やはり女神達との道を歩むことには間違いも正解もある (トマト嫌い8マン)
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番外+突発
いつか起こるかもしれない、未来の話


いや、ほんとごめんなさい。
あのですね、1stライブを見てからどっぷりと虹ヶ咲にはまっておりまして(笑)

まぁその勢いでなんとこんなものを書いてしまう始末。
早く本編書けって話ですね、はいすみません。

あくまで番外ですし思い付きなのでこれを書いていくかどうかは未定です。
そもそもμ's過去パートも書いてないのに何やってんの?ってことですが、ゆるしてください。本当に虹ヶ咲のライブがそれだけ素晴らしかったってことなんです。

ではまぁ、いつか書くかもしれない物語の導入部をどうぞ~。


社会人2年目というのは多くにとっては1年目よりもリラックスできるものではないだろうか。

 

一年目として新しい仕事を覚えることに必死で、正直あっという間に時間が過ぎ去っていき、「あぁ、学生生活はよかった」なんて思いをはせながらなんとか仕事をこなし終え、ようやくめぐってくる新季節。仕事にもある程度慣れ、まだ2年目のため大きな責任が伴う立場にいるわけではなく、心の余裕ができる頃。

 

だがしかし勿論何事にも例外があるわけで、そういった場合は上記の法則が当てはまらないわけで、つまり何が言いたいかというと、だ……

 

「では今年からここで働いていただく新任教師をご紹介します、比企谷先生です。では自己紹介をお願いします」

「比企谷です、現国を担当させていただきます。よろしくお願いいたします」

 

こんなやりとりをするのは既に2回目なのだ。

 

無事に教師として働き始めることになったはずだった俺だが、色々あってまた別の学校で働くことになっている。沼津の片田舎から一転、今度の職場はというと……

 

「それでは、虹ヶ咲学園の中を案内しましょう」

「はい」

 

知る人ぞ知るお台場、そこにある割と新しめで割と大き目な学校、私立虹ヶ咲学園。高校のみならず付属の中学校もあるひときわ目立つ建物にある学校だ。廃校寸前、なんてことは当たり前ながらなく、常に学生でにぎわっており、きれいな校舎と新しい施設、普通科のほかに国際交流学科、ライフデザイン学科と色々な専攻もあることから今の学生に大人気……らしい。

 

らしい、というのもそもそもここに来たのは俺自身の希望ではなく、あくまで知識として聞いたことがあっただけだからである。俺がここで働き始めることになったのも、

 

『Don’t Worry!Marieがハチマンにいい学校紹介してあげる!』

 

とウィンク交じりにピースサインを向けてきた、元理事長の紹介があってこそである。頭が上がらないとはこのことではあるが、前回が前回なだけにまた今回も何か考えがあるのではないかと思ってしまう。まぁ、今のあいつは理事長ではなくただの大学生――進学先はイタリアの一流大学だし大金持ちのお嬢様ではあるけれども――なのでそういう権限はないはずなんだけどね。

 

折角1年かけて馴染んだ環境からまた移動することとなり、鞠莉のつてで見つけた新しい家に無事に引っ越しを済ませた俺は、社会人2年目にして、新しい職場の案内をしてもらうというある意味貴重な経験をしているのだった……

 

―――――――――――――――――――――――

 

本日はほぼほぼ案内がメインということもあり、なかなか広い校内を歩き回り説明を受けることだけで時間の大半を使ってしまった。休みの時間になった今、俺はベストプレイスにできそうな場所を探していたのであった。

 

しかしまぁ流石は人気高校。未だ春休み期間であるにもかかわらず生徒の多いこと多いこと。どうやら部活動等に積極的な学生が多いらしく、施設もかなり充実している。これまでに一応5箇所は高校を見て回ったことがあるが、ここまでの規模のものは初めてだ。

 

「ん?」

 

中庭を通過しているとふと足を止めてしまう。ほんの一瞬だったが、何かが聞こえたような気がしたのだ。

 

「気のせいか?……いや」

「~♪」

「歌?」

 

そこまではっきりと聞こえたわけではなかったが、間違いなく誰かが歌っている声だ。

 

「しかもこの曲……」

 

とぎれとぎれでしか歌詞が聞こえなかったものの、その曲を間違えられるはずがなかった。つい数ヶ月前、あの決勝の舞台で、千歌たちが披露したあの曲なのだから。会場にいた俺たちは見ていなかったが、雪穂によるとその様子は秋葉原UTXの巨大スクリーンはもちろん、ネットでも配信されていたらしい。

 

あいつらのファンだろうか?ずっと追う側で、挑戦する側だった彼女たちを追いかける人が出てきたのか?そんな風に考えていたら、無意識のうちに、実に自然な流れで、足がその歌が聞こえてくる方向へ向かってしまっていた。

 

単純に嬉しかったということもあるし、この歌声がどんな人から来ているのか気になったというのもある。

 

 

しかしながらそういう思考の中での行動が、気まぐれのように偶々そうしてしまったことが、またまた運命的なものに支配されていた、希のいうところの「スピリチュアル」な、鞠莉の言うところの「シャイニー」な導きがあったのかもしれない。

 

結論から言ってしまおう。

 

その日、俺はまさに運命的な出会いをすることとなるのだった。

 

 

歩みを進めることしばし、声の出所に近づくにつれてよりはっきりと歌声が認識できる。

 

中々うまい、というのが正直な感想だった。歌唱力でいえば最初の頃の花陽や花丸とも遜色はない。それでいてある種の力強さはどちらかというと千歌や穂乃果に通じるものがあるように思える。

 

「っと、この後ろか」

 

中庭に沿って歩くことしばし、曲がり角に差し掛かるとその裏側から歌声が聞こえてくるのがわかる。ここで引き返すことだってもちろんできたはずだったが、何故だかそうする気にならなかったのは、やはり気になってしまったからだろう。かつてA-RISEが穂乃果たちにしたように、穂乃果たちが千歌たちにしたように、スクールアイドルが繋がり、続いていく様子が。

 

小さく息を吐いて曲がり角の方へ踏み出し、そこにいる人物に視線を向けた。

 

 

薄いクリーム色のジャケットと白いブラウスに手袋、赤いスカートを身に着けた少女。踊るたびに長いストレートの黒髪がふわりと舞い、黒い瞳は楽しいという気持ちに満ちているのか、日の光を受けてキラキラと輝いて見えた。やや小柄ではありながらも、その踊りに一瞬見とれてしまった。

 

俺は、彼女のことを知っている。

 

ダイヤ、ルビィ、にこに花陽というスクールアイドルオタ組から彼女の話を聞いたことがあるのだ。ソロで活動している注目の新人スクールアイドル。

 

「優木……せつ菜」

 

――――――――――――――――――――

 

Side Scarlet

 

「ふぅ……」

 

曲が終わり大きく息を吐きだします。やっぱりこの曲はいいですね。あの時の決勝でのパフォーマンスは、とても素晴らしい物でした。9人の歌、衣装、踊り、演出。そのどれもがまるで奇跡のようにうまく合わさり、幻想的で、キラキラしたステージでした。自分と同じように結成して1年ほどしか活動していないはずなのに、そのグループがとても大きな存在のように見えました。

 

元々スクールアイドルのことが好きだった私は、高校に上がって「優木せつ菜」としてスクールアイドルの活動を始めました。正式な部活としてではなく、あくまで同好会という形ではありますが、それでも大好きな活動を応援してくれる方もできて、とても充実しています。春からはスクールアイドル活動に関心がある編入生や、附属から上がってくる後輩も来るので、これまでよりも素敵なステージが――それこそラブライブに出場しているグループのようなこともできるかもしれないそう思うとわくわくが止まりません!

 

―――パチパチパチ

 

「えっ?」

「あ」

 

と、急に聞こえてきた音に思わず驚いてしまいました。音のした方向を見ると、一人の男性が立っていました。両の手が合わさっていることから、恐らく先ほどの音は彼が拍手をした音だと思いますが、本人は無意識だったのか驚いた様子で両の手とこちらの間を視線が行ったり来たりしています。

 

見たことのない若い男性――それもどこか独特な目でやや猫背気味。学校という関係者以外の立ち入りが許されないはずの場所ということからも本来ならばもっと警戒すべきだったのかもしれません。でも私は、何故かその人は危ない人じゃないと、そんな確信を持っていました。

 

「あの、ありがとうございます」

「えっ、何が?」

 

こちらから話しかけると思っていなかったのか、男性は一瞬驚いたようにビクッと肩をはねさせます。その様子に悪いかと思いながらも、つい小さく笑ってしまいました。

 

「拍手、ありがとうございます」

「お、おぅ。いや悪い、なんか邪魔しちまったみたいで」

「いえ、ちょうど一息ついたところですから。それにどんな形であれ自分のパフォーマンスに拍手をもらえることは、うれしいことですから」

「そうか」

 

ほっとしたように息を吐く男性。少し険しかった表情が緩むと、どこか優し気な印象を覚えました。同時に、どこかで見たことがあるような……ないような……

 

特徴的な目、ちょっと癖っ毛の黒髪、そのてっぺんからぴょこんとはねているアホ毛……その特徴が、以前一度見かけたことのあるとある男性のそれと一致しました。

 

学校が変わり、メンバーが卒業する中、新しくスタートを切るためにあのグループが行った沼津駅でのライブ。ちょっと遠出にはなりましたが、一人で見に行ったあのステージのことは、とてもよく覚えてます。

 

その時、リーダーから名前を大声で呼ばれて、今さっきみたいな反応をしていた人がいました。そのあと一緒に来ていたらしい女性に労われながら、優しい笑顔をステージに向けていたその人。

 

「あの……」

「ん?なんだ?」

「もしかして……比企谷、八幡さんですか?」

「はっ?何で名前知ってるんだ?」

 

目の前にいる男性は、なんと今や全スクールアイドルの憧れとなった音ノ木坂学院スクールアイドルμ’sの元マネージャーにして、昨年度のラブライブで優勝した元浦の星女学院スクールアイドルAqoursの顧問を務めたという、知る人ぞ知るスクールアイドル界の有名人でした。

 

「それはもちろん知ってますよ!スクールアイドルたるものの常識です!」

「えっ、何その常識。怖っ」

 

あれ?えへんと胸を張って答えたのに対してなぜかドン引きされているような気がします。この前出たばかりのスクールアイドル御用達の雑誌にもちゃんと載っていたんだけどなぁ。さっき上がった2つのグループ以外にもA-RISEやSaint Snowのような実力のある方々からのコメントもあって、一種の伝説っぽい感じなのに……もしかして本人は知らないんでしょうか?

 

「あ、そうだ私は「優木せつ菜、だろ?」知っててくれてるんですか?」

「知り合いにそういうのやたらと詳しいのがいてな。今注目のソロで活動するスクールアイドルって言ってたのを覚えてただけだ」

 

スクールアイドルに詳しいというと、小泉花陽さんでしょうか?矢澤にこさんでしょうか?あ、それとも黒澤姉妹のどちらかかもしれません!そんな方々に見てもらえていたのかもしれないと思うと、なんだか嬉しい気持ちになりますね。

 

「ところで、比企谷さんはどうしてこちらに?」

「次年度からここで教えることになってるんだよ」

「え?うちの教師になるんですか?」

「そういうことだな」

 

新しい先生が来ることは知っていましたが、まさかそれがあの比企谷先生だったなんて……まるでラノベやアニメのような展開ですね!そうだ!

 

「比企谷先生!」

「なんだ?」

「私と一緒に、スクールアイドル活動、やりませんか?」

 

――――――――――――――――――――

 

Side ???

 

「すごかったね、ラブライブって!」

「うん。私も思わず叫んじゃったもん」

 

秋葉原UTXの大スクリーンに映し出されていた映像に、私はただただ興奮しっぱなしだった。

 

スクールアイドルという未知の世界と、ラブライブというキラキラした舞台。初代から昨年優勝者までの映像が特集として流れていたけれども、そのどれもが本当に自分と同じ学生がやっていたのか疑ってしまうほどに素敵だった。

 

「あなたはどのグループが一番好きだった?」

「う~ん……やっぱりμ’s、いやでもAqoursもすごかったし……」

「ふふ。私もその二つが特に好きだったかな。μ’sは衣装が可愛かったし」

 

にこにこと笑っている幼馴染に同意するように何度もうなずく。なんだかわからないけど、じっとしていられない気持ちがいっぱいになっていた。

 

「ねぇ、歩夢ちゃん」

「どうしたの?」

「うちの学校にもスクールアイドルっているのかな?」

「いるかもね。でもどうして?」

 

思わず首をかしげる幼馴染の手を取る。それほどまでにこの気持ちを抑えられそうもなかった。

 

「私、スクールアイドルの活動を手伝ってみたい!」

「……自分がなりたいってわけじゃないんだね。ふふっ。でも、あなたらしいかも」

「そうと決まれば、春休みが明けたらスクールアイドルがいるかどうか探さなきゃ!」

 

 

 

 

二度あることは三度ある、そんな言葉が世にはある。

 

一度目偶然、二度奇跡。三度目必然……そして四運命。

 

『私たちと一緒に、スクールアイドルの活動、やってください!』

 

そう言って差し出された手を彼がつかむのは、もう少し先のお話。

 

始まりは女神の歌。別々の学校にいながらも、確かに繋がり、そして奇跡の虹を渡った物語。

 

第2章は海の調べ。少女たちの日常に確かにあった輝きで虹を超えた先を見つけた物語。

 

そして第3章は……どうなるかは彼ら/彼女ら次第。

 

虹がかかるための出発点は、もうすぐそこまで来ているのだった……

 




と、いうわけでもし仮に万が一この物語がちゃんと完結(過去編も)して、その後に書く気力があれば、ここから始めていこうかと思います。

あ、もしかしたら察している方もいるかもしれませんが、虹ヶ咲での押しは優木せつ菜です、はい(笑)歌が最高に良かったですし、言葉にも心動かされました。とても最年少(年齢がわかっている方の中では)、しかも現時点では未成年には思えない……

まぁそういった経緯と「あなた」の存在も取り入れることから、最初の出会いを歩夢ではなく彼女にさせていただいています。

いやぁ、これはこれでありだな……


……はい、本編ちゃんと書きま~す。ではでは。


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本気系の見せる本物は、とても美しく愛おしい

8月8日はまさかの比企谷八幡と優木せつ菜、二人の誕生日!
というわけで今回は誕生日を記念したSSを書いてみることにしました(笑)

設定はこのシリーズとは全くつながりはないですが、系統として似た感じになるのでここの番外+突発のエリアにて掲載いたします。

時系列とかが微妙に分かりづらい感じになってしまっているかもしれませんが、そのあたりは特に気にせず、まぁ、気軽に読んでくださいな。



きっかけは本当に些細なことだった。

 

偶々とあるイベントでお台場の方へと足を運んだこと、それがきっかけだった。

 

まさかそれが、ある意味運命的ともいえる出会いの始まりになるだなんて、誰が想像できただろうか。

 

 

 

「ふわぁ~、お兄ちゃんお兄ちゃん。なんかすごいね」

「あぁ……人が多すぎてもう帰りたくなってきた。というか帰っちゃダメ?」

「ダメです!」

「あ、ですよね」

 

折角の素晴らしき提案もバッサリ妹に切られてしまった日曜日。学校が休みになるため、脳も身体も思い切り休めるはずの時間を、なぜか俺と小町はお台場で過ごしていた。小町がどうしても見に行きたいと言い見せてきたのは一枚のチラシ。なんだなんだと思いチラシを見てみると、

 

『なにこれ?スクールアイドル?』

『今高校生の間で大人気の部活動なんだって!総武にはないの?』

『聞いた事ねえな。というかあったとしても俺が知ってるわけないだろ』

『まぁそこはお兄ちゃんだしね~』

『で?このチラシは何なの?』

『今度お台場で、なんかいくつかの学校からスクールアイドルが集まってパフォーマンスするんだって!無料だし、折角だから見てみたいじゃん!受験勉強の息抜きのためにも』

『ほーん。ま、いいんじゃねえの。楽しんで来い』

『何言ってんの?勿論お兄ちゃんも行くんだよ?』

『は?何で?』

『なんでって、小町が心配じゃないの?いっぱい人が集まるところに行くし、小町のこともスクールアイドルと勘違いした人からファンですって声を掛けられちゃうかも『うし、行くぞ!』……う~んこのチョロさは小町的にポイント高いような低いような』

 

等というやり取りがあり、結果的に俺は小町に連れられるような形でここまで来ることになったのだ。まぁ、小町は可愛いし変な虫がつくのを防がなければならない使命もあるわけだから仕方がないと言えば仕方がないわけなのだが。

 

「あ、そろそろ始まるみたい!」

 

よほど楽しみだったのか興奮気味に小町が声を上げる。壇上には司会者らしき女性が立ち、イベントについての話をしている。

 

「それでは最初のグループに行きましょう!」

 

司会の挨拶を終え、いよいよ始まるようだ。

 

壇上に上がった4人の少女たちがトップバッターらしい。一瞬の静寂の後、曲がかかり彼女たちが動き出す。

 

――瞬間、周囲は歓声に包まれた。

 

―――――――――――

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん、スクールアイドルって凄いね」

「ん、あぁ。そうだな」

 

イベントもそろそろ中盤に差し掛かる頃。何組ものパフォーマンスを見てきたが、正直言って自分はスクールアイドルというものをなめていた。

 

所詮は部活動――遊びみたいなものだと。

 

けれどもそれは違っていた――間違っていた――認識を誤っていた、そう言わざるを得ない。

 

ステージからさほど離れていない場所から見ていたからだろう、ステージに立ったいろんなグループのメンバーの表情が良く見える――見えるからこそわかる。

 

あれだけ激しく踊りながら歌い、そして笑う。

 

決して簡単なことではないはずなのに、それこそプロにとっても大変なことのはずなのに、彼女たちは崩れなかった。

 

瞬間瞬間、そのどれもを切り取っても凄いと思えるほど、彼女たちは全力だった。

 

また一つのグループが終わりはけていく。イベントはそろそろ半分ほど過ぎたころ、

 

『さて次に登場するのはまさかのソロ参加!私立虹ヶ咲学園から来た期待の新人!』

 

司会の言葉に合わせて、一人の少女がステージ上に上がってくる。

 

クリーム色のジャケットに白いブラウス、赤のスカートには右側に大きく伸びるリボンがついており、両手は白い手袋に包まれている。

 

「こんにちは!スクールアイドルの優木せつ菜です!皆さん、スクールアイドルは大好きですか?」

 

大好き~!!という声があちこちから聞こえる。野太い声もあれば、女子の可愛らしい叫びっぽいのまで。

 

「私も大好きです!私はソロでの活動ですが、ここにいる皆さんと一緒に盛り上がっていきたいです!」

 

そう言った彼女が見せた笑顔に不覚にも――ああ、本当に不覚にも、俺は見蕩れてしまった。

 

周囲の歓声も、飛び跳ねる隣にいる小町のことも、全部が全部頭から消えていた。

 

ただ全力で笑顔を振りまく彼女に、たった一人で歌を届ける彼女に、その瞬間俺は心奪われていたのだった。

 

と、ステージ上の彼女がこちらを向いた。盛り上がる周りの中、自分だけ棒立ちだったのがなんだか申し訳ないような気がしてしまい、なんとなく会釈してしまった。いや、見えているはずがないのに何やってんの俺、クッソ恥ずかしい。

 

なんとなく気恥ずかしくて顔を背けようとしたとき――気のせいだったのだろうか、彼女がこちらに向けてウィンクをした、ような気がした。いや、うぬぼれんな俺。あれは大衆向けのサービスであって、特定の誰かに向けられたものではない。

 

ない、はずなのに。その瞬間、なぜか体の奥の方が熱くなった――みたいだった。

 

――――――――――

 

「どうかしましたか?」

 

そう言いながら首をかしげながらこちらを見上げるように覗き込んでくる少女に、ついつい思考の沼に沈んでいた意識が引き戻される。

 

「あぁ、いや。ちょっと考え事をな」

「考え事ですか?何か悩んでるなら相談してくださいね。力になりますから!」

 

元気よくこぶしを握る少女は、まぶしいばかりの笑顔を向けてくる。ステージの上にいるわけでもなし、照明をその身に受けているわけでもなしだというのに、輝いて見えるのは、色眼鏡がかかっているのだろうか。いや、眼鏡かけてるのは少女の方なんだが。

 

「そんなんじゃない。ただ、まぁあれだ。初めてステージ上の優木せつ菜を見た時のことを、なんとなく思い出してただけだ」

「初めて……あぁ、あのお台場での。なんだか懐かしいです」

 

肩の両側にかかるように結ばれている三つ編みの片方をいじるようにしながら、少し照れたように微笑む。

 

「あの時、なんとなく観客の中であなたが目に留まったので」

「あぁ、やっぱり見えてたんだな」

「そうですね。周りの人の中で、あなただけが驚いているような、不思議がっているような、そんな表情をしていましたから。意外と見えるものなんですよ、ステージから」

「そんなもんか」

「はい」

 

そう言って微笑む彼女――中川菜々こそ、スクールアイドル優木せつ菜のもう一つの顔であり、俺の大切な人でもある。

 

「でもびっくりしちゃいました。学校間交流で千葉の有名な総武高校の生徒会とお会いした時に、あなたがいたんですから」

「ほんとにな。俺もお前も生徒会役員じゃなかったし」

「あなたを誘ってくれた一色さんと、私の協力を受けてくれた三船さんに感謝しないとですね」

 

学校交流会に参加した(俺はさせられた)生徒会役員ではない者同士で、一年生の生徒会長をサポートする者同士。妙な共通点から俺たちの関係は始まったのだった。

 

思いのほか意気投合したのか、一色は三船と頻繁に連絡を取り合い、何故か俺を連れ立って会いに行くことも多かった。ちなみに三船はその様子を見て、

 

『あなたも大変そうですね。一色さんは私の同級生によく似ていますし、比企谷さんと話している時の一色さんは、その同級生が大好きな先輩といる様子を思い出します』

 

とか言ってたし。よくわからんが、恐らくその見解は大いに間違いであることは声を大にして言いたい。

 

まぁ、そんなわけで俺は中川菜々と出会い――そして何度目かに会った時に、彼女が優木せつ菜であることを知ったのだ。

 

しかし本人としては中川菜々=優木せつ菜ということはどうやら外部には秘密にしていたことらしく、知ってしまった時には大いに慌てていたのは記憶に新しい。

 

なんてことはない。彼女が中川菜々から優木せつ菜に変わろうと眼鏡をはずし、髪をほどいたところを偶々目撃してしまっただけのことだった。そもそもそのことを言いふらすような相手もいなかったため、そのことは二人の間での秘密、というものになったのだ。

 

それからしばらく、俺は中川菜々から相談事や悩み事を聴く関係になった。内容としては生徒会関係のこともあれば、アニメやライトノベルについて、果ては優木せつ菜についてのこともあった。まぁ、同好会以外では俺しか知らない秘密なら、俺にしか話せないこともあるだろうと思ったから、俺も特にそのことについて不満を漏らすことはしなかった。

 

「あの時は本当に助かりました」

「いや、大したことしたわけじゃねぇし」

「大したことです!だって、そのおかげで私は今も優木せつ菜としてステージに上がれているんですから」

 

そう言ってくれるが、それでも実際俺が大したことをしたとは思えない。俺のしたことなんて、至極単純で、簡単で、そして……思い返すと、なかなかに恥ずかしいだけだ。

 

『どうして、わかってくれないんでしょう』

『言わなくてもわかる、なんてことはあるわけない。そもそも言ったところで、分かった気になるだけのことが多いんだ。だから、なんでわかってくれないのか、なんて考えても仕方がない……けど、だからこそ、言葉にしないとわからないこともある』

 

あぁ、でも――

 

『優木せつ菜は、お前がなりたい自分じゃないのか?大好きなものじゃないのか?お前の言ってた野望は、スクールアイドルの可能性は、偽物か?』

『そんなこと!ない、です……でも、私は――』

 

それでも、その時の言葉が、少しでも彼女の力になっているのなら――

 

『我慢しながらやるもんじゃねぇだろ。本当に大好きなら、その気持ちを絶対離さないくらいの思いでやるしかない。そうやって初めて、見ている人にも伝わるんだろ。そうやって初めて、スクールアイドルっていうのは、人を感動させ、輝くんだろ』

『我慢しながら、やるものじゃない……』

 

なら、それは喜ぶべきことなのかもしれない。なぜなら――

 

『もっと確かめさせてくれよ。優木せつ菜の――中川菜々の本気が――本物なのか』

『私の――本物……』

 

彼女の本物の輝きを見たいと、その時も――そしてこれからも何よりも願っているのだから。だから俺はあの日――

 

『これから先、きっとまた悩むことはあると思います。何が起きるかわからないですし、不安になることもあるかもしれません。それこそまた、躓いて、から回って、立ち止まってしまうかもしれません。でも、あなたがいてくれたら、きっと大丈夫な気がするんです!』

 

『比企谷さん……もし私が悩んでいたら、また、手を握ってくれますか?』

『おう』

『不安な気持ちを抱えたら、話を聞いてくれますか?』

『おう』

『私の本物の本気を――見ていてくれますか?』

『……それは、奉仕部部員への依頼か?』

『……いいえ。依頼ではありません。ただ私が――優木せつ菜として、そして中川菜々として、あなたに――比企谷八幡さんに隣にいてほしいと思ったから。だから――』

 

『あなたの大好きを、私にください。そして、私の大好きを――受け止めてくれませんか?』

 

そう言いながら、イメージカラーと同じくらい鮮やかな色に頬を染めた彼女が差し出した手を、俺は握り返したのだ。

 

―――――――――――――――――

 

「ふふっ」

「ん?どうした?」

「いえ。こうして手を繋ぐたびに、あの日のことをつい思い出してしまいまして」

「……奇遇だな。俺もだ」

 

少し恥ずかしい気持ちになったから思わず視線をそらしてしまう。いまだに恥じらう俺に比べて、中川の方は抵抗がないのか幸せそうに手を握ってくる。やだなにこれ、やっぱり恥ずかしいわ、俺って意外と乙女なのかしら?……きもいな、うん。

 

「こうしてあなたの手を握っていると、本当に安心できるんです。この先も大変なこともたくさんあるかもしれません。でも――」

 

そう言って彼女は握る力を少し強める。思わず彼女のほうを見ると、中川は正面を向いたまま――その横顔に自信と期待を込め――嬉しそうに笑った。

 

「この手を引いて、引かれている限りずっと!私が進む世界は、とても眩しくて、愛おしくて――無限大の可能性が待っていてくれているんだって、信じられますから!」

 

あぁ、この表情だ。

 

彼女のこの笑顔は――初めて見たあのステージ上のものと同じで――俺の心をつかんで、離してくれそうもない。

 

「あ、そろそろ着きますね!本日発売のスクールアイドルグッズ、それにアニメグッズ!絶対に手に入れたいです!」

「わかってるわかってるから。とりあえずまぁ、店ん中行くか」

「はい!」

 

言うが早いか、彼女は俺の手を引きながら、やや駆け足気味に見えてきたお目当ての店に向かうのだった。

 

あぁ、まったく。

 

やはり本気系スクールアイドルが見せてくれる輝き(笑顔)は、とてもとても美しく、眩しく、そして何より――

 

――本物だった。

 




はい!と、いうわけで、

まさかまさかの二人の誕生日一緒という偶然、という名の奇跡(笑)ですよ!
いやはや、せつ菜の曲を聴いてた時にちょくちょく八幡のセリフがアンサーとして頭をよぎることがあって、なんか似ているようで似ていない、似ていないようで似ている、そんな気がしたので……

書いてみて、なかなかに楽しかったです。

改めまして、比企谷八幡様、優木せつ菜(中川菜々)様、お誕生日おめでとうございます!

それから、もう一人。
私が個人的に大好きなある方も本日誕生日なので、その人も!
ハッピーバースデーです!


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浦の星女学院スクールアイドル部発足編
まさにそれは再来と呼べる出来事で


見切り発車したやつを正式に続けてみようかと思いまして……

なので第1話は前に投稿したものまんまです。
続きは現在書いていますので、気長に待ってもらえると助かります。


演奏が終わったその瞬間、ほんの一瞬だけ訪れた静寂。

 

それは次に訪れた大歓声の前触れに過ぎなかった。

 

会場全体に響き渡った歓声を、きっと俺は忘れることはないだろう。

 

隣を見ると、一緒に来ていた奴らも、飛び上がったり声をあげたりと、会場の興奮に包まれていた。

 

その中で一人だけ、俺と同じように静かにステージを見上げていた彼女がこちらを向く。

 

「やったわね」

「ああ。ほんと、あいつらはすげぇよ」

「そうね。それに、彼女たちを支えて来たあなたも、ね」

「そんな大層なことはしてねぇよ。結局はあいつらの努力の成果だからな」

「もちろん彼女たちの努力の成果よ。でも、そこにはあなたの努力も込められているもの。だから、お疲れ様、比企谷君。平塚先生からの依頼は、もう達成されたみたいね」

 

決して大きな声で話していたわけではなかった。それでも、そう言って微笑む彼女の言葉は、周りの音を超えて、耳に届く。

 

「そうかもな……」

「ええ」

「まぁ、確かに変わったかもしれないな。あいつらと、それにお前らといたから。だから、まぁ、これからも頼むわ」

「ふふっ。ええ、友達ですもの」

「……だな」

 

最後に微笑み、彼女は再びステージを見つめる。俺も視線を戻すと、丁度こちらを向いた少女と目が合う。

 

鮮やかなオレンジを彷彿とさせる彼女は、ウィンクしてピースサインを見せる。それに軽く手をあげ応えると、彼女は他のメンバーと共に観客へ顔を上げる。

 

いよいよ始まるのは最後の曲。彼女たちの積み重ねたものは、今日、終わりを告げる。

 

「それじゃあ、行っくよ〜!」

 

その9人の少女たちは観客へと手をあげる。

 

「「「「「3(スリー)」」」」」

 

「「「「「2(ツー)」」」」」

 

「「「「「1(ワン)」」」」」

 

『———、ミュージック、スタート!』

 

その瞬間、視界が真っ白になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん……んぁ?」

 

ボーッとする意識をはっきりさせるために頭を振る。どうやらバスの中で眠ってしまっていたらしい。

 

「随分懐かしい夢だな」

 

先ほどまで見ていた光景を思い出す。そう、あれは高校3年、奉仕部として受けた最も長期的で、最も密度の濃ゆい依頼の話。

 

忘れることはない、なんであの時思ったが、こうして夢にまで見ているのを考えると本当に忘れられない出来事だったらしい。

 

懐かしさに口元が緩むのを自覚しながらも、不思議と引き締める気にはならなかった。まぁ、実際引き締めなくても大した問題はないだろう。

 

今このバスには、自分以外の乗客はいないのだから。

 

 

「しかし、本当に田舎って感じだな……」

 

外を流れる海の景色に目をやりながら、一人呟く。

 

静岡県沼津市内浦。

 

愛すべき千葉を離れ、今日からここが俺の住む場所となる。

 

理由は単純、職場がここだからだ。

 

そう、専業主婦を目指していたはずが、比企谷八幡、現在22歳。バリバリの新人教師として、沼津の学校で教えることとなったのだ。

 

いや、元々は違った。本来は母校であるはずの総武高校で働くはずだったのだ。しかしそれは一本の電話で覆されることとなった。

 

 

 

『はぁ……沼津の高校、ですか?』

『ああ。そこの理事長から是非君に、と連絡があってね。当然こちらとしても急な話だったんだが、相手の強い要望があってね』

 

電話越しでも彼女、平塚先生の声から戸惑っているのがわかる。どうやら本当に急に決まったことらしい、しかし、

 

『なぜ俺に?』

『あまり詳しくは知らないが、君に希望を見出した、と言っていたらしい』

『はい?』

『まぁ、それに関しては学校の資料を受け渡すからそれを見たらわかるだろう。とにかく、明日来てもらってもいいか?』

『……わかりました』

 

 

 

そんなこんなで、何が目的なのかはわからないが、俺は沼津の浦の星女学院の教員としてスカウトされたのだった……

 

それにしても、だ。なぜ女学院の理事長から声がけがあったのかが全くわからない。そもそも希望ってなんだ?

 

ちらりとカバンを見る。そこにはこれから行くことになる学校の資料が入っている。

 

全校生徒を合わせても100人にも満たなくなったその学校は、現在統廃合の危機にさらされているらしい。もって三年の現状に、わざわざ俺のような者を呼ぶなんて……

 

「それにしても、なんだかあの頃を思い出すよな、これ……」

 

そんな学校にわざわざ行く奴は相当な物好きだと思われるかもしれない。ただ、あまりにも自分の中で大きなあの依頼と重なって見えて……

 

「まぁ、何ができるかは知らねぇけど……やってみますか」

 

 

時間を確認するために携帯を取り出すと、何件か連絡が来ていたらしい。

 

『貴方ならいい教師になれるかもしれないわね。とりあえず、余計な問題は起こさないように、ね』

『ヒッキー、頑張ってね。休みが取れたら遊びに行くから』

『先輩が社会人とか想像つかないですけど、頑張ってくださいね』

『頑張ってね。八幡ならいい先生になれると思うよ』

『お兄ちゃん頑張ってね〜。あと、小町的にはお義姉ちゃんができると嬉しいな』

『新任教師ともなれば色々と大変でしょう。特に私のように若手だと、色んな厄介ごとを押し付けられるかもしれませんが、頑張ってください。もし悩みとかがあれば気軽に相談してください』

 

懐かしい総武高校の面々からの励ましのメッセージだった。なんか一つ材なんとかから来てた気もするがまぁいいだろう。

 

「ん?」

 

と、あいつらの他にもメッセージが送られてきているのに気づく。

 

『新しい場所でも、ファイトだよ!』

『応援してるよ♪』

『気を引き締めて、鍛錬を忘れずに』

『沼津でもまた一緒にラーメン食べに行くにゃー』

『休みのときに遊びに行きますね』

『頑張りなさい、比企谷先生』

『にこの活躍、ちゃーんとそっちでもアンテナ張ってなさいよ』

『きっと何かスピリチュアルな出会いがあると思うから、そん時は頑張るんやで』

『今度は生徒を支える立場として、その学校の子たちを導いてあげてね』

 

他にも色々書いてあるが、どうやら祝福と応援をしてくれているらしい。示し合わせたように同じ日に送ってくるとか、仲良しかよ。

 

一先ず全員に対し『ああ』とか、『おう』とか『サンキュー』とか返し、携帯の画面を消す。

 

少しだけテンションが上がった俺は、目的地までずっと窓の外を眺めていた。

 

「♪〜♩」

 

気づかぬうちに、鼻歌が漏れていた。

 

何かの始まりの時、つい思い出すこの曲。

 

思考の海に浸かりながらも、目的地まで鼻歌が止むことはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕方。

 

既に春休みということもあって、すれ違う生徒は殆どいない。学長からの説明を受け、4月からに向けての準備を整えるべく、俺は新しい我が家へと向かうのだった。

 

校門を出て坂道を下っていると、小さな影が俺の横を走って通り過ぎる。少しかすっただけだったが、その少女は振り返りながら、声を上げる。

 

「あっ、ぶつかっちゃった!ごめんなさい!」

「いや、別に気にしなくていい。かすっただけだ」

 

律儀に足を止めて礼をしながらの謝罪に、一瞬戸惑うも言葉を返す。安堵の表情を浮かべながら、少女が顔を上げる。

 

「良かった〜。急いでたので、ごめんなさい。あっ!このままじゃ間に合わない!あの、すみませんでしたっ!」

 

もう一度だけ頭を下げて、少女はまた走り出す。

 

何故だろう。

 

顔立ちが似ていたわけでもないのに、その姿に知り合いの姿が重なる。出会い方まで似てた気がする。

 

『ごめ〜ん。ぶつかっちゃった』

『いや、別にいい。大したことない』

『ちょっと急いでたから。あ、もうこんな時間!本当にごめんね!』

 

 

 

「人間性が似てる、のか?」

 

少しだけ懐かしい気分になりながら、俺は帰るためにまた歩き出した。

 

 

この時の出会いが、まさかあんなことにつながるなんて、これっぽっちも想像せずに……

 




とりあえずぼちぼち書き続けてみるつもりなので、気軽に読んでもらえると幸いです。



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新生活の始まりは期待と不安がつきものである

公開初日に舞台挨拶のライブビューイング付きで、ラブライブ!サンシャイン‼︎の映画観てきました。

ちゃんとAqoursを知ったのは今回が初めてでしたが、凄くいい映画だったと思います、はい。

なので短いけど続きをば……


「こんなもんか……」

 

新しい引越し先での荷解きもひと段落したところで休憩に入る。

 

それなりに広い部屋をざっと見渡す……いや、というよりも、だ。

 

「これ、普通に一戸建てじゃねぇかよ」

 

住む場所の手配はすでに済ませてくれているとのことで、指定された住所まで来たのはいい。一人暮らしってことで、てっきりアパートのワンルーム的なものを想像していたが、まさかの一戸建て。

 

「どう考えても部屋の数多すぎなんだよなぁ……しかし家賃は安いと」

 

自分用の部屋以外にも、四、五部屋ある。おまけに外には倉庫までついてるし。こんだけ広いならいくらかかるんだよ、なんて身構えもしたが、書類を見てみると月額5万ときた。都会じゃ絶対あり得ない……

 

「学校へはチャリ使えばそんなにかからないな……まぁ、坂道が殺しに来てる感あるが……」

 

今回は場所の確認のためにバスと徒歩で向かった浦の星女学院だったが、その立地としては海沿いの道路からそこそこ登ったところにある。

 

空は開けてるわ、緑いっぱいに囲まれてるわ、遠目に富士山も見えるはと、中々絶景ポイントでもあるが、とにかく坂道を登るのがきつい。

 

「こりゃ、通勤するのも一苦労かもしれないな……」

 

荷解きももう十分出来たと思ったため、自分の生活圏内についていろいろと調べ始めるとしよう。

 

そう思い、持ってきたノートパソコンを開き、ネット世界にダイブするのだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「……海だな」

 

一通り検索を終えた後、なんとなく家の中にいる気持ちにならなかった俺は、気づけば自転車にまたがり、海沿いの道を走っていた。

 

千葉にいるときも、別に海を全く見なかったわけではなかったが、こうして改めて自分の生活の一部になると思いながら見つめると、なんだか今まで感じたことのない不思議な感覚を覚える。

 

それにしても自分が高校の教師、それも女子校の教師になることになるなんて、思ってもいなかった。

 

「っつか、結局俺のことを呼んだらしい理事長とも会えなかったし……」

 

なんでも現在海外にいて、数日後に帰国予定なんだという話だったが、そんなにグローバルに活動してる人なのか?

 

俺に希望を見出した、ということで呼ばれたらしいが、それにしても果たして俺のどこを見て、何を知って、希望を持ったのかが全くわからない。

 

「統廃合疑惑のある学校……それに、俺個人を特定した希望……ね」

 

なんだろう……何故か妙な予感がする。自分で言うのもなんだが、わざわざ誰かの目に留まる程優秀というわけでもなく、何か輝かしい経歴持ちというわけでもない。何か特別変わっていることがあるとしたら、それは高校時代の部活ぐらいだろう。

 

奉仕部。

 

名前を聞いただけでは、活動内容の予想なんてすぐにはできないだろうし、例え内容を聞いたとしても訳がわからないであろう、あの部活。

 

「女子校ってあたりがまたなぁ……なんとも言えない縁的なものを感じずにはいられないよなぁ」

 

今は大人気のとある女子校を思い出す。一年にも満たない短い間だったが、あいつらと一緒に放課後や土日を惜しんで、その学校まで行っていたことは、不思議と今でも鮮明に思い出せる。

 

「まさかまたあの依頼的なことをやる……なんてことはないよな?」

 

ありえないと思いながら、ついそんなことを呟いてしまう。そもそも幾ら何でも、社会人一年目の新人教師に、そんなことが求められるとは思えない。考えすぎだろう。

 

小さく苦笑し、頭を振る。そんなことを考えるくらいなら、さっさと初日に向けて準備をしなければ。最後に海をじっと見つめてから、自転車にまたがり、新しい家への帰路へついた……

 

ーーーーーーーーーー

 

海辺の道、そこを二人の女子高生が歩く。

 

「もうすぐ新年度……今から楽しみだなぁ」

「千歌ちゃん、なんだか気合入ってるね?」

「うん!絶対スクールアイドル部を作って、輝くんだ!」

「そっか。勧誘のお手伝いくらいならできるから、頑張ろうね」

「うん!……あれ?」

「どうしたの?」

 

ふと一人が立ち止まる。その視線の先、一人の男が自転車で漕ぎ出している。

 

この辺りでは見かけたことのない男。

 

やや猫背気味で、頭のてっぺんからはぴょこんとアホ毛が立っている。

 

「あの人……学校で会った気がする……」

「学校で?見たことない人だけど……」

「うーん……気の所為だったのかなぁ?」

 

首をかしげる少女二人。男の姿を見送るも、特にピンと来ることもなく、二人はそれぞれの帰路に着いた。

 

 

その時点で既に、奇妙な縁が仕組まれていたことを、彼ら、彼女らは知らない。

 

想像もせず、予想だにせず、構想もぜずにいた。

 

ただ一人、彼を呼んだ者だけが、その縁に思いをはせるのだった……

 




1話あたりは短めになるかもですが、適当にお付き合いください。

因みに八幡の家についてですが、これ実際にある物件をもとにしてます。沼津の家賃どんなだろってなんとなしに調べたら見つかったので、そこをお借りしました(笑)


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その姿は決して悪いものではなく……

今日仕事終わってすぐに東京から沼津まで行ってきたアホな作者です(笑)
だって映画観たら行きたくなったんですもの。

そしてそのままのテンションで1話分書き上げました。
今回はメンバーの一人との出会いです。
そのメンバーとは……



本日の沼津の天気は晴天。爽やかな青空が広がっている。休みの期間とは案外早く過ぎ去るもので、気づけば既に新学期初日の入学式、つまりは初出勤日である。

 

新人ということで、特に大きな役割がないこともあり、入学式が行われる体育館の入り口で、新入生と保護者の出迎え、資料の配布を任されることになった。それなりに時間があるためか、まだ誰も来ていないが。

 

「……まだ結構寒いな」

 

4月になったとはいえ、まだどことない肌寒さを感じさせる風が、そっと吹き抜ける。潮とどこか柑橘系っぽい香りが運び込まれ、ふと視線を海の方へ向ける。遠くの方に富士山がよく見え、高校生活の始まり方としては、かなりいいものなのではないだろうか。……が、しかし、だ。

 

「やっぱ少ないな……」

 

目の前にある長机、その上に置いてある資料を見つめる。その数はどう見ても一学年のものとは思えないほど少ない。なんなら下手したら、俺の高校時代のひとクラス分あるかないかレベルだ。

 

なるほど、このまま行けば確かに、統廃合の可能性が高そうだ。そうなった場合、こっちに来てしまった俺の職もかなり危ういことになるわけだが……

 

ーーーーーーーーーー

 

「きゃっ!?」

「ん?」

 

やや強めの風が吹いたかと思うと、驚きの声が聞こえ、そちらに顔を向ける。

 

はためいていた制服のスカートを抑える黒髪の少女。タイの色から一年生とわかる。ようやく一人目が来たらしい。隣には母親らしき女性もいる。

 

と、何かが風に飛ばされこちらに向かってくる。くるくる回るように風に乗りながら、目の前まで来たそれをひとまず捕まえてみる。

 

「……羽根?」

 

真っ黒な羽根。カラスの物を更に黒く塗ったようにも見えるほど、真っ黒な羽根。というかこの感じだと、天然のものではなさそうだ。

 

「ビックリした……あれ!?」

「ん?」

 

先ほどの黒髪女子が、右側でお団子に纏められている髪辺りに触れ、首を傾げている。母親らしき女性は、校舎の入り口の方に移動し、受付の先生と何やら話している。

 

黒髪女子がまるで何かを探しているように、辺りを見渡す。

 

「この羽根か?」

 

取り敢えずそのままほっとくわけにも行かなさそうなので、羽根を手に、彼女に近づく……まぁ、関係者の腕章してるし、大丈夫だろう。

 

「あの……」

「えっ、はいっ!」

 

こちらに背を向けていた少女がパッと振り返り何やら不思議な構えをとっている……や、別に何もしないんだけど。

 

「この羽根……君の?」

「あ、それ!」

 

慌てた様子で俺の手から羽根を受け取る少女。ほっとした表情を見せ、羽根をお団子に刺した。直後、

 

「ヨハネ、堕天!」

 

と何やら珍妙なポーズを決め、ドヤ顔になる少女……不覚にも面白いと思ってしまった。というか無駄にそのポーズ似合ってるな。

 

「えっと……」

「はっ!じゃなくて!その……あ、あり……ありがとう、ございます」

 

急にキョドりながら頭を下げる少女。小声で、

「うぅっ、やっちゃった……私のバカ」

とか聞こえてきて、なんだかいたたまれなくなる。

 

こういう場合俺の取るべき行動は1つ。

 

受付としての仕事を果たすとしよう。

 

「いや、まぁ気にすんな。それよか新入生だよな?」

「えっ?あ、はい」

「取り敢えず配布物だけ先に渡しとくわ。体育館に席が用意されてるから、自分の名前が書いてあるとこに座ってくれ。まだ時間あるから、資料だけ置いて、別にぶらぶらしててもいいしな」

「えっ、あの」

 

長机の方に戻り、配布資料を手に取り少女の元に戻る。差し出された資料を受け取りながら、少女は少し困惑したような表情でこちらを見上げてくる。

 

「どした?」

「どうした、って……変に思わなかったの?」

「変に?」

「だから、その……さっきの!」

「あぁ……」

 

どうやら先ほどの堕天ポーズ?をしたことが気になっているらしい。というか敬語どこ行った、一応教師なんだけど?……まぁいいか。

 

確かにいきなりあんなの見せたら、普通は変に思われるわな。ただ……

 

「いやまぁ、なんつーか……慣れてるからな」

「慣れてる?」

「おう」

 

脳裏に浮かぶのはコートに指ぬきグローブで高笑いする眼鏡の男。なんだかんだ言ってあいつとの付き合いも長くなるしな。

 

そしてもう一人、理想の為の努力を欠かさないあの背の低いツインテール。あいつも初っ端からかましてくれたしなぁ……

 

『にっこにっこにー♪あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこー♪にこにーって覚えてラブにこっ♪……って、なによその目は!』

『いや、これは……デフォルトだ』

『あ、そうなの?って、ンなわきゃないでしょうが!』

 

あ、うん。ほんと、すげぇ出会いだったわ……由比ヶ浜と一色はポカンとしてたし、雪ノ下もいつものこめかみを抑えるポーズとってたし。

 

まぁともかく、そんな奴らとの出会いを経験したんだ。並大抵の自己紹介では驚かない。

 

「まぁなんだ……割とポーズも様になってたし、悪くないと思うぞ」

 

取り敢えず思ったことを述べてみる。見た目だけでもあいつらといい勝負ができるレベルだし、そういう衣装も普通に着こなせそうだ。

 

が、何か間違えたのだろうか。少女……ヨハネでいっか、ヨハネは俯いてしまった。

 

「……大丈夫か?」

「だっ、大丈夫よ!な、中入ってるわ!」

「おう……って早っ!」

 

気づいたらヨハネは既に体育館内に駆け込んで行っていた。まぁ、別にどこでどう待つのも自由なわけだし、中に行っても問題はないだろう。そう思い、俺は再び入り口で新入生を待つことにした。

 

ーーーーーーーーーー

 

『割とポーズも様になってたし、悪くないと思うぞ』

 

そんな風に言ってもらったのは、初めてだった。呆気にとられるか、ドン引きするか。

 

今まで他の人が見せた反応は、そのどちらかしかなかったのに……

 

「悪くない……か」

 

このままで、良いのかな?でも……

 

「ううん!何を考えてるのよ!堕天禁止!私はこの学校で、リア充になるんだから!」

 

他に誰もいない体育館に、自分の声が反響する。生徒数が少ないこの学校には、昔の自分のことを知る人はいないはず。だから、ここで心機一転、普通の女子高生としての生活をすれば……

 

『悪くないと思うぞ』

 

「っ……変わるんだから、私は」

 




というわけで最初にちゃんと出会ったのは堕天使ヨハネでした。

なんでこうしたかと言いますと、まぁよく考えたら入学式の方が始業式より先なわけで、そこには二年生以上は来ないですし、となると必然一年生の方が先に会うだろう、となったわけです。

じゃあ何故ヨハネ?ってことに対しては、個人的にヨハネなら八幡と同じように、入学式朝早くに行きそうだと思ったからです。

ではまた次回に続く。


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どうにも既視感を覚えずにはいられないわけで……

はい、ってなわけで次のエピソードです。

お話書くにあたってアニメ1期から一気見し始めたんですけど(実は初見)、前にあった入学式の話、感想の通り、確かに間違えてたんだなぁ、とか思ってしまいました(笑)

映画から、というよりちょっと変わった経緯で興味を持ち始めたんですけど、凄いいい作品ですよね。思わず3日くらいかけて一期二期、両方見ちゃいました(笑)


ヨハネが中に入ってから暫くすると、徐々に新入生が来始めた。あいつだけやたらと早かったのはなんでだろうな。まぁ、俺もそんな感じだったか。結果として事故が起きて、早く着くどころか2週間入院してましたけどね……

 

緊張してる感じの子、期待に満ちてる感じの子。新しい高校生活に向けて、それぞれ様々な思いを抱いている様子。

 

「入学おめでとうございます。中に入ったら名前の書いてある席に座ってください」

 

来る学生一人一人に声をかけながら、資料を渡す。同じ作業の繰り返しではあるが、まぁ一人一人リアクションが微妙に異なるから、それなりに退屈はしない。

 

と、次の子たちが来たようだ。今までの生徒と比べて特徴的な二人組。一人は眼鏡をかけ、長い茶髪を揺らし、制服の上に黄色のカーディガンを着ている。もう一人はどこか小動物のような印象を抱かせる幼い顔立ちに、宝石のように綺麗な赤い髪をしている。

 

入学生には変わりないだろうから、取り敢えず資料を渡すための用意をする。二人が入り口付近に来たところで資料を差し出しながら声をかける。

 

「入学おめでとうございます」

「あ、ありが……」

「資料を持って中に……って、ん?」

 

何やら赤い髪の少女の表情が固まっている。というか今にも倒れそうなほどに顔面蒼白である。なんだ?急に調子でも悪くなったのか?目か?目が悪いのか?

 

「あの?」

「あ、まずいずら!」

「ずら?」

 

さっと隣の眼鏡少女が耳を塞ぐ。というか今ずらって……

 

「ピッ」

「ピッ?」

「ピギャァァァアッ!!」

「のうわっ!?」

 

唐突に響いた大きな叫び声に、思わず仰け反るように一歩下がる。叫ぶ少女は目に涙さえ浮かべている。

 

えっ、なにこれ?

俺が何かしてしまったのだろうか?

いや、だがしかしなにも間違えていないと思うのだが。

 

「ルビィちゃん、落ち着くずら」

「あ……は、花丸ちゃん」

「先生もびっくりしちゃってるず……よ」

「あ、あう……ごめんなさい」

「あ、いや別に。驚いただけだし……」

 

眼鏡の少女、花丸って呼ばれてたな。花丸の後ろに隠れるようにしながらもこちらに視線を向け、頭を下げる赤髪の少女。しかし、ルビィ?髪の色から連想したのだろうか、宝石の名前をつけられるくらいだ。親から大切に思われているのだろうと、容易に想像がつく。というか確か同じように宝石の名前の生徒がいたな……

 

「う、うゅ」

「あ、悪い」

 

考え込んでいるときにじっと見すぎていたらしい。ルビィの瞳に浮かんでいる涙がこぼれそうになっている。うん、まぁそれは仕方ないな。

 

いきなり見知らぬ男、しかも目が腐ってる奴がじっと自分のことを見つめてきたら、それは怖いわ。というか俺でも怖い。

 

「えっと……さっきの、俺何かしちゃったのか?」

「あっ、いえ……その……」

「ルビィちゃん、極度の人見知りなんです。特に男の人はお父さん以外とはほとんど話したことがなくて……」

「あぁ、成る程」

 

それでこの怯えようか……一種の男性恐怖症って奴だな。まぁ、極度の人見知りってのも手伝ってるんだろうが。

 

「急に声かけて悪かったな。俺は比企谷八幡、今年からこの浦の星女学院で教師をすることになった」

「あ、オラ……じゃなくて、マルは国木田花丸です」

「く、黒澤ルビィ、です」

「黒澤……って、生徒会長と同じ名字か?ってことは」

「あ、はい!お姉ちゃんです!」

 

花が綻びる、とでも表現すべきなのだろうか。怯えた表情から一転、姉の話になった途端に、彼女、黒澤ルビィが見せた表情は、あまりに可愛らしく、愛らしく、愛くるしい程の笑顔だった。

 

その破壊力は、思わず一瞬息を忘れる程に。なんだこれ。小学生のけーちゃんにも負けないほどに純粋で、幼い印象を与える程の笑顔は、なんというか、本当に小動物が見せる愛くるしい表情のそれと同じような、心の中に、小さな暖かさをくれるような、そんな印象だった。

 

「そうか。そういえば新入生に向けた歓迎の言葉は、黒澤……生徒会長がやるんだったな」

「はい!お姉ちゃんと同じ学校に通えるの、とっても楽しみなんです!」

「……そうか」

 

こんなに妹に思ってもらえるとは、姉も幸せものだな。リハーサルの時に一瞬壇上にいた時にしか、俺は彼女を見ていない。ただそれでも、黒澤ダイヤの放つ存在感に、あるいはその気品や立ち居振る舞いから滲み出る華やかさに、大人でありながら圧倒されていたのは、確かだった。

 

大和撫子とでもいうのか、美しく手入れされていた長い黒髪。妹と同じく宝石のような青緑の瞳、そして口元の艶ぼくろ。お嬢様言葉ではあったが、それがキャラ付けなどではなく、完璧に彼女にとってはそれが普通なのだと思わせられる。

 

ほんと、この学校もやたらとレベルの高い女子多いな、おい。

 

そういう意味では隣にいる国木田もその一人である。

 

黒澤と並ぶとやや低めの身長。あどけなさの残る顔立ちは、しかし何処か落ち着きもある。カーディガンのおかげでもあるのか、全体的に黄色がよく似合うイメージで、遠くからでも分かっていたことだが、長めの髪は綺麗な茶髪でふんわり、おっとり、そんな印象を抱かせる。

 

「っと、次の人も来たな……中に自分の名前書いてある席があるから、そこに座っておいてくれ」

「は、はいっ!」

「はい」

 

少し声が裏返りながらも、なんとか返事をした黒澤と、二人分の資料を受け取る国木田。最後に二人揃って礼をしながら、体育館に入っていった。

 

「……あいつらを教えるのか」

 

なんだろう。津島といい、あの二人といい、面白い奴が多いな。他の生徒とも挨拶はしてるのに、何故かあの3人は強く印象に残っている。

 

3人の一年生……

 

『二人とも、行っくにゃ〜!』

『ちょっ、意味ワカンナイ』

『誰かタスケテ〜!』

 

……何故このタイミングであいつらを思い出すんだろう。思っていたよりも、あの頃の活動は強く心に残っているらしい。入学生の対応をしながら、そんなことも思う。

 

「っと、今ので最後か」

 

気づいたら入学生の出迎えの業務はこれで終了らしい。まぁ、元の人数が少ないわけだし、初対面と話し込むってこともそうないことだろうしな。

 

「比企谷先生、全員来ましたか?」

「っあ、はい。全員分配布も終わってます」

 

主に保護者の対応を担当していた先生が声をかけてくる。あっぶね、気を抜いてたから変な声出るかと思った。少し年上の女性教師……というか、殆どの教師が女性である。

 

いや、女子校なんだからそうなんじゃないかとなんとなく思っていたけどさ。あの学校でも用務員以外ほぼ女性だったし。おかげで最初の頃は奇異な物を見る目で見られまくりだった、ほんと怖かった……まぁ、こっちでは保護者から訝しげな視線を浴びてるんですけどね。

 

「もうそろそろ開始時間だし、中に入りましょうか」

「わかりました」

 

先を歩く先生の後ろについて行く形で、体育館に入る。既に入学生は全員着席済みのようだ。と、先ほどの3人の後ろ姿だけ、やけにわかりやすくて思わず笑ってしまいそうになる。黒い羽根と、明るい茶色と、宝石のような赤。

 

「これより、浦の星女学院の入学式を開式いたします」

 

マイクを通して、体育館に声が響き渡る。入学生の背筋が伸び、保護者や教員も姿勢を正す。

 

こうして、社会人生活の第一歩もまた、今日この日から始まったことを告げられた、そんな気もしながら、俺は入学式の進行の様子を、席から眺めるのだった……

 




ふぅ……次回からようやく本筋に入れる、かな?

