ウマ娘小話  (尾坂元水)
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01 南の島のホーリックス 1話

好きな子の話を書きたいのは本能でしょう。
少しずつ書きます。
本当はあとがきとか活動報告のおまけとかにしたかったのですが、ネタが増えそうだったのでこちらに。
多分本編アニメでは描かれないような子の不可思議な話が増えそうです。


「ホーリックシュー!! 頑張って!!」

 十重二十重の国旗の前、名を呼ばれたウマ娘は飛び上がって応援への返事をしていた。

「任せて!! わたしが勝って、キーウィの名を知らしめてやるんだから!!」

「ホーリックシュー!! がんばえ!! がんばえ!!」

 仔ウマ娘たちが遠ざかる彼女の尻尾を追うように黄色い声の声援を叫び続ける。

 手をブンブン振って大きな声で満面の笑みで声援に応えていく。

「一番でビューンと走って、でもって!! 一番取って帰ってくるから!!」

 空港に詰めかけた仲間達に手を上げて、決戦の地へと飛ぶ。

 飛行機へと向かう搭乗口、声援の最後を聞ける場所に敬愛するウマ娘が立っていた。

 ブルネットのミドルヘアー、翠の瞳に優しい笑みで。

「ファーラップ……さん、私…….頑張ります」

 キーウィと中大陸を代表し大陸遠征に向かったことのあるファーラップは、遥かな後輩であるホーリックスの見送りに来ていた。

 自身の遠征は残念な結果に終わり、それが元で大陸と喧嘩になった有名ウマ娘でもある。

「ホーリックス、キーウィは昔からたくさんのウマ娘がいるけど国は小いしオセアニア全体を見てもレースで名を挙げたウマ娘も少ない。だからねきっと島国のウマ娘さんも大陸からくるウマ娘さんも貴女のことなんてしらないと思うわ」

 消極的、ナイーブとも取れる言葉に強張る顔のホーリックス。

 その頬を姉とも慕うファーラップが両手で包む。

「これはチャンス、貴女知らない者達にその脚を知らしめてあげなさい」

 状況は「負」ではないと輝く瞳に、感極まり唇を噛むホーリックス。

「はい!!」

 オセアニアの希望ホーリックスは此の年島国開催のJCへ招待され今向かう。

 洋々と飛行機に乗る彼女に惜しみない声援を送った仲間達、ヘースティングズのウマ娘達は機内に消えたホーリックスの姿に少しの不安を見せていた。

「頑張って……ホーリックス」

 ファーラップの優しい顔に困ったような笑顔を見せる。

 大勢のウマ娘やキーウィ人が手を振りホーリックスを応援し、ホーリックスも満面の笑みと大きな声で答えながら機内へと消える。

「ホーリックス……気負わず自分らしく走るのよ。貴女は強い仔だから……きっと」

 心に言い聞かせるような言葉を胸に、ファーラップは彼女を心配していた。

「ああでも……大丈夫かな、あの子……元気に見せているけど……」

 

 

 

「うっうっう……さみじいよぉ、一人はいやだよぉ……」

 耳をペタンと頭隠して体ははみ出ているが、戸棚に張り付くように座ったホーリックスは、震えながら泣いていた。

 ここは島国、トレセン学園外来ウマ娘のために用意された部屋がある寮。

 ホーリックスはレース当日までをここで過ごすことになっていたが、最初の1日目から泣き続けていた。

 空港にきたお迎え、外来ウマ娘をもてなす宿泊施設兼寮の長と呼ばれるウマ娘の前では笑顔だった。

 自分を見る島国の人達の前でも笑顔で手を振って見せ、握手に応え、トレセン学園から歓迎と称した複数の生徒とトレーナー達の挨拶にも率無くこなし、部屋に戻ったところで突然寂しくなってしまった。

