によって再編された別世界で戦ってた……零君を貶めた犯人、イレイザーと呼ばれる怪人達と」

 

 

なのは「……?イレイ、ザー?」

 

 

初めて耳にするイレイザーという怪人の名に、なのはとはやて、そして沈んだ表情を浮かべていたフェイトも顔を上げて訝しげな反応を各々が見せる中、幸助がシズクの説明を補足して続けていく。

 

 

幸助「イレイザーとは、全ての世界、物語から何かしらの罪でその存在を許されず追放されてしまった者達の事であり、それを指す呼称の事だ」

 

 

シズク「彼等も元は私や皆と同じ人間で、彼等が追放された先にも此処とはまた別の次元……えーと……噛み砕いて言うと彼等の為の現実があって、其処で善良に生きれば烙印された罪を清算し、この世界に戻ってくる事が出来るの……ただ……」

 

 

説明を続けてく内に、シズクの表情に影が差す。そんな彼女の様子になのは達が揃って首を傾げる中、シズクの隣に立つ幸助はそんな彼女を横目に何かを察したように目を伏せると、彼女の代わりに説明を受け持ち話を続ける。

 

 

幸助「中には、その罪を謂れのない冤罪だと反発し、無理矢理この世界に戻ってくる連中も大勢いる。物語を歪める力、改竄を用いてな」

 

 

はやて「改竄……ですか……?」

 

 

クラウン『分かりやすく言えば、その世界の本来の歴史を己の自由気ままに変えてしまえる力です。実際の歴史であれば、生きてる筈の人間が何かしらの事故に巻き込まれて亡くなってしまう。その逆に、死ぬ筈だった運命の人間が生き永らえるなど……そうして本来の歴史の流れなら有り得ない改竄を繰り返す事で、自分達の存在が赦される世界を創造する事を目的とし、今も世界の裏側で暗躍し続けている。それがイレイザーと呼ばれる者達です』

 

 

なのは「物語を、改竄……そんな危険な力を持った怪人もいたなんて……」

 

 

幸助達の口から初めて聞かされるイレイザーの存在とその恐るべき力に、なのは達も衝撃を隠せず戦慄を覚える中、今まで口を閉ざしていたフェイトが恐る恐る問い掛ける。

 

 

フェイト「もしかして……そのイレイザーっていう怪人が、クアットロ達を裏で操っていたんですか……?零の父親が……私や彼女達を利用して……零を、苦しめる為だけに……」

 

 

なのは「…………え…………?」

 

 

はやて「フェイト、ちゃん……?い、今、なんてっ……?」

 

 

何か、彼女の口から聞き捨てならない単語を耳にし、なのはとはやては我が耳を疑って思わず振り返ってフェイトに聞き返してしまう。フェイトはその問いに沈痛な面持ちで二人から目を逸らし、シズクとクラウンも彼女達にどう伝えるべきか言葉を探して僅かに逡巡する中、幸助はそんな一同の顔を見回し薄く息を吐き出した後、フェイトに代わって事実を告げる。

 

 

幸助「今回、クアットロ達を裏で手引きしていた黒幕の名は、黒月八雲。……零の実の父親であり、最低最悪のイレイザーとして数々の世界の人間を不幸に貶め、アイツにこの世界を破壊させる為に何重もの計画を張り、零に重罪を犯させた張本人だ」

 

 

はやて「……な……」

 

 

なのは「零君、の……お父さんっ……!!?」

 

 

フェイト「……っ……」

 

 

零に実の父親がいた。それだけでも衝撃なのに、よりにもよってその父親がイレイザーと呼ばれる怪人であり、その息子である筈の零に世界を破壊させる為に、クアットロ達を利用して彼を陥れる計画を実行した今回の黒幕でもあった。

 

 

そんな信じ難い、あまりにも多すぎる情報量になのは達も理解が追い付かずただただ困惑するしかない中、先に我に返ったなのはが悲痛な面持ちと共に、覚束無い足取りで幸助に詰め寄っていく。

 

 

なのは「なん、で……なんで零君のお父さんが、そんな事するんですか……?本当の親子なんですよねっ?なのにそんな、自分の息子に人殺しみたいな真似をさせるだなんてっ、可笑しいじゃないですかっ!!」

 

 

幸助「……それが八雲という男だ。奴は零を実の息子だなんて微塵も思っちゃいない。それどころか、破壊者の宿命を背負ったアイツを失敗作、産むべきでなかったと蔑んで、今も憎んでいる……奴に人間らしい情を求めているのなら、期待なんてするな」

 

 

なのは「……そん、なっ……」

 

 

はやて「そんなんっ……そんなのあんまりやないですかっ!零君は今までの世界でもずっと、破壊者や悪魔やなんて言われ続けて、誤解されて、傷付いて……!なのに、実の父親にまでそんな風に思われて、憎まれて、しかも世界を滅茶苦茶にしてきた怪物だったやなんてっ……そんなん、あんまりやっ……」

 

 

フェイト「っ…………ぅ、っ…………」

 

 

幼い頃から彼を知り、今まで何度も彼に救われてきた。

 

 

一緒に肩を並べて戦い、共に生きていく内に、ぶっきらぼうに思えたその顔の奥には身近な人を守る為、自分の身すら犠牲に出来る危うい優しさがあるのを知り、そんな彼に惹かれた。

 

 