そしてようやく主役とのちゃんとした対面になるのかな?
頑張って書くとしましょうか(笑)

なお、お気に入り登録者に私の大好きな作者様がいて歓喜(笑)


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再会とはいつも突然で……

祝日だったので、続きで〜す。

中々1話から物語が進まない(笑)

個人的にチラシでは正しく書けてたのに、何故か間違ってたスクールアイドル部の文字がツボ。


入学式も無事に終え、入学生改め、新一年生たちが翌日から始まる学校生活に想いを馳せながら親と、或いは友達と話しながら、校門から出て行く。

 

そんな中、俺はというと……

 

「ふぅ……」

「比企谷先生、ありがとう。やっぱりこういう時は男手があるの、いいわね」

「あ、どうも」

 

入学式から始業式へ、体育館の内装変更の手伝いを行なっていた。にしても、この体育館、それなりの大きさではあるよな。確か前には200人以上学生もいたらしいが、今や良くてその3分の1である。

 

「こりゃ下手したら、三年待たずに統廃合ってこともあり得るんじゃないか……?」

 

結局未だに姿さえ見せてくれない理事長。この状況でわざわざ俺を呼ぶくらいなのだから、何かしらの考えがあるのだろうとは思うが、そもそもその考えを教えてもらわないことには何もできないんだけど……

 

「比企谷先生、明日からの業務についてのお話があるから、職員室に向かいましょう」

「はい」

 

体育館の内装も変え終え、一息ついていると声をかけられる。そう、俺は教師なのだ。つまり明日からは授業をすることになる。教育実習以来のことなのでかなり緊張するが……

 

一抹どころか六抹くらいの不安を抱えながら、職員室の扉を開く。本学の教師全員——と言っても少ないのには変わりないが——がそこに集まっていた。

 

温厚な顔立ちの校長が、手招きしたのでそそくさと近寄る。

 

「皆さんも知ってると思いますが、今日から新しく本学で教えることになった、比企谷八幡さんです。担当は現代国語、ここでは珍しい男性ですが、力になってあげてください。比企谷先生、自己紹介をお願いします」

「えっ、あっ、はい」

 

取り敢えず何となく予想はついていたため少しは身構えていられて良かった……まぁ、挨拶なら教育実習でもやってたしな。問題ない。

 

「ヒキっ!……ゲブンゲフン、比企谷八幡です!よろしくお願いします」

 

ダメでした……まさか最初の最初で声裏返るとは……何だよこれ、黒澤のこと言えねぇじゃん、俺もやっぱ人見知りだったわ、失敗したわ。

 

ほら、なんか先生方みんな温かい目で見てきてるし、もうやだ帰りたい……

 

 

 

そんなこんなで、俺の社会人生活初日は、始まったのだった……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日———

 

昨日の失敗のことを思うと布団にくるまって叫びたいくらいなのだが——実際夜にやった——だがしかし、仕事は仕事なわけで、流石に休むわけにもいかない。なんとかメンタルを奮い立たせ、自転車を漕ぎ、出勤するのだった。

 

今日から本格的に学校生活が始まるということもあって、昨日と比べてもなんだか学校が賑やかに感じる。

 

朝から部活の勧誘が許可されていることもあって、既にちらほら生徒が校内で何やら準備を進めている。

 

と、何やら聞き覚えのある声が……

 

「よっし、ここでやるぞ〜!」

「千歌ちゃん気合入ってるね」

「うん!絶対可愛い子勧誘して、一緒に輝くんだ!」

 

ふとそちらに目を向けると、二人の少女が立っていた。彼女たちも部活の勧誘をするつもりらしく、特にオレンジの髪の少女の方は気合入っている……ん?なんかどっかで見たような……なんて考えてると、少女と目が合った。

 

「「あ」」

 

ハモった。と、同時に思い出す。この学校を初めて訪れた時、その帰り際に会った少女だ。向こうも覚えていたのか、「あ〜!」っと声をあげ、用意していた台座から降りて駆け寄ってきた。

 

「おはようございます!また会いましたね!」

「お、おぉ、おはよう」

「でもどうしてここに?」

「今年からここで教えることになってな。前はその挨拶に来てただけだ」

「先生なんですか!?」

「まぁな」

 

コロコロと表情を変えながら話しかけてくる彼女。快活そうな笑顔に、会って二度目ましての筈なのにこのフレンドリーさと距離感の近さ。中学時代なら完全に勘違いして告白して振られる……って、この思考パターンも定番化してきてる感じあるよな。

 

なんにせよ、前にも思ったことだが、この感じはどことなく彼女たちを思い出させる。お団子頭の奉仕部部員に、あのグループのリーダーである少女。特に後者に関しては、うまく説明できないが、イメージカラー?的なものまで似ている感じはある……髪色か?

 

「何を教えるんですか?」

「一応現国だな」

「千歌ちゃん、知り合いなの?」

 

と、ここで少女の後ろにやってきたもう一人の少女が声をかける。グレーのボブカットで、千歌と呼ばれた少女と同じく活発そうな印象。用意していたのであろう部活勧誘のチラシを手に抱えている。

 

「曜ちゃん。うん、この前ちょっと会ったんだ。新しい先生だって」

「へ〜。初めまして、2年生の渡辺曜です」

「あ、私は高海千歌、2年生です!」

「比企谷八幡だ」

 

何故か敬礼しながら挨拶する渡辺に、慌てて頭を下げる高海。と、渡辺の持っていたチラシの一枚が束から離れ、俺の足元に落ちる。屈んで拾い上げるついでにチラシを見てみる。

 

それを見たときに驚いて、若干の懐かしさを覚えたのは、仕方のないことだろう。手書きで作られたらしいそのチラシには、色とりどりの文字で部活の名前が書かれていた。

 

「……スクールアイドル部?」

「はい!スクールアイドル、ご存知ですか?」

「……まぁ、な」

 

なんだか目をキラキラさせて聞いてくる高海に、適当な返事を返す。

 

本当はご存知どころではないが、そんなことわざわざ話すことでもないし、多分言ったところで信じてもらえない可能性が高い。というか5年も前の話なんだから、高海達が彼女たちのことを知ってるかもわからん。……それより、

 

「浦の星にスクールアイドル部なんてあったのか?学校案内とかにそんな情報載ってなかったけど」

「あ、いえ。これから始めようと思って、えへへ」

「ほーん」

 

と、いかんいかん。ここで長く話し込んでいる場合ではなかったのだった。時計を確認すると、まだ遅刻ではないがそろそろ向かうべき頃合いだろう。チラシを渡辺に差し出す。

 

「ほれ」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ俺は職員室行くから」

「はい!これからよろしくお願いします!」

「お願いします!」

 

2人揃って小さく礼をする高海と渡辺。軽く会釈を返し、2人に背を向けて歩き出した。

 

「スクールアイドル部……か」

 

まさかまたその単語を、それも今度は教師の立場から聞くことになるなんて、思いもしなかった。自分には直接関係はないけれども、まぁもしライブをやることになるんだったら、見に行くくらいはしてもいいか。

 

なんてことを思っている自分に驚きながら、取り敢えず仕事をするために、職員室の扉を開くのだった。

 




しっかし、アニメ全話見返した後に、映画の曲とか振り返ると、なんかグッときますね。

他の曲も、スクフェスでしか知らなかったのが、曲の誕生経緯とか分かると、より好きになる〜。


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海色、そして桜色

はーい、仕事休みなので浦の星女学院、もとい長井崎中学校前からお送りしま〜す(笑)

そういえば、何故急に映画やアニメを見たのかといいますと……

スクフェスで知識として知る

仕事で沼津付近まで行く、なんとなくフラフラする

妹が友達がいるというコピユニを見せる

ハマる……というかどハマりする。ただのファンになる。

沼津観光で作品について知ろうとする。月一で行くようになる。

映画行く(初日舞台挨拶ライブビューイング付二回)

アニメ観なきゃ!一気見する →今ここ

……的な流れですね。すごく変わった経緯でAqoursを好きになるというね(笑)そんなわけで実はAqoursファンなりたてですが、作品は楽しんで書きたいと思います。

次のお話、どうぞ〜。


「ふぅ……」

 

始業式と言えども、いや、寧ろ始業の日だからこそなのか?ともあれ、思いの外色々と教えられ、学校を案内され、帰路に着いた頃にはすっかり夕焼け空だった。

 

坂道でスピードが出過ぎないように気をつけながら自転車を走らせ、海辺の道へ出る。途中、津波から避難するための高台や、城跡、みかんの直販店など、この土地ならではの景色の側を通りながら、トンネルをくぐる。

 

左手には地元の水族館、伊豆・三津シーパラダイスが現れ、右手側には風情のある旅館が見える。名前を見ると「十千万」と書いてある。日帰り風呂とかもあるらしいから、今度来てみてもいいかもしれない。

 

と、順調に自宅への道を進んでいた俺だったが、ふと足を止めざるを得ない光景を目にしてしまった。

 

目にしたというか、飛び込んできたというか……とにかく視界に入れてしまったのだ。

 

「死ぬ!死んじゃうから!」

「離して!行かなきゃいけないの!」

 

何故かスクール水着を着ている女子と、制服姿の高海が、船着き場のあたりで何やらもみ合っている。と、

 

「「えっ?」」

「あ」

 

もみ合っているうちに足が交差したらしく、2人揃って体勢を崩した。残念ながらその辺りには手すりや柵といったものはなく、つまりは彼女たちを支え、或いは受け止めるものが何もないわけで、2人はそのまま、引力に引き寄せられるままに、綺麗な水しぶきをあげるのだった。

 

「って、いや、おいおい!」

 

流石に見て見ぬ振りをするわけにもいかなかったので、自転車をその場に止めあたりを見渡す。丁度いいところに紐のついた浮き輪が置いてあったので、それを手に取り、2人の方へと駆け出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「くちゅんっ!」

「……ほれ」

「あ、ありがとうございます」

 

取り敢えず一番寒そうにしている水着姿の少女にコートを渡す。

 

浮き輪に付いていた紐で、2人を砂浜まで連れてきたのはいいものの、びしょ濡れの状態では流石にまずい。と、思ったが、すかさず高海が海岸の正面にある十千万に駆け込み、タオルを持ってきたので、2人はそれで身体を拭いていた。

 

「もー、まだ4月なんだよ?沖縄とは違うんだからね」

「え、ええ、そうね」

「あ、比企谷先生もありがとうございました」

「先生?」

「うん。比企谷さんはね、私の学校に来た新しい先生なんだ」

「そうなんですか……すみません。ありがとうございます」

 

ぺこりと頭を下げる少女。正直水着姿のままなのはちょっとアレなんで、出来ればさっさと退散したい気持ちである。が、礼を言われてるのに何も返さないのは流石に失礼だろう。

 

「いや、気にすんな。たまたま通りかかっただけだしな」

「先生はどうしてここに?」

 

当たり障りのない答えをしていたところに、高海が首を傾げながら顔を覗き込んでくる、って近い近い!というかまだ少し濡れてるでしょうが、俺まで濡れちゃうからね?

 

「この道、帰宅路なんだよ」

「そうなんですか。じゃあ私と一緒ですね」

「ほーん……」

 

満面の笑顔で話す高海。どこか年不相応な幼さやあどけなさが、彼女の顔立ちや仕草から感じられる。なんというかそう……歳の離れた妹、を見ているような……いや、俺の妹は小町だけだし……あ、でもあの二人も俺のこと「お兄さん」って呼んでるしなぁ……

 

「あ、そういえば自己紹介してなかったね。私、高海千歌!貴方は?」

「あ、桜内梨子です」

 

少女が立ち上がりながら小さくお辞儀をする。生徒会長の黒澤とは違うものの、やはり何処か品のある振る舞い。風になびく長い髪は、ワインのように綺麗な色。どこか儚げにも、寂しげにも見える笑みで、彼女は名乗った。

 

「桜内さんは、どうして海に?」

「……海の音が聴きたくて……」

「へ?」

「海の音?」

 

思わず聞き返してしまう。波の音を聞くだけなら別に海に入る必要はないだろうから、恐らくは別のものを指しているのだろうけども……

 

「私、ピアノで曲を作ってるの。それで海をテーマにした曲を作ろうと思ったんだけど……全然イメージが湧かなくて……こっちきたから、折角だし海に行けば、何かわかるかと思ったんだけど……」

 

そう言いながら、桜内が海の方へ顔を向ける。悲しげに伏せられた横顔は、沈み行く夕陽に照らされ、儚げで、今にも海へ消えてしまいそうで……そしてその表情を、俺はよく知っていて……

 

何か大切なものを、手放してしまった、手放さなければいけなくなってしまった、諦めてしまった……そんな表情。

 

「じゃあ、私がいいもの見せてあげる!」

 

と、タタッと高海が桜内の前に回り込む。キョトンとしている桜内の目の前に、高海のスマホが突き出される。

 

「ほら!一緒に見よ!なんじゃこりゃあ、ってなるから!」

「え、ええ」

「比企谷先生も!」

「は?お、おう」

 

チョイチョイと手招きする高海。おいコラ、一応教師だからな?そういうふうに呼ぶのはやめような。まぁ、別にたいして気にしないけどさ……

 

桜内を連れ、道路に続く階段に腰を下ろす高海。左隣に座り込み、スマホの画面を覗き込む桜内。俺はその反対側に回り座……らずに、立った状態で少し身を屈めた。

 

「じゃあ、行くよ〜!」

 

テンション高めの高海が動画サイトから、1つの動画を選ぶ。

 

「〜♪」

 

最初に聞こえたのはピアノの音。

 

そしてそこから続く歌声。

 

9人の少女……女神達の歌う、始まりの歌。

 

思わず目を見開いていた。思わず口元が緩みかけていた。奇しくもそれは、この町に来たばかりのあの日、バスの中で思い出していた曲でもあったから。

 

未だ色褪せぬ思い出なんて、きっとあの頃の俺は信じなかっただろう。だが今、こうして実感する。

 

変わったのは俺の知る世界だったのか、それとも俺自身の方か。そんなこと、考えたところで、わかるはずもないのだけれども。それでも、あの日、あの場所、ほぼ空っぽだったあの講堂で、あの歌を聴いた時から、きっと何かは変わったのだ。

 

それにより、それ故に、そのために、今俺はここにいるのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「— Hey, hey, hey START: DASH!! ♪」

 

気がつけば、曲は終わっていた。目を輝かせながら画面を見つめていた高海が桜内に顔を向ける。

 

「今の何?」

「へ?知らないの?スクールアイドル、u’sだよ!」

「スクールアイドル?」

 

首をかしげる桜内。まぁ、なんというか、確かにそういうジャンルの音楽とは無縁そうな感じはあったが、やはり知らない人は知らないのだと思ってしまう。

 

「そう!学校でアイドル活動して、大きな大会に出て……今すっごい人気なんだよ!」

「ごめんなさい。私そういうのに疎くて……」

「そっか。ねぇ、さっきの見て、どうだった?」

「どうって……なんというか、アイドルって感じというか……思ってたより普通?……あ、」

 

思わず、しまった、という表情をする桜内。初対面の相手の高海が好きというものをそんな風に言ったことに、罪悪感があるのだろう。だが、

 

「だよね」

「えっ?」

「私もそう思ったんだ……普通の女の子達が集まって、こんなキラキラしたことができて……凄いなぁって」

 

地平線を眺めながら、高海がそっと呟くように話す。

 

「私ね……普通なんだ。何をやっても、どんなに頑張っても、ずっとずっと普通だった……周りに凄いなぁって思う友達はいるのに、私はいつも普通……そして、気づいたら高校二年生になってた」

 

「このままじゃまずい!普通の星に生まれた普通星人どころか、普通怪獣チカチーになっちゃう!って、そんなふうに思ったの」

 

「そんな時に出会ったんだ……あの人たちに」

 

高海の視線は、地平線の方に向けられたまま。でも、その瞳が写しているのは、暮れゆく空ではなく、ましてや海でもない。

 

高海の瞳が写しているのは、きっと彼女にしか見えていないもの。彼女の語る、あの出会いの日に目撃したもの。

 

それは彼女にとって偶然で、空前で、しかしてどこか必然めいた出会いだったのだ。

 

あの日、あの場所で、あのスクリーンで。

 

彼女は、いや彼女たち(・・・・)は、出会ったのだから。

 

「気づいたら全部の曲を聴いて、全部のPVを見てた。みんな私と変わらない、何処にでもいる女の子なのに、すっごく輝いてた……」

 

「だからね。私もやってみたくなったんだ。凄くキラキラしてたあの人たちみたいに、私も輝きたいって。あの人たちが見たものを、私も見てみたいって」

「なんか……凄いね……ありがとう。よくわかんないけど、頑張れって言ってもらった気がする」

 

桜内が微笑む。先ほど見せた寂しげなものではない。高海のおかげで気持ちが少し晴れたのか、その笑みには先ほどはなかった暖かさがあった。

 

「……そろそろ日も暮れるぞ。そのままだと冷えるし、暗くなる前に帰ったほうがいい」

「あ、はい」

 

一応教師という立場的には注意しておくべきだろう。特に桜内とか未だに水着姿だし。

 

「そういえば、ふたりはどこの学校に?」

「あそこだよ!あの山の上に見える学校!」

 

高海が指差す方のずっと奥、沈む夕日の中で、辛うじて学校の姿が浮かび上がる。

 

「桜内さんは?」

 

高海が近くに置かれていた桜内の服を手に持ちながら、彼女へ近づく。微笑みながらそれを受け取る桜内だったが、その制服には見覚えがあった。

 

あの頃、毎日のように見ていたのだ、間違えようがない。間違えるはずがない。

 

その確信を裏付けるように、桜内はゆっくりとその名を口にした。

 

「東京にある、音ノ木坂学院っていう学校よ」

 




ようやくここまで来たよ……
まぁ、まだ何人か登場してないんですけど……主に三年生。

その辺りもぼちぼち書いていきますので、また次のお話でお会いしましょう。

あ、因みにハマったコピユニというのは、Siriusって言います。
折角だからついでに動画とか見て、応援してくださいな(笑)
→Twitter:@Sirius_LS
→YouTube:https://m.youtube.com/channel/UCl_ystqbxxJUGUsbYtR4Ghg
→ニコ動 :http://sp.nicovideo.jp/mylist/62110151?cp_in=mllst_mlgrp


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そんな彼女との会話は、決して嫌なものではない

今日はSiriusがイベント出るので見に行ってきま〜す。
と、その前に短いけど1話載せておこう。

今回はなんと……


あの後、暗くなり始めていたから家まで送るべきなのだろうかとも思っていたが、その必要はなかった。

 

聞くとあの旅館、十千万こそが高海の家とのこと。家が旅館とかまじかよ、すげぇな。でもこれで日帰り風呂とか微妙に行きづらくなっちまったぜ、他のところも探してみよう。

 

桜内の方も、高海の家で着替え等したら帰るとのことだったので、2人と別れた俺は自転車にまたがり、暗くなり続ける道を、家に向かって進んでいた。

 

「にしても、高海がスクールアイドルを始めるきっかけになったのが、あいつらだったとはな……」

 

あの場所で彼女はA-RISEに出会い、そして同じ場所で高海は彼女達に出会った。最初に憧れ、がむしゃらに、ただひたすらに進み続けていた彼女達が、今度は誰かの憧れとなり、その道を開かせた。

 

「5年か……」

 

本当に長いようで、同時に短いようなそんな曖昧な時間。こうして社会人になってなお、あの頃のことがつい最近のことのように思い起こされる。

 

でも、感じようと感じまいと、時は着実に流れていることを、高海の話が実感させてくれた。

 

 

思考の海、というのは大げさかもしれないけれども、なんだかんだ考え事をしながら自転車を漕いでいると、気がつけば自宅に着いていた。

 

自転車のスタンドを立て、玄関の鍵を開ける。明かりをつけると、1人用には長すぎる廊下がぼんやりと見える。

 

「……広すぎだろ」

 

思わず呟きながら、靴を脱ぎ、家に上がる。ここには親父も母ちゃんも、もちろん小町もいない。全部自分でなんとかするしかないのだ。

 

パパッと着替えて、手早く夕飯の用意をする。ご飯が炊けるまでの時間を使って風呂を沸かす。

 

そんなふうに家事をやっていると、急に電話がかかってきた。大方小町とかだろうと、携帯を手に取り特に相手を確認せずに耳に当てる。

 

「もしもし?」

『あ、もしもし、八幡君?久しぶり!』

「っ、おお。お前か」

 

電話越しに聞こえてきたのは、予想していなかった声。相変わらずどこからそんなエネルギーが湧くのかわからないが、今日も今日とて彼女は彼女らしい。

 

『ちょっと、お前かって、それだけ!?久しぶりの電話なんだから、もっと喜んでくれてもいいじゃん』

「あーはいはい、あんがとさん。で?どうしたんだよ?」

『むぅ〜、なんか私の扱い雑じゃないかなぁ』

「別にそんなことないぞ。で、マジでどうしたんだよ?」

『あ、うん。そろそろ仕事始まる頃だし、八幡君の様子を確認したくて。どうだった?』

「まぁまだ始まったばかりだしな。そもそも授業も明日からだし、なんとも言えん」

『そうなんだ?学校は?いいところだった?』

「まぁあんまし人が多すぎないしな。女子校だから気をつけないといけないことも多そうだが」

『そっかぁ』

 

電話越しだというのに、表情が眼に浮かぶかのようだ。それだけ彼女は感情表現豊かで、気持ちを真っ直ぐ伝えているのだろう。その真っ直ぐさが、今尚彼女たちをつなぎとめている……まぁ、俺もか。

 

『何か面白いことなかったの?』

「……そういや、スクールアイドル部を始めるって言ってる生徒がいたぞ」

『スクールアイドルを?八幡君の学校にもできるの?』

「さぁな。始めるとしか聞いてないし。あ、始めるきっかけについても聞いたな。とあるグループライブ映像だとさ」

『とあるグループ?うーん、今結構たくさんグループあるみたいだし、どの子たちかなぁ』

「……第2回ラブライブの映像を、学校旅行で寄ったUTXのスクリーンで見たんだとさ。その時の優勝者の、な」

『へ?』

 

うんうん唸っていた声が止む。きっと彼女はキョトンとした顔をしているのだろう。想像に難くない彼女の反応を思い浮かべながら、小さく笑みが浮かぶ。

 

「名前思いっきり間違えてたけどな。ユーズ、だってよ。それに音ノ木坂の生徒って子とも会ったな」

『音ノ木坂の?私たちの後輩ってこと?』

「そうなるな。面白い偶然だな」

『そう、だね。そっか……私と、おんなじだね』

「だな」

 

2人して小さく笑う。

 

『それで、八幡君はその子を手伝うの?』

「どうだろうな。今はもう奉仕部じゃないわけだしな」

『そうだね〜。でも、きっと八幡君がその子を助ける時は来るよ』

「なんでんなことわかるんだよ?」

『なんでかな?でも、なんかそんな気がしたの』

「スピリチュアル、って奴か?」

『あはは。希ちゃんならそういうかもね。私にはよくわかんないけど、なんとなく』

「そうか」

『うん。だから、もしその子が大変そうだったら、きっと助けてあげてね。私たちを助けてくれたように』

 

思わず言葉に詰まる。助けてくれた、か。そんなことはない。何度も考え、何度も間違えそうになって、それでも足掻いただけだ。俺も、彼女も、彼女たちも。

 

「……」

『あ、そろそろ切らないと』

「ん、そうか。お前も、その、活動頑張れよ」

『うん、ありがとう。今も届けたいから。私の、私たちの歌を。じゃあおやすみ、八幡君』

「おう。またな……穂乃果」

『うん!八幡君も、ファイトだよ!』

 

そう言い、彼女——高坂穂乃果からの電話は切れた。

 




ってなわけで、今回はなんとなんと、
μ’sの高坂穂乃果に登場してもらいました!
……電話だけど。

彼女たちとの物語についてもいずれは触れていくつもりですが、
今は5年前に何があったのか、勝手に想像を膨らませながら
読んでってください(笑)


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ベタはベタでもそれはそれでいいわけで

この前Siriusのイベント行ってスッゲェ楽しかったし、
Sirius応援の同志が見つかったから更にテンション上がる!

ってなわけで次の話行くで〜


「比企谷先生、ちょっといいですか?」

「はい?」

 

翌朝。

 

出勤したばかりの俺を呼び止める先生。確か二年生の担任の先生らしいが、一体何のようなのだろうか。

 

「つい先ほど、理事長から辞令が届きまして、」

「……辞令?」

 

何それ怖い。いきなり辞令ってどゆこと?俺何かやらかしたっけ?

 

「比企谷先生」

「はい」

「比企谷先生には、二年生の副担任を勤めてもらうことになります」

「はぁ……えっ?」

 

思わず身構えていただけに、最初はそんなことか……なんて思ってしまったが、すぐに驚きはやってきた。

 

「副担任……ですか?そんないきなり」

「元々誰がやるのかは決まっていなかったのよ。うち、教師数も少ないから掛け持ちとかもあるし。だから、理事長からの辞令が来たのは、ちょうど良かったわ。大丈夫。あくまで副担任なんだから、私のサポートとかしてくれれば」

 

優しく微笑む先生。だが何故だろう、どこかこの状況を楽しんでいる節があるが、気のせいだろうか。まぁ実際教師の数が足りていないのも事実なのだろう。

 

「はぁ……まぁ、わかりました」

「よろしくね。それじゃあ早速だけど、転校生を先に紹介するわね」

「転校生?」

「ええ。東京から来たそうよ」

「東京からの転校生……?」

 

思わず聞き返してしまう。こう言っちゃなんだが、東京からわざわざここに転校してくる理由が、あまり思いつかない……いや、人が少ない方がいいとか、自然に囲まれた学校がいいってのもあるかもしれないけど。

 

「その転校生は……」

「うーん、もうそろそろ来ると思「失礼します」っと、来たみたい」

 

ガラリと職員室の扉が開かれ、少女の声が聞こえてくる。というか、何故かその声に聞き覚えがあるような気が……

 

そんなことを考えながら、転校生を確認しようと振り向き……思わず、思考が止まった。

 

長いワインレッドの髪をバレッタで留め、きちんと背筋を伸ばした綺麗な立ち姿。春の風が開いた窓から優しく吹き込み、まるで彼女が来たのを喜んでいるかのようだ。

 

校庭に咲いている春の花を名に持つ彼女は、小さく礼をしてから、上品な笑みを見せる。

 

「あの、今日から浦の星女学院に通うことになりました、桜内梨子です。よろしくお願いします……って、あなたは……」

「……おう」

「あら?」

 

先生が興味津々といった様子で俺と桜内を交互に見る。今度ははっきりと楽しんでいるのがわかる。めっちゃニヤニヤしてるし……というか、

 

何これ、どんなラブコメ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そろそろ教室に向かおうと、先生が俺と桜内を先導するように歩く。その後ろに静かについて行くと、桜内がこちらを見上げる。

 

「また会いましたね」

「おう。というか、転校してくるとは思わなかった」

「私も。学校の名前は聞いてたけど、場所はお母さん……あ、母に今日送ってもらって初めて知って……まさか高海さんの言ってた学校だったなんて、思わなかった」

「……そういや確かに、学校の名前は言ってなかったな」

 

桜内の学校名を聞いた途端に、高海が興奮気味に桜内に色々聞きまくったから、こっちの校名は有耶無耶になってしまったんだった。

 

「改めて、これからよろしくお願いしますね」

「おぉ。まぁ、よろしく頼むわ」

 

そんなことを話していると、二年の教室にたどり着く。先に先生が教室に入り、新年度の挨拶をする。その後、俺と桜内を紹介するって流れらしい。

 

しかし二年生か……一年生と違い、学校にある程度慣れ、三年生ほど受験でピリピリしていない。まぁ最初に担当するには悪くないのかもしれない……ん?そういや、確か高海も二年生だったような……

 

「じゃあ、2人とも入って」

 

と、声がかかる。紹介は桜内の次に俺という流れらしいので、ドアを開け、桜内を中に促す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

小さくお辞儀をしながら教室に入る桜内。その後に続くように教室に入り、教卓に立つ。

 

「東京の、音ノ木坂という学校から来ました。桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

短く挨拶をした桜内がこちらをちらりと見る。次は俺の番ってことらしいので、今度こそ普通の自己紹介をするために口を開く。

 

「比企「奇跡だよ!」っておい……」

 

せっかくちゃんと出だしから声が裏返ったり、噛んだりしなかったのに、まさしく口を開いたその瞬間に被せるように、誰かの喜びの声が聞こえた。

 

自分の席で立ち上がった彼女は、周りからの不思議そうな視線もなんのその。キラキラ輝く瞳を、ただひたすらに桜内に向けている。

 

「あ、あなたは」

「桜内梨子さん!一緒にスクールアイドル、やりませんか!?」

 

 

 

 

お昼時、授業終了を告げるチャイムが響く。

 

「ん、じゃあ次から本格的に授業に入るから、そのつもりで頼む」

 

初めて一年生の現国。自己紹介と生徒の名前の把握に授業時間の大半を使ってしまったが、一先ず全員それなりに真面目そうで助かった……とはいえ、約1名いきなり休んでいたのが気になるが。

 

ヨハネと名乗った少女——津島善子が、入学早々から休んでしまっていたのだ。どうも体調を崩しているわけではないらしいが、であるならば何が原因なのだろう……

 

気にはなるものの、中々集中してそのことについて考えることはできなかった。何故なら、

 

「桜内さ〜ん!一緒にスクールアイドルを!」

「ごめんなさ〜い!」

「……まだやってるのかよ」

 

ちらりと窓から校庭を覗いてみると、体育の授業終わりだったのか、ジャージ姿の桜内が同じくジャージを着ている高海から逃げるように校舎に向かっている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結局あの時、突然の高海からのお誘いに対し、桜内は頭を下げながらキッパリとこう言った。

 

「ごめんなさい!」

 

その時の高海は一瞬そのことを理解できなかったのか、笑顔が固まっていたのが印象深い……

 

ひとまず場をなんとか落ち着かせ、当たり障りのない自己紹介を済ませた俺は、そのまま1時間目が二年生の担当だったため、教室に残った。

 

「まぁ初日だからな。とりあえず全員の顔と名前だけでも一致させたい。桜内以外も自己紹介して貰えると助かる」

 

というわけで1人ずつ順番に自己紹介をしてもらった。こういう時は無駄に記憶力がいいのがプラスに働く。中学時代とかクラスメートの名前覚えてるだけでストーカー扱いだったからなぁ……

 

と、次に見知った顔が立ち上がる。

 

「はい!水泳部兼スクールアイドル部所属の、渡辺曜であります!特技は高飛び込みで、今年も全速前進、ヨーソロー!で頑張る所存であります」

 

またまた敬礼する渡辺。どうやら彼女の癖というか決めポーズ的なものらしい。父親が船長をしているらしいから、そこから来ているのだろう。

 

なんにせよ、他のクラスメートと比較しても、一際元気のいいやつなのは間違いなさそうだ。と、次はその隣の席の番である。まぁ、こいつも三度目ましてくらいだけど、一応な。

 

「高海千歌です!スクールアイドル部を始めます!」

「おう」

「たがら、桜内さんも一緒に!」

 

と、早速また勧誘である。あまりにも自然にやってるから突っ込めなかったよ、コンチクショウ。突然話を振られた桜内は、ビクッと肩を震わせ、苦笑しながら高海を見る。

 

「えっと……ごめんなさい。今はピアノのことを考えたいの」

「というか高海、終わったなら座れ〜。そういうのは授業時間外でやるようにな」

「あ、はい」

 

 

 

そんなわけで、事あるごとに高海は桜内を勧誘するのであった。というかもう5回目とかだぞ。流石にしつこいだろそれは。押してダメなら諦めろって言葉、知らないのかよ。

 

……まぁ諦めるのはともかく、押すだけじゃなく、引いてみるのも1つの手なんだがなぁ。

 

「どーしても作曲できる人が〜!」

「ごめんなさい〜!」

 

またまた聞こえてくる、本日6度目のやり取りに溜息をつきながら、取り敢えず昼飯を食べるべく、用意した弁当を持って屋上の方へ向かうのだった。

 




折角なので、1話につき1動画宣伝しよう、そうしよう(笑)

ってなわけでSiriusの動画第一弾、
「恋になりたいAQUARIUM」をどうぞ〜。
センターの子が超絶可愛いので見て損は無いですぞ。

Youtube
https://m.youtube.com/watch?v=gneFcegq3Xw
ニコ動
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33248581?cp_in=wt_uservideo


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彼は自ら動き出す

もう2月か〜、早いなぁ……

なんて思いながら、歳を重ねちゃいました〜
あ、特に関係ないし、興味もないですね。はーい。

んじゃ、次に行ってみましょう〜!


屋上に出てみると、綺麗な景色が視界いっぱいに広がった。真上を見ると、どこまでも続く青空が広がり、遠くに視線をやると、雲が少しだけかかっている富士山が見える。

 

爽やかな風が吹き、少しばかり冷たい空気を運んでくる。それでも日当たりが良いからか、その冷たさは決して不快ではなく、むしろ何処か心地いい。

 

誰もいないことをいいことに、大きく伸びをしてみる。

 

「んんっ、はぁ〜……なんか……いいな、こういうの」

 

思わず笑みがこぼれる。なんだかんだ言ってそれなりに人の多かった千葉では感じられなかった心地よさ。陽の光、潮風の匂い、それに揺れる木々のざわめき。何もかもが心を落ち着かせてくれる。

 

適当な場所に腰掛け弁当を開く。近くにコンビニもなし、購買もなしなので、必然自分で弁当を用意する必要がある。学食?周りほぼ全員女子高生の空間で俺に死ねと?

 

大学生活の間に雪ノ下から由比ヶ浜共々指導を受けていたから、高校時代から飛躍的に料理スキルが向上したとはいえ、自分で用意することの大変さを実感する。

 

「よーし、この感じでやってみよう!」

「了解!」

 

と、何やら中庭の方から賑やかな声が聞こえてくる。というか凄く聞き覚えがある。何を始めるのやらと立ち上がり、中庭を覗いてみると、

 

「ワン・ツー・スリー・フォー、ワン・ツー・スリー・フォー」

「ワン・ツー・スリー・フォー、ワン・ツー・スリー・フォー」

 

カウントを取りながら、高海と渡辺がステップを踏んでいる。時折スマホで動きを確認しながら、何度も何度もリズムに合わせて体を動かす。

 

「あの振りは……本当に好きなんだな」

 

遠目からでもその動きだけですぐにわかった。何回練習で見てきたのかさえ忘れたけれども、それだけにその動きはこの目にしっかりと焼き付いている。見間違えようがないほどに。

 

「あいつも、始まりはあんな感じだったって言ってたっけな」

 

仲間もいなくて、部室もなくて、練習場所も決まっていない。そんな時もあった彼女は、校舎の裏とかで、一人で練習していたと言う。憧れたグループの動きを少しでも真似ようと、何度も動画を見て、何度も身体を動かして……

 

「……ったく……もう関係ないはずなんだけどなぁ」

 

ボリボリと髪をかく。別に何か頼まれたわけでもないのに、あんなのを見せられてしまうと、な。

 

「色々調べてみますかね」

 

弁当の最後の一口を口に入れ、屋上から出る準備をする。とりあえずは……

 

「部活の申請について、だな」

 

どうやら、あいつの言う通りの展開になってしまいそうだ……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まぁ、こんなもんか……」

 

まだ新年度が始まったばかりで特にやることが多いわけではなかったため、パパッと調べものをする。

 

以前貰っていた学則などの資料を読み漁り、新しい部活の申請に必要な条件、得られる待遇などについての情報を集める。

 

「この辺りは音ノ木坂と殆ど同じだな……」

 

部活動の申請は部員5人から。ただし部活被りは申請できない。正式な部活には部室が与えられ、学校の施設や機材を使用することができる。

 

今はああして中庭で練習しているが、もし本当にスクールアイドルの活動を続けたいと考えているのであれば、部室や練習場所の確保は重要になる。

 

ともあれ、現在確認できる限りでは、部員は高海と渡辺の2人だけ。となると少なくとも、あと3人勧誘しない限りは、部活としての申請はできない……か。

 

「あとは、実は同じような部活がありました〜、なんてことがないかの確認だな……この辺りは黒澤姉に聞いてみるか……」

 

席を立ち、生徒会室に向かう。聞いた話によると、現在の生徒会活動はほぼ黒澤一人で担当しているらしい。なんか何処かの金髪生徒会長を思い出させるが、果たして彼女はスクールアイドルをどう思っているのだろうか……

 

「ですから、まずは部員を5人ちゃんと揃えてから出すようにと、以前もお伝えしたはずですが?」

「でも、あのu'sだって、最初は3人だったって聞きますし……」

 

そう思いながら生徒会室の前に着くと、中から何やら話し声が聞こえる。取り込み中か?どうやら話しの相手は高海たちらしいが……この感じだと「スクールアイドル?認められないわぁ」、とかなんとかやってるのだろうか?

 

「知りませんか?スクールアイドルのu's?」

「……それはもしかして……μ’sのことを言っていますの?」

「へ?」

 

ん?

何やら黒澤の様子がおかしいような……

 

「あれってμ’sって読むの?」

「さぁ?」

「おだまらっしゃいっ!」

 

突然の怒声に思わず俺までビクッと肩を揺らしてしまった。なんだなんだ?

 

「μ’sはスクールアイドルにとっての聖地、聖典、宇宙にも等しい生命の源ですわよ!その名前を間違えるとは、片腹痛いですわ!」

 

「「「……えっ?」」」

 

扉の内側と外側、高海たちと俺の声と心が、見事にハモった瞬間である。

 

「第一回ラブライブでの挫折と、そこからの復活。学校を廃校の危機から救い、遂には海外進出!数多くのスクールアイドルとともに作り上げたライブは、もはや伝説!伝説ですわよ!その伝説のスクールアイドルの名前を間違えておいて、自分もそうなりたいだなんて、片腹痛い片腹痛い!」

 

……お、おう。なんかこう、一気にイメージ変わるわ。ガチガチに硬いダイヤモンドは実は脆いって話は聞いたことがあるが、どうやら彼女もその名に違わなく、お堅いイメージが一瞬で崩れ去ったわ。なんかクイズ始まってるし。

 

「第3問。ラブライブ第二回決勝、μ’sがアンコールで歌った曲は「あ、それならわかります!僕らは今のなかで!」…ですが、曲の冒頭でスキップしている4名は誰?」

「えぇ〜っ!?」

 

えらくマニアックな質問来たな……まぁその答え知ってる俺も俺だけどな……奉仕部、それに力を貸してくれたあいつらと一緒にかなりいい席で見てたわけだし、忘れようがない。

 

『ブッブッブーッ!ですわ!』

「のわっ!?」

 

今度は思い切り驚きの声を上げてしまったが、それも仕方のないことだろう。突然黒澤姉の怒声が、生徒会室内からだけでなく、校内のスピーカーからも、大音量で流れ出したのだから。

 

あれ?これもしかして放送事故ってやつじゃないですかね?しかしそんなことになっているとは、室内からはわからないのか、黒澤の怒声は続いている。

 

『絢瀬絵里、東條希、星空凛、西木野真姫!この程度の質問が答えられないようでは、到底μ’sを尊敬しているなどとは言えませんわ!』

 

いや、その質問はマニアックすぎると思うぞ。多分普通のファンどころか、ガチファンでも答えられないレベルで……

 

『もしかして生徒会長って……μ’sのファンなんですか?』

『当たり前……ではなく、これしき一般教養ですわ!』

 

そうかぁ……一般教養かぁ……一般教養のハードル高すぎやしませんかね?ただそんなことよりも、

 

『とにかく!私は貴方たちがスクールアイドルになることを、決して認めませんわ!』

 

……どうやらあの時と同じように、そう簡単にはスクールアイドル活動を始められなさそうではあるな……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

——放課後。

 

帰りのホームルームを終え、生徒達が帰宅や部活に向かう準備を進めている。が、

 

「う〜ん……どーしたらいいんだろう」

「部員も必要だし、曲も作らないといけないし。衣装のデザインはできたけど、まだ作ったわけじゃないし……」

「う〜、やることがいっぺんに多すぎるよ!」

 

うが〜っ、と頭をかきむしる高海と、その様子を苦笑しながら見守る渡辺。

 

やはりというべきか、中々にスタートが難航しているようだった。まぁ、俺たちが彼女達を手伝った時も、似たような状況だったしな。

 

小さく息を吐き、二人のもとに近づく。まさか自分からこんなふうに動くことになるとは、全く思わなかったが。

 

「高海、渡辺」

「あ、比企谷先生」

「どうしたんですか?」

「あー、そのだな……お前らが良かったらだが……」

 

?、と頭に疑問符を浮かべながら首をかしげる二人。少し緊張と自分に対する戸惑いを覚えながらも、意を決して口を開く。

 

「スクールアイドル、お前らが良ければ手伝うが……」

「「……へ?」」

 




はいはい、Siriusの宣伝しちゃうよ、第2弾!

二曲目は 「MIRAI TICKET」。
千歌パートの子が一瞬見せる笑顔が個人的推しポイント!
あと全員でのジャンプがすっごい綺麗に揃ってる。

ほんとに可愛いから見てみて!
YouTube
https://m.youtube.com/watch?v=UMIfvPpwu3M&t=35s
ニコニコ
http://sp.nicovideo.jp/watch/sm33369973?cp_in=wt_uservideo


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こうして彼の奉仕活動が始まる

この前久しぶりに普通の服とか買いに行ったんですよ。

いやぁ、こんな高かったっけ?ってなりましたね(笑)

まぁ、いいもの買えたし、良かったんですけどね。

はい、次のお話へレッツゴー!


「初めまして。高海千歌の姉、志満です。妹をよろしくお願いします」

「初めまして。今年度から浦の星女学院に勤めることになりました、比企谷です。よろしくお願いします。」

 

現在、高海の実家の旅館十千万の玄関にて、高海の姉であり、この旅館の若女将でもある高海志満さんと挨拶を交わしている。

 

しかし姉だったのか。母親だと思った。聞く限りでは母親は普段東京にいるらしい……女将なのに?

 

 

あの後、不思議そうな顔をしていた2人だったが、部活動の成立に向けて協力する旨を改めて伝えると、高海が飛び跳ねて喜んでいた……うん、頼むからスカートでそういうことはやめてね。

 

一先ず今の彼女達の現状を把握するべく、話を聞かせてもらいたいと伝えると、一度高海の家に行こうということになり、現在に至る。

 

十千万の中にある喫茶スペースに案内され、畳の上に腰を下ろす。

 

「じゃあ、ゆっくりしていってくださいね」

「あ、ありがとうございます」

 

コーヒーを差し出しながら、志満さんが小さく礼をする。お礼を言いながらコーヒーを受け取ると、彼女は旅館の奥へと向かっていった。コーヒーを一口飲み、お茶を飲んでいる二人の方に体を向ける。

 

「……で、とりあえずスクールアイドルの活動をするにあたって、お前達の現状を確認したい」

「へ?現状?」

「まぁ、意思確認というか、目的意識についてからだな。スクールアイドルとして、何を目指したいんだ?」

「何をって?」

「部活の目標とか?」

 

顔を見合わせる2人。小さく頷いてから、彼女達に問いかける。

 

「まぁそんなところだ。例えばお前の大好きなμ’sだが、あいつらは学校を廃校の危機から救うため、という明確な目的を持って活動を始めた。で、そこから繋がる形で、ラブライブに出場したわけだ。何事にも言えることだが、こういうことを継続して活動するためには、何かしらの原動力が必要になる。それがあるか?」

 

じっと2人、主に高海の方を見る。言い出しっぺはこいつだったわけだから、グループの目的、目標を立てるとしたら、こいつの方だろう。

 

「え〜と……あんまり具体的には考えてなかったかも……」

「輝きたい!って、千歌ちゃん言ってたよね?」

「うん……でも何をすればいいのか、わからなくて……」

「なら、一先ずは何かしら具体性のある目的を探すところから、だな。……ラブライブには出たいか?」

「それはもちろん、出てみたいです!あのμ’sが、輝いた舞台ですから!」

「渡辺は?」

「もちろん、やるであります!千歌ちゃんと一緒に何かを全力でやりたいってずっと思ってきましたから」

 

元気一杯に答える2人。どうやらそのやる気は本物らしい。なら、その気持ちを後押ししてやるくらいは、教師として、元奉仕部員として、別に問題はないだろう。

 

「なら、今考えるべきはメンバーの数だな。ラブライブに出るには学校公認の部活でないといけないから、そこは最低条件だ」

「えっ……う〜ん」

「今は、この2人だけだしね」

「誘いたい子は4人もいるんだけどなぁ……」

 

と、腕を組みながらまたまた思案顔の高海。どうやら勧誘の方は上手くいっていないらしい……まぁ、あんだけ桜内に断られまくってもめげない高海のことだ。きっとなんとかなる……はず?

 

……なんだろう。少し不安になってきた。

 

「……部員の次は曲と衣装。ラブライブはオリジナルの曲じゃないといけないってルールだからな。オリジナリティある歌詞と、曲を一から作る必要がある。んで衣装だが、制服ってのもスクールアイドル感があって決して悪くはないが、やっぱり曲に合わせた衣装じゃないと、注目度とかもな……ん?」

 

高海と渡辺が驚いた表情でこちらを見ている。何か変なこと言ったか?

 

「……どした?」

「あ、いえ」

「比企谷先生って、凄く詳しいんですね!」

 

何やら興奮気味に高海が身を乗り出す……いや、だから近いからね、お前。

 

「こんな頼もしい先生が手伝ってくれるなんて、奇跡だよ!」

「大袈裟だろ」

「でも本当に的確に物事を見ているというか、手慣れている感じがするというか……先生って、こういう活動してたことがあるんですか?」

 

不思議そうな表情で問いかける渡辺。

 

「いや、俺がスクールアイドルとか何の冗談だよ。まぁあれだ。知り合いに詳しい奴がいたんだよ。んで、色々話聞かされてたってだけだ」

「そうなんですか」

 

うん。嘘は言ってない。間違いなくあのツインテールのおかげで詳しくなったからなぁ。まさかまた役立つ時が来るとは。

 

「ん、まぁ俺の話は置いておいて、だ。当面の重要事項としては、作曲だな。2人は楽器できるのか?」

「あはは、できません」

「私も」

「だろうな」

 

桜内を勧誘するときにも、作曲出来る子がどうのこうのって言ってたしな。

 

「まぁ、でもあれだ。何なら最初からスクールアイドルって形じゃなくてもいいと思うぞ」

「えっ?どういうこと、ですか?」

「要は、スクールアイドル部に最初から入るんじゃなく、あくまで楽曲提供という形で協力を依頼したらいいんじゃないかってことだ」

 

桜内とは別のピアノ少女のことを思い出しながら語る。ツンデレを絵に描いたようなそのお嬢様も、最初はただの協力者でしかなかったが、その繋がりがあったからこそ、グループに入るきっかけを得た。

 

結局は桜内本人が決めることだが、なんにせよ、無理に何度も誘うよりはマシだろう。それに……

 

 

ふと、初めて会った時の桜内の見せた表情を思い出す。高海と話す彼女は笑顔ではあったものの、まるで何か大切なものを諦めたかのような——そう、まるで生徒会選挙後に雪ノ下がずっと見せていたような——そんな笑みだった。

 

「?先生?」

「ん、悪い。まぁとにかくだ。どの道桜内の協力は必須だからな。なんとか説得するしかないな」

「千歌ちゃん、上手くいきそう?」

「大丈夫!絶対なんとかなるよ!」

 

自信満々に答える高海。果たしてその根拠はどこから来ているのやら……が、その根拠のない自信をなんとなく信じてみたくなってしまう。その自信で、とんでもないと思ってだことを実現させたやつを知っているから。

 

「……なら、そこにかけるしかないな。後、さっきのに付け加えるなら、デビューライブの場所も考えないといけないな」

「ライブかぁ……なんかまだ想像もできないけど」

「でも、なんかワクワクしてきた!」

 

笑顔で楽しそうに話す2人を眺める。確かに、大好きな気持ちを持ってやるのであれば、それはとても楽しいだろう。同時にその先の道が決して楽しいことばかりではないことを、俺は、俺たちは知っている。

 

果たして彼女たちの前には、どんな障害が待っているのか、わからないけれども、それでもそれを見守ろう、見届けようと、そう思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

その後、バスの時間だと慌てて渡辺が出ていくのをみて、俺も微妙に残っていたコーヒーを飲み干す。

 

「じゃ、俺も行くわ」

「あ、はい。ありがとうございます、比企谷先生」

「千歌ちゃん、一応お客様なんだから、ちゃんとお見送りして」

「は〜い」

 

旅館の出入り口を開け、暖簾をくぐる。後ろから高海が着いて来ている。

 

「じゃあまた明日から、よろしくお願いします」

「おう……ん?」

「?どうかしました?……あ」

 

高海が俺の視線を辿るように、旅館の正面にある海岸を見る。そこに1人の少女が佇んでいる。

 

「桜内さ〜ん!」

 

大きな声で呼びかけながら、桜内に駆け寄る高海。後ろ姿からだけでも、桜内がため息をついたのが分かる。とりあえず、一応手伝うと言ったばかりではあるし、俺も行きますかね。

 

……なんて思っていたら、

 

「もしかしてまた海に飛び込もうとしてる〜?」

 

とか言いながら、高海が桜内のスカートをめくりながら覗き込んだ。

 

「してません!って……比企谷先生!?」

 

……や、見てないから。電光石火の速さで顔ちゃんと逸らしたから。ちらりと白いものが見えたような気がしなくもないが、確実に気のせいだから、うん。

 

「み……見ました?」

「いや、見てない」

「本当ですか?」

「ああ」

「ほんっとうですか!?」

「お、おぅ……あと、近い」

 

なんか口を「◇」みたいにさせながら、桜内が詰め寄る。改めて近くで見るとやっぱこいつも美少女なんだよなぁ、とかくだらないことを考えながら、とりあえず一歩下がる。

 

「それより、なんでまたここに?」

「あ、私の家この近くなんです」

「えっそうなの?ご近所さんだね」

「高海さんも?」

「うん。そこの旅館、実家なんだ」

 

頷きながら十千万を指差す高海。驚いた様子の桜内だが、この前ここで着替えたんじゃなかったのか?まぁ、別にいいけど。

 

「で?またここにいるってことは、海の音か?」

「あ、はい……でも、やっぱり聞こえなくて……」

「なら、今度の日曜に聞きに行かない?」

「えっ?」

 

ふふん、と何やら訳ありな笑みを浮かべている高海。キョトンとしている桜内の隣に立ち、海を見つめる。

 

「いい考えがあるの。きっと聞けると思うから」

「……聞けたらスクールアイドルやれって言うんでしょ?」

「うーん、そうだったら嬉しいけどね。でも、無理強いは出来ないのもわかってるし……だからとりあえずは、一緒に海の音を聞きに行くってのでどうかな?」

「え、ええ」

「比企谷先生も、それでいいですか?」

「えっ、俺も?」

 

当たり前のように頭数に入れられていることに驚く。日曜ってお休みの日だろ?しかも仕事始まってから最初の日だし。そんな日にわざわざ外出するとか……

 

「じゃあ日曜日にまたここに集合ってことで、いいですよね?」

「……はぁ。わかったわかった。予定は開けておく」

「じゃあ決まりですね!桜内さんも!」

「え、うん……」

 

俺も随分甘くなった気がする……なんだか知らないが、ああいうキラキラした、断られることを微塵も想定していない一種の信頼のような眼差しには弱い……まぁ、穂乃果のせいか。

 

そんなわけで、どうやら今週は週末もあんまりゆっくりできそうにはなさそうだなぁ、なんてことを思いながら、二人と別れ、帰路に着くのであった。

 




はい、もう毎度恒例になりつつありますね。

今回もAqoursのコピユニ、Siriusの動画を〜……
と思ったけど、それだとすぐに宣伝ことなくなるので、今回から何回かは私なりにメンバー紹介していこうかと(笑)

んじゃ、まずはこの方から。
Siriusリーダー兼高海千歌担当、双葉さん!

元梨子担当だった彼女ですが、何より踊りに全力!
なんならやりたい曲のためにバク転教室通うレベル。
特に想いよひとつになれでの彼女は、必見!

個人的にキャラに似てると思うところは、性格。
元気全開DAY! DAY! DAY!な上に、超フレンドリー。
絶対男子を無意識に死地へ送り込むタイプ(笑)

そんな彼女を、皆さんも応援しませんか?

あ、因みに彼女、超穂乃果推しでもあります(笑)

SiriusのTwitterアカウント
→@Sirius_LS


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海の音を聴きに

少し短めですが、新しいエピソード。
今回はようやく8人目との出会いですね〜。

ではではどうぞ!


日曜日。

 

まぁなんとか最初の週を乗り切りましたとも、ええ。とは言ったものの、結局昨日は慣れない環境での疲労とかが出たのか、ほとんどずっとゴロゴロしたいほどだった……

 

そう、したいほど……結局できなかったけどな。

 

なんてことはない、スクールアイドル活動に付き合っていたのだ。砂浜で練習する二人を見守り、時にアドバイスをし、時間の管理をする。さながらマネージャーのごとく、彼女たちと行動を共にしていたのだ。

 

こういう時、昔取った杵柄とはよく言ったものだと感心してしまう。細かい動きまで見ることができるから、割と意見を求められても困らないし、水休憩のタイミングとかも自然にわかる。

 

ほぼ1日を費やした練習は、俺から見てもそれなりに充実していたように思える。何度も転んで、砂まみれになっても、彼女たちは笑顔だけは忘れていなかった。

 

心から、今やっていることを楽しんでいた。

 

……まぁ、そんな姿を見せられたら、俺も途中で帰る、とは言えず、結局丸一日彼女たちの練習に付き合うことになったのだった……

 

 

 

なんてことを回想しながらではあったが、自転車を漕ぐこと数十分。旅館十千万の正面に辿り着くのだった。

 

志満さんから許可は貰っているので、駐輪場に自転車を止め、海岸の方へ向かう。

 

「あ、比企谷先生来た!おはようございま〜す!」

「おはヨーソロー、であります!」

「おはようございます」

 

まだ集合時間よりそれなりに早いが、既に高海と桜内、それに渡辺が集合していた。

 

元気に挨拶する高海。いつものように敬礼する渡辺。綺麗なお辞儀をする桜内。

 

三者三様の挨拶に、とりあえず「おう」とだけ返す。

 

「で?言われたとおり、水着は持ってきてるが……まさかここで泳ぐとか言わないよな?」

「あはは〜、違いますよ。ちゃ〜んと、その辺りは考えてありますから!」

 

エッヘン、と胸を張る高海。いや、そこでドヤ顔するな、普通に可愛いじゃねえか。

 

「それじゃあ、全員揃ったことだし、行こっか?」

「うん!」

「あの、行くってどこに?」

 

首を傾げながら質問する桜内。高海と渡辺が顔を見合わせてから、声を揃えて答えた。

 

「「淡島!」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「果南ちゃーん!」

「おっ。来たね、千歌。曜も」

 

バスで移動することしばし、船に乗り継ぎたどり着いたのは陸から少し離れた島、淡島。水族館に神社、更には超高級ホテルまであるこの島の一角にあるダイビングショップが、今回の目的地だった。

 

「おはヨーソロー!」

「ふふっ、おはよう。それでこっちの子が?」

「うん。桜内梨子さん」

「あ、初めまして。桜内梨子です」

 

高海に紹介された桜内がお辞儀をする。高海と渡辺と挨拶を交わしていた少女が近寄る。

 

すらりと長い手足に、ポニーテールに纏められた長い髪。どこか快活さと大人っぽさを併せ持つ笑顔を浮かべる、ウェットスーツを着たスタイルのいい少女。

 

……や、仕方ないんだって。ウェットスーツとか、身体のラインがかなりわかりやすいんだって。じっくり見てたわけじゃないから。

 

「初めまして、松浦果南です。千歌たちの一個上で、一応今年から浦女の三年生だよ。訳あって休学中だけどね」

「そうなんですか……」

「うん。それから……」

 

松浦の視線がこちらに移る。何だか目のやり場に困っていたので逸らしていた視線を彼女に戻す。不思議そうな顔をしながら、こっちを見ていた。

 

「今年から浦の星女学院で現国を教えることになった。比企谷八幡だ」

「あぁ、そっか。千歌の言ってた新しい先生。男の人だったんだ」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「新しい先生が来たとしか聞いてないよ」

 

目を閉じ、う〜んと首を傾げる高海へ優しく微笑みかける松浦。高海と一つくらいしか歳が変わらないはずなのに、どこか大人びた印象を与える。なんというか、姉っぽいのだ。

 

「それで、海に潜りたいんだっけ?」

「うん!」

「へ?潜る?」

 

松浦と高海のやり取りに桜内が首をかしげる。というか俺も傾げてた。潜る?ダイビングってこと?

 

「まぁ、千歌と曜はライセンスは持ってないから、スキンダイビングってことになるけど……2人は経験あるんですか?」

「2人って……俺もか?」

「他にいないでしょ」

 

なるほど、どうやら水着というのは潜るために持って来させたらしい。海の音を聞くために海に潜る、というのは別に悪い考えではない。寧ろリアルな体験が何かヒントになる可能性は、十分にある。が、しかしだ……

 

「いや、なんで俺まで潜ることになってんの?」

「だって、比企谷先生もこっちに来たばっかりなんですよね?折角だから、ここの海を見て欲しいと思って」

「やっぱり内浦で過ごすなら、海とは切っても切れない関係ですから。私のパパも船の船長ですし」

「それに、みんなで一緒に潜った方が楽しいと思いますし!」

 

満面の笑顔の高海は、自分の言葉になんの疑いも持っていないようだ。

 

「みんなで」、という言葉を俺は好きじゃなかった。まるで1人で何かをすることが悪いかのようで、まるで1人で何かをすることを恐れているようで。でも……

 

『みんなと一緒だったから、ここまで来れた。そこには八幡君も、ちゃんといるんだよ』

 

あの真正直な言葉を向けられたから……

 

「……まぁ、ここまで来ちゃったわけだしな。潜るか」

「オッケー。それじゃあ、ウェットスーツを貸すので、店の中へどうぞ」

 

松浦に案内され、店の中へと進む。サイズを申請し、ウェットスーツ、ブーツ、フィン、ウェイトベルト、マスク、そしてシュノーケルの一式を借り、ショップの目の前に停まっている船に乗り込む。

 

「じゃ、行こっか」

 

そう松浦が言うと、船が発進する。僅かな波に少しばかりの揺れ。全身に吹き付ける潮の匂いを含んだ風に、思わず目を細めながら、目的地まではしゃぎ気味の高海たちの様子を眺めるのだった。

 




んじゃ毎度おなじみ、Siriusの紹介しちゃおうのコーナーです!

はーい、今回紹介しますのは、Siriusの曜ちゃん担当!
名前はあのさん。彼女の曜ちゃんコスは必見!
すんごいから、マジすんごいから!

前に紹介した恋アクの動画ではもちろんセンター!
実は私がSiriusを知るきっかけでもあるんですよね〜。
動画での推しポイントは、手でハートを作った時の表情です!

メンバー曰く、「3億年に1度の奇跡の美少女」
超絶美少女がキレッキレに踊るわけだから、目が離せない訳ですよ。
皆さんも是非是非、あのさんに魅了されちゃってください。

それじゃ、また次回の更新に向かって、
全速前進、ヨーソロー!