 プライベートが守られる一人部屋だが、故にすべてを遮られた孤独の世界とも言える。

 ポツンと隔絶されたドアの前で、張り詰めていた気の糸は切れ、そのままペシャント座り込んでいた。

 思い返せばキーウィからはこの国はとても遠い、気象も真逆で暖かかった故郷とは打って変わって寒いのに驚いた。

 同じ夏冬があったとしても、寒さに柔らかさを感じないのは初めてだった。

「うぇぇぇぇぇん、えぇぇぇぇぇん、ざみじぃよぉおおお」

 ホーリックスは寂しさが募りすぎて部屋から抜け出していた。

 たった1人の部屋の中に居続けるなんて無理だった、1も2もなく、キーウィの仲間の声が聞きたい。

 ここでは聞きなれない言葉ばかりが流れて自分は果てしなく独りだと実感してしまう。

 壁で隔絶された部屋に居続けるより、何かわからなくても声のする場所に居たくて部屋を後にしたが、初めての場所で電話を探すのは不可能だった。

 あっという間に砕けた心で、今度は廊下に座り込み泣いていた。

 手に持った化粧用コンパクト、開いた鏡で涙でくしゃくしゃになった自分を見て。

「泣いじゃダメ、がんばるゥ゛のぉ、がんばるの、ホーリックスがんばるのぉ」

 自分相手に自分を励ますという最終手段に入ったところで、その声はかかった。

「うわぁどなんしたん? びっくりやでって……なんや招待ウマ娘さんか? 部屋わからんくなったんか?」

 涙で暮れるホーリックスへと声をかけたのはタマモクロスだった。

 寮の1階、小さなコミニティールームのソファと戸棚の間でうずくまっていたホーリックス。

 小腹を空かせて自室から降りてきたタマモクロスは間接照明だけになっている部屋の中で細くもぼそぼそと聞こえねお経のような声におっかなビックリ近寄り彼女を見つけていた。

「お化けかおもったやんか、って、どうしたんや、なんで泣いてるんや?」

「泣いでないよぉ」

 言われると恥ずかしい、体育座りでベソかいていたホーリックスは静かに立ち上がると振り返って。

「泣いでないりすぅ……」

「いや、泣いてるって自分めっちゃ泣いてんで」

「泣いでないよ、ルームがわがんながっただげなのぉぉぉ」

 一生懸命繕った顔、なんとか決めたいところなのに涙が全然止まらない。

 後から後から滝のように出る涙で、目をカッ開いてみせるホーリックスの顔は滑稽すぎる。

 タマモクロスは若干吹き出しそうになりながら、来ていたチャンチャンコで口を隠して。

「うそやん、めっちゃ泣いてるやん自分。それに部屋わからへんなっとるやんけ」

 笑そう、でもこの声はどこか暖かい。

 鼻をつーんと啜ったホーリックスは自分をおくってくれた仔ウマ娘達を思い出し、まだ涙が溢れて。

「泣いでないのぉ……たたざみじいの……」

 あれほどの大声援に押されてここに来たのに、右も左もわからないこの土地で寂しくて仕方ない。

 止められない涙と同時に本心もだだ漏れになっていた。

「さみしいんか?」

「寂しいよぉ、だってこの国の人誰もしらないし、私のこと誰もしらないし……誰も……1人も私を応援してくれないし」

 誰もいない、それは寂しいこと。

 タマモクロスも自らの身の上に重なるものがあった。

 鄙びた田舎から華やかな東京トレセン学園にやってきた。

 強気で腕を奮い故郷を後にしたが、その実心細くてたまらなかった日々があった。

 ましてや遠く離れた世界の端からきたウマ娘、一人で遠くに行くのは心細いに決まっている。

 気持ちは痛いほどわかる。

「だったらうちが応援したるわ!! ほれこれで1人必ずいるっちゅーことやで」

 海外から来たのなら言葉も異なる国から来たのなら、その寂しさは何十倍にもなって当然だ。

 「タマモン、ありがとぅ」

 こうしてホーリックスは日本で最初の友達を得てレースに向かうことになった。

 

 




まあね、逃げてるわけですライスから。
でも少しずつ書いてるし社会人にしてはまあまあ時間も作っているほうです。
最近刑事ドラマにはまっています。
早く2期が来ないと事切れそうですよ、お願いします!!


