問題児達に妖狐が混じっているそうですよ? (せーじゅん)
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1話

転生の理由書いたせいで前置きめちゃくちゃ長いです。


私、早瀬一葉は落ちている。

周りを見渡すと、同じように落下している者が3人。眼下には湖が見えるため皆怪我はしないだろうが、着衣水泳は学校の授業だけで十分だ。

「まったく、何でこんなことに…」

溜め息をつきながら私はこの数日を思い返した。

 

 

 

 

ある日私は京都に来ていた。何でもお母さんの姉の千絵さんが先日出産し、夏休みと言うこともあって数日間親戚が集まってお祝いするらしい。

他人との繋がりが希薄な現代には珍しい、良い家族だと思う。

しかし悲しいかな、私はその繋がりを求めない人間だ。人間は好きだが人付き合いは嫌い。そう言う人間なのだ、私は。うわべだけの付き合いは本当に疲れる。

まあ、そんなこんなで私はあまりこの集まりが好きではなかった。人が多いこの祝いの席は、落ち着けない。

 

ただ、良いこともあった。京都には伏見稲荷がある。

実は以前傷ついた狐を助けた事があり、一週間ほど面倒を見ていた。何者かに襲われたらしく、身体中に生傷があった。その狐を拾った私は親にバレないよう、こっそりと治療をしたのだ。5日ほどで見つかったが。

その狐は珍しく真っ白で、母は写真を動物雑誌に送ろうなんて言ったが、私はその子を晒し者になぞさせるものかと猛反対した。

私の話をまるで分かっているように聞いてくれる。いや、本当に分かっていたのではないだろうか。そんな白狐を親友のように感じていた私は母の言葉にに本気で怒ったのだ。

元来小さいものが好きで友達も少なかった私は、この白狐が大好きだった。親友だった。

 

 

しかし、傷が治り自然に帰すときがやって来た。

白狐が山へ入って見えなくなり、目に涙を浮かべる私に

 

「白狐は神の遣いと言うからな。稲荷神社にいけば会えるかもしれんぞ」

父はそう言った。父も、物心ついてから泣くことがなかった私が泣きそうになっていたから焦っていたのだろう。いくらなんでも、神様の使いだ、神社に行けば会えるだなんて都合が良すぎる。

だけど、私はあの子が忘れられなかった。あの美しい白い毛並みに、透き通るような瞳は私を虜にしたのだ。そして何より友達だった。

私は日本一の稲荷神社に僅かながら期待していた。

 

 

 

 

 

すぐに見つかった。駅を出てふと見たら、鳥居の根本ににちょこんと座ってじっと私を見ている。間違いない、あの子だ。

あまりにも簡単に見つけられて驚いたが、歓喜の波がそれを呑み込んだ。

すぐに走りだし、白狐に近づき撫でようとしたとき

 

「なんや、おもろい狐やな。ペットショップに売っぱらったろうか」

下品な声が響いた。見ると中肉中背の猫背の男が下卑びた顔で近づいてくる。

この子を売り払う?

 

「ふざけるなっ!自分の利益しか考えることのできないお前にこの子はわたさないっ」

怒った私はその男を突き倒した。

いきなりの襲撃に男もキレたらしい。何か喚きつつ、私の髪を掴んで投げ飛ばした。

運が悪かったとしか言いようがない。投げ飛ばされた所にブロックがあった。頭に激痛が走り、私の意識はぷっつりと途切れた。

 

 

 

 

 

 

ふと目を覚ますと辺り一面真っ白だった。頭に痛みはなく、血も出ていない。

私は死んだのだろうか?あんなに呆気なく?もう少しであの子を撫でることができたのに。抱き締めることができたのに。

「そんなに僕のことを想ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかな」

そんな声に驚いて振り向くと…

 

 

狐耳をつけた少年がいた。

 

「やあ、一葉。この姿じゃちょっと分かりづらいかな?」

 

いいや、分かるとも。姿形が違っても優しいこの空気は…

 

「白狐なのか?」

「すぐに分かってくれて嬉しいよ」

 

それから色々な話をした。白狐がいなくなったあと拗ねて両親としばらく話をしなかったことや、白狐を見つけるために多くの神社を巡ったことなどを。

どの話も彼は楽しそうに聞いてくれた。

 

「まったく恥ずかしい話だけど親友が君一人で私の人生は終わってしまったよ」

ふと漏れた言葉に白狐が反応する。

 

「それなんだけど僕が一葉を生き返らせるよ。一葉は僕の命の恩人だからね」

「ち、ちょっと待って。そんなに簡単に転生なんて事ができるのか!?それになんで君がそんなことをできるんだ!?」

「僕は荼枳尼天(だきにてん)だよ。輪廻転生は専門外だけど、多少の融通は利くのさ。それと悪いけど生き返るのは今までとは別の世界になるんだ。ゴメンね。」

そういって話を進める白狐。

「それじゃあいくよ。不安かも知れないけど大丈夫。仲間も三人いるから」

不安そうな私に気を使ってくれたのだろうか。だが私はそんな心配はしてない。元々一人が好きなのだから。私の不安はー

「私達はまた会える?」

沈黙が流れる。

「私は君の存在を奪ってその箱庭とやらに転生するんでしょう?融通が利くといってもなんの代償もなしに転生なんてことはできないはずだよ?」

この子を踏み台にした人生なんて楽しいはずがない。

「もうっ、いちいち心配しすぎ。僕の霊格を全てあげる訳じゃないから大丈夫だよ。行ってらっしゃい!」

私の足元に穴が空いた。

いきなりすぎだろう

 

ー先ずは×××っていうコミュニティーについて調べてみてー

 

 

 

 

湖に落ち、グショグショになった服を絞りながら決意する。

気付いたら狐耳ついてるんだが。どゆこと?

 

「取り扱い説明書をくれたら考えるわ。」

隣では自己紹介を兼ねたメンチの切りあいが始まっていた。どうやら彼らには手紙が届き、それを読んだらこの世界に飛ばされたそうだ。

ヘッドフォンを着けた学生服の少年が逆廻十六夜、お嬢様風の少女が九遠飛鳥、天然っぽい無口な少女が春日部耀と言うらしい。絶賛不良街道爆進中なのは十六夜と飛鳥だ。

 

「なぜ初っぱなからこんな癖の強い人達に遭遇するんだ?」

 

そう呟くと二人からジト目で見られた。

「狐耳と尻尾をつけている人にその台詞は言われたくないわ(ぜ)。」

 

仕方ないじゃないか。私に力をくれたのは狐なんだから。多分 あの子の霊格とやらが私のなかにあるせいだろう、この素敵アイテムは。

しかし、この三人はなかなか面白そうだ。

「私は早瀬一葉だ。よろしく」

 

 

 

 

 

「私がお呼びしたのは3人だった筈ですが…なんで四人目がいらっしゃるのですか!?皆さん大変我の強そうな方ば

かりで困っているのにこんなイレギュラーまで」

 

3人を呼び出した黒ウサギは苦悩していた。それはそうだろう。なにせ問題児3人+狐耳だ。大丈夫なはずがない。

 

「それよりも早く出ていった方がいいぞ。皆待ちくたびれてイライラしてるから」

「にょわー!!!!」

 

後ろから声を掛けたらとても驚かれた。それと同時に全員の視線を集める。

「や、やだなぁ皆さん。そんな目で睨まれると、黒ウサギ心臓が止まってしまいますよ。古今東西ウサギは孤独と狼が天敵ですーって、なんでウサミミを引っこ抜こうとするのですか!?」

「好奇心のなせるわざ」

耀ちゃんがウサミミを鷲掴みにしている。

「耳、短くてよかったな」

「呑気なこといってないで助けてくださーい!!」

黒ウサギの悲鳴が森に響いた。

 

「ううっ、気を取り直して説明します。いいですか?いきますよ?さあ言います!ようこそ、『箱庭の世界』へ! 我々は御三方様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうと召喚いたしました!」

黒ウサギがオーバーアクションで説明をはじめる。なんて気丈な娘だろう。

 

「ギフトゲーム?」

「そうです! 既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 

黒ウサギの言葉に九遠飛鳥が反応する。

「まず、初歩的な質問からしていい? 貴方の言う我々とは貴方を含めただれかなの?」

「YES! 異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とあるコミュニティに必ず属していただきます」

「嫌だね」

「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの主権者ホストが提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

春日部耀が挙手する。

「……主権者ホストってなに?」

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

特徴として、前者は自由参加が多いですが主権者ホストが修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。主権者次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」

「後者は結構俗物ね…。チップには何を?」

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

続々と進行していくイベントに額を抱えていると、ギフトゲームとやらが始まろうとしていた。

 

 