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始まりの音色

何故かバク転教室に連れられちゃいました、トマト嫌い8マンです。
多分奇跡のウェーブ起こしたいんだろうなぁ、と1人納得する。
因みに正解でした(笑)

まぁそれはさておき、続きま〜す


全身に感じる穏やかな流れ。

 

手足を軽く動かすのにも、いつも通りとはいかない重み。

 

音は届きにくく、そして光もそう。

 

耳を澄まして、瞳を凝らして、それでもどこかぼんやりとしか、辺りを認識できない。

 

海の中……生命の源というが、成る程。こんなにもぼんやりとしか周りがわからないのに、感じるのは恐怖でなく心地よさなのは、やはり身体が自然に帰ろうとしているのだろうか?

 

 

なんてことをぼんやり思っていると、ちょんちょん、と肩を突かれる。その方向に顔を向けると、松浦がこちらを覗き込んでくる。

 

親指と人差し指で輪を作り、こちらに向けながら首をかしげる松浦。それに対して俺も同じように輪を作り、彼女に向ける。松浦が頷く。

 

マスク越しで分かりにくいが、彼女の表情が笑顔になったように見えた。心配でもかけてしまったのだろうか。

 

ふと松浦の背後の方へ視線を向けると、桜内が1人でぼんやりと浮かんでいるのが見える。その側には高海と渡辺がいて、その様子を見守っているようだ。

 

呼吸のために桜内が浮上するのを見て、松浦が親指を立てて海面に向ける。指で輪を作り頷きを返すと、松浦が浮上していく。あとを追うようにフィンで水中を蹴り、水面を目指す。

 

「ぷはっ」

「ふぅ。なかなか上手くいってない感じみたいですね」

「……みたいだな」

 

少し離れた場所に浮上している3人を見ながら松浦が呟く。自分が見ても、その通りだと言わざるを得ない。現に桜内の表情は浮かないままだ。

 

「海の音、なぁ……」

「海の中って、どこか別空間ですから。光も音も、地上よりずっと届きにくくて、だから不思議で怖い時もあります」

 

淡島の職員が操縦する船に戻り、すぐに座り込むと、松浦が人一人分空けて隣に座る。座りながらも、どこか真剣な表情で語る松浦。その視線は高海たちに向けられている。

 

確かにさっき潜ってた時も、あまり明るくなかった。感覚全てが鈍くなったかのような、不思議な感覚。目を閉じれば、まるで宇宙に放り出されているんじゃないかと錯覚するような浮遊感と静けさがある。

 

だけど……

 

「……けど、それだけじゃない、だろ?」

「そうですね。それだけならきっと、何度も潜りに行きたがる人はいないですよ。海の中には、そこでしか見られない景色が……生き物が……世界があるんです。そこには、そこにしかない輝きがきっとある……」

 

そう語る松浦は、本当にこの海が好きなのだと思う、思える程に、優しい微笑みをしている。あの3人に向けられた瞳からも、何かが見つかることを確信して、疑っていないような、そんな感じさえしてくる。

 

「やっぱり、ダメ?」

「ええ……水の中って、思ってたより音が聞こえにくくて……」

「う〜ん、どうしたら良いかなぁ……」

 

頭を悩ませている高海たち3人の会話が聞こえてくる。そんな3人の様子を見ていた松浦が立ち上がり、3人に近づく。

 

「調子はどう?」

「あ、果南ちゃん。うん……なかなか難しいみたいで」

「ごめんなさい。折角誘ってくれたのに」

「まぁ、今日はちょっと雲が多くて、水中が見えにくいってのもあるからね。でも、水中だからこそ見えるものがあるから、そこからイメージを膨らませてみたら、良いんじゃないかな?」

「イメージ……でも、景色が真っ暗な中で、どこからイメージを……」

 

俯く桜内。顔を見合わせる高海と渡辺。

 

「千歌ちゃん」

「うん!桜内さん、もう一回いい?」

「えっ?え、ええ」

 

高海と渡辺に続くように、桜内も水の中に飛び込む。それを見ていた松浦だったが、今度はさっきよりもはっきりとした笑みを浮かべている。船の操縦者と一言二言交わして、こちらに戻ってくる。

 

「どした?」

「折角だから、比企谷先生も行きますよ」

「行く?」

 

疑問符を浮かべながら松浦に問いかける。と、松浦は笑顔のまま、視線をこちらに向けて、ウインクした。

 

「海の音を聴きに」

 

……可愛いじゃねぇか、そりゃ反則だろ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

少し前を泳ぐ3人を追うように、松浦と泳ぐ。特に景色が変わっているようには見えないが、それでも何か明確な目的を持って、高海と渡辺が先導する。

 

と、ふと2人が止まる。それに合わせて桜内もその場で止まる。松浦が3人のいる場所から少し離れた場所で止まるように指示を出す。マスク越しに伺うと、その視線はしっかりと3人に向けられている。どうやらここで見守るように、ということらしい。

 

じっとそこに浮かんでいるだけの3人。

 

と、ふとその姿がより明るく、鮮明に見えるようになる。高海と渡辺、それに松浦が上を指差す。桜内が見上げるのにつられるように、俺も水面を見上げる。

 

瞬間、言葉を失った……

あ、元からこの状況じゃ喋れないか。

 

ただきっと喋れたとしても、何の言葉も発することはできなかっただろう。

 

雲の隙間を縫ったのか、僅かな日光が海に差し込んでいた。その光は波の動きに合わせて、まるで光の渦のように、揺らめき、煌めき、輝く。

 

さっきまで姿に気づくことさえできなかった魚たちの影に、色が生まれる。真上から差し込む光を反射し、キラキラと海を彩る姿は、どこか生きている宝石のようにも見えてくる。

 

その景色の中で、桜内がそっと両手を前に差し出す。何かに導かれるかのように、その指が動く。

 

決して音色が出ていたわけではない。

 

出るはずがないのだから。

 

けれども……

 

その一瞬、その瞬間、その場所に音色が満ちた。

 

その音色に俺は、俺たちは聞き惚れていた。

 

 

 

「聞こえた?」

「うん……聞こえた、気がするわ」

「私も!」

「「「ふふっ。あははは」」」

 

水面に上がった3人が船に登ろうともせずに抱き合い、喜びを分かち合っている。あの瞬間、あの場所で共に経験した小さな奇跡が、彼女たちを強く結びつけた。

 

「良かったですね」

「ん?」

 

先に上がった松浦が、ウェットスーツのジッパーを下ろしながら声をかけてくる。

 

……や、まぁうん。スーツ着てた時からわかってたけどさ。5つも年下なのに目のやり場に困るっての。

 

「桜内さんの悩みも解決できたかもしれませんね」

「どうだろうな……そんな簡単に解決するもんでもないだろ」

 

そもそも彼女の悩みは、きっと曲を作れなかったこと、ただそれだけのことではなかったのだろうと思う。それではあの時の表情に説明がつかないからだ。

 

ただ、そうだったとしても、

 

「聞こえたっぽいな。海の音」

「先生には聞こえましたか?」

 

どこかいたずらっぽい笑みを浮かべながら、松浦が顔を覗き込んでくる。いや、だからお前も近いって、格好考えてくれよ頼むから。

 

と、少し動揺しながらではあったが、

 

「……まぁ、多分な」

 

と返すのだった。

 

 

後日、桜内が作曲の協力を申し出てくれたこともあり、ようやく最初の曲を作り始められる、と思った俺たちだったが……

 

「じゃあ、詞を頂戴」

「詞って何?」

「多分歌の歌詞のことだと思う……って歌詞?」

「あ……」

 

どうやらまだまだ問題は続くらしい……

 




Sirius紹介第3弾!
今回はちょっと学年変わって1年生。
国木田花丸担当、心さん!

本人曰く運動音痴らしいけど、それはそれで花丸らしい(笑)
でも、踊ってる時は本家に割と寄せられているという評判も。
デイドリと想いよの二曲の時が個人的おすすめ。

踊ってる時に表情に注目すると、彼女のちょっと可愛らしい癖も……

この方も超可愛いですよ、マジで。
というか私の中での最推し。
天使、大天使、聖天使!
皆さんも応援してくださいね〜(笑)

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歌詞、いとおかし、愛おしき……いや意味わからんな

はいはい昨日沼津行ってきた作者で〜す。
しっかりとSiriusの宣伝もしてきましたとも、ええ(笑)

まぁ、そんなことはさておき、続きじゃ続きじゃ!


前回までのあらすじ……は、長くなるから省くとしよう、うん。取り敢えず重要なことは以下の3つのことだ。

 

1.作曲を頼むために高海が桜内を勧誘しまくる

2.海の音をきっかけに、3人の距離が縮まる

3.いざ作曲、と言いたいところだが……

 

「まだ歌詞できてなかったのかよ……」

「あはは……桜内さん誘うのに必死ですっかり忘れてて」

 

放課後。

現在、高海の実家である十千万のカフェスペースにて、俺を含む4人が集まっていた。

 

無事に仕事を終え、待ち合わせ場所である中庭に向かうと、桜内を含む3人がベンチに座って、何やら頭を悩ませていた。訳を聞いてみると、曲を作ろうとしたものの、まだ歌詞が出来上がってなく、これから先に作詞タイムを取ることにしたらしい。そして当たり前のように俺も参加することになってるし……まぁ手伝うとは言ったけどさ。

 

「けど、誰が歌詞書くんだ?」

「あ、それは私です」

「千歌ちゃん、スクールアイドルの歌いっぱい聴いてるから、一番思いつけそうだからって」

「まぁ、一理あるな」

 

この中に作詞経験者がいるなら話は別だが、桜内はピアノだけだったし、渡辺と高海はそういう経験皆無っぽいし……

 

「で?どんな歌作るつもりなんだ?」

「やっぱり、ラブソングっぽいのがいいなぁって!μ’sのスノハレみたいなの!」

「スノハレ、ねぇ……」

 

なんか高海から敬語が抜けてきているが、まぁ別段注意することでもないと判断し、そこはスルーする。

 

しかし真っ先に上げるのがスノハレとは……

 

「う〜ん、やっぱりラブソングは難しいんじゃないかなぁ?」

「え〜!」

「そうね。ああいうのって、だいたい自分の経験から歌詞を書くものだし。高海さんって恋愛経験ないでしょ?」

「なんでわかるの?」

「あるの?」

「うっ……な、ないけど……」

 

行儀悪くも机に突っ伏してしまう高海。まぁ、ないだろうと思ってたが、本当にないならまずラブソングは無理だな。

 

「あれ?でもそれなら、スノハレを作った時、μ’sの誰かが恋愛してたってこと?」

「うーん、そうなのかな?」

「ちょっと調べてみる!」

 

言うが早いか、高海が自室の方へ走っていく。歌詞作りの途中に何やってんだか……

 

とは思うものの、同時に考えてみる。

 

果たして彼女は、その時恋愛をしていたのだろうかと。

 

あんなに好きだと言う気持ちを、切ない気持ちを込めた歌詞は、果たして誰に向けられていたのだろうかと……

 

 

 

「くしゅん!すみません」

「?風邪かしら」

「……風邪、ではないようですね。誰かが噂でもしているのでしょうか?」

「そうね。貴方達の5周年特集も出版されているもの。そういうことは絶えないわよ。でも、悪い噂ではないから、いいんじゃないかしら」

「そうだといいのですが……何やら良からぬ予感が……」

「そう?だとしたら……彼かしらね?」

「む。だとするなら、どういう話をしていたのか、問い詰めないといけませんね。雪乃さんもどうですか?」

「そうね。面白そうだから混ぜてもらおうかしら。いいかしら?」

「はい」

 

 

 

……?なんか今、ものすごく嫌な予感がしたような気もするが……気のせいだろうか。

 

「ほんと、好きなんだな。μ’sが」

「あんなにのめり込む千歌ちゃんって、結構珍しいんですよ」

「普通怪獣だった……か」

「はい。でも、今の千歌ちゃん、本当に楽しそうで」

「まるでスクールアイドルに恋してるみたいね」

 

言いながら、渡辺はどこか嬉しそうに、桜内は感心したように微笑む。……ん?恋してるみたい?

 

「……それでいいんじゃね?」

「「えっ?」」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

志満さんに許可をもらい、渡辺に案内されながら十千万から高海家へ移動する。家の方も和風なんだなぁ、なんて感心しながら階段を登る。

 

「千歌ちゃん、入ってもいい?」

「うん、いいよ〜」

渡辺が返事があるのを確認してから、襖を開く。割と整理された部屋の中央には低めのテーブルがあり、高海はそこに突っ伏すようにしながらパソコンを見ている。チラリと周囲を見ると、壁に貼ってあるポスターが目に入る。

 

そこに写っているのは9人の少女たち。赤と白を基調とした衣装に身を包み、輝かんばかりの笑顔を見せている。

 

つい口元が緩んでしまう。本当にあいつらのことが好きなんだなと。同時に、これだけ好きならさっきの考えに間違いはなさそうだと確信する。

 

「う〜ん……やっぱりμ’sの恋愛については何も書いてないや」

「スクールアイドルとは言っても、もう芸能人みたいなものだもんね。そういう情報があったら、多分すごい話題になってると思うけど」

「う〜ん。なんか凄く仲よさそうだった男の子がいたって書いてあるところもあるんだけど、ただの噂っぽいし」

「渡辺さん、そんなことより歌詞の話をしに来たんでしょ?」

「あ、そうだった」

 

渡辺と桜内が高海の前に座る。キョトンとしている高海は、2人の浮かべている笑みの意味がわからないようで、首を傾げている。

 

「千歌ちゃん、スクールアイドルのこと、好き?」

「へ?そりゃ勿論好きだけど?」

「どれくらい?」

「う〜ん……どれくらいって言われてもなぁ……」

 

腕を組みうんうん唸りだす高海。まぁ、そんなことをいきなり聞かれても、すぐには答えられないだろうな。

 

「なぁ、高海」

「はい?」

「スクールアイドルのこと、μ’sのことを考えるとき、どんな気持ちになるんだ?」

「え?」

「思ったことを正直に口に出してみろ」

 

疑問符を浮かべながら考え始める高海。渡辺と桜内もそんな高海のことをじっと見ている。

 

「……よく、わかんないんです」

 

小さく微笑みながら、高海が話しだす。いつもの元気さからは想像つかないほど落ち着いて、とても優しげな微笑み。

 

「初めて見たときは、本当に衝撃で……みんなすっごくキラキラしてて……」

 

「私と変わらない、普通の女の子でもあんなふうに輝けるって思ったら、なんだか胸の奥が暖かくなって……」

 

「まだ何をすればいいのかわからないけど、それでも何かしたいって、ワクワクして……」

 

「……わかってるとは思うが、簡単じゃないぞ?それでもやるか?」

 

最後の意思確認として、その気持ちを語る高海に問いかける。その言葉に気を悪くしたわけでもなく、驚くでもなく、まっすぐな瞳で彼女はこちらを見つめ返す。

 

「大丈夫。こんなにも胸の奥が熱くなるんだもん。辞めないよ。辞められるわけないもん!」

 

最後の最後に満面の笑みを浮かべ、高海は答えた。

 

あぁ全く。どうして穂乃果といいこいつといい、こうも真っ直ぐで眩しいんだろうな、ほんと。

 

「なら、その気持ちを込めればいいだろ」

「へ?」

「今千歌ちゃんが言ってた、スクールアイドルが大好きだって気持ち」

「それなら歌詞にできそうじゃない?」

 

渡辺と桜内が高海に微笑みかけながら問いかける。暫し状況を理解できていなかったように目をぱちくりさせていた高海の表情が明るくなる。

 

「うん!それなら書ける!いくらでも!」

 

言うが早いか、用紙を引っ張り出してすぐに何かを書き始める。覆い被さるようにしているため、こちらからは何を書いているのかは見えないが、筆の進み具合からして、今この場で思いついている訳ではなさそうだが……

 

というか姿勢悪いぞ、目悪くしたらどうするんだよ……まぁ邪魔したら悪いから言わないけどさ。と、高海が書き終えたのか用紙を見せてくる。

 

「これ!」

「……え、何?もうできたの?」

「ううん。これはあくまで参考。でも、私がすっごく好きなμ'sの曲なの。こんな曲を作りたいって」

 

「その曲を聴いて、私もスクールアイドルがしたいと思ったから。頑張って、みんなと力を合わせて奇跡を起こしていく……」

 

「そんな素敵なことが、私にもできるんじゃないかって。変われるんじゃないかって!」

 

「本当に好きなのね……」

 

そう呟く桜内。浮かべている小さな笑みが、高海への気持ちからだけ来ているわけではない、そんな風に見えたのは気のせいなのだろうか。

 

そんな桜内に高海は、

 

「うん!大好きだよ!」

 

と、満面の笑顔で答えるのだった。

 




はい、今回は久々のSirius動画紹介!
今回は3作目、Day Dream Warrior!

千歌担当不在のため、8人だけでの踊りですが、
初期編の衣装を着たメンバーがとにかく良い!

更にこれまでの可愛い感じの曲とはまた違った、
メンバーそれぞれの見せ場や魅力を感じられます!
個人的な推しポイントは、ヨハネと曜のパートと、
とにかくかっこいい果南パート。

ニコ動
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm33504717?cp_in=wt_mllst

YouTube
https://m.youtube.com/watch?v=ZoFb1zj3f5Y&t=56s

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君と僕との繋がりの始まり

沼津バーガーのツイートでSiriusの名刺が紹介されてたのにテンション上がった作者です。

あれきっかけにもっといろんな人が見てくれないだろうか……


まぁ、そんなことはさておき、いよいよ二話の終わりです!


その後、暗くなってきたこともあり、渡辺が帰る必要があるとのことで、解散することとなった。一足先にバス停へ駆けていく渡辺を見送り、俺は自転車を回収した。

 

「それじゃあな」

「はい。比企谷先生、また明日〜!」

 

手を振る高海に軽く会釈して自転車を押して車道に出る……と、

 

「あの」

「ん?」

 

いざ跨ろうと思った時に声をかけられる。振り向くと、そこに立っていたのは先に帰ったと思っていた桜内だった。

 

「……何だ?」

「少しだけ、お話ししてもいいですか?」

 

えっ、何これ告白?……なんて中学時代になっていただろうし、何のドッキリだ?って高校時代にはなっていただろう。

 

けれども、流石に大人にもなればその辺りも成長するもので。桜内が何か悩み事があり、相談したいと思っているのであろうことは、何と無く想像ができた。

 

「……少しくらいならな。そこの海岸でいいか?」

「はい」

 

取り敢えず自転車を階段のそばに止め、海岸の方に降りる。海の方を見つめる桜内のやや後ろに立つ。

 

少しの間、波の音だけが響いた。

 

「私、ずっとピアノばっかりだったんです。子供の頃からずっと、ピアノが大好きで……まるで空を飛んでるみたいな気持ちになって、ただ夢中で弾き続けたんです」

「今の高海みたいに、か?」

「……はい」

 

ポツリポツリと彼女が語る話は、きっと彼女のあの表情の訳を、その理由に繋がっているのだろう。

 

なんで急にとか、なんで俺に、なんてことは思わない。きっと、たまたま高海と出会った時に、ほとんど事情を知らない身近にいた大人が俺だったからだろう。

 

「中学生の頃、ピアノの全国大会まで行ったことがあって。高校を音ノ木坂にしたのも、そこが音楽に力を入れている学校だったからで。みんなから、結構期待されてたんですよ。だから私も頑張って……でも、あるコンクールの時に……」

「……弾けなかったのか?」

「……それ以来、どうしてもピアノと向き合えなくなっちゃって……気分を変えるためにって、こっちに来たんです……でも、なんだかそれって……」

「逃げてるみたいで嫌だ、か」

 

授業での態度や、他の人への気の配り方とかからも、桜内梨子という少女が相当責任感の強い奴ではないかと思っていた。真面目、とも言える。

 

生来の真面目さゆえに苦悩した少女を、俺は他にも知っている。彼女たちもまた逃げること自体を嫌い、馬鹿正直に問題に向かいあっていた。それしか目に入らないかのように。まるで何かに掻き立てられるかのように。

 

そうやって、雪のように白い彼女は、海のように透き通った彼女は、苦悩していた。

 

そんな時、どう言葉をかければいいのか、何が正解なのかなんて、俺にはとてもわからないけれども。ただ、彼女たちと違う方向で問題を見つめる俺だからこそ、かけられる言葉もあるのだと、あの時知った。

 

ならば、俺がするべきことは決まった。

 

「桜内……お前、1つ勘違いしてるぞ」

「勘違い?」

「お前多分、自分が逃げてること、それ自体が悪いことで、なんとかしてそれだけに向き合わないといけない、って思ってるだろ?」

「それは、っ……そうかもしれません……」

「なぁ桜内……逃げてもいいんだぞ?」

「えっ?」

 

驚いた表情で振り返る桜内。小さくそよぐ風が彼女の長い髪を揺らし、月明かりがどこか芸術的な雰囲気を醸し出す。一瞬見惚れそうになりながらも、彼女から視線を逸らさずに語りかける。

 

「逃げること自体は悪いことじゃない。時にはそれが賢い選択の時もあるしな。周囲の期待とか、そういうの全部無視して、逃げ出してもいいんだ」

「でも、それじゃあ私は……もう、ピアノとは」

「まぁそのまま逃げ続けたらな。けど、そこからまた向き合うこともできる」

「また向き合う……ですか?」

「別にピアノと向き合うってのは、ピアノだけをやり続けるってことじゃない。寄り道、脇道、迷い道。そういうの全部経験することで、また道が見える……かもしれないぞ」

 

逃げることが悪だなんて誰が決めた?

 

その逃げた先でまた何かを見つけられるかもしれないじゃないか。そしてそれが何よりもかけがえのないものになるかもしれない……多分、知らんけど。

 

桜内のその罪悪感、それをどうにかしてやること。

 

それが今の俺に、浦の星女学院教師に向けられた、目の前の少女からの言葉なき依頼なのだから。

 

「だからまぁ……気晴らしでもいい。何か新しくやってみてもいいんじゃないか?」

「スクールアイドルですか?」

「悪くない選択だと思うけどな」

 

少し茶化すようにしながらニヤリと笑ってみせる。これやると相手に笑われるか気味悪がられるかのどちらかなんだよなぁ、極端すぎるだろ。

 

果たして桜内はというと……

 

「ふっ、ふふっ。比企谷先生って、意外と面白いんですね」

 

おっと、どうやら受けたらしい。気味悪がられるよりはマシだし、なんならちょっとだけ嬉しい。

 

「それに、なんだか思ってたよりもずっと話して良かったと思います」

「そりゃ何よりだよ。で?どうするつもりなんだ?」

「……少し、考えてみたいです。私がこれからどうするのか、どうすべきなのかを」

 

そう言ってから、また海へと彼女は視線を向ける。先ほどよりかは強い視線で、まっすぐ前を見つめている。その姿に、

 

「そうか。まぁ、あんまし遅くまで外にいないようにな」

 

とだけ告げ、歩き出す。

 

俺にできることはここまで、ということだな。

 

しかしまぁ、かつての恩師のようにとはいかないが、これなら教師としては及第点ではないだろうか……ダメか?

 

そんなことを考えながら自転車に跨る。

 

最後にちらりと桜内の方を見ると、彼女はまだ海を見つめている。

 

悩んで、足掻いて、そうしてなんとか答えを出す。

 

それが正解かどうかなんて、きっと誰にもわからないだろうけれども。

 

彼女が出した答えは、きっと間違いではない。なんとなくそう思える。

 

小さく息を吐き、ペダルを漕ぎ出し、ようやく帰路につくのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side cherry blossom

 

 

暗い部屋の中で、私はピアノにそっと視線を向ける。

 

流石に肌寒くなってきたこともあって、海岸を離れた私は、自室のベッドに座り込んでいた。

 

ぼんやりと手にしたスマホの画面を見つめると、高海さんが大好きだと言っていたμ'sが写っている。

 

彼女が参考にと書いた歌詞、その曲のライブ映像をついさっきまで見ていた。

 

前に見た制服とは全然違う、花の妖精のようにも見える衣装を着た彼女たちは、高海さんの言うように、輝いて見えた。

 

幼い頃、自分が大好きなピアノを演奏している時のような、そんな輝きであふれていた。

 

ふと、気づくとピアノの前に立っていた。

 

そっと椅子に座り、鍵盤に指を添える。

 

小さく息を吸い、ピアノの音とともに、言葉を紡ぐ。

 

「ユメーノトービーラー♪

 

ずっと探し~続けた~♪

 

君と~僕と~の~♪

 

繋がりを探し~て~た~♪」

 

パチパチパチ、と小さな拍手の音が聞こえる。

 

ハッとして音の方向を見ると、嬉しそうな表情の高海さんが、反対側のベランダに立っている。

 

「高海さん!?」

「えへへ。そこ、梨子ちゃんの部屋だったんだね!」

「もしかして、そこって、」

「うん。私の部屋だよ!」

 

なんとも言えない偶然に、驚いていると、高海さんが少し身を乗り出し気味に、興奮気味に話す。

 

「ねぇ、今のユメノトビラだよね?梨子ちゃん、歌ってたよね!」

「え、えぇと」

「その曲、私に凄いたくさん元気をくれるんだ。明日が待ってる、予感の星が降ってくるって。迷いながらでも立ち上がって、少しずつ、少しずつ進んでいくんだって!私が見つけた、トキメキの鍵……だから、私もやるんだって!」

 

そう語る彼女は、本当にキラキラしてて……画面の中の彼女たちのように、昔の私のように……

 

「高海さん……私は、どうしたらいいんだろう……」

 

そんな彼女に、ついついポツリと言葉を漏らしてしまう。比企谷先生から、逃げてもいいと言われて、他にも向き合い方はあるって、道はあるって言われて……でも、何をすればいいのかもわからなくて……

 

「ねぇ、梨子ちゃん……一緒に、スクールアイドル、始めませんか?」

「……高海さん」

 

言いながら、彼女がベランダ越しに手を差し出してくる。その笑みは、これまでの勧誘で見せてきたものとは違う、大人しくて、でも優しい微笑み。

 

「でも……私はピアノを……」

「捨てなくていい」

「えっ?」

「私がスクールアイドルを好きな気持ちが捨てられないみたいに、梨子ちゃんだって、ピアノを好きな気持ちが捨てられるわけないもん」

「でも、私は高海さんや渡辺さんのように、本気で始めようとしてるわけじゃない。そんなの……」

 

それは、ただ逃げるだけよりもずっといけないことだ。だって、それは彼女たちを利用しているだけではないのか。彼女たちの本気の気持ちに対して、失礼ではないか。

 

でも……

 

「私ね、さっきの演奏聴いてて思ったの。もっと梨子ちゃんのピアノを聴きたいって。だから、もし私たちが梨子ちゃんの力になれるなら、私は凄く嬉しいよ。みんなを笑顔にする、それがスクールアイドル……それって、すっごく素敵なことじゃない?」

 

そう言ってベランダからさらに身を乗り出して手を差し出す高海さん。その笑顔に、その言葉に、私は……

 

「ね?」

 

思わず必死に手を伸ばしていた。

 

普通に考えたら、こんなに離れているベランダから手を伸ばしても、届くはずがないのに……

 

でも、伸ばした手が少しずつ、少しずつ近づいていく。

 

そして……

 

「桜内梨子ちゃん、ようこそスクールアイドル部へ」

「ええ。よろしくね、高海千歌ちゃん!」

 

指先の触れた瞬間、聞こえた気がした。

 

私たちの、始まりの音色が。

 




Siriusのメンバー紹介、パート4!
黒澤ルビィ担当のゆこっぴさんです!

個人で踊ってみた動画を投稿しているだけあり、
メンバーの中でも踊りのレベルが高い。
少し低めの身長というのもあってか、ルビィ感増し増し。

個人的には「可愛いは正義!」という言葉が一番似合う。

Siriusだけでなく、彼女個人の踊りも是非見てください!

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空からの訪問者

最近眠っても眠っても眠気が取れない病気になりつつあります、作者です。
ほんと、ちゃんと6時間以上の睡眠をとってるにもかかわらずですよ、日中もほぼずっと眠い……

まぁ、そんな事情はどうでもいいか。
続き載せますね〜。

いよいよ彼女が……


朝、職員室で授業の準備を進めていると、朝から元気な声とともに、高海が飛び込んできた。

 

「おはようございま〜す!比企谷先生は……あっ、いた!」

「おう、つーか朝からテンション高いな」

「ふっふっふっ」

 

なんかスッゲェドヤってる……これあれだ。穂乃果がなんか企んでる時とか、なんか報告するときにやってたのとおんなじ感じだわ。

 

「何だよ?」

「実は!梨子ちゃんが正式に!スクールアイドル部に入ってくれることになったんですよ!」

 

何故かエヘンと胸を張る高海。いや、嬉しいのはわかるけど、ドヤるところではないよね。

 

「そうか。なら作曲の方はクリアしたな。作詞の方はどうだ?」

「それも大丈夫です!スクールアイドルが好きだって気持ちを込めたら、なんか凄くいい感じに書けてきてますから!」

「ほーん」

 

そういうことなら、自分たちの曲が出来上がるのはそう遠くはなさそうだ。あと考えないといけないことといえば……

 

「っと、予鈴か」

「あ、教室戻らないと。先生も一緒に行きましょう!」

「……まぁ目的地が一緒だしな」

 

当たり前のように服の袖を引っ張ってくる高海。そういうのは同じ年頃の男の子とかには絶対やるなよ。100%死地に送り込むことになるからな。

 

上機嫌に鼻歌を歌う高海に引かれながら、廊下を歩く。

 

「いつまで引っ張ってんだ?」

「え?あ、あはは……すみません」

 

殆ど無意識だったらしく、てへっと可愛らしく舌を出しながら頭をかく高海。あざとい、ほんっとあざと可愛いなぁ……これを狙ってやってるんじゃなくて天然でやるからこいつほんと凄いわ。

 

「まぁ、衣装とかライブのことを考えないといけないから、まだまだやることはたくさんあるぞ?」

「はい。でも、なんかやれそうな気が凄くしてきてて。なんか、凄いことが始まりそうで、ワクワクしちゃうんです」

「……そうか」

 

なんとも言えない懐かしさに、少しだけ胸が締まる。何故こうもこいつは、彼女に似ているのだろうか。

 

まるであの頃を繰り返しなぞっているかのような錯覚さえ覚える。

 

『なんでそんなに張り切ってるんだ?』

『だって、いよいよ始まるんだぁって思ったら、なんだかすっごくワクワクしてこない?』

『知らん。というか始めるのはお前たちであって俺ではない』

『そんなこと言って〜。比企谷君も一緒に頑張る仲間なんだからね』

『仲間……ね』

『うん。ほら、早く海未ちゃんたちのとこ行くよ!』

『おう……って、おい!引っ張るなって』

『は〜や〜く〜』

 

「?先生、どうかしたんですか?」

「っ、いやなんでもない」

「そうですか?」

 

少し心配そうに覗き込んでくる高海に、なんでもないと首を振る。一先ず納得……はしきってないようだが、それ以降の追求は特になかった。

 

「っと、もう教室だな。とりあえずすぐに席についとけよ」

「はーい」

「伸ばすな、ってもう行ってるし」

 

さっさと教室に入る高海。小さくため息をつき、彼女に続くように教室の扉を開け、中に入った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

放課後。

 

必要な仕事をなんとか終わらせ、自転車に跨り学校から離れていく。

 

目的地は自宅……だったらよかったんだが、残念ながらそういうわけではない。

 

桜内を加え、3人になったスクールアイドル部——あ、まだ部じゃねぇや——の練習を見て欲しいということで、彼女たちの練習場所である海岸へと向かうのだった。

 

こうしていると、本当に高校最後の年を思い出してしまう。正直あの頃が衝撃すぎて、大学生活がどこか物足りなく思ってしまっていたのも、今では納得してしまう。

 

自分でも驚きだが、今こうしてあいつらを手伝っている中で、ある種の充実感を感じている。

 

過去を懐かしむなんて、黒歴史を掘り返しているようなもので、ろくなものじゃないと思っていたが、存外あの頃の思い出を振り返るのは、悪くない。

 

それによって、こうしてまた自分から何かをするなんて、何度思い返してもらしくないが……

 

「……やっぱ変わったんだな、俺も」

 

変わらなくていい、なんて思っていたものの、結局人は時の流れと共に成長し、変わっていくものなのだろう。

 

それが本当にいい方向に変わったかどうかなんて、わからないけれども。

 

それでも今は変わった自分のことを、俺は嫌いではなかった。

 

 

「っと……いた」

 

海岸通りを自転車で進むことしばし、高海たち3人が練習している姿が見えてくる。動きをカメラで撮影していたのか、3人でスマホの画面を覗き込んでいる。

 

もう少し近づいてみると、会話が聞こえてくる。

 

「流石ね、すぐに気付くなんて」

「高飛び込みをやってたからね。フォームの確認は得意なんだ」

「うう……やっぱりまだ私が遅れてるのかぁ」

「でも、だいぶ良くなってきてると思うわ」

 

自転車を停め、3人のもとに歩いていく。

 

相当集中しているのか、中々こちらに気付く気配がない。とりあえず、声をかけてみることにするか。呼んだのあいつだしな。

 

「おう、お疲れ」

「あっ、比企谷先生!」

「お疲れ様であります!」

 

元気に返事をする高海と渡辺。と、

 

「あの、比企谷先生」

 

桜内がおずおずといった感じで声をかけてくる。

 

「どした?」

「あのっ、この前は、ありがとうございました」

 

言いながら礼をする桜内。

 

「先生の言ってたように、私、スクールアイドルやってみようと思います。だから、よろしくお願いします」

「……そうか。まぁ、あれだ。よろしく頼むわ」

「はい!」

 

顔を上げた桜内が見せた表情には、迷いらしきものは見当たらない。本当に自分の意思で、スクールアイドルをやろうと決断したんだとわかる。

 

なら、俺のすることは変わらない。

 

彼女たち、浦の星女学院のスクールアイドルを、見守っていくだけのことだ。……ん?そういや、

 

「なぁ、高海」

「はい?」

「お前らのグループって……ん?」

 

高海に質問をしようと思ったその時、やけに大きいヘリのローター音に思わず空を見上げる。白と紫の2色機体のヘリが飛んでいるのが見える。

 

「なんだ?」

「小原家のヘリですよ」

「小原家って?」

「そっか。梨子ちゃんもまだ知らないんだっけ?ほら、淡島に大きなホテルがあったでしょ?あそこを経営してる家だよ」

「あれを?」

「はい。新しい理事長も、そこの人らしいです」

 

渡辺の言葉に、確かにホテルがあったのを思い出す。というかあれかなりの高級ホテルだよな?えっ、何?あれを経営してる家ってことは、相当なお金持ち?そして新理事長……俺をここに呼んだ張本人ってことだよな……どんな人なのだろうか。いや、それよりも……

 

「な、なんか近づいて来てない?」

 

高海の言うように、なんだか段々降下してきているような……

 

「そんなまさかぁ」

「気のせい……って、あれ?」

 

更に大きくなるローター音。視覚的にも明らかにヘリとの距離が短くなってきている。って、これって……

 

「っ、逃げろ!」

「「わわっ!?」」

「きゃっ!」

 

 

4人で慌ててその場から離れると、ちょうど降下してきたヘリが巻き起こす強風が吹き付ける。

 

目に砂が入らないように気をつけながら、顔を上げると、ヘリが水面すれすれまで降りてきているのが見える。

 

突然ヘリの扉が開く。

 

中にいたのは1人の少女。

 

着ているのは浦の星女学院の制服で、ネクタイの色から三年生だと思われるが……間違いなく彼女のことは見たことがないと断言できる。

 

眩しいほどの金髪と美しい金色の瞳。黒澤姉を日本美人とするなら、彼女はそれと対を成すとも言える、外国美人とでも言うのだろうか。

 

そんな少女、少なくともどの授業でも見たことがなかった。

 

彼女はこちらをみると、パチリとウインクしながら、片手でピースサインを作った。

 

「Ciao〜♪」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「え?」

「何?」

「どちら様、ですか?」

 

高海たちが三者三様のリアクションを取っている。俺はというと、正直リアクションをとるとかそんな余裕はなかった。

 

ただ呆然と彼女を見上げていると、彼女がヘリから降りてくる。彼女を下ろしたヘリがまた高度を上げていくと、ヘリが引き起こしていた風も止まり、やっと波の音がまた聞こえるようになる。

 

「ビックリさせちゃったわね。Sorry〜」

「あ、いえ……」

 

チロリと舌を出しながらまたウインクする彼女。仕草自体はあざといはずなのに、やたらと様になっていて気にならない。

 

「貴方達が浦の星のSchool Idol?」

「えっ、はい。そうですけど……」

 

「そ・し・て……貴方が比企谷八幡先生ね?」

「は?あ、いや……まぁ、そうだが……」

 

あまりにも唐突すぎて驚きが追いつかない。

 

何故彼女は、俺の名前を知っている?

 

あったことのないはずの彼女は、しかし間違いなく俺のことを事前に知っていたのだろう。

 

いや、名前だけなら噂に聞いていただけという可能性もある。だがさっきの問い、あれは俺が俺であると、比企谷八幡であることを知っていた上での問いかけだった。

 

思わず険しい表情になっていたのか、少女が微笑みながら彼女が腰に手を当て反対の手の人差し指を立てる。

 

「そんな怖い顔しちゃnon、nonだよ」

「っと、悪い。名前知ってることにちょっとな……」

「Oh、忘れてました。まだ自己紹介してなかったわね」

 

そう言って彼女は一歩分離れて、自己紹介を……

 

「でも、それはまた明日のお楽しみデース!」

 

ズコッ!

 

「しないんかい!」

 

柄にもなく大きな声で突っ込んでしまった……

 

なんだこいつめちゃくちゃだな。

 

「明日の放課後、理事長室に来てくれる?そこでちゃんと自己紹介するから」

 

ふっふっふ、とわざわざ意味ありげな笑いをつける彼女。そのまま手を挙げると、上空に留まっていたヘリがまた下降してくる。

 

また吹き付けてくる強い風に思わず腕で顔を覆う。ローターの音を超えて、少女の声が聞こえた。

 

「それじゃ、またね〜。CIao〜♪」

 

それを合図にしたのか、ヘリの音が遠ざかっていくのがわかる。砂を巻き上げる風がやんだので顔を上げると、ヘリが淡島の方向へ向かって飛んでいくのが見える。

 

「なんか……凄い人だったね」

「小原家の人ってことだと思うけど、梨子ちゃんと同じ転校生なのかな?」

「なんだかそんな感じには見えなかったけど……」

 

戸惑っているらしい3人だったが、正直同感である。果たして彼女は一体何者だったのか……

 

まぁとりあえず……

 

「明日行くしかないか」

 

なんだか、厄介なことにはなりそうだ、なんて思ってしまったのだった。

 




はぁい、Siriusメンバー紹介も第5弾目!
今回紹介するのは、みんな大好き堕天使よしk……ヨハネ担当、
御伽みゆさん!

私的一推しレイヤーさん。
FGOのマシュが似合い過ぎて最高ですわ……
可愛い……

そんな彼女ですが、Daydream Warriorの踊りの時は凄くかっこいい。初めて見た時「うわ、凄っ」って口から漏れたのはいい思い出……

彼女曰く、自分とヨハネは「普通だった」ところが似てるとのこと。
わかる人にはわかる気持ちだと思います(笑)

可愛さとかっこよさ両方持ってるあたりがまたヨh……善子っぽくて好きですね〜。

あなたも御伽みゆのリトルデーモンになりませんか?

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新理事長、参上

少し短めですけど載せますね。

ようやっとファーストライブに向けての準備が進められる……


衝撃的な海辺での出会いの翌日。

 

放課後、俺と高海たち3人は言われた通りに理事長室に向かうのだった。にしても、なぜわざわざ理事長室なのだろうか。転校生なら職員室とか、教室でもいいだろうに……

 

そういえば、まだ理事長に会ったことないな。

 

「なぁ、新理事長ってどんな人とかわかるか?」

「うーん、会ったことないからわかんない……あっ、わかりません」

 

おい、高海とかもう完全に素で敬語忘れかけてるし。しかしまぁ、やはりまだ誰も会ったことがないらしい。超セレブ、小原家の人なのだから、ダンディーなおじさま……いや、どっちかというと綺麗なマダムか?

 

考えながらも足を進めていれば、必然目的地にはたどり着くわけで、気が付けばすでに理事長室の前にいた。

 

とりあえずノックしてみる。

 

「どうぞ〜」

 

思っていたよりも数段若めの声が中から聞こえてくる。というか今のってあの少女の声だよな?もう来てたのか?というかなんであの子が返事してんだ?

 

色々と疑問を抱き、動きが止まった俺のことなどお構い無しに、高海が理事長室の扉を開ける。

 

「失礼しまーす」

「「失礼します」」

「……失礼します」

 

高海を先頭に中に入る俺たち。そこそこ広い部屋でまず目に入るのは、大きな窓を背にした机。その後ろにある椅子に腰掛けているのは、

 

「約束通り、来てくれましたネ」

 

パチリとウインクしながら俺たちを出迎えたのは、やはり三年生の制服を着た、あの時の少女だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「「「「新理事長!?」」」」

 

4人分の驚きの声がハモる。だがそれも仕方がないことだろう。目の前の少女が告げたその言葉は、あまりにも衝撃的なものだったのだから。

 

「Yes!新理事長の小原鞠莉よ。でも、気軽にMarieって呼んで欲しいの!」

 

いや、マリーって……というか何がどうなってんの?この人が理事長ならなんで制服着てんの?というか理事長若すぎじゃね?

 

同じことを思ったのか、高海が戸惑いがちに口を開く。

 

「あの……理事長」

「Marieだってば」

「ま、マリー?えっと、その格好は?」

「どこかおかしいかな?ちゃんと三年生のリボンも用意したのに〜」

「えっと、理事長なんですよね?」

「しか〜し、同時にこの学校の三年生!生徒兼理事長、Curry牛丼みたいなものデース!」

「「例えがよくわからない……」」

「わからないの!?」

 

思わず溜息気味に漏れた俺と桜内の呟きを拾い、やたらと大きなリアクションをする小原、いや、理事長?……どっちだ?

 

「わかるはずありませんわ!」

 

と、突然の怒声。

いつの間に部屋に入っていたのか、腕を組んだ黒澤姉が立っている。

 

「Oh、ダイヤ〜♪久しぶり〜」

「触らないでくださいます?」

 

心底嬉しそうに黒澤に抱きつく理事c……もう小原でいいや。

 

やや鬱陶しげな表情の黒澤はともかく、どうやら小原が三年生というのは嘘ではないらしい。この感じだと、昔からの馴染みって感じか?

 

なんで2人を見てると、

 

「胸は相変わらずデース」

 

とニヤニヤしながら、小原が黒澤の胸を掴む……って、は?

 

みるみる黒澤の顔が赤くなる。怒りか照れか、はたまた両方か。勢いよく小原の方を振り返りながら彼女を振りほどく黒澤。

 

「っ!やっかましい!……ですわ」

 

大きな声を出したのが恥ずかしいのか、微妙な表情の黒澤。と、急にキッとこちらを向く。

 

いや、すぐに視線は逸らしたからね?一応これでもその手のハプニングには慣れてる……まぁ、久しぶりすぎて少し遅れたが。

 

「それにしても、なぜ比企谷先生、それに貴方達がこちらに?」

「呼ばれたんだよ、そこにいる小原にな」

「鞠莉さんに?全く私達を集めて、一体どういうつもりですの?」

 

と、小原に問いかけながら向き合う黒澤。だったが、

 

「シャイニー!」

 

当の小原は俺たちのことなぞどこ吹く風。なんかやたらとハイテンションで理事長室のカーテンを開けていた。

 

ガシッと黒澤が小原のネクタイを掴む。

 

「人の話を聞かないところは、相変わらずのようですわね」

「It's joke♪ ジョーダンよジョーダン!」

「全く。一年の頃にいなくなったかと思えば、突然戻ってきて理事長だなんて……冗談にもほどがありますわ」

「そっちはjokeじゃないの、よ!」

 

そう言いながら小原が一枚の紙を取り出す。黒澤を含め、5人で何が書いてあるのかを覗き込んでみる。浦の星女学院からの正式な書類であることを証明する用紙と印。そこに書かれていたのは、

 

『小原鞠莉殿、

 

本校への多大なる貢献により、

 

貴殿を浦の星女学院の理事長に任命いたします』

 

……は?

 

「私のhome、小原家のこの学校への寄付金は、相当な額なの。そのおかげで、私が理事長になった、というわけなのデース!」

 

「ってことは……ほんとに理事長なんですか?」

「YES♪」

「はえ〜」

「千歌ちゃん、凄い顔になっちゃってるよ……って、比企谷先生も!」

「っと、悪い」

 

いかんいかん、あまりの出来事に一瞬頭がショートしていたらしい……というか……

 

「ってことはまさか、」

「Of course!貴方の推測通り、あなたをこの学校に呼んだのも、このMarieデース!」

 

なんてこった……いや、というかマジなのか、それ?いや、こいつが理事長だってんなら、それは間違いなく俺を呼んだ本人ってことになるが、だがしかし、何故小原は俺を呼んだんだ?

 

「鞠莉さん……何故急に理事長として?」

「実は、浦の星にSchool Idolが誕生するって噂を聞いてね。応援してあげようと思って」

「えっ、ほんとですか?」

「Yes!それに、ダイヤに邪魔されちゃ、可哀想だもの。このMarieが来たからには、もう安心です」

 

一気に嬉しそうな表情になる高海。渡辺と桜内は驚きすぎてるのか、一言も発しない。黒澤はどこか険しい表情で小原を見つめている。

 

俺はというと、少し警戒していたと言わざるを得ない。果たしてなんのメリットがあって、小原が行動しているのかが、現段階では全く読めなかったからだ。

 

何故俺を呼んだのか、何故スクールアイドルをわざわざ応援しにきたのか。

 

ただの良い人と片付けることも出来るが、とてもそうは思えなかった。同時に、その結論が出たその瞬間に、警戒する必要がないことも悟った。

 

彼女の見せる戯けた雰囲気や、自由な言動、その裏に何かがある、そう確信できた。

 

なかなかうまいもんだと思う。ただ、それでも雪ノ下陽乃には遠く及ばない。自分の本心を隠すすべでは、彼女には届かない。故に、そこにある思いの一端を、垣間見てしまった、気がする。

 

心からの応援と、切実なまでの願いを。

 




いつもいつものことですが、
Sirius紹介のコーナー!

今回紹介するのは15日に出たばかりの動画!
これまで紹介してきた一年生3人が踊る曲!
Waku-Waku-Week!

心さん、ゆこっぴさん、御伽さんの3人がすごく生き生きしてて、もうね、観てるだけで元気貰えますよ!
新作なのでまだ再生回数は多くないですが、間違いなく楽しめる動画なのは保証します!なので見て!そして推して!

ニコ動
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm34781286?ss_id=8606f58c-cac8-4048-a3d4-1271b6464fa7&ss_pos=1&&cp_in=wt_srch

YouTube
https://m.youtube.com/watch?v=Y3dC8DN3lIw

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あ、それから諸事情あって来週の投稿はお休みします、申し訳ない。
なので次は2週間後に、お会いしましょ〜。Ciao


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理事長はなんでもお見通し?

2週間ぶりですね〜
いよいよ今年度も終わり、社会人一年目も終わりかぁ……

まぁ、そんなことはさておき、今年度最後のエピソードをどうぞ。


「で?理事長」

「Marieだってば」

「……小原」

「もぅ、ノリ悪〜い」

 

ノリとかそういう話ではないんだよなぁ。理事長ってことは立場的に上なわけだし。

 

それに教師という立場上、特定の生徒だけを下の名前で呼ぶってのも、あんまりよろしくないしな。

 

「……で、とりあえず小原?」

「何かしら?」

「一応確認だけど、小原はこいつらを応援するってことでいいのか?」

「Of course!デビューライブのことも、しっかり考えてきてあげたんだから」

 

少し大げさなくらいに動きながら、テンション高めに話す小原。そのまま滑らかな動きでさっとパソコンを取り出す。そこに写っているのは、大きなドーム会場……って、何処かで見たことあるような……

 

「3人のために、アキバDOMEを抑えてみました♪」

「「は?」」

 

おっと、思わず黒澤とハモってしまった……というかお前でもそういうリアクションとるんだな?なんつーか勝手にもっと古風な奴なのかと思ってたわ。

 

まぁ、そんなことはさておき、だ。いきなりでかい爆弾を放り込まれた気分である。3人も驚きと戸惑いの表情を……あ、1人満面の笑みだわ。

 

「嘘っ!」

「流石にそれは、いきなり過ぎるんじゃ」

「奇跡だよ!」

 

「It's joke♪」

 

ウインクしながらテヘペロ、と舌を出す小原。

 

「ジョークのためにわざわざそんなものまで用意しないでください」

 

うわぁ……高海のあんな表情初めて見るわ。あいつでもあんなげんなりした顔と声ができるんだな……

 

「でも、ライブのステージを用意するっていうのは、jokeじゃないわ」

「えっ、じゃあ」

「ええ。ついてきて」

 

言うが早いか理事長室から出て行く小原。取り敢えず言われた通りにする以外に選択肢もなさそうなので、高海たち3人と黒澤姉とともに小原の後を追う。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

構内から出ることなく、小原に連れられた俺たちがついたのは、

 

「体育館?」

「そうデース。ここは昔から演劇や演奏会で浦の星の学生が使っていたから、照明や音響の機材もバッチリ。School Idolとしてスタートするには、ピッタリの場所でしょ?」

 

大きく反響する小原の声を聞きながら、改めて中をぐるりと見渡す。全校生徒100人にも満たない学校には少し大きくも感じる広さ。ステージも歌って踊るのには十分過ぎるほどのスペースがある。

 

何より、桜内は兎も角として、高海と渡辺にとっては、慣れ親しんだホームグラウンドとも言える。

 

「照明や音響の器具って、誰でも使えるわけじゃないだろ?確か正規の部活だけじゃなかったか?」

「YES。でも、このライブに限って、使うことを私が許可します」

「ほんとですか?」

「ええ。それに、もう1つあなたたちにとっていい話があるけど、聞きたい?」

 

人差し指を立てながら、小原が微笑む。が、その微笑みから何か不穏な感じがしたのは、気のせいではないだろう。

 

明らかに、彼女は話を誘導しようとしている。

 

問題はそれがなんだと言うことなのだが、

 

「聞きたいです!」

 

ですよね〜、わかってたよ。瞳をキラキラ輝かせながら、高海が小原を見つめる。その様子に笑みを少し深めると、

 

「貴方達にちょっとしたチャンスをあげるわ。もし、ライブでここを満員にできたら、無条件で部活として認定してあげる」

「部活に!?」

「そうすれば、部費も部室も使えるしね」

 

確かにそれは願ったり叶ったりではある。前にも考えていたことだが、これから本格的にスクールアイドルとして活動するなら、部活になることは必須である。

 

部員を勧誘し、生徒会長の黒澤を納得させるよりは、手っ取り早い方法かもしれない。ただ、

 

「チャンスってことは、何かしらのリスクもあるってことだろ?」

「……さっすがね。その通りデース!」

 

うわっ、今こいつ一瞬スッゲェ悪い顔しやがったぞ。絶対わざとだろうけど。

 

と、何やら首を傾げている高海。

 

「リスクって?」

「リスク。危険度や損失を被る可能性のことだ」

「って、それくらいは知ってるよ!そうじゃなくて、リスクがあるってどういうことかって思っただけで!……あ、すみません」

「あ、いや。別に……構わん」

 

ついついタメ口になってしまったことを謝る高海。が、そんなことは大して気にならなかった。

 

というよりも正直、今のやりとりの中に懐かしさを覚えていた。確か雪ノ下と由比ヶ浜も似たようなやりとりしてたよなぁ。

 

「えっと、鞠莉さん?その、リスクって?」

「確かにここを満員にできれば、正式な部として認めます。でも、もしそれができなかった場合は、その時は……解散してもらう以外にありませーん」

 

と、さして口調を変えるわけでもなく、当たり前のように、小原はそう告げる。

 

「解散!?」

「そんなぁ」

「嫌なら辞めてもいいのよ?」

 

まるで挑発するかのように、その金眼を細めながら小原を笑みを浮かべる。じっと値踏みするかのように、彼女は高海達を見つめる。

 

「どうする?」

「ここって結構な広さよね?」

「でもでも!やるしかないよ!他に方法があるわけでもないんだし」

 

そう力強く宣言する高海。確かに現状では他に何かいい方法があるかと聞かれると、すぐに結果を伴うものはない。ただ彼女は——いや高海だけでなく渡辺と桜内も——先ほどの提案にある最大の課題に気づいていないようだ。

 

「ちょっと「OK!それじゃあ、やるってことでいいのね」は?」

 

口を挟もうとしたところを小原に遮られる。彼女の方を見ると目が合う。意味ありげな笑みを浮かべた小原は、わずかに瞳を細めると、踵を返して、体育館から出て行く。

 

「あ、おい!」

 

思わずその後を追う。別段早足というわけではないため、割とすぐに小原に追いつく。

 

特に驚くでもなく、ついてくることをわかっていたのか、小原がこちらを向く。

 

「なんデースか?」

「さっきの条件について、話がある」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side mandarin

 

窓の外を流れる景色を見つめる。

 

バスの心地よい揺れを感じても、どこかモヤモヤが晴れない。

 

「満員、かぁ……」

 

あの後、比企谷先生が鞠莉さんに続くように体育館を出て行ってから、改めて体育館を見渡してみた。

 

普段使ってる時はそんなに感じていなかったけど、やっぱり体育館というだけあって広い。

 

ここをお客さんでいっぱいにすれば部活に、できなかったら解散。思わずやるって言っちゃったけど……

 

「!待って、この学校って全校生徒何人?」

「えっ?え〜と……あっ!」

「何何?どうしたの?」

 

急に何かに気づいたように大きな声を上げる曜ちゃんと梨子ちゃん。深刻そうな顔で、2人が私を見る。

 

「千歌ちゃん……ここ、全校生徒が来ても……いっぱいにならないの」

「えっ」

 

言われて思い出す。

 

確かに全校集会の時でも、ここを狭いと感じたことなんて、一回もなかった。むしろとても広くて、広々としてて……

 

「もしかして鞠莉さん、そのこと知ってたんじゃ……」

 

 

 

体育館でずっと立ち尽くすわけにも行かなかったから、3人とも帰りの用意をしてバスに乗り込んだ。

 

そういえば、比企谷先生はあの後どうしたんだろ?

 

「でも、鞠莉さんの言うこともわかる。あそこをいっぱいにできるくらいじゃないと、この先もやっていけないってことだと思うもの」

「この先、もっといっぱいの人に見てもらうこともあるかもしれないしね」

「う〜、でも満員って!いきなりハードル高いよ〜!」

 

わかってる。

 

これくらいでくじけてちゃいけないってわかってる。

 

わざわざライブの場所も機材も用意してもらえるんだから、そのチャンスをものにしたい。

 

でも……

 

「どうする、千歌ちゃん?やめる?」

 

む。

 

「やめない!」

 

やめるわけないじゃん!やっと憧れのμ'sと同じ、スクールアイドルになれる第一歩なんだから。

 

考えろ〜考えろ〜

 

何かいい考えを、思いつかなきゃ!

 

 

「どうしてそんな言い方するの?」

「こっちの方が、千歌ちゃん燃えるから」

 

2人が何か話してた気もするけど、今は集中しないと。

 

お客さん、どうやっていっぱいにしようかな〜。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side teacher

 

「さっきの条件、本気か?」

「でなきゃ言い出さないわ」

「っ」

 

一瞬、言葉に詰まった。

 

その時の小原が決してカタコトではなく、綺麗な日本語だったのもあるが、それ以上に見せられた笑みが、雪ノ下陽乃にどことなく通じるほどに、何かを見透かしたような笑みだったのだから。

 

「あなたもわかってるでしょ?それくらいの覚悟が必要なんだって。いいえ、他ならぬあなただからこそ、わかるでしょ?」

「……知ってるのか?」

「Of course。小原家の情報網、甘く見ないで頂戴。だからこそあなたを呼んだの」

「……」

「Don't worry。心配しないで。別に言いふらすつもりはないの。ただ、何故あなたを呼んだのか、あなたに来てもらったのか、少しだけお話ししようと思って。それじゃあ、私は理事長の仕事がありマースので、Ciao〜」

 

そう言い、小原は先ほどと違い自然な笑顔になると、ウィンクをしながら小さく手を振る。

 

そのまま歩き出した小原の後ろ姿を見送りながら、俺は思考していた。

 

 

どうやら、本当にまたとんでもないことに関わることになってしまったらしい、と。

 




今回のSirius紹介は、黒澤ダイヤ担当のまりんさん!
メンバーの中で一番背が高く、すらりとした手足は踊りで大きく動く時にとても華やか。
口元にほくろがあるのもまたキャラっぽい。

G線上のシンデレラの時に見せたドレス姿は必見!
華やかさと存在感、Aqoursにとってのダイヤさんのように、彼女もSiriusに華を添えてますね〜。

彼女のトリコビトになってみません?(笑)

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ファーストライブに向けて

はい、新年度に加え新元号まで来てますね〜
まぁ一応もうちょっとだけ平成は続きますけどね。

そんなわけで、わりかしバタバタする中、本日私コスメロライブというラブライブ 系の踊ってみたイベントに行ってみることにしました〜。

そんなことはさておき続き、載せますね〜。


さて、昨日の小原によるトンデモ紹介から一晩明け、1日が過ぎて再び放課後。

 

バスで移動すること850円、そこはそこは大都会!……と、まではいかないものの、人が多く集まる場所、沼津へと俺たちは来ていた。

 

俺たち、という言葉からお察しできるだろうが、もちろん俺の意思ではなく、

 

「よぉーし、それじゃあ頑張ろ!」

 

と張り切っている高海の考えである。

 

「そろそろ部活帰りの人が駅から来る頃だね」

「それじゃあ、ビラ配り始めよっか」

「うぅ……こういうの苦手なのに……」

 

手に持っている高海お手製のビラを見て、桜内が小さく溜息をつく。まぁ、気持ちもわからんでもない。

 

見知らぬ人に話しかけ、ビラを受け取ってもらうというのは、案外難しいものである。そもそも受け取ってもらえなかった時のダメージも地味に痛い。

 

だがしかし、本当にあの体育館をいっぱいにしたいのであれば、客集めは必要不可欠である。しのごの言ってられないのだ。

 

……まぁ、そうは言ってもどうしても聞かなければならないこともあるわけだが。

 

「で、なんで俺もビラ配り?」

 

何故か渡されてしまったビラを手にしながら高海に問う。キョトンとした表情の高海。

 

「だって比企谷先生も協力してくれるって」

「いや、俺がこれ配ってても何事?ってなるだけだからね。怪しさ全開だろ」

 

ビラに描かれているのは、浦の星の制服を着た3人のデフォルメされた絵と、大きく映えるスクールアイドルの文字。

 

さて問題です。

 

このビラを成人男性(アホ毛と濁った目持ち)が駅前で配っていた場合、どんな風に道行く人に見えるでしょうか。

 

……聞くまでもねぇな。

 

「ビラ配りは流石に無理だ。その代わり掲示とかならできるから、それで勘弁してくれ」

「え〜」

「まぁまぁ千歌ちゃん。こういうのも、自分たちでやらないと」

「そうね。私たちのライブなんだもの」

「そっか。そうだよね。よーし!」

 

渡辺と桜内に助け舟を出してもらい、どうやら俺がビラを配るということにはならなさそうである。かといってこのまま1人だけ何もせずに帰るのもそれはそれでよろしくなく思える。

 

「ちょっと駅の方に行ってくる」

「はーい」

「じゃ、そろそろ人も出てくるし、準備しとこっか」

「うぅっ。やるって言ったけど、やっぱりなんか緊張するわね」

 

駅のロータリーで準備を始める3人を横目に、1人駅の改札口に向かう。先ほど渡されたビラを一枚取り出しながら、駅員の窓口の前に立つ。

 

「あの、すみません」

「はい?何かお困りですか?」

 

対応しに来てくれた駅員に出来立ての名刺を一枚差し出す。教師という立場から、俺なりにできるサポートをするべく、口を開く。

 

「浦の星女学院で教師をやっている比企谷です。イベントの告知を掲示したいんですけど」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

流石は田舎である。決して悪い意味ではない。

 

寧ろ有り難みさえ覚える。

 

突然のお願いにもかかわらず、駅員さんはとても真摯に話を聞いてくれたし、事情を説明するとそういうことなら、と掲示スペースの使用を許可してくれた。

 

更に言えば自分たちの方で貼っておくからと、俺が持っていた分のビラの束をそのまま受け取ってくれたし、マジいい人たち。

 

まぁ、とりあえず目的は達成できたのでよしとしよう。

 

3人の様子を確認でもするかと思い歩き出すと、走ってきた人影とぶつかりそうになる。

 

「っと、すみませ、ん?」

「っ!」

 

バッと飛びのきながら珍妙な構えを取る人影……というか……不審者?