……なのに、そんな彼をこの世に産んでくれた実の父親は息子である零をその存在ごと憎み、あまつさえ、息子である筈の零を陥れて世界を破壊させるように仕向け、その手を汚させた。

 

 

そんな残酷に過ぎる事実に、なのははショックのあまり膝から崩れ落ち、はやては目尻に涙を浮かべてやりようのない怒りに震えるしかなく、そんな男に自分の中の醜い感情を利用され、零をより苦しめる手伝いをしてしまったフェイトは自分の愚かを呪って涙を流し、悔しさと自己嫌悪のあまりスカートの裾を固く握り締めてしまう。

 

 

幸助「……いずれにせよ、零は八雲の罠に嵌められ、破壊者としてこの雷牙の世界を一度破壊した。今は様々な事情が入り組んで何とか元の形に戻す事はできたが、その事実はもう変えようがない。奴が再び世界を破壊する兆しを見せるのであれば、俺はこの手で奴を断罪するのもやぶさかじゃない」

 

 

フェイト「?!だ、断罪って……!」

 

 

なのは「まって……待って下さい幸助さんっ!!私達はちゃんと無事ですっ!無事なんですっ!この世界もっ、皆もっ……!ちゃんと此処にいてっ、ちゃんと生きてるんですっ!零君は誰も殺してなんていないんですっ!!だ、だから──!!」

 

 

 

 

 

 

―ガシャアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!!!―

 

 

『……っ!!?』

 

 

 

 

 

 

幸助にしがみつき、泣きながらに零への断罪を必死に止めようと懇願するなのはの悲痛な声を遮るように、突然集中治療室の方からけたたましい音が響いた。

 

 

いきなりの騒音に一同が驚愕と共に治療室の方に振り返ると、次いで部屋の中から何かが割れる音や怒鳴り声が聞こえ、なのは達が慌てて治療室の中へ駆け込むと、其処には……

 

 

 

 

 

 

「落ち着いてっ!!落ち着いて下さいっ!!黒月さんっ!!」

 

 

零「ァあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!触るなぁああああっっっっ!!!!俺に近付くなぁああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

───ベッドのシーツが見るも無残に破かれ、備え付けの小物なども散乱し荒らされた病室の隅にて、数人の医務局員に必死に押さえ付けられながらも彼等を寄せ付けまいと狂乱して暴れ回る零の姿があったのだった。

 

 

なのは「れ、零君っ?!」

 

 

はやて「ど、どないしたんですか?!一体何が?!」

 

 

「?!や、八神部隊ちょ……あ、いえ、貴方は確か違う世界の……!」

 

 

はやて「今はそないな話はいいです!それより、零君に何が……!」

 

 

「わ、分かりません!急に目を覚ましたかと思えば、突然暴れ出してっ……!何とか落ち着かせようとしてるのですが、幾ら押さえ付けてもあまりに彼の力が強くっ……!」

 

 

零「ぅ、ああああああっっっっ…………!!!!お、俺がっ……俺がっ、この手でっ、ぅ、ああっっっ……!!!!ァァああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」

 

 

なのは「れ、零く──!!」

 

 

フェイト「零っっ!!!!」

 

 

医務局員が説明する間にも、零は己の頭を掻き毟りながら発狂して自分を押さえ付けようとする他の医務局員達を押し飛ばすだけでなく、壁や床などに自分の頭を滅茶苦茶に打ち付けて血まで流し、自分自身を躊躇なく傷付け続けていく。

 

 

そんな零の異常な姿になのはが思わず駆け寄ろうとするよりも速く、フェイトが零に駆け寄りその身体を強く抱き留めた。

 

 

フェイト「零っ、零っ!!落ち着いてっ!!大丈夫だからっ、私達はちゃんと此処にいるからっ!!」

 

 

零「ぅ、あっ、ぁ…………ああっっ…………ア…………」

 

 

フェイト「大丈夫っ、大丈夫っ……!私も無事だよっ。もう、何もっ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

零「………………アリ……シア……………………すま、ないっ……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイト「…………ぇ…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……フェイトの顔を間近で目にし、零の口から漏れ出たのは今は亡き、もうこの世にはいない筈の彼女の姉の名と謝罪の言葉だった。

 

 

その名を口にした零の声音には、何処か深い後悔と罪悪の念が込められているように聞こえ、フェイトが呆然と零の顔を見つめる中、零の背後に一瞬で移動したクラウンが素早い手刀を零の後ろ首に打ち込んだ。

 

 

零「がっ……!ぁ……っ……」

 

 

―ドサッ……!―

 

 

なのは「っ!零君っ!!」

 

 

クラウン『……今の内に彼をベッドに。それから鎮静剤の投与もお忘れなく。次にまた目を覚ました時、彼がまた暴れ出さないとも限りませんから』

 

 

「は……はい……!」

 

 

クラウンの手刀で意識を手放し、慌てて駆け寄ったなのはに抱き止められる零を医務局員が数人掛かりでベッドへと運んでいく。

 

 

その姿を目で追いながら、フェイトは呆然と立ち尽くしたまま先程零が口にした言葉を頭の中で何度もリフレインさせていた。

 

 

―………………アリ……シア………………すま、ないっ……………………―

 

 

フェイト「……なんで……なんで、アリシアに謝るの……零……」

 

 

クラウン『……………………』

 

 