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02 南の島のホーリックス 2話

「はひー、ほんなに広いんか。うちも一回行ってみたいなキーウィ」

 暗かった部屋の中に間接照明を一つ、その明るさよりずっと弾けた明るい声が響く。

 寂しくて仕方ないホーリックスの口から出る話は故郷キーウィのことばかりだったが、見たことのない他国の話を聞くタマモクロスにとっては目を輝かすものばかりだった。

「山から谷間でずっーと誰もいない草原なの、でもでもたまに鹿が出てきて怖かったりするの」

「ごついなー、この写真のあっちの方まで家あらへんのか?」

「ないよ、真夏でも朝は寒くって10度いかないぐらいだけど走るのにはちょうどいいんだよ!! 気持ち良いの!!」

「ええなぁ」

 ホーリックスが見せたのは封筒に詰めた故郷の写真だった。

 綺麗に整理してファイリングする時間がなかったのか、2つある封筒にキーウィの山や川、その峰に咲く花、友達との写真と文字取りあふれんばかりの思いをつめた写真を次から次えとタマモクロスに見せては説明していた。

「ずっと山と谷と……ずっーと走れるの、ずっーとずっとあったかくって柔らかくって広くって、どこまでも走りたくなっちゃうの」

 思い出した遠いまなざしに、タマモクロスは目を輝かせる。

「はぁぁぁええなぁうちも行ってみたいなぁ」

「タマモンおいでよ!! 大歓迎だよ!! キーウィはとっても良いところなんだよ……だからレースが終わったら……一緒に……」

 弾んだ会話が細く途切れる、故郷を語りすぎた。

 唇をかんだ顔がタマモクロスの隣で静かにうなだれる。

「やっぱり……さびじいよぉ……さみじぃ……」

 思い出してしまえば、知らないこの土地はやっぱり寂しい。

 一度は止まった涙が懲りもせず溢れる顔にタマモクロスはタオルを前に出した。

「寂しいよなぁ、実家離れるのは寂しい。うちもわかるで」

 タマモクロスは嬉々として故郷を語るホーリックスを見て実感していた。

 涙のホーリックスに優しい笑みを見せると強く手を握り返した。

「うちもそうやったで、実家からここに来る時……めっちゃ寂しかったわ」

「タマモンも?」

「そうや、ここよりずっと田舎でな。ホーリックスんとこみたいにひろない、ちっちゃい商店街とおっちゃんやおばちゃん達と、なんもない田舎や。せやけどそこが一番好きなんや」

 大好きな故郷、互いが同じ思いを持っていたことで顔をあわせた。

 トレセン学園では郷愁を語ることのないタマモクロスだったが、今日は素直に話していた。

 話す理由もわかりやすい、目の前で泣いている海外から来たウマ娘が故郷恋しいというのだから、「情けないこと言うな」なんて言葉は出ない。

 あんなに泣いていた、本当に寂しいと理解できるから。

 いっときでも離れるのが寂しい故郷を、そこを背にしてここに来た。

 夢の舞台に上がるために慣れ親しんだ街を後にした。

 海を越えるというのは寂しさも倍増だろう、まして言葉もしれない人で溢れる土地での疎外感は強烈なものだ。

 「わたしもキーウィ好き……応援してくれるみんなのために一生懸命走るの……でもわたしを応援してくれる人はこの国はいないの……すごく怖いの……」

「えっ怖いってなんでや?」

 寂しいはわかったが怖いというのは理解の外だった。

 タマモクロスはキョトンとした目でホーリックスを見たが、その表情に嘘は見えなかった。

 ただ泣いている顔というよりも瞳の奥にある怯えは本物で思わず両手を取った。

「うちが応援したるで!! 寂しいもないし怖くもないで!!」
「でもタマモンはこの国のウマ娘でしょう、地元の子を応援してあげないといけないでしょう」

 言われて気がつく寂しさの根源。

 遠い遠い故郷、海を渡って大きな大きな大会にやってきた。

 トレーナーとていう味方はいるだろうけど、レース場に入れば孤独な戦い。

 自分を呼ぶ声がなかったらという恐怖は手に取るようにわかる。

 だからわかるように取った手で立ち上がって宣言した。

「約束する!! うちはホーリックスだけを応援するで!!」と。

 

 

 

「悪いな、うちは今度レース……ホーリックス応援することにしたから」

 はぁ?