 

大きめのマスクとサングラスで完全に顔を覆っている少女……いや、背丈とか髪の長さとかから、多分少女だと思うが……

 

ふと、彼女の手にビラが握られているのに気付く。ビラ配りもそこそこ成果を上げているのだろうか。

 

何故かこちらを見つめ、固まったかのように動かない少女。何かしてしまったのだろうか。と、彼女の髪、正確には頭の右側でまとめられているお団子に気付く。

 

あの感じ、どっかで見たことがあるような……

 

「……なぁ」

「っ!」

「あ、おい……」

 

声を掛けた瞬間、踵を返して少女は走り去って行った。

 

……なんだったんだ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side Johannes

 

「はっ、はっ……はぁ〜」

 

膝に手をつき方を大きく上下させる。

 

思わず走って逃げてきてしまったけど、変な子だと思われて……絶対思われてるわよね、この格好だもんね……

 

息苦しさにマスクを外す。と、空いていない方の手の中に握られているビラを見てみる。

 

「スクール、アイドル?」

 

デフォルメされているけれども、そこに描かれているのはさっき駅でビラ配りをしていた3人。

 

確かに見た目は整っている方ではあるけど、アイドルというほどキラキラした存在とは思えなかった。

 

でも……

 

『私、本当は天使なの!』

 

『いつか翼が生えて、お空に帰るの!』

 

「本当は、ね」

 

ずっと普通だった私。

 

本当はもっとキラキラした存在なんじゃないかと思ってて、でも本当の輝きなんて、ないのかもしれないって思えてきて……

 

そんな中で、彼女たちは……

 

『悪くないと思うぞ』

 

今日出くわしてしまった、あの先生の言葉がふと頭をよぎる。

 

「スクール……アイドル……」

 

最後に手にしたビラをもう一度だけ見て……そのまま家に帰る。

 

ビラはしっかりと手の中にあった。

 




今回紹介するのは果南パート、まあむ様!
気づいたら彼女だけ様付けで定着しちゃったけど気にしない!

かっこよさと可愛らしさに抜群のダンス。
まさしく松浦果南を表してると言っても過言ではない!なお、すわわ感も強いとの評判。

デイドリではかっこよさが、G線上では可愛らしさが振り切ってます!
あ、ハグはないです、はい。

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硬くて脆い宝石

昨日花見兼飲み会だったのですが、花無くね?って感じでした。

もう四月も半分近く経ってるとは……
意外と時の流れは早いね〜。
もうあっという間にGWいきそうですね、楽しみだ。

まぁそれはさておき、続きます。


「ふぅ……」

 

書類の記入が終わり、一息つく。

 

昨日のビラ配り以外にも、高海たちのライブに向けての準備は着々と進んでいる。衣装の製作にフォーメーションの確認、ボーカルにランニングと沢山あるが、形にはなってきている。

 

俺も手伝いとして、掲示の依頼を地元の人たちにお願いしたり、機材の使用に向けての書類やマニュアルの確認をしたりと、それなりにやることもあった。

 

せっかくなので駄目元であいつらに声をかけてみたが、流石に無理だろうか?

 

今も当日のために生徒向けのマニュアルを用意していたところだったが、

 

コンコン、と職員室の扉が叩かれる。チラリと視線を向けると、意外な人物がそこにいた。

 

「失礼いたします。比企谷先生、少しお時間いただけますか?」

「黒澤……少し待ってろ。すぐ終わる」

「はい」

 

何やら真剣な表情の黒澤。雰囲気からしても、それなりに真面目な話のようだ。まぁ、この時期にわざわざ俺に話ってことは……

 

「ライブについて、か」

 

とりあえず作業の終わった書類をまとめてファイルにしまい、デスクの上を軽く片付けておく。

 

「待たせたな。どこか移動するか?」

「では、生徒会室でよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

 

廊下に響くのは2組の足音だけ。帰宅する者、部活に参加する者と色々いるが、この辺り、生徒会室付近にはそれらしき生徒の姿が見当たらない。

 

「なぁ、黒澤?」

「なんですの?」

「いや、他の生徒会メンバーとかいないのか?」

「……皆他の部活と兼部ですので」

「そうか……お前は?」

「はい?」

「いや、お前は兼部してないのか?」

「わたくしは…ええ。生徒会だけですわ」

 

ほんの僅かな間。でも確かな間が、黒澤の言葉にはあった。一瞬だけ考えを巡らせたかのような、小さな、けれどもとても意味のありそうな間。果たしてその一瞬で、彼女が何を思ったのかなんて、俺には想像もできないが。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうぞ、おかけになってください」

「おう」

 

黒澤の定位置らしい椅子の対面側の椅子を勧められたのでそこに座る。目の前の席に、一挙手一投足まで品のある動きで黒澤も座る。

 

「で?話ってのは?」

「単刀直入に聞きます。比企谷先生は、高海さんたち3人のスクールアイドル活動に協力していると聞いたのですが、本当ですの?」

「ああ、まぁな」

 

じっと黒澤がこちらを見つめる。何処か探るような視線に、少し落ち着かない気持ちになる。

 

「何故、協力しているのですか?」

 

何故、か。

 

まぁ確かにやって来てまだ1学期も経験してないペーペーの新米教師が、その年に始まろうとしているスクールアイドル部の手伝いをしていたら、何かしら思惑があると思うのが普通だわな。

 

……ただな〜。

 

「まぁ……なんとなく、だな」

「なんとなく?」

「なんとなく。ああして頑張ってる奴見ると、なんかほっとけないというか……まぁそんな感じだ」

 

ほっとけない。放って、置けない。

 

それはあの時、放ってしまいそうなったことが、大きく影響しているのかもしれない。結果としてことなきを得て、無事に終わったことではあるけれども。

 

それでも、その道の険しさを知り、その先の苦しさを知っているから。

 

今こうしてそこへ行こうとしている彼女たちのために、何かしたいと思っている、かもしれない。

 

 

やや納得していないような黒澤だが、これ以上変に探られるのもあれなので、こちらから話を振ってみる。

 

「黒澤。お前はなんでスクールアイドル部を認めないって言ったんだ?」

 

黒澤の表情が少し強張る。

 

「別に……この学校には不要なものですので。それに、わたくしはそんなもの」

「好きなんだろ?スクールアイドルが」

「なっ」

 

本来ならこんな風にずけずけと他人のプライベートに踏み込むようなことはしたくないが、いかんせん黒澤の頑なとも言える態度は見ていて気分の良いものではなかった。

 

好きなものを無理やり嫌いになろうとしているようで、そんな姿は見ていて心が痛む。

 

痛くて、そして痛々しい。

 

「そ、そんなわけありませんわ!」

「ダウト。あんなクイズ、余程コアなμ’sファンにしか出せねぇよ。つうか答えられるファンの方が少ないぞ、多分」

「あ、あれは……」

「まぁ、お前がどうしたいのかはしらん。お前の言うように、別に必要はないのかもしれないが、」

 

そこで立ち上がりながら言葉を区切る。

黒澤も、一番気にしていた疑問への一応の回答を得られたからか、特に何も言わない。

 

扉に向かう途中で振り返る。

そのまま出て行くと思っていたのか、黒澤が首をかしげる。

 

 

以前また別の生徒会長に……黒澤のようにガチガチに固められていた少女に言った言葉を、まさかまた使う時が来るとは思わなかった。

 

そんな事を思いながら、黒澤に告げる。

 

「好きなことを、好きなようにやるのは自由だろ。あいつらも、お前も」

 

それだけ言って、生徒会室を後にした。

 

……またあいつらに遅いって怒られそうだなぁ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side diamond

 

好きなことを、好きなようにやる……

 

あの日以来、そんなこと考えたこともなかった気がします。

 

わたくしたちが終わってしまった、失ってしまったあの日から。

 

決して学生生活が楽しくなかったわけではないのです。

 

生徒会長に就任したのも、わたくしが望んでのこと。

 

それが、無くなってしまうかもしれない、この学校を救うために、わたくしが出来る最善のことだと思ったから。

 

もう、他の方法なんて無いと思っていたのだから。

 

「……わたくしは……」

 

『School Idol?』

『学校を救うにはそれしかありませんの!』

『鞠莉も一緒にやろ?』

 

もやもやとした気持ちを抱えたまま、生徒会室を出る。部活で残っている生徒以外は、もう殆どいないため、廊下もしんとしている。

 

と、図書室の前を通りがかると、中から声が聞こえてくる。

 

「ライブ楽しみだね、ルビィちゃん」

「うん!」

 

ルビィと、国木田さん?

おそらくライブというのは、高海さんたちのライブのことでしょう。ルビィは本当に、スクールアイドルが大好きですから。

 

「でも、グループ名どんなのになるんだろう?」

「まだ決まっていなかったって言ってたけど……」

 

グループ名がまだ決まっていない、ですって?

スクールアイドルとして活動するにあたって、とても重要なものだというのに……

 

μ’sのように、皆様の記憶に残る名前を、わたくしたちも考えて……

 

 

そこまで考えた後、気がついたら足が動き出していました。

 

彼女たちが練習しているという、海岸へ。

 




三年生ラスト!
マリー担当のつくねさん!

抜群の踊りに加え、Siriusの動画の編集もしている。

彼女の推しポイントはその表情。
可愛さ、楽しさ、かっこよさなどなど、踊りの中で見せる表情は魅力的の一言。

個人的にはSiriusで1番の美少女だと勝手に思ってます(笑)

皆さんも彼女のシャイニーな輝き、見てみませんか?

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「水」の名前

いよいよ次だ……次で最初のライブを書ける……

あ〜、結構引っ張った気がする……


まぁそれはさておき、もうすぐゴールデンウィークですわね。
がっつり長い休みなので、バリバリ楽しみであります!

そんな気持ちで今回のお話を、どうぞ!


「あっ、比企谷先生!」

「な、なんだ?」

 

海岸に到着した俺を出迎えたのは、何やら悩んでいる様子の高海だった。

 

また何か問題があったのだろうか?などと考えていると、高海がタタタッと駆け寄ってくる。

 

「お願いします!グループ名考えてくださいっ!」

「……は?」

 

 

 

「実は昨日のビラ配りの時に、ルビィちゃんと花丸ちゃんにあったんですけど、その時にグループ名を聞かれまして……」

「3人で色々考えてたんですけど、」

「なかなかいいものが思いつかなくて……」

 

あ、やっぱり決まってなかったのか……前々から聞こう聞こうと思っていたがなんだかんだタイミングを逃してしまっていた案件である。

 

そう、彼女たち3人のグループ名。

 

単純に一回パフォーマンスするだけなら別段重要ではないかもしれないが、今後活動を継続するのであれば名前は重要になる。

 

多くのスクールアイドルがいる中で、かぶることなく、かつ覚えやすく、それでいてしっかりと自分たちをアピールできるものでなければならない。

 

「因みに候補とかあるのか?」

「えっと、出たのとしては……スリーマーメイドとか?」

「って、なんで蒸し返すの!?なしって言ったでしょ!」

「私的には制服少女隊ってのは捨てがたいんだけどなぁ」

 

なるほど。どうやら相当迷走しているらしい。というか、渡辺。その名前だと今製作中の衣装と全然違うだろ、もう一考しろ。

 

つっても、俺にネーミングセンスなんて期待するだけ無駄である。大衆ウケの良いものとか考えるの苦手だしな。

 

というわけで、

 

「俺には無理だな。3人で決めろ」

「えぇ〜」

「冷静に考えてみろ、高海。俺がそんないい名前を思いつけるセンスのある人間に見えるか?」

「そ、それは……え〜っと」

「おいやめろ。本気で考えて反応に困るんじゃない。自分でわかってても傷つくわ」

 

あはは、と苦笑いする高海。まぁ、自分でやってしまったことだから仕方ないことだが、こいつのストレートな反応はやはり無意識のうちにこちらにダメージを与えてくるときがある。

 

そういうとこが由比ヶ浜や穂乃果に近しいと思っちまうんだよなぁ。

 

「でも、どうしよっか?」

「とりあえず色々アイディア出してみて、先生に見てもらうっていうのはどうですか?」

「まぁ、それくらいならできなくはない」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

と、いうわけで、暫し3人の出すアイディアを聞いていたわけなのだが……

 

「うぅ〜、難しいなぁ」

「なかなかいいのが出ないね」

「悪いわけじゃないと思うぞ。ただなぁ……」

 

そう、決してアイディアがダメっていうわけではないのだ。ただ、既に似たような名前のスクールアイドルがいるとか、彼女たちらしいイメージが湧きにくいとか、何かが足りない、抜けているような感じがしてしまうのだ。

 

「う〜ん……ん?」

 

頭を抱えていた高海が何かに気づいたかのような声を上げる。視線の先を辿ると、彼女たちがたくさん書いた名前たち、そこから少し離れた場所に、1つだけ明らかに筆跡が異なるものが見える。

 

砂の上に書いた割には中々に丁寧な字でこう書かれていた。

 

「Aqours」

 

「これ、なんて読むんだろう?」

「エーキューアワーズ?」

「どう考えても違うと思うが?」

「あ、アキュア?」

「もしかしたら、アクア?」

「アクア……つまり水ってことか?」

「「「おお〜」」」

 

水、アクア、Aqours。

 

名前の見た目のインパクト、名前の覚えやすさ、それに水。彼女たちが共に歩みを始めたきっかけが海なのだし、今もこうして目の前に広がる景色の大半が水である。そういう意味では、彼女たちをよく表している名前にも思える。

 

「ね、名前これにしよっか?」

「いいの?誰が書いたのかもわからないのに?」

「だからいいんだよ!私たちが名前を決めようとしている時に出会った。それって、すっごく素敵なことじゃない?」

 

キラキラとした顔を向ける高海。渡辺と桜内が顔を見合わせ、小さく笑う。

 

「そうだね」

「それに、とても素敵な名前だもの」

「よしっ、決まり!今日から私たちは!」

 

 

 

 

『浦の星女学院スクールアイドルの、Aqoursです!』

 

翌日。

前もって使用許可を取っていた町内放送から、3人の声が流れる。沼津の駅付近にあまり行かない待ちの人にも知ってもらうために、ライブの宣伝をすることになったのだ。

 

まぁ、そういう意味でも、昨日のうちに名前が決まってよかったな。名前を覚えてもらえた方が、何かといいしな。

 

『あ、ちょっと待って。私たちまだ正式な部活じゃない』

『あっ、そうだった!』

『じゃあなんて言う?』

『うーんと……』

 

……コントか!

 

若干グダつきながらではあるものの、とりあえずライブの宣伝自体はできたのだった。

 

 

そしていよいよ……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side sailor

 

「うん、うん。もうすぐだから。はぁい」

 

電話を切って小さく息を吐く。気がつけば、もうライブの本番は明日に迫っていた。

 

既に辺りは暗くなっていて、もともと街灯がそんなに多くないこの辺りは、家々から漏れるあかりと、私が乗せてもらっている志満さんの車のライトくらいしか照らすものがない。

 

衣装も、歌も、踊りも準備はできている。いっぱい練習したし、クラスの子達も照明や音響、ステージの飾り付けを手伝ってくれている。

 

何度も駅に行ってビラを配ったし、感触も悪くはなかったと思う。

 

「うまくいきそう?」

 

前を向いたまま志満さんが質問する。

 

「う〜ん……うまく……体育館を満員に、できるといいんですけどね」

「満員ね〜。初っ端にしては中々高いハードルね」

「はい。でも、千歌ちゃんもあんなにやる気になってますし、私も一緒にやるって決めてますから。だから、結果はどうであれ、明日は目一杯やりますよ」

「そっか。それにしても不思議ね〜。あの飽き性だった千歌ちゃんが、ここまでやる気になるなんて」

「飽き性なんじゃなくて、中途半端にやるのは良くないって、そう思えるから。だからこそ、これだ!ってなると、あんなにのめりこめるんですよ」

 

今日の終わりまでずっと、千歌ちゃんは明日に向けて燃えていた。不安や緊張もあるだろうけれども、それよりも楽しみにしてるんだなぁ、ってこっちが思うくらいに、彼女はキラキラしてた。

 

「曜ちゃんはほんとに、千歌ちゃんをよく見てるわね」

「長い付き合いですから」

「そっか……明日が不安?」

「……正直言うと、少しは」

「ふふっ、大丈夫よ。この町の人は優しいから。ね?」

 

そう言って志満さんは微笑む。それに対して、はい、と頷く。そういえば、さっきも似たようなことを言われたなぁって思い出す。

 

この町に来てまだほんの少ししか経っていないはずなのに、志満さんと同じことを言っていたことが、どこか不思議にも思う。

 

でもあの人は私たちに向かって、はっきりと言った。

 

『このタイミングで言うのもなんだが、今しかなさそうだからな。明日のライブが終わるまで、何人来るかということは考えるな』

 

『何人でもいい。たった1人でもいい。来てくれた人は、お前達のパフォーマンスを見たいと思って来てる』

 

『だから、来てくれてる人のために、全力で歌って、全力で踊ることだけ考えろ。全力で楽しんでもらうことだけ考えろ』

 

『……まぁ、大丈夫だろ、多分。優しい町だしな、ここ』

 

たった1人でも、来てくれた人のために全力で……か。

 

どこか来る人の数のことが頭から離れなかった私にとって……ううん。多分梨子ちゃんにとっても、千歌ちゃんにとっても、その言葉はストンと心に落ちた。

 

スクールアイドルが歌って踊るのは、人を集めるためじゃなくて、お客さんに楽しんでもらいたいから。最初の頃に参考として読んだ雑誌にも、そんなことが書いてあった。

 

体育館を一杯にすることをついつい意識しちゃってたけど、そうじゃないんだ。

 

だから……全力で千歌ちゃん達と楽しもう、そう思えた。

 




Sirius紹介ターイム、梨子ちゃん編。
最初の3作品では双葉さんが担当していたパートですが、彼女の後に参加したメンバーを紹介します!

今回紹介しますのは、夜桜心春さん。
単発案件での参加ということでしたが、二曲に参加。

大変可愛らしく、桜内梨子パートを踊っていた彼女。今後再度登場するかは不明ですが、また踊っているところを見たくなる魅力があります。

あ、因みに最年少です、確か(笑)

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ファーストライブ

折角なので平成最後のこの日に投稿しますね(笑)
なお、平成最後と令和最初の日は沼津よりお送りいたしまーす。

いよいよファーストライブ!
そして今回もなんと……


校舎の入り口に立ち、空を見上げる。ゴロゴロと低い音が響き、時々遠くの方で空が光る。

 

ライブ当日。残念ながら天候には恵まれなかったらしい。激しく降りしきる雨。空模様だけでなく、海模様もどこか怪しげで、どことなく不穏な雰囲気を醸し出している。

 

「ファーストライブ、か」

 

決してそれがなかった方が良い、なんてことは思わないし思えない。それは彼女達に対して、失礼だから。

 

しかし、それでも。

 

あの空っぽに近い講堂を最初に見たときの3人の表情は、今でも思い出せる、思い出せてしまう。

 

「そんなところに立っていては、風邪を引きますわよ」

「別にそんな濡れてるわけじゃないし大丈夫だ。というか、その言葉そっくり返すぞ」

 

視線を向けるでもなくかけられた声に応える。黒澤が隣に立つ。

 

「体育館で待ちませんの?」

「あぁ。ライブの時間になったら行くわ」

 

今頃体育館では、高海たちが最後の準備をしているところだろう。客の入りはここからでは確認できないが、結果は行けばわかるだろう。

 

「あなた、あの3人が心配じゃありませんの?もうすぐ本番ですわよ。何か声をかけるとか、あるんじゃないですの?」

「……ないな。なんならもう言えることは言ってある。後はあいつらが本番どうするか、それだけのことだろ」

 

実際、今更彼女達にかける言葉などない。もうここまで来たからには、後はライブをするだけ。

 

これまでの準備も、練習も、彼女達はこの時のためにしてきたし、それを俺も手伝ってきた。けれども、ここからは彼女達にしかできないのだ。

 

「……今日、成功すると思いますの?」

「さぁな。なんだ?心配してるのか?」

「ちっ、違いますわ!わたくしはただ、生徒会長として、彼女達の挑戦を見届ける義務がありますの。それ以前に、彼女達はこの学校の生徒。ならばその学生生活が良いものであってほしいと願うことは、生徒会長として当然……何を笑ってますの?」

「くくっ、あ、いや、すまん。なんでもない」

 

必死に取り繕おうとまくし立てるその姿に、どことないポンコ……人の良さを感じてしまい、思わず笑ってしまった。

 

本当に、こいつはこいつで学校のこと、生徒のことを大切に思ってるんだと、認識させられる。

 

「まぁ、あれだ。満員になろうがならなかろうが、結局はあいつらのすることは変わらないしな」

「……思ったよりも冷めてますのね」

「あそこに立つのは俺じゃないしな」

 

そう言って背中を預けていた壁から離れる。そろそろいい時間だろう。

 

「んじゃ、行くわ」

「……わたくしも行きますわ。ライブの確認も、生徒会長としての義務ですので」

「そうか」

 

結局、ただの一度も視線を合わせることなく、俺と黒澤は並んで体育館の方へ向かった。

 

ちらりと携帯を見る。一応連絡はしてみたものの、やはりそう簡単にこっちに来られるわけもなく、今回はほとんどから申し訳なさげな連絡が来ていた。

 

……一人を除いて、だけどな。そもそも返事自体来てないし……

 

その後、一言も交わすことなく、扉の前にたどり着く。特に躊躇するわけでもなく、扉を開けて中に入る。下向き気味だった視線を上げて前を見る。

 

 

そこに見えたのは、満員からは程遠い客席だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side mandarin

 

「雨……止まないね」

 

雨だけじゃなく、雷の音も遠ざかる気配がない。

 

せっかくのファーストライブ。せめて天気には恵まれて欲しかったけど、しょうがないよね。

 

曜ちゃんの作ってくれた衣装に着替えた舞台裏。もう後少しで始まる、私たちの最初のライブ。

 

緊張もするけど、不思議と落ち着いていられていることに、ちょっと驚いてる。

 

「そろそろだね」

「何か掛け声でもやる?」

「そうだね。えっと、どうしよっか?」

 

ついつい3人で顔を見合わせてしまう。

 

「手を重ねる感じかな?」

「こう?」

 

曜ちゃんが最初に差し出した手に、梨子ちゃんと私の手を重ねる……でも、何だか少しさみしい感じもする。

 

「……手、繫ごっか」

「「え?」」

「ほら、3人で輪を作るようにして、っと」

 

私の右手を梨子ちゃん、左手を曜ちゃんと繋いでみる。2人も空いている方の手で繋ぎ合う。

 

2人の手の感触を確かめるように目を閉じる。真っ暗な中でも、2人の手の温もりはしっかり伝わってくる。

 

「大丈夫。3人一緒だもん」

「……そうね」

「それに、先生も見てくれてる」

 

そうだよね。先生も必ず見てくれるって、約束してくれたもんね。

 

 

突然協力したいって言ってくれて、しかもスクールアイドルの活動についても詳しくて、私たちの知らないところでも色々してくれて、なんだか不思議な先生。

 

普段はちょっと不機嫌そうに見えるけど、かけてくれる言葉は優しくて……

 

『ちゃんと見届けてやる。だから、全力で歌って、全力で踊って、俺を驚かせてくれ』

 

うん。

 

やろう。

 

「行こっ!せーの、」

「「「Aqours、サンシャイーン!」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ゆっくりと幕が上がっていく音がする。

 

なんとなく3人ともステージに立ってから目を閉じてしまっていたから、今、幕の向こう側がどんな様子だったのかはわからない。

 

と、完全に幕が上がりきったのかな?小さな音が止まった。

 

ゆっくりと目を開き、顔を上げる。

 

 

1、2、3……10人くらいかな?すぐには数えられなかったけれども、それでも満員ではないことだけはすぐにわかった。

 

「あっ」

「……っ」

 

両隣から小さく、思わず漏れてしまったかのような音が聞こえてくる。

 

繋がれた手から伝わる不安や残念という気持ち。

 

私も……思わず手に力が篭りそうになって、

 

「あ」

 

入り口付近に立って、じっとこっちを見つめる先生の姿が見えた。

 

1秒?1分?1時間?そんなに長いはずないんだけどな。なんだか時間の感覚がおかしくなっちゃったみたい。暗くてよく見えないはずなのに、先生と目が合った気がした。

 

先生はその表情を変えずにただこっちを見てるだけ。でも、なんだかわからないけど、それだけで心が落ち着いた。

 

ちゃんと見てくれてる。

 

そう思うと、あんなに緊張してたのに、あんなに不安だったのに、不思議と大丈夫だと思えた。

 

手を離し、一歩前に出る。

 

2人の視線を背中に感じながら、はっきりと言葉にする。

 

「私たちは、Aqoursです!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side teacher

 

入り口付近の壁にもたれながらステージを見る。一瞬高海がこっちを見ていたような気もするが、今の彼女の視線は自分の真正面、観客を見ている。

 

「あんまりショックじゃなさそうデスね」

「どうだろうな。けど、ショックだろうとなかろうと、今やるべきことは変わらないだろ」

 

いつの間に隣に立っていた小原にそう返す。実に当たり前のようにそのまま同じように壁に背を預ける小原。

 

「これからどうするつもりデスか?」

「さぁな。先のことなんて考える場合でもないだろ。あいつらにとって大切なのは、今この瞬間、ここにいる人たちなんだからな」

 

例え目標に達していなかろうと関係ない。今ここに集まっている人たちは、他でもなくあいつらを見に来た客なのだから。多かろうと少なかろうと、そこには何の違いもない。

 

だから、今彼女たちにできること……いや、すべきこと、それは……

 

 

 

桜内と渡辺が一歩前に踏み出し肩を並べる。

 

「歌おう!私たちの全力で!聴いてください!」

 

高海のその言葉を合図に照明と音響の生徒が動く。

 

3人が最初の立ち位置に着く。息を吐いてからポーズをとる。

 

桜内の曲と、高海の歌詞、そして渡辺の振付がほぼ同時に始まるこの曲は、彼女達の歌声とともにスタートを切った。

 

高海の大好きという気持ちを込めたその歌は、彼女たちの出だしらしく、最初のときめきを見つけた、その気持ちを込めた歌。

 

ちらりと周りの様子を見てみる。

 

10人もいるかわからないけれども、誰もがじっと彼女たちのパフォーマンスを見ていた。口元に見えるのは、笑顔。中には音楽に体を揺らす人もいる。

 

しっかりやれている。

 

そう思ってステージに目を戻した瞬間、落雷とともに、視界が真っ暗になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side mandarin

 

「っ、何?」

「停電?」

 

今まさにサビに入ろうとした瞬間、光が消え、音が止まった。客席側からも戸惑う声が聞こえてくる。

 

さっきの雷の影響で、停電しちゃったみたい……

 

声は聞こえるけど、誰も見えないし、手の届く範囲に誰もいない。まるで暗闇の中に、一人放り出されちゃった気持ち。

 

さっきまで見えていた気がした輝きの一端は、今はどこにも見えない。

 

悲しくて……悔しくて……心細くて……でも、私たちはステージに立っている。みんなを楽しませるために、だから……

 

必死に歌詞を紡ごうとする。声が震える……

 

視界がにじむ。泣いちゃダメ、そう思うのに……

 

 

バンッ!と大きな音を立てて、体育館の扉が開く。外から強い明かりが差し込んで、ステージを照らす。

 

土砂降りの雨の中、雨合羽を着た人影が見える。

 

「バカチカぁ!」

「……美渡姉?」

 

少し目が慣れたらわかった。肩で息をしながら親指を立てているのは、間違いなく美渡姉だった。でも、どうして?

 

「あんた!開演時間、間違えたでしょ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side teacher

 

高海の姉が中に入るのに続くように、次から次へと人が入ってくる。真っ暗な体育館では正確な数はわからないが、人の波が止まる気配がない。

 

後から知ったことだが、駐車場どころか道路までもが車でいっぱいに埋まっていたらしい。

 

 

と、突然照明が戻りステージを照らす。3人の姿が鮮明に浮かぶと同時に、観客席の様子もぼんやりとだが見える。

 

体育館を埋め尽くす人、人、人。

 

老若男女問わず、大勢の人がここに集まっていた。

 

「Incredible……」

「そうだな……やっぱり優しい町だよ、ここは」

 

最後に入ってきた人物を見ながら、小さく呟かれた小原の言葉に、何となく返事してしまう。

 

入ってきたのは既に中にいたはずの黒澤。視線に気づいたのかこちらを見る。ふんっ、といった具合に顔を背ける仕草に笑ってしまう。

 

そういえばこの学校は発電機があるんだったな、なんて思いながら。

 

 

あの日、ほぼ空っぽの講堂で彼女たちは歌った。それが彼女たちの始まりだった。

 

今目の前の3人は、彼女たちとは異なるスタートを切ることになったようだ。

 

「……ホントだ。私、バカチカだ」

 

笑顔で涙を流しそうになっている高海。一瞬俯いてから、顔を上げる。その表情は強い決意と、喜びに満ちていた。

 

「キラリ!」

 

その言葉に合わせるように、桜内が、渡辺が、そして彼女たちを手伝うクラスメートたちが動く。

 

再び流れる音楽に合わせ、3人は踊り、歌う。

 

その姿に、観客が沸く。

 

今の彼女たちのそれはまだまだラブライブに出場できるレベルには達していないかもしれない。

 

でも、それでも彼女たちは客を楽しませるに足るパフォーマンスができていた。

 

3人の熱意に引かれたのか、壁につけていた背中を離し、小原のそばから離れ、少しだけステージに近づく。とは言っても、結局は一番後ろなんだが。

 

ここからでもはっきりと、彼女たちの楽しげな表情が見える。

 

 

トンッと背中に小さな衝撃が加わる。誰かが背中合わせになるようにしてきている。

 

小さな笑みを浮かべてしまう。

 

こんなことするやつ、俺は一人しか知らない。返事はしてなかったが、わざわざ来てくれてたらしい。

 

「どうだ?あいつらのファーストライブ」

「ふんっ。まだまだ全っ然ね。歌も踊りも拙いところがあるし、駆け出し感満載ね。パフォーマンス途中で泣きそうになっちゃったのも、プロとしてはアウト」

「流石に厳しいな」

 

特に体を相手に向けるでもなく、そのままの姿勢で会話する。あの頃から変わらない様子に、少し笑ってしまう。

 

「キャラは立ってると思うか?」

「それも全然ね。あの頃の穂乃果たちと、そう変わらないわよ」

「そうか」

「そうよ……だから、もう少しだけ、期待してあげてもいいわよ」

「そりゃどうも。スーパーアイドルのお墨付きなら、この先期待できそうだな」

「なぁに呑気なこと言ってんの?あんたの働き分も含めての期待値なのよ?」

「え〜」

「え〜、じゃない!」

 

ここで彼女が背中を離し、回り込んでくる。マスクにサングラスという、これまた相変わらずな変装をした彼女のツインテールが揺れる。

 

「あんたが付いてるんだから、絶対ラブライブ 優勝しなさいよ!」

「するのは俺じゃないけどな。それに、期待値高くないか?」

「それくらいやってもらわないと、こっちが困るの!スーパーアイドルの元マネージャーなんだから」

 

それだけ言って、彼女が踵を返す。

 

「もう行くのか?」

「ええ。一応これでもそれなりに忙しいのよ。でもまぁ、見に来てよかった」

「そうか……頑張れよ」

「あんたもね」

 

最後に特徴的な手の形を作り、ピースのように顔の横に持っていく。こいつの代名詞で、締めるらしい。

 

「じゃっ、ラブにこ」

「……久々に見るな、それ」

「惚れ直したかしら?」

「いや、普通に痛いな」

「なぁんでよ!」

 

演奏の邪魔にならないように小声で、でもしっかりとあの頃と変わらない様子に、どこか安心した。

 

最後にサングラスを外し、ウィンクだけしてから、矢澤にこは体育館を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side mandarin

 

最初の曲が終わった。

 

全力で歌って、全力で踊った。

 

自分たちも楽しかったけど、それよりも、こんなにたくさんの人が見にきてくれた、見て、笑顔になってくれた。

 

そのことが、本当に嬉しかった。

 

隣を見ると、曜ちゃんと梨子ちゃんも笑顔だった。

 

やれたんだ、私たち!

 

「スクールアイドルはどこまでも広がっていく!」

「どこまでだって行ける!どんな夢だって叶えられる!」

「それが、私たちの憧れたスクールアイドルの言葉です!」

 

と、誰かが観客席の後ろから一番前まで歩いてくる。

 

「この成功は今までスクールアイドルを大きくしてきた方々の努力と、この町の方達の善意によるもの。勘違いはしないように!」

 

強い視線で、凛とした態度でそういうダイヤさん。その言葉は正しいんだと思う。みんな優しい人たちだから。でも、

 

「分かってます。きっと私たち、まだまだなんです。まだ、始まってもいない。でも!見てるだけじゃ始まらないから!」

 

曜ちゃんと梨子ちゃんが片方ずつ手を握ってくれる。思わず顔を見合わせて笑う。また前に視線を向けると、体育館の後ろの方に立っている比企谷先生が見える。

 

始まる前とおんなじで、ただそこに立って見てるだけの先生。でも、ずっと私たちを見てくれてた先生に、伝えたい。

 

「今しかないこの瞬間だから!私たちは、」

「「「輝きたい!」」」

 

さぁ踊ろう、また歌おう!次の私たちの曲を!

 

「聴いてください!」

 




今回はちょっとした番外編!
Siriusのメンバー3人、つくねさん、まあむ様、あのさんの3名による踊ってみた動画。
決めたよ Hand in Hand!

こっちは完コスでの踊りですが、流石はSiriusのダンス担当と名高いお三方、かっなりキレッキレ!

全員が美少女の上上手いから、見てて楽しい!

普段とは違うSiriusメンバーの一面をどうぞご堪能あれ(笑)

Youtube
https://m.youtube.com/watch?v=Surf8a--3Io

ニコニコ
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm34147847?ss_id=dd1e21fd-f3ea-4d2c-b19c-ba190612d7dd&ss_pos=8&&cp_in=wt_srch

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あ、因みに明日も載せる予定です(笑)


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始まりの4人……ん、4人!?

さらば平成、こんにちは令和。

連投ってことなので割と短めですが、新元号と同時に新スタートを切れて個人的には満足です。

んじゃ、本日も私は沼津巡りですので、これにてドロン!
あ、物語は読んでくださいね(笑)


ライブの日から週末を挟んだ月曜日。

 

高海からの呼び出しメールを昨日受けていたため、まさかの開門時間前に集合である。というかこのためだけに渡辺は昨日高海の家に泊まっていたらしい。

 

当の高海はというとやたら上機嫌気味に鼻歌を歌いながら、ステップを踏むように体を動かしている。

 

「♪〜」

「千歌ちゃん、本当にご機嫌ね」

「そりゃそうだよ。梨子ちゃんだって、嬉しいでしょ?」

「そうね」

「それにしてもこの時間に集合はやりすぎだろ」

「あはは」

 

苦笑しながらも楽しそうな渡辺。高海を見守る桜内。高海ほど露骨ではないが、二人ともかなりご機嫌な様子。まぁ、彼女たちがご機嫌になるのも無理はない。何故なら、

 

「やっぱり、早くから来ましたね〜」

 

そう言いながら、校門前に来た車から降りてくる小原。特に驚いた様子もなく、待っていた俺たちのことを見る。

 

「あ、マリさん!あの!」

「OK、OK。わかってまーす!早速理事長室に、let's go!」

 

開門時間になった瞬間、小原に先導される形で、俺たちは理事長室に向かうのだった。

 

スクールアイドル、Aqoursを、正式な部活にしてもらうために。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、放課後。

 

「……思ったよりあっさりだったな」

「ですね〜」

「あっさりというよりも……むしろノリノリといいますか……」

 

事実ノリノリだったのだ。

 

高海からの申請書類を一通り見て、にっと笑い、

 

「しょ〜にん♪」

 

と楽しそうに理事長印を押すだけ押すと、

 

「はいこれ〜。暫く使われてないみたいだから、綺麗にして使ってネ」

 

と部室の鍵を高海に手渡し、小原は笑顔で手を振りながら俺たちを理事長室から見送ったのだった。

 

で、現在。

 

部室の前まで来た俺たちは、高海がスクールアイドル部の表札を部屋の入り口にかける終えるのを待っていた。

 

「なんつーか、小原のやつ楽しんでないか?」

「楽しそうではありましたね」

「どうして協力してくれるんだろう……」

「スクールアイドルが好きなんじゃないかなぁ……っと、できた!」

 

そんなこんなのうちに、どうやら高海の作業も終わったらしい。

 

部室の扉の上を見ると、そこのフレームにしっかりと、「スクールアイドル部」の文字が……間違えてるし。いや、本人がそれでいいならいいんだけどさ、せめて書き直すとかそういうことはしなかったのかよ。

 

「とりあえず、入ってみようよ!」

 

ポケットから先ほど渡された鍵を取り出す高海。ワクワクした面持ちで鍵を差し込み、回す。

 

はてさて、開かれた扉から見える部室の内装はというと——

 

——ひどく、いやそれはもうひどく散らかっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

暫く誰も使っていなかったということもあり、どうやら倉庫のような扱いになっていたらしい。よく見ると、明らかに捨てておくべきであろうものや、おそらくは図書室から持ち込まれたのであろう本まで色々とある。

 

「今日はここを片付けることからかしら」

「そうだね。流石にこのままじゃ、部室として使えないし」

「え〜、これ全部?」

「ま、それもスクールアイドル部の部員としての仕事だろ」

 

とりあえず、これで高海たちAqoursのスタートは無事に切られたらしい。公式の部であれば、ラブライブにも参加できるようになるしな。

 

……もういい頃合いか?

 

元々何となく手伝うって言い出したことではあるが、こうしてちゃんとスタートラインに立つところまでは手伝えたわけだしな。

 

あいつらに憧れた、あいつの言葉に動かされた、そんな彼女たちの背中を押してやろう、そう思っていただけ。にこからの応援を貰ったものの、そもそもそこまで長くやるつもりはなかったし。

 

それに……

 

『私たちがいつまでもμ’sの仲間であり続けるように、八幡君だって、いつまでもμ’sのマネージャーで、私たちの仲間だよ』

 

いつまでも仲間、なんてかつての俺なら一笑していただろう。そんなこと、絶対ありえないと。

 

ただ、あの時彼女にそう言ってもらえた時、不思議とその言葉は不快ではなかったのだ。むしろその事を嬉しいとさえ感じていた。

 

いつまでも、あいつらと。

 

だから、俺は……

 

3人に背を向ける。

 

「んじゃ、俺は行くわ」

「えっ」

「比企谷先生、行っちゃうんですか?」

「いやほら、俺一応は部外者だし」

「え〜、ダメですよ!顧問なんだから、一緒に片付けましょうよ!」

「いや、顧問だからって……ん?」

 

思わず振り向く。

 

腕を組みながら不満げにこちらを見ている高海だが、そんなことより気になる事がある。

 

「……顧問って?」

「スクールアイドル部のですよ」

「誰が?」

「比企谷先生が」

「えっ、何それ聞いてない」

「ほら!」

 

そう言って高海が先ほど承認印を貰った部活動申請書を見せてくる。

 

部員の欄には高海千歌、渡辺曜、桜内梨子の名前。そして顧問の欄には……

 

『比企谷八幡』

 

と、明らかに俺のではない筆跡で書かれていた……

 




毎回恒例のSirius紹介ターイム!

今回紹介するのは投稿作品の1つ、G線上のシンデレラ。
3年生組がそれぞれのカラーのドレスを着てますが、もうね。
美しいとしか言えませんよ。
なんか逃走迷走メビウスループやって欲しくなる(笑)

言うまでもなく推しポイントは3人のドレス姿。
個人的にはマリーさんが最高すぎる……

ニコ動
https://sp.nicovideo.jp/watch/sm34362414?ss_id=567921cf-fb99-4017-bc0c-bbd6e32d010e&ss_pos=3&&cp_in=wt_srch&cnt_transit=suggest

YouTube
https://m.youtube.com/watch?v=nBRQxbClkpE

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一年生加入編
次のステップ


間空いてすみません……いや、違うんです。
忘れてたとかじゃないんです。

ただGWは人と会ったり、業務内容変わって慌てたり、Siriusが一周年迎えたりでバタバタしてたんです、それだけなんです。

まぁ、言い訳的なものはさておき、続きますよ〜。


「……何故だ?」

 

ここは、スクールアイドル部の部室。

 

そこで何故か俺は高海たち3人とともに、使われずに散らかっていた部室の掃除を行なっていた……

 

「だって顧問じゃないですか」

「いや、だからそんな話聞いてないんだけど」

 

まぁろくに申請書類の中身を見ようともしていなかった俺にも非がある……のかもしれないが、それにしたってである。

 

「千歌ちゃん、先生に相談してなかったんだね……」

「それはダメでしょ。先生の都合も考えないと」

「いや〜、それはその〜。先生もスクールアイドルの手伝いしてくれるって言ってくれてたし、せっかく部になるなら先生にも一緒に入って欲しかったから」

 

あはは、と目を逸らしながら高海が弁明する。

 

……まぁ、別にどうしても嫌ってわけじゃないが……それにそもそも理事長である小原は俺の名前が書いてあることを承知の上で承認しているわけだから——

 

「確定ってことか……」

「?何か言いましたか?」

「いいや。まぁ、決まったもんは仕方ないと思ってただけだ」

「えっ?それって……」

「やるか。顧問」

 

やれやれ、と小さくため息をつきながらも、口元に小さな笑みが浮かぶのを感じる。まぁ、もう暫く見守るとしますかね。

 

と、高海が突然体を縮こまらせる。

 

「ぃ……」

「「「い?」」」

「ぃやったぁぁあっ!」

 

突然大声を出しながら、高海が部室から飛び出して行く。物凄い喜びようで、なんかこっちが恥ずかしくなってくる。

 

「喜びすぎだろ……」

「だって!ようやく始まるんだよ!この4人でスクールアイドル始められるんだよ!」

「3人な。俺はアイドルじゃないから、そこのカウントはおかしい」

 

そんなツッコミも意に介さず、テンションが上がりまくっている高海は、テキパキと部室の掃除を進めていく。思わず渡辺たちと顔を見合わせる。

 

「まぁ、これからもよろしく頼むわ」

「よろしくお願いします」

「ヨーソロー!」

「んじゃ、とりあえず片付けを続けるか……ん?」

 

「ん〜?」

 

視線を前に戻すと、つい先ほどまでは嬉々として片付けを進めていた高海がじーっと備え付けのホワイトボードを食い入るように見つめている。

 

「……何してんだ?」

「なんか書いてある……」

「えっ、どれどれ?」

 

高海の両隣に移り同じようにホワイトボードを見る桜内と渡辺。とりあえず3人の後ろから見てみると、確かに消しきれなかったのか、うっすらと何か文字のようなものがいくつも書いてある。

 

「これ、歌詞か?」

「でもどうしてこんなところに?」

「なんの歌詞だろう?」

 

飛び飛びのため全文は全くわからないが、所々読める文字からすると、どうにも何かに似ているような気がする……

 

「スクールアイドルか?」

「えっ?この学校に他にもいたことがあるんですか?」

「いや、俺は聞いた事ないが……むしろ高海と渡辺の方が知ってるんじゃないのか?」

「私も聞いた事ないけどなぁ……曜ちゃんは?」

「私も……」

 

確実にそうとは言えないが、もし本当にスクールアイドルの歌の歌詞だとすると、高海たちの前に活動していたグループがあったという事だが……

 

「ま、今は気にしても仕方がないだろ。さっさと片付けるぞ」

「はぁ〜い」

 

そんなこんなで、部室の片付けを進めることとなった……その様子を小さな影がこっそり窓から覗いていたのには気づけずに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side ruby

 

思わず息を切らしながら、走ってしまっていました。

 

使われていなかった部室を覗いてみると、高海先輩たち3人と、比企谷先生の3人が片付けをしているのが見えました。

 

楽しそうに話しながら手を進めるスクールアイドルの3人と、少しめんどくさそうにしながらもちゃんと片付けをしている先生。

 

体育館のステージ上で踊っていた3人は、とてもキラキラしていました。

 

動画とか雑誌で見た他のスクールアイドルと同じように、凄く楽しそうで、こっちも凄く楽しい気持ちになりました。

 

高海先輩の言ってた言葉。あれは、μ’sの穂乃果さんが言っていた言葉でした。ルビィと同じようにμ’sに、スクールアイドルに憧れた先輩達。

 

今日、3人は正式に部活動として認められたようです。ということは……

 

「またライブ、やるのかな?」

 

ライブだけじゃありません。

 

部活になったということは、これで正式にラブライブに出場することもできるということ。

 

憧れのμ’sと同じ舞台に、もしかしたら先輩達が行くのかもしれない、そう思うと、ルビィはとっても楽しみでした。

 

今この気持ちを誰かに伝えたい。

 

そんな思いで、ルビィは図書室の扉を開け、貸出カウンターに座っている花丸ちゃんに声をかけました。

 

「やっぱり部室できてた!スクールアイドル部、承認されてたんだよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side flower

 

誰もいない図書室で、マルは1人、本を読んでいました。

 

入学してすぐ図書委員になって、マルは自分にとって落ち着く場所を見つけていました。

 

中学の頃と同じように、静かに空想の世界に浸るマル。と、ここに向かってくる足音が聞こえました。

 

ガラリと扉を開き、飛び込むように入ってきたのは、マルの大切なお友達のルビィちゃん。

 

息を切らしながら、満面の笑顔でその子はマルに言いました。

 

「やっぱり部室できてた!スクールアイドル部、承認されてたんだよ!」

 




久々のSirius紹介ターイム……桜内梨子担当、現Sirius最新メンバーのみやさん!

先に梨子を担当したことのある2人ともまた違った雰囲気と言いますか、お淑やかな方ですね。

登場したばかりですが、投稿されてからほんの短い時間で、逢田さんっぽい、梨子ちゃん担当可愛いといった内容のコメントがいくつもされています。

非常にフェミニンながらも、スリワンでは格好良さまで……まさにリリーですね。

今後ますます楽しみです。

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→@Sirius_LS


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花丸気分に小さな決意

本当は昨日更新しようと思ってましたが、すみません、忘れてやした……

えー、5thから一週間、あの時の感動に色々と日常生活でぼーっとすることも多い一週間でしたが、頑張って生きるって約束したので、ぼちぼち頑張ってきましょ〜。


「ざっとこんなところか?」

「そうですね」

 

作業もひと段落したため、軽く息を吐きながら部室を見渡す。部室の備品の整理と他の部の備品の返却を終え、残すところは机の上に積み上げられた本の山となった。

 

「これ全部図書館の本?」

「随分前に借りられたものとかもあるね。ほら、これなんて2年近く前だし」

「ずっと返却されてなかったのかよ……」

 

まぁ生徒不足で図書委員などの委員会や部活はともかく、生徒会でさえあまり機能しているとは言えない状況にあるわけだからな。仕方がないといえば仕方がないのかもしれん。

 

「とりあえずこいつら、返却しに行くか」

「「はーい」」

「はい」

 

4人で手分けして本を抱え、図書室へと向かう。放置されていたため少しばかり埃っぽいが、それは仕方がない。

 

「でも、本当に人数が足りてないのに部活にしてもらえるなんてね」

「そういえば千歌ちゃん。今後部員のことはどうするの?」

「ほぇ?」

「今後増やすことを考えているかどうかってことだろ。部員の勧誘も、元々は部活動にすることを目的としていたわけだしな」

 

穂乃果たちの時はにこがいたアイドル研究部に入るって形で部活になったわけだが、今回は既に部活として成立している。つまりは、不要と判断した場合は、無理に部員を増やす必要がない。

 

後の判断は部長であり、リーダーである高海の判断ということになるが、

 

「えへへ。実は誘いたい子が2人いるんだぁ」

「2人?」

「うん!あの2人、絶対人気出ると思うんだ!」

 

既に2人を勧誘した様子を思い浮かべているのか、心底楽しそうな表情の高海。まぁ、その2人がどんな奴かは知らんが、高海がそれ程惚れ込んでいるのなら中々の逸材なのかもしれない。

 

「で、その2人って……っと、図書室だ」

 

丁度目的地である図書室に到着したため、一旦質問を飲み込む。流石にここで騒がしくするのもよろしくないしな。ガラリと扉を開け、高海を先頭に図書室に入る。

 

「こんにちは〜、あっ花丸ちゃん!」

「こんにちは。あ、比企谷先生、こんにちは」

「おう、国木田か」

 

図書委員の仕事だろうか、カウンターに座っていた国木田がペコリと頭を下げる。

 

「と〜、ルビィちゃん!」

「ピギィ」

 

ビシッと効果音がつきそうな勢いで置いてある大きなファン、正確にはその後ろの黒澤妹を指差す高海。……というかそれで隠れてたつもりなのだろうか。流石に無理がある……

 

「こここ、こんにちは」

「あぁ〜、やっぱり可愛い〜」

「……高海、その表情はスクールアイドルとしてはどうかと思うぞ」

 

なんというか、どこかの妹大好きな妹みたいになってる。流石に引かれるからやめたほうがいい。

 

「それで、皆さんはどうしたんですか?」

「あぁ、これなんだけど」

 

そう言いながらカウンターの上に桜内が抱えていた本の山を置く。続けて渡辺と俺、最後に高海が自分の山を置く。

 

「これ部室の方にあったんだけど、図書室の本でいいのか、念のため確認してもらおうと思って」

「あっ、多分そうだと思います」

 

パラパラと本をめくりながら中を見る国木田。どうやら本の返却場所はここで間違いなかったらしい。

 

「じゃあ、ここで受け取りますね」

「よろしくね」

「はい……わわっ」

「ピギッ」

 

桜内に笑顔を向けていた国木田が驚きの表情を浮かべる、と同時に黒澤妹も奇声をあげる。その原因は、

 

「ようこそ、スクールアイドル部へ!」

 

2人の手を掴みながらキラキラ、というかもはやギラギラした表情で顔を寄せる高海にある。

 

 

とりあえず小町にやる感覚で、思わず軽く高海の頭にチョップを入れてしまっていた。

 

「何するんですか〜?」

「お前が何してる?唐突すぎて2人とも引いてるだろ。それから、図書室ででかい声出すな」

「うっ、そ、それは〜」

 

流石にその点は本人も反省したようで、2人の手を放し少し体を離す。

 

「でも、2人に来て欲しいのは本当だよ。ちゃんとした部活にもなったし、悪いようにはしないから〜」

「千歌ちゃん……その顔だと、あまり説得力ないんだけど……」

 

桜内が呆れ気味に高海に告げ、渡辺が苦笑しながらポンっと肩を叩く。

 

「そんな急に言われても、2人とも困っちゃうかも」

「そっか。興味あったら言ってね」

「あ、オラ……じゃなくて、マルは……」

「う、ル、ルビィも、その……」

 

高海の言葉に対し、少し戸惑うような、悩むような表情の2人。タイミングこそずれていたため目はあっていなかったが、チラリと互いに互いの表情を伺うように見たことが、何故だか気になった。

 

「……まぁ、それについてはまた今度でもいいだろ。とりあえずまだ片付け終わってないから戻るぞ」

「そうですね。今日中に終わらせたいですし」

「ほら、千歌ちゃん」

「うん。2人とも、またね」

 

ひらひらと手を振りながら、先に出た2人に続く高海。その後に出る際、最後にもう一度国木田と黒澤の方を見ると、やはりどちらも何か言いたげな表情で、顔を合わせてはいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

side flower

 

図書委員の仕事を終えてオラ、じゃなくて、マルたちは帰宅することにしました。2人で並んで歩く中で、どうしても気になってしまい、

 

「やりたかったんじゃないの?」

 

と、ルビィちゃんに聞いていました。

 

「えっ?何?」

「好きなんでしょ、スクールアイドル。やったら良かったと思うよ?」

「それは……ルビィは、その……」

 

いつもキラキラした目でスクールアイドルの雑誌を読んで、動画を見て、語る彼女だけれど、いつも自分がやるという話になると、暗い表情になってしまいます。

 

それはきっと、ルビィちゃんが大切に思っている人、その人のことを考えてしまうから。

 

とても素敵な大好きって気持ち。きっとあの先輩たちに負けないくらい、キラキラしているその気持ち。でも、とても優しくて思いやりのあるマルの友達は……

 

「……花丸ちゃんは?やってみないの?」

「えっ、オラ?」

 

突然の質問につい気をつけてる癖が出てしまったのに、訂正することも忘れてしまいました。

 

「ないない!ほら、オラとか言っちゃうし、体力もないし……マルはそういうのはいいよ」

「……じゃあ、ルビィも平気。ね?」

 

そう言って彼女は、いつものような優しい微笑みを向けてくれました。

 

 

その夜、マルは自室で雑誌をめくっていました。いつもは本ばかりなのに、ついつい買ってしまった、一冊の雑誌。

 

「スクール、アイドル……」

 

そこに写っている女の子はみんなキラキラしてて、全然違う世界の人みたいで……

 

「オラには無理ズラ……あ」

 

ふと、雑誌の中の一ページに目が止まる。ウェディングドレス風の衣装を着た、ショートヘアの女の子。

 

髪の短さからは、どことなくボーイッシュな印象があるけれども、それ以上にその人は……

 

「綺麗ズラ……」

 

こんな風にキラキラした世界に、きっとルビィちゃんは……

 

 

そう思った時、マルの中で1つの決心が生まれました。

 




あ、今回はSirius紹介はお休みです。
楽しみにしてた方(いるわけねぇだろ)すみません笑

まぁ、でも単純に紹介しきれてない魅力を聞いてみたい人は、Twitterに長文での紹介が書いてあるので、それ見てくださいな。
ざっと1.5万字を超える文章になるんで笑

→@tmteightman1996

ではでは。



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体験入部

もう2019年の上半期も終わりですね~。

私がラブライブ!サンシャイン!!のアニメをちゃんと見たときからも、ちょうど同じくらいになりますが、そうか~もうそんなに経っているのか~ととらえるべきか、まだそんなくらいなんだな~ととらえるべきなのか……

まぁかなり好きになったことには違いないので、別に何でもいいか笑

ではでは続きをどーぞー


「本当に!?」

 

放課後の部室に響き渡る喜びの声。いつも以上にキラキラとした表情を浮かべた高海が、来客の2人を見つめている。

 

「はい」

 

「よ、よろしくお願いしますっ」

 

それに返事しながらニッコリ微笑む国木田と、慌てるようにお辞儀をする黒澤妹。何故この2人がここにいるのかというと、

 

「体験入部……そういうのもあるんだったな」

 

「えっ?」

 

「あぁいや……学生時代だと、なんか当たり前に本入部する奴ばかりだったから」

 

俺とか強制入部だったし。

 

まぁ何はともあれ、この2人はスクールアイドル部に体験入部しに来ていたのだ。よくよく考えてみると当たり前のシステムではあるが、何故だかその選択肢は全く思いつかなかった。……まぁ、そもそも部活に入る経験が一回しかないんですけどね。

 

「やったぁ!2人が入ってくれるなら、もう優勝間違いないよ!」

 

「千歌ちゃん、違うよ。まだ体験入部って言ってるよ」

 

「ほぇ?」

 

「お試し期間ってことだろ。自分と合うと思ったら入るし、合わなければ入らない」

 

「そうなの?」

 

「あ、はい……まぁ……」

 

なんだか視線を逸らし気味な国木田と黒澤。とくに国木田についてはチラチラ黒澤の方見ている。

 

「黒澤姉のことか」

 

「そっか。ルビィちゃんのお姉さんって、ダイヤさんだもんね」

 

「は、はい」

 

「だからマルたちが来たことは今は内緒にしてくれると、助かります」

 

「まぁ、本人の希望なら仕方がな、ん?」

 

ふと気づくと高海が何やら机に向かって書いている。書き終えたのか、満足げな表情でそれを手に取る高海。

 

「よしっ!」

 

なんて言うものだから何がよしなのかと手に持っているものを見る。

 

高海が手に取っていたのは、以前ファーストライブの宣伝のために配っていたチラシ、の余りだった。よく見ると黒文字で何か書き足されている。

 

『1年生の国木田花丸ちゃん、黒澤ルビィちゃん加入!!』

 

とりあえず問答無用で手刀を頭に決めた。

 

「あたっ!」

 

「高海……人の話は聞こうか」

 

「「千歌ちゃん……」」

 

流石の渡辺と桜内もフォローしようがないのか、呆れ顔を高海に向けるだけだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃあまずは練習場所に移動しなきゃ」

 

なんやかんやあって高海への説明を経て、5人が着替えるため、俺は部室を出た。

 

ついでに確認しておきたいこともあったしな。

 

そうして着替えも終わったらしいので、俺たちは再度部室に集合するのだった。

 

「練習場所って、どこでしてるんですか?」

 

「これまでは浜辺の方で練習してたんだよね」

 

「でも、やっぱり移動に時間がかかるし、折角部活動になったのだから、学校で練習場所を探したほうがいいんじゃ?」

 

「あ、そっか……でも体育館も、運動場も他の部活で使われてるし……」

 

う〜ん、と頭を悩ませる様子の高海。まぁ確かに学校で練習場所を確保できないのは時間が惜しいからな。と、

 

「あ、あの!屋上はどうでしょう?」

 

ここで声をあげたのは黒澤妹だった。

 

「μ’sも、音ノ木坂の屋上で練習していました!」

 

流石は黒澤の妹、やはりμ’sのことが大好きなのだろう。提案している時の表情からしても、μ’sと同じように練習ができるかもしれないことに、ワクワクしているのがわかる。

 

「あ、そっか!」

 

「待って、屋上使うのにも許可がいるんじゃないの?」

 

「多分手続きはしないとダメかも」

 

「え〜」

 

ガックシと項垂れる高海。気分的にはもうやる気満々のところに水を差されてしまった感じなのだろう。う〜、とか唸りだしてるし。

 

が、まぁ、そんな必要はないんだけどな。

 

「屋上なら使えるぞ」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

5人の視線が集まるのを感じる。なんだか既視感のある光景に若干懐かしい気持ちになりながらも、極めて冷静にポケットから屋上の鍵を取り出す。

 

「前に申請しておいたからな。スクールアイドル部の誰でも借りられるから、今度からは職員室に取りに来い」

 

そう言いながら高海の掌の上に鍵を乗せる。まだ話を飲み込めていないのか、ポカンとしてる様子の高海。

 

「えっ、でもいつの間に?」

 

「この前部活が承認された日のうちにな。一応他の職員との確認とかもあったから、正式な許可を貰えたのは今日だったが」

 

「でも、どうして屋上を?」

 

「……別に。なんとなくそこそこ広そうで、他の部活と被らなさそうなところだったからな。学生時代の俺の隠れ場所の1つだったし」

 

実際嘘はついていない。川崎と出会ったり、相模を泣かしたりと何かと屋上に縁がある俺だが、そもそも屋上は俺がボッチ飯しやすい場所の一つでもあったからな。中学時代とか割とお世話になってたし。ただまぁ実際のところ、スクールアイドルの練習と聞いて真っ先に思い浮かべた場所が屋上だったのは、黒澤妹の言う通り、そこがμ’sが練習に使用していた場所だったからというのが大きいのだろう。

 

『屋上を使うとは、考えましたね』

 

『そうね。私もその考えはなかったわ』

 

『そりゃお前らはそもそも屋上とは無縁の生活おくってそうだもんな』

 

『ふわぁ、結構ここ広いね』

 

『ここならいっぱい踊れそうだね!結衣ちゃんも踊ってみようよ!』

 

『えっ、あたしも!?ちょ、ちょっと待って!』

 

『ほら、ことりちゃんも海未ちゃんも早く!』

 

『うん♪』

 

『ええ』

 

『ゆ、ゆきの~ん、助けて~』

 

『……助けねぇの?』

 

『今行ったら私まで巻き込まれそうだもの』

 

『確かに』

 

始めて音ノ木坂の屋上に足を踏み入れたあの時、穂乃果に手を引かれながら情けない声を出す由比ヶ浜を見ながら、俺と雪ノ下顔を見合わせるわけでもなく、同時に小さく笑ったのだったなぁ。

 

ガシッ

 

「ん?」

 

そんな風に柄にもなく思い出に浸っていた俺だったが、ふと手に感じた、割かし強めの衝撃に意識を戻される。何事かと思って見ると、俺の手はがっちりと高海の手によって握られていた。

 

「それじゃあ、早速行ってみよう!」

 

「は、ちょっと待っ」

 

なんて静止の声を上げる暇も与えないつもりなのか、そのまま高海は走り出すのだった……危ないから手を放してほしいんだが!