アリシアの名を口にしただけでなく、自分を通して今にも泣き出しそうな顔で彼女への謝罪の言葉を口にした零に、ただただ困惑を深めて立ち尽くすフェイト。

 

 

そんな彼女の様子を横目にクラウンも仮面の下で複雑げに目を伏せて俯く中、事の成り行きを治療室の入り口から見守っていた幸助はベッドに寝かされる零を見つめ、先の八雲の言葉を脳裏に思い返していた。

 

 

 

 

 

 

―フェイト・T・ハラオウンを殺されたぐらいで復讐心で我を忘れ、キャンセラーの世界を破壊しようとした罪悪感を未だに引きずっているような奴だ……例えお前達が全てを元に戻したところで、あの出来損ないが自身の仲間達と多くの人間を手に掛けた事実は消えはしない。果たして奴は、その事実を許容し正気を保っていられるかどうか……さぞ面白い見物になると思わないか?―

 

 

 

 

 

 

幸助(…………八雲っ…………)

 

 

シズク「……幸助……」

 

 

 

 

 

 

ギリっと、怨敵の言葉が現実になった今の光景を目の当たりにし、無意識に唇を噛み締める幸助。シズクもそんな彼の横顔を見上げてどんな言葉を掛けるべきか一瞬悩むも、悲惨な姿に変わり果てた零と、そんな彼に涙ながら寄り添うなのは達の姿を見て自身もショックを隠せず、ただ今は零が立ち直ってくれるのを心の中で祈る事しか出来ない己の無力さを恨むしかなかった。そして……

 

 

 

 

 

雷(……黒月……)

 

 

 

 

 

……集中治療室から少し離れた廊下の角から、室内の騒動の一部始終を覗き見ていた雷も今の零の悲惨な姿を見てしまい、沈痛な面持ちで目を伏せた後、そのまま誰にも気付かれず無言でその場から離れていったのだった。

 

 

 

 

 



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第二十一章/雷牙の世界⑭(中編)

 

―機動六課・食堂―

 

 

スバル「──そ、そんなっ……」

 

 

ティアナ「今回の事件の首謀者が……零さんの父親……?!」

 

 

その一方、機動六課の食堂でははやてから連絡を受けて写真館から慌てて駆け付けたスバル等に加えて、先の戦闘の事後処理を一通り終えた理央と奈央達、シャマル(別)の治療を受けた紫苑達が集まり、グランから今までの事の経緯……幸助がなのは達に説明した内容と同じ、今回の事件の黒幕が零の父親の八雲であり、イレイザーと呼ばれる怪物であること。

 

 

そして零がその父親の罠に嵌められ、キャンセラーの世界の時と同様に破壊者となり、この雷牙の世界を皆も気付かぬ内に一度破壊してしまった事を説明していた。

 

 

因みに、紲那達やカルネなどの一部別世界からの救援組はこの場にはおらず、今は行方をくらましたクアットロ達の捜索に出向いている。

 

 

グラン「そういう事だ……この世界の管理局に送られてきた例の警告状や映像の件も、その八雲の仕業で先ず間違いない……目的は恐らく、ディケイドである零と、其処の紫苑の動きを封じる為ってのもあるだろうが……奴の一番の動機は多分、零に償え切れない罪を背負わせる事で、アイツを絶望させる為ってとこか……」

 

 

すずか「そんな……ひどいっ……」

 

 

ヴィータ「なんだよそれっ……仮にも自分の子供なんだろっ?!何だってそんな真似が出来んだよっ、実の父親がっ!」

 

 

あまりにも救われない、残酷に過ぎる真相にすずかは悲痛げに口元を手で覆い、ヴィータも堪え切れない怒りのあまりダンッ!とテーブルに勢いよく拳を叩き付けてしまう。

 

 

此処にいる写真館の面々、特に零とは十年も長く苦楽を共にしてきたヴォルケンリッターやすずかは、過去の記憶もなく、本当の家族の顔すら思い出せない自分自身について彼が思い悩む姿を間近で目にしてきた事もあった。

 

 

そんな零に本当の父親がいたという事実は、本来なら喜ばしい知らせの筈なのだ。

 

 

なのに、その父親がこの雷牙の世界……いや、もしかすれば怪物として多くの人々を不幸に陥れてきた大罪人であり、実の息子に人殺しのような真似をさせて苦しませていたなどと、そんな救いのない話があっていい筈がない。

 

 

ヴィータのように口にこそ出さないものの、零を良く知る他の写真館のメンバーも言葉にし難い悲しみや怒りをそれぞれが覚える中、食堂の入り口の方から零の様子を確かめに行っていた雷が戻ってきた。

 

 

キャロ「ッ!雷さん……!」

 

 

エリオ「零さんは……?!今どんな様子で……!」

 

 

雷「……酷い有様だった……黒月の世界の高町達と、クラウンとやらのライダーがどうにか落ち着かせはしてたが、お前達は目にしなくて正解だったと思う……あんな姿、俺ですらまともに直視するのも憚られた……」

 

 

ギンガ「っ、そんなっ……」

 

 

いたたまれない様子で一同から目を逸らす雷から今の零の悲惨な状態を聞かされ、写真館のメンバーもその顔から血の気が引いていく。そんな中で、顔を俯かせたいたスバルが雷を見上げ、身を乗り出す。

 

 