 中グラウンドに集まったイナリワン、スーパークリーク、オグリキャップは目の前で仁王立ちにて宣言したタマモクロスを見ていた。

 夕暮れ時のグラウンドはすでに暗がりの幕を広げている。

 冬の野外レーニングは早く切り上げるものだが、ここに揃ったメンツは今度のレース、ジャパンカップに出場するトレセン側のメンバーだ。

「えーと、タマちゃん、ホッリックスさんって大陸から来るウマ娘さんですよね?」

 タオルをかぶって汗を拭くスーパークリークは口から煙を吐くほどの運動をこなしていた。

「ちゃうわ!! もうきとるよキーウィからきとるんよ」

 とぼけた顔のクリークにタマモクロスも今しがた知った存在を語るも、私なりに立つイナリワンは口をへの字に曲げて間を割る。

「なんでいなんでぃタマ公。あたいらが出るのに無視すんのか? ああん自分でられんからて敵を応援するのか!!」

「敵とか言うなや!! 遠いところから……1人きりでこの国まできてんねん、誰かが応援してやらんと寂しいやんか!!」

「それで応援すると決めたのか?」

 汗だくつゆだくで白いオーラをまとっているようにも見えるイナリとクリーリの中、一人だけ呼吸も静かなオグリキャップはいつものとぼけた声で聞いた。

「せや、わかるやろオグリ」

 真面目なタマモクロスの顔にオグリキャップはただ「うん」と頷いた。

 みんなわかっている、クリークもイナリも軽く頷く。

 1人できた挑戦者に冷たく当たることを快いとは思わない仲間達。

「タマ公がそう思うなら力一杯応援したれ!!」

「タマちゃん、わたしたちも応援するよ!! 同じレースを走るものとして励ましまて!!」

 くる大会に島国勢は地元であることを考えれば応援は十分にある。

 海を渡ってきた同じウマ娘を「寂しくないように」応援したいというタマモクロスの思いは十分に伝わった。

 2リッターの水を一気飲みしたオグリキャップは笑顔で、そして決意を込めて返事していた。

「タマ、いっぱい応援してあげろ、でもレースは譲らないわたしが勝つから」

 オグリの決意にイナリワンが吠えてクリークが笑う。

「てやんでぇい!! あたいだって勝ちに行くからな!!」

「わたしもですよ!!」

「おおう!! みんながんばれ!! ホーリックス応援する!! でもみんなのことも期待しとるで!!」

 違いが気合で振りあげる拳。

 ジャパンカップ、その日は迫っていた。

 

 

 

 

 




松の内にできることをして勘を取り戻したたいのです。
あと1わでホーリックスは終わりかな。


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03 ここより世界へ~Life is beautiful~ 1話

まあ支離滅裂、いろいろ書いてるからこうなる。
筆者は病気ですね。
そしてあまり知られていないウマ娘の話なので、気が向いた方が読んでくだされば嬉しいです。


 タンタンタンタンタンタン。

乾いた拍手というか手拍子は室内トレーニングルームに、その音と同じく淡白な響きを延々と続けている。

 時計の針が秒を刻む、まさにそれを手を打って教える。

 石造りの壁に高い天井、薄暗い中を開かれた天窓から入り込む光。

 埃が煌めきの砂粒のようにキラキラ舞い、室内に敷かれた木の床の上を複数の脚がステップを踏む。

 先生は厳しかった。

 田舎娘ばかりのウマ娘たちらバレエの基礎から教え、ドレッサージュの基本を徹底的に学ばせた。

 これができれば集団舞踊ができ、極めれば女優にもなれた。

 だから先生はいつも厳しかった、厳しくも優しい人だった。

 優しかったからこそ、妥協せず自分を舞踊の隊列には加えてくれなかった。

「……あなたにこの世界は狭すぎるのよ」

 優しくも悲しい目で舞台を追われたあの日、悲しくて泣きながら走ったのを良く覚えている。

 あの日、華やかな世界を夢見た自分は仲間と同じ道を行く事はなかったけど、あの人に出会ったのだから。

 春うららの今日、学長室で桜を見る目は耳に届く学生たちの嬌声に目を細め、かつて自分もそうだった事を思い出しながらうつらうつらと揺れていた。

 

 

 