Sirius紹介ターイム!

さてさて今回紹介するのは2年生動画!
双葉さん、あのさん、そしてみやさんの3人の踊る、決めたよ Hand in Hand!
動画としてはみやさんのSiriusデビュー作ですね。

双葉さんの元気さ、あのさんのキレ、そしてみやさんのフェミニンさ。
これらが合わさって中々に素敵な踊りになってますよ。

何がいいって、ようやく2年生が3人揃っているところを見られることですよね。
みやさんが加入して最初の曲、そういった意味でも、この選曲は素晴らしいと思っちゃいます。

You Tube
https://www.youtube.com/watch?v=TXiGUDOrrI0

ニコニコ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35069933

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自宅訪問先

いやぁもう7月、2019年ももう後半か〜。

中々忙しい半期だった気もするなぁ……
まぁそんなわけで続きですわね。

今回のフォーカスは、とある三年生。
その名も……


「ふわぁ~、広い!」

 

屋上の鍵を開け、生き生きと飛び出していく高海。後に続くように渡辺、桜内、国木田と黒澤が屋上へと足を踏み入れる。

 

「ここからだと、結構遠くまで見えるのね。あ、富士山も」

「全然来たことなかったからわからなかったけど、思ったよりも広いんだね」

「ん~、なんだか気持ちいいずら~」

「屋上でスクールアイドルの練習……憧れの……」

 

どうやら全員からなかなか高評価らしい。総武や音ノ木坂のそれとはやはり違うが、それでも学校の屋上、それなりのスペースは確保されているうえ、他の部活が使用することもないため、基本的には彼女たち専用の練習場所として活用できる。最も、雨の日に弱いという難点はできてしまうが、そればかりはどうしようもない。

 

「一応安全面の配慮ってことで、使用するには原則顧問の教師、まぁこの場合は俺だけど、監督役として一緒にいなければいけないことになってる。まぁ、理事長からも業務用PCの貸し出しをしてもらえるらしいし」

 

ほんと、あの理事長抜け目ない……ほんとに高校3年生か?屋上の使用について相談しに行った時も、まるで会いに行くたびに「遅かったね」と言ってくるどこかのアロハのおっさんのように、俺が相談に来ることを予想していたみたいだったし……

 

『OK!でもちゃんとした申請が必要だから、やり方は他の先生に確認してね。それから、これ』

『ん?ノートパソコン?』

『屋上にはパソコン持って行けないでしょ?屋上を使うには教師同伴じゃないといけないから、業務用にこれを使ってね』

『……準備良すぎじゃね?』

『Of course!あなたが顧問になったら、必ず来ると思っていたもの』

『どこからそんなに情報集めてくるんだよ』

『ふふ~ん。小原家にはとっても素敵な情報提供者がいるのデース!あなたの話も、全部あの人から聞いているの』

『あの人?』

『Sorry、それについてはまだ話しちゃいけない約束なの』

 

そういいながらいたずらっぽくウィンクする理事長(高校3年生)。年下のはずなのにどこか読み切れない。高校生の頃に雪ノ下陽乃と先に出会っていなければ、俺の中でも警戒レベルが高かったかもしれない。

 

まぁ、既にラスボス系先輩に出会ってしまったため、小原のかぶっている仮面もかわいいものだと思えてしまうわけなんだが、いかんせん、それにしてもである。どこまで彼女が展開を読んでいるのか、俺に何を求めているのか、それがまだほとんどわからない。

 

彼女がどうしてここまでスクールアイドル部に肩入れしてくれているのか、それを考えるには、小原のことを俺は知らなさすぎる。

 

いや。小原のこと、それだけではない気がしてならなかった。

 

空いていた部室のホワイトボードに書かれた歌詞。

 

兼部について聞いた時の黒澤の反応。

 

そしてもう一人。

 

現在休学中の松浦果南。彼女もまた、どこか引っ掛かりを覚える相手だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

話は少し前にさかのぼる。

 

説明しておくと、休学中ということもあり、学校で顔を合わせることこそなかったものの、松浦と会ったのは何も高海たちに連れられてダイビングに行ったあの一回だけではない。

 

生徒数が決して多くないことや、休学者が松浦しかいないこともあるのだろうが、スクールアイドル部の顧問となる前から、週1回程度でいいから休学している松浦の様子を確認するようにとのお達しをいただいたのだ。おそらくは小原の差し金であろうことは間違いない。教師陣も不思議そうな顔をしていたしな。

 

津島?あいつは休学届が出ていないからあくまで不登校だ。とりあえずは担任がちょこちょこ様子を見に行っているらしいが、一向に学校に来る気配がない。どうも鬱になっているとかそういうことではないらしいので、そこまで大きく心配されるようなことではないらしい。

 

まぁなんで担任じゃなくて俺が、ってなると俺が一番若いってのもあるかもしれない(若手……うっ、頭がっ)。そんなわけで毎週水曜日、この日は担当する授業がないため学校の了承を得た上で、俺は松浦のもとを訪ねていた。

 

 

「いらっしゃ、あっ、比企谷先生。また来たの?」

「おう。まぁこれも仕事だからな」

「ふ~ん。まっ、平日のこの時間はお客さんも全然来ないから、先生が来てくれて退屈はしないかな」

「そりゃよかった」

 

別段なめられているわけでも、敬意がないわけでもないのだろうけれども、まだ数度しか会っていないはずでありながらも、既に松浦の中では俺に対して敬語を使う認識がどこかへ旅立ってしまっているらしい。一応これでも教師と生徒なんだけど?

 

そのことを一度指摘してみたものの、

 

「なんかさ、常連さんとかだとつい親しげになっちゃうんだよね」

「俺客じゃないんだけど?」

「でももう何回も来てくれてるでしょ?だからかな。なんだか常連みたいな感じがするんだ」

 

なんて屈託のない笑顔で返されてしまった。まぁ、別段そういったことにこだわりがあるわけでもないから、その時は「そうか」と返しただけだったし、それを了承として受け取ったのか、結局そのまま松浦は俺に対して普通の話し方を続けている。

 

「この前父親のけがもよくなってきたって言っていたが」

「うん。後はちゃんとした診断を受けてオッケーがもらえたらいいみたい」

「ってことはもうすぐ復学できるってことか?」

「とりあえずはそういうことになるかな。ちゃんと3年生になれるんだよね?」

「まぁ聞く限りじゃ休学期間もすごく長いわけでもないみたいだしな。もうすぐ復学するんだったら大丈夫だろ」

「そっか。ならよかったかな」

 

ダイビング用具の手入れをしながら話す松浦。俺?その隣で一緒に手入れしてますけど何か?

 

『あ、先生。すみません、ちょっとだけ待っててもらってもいいですか?この作業だけ先に終わらせないといけないので』

『……手伝うか?』

『えっ、いや悪いですよ』

『一応仕事としてきているわけだしな。ただ待ってるのもなんだしな。それに、手伝った方が早く終わるだろ?』

『そう、ですか。じゃあ、お願いしちゃってもいいですか?』

 

最初の訪問の時に松浦が作業する中ただ待っているのもあれだからと、なぜか自分から手伝いを申し出てしまってから、こうして並んで作業することももはやルーティンの一環となってしまっている。

 

「何か学校で変化はあった?」

「あ~、スクールアイドル部が承認された」

「あぁ、千歌たちの」

「で、その部活の顧問になった」

「ふ~ん……えっ」

「いや、何その反応?」

 

ちらりと隣を盗み見ると、心底驚いたという表情をしている。おい、作業の手が止まってるぞ。

 

「何?そんなに驚くか?」

「何だろう……先生は絶対顧問とかやらないと思ってた」

「そりゃ俺もだよ。気づいたらなってた」

「気づいたら?」

「高海が部活申請の時に俺の名前を書いてたことを承認後に知ったんだよ……」

「あ~」

 

なんとなくその様子が想像できたのか、松浦が苦笑している。そういえば松浦も渡辺と同じで高海の幼馴染らしいから、高海のこともよく知っているのだろう。

 

「でも先生、ずっと手伝いしてきたんでしょ?だったら顧問になるのも、今までとそんなに変わらないんじゃない?」

「甘いぞ、松浦。顧問ということは手伝いの頃と違って、あいつらに対する責任が生じる。しかも部活動の監督とか、遠征の引率とかいろいろとついてくるわけだろ?これまで以上に大変そうで今から気が滅入る」

「そんなに嫌そうにしなくてもいいんじゃない?自分から手伝うって言った責任は最初からあるわけだし。それに、なんだかんだ先生も楽しんでるんじゃないの?」

「まぁ……否定はしない」

 

実際一番回りがにぎやかだったころを思い出しながら、新しくスクールアイドルとして進み続ける彼女たちを見守るのは、決して悪い経験ではないと思っている。穂乃果たちに憧れた彼女たち、それはまさしくあの時穂乃果の残した言葉の通りなのではないか。そう思い、その輝きを見たいと思った。

 

にしても、始まりが元気娘だったり最初の仲間が幼馴染だったり、変なところにも共通点がある。あ、そういえば、

 

「お前は誘われなかったのか、スクールアイドル部?」

「えっ、私?」

「いやほら、お前も高海と渡辺の幼馴染なんだから、あいつなら誘いそうだと思ってたんだけど」

「う~ん誘われたには誘われたんだけど私は休学中だったし、もう三年生にもなって部活に入るのも変な感じするし。それにほら、かわいい衣装を着て歌って踊るって、ガラじゃないしね」

「……そうでもないだろ。μ’sにも似たタイプいたし」

 

系統としては絵里や海未に近いか?あの二人も可愛いというよりは美人って感じだったけど、かわいい衣装はそれはそれで似合っていたし。そう考えるのなら松浦もかなりいい所行けるんじゃないだろうか。少なくともダイビングで培った体力は相当なものだろうし。

 

ただ、話しながらもふと違和感を覚える。ほんのわずかではあるが一瞬細められたひとみ、何か言いたげに揺れた唇、そしてそれを隠すように見せられた笑顔。

 

「あはは、ありがと。でも、私はスクールアイドルはやらないよ」

「そうか」

 

自分の感じた違和感について聞くこともできたかもしれないが、そうする気にはなれなかった。なんとなくだが、松浦にとってこの話題は触れてほしくない、触れたくないものだということは感じ取れた。昔話した時の絵里のようにスクールアイドルに対して否定的になっているわけではない。ただやらない。やりたくないというわけでもなく、やらない。

 

そこにどんな思いが込められているのかは、今の俺にはまだわかるはずもなかった。

 

 

 

黒澤ダイヤ、松浦果南、そして小原鞠莉。

 

彼女たち3年生について知ることとなるのは、まだ先の話。




紹介コーナーはお休みです。

いやぁ、彼女にフォーカス当てられて良かった良かった。
いや、早く9人揃うところまで行きたい……


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一年コンビと連絡先

もう7月も終わりですね〜。

うちの職場、地味に夏季休暇期間的なのあるので、夏休み気分を味わえるのはいいことですね〜。

ライダーの夏映画も見たし、サンシャインのbdも買えたし、ホクホクですなぁ……

ではでは今回のお話をどうぞ。


さて、過去回想もこのくらいにして、今目の前で部活動を始めようとしている5人の方へ改めて意識を戻そう。

 

円を作り、手を重ね合わせる5人。

 

「Aqours、」

「「「「「サンシャイン!」」」」」

 

号令とともに国木田と黒澤にとっての部活体験初日が始まった。

 

小原から渡された業務用パソコンで作業しながらも、時折顔を上げて高海たちの練習の様子をうかがう。

 

渡辺がカウントするのに合わせ、高海と黒澤が踊っている。この前のライブでも踊っていた曲の振り付けだが、高海はもちろんとして黒澤も間違えることなくついていっている。

 

最初の頃の印象からすると少し以外ではあるが、どうやら黒澤は人並み以上に運動をこなせるタイプらしい。ほぼ一曲分通しで踊っていたにもかかわらず、ここのところ体力強化を図っている高海と比べても、疲労度にはそんなに差がないように見える。

 

「ふぅ……やりました、高海先輩!って、あれ?」

 

喜びながら高海の方を見る黒澤だったが、当の高海はというとなぜか本来と全く違うポーズをとっている。

 

「あれ?」

「千歌ちゃん……この前復習したばっかりでしょ」

「い、いやほら、偶々だよ。猿も筆の誤り、みたいな」

「それは弘法大師空海の話ズ……じゃなくて、です」

「あれ?」

「高海、お前だけ課題増やしとくな。その間違いはさすがに看過できないわ」

「先生まで!?」

 

ガーンとした表情でうなだれる高海。まぁ課題を増やす云々は冗談ではあるが、現国教師という立場上、今のミスはさすがに心配になってくるぞ。

さて昔からずっと本ばかり読んでいたという、こてこての文学少女――三つ編みにしたらほんとにそれっぽくなりそうだが――であるところの国木田はというと、踊りの時はさすがに黒澤程上手くはできなかったものの、逆に歌唱力に関しては驚かされた。

 

決して自分の耳が肥えているとうぬぼれるわけではないが、これでも人の歌を聴くことに関しては他人よりも一日の長があると言えるだろう。あの頃はほぼ毎日のように聞いていたし、なんなら大学に行った後もそういった機会は度々あった。

 

そんな経験をしてきた俺ではあったが、それでも国木田の歌唱力に関しては目を見張るものがある。聖歌隊に所属していたらしく、歌うことに関しては経験があるとのことらしいが、それにしてもである。

 

この一年二人は磨けば間違いなく光るものを持っている。それを見越していたのかは知らないが、高海の目の付け所は案外いいのかもしれない。

 

笑いあう様子は自然に思えた。高海と渡辺、桜内だけではない。そこに国木田と黒澤がいて、一緒に踊って、一緒に歌って、それが正しい形のように思えた。

 

ただやはり、昔の思い出とつい重ねてしまっているからだろう。5人が並んでいる光景は確かに自然で、正しい形だと思う一方、まだ完成するには足りていない、そんな気がしてならない。

 

 

 

所変わって部室。

 

黒澤と国木田の本日の部活動体験も無事に終了したところで、着替え終えた5人が帰宅の準備を進めている中、何故か部室の方に来ていて欲しいと言われたため、屋上のカギを戻してから、再び俺はここへと来たのだった。

 

「で、何で俺呼ばれたの?顧問がいないといけないはあくまで屋上の使用時間内だけなんだけど?」

「それはですね~、こうして部活を始めたわけですけど私たち、大事なことを忘れてませんか?」

「大事なこと?」

 

何だ?部活の申請もして承認も受けたし、必要な練習場所の確保もできた。承認された時点で部活としては成立しているから部員集めも必須ではないし、国木田と黒澤はまだ仮入部状態だから、雪ノ下に指摘された時の由比ヶ浜のように今から入部届を書くわけでもない。

 

はて、何かまだ足りていないことがあっただろうかと内心首をかしげていると、自身のカバンをごそごそしていた高海が満面の笑みで何かを取り出した。

 

「先生の連絡先、教えてください!」

 

突き出されていたのは、高海のスマホだった。

 

「連絡先?」

「ほら、部活動ときたら朝練とかもありますし、PVの撮影やリハーサルもあるじゃないですか。その時にいつも学校にいるとは限りませんし、いざという時に連絡が取れた方がいいじゃないですか」

「そうだね。それに何か相談しなきゃいけないことがあった時も、電話で連絡が取れた方が直ぐに対応できますし」

「……まぁそれもそうか」

 

別段交換すること自体に抵抗はない。よく考えたら奉仕部にいた時には顧問の平塚先生ともしていたわけだしな。とりあえずいつものようにスマホを取り出し高海に渡そうとしてふと思いとどまる。

 

別段やましいことがあるわけではないが、現在俺のスマホには彼女たちの連絡先が入っている。小原は既に全部知っていたらしいが、高海たちは俺と奉仕部、そしてμ’sとの関係については全く知らないのだ。

 

別段秘密にしておかなければならないことではない……ないが、何故だかそのことについて話す気が起きない。勿論、いずれは話すことになるんじゃないかという気はしているが、それは今じゃないと思った。

 

いや。結局のところはただの言い訳でしかないのかもしれない。

 

俺はまだ、高海たちを自分の壁の内側に受け入れる用意が、できていないだけなのだろう。

 

 

そんなことを思考しながらも、一先ず携帯のアプリ――流石にもうメールよりはこちらの方が便利になっている。連絡を取る相手も増えたしな――を開いてQRコードを先に表示させる。

 

「ほれ。これでいいだろ」

「ありがとうございます!」

「あ、じゃあ私も」

 

高海、渡辺、桜内と交換してから国木田と黒澤の方を見る。あくまで体験期間であるわけだから、そもそも交換の必要があるかどうかもわからないが、念のために確認だけはしておこうと思っていた、だけなのだが……

 

「国木田?」

 

何故だかわからないが、国木田が瞳をキラキラさせながら俺の手の中にあるスマホを見つめていた。えっなに?どしたの、この子?俺のスマホに何か興味を持たれるようなものあった?

 

と少しいぶかしげな視線を向けてしまっていたにもかかわらず、国木田はそんなこと気にするそぶりもなく、スマホに目が釘付けのまま近づいてきて、

 

「こ、これが噂に聞く、スマートフォン!」

「「「「え?」」」」

「み、み……」

「「「「み?」」」」

「未来ズラ~!」

 

 

 

「落ち着いたか?」

「はい、すみません」

「いや、別に謝られるようなことじゃないからいいんだけど」

 

国木田から返されたスマホを受け取りながら応える。

 

大きな声を上げたのち、国木田は恐る恐る手を差し出しながら、俺の顔を覗き込んだ。触ってもいいですか?という無言の問いに対し、スマホを彼女の手の上に載せることで答えてみたら、それをあちこちの方向から眺め、触り、その度に喜ぶ姿を、しばらくの間俺たちは眺めることになったのだった。

 

「オラ、今度やっと携帯を買ってもらえることになったけど、スマートフォンをちゃんと見るのはこれが初めてズラ」

「初めて?」

「花丸ちゃんの家、古いお寺なんですけど全然電化製品とかなくて」

「へ~。お寺に住んでるんだ?」

「ズラ!あっ、じゃなくて、はい。そうです」

 

満面の笑顔だった国木田が急にハッとしたかと思うと、先ほどの元気はどこへ行ったと思うほど声の尻の方が聞き取りにくくなるような話し方になった。

 

「?花丸ちゃん?」

「どうかしたの?」

「あ、いえ。なんでもないです」

 

なんでもない。そうは言ったものの、彼女の表情に先ほどはなかった陰りが見えたのは、恐らく気のせいではなかっただろう。そして――

 

『凛には、似合わないよ……』

 

性格的には全然違いそうな、とある少女の横顔と重なって見えたことも。




つい先日、Siriusの新作が上がりましたよ〜!
昨年は8人だったDaydream Warriorが、9人揃った完全版となりました!

詳しくはYoutubeか、ニコ動で「Sirius ラブライブ」と検索してくださいな!

では、本日私みんなのアイドル、みーたんとデート予定なので(笑)


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階段への挑戦

お久しぶりです~。

最近あちこちのコスプレイベントに通りすがっては写真を撮るのが趣味になってます、トマト嫌い8マンです。

なんだかんだ言って、カメラ好きなんですよね~。
フィルムカメラは特に一眼とかにはない味がありますし……まぁどっちも使うんですけど。

そんな話はさておき、続きです。


明くる朝、折角の週末。

 

既に俺は高海と連絡先の交換をしたことを後悔し始めていた。

 

仕事のおかげで体が既に早起きする習慣に慣れつつある中、本日お休みにつきいつもよりもゆっくりしようと思っていたはずの朝。そんな思惑は昨晩かかってきた一本の電話で阻止されることとなったのだ。

 

 

 

「もしもし?」

『比企谷先生、こんばんは!』

「っと、高海か。なんだこんな時間に?」

『はい!帰ってからみんなと相談したことなんですけど、実は明日、スクールアイドル部初の朝練をします!』

「ほ~ん。というかそれだけならいちいち報告しなくてもいいんだけど?」

『?報告だけじゃないですよ。先生も一緒にやりましょう!』

「は?」

『集合場所は淡島に行くための船着き場、7時半集合です!それじゃあ、また明日お願いします!』

「あ、おいちょ『プツッ』……マジか」

 

断る暇も応える暇もなく、かかってきた時と同じくらい唐突に、高海からの電話が切れたのだった。朝練ねぇ~。どうやら体験入部にお目当てだったあの二人が来てくれたことが相当嬉しいらしい。その気分を落とさせたくはないし、何より顧問になってしまったわけだしな。

 

やれやれと小さくため息をつきながら、愛用の目覚まし時計をこれまでよりも少し早めの時間にセットし、翌日に備えて眠ることにしたのだった。

 

 

 

で、現在。

 

思っていたよりもずっと重い瞼を何とかあげながら自転車をこぎ、集合場所へとついた俺は、既に集まっていた高海たちに出迎えられ、そのまま船に乗り込み、淡島に上陸したわけだったが……

 

「え?これ上るの?」

「はい!μ’sも階段を上って体力づくりしてたので!一気に上を目指します!」

 

何故かドヤ顔しながら胸を張る高海。いや、どこにもお前が誇らしげにする要素はないと思うんだけど。

 

改めて階段を見てみる。山の中の神社というのは大抵ぼろぼろの階段や階段もどきがあるだけだが、ここの階段はそれなりに手入れされているらしい。ちゃんとした階段になっているから怪我はしないかもしれないが……

 

ちらりと説明文らしき立て看板を見る。徒歩で往復50分程度とか書いてあるんですけど、これはあれですね。はっきり言うと、あいつらと同じ感覚でやろうとしたら間違いなく痛い目を見る。

 

「なぁ、高海?流石にいきなりこれは「じゃあ先生、上で待っててください!」え?」

 

こともなさげにとんでもないことを言われた気がするんだけど、気のせいかな?

 

「すまん高海、どういうこと?」

「ゴールで私たちが到着するのを待っててほしいんです」

 

うん、これあれですね。完全に俺も上る流れが彼女の中で出来上がっちゃってるパターンですね。なんでこうスクールアイドルのリーダーを務める子はサポート側にも運動能力を求めてくるのだろうか、何なの?それも必須スキルなの?というか、

 

「ここかなり距離あるだろ?しかも看板読んだか?『無理せず休憩しながら上ってください』って書いてあるんだけど?」

「大丈夫です!」

「うん、何が?」

「スクールアイドルとしてライブをするなら、これを上りきるだけの体力は必要ですから!」

 

うんうんと頷いている渡辺はともかく、他三名は「えぇ~」って顔をしているんですけどそれは大丈夫なんですかね?

 

まぁ高海の言わんとしていることはわからんでもない。この前のライブを行ったからわかることなのかもしれないが、スクールアイドルはかなり体力が必要になる。前回のものは初ということでパフォーマンス自体はほんの30分程度ではあったが、それでも体力に自信があった渡辺以外の二人は相当疲れ果てていた。というか渡辺でさえ翌日に十千万で行った振り返りでは、

 

『さ、さすがに疲れてるであります……』

『ライブって思ったより体力使うよね……練習の時とは全然違う』

 

と言いながら他の二人と仲良く伸びていたくらいだしな。だからこそ体力強化を図ろうというその志はわからないでもないし、なんなら部活動としての意気込みを見せるには間違った手段ではないとは思う。思うのだが、一言言わせて欲しい。

 

「それ俺が上る必要なくね?」

 

――――――――――――――――――

 

「……何故だ?」

 

思わず独り言ちる。というかそんなつぶやきを漏らさないとやっていられないまである。

 

現在上り始めて15分程、ようやく中間地点といったところだろうか。あっ、看板見えた。どうやら現時点で2/3上りきったらしい。

 

これ、はっきり言って神田明神の階段よりきついです、ほんとにやばい。まぁ背中にしょっている全員分の水筒が重いってのもあるかもしれないが。

 

あいつらのトレーニングに付き合わされてたこととか、海未にしごかれてきたこともあって、基礎体力はそこそこついていたつもりだった。けれども、それでも常時同じペースで上まで走りきることはできず、少し歩く形になっていることを考えると、いきなりこれに挑戦しようと考えている高海たちは割と無謀なんじゃないだろうか。

 

俺が上に行くまでの間に、高海たちはストレッチと軽い準備運動をしておくとのことらしい。「てっぺんに着いたら連絡してください」、とか言っていたが、あいつらけがしないといいんだけど。

 

 

 

「っと、ゴールか」

 

しばらく歩き続けたのち、一番角度がきつくなったところでふと視線を上げると、坂の入り口にあったものとは違う鳥居が目に入る。あそこをくぐればもうこれ以上階段を上る必要はないらしい。思わず安堵の息を吐きながら、一歩一歩踏み占めるように上る。確かにきつかったが、その分達成感も感じられ、案外悪くないかもしれないと思いながら鳥居をくぐる。

 

ふぅ、と一息ついてから携帯を取り出し、高海たちに到着した旨をメッセージで送る。「すぐ行きます!」という返信を確認し、アプリのストップウォッチを起動させ、一休みでもしようかと振り向くと――

 

――見慣れたポニーテールの後ろ姿が、賽銭箱の前に立っているのが見えた。

 

それなりに距離がある上に、特に物音を立てるようなことをしたわけでもなかったが、何かに気づいた様子でその人物が振り返る。

 

「あれ、比企谷先生じゃん」

「松浦か」

 

 

 

side Mandarin

 

「はっ、はっ、はっ」

「ち、千歌ちゃん、これっ、きついわね」

「梨子ちゃんっ、あんまりっ、しゃべらない方がっ、いいと思う」

「はぁっ、はぁっ、スクールアイドルって、やっぱり、大変なんですね。花丸ちゃん大丈夫?」

「も、もう無理ズラぁ」

「はっ、はっ、っはぁ~。きゅ、休憩~」

 

ペタリと思わず階段の折り返し地点にある小さな踊り場に座り込んでしまった。周りを見ると梨子ちゃん、ルビィちゃん、花丸ちゃんも座り込んでしまっている。あの曜ちゃんでさえ両手を膝に当て、かがみこむようにしながら肩で息をしている。

 

走り始めてからまだそんなに進めていないのに、こんなに疲れるなんて。

 

「それにしても、比企谷先生もよくここ上りきったね」

「そうね。通勤も確か自転車なのよね?」

「あの坂道を自転車で上ってるず、じゃなくて、上ってるんですか?」

 

あれ?もしかして先生って結構運動できるのかな?あんまりアウトドアな印象はなかったけど、そういえばこの前一緒に潜った時も初めてだったのに終わった後も梨子ちゃんは疲れてたのに意外と平気そうだったし。

 

「こんなの、毎日上ってたら、っはぁ~。体がもたないわ」

「でも、μ’sも階段上って鍛えてたんですよね。こんなに、大変だった、なんて」

「す、スクールアイドルって、やっぱり大変だぁ~」

 

いけないいけない!このままじゃここでずっと座り込んだままになっちゃう。先生にも待っていてもらってるんだから、せめてちゃんと上りきらないと。

 

「そろそろ行こっか。全部全力で走るのは厳しいから、ちょっとペース落そう」

「了解であります」

「ふぅ。二人とも、大丈夫?」

「は、はい」

「が、頑張ります!」

 

みんなちゃんと立ち上がったのを確認してから改めて階段を上り始める。さっきよりも大分ペースは落ちているけど、一歩一歩しっかりと踏みしめながら歩くこの長い道のりは、なんだかスクールアイドルとしての道のりそのものを表しているような、そんな変な感じがした。

 

だから、思ったんだ。

 

絶対、いつか上りきってみせる!って。

 




あ、そうだ。

この話に全く関係ないですけどカメラ用のアカウント作ったんですよね、良ければそっちもフォローしてください(笑)
 @bbfdecade2009

あと、初めて車で沼津行ってきたんですけど、意外と疲れますねあれ。
日帰りだとほんときつい。せめて一泊したい(笑)
今度また行くかもしれないので、練習のつもりでしたけど行っておいてよかったです。

ではまた次回お会いしませう~


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魚を獲るのではなく……

長らく間空きまして失礼いたしました。

続きは一応書いてます書いてます。

いやまぁちょっといろいろとありましてね……


side teacher

 

最初は驚いた表情をしていた松浦だったが、ふっと微笑み手招きをする。あの、一応俺目上の人だからね、とは思っても松浦の俺に対する行動にいちいち突っ込むのも面倒なので口にはしない。とりあえずスマホをポケットにしまってから松浦の方へと近づいた。

 

「おはよう、比企谷先生」

「おう。こんなところで何してるんだ?」

「私は日課のランニング。ダイビングショップをやるには泳力と体力が必要だからね。ここの階段、昔からのトレーニングコースなんだ」

「え、マジで?」

「うん、マジだよ」

 

いやいやいやいや、嘘だろ。あれ毎日上ってるのか?しかも昔からのトレーニングコース?何なのドMなの?

 

「なぁ、松浦?一つ確認してもいいか?」

「?いいけど?」

「まさかとは思うが、あの階段、全部駆け上がって来たわけじゃないよな?」

「?ランニングなんだから走るのは当たり前でしょ?」

 

はい頂きました体力バカ発言~!マジで行ってるのかこいつ?あの階段全部駆け上がって来たのか?化け物かよ?

 

「どうしたの?」

「いや。ちょっとお前の凄さを認識させられていただけだ、気にするな」

「?ところで、比企谷先生はどうしてここに?」

「ん、あぁ。まぁ部活動の一環だ」

「部活って、スクールアイドル部?」

「まぁな。高海のやつがスクールアイドルには体力が必要!って言いだして、あいつらでここの階段駆け上がりにチャレンジしてる。で、俺は何故かゴールで待つ係」

「そっか。でも、いきなりここの階段に挑戦だなんて、千歌らしいね」

「まぁ、たぶん途中で休むなりしてくるだろうけどな。今は体験入部生もいることだし」

「そうなんだ?じゃあまた新しいメンバーが入るかもしれないんだ」

「まだ未定だけどな。なんか二人ともいろいろ抱えてるっぽいしな。そうすんなりと入ります、とはならなさそうだ」

「おおっ、なんかそうやって考え込んでるところ、先生っぽいね」

「いや俺先生なんだけど?」

 

会話している時、松浦はずっと笑顔だった。ただ、最初にあいさつした時に見た笑顔と、今高海について――正確にはスクールアイドルについて――話をしている時の笑顔は、やはりどこか違うもののように感じた。

 

「ふぇぇぇ、あっ!ゴールが見えてきた!」

「ラストスパート、全速前進であります!」

 

と、何やら賑やかな声が聞こえてくる。いよいよ高海たちの到着らしい。確認のために鳥居の方へ向かうと、何も言わずに松浦もついてくる。丁度階段を見下ろせる位置に着き、下を見ると、

 

「はぁ、はぁ……あれ?果南ちゃん?」

「松浦先輩が、どうしてここに?」

「ふぅ~。ルビィちゃんと花丸ちゃん、大丈夫?」

「は、はい~」

「な、なんと、か」

 

やはりというかなんというか、どうやら途中から駆け上がることは断念したらしい。呼吸こそ少し乱れているが、高海、渡辺、そして黒澤の表情からは若干の余裕が見て取れる。桜内は比較的疲れているようだが、ライブまでの間に鍛えられたのか、まだ少し余裕がある。

 

さて最後の一人の国木田だが、聞くところによるとこれまで運動らしい運動をしてきたことがなく、完全な文学少女だったとか。まぁうん、言いたいことが何かはわかると思うが、とにかくしんどそうである。それでも途中でギブアップするわけでもなく、ちゃんと最後まで上ろうと努力しているあたり、なかなか骨があるように思える。

 

「着いた!」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様」

 

社殿の近くまで移動したのち、松浦と一緒に5人にそれぞれの水筒とタオルを渡していく。勢いよく飲む高海や渡辺、先に汗を拭く桜内と黒澤、疲れ果てているのかレスポンスがない国木田。というか最後本当に大丈夫か?

 

「国木田?大丈夫か?」

「あ、はい。マルは、大丈夫です」

「熱中症とかになってないか?念のため……あ、いや松浦、頼めるか?」

「?ああ、診てあげればいいの?でも、先生がやってもいいんじゃないの?」

「まぁ他にいないならそうなんだが、同性の方がいいだろ」

「まっ、そうかもね。え~と、花丸ちゃん、だよね?ちょっと顔見せてね~」

 

顔色や体温、発汗状態や意識の鮮明さ等、色々確認しておいた方がいいと思い、一先ず松浦に任せる。いや、別にそういうことの経験がないわけではない。にゃーにゃ―言う元気娘あたりは割と動くことに夢中になりすぎる傾向があったし、場合によっては俺が対応しなければいけないこともしばしば。

 

ただまぁ、あの時はそれなりに互いのことを認識()って、意識()って、()ってからだったわけで、今の俺とAqoursとではそこまでの関係性は出来上がっていないのだ。特に国木田はこれまでだと授業の時くらいにしか顔を合わせていないのに、そんな相手(付け加えるなら成人済みの異性で目が腐っている)にまじまじと顔を見られるのも気分が良くないだろう。

 

松浦が国木田のことを見ている間、少し離れておくとタオルを首から下げた高海が近づいてくる。

 

「先生って果南ちゃんと仲いいんですか?」

「どうした急に?」

「ほら果南ちゃん、先生に敬語使ってなかったじゃないですか。私たちが上ってくる間も一緒にお話ししてたみたいですし。それにさっきのやり取りも、仲いい感じがしました」

「仲いいってわけでもない。ただ、仕事であいつの店に行くことが何回かあって、あいつの中で俺が常連さん扱いになっているってだけだ」

「そうなんですね。あっ、じゃあ比企谷先生から果南ちゃんを勧誘してくれませんか?スクールアイドル部!」

「いや、一回断られたんじゃなかったのか?」

「そうですけど!比企谷先生なら説得できるんじゃないかなぁ、って」

「根拠は?」

「ないです!」

「いや、そんな自信満々に答えるなよ……」

 

高海から視線を外しながら松浦の方をなんとなく見る。国木田の方は何ともなかったらしく、今は渡辺と話をしている。

 

なんとなく、そうなんとなくではある。

 

なんとなくではあるが、松浦にとってスクールアイドルというものが、単純に幼馴染がやっているものだとか、知識として知っているものだとか、そんな簡単なものではないのではないか、そう感じている。

 

スクールアイドルの話題になった時に、僅かに見えた感情の揺れ。社会的に見ればまだまだ子供である彼女が、世の大人がするように笑顔の裏に隠そうとした何か、本音ともいえる気持ち。どことなくその様子が、黒澤姉のそれに通じるものがあるような、そんな気がしたから。

 

ただ、

 

「まぁ、俺にできるのは魚を釣るのではなく、釣り方を教えることだけだから、そういう直接的なのはダメだな」

「へ?何で急に釣りの話?」

「俺の尊敬する友人が言ってたんだよ。あの頃も今も、俺の中にその言葉が残ってるってだけだ。俺の教師観にも影響を与えているしな」

「先生のが尊敬する友達ですか?どんな人か会ってみたいです!釣りが好きなんですか?」

「高海……作詞担当するつもりなら、まずは国語力あげような。今度みっちりしごいてやるわ」

「えっ」

 

高海と会話しながら彼女のことを思う。

 

あの部室でいつも本を読んでいた彼女のことを。

 

あのライブ会場で微笑んだ彼女のことを。

 

今もあの姉とともに頑張っているであろう、友達のことを。

 

いつか潮風香るこの自然豊かな場所へ、彼女を、彼女たちを、呼ぶ日が来るのか考えながら。

 

――――――――――――――――――――――

 

side ???

 

果南ならこの時間にここにいると思って来てみたら、school idol部のメンバーと一緒にいるなんてね。みんなのことを見つめる果南はとてもやさしい表情をしているけど、私にはやっぱりどこか寂しげにも見えた。

 

だから確信できる。果南はまだ、school idolのことを本当は好きなんだって。そしてそれはダイヤもそう。だからきっとまた一緒にやれるはず。あの時の失敗だって、一緒なら乗り越えられる。今は千歌っちたちもいるもの。

 

それに……

 

千歌っちと話しているこの場の唯一の男性に視線を向ける。

 

比企谷八幡先生。

 

あの人から教えてもらった、伝説ともいえるschool idolを陰で支えた立役者。

 

『比企谷君はね~人をよく見てるよ。よく見て、見すぎてるって感じかな?人が表面に晒している部分だけじゃなくて、その奥底までも見ている感じ。鞠莉ちゃんは凄いと言ってくれるけど、彼の言う私が被っている「仮面」は、比企谷君には全然通じなかったもの。初対面で全部見透かされちゃってた。流石に初めてだったなぁ、そんな人は。そういうところが面白いし、彼の凄いところでもあるんだけどね~』

 

彼のことを教えてくれた女性の話を思い出す。きれいな黒髪となんでもお見通しな雰囲気。パパの日本のビジネスパートナーの社長令嬢でもあるその人は、私にとって憧れだった。何回か顔を合わせるうちに親しくなり、アドバイスとして話を聞かせてもらいもした。

 

『私には妹がいるんだけどね~。昔はあんまり仲いいわけじゃなかったし、今も仕事ではなかなか会えないし。こういうことでお姉さんぶる機会がなかったから、なんだか新鮮な感じがする』

 

なんて言いながら。色々話を聞かせてもらっていたから私は知っていた。

 

彼女がどれほど努力しているかも、どれほど大変な思いをしているかも、全部知っていた。

 

でも、そんな様子を彼女は絶対に他人には見せなかった。完璧であることの重圧なんてみじんも感じていないようなその強い姿勢に、その姿勢を裏打ちするための努力を誰にも気づかせないその「仮面」に、私は憧れた。

 

その「仮面」を初見で見破った人がいたなんて。

 

『あぁそうそう。鞠莉ちゃん確かスクールアイドルやってたんだよね?来年からまたその学校に戻るらしいけど、続けるの?』

『ええ、そのつもりよ』

『ふ~ん。じゃあついでにいいこと教えてあげちゃおっかな』

『いいこと?』

『比企谷君、来年から教師になる予定なんだけど……彼の力を借りたらいいと思うよ』

『力を?』

『彼、高校時代にラブライブを優勝したμ’sのマネージャーやってたの。それになんだかんだいって結構お人よしだからね~。廃校の危機から学校を救いたい!なんて聞いたら、きっと力になってくれると思うんだけどなぁ~』

 

そう言いながら彼女はこっそりと写真を見せてくれた。

 

そこに写っていたのはラブライブの優勝旗を持っているμ’sのメンバーと何人か別の生徒。雑誌等にも一切掲載されているのを見たことがない。完全にプライベートで記念撮影をした時のものらしい。

 

『彼が、比企谷君』

 

写真の指さされた箇所には、μ'sのリーダー、高坂穂乃果に飛びつかれながら、驚いた表情になっている特徴的な目をした男子だった。

 




ん、まぁまぁこんな感じで物語は進んでいきますよ~。

いつかちゃんと過去回想篇もやるつもりではいますが、まぁそれもどの段階で入れるべきやら……

まぁそれ以前の問題ですね、はい。


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その獲り方を見つけるのは……

今週仕事が少ないので、折角だから載せますね。

いやぁ、しかしスクスタももうすぐですし楽しみですね~。


まぁどんなふうになるのかは楽しみですが、ちゃんとしっかりと自分がやれるかどうかという疑問点も(笑)

まぁ、それはさておき続きをどうぞ~


時間が流れるのは早いもので、既に黒澤と国木田が体験入部に来てから早くも1週間が過ぎようとしている。

 

屋上での朝練から始まり、夕方は神社の階段に挑戦するというルーティンが出来上がる中、この短期間の間でも、高海たちの成長には驚かされる。高海、渡辺、桜内の三人はもうあと少しいければ問題なく駆け足であの階段を上りきることができるかもしれない。黒澤も三人ほど速いペースというわけではないが、着実に慣れてきている。

 

で、国木田だが……彼女については考えるべきことがあるのかもしれない――

 

 

 

 

 

 

学校の委員会の仕事は時折昼休みに駆り出されることもあるため、どこかに所属しているものは――最もこの学校では所属してない人の方が珍しいが――お昼休みを短めに切り上げなければならなくなる。

 

当然、それは図書委員にも同じことがいえるわけで、それはつまり本学図書委員の一人でもある国木田は本日当番のため、昼休みを図書室に拘束されることとなった。

 

勿論本人はそれを何ら苦とは思わないだろう。そもそもスクールアイドルの体験に来る前は、いつでも昼休みは図書室で過ごしていたとのことらしいのだから、本人としてはいつも通りの時間を過ごしているのとそう変わらんだろう。

 

ちなみに教員の休み時間は生徒よりも早い時間に設定されているが、次の時限に自分の担当する授業がなかったこと、調べ物をしようと思っていたことから、俺はその日、図書室に足を運んだのだった。

 

「うっす……ん?」

 

普段帰ってくる返事がなかったため首をかしげながら扉を閉める。図書委員のカウンターの方を見てみると、

 

「すぅ……すぅ……」

 

安らかな寝息を立てている天使がいた。

 

あ、いや、間違えた。国木田だ。

 

読書の途中だったのだろうか、机の上に開きっぱなしの本――いや、国木田にしては珍しく雑誌のようだ――に両手は添えられ、椅子の背もたれに体を預けるようにしながら、無防備な寝顔を彼女は見せている。

 

「ん~、まだのっぽぱん食べ終わってないズラ~……すぅ」

 

起きたかと思ったら寝言だったでござる。にしてもなんとも幸せそうな表情で、またなんともベタな感じの寝言を言っているのやら。一応図書委員としての仕事があるわけなので、先生としては起こすべきなのかもしれないが、あたりを見渡してみても特に生徒がいるわけでもない。ここのところハードな練習を知っている身としては、今の休息の時間を邪魔するのも気が引ける。

 

「まぁ、図書室に籠るって言ってきたしな」

 

ざっと図書室を見渡し、探していた本が見つかったので数冊本棚から抜き取り、カウンターへと向かう。カウンターの内側に回り、国木田から少し離れたところで静かに椅子を引き、腰を下ろす。

 

ぺらり、ぺらりと本のページをめくる音と、規則的な呼吸音だけが図書室に響いた。

 

どこか不思議と懐かしいような気持ちを覚えながらも、黙々と本を読み、資料を集めることに集中していた。

 

 

 

――昼休み終了を告げるチャイムが鳴るまであと5分といったところ。

 

流石にそろそろ戻る必要があるだろう。ちゃんと書類等の記入、作成は終わっているからサボっていたわけではないことは証明できるだろうけど、あまり席をあけすぎるのもよくない。

 

それに、隣で未だに目覚める気配のない生徒が次の授業に遅刻しないように起こす必要もあるしな。

 

「おい、そろそろ昼休み終わるぞ。お~い?」

 

少し遠慮がちになってしまったがトントンと肩を叩いてみる、が起きる気配がない。

 

もう少し強めに叩いてみる。しかし起きる気配がない。

 

流石にまずいので肩を揺らす。

 

「国木田~?起きろ~」

「んぅ……ズラ?」

 

ゆっくりと国木田の瞼が開き、ぱちぱちと瞬きする。まだ完全には意識が覚醒していないようで、少しぼーっとしている。

 

「……なんで先生が、オラの家に?」

「いや、ここ学校の図書室な」

「?……はっ」

 

何回か瞬きを繰り返していた国木田の意識がようやく覚醒したのか、一瞬驚きの表情を浮かべたかと思うと、椅子を後ろに倒しそうな勢いで立ち上がる。

 

「ごごごごごめんなさい、オラ図書委員の仕事中だったのに」

「いや、まぁ、結局誰も来てなかったから。」

「そ、そうですか」

「それより、早く行った方がいいぞ。もうすぐ授業が始まる時間だ」

「ズラッ!?もうこんな時間!?」

 

慌てて自分の持ち物を集め、図書委員用の道具をしまう国木田。まぁ別に一緒に行くわけでもないので、とりあえず俺も自分の持ち物を手に取り立ち上がる。

 

「んじゃ、俺は先行くわ。まぁその、なんだ。あんまし無茶はするなよ」

「え?」

「体験入部したからって、人間得手不得手はあるものだしな。無理にあいつらと同じにしようとしなくてもいいと思うぞ。国木田は国木田だし、国木田らしくやるしかないだろ」

 

最後にそんなことを言って、俺は図書室の扉を閉めた。

 

少しおせっかいだっただろうか?だがどうにも年下を相手にしていると、なんとなく何かしてやろうという気がしてしまうのだ。これも妹がいるからか、はたまた……そういや、あいつももう高校生だったな。そりゃ道理で重なるわけだ。

 

未だに俺のことを下の名前で呼び捨てにしてくる、どこか大人びた少女を思い出す。最初に会ったころから6年、今の彼女は驚くほど当時の雪ノ下に似ている。違いがあるとすれば、より優しげであったり言葉遣いがそこまで硬くなかったりとあるけどな。

 

そんな彼女の悩みを、問題を、葛藤を何とかしてやるために何度か力を貸すことがあったからか、もはや体に染みついている性分のようになっている。

 

「そういや、留美は何部に入ったんだろうな?」

 

――――――――――――――――――――

 

side flower

 

『国木田は国木田だし、国木田らしくやるしかないだろ』

 

「マルは、マル」

 

思わず呟いていました。

 

先生の言う通り、国木田花丸は国木田花丸でしかないです。

 

運動できないし、明るいほうじゃないし、オラとかズラとか言ってしまう。高海先輩やルビィちゃん、それに他のスクールアイドルみたいにキラキラした世界は、どうしても似合わないんです。

 

練習も一人だけすぐに疲れてしまいますし、心配もかけてばかりで……

 

きっともうルビィちゃんは大丈夫だから、もうマルは……

 

そこまで考えて、寂しく思ってしまったのは、何故でしょう。

 

理由がわからず、マルは教室に戻ったあとも、何故か気が付けばカバンの中にしまっている雑誌が気になって気になって仕方がありませんでした。

 




そういえば最近はSirius紹介コーナーやってないな~なんて思いましたが、今はその時ではないので復活はまたいずれ。

読者の中に、Sirius見たよ~とかよかったよ~とか言ってくれる人がいるとうれしい限りです(笑)

なんならこの小説書き始めたきっかけでもあるので……

ま、そんな素敵な彼女たちのことも、この小説のことも今後ともよろしくです。


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一年生たちは悩み、決める

出張行きたくないマン爆誕中~
今週末には出張だぜ~、しかも海外。

何気に人生初出張なのに単独で海外とか意外とスパルタですね、うち。
……まぁいいけどさ。

まぁそんな話はさておき、折角なので続きをば。


 

「っ、はぁっ、はぁっ」

「花丸ちゃん、大丈夫?」

「っうん、だ、大丈、」

「ぶじゃないな。無茶しすぎだ」

 

よろよろと鳥居をくぐるマルに、高海先輩が心配そうに声をかけてくれます。なんとか笑顔を返そうとしたけど、比企谷先生がお水とタオルを持って来てくれながら、言葉を遮えぎります。

 

ちょっと不機嫌そうにも見える表情だけど、いつも先生はマルたちのことをしっかり見てくれてて、心配してくれているのがわかります。きっとあんな風に疲れた姿を見せちゃったからか、今までにないくらい強い口調で休むように言われます。

 

「こ、これくらいっ!?」

 

ガクンと突然膝から力が抜けます。丁度姿勢を正そうとしていた矢先、体重がやや後ろよりにかかっていたから、体は前ではなく後ろ、今しがた上って来た階段の方へと倒れそうになりました。

 

危ない、と思った時にはもう立て直すのは難しくて……そう思ってたら、腕をつかまれ強く引っ張られました。

 

ポスン、と思っていたよりもずっと軽い衝撃で何かにぶつかります。

 

「言わんこっちゃねぇ……あ」

「ズラ!?」

 

想像よりずっと近いところから比企谷先生の声がしたので、思わず閉じていた眼を開きました。自分よりも頭一つくらい高い位置にある比企谷先生の顔が、見上げてすぐのところにありました。思っていたよりもずっと近い距離にオラは、そして多分先生も、驚いていました。

 

 

「っと、悪い。大丈夫だったか?」

「あ、はい。オラ、じゃなくて、その、ありがとうございます」

 

一瞬目が大きく開かれたかと思ったら、先生はすぐにいつもと同じ表情に戻り、マルの安否を確認してくれました。大丈夫と伝えると、先生はマルを離し、水を渡してくれます。

 

「熱中症になりかけかもしれないから、ちゃんと木陰で水分とっとけよ」

「あ、はい」

 

流石に今のはびっくりしたズラ……2重の意味で。顔が少し熱いのは、先生の言うように熱中症になりかけているからでしょうか。

 

でも、先生にもみんなにも心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけて。

 

やっぱり、オラは……

 

side teacher

 

やべぇ。とっさのこととはいえあれはまずかったな。

 

ただでさえ下手したらセクハラ扱いされるだろうことなのに、先生が生徒に対してそれやったら訴えられたら間違いなくアウトだ。それやって許されるのは少女漫画の世界だけですね、はいわかります。

 

まぁ、今回は国木田本人や高海たちがそういうことに対して大きく騒ぎ立てるタイプではなかったため、事なきを得たのかもしれない。今も高海たちが国木田のそばで体調の心配をしている。

 

ただ先ほどのことはともかくとして、国木田が現時点では体力的に他よりも厳しい状態にあることは間違いない。最初の時よりかは慣れもあるのかマシになったようだが、現時点では遅れが出ている。

 

別にそれ自体は悪いことではない。運動は苦手で、それでも努力し続けて輝いた少女のことを、俺はよく知っているから。

 

ただ、それには辛いであろう練習も、周りから遅れてしまっている認識も、スクールアイドルを続けることの難しさをすべて理解し、その上で続けようと思うための力、原動力となるものがいる。

 

簡潔に言えば、スクールアイドルが好きだという強い気持ちが必要だ。

 

そして俺の予想では、国木田は……

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

side ruby

 

今日の練習で花丸ちゃんが階段から落ちそうになったのを、比企谷先生が助けてくれました。

 

でも、もし助けが間に合ってなかったら、ケガしていたかもしれません……

 

これまでずっと自分には無理、似合わないって言っていた花丸ちゃんが、あの日急に一緒にやってみないかと誘ってくれた時、とても嬉しかったです。

 

でも、本当は花丸ちゃんは自分がやりたいから誘ってくれたわけじゃないんじゃないか。

 

気を使ってくれているだけなんじゃないか、って。

 

ついそんなことを考えてしまって、今日は花丸ちゃんと一緒には帰らないで、一人で部室に残ってちょっとだけ考え事をしてしまっています。

 

 

コンコン――と、扉がノックされる音がします。

 

「中々鍵が返されに来ないと思ったら。いつまで残ってんだ、黒澤?」

 

扉の方を見ると、比企谷先生が立っていました。

 

「もう完全下校時刻になるぞ。帰る準備終わってるならさっさと帰れよ。じゃないと俺も帰れない」

「あ、はい。すみません」

 

慌ててかばんを手に取り、部室から出ました。よく見ると先生ももう帰る支度をしていて、もしかしたらずっと待たせてしまっていたのかもしれません。部室に鍵をかけ終わると、先生が鍵を手の中から抜き取りました。

 

「んじゃ、俺はこれを戻してから帰るわ。黒澤はこのまま帰っとけ。お疲れさん」

 

そう言いながら手をひらひらさせて、先生が歩き出します。本当ならルビィが職員室まで行かないといけないのに、わざわざ部室にまで鍵を取りに来たのでしょうか。

 

「あ、あの!」

「っと、びっくりしたぁ」

「あ、あぅ……すみません」

 

自分でもどうして呼び止めてしまったのかわかりません。でも、思ったよりも大きな声が出てしまい、先生がビクッと肩を揺らしました。本当に驚いた表情で先生が振り返りました。

 

「いや、謝るようなことじゃないだろ。で、どした?」

「あ、はいぃ!あの……その……」

 

うぅ……もともとルビィは人見知りで、女の子相手でも初対面は緊張しちゃうのに……

 

お父さん以外でこんなに男の人と関わったのは初めてで、もう入学式から大分経つのに、まだ自分から話しかけるのも、一対一で話すのも、どこか怖く思ってしまいます。だから、なかなか言葉が出てきません。

 

「実は、その……る、ルビィは、その」

 

早く帰りたいと思ってるのに、引き留めてしまって、でも全然話を切り出せなくて……

 

なんだか申し訳ない気持ちに、思わず目に涙が浮かんでしまいます。気持ちがぐるぐるするまま、ついついそらしてしまっていた視線を比企谷先生に向けました。

 

イライラさせてしまっているでしょうか。あきれさせてしまっているでしょうか。迷惑かけてしまっているでしょうか。先生からの視線にびくびくしていたルビィに向けられていたのは――

 

――思っていたよりもずっと穏やかで、ともすれば優しそうな視線でした。

 

いつもと同じように、少し怖いと思ってしまう瞳でしたが、でも今はその視線からは怖さよりも不思議な安心感がありました。とっても不思議なことなんですけど、なんだかお姉ちゃんと似ている、そんな気がしました。

 

そう思ったらなんだか急に落ち着いてきて、ぐるぐるしていた気持ちも晴れたような気がしました。

 

「あのっ!比企谷先生!」

「ん?どした?」

「その、ご相談!しても、いいですか?」

 




む、難しい……

いやなんか八幡が大人になって、色々と経験しているからって前提で書いてはいるものの、なかなかどうしてひねくれ度合いが足りていないんじゃなかろうか……

実際彼が成長したらどんな感じになるんですかね?
実際先生やらしたらどうなるのやら……

想像するしかないけど想像力が足りないよぉぉおっ!