スバル「で、でも……でも大丈夫です、よね……?だって、零さんですし……これまでも何があったって立ち直ってこられたんだから、こ、今度もきっと……!」

 

 

顔を引き攣らせながらも、零の再起を信じて他の面々の顔を見回し、何とか前向きに励まそうとするスバル。しかし……

 

 

ザフィーラ「それは……恐らく難しいかもしれん……」

 

 

ティアナ「……え……」

 

 

無念を滲ませた声音でそう告げたのは、ザフィーラだ。スバル達がその声に釣られるように思わず振り返ると、沈痛な面持ちで俯いていたザフィーラが顔を上げ、重たい口を開く。

 

 

ザフィーラ「お前達もよく知っての通り、黒月は己自身より、仲間を……特に我々を守る事を何より優先としてきた……それも病的なまでにな……グランの話が事実なら、そんな男が不本意とは言えど、一度は世界ごと我々を手に掛けたなどとあっては……」

 

 

シグナム「……ああ……とてもではないが、奴の心が耐えられる筈がない……恐らく黒月の父親も、それを分かっていて、敢えて……っ……」

 

 

スバル「っ……」

 

 

ギリッと、深刻げに語るザフィーラの隣で、シグナムも顔を背けながら悔しげに拳を固く握り締める。

 

 

そんな二人と同様に、ヴィータとシャマルも目を伏せて悲愴の念を露わにし、守護騎士達のその様子を見てスバル達も内心不安を膨れ上がせる中、食堂の入り口からなのはとはやて、そしてフェイトが意気消沈とした様子で入ってきた。

 

 

ギンガ「!皆さん……!零さんは?!」

 

 

なのは「……みんな……」

 

 

はやて「それが……その……」

 

 

フェイト「……っ……」

 

 

零の安否を今一度確かめる為に慌てて詰め寄ってきたスバル達に、なのはとはやては言葉を詰まらせてただ視線をさ迷わせるしかなく、二人の背後に立つフェイトも辛そうに目を伏せて自身の片腕を強く掴んで握り締めている。

 

 

すると、一同の間に雷が割って入り、なのはとはやてにそれぞれ視線を配りながら頷いた。

 

 

雷「黒月の容態は、さっき俺の方から軽くだが伝えておいた」

 

 

はやて「……?雷君、もしかして病室に様子見に来てたんか……?」

 

 

雷「ああ。ただ外から遠巻きに見ても分かるほど、中が酷い惨状だったのが見えてしまってな……あのタイミングで顔を合わせるのは、どうかと……」

 

 

なのは「そっ、か……気を遣わせて、ごめんなさい……皆も、その……雷君から話を聞いてるなら、分かってると思うけど……」

 

 

キャロ「そんなに……そんなに、酷い状態なんですか……零さんは……?」

 

 

はやて「……うん……今は幸助さん達が傍にいて、私らにどうするべきか……話し合え、って……」

 

 

エリオ「話し合えって……な、何を……?」

 

 

陰鬱な顔で重々しくそう告げるはやてから、何か嫌な予感のような物を感じ取りエリオが恐る恐る聞き返す。

 

 

その問いに対し、なのはとはやても互いに顔を見合わせてどう告げるべきか否か悩む素振りを見せる中、今まで無言で俯いていたフェイトが重々しく顔を上げ、惨痛の表情で僅かに声を震わせながら代わりに答えた。

 

 

フェイト「今の零を……これからどうするか、私達で決めろって……今の、あんな状態のままにするか……それとも……この世界に来てからの記憶を全部消して……それでっ……」

 

 

「「「なっ……」」」

 

 

ヴィータ「んだよ、それ……あたし等にアイツの記憶をどーこーするか決めろって、そう言ってんのか?!」

 

 

はやて「……そうする以外、立ち直せる方法はないかもしれん、て……」

 

 

なのは「もし次に目を覚まして、またさっきみたいな事になれば……零君は、自分で自分を傷付け続けて……最悪、幸助さんに自分から命を差し出すかもしれない……そうなったら幸助さんも、場合によっては意を汲んで、断罪者として手を下すしかなくなるかも……って……っ……」

 

 

ティアナ「っ……なんで……何だって、そんなっ……」

 

 

紫苑(……零さん……)

 

 

ただでさえ過去を奪われた経験を持つ零から、その心を救う為とは言え更にまた記憶を奪う。

 

 

そんな形でしか今の零を悲惨な状態から救う方法がないと告げられ、スバル達や守護騎士達も言葉を失うあまり呆然と立ち尽くしたり、力なく椅子に座り込んで項垂れてしまう。

 

 

そんななのは達のやり取りを前に紫苑一行も掛ける言葉が見付からず沈黙してしまう中、此処までの話を黙って聞いていたはやて(別)が申し訳なさを滲ませた表情を浮かべ、椅子から立ち上がり一同に向けて頭を深く下げた。

 

 

はやて(別)「みんな……それに紫苑君達も……本当に、ごめんなさい……私らがもっと早くに皆を信頼して、協力してさえいればこんな事には……」

 

 

シャマル「……いいえ、この世界のはやてちゃん達に落ち度なんてないわ……貴方達はただ、自分達の世界を真摯に守ろうとしただけ。そうでしょう?」

 

 

はやて「せや……この件に関して、この中の誰が悪いかなんて事は……「違う……」……へ?」

 

 