書き溜めはしてないので更新は遅いです。

拙い文章ですがよろしくお願いします。感想お待ちしております。


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2話

主人公のキャラがやっと脳内で完成しました。
1話からちょっとずれてる気がしますが、こっちが本当です。
モデルとしてはフェアリーテイルのエルザですかね。ギャグがほとんどありませんが。


「と言うわけでこの箱庭に来たばかりの皆さんを黒ウサギのコミュニティにいれてあげても良いのですが…。正直、力のない人は邪魔者、お荷物、足手まといなのですよ」

何やらあからさまな挑発を行う黒ウサギ。

確かにプライドの高そうな人には挑発するのが定石だが、彼らはそんなに短慮な人間ではないだろう。

私だったら確実に様子をみるしな。

「へぇ、素敵な挑発をありがとよ。そのゲーム乗ったぜ」

そんな私の思考を尻目に、十六夜が参加を決めていた。早いなおい。

表情を見る限り黒ウサギが何かを隠していることは分かってるだろうに、こんなに簡単に挑発に乗るとは自信家と言うか豪胆と言うか。

まあ、ギフトゲームとやらに参加したからといって問答無用で黒ウサギのコミュニティに入らなければならないわけでも無さそうだし大丈夫だろう。

 

 

 

 

「では御四方にゲームの説明をさせていただきます。ルールは簡単」

 

 パチンと指を鳴らし、魔法の様にカジノにありそうなギャンブルテーブルを取り出す黒ウサギ。そしてその短いスカートのポケットからトランプ一式を取り出し、シャッフル。

 

「このテーブルに散りばめられた裏面のトランプをそれぞれ一枚選び、53枚のカードの中からK・Q・J・ジョーカーの絵札、計13枚のどれかを引く事が出来れば御三方の勝利となります。引けなかった場合は黒ウサギの一人勝ちでございます」

「ほお、意外と単純なルールだな、分かりやすいぜ。それで、俺達は何を賭ければいいんだ?」

「いえ、今回はギフトゲームがどのような物かを御理解頂く為の予行演習ですので、賭けや報酬は無しで結構です。強いて言うのなら、賭けて頂くのはご自身のプライドですね」

ノーリスクノーリターン。初めてのギフトゲームには妥当なものだった。

しかし十六夜は納得しなかったようだ。

 

「嫌だね。何か報酬が無いとつまらない」

「……そうですね。それでは黒ウサギが何か一つ言う事を聞く、というのでどうでしょうか」

「そうか…」

黒ウサギの言葉に反応した十六夜がその視線を黒ウサギの豊満な胸に寄せている。

 

「性的な事は駄目でございます!」

「チッ」

まったくこいつは。ノーリスクノーリターンからノーリスクハイリターンのヌルゲーに早変わりだ。

 

 

 

 

 

 

カードを三人がチェックし終え、いよいよゲームが始まろうとしていた。

「おい、一葉。お前はカードを『チェック』しとかなくてよかったのか?」

笑みを浮かべながら十六夜が小声で聞いていた。

どうやら三人ともカードに何かしら細工をしていたらしい。抜かりないな皆。

「君がなんとかしてくれるのだろう?」

「ヤッハハハハ。ちょっと挑発のお礼をしようとおもってな」

そう言うと十六夜はテーブルの前に立ち、手を振り下ろした。

「俺の選んだカードは、これだっっ」

テーブルを思い切り叩きつけた衝撃でトランプが舞い上がる。

「じゃあ私はこのカードで」

「私はコレ」

丸見えになった絵札を思い思い選んでいく飛鳥と曜。それにならい私も一つ選ぶ。

「な、なんてことするんですか十六夜さんっ!!」

「俺はなにもルールに抵触してないぜ。ルール通りカードを選んだだけだ」

黒ウサギは顔を真っ赤にして抗議するが、十六夜はどこ吹く風と言った様子だ。

「うぅ、箱庭の中枢から問題なしとの判断が届きました。お三方はクリアです。ですがっ、十六夜さんはまだ分かりませんよ!」

そう苦し紛れに抵抗する黒ウサギ。しかし十六夜の表情は余裕綽々といった風だ。

「おいおい、俺を誰だと思っているんだ?」

十六夜がカードをめくると、そこにはクローバーのキングが描かれていた。

「すごいな、十六夜。君は全てのカードを覚えたのか」

私もこれには感嘆せざるを得ない。恐るべき記憶力と、カードシャッフルを見切る圧倒的な動体視力がなければできない芸当だ。

「やるじゃない。見直したわ」

これには飛鳥と曜も驚いているようだった。

 

こうして黒ウサギの敗北は決定した。

 

 

 

「それで黒ウサギ。なにか一つ言うことを聞いてもらうわけだが…」

「性的なことはダメでございますよ!」

十六夜の言葉に素早く反応する黒ウサギ。

「そっちも魅力的だが、俺の聞きたいことはただ一つ」

十六夜の目が光る。

 

 

「この世界はおもしろいか?」

 

 

実に十六夜らしい言葉に黒ウサギは答える。

 

「Yes!ギフトゲームは人智を越えた神魔が集う究極の遊戯。この箱庭は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します!」

 

こうして箱庭での日々が始まった。




ほぼ原作通りになりました。個人的にオリ主がでしゃばって原作キャラの出番を潰す、なんてことは出来るだけ避けたいのです。主人公の影が薄薄です。というより十六夜以外は薄薄です(泣)

次は主人公のギフト披露です。



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3話

今回はオリジナル展開!
正直この話を載せずに、すぐに一葉をノーネームに入れても良いんです。でも主人公のギフトを早く御披露目したいのと、筆者はちょっとしたすれ違いが好きなのでこの話を載せました。


しかし毎度毎度説明臭くなるなあ。難しい。



さて、ギフトゲームも終了し、いい雰囲気なっているところ悪いんだが

 

「言っておくが私は黒ウサギのコミュニティには入らないぞ」

その言葉に目を丸くして驚く黒ウサギ。

「ど、どうしてですか!?何か気に入らないことでも!?」

「いや、そう言う訳ではなくてな。実は既にあるコミュニティにツテが有るんだ。すまないな」

 

私がそう言うと、黒ウサギのウサミミが力なく垂れ下がった。

 

「そうですか。それならば仕方ありませんね。一葉さんは私が招待した訳ではありませんし」

 

明らかに落胆する様子を黒ウサギに見せられ、罪悪感が生まれる。

「そ、そんなに落ち込むな。この世界のことをあまり知らない私はしばらく黒ウサギにお世話になるだろうし、君のコミュニティに何かあったときは微力ながら私も力になるから」

 

慌てて弁解する私に、問題児三人がニヤリと笑う。

「黒ウサギのコミュニティに入ろうとしている私達はともかく、別のコミュニティにツテがある一葉さんをわざわざ手助けしなくてもいいのではないかしら。ねえ十六夜くん?春日部さん?」

「まあ確かにお嬢様が言うことには一理あるな」

「以下同文。働かざる者、食うべからず」

口々に私を攻め立てる三人。

 

「なっ、お前たち私の動揺につけこんで!」

マズイ、このままでは良いように流されてしまう。

 

「み、皆さん!一葉さんを困らせてはいけません!!」

 

必死に止めようとしてくれる黒ウサギだが、こうなってしまってはこの問題児達は止まらない。

思考を巡らして要ると妙案が思い付いた。

手を前に差し出し、ギアスロールを展開させる。

 

「それならばこの世界のルールに乗っ取り、ギフトゲームで決着を着けよう。このゲームに君達が勝てば、私は一回ずつ君達の言うことをなんでも聞こう。しかし、敗北した場合はこの世界の案内、きちんと行ってもらうぞ」

 

 

 

 

ギフトゲーム 【FELLOW OR GUIDE】

 

『ゲーム概要』

プレイヤー側は代表者一人を選考し、その代表者はテーブルの上に展開された53枚のトランプからカードを1枚選択せよ。なおギフトの使用に関する制限はない。

 

『プレイヤー一覧』

逆廻十六夜

九遠飛鳥

春日部耀

黒ウサギ

 

『クリア条件』

代表者が絵札以外のカードを引く。

ホスト側のイカサマを見抜く。

 

『敗北条件』

代表者が絵札を引く。

プレイヤー側の代表者以外が、何らかの形でカード選択に介入する。

 

宣誓:上記を尊重し、誇りと御旗、ホストマスターの名の下にギフトゲームを開催します。

 

サウザンドアイズ印

 

 

 

「アッハハハハハ。随分と舐められたもんだぜ、こりゃ」

十六夜の言葉ももっともだろう。なにせ彼らが勝利する確率は八割弱なのだから。

「しかしさっきのような事はさせない。カードのチェックもさせないし、完全に運任せだ。二割と言う確率は意外とあり得るのだぞ」

 

現実には、あり得ないと思ったことがあり得てしまう。そのような状況が多々あるのだ。それに…

 