まぁ、ぼちぼち頑張ります、はい。


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きっとその悩みは……

スランプというか仕事の影響というか、最近どうにも筆が進まないトマト嫌い8マンです。

いやぁしかしスクスタ、楽しいですねぇ。
衣装もいろいろあって(お金はかかるかかる)本当にやりがいありますね。

しかし仕事がなぁ、仕事めんどいんだよなぁ。

まぁ、本日はちょっとしたお出かけ前に続き載せま~す。


黒澤の家は高海たちよりかは学校に近い場所にあるらしいが、いかんせんあまり遅くなるのもよくないということや、日の落ちる時間が遅くなりつつあるもののそこそこ暗くなっていることを踏まえ、黒澤を家に送りながら相談を聞くこととなった。

 

自転車を押して歩く俺と隣を歩く黒澤……あれ、これ捕まったりしないよね?大丈夫だよね?

 

「あの、先生」

「なんだ?」

「その、花丸ちゃんのことなんですけど」

 

やや俯きがちのままではあるが、黒澤が本題に入る。相談内容については、まぁ、その実なんとなく察しはついていた。今日の練習でも、黒澤が国木田のことをずっと見ていたしな。

 

恐らく、というよりもほぼ確信めいたものではあるが、黒澤は国木田に対して負い目を感じているのだろう。それはきっと、

 

「花丸ちゃん、本当はスクールアイドルやりたくないんじゃないかって思ったんです」

「じゃあ、何で体験入部なんか?」

「それは……ルビィが、入れるようにしてくれたんだと思います。花丸ちゃん優しいから。でも、入ってからずっと思っちゃうんです。花丸ちゃんに、無理させちゃってるんじゃないかって。本当はやりたくないのに、ルビィのために……」

 

黒澤がスクールアイドル好きなのは明らかだった。こっちに来てからの短い間でもひしひしと伝わってくる熱意に、にこや花陽に匹敵しうるほどのものを感じ取れるほどだから、その想いの強さは察っせられるだろう。

 

そんな黒澤だが、何かしらの理由があって自分からスクールアイドル部には入ろうとはしなかった。それについても思い当たる節があるが、今回の本題はそこではない。

 

スクールアイドル部に入ろうとしていなかった黒澤が入るきっかけとなったのは、間違いなく国木田だろう。二人で一緒に体験入部に来たことからもそれが推測できる。黒澤から誘って国木田が付き添った可能性もあったかもしれないが、あの様子ではそれはないだろう。

 

国木田は確かに社交性が黒澤よりも高いが、それは自分を持ったうえでのものだ。かつての由比ヶ浜のように、ただ周りに同調し、追従し、流されるものではない。ゆえに、黒澤にお願いされたからといって、それが黒澤のためにならないと判断した場合には、断る強さも持っているだろう。むしろ周りに合わせて、様子をうかがって行動をとってしまうのは、黒澤の方といえる。

 

その理由もシンプルだ。黒澤が優しい女の子だから。

 

予め言っておくと、以前の俺なら優しい女の子は嫌いだと断言していただろう。その優しさはありとあらゆる人に向けられ、その本心を隠し、気を遣い、自分を押し殺す。そういった姿を滑稽に感じていたこともあったし、何よりそんな女の子と関わると自身にとってろくな

 

ことがない――正確には自分が勝手な理想を押し付けて勝手に幻滅してしまうだけだが――ということもあったからだ。

 

ただ、今は違う。

 

あいつらが、そんな風に思わせてくれたから。

 

だから考えた。この場合国木田と黒澤、二人が何を考えどのように行動し、そしてどう思っているであろうかを。いつか恩師に言われた、理屈だけじゃない、人の感情を考え、最善の方法を見つけ出すために。

 

「なぁ、黒澤」

「は、はい!」

「お前は体験入部してみてどうだった?」

「えっ、ルビィが、ですか?」

「まぁ、感想を聞きたいだけだ。深く考えずに思ったまま回答してくれ」

「そ、それは……とっても楽しい、です」

「だよな。はたから見ててもそう思ったわ。んじゃ、国木田の方はどうだ?黒澤から見て、体験入部中の国木田はどんな風に見える?」

「花丸ちゃんは……」

「楽しそう、だったんじゃないか?黒澤と一緒で」

 

由比ヶ浜のように人を良く見ている黒澤にもわかっているだろう。練習の時も、部室で高海たちと話をしている時も、そして体力が限界に近くてふらふらになっている時でさえ、彼女は笑っていた。心の底から楽しそうに。

 

ほんのわずかの間観察していただけの俺でもわかるのだから、黒澤が気づいていないはずがない。ただ問題なのは、

 

「あとは国木田がどうしたいのか、それをちゃんとはっきりさせてやるしかないんじゃないのか?」

「花丸ちゃんが?」

「多分だけど、あいつは自分には似合わないと、スクールアイドルなんてキラキラした場所に、自分はふさわしくないと、そう思ってるんじゃないか?」

「そんなことっ」

「そうだな。けどな、そういうことは周りがいくら言っても、結局は本人がどう思っているかにかかっちまうもんだ。幼い頃からずっとそう思ってきていたとしたらなおさらな」

 

 

『そういうの似合わないし』

『なんでそう思うんだ?』

『ずっとそうだったから。小さい頃に一度着てみたことあったにゃ。でも、』

『似合わない、って言われた……か。それも恐らく男子に』

『……ヒッキー先輩凄いにゃ、どうしてわかったの?』

『まぁ、これでもそういうのを見る目だけはあるからな』

 

一人中庭の木に背中を預け、体育座りをしていた一人の少女を思い出す。妹と同い年の少女の様子に、思わず父性――いやこの場合は兄性か?――本能が仕事をしてしまい、話を聞くことにした。別段表情を見るわけでもなく、人ひとり分は空いているであろう距離。ただ、その少女の話に思ってしまった。

 

ああ、彼女もまた周囲から受けた悪意のない理不尽に悩んでいるのだと。

 

そして今回の国木田もそうだ。つくづくそういうものを、そういう者を見つけることに、気づけることに自分は優れているらしい。やはりスタンド的な何かが……とと、危ない危ない。危うくまたくだらない思考を巡らせ、後から死にたくなるというテンプレをなぞるところだった。

 

まぁ、つまり何が言いたいのかというと、だ。

 

「これは俺の友達の話なんだがな――」

 

それをどうにかしたいと考えている少女に、アドバイスをしてやるのもまた、教師らしいことじゃないだろうか。

 

――――――――――――――――――――

 

side ruby

 

「これは俺の友達の話なんだがな、そいつは自分が可愛くないと思いこんでいた。子供の頃に同級生の男子に言われたことがきっかけで、それ以来ずっと自分には可愛いものは合わない、そんなふうにずっと思っていた」

 

突然友達の話をし始めた先生に、ルビィは少しだけ戸惑いました。こっちを見ていなくて、ただまっすぐ前を見ながら話していましたが、それでも先生が何か大事な話をしようとしている、ような気はしました。

 

「まぁある日そいつはキラキラした世界を知ったんだ。自分には縁がないと思っていたキラキラしたその世界に、でも確実にそいつは心奪われ、惹かれていた。ただ、そいつは自分には似合わないから、ってその気持ちを心の奥底に、無意識のうちにしまい込んでしまったんだ」

 

先生の語る話、それはどこか花丸ちゃんにも重なっているような気がしました。自分に対する自信がない、似合わないという理由で楽しいという気持ちにふたをしてしまう。

 

いえ、もしかしたら本当は気づいていないのかもしれません。でも、本を読んでいるとき以外に、あんなに楽しそうにしている花丸ちゃんを見るのは初めてで、そんな花丸ちゃんを見るのがうれしくて。

 

「正直こういうのは本人が似合う似合わないを考えるのではなく、やりたいと思う、或いはそう思っていることに気づかない限りはどうにもならない。それについては他人が何を言っても受け入れられない」

「そ、それは……」

「ま、それについては国木田次第だしな。っと、着いたか」

「あ、はい」

 

気が付けば、もう家の前まで着いていました。

 

「んじゃ俺も帰るわ」

「あ、はぃ」

「……そうだ。最後にちょっとだけ言っておくわ」

 

自転車にまたがったまま、比企谷先生が振り返ります。

 

「国木田のことは最終的には国木田本人が決めなきゃいけない。けどそれは、お前も同じだ、黒澤」

「えっ」

「体験入部ってのは楽かもしれないな。部員と同じように活動はするが、正式な部員じゃないからいつでも逃げ出せるし、部活に対する責任もほとんどない。でも、いつまでもそのままいられるわけじゃない。もう一週間になるわけだし、国木田もお前もそろそろ決めないといけないわけだ。スクールアイドルを続けるか、辞めるか」

「る、ルビィは……」

「そしてこの選択は誰が何を言ったからとか、他の誰がどうしたからとかそういったことで決めるなよ。あくまで決めるのは自分だからな。自分がどうしたいのか、しっかり考えとけ。じゃ、お疲れさん」

「あ、」

 

そういうだけ言って、ルビィが呼び止める間もなく比企谷先生は自転車を漕ぎだしてしまいました。

 

自分がどうしたいのか。

 

ルビィは人見知りだから、つい人の様子を見てしまいます。仲いい人のことは特に。

 

今もお姉ちゃんと花丸ちゃんのことをずっと見てて……

 

でも、ルビィのことは見ていなかった、かも、しれません。

 

ルビィがしたいこと、それは……



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少女の決めたこと

翌日、放課後。

既に着替えを終えた高海たちとともに、俺は部室にいた。

 

いよいよさすがに体験入部期間も終了といえるであろう日。高海たちとも相談の上、国木田と黒澤には本日中に部に入って活動を続けるか、辞めることにするのかを決められるようにしておいてほしいという旨を伝えた。

 

そう告げた時、黒澤が国木田の方をちらりと見たのに対し、国木田はまっすぐこちらを見ていた。どうやら、国木田の方は決意が固まっているらしい。であるならば、それがどんな決定であったとしても、その意思を尊重するべきなのだろう。

 

……もちろんそれが、嘘偽りのない本心なのであれば。

 

 

屋上に移動しストレッチから簡単な運動、歌唱とダンスへ、滞りなく最後の体験入部の日は過ぎていく。

 

「う~ん」

 

そんな中、隣に腰掛けながら口をとがらせるようにしながら首をかしげている高海。桜内と渡辺の二人は現在踊っている国木田と黒澤の方に意識を向けているためか気づいていないようだ。

 

「どした?」

「えっ?あいや、大したことじゃないんですけど……なんだか花丸ちゃん、いつもと違うっていうか」

「違うって、動きのことか?」

「そういうわけじゃないんですけど……なんだかうまく言えないというか~」

 

う~ん、と再び首をかしげる高海。そういうことをちゃんと言葉にできるようになっていないと、歌詞作りに苦労するかもしれないから練習しておいた方がいいぞ、なんてことをちょっと思いながらも、同時に少し感心する。

 

人を見る目を磨いていたわけではないだろう。しかしそれでも高海はフィーリングでなんとなく察しているのだろう。逆に俺は感覚ではなく、これまでの人間観察の経験からそれを読み取ることができたわけだが、今日の国木田からは普段は見られない感情が表情に表れているのだ。

 

確かに笑顔だ。笑顔であることは間違いない。

 

でもその中に楽しさや疲労感だけではない、寂寥感のようなもの。

 

その表情を見て確信した。どうやら国木田には、もう一押し必要だと。

 

頼めるかどうかはわからないが、一応やってみるとするかね。

 

そう思いながら俺は携帯を取り出し、メッセージを送った。

 

 

side flower

 

朝練、授業、そして放課後の部活。

 

なんだか思っていたよりも、時間があっという間に過ぎて行ってしまったようです。

 

気が付けば今日の締め、何度も挑戦したことがある長い階段の前にマルたちはいました。

 

「あ、先生着いたって」

「それじゃあ、皆行くよ!ヨーソロ!」

 

すっかりお馴染みとなった曜先輩の掛け声とともに、一斉に走り出します。

 

千歌先輩と曜先輩、それに梨子先輩もペースを乱すことなく一段一段駆け上がります。初めて上った時みたいに勢いよく駆け出して、でもその時と違って決してただがむしゃらにやっているのではなく、無理なく走り続けられるペースができていました。

 

そしてそれは、ルビィちゃんも同じことで、他の三人から離れすぎず、しっかりとついていけています。

 

勿論、マルも必死に走ります。ただそれでも、みんなの背中は近づくどころかだんだん遠くなってきて…

 

息が上がって、足がふらふらして、腕も全然振り抜けません。

 

「や、やっぱりマルには……」

 

ついつい足取りが重くなって、もうほとんど歩いているのと変わらなくなってしまいました。

 

もうみんな先に行ってしまい、一人で上っている。そのはずでした。

 

でもマルの決して高く見上げているわけではないはずの視線には、何故か誰かの靴がうつります。

 

止まっているのではなく、その場で足踏みをするようにしているその靴は、やっぱりマルにはとても見覚えのあるもので、視線を少し上げて見えた表情も、思っていた通りの笑顔でした。

 

「一緒に行こう、花丸ちゃん」

 

とてもとてもやさしい心を持っている、マルの大切な友達。

 

でも、その優しさのためにいつも周りのことばかり。

 

「ダメだよ、ルビィちゃん」

「えっ?」

「オラに合わせてちゃ、ダメだよ」

「花丸ちゃん?」

 

息が切れ切れになりながらも、何とか言葉を絞り出します。

 

「先生も、言ってたでしょ。自分で、決めないといけないって。合わせてちゃ、いけないって」

 

「ルビィちゃんは、もっとできるでしょ?やるって、決めたんでしょ?」

 

「だったら、こんなところで待ってちゃ、ダメだよ」

 

そう口に出しながら彼女の顔を見上げます。

 

驚いたようで、戸惑っているようで、不安げにその宝石みたいな瞳は揺れていました。

 

足が震えて、息も上がってて……

それでもマルは最後の一押しをするために、精一杯の笑顔を大好きなルビィちゃんに向けます。

 

「ルビィちゃんは、自分の好きなことを好きなだけやっていいんだよ。だから、さぁ……」

 

「行って!」

 

「……うんっ」

 

頷いてすぐ、ルビィちゃんは先輩たちを追いかけるように駆け出していました。

 

前を向く前にちらりと見えた表情には、不安ではなく強い決意が見えました。

 

「よかった……」

 

ちいさく息を吐きだしてから、マルはゆっくりと振り返り階段を降り始めました。

 

一歩一歩ゆっくりと踏みしめるようにしながら降りてしまうのは、マルがこの1週間だけの体験入部を、自分が思っていたよりも楽しんでいたからかもしれません。

 

まるで夢のような時間だったと、振り返ってみて思います。

 

あんな風にキラキラしている人たちと、大好きなお友達と一緒に汗を流して、ほんの少しだけどマル自身もキラキラできていたんじゃないかなんて、そんな勘違いさえしてしまいそうなくらい、本の中の世界に自分が入り込んだかのように思えるくらい、とても楽しかったです。

 

でも、もうおしまい。

 

マルはいつでも読者だから。

 

だから、あともう一つだけ……最後にどうしてもしておかないといけないこと。

それが終わったら、マルは日常に戻ることにします。

 

 

下まで降りきるのではなく、途中に設けられたテラスの方へとマルは向かいました。

日が沈みかけている赤い空に照らされる中、一人の女性がベンチに腰掛けています。

 

マルの良く知る彼女とは違う黒くて長い髪と、強く凛とした姿。

 

でも、マルを見つめる宝石みたいな瞳は、とてもよく彼女に似た輝きが見えました。

 

「それで?私をこんなところに呼び出して、一体何の用なのですの?」

「……あの。お願いがあってきました」



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少女の決断と出会いと偶然と

はてさて…今回はなんと…


Side teacher

 

階段のてっぺんで待っていた俺は、規則的な足音が近づいてくるのが聞こえたため下の様子を確認した。

 

息を切らしながら、汗で髪や服を濡らしながら、それでも高海、渡辺、桜内の三人がペースを落とすことなく階段を駆け上がってきていた。

 

後20段……5、4、3、2、1……

 

「はぁっ、はぁっ……つ、着いたの?」

「ふぅ~……うん、着いたみたい。あれ、千歌ちゃん?」

「はっ、はっ……ん~」

 

勢いよく俺の脇を駆け抜け、神社のさい銭箱前まで走った高海が突然その場に屈みこむ。体の調子でも悪くしたのだろうか?

 

「おい、どうし「やったよ!!」っうおぅ!?」

 

どこかのロケットライダーのごとく、かがみこんだ状態から思いっきり両腕を跳ね上げるように伸ばした高海は調子が悪いどころか、テンション最高潮!満面の笑みで飛び上がった。

 

……危うく顔面にパンチ食らうところだったわ。

 

「登り切ったよ~!!」

「……思ったより元気だな」

「ふぅ。でも、千歌ちゃんの言う通り、やっと登りきれたね」

「はぁ~……ほんとに漸くって感じね。でも、私たちも着実に成長しているみたい」

「で?体験入部生たちは?」

「先行っててって言ってたから、もう少ししたら来ると思います」

 

タオルで額を拭きながら桜内が答える。高海や渡辺と比べると運動が苦手そうにしている節があった彼女も、最初の挑戦の時の疲弊ぶりと比べるとだいぶん成長しているのがわかる。

 

彼女たちの確かな成長を実感しながら、もう一度階段のほうへ視線を移す。あと二人、国木田と黒澤を待つのみである。

 

この階段は、まるで登竜門のようだ。何となくそんなことを思う。

 

登り切ったその先に、辿り着いた者にしか見えない、気づくことができない輝きがある。

 

こんな階段、駆け上がるなんてことは決して軽い気持ちでできるものではない。それ相応の経験か、それ相応の覚悟やそれに近い強い思いが必要になる。その気持ちをばねにするのであればそれでいい。きっとそいつはこの階段も、この先に立ちふさがるであろう困難に対しても、乗り越えていけるだろう。

 

ただ、もしその気持ちに気づけないとしたら。或いは気づいていたとして、それにふたをしようとしてしまったのであれば……

 

軽快な足音が近づいてくるのが聞こえる。あまりにも規則的なそれは、登ってきている相手が一人だけであることを、言葉よりも雄弁に語っている。

 

 

 

果たして登ってきたのは赤い髪を左右に結び、息を切らせながらも上だけを見続け、一歩一歩確実に踏みしめている黒澤ルビィだった。

 

ーーーーーーーーーー

 

Side flower

 

ルビィちゃんのお姉さんと少し話をしてから、マルはロックテラスを離れてもう一度階段を下りました。神社に続く道の入り口を出て、学校に向かいます。

 

夕暮れ時の海沿いの道は、本の中の世界のようでとても綺麗です。

 

一週間ずっとルビィちゃんと先輩たち、それに比企谷先生と一緒に歩いてきた道だからでしょうか。一人で歩いていると、不思議な寂しさを感じます。自分でも驚くほどに楽しんでいたみたいです。

 

でももうマルがしたかったことは達成されました。

 

もう大丈夫。

 

ルビィちゃんはもう、大丈夫。

 

だから……

 

 

「あれ~?こっちであってるはずなんだけどな~?」

 

そんな声が聞こえてきて、ふとうつむき気味だった顔をあげてみます。

 

キョロキョロとあたりを見渡しながら歩いている女の人が、そこにはいました。ふとその人が振り向きます。

 

明るい茶色の髪は肩にかかるくらいで、黄色の瞳は夕日を反射して、キラキラ光って見えました。水色のTシャツの上から緑のシャツを羽織っているのは快活な印象がありましたが、フリルのついた白いスカートがとてもかわいらしいお姉さん。

 

一度もあったことがないはずなのに、どうしてかその人のことを知っているような、そんな不思議な感覚がマルの中に生まれました。

 

マルに気づいた時には驚いたような表情をしていたお姉さんでしたが、すぐに笑顔になると駆け寄ってきました。

 

「ねぇねぇ、このあたりの人?」

「ズラっ?えっ、あ、はい」

「ちょっと道がわからなくなっちゃったんだけど、聞いてもいいかにゃ?」

「……にゃ?」

「あっ、じゃなくて。聞いてもいいかな?」

「は、はい」

「淡島神社ってこっちであってるかな?」

 

 

 

「助かったよ~。案内してくれてありがと」

 

まさかの道を戻ることになりましたが、案内のために二人で一緒に淡島方向までの道を歩くことになりました。ご機嫌そうなお姉さんは、「にゃーんにゃーんにゃーん♪」と鼻歌を歌っています。

 

「猫、好きなんですか?」

「うん。昔からずっと好きなんだ。そういえばこんなところ、しかも動きやすい服装をしてるってことは部活動?……もしかして陸上部?」

「あ、いえ。オラ、じゃなくてマルはその、体験入部をしていて」

「体験入部?」

「その、スクールアイドル部に」

「えっ、スクールアイドル!?」

 

突然お姉さんが大きな声を出しました。驚きもあるようですが、なんだか嬉しそうにも見える表情に、少し戸惑います。

 

「あ、ごめんね。なんだかすっごく懐かしくて」

「懐かしい?」

「うん。私もね、高校生の頃スクールアイドルをやってたんだ」

 

ーーーーーーーーーー

 

Side teacher

 

「花丸ちゃん、来ないね」

「大丈夫かな?」

 

黒澤が上りきってからしばし、高海と桜内が心配そうに階段を覗き込んでいる。体調が悪くなりどこかで動けなくなっている、その可能性はもちろん十分にある。

 

だが、

 

「……降りるぞ」

「えっ、でも」

「多分、国木田は上ってこない」

「どうしてわかるんですか?」

「……まぁ、勘みたいなものだ」

 

黒澤の方をちらりと見ながら高海と桜内の質問に答える。浮かない表情を浮かべていることから、きっと黒澤も俺と同じ結論に至ったのだろう。

 

今日で体験入部は終了と前もって宣告はしていた。つまり今日、二人は答えを出さなければいけない。このまま入るか、或いは辞めるかを。

 

そして国木田は、答えを出したのだろう。

 

……それが本心からの決定なのか、それはまた別だとしても、だ。

 

「それにいつまでもここで待つわけにもいかないだろ。そろそろ戻り始めないと、帰るのが遅くなっちまう」

「確かに、もうそんな時間になってますね」

 

渡辺が携帯を確認しながら同意する。部活動活動終了時間までには帰りの準備をすべて終わらせていないといけないことを考えると、本当にぼちぼち階段を下らなければならない。流石に時間を守らないことはまずいので、先に歩き出した俺に続くように高海たちも下り始める。

 

さてここの階段、実はいつも使っていない別の道がある。頂上に向かう道ではないので、練習の際には通ることがないのだ。聞いたところによると、そこはテラスになっているとか。中々景色がいいから松浦からおすすめされた場所の一つでもある。

 

何故このタイミングで急にテラスに続く道の話をしていたのかというと、これには単純な理由があり、ちょうど俺たちが階段を下りながらその道へ差し掛かったところ、一人の女性、基女生徒がその道から現れたからである。

 

長い黒髪、白い髪留め、口元のほくろ、そして極めつけにうちの制服を着た女生徒がこちらに気づいた。

 

「あら、比企谷先生……ルビィ?」

「お、お姉ちゃん」

 

 

 

「これはどういう状況ですの?」

 

驚きに見開かれていた黒澤—―だと紛らわしいな、黒澤姉—―の瞳がすっと鋭くなる。視線は主に黒澤妹とその隣に立つ高海の方へ向けられている。

 

「なぜここにルビィがおりますの?しかも、あなた方スクールアイドル部と一緒に?」

 

どこか威圧感さえ覚える視線と声は、圧倒的なまでの存在感を醸し出す。普段は顕著な華やかさは一点、ともすれば冷気をまとっているかの如く、強い視線を黒澤姉はぶつけてきていた。

 

その眼光には高海と桜内、更には怖いもの知らずなイメージのある渡辺でさえたじろいでいた。というか美人のこういう顔は割とおっかね~。雪ノ下のおかげでかなり耐性ついているからなんとかなっているが、学生時代にこんな視線向けられたら秒で逃げ出してるまであるわ。

 

「それに……比企谷先生もいるのは何故ですの?」

「いや、俺一応部活の顧問だからね」

「顧問……あぁ、そうでしたわね。失礼いたしました。ですが、その部活動に何故部外者であるはずのルビィがおりますの?」

 

こちらに向けていた視線を再び高海に向ける黒澤姉。

 

「あ、違うんです。ただ「千歌さん!」えっ?」

 

説明しようと口を開いた高海を遮ったのは、他でもなく黒澤妹だった。普段からは予想できない――最も初対面時の叫び声を思い起こせば驚くことではないかもしれないが――黒澤妹の大きな声に、高海が思わず止まる。

 

「大丈夫です。自分で話します。話さなきゃ、いけないんです!」

 

ぐっと胸元でこぶしを握り、まっすぐ視線を上げる黒澤妹。おどおどした挙動も、不安も感じさせないしっかりとした姿勢と真剣な表情は、やはり彼女たちが姉妹であることを強く印象付ける。ゆっくりと前に踏み出し、自分の目を強く見つめ返す妹の姿に思うところがあるのか、黒澤姉の瞳から僅かばかりに力が抜けた。

 

「お姉ちゃん!ルビィね!」

 

言い出しながら、黒澤妹が足を一歩前に踏み出す。

 

 

ニール・アームストロングの有名な言葉は、きっと誰もが知っているだろう。

 

「人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩だ」

 

そこまで大それたものではないだろうし、大衆にとっては結局のところ小さな一歩のままなのかもしれない。

 

ただ、彼女に――彼女たちにとって、それは新しい世界に踏み込むための、大きな一歩だったのだろうと、そう思えた。




余談ですが虹ヶ咲の1st両日現地でしたが…

最高でしたね〜!!

虹の応援したくなりますね、これは


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大切な気持ち

もう明日からコミケですね〜

いやぁ、今回は3日間参加予定ですが、まぁなかなか楽しみですね〜。

ま、それはさておき、年内最後の更新(多分)ですが、適当に読んでってください。


Side flower

 

「そっかそっか~、スクールアイドル部かぁ~」

 

とても上機嫌そうにしているお姉さんは口を「ω」形にして微笑みました。気が付くともう神社に向かうための階段近くまで来ていました。

 

「練習やっぱり大変だよね?」

「あ、はい。でも、」

「でもでも、やってるときは大変だにゃ~って思うこともあるけど、すっごく楽しいよね!」

「そうです、ね。あ、でも、」

「ねぇねぇどんなグループなの?何人組?」

「あ、あの!」

 

興奮気味に話すお姉さんを遮るように声を出しました。こんなに楽しそうに話しているのに申し訳ない気持ちもあるけれども、その話はマルにはできません。だって、

 

「その、マルはスクールアイドル部には入らない、です」

「?どうして?」

 

首をかしげるお姉さん。不思議そうにするその視線をどうしてか正面から見ることができず、つい目をそらしてしまいます。

 

「マルには、似合わないですから。運動苦手だし、今は気を付けていますけどオラとかズラとか言っちゃいますし……あんなキラキラした場所は……」

「あなたはどうしたいの?」

「……え?」

 

「そっか」とか「そんなことない」とか同意の反応か慰めてくれる反応が返ってくると、マルは思っていたので、予想外の返事に顔を上げます。

 

マルをを見つめるお姉さんは、優し気な微笑みで繰り返しました。

 

「あなたはどうしたいの?」

「どうしたい、ですか?」

「私がスクールアイドルやってたって話したよね?」

「はい」

「実はね、始める前はずっと思っていたんだ。こんな可愛いこと、絶対に自分には似合わないって」

「えっ」

 

お姉さんの言葉にさらに驚きが大きくなりました。だってそれはまるでマルが思っていたことと同じだったから。

 

でも、こんなに可愛い人が?

 

「どうしてですか?」

「その頃の私はもっと髪も短かったし、服装ももっとボーイッシュだったんだ。こんなスカートとか全然履いてなかった。ずっと前にね、可愛い服が似合わないっていわれたから。だからずっと思ってたの。私には女の子らしい服も、可愛らしい物も似合わないんだって」

 

「そんな時、スクールアイドルに出会った。なんだかすごいなぁって、その時思ったんだ。それでね、小さい頃からずっと一緒だった幼馴染の子がスクールアイドルを始めたがってて、だから私はその子の背中を押そうと思ったの」

 

「その時その子に一緒にやらない?って言われたんだけど、断ったの。似合わないって思ってたから。でもね、私も本当はやりたいと思ってたんだ。あんな風にキラキラした世界を見てみたいって。でも、やっぱり自信がなかったし、怖かった。また似合わないって周りに言われることが」

 

「でもね、ある日言われたんだ」

 

 

『やりたいならやればいいと思うぞ』

『無理だよ、あんなキラキラしてる場所……似合わないにゃ』

『これは俺の知り合いの言葉なんだが、美的感覚なんてものは主観に過ぎないんだとさ』

『?』

『つまり、だ。可愛いだとか似合ってるだとか、そういうことはあくまで個人個人が勝手に思うことであって、結局のところは多数決みたいなもんだ。大勢がかっこいいと思ったら、そいつは世間でかっこいいと認定されるってわけだ。で、だ。お前のことを小泉は可愛いって言ってるよな?』

『うん。でもそれはかよちんが優しいだけで』

『俺も小泉の意見に賛成だな』

『え?』

『お前は間違いなく美少女の部類に入る。正直後輩でいうならうちの一色ともいい勝負ができるレベルだ。なんなら雪ノ下と由比ヶ浜もお前のことを可愛いって言っていた。この時点で5対1でお前を可愛いと思っている側が多数になるわけだ』

『そんな理屈めちゃくちゃにゃ。もっと多くの人に聞いたら』

『かもな。でも、最初はここからでいいんじゃねぇの?』

『?』

『今はまだグループとして駆け出したばかりだ。だからまだ大衆の目に触れるわけじゃない。けど、目に触れる範囲にいるやつがお前の背中を押してくれてて、そしてお前にそれをやりたいって気持ちがあるんなら、やったらいい。そしてむしろあの頃お前に似合わないって言ってた奴らに見せつけてやりゃいい。こんな美少女を見落としてて残念だったなって』

『なんだかヒッキー先輩、穂乃果先輩たちと一緒にいるときと違ってて変な感じがする』

『知らないのか?俺は年下には優しいんだよ』

『ロリコン?』

『ばっかお前、妹の影響だっての』

『シスコンにゃ』

 

 

「今思い出してもすっごく変な話。でも、どうしてかな。その言葉を聞いて、幼馴染ともう一人同じクラスの子と話して、気づいたら三人で一緒に入部してたんだ」

 

目を細めながら懐かしそうに話してくれた内容は、とても親近感が湧きました。まるでマルたちのことを話しているようにも聞こえて――とても羨ましいと思いました。

 

「あなたにもそんな子いない?あなたのことを肯定してくれる人」

「ま、マルには……」

「もしそんな子がいるなら、一歩踏み出してみたらいいよ。きっと素敵なことが待ってるから!」

 

神社に続く階段の入り口前にたどり着くと、お姉さんが立ち止まりました。

 

「上らないんですか?」

「うん。ここが待ち合わせ場所。だからここで待ってるの」

「そう、ですか。あの、お話ありがとうございます」

「こっちこそ、連れてきてくれてありがとにゃー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Side teacher

 

少し考え事をしたいから先に行っててくれ、そう黒澤姉に言われたもんだから俺たちは改めて階段を下り、入り口の方へと向かっていた。姉に思いを伝えられてすっきりしたのか笑顔の黒澤妹、一緒に並んで喜んでいる高海、そしてそれを見守るようにしている渡辺と桜内。

 

ここにもう一人いた方が良かった、なんて思ってしまうのは個人的な願望でしかない。ただそれでも、彼女、国木田花丸がいなくてはならない、そんな風に思えてしまって仕方がないのだった。

 

まぁ、こういうことは結局本人が決めることではある、それはわかっている。教師として本人の意思を尊重するのもまた仕事であることも。ただそれがもし、彼女の本心を隠したうえでの行動なのだとしたら……

 

「あれ?誰か入り口にいる?」

「ほんとだ」

 

高海たちの声で考え事の沼にはまりかけていた意識が戻される。ぱっと前を見ると、階段の入り口付近に二人の女性が立っているのが見える。より正確に言うならば、俺にとっては見覚えのある女性たちが、である。

 

「あ、花丸ちゃん!」

「ルビィちゃん!?皆さんも」

 

そのうち1人に気づいた黒澤妹が駆け寄るように階段を下りる。それに続くように高海たちも下りていく。と、もう一人の女性がこちらに気づく。いやまぁ確かに手伝ってほしいことがあるからと呼んだのは俺だ――ちゃんと交通費は前払いしたぞ、流石に――しかしながらタイミングがいいのやらなんというか、である。

 

「あ、ヒッキー先輩!」

「……まさか一緒にいるとは思わなかったわ」

 

久しぶりに会う彼女の髪がだいぶん伸びていたことに、不覚にもドキッとしてしまったのは内緒だ。




最近のお気に入りは1stのセトリで虹の曲を聴くことになってきてますね〜

アニメ化楽しみや〜


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光に誘われて歩き出す

はぁ…フェス終わったなぁ…

すっごかったなぁ……

……あ、こっちの物語、続きまーす


「花丸ちゃん、どうしてここに?」

「あ、そのこの人の道案内をしてて、そしたらここに」

「そ、そうなんだ」

 

目線を合わせてはそらしを繰り返す国木田と黒澤妹。いや何?君たちは付き合いたての中学生カップルか何かですか?

 

話を切り出しにくそうにしている二人を、どうやら二年生組は見守ることに決めたらしく、少し離れて口を出そうとしていない。この空気の流れはさすがに読むべきか……そう判断し、俺も見守ろうと思った時、

 

「もしかして、あなたたちがスクールアイドル部かな?」

「「「「へ?」」」」

 

あっさりその空気に割り込んでしまう奴が隣にいた。

 

 

 

「ねぇねぇヒッキー先輩、この子達がそう?」

「いやそうだけど、お前今このタイミングで聞くか普通?」

 

くいくいと服の袖を引っ張るようにしながら、興味津々という表情でこちらを見上げてくる。いや割と通常運転なところは元気にやってるんだなぁとか、髪が伸びたことでまた女の子らしさが上がったなぁとかいろいろと思うところはある。ありますよ。でもね、今じゃなくていいだろうが……

 

「そっか~。さっき花丸ちゃんから聞いたの、ヒッキー先輩の教え子だったんだ」

「あの、あなたは?」

「あ、ごめんね、急に話しかけちゃって」

 

おずおずといった具合に話しかけてきた桜内に対し、彼女は笑いながら応える。

 

「えっと、私はヒッキー先輩の友達だよ。他にも二人来る予定なんだけど、週末だからヒッキー先輩に会いに来たんだ」

「えっ、他にも二人?何それ聞いてない?」

「にゃ?連絡してなかったっけ?」

「来てないぞ。ただお前からくるって連絡しかもらってない」

「そうだったかな?でも、二人は遅れてくるって言ってたから先に来ちゃった」

「おい待て、この時間に来るってことはまさか……「あの~」あ、悪い」

 

いかんいかん。つい高海たちを放置して話し込みそうになってしまっていた。ほら、なんか国木田と黒澤妹とかぽかんとしちゃってるし。

 

「まぁそのなんだ。本当は刺激剤としてこいつを呼んだんだ」

「刺激剤?」

「ああ。国木田のな」

「えっ、オラ?」

展開に理解が追い付いていないようで目をぱちくりさせる国木田。訳が分からないというように大人二人を見つめる。

 

「なぁ、国木田とはどんな話したんだ?」

「え?スクールアイドルのこととか、私たちの経験とか」

「んじゃ加入した時のことは?」

「もちろん!」

「あ、そうなのね」

 

国木田の気持ちに一石投じるために顔合わせしてもらおうかと思っていたが、どうやらいつの間にかそれは終わっていたらしい。まぁ、目的は果たせたらしいからよしとするべきか。

 

「なぁ、国木田」

「は、はいズラ!」

「いや、そんなかしこまらなくていいから。話をするの俺じゃないし」

「え?」

「俺よりもお前に話したいことがあるやつがいるってことだよ」

 

そう言いながら国木田から視線を外し、その隣に立っている黒澤妹に視線を向ける。丁度彼女もこちらを見ていたらしく視線が合う。小さく首を動かして同意の意を示すと、どうやら言いたいことは通じたらしく、黒澤妹も小さく頷いた。

 

「ねぇ、花丸ちゃん」

「ルビィちゃん?」

「ルビィね、スクールアイドル部に入ることにしたよ」

「そっか。よかったね「でもね!」?」

 

いつになく強い視線を自分に向けてくる黒澤妹に、国木田も驚きの表情を浮かべている。

 

「ルビィ、ずっと見てたよ。花丸ちゃんのこと。花丸ちゃん優しいから、ルビィがスクールアイドル部に入れるように我慢してるんじゃないかって、ずっと見てた」

「そんな、オラ……マルは別に」

「最初はそうだったんだと思う。でも、今は違うんだよね。だって見てたらわかるもん。花丸ちゃんが、スクールアイドルのこと好きになってるって。ルビィと同じくらい、心から楽しんでいるって!」

 

例えばそれは振りつけの練習の時。例えばそれは歌の練習の時。例えばそれは高海たちと話している時。例えばそれは辛いはずの体力づくりや階段への挑戦の時。

 

どんな時でも、国木田花丸の顔から笑顔が消えることはなかった。

 

それは何かを我慢している者の表情ではなく、全力で楽しむ者の表情。

 

本人が気づいていたのかどうかはわからないけれども、いつの間にかそこは国木田花丸にとって、嘘偽りなくいたいと思える、思わせてくれる場所になっていた。

 

その気持ちは「本物」になっていたのだろう。

 

「でも、オラは、その……」

「それに花丸ちゃん、ずっと大事に持ってるでしょ?スクールアイドルの雑誌」

 

反射的だったのであろう。国木田の手が肩にかけているカバンに添えられる。学校のカバンとは別に練習の時にいつも持ち歩いている小さめのカバン、その中にはいつも同じ雑誌が入っていた。スクールアイドルの雑誌。

 

「その雑誌、花丸ちゃんいつも読んでたよね。おんなじページを大事そうに」

「それは……でも、マルには無理だよ。オラとか、ズラとか言っちゃうし」

「花丸ちゃんが見てたの、μ’sの星空凛ちゃんのページだったよね「にゃ?「おいこら」」?あの、どうかしましたか?」

「いや、なんでもない続けてくれ。すまん」

 

思わず反応しかけた隣の口をふさぐ。気持ちはわかる、わかるが抑えてくれ頼むから。今ここで反応するのは2つの理由で面倒だ。

 

1つはもちろんこの流れが変な空気で断ち切られてしまうから。

 

もう1つは、できれば俺と「彼女たち」との間に何か繋がりがあることはまだ高海たちには伏せておきたいと思っているから。

 

ちらりと隣からの抗議の視線を受けている気もするがとりあえず無視だ無視。話を続けてくれと黒澤妹に空いている方の手でジェスチャーする。

 

「えっとね。その子も実は自分はスクールアイドルに向いてないってずっと思い込んでたんだって」

「……この子も?」

「うん。でも大切な友達と大切な仲間に背中を押してもらえたって。そうしたら気づいたんだって」

「何に?」

「似合う似合わないじゃなくて、やりたいかどうかが大事なんだ、って」

「やりたいか、どうか」

「そうだよ」

 

黒澤妹の隣に並ぶように高海、渡辺、桜内が立ち国木田に笑顔を向ける。

 

「花丸ちゃんも私たちみたいにスクールアイドルが大好きって気持ちがあるなら、一緒にやってみよ?」

「私だって、最初はやるなんて想像していなかったもの」

「一緒なら絶対に楽しいよ」

 

三人の笑顔を見て、それから黒澤妹を見る国木田。

 

「花丸ちゃん」

 

そう言いながら手を差し出す親友の手を、そっと国木田は握り返した。

 

「マル、やりたい。ルビィちゃんや先輩たちと一緒に!」

 

「「ようこそ、スクールアイドル部へ!」」

さてさて紆余曲折を経て、無事に国木田もスクールアイドル部に入部する決意を固めたわけで、俺としても無事に事が済んで一安心なのだが……

「――ところで、比企谷先生の知り合いですか?」

「あ~、まぁそれは、だな……」

一先ずこの状況をどうにかするべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

その後、流石に時間的に戻らなければまずいということもあり、会話もほとんどなく急いで学校に戻ることとなった。このままなんとな~く話が流れてくれないかな~とか期待したものの、結局校門前であいつを待たせることになってしまい、当然のように全員で帰る流れとなっていた。

 

で、坂道を下り始めたわけだけれども――

 

「も、もしかして先生の、彼女さんですか!?」

 

うっわぁ、すっげ~キラキラした目でこっち見てやがる。高海の奴、ラブソング作りたいとか言ってたくらいだし、かなり興味津々って感じだわ。まぁもっとも、

 

「いや違う。高校の時の知り合いだ」

「「え~」」

 

と抗議の声が二つ。

 

「いや、何でお前までその反応?」

「その紹介の仕方はなんか不本意だにゃ、じゃなくて不本意だな~って」

「事実だろ。学校はずっと別なわけだしな。まぁ、とりあえずお前らバスだろ?早く行かないとまずいんじゃないか?」

「あっやばっ!千歌ちゃん、早く行かないともうすぐバス来ちゃう!」

「えっ、先生は」

「見ての通り自転車持って帰るんだよ。こいつ一緒だから乗れないしな」

「あ、そうですよね……また詳しく聞かせてくださいね!明日……はお休みでしたっけ?」

「まぁな」

「じゃあ週末明けに!」

「千歌ちゃん、急がないと!」

「わかった!先生、さようなら!」

 

最後に大きく手を振ってから、高海は少し先で待っている桜内と渡辺を追いかけるように駆け出していく。合流した三人は、下で待っているであろう新入部員二人の元へ走っていくのだった――

 

――で、だ。

 

「んじゃ早く戻るとするか。お前の話だと、いつの間にか他にも来ることになっているらしいしな」

「お~!でも私は走るれるから、ヒッキー先輩は自転車使ってもいいよ?」

「いやチャリと並走するとか、君どこの猿の腕の後輩?」

「にゃ?」

「いやいい、忘れてくれ」

 

まぁなんとかこいつの名前が出ることは避けられたな……いや、別にどうしても隠さないといけないわけではないのだが。

 

「とりあえず家に行くしかないか。行くぞ、凛」

「おっけ~!」

 

髪の長さが伸びても、更にぐっと女の子らしい見た目になっても、その変わらない明るさに少しほっとさせられながら、俺は星空凛と共に家を目指すのだった。




ここからちょっとだけサンシャイン本編から離れた展開になります。

まぁたまにはそういうところもないとね、書くの難しいけど。

とりあえずフェス1日目は諸事情あって見られなかったので、25日のディレイビューイングを楽しみにしてます。


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もう1つの1年組編
やはり女の子は久しぶりに会うと驚きを与える


オリジナル展開?的なのがしばし続きますよ~

さてさて、今回登場しますのは……


並んで歩くことしばし、無事に自宅についた俺はチャリを停めて凛の方を向く。

 

「で?他にも2人来るって言ってたからなんとなく察しはついているが、一応聞くぞ。誰が来るって?」

「もちろん、かよちんと真姫ちゃんだよ!」

「だと思ったよ。あいつら相変わらずか?」

「?そんなの、この後会うんだから確かめたらいいんじゃない?」

「それもそうだな。で?何時ごろにどこに着くって?」

「え~っとね、あと30分くらいで三島だって」

「ってことはそれなりに近くまで来てるのな。沼津駅まで来るのか?」

「うん!」

「っつってもこの時間帯だとバスももう少ないし、タクシー拾うってのも……しゃーねー。迎え行くか。面倒だけど」

「おっ!ヒッキー先輩の運転久しぶりだ!ねぇねぇ、凛も行ってもいいよね?」

「好きにしろ」

「やったにゃ~!」

 

別段驚くようなことでもないかもしれないが、これでも一応車の免許はしっかりとっている。まぁ免許くらいあった方がいいだろうという考えのもと取ることになったのだが(因みに全額自腹だった)、本当に取っておいてよかったと思わざるを得ない。こちらでの生活で車が必需品だというのはもちろんのことではあるが、よもや学生期間中に何度も運転する羽目になるとは、誰が予想していただろう。

 

まさか休み期間に一時帰国しに来た絵里の出迎えのために空港まで迎えに行ったり、旅行で千葉に来て迷子になった穂乃果を探すために車を走らせたりするとは思ってもいなかったわ。おかげさまでそれなりの運転経験を積むことができたから、まだ慣れない沼津の道でもそこそこ問題なく走ることができるのだから、何が良い方向に転ぶことになるのかなんて、わかったものではないな。

 

何が嬉しいのか鼻歌を歌っている凛と共に再び外に出て車庫へ向かう。今更ながらちゃんとした車庫がある一軒家とか、千葉じゃあんまり見なかったよな……

 

とりあえず車に乗り込みエンジンをかける。言っておくが、この車については中古車ではあるものの半分は自腹である。もう半分はというと、どういう風の吹き回しか親父が出してくれたのだった。流石に勤め先が勤め先なだけに車が生活必需品になるだろうと。まぁそれも半分は本気で、もう半分はどうやら俺がついに小町離れすることを喜んでのことらしい、ソースは小町。

 

決して大きいわけではない車、比較的平均的なサイズとフォルムだけれども座席を調整することで5人乗りから7人乗りに早変わりできる。まぁ、個人的にはそれなりに気に入ってはいる。

 

ともかく車に乗り込みエンジンをかける。助手席にはやはり上機嫌な凛。凛の鼻歌をBGM代わりにしながら俺は車を走らせた。

 

「そういや、何気に凛が助手席に座ったのって初じゃね?」

「そうだよ。いつも穂乃果ちゃんか真姫ちゃんか絵里ちゃんばっかりだったから。なんだか特別な感じがするにゃ~」

「そういやそうだったな」

「ふふ~ん。これで凛もそっち側の仲間入りにゃ~!」

「そんな喜ぶことでもないだろうに。それと、喋り方今は戻すんだな?」

「うん。大人になったからちゃんとした喋り方も大事だとは思うけど、やっぱりヒッキー先輩やみんなといる時くらいは、あの頃の凛のまま、ありのままの凛でいたいから。」

「……そっか」

 

時間の流れというのはどうしようもなく進み、否応なしに変えていく。周囲も、立場も、人も――否応なしに変えていってしまう。

 

昔は持っていたつながりも時と共に風化し、「ずっと友達」なんて言いながらも気が付けば相手の顔も名前も忘れてしまう。それほどまでに過ぎた時は残酷なのだ。

 

それでも――

 

それでもこうして過ぎた時間を大切にすることもできるのだと奉仕部が、μ‘sが、教えてくれた。大人になるまで気づくことができなかった――気づこうともしなかった俺が言うのは間違っているのかもしれないけれども……

 

時に過去を振り返り、懐かしめるほどに――俺の青春は、間違っていなかったのだろう。

 

――――――――――――――――――――

 

沼津駅前はこの時間でも意外と車が多く、何とか停車することができた。時間的にはほぼほぼ丁度良かったのか、ついて数分後に凛の携帯に二人から到着の連絡が届いたため、凛が改札の方まで出迎えに行った。

 

車の中からぼんやり外を眺めることしばし、コンコン、と車の窓がノックされる。

 

視線をそちらに向けると、成長していながらも懐かしい微笑みを浮かべた三人が、並んで車内を覗き込むようにしていた。

 

「久しぶりね、八幡」

 

そう言いながら当たり前のように助手席に乗り込んだのは西木野真姫。凛ほど極端ではないが、高校時代から髪を伸ばした彼女は、どこか彼女の母親と雰囲気が似てきた。ツンケンした、というかツンデレチックな態度を取ることが多かった真姫だったが、今では随分落ち着いた優し気な印象を受ける。にしても本当にこいつは綺麗になったよな。最初の頃からそりゃ目を引く美少女だったが、なんというか大人びた感じが割といい、うん。

 

「な、何よ?そんなにじろじろ見て」

「ん、あぁ。悪い」

「ふふっ。八幡先輩、真姫ちゃんに見蕩れちゃったんですね」

「そう?まぁ、当然よね」

「あ~。真姫ちゃん、ちょっと顔が赤くなってるにゃ~」

「ちょっと、凛!」

「ふふっ」

 

じゃれあいを繰り広げる真姫と凛を眺めながら嬉しそうにクスクス笑うのは、μ‘s一年組最後の一人、小泉花陽。他の二人と比較すると外見面ではそれほどの変化はないが、以前ほどのおどおどした様子はない。むしろこうやって二人のことを微笑ましく見つめる様子は、まるで母親のそれ――そう、非常に母性的、落ち着きのある女性となっていた。

 

「で?どこまで送ればいいんだ?」

「?どこって?」

「いや、この時間に来たってことは泊りなんだろ?そこまで送ってく」

「あれ?もしかして伝わっていなかったのかな?」

「何が?」

「今日わたしたち、八幡の家に行くつもりだったんだけど?」

 

……

 

…………

 

………………

 

「……は?」

 

――――――――――――――――――――

 

『はいはい~、お兄ちゃん久しぶり~。どったの?』

 

普段の状況であれば、こうして久しぶりに元気な妹の声を聞くことができることに対して喜びを感じていただろうけれども、如何せん状況が状況なだけにそんな余裕はない。

 

「どったの、じゃねぇわ。何やってんのお前?」

『え?今はお風呂上りにアイスを』

「そうじゃねえ。何で俺の家にあの三人が泊まることになってるんだって話だ」

 

現在、沼津にある俺の家。とりあえずずっと駅前にいるわけにもいかなかったからとりあえず三人とも連れてきて、余っていた部屋に案内し終わったところである。道中聞いた話によると、どうやら小町から了承を得て泊まりに来たとのことらしい。

 

『あれ?言ってなかったっけ?』

「聞いてねえよ。というか何でお前が俺の家に泊まる許可だしてんの?」

『いやだって、お兄ちゃんの家だし』

「何それジャイアニズム?俺の家はお前の家ってこと?」

『細かいことは気にしないの。それに、そもそも凛さんを呼んだのはお兄ちゃんでしょ?だったら泊まる場所くらい用意してあげたらよかったじゃん』

「ぐっ、そう言われると返す言葉もねぇけど……いやでもなんで二人増えてるの?」

『だって凛さんだけじゃ不公平でしょ?二人だってお兄ちゃんに会いたがってたんだから。今のお兄ちゃんの家なら、一人泊めるのも三人泊めるのも大して変わらないんだからさ、ちゃんとおもてなしするんだよ』

「はぁ。わかってるよ」

『じゃ、そういうことで。バイバーイ』

 

そう言って小町との通話は切られた。まぁ、別段一緒の屋根の下ということについては初めてというわけではない。合宿の時もそうしていたわけだし、何ならその時は男女比率がもっと極端だった。が、しかし、

 

「家っていうのは初めてなんだよなぁ」

 

合宿の時、基本的には真姫の家が所有している別荘を借りていたということもあり、一応外でのイベントという風に割り切ることができた。しかしながら今回は、引っ越し後とはいえ自宅である。自身のプライベート空間にてあの三人が過ごすことになる。

 

いや、千葉の家に来たことがなかったのかと言われたらそういうわけでもない。ただその時は必ず日帰りで遊びに来ることしかなかったのだ。こうして自分の家に、それなりに親しい女子が泊まりに来るというのは、なかなかどうして緊張する……

 

「まぁ、なるようにしかならない、か」

 

ガシガシと頭をかきながら夕飯の用意でもするべく、リビングの方に向かうのだった。

 




そういえば虹のユニットのCD買いましたか?私は買いました。

いやぁ~どのユニットの曲も良くて良くて……

虹の物語も書きたくなる~、でも同時には無理~
ってなわけで誰か書いてください(笑)


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思いと想いはずっと……

オリジナル要素、そして彼らの過去の一端に触れていただきましょう。

ではでは、どうぞ。


夕飯後暫く、リビングにあたる畳の間で俺と真姫がお茶を飲んでいた。春とはいえ夜はまだ少し肌寒く感じるときもある。そんな中で湯飲み注がれた温かいお茶を飲むと、思わずほっと落ち着く。

 

流石静岡、今日もお茶が美味い!

 

「何それ、穂乃果の真似?」

「まぁな。あいつといえばファイトだよ!と今日もパンが美味い!だろ?」

「何その極端な感じ、意味わかんない」

「お前のそれも久しぶりに聞いた気がするわ」

 

どちらからともなく笑ってしまう。音楽を続けながらも同時に医学を学んでいるという真姫。相当忙しいから会うどころか、連絡を取ること自体大学時代では数えるほどしかない。今も社会人の俺からしても相当ストレスフルな生活を送っているんじゃないかと思うが、そんな様子はおくびにも出さないところは、本当に二つも年下なのかと疑うレベル。

 

「そういやこの前もピアノの演奏会があったんだろ?海未から動画が送られてきたわ」

「海未から?いつの間に。で、どうだった?」

「相変わらずすげぇとしか言いようがないな。いや、変わらずっつーか、より一層って言った方が正しいか?耳が肥えてきて少しは違いが分かってきているのか知らねぇけど、より一層引き込まれる感じだったな。それに、お前も楽しそうだったし」

「八幡にしては、珍しい褒めっぷりね。ありがと。衣装の方はどうかしら?ことりがわざわざ作ってくれたんだけど?」

「あいつも留学して忙しいだろうにすげぇな。あ~まぁあれだ。すっげぇよかった。やっぱお前赤色のドレス似合いすぎるわ」

「そういうの、ちゃんと目を見ながら言えないところは治ってないのね。でも、八幡にそう言ってもらえると嬉しいわ」

 

そう言いながら微笑む真姫。昔なら真っ赤になって照れ隠しに「イミワカンナイ」って言いながら髪を指でくるくるさせるところだというのに、精神的な成長を遂げたらしい彼女はほんのりと頬を染めるだけで、嬉しそうな笑みを見せてくる。

 

そんな様子にドキドキさせられながらも、一つ先延ばしにしてしまっていることがあるがゆえに罪悪感を覚えてしまう。結局俺はあの時の話に対して、ちゃんとした答えを出せずじまいなのだから。

 

「なぁ、真姫。お前「諦めていないから、私」」

 

遮られるような言葉にそらしていた顔を戻し真姫を正面から見つめる。

 

微笑んだままではあるが、その瞳から真剣さが伝わってくる。

 

「諦めてない」

「……なんか、すまん」

「八幡が謝ることじゃないわよ。あの時ちゃんと言ったでしょ?」

 

そう言う彼女の表情が、あの時のものと重なる。

驚きと、不安と、そして同時に嬉しさを覚えたあの時に。

 

「『絶対、虜にさせて見せるんだから』って」

「強いな、お前」

「八幡のおかげよ。貴方と出会ってなかったらきっとこうはなれなかった、こうして医療も音楽も、両方やろうだなんて、思えていなかった。今の私があるのはμ’sと、八幡のおかげだから」

「その……今ははっきりとした答えが出せない。前と同じっていうか、色々考えもした。けど、」

「ええ、わかっているわ。八幡を見ればわかる。きっとたくさん悩んでくれてるんでしょ?だから待てるし、諦めずにいられるの。雪乃たちも、絵里たちも、そして私も。だから、八幡の中でちゃんとした答えが出たら、それを聞かせてもらえればいいの」

「すまん」

「またそう言う。こういう時は『すまん』じゃなくて」

「そうだったな……ありがとな、真姫」

「どういたしまして」

 

ほんの少ししんみりと、という感じにはなってしまったものの、改めてこうして真姫とこうやって二人で話すことができたことは、とても大切な時間だったのではないかと、本心から思う。

 

迷い、悩み、考え……それでも必ずしも正解が得られるとは限らない。

 

けれども、

 

『考えてもがき苦しみ、足掻いて悩め……そうでなくては本物じゃない』

 

『誰かを大切に想うという事は、その人を傷つける覚悟をするという事だよ』

 

俺の恩師がくれた言葉。その言葉の意味を完全に理解したかもわからないけれども――

 

それでも俺は、答えを出すことを決めた――決めている。

 

そうでなければ、『本物』なんて、求めることすらできないのだから。

 

――――――――――――――

 

さて現在俺と真姫二人っきりでずっと喋っているわけだが、これにはちゃんとした理由がある。先ほどまで一緒に食卓を囲んでいた残り二人はというと――

 

「ふぅ~、気持ちよかったにゃ~」

「お風呂いただいちゃいました」

 

丁度襖が開き二人が戻ってくる。この家、地味に風呂が広い。いや、勿論豪邸というほど広いのかと聞かれれば「う~ん」となること間違いなしではあるが、東京や千葉の一般家庭の風呂場よりは間違いなく広い。二人で入る分には何とかなるくらいのサイズというわけだ。まぁそんなわけで、食事の間に沸かしておいた風呂に先にりんぱな幼馴染コンビが入ってきたというわけだ。

 

「おう。んじゃ、次は真姫が行ってこいよ。俺は最後でいいから」

「そう?じゃあお言葉に甘えるわね」

「いってらっしゃ~い」

 

フリフリと手を振りながら凛が真姫を見送る横で、花陽が畳の上に腰を下ろす。それを横目に眺めながら、ささっと二人分のお茶を入れる。

 

「ほれ」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとにゃ~」

 

お礼を言いながらぺこりと頭を下げる花陽に、元気よく返事をする凛。練習の休憩時間に水分補給する際、ボトルを手渡しした時とほとんど全く同じ動きなのにまた懐かしさを覚える。

 

「真姫ちゃんとゆっくりお話しできましたか?」

「まぁな。あいつ、本当に強いな」

「ふふ~ん。真姫ちゃんは本当にすごいんだよ!勉強もピアノもできてて、ちょっとした有名人にゃ!」

「何でお前が誇らしげなんだよ」

 

苦笑しながらツッコミを入れつつも、改めて真姫がどれほど凄い奴なのかを実感する。真姫だけじゃない。雪乃も、結衣も、いろはも、沙希も、絵里も、海未も……そして穂乃果も――出会うまでは、いや出会ってからも、自分とは違うどこか遠くの存在のように思っていた。でも、そんな彼女たちと向き合い、話し合い、時にぶつかり合い――分かり合った。

 

だから、これは自分の勝手な都合であることもわかっているけれども、それでもちゃんと向き合わなければいけないと思った……思った、んだけどなぁ。

 

「それで結局、八幡先輩は返事ができたんですか?」

「……いや、まだだ」

「かれこれ随分時間がかかってるにゃ~。というか、かかりすぎにゃ」

「それはわかってる。ただ、誰か一人を選ぶってのは、なんか、な」

「ヒッキー先輩は真姫ちゃんのことは嫌いにゃ?」

「んなわけねぇだろ」

「じゃあ好きなんですか?」

「好ましくは思ってる。けど、それは」

「他のみんなも同じってことにゃ?」

「そういうことだ。それにそれはあいつらだけじゃない。当然にこや希、ことりに凛も花陽のことも大切に思ってる。そこに差があるのかって言われるとな……ってどした?」

 

代わる代わるに質問をしてくる二人に思ったことをそのまま答えていただけだったのだが、二人がなんだかじとーっとした視線を向けてくる。いや、わかってるよ俺だって。このままじゃよろしくないってことくらい。

 

「こういうところが余計にややこしくするんだにゃ~」

「八幡先輩って時々変に真っすぐな時がありますよね」

「は?」

「いえ、なんでもないです」

「とにかく!これだけ真姫ちゃんたちを待たせてるんだから、半端な答えを出すのは、凛が許さないにゃ!」

「ああ。わかってる」

耳が痛い話ではあるが、不思議と不快ではない。二人も本気で攻めているわけではないから。それだけ真姫のこと、そして穂乃果たちのことが大好きなのだろう。それがあの頃から何ら変わらず続いていること、こうしてまた変わらずに話せることが――俺のうぬぼれでなければだが――三人とも好きなのだろう。妹と同い年の二人は、いつしか俺の中では同じくらいに大切な存在になっていた。その二人と過ごす時間は、不思議と心地の良いものになっていた。

 

と、ちょうど足音が聞こえてくる。どうやら真姫の風呂も終わったらしい。

 

ガラリと部屋の襖が開かれ、真姫が入ってくる。

 

「あがったわよ……って、何この若干ふんわりした空気?」

 

キョトンとした顔で俺たち三人のことを見る真姫。思わず三人で顔を見合わせて笑ってしまう。

 

「いや、なんでもない。じゃ、俺も風呂入ってくるわ。お茶は急須に入ってるから、適当に飲んでてくれ。あ、あとみかんあったわ。そっちのダイニングの籠に入ってるからそれも好きに食っていいぞ」

「みかん?食べる食べる!」

「いただきます!」

「ありがと。また後でね」

「へいへい」

 

もうそれなりに遅い時間にはなってきているが、どうせ明日も休みなのだ。偶の夜更かしくらいはいいだろう。そう思い、三人の話し声を背に受けながら、着替えを手に取った俺は風呂へと向かうのだった。

 




と、いうわけで入れるか入れないかで悩んだのですが、過去パートに恋愛要素が入りました!