自分達に責任を感じて謝罪するはやて(別)達を責めずに誰が悪い訳でもないと告げようとしたはやての言葉を、彼女の背後からの声が遮った。

 

 

思わず皆が振り向けば、其処には惨痛な面持ちのまま俯くフェイトの姿があった。

 

 

キャロ「フェイト、さん……?」

 

 

フェイト「私……会ってたんだ……今回の事件の、黒幕……零の、父親と……」

 

 

なのは「……えっ……?」

 

 

はやて「あ、会ってた……?零君のお父さんと、フェイトちゃんが?!」

 

 

シグナム「どういう事だ……説明しろ、テスタロッサ!」

 

 

フェイトの口から告げられた衝撃的な事実に、その場にいる全員が驚愕と戸惑いを隠せずざわめく中、フェイトは自分の腕を抱いたまま、まるで神に懺悔する罪人のように重たい口を開き始める。

 

 

フェイト「この世界にきた最初の朝……私、零と話してて……其処で、零の様子が可笑しい事に気付いたんだ……祐輔達の世界でのこと……私と交わした約束や、自分が撮った写真のこととか……全く覚えていなかったの……」

 

 

エリオ「覚えてなかったって……それはたまたま、零さんが忘れてただけなんじゃ……?」

 

 

すずか「ううん……確かに零君は約束を破ってしまう事もあるけど、約束自体を簡単に忘れる事なんてそうそうないハズ……なにより……」

 

 

なのは「零君が……自分の撮った写真を忘れるなんて……そんなの有り得ない……」

 

 

昔から共に過ごしてきたなのはやすずか、はやてには分かる。

 

 

確かに彼は真っ当な善人ではないかもしれない。ただそれでも、交わした約束を守ろうと努める人間ではあるし、何よりも記録を残す写真……今までの自分の記憶の軌跡とも呼べるその証を忘れるなど、絶対に有り得る筈がないのだ。

 

 

そんな零自身の身に起きていた異常を初めて聞かされて一同は困惑し、フェイトは僅かに開いた瞳に深い影を宿したまま話を続けていく。

 

 

フェイト「理由は私にも分からなかった……私と一緒に撮った筈の写真を、初めて目にしたように、まるで他人のもののように私に渡してきて……皆にも相談するべきかどうか悩んでた私の前に、あの人が現れた……」

 

 

雷「……黒月の父親……黒月八雲、だな?」

 

 

目を細め、そう問い掛ける雷に対し、フェイトは一拍間を置いた後に重々しく頷き返す。

 

 

フェイト「零がそうなった原因を、その時に初めて聞かされた……祐輔の世界で、私がヴェクタスに殺されたせいで……零が破壊者として覚醒したその代償として、記憶が壊されたんだってっ……」

 

 

ギンガ「代償で、記憶が……?!」

 

 

理央「成る程……例の映像がその時の物であるなら、確かに納得する所はある。ただ映像を通して視ただけでも、奴の力は相当に凄まじい物だった。それだけの強大な力、ただの人の身ではどんな犠牲や反動があっても可笑しくはない」

 

 

それが奴にとっては記憶の抹消だったのだろうと、フェイトの話を聞いて得心を得る理央だが、はやて達はあまりにも酷で、急過ぎる事実に再び言葉を失ってしまい、なのはは無言のまま静かにそんなフェイトの前に真剣で、しかし何処か憤りを滲ませた表情で歩み寄った。

 

 

なのは「だからさっき、幸助さん達と話してた時に零君の父親の件も知ってたんだね……どうして……何でそんな大事な事を今まで黙ってたの……?」

 

 

フェイト「……言えなかった……零が破壊者になるきっかけを作って、記憶を失ったのは元を辿れば私のせいで……しかも何も知らない雷達にその時の事を知られたせいで、零が危険視されて……クアットロがその力に目を付けて、私の時と同じようにルーテシアを犠牲にするって聞かされて……まともな判断が出来てなかった……」

 

 

はやて「フェイトちゃん……」

 

 

フェイト「でも、それだけじゃない……本当は私、なのはに嫉妬してたんだっ……」

 

 

なのは「……え……?」

 

 

絞り出すような声でそう本音を告げられ、目を丸くするなのは。そんな彼女に向けて顔を上げるフェイトの顔は、今にも泣き出しそうな悲痛な色を帯びていた。

 

 

フェイト「なのは、言ってたよね……零が悩んで、苦しんでた時、なのはにだけは弱音を吐き出してたって……」

 

 

なのは「……それは……」

 

 

フェイト「それを知った時、私は『どうして自分じゃなかったんだろう』って、親友にそんな汚い感情を抱いた……そんな醜い自分の心から目を逸らしたくて、私も力になりたくて、罪を償いたくて……あの人の言葉を鵜呑みにしたっ……」

 

 

そのせいで一人勝手に暴走し、自分を止める為にクラウン達に迷惑を掛けただけでなく、こうして零がより苦しむ結果を生む更なる手伝いまでしてしまった。

 

 

自分を救ってくれたクラウンは、『先ずはそんな自分を赦してあげればいい』と言ってくれた。

 

 

……けれど、あんな零の痛々しい姿を見てしまった今、そんな簡単に自分を許す事なんて出来る筈がないと、深い自己嫌悪に苛まれるあまり溢れ出す涙をせき止める事が出来ず、フェイトはただただなのは達に謝罪を繰り返す。

 

 