「学長!! ウラヌス学長!!」

 インテンショナルマークがでる程の声ではなかった、ただ耳に近くてくすぐったくて椅子の上で背筋がピンッとなった。

 薄く目は開いていたが、春の心地にすっかり風呂上がりぐらい気持ち良くなっていた。

「はいはいっ、起きてますよアスコットさん」

 鼻っ柱からずり落ちた眼鏡、ダラしなく半開きになっていた口では言い訳も立たない。

 ウラヌスの顔を見るアスコットは「困った人」を見る目で笑を堪えながら白磁のカップに見た板アップルティーを前に出した。

「新入生2人が来ますから、ラフケットスタイルもいいですけどシャンとしたところを見せてくださいよ」

 白のブラウスに椅子に引っ掛けた大きめのストール。

 ロングスカートに組んだ足と踵の高いハイヒール、学長と言われるのに随分とおしゃれな姿。

 型にはまった学長像である地味目のパンツスーツは着ない、髪はアップでまとめるという基本も無し。

 高身長な彼女に黒一色は君悪い、カラフルでシックなフォークロアが良く似合っているのだから文句は言いにくい。

 それ故に精錬された外見とは幾分グレードの低い中身の残念さを指摘するのがいつもの挨拶のようなもの。

 「わかってますよ。うんうん背筋はシャンとねっ」

「はいはい綺麗ですよ」

 手慣れた秘書官のアスコットは栗毛の髪を揺らしてソファに座る。

 2人の前には置かれたティーと、用意していたファイル。

 この春馬事公学園は傷ついた2人のウマ娘を迎え入れる。

 1人はケイエスミラクル。

 もう1人はサンエイサンキュー。

 去年怪我をしてレースの世界に復帰は難しいと言われたケイエスミラクルは積極的とは言えないがリハビリもこなしこの春からここに編入する。

 もう1人のサンエイサンキューは少し重症だった。

 体の方もそうだったが、信じていたトレーナーの無謀とも言えるオーバーワーク&レースチューンで心を大きく傷つけていた。

 走る事の意味を大なり小なり見失った2人を受け入れるのは大変な事だったが、ウラヌスはあっけらかんとして喜んだ。

「ここからよ、ここからもう一度始めればいいのだから」と。

 悲嘆する2人に手を広げ招いていた。

 今日この学園に迎える、新しい出会いを嬉しいと。

「ていうか……2人が来るのって11時でしょう。こんな早くに呼びに来る必要ありあり?」

 自分のちょっとばかりルーズなところは知っている。

 だから早く呼びに来たのではと勘ぐったウラヌスにアスコットは思い出したように立ち上がった。

「ああそうでした!! 実は急な話なんですけど昨日連絡があって大陸からお客さんが……」

「大陸から……交換留学生の件は先月まとめなかった? うん違う感じ?」

 大陸やエウロパから学園に訪れる人は基本的に交換留学や新トレーニングにリハビリの意見交換などがほとんど、突然来たりはしない。

「ええ違うみたいです、個人的にウラヌス学長にお会いしたいということで……もう来てらっしゃるんですよ」

「ええ!! お待たせしてるの!!」

「あー……えーっとご本人が南の旧校舎の方で待ちたいと言われましたので……」

「南の……旧校舎? ……大陸から……」

 アスコットは不可思議と首をかしげるも、ウラヌスは何かに気がついたかのように目を開く。

「春だから……かしら」

 言うやスッと立ち上がる、パレリーナのようにしなやかにつま先までをピンと貼り付けた姿勢は少しの風に髪を揺らすと、遠い目を見せる。

「春なのね、そう……そうかなぁ、そうなのかな」

 滑るように歩き出すつま先は学長席から外につながるバルコニーへと。

 あの夏は暑かった。

 空はすごく青くて、雲は幾重にも重なる波等を見せていた。

 草木の香りより、硝煙とくすぶる火種が帝都を覆った最後の年。

 ここの芸亭も少なく、走っているウマ娘もほどんどいなかった。

 南の校舎は煉瓦造りの2階建、当時は最新の学び舎だった。

 「あの人」が声をかけて作った学び舎。

「世界に通じるウマ娘の育成をする!!」と。

 風が舞い、髪が踊る。

『ウラヌス!!』

「はい!! 私はここにおります!!」

 そうだあの夏も暑かった。

 島国が新帝の御代になってまだ若々しい1桁台のころ。

 

 

 

 欧州六角生まれ、アペニンへと舞踊者となるため家を出たウラヌスは島国からきたトレーナーと初めて出会った。

 衝撃的な出会い、あの日の空も青かった。

 

 

 

 

 