現在の八幡は誰とも付き合っていませんが、好意を向けている人数が多いこと多いこと。

俺ガイルからは雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、一色いろは、川崎沙希。
μ’sからは高坂穂乃果、園田海未、絢瀬絵里、そして西木野真姫。

正直やりすぎた感ありますが、原作では既に上記の4人から向けられてますしね。
因みにこのメンバーにしたのには、一応ちゃんとした理由がありますが、それはまたいずれ。

過去回想編に入ったら詳しく書く……はずです。
いや、そこまでたどり着くのが大変そうだわ、これ。


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休日の過ごし方

いろんなイベント中止になってますなぁ……
残念。

早く終わるといいですね、こういうの。

まぁそんなわけで、暇つぶし代わりにこちらをどうぞ~。


「…お…て」

「んんぅ~」

 

目を開いていないため視界的には真っ暗であるが、意識は深いまどろみから徐々に覚醒してきているのは自覚できた。なんだか体が揺らされている気がするが、そもそも一人暮らしだしそんなことは――

 

――いや待て、そういや昨日客が来ていたんだっけ。

 

ゆっくりと目を開く。

 

「あ、起きた。おはよう」

「……おう。はよ、凛」

 

布団の中でまどろむ俺の顔を覗き込んでいるのは凛だった。ちらりと時計を見ると7時ちょっと前。お休みの日の朝にしては早すぎやしませんかね。そう思ったものの、凛の方はというと既にばっちり目が覚めているらしく、にこにこ笑顔である。

 

「どした?」

「真姫ちゃんとかよちんがもうすぐご飯だから起こしてきてって」

「あ?」

 

思わずガラの悪そうな返事をしてしまったがそこは寝起きだ、大目に見てほしい。というよりもあの二人も早いな、しかも朝食の用意もできてるとかどういうこと?

 

「ヒッキー先輩?」

「ん、や。わかった起きる。起きるから部屋を出てくれないか?着替えたい」

「は~い」

 

二度寝するという選択肢は、残念ながらすでにない。そもそも本来客人である3人より後に目を覚ますのはどうなんだ?まぁ、あいつらが早すぎるってのもあるが……

 

パパッと着替えてリビングに向かう。ちなみにうちのリビング、キッチンとの敷居は壁や襖ではなく、カーテンのようなものでのみされているため、そこを開いておくとリビングからでもキッチンの様子がよく見える。何故そんな説明をわざわざしたのかというと、

 

「改めて、おはようにゃ~」

「あ、八幡先輩。おはようございます」

「おはよ、八幡」

 

リビングに入ると、机に食器等を並べる凛と、キッチンにエプロン姿で立つ真姫と花陽が出迎えてくれたのだから。

 

え、何この幸せ空間。そういや合宿の時は基本的に奉仕部がそっち側だったし、こうして家庭的な彼女たちの姿を見るのは、何気に初なんじゃないか。というかまだ夢見てるんじゃないだろうか。

 

全国のμ‘sファンの諸君――あ、勿論高海たちも含むが、――なんというか、すまん。この瞬間を独り占めしてしまって。

 

「おはよう。つーか、何でこんな朝早いんだ?」

「折角こっちに来たんだもの。少しくらいは観光して帰りたいじゃない?」

「あぁ、なるほどな。まぁ楽しんで」

「って八幡先輩なら言うと思いました」

「当然ヒッキー先輩も一緒に行くにゃ!」

「え~」

 

なんて言ってはみたものの、よく考えたら彼女たちがどこかに行くのであれば、必然俺も駆り出されることになるのは明白である。だって車持ってるの俺だけだし。

 

それにまぁ、偶には家族サービスってわけではないが、こいつらのためにも時間を使うのも悪くはないだろう。実際凛の方は交通費俺が出してたとはいえ、わざわざ俺が呼びつけてここに来ているわけだしな。

 

「わかったわかった。まぁ、車の運転くらいはするわ」

「じゃあじゃあ、凛はあの神社上ってみたい!」

「おいしいごはんが食べたいです!」

「私は、そうね。海の音を聴いてみたいかしら」

「ぷっ」

「?何よ?」

「いや、悪い。同じようなことを言ってた奴がいたから、つい」

 

音楽関係のことをしている奴同士、似ているのだろうか?まさか桜内と同じことを言ってくるとは思わなかった。が、海の音か……あれから一度も海に入っていなかったし、いい機会かもしれない。だんだん暖かくなってきているから、あの時よりかはましだろうし、その近くには花陽が好きそうな海鮮丼のお店もあるしな。凛が魚苦手だが、カレーやラーメンとかもあったし問題ないだろう。と、その前に、

 

「三人は水着とか持ってきてるのか?」

「何よ急に?まぁ一応持ってきてはいるけど」

「海の近くだと聞いていたので」

「バッチリにゃ!」

 

と三人に確認してみたところ問題なく、というかまるでそれが当たり前であるかのように、三人ともちゃんと水着を持ってきているようだ。夏でもないのによく持ってこようと思ったなと感心してしまう。

 

「急にそんなこと聞いてどうしたの?別に見たいなら素直にそう頼めば、」

「いや、違うからから。そういう欲からきた発言じゃないから。海の音聴きたいって言ったろ?ならいい考えがある」

 

少し食い気味に真姫の発言を遮りながら携帯を取り出す。いや、別に見たくないとかそういうのではないが単純にそういうことをストレートに言われるのは流石に照れる。というか本当にぐいぐい来るようになったな、真姫は。そんなことを考えながら、とある番号に電話をかけた。

 

『はい。ダイビングスクール & ショップ松浦です』

「松浦か?比企谷だけど」

『あれ、比企谷先生?電話なんて珍しいね。どうしたの?』

「ちょっと聞きたいんだけど、今日空いてるか?」

『今日?まぁ、午後は空いてるけど。もしかして潜りに来るの?』

「そんなところだ。海の音を聴かせたい奴がいる」

『この前の、桜内さんだっけ?』

「いや、別の奴だ。頼めるか?」

『ふ~ん。まぁいいよ。お客としてきてくれるのは大歓迎。今日は天気もいいし、比較的あったかいから、この前よりも楽しめるかもね』

「そりゃ助かる。時間は13時頃でも大丈夫か?」

『オッケー。じゃあ、お待ちしてます』

 

最後だけちゃんと接客みたいな感じを出しながら、松浦との電話が切れる。三人の方を見ると、不思議そうな表情をしていた。

 

―――――――――――――

 

「八幡、今の電話は?」

「ん、まぁちょっと知り合いにな。とりあえず今言ったやつ全部しに行くとするか」

「えっ?」

「どういうこと?」

「後で説明するわ。取りあえず折角作ってもらったわけだし、冷めないうちに朝食食べていいか?」

「あ、そうですね。ほら凛ちゃん、真姫ちゃん、食べよ!」

 

花陽に促され真姫と凛も自分の席に着く。今日の朝食は和食らしい。普段は忙しさからシンプルになりがちのため、こうしてご飯とみそ汁に加えおかずが充実した朝食というのは仕事を始めてからは初かもしれない。早速一口味わってみる。

 

「うめぇ」

 

思わず言葉がこぼれる。いや、マジで美味い。鮭の塩加減も焼き加減も最高だし、ふっくら炊けてるご飯とめちゃくちゃ合う。味噌汁の濃さも俺好みだし、文句なしだ……一点を除けば。

 

「なぜサラダにトマトがある……」

「冷蔵庫に入っていたんだから、使うにきまってるでしょ?というか何で八幡がトマトを買っていたのか不思議だったのだけど?」

「あぁ、まぁ、貰ったんだよ」

 

引っ越したばかりの頃の買い物帰りに近所の住人から。いい感じの優しげなおばあさんだった。本当に何の脈絡もなく渡されたから戸惑うところもあるにはあったが、折角くれたものを無駄にするわけにもいかないから、基本的にはトマトソースにしてパスタで食べるなどしていたのだが……

 

「あきれた。まだトマトが食べられないの?」

「食べられないんじゃない。進んで食べないだけだ」

「このやりとりも相変わらずにゃ~」

「八幡先輩、好き嫌いはよくないですよ!」

 

折角用意してもらった手前残すのは流石に気が引ける。だがしかし、やはり苦手なものは苦手なわけで……

 

「あぁもう、しょうがないわね。ほら」

 

ずいっと目の前にトマトが差し出される。真姫が自分の箸で俺のトマトをつまみ、口元まで運んできたのだった。いや、だからね。

 

「さっさと食べなさい。体にもいいんだから」

「いや、むしろ余計に食べにくくなったんだけど」

「こうでもしないとずっとぐちぐち言うんでしょ?美少女にあーんしてもらってるんだから、むしろ喜んで食べるところよ」

「だからそういうことを自分で、むぐっ」

 

ついツッコミ気味になり口が大きく開いた瞬間、まるで狙っていたかのように真姫が箸ごとトマトを口の中に差し入れる。驚きこそしたものの、絶妙な力加減でやったのかのどに詰まらせる心配はなかった。仕方がないので取り合えず口の中にあるトマトを噛んでから飲み込む。

 

「…甘い」

「そうね。このトマト、とても甘くておいしいわよね」

 

べちょっとした食感は確かにあったものの、口の中に広がった味は果実のそれに近い。

 

「またここのいいところ、一つ見つけちゃったみたいね」

「……降参だ。おとなしく食べるわ」

「ええ。そうしなさい」

 

クスリといたずらっぽい微笑みを向けてから、真姫も自分の食事を続けるのだった。

 

全く、朝から大変過ぎやしないだろうか。そう一人心の中でため息をつきながらもう一つトマトを、今度は自分から口の中に放り込む。

 

やっぱり、甘いわ。

 




なんだろう……なんか、八幡と真姫の絡みがすっごい書きやすい。

なんだこれ?
何故かはわからないけれども凄くスラスラ書けちゃう。

なんでだろ?
まぁ、今はありがたいんですけどね笑


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たまには観光気分も悪くはない

緊急事態宣言出ちゃいましたね~
というわけで私も自宅勤務(ほとんどできない)になりましたorz

まぁ折角与えられた時間をこっち方面に割けるのでまぁ、更新するとしますかね。


さて、無事に朝食を食べ終えた俺たちは、俺の運転する車に乗り込み昨日ぶりに淡島に向かうのだった。今日は練習も休みのはずだし、高海たちに会う可能性はかなり低いはずだ。変に張り切り過ぎて体の調子を崩さないように、ちゃんと休むのも仕事のうちと言い含めてあるしな。今の俺は外部のマネージャーではなく、顧問としてあいつらの健康も預かる義務があるしな。

 

まぁ、それはさておき――

 

「ここがそう?」

「ああ。Aqoursの練習場所の一つ、淡島神社に続く地獄の階段だ」

 

俺たちは、階段の入り口に立っていたのだった。

 

おお~っと改めて階段を見上げる凛と初見の花陽の声がハモる。真姫はというと、

 

「本当にこれを上り下りしてるの?歩きで往復50分って書いてあるんだけど」

 

と、階段横に設置されている看板に目をやり、驚愕の表情を浮かべている。

 

「まぁ、一応な。ちなみにちゃんと駆け上がれたのは昨日の練習が初めてだ」

「そう。すごいじゃない、あなたの教え子たち」

「そうだな。まっ、俺たちはゆっくりと「いっくにゃ~!」っておい」

 

こちらのことなどお構いなしに、凛は勢いよく階段を駆け上り始めるのだった。いや、なんでそんなげんきなんですかね?そしていつの間にポニテにしたんだお前?

 

「あっ、凛ちゃん待ってよ~!」

 

慌てるように花陽が凛の後を追いかけて階段を上り始める。ちらりと真姫の方を見ると、ほぼ同時にこちらを見ていたらしく視線が合い――

 

「「ぷっ」」

 

ついつい二人そろって笑いだしてしまった。

 

「変わらないわね、ああいうところは」

「だな。んじゃ俺たちはゆっくり上るとしますかね。その靴じゃ走るのきついだろうし」

 

ちらりと真姫の靴を見ながら言う。凛や花陽は比較的動きやすそうな靴だったのに対し、真姫の靴にはヒールがついているため、走るのには向いていないだろう。

 

「よく見てるわね」

「まぁ、癖みたいなもんだな」

「そうね。いつもよく見ていてくれたものね」

「まぁ、おかげで今も役に立ってるわ」

「そう」

 

のんびり、というほどゆっくりではなかったかもしれないが、結局俺と真姫は話しながら階段を上るのだった。

 

 

 

「あっ、ヒッキー先輩も真姫ちゃんも!遅~い!」

「いや、これを駆け上がろうとする方がおかしいから」

 

なんやかんやで階段を上りきると、近くの石に腰掛けている花陽と、賽銭箱の前から手を大きく振っている凛に出迎えられる。

 

「花陽、大丈夫?ほら、お水」

「う、うん。ありがとう真姫ちゃん。ちょっと久しぶりにこんなに階段上ったから、ふぅ」

「全く、準備運動もしないで」

「でもでも、やっぱりたくさん走るのは気持ちいいよ!なんだか昔を思い出しちゃった」

 

真姫から水をもらい呼吸を整えながらも、花陽は満面の笑顔だった。ダレカタスケテ~ってなっているのかと思いきや、そのあたりは大人になったからなのかもしれない。

 

「じゃ、まぁお願い事はもうした感じか?」

「あ、まだですよ。二人を待っていました」

「ほ~ら~!かよちんも真姫ちゃんも、ヒッキー先輩も!早く来るにゃ~」

 

ぴょんぴょんと跳ねるようにしながら凛が手招きしてくる。肩をすくめ、真姫たちの方を見ると、丁度花陽が真姫に水を返して立ち上がっていた。

 

「じゃ、願い事して下りるとするか」

「ええ」「はい」

「は~や~く~!」

 

凛の呼ぶ声がさらに大きくなる。苦笑しながらも俺たち三人は凛の隣、賽銭箱の前に並び、願い事をするのだった。とりあえずは健康と、高海たちの活動がうまくいくようにと、あとは――

 

(これからも、あいつらと確かな繋がりを持てるように。あと、ちゃんとした答えが、自分の中で出せるように)

 

そんなこと、わざわざ神様にお願いするようなことでもないのかもしれないけれども、ただそれでも、為したいこと、為さなければいけないこと、それを自分の中でちゃんと意識することができた、そんな気がした。

 

「さてと、んじゃ移動するか。ちょっと早いが、腹ごしらえしに行くぞ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神社の階段を下りきり、そこから歩くことしばし。

 

店内にはまだそんなに人はおらず、大き目の窓のそばの四人掛けの席に腰掛けていた俺たちの前には、

 

「うわぁ」

「結構大きいわね」

「とっても美味しそうです♪」

 

ここに来て一番といっていいほどにまで、花陽のテンションが上がった。

 

目の前に並んでいるのは4つのどんぶり。それも普段見るものと比較しても確実に二回りはでかい。そこに乗せられているのは花陽の大好きな白いごはん、そして各々の注文に合わせた色とりどりのトッピング。

 

「すげぇな」

 

と、思わず言葉をもらした。口伝で話は聞いていたけれども、なかなかどうして見た目からして美味そうである。そういえばと思いだしたが、なんだかんだ言って、今回内浦に引っ越してきてから初の海鮮丼である。

 

「カレーがあってよかったわね、凛」

「うん!シーフードカレーって言ってたから大丈夫かな?って思ったけど、美味しいにゃ~」

「お米もたくさん食べられて、幸せ~」

「いやマジで美味いな」

 

流石は海辺の海鮮丼。新鮮な食材を使っているからだろうか、感じたことのないうま味に舌鼓を打つ。

 

「でも、良かったんですか?おごってもらっちゃって」

「まぁ気にするな。これでも社会人だからな」

「ヒッキー先輩太っ腹にゃ~。昔と違って」

「一言余計だからな~、凛」

「いひゃいいひゃい」

 

隣に座る凛の頬を引っ張りながら気にするなと花陽に言う。特に花陽に関して言うならば変に遠慮してしまうよりは気兼ねなく食べてもらえた方がいい。

 

「で、でも……」

「それにな、どうせなら満足するまで食べてくれたほうが、俺としてもおごりがいがあるしな。変に遠慮とかするなよ」

「あっ……じゃあ、お米…おかわりしても、いいでしょうか?」

 

おずおずと恥ずかしそうにしながらも、花陽が小さく尋ねた。控えめに意見を言いながらも、ちらりと向けられた視線からはしっかりと物欲しそうな感情が見えていることに小さく笑ってしまう。あぁ本当に、こういうところが花陽の可愛らしさなのだ。そして、

 

「ああ。好きなだけしてもいいぞ」

「!あ、ありがとうございます!すみませ~ん!」

 

ペカーッ、とかパァァァ、だとかまぁなんと表現すべきなのだろうか。この時に花陽が見せる笑顔は、それこそ漫画のような効果音が背景に見えるのではないかと思わせるほどまぶしく、明るく、可愛らしいものになるのだ。あの小町に勝るとも劣らないのがまたすごい。

 

キラキラした瞳でご飯が運ばれてくるのを見つめる花陽を見て心が温まったところで、俺も自分の海鮮丼完食に向けて箸を進めるのだった。

 

まぁ、そんなこんなで、お昼の時間もなかなかに有意義なものとして過ぎていった。

 

そして次に俺たちが向かったのは――

 




次でいよいよ彼女たちががが……

どんな話をするだろうか……

いやいやいやいや、これはこれでなかなか書くのが難しそうですわね(-_-;)


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松浦果南は困惑し、思考する

と、いうわけで(どういうわけだ?)今回最初に遭遇するのは、この人!
理由としては、まぁある意味消去法でした。

理由についてはあとがきにて。
短めですが、続きをばどうぞ~。


「松浦、いるか~?」

 

いよいよ本日のメインイベント、というかまぁ真姫の希望に応えるためにやってきました、ダイビングスクール & ショップ松浦。一応事前の連絡は入れていたものの、確認を取るべく声をかける。

 

「お、比企谷先生。流石時間通りだね」

 

店の奥のほうから声が聞こえたかと思ったら、ウェットスーツの上半身部を腰あたりで結び、おそらくは水着の上からTシャツを着た状態の松浦が現れた。干されているまだ濡れたウェットスーツやマスク等の状況から察するに、俺たちが来る前にも誰かが潜りに来ていたらしい。

 

「悪いな、急な頼みになっちまって」

「気にしないでいいよ。私としてもお客さんが来てくれるのはありがたいし、それに今日は海もだいぶいい感じだし。それで、もしかして先生の後ろにいるのが電話で話してた人たち?」

 

首を傾げるように松浦が俺の後ろをのぞき込む。俺が女性を三人も連れて来たことを意外と思っているのか、興味津々といったところか。

 

「初めまして。ここの店の娘で、比企谷先生の教えている学校の生徒、松浦果南です」

「一応、だけどな。店の手伝いで休学中だからまだ何も教えてない気もするが」

「まぁそうだね。でもちょくちょく様子見に来てくれてるから、休学で会っていないって感じはしないけどね。それで、皆さんは比企谷先生のお友達ですか?ん、あれ?どこかでお会いしたことがあるような……」

 

軽い挨拶を松浦が済ませ、適当に会話をしたところで松浦が三人のほうを見たところで首を傾げる――今度は頭に疑問符を浮かべるように。ん~、と考え込んでいる松浦に向かい合うように、彼女たちが返事をするように自己紹介をする。

 

「初めまして、西木野真姫よ。八幡の、そうね。友人ということになるかしらね」

「真姫ちゃん、そんな変な言い方しなくてもいいのに。初めまして、小泉花陽です」

「凛、じゃなくて、私は星空凛。よろしくね」

「えっ、あれ?……もしかして……μ’sの?」

「ええ、そうね。知っていてくれたの?ありがとう」

 

本気で驚いた表情の松浦に真姫が微笑みかける。声に出していないが、花陽と凛もうれしそうにしている。もう5年も前のことだというのに、それを知ってくれている人がいることが、やはり嬉しいのだろう。

 

「えっ、あ、はい……比企谷先生、μ’sと知り合いなの?」

「ん、まぁいろいろあってな。というかお前μ’sのこと知ってたんだな」

「そりゃダイヤが……って、そんなことよりどんな経緯で知り合ったの?」

「あ~……まぁ、話すと長くなるんだよな……とりあえずまた今度でもいいか?今日は長話をしに来たわけでもないしな」

「あ、そうだね。じゃあまた今度聞かせてもらうことにするよ。今日は海に入りに来てくれたんだしね。皆さん水着とかはお持ちですか?」

 

気を取り直したらしい松浦が接客モードに切り替わる。

 

「あ、持ってきてます」

「じゃあ更衣室にご案内しますね。比企谷先生は場所わかると思うけど、いいかな?」

「ん、大丈夫だ。そっちは頼むわ」

「了解。じゃあ先生の分もウェットスーツとかの用意はしてあるよ。前と一緒でいい?」

「ん、サンキューな」

「はーい。じゃあ皆さんはこちらへお願いします」

「じゃ、八幡。また後で」

「おう」

 

松浦に連れられて行く三人を見送り、とりあえず着替えるために自分も更衣室に向かう。割と何度も来ていたけれども、実際に更衣室を利用するのはだいぶんに久しぶりな気もするな。

 

――――――――――――――――――――

 

Side Girls

「あの、少し聞いてもいいですか?」

 

三人にあったウェットスーツを用意しながら質問してみる。

 

三人。それも、あのμ’sの。

 

私たち三人が、そして千歌たち三人が憧れた――憧れている人たち。

 

その人たちを連れて来たのは、自分たちの学校の先生。しかも、その人が千歌たちの部活の顧問をしているだなんて。偶然?にしてはできすぎている気がする。

 

そもそも――

 

「三人と先生は、どういった経緯で知り合ったんですか?」

 

そうね、と小さくつぶやいたのは西木野真姫さん。とてもきれいな人で、なんだか先生と親密な感じを出していたから、ひょっとして恋人?とも思ったけれども、先生の様子だと違うのだろう。

 

雑誌とかで見たときにはショートヘアだったのがロングになっている星空凛さん、雰囲気が大人っぽい小泉花陽さん。三人が顔を見合わせてから、こちらを向いた。

 

「八幡はね、私たちがμ’sに入るためのきっかけをくれたのよ」

「きっかけ、ですか?」

「そうだね。踏み出す勇気を持てなかった私たちの背中を押してくれたんだ」

「音ノ木坂って女子高、ですよね?どうやって知り合ったんですか?」

「えっと、八幡先輩はね、私たちが入る前からμ’sのお手伝いをしてたんだ」

「えっ?」

 

μ'sの、お手伝い?しかも三人が入る前ってことは、高坂穂乃果さん、園田海未さん、南ことりさんの三人だけで活動していた頃のことだろう。でもそれって、

 

「活動初期の話、ですよねそれ?」

「ええ。八幡は部活動できていたのよ」

「部活動?」

「うん。奉仕部っていって、簡単に言うと人助けをする部活、かな?そこに穂乃果ちゃんたちからの依頼があったみたいで」

「だから時々千葉のほうからわざわざ来てくれてたんだよね」

 

人助けの部活、ね。こう言っては何だけれど、あまり先生のイメージにはない感じだなぁ。入部したのにも何か理由があるのかもね。っと、いけない。少し話し込みそうになってしまった。あまり先生を待たせるわけにもいかないしね。

 

「じゃあ、準備ができましたので行きましょう」

「ええ。お願いするわ」

「楽しみだね、凛ちゃん」

「うん!海の中、どんななんだろうね!」

 

本当に楽しそうにそう言ってくれることが、接客する側としてはとてもうれしい。ああ、こんなに素直に感情を表現できる人たちだから、ひょっとしたらラブライブもそしてそのあとも全部乗り越えてこれたのかもしれない。

 

素直に……か。

 

少し、思うことはある。あるけれども、それは自分たちの問題で、自分たちの話だから。

 

だから、今は――

 

「比企谷先生、お待たせ~」

 

お客様を楽しませることだけを考えよう。

 




さて今回松浦さんがμ'sのメンバーと遭遇することとなりました。
理由としては以下の感じです。

1.小原さんはもう知ってる
2.生徒会長はまだお堅くあってほしい
3.現在のAqoursのメンバーにはのちの展開で知ってほしいから
4.最後の一人は絶賛ヒッキー中だから

これらの要因+メンバーが知るシーンでは登場しない予定だからという理由で、今回は松浦さんに先に知ってもらおうということにしました。
休学中だから秘密も守りやすいだろうしね。

ってなわけで、次か次の次で一応一年生旅行編は終了の予定です。
いよいよヒッキーしてる堕天使を……


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秘密の理由

Aqoursももう5周年でしたか~

いやはや、なんともまぁそんなに長いんですね~なんて思ってみたり。
私がAqoursを知ったのが2018年なので年前、それよりも倍以上長く活動していたのを知らなかったとは……

まぁ、それでも、今は知っているので笑

はいはいではでは、続きませう。


「比企谷先生、お待たせ~」

「ん、おう」

 

着替えも終わり、松浦が用意してくれていたウェットスーツを着終わってボケーっとしていると女子組の準備も終わったらしく、松浦が更衣室から出ながら声をかけてくる。ちらりと

松浦の表情を見て――

 

「ん?」

「?どうしたの?」

「……なんかあったか?」

 

ふとそんな問いかけをしてしまう。

自慢ではないが俺は人間観察力には自信がある。高校の頃も割とそのことは自信はあったし、なんなら自分の特技としてカウントしていたが、今はそれ以上だと言い切れる。人の心の機微、感情――あの頃はわかっているようでわからないものとしっかりと向かい合うことができたから。

 

まぁ、それはさておきではあるが、そんな自分がちらっと見たときに感じてしまった違和感。いつもの、と言えるほど松浦と顔を突き合わせたことがあるわけではないのだけれども、その表情に若干の曇りを感じた。感じてしまった。

 

「?何かって?」

「いや、まぁなんとなく、だな。悪い、気にすんな」

「そう?じゃあ、マスクとかフィンとか運ぶの手伝ってもらっていい?」

「ん、わかった」

 

とりあえず踏み込みすぎもよろしくないだろうし、今話すべきことではないだろうから首を

振っておく。まぁでも、一応教師だしな。いつか話を聞くことになるかもしれない。その時

はその時で、やれることをするとしますかね。

 

-------------------------

 

Side diver

 

「なんかあったか?」

 

なんて、急に聞かれるとは思わなかった。そんなに私は、わかりやすかったのだろうか?

 

結局何でもないと踏み込まずにはいてくれたけれども、私にはそれがありがたいのか、それとも踏み込んでほしかったのかもよくわからないや。

 

内心の動揺をなるべく悟られないように先生に手伝ってもらいながら真姫さんたちを外に案内する。なんだか不思議な感じだけれど、千歌たちはこのことを知っているのかな?

 

「ねぇ先生。千歌たちは知ってるの?」

「ん?あぁ、μ’sのことか?いや、言ってない」

「どうして?きっと喜ぶし話が聞きたいと思うけど」

「ん、まぁいろいろあるんだよ」

 

ばつが悪いのか目をそらしながら話す比企谷先生。こっちはこっちでいろいろありそうな感じなのかな?

 

毎週のように一対一で顔を合わせているけれども、よく考えたら先生と踏み込んだ話なんてしたことがなかったような気がする。それは先生が意図的にそうしているのか、それともただ偶然そうだったのかはわからないけれど、それに気づいた途端急に不思議に思ってしまった。

 

「準備オッケーみたいだな」

「ええ。海の音を聴かせてくれるって言ってたからどうするのかと思ったけど、スキンダイビングだなんて。よく思いついたわね」

「まぁ、似たようなことがあった、とだけ言っておくわ」

「むむっ、なんだか女の子の気配を感じるにゃ~」

「八幡先生はモテますから」

「違うからね、そういうのじゃないから」

 

ああ、なんだろう。あの時来ていた千歌達を見たときにも少し思ったけど、この人たちを見ていると余計にまぶしく見えてしまう。

 

暗くなりそうな気持を振り払うように軽く頭を振る。

 

「じゃ、そろそろ水の中に入りましょうか」

「おう」

 

その先生の返事を受けて、私たちは海の中へと飛び込んだ。

 

------------------------

 

Side teacher

 

「ふぅ……」

「お疲れ様、先生」

「おう。サンキューな、松浦」

 

渡されたタオルで髪を拭きながら息を吐きだす。そんなに長い時間運動していたわけでもないはずなのに、やはり水の中で行動することは思っていたよりもずっと体力を消耗してしまう。朝からいろいろとしていたことも影響しているのか、この前よりも疲労感を感じている。

 

とはいえ、

 

「水の中綺麗だったね、かよちん!」

「うん!いろんな色のお魚もいたし。真姫ちゃんは?」

「ええ。とても有意義だったわ。それに、なんだか海の中にいたから気づけたこともあった気がする」

「おおっ、流石真姫ちゃん!」

「ちょっ、凛。急にくっつかないの」

 

揺れる船の上でわちゃわちゃしている三人を見ていると、こういう大変な一日を過ごすのもたまにはいいのかもしれない……たまに?あれ、なんだか最近ほぼ毎日こんな調子だった気がしてくるのは気のせいだろうか?

 

「内浦の海、楽しんでもらえたみたいでよかった」

「みたいだな。ありがとな」

「いえいえ。なんてったって先生の紹介なんだから、そりゃしっかりやらないと」

「まぁ、それでもな。割と急な話ではあったわけだし」

「ふふ。どういたしまして」

 

くすくすと笑う松浦から視線をそらし三人のほうを見る。姦しいというかどこか百合百合しいというか、とにかくあの三人がわちゃわちゃしているのはあの頃を強く思い出させてくれる。と、松浦のほうから何か聞きたげな視線を感じる。いや、正確には何を聞きたがっているのかは予想がつくのだが……

 

「はぁ。あいつらからどこまで聞いた?」

「先生がμ’sに入るきっかけを作ってくれたって話くらいかな?あとは、先生が部活動の一環でお手伝いをしていたってこと?」

「まぁ大体そういう感じだな。あの三人が入る前、穂乃果、ことり、海未の三人が初めて人前でパフォーマンスすることとなったくらいから、俺は部活動としてあいつらの活動に関わることになった。で、そこからあいつらが解散するまでの間手伝ってたってわけだ」

「手伝ってた、ね~。ライブの準備とか?」

「まぁいろいろだな。ライブの宣伝もそうだがPVの撮影とか。あとは部活仲間は練習メニューの管理とかいろいろとやってたな」

「なるほどね。だから千歌たちに協力してあげようと思ったわけだ。昔を思い出して」

「……ま、それもあるな」

「ふ~ん。で?千歌たちにはずっと内緒にしてるつもり?」

「どうだろうな。別にどうしても知られたくないわけじゃない。ただーー」

「ただ?」

 

言葉を区切った俺の様子に首をかしげるように松浦がのぞき込む。

 

「今の高海はμ’sに憧れすぎている気がしてな。別に憧れることが悪いわけじゃないが、μ'sになりたいだとか、まったく同じにとか思っているようなら問題だ。俺がμ’sの手伝いをしていたと分かれば、あいつはーーいや、ほかのメンバーもだ、俺に判断を仰ぎ、下手すると依存しだすかもしれない」

 

そんなものは、そいつ自身の成果とはとても言えない。それにそれは奉仕部のーー俺の主義に反する行いだ。そんなことをしていたら、俺はあのクリスマスイベントから何も変わっていないことになってしまうし、それがどんな結果をもたらすかを忘れてしまったことになる。それは、だめだ。

 

「もし本当にスクールアイドルをやりたいと思うなら、あいつら自身が道を決めていかなければ、意味がないからな」

「ふ~ん。先生なりにちゃんと考えた上でってことなのか。単に色々聞かれるのを面倒くさがっただけなのかと思ってた」

「まぁぶっちゃけそれもあるな」

「あっちゃうんだ」

 

少しばかりあきれ混じりに松浦が笑う。とりあえずの疑問はどうやら解消して、ついでにいうなら俺の大雑把な説明でも納得はしてくれたらしい。こういうところは大人びている、というより一線を引いた立ち位置を自ら持つようにしているように思える。

 

必要以上に踏み込まない。それは俺があくまで先生という目上の人だからか、あるいは客だからか、それとも……

 

「そういや、復学はいつごろになりそうなんだ?もうそろそろだろ?」

「うん。来週かその次くらいには」

「そうか」

 

まぁ、そんなこんなで。松浦との話も終え無事にダイビングショップまで戻った俺たちは、しっかりと本日の目標を達成することができたのだった。

 




この作品の比企谷八幡はμ'sと関りがあるのに何故Aqoursに伝えないのか、それについてを今回は書かせていただきました。

飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教える。

ただ何でもかんでも教えてあげるのではなく、あくまでそのヒントを与えるというポジションでいるためにも、秘密にしておくことが大事かと思ったわけです。

まぁ、もちろん最終的には知られることにはなるわけですが(-_-;)
今はまだその時ではないということで!

では、また書きます!……た、多分……が、頑張ります、はい。


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そんなわけで、彼は一年生組と関わり続ける

いやぁ、もう8月ですね~。

8月といえば、高海千歌さんの誕生日と、高坂穂乃果さんの誕生日。
更に言えばもう二人……っと、これについてはまたいずれ笑

んじゃ、新しい月になったんで1話載せま~す。


「はぁ~、楽しかったにゃ~!!」

「ほら凛ちゃん、お茶。真姫ちゃんと八幡先輩もどうぞ」

「ありがとう」

「サンキュ」

 

松浦のところを離れた俺たちは再び俺の家に戻り、夕飯を食べた後、こうしてくつろいでいるのだった。いやほんと、くつろげるの最高だわ。

 

「それにしてもずいぶんと早く時間が過ぎた気がするわ。明日の昼にはこっちを出ているわけだし」

「ほんとだにゃ~。もっともっとヒッキー先輩と遊びたかったにゃ~」

「まぁまぁ凛ちゃん。他のみんなは来られてないんだから、私たちはラッキーなほうだと思って」

「そうね。それに、別にまた来ちゃいけないわけじゃないでしょ。ね、八幡」

 

綺麗な姿勢でお茶を一口飲み、湯飲みを手にしたまま真姫が視線をこちらに向ける。それにつられるようにか、花陽と凛が――なんだかいたずらが成功したかのような笑顔で、こちらを見る。

 

「はぁ……別にダメというわけじゃない。事前に連絡入れてくれたら、まぁ、スケジュールの調整くらいには応じる。幸いというか、用意してもらったこの家も広いしな。部屋には困らないし、なんなら一人で使うには広すぎるまであるしな」

 

そう返すことしか、思いつかなかった。これで言質をとられてしまったわけなのだから今後度々こいつらが来ることになってしまう可能性は大いにあるが、まぁ、偶にならこういうのも悪くないと思える。

 

「じゃあじゃあ、次はいつ来る?」

「真姫ちゃんがお休み取れる時がいいよね。一番忙しいみたいだし」

「そうね。少し先の方で予定を調整できれば一番なのだけれど」

「ちょっと。気が早くありません、君たち?」

 

前言撤回。

偶にじゃなくなる気しかしないんですけどこれじゃ。

 

そうこうしているうちに夜も更けていく。

思い出に浸る時間は、どうやら終了ということらしい。

 

お茶を飲み終えた俺たちは、そのままそれぞれの寝室へと向かい、眠りにつくのだった。

 

 

 

翌日。

 

車を停める場所を探すことが面倒くさいということもあり、俺は三人とともにバスで沼津駅に来ていたのだった。まぁ、幸い荷物が異常に多いということもなく、時間帯的にはそこまで人が乗っていないこともあり、ここまでの移動自体は割かしスムーズだった。

 

「んじゃ、またな」

「あっさり!?もう少し名残惜しむとかないのかな~?」

「まぁまぁ凛ちゃん。これはこれで八幡先輩らしいし」

「いや、そんなところフォローする必要ないでしょ、花陽」

「いやほら、名残惜しむって言ったがお前らどうせまたすぐ来る気だろ?なんというか、惜しむほどのことか?」

 

思わず首をかしげるが、それに対して三人からいただいたのは少しあきれたような、やれやれとでも言いたいような、そんな表情だった。

 

「これだからヒッキー先輩は」

「そうね。これだから八幡は」

「そうだね」

「おいまて。なんだその『しょ~がないわね~』みたいな、小町が良く見せてた空気。小町に会いたくなっちゃうだろうが」

「いや、それは知らないわよ」

 

ちょっと真姫さん、そんなジト目で見ながらバッサリと切るのやめてくれません?あなた三人の中じゃ一番眼力あるから小心者の僕としては、そんな目で見られると委縮しちゃうしなんだかついでに何かに目覚めそうになるから。

 

「まったく。本当に全然変わらないんだから。でも、安心したわ。私の知らないところで他の誰かのものになっているわけじゃなかったみたいだし」

「さすがにそんなことはしねぇよ。ちゃんと向き合って、答えを出すって言ったしな」

「ならいいわ。それと、今回私と花陽は会えなかったけど、また今度あなたの担当しているスクールアイドルの子たちにちゃんと会わせてよね」

「私もぜひ会ってみたいです!」

「私も、今度はちゃんと星空凛だって名乗って会いたいな」

「まぁ……そのうちな」

 

そのうち、というのがいつのことになるかはわからないけれども。

 

少なくともまだしばらくは、明かさずにいるしかないのかもしれないけれども。

 

ただ、いつかはちゃんと会わせてやりたい、そう思っている。いつか――あいつらが自分の道を、自分たちで進めるようになったら、その時は――

 

「そん時は、まぁ会っていろいろ話してやってくれ」

「その時を楽しみにしてますね」

「そうだね」

「ええ」

 

なんだかおかしくなって4人そろってついつい笑ってしまう。

 

「じゃあ、そろそろ行きましょう」

「うん。八幡先輩、また、です」

「お仕事、元気に頑張ってね」

「またね、八幡」

「おう。お前らも、気をつけてな」

 

流石に改札内まで入ることはせず、俺は三人が改札をくぐるところを少し離れた場所から眺めていた。最後に三人が振り返り、手を振ってきたので小さく返す。そうして見送る中、三人は階段のほうへと進み――

 

「またな」

 

――そうして、その姿は見えなくなった。

 

―――――――――――

 

さて、と。

 

まきりんぱなの三人を無事に見送ったはいいものの、この後直帰するのもなんだかなぁ、である。ちらりと携帯を見て時間を確認すると、まだまだお昼を少し過ぎたころ。明日からまたしっかりと仕事があるとはいえ、時間に余裕はある。普段はあまり来ない沼津まで折角来たのだから、せめて書店の方に寄っていくことくらいはしたい。

 

「そうときまれば、っと」

「わっ」

 

携帯をポケットにしまいながら一歩踏み出した時、近くまで来ていたことに気づけなかった少女とぶつかってしまった。

 

体格の差もあり俺はよろけるだけで済んだが、少女の方はしりもちをついてしまったらしく、地面に手をつき、俯いてしまっていて、買ったばかりなのだろうか、彼女が持っていた袋から本が飛び出している。

 

「すまん、大丈夫か?って……ん?」

「あったた……はうっ」

 

とりあえず差し出した手を見つめる少女……いや、たぶん見つめている、のだと思う。

 

そんなあいまいな表現になってしまうのは許してほしい。何せ彼女の表情が全く読めないのだ。いや、比喩的な意味ではなく、物理的な意味で。少し大きめな真っ黒なサングラスに、これまた大きめなマスク。これによって、彼女の顔のほとんどが物理的に隠されてしまっているのだ。

 

……なんというか、どこかで見たことのあるスタイルだなぁ、なんてしみじみ思うことしばし、ふと少女の髪――より正確に言うのならば、少女右側頭部にお団子状にまとめられたつややかな黒髪が目に留まった。

 

どことなく見覚えのあるそのお団子――いや、勿論由比ヶ浜のことではないが――思考することしばし、ふと思い出した。入学式の時のことを。

 

「お前、津島か?」

「うぐっ――な、なんのことかしら?私はただの通りすがりの……通りすがりの、え~と」

「いや、何も思いつかないなら変にごまかそうとしなくていいだろ。それともあれか?堕天使ヨハネって呼んだ方が良かったか?」

「うぅっ!?ち、違うわよ!私はそういうの、卒業したんだから!」

「ほぉ、卒業、ねぇ~」

 

そう呟きながら視線を彼女の落とした本に向ける。

 

「んじゃ、その黒魔術の本は」

「ギクッ!?だ、だから違うのよ。これはそう、その……」

 

あたふたとしながら視線をあちこちさまよわせる津島。なんともまぁ、別にいじめようと思っているわけではないが、これではなんだか悪いことをしているみたいだ。まぁしかし、ここでこいつと会ったのも、悪いことばかりではないか。俺がこいつ(とそのクラスメイト)のために使っている時間の間、一人で家に籠っている理由が気になっていなかったわけではない。ついでに言うなら、何かと国木田も気にしているようだったしな。

 

「とりあえず落ち着け。というか、丁度いいわ。お前の話を聞くいい機会だ」

「話?何のこと?」

「まぁ、うちの学校は生徒数が少ないからな。その分、いない奴は余計に目立つわけだ。で、現在うちに在籍していながら通っていない生徒は二人。一人は正規の休学届が受理されているし、まぁ俺もちょくちょく様子を見に行ってるから事情は把握している。で、だ。そのもう一人って言うのは……まぁ、言わなくてもわかるよな」

「うっ」

「まっ、そんなわけだ。別に担任でも副担任でもないが、俺の授業を受けてない奴がいるのも気になるからな。せめてわけでも聞いておかないと、割に合わないんだよ」

「うぅ……わかったわよ。話せばいいんでしょ、話せば」

「そうしてくれると助かる。まぁ、コーヒーくらいならおごってやるから、とりあえず話を聞かせろ」

 

そんなわけで。

 

どうやら今日の休みもすんなりとお休みというわけにはならないらしい。

 

――まぁ、今回に関しては自業自得、というのか???

 




前書きで触れなかったところについては、まぁ、ちゃんと触れますから。

そのうち、ね笑


いや、真面目な話をしますと番外編という形式で書いてるやつがあるんですね、これが。色々設定が異なってしまうため、ここに載せるかで悩みましたが、まぁ、そこは心を広く持って読んで欲しい、ということでお願いします。

では皆さん、来週をお待ち下され~ サレ~>


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Road to TOKYO
堕天使(フォールン・エンジェル)


堕天、ギランッ! 
(<ゝω・)

というわけでヨハネ'sエピソードですね~。
それではやって行きまっしょう~。




沼津駅のすぐ近くにある仲見世商店街。大き目の書店もあり、俺や国木田もよく利用しに来ているが、今現在。俺はその書店から少し離れた場所にある珈琲店に来ている。飲み物を注文し受け取った後、空いている席に座った俺の目の前には、同じく飲み物を持った津島が座っている。

 

「まぁ、念のために自己紹介しとくわ。お前、授業初日からいなかったしな」

「あ、うん。じゃなくて、はい」

「比企谷八幡だ。浦女で現代文担当、及び2年生の副担任をしてる。後は一応スクールアイドル部の顧問もやってる」

「スクールアイドル部の顧問?あの先輩たち、本当に部活にしたのね。それにしても顧問って、先輩たちのことを手伝っていたみたいですけど、先生もスクールアイドル好きだったんですか?」

「好きかどうかといわれるとまぁ好きではあるな」

「それは、なんだか意外ですね……てっきりそういうの苦手かと思ってました。すみません」

「いや、別に謝らんでもいいだろ。まぁ昔は苦手だったしな。ただ、高校生活中にちょっとしたパラダイムシフトがあったというか……って、それより、俺の紹介はしたぞ。今度はそっちの番だぞ、堕天使ヨハネ」

「えっ、いや、そうじゃなくて!私はヨハネじゃなくて、津島よっ、よっ、よし……」

 

ぐぬぬとか効果音が聞こえてきそうなくらいに葛藤している目の前の少女。肝心の名前のところでこんなにも詰まっている。だから、そこがある種の肝なんじゃないか、そう思った。

 

名前というのは良くも悪くも付けられたものを定義づける。個別の名称――固有名詞がつけられるだけで、その他大勢からたった一つの個として独立を果たすことができるのだ。故に、名前というものは個人個人にとって一種のアイデンティティであり、大切なものだ。

 

だから間違えて覚えるというのは下手をしたら、というか下手をしなくても割かし失礼な行為なのだ。わかったか戸部?いや、今はわざと前と同じ呼び方をしてるっぽいから何とも言えないが……

 

ましてや人の名前を意図的にいじるのもよろしくないんだ。わかるか、ゆきのん?あ、はい、ごめんなさい。何で絶対聞こえてないはずなのに凄い寒気を感じるんだ!?

 

んんっ。話を戻そう。

まぁつまり、だ。名前というのは個人にとっていやおうなしに重要なものなのだ。その名前を名乗るということに対して抵抗感を感じている。それはその名前、ひいては名前で定義づけられている自分自身からの脱却を望んでいるということだ。

 

現状を変えたくて、自分自身を変えたくてーーだからこそ、自分の名前を忌避し、別の自分を探す。

 

それこそが彼女、津島善子にとってのーー

 

「とりあえずめんどいからもう堕天使ヨハネ、ってことでいいか?」

「いや、だからっ、それは……」

「まぁ、さっき卒業だの言ってたことについては詳しく聞くつもりはねぇけどさ。気になってたことがあってな」

「な、何ですか?」

「いや、お前なんで学校来なくなったんだ?初日の授業の時からお前の姿を教室で一度も見たことないし、普通に入学式には来てたわけだから引きこもらないといけないとか、そういうわけでもなかったんだろ?」

 

見た限りでは元気そうにしているため、重病であるとか俺がしたように入院しているだとかそういったわけではなさそうだ。家庭の事情かとも思ったが、自由に出歩いていることやさっき落とした買い物の内容からしても深刻な事態が発生しているわけではなさそうに思える。

 

となると、ぱっと見や単純な連想からではわからない何かがあった、そう考えるしかない。そういうものに関しては外野があれこれ勝手に空想したところでたどり着けるものでもないだろうし、その場合変に勘違いして干渉すると余計な真似であり、ろくなことにはならないだろう。

 

ならば話は簡単だ。

 

俺は教師で、こいつは(一応)俺の生徒。

 

どっかのお節介焼の恩人のように、生徒の悩みを先生が聞くこと、それ自体は何ら不自然ではないだろうし、立場的にも間違ったことではないだろう。

 

「あいつも気にしてたぞ。国木田のやつが」

「っ、ズラ丸が?」

「その名前で呼ばれそうなやつは一人しか心当たりがないが、まぁ多分あってる。ちなみにあいつもうちの部員だ」

「えっ?」

 

国木田から聞いた話によると、国木田と津島は幼稚園の頃に仲良くしていた所謂幼馴染らしい。とは言ったものの、小学校・中学校は別だったこともあり、高校入学時に再会できたのが嬉しかったとのことだった。まぁ、それだけに1つしかないクラスで一緒に高校生活を過ごせるはずだった幼馴染がずっと来ていないとなったら、心配もするだろう。

 

「ズラ丸、私のこと何か言ってました?」

「ん?まぁ幼稚園来の幼馴染だってことくらいしか聞いてないが」

「そう、ですか。それにしてもズラ丸がスクールアイドル部に……」

 

ぶつぶつと何やら呟きながら考え込む津島。少しは学校で起きていることに関心を持ってもらえたらしい。

 

「で、まぁ部員が心配しているし、俺も顧問として、それから教師として気にしないわけにもいかないからな。だから、できれば学校に来られない理由を話してくれると助かる。まぁ、無理にとは言わんが」

「うっ、そ、それは……その。クラスのみんな、笑ってませんでした?」

「は?何を?」

「その、私のこととか……」

「いや、そんなそぶりは見た感じなかったが「本当ですか!?」お、おう」

 

突然身を乗り出すように立ち上がる津島。流石に店内でマスクは外してくれたものの、こちら側からは瞳の様子が見えないタイプのサングラスをかけている状態で顔を近づけられると妙な迫力がある。

 

というか率直に言ってちょっと怖い。

 

「よしっ、それならまだ大丈夫!まだやり直せるわ!なんとかうまく溶け込んで、普通の女の子らしく過ごせば、きっと!」

「?何か知らんが、また学校行けるようになった感じか?」

「あっ、はい。一応、大丈夫です」

「そ、そうか。まぁ、それならいいんだが」

 

結局のところ、何もわからなかったわけだけれども、別に話したくないなら話す必要はないわけだし、何より本人が学校に行こうという意思を見せているなら、これ以上話し込む必要はないだろう。

 

「ま、来れるようになったんなら何よりだわ。んじゃ、次の授業の時に入るってことでいいのか?」

「え、ええ。大丈夫、です」

「それなら安心した。いつまでもここでお前と二人だと、学校の連中に見つかった時にあることないこと「あれ?比企谷先生?」っ」

 

とてもとても聞き覚えのある声。まぁ、最近は毎日のように聞いていた声なわけだから、聴き間違えるわけもないのだが。他の4人はともかく、そういえばこいつは家がこっち方面だったということを今更ながらに思い出す。

 

「奇遇ですね、こんなところで」

「お、おぅ。渡辺か」

「ヨーソロー!」

 

いつものごとく敬礼を見せる渡辺。と、その視線が俺から俺の正面に座っている津島に向けられる。サングラスのせいで目元は隠されているが、マスクを外しているからその表情はそこそこ見える。

 

津島は口をわなわなさせていた。この感じ……誰かに、似てる……ような?

 

小さく津島が呟くのが耳に入った。『り、リア充』と。

 

「えっと……こちらは?先生の知り合いですか?」

「ん?あぁ、こいつは「な、なんでもないから。じゃあ私は行きますから!離脱!」っておい!」

 

脱兎のごとく立ち去っていく津島。ずっと引きこもっていたのなら運動はどうかと思っていたが、存外運動神経は高いほうらしい。あっという間に小さくなっていく背中を、俺と渡辺は茫然と見送るしかなかった。

 

あぁ、思い出した。あれだ。葉山とか三浦とかを前にした時の材木座に似てたんだ、さっきの津島は……いや、それは津島に失礼か? ハチマン‼ワレハ⁉>

うるさい黙れ、出てくるな材木座。お前の出番は当分ないっつーの。

 

「……凄い子ですね。どういう繋がりなんですか?」

「まぁ、いろんな意味でな。別にどうっていうわけでもない。あいつ、うちの一年なんだよ」

「一年生?あんな子いたかなぁ?あ、でもどこかで見たことあったような……う~ん」

 

頭をひねりうんうん言っている渡辺をよそに、一先ず仕事は果たした気持ちになった俺は、コーヒーに口をつけるのだった。

 

……って、仕事っていうか今日休みの日のはずなんですけどね。

 




はぁ~……配信ライブ見られねぇ。

早く心置きなくライブ会場でスクールアイドルが歌って踊ってするところがまた見たいですね~。

後、虹のアニメ最高ですね!
無印とサンシャインはリアルタイムでは追ってなかったから、このワクワク感!
たまりませんなぁ!

それぞれの個人曲楽しみですね!

ではまた~。


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偶にはそんな昔話を

私だ。


さて、無事に津島の悩みも何とかなったらしく、一仕事終えた俺は――

 

「先生、早く行きましょう!曜ちゃんお墨付きの美味しいハンバーグが待っているであります!」

「わかった。わかったから腕を引っ張んるんじゃありません」

 

何故か、渡辺に連れられ共に夕飯を食べることになった。もうそろそろ帰ろうと思ってたんだけどなぁ……

 

「というか、何で俺お前と行くことになってるの?一人で行ってくればいいだろ」

「それはそうですけど……なんだか先生がこっちまで来てるのを見るのが珍しかったし、折角ならこの辺りのいいところももっと知ってほしいと思いましたから。もしかして、ご迷惑でしたか?」

「いや、別に迷惑ってわけじゃないが……てっきりお前は休みの日には高海たちと一緒に何かしてるもんだと思ってたんだが、一緒じゃないのか?」

「えっ、あぁ。千歌ちゃんと梨子ちゃんとは家も少し離れてますし。休みの日だから一緒にいないって日もありますよ、流石に」

「……ほ~ん」

 

ほんの僅かに渡辺の見せた反応。高海たちと一緒にいないこと、二人と離れた場所にいること、そのことに対してやはり渡辺としても思うところがあるらしい。それに、仲良し幼馴染が都会からの転校生に夢中になっている、という風に見えて(何それどんなギャルゲー?)どことない疎外感を感じてしまっているのかもしれない。海未やことりも、穂乃果が絵里と仲良くなっていく時、似たような表情をしていた記憶があるしな。

 

「お前、案外構ってちゃんなんだな?」

「えっ?何ですか急に?」

「いや。まぁ別に悪い意味で言ったわけじゃないことだけは一応伝えておく。とにかく一緒に行くのはわかったから、そろそろ腕放してくんない?」

「あ、はい。すみません」

 

とりあえず引っ張られていた腕を開放してもらい、渡辺に先導される形で少し後ろを歩く。渡辺の方はというと見た目いつも通りに元気だった。見た目、と述べているように、あくまで表面上は、ということになるが。

 

3人で始めた、いや正確には桜内は後から加わっているから、始まりは2人か。なのに後から来た桜内は高海のお隣さんで……まぁ、疎外感を感じるなって方が無理だよな。

 

結局渡辺おすすめというそのお店に着くまで、俺は渡辺の会話に適当に相槌を打ち続けたのだった。

 

 

 

「そういえば先生はさっきの子に会うためにわざわざこっちまで来てたんですか?」

「は?んなわけないだろ。あれはついでみたいなもんだ」

「じゃあどうしたんですか?」

「ほら、この前俺の知り合いが来てたろ?その見送りのために来ただけだよ」

 

駅から歩くことしばし。ちょっと目立たないところに渡辺のおすすめというお店があった。どうやら昔からかなりお世話になっていたらしく、お店のおばさんとも親しげに話しをしていた……まぁでも、内浦のあたりとかでもそういうのは日常茶飯事なわけだし、驚くようなことでもないのかもしれないが。

 

渡辺がお店の人と少し会話を楽しんだ後、いつものを二人分と頼み、そのまま席へと案内されたのだった。いや、ほんとどうしてこうなった?