フェイト「ごめんなのは……ごめんなさい、みんな……全部、私のせいなんだっ……!私があの人の口車に乗らなければ零は、優矢や姫達だってあんなっ……!全部全部私がっ──!!」

 

 

なのは「やめてフェイトちゃん」

 

 

ピシャリッと、なのはの冷たい声がその場に響き渡った。

 

 

その声だけで、まるで背筋が凍り付くような冷たい感覚を一同が襲い思わず後退り、謝罪を繰り返すあまり自分でも気付かぬ内に項垂れていたフェイトもその声にビクッ!と涙しながら恐る恐る顔を上げると、なのはは先程よりもあきらかに怒りを露わにした様子でフェイトをまっすぐ見据えていた。

 

 

フェイト「なの、は……」

 

 

なのは「私は、フェイトちゃんのそんな謝罪なんかいらないし、欲しくもない。私が今凄く怒ってるの、分かるよね?どうしてか分かる?」

 

 

フェイト「……それ、は……私が、自分勝手な思いで、一人で先走って……零やなのは達に、皆にも迷惑を掛けたから……だからっ……」

 

 

なのは「そうだね。その事に対しても少なからず怒ってる。でも、私が一番怒ってるのは──なんでそんなにも苦しんでいたのに、全部一人で抱え込んで解決しようしたの……?」

 

 

フェイト「……ぇ……」

 

 

最初は怒りを含んでいたなのはの声音が、最後には何処か悲しんでいるように聞こえた。途中から彼女を直視出来ず気まずげに目を逸らしていたフェイトがその声を耳に思わず視線を戻すと、なのはは寂しげに眉を顰めながらフェイトに悲しげな眼差しを向けていた。

 

 

フェイト「なの、は……?」

 

 

なのは「零君が悩んでいた事を皆に言わなかったのは、私も悪かったと思う。零君が一体何に悩んでいたのか……私にもそれは詳しく教えてくれなかったし、そんな不確かな事を皆に下手に伝えても不安を広めるだけだと思ってた……でも今思えば、それでももっと深く踏み込んで聞き出すべきだったって後悔してる……」

 

 

今更遅いけどね……と目を伏せながら苦笑を浮かべ、顔を上げたなのははフェイトの手を掴んで握り締めていく。切なげに、しかし何処か責めるような眼差しを向けて。

 

 

なのは「さっきも言ったように、私は今凄く怒ってる。でもそれはフェイトちゃんが憎いからなんかじゃない。そんな大事を、一人で抱え込もうとした事に対してだよ」

 

 

フェイト「っ……で、でも、私……なのはにっ……」

 

 

なのは「私に嫉妬してたっていうフェイトちゃんの気持ちも、分かるよ。もしも私がフェイトちゃんの立場だったなら、きっと私も同じ事を思ってたと思う。……ただそれでも、フェイトちゃんには真っ先に私達に頼って欲しかった……零君があんな風になったのは、フェイトちゃんだけの責任なんかじゃない……零君を止めて、もっと早くに助けてあげられなかった私達全員の責任なんだから……」

 

 

スバル「なのはさん……」

 

 

顔を俯かせ、声に悔しさを滲ませるなのはにはやてやスバル達も後悔を露わに視線を落としてしまう。フェイトもそんななのはの言葉に衝撃を受けた様子で僅かに目を見開き、やがて自分の本当の愚かさに気付かされ、俯き加減に泣きながら謝罪する。

 

 

フェイト「ごめん……ごめん、なのはっ……なのはの言う通り、私がもっと早くその事に気付けていたらっ……!」

 

 

なのは「……私の方こそ、ごめん……フェイトちゃんが悩んで、苦しんでた事に気付けなかったのもそうだし……零君の事も、皆にもっと早くに教えるべきだった……」

 

 

どんなに後悔して、謝罪しても取り返しは付かないかもしれない。ただそれでも、此処から先何もせずに傍観し続ける訳にはいかない事だけは分かる。

 

 

自分達では手に負えない事態を天満ファミリーを初めとした神々に頼り、自分達の悩みをアレンに吐き出すだけでは、この先零を手助けし続けるなど出来る筈がないのだ。

 

 

泣きながら謝罪を繰り返すフェイトの背中を優しく何度も撫でながらなのはは心の内で密かにそう決心し、フェイトから僅かに離れ、事の成り行き今まで黙って見守っていた雷に真剣な眼差しを向けて問い掛けた。

 

 

なのは「雷君。幸助さん達は今も零君の所にいるって言ってたよね?」

 

 

雷「?ああ、そうだが……」

 

 

なのは「なら、誰か一人でもいいから此処へ呼んでもらえるかな。……幸助さん達が知ってて、私達が知らない零君が隠してる事……洗いざらい全部話してもらう」

 

 

グラン「!待てなのは……!零が今まで秘密を隠してたのはお前達に知られたくないってのもあるが、それを知ればお前達が苦しむからと……!」

 

 

なのは「……そのせいで、零君がああなって今も苦しんでいるのに?」

 

 

グラン「っ……それは……」

 

 

なのはの鋭い言葉に、グランも気圧されて思わず押し黙ってしまう。それを他所に、なのはは構わず言葉を続けていく。

 

 