「クリア条件の『ホスト側のイカサマを見抜く』、と言う文言が引っ掛かるわね。イカサマをする気満々に感じられるわ」

「さあ、どうだろうか?」

そう。向こうはカードの選択しかできないが、ギアスロールにのっとればこちらは色々と手を打てるのだ。

 

 

「ちょっといいかな?」

耀が手をあげ質問してきた。

 

 

「何かな?」

「そのトランプにはちゃんと絵札13枚が入っているの?」

「ああ、間違いなくJ、Q、Kが四枚ずつとジョーカーのカードが含まれている」

「ダウト」

 

なるほど。こちらのイカサマを防ぐために質問をし、揺さぶりをかけてきたということか。こちらが嘘を言えばダウトの言葉でイカサマを見抜き四人の勝利というわけだ。しかし、

 

「私は嘘などついていないぞ」

 

なにも反応はない。

 

「だけど、一葉はこちらの質問に本当のことを答えなければならなくなったわ。流石ね、耀さん」

「たいした事じゃ、ない」

 

飛鳥の賛辞に笑みを浮かべる耀。

 

「それでは、私からも質問させてもらうわ」

飛鳥が私の方を向いて質問してきた。

 

「テーブルやカードに何か仕掛けはないの?」

「いいや、なにもない」

「この53枚以外にカードを所持してない?」

「カードはこの53枚で全部だ」

「カードの位置を操作する事ができるかしら?」

「できなくもないが、そのようなことはしない」

「ダウトよ」

 

そういって黒ウサギの方を向く飛鳥。

 

「一葉さんは嘘をおっしゃっていません」

 

かぶりを振る黒ウサギ。その反応に、飛鳥も満足したようだ。

 

「十六夜、君は何も質問しないのか?」

 

私は先ほどから黙ってみている十六夜に聞いてみる。すると、

 

「まあ、お嬢様が言い出したことだしな。俺に直接的なメリットもないし、傍観を決めさせてもらうぜ」

 

どうやらあまり興味がないらしい。確かに黒ウサギと比べれば見劣りはするが、私だってなかなかスタイルはいいのだぞ。

私が少々女としてのプライドを傷つけられて落ち込んでいるのを尻目に、プレイヤー側は代表者を決めたようだ。

 

「耀さん、頑張ってください!」

「私もくじ運がいい方ではないし、異存はないわ」

 

二人の激励を受けているのは耀だ。十六夜が参加しないため、次点で運の良さそうな耀が選ばれたらしい。

まあ、私のイカサマが無いと考えれば妥当なところだろう。五感が優れているらしい耀の直感を信じる、と言ったところか。

私には好都合だ。

 

 

「まかせて」

 

そういってテーブルの前に歩いてくる耀。

 

 

「それじゃあ、頑張ってくれ」

「言われなくても」

 

耀を挑発し、傍の木に寄りかかって耀の決定を待つ。

 

 

少し思案し、カードの上で指を行き来させた耀は、真ん中のほうのカードを選択した。

 

「これで」

 

カードリバース。

そこに描かれていたものは…

 

 

 

 

スペードのクイーン。

 

「ゴメン、黒ウサギ。ダメだった」

「いえいえ、良いのですよ。だめで元々だったのですから、そんなに落ち込まないで下さい」

 

落ち込む耀を慰める黒ウサギ。少々気の毒だが仕方がない。

 

「そんなに気を落とさないで。今回は勝利の女神があちらに微笑んだ。それだけのことよ」

 

そういって飛鳥も慰める。

 

「カードに吸い付かれるように指が動いたから、直感でコレだと思ったんだけど」

 

ただ、耀はまだ納得できないようだ。自分の直感をよほど信用していたらしい。

 

「フフフ、残念だったな。そういうことで黒ウサギ、案内頼むぞ」

「分かりました。ほら皆さん、行きますよ」

 

こうして私は道先案内人を手に入れた。

 

 

 

 

 




ギフト御披露目と言いつつ、ギフトまだ出てこない(;・ω・)
作者の技量不足が露呈しまくりですね、ハァorz

次回、一葉がギフトゲームで何をしたか明らかに!
結構ごり押しです。もっと伏線張らなきゃだめかなあ。


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4話

世界の果てまで○ッテQ!!
はい、ということで十六夜君と大瀑布観光ツアーです。
いやしかし地の文が難しい。やっぱり三人称でやっとけば良かったかな?

今回もおかしな点があればどしどし感想で送ってください!
ただしあまり難しいのは次回に反映できるかは分かりません(-o-;)


さて、問題児たちとのギフトゲームにも勝利し、後は黒ウサギに箱庭の案内をしてもらい×××というコミュニティを探すだけ。

のはずだったのだが…

 

猛スピードで箱庭から遠ざかっている。解せぬ。

 

ー 事の発端は遡ること十数分前 ー

 

 

 

 

 

「ちょっと世界の果てを見てくる」

 

黒ウサギに聞こえないよう、十六夜が唐突に言い放った。

正直、説得すれば止まるような奴ではないと言うことはこの数時間で分かったのでヒラヒラと手を振ると

 

「勿論一葉もくるだろ?答えは『はい』か『yes』しか受け付けないぜ」

 

どうやら私に拒否権はないらしい。

 

「ちょっと待ってくれ十六夜。町の案内は私から言い出し、ギフトゲームまでしたんだ。いくらなんでもここで私が勝手な行動をするのは非常識だろう。行くならお前一人で行ってくれ」

 

そう反論すると十六夜はニヤリと笑った。

 

「大丈夫だ、俺がなんとかしてやる。さっきのギフトゲームでお前が使ったギフトについて答え合わせがしたいんだが」

 

十六夜の言葉に肩がビクリと反応する。視線を横に遣ると、十六夜が挑戦的な笑みを浮かべていた。

その笑みが自分の推論に自信を持っていることを示している。

 

「もし着いて行かなかったら?」

「箱庭中に俺の推論を吹聴しまくるだけだ」

 

ギフトゲームで私が使用したのは一部分なので知られても致命的ではないが、手札はなるべく知られない方が良い。

十六夜の推論が外れている可能性もあるが、こいつの記憶力と洞察力は最初のギフトゲームで確認済みだ。外れていても遠からず、と言ったところだろう。

 

「はぁ、仕方がないな。ギフトゲーム云々については何を言っているかよく分からないが、取り敢えず付き合おう」

「ヤハハハハ。それじゃあ行こうぜ」

 

一応しらばっくれて十六夜の後を追いかける。身代わりを置いておけば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

と言うわけで今、私と十六夜の二人で世界の果てを目指しているわけだが…

 

「なぜ私を抱えているんだ!?そ、それにこれは」

 

十六夜が腕で私の胴を抱え込み、もう一方の腕を私の膝の下に入れて足を支えている。所謂お姫様抱っこと言うやつだ。

 

「お前と一緒だと全力でスピード出せないからな」

「抱えることは問題ない。なんでこんな抱え方なんだ!!」

「なんだ不満か?じゃあ首根っこ掴んで引きずってやっても」

「お断りだ!し、しかし、これはいかんせん…」

恥ずかしすぎる。

 

考えてもみてくれ。元の世界で、私は友人でさえ両手で足りるほどしかいなかったのだ。男子との接点なぞほぼ無かったといっていい。

そんな私が、先刻知り合ったばかりの十六夜にこんな抱き方をされている。平気なほうがよっぽどどうにかしているだろう。

それに、なにやらチラチラと視線を感じるのだ。おそらく森の魑魅魍魎たちだろう。誰も見ていないならまだしも、こんなに視線を送られると恥ずかしくてたまったものではい。

 

「ヤハハハハ。恋愛指南によく呼び出される狐狗狸さんも、実はうぶだったってか?」

 

ピシリと空気が凍りつく。

十六夜は立ち止まり私を降ろした。

 

「ふう、ビンゴだ。私のギフトが狐狗狸さんの霊格に基づいているとまで分かるとはな。うまく隠したつもりだったんだが」

 

先ほどの半分の速度、私が着いていける速さで進み出す。

 

「ヒントはあったぜ。春日部の『吸い寄せられた』という言葉やカードの選択中一切動かなかったお前。カードの選択を強制させるのは催眠か憑依位だから、狐憑きの類だろうと推測したわけだ。なおかつ指の誘導と言ったら狐狗狸さんだろ」

「催眠か憑依だと言うところまではいいが、いきなり狐憑きというのはいささか早計じゃないか?」

「ハッ。お前の容姿を見たら狐憑き以外考えられないぜ」

 

……忘れていた。今の私には素敵アイテムが2つ着いていたな

 

「何かしらトリックを使った可能性もあるが」

「そのセンも無いわけではないが…」

 

十六夜がこちらの考えはお見通しとばかりにニヤリと笑う。

 