 

「この前……あぁ、あの髪の長い女の人!じゃああの後もここにいたんですね」

「まぁな。呼び出すだけじゃ悪いから、少しばかりの観光をと思ってな」

「すごい綺麗な人でしたね~。どういうお知り合いだったんですか?」

「まぁ部活、だな」

「部活?」

「ああ。あいつが所属していた部活の手伝いをうちの部活がすることになったって感じだ」

「先生はどんな部活をしていたんですか?」

「……奉仕部」

「奉仕部?」

 

なんのこっちゃと首をかしげる渡辺。

 

いやまぁそうだよな、それが普通の反応だよな。奉仕部のことを説明するのも久しぶりなもので、この反応がなんだか懐かしく感じる。

 

「飢えた人に魚を与えるのではなく釣り方を教えるっていう方針のもと活動する、まぁなんというか。人の手伝いをする部活、だな」

「へ~。じゃあ先生がスクールアイドルの活動のお手伝いを申し出てくれたのも」

「ん、やまぁ、なんだ。そん時の名残っていうか。まぁそんな感じだ」

「なるほど。もしかして先生がスクールアイドルの活動になんか詳しいのって」

「……あぁ、まぁそうだな。そういうのも少し手伝ったことがある」

 

予想以上に渡辺が鋭い。いや、話の流れで分かっただけなのかもしれないが、奉仕部の話からスクールアイドルのお手伝いの方にしっかりと結び付けられる当たり、人当たりがいいと見られる渡辺は、人のことを良く見ているのかもしれない。

 

「まぁ、俺の昔話とか別にいいだろ。なんか用でもあったのか?」

「え?いえ、特にはなかったですよ」

「じゃあなんでわざわざ俺をここに連れて来たんだ?」

「それは、ほら。今日は千歌ちゃんたちと一緒じゃないし、一人で行くのもどうかな~って思ってたところに先生がいたから。折角なら、部員と親交を深めるのも悪くないんじゃないですか?」

「親交……ねぇ」

 

まぁ、言われてみればそれは確かに間違ってはいないだろう。恩師でもあるかつての顧問の先生も、そういえば活動を通じてというのもあったが、色々と親交を深めるような出来事も多かったように思える。

 

千葉村ボランティアの時も、嫁度対決の時も、修学旅行の時も、バレンタインの時も、μ’sの手伝いの時も、それにプロムの時も。思えば本当にいろんな出来事を経験したし、その時にあの先生に道を示してもらったり、ともに楽しんだりと、時間を共にしてきていたし、その経験を無駄だったとは思わないし、どうしたって思うことなどできるはずもないのだ。

 

「……そうだな。まぁ、偶にはいいか」

「えっへへ。じゃあじゃあ、先生の部活のこと、もっと教えてください!その部活に入ることにしたきっかけとか」

「ん、まぁいいぞ。つっても、その時は入りたくて入ったわけじゃなかったんだよね」

「へ?じゃあどうして」

「まぁ二年生の時に書いた作文がな。当時その部活の顧問だった先生の目に留まった結果、先生曰く更生のためってことで強制入部だったんだよ」

「そんな変な作文だったんですか?」

「変って……いや、まぁ……そうだな」

 

『青春とは嘘であり、悪である』

 

そんな出だしから始まったあの作文は、今思い返してみると確かに変と言われても仕方がないように思える。嘘も秘密も、罪咎も失敗さえも、確かに人に影響を与え、そして確かに人を成長させる。欺瞞に満ちた俺の行動も、決して正しくはなかった行動も、彼女たちが互いに抱え込んでしまった秘密も、そして心折れそうになった失敗も。そのすべてを経たからこそ今の俺がいて、あの時輝いた彼女たちがいた。

 

ただ、あの作文が悪かったのかといわれると、そんなことは決してないのだ。あの作文のおかげで、俺はあの部室へと足を運ぶことができ、そして彼女と――雪ノ下雪乃と出会うことができたのだから。雪ノ下と出会い、由比ヶ浜と出会い、戸塚と出会い。そうやっていろんな奴と関わるようになり、変わったのだから。

 

「けどまぁ、書いたこと自体は後悔はしてないしな。それがあったおかげで今があるわけだし。逆になかったら今頃の俺は悲惨だったと言い切れるまであるね」

「言い切れちゃうんですね」

「まぁだからあれだ。そんなちょっと捻くれた子供の作文でもいい方向に転ぶことだってあるんだ。構ってちゃんがちょっとした我儘を通すくらい、いいと思うぞ」

「へ?」

「お前変に空気読むタイプっぽいからな。偶には思ってることをちゃんと言わないときついぞ。ま、お前がどうするかは知らんけど」

 

そう言い切ったところで料理が運ばれてくる。取りあえずあんまり長く続ける話題でも無さげだと判断したため、そこで話を終わりにすることとし、目の前にある実に食欲をそそるハンバーグの方に意識を向けた。

 

「あはは。なんか、凄く先生っぽかったです、今の」

「いや、ぽいも何も俺先生だからね。なんなの、松浦といいお前といい俺のことなんだと思ってるの、ねえ?」

「あ、果南ちゃんも同じ事言ってたんですか?」

「まぁな。流石は幼馴染。考え方が似てるようで、ってこれ美味いな」

 

渡辺のリアクションに適当に言葉を返しながらハンバーグを口に放り込む。渡辺おすすめというだけあってなかなかにうまい。なんというか、いかにも万人受けするお店な感じのハンバーグではなく、どこか家庭味のある見た目と味。しかしながら果たして、その味は不思議な魅力で胃袋をがっちりつかんでくる。どうやらまた一つ、ここの良いところを知ることができたらしい。

 

それに、

 

「ふふん。でしょうでしょう?本当においしいんです、ここ!」

 

何か突っかかりが取れたのか、先ほどよりも幾分かすっきりした表情の渡辺がなぜか自慢げにしているのを横目に見る程度にし、とりあえずはお店の人に感謝しながら肉をほおばるのだった。

 




私だ(二度目)

いや、他に言うことがないもので……
すんませんした、はい。


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堕天使の登校

さて、週末も明けまた新しい一週間がやってきた。今日の1限目の俺の担当は1年生の現代文。先日のやり取りもあり、今日こそは1年生が全員そろった状態の教室となっているのだろうか。

 

朝のHR後で少しキャイキャイしている教室の前に立ち、いつも通り小さく息を吐く。身体から力を抜いて、引き戸に手をかける。

 

「う~す。それじゃあ授業始めるぞ~」

 

いつも通りに教室に入りながらちらりと中を見渡す。それだけでもいつもは空席だった場所に艶やかな黒髪と右側のお団子が特徴的な少女が座っているのが目に留まる。

 

「……今日は欠席者なしっと。今年始まっての快挙だな。じゃあまぁ前回の続きからやって行くか。一応津島も課題の用紙とかでなんとなく把握していると思うが、欠席していたから隣の奴、フォローしてやれ。感覚的にはあれだ。転校生の面倒を見るみたいなやつだ、任せる」

「わかりました。津島さん、よろしくね」

「え、ええ。よろしく」

「ん、頼むわ。そんじゃ教科書開け~」

 

見たところ授業を行う分には何ら問題なさそうだ。津島もあの様子だとしっかりとクラスになじんでいけそうである。とりあえずは肩の荷が一つ下りたような錯覚を覚えながら、俺は本日最初の授業を進行させていくのだった。

 

-----------

 

「どうして止めてくれなかったのよぉー!!!!」

「流石にあれはマルにも予想できなかったズラ……」

 

「……何事?」

 

放課後。

 

授業を全部終え、俺はこれまたいつも通りスクールアイドル部の部室の方へ来ていた。活動自体は一度全員そろっての打ち合わせが終わってからということもあって、着替えに遭遇するハプニングの心配もないため、そのまま部室の扉を開いた直後に聞こえてきた叫びが上記のあれである。

 

声の主である津島善子は、何故か机の下で体育座りをしながら、国木田と黒澤からどことなくかわいそうなものを見る目で見つめられていた。

 

「あ、比企谷先生」

「おう。で、高海?これはどういう状況なんだ?」

「えーと、実は私もわからなくて。なんだか放課後、善子ちゃんが何か失敗した、みたいなんですけど」

「失敗?」

 

首を傾げている高海から視線を外し、今一度津島の方を見る。そもそも何でここにいるのかという点からツッコミを入れるべきなのかもしれないが、そこは恐らく幼馴染である国木田が理由なのだと目星を付ける。さっきの叫びも、どうやら国木田に向けられているものだったみたいだし、概ね当たりだろう。というわけで、

 

「国木田。何があったんだ?」

「そ、それが……」

 

(少女説明中)

 

「というわけみたいです」

「ルビィもその時偶然見てたけど、さすがにびっくりしちゃいました」

「ううぅぅぅぅぅ~~」

 

困り顔の一年生コンビが机の下でうずくまっている津島を見やる。いや、その気持ちもわからんでもないがな。

 

占いができること、それ自体は確かに女子との共通の話題としては間違った選択ではないだろうし、まぁそういうものを通じて親交を深めるということもあるにはあるだろう。が、

 

「それにしても、こんなの学校に持ってきてたんだね」

「この辺の装飾、手作りなのかな?結構凝ってるね」

「それにしても、どうして普通のリア充ライフ?をしたいって言っているのに、これを学校に持ってきたのかしら?」

「そこはほら。ヨハネのアイデンティティ的なものが……はっ!?」

「……なんだかよくわからないけれど、とにかく複雑な状態にあるということだけはわかったわ」

 

津島の持ってきていた堕天グッズを興味深そうに、また感心しながら手に取ってみている高海と渡辺。そして若干引き気味の表情の桜内。

 

まぁ確かに痛い。痛いというか痛々しい。そればかりは通常の感覚の人であれば思ってしまうこともやむなしだろう。俺だって自分の昔のそういった言動を振り返ると今でも心が痛くなる。なんだよ名もなき神って。紙の間違いじゃないの?馬鹿なの?

 

まぁ津島の場合そんな自分と向き合おうとしている点は、ある意味評価できる。20過ぎのおっさになってなお、そういう乗りのままで生きている奴も世の中にはいるしな。ほんとそろそろ落ち着いてくれると助かるんだけど、材木座。とりあえず小説の方はましになってきてるんだから。

 

「うぅ……普通になろうとしてもなおこみ上げてくるこの堕天使の波動。ヨハネがヨハネたるこの性が恨めしいわ」

「え~と」

「ツッコんでやるなよ?そういうの、一番来るからな。ソースは俺」

「おソース?」

「いや、何でもない。高海、お前はなにも気にしなくていいから」

 

とりあえずジト目でこちらを見ている桜内と渡辺をスルーして、俺は机の下にしゃがみこんだままの津島に声をかけるのだった。

 

「おいこら堕天使。部外者が何この部室に滞在してるんだ?あと、そういう感じでひきこもるのは俺だけで間に合ってるんだよ」

「「「「「「説得の内容がひどい!?」」」」」」

 

かくして当の津島本人を含め部室にいた全員から総ツッコミを受けながら、津島善子の話を聞くこととなる俺だった。

 

……いつからこの部活はスクールアイドル部から奉仕部に変わってしまったのだろうか?

 



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Aqours、堕天(フォールン・デュウドロップ)?

「つまりあれか?お前は堕天使を矯正したいと?油断しているとついついやってしまうそういう堕天使チックな行動をなくして、いわゆる『リア充ライフ』とやらを満喫したいと」

「ええ、まぁ。そういうこと、です。はい」

「なるほどねぇ」

 

スクールアイドル部部室。どういうわけか始まってしまった津島善子のお悩み相談の対応をするために、俺と津島は部室の机を挟んで座っていた。

 

ちなみに他の部員については話の内容が気になっているらしく、少し離れながらも部室にとどまりながら話を聞いている。一応津島の許可を得たうえでだから、プライバシーに関しては問題ない。そのあたりはちゃんとしてるからね、これでも教師よ、俺?クライアントの詳細を勝手に明かすことはしないっての。

 

しかしまぁ今回の津島の相談事はというと、いつだったか雪ノ下が材木座と初めて会ったときに投げかけた質問の内容に近しい内容だよな、この依頼。まぁ、あの時は結局依頼としては全くの別件だったわけだが。

 

「それで、幼馴染である国木田にフォローをお願いしていたが、あまりに予想外な行動であったがゆえに止めることができなかったと」

「そういうことになります、はい」

「ちなみに聞くけど、お前どのくらい堕天使に浸かってるの?」

「浸かってる?」

「まぁ要するに没入というか。ほら、さっきもこみ上げてくる、的なこと言ってたわけだし。お前の普段にどのくらい馴染んだ感じなんだ?」

「その……ある意味私の一部というか……なかなか切っても切れないものというか……」

「ふ~ん。で、実際のところどうなんだ、黒澤?なんか調べてるんだろ?」

「え?」

 

呆けた声を出しながら津島が黒澤のほうを見る。と、彼女はそれまでカタカタしていたノートパソコンをこちらに向ける。

 

「う~ん、結構本格的に堕天使してるみたいですね。動画も上げているみたいですし」

 

画面に映されているのは某有名な動画投稿サイト。あのコメントが画面に流れるように表示されるやつな?個人的には画質はさておき、見ている人のリアクションをリアルタイムにみることができる的な感じがして割とこっちも好きなんだよな。

 

で、そこで流れている動画はというと、

 

『ハァーイ。堕天使のヨハネよ。リトルデーモンのみんな、今日もよく来たわね』

「やめてぇぇぇぇっ!って、何流してるのよ!」

 

しっかりとゴシックな衣装をまとい、暗い部屋の中でろうそくの明かりだけを灯し、明らかに室内なのに風が発生しているように揺れる炎と髪。

 

「おぉ。割と本格的だな」

「って!先生も冷静に見ないで!……ください」

「……というか、前にも言ったと思うが……別に悪くないと思うぞ、そういうの」

「うん……かわいい」

「ん?」「え?」

 

ぽつりと漏れたような言葉を発していたのは、津島の動画をどこか興味深そうに見ていた高海だった。

 

「千歌ちゃんどうしたの?」

「これ、すっごくかわいいよ!これ、スクールアイドルに活かすことできないかな?」

「「「「えぇ?」」」」

 

「何この流れ?」

「俺に聞くな」

 

何やら思いついたらしい高海と、どこか戸惑っているスクールアイドル部員。

 

顧問の俺と部外者である津島は、とりあえずよくわからないふうに顔を見合わせる。

 

と、

 

「津島善子ちゃん!うぅん、堕天使ヨハネちゃん!」

「うわっ、何?というか近い!」

 

急接近してきた高海に驚きながら、津島が身を引くようにしながら離れようとする。

 

「っておいこら。何俺を盾にしようとしてるの?」

「あ、すみません、つい」

「で、高海。取り敢えず何か思いついたのは分かった。わかったから落ち着いて距離を取れ。というか取ってくださいお願いします」

 

本当に取ってもらわないと困るんだって。お前、津島の手を握ろうとしてそのままの勢いで接近してきたからほんと近いんだって。この距離はまずいから。いろいろとまずいから、主に社会的に。

 

「あ、すみません」

 

そう言いながら高海が一歩下がる。ふぅ……いや、別に残念だなんて思っていない。

 

確かに高海は間違いなく美少女ではあるし、なんなら柑橘系の香りが少ししていたのは認める。が、俺もいい大人。そんな些細なことで心を乱されはしないのだ。しないから。だから待ってそんな目で俺のことを見ないでくれる、渡辺さんと桜内さん?仮にも生徒が教師に向ける目じゃないよ?

 

「で、なんなのよ?」

「うん、あのね!ヨハネちゃんも、スクールアイドル一緒にやりませんか?」

「……は?」

 

---------------------

 

さて、元々予定されていた本日の部活動は中断となり、全員で移動することしばし。俺は今、高海家のリビング(旅館の方ではなく、家の方な)で待たされていた。いや、確かに小原から仕事持ち運び専用のPCを支給してもらっているとはいえ、本来こういう風に仕事をすることは想定されていないと思うのだが。そんなみんなが家から仕事をしなければいけない状況にあるわけでもないのだし、家に仕事を持ち変えるとか気が滅入るわ。

 

閑話休題。

 

そもそもなぜここで俺が待たされているのかというと、だ。高海による堕天使ヨハネ、aka. 津島善子の勧誘、それは彼女本人だけではなく、その属性にも向けられていたものらしい。曰く、

 

『色々調べてみたんだけど、堕天使系スクールアイドルなんて今までいなかったし。こういう新しい感じの可愛いも試してみるのもありかな~、って!』

 

ということらしい。

 

いやいや、確かにそういう特殊なコンセプトのスクールアイドルは過去にもいた。ミュータントガールズのようなゴシック×ホラーみたいなのもいたし、他にも個々人を見た場合にはシスターさん、軍服着用、和服系のようにインパクトのある子もいる。そういった意味ではグループのコンセプトを作り上げるということは間違ってはいない……間違ってはいないが……どうにも嫌な予感がする。なんというか、一時期μ’sが血迷って色々迷走していた時のことを思い出す。あれはほんとにひどかったな……部活系に目覚めたり、互いのキャラを入れ替えてみたり……何よりヘヴィメタメイクはやばかった。いろんな意味で。

 

「お待たせしました~!」

 

暫くパソコンに向かいながらカタカタとキーボードと格闘していると、高海から声がかかる。なんだなんだと思いながら視線を声の方向に向けると、

 

「じゃ~ん!どうですか?」

「いやぁ、ルビィちゃんたちのおかげで思ったより早く衣装が完成したよ」

「ルビィ、お裁縫とか好きですから。こういうのは初めてだったから、うまくできたかはわからないですけど」

「流石ルビィちゃんズラ!で、でも……」

「無理無理無理無理、こんな衣装絶対無理……」

「私が言うのもなんだけど、あんたたち正気?」

「お、おぉ?」

 

若干ドヤ顔気味な高海を先頭にやってきたAqoursと津島たちは黒や白を基調とした衣装に身を包んでいた。なんというか、ゴスロリという感じだ。特に黒澤。なんというか本人の醸し出す幼いオーラが拍車をかけている。

 

「ほらほら先生?どうですか?」

「ん、いやまぁこの短時間で作り上げられるのがすげぇな。衣装のクオリティ的に」

「そうですよね!曜ちゃん、ルビィちゃん、善子ちゃんの三人が作ってくれたんですよ!」

「すげぇな……で、それどうするつもりなんだ?」

 

実際衣装としてのクオリティは短い時間で作った割にはしっかりしている。津島は元々本人が持っていたものだろうけれども、他もそれに近しいイメージやデザイン、なかなかに凝ったレースの刺繍にヘアアクセサリー等の小物まで。が、今ある曲にはこの衣装がマッチするものはないため正直使いどころは不明である。まさか占い生放送とかやるわけでもないだろうしな……いや、やるの?

 

「ふふん。折角堕天使ヨハネちゃんが加わってくれて、Aqoursも新しいコンセプトを加えるわけですよ!だから紹介PVを撮りたいなと思いまして」

「ちょっと、勝手に決めないでくれる!スクールアイドルやるってまだ私言ってないんだけど!」

「あれ?そうだっけ?」

 

言ってないんだ。てっきりもう本人完全了承済みなんだと思ってたよ。あ、そういえば俺入部届受け取ってなかったわ。何やってんの俺?雪ノ下だって由比ヶ浜にちゃんと入部届出させるまでは部員じゃないって言ってただろ。もう、忘れんぼさん♪てへっ。

 

「ね、ヨハネちゃん!一緒にスクールアイドルしようよ!絶対楽しいから!」

「そんな急に言われて、『はい、やります!』ってなるか!私はもっとこう、普通のリア充になりたいのよ!」

「でも、スクールアイドルとして活躍して人気が出たら、ヨハネちゃんのファンがたくさんできるかもしれないよ?」

「……ファン?……つまりはヨハネの……リトルデーモン!?」

 

高海の一言に動きを止めたかと思うと、フヒ、フヘヘ、などと凡そ人前ではアウトな表情と笑い声を見せてしまう津島。なるほど、そりゃ雪ノ下からやめた方がいいと何度も言われるわけだ。津島レベルの美少女がやっても正直引くものを、俺や材木座がしていたらそれは確かにひどいな。

 

まぁ、そんなこんなで。

 

堕天使ヨハネを筆頭とした堕天使系スクールアイドルグループAqoursが誕生するのだった。

 



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堕天後上昇後墜落(アップ・サイド・ダウン)

覚えている限り、彼女たちはいつでもあの海のそばの町で待っている。

なんだか、そんな気がしますね。


んなわきゃないだろ。

 

何がって?それは前回の話を見てもらったらわかる。

 

結論から言うと堕天使系スクールアイドルグループの誕生ということにはならなかったというだけだ。

 

何があったのか。その話自体は昨日の放課後まで遡る。

 

はい、ほわんほわんほわわ~ん。

 

……あ、今の何って?いやほらよくあるだろ?アニメとかで回想シーンに入る時にでるモクモクした演出と効果音。あれだよ、あれ。ダメ?

 

ダメか。なら仕方がない。ちゃんと説明するとしよう。

 

主に時間的要因により、流石にあの衣装が完成してすぐに撮影というわけにはいかず、とりあえず津島を体験入部生という形で迎え入れ、スクールアイドル同好会の活動は翌日に持ち越される形となったのだった。

 

で、翌日――つまり時系列的には今日この日。

 

天気も良く、見晴らしもいいからという理由で紹介PVの撮影に指定されたのは、

 

「いつもの屋上、か」

「?どうかしましたか?」

「いいや、なんでも。で、とりあえずカメラの方の設置はできたけど、どんな風に取るんだ?」

 

渡辺が自宅から持ってきたビデオカメラを三脚にセットし、俺のすることといえばあとは録画ボタンを押すだけである。あまりにも簡単な仕事に拍子抜けしそうになるが、如何せん今回は本当にそれしかやることがない。

 

一方、撮られる側のAqoursのメンバーはというと、今こちらに話しかけに来ている高海を除いたメンバーは、

 

「いい、もう一回よく見てなさい。指はこう!そして指と指の間に目が来るようにして――ギラン!」

「ほ、本当にこれをやるのよね」

「む、難しいズラ」

「うゆ」

「ギラーン!からの~、ヨーソロー!」

「って、変なものを付け加えない!」

 

動画の締めとして全員でやるらしい、津島曰く「堕天のポーズ」とやらを練習中である。むむむ、と首を傾げる国木田と黒澤。げんなり顔の桜内はともかくとして、意外と渡辺がノリノリである。

 

「とりあえずはヨハネちゃんをメインで撮って、その後に一人ずつ堕天系のコメント。最後にヨハネちゃんをメインで全員で堕天!って感じで行こうかと」

「なるほど。大体わかった」

 

マジで大雑把に、それとなりに、大体という言葉が適切な程度には理解した。まぁ、天候にも恵まれているし、そんなに難しく撮影するわけでもなさそうなので、俺としても特に不平不満不安はなく、手っ取り早く終わらせることはできそうである。

 

ただまぁ、

 

「なんか嫌な予感はするんだよなぁ」

 

――――――――――

 

放課後

 

「はぁ~」

「怒られちゃったね」

 

場所は移りまして高海家の前のいつもの海岸。ため息をつくのは6人、正確には5人の少女たち。

 

あの後、結局高海の指示通りに撮影は行われた。あくまで全体で写る時に録画する以外は特に関わることはなく、撮影の様子を見守るだけで俺の役割は終わった。その後、流石に配信慣れしているということもあるのか、PR動画の制作はしっかりと堕天使ヨハネ、基津島がごく短時間のうちに仕上げていた。

 

その動画をスクールアイドルのための動画配信サイトに投稿したのがほんの数時間前。さてその反響はというと――

 

「嘘!もうこんなに上がってる!」

「昨日までは3000の代だったのに、もう1000位だなんて」

「やっぱり堕天使効果があったのかな?」

 

事実、投稿される前と後ではスクールアイドルランキングの順位には明確な違いがあった。高海の言っていたように、堕天使系スクールアイドルというのが他には見当たらず、インパクトや真新しさがあったことや、元々の素材がいい彼女たちがゴスロリ系の服で着飾っているのが、客観的に見ても興味を惹かれるものだったからだろう。

 

しかしまぁ、この小さな島国にうん千ものスクールアイドルが存在しているというのを、改めて、こうも数値的に見せつけられると、自分としては――かつてのラブライブを、初期も初期のころから展開されていた大会のことも、その後に彼女たち主催で行われた全国のスクールアイドルたちと共に作り上げられたライブのことも――知っている身としては、いささか驚いていると言わざるを得ない。

 

現在スクールアイドルはいわば飽和状態にある、と言っても過言ではないのかもしれない。軽く調べてみただけでも、単純な実力でいえば、あの頃絶対王者と思われていたA-RISEに匹敵するレベルのパフォーマンスを披露しているグループも、今では決して少なくはないのだ。

 

 

さて、そんなスクールアイドルに対する現状認識はさておき、話を我らがAqoursの活動の方へと戻すとしよう。

 

前述したように、スクールアイドルランキングにて、投稿された動画の影響を受けたAqoursは確かにさながらジェットコースターのような勢いでその順位を上げていた。

 

……まぁ、この例えを出したことで察しのいいものなら、大体予想がついているかもしれない。

 

そう、ジェットコースターは走り出したら勢いよく上ることもある。が、そののぼりの後には基本的には続きがある――ありていに言ってしまえば、下りが待っているのだ。

 

――――――――――

 

「破廉恥ですわ!!!」

 

と、思わずAqoursのメンバーが身をすくめてしまうほどの大音量で室内に怒声を響かせたのは、ほかならぬ黒澤ダイヤ、黒澤ルビィの姉にして生徒会長。

 

ここは生徒会室。呼び出されたスクールアイドル部を待っていたのは、パソコンの画面をにらみつけるようにしている黒澤生徒会長と、なんだか楽しそうにしている理事長の小原の二人だった。

 

「ダイヤ~、そんなに激おこぷんぷん丸してなくてもいいじゃない。私はプリティーだと思ったけど?リトルデーモン4号ちゃんもすっごい人気だったし」

「そういう問題ではないですわ!私がルビィのスクールアイドル活動を認めたのは、節度のある活動をしているものだと思っていたからです。こういうのははしたないというのですわ。大体あなた!」

 

ビシッとこちらを指さす黒澤姉。

 

「仮にも顧問なのでしたら、こういうのは止めてしかるべきではありませんの?」

「いや、まぁ……言うほど止めないといけないものでもないと思ったし、何ならこれ以上に酷い迷走っぷりをみたことがあったもんでな。あと、仮にも先生だから指さすのはやめようね」

 

いやいや、ほんとにこの程度は可愛らしいものですからね?まぁ向こうは動画サイトに投稿みたいなことをしていなかったから、人目に触れるレベルは今回の方がすごいだろうけれども。それでもそういうコンセプトで行くと決めたのなら止めるほどのことではない。

 

――まぁ、安直な考えだとは思うし、決して最善だとも思わない。そもそも最初の動画以降急激に彼女たちが力をつけたわけではないのだから、急上昇したのは堕天使ヨハネがもたらした真新しさゆえであることは確定的だ。それはつまり、

 

「でも、この動画を載せてからスクールアイドルランキングの順位も上がったんですよ?」

「まぁ、あくまで一時的なものだとは思うけどな」

「え?」

「んんっ!比企谷先生の言う通り、あんなものはあくまで真新しさにつられただけ。本当の人気や支持とは程遠いものですわ」

「それって、どういう?」

「ご自分の目で、確かめてみることですわ」

 

そう言いながら、黒澤姉は自身の見ていたパソコンを彼女たちの方に向ける。訝しみながらもそれを一番近い渡辺が受け取り、改めて画面の方を見ると、

 

「あれ!下がってきてる!あっ、今もまた!」

「えぇっ!?」

 

驚きのリアクションの通り、1400、1500と少しずつ、しかし確実にその順位は落ちつつあった。

 

「もし本当にスクールアイドルとしての活躍を続けたいと、ラブライブに出場したいと考えているのでしたら、安易なキャラ付けなどで挑むような真似は間違っていますわ。もう一度、ちゃんと考えることですわね」

 

そう告げる黒澤姉の眼光は鋭く、妥協を許さないものだった。

 

単にスクールアイドルが気に入らないのではない。そのスクールアイドルへの姿勢が気に入らないと、言外に伝わってくる迫力があった。

 

――――――――――

 

――で、戻りまして現在。

 

「確かにダイヤさんの言うとおりだね。お手軽に注目を集めて、μ’sみたいにラブライブに出たいって思うのは、それこそμ’sや他のスクールアイドルに対しても、失礼だったのかもしれないね」

「これからどうするの?」

 

少ししょげている高海に問いかける桜内。撮影中最も不安げで、終わった後もずっとやってしまった感を醸し出していた彼女もまた、この問題については薄々気づいていたのだろう。と、ここまで沈黙を保っていた津島がすっと立ち上がり、俺を含めた他のメンバーに背を向けた。

 

「もういいわよ。やっぱり、堕天使だなんて、そんな変なもの、世の中から受け入れられないものなのよ」

「え?でも」

「ありがとう。付き合ってくれちゃって。ほんの少しだけど、楽しかった……かな。でも、もういいの。これ以上あなたたちがこれに付き合う必要なんかないし、迷惑かけちゃうでしょ」

「ヨハネちゃん」

「堕天使ヨハネはもう終わり。これでちゃんと、終わりにできる気がするの」

「じゃあ、スクールアイドルは?」

「う~ん、そうね。誘ってくれたのは嬉しいけど、私はやめておくわ。暫くは普通の――ただの津島善子としていてみようかと思うから」

 

高海たちの質問に答えはするものの――応えはするものの、決して津島は振り返らなかった。振り返ることもなく、彼女は一歩踏み出した。

 

「バイバイ」

 

そう言って、津島はこちらに表情が見られないようにしながら、去っていくのだった。

 

ふと彼女の去った方向から何かがひらひらと風に乗ってこちらに向かってくる。

 

思わず手に取ったそれは、入学式の時と同じ、一枚の黒い羽根だった。

 




単純に5周年のDay1行く予定だったのが行けなくなってちょっと寂しいな、ってだけです、はい。

でも、潮風香るあの町はいつでも彼女たちを待っている気がしますね。

いつかまた会えることを期待しましょう。


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墜落後堕天後再上昇(ノット・フォールン・イカロス)

ようやく善子編終わった……

文章を書くスキルが著しく低下しているとしか思えない。
どうしよう。


「行っちゃったね」

「うん……」

 

津島善子が立ち去ってしばし、なんとも言えない重い空気は晴れることがなく、高海たちはすっかり黙り込んでしまった。と、ぽつりと桜内がふと思い立ったかのように漏らす。

 

「どうして堕天使だったんだろう」

「多分……マルたちと、同じなんだと思います」

 

問いかけの意思があったわけでもなかったであろう桜内の一言に、答える声があった。その言葉を発した彼女、国木田に向けて高海たちと俺は視線を集めた。

 

「小さい頃、善子ちゃんずっと言っていたんです。自分は本当は天使で、いつか空の上の世界に帰るんだって。そんな善子ちゃんは、なんだかキラキラしているように見えて」

 

「でも、きっとそういう風に言っていたのは、何かを探していたんじゃないかって、マルは思うんです。自分の周りが、自分自身が、あまりにもありふれていて、普通で」

「だから、自分が特別であることを――つまりその他大勢と同じではなく、自分個人としての存在があるということを、その価値を見つけたかった、か」

 

なんというべきだろう。そうやって話を聞いてみると、どことなく俺自身が昔好きだった作品に出てくう、とある高校生にして創造神、宇宙人未来人異世界人超能力者を探し求めていたどこぞの少女に似ているように思える。

 

自分の周りが世界で一番面白いと思っていて、でも実際には世界はもっと広くて、自分のような――自分の経験してきたようなことを経験した人なんて数えられないほど存在していて。

 

「それに善子ちゃん、昔から運が悪かったんです。小さい頃はそれでもずっと笑顔でいて、本当にすごいって思ってて……」

「つまりあれか。自分は本当は天使でいつか空に帰るって幼い頃から言っていたことと、自分の不運な境遇。そういったところから、自分は神様に嫌われてしまった堕天使、という風に繋がっていった感じか?」

「マルもそこまで詳しくはわからないですけど……でも多分、そうしないと埋もれちゃいそうだったのかもしれません」

「普通……」

 

そう呟いた高海の視線は、俺の手の中に握られていた羽根に向けられていた。

 

はっきりとは、しっかりとは、完全には理解できていなかったかもしれない。それでも、国木田の話した津島善子の気持ちは、多少の差異こそあれども、彼女自身が感じていたことに近いものなのだろうから。

 

『このままじゃまずい!普通の星に生まれた普通星人どころか、普通怪獣チカチーになっちゃう!』

 

「あ……」

 

小さく漏らされた、ともすれば吐息レベルのその声は、しかしやけにはっきりと耳に届いた。僅かに口と目を見開いた高海に近づいた俺は、手に持っていた羽根を差し出す。

 

「え?」

「これ、お前から津島に返しておいてくれ」

「え、でも」

「何はともあれだ。津島は選んだ。俺が受けていた相談事については、これで終わったということになる。終わった以上、俺は必要以上にあいつに関わることはないだろうな。スクールアイドル部にも入らないってことは、そういうことだろうし」

 

理由がなければ動けない。ここだけ聞けば、高校時代に臆病で、めんどくさくて、どうしようもない自分自身の停滞していたころを思い出しそうになるが、今回はそういうわけではない。

 

俺の恩師がそうしてくれたように、俺が解決や解消をしようとするのではなく、問題の当事者である彼女たちが解決できるように促さなければいけないのだ。

 

ここで俺が動くことは確かにできる。教師とかそういうことを考えずに、津島善子に関わることはできる。だが、それではいけないのだ。

 

あくまで俺は教師で――元奉仕部員であり、魚を釣ってあげるのではなく、魚の釣り方を教えるべきなのだから。

 

「でも、善子ちゃんは」

「俺はあくまで教師だ。一人の生徒にかかりきりになるわけにも、相談されていないのにプライベートに深入りするわけにもいかないんだよ」

「でもそれじゃあ!「まぁでも。部員が友人に関わろうとすることを止められるような権限は、別に持ち合わせていないけどな」え?……それって」

 

もしも。もしも高海が津島善子の持っていた堕天使という属性のみを見ていたのだとしたら、ここで終わらせることもいいだろう。それは正しく彼女たちの個性ではなく、話題集めの要因でしかなく、結局のところ偽物でしかなかったということなのだから。

 

だが逆に高海が津島善子に、堕天使ヨハネに見ていたものがそれ以上だというのであれば、

 

「お前が選べ、高海。お前は津島善子を――堕天使ヨハネをどう思う?お前はどうしたい?」

「私……」

 

考えることしばし、どこか強気とも見える笑顔を浮かべながら、高海は俺の手の中の羽根を取った。

 

――――――――――――――――――――

 

Side Mandarin

 

最初はどうして?って思った。

 

だって、いつも色々助けてくれて、善子ちゃんの話もしっかり聞いていて、私たちの活動も見守ってくれている先生が、まるで自分には関係ないかのように善子ちゃんの羽根を渡そうとしてきたから。

 

でも、そうじゃないんだ。

 

先生に頼っちゃいけないことだって、あるんだから。

 

善子ちゃんを誘ったのも、堕天使系スクールアイドルをやってみようって言ったのも、それでスクールアイドルとしての人気も上がるかもしれないと思ったのも、全部全部私なんだから。

 

だから――

 

「みんな!私は――」

 

――これは私が――

 

「――善子ちゃんと――」

 

――やるべきことなんだって!

 

「一緒にスクールアイドルがしたい!」

 

そんな私の言葉に、みんなは笑って頷いてくれた。

 

確かに生徒会長に怒られちゃったし、物珍しさに走ってしまったけど。

 

でも、善子ちゃんと一緒に衣装を作って、動画のための練習もして、そんな風に一緒に何かを作り上げることが本当に楽しくて。

 

あの時に善子ちゃんが――堕天使ヨハネちゃんが見せてくれた笑顔が、本当に楽しそうで。

 

きっと一緒だったら、もっともっと楽しいことが!

 

もっともっと大きなことができるって!

 

だから――

 

「だから、やめなくていい!善子ちゃんは善子ちゃんで、堕天使ヨハネでいいんだよ!私は。私たちは。そんな善子(ヨハネ)ちゃんと一緒に、スクールアイドルがしたい!」

 

お休みの日の朝一。

 

比企谷先生に朝練はお休みって連絡を入れた私たちは、善子ちゃんを迎えに行った。

 

「変なこと言うかもしれないわよ」

「いいよ」

 

そう曜ちゃんが笑う。

 

「急に儀式とか始めちゃうかも」

「それくらい我慢するわ」

 

ちょっと呆れるような、でも優しく梨子ちゃんが微笑む。

 

「またクラスでも浮いちゃうかもしれないし」

「その時はフォローするズラ」

「うゆ」

 

グッと花丸ちゃんとルビィちゃんがガッツポーズをする。

 

「リトルデーモンになれって言うかも!」

「それはちょっと。でも、嫌だったら嫌って言う」

 

「そうやって本音で話したり、たまには一緒に堕天使っぽいことをしてみたり。そんな風に一緒にできたら、きっと素敵だな、って思うの!」

 

「だからね、ヨハネちゃん!」

 

そう言って比企谷先生から渡された、善子ちゃんの羽根を差し出す。

 

「一緒に!スクールアイドル、やりませんか?」

 

善子ちゃんの家から展望台びゅうおまで、逃げる善子ちゃんを追いかけて、ついついここまで走ってきてしまった。

 

でも、日が昇ってきてキラキラ光る海が見える場所で、差し出された羽根をしっかり握る善子ちゃんの笑顔が見られたんだから。

 

きっと、これは正解だったんだよ。

 

……流石に堕天使衣装でずっといるのはまずかったかな?

 

 

 

後日、何があったのかを説明したら、比企谷先生から呆れたようなため息と、軽い説教の言葉をもらっちゃった。

 

でも、

 

「まぁでもあれだ、高海……よくやったな」

 

と、最後に苦笑しながら優しくほめてくれたのは、やっぱり嬉しかったな。

 



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新しいAqoursとして

ほいっとな


さて、高海からの報告によれば彼女たちによる津島善子の勧誘は見事に成功したらしい。まぁ、流石に衣装を着たまま沼津港の方までダッシュするのはいかがなものかと思ったのもあり、そのあたりについては流石に立場上小言を言わせてもらったが。

 

スクールアイドル部に入部し、そのメンバーからも堕天使を個性として認められるようになった影響が大きいのか、それ以来津島善子は堕天使を隠したり、無理やり抑え込んだりはしなくなった。

 

世界は変わらない、だから自分が変わるしかない。いつだって特殊で特異な者は、環境に適するために妥協と我慢と変化を求められる。ただ同時に、自分がどう変わるかについては、自分自身である程度決めることができる。普通怪獣を脱却したくて始めるように、堕天使である自分であり続ける場所として、スクールアイドルを始めたとしても、別にいいじゃないか。

 

なりたい自分を我慢しなければいけない理由を、高校一年目にして探さなくてもいいのだから。そのままでいい、変わらなくていい。変わることを選ぶなら、妥協に基づいたものじゃなくてもいい。

 

自分を曲げることなく、その信念を貫き続けた結果孤高であり続けてきた彼女は、その果てにその自分を受け入れてくれる居場所を、大切な人々に出会い、孤独ではなくなった。

 

周囲に合わせて妥協してきた結果、人の顔色ばかり窺うようになった彼女は、自分の意見を貫きたいと思い、そのために妥協せず行動できるようになり、大切な場所や人を守れる人になった。

 

自身を上手く魅せることに長けながらも、周りから疎まれることもあった彼女は、いつしか「本物」を求めるようになり、自分の全部受け止めてくれる場所を見つけることができた。

 

なら、ずっと自分が天使であると――堕天使であるとしつづけてきた津島善子、堕天使ヨハネにとっての居場所が、見つかってもいいじゃないか。

 

そんな気持ちで授業のために1年生の教室の扉を開けると、

 

「くっくっく。このヨハネアイにかかれば、未来を見通すことなど、造作もないことなのです!」

 

と、制服の上から黒マントを着用し、教卓の上に水晶玉を乗せながら怪しげな儀式にいそしむ、女子高生の姿がそこにはあった。というか、件の津島だった。

 

堕天使系スクールアイドルであることをアイデンティティとした彼女は、どうやら自分を抑えることをせず、ありのままでクラスメイトとやって行くことにしたらしい。今の津島の方が表情が生き生きとしているし、いい気持ちの変化だろう。

 

そうかそうか、と思いながら教卓の方へ歩を進め、

 

「授業開始時間まで何やってんだ、駄目天使善子」

「駄目天使じゃなくて、堕天使よ!あと、善子じゃなくてヨ・ハ・ネ!って、先生!?」

「そうだぞ~、比企谷先生だぞ~。で?とりあえず授業開始時間なわけだけれども?」

「あ、えぇと……その……すみませんでした」

「よろしい。というわけで早く片付けろ~」

 

教師として、必要な説教をかますのだった。

 

良い子のみんなは授業開始時間とか始業時間とか、そういうのちゃんと守れよ。

 

比企谷先生との約束な。

 

 

 

さて、津島が加入して初めて正式に6人で部活動を経験した日の翌日、この日は水曜日だった。

 

そう、水曜日。この日は俺が松浦の家を訪問する日だ。

 

なんだかんだと年度初頭から度々訪問に来ていたわけだが、松浦から正式な復学に関する書類が提出されたらしく、こうして訪問するのもあと1,2回程度になるだろう。

 

「そうなるね。でも、いつも学校の外でしか会わなかったから、いざ先生と学校内で会うってなると、ちょっと違和感あるかも」

「そりゃまぁな。つっても、別に担任じゃないわけだしいつも会うわけでもないだろ。頻度的に言えば、今とさして変わらない気もするぞ」

「そういわれるとそうかもしれないけど、なんというか、環境が違うからさ。休学前は先生は学校にいなかったじゃん?」

「んな大した変化でもないだろ。そもそもお前学年上がってるわけだし、新1年生が入っているわけだし」

 

などと雑談しながらではあるものの、それでも互いの手はひたすらに動かされている。ウェットスーツやマスク、フィンを洗いながらのこうした会話ももうしなくなるのかと思うと、どことなく寂しさを覚えてしまう……いや、待ておかしい、この思考は俺らしからぬ思考すぎる、完全に働き者の思考回路じゃないか。教師生活始まって数カ月、既に染まりつつあるというのだろうか。

 

「1年生かぁ。なんかもう懐かしいや。そういえば千歌達のグループにも1年生が入ったんだっけ?」

「ん?おう。3人な。国木田、津島、でもって黒澤な」

「ルビィ?」

「そりゃお前なら知ってるよな」

「ダイヤがよく許したね」

「黒澤妹自身が生徒会長に自分の気持ちをぶつけて、説得したからな」

「そっか。どんな感じ?」

「ん~?まぁそうだな」

 

最後に手を洗いながら視線を宙に向ける。どう説明したものかとしばし思考し、

 

「ただいま絶賛迷走中だ」

 

と、率直な感想を述べるのだった。



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スクールアイドルとしての目標?

祝!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会アニメ2期。

高咲侑ちゃん、お帰りなさい!


絶賛迷走中、と言ったのは実際彼女たちの今の活動についての素直な感想に他ならない。というのも、別段スクールアイドルの方向性でおかしいということではない。むしろグループとしてのまとまりは問題ないだろう。

 

問題なのはむしろ――

 

「う~ん。魅力を紹介するのって、思ってたよりも難しいよ」

「ずっとこれまで当たり前のように過ごしてきた場所だもんね。改めてどこがいい、とか考えるのも難しいのかもしれないね」

 

ぐで~ん、と練習着のまま机に突っ伏す高海とそれを隣で眺める渡辺。その正面に国木田と黒澤が座り、揃ってビデオカメラの画面をのぞき込んでいる。

 

「これでいいのかなぁ?」

「マルにはよくわからないズラ」

「いやいや。流石にこの内容じゃダメなのくらいはなんとなくわかるでしょ」

 

とツッコミを飛ばすのは誕生日席に腰掛けている津島。そんな彼女はこれまで動画配信等の経験を活かして、絶賛動画編集中である。言うまでもなく、国木田たちが手に持っているビデオカメラで撮影した映像を。

 

「地元の魅力、ね」

「確かに難しいことですよね。私と比企谷先生はここに来てそんなに経っていないし」

「まぁそうだな。ぶっちゃけパッと思いつくものなんて、それこそ高海たちの方が知ってることだろうし」

 

そう、今回Aqoursが挑戦しようとしているのは、地元の良さを紹介するPVを作成することである。地元紹介PVを見てもらった人々に沼津・内浦の良さを知ってもらい、浦の星女学院への入学者を増やそう、という魂胆だ。

 

さてそもそも何故そんなことになったのかというと、話は少し前に遡る。

 

 

----------

 

「は?統廃合?」

「YES。このままだと、浦の星はなくなっちゃうかもしれないのデース」

「はぁ」

「はぁ、って。もう少し驚きのリアクションはないのですか!?統廃合ですよ、統廃合!」

「いや、んなこと言われてもなぁ」

 

若干胡散臭い話し方をする金髪高校生理事長に放課後急に呼び出されて何事かと思ったら、学校にとってかなり重要なことを教えられてしまった。ついでにですわ系お嬢様生徒会長までいる。ともあれ、告げられた内容は大きな衝撃ではある。まさか社会人1年目にして自分の職場がなくなる危機に見舞われるとは。

 

「で、なんで俺に?というか教員への連絡はしないのかよ」

「勿論今度正式に先生方には伝えるわ。ただ、貴方には先に知っておいてほしかったから。それが、貴方をこの学校に招いた私の義務だとも思ったの」

「鞠莉さんが、招いた?」

 

小原の言葉に黒澤が首を傾げる。

 

「そうよ、ダイヤ。比企谷先生にどうしてもこの学校に来てほしくて、私が色々なところにお願いしていたの」

「そうなのですか?ですが、何故わざわざ?」

「Sorry. それについては、私からは詳しく話せないの。そういう約束で、比企谷先生を紹介してもらったから。だから、詳しい理由については先生がいつか話してくれるのを待ってね」

 

珍しく――と言ってしまうのも失礼かもしれないがそれでもやはり珍しく真剣な表情でそう告げる小原を見た黒澤は一度チラリとこちらに視線を向け、小さく息を吐いた。

 

「わかりました。どうやらそれについては本当に鞠莉さんなりの考えがあるみたいですし、先生の事情もあるようですから今は深くは聞きません」

「ありがとう、ダイヤ」

「悪いな」

「いえ。誰にでも話しにくいこともあるでしょうから。それで?このお話を聞かされた比企谷先生としては、どのようにお考えですの?」

 

と、黒澤に質問されて考えることしばし。ぶっちゃけた話をすると、何かいい案が思い浮かんだかといえば皆無である。いや、一つ考えがあるにはあるがどうにもその方向に誘導されている感が拭えない。先ほどの小原が俺をここに呼んだ件といい、統廃合の可能性について話すのといい、あからさますぎる。

 

果たしてそのように彼女たちが動くかどうか、それについては結局のところ俺にはどうしようもない。俺はあくまで部活の顧問であって、彼女たちの活動の道しるべを示すわけでも、どこかのプロデューサーのごとく、「お前らはこれからスクール活動を通じて、ラブライブで優勝し、この浦の星女学園を統廃合の危機から救うんじゃぁぁぁいっ!」などと怒鳴り散らかしながらあれこれさせるわけにもいかない。というか普通にそんなことしたらハラスメント的な何かで捕まるし。

 

「どのようにも何も、ありのままを生徒にも伝えるしかないだろ。下手したら来年にはもうそうなっているかもしれないなら、全員が心の準備ができるように、なるべく早くに教えておいた方がいいんじゃないか。それに、それをどうかしたいと生徒が動くにしても、できる限りの時間があった方がいいだろうしな」

「そう言うと思っていたわ。時間取ってくれてありがとう。次の全校集会の時に、私の口から説明することにするわ」

「本件の説明については、わたくしの方からの説明は不要そうですね」

「ええ。これは理事長である私の役目だもの」

「わかりました。この件についてはお任せします」

 

そんなわけで、一旦は解散して小原からの説明を待つことにした俺たちだったが……

 

 

 

「廃校だよ!μ’sと同じだよ!スクールアイドルとして、学校を救うんだよ!」

 

部室にたどり着いてみたところ、津島を巻き込んで奇妙なポーズを決めた状態の高海が高らかに上記のセリフを宣言しているところに遭遇したのだった。

 




虹の後にはLiellaも控えているというね。

なんだこれ?ご褒美ですか?
楽しみですね。


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再設定

「何してんの、お前?」

 

当たり前のようにその奇行を見守っている他の部員に代わり、とりあえず高海の妙なテンションについて聞いてみる。まぁしかし、先ほど発していたセリフからしてどういうわけか先ほど小原から聞かされた件について知ってしまったようだが。

 

「あ、比企谷先生!統廃合ですよ、統廃合!学校のピンチなんですよ!」

「あぁそうだな。それはよくわかった。けどなんでそんなに嬉しそうなんだよお前?」

「だってだって!これってそういうことじゃないですか!」

「どういうことだ?」

「ねぇ、そろそろ私のこと放してくれない?」

 

津島の両の手をずっと握りしめたまま興奮気味に話す高海をとりあえず落ち着かせようと、「どうどう」とジェスチャーする。

 

「で?どうやって知った?」

「あ、あぅ。ご、ごめんなさい。ルビィが、お姉ちゃんを探してた時に」

 

おずおずと手をあげながら説明する黒澤妹。なるほど姉の行先として理事長室を候補に入れ、来た時に盗み聞きするような形になってしまったようだ。防音とかもうちょっと考えた方がいいのかもしれないな、おい。

 

まぁ、いずれにしても小原から正式なお知らせがされることが決定していたし、遅かれ早かれ知ることになっていただろうからこの際聞いてしまったものは仕方がない。とはいえ、だ。

 

「そういうことをでかい声で、はしゃぐように、あちこち走り回りながら、言いふらすんじゃありません」

 

とりあえず正式に伝達される前の情報を部室周辺に響き渡らせていた高海には軽く説教をかましておくだけにとどめることにした。

 

「はい、すみません」

「ついでに津島にも謝っとけよ。急に巻き込んでそのままだったんだし」

「はい。ごめんね、善子ちゃん。ちょっと浮かれちゃっててつい」

「はぁ~。まぁいいわよ別に。あとヨハネ」

 

とりあえずは高海が落ち着いたのを確認し、改めて仕切りなおすことにする。まぁとは言ったものの、

 

「お前らが聞いたであろうことは概ね事実と思っていい。現在、この浦の星女学院は年々の入学希望者の減少を受け、来年には統廃合という形でなくなる可能性が高い」

「やっぱりほんとだったズラ」

「改めて先生の口から聞かされると一気に現実感増すわね」

「まぁな。一応また正式な通達がされることにはなっているから、これ以上はあんまり騒がないようにしてくれよ。偉い人に怒られちゃうからな、主に俺が」

 

結局のところはどうせ発表されることである。これ以上に触れ回るようなことだけしないよう注意して、障りの部分の説明だけすることにした。今回の件については信憑性が高いとはいえ基本的には噂の類に近い情報のもたらされ方だ。下手をしたら話に尾ひれがついて妙な混乱を起こしかねないしな。

 

「可能性ってどれくらいなんですか?」

「はっきり言うとほぼ確定的だな。お前らも実感してることだろうが、そもそも今年の入学生が一クラス、それも一般的なクラスの規模を下回っている。3年生、2年生、1年生へと減少したペースから予測を立てれば、来年度はマジで入学生が全然いないことが想像つくだろ」

「確かにそうですね。でも2年生に引っ越してきて、これから新しい学校に通うってなったと思ったら、来年もまた違う学校になるなんて、なんか不思議な感じ」

 

実際に学生数の減少を目の当たりにしてきた渡辺と転入してきたからこそ客観的な視点で浦の星を見つめることができる桜内。二年生の二人の真剣な様子につられ、一年生たちも浮かない表情を浮かべている。

 

「大丈夫!」

「「千歌ちゃん?」」

 

そんな中、なぜか自信満々でどや顔を浮かべているのはスクールアイドル部発足者高海千歌。何ならワクワクしているのが目に見て取れる。

 

「私たちはスクールアイドルなんだよ!」

「えっと……つまり?」

「スクールアイドルとして、ラブライブに出て!そして優勝して!浦の星を統廃合から救うんだよ!」

「わかったからもうちょっと静かにな。部室も防音じゃねぇぞ」

 

またまた盛り上がり気味な高海に釘を刺しつつも、軽く思考を巡らせる。そう、スクールアイドル活動で学校を救う、それはただの思い付きではない。むしろスクールアイドルを知っている者にとっては一種の伝説のように語られているらしいが、まぎれもない実話なのだ。

 

スクールアイドルの人気に一気に火をつけたといわれる一因、日本にとどまらず海外でもパフォーマンスをした彼女たち、μ’sの物語。誰が語るまでもなく、ここにいるほぼ全員がそのあらましは知っている。

 

μ’sにあこがれ、その輝きに魅せられた高海にとって、この展開はまるで自分も同じように輝けるための道しるべのように思えているのかもしれない。憧れに近づけるかもしれない、そんな期待を抱かせるものなのかもしれない。

 

――それがどれほど大変な道のりなのか、まだ想像がつかないのだろう。

 

ふぅ、と小さくため息をつき、表情を引き締めて6人を見る。

 

「設立当初の目的はあくまでラブライブに出ること、だったがここらでもう一度はっきりさせておく必要がありそうだから改めて聞くぞ。お前たち、浦の星女学院スクールアイドル部、Aqoursの目標はなんだ?」

 

やや浮かれ気味の高海を除いた5人は今の質問に込めた意図に気づいたのか、わずかに表情をこわばらせる。そう、これはただの目標設定じゃない。

 

「それはやっぱり「待って、千歌ちゃん」?梨子ちゃん?」

 

意気揚々と答えようとした高海に、桜内が待ったをかける。首をかしげる高海から視線を外した彼女と、同じように真剣な表情を浮かべた渡辺が見つめるのは一年生たち。

 

「急な話だし、戸惑うこともあると思うの。千歌ちゃんはスクールアイドルとして学校を廃校から救うこと、そのためにラブライブに出て優勝することの二つを目標にしてる。私も、千歌ちゃんと同じ気持ち」

「私もだよ。でも、これはスクールアイドル部として強制されることじゃないとも思う。いきなり学校の命運を背負って部活動をする、なんて言われてもびっくりしちゃうと思うし。だから、三人の意見も聞きたいな」

 

真剣に、それでも優しく桜内と渡辺は後輩たちに問いかける。勢いに流されるのではなく、先輩に引っ張られるだけではなく、それぞれの意思でどうしたいのかを。

 

「あ……そうだよね。みんなの部活だもんね」

 

その様子を見て冷静になったのか、高海が少々ばつが悪そうに頭をかく。

 

「こういうのって、ちゃんとみんなで決めないといけないことだもん。一人で突っ走っちゃた。もしかしたら嫌だって思ってたことかもしれないのに。うん」

 

一度目を閉じて深呼吸。軽くうなずいてから、高海は顔を上げて一年生たちを見る。

 

「さっきははしゃいじゃってごめんね。私はμ’sみたいに輝きたいと思ってスクールアイドルを始めたんだ。μ’sみたいになりたいって。だからさっきの話を聞いたとき、来た!って思っちゃった。μ’sと同じでラブライブに出て、μ’sと同じで優勝して、μ’sと同じで学校を廃校から救うことができたら。それができたらきっと、あの輝きに届く気がして」

 

一瞬だけ目を細め、眩しげな表情を見せた高海。本当にどれほどμ’sが好きなのか、それだけで強く伝わる。でも、そのうえで彼女は――

 

「でもね。それは私のわがまま。曜ちゃんと梨子ちゃんは一緒に頑張りたいって言ってくれているけど、絶対そうしなきゃいけないわけじゃないんだ。だからね。もし他の目標とかあったら言ってほしい」

 

無理強いはさせられないもんね、と小さく笑いながら後輩に問いかける高海。初めからそれを目標に掲げていたうえで入部したのならともかく、立ち上げ時の目標はあくまでラブライブに出場することだけ。今あげられた目標は高海の言う通り、たった今生じたばかりのわがままと言える部分もある。

 

それに、どちらもとてつもなく大きな目標だ。ラブライブで優勝すること、それは言い換えれば、日本一のスクールアイドルになるということだ。A-RISEやμ’sの頃から更に倍率もレベルも上がったといわれる中で、その誰よりも輝くということだ。

 

それに学校を救うというのは学校の名前も、生徒からの期待も、まだ見ぬ未来の受験生からの印象も、それから生ずるあらゆる出来事に対する責任も、すべて背負うことだ。大会という明確な目標とは違う、多くの目に見えない要素と努力ではどうしようもない大人側の事情も絡んでくる。

 

誰かに流されてやったとしても、それはいい結果に結びつくはずがない。だからこそこのタイミングで、俺は彼女たちに目標の再確認を行っている。だからこそ高海、桜内、渡辺はそうすることを自分で決めている。だからこそ三人は、後輩たちの決断に耳を傾けている。

 

「あ、あのっ!る、ルビィもμ’sが大好きでっ!だからっ、千歌先輩の気持ち、わかりますっ!ルビィも、皆さんと一緒にラブライブに出たいです!お姉ちゃんが大切に思ってるこの学校を、ルビィも守りたいから」

「マルはまだスクールアイドルを知ったばかりだから難しいことはわかりません。でも、ルビィちゃんと一緒に始めたばかりだから。もっとみんなとこの学校で一緒にいたいから。だから、マルも頑張りたいです」

「ヨハネとしては折角リトルデーモンを大量に獲得できるチャンスだし?ここで終わるつもりはないわ。それに、統廃合になったら中学時代を知ってる人に会いそうだし……」

 

先輩たちに――あ、ついでに俺もか、顧問だしな――見守られながら、それでもはっきりと前を向きながら、三人は思い思いの決意を語った。動機は違ってもいい。言葉に表れるテンションも違ってていい。ただそれでも、三人の目には二年生に負けないくらいに強い感情が込められていること、それだけは確実に言えることだった。

 

「そっか。うん、ありがとう。これからもよろしくね!」

「三人のこと、頼りにしてるから」

「よーっし!それじゃあみんなで、まずはラブライブ出場に向けて!全速前進~、」

「「「「「「ヨーソロー!」」」」」」

「うん!息ぴったしだね!」

 

顔を見合わせて、つい笑い出してしまう6人。女子が集まると姦しいとは言うけれども、その光景は騒々しさもやかましさも抱かせず、気持ちが一つになったことに対する純然たる喜びだけがそこにはあった。

 

どうやらようやく本格的にスクールアイドル部として始動できそうだ。

 

「方針が固まったら、さっさと練習するぞ。優勝目指すなら、時間はいくらあっても足りないくらいだしな」

「あ、はい!すぐ行きます」

 

高海たちに声をかけてから、一足先に駐輪所へ向かう。本日最初のメニューは軽くストレッチをしてからランニング。早く校門であいつらを待つとしますかね。

 



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