なのは「辛い事も苦しい事も、全部全部零君一人にばかり押し付けて、そんな事も知らずこれからもへらへら笑い続けるなんて私は嫌。仮にもしその秘密が私達を苦しめるものだとしても、今の零君に比べたら何でもないし、もう見て見ぬふりなんてしたくない。それでも零君がシラを切って、幸助さん達も黙っているようなら私だってもう容赦はしないよ。今からでも直接病室に乗り込んで零君の胸ぐらを掴んだ後、何度殴り倒してでも正気に戻して本心を全部吐き出してもらう……絶対に」

 

 

勇輔(こ、こえぇっ……)

 

 

光(ま、真顔のままなのに、すっごい怒りのオーラが滲み出てるっ……)

 

 

紫苑(なるほど……こうして見ると零さんが頭が上がらないのも頷けるなぁ……)

 

 

表情も声も平時と変わらぬように見えるのに、明らかに怒りがとっくに沸点を超えているのが分かるほど圧倒的な威圧感を漂わせているなのはに勇輔や光もガクガクと紫苑の後ろに隠れて怯えており、写真館のメンバーは勿論、雷達までもそのオーラに当てられて無意識に冷や汗を流してしまっている。と、その時……

 

 

「──ハッ、中々肝が据わったストレートな女じゃねーか。気に入ったぜ!」

 

 

「「「「……?!」」」」

 

 

なのは「……え……?」

 

 

そんな緊迫した食堂の空気を吹っ飛ばすような、豪快な笑い声が何処からともなく響き渡った。その声に釣られて一同が思わず振り向くと、其処には食堂の入口で壁に寄りかかるように肘を付き、もう片方の手で何故か野菜を頬張る茶髪の青年と、そんな青年となのは達を交互に見てあたふたしている銀髪の青年……映紀と海斗の姿があった。

 

 

海斗「え、映紀さん……!何か深刻そうな話してるみたいですし、此処で水を差すのは流石にちょっとっ……」

 

 

映紀「んあ?そんなんいいだろ別に。大体こんな辛気くせぇー空気、俺様も好きじゃねぇんだよ」

 

 

海斗「そんな無茶苦茶なっ」

 

 

ティアナ「……え、えーと……すみません、貴方達は一体……?」

 

 

映紀「ん?俺様か?俺様は高岡映紀!仮面ライダーディスパーとして世界を旅してる流れもんだ!んでこっちが……」

 

 

海斗「あ、えーと……海斗です。どうもっ」

 

 

ギンガ「仮面ライダー……ディスパー……?」

 

 

紫苑(ディスパー?……僕も知らないライダーだ……)

 

 

快活に自己紹介する映紀に反し、控えめに頭を下げて挨拶する海斗のいきなりの登場になのは達と紫苑達も戸惑ってしまう中、そんな一同に為になのは(別)が代わりに説明に入ってくれる。

 

 

なのは(別)「ええと……この二人はクアットロ達との戦いの時、人質の救出に手助けしてくれたの。それから他にも、あと三人──」

 

 

理央「……そういえば、あの三人は今何処にいる?俺達に一通り説明を終えた後、何か調べ事があるからと有無も言わさずお前達も連れて急にいなくなったが……」

 

 

映紀「あ?……あー、あいつらか……あいつらなら今──」

 

 

「──此処にいるよ〜」

 

 

「「「…………え?」」」

 

 

何故だか嫌そうな顔で後頭部を掻きながら言葉を濁す映紀の次の言葉を遮るように、今度は厨房の方からのほほんとした声が聞こえてきた。皆が振り返れば、其処には……

 

 

ハル「──ん〜〜、っぱぁあ!やっぱひと仕事教えた後の一杯は最っ高だねぇ〜!どれどれ、次はコイツに……」

 

 

クロノ「って、いつまで飲むつもりなんですか!!しかも無断で六課の物資を勝手に!!幾ら並行世界だからといって僕の目の前でそんな横暴っ、ああああっ!相変わらずの馬鹿力!!ユーノ!!君も黙って見てないで手を貸さないか!!」

 

 

ユーノ「いや、ハルさんがこうなったら止められないのは目に見えてるし……下手に止めようとしても時間と体力の無駄かなって……」

 

 

フェイト「……ク、クロ、ノ……?」

 

 

なのは「ゆ、ユーノ君……?!それに、まさかあの人……!」

 

 

はやて「せ、先輩……?ハル先輩やないですか?!」

 

 

そう、其処にはいつの間に食堂に入り込んでいたのか、隅っこのテーブルにて厨房に貯蔵していたものと思われる何本かのワインを持参し、入れ替わり入れ替わりグラスに注いで飲むハルと、そんなハルを後ろから羽交い締めにして酒飲みを止めようとするクロノ、そしてそんな二人の傍らで半ば諦めたような顔で苦笑いを浮かべるユーノの姿があったのだ。

 

 

急に何の前触れもなく、しかも自分達がよく知る顔見知り三人のいきなりの登場になのは達も混乱が極まってざわめくが、当の本人のハルはと言えばクロノの拘束を軽々と解き、ワインが入ったグラスを片手に呑気な調子で一同の下へ近付いていく。

 

 

理央「お前達、一体いつの間に……!」

 

 

ハル「んー、ついさっきかな?あのクアットロ君が他にも何か良からぬ仕掛けをしていないか映紀君達と一緒に軽く街を見て回ってたんだ。まぁ今のところ何もなかったけど、警戒はまだ解かない方がいいと思うよー。あとそれから……やほー。後輩諸君、元気そうで何より……とは言い切れないかなぁ、今の状況だと。何だか零君も大変みたいだし、君達も相変わらず苦労してるね?」