「ギアスロールにあからさまに書かれた『ギフトの使用に制限はかけない』という文言と、それを隠そうとするようなイカサマ云々のミスリード。確かにあの手のモノは本質が単純であればあるほど有効に働くもんだ。現にあの3人は見事に引っ掛かっていたからな。ただ原点に立ち返ればすぐに気づけるぜ。あれが“ギフトゲームである”という原点にな」

 

私は言い訳を続ける。

 

「偶々偶然っていう可能性が2割のこっているが?」

「春日部が引いたスペードのクイーン。あれは最初のギフトゲームで春日部が引いたカードとおなじだ。53枚のカードの中から引いたカードが連続で同じなんてこと、何かしら人為的なものが働いてるとしか思えない」

 

洞察力、知識、思考の柔軟性。あれだけの情報でここまでピタリとあてるとは、どれをとってもトップレベルだろう。

 

「降参だ。見事としか言いようがないよ。確かに私のギフトは狐狗狸さん、というよりは狐憑きそのものだな。大正解だよ十六夜」

 

両手をあげそう言うと

 

「その身体能力も狐憑きか?随分と高尚な奴らしいな」

 

そう十六夜が返してきた。言葉の端々に皮肉がみえる。

まったくやりにくい相手だ。

 

「さあ?どうだろう。今はただの同伴者である十六夜には話せないな」

「そりゃ残念だ。後の楽しみにとっておこう…っと着いたみたいだぜ、世界の果てに」

 

視界が開けるとそこには壮大な瀑布が轟いていた。

 

 

 

 

 

 

世界の果て、トリトニスの大滝に見惚れていると水面が盛り上がり、身の丈30尺強はあろう巨大な蛇が現れた。

 

「久々の来訪者が脆弱な人間とはな。少々驚いたぞ。さて、ここに来たのは我の試練を受けに来たのだろう?勇気、知恵、力の3つから試練を選べ。まあ、ひどい怪我をしない程度にしてやるから安心しろ」

いかにも威風堂々といった風に口上をのべる蛇神。しかしその尊大な態度が十六夜の遊び心をくすぐったらしい。

 

「ハッ、ご高説な口上ありがとよ。ただアンタが俺達を試せるのかどうか甚だ疑問だぜ」

 

そういうや否や十六夜は地面を蹴って飛び上がり、蛇神の頭を掴むとそのまま水面に叩きつけた。

 

「オラオラァ!!そんなもんかオイ!」

 

間髪いれずに何時の間にか拾っていた礫を投合する。第三宇宙速度に匹敵するソレで投げ込まれた礫は蛇神の姿を水中に沈めた。

 

「あまり飛沫を飛ばすな十六夜。せっかく乾いた服がまたびしょ濡れだ」

 

水柱をあげるほどの礫だが、手加減したのかほとんどが直撃していない。

 

と、そこに髪を淡い緋色に染めた黒ウサギがやって来た。

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

「世界の果てまで来てるんですよ、っと。あれ?一葉、お前身代わりを置いてきて無かったか?」

 

小憎たらしい笑みを黒ウサギに投げ掛けながら十六夜が私に問う。

 

「あれはただのメッセンジャーだ。流石に親切にしてくれている人を出し抜くわけにはいかないからな。」

「そうは言いつつもしっかり時間を稼がせてたじゃないですか!」

 

まあ、私のギフトについて話しているときに追い付かれたら困るからな。

 

「それはともかく!お二人ともご無事で良かったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

「いや、十六夜は挑んだぞ。あれを挑むと言って良いのかどうかは分からんが」

 

私の言葉に、え?と硬直する黒ウサギ。

その瞬間水面が激しい水飛沫をあげ蛇神が鎌首をもたげた。

 

「まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!」

 

その身を怒りに震えさせる蛇神。

 

「どっ、どうしたらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!」

 

黒ウサギの言葉に十六夜はケラケラと笑いながら事の顛末を話す。

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこといってくれたからよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

「貴様っ………付け上がるな人間!我がこの程度のことで倒れるか!!」

 

蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち上る。

まるで巨大なミキサーだった。あれに巻き込まれたら最後、普通の人間ならば容赦なくちぎれ飛ぶだろう。

 

「十六夜さん、下がっ、んん~!?」

「邪魔をするな黒ウサギ。十六夜に叩き潰されるぞ」

 

十六夜を庇おうとする黒ウサギを制する。蛇神程度の相手なら心配することはないだろう。むしろ邪魔をするとこちらに危害を加えかねない。

黒ウサギも始まってしまったゲームには手出しできないと気付いて歯噛みする。

 

「さあ来いよ、水神様ァ!人待たせてんだ。次で終わりにしようぜ」

「いいだろう。もしこの一撃を凌げたら貴様の勝利をみとめてやる」

「寝言は寝て言え。決闘は勝者を決めて終わるんじゃない。()()()()()()()()()()()()

 

求めるまでも無く、勝者は既に決まっている。

その傲慢極まりない態度に私と黒ウサギは頭を抱え込んだ。

 

「フン、その戯言が貴様の最期だ!」

 

蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。何百トンもの水を吸い上げ、水のミキサーは更に凶悪なモノへと変貌する。

竜巻く水柱は3本。それぞれが生き物のように十六夜に襲いかかった。

 

「ハッ、しゃらくせえ!!」

 

おそらく“神格”と呼ばれるギフト。それで造り上げた激流を十六夜は腕の一振りでなぎ払った。

 

「うそ!?」

「バカな!?」

 

驚愕する黒ウサギと蛇神。十六夜の力は人間が持てるそれを遥かに越えていた。

そうして放心した蛇神の隙を十六夜は見逃さなかった。

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

勢いよく地面を踏み切って繰り出された十六夜の蹴りは轟音と共に蛇神を身体を十メートルほど打ち上げる。飛ばされた蛇神はそのまま川へ落下し、辺りに水をぶちまけた。

 

「ったく、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらい出してもらわねーとたまったもんじゃないぜ」

 

そう冗談めかし十六夜はこちらに歩みをすすめた。

 




はい、主人公空気ですね。どうも十六夜君に力を入れてしまいます。

ヤバイよこれ。飛鳥とか耀とか書ききれる自信皆無ですよ。
主人公、十六夜以外はだいたい空気になる気がします。執筆スキルと時間が足りない\(゜ロ\)(/ロ゜)/


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5話

ギャグ?なにそれおいしいの?

はい、というわけでギャグ一切なし(原作のネタを除く)で5話突入です。筆者にはギャグとネーミングのセンスが皆無ですよ。助けてください。


まあ、そんなダメ筆者は置いといて本編どーぞ。


十六夜に意識を刈り取られ川に横たわる蛇神。そいつを一瞥し私は口を開いた。

 

「黒ウサギ、実を言うと私達は試練なぞ受けていない。始まる前にこいつが奇襲をかけて、後は見たまんまリンチだったからな。この箱庭にも一応は法律のようなものがあるのだろう?どうやってこの状況を収集すればいい」

 

額から汗がひとすじ流れる。言ってみれば私達は通り魔となんら変わりない。

私がその後の身の振りについて考えていると

 

「大丈夫ですよ!」

 

と黒ウサギ。全く心配なんてしていない。むしろ嬉しそうに見える。

 

「蛇神様はギフトゲームの為にここにいらっしゃるのですから問題ないでしょう。それに十六夜さんは蛇神様本人を倒されましたからね。きっと凄いものが頂けますよー♪」

 

どうやら私の心配は杞憂だったようだ。

黒ウサギが小躍りしそうな足取りで蛇神に近づいていく。

それを十六夜が阻もうとするが、私が腕を掴み制止する。

 

「何だ」

 

十六夜が不機嫌そうな声で呟く。

 

「何をしたいのかは知らんが後にしてくれ。私は一刻も早く街に戻りたい。お前の我が儘にここまで付き合ってやったんだ。少しは私の言うことを聞いてくれてもいいだろう?」

「・・・。チッ、分かったよ」

 

私の言葉に渋々納得した十六夜が、木の苗を持って狂喜乱舞する黒ウサギに声を掛ける。

 

「おい、黒ウサギ。こちらの一葉姫がさっさと街に戻りたいんだと。早くしろ」

「は、はい!了解したのです!ってここまで来たのは十六夜さんが原因ですよね!?なんで黒ウサギが悪いみたいになっているのデスカ!?」

 

夫婦漫才はもういい。早く案内してくれ。

 

 

 

 

 

 

無事に街に着くとすぐに黒ウサギの説教が始まった。私と十六夜にではなく飛鳥と耀、そしてコミュニティのリーダーであるジンという少年に対してだ。

 

「な、なんであの短時間に他のコミュニティに喧嘩を売る状況になったのですか!?」「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!「一体どういう心算(つもり)があってのことです!」「聞いているのですか三人とも!!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。反省はしてるが後悔はしていない」」」

 

「だまらっしゃい!!!」

 