これを書かずには......そういうウマ娘多すぎません?
本当困る。
でも好きだから仕方ない。
ちなみに保私の作品のウマ娘さんは「長寿」です。
だってエルフに似た種族なんだから、人と違ってそれがいいのです。
なので原作とは違いますこと悪しからずです。


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04 ここより世界へ~Life is beautiful~ 2話

知らないウマ娘の話は需要ないでしょうが、まあ筆者が好きなんですよ。
こういうしられていない名馬たちの物語が、よろしければどうぞ。
そして遅れるホーリックスw


「いいところですねぇ、ていうか……これ欲しいなぁ」

「またまた男爵大尉の新しいもの好きが出ましたな!!」

「いやぁ、だってこれ良いじゃない、風をビュンビュン感じるんですよ。これ絶対欲しい!!」

 上機嫌な声が車のドアを軽く叩けば、ともに乗る駐アペニン大使は慌てる。

「あああああ、叩くのご勘弁ですよ大尉!! まだ購入したばかりなんですから!!」と。

 山高の軍帽、緑よりは少し薄く黄色よりはくすんだ色の服。

 島国が新しく採用した軍服に、テカテカに磨かれたブーツの彼は4人乗りの「車」というものに興味深々だった。

 イスパノ・スイザ。

 珍しいもの開発国家にして農業大国六角が作った「自動車」

 ボディーはサーフライン下を2色で割ったもの。

 下を漆黒、上を黄色にさらに上に革張りのホロ。

 シートも革張りで、まるでサロンに置かれるソファーを乗せた移動する談話室。

 これほどの出来の車はまだ島国にはない。

 島国からきた将校が丸い目をいつになく輝かせるのも無理のないもの。

「まだ島国ではあんまり見た事がない、工業力ってやつか……やっぱり世界は広いなぁ!! おれも絶対に買うぜ!! 手に入れてみせる!!」

 オープンカーから雲のごとく移動する空を仰ぎ見た顔、その目の前を何かが飛び越した。

 サイレンのような声を響かせて。

 一瞬である、巨大な物体がゴッーという音の風を巻いて背高の車を飛び越えて、あとは後ろ姿だけが米粒のように見えていた。

「えっ……なんだ……今のは……」

 ポカンとする大使と大尉。

 大尉の頭からは帽子が飛び、視線は過ぎていった相手を見つめる。

 跳ねる尻尾に蹄鉄のついたシューズは砂煙りを上げて視界から消えていく。

「あれって……ウマ娘?」

「そうよぉ、ウマ娘さんよ」

 突然向かってきた物体に車は急停止していた。

 田舎の小道、ここから山を下って街に入ろうというところだ。

 道沿いに作られた畑で休憩していた老夫婦は屈託ない笑みをみせる大尉に、しわがれながらも陽気な笑みで教えた。

「ルイン先生のところで舞踊を習ってる仔、ウラヌスって言うのよ」

「舞踊……大きい、さすが西洋のウマ娘。あんな大きな舞踊家がいるなんて」

 どこの誰ともわからない農夫の言葉に大尉は興味津々と車から乗り出して聞き、相手の農夫は愉快な軍人に笑って答える。

「そうなのよ……舞踊家っていうにはねぇ、ちょっと大きくなっちゃったのよねぇ」

「大きく?」

「元気でスクスクねぇ背が伸びちゃったのよねぇ……いい子なんだけど」

 赤ら顔の老婆の耳にも美しいトルコ石のピアス。

 芸術の国での出会いは衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 集合公国国家アペニン。

 舞踊といえばこの国は芸術に熱心だ。

 絵に音楽に舞踊にと、暇のない勢いで各公国が競い合って花よ花よと押し上げて舞って。

 世相の暗い時期もあったが、それでも脈々と王から民までが熱狂した芸術大国。

 舞踊はオペラにバレエ、民が盛り上がれば当然当地のウマ娘も盛り上がる。

 人が踊ればウマ娘だって踊りたい、そもそも眉目秀麗を標準装備で生まれる美少女たち。

 人のそれを上回る彼女たちが集団舞踊をすれば、それは大輪の花とも言える美しさだ。

 舞踊者となれば、さらに上のステップへ、時代の最先端である活動劇(シネマ)スターへの道も開かれる。

 ここアペニン北部ピショーネ公国は集合公国内でも上質な芸術家が集まり舞踊家も数多く自らのスタジオを開いている。

 夢見る都会っ子もいれば田舎モノのウマ娘だって多数いる。

 今し方腰高の車を一足飛びで飛び越していった子もまた夢を追って六角より情熱的ダンスの国へやってきたウマ娘だった。

 