 

 

なのは「……ど、どうして……どうしてハル先輩が、此処に……?」

 

 

ハル「ん?どうしてって、そんなの君達が良く知ってる筈だろ?私も君達と同様に巻き込まれたのさ、滅びの現象って奴にね」

 

 

はやて「せ、先輩も私らみたいに……?な、なら、そっちのクロノ君とユーノ君も、もしかして……」

 

 

クロノ「いっつぅっ……ああっ……僕とユーノも、君達と同様あの現象に巻き込まれたんだっ……。僕は魔法もデバイスも使えなくなった状況の中で、それでも何とか民間人だけでも避難させようと部隊を動かそうとしてた最中に……」

 

 

ユーノ「僕も無限書庫に異常が起き始めたのを知って、書庫に向かってる途中であの変なオーロラみたいなのに巻き込まれてね……それから何故か近くにいたクロノと一緒に別世界をさ迷ってた所に、ハルさんに拾われてね。それから三人で、元の世界に戻る為に色んな世界を旅して回ってたんだ」

 

 

シャマル「そうだったのね……でも良かった、二人も無事で……」

 

 

最悪に次ぐ最悪が続くこんな状況の中、クロノとユーリもこうして無事にいてくれて再会出来た事を喜ぶなのは達。すると、そんな一同の喜びムードを横目にハルはグラスの中の酒を一口口にした後、改めてなのは達と向き合った。

 

 

ハル「ま、感動の再会と積もる話は今は後にして……ところで、さっき何だか興味深い話をしてたね?零君の秘密がどうのこうのって話」

 

 

なのは「え……あ、はい……それが、何か……?」

 

 

ハル「いや?これはまた数奇な偶然があるもんだなぁと思ってね。君達とは別行動で色んな世界を回ってて、その中で私達も色々と事情通になったんだよ。例えば、そう……君達が今知りたがっている、零君を蝕む"力"について、とか?」

 

 

「「「……!!!?」」」

 

 

まるで惚けるように小首を傾げながらそう告げたハルの衝撃的な言葉に、なのは達は揃って目を剥き驚愕し、ハルはそんな彼女達を尻目にテーブルの縁に寄り掛かりワインの中の酒を揺らしている。

 

 

なのは「ほんとう、なんですか……?零君が隠してる事、先輩が……!」

 

 

ハル「普段ふざけてばかりの私だけど、こういう大事な時は嘘は言わないのは知っているだろう?無論、彼の力の秘密も知っているとも。……何故彼が記憶を失うまでに至ったのか、その理由もね」

 

 

フェイト「……!!」

 

 

はやて「な、なら……そんなら教えて下さいっ!零君に何が起きてるのか……!どうしてこんな事になったのか、全部っ!」

 

 

グラン「お、おい!―スッ……―……っ!雷っ?」

 

 

雷「…………」

 

 

全てを知るというハルに詰め寄り、零の身に起きてる異常とその原因を聞き出そうとするなのは達。

 

 

そんな一同を見てグランが思わず身を乗り出し口を挟み掛けるが、雷がそれを横から手で制し、ハルも何かを見定めるようになのは達の顔を一通り見回すと、やがて目を伏せて薄く息を吐き、テーブルから身を離した。

 

 

ハル「覚悟はある……と思ってもいいんだよね?自分から言っといてなんだけど、これから話す事は結構残酷だよ?無論、君達にとってもだ」

 

 

フェイト「……そんなの……もう、間に合ってます……」

 

 

なのは「もう、何も知らないままでいるのも、私達だけ蚊帳の外なんて嫌なんです。だから、お願いします……先輩……」

 

 

ハル「…………。そうかい」

 

 

真剣な眼差しを向けるなのは達から力強い覚悟を感じ取ると、ハルは目を細めて含み笑いを浮かべた後、手に持ったままグラスをテーブルの上に置いていく。

 

 

ハル「では、私が知ってる限りの事は教えてあげるよ。零君が今まで隠してきた秘密……何故彼が破壊者と呼ばれるのか、その由縁の一つ……破壊の因子、そして再生の因子の事をね」

 

 

なのは「……?破壊と……再生の、因子……?」

 

 

ハル「そっ。それにもう一つ、その因子を語る上で、彼が破壊の因子を与えられる事になったきっかけも話さなければいけない……それが仮面ライダーロストの正体……それを知る覚悟はあるかい?フェイトくん。それに、八神一家の皆さん?」

 

 

フェイト「…………え…………?」

 

 

はやて「ロストの正体て……な、なんで其処で私らに話を振るんですか?」

 

 

ルーテシアの事ならまだしも、何故其処で急にロストの正体の話が出てくるのか。

 

 

ハルの言葉の意図が読めず、急に問い掛けられたフェイトとはやては困惑し、ヴォルケンリッターの面々も訳が分からなそうにお互いに顔を見合わせている。

 

 

そんな彼女達の反応にクロノとユーノも事情を知っているのか複雑げな顔を浮かべ、グランも唇を噛み締めて直視出来ず目を逸らす中、ハルは目を伏せて一拍置いた後、瞼を開き、何処か真剣な表情と共にゆっくりと口を開き、零がずっと隠してきた真相を語り始めるのであった。

 

 

 

 

 



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