誰が言い出したのか、まるで口裏を会わせていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギ。いやはや本当に苦労人だ。私もこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「黒ウサギ、箱庭の地図も貰ったし宿屋代も貰ったんだ。私は一人で大丈夫だから明日にしっかり備えると良い」

「何をいってるのですか一葉さん!ギフトゲームで負けたのですからしっかりと面倒を見させていただきます、といいたいのですが・・・。今はお言葉に甘えさせて頂くのですヨ」

 

今にも崩れ落ちそうな黒ウサギに苦笑しながら、取り敢えず地図を見て宿屋を目指す。

 

 

 

 

 

宿屋にチェックインした私は当面の宿屋代を稼ぐために幾つかの簡単なギフトゲームに参加した。ギャンブルの類いで生活費を稼ぐのは自分でもどうかと思ったが、これがこの世界のルールなのだからしょうがない。

それに街のギフトゲームはどちらかというとアルバイトといった感じが強かった。例えば収穫した小麦を何分以内にどこどこにまで運べ、と言ったものだ。

ギフトゲームに負けても利益は得る、そんな商売魂には恐れ入る。

 

ギフトゲームの合間に×××というコミュニティについて聞いて回ったが、街の人たちは皆同じように言葉を濁す。その質問をしたとき誰もが顔に困惑と陰りを浮かべるのだ。

どうにも要領を得ないので私はここらで最も勢力が強いと言われるフォレス・ガロというコミュニティに向かった。しかしそこのリーダーも忙しいと私の話に全く取り合わず、挙げ句×××という名を出したら問答無用で追い返された。

 

日も暮れてきたので仕方なく宿屋に戻ろうとする途中、赤茶色のローブを羽織った人物と擦れ違った。振り返って見ると、どうやらそいつもフォレス・ガロにようがあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

ーフォレス・ガロ本部。二階、執務室ー

 

「約束通り鬼種のギフトは与えた。どう使うかはオマエ次第だ」

 

燃えるような夕焼けにブロンドの髪を染めながら少女は呟く。彼女の目の前にはフォレス・ガロのリーダーが倒れている。

 

「なにを企んでいる」

 

私がそう声を掛けると少女はピクッと肩を震わせて振り向いた。

 

「何者だ貴様。どこから涌いた」

 

鋭い目で私を睨み付ける。

 

「おいおい、ウジ虫みたいな扱いはよしてくれ」

「何が目的だ」

 

おどける私に有無を言わせない口調で詰め寄る。しかしそんなことで恐縮するような私ではない。

 

「貴女こそどういうつもりだ?不法侵入に傷害。この箱庭でも許されることではないだろう。理由を聞かせてもらおうか。因みに嘘をついても無駄だぞ」

「前者については貴女も同罪だけれど。まあいいだろう。このまま逃がしてくれそうにはないしな」

 

そういうと少女は語りだした。

 

 

 

 

結論を言うと彼女と共に行動することになった。

聞くと彼女は私の探していたコミュニティの元メンバーらしい。

元、というのは、彼女のコミュニティは魔王という存在に壊滅させられ、その際に仲間を助けるため彼女は自分の所有権を魔王にさしだした。今は魔王のものではないが、やはり他人に所有されているらしい。

 

「しかし、ノーネームとなった今でも私はあのコミュニティを愛している。以前魔王だった私は彼らにギフトゲームを強制し、少なくない犠牲を出させた。そのギフトゲームに敗北した私はどんな目に合わせられてもおかしくなかった。だか、彼らはこんな私を受け入れたのだ。信じられるか?仲間を傷つけた奴を笑顔で迎え入れたんだ」

 

そう自嘲しつつも彼女の声は自慢気だった。嬉しそうだった。

 

「だから、ノーネームに入った新人を試さねばならない。彼らが中途半端な者たちだったら私の仲間たちが危険に晒されるからな」

 

そう語る彼女に私は彼女の感銘を受けた。勿論白狐の手がかりを見つけられるかもしれないという気持ちは有ったが、それ以上に彼女の人柄に惚れたのだ。自分の立場を悪くしてまで仲間を案じる彼女に。

 

「感動した」

「は?」

「元来プライドの高い吸血鬼がその矜持を捨ててまで仲間のために行動する、その心意気に感動した!私に出来ることがあったらなんでも言ってくれ。力の限り協力しよう!」

 

ブロンドの吸血鬼はポカンとした顔をしている。確かにこんな手のひらを反したように態度を帰れば驚くだろう。

いやしかし、私はこう言う仲間とかそういったモノに弱いのだ。現実でそんな友情は有り得ないと前の世界では友人を作らなかったが、三国志の桃園の誓いなどは心を震わせて読んだものだ。

 

「そ、そうか。それならば私の護衛を引き受けてくれないだろうか。今の私の所持者に途中で捕まる訳にはいかないから」

「任せてくれ。そう言えば名前を聞いていなかったな。私は早瀬一葉だ。よろしく」

「私の名はレティシア=ドラクレアだ。気軽にレティシアと読んでくれ」

 

 

こうして私はレティシアと行動を共にすることとなった。

 

 




レティシア姐さん登場です。原作のガルドとのやり取りはめんどくさいので全部端折りました。
それより口調が被っとる!!
こんなところでまさかの大誤算!ゴチだったら完璧にクビレース入りです。

え、なに?主人公狐だから金髪まで被ってるって?
バカをいっちゃ行けません。一葉の髪は白を基調とし、毛先に向かうにつれて段々と金髪になっているのです。長さも肩辺りまでです。
いや、ほんとに。後付けとかじゃないんです。ちょっ、石投げないでください。第三宇宙速度とか洒落にならない




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6話

はい、ガルドとのギフトゲームです。
途中からプレイヤー側に視点が切り替わります。結果はほぼ原作通りですが、耀に重点を置いた展開となります。
楽しんで頂けたら幸いです。


ーギフトゲーム当日ー

 

 

「ふむ、来たようだぞ」

 

ここはフォレス・ガロ居住区からやや離れた高台。ゲームの舞台がよく見えるここで私とレティシアは観戦を行う予定だ。

 

「まったく化物じみた視力をしているな。目を凝らしても私には良くわからないよ」

 

私もギフトを手に入れて身体能力等の基本スペックは相当上がったのだが、ポツリと点が見えるだけで人とは判別できない。

持ってきた双眼鏡を目にあてる。

 

「あれは…黒ウサギ達か!?」

「なんだ、知ってたのか?」

 

レティシアが驚いた顔で私をみてくる。

 

「ああ、私がこの世界に来たときに一緒だったんだ。しかしまさかなあ」

 

いや、考えてみればヒントはあった。気づかなかった己の思慮不足だ。

 

「ふむ。では一葉からみてあの者たちはどうなのだ?」

「あー。耀と飛鳥、あの女の子二人だが、良く分からない。一緒だったのは短い時間だったしギフトも見ることができなかったから。ただ……」

「ただ?」

「金髪の学ラン、逆巻十六夜は強い。今の貴女なら太刀打ち出来ないほどだよ」

「ふふ、そうか。うん、それは良いな。しかしそれだとガルドでは役不足としかいえないな。どうしたものか」

 

それもそうだ。十六夜がこのゲームに参加すれば彼一人で容易くクリアしてしまうだろう。しかし、

 

「十六夜はこのゲームに参加しないだろう。彼には何かしらポリシーがあるらしいから」

 

昨日の飛鳥と十六夜のやり取りを思いだしそうレティシアにつげる。

 

「しかしその規格外の少年と時を同じくして呼び出されたとなると、あの二人にとってもガルドは敵でないかもしれんな」

 

そう思案するレティシア。ここは私が一肌脱ごう。

 

「レティシア、私がギフトを使おう。多少はマシになるはずだ」

 

そういってギフトを発動させる。

 

狐憑き(fox haunt)

 

これは私より霊格の低い者に乗り移り、支配すると言うギフトである。本来は完全に意識を奪って操るものだが、黒ウサギ達とのギフトゲームでやったように意識の誘導の様なこともできる。その場合は本来の性質とは多少異なる『狐狗狸さん(deriver of correct)』となるのだがそれは置いといて。

私はガルドの肉体を乗っ取った。

(さて、お手並み拝見といくか)

 

 

 

 

 

「駄目ね。ヒントらしいヒントは見つからないし、武器らしい武器も見つからないわ」

 

ふぅ、と溜め息をつく飛鳥。そこに一番高い木に登り索敵していた耀が降りてくる。

 

「もしかしたらガルド自信がその役割を担っているのかも知れない」

 

虎穴に入らずんば虎児を得ず。まさにその通りなのだが、武器がなければ一方的に攻められてしまう。リスクの低い一撃離脱をねらうなら、耀の力に頼るしかない。

 

「気が乗らないけれど、方針を変えましょう。まずは春日部さんの力でガルドを探して」

「もう見つけてる」

 

ジンと飛鳥は耀に目を向ける。

耀はレンガの残骸が残る街路を指し、

 

「本拠の中にいる。影が見えただけだけど、目で確認した」

 

彼女の目は普段とは違い、猛禽類を彷彿させるような金の瞳で本拠を見つめている。鳥の視力を以てすれば造作もない距離だったのだろう。

 

「流石ね、春日部さん。すばらしいわ」

 

そう飛鳥は耀を称賛し、三人は警戒しつつ本拠の館に足を進めた。侵入を阻むように道を侵食している木々はまるで命じられたかのように絡み合っている。

 

(これだけの量を鬼化させるなんて……まさか彼女が……?)