 

 

 

「うぁああああああぁあぁあぁぁあんあんあんんあんあんあんんあんんんん!!!!!!」

 まるで鉄砲水を知らせる警報のような鳴き声は山々に響き渡っていた。

 放牧に出ていた牛たちが草を食むのを忘れ、羊たちはメーメーと逃げ出す。

 羊飼いたちは耳をふさぐという大音響。

 彼女は山の中腹、羊飼いたちが見晴台に使う開けた場所で泣き叫んでいた。

 仁王立ちで。

「うぁぁぁぁぁぁぁん!!!! わぁぁぁぁぁぁん!!!! なんでよぉぉぉぉ!!!! なんでダメなの先生ぇぇぇ!!!!」

 滝のような涙、鼻水によだれ、顔から色々吹き出しながら、こんなことになったつい数分前のことを思い出していた。

 黒髪をアップにひっつめ、ロングスカートにシルバーのブローチを付けたルイン先生は片眼鏡の奥を鋭く光らせ、手拍子を止めた。

「ウラヌスさん、前に……残念だけれど今回のカーニバルにも貴女を出すことはできません」

 ラインにそって歩様を揃える踊りはオープニングの花。

 田舎から出てきたウマ娘も都会っ子のウマ娘もカーニバルのオープニングを飾るショーに選ばれることを心待ちにしていたのに、開口一発目の落選者。

 希望に輝いていた目は一瞬で曇った。

「先生……なんでよ? 私頑張ったよ……」

 一堂に会したウマ娘の顔も曇る。

 一緒に練習してきた仲間が、それも真面目にやってきた彼女が落選となるのに納得している子は一人もいなかったが誰も異を唱えない。

「ウラヌスさん、貴女をラインに加えると……一人だけ飛び出してしまうでしょう」

 わかりきった理由を前に、どうにもならない鎮痛な空気の中で、ルイン先生も悲しそうな目で目の前に立つウラヌスを見ていた。

 飛び出してしまう、高身長な彼女を。

 並ぶウマ娘は皆美しい、手足も長ければ背筋もピシッと定規で伸ばしたような美しさ。

 中でも前列を飾る子たちは身長170センチと厳しい規定の中で自らを作った子揃い。

 衆群で踊るダンスは「粒が揃っている」ことは大事なことだ。

 とくに最初の一線は大事なポジションであり、そのチームの「花形」でもある。

「私……ちょっだけ……大きくないですよぉ……」

 先生のため息が落ちる。

 ちょっとどころではない、この前列一線を競ったウラヌスの踊りは誰の目にも一流だったが、彼女の身長は181センチ。

 粒を揃える170センチから10センチも飛び出してしまっている。

 本番では8センチ高のハイヒールを履くことを考えても規格外の身長なのだ。

 納得できない。

 ウラヌスは唇を噛み、涙をこらえてチャンスにすがる。

「一番後ろの列でも……いいですから……ハイヒールもいりませんから……」

 この日のために頑張ってきた。

 前回も参加できなかった、その前も……今度こそという願いとは裏腹に大きく育ってしまった背丈を必死に縮める哀願を前に、先生は小さく左右に首を振る。

「後ろでも……1人だけ背丈の高い貴女をショーに加えることはできません。ゴメンなさいねウラヌスさん、貴女は才能はある。踊りもジャンプも人一倍、でも貴女に舞踊の世界は狭すぎる、貴女の大きさに合わせられないの」

 そこでこらえていた思いは一気に噴き出してしまった。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁあぁああぁんんんんんん!!!!」

 夢見てきたステージに立てない。

 踊りも一流、歌でも合格、田舎から飛び出しあらゆる面で成長した、芸事においての底力ではルイン先生率いるチームで一番と言っても良いだろうに、体格身長の成長もとどまることを知らず、止められない成長で自分を裏切っていた。

 誰にも当たることもできない苦しみと悲しみを抱え、いたたまれない気持ちを吐き出すためにウラヌスは走り、走って走ってここまでやってきた大声で泣き叫んでいた。

「ええええんえーーーーーーん、どうして私は大きくなっちゃったのよぉぉぉぉぉん!!!」

 身長はどうにもならない。

 泣いても叫んでも窮屈な箱の中で寝ても、止められなかったせいちようを今恨む。

「うわぁぁぁぁん……うぇんうぇんうぇん……わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああん!!!」

「見つけた!!!」

 どうにも止まらない悲しみに打ちひしがれながらも大口で泣いていたウラヌスの前に飛び出したのは、先ほど飛び越した車に乗っていた大尉だった。

 突然の人、泣いている自分。

 顔全体が土砂降りを食らったような水気、開けた大口のまま自分を見る人物に震える。

「あんたぁぁぁ、だれぇぇぇ、私は泣いてませんからねぇ」

 どの口が言うか、サイレンのような泣き声を響かせていたのにと思うほどに笑ってしまう

「いやいや泣いてただろ、君の泣き声を追ってここまで来たんだから間違いない」

 軍帽の小柄な男は笑いながら近寄ると手を伸ばした。

「俺は島国からきたトレーナーだ、ウマ術を教えている。どうだい俺のところにこないかい!!」

 輝く目は上から下までウラヌスのからたでを見回し、本当にうれしそうに言う。

「すごい!! やっぱりデカイ、こんな大きなウマ娘がいるなんて!!」

「大きくないから!!」

「いや大きい!! 君みたいな巨大なウマ娘我が国にはいないぞ!! 島国の子を見たら小人かと思うぞきっと!!」

「巨大……じゃないもん!!」

 いきなり勘に触る、その大きさのせいでステージに立てない。

 だから今泣き叫んでいるのに、無神経にも程がある。

「私はあんたみたいなデリカシーのない人なんか、ななんかぁ!! しらなーーーーい!!」

 恥ずかしいしイライラするし、顔色はベトベトの飴色から一気に真っ赤なヤカンのようになって相手を退けるようにターンした。

 このまままた走って逃げる。

 背中を向け最初の人踏みをした瞬間、軍帽の彼はウラヌスの尻尾をつかんでいた。

「待って!! 俺は本気だ……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ウマ娘の尻尾はむやみやたらに触っていいものじゃない。

 これはウマ娘と関わるものならばだれでもが知っている初歩的なもの、デリケートな部分として第一に上がる箇所。

 毛並を気にし、敏感な箇所を、ただ触るだけでも激怒直結なのに思い切り握りしめてしまったのだから容赦は聞かない。

 甲高い悲鳴とともに一回転ひねりの回し蹴りが風を切る。

 軍帽は真剣きったかのように真っ二つになって宙を舞う。

 蹴りで一回転したウラヌスの前、トレーナーの姿は消えていた。

「あっ……やっちゃった……の?」

 自分の脚力は知っている、振り抜いてしまったのならその威力で人の骨を簡単に砕く。

 まれに耐える人間もいるが、今の一撃はそんな生易しいものじゃなかったことに真っ赤になっていた顔が急転直下で青くなる。

「あわわわわわわわわ」

 眼下には倒れている彼、一瞬引いて様子を見て、そっと近ずく。

 罠に怯えるような動作を前に帽子をふっとばされた彼は笑顔で起き上がっていた。

「すごい蹴りだ!! すごいぞ!!」

 言うや今度はウラヌスの腕を掴かむトレーナーは握手と言わんばかり、掴んだ腕のまま立ち上がると興奮冷めやらぬ顔で続ける。

「俺と一緒に世界を回ろう!! お前とならどんなレースでも負けはしないさ!!」

「ていうか……生きてるの?」

「生きてるよ!! ピンピンしてる!! どうだ!! ウラヌス!! 一緒に行こう!!」

 驚きとトキメキ、泣いている時間なんてない。

 トレーナーと称する彼の引きは強かった、今までにないほどに自分をグイグイと新しい世界へと連れて行こうとしている。

「どこに行くの?」

 まだ見ない国へ、知らない道へ。

 舞踊家を目指し故郷を出たときの、あのトキメキが胸を支配する中で、目の前のトレーナーは遥かな海を指していた。

「ここより世界へ!!」と。

 

 

 

 

 

 



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