ジンは一人だけこのような芸当ができる人物を知っている。

レティシア。元魔王で仲間であった人。ジンの予想は正しいが、こんなところに来るはずがないと彼はその考えを振り払う。

 

「見て。館まで飲み込まれているわよ」

 

“フォレス・ガロ”の本拠地に着く。虎の紋様を施された扉は無惨に取り払われ、窓ガラスは砕かれている。豪華な外観は塗装もろともツタに蝕まれて剥ぎ取られていた。

 

「ガルドは二回にいた。入っても大丈夫」

 

内装もやはり酷いものだった。家具は打ち倒され、カーペットはズタズタに破れている。

三人はいっそうこの舞台への疑問を深めた。

 

「この奇妙な森の舞台は……本当に彼が作ったものなの?」

「……分かりません。“主催者(ホスト)”側の人間はガルドだけに縛られていますが、舞台を作るのは代理を頼めますから」

「代理を頼むにしても、罠の一つもなかったわよ?」

 

そう呟いた飛鳥に耀も同意する。

 

「森は虎のテリトリー。有利な舞台を用意したのは奇襲のため……でもなかった。そうだったなら私がもっと早く感知したから。それに本拠を破壊する必要もない」

 

そう、それが一番の疑問だった。この豪奢な本拠はガルドの野望の象徴とも言えるだろう。その本拠を意味もなくこんな無惨な姿にするだろうか。

三人は今までとは違う緊張感の中で散策を開始する。

瓦礫を掘り返し隅々まで調べるが、ヒントらしい物も武具らしい物も見つからなかった。

もしかしたら一本の針かも知れないし、持ち上げるのが不可能な鉄の塊である可能性もある。そんな不利な状況のなかゲームに挑んでいるのである。たとえ勝負には関係のない違和感であっても、慎重に事を運ぶのに越したことはないだろう。

後日、全くの杞憂であったことに三人とも溜め息を漏らすのだが。

 

「二階に上がるけど、ジン君。貴方は此処で待っていなさい」

「どうしてですか!?僕だってギフトを持っています。足手まといには」

「そうじゃないわ。上で何が起こるか分からないからよ。だから二手に分かれて、私達はゲームクリアのヒントを探してくる。貴方にはこの退路を守ってほしいの」

 

理に適った回答だが、ジンはそれでも不満だった。しかし退路の重要性は彼にも分かっている。ジンはしぶしぶ階下で待つことにした。

 

飛鳥と耀は根に阻まれた階段を物音立てずにゆっくり進む。階段を上った先にあった最後の扉の両脇に立って二人は機を窺う。意を決した二人が勢い良く飛び込むと中から、

 

「グ……」

「………GUUOOOOOoooo!!!」

 

格子を、ランプを、そして二人の髪を震わせる咆哮をあげて、虎の怪物が白銀の十字剣を背に立ち塞がった。

 

 

 

 

目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎を受け止めたのは、飛鳥を庇った耀だった。

体を捻ってガルドを投げ飛ばした耀は、階段に突き飛ばした飛鳥に向かって叫ぶ。

 

「逃げて!」

 

後の言葉は続かない。ガルドの姿は先日のワータイガーではなく、赤い瞳を光らせる虎の怪物そのものとなって三人を待ち構えていた。階段を守っていたジンはガルドの野望の姿を見るや否や、彼の身に何が起こったのか理解する。

 

「鬼、しかも吸血種!やっぱり彼女が」

「つべこべ言わずに逃げるわよ!」

 

飛鳥はジンの襟を掴んで階段から飛び降りる。

標的を逃がさないようにガルドが追いかけようとするが、

 

「貴方の相手は私」

 

耀がガルドの首を蹴り抜く。本棚に吹き飛んだガルドを横目に耀は十字剣に向かい、それを引き抜く。

 

「飛鳥には悪いけど此処で終わらせてもらう」

 

起き上がってきたガルドにそういって剣を構える。そこで耀はガルドの変化に気付いた。

 

(動きが穏やかになった?それに目の色も強く…)

 

そんなことを考えていると地面を踏切り虎が襲いかかってきた。耀はそれを飛び越えて避ける。

 

(余計なことを考えてもしょうがない。剣は手にいれたんだからこっちの攻撃も通るはず)

 

頭を切り替えて剣を振るう。端から見ていかにも素人だと分かる剣捌きである。大振りで隙も大きい。

しかし耀は人間離れした身体能力を持っている。普通なら剣に体を持っていかれる様な振り方でも力で強引にひるがえし、あり得ない速さで連撃を放つ。鬼化したとはいえ、十分に巨虎を捉えられるものである、はずなのだが…

 

避ける。避ける。避ける。

 

体勢を低くし、バックステップや横っ飛びを使い、時にはその爪で剣を受け流して虎は耀の攻撃を避ける。

 

(どういうこと?)

 

耀は疑問を抱いていた。このゲームでのファーストコンタクトはガルドの突進だった。いかにも獣といった攻撃でそこに理性は感じられず、この程度なら問題なく勝てると踏んで耀は剣を手に入れても退却しなかったのだ。

しかし目の前の虎には確実に理性が見受けられる。明らかに一度引いて味方と合流した方が無難だ。

しかし、

 

(ここまで来たら逃げるなんて考えられない)

 

普段はおっとりマイペースを貫いており、まったりとした印象を受ける耀だが、なかなか負けず嫌いな一面も持っている。確かに致命打は打てていないが、虎の方も防戦一方なのだ。ここで退くという選択肢は彼女には無かった。

 

何合か打ち合ったあと、耀は身を翻し窓から飛び降りた。虎もそれに続くとそこには剣を構える耀の姿があった。逃げたわけでは無かったらしい。

虎が爪を振るい耀に襲いかかる。が、彼女はそれを受け流し…

 

()()()()()()()()

 

彼女のギフト“生命の目録(ゲノム・ツリー)”は友となった種の特有のギフトを得るという性質を持つ。彼女は昨日、幻獣グリフォンと心を通わせ彼らの持つ“風を操る”ギフトを手にいれたのだ。今回の砂嵐はそれを応用したものである。

習得したギフトを一日でこのレベルまで使いこなせる所を見るに、かなりの才能の持ち主だ。汎用性のあるギフトを所持しているということもあり、ほぼすべての種類のギフトゲームに対応できるだろう。

 

その耀はグリフォンのギフトを使い、舞い上がる。超音波を使い虎の正確な位置を把握した耀は、虎の死角に回り込んだ。

 

(これで終わり)

 

足の裏に空気を圧縮し、弾丸の様なスピードで虎に襲いかかった。その突きは虎の喉元を確実に捉えている。砂で視覚、嗅覚、聴覚、触覚を封じ込めているため耀の攻撃を察知できるはずはなかった。なかったはずなのだが…

十字剣の切っ先は虚空を切った。虎が体をずらし、耀の攻撃を避けたのだ。

 

(どうして!?)

 

戸惑う耀。その驚愕が攻撃後の隙をさらに大きくする。

結果、振り抜かれた虎の腕に耀は吹き飛ばされた。

 

「ぐっ、うぅぅぅ」

 

地面に打ち付けられた耀。戦えないこともないが状況はかなりの不利になっている。

 

「……ッハァハァハァ」

 

荒い呼吸をする耀に虎は悠々と近づいてくる。

 

(こうなったら一か八か、正面から一騎討ちを狙う!)

 

頭に血が昇っている耀は退却という選択肢を思い付かなかった。非常に不味い状況だろう。一騎討ちは下手をすれば致命傷を受けるのだから。

 

「ンッ!!」

 

耀は地面を蹴り虎に突進する。対して虎は動かなかった。直線的な攻撃は引き付けて良ければ最大の攻撃のチャンスである。耀の攻撃を避けた後、一撃を叩き込むつもりだろう。こうなると耀には最悪である。しかし、

 

『木々たちよ、()()()()()!』

 

凛とした声が一喝、鬼種化した植物が一斉に虎へ枝を伸ばした。

不意の攻撃に虎は反応できずに拘束される。動きの止まった虎に耀の剣が一閃する。

 

「GEEEEEYAAAAAaaaa!!!」

 

断末魔と共に虎の体は消え去った。

 

 

 

 

 

 

鬼種化したガルドを倒し一段落の一行。だが耀の戦いは終わっていなかった。

 

「あの、飛鳥?私一応負傷しているんだけど…」

 

正座した耀がおずおずと手を挙げる。

目の前には飛鳥が仁王立ちしていた。

 

「春日部さん、私達に何か言うことがあるのでは無いのかしら?」

「えっと、手柄を独り占めしようとしてごめんなさい」

「違うでしょう!私が言っているのはどうして危なくなったときに退かなかったかということよ!」

 

飛鳥は鋭い口調で言う。

 

「手柄云々については、まあシャクだけどなにも言わないわ。私達がそこまで信頼されていないことは会って間もない今、仕方のない事よ」

「そんなことは…」

「それよりもどうして危なくなったときに逃げなかったの!あのまま私が来ずに突進していたら貴女死んでいたわよ!!」

 

飛鳥の怒りは蔑ろにされたからではない。多少はそこに対する怒りも含まれていたかも知れないが、彼女は自分がまだまだ力不足だと自覚している。

彼女は本気で耀の身を心配しているのだ。心を通わせる事のできる友人の身を案じての怒りだった。

 

「ごめん、飛鳥。頭に血が昇ってた。」

 

それに気付いたのだろう。耀も素直に謝る。

 

「分かってくれたなら良いわ。次からはこんな無茶しないでちょうだい」

 

飛鳥も素直な耀に溜飲を下げたようだ。その目が穏やかなものに変わる。

 

「それでは早く耀さんをコミュニティの工房に連れて行きましょう。あそこなら治療用のギフトが揃っていますから」

 

説教が終わったところでジンが声をかける。彼の言う通り、命に別状はないと言っても骨にヒビが入っているかも知れないのだ。

飛鳥とジンで耀を支えようとする。

 

「私は大丈夫だから…」

「いいから大人しくしてなさい。友人に無理などさせられないわ」

 

耀の言葉を遮って飛鳥は耀に肩を貸す。

 

「…ありがとう」

(この世界で初めての友人が飛鳥でよかった)

 

友人に寄りかかる無口な少女の顔には嬉しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 




いつもより少し長くなりました。
ていうか三人称使いやすっ!!
正直一葉sideも三人称でいこうかな~とか考えてます。皆さんの意見も聞きたいのでアンケートを取るかも?

話は変わりますが、アンケートは取り敢えず置いといて活動報告がありますのでそちらに目を通してください。更新が一旦止まります。


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7話

今回はほぼ原作通りに進みます。前半は端折っても良かったのですが、それだと原作を知らない人は話が分からなくなると思ったので書きました。

また今回から地の文が三人称になります。主人公の影がどんどん薄くなっていますorz


ゲーム終了を告げるように、木々は一斉に霧散した。樹によって支えられていた廃屋が倒壊していく音を聞いて黒ウサギと十六夜は走り出す。

 

「おい、そんな急ぐ必要ねえだろ?」

「耀さんが怪我をされたらしいのです!生死に関わるほどでは無いようですが…」

 

黒ウサギは“審判権限(ジャッジマスター)”として、その耳に驚異的な情報収集能力を秘めている。常時使えるようなモノではないが、このギフトゲーム中は使用しておりゲーム内容は把握していた。

 

「あら、黒ウサギ。私達の凱旋だと言うのにそんな顔は無いんじゃないかしら」

「余裕だった。私と飛鳥のコンビネーションにかかればあんなの一捻り」

「耀さんは怪我しているんですから無茶しないでください!」

 

そんな黒ウサギの心配を他所に耀達は意気揚々と帰ってきた。

ジンが黒ウサギに駆け寄る。

 

「黒ウサギ、耀さんは足首と肩を痛めてる。コミュニティの工房に運んで治療を」

「ジン、私は大丈夫…」

「ダメです。内臓にもダメージがあるかも知れませんから先にコミュニティに戻っていて下さい」

 

抗議する耀をピシャリと封じ込めるジン。耀は渋々ながら黒ウサギに抱かれて工房へ向かった。

その姿を見て、十六夜は値踏みするような目で見送る。

 

「おい御チビ。黒ウサギは治療のギフトなんかを持っているのか?」

「いえ、僕らの工房においてあるギフトです。しかし扱いが難しい為、彼女しか使えないものばかりです」

 

それはつまり、黒ウサギでなければ治療が行えないのと同義である。

十六夜はその結論に満足そうに喉を鳴らして笑うと、独り言のように呟いた。

「やっぱりアイツが一番面白いな。俺並みには程遠いも、“ノーネーム”じゃ明らかに別格だ」

 

十六夜の興味の対象はコミュニティや彼と同じ境遇の二人よりも、専ら黒ウサギに注がれていた。

“ノーネーム”に協力してやってもいい、という程度に関心を持っているのも、全ては黒ウサギの献身的な姿に思うところがあったからだ。

“箱庭の貴族”と謳われるウサギ達。容姿端麗で強靭不屈。修羅神仏が集うこの箱庭で強者として生まれ、万人の寵愛を得られるはずの彼女がどうして“ノーネーム”なんかにその身の全てを捧げるのか。十六夜はそれを知りたかった。

 

「恋愛感情なんかだったら納得しやすいんだかな……肝心のリーダーがこれじゃあな」

 

チラ、とジンを見下ろす。目が合うとジンは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ん?どうして頭を下げる」

「だって僕は結局……何も出来ず仕舞いでした」

「ああ、そういうこと。でもお前達は勝っただろ?」

 

十六夜の言葉には皮肉も嘲りも、ましてや称賛すら含まれていない。

ジンが不思議そうに顔をあげると、十六夜は続けて補足した。

 

「お前達が勝った。なら御チビにも何か要因があったんだろ。見た限り春日部への応急処置もお前がやったらしいしな」

「は、はい」

「ならそれでいいんじゃねえの?それより、初めてのギフトゲームだったんだろ?楽しめたか?」

「……いえ」

 

苦い顔で首を振る。勝利を飾ったものの彼はゲーム攻略にほとんど携わっていない。二人で十分な相手だと言えばそれまでだが、ジンは己の無力さに失望していた。

 

「昨夜の作戦……僕を担ぎ上げて、やっていけるのでしょうか?」

「名も旗もない俺達に、他の方法で宣伝をするのは無理だと思うけどな。御チビ様が嫌だと仰るなら止めますデスヨ?」

 

からかうような尊敬語で話す。ジンは一拍押し黙り、首を横に振った。

「いえ、やります。僕の名前を全面に押し出す方法なら、万が一の際に皆の被害を軽減できるかもしれない。僕でも皆の風避けぐらいにはなるかもしれない」

「……あっそ」

 

十六夜は少し以外だった。ジンは自ら己の名前を売り、打倒魔王のコミュニティのリーダーになろうというのだ。しかもこれから襲ってくる脅威が自分の名前に集められることを重畳だと生意気にも口にする。

本当に面白い場所に来たと、逆巻十六夜は哄笑を噛み殺すのだった。

 

 

 

その後十六夜とジンは“フォレス・ガロ”傘下だったコミュニティに“名”と“旗印”を返還した。討伐したコミュニティを傘下に加えずに恩を着せることによって、“ジン・ラッセルのノーネーム”という名を売るのだ。

ジン・ラッセルの名で打倒魔王のコミュニティを掲げ、同じく打倒魔王の同士を集めるのが十六夜の狙いだった。魔王から狙われやすくなる反面、覚悟のある強者が集まる可能性が高いこの作戦は、ギフトゲーム前夜に十六夜がジンに持ちかけたものである。ジンはとあるゲームに十六夜が参加することを条件にこの作戦を飲んだのだ。

今回の反応を見る限り、彼らの作戦は一先ず成功だろう。

 

 

 

 

本拠に戻った十六夜、飛鳥、ジンは耀の容態を確認しにいく。耀が治療を受けた工房とは、ギフトを用いた儀式を行う場所である。

“ノーネーム”を襲った魔王はギフトを保管していた宝物庫には手付かずでいたため、工房には様々なギフトが残っている。しかし扱いが難しいものや使い手を選ぶものが多いため市場に卸す事もできず、宝物庫の肥やしとなっているのだ。

見舞いの後に談話室で寛いでいた十六夜は黒ウサギに呟いた。

 

「春日部の傷明日には治るんだって?流石は神様の箱庭ってことか」

「Yes♪そこまで深手というわけでもありませんでしたから、すぐに良くなりますよ!」

「ま、たいした怪我じゃなくてよかったぜ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

十六夜と黒ウサギの二人は本拠の三階にある談話室で、仲間が景品に出されるゲームの事を話していた。ジンが十六夜に参加するよう頼んだゲームである。十六夜が参加してくれると聞いて歓喜していた黒ウサギは、申請から戻ると一転泣きそうな顔になっていた。

 

「ゲームが延期?」

「はい……申請にいった先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪めて落ち込んでいる。

十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

 

「なんてつまらないことをしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手が付いてしまったそうですから」

 

十六夜の表情が目に見えて不快そうになる。十六夜は盛大に舌打ちした。

 

「チッ。所詮は商業コミュニティってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいとこだ。“サウザンドアイズ”は巨大コミュニティなんだろ?プライドはねえのかよ」

「仕方がないですよ。“サウザンドアイズ”は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は“サウザンドアイズ”の傘下コミュニティ“ペルセウス”。巨額のお金や協力なギフトを積まれれば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

達観したような物言いの黒ウサギだが、悔しさで言えば十六夜の何倍も感じている。それでも黒ウサギには何も出来ない。

ギフトゲームはこの箱庭世界の法。敗者として奪われた仲間を取り戻すのもギフトゲームでしかないのだ。今回は運が無かったと諦めるしかない。

 

「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

「そうですね……一言で言えばスーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、流れる大河を彷彿させます。」

「うんうん、その通りだ。それに凛としたその佇まいと才知はは箱庭の騎士として恥じるところがない。才色兼備を体現しているよ」

「本当にその通りです……って一葉さん!?いつの間にいらしたのですか!?」

 

当たり前のようにそこにいる一葉に、黒ウサギは驚愕を隠せない。

 

「驚くのはまだ早いぞ黒ウサギ。今日のメインゲストは私じゃないんだから」

 

そう悪戯に笑って窓を指差すと、そこには件のレティシアがいた。

「二人とも誉めすぎだ。今の私は他人に所有物に過ぎない」

 

そう苦笑してレティシアは談話室に入る。美麗な金髪を特注のリボンで結び、赤いレザージャケットに拘束具を放物させるロングスカートを着た彼女は、黒ウサギの先輩にしては随分と幼く見えた。

 

「こんな場所からの入室ですまない。ジンには見つかりたくなかったからな」

「い、いえ。全然構いません。それよりどのようなご用件ですか?」

 

レティシアは他人に所有される身分。その彼女が主の命もなく来たと言うことは、相応のリスクを負ってこの場に来ているのだろう。

ならばただ会いに来たわけでは無いはずだ。それなら彼女はジンにも顔をみせていただろう。ジンに聞かれては不味い話をしに来たと推測するが、レティシアは苦笑して首を振る。

「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティがどの程度の力を持っているのか、それを見に来たんだ。ジンに会いたくないのは会わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」

「わるかった。私も少々興奮してしまい、全力を奮ってしまったから」

 

そういって謝る一葉とレティシア。そこで十六夜が口を挟んだ。

 

「一葉。その口調だとお前もギフトゲームに参加していたようだが……ホスト側の参加者はガルドしか許されて無かったはずだぜ」

「前に自分で言ったじゃないか。『お前の能力は狐憑きだろ』って」

「ガルドに憑依していたのですか。だから飛鳥さんと耀さんがあんなに苦戦されたのですね」

 

納得する二人をみてレティシアは本題に入る。

 

 

 

 

「最初、私は黒ウサギ達を止めようと思っていた。ノーネームからのコミュニティの再建。それがどれだけ茨の道かは少し考えれば分かることだ」

「………」

「コミュニティを解散するよう説得するため、ようやくお前達と接触するチャンスを得たとき………看過出来ぬ話を耳にした。神格級のギフト保持者が黒ウサギ達の同士としてコミュニティに参加したとな」

視線が十六夜に移る。おそらく白夜叉に聞いたのだろう。

四桁の外門に本拠を持つ“階層支配者”の白夜叉が、最下層である七桁の外門に足を運んでいた理由は、秘密裏にレティシアを此処まで連れてくる為だったのだ。

 

「そこで私は一つ試したくなった。その新人達がコミュニティを救えるだけの力を秘めているのかどうかを」

「結果は?」

 

黒ウサギが真剣な双眸で問う。レティシアは顎に手を当て思案する。

 

「なんといったものか。彼女達二人はまだまだ発展途上で判断に困る。しかし成長すれば間違いなくこのコミュニティの最大戦力になるだろう。それほどのポテンシャルを秘めている」

 

そう、ギフトゲームで飛鳥と耀は素晴らしい働きを見せた。強力なギフトを使いこなす柔軟性と発想力も持っている。しかし十六夜の作戦で魔王に目を付けられる可能性が急増したのだ。あの二人ではまだまだ魔王に太刀打ちできないだろう。

そう思案するレティシアに十六夜が声をかける。

 

「魔王相手にこのコミュニティが戦えるかどうか不安なんだろ、アンタ。その不安俺がぬぐいとってやるぜ。表に出な。俺の力はまだ分かってないだろ?」

 

そういって不敵に笑い、窓から外に飛び出す十六夜。それに続きレティシア、一葉も飛び出す。

 

「ふふ………いやはやなんとも分かりやすい。初めからそうしていればよかったなあ」

 

十六夜と相対したレティシアは口に手を当て愉快そうに笑っている。十六夜のほうもその顔に獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「さて、ゲームのルールはどうする?」

「どうせ力試しだ。手間隙をかける必要もない。双方が一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

「受けきれなかったら負け。いいね、シンプルイズベストって奴?」

「さて、そろそろ始めようか」

 

レティシアは黒い翼を広げて飛び上がり、金、黒、赤のコントラストで彩られたギフトカードを取り出す。

 

「レ、レティシア様!?そのギフトカードは!!」

「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、これが決闘であることに変わりはない」

 

ギフトカードが輝き、封印されていたギフトが顕現する。

光の粒子が収束して外殻をつくり、それが爆ぜると手には深紅のランスが握られたいた。

 

「互いにランスを一打投擲する。受けては止められなければ敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

「好きにしろ」

 

投擲用のランスを掲げる。

 

「ハァア!!!」

 

レティシアが呼吸を整え、全身をしならせた反動で打ち出すと、その衝撃で空中に視認できるほどの波紋が広がった。

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に熱を帯び、一直線に十六夜に向かう。

流星の如く大気を揺らして突っ込んでくる槍を前に、十六夜は牙を剥いて笑った。

 

「カッ、しゃらくせえ!!」

 

十六夜はその拳を振りかぶると

()()()()()

 

「「………はっ!??」」

 

素っ頓狂な声をあげるレティシアと黒ウサギ。

しかし此れは比喩ではない。他の表現の仕様もない。レティシアが放った槍は鋭い先端も高緻に細工された柄も、たった一撃で拉げて只の鉄塊と化し、第三宇宙速度に匹敵する速度で跳ね返されたのだ。

(ま、まずい………!)

 

なんと馬鹿馬鹿しい破壊力。避けの一手を打つしかない。しかし驚愕により、思考に体か追い付かない。

鬼種の純血である彼女なら、たかが鉄塊ごとき振り払うことなど造作もない。しかし、今の彼女には馬鹿馬鹿しいほどの速度で迫るコレを退けることは不可能だった。

 

(こ……これほどか………!)

 

着弾する間際、苦笑が漏れた。尋常ではない才能を目の当たりにしたレティシアは、自分の目測の甘さを恥じ入る。しかし同時に安堵した。

これほどの才能ならばあるいは……と、血みどろになって落ちる覚悟を決めたとき、

 

「「レティシア(様)!」」

 

黒ウサギがレティシアを抱え込み、一葉が鉄塊を受け止める。

 

「な、何を!」

 

レティシアが声をあげる。だが、

決闘が邪魔されたことに対してでは無い。レティシアのギフトカードを黒ウサギが掠め取ったことに対する抗議の声だった。

だが黒ウサギは抗議には応じず、レティシアのカードを見つめて震える声で向き直る。

 

「ギフトネーム“純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”………やはりギフトネームが変わって…鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

「今の君に十六夜の相手は難しいと以前言っただろう?」

 

二人の言葉にさっと目を背けるレティシア。歩み寄った十六夜は白けたような表情で肩をすくませた。

 

「なんだよ、もしかして吸血鬼のギフトしかのこってねえの?」

「……はい。武具は多少残してありますが、自身に宿る恩恵(ギフト)は……」

 

十六夜は隠す素振りもなく盛大に舌打ちした。

そんな弱りきった状態で相手をされた事が不満だったのだろう。

 

「ハッ。道理で手応えが無いわけだ。他人に所有されるとギフトまで奪われるのかよ」

「それは違うぞ十六夜。彼女は……」

「一葉っ!」

「今更隠しようがないだろう?」

 

一葉の言葉に俯いてしまうレティシア。そんな彼女を見て十六夜は頭を掻きながら鬱陶しそうに提案する。

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

「……そう、ですね」

 

沈鬱そうに頷くレティシアと黒ウサギ。

 

そこに遠方から褐色の光が差し込んだ。

 




はい、七話も終了しました。読んでくださってありがとうございます。
今回で一時更新が止まります。楽しみに待って頂いている方、本当に申し訳ありません。詳しくは活動報告を見てください